憤怒を抱きし魔神の皇子 〜ハイスクールD×D〜 (ハニーハニー)
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遠き日の魔神の皇子
第1話 出会いからの激戦!


 

 

———これは、遠き日の魔神の皇子の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫色の空に覆われる場所、冥界。そこには、多種多様な生物が存在している。(ドラゴン)、魔獣、妖精、そして悪魔と堕天使。最後の二種族を含めてもう一種族、天使が現在進行形で戦争を行なっている。そして、直接戦争に加わってはいないが、魔神族と言う種族が、悪魔を指示している。

そして現在、冥界の悪魔領に魔神族の特使が魔神族の王に命じられ、ルシファーの下に訪れようとしている。

 

 

「ここがルシファード。来るのは初めてだな」

 

 

黒い髪に、左側の額から左目下の辺りにかけて黒い痣の様な文様が浮かぶ、マント付きの黒いライトアーマーに、背中と腰には長さの違う剣をぶら下げている男が呟く。

 

 

「貴様! ここへ何しにきた!」

 

 

「門兵か。何、俺は魔神族の特使だ。すこし、魔王に用がある」

 

 

「ま、魔神族!? し、失礼致しました! 魔王様方なら現在会議中に御座います」

 

 

「ならば案内してくれ」

 

 

門兵は非礼を詫びて、会議室へと案内する。全方位見渡すと、そこには敵意、悪意、と言ったものを感じる。あまり歓迎されていないのだなと思いながらも、当然の事だと思い納得する。

魔神族は、悪魔を服従させているのだから。

 

 

「こ、此方です。————失礼します!」

 

 

「何事だ!」

 

 

「はっ! 魔神族の特使をお連れしました!」

 

 

「……っち。もうそんな時期か。—————これはこれは特使殿、遠路遥々、こんな場所へと。この度のご用件はどのような」

 

 

特使の男はこの場にいる四人の魔王の表情を窺う。ルシファー、レヴィアタン、アスモデウス、ベルゼブブ順に見ていく。表向きは隠せていても、全員敵意を抱いている。それに、先程のルシファーの小声での独り言。長居すると面倒だなと思い手短に用件を伝える。

 

 

「我らが王よりの命だ。来月より、税を十パーセントから十五パーセントに引き上げる」

 

 

「なっ!? 待ってくれ! ただでさえ今も苦しい状況なのだ! 戦争続きで食料や人員も足りてない! これ以上あげられれば我々の生活が苦しくなる!」

 

 

「何? 我々の生活、だと? 貴様らは苦しくならないだろう。苦しむのは民草だ。貴様らではない。アスモデウスにベルゼブブ、貴様らの領地、他と比べて裕福ではないか? ああそうか、誤魔化してるもんな。他が苦しんでいるのに貴様らだけは楽している。だがまあいい。要件は伝えた。俺は帰る」

 

 

「くっ! 本当に、十五パーセントにあげるのか?」

 

 

魔神族の特使は、背中の黒い剣を引き抜き、切っ先をルシファーに向ける。

 

 

「当然だ。何、戦争に勝てばいい。勝てば領地が手に入る。そうすれば税の十五パーセントくらい大した重荷でもないだろ」

 

 

「……分かった。だが、今でもやっとなのだ。多少の納税の遅れは見逃してくれと、魔神王に伝えてくれ」

 

 

「……打診はしてみよう」

 

 

剣を収めて、この場から出ていく。扉が閉まると、皆一気に力が抜け椅子へ座り込む。

 

 

「ベルゼブブ、アスモデウス」

 

 

「………分かった。致し方がない。備蓄がある。それを使え。本来は戦争の為にとベルゼブブと共に隠していたのだが。何処で漏れた?」

 

 

「そうだったのか。申し訳ない。疑ってしまった。っ! レヴィアタンはどこへ行った!」

 

 

 

 

会議室を後にした魔神族の特使は、長い廊下を一人歩いている。すると、背後から足音が近づいて来る。振り返ると、そこには美しい黒い長髪の美女がいた。

 

 

「特使殿」

 

 

「レヴィアタン、何の用だ?」

 

 

「……どうか、魔神王様に、これ以上の課税を与えないでください、とお伝えください。我々は今、経済状況が危ういのです。貧困街は日に日に増えています。これ以上税をあげられれば、餓死者が増えてしまいます。たった一年で、餓死者が四万を超えました。これ以上は……! なんでも! なんでもなさいますから!」

 

 

切実な願いだと言うのはわかる。種族の長の一人として、民が平和に暮らせるのは第一の考え。それすら今は儘ならない。王として、出来る事など、こう言う風に恥を承知で頼み込むか、女であることを自覚するしかない。

 

 

「なるほど。民の為ならば、我等が王に()()()()のも覚悟の上だと」

 

 

「覚悟はあります……!」

 

 

「………くだらない。王ともあろう貴方が、そう易々と男に傅くとは。哀れだな、レヴィアタン」

 

 

「くっ……」

 

 

レヴィアタンの瞳からは涙が溢れ零れ落ちる。一切の動揺を見せない特使は、膝と掌を着き泣いているレヴィアタンに手を伸ばす。レヴィアタンは驚き目を見開く。だが、待っていたのは痛みだ。頬を打たれ、冷たい視線向けらる。

 

 

「簡単に折れる王ならば、もはやその程度の種なのだろう。俺は今、貴方を心底失望した」

 

 

再び歩き出す特使の後ろ姿を見て、殺意を覚えるレヴィアタンは、グッと堪えて、その場を乗り切る。

魔神族の特使は廊下を曲がろうとした時、丁度よく紅の髪の少女と鉢合わせして、ぶつかる。

 

 

「きゃっ!」

 

 

「ん……おい、大丈夫か?」

 

 

「もー! どこ見て歩いているのよ! お尻痛いじゃない!」

 

 

「あ、いや、すまない。って、何故俺一人が悪い。君も十分悪いじゃないか」

 

 

「はぁ!? 貴方それでも男? 紳士ならレディを守るのが勤めでしょう!」

 

 

何を言っているか分からない特使の男は、このよく口の回る紅の髪の少女を少し脅そうと、自らの身分を明かす。

 

 

「俺は魔神族の特使、アレクだ。それを知っ—————」

 

 

「だから何! 男でしょ!?」

 

 

「………変な女だな。先程の女とは大違いだ。名前は?」

 

 

「私の名前? 私の名前はセルリア・グレモリー。グレモリー家が次期当主。大王家バアルの力を色濃く受け継ぐ。口さがないない者には、紅髪の滅神姫(プリンセス・ザ・エクスティンクト)と呼ばれているわ」

 

 

すると、アレクの表情が変わる。聞き覚えのある二つ名。この少女の体内から感じる膨大な魔力。間違いなく、噂のものだ。

 

 

「君が、あの……」

 

 

「ええそうよ。神殺しのセルリア」

 

 

「若いな。百歳くらいか?」

 

 

「だ! か! ら! レディに気を遣いなさい! 歳を聞くのはマナー違反だわ!」

 

 

「そうなのか? すまないな。俺の周りには女性がいないものだから」

 

 

勢いで謝ってしまった。アレクは、セルリアと言うレディに逆らえなかった。本能的なものなのか、それとも別の何かか。だが、間違いなくこのセルリアと言う女性は気が強い。

 

 

「それでアレクは特使? だっけ?」

 

 

「あ、ああ。魔神族のな」

 

 

「ヘェ〜………確かに。闇の力を感じるわね。貴方、強いわね。ま、私の滅びの力の前には無力でしょうけど」

 

 

「言うな、小娘。ではお見せしよう」

 

 

すると、アレクの背中から、堕天使の翼とも違う赤黒い翼が生える。そして背中の剣を引き抜きセルリアに向ける。

セルリアも、体に滅びの力と言われる魔力を纏う。

 

 

「後悔、するなよ!」

 

 

「ッッ!?」

 

 

一瞬、何が起きたか理解できなかったが、気がつけば、自分達は城が粒の様に見える高さに居た。慌てて翼を広げて体制を整える。

 

 

「早い……」

 

 

「さてどうする?」

 

 

「私はね、神をも殺すのよ!」

 

 

膨大な魔力の奔流がアレクを襲う。だが、アレクはその場から動かない。

 

 

「さて、驚くなよ? 全反撃(フルカウンター)!!」

 

 

魔力の奔流は、セルリアの元へ帰ってきた。しかし、動じることなく対処する。自身の魔力である以上、セルリアは全てを防ぐ。

 

 

「……なら攻め方を変えるまで! こういう事も出来るのよ!」

 

 

「腕や脚に滅びの力の付与。成る程、これじゃあ俺の全反撃(フルカウンター)は使えない。考えたなグレモリーの娘」

 

 

「いくわよ!」

 

 

「だが生憎と、俺は近接戦闘の方が得意でね。貴様程度————速いっ!」

 

 

大振りだが、常人では目で終えない速さの斬撃のの如きハイキックが放たれる。アレクはそれを防ぐが、体の芯にダメージが響く。防御越しにダメージを与えられるとは、ここ何百年と生きているアレクにとっては、初の体験だった。

 

 

「重たいな。それに、俺も魔力を纏わないとその滅びの力で消されてしまう。いや、実に厄介だ」

 

 

「そうでしょう? 何と言っても、私はあらゆる格闘技を習い、それを駆使して龍王すら、神すらも屠る。特使如きの貴方じゃあ私に勝ち目はないわ」

 

 

「……確かに。特使として俺では敵わないか。だったら少し本気を出そう」

 

 

すると、アレクの纏うオーラが変わる。

 

 

「俺は七つの大罪、『憤怒(ira)』のアレク。ここからは少し本気でいかせてもらう」

 

 

「……貴方が……! 貴方が!」

 

 

先ほどよりも濃密な魔力を纏うセルリアの様子が可笑しくなる。憤怒(ira)の名に反応を示したのは間違いがない。

 

 

「貴方が! 私の友達———イリスディーナ・シトリーを殺した魔神族!!」

 

 

「イリスディーナ、か。成る程お前の事を言って居たのか。『私の友達は私以上に強い』と言っていた。だが、俺はグレモリー如きに負けはしない」

 

 

「私はね! 魔神族だから! 天使だからって言って嫌ったりしない! でも、友達を殺した貴方は私がここで殺す!」

 

 

先程の十、二十、三十倍にまで膨れ上がった魔力に、空間が歪み穴が開きそうになっている。このままでは上空に次元の裂け目が出来、真下の城は一瞬にして吸い込まれる。無論、至近距離にいる自分達も例外ではない。

 

 

「仕方がない。———『完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)』」

 

 

すると、桃色の半透明の立方体が出来上がる。完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)は、あらゆる衝撃にも耐える最高峰の防御系の術。

この立方体に入っていれば、この濃密な滅びの力をも抑え込める。

 

 

「これで心置きなく———ッッ!!」

 

 

一瞬のことで何が起きたか理解出来なかった。アレクの脇腹と肘から先が綺麗に抉られていた。

口と脇腹から血が止めどなく溢れる。

 

 

「ごほっ……! こ、これは」

 

 

「言ったでしょ? ここで殺すって」

 

 

「やぁ〜……参ったなぁ。こんなダメージ久し振りだよ」

 

 

抉られた傷は徐々に塞がり、腕も生えてくる。数秒後には何事もなかったかの様に傷がなくなっている。不自然に服が無いこと以外は先ほどと同じ。

 

 

「流石は魔神族ね。再生能力がフェニックス並みよ」

 

 

「どうも。でも、普通の魔神族はここまで再生能力が高いわけじゃ無い。俺は少し特別だ」

 

 

「へぇ……。流石は憤怒(ira)のアレク。じゃあこれはどうかしら!!」

 

 

無数の滅びの魔力の塊がセルリアの周囲に浮かぶ。その数は軽く見積もっても数百。全反撃(フルカウンター)で跳ね返せる数では無い。ならばと、アレクももう一つの能力を見せる。魔神族特有の力にして、強力無比の地獄の炎。

 

 

「そっちが滅びなら、俺は焼却する! 獄炎(ヘルブレイズ)!!」

 

 

津波の如き黒紫の炎がアレクから放れ、セルリアを飲み込もうとする。だが、セルリアも滅びの魔力を全てぶつけて相殺する。その時に発せられた衝撃波は、完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)に若干の影響を与える。それを知らずに、二人はお互いの持つ力を出し惜しみする事なく発揮する。

獄炎と滅びの魔力は何度もぶつかり合い、アレクとセルリアも何度もぶつかり合う。

 

 

「ちっ! 初めてだよ。女相手に肉弾戦なんて……!」

 

 

「私も初めてよ。貴方みたいな人と戦うなんて! 私の滅びの魔力が効かない相手はね!」

 

 

アレクは剣を放り投げ拳に獄炎を纏わせる。セルリアも己の拳に滅びの魔力を纏わせる。そして、二人は一瞬で距離を詰めて、拳同士打つける。すると、獄炎と滅びの魔力を帯びたソニックブームが発生して、完全なる立方体(パーフェクト・キューブ)を完全に破壊する。二人は、それが破壊された事に一瞬気が付かず、気が付いた時には少し遅かった。二人がぶつかり合った事で生まれた衝撃波は、空間を裂き、異空間への裂け目を作り出した。二人は疲弊こそしているものの、異空間への吸引力に抵抗するだけの余力は残していたはずだった。だが、なすすべもなく、二人は時空の裂け目に吸い込まれた。幸いだったのは、裂け目は一瞬で閉じたので他に被害はなかったという事。

 

 

 

 



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第1章 魔神の皇子と赤龍帝の覚醒
1話 動き出すもの達


 

 

———これは、全てを忘れてしまった魔神の皇子の昔々の、続きの物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駒王学園三年に、黒い髪の毛に、金色の瞳をした少年がいた。少年の名は神崎流(かんざきながれ)といい、ごく普通の男子高校生、を自称する。

実際は、顔良し、勉強良し、運動良しの三拍子揃った完璧に近い男。運動に関しては、百メートル十秒以内で走り、棒高跳びなのに、棒が邪魔だと言い、十メートル以上は跳躍する超人である。

常に平凡を目指している何処にでもいる男子高校生だ。

 

 

「いや、いないでしょ」

 

 

「えぇ〜! なんでさー。俺みたいな平凡男子学生何処にでもいるって」

 

 

「貴方が平凡だったら私達は何かしら?」

 

 

「………凡人?」

 

 

「それじゃ貴方と同列って考えになるわよ。———全く。どうしてそんなに謙遜するのよ。貴方はまぎれもない天才……いや、天才って枠に収めていいか分からないわ」

 

 

紅い髪を腰あたりまで伸ばしている少女の名はリアス・グレモリー。留学生としてこの駒王学園に在籍していて、流と同じ学年で同じクラスの友達だった。

 

 

「天才って言われても困るんだよ。小学生の頃調子乗って屋根に飛び乗って忍者ごっこしてたら近所の人に通報されて警察の人と追いかけっこさ。それが原因でこの駒王町に引っ越してきたんだぜ? あん時は大変だった。親父に拳骨で殴られまくって、お母様には竹刀で一方的に打ちのめされるし、死んだ爺ちゃんには投げられるし、婆ちゃんにはペットで蛇のスネイ君に本物のコブラツイストされるし」

 

 

「へ、へぇ……貴方も普通じゃなければ家族全員普通じゃないのね」

 

 

「へ? 普通だろ。親父はただの社長だし、お母様は病院の院長だし、婆ちゃんは今海外で蛇の調教師やってるらしいし」

 

 

明らかに一般家庭から逸脱している。特にお婆ちゃんの海外で蛇の調教師やってる、と言う事が。

 

 

「ま、良いじゃん良いじゃん!」

 

 

「はぁ……貴方といるととても退屈しないわ。それにしても、今日はちょっと冷えるわね」

 

 

「そうだなー。十五度って所か。なんかあったりして」

 

 

「なんかって、何よ」

 

 

ニシシ、と笑う流を呆れ混じりの笑顔で見る。

流とはもう三年の付き合いになる。一年の頃から同じクラスで、良くも悪くもよく目立つ人だった。当然といえば当然である。顔だってそこらへんの俳優より断然良い。何より面倒見が良く、頭もいい。駒王学園の入試を過去最高得点を叩き出して入学している。おまけに全国模試は一桁で、その気になれば全ての個人技で優勝を狙える程の運動神経を持っている。目立たないわけがない。

 

 

「ねぇ、流。私の秘密、教えたいって言ったら、聞いてくれる?」

 

 

「秘密〜? なんだ改まって気持ち悪い」

 

 

「きも……あのねぇ、人が真面目に—————」

 

 

「俺とお前の間に、そんな遠慮要らねーだろ」

 

 

「………そうね。なら、明日、話すわ」

 

 

昼休みも終わり、教室へ戻り授業の支度をするとリアスはいたっていつも通りに戻っていた。流に言いたい秘密とは何か、気になる所だが、はっきり言わないあたり、本当に秘密なのだろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、自宅へ帰るため近道である公園を突っ切ろうと思い、入ると人一人見当たらない。三百六十度見渡しても居るのは自分一人。何かあったのかと思い、立ち止まりと、黒い烏の様な羽が舞っていた。その羽を掴んだ瞬間、背後から猛スピードで何かが落ちて来た。反射神経に自信があった流は躱すが、石飛礫が顔にあたり、額に血が滲む。

 

 

「隕石かぁ?」

 

 

「ほぉ。今のを食らって生きて居るとは。おまけにその余裕。やはり神器(セイクリッド・ギア)持ちか」

 

 

「と、と—————飛んでる!? え、嘘でしょ。変なおっさんが空飛んでるよ。何アレ翼? うわーシルクハットとか似合ってねー」

 

 

「貴様、私を侮辱するか。まあ良い。今この瞬間、貴様は私の手で殺される。この通りすがりの堕天使に!」

 

 

通りすがりの堕天使と名乗った男が、流目掛けて急降下して、拳を振るう。当たったと確信した堕天使は、一瞬何が起きたか理解できなかった。振るった右腕がダランと垂れている。

 

 

「こ、これは?」

 

 

「あー悪い。折るつもりは無かったんだ。ただ少し手刀を当てたら俺ちまって……。すまん! 慰謝料は払う! だから警察には言わないでくれ! 今度こそ親父とお母様に殺される!」

 

 

「き、きさ—————殺すっ!」

 

 

左腕に光が集まり、やがて一本の槍を形作る。それを振り回した後、流へと投擲する。しかし流は避けようともせずに、ポケットから何かを出して、それを振るう。すると、槍は一瞬で砕けて粒子になって消える。

 

 

「ばかな! 人間如きが堕天使の光を消せるはずがない!」

 

 

「切れた。さっすが死んだ爺ちゃんのスイッチナイフだ。良い切れ味だな」

 

 

「な、ナイフ如きで切ったと言うのか……ありえん」

 

 

「さて。俺は家に返してくれれば何もしない。さてどうする?」

 

 

「ぐっ! う、うおおおおおぉ!!」

 

 

愚かな選択だな、と呟き、スイッチナイフを右手から左手に持ち替えて、跳躍する。堕天使が槍を形成し、高速の突きを連続で放ってくるが、それら全てを躱して、空中で回し蹴りをする。地面へ落下する堕天使の上に、追い討ちの如く着地する。口から血を吐く堕天使に手加減せず、今度は蹴り上げる。そして再び跳躍し今度は明後日方へ蹴り飛ばす。

 

 

「ぐはぁっ……こ、この私……が。人間、如きにぃ……」

 

 

「人間如き、ねぇ。お前、うちの親父と戦ったら十秒も立ってられねーぞ。後お母様の高速の剣には絶対ついてこれねーな。婆ちゃんの品種改良した超巨大な蛇にも勝てないな。アレ? うちの家族、ハイスペックを通り過ぎて、化け物揃いじゃね?」

 

 

ここにリアスが居たら間違いなく「今更!?」と突っ込みを入れるかもしれない。しかし、リアスにこう言う状況に驚かない事など伝えていない。リアスはあくまでも流は人間の中では化け物だと思って居る。こう言った人間ならざるものに対抗できるとは思っていないのだから。そして、リアスもまた人間ならざるものだ。だからこそ流はリアス・グレモリーに()()()()。そして、信頼を得るにまで至った。

 

 

「諦めろ。お前じゃ俺に勝てない」

 

 

「クッッッソオオオッ!」

 

 

先程とは比べ物にならないくらいの巨大な光の槍を形成する。しかし、動じたりしない流に、苛立ちを爆発させた堕天使は渾身の力を込め投擲する。

だが、流が縦横左右にスイッチナイフを振るうと、巨大な光の槍は一瞬にして砕けた。

 

 

「馬鹿な!?」

 

 

「どうする、まだやるか?」

 

 

「こんな事……あってはならないっ……あってはならないのだ……!」

 

 

そう言うと堕天使は天高く飛翔し、姿を消した。スイッチナイフをポケットにしまい、辺りを見渡してため息が出る。

 

 

「これ、明日の町内記事の一面になりそう……」

 

 

ベンチは壊れ、地面は抉れ、木は根元付近から折れている。言い訳のしようがない程の有様だ。

誰かに見られる前に退散しようと走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家へと逃げ帰った流は、玄関で仁王立ちしている金髪の女性を目にした。手には竹刀を携え、何かを待っている様だった。恐る恐る姿を現し、ただいまの一言を言い家に入ろうとすると、竹刀で思いっきり振り下ろす。すると、風圧で草が横になり、女性の素顔があらわになる。ソレは怒り一色だった。

 

 

「流。貴方、わかっているわね?」

 

 

「あ、はい……。お母様、今日はお日柄がよろしいようで」

 

 

「ええ、良ろしいわね。何と言っても馬鹿息子が派手に暴れてくれたからね」

 

 

「あ、あはは……。————逃げるが勝ち!!」

 

 

だが、流の母親の竹刀で放たれる衝撃波により流は壁にぶつかる。

 

 

「流、逃げようだなんて思わない事よ。貴方はどうしてそう、問題ばかり起こすの。お母さんはあなたの為を思って言っているのよ? 貴方が、普通でいられる様に」

 

 

「で、でもよ。持って生まれて来ちまったんだ、逃げる訳にいかないだろ」

 

 

「……はぁ。貴方って、本当に御し難い馬鹿息子なんだから。そんな所が可愛らしいのだけどね♪」

 

 

竹刀を放り投げて、壁に寄りかかって座る流の頭に手を置き撫でる。慈愛に満ちた表情で見つめる。

流の母、神崎 アレシア(かんざき アレシア)と言う。元々は教会の悪魔祓い(エクソシスト)であった。

 

 

「せめて学生の間だけは普通の子でいて欲しいのだけど……。貴方は昔から良く面倒ごとに首突っ込んじゃうから心配なのよ」

 

 

「お母様の気持ちは嬉しい。でもさ、やっぱり俺はこう言う道しかないんだよ。こんな力、持って生まれて来ちゃったんだから」

 

 

「……ふふ。そうね。そう言うと思ったわ。じゃあお風呂に入りましょう。たまには一緒に入るのも悪くないでしょう? って、なんで逃げようとするの? まさか母に欲情したりしないよね?」

 

 

(そんなわがままボディ見せられて平常でいられるか! いくら母でも意識するわ!)

 

 

無理矢理浴室は連れていかれる流はこの家に住まう使用人達に「助けて」のサインを送るが、この家の中で母アレシアに逆らえる者は一人としていない。無論、夫であろうと。全てはアレシアの一存で決まる。

 

 

浴室から騒音と叫び声が家中に響いた。使用人達は一瞬驚くが、すぐに何もなかったかの様に振る舞い仕事を続ける。

小一時間入って、漸く解放された流は生気を失っていたが、逆にアレシアの方はツヤツヤしていた。何があったかなんて詮索する程使用人達は命知らずじゃない。見て見ぬ振りを貫き通した。

 

 

(あの年増。アレで四十五だって? 巫山戯んなよ)

 

 

溜息をつきながら自室へ赴くと先客がいた。和服に身を包み、花魁の如く着崩しベッドに横になる黒髪の少女。一見して人ではないとすぐに分かる。その理由に、その少女の頭には黒い耳に、腰のあたりからは尻尾が二本生えている。彼女は猫魈と呼ばれる猫又の上位種であり、今では希少種になっている程だ。

 

 

「おい、何勝手に俺の部屋で寝てんだよ」

 

 

「ん〜………。良いじゃない。キングサイズベッドなんだからぁ……。少しくらい貸してよ」

 

 

「いや良いけどさ。お前、自分の部屋いけよ」

 

 

「いやにゃん。だって、ここが落ち着くんだもん」

 

 

「何の為に自分の部屋あると思ってんだよ」

 

 

今日はやたら疲れるな、と思いながら椅子に腰掛ける。ベッドで寝る猫魈の肌蹴た着物から露わになる白い肌を思わず覗いてしまう。

そして、一瞬だけ疑問の思ったことがあった。それは、

 

 

「お前、パンツは?」

 

 

「忘れた〜」

 

 

「おい!」

 

 

「流のえっちぃ〜」

 

 

思春期男子にはこの猫魈こと、黒歌のスタイルは毒だった。母と言い黒歌と言い、この家には平均値を優に超えるスタイルの持ち主が多い。おまけに黒歌の場合は露出度が高く、今は寝ているから丁度胸部が潰れて、それはそれで絶景である位置にいる。

いや、そう言う部分が見たいわけではない。見たくないのか言われれば見たいが、それでも精神的によろしくない。溜まるものも溜まる。

 

 

「そんなに溜まってるならシテあげるにゃん。居候させて貰ってる身としては、若旦那の下の方をお手伝いするのも吝かではないにゃん」

 

 

「いつからお前は売春婦になったんだぁっ。ったく、男食い漁るのは勝手だが、度が過ぎると恨み買うぞ」

 

 

「食い漁ってないにゃん。それに私、今は引きこもり中の自宅警備員だし。ただのプロゲーマー兼小説作家ですから〜」

 

 

いきなりのカミングアウト。だが、たかだかネット小説止まりだと思っていた。

 

 

「ちなみに黒薔薇姫歌(くろばらひめか)で通ってるにゃん」

 

 

「めっちゃ有名な作家じゃねーか! ここ数年で急激に発行部数を伸ばしてる。確か、内容はアクションもので、タイトルは———『闇の王子、ハーレム計画』だったかな?」

 

 

「ちなみに主人公のモデルは流です」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「今度アニメ三期やります。リアルタイムで観てね」

 

 

すごく大物だった事に今更気づき、もはやニートと呼べなくなってしまった。黒歌は黒歌で今の生活に満足しており充実している。最高スペックのPCに、超が付くほどの快適な空間、甘やかしてくれるアレシア、そして黒歌自身を救ってくれた本人の流がいる。ただ、少し気掛かりなのが一つだけあった。ただ、今はそれほど気にもなっていない。楽しく過ごせているのを知ってから。それが自分であったらな、偶に思う事もあった。

そんな黒歌を流は可愛がっている。なんだかんだで、結構長い付き合いだったりするのだから。

ちなみに、黒歌の年収はゼロが九個くらいあるらしい。

 

 

 

 

 

その日の、木々でさえ眠りにつく夜に、怪しげな影があった。その影は翼を生やし、大空を飛ぶ。翌日のあるサイトでは、駒王町の上空をUMAが飛び去ったと書いてある。

写真も、ピンボケだが載っており、流、黒歌、アレシア、そして、リアス・グレモリーはその写真を見て、顔をしかめた。

 

 

「なんかよく分からんが、何かが起きるな」

 

 

「あ、ヤバイ。締め切り明後日だ。あと半分もある」

 

 

「俺は手伝えねーぞ」

 

 

こうして今日も一日が始まる。

 

 

 

 

 

 



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第2話 目覚め 〜聖戦の予兆〜

 

 

 

 

今日も普段通り登校してみれば、朝から変態三人衆が覗きだ覗きだと騒がしかやっている。そんなに女性の裸見たいのか、と以前興味本位で聞いて見たら、三人衆の内の二人にキレられた。

その時に言われたのが————『先輩は顔が良いからいいですよね! すぐ彼女出来て剥かせられるし! でも俺らは違うんですよ!』と。そんな必死に、とその時は言いかけたが、言わないで正解だった。今では目の敵にされる程睨まれているのだから。

 

 

「あら? 神崎くん、おはようございます」

 

 

「あ、姫島さん。おはよう。早いね? 部活?」

 

 

「いえ。私はいつもこの時間ですわ。それよりも最近、リアスと仲が良ろしいようで」

 

 

「いや、ただの友達だから」

 

 

ただの友達だから。そういう風には見えないけど、と内心ツッコミを入れたいと思っているが、流相手にそんな事言っても無意味だった。

 

 

 

「そう言えば昨日の夜UMAが出たんだと」

 

 

「……ヘェ〜」

 

 

(ありゃ? この反応……)

 

 

姫島朱乃という少女の表情が曇る。恐らくは堕天使と関係あるのだろうとすぐに行き着き、話題としては上げてはいけない部類だったらしい。どうにか話題を変えなければと、無理矢理だが話題を変える。

 

 

「そ、そう言えば課題終わった? 俺少ししか終わってないから見せてくれると嬉しんだけど」

 

 

「良いですよ」

 

 

「本当—————」

 

 

「ただし、条件付きですが。それでも良ろしいですか?」

 

 

「え、あ、うん。良いよ」

 

 

じゃあ、と言い何故か旧校舎のある一室へ連れていかれた。

 

 

「ここなら邪魔は入りませんわ」

 

 

「……はい?」

 

 

「神崎流くん—————貴方、一体何者?」

 

 

姫島朱乃の雰囲気が一変し、冷たいものになる。具体的に言えば、敵意に近い何かだ。訝しんでいると言ったものだ。朱乃が何を言っているのか、流には見当がつくが、ここはあえて知らないふりをして誤魔化そうとする。

 

 

「な、何がだ? 俺は神崎流。ここの生————」

 

 

喋り終える前に、朱乃はポケットから一枚の写真を流へ投げる。キャッチするとそこに写っていたのは正真正銘神崎流———自分自身だった。

何故、とは思わない。この写真を見てすぐにあの現場にいた事がすぐに察せる。

 

 

「昨日の堕天使との一戦、か。まぁ、何かカモフラージュした訳ででもないからバレるのは仕方がないのかな。—————何者か、って言う質問? 俺は正真正銘の人間だ。一応ね」

 

 

「……嘘はついていないようですね。では、もっと具体的に。貴方は神器(セイクリッド・ギア)所有者?」

 

 

「答えはノーだ。俺は君達が言う神器(セイクリッド・ギア)を持ち合わせていない」

 

 

「その言い方だと、何かしらの物は持っているのね」

 

 

まあな、と近くにあった椅子に腰を下ろし観念した様に振る舞う。

 

 

「貴方、リアスに近づいて何する気? もし、危害を加えるなら……!」

 

 

朱乃の掌に雷が纏う。朱乃もただの人間ではない。そう、初めから知っている。何故流がリアスに近付いたか。それは、リアスが()()であるからだ。この学園で何をするか見張っていた。無論、四六時中と言うわけではない。懐に潜りこみ、信頼を得ようとした。

 

 

「リアスは貴方を信頼している。そして、好意を抱いている節がある。だから、出来るなら貴方は敵であってほしくない。だから、目的を言って」

 

 

「目的……。結論を言えば監視。俺はお前たちの事を知っていたし、だからリアスに近付いた、っておいおい、そんな怖い顔するな、はなしを聞けって。———それで、ずっと探ってた。だけど、やっていたのははぐれ悪魔の討伐。この街の害を取り除いていた事だ。危害を加える事なく、人間の様に学校生活を送っていた。だから正体とかどうでも良くなった。普通にリアスと話して、俺も学校生活を楽しんでいた。以上が俺の目的だ」

 

 

「嘘偽りは?」

 

 

「無い」

 

 

朱乃は掌に纏う雷を解除し、カバンからプリントを数枚机の上に置く。

 

 

「課題ですわ」

 

 

「マジか!? ありがてー!」

 

 

飛び着き恐ろしいスピードで課題の答えを写していく流を見て、さっきの言葉が嘘偽りでは無い事を改めて理解した。それを決定づける根拠はない。ただ、勘がそう言う。神崎流は決してリアスを泣かせる様な事をしない。それに、今の流はとても可愛らしかった。元々やや幼い容姿をしているので、それも加味して。

 

 

(成る程ね。だからリアスは)

 

 

リアスが流の事を好きな理由の一端が知れて、朱乃は少し嬉しかった。

 

 

「あらあらうふふ。そんなに急がなくとも時間はありますよ。どうせもうホームルームには間に合いませんし、このまま二人で小一時間サボってしまいましょう」

 

 

「お、良いなーそれ。じゃあプチお菓子パーティーやろうぜ!」

 

 

「その前に流君は課題、終わらせてくださいね?」

 

 

「ほーい」

 

 

いつの間にか、朱乃は流を名前呼びしている。その事に気が付かない流は朱乃の見せる課題を進めていった。

その頃、一限が始まっても教室に現れない流に、静かに怒りを抱く紅き髪の姫が居たのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

放課後になり、流は何か忘れた様な気がしたが大して気にせず帰路についていた。帰路に就いていた。そして、昨日堕天使との戦いがあった公園へ訪れてみれば、綺麗になった公園があった。

リアスが修復したのか、はたまた違う誰かが修復したのかは分からないが、少し安堵した。

すると、背後から何かが急接近する。デジャブを感じながらその場から回避すると爆発が起きる。地面の破片が頬を掠めて血が流れる。煙を払うと、そこには昨日のシルクハットをかぶり、片目を閉じた堕天使の男がいた。

 

 

「一日で髄分変わったな」

 

 

「貴様を殺す為、()()()()から力を授かった。この力を持つ私は魔王をも超えた」

 

 

「大きく出たな。さて、昨日と同じく見逃す気は?」

 

 

「毛頭ない。貴様はここで、死ねっ!」

 

 

黒い光————否、もはや光ではなく闇。その闇で形成した槍を振るうと、槍から無数の黒い刃が放たれる。流はスイッチナイフをポケットから出し、自分に当たるコースの黒い刃を弾いていく。だが、数個身体の至る所を掠める。痛みはそれ程ないが、今の倍以上の量を放たれれば防ぐすべは今は無い。

 

 

「くっ……」

 

 

「どうしたどうしたぁ! 昨日の威勢はぁぁ!」

 

 

再び黒い刃を放つ堕天使の男は歪な笑みを浮かべながら高らかに笑う。その間、流はスイッチナイフを巧みに使い黒い刃を弾く。しかし、今度は連続して放たれる為全てを防ぎきれない。だから致命傷以外は無視して弾き続ける。徐々に足元に血が広がる。腕、肩、膝、頬、脇腹を黒い刃が掠め血が流れる。

一旦攻撃の手を止めた男は、今の流の姿を見て首をかしげる。

 

 

「おー? 昨日より弱いな。いいや、私が強くなったのかぁっ! ぎゃっはっはっはっ!」

 

 

「昨日とは大分様子が変だ。狂ってる」

 

 

「狂ってる? 私はいたって正常だよ!」

 

 

再び黒い刃を放ち、流を襲う。今度は弾くのではなく、躱す事にした。だだ、先回りして、放ってくる為、やはり足が止まり弾く事に専念する。

すると、バキッ、と音を鳴らしスイッチナイフの刀身が折れる。そして、防ぎきれなかった黒い刃が至る所に突き刺さり倒れる。

 

 

「ぐぁっ……っ!」

 

 

「はっはっはっ! 祖父の形見の品も役立たずになった。さてどうする、神崎流!」

 

 

(あの力、あの闇………成る程。お前がこの街にいるのか)

 

 

ゆっくりと立ち上がり、血塗れになった体を見て笑う。

 

 

「はぁあ。弱くなったな、俺も。緩い生活に甘んじてた、って訳でも無いんだ。そんな緩い生活が好きだった。高校入って漸く手に入れた普通を、こんな形で手放さなきゃいけないなんてなぁ。————さてさてさ〜て。この代償は、高くつくぜ!」

 

 

「あぁぁん? 何を言ってるんだぁ?」

 

 

「ハッッ!」

 

 

 

黒い霧が流を覆い姿を隠す。堕天使の男は何かを察知したのか、黒い刃を先程の倍以上放つ。刃は黒い霧に入ったまま出てこない。やがて霧が晴れて、流の姿が見える。

 

 

「何!?」

 

 

そこに居る流の姿は、先程とは違い、目からハイライトは消え、黒い髪の毛の一房は紅く染まり、額から左目の辺りを通って黒い痣のような紋様が広がる。そして、右手には片刃のショートソードを持っていた。

 

 

「ま、まさか……! それで全て防いだと言うのか!?」

 

 

「どうだろうな。それに、言っただろ? この代償は高く、つくとっ!」

 

 

地面を思いっきり蹴って跳躍して、堕天使の男の近くまで来ると、ショートソードを振り下ろす。闇の槍で防ぐが、ガラス細工の様に砕け散り、右肩から斬り落とす。

 

 

「ぐぁあああ!」

 

 

「ふんっ!」

 

 

続いて右横から振るい、次に下から切り上げる。左肩は斬り落とされ、両足も斬り落とされた。そして最後に空中で前方に宙返りして勢いをつけてカカト落としをする。堕天使の男は一瞬息ができなくなり、その間に地面に叩きつけられ血を吐く。綺麗に着地した流は堕天使の側により、見下ろす。

 

 

「その力、誰から貰った」

 

 

「かはっ……! く、黒尽くめの……お、女。へ、変な水を飲めば、強くなる、と……」

 

 

「……お前も、誑かされた一人か」

 

 

『心外ねぇ。誑かしてなんかいないわよ』

 

 

謎の女性の声と共に、無数の黒い刃が流の上空から降り注ぐ。堕天使の男を担ぐ暇なく躱す。堕天使の男は串刺しにされて、絶命する。

 

 

「おまえは……!」

 

 

「久し振り。流くん」

 

 

「モルガン!」

 

 

宙を歩く銀髪の女性。名はモルガンと言い、流にとっては因縁深い人物。そんな女性を睨み付け、剣の切っ先を向ける。

 

 

「何故、生きてる」

 

 

「何故かしら。私は確かに死んだ。貴方の手で。でもこうして生きている。何故かしら。私にも本当に分からないの。それと、そこに倒れている堕天使はただの挨拶代わり。今の私では貴方に勝てない。まぁ、本来の貴方の力が今あれば、の話だけど」

 

 

「きさまっ……」

 

 

「じゃあ私は消えるわね。まだ、本調子じゃないから身体が怠いのよ」

 

 

そう言うと霧の様に消えていくモルガンに、内心安堵した。今日はこれ以上戦える気がしない。それはモルガンも気が付いていたはず。だから本調子じゃないって言うのは本当の事だと思う。

 

 

「はぁはぁ……。久し振りに、力使ったから………めま、い………が……」

 

 

視界が歪み、立っていられなくなり、吐き気が込み上げる。鼻からは血が流れ、ショートソードを握る手が緩み手放す。膝と両手を着き深呼吸をするも、楽になる気配はない。意識が薄れて行き、視界が真っ暗になる。薄れ行く意識の中、流は(くれない)を見た————。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た———。自分が、紅い髪の女性を抱きかかえながら紫色の空から落ちて行くのを。

夢から覚めると、見知らぬ天井がそこには見えた。暖かく柔らかい感触に違和感を覚えるも、身体がだるくそれどころではない。それでも上半身を起こそうとすると重い。それもそのはずだ。見慣れた美少女がべったりくっついているのだから。くっ付いているならまだしも、裸と来た。身体のだるさよりも、こちらの方がそれどころではなかった。

 

 

「リ、リリリアス!?」

 

 

「ん………ん〜。なが、れ?」

 

 

「あ、おはようございます。って、俺も裸!? なんで!?」

 

 

「……貴方、覚えてないの? 公園で血塗れの貴方が居たから治療して寝かせていたのよ。貴方凄く衰弱していたから驚いたわ。それに、近くに堕天使の死体もあった。それと、朱乃から全部聞いたわ。私を監視する為に近づいた事。今はただの友達として接してくれている事も。なんで、黙ってたのよ。私達の間に遠慮なんか要らないんじゃなかったの?」

 

 

リアスの瞳は涙が溜まっていて、その表情は悲しげなものだった。確かに、遠慮なんか要らないと言った。だが、それでも言える事と言えない事もあった。

 

 

「貴方は、一体何者なの?」

 

 

「……俺も、自分自身の事を全て知っている訳ではない。一つ、わかるのは、俺の本来の力は強力無比だと言う事だ」

 

 

「そう。でも、貴方は貴方なのよね? 神崎流なのよね?」

 

 

「当たり前だろ。お前の知る流だ。リアス」

 

 

リアスはそう言うと、静かに流に寄り添った。驚き飛び退けようとしたが、それが出来なかった。何の恥じらいもなくリアスは流の胸板に頬を充てがう。豊満な胸部が鳩尾の辺りに密着し、リアスの鼓動を感じる。流はゆっくりと仰向けに倒れこみ、リアスの髪の毛を撫でる。

何故か、懐かしく思うのは流だけではなかった。初めてあった日からリアスは流を、流はリアスを過剰な程に意識していた。

 

 

「不思議ね。前からこんな関係だったみたい」

 

 

「お前は小っ恥ずかしくないのかよ。付き合ってもねー男に、それも裸で抱きつくなんて」

 

 

「何の抵抗もない、と言えば嘘になるわ。それでもね、貴方とはずっとこうしたいと思っていたのよ」

 

 

「そうか」

 

 

それ以上言葉はいらない。それ以上言えば、無粋だと思ったからだ。今だけは黙ってリアスを抱き締める。

どれだけ抱き合ってたかは分からない。永遠のようにも思えた。

 

 

『あ、あの! ここは部外者立ち入り禁止で!』

 

 

外が騒々しく、二人は起き上がると朱乃の静止の言葉が聞こえた直後、この部屋のドアが木っ端微塵に砕け散る。

 

 

「私の息子を、何処へ隠したのかしら? 下賎な種族が」

 

 

「仕方がありません! いかず—————」

 

 

「遅い」

 

 

金髪の女性の持つ剣先から、衝撃波が発せられ、朱乃は壁まで吹き飛ぶ。他にも金髪の少年が女性を抑えようとするが、睨み付けるだけで怯んでしまい、足がすくむ。

 

 

「見つけ———殺す。私の息子を汚した矮小な娘!」

 

 

リアスに向かって剣振るう。だが、素早く二人の間に立ち塞がり、近くにあったスプーンで女性————神崎アレシアの斬撃を防ぐ。

 

 

「流!? どう言うことか説明しなさい」

 

 

「その前に剣をしまってくれ」

 

 

「説明が先です。言い分によってはこの部屋には血の海が出来ることでしょう」

 

 

「リアスは俺の友人で、命の恩人だ! 今日変な男にあって、衰弱してた所を助けてくれたんだよ!」

 

 

そう言うと、母アレシアの力が緩み、リアスの方に視線を向ける。リアスは何度も頷く。アレシアは再び視線を息子である流の方へ向ける。

 

 

「本当の様ね。はぁ」

 

 

アレシアが剣を鞘へ納めると、流はホッとする。

 

 

「この度は、矮小な身であるあなた方に息子がお世話になりました」

 

 

「おい! 悪魔が嫌いなのは分かるけどそれはお礼とは言わない! 挑発してんのか!?」

 

 

「分かったわよ。この度は息子がお世話になりました。それじゃあ行くわよ。あの子が心配しているわ」

 

 

「あ、ちょ、引っ張るな! リアス! 話はまた今度だ!」

 

 

 

母アレシアに家へと連れ戻された。否、正確には引きずられながら戻された流は、居間にて正座させられていた。アレシアは竹刀を突き立てながら黙って正座する流を見下ろす。無言の威圧が、流の精神を突き刺してくる。

 

 

「それで? 説明を」

 

 

「じ、実は————」

 

 

事の一切を打ち明け流の言葉に嘘偽りがないのを知っているのか、途中で口を挟まずに黙って聞いている。

 

 

「……モルガンさん、ですか」

 

 

「俺が殺した筈なんだ。なのに、あいつは生きてる。あの闇は紛れもなくモルガンのものだった」

 

 

「闇………古の種族、()()族の血を受け継ぐ。その他にも、本物の『モーガン・ル・フェイ』の生まれ変わり」

 

 

この場に居合わせている黒歌は、初めて聞く魔神と言う種族に疑問を浮かべる。字の通りだと、魔の神。

だが、実際は、何故魔神族と呼ばれているかは不明である。唯一、分かるのは、現代において、魔神族は九十九パーセント絶滅している。その一割がモルガンなのだ。

と言っても、純血ではない。モルガンは、魔法使いの人間と魔神族のハーフとの間の子供。魔神族の血は薄い。それでも、血統に恵まれているため、おそらくそこいらの悪魔天使堕天使、神器(セイクリッド・ギア)持ち等よりも強い。

 

 

「そんな相手と……」

 

 

「黒歌が気にする事じゃない。でも、先に謝っておく。俺の側にいる以上、あいつはお前をも襲ってくる。彼奴は本人の大切な物を人質にとってから、相手を倒す。それが、モルガンだ」

 

 

「……下種にゃん」

 

 

「唯一の救いが、彼奴が本格的に行動するまで時間があるって事だ」

 

 

今のモルガンは本調子ではない。もし本調子ならば、流はあの時の戦いの後にやられていたからだ。

時間があれば、それまでに対策を練ることが出来る。

 

 

「さて、こんな話はもう辞めだ。遅いし、寝ようぜ」

 

 

「そうしましょ。さて、黒歌さん、流、おやすみなさい。あ、不純異性交遊は駄目だからね?」

 

 

「っるさい!」

 

 

オホホ、と言いながら出て行く母アレシアを見てため息が出る。普段は厳しいのに、一度その厳しさが外れればとことん甘く、余計な事ばかり言う。そんな母親だから黒歌もこうしてこの家にいられるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ある廃墟にて、銀髪の女性が胸に手を当て頬を紅潮させていた。

 

 

「あぁ、あぁぁぁっ……! 流、くん……! 貴方と言う人は!—————しかし、解せないわね。あの感じ、()が全く感じられない。まるで抜け殻のようだわ」

 

 

「それは、流様の母君が、彼の力を封じているからにございます」

 

 

「母? あーあの若作りが取り柄の。流くんの本質を理解できないバカ親が、殺そうかしら? あぁいやでも。今の私じゃ返り討ちに合うわね。あの女、条件が揃えば神すら屠る力を持っているのだからね。厄介だわ。あの女の特性、満月の夜、不死の身となり、魔法力が数百倍、さらにブラッドムーンの場合には数千倍にも膨れ上がる。ただでさえ龍王を素手で締め上げられるってのに。————でも、あの女は、自分の息子の危機にのみしか本来の力を発揮できない制約があるから、きちんと対策を練れば問題はない、筈」

 

 

「しかし、姫様。流様自身、力を取り戻してしまったら、姫様はまた……」

 

 

謎の老人の後の言葉は言わなくても分かっている。本来の力であれば、モルガンは流に勝てない。だから、自分の有利な状況を作り出す。大暴れされる前に、大暴れできない場所へと誘う。

 

 

「ま、何にせよ、まだ動くには早いわね」

 

 

モルガンはひっそりと、その日が来るまで力を蓄える為に当分は表立った行動をしないことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








黒歌「次回のお話は、『流死す』で」


流「勝手に殺すな」


黒歌「えー違うにゃん。ながれじゃなく、りゅうだし。言ったじゃん、流がモデルだよって」


流「小説の話かよ!」




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