北条加蓮ゥ!なぜ君が(ry (Peftn Kare)
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北条加蓮ゥ!なぜ君が(ry
「北条さん!音外れてるよ!」
トレーナーの叱咤がレッスンルームに響く。
「すいません…」加蓮のミスは今日で三回目だ。
「加蓮、少し休憩した方がいいんじゃないか?」私、神谷奈緒はそう声をかける。
「いい、大丈夫。」こいつはこういう時強情なんだ。だが私も慣れているのでそのまま流す。更に心配するようなそぶりを見せれば、加蓮は余計強情になるし何より余り時間を割く訳にもいかない。
「大丈夫です。お願いします。」
「じゃあ、もう一度このパートの最初から。」
私達はレッスンを続けた。
一時間後、ボーカルレッスンは終わり私と加蓮は駅に向かう道を歩いていた。
ふと携帯がバイブしているのに気づき、私達は足を止める。凛からだ。
「ああ…うん、割と近いな…。分かった。そっち向かうよ。」
簡単な受け答えをし、私は電源を切る。
「ねえ、凛からでしょ。何だって?」加蓮が横から携帯を覗き込む。
「ん、ああ。荷物が多いから、買い物に付き合って欲しいんだってさ。それじゃ、悪いけどまた明日な!」
あまりわけを追及されないよう私は走っていった。
「ちょっとぉ…」加蓮の声がどんどんと小さくなっていく。
「なんかあの二人、最近仲良いなぁ…」
市街地。そこでは二体の「見慣れぬモノ」が戦闘を繰り広げていた。
「なかなかやるではないか、仮面ライダー!」刀を持った虚無僧のような外見のモノは相手を「仮面ライダー」と呼んだ。
「くっ、やっぱりレベルアップしてる…」仮面ライダーも必死で応戦するが、徐々に虚無僧に押されていく。
「凛!!」私は火花を散らす二体の方へ飛び込んだ。
「変身!!!」
ライダー《プレイヤー》をセレクトし、私の身体は光に包まれる。そしてそのまま、虚無僧の方へ突っ込む。
「ぬっ、新手か!」
虚無僧が一瞬私の方を向く。その隙をついて仮面ライダー_凛が虚無僧を跳ね除けた。
「凛!一気に決めるぞ!」
「うん。」
私は高空へ跳び上がり、虚無僧に向かって蹴りの体勢をとった。同時に凛が剣から炎を放つ。私の蹴りと炎が虚無僧に直撃し、爆発と共に虚無僧の姿は消え去った。
「任務完了…と」慣れたものではあるが、私は得意げにそう呟いた。
私と凛はアイドルでありかつ「仮面ライダー」である。私がピンクの闘士エグゼイド、凛が水色の剣士ブレイブ。仮面ライダーの目的は人間に感染するゲームウイルス「バグスター」を患者から切除し、倒すこと。仮面ライダーのことは機密事項で、プロダクションの社長とプロデューサー、それと医師側の関係者以外には誰にも教えてはいけない。ユニットメンバーの加蓮にも。
ひと段落し、私と凛は変身を解く。
「悪いな。遅れちゃって。」
「大丈夫。レッスンだったんだよね。加蓮もいっしょだったみたいだけど…」
「ああ、また適当な理由つけて逃げてきちゃってさ。今度何かおごってやらないとなー。」
そんな他愛の無い会話の中、私の携帯が鳴った。プロデューサーからだった。
「はいもしもし神谷です。…えっ!?」
「加蓮が…、そんな…!」
二時間後、私達は病院にいた。ロビーで落ちあわせたプロデューサーと、「特別な」病室へと向かった。
「本当なのかプロデューサーさん。加蓮が…ゲーム病だって。」
ゲーム病_バグスターウイルスによって引き起こされる症状のことを私達はそう呼んでいる。加蓮は、バグスターに感染したのだ。
プロデューサーの話によると、加蓮は私と別れたあと歩いていたところ倒れ、近くの病院に運ばれたところゲーム病とわかりこちらへ移すことになったそうだ。私は自責の念に駆られたが、凛とプロデューサーは私のせいじゃないと励ましてくれた。
そうこうしている間に加蓮が病室に運びこまれてきて、治療用ベッドに寝かされた。ゲーム病治療の施設がある病院は国内でも限られているため、ここに来るまで時間がかかったのだろう。
加蓮の容態は悪く、私達のことも見えていないようだった。程なく加蓮の体のスキャンが開始された。しかしそこに映っていたのは
「なんだ…このゲーム?」
これまでに見たことのないアイコンのウイルスだった。私達二人だけでなく医師達も困惑していた。これまでに例を見ないウイルスのようだ。しばらくして医師の一人がタイトルを解析し、モニターに表示した。
『The idolm@ster』それがこのゲームのタイトルだった。
「あったよ、『The idolm@ster』。アイドルをプロデュースする、育成ゲームだって。」
凛がスマホの画面を私に見せてくる。公式サイトではなく、短いWikipediaのページだった。
「アイドル育成ゲーム…か。」
凛は勿論、私もそんなタイトルは聞いたことがなかった。凛のスマホを借りページをざらっと見る。どうやら10年ほど前にアーケードで稼働していたゲームらしく、どういった内容なのかも詳しいことまでは書いていなかった。プレイした人が非常に少なかったのだろうか。
私がもう少し情報はないかと探していると、突如警報が鳴った。
「バグスターウイルス活性化!患者より分離します!」
「まずい、加蓮が!」
私達は加蓮の病室へと向かった。そこでは、今まさにバグスターが加蓮の体から分離しようとしているところだった。
ピクセルが集まり、形を成す。
そして激しい閃光。
目を開けると、そこには一人の少女が立っていた。
「はじめまして、プロデューサーさん。」
少女はそう言った。
「はじめまして、プロデューサーさん。アイドルの××××です。」
「この子が…バグスター…?」
「みたいだね…。私達のこと、プロデューサーって呼んだけど…」
私達の会話をよそに、少女はニコニコし続ける。
「なあ、もしこのゲームの内容が書いてあるとおりだったら、この子をプロデュースすればゲームクリアなんじゃないか?」
ゲーム病を治療するには感染したゲームを、そのゲームにあった方法で攻略しなければならない。『The idolm@ster』は育成ゲーム。ゲームの内容に沿ってこの少女をトップアイドルにしてあげればゲームクリアのはずだ。
「私達がアイドルをプロデュース…なんか、いつもと逆だね」
凛はそう言って笑うが、あまり呑気なことも言っていられない。
バグスターウイルスの感染者は時間が経てばこの世から消滅する。私達は患者を__いや、加蓮を救わなくてはならない。仮面ライダーとしてでなく、トライアドプリムスとして、
このゲームを、攻略する。
「とは言ったものの…何をすればいいんだっけ」
「まずはアイドルをレッスンさせて、パラメーターを上げる_って、さっきのページに書いてあったじゃん。」
どうやら凛はこの短時間で先ほどのページの内容を覚えたようだ。いくら情報量が少ないとはいえ、すごい記憶力だ。
「とりあえず…最初はダンスのレッスンかな。」
私達と少女の間に浮かんでいるボタンに触れる。すると、少女が練習着に着替え踊り出した。しかしその動きはまだぎこちなく、初々しさを感じる。
十秒ほどで少女のレッスンは終わり、空中に『SUCCESS!』と表示される。とりあえずレッスンは成功のようだ。
ゲームの中の時間が進み、『2nd week』と表示された。
「プロデューサーさん。実は学校の宿題が難しくて…」
「うわっ、今度は急に向こうから話しかけてきたぞ!」
「落ち着いて奈緒、これはコミュニケーションチャンス。上手い返答をして好感度を上げるみたい。」
「そ、そうか。えっ〜と、て『手伝ってやろうか?』」
私なりに無難な返答をしたつもりだったのだが、
「い、いえ!大丈夫です、一人でできます!」
と慌てて返された。空中には『Normal』と表示される。
「あ、あれ?今の良くなかったのか?難しいなこのゲーム…。」
「意外と、一筋縄じゃいかないみたいだね…。」
私と凛は頭を抱える。少女はその間もずっとニコニコと笑っている。
「でも、このバグスター逃げる様子もないし、根気よくやれば終わりそうだね。」
「ああ…でも目的は加蓮を救うことだ。なんとしても早くクリアしなくちゃな…。」
私達はゲームを再開した。
そこからはずっとゲームを続けた。
彼女に適切なレッスンを受けさせ、オーディションを受けさせる。成功した時は私達も喜び、彼女も喜んでくれた。
失敗した時は落ち込んだが、それでも前を向く彼女に励まされた。
会話を重ね、彼女の心からの悩みも聞いた。
短い時間とはいえ、彼女と感情を共有した。
そして、…
「やっと、…ここまで来たな。」
「うん…。」
おそらく最後の画面。私達と彼女は大会で優勝し、晴れてトップアイドルの座に登りつめた。
最後のボタン。これを押せば、ゲームクリア。ゲームが進む度病状が回復してきた加蓮も、完全に助かる。
でも…
「奈緒…、押さないの…?」
「ああ、悪い…。代わりに、やってくれないか…?」
「……。ごめん。私にも無理だよ。」
当然だ。私も凛も、彼女と別れたくないと心の底で思っている。もちろん加蓮の方が大事だ。
でも…。彼女と別れず済む方法はないだろうか。彼女を、救えないだろうか。
拳を握る。唇を噛みしめる。押したくない。押したくない。押したくない…。
「大丈夫ですよ。プロデューサーさん。」
「え…!?」
手に温かいものが触れる。目を開くと、少女が私の腕を取りボタンを押していた。
「なんで…!?」
必死で腕を伸ばすが、消えゆく彼女の姿を掴むことができない。彼女がピクセルに分解され、光を帯びてゆく。どうすることもできない。私は、なんて無力なんだ。彼女を育てることは出来ても、救うことができないなんて。
涙で潤む私たちの目を再び閃光が襲う。彼女との別れ。私達はただ悲しみに明け暮れていた。
しかし、最後に見えた彼女の笑顔はこれまでで一番素敵なものだった。
その一時間後、加蓮は目覚め、今回の事件は終わった。
一週間後、私達はまた三人で街を歩いていた。
「いやーしかし、よかったなあ加蓮。今回のは軽くて。」
「うん…。まあ目が覚めてもどこも苦しくなかったんだけどね。」
もちろん加蓮は私達が治したことを知らない。軽い貧血ということになっている。
「ねえ奈緒、ちょっと…」
「ん?どした凛。」
「こないだのゲームのサイト、いくらやっても繋がらなくて…。」
凛がスマホを見せてくる。アドレスはこのあいだのページになっているが、表示されているのはエラー画面。あのゲーム唯一のページは、なぜか消されていた。
「ねえねえ何?ゲームの話?凛もそういうのやるの?」
加蓮が間に割り込んでくる。私と凛は目を合わせクスッと笑いながら、
「ああ、こないだ凛と一緒にやったゲームでな…」
楽しそうに話す三人の少女たちの後ろで、それを見守る者がいた。
あのゲームの中の少女だ。少女は『こちら』を向き、ニコニコと笑った。
「プロデューサーさん。これからも、アイマスですよ、ア・イ・マ・ス。」
おわり
ここでの描写がピンとこなかったPくんは仮面ライダーエグゼイドを見てくれ。世界レベルでおもろいから。
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