切札持った僕のヒーローアカデミア (ソナ刹那@大学生)
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Jの始まり/これがオリジン

続けるか未定のヒロアカ原作SS第二弾。
まだこっちの方がモチベーションある。
他にもゼロノスを題材にしたヒロアカとか考えてたりするけど、さすがに書かなさそう。
短め、気楽に読んでください。二番煎じだったら申し訳ない。



 確か僕が小学生になるよりも前のこと。あまりに小さい頃のことではっきりとした記憶はない。なにで遊んだとか、だれと仲が良かったとか、どんな子供だったとか、今なお続いている要素ならば実感できるけど、周りの大人たちに聞かされるだけの事実とやらは、僕の中ではフィクションと大して違いなかった。

 

 そんな僕にも忘れられない当時の思い出というのがある。厳密には部分的にははっきりしている、そんな思い出だ。幼かった僕はある日誘拐にあった。誘拐と言ってもそんな大層なものでもない。警察沙汰でもないし、ましてや身代金の請求などはないし、そもそも未遂だった。そこら辺の詳細は覚えていないが大の大人になにか怒鳴られるように言葉を浴びながら、恐怖で言うことを聞かなくなった身体に呆然とした僕を連れ去ろうとした。結論から言うと助かった。ある男の人が助けてくれたのだ。顔は覚えていない。日の光が眩しくて顔の部分だけ飛んでいた。ただ彼が被っていたハットだけが印象的だった。

 

 

「坊主、大丈夫か?」

 

 

 手を伸ばしながらそう声をかけた。僕はゆっくり手を取って身体を起こした。カッコいいと思った。スマートに大人たちを無力化する姿、シンプルにヒーローのようだと思った。あなたはヒーローですか、そう聞いていた。

 

 

「ヒーローねぇ……そう呼ばれることもあるな」

 

 

 少し照れるようにけれどそこに自信が欠けた様子はなく、誇らしげに応えた。どうしたらあなたみたいになれますか。

 

 

「ヒーローになりたいのか?」

 

 

 はい!オールマイトみたいにいつも笑顔でみんなを助けられるようなそんなヒーローに!彼は少し唸って僕の頭に被っていたハットをちょこんと乗っけた。大きくて目まで隠れてしまった。

 

 

「誰かのために、何かのために、そうやって自分の命を賭けることに誇りを持てるやつ。ヒーローってのはそういうやつだ。喧嘩が強いとか、とんでも特技を持っていることが大事なんじゃない。怖くても辛くてもいくら悩んでも、最後は前を見て伸ばした手を掴めること、大事なもんはそれだ」

 

 

 初めて言葉を知ったような衝撃だった。無個性な僕が現実を受け止められずに困惑し、それでも純粋に憧れていた頃。その言葉は僕にとって希望だった。無個性の僕でもヒーローになれますか?

 

 

「なれる、きっとな」

 

 

 間髪入れず残酷なほどに優しい言葉を僕に聞かせた。彼はポケットからなにかを取り出し、僕の小さな手で握らせた。これは?

 

 

「お守りだ、それとまた逢うっていう約束。いつかそれがおまえの切札になる。そんでもってまた俺に返しに来い、そのぶかぶかな帽子が似合う一人前の男になってな」

 

 

 そのあと彼は颯爽と立ち去った。その後ろ姿をしばらく溺れたように見ていた。手に握った細長い無機物と頭を覆った繊維の感触に思いを馳せながら、一つだけ思ったことがある。あんなヒーローになりたい。強い憧れの対象がオールマイトの他にもう一人出来た瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 オールマイトの真実を知る中学三年、あの瞬間は確かに僕にとってある種のスタートであった。真の意味でヒーローへと進む道が開けた瞬間だろう。だがそれより以前にも僕のヒーローへと進む道のきっかけはあった。それは思い描いていたヒーローとは違い、それでいてそれ以上の憧れ。それはきっとオリジンより前のもう一つのオリジン。

それは丁度中学生になろうという、小学6年の春休みだった。桜が咲いていたのを覚えている。家族で夜桜を見に行っていた僕は、途中でお手洗いに行くために1人逸れて行動していた。周りに誰もいない、そんな静かな闇の時間だった。お手洗いを済まして帰ろうとした時、目の前に見知らぬ男がいた。やけにボロボロで傷ついた様子だった。けれどこっちを見る目はおよそ普段人間がするものではなかった。今思うとなんでこう巡り合わせが悪いのだろう。なにかそういう負のエネルギーを呼び寄せるものでもあるのだろうか。それが個性だとしたらまるで笑えない。

 

 

「……なに、見てんだ?」

「ヒッ……!」

 

 

 ドスの効いた威圧的な声に上ずった情け無い声が溢れる。少しずつ近づく男から距離を取ろうと後ろを見ずに後ろに下がる。

 

 

「ったく、あんなやつがいなきゃよぉ!気持ちよくやれたっていうのによ!……イライラするわほんと」

 

 

 なにを言ってるのかよくわからないけど、どうしようもなく怒りに満ちてることだけは伝わってくる。男は懐からなにかを取り出した。それは僕もよく見たことのある細長い小さな小箱。

 

 

【ZEBRA】

 

 

 機械音声が聞こえたと思えば彼はその小箱を左腕に挿した。まるでデバイスにUSBメモリを繋ぐように。そのメモリは身体の中に消えやがてその姿は異様な形に変化し始めた。白と黒とかストライプ状に走った異形。その頭は馬のようで、まさにそれは音声の通りで言うなればシマウマ人間というものだろうか。

 

 

「か、かかか怪物……!?」

 

 

 異形系の個性とはまた違う、明らかにそれより不気味な明確な恐怖の顕現。個性なんていう生温い表現では足らない、不自然なまでに異質なものだった。

 

 

「付き合えよ、八つ当たりに」

 

 

 それは明らかに僕に向けられた殺意。それに当てられて身は硬直している。いわゆる絶体絶命、自分の小っぽけだった今までの人生に悲観しながら最期を迎えようとしていた。

 

 しかしそれは叶わなかった。瞬間目の前の怪物が真横に吹っ飛んでいった。ちゃんと説明すると、どこからともなく現れたバイクが、暴力的な速度のまま衝突し怪物を吹き飛ばしたのだ。

 

 

「全く……逃げ足だけは早い。おかげで探すのに苦労した」

 

 

 バイクから降りたその人はヘルメットを取り、その顔を見せた。端正な顔立ちだった。どこか神秘的ながら知性が漂っていた。ストライプのシャツに緑のロングベストが風でたなびいている。

 

 

「あ、あなたは……」

「ぼくかい?そうだな……訳あって名乗れないが、あの化け物の追跡者とだけ言っておこう。あとそれと……」

 

 

 懐から赤色をベースにしたバックル状の、左右非対称のメカを取り出した。それを腰に当てるとバックルからベルトが伸びて巻きついた。そしてまた懐から取り出す。それは半透明な緑色の例のUSBメモリ。()()と色違い。

 

 

「これから起こることは、他言無用でよろしく頼むよ」

 

 

【CYCLONE】

 

 

 またあの機械音声が流れる。そのメモリをベルトのスロット部分に挿し込んだ。その人は顎に右手を当て、そのままその手でスロットを横に倒した。

 

 

「変身!」

 

 

【CYCLONE】

 

 

 緑の光が満ちて強い風が彼を囲うように巻き起こった。それはまるで竜巻。翡翠のように眩い突風が止むと中からは同じく翠玉に染められた鎧を纏った人がいた。

 

 

「……まさか」

 

 

 それは噂程度にしか聞かない話。全身を装甲で纏った覆面のヒーロー。突然現れては特殊なヴィランたちを倒す。その正体は誰も知らない、謎多き正義の味方。それを世間はこう呼ぶ。

 

 

「……仮面ライダー」

 

 

 僕の前にその人がいた。




感想意見誤字報告お待ちしてます、よろしくお願いします。


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Jの始まり/異界伝聞は突然に

思いのほか反応が良かったので調子に乗って更新。次回以降はこうは行かない。
今回は説明回、ものの全部ではないけど。








 

 

 

【CYCLONE MAXIMUM DRIVE】

 

 

 突風を纏った手刀が怪物の身体を切り裂いた。荒ぶる風の勢いは鋭利さを持ちさながらそれは本物の刀のようで、いとも容易く一線の傷跡を刻んだ。派手な爆発が晴れると怪物になる前の男が横たわって倒れていた。その傍らにはおそらく先ほどのメモリが砕けたらしき残骸が散っていた。

 

 

「凄い……」

 

 

 これが仮面ライダー。翠の風、そう比喩する人もいたけど、まさに流れるように軽い戦闘だった。終始仮面ライダーのペースで、相手の怪物はあの傷だからか圧倒されっぱなしだった。もしかしたらあの傷もこの緑色の戦士によるものだったのかもしれない。

 

 ベルトのスロットを縦に起こしメモリを抜く。溢れるようにそのアーマーは外れ風に消えた。再び青年が現れる。

 

 

「ふぅ……君、大丈夫かい?」

「は、はい!」

 

 

 差し伸べられた手に落ち着かない感情のまま手を重ねる。あんな戦いをしたとは思えない華奢な細い手だった。身体を引き起こされ改めて感謝を口にする。

 

 

「構わないさ。ただ、このことは秘密にしてくれると助かるよ」

 

 

 正体がバレないようにしているらしい、その詳しい理由は教えてくれなかったけど。

 

 

「あの怪物は?」

「あれはドーパント、このガイアメモリを不当に使用したがために、最終的に力が暴走してしまい溺れてしまった成れの果てさ」

「ガイア、メモリ……?」

「これのことさ」

 

 

 そう言って手元のUSBメモリを振って示す。半透明な緑色。その中央部分には何かしらを意味したイラストが描かれている。よく見るとアルファベットのCのようだ。なんでも地球の記憶という、あらゆる生き物、物質、事象や概念などがデータとして保存されているとのこと。例えばこの人が使っていたのは「サイクロンメモリ」で、風の記憶が内包されているらしい。それを身体に挿すことで限定的にその記憶に因んだ力を得る、まるで個性の付与だ。ただし使いすぎたり、体質的なもので合わなかったりすると、メモリの力が暴走してあの怪物体「ドーパント」に変貌してしまうのだとか。ある種薬物的なもので毒素のようなものも含めているらしい。だから本来は使用するべきではなく、ここ最近陰ながらに流通し始めたもののために、まだ完全に取り締まりの対策は出来ていないのだと。

 

 

「そのベルトはその暴走を食い止めるためのもの、ってことですか?」

「大方はその通り。ベルト越しで使えば毒素による影響を軽減してくれる、とどのつまりフィルターのようなものだ。それにドーパントを倒すためには、ベルトの力が必要不可欠だ」

 

 

 そのための仮面ライダー、ガイアメモリに飲み込まれてしまった異形、ドーパントという名のヴィランを倒す専門のヒーロー。そういえば仮面ライダーが倒したヴィランはみんな異形系らしいとあった気がする。あれは異形系の個性持ちではなくドーパントだったということらしい。

 

 それにしても、自分の正体を秘匿する割にはすんなり教えてくれた、色々なことを。だったらもう少し教えてくれるかもしれない、そう思った。僕の()()についても。

 

 

「……僕持ってます、ガイアメモリ」

「なんだって……?」

 

 

 いつも持ち歩いている黒い半透明のメモリを見せる。どうにもこのイラストはJと示されているらしい。

 

 

「これは……!君、このメモリをどこで?」

 

 

 幼い頃にハットを被った男の人に貰ったと、あの日のことを伝える。ずっとなにかを考えているようで、顎に手を当ててしばらく沈黙していた。そしてこっちを見てなにかを口に出そうとした時だった、僕を呼ぶ親の声が聞こえた。

 

 

「あ、行かないと……」

「……君、明日もここに来てくれないかい?話したいことがある」

 

 

 やけに重い顔で話すもんだから、思わず肯定した。最後に名前を聞いてなかったから、それだけ聞いて家族の元に戻った。

 

 

「フィリップ、そう呼んでくれたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日、同じ場所に同じ人がいた。ふんわりとした風のなか、ただそこに佇んでいた。

 

 

「フィリップさん!」

「やぁ、緑谷出久。ちゃんと来てくれて嬉しいよ」

「話というのは……?」

「……君に提案があるんだ」

 

 

 またも重苦しい口調。心なしか風が少し厳かになった気がする。僕の目を射抜くように鋭く見つめる。次の一言の重みを感じた。

 

 

「仮面ライダーにならないかい?」

「……え?」

 

 

 疑問以前の問題、言葉の意味を理解できなかった。いやその言葉そのものの意味は分かる、ただその意味がここで発せられたという衝撃に脳が追いつかない。

 

 

「なにを言っているのかよくわからない、そんな顔をしている」

「え、だ、だって、え?」

 

 

 困惑した目の前の少年を見てフィリップさんは笑っている。まるで悪戯しているかのように。

 

 

「……君の持つメモリ、ジョーカーメモリはぼくにとっても所縁あるものだ。ぼくの大切な相棒が使っていた、そのメモリをね。……君の話を聞いた限り、そのメモリを君に託したのはその相棒と特定してほぼ間違いないだろう」

僕にヒーローとしての在り方を説いた薄らぐ記憶の中の憧れ。その人が僕の目の前の仮面のヒーローと関わり深い存在。縁とは紡がれていくものなんだなって思う。

「それがどうして僕が仮面ライダーになることと繋がるんです?」

「彼が君にそのメモリを託した。渡したわけではない、託したんだ。それは決して意味がないことではないからだ。……ぼくはこの世界の人間じゃない」

「……え」

 

 

 二度目の衝撃は一度目とのスパンが短かった。正直この人はなにを言っているんだろうって思った。不思議な人のようだと感じていたけど、その不思議が如実に繰り出された。

 

 

「原因はこちらの世界に来た際の衝撃のためか記憶にない。ただどうにもぼくがいた世界とは違うと分かった。なぜならぼくの世界にはヒーローを職業とした人々はいなかったから」

 

 

 そして取り急ぎ情報を集めたフィリップさんは、この世界のことをおおよそ知った。そして何故かこの世界でもガイアメモリが出回っている。フィリップさんは調査することにした、別世界に来た理由も元の世界に帰る手段も分かると思ったから。どうしてだか持ち合わせていたサイクロンメモリとベルト(ロストドライバーと言うらしい)を手にして。それがこの世界における仮面ライダーの誕生。仮面ライダーの正体がバレないようにしているのは、あらゆる危険性を考慮したもののようだ。誰が敵なのかもはっきりとしていない、そんな状態なら隠せる情報は隠しておいた方が武器になる。

 

 

「そして一つ問題ができた。ぼくが今使っているガイアメモリはこの世界で作られたものだ。そしてぼくは別世界の人間だ。この違いのせいかこのドライバーを上手く使いこなすことができない。サイクロンメモリの適合率も他のメモリよりは高いがそれほどではない」

 

 

 そのために変身してもその状態を維持するのに制限時間ができてしまったらしい。力が50%しか出ないのではなく、100%出せるけど数分しか保たない、そういった制約。もし連戦が続くようなものなら変身できずにドーパントと戦わないといけないかもしれない。だから探していた、他の人がなる仮面ライダーを。

 

 

「……それが僕、ですか」

 

 

 ずっとヒーローになりたいと思ってた。それは漠然と小さい頃から描いていた夢にも満たないちっぽけな思い。現実に押し潰されそうになりながらもなんとか形を保っていた。ただそれがこういう形で実るとは思ってもいなかったわけで、反射で肯定的な返事が出来ないくらいに動揺している。

 

 

「今すぐというわけではないさ。第一今の君はさすがに戦うのに適しているとは言えないだろう。幼いし身体も出来ていないし戦闘の経験もない。だからぼくが教えよう。安心したまえ、以前筋肉や格闘技について調べたことがある。知識は十分だ」

 

 

 習うより慣れろという言葉については調べてないのだろうか。

 

 

「……もし君が快く受け入れてくれるのであれば、ぼくも出し惜しみはしない。全力で支援しよう」

 

 

 細くも力強い言葉だった、気圧されるほどに。

 

 

「……フィリップさん、僕になれると思いますか」

 

 

 疑問。個性も持たない、ヒーローを目指しながらどこか諦めていた。唯一してきたことと言えばヒーローに個人的に研究していたことくらい。今なら思う、それ以外にもしなきゃいけないことがあったのではないかと。才能はない、技術もない、あるのはマニア的な知識の大群のみ。それじゃあヒーローにはなれない。誰かを助けることのできる、そんな前時代的意味のヒーローにはなれるかもしれない。けれど僕がなりたいのはそうじゃない。今のヒーローなのだ。ならば足掻くしかないんだ、きっとそうなんだ。

 

 

「なれるさ、君がなりたいなら」

 

 

 その一言が欲しかった。

 

 

「僕にも、なれます、か……!仮面ライダー(ヒーロー)に……!」

「ぼくの相棒が認めたんだ、君ならなれる。僕もそう思う」

 

 

 差し出された手を涙を零しながら受け取った。思ってた以上に温かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……ねぇ、翔太郎(相棒)。君はどこにいるんだい。やはり()()にはもういないのかい。

 

 ぼくがこっちにやってきたとき、倒れたぼくの隣に転がっていたこのサイクロンメモリとロストドライバー。そして短い言伝。

 

 

『あとは頼むぜ、相棒』

 

 

 君が託した少年と出会ったよ。……ぼくにはまだわからない、君の意思を継ぐ者として相応しいのか。けれどこういうときの君の勘は馬鹿に出来ないからね、とりあえずぼくも今は信じることにするよ。少しずつ知っていこうと思う、緑谷出久というこの少年を。だからどうか……。

 

 目の前で泣き噦る少年の頭を軽く撫でた。

 

 

 

 







フィリップの口調こんなだっけか?再現度の低さはできるだけ気にしない方向で。あとちょくちょくオリジナル設定出てきてるのでご注意を。
次更新するとしたらしばらく後だと思われる。忘れた頃にまた。感想意見誤字報告などお待ちしてます。


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Jの始まり/君へ、この手を伸ばせ

遅くなると言ったな、あれは嘘だ(たまたま)。
今回は初のバトル描写、バトル描写大の苦手な作者なので、先に謝罪を。申し訳ない。



 

 

 

 

 

 

 

 修行をした。第一に身体の基礎能力の上昇、平たく言えば肉体改造つまり筋トレだ。詳しいことは省くけど、おおよそ中学生がするような内容ではない。最初からオーソドックスな腕立て伏せや腹筋から始まり、やがてベンチプレスやバーを使っての懸垂など、中には紐で吊るしたタイヤを正面から受け止めたり、トラックを押したり、もはや筋トレとは違うのではないのかということもやった(出来たわけではない)。フィリップさんがやたら熱を入れて楽しそうに教鞭を振るってるのを見る限り、後半の内容はフィリップさんの完全な趣味だろう。ずっと思っていたがどこかあの人の知識には偏りがある気がする。ほぼ確信だ。

 

 とりあえずそんなわけで一般の中学生と比べると、だいぶ群を抜いた身体つきになった。20代のアスリートの卵くらいにはなった。中学生の今の自分には充分だ。付けすぎるとデフォルトの身体が耐えられない。身体が重くなり過ぎるのも良くない。

 

 加えて柔軟。しなやかに身体を動かすにはストレッチは欠かせない。何度か身体が引きちぎられそうになったが、無事に生きているから問題なしとしよう。筋肉を柔らかくするということで山の中を走ったりした。なんでもでこぼこした足場の悪い場所で走り込みするといいらしい。名称があったが忘れた。

 

 最後に戦闘技術。今時プロヒーローが個性だけで生き残れるのは絶対的じゃない。むしろ直接的に戦闘向きではない個性も多い中、力を得るためにはある意味古来の武術なり対人戦闘のスキルなりを身につける必要がある。特にそういったものに精通しているヒーローの中には、映像や書籍などで自分の技術を残している人もいたりする。僕はそういった中からフィリップさんと相談して、いくつかピックアップし混ぜ合わせ自分なりのスタイルを作っていくことにした。あまりパワーに依存したものではなく、むしろスピードやフットワークを意識したもの。結果的になんとも言えないスタイルになった。もはやただ喧嘩が強くなっただけかもしれない。そこは対人戦闘の相手になってもらったフィリップさんのお墨付きだ、複雑な気持ちだけど。

そして最後に総仕上げだ。

 

 

 

 

 

 

 

「メモリドープ……?」

「そう、ガイアメモリを身体に挿し込むことでメモリの力を限定的に発動するもの、らしい」

「らしい?」

「あぁ、ぼくの世界のガイアメモリは身体に挿したら問答無用でドーパントになったから。どうやらこことあそこでは同じガイアメモリでも少々システムが違うらしい。現に他にもあっちのメモリは使うにあたって「生体コネクタ」を身体に刻む手術が必要だ。だがこちらのメモリは初めに身体にメモリの端子を当てれば自動的にその箇所に生体コネクタが生成される。その後は利用する度にメモリのボタンを押せば表面に出現し、それ以外の時は刺繍は消えている。なんとも便利なものだ、これではメモリ犯罪を取り締まるのは難しいだろう。特に事前に防ぐことは。使うことが容易になるということだからね。……いったいどのようにしてこのメモリを開発したのか、ますます興味が尽きないよ」

 

 

 と言いながらもその目は陰っていた。この世界で何よりも誰よりもガイアメモリに詳しいはずの自分にとって知らない情報が流れ込んでくる。しかも不穏な方向に。心中穏やかじゃないだろうことは僕にも分かる。

 

 

「と言っても悪いことばかりではない。こちらのガイアメモリ、ぼくが仮に命名したASガイアメモリは、謂わば麻薬だったガイアメモリが少々危険な薬になったようなものだ。正確に用法を守れば基本問題ではない。だとしても危険なものに変わりはないから、取り締まりはするべきだと思うけどね」

 

 

 メモリとの適合率、もしその数値が著しく低いメモリを使おうものなら一瞬で命がデータにすら残らず消えてしまうことだって考えられる。その決して小さくないデメリットを考慮するとやはり使用は避けるべきだろう。僕にも無闇矢鱈に、特に人前で使うことは避けるように言われた。フィリップさんのように特例として認められているわけでもないし。

 

 説明し忘れていたけど、一応『仮面ライダー』自体は正式なヒーローとして認められているらしい。ただしその正体がフィリップさんだと知っているのは、その中でも僅かだとか。フィリップさん自身は表向きは『ライブラリ』というヒーロー名で活動しているらしい。それを知った時の衝撃。なぜならその情報ヒーロー『ライブラリ』も一度も表には出ていない名前だけがごく一部に知れ渡るマイナーなヒーローだから。知る人ぞ知る、というやつだ。詳しいことは不明だが、表立ってヴィランと交戦するのではなく、情報提供などの形で他のヒーローの支援に徹するという珍しいタイプのヒーローだ。まさかその正体がフィリップさんだったとは……。そのフィリップさんはというと僕のその食いつき具合になんともぎこちない微笑を浮かべていた。そうやって幾重にも自分の姿を作って隠していることからも、今起きている事の重大さがひしひしと感じる。そりゃあそうだ、この人なんかは別世界から来てるのだから。今になって不安という感情が僕を染め出した。少し身が震えた。

 

 

「その点君は適合率の問題はなさそうだ。およそ73%、充分すぎる数値だ」

 

 

 どうやって測ったのだろう。疑問に思ったけど、数値の高さに驚いて頭から落ちてしまった。

 

 

「では身体に挿してみてくれ」

 

 

 随分軽く言ってくれるなぁと悪態を吐きながらも、小さく震える右手でメモリを持ち左の掌に端子を当てた。瞬間絵を描くように一本一本ラインが入り中央にそのコネクタにあたる部分がプリントされた。これで僕がこのメモリの使役者になったわけだ。機械の下の方のボタンを押す。

 

 

【JOKER】

 

 

 そしてコネクタ部分に挿すとメモリがすぅっと身体の中に入っていく。

 

 

「ーーーッ!」

 

 

 肌に溶け込んで入った先から身体全身を駆け巡るように低度の痺れが奔る。それに伴い紫と黒を半々で混ぜたようなラインが薄らに刻まれていく。機械的な幾何学の線。それが僕の身体を余すことなく染める。痛覚に訴えてくるような刺激、けどそれは耐えきれぬ苦痛などではなく、むしろそれを引き金にある種快感とも言えるような高揚感が染み渡る。力を手に入れた、シンプルな事実を頭をかち割るように素直に伝えてきた。

 

 

「ジョーカーメモリの効果は人間としての能力値を大幅に上昇させるというものだ。シンプルゆえに力を実感しやすい。その力に飲み込まれないように気をつけたまえ」

 

 

 痛いくらい刺さる。麻薬とはなんとも的を得た例えだ。中毒症状があるというのも理解できる。おそらくこれでもかなり緩和されている方で、おそらく僕自身ひ弱だったから余計に魅力的に感じるのだろう。まずはこれに慣れるようにしないといけない。

 

 

「今君のメモリドープの一度の継続時間は、安全面を考慮して2分半といったところだろう。一定のインターバルを空けた上で1日の上限使用回数は3回。合計7分半以上だ。ちなみにドライバーを用いて変身する場合1日1分だろうね。これは慣れと適合率の上昇で改善されていく。辛抱して使い続けたまえ」

「は、は……いっ……!」

 

 

 感覚としては初めて炭酸飲料を飲んだようなもの。慣れれば大したことないが、慣れないうちはその刺激がもろ痛覚に直結する。身体にこの力を覚えさせる。力は使うものだ、使われるものではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こういった修行が続いた。しかしあくまで修行。ヒーローでない僕が闇雲に力を使うわけにもいかないので、確かな実感を持たないまま中学を卒業しようとしていた。

 

 

「ところで緑谷出久、君は進学先はもう決めたのかい?」

「はい、一応雄英高校のヒーロー科を目指そうかと。……周りには無個性がって笑われましたけど」

 

 

 仕方ない。みんなも分かっているのだ、そんなヒーローというのは甘くないって。少なくとも個性を持たずしてなれるものではないほどには。

 

 

「問題ない。君自身の能力値は一般中学生のそれよりもずっと高い。最悪メモリの力を使えば問題ない」

 

 

 仮面ライダーがそれを言ってしまうのか。確かにどんな形であれ僕の力なんだろうけど、そんな軽くオーケーを出すものでもないような。

 

 

「……ん?」

 

 

 フィリップさんと談笑しながら学校からの帰宅途中だったわけだけど、妙に向こうの方が騒がしい。2人顔を見合わせて無言で頷きそちらへ駆けた。

 

 

「どうしたんです?」

「なんでも子供がヴィランに取っ捕まえられてるらしい。おかげでヒーローも手が出せないとか」

 

 

 非情だ。この現実が非情だ。人並みにその子のことを可哀想だと思う。自分がそうだったらと思うと恐ろしくてたまらない。しかも長時間捕まってるらしく、誰も救えないこの現状に絶望を抱く。せめてその少年が無事救われるように祈ろうと、顔を見るため身を乗り出した時だった。

 

 

「ーーーっ!!」

 

 

 走っていた。フィリップさんが止める声が聞こえたけど、そんなことはどうでも良かった。行かなきゃいけないと思った。もしかしたら見覚えのない顔だったらこんなことしなかったかもしれない。ああそうだ、きっとしない。

けれど君だった。求める先のない空白に助けを欲していたのは、他でもない君だった。

 

 

【JOKER】

 

 

「メモリドープ……!」

 

 

 気づいたら黒いメモリの黒い端子を掌に押しつけていた。さっき言ってた最悪がもうやってきた。いくらなんでも回収が早い。瞬間力が巡る。段々と君に近づく距離が短くなる。

 

 

「かっちゃん!」

「デ、ク!?なんで……テメェがっ!!」

「君が……君が助けてって言ってたから!!」

 

 

 そんな目をしていたから。

 

 

「このガキィ……!」

「っ!」

 

 

 腕なのかわからないおそらくそこに該当するであろう部分のドロのようなものをを伸ばしてくる。身体を屈めて回避、そのまま頭上を通る粘液にめがけありったけの拳を振り抜く。

 

 

「ーーー!?」

 

 

 その衝撃で一瞬風穴が空く。しかし空いたところを埋めるために流動体は流れ穴を塞ぐ。どうにも打撃は有効ではないらしい。とすると困った。今僕が得ている能力は基礎身体能力を著しく向上させるもの。トリッキーな芸当ができるわけではない。ようは殴って蹴ってをするしかないのだ。

 

 繰り出した拳を腕ごとドロが包もうとする。手首あたりを掴まれて咄嗟に繋ぎ目を手刀で割いた。間一髪、完全に飲み込まれたら単純なパワーでは流されて無となってしまう。それはいけない。どうにか捕らないようにしなければいけない。

 

 頭を回す。どうする。そもそも何をする。何が優先だ。救出、囚われた幼馴染の救出。倒すことは必要ない。かっちゃんさえ助け出せればあとはプロヒーローがどうにかしてくれる。ならば考えろ。倒すことを考えるな。戦闘じゃないこれは救出だ。一瞬隙を作ればいい。隙を作ることができればかっちゃんなら反応できる。

 

 動け、動け、動け。撹乱しろ。相手は速い方じゃない。僕の方がスピードは速い。僕に伸びるドロドロは僕がいた場所の空を切ってばかり。追いつけてない。相手の周りを囲うように回れ。目を回せ。僕を見失え。その都度僕がパンチする。痛覚を認知した頃には視覚は認知できない。次の場所へ移動、懐に潜り込みすぐさまパンチ。急いで距離を取る。繰り返し。有効的じゃない。むしろ効き目はない。けれど確実に溜まる。ダメージじゃなくフラストレーションが。そして苛立て。感情的になれ。怒りに身を任せれば爆発力は増す。けれど代わりに雑になる。

 

 

「ガキがぁ……!!!」

 

 

そしてその時は今だ。

 

 

「最大爆発!!」

「っ!ぉぉぉぉおおおおらあああっ!」

 

 

 かっちゃんの両の掌から冗談ではない爆発がドロドロの体内に向かって放たれる。その爆風で少し僕も流される。ダメだまだだ。慌てて姿勢を整え再びダッシュ、幼馴染の手を探す。濃い巨大な煙の中確かに掴んだ。そして勢いよく引っ張る。煙の中からよく見覚えのある刺々しい姿が現した。ただ先っちょにドロドロが往生際悪くくっついてる。だがそれでいい。それは謂わばさっきまで付きまとってた残滓でしかない。そこ一部分に強い執着はない。だから、逃げられる。

 

 かっちゃんを外に放り投げ、自分も避難しようとした時だった。思ってた以上にしつこいドロが僕の足を掴んだ。不意打ちの爆発で完全に意識が覚醒しているわけではないから、近くにあった僕の足にたまたまそれでいて力強く纏わりつく。これが一つ目の誤差。そしてもう一つの誤差。力を振り絞って逃げようとした、今ならメモリの力をフルに出せば振り切れる。しかしそうはいかなかった。

 

 

「制限時間……!」

 

 

 メモリドープの一度の継続時間を超えた。僕はただの無個性の中学生になった。まずい。終わった。否応無しに自分の終了を悟った時だった。

 

 

「情けない……!」

 

 

 強い声がした。

 

 

「か弱き少年が身を投じて助けようとしたのに、それを黙って見過ごして何がヒーローか!」

 

 

 いたのは平和の象徴、僕の最初の憧れ。

 

 

「……ヒーローはいつだって命がけ!!」

 

 

 平和の象徴の拳は僕なんかの拳とはまるで違って、その一撃で全てを吹き飛ばした。僕はその衝撃なのか、安堵なのか、静かに意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚めたのは割とすぐだった。周りに大人たちがたくさんいて、未だに現場は荒れている。救急車とか消防車とか忙しそうに働いている。僕はヒーローたちに怒られた。それもそうだ。本来僕がするべきことではなかったのだから。外野が出しゃばるとむしろ大変なことになる。今回はたまたま運が良かった、よく分かってる。フィリップさんも心配そうに見ていた。そのくせ止めずに僕のしていたことを見ていたのだから、怒られる筋合いはない。実際怒らなかった。

 

 

「色々と言いたいことはあるが……よくやった」

 

 

 その一言がたまらなく嬉しかった。

 

 

 

 

 

 僕が初めてなにかを成し得た日。そしてこの日は僕に新しい出会いを運んできた。平和の象徴の真実、を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何気に初登場かっちゃん。もはやヒロイン。仕方ないネ。次でオールマイトと接触。出久のヒーローへの道が変わり始める。
「Jの始まり」はようやく終わり(多分)。次こそ更新は先になるかと思うので気長におまちを。
意見感想誤字報告などお待ちしております


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Jの始まり/アイ アム 仮面ライダー

最近Pixivとかで轟百や上耳のイラストばっかり見てる作者です。少し暇があったので書いて出しました。いやぁ…ああいう恋愛要素は自分大っ好きなんで、是非とも書いてみたいですけど、特にその予定はない…!

気づいたらビルド終わっちゃいましたね…賛否両論あった作品だと思いますが、自分は何だかんだ好きでしたね。エモい。
そして日曜からジオウ!半田さんと村上さんが出られるということで、期待半分不安半分で放送待ちたいと思います…

そんなわけで「Jの始まり」最後です。自分でも駄文だなあと思いますが書き直すほどの気力ないんで出しちゃいます。ご了承ください。

龍騎のCSM買った俺にはクウガのCSM買う余裕ねぇんだよおおおおおお!!!


 

 

 

 

 あの現場から解放された僕とフィリップさんは帰路についていた。声がしたのはそんな時だった。

 

 

「ちょっと待ちたまえそこの少年!」

「ん?」

 

 

 おそらく僕のことを呼び止めた野太いたくましい声。自分じゃなかったら恥ずかしいなぁと思いながら振り返ると、そこには強く憧れたNo. 1ヒーローが。

 

 

「オ、オオオオオールマイト!!?」

「落ち着きたまえ、緑谷出久」

「そう!私こそがオー……グホッ!」

「……え?」

 

 

 煙が突然立ち上がった。それはオールマイトから出ていたもの。その煙が突如威力を増し彼を包み隠してしまうほどになった。その煙が晴れて中のオールマイトが再び顔を見せた……はずだった。

 

 

「……誰?」

「現実逃避はよくないな。あの煙はなにもないところから突然現れたとは考えづらい。となるとさっきからオールマイトの身体から出ていたものと考えるのが妥当だ。つまりあの煙の発生源はオールマイト。それに隠れてしまい、そしてそこから出てきた。ならば同一人物の可能性が一番高い。彼の服装などからも察するに、彼はあれでもオールマイトだ」

「人が現実逃避している時にわざわざ現実を正面からぶつける必要はないでしょう!?」

 

 

 無慈悲で遠慮のないフィリップさんの言葉が僕を襲う。目の前の現実とやらに僕は愕然とするとか希望が打ち砕かれるとか、そういう感情が芽生えるレベル以前の話で、なにが起きているかよくわからなかった。思考停止、それに尽きる。

 

 

「あれでもって……酷い言い草だなフィリップくん……。それにしても久しぶりだね」

「えぇ、確かに貴方と会うのは久しぶりだ。加えて、その姿となるともっと」

「……2人は知り合いなんですか?」

 

 

 少なくとも見知らぬ仲ではなかったらしい。この姿を見て動揺しない様子からも察するに。

 

 

「ガイアメモリ関連の事件が始まってすぐくらいの時からね。対処に困ってたところ颯爽と現れたフィリップくんに助けられたわけだよ」

 

 

 言われてみればその通りだ。ドーパント専門のヒーロー、仮面ライダーの存在をナンバーワンヒーローが知っててもおかしくない。むしろそれが当然だとも思う。

 

 

「フィリップくん、君のことを知っているということは、彼が君の言っていた例の?」

「えぇ、例の次の仮面ライダーです」

 

 

 力強く口にした。次のなどと言われると変に緊張する。というか僕のことも知っているのか。

 

 

「そうか君が……これは運がいい!フィリップくんが認めた少年と私の選んだ少年が一致するとは!」

「オールマイト、もしや緑谷出久を後継者にするつもりかい?」

 

 

 その通り!と親指を上げてパワフルな笑顔で応える。ちょっと待ってくれ、なんの話をしているのかまるでわからない。おおよそ僕が大きく関係しているだろうことなのに、当の本人は置いてけぼりを食らっている。

 

 

「……おぉっと、なんのことだかわからないという顔をしているね緑谷少年!それも無理もないけどね!」

 

 

 そして今の笑いが嘘のように真剣な面持ちでNo. 1ヒーローの裏事情を口にした。平和の象徴でいられるリミット、最大最悪のエネミーの存在、そして彼の中で託され受け継がれてきたワン・フォー・オールの灯火。その新たな譲渡先を探しているのだという。

 

 

「……それが、僕?」

「その通り!ヴィランに向かって立ち向かった姿!それを人は無謀だと笑うかもしれない。けれど私は違う!あの時の君に私は確かにヒーローとして立つその背中を見た!」

 

 

 そして僕に手を差し伸べる。力強くゴツゴツしていてそれでいて傷の多いそんな手。そんな手が僕を求めていた。僕を選んだ。

 

 

「……なれますか」

 

 

 それは僕がずっと誰かに、いや誰よりも平和の象徴に問いたかった至って簡単なクエスチョン。

 

 

「無個性でも、ヒーローになれますか?」

「……難しいだろうね」

 

 

 ピシャリ、ストレートな返答がぶつかった。

 

 

「無個性でもヒーローになれる、そう簡単に言えるほど現実は優しくも対等でもない。……しかし」

 

 

 そして再び僕の眼前に逞しくも痩せ細ったその手を示した。これが憧れた手。僕がよく目にしたものとは違うけど、確かに同じ人の手だと感じる。

 

 

「緑谷少年、君がこの手を取ればヒーローになりうる力を得るだろう。無個性でもなれるか、その問いには厳しい答えを告げなければならないが、今君は個性を持つことができる。その選択肢を君は今手にした。ならば、ならばあとは握りしめるだけだ!確かに私が今まで来た道は血みどろで、受け継いだ君の身にもきっと想像以上の困難が降りかかるだろう。それでも……それでも君がヒーローになりたいと渇望するならば選びたまえ!……私は君に私の手を取ってほしいのだよ、緑谷少年」

 

 

 気づくと目から止めようのないほどにたくさん水が溢れ落ちていた。嗚咽が小さく響く。情けない僕の声、ずっと嫌いだった僕の弱虫な姿。今、それを変えられる。

 

 

「……なりたい!なりたいです!ヒーローに!オールマイト!あなたみたいな素敵なヒーローに!僕はなりたい!」

力強く吠えた。子供じみた単純なセリフを発した。

「こういう時はなりたいじゃなくて、なると言うべきだ。緑谷出久」

「……はい!」

 

 

 そういうフィリップさんの目は優しくて、僕の答えに祝福をしてくれているようだった。そうだ、オールマイトだけじゃない。フィリップさんのような、仮面ライダーになるんだ。僕の目指す理想2つと僕を導こうとする2つが偶然重なって、けれどその重さと遠さにに思わず目が眩む。けれどそれが僕が選んだ道。

 

 

「さて、緑谷出久。君の新しいスタートを祝うと言ってはなんだが、丁度いい門出があるよ」

 

 

 丁度いい門出という不思議な日本語を使う。

 

 

「君のデビュー戦だ、仮面ライダーとしてのね」

 

 

 ドーパントが出た、そう付け加えた。

 

 

 

 人が叫びながら恐怖から逃げるように駆けていく。その中を逆流するように目的地に向かう。そして人混みの中を掻き分けて現れたのは、異形型の個性とは比べ物にならないほど不気味な見た目をした怪物。複数の足のような細いのが背中から生えている。ギョロっとした目でこちらを見ている。

 

 

「あの姿には見覚えがある。メモリはアノマロカリスだ」

 

 

 アノマロカリス。古代の生物として特に有名なものの一種。アノマロカリスは当時の生態系においてそのピラミッドの頂点に立っていたとされる。子孫を残さなかったためアノマロカリスの代だけでアノマロカリス属というのは途絶えてしまうが、のちに節足動物との関連性が発見される。エビなどのそれらと姿が似てることからもなんとなくわかる。

 

「……ヒーローはまだ来ていないのか。ならば好都合だ、無闇矢鱈に正体がバレなくていい」

 

 言いながらフィリップさんは僕にロストドライバーを渡した。

 

 仮面ライダーになるためのアイテム。仮面ライダーであるというなによりも象徴であるベルト。腰に当て射出されたベルトがフィットするように身体を巻く。

 

 重い。質量の話ではない。そこに込められた意思や覚悟というのがとても重い。

 

 

「今一度聞こう、緑谷出久。君は仮面ライダーになる覚悟はあるかい?」

「……はい。僕も誰かを助けられるための力になれるのなら!」

「ならば示したまえ。ジョーカーメモリが持つのは切札の記憶。君が切札になるんだ」

「はい!」

 

 

 誤った力はただの暴力に成り果てる。同じ力を持っても、ドーパントになる人もいれば、フィリップさんのように仮面ライダーになる人もいる。それはあらゆることが重なって起こった不幸なことなのかもしれない。だからこそ、正しい道を示すんだ。僕が、この力で。

 

 

「なんだお前……?」

 

 

 怪物が僕を指差し疑問を投げかける。返す、一言だけ。

 

 

「……仮面、ライダーだ」

 

 

【JOKER】

 

 

 右に持ったメモリを鳴らしスロットに差し込む。左手を腰から胸の前に伸ばし、眼前の敵に眼光を鋭くさせ射抜くように睨みつける。開いた手を強く握りしめる。それは僕が力を手にしたのだという自分へ言い聞かせるため。そしてこの手からなにも零さないようなヒーローになるという自分自身との誓い。その覚悟を胸に強いワンフレーズを口にした。

 

 

「……変身!」

 

 

【JOKER】

 

 

 右手でスロットを倒し黒紫の光が瞬く。欠片とでも言うような光の粒子が僕を流れるように纏い、僕の身体と同化した。無機質な装甲、頭から足まで覆うまさに仮面の戦士。

 

 

「変わった……!」

 

 

 変身後の自分の姿を見て安堵する。ぶっつけ本番の戦士への変化。失敗したとあれば日の目なんて見られない。

 

 

「か、仮面ライダーだと!?」

 

 

 アノマロカリスドーパントがいかにも驚いてますというリアクションをする。フィリップさんが変身した姿とは違うけど、全身覆った覆面の戦士。そして何より僕が言った。自分は仮面ライダーであると。

 

 

「クソッ、最悪だ!」

「っ!」

 

 

 苛立ちを隠さずにこちらへ駆けてくる異形。さすがにそのスピードは人のそれじゃない。鋭い鉤爪のようなものを振り回す。生身の身体ではそれだけで絶命しかねない。けれど今の僕なら対処できる。仮面ライダーとなったからだろうか、よく見えるしよく動く。半身を逸らし敵の振るった片腕は空振りに終わる。つまり必然と隙が生まれる。

 

 

「そこっ……!!」

 

 

 それを見送るほど余裕はない。ありったけの不恰好な拳を倒れるようにして叩き込む。ドーパントは呻き声と共に後ろに軽くよろける。

 

 

「効い、てる!」

 

 

 今までの特訓は無駄ではなかった。結果的に独流と化した戦闘スタイルが通用している。それに加えて相手は喧嘩になれているというわけでもないらしい。チンピラやゴロツキといった類ではあるのかもしれないけど、所詮そこまでということだろう。高校生ですらない僕が偉そうなこと言えないけれど。

 

 そこから少し攻撃の応酬となった。ドーパントが爪で切る。その腕を受け止める、手で払う、飛びのいて躱す。こちらから拳を繰り出す。相手もそれを受け止める。そこは僕が幼いからだろう、有効打は多くなかった。フィリップさんは仮面ライダーといえばキックだと言っていたけど、平和の象徴の背中を夢に見ていた僕はやっぱりパンチ中心の闘い方になる。

 

 完全に僕の優勢、ではなかった。初戦という緊張、怪物と戦うという恐怖、自分の力への不安。今更ながら生死を賭けているのだと気づくと、僕の身体はぎこちなくなっていた。幾度と攻撃を食らった。痛みが奔る。殴るときも似た痛みがあった。攻撃してもされても痛い。ああまるで得しない。けどそうしないといけない。戦うということがこんなにも息詰まるものだと思わなかった。

 

 

「なんで!仮面ライダーなんてよ!クソが!」

 

 

 己の遭遇を悲観する怒号。お互いにただの殴り合い、技術とかそういうのを埒外に置いたガキの喧嘩。だからこそ相手の言いたいことがよく伝わる。ただし同情はできない。僕とこの人は違うから。それにそろそろ時間だ。正せなくなる、この姿と力で。

 

 

【JOKER MAXIMUM DRIVE】

 

 

 右腰のマキシマムスロットにジョーカーメモリを挿し込む。黒い炎のような無固形物が右の拳に纏う。いわゆるエネルギーに覆われるということなのだろう。平たく言えば必殺技。ドーパントからその身を怪物へと成ったその原因そのものを除去するための、僕の精一杯の一発。

 

 

「ライダー、パンチッ……!!」

 

 

 中央を穿つように拳を入れ込む。自分でもわかるほどに常軌を逸した力。その衝撃にドーパントの身体は後方へと吹き飛んでいく。おおよそ僕が生み出せる力の範疇を超えたもので、僕の身体が耐えうる最大限界値。

 

 

「クッソ……」

 

 

 体内から摘出されたメモリは抜け殻のように、使用者と共に大地に伏して砕けた。パリンと無機質な音が終わりを告げた。そしてそれは僕の現状を保つことができなくなったことも伝えていた。自分でメモリを取り除くことなく、鎧は剥がれるように変身が解ける。思わず膝が崩れ落ちる。終わった。何よりも先に溢れ出たのはそんな感想だった。

 

 

「よくやった緑谷出久」

「緑谷少年、お疲れ様!」

 

 

 項垂れる僕の身体を2人が労う。その軽い励ましがむしろ頼もしさすら感じる。ドーパントを倒した。僅かな時間僕はヒーローになった。

 

 

「僕、やれました?仮面ライダー……」

 

 

 疲れきった僕の問いに微笑みで返す。ああ良かった。満足はしてないけど達成感だけはある。むしろあっという間に終わったような気さえする。今思うとただの子供がこんな風に戦闘していいものか。色々法に触れそうなものだけど……まあその話はまたでいい。今するにはちょっと冷めるというもの。2人に抱えられるように起き上がった。そうされるにはやっぱり僕はまだひ弱なんだなぁと空っぽな気分になる。ここから変われるんだろうか。眩しい空を見ながらそんなことを思ってみた。

 

 

「さぁ緑谷出久、君は今仮面ライダーになった。拙いながらにね。まだまだ思うこともあるだろうけど、最後に聞こう。君はこの僕の、悪魔の手を取るかい?」

 

 

 細く綺麗でけれど強いそんな手。戦うというのは怖かった。最中は必死でそんなこと考えてなかったけど、今思い返すと心臓が喧しくなる。けれどそれを嫌だと一蹴することはできなかった。なにが悪魔なのか知らないけど、もう僕はその手を離すつもりはなかった。ヒーローになるという、その想いを離さないために。

 

 

「……さて、そろそろ警察やヒーローたちがもうじき来るだろう。今のうちに退散するとしよう」

「あ、やっぱり僕が仮面ライダーってことはバレるとマズいんですか?」

「法的にというよりは、少年に戦わせることがモラル的に問題だろうね」

「……それってヒーローが黙認していいことなんですか?それもナンバーワンが?」

「う、うーむ……」

「オールマイトが黙っていればいいことさ、なにも問題はない」

「それってなにかあったとき私に責任を押しつけるってことかいフィリップくん!?」

「さぁ?どうだろうね」

「……悪いなぁ」




ってなわけで仮面ライダージョーカー誕生です
小説本文で変身ポーズの解説はダサいと思ったので、こっちで
簡単に言ってしまえば翔太郎の逆、ですね。翔太郎はジョーカー変身時握った拳を指数本開いて変身しますが、出久は指数本開いて(手の平を前に)から拳を握りしめて変身の掛け声。また翔太郎とはポーズする腕が逆という点もありますね。まあ各々イメージしてくれていいんですが、一応自分のイメージを置いておきます。

次回はおそらく入試かな…?清掃かつ特訓のくだりはおそらくダイジェスト風にまとめて終わるかと。
次の投稿はいつになるか分かりませんが気軽にお待ちください。忘れた頃にお会いしましょう。感想等お待ちしてます。


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Yたちの閑話/爆豪勝己の回想

タイトル通り、物語がある程度進んで時間が経った時点から思い返す形としての閑話です。
ヒロアカ4期ですね…オーバーホールたちとのエピソードは熱い、好きですね。
仮面ライダーコラボって事で久しぶりにバトルスピリッツをやったんですけど、昔やってたものって今やってみると面白かったりしますよね。
ってなわけで本編です。




 

 

 

 

 

 気に入らないことがあった。

 

 基本的に俺はなんでも上手いことやれた。恵まれた「個性」に恵まれた才能、選ばれた人間なんてそんなことを思った。実際俺こそがナンバーワンヒーローになるんだと信じて疑わなかった。確固たる自信だった。

 

 オールマイト。誰もが知るナンバーワンヒーロー。常に笑顔で誰かを助けヴィランを倒す。

 

 

「私が来た」

 

 

 その短いワンフレーズだけでこうも人を安心させられるのか。絶対的な信頼感。その存在を見ただけでみんなも笑顔になる。きっとそれは強さだけじゃない、その在り方そのものがヒーローなんだ。……今なら思う。

 

 他にも憧れたヒーローがいた。

 

「仮面ライダー」

 

 いつしかそう呼ばれたヒーロー。いつからか現れた異形系と世間一般にはなっているが、その実は全く違う未知の怪物。厄介なのは個性では倒しきれないということ。ダメージは与えられる。けれどどうにも決められない。それはまるで不死身、ゾンビのようだった。あのオールマイトでさえも手を焼いていた。一時的に戦闘不能にすることはできる。しかしその正体を暴くほどの決定打にはならなかった。

 

 そんな中現れた翠の鎧と仮面を纏った戦士がバイクに乗って颯爽と現れた。誰も知らないその姿。その謎の戦士はその怪物をものともせず倒した。倒したそのあと怪物が人間になったのはその場にいた人々を驚かせた。その後ガイアメモリというのを利用して生まれたドーパントという怪物だということが、その謎の戦士を通して警察やヒーローなどの一部の関係者のみに伝えられた。世間一般的にはあくまで異形系個性による犯行だと伝えられた。……実際不自然なところが多々ありいずれその虚偽も通じなくなっていくのではあるが。

 

 君は誰だ? 誰かが謎の戦士に尋ねた。

 

 

「僕かい? そうだね……仮面ライダー、そう呼んでくれたまえ」

 

 

 そして数日後には協会側から「仮面ライダー」として正式なヒーローとして認定されることになる。しかしその仮面の内側は世間の誰にも分からない。謎の戦士。その人気は瞬く間に上がっていった。

 

 常に笑顔でどんな事件も解決するオールマイト、そんな彼でさえ解決出来ない事件を唯一解決する謎の戦士仮面ライダー。世の子供たちの二大トップだった。そういう俺も大好きだった。憧れていた。強く、強く、ああなりたいと焦がれた。

 

 そんな俺と同じように強くその二人を好いていた奴がいた。緑谷出久、無個性の俺の幼馴染。小さい頃から一緒にいる一人じゃなにも出来ない弱っちいやつ。俺について回る家来のようなやつ。俺に負けず劣らずヒーローに憧れた馬鹿なやつ。

 

 俺はそいつを特になにも思わなかった。自分とは次元が違うところにいる格下の存在だと思ってた。けれどいつからだろうか。あいつの目がただ縋っていたような目からそこに強い闘争心のようなものが混じったものになった。身体つきも変わった。すぐに壊れてしまうようなひ弱なちびっころだったはずなのに、体格が良くなっていき偶に見える肌はゴツゴツと筋肉がついていた。

 

 いつものように胸ぐらを掴んで文句を言おうとすれば、引っ張れるはずのあいつの身体がビクともしない。怯えたような顔は変わらないのに妙に堂々としていた。

気味が悪かった。俺の知らない幼馴染がいた。一方的な俺とあいつの優劣の関係性はあやふやになっていた。あいつのなにが変わったのか。分からないままなのが気味が悪かった。

 

 気に入らなかったのは、あいつが俺と同じ雄英を受験することだ。しかもヒーロー科。それを担任のセンコウから聞いたとき、どうしようもないほどの激情が溢れた。グツグツとマグマが湧き出るような激情だった。

 

 

「なんでテメェが受けようとしてんだクソナード!!無個性のくせによおっ!!」

「……それでも、なりたいんだよ」

 

 

 そう言って俺を見る目はやっぱり俺の知る目じゃなかった。怯え狼狽えるだけの弱虫じゃない。確かにこいつはヒーローになると、それを願った強い感情でこちらを見つめていた。穿つような視線だった。圧倒されそうだった。んでもってやっぱり気に入らなかった。

 

 そのあとクソヴィランに捕まったところをデクに助けられてしまった。よりによってあいつに。悔しいとかそんなじゃなかった。もちろんそんな感じの感情はあった。けどそれよりも大きな衝撃があった。

 

 あの動きはなんだ?

 

 いくら身体鍛えてるって言ってもたかが無個性のガキがあんな動きをいきなりできるものか?スピード系の個性じゃないにしてもヒーローと比べたら遅い。けれど、個性を使わず生み出せる速度じゃない。発現したっていうのか? あの年で? ありえない。けれど無個性って方がありえないとすら思ってしまう。聞きはしなかった。あいつになんで聞かなきゃならねぇんだ俺が。

 

 

 

 

 それ以外のことは特に変わらなかった。しいて言えばあの仮面ライダーが黒や紫に変わったという噂があったことくらいだ。緑の仮面ライダーが変わらず現れていたこともあり、いまいち信憑性は薄かったが。

 

 そうして時は流れ、雄英高校ヒーロー科の受験の時がやってきた。

 

 

 




リアルでも創作の勉強だったりしてるんですが、そっちの方が今現在忙しいので投稿感覚空きます。ご了承ください。
気楽に感想等いただけると嬉しいです。


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Eが始まる/ここが舞台、これから僕が立つそんな舞台

 短いですが生存報告代わりに。
 気づいたらお気に入り登録200人を超え、評価バーにも色がついて、本当にありがたいです。正直この作品のクオリティにはまだ納得できていないところが多く、今後面白くしていければと思います。気長にに気ままにお付き合いください。
 オリジナルエピソードなどを入れようと思って、現在授業中の暇な時間などにあまり慣れないプロット作りに励んでおります。依然こちらにあまり時間は裂けませんがご了承ください。
 あと今回から書き方を変えました。iPhoneで全角スペースをする方法もわかり、横書きに合うようにと空白多めにしてみました。過去の話も変更したので暇でしたら確認してみてください。
 では本編です。


 幾日か過ぎて、雄英高校ヒーロー科入学試験、その日がやってきた。それまでの特訓といえば不法投棄によっておおよそ人が訪れる場所として不相応になった砂浜を綺麗にしろというオールマイトからの指令。これはまぁ問題なく終わった。元々鍛えていたのもあるから。

 

 フィリップさんには時々ドーパント事件の際に連れられて観戦させられた。時たまに僕が戦うこともあったけど、やはり色んなリスクもあって極力避けた方がいいとのことで基本第三者に徹底していた。そのかわりと言ってはあれだけど、フィリップさんや時たまにオールマイトとも組手をしたりして相手をしてもらった。おかげで対人戦闘にはだいぶ慣れてきたと思う。2人の全力を引き出すには値しなかったけど。

 

 ワン・フォー・オールのコントロールは少しずつできるようになってきた。オールマイトのように常に全力でやろうとしたらフィリップさんから「今の君では耐えられない」と。それもそうだ。何人も受け継いできて培われた力をただの中学生が全てを扱いきれるとは思えない。身体が壊れるかもしれないと。なので半分の力を引き出すことを意識して特訓した。フィリップさん曰くオールマイトの言うような歯をくいしばって力を思いっきり出す、というのは蛇口を思いっきり捻って最大威力で水を出すことだと。それでは水道管が細く脆い僕の身体では簡単に弾けてしまう。

 

 

「全力を出すこと自体はそんなに難しいことじゃないだろう。出すと思ったら出せるからね。けれど君がすべきなのは「出さずに出す」ことだ。全てではない。出すことと出さないことを両方意識しなければならない。いきなりこのことをするのは難しい。本来は100%出してから調節した方がいいんだけどね。そういうわけにもいかない」

 

 

 一回一回全力出して腕を大怪我して時間かけて直して……を繰り返したらどうしたって時間が足りない。効率的じゃない。ならば苦労するけどゼロから徐々に上げて行った方が安全だ。雄英高校受験までの間ひたすら爆発させないこと、レンジで温めた卵を爆発する寸前でキープすることを目標に訓練をした。

 

 最終結果として部分的にだけどおよそワン・フォー・オール出力10%〜15%ほど出せるようになった。体感50%を上回った段階で身体の筋繊維が切れるような結果となった(切れたのは小さな筋繊維なため肉離れまではいかなかった)。これ以上が自壊ライン。身体を鍛えなければならない。一回の出力の継続時間はおよそ10分。ただしこれはなにもしないで棒立ちするときに限る。実際動きながら発動するとなるとこの半分以下になる。加えて状況によって腕や脚、指先とワン・フォー・オールを纏う場所は異なるので、一概にこの時間だけ維持できるとは言えないのだけれど。極端な話纏う部分が大きければ大きいほど必要なエネルギーは増えるし持続できる時間も短くなる。実際戦闘中使うとなるとこまめに出力先を変えながら立ち回ることになる。接近するとき脚に纏い速度を出し、相手に攻撃する瞬間に腕に出力、場合によってはそこからまた脚に変更する。相手のカウンターが来たら胴体にワン・フォー・オールを発動してガードする。こういったエネルギーの流れを滑らかに行える出力の最大がさっき言った10%〜15%ほどということだ。これ以上出力を上げると少々ぎこちなくなる。約20%以上は反射で移動させられるレベルにはまだ至らない。

 

 こうなってくると感じるのは常に全体をワン・フィー・オールで纏えないかということ。まさに仮面ライダーの鎧のように。常に全体を一定の割合で出力して部分部分をプラス付加する。そうすれば隙なくカバーできる。しかし今のところ全体を覆うと一歩も動けなくなる。立って維持するだけで手一杯だ。

 

 つまり今できるのは全体0%から部分数%への変化は出来るようになった。全体数%からそれ以上の割合で部分的に強化することはまだ可能ではない。おそらく本格的な実戦を想定するならば後者を使いこなせるレベルにならなければならない。ヒーローへの道は長い。

 

 

 

 

 

 

 

「大きいなぁ……」

 

 

 ついに目の前に聳え立つ大きな校舎が現れた。敷地内に足を踏み入れると途端に世界が変わったようなそんな気分になる。空気が重い、加えて熱い。周りを見渡せば自分と同じように受験にやってきただろう学生たちが様々な感情を顔に表していた。緊張、やる気、不安、自信。静かに佇む人もいれば友達と談笑する人もいる。色んな人がいるがここにいる意味はみんな同じ。ヒーローになる。それを胸に描いている。

 

 

「……おい」

「っ!?……かっちゃん」

 

 

 振り向いた先にはこちらを射殺すかのように睨む幼馴染の姿。僕の姿をじっくり品定めにように見てボソッと呟いた。

 

 

「……本当に受けるんだな」

「……うん。ヒーローになりたいんだ」

「けっ……そうかよ」

 

 

 いつものように強く突っかかってくるわけではなく、静かに僕を見ていた。そこに映ってたのは一言では表せないような複雑にたくさんの色が入り混じったような激情。

 

 

「てめぇに聞きたいことはたくさんある。だけどよ、今は聞かねぇ。てめぇから、てめぇが自分から言うってならないと俺の気が済まねぇ」

 

 

 つまりいつか僕から言えということらしい。かっちゃんらしいと思いつつ無論そのつもりだということを伝える。必ずいつか言うからと。

 

 

「デク、お前が受かるか受からないかそんなことどうでもいい。ただ一つ言っておく、オールマイトを超えるのは俺だ」

 

 

 宣誓。オールマイトのようになりたい僕に対して、彼はその現ナンバーワンを超えるという。つまりそれは僕に向けての宣誓。お前には負けない。どこか僕に対する目の向け方が変わったような気がした。自惚れかもしれないけど、僕に向けた侮蔑の感情というのが薄らいでるようなそんな気がする。疑心暗鬼や戸惑いそして対抗心、初めてこの幼馴染が僕を見てくれたような気がした。そんな勘違いかもしれない思いをした。

 

 

「……うん、僕もなるよ。なるんだって決めたんだよ、ヒーローに!」

 

 

 だから僕も答える。応える。一番身近な僕のヒーローに。

 

 

「……試験、頑張ろうね」

「てめぇに言われるまでもねぇ」

 

 

 差し出した僕の手をパンっと結構強く叩いた。

 

 絶対に受かってヒーロー科でまた君に会う。会ってみせる。そう密かに誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よくよく考えてみると同じ学校から来てるので受験番号が隣になってもおかしくないわけで、再会を誓った数分後にはお隣の席という距離感で再会したのも別におかしくない。そう、おかしくはないんだ。……なんか勝手に失敗した気分だった。




 これを投稿した後、活動報告の方で作中に出すメモリの案を募集します。よろしければそちらの方でアイデアをくださるとありがたいです。W原作と違って怪人戦がメインじゃないので、あまり多くは出せないかもしれないですがご理解ください。
 次回は入試本番、さらっと書く予定です。引き続き感想誤字報告などいただけるとありがたいです。
 では、しばらくお待ちください。


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Eが始まる/殴って蹴っての実技試験


お久しぶりです
久々に筆が乗ったので書きました
やっぱり戦闘描写をどうにかしないとな…



 神さまは超えられない試練は与えないという。それが正解なのかとか本当なのかどうかとか、そういうのはさして重要ではないのだろうけど、こういう実際に危機に直面した時はそれを考えてしまう。そもそも超えるというのはどういった範囲で言ってるんだろう。完全に克服したら超えたと言うのか。それともギリギリでもなんとかやり抜けたら超えるの判定が下されるのだろうか。なら、今はどうだろう。

 

 

「……っ!」

 

 

 目の前に聳え立つスケールを間違えた巨大な鉄塊の刺客に、僕は立ち向かうべきなのかはたまた逃げるべきなのか、神さまへの質問として頭に浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレゼント・マイクのアナウンスによれば、数種類のポイントが割り振られたロボットを倒し、その通算ポイントで評価をつけるというもの。1〜3ポイント、あと0ポイントのお邪魔虫を加えて4種類。個性の利用は勿論オーケー、ただし悪意ある妨害行為等は禁止。ヒーロー目指すものとしては当然だと思うけど、念のためということもあるだろう。

 

 ここまで聞いて疑問が一つ。本当にこれだけか、ということ。記述テストの解答欄に対して半分以上空白が残って解答し終えた時の不安のようなもの、それに似たようなものを感じる。

 

 

「ヒーローというのは、戦うことよりも守ることを大事にする人のことさ」

 

 

 フィリップさんがそんなことを言っていた。確かに、それは間違っていない。だとしたらこの試験はなにを守るためのものなのだろう。自分の威厳だろうか。いやそんなわけがない。むしろ誰かを助けることに必要以上のプライドは重荷になる。障害をただただ突破する。それだけでいいのか。いや、それだけではないような気がする。それだけであっていいはずがないんだ。天下の雄英高校、そのヒーロー科の入学試験。それがただの八つ当たりでもできてしまうような内容であっていいはずがないんだ。だとすれば他にもなにかある。ヒーローとして相応しいかどうかを見分けるためのなにかがある。

 

 そんなことを考えていたらいつもの癖で声に出てしまったらしく、眼鏡をかけた真面目そうな男の人に注意されてしまった。妨害する意図はもちろんないんだけど、確かに集中力を削いでしまうかもしれない。早く治さなくては。

 

 そしてここから先は各自いくつかある会場に別れ試験を開始するようだ。隣のかっちゃんとも会場は違うようで、予め協力関係を結ぶことを阻止しているのかもしれない。あくまで個人の力を見るもの……いや、それだけではないかもしれない、けど。

 

 周りの参加者たちの緊迫した緊張感が伝わってくる。引っ張りすぎてもう少しで破れる新聞紙のような張り詰めた空気。各々がストレッチしたり深呼吸したりしてすぐにやってくるであろうその時に備えていた。僕もポケットに忍び込ませたジョーカーメモリを握りしめていた。なによりも信頼できるお守りとして。

 

 

「入試ではメモリの力は使わないつもりです」

「……そうか」

 

 

 事前にフィリップさんにそう告げていた。それはどうしてだいと聞かれた。

 

 

「僕の勝手なこだわりです。このメモリは、自分の力を誇示するために使うものじゃない……同じだ。自己満足のアピールのために使ってしまっては僕が今まで戦ってきたドーパントたちと同じになってしまう。それでは駄目なんです。仮面ライダーとして、駄目なんです」

 

 

 僕は誰かを助けるためにメモリを使う。ドーパントと戦うために仮面ライダーになる。その一線は守らないといけない。僕がヒーローであるためにそんなルールを課した。具体的な理由があるわけじゃない。そうしなければならないと他でもない僕がそう思ったのだ。

 

 

「君がそう思うならそうするといい。きっとそれは間違いじゃない」

 

 

 それに明るみになるのは避けたいしね、冗談半分に笑いながらそう付け加えた。OFAも言ってしまえば人から譲り受けたもので正確には僕のものではないけど、受け継いだのならそれはもう僕の力でもあるんじゃないかとそう思うことにする。ただメモリは違う。自分勝手な僕の線引きだ。

 

 そしてその時はやってきた。

 

 

「はいスタート」

 

 

 試験開始のファンファーレとは思えないくらい気の抜けた一声で。

 

 

「……え」

 

 

 思わず耳を疑った。耳に入った音声が上手いこと言語化されなかった。一瞬の間を持ってようやく意味を理解する。

 

 

「ほら急げ急げ!実戦で戦闘開始のコールがあるとでも思ってんのか!?」

 

 

 そんなプレゼント・マイクの声をバックに戦場へと走り出す。マズい、これはマズい…! アナウンスの言う通り、悠長に現実は待ってくれはしない。それはここにいる誰よりも僕が分かっているはずなのに! 情けない情けない、しかしやるしかない!

 

 僕の後から徐々に受験者たちが走ってくる。言うなればこの試験は争奪戦。きっとヴィランを装ったロボットには数に限りがある。いやきっとではない間違いなく。ならばそれをいかに早く誰よりも多く撃退するか。スピードだ。他の追随を許さないそんなスピードが必要なのだ。

 

 駆けているとついに例の刺客が現れた。

 

 

「ヒョウテキ…ハッケン…ブッコロス…」

 

 

 口調までヴィランに寄せる徹底ぶり、これは遠慮なくに戦えそうだ。ご丁寧に「1」と書かれている。これは惑うことなく1Pロボットだ。誰が見ても1Pロボットだ。

 

 脚部にOFAを纏い急接近、瞬時に右腕に10%ほどで移動させて思いっきり拳を叩き込んだ。すると簡単に貫通し穴が空いた。

 

 

「え」

 

 

 間抜けな声が出た。思ったより簡単に破壊できてしまったことにおかしな動揺が走る。勢いあまって肘まで機械の中に入り込んでいる。抜いてみるとちぎれた断線から火花がチリチリ光っている。綺麗な円の形だなぁとぼうっと思った。

 

 

「……も、脆いぞ!こいつ脆いぞ!」

 

 

 豆腐だ。握り潰したのは林檎じゃなくて豆腐だ。握り潰したんじゃなくて殴り壊したのだけど。あっけない。ただの鉄くずいやそれ以下だ。それは試験の内容がロボットを破壊することではなく無効化することでポイントを得られる仕組みだからだろう。耐久力はさして必要ない、破壊力を求めてないのだから。ただただ殴り蹴りが得意な個性だけが輝くような試験の内容じゃ本当にヒーローであるべき人間を見るのは難しい。もはや目立つのはデストロイヤーだ。

 

 脚部OFA10%、ダッシュを切った。走りながらこちらに向かってくる1Pロボットを蹴散らす。普通にパンチするだけで動きは止まった。つまり身体をある程度鍛えていれば個性はなくとも撃退できるということ。ちょっと痛いけど。ならば常に足にOFA使いつつ突進さながらに腕を振るっていった方が効率がいい。討ち漏らした時はその時、止まっている方がタイムロスになる。

 

 奥から現れる2Pと3Pを確認した。再びOFA纏った足でダッシュ。正面からの不意打ち、先程と同じく10%の拳を叩き込む。先程ほどすんなりではなかったが貫通はした。背後の3Pに裏拳、ぶち抜けはしなかったが打撃場所は大きく凹んだ。文字通り鉄くずに成り果てた。

 

 

「いける……!」

 

 

 自分の力が思った以上に通用していることに歓喜しながら拳や蹴りを叩き込む。主に3Pを中心に。3Pでも特に苦労なく倒せることは分かった。ならば多い点数を狙っていくのが定石、そういうものだ。3Pロボットが多くいるであろう奥地へと疾走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰よりも早くスタートラインから走り出したのは、緑の縮れ毛の独り言の多い少年、さっき僕が注意した彼だった。幼い、頼りない、そんな印象だった。しかし今見てみればどうだ。僕らが突然の試験開始の合図に硬直していた最中彼は誰よりも戦場へと早く向かっていった。確かに一瞬は止まっていたのかもしれない。けれど僕らは彼が動き出すのを見てようやく自らの身体を動かすことを思い出したのだ。我に帰った、すべきことを思い出したのだ。

 

 彼は速かった。「エンジン」の個性を持つ僕に負けず劣らずのスピードだった。駆けながらまるでなにも苦ではないといった具合に障害となるロボットたちを倒していく。蹂躙、殲滅、駆逐。彼の見た目からはまず似合わないような言葉が今の彼にはぴったりだった。僕らの余裕とは違う。僕らと次元が違うというほど凄まじいわけではない。ただただ余裕があった。踊るようにとか舞うようにみたいなそんな露骨な表現が似合った。必死そうでギリギリのようで、それなのにどうしてだろう。彼にはきっと足りない、そんな風に思ってしまうのは。

 

 

「あのすみません!」

 

 

 僕の背後のロボットを倒しながら声をかけてきたのは件の彼。その小さな背中で誰かを背負っていた。

 

 

「あなた足が速い個性ですよね、この人を本部まで運んでくれませんか!その間に僕は他の人たちのヘルプに行くので!」

「だが、それでは点数が……!」

「そ、それは……」

 

 

 僕の言葉に彼は俯きながら語尾を濁した。けれど目を逸らしたのは一瞬、弱々しくも強い目で僕を見つめ直した。

 

 

「……なぜ、君はそうするんだい?」

「だって……それが、ヒーローだから!」

「っっっ!!!」

 

 

 稲妻が落ちたよう、というのを初めて体感した。もはや比喩なんかじゃなく確かな衝撃があった。当然、常識、正解。目が覚めたような気分だ。寝起きに思いっきりバケツ一杯の水を叩きつけられたような目のスッキリさだ。

 

 僕は完全に彼を見誤っていた。彼のようなものはヒーローとして相応しくない。そうあろうことか相応しくないと思ってしまったのだ。そんな決めつけそのものがヒーローとして相応しくないというのに……!

 

 

「分かった!この飯田天哉の名にかけて彼は無事安全なところへ連れて行こう!」

「あ、ありがとうございます!あ、それと緑谷!僕緑谷出久って言います!」

「うむ!緑谷くんか!覚えておこう!」

 

 

 決して忘れる必要などない。彼は必ずヒーロー科に進む。そんな確信があった。ならば僕も進まなければならない。夢へと誘うこの先の茨道を。例えこのことが試験となにも関係しないとしても、今この地に立った僕がこうするべきと思ったのだ。何よりもいつよりもヒーローへの熱烈な憧憬を燃やしてる僕が。ならば誇りを持とう。そして感謝しよう。僕がヒーローらしくいられる今をくれた彼に、緑谷出久くんに!

 

 

 

 

 

 聳え立った壁は動くバケモンだった。ろくにポイントを稼げなかった俺に最後のトドメを刺しに来たようだ。

 

 

「……終わったな」

 

 

 あっけない。個性が発現して、みんなと同じようにヒーローに憧れた。漠然と思ってた、俺もあんな風にヒーローになるんだって。けれどそうは行かなかった。現実は甘くないってそう言ってるみたいだな、ムカつくけど。ああ羨ましい。恵まれた個性が。強い個性が。ヒーローみたいな個性が。まるでヴィランみたい、もはやおはようさよならぐらい聴き慣れてどうとも思わなくなったそんな言葉を、今になって痛感している。そりゃあヒーローになれるやつを試してんだからヴィラン個性なんかお呼びじゃないよな。本気なのかどうか自分でもよくわからない御託を自嘲しながら並べた。馬鹿みたいだ、馬鹿を見ているみたいだ。絶望とかそんな大それた感情じゃない。静かにふっと虚ろになった。

 

 だからだろうか、走り駆けて飛んでいった誰かの姿がやけに鮮明に見えた。

 

 

「SMAAAAAAASH!!!」

 

 

 聞き覚えのあるセリフと一緒に突き出した拳で巨大なロボットを吹き飛ばす。あいつは、試験の説明の時に注意されてたやつ。俺と同じようなひ弱なやつだと思ってた、どうも勘違いしていたようだけど。あいつのどこにそんな力があるのか知らないけど、少なくともぶっ飛ばしたのはあの緑頭らしい。

 

 その後バランスを崩したのかあいつは空から落ちてきた。地面に激突する寸前で参加者の女子の個性らしきもので無事着地した。右腕はぼろぼろ、死にかけのようだ。けれど顔まで死んでない。

 

 

「なぁ、あんた」

 

 

 気づいたら声をかけていた。なんの気まぐれだろうな。ぼ僕?なんて聞き返すから、あああんただよと加える。

 

 

「あんた凄いな、あんなデカブツ吹き飛ばしてさ。随分と大層な個性をお持ちなんだな、俺と違ってさ」

 

 

 八つ当たりだ。そんなこと分かってたけど口から溢れる嫌味は止まらなかった。汚いというかなんというか、なんか惨めだなぁと思った。

 

 

「……僕、個性が目覚めたの最近なんだ」

「……は?」

 

 

 なに言ってんだこいつは? 話を聞く限り本当につい最近個性が発現したらしい。だからコントロールがまだ上手くなくてこんなぼろぼろになってしまったと。なんだそれ、都合が良すぎるだろ。ずっとこの個性と付き合ってきた俺への当てつけか? なんて目の前の自分より年下にも見えるやつを見てると、そんな俺みたいに捻くれた発想はしてないんだろうなと。

 

 

「小さい頃は個性なくて、それでいじめられて、ほんと嫌だったよ。でもなにもしなかったわけじゃない。せめてなにかしようって、筋トレとかヒーローの研究とかした。……今思うとどれも稚拙で、大した意味なんてなくて、本格的に意味あるものになったのは最近だよ。でもなにもしなかったわけじゃない。……今回のロボット、1Pとかだったら適当にバットでも振り回せば行動不能にはできたと思う、それくらいの強度だった」

「……そう、なんだ」

「僕がこの試験で手応えを感じたのは間違いなく個性のおかげだ。でも、個性だけのおかげじゃきっとこの先ダメなんだ。立派なヒーローってのは、個性が素晴らしいんじゃなくて、個性以上に素晴らしい何かを持ってるんだよ。……僕が偉そうなことなに言ってんだって話だけど」

 

 

 ほんとにな。まだ試験を受けただけのくせして、なんともまぁ素晴らしいこと語ってるのか。俺と同じ子供のくせに。けれど、なんかよく聞こえた。

 

 

「……あんたの名前は?」

「僕? 僕は緑谷出久」

「……心操人使。名前、覚えとくよ」

「え、あ、うん」

 

 

 そのあと緑谷は担架で運ばれていった。そういえば重傷者だったな。ぼろぼろで見た目頼りないのに立派なヒーローをもうやってるな、そんな風に思った。

 

 

「……帰るか」

 

 

 なんか見るべきものが見えた気がした。





今更ですが、平ジェネ良かった…
呼ぶ声に応じて助けに来るライダーたちを見て思わず泣いてしまった。
あとサプライズゲストで出演した彼の姿を見て言葉が意味を失い消えた。ただただありがとう、そしてお帰り。それだけでした。
ブレイドのCSMは金がないので断念。
Vシネクローズは賛否両論みたいですね。まだ見てないのでなんとも言えないですが、予告や軽いネタバレとか見る限りだと個人的には因縁の相手と共闘するという展開は好みなので割と興味あり。見たら変わるかもしれないですが。いつか見たい。あとVシネグリスも楽しみ。
バトスピのコラボも2box買ったの受け取りに行かないと。特典スリーブ良すぎだし。ブレイド組みます。
あと活動報告でアイデア募集してるので良かったらお答えください。参考にします。
ではまたいずれ。


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新たな出会いはSで/物語の場はここであると



特撮のかっこよさというのは、やはり映像的な文字ではない絵面による視覚効果によるかっこよさであるのだと改めて思う頃。小説に向いてない気がするんだよな……それでも上手い人は上手いんでただの逃げかもしれないですが。

では本編です







「私が!!!投影された!!!」

 

 

 その時の衝撃を僕は忘れないだろう。忘れたいとも思わないけど、きっとこの脳みそは忘れることを良しとしないから、結果僕は忘れないだろう。つまりはすごくびっくりした。

 

 雄英から届いた合否通知を開いてみたら、そこに現れ出たのはまさかの存在オールマイト。なんでも今回から雄英の教師として教鞭を振るうらしい。ゾクゾクした、これは身震いじゃなくて武者震いだ多分。興奮でニヤニヤする。

 

 そして告げられた合否の発表。ヴィランロボットを討伐したことによる点数の合計値による順位は5位。しかしそれだけではなかった。救助ポイント、つまりはヴィランを倒すこと以外でのヒーローとしての素質の評価。人を助けたり援護したり、という直接的ではないところで評価された点数。僕はこれを鑑みて結果的に筆記含めて総合2位になった。ちなみに1位はかっちゃんらしい。さすがとしか言えない。受験が始まる前に交わした言葉と彼の顔が蘇る。良かった、どうにか約束は果たせそうだ。

 

 お母さんは泣いて抱きついて喜んでくれた。今になってだけど親孝行の一つくらい出来たのかな、そんな風に思ってたらこっちまで泣けてきそうだった。フィリップさんは今出かけているらしく報告のメールを送ったらしばらくして『おめでとう』と返ってきた。あの人らしいや。

 

 実感はゆっくりやってきた。半分の諦めと残り半分の意地、そうやって生きてきた僕が2人の凄いヒーローに出会って誇張でもなんでもなく人生が変わった。そしてここまで来た。ヒーローになるための第一歩をようやく踏み出したのだ。気が早いといわれるかもしれないけど、変な緊張感が身体を奔った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……話って、なんですか?」

 

 

 フィリップさんに呼び出され例の浜辺に来ていた。そこには風に吹かれどこか遠くを眺めているフィリップさんがいた。望郷の念、というものが滲んで溢れていた。

 

 

「まずは、合格おめでとう。君の師としての立場からも嬉しく思うよ」

 

 

 目を細めて僕の頭の上に柔らかく手を置いた。ありがとうございます、が妙に恥ずかしくなって口から出た。

 

 

「でも、大変なのはこれからだ。ヒーロー科の中でもナンバーワンの雄英高校、そのカリキュラムは特に厳しいと聞く。降格制度もあるらしい。ヒーロー科で成績が振るわなかった生徒は他の科に移籍、最悪除籍もありえるとか」

「く、詳しいですね」

「検索ヒーローの名は伊達じゃないということさ。まぁ、今回に関しては検索だけではないけどね」

「というと?」

「僕も雄英で特別講師として時々だけど教えることになったんだ。おそらく、君に教えることもあるだろう」

 

 

 マジで? なんて言葉が思わず漏れた。ただし教員免許を持っているわけではないから、雄英の教師になるわけではなくあくまでお手伝いとして顔を出すとのこと。

 

 

「君が入学したこともある。なにかあった時にすぐに手を貸せる方が合理的だ。それに、他にも目的がある」

「目的……」

「他の仮面ライダーを探すことだ」

 

 

 人々の生活する声に混じって風の音が聞こえる。穏やかな風が少し力強くなる。そういえばフィリップさんの元いた世界の住んでいた街、確か『風都』と言った。その街はいい風が吹いているらしい。それがどんな風なのかわからないけど、きっと心地いい風なんだろうとその横顔を見て思った。

 

 

「僕はいつまでこっちにいられるかわからない。なぜこちらの世界に来たのかもわからないのだから、強制的に帰還させられるかもしれない。少なくとも、少しずつだけど変身できる時間が減ってきているのは確かだ。だからこそ、君のように戦える人間が必要なんだ」

「……僕一人では力不足、ってことですか?」

 

 

 弱い言葉だった。結局のところそれだけ未熟ってことだろう。それは否定しようがないし素直に僕も認めるところだけど、事実そうであると言われてなにも思わないほど僕は強くない。

 

 

「半分正解だ」

「……っ!……半分、というのは?」

「君では力不足という点、それはある意味間違いではない。ただそれは君が弱いから、というわけではなく、一人では対処しきれない可能性があるからだ」

 

 

 それは僕一人でも厳しいかもしれないことだ、と続けた。フィリップさんでも厳しいこと……?

 

 

「敵の組織の大きさというものが、僕の思ってたものよりもずっと大きいかもしれない」

「……と言うと?」

 

 

 重く堅い顔のままに続きを口から零した。

 

 

「敵にも、仮面ライダーがいる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは薄暗い空間だった。しかしなにもないわけじゃない。電子的な光があちらこちらに転がっていて、その中心には1人の男性がキーボードをカタカタ叩いていた。白衣を着て時折眼鏡のフレームをクイと上げる。洗練された定番の動きが妙な知性を感じさせる。

 

 暗がりの中からやってくる足音が一つ。光の集合地に向けてやってくる。静かな足音だった。存在しているのかもよくわからない、そんな軌跡だった。

 

 

「やぁ、アストレイ。お帰りかい?」

「……ここに戻ってきたんだからそりゃお帰りだろ」

「それもそうだ!じゃあ質問を変えよう。成果は得られたかい?君が望むような一日になったかな?」

 

 

 ゲーミングチェアーを回転させて後ろに立つ男に向かって言葉を投げかける。モニターにはおよそ素人が見ただけでは意味のわからないような英数字の羅列が並んでいる。アストレイと呼ばれた男は質問に対して怠そうに答える。

 

 

「面白かったよ。あれが世間で評判の良い仮面ライダーか、って思った。……ああ、思ってたより綺麗な緑色だったよ」

「そういう割には顔は相変わらず仏頂面だね?」

「……元からこうなんだよ放っておいてくれ」

 

 

 アストレイは白衣の男の後方のソファに腰掛ける。持っていた瓶のコーラを煽る。

 

 

「……なぁ、プロフェッサー。バカはなにやってる?」

「それはドレットノートのことかい? それともプランクスターかい?……あ、もしかしてホロウのことかな?」

「ホロウはどうせ寝てんだろ。他2人だよ、バカ2人」

 

 

 2本目の瓶コーラを開ける。相変わらずのペースだねぇとプロフェッサーが呆れたように笑うが、それをただうるせぇと何度もしたやり取りのように淡々と返す。

 

 

「プランクスターはどこかに遊びにも出かけてるんじゃないかな? 血ドバドバの骨ボキボキ、彼曰く刺激的なゲームというやつさ」

「ようはただのケンカだな。……ったく、わざわざ自分からヴィランにケンカふっかけるなんてそんなメンドくさいことよく出来るよな」

「仮面ライダーと喧嘩しに行った君が言えることではないと思うけどね」

「……」

「……」

「……ドレットノートは?」

「大食いしてくるって。よくあるだろう? 制限時間以内に完食できたら代金は無料という企画。また新しく見つけたみたいだよ」

「あいつ、いつも大食いしてないか?」

「普通に食べたら食費が非常に高くつくところ、毎度完食してくれるから結果的に食費はゼロ。ありがたいことじゃないか。交通費は別だけどね」

「はぁ、メンドくせぇ……。それで、ちゃんと帰ってくるんだろうな?」

「それを僕に聞くのはどうなのかな? 僕が言えることは、彼なら最悪自力で帰ってくるよ」

 

 

 あいつ方向音痴じゃねぇかよ……と多くの息と共に零した。そうなった時迎えに行くのは決まって自分だ、それが分かってるからこそこの先の面倒に頭を抱える。ついつい3本目を開けた。

 

 

「仮面ライダーと戦った感想、もっと聞きたいな」

 

 

 キーボードを叩く手を止めて後ろに振り返る。いやらしい笑みを浮かべている。利己的な興味に塗れた悪い目をしている。

 

 

「感想ってよ、一体なに言えばいいんだ? 綺麗な緑色って話はさっきしただろ? それともあれか、同じ仮面ライダーでも自分とは違うなって思いましたみたいないい話でも聞きたいのか?」

「改心なんてまるでいい話ではないな。そうなるともうここで君を始末しなければならないね」

「ドライバーを持ってないあんたにできるか?」

「それは関係ないさ! 必ずしもドーパントが仮面ライダーより下とは限らない、そうだろ?」

「それはそうさ、そりゃあな。でも俺はあんたよりも強いだろう」

「言ってくれるねぇ〜。確かめてみるかい?」

 

 

 そういえばなんだかんだでこの研究馬鹿も暴れるの好きだったなぁと。同じ穴の狢、イかれてる側の人間かと白衣を着た男を見て黒いチェスターコートを着た若い男はかったるい目で見ていた。

 

 

「やらねぇよメンドくさい。んなくだらないことに時間使ってやれないんだよ俺は。これから大事な取り引きがあるんだ、ボロボロになった姿じゃかっこつかねぇだろ」

「それはそれでいいんじゃないかな? ヴィランっぽくてさ」

 

 

 馬鹿にしてんだろ、ヴィランである青年は吐き捨てた。

 

 

「……勝てそうかい?」

「……さあな」

 

 

 俺が仮面ライダーに勝てるか? ああそんなことはどうだっていい。アストレイにとって勝ち負けなどはあくまで付随する要素でしかなく、例え勝っても負けてもその本質は揺るがない。確かに彼らの目的の障害にはなるだろう。自分たちと考えや立ち位置は違うのだから。それでもどうでもいいのだ。あくまで彼個人の感情、それはそんなことは些細なものであると断定していた。

 

 

「かっこいいよ、正義の仮面ライダーさんはよ。惚れ惚れしてしまうくらいにな。それぐらいかっこいいからさ……」

 

 

 持ってた瓶が塵屑のように割れた。握りつぶされた手の中は力強く朱に塗られていた。

 

 

「ぶっ壊さないとな」

 

 

 いい笑顔だ。それは獰猛な獣のようで新しい玩具を見つけた幼児のようで、それでいてヴィランらしい実にいい笑顔だった。

 

 ああワクワクしている。気分が高揚する。今にももう一度会いたくて仕方ない。これはもはやファンの心理だ。馬鹿なことを言っている。憧れや尊敬なんてもの、例えあるとしてもそれはあるかどうかもわからないほどの微細なもので、限りなく無いと言い切れるものでしかないのだ。なのにこれほどに欲しくなる。正義の仮面ライダー、ならば自分は悪の仮面ライダーと言ったところだろうか。くだらない正義だの悪だのと差別化することのくだらなさと言ったらないが、世論っぽく言えばそういうところだろう。ああいいじゃないか、悪だなんて所詮正義とは違う正義でしかないのだから。ならばこれは争い、そう戦争だ。正義と正義そして悪と悪の戦争だ。

 

 

「さあ、プロフェッサー。宣戦布告は済ました、これより開戦だ。この地球の記憶をオモチャにして壮大でくだらない喧嘩を始めよう」

「そうだね、僕は出張ってやんちゃするのは好きじゃないけど、サポートくらいしてあげるよ」

「あんたがそうしなかったらあんたのいる価値ないよ」

「それもそうだ……安心したまえ、僕は僕の目的を果たすまで死なないよ。例え君を殺してもね」

 

 

 指で作った銃でアストレイを撃ち抜く。バキューンと効果音とともに口から出たプロフェッサーの意思に本気を見出した。ああこの人はそういう人だ。利用するものを全て利用してそれになにも罪悪感のない究極的に利己的な人だ。だからこそ一緒にいる。一緒にいて心地がいい。利害の一致、情なんて邪魔なものは取っ払えばいい。自分たちは自分たちのしたいことをするために他人のしたいことに手を貸す。そうやって上手く回る世界もあるのだから。

 

 

「……幻想、それを現実にしようか。理想があるならそれを現実にしないとな」

 

 

 その理想を阻む理想があるのなら競わねば、どちらの理想が魅力的であるかを。これはそういう戦いなんだ。「P」を象った絵が刻まれた細長い小箱をぶらつかせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1-A…1-A…あ、ここだ。……ここ?」

 

 

 扉のサイズが自分の背丈の何倍もあった。なるほど、異形型にも配慮されたものなのか。平均身長以下の自分からしてみたらまるで余分に感じてしまう。下の方におおよそ一般的サイズのドアがあったのでそちらから入る。入った瞬間に聞き覚えのある声が聞きたくはないような声色で聞こえてきた。

 

 

「君!机の上に足をかけるなんて先代の方々に失礼だとは思わないのか!?」

「……いや思わねぇよ。てめぇはあれか? ご先祖さまの仏壇に足向けられないってタイプか? 安心しろよ、どうせ見てやしねぇからよ」

「そういう問題ではない! 自分自身がどのように思って接するか大事ってことだ!」

「真面目なこったね……どこ中出身だよ?」

「ぼ……俺は私立聡明中学出身だ!」

「なんだエリート様か……納得だわ」

 

 

 ……面倒な雰囲気だ、そう思ってしまった。両方知り合いであるから余計にそう思う。知らないフリ……できれば苦労しないけどおそらく無理だろう。

 

 

「……おいデク、なにコソコソしてんだ」

「ん?ああ!君は緑谷君!」

「あん? なんだテメェ、デクと知り合いか?」

「ああ!彼は入学試験の実技試験の時に一緒になってね……僕は大事なことを彼から教えられた……!」

「……へぇ」

 

 

 怪訝そうな目で幼馴染に睨まれる。そんな様子を露知らず飯田くんがこちらに勢いよく近づき勢いよく手を取った。なんというか、直角に。

 

 

「僕のこと覚えてるかい!?」

「う、うん……手伝ってもらったからね。あのあとお礼出来れば良かったんだけど、僕倒れちゃって……あの時はありがとうね」

「感謝なんてとんでもない! それはむしろ僕がすることだ緑谷君! あの時君にヒーローとはなんであるかを教えてもらった! あれがあったから、君の熱い言葉があったから僕は今ここにいられる。君が倒れたと聞いて衝撃だった、僕も感謝を述べることが出来なくてモヤモヤとしていた……だが、心配はしていなかった!緑谷君ならすぐに復帰すると思ったし、なにより君なら合格すると思っていた」

 

 

 大袈裟じゃないかなぁ。そこまで大きなことしてたつもりないし、そんな英雄譚みたいに語られると萎縮してしまう。けれど悪い気はしない。そこまで素直に熱く尊敬されるのは初めての経験だ。だから恥ずかしいけど素直にありがとうと言えた。

 

 

「随分と知らねぇうちに偉そうなこと言うようになったんだなデクよぉ?」

「こら君!なんだその口の利き方は! いくら幼馴染と言えどそのような乱暴な言い方はするべきではない!」

「は?うっせえな引っ込んでろ眼鏡、部外者は黙ってろよ」

「き、君は本当にヒーロー志望か!?」

「なんか文句あっかよ!?」

 

 

 いや、そりゃあそうなるでしょ。現実気持ちだけあってもそれが伝わらないと意味ないわけで、そういうところはやっぱり将来的にネックになるんじゃないかなぁと思う、本人がどこまで自覚しているかわからないけれど。

 

 

「……失礼しま〜す」

 

 

 この混沌とした状況の中今までとは違う音色の声が聞こえてきた。ドアを開けて中に入ってきた姿に見覚えがあった。

 

 

「あ! あの時の緑の超パワーの人!」

 

 

 僕を指差して近づいてきた。この人、麗日お茶子さんはあの時、0ポイントヴィランが現れた時に瓦礫に捕まっていて、その後僕が吹き飛ばして落ちていたところを助けてくれた、あの女の子だった。彼女も受かっていたんだとちょっとした安堵を溢していた時に、僕は手を掴まれた。

 

 

「っ!!??」

 

 

 いやぁすごかったね!あの大きなロボットを一発でドカーンと倒しちゃうなんてもうびっくりしたよ! おかげ様で助かりました! 君、名前はなんて言うの?

 

 確かかろうじて緑谷出久ですと答えた気がする。初めて女の子の手なんかに触れたから正直まともな思考になってない。柔らかい感触が刺激的だった。同じ人間なのは当たり前ではあるのだけど、そんな当たり前を疑ってしまうような気分だ。今時そんな気分や感覚など大した意味を持たないのだろうけど。恥ずかしいとか照れ臭いという感情も勿論あるのだけどそれ以上に呆然としてしまった。かっちゃっんが呆れたような目をしていた。他のクラスの人たちからも変な目で見られてるような気がする。僕の大事な高校デビューが理想と象った石像が崩れてぼろぼろになる。

 

 

「おいお前ら、さっさと席に着け」

 

 

 色んな心配をしていたら突如おおよそ僕らの歳ではない重みを持った声が聞こえた。慌てて席を立っていた人たちが席に座りみんなが静まりかえる。

 

 

「……時間は有限だ、それを無駄にするような真似は合理的じゃない。せいぜい次は時間を厳守するようにな、1秒たりとも無駄にしないように」

 

 

 相澤消太と名乗ったその人は僕たちの担任であると説明した。ボサボサの髪伸びっぱなしの髭くたびれた服。不潔と勢いよく口にするほどではないにしろ、清潔と称することができるほどではない。

 

 

「さて、それじゃあ早速体操服に着替えろ」

 

 

 どこから出したのかわからない大量の衣服の束を机の上に叩き置いた。

 

 

「あの……まず入学式とかあるんじゃないですか……?」

「……入学式、か。さっきも言っただろう、時間は有限だ。確かに全校生徒諸君は集まってるだろうな、だからどうした? 自由さを売りにする学校なら、当然俺たち教師も自由だ」

 

 

 つまり、入学式に参加させるかどうかも担当教師の自由である。そう言っているのだ。

 

 

「その自由は時折理不尽に変わってお前たちを襲うだろう。そんな時俺から言えることは、乗り越えろ。それだけだ」

 

 

 これがPlus Ultra。僕たちに求められた自由という名の試練だ。

 

 

「ようこそ、雄英高校ヒーロー科へ」

 

 























 感 想 を く れ ! ! ! 

あと活動報告でアンケートしてるんでそっちもお願いしますです!



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