この疲れ果てた正義の味方に平穏を! (ブラック企業アラヤ2)
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第1話 英霊召喚

ぼちぼち更新していきます


  全てに疲れきっていた。

 自身の歪な理想をどれだけ歩み続けてどれだけ憎んだだろうか。

 記憶が擦り切れてかけがえのない存在であった人たちの名前や顔さえも思い出せなくなるくらいくだらない後始末をさせられたのに、そのくせ『正義の味方』とやらには一向に近づけない。

 

 誰かを救うということは誰かを救わないことであるということは生前から分かりきっていたことだ。

  それは法則にも近しい、決まりきっていることだ。だが、それを容認出来ない青臭い少年()がいた。

  私は愚直にこの手を汚しに汚しても掲げた理想は叶わなかった。

 最早そこには後悔しか残らなかった。

 その行いに生産性などなく、無意味であることは理解していた。

 しかし、理想に生き、理想を実現するために奔走していた過去の自分を殺したくなるほどには忸怩たる思いをしていたのだ。

 

 所詮、私は衛宮切嗣という男のあり方を投影した紛い物であり、何を救うべきかも定まらない壊れた機械には『正義の味方』を張り続けることなど不相応だったのだ。

 

 だからこの終わらない悪夢を終わらせる。

 自ら(エミヤシロウ)過去の自分(衛宮士郎)を否定することによって。

 客観的に見れば、俺がやろうとしていることは八つ当たりそのものなのだろうが俺はそれさえ出来ればいいのだ。

 故にその機会だけを待ち続ける。もちろん、それが果てしなくゼロに近い確率だということは分かっている。

 だが、それに賭けた。そうしなければ自身の存在を許容できなかったからだ。

 ただその時だけを希望にして、守護者という汚れ仕事をここまで続けてきた。

 

 

 

 

 

『何言ってるんですか、ダクネス!! 紅魔族随一の魔法の使い手であるこの私が召喚するのですから、カズマが言ったえすえすあーるとやらもきっと引けます! うおおおおおおお、来い! 最強の英雄よ!!』

 

 

 

 突如、何者かの声が聞こえてきた。

 なぜ私の座に召喚者の声が響き渡っているのかは皆目見当もつかないが、今度の主はなかなか勢いのある人物であることは理解できた。

 あいにく私は最強の英霊ではないが、呼ばれているのだから行くしかないだろう。

 

 

 自分以外は剣しか存在しない世界が徐々に薄れてゆく。

 それこそ固有結界が現実世界を侵食していくかのように。

 もう何度経験したのか分からない召喚される時の独特の感覚。

 

 この感覚を実感することによって、初めて守護者たる私が自身の仕事を始める決意が出来る。

 

 

 

 こうして英霊エミヤは次の戦場に行くのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、では行くとしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______________________________________

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、英雄を召喚する魔道具ね」

 

「ええ、そうです。とても高価で素晴らしい物なので取り扱いには注意して下さいね」

 

 

 

 デュラハンのベルディアの討伐後、あの駄女神が召喚した大量の水によって、アクセルの街の入り口付近の家々が流され洪水被害まで引き起こしたことにより俺は総額3億4000万エリスの弁償を命じられた。

 

 ベルディアを討ち取った報酬である3億エリスというその膨大な額の金を実際に手にすることは叶わず、借金返済に回すことを余儀なくされてしまった。残りの借金である4000万エリスを返すためにクエストを受けてちょびちょび返済してはいたのだが、よくよく考えてみれば俺が多額の借金を背負うことになったのはパーティーメンバーが想像以上に癖のある奴らだということから生じていた。

 

 知力と幸運以外のステータスはカンストしているアークプリーストであるアクアは思慮の浅さゆえに様々な厄介ごとを持ち込んで来る。

 回復魔法と支援魔法の腕は認めるがそれを差し引いてもマイナス方向に行ってしまう馬鹿さとバッドラックには目も当てられない。もう少しだけ、考えてから行動してくれると有り難いのだが彼女の頭では無理だろう。

 

 生まれながら高い知力と魔力を持つ紅魔族出身のアークウィザードであるめぐみんは魔法に関しては卓越した才能を持っているが世間でネタ魔法と呼ばれている爆裂魔法以外のスキルは取得する気がないという頭がおかしい奴だ。

 この前、それで死んでしまっては元も子もないだろうと説得を試みたが爆裂道を極めている最中に死ぬのもまた一興です、と言い張った。

 爆裂魔法を扱うあまり、彼女は自分の頭まで爆裂してしまったのだろうか。

 爆裂魔法を撃ち込んで毎日毎日、彼女を背負って街まで運ぶ俺の身にもなって欲しいというものだ。

 

 そして、力と耐久力にスキルポイントを全振りしたクルセイダーのダクネスはメイン盾として使えるが不器用さのあまり攻撃が全く当たらないポンコツ女騎士に仕上がっている。

 それならば、攻撃スキルにポイントを割り振れば問題が解決すると思いきや彼女のマゾヒスティックは加減を知るどころか限界突破しており、攻撃スキルをとるとモンスターの攻撃を楽しめないという強い主張により聞き入れられることはない。最近、どうにかして彼女の性癖を治そうと試みているが進展なし。

 

 そして俺は最弱職の冒険者ときたものだ。

 全ての職業のスキルを習得できるという利点こそあるがスキル取得には大量のポイントが必要不可欠であり、その強みも活かすことは困難である。

 ここまで来ると器用貧乏という四字熟語があるがまさにその言葉は俺のために出来たのではないか。

 

 そんなわけでどうにかして儲け話、または戦力を向上させるようなものはないか情報を仕入れるために、元凄腕の冒険者であり、アンデッドの王「リッチー」でもあるウィズが経営している魔道具店にパーティー全員で赴いたというわけだ。

 

 『剣なら刀工に。家を建てるなら職人に』とこの世界ではよく言うらしい。ならそれに倣って儲け話なら商人に、というわけだ。

 しかし、現実はそんなに甘くはなかった。

 ウィズ曰く、そんな話があるならこの店は赤字になんかなっていないそうで計画は一瞬にして破綻した。確かに彼女が提供している商品はどれも産廃もしくは初心者冒険者の街であるアクセルで販売するには高額すぎる代物ばかりだ。

 とはいえ話を聞くだけ聞いて帰るのもウィズに対して失礼なのでこうして店内の商品をみんなで物色していたところにめぐみんが英雄を召喚出来る魔道具を発見したのだ。

 

 

「英雄を召喚するって、そんなこと出来るのか?」

 

「100回に1回ぐらいは出来るそうですよ?」

 

 

  大輪の花が咲いたような錯覚を覚える眩しい笑顔でウィズは答えてくれた。

 でもそれって完全に失敗作だよね、とかSSR排出率1パーセントじゃなくてガチャ成功率が1パーセントって不良品じゃないかなんて野暮ことは言わない。

 真の男女平等主義者であると自負している俺でもウィズにそのようなことを言うのは憚れる。そもそもそんなことを言った日にはウィズの追っかけ冒険者たちに俺はボコボコにされる覚悟をしなければならない。

 彼女は商いに関してポンコツリッチーかもしれないが、女性としてはエリス様に次ぐ魅力の持ち主だ。

 うちのパーティーメンバーはともかく、優しい彼女に失礼なことはあまりしたくなかった。

 

「100回に1回成功するだけでも凄いわよ。バカズマには分からないでしょうけど、英雄なんて規格外な存在を現世に留められるだけでも秀でた魔道具よ、それ」

 

「なんで英雄が規格外な存在なんだよ? 英雄って言ってもただの人だろ。なら召喚するだけなら魔力を消費するだけでどうにか出来るんじゃないのか? RPGの基本だろ。後、バカズマって呼ぶな」

 

「はぁー、全くこれだからカズマはアホでクズで変態なのよねー・・・・・・・って痛い痛い!! 私が悪かったから頭グリグリしないでえええ!!」

 

 

 アクアの言動にイラっときた俺は両手で握りこぶしを作り、こめかみ辺りにねじ込みながら圧迫する技、通称グリグリ攻撃を繰り出す。

 あまりの痛みのあまり、アクアが泣きついて説明するから許してくださいと懇願してきたので解放してやった。

 

 やたら長ったらしかったアクアの説明を簡潔に纏めると英雄というのはその死後に輪廻の枠から外され世界の危機、つまり、人類滅亡の危機といった事態に世界が瀕した時に抑止力として召喚される守護者みたいなものだというのだ。

 その存在のことを英霊と呼び、彼らは生前に鍛えた能力や所有していた武器を使い、世界を滅亡に追いやらんとする要素を潰して行くんだとかなんとか。

 

 何それかっこいい。颯爽と現世に現れて颯爽と事態を解決して消える存在とか格好良さすぎではございませんか。

 

 

「何はともあれやってみる価値はありそうだな、ここは幸運値が高いカズマがやってみるのはどうだろうか?」

 

「お、ダクネス、たまにはいいこと言うな。強い英霊を召喚して高難易度クエストをこなさせて自堕落な生活でも送るとしようか」

 

「止めておきない、カズマ。そんなことしたら、あんた殺されるわよ?」

 

 

 アクアがこれまでにないくらい真剣な顔をして俺にそう告げた。

 いつもこんな感じだったら女神だと認識出来るのだろうが・・・・・・殺されるとはどういうことだろうか。

 

 

「いい?カズマ、英霊といっても必ずしも善性を持った存在とは限らないの。英雄の中にも悪いことをした結果、それが人々の救いになったっていう反英雄もいるわ。そうね、日本人であるカズマに分かりやすく言うならジャック・ザ・リッパーを英霊としてこの場に召喚されたらどうなるか分かるでしょ?」

 

 

 切り裂きジャック、通称ジャック・ザ・リッパー

 

 1888年にイギリスの首都ロンドンで発生した猟奇殺人事件の犯人の名称であり、世界でも最も有名な未解決殺人事件といっても過言ではない。

 スラム街で売春婦5人をバラバラに切り裂き、当時の英国の人々を恐怖させた話は異国の地、日本でも有名で俺さえも知っている伝説の殺人鬼だ。

 そんな反英雄をこの場に召喚でもしたら、どうなってしまうのかはいうまでもない。

 ことの危険性に気付くことができた俺はこの魔道具の使用を自粛した。

 

 

「まあ、魔力のステータスがゴミなカズマにはこの世界に英雄を呼んで維持するのは不可能なんだけどね。カズマがその魔道具を使った瞬間に干からびてあの世に直行コースよ。おそらく、このアクセルでこの魔道具を使用できるのは私とめぐみんとウィズだけね」

 

 

 さらっと人が気にしているステータスをゴミ呼ばわりするクソ女神にスティールして神器であるピンクの羽衣を売って借金を一気に返済しようかと画策したが、知らず識らずのうちに人生の終わりにリーチしかけていたのを助けてくれたので踏み止まった。

 

 

「っていうか、英霊召喚ってそんなやばいことなのか。ゲームだとあんなに簡単に召喚してるのに」

 

「そりゃそうよ、本来ならこの世に居てはならない存在を無理やりこっちに呼ぶんだから、そのリスクが召喚者に還ってくるのは当然と言えば当然でしょ?」

 

 

 なるほど、英霊を現世に繋ぎ止めるのが召喚者の役目っていうことか。

 

 

「それにその魔道具は一応、このお店の商品ですから勝手に使わないで下さいね?」

 

 

 ウィズがぐうの音も出ない正論をぶちかます。

 そもそもこの魔道具を購入していない時点で俺たちはこの魔道具を使用する権利はないのだというのに何を舞い上がっていたというのか。

 

 

「さて、何が出るかな? 何が出るかな?」

 

「ちょ、めぐみん! おま、何やってんの!? 何か魔道具が光り輝いてますけどぉ!?」

 

「何って、英霊を召喚しようとして魔力をこの魔道具に流し込んでるだけではないですか?」

 

「お前、アクアの話聞いてた!? 人格が良くてかつ優れた力を持つ、そんなSSRランクの英霊なんて引けるわけないだろ!」

 

 

 爆発するポーションをイチオシ商品として売り出すウィズが自信を持って凄いと言ってきたあたり、この産廃魔道具からは真っ当な英霊が召喚できるとは思えない。

 これで反英雄なんてものが出てきた時には俺たちはここでお陀仏だろう。

 

 

「落ち着くんだ、カズマ。なに100回に1回の確率なんだ。どうせ失敗するさ、仮に反英雄なんてものが召喚されたとしても私の防御力を持ってすればカズマたちを逃すぐらいは出来るだろう」

 

 

 ダクネスが俺の肩にぽんと手を置いて励ましてくれる。

 流石はクルセイダー、中身は残念でも台詞が立派ならこうまでも凛々しく感じさせるとは恐ろしい奴。

 しかし、よく彼女を見てみると後ろで纏めた長い金髪が振り子のように揺れているのは気のせいだろうか。どんな苛烈な攻撃だろうと耐えてみせると頰を紅潮させながらダクネスは叫んでいるが俺は何も見なかった。あんな奴をちょっとでも凛々しいと思った俺が馬鹿なわけではない。

 

 それはともかく、確かに確率からして英雄なんかが出て来るわけないか。

 出現確率1パーセントのガチャを100回引いても、4割近くの人は外れるって言うし。

 

 

「何言ってるんですか、ダクネス!! 紅魔族随一の魔法の使い手であるこの私が召喚するのですから、カズマが言ったえすえすあーるとやらもきっと引けます! うおおおおおおお、来い! 最強の英雄よ!!」

 

 

 めぐみんから魔道具に膨大な魔力が流れていくのが身体全身で感じられた。

 その魔力があまりにも濃厚なため、体ごと壁に叩きつけられるような感覚を覚える。実際、棚に陳列されている商品がカタカタと音を立てながら床に落下しそうになっているところをウィズが必死に支えている。

 

 目前には目を開けることさえ躊躇われる光が店内中を照らしているため、反射的に目を瞑ってしまう。

 

 やがて、肌に突き刺さるような魔力の波が無くなりフラッシュバンを想像させるような光も消え去ると何者かの気配を察知した。

 俺の所有スキルである敵感知スキルが反応したわけではない。

 魔法に精通していない俺でも感じられる、感じてしまうのだ。

 眼前にいるであろう何者かが桁外れの魔力を帯びていることが判る。

 間違いなく人以上のモノ、英霊が存在していることが否応なしに認識できた。

 

 恐る恐る目を開け、召喚魔法のように現れたそいつを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した。これより我が剣を君に預けるとしよう。マスター、指示を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「ま」」」」」

 

「ま?」

 

「「「「「マジでええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???」」」」」

 

 

 

 



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第2話 エミヤシロウ

まさか今日中に第2話を投稿できると思わなんだ。
おそらく、次の投稿は1週間から2週間以上先になると思います。





「ほう、ではめぐみんがこの魔道具を使って私を召喚したのか」

 

「ええ、その通りです! まさかこんなにカッコいい英霊を召喚出来るとは思いもしませんでした。何よりこの赤い外套を纏ったその姿!! 私にぴったりではないですか!?」

 

 

 

 気がついたらめぐみんという名前のおかしい少女にサーヴァントとして召喚された。

 

 文字に起こしてみると余りに馬鹿馬鹿しく、私としても非常に受け入れ難い現象に巻き込まれてしまったが、紅魔族と呼ばれる一族随一の魔法使いであるめぐみんに召喚され現界したのは事実である。

 名前を聞いた時は思わず本名なのかどうか疑ってしまったが、残念なことに本名らしい。

 彼女の両親は何を錯乱してこのような名前を名付けたかは興味が尽きない。

 

 しかし、名前が可笑しくとも私のマスターであるめぐみんは一族随一の魔法使いというだけあって私を現界させるために送られてくる魔力は潤沢である。年齢は若いが卓越した魔法使いだ。

 魔力量だけで判断するのは早計すぎるかもしれないが、いずれ彼女は歴史に名を残すような魔法使いになるだろう。

 

 そのような才能を持つ少女がマスターになったこともそうだがこの世界に来てからは驚くことばかりだ。

 話を聞く限りでは私が元々いた世界と、この世界は全く別物だということが判った。

 めぐみんが魔法使いと名乗ったときは面を食らったがそれもそのはず、魔術と魔法の定義からして異なるのであれば魔法使いと名乗るのも別段可笑しな話はない。

 世界が違うとはいえ、私のサーヴァントとしてのパフォーマンスも変化するわけでもない。

 人々の信仰による知名度で強弱の差が生まれない私にとっては異世界で剣を振るうこと自体には何ら影響はなく、ステータスは完全に召喚者の魔力に依存することになる。

 であれば、異世界に召喚されたとはいえ私がやるべきことが変わることは何もない。

 

 そして何よりも一番驚いたことが······神が地上にいるということだ。

 アクアという名の淡く透き通った水色の髪をした少女の清澄な佇まいからして神性持ちであることは確定している。

 判断材料はそれだけではなく、魔力感知を苦手とする私にもめぐみんを優に凌駕する魔力が伝わってくることや人間とは思えないほどの美貌からして神であることは明白だ。

 守護者として様々な時代に召喚され、神性を持つ者と遭遇したことはあるが神そのものに出会すのは今回が初めてだった。

 これで召喚されていたのが私ではなくギルガメッシュだったら、最悪の事態になっていただろう。あの男と神との関係はまさに水と油。出会ったが最後、このアクセルは更地になることは避けられない。そもそもあの男がこのような触媒を用いない召喚に応じるわけがないのだが。

 

 

「私の時代がようやく来ましたね!! あ、そういえばあなたの本名はなんですか? アーチャーは職業であって本名ではないのでしょう?」

 

 

 

ーーーーアーチャー

 

 それは三騎士の一角であり、高い単独行動スキルと射撃能力を持ち合わせ個体能力こそ低いがその分を強力な宝具やスキルで補っているサーヴァントのことを指す。

 

 例外に漏れることなく、弓を扱うサーヴァントとして私もその名に連ねる者だが真名を名乗るべきか否か判断しかねる。

 サーヴァントにとって真名とは自身が保有する宝具と対になるものである。

 真名を知ることができればそのサーヴァントがどういった能力の宝具を持っているのか絞り込め、宝具を真名開放させればそのサーヴァントの正体を知ることが可能だ。

 私のような特殊なサーヴァントの場合はその規則に捉われない特例であり、それは真名開放をしても正体不明のサーヴァントとして戦場を支配する能力を持てるという強みの一つでもある。

 しかし、今回は聖杯戦争にサーヴァントとして召喚されたわけでも守護者として召喚されたわけでもない。

 名を知られても問題がなく、折り入った事情もない以上は真名を告げるのがこれから生活を共にする彼らに対する礼儀だろう。

 

 

 

 

 

 

「では僭越ながら名乗らせてもらおう。私は英霊エミヤ、生前はエミヤシロウと呼ばれていた。私のことは好きに呼んでくれて構わない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________________________________________

 

 

 

 

 

 

 石造りの街中をウィズを除く他のみんなで歩いて冒険者ギルドへと向かっていた。

 ウィズは魔道具店の経営に忙しいようで残念ながら店で別れることになった。

 そして、俺の横にいるこの男、エミヤシロウは度々キョロキョロと街並みを見渡していた。

 時折「おお、獣耳か。お、エルフ耳の人間もいるな。いや、まさかこのような世界に召喚されるとは思わなんだ。いつも召喚された時は荒廃した土地とか燃え盛る炎に包まれた都市に召喚されるからな・・・・・・感激だ」なんてニュアンスの言葉が聞こえてくる。

 守護者ってどんなブラック企業だよ。

 輪廻の枠から外れて永続雇用ってか? 聞いたことねえよ、そんなもん。

 

 

「どうですか、シロウ。ここが駆け出し冒険者の街『アクセル』です!」

 

「この街は活気よく、子どもたちは元気に駆け回りながら遊び、大人たちは明日を生きるために確固たる意志を持って働いている。とても良い街だな、めぐみん」

 

 

 俺たち、パーティーは彼のことをシロウと呼ぶことにした。

 めぐみんはシロウに懐きベタベタとしているが、その様は大きなお兄さんに遊んでもらっている近所の女の子ぐらいにしか見えない。

 というよりもシロウの身長が高すぎるだけなのだ。ダクネスも俺より背が高いけどシロウと並べてみると差は歴然としている。

 

 

「なあ、シロウ。あんた、身長どれくらい?」

 

「187センチだ」

 

「な、なに食ったらそうなるんだよ!? はぁ、俺もそれくらいの背丈が欲しい······」

 

 

 シロウまでとは行かずとも高身長に対する憧れは変わらない。

 俺が前衛として闘うことはこの先ないだろうが手足も長ければそれだけリーチが長くなるし、戦闘においては大きなアドバンテージを得ることが出来る。

 後は逃げ足も速くなる。ここ、一番重要。

 

 

「悲観することはないぞ、カズマ。私も君の年齢ぐらいの時は君とそう変わらなかった。具体的にいえば17歳の時、私は167センチほどしかなかった」

 

「それなんていう第3次成長期!?」

 

 

 おかしいな、人間には第2次成長期までしかないと中学校の保健体育で習った気がしたんだが眼前の男にはその理論は通用しなかったらしい。これがDNAの差とでもいうのだろうか。

 

 

「そうこうしているうちに着いたわよ、ここが冒険者ギルドよ。私たちのホームグラウンドってところね」

 

「ほう、なかなか規模ある建物だな。中から酒の匂いや罵声も聞こえて来る……昼間から飲酒とは、とんだ荒くれ者がいるようだ」

 

「この寒い時期になると毎年そうなのだ。この時期には弱いモンスターは冬眠し、強いモンスターが右往左往するからな。駆け出しの冒険者が多いこの地では高難易度クエストを受けようとする奴はそうそういないのだ」

 

「別に冬じゃなくてもあいつらは年がら年中酔っ払ってるだろうが」

 

 

 そう、ダクネスの言葉通り冬には危険なモンスターしか出現しなく、初心者の冒険者には辛い時期である。しかし、この前デュラハンの討伐報酬が戦いに参加していた冒険者全員に渡され懐が潤ったため、危ないかけを渡ろうとはせず、普段と比べて殆どの奴らがこうして勢いよく呑んだくれているのである。

 

 

「ほら、1000エリスを渡すから冒険者登録して来いよ。あそこの受付で出来るからさ」

 

「私も行きますよ、シロウ! ふふ、我がサーヴァントの門出を見守らずしてなにがマスターか!」

 

「了解だ、カズマ。この金はいずれ返す。ではマスター行くぞ」

 

 

 めぐみんは大はしゃぎで受付に向かったシロウの後をついて行く。今まであんな少女らしいめぐみんを見たことがないからどこか新鮮な感じがする。

 

 

「まるでめぐみんがシロウの妹みたいだな」

 

「そうだな、いつもどこか他人に対して肘を張っていたようだったからな。シロウとの出会いはめぐみんにプラスになるだろう」

 

「肘を張る? めぐみんが?」

 

「なんだ、気付いてなかったのか?」

 

 

 正直に言うと全く気付いてなかった。

 まあ、でも振り返ってみたらそうだよな。

 13歳の少女が一人で故郷を離れてこのアクセルの街までやって来たのだ。素直にその度胸は凄いと思うし、日本人の尺度で考えてみたらあり得ないことだ。

 そんな少女が他人に気を取られないように意地を張るのは分からなくはない話か。

 

 

「そこまでめぐみんのことを見てるなんてダクネスはめぐみんのことが好きなのね!」

 

「仲間として、な。もちろん、アクアのことも好きだぞ」

 

「あれ、俺の存在はどこいった?」

 

 

 いつの間にかダクネスの頭からは俺という存在は消されていたらしい。

 そんなたわいのない話を3人で続けているとめぐみんたちと別れてから20分が経過しようとしていたことに気付いた俺たちは2人の元へと足を向けた。

 

 

 

「おーい、めぐみん! シロウ! 手続きは終わったか?」

 

「冒険者の仕事やシステムについて説明と簡単な個人情報を書き終えたところです。次はお待ちかねのステータス分析ですよ!!」

 

 

 おお、遂にきたか。シロウは英雄だから高ステータス間違いなしだな! 駄女神を超える潜在能力がお目にかかれるに違いない!!

 

 

「······2人とも期待し過ぎだ」

 

「そんな謙遜はいいのです! ふふ、これから私とシロウの伝説が始まるんです!!」

 

 

 めぐみんはシロウの言葉を遮り、彼の腕をステータス測定をするための水晶にかざす。興奮のあまり、紅魔族特有の赤い瞳が光り輝いていて不気味なオーラを放っている。それだけ、めぐみんがシロウに期待しているのだろう。

 

 

「エミヤシロウさん、ですね。筋力はそこそこ高く、生命力は非常に高いです。魔力は中の上。器用度は······ちょ、ちょっと何ですかこの器用度!? 3桁後半どころかカンストしてます!! これほどの器用度なら冒険者稼業はやめて王都で超一流のコックや執事長になることをオススメしますよ!?」

 

 

 受付嬢の驚きの声にギルド内がざわめく。

 

 

「器用度が最大値だって? 何でそんな奴が冒険者になるんだよ!?」

「コックとかバトラーの職業なんて冒険者にあったっけ?」

「んなもんねえよ! 戦場がキッチンか屋敷とか城のやつが何で冒険しなきゃならないんだよ!!」

 

 などといった声が聞こえてくる。

 何だろう、俺も凄まじい潜在能力が明かされてギルド内が大騒ぎになったりするシチュエーションを望んだことはあるけど、こんな騒がれ方は俺は嫌だ。

 

 

「どれだけ霊基が未熟でも器用さは変わらんか。染み付いた技能とは恐ろしいものだな。御託はいい、続きを頼む」

 

「あ、分かりました。こほん、敏捷性はそれなりに高く······って、幸運が最低値っ!? あなた、一体どれだけ苦労してきたんですか!?」

 

 

 この声にまたもやギルド内が騒がしくなる。

 

 

「幸運値が最低だって? とんだ苦労人だな。あ、だから白髪なのか」

「アクアちゃんより幸運値が低い人、初めて見たわ」

「ある意味徳が高いな、ちょっと拝んでくる」

 

 

 

やっぱりこんな騒がれ方、俺は嫌だ!!

 

 

 

「筋力値、器用度、敏捷性の計3つが高いので弓兵系統の職業をお勧めしますがどうなさいますか?」

 

 

 シロウは受付嬢が提示してくれた推奨のクラスが書かれた書類に目を向ける。俺もその書類に目を落とす。

 

 そこには弓兵の基本職であるアーチャーを始めとし、スナイパー、ハンター、狩人、レンジャー、ワンダラーといった中級職や上級職がずらっと並んでいた。

 

 

「ほう、中級職だけでなく随分と上級職の名があるな。ここまで候補が多いと迷いどころだな」

 

「私としてはワンダラーを推すわ。歌って踊ってればいいんだもの。これほど楽な職業なんてないわ」

 

 

 俺はシロウがワンダラーなんて選んだら引くぞ。身長が190センチ近くかつガチムチの大の大人が踊ってる絵面など想像もしたくない。もしそうなったら俺たちの腹筋が破壊され、戦闘どころの話ではなくなるに違いない。それにバフのスキルはアクアが充分こなせるからあまり必要性を感じない。

 

 

「私は筋力、器用さ、敏捷性以外にも生命力が高いからな。それを活かすためにも接近戦もこなせる職業がいいのだが」

 

 

 なるほど、高い生命力を活かして接近戦も出来る職業を選ぶのか。シロウは筋力もそこそこ高いらしいから前衛としても有効的に機能するに違いない。

 正直に言ってうちのパーティーは魔法使いが多く、唯一の接近戦が出来るダクネスは攻撃が当たらないため、壁の機能しか出来ないので近距離戦闘も行ってくれるのはありがたい。

 

 

「その条件でしたらレンジャーが適しています。高い機動力と狙撃能力に加え、接近戦もそつなくこなせる職業となっています」

 

「ではレンジャーにするとしよう」

 

 

 シロウがそう言うと受付嬢は俺には見せたことのないにこやかな笑みを浮かべて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、レンジャーで職業を登録させていただきます。冒険者ギルドへようこそ、エミヤシロウさま!スタッフ一同、今後のご活躍を期待しています!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前作から見て下さっている方も居るようなのでここで前作との変更点を少々書いておきたいと思います。

現時点で開示できる変更点は2つあります。

1つ目は前作の第2話ではシロウとカズマは同一世界出身の設定でしたが今作では別の世界線の扱いです。
2つ目は前作ではアクアが衛宮士郎が英霊となった事情を全て知っていた設定だったのですが同一世界線上という設定を消去したので今作のアクアはシロウについて全く知りません。



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第3話 騒がしい奴ら

次の投稿は1週間以上先になると言ったのは嘘だ。






 冒険者登録も無事に完了し、私たちは早めの夕食をとることにした。サーヴァントの身である以上食事を摂る必要はないのだが異世界の料理がどういったものなのか気になり、こうしてカズマたちと食卓を囲んでいる。

 食事のメニューに関しては名前だけ見ても全く想像がつかなかったため、めぐみんが勧めたものを注文することにした。

 

 

「む、この唐揚げはなかなか美味だな。だが鶏肉というわけではない······これはカエルの肉か」

 

 

 フォークで大ぶりな唐揚げを一個突き刺す。

 その際に突き刺した部分からジワリと肉汁が溢れ出してくる様は肉料理の様式美といっても過言ではない。

 

 口に頬張れば、からりと揚がった衣が真価を発揮する。外はサクサクで中からは肉汁の旨味が出てくる。

 

 少々口の中が熱いがこれほどの唐揚げを前にして手を止める方が無理だろう。生前にもカエル料理は食べる機会があったが、これほどシンプルな味付けでいて舌を唸らせたものはなかった。さすがは異世界、驚くべしといったところだ。

 

 

「そんなに上品かつ美味しそうに食べられると私たちも奢ったかいがあるというものだ。見たところテーブルマナーも完璧だな。生前は貴族のような身分の高い地位についていたのか?」

 

「別にそういうわけではないぞ、ダクネス。一時期、ある国の名門貴族の下で執事として働いたことがある。その時にテーブルマナーを仕込んでもらったのだ」

 

 

 私の消耗した記憶では彼女に関することをあまり思い出すことは出来ないが、初めて出会った時のことはよく覚えている。というよりは忘れることが不可能である。

 

 高校を卒業してロンドンの時計塔に来たばかりのころに、まだ地理に疎かった私は彼女を狙う暗殺者たちに遭遇し、彼女と共闘したのが出逢いだった。

 

 それから彼女は私のことをシェロと呼ぶようになるのだが、あの時は後々赤い悪魔を交えた血みどろの闘いになるなど想像もできなかった。

 いや、もうあのことを思い返すのは止めよう。古傷が裂ける。

 

 

「ほう、だからそんなにも器用度が高いのか。名門貴族に仕えていたということはゴールデンルールは完璧というわけだな。今度、機会があったら紅茶を淹れてくれるとありがたい」

 

「そちらの方面に関しては一定の自負がある。どんな茶葉であろうとその旨味と香り、確実に引き出してみせよう」

 

 

 となれば、ダクネスにはいずれ最高級の紅茶を淹れなければならない。近日中にはある程度クエストをこなして収入を得たのち茶葉やティーポットなど色々買いに行かなくてはな。

 

 

「やっぱり、俺にはシロウは英雄じゃなくて執事にしか見えなくなってきたんだが」

 

 

 私とダクネスのやりとりを聴いていたカズマが唐突に心外なことを言ってきた。確かに私は正規の英雄ではないが、執事呼ばわりは流石に聞き捨てならない。

 

 

「失敬な。私とて好きでこのような技能を身につけたのではない。必要があったから取得しただけだ。私のことを他の冒険者はコックやバトラーなど好き勝手に言っていたが、それこそ本業の方に失礼だろう。いくら技能はあっても私はサーヴァントで、あくまでも戦う者にすぎん」

 

 

 

 なぜか昔から料理や家事が得意だから好きなんだな、とよく言われたが認めるわけにはいかん。

 家事全般、特に料理を得意としてるのはそれをすることで喜ぶ人がいるからであって、私は料理自体を楽しんでいるわけではない。

 私の料理で周りの人々が少しでも喜び、幸福感に浸れるというのならそれでいいのだ。

 そこに私の感情が入ることは決してない。

 

 

「もちろん、アクアの説明で英雄ってものが卓越した存在っていうのは頭には入っているんだけど、シロウを見る限りでは俺と何も変わらないただの人みたいな感じがするんだよな」

 

「確かに想像していた英雄とシロウがかけ離れているのは事実だ。別にシロウを窘めているわけではないのだが······」

 

 

 ダクネスまでもがカズマと同意見らしい。

 とはいえ、あまりに説明が不足していたか。

 私もこちらの世界の背景を知るのに手一杯だったし、もう何段階か踏み込んだ話をするとしよう。

 

 

「君たちはまだサーヴァントというものを完全に理解していない。せっかくの機会だからこちら側の話をするとしようか」

 

 

 食事を進める手を一先ず止めて、話を始める前に水で口を潤す。

 水を飲んでいて思ったことだがやはり自然豊かな土地の水は美味い。

 無料で飲める水で透き通るように喉を通っていくのだから、この世界の最高級の水はどんなものなのか楽しみである。

 

 

「そもそもサーヴァントとは分類上、使い魔ではあるがその正体は君たちも知っている通り、人々から信仰されることで人間霊である者たちを精霊の領域にまで押し上げた人間側の守護者、つまり英霊なのだ。本来は降霊儀式・英霊の召喚は抑止力のみが可能とするところであるのはアクアから君たちも聞いているのだろう?」

 

 明確には英霊には伝説上のもの、実在したものがおり、信仰が薄いものは守護者という大きな分類に含まれ、私はそのカテゴリーに位置付けられる。真っ当な英霊たちは神性が高かったり、人間側ではなく星寄りの存在になっているため、守護者に取り込まれずに済んでいるのだが、ここまでの話をしようとすると混乱を招きかねない。

 

「聞いています。世界が滅亡の危機に瀕した時に抑止力の守護者として召喚され、その事態を引き起こしている要因を排除し、世界を存続させるために奔走する存在が人間を超越した英霊である、と。それゆえに人間が英霊を使役することは不可能なんですよね?」

 

 

 めぐみんの言葉に頷きを返す。

 マスターであるめぐみんが英霊についてしっかりと理解してくれていたようで安心する。

 カズマ曰く、紅魔族は変な名前(本名)を堂々と名乗り、中二病のような芝居がかった言動をとることを本人たち自身は格好いいと思っているらしい。

 その大変残念な価値観を持っている代わりに生まれつき高い魔力と知力を保有しており、魔法使いとしての高い適性を持つそうだ。

 

 

「しかし、何事にも例外があるように英霊召喚にも裏技のようなものがある。それが先ほど説明した聖杯だ。私の故国の冬木という土地で始まりの御三家と呼ばれる魔術師の家系のものたちがあらゆる願いを叶えるという聖杯を作り出した。そして彼らを含めた7人の魔術師のマスターは聖杯を完成させる儀式として聖杯戦争、要するにサーヴァント同士の殺し合いを行なった。この時点で例外が生じているのは分かるだろう?」

 

「本来、人間には降霊できないという英霊を召喚しているということだな。話を聞く限りでは英霊とサーヴァントの区別があるようだが······」

 

「ダクネスの言う通りで英霊とサーヴァントには明確な区別がつく。結論から言うと聖杯に招かれる英霊は全てがそれぞれクラスに応じて選ばれているのだ」

 

「クラス······? その、シロウがアーチャーと呼ばれているようなやつか?」

 

「そうだ。もとより英霊をまるごと召喚すること自体が奇蹟に近い。それを7人分となると願望器とも呼ばれている聖杯でも手が余る。その解決の為、聖杯は予め7つの器を用意し、その器に適する英霊だけを呼び寄せた。それが7つのクラス、

 

 

 

 

剣の英霊、セイバー

 

 

槍兵の英霊、ランサー

 

 

弓兵の英霊、アーチャー

 

 

騎兵の英霊、ライダー

 

 

魔術師の英霊、キャスター

 

 

暗殺者の英霊、アサシン

 

 

狂戦士の英霊、バーサーカー

 

 

 

聖杯は役割に該当する能力を持った英霊をあらゆる時代から招き寄せる。そうしてクラスという殻を被ったものが『サーヴァント』と呼ばれる。英霊時とは違って霊核が幾分か劣化しているため能力やスキル、それ以外にも様々な制約を受けるがそれでも人間とは一線を画した存在であることには違いない」

 

 

 この他のクラスにもエクストラクラスというものが存在するようだが、詳細は私も知らない。

 そもそも通常の7つのクラスに該当せず、通常の枠から外れた英霊だ。

 英霊と呼べるか怪しい存在が召喚される可能性が高い。

 第三次聖杯戦争ではアインツベルンがアンリマユをアベンジャーとして召喚した辺り、私のように正規の英霊ではない者だけに与えられるクラスなのかもしれない。

 

 

「そうなるとおかしくないか? ウィズの店にあったあの魔道具はシロウをサーヴァントとして完全に召喚してみせたぞ。シロウ一騎だけとはいえ、あの魔道具ってそんなに凄いものだったのか」

 

 

 そう、カズマの言う通りだ。

 英霊をサーヴァントの領域にまで落として召喚することさえ、神域のそれによるものだ。

 けれどもあれは実際に私というサーヴァントを召喚してみせた。

 

 

「私もめぐみんに召喚され、すぐに異常を察知したよ。これは聖杯戦争ではなく守護者として召喚されたわけでもない、と。話を聞けば、英霊を召喚する魔道具とやらが私を呼び寄せたそうではないか。あれを作り上げた者は間違いなく天才であろうよ。聖杯に比べて随分と劣化し性質もかなり異なるが、サーヴァント一騎分を召喚出来る容量を持つ上に私が現世に留まれる程度にはめぐみんをバックアップしているようだしな」

 

 

 私の解析魔術で調べた限りではあの魔道具は聖杯の願望器としての能力を削ぎ落としたようなものだ。

 聖杯があらゆる願いを叶えるために造られたというのなら、あれはサーヴァントを一騎のみこの世界に呼び込み、留ませることだけに専念した魔術礼装と言ったところか。

 令呪システムのような使い魔制御の術式がないのが唯一の欠点と言えるが、規格外のものであることには変わりない。

 

 

「待ってくれ。仮にあの魔道具が壊されて、めぐみんへのバックアップがなくなったらしたらシロウはここに居られなくなるのか?」

 

「めぐみんの魔力量にもよるが、あの魔道具のバックアップなしでは私は2、3日でこの世界から消え去るだろう。あくまで聖杯や魔道具が私たちをこの世界に呼び込むのであって、マスターが呼び寄せたものではない。マスターはサーヴァントに魔力を供給するための燃料のようなものだからな。だが心配することはない。ウィズには魔道具を厳重に保管しておくように話を通しているし、めぐみんはまだ13歳と若く潜在能力も計り知れん。あの魔道具が時間経過による劣化等で機能しなくなってもめぐみんが魔法使いとして大成する頃には私程度のサーヴァントは優に維持できるようになるさ」

 

 

 めぐみんは未だ魔法使いとしては未熟だ。

 だが、全盛期を迎え、魔力量が最大になるときには魔道具などに頼らなくても私程度の存在など楽に現界させられるだろう。

 自分で言うと悲しくなるが、めぐみんは私にはもったいないほどの才を持った魔法使いなのだ。

 

 

「ふふふ、シロウは見る目がありますね。やはり、私は最高のサーヴァントを召喚してしまったようです。これで戦闘も楽になりますし、借金返済も時間の問題でしょう!」

 

 

 何やら不穏な言葉が聞こえてきた。借金、と言ったか?平均年齢が20も満たないこのパーティーがなぜ借金など······ああ、そういえばアクアがいたから平均年齢が20未満というのは詐欺になるか。

 というか借金を作ったのは九分九厘アクアだな。

 金運のなさが赤い悪魔と似てるから分かる。

 

 

「確かにそう考えたら未来が明るいわね! なら今日という日を祝福するために宴でもやるとしますか!!」

 

「借金作った原因、お前だけどな」

 

 

 やはりか。

 

 

「何よー! ベルディアもちゃんと倒せたし、借金はシロウの助力で何とかなりそうだし、今日は飲まずにはいられないわよ!!」

 

「あ、なら私もお酒が飲みたいです!! もう水とジュースは飽きました!」

 

「めぐみんに酒を渡すな! 酔っ払って爆裂魔法でギルドや街でも壊したらまた借金が増えるぅぅぅ!!!」

 

 

 

 どうやら今日から騒がしい日々が始まりそうだ。今まで守護者として殺伐とした日々を送っていたがこういう雰囲気もたまになら悪くはないかもしれ

 

 

 

 

 

 

「エクスプロー「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 やっぱり良くないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今度こそ次の更新は1週間から2週間以上先になります。
ごめんよ。


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第4話 Megumin breaks Emiya’s heart

特に意味の無いめぐみんの爆裂魔法がエミヤを襲う







「シロウ、私の日課に付き合ってくれませんか?」

 

 

 私がめぐみんによって召喚されて早2日。

 私としてはこの世界で自身の力量がどこまで通用するのか高難易度のクエストを請けて確かめたかったのだが、パーティーのリーダーであるカズマが「もう痛いのはこりごり。冬の危ない時期は内職系冒険者としてやっていこう」などという戯言を残して土工のクエストを受けて早々と仕事に出かけてしまった。

 

 そんなこともあり、主にこの2日間は討伐クエストといった危険なクエストを受けることもなく、ギルドの料理長やギルドで臨時の受付を担当するなどといった雑用クエストをやっていた。

 

 ほぼ一日中ギルドで働いていることからこれでは冒険者ではなく、ギルド職員に就職したのではないかという錯覚まで覚えかけた。

 

 後、私が受付を担当している時だけやたらと女性の冒険者が私のところに列を作るのは一体どういうことだろうか。

 同僚のルナに話したところ、彼女も同じような経験をしたことがあるらしかった。

 彼女の場合は女性ではなく男性が長蛇の列を作るそうだが……原因は不明である。

 

 まあ、そのことはともかく割と忙しい日々を過ごしたこの2日間だったが今日はめぐみんから自身の鍛錬に付き合って欲しいと言われ、こうしてアクセルの街から雪の積もった草原へと足を踏み入れた。

 彼女は修行として毎日攻撃魔法を撃ち込みに出かけるそうなのだが、昨日はまだ私を召喚した際の魔力消費に対して戻った魔力が少なく念の為休みを取ったそうだ。

 

 

「そういえば、この世界の魔法を見るのは初めてだな」

 

「ふふ、シロウは運がついてますね。異世界からやってきて初めて見る魔法が私の魔法なのですから」

 

 

 確かにこの世界で魔法使いとして、選りすぐりの才能を持つ彼女の魔法をこの目で見れるだというのだから私はついているのかもしれない。

 

 めぐみんは深呼吸をして息を整える。

 その顔つきは日常に見せる少女のものではなく、一人前の魔法使いのように感じられた。

 

 そして、膨大な魔力がめぐみんの杖の先に流れて行き、光が灯る。

 

 小さな光だとしても侮ることなかれ。

 あの光の中には凝縮しためぐみんの魔力が込められている。

 

 繰り出される魔法がどういったものか想像出来ないが当たれば私でもタダでは済まない……いや、相当の深手を負うことになると直感が叫んでいる。

 

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 

 杖から放たれたその光はまさに光速を名乗るのに相応しい速さで目標である廃城へと吸い込まれるように向かう。

 

 直後、地面が揺れた。

 映画で見るような大爆発を思わせる強烈な光と辺りの空気を振動させる轟音と共にめぐみんが放った魔法はこの大地をも揺らしているのだ。

 

 一つ訂正しよう。

 あの攻撃魔法を喰らえば、相当の深手を負うことになると考えていたが……私の素の防御力ではあの攻撃には耐えられず、即死することになるだろう。

 

 タメが少々長いのが欠点だが1発分の威力は桁外れであり、目測ではあるがギリシャの大英雄でさえ、当たれば無事では済まないはずである。

 

 その突出した攻撃力もそうだが、1番凄いのはめぐみんの保有魔力量だろうか。

 あれだけの魔力を消費してもなお、凛として立っているなど……

 

 

「ふぅ、それじゃあ今から倒れるのでアクセルまでおぶって下さいね、シロウ」

 

 

 そう言い残してめぐみんはばたりと崩れように倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 果たして一体何が起きたのだろうか。

 あの攻撃魔法を使用した反動を受けているのか。

 決して魔力がなくなったから倒れているわけではないと信じたい。

 

 気のせいならばいいのだが、先程からめぐみんからの魔力供給が完全停止している。

 これでは私の現界に支障が出るのだが、いや、さすがにめぐみんもそこまでアホの子ではないだろう。

 

 私の召喚を嬉々として喜んでくれた彼女である。

 私の存在を維持出来ないほどの大魔力を消費して私を消滅させるなどといった自滅をするわけが無い。

 こ、紅魔族は知力が高いとカズマも言っていたし……

 

 

「お、やっぱりこうなったか。今回の賭けは俺の勝ちだな、アクア。ギルドに帰ったら飯奢れ」

 

「いやよ! だってめぐみんが爆裂魔法を使ってシロウ共々消滅するなんて思わないじゃない!! ねぇ、カズマさん、奢りは勘弁してぇ! もうお金ないのよぉぉぉぉ!!」

 

 

 どうやらこの事態を予測していたらしいカズマとこの事態を予測出来なかったアクアが私たちの元へとやってきた。

 

 

 

 

 詳しい話を彼らから聞いたところ、めぐみんは爆裂魔法という攻撃魔法の中でも随一の破壊力を持つ魔法の担い手であり、彼女は爆裂魔法しか扱えない、否、爆裂魔法しか扱う気がないのだという。

 しかし、爆裂魔法はその破壊力と広範囲な魔法ゆえに消費魔力が激しく、熟練した天才級の魔法使いでも1日1発が限度だそうだ。

 

 冒険者の間柄では爆裂魔法=ネタ魔法の公式が成り立っているほどであり、貴重なスキルポイントを浪費してまで習得するやつは引退した歴戦の冒険者か頭のおかしいやつしかないようである。

 どうやら、めぐみんは頭がおかしい部類に入ってしまうらしい。

 

 普段からめぐみんが爆裂魔法を撃ち込みに同行するカズマはこの事態を想定し、なるべく戦闘時以外は使用するなと口が酸っぱくなるほどめぐみんに言い、彼女もそれを了承したそうだがこの結果である。

 カズマとアクアがここまでやってきたのも街の門から出ていくめぐみんと私を目撃したダクネスとその友人が2人に知らせてくれたからだという。

 

 彼女とその友人には紅茶を淹れるどころか特製のフルコースでもてなさなければ最早私の気が済まない。

 召喚3日目で死にかけるのは聖杯戦争でもなかなかないことなのだから。

 

 まあ私が未熟者だった時は初日から死にかけてた気がするが。ケルトの大英雄に一度は心臓を穿たれ、ギリシャの大英雄には身体を真っ二つにされかけた。ゲームで例えるのなら村人Aがラスボスに素手で挑むようなものである。生き残っただけでもお釣りが来るぐらいだ。

 

 

 

「ま、というわけでこのままじゃシロウが消滅するから魔力供給をサクッと行うか」

 

「何だ、カズマ……これから消滅して英霊の座に戻る私に何か用か?」

 

「ねえ、カズマさん。早くシロウにドレインタッチしてあげて。この子、完全に目から光が消えてるんですけど。息を吹きかけたらたんぽぽみたいに飛んでいきそうなんですけど!」

 

「だあああ! 消えるなぁぁ、シロウぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、心配をかけた」

 

 

 カズマが魔道具店を経営するウィズから教わったというリッチー特有のスキルであるドレインタッチを使ってアクアから私に魔力供給をすることで何とか私は生き長らえた。

 

 めぐみんにとってあのエクスプロージョンという魔法を放つことが習慣である。ということは毎日私は魔力供給が上手くいかず消えかけることに直結する。

 アーチャークラスのみが保有する単独行動のスキルにより、魔力供給がなくても2日ほど存命できるとはいえ、日常的にこの状況に陥るなど想像もしたくない。霊体化して魔力消費を抑えてめぐみんの魔力が回復するのを待つにしても残念ながら翌日には彼女(爆裂大好き少女)はあの魔法を使ってしまうだろう。それでは彼女からの魔力供給が上手くいかず私が消えてしまうし、戦闘面で役に立たないサーヴァントなど塵紙以下だ。

 今は料理長代理という立場に甘んじているがそう遠くない日に闘いはやってくる。指を咥えて傍観者でいることは私にとってはなからない選択肢なのだ。

 

 そこでカズマが考えてくれたのが彼が保有するスキルであるドレインタッチでアクアからめぐみんに魔力を手渡すという抜け道だ。しかし、めぐみんにもう一度爆裂魔法を放てるほどの魔力を渡してしまえば、今回の二の舞になってしまう可能性が高いため私が現界出来る程度の魔力しか渡す気はないらしい。

 

 本来であれば、召喚者であるめぐみんに魔力供給をするべきなのだろうがカズマがアクセルに帰ったら椅子に縛り付けて説教するから魔力を回復させない方が都合がいいと言ったため、それに従うことにした。

 今回ばかりは命の恩人であるカズマには逆らえない。

 逞しく生きろ、めぐみん。

 

 

「まあ、めぐみんも悪気があってやった訳じゃないし、許してやって欲しい」

 

「許すも何も私はめぐみんに対して怒ってはいないさ。思わず、頭がフリーズしてよく分からないことを言っていたらしいが私は大丈夫だから安心してくれ」

 

「うんうん、シロウ偉いわよ。めぐみんは頭おかしくてネジも何本も飛んでるけど根はいい子なのよ」

 

 

 アクア、それは貶しているのか褒めているのかどっちなんだ。後、頭を撫でるのはよしてくれないか。泣きたくなるから。

 

 

 私はめぐみんを背負って二人と共にアクセルの街へと向かう。

 彼女の無鉄砲な行動で危うく座に戻りかけたことで、これからめぐみんとやっていけるかどうか不安になる。

 だが、彼女のすやすやと眠る寝顔を見てそのようなことはどうでもよくなってしまった。

 

 元よりこの身はこの世界には干渉してはならない、否、そもそも干渉できないはずだったものである。

 それがめぐみんに召喚されることで異世界にやってきたのだ。

 であれば守護者としての汚れ役を遂行する必要がないということである。

 

 だったら、彼女を見守ることに努めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少なからず、それが今の私の存在意義であるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読者の方に指摘されたシロウの現界状態について修正しました。これでいいのかは分からないですけどとりあえずこれで維持です。


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