綾小路が坂柳有栖ちゃんに一目惚れした場合 (魅雲八雲)
しおりを挟む

第1話 入学式

ハーメルンでの投稿は初めてです。
至らぬ点が多々あるかと思いますがよろしくお願いします。
誤字脱字の報告や感想などお待ちしてます。


ひと悶着あって居心地の悪かったバスを降りて、オレは正門の先を見据えた。

東京都高度育成高等学校。

オレがこれから三年間を過ごすことになる学び舎だ。

日本が国主体となって作り上げた学校で、ここの卒業生は既に日本中、いや世界中で目覚ましい活躍を遂げているとか。

屈指の就職率・進学率を誇っており、毎年それを目当てに全国から応募が殺到する。

だが、オレがここに進学したのはそんな理由のためじゃない。

「ホワイトルーム」で松雄という男から聞かされた情報。

この学校に行けば在学期間の三年の間、生徒は外部との連絡を遮断される。

裏を返せば、外部もまた生徒との連絡が取れないということ。

そしてそれは「あの男」――つまりオレの父親も同様らしい。

日本で唯一あの男の手から逃れ得る場所、オレはそれを求めてやってきた。

外の世界には前から興味があったしな……。

 

「ちょっと。さっき私の方を見ていたけれど、なんなの?」

 

歩き出そうとした瞬間、真横から呼び止められる。

さっきまで車内で隣に座っていた少女だ。

オレと同じ新入生だろう。

 

「悪い。あんた、さっきは堂々としてたなって思って。ああいう時って、なんだかこっちに非がある気がしてくるよな」

 

「私は信念を持って無視していたの。あなたと一緒にしないでもらえる? 自分に落ち度があると思うのは、心のどこかで自分が悪いと認めているからよ。私は自分が悪いことをしたとは思っていないもの」

 

「オレはああいうことに関わって目立ちたくなかっただけだ。事なかれ主義なんでね」

 

「願わくば、あなたのような面倒ごとを嫌うだけの人とは関わらずに過ごしたいものね」

 

「……同感だな」

 

……なんだか凄い奴に話しかけられてしまった。

お互いにわざとため息をついて同じ方角へと歩き出そうとしたその瞬間、オレは横を通り過ぎようとしていた人物に目を奪われた。

染められているのか天然なのか、銀色の髪に白い肌の少女。

どこか儚げなその少女は片手で杖をついて歩いている。

人体の構造やボディメカニクスについても一通りの知識は持ち合わせているが、あの歩き方はおそらく何らかの疾患によるものだろう。

 

「寮生活とか大変そうだな……」

 

まあ他人の心配をしている場合じゃない、か。

立ち止まっていた間に黒髪の少女は歩き出していたようで、既にオレの隣には居ない。

オレも行くか……と思い立った矢先、ひと際強い風が吹いた。

銀髪の少女は咄嗟にスカートを押さえたようだったが、それで少しバランスを崩したようだ。

よろけていたので小走りで駆け寄って肩を軽く掴んでやる。

すると彼女はオレに視線を向けた。

 

「あ……すみません、ありがとうございます」

 

いや、気にするな。

そう言おうと思っていたのに、彼女の顔を見ていると言葉が出てこなかった。

端正な顔立ち、ほんのりと上気した頬、吸い込まれてしまいそうな大きな瞳。

 

……なんということだろう。

 

オレはこの少女を、とても可愛いと思ってしまった。

 

これが一目惚れ、とかいうやつだろうか。

徹底した監視体制の敷かれていたホワイトルームでは恋愛感情に程遠い生活をしていた。

その反動だろうか?

鼓動がうるさいくらいに高鳴っている。

どうやらオレは、あの部屋に居たままでは見つけられなかったことを早速見つけられたらしい。

 

「では、私はこれで……」

 

オレがそうこうしている内、少女は自分で体勢を整えて歩き出した。

ああ、名前を訊きそびれた。

今から追い付いて名前を尋ねるのは不自然だ。

オレは落胆したまま石造りの正門をくぐった。

せめて同じクラスでありますように。

 

「はあ……」

 

希望は易々と打ち砕かれた。

1年Dクラスの後方、隅の席から教室を見渡す。

銀髪の少女が居ないどころか、バスで騒動の元になった金髪、そしてオレの隣には例の黒髪の少女まで居る。

 

「先が思いやられるな」

 

 

 

茶柱佐枝という担任がやってきて学校の説明をされる。

パンフレットを見てSシステムに関しては知っていたが、まさか月に10万ポイントを貰えるとはな。

特に使い道も無い。

無難に貯金しておくのが吉だろう。

その後自分でも最低だと思える自己紹介をし、入学式へと移動。

諸々の説明を受け、その日は解散となった。

この学校で本気を出すつもりは初めからない。

どこにでもいるような生徒Aになれればそれで御の字だ。

 

 

 

それから数日経った。

最低の自己紹介の割に、そこそこに学生生活をエンジョイできている。

須藤や池、山内たちとのバカ騒ぎも悪くない。

と、自分では思っていたが、やはりどこか物足りなさを感じていた。

それは入学式の日に出会ったあの少女の存在だ。

オレたちと同じ新入生なのだろうが、それとなく探してみても不思議と彼女は見当たらなかった。

この学校の妖精かなにかだったのだろうか。

なんてことを考えつつ、携帯端末の表示を見つめる。

今日は五月一日。

月の初めにプライベートポイントを受け取るという話だったが、オレには1ポイントすら振り込まれてはいなかった。

周囲の生徒もざわついている。

朝のホームルームにやってきた茶柱先生はこれまでとは打って変わり、Dクラスの連中を見下したような態度で重大な発言をした。

この学校は生徒をその能力に応じてクラス分けしていること。

クラスポイントが増えない限り月に支給されるポイントも増えず、またクラスポイントによってクラスは変動すること。

なるほど。

オレはどうやら意図せずして実力至上主義の教室へと足を踏み入れていたらしい。

 

放課後。

茶柱先生に言わせれば「不良品」であるDクラスの連中は一様に落胆している様子だったが、それでもポイントの貸し借りや物品の売買でどうにか自分のプライベートポイントを増やそうと画策している。

オレも山内にゲーム機を買ってくれと頼み込まれたが、これを丁重にお断りした。

 

『1年Dクラスの綾小路くん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』

 

教室に突然響いた呼び出し。

目立つようなことは何もしていないはずだが、はて。

重い足取りで職員室へと向かう途中、Aクラスの扉が開かれた。

そこからは入学式以降姿を見ていなかった銀髪の少女と、それに続いて数人の取り巻きが出てくるところだった。

どうやら、いつも周囲に人が居るせいで彼女を視認できなかったらしい。

まあ、オレが本腰を入れて探そうとしていなかったのも確かだが。

違うクラスになった以上、下手に探り回れば自然と周囲で噂されることになる。

あまり目立ちたくなかったオレとしてはどうにも気が進まなかった。

 

「……いや。待てよ」

 

オレがホワイトルームで学べなかったこと。

あの男が不要と切り捨てたもの。

オレはそれを学ぶためにホワイトルームを出てあの男の監視下から逃れてまでこの学校を選んだはずだ。

なら――自分があの日感じた鼓動の高鳴りに従ってみるのも悪くない。

あの少女の近くで学生生活ってヤツを謳歌する。

イメージしてみると、それは思いのほか楽しそうだった。

 

職員室で茶柱先生に出会う。

どうやら何か企んでいる様子だが、どうせオレにとって些末なことだ。

そんなことより、と気になっていた点をさっそく質問する。

 

「先生は前に言ってましたよね? 『学校内においてこのポイントで買えないものはない』と」

 

「言ったが、それがどうした?」

 

「オレがAクラスに行くには何ポイント必要ですか?」

 

「……」

 

茶柱先生は訝しげな様子でしばらくオレを見つめた。

その眼光の鋭さは睨んでいると形容しても良いかもしれない。

 

「お前はそういう欲とは無関係な生徒だと思っていたがな。聞いても無駄だと思うが教えてやろう。2000万ポイントだ」

 

オレは素早く脳内で計算を巡らせる。

誰が聞いても不可能に思えるであろう額。

だが、うまく運べばあるいは――

 

「ちなみに過去、この偉業を達成した者は一人として居ない。徒労に終わるぞ。私としてはクラスポイントの変動でAクラスになることを勧める。もっとも、こちらも過去に達成されたことは一度たりとも無いがな」

 

それでは駄目だ。

あの少女を蹴落として手に入れるAクラスに価値は無い。

 

「じゃあオレがその偉業の一人目の達成者ですね。今の内に銅像でも作っておいてくださいよ」

 

その後堀北を交えて茶番を繰り広げた後、オレは自室に戻って今後の計画を立てた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 転換点

それから数か月後。

 

体育祭も終盤。

オレは怪我をした三宅の代わりに1200メートルリレー競技に参加することになり、アンカーとして並んでいた。

銀髪の少女、坂柳――あの後、彼女がAクラスを束ねる二人の内の一人、坂柳有栖という生徒だと知った――は先天的な疾患で自由に運動ができない。

競技には不参加だが、一応体育祭には参加しているらしい。

遠くで椅子に座って見物している様子が見える。

 

スタートまでの間、オレはこれまでの出来事を軽く振り返ることにした。

 

最初の中間テストは勉強会と秘密兵器の過去問でクラス全体の点数を底上げした。

須藤の英語の点数が一点足りずに危うく退学になりかけていたが、事前に茶柱先生に「身分や実態のないものでもポイントで購える」ことを確認していたオレは堀北と共にプライベートポイントを10万支払うことでその救済に成功。

その裏でかなり儲けさせてもらったためオレ単独でも支払いは遂行できたが、10万ポイントしか支給されていないオレたちDクラスの生徒が10万ポイントを所有している筈がない、という堀北の思い込みにより出費は半分で済んだ。

 

続く須藤絡みの事件。

佐倉愛里という生徒が何か情報を握っている風だったが、問題を起こした側であるDクラスの生徒が証言をしたところで効果は薄い。

そのため彼女の協力は仰がず、秘密裏にCクラスの生徒たちに話を持ちかけて訴えを破棄させた。

 

夏休みに行われた無人島の試験。

茶柱先生に改まって「DクラスをAクラスへと導け」と強く脅されたが、そういう態度に出るのは余裕のない表れだ。

彼女ももしオレが単独でAクラスへと移動した場合、担任と教え子ではなく単なる教師と生徒という関係に落ち着くのを恐れている。

他クラスの教師が他クラスの生徒を容易に、しかも自分勝手な理由で退学に出来ないことは把握済みだ。

その場では協力する態度を見せたが、茶柱先生もそれを素直に受け取ってはいないようで、それ以降接触の回数が格段に落ちた。

以前に比べて覇気もない。

彼女がAクラスに固執しているのはなんとなく察したが、まあオレには関係の無いことだ。

置き土産のつもりじゃないが、結果的に試験ではDクラスを一位に導いたしこれで勘弁してもらおう。

クラスポイントが増えるのはオレにとっても悪い話じゃないしな。

 

続けて行われた船上の試験。

Dクラスの女子の中心人物である軽井沢とCクラスの真鍋という生徒が険悪な雰囲気になっていた。

問題が起きないうちにさっさと終わらせよう、と適当に一之瀬の名前を書いて学校側にメールを提出した。

が、これは受理されなかった。

これで結果3か結果4における「優待者と同じクラスメイトが正解/不正解した場合、答えを無効」が確定したため優待者がDクラスに居ることが明らかになった。

幸村や外村は隠し事を出来るタイプじゃない。

当然オレ自身優待者ではない。

消去法で考えると、優待者に選ばれていたのは軽井沢だった。

オレは同じグループの内、守りに入って傍観していたAクラスの生徒、町田に裏で取引を持ち掛け、書面を作って契約を結んだ。

内容はこうだ。

町田が軽井沢の名前を書いて学校側に送信し、結果3の「優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場合」を生み出す。

その見返りとしてオレが得るのは、町田が得る予定の50万プライベートポイントの内45万プライベートポイント。

オレが仮に間違えた優待者の名前を教えていたのなら、現在オレの所有しているプライベートポイントと将来的に入ってくるプライベートポイントを全て町田へと譲渡する。

結果3で発生するポイントの増減は、当てた生徒の所属クラスに50クラスポイントと、その生徒自身に50万プライベートポイントの支給。優待者のクラスを見抜かれたクラスはクラスポイントをマイナス50にするペナルティだ。

だがこのペナルティはオレにとって存在しないも同義。

町田は最初こそ訝しんだものの、オレが陰気な声色で「どうせDクラスはAに上がれない。ならせめて、クラスポイントを捨ててでもプライベートポイントは欲しいんだ」と言うとあっさりと受け入れた。

葛城派の町田には、無人島での試験でクラスポイントを大きく落としたAクラスに貢献したい思いが強かったのかもしれないな。

勿論断られた場合には他のAクラスの奴に教えることも考えていたが、結果として杞憂に終わった。

……しかし、勿体ないことをした気がしないでもない。

軽井沢は優待者であることをおくびにも出さず極めて平常な立ち振る舞いをしていた。

正直、もし他の奴が優待者ならもっと早くにオレは見抜いていただろう。

隠し事をしている人間はどうやったってそれを隠そうとして不自然な態度になる。

だが彼女はそれを悟らせずにやってのけた。

もしオレが茶柱先生の指示通りにDクラスをAクラスに引き上げることを選択したのなら、この軽井沢という少女の存在は極めて有用だったはずだ。

 

その他にもオレは数多の裏取引を重ねた。

常人にはあり得ないスピードで着々と積み増しされるプライベートポイント。

以前、一之瀬の所有しているプライベートポイントの額には驚かされたが、今ではあの時の10倍程度のポイントをオレは所有している。

 

そして体育祭の前日、オレはそのポイントを茶柱先生に渡していた。

 

「……まさか、本当にやってのけるとはな。それも入学してたったの数か月で」

 

「それで、オレはちゃんとAクラスに行けるんですか」

 

「ああ。確かに受理した。だが明後日は体育祭で色々と入り用でな。お前のクラス替えは週明けになるだろう」

 

茶柱先生は腑に落ちない、といった表情で続けた。

 

「しかし、何故このタイミングなんだ? AクラスとBクラスには未だ結構なクラスポイントの差があるとは言え、将来のことは誰にも分からない。お前たちの学年が三年になっている時、今のAクラスがAクラスのままである保証はどこにもない。この権利は本来卒業間際に行使するものだと思うが」

 

「あんたには分からないかもしれないが、強いて言うのなら、恋とか愛とか、だな」

 

「は?」

 

呆けた顔の茶柱先生を後にしてオレは指導室を去った。

今までは裏で工作するためになるべく表立って活動することは控えていた。

そのため坂柳に接触したことは一度もない。

彼女にとってオレは、入学式の日にちょっとばかり繋がりを持っただけの男子生徒Aに過ぎない。

ひょっとしたら憶えてすらいないかもな。

そんな一瞬の邂逅だった。

だが、これからは違う。

クラスメイトとして接していくことで関係を深めていきたい。

 

「まずは友達から、だな……」

 

友達か。

オレがAクラスに入ることで、Dクラスの池や山内はおそらくオレから離れていくだろうな。

須藤はそういうタイプでもなさそうだが、今まで実力を隠していたことを不快に思うかもしれない。

堀北は……多分、オレを打倒しようとより一層奮闘する気がする。

まあ存分に頑張るといい。

あいつがリーダーシップを発揮して周囲を引っ張っていけるのなら、可能性は無いわけじゃない。

 

 

 

――パン!

 

乾いた発砲音を聞き、オレの思考は現実に引き戻された。

どうやら合図と共にリレーが始まったようだ。

当初の思惑通り、須藤が最初に引き離してから平田がそのリードを維持する、という作戦は順調のようだ。

あちこちから黄色い声援が飛んでいる。

しばらく走者たちの様子を見守っていると、2年と3年のAクラスがトップに躍り出たようだったが、3年Aクラスの女子が転んでしまった。

それを受けて新任の生徒会長である南雲が、前生徒会長である堀北兄と何やら話し出した。

この勝負は俺の勝ちですね、とかそういった会話が聞こえてくる。

南雲はアンカーとしてバトンを受け取り走り出した。

ほどなくして1年Bクラスの柴田もバトンを受け取る。

間の生徒が抜けたことで、一瞬だが堀北兄と目が合った。

 

「おまえがアンカーとはな」

 

「オレは負傷した人間の代理だ。本来ならこの位置にはあんたの妹がいる予定だった」

 

「そうか。あいつなりに足掻こうとしていたわけだな」

 

「ああ。あんたは卒業して見届けることが出来ないだろうが、あんたの妹が率いるうちの……いや、Dクラスは強くなるぞ」

 

オレの物言いが妙だったことに気付いたのか、堀北兄が少しだけ怪訝な表情を見せた。

だがそれまでだ。

深くは追及してこない。

 

「ひとつ聞くが、おまえ自身はどうだ。おまえからは熱量が感じられない」

 

「そう見えるか? 悪いが顔には出ないタイプなんだ。自分でも意外なんだが、オレは今結構ワクワクしてる」

 

「なに?」

 

オレは日陰で椅子に座っている坂柳の方に目をやった。

最終競技ということもあってか、携帯なんかを弄るでもなく真面目に走者たちを見ている。

ふと、視線が交錯した。

その瞳に吸い込まれそうになるが、オレは堀北兄に向き直った。

 

「この会場中の視線を釘付けにする。オレと勝負してみる気はないか?」

 

「……面白いことを言う男だなおまえは。俺は勘違いをしていたのか?今まで目立つことを嫌い表立って活動することは避けていると思っていた。このリレーでも適当に流して終わると読んでいたのだが」

 

「そうする理由が無くなったからな。あんたが2位に上がる可能性を捨てて勝負してくれるなら受けて立つ」

 

堀北兄は助走することをやめ、完全に足を止めてこちらに向き直った。

 

「面白い」

 

堀北兄はクラスメイトからバトンを受け取るが、そのままそこから動かない。

恐らくは前代未聞のバトンリレー。

異常事態に気付いたギャラリーたちがざわつき出す。

3年Aクラスは次々と後続に抜かれ、ついにはDクラスの櫛田がオレに近づいてくる。

 

「勝負の前に、あんたに一つ言っとく」

 

「なんだ」

 

「――全力で走れよ」

 

一瞬だが、視界の後ろに消えていく堀北兄は少しだけ笑った気がした。

今、バトンが手渡される。

 

「綾小路くんっ!」

 

櫛田から渡されたバトンを受け取り、オレは開幕フルスロットルで駆け出した。

次々と抜かれていく生徒の悲鳴が徐々に遠ざかっていく。

風になる。

今オレの横を走っている男。

この男より速く走ることだけが全てだ。

1つ目のカーブを超え、直線を駆け抜け、最後のカーブへ。

 

ほら――もっと加速するぞ――

 

怒号のような大歓声がグラウンド中に響き渡った。

 

 

 

「……今まで隠していたのね。嘘つき」

 

競技を終えて戻ると、堀北が複雑そうな表情をしながらオレに言った。

 

「本来、あの場にはお前が立ってるはずだったからな。勝てなくて悪かった」

 

「そういうことじゃないわよ。それに、にい……会長との勝負も引き分けだったみたいだし」

 

オレたち二人の追い上げに慌てた前の走者が転び、オレは目の前の進路をふさがれてしまった。

だが、心の重荷が取れたせいか今までにないくらい軽やかな気分だった。

オレは気がつくとその走者の上をハードル走の要領で大きく跳び超えていた。

走り切った結果はビデオ判定にまでもつれ込み、結果として誤差なしの完全な引き分け。リレーをやり直すわけにもいかず、1年のDクラス対3年のAクラスであることが考慮されて順位だけはオレたちが一つ上になった。

次第に他のクラスメイトたちから取り囲まれ、次々に称賛を受ける。

 

「どうして本気で走ったの? これであなたは注目を浴びることになるわよ?」

 

堀北の言葉に少し冷酷に返す。

 

「もう隠す必要は無いからな」

 

「……?」

 

堀北はその意味を熟考しているようだったが、結局何かに思い至ることは無いようだった。

 

 

 

結果発表も終わり、引き上げようと校舎に近づいた時、見覚えのあるAクラスの女子生徒が声を掛けてきた。

 

「このあと、着替えた後でいいんだけど少し付き合ってもらえる?」

 

内容は予測出来ていたので黙って頷く。

どういうルートで漏れたかは知れないが、オレがAクラスに行くことを事前に知ったのだろう。

 

「5時になったら玄関に来て」

 

とのことだったので、制服を着てから約束通り玄関に行くと、先ほどの少女がオレを待っていた。

彼女が歩き出したので付いていくと、特別棟の3階へと辿り着いた。

この一帯は監視カメラの設置されていない数少ない場所だ。

少女は一人で歩き出して、廊下の角に差し掛かると呟いた。

 

「もう帰ってもいい?」

 

「はい。ご苦労でした真澄さん。またよろしくお願いしますね」

 

「……ああ」

 

真澄と呼ばれた女子は去っていき、あとに二人だけ残された。

声の主がゆっくりと姿を見せる。

片手に杖をつきながら、その存在は冷たい笑顔でこちらを見つめていた。

坂柳有栖。

しばらく見つめ合っていたが、彼女は杖をカツンと鳴らしてから口を開いた。

 

「最後のリレーは大注目を浴びていましたね、綾小路清隆くん。正直なことを言うと、普段走ることの出来ない私も少しばかり胸が高鳴りました」

 

「何の用だ?」

 

「まずは改めてお礼を。入学式の日、助けて下さってありがとうございました」

 

「……わざわざ礼を言うために呼び寄せたのか?」

 

まあ、話があるとすればAクラスのことだろう。

だが坂柳の口から出たのはオレの予想もしない言葉だった。

 

「お久しぶりです綾小路くん。8年と243日ぶりですね」

 

「冗談だろ? お前と過去に会ったことはない」

 

「そうですよ。私だけが一方的に知っているんです」

 

カツン。カツン。段々と杖の音が遠ざかっていく。

……何がしたかったんだ?

 

「ホワイトルーム」

 

その単語が聞こえてきた時、オレは少なからず衝撃を受けていた。

なぜ知っている?

あの施設の関係者か?

 

「ふふっ。嫌なものですよね。相手だけが持つ情報に振り回されるというのは。安心してください、誰にも言うつもりは有りませんから。偽りの天才を葬る役目は、私にこそふさわしい」

 

坂柳はカツン、と杖を鳴らした。

 

「この退屈な学校生活にも、少しだけ楽しみが出来ました」

 

「そうか……ひとつ言っておくが」

 

「はい、なんでしょう」

 

坂柳は振り返って不敵な笑みを見せた。

 

「オレたちは月曜からAクラスのクラスメイトだ」

 

「……え?」

 

「これから色々とよろしくな。一緒に頑張ろう」

 

「えっ?」

 

「そうだ。ここ三階だし、階段とか危険だろ。降りるの手伝うから、さっさと帰らないか? そのうち日も暮れるぞ」

 

「あ、はい……」

 

階段を降りる際のどさくさに紛れてその小さな手を握っても、それを振り払わないほどには驚いている様子だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 Aクラスへ

月曜の朝、寮から学校へと向かう途中で偶然にも堀北に会った。

どことなく憑き物が落ちたような顔をしている。

体育祭ではオレの予想通り、龍園に色濃い敗北を刻み込まれたらしい。

だが今後は須藤たちと協力していくことでより成長できるだろう。

なんとなく距離を詰めて一緒に歩く。

 

「週末、あなたの言っていたことを考えていたのだけれど」

 

反応が返ってくることは期待していなかったが、声を掛けられた。

 

「ん?」

 

「『もう隠す必要は無いからな』、そう言っていたじゃない」

 

ああ、その件か。

 

「あれはつまり、今後は表立って私に協力する忠実な下僕になるという解釈で合っているわよね」

 

「下僕て」

 

あいにくだがそんなつもりは一切ない。

それにこれからは完全に他人同士だ。

まあ、オレの方からあえて交遊を絶つつもりはないが、堀北の方から自然に離れていくことになるだろう。

そうこう話している内に校舎へと入る。

廊下からDクラスの教室を窺うと、既に数人の生徒がいた。

オレは今まで自分の座っていた席を確認する。

机と椅子は撤去されていた。

それを確認し、オレは職員室へと足を伸ばす。

 

「ちょっと、どこへ行くの?」

 

「職員室だ。用事を思い出してな」

 

「ふうん?」

 

歩き出すと、ポケットに入れていた端末が震えた。

同時に校舎のあちこちから一斉に振動が鳴り響く。

堀北も同じだったようで、端末を起動して画面を操作していた。

 

「え……? これって……」

 

堀北の戸惑う声を背にして急ぎ足でその場を去る。

オレも同じように確認すると、学校側から一通のメールが届いていた。

オレがAクラスへと移動することになった旨が記載されている。

公開処刑されている気分だったが、茶柱先生の言うことが本当ならこの移動は滅多にあることじゃない。

これはどちらかというと学年に混乱が生じないようにする配慮の類だろう。

 

職員室では、好奇の目でオレを見る職員たちに出迎えられた。

Aクラスの担任である真嶋先生を見つける。

 

「君のことは茶柱先生から聞いている。ひとまずは素直におめでとう、と言っておこう。この学校始まって以来の快挙だ」

 

「どうも」

 

「これからは私が担任となるが、Aクラスになっても基本的にやることは変わりない。授業の進度はクラスで差が出ないように調整されている。君の端末は学校側で操作し、既にAクラスの生徒用のものとなった。他に確認したい点は?」

 

少しだけ考え込むが、今は思い浮かばない。

 

「特には」

 

「結構。ホームルームの際に軽く自己紹介をしてもらうが、構わないな?」

 

オレは快く頷いた。

だが、自己紹介か……。

四月の苦い思い出が蘇る。

二の轍は踏まないようにしないとな。

人間は学習することの出来る生き物なのだ。

 

 

 

「えー……えっと、綾小路清隆です。その、えー……得意なことは特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします」

 

人は失敗を繰り返す生き物であることが証明されてしまった。

だが、入学式の日とは異なり、新しいクラスメイトはオレという存在に興味津々のようだった。

教室を軽く見渡すと、最後列の窓際の席に坂柳が座っていた。

それはそうだろう。

火災などの緊急避難時を仮定するのなら、坂柳がドア付近で生徒をつっかえさせることで生徒同士の押し合いに発展して二次災害が起こりかねない。

必然的に彼女は最も入り口から遠い場所に座ることとなる。

ふと目があったが、坂柳は複雑そうに微笑みながらも胸元で小さく手を振ってくれた。

そしてそんな彼女の席の後ろにぽつんと一つだけ空席があった。

Dクラスから移動させたオレの机だろう。

つまり坂柳の近くで学校生活の大半を過ごせるわけだ。

初日からツイてるな。

内心ガッツポーズをしていると、真嶋先生が提案してきた。

 

「なにか綾小路に質問がある者は居るか?」

 

厳しそうな先生だと思っていたが、これはオレを気遣ってのことだろうか。

人は見かけによらないものだな。

 

「では一つ良いだろうか」

 

一人の男が手を挙げた。

坂柳と同じくAクラスを率いている生徒、葛城だった。

オレも何度か交流したことはある。

 

「どうぞ」

 

「色々と訊きたいことはあるが、それは追々個人的にさせてもらおう。……なぜこのタイミングで移動してきた?」

 

茶柱先生と同じことを尋ねる葛城。

だがオレは表向き用意していた答えを返す。

 

「より恵まれた環境に身を置きたかったから、だな。Dクラスが嫌だったわけじゃないが、どうせなら葛城、お前たちと切磋琢磨してみたくなった」

 

「そうか……」

 

嘘はついていない。

葛城が押し黙ると、それ以降質問が飛んでくることはなかった。

Aクラスの生徒たちの目にはオレは少々不気味に映っているらしい。

無理もないか。

今までDクラスだった冴えない男子生徒が、体育祭のリレーで生徒会長と好勝負を繰り広げたかと思うと、その週明けにいきなりAクラスへと移動。

客観的に見ればかなり胡散臭いな……。

だが、それはオレの事情を知らないからだ。

最初からオレは坂柳だけを目標に動いている。

疑心暗鬼になるのも結構だが、オレについてあれこれ想像を巡らせても気疲れするだけだ。

 

「他に質問は無いようだな。ではホームルームはこれで終了とする」

 

オレは空いている席に座って荷物を降ろした。

するとさっそく動きがあった。

椅子を反転させ、机越しにオレに向き直る坂柳。

 

「綾小路くん、でしたか。Dクラスからの躍進とは驚きです。ようこそAクラスへ」

 

「ああ。これからよろしくな」

 

周囲の目もある。

初対面のフリをし、互いに踏み込んだ話はしない。

世間話を交わしたが、その中にはいくつか示唆的なワードが含まれていた。

「これからは追い込まれる側」「Dクラスも攻撃対象」「クラスメイトとの協力」……。

その単語や文脈を耳にした際の表情の変化で、相手が何を考えているのかを探る話術の基本的なテクニックだ。

その内容を要約すると、坂柳は暗に『葛城派になるのか、それとも新しい派閥を作るのか?』ということを探ろうとしていたらしい。

自分の派閥にオレが入るだなんてことは想像すらしていないようだ。

まあ、確かに葛城の派閥に入るのも面白そうではある。

葛城は賢い男だ。

その思考が防衛に特化していることで後手に回りがちだが、オレならその隙を無くしてやることもできる。

組んでみたら案外相性が合うかもな。

だが……。

 

「坂柳、だな」

 

オレは坂柳の目を見つめて言った。

ほんの少しだけ溜めてから「よろしく」と続ける。

周りからはオレが「坂柳だな、よろしく」と初対面での挨拶を交わしているようにしか見えないはずだが、これは俺が坂柳の派閥に入るという意思表示だ。

坂柳にはその意図がきちんと通じたようで、彼女は眉をひそめた。

そんな表情もまた可愛い。

 

「せっかくですし、連絡先でも交換しておきませんか?」

 

今のオレの発言の意図をメールで確認するつもりなのだろう。

 

「そうだな。頼む」

 

周囲が少しだけどよめいた。

前に見かけた坂柳の取り巻きたちが顔を見合わせている。

おそらく坂柳は自分の派閥の人間くらいにしか連絡先を教えていないのだろう。

完全に憶測だがそれほど的外れでもないはずだ。

アドレスに「坂柳有栖」の四文字が追加されたことを確認すると無性に嬉しくなったが、顔には出さない。

 

「じゃあ、オレはちょっと用があるから」

 

席を立ち、オレと坂柳のやり取りを目にしていた葛城に「廊下に出ろ」とジェスチャーする。

葛城は大人しく付いてきた。

 

「綾小路。お前には本当に驚かされた」

 

人気のない踊り場まで移動すると、葛城が話し始める。

 

「体育祭でのリレーといい、今回のクラス移動の件といい。今まで実力を隠していたのだな」

 

「実力ってほどでもないが、オレがあんたを騙しているように見えたんだとしたら謝罪しておく」

 

「その必要はない。自身の能力を相手に悟らせないこともまた優れた能力だ。だが、だからこそ疑問がある。1年生の二学期でその実力を全校生徒に曝け出すような真似をしたのは悪手にしか思えない。どの道すぐに知れ渡ったことだろうが、こうして学年の全員に通達もされた」

 

葛城はメールの受信画面を見せてきた。

 

「そうだな」

 

「お前には妹の件で感謝もしている。だが……」

 

葛城が切り出しにくそうにしていたので助け舟を出してやることにした。

 

「呼び名があるのかは知らないが、葛城派の派閥にはオレを入れられないって話か?」

 

「……もしお前がDクラスに居たままならば裏で手を組む道もあったかもしれん」

 

薄々こうなるだろうとは思っていた。

この男ならオレのような読めない存在を味方に引き入れることは無いだろう、と。

 

「気にするな。あんたとは気が合いそうだと思ってたんだ。友達として三年間よろしく頼む」

 

「……お前が坂柳に肩入れするのなら、そう気を許せる関係になれるとは思えん」

 

「そうか? 坂柳はきっとそれを望むはずだ」

 

「なに?」

 

オレが坂柳派になったとしても、おそらく坂柳は自分の楽しみのためにオレを敵に回すだろう。

体育祭の放課後、坂柳の見せた好戦的な一面からそのくらいは推測できる。

 

「今詳しく説明する気は無いが、オレがあんたを攻撃することは無い。なんなら妨害しない約束を書面にしてもいいが、それは友達同士のやることじゃないしな」

 

葛城はしばし腕を組んで考えに耽っていたが、ある程度納得はした様子で頷いた。

 

「分かった。ではこれからは同じクラスの一員としてよろしく頼む」

 

二人で教室へ戻ろうとしたが、それを大きな影が阻んだ。

見上げる程に大きな、日本人離れした体格。

Cクラスの山田アルベルトだった。

 

「よお、葛城に綾小路」

 

声のした方を見ると、廊下の奥から龍園が歩いてきていた。

他にも石崎や伊吹たちを引き連れている。

伊吹からは執拗に睨まれている気もするが、オレはあいつの前で無能を演じていたからな。

実力を隠していたことが気に食わないんだろう。

龍園はアルベルトを下がらせ、オレたちの前に立ちはだかった。

 

「無人島ではやってくれたな」

 

「何のことだ?」

 

「とぼけたって無駄だぜ。あの時は鈴音が手を打ったってことも考えたが、この状況を見ればお前が何かしたのは火を見るより明らかだ。お前のグループは船上試験じゃ高円寺たちより先に脱落するって散々な結果だったが、今になって思うとそれも怪しいもんだ。お前が仕掛けたんだろ?」

 

「発想の飛躍が過ぎるな」

 

「本当にそうか? お前がAクラスに行くための2000万ポイントをどうやって稼いだかは知らないが、それくらいのことはしてなきゃ辻褄があわないのさ」

 

見かねたのか、葛城は一歩前に出た。

 

「それで、お前は何をしに来たんだ? 油を売りにきたようにしか見えんが」

 

「なあに、簡単なことさ。無人島の試験でお前と結んだ契約は綾小路にも適用されるってことを確認したかっただけだ」

 

「……おい、その話は」

 

葛城は慌てて廊下を見渡し、声をひそめて続けた。

 

「綾小路はあの契約時Aクラスに居なかった。署名もしていない。対象外だと思うが?」

 

「なに寝ぼけてやがる。契約の内容は『Aクラスの生徒一人につき毎月2万プライベートポイント』だろうが。生徒が増えたら当然支払うポイントも増える。ゴネても無駄だ。甘んじて受け入れるんだな」

 

なるほど、大体のことは読み込めた。

無人島でAクラスがCクラスと組んでいたことは知っていたが、その内容は謎のままだった。

Cクラスが限度いっぱいの300ポイントで購入した各種用品をAクラスに渡す代わり、AクラスはCクラスにプライベートポイントを渡す。

おそらくそういう契約が結ばれたのだろう。

あの時CクラスがAクラスに対して切ることのできた手札はそれしかない。

龍園はオレに向き直った。

 

「お前はそれなりに骨がありそうだ。クク、坂柳は最後に回すとして、まずはお前から潰すことにするか」

 

「どうしようとお前の勝手だが、そんな調子じゃ足元をすくわれるかもな」

 

オレは龍園に忠告しておく。

 

「足元? Dクラスのことか? 鈴音は確かに良いオモチャだが、底は知れた」

 

「まあオレには関係のないことだ」

 

Dクラスにはそれなりに良い素材が集まっている。

あとはそれをどう味付けするも堀北や平田たちの腕にかかっている。

 

「おっと、噂をすれば何とやらだぜ」

 

目をやると、Dクラスの方から堀北が駆け寄ってきていた。

どう見ても怒ってるな……。

 

「ちょっと、綾小路くん。どういうことか説明して」

 

「説明も何もない。オレは2000万ポイントを学校側に支払ってAクラスへと移動した。当然の権利を行使したまでだ。メールにもそう書いてあっただろ」

 

「それは……」

 

堀北は言葉を詰まらせた。

論理的じゃないな。

ひょっとして知らない内に仲間意識でも持たれていたか。

最初の頃はそう誘導していた面もあるが、正直堀北がそこまで情に厚いタイプだとは思っていなかった。

 

「Dクラスを……Aクラスに上げてくれるんじゃなかったの」

 

「オレはただお前の手伝いをしていただけだ。それに、オレはこの前の体育祭でお前たちがAクラスに上がる必要最低の条件は満たしたと判断した。文句があるならこの学校のルールに則したやり方でオレを負かすんだな。もっとも……」

 

龍園と堀北の顔を見比べる。

オレなら龍園がDクラスを舐め切っている今、このタイミングを見逃すことは絶対にない。

堀北、お前はどうする?

 

「もっとも、まずはCクラスを倒してからだろうけどな」

 

「……帰るわ」

 

堀北はオレから視線を逸らして教室へと戻っていった。

龍園たちもある程度満足したようでその場を後にする。

と、手元で振動が鳴った。

メールの着信か。

それに素早く目を通す。

差出人は坂柳。

 

『放課後、ケヤキモールのカフェでお茶でもどうでしょう』

 

オレはそれに短く「分かった」と返事して、葛城と共に教室へと戻った。

これが本来の意味でのお誘いなら飛び上がるほど嬉しいんだが、まあ期待するだけ損だろうな。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 変化

船上試験で綾小路が動いたため、Aクラスは原作より100クラスポイント多く所有しています。
Dクラスは逆に100クラスポイント少ないです。



真嶋先生の言う通り、授業内容はDクラスの時と大差なかった。

二時間目の授業が終わって昼休みのチャイムが鳴る。

やはりというか、AクラスにはDクラスよりも落ち着きのある生徒が多かったが、それでも気は緩むようで教室が賑やかになる。

 

「綾小路くんはお弁当ですか?」

 

前の席の坂柳が、鞄から水筒と小さなバスケットを取り出して尋ねてきた。

 

「いや、基本的に学食だ。オレは料理が得意じゃないからな。学食はコストパフォーマンスも悪くない」

 

「そうですか。私は見ての通りですので、出来るだけ教室で済ませるようにしています」

 

たしかに、坂柳は教室と学食を往復するだけでも辛そうだ。

杖をついて歩いている以上、食事を乗せたお盆だって取り巻きの誰かに持ってもらわなきゃいけないだろうしな。

坂柳はバスケットから取り出したタマゴのサンドイッチを小さな口で食べ始めた。

……明日はオレも弁当にするか。

たまにはいいだろう。

あまり見ているのも失礼なので学食に行くことにする。

 

「ん」

 

廊下を歩いていると端末にメッセージアプリの通知が来た。

坂柳からだ。

 

『料理は得意ではないとのことですが、向こうでは教わらなかったのでしょうか?』

 

誰かに見られても支障ないようにホワイトルームの名前は出ていない。

 

『オレは何でも出来る超人じゃない』

 

ホワイトルームで料理にまつわる知識も習得はしたが、実践的なことはあまりしていない。

だが「料理は科学」と聞く。

レシピと材料さえあればある程度のものは作れるはずだ。

放課後に坂柳との用事を済ませたあとは弁当用に食材を買って帰ろう。

 

食堂へと足を踏み入れる。

 

「……おい、2000万ポイント貯めた1年ってあいつだろ」

 

生徒たちの視線が一斉に集まるのを感じた。

交わされていた会話のボリュームも二段階ほど下がっている。

この調子だと落ち着いて食事も摂れなさそうだな……。

 

「おーい、綾小路! こっちこっち!」

 

どこか張りつめた雰囲気を台無しにするように、底抜けて明るい声が上がった。

見ると、遠くで池が立ち上がってぶんぶんと手を振っている。

同じ席には須藤と山内も座っていた。

こういう時に自重しないのも、ある種の才能なのかもな。

軽く嘆息して席まで移動する。

 

「池、どうした?」

 

「どうしたじゃねえよ綾小路ぃ! このこのっ! いつの間にそんなポイント貯めてたんだよー!」

 

「まあ、コツコツとな」

 

「いやコツコツってレベルじゃねえだろ」

 

須藤から突っ込みが飛んでくる。

意外にも不機嫌そうな様子ではなかった。

 

「ま、いいけどよ。おまえが鈴音から離れた今、あいつは信頼できるパートナーを求めてるはずだ。そこで俺が頼りがいのあるとこ見せてやれば……」

 

そういう考えに行きついたのか。

たしかに今の堀北には案外効果的かもしれない。

 

「あーあ、俺たちもポイントが欲しいよなあ」

 

山内のぼやきに二人が同意する。

 

「ところで綾小路……俺たち親友だよな? な!? 今月マジでピンチなんだよ~、頼む! ちょっとばかし貸して……いや、譲ってくれ! 神のお恵みを!」

 

オレに向けて手を合わせる山内。

つられて池も同じようにしてくる。

親友、か。

けどな、残念だが山内、ひとつ決定的に間違っていることがある。

今この瞬間だけ、本心で語ろう。

オレはお前を仲間だと思ったことはないし、クラスメイトとして心配したこともない。

この世は『勝つ』ことが全てだ。過程は関係ない。

どんな犠牲を払おうと構わない。最後にオレが坂柳の隣に立ってさえいればそれでいい。

お前も池も須藤も、いや、全ての人間がそのための道具でしかないんだよ。

……なんてな。

 

「あのな山内、2000万ポイント使ったオレにそんな余裕があると思ってるのか?」

 

「うっ……そうだよなあ。はあ、拝んで損したぜ……」

 

実際にはあと50万ポイントほど残高はあるが、それは言わなくて良いことだろう。

池たちの席から離れ、列に並んで日替わりを買う。

静かな場所で食べたいが、昼休みも始まったばかりということで殆どの席は埋まっていた。

仕方なく池たちと合流しようとしたところで、少々珍しい組み合わせを見かけた。

 

「平田に……幸村か」

 

「綾小路くん。よかったら一緒に食べない?」

 

平田からの誘いを受けて幸村の隣に座る。

 

「二人で何を話してたんだ?」

 

「これからのクラスのこと、そしてお前のことだ」

 

幸村はくいっと眼鏡を押し上げた。

 

「ハッキリ言って綾小路、俺はお前を侮っていた。船上試験ではその態度が露骨に出ていたかもしれない。改めて謝罪させてくれ」

 

「オレは気にしてないけどな」

 

「体育祭のあと、自分なりに考えてみたんだ。ここに入学してからは自分が不要だと切り捨ててきたものに苦しめられてばかりだ。運動能力では須藤、コミュニケーション能力では平田や櫛田……彼らの協力が無ければクラスはもっと悲惨なことになっていたと思う。これからはせめて、自分の得意な学問の分野で少しでもクラスに貢献しようと考えた」

 

「だからこうやって、今後のDクラスについて一緒に考えていたんだよ」

 

幸村は少々気恥ずかしそうにしながら食事へと戻った。

この分だと、Dクラスは思ったよりも良いクラスになるかもしれないな。

そんな予感がした。

 

「だけど残念でもあるんだ。僕は君とも一緒に、入学当初のDクラスのメンバー全員で、誰一人欠けることなくAクラスを目指したかった。言うのが遅れちゃったけど、Aクラス行きおめでとう」

 

平田は爽やかな笑顔でオレを祝福してくれた。

 

「言っておくが、オレに遠慮することはないんだぞ平田。仮にDクラスがBクラスになってAクラスと直接戦う機会を得たのなら、ほんの少しの躊躇がクラスにとっての致命傷になり得る」

 

「……お前はどっちの味方なんだ?」

 

幸村が呆れたように尋ねてきた。

オレはクラスではなく個人に執着している。

本当にどっちの味方でもないんだが、ここは無難に返しておくか。

 

「心情的にはDクラスを応援してる。思い入れもあるしな」

 

「ふん。余裕ぶっていられるのも今の内だぞ。いつかお前をAクラスから引きずり落としてみせる」

 

「引きずり落とすっていうのは物騒だけど、うん、そのくらいの気持ちで頑張るよ」

 

幸村はオレの発言を挑発として受け取ってしまったらしい。

 

「それは怖いな。――なら、念のためもう2000万ポイント貯めておくか」

 

そう冗談めかして言うと、オレたちの会話を盗み聞きしていた他の生徒たちの眼に一斉に暗い光が宿った。

新入生がたった数か月で成し遂げたクラス移動。

ひょっとして自分の知らない抜け道や裏技があるんじゃないか。

自分もあるいはAクラスに――そういった欲望に支配されている。

見ると、平田と幸村の顔も少々強張っていた。

 

「冗談だ。流石に二度目は無理だ」

 

平田は「あはは……」とぎこちない笑みを浮かべた。

が、幸村は違った。

 

「……Dクラスに協力すると決めたばかりでこんなことを訊くのは恥ずべき行いだと理解はしているんだが、教えてくれ。俺が2000万ポイントを貯めることは不可能だと思うか?」

 

「お前が不可能だってワケじゃなく、あと数年は誰にも出来ないと思うぞ」

 

オレが告げると、幸村は小さく息を吐いて「そうか」と呟いた。

切り替えに成功したようで、その顔に悔いは残っていない。

素直にクラスポイントで上を目指す決意が固まったようだ。

 

「それは、今後この学校が大量のプライベートポイントの移動が行われにくくなる膠着状態に陥るから……で合ってるかな」

 

平田の発言に頷く。

やはりこの男は賢い。

オレが短期間でクラス移動を成し遂げたことで、多くの人間は自分もその可能性を追おうとするだろう。

おそらく今後行われる特別試験ではクラスポイントを犠牲にプライベートポイントを得ようとする動きが活発になるはずだ。

だが、全校生徒の所有するプライベートポイントには限度がある。

一つのケーキを百人で分け合おうとすれば当然一人あたりの取り分は少なくなる。

そういうことだ。

オレが実行に踏み切ったのは、未だに個人のクラス移動が達成されておらず、生徒たちが心のどこかでそれを諦めていたからこそでもある。

まともに2000万ポイントを貯めようとしている人間が限りなく少なかったからこそケーキの大部分を総取りできた。

難易度の高さに逆に救われた形だな。

 

 

 

放課後。

坂柳の席に取り巻きが集まってきた。

やはり「カフェでお茶でも」というのは二人きりというわけではなかったらしい。

まだ立ち位置のあやふやなオレはあまり一緒に行動しない方がいいか。

そう判断して先にケヤキモールへと赴く。

カフェで店員に事情を話してテーブルを確保してもらった。

コーヒーを飲みながらしばらく端末でニュースサイトを眺めていると、坂柳が姿を見せた。

先ほどの取り巻きたちは二人だけになっていた。

オレとの対談に合わせてメンバーの選抜でもしてきたか。

 

「席を確保してくれていたのですか? ありがとうございます」

 

対面に坂柳が座る。

オレの左隣に男が腰を降ろし、坂柳の隣には体育祭の日にオレを呼びに来た女子生徒が座った。

合コンみたいだな。

参加したことはないが。

それぞれの注文を聞いた男がカウンターへと向かい、三人分の飲み物をトレイに乗せて運んで戻ってくる。

 

「まずは自己紹介からですかね。私は坂柳有栖です。自分からこう名乗るのは少々気恥ずかしいですが、Aクラスでは葛城くんと共にリーダーのような立場にあります」

 

少しも恥ずかしがらずに、むしろ堂々とそう言って、坂柳はぺこりと軽く一礼した。

 

「こちらの二人は私が特に信頼を寄せている仲間です。綾小路くんにも紹介しておきたいと思いまして」

 

「ふん……信頼を寄せている仲間、ね」

 

坂柳の隣でなぜか苦々しくそう呟く女子生徒。

 

「……神室真澄よ。まさかあの時はあなたがAクラスに来るとは思ってもみなかった」

 

「まあ確かに、普通は有り得ないわな」

 

俺の隣の男子生徒が楽しげに微笑む。

 

「橋本正義だ。困ったことがあったら頼ってくれ。うちのボスはおっかないからな」

 

金髪にピアスとどこか軽そうな出で立ちだが、意外と話しやすそうな印象だ。

 

「お話を切り出す前に……綾小路くん、このグループチャットに参加してもらっても良いですか?」

 

坂柳からの招待を受け、参加する。

メンバーはこの場に居る坂柳、神室、橋本とオレだけだ。

わざわざこのために作ったのだろうか。

 

「さて。こうして集まってもらった理由なのですが、今日の授業で少々分からなかったところがありまして」

 

坂柳は端末を操作しながら困り顔を作ってそう言ってきた。

同時にチャットにメッセージが投下される。

 

坂柳有栖『ここできちんと確認しておきたいのですが、綾小路くんはどちらの派閥につくおつもりですか?』

 

なるほど、そういう趣旨か。

 

「元Dクラスのオレが力になれるかは怪しいが、とりあえず話は聞こう」

 

綾小路清隆『オレは派閥争いに興味はない』

綾小路清隆『が、強いてどちらかにつけと言われたら坂柳の派閥だな』

 

うわべでは何気ない日常的な会話を交わしつつ、グループチャットでは腹を探り合う。

 

橋本正義『何度か葛城と話しているのを見たことがあるが』

橋本正義『全く関わりのなかったこっち側につくっていうのは』

橋本正義『どういう心境なんだ?』

 

綾小路清隆『単純に性格の問題だ』

綾小路清隆『2000万ポイントでAクラスに来たのを見て分かる通り』

綾小路清隆『オレはどちらかといえば積極的に仕掛けるタイプだからな』

 

神室真澄『そもそも』

神室真澄『どうしてこの段階でAクラスに来たの』

神室真澄『葛城に話してた理由は本心じゃないでしょ』

 

綾小路清隆『2000万ポイントっていう目標を達成した瞬間』

綾小路清隆『残りの学生生活がとても退屈なものに思えてな』

綾小路清隆『坂柳、あんたなら分かるだろ?』

 

坂柳有栖『そうですね』

坂柳有栖『腑に落ちない点もありますが』

坂柳有栖『ひとまずはそれで納得しておきましょう』

 

綾小路清隆『ただ』

綾小路清隆『オレは葛城への攻撃に加担しない』

綾小路清隆『あいつとは良い関係のままでいたいからな』

 

神室真澄『それはどうなの?』

 

坂柳有栖『かまいませんよ』

坂柳有栖『私は葛城くんを再起不能になるまで』

坂柳有栖『叩きのめしたいわけじゃありません』

坂柳有栖『ほどほどに楽しめればそれでいいので』

 

橋本正義『じゃ、決まりだな』

橋本正義『歓迎するぜ綾小路』

橋本正義『それより訊きたかったんだが』

橋本正義『どうやってあんな額を集めたんだ』

 

綾小路清隆『悪いがそれは教えられないな』

 

その後、他クラスの耳に入れられないような話……Aクラスの現状や今後の方針などについて軽く議論を交わした。

 

坂柳有栖『では、これくらいでお開きとしましょう』

坂柳有栖『このグループは削除しておきますので』

 

オレたちは顔を上げた。

 

「大変参考になりました。今後ともぜひよろしくお願いしますね」

 

「ああ」

 

端末に目を落とすと先ほどまで会話していたグループは既に削除されていた。

その場の流れで神室と橋本の連絡先もゲットし、全員が一息ついたところで今日は解散となった。

 

「私は用時があるからこれで」

 

「オレもだ」

 

「そうですか。では行きましょうか橋本くん」

 

「はいはい」

 

オレは遠ざかる二人の背中を見つめた。

橋本はまあイケメンの類だろう。

坂柳の可愛らしさは言わずもがな。

今まで経験したことのない、よく分からない感情に支配される。

 

「妬いてるのね」

 

神室はそう言って歩き出した。

スーパーの方向だったのでオレも後を追う。

 

「妬いてる? オレが?」

 

「あんたのことを観察してて分かったわ。坂柳のこと好きでしょ」

 

「……そんなことはないぞ」

 

「うまく隠してるつもりかもしれないけどそのうちボロが出そうね。Aクラスに来たのも案外坂柳が目当てだったり?」

 

「どう解釈するのもお前の勝手だが、妄想を拡散するのはやめてもらいたい」

 

神室はオレの言葉を待っていたとばかりに持ちかけてきた。

 

「……私も自由に動かせるプライベートポイントが欲しいのよね。多く有るに越したことはないでしょ?」

 

「オレにその手伝いをしろと?」

 

「どう解釈するのもあんたの勝手だけどね」

 

「取引のつもりか? そもそもが事実無根のデマだ。契約書は作らない」

 

「協力してくれるって態度だけで充分よ。今はね」

 

神室は遠ざかっていく橋本と坂柳の背中を振り返る。

 

「あいつらは別にそういう仲じゃないわ。橋本は坂柳を利用するために弱みを握りたいだけだと思う」

 

「興味ないな」

 

心の中では少なからず安堵する自分がいた。

 

「ちなみにお前はどうなんだ。お前も橋本と同じか?」

 

「私は……いいように利用されてるだけよ」

 

利用?

それこそ坂柳に弱みでも握られているのか。

ポイントが欲しいという話もそこに結びついているのかもしれない。

 

「……協力の件、少し考えさせてくれ」

 

「分かったわ」

 

神室と途中で別れ、スーパーで買い物を済ませる。

やはり道中いくつもの視線を向けられたり、陰口のような話し声が聞こえてくることもあった。

一瞬だけこの学校の全てを蹴散らして破壊する夢想に憑りつかれる。

が、オレが欲しているのは力を存分に振るう機会ではなく坂柳との楽しい学校生活だ。

甘んじて受け入れるしかない。

そういえば、近々この学校も生徒会長が変わるらしい。

堀北兄は、堀北の傍を離れたオレをどう思っているんだろうな。

オレはこれからのことに関して思いを巡らせつつ帰路についた。

 




「なあ坂柳、今日も弁当か?」
「え? ああ、はい。弁当というかサンドイッチですが」
「実は昨日、坂柳に言われて弁当を作ってみようと思ってな。だが料理は本当に不慣れですこし多く作ってしまったんだ。よければ一緒に食べないか?」
「これは……炒飯に麻婆豆腐に青椒肉絲……中華料理ですね」
「何を作ればいいか分からなかったが、世界三大料理でも作りやすい中華なら間違いはないだろうと考えた。味見もしてみたが、結構いけると思う」
「あの、お気持ちは大変嬉しいです……。その、申し上げにくいのですが、私は油の多い料理はあまり……」
「え………………………………」
「だからどうか私に遠慮なさらず召し上がってください」
「そ、そうか……悪かったな。変な気を遣わせて」
「おい綾小路、せっかくだから学食で一緒にメシでも…………なんで中華?」
「橋本。食べるのに協力してくれないか……」
「まあタダってんなら断る理由は無いな。しかし、結構な量だな」
「初心者だから分量が分からなくてな……」
「……やけに良い匂いがすると思ったら、あんた料理できたのね」
「神室。お前も食べるか?」
「そう? じゃあ……遠慮なく」
「おい……コレ美味すぎるだろ。お前店開けるぞ」
「ほんと。これで初心者って嘘でしょ。料理の練習するのが馬鹿らしくなってきた」
「……あの、綾小路くん。私も少しだけ食べてみてもよろしいでしょうか」
「遠慮しないでくれ。もともとそのつもりだ」
「はい、では……ん」
「どうだ」
「……とても美味しいです。流石ですね」

近くの机も借り、四人で昼飯を食べる。
他愛もない話で思いのほか盛り上がった。

「……ふふっ」

いつも好戦的な笑みを浮かべる坂柳の、自然に笑う姿を初めて見ることができた気がする。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。