個性『ラッキー☆ドスケベ』 ( junk)
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File.1 超感覚

 ――――――ビルの上にひとりの女が立っていた。

 

 一七〇センチ程の大柄な身体ではあるものの、しかし少女としての幼さを感じさせる魅惑的な肉付き。よく鍛えられた身体は筋肉質だが、薄っすらと脂肪を残しており、少女特有のむしゃぶりつきたくなる様な柔らかさを感じさせた。見方によっては下品とも言えるほどの豊満なバストは、薄いコスチュームをたっぷりと押し上げている――ちょっと激しく動けば零れ落ちてしまいそうだ。

 

 彼女のコスチュームは藍色と漆黒を基調としていた。藍色のシャツの生地は薄く、肌とブラジャーが透けている。また布面積もほとんどないため、肩とお臍が大胆に露出していた。股下数センチまでしかない漆黒のスカートは最早服としての機能をほとんど果たせておらず、藍色のレースの下着がほとんど丸見えになっている有り様。唯一まともに機能を果たしているのは黒い厚手のブーツと、絶対領域を作り出している藍色のニーソックスだけだろう。

 

 外側がブラック、内側がブルー。髪もまた彼女のコスチュームと同様に藍色と漆黒であった。濡れた様に艶やかロングヘアーは、サラサラと風によって形を変えている。

 

 顔立ちは一言で表すなら『氷』だ。まるで白亜の彫刻で出来ているかの様な、美しいのは間違いないが冷たい印象を受ける。視線が合った者を凍りつかせる様な視線、流し目。しかし冷たい氷の印象も、彼女が無表情でいればの話だ。彼女の顔には厭らしい笑みが張り付き、頬が紅潮していた。男なら誰でもむさぼりたくなる様な桜色の唇からも、絶えず熱い吐息が溢れている。そして何より瞳だ。瞳が例えようもないほどに淫靡に濡れている。

 

 その美しさは最早『個性』による物にさえ思えたが、勿論違う。生来のものだ。そして彼女の『個性』はそんな生温い物ではない。

 彼女が立つ長高層ビルの真下では人々が平和そうに歩いていた。

 とはいえ普通の人間では、ここまで距離が離れていれば見えないだろう。しかし彼女には全て見えていたし、足音さえも聞こえていた。

 

「――うふふっ!」

 

 まるで獲物を捉えた蛇の様に、彼女の視線が定まる。

 そして――跳んだ。

 高層ビルの上から、跳んだ。

 彼女のロングヘアーが風の抵抗を受けて激しくたなびく。服が完全にめくれほとんど全裸に近い格好になっていた。

 彼女の『個性』が着地の衝撃を和らげてくれるのかと問われれば、それもまた違う。ましてや空を飛べる類の物ではない。にも関わらず、彼女は自らを傷つけることなく着地する。

 答えは単純な『技』。

 普通の人間でも少し高い所から降りる際、身構えることでダメージを軽減することが出来る。彼女がしたことは究極的にはそれと同じだ。尤もその完成度は比較にならないが。『武』に生涯を捧げた者にのみ出来る技、境地――そこに彼女は達しているのだ。

 

 彼女は片手を天にかざした。

 そこに前もって投げておいた、七尺はあろうかという長刀が飛来する。これこそ彼女の愛刀、名を『雪走り』。鉄であれ金であれ人であれなんであれ、まるで雪の様に斬ることから名付けられた刀。刃も柄も雪の様に白い。

 

 30メートルを越すビルからの着地、人目を集めるには十分な演目だった。ヒーローか、あるいは『個性』を使った大道芸であろうか……興味深げに集まる人々。

 ――ああっ、これだけの人を斬ったらどれだけ楽しいのでしょうかねえ。

 集まる群衆を前に彼女はゾクゾクと身を震わせた。白い肌が上気し、赤みを帯びる。息遣いも荒くなっていた。蠱惑的な肢体を我慢出来ないと言わんばかりに娼婦の様にくねる。男に媚びるような女体の動き、どう見ても彼女は発情しきっていた。

 

「お姉さん、すごい! 今のどうやったの!?」

 

 一人の少年が近づいてくる。

 年は小学生高学年か、あるいは中学生くらいだろうか。

 少女は笑い、そして刀を抜いた。

 ――と、同時に彼女は刀を鞘に納めていた。

 刀を振らなかったのだろうか?

 凶行を済んでの所で思い留まったのだろうか?

 否、違う。

 彼女は刀を振った。

 ただし、常人には決して見えない速度で。

 少年がその場に倒れ臥す。傷口からは血の一滴さえ零れない。速く、鋭く。斬り裂いた刀身には一切の汚れなし。故に『雪走り』――刀の持つもう一つの由来である。

 

「あは――あははははははっ!」

 

 ……笑う。

 その笑みは狂気としか言いようがなく、彼女の精神が常軌を逸していることを確信させるのに十分だった。

 

 少女は通称『ブラッディー・スノウ』と呼ばれるヴィランである。

 ブラッディー・スノウはステインの様に思想を持ったヴィランではない、ただ人を斬るのが好きなのだ。

 ヴィランというより狂人、殺人鬼。

 

 

 

 剣の名門に産まれた彼女は幼い時より刀を振っていた。

 最初は純粋な気持ちだった。技を磨くため、人を助けるため。彼女は刀を振っていたのだ。

 しかし一人での稽古には限界がある。模擬戦や試合もしなくてはならない。高みを目指していた少女は他の道場の子供と手合わせする機会が増やすようになった。

 彼女は強かった。同世代はもちろん、大人の男にさえ引けを取らないほどに。向かうところ負け知らず。少女の名は直ぐに知れ渡った。少女が中学生になる頃には、わざわざ遠方から訪ねて来る者さえいたほどだ。

 そして試合で相手を倒すたび、彼女の中に暗い愉悦が産まれたのだ。

 彼女自身もそのことには気付いていたが、己のを律し、また一人刀を振っていた。

 

 転機が訪れたのは二年前。

 

 少女はヴィランに襲われた。しかし少女の技の冴え渡り、また『個性』も強力無比な物である。直ぐにヴィランを組み伏せた。

 稽古用に持っていた少女の刀がうめくヴィランの首筋に添えられる。ヴィランは最後の抵抗を見せる――こともなく、みっともない命乞いをした。

 その瞬間、少女の身体に正体不明の電流が走った。

 男の命が自らの手の中にある。他人の生命与奪を握っている。それは最高の愉悦だった。

 刀を添えたのはあくまで脅しのつもりだったが、果たして、少女は男を殺した。後から来たヒーローには正当防衛を主張した。まだ中学生だった少女の訴えは、当然のように通った。

 

 人を殺した。

 否、斬った。

 彼女はその感触に取り憑かれた。

 そして幸いにも、彼女には力があった。

 

 彼女は世間からはヴィランと呼ばれているが、正確には違う。

 強盗だとか世間の目を集めるだとか、そんなことには何の興味もない。ただ人を斬りたいだけなのだ。もし法律が変わって人を斬っても良い世の中になれば、彼女は明日から普通に学校に行って、普通の生活をして、普通にご飯を食べて、普通に恋バナなんかをして、普通に人を斬るだろう。

 しかし人は斬ってはいけないのが社会のルール。

 よって彼女はその一点のみで社会を逸脱し、ヴィランとなっている。

 

「ブラッディー・スノウだな!」

「覚悟しろ!」

「市民の皆さんは落ち着いて避難を!」

 

 ヒーローが三人、何処からか湧いてきた。

 二人がブラッディー・スノウの前に立ち、その間に残った一人が避難誘導をしている。

 素早い連携、三人はチームの様だ。

 

「んぅー?」

 

 ブラッディー・スノウは人差し指を顎に当てて、可愛らしく小首を傾げた。

 その仕草は無垢な少女そのものだが、ヒーロー達は油断しない。

 目の前のヴィランが凶悪かつ強力だと知っているのだ。

 やがてブラッディー・スノウはポンと手を叩いた。

 

「ああ、思い出しました。確か『ガン・マッチ』の御三方ですね?」

「そうだ! 俺はリーダーのバレット!」

「同じくスナイプ!」

 

 そう言ってバレットは、両手を地面と平行に突き出す独特の構えを取った。

 彼の『個性』は『銃化』。

 指を銃に変え、弾を撃つ事が出来る。

 銃弾は彼の血液が凝縮した物であり、ほとんど水の様に柔らかい弾から石の様に硬い弾まで自由自在。ただしあまり撃ち過ぎると貧血で倒れてしまうから注意が必要だ。

 今は一〇本の指全てに最高硬化した弾丸を詰め込んである、バレットの本気の構えだ。

 

 スナイプの方の能力は、指ではじいた物が狙い通りの場所に飛んでいく『個性』である。

 半径一キロ以内なら五センチ台の的を射抜ける精密さもさることながら、威力もまた申し分ない。

 中距離と遠距離を得意とする二人、刀を主体とするブラッディー・スノウでは分が悪い相手だろう。

 

「まあどうでもいいです」

 

 しかしブラッディー・スノウは取り合わない。

 逃げ惑う市民の群れに突っ込み――虐殺。鮮血を撒き散らした。

 

「き、貴様あああああぁっ!」

 

 バレットは激昂した。

 全ての指からありったけの弾が放たれる。

 市民の中にいるブラッディー・スノウだけをピンポイントで狙い撃つ、凄まじい精度。加えて弾には“回転”が掛かっている。一発でも当たれば内臓か骨に致命傷を負うだろう。

 しかしブラッディー・スノウには通用しない。

 事も無げに全ての弾を叩き斬る。

 

「私、人が斬りたいだけで血を斬る趣味は無いのですが……」

 

 困った様にブラッディー・スノウが言った。

 しかし顔には被虐的な笑みが溢れている。

 まるで発情した犬のように赤い舌を出して、はあはあと鼻息を荒くしていた。

 

「く、狂ってやがる!」

 

 あまりの絶技に驚愕したバレットであったが、しかし狙い通りでもあった。

 本命はスナイプによる狙撃なのだ。

 スナイプの必殺技『無音多角狙撃』はカーブを描いた弾が敵の背後から迫り撃ち抜く技であり、また火薬を使わないが故に無音である。

 正に一撃必殺!

 今も麻酔弾がブラッディー・スノウの背後から迫り――果たして、斬り落とされた。そちらを見向きもせず、当然のように。

 

「なっ!?」

「馬鹿な、あり得な――」

 

 それ以上の言葉は続かない。

 続けられない。

 一瞬にして近づいたブラッディー・スノウの刀が振り降ろされた。

 単純に速いのもあるが、それだけではない。彼女は二人の死角に入り込んでいる。よって視認出来ないのだ。

 スナイプの身体が頭のてっぺんから股下まで斬り裂かれた。

 二つに別れた死体が地面に落ちる前に、バレットの首も斬り飛ばされる。ブラッディー・スノウは落ちた頭部を掴み……最後の一人ガトリングに向かって投げた。

 恐ろしい速度で射出された頭はガトリングの頭にピンポイントで当たり、脳震盪を引き起こさせた。脳の揺れが収まる前にブラッディー・スノウが近づき、一閃。

 ガトリングの上半身が下半身と斬り離される。

 

「きゃああああああああああ!」

 

 誰とも言わず悲鳴が上がる。

 ヒーローが倒された事で混乱は更に熱を上げていた。

 逃げ出す群衆、急行するヒーロー。

 全てが遅い。

 彼女の前では遅すぎる。

 民間人もヒーローも関係ない、ブラッディー・スノウが刀を振る度に人が死んでいった。

 

 

 

 彼女の『個性』は『超感覚』。

 視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚そして第六感に至るまで、あらゆる感覚が強化されている。

 その強化倍率は実に常人の三〇倍。

 つまり普通の人間が視力を一とするなら、彼女は三〇。普通の人間が五〇メートル先の音が聞こえるなら、彼女は一五〇〇先の音が聞こえる計算になる。

 また時間感覚が強化されたことにより、彼女の体感時間は他人の三〇倍となっている。つまり彼女の中では他人の動きはほぼ止まっているに等しく、故に、相手の動きを見てから最適な動きが出来るのだ。

 極端に露出度の高いコスチュームを纏っているのも伊達や酔狂ではなく、空気の流れを感じるための趣向だ。これにより目に見えない攻撃や無音の奇襲も全て、ブラッディー・スノウは感知することが出来る。

 奇襲は通じず、更に肉弾戦は無敵。

  ブラッディー・スノウを止めたいのなら、オールマイトでも引っ張ってこないと足りないだろう。

 

「……ぁ。あああ………ぅ」

 

 一人の少年が倒れているのをブラッディー・スノウの視覚が捉えた。

 逃げる大人に踏まれて足を怪我しているらしい。涙目になって震えている。ブラッディー・スノウは近寄り――手を差し伸べた。

 

「えっ?」

 

 少年が困惑するのも無理ないが、しかしブラッディー・スノウは子供が好きなのだ。少なくとも泣いている少年を見たら、手を差し伸べるくらいには。

 

「ボク、大丈夫?」

「あ、あの。うん、でも、足が痛くて」

「そっか、そっか。踏まれちゃったんだね、かわいそうに。救急車が来るの、待てる?」

「……うん、待てる」

「よし、偉い子だ!」

 

 ブラッディー・スノウは立ち上がった少年を見て、満足そうに笑った。

 そして刀に手をかける。

 

「……ぇ?」

 

 子供は好きだ。

 泣いてたら助かる。

 だけど斬るのはもっと好きだ。

 心はちっとも痛まない。それよりもずっと大きな快楽が埋め尽くしてくれる。他が入り込む余地はない。

 

「い、嫌だよお姉ちゃん! 助けて!」

「うん、助けてあげるよ。私は子供が好きだから」

 

 刀の切っ先が少年の目の前に向けられる。

 ここに来て漸く少年は理解した。

 目の前の少女は言葉が通じない。助けを求めても、話し合いをしても無駄なのだ。

 

「助けて、誰か助けて!」

 

 ブラッディー・スノウの刀が、遂に振り降ろされる!

 

「助けてヒーロー!」

ヒーロー()を呼んだか、少年」

 

 ヒュン!

 ブラッディー・スノウの刀は空を斬った。

 久しく味わっていなかった空振りの感触。

 人を斬れなかった……大きな落胆を胸に、ブラッディー・スノウは声の主の方を振り返った。

 

 ブラッディー・スノウの『超感覚』は、刀が振り降ろされる直前に言葉を聞いた。内容から察するに、言葉の主が少年を助けたのだろう。それは間違いない。しかし解せないことがひとつあった。少年はそこを一歩も動いていないのだ。誰かが割って入って刀を止めた訳でも、少年を助け出した訳でもない。

 ブラッディー・スノウが勝手に攻撃を外したのだ。

 無論、こんなことは初めてだ。熟練の腕を持つブラッディー・スノウが防がれるならともかく、攻撃を外すなどそうあることではない。

 

「私が来たからにはもう安心だ、少年」

 

 声をする方を見る。

 ――男が立っていた。

 ヒーロー、なのだろう。漆黒のマントを身に纏ったその姿は、そう呼ぶ他ない。

 しかし分からない。あの男が一体なんという名前のヒーローなのか。ヒーローはなにかとメディアに露出する人種だ。だがブラッディー・スノウには彼に関する知識が一つもなかった。

 

「何をしたんですか、あなた。私の斬撃が外れてしまいました。お陰で斬れなかったじゃないですか」

 

 口を動かしながらも、ブラッディー・スノウは再び刀を振った。

 近くの地面が大きくえぐれるが、やはり少年には傷一つつかない。

 またも空振りだ。

 一度ならず二度までも、こうなると偶然という線は消えてくる。

 しかしなにをしたのか、具体的なことは何一つ分からない。

 あまりに不可解。

 

「何をしたか、当ててみるがいい」

「……そうします」

「ふん、かかって来い」

 

 ブラッディー・スノウはその場からかき消えた。

 瞬間移動?

 時間停止?

 ――否。

 ただの超高速移動である。彼女が本気になればただの移動でさえ人の目には捉えられないのだ。

 

(……まったく反応出来ていない。大口を叩いておいてこの程度ですか!)

 

 人外の速度で刀を振り下ろす――前に。

 なんと偶然に、ブラッディー・スノウは小石に足を取られてずっこけた。慌てて立ち上がろうとして、今度は何故か落ちていたワックスがよく染み込んだ雑巾に手を滑らせてしまい――男に突っ込んだ。しかも男の顔に乳を当てる体勢で。どうしてそうなったのかまったく分からない。

 

「……んひぃ!?」

 

 男に触れた瞬間、正体不明の電流が体を駆け抜ける。

 電撃系の『個性』!?

 ブラッディー・スノウは慌てて距離を取る。

 

「今のは一体……」

「まだ分からないか、俺の『個性』が」

「ええ、まあ」

「ではヒントをやろう。周りをよく見るがいい」

 

 周りなど見なくとも、ブラッディー・スノウは超直感で周りを捉えている。

 先程と何も変わらない――否、違う。

 死体がない。建物も破壊されていない。まるで最初から何もなかったかのように、何も壊されていない。民衆はパニックを引き起こしているが、それだけだ。

 

「ど、どうして!?」

「これが俺の『個性』だ」

 

 先程も述べたが、ブラッディー・スノウの『個性』は周りの空間を全て認識している。

 故に何かしらの力が加われば気がつくはずなのだ。

 もしかして幻覚……?

 いや、違う……とその可能性を否定する。幻覚にかかってもやはり、己の『個性』で見破れるはずなのだ。事実前に戦った幻覚使いは倒せた。

 それじゃあこの男の『個性』は一体なに?

 因果律の操作?

 時間移動?

 過去改変?

 

「いいや、違う。俺の『個性』はそんな矮小なものではない」

 

 思考を見透かした様な男の言葉。

 ブラッディー・スノウは一歩引いた。追って男が一歩進む。

 

「お前は最初から“斬っていなかった”のだ。先程の少年にやった様に、空振りしていたのだよ」

「な、何を言って……そんなの嘘です! 私の手にはちゃんと斬った感触がありました!」

「それは“偶然に”そう錯覚しただけだ。そしてその錯覚に“偶然に”気がつかなかった。それが事実だ。ここまで言えば分かっただろう、俺の『個性』の正体が」

 

 そんなはずがない。

 そう思いたかった。

 しかしそれ以外思い浮かばないのも事実。

 ブラッディー・スノウは答え合わせをするかの様に、自分の予想を告げた。

 

「まさか、五感のしは――」

「そう、俺の『個性』は『ラッキー☆ドスケベ』だ」

「『ラッキー☆ドスケベ』ですって!?」

 

 復唱。

 

「その通り。エロにグロい展開や人死には不要、故に俺の『個性』が働き誰も死ななかったのだ」

「そんな、嘘……」

「本当だ」

 

 男の言葉を裏付ける様に、周りでは誰も死んでいない。

 事実を受け入れられない少女、それを見下す男。静寂を破ったのは、先程助けられた少年であった。

 

「も、もしかして――あなたは『連続アクメ快楽堕ちさせるマン』!」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマン!

 連続アクメ快楽堕ちさせるマン! それこそが彼のヒーロー・ネームである!

 女ヴィラン相手に無敵を誇るヒーロー!

 己の『個性』により堕としたヴィランは数知れず!

 しかしその戦いぶりがあまりにあんまりなため政府には認定されていない非公認のヒーロー!

 表の象徴がオールマイトであるとするなら、彼はまさしく裏の象徴! 生ける伝説! 早い話がただの性犯罪者であるッ!

 

「そう、俺が連続アクメ快楽堕ちさせるマンだ」

「連続アクメ快楽堕ちさせるマン、ですか……?」

 

 ブラッディー・スノウが訝しげに連続アクメ快楽堕ちさせるマンを睨む。

 無理もない。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンは非公認のヒーロー、知名度もまた低いのだ。何より放送コードに引っかかるため、絶対に公共の電波には乗らない。

 

「ふざけたことをっ――!」

 

 SRAAAASH!

 せめて擬音だけでも原作らしくという配慮の元、ブラッディー・スノウが斬りかかる!

 しかし!

 偶然にも!!

 BANANAの皮がッ!!!

 ブラッディー・スノウは「いやバナナの皮に足を滑らせても絶対にそうはならないだろ」というフィギュアスケート選手も真っ青な意味不明すぎる軌道を描きながら、股から連続アクメ快楽堕ちさせるマンの顔面に突っ込んだ。

 しかもおっぱいが手の位置に、顔が股間の位置に来ている。

 

「――んくっ!」

 

 再度、正体不明の電撃が身体を駆け抜ける。

 しかも先程よりも強く。

 ブラッディー・スノウは謎の電撃攻撃の正体を理解した。

 即ち、快楽。

 人を斬った時に感じる、否、人を斬ることでしか感じれなかったそれを何故か連続アクメ快楽堕ちさせるマンからは大量に感じてしまう。

 

「ぁ、ひ……ふっ、ふっ! ふぅぅッ………!」

 

 しかし屈しない。

 歯を食いしばりながら呼吸を早めて快感を外に流す。

 必然的に下品な低音のハウリングボイスになってしまうが、そんなことを気にしている余裕はない。

 

「こ、この程度、ですか? なんだ口ほどにもありませ――お゛っ!」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンの攻撃は終わっていなかった。

 蠱惑的な乳房を無遠慮に掴んだのだ。その瞬間、ブラッディー・スノウの口から下品な声が吹き出る。頭の奥でチカチカと光がはじけた。身体が弓なりに反り返ってしまう。しかし連続アクメ快楽堕ちさせるマンが掴んでいる豊満な乳肉だけはその場に留まり悶えていた。

 

「まだまだ、こんなものじゃないぞ」

「ま、待って! 待って下さい! い、今は本当にダメなの、波が引いてないから! ダメだから! ――――イギィッッッッ!」

 

 再び、連続アクメ快楽堕ちさせるマンの手が乱暴に巨乳を揉みしだく。

 ブラッディー・スノウのことなど少しも労っていない荒々しい愛撫、それが故に強烈な“雄”を感じさせた。熱い衝動が乳から脊髄を通って脳を刺激する、その衝撃が今度は脳から全身に送り返された。全身に感じる甘い痺れ、まるで身体中が性感帯になったようだ。とりわけお腹の奥がきゅうきゅうと切ない。なにかを欲して、激しく飢えている。

 

「ぁ、あつひ……、子宮があじゅひ! やらぁ……お゛っ! あっ、ん゛ぅ、あひゅ! …………ひうっ! んくっ、ほおおおおを!」

 

 無様な声を上げてしまう。

 しかしそれも無理からぬことだった。乳房はもちろん、首筋、脇、太もも――連続アクメ快楽堕ちさせるマンの『個性』により、彼が触れる場所は“偶然に”全てブラッディー・スノウの弱点となってしまうのだから。

 

「は、はなじで! はなじでええぇっ! これ以上はほ、ほんどうにムリ………ム゛リ゛だからぁ! ごわれるう゛うぅ! ごわれじゃう゛ッ!」

「いいだろう」

 

 意外な程にあっけなく連続アクメ快楽堕ちさせるマンはブラッディー・スノウを手放した。

 距離を取ろうとするが、腰が砕けてしまって足取りが覚束ない。そして何より身体が、雌としての反応が連続アクメ快楽堕ちさせるマンから離れることを拒否していた。

 

「はあ、はあ……くっ! 私は、負けませんっ!」

 

 それでも、刀を構える。

 無論、快楽の波は引いていない。それどころか絶頂を覚え込まされた身体は上り詰めたまま返って来ない。身体はもう、以前の様には戻れなくなってしまっていた。

 脚はまるで産まれたての子鹿の様にガクガクと震え、舌がおねだりをするように疼き、顔は惚けきってだらしない。更には眼にハートマークが浮かんでしまう始末だったが、それでも構えは堂に入っていた。これには流石の連続アクメ快楽堕ちさせるマンも感心する。なんと強い精神力だろうか。

 

「私は、負けない! 連続アクメ快楽堕ちさせるマンなんかに絶対負けないっ!」

 

 ブラッディー・スノウが咆哮する。

 自分に言い聞かせるように。

 なるほど、面白い。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンもまた受けて立つと、構えを取った。

 果たして、どちらが勝つのか――二人の戦いが始まる!

 

 

   ◇

 

 

「ごめんなしゃい、ごめんなしゃいいィ! 私がバカでしたぁっ! だからもう許しへえ! …………ンギィ!? 感度三〇倍、すご……すぎ、るぅ!」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンが手を離すと、ブラッディー・スノウはその場に崩れ落ちた。身体はピクピクと痙攣しており、たまに腰が跳ねるばかりで立ち上がれそうにない。

 顔は二度と元に戻らないのではないかというほどダラシないアクメ顔になっていた。開いた口からは唾液と、呂律の回らない喘ぎ声だけが出ている。

 露出したお臍の下には赤いハートマークの淫紋が浮かび上がっていた。これは連続アクメ快楽堕ちさせるマンの『個性』に屈服した証、奴隷の調印。これがある限りどんな命令であろうとブラッディー・スノウは服従してしまう。

 

 意外にも勝負はあっけなく着いた。

 ブラッディー・スノウが“うっかり”自らの『個性』で、感度を三〇倍に引き上げてしまったのだ。

 痛恨のミス。

 そこが勝負の分け目だった。

 比喩ではなく、全身性感帯になったブラッディー・スノウに連続アクメ快楽堕ちさせるマンの攻撃を防ぐ手段はなかった。

 

「ブラッディー・スノウ」

「………ふぁ……い………んひぃ……」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンがブラッディー・スノウに手を差し伸べる。すると当然のように彼女の身体は連続アクメ快楽堕ちさせるマンに奉仕を始めた。指をペロペロと舐めとり、時には喉の奥にまで自ら誘う。それはまるで犬、ご主人様に媚び諂う雌犬そのものであった。

 残虐極まりないブラッディー・スノウは最早どこにもいないのだ。

 

「二度と人を斬らないと約束出来るか?」

「しょ……しょれ、は………」

「出来ないなら、最初からやり直すぞ」

「へぇ!? それはも゛、やだあ!」

「じゃあ誓うか?」

「ひゃい! ぢ、ぢかいまず! 二度と人は斬りません!」

「そうか。それならいい」

 

 ブラッディー・スノウの言葉に呼応して淫紋が僅かに光る。契約を結んだ証だ。もし契約を破れば、脳が焼き切れる寸前の快楽がブラッディー・スノウを襲う。そもそもブラッディー・スノウにはご主人様である連続アクメ快楽堕ちさせるマンに逆らう気など毛頭ないが。

 

 これにて一件落着!

 正義のヒーロー連続アクメ快楽堕ちさせるマンが勝ったのだ!

 

 ……とはならない。

 ブラッディー・スノウは更生したとはいえ、前科者だ。大犯罪者である。このままでは逮捕されてしまうだろう。最悪死刑になるかもしれない。それは連続アクメ快楽堕ちさせるマンの主義に反する。えっちな小説に無駄に重い話はいらないのだ!

 また『個性』によって奴隷の刻印が刻まれた者は定期的に連続アクメ快楽堕ちさせるマンの体液を摂取しなければ身体が疼き――死んでしまう。

 つまりブラッディー・スノウは今後一生、連続アクメ快楽堕ちさせるマンの側にいなければならない。

 よって連続アクメ快楽堕ちさせるマンはブラッディー・スノウを担ぎ上げ、その場を立ち去ろうとした。

 

「あ、あの!」

 

 それに待ったをかける者がいた。

 先ほどの少年である。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンは足を止めたものの、振り向くことはしなかった。

 

「僕も、なれるかな!? おじさんみたいなヒーローに!」

「ああ、なれるさ。君はヒーローになれる」

「……っ!」

 

 即答。

 その言葉がどれだけ少年にとって嬉しかったか。

 ――何故ならヒーローを目指した者はみな、その時点でヒーローなのだから。最後にそう言い残して、連続アクメ快楽堕ちさせるマンは今度こそその場を後にした。

 彼の活躍は少年の心に深く刻み込まれた。少年はいつか彼のような、立派なヒーローになることだろう。

 

 

 

 余談ではあるが…………。

 この事件以降、連続アクメ快楽堕ちさせるマンの傍には、ひとりの少女の姿が見られるようになった。

 純白とピンクを基調としたユニフォームに身を包んだ少女の名前は『ラブジュース・スノウ』。名刀『先走り』を縦横無尽に降る、正義のヒロインである。

 二人の物語は終わらない――否、始まったばかり!

 イケ、連続アクメ快楽堕ちさせるマン!

 イかせろ、連続アクメ快楽堕ちさせるマン!

 今日も新たな女を快楽堕ちさせるために!

 何処までも!

 世界が平和になるその日まで!







流石に感度三〇〇〇倍は書けなかったよ……。
私には三〇倍が限界でした。やっぱり対魔忍さんは凄え。
それと書いてから思ったのですが、主人公の『個性』である『ラッキー☆ドスケベ』は言葉のニュアンス的にはラブラバの個性『愛』みたいなものではないでしょうか。
しかもラブジュース・スノウとラブラバって似てるし、これはもうラブラバは淫乱と言ってよいのではないだろうか。ボブは訝しんだ。


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File.2 偶像崇拝

【前回のあらすじ】
富・名声・力、この世のすべてを手に入れた男、NO.1ヒーロー・オールマイト。彼が放った一言は出久を海に駆り立てた。「私の個性か? 欲しけりゃくれてやる! 片せ! 海岸のゴミを!」出久は雄英を目指し夢を追いつづける。世はまさに超常世界!!!



 ――――――少女が祈りを捧げていた。

 

 ただ座って祈っている。彼女の行動を端的に言うならそれだけだが、集中力が常人のそれとはまるで違う。全身から汗が噴き出る汗、極限にまで研ぎ澄まされた所作、一切の雑念がない心。ただ祈るという動作の中に、彼女の全てが現れていた。

 この事からも分かる通り、彼女は熱心な信者である。というより、その信仰はもはや盲信と言えた。太陽が昇るのは神様のおかげ、空が青いのも神様のおかげ、人が生きているのも鳥が空を飛べるのもなにもかも神様のおかげ――そう信じて疑わない。

 

 『狂信者』。

 彼女を表すのにこれ以上ふさわしい言葉はないだろう。

 

 しかし同時に、彼女は名高いヴィランでもある。実のところ彼女が信仰する神は所謂邪神であり、教団もカルト宗教の部類に入る。よって邪悪な教えを忠実に遂行する彼女は、必然的にヴィランとなったのだ。

 

 彼女は産まれた時からこの宗教にどっぷり浸かっていた。理由はシンプル、両親がこの教団の教祖なのだ。両親の教育により彼女は、普通の子供が国語や算数を習うように、教団の教えを受けた。まるで地面に捨てられたスポンジが泥水を吸い込むが如く。

 しかしいかに子供がスポンジの様な吸収能力を持っているとしても、小さな少女が残酷な教えを身につけられるものだろうか? 普通なら精神に異常をきたしてしまうのではないだろうか?

 ――否。

 彼女は普通の子供よりを遥かに上回るスピードで学習していった。

 地頭の良さや英才教育によりもの――ではない。彼女の『個性』に起因する。彼女の特殊過ぎる『個性』が教団のあらゆる邪悪を、未だ幼い少女の身体に刻み込んだのだ。

 

 この教団の教えは基本的に“人を殺すこと”に集約している。中世ならともかく、現代ではあまり流行りそうにない。そもそもヒーローが活躍する現代において人を殺して捕まらずに逃げることは難しく、また一般人も『個性』を持っているためターゲットも限られてくる。

 しかし――しかし。これもまたやはり、彼女が持つ唯一無二の『個性』が全て解決した。

 それだけでなく、彼女の『個性』は神懸かり速度で信者を増やし教団を飛躍的に大きくした。最初は小さく、凡百に埋もれていた教団も今となってはこの国指折りの宗教組織となっていた。

 

 『偶像崇拝』それが彼女の『個性』。

 

 自身に向けられた“こうあって欲しい”という願いを体現する『個性』である。

 両親が“教団の教えを身につけて欲しい”と願えばその通りになり、信者達が“奇跡を起こして欲しい”と願えば奇跡が起きる。更に『偶像崇拝』は“彼女自身の願い”さえも叶えてしまう。

 もし彼女が普通の女の子であれば、“もっと可愛くなりたい”や“気になる男の子と仲良くなりたい”などの願いを叶えていたことだろう。両親が“良い子に育って欲しい”と思えば、彼女は誰にでも優しい女の子になっていたことだろう。

 

 しかし彼女は邪教に祈った。

 そして周りの人間もまた、彼女が狂信者であることを願った。

 

 『偶像崇拝』は願いを叶える個性だが、もちろん限界はある。それは『個性』の限界というより、人の願いの限界。願いが強ければ強いほど力を増す『偶像崇拝』だが、人ひとりの願いは脆く儚い。同じことを常に願い続けるのは難しく、また強く願い続けるのは更に難しいからだ。

 一見強力そうに見える『偶像崇拝』だが、実は使い熟すのにはかなりの精神力を必要とするのである。

 ――が、彼女は別だ。

 狂信者であるが故にほぼ無限に願い――否、祈り続けることが出来る。更に彼女が他のことをしていたとしても、無数にいる信者達が祈ってくれる。恐らくは『偶像崇拝』を使う者として彼女ほど相応しいものはいないだろう。もっとも、正しい方向にとは限らないが。

 

「ふぅ……」

 

 今日の分の祈りを終え、立ち上がる。

 

「聖女様、こちらを」

「ありがとうございます。あなたに神のご加護があらんことを」

 

 側近からタオルを受け取る。

 聖女とはもちろん、今祈っていた少女だ。両親は教祖であり、彼女は聖女なのである。聖女にとって祈りとは激しい運動などであり、疲れもするし汗もかく。

 シミはおろか産毛さえない赤子顔負けの皮膚の上を一筋の汗が伝う。それを見た側近はごくり、と生唾を呑んだ。“聖女は美しくあって欲しい”という願いのせいか、はたまた原来のものか……聖女は美しい。

 

 男の手のひらより少し大きいくらいしかない小さな顔は美しいの枠にとどまらず、金髪碧眼であることも相まって、もはや輝いている様にさえ見える。

 身長は平均的な男の胸のあたりまでしかなく、抱き締めには最適な高さだ。しかし小柄な身長とは不釣り合いに胸は大きい。汗をかいていることもあって分厚い法衣の上からでもくっきり形がわかる。ヒップも同じく、法衣を押し上げてからでもかと存在を主張していた。

 見た目自体が聖域の様に神聖な彼女は、同時に男の肉欲を激しくくすぐるいやらしさも兼ね備えている。

 およそ聖処女らしからなぬ――いや、聖女とはあるいはこうあるものなのかもしれない。何故なら少なくとも、彼女には人を惹きつけて止まない魅力があるのだから。

 

「さて、礼拝のお時間ですね」

「はい。既に信者の方々は待機しております」

「では行きましょうか。今日も迷える仔羊を神の身元へ導かなくては」

 

 部屋を出て講堂へと向かう。

 そこでは信者達が待っているはずだった。

 しかし……。

 

「……これは?」

 

 信者達はいることにはいた。

 しかしその誰もが気絶させられている。

 まるで自分が気絶していることにさえ気がついてないかの様に、全員がその場で倒れている。

 信者の中には個性を持った者も多い。

 素人のしわざではない。

 

「――くふふっ」

 

 笑い声が聞こえた。

 見ればひとりの美少女が座っている。極限まで布面積のないコスチュームに身の丈に合わない大太刀、何よりおへそに刻まれたハート形のタトゥー、これほど特徴的なかっこうをしている人間はそう多くない。側近は直ぐに彼女の正体を言い当てた。

 

「お前は!? ラブジュース・スノウ!」

「知っているのか側近!」

「えっ?」

「お気になさらず。いつもの発作です」

 

 聖女は『個性』により変な返しをしてしまうことがある。

 テンプレな会話を“願い”の亜種として受信してしまうのだ。

 「ぬるぽ」と言われたら「ガッ」と言ってしまうのだ。

 

「名前をラブジュース・スノウ。彼女は有名な『ヴィラン狩り』です。ヒーローではない、しかしヴィランを倒す者。ヒーローよりも手段を選ばない分厄介です」

「なるほど……」

 

 聖女のヴィラン名は『イビル・ホーリィ』。

 先述した通り聖女は有名なヴィランでもあるのだ。

 ヒーローに狙われる可能性は十二分にある。

 

「ここにいた人達には眠ってもらいました。あなたを倒すのに邪魔でしょうから……しかしご安心を。もちろん殺してはいません、後遺症も残らないでしょう」

「倒す? 私を? 何故……?」

「惚けているのですか『イビル・ホーリィ』。だとしたら大した演技です」

 

 演技などではない、聖女は本当に分からなかった。

 たしかに人は殺した。教えに従わない男の家族を目の前で焼いた事もある。テロ紛いの事もしょっちゅうだ。今日の礼拝でも男の子を焼き、両親にその肉を食わせる予定だった。

 しかしそれも全て神のため。

 教典によれば悪ではない。

 

「お下がりください聖女様、どうやら話が通じない狂人の様です」

「話が通じないのはそっちだと思いますけど」

 

 側近が前に出る。

 彼の『個性』は全身から棘を出す個性。長さは最大で約二メートル、硬さはガラス程度なら軽々破壊出来るほど。極めつけは目に見えない微小なサイズの針による不可視の攻撃。地味ながら対人戦においては強力な個性である。

 

「行くぞ!」

「私はもうイきましたよ」

 

 しかし今日は相手が悪かった。

 容易く側近の左腕と右腕が斬り落とされた。自慢の不可視の針も『超感覚』を持つ彼女からすれば丸見えである。

 

「ぐ――ぐわあああああああ!」

「さっ、雑魚は放っておいて。次はあなたです」

 

 地面に倒れた側近を戦いの邪魔にならない様に蹴り飛ばした。

 そして改めて構え直す。

 しかしイビル・ホーリィは構えるどころか側近に近寄り、あろうかとか斬り落とされた断面に手を突っ込んだ。

 

「いっ――」

「お静かに」

「むぐっ!」

 

 頭で叫びそうになる側近の口に布を噛ませる。

 

「神のご加護をここに」

 

 一瞬、イビル・ホーリィの体が光った。

 そこから先は神話の世界。

 まるで巻き戻しが起きたかの様に、側近の腕と足が再生した。

 

「これが神のご加護です。ラブジュース・スノウさん、あなたも教団に入りませんか?」

「お断りします。それに神のご加護ではなく、あなたの『個性』の力では?」

「そうですか。つまりあなたは我々の神を馬鹿にしてると、そういうのですね」

「全く言ってませんが」

「いいでしょう。その報いを受けてもらいます」

「狂信者というのは話が早くて助かりますね。とっとと戦いましょう。といっても――」

 

 ラブジュース・スノウの姿がかき消える。

 

「――話以外は遅い様ですが」

 

 人類最高峰の運動能力を持つラブジュース・スノウ。

 更には『個性』により高速の中でも的確に相手の弱点を見極めることが出来る。

 そして稀代の斬れ味を持つ名刀先走り……この三つを持ってラブジュース・スノウは無敵を誇っている。

 彼女はイビル・ホーリィの首元目掛けて全力で刀を振った。これを無傷でしのいだのは彼女のご主人様ただ一人である。

 

 ――今ここに、二人目が生まれた。

 

 弾かれた訳でもかわされた訳でも、ましてや反撃を受けた訳でもない。

 単純に刃が通らなかった。

 まるで切れ味の悪い包丁でスポンジを切ろうとした時の様に、ただ押し付けているだけだ。

 

「聖女とは一変の穢れもない者、なればわたくしに穢れたるその様な下賎な攻撃が通じる道理がどこにございましょうか」

 

 イビル・ホーリィの皮膚は特別硬くはない。むしろ普通の人よりかなり柔らかい部類だろう。

 しかし皮膚の上から『偶像崇拝』の力で“いかなる攻撃も無効化する”という概念が張り付いている。

 

「そして悪とは常に聖なる攻撃に弱いものです」

 

 イビル・ホーリィが取り出したのは一冊の本――邪教の教えが書かれた聖書、その原典である。

 これを開くことはルーティーンであり、即座に強い“祈り”を生み出すことが出来る。

 ラブジュース・スノウが刀で戦う様に、彼女は聖書を使って戦うのだ。

 

「主は仰られました。神及びその信奉者を侮辱する者は必ずその報いを受けるだろうと」

 

 無造作に振るった拳。

 イビル・ホーリィは素人であり、武の心得などまるでない。達人の域に身を置くラブジュース・スノウが避けられない道理などなかった。

 しかし、

 

「っ!?」

 

 ラブジュース・スノウの身体が何かの力によって引き寄せられる。

 抵抗しようとしても出来ない。

 ガードの姿勢を取ることもできず、あまつさえ弱点をさらけ出してしまう。

 無防備な腹部にイビル・ホーリィの拳が深々と突き刺さった。

 

「(こ、これは――! 攻撃が急所に!)」

 

 尋常ならざる痛みが身体中を駆け回る。

 “聖女の攻撃はいかなる悪をも滅する”という願いの元繰り出されるイビル・ホーリィの攻撃は不可避であり、しかも必ず急所に当たる。

 

「これが神のお導きです」

 

 地面に倒れたラブジュース・スノウの整った顔面を踏み付ける。

 イビル・ホーリィの顔には歪んだ笑みが張り付いていた。

 足を少し持ち上げ――踏みつける。

 

「がっ!」

 

 踏みつける。

 

「ぐぅ!」

 

 踏みつける。

 

「かはっ!!!」

 

 踏みつける、踏みつける……。

 

「アハハハハハハハハハ!!!」

 

 顔面が崩れて地面と同化するまで、何度も何度も。

 

「むっ」

 

 足首が掴まれた。

 そのまま持ち上げられ、地面に叩きつけられる。

 無論ダメージはないが……体勢は崩れた。その隙にラブジュース・スノウは距離を取る。

 

「痛いのは好きですがあなたから痛めつけられるのは腹が立ちますね。それに私は“あの方”の所有物、あなた程度がおいそれと手を出していい存在ではありません」

 

 血の味がする。

 口の中が切れたらしい。

 ラブジュース・スノウは血塊を勢いよく吐き出した。

 

 そんなラブジュース・スノウを尻目に、イビル・ホーリィは次の一節を読み上げる。

 

「神は仰られました。この世には一種類の人間しかいない、即ち神を信奉する者である。それ以外は畜生以下の有象無象。分け隔てなく“下”である」

「“下”品なことも嫌いではありませんねぇ」

「わたくしは嫌いです。下品なあなたを上品に殺して差し上げましょう」

 

 言うが早いが、イビル・ホーリィが突っ込んで来た。

 自身の『個性』に絶対の自信があるが故の、ノーガードでの特攻。

 

「(『偶像崇拝』は一見無敵――だけど、いくつか隙は見つけた)」

 

 対してラブジュースは先走りを納刀、素手で構えた。

 必ず急所に当たるイビル・ホーリィの攻撃は避けようとすると眼球などに当たり致命傷になる恐れがある。

 そこでラブジュース・スノウは自ら急所で受けた。無論、ただ受けるわけではない。

 

「(ここ!)」

 

 触れた瞬間、身体を捩ってダメージを流す。

 『超感覚』により極限まで圧縮された体内時間と彼女の身体能力、そして武への理解が織り成した絶技である。

 それでも痛いは痛いが、さっきよりだいぶマシだ。

 

「はっ!」

 

 そして正拳突き。

 イビル・ホーリィの身体に深々と突き刺さる。

 予想通り避けようとする素振りさえ見せなかった。

 

「ですから、そんな攻撃は無駄だと――」

「ええ。“攻撃は通らない”でしたね。それなら攻撃せずにダメージを与えればいい」

 

 そして『超感覚』は戦いの中でも考える時間を作ってくれる。

 ラブジュース・スノウは既に『偶像崇拝』を攻略しつつあった。

 

「――こはっ!」

 

 突如イビル・ホーリィが苦しみ出した。

 答えは先ほどの正拳突きにある。

 ラブジュース・スノウは正拳突きの後、指先でイビル・ホーリィの肺をマッサージしたのである。心臓マッサージの要領だ。肺は急激に稼働し、多量の呼吸を始めた。当然イビル・ホーリィはむせる。

 

「もしくはあなた自身に攻撃してもらう、とか。聖女同士がぶつかったらどっちが勝つんでしょうかねぇ」

 

 イビル・ホーリィの頭部を掴み、彼女自身の膝に叩きつける。

 鼻の骨が折れる音がした。

 

「あなたの『個性』の弱点、それは“意識外からの攻撃”です。思い浮かばなかったことは祈れない、違いますか?」

 

 その通りであった。

 信者達は“聖女様が攻撃されて痛む所を見たくない”と思うかもしれないが、“聖女様がマッサージを受けて苦しまないように”とは思わない。

 

 たたらを踏みながらもイビル・ホーリィは聖書を開いた。

 

「か、神は仰られました! 信じる者は全て救われる! あらゆる困難は私達ではなく、心なき者に降りかかる! “聖別”を今ここに!」

 

 ぐにゃりと、空間が歪んだ。

 ――否。

 そうではない。

 太陽光が歪んだのだ。

 あたり一帯の太陽光が歪み、暗闇が覆い尽くす。

 歪んだ太陽光は収束し――ラブジュース・スノウに降り注いだ。

 光であるが故に回避は不可能であり、その熱量は鋼鉄をも溶かす。まさに絶体絶命のひっさつわ――

 

 一閃。

 

 先走りを振った。

 収束した太陽光が切り裂かれる。

 

「そ、そんな馬鹿な……」

「“聖別”、神の審判。それがまさかこんなちょっと眩しい程度の技なわけありませんよねぇ。想像出来ない物には祈れない――どうやら信仰心が足りなかったみたいね」

 

 ワイヤーでイビル・ホーリィの首を縛る。

 必死にもがいて抜け出そうとするが、肉に食い込んで掴めない。

 

「攻撃を受けないというのは、必ずしも良いことだとは限りませんよ」

 

 酸素を求めて開いた口に、ラブジュース・スノウは先走りを差し込んだ。

 内臓も管も切れない。

 切れないが、圧迫はされる。

 喉から腸まで異物を差し込まれ、イビル・ホーリィは呼吸困難に陥った。

 

「……こ、ぉえ………」

 

 目から光が失われていく。

 もがく回数も少なくなっていき……やがて絶命した。

 一応脈を測って絶命を確認したラブジュース・スノウは先走りを抜き取り、少し払って汚れを落とした。

 

「せ、聖女様!」

 

 動かなくなったイビル・ホーリィの身体に側近が駆けつけてくる。

 殺すかどうか迷ったが……今回ご主人様から受けた命令は「イビル・ホーリィの討伐」のみ。

 戦いはしたのに人を斬れなかったこの疼きは、ご主人様に癒してもらうことにしよう……ラブジュース・スノウはこの場を立ち去ろうとした。

 

「油断、しましたね」

「!」

 

 側近――否、イビル・ホーリィ!!!

 何故!?

 考える間も無く背中に激痛が走る。

 

「(脊髄がイかれた……!)」

 

 『超感覚』により己の状況を正しく認識したラブジュース・スノウは、脊髄が粉砕骨折し暫くの間立てないことを悟る。

 ……しかしそんなことはどうでもよかった。頭の中に湧いた疑問がほかの全てを埋め尽くしたからだ。

 確かに、確かにさっきは死んでいたはずなのだ。しかし今目の前にいるのは間違いなくイビル・ホーリィである。

 何故、どうして……。

 

「この世で最も分かりやすい“奇跡”はなんだと思いますか?」

「ま、まさか……」

「そのまさかです」

 

 ラブジュース・スノウの考えが当たっているとすれば、イビル・ホーリィは正に無敵ということなる!

 

「あなたが挙げた弱点などとうに知っていました、自分の『個性』なのだから当然です。

 ですが直す必要はありませんわ……何故なら信者が聖女に望むこととは“奇跡”なのですから」

 

 結論。

 

「確かにわたくしは死んでいました。しかし、復活したのです。“死者蘇生”、それが神の“奇跡”。

 神は仰られました。信じる者は救われる――と」

 

 絶望的だった。

 意識外からの攻撃をしようと、敵の攻撃をいなそうと、相手が“不死”ならば意味がない。

 勝ちの条件がない。

 ただし、ラブジュース・スノウにはだが。

 

「ふ――ふふふ」

「何がおかしいのですか?」

「いやね、滑稽だと思ったんですよ。イビル・ホーリィ、あなたは何も分かってない」

 

 ラブジュース・スノウは立ち上がる。

 先走りを杖にして動かない体に鞭を打ち、無理矢理に立つ。

 天に向かって指を指す。

 絶望はしない。

 何故なら――おへその淫紋が熱く疼いていた。

 来る。

 ご主人様が、来る。

 

「神とは! この世にあの方ただ一人!!

 そして奇跡とは! あの方の『個性』に他ならない!!!」

 

 天に向けた指をイビル・ホーリィに突きつける。

 

「つまりお前が信仰してるのはただの妄想なんだよ、イカレ女。ドゥー・ユー・アンダスタン?」

 

 まあ、私はイキ女ですけどね。

 

「上手いこと言ったつもりか」

 

 頭に置かれた手のひらから温もり――否、快楽を感じる。

 存在自体が暖かい太陽のよう――否、アダルトグッズのよう。

 絶対的な安心感だ。

 ラブジュース・スノウはちょっとイキながら気を失った。

 

 

   ◇

 

 

 黒いコスチュームに黒いマント。

 その姿はヒーローと呼ぶ他ない。

 しかしイビル・ホーリィは彼の存在を全く知らなかった。だが側近は知っていたらしい。

 

「お前は……まさか!」

「知っているのか側近!」

「え、ええ……聖女様、ヴィランにも二種類の者がいるのはご存知でしょうか」

「私のログには何もないな」

「知らないということですね。片方は何か目的のある信念あるヴィラン、もう片方はただ暴れたい奴らの集まりです。

 信念あるヴィラン達はオール・フォー・ワンというヴィランが頂点に立ち、組織としてまとめ上げてきました。

 しかしもう片方はそれぞれ独立して暴れるばかり――だったのですが、六年前にあるヴィランが無法者達を全員傘下に置いたのです」

 

 ヴィラン名『オール・フォー・アウト』。

 伝説的なヴィランである。

 ヴィランの表側の頂点をオール・フォー・ワンだとすれば裏側の頂点は間違いなく彼女だろう。

 

「そしてヒーローにも表と裏があります。

 表の象徴がオールマイトだとすれば、彼はまさしく裏の象徴。

 オールマイトがオール・フォー・ワンと相打った様に、彼とオール・フォー・アウトも相打ちになり、互いに姿を消したのです」

「なるほど……大したお方のようですね。ヒーロー名はなんと仰るので?」

 

 やはり◯◯・フォー・オールという感じだろうか。

 

「連続アクメ快楽堕ちさせるマンです」

「連続アクメ快楽堕ちさせるマン!?」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマン!!

 ヒーロー名は連続アクメ快楽堕ちさせるマン!!!

 

「そうだ、俺が連続アクメ快楽堕ちさせるマンだ」

 

 確認!

 

「と、ところであなたは神を信じますか?」

 

 こんな時でもイビル・ホーリィは宗教の勧誘を忘れない。

 これには流石の側近も感心した。

 

「すまないがそういう話はNGだ。えっちな物と宗教が混じると色んな方面に敵を作る」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンらしい配慮であった。

 

「まあそれはそれとして、だ。随分と私の雌犬を可愛がってくれたようだな」

「雌犬を可愛がると言われるとあらぬ誤解を受けそうですが、ええ、その通りです。概ね間違ってませんよ。もっともわたくしではなく、神のご意思ですが」

「なるほど。あのラブジュース・スノウを倒すとは噂通りの『個性』の様だな」

 

 こちらの『個性』は把握されてる、と。

 いやそもそもラブジュース・スノウとの戦いを観られていたかもしれない。

 一応警戒はした方がいいだろう……イビル・ホーリィは聖書を広げた。

 

「神は仰られました。汝、剣によってではなく信仰に寄って敵を打ち果たさん。倒した相手にこそ剣を突き立てよ」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンの身体が地面に倒れる。

 イビル・ホーリィはその背に向けて拳を叩きつけた。

 『偶像崇拝』によって聖言は叶えられ、敵は死ぬはずであった。

 しかし、通らない。

 ラブジュース・スノウの剣技がイビル・ホーリィに通じなかった時のように。

 

「な、何故!?」

「簡単な話だ」

 

 背を向けていた連続アクメ快楽堕ちさせるマンが仰向けになる。

 

「お前の『個性』よりも俺の『個性』の方が強い」

 

 馬鹿な。

 『偶像崇拝』は人々の願いを束ねる『個性』、たった一人の『個性』に負けるはずがない。

 

「ところで――騎乗位の体勢だな」

「っ!?」

 

 慌てて逃げようとするが、不運!

 偶然に足元に落ちていたインド原産バナナの皮がっ!!

 

 イビル・ホーリィは少し腰を浮かした後、再度連続アクメ快楽堕ちさせるマンの上に落ちてしまう。当然に起きる微振動がイビル・ホーリィの股間を刺激した。それはまるで愛撫の様だった。イビル・ホーリィは小さな悲鳴を上げそうになったが、なんとか堪える。代わりに声として出れなかったナニカが身体の中に残った。

 

「ふぅーっ。……ふっく! ひんっ!」

 

 まだ終わってない。

 下から圧迫される感覚。女の子の柔らかい肌とは根本的に違う逞しい肉体が布を隔てても伝わってくる。逃げる様に子宮が上へ上へと逃げてくる。それを追ってくる。快楽が、追ってくる。カラダのお肉を締めてもゴリゴリ削りながら登ってくる。快楽が通った後は肉壁がピクピク蕩けていた。

 やがてそれが脳内へたどり着いた瞬間、大量の脳内麻薬が出た。

 

 たったの一撃で分からされてしまった。『個性』と『個性』の差、雄と雌の差。屈服した脳が危ない物質をドバドバと分泌している。身体も情けないくらいに受け入れてしまって、お腹の奥には切なさと熱が溜まっている。

 

「(……あ………これダメなやつだ………女の子じゃ絶対に勝てない……………)」

 

 ぼんやりとした頭の中でそう思った。

 こんなの知らない。信仰だけで生きてきたイビル・ホーリィはこんな物があるなんて知りもしなかった。

 こんな……心の底から屈服したくなる快楽なんて。

 

 しかしどこかに残っていた僅かな理性が、信者達からのメッセージを受信した『個性』がイビル・ホーリィを呼び覚ました。

 絶頂の果てに子鹿の様に震えている脚をなんとか動かして、連続アクメ快楽堕ちさせるマンから逃げる。

 距離をとる、ではなく、逃げた。

 

「ほう、流石だ。俺の騎乗位から逃げられた女は他にオール・フォー・アウトだけだぞ」

「そ、そうですか……イ゛ッ! ざ、雑魚ばかり――ふぅ、んぅ! お相手してきた、よう、ようでしゅね!」

 

 なんとか虚勢を張ったが限界なのが見え見えだった。

 しかしそれも仕方のない事だとイビル・ホーリィは考える。こんな『個性』、女なら誰でも屈したくなる。

 今だって信者達からの“穢れなき聖女”の願いを受けてなんとか持っているようなものだ。

 

 お腹の奥に溜まった物と信仰心がギリギリのせめぎ合いをしていた。

 

「ところでお前の『個性』、実はひとつとんでもない弱点がある。なんだと思う?」

「さ、さぁ? にゃんでしょうか?」

 

 嫌な予感がする。

 だけどどこかで、その先を期待しているような……。

 

「俺に屈せ」

「へあ?」

 

 パチン!

 頭の中で何かが爆ぜた。

 

「――――んきゃああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あっっっ!!!」

 

 女の子が絶対にしてはいけない無様な声が出た。

 けれど、彼女を責める者はひとりもいないだろう。

 

「お前の『個性』は敵である俺の願いも受信してしまう。それに――気づいているか?」

「気づいてます! こんなの嫌でも気づきます! やめて、やめさせて! むりっ! もっ、むりだから! 重ぃ゛っ! これ重すぎ!」

 

 信者達の数は正確な所は分からないが、少なくとも1万は下らないだろう。

 その信者達全員が偶然にえっちな事を考え始めた……聖女をオカズにして。

 つまり、ラブジュース・スノウの攻撃を容易く防ぎ、死者をも蘇らせる『個性』が全て“快楽”となってイビル・ホーリィを襲ったのである。

 

「ん゛んぅ! しぎゅ! しぎゅうがとまらない! イグっ! ふぎぃ、ふぎいいいぃっっ! あ、あ、あ、……イヤっ! イヤイヤ! これ以上入って来ないで! もう行き止まりだから! わたくしのなか、それ以上――イヤっ、入って来ないでええええ! これやめさせてっ!」

 

 頭の中を快楽が真っ白に染める。お腹の奥にあった熱も爆発して意図も簡単に子宮を溶かした。それだけでは終わらず、手足の末端まで犯し尽くされる。バタバタ動いても止まってくれない。今まで信仰ばかりで何も知らなかったイビル・ホーリィのカラダは一瞬にして開発され尽くした。

 

「そういえばお前さっき面白い事をしていたな。攻撃が全て急所に当たるとかなんとか」

「へっ!? し、してませんっ! そんなことしへぇましぇん!」

「俺がやるとどうなるか……試してみるか」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンのデコピンがイビル・ホーリィを弾く。

 イビル・ホーリィの『個性』は攻撃が急所に必中する。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンの『個性』は更にその上――当てた場所を急所に変える。

 途端にアタマが性感帯になった。

 

「あちゅい! アタマがあちゅい! やげぢゃう! のーみそ、焼ける! どまらない゛ぃ! 波が止まらないのおおおおっっっ! 快楽重すぎィて、止まらないいいい! 神しゃま助けてえ!!!」

 

 最初の波が反射して返ってくる。勢いは止まるどころか、新しい快楽が二度、三度と波打った。アタマの中では絶対に人が感じちゃいけない快感がこれでもかと押し寄せてる。歯を食いしばって耐えようとしても無駄だった。直ぐに顔がだらしなくなってしまう。カラダは完全に堕ちていた。欲しがりな子宮が次を寄越せと下に降りてくる。

 

「ほう、これは面白い。もう少しやってやろうか?」

「も、もう堪忍した下さい……お願いします………負け癖ついちゃいまふ……わたくしのよわよわ子宮に負け癖ついちゃいまふから…………一度死んでもまた屈服しちゃう様になっちゃう……………どうか、どうかお願いしまふ……………」

 

 なんとか波が収まった後、全身を痙攣させながらイビル・ホーリィは懇願していた。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンは何も言わない。ただ黙って見下ろしている。

 その眼に恐怖したイビル・ホーリィが取った行動は“祈り”であった。

 神にだけしていたそれをこの男に対して自然としていた。

 

「もう二度と市民を傷つけないと違うか?」

「誓いましゅ!」

「信者を増やさないか?」

「増やしません!」

「信仰を捨てるか」

「……っ! しょしょれは!」

「それは、なんだ?」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンがデコピンの構えをする。

 イビル・ホーリィは目を白黒させた。彼女の理性は必死で争っているのに、カラダは媚びてしまっている。涎がダラダラ出て、お腹の奥がもう乾いていた。こんなカラダではもうどうすることも出来ない。

 答えはもう決まっていた。

 

「はい、捨てます。信仰を捨てます!」

 

 肉体が弾け飛んだ。

 もちろん比喩だ。実際に弾け飛んだ訳ではない。ただそう錯覚してしまうくらいの快楽が弾け飛んだのだ。アタマがポワポワしてカラダと分離していた。何も分からない。ただ奇妙な安心感と、おへそのあたりの疼きだけを感じていた。

 気がついた時には、奴隷の証である淫紋が刻まれていた。

 

 これにて一件落着!

 ……とはならない。

 この先どうなるかは分からないが、少なくとも過去、彼女はヴィランだったし邪悪な信者達を作ってしまった。被害者も数多くいる。

 償いをしなくてはならない。

 しかしイビル・ホーリィに迷いはなかった。

 

 このお方に着いていく。

 

 それだけは確かなことだった。

 かつて神に捧げていた信仰心がそっくりそのまま連続アクメ快楽堕ちさせるマンに向かっていたのだ。

 

「ところで、そこにいる男」

「は、はい!」

 

 側近に声をかける。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンの『個性』を見てか、はたまた同じ男として憧れるものがあったのか、彼は直立不動の姿勢を取った。

 

「演技はいい。それよりお前の飼い主に伝えておけ。次はお前だとな」

 

 側近の顔付きが変わる。

 先程までのおどけた様子は一切なく、ただ仕事だけを遂行する者の顔へと。

 

「……必ず伝えておきましょう。我が真なる主人オール・フォー・アウトに『ラッキー☆ドスケベ』の持ち主が帰ってきたと」

「ああ、それでいい」

 

 側近は闇の中へと消えた。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンもまた、イビル・ホーリィとラブジュース・スノウを担いで夜の街へと消えて行った。

 それから彼がどうしたのか………それは誰にも分からない。

 

 しかし、確かなことがひとつ。

 決戦の時は近い!

 そしてもうひとつ!

 この事件以来ラブジュース・スノウの他にもうひとりの少女が連続アクメ快楽堕ちさせるマンの傍らに控えるようになった。

 彼女の名前は『アクメ・パーリィ』!

 ショッキング・ピンクの法衣に似た何かを纏った正義の、否! 性技の少女である!

 薄い本を片手に太陽光を曲げて敵を溶かしたり生き返ったりするぞ!

 

 三人の物語は終わらない――否、始まったばかり!

 イケ、連続アクメ快楽堕ちさせるマン!

 イかせろ、連続アクメ快楽堕ちさせるマン!

 今日も新たな女を快楽堕ちさせるために!

 何処までも!

 世界が平和になるその日まで!






【次回予告】
やめて! 連続アクメ快楽堕ちさせるマンの個性で、脳みそを焼き払われたら、神経で繋がってる子宮まで燃え尽きちゃう!
お願い、イかないでオール・フォー・アウト!
あんたが今ここで倒れたら、シリアスな感じの話とか原作へのリスペクトはどうなっちゃうの?
希望はまだ残ってる。ここを耐えれば、連続アクメ快楽堕ちさせるマンに勝てるんだから!

次回『城之内 死す』 デュエルスタンバイ!


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File.3 施錠

 ラブジュース・スノウはベッドの上で目を覚ました。

 腕を伸ばして、身体をほぐしながら眠気を覚ます。

 ここ最近にしては珍しく(・・・)安眠出来たので、頭がぽーっとしていた。

 

 外にはもう日が昇っている。

 早く仕事をしなくては、と彼女は気だるい体を動かした。

 

 ラブジュース・スノウは連続アクメ快楽堕ちさせるマンの家に住んでいる。家、というよりは隠れ家と言った方がいいかもしれないが。

 字面だけ見ると凄いことを言っているようだが、要は居候である。

 隠れ家には何人かの女――下僕が住んでおり、連続アクメ快楽堕ちさせるマンに奉仕している。そういうとなんだかえっちな感じがしてしまうが、残念ながらやっていることは家事全般だ。

 

 ラブジュース・スノウの担当は主に料理である。

 『個性』により極限にまで研ぎ澄まされた感覚は火入れのタイミングを決して見逃さない。そう、常に完璧な料理ができるのだ。難しいと言われる卵料理も、少しの焦げ目もなく作ることができる。

 

「ほいっと」

 

 フライパンを巧みに操る。

 剣技に精通している彼女は料理器具も手足のように操れるぞ!

 そうして出来上がったのは、シンプルながらも非の打ち所がないオムレツであった。

 

「おはようございます、ラブジュース・スノウ」

「あら、おはようアクメ・パーリィ」

 

 やって来たのは先日下僕になったアクメ・パーリィ。

 かつては敵だったが、今は頼れる同僚だ。

 彼女の担当は掃除で、なんかこう……よく分からない聖なる力? 的なモノで部屋の汚れを全部取ってくれる。頼れる女だ。すごい。すごい無駄な『個性』の使い方だ。

 ラブジュース・スノウは自分のことを棚に上げた。

 

「今朝は久しぶりに静かな朝ですね」

「そうね。ご主人様の調教(・・)もやっと終わったのかも」

「そうだと嬉しいですねえ。はやくわたくしも神の恩寵をいただきたいものです」

 

 最近、連続アクメ快楽堕とすマンは部屋に引きこもっている。

 何をしてるかは明白で、『調教』だ。

 淫紋――奴隷刻印を刻み付けている。

 本来であれば女が屈服すれば無条件で刻まれるのだが、今回はどうにも上手くいかないらしい。

 そこで徹底的にやろうということになり、日夜調教されているのだ。流石のラブジュース・スノウも「アレはやばい」、「死んじゃうんじゃ……」とちょっと心配になっている。

 

「さ、そんなことより。今日もテキトーにヴィランを刈りましょう」

「みぎゃぁぁぁぁあああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

 そうですわね、というアクメ・パーリィの言葉を遮って甲高い嬌声が響いた。悲鳴と言った方がいいかもしれない。隣の部屋で獣が交尾しているような、恥も外聞もない淫猥な鳴き声だ。

 

「ムリ――ムリムリムリムリ! これ以上はムリです! そんな、待って、そこは……あっ、あっ、あ゛っっっ! ぐぅ!!! じぬ゛! 子宮あづぐで焼けじぬぅ!!!」

 

 これがラブジュース・スノウを睡眠不足に陥らせている原因である。

 一晩中こんな声を聞かされては、うるさいのもあるが、カラダが火照ってしまってしょうがない。次は自分にこそ寵愛を……と朝まで嫉妬に狂ったこともある。

 

「痛い゛! 脳がパチパチして痛いよお! い゛だい゛からあ゛っ、ほんとに、も゛っ、ダメなんです! 脳が変なモノ分泌しちゃってるの! 女の子をダメにするやつ出しちゃってるのぉ! ダメになるぅ、女の子としてダメになるッ!!!」

 

 エグい……。

 女の子から出てるとは到底思えないガチイキ声が隠れ家中を揺らしている。一般的な住宅街なら間違いなく警察を呼ばれていただろう。

 しかしここは隠れ家で、聞いているのは連続アクメ快楽堕ちさせるマンに調教された女しかいない。楽しみこそすれ、慌てるような者は皆無である。当然助けに入るような者もいない。

 

「これでは作業なんて出来ませんね」

「まったくです」

 

 やがて今朝の調教が終わり、連続アクメ快楽堕ちさせるマンがやって来た。

 二人合わせて礼をする。

 対して彼は、さっきまで女の子の人権を踏みにじる様なサディスティック調教をしていたとは思えないほど涼しい顔だ。

 

「おはようございますご主人様。朝食はいかがなさいますか?」

「いただこう。それと、調教部屋の掃除を頼みたい」

「かしこまりました」

 

 言われた通り部屋に行く。

 調教部屋というとなんだかものものしい気がするが、ただベッドがポツンとあるだけだ。

 手枷やSM器具の類は一切ない。

 必要ないからだ。

 

「コヒュー……、コヒュー……ヒック………」

 

 ベッドの真ん中には少女がいた。

 小ぶりな背丈に慎ましい胸にくびれた腰、ムチムチな太もも。顔立ちはなんとなく生意気そうで小悪魔っぽく、美少女ながら人好みしそうだ。あくまで平時では、の話だが……。

 

 今の彼女を見て小悪魔という感想を抱く者はいないだろう。

 

 服はいちおう着ているものの、ぐっしょり濡れてスケスケだった。これではボディラインが全部分かってしまう。やや赤みがかかった髪も乱雑にへばりついて、なんともエロティックだ。

 

 息は絶え絶えで、カラダは潰れた蛙の様にピクピクと痙攣している。恐らくは、調教の余韻で軽くイキ続けているのだろう。その証拠にときおり快楽を流す様にお尻を揺らしている。ラブジュース・スノウにも似たような経験があったから間違いない。

 

 一番ひどいのは臭いだ。汗と愛液が染み込んだベッドと服が発信源となり、雄に「ここに発情してる雌がいますよ」と告げる下品アピールをする甘い香りがこれでもかと撒き散らされている。これは染み付いてしまって洗濯しても落ちない。買い換えないとダメだろう。

 

 顔の方もひどい有様だ。完全に白目を剥いている。眉もすっかり垂れ下がってしまって、口も半開き。充血した頬には涙の跡が残っている。さぞや平時はモテているだろうが、今は顔全体でご主人様に敗北宣言していた。

 

「ちょっと触りますよ」

 

 服を着せかえようと、少女の肩に触れた。

 ほんの少し、トンとだけ。

 衝撃にもならないくらい優しく。

 

「ほんぎゃあああああああぎああ゛゛゛!!!」

 

 しかし少女はカラダを飛び上がらせた。

 シーツを手で掴んでいるが、腰が陸に上がった魚のように「カクカク」と下品なピストン運動している。脚もガクガクと震えていて電気でも流されてるようだ。一方でつま先だけは「ピーン」と張り、頑張ってシーツを伸ばしていた。オマケに、あんまり激しく動くものだから体液が周りに飛び散ってしまっている。

 

「ぎぃぃぃぃ! ギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!」

 

 おおよそ人間の出す声ではない。

 少女は最後に「こきょ」という断末魔をあげて気絶してしまった。体力と精神力の限界だったのだろう。もっとも意識がなくともカラダだけは快楽を欲して動いていたが……。

 

「流石はご主人様の『個性』、この女をここまで墜とすなんて。むしろここまで耐えたこの子を褒めるべきか」

 

 今は無様に敗北失神アヘ顔を晒しているこの少女だが――トップヒーローを何人も輩出してきた名門の産まれである。かつてエンデヴァーを抑えてNo.2ヒーローに君臨したこともある実力者でありながら、しかしとある事件を機にヴィランに堕ちた。人気ヒーローからヴィランになった彼女は一時期は最も恐れられたヴィランであった。

 この辺はラブジュース・スノウも大して変わらないので、あまり気にするところでもない。彼女の特性はもっと別のところだ。

 

 何を隠そう彼女は――連続アクメ快楽堕ちさせるマンの後輩なのだ。

 

 

   ◇

 

 

 静寂鍵留(かぎとめ)

 彼女はそう名付けられた。

 名門『静寂家』の一人娘である。

 

 一般的ではないものの、イマドキ“個性婚”をする家は珍しくない。静寂家もその中のひとつであるが……異なる点は彼らは『個性』が発現する前から似た習慣を行なっていたことだ。

 即ち、蠱毒である。

 蠱毒とは、ひとつの壺の中に大量の毒虫を入れる儀式である。過酷な闘争の中、最後まで生き残った虫は強い毒を帯びる。これを静寂家は人間、跡取り争いで用いていたのだ。『個性』が発現してからはより一層激しくなり……一代前まで続いていた。

 

 鍵留が10歳の時、自らの『個性』と能力に絶対の自信を持っていた父を超えた。

 静寂家では力こそが全てであり、彼女は当主になった。

 当主となった彼女は静寂家の悪しき風習を全て消し去り、善への道を進んだ。

 

 『私は正義であり、ヒーローである』

 

 彼女はそんなスローガンを掲げていた。

 悪を根絶やしにすることが強い『個性』を持った自分の使命だと疑わなかった。

 

 彼女は飛び級で士傑高校に入学し、メキメキと頭角を現した。

 そもそも『個性』が強かったのは当然として、他の子供はヒーロー科に入学してから行う個性の強化を、静寂家で幼い頃から嫌という程してきたのだ。この結果はある意味では当然だったのかもしれない。

 優秀だった彼女は自らの正義を証明し続け増長した。

 “私は正義”からいつのまにか“私以外は悪”にまで変わっていたのだ。

 

 そして事件は起きた。

 『ヒーロー活動認可仮免許試験』で出会ったのだ――彼に。

 

 その時の試験内容は、荒廃したビル群の中で、どれだけ救助が出来るかを競うものだった。

 これだけなら普通の試験なのだが、そこはやはりヒーロー、もちろんヴィランも設定されている。

 ヴィラン役は主にプロ・ヒーローが務めていたが、鍵留は経験を積むために、先生に無理を言ってヴィラン役にねじ込んでもらった。

 そして今、ヴィラン役を演じる彼女の前には、三人の生徒がいた。

 

学生時代の私が来た!

 

 先ずは雄英高校で最も有名な生徒、オールマイト。

 流石だ。

 登場時からフォントが違う。

 

こっちはお友達のエンデヴァーくん!

「誰が友達だ」

そして――

 

 オールマイトと、エンデヴァー。

 その名前には聞き覚えがあった。

 英雄高校には『ビッグ・スリー』と呼ばれる、上位三人がいる。この二人がそれだ。しかしもう一人の名前は聞いたことがなかった。

 オールマイトの左にいる、漆黒のマントのコスチュームの彼がそうなのだろう。

 オールマイトには動くだけで竜巻を起こすほどのパワーがあり、エンデヴァーには全てを焼き尽くす炎がある。

 この二人に肩を並べる男……一体どんな強者か、見極めてやろう。

 

「俺が連続アクメ快楽堕ちさせるマンだ!」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマン!?

 学生の身分でなんていうヒーローネーム!

 どうして申請が通った!?

 英雄の風紀はどうなっているんだ!

 

 答えはひとつ。

 申請を受け取る人が女性だった、それだけだ。

 

「二人は救助に回ってくれ。俺がこのヴィランを止めよう」

「俺に指図するな」

「アチっ、アチ! 俺の『個性』じゃ防げないんだから、燃やすな!」

 

 エンデヴァーが連続アクメ快楽堕ちさせるマンの脚を炙った。

 防がないところを見ると、連続アクメ快楽堕ちさせるマンの『個性』はあまり物理的ではないらしい。

 もちろんブラフという可能性もあるが。

 

 オールマイトは超人的な脚力で、エンデヴァーは炎の推進力で飛び去る。

 その瞬間、鍵留は動いた。

 最強、とは言えないまでも、間違いなくトップクラスには入る二つの『個性』を同時に発動し、そして負けた。

 ――――――否。

 敗北アクメした。

 

 これが静寂鍵留と、連続アクメ快楽堕ちさせるマンの出会いである。

 

 

   ◇

 

 

「せーんぱいっ!」

 

 歩いていた連続アクメ快楽堕ちさせるマンの背中に、背後から飛び乗る。

 一瞬ぐらっとしたが、意外と鍛えている彼は、鍵留を乗っけたまま歩き出した。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンはめんどくさそうに払おうとするが、降りない。そもそももう『個性』を使ってしまった。例え何があろうと、引き離すことはできない。

 

 静寂鍵留が負けたあの日。

 無様なアヘ顔を晒したことで、学校内での威厳は地に落ちた。

 とは言え、鍵留はあまり気にしてない。学校で学べるものを学び切った彼女は“新しいこと”を求めていた。

 自分よりも圧倒的に強い連続アクメ快楽堕ちさせるマンは、彼女が求めて止まなかった人だったのだ。

 

「おはよう、炎司」

「おはようございますー、炎司さん」

「……」

 

 エンデヴァーこと、轟炎司に声をかける。

 ガン無視だった。

 それが気にくわない鍵留は『個性』で炎司の足を止める。

 

「ほらほら〜。無視してると、いつまで経っても学校に行けないですよ?」

「死ね」

「んー、及第点!」

 

 『個性』を解除する。

 炎司は鼻を鳴らして、不機嫌そうに歩き出した。

 先の街角では、仲間に入りたそうにオールマイトが頭を出している。

 

 幸せ、だった。

 

 仲間や友達がいなかった鍵留にとって、今は幸せだった。

 きっとこのままこんな日々が、ずっと続くのだろう。

 そう思っていた。

 

 あの日が来るまでは。

 

 

   ◇

 

 

「逃げろ、鍵留!」

「でも、先輩!」

「早くしろ! もう抑えておけない!」

 

 そこは、平地だった。

 否、平地になった場所だった。

 さっきまであったビルも家も、道路も。全てが破壊されている。瓦礫のひとつも残っていない。

 

 周りではヒーロー達が倒れている。

 鍵留もまた、意識こそ失っていないが、力の全てを使い果たして倒れている。

 中心にはたった二人だけが立ち、そして対峙していた。

 一人は連続アクメ快楽堕ちさせるマン。

 もう一人は、オール・フォー・アウト。

 彼女の『個性』は強すぎた。

 女に対して圧倒的な強さを持つ『ラッキー・ドスケベ』でさえ、オール・フォー・アウトの破壊の前では分が悪い。

 

「ハハハハハハハッ!!!」

 

 笑いながら、『個性』を使う。

 それだけでまた、周りの景色そのものが弾け飛んだ。

 

「鍵留!」

「は、はい!」

「自分に『個性』を使え!」

「でも、それじゃあ!」

 

 彼女の『個性』は二つ。

 ひとつは静寂家が代々受け継いできた『施錠』。これは触れたモノを施錠することができる。施錠されたモノは動かない。機械は停止し、落ちるモノはその場に静寂する。

 ここまでが父親が使っていた『施錠』の話だ。

 鍵留のそれは、一歩先をいく。

 鍵留は“状態”も施錠出来る。要は部分的な時間の停止だ。熱いモノを熱いままにしたり、混ざらない水を作ったり、崩れない角砂糖を生み出せる。

 そして自分を施錠すれば、施錠されている間は、どんな外的効果からも守ることが出来る。今使えば、オール・フォー・アウトがどれだけ攻撃して来ても防ぐことが出来る。ただし自分からも動けない――つまり、連続アクメ快楽堕ちさせるマンがどれだけピンチになっても、助けられない。

 

「お前じゃ、足手まといだ」

「っ!?」

「俺も本気を出す。巻き込まれればタダでは済まない」

「……は、い」

 

 鍵留は自分を施錠した。

 しばらく経ってから施錠を解いたとき、そこにはオール・フォー・アウトも連続アクメ快楽堕ちさせるマンもいなかった。

 そして連続アクメ快楽堕ちさせるマンは、二度とその姿を見せなかった。

 彼は死んだ、と大半の人間は思った。

 しかし鍵留は違う。

 自分の下っ腹の淫紋が消えていなかったのだ。

 

「(先輩は、生きてる)」

 

 そう信じて疑わなかった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 それから鍵留はヒーローを辞めた。

 表よりも、裏の方が情報が集まりやすいと思ったからだ。

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンはもともと、その名前のせいで表への露出は少なかった。

 

 鍵留自身にしても、かつてあれほど執着した“正義”への気持ちは無くなっていた。

 代わりに残ったのは連続アクメ快楽堕ちさせるマンへの思いだけだ。

 

 こうして彼女はヴィランへと堕ちたわけだが、別に破壊活動を行いたいわけではない。

 ただしヴィランとしての格を上げるために、ヒーローを何度か倒している。

 ヴィランとしての格を上げれば上げるほど注目され、落ちてくる情報レベルも上がる。

 

「見つけたぞ、ハード・ロック」

「またお前か、ステイン」

 

 裏路地を歩いていたところ、目の前の廃ビルからぬらりと男が出て来た。

 彼の名は、ステイン。

 信念あるヴィランである。

 落ちたヒーローである鍵留――ヴィラン・ネーム『ハード・ロック』は、彼の信念からすると最も恥ずべき存在なのだ。

 とはいえ、鍵留の『個性』はステインの様な近距離専門の相手には滅法有利だ。

 逆にエンデヴァーの様に中・遠距離をこなせる『個性』とは相性が悪いが。

 

「お前じゃボクには勝てないってこと、そろそろわからない?」

「勝てる勝てないは関係ない……ハァ、貴様の様な悪は根絶やす」

「そうですね。悪は根絶やしにしないと」

 

 二人の会話に、誰かが割って入る。

 そこにいたのは、極限まで露出したコスチュームを纏う、長刀を携えた少女だ。

 鍵留は、目を見張った。

 少女の腹部に、自分のものと全く同じ淫紋が刻まれていたからだ。

 

「ステインとハード・ロック。あなた達を捕まえます」

「……ラブジュース・スノウか」

「あら。私を知ってるの?」

「ああ。お前も粛清対象だ」

 

 二人は刀を構え合う。

 そして、跳んだ。

 ラブジュース・スノウが超の付く達人である様に、ステインもまた達人である。

 常人では見ることすら叶わない速さで刀をぶつけ合う。

 加えてここは狭い路地裏だ。

 二人は壁を蹴り、立体的な動きをしていた。

 

「中々やるじゃない!」

 

 一枚上を行ったのはラブジュース・スノウだ。

 剣の腕はほぼ互角、となれば当然『超感覚』を持つ彼女に軍配があがる。

 剣戟の隙間を縫って、手刀を叩き込んだ。

 そして的確に肩の関節を外す。剣技だけでなく、こうした関節技にもラブジュース・スノウは精通している。

 

「ふん!」

 

 ステインは一旦距離を取り、強引に骨をはめた。

 常に一人で戦って来た彼は、こうした応急処置に手慣れているのだ。

 

 そしてまた、お互い構える。

 

 お互い自分と互角に戦える相手を前に、大なり小なり高揚していた。

 それを、鍵留が止める。

 

「待てよ。ボクを無視するな。そこの……ラブジュース・スノウとか言ったっけ。お前には聞きたいことがあるんだ」

 

 鍵留が両腕をかざす。

 すると周囲のモノが浮かび上がった。

 

「ハード・ロック――!」

 

 正直に言って、ラブジュース・スノウの標的は鍵留だった。

 ステインはたまたまそこにいたに過ぎない。

 そしてだからこそ、彼女の『個性』の恐ろしさを知っている。

 

 

 それでも実際に目の当たりにすると、こうまで圧巻なものか――!

 

 

 施錠とはまた別の『個性』。

 その名を『エアロ・ハンド』。

 個性婚によって得た、一種のテレキネシス!

 手の形をしたテレキネシスを飛ばすという平凡なこの『個性』は、触らなければ発動出来ない施錠の弱点を補強し、強くした。

 

「(人間はたった二本の腕を操作する動作に、脳の無意識領域の大半を使うとされている。だからこそ古来、シヴァの様に複数の腕を持つ神は崇められた。エアロ・ハンド――使いこなすのは容易ではないでしょうね。それをここまでモノしてるなんて)」

 

 ハード・ロックがテレキネシスによって生み出した手の数は、実に12対。

 つまり24の手を動かしていることになる。

 

「施錠」

 

 カチン。

 鍵が閉まる音がした。

 エアロ・ハンドで持ち上げた鉄パイプや瓦礫を施錠したのだ。

 これでただのコンクリートの塊は、どんな名刀でも切れない無敵の鈍器と化した。

 

「――ッ!?」

 

 エアロ・ハンドが襲いかかってくる。

 ステインと、ラブジュース・スノウ。

 二人の達人はその場からかき消えた。

 否。

 避けたのだ。

 四方八方から迫り来るハード・ロックの攻撃を。

 

「生憎と、ボクのエアロ・ハンドに人が生きれる程のスペースはないよ」

 

 的確に、エアロ・ハンドは二人を追い詰めていた。

 単純に一対六なのだ。

 いかに達人二人といえど、分が悪い。

 

「(このままじゃジリ貧!)」

 

 渾身の力で壁を蹴り、鍵留に向かって最高速度で斬りかかる。

 ――キィン!

 甲高い音がして、ラブジュース・スノウの攻撃が弾かれた。

 

「無駄だよ。周りの空気を施錠した。どんな攻撃も通さない」

 

 エアロ・ハンドを得たことによって、鍵留は空気にも触れる様になった。

 そして触れるなら施錠出来る。

 ドーム状に施錠された空気は絶対的な防御壁だ。

 

「(これは、不味い!)」

 

 体勢を崩したところをエアロ・ハンドに囲まれてしまう。

 右から来る鉄パイプを避け、後ろから投げられた瓦礫をかわしたところで――捕まった。

 正面から振り下ろされた鉄パイプを、つい刀で受けてしまった。凄まじい衝撃が身体を伝う。硬直した隙を、ハード・ロックは見逃さない。エアロ・ハンドで腹部を思いっきり殴りつけた。

 

「カ、ハッ!」

 

 ラブジュース・スノウは吹き飛ばされた衝撃で刀を落としてしまう。

 鍵留は刀をその場所で施錠した。

 これでもう、何人たりとも刀を動かすことは出来ない。

 それだけではない。

 舞った砂埃、宙に浮いた瓦礫など、全てが「カチン、カチン」と施錠されていく。

 気がつけば動けるテリトリーがほとんどなくなっていた。

 

「隙ありだ!」

 

 倒れたラブジュース・スノウにステインが斬りかかる。

 何度もハード・ロックと戦っていたステインは、彼女との戦いに慣れていた。むしろ半分意識がラブジュース・スノウに向かっていたお陰で楽だったくらいだ。

 振り下ろされた刀を、間一髪でかわす。

 そのついでにバク転しながら立ち上がった。

 

「ハァ!」

 

 追う刀で二撃目。

 刀はないが、かわすのは容易い。ラブジュース・スノウには『超感覚』で筋肉の動きが全て見えているからだ。

 

「! ――きゃあ!」

 

 なぜ……?

 ステインの蹴りを食らって吹き飛びながら、ラブジュース・スノウは考える。

 

「(今、予備動作なしで急に動きが止まった……)」

 

 フェイントの類はラブジュース・スノウには通用しない。

 ステインは本当に、いきなり止まったのだ。

 

「(そうか、あいつの『個性』!)」

 

 『超感覚』で高速思考したラブジュース・スノウは答えに行き着く。

 ステインの『個性』は血液を摂取することで、相手の動きを止める能力だ。舌を噛むなりして、それを自分に使ったのだろう。

 

「血を、こぼしたな」

 

 口から滴った血が地面に溢れる。

 ……なるほど、とラブジュース・スノウは納得した。

 ステインに血を舐められることは、ほぼ死を意味する。故に、こうして地面に血が付着してしまうと、それを守るために動けなくなる。

 刀を持っているとついそちらに目が行きがちになるが、打撃にも注意しなければならなかった。

 これがステインの“勝ちパターン”なのだろう。

 

「先ずは貴様だ」

「待てよ。そいつを殺されたら困る。聞きたいことがあるんだよ」

「その次は貴様を殺してやる」

「話聞いてた、お前」

 

 エアロ・ハンドがステインに襲いかかる。

 もちろんラブジュース・スノウにもだ。

 ステインはまた三次元的な動きで回避していた。

 一方ラブジュース・スノウはその場から動くことが出来ず、更には刀も失ったことでほぼサンドバッグ状態になっている。

 

「ふぅーー……仕方がありませんね」

 

 そこでラブジュース・スノウは、その場に正座した。

 あまつさえ、目まで瞑っている。

 しかしステインは安易に襲いかからない。達人であるラブジュース・スノウの技を警戒しているのだ。

 一方で武術に疎いハード・ロックは、何かあると思いつつも、躊躇わず攻撃した。例え反撃されたとしても、ノーリスクなのも大きい。

 

 襲いかかるエアロ・ハンドに、正確にはエアロ・ハンドが持つ鉄パイプに手を添える。

 すると鉄パイプは急に方向転換して、ステイン目掛けて飛んで行った。

 

「合気か!」

 

 力を受け流す技。

 あまり気持ちよくないので使いたがらないが、相手の動きを完璧に見極められるラブジュース・スノウは合気の達人だ。

 

「ぐっ!」

 

 ステインはなんとか攻撃を凌ぐ。

 しかし全てとはいかず、肩と脇腹を斬られた。

 舞い散った鮮血を、ラブジュース・スノウは指ですくい舐めとる。

 

「ハード・ロック。あなたはやはり、武術の心得はないようですね。『個性』で強化された武器や手数の多さは脅威ですが、逆に言えばそれだけ。それに――」

 

 ラブジュース・スノウは近くの小石を拾い上げ、ハード・ロックに向かって投げつけた。

 小石は弾かれ――ることなく、空気の壁を通り抜けてハード・ロックにぶつかった。

 

「施錠ということは、鍵穴があるのが道理。そもそもほんとうに全て遮っているなら、酸欠で死ぬはず。テレキネシスも通らない。違いますか?」

「はっ! なに得意げになってるの? もう一度やってみろよ」

 

 再び、ラブジュース・スノウが小石を投げる。

 今度は、弾かれた。

 

「二重施錠。空気の壁の中にもう一段、壁を作った。これで直線的な攻撃は通らない。まっ、たしかに鍵穴は存在するし、空気やテレキネシス用の穴はある。だけどさあ、なんの対策もしてないと思う? さっきのはパフォーマンスだよ。あんまりボコったら可愛そうだろ?」

 

 ハード・ロックは両手を掲げた。

 

「今、あたり一帯の空気を施錠した。これでもう誰も逃げられないし、誰も入ってこれない」

 

 そして、ステインとラブジュース・スノウに向ける。

 途端に二人は苦しみだした。

 エアロ・ハンドには触れるどころか、近づいてさえいないのに――!

 

「戦ってる最中、周りの酸素分子を施錠しておいた。呼吸しても分解できないようにね。あんたら馬鹿みたいに運動してただろ? 特にステイン、間違って自分の『個性』を使わないようにずっと犬みたいな呼吸してさ。空気吸いすぎ。正義の前に地球環境考えろよ」

 

 これが、ハード・ロック。

 元No.2ヒーロー。

 防御、攻撃、搦め手。全てを高い次元でこなしてこそ、トップ・ヒーローなのだ。

 

「ゼェ、ハァ! ハード・ロック!!!」

「へえ。立つんだ」

「俺を殺していいのは、真のヒーローだけだ!」

「ボクに勝っていいのも、先輩だけだよ」

 

 最後の力を振り絞って、ステインはハード・ロックに摑みかかる。

 当然、それは叶わない。

 触れるどころか、はるか手前で施錠されてしまう。

 

「ヒーローは、無償で、善の心を持ち! 人を助ける! 貴様はそれを踏みにじった! 人を見つけるためにヴィランになるヒーローがどこにいる! 子供達はお前を見て、どう思ったか! 考えたことがあるか!」

「ないよ。ボクのことを見るのは先輩だけでいい」

「ハード・ロックぅ!」

 

 この女は、許しておけない。

 身体はとうに限界だ。ステインは心で、否、信念だけで動いていた。

 それをハード・ロックは鼻で笑う。

 

「見事だ」

 

 そして突如現れた男は、賞賛した。

 

「ヒーローは制度や職業なんかじゃない。ましてや『個性』が強い者の総称でもない。人を助ければ、誰だってヒーローだ」

 

 ハード・ロックは目を見開く。

 

「例えば重い荷物を持ったご老人の荷物を持ってあげれば、そのご老人にとっては彼はヒーローだろう」

 

 そんな……嘘。

 

「家族を養う夫はヒーローだ。朝、道路を掃除する者もヒーローだ。私はそう思うよ」

 

 子宮の上に描かれた淫紋が狂ったように熱くなっている。

 間違いない、この人は!

 

「先輩!」

「久しぶりだな、鍵留」

 

 鍵留は全ての施錠を解いて、マントの男に抱きつく。

 夢にまで見た感触、においがそこにはあった。

 

「お前は『ヒーロー狩り』のステインだな」

「貴様は……」

「ヒーローだ。職業は無職だがな」

 

 同じ志を持つ者――否、真のヒーロー。

 ステインはそう思った。

 根っこにあるものと、ゴールは同じだろう。

 しかし道筋が徹底的に違う。

 まるで自分と、オールマイトのように。

 

 気がつけば、ラブジュース・スノウが片膝をついて平伏していた。

 なるほど、彼女の上司らしい。

 そういえば、彼女が乱入してきた目的も謎だった。

 おそらくは、ハード・ロックを狩りに来たのだろう。

 

 しかしラブジュース・スノウの名前はヒーロー欄にはない。

 本当に彼らは無償で人を助け、ヴィランを倒しているのだ。

 誰にも注目されることのないまま……。

 

 気がつけばステインは手を差し出していた。

 マントの男は少しの躊躇もなく、殺人鬼である自分と握手を交わした。

 

「……名前を、聞かせてくれないか」

 

 友にはならないだろう。

 しかしオールマイトのように、彼は自分にとって、心の支えや目標になるかもしれない。

 そう思ってのことだった。

 

「俺の名前は連続アクメ快楽堕ちさせるマン!」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマン!

 それが彼のヒーロー名である!

 趣味でヒーローをしているぞ!

 最初はプロヒーローになろうとしたが、名前の関係で却下されたのである!

 

「さらばだ!」

 

 連続アクメ快楽堕ちさせるマンはそのまま飛び去っていった。

 ステインは彼のことを忘れて、帰って寝た。

 

 

   ◇

 

 

「イッ! イッてるからりゃあ! うあああああっ! も、ムリ! 頭、焼き切れて、ダメになるぅ! センパイのことひか、考えられなぐなるぅ゛! 女として終わる、都合のいい雌になっちゃううううう゛!」

 

 調教部屋から聞こえてくる悲鳴に、ラブジュース・スノウは頭を抑えた。

 あの女、どう見てもご主人様のことが好きだ。それなのに抗っている。生意気な小悪魔系後輩を狙っているに違いなかった。

 

「そご、そ゛ごはあああ! 抑えつけないでぇ! 私のよわよわ子宮いじめちゃ、ひぃ――ダメ! 嫌だ嫌だ嫌だイヤイヤイヤイヤ――捻切れるゥ! 子宮捻切れるからあ!」

 

 彼女の『施錠』は、実は対になる『鍵』がある。

 ご主人様は偶然にその鍵なんだそうだ。

 だから彼女がどれだけ『個性』を使ってもムダであり、何をされても抵抗できない。施錠によって断絶されたはずのあの場に来ることが出来たのも、そういうカラクリだそうだ。

 

「ふぎゅううううう! ひ、ひ、ひ、ひぃへゃあ! んぉぉぉぉお! あぅう゛う!」

 

 そろそろ人語が話せなくなってきたようだ。

 それでも、調教は終わらない。

 やりすぎた後輩への躾の意味もあるらしい、まったく羨ましい限りだ。

 

「んむっ! じゅるるるるるる! じゅぞ、じゅぞぞぞぞぞぞ!」

 

 なにかをバキュームする音が聞こえてきた。

 なんでも彼女は、背中に抱きついて首筋を噛んだら吸ったりするのが好きらしい。

 調教の時はその癖がよく出る。

 

「えへ、えへへへへへっ! せんぱーい、せ〜んぱい!」

 

 本人は気がついてないだろうが、時たまこうして甘える声が出てる。

 というか、目もよくハートになってる。

 あれでよく隠せていると思えるな、とラブジュース・スノウは思った。

 

「ボクは、マゾじゃないです! 名門の、お嬢様でひゅ! あっ、お嬢様イキする! マゾスイッチ入っちゃいます! マゾイキぎもち゛ぃぃぃ!」

 

 この分だと、調教は長引きそうだ。

 散歩がてらラブジュース・スノウは、ヴィランを狩りに外に出た。

 

 イケ! ラブジュース・スノウ!

 ハード・ロックの調教が終わるその日まで! 戦い続けるのだ!

 戦いの終わりは近いぞ!

 がんばれラブジュース・スノウ!

 負けるなラブジュース・スノウ!!!



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