少年Aは神殺しである。 (千点数)
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鋼の章
1:史上類を見ない愚か者


 僕が今書いている小説の筆休め的な感じでサラサラっと書いた奴です。

 終わり方は一応決めてます。


 少年は神を殺した。

 

 「これで、俺の勝ちだ、ヒトデナシ」

 「矮小な人間風情がッ・・・・・・」

 

 神は、それを認めなかった。いや、認めたくなかった。

 人間が神を殺すなど有り得ない。

 

 だが、実際に、自身が持っていた大太刀は目の前の少年に奪われ、自らを殺す武具として使われて、今、深々と自らの胸に突き刺さっている。

 

 「・・・・・・ああ、認めてやる。貴様は、俺より強い」

 「当たり前だ。人間サマの気力と根性をナメんな」

 

 だからこそ、認めざるをえなかった。

 自らの敗北を、自らの死を。

 

 ・・・・・・だが、ただ、ただただ自らの死を受け入れ、黙ってやられるような神ではなかった。

 

 ヒトデナシ・・・・・・だからこそ神。故に、

 

 「死に際に俺からの置き土産だ!受け取れっ!!」

 

 何やら呪詛の篭った言葉を神が吐き捨てると、少年はそれをマトモに食らう。

 そして、この世のモノとは思えない程の苦痛がいきなり少年の体を襲った。

 少年は顔を苦痛に歪め、左腕を押さえてのたうちまわる。

 

 「・・・・・・!?うっ、ぐぁああああああ!?」

 「祟りというモノだ。聞いたことくらいあるだろう?

 だが、それは祟りであると同時に、お前の身体を不老かつ、圧倒的な不死性を持つ化け物にするモノ(呪い)だ。

 俺という存在(神という存在)を殺した者が、楽に死ねると思うなよ?祟りによる苦痛と簡単に死ねぬ呪いに苛まれ、半永久的に生き地獄を味わうが良い!」

 

 神は殺された腹いせに最後の力で少年を祟り、この世から笑って姿を消した。

 ・・・・・・いや、存在そのものが、この世界そのものから消えた。

 神の胸に刺さっていた大太刀が、カランと音を立てて地面に落ちる。

 

 「・・・・・・チックショー、あいつ特大の最後っ屁を吹かして逝きやがったっ・・・・・・!」

 

 少年は、してやったりといったような顔を最後に見せた神に対して苛立ちつつ、最早『終末』と言っていい街中から、星が煌めく夜空を見上げる。

 戦い始めた時には夕方だったのだが、スッカリ日も沈み、辺りは真っ暗闇だ。

 

 「・・・・・・まあ、良い。さて、まずは生存者の救出だな・・・・・・生存者いるのかな、コレ・・・・・・」

 

 少年は近くに落ちていた神秘的な雰囲気を放つ、持ち主が死んで尚何故か現世に残っている大太刀を、すぐ側に落ちていた鞘に入れると、左手でにぎりしめ、周囲に存在する化け物の気配を感じつつ廃墟と化した街の中を警戒しつつ歩いていった。

 

 「黄泉の国に持って行き忘れてるっぽいし、貰っていこう」

 

 少年の左腕、そこには刀剣が交差したような形の、まがまがしい痣が左腕全体に巻き付くようにして出来ていた。

 

 *

 

 2015年某日。

 世界に、化け物が突如表れ、人という人を貪り、犯し、辱めた。

 

 同日。

 

 それぞれの地域で、無垢なる少女達が勇者として覚醒。

 後に四国へと集結。人々を守る最後の砦となった。

 

 

 

 だが、その少女達、そして人に味方する地上の神々は知らなかった。

 

 ・・・・・・後にバーテックスと呼ばれる化け物を送り込んだ天の神自らも、地上に降り立ち、『粛正』という大義名分を持ってして人を殺戮した事を。

 

 そして、それがあった時と同じころ、『神殺し』という、人類史上最強の怪物が生まれた事を。

 

 これは、勇者の物語ではない。

 これは、勇気のバトンを繋ぐ物語ではない。

 

 これは、この先破滅と絶望が待っていると知って尚、そこにダイブ・・・・・・いや、殴り込んでいくような、そんな大馬鹿野郎による英雄譚(まんざい)だ。




 更新は多分結構先です。


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2:俺かい?俺はーーー

 サラリと書きました。

 なんか変になってても気にせず誤字報告の方にお願いします。


 神殺しは、馬鹿にしか出来ないだろう。

 

 大抵の人間は、余りにも大きな差があれば、『埋めるのも馬鹿らしい』と、諦める。

 

 が、馬鹿は違う。

 馬鹿だからこそ、その差を埋めようと足掻き、苦しみ、そして大抵、やらかすか、『この世のモノとは思えない大事』を成し遂げる。

 

 だからこそ、この世のものとは思えない程の馬鹿にしか、神殺しは果たせないのだ。

 

 *

 

 「生存者、いなかったな・・・・・・」

 

 はぁ、と一息つく。

 そして、やってらんねーぜ、と少年は一人、空を仰いだ。

 

 「俺が化け物を切り捨てながら強行軍した意味とは如何に、ってな」

 

 少年は、取り合えず生存者を探す為にどうしたか・・・・・・。

 

 最初は、コソコソと、化け物に見つからないようにして探していた。

 が、見つからない。

 

 ・・・・・・じゃあ、と、少年は次の手を打った。

 

 それは、『街の中心で大声を張り上げる』という、おバカなものだった。

 

 当然、化け物はワラワラと寄って来る。

 それを少年は奇声を張り上げながら、「チェストー!!!!」と大太刀をブンブンとブン回し、化け物をみじん切りにしながら生存者を探していたのである。

 

 妙に疲れて、息が乱れているのは、町中生存者を探し回ったというのもあるだろうが、大部分はただ大声張り上げて街中を強行突破しまくったせいだろう。

 

 「あー、もう太陽が上ってきてるのが見える・・・・・・つーか、多分アレ、敵だよな・・・・・・」

 

 太陽を見ながら、少年はその太陽の神格を持つこの国の主神を思い浮かべる。

 天の神々が放った化け物及び、昨晩その天の神そのものを一柱殺したのだから、もうあの太陽も敵で良いだろう。

 

 「よーし決めた!俺の当面の生きる目標!」

 

 少年は、東に浮かぶ太陽に向けて人差し指をビシリと向けて、高らかに宣言する。

 

 「太陽、テメェを殺すことだ!」

 

 何ともスケールのデカい話である。

 

 *

 

 さて。

 余りにもおバカ過ぎる目標を立てたはいいものの。

 少年には、目下最大の問題が発生していた。

 

 「ハラ減った・・・・・・」

 

 コ レ で あ る。

 

 腹が減っては戦は出来ぬ、という言葉があるように、少年は今、三週間もの間飲まず食わず、更に左腕の祟りによる影響で苦しみもがき、でも、死ねないという二重三重の苦痛に苛まれ、少年の心はズタボロであった。

 

 何か食べたい。

 

 その思いが、彼にモノスゴイ感覚を与えたのだろう。

 

 「クンクン・・・・・・スンスン・・・・・・コレは!蕎麦の匂い!」

 

 実際、今いるのは山の中。

 蕎麦なんてある訳がない。

 だが、彼はそんなの知らん、蕎麦の匂いのする方へーーーといった具合に、一目散に駆けていった。

 

 「うっひょー!三週間と一日ぶりの(めし)だ飯ぃー!」

 

 少年の脳内が、些か残念な事になっているが・・・・・・とうとう、何もない場所で蕎麦の匂いを感じる程頭がヤバい事になったのか・・・・・・というと、そうでもなく。

 

 「村だ!村がある!そして蕎麦の匂いはあそこからだぁああああああああああああああああ!!」

 

 うっひょひょーい!と、駆けていく一人の馬鹿。

 傍から見れば変人である。

 

 途中、化け物が湧いてたりしたが、

 

 「邪魔じゃボケェエエエエエエ!」

 

 少年はまるで豆腐を切るかのようにスパスパ切り裂いた。

 

 途中、黄色い奇抜な格好をした少女がいて、村に向かうついでに担いでいく。

 

 「ワッツ!?あなた誰よ!?」

 「誰でも良いだろ!取り合えずお前あそこの村に投げ飛ばすからしっかり飛べよ~!」

 「は、はい!?っって、ホワイいまなんて!?・・・・・・ぃいやぁああああああああああああ!?」

 

 少女は化け物をばっさばっさとデカい鞭で薙ぎ倒していたが、少年にとっては進行するのに邪魔だった為に担ぎ上げてから村までその少女を投げ飛ばし、自らは化け物の群れの中に踊り出て、残像を残しながらとてつもないスピードで、ザクザク切り裂いていく。

 

 「だから邪魔だっつってんだろ化け物ども!」

 

 大太刀の振り方は雑で、とんでもなく無駄が多かったが、それを少年は気にもせずに、乱雑に振り続ける。

 ボロボロに擦り切れ、ところどころほつれたブカブカのパーカーを翻し、少年は宙を舞いながら化け物を一刀の下に切り伏せていく。

 

 「コレで、ラストォ!」

 

 大上段からの振り下ろしで、化け物を切り飛ばし、少年は大太刀を鞘に納める。

 そして漸く、少年曰く蕎麦の匂いがする村・・・・・・いや、規模からして町に辿り着いた。

 

 「いやぁ、さっきは投げ飛ばして悪かったな」

 「アー、ここは投げ飛ばされた事を怒れば良いのかしら?それとも、化け物退治のお礼を言った方が良いのかしら・・・・・・?」

 「別にどっちでも良いんじゃね?」

 

 そして、いくら腹が減っていようとも、まずは先ほど投げ飛ばした少女の着弾点へと赴き、頭を下げた。

 最早頭がヤバい事になっているのでは、といった具合の馬鹿でも、最低限度の礼節は弁えているのである。

 

 「じゃあ、お礼でも言っておくわ。サンキュー名も知らぬ少年!」

 「おう。お礼は蕎麦で良いぜ。腹へってんだ。もう三週間食ってない」

 「オーケー、なら食堂へ行きましょう!フォローミー!・・・・・・え?」

 

 少女が、驚いたような顔を向ける。

 

 「いやぁ、ここまで強行軍だったもんでね。五十キロ程の大進撃だ」

 「よくライフが持ったものね・・・・・・パワーがストロングとはいえ」

 「んー、まあ、なんか祟り食らったら身体が痛い変わりに軽くなったしな」

 「ワッツ!?祟り!?」

 

 今度は少女が、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした。

 

 「おう。この左腕に絡み付いてんの祟り。ああ、伝染とかはないから安心しろ。あくまでも俺に苦痛を与えるだけらしいし」

 「だ、ダイジョーブなの・・・・・・?」

 「別に?なんか針治療でツボじゃない場所を何回もツンツンされてる感じって言えばわかるか?」

 「う、うん・・・・・・いったいどんな事をすれば祟られるのかしら・・・・・・?」

 「剣神ぶっ殺した」

 「What's!?」

 

 カタカナ英語が急に流暢になった少女。

 これ以上ないまでに驚きの顔を見せている。

 

 「いやぁ、あいつ死に際に特大の置き土産残して逝きやがってよ。ったく、お陰で毎日毎日チクチクともにょもにょする変な痛みを味わわなくちゃいけない事に・・・・・・!」

 「オーケー。貴方が私の理解を超えるような事をしでかした事はアンダースタンドしたわ」

 

 少女は最早考える事を放棄したらしく、頭を押さえてため息をついていた。

 

 「貴方・・・・・・一体何者なのよ・・・・・・?」

 

 そう言って、彼女は少年に目を向ける。

 

 「俺かい?俺はーーー」

 

 少年は、愉快そうに笑うと、

 

 「俺は神殺しの、何処にでもいる街の少年Aだ。そうだな・・・・・・エースとでも呼んでくれ」

 「真面目に名乗りなさいよ!?」

 「悪いな、本名は自分の口から名乗らない主義なんだ」

 「もうそれで良いわ・・・・・・」

 

 この少年、かっこつけしいである。

 

 (よっしゃぁ!『名前を名乗らない』というカッコイイ自己紹介出来たぁ!)

 

 そして、馬鹿である。

 

 *

 

 なんだかんだあって、少年A・・・・・・エースは、三週間と一日ぶりのマトモな食事にありつけた。




 少年A(主人公)

 とある剣神をぶっ殺して、神殺しになった人。
 ドコゾの魔王と違い、

 1、権能は奪えない
 2、義母?いない
 3、殺したのはまつろわぬ神ではない

 で、更に神様に置き土産で祟られて、毎秒毎秒左腕に違うツボを押されて刺されて・・・・・・といったような痛みが走るように。

 祟りと同時に、不老かつ、圧倒的な不死性を持つ化け物の肉体になる呪いもかけられた為、地味な痛みを半永久的に味わう事に。

 剣神が黄泉の国に持って行き忘れていった大太刀でばっさばっさとバーテックスをなぎ払う。

 今のところの目標は、どこぞの天照らす人を殺すこと。


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3:あだ名と酒と子供達にはご注意あれ

 神殺しにも、勝てないものは存在する。


 「あいつらは・・・・・・あいつらはまだ小学生なんだよ!!」

 「・・・・・・」

 「なのに、俺達ぁ何時も護られてばかりで・・・・・・!」

 「餅は餅屋っす。信じて待つ、というのも大切っすよ?」

 「分かってらぁ!でもよぉ・・・・・・!」

 

 (あー、何だろう。何なんだこの状況)

 

 少年A・・・・・・エースは困惑していた。

 目の前には、感情をさらけ出す酔っ払った爺さん集団。

 

 両隣には、すぴー。と、可愛い寝顔で寝る、エースがつい先日投げ飛ばした少女、白鳥歌野と、その歌野の友達の藤森水都。

 

 どちらも、小学生の幼い少女である。

 

 ぎゃあぎゃあと感情を吐露する男と、そんな中幸せそうな寝顔で涎を垂らしながらエースの腕に抱き着いて眠る歌野と、健やかな寝顔でエースの膝枕を堪能している水都。

 

 エース、この時、十六歳。

 神の祟りと呪いの影響により、歳を取らず、圧倒的な不死性を持った化け物となっても、このカオスな状況にどう対象すれば良いのか。

 神殺しを成したその身と、おバカな頭脳は、余りこの状況に役に立たないようだった。

 

 というかまず、この状況にどうやって到ったのか。

 時を少し、巻き戻す。

 

 *

 

 エースがここ、諏訪にやってきて、翌日。

 エースは歌野のはからいで、公民館のような場所で寝泊まりしたのだが、エースが起きて身体を起こせば、何故か公民館の引き戸から複数の視線を感じた。

 よく見れば、ちっちゃい子供や、エースと同じくらいの歳の少年少女がジー、と引き戸に隠れて布団にいるエースを覗いていたのである。

 

 じーーー・・・・・・・・・・・・

 

 (いや怖ぁ!)

 

 諏訪の人々が、外からやって来たエースを不思議がって、見に来たのだろうか。

 エースも、引き戸に隠れている子供達の方をじーっと見てみる。

 

 じーーー・・・・・・・・・・・・

 じーーー・・・・・・・・・・・・

 

 (あ、逃げた)

 

 こちらも見ている事に気がついたのか、子供達は一目散に逃げていった。

 

 「いったい何なんだか」

 

 彼は、枕元に置いてあったジャージとTシャツ、諏訪に来たときに来ていたボロボロに擦り切れ、ほつれているブカブカのパーカーを羽織り、地味な痛みを訴える祟られた左腕で、布に包んだ大太刀を持って外に出た。

 

 

 

 彼は知らない。

 

 まだ幼い少女、白鳥歌野を投げ飛ばした鬼畜男だとか、化け物スレイヤーだとか、妖怪蕎麦置いてけだとか。

 そんな、不名誉なあだ名を、白鳥歌野とその友達である藤森水都の手によって、子供達の間で流布されている事に。

 

 *

 

 「おお、そこの長物持ったニィちゃん、ちょいと来てくれや」

 「へ?ああ、はい」

 

 外に出れば、太陽はもう天高く昇っていた。

 エースは、街をふらふらと歩いていると、不意に日陰のベンチで休んでいた、歳を召した老年の男性陣に呼ばれた。

 

 「ニィちゃん、見ねぇ顔だな。諏訪の外からやって来たんか」

 「っす。まあ。昨日、西の方から来たっす。あ、昨晩公民館の一角をちょっと借りて寝たんですけど、良かったっすかね」

 「ええ、ええ。そんくらい。大変だったのう」

 「そとはバケモンがいっぱいだろう?どうやって生き延びたんじゃ?」

 

 そんな具合で、雑談に花を咲かせていると、

 

 「ん?昨日来たって事は、ニィちゃんがあの『妖怪蕎麦置いてけ』か?」

 

 エースは、崩れ落ちそうになった。

 

 「何すかそれ!?」

 「ん?歌野ちゃんと水都ちゃんが子供達にニヤニヤしながら言い触らしておったぞ?・・・・・・というか、歌野ちゃん達ともう知り合いなのか」

 「ええ、まあ・・・・・・マジかよ。昨日蕎麦をお代わりしまくっただけでどうしてそんなあだ名が・・・・・・」

 

 エースは、今度はその場に崩れ落ちた。

 

 そして、農業をやっているというおじいちゃん達と仲良くなれた。

 

 *

 

 その結果。

 「ニィちゃんの歓迎会をやるぞ!」という、エースが仲良くなったおじいちゃん達の内の一人の提案により、昨晩エースが寝泊まりした公民館にて酒盛りが始まった。

 そして冒頭に戻る訳なのだがーーーーーー

 

 「どーすんだよこの状況・・・・・・!」

 

 時刻はまだ七時半。

 酒盛りが始まって、まだ三十分しかたっておらず、それでこのカオスな状況だと言うのだから笑えない。

 

 まあ、酔っ払いは話に真摯に向き合ってやれば、たいてい満足して別の場所に行くため、エースにとっては問題無かった。

 むしろ問題だったのは・・・・・・。

 

 「すー、すー・・・・・・」

 「うーん・・・・・・むにゃむにゃ・・・・・・」

 

 エースの腕に抱き着いて涎を垂らしながら寝る歌野と、エースの膝枕を勝手に堪能している水都、そして・・・・・・

 

 「ねぇ蕎麦置いてけのおにーちゃん!お菓子貰っていーい?」

 「おう持ってけ持ってけ。でも俺は妖怪蕎麦置いてけじゃないからな?そこ勘違いするなよ?」

 

 「なーなーにーちゃん、あそべー!」

 「はいはい後で遊んでやっから!つーかこんな時間から何やんだよ?」

 

 「ぎゅー・・・・・・」

 「おいお前、抱き着いたまま寝てんじゃねぇ!?」

 「えー、でも歌野ちゃんと水都ちゃんも寝てるし・・・・・・ぽかぽかして・・・・・・なんか、良い具合・・・・・・」

 「おいおい俺は布団じゃねーぞ!うわやめろお前らも来るんじゃねぇ」

 

 エースに引っ付いたり絡んだりして来るロリっ娘共。

 ショタっ子共は少年と共に歯ぎしりし、少女達は苦笑い。

 ・・・・・・ロリに埋もれる少年A。何とも絵面的には可愛そうな事になってしまっている。

 

 「・・・・・・もうなるようになっちまえ」

 

 そしてエースは、あらがう事を止めた。

 そして、そんな状況(ロリに埋もれる状況)は日を跨ぎ、朝まで続いたのだった。

 

 *

 

 翌日。

 彼のあだ名に『妖怪ロリコンお化け』が追加された。




 例えば、子供の話の広がる早さとか。


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4:雷霆来たる

 ーーー少年A・・・・・・エースが、諏訪にやって来て一週間が経った。

 

 その一週間、エースは、おじいちゃん連中に「農業には圧倒的な迄に不向き」という評価を下され精神的に崩れ落ちたり、何故か圧倒的な迄に向いていた子供のお守りでは「にーちゃん、あそべー!」と、子供達からの無邪気な物理攻撃(抱き着き)をくらい、物理的に崩れ落ちたり。

 

 ・・・・・・とまあ、比較的騒がしくも平和で平穏な暮らしをエースは過ごしていた。

 

 *

 

 エースは今、公民館が住家になってしまっている。

 ここには下宿というものが殆ど存在せず、一つ、二つあるそれも『あの日』の化け物襲来による外からの避難民で一杯だった。

 故に、公民館の一角にて、布団を借りて寝泊まりしている。

 故に大抵、朝はこうなる。

 

 「おきてー。ハリー!」

 

 ぺちぺち。

 

 「うーん、なかなかゲットアップしてくれないわね・・・・・・ゲットアップ、ハリー!」

 

 ゆさゆさ、ゆさゆさ。

 

 「うたのん、まだエースさん寝てるの?」

 「イエスよ。まーだスリープして夢の中。一体どうしようかしら・・・・・・あ!」

 

 ごそごそ。

 

 「な、なにしてるの!?うたのん!?」

 「ほらー、早くゲットアップしなさい!もう七時よ!」

 「う、ん・・・・・・?」

 

 漸く目覚めたエースは、目を細く開けて身体を起こそうとするが、腹の上に何かのっているのか身体を起こす事が出来ない。

 見れば、胸板の辺りには歌野の顔が。腕はしっかりと背中の方に回され、ぎゅー、と抱き着かれていた。

 

 「なーにやってんだ、歌野」

 「ユーを起こしてるのよ」

 「じゃあ、もう起きた。離れろ」

 

 エースはそう言うと、右手で歌野の背中を摘むとぺいっと、座布団が積み重なっている場所へ放り投げた。

 歌野はまだ小学生。

 ちっちゃくて軽い為、こんな芸当も可能なのだ。

 

 「エースさん・・・・・・うたのんに対する扱いが完全に猫ですね」

 「猫にしてはかまちょ過ぎねぇか?猫ってのはもっと自分勝手だろ」

 

 まあ、エースは公民館で寝泊まりしている為に大抵こうして誰か、起きるのが早い子供なんかが起こしに来るのである。

 

 ・・・・・・主に暇潰しに。

 憐れなり、彼の睡眠は子供達がいる限り脅かされるだろう。

 

 「もー、ミーに対する扱いが雑ー!」

 「構ってやるだけマシだ」

 

 布団を畳み、朝の体操を行い、そして布に包んだ大太刀を持って、エースは公民館を出た。

 

 行き先は、超強い師範代がいる剣術道場である。

 

 *

 

 「()っ!」

 

 カン!カカカン!

 

 「まだ甘いのぉ!」

 

 ガガガガガン!!

 

 どうやったら木刀でそんな音が出るんだ、と不思議に思いつつ、エースは大太刀と同じサイズの木刀を振るう。

 神を殺した時に、返り血で真っ赤に染まったボロボロに擦り切れて所々ほつれているブカブカのパーカーを翻し、それで相手の目を時々くらましながら打ち込む。

 

 エースの振るう木刀は、常人が受ければただでは済まない威力を持っていたが、相対する爺はそれを軽く逸らすようにしていなし、一瞬でエースの懐に潜り込む。

 

 「()った・・・・・・!」

 「そいつぁどうかな、爺さん!」

 

 ガガキン!!

 

 爺はエースの懐に潜ると同時に、全く同時に見える(・・・・・・・・)、身体の中心と(へそ)の下を狙った突きの二連撃を食らわせるが、人外じみた反応速度をもってして、エースに二つとも阻まれてしまう。

 

 「今のを捌くとはな・・・・・・」

 「油断大敵って奴だぜ、爺さん!」

 「じゃなぁ!」

 

 風を切る音と共に、必殺の一撃が宙を舞う。

 二人が繰り出す木刀による攻撃は、そのどれもが息の根を止めるには十分過ぎる程の威力が込められていた。

 時折掠った頬や手の甲が切れ、血が散る。

 

 「「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」」

 

 狂ったように、笑いながら技を打ち込み続ける二人の姿は、正に鬼。

 最早傍から見れば、可笑しくなってしまって暴れているようにしか見えなかった。

 

 

 

 この剣術道場における、師範代とエースの人外じみた闘いは、この後師範代の孫娘が来るまでずっと続いた。

 

 *

 

 お昼時。

 

 「だぁー、畜生あんの爺クッソつえぇ・・・・・・」

 「おじいちゃんと組み手がマトモにできる貴方も大概だけどね」

 

 最後の最後に首筋になぎ払いを食らい、すっ飛んだエースは首をさすりながら、ここの剣術道場師範代の孫娘から氷嚢を受け取って首筋に当てる。

 

 「あーててててて、ったくよー、実戦ならまだしも孫娘が帰って来るまでの暇潰しで人の首にフツー木刀叩き込むか・・・・・・?」

 「・・・・・・それ、フツーの人間は大概死ぬんだけど・・・・・・」

 

 エースの発言に、師範代の孫娘は苦笑いしながら答える。

 エースは、神殺しを成した時に、不老不死を得る呪い入りの祟りを左腕に受けてしまっている為、それこそ存在が世界線から消え去るような事でもないかぎり、身体が太陽に焼かれても生き残るのだが・・・・・・それはまだ、本人が知った事ではない。

 

 さて。

 エースが、この剣術道場に通っているのは訳がある。

 彼の武具が大太刀だからである。

 最初は、「なんか練習場欲しいな」程度で通ったのだが、初日から師範代とマトモに打ち合うという偉業を達成。

 更に、常人ならば死ぬような一撃を受けても死なない、という事が発覚し、エースは毎回ここに来ては死にそうな攻撃を食らっているのだった。

 

 ぴーんぽーんぱーんぽーん!

 

 エースが首筋を冷やしていると、町内放送のチャイムが鳴った。

 

 『今、物凄い嵐が起きてます!外には絶対に出ないで下さい!』

 

 ぴーんぽーんぱーんぽーん!

 

 外を見れば確かに、空は真っ暗、時々稲妻が走り、風が物凄い事になっている。

 

 「ほう、これは今日はエース君は帰れそうにないの。泊まっていきなさい」

 「え、いやでもここから一キロくらいっすよ俺の住んでる場所(公民館)だから別にーーー」

 「馬鹿、いくら貴方が強くても吹き飛ばされるわよこんな嵐が起きてたら!ほら、あそこ見なさい!木の枝が舞い上がるぐらいの風が吹いているのよ!?馬鹿なの!?」

 

 結局、エースはこの日剣術道場の師範代の家に泊まる事になるのだった。

 

 *

 

 ちょうどその頃。

 

 『・・・・・・』

 

 『・・・・・・ここか、あいつ(剣神)の雰囲気を感じるのは』

 

 『国譲りの時に逃げたあやつを追いかけた時以来だな、ここに来るのは』

 

 稲妻が走る雲の中には、圧倒的なプレッシャーを放つ存在が、諏訪の街を見下ろしていた。

 

 そして、その一瞬後・・・・・・

 

 諏訪を守る結界に特大の稲妻が直撃し、風穴を空けた。

 

 『来るが良い、そして神を殺したその力、このオレにとくと示すが良い!神殺し(・・・)!』




 次回

 決闘(その一)


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5:鋼の闘い(上)

 今日のはちょっと短いっす。


 地を揺らすほどの轟音をたてて、雷が落ちる。

 あまりの轟音に、師範代の孫娘が肩をビクリと震わせた。

 

 「きゃあっ!」

 「随分近くに落ちたのう。どこかの家に直撃しておらんだろうか」

 「さぁ。無事を願うしか無いっすね」

 

 師範代の家にて、少年A・・・・・・エースと、師範代の爺、そしてその孫娘は家の中で大人しく嵐が過ぎ去るのを待っていた。

 

 「いやぁ、にしても唐突だの。昼迄は晴れとったのに」

 「確かに、異常っちゃあ異常っすね」

 「台風の季節はあと一ヶ月と何週間かあとだったハズなんだけどねー」

 

 呑気に会話をしていると、雷鳴がまた、近くで鳴り響いた。

 

 「きゃあっ!」

 「また近くに落ちたなぁ」

 「うむ」

 

 唐突に表れた不思議な嵐は、今日は止みそうになかった。

 季節外れの台風なのだろう、と、師範代の爺と孫娘は推測しているが、エースはそれでもこの規模は可笑しいだろ、と思い始めていた。

 

 恐らく、近くに嵐でも呼び出す化け物の類いでも現れた、と言われた方が、彼にとっては季節外れの嵐というものよりも何千倍も納得出来た。

 そうなれば嵐云々関係なく外に出てその元凶を倒さねばならないのだが。

 歌野は・・・・・・吹き飛ばされそうだから、もしそうだったのであれば自分一人で潰そう、と、エースは考えた。

 

 まあ、化け物襲来用のサイレンが鳴っていない為に、季節外れの大嵐という線が今のところ濃厚である。

 

 (でも、この嵐・・・・・・何やら、『あの日』と同じような気配がするのは、俺の気のせいか・・・・・・?)

 

 *

 

 その時、圧倒的な威圧感が周囲五十キロメートル程の範囲に広がった。

 

 (・・・・・・!!)

 

 表情には出さず、壁の向こうの外を幻視する。

 いる。間違いなく、あの日と同じ『ヒトデナシ』が。

 

 エースの側にいた師範代と孫娘は気絶してしまっている。

 恐らく、ここいら一帯にいる人間は全員こうなってしまっているのだろう。

 

 「・・・・・・行くか」

 

 エースは、剣神の大太刀を持ち、神の返り血によって真っ赤に染まったボロボロに擦り切れ、ほつれたパーカーを羽織り、外に出た。

 

 打ち付ける雨が酷く、殆ど何も見えない。

 それでも『それ』は、絶対的な存在感をもって、視界の端に、確かに存在した。

 白い装束を纏い、少々長い(つるぎ)を腰に下げた若い男だ。

 だが、風貌は人間の男性でも、纏う雰囲気から人間ではない事が直感的に理解出来た。

 

 「やっと来たか、神殺し」

 「黙れヒトデナシ。派手な登場しやがって・・・・・・一々大災害起こさねぇと登場も出来ねぇのか」

 「フン、登場がてら貧相な町の掃除でも、と思ったまでよ。もしあの威圧でも貴様が出てこなければ本当にここいら一帯『お掃除』しておったかもなぁ?」

 

 ニヤリと笑って言う『それ』に、エースは不快な表情を隠そうともせずに言う。

 

 「やっぱり神は神って訳か」

 「そういう事だ」

 

 覇気は武人・・・・・・いや、武神のそれだが、やはり神は神。

 周囲の被害に眼もくれず、やりたい放題に稲妻を落とし、ただ『エースに会う』という目的の為だけに町の人間全てを圧倒的な威圧と覇気で気絶させるという暴挙。

 武にまつわるものだから、といって、人間の武人のような誠実さは全くもって持ち合わせてないらしかった。

 

 「で?まさか俺に会う為だけにここに来たって訳じゃないだろう?」

 「わざわざ答える必要もあるまい?」

 「まあ、だいたい予想はついてるが・・・・・・」

 

 ため息を吐きつつ、エースは大太刀を抜き放つ。

 その様子に神は愉快そうに笑うと、腰に下げた(つるぎ)を抜いた。

 

 「・・・・・・行くぞ、神殺し」

 「・・・・・・来いッ!!」

 

 *

 

 剣神を殺した少年と、武神にして雷霆神という複数の神格を持つ神。

 双方のぶつかり合いは、天地を裂いた。




 次回

 決闘(その2)


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6:鋼の闘い(中)

 勇者であるシリーズの要素がカケラも無いのは気のせいだろうか。


 初撃。

 轟々と降る雷雨と嵐の中、稲妻が如く駆けて突撃してきた神を、少年A・・・・・・エースは咄嗟に手に持った大太刀で受け止める。

 

 ただ、ただそれだけで、大地が蜘蛛の巣状にひび割れ、砕け、そして陥没する。

 

 エースは受け止めた衝撃と、神のパワーに押し負けて吹き飛ばされてしまう。

 

 「どうした。剣神を殺したというから期待していたのだが・・・・・・期待ハズレだったか?」

 「馬鹿力かよッ・・・・・・!」

 

 陥没した地面の上で、神は残念そうな仕種をする。

 エースは起き上がると、血の混じった啖を吐き、大太刀を構え直す。

 

 通常の人間ならば、重傷でもおかしくないのだが、ここは殺した剣神の、不老不死の呪いが組合わさった祟りが幸いした。

 不老不死になった事で、通常の人間では持ち得ない再生力と耐久力で吹き飛ばされた衝撃に耐えたのだ。

 

 「ふむ、まあ先ほどの一撃に耐えるのであれば、ただの人間では無いことは確か。その左腕の祟りと、その身体かかっている呪いを見る限り、神を殺した、というのも間違いではなさそうだ」

 

 神はそう独り言を言うと、先ほどよりは遅いが、それでも眼にギリギリ映るくらいの速度でエースに接近する。

 

 「ちぃッ」

 「どうした!反応が遅いぞ!」

 

 片腕で振るわれた(つるぎ)の一撃をエースはギリギリ防ぐ。

 続く二撃、三撃を捌き、四撃目を受け流す。

 

 が、それでも威力を完全には逃がしきれず、エースの腕には相当な負担がかかっていた。

 

 「こんの・・・・・・馬鹿力野郎・・・・・・ッッ!どんな腕してやがるッ」

 「当たり前だ。オレは武神。そんじょそこらのもの共の腕と同じにするな!!」

 

 神がそう力強く言った瞬間、神を中心にして微弱な稲妻を伴った衝撃波が辺り一帯に広がり、エースはまた、吹き飛ばされてしまう。

 頭から生えていた木にぶつかり、一瞬意識が途切れる。

 

 「立て。まだ終わらんぞ」

 「当たり前だ。テメェはここでブッ潰す!」

 

 エースは、大太刀をより強く握って神に突撃した。

 

 「愚直だな。まさか真っ正面から来るとは」

 「俺自身、馬鹿なもんでね!」

 

 エースは最近覚えた力任せではない太刀の振り方で、神に連撃を仕掛ける。

 上段、下段切り払い、下段から上段への切り上げその他諸々エトセトラ。

 それらは全て一般人には致死の威力を持っていたが、神はそれら全てをかわし、反らし、そして受け止めた。

 だが、エースはそんなこと気にせず、『反撃の隙を与えない』という事を念頭に置いて、とにかく攻撃を繰り返した。

 

 轟々と降り続く雷雨と嵐の中、よくもまあ体力が持つものである。

 通常の人間であれば、体温を奪われて、動きが鈍くなっても仕方ないが、エースには、そんな気配がなかった。

 まあ、もともとこの馬鹿には常識は通用しない。

 常識が通用するのであれば、神なんて殺してはいないのだから。

 

 *

 

 「ふむ、まあ、良く持った方か」

 「はーッ、はーッ・・・・・・」

 

 肩で息をしながら神の攻撃を受け止めるエースに、神は冷ややかに告げる。

 

 エースは今、血まみれであった。

 全ての攻撃を捌かれ、弾かれた隙に、一気に神が攻勢へと盛り返したのである。

 そこからはエースは防戦一方。体中裂傷だらけで、雨の中、彼の足元は紅い水溜まりが出来ていた。

 

 「人間にしては、なかなか見所があったな」

 「そうかよ。まあ見てろ。もっと見所を見せてやるよ」

 「残念だが、それは無理だな」

 

 神は残念そうに、本当に残念そうにそう言うと、無造作にエースを蹴り飛ばす。

 そして、一度間合いを取ると、稲妻を右腕に発生させる。

 

 真っ黒い雨と稲妻を降らせる空の下、神は光り輝くその右腕を、天高く振り上げてーーー

 

 「貴様にもう用は無い。この地とともに、消え去れ、神殺しーーー!」

 

 そして、その言葉と共に打ち下ろした。

 

 直後。

 

 ここ、諏訪の地を守護する神の結界を突き破り、大地の尽くを消し飛ばす程の雷がエースに直撃した。

 

 *

 

 さて。

 エースは、先ほど語った通り、『普通ではない』。自他共に認める馬鹿であり、常識の通用しない頭可笑しい人間である。

 そんな人間でなければ、『神殺し』などという芸当は成せない。

 

 故に、そんな人間だからこそ、『神の怒り』とも言われ、それに相応しい威力を持つであろう雷をその目にして尚、絶望はしなかった。

 

 むしろ、エースはそれに立ち向かった。

 

 一瞬の内に大太刀を構え、自分に向かって降って来る雷を見据えて・・・・・・

 

 そして、大太刀でその大地を切り裂く程の威力を持った雷を、切り上げによる斬撃で文字通りたたっ斬ったのだ。

 

 

 

 まあ勿論、そんな事をやって無事で済む訳がなく。

 

 「痛ってェ~・・・・・・」

 

 エースの右腕は、黒焦げになっていた。

 

 「どこかの侍が雷を斬ったというが・・・・・・まさか本当に実践する者がいたとは・・・・・・もしや、馬鹿か?貴様」

 「自他共に認める馬鹿ですが何か?」

 

 本当に馬鹿である。

 雷を大太刀で斬るという馬鹿たれ(エース)は、真っ黒焦げになった右腕で大太刀を握り直すと、軽く振り回す。

 少々焦げた体細胞がパラパラと崩れ落ちるが、得に問題なく振れる為問題無い、といった感じで、エースは神に不敵に笑って言う。

 

 「・・・・・・さぁ、第二ラウンドといこうぜ?」

 「・・・・・・貴様、根っからの気狂いか・・・・・・ッ!」

 

 神が少し、顔を引き攣らせた気がしたのは、エースの気のせいだろう。




 うわぁこの少年やべぇ、と、書いてて思いました。

 右腕ケシズミになって問題ねぇってどんだけだよ・・・・・・。


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7:鋼の闘い(下)

 「・・・・・・さぁ、第二ラウンドといこうぜ?」

 「・・・・・・貴様、根っからの気狂いか・・・・・・ッ!」

 

 神は顔を引き攣らせ、少年A・・・・・・エースは不敵に笑う。

 

 神は、この少年のおかしさに、漸くもって気がついた。

 コイツは、神を殺せるだけの、『異常(バカ)な人間である』という事が、漸く理解出来たのである。

 

 「いっくぜぇーー!」

 「・・・・・・ちぃッ」

 

 黒焦げになって、パラパラと崩れ落ちる右腕で握った大太刀を振り回して攻撃を行うエース。

 神はそれを、余裕を持って手に持つ(つるぎ)で防いだ。

 

 「焦げた右腕で大太刀を振るうなど・・・・・・本当に貴様、人間か!?」

 「悪いが生物学上じゃあ人間だ!!」

 

 エースは大太刀を振り抜き、神を剣の防御ごと弾き飛ばした。

 エースも、神程ではないとはいえ、祟りの効果で人間やめちゃった人外の内の一人。

 そこそこ身体も強化されている。

 ・・・・・・まあ、雀の涙ほどしか強化されてないが。

 

 それでも、力のかけ具合によっては人と同程度の体重の神を吹き飛ばす程度、造作もないのである。

 

 神は吹っ飛ばされたあと、体勢を立て直すが、その時にはもう目の前にエース(神殺し)の姿があった。

 

 「死に晒せやぁああああああ!!」

 

 さて。

 前半、神に吹き飛ばされてばかりで、尚且つ体温やら体力やらを、雨ざぁざぁの悪天候の中奪われていたエースが、何故ここまでやれているのか。

 答は簡単。

 

 脳内麻薬ドバドバ(ちょっと狂ってる)からである。

 

 アドレナリンその他諸々ドバドバで、極度の痛みでテンションがハイって奴になっているエースは、目を血で染まった紅い色に光らせて、ボロボロの腕で大太刀を神の胸に向かって突き出した。

 

 「人間、貴様ーー」

 「終わりだぁッ!」

 

 そしてそれはーーーー神の胸には、刺さらなかった。

 神は、それを間一髪で身体を反らす事によって避け、空に稲妻を発生させ、エースの右腕にそれを落とした。

 

 エースの右腕は、元々黒焦げのボロボロだったにも関わらず、更にそこに駄目押しをくらって肩先から跡形もなく消し飛んだ。

 傷口が稲妻によって焼け、瞬時に塞がれて血が出なかった事が幸運だろうか。

 

 腕一本を失うことは、闘いにおいては絶対的に不利になる。

 剣を振るにしても、槍を振るにしても、腕が二本あった方が確実に強いし、保持しやすいし、それに力も込めやすい。

 エースの場合、更にそこに今までの切り合いによって受けた切り傷(瀕死の重傷)もある。

 

 通常の人間であれば、勝ちを半分くらい諦めるであろうこの状況。

 

 ・・・・・・だが、その程度で諦めるエースではない。

 

 「腕の一本くらいーーーー」

 

 その程度で諦めるのであれば・・・・・・

 

 「くれてやらぁああああああ!」

 

 ・・・・・・神殺しなんてものに、なってはいないのだから。

 

 エースは、塵芥と化した右腕から落ちた、稲妻を受けて若干熱く焼けた大太刀を右足で蹴り上げ左手で掴むと、神の懐に今一歩踏み込んで、

 

 「今度こそ、死にやがれ・・・・・・ッ!!」

 

 深々と、神の胸板に突き刺した。

 そして。

 

 「行くぜ駄目押しッ」

 

 それを乱雑にねじり抜き、今度は袈裟斬りに、右肩から左腰にかけて、ザックリと神の身体を真っ二つに切り裂いた。

 

 *

 

 いつの間にか、雨は上がっていた。

 

 エースは大太刀を左腕のみで、鞘に器用にしまうと、先程まで闘っていた神が残した、両刃の、細身の(つるぎ)を見る。

 

 「この神も黄泉に持ってき忘れてるし・・・・・・神って実は忘れん坊が多いのか・・・・・・!?」

 

 エースは地面に突き刺さっている剣をジロジロと見た後、ため息をつく。

 決して、黄泉の国に自分の獲物を忘れて逝った神に呆れた訳ではない。決して。

 

 「エ~ス~!」

 「歌野か・・・・・・。どうして、勇者姿になってるんだ?」

 

 エースが佇んでいる場所に、歌野が黄色い装束の姿でやって来た。

 

 「エース、近くにバーテックスが・・・・・・ってワッツザマター!?一体どうしたのその腕!?」

 

 歌野がエースを見るや、片方しかない腕に驚く。

 エースは、それをごまかして話を進める。

 

 「後で説明する。戦う時に得に支障はない。

 で、今はバー何ちゃらについてだ。そのバー何ちゃらって、化け物の事で確かいいんだよな?」

 「絶対に話してもらうわ。あと、バーテックスよ。

 ちょっと前に神様の結界が破れて、そこから大量のバーテックスが中に入って来たらしいからサッサとデストロイしないといけないのよ!

 ・・・・・・エース、本当に、片腕だけで戦えるのかしら?」

 「あー・・・・・・多分それ・・・・・・うん、了解。やろう」

 

 多分、いや絶対あの神のせいだ、と独り言を言うエース。

 

 「小学生一人を戦場に残す訳にもいかねぇしな。神を殺したこの力、刮目して見やがれ、ってな」

 

 エースは左腕のみで、地面に突き刺さったままの、先程まで闘っていた神の使っていた剣を引っこ抜くと、振って感触を確かめる。

 大太刀を使うには、隻腕では難しい。

 という訳で、大太刀よりも短く、取り回しやすいこの剣を使うらしかった。

 

 「それにしても驚いたわ。気がついたら床でスリーピングしてたもの」

 「寝不足か?」

 

 絶対にあの神の威圧のせいだ・・・・・・と、心の中で言うエース。

 

 「まあ、起き抜けの準備運動にはちょうど良かったわ!サッサとモンスターをデストロイするわよ!エース!」

 「起き抜けの運動としては却下だ!!無理すんなよ小学生!」

 

 目の前には、数百匹の化け物の大群。

 エースと歌野は、それぞれの獲物を振るい、駆け出した。

 

 ・・・・・・エースの左腕の、剣が交差したような祟りの紋様に巻き付くようにして、稲妻のような祟りが鈍く、まがまがしく光り輝いていた。




 次回

 新章 突入


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幕間:神殺し

 多分、次から新しい章に入ります。はい。


 少年A・・・・・・エースが神殺しである、という事は、あまり諏訪の人々に周知されていない。

 というのも、彼が『男の勇者』だと思われているからだと思われる。

 『神を殺す』事よりも、『男の勇者である』という方が信じやすい、というのもあるだろう。

 

 ・・・・・・まあ、この二人は、エースがどんな存在なのかハッキリと解っているらしいが。

 

 「エースさん。残った左腕の調子はどうですか?」

 「地味なウザい痛みが左腕にすること以外は得に何も」

 

 一人は、巫女の藤森水都。

 

 「うーん、むにゃむにゃ・・・・・・」

 「俺の膝の上で勝手に寝てんじゃねぇ。起きろ」

 

 もう一人は、この諏訪の地を守護する勇者、白鳥歌野。

 

 どちらも、小学生であり、その幼さで、『人を守る』という使命を背負わされた少女である。

 そして、この二人だけが、『神の力を諏訪で最も近く感じている』この二人だけが、エースが紛れも無い神殺しであると、知っている。

 それを知ってなお、エースに懐いているというのは、この娘達の人柄か。

 

 こんなロリッ娘共を勇者として選抜するとは、全く、業の深い神様だ。と、エースは心の中で悪態をつくと、残った左腕で自らの身体にしがみついて寝ている歌野の頭を撫でつつ、自分という存在(馬鹿)について考える。

 

 神々を殺す。

 そんな馬鹿げた事をやらかしたのが、エース・・・・・・神殺しだ。

 だが、それ以上でも、それ以下でもない。

 

 神殺しとは、ただの(・・・)、神を殺したという事実があるだけの人間である。

 

 神を神たらしめる権能を簒奪した訳でもない。

 神の血を浴び、対神専用決戦兵器になった訳でも、どこぞの龍殺しよろしく肉体が硬質化したという訳でもない。

 

 神とまとも打ち合えば吹き飛ばされるし、稲妻を受ければ黒焦げになる。

 神殺しとは、本質は人間とほぼ変わらないのだ。

 

 だが。

 エースは、そんな存在でありながら、二度も奇跡のような出来事を成し遂げた。いくら神殺しは馬鹿にしかできないとは言え、そう何度も出来る訳ではない。

 

 神を殺し、祟りと呪いを受けただけの一般人が、どうしてこうも、右腕を失う(・・・・・)だけで、神殺しを二度も成せたのか。

 エースは、不思議でならなかった。

 

 不老不死の呪いで、いくら死なないとしても、ただそれだけである。

 死なない、というだけであって、別に身体の一部を失ったら瞬時に再生したりする、という訳ではない。

 現に、稲妻によって黒焦げとなり、(つるぎ)によって切り落とされ失った右腕は、再生せず、肩口からスッパリと右腕が無くなってしまってからは傷口はそのまま塞がってしまっている。

 

 「なんか効果不明の祟りも増えたし・・・・・・」

 

 左腕の、元からあった剣が交差するような模様の祟りに、巻き付くような感じで浮かんでいる稲妻のような形の祟り・・・・・・と、思われるもの。

 二度目の神殺しのしばらく後に、このまがまがしい雰囲気を出す祟り(の、ような何か)が増えた事に気がついたのである。

 痛みはない。ただ、何も無いのが不気味なのだが・・・・・・。

 

 (考えても仕方ない、か)

 

 馬鹿が考えたところで何か思いつく訳でもない。

 

 だが、確信出来た事が一つあった。

 

 (神を殺せたのって、間違いなくコイツのおかげだよなぁ・・・・・・)

 

 そう考えて、ふと横に目をやると、そこにはシンプルな造りの鞘に入った、何だかそれ自体が光り輝いて見える大太刀。

 

 今思えば、化け物・・・・・・バーテックスを殺せたのも、この大太刀のお陰か、と、エースは思った。

 全く、良い広いものをした訳である。

 そして今回。

 もう一つ、剣が増えた。

 喜ばしい事である、のだが・・・・・・

 

 (片腕じゃ使えねぇよ!)

 

 ・・・・・・隻腕となった今では、エースにとっては無用の長物であった。




 少年Aは、次の章では想像もつかないような事をやらかします。
 (馬鹿なので)


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日輪の章
1:嵐を呼ぶ男


 馬鹿が初っ端からぶちかまします。


 バーテックスという化け物が現実世界に現れて一年。

 四国では、『勇者』と呼ばれる少女達が来るであろう戦いに備え、訓練を行っていた。

 

 ・・・・・・そんな四国から少し離れた兵庫県。

 

 そこには、とある馬鹿がいた。

 

 「ふぃー、やぁーっとここまで来れた・・・・・・無駄に疲れた・・・・・・」

 

 何を隠そう、ソイツは少年A・・・・・・エースである。

 理由は後述するが、コイツは遠路はるばる、四国に行くために諏訪からここまでやって来たのだ。

 ・・・・・・半年で。強行軍である。

 

 道中の星屑みたいなクソザコバーテックスを大太刀でばっさばっさとなぎ払い、奇声を上げながら超巨大バーテックスを蹴り飛ばし、やっとの思いで(?)兵庫県と、岡山県の県境にまでやって来たのだ。

 

 というか、そんなぎゃぁぎゃぁ騒ぎながら諏訪から兵庫にまでやって来たのだから、無駄に疲れるのは当たり前。もう少しこの馬鹿にはお利口さんになってもらいたいものである。

 まず片腕で大太刀をブン回す時点でだいぶ疲れるというのに、騒ぐ時点で馬鹿としか言いようがない。

 

 さて。

 彼が四国に来たのは、ちゃんと理由がある。

 馬鹿だが、ちゃんと理由があるのだ。

 

 「四国に生存者がいたなんてなぁ・・・・・・」

 

 そう。

 たまたま繋がった電波通信で、四国に生存者がいる事が解ったのである。

 という訳で、彼が四国に遠征に行くことになったのだ。

 ・・・・・・何故彼なのかは・・・・・・察していただきたい。この馬鹿のやることである。記述する事さえ馬鹿馬鹿しい。

 

 *

 

 馬鹿の進行は続く。

 たった一日で岡山県南の方まで辿り着くと、彼は海の向こう側に見える四国を見る。

 

 「んー、なんか人工の光が見える・・・・・・」

 

 目が良いんだなぁ、エース。

 

 「気がする」

 

 気がするだけであった。

 やはり、コイツは馬鹿である。

 

 どのくらい馬鹿であるかと言えば、さっきの言動もそうではあるが、なんと言っても。

 

 「お、バーテックス」

 

 彼がわざわざ目立つ場所にわざと立ち、バーテックスを引き寄せるという事もあるが、

 

 「よっしゃ、来いやゴラァアアアアアアアア!!!!」

 

 勝鬨のような大声と共に、稲妻を伴う嵐を起こす馬鹿は流石にコイツだけだろう。いや、そうであって欲しい。

 

 *

 

 先ほどの嵐は、エースが諏訪で殺した神の祟りの効果である。

 エースが、戦闘に関して戦意やら感情やらが高ぶった時に限り、嵐を呼んでしまうのである。

 ・・・・・・そしてコレ。祟りなので全く制御が効かず、最終的に町一つ更地にしてしまう。

 

 嵐を呼ぶ男(リアル)というものは、本当にはた迷惑なものである。

 

 ・・・・・・一部、この馬鹿が高ぶりやすい、騒がしい馬鹿、というのもあるが。

 

 *

 

 この日。

 

 「アレは一体・・・・・・?」

 

 四国で本州の方で異常な嵐が巻き起こった事が確認された。




 嵐を呼ぶ男(リアル)。

 言葉はカッコイイですが、実際にいたら迷惑ですよね。


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2:はた迷惑な大馬鹿野郎

 馬鹿みたいに短いです。


 さて、現在。

 

 とある馬鹿・・・・・・少年A、もといエースは、とある組織の独房のような部屋で拘留されていた。

 

 「何故だ・・・・・・ッ、何故俺が牢屋で拘留されなければならないッッ・・・・・・何か悪いことしたか・・・・・・?」

 

 したから捕まったんじゃねーの(適当)。

 

 ・・・・・・時は、ほんのちょっぴり遡る。

 

 *

 

 [数十分前]

 

 「フゥーハハハハハハハハ!俺は嵐を呼ぶ男!俺の暴威の前に平伏すが良いバーテックス共ぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」

 

 岡山県南。そこでは、稲妻を伴う猛烈な嵐が起こっていた。

 その中心付近にて、テンションMAXで騒ぐ一人の馬鹿。

 

 言わずもがな、エースである。

 戦意MAX、テンションMAXのアゲアゲ状態のコイツは、嵐を呼ぶ人災となり、岡山県南の地域はもはやペンペン草も生えないような無草地帯と化していた。

 

 その様子は、四国のとある組織にもシッカリと確認されており。

 

 「あの異常な嵐・・・・・・もしやバーテックスの仕業・・・・・・?」

 「いや、もしや神が直接・・・・・・」

 「勇者の可能性も・・・・・・?」

 「いや、流石に嵐を起こす勇者はいないだろう」

 

 という訳で、四国の五人の勇者達が直接、瀬戸大橋を渡って様子を見に行く事となったのだった。

 

 *

 

 結果。

 激しい雷雨の中、ボロボロの倉敷市沿岸地域の町並みと、その中心で、疲れてぶっ倒れて寝息を立てるエースが発見され、巫女の霊視能力で見た結果嵐を起こした実行犯の可能性が高いとして、柔らかいベッドのついた独房のような場所に拘留されてしまったのである。

 

 *

 

 そして、冒頭。

 

 「なー、こっから出してくれよそこの神官サンよォ~」

 「いえ、貴方は神でもないのに関わらず嵐をを起こせる男性ですので・・・・・・」

 「いや、だからただの神殺した事あるだけの人間だって。そんな奴どーしてお前らそんなに警戒するかねぇ・・・・・・」

 「警戒するしかないでしょうそんな存在!!」

 

 エースは神官さんに説教をかまされた。

 それはもう切々と。こんこんと。

 なまじ『神』の気配を見直に感じているだけに、この馬鹿男が成した事が理解出来てしまうのである。

 

 左腕にがんじがらめにするようにかけられた祟りと呪い。

 コレを見るだけで、コイツ(馬鹿)がヤベー人間(?)である事が丸わかりなのである。

 

 「だーかーらー、ここから出せっつってんだろ嵐起こすぞ」

 「やめろ下さい(真顔)」

 「さーあテンション上げていこー!!ヘーイッ!!」

 「取り押さえろッッ!!」

 

 やはり、諏訪、四国、独房・・・・・・どこに行っても馬鹿で騒々しいエースであった。




 次も少し短いかもです。


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3:牢獄の中で

 エースがまたやらかします。


 サイレンが五月蝿く鳴る。

 ある組織・・・・・・大社の地下独房にて、騒々しい足音が幾つも響く。

 

 「あの祟り野郎ォ~、逃げだしやがった!」

 「向こう側へ行って下さい!僕はこちらを!」

 「それでは、私はあっちを」

 

 そう、あの馬鹿・・・・・・少年A、もといエースが逃げ出したのである。

 ちなみに。

 

 「コレで四十八回目ですよ!?」

 「ったくなんであいつ片腕だけで鉄格子捩切れるんだよ!?大太刀没収しといたのに意味ねーよ!!」

 

 脱走王である。

 ・・・・・・そして、何回も脱走している、ということは。

 

 「はぁ、またか」

 「行こう。あの人を捕まえに」

 

 ・・・・・・勇者と呼ばれる少女達が、端末で連絡を受けて腰を上げる。

 

 「今度こそ!あんの勇者から逃げきってやるぜぇー!」

 

 約十分後。

 

 エースの悲鳴が大社本部のエントランスで上がった。

 

 *

 

 「おら、今度は脱走すんじゃねぇぞ!」

 「ちくせう」

 「今度はタングステン製の格子だ。まったく、鉄格子をなんで片腕で捩切れんだよ本当にぃ・・・・・・」

 

 という訳で。

 合計四十九回目の脱走は、失敗に終わったのだった。

 

 「ッ、クソッタレ!」

 

 ガン!と、エースは壁を叩く。

 

 「シャバの空気吸いてぇのにコレじゃあ気が滅入るぜ・・・・・・」

 

 参っているようである。

 馬鹿な物言いがなっていない。

 完全に気が落ちている。

 

 その時。

 足音がしたと思えば、声がかけられた。

 

 「おい、嵐男。そろそろ脱走を諦めたらどうだ」

 「俺を出してくれりゃあ鉄格子引きちぎってまで脱走しねぇ、っての。ったく、歌野達が俺のこと心配してねぇかなぁ・・・・・・?」

 「・・・・・・大丈夫だ。むしろ、お前の心配ではなく四国の未来を心配していた」

 「あんのロリ帰ったら、レール無し空を飛ぶジェットコースターの刑だな」

 

 さて。

 エースに声をかけたのは、ここ、四国を護る勇者である乃木若葉である。

 諏訪にいる歌野と同じくらいの年頃の女の子だ。

 

 「あー、マジで憂鬱。出せよー暇だよー・・・・・・」

 「・・・・・・それなら、コレを」

 

 渡されたのは、とある携帯ゲーム機。

 

 「流石に哀れに思えてきたのでな。暇潰しにやると良い」

 「マジで!?ありがとう!」

 

 何ともチョロい、エースだった。

 

 *

 

 後に。

 

 『Cシャドウ』というゲームのトッププレイヤーを追い詰め、首に手をかける程の実力を持つポッと出のプレイヤー、『少年A』が四国内の動画サイトで有名になるのだが・・・・・・それはまた、別の話。

 

 まあ、それ程先の話という訳でもないのだが。




 さて。
 次回。

 エースが、この世で最も命知らずな事をします。


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4:馬鹿、やらかす(いつもの事)

 馬鹿、やらかす。


 さて。

 現在。

 

 「コロス」

 「に、逃げるだぁー!」

 

 少年A・・・・・・エースは、眼を妖しく光らせ、修羅の雰囲気を纏い、獲物である生太刀を抜いて切りかかってくる四国の勇者・・・・・・乃木若葉から逃げ回っていた。

 

 時に一般家屋の屋根に飛び乗り、時にアスファルトで舗装された道路の上を疾走し、時に山奥を駆け抜ける。

 

 エースは必死である。

 何せ、捕まれば命はないのだから。

 

 何故こんな命懸け(片方のみ)な鬼ごっこになったのか。なって、しまったのか。

 

 まあ、馬鹿がやらかした事は確かなのだが、一応回想することにする。

 それは、最早日常と化したエースの脱走直後の事である。

 

 *

 

 合計で百十七回目の牢獄からの脱走に成功したエースは、大社の建物内部を全力疾走していた。

 

 「俺を高々牢獄にぶち込んで二十四時間の監視員と監視センサーカメラ付けてロープでグルグル巻きの蓑虫(みのむし)状態にした程度で脱出不可能であると思うたか、ってんだ! 穴だらけのガバガバなんだよぉ! ハーハハハ!」

 

 高笑いしながら、大社の施設内を駆け抜けていくエース。

 

 だが、ここで問題が。

 

 廊下の陰から巫女の上里ひなたが出てきたのである。

 そして、それはエースの目と鼻の先。

 

 当然ぶつかる。

 

 「どぅわぁ!?」

 「きゃあ!?」

 

 派手にぶつかり、まるでギャグ漫画のようにすっ転ぶ二人。

 

 ・・・・・・普通であれば、この後謝って終わる、のだが・・・・・・転び方が少々アレであった。

 

 なんと、エースはひなたのスカートの中に顔を突っ込んだ状態になってしまっていたのである。

 どう転べばそうなるのか解らないが、理解出来ないが、そうなってしまったのである。

 ラノベのお約束のような展開に焦り、エースは一瞬思考停止してしまうが、直ぐにどいて謝る。

 

 「ゴ、ゴメンナサイ」

 「い、いえ・・・・・・」

 

 先も言った通り、普通であれば、コレで終わり、なのだが・・・・・・・

 

 ここで、エースにとんでもない不幸が訪れる。

 

 「・・・・・・」

 

 まるでシベリアにいるかのような寒気がして、エースは直ぐに起き上がり、背後を振り返る。

 ・・・・・・そこには、ハイライトをどこかに落っことしてきた若葉が立っていた。手に抜き身の生太刀を握りしめて。

 

 「・・・・・・この世から肉片一つ残さず消し去ってくれる」

 

 さて、後は冒頭の通りである。

 

 *

 

 若葉とエースが四国全土で命をかけた(一方的)鬼ごっこをしている頃。

 

 ・・・・・・日輪と見紛うような、さんさんと輝く膨大な神力の塊が、四国に迫っていた。




 次回。

 ちょっぴりバトる。


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5:二つの太陽

 お久しぶりです。

 ・・・・・・この小説、忘れられてはいないでしょうか・・・・・・。

 待ってる人とかいるのかなぁ(不安)


 四国の勇者、乃木若葉との命懸けの鬼ごっこから、命からがら逃げ切った少年A・・・・・・エースは、屋根の上で日の出を見ていた。

 

 「まっさか夜通し追いかけて来るとはなぁ・・・・・・途中で大社の機動部隊も出てくるし・・・・・・つーかあの身体能力ホントに小学生かよ。あの乃木とか言う奴」

 

 ぶつくさ言いながら、夜通し逃げていた為に重い瞼をこすりつつ、目を細めて日の出を見つめるエース。

 

 「んぁ? 何じゃありゃ」

 

 ここで。

 一つ、エースはおかしいものを見つけた。

 

 太陽が昇ったあと、もう一つ太陽が昇ったのだ。

 

 「オイオイなんだよアレは双子の太陽ってか!?」

 

 エースは、とても嫌な予感がした。

 

 *

 

 嫌な予感は、ほぼ的中した。

 双子の太陽は、四国全土の気温を上げ、最高気温が四十五度にまで昇った。

 まだ春なのにも関わらず、熱中症患者が続出し、病院はてんてこ舞いとなった。

 

 「また熱中症か! まだ春だろう!? なんで気温こんなに上がってるんだよ!?」

 「知りませんよ! 文句ならお天道様に言って下さい!」

 「太陽この野郎ーーーー!」

 

 さて。

 こんな現象が起きれば、この世界の事情を知る人であるならこう考えるだろう。

 

 『神、若しくはそれに伴うナニカが攻めてきた』と。

 

 そして、そんな事態に我等が愛すべきおバカさん(エース)が反応しないわけがなかった。

 

 *

 

 実際、反応したのはエースだけではなかった。

 大社も、神託によって事の次第を把握し、勇者の投入を予定した。

 ・・・・・・が。

 

 「勇者様が倒れた!?」

 「ああ、伊予島様と(こおり)様、そして乃木様が・・・・・・ッ」

 「残りのお二方は!? 巫女の上里様は!?」

 「部屋でエアコンを効かせた状態で待機して貰っている。恐らく外に出れば他の皆様と同じような事になるぞ」

 「・・・・・・っくそ、天の神はとうとう人類を・・・・・・!」

 

 天の神は、実は直々に手を下そうとは余り思ってはいなかった。

 先兵(バーテックス)の数を揃え、物量で仕掛ければ良いだけなのだから。

 

 ・・・・・・だが、そういう訳にもいかなくなったのだ。

 

 神を殺せる、エース(バカ)という少年が表れたのだから。

 

 *

 

 一方。

 話の中心である馬鹿と言えば。

 

 「あちー。なんだよこれ頭が沸騰しそうだ」

 

 パーカーのフードを被り、直射日光から頭を守りながらつい先ほど通常の(・・・)太陽の(・・・)進路から(・・・・)外れた(・・・)、双子太陽の内の一つの元に駆け足で向かっていた。

 アレはすぐにでも追い返さなければならないと、直感が判断した瞬間、エースは駆け足で走り出し、今は瀬戸内海の上で静かに佇んでいる太陽に向かい駆けていく。

 だんだん太陽に近づくにつれて、体感温度が上がっていく。

 ポタリと落ちた汗が音を立てて蒸発し、アスファルトで舗装された地面からは陽炎が見える。

 

 「ハーッ、ハーッ・・・・・・暑い。これも全て・・・・・・」

 

 あの神のせいだ。

 

 *

 

 エースは進む。

 自らが目標とした、『太陽を殺す』為に。

 このゆだるような暑さを元に戻す為に。

 長い間牢屋に拘束されていた鬱憤を晴らす為に。

 

 ・・・・・・神を、殺す為に。




 次回。

 少年A(エース)、太陽、激突。


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6:日輪VS馬鹿(かみごろし) 前

 戦闘描写にしては馬鹿みたいに短いです。

 次回は多めに書きます。


 少年A・・・・・・エースは駆ける。

 アスファルトの表面が軽く熔ける程の熱波を発する、地上に降りた太陽神を潰す為に。

 

 向かうは瀬戸内海、沿岸地域。

 海が少しずつ蒸発を続け、辺り一帯には塩の塊と、海が蒸発した事により大量発生した水蒸気で出来た霧が立ち込めていた。

 

 そして。

 

 霧が立ち込めていても尚、その存在感が隠しきれない程の輝きを発する、完全武装状態の大和撫子、といった具合の美人。

 ・・・・・・いや、纏う雰囲気、そして存在感、何よりもその体から放たれる熱波。

 

 完全に人ではない。

 

 「テメェがこの温度完全無視のサウナ作り上げた張本人・・・・・・いや、カミサマだから張本(じん)、か?」

 

 エースの、その答えが解りきった質問に、神は返さず。

 

 「・・・・・・ふむ」

 

 一言。

 言葉を零すと同時に、手に持つ武具の内の一つ、大弓に、身の丈程もあろうかという程大きい矢をつがえ、エースを撃ち抜こうとする。

 ここまで約コンマ四秒。神の膂力は人のそれを大きく上回る。

 

 無論。

 そのコンマ四秒の間に、対するエースも何もしていない訳ではなく。

 

 何時ものように、大太刀を抜きーーーー

 

 「あ、逃げる時に大太刀持ってくんの忘れた」

 

 この馬鹿、大太刀を没収されていた事を忘れていたのか。

 

 こんな時まで、馬鹿なエースであった。

 

 *

 

 まあ、武具の一つも持たないエースは、少々丈夫で身体能力が高いだけ(・・)。他は一般人と変わらない。

 

 故に、避け続けるしかなかった。

 攻撃手段は存在しない。いや、偉大なる武具(ステゴロ)は存在するが、近づく前に熱波で焼かれるか矢の雨で蜂の巣だ。

 

 「どうした、神殺し。神を殺したというその話は偽りか! その腕に刻まれている祟りはただの模様か!!」

 「あーやっべ。マージでどうしようぅうううううううう!?」

 

 顔面を狙って撃ち出された巨大な矢を間一髪で避け、エースは近くに刺さっていた矢を引き抜くと、それを半ば程からへし折り、ナイフを扱うかのように構える。

 

 そして、自らに向かって撃ち出される矢の内、どうしても避けられないもののみをそれで逸らす。

 片腕しかない為なかなか辛いものがあったが、時折矢を別のものに持ち替え、矢をかわし、だんだんと近距離の間合いに入っていく。

 

 「オラオラ、行くぜオイ!」

 

 そして、戦意やら気分やらも高ぶっていく。

 

 さて。

 

 戦いの途中だが、ここで一つ、思い出して欲しい。

 諏訪で殺した神にやられた祟りの効果。

 それは、『戦いにおいて気分が高ぶったら嵐が起きる』、というものだった。

 つまり、何が言いたいのかというと。

 

 ・・・・・・エースは今、とても気分が高ぶっている。

 

 

 

 エースが、太陽神にまた一歩、間合いを詰めた瞬間。

 

 エースと太陽神を中心にして、馬鹿でかい嵐が吹き荒れた。




 次回。

 決着(?)


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7:太陽VS馬鹿 後

 決着。


 急に吹き荒れた超災害クラスの台風によって、神は吹き飛ばされる。

 通常の台風であればそんなことは無いのだが、この台風・・・・・・いや、嵐は少々訳が違った。

 

 「なるほど・・・・・・あの人間の戦意が高ぶれば高ぶる程威力の増す制御不能の嵐か・・・・・・厄介なものよのぉ!」

 

 少年A・・・・・・エースの心情に左右されるこの(のろい)は、諏訪において二度目の神殺しを成した際、代償として、『永遠の孤独』を味合わせる為のものだったのだが、今は、それが武具となって、今、エースの目の前にいる太陽神に牙を剥いた。

 

 「応用が効かねぇのがアレだが、それでもアンタを吹き飛ばすくらいは出来る。こんな嵐の中じゃ弓は使えねぇ。飛び道具が潰れちまったなぁ。ええ!?」

 

 エースは、地面に刺さっていた矢を持って神に襲いかかる。

 神は、舌打ちをしながら弓を捨てると腰に差していた太刀を抜き、それに迎え撃った。

 

 「調子に乗るなよ・・・・・・人間ッ!」

 「ワリィがそう言われると調子に乗っちゃう人間なんだよ!」

 

 何ともはた迷惑な話である。

 つまりそれは、彼はどんどん戦意を高ぶらせる訳で。

 

 最初は海岸線のみだったのだが、今は四国全体が強烈な嵐に飲み込まれていた。

 

 *

 

 猛烈な風と雨の影響で、いくらか外気温がマシになった頃。

 熱中症を免れた二人の勇者・・・・・・土居球子と、高嶋友奈は変身アプリのβ版を渡され勇者に変身し、外に立っていた。

 風と雨が酷く、先ほどまでの気温の影響で鬱陶しい程ムシムシとするが、そこは根性で押し通す。

 

 彼女らは突然吹き荒れ始めた嵐の調査及び、人民の避難誘導の為に外に出た。

 そこで、避難誘導をしている間に海岸線で、嵐の中で煌々と輝く太陽と、それに立ち向かうヒトガタの実体を目視で確認した。

 常人であれば何か光っているモノがあるという認識しか出来ないであろうが、そこは勇者の超身体能力。遠かろうと、確実にソレを捉えていた。

 

 「あの人、この間ぐんちゃんが面会で一緒にゲームしてた人、だよね」

 「ああ、タマと友奈の目ん玉とノウミソが暑さでやられてないのならそうじゃないか・・・・・・?」

 

 嵐を起こすという祟りは本当だったのか、と、二人は思った。

 

 「早く大社の地下施設に避難させよう! じゃないと・・・・・・」

 「おうッ! あの馬鹿にタマ達が巻き込まれるのはゴメンだ!」

 

 ・・・・・・怪獣大決戦とは、正にあの馬鹿と太陽神の戦いの事。

 勇者であっても、あの戦いには介入出来ないと、我らはただの、怪獣映画の、力のない民衆のような、淘汰される側の存在でしかないのだと。

 彼女らはヒシヒシとソレを感じつつ、避難誘導を再開した。

 

 *

 

 「ウオォォオオオオオオリャァア!」

 

 奇声を発しつつ、矢を振り上げて襲いかかるエース。

 神の腕の健を切り裂こうとして、ソレをかわされ、逆に太刀による一撃を胸に貰ってしまう。

 傷は浅いが、『ドジュゥゥゥウウウッ』と、音を立てて焦げ付く様を見て、エースは焦る。

 

 「テメェ・・・・・・その太刀細工でもしてんのか」

 「なに、少々体温で熱くなっているだけだ」

 

 どんな体温だよ!?と、心の中で突っ込むエース。

 だが、相手の神格からして当然か、と無理矢理納得し、臆さず攻撃を再開する。

 

 (ああもう畜生! 大太刀が()ぇからやりにくい! なんで忘れて来ちまったんだ俺の馬鹿! ・・・・・・あ、俺馬鹿だったわ)

 

 そんなセルフツッコミをする程度には余裕があるのか、それとも焦って余裕が無いのか。

 どちらとも取れるような事を考えつつ、エースは相手と対峙する。

 

 攻撃して、受けて、避けて。

 大太刀を忘れて来てしまったエースには決め手が無い。このままでは千日手となってしまう。エースは、神殺しとは言え、『神殺しである』という事実以外は、ただ祟られただけの一般人である。体力にはいずれ限界が来る。

 

 だが、相手は武神では無いが、それでも神。それ相応の、無限にほど近い気力と体力がある。

 今のエースには、この状況は辛いモノがあった。

 このままでは、いくら不死身に近い身体を祟りの影響で手に入れているとはいえ、存在ごと太陽のフレアもかくやという温度の、神が持つ太刀に斬られて焼かれて死んでしまう。

 

 だが。

 

 「だからこそ、殺し甲斐がある・・・・・・ッ!」

 

 エースは、そんな事で弱気になる普通の人間では無かった。

 馬鹿だからこそ、神殺しという馬鹿げた事を成し遂げられた。いや、成し遂げてしまった。

 

 必ず殺す。

 

 エースの目の前にいるのは、恐らくこのクソッタレな状況を作り出した天の神、それも主神である。

 エースは確実に、この目の前にいる太陽神を殺害するつもりでいた。

 

 「ブッ潰す・・・・・・絶対に、家族を殺した天の神々(おまえら)は確実に殺すッ!」

 

 殺意と害意、敵意、そして戦意をたぎらせ、エースは神の懐にまで潜り混む。

 その瞬間、更に嵐が酷くなり、神は一瞬、ほんの一瞬だけ体勢を崩した。

 

 その隙を逃さず、エースは逆手に握っていた矢を順手に持ち替え、神の心臓部分と思しい場所に矢を突き立てる。

 神も、灼熱の如く焼けるような熱さを持った太刀を振りかざし、自分の体ごと(・・・・・・)エースにその刃を突き立てた。

 

 「グ、ガァアアアアアア!?」

 「馬鹿が! こうなる事を予想していなかったのか!」

 「じ、自分の体ごととか、相当狂ってやがるッ」

 「自分の体? フン、何を馬鹿げた事を」

 

 エースが言った言葉に対し、馬鹿にするように帰す神。

 

 「この体は我らが先兵の肉体を改造して使っているモノだ。故に、肉体が死のうと霊格が砕けぬ限り死ぬことは無いッ!」

 

 神は更にそして、と、付け足し、

 

 「貴様が今持っている我の矢程度で砕けるような霊格では無い。砕きたければそれこそ貴様が刀剣の神から奪い去った大太刀を使うべきであったなぁ?」

 

 そう言ってから、神はエースを嘲笑うかのように自らの太刀を体から引き抜くと、エースの体に再度突き刺し、海の彼方に投げ捨てた。

 

 キッチリと、祟りをかける事も忘れずに。

 

 「高々人間如きにここまでコケにされたのは始めてなのでなぁ。今回はこの程度で済ませておいてやる。だがッ!」

 

 「次会った時こそ貴様の命、刈り取ってくれるッ」

 

 そう言って、神はその場所から消えた。

 

 エースの、敗北感を一番刺激する、『勝ち逃げ』という形で。

 

 「畜生・・・・・・ちくしょお・・・・・・」

 

 海に沈みながら、エースは空に手を伸ばす。

 エース、初めての敗北だった。




 次回。

 最終。


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最終:ある馬鹿の物語

 一応ラストです。


 バーテックスと呼ばれる天の神の先兵が表れて、三年近く経った頃。

 

 諏訪は、危機的状況にあった。

 

 少なくとも、十四の見た目麗しい少女が遺書のようなものを書かなければいけない位には。

 

 最早、長く持たない。最長で・・・・・・三時間程だろうか。

 

 だが。

 

 「それでも」、と。立ち上がるのが勇者だ。

 

 諏訪の勇者、白鳥歌野は、武具の鞭を振るい、敵であるバーテックスを倒していく。

 少しでも長く、この諏訪を守る為に。

 

 ここを鎮護する神の力は最早ミソッカス。武具や、勇者の装束に宿る力はそれ相応に下がってしまっている。

 とうとう、使っていた鞭がちぎれ飛んだ。

 

 「ピーンチ。でも・・・・・・」

 

 あの時。

 神殺しの馬鹿が残した剣。

 「俺にはコイツがあるから良い」と、放って行った両刃の細身の剣。

 

 「まだ、やれるわ・・・・・・このソードで、あなた達をスライスしてあげる!」

 

 歌野は、腰に差していたソレを抜くと、覚悟を決めて突貫ーーーー

 

 「うわぁああああああッ!?!?」

 

 ーーーーしようとしたところで、バーテックスの大群の中心に少女が着弾するのを見た。

 誤字ではない。本当に、『着弾』したのである。

 

 「・・・・・・何故か、デジャヴュ、というモノを感じるわね」

 

 唐突に去っていくシリアスムーブ。彼は、あの『馬鹿』は、ゴッドキラーだけでなくシリアスキラーも持っているのではなかろうか。

 

 「オラオラァ!! 若葉ァ! ちゃんと着弾しやがれェ!」

 「いきなり投げ飛ばされてちゃんとも何もあるかッ!」

 

 そして、バーテックスの群れの中心から聞こえるのは、二つの聞き覚えのある声。

 一方は、うどんと蕎麦に関して論戦を繰り広げる仲のライバルとも、戦友とも言えるような間柄の少女のもので。

 

 もう一方は、

 

 「よぉ、歌野。助っ人に来たぜ」

 

 首から下の全身に祟りを受けてまがまがしい模様だらけになった体を引きずりながら、それでなお無類の強さを誇る、神殺しの少年の声であった。

 

 「遅すぎるわよ、馬鹿」

 「馬鹿ってのは自覚してる。遅くなったのはスマンかった。文句は俺を意味()ぇ牢獄に閉じ込め続けた大社に言ってくれ。

 さぁ、クソッタレ共を潰して、サッサと四国行くぞ。ここに残した剣がありゃ、お前も戦えるだろ?」

 「ええ! サッサとバーテックスをデストロイしてみーちゃんと諏訪にゴールするわ!」

 「その意気だ」

 

 さぁ、反撃だ。

 

 *

 

 これは、神殺しを成し遂げてしまった、とある馬鹿の物語。

 少し歳をとり、馬鹿さ加減がマイルドになったとは言え、そこは馬鹿。

 本日も、奇想天外な行動で、馬鹿騒ぎを起こしている。

 

 「対象、神殺しが脱走した! 捕縛しろ!」

 「お見合いなんか御免なんだよ畜生!!」

 「うるせぇ! サッサと人生の墓場に足突っ込めや! スカートの中身覗いちまった責任取るんだろ!!」

 「それがどうしてお見合いになるんだよッ!?」

 「知るか! サッサとお縄につきやがれッ」

 「というかあの野郎、全身縛って蓑虫状態にして、擬装した囚人護送車で運搬してたのにどうやって逃げやがったんだよ畜生がッ!?」




 多分これ以上は続きません。


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