オフェリア(偽)の聖杯戦争 (砂岩改(やや復活))
しおりを挟む
炎上汚染都市:冬木
1話
(ん…くそっ。何が起きたんだ?)
(確か、落石に巻き込まれて)
どうもみなさん、俺です。田舎の学校の帰りに落石に巻き込まれて死んだ(はず)なのですが何故か生きてました。
(ってなんじゃこりゃぁぁぁ!)
咄嗟に周囲を見渡せば炎、炎、炎炎炎炎炎炎。バカ野郎、世界が終焉を迎えてるじゃねぇか。ってか暗い山道歩いてたのになんで街のど真ん中にいるんだよ。ってかなんか見たことある光景に嫌な感じがする。
というより視界がなんか狭い。なんか右側の視界がよろしくないんだが。
右目の視界が完全に塞がっていると思えば眼帯のようなものが顔に張り付いていた。
(手が綺麗だ…)
よく見れば手がとても綺麗だった。以前の荒々しい手ではなく女性のような細くて綺麗な手。
急いでポケットなどを探すと手鏡のようなものが出てくると開ける。予想通り手鏡で顔を確認するとそこには茶髪の眼帯美人が映っていた。
(あら、美人。ってバカ野郎!)
思わず手鏡を地面に叩きつけようしたが堪える。その正体はオフェリア・ファムルソローネ、fate/GO第二部のキャラクターにしてクリプターと呼ばれる七人の一人である。その美貌から本編登場前から噂になったキャラである。
(このキャラならここはfateの世界。そしてこの情景は炎上汚染都市冬木かよ!)
ゲッテルデメルングはやり終えたけどさ、まさかの憑依転生かよ。ちょっとおかしいんじゃないかな!
現在進行形で頭を抱えてゴロゴロしているオフェリア(偽)。物凄い絵面であるが本人以外誰もいないので気にしない。
ピキーン!
混乱の極みに立たされていたオフェリア(偽)は頭の底から何かしらの信号を受けとる。
(身の安全を確保。サーヴァント召喚?)
確かサーヴァント召喚に必要なのは魔方陣と霊脈、そして触媒か。触媒はないからカットして魔方陣だな。いくらfateが好きと言っても魔方陣など描けない(描ける人は居るかもしれないけど)。
だけど体が勝手にスラスラと魔方陣を描いていく。そういえばオフェリアは時計塔の降霊科に所属していたはず。
そこらに転がっている死体から描いた魔方陣に血を流し込むと完成。さらっとやったけどこっちは少し吐きそうだったわ。
「……」
え、喋れないだけど!
今まで一切気にしていなかったんたが言葉が口から一切出ない。必死に叫ぼうとしても何も出ない。これはかなりヤバイのでは?まぁ、こうなっても仕方がないので心の中で唱えることにする。
(素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
閉じよ。みたせ閉じよ。みたせ閉じよ。みたせ閉じよ。みたせ閉じよ。みたせ
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!)
この詠唱は暗記したわ、覚えてる。
手に刻まれた令呪が赤く輝く。体の中の何かが激しく動き回るのを感じる。すると魔方陣が目を開けられないほどの輝きを放つ。目が潰れそうな光に思わず目を閉じる。黄金の光が体を包む。
(なんつぅ光だよ!)
限度を超える光量に圧倒されながらも目の前に気配が一つ現れる。英霊召喚に成功したのだ、召喚時に潰されかけた片目をゆっくりと開けるとそこには鎧を着た男が立っていた。
「セイバー、ジークフリート。召喚に応じ参上した。命令を」
(ジークフリート…)
普通のガチャならすまないさんかよ!って突っ込んでいるところだが今回は現実だ。その圧倒的な気配に気圧され生唾を飲む。
「マスター?」
「……」
「すまない、もしかして目当ての英霊ではなかったか?
全力否定。声が出ないのでジェスチャーでそんなことはないと告げる。その上で声が出ないと伝える。
「そうか、マスターは声が…なら念話ならどうだろう?」
(念話、その手があったか。念話なら声帯器官を使わなくても話ができる!)
まぁ、やり方なんて全く分からないのだがイメージはニュータイプ会話。頭から稲妻が走るようなイメージでやってみる。
(ジークフリート…)
「聞こえるぞ、マスター」
(良かった、急に話せなくなって困っていたんだ。俺の言うことが分かるならありがたい)
「もしやマスターは男か?すまない、女性だと勘違いしていた」
(間違っていない。俺は女で男だ、その点は慣れてくれ。俺もまだ慣れてないが)
「…そうか。複雑な事情があるのだな」
少し不審そうだがこればかりは仕方がないしこっちからも説明のしようがない。取り敢えず一安心しているとジークフリートが周囲を警戒し出す。
「マスター、敵だ。こちらに集まってきている」
(スケルトンか、お前なら雑魚同然だ。悪いが叩いてもらえないか)
「了解した、マスター」
愛剣を構え、迎撃の構えを取るジークフリートと周囲から溢れてくるスケルトンたち。
(行くぞ!)
「あぁ」
戦闘は言わずもがな。ジークフリートの圧倒的な勝利だ、こっちも体が軽く、手を銃の形にして何かを撃ち出すイメージをすると何か出た。それで2、3体を片付けると他は彼がやってくれた。
「マスター、無事か?」
(あぁ、ありがとう。俺一人じゃ死んでた)
「あぁ…」
手を差し出して握手を求めると向こうもぎこちなくだが握手をしてくれる。
(近くに魔力反応はあるか?)
「あぁ、近くにサーヴァントらしき気配が複数ある」
(そこに向かおう)
「…了解した」
ジークフリートは静かに頷くとその場所まで案内してくれるのだった。
ーー
「てめぇらよりマシだからに決まってんだろう!」
ジークフリートの案内の元、駆けつけた瞬間。クー・フーリンの声が響き爆発が起こる。
「既に戦闘が始まっているようだな」
やはり、この場面か。介入するには打ってつけだ。まだカルデアサイドはなにも分かっていない初期の時だ、ここで助太刀すれば向こうの信頼も勝ち取りやすいだろう。
(ジークフリート、俺を持ってもいい。全速力で急行しろ、キャスターとシールダーを援護する)
「了解した。急行する」
ジークフリートは俺を抱えると全力で飛び上がりクー・フーリンとランサーの間に着地するのだった。
ーーーー
キャスターが放った魔術による爆炎。それに助けられた立香たちだったがその横合いから新たな介入者が現れる。
「なんだ、てめぇら」
「先輩、所長。私の盾の影に」
警戒するマシュとキャスター。爆煙から姿を現したのはセイバーと思わしき白髪のサーヴァントと右目に眼帯を着けた女性、その女性はマシュには見覚えがあった。
「まさか、オフェリアさん!」
「え、待ちなさい!オフェリアですって!」
その姿を確認したマシュは驚き、その後ろで控えていたオルガマリーは素早く反応しその姿を目で確認する。
「47名すべてが危篤状態だったと聞いていたけど。貴方が生きて、しかもレイシフトしているなんて!しかもサーヴァントを連れて!」
オルガマリーは満面の笑みで喜ぶ。オフェリアはカルデアのマスター候補でもトップクラスのAチームに所属していたエリートマスター。おまけの藤丸より頼もしいと彼女は嬉々としていた。
「よう、あんたは見た感じセイバーらしいが。俺の味方と言うのでいいんだな?」
周囲を警戒しながらも声をかけたキャスター。その言葉にセイバーも頷き剣を構える。
「よっしゃ。じゃあ、行くぜ!」
ーーーー
「そんなバカな。こんなことがあり得るのか!?」
カルデア指令室。そこで特異点Fの状況を見ていたロマニは信じられないと驚愕する。
「Dr.ロマニ!」
「君かどうだった?」
「いった通りだよ。彼女はあそこにいた!」
「なら彼女は誰なんだ?」
モニターに映るのは間違いなくオフェリア・ファムルソローネ。バイタルデータを含む全ての計器が間違いなく彼女だと示している。
ロマニが見つめる先。最優先に冷凍保存されたマスターたちの中に間違いなくオフェリア・ファムルソローネ本人の姿があったのだった。
オフェリア・ファムルソローネ(偽)
コフィンの爆破を期にオフェリアの中に別人が憑依した存在。中身は男で自覚した過去を持ち、確固たる自我を保有している。だが本人も自身の名前だけが思い出せない。
どうやらカルデア内にももう一人のオフェリアが居るようだが現在のところ詳細は不明。
魔眼(偽)
本来なら宝石ランクの強力な魔眼だが特定の可能性にピンを留めるという能力は失われている。その代わりに魔術礼装にて使える能力を肩代わりして使用できる。(ガントなど)
セイバー ジークフリート
オフェリア(偽)が触媒なしで召喚した初のサーヴァント。なぜシグルトではないのかは深い理由がある。オフェリア(偽)の存在に大きく影響を受けた結果がジークフリートてあった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
2話
「行ったぜセイバー!」
「あぁ」
「小癪なぁ!」
ランサーメドゥーサの絶叫。彼女の体にはジークフリートの得物、バルムンクが突き刺さると両断する。
「おう、いい太刀筋だ。相当、名のある英霊と見たぜ」
「そちらの魔術も大したものだ。詠唱なしで発動できるとは古代ルーン魔術だと見える。身のこなしから見て魔術師ではないようだが」
「ほう、観察眼も一流か。こんな状況じゃなけりゃ決闘を申し込んでいたところだぜ」
キャスター。クー・フーリンはジークフリートと話している内に獣のような瞳で彼を見るがすぐに納める。戦士として分かり合った二人は静かに信頼関係を築くと藤丸とオフェリアの元に戻るのだった。
ーー
「オフェリアさん」
「……」
ほんの少しだけ安堵したマシュに対してオフェリアは優しい笑みを浮かべながら頭に手を置くと優しく撫でる。端から見ても愛のある撫で方だった。
(か、体が勝手に…)
先ほどの一連の行動は彼の意思によるものではない。本人からしてみればつい無意識にと言った反応が正しいのかもしれない。
「貴方が居ればもうこんな数合わせに用はないわ。オフェリア、貴方にこの特異点Fの調査の主導を命じるわ」
「所長。先輩は先輩なりに」
「今までのことは感謝しているわ。それでもオフェリアと藤丸の差は歴然。全てにおいてね、能力のあるものがそれに相応しい働きを求められるのは当然の事よ」
「でも…」
「いいんだよ、マシュ。ありがとう…オフェリアさん。よろしくお願いします」
「……」(いや、無理だから。俺中身違うし)
藤丸を庇おうとするマシュであったが彼自身がそれを止めてオフェリアに頭を下げる。すると彼女は静かに首を横に振り、反対の意を示した。
「え?」
「どういうことオフェリア。私の言うことに従えないと言うの?」
「……」
「なんとか言いなさい!」
(話せたら話すわバカ野郎!こっちだって話せなくて辛いんだよ!)
「マスター、どうした?」
(ジークフリート、すまない。俺が話せないことを説明してくれ)
「無視するんじゃないわよ!」
オフェリアの態度に怒り心頭と言ったオルガマリーは声を上げながらこちらを睨み付けてくる。早く誤解を解かないと殺されそうな勢いなのでジークフリートに状況を説明して助けてもらう。
「すまないがお嬢さん」
「なによ、サーヴァントが私に口を出すんじゃないわよ!」
「私のマスターは言葉を出せないんだ」
「え?」
「爆発の影響かは分からないが。私のマスターは言葉を発せず、記憶も大半を失った。使える魔術もそのほとんどが消失してしまったのだ」
後半はちょっと作り話。嘘は言ってないがな、彼女自身の記憶はあるが魔術に関することの理論なんてこっちには何にも理解できない。全部、レフのせいだ!
ジークフリートの話を聞き終えたオルガマリーは先ほどの真っ赤な顔から一転、真っ青な顔に変わり頭を抱える。
「そんな…」
へたりこむオルガマリーは絶望にうちひしがれながら座り込んでしまった。
(だからこそ、声のだせない俺より藤丸くんが主導で動いてくれた方がいい)
「だと言うことだ」
「…分かりました。でも僕にそんなことが出来るんでしょうか?」
不安一杯と言った藤丸の肩に手を置いて軽く叩く。頑張れと言ったつもりだ。それは向こうにも伝わったようで少しだけ顔が変わる。
(いい子だ)
年齢的にも下。しかも同性となれば可愛がるのは当然のこと、藤丸にも頭を撫でてやる。
「…ありがとうございます」
「おっしゃ、一丁上がりっと」
そんなことをしているとゆっくりと歩いてきたクー・フーリンが帰ってくる。
「ありがとうございます。危ないところを助けてもらって」
「まぁな、セイバーの援護のお陰でこっちもだいぶ楽できたしな。お互い様だ」
「ありがとよ、お嬢様ちゃん」
平常運転に戻ったクー・フーリンは俺ことオフェリア(偽)の腕を揉む。
「なにやってるんですか!」
突然のセクハラに固まっていた俺とクー・フーリンの間に割り込むようにマシュが入り、二人を引き離す。
(まさか男にセクハラされる時がするとは…)
中身が男ということもあり完全に油断していた。これからはこう言うことも気を付けなきゃならないと思うと気が気でない。
「ははっ、結構いい体してるな。その強気な顔も好みだぜ」
「フォウ!」
クー・フーリンの軽口に警戒するようにマシュの肩に乗っていたフォウがこちらの肩に飛び乗り威嚇する。その様子がとても可愛くて思わずナデナデしてしまうとフォウもリラックスしたようにかわいい声を上げてくれる。
(隠れとこ…)
またセクハラされても困るので少しだけジークフリートの後ろに隠れる。
「マスター。その…背中は少し…」
(あぁ、すまない。それは不味かったな)
ジークフリートは誰であろうと背後に回られるのを嫌がる。それは彼の体の問題なのだがすぐに分かるだろう。そんな彼の反応を見たクー・フーリンはすぐにその正体を察していた。
『とりあえず状況を聞きましょう。どうやら彼はまともな英霊のようです。そしてオフェリアさん、無事にレイシフトしていて良かった』
突如出現したのはロマニ、彼は映像越しにだがこちらを見て労うがその目はどことなく警戒の色を残していた。
「お、それは魔術による連絡手段か?」
『初めまして、御身がどこの英霊かは存じませんが我々は…』
「そう言う前口上は結構だ。手っ取り早く用件を話せよ、そう言うの得意だろ軟弱男。それにお嬢様さんは俺の正体を察しているとおもうぜ」
『軟弱…ってオフェリアさんはもう予想が?』
「流石ね、記憶は失っても鋭い観察眼は健在のようね」
クー・フーリンの言葉に少し落ち込むロマニだったが彼の言葉に驚く。いつの間にか復活したオルガマリーも手早く褒める。
「そうなのかマスター?」
(あぁ、まぁ。知識があるからな俺には、姿を見ただけである程度の英霊は見分けられる)
fate知識様々である。元々は英霊とかそう言う神話系は全く分からなかったがこの作品のお陰でかなり鍛えられた。
(アイツはアイルランドの光の御子だよ。名はクー・フーリン、言わずも知れた大英雄だ。今回はランサーではなくキャスターみたいだけど)
「なるほど、クー・フーリン。味方としてはかなり心強いサーヴァントね」
ジークフリートの翻訳越しに伝えるとオルガマリーは顎に手を当てながら思考する。
「まぁ、防御役のマシュ、前衛のセイバー、後衛のキャスターと布陣は磐石よ。どれほど強力なサーヴァントだろうと対処は可能ね。オフェリア、貴方のサーヴァントは一体、何者なの?」
(いいのか?)
「ここには敵は居ない。味方に俺の正体を明かした方がどちらも動きやすいだろう」
ジークフリートの同意を得て正体を明かすことを許可する。するとそこにクー・フーリンが話に割り込んできた。
「おっと、今度は俺が当てる番だ。なぁ、大英雄。このお嬢ちゃんは間違いなく最高峰の英霊を引き当ててるぜ」
「分かったのか?」
「あぁ、あの剣筋、体捌きを見てただ者じゃねぇとは思ってた。さらにマスターでさえ、背後に回られることを嫌がるのがいいヒントになったぜ」
「え、まさか…」
クー・フーリンの解説で一番に察したのはオルガマリー。彼女の知識のなかでもとある英霊にたどり着いたのだろう。
「ニーベルンゲンの歌の大英雄。ジークフリート、あの邪竜殺しにまみえるとは運が良いぜ」
「流石は降霊科のエースね。文句無しの人選よ、触媒もなしによく召喚できたわね」
オルガマリーが誉めてくれている後ろでマシュは藤丸にジークフリートの解説を行っている。というか、出会ったばっかりの筈なのに仲良いな!
『つまり貴方はこの街で起きた聖杯戦争のサーヴァントであり唯一の生存者なのですね』
「負けていないと言えばな」
ロマニの質問を皮切りにキャスターことクー・フーリンはこの世界で起きた聖杯戦争の詳細を聞く。人間の居ない街、傀儡と化したサーヴァントたち。そして待ち受ける敵、セイバー。
「じゃあ、行きましょう」
オルガマリーの声を期に全員が冬木の心臓部。大聖杯のある場所へと向かう。人が住める環境では無くなったこの街は悪路極まれりだが着実にゆっくりと近づいていく。
「まさか生存者が居たとは…だが彼女は邪魔だな」
それを遠くから見ていた男性は障害となり得る者に向けて魔力を起こす。
「フォウフォウ!」
「少しですが。オフェリアさんは柔らかくなった気がします」
(まぁ、元々。マシュに対しては気にかけてた節があったし。彼女も接しやすいんだろうな)
自分の頭や肩を動き回るフォウを肌で感じながら癒されているとマシュが話しかけてくる。回想を見るとオフェリアがいた頃のマシュはマシーンのようなイメージを受けていた。なんでこんなに変わったのかは詳しくは分からないが。今の時点でもかなり女の子らしくなったと思う。
「オフェリア、貴方はこれから藤丸の教育をしていかなければならないわ。こいつはレイシフト能力だけは高いんだから有効に活用なさい」
(なんだかんだ言ってよく見てるんだよな。所長って)
今回はジークフリートという強力なサーヴァントもいる。ゲームみたいに所長を死なせないようにしなければ。
(は?)
「マスター!」
すると突然襲ってくるのは浮遊感。おかしい、さっきまで地面を歩いていたんだ。マンホールなんてなかった。ジークフリートたちの声が聞こえる。足元を見れば自分の足元だけ亜空間ゲートのようなものが出来ている。
(俺だけピンポイントで狙われたのかよ!)
「フォウ!」
とにかくフォウは落ちないように投げておく。するとそれはマシュがキャッチ。
「お嬢ちゃん!」
「オフェリアさん!」
クー・フーリンと藤丸が素早い動きで手を差しのべてくる。だが手が動かない。突然のことで頭が追い付かずにそのままゲートに飲み込まれる。
「オフェリアさん!」
彼女が落ちた瞬間。ゲートは閉じ、全員がオフェリアが落ちた地面に向けて叫ぶ。無意味だと分かっているがやってしまう。
「マスター!」
そのすぐ後。オフェリアの気配を察知したジークフリートは霊体化して急行するのだった。
ーーーー
(いっつぅ!)
尻もちを着いてしまったオフェリア(偽)はその痛みに耐えながら立ち上がり、周囲を見渡す。ここには炎がなく全体的に静かな印象を受ける。ここは廊下のようだがかなり広い。
(ここは城か…まさかアインツベルンの城!?)
冬木にこれほど大規模な城はアインツベルン家の保有している城しかない。
(こんなところにも来れるなんて)
アニメを知っている身としては嬉しい限りだったがなにか奥から足音のような音が聞こえる。
ズシン…ズシン…ズシン…
(まさか…)
アインツベルンのサーヴァントは一騎しかいない。あの誉れ高き大英雄、そのバーサーカーとなれば必死。
「■■■■■■ーー!!!」
(ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!でたぁぁぁぁ!)
ムンクの叫びの如くの大絶叫(心で)と共に全速力で逃げる俺。
(なにか使える呪文はないのかぁ!)
そう言えば似たような状況で凛が使っていた魔術をふと思い出す。
(
両足に現れる青いライン。魔力喚起によって視覚化された魔力回路が活性化されている証だ。
全速力で駆ける、それと同時にバーサーカー《ヘラクレス》の剛力によって生み出される一撃、それをなんとか避けるが風圧で窓は割れ、体は吹き飛ばされる。
「■■■■■■!」
風圧を利用してさらに加速。思考は混乱しているがどうすればいいかは体が勝手に動いてくれる。そのお陰でこっちもかなり冷静になってきた。
到着したのはエミヤと士郎が戦っていたホール。スケルトンを倒した魔力を撃ち出す方法で窓を破壊して脱出路を作る。
(こんな狭い場所。命がいくつあっても足りない!)
(
まるで辞書を読んでいるような気分。頭の中で言いたいことが勝手に浮かんでくる。これは恐らく、オフェリアの記憶の中から俺が必死に呪文やらなんやらを引き出してるんだろう。既に情報は詰まっているのだ。
「■■■■■■っ!」
(おりゃぁ!)
壊したのは二階の窓。なぜかって?そりゃあ…。ヘラクレスの剣が俺の足を狙ってるのが分かったからな!
(あんなんが当たったら足どころか下半身が消し飛ぶわ!)
綺麗な背面跳びを決めるとそのまま城外へ。受け止めてくれるエミヤは居ないので全身を地面で打ちながら着地。ここで体力を使いきり着地などの余裕が持てなかった。
「■■■■■!」
(ここまでか…ジークフリート!)
頭に浮かぶのは自分が召喚したジークフリートの姿。彼なら助けてくれるかも知れない。そんな思いと共に壁を突き破って襲ってくるヘラクレスを静かに見つめる。
「すまない、待たせた…」
ヘラクレスの一撃を真っ向からの一芸で相殺したのはジークフリート。彼は素早く俺を持つと木陰に隠して再び襲ってくるヘラクレスを迎え撃つ。
「■■■■■っ!」
「ここは通さん!」
ギリシャ神話の二大英雄と邪竜殺し。この二人は護るべき者のためにぶつかり合うのだった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
3話
「ちっ、仕方ねぇ。俺たちはこれから進むしかねぇ」
「でもオフェリアさんが!」
「アイツにはジークフリートが着いてる。お嬢ちゃんの気配を察してもう向かったよ」
取り残されたマシュたちはオフェリア救出を希望するがクー・フーリンに止められる。
「そうよ、私たちの目的はあくまでもこの特異点Fの調査。目的地は既に示してある。もし敵の妨害を受けていたとしてもそこで合流できる可能性は高いわ」
彼の意見にオルガマリーも賛成の意思を見せる。一番最悪な事態はなにも出来ずに全員が死ぬということだ。無策な行動は死を招く。
「記憶を失った不完全な状態とはいえ、あの子は超一流の魔術師よ。未熟な貴方たちが行っても邪魔になるだけよ」
「……」
それでも心配そうにする藤丸に対しクー・フーリンは腕を肩にのせて話す。
「あの嬢ちゃん。あのちっこいのを逃がしたくせに自分は手を差し出さなかった」
「確かに…」
あの瞬間なら彼女が手を差し出せば穴に落ちなかったかもしれない。
「自分が足手まといになることが嫌だったんじゃねぇか?下手したら俺たちまで巻き込まれてたかもしれねぇしな」
あの鋭い眼光はこちらをしっかりと捉えていた。言われてみれば目的を優先しろという彼女の意思が込められていたのかもしれない。
「…分かりました。探索を続行します」
「先輩…はい、分かりました。探索を続行します!」
ーーーー
(ジークフリート…)
接近戦においてヘラクレスは無敵に近い戦闘能力を有している。数ある聖杯戦争の中でも第5次聖杯戦争はトップクラスの英霊が集ったあの戦い。その中でも最強とも言われたサーヴァントが今、ジークフリートと死闘を繰り広げている。
(ステータスは…だいぶ傷ついているな)
ヘラクレスの不死性もストックはあと4つほど残っている。
(くそっ…)
意識が朦朧としている。極度の緊張感と体力を使いきったことによる疲労感で動けない。ジークフリートも善戦しているがバーサーカーの異常な反射速度に押される。
(こんなところで死んでたまるかよ!)
死にたくない。まだこんな意味も分からないところで何も知らずに死にたくないんだ。
眼帯で塞がれた右目に力が入る。魔力が充実したと思えば何をするべきかも分かる。知っているのだ。
(いくぞ、ジークフリート!)
ーー
「■■■■■■!!」
「くっ!」
バーサーカーという訳あって剣術というものは駆使しない。並外れた剛力から生み出せる一撃と他の英霊と比較してもなお圧倒する反射神経から繰り出される攻撃スピードは正に剣檄の嵐。
流石のジークフリートと言えどもこの化け物相手に長時間持つとは思えない。だが下がれない後ろにはマスターがいる。護るべき者がいる。
(ジークフリート!)
突如、念話で叫んだマスター。それと同時に体の傷が消えていく、これは魔術による回復。さらに身体中に力が湧いてくる。
「回復魔術と強化魔術か!」
(ジークフリート。真名開帳を許可、宝具を使え!魔力は気にするな全力で放て!)
「承知した。その期待に応えようマスター!」
先程、放ったのは瞬間強化と応急手当、更に霊子譲渡。オフェリア(偽)は右目を覆っていた眼帯を取り払いジークフリートをまっすぐ見つめている。
(俺に勝利を見せてくれ!)
黄金に輝く魔眼。本来なら宝石の如く多彩に偏光する神域の魔眼であった眼はランクが低下し金色に光り輝く魔眼になっている。しかし力は強力だ。
附与の魔眼(仮名):マスターが使えるスキルを魔眼に映した者に附与する魔眼。それは魔眼保有者自身も例外ではない。
(ガンド!)
「■■■!?」
(今だ、ジークフリート!)
今まで動き回っていたヘラクレスの動きが止まる。今にも動き出しそうな雰囲気だがこれはマスターが作ってくれた勝機、逃す手はない。
「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る。撃ち落とす……
強大なエネルギーの塊が剣に集まり、視野に映るほどまでに至る。ジークフリートの最大火力、振りかざされた剣はエネルギーの塊と共にヘラクレス目掛けて振り下ろされる。
「■■■■■■っ!」
数少ないヘラクレスのストックも消え去り魔力を失ったヘラクレスはその姿を徐々に消していく。
(勝ったのか…)
魔力量にはまだまだ余裕があるが色々と疲弊していたオフェリア(偽)は体を支えていた足がガタガタと震え倒れる。その体をジークフリートが支えて心配そうにこちらを見つめる。
(ジークフリート…)
「なんだ?」
「ありがとう…俺の騎士。」
「マスター…言葉が……」
ほんの一言。それが限界だというのは彼にも分かっていた、たった一言、されど一言。それが彼にとっては最高の勲章だった。
「あぁ、これからも君を護って見せる…」
ーー
「それで、これからどうするマスター?」
(予定通り。冬木の心臓部に向かう、藤丸たちもそこに向かってるはずだからな)
「了解した」
(ちょ!ジークフリート!)
次の方針を聞くや否やお姫様だっこをされて運ばれる。こっちの体力が回復しきれていないのを分かっての行動だろうがちょっと恥ずかしい。
(一応、バフ懸けとこ)
「感謝する。マスター」
この魔眼、かなり使い勝手がいい。本来の能力とは明らかに違うが。ただ、連発は出来ない先程までに使った三つのスキルは今だに使えないと体が告げている。
先程懸けたのはオシリスの塵、無敵状態附与のスキルだ。これからは本格的な原作介入だ。何が起きてもおかしくない、備えあれば憂いなしと言うやつだ。
「わが魔術は炎の檻、炎のごとき緑の巨人、因果応報、神事の森!」
(セイバーとキャスターが戦っているな)
「介入するか?」
(いや待て。まだだ、これには黒幕がいる)
出てこいレフ・ライノール。所長を殺させはしない。
「聖杯を巡る戦いはまだ始まったばかりだと言うことを…」
「坊主、お嬢ちゃん、あとは任せた。あの眼帯のお嬢ちゃんにも礼を言っておいてくれ」
(キャスター…)
「次があるんなら次はランサーとして呼んでくれ」
言動は本当に軽いやつだったが心底いい奴だった。本音を言えばもっと話したかったが。
(ありがとう)
セイバーとキャスターの二人が消滅する。その余韻に浸ることは許されずすべてが終わったはずのこの空間に拍手の音が響き渡る。
「いや、まさか君たちがここまでやるとは計画の想定外にして私の寛容さの許容外だ」
響き渡る男の声。その声の主は大聖杯の前に立っていた。
「貴方はレフ教授」
「レフ教授だって!?」
「レフ、貴方も生きていたのね。貴方がいなければ私…」
(ジークフリート。ここで待機、合図と共に宝具を奴に撃て)
「いいのか?」
(遠慮するな)
「分かった」
その様子を遠くから見ていた俺は身体強化を使って崖から飛び降りてレフに駆け寄っていたオルガマリーを止める。
「なにをするのオフェリア!」
「君か、オフェリア・ファムルソローネ。まさか生きているとはね」
「オフェリアさん。無事だったんですね!」
「オフェリアさん!」
無事を疎むレフと無事を喜ぶ藤丸とマシュ。レフを睨み付ける俺に対して気にくわないといった顔をしていた。
「本当に予想外のことで頭に来る。オフェリア、君をバーサーカーの元へと送ったのに生還するとはね。流石はAチームのメンバーだ」
「離しなさいよ!」
オルガマリーを必死に押さえ込む俺は奴から目を離さないすぐに対応できるように。
「ロマニ、君にはすぐに管制室に来るように言ったのに」
「レフ…」
「君もだよオルガ。爆弾は君の下に設置したのにまさか生きているなんて。いや、生きていると言うのは違うな。君はもう死んでいる。肉体はとっくにね」
「え?」
「君は生前。レイシフトへの適正はなかっただろう。肉体があるままでは転移出来ない。君は死ぬことであれほど切望していた適正を手に入れたんだ」
「うそ…」
「だから、カルデアに戻った時点でその意識は消滅する」
「消滅って私が?」
「だがそれはあまりにも憐れだ。生涯をカルデア捧げた君のためにせめて今、どうなっているか見せてやろう」
真っ赤に染まったカルデアス。改めて生で見るカルデアスは圧巻の一言に尽きる。圧倒されている俺たちを余所目にレフはオルガマリーに向けて手を向ける。
(やらせん!)
オルガマリーを庇うように前に出て威嚇のために指で銃を作る。
(は?)
「健気だ。実にくだらない、既に死んでいる彼女を庇うとは」
脇腹から血が溢れ、遅れてくる激痛に顔を歪めながら倒れる。周りがなにか叫んでいるがそれも遠くに聞こえる。
(撃たれた。外見がオフェリアだからって警戒しすぎだろ)
「君は本当に邪魔だからね…」
(ジークフリート!)
「
「なに!?」
完全な意識外からの宝具による攻撃。流石のレフも驚きが隠せずに攻撃を受ける。
「やった!」
「あれはジークフリートさん!?」
喜ぶ藤丸とマシュ。だがレフは健在、衝撃に耐えるために膝をついていたが対してダメージを負ってないように見える。それに加えジークフリートも反撃を喰らったようで苦悶の声が念話越しに聞こえる。
(くそっ…まだ奴は倒せないのか…)
ポケットから鏡を取り出して眼帯を外しスキル全体回復を使う。止血は出来たが応急手当ほどの回復は出来ていない。
(やばい。意識が霞む…)
自分の血で血溜まりが出来ている。危険域に達している血の出方だ。そうこうしているうちにオルガマリーがレフに捕まり空に飛ばされていた。
「いや―――いや、いや、助けて、誰か助けて! わた、わたし、こんなところで死にたくない!だってまだ褒められてない……! 誰も、わたしを認めてくれていないじゃない……!」
(待て…クソ野郎……)
誰もがなにも出来ない。マシュがロマニの指示の元に治療をしている。俺の事は構うな、所長の事を優先しろ。早くしろ!
「どうして!? どうしてこんなコトばっかりなの!?誰もわたしを評価してくれなかった! みんなわたしを嫌っていた!やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……! だってまだ何もしていない!生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに!」
せめて死んでいるのなら笑っていて欲しかった。こんな悲痛な叫び声を聞きながら動こうともがく。
「止めてくださいオフェリアさん!死んでしまいます!」
(あぁ…所長……)
悔し、単純に悔しかった。自分の非力さ、浅はかさを感じながら叫ぶ。
「ああぁぁぁぁぁぁ!」
魂の叫びとはこう言うことを言うのだろう。二度目の言葉は俺の絶叫だった。
「ふん…」
叫ぶオフェリアを見て満足そうに頷くレフはそのまま姿を消す。世界が崩壊していく中、なんとかレイシフトで脱出した藤丸とマシュ。見事にカルデアに帰還を果たした二人。だがその横にオフェリアとジークフリートの姿はなかった。
ーーーー
藤丸たちがカルデアに帰還した頃。オフェリア(偽)とジークフリートは違う世界にレイシフトしていた。
(……)
「無事か、マスター?」
(なんとかな。痛みを感じる程度には元気だよ)
穏やかな風が吹く草原の中。一人の騎士が主を大事に抱えていた。空には穴のような物が存在し我々を飲み込まんと大口を開けている。
(特異点から特異点にレイシフトしたのか。ジークフリートに引っ張られたのかな)
彼女たちがレイシフトした先。その正体は第一特異点
人理定礎値C+ 邪竜百年戦争オルレアン A.D.1431
彼女は逃れられない人理修復と言う戦争に、これから巻き起こる七つの冒険を越え、四つの事件を解き明かし、七つの戦争を制さなければならない。
(これからよろしくな。ジークフリート)
「あぁ、マスター。俺はマスターの剣となり盾となろう」
ジークフリートの肩を借りながら立ち上がる。視界一杯に拡がる草原、空を翔るドラゴンたち。
彼女は一体、何者なのか?なんなのか?オフェリア(偽)聖杯戦争が幕を開けるのだった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
邪竜百年戦争:オルレアン
4話
(……)
フランス、オルレアン。リヨンの街、そこにはオフェリア(偽)は静かにベットで寝ていた。
「すまない、助かる」
「いいんだよ。怪我をした子を放ってはおけないからね」
レイシフトで転移した後。色々と限界を迎えていたオフェリアをジークフリートが運びこの街へとやって来た。その後、診療所らしきところに引き取られ治療を受けていたのだ。
「腹に穴が空いてる子なんて始めてみたよ。もしかして騎士さん、あのジャンヌ・ダルクに襲われたのかい」
「あのジャンヌ・ダルクとは?」
「火刑に処されたジャンヌ・ダルクが復讐のために復活したってはなしなんだよ」
「そんなことが…」
死んだ人間は生き返らない。それはジークフリートはよく知っている。もし何らかの奇跡が積み重なればあり得なくもないかもしれないが火刑にされたのなら死んだのは確認されているはず。そんなことはあり得ない。
(あり得る。サーヴァントだ)
(マスター。もしやこの世界はマスターの言っていた世界なのか?)
(あぁ、特異点と呼ばれる世界。人理を護るための戦争、その始まりの世界だな)
魔眼のスキルは24時間が経過すれば再使用が可能となる。メシェドの眼でスキルの回復力は倍に出来るがそれを使っても12時間が最短だ。
1日2回の魔術的回復。それを数日に分けて使用して腹の傷を塞いだ。
(はやくこの街から出なければ奴が来る)
「奴?」
(ジャンヌ・ダルク・オルタが来てしまう)
「オルタだと…っ!この気配は」
ジークフリートが反応した瞬間。周囲が騒がしくなる、主に外に居た人々が…。
「あらあら、サーヴァントの気配を察してきてみれば。死にかけのマスターも着いてくるなんて」
(来たか…)
漆黒のジャンヌ・ダルク。目の前に現れたこの特異点のラスボス。ジャンヌ・ダルク・オルタはオフェリアの目の前に現れ、不敵に笑うのだった。
ーー
「その時代に対応してからやるべき事をやるんだぞ。では健闘を祈る藤丸くん」
「あの、ドクター。オフェリアさんの所在はまだ掴めていないのですか?」
「ごめん、特異点Fからは脱出できたみたいだけど途中で逸れてしまったらしくて」
オフェリアは特異点Fでの世界崩壊の際に一緒にレイシフトさせたはずなのに消えてしまった。あの世界からの脱出は観測できたがどこに逸れて着地したのかは分からない状況だ。
「彼女は協力的な上に非常に頼もしい助っ人だ。特異点では彼女の情報にも耳を傾けてくれ」
「分かりました。必ず見つけ出して見せます!」
気合い十分と言った雰囲気で声を出す藤丸。既に彼にとってオフェリアはマシュと並んで精神的支柱となりつつあった。まるで姉のように優しく接してくれた彼女。最後には所長を守ろうと血を流してまで戦った。
(俺はあの時。なにも出来なかった…)
彼女が血反吐を吐きながら戦ったと言うのに…。彼女の叫び声は今だに耳に残っている。もう、あんな叫び声を上げさせてはいけない。そう藤丸は思ったのだった。
ーー
レイシフトでの転移をした後。特異点に向かった二人を見送ったロマニ。その背後には立ち去ったはずのダヴィンチちゃんの姿があった。
「いいのかい、彼女の事は話さなくて?」
「しつこいな、話し合って決めたことじゃないか。特異点Fでの彼女の言動はこちらを支援するものだった。それに加えてレフから必要以上に狙われていたもの彼女を警戒してのことだろう」
冷凍保存されたオフェリアと特異点Fにて助けてくれたオフェリア。この二人が存在することを藤丸とマシュには知らされていない。余計な混乱を招く可能性が高かったからだ。
「所長と同じく。死んだ後の精神だけの状態だったのか?それともドッペルゲンガーなのか。実に気になる、カルデアに帰ってきた暁にはじっくりと調べたいものだ!」
「まったく…」
テンション高めのダヴィンチを余所目にロマニは二人の存在証明を開始し画面を見つめる。この際だ、彼女が何者であろうと協力してくれるのならそれで構わないのだ。
ーー
(大丈夫ですか!)
「お嬢さん…」
あのジャンヌ、入ってくるなり宝具を放って来やがった。診療所のおばさんを抱えて窓から脱出したと思えば外はスケルトンなどの化け物の群れが。
(くそっ!)
急いでスケルトンらを破壊するが群れの数が多く対処しきれない。ジークフリートを呼びたいところだが向こうもジャンヌと交戦中だ。
「くっ!」
「それが人理を護る英霊ですか?」
剣術と言う面ではジークフリートの方が圧倒的だ。だがオルタの周辺に舞っている炎が邪魔で深くまで斬り込めない。
「話になりませんね。バーサーカー!」
「■■■■■■!」
ジャンヌの掛け声と共に出てきたのはバーサーカー・ランスロット。雄叫びを上げる彼は近くに落ちていた木の柱を拾い上げると殴りかかる。
「そのようなもので!」
(油断するなジークフリート!)
ランスロットの宝具は万能。木の柱ごと斬り裂こうと剣を構えた彼を念話で叫ん止めるオフェリア(偽)。彼はその言葉にしたがい回避を選択した。
真っ黒に染まった木の柱は地面を粉砕しそれと同時に横合いからジャンヌの呪いの炎が襲いかかった。
「助かったマスター!」
(回避を優先。隙を見つけて逃げるぞ)
「しかし、それでは街の人々が!」
(くそっ、どうする?)
ジャンヌ・ダルク・オルタとバーサーカー・ランスロットの2騎。もしかしたら後ろにジル・ド・レェが控えてるかもしれない。藤丸たちがいない以上。戦力の温存が最優先だが。
(いいな、出来るだけ時間を稼ぐ。全力で援護する)
「了解した。マスター!」
魔眼で瞬間強化、魔力放出をかけると。ジークフリートは飛び出す。その動きにジャンヌとランスロットが動き出す。オシリスの塵をさらにかけるとこっちも移動する。
「やっかいね、本気でいくわよ。
「■■■■■■■■■!」
ジャンヌとランスロットの全力攻撃。呪いの炎がジークフリートを襲うがそれがまるで無かったかのように突っ込んでくる彼を叩き潰そうと来るランスロット。
(ガンド!)
「■■■!?」
突如、動けなくなったランスロットにジークフリートの斬撃が直撃。悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。
(よっしゃ。見てたかこの野郎!)
「おやおや、貴方ですか?私のジャンヌを邪魔立てするのは?」
(っ!やっぱり居やがった!)
キャスター ジル・ド・レェ。その周りには無数の海魔たち。
(やめて、私になにかするつもりでしょう!◯人誌みたいに同◯誌みたいに!)
足元に落ちていた剣を拾い上げると魔力で強化して構える。
(めっちゃ重いな、おい!)
やっぱり筋力が足りない!鍛えなければ!
《では我がマスターよ! 共に筋肉を邁進しましょう。まずは! 裸で豹と戦うのです!!》
なにか聞こえたよ!筋肉数学者がなにか言ってきたよここに居ないよね?この特異点には居ないよね!?
(無事か?マスター!?)
(そっちはどうだ?)
(一矢は報いたが厳しい)
だろうな。こっちもキャスター相手ではどうにもならない。仕方がないが賭けに出るしかない。
(ジークフリート。こっちに向けて宝具を撃て!)
(なに?)
このままではなぶり殺しに合う。ならここで賭けるしかない。
(撃った後はすぐに離脱。お前が生き残ることを優先しろ、俺が死んだ場合、藤丸を探せ。ここに来ているはずだ)
(……了解した。マスター)
突然の命令で戸惑っていたジークフリートだがこちらを信じてくれたのか同意してくれる。
(用意ができたら合図をくれ)
(分かった)
「黙りですか。ですが誰であろうと私とジャンヌの復讐を邪魔することはさせませんよ」
海魔が俺を囲むようにどんどん沸いてくる。もうどこぞのゾンビ映画以上の絵面と化している。
(本物のオフェリアならもっとスマートに対処できただろうなぁ)
ジークフリートと自分の視界をリンクさせ、場所を探知する。向こうの準備が整うまで素人ながらも海魔と相手取り応戦する。
「キシャァァァァァ!」
(くそが!)
左手、筋力強化、硬化。槍と化した左手で海魔を貫手で貫き、貧弱な霊核を粉砕。地面に叩き付けるとジル・ド・レェを睨み付ける。
「素晴らしい、その眼、その魂、貴方はまさしくあの頃のジャンヌのようだ。殺すのは惜しい、お喜びなさい、貴方はジャンヌの力となってもらいましょう」
ジルの左手が光ったと思えば何やら怪しい気が視覚化出来るほどに渦巻いている。
(精神汚染系の魔術かよ!)
とことん絵面を汚したがるなこの変態。この小説はR-15指定なの!R-18指定じゃないの! え、なら書けよって?バカ野郎、そのジャンルは専門外だ!
(マスター!)
(よし、撃て。ジークフリート!)
ーー
「■■■■!」
「ちっ、儀式前の肩慣らしのつもりでしたが…」
ジークフリート相手に手間取ったオルタはおもわず舌打ちをしてしまう。その瞬間、強大な魔力反応を感じ取り、すぐさま脱出するジャンヌ。
「バルムンク!」
「■■■■!?」
「ちっ退くわよ!」
避けきれなかったランスロットは悲鳴を上げながらも四肢を使って見事に着地。流石に体力の限界を感じ、ジャンヌと共に霊体化して離脱する。
ーー
「この力は!」
(来たか!)
ジャンヌ、ランスロット、ジルを一直線に並べ発動したジークフリートの宝具は見事に命中。街を半分に割ってしまったが民間人の被害は皆無だった。
(くっ!)
「残念ながらここまでのようです。またお会いしましょう」
宝具の余波で吹き飛ばされるオフェリア。ジルも同様で相応のダメージを負いながら吹き飛ばされる。しかしすぐに霊体化した彼は姿を消してしまう。
(いっつ!)
その際に瓦礫のようなものが胸に当たったような痛みが走る。礼装がなにやら効果を発揮して魔力が服に回る。
吹き飛ばされた俺はそのまま瓦礫と共に川にドボン。そのまま流されていく。
(憑依してからろくな目に合わねぇ…)
チート気味ボディーは貰ったが使いこなせていない弊害か。前の人生ではあるかないかの濃い一瞬が何度も訪れた。
(安全に勝ちたい…)
そう思いながら流木に掴まり意識を失うのだった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
5話
(あぁ、酷い目にあった!)
川の中で気絶していたオフェリア(偽)は全身びしょ濡れでなんとか川を脱出。
(くそっ、めちゃくちゃ痛い)
まだ治しきれていなかった傷がジクジクと痛む。濡れまくった服の端を絞る。その際にジークフリートとのパスを確認するがまだ繋がっている。
(良かった。なんとか無事で居るみたいだな…)
念話が出来ないのを見ると向こうもかなり弱っていると言うことになるが。こっちも派手に動き回れるほど余力はない。
(あれ、これって…)
腕を捲って絞っていると変な模様が肌に出ているのが確認できた。魔力回路に似ているがあれは青色だったし、これは赤だ。でも見覚えが…。
(まさか、これって。オルタ化の模様!)
思い当たるのはジルの精神汚染攻撃。避けたつもりだったが当たっていたのか。オフェリアの礼装は精神汚染に対する耐性が付いている筈だが。腹に空いた穴に当たったのだろう。だから防ぎきれなかった。
(すぐに解除しないと…っ!?)
手鏡を出して解除を試みようとするオフェリアだったが。全身に電撃が走り、痺れて倒れこんでしまう。
(なにが…)
後ろを見るとそこには海魔がすぐそこまで迫っていた。
(不覚ぅ…)
オフェリアは海魔に両足を拘束されるとゆっくりと引きずられる。彼女を傷つけないように触手で持ち上げられ川に戻されるのだった。
ーーーー
「君たちか…」
「ジークフリートさん。よくご無事で!」
「あぁ…」
リヨンの町で藤丸たちは無事にジークフリートと合流。その後、ジークフリートと共にジャンヌ・オルタの再来襲を迎撃。しかしそこにはオフェリアの姿はなかった。
「オフェリアさんは?」
「すまない、敵の攻撃を受けてしまい。離れ離れに、パスは繋がっているから無事な筈だがどこにいるかは…」
「大丈夫ですよ。オフェリアさんは優秀な魔術師です。例え記憶を失ってもそれは変わりません」
「僕でも生きてるんです。オフェリアさんならもっと元気ですよ!」
気落ちするジークフリートを慰める藤丸とマシュ。
「ありがとう…」
「とにかく、ここを出ましょう」
「そうですね」
弱りきったジークフリートは感謝を述べるとマリーが撤退を進言する。ここにいてもジリ貧になるだけだ。それにはジャンヌも同意しリヨンの町から脱出するのだった。
その後、藤丸たちはバーサーカーランスロットとシャルルの追撃を逃れ、ジークフリートに付与された呪いを解くために聖人を探す事となった。もちろん、オフェリアの捜索も兼ねて。
「これは…」
その道中。川沿いで休憩しているとマシュが草むらに何かが落ちているのを確認した。それは間違いなくオフェリアが使っていた手鏡。
「先輩、これを!」
「これは、オフェリアさんが持っていた鏡」
周囲には草が生い茂っているがよく見ると川からこちらに向かって道のように草が倒れている。これは彼女が川から陸に上がろうとした痕跡だろう。
「途中で途切れていると言うことは。何かがあったのでしょうね」
「オフェリアさん…」
気落ちする藤丸を気にかけ、肩に手を添えたのはマリー。彼女は微笑みながら励ます。
「大丈夫よ。マスターの信頼している彼女を信じなさい。だって貴方の憧れなのでしょう?」
「え、なんでそれを…」
「聞いているだけで分かるわ。マスターがどれだけそのオフェリアって人に信頼を寄せているかなんて」
マリーは微笑みながら彼に語りかける。
「そうですね。今は特異点の修復を優先させましょう」
藤丸は笑顔を見せると立ち上がる。こんなところでクヨクヨしていてもなにも始まらないのを彼は知っている。今はジークフリートの呪いを解呪するのが優先だ。
「そうだね…」
ーーーー
藤丸たちがオフェリアの鏡を見つけた後。ジャンヌ・ダルクオルタの拠点。オルレアン城、その一室では気を失なったオフェリアの姿があった。
(いっつぅ…)
自分が動く度にジャラジャラと手枷、足枷が動く。魔術を行使しようとしても体が反応してくれない。
(魔術封じか…そうしてくるよね)
おそってきたのが海魔であった時点でこの鎖を造ったのはキャスターのジルだろう。
(随分と手厚い歓迎だ…)
自分が拘束されている場所は牢屋ではない。立派な城の一室、家のベットよりフカフカな上等なベットだった。
(いい臭いだな)
よく見たら部屋の片隅でお香が炊いてある。そしてその部屋を見渡すように配置されていたのはバーサーク・アタランテ。彼女は自分が目覚めるのを確認すると部屋から退出する。
手と足の自由が無いためにベットからは動けないがそれでも試せることは多くあるはずだ。まずはジークフリートとの念話を試みるが繋がっている感じがしない。しかしパスは顕在だ、心なしか元気になっている気がする。
(無事に合流できたか…)
「おやぁ、お目覚めでおいででしたか…」
ホッと息をつくのもつかの間。ジルが部屋に入ってくると警戒する。
「少し調べさせてもらいましたが貴方は実に素晴らしい魔術回路を持っていらっしゃる。我がジャンヌに捧げる供物としては最高の物ですよ」
(この野郎。好き勝手に言いやがって…)
「なに危害は加えません。貴方はだだここにいれば良いのですよ」
(それはどういう意味だ…)
ジルの言っていることが良く分からない。それどころか、あまり思考が纏まらない。
(あ、これ不味いかも…)
気づいた時には既に遅し。オフェリアは突然の脱力感を感じてベットに倒れ込む。目だけはしっかりと開いているが本人ですらどこを見つめているのかが認識できない。
(薄い本が分厚くなるからやめてぇぇ…)
そんな間抜けな考えを最後にオフェリアは意識を失う。するとジルは彼女の礼呪が刻まれている右手を手に取る。
「思わぬ収穫でした」
それに対してジルは機嫌良さそうに呟くのだった。
ーーーー
「ジルはいますか?」
「は、ここに」
ゲオルギウスと合流していた藤丸に対して強襲をかけたジャンヌオルタだったがマリーの必死の足止めに時間を取られ逃してしまった。
「マリー・アントワネットは力尽きましたがサンソンはどうですか?」
「治療中ですが精神が尽きています。霊子外殻を止め兵士として使うことが限界でしょう」
オルレアンの玉座で気だるそうに座るジャンヌオルタ。
「そうですか、あの街にいたゲオルギウスは逃れました。マリーが死を覚悟して時間を稼がなければ上手くいったのですが」
「なるほど、敵陣は一人を失った代わりに一人を得たわけですか」
「戦力的に困るわけではありませんが不愉快ですね引き続き捜索を…それでこの人形は?」
ジャンヌオルタはジルの後ろに控えている人物を不振な目で見つめる。
「こちらの新たな戦力とお考えください」
黒いオーラをまとった人物は全身に赤い線のような模様を浮かべた肌がよく目立つ。
「それ、本当に使えるんでしょうね?」
「わたくしとしては最良の素材を手に入れたと自負しておりますが」
「なら試しに捜索に加わせなさい」
ジルが用意したとはいえ、イマイチ乗り気に慣れないジャンヌオルタは捜索に行くように言うがその場に訪れたらセイバーに止められる。
「どうやらその必要はなさそうだ」
「セイバー?貴方は東南方面の捜索を命じたはずですが?」
「その必要がなくなったのさマスター。彼らはオルレアンに真っ直ぐ向かってる。どうやら決戦がお望みのようだ、それは君も望むところだろう?」
「逃げ回るのは止めましたか。ということは勝算はあるのでしょうね」
「そうだろうね、サーヴァントの数も多かった。私たちには竜がいるとはいえ、壮絶な戦いになりそうだ」
「楽しいですか?」
真名シュヴァリエ・デオン。フランスの気高き英雄の一人だがその表情は大きく歪み。実に楽しそうな笑みを浮かべる。
「楽しいさ、なにしろイカれているからね、頭が。私としては滅ぼされるのもいいし滅ぼすのもいい」
「さぁ、指示を下せ。マスター」
「えぇ、戦力を集めましょう。貴方にこの人形を預けます。存分に暴れなさい」
「パスを繋げます。あなたの力になるでしょう」
ジルはデオンと黒い人物とパスを繋げる。するとデオンは力がみなぎるのが感覚で分かった。
「凄いね。これは予想以上だ」
「成功ですね」
「へぇ…」
デオンの雰囲気が変わったのを見たジルは満足げに呟くとジャンヌオルタも興味深げに見つめる。
サーヴァントにおいてマスターという存在な大きな意味を持つ。そのもっとも足り得るのが礼呪であり、そのサーヴァントを強化する起爆剤にもなる。
「では決戦の準備を。ジル、サーヴァントだけではなく彼らも集めてください」
「分かりました。フランス中の竜という竜を集めましょう」
「勝てば世界は滅びる。我々が負けたとしてもそれでどうなるものでもない。世界はとうに終わっている。ここを修繕したところで、先は果てしない旅路だ」
「それでも…それでも彼らは肯定するのか。彼らと
(ねぇ、本当の貴方は何者なの?)
美しき王妃が最後に投げ掛けた問い。それがジャンヌオルタの中にあるのは戸惑い、そして疑念を産み。こころをかき乱す。
「なら私は彼らを叩き落とす。この世界を繋がせはしない。それが私の望み、ジルの望み。そう、その筈。それが私の望みのはずだ」
覚悟を決めるといった風には見えない。自分にそうあれと言い聞かせているような言い方だ。そんな彼女を黒い人物は黙って見つめるのだった。
ーーーー
「この中で軍を率いた経験があるのは俺だけらしいな。もっとも俺とて国という国を軍で攻め落とすという絢爛な経歴を持っているわけてはないが」
オルレアン近隣の森。そこには反邪竜同盟となったサーヴァントたちと藤丸、マシュたちが作戦会議を開いていた。
「ともかく、我々の人数は少なく。そして敵の数は多い。ただし、敵のほとんどは我々よりも弱い。と言うことは取るべき手段は二つ。正面突破か、密かに背後を突くか。しかし我々の居場所は当の昔に知られている。つまり、密かもなにもとうに敵に発見されていると言うことは取るべき手段は1つ」
軍事経験のあるジークフリートの話を主軸に作戦会議は進み自分達の取るべき行動が浮かび上がる。
「「正面突破」」
途中より合流した清姫とエリザベートは息を合わせて放った言葉。自分達の選択肢はこれしかなかった。
「恐らくだがマスターもオルレアンに幽閉されている。気配は間違いなく我々の進むべき方向にあるからな」
「オフェリアさんの奪還も出来るし一石二鳥だね」
ジャンヌオルタの討伐とオフェリアの奪還。それが今回の作戦の目的。シンプルかつ明瞭、やることはハッキリとするべきだ。
最初の目的は今回の難関の一つ。ファブニールの撃破だ、それをジークフリートと藤丸たちで対応。敵、サーヴァントたちは他のサーヴァントで対応する。
エリザベートはカーミラ
ジャンヌはジャンヌオルタ
それぞれの因縁の相手と対峙する事になる。
最初の特異点。邪竜百年戦争オルレアンの最終決戦の幕が上がる。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
6話
オルレアンメンバーだとデオンが一番好き。
「予想通り、ワイバーンだらけだな。とはいえ、手間取ることは許されない」
「分かってます。マスター、敵がくる前に指示を!」
反邪竜同盟はついにオルレアンに進撃。正面突破の見本のような突撃にワイバーンたちも応戦するがサーヴァントたちには太刀打ち出来ずに次々と撃破されていく。
「オルレアンからファブニールが飛び立ったらしい決戦だ!」
立ち塞がるアーチャーアタランテを撃破した後。藤丸たちはロマンの報告でファブニールが迫ってきているのを確認した。
ーー
「さぁ、着いたよ。マスター」
「……」
ワイバーンの背中に乗り現場に急行したデオンは全身をマントで包んだマスターをやさしく抱き抱えると地面に着地させ地に降ろす。
「……」
「狂っていても騎士だからね。それ相応の扱いは知ってるさ、特に女性は優しくしないとね」
シュヴァリエ・デオン。彼、彼女がいかに狂っていようとも英霊の本質そのものは変わらない。忠節の騎士であるその英霊は人の扱い方を心得ている。
「やぁ、君たち。健勝なようで何よりだ。シュヴァリエ・デオン、此度は悪に荷担するが我が剣に曇りはない。さぁ、戦力で立ち向かってみせよ。この悪夢を滅ぼすために!」
マシュたちの前に立ち塞がったのはデオンとヴラド卿。その後方にフードを被った人物が備える。
「……」
「さぁ、マスター。魔力を回せ!」
「気をつけて、セイバーだけ魔力の質が違う。おそらく後ろのフード魔術師がマスターだ!」
ロマンの言葉に藤丸とマシュは警戒を強める。今まで敵の陣営にはワイバーンとサーヴァントしか居なかったが。その中に突然、人間らしき人物が現れたのだ。黒幕の可能性もある。
「行くぞ、マシュ!」
「はい、戦闘。開始します!」
ーーーー
「……」(あぁ、すごく眠いな…)
フードの魔術師は戦闘の真っ只中だというのにどこに立っているのか。何をしているのか思考が追い付かない。目の前にはこちらを襲ってくる敵がいる。
それを《味方》であるデオンとヴラドが押し止めている。ならこちらも全力で援護をしなければならないだろう。
麗しの風貌、心眼(真)発動
「くっ、セイバーから目が離せない!?」
先にマスターの着いていないバーサーカーを撃破しようと動き始めたマシュたちだったが動き始めた全員がデオンから目が離せなくなる。
「ふっ!」
「このぉ!」
エリザベートの槍とデオンの剣が激しくぶつかり合い何度も切り結ぶ。清姫が援護のために炎を撒くがデオンはそれを気にもせずに攻撃を続ける。実際、デオンにはなんのダメージはなかった。
「余所見をしている場合か?」
「くっ!」
ヴラド卿の無数の槍がマシュに殺到。彼女はそれを受けきるが大きく後方に後退する。
瞬間強化
「感謝する。マスター!」
「急に力が!?」
槍を弾かれ無手になるエリザベート。元々、デオンは本来の筋力がAという規格外なパワーの持ち主だ。それが強化されさらに凶悪な剣激がエリザベートを襲う。
急いで後退するがデオンの追撃を逃れられない。素早い刺突に無数の傷を負ったエリザベートは強制的に宝具を発動。
「飛ばしていくわ! ミューミュー無様に鳴きなさい!
エリザベートから発せられる超音波攻撃。デオンは見事に回避したがヴラドには攻撃が刺さる。
「くっ!」
ヴラドは苦悶の表情を浮かべる。その余波は魔術師にも届く、魔術師も同様に膝をついてその攻撃に耐える。
「無事かいマスター?」
(あぁ…)
運の悪いことに丁度、麗しの風貌の効果が消滅した。
「隙は与えないよ。フォルテッシモ!」
アマデウスの追撃に対応しきれなかったデオンはその身を呈してマスターを守る。
(あぁ…うるさいし、痛いな。誰だよ!)
エリザベートの爆音とアマデウスの攻撃の余波で頭を揺らされた人物は頭を振ると真っ直ぐ《敵》を見つめる。ジャンヌはやや劣勢のようだが構っている暇はない。今は敵の排除が先だ。
イラついていた魔術師は邪魔なローブを脱ぎ捨てるのだった。
ーーーー
「なっ!?」
「え……」
バーサーカーを排除しついにセイバーのみとなった藤丸たちは勢いに任せて攻勢に出ようとしたとき。それは起きた、敵の魔術師がマントを脱ぎ捨てたのだ。
美しい茶髪の長い髪、凛々しい顔立ち、右眼を覆うようにつけられた眼帯、腰には剣を吊るしている。服装はボロボロであるが彼女。オフェリア・ファルムソローネであることは間違いなかった。
「オフェリアさん!」
「なんで…」
予想外の人物に戦意を失う藤丸とマシュ。
「落ち着くんだ藤丸くん、マシュ。今、最新の彼女のバイタルデータを獲得できた。彼女のバイタルのほとんどは異常数値を示している」
「どういうことですかドクター?」
「まぁ、数値だけの話だけど。彼女は正気じゃない、先程のアタランテのように外的要因によって改変、洗脳されている可能性が高いということさ」
ダヴィンチちゃんによる補足説明で状況を理解した二人は迫るデオンを迎え撃つために構えるがその横合いからデオンを襲う影。
「何者!?」
「マスターを返してもらおう!」
「ジークフリートさん!?」
それはファブニールを相手にしていたはずのジークフリート。
(マスターの気配を察知できない。やはり何かしら隠蔽魔術が働いているのか)
オフェリアの姿を確認できても気配は察知できない。やはり魔術的な阻害が入っているようだ。
「残念だけど、今は僕のマスターでもある。簡単には譲れないな」
ジークフリートの大剣を受け止める。互いに剣に両手を添えて切り結ぶがジークフリートが押され互いに距離を取る。
「互いに同じマスターを持つ者同士名乗るべきだな。俺はセイバー、ジークフリート」
「バーサーク・セイバー。シュヴァリエ・デオン」
「シュヴァリエ・デオンだって!?」
「そうだよ、彼女はマリーの騎士だ。狂っているのは本当のようだね。僕が居てもお構いなしだ」
ロマンが驚く中、アマデウスは冷静にデオンを見つめる。その瞳に込められた感情は悲しみか、それとも憐れみかそれとも怒りかは分からない。
「なるほど。流石、狂化が入ってるね。パラメーターも高い」
シュヴァリエ・デオン
筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運 宝具
A+ B+ A B+ A+ C
「オフェリアちゃんがマスターってもあるだろうけど。ちょっと不利かな」
戦闘をモニターしているダヴィンチは激しく戦闘を繰り返す二人を見て呟く。
同じマスターと繋がっているがその恩恵を受けているのはデオンの方だ。デオンはその俊敏性を駆使してジークフリートに接近。刃を腹に突き立てる筈だった。
「!?」
「……」
だがデオンの刃は通らない。その強靭な肉体に阻まれてしまったのだ。これでは刃が折れると判断したデオンは素早く距離を取る。
悪竜の血鎧。ジークフリートの強さの由縁であり最強のセイバーの一角と言わしめる特性。
「なるほど、流石はドラゴンスレイヤー!愉しくなってきたな!」
凶気に満ちた笑顔で嗤うデオンと睨み付けるジークフリート。二人の戦いの間には誰にも入れない。そんな中、藤丸だけが動きオフェリアに突撃する。
「先輩!?」
「子犬?」
「オフェリアさんを助ける!」
一見すれば無茶な行為に見えるが事実。オフェリアが敵側に居なければ全てが解決する。可能性としてもデオンを味方につけることが出来るかもしれない。だが無謀、デオンが健在である限り彼女には近づけない。
ギャァァァァ!
「お黙りなさい。堕竜」
藤丸を食おうとするワイバーンが清姫によって焼き付くされドラゴンステーキと化す。
「行かせない!」
「行かせません!」
藤丸を殺そうとするデオンだがマシュの盾に阻まれる。その瞬間、ジークフリートとエリザベートが仕掛け足止めをする。
「オフェリアさん!」
目の前に迫る藤丸。だがオフェリアはすぐさま、腰に差してあった剣を抜き放ち彼に向けて突く。咄嗟の判断でなんとか避けられた藤丸だが頬に掠り、血が垂れる。
次を振るわせまいと慌ててオフェリアの腕を掴む藤丸だったが勢い余って押し倒してしまいそのまま地面を転がる。
ーー
(いてぇ!)
藤丸に押し倒されたオフェリアは運悪く頭から地面に落下。その衝撃で奇跡的に意識を取り戻す。
(なにごと!?)
ーー
「くっ、しまった!」
その時、ファブニールを押さえていたゲオルギウスが退避する。ファブニールの業火が最大出力を放とうとしたからだ。その射線に転がり込んでしまった藤丸とオフェリア。
「「マスター!?」」
そこで素早く動いたのはデオンとジークフリート。デオンは周りにいたマシュたちを吹き飛ばすとその俊敏さで射線に割って入る。
「宝具展開!」
ファブニールの周囲に白百合が咲き乱れ、美しき花畑を作り出す。その白百合はファブニールの体からも生まれ攻撃力を奪う。
攻撃力を奪ったとしてもその業火強力だ。並みのサーヴァントですら耐えられないかもしれない。だがジークフリートは倒れた二人の前に立ち剣を構える。
「下がれ、白百合の騎士!」
「……」
「無駄だよ、彼女は退かない」
叫ぶジークフリート。だがそれを見ていたアマデウスは一人呟く。いくら狂っていようと、いくら悪に堕ちようと彼女は
「はぁ!」
迫るファブニールの業火を叩き斬るデオン。だが全てを燃やし尽くす業火に耐えかね霊核が悲鳴を上げる。
「
「防ぎきったのか…」
(デオン…)
オフェリアを必死に抱き締めていた藤丸はジークフリートの前に立っているデオンの後ろ姿を見つめる。
「マスターは…無事か、それは良かった…」
オフェリアは優しい眼差しを向けてくれるデオンと目が合う。
服も体もボロボロになっていたデオンは限界を越え、体の魔力が漏れ出していた。金色の粒子を散らしながら騎士は微笑む。
(ありがとうデオン。優しくしてくれて…)
(礼には及ばないよ…僕がやりたかった事だから)
記憶の混乱が収まり今までのことを思い出す。デオンは本当に丁寧に自分を扱ってくれた。
「シュヴァリエ・デオン。俺はお前を尊敬する、君の忠節は誰よりも気高い」
「竜殺しに言って貰えるのは光栄だな。あぁ、王妃よ申し訳ありません…」
体を維持できずに消えていったデオンの顔は実に納得気な表情だった。
それを見届けた三人。するとオフェリアは藤丸と目が合うとしばらく呆然と見つめ合う。
「もしかして、正気に戻ったんですか!?」
返事が出来ないので頭を撫でてやると彼は感極まった様子で抱きついてくる。さぞ心細かったのだろう強く抱き締めてくる彼を受け入れているとジークフリートも近づいてくる。
「マスター」
(ただいま、ジークフリート)
「あぁ、おかえり…」
微笑み合う二人。そんな中、オフェリア(偽)は苦しみジャンヌオルタの姿が頭に浮かぶ。彼女は苦しんでいる、そしてまだこのオルレアンは終わってない。
「逃がしませんよぉ」
(げ、この声は…)
その声を聞いたと同時にオフェリアは藤丸の襟首を掴んでジークフリートに投げ飛ばす。すると巨大な海魔の触手が襲いかかる。それに拘束されたオフェリアは引きずり込まれる。
「マスター!」
「オフェリアさん!」
(気にするな、ジークフリートはファブニールの対処を!)
「承知した」
流石にゲオルギウスだけでは分が悪い。ジークフリートは心配そうにしながらもファブニールに向かわねばならない。
「藤丸くん、マスターを頼む」
「分かりました」
ボロボロながらも必死に頷く彼をみたジークフリートはファブニールの元に向かうのだった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
7話
「またオフェリアさんが…」
「しかしマスター。今回は少し違うように感じます。オフェリアさんは望んで捕まったような」
落胆する藤丸に対してマシュは違和感を感じていた。ジークフリートも追跡せずにすぐにファブニールの元へと向かった。ゲオルギウスだけでは厳しいとはいえ引き際が良すぎる気が。
「竜の魔女も撤退しました。ここは他のサーヴァントに任せて体勢を整えられる前に追撃に出るべきです!」
「そうですが、まだファブニールが…」
「それは任せてくれ。その代わりにマスターを頼む」
「子犬、私もここに残るわ。どうやら私の客が来たみたいだからね!」
「おっと、こっちも最も会いたくない奴と会ってしまったじゃないか」
ジークフリートとゲオルギウスはファブニール。エリザベートはカーミラとアマデウスはサンソンとそれぞれ対峙し戦闘状態に入る。
「先に行きなさい。私も後から追いかけるわ!」
「ごめん、ありがとう!」
「では行きましょう!」
ジャンヌたちはジークフリートたちと別れるとオルレアンに乗り込むのだった。
ーー
「まさか自らこちらに来てくれるとは。洗脳は解けたと思ったのですがね」
「……」(解けてるけどね)
ジルの言葉にホッと一安心するオフェリアは礼呪を差し出す。
「さぁ、ジャンヌ。契約を」
「そうですね、セイバーは残念でしたがこの人形の必要性は分かりました」
先程、聖女との戦いは劣勢を強いられた。本来なら契約などしたくはないのだが自分の存在を賭けて戦う。負けは許されないのだ。
(んぐぅ!?)
オフェリアとジャンヌオルタは契約を交わした瞬間。全身に激痛が襲いかかる。怒り、悲しみ、憎しみ、膨大な負の感情が自分自身を蝕む。
(これは、ジャンヌオルタの中か!?)
苦しみ悶える。全身が焼けつくように熱いがなんとか耐えて立つ。
(怨念と憎悪の集合体かよ…)
本当なら声を上げてのたうち回りたいがギリギリ堪えられる。自分にこんな根性が座っているとは驚きだ。これなら男塾に行っても耐えられそうだ。
体の一部が酷い火傷のような痛みがある。
(思った以上に繋がりが深いかこれ…)
フィールドバックが思った以上に大きい。それどころかジークフリートとの繋がりも阻害されるレベルだ。
「良いですね。では私は迎撃に出ます」
「頼むわよ…ジル」
「はい」
ジルが玉座から去った後。ジャンヌオルタはこちらに向かって顔を向ける。
「貴方、ただの人形だと思ってたけど。中々、面白いじゃない」
「……」
「随分と高い器に入ってるみたいだけど。中身は腐った雨水みたい。あぁ、面白い」
(そんなお前は随分とぎっしり詰まってるな。まるで他の物を入れたくないみたいだ)
「…うるさいわ。燃やすわよ」
おっと念話が筒抜けだったようだ。まぁ、パスが繋がっているから当然なのだが。
(ごめんなさい)
謝る。素直に謝る、これが状況を悪化させない最短ルートだ。
「ふん、まぁいいわ。所詮は私のバッテリーですから…でもなぜ契約を結んだのです?」
(なぜとは?)
「正気に戻ってるくせに。なんで私と契約を結んだのよ」
(……)
「もしかして同情だとでも言うの?」
(同情なんてしないさ)
「っ……」
俺個人の考え方だが同情は侮蔑と同義だ。辛かったね、大変だったね、悲しいねなんて本当は分かってないくせに言う。当然、その言葉を使うななんて言ってない。でもそれを本当に辛い人に対しては言ってはいけないのだ。
(お前がフランスに賭けた思いも、裏切られた憎しみも火で炙られた苦しみも俺は知らないし理解できない)
「そうよ、私の憎悪は私だけのもの。誰にも理解されないし出来ない!」
(俺はこの百年戦争の目撃者でしかない。ただの読み手と同義だ)
「……」
(ジャンヌ・ダルクにはマスターがいる)
「あぁ、あのひ弱な男ですか…」
(俺はね、つまらない物語は嫌いなんだ。主人公側が一方的に強いストーリーなんて俺は嫌だ。だから俺はお前に頑張ってもらいたいんだよ)
「ははっ!これは滑稽だわ。自らの欲のために世界を滅ぼすと言うの!?」
(そうだよ、それはお前も同じだろう。だから俺としては最高の状態のお前がカッコ良くやられてくれるのを期待してるんだ)
「はっ!残念ですがそれは無理です。ふふっ、最高の舞台が整いましたね。貴方の絶望をじっくりと味わいながらこの世界を滅ぼしましょう」
上機嫌に嗤うジャンヌ・ダルク・オルタはオフェリアの首を掴む。
「貴方が心から絶望する様を見るのが楽しみね」
(全力で抗ってみせろ。ジャンヌ・ダルク・オルタ)
まさか自分と契約したマスターがこんな狂人で自分の死を望んでいるとは。憎悪を背負う私には相応しい。その綺麗な顔が絶望に歪む様は実に面白いだろう。
ーーーー
「とうとうここまで辿り着いてしまったのですね。ジルはまだ生きていますが足止めされましたか」
「竜の魔女…」
玉座にて堂々と椅子に座るジャンヌオルタ。その傍らにはオフェリアの姿もある。ジルは追い付いてくれたエリザベートと清姫がなんとか対処している。
「まぁ、良いでしょう。こちらも準備は整っています」
「貴方に伝えたいことを伝えろ。これはマリーの言葉です。それでも一つだけうかがいたいことがありました」
「今更、問いかけなど」
「極めて簡単な問いかけです。貴方は自分の家族を覚えていますか?」
「え…」
「ジャンヌさん?」
(そうだよ、ジャンヌオルタは…)
ジャンヌの予想外の問いかけにオルタだけではなく一緒にいた藤丸やマシュたちも疑問符を浮かべる。その答えの真意を知っているのはオフェリアだけだ。
「ですから簡単な問いかけだと申した筈です。戦場の記憶が強烈であろうと私はただの田舎娘の方が遥かに多いのです。心の闇の側面だとしても放歌的な生活を忘れられる筈がない。いえ、忘れられないからこそ裏切りや憎悪に嘆き、憤怒したはず…」
「私は…」
「記憶がないのですね」
記憶がない。それによって証明される事実はただ一つ。だがその答えは口に出さない。
「それが、それがどうした!記憶があろうが無かろうが私がジャンヌ・ダルクであることに変わりはない!」
「確かにその通りです。あなたに記憶があろうが無かろうが関係ない。けれどこれで決めました。私は怒りではなく憐れみを持って貴方を倒します」
ジャンヌの物言いにオルタは怒りを持って突き返す。
「黙れ!絶望が勝つか希望が勝つか。殺意が勝つか憐れみが勝つか、この私を越えて見せるがいいジャンヌ・ダルク!」
(くっ…)
ジャンヌオルタは全力を出すために魔力をオフェリアから吸い上げる。その度に体から火傷の痕が残る。それどころか目の前に立つジャンヌが憎くて仕方なくなる。
デオンの時とは違う、ジャンヌ・オルタの霊基がこちらを喰い尽くそうと襲ってくる。単純な力による精神汚染。
高い場所にある水が流れ込んでくるように暴れ出るオルタの中身がこちらに流れ込んでくる。
(俺が正気を保てるかが問題だな)
ジャンヌ同士が激しくぶつかり合う中。オフェリアは苦しそうに胸を押さえる。完全に雁夜状態なんだけど!めちゃくちゃ痛いんだけど!
(うん、柔らかい)
どこがとは言わないからね。
ーー
「喰らえ!」
繰り出される業火の炎。マシュはそれを防ぐと大きく飛ぶ、炎の中から現れた彼女は盾を振るうがオルタの旗で打ち返される。それと同時にジャンヌは下から旗で攻撃する。
上と下からのほぼ同時攻撃だがオルタは剣を逆手に持つと旗を防ぎ払う。
「ちぃ」
「やはり強力ですね。オフェリアさんと契約し、さらにパワーアップしたようです」
「竜の魔女を倒せばオフェリアさんは助けられます。ここが正念場ですよ」
「オフェリアさん…」
苦しそうにしている彼女を見ているのが辛い。だがここで弱音を吐いてはダメだ。彼女はこんな平凡な自分を立ててくれた何も出来ない自分を信じてくれた。マシュのように、だから彼、藤丸立香は前を見据える。彼女の信頼に少しでも答えるために。
ーーーー
(くそっ、本当に遠慮なしに暴れやがって!)
先程から何度気絶してるか。痛みで気絶して痛みでまた目が覚める。地獄のループが続いてる。雁夜おじさんの気持ちが今になって分かった気がする。
なぜジャンヌオルタに加担したのか、正直分からない。だがそうするべきだと。いや、そうしたいと俺が思ったからだ。
それに藤丸には成長してもらわなきゃならない。
(俺というイレギュラーが一番怖いんだよ…)
意図せずとはいえ、重要なポジションにイレギュラーが発生した。もしもの時は自分は死ななきゃならないかもしれない。
なぜオフェリアなのか、じゃあ第二部はどうなる?ゲッテンベルグは?そしてオフェリアの意思はどこにいった。今まで考えようとしなかった疑問が湧いてくる。
意識が朦朧としている中、ジャンヌ同士の戦いは決着を迎えようとしていた。
「ええい、魔力を回せ!これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮、
ジャンヌオルタの魔力によって形成された呪いの槍が降り注ぐ。
「敵宝具。来ます!」
「任せてください!我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!
聖女が掲げる旗が輝く。その輝きはマシュや藤丸たちを包み呪いの槍から守り抜く。
「まだよ!」
これはまだ想定の内。ジャンヌの護りが解除される瞬間、それは決定的な瞬間になる。そこを突いて攻撃を加えるために渾身の力で剣を振りかぶる。
「まだ私がいます!」
ジャンヌの前に立ち塞がったのはマシュ。
「宝具、展開します……!仮想宝具 疑似展開/
「くっ!」
オルタの渾身の一撃が防がれる。剣をかち上げられ体勢が崩れる。
(この私が…やられる!)
「はぁぁぁぁぁ!」
ジャンヌは雄叫びと共に旗を振るう。旗の先端につけられた刃を槍の要領で鋭く踏み込み
「うぐぅ!」
「………」
「そんな、馬鹿な。ありえない、嘘だ」
旗で貫かれたオルタはその旗が引き抜かれる痛みに耐えながら言葉を漏らす。
「だって私は聖杯を所有しているはず。マスターも手に入れた、聖杯を持つものに敗北はないそのはずなのに!」
怒りの慟哭が玉座に響き渡る。
「おぉ、ジャンヌ。ジャンヌよ、なんと痛ましい姿」
「ジル…」
苦悶の表情を浮かべながら倒れていくオルタを支えるようにジルが静かに現れる。
「このジル・ド・レェが来たからにはもう安心ですぞ。さぁ、安心して眠りなさい」
「でも、私はまだ、まだフランスを滅ぼせては」
「それは私が引き受けます。貴方が死ぬはずがない、貴方は少し、少しだけ疲れただけ。瞼を閉じて眠りなさい、目覚めた頃には全て終わらせております」
「そう、そうよね。ジル、貴方がやってくれるなら安心して…」
まるで親子のような光景。復讐に彩られたオルタでさえもジルは必要な存在で、信頼を置ける人物であった。そのような人物の言葉に彼女は安堵の表情を浮かべて体が消滅する。
ーーーー
(逝ったか…ジャンヌ)
過剰とも言える負荷から解放されたオフェリアは膝から崩れ落ちる。
「オフェリアさん!」
ジルとジャンヌが問答をしている間。藤丸は倒れるオフェリアを抱き抱える。
「バイタルが危険域に達してる。すぐに治療をしよう」
「どうやって!?」
明らかに呼吸など様子がおかしいオフェリアに対してロマンは通信越しに指示を出す。
「落ち着くんだ藤丸くん。マシュにも来てもらって」
「先輩、失礼します!」
マシュはオフェリアのボロボロになった衣服を解放させる。それを見て彼は男として目を背ける。
「これは…」
「恐らく、闇の側面のジャンヌ・ダルクと契約した際のフィードバックだろう。火刑の際の心象風景が彼女の体に出てきてるんだ」
オフェリアの透き通るような肌の所々に浮かび上がる痛ましい火傷の跡。それを見たマシュと藤丸は言葉を失う。
「治療で消せるから大丈夫だよ。それより、僕の指示にしたがって」
「分かりました」
マシュと藤丸は拙いながらも必死になってオフェリアの治療に専念する。簡易的だが治療を完了させた二人は話し合いを終えたジルと対峙するのだった。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
結果を述べれば勝った。それは静かな悲しみと共に勝利を納めたジャンヌたちは無事に最初の特異点を突破したのだった。
「立香さん。守ってあげてくださいね、その方を。私には分かる、彼女は死に急いでいる。貴方が繋ぎ止めてください」
ジャンヌは最後にその言葉を残して黄金の粒子と共に消えていく。その言葉に藤丸は静かに頷く。
「ではこちらもレイシフトする。藤丸くん、彼女をしっかりと意識してるんだよ」
「分かりました」
藤丸はしっかりとオフェリアを抱き抱えるとレイシフトに移行する。最初の特異点を乗り越え、彼の表情は本の少しだけ頼もしいものになっていた。
邪竜百年戦争オルレアン 定礎復元
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
8話
内容はオフェリア(偽)に参加してほしいイベントです。イベントの内容にも触れますがその後日談的な生き抜き回として書いていきたいと思います。
「どうだい、彼女の様子は?」
「いたって正常だ。それが怖いぐらいだけどね」
人理継続保障機関フィニス・カルデア。その医務室ではロマンとダヴィンチが意識を失っているオフェリアの検査を行っていた。
「彼女は間違いなく寸分の狂いなくオフェリア・ファムルソローネ本人だ。まぁ、行動に関しては彼女らしからぬ点は見受けられるけどね」
「正常か…」
喜ぶべきか、困惑するべきか。もしこのオフェリアが何かの要因で分かれてしまったドッペルゲンガーのようなものならまだ説明がつくが。
「彼女は世界の理からあきらかに逸脱している。同一人物が同じ世界線にあってはならない。でも二人は間違いなくオフェリア・ファムルソローネ…か」
「情報が少ないのもあるけど。これは私でも説明がつかない、今まで通り、現状維持が妥当だろうね」
ダヴィンチの言葉に賛同せざるを得ない。まぁ、少々疑問点はいくつか挙げれるが彼女の行動はこちらに利する行為。それにオフェリアに引っ張られてこちらに来たサーヴァントたちも協力的だ。
「レオナルド。君から見て次のレイシフト、彼女を参加させるべきだろうか?」
「それは精神面でかい?それとも肉体面?」
「どっちもだよ」
「肉体ダメージは立花くんよりかなり酷い。彼女は特異点Fから連戦だったからね。それにあの邪竜の魔女からの精神汚染が払拭しきれていない」
状況だけで言えばオフェリアの戦線投入は止めるべきだ。
「でも立花くんやマシュの信頼から見て連れていくべきだろう。彼女は文句なしで優秀だし、なにより戦力が欲しい」
「彼女もまだ若いのにね」
「仕方ないさ」
罪悪感に押し潰されそうになっているロマンの肩を優しく叩くダヴィンチ。今はこの二人にすがるしかない。この現状は変わることがないだろう。
だがしかし、人理を修復せねば未来はない。それをまだ若い者たちに託さなければならないのがたまらなく辛かった。
ーーーー
(うぁ…)
ゆっくりと意識を取り戻したオフェリアは室内に響く話し声の発信源に目を動かす。そこには机の上に優雅なティーセットが並べられゆっくりとお茶をする藤丸たちの姿があった。
(なにしてんねん!)
「あ、オフェリアさん!」
「やっと目を覚ましたか。マスター」
「そろそろ目が覚めるだろうとお茶の準備をしていたんだ」
そこには藤丸、マシュ、ジークフリート、デオン、清姫がいた。
(ちょっと待て、後半の二人は知らんぞ!)
「清姫さんは先輩に、デオンさんはオフェリアさんの縁を手繰ってカルデアに召喚されたんです」
「ビックリしたよ。レイシフトで帰ってきたら隣に居たんだもん」
「
「僕はマスターと強い縁があったからね。引っ張られてきたのさ」
この部屋にセットされたお茶会セットはデオンが用意したのか。
「さぁ、マスター。とっておきのお茶を用意したよ」
(ありがとう…)
「どういたしまして」
デオンに抱き抱えられて椅子に座らされる。隣には藤丸とマシュ、この二人に挟まれながら真っ正面にはジークフリード。うむ、なんだか気恥ずかしい。
「今回、話し合った結果。オフェリアさんはしっかりと監視しなければならないという結果に至りました」
(ん?)
「あんな無茶をされたら困りますから」
マシュと藤丸の視線に冷や汗をかきながら反省する。今回は成り行きもあってかなり無茶したが…。
「すまない、これは俺も賛成だ」
(裏切られたぁ!)
というより、マシュと藤丸の二人が俺を離さないと言わんばかりの圧に申し訳なさが込み上げてくる。
「でも次の特異点からはオフェリアさんが一緒にいられるので頼もしいです。先輩の懸念も減るわけですから」
「でも本当に無事で良かったです。死んだかと思って…」
(よしよし…)
藤丸が泣きそうな顔になるので頭を撫でてやる。
先輩の後輩力がヤバイ(意味不)。まぁ、恐らく年齢的にもマシュ、藤丸、オフェリアの順なので頼られるのは仕方ないと思うんだが。
(肝心の俺はポンコツだからなぁ)
「むー」
(もう、かわいいな)
マシュも追加で頭を撫でてやる。それを優しい目で見つめるサーヴァントたち。清姫も微笑ましいものをみているような目でこちらを見つめている。
「あら、私はなにもしませんよ」
(そうなの?)
こちらの視線に気づいた清姫は微笑みながら話を続ける。
「だって将来、私のお義姉様になるのですから」
(ん?)
「マスターと契りを交わした際にはお義姉様として厳しく新妻をご指導くださいませ!」
(ア、ハイ…)
まぁ、こんなことを言っているが。清姫は嘘さえつかなければ健全なサーヴァント(のはず)だ。
ーー
一通りよしよしした後。デオンが自分の前に立ってひざまついた。
「改めて自己紹介を…私はシュヴァリエ・デオン。フランス王家とキミとを守ってみせよう。当時は白百合の騎士と呼ばれていた。君のサーヴァントになれて誇りに思う」
(よろしく、シュヴァリエ・デオン)
「あぁ…」
改めて挨拶を交わした二人は確りとした本契約を交わす。
(これで俺の騎士が二人になったわけか)
「かの大英勇と肩を並べるのは少し気が引けるけどね」
「いや、俺も君と共に戦えて光栄だ」
「むず痒いな…」
ニーベルゲンの歌は有名な話。デオンの気持ちは分からなくもない。
(それにしても体が軽いな…)
かなりの大ケガをしていたはずだが。体の表面はなにも問題はないし痛みも見受けられない。かなり丹念に治療を施してくれたらしい。
「やぁ、みんなのダヴィンチちゃんだよ!」
「ダヴィンチさん!」
そして突然、ダヴィンチちゃんが登場。ここは一応、病室のはずなのだが。
「レイシフト先が決まったんですか?」
「いや、まだそれは時間がかかる。そこはゆっくりしてくれ、今回はオフェリアちゃんにプレゼントを用意したのだよ!」
なんか無駄にラッピングされた大きめの箱を持参してきたダヴィンチちゃんはその箱を彼女に渡す。それを恐る恐る開けるオフェリア。
(黒い?)
「服?」
「その通りだ。特異点Fを含め、二つの戦いを潜り抜けた君の礼装はボロボロでね。正直、使い物にならなくなっていたのさ」
追記するなら現在、オフェリアは入院患者がよく着る病院服だ。開けて広げてみると黒いスーツが現れる。
(ロイヤルブランドかぁ…)
姿を現したのは黒を基調にしたデザインのスーツ。
「デザインが似た礼装なんだけど。これで何とかしてくれると嬉しい」
(いやいや、十分です)
感謝を伝えるために頭を下げるオフェリア。
「気にしないでくれたまえ。では私は失礼するよ、サボっているとロマニに怒られるからね」
観察するが改良の余地がありそうだ。
「マスター、魔術を付与するのかい?」
(そうだな、色々と考えてみるよ)
「礼装は鎧だからな。念入りにした方がいい」
ジークフリートの言葉に同意する。魔術制御の万能な鎧、それが礼装。なら手を加えすぎなどはないだろう。
(どうしようか…)
ーーーー
(いい匂いがする…)
謎のお茶会を終えたオフェリア(偽)は部屋の中で思案する。というより、オフェリアが使っていた部屋をそのまま使っているので落ち着かない。
一応だがボロボロの衣装も貰ってきた。これらを組み合わせて新しい礼装を作る。そっちのほうが付与するのも楽らしい(オフェリア知識)。
(どうするか…)
下のシャツはそのままにしてネクタイもいらない。あのリボンでいい。スカートは直接戦闘も視野に入れるのならズボンの方がいいか。靴はショートブーツに変換しよう。
オフェリア(偽)の中にある戦うカッコいい女性像に合わせたコーディネートにしてみる。その試みは暴走し明け方まで行われるのだった。
ーーーー
「オフェリアさん。カッコいいですよ!」
「凄いですね!」
シャツはもとから着ていた白い服のまま受け継ぎ首元にはリボンが結ばれている。上半身の服装は変更なし。
ロイヤルブランドからはズボンをそのまま拝借してきた。
ベルトは着けていたものをそのままにバックル部分に銀を基調に水色のアクセントがあるもの。
靴は長くないショートブーツを採用、ズボンのポケットには真っ黒な手袋が入っている。
(完全にバゼットさんですね、これ…フラガラックでも持つかな?)
この全ての服や装飾に硬化の魔術を付与した。一定量の魔力を流すとその部分が鋼のように硬くなる仕様だ。他にもオフェリア知識によって様々な術式を付与した。
(俺の知識も役にたつもんだ…)
この発想は某SEEDの特殊装甲を思い出して取り入れた術式だ。それが最大の特徴とも言える。だからこそ出来るだけ肌を隠すように服を選んだわけだが。
ゲームとは違って雑魚兵も戦闘中に躊躇いなく襲ってくる。その対策はしなければならない。
「うむ、興味深い術式だ。それなら通常戦闘でも耐えきれるかもしれないね」
ダヴィンチちゃんからもお褒めいただきました。
そして腰には細身の剣が吊るされている。洗脳されていたときに持っていたものだが中々振りやすいので採用した。
その他、職員の方々からもお褒めいただいて本採用。新生オフェリア(偽)として新たなスタートをすることになった。
ーーーー
「随分と機嫌がいいな」
「そうなのですか?」
「あぁ、マスターも褒められるのはやぶさかではではないらしい」
ジークフリートは新礼装を着たオフェリアを見て微笑む。その話を聞いたマシュは少し笑う。
《一緒にお茶でもどうかしら?》
昔、程でもないが。よく自分を気にかけてくれたオフェリアのことを思い出すマシュは藤丸と話す彼女をただ見つめるのだった。
ーー
「……」
「……」
今現在、藤丸と二人でお茶をしているのだが会話が一切ない。原因は間違いなく俺ことオフェリア(偽)に原因があるんだが。
会話というものは話し相手がお互いに居ることで成立するもの、その片割れが言葉も話せない奴なら互いに黙ってしまうのは仕方のないことだ。
「オフェリアさんってどうしてそんなに強いんですか?」
「………」
しっかりと用意していた用紙に答えを書く。前世は死ぬほど汚かった文字もこのオフェリアフィルターを通せばこの通り、綺麗な日本語に早変わり。
《生まれがそうだったせい。明確な意思があって学んだものではない》
魔術の世界ではその出自によって優劣が概ね、決定されてしまう。なぜなら、魔術の秘法は一代で成せるものではなく。親は生涯を通した鍛練の成果を子へと引き継がせるためだ。代を重ねた魔導の家紋ほど権威を高めるのはそれが主な原因である。
(オフェリアの記憶を保有しているとはいえ。それはごく一部、まるでロックを掛けているように固く閉ざしている状態だけど。魔術師というものは嫌な存在だな…)
魔術師は自身の家の繁栄こそがなにより大切であり。その代々受け継がれていたものを更に昇華させるという行為を一生を尽くして行う。
(幼少期から行われる家を繁栄させよという洗脳。それによって手に入れた呪われた力。自慢できるものなんかじゃない)
「いえ、確かに魔術的な意味もありますが。心ですよ」
(心?)
「どうしてそんなに冷静に動けるんですか?あんなに無茶できるんですか?」
流れとはいえ、敵の懐に紛れ込んでいたり。ジークフリートと共に強大な敵に立ち向かう。そんなことが出来る彼女の背中は藤丸にとって大きすぎる背中だった。
《お前にもできる。お前はそのまま貫けよ》
オフェリアはそんな彼の質問に笑いかけながら両頬を優しく潰す。ムニッと潰れた藤丸は目を点にして驚くが彼女は気にせず至近距離で真っ直ぐ目を見つめる。
(俺はお前に何も言えない。でも伝わってくれ、お前は最高のマスターになれる)
「オフェリアさん」
真っ直ぐ見つめられた彼はオフェリアの必死の言葉をなんとなく受けとる。こんな未熟な自分を信頼してくれている彼女の目に心を奪われるのだった。
ーーーー
カルデアでの一休み、それはいつまでも続くわけがない。ついに藤丸とオフェリアの元にコフィンに集まるようにと通達が下る。
「今回、向かう先は一世紀のヨーロッパだ」
(ついに来たかローマ)
ローマ帝国。世界史において避けては通れない歴史上での大きな基点だ。
(生ネロを拝めるのは少し興奮するな!)
薔薇の皇帝《ネロ・クラウディウス》長いローマの歴史においてもその鮮烈なる印象を刻み付けた英雄。fateシリーズにおいて有名キャラの一人である。
(ジャンヌとはあんまり話せなかったから楽しみだ)
オルレアンの時は必死すぎて気が回らなかったが。自分もfateファンの端くれ。有名キャラに対面できるのはかなり胸が高鳴る。
ジークフリートとデオンはいつかたっぷりスキンシップを取らせて貰う。
「君たちに無理をさせているのを承知している。力の及ぶ限り君たちをバックアップ、サポートをしていくつもりさ。それだけは忘れないでくれ、マシュ、藤丸くん、オフェリアさん」
「「了解!」」
「じゃあ、はぱっとレイシフトしようか!」
ロマンの説明などを聞き終え、ついにレイシフトを果たす。
(でもまだ第二特異点なんだよなぁ)
オフェリア(偽)の小さな愚痴と共にレイシフトが始まるのだった。
第二特異点 永続狂気帝国セプテム ー薔薇の皇帝ー
オフェリアって何歳なんでしょうね?
個人的には20~24歳ぐらいのイメージでやってます。
オフェリア・ファムルソローネ(偽)
筋力E 魔力A+ 対魔力:礼装に比例 耐久C- 俊敏B 幸運A+ 憑依EX 精神汚染D- ???D
魔眼:サーヴァント及び他人、自身に対して魔術をノーリスクで使用できる。しかし一日に一度しか行使できない。(スキルなどによって短縮化)
礼装 オフェリアブランド
損傷したオフェリアの礼装をロイヤルブランドをベースに修復した礼装。魔力回路を励起させるなど魔術ブースト的な機能は当然のこと。部分硬化など戦闘参加にも使える機能が付け加えられている。
サーヴァントの物にはかなり劣るが魔力放出も使える。(燃費は最悪で加減を間違え保有する全ての魔力を持っていかれるため奥の手)
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
永続狂気帝国:セプテム
9話
草木の薫る清々しい光景。視界一面に広がる草原は素晴らしいの一言につきる。まぁ、転移予定のローマ首都ではなく何もない丘陵地帯にレイシフトしてしまったことはこの光景に免じてやろう。
『あれ、おかしいな。こっちも確認したよ。転送位置は確かに固定した筈なんだけどな』
「フォーウ、フォーウ!」
ポンコツロマンを他所にマシュのマシュから出現したフォウがオフェリアの周りをくるくるする。
うむ、愛らしい奴め。どれ、余が愛でてやろう(ネロ風)
「フォーウ!」
表情を一切変えずにフォウをモシャモシャするオフェリア。少し乱暴に見えるがフォウ本人はこれがちょうど良いようで喜んでいる。
「では時代は?」
『時代は間違いないよ一世紀のローマで間違いない』
空の謎の輪のせいで転送座標がずれた可能性もあるがそこらはよく分からん。
「マスター、聞こえるか?」
(なにがだ?)
「戦闘の音が聞こえる」
「僕も聞こえるよ。多人数戦闘の音がね」
(付近で戦闘が行われてるのか)
あぁ、確か序盤はそんな感じだったような気がする。なにせ大分前にやったものだから細かいシーンは記憶から呼び起こすのが辛い。
その状況を藤丸たちに報告し駆けつける。そこに居たのはローマ軍の兵たちが戦っている。
(やっぱりネロか!)
少数対多数の戦闘にて少数隊を率いている真紅の女性。
(ジークフリート、デオン。援護するぞ!)
「分かった!」
「了解だ、マスター!」
脇目も振らずに多数隊の方へと突撃する三人。その行動の迅速さに藤丸たちも驚く。
「ドクター、オフェリアさんが突撃しました!」
『えぇ!?彼女ってそんなキャラだっけ?むしろ戦いを諌める方じゃないの?』
「マシュ、清姫、僕たちも行くよ!」
「え、はい!」
「喜んで!」
急いで現場に向かう三人。彼らはすぐに追い付き戦闘に参加するのだった。
ーー
「剣を納めよ、勝負あった!そして貴公たち首都からの援軍か?すっかり首都は封鎖されていると思っていたが。まぁ、よい誉めてつかわすぞ!」
難なく隊を撃退したオフェリアたちの元に指揮官は満面の笑みを浮かべながら近づいてくる。
「元敵方でも構わぬぞ、余は寛大ゆえに過去の過ちはゆるす。それ以上に今の戦いぶり、評価するぞ。少女が身の丈ほどの武器を振り回す。うん、実に好みだ!」
こっちに来るやいなやトークが止まらない指揮官。
(生ネロや!)
「そしてそなたも。よい騎士を連れているな、男女ともに美形の騎士とは見所がある。もちろんお主も美しい、なんとも言えぬ倒錯の美とはこのこと。よいぞぉ、余とくつわを並べて戦うことを許そう。至上の光栄によくすがいい!」
そう、この人物こそ。後に暴君として名を馳せる薔薇の皇帝、ネロ・クラウディウス本人である。
(すげぇ、生ネロや!)←語彙力の崩壊
精神的に余裕がある状態でのこの登場はかなり興奮する。というより興奮している。
(まぁ、ともあれ。ネロと交流できたのは幸いだ、今回は彼女と行動を共にするのが当たりだ)
見たところネロもこちらに対しての印象は良い。報償もくれると言ってきているあたり、決して悪いものではないだろう。
「ところでお前たち。異国の者で間違いないのだろうが、何処の出身なのだ?ブリタニア……ではないな。東の果て……というわけでもなさそうだ」
(オールハイル。ブリタニアぁぁぁぁぁ!)
「どうしたんだいマスター?」
(いや、なんでもない…)
突然、オフェリアが右手を空に向けて突き出すのを見て控えていたデオンが思わず驚く。ジークフリートも不思議そうにこちらを見ていた。
(溢れ出る◯ードギアス愛に突き動かされました)
脳内の若本さんが大暴れしたのは仕方ないよね。
FGOは文句なしに大好きだが残念ながら完結はしていなかった。どうせなら最終回から外伝までみっちり見ていたコ◯ドギアスに転生したかったかも…。
ー(異世界)ー
「へくちっ!」
「どうされました白蛇さま?」
「いや、なんでもない」(風邪かな?)
ーーーー
「カルデアという所です」
「カルデア??」
(正確には南の果てなんですけどね…)
ネロの質問に藤丸が答えると彼女は変な顔をする。恐らく、記憶の中からカルデアというワードの国を探しているのだろう。
「お話は後です。敵の第二波が来ました!」
そんな時、敵の第二波が到着。手早く片付けると一騎のサーヴァントが姿を表す。
「我が、愛しき…妹の子よ」
「伯父上!」
そこに現れたのはカリギュラ。ローマ皇帝の一人でありネロとは親戚関係に当たる人物。だが彼は理性を失った狂戦士、話が通じるとは思えなかった。
(とにかく、バーサーカーは一回倒して大人しくさせるしかないな。ジークフリート、デオン!)
「よし」
「承知した」
二人はカリギュラの迎撃に向かい。追随する兵士たちは清姫とマシュが迎撃する。
「峰打ちで行きます!」
「私もしっかりと峰打ちしますわ」
炎で峰打ちとは?
ーー
「なぜ捧げぬ。なぜ捧げられぬ…」
「なんとか退いたようだね」
なんとか撃退したカリギュラの軍勢を見てデオンは一息つく。最後の辺り、清姫は藤丸の視界の外で持っていた鉄扇で必死に兵士を殴っていた気がしたが気にしない。
「峰打ちと言うのは大変ですわ」
「その血……」
返り血をどっぷり被っていた清姫は静かに持っていた手拭いで綺麗に拭き上げる。真っ赤な彼女に思わず声を出したジークフリートはオフェリアとデオンが静かに制する。
そしてネロの自己紹介と共にロマニがネロが女性であったことに驚く。それを端から聞いていたオフェリアは静かに思う。
(歴史なんて信用ならねぇ…)
ーー
(皆さん、ローマですよ!あのローマ帝国が目の前にぁ!)
ネロの案内でローマに入った一同。ローマ帝国といえば、歴史を知らぬ者も一度は耳にするであろうフレーズ。
(おぉ、テルマエだ。テルマエがある)
ローマと言う国家が日本で知れ渡る切っ掛けと言えば最近ではテルマエ・◯マエだろう。あの舞台はネロ時代より少し後だけど。
言ってもネロは五代目皇帝でテルマエのハドリアヌスは一四代目皇帝だから結構後の話だったりする。そう言うのをかんがえて見てみるとテルマエが民衆の心の支えというのは納得のいく話である。
(ネロってかなりの暴君ってレッテルがあるけど彼女を見てるとそんな感じは一切しないんだよなぁ)
王という立場がどれだけのものかは分からない。王のあり方がその時代によって異なるように同じ王なんていない。答えなんてない道を走り続けなければならない者は後の時代でしか評価されない。
(頭がパンクしそうだ…)
自身の思考能力ではここらが限界だ。いくら高性能な頭を貰っても使う人間がポンコツでは本来のスペックを発揮できないのは悲しい現実である。
「そう小難しい顔をするな。せっかくの美人が台無しではないか…ほれ、この林檎を食べよ」
(どうも)
頭を使うのは苦手だが甘いものは大好きだ。明らかに体に悪そうな砂糖たっぷりの菓子もたまらないが果実の甘さはなんとも言えない。大きな口を開けて林檎にかぶりつく。
(うん、美味しい)
現代の林檎に比べたらたいして甘くないがこの染み渡るようなほんのりとした甘味はなんか懐かしく感じる。この素朴な林檎を余すこと無く食べ尽くしている間に藤丸やマシュたちがネロと話を進める。
(こう言う時に話せないとボロがでなくていいよな)
オフェリアに憑依してるなんて言ったら何をされるか分からない。だから黙っていたのだが…まぁ、察せられないように必死にやるしかないか。
第二特異点を軽く説明するとこうなる。正史側はもちろんネロの古代ローマ帝国。対して特異点となっている原因は連合ローマ帝国と呼ばれる謎の国家。複数の皇帝がいるらしいがそのメンバーはおいおいと話そう。
まぁ、つまり広大なローマ帝国の領域内で二つのローマが戦っていると言うことになる。
ネロの目的は連合ローマ帝国の崩壊、そしてこちらは連合ローマが保有する聖杯の回収。利害は一致している。こっちはネロのローマの客将として編入されることとなった。
ーー
「うむ、話せぬのは不便よな。まぁ、飲むがよい!これは歓迎の宴だからな!」
首都に襲いかかった奴等を撃退すると宮廷にはローマの豪勢な料理が並べられ当のネロはワインを片手に待っていた。そこからは宴だった。
(旨いけどワインって…)
言っても転生前は未成年なので酒の飲み方なんて分からない。ネロにガッチリ捕まったオフェリアは促されるがままに飲まされていく。
「大丈夫だろうか」
「そうだね、すごい勢いで飲まされてるけど。まぁ、酒なんて吐いた分だけ強くなるからね」
「いや、そういう問題ではないのだが…」
明らかにヤバそうな飲み方をしているマスターを心配そうに見つめるジークフリート。対してデオンはワインを片手に優雅に食事を楽しんでいた。まぁ、デオンはデオンでしっかりと線引きを弁えている筈なのでジークフリートには何も出来なかった。
「ますたぁ~」
「うん、なに?」
「こちらのお肉、美味しいですよ」
「そうなんだ、ありがとう」
「オフェリアさん…明日に響かなければ良いんですが」
(あひゃひゃひゃひゃ!ワインって美味しいなぁぁ!?)
絶対に響く。
ーー
「うむ、流石に酔ってきたな。オフェリアは本当に聞き上手だな、気に入ったぞ!」
(へぁ……)
ボトルが何本か空になるとやっと解放されるオフェリア。外から見ればいつも通りなのだが思考能力は崩壊し意識は完全に混濁していた。
「オフェリアさん。大丈夫ですか?」
(………)
「オフェリアさーん…」
(………)
心配になって呼びに来た藤丸。だが案の定、完全に酔い潰れていたオフェリアは反応を寄越さない。
「藤丸くん。マスターを部屋まで運んでくれないか?」
「え、でも…」
困っていた藤丸にそっと囁いたのはデオン。
「僕たちは明日について話し合わなきゃいけないから。明日は最前線だ、君もゆっくり休んでくれたまえ」
「分かりました」
優しく微笑むデオンに後押しされて頷くとオフェリアの体を慎重に触る。
「そうそうここを持って、相手はレディだ。丁重に扱うんだよ」
「は、はい!」
オルレアン時はマシュが彼女を運んでいたので女性を抱き抱えるのは初めてだ。改めて考えると彼女の体はとても軽く、柔なものだった。
(こんなに軽いのに…)
話せないとはいえ、寡黙で冷静な判断を降す彼女は遠い存在に感じるがこうして触れていると彼女も一人の女性なのだと感じさせられる。
兵に案内された部屋にたどり着くと静かにベットに寝かせる。するとロマニから通信が飛んでくる。
『藤丸くん。すまないけど彼女に解毒の術符を張っておいてくれないか?』
「え、どうしてですか?」
『単純に酔いを覚まさせるという意味もあるんだけどね…実は』
『ローマのワインは現代とは少し違うんだよ!』
ロマニの話に割って入ったのはダヴィンチちゃん。彼女?は意気揚々と話を続ける。
『古代ローマもギリシャ以降の伝統として続くワイン文化を継承していたのは有名な話だよ。現代ではワインのイメージは当然イタリアだ!そしてこのローマでもイタリアワイン系列なんだよ。現代でもイタリアワインはフランスと違ってコスパの良い手軽に飲める品種がほとんどで世界一位の生産量を誇っている!』
ダヴィンチちゃんのイタリア押しに気圧される藤丸。なんだか既に話が脱線しているようだが肝心のロマニがダヴィンチの押さえつけられモニターから弾き飛ばされているので話を遮れない。
『ローマのワインは海水、蜂蜜、ハーブ、スパイス、他にも果実類を加えて、ワインカクテルを楽しんでたんだ。娯楽に手を抜かないローマらしいね。まぁ、そのワインに色々と加えていたんだけど。よく使われていたのはサパさ。ワインが甘くなる、殺菌作用もあり保存も効くとして重宝されていたんだどそれが問題でね』
「なにか不味いんですか?」
『サパはブドウ汁を鉛で仕上げた青銅器の鍋で煮詰めるんだけど、そのレシピには《鉛の容器で煮詰る》という決まりがあってね。ここで生成されるのは鉛化合物の一種さ。それは鉛中毒の原因にもなってね』
『まぁ、彼女もワインを大量に摂取したからね。念のために解毒しておこうと言うわけさ!』
復帰したロマニが画面に戻ってくると説明を切り上げる。
「分かりました」
そうすると藤丸はウエストポーチから渡されていた術符を取り出すとオフェリアに張り付ける。
『ダメだよ藤丸くん。ちゃんと肌に張ってくれたまえ』
『ダヴィンチちゃん…』
「え、でもそれは…」
『なにを躊躇っているんだい?これは治療だよ。』
「うっ……」
藤丸はベットで寝ているオフェリアを見てたじろぐ。彼は青春真っ盛り、女性の服を剥くというのに抵抗があるのは当たり前だ。しかも相手はかなりの美人。意識しないというのは嘘になる。
『別に…』
『しっ!』
ドキドキしている藤丸をモニターしていたロマニが無粋な事を言い出しそうだったので口を押さえるダヴィンチ。
『ほら、救急行為や治療時のセクハラは法律的にはノーカン!さぁ、いくんだ!』
「うぅ…」
意を決して彼女の服を剥く藤丸。無難にお腹辺りに張ろうと捲ると痛々しい火傷の跡が綺麗だった筈の肌に広がっているのを見て言葉を失う。
「オフェリアさん…」
一瞬、泣きそうになるがそれを堪える。泣いている暇なんてないんだ。彼女が体を張って示してくれるならその期待に答えなければ。
「僕は貴方を守れるぐらい強くなれますか……」
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
10話
「…う」
明晰夢、それは簡単に言えば夢を夢と自覚できる夢である。生前はそんなことは一度もなかったのだが現在、オフェリア(偽)はそれを体験していた。
「夢の中でもオフェリアかぁ…」
前世の記憶はある、だが重要な部分は思い出せなかった。自分の名前や容姿などがだ。男であり、自分はオフェリアではないと言うことははっきり分かるがその根拠は少し曖昧であった。
「誰だ?」
《………》
すると近くに気配がした。真っ暗な空間の中で真っ直ぐこちらに近づいて観察してくる。金色の目だけがこちらを向いて静かに見つめている。暗すぎて分からないが金属同士がぶつかる音が僅かに聞こえる。
「なるほど…お前か」
《気づきましたか…》
影は静かに答える。まぁ、ヒントなんていくらでもあったしフラグという点では妥当なところだろう。
「お前、俺のこと大っ嫌いなんだな」
《えぇ、当然でしょう。それとも、好かれてあるとでも思ったの?気持ち悪いわね》
「ここにいる時点でお前もストーカーみたいなもんだぞ」
《あら、余程死にたいのね?》
「ごめんなさい」
土下座。これほど見事な土下座を決められるのもある意味、こいつのお陰なのだが。
《まぁ、私もあくまで残りカス。貴方が絶望するさまを見届けるためにいるだけの事》
「よく居られたよな。どんな方法使ったの?
」
《貴方みたいな中身がスカスカの器なんて入るのは簡単でしたよ。まぁ、こんなことになるのは少々想定外でしたが》
オフェリアという器に俺という中身は少なすぎる…それは分かる。彼女と俺は積み上げてきたものも、産まれた家も違う。俺みたいな一般ピープルが対等になれるなんて思ってもいない。
「なら俺はお前に乗っ取られる?」
《それはありませんね。私も元が中身がスカスカですからね。その上、残りカスなんて目も当てられません》
笑って良いのか、悪いのかよく分からないから無反応を貫く。それを見て機嫌を悪そうにする目だったが周囲を気にし始める。
《時間切れのようですね。私はこれで失礼します》
「案外素直にいなくなるんだな」
《無駄な体力を使いたくないので…では…》
ーーーー
彼女が立ち去る気配を察知した瞬間。オフェリアは意識を戻され眠っていたベットで目を覚ます。
「フォーウ!」
(あだっ!)
寝起き早々、腹に大ジャンプを決めたフォウは俺の顔をゲシゲシと殴って起こしてくる。意識が少し覚醒していたからか余計に痛く感じ体をくの字に跳ね上げたのは言うまでもない。
「Bonjour、マスター。気分はどうかな?」
(あぁ、なんとか大丈夫そうだ)
「それは良かった。サークルを設置したらしいからカルデアから物資が届いたんだ」
デオンが差し出したのはハーブティー。カモミールのハーブティーは二日酔いに効くとされているハーブティーの一つだ。デオンの気遣いがよく現れている。
(青リンゴみたいな良い香りだ)
「カモミールのハーブティーだよ。朝食を取った後に出撃だ。今はゆっくりしてくれ、マスター」
(ありがとう、デオン)
美味しそうにハーブティーを飲むオフェリアを見つめるデオン。なぜ数あるハーブの中でカモミールだったのか、それはその花言葉にもデオンは意味を込めていた。
「頑張ろうね、マスター」
ーーーー
前線であるガリアに向けて出発した一行だが歩兵も含めた部隊であったためにその進軍スピードはゆったりとしたものだった。
「……」(大丈夫か?)
「はい、大丈夫です。ありがとうございます!」
ネロから馬を借りたオフェリアは慣れた手つきで馬を操作してマシュたちと目的地に向かっていた。ある程度の簡単な会話ならアイコンタクトで話せるようになってきたオフェリアと藤丸は一緒の馬に騎乗していた。
「むむ、流石の包容力。私も見習わなければなりませんね」
「マスター、疲れたらすぐに言ってくれ」
(ありがとう、ジークフリート)
マスター二人を一ヶ所に集めるのは防衛する身としてはありがたい。二人の馬を囲うようにサーヴァントたちは配置について進んでいく。
「本当にすいません」
(気にするな)
『やっぱり、さっき落馬しそうになったのがよっぽど怖かったみたいだね』
「ドクター、あまり先輩をからかわないでください」
『ごめん、ごめん。情報支援だと娯楽がなくてねぇ』
本当は藤丸も違う馬に乗っていたんだが危うく落馬しかけたせいで一人での騎乗は断念。藤丸は遠慮して、なかなか来なかったがジークフリートが無理矢理オフェリアの馬に乗せて現在に至る。
今は彼女の腰をガッチリホールドして藤丸は馬に揺られていた。かなり怖かったらしい。
(なんか母性ならぬ父性に目覚めそうだ)
ーーーー
ガリア遠征軍駐屯地。ネロ率いるローマ軍の前線駐屯地である。そこで向かい入れてくれたのはみんなのママンことブーディカとみんな大好きスパルタクス。
二人の穏やかな出迎えに安心していると突然の腕試しが始まる。
「真名はブーティカ。クラスはライダー、私の戦車はすっっごく堅いんだから!」
「来る!」
(いくぞ、藤丸!)
咄嗟のことで驚く藤丸の肩を叩いて鼓舞するとジークフリートたちは迎え撃つために動き出す。
(スパルタクスはジークフリートに一任する。正々堂々正面から殴りあえ!デオンはマシュと清姫とともにブーディカを!)
「了解した」
「分かったよ、マスター!」
スパルタクスの宝具は敵に回すとかなり脅威だ。彼は圧政者を許さない、だからこそジークフリードと一対一の状況を作る。決闘という形にすればスパルタクスも喜んで戦ってくれる。それに今後の関係を考えればこちらが圧政者だと判定されないための保険でもある。
痛みを力に変える化け物だがジークフリートも堅さで言えば誰にも負けない。だからこその《悪竜の血鎧》だ。
「これで頼むよ」
「分かりました」
「了解です♪」
デオンはマシュと清姫に作戦を伝えてブーディカに襲いかかる。対してジークフリートは鎧を脱ぎ捨てて素手でファイティングポーズを取る。
(そこまでしろとは言ってないんだけど…)
「さぁ、来い!」
「おぉ!そなたは決闘者、我も万全の力を持って破壊すべし!」
ジークフリートもスパルタクスも楽しそうなのでこちらはほっておこう。
「さぁ、最初から全開でいくよ!」
ブーディカの前に白馬が2頭現れ、彼女の周りに戦車が形成される。
「
チャリオットが空を舞い、こちらに突進してくる。ブーディカのチャリオットは突進力が低いといっても戦車。その攻撃は脅威である。
「向こうが堅さで勝負するなら…マシュ!」
「はい、先輩!」
藤丸の言葉にマシュは盾を構えて耐衝撃体勢に入る。
「清姫!」
「はぁい、ますたぁ!」
清姫の吐息から溢れ出る炎の息吹。その息吹が竜となって戦車を迎え撃つ。
(デオン、援護を)
「そうだね。花道を作ってあげよう!
デオンの言葉通り、一輪の大きな百合の大輪が咲き誇るのではなく目の前に百合の花畑が広がる。どうやら幻惑の百合の見せ方は自由に表現できるようだ。
「凄いよ…正直、予想以上だ。でも負けないわよ!」
ブーディカの戦車は炎の竜と正面からぶつかる。少しだけ拮抗するが竜が押され押し退けられる。青い炎を突き破り、百合の花畑を突き進み。マシュと対峙する。
「さぁ、私の戦車と貴方の盾、どっちが堅いかしら!」
「負けません!」
激しくぶつかる戦車と盾。マシュはその突進力に押され地面を砕きながら後退するが戦車もその動きを止め白馬が唸りを上げて前進しようと試みる。
「まだよ、私の
「先輩やオフェリアさんのために…ここで負けるわけにはいきません!はぁぁぁぁぁ!」
悲鳴を上げたのはチャリオット。馬が苦しそうに盾に圧されると進路を変えられ大きく転倒する。それにか巻き込まれた戦車も転倒しブーティカも地面に投げつけられた。
「きゃ!」
完全に押し負けたブーディカは可愛い声を出しながら尻餅をついた。そんな彼女の顔は実に清々しいものだった。
「大丈夫ですか!?」
「ははっ!まさか負けるなんて思わなかったわ凄いわねマシュ!まるで大地に根を張る大樹だよ!」
「はぅ!?」
満面の笑顔で抱き締めるブーディカ。抱き締められたマシュは変な声を出しながらもその包容を受け止める。
「いい戦車だ。本当に頼もしい」
「私の炎を無傷で通り抜けるなんて…」
「二人も最高だったよ!頼りに出来るってもんだ!」
ブーディカの笑顔に二人もつられて笑顔になる。少し強引だったが親睦を深められたようで良かった。
(あ、そう言えばジークフリートは?)
「ぬぅ!」
「ふん!」
思い出して振り返ってみれば二人はその筋肉を見せつけながらお互いに激しく素手で殴り会う。それを見ていたローマ兵たちは二人を囲んでお祭り状態になっていた。どっちが勝つか賭けているような様子も見える。
「おう、決闘者。真の包容を受けとるがいい!」
「これほどタフな人間は初めてだ!全力でいくぞ!」
(おう、簡易的なコロシアムが出来てる…)
『実にストレートだけどスパルタクスには合っていたみたいだね。ジークフリートを選んだのもいい人選だったようだ』
ロマニも二人の決闘を見て満足そうに頷く。なんだか彼の音声の背景が騒がしい気がするが…。
「ドクター、なんだかカルデアが騒がしいみたいですが」
『マシュ。僕たちにも娯楽が必要なんだよ…』
(察し…)
どうやらこちらをモニターしているカルデアでもローマ兵たちと同様の現象が発生しているらしい。まぁ…広いカルデアとはいえ、ずっと室内にいる息抜きも必要だろう。
その後も二人は満足するまで殴りあったのだった。
ーーーー
「全く、男どもはあいいうのが好きよねぇ」
「あれが現代で言うボクシングと言うものでしょうか?」
(どっちもノーガードだったからプロレスかな)
「なるほど」
腕試しを終えた一同はブーディカに招かれるがままテルマエで一息つく。ちなみに女湯に入っているのはブーディカ、マシュ、清姫とオフェリア。デオンはどこかに姿を消してしまった。
ちなみに現在はこの場の三人と簡易的なパスを繋いで念話で話している。短時間と限定的だが通訳が居ないために試しに繋いでみたのだ。
「でも殿方が正々堂々と戦う姿は好ましいと思いますよ」
(同感、俺もあんな青春があれば違ったかもなぁ)
「オフェリアちゃんって以外と男らしいわよね。言葉使いとか」
「そうですね。正直、印象が違って驚きです。普段は抑えていたんですか?」
(え!?)
ブーディカとマシュの言葉に思わずビクッとしてしまう。しまった、完全に油断していた。特にマシュに気づかれるのはあまりよろしくない。と言っても目の前には清姫がいるので嘘はつけないし。
「どうしましたオフェリアさん?」
(まぁ、これが本性と言うか。これが素みたいな感じかな。心で話しているから)
「そうなんですか。意外ですねオフェリアさんは男気質なんですね」
(まぁ、そんな感じかな)
横目で清姫を見ると彼女は笑顔で風呂に浸かっていた。
(ふぅ…)
なんか無駄な気疲れを感じたオフェリアは湯に沈んでいくのだった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む