トータル・イクリプス Cold of united front【凍結】 (ignorance)
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stage01

はじめまして。
作者のignoranceです。
名の意味は無知、曖昧などの意味です。
その場のノリと勢いで書いているので今後どうなるか。
いろんな人に楽しんでもらえるよう頑張ります。


(クソったれ。イヤな記憶だ)

かつて共に戦った仲間を失った記憶を思い出し彼は一人、心の中で愚痴た。

新型の開発の為、ユーコン基地へ向かって飛ぶ飛行機での旅は長く、惰眠を貪ろうとすれば先程のように心を蝕む記憶が邪魔をする。

(はぁ。…新型の開発に集中出来りゃこういうのも少なくなるんだろうか)

自身が関わる戦術機を思いながら寝不足の原因が減ることを心の底から切に願った。

 

XFJ-01 不知火・弐型

これから彼が搭乗する戦術機である。しかし、単にこの機体の戦闘データを取るのが彼の仕事ではなく、機体を集団近接戦闘仕様に改修、改良が彼の仕事である。

そのため彼が今まで搭乗していた戦術機【不知火・壱型丙】をアメリカ軍と共同開発し、おまけでソ連軍の近接戦闘技術を機体に搭載し、性能の強化に務める。国連の作戦扱いにはなっているが、近接戦を主とする彼の為の機体と言っても過言ではない。

(横浜の魔女ってのは恐ろしいもんだねぇ)

異動までの一ヶ月はとてつもなく忙しかった。

帝都へのBETA進行を阻止し、単騎による

光線級吶喊(レーザーヤークト)を成功させた後に彼は横浜に移転となり、機体の整備、新型OSの開発に勤しんだ。

そしてXFJ計画が始動してから一週間足らずで彼は横浜の魔女と対面した。対面した理由は新型の開発。つまり、今回の仕事である。

これに関しては思う節が彼にもあった。彼自身が開発した新型OS【IGNIS】に対し既存の戦術機では負担が大きすぎるのだ。IGNISの基礎設定は機体の加速限界を超えること。

分かりやすく言うなら一撃離脱戦法。

それには装甲、関節、ジャンプユニットと問題点は上げれば上げるほど出てくるもので、いっその事新型を開発するか、OSをなかったことにするか。その二択にまで迫った。しかし、このIGNIS、既存のOSよりも使い勝手が良いのも事実で行動後の硬直時間もほとんどないのだが基礎設定のおかげで使える衛士を限られているのが玉に瑕だった。

まぁ、開発者自身がイカれている時点でロクなものではなかったが。

OSの開発者であり、開発衛士《テストパイロット》である彼の話をするとしよう。

彼はイムヤと呼ばれているが本名ではなく元いた部隊からそう呼ばれていたのが定着したのでそのまま呼ばれ続けてきた。第168独立機動隊の隊長で階級は大尉。この独立機動隊は戦術機が実戦運用されてからすぐに確立され多大な戦果を上げてきたが、特殊部隊扱いだった為に日の目を見ることはなかったがその方が彼らにとっては有意義だった。最終的に大規模作戦に投入され彼を除く隊員が戦死したためそのまま瓦解した。特殊部隊の為、軍には居場所はなく一人途方にくれていたところを開発衛士に任命され、世界を転々と移動し、日本帝国に辿り着いた。

「ソ連か。…いや、今はロシアだったか。まぁ、どちらにしろ面倒なのには代わりはないか」

かつて開発衛士として関わった場所にあまり興味を持つことないが彼女のことが不意に脳裏を過る。本心は会いたいのだが会いたくないのもまた本心で、むしろどのような顔をして会えばいいものか。

(会ったら文句か説教はいわれるだろうな)

考え事を止め、移動前に貰った資料に目を通す。資料自体は10枚いかないくらいでこの開発計画に関わる小隊の情報だった。

戦果をそこそこ挙げていて、むしろ何故開発部隊なのかと疑問が浮かぶくらいに優秀な部隊だった。

(特に3機による連携は目を見張るものがあるな。基地について調整が終われば挑んでみるのも悪くない)

胸のうちに潜む高揚感に浸りながらも資料に目を通していく。

『大尉。もうすぐでユーコン基地です』

唐突な報告にそんなに時間が経ったものかと意外に速かったなと心の中で思った。

「さてと今度は絶対に守ってやるか」

パイロットを除き彼しかいない機内の中で声を出して決意を固めた。




感想、意見、アドバイス等よろしくお願いします


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stage02

勢いだけでやってるignoranceです。
仕事等で今後投稿が遅れます。
話的にユウヤと唯依姫の一騎打ちのあとにユーコンに来たと思ってください。


ユーコン基地に降り立ち、愛機が搬入されるのを待ちながら自身が行く部隊のブリーフィングルームへと足を進めた。

 

「…」

ブリーフィングルームは物静かで自分を除き数人しか存在してなかった。

半分がCPとして一人は隊長、資料に載っていた三人、そして自分。

(まぁ、いい加減挨拶くらいしとくか。睨まれ続けるのは余り好きじゃないんでね)

衛士の一人が凄い眼光でこちらを睨んでくるので挨拶くらいはすべきと理解した。

「あー。今日からこの部隊に配属になった、元168独立機動隊のイムヤ大尉だ。これからよろしく頼む」

軽い挨拶をしたところ、部隊全員が敬礼してきたので敬礼を返す。

「スコーレスト小隊にようこそ!隊長。アレクサ・ラングナー中尉であります。コールサインはスコーレスト02です」

「ああ。こちらからもよろしく頼む。ところで隊長とはどういう事だ?」

本来ならあとから配属になった者は基本的に後の数字になる。つまり彼が隊長になることは基本的にありえない。

「大尉が来る一週間前に隊長がお亡くなりになりまして、次に配属された大尉が一番階級が高かったので迷惑でしたでしょうか?」

アレクサが困った顔をしたので軽く頭を撫でてやる。

「た、隊長!?」

アレクサが驚きと恥ずかしさで顔を真っ赤にしているのを気にせずに続ける。

「元の部隊でも隊長だったしな。気にしなくていいぜ。それと隊長とか階級呼びも無しな、イムヤでいい」

「ですがそれでは部隊の規律が…」

「別に締めるとこ締めときゃ誰も文句は言わねぇよ」

「そういうものですか。では…」

アレクサがなにかを言おうとした途端、間に割り込んで来る者がいた。

「アレクサ姉さんはあんたを認めているけど私はあんたを認めない!」

「別に認められたい為に此処には来てねえよ。最悪一人でもやるさ」

イムヤの気迫に圧されたか、少したじろいだところをアレクサが咎めた。

「クラリッサ!あなた大尉に何を「…構わねえよ。いきなり来たやつが隊長なりますとかフザケてるにもほどがあるからな」

アレクサがクラリッサに言おうとしたところをわざと遮って本音を伝えた。

「………クラリッサ。クラリッサ・ラングナー。階級は少尉」

顔を見せたくないのか俯いていたがちゃんと名前は聞き取れた。

その言動が悪いことをした子供のようで頭を撫でてやった。

「…なにやってるのさ!?」

「いや、なに。あまりにも父性をくすぐるもんだからな、つい」

資料の情報が正しければ年齢差はそれこそ若い親子に等しいもので反抗期の娘と父親に見えなくもない。

その後ろから声がかかる。

「メリッサ・ラングナーです!階級は少尉です。お姉ちゃん共々よろしくお願いします!」

「おう!よろしく頼むぜ」

活発な声と言動が特徴的でイムヤは子供がいればこの三姉妹のような子になればいいなと思った。少なからず彼に恋愛対象は存在してないが。

それから他の隊員の挨拶が終わり、イムヤが提案した。

「明日、俺とお前たち三人で模擬戦を行うつもりだが何か意見は?」

「はい」

手を挙げたのはやはりアレクサだった。

「模擬戦をおこなうのであれば最低でも分隊で行うべきです。」

アレクサが意見具申したのは模擬戦内容だった。1対3という模擬戦内容しては異色なものだった。

「俺としてはお前たち三人の実力を見てみたい点と対人戦のデータ収集が目的だったんだがな」

「ですが!」

「止めときなよ、姉さん。言ったところで変えるつもりはないと思うよ。でもヤるなら本気でやっていいんだよね?イムヤ大尉」

アレクサの反論を遮って声を上げたのはクラリッサだった。その瞳には炎が灯っているように見えた。

「ああ、構わないぜ。寧ろ三人のコンビネーションを見せてもらいたいくらいだからな」

「だってよ、姉さん」

「はぁ。わかりました」

アレクサは呆れたように返答した。

「それでは明日の10時より模擬戦を実施する。以後は自機の整備なり、自身の体調管理なりするように。以上、解散!」

イムヤの一言でブリーフィングルームの出来事は終わりを告げた。




早く、原作キャラと関わらせたい。


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stage03

一戦入る前にちょっとだけ過去編を入れました。
戦闘描写うまく書けるといいなぁ〜。


「やっと整備に取り掛かれるか」

ハンガー内で自分の目の前に立つ黒い鋼鉄の巨人【不知火・壱型丙】を自分なりに改造した機体【不知火・壱型乙】。

従来のものに比べセンサーマストを小型化、ジャンプユニットを大型化などいろいろと改造されてはいるが元が元なので稼動時間は心許無い。

しかし、かつての記憶から作り出されたこの機体は自分の命だけでなく、多くの命を救ってくれた。だが、この改造は一時的な応急処置程度に過ぎず、いずれ機体が先に音を上げるだろう。そうなる前に機体の弱点を探り、OSに適した機体にしなければならない。

(あと、1年あるかないか。それまでに完成させねぇとあのバケモンに対抗する手段がねえ)

コックピットブロックに乗り込み機体の各部状況とOSの修正を開始する。

(ソ連軍の上層部に話したところで相手すらされねえだろう。機体に残ってるデータがこっちに来てたら話の信憑性も上がるんだろうが)

作業を始めても脳裏をかつての記憶が過る。

結果としてないものねだりを考えてしまう。

(データがありゃ上と交渉してこいつの装甲と武装を改良出来るだろうが。無いものをねだってもしょうがねぇ、最悪敵機から奪うか)

少なからず、機体強化に必要なものは記憶上、敵として出てくる。それならば巧く撃墜して奪えばいい。

しかし、それでは遅すぎるのだ。悠々と待っていては時間がない、それが彼を焦らせている。

「ハァ。ラトロワ、お前ならこういう時なんて言うだろうな?」

かつての好敵手(ライバル)以上恋仲以下の相手に思いを馳せてはみるが返答の代わりに気だるさが帰ってきた。

明日のことも考えると今日はすぐ休むべきなのだろうが焦りがそれを拒む。

シートに背中を預け、彼女との記憶を思い出す。そしてそのまま意識は混沌の中に消えていった。

 

side 過去

「ラトロワ!あんまり前に出るなって言ってんだろうが!」

『五月蝿い!突撃砲でチマチマやってるよりこっちの方が早く終わる!』

オープン回線で一組の男女が口喧嘩していた。

二人がいる部隊もその近くにいる部隊も、また始まったと呆れながらも小型種の殲滅に当たっていた。

本来なら誰かが止めるべきなのだろうが彼らのコンビネーションは中隊でトップクラスに存在していることは全員が理解しているので誰も口を挟まなかった。

「そう言って一度死にかけたのはドコの誰だ!」

『五月蝿い!チマチマやり過ぎて初っ端から弾切れ起こしたくせに』

「なんだと!」

『なんだよ!』

それもそのはずこの二人、小学生レベルの口喧嘩をしながらも的確にBETAを殲滅していた。

突撃(デストロイヤー)級を肉薄し接近戦で脚を切り、動きを封じる。側面から来た要撃(グラップラー)級の両腕と感覚器を突撃砲で吹き飛ばす。

小型種は後続に任せ、二人とも大型種を撃破していった。

「ラトロワ!テメェ、宿舎戻ったら覚えてろよ」

『それはこっちのセリフ!今日こそギャフンと言わせてやる』

BETA郡を撃退してもなお、二人の口喧嘩は治まらなかった。

日常となった口喧嘩はハンガー内でも行われ、結果上官にこってり絞られて終わるまでがルーティンだった。

この二人は気づいてすらいないが、先にどっちが折れるかと整備士、衛士内で賭けの対象になっていた。

割合はラトロワ6、イムヤ4でイムヤが少し負けていた。が、この口喧嘩、始まったからすでに2ヶ月も経っており、すでに賭け自体が自然消滅しているのではと噂されるくらいだった。

上官に絞られ、疲れた二人は自室に戻り寝る体勢に入っていた。

「ラトロワ」

「なに?」

「おやすみ」

「あぁ、おやすみ」

軽く言葉を交わし同じタイミングで意識を手放した。

戦場では口喧嘩ばかりで仲が悪いと思われている二人だが実は案外仲が良かったりする。



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stage04

現状、1500文字がいい感じに書ける。
もうちょっと長く書きたいけど勢いが削げないことを願いたい。


「…ろ。…きろ!起きろって言ってんだろうが!」

いきなりの怒声に目を覚ます。

「なんだ、お前か。久しぶりの快眠なんだ。もうちょい寝かせてくれ」

寝起きで意識が覚醒しきれてない状態でも誰かを確認することは出来た。

「あぁ。イイぜ。だが、あと1時間弱で模擬戦始まるぜ?」

「なに!?何故それを早く言わない!」

「お前がコックピットブロックでスヤスヤ寝てるもんだからな。起こすのが可哀想になってな」

「相変わらずの性悪だな、良佑」

「いつも誰かさんが機体を駄目にしかねなくてこっちはハラハラしてんでな。たまにはこういうのもありなんじゃないかってな」

コックピットブロックを上から覗く整備兵はケラケラと笑いながら返答を続けていた。

「しかし、お前がこっちに来てるとはな」

「壱型乙のことはテメェ以上に知ってからな。来ていて当然だぜ?」

コックピットブロックから這い出てきたイムヤにミネラルウォーターを投げ渡し、横に並ぶ。

 仲真良佑

彼はイムヤが日帝に来てからの付き合いで壱型丙の整備にも関わっていた為、壱型乙の整備主任に任命されたりと何かと縁があった。

彼の存在がイムヤのストッパーでもあり、時に特攻するギアにもなったりする。

「不知火の状況は?」

「完璧。IGNISとの同調も最高。あとはテメェ次第だな」

「すまないな。なにからにまで「アホくせえこと言ってんじゃねぇよ。いつもみたいにバカやってるほうがテメェにはあってる」

良佑はイムヤの性格を知っているし、イムヤもまた良佑の性格を知っている。変に返そうとすれば遮って適当に返される。

だがそれが二人にとっては気持ちを落ち着かせることになっていたりする。

「…三人の機体は?」

「MiG-29 ラーストチカ。

今後、MiG-29OVT フルクラムに改修される予定だ」

不知火の横に並ぶ白い3機。

「帝国の武御雷以上の全身武装か。どんだけチェーンソー好きなんだよ、この国は」

両前腕部に搭載しているモーターブレードだけでなく、脚部にも大型モーターブレードが搭載されている。普段は装甲によって隠されているが展開すればその姿を見せる。

「そりゃ日帝宜しく自国にハイブを抱えってからな。ハイブ攻略するんなら小型種を殲滅にはもってこいだな」

「そうか。不知火に「やめておけ。それにお前、ビェールクトの踵部モーターブレードも狙ってんだろ。これ以上ナイフ付けてどうする?加速系全身ナイフ、通り魔か殺人鬼にするつもりか?」

「…」

イムヤは何も言えなかった。いや、言わなかったのが正解かもしれない。脚部大型モーターブレードは予定には入っていない。これ以上無利は言えそうにないと自分で理解したのかもしれない。

「ミーティング兼ブリーフィングに行ってくる。最後の確認頼んだぞ」

「了解、任された」

イムヤが動き出すと良佑はすぐさま不知火の整備の指揮をとった。

 

ミーティングとブリーフィングを軽く済ませ、黒い衛士強化装備を身に纏い、自機のコックピットブロックに乗り込み、機体を起動させる。網膜に外の状況が投影され、いつの間にか来ていた良佑が目の前に立っていた。

「準備はいいか?」

インカムから彼の声が聞こえる。

「問題ない、機体も最高潮だ。流石だな、良佑」

機体の各部をチェックしながら返事を返す。

「出るぞ。退いてくれ」

「解った」

ハンガーの扉が開き、黒い機体と白い機体が3機、移動を開始する。

カタパルトにのり、主機をあげ、いつでも飛び立てる状態にする。

すると通信が入った。通信の相手は良佑だった。

「行ってこい!盛大にやってやれ!」

彼から来たのは激励の言葉だった。

あの時と同じ言葉なのがイムヤにとっては嬉しかった。

「不知火・壱型乙、イムヤ、出るぞ!」

高らかに宣言し、黒い機体が空を駆けた。

 

 

 

 

 




やっと戦闘シーンに入れそう。戦闘描写うまくできたらいいな


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stage05

戦闘描写難しい。


(模擬戦とはいえ、心が踊るのはいつぶりだろうな。…帝都防衛戦の時か?…違うな。あのときも悪くはなかったが。もっと古い、…そうか、アイツと共に戦ったあの時か)

心を踊らせる高揚感に懐かしさを感じ、記憶を手繰る。結果として出てきたのは二人だけで死線をくぐった記憶だった。

(だが、今は目の前に集中しろ。じゃねぇと負けちまうからな)

音響欺瞞筒(ノイズメーカー)を張りながら移動し、敵機の位置を探る。数はこっちが不利なのでせめて初手は頂きたい。

ビル街の十字路を超えた途端、警報(アラート)が鳴り響いた。

真正面から噴射滑走で突っ込んでくる機体が単騎、モーターブレードを展開し切り込んでくる。

ナイフシースを展開し、マニピュレータがナイフを掴む。すぐさま切り返し、モーターブレードと応戦する。

「やはり、クラリッサか!」

『奇襲のつもりだったんだけどね、やるね!大尉』

鍔迫り合いを外し、すぐさま後方に距離を取る。

直碁、先程まで自機がいた場所に三点、ペイント弾がついていた。

「アブねぇな。アレクサ!初手で終わらせたらつまらねえだろうが」

高層ビルの隙間から銃口が覗いていた。

『そうだよ!姉さん。やっと噛みごたえのある相手なんだよ。もっと楽しまなきゃ!』

二発、三発と撃たれる弾を蛇行して回避しながら距離を取ろうにもクラリッサがそれを許してはくれない。

背部兵装担架(ブレードマウント)から長刀を取ろうに距離が足りない。

仕方なく応戦しようとすると側面から警報が鳴り響いた。

ビルが散立する中を巧く狙ってくる。アレクサ程の精密さはないが並の衛士ならば被弾は免れない。

「メリッサか。良いコンビネーションだよ。こんちくしょう!」

三人のコンビネーションは確かに凄い。この短時間でそれを実感した。

だが、いやだからこそ

「こんなところで負けられねぇんだ!そうじゃなきゃ先に逝ったアイツ等に顔みせ出来ねえ!」

機体を垂直軸反転させ、そのまま噴射滑走。

直前の高層ビルにぶつかりそうな勢いで突撃。反転全力噴射。ビルを蹴りそのまま加速。狙撃など気にしない。狙うは目の前の機体のみ。背部兵装担架が展開され、右手マニピュレータが長刀の柄を掴む。ボルトが爆発し長刀を刺突の姿勢に構える。

「IGNIS!最大噴射(オーバーブースト)!」

跳躍(ジャンプ)ユニットを後方に展開させ、いままでの比ではない爆発力による突撃。

既存のデータ以上の速度を叩き出す。

『ちょっ!嘘でしょ!?』

おそらく、相手も同じ考えだったのだろう。

壱型乙のデータは未だない。だから壱型丙のデータで戦いに挑んだ。それなら誤差は必ず出てくる。

だが、壱型丙と壱型乙は全くの別物になっている為、壱型丙のデータでは無意味なのだ。

 

後方に離脱しようにも既に距離を縮められ、離脱できそうもないので素早く迎撃に転ろうとしたが相手は意外な行動に出た。

『ダラッシャアァァァ!!』

刺突と加速で浮いた右脚を地面に付け、訓練用長刀を投擲したのだ。

加速された長刀は勢いそのままに真っ直ぐ自機に飛んできた。

「!」

避けられない。直感でそう感じた。

長刀はコックピットブロック上部にぶつかり、後方に飛んだ。

『スコーレスト3、コックピットブロックに被弾。撃墜判定です』

システムが強制終了し、網膜センサーはなにも映さなくなった。

「…」

想定外。

そうとしか言えなかった。訓練用長刀を投げるとか、ビルを蹴って加速するとか、並の衛士なら絶対にしないことを彼はやった。

イカれてる。自分達の隊長はとんでもないイカれ者と彼女は確信した。

 

「まずは1機!」

地面に付いた右脚だけで跳躍して長刀を回収。実行しようとしたが跳躍ユニットが白い煙を吐いた。

「チッ!時間はまだだろ!冷却システムの自動発動までまだ8秒もあるはずだ!」

跳躍ユニットの火が消え、次が来る前にビル街に姿を隠す。

突撃砲もナイフも長刀を回収できていない。あるのは背部兵装担架(ガンマウント)に搭載されている突撃砲一門のみ。2機あいてには心許無さすぎる。跳躍ユニットも冷却中の今、動けば良い的になる。それだけは避けたい。

残りの二人がどう動くかが戦況の鍵になっていた。

 

アレクサは迷っていた。

前衛のクラリッサが撃墜され、予定が狂った。それだけならまだやれたかもしれない。

だが、あの機体になにが隠されているかと考えるとこれ以上戦うのは無理だと考えた。

後方に白い機体が到着する。

『お姉ちゃん、どうするの?』

「…」

これ以上戦う理由はない。いっそこのまま降伏信号を挙げて終わらせてもいい、メリッサがこの話に乗ればだが。

「どうしようかしら?メリッサ。これ以上は…」

アレクサは言葉に詰まった。長女である自分が1番に諦めるなどと、あってはならない。

「私が前衛を務める。メリッサは『お姉ちゃん、接近戦下手くそじゃん。私がやるよ』

「結構気にしているのよ?言わないでちょうだい」

『私が誘い出すから、仕留めてね。じゃないとクラリッサお姉ちゃんに怒られるよ?』

通信が終わり、ラーストチカが移動を開始した。

(ごめんなさい、こんな不甲斐ない姉で)

アレクサは心の中で二人に謝った。

再び、ライフルのスコープを覗き目標を狙い定めた。

 

(跳躍ユニット、再始動まであと15秒。なにもなけりゃ問題ないんだが)

嫌な考えは当たるのが常である。機体の警報が、うるさく鳴り響く。

ビルを背にしているため、後方からはない。側面にもビルが散立しているため狙えるはずがない。正面にも敵影なし。なら

「上か!」

すぐさま機体を跳ばし元いた場所から距離をとる。途端、先程いた場所が青く染まっていた。ビルを盾にしつつ、回避行動をとる。

(残り5秒)

たった5秒のはずなのに異様に長く感じる。

うまく誘われているように感じるが気にしてもいられない。

回避行動を続け、跳躍ユニットが再始動する。うまく迎撃しているつもりだが当たりそうにない。

目の前に2丁の突撃砲が見える。

罠にしか見えないが現状、取らなければいけなかった。そうしなければ勝つのは不可能だった。

後方のラーストチカを迎撃しつつ、突撃砲の直前まで到達した。

「こなくそ!」

直前で着地し、サマーソルトの要領で突撃砲を蹴り上げた。

『『!!!』』

勢いで空に上がり、副腕(サブアーム)の自動射撃で向かってきたラーストチカを撃墜する。空中で2丁をキャッチし、狙いを定める。

バン!

2機の撃ち合いは壱型乙の右腕を青く染め、ラーストチカの胸部を赤く染めた。

『スコーレスト2、胸部被弾。4、上半身被弾。両機撃墜判定。スコーレスト1、右腕部被弾。判定小破。スコーレスト1の勝利です』

1時間半に渡る模擬戦はイムヤの勝利に軍配が上がった。




手元に柴犬とTEの小説があればうまく書けるんだろうなと思うこのごろ。こんな調子で大丈夫かな?


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stage06

勢いに任せて書き抜けるのみ!


模擬戦が終わり、4機がハンガーに帰投し、各個のコックピットブロックから出てきた途端、それは始まった。

「良佑!テメェ、最大噴射(オーバーブースト)の設定時間弄りやがったな!」

「バカ野郎!AH戦で使うバカがどこにいる!使うたび、分解整備(オーバーホール)行うこっちの身にもなりやがれ!」

「元々あれは光線(レーザー)級用に作ったのは事実だ。それは俺が一番知っている。だがな!設定時間弄ってここぞって時につかえなかったら意味ねぇだろうが!」

衛士の3人はいきなりのことに立ち尽くしていたが、不知火の整備士達はまた始まったと言って気にせずに作業に取り掛かった。お互いに殴りかかりそうな勢いで口論するものだからハンガー内に響いていた。

「あ、あの隊長?喧嘩はやめてください」

アレクサが二人の口論に口を挟んだ途端何事も無かったような調子に戻っていた。

「おう!3人共、おつかれさん。すげぇコンビネーションだったがちと相手が悪かったな」

「ちゃんと互いのポジションを理解できてたしな。単独行動ばっかのこいつと違って」

二人の調子が豹変するものだから3人はなおさら慌てた。

「あの、隊長?」

「どうした?」

「さっきのは?」

「ああ、いつものこった。本音のぶつけ合いよ。衛士と整備士は一蓮托生だからな」

「は、はぁ」

イマイチ理解できてないアレクサを避けてクラリッサが口を出した。

「ねぇ、隊長?この機体、なんなの?」

クラリッサは不知火の方を向いて質問した。

「こいつか?こいつは不知火・壱型乙。壱型丙をベースにしてはいるが中身は全くの別モンさ。ま、稼動時間は引き継いでるがな」

ケラケラ笑いながら淡々と答えていく。

「最大噴射ってなんですか?」

メリッサが質問する。それに良佑が答える。

「最大噴射ってのは跳躍ユニットの設定限界を無理矢理引き出すやつでな。壱型乙に搭載されているOS【IGNIS】じゃねぇと使えねぇし、衛士にかかるGもすげぇから基本的に使えねぇ。おまけに跳躍ユニットが暴発しかねねぇからおすすめはせん」

「では、壱型乙のデータは?」

「「無いな」」

二人同時に答えた。

「それってどういうことですか?」

「デブリで一緒に教えてやるよ。とっとと行くぞ?」

イムヤは一人早足にブリーフィングルームへと足を進めた。それに三姉妹が続いた。

4人の姿が見えなくなったと同時に良佑は声を上げ指揮した。

「壱型乙の跳躍ユニットを分解整備するぞ。それと両腕部のナイフシースをモーターブレードに換装するぞ」

その言葉に整備士達が応と答えた。

 

デブリーフィングが終わり、適当に壱型乙について説明する。適当ではあるが嘘は言ってない。

「さてと、ちと早いが来週に極東ソビエト戦線での国連合同運用試験第一次派遣部隊に任命され、ってめんどくせぇな。わかりやすく言や、実践試験だな。護衛にジャール大隊が付くが…

まぁ、迷惑かけることはねぇだろ」

そう言うイムヤが苦い顔をしていたが3人にバレない内に表情をもとに戻す。

「隊長?どうしたんですか?」

メリッサが表情の変化に気づいたらしく、心配してくる。

「なんでもねぇよ。昔の戦友に会うかもなぁって、考えてただけだ」

「そうなんですか。会えるといいですね」

メリッサの屈託のない笑顔がイムヤには眩しかった。

「まぁ、一週間は機体の換装やらなんやらでシミュレーションくらいしか出来ねぇだろうが体調管理はしっかりしろよ。あっちについて出れませんとか笑い話にもなりはしねぇぞ?」

「「「了解しました」」」

3人が同時に答える。それを聞いてイムヤは早足にブリーフィングルームを出る。

 

他のことには目もくれずひたすらに自室に急いだイムヤはベッドに倒れ込んだ。

(久々とはいえ一回の最大噴射でここまでくるとはな。流石に無理は出来ねえか)

体の疲労が睡魔と共に体にのしかかってきた。その重圧に身を任せるようにイムヤは意識を手放した。

 

 

 




次回は過去編でいいかなって感じです。
誤字脱字、意見、アドバイスお願いします。


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stage07

過去編はちょくちょくはさんでいきたいとおもってます。



二人の出会いは最悪と言ってよかった。

「そこの戦術機の衛士、無事か?無事なら返事しろ」

イムヤは試作機(F-14)で長距離移動及びロクな武装無しでBETAの迎撃に

『…貴様、ドコの部隊のものだ?』

ラトロワは整備のままならない機体(MiG-27)でBETAの迎撃に。

そしてお互いに話のキャッチボールをしない点で最悪だっのかもしれない。

「そんなスクラップ寸前の機体で何ができる?とっとと乗り移れ。こっから離れるぞ」

『余計なお世話だ。逃げたければ逃げればいい。私にはまだやるべきことがある』

「…勝手に死んでくれて結構だ。だがな、俺はこれ以上誰かが目の前で死ぬのはゴメンでな。共闘戦線張ろうぜ?」

『なに…!?』

「BETAを叩くって言ってんだよ。まぁ、推進剤も弾薬も心許無ぇから、よくて10分しか出来ねぇけどな」

片手片脚を失ったラトロワの機体を立ち上がらせ、BETAに銃口を向ける。

「推進剤と弾薬量いくらだ?」

『…推進剤は残り6割、弾薬は3割と言ったところだ』

「そうか。…じゃあ、脚になってくれねぇか?」

『は…?』

いきなりの言葉に理解出来なかった。いや、理解はしたのだろう。だが見知らぬ相手に、自身の移動手段になれと言うバカがいることに理解が追いつかなかったのだろう。

「なんだよ…。こっちは長距離移動で推進剤は残り2割切ってんだ。雑魚相手ならどうにかなるが突撃級がいるんじゃ話になんねぇよ」

この言葉でやっと整理が付いた。支援部隊が単機で来るはずがない。試験小隊の考えもあったがそれでも長距離移動をする理由がない。

『…貴様、西側からの亡命者か』

「さぁな。俺はコイツを届けろとしか言われてねぇからな」

返ってきた返事は亡命することをはぐらかすような言い様だった。

「そのことはあとでいいだろ?まずは二人が生き残ることだけを考えとけ」

亡命の話をはやく終わらせたいような言い方で目の前のことに集中させる。

BETAとの距離は残り200メートルを切っていた。

「頼むぜ?」

『ふん…』

この二人が支援部隊が到着する20分間を平然と耐えきったことは軍の中で少しの間有名な話になっていた。

 

夢から醒めると同時に意識が覚醒する。

(最近、アイツとの記憶を見ることが多くなったな、なんかの前兆じゃなければいいか)

彼女とは死線を幾多と超えてきた。互いに救い、救われ、喧嘩して、泣いて、笑って。

最後は彼女を逃して、BETAのど真ん中で自爆した。

結果として死に損なってはいるが。

それ以来、彼女とは会っていない。

だがそれはあくまで今の話。かつて未来でともに戦い、バケモノとの戦いで彼女を失った。

それがトリガーとなって過去に戻ってきたのかはわからないし、どうとも思わない。

ただ、もう一度だけ彼女を守ることが出来るだけと自分に理解させた。

そのための機体を今、開発している。今度は必ず守れるようにと。




この手の小説ってさ?まあ、青少年とかが主人公じゃん。
でもここの主人公は大隊の隊長と同い年だし、ある意味異色って感じが。
えっ?そんなものたくさんある?なら、構わず書いていこう。


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stage08

8話にしてまだ原作キャラと関わってないって結構問題じゃないかな?


一週間は短いものですぐに過ぎ去っていた。

この一週間で変わったものは多く、3機のラーストチカの内、1機はフルクラムに改修されていた。接近戦を主とするクラリッサの機体で間違いはない。残った2機も各部改修が施され、単に見ただけならラーストチカとわかるものは少ない。

それをすべてこなした整備士もある意味化物かもしれない。

壱型乙はそこまで変わらず、ナイフシースがモーターブレードに変わった程度だった。

 

国連合同運用試験第一次派遣のため、移動している中、3人は良佑から各機の細かい点の説明を受けていた。

「これがこうで…、あれがそれで…」

良佑の説明は熱を帯びると長くなるので説明を受けていたクラリッサは死にそうな顔をしていた。

(このまま何事もなくつけばいいが…)

甘い考えはこの時代、邪魔なものでしかない。BETAの動きは予測できないため、出撃して5分足らずで落される者も多くはない。

考え事をしていると艦内で警報が鳴り響いた。

「スコーレスト小隊!各員ハンガー集合、出るぞ!」

4人が一斉に走り出す。

死にそうなクラリッサの顔がすぐさま、笑顔に変わっていたことは見なかったことにした。

「全機、いつでも出れるか?」

全員が乗り込み、出撃準備に移る。

『スコーレスト2、問題ありません』

『スコーレスト3、いつでも』

『スコーレスト4、いけます!』

それぞれからの返答が来る。

「CP、こちらスコーレスト小隊。とっとと出るぞ、情報寄越せ!整備班、退避しろ」

4機が甲板に出ると同時に跳躍ユニットに火を入れ、翔び立った。

『こちらCP。スコーレスト小隊、現在ドゥーマ小隊と護衛のジャール大隊がBETAの掃討にあっている模様。ですがドゥーマ小隊の方が…』

「そんだけわかりゃ十分。スコーレスト2、3、4はドゥーマ小隊の撤退支援。終わり次第、BETAの掃討に移れ。俺はこのままBETAを叩く」

『『『了解!』』』

1機と3機に別れ、各個の位置に移動する。

 

「いやがっな。クソ野郎ども」

A-97突撃砲2門が火を吹き、小型種を吹き飛ばしていく。

「!」

BETAの群団の中に単機、片腕で近接戦闘を行う機体(Su-27)を見つけた。

すぐさま跳躍し、襟元を掴み、BETAと距離を取る。

『誰だ、あんた?』

「そんなことはあとでいい。いい戦い方をしているな、ボウズ。だが片腕で近接戦闘をするのは無謀に等しいぞ」

『五月蝿い!試験小隊がいなければ問題はなかった!』

「そうか。じゃあ詫びとして俺なりの近接戦闘を見せてやろう」

突撃砲を離し、背部兵装担架が展開、74式近接戦闘長刀を2刀、掴む。

ボルトが炸裂し、振り下ろされる。

「よく見ておけ」

『えっ…』

跳躍ユニットを吹かしBETAの群団に突っ込む。

一刀を要撃級の感覚器に突き立て、勢いで小型種を薙ぎ払う。長刀を手放し、モーターブレードを展開、側面から突撃級の肉体を切り裂く。次々と突撃級を撃破し、距離を取る。

シュラーブリクの横に戻り、突撃砲を拾い上げる。

「突撃級がいなけりゃいい的だからな」

突撃砲が火を吹き、BETA群に穴を開けていく。

戦況のマーカーが少しづつ減り、残り2割を切ったとこで突撃砲が動きを止めた。

「弾切れか。まぁ、いいか」

すぐさま投げ捨て長刀を引き抜きに行く。抜いた力を利用し回転、薙ぎ払う。

続けざまに手短な奴から切り裂き、撃墜スコアを稼いでいく。

「コイツでラスト!」

最後の要撃級に2刀を付きたて、その場のBETAを殲滅した。この間、20分足らずで300超えのBETAを撃破した。

シュラーブリクのもとまで戻り

「ジャール大隊の衛士か?」

『そうだけど、それがどうした?』

「なに、フィカーツィア・ラトロワがいれば伝えてほしいことがあるだけだ」

『あんた、なんで中佐の名前を?』

「ラトロワから聞けばいい。伝えてほしいことは一つだ。

第168独立機動隊はまだ沈んじゃいない」

『あんた、何を言って…』

変に深堀されるのも嫌なので即興に翔び立った。なにか言っているようだが通信をこっちから切ったので聞こえていない。

「ハァ、どうしたもんかね」

一応、アレで伝わるとは思うが彼女に会うのは気が引けてしょうがない。あの時から10数年、連絡を一切取らなかったのも自分勝手な理由だった。

帰還したときには既に3機とも帰ってきていた。

『お疲れ様です。大尉』

「ああ、お疲れさん」

『こちらは…』

「先に機体格納を優先しろ。報告はいつでもできる」

『り、了解しました』

少しばかり強い口調で言ってしまったのが仇となったか、怯えたような返答だった。

(悪かったな、いまのは)

少し後悔しつつも機体を動かし、ハンガー内に入って行った。

ペトロパブロフスク・カムチャツキーまであと少しの距離まで迫っていた。

 

一方、その頃イムヤに救われ、無事に部隊に帰還した衛士は上官にこのことをすべて話した。

「まずは無事に帰ってきてくれてありがとう」

「い、いえ。自分はあの機体が来なければここにはいませんから」

「そう謙遜するな。初陣を過ぎてもまだ数回の実践で殿を務めるなどそう出来るモノではない。よく頑張った」

「ありがとうございます、中佐」

「報告は以上だな。下がって休むといい」

「はい、失礼します」

少年は上官に敬礼し、部屋を出ていった。

上官は背もたれに持たれながら空を見上げた。

「バカ者が。生きているのならもっと早く連絡すればいいものを」

彼女はかつての戦友を思いながら1人愚痴った。

 

 

 

 




次回で関われたらいいな


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stage 09

本作の主人公とヒロインのお話。



ペトロパブロフスク・カムチャツキー基地に到着し、機体が搬入されている中、イムヤは1人、人気(ひとけ)の少ない路地裏に足を運んでいた。

当人は無意識のうちに来ていたが、くる理由は心当たりがあった。

「…」

路地裏の真ん中で1人立ち尽くしていると

「久しぶりだな、同志大尉」

懐かしさを感じる口調で懐かしい声が聴こえたが振り向くことはできなかった。

「懐かしいな、同志中佐」

わざとっぽく返してみるが返ってきたのは相手からの苦笑だった。

「らしくないことはするものじゃないぞ?イムヤ」

「あぁ、やって後悔してるよ。ラトロワ中佐」

素っ気なく返したがかつての戦友(とも)に顔見せ出来てない自身が嫌になってくる。

「どうした?昔みたいにラトロワと呼んでくれて構わないが?」

「死人に言うセリフじゃねぇよ。分かってんだろ?」

カッコつけて言っているがこのままだといつダメになってしまうか、わからなかった。

コツコツと相手が近づいてくるのに、こっちからは向き合えない、向き合ってはいけない気がしたのだ。

「…顔を見せてくれないか?イムヤ」

「そりゃ、無理な要件だ」

「…そうか。それなら…」

両肩を掴まれ、180度反転させられた。

「…ダメじゃないか。大の大人がそんな顔をしていては」

イムヤの顔は涙やなんやでグシャグシャになっていた。

「こんな顔で向き合えるわけねぇだろ。ちったぁ、気ぃ使ってくれよ」

「悪かったな、だがお前に会えると思って気が早まってしまったよ」

「バカ野郎。オレだってなぁ」

二人はこれ以上なにも言わず、抱き合った。

「…生きていてくれてありがとう」

「すまなかった」

互いに一言だけ呟き、お互いの温もりを全身で感じる。

角の陰に隠れながらこちらを覗いている視線に気づきながら。

感傷に浸るのをそこまでにし、二人の顔が引き締まる。

(後方に3人、わかっているな)

(わかっているよ、いつものやつだな)

(それでいい。タイミングは私に合わせろ)

お互いの耳元で囁き、タイミングを図る。

ラトロワが左手を外すと同時に二人は別れ、駆け出した。

基地内の路地裏は異様に入り組んでいて熟知しているものでも迷いかねないのを二人は淡々と移動していく。

(3人の内、1人はラトロワを追ったか。まぁ、おおかたあいつの部下だろうな)

イムヤはダクトや鉄パイプを足場に、屋上まで上がった。

(ラトロワは問題ねぇだろうし、興醒めしちまったし、帰るか)

屋上の扉に手をかけると内側から開かれた。

開かれた扉の前に立っていたのはさっき別れたはずの彼女だった。

「相変わらず、速ぇよ」

「もう少しだけお前といたかったからな」

屋上の扉を閉め、少し離れたところに座り込む。太腿を軽くたたき、こちらに来いと催促してくる。

イムヤは顔を赤らめながら催促に従った。

屋上に寝そべり頭を太ももにのせる。

俗に言う膝枕と言うやつだった。

「お前はこれが好きだったな」

ラトロワはイムヤの髪を撫でながら微笑んでいた。

「よく覚えているな、何年前だと思っている?」

「18年前だがどうした」

「やっぱ記憶力じゃ頭が上がらねぇや」

「当たり前だろう、初恋の相手のことだぞ」

「初恋の相手が俺とはな。運がわるいとしか言えないな」

「死にかけてるところを何度も救われたら嫌でも好きになるさ」

「そういうもんかね」

「そういうものさ」

互いに向き合い、かつての記憶を辿りながら思い出に浸る。

不意に唇と唇が触れ合う。

「…お前なぁ」

「別に互いにファーストキスをあげた仲だろう。今更じゃないか」

「そういやそうだったな。最初は互いに片思いと勘違いしてたし」

お互いに戦うことを生業としていたため、恋愛なんてモノは眼中になかった。

それに相手を恋愛対象と考えず、背中を預けられる好敵手(ライバル)兼相棒と思っていた。

こういう関係になったのは酒の席だったりするが18年経った今でも少し初心(ウブ)なトコロが残ってたりする。

「それでこれからどうするつもりだ?」

「今日は暇だしな。このままでもいいが…お前はそうもいかんだろ?」

「察するのだけは昔と変わらずか、昔ほど口煩くないが」

「上官に文句が言えるんだったら言うさ。問題にならなけりゃあな」

よっこいしょと上半身を起こし、身体を伸ばす。

「ありがとな。俺に覚悟を決めさせてくれて」

「今度は何をする気だ?前みたいなことはよしてくれ」

「あん時とは逆だ、生きるために覚悟を決めたのさ。今度こそちゃんと守ってやるよ」

「そうか。それならいい」

ふたりが立ち上がり、背中合わせで空を見上げる。

「死ぬんじゃねえぞ」

「貴様もな。私の未来の旦那様♪」

イムヤは盛大に吹き出した。想定外のセリフにシリアスな雰囲気がぶち壊しである。

「…冗談はよしてくれ。雰囲気ぶち壊しだ」

「本気のつもりだが?貴様が相手なら文句はない」

「あぁ。ホント、俺にはもったいねえ最高の女だよ」

互いの拳をぶつける。昔からの出撃前の願掛けみたいなものだった。

「死ねない理由がまた増えたな…」

「もっと自分を大切にしろ。必要以上の自己犠牲は身を滅ぼすぞ?」

「知ってるさ。身の丈に合わないことは出来るだけしないことにしてる」

「それでいい」

言葉を交わし、お互いの本分に戻って行った。




オリ設として中佐は未婚です。
タグにヒロインはラトロワってつけるべきか否か。
作者は、恋愛とかしたことないのでこういうのってどう書けばいいのかわかりません。アドバイス、意見お願いします。


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stage 10

なんやかんやの二ケタ到達。


ラトロワと別れ、自部隊のハンガーに戻ってきたイムヤは違和感を感じた。

本来4機のみの部隊なのに5機目が存在しているからである。

その違和感に対し、誰よりも早く駆けつけたのはいつものアイツだった。

「オッス。やっと来たか」

「…おまえ、あれは…」

「そうだな、Su-47 ビェールクトの試作機。プロトタイプって言っても間違いじゃねぇな」

「生産体制は整ってない、ロールアウト前の機体だろう、あれは」

「そうだな。ビェールクトはまだ生産体制は整ってない。だがこいつはロールアウトはされてんだよ。不具合のせいで使い物にならないやつを貰った」

「足は使えるか?」

「機体自体にゃ問題はなかった。OSとの相性が悪かったみたいでね、これから不知火に組み込むよ」

「そうか…」

イムヤは自分の想定より早い段階の状況に入り、自分の計画を少し考え直すことにした。

その沈黙に対し良佑は部隊で噂になっていることは聞きたくなった。

「それとよ。お前、この基地に女がいるんだってな」

「…(未来の)妻だよ」

「そうか、そうか。妻か。…妻!?奥さんいんの!?」

「ワリぃかよ。お前らより年喰いだからいったっておかしくはねぇだろ」

「…あんた年いくつ?」

「42」

「…奥さんは?」

「おそらく42」

「付き合ったのは19年くらい前」

「…あんた、あんな綺麗な奥さん、よく放置出来たな」

「アイツがそう簡単に男に靡くかよ。初めてあったときに右ストレート貰ったからな」

「もう、何も言わねえよ」

「そう言ってもらえると頼む。とっとと作業に移ってくれれねぇと不知火が使い物にならねぇからな」

作業に移ろうとした良佑が不意に口を開いた。

「…なぁ。不知火って言うのやめねぇか?」

「かまわねぇがどうしてだ?」

「コイツはもう不知火じゃねぇよ。不知火によく似た別の機体だ」

「そうだな。それじゃあ不知夜(いざよい)でどうだ?」

「十六夜じゃなくていいのか?」

「ああ。元は不知火だからな」

「そっか。それじゃ、コイツは今から不知夜だ」

良佑は納得したと同時に動き出し、不知夜の脚部の分解とビェールクトの完全分解整備を指揮し、行動を開始する。

1人のこったイムヤは自室に戻り、休息を始めるようにした。おそらく一週間以上は実践には参加できないだろうが、自部隊の整備班の腕をみてると一週間以内で終わらせてしまいそうな気がする。

イムヤはこの休息でまた夢を見ることになることを理解していた。この一週間、彼女(ラトロワ)との出会いを思い出すかのように夢を見ていたからである。



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stage11

盆休みに気だるくて休んでたらネタが思い浮かばなかった。orz
戦闘描写を書こうとするとネタが浮かんでくるから早く書きたいなぁ。



仮眠をとり、意識が覚醒するとともに身体を起こし、すぐさま着替える。国連の服は着にくいと言うよりも気に入らないので昔からの戦闘服に身を包む。米軍式ではなくソ連式なのは彼なりのこだわりと言うものはなく、単にラトロワから頂いたモノだったからだ。

いつものように着崩し、上衣は半袖に捲りあげる。

軽く身体を動かし、気合を入れ直す。

朝一のルーティンを完璧にこなし、自室を出る。いつものようにハンガーに向かおうとするが、考えてみれば現状実戦もシミュレーションも行えない為、することがない。

(さてと、どうしたものか)

ハンガー前の通路で立ち尽くしていると腹が鳴った。この基地についてからなにも口にしていないことを自身の身体から教えられた。

(ま、他の部隊がいりゃ、交流くらいはできるか)

目的ができたので早足に隊員食堂に向う。

合成食材はとっくの昔に食い慣れているから気が滅入ることもない。米軍のレーションに比べれば合成食材の方がよっぽどマシだったと思っているのは今も昔も変わらなかった。

 

適当に料理を選び、空いてる席を探す。

ほとんど人のいない席を選び、食事を始める。

(アラスカにいた部隊がほとんど来てるか。と言ってもほとんど関わってない。今んとこ、情報だけが頼りだな。それに俺の機体は改造を開始したばかり、初回の実戦は不参加になりそうだな)

食事の手を休め、ひたすらに考え事が迷走する。

(未完成の機体とOSでどこまでいけるか?総合評価プログラムのこともあるからな。対人戦も視野に入れて作り直すべきか?)

未来の記憶だけが頼りと言っても過言ではないがそれだけの情報が記憶として自身にある。それを頼りに今度は守ると決めたのだ。

一時的に考え事を辞め、食事を再開しようとしたとき、不意に背後から声をかけられた。

「お久しぶりです!イムヤ大尉」

「久しぶりだな、唯依孃。試験小隊のほうはどうした?」

「大尉!一応基地内ですのでその呼び方は…」

「悪かったな。自分の存在をどういうものか忘れてたよ」

唯依と呼ばれた少女はイムヤの隣に座り、質問に返答する。

「試験小隊は休憩中です。少し小腹が空いたので寄りました」

「そうか。しかし、あの唯依孃が中尉か。うかうかしてたら越されそうだ」

「だから大尉!その呼び方は…!」

「…説教はやめてくれ。周りの目が痛い」

「それは大尉のせいだと思います。ものすごい剣幕で考え事をなさってましたから」

「そこまで思い悩んでたわけじゃないんだがな」

「軽い考え事であのような顔にはならないと思います」

「それよりも篁中尉。不知火・弐型の方はどうなった?」

「…」

イムヤの質問に返ってきたのは沈黙だった。

理由は未来の記憶から理解していたがどこまでなっているのかは理解しておきたかった。

「原因は機体か?それとも衛士か?」

「…」

「その調子じゃ先は長そうだな。ところで話は変わるが帝国はどうしてる?」

「…大尉。その話はここではできませんので」

「それもそうだな。このあとなにもなければ話してもらえるか?」

「大丈夫です。大尉にも知っておいてほしいので」

食事を済ませ、二人で食堂を出る。

イムヤと唯依は互いの部隊を説明しながらイムヤの自室へと移動した。

「ここなら聞かれることはないだろ。それに聞かれたとしても帝国の人間が多いしな」

「心遣いありがとうございます。それでは…帝国は99式電磁投射砲を試験運用をこの期間に行います」

「そうか」

驚きはしなかった。こちらに来る前に噂は聞いていたし、記憶でもこの時期にあることはわかっていた。

「驚かないんですね」

「驚いてはいるさ、ただ顔に出にくいだけで。それに噂でも聞いていたしな」

「ですが…」

「不安か?あれが」

「不安がないと言えば嘘になります。シミュレーションでも不安な点はありましたし」

「ま、やってみなきゃわかんねぇよ。考えてるだけじゃ進まねぇしな」

「ですが!」

唯依が声を荒らげる。しかし、それを気にすることなくイムヤは続ける。

「中尉が不安な点は俺も理解している。だからといって深く考え込んでると結局破綻するからな。たまには肩の力を抜くのも需要だぜ?」

「…」

「ま、なんかあったらこっちも支援に回るし、大船に乗ったつもりでいろ」

「…ありがとうございます。大尉」

イムヤは唯依の頭を撫でながら微笑みかけた。戦友の忘れ形見である彼女はイムヤにとっても娘みたいなものであった。

「そ、それでは大尉。失礼します」

「おう。気をつけて帰れよ、お嬢」

手を払い、そそくさに退出しようとする唯依に手を振って応える。

すぐさま退出した唯依をあとにイムヤはベッドに寝転がる。

「ホント、大丈夫かね。あの二人」

ある兄妹を思いながら、1人愚痴のようにボヤいた。




2時間で即興で考えたため、いろいろと間違ってる点があると思います。誤字、脱字、アドバイスお願いします。


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stage12

前回から時間がたってしまいました。
忙しい毎日の隙間で考えているので気長にお待ちください


これで何度目だろうか。

うちのメカニック達は化け物だと思ったのは。

目の前にそびえ立つ黒い戦術機【不知夜】を見ながらそう考えた。

不知夜の組み立て開始から一週間で完成まで行ったメカニック達に頭が上がりそうにない。開発主任の良佑が隈を作りながらも報告に来たときは驚いた。

 

『機体は完成した。資料は管制ユニットに入れてるから読んどけ。俺は寝る』

 

フルクラムの時は徹夜無しで4、5日で組み上げたらしく、不知夜に至っては徹夜で5、6日で組み上げた尊敬よりも畏怖の念が出かねないが彼らがいなければこの機体は組み上がらなかった。そこに関しては純粋に尊敬する。

管制ユニットに乗り込み、機体の各部調整に目を通す。が、新しい機体は動かさなければ不具合等は見つけられない。

「CP、シミュレーション最高難易度のハイヴで頼むぜ」

インカムからコマンドポストに連絡する。

戦闘服を脱ぎ、専用の強化装甲が姿を現す。

網膜にイメージが投射され、ハイヴの内部が視界に映る。

「不知夜、出るぜ!」

跳躍ユニットを吹かし、BETAの群がるハイヴを駆け出した。

 

CPに出入りしていた3人はその映像に度肝を抜かした。

黒い機体がハイヴ内を単機、疾走していく。

BETAにはあまり目もくれず、地面や壁を蹴り、加速していく。進路にBETAがいたときのみ、突撃砲か踵部モーターブレードで一閃する。それでも一瞬の出来事なので機体速度はぐんぐん上がっていく。

「…あれが大尉の新しい機体」

アレクサがポツリとこぼした一言にはいろんな感情が混ざっていた。

かつて自分達と戦い、今はともに戦った機体の後継機は前機よりも厳つくなり、見た目もTSF-94というよりかはSu-37やSu-47よりになっていた。

そんな機体が現在ハイヴを駆けている。チェックポイントを颯爽と駆け抜け、その度に機体が速度を増していく。

「大尉、楽しんでるね。そう思わない?姉さん」

クラリッサがモニターを見つめながら質問してくる。

「そうね。まるで新しい玩具を貰った子供みたい」

そう言ってみたものの、今後彼に自分達が追いつけるかどうか、そんな不安がアレクサの中を駆け巡っていた。

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。大尉さん優しいもの」

アレクサの不安に答えるかのようにメリッサが呟く。

「悩んでる私がバカみたいね」

吹っ切れたアレクサが呟くと同時に新記録を叩き出したシミュレーションが終了した。

 

「ふぅ」

管制ユニットの中で溜め込んだ空気を吐き出すように息をはいた。

機体状況は良好。むしろ、まだまだ回せる感じがあった。

新たに新設された肩部装甲ブロックのスーパーカーボン製ブレードベーンや頭部のセンサーマストも増設され、機体的に見ればチェルミナートルの上半身とビェールクトの下半身を合わせたような機体に仕上がっていた。それと同時に壱型乙で使用していた大型跳躍ユニットを廃止し、従来のサイズに変更していたが、中身は大型とほとんど変わらないため、今までのように機体が自分の思うように動いてくれた。

以前、注文した脚部大型モーターブレードの代わりに脚部ブレードベーンがついているため文字通りの全身凶器の戦術機が組み上がった。

「最高だぜ、コイツは。俺が考えた以上の機体だ!コレならやれるな。IGNISの最終装置が!」



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stage13

小説版のTEとゲームを少ない時間でやってたらこんなに過ぎていました。
待っていてくれた人がいるのならすいませんでした!


「ジャール大隊を預かるフィカーツィア・ラトロワ中佐だ。演習期間中、諸君らを護衛させていただく。たっぷりと地獄を満喫していくがいい」

イムヤは教場の真ん中で簡単な自己紹介をする彼女に口元を隠しながらほくそ笑んでいたが、目は笑っていなかった。

ソ連もハイヴを抱えており前線であることには違いなく、光線級が確認されていないことだけが演習にもってこいのこの場所ではあったがそれがいつ覆されるかわからないため、イムヤはあまり気乗りではなかった。

特にBETAに攻め込まれた場合、一番槍を任されるのは彼女の部隊で、ほとんどが少年兵であるため、年喰いの自分が守られるというのも気に入らなかった。

そんなことを尻目にラトロワは背後の大型スクリーンモニターをレーザーポインタで指し示し、なんの前触れもなく本題に入った。

「これが諸君らの実験場となる戦域だ」

カムチャツカ半島の概略地図と部隊配置、大まかな戦域区分けが書かれていた。がスコーレスト小隊の部隊配置だけが書かれていなかった。

(大尉、我々だけ省かれているようですが)

(元々、ここに来る予定がなかったからな。だからズレが生じたんだろう)

アレクサの耳打ちに独り言のように応える。

「諸君らは実に運が良い。幸いにもカムチャツカは今、周期的な大規模侵攻頻発期に入っている。実戦形式の試験はやりたい放題、というわけだ」

ラトロワの口調が変化したのと同時にイムヤの目つきも変わる。今までののうのうとした雰囲気から即座に衛士としての雰囲気に切り替わる。

「では次に作戦の概要に移る。第一段階は水上艦による爆雷攻撃だ」

ラトロワの背景が変わる。

「第二段階では上陸地点に対し、海上艦艇、地上支援砲撃部隊、航空爆撃による面制圧を行う。この海岸線を第一防衛ラインとする」

イムヤはカムチャツカの戦線が現在でも保たれている最大の要因を即座に理解したが光線級と幾多と戦ってきた彼にとってはそこまで重要ではないと判断された。

「第三段階はそれをかいくぐった敵個体を機甲部隊と戦闘ヘリ部隊の直接打撃にて駆逐する。この時の機甲部隊初期配置位置を結んだ線を、第二防衛ラインとする」

作戦地形図の海岸線から約10キロメートル内陸に赤いラインが引かれ、点滅した。

「そして第四段階。万が一混戦になればいよいよ戦術機部隊の出番となる。この時の初期配置位置が第三防衛線だ。ここまではセオリー通りだが…振動探知など、総合的に残敵が一定数を下回ったと判断された段階で大規模のBETA群を第二防衛ラインまで引き込む。諸君らはそれを使って存分に実験するといい。…」

(子供でも出来る簡単な任務だな。まぁ、セオリー通りにいかないのがBETAだからな。警戒は厳にしておくか)

おそらく彼女も同じことを考えているだろうとイムヤは思った。

「それと、スコーレスト小隊。貴官らの戦域区分けをしておきたいのだが…どこがいい?」

「そうですね。我が小隊は近接戦闘を主として部隊が成り立っているので、アルゴス小隊とイーダル小隊の間くらいに配置してもらえるとありがたいですね」

不似合いな敬語を使いながら淡々と答えていくイムヤ。おそらく長い付き合いの彼女からしてみれば笑いのネタにはなるだろうが他の小隊の前ではそんなことはなく、表情を変えずにスクリーンにマーカーを配置する。

「この辺りでいいか?」

「はい。問題ありません」

軽いやり取りが終わり、ラトロワは各小隊を睨むように見た。

「では最後に我々が貴様らに望むのは、第一次派遣部隊におけるドゥーマ小隊の轍を踏まないよう、注意する事だけだ」

演壇を降りたラトロワにサンダークが慌てて敬礼の号令を掛けると、ラトロワはそれを制して退場した。

 

他の小隊が退出した教場でスコーレスト小隊はミーティング兼ブリーフィングを行っていた。

「ドゥーマ小隊ね…。どうなったんだっけ?アレ」

「開発衛士全員が戦争神経症になったので更迭されたとききましたが?」

「神経症ってこたぁ、実戦経験無しの衛士を使ってたのか。そりゃ、なって当然だな」

「大尉。戦域区分けの配置に何か意味があるの?」

「アルゴス小隊は不知火・弐型(94セカンド)による長距離砲撃、イーダル小隊はSu-37UB(チェルミナートル)による接近戦闘が主体となる。俺たちは俺とクラリッサの近接戦、アレクサの長距離射撃、メリッサはアレクサの支援。まぁ、2つの小隊のやることを同時にする。中間にいればスコアは稼げるさ」

「はいはーい。大尉さんはその情報をどこで手に入れたんですか?」

「昔のツテ」

3人の質問にトントン拍子で答えていく。

「さて、こんなところだな。実戦試験は明日だ、今日は無理せず休むように。以上」

イムヤの一言でブリーフィングは終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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stage14

『大尉、作戦開始まであと3分です』

「……」

『大尉?』

「…ん。分かった」

あくびを噛み殺しながら体を揺らし、意識をはっきりとさせる。

管制ユニットは狭いがそれでも体を動かす程度のことは出来る。

『大尉は良く寝ていらっしゃいますね』

「年かもな。足手まといになる前に引退したいところだぜ」

操縦桿を握り、網膜に投影されている地平線をみる。各部隊が配置についているが

(やっぱ戦車隊の数が足りてねぇか)

戦域図に表記されているマーカーを確認してはっきりとさせる。

しかし、報告はしない。したところで何も変わらないことくらいわかっている。

『振動波、急速に増大!波形パターンネガティヴッ!!』

『ソノブイに感有りッ!!音紋照合ネガティヴ!コード991発生。繰り返す、コード991発生ッ!』

通信回線が瞬時に沸騰する。複数の報告が飛び込み、警報がけたたましく鳴り響いた。

『大尉ッ!』

「慌てるな!主機をあげて何時でも迎撃できる状態にしておけッ!」

『『『了解!!』』』

3人からの返答を聞き、自身も戦況に意識を向けるが、一つの疑問が頭の中をよぎった。

なぜ彼女達はCPではなく自分に状況を対応させたか。

イムヤは自論を立てた。

彼女達は衛士としては自分を認めているが、指揮官としてはまだ認めていないと言うモノだった。

衛士としての技量は模擬戦でもシミュレーションでも計れるが指揮官としての技量は実戦でこそ、その真価を計られるものである。

(そういうことか。そりゃ、3人での実戦の方が多いわけだ)

簡単だが自論にも疑問にも答えが出た。

(飼い主として無能ならこっちが食い殺されるって訳か)

だからこそ

「上等だ。やってやるよ」

前の未来とは違う道を選んだからこそ、こんなところで立ち止まるわけにはいかない。

昔と何ら変わりない。ただ1個大隊が1個小隊に変わっただけでじゃじゃ馬なのも変わらない。

異端と呼ばれたあの部隊じゃなければ自分はどこかでくすぶっていただろう。最後の最後まで自分を守ったあの部隊の全員に顔向けできるように今度こそ自分の筋を通す。

CPからのカウントがゼロに近づいていくにつれ、操縦桿を握る手に力が入る。主機に火を入れる。

誰とも通信のない管制ユニットで愛機に思いを伝える。

「やれるよな?不知夜。あのクソッタレな未来を壊すために俺たちはここにいる」

愛機はうんともすんとも言わないがセンサーアイの発光が一瞬強くなった。

『ゼロッ!』

CPの一言と共に全ての部隊のどの機体よりも速く黒い戦術機が戦場を駆けた。



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stage15

どういうふうに書いたら読みやすいのか、どう書くと想像しやすいのか。
仕事をしながらそんなことを思うそんな毎日


「最ッ高だ!シミュレーターの比じゃねぇぞ!」

 

わらわらと海中から姿を現すBETAに戦車隊や戦闘ヘリ部隊の砲弾が降り注ぐ中を黒い戦術機が高速で駆け巡る。

「コンマのズレもねぇ!むしろ俺のほうがコイツについていけてねぇかもな!」

砲弾の雨を掻い潜り、生き残ったBETAを肉薄する。

BETAの側面へ回り込み、展開されたモーターブレードが軟い肉を切り裂いてゆく。

久々の戦場に立ったせいか、はたまた新しい愛機の性能に酔っているかは不明だが、機体は加速し、撃墜スコアを稼いでいく。

BETAを刈り取る中でイムヤは戦域図を確認する。

やはりと言えるように即座に指揮を飛ばす。

 

「スコーレスト01より小隊各機。左翼の弾幕が薄い。03を前衛に、04は03の支援。02は支援砲撃。狂犬ども、喰らい尽くしてこい!」

 

『『『了解!』』』

 

3機から返答の通信が入る。

03の駆るファルクラム(Mig-29OVT)が早々に戦線に加わる。04も遅れまいと加わり、02が砲撃を開始する。

「やっぱ、あん時は手加減してくれてたな。BETAがどんどん食い潰されていってやがる。

俺も、負けられねぇぜ!」

頸部のカーボンブレードで小型のBETAを切り捨て、目視で戦場を見定める。

「流石に数が多いか。戦線は押され気味、アレが無けりゃ負け戦だな」

 

そう言って意識だけをアルゴス小隊の不知火・弐型(XFJ-01)に向ける。あの機体が持つ99式電磁投射砲ならこの戦局を一変させるだけの威力を持っていることは既に知っている。それが使われるまでの間、戦線を支えるのが今回の任務なのも理解している。

「さてと余計なことをする前に撤退しますかね」

 

要撃級に主脚を砕かれたジュラーブリク(Su-27M2)に群がる戦車級を単射で撃ち抜き、回収する。

最低限他の部隊が回収できる位置に放り投げ、早足に戦線に戻る。

そんな行為を数回繰り返しているとCPから通信が入る。

《CPからスコーレスト01。何をしている》

「スコーレスト01からCP。負傷者の救援だが?なにか問題か?ロシア人」

そこまで言い切るとこっちから通信を切ってやった。

戦場に国籍は関係ないが彼らにとって被支配民のジャール大隊の少年兵を救われるのは気に入らないのだろう。

だがそれはあちらの事情。

国連扱いのイムヤからしてみれば少年兵を見捨てること自体が気に入らない。

BETAを駆逐しつつ、回収作業にしていると通信が入る。

《CPからスコーレスト01。即時撤退せよ》

やっと来たかと心の中で思いつつ、承諾の意を伝える。

「スコーレスト01からCP。了解した」

 

後退しながらBETAを駆逐。

秘匿通信でジャール01と連絡を取る。

「ジャール01、即時撤退させな」

『…なぜだ?』

「今からあのボウズがやってくれるのさ」

『あの兵器にそれだけの意味があるのか』

「ああ。俺が保証する」

『…』

戦域図に映るマーカーが後退していく。

殿は俺と彼女が務めた。

俺たちが安全区域に入ると同時にソレは放たれた。

アルゴス01の駆る不知火・弐型によって放たれた光条はBETA群を貫き、戦場を赤く染め上げた。

 

 




ジャール大隊のSu-27ってSMだっけ?M2だっけ?よくわかんなくなってきた


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stage16

ネタが浮かばん。どうしよ


99式電磁投射砲が実戦試験を終え、既に二週間が過ぎようとしていた。

 

「そろそろだな。BETAの地中侵攻」

 

未だ分解整備を行っている愛機を見つめながらイムヤは1人愚痴た。

彼からしてみればBETAの地中侵攻も光線級の出現をどうでもよく、問題はむしろ、チェルミナートル(Su-37UB)からどうやってジャール大隊を守るかだった。

 

(俺とラトロワが分隊(エレメント)を組んでで戦えば容易に撃退は可能だが、それで死なれても困るしな)

 

ハァと、溜め息をつくもそれ以外に策があるわけでもないので、仕方なくこの策で行くしかないと考えていた。

 

「なにシケた面してんだよ。お前は」

 

溜め息をついたイムヤに答えたのは良佑だった。この二週間、不知夜の整備を適度に行い、今日で完璧に仕上がる暗算を立てた良き整備兵である。

 

「いや、なに。好きな女と遠距離恋愛になると思うとな」

 

「フィカーツィア・ラトロワ中佐か。なんでお前のような奴を好きになったんだろうな?」

 

「互いに殺し合った仲だからな。否応でも惚れ込むさ」

 

「ストックホルム症候群ってヤツか?」

 

「違うだろうな」

 

「それで明日は出撃はないのか?」

 

「そのつもりだが、BETAが侵攻してきた場合には出撃するぞ」

 

「そうか。BETAの地中侵攻が前あったらしいからな、油断できねぇな」

 

そう言うと良佑は不知夜の整備に向かった。

1人取り残されたイムヤは野外格納庫(ハンガー)を出た。

 

 

 

 

 

行く宛もなく、フラフラと基地内を歩き回り

気がついたらイムヤは子供たちに囲まれていた。

 

(どうしてこうなった?)

 

理由も意味もなく本能のままに歩いていたはずなのにいつの間にか尾行され、囲まれていた。少年少女達の目は輝いており、まるで尊敬しているかのようだった。

 

「あんた、あの黒い戦術機の衛士なんだろ!」

 

「ああ、そうだな」

 

(やっぱりか。あの戦術機捌きだもんな)

(中佐の旦那さんだもんね)

(………)

 

ワイワイと子供たちの勢いに押されながらも

どうにか質問に答えていった。

しかし、イムヤは疑問が浮かんだ。彼らの質問の中に出てくる『雪原の亡霊』とはいったいなんなのか、イムヤは逆に質問してみた。

 

「なぁ。さっきからでて来る雪原の亡霊ってなんだ?」

 

「知らねーのか。ソ連じゃ有名な話だぜ!

氷の魔女の後ろには雪原の亡霊がいるって」

「BETAのソ連侵攻を阻止したって話だよー」

「結構昔の話だけど今でもソ連じゃ伝説だぜ」

 

「そ、そうなのか。ってことは氷の魔女は「無論、私だ。大尉」

 

 

いつの間にか目の前にラトロワがいた。子供たちはラトロワの周りに集まっていくがそれでもイムヤの周りに十数人、残っていた。

 

「ナターシャ。私はコイツと二人っきりで話がしたい」

 

「了解しました。帰るぞ」

 

ナターシャと呼ばれた子の一声で集まっていた子供たちは蜘蛛の子を散らすようにかえっていった。

ラトロワは周りにいない事を確認してから話を切り出した。

 

「私達に二つ名が着いたのは貴様が居なくなった後の話だからな。貴様が知らないのも無理はない」

 

「出来りゃ話してもらいたいがお前が嫌なら話さなくても構わない」

 

「構わんさ。だが話してる間だけ、貴様は大尉ではなく中佐としていてほしい。頼めるか?」

 

「そういう事ね。イイぜ」

 

「そうだな。どこから話そうか」

 

彼女の口から昔話が話された。



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stage17

1982年10月26日

 

ラトロワ(ジャール01)、残弾と推進剤、あとどれくらい残ってるよ?」

 

イムヤ(プリーズラク01)、残弾、推進剤共に3割を切っている。このままだとジリ貧だぞ」

 

吹雪の中、2機の白い戦術機がBETAを殲滅していた。2機の足元は肉片やら血やらで白い雪が赤く染まっていた。

 

「ラトロワ、基地に戻って補給してこい。光線級がいない今がチャンスだ」

 

「貴様、本気か!?まだ奴らは数千といるんだぞ!死にたいのか!」

 

「だからこそ今なんだろうが。BETAとの距離もそこそこあるし、俺達は単機でも充分に戦える」

 

ラトロワの激昂を意に返さずに淡々と告げる。しかし、ラトロワはその冷静さが逆に怪しく、イムヤがナニかしでかすのではないかと睨んでいた。

 

「駄目だ。貴様を1人にすればナニをやらかすかわかったものではない。後数十分持ちこたえれば後続の部隊も到着する。それからでも遅くはない」

 

「無理だな。後数十分を推進剤も弾薬も少ない状態で持ちこたえるより、片方づつ補給すればそっちのほうが生存率は限りなく高い」

 

「ムゥ…」

 

「大丈夫だ。いつもと変わんねぇよ」

 

「…死ぬなよ」

 

そう言って踵を返し、ラトロワのアリゲートル(MiG-27)は基地を目指して飛んだ。

 

「悪いな。でもよ、こうでもしなきゃ終われねぇんだ」

 

作戦前に組み上げたシステムを起動させる。

トムキャット(F-14)の機能が停止し、再起動する。

 

「クソッタレ。やっぱ怖えな」

 

操縦桿(スティック)を握る手が震え、どうしても恐怖に飲まれそうになる。

 

「それでもやんねぇとな。じゃなきゃ、アイツらに顔見せ出来ねえよな」

 

かつて共に戦った戦友たちの面影を思い出す。

混ざりモノだとか理由があって集められた1個大隊を超える部隊。

最後まで共に戦いイムヤを救って死んでいったかけがえのない存在。

 

「…俺の後ろには何十万って人間がいるんだ。だからよ、俺に勇気を貸してくれ!」

 

そう言うと自然と手の震えはなくなっていた。

 

「…ありがとう」

 

F-14が雪原を駆ける。真正面から突っ込んでくる突撃級を殲滅する。先鋒が崩れたBETAは足が止まり、背部兵装担架を含む4門のA-97突撃砲の餌食となった。

しかし、肉片となったのは一部だけでそれを乗り越え、次々に向かってくる。

イムヤはそれを見て少数を叩くよりも一気に殲滅する方法に出た。

 

「仕方ねぇか。生きてりゃまた会えるかもな」

 

主機を吹かし、管制ユニットの中で咆哮を上げ、BETA群の中に突っ込む。

突撃砲を撃ちまくりどうにかド真ん中に到達する。

 

「消し飛びやがれ!異星起源種ども!!」

 

F-14に搭載された最終兵器のスイッチを殴りつけるように叩く。

瞬間、F-14を中心に雪原は焦土と化した。

 

 

 

 

 

(…なんだ?この胸をえぐるような痛みは)

 

謎の不快感に悩ませれながら基地まで到着する。しかし基地ではBETAを殲滅し終えたかのように歓喜に満ちていた。

 

「貴様ら何をしている!補給を急げ!!」

 

「何言ってんですか、中尉。BETAは殲滅し終えたでしょう。2000オーバーの英雄さん!」

 

「…何を言っているんだ?」

 

ラトロワはMiG-27を降り、作戦指令室に急いだ。通るたびに黄色い歓声が上がるがそんなことよりも状況を知りたかった。

 

「失礼する」

 

指令室の扉を開け、状況を伝えてもらおうしたが指令室もまた歓喜に満ちていた。

 

「どういう状況か、説明しろ!」

 

ラトロワはイムヤとの喧嘩以外で初めて声を張りあげた。

 

「中尉が時限爆弾を設置してBETAを殲滅したんじゃないんですか?」

 

「何を言っている?」

 

答えたCPの意味不明な回答に頭を悩ますがスクリーンに映る戦域図を見て理解した。

戦域図には撃破されたBETAしか映っておらず、自身の撃墜スコアは2000をゆうに超えていた。

逆に残ったイムヤのスコアは1たりとも動いていなかった。

 

(まさか…。冗談だろう。そうだと言ってくれ、イムヤ)

 

そのとき、ラトロワは完璧に理解した。

 

イムヤは自爆したのだと

 

ラトロワは早足に指令室を飛び出し、自室へと戻った。鍵を閉め、扉を背に崩れ落ちる。

 

「うああァァァ……」

 

感情が爆発した。不快感の理由を理解し、感情のままに泣き出した。

彼女はその日一日歓声のなか、1人涙を流した。




2個分隊で1個小隊(計4名)、3個小隊で1個中隊(計12名)
3個中隊で1個大隊(計36名)ってのが戦術機運用の設定らしい


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stage18

ネタが浮かばん時はちょくちょく過去の話とか入れていこうかな。なんて


「それで、落ち着いた?」

 

「すまない。先生、取り乱し過ぎた」

 

「むしろそれが普通よね。あなたと同じ状況で取り乱さないのなら、ソイツは感情ナシか、ロボットよ」

 

そう言って先生と呼ばれた白衣の女性はコーヒーを勧めた。

 

「しかし彼もよくやったわね。システムをハッキングしてまで自分の死を隠すなんて」

 

「………」

 

コーヒーを啜りながら、二人は戦闘ログを読み返す。

 

「それで、明日の彼の葬式には出るの?いえ、出なきゃいけないわよね。ラトロワ」

 

「…」

 

ラトロワは声に出さなかったが首を小さく縦に振った。

 

「フィカーツィア・イムヤ中佐。雪原の亡霊として英雄のように讃えられるようね。それはあなたもだけど」

 

「…」

 

「しかしまぁ、大層な噂話になったわね。

雪原の亡霊は氷の魔女を守る為にその身を挺したって。

それでどうするの?」

 

「私は…」

 

だんまりやうまく言葉を繋げないラトロワに先生は一つの封筒を渡した。

 

「先生、これは…」

 

「彼の遺書。作戦前に渡されたのよ。『もし自分が帰ってこなかったら渡してほしい』って」

 

「…馬鹿者め」

 

そう言って遺書の中身を読み始めた。

 

『コイツを読んでるってことはまぁ、そういうことなんだろうな。

(やつ)れてんじゃねぇぞ、らしくねぇ』

 

いきなりの書き始めにラトロワは言葉を失った。

しかし、彼らしい始め方にどこか安らぎを得た。

 

『でも、悪かったな。お前にも相談せず一人で勝手に決めて勝手に死んで。結局、迷惑(こうむ)ってんのお前だもんな』 

 

分かっているならやめてほしかったと口に出したかったが今更と思い、胸の中にしまいこんだ。

 

『けどよ。こうするしか方法がなかったと言ったら嘘になるかもしれねぇけど最善の策だと思ったからやった。後悔はない』

 

「…大バカ者め」

 

『どうせ、お前の俺へのランク付けがバカから大バカにランクアップしてるだろうけどよ。少しだけ昔の話をさせてくれ。俺がこっちに来る前の話だ』

 

ラトロワは虚を突かれた。今までどれだけ聞いてもはぐらかされた西側での話。それを遺書で書いてくるとは思ってもいなかった。

 

『俺は米軍の戦術機部隊の隊長だった。54名の部下がいて、戦線を戦術機で駆ける異例の部隊でな、アメリカじゃ戦術機は後方支援にしか使われなかった。

まぁ、俺たちが戦線に出れたのは理由があってな。俺を含む全員が混ざりモノだった。

だから、上層部からしてみれば俺たちが死んだところでなんの損もなく、むしろ厄介者が消えたと得をするもんでよ。

それで俺は部下全員の命を犠牲にしてまで生き残った。俺と同い年のヤツや一個下のヤツまで犠牲にして』

 

「イムヤ…」

 

『だからよ。俺は救われた命でより多くの命を救う義務がある。時間は短かったが過ごしたこの国を、俺たちの後ろにいる市民を、そして安心して背中を預けられるお前を守りたかった』

 

「…」

 

『最後に約束してほしい。俺のような力のない被支配民を、愛したこの国を守ってくれ』

 

そこまで書いて文書は終わっていたが、まだ重なりがあった。

ラトロワはそれが気になり、広げてみた。

 

「本当に…貴様は…バカだな…」

 

それは彼女らが慣れ初めの時の写真だった。

写真に映る二人は顔を真赤に染め、ラトロワは顔をそむけ、イムヤはガチガチに緊張していた。しかしながら、二人の手はしっかりと握られていた。

 

「それとこれ。預かり物」

 

先生から渡されたのは黒塗りのトカレフTT-33でグリップの部分に傷跡が残っていた。その傷跡を見てラトロワは即座に理解した。この拳銃は彼のだと。

 

「だが、あいつは処分されると」

 

作戦前にこの拳銃がイカれた為、処分されると彼から聞いていた。だから自分の拳銃を渡した。

 

「確かにソレはイカれてたわよ。まぁ、彼が自力で修理していたケドね」

 

「ホントにお節介な奴だ。アイツは」

 

今まで窶れていた表情に笑みが浮かぶ。

 

「その顔だともう大丈夫みたいね、やれるかしら?フィカーツィア・ラトロワ中尉」

 

「無論だ。ヤツ(イムヤ)との約束を守ってやらねばな。ムコウでヤツに笑われる」

 

最高の笑みを浮かべ、医務室を出る。

一人残された先生は椅子に背を預け、我が子を見守るように微笑んだ。




次回は恐らく過去編。


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extra stage01

これは小さな勇気の大きな絆の物語の一片。

18話のトカラフの傷跡の経緯とかの話です。



これはイムヤがソ連に亡命してまだ間もない頃の出来事。

とある二人はとても仲が悪かった。出会っただけで口喧嘩は当たり前で、手を出すことも多々あるのにも関わらず、同じ小隊に配属されてるからなお、質が悪い。

そんな二人が少しだけ距離を縮めた命を賭けた死合がもうすぐ始まろうとしていた。

 

二人とは軍から支給されたスペツナズナイフとトカレフTT-33を持ち、対面していた。

 

「条件は大体わかってると思うが再確認するぜ」

 

「構わん。観客(ギャラリー)も知らないと思うからな」

 

「トカレフは装弾されている8発のみ、予備弾倉なし。スペツナズは刀身を飛ばしても構わない。あいてがギブアップするか、動かなくなるか、殺したら勝ちだ」

 

「ふん。先の2つは詭弁だろう。私達は互いに殺すことしか考えていまい」

 

「分かってんならとっとと殺ろうか」

 

二人が構える。開始の合図などはなく、この時点で始まっているのだが互いに警戒し、動こうとしない。

瞬間、イムヤがトカレフを抜き、発砲。

するも、回避されラトロワは距離を詰める。

 

教科書(マニュアル)通りの狙い方だな。読みやすかったぞ」

 

「ケッ。そりゃどうも」

 

頸動脈を狙ったナイフを銃身で受け、膠着状態となる。

イムヤが左足で横蹴りを入れるも後ろに回避される。

途端、ラトロワはトカレフを抜いた。

が、発砲されるよりも早くイムヤはトカレフを蹴り飛ばす。

一瞬、優勢に思えたが、眼を狙った刺突に反応が遅れ、トカレフのグリップで対応したため、刺突の衝撃に弾き飛ばされる。

即座に二人は後方に下がり、ナイフを構え直す。

一瞬の間が空き、ナイフが重なる。

鍔迫り合いを征したのはラトロワだったが、イムヤは即座にラトロワの右手首と胸ぐらを掴み、背負投げの容量で叩き伏せた。

イムヤは反撃を警戒し、距離を取る。

も、腹部に鋭い蹴りが入る。

 

「クソッタレ。まだ沈まねぇか」

 

「当たり前だ。貴様が死ぬまで沈むわけにはいかんからな」

 

「執念深いのか、意地っ張りなのか、わっかんねえな」

 

「なんとでも言え」

 

「だが、嫌いじゃないぜ。そういうの」

 

「ふん」

 

二人が構え直し、目の前の獲物に全神経を注ぐ。同時に走り出し、互いの右拳が右頬を捉えるよりも早くイムヤが押し伏せた。

 

「これで決着か?」

 

「クソっ」

 

イムヤはマウントポジションを取ったことにより勝ち誇っていたが自分が掴んでいるモノに気づいていなかった。

しかし、周りの観客のざわつきように二人は違和感を感じる。

 

「なんだ?このざわつきようは?」

 

「貴様、どこを触っているッ!」

 

観客の声が聴こえたラトロワは状況を理解できたが、イムヤはイマイチ理解できていなかった。

 

「ドコって…」

 

ラトロワの声に反応し、手元を見るとラトロワの見事な双丘をしっかりと掴んでいた。

 

「「………」」

 

見事に二人共動けなくなり、沈黙した。

が、イムヤがラトロワの手を握り、

 

「逃げるぞッ!」

 

脱兎のごとく、走り出した。

 

 

 

 

 

訓練場から少し離れた路地裏で二人は息を整えていた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…。なんだってんだ」

 

「ハァ…ハァ…。逃げるなら貴様だけで逃げればいいだろう。私まで巻き込むな」

 

「ルッせ。俺が掴んでなかったらお前、あのままあそこで放置されてたんだぞ」

 

「それに関しては感謝している。だが、先程のはまだ許していないからな」

 

「そうかよ。だが、試合は無効だ。ソイツはまた別の機会にな」

 

「ムゥ…。…貴様、名前は?」

 

「名前だぁ?」

 

「そうだ。さっきから貴様やお前など、互いに名前を知らんではないか」

 

「考えてみりゃ、コールサインくらいで呼んだことしかねぇな」

 

「だから、名前を教えてくれ」

 

「…イムヤ。性はない」

 

「私はフィカーツィア・ラトロワ。よろしく頼むぞ」

 

「分かったよ。少なからず、お前には背中を預けられそうだ」

 

「ふん。気を抜けばスグに殺すからな」

 

「俺から一本獲ろうなんざ100年早えよ」

 

基地に帰ったあと、二人ともイジられたのは言うまでもない。




過去編はextrastageとして出して行きます。
ちょくちょく挟むかも。


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stage19

恐らく多分きっと確実に消す


「それがコレだ」

 

ラトロワはおもむろに黒塗りのトカレフを取り出した。外見は見事に整備されているがグリップにはまだ傷跡が残っていた。

 

「ふ〜ん。じゃあコイツはやっぱりお前のか」

 

「何?」

 

ラトロワが聞き返す前に、イムヤは銀色のトカレフを取り出した。弾倉を取り出し、自決用の一発が入っていることを確認する。

 

「恐らく、あの時からほとんど変わってないぜ。俺がチョクチョク整備しているくらいだしな」

 

そこまで言うとラトロワに抱きつかれる。

 

「…貴様は馬鹿だ、大バカだ。何も考えてないクセにそういうところばかりしっかりしている」

 

「悪かったな。何も考えてなくて」

 

「いや、いい。貴様らしいからな。そういう所に惚れたのかもしれん」

 

二人の唇が重なる。時間が経つにつれ、友人同士の軽いキスから愛する者同士の深い接吻に変わっていった。

彼らの同期は数少なく、それこそBETAが地球に到来してから戦線に立ち、戦って死んでいった。二人のように五体満足で生き残るのは稀である。

2、3分過ぎて唇を離した。

 

「…積極的過ぎ」

 

「いいだろう、別に。こんなにキスしたのはあの時以来なのだから」

 

「それもそうか。なら、少しだけお節介をさせてもらうぞ」

 

「なんだ?」

 

「明日、この基地に向けてBETAの地中侵攻。それと光線級の出現、気をつけろよ」

 

「コード991は厄介だがここでは光線級は確認されてないぞ」

 

「だからといって明日も出ないと言う確証もないだろ。覚悟しとけ、失いたくないのならな」

 

ラトロワはイムヤの瞳の中を覗いた。

嘘一つない、真実を告げる彼を疑いたくなかったからこそ確認しておきたかった。

 

「その言葉に嘘はないな」

 

「ああ。少なからず上層部よりは信用できるぜ」

 

「フフ」

 

「ンだよ。なにかおかしいか?」

 

「いや。どうせなにか仕掛けているのだろう。お節介で自己犠牲の亡霊さん?」

 

イムヤはバツの悪そうな顔をそむけた。どうやら図星のようだ。

 

「それだけわかれば十分さ。…次に会えた時…、その………シないか?」

 

イキナリの爆弾発言に互いに膠着し、赤面通り越して真赤に染まり、湯気まで上げる始末。それでもイムヤは口を開いた。

 

「それまでの間に死んだり傷ついたりすんじゃねぇぞ。お前は俺の女だ、もう二度と失ってたまるか」

 

「言ってくれるじゃないか。だが、口約束では不十分だ。だから…キスしてくれないか?」

 

「…分かった」

 

再び唇を重ねる。先程とは違い、本気で相手を信頼し、相手を想うキス。

二人だけの少しの時間をたっぷりと堪能した。




ヒドイな。
なにがって?
キャラ崩壊がヒドい。
暴走がヒドい。
甘っすぎる。
三人称描写もっとうまく書けるようになりたい。
なにやってんだよ、オレ。

次回、多分戦闘パート。


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stage20

キャットウォークに二人の男がいた。

一人は手摺に背中をあずけ、自分の愛機を見つめ、一人は手摺を支えにし、自分が関わった機体に背を向けていた。

 

「塗装、システム、カスタマイズ、全てにおいて完璧に仕上げておいた。しかしまぁ、真っ黒な機体からモノクロに切り替えるとはな。らしくもねぇことするんだな」

 

手摺を支えにしていた男は隣に立つ男に自身が携わった用件を確実に伝えた。オレ的には及第点と言ったところだなと付け加えて。

 

「十分さ。チェルミナートル(Su-37UB)と戦うにはもってこいの装備だし、システムがしっかりと動けば上層部も騙せる。アイツらを守るには満点の出来だな」

 

立っている男は専用の衛士強化装備を身に纏い、これから起こるであろうことに備えていた。

既にこの部隊のハンガーには彼ら二人を除いて人の影も見当たらず、他の部隊が実践試験を行ってるにも関わらずこの機体だけが残っていた。

 

「お前もとっとと逃げろよ。BETAに食い散らかされても知らねぇぞ」

 

管制ユニットに乗り込み、システムを起動させていく。相方の安否を気遣い、事が起きるのを待った。

そういう相方もタブレットで発進までの作業を開始していた。

 

「コード991ねぇ。ホントにありえんのか?」

 

「ありえるさ。ソ連が地中侵攻の跡を埋めていなかったからな」

 

「それで、相棒。今回の目的は?」

 

「99式電磁投射砲の防衛。ジャール大隊の死守。それとラトロワとの約束の堅守」

 

「愛されてるねぇ。っといつでも発進できるぜ」

 

待ってましたと言わんばかりに基地内の警報が鳴り響く。

 

『コード991発令!繰り返す−−−−』

 

「マジか。予想通りってか、確定事項みてぇじゃねぇか。っとハンガーオープン、ケーブル切除」

 

ハンガーの扉がひとりでに開き、不知夜に取り付けてあるケーブルが外れていく。

不知夜が動き出し、ハンガー前のカタパルトデッキに入る。発進シークエンスに入る前に基地からの通信が入る。

 

『貴様、どこの部隊だ。発進許可は降りてないぞ』

 

「そんなこと言ってられんのか。こっちは奇襲食らってんだぞ。単機でも防衛線くらいは張れるさ」

 

『ムゥ…。しかし、ジャール大隊にすでに命令が…』

 

「だったらなおさらだ、馬鹿野郎。時間が惜しいんでな、勝手に出撃()るぜ」

 

回線を一方的に切り、主機をあげる。

 

「フィカーツィア・イムヤ、不知夜、テイクオフ!」

 

モノクロの機体がロシアの蒼穹に向け、飛び立った。

 

 

 

 

 

(ヤレヤレ、こんなところで待機とはな。上層部はなにも考えていなかったという訳か。それにアイツの予想も当たっているとはな、だがまだ光線級は確認されていないのが救いか)

 

『中佐、基地からの通信です。バカが一人で防衛線を張ったそうなのでそれの支援だそうです』

 

部下からの通信にラトロワは笑いが込み上げてきた。上層部がこんな命令を出すことは予定外のところもあるが、かつての英雄がバカ呼ばわりされるのも笑いしか出てこない。

 

「フッ。ジャール大隊各機に告ぐ。これから我々は、単機で防衛線を張り、我らの寝床を守ろうとするお節介の支援だ。現在光線級は確認されていないが出てこないとも限らない。低空飛行を心がけるように」

 

『『『了解!』』』

 

「全機、私に続けぇ!」

 

『『『ураaaa!!!』』』

 

ソ連最強の部隊がロシアの大地を駆ける。

この日、再びソ連最強の分隊が結成されることを今はまだ誰も知らなかった。

 




あれ?もしかしたらもうすぐ中佐の出番無くなるんじゃね?


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stage21

仕事でプロットを忘れる始末。



一方的な殲滅が既に始まっていた。

雑魚の数の暴力を圧倒的な質で確実に潰していた。

両手と左側の背部兵装担架に搭載されているA-97突撃砲が火を吹き、小型種を肉片に変えていく。

脛部のカーボンブレードと踵部のモーターブレードが大型種の肉を切り裂いていく。

 

(想定より多いな。それに他の方向からも湧いて出てきてやがる、あと5分もしない内に先端部が基地に到着する)

 

戦域図を見ながら考えてつつ、また一つとBETAを切り裂く。白を主とした塗装がBETAの血で赤く染まる。深追いせずに後退しつつ迎撃に当たる。

 

「来たか」

 

数十機以上の機動音。いずれ共に戦場を駆けることになるであろう仲間達。

残骸を乗り越え、湧き出てくるBETAに無数の弾丸の雨が降り注いだ。

 

『こちら、ジャール01。スコーレスト01だな、支援する。各機、兵装自由、BETA共をたいらげろ!!』

 

『『『『了解ッ!!!』』』』

 

大隊が3個中隊に分かれ、各場所のBETAの殲滅を開始した。

射撃を続ける白の機体の隣で青い機体が支援射撃を始めた。

 

「ジャール01、援護感謝する。だが通信妨害がある以上のうのうとしていられない。俺は基地周辺のBETAを掃討する。通信妨害を発している通信塔の破壊、頼んだぞ」

 

『了解した。1個小隊は私と共に通信塔を破壊しに行く。残る2個小隊はスコーレスト01と共に基地の防衛に当たれ。全員、生きて帰ってこい!』

 

『『『『了解!!!』』』』

 

周囲でBETAを駆逐していた1個中隊が3個小隊に分かれ、8機のSu-27SM(ジュラーブリク)が後衛に付いた。

 

「時間が惜しい。このまま噴射滑走で行くぞ!」

 

返答を待たずに主機を吹かし、基地に向けて機体を走らせる。それに8機のジュラーブリクが続く。

基地までそこそこ距離があり、不知夜の最高速度ならものの数分足らずで到着出来るが、後続のジュラーブリクが追い付ける速度を維持しつつ時々迎撃をしながら基地に向かっていた。

 

(急がねぇとヤベェな。99式は帝国の機密兵器、失うことどころか奪取されるとなると面倒事にしかならねえ。それに唯依嬢を失うワケにはイカン)

 

機体速度を徐々に上げ、基地に向かう彼の顔には少々の焦りが見えた。

 

 

 

«唯依side»

 

(やられたな。全ては彼らの掌の上だったというわけか)

 

コンソールのモニターに映し出されているエラーコードを睨めつけながら毒づいた。

しかし、唯依の顔には焦りの表情は全く浮かんでいなかった。むしろ、その表情は少しばかり笑みが含まれていた。

 

「爆破処理はできないが、まだ不知火弐型と大尉の機体がある。不知火は無理だとしても大尉の機体が来てくれれば99式は持ち出せる」

 

キーボードから離れ、99式によりかかる。

現状、やれるだけのことはやった。あとはBETAが早いか、イムヤが早いか、それだけが気がかりだった。

 

『篁中尉、無事か?』

 

「大尉!やられました、爆破処理はできません」

 

『了解した、天井を突き破る。格納庫から出てろ。各機周囲を警戒、頼むぞ』

 

唯依が格納庫から出たのを確認すると踵部のモーターブレードを天井から突き刺し、勢いよく天井を切り裂く。

開いた隙間をマニピュレータでこじ開け、不知夜と99式が通れる間を作った。

 

『篁中尉。99式と貴官をこちらで保護する。異議はないな』

 

「了解しました。これからどうするつもりですか?」

 

『さあな。どうなるかわからん』

 

 

 

«イムヤside»

 

機体に膝をつかせ唯依が乗りやすいように体勢をつくる。

 

(99式と唯依嬢を無事に保護出来たのはでかいな。あとは94セカンド(ユウヤ・ブリッジス)と…Su-37UB(アレ)だな)

 

保護した一人と一つは元あるべきところに返して終わりだが、未だに姿を現さない爆撃機と光線級に疑問を持つも、イムヤは自らの仕事に集中するのだった。




次話以降まだ何も考えていねえ。
また間が空きます。


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stage 22

「来たか。それも予定よりも数段速い」

 

近くのBETAを駆逐したジュラーブリクに囲まれている不知夜のセンサーが不知火を捉えていた。

 

「アルゴス小隊、ユウヤ・ブリッジス少尉だな。貴官らの上官、篁中尉を保護している。受け渡しが終わり次第、この場から撤退しろ。いいな?」

 

一方的とも言える要求に通信から舌打ちくらい聞こえそうなものだったがそんなことはなく冷静な返答が返ってきた。

 

『こちらアルゴス小隊のユウヤ・ブリッジス少尉だ。篁中尉の保護、感謝している』

 

少し距離をおいたところにXFJ-01とF-15Eが降り立つ。銃口を向けようとするジュラーブリクを静止させて、不知火に近づく。

受け渡しが可能な距離までつくと管制ユニットを展開し、唯依と99式を渡した。

 

「大尉!…」

 

「そこまでだ、中尉。ここからは俺とジャール大隊の持ち場だ。頼んだぞ!ミラ・ブリッジスの息子、ユウヤ・ブリッジス!」

 

「なんで…あんた、母さんの名前を…!?」

 

「知りたけりゃ、是が非でも生き残れ。死んだらなんにも残らねぇからな」

 

管制ユニットを収納し、2機が飛び立つ。

それと交差するようにSu-37M2と1個小隊のSu-27SMが到着する。

 

『何を話していたんだ?スコーレスト01』

 

「別に深くは話してねぇよ。ただ、ああ言っとけば死にはしねぇだろうな」

 

『そうか。…ところで貴様の勘は当たるようだ。どうする?』

 

「簡単なことだろ。巻き込まれないように退避するだけだ」

 

即座にラトロワから指揮がはいる。

基地周辺から離脱し、爆撃に巻き込まれないように退避する。

退避が完了すると同時に爆撃が開始される。

爆撃により基地周辺にいるBETAが殲滅されそうになったとき、地上から爆撃機に向けて幾多の光線が走った。

 

『まさか…!?』

 

「あぁ。そのまさかだ。…光線級だ!」

 

二人のオープン会話が終わる前に爆撃機は全て墜されていた。

 

「退避信号を出さずに爆撃されるのもアレだが光線級が出たとなりゃ話は別だな。どうするよ、ジャール01」

 

『仕方あるまい。ジャール01より大隊各機へ通達。これより我が隊はソ連で初となる光線級吶喊(レーザーヤークト)を仕掛ける。殿は私が務める。ジャール19を先頭に各機先行せよ。行け!』

 

『『『了解!』』』

 

各方面に分かれていた大隊のマーカーが一点に集まっていくのを確認しながらイムヤは次の作業に移った。

USBメモリを差し込み、マーカーデータを弄くり、

〈Skorost01〉から〈Unknown〉へと切り替えた。

それについでIFFを書き換え、大隊から攻撃を受けないように仕向けた。

 

『…スコーレスト01、何をしている?』

 

「ジャール01、ここにスコーレスト01はいない。正体不明の友軍機が援護しているだけ、いいね?」

 

『全く…。昔と何ら変わらんな、貴様は。それでなんと呼べばいい?』

 

「シトゥイーク01とでも」

 

『そうか。!、後方からこの基地に接近する機体だと!?今更、放棄されたこの基地になんのようだ?』

 

戦域図には基地に接近するアンノウンマーカーは単機。イムヤとラトロワは互いの機体を遮蔽物の中に潜めた。

 

(さてと敵さんは接近戦をお好みかな。BETA相手とは言え、射撃をしないのは些か無謀というか、それとも…ただの決闘主義者(バカ)か。けどまぁ、付き合ってやりますかな)

 

不知夜(いざよい)の背部兵装担架が展開し、マニピュレータが74式長刀を掴む。Su-37M2(ラトロワ)も両腕のモータブレードを展開しつつ、狙撃の体勢に入っていた。

未確認機が誘導路(タクシーウェイ)に入ったと同時に不知夜が突撃した。

互いの獲物が交差し、距離を取る。一瞬の間が空き、再び斬り結ぶ。今度は立ち位置が反転し、距離を開ける。

一時の静寂。互いの相手を屠る為に一瞬のスキを見定めるこの時間を別の音が切り裂いた。

距離にして約300メートル。轟音とともに放たれた弾丸(ソレ)は確実に未確認機(アンノウン)を捉えていた。

…はずだった。未確認機は少しの動作で回避した。

即座に2発目が放たれた。

だがソレは、場を制圧できる弾丸ではなく面向かい合う相手を討つ長刀だった。

弾丸を回避した未確認機にとってその一瞬は致命的だった。側面から撃たれたことに意識を向けたが為に面向かう的に距離を詰められた。

寸でのところで長刀を左腕のモーターブレードで弾くが、その左腕を不知夜の右腕に搭載されているカーボンブレードが切り裂いた。

2撃目を回避しようと後方に跳んだのは悪手だった。

弾いた74式を持った青い機体(チェルミナートル)が背後に迫っていた。

着地と同時に跳ぶが斜めに振り下ろされた長刀は右側の跳躍ユニットと主脚を切り裂いた。

未確認機はバランスの取れない状態ながらも2機から距離を取り、撤退していった。

 

「…案外どうにかなるもんなんだな」

 

『全く貴様は。いきなり突撃するなど誤射でもしたらどうするつもりだったのだ』

 

「どうにかなったんだから儲けもんだろ。しくじってたら俺たち二人はお陀仏さ」

 

『やれやれ。これからどうする?シトゥイーク01』

 

「願望を言えばこの後まで手伝ってやりたいんだが撤退させちまったからな」

 

『いや、ここまでくれば十分だ。即座に部隊に帰隊しろ』

 

「そうか、レーザーヤークトが終わり次第、このポイント地点に行け。少なからず匿ってくれるはずだ」

 

『全く貴様は…。どこまで手回しがすんでいるんだ?』

 

「さあな。俺にもわかんねぇや。またな、ラトロワ」

 

『ああ。いつかまた会おう、イムヤ』

 

モノクロの機体と青い機体は互いに背を向け、元いる場所に帰っていった。



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stage 23

エスコン7が楽しい。
使う機体は無論Su-37。
定期的に更新できるようになりたいなぁ。


あれから約2週間の間が空いた。

その間に不知火・弐型はフェイズ2となり、尚且つ派手な色彩のデモンストレーターカラーとなっていた

。不知夜も以前のフェイズ2'(ツーダッシュ)から本来のフェイズ2に戻っていた。

99式も無事に帝国に返還され、開発部隊はカムチャツキーからユーコンへと戻り、次の作戦に備えていた。のも束の間。

総合評価演習(ブルーフラッグ)が始まり、イムヤ率いるスコーレスト小隊は案外、快勝中だった。

 

「連勝♪連勝♪賭けた整備兵に何かおごってもらいましょうよ、隊長♪」

 

そういったのは《スコーレスト03》クラリッサだった。自分用にカスタムされた機体《ファルクラム改》の調子もよく、試合中に確実に一機は落としていた。

彼女の言ってる賭けとは整備兵あるあるの件で小隊の勝敗で賭けるものだった。賭けの総評から見るとスコーレスト小隊はドベに近いため、小隊の整備兵以外相手の小隊に賭けることが多いので、こちらに賭けた兵は結構な大金を稼げるのだ。

 

「幸い、明日は試合もないですしね。クラリッサの案に乗ってもいいですよね?隊長。…隊長?」

 

アレクサの言葉に耳を傾けずに空を見続けているイムヤがそこにはいた。上の空というわけではなく、まるでそこから何かが来るかのように一点を睨みつけていた。

 

(ブルーフラッグまで来たか。ここまで来ると遅かれ早かれ、F-22(ラプター)と戦うことになるな。そうなると一旦、帝国にもどならければな。第四計画が潰されるよりも先に)

 

「…尉?大尉!聞いてますか!」

 

「あぁ。聞いていない」

 

「正直に言う人がいますか!」

 

「んで、飲みにでも行くのか?別に構わんが問題は起こしてくれるなよ?」

 

「しっかり聞いてるじゃないですか!それに大尉も一緒ですよ!」

 

「え〜。俺、そこまで酒好きじゃないんだが…」

 

「他の小隊との交流もかねてです。行きますよ」

 

ヤレヤレと思いながらも結局イムヤは同行することにした。他の小隊とは顔合わせ程度しか会ってないのもあるが、たまには一人酒も悪くないと思ったからだ。

 

(はぁ。アイツがいてくれりゃあな。まぁ、良佑と今後について話すのもいいか)

 

帝国のことにしろ、ブルーフラッグのことにしろ、酒の肴は異様にたくさんある。不知夜の強化案もそれには含まれていた。

黎明作戦までの時間にすこしでも勝てる筋を創らなければならない。たとえ自身すら武器として想定したとしても。

 

「わーたよ。いきゃいいんだろ。ただ面倒ごとだけは起こしてくれるなよ」

 

「最初からそう言ってくれればいいんですよ」

 

「…姉さんが初めて口論で勝った」

 

「お姉ちゃん、基本受け身だもんね〜」

 

「何言ってるの!?二人共!」

 

(まぁ、少なからずここは平和だな。BETAにやられた後だってのによ)

 

ソ連の上層部(うえ)が考えていることなどイムヤには到底解らないが、ラトロワ率いるジャール大隊の無事を今朝知れたため、先程の試合で不知夜が大暴れしたので総評自体は上位陣に食らいついていた。

…が、イムヤにはあんまり関係なかった。

イムヤの目的はすでに決まっている。

不知夜でラプターを撃破することで不知火の強化機体の有能性を確立させること。そして不知夜と不知火・弐型をフェイズ3に移行させることでΓ標的に対する機体を完成させる。

それが彼のここでの目的だった。

とはいえやっと不知火・弐型の改修が確立したため、遅れているのは間違いなかった。

 

「…たまには飲むか。吐かない程度に」

 

別の理由で行くことが確定したような一瞬だったがこの後のことは言うまでもない。

 

 



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stage 24

「今日は何も組み込まれていない。観戦という形ではあるが、各隊の特徴なり癖なり見つけていくことで当たったときにこちらが有利に進めるようにするのが今日の仕事だ。意見ある奴は」

 

「はいはーい。イーダル小隊の戦闘時間が少ないのでどうにもなりません」

 

「あの部隊はトップのSu-37UB(チェルミナートル)は強敵ではあるが他はそうでもない。先に3機墜として叩くなり、先にUBを叩くなりやり方はいくらでもある。次!」

 

「隊長。アルゴス小隊はどう見ますか?」

 

XFJ-01(不知火・弐型)F-15ACTV(アクティブ・イーグル)2機、F-15E(ストライク・イーグル)の混成部隊。機動力はトップに食い込むが弱点として砲門数が少ない事だ。不知火相手にドッグファイトを仕掛けるのは酷だが、近々不知火の弐号機が組み込まれるため、そこら編も弱点となるだろう」

 

「近々くるアメリカの部隊は?」

 

「教導隊、インフィニティーズ。F-22(ラプター)で統制された特殊部隊。ステルス機であるため、強力だが一機墜とせばこちらに状況が向くかもしれん」

 

現在、スコーレスト小隊のブリフィーングルームでは開発部隊と整備兵とともに各隊の情報交換、つまり対策を練っていた。

指揮を執っているイムヤが中心的だが良佑も助け舟を出してたりなどいつも以上に総出で行われていた。

 

「バオフェン小隊は…」

 

「突撃系。こっちからノッてやってもイイ」

 

このやり方はイムヤや良佑が帝国の時にやっていたやり方だが、案外すんなりと受け入れられた。日帝とソ連の混成部隊のスコーレスト小隊らしい。

 

「隊長、時間です。始まります」

 

「対策会議止め。会議を元に各隊を見ていくぞ。市街地戦で各隊がどこまでやれるか、見てやろうぜ!」

 

全員が席につく。前面の大型スクリーンに今日の一戦目が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

「それでどう見る?イムヤ」

 

「予想よりつよいな、バオフェン小隊。単純だと考えていたが彼らの連携機動は目を見張る物がある。それに合わせて77式が厄介になる。あの速度で一撃が重いとなると勢いのままに持っていかれる可能性だってありえる」

 

「74式じゃ辛いか?」

 

「機動戦となったらな。立ち会いとなったら話は別だが」

 

「そういう機会はないってか」

 

「だな」

 

今日の一戦目のドゥーマ小隊とバオフェン小隊の試合後の会議自体は終わっていたがイムヤと良佑は二人で続けていた。

部隊としての対策は既に練ってはいるが近接戦を行う確率が高いイムヤにはこの会議も必要になってくる。

 

「それでどの装備で行く?」

 

「それは決まっている。フォルケイトソード一択だ」

 

「あの死神の鎌か。整備兵泣かせだねぇ、お前も。だが、長時間は戦えないぞ。いや、それこそ一撃必殺同士の武装ってわけか」

 

「ああ。そういうことだ。不用意に手の内を晒すくらいなら…「大尉!アメリカの部隊が来ましたよー!」

 

「…了解。先行ってろ」

 

「はい!」

 

「まぁ、そういうこった」

 

「インフィニティーズねぇ。お前の元の部隊だろ。なんか情報ねぇの?」

 

「元ではない。俺たちの部隊を元にして出来た部隊だ。彼らと俺はあまり関係ない。だが、対策がないわけではない」

 

「マジか!で、それは」

 

「アレしかない」

 

「…マジか」

 

良佑はげんなりとなるしかなかった。

アレは不知夜と『IGNIS』があってこそ使える秘密兵器。対光線級、ステルス機として作ってあるものの短時間の使用制限と使用後の完全分解整備。そして

 

「衛士自身がミンチによりひでぇことになる。それはテメェだって知ってんだろ!」

 

「そんなこと百も承知だ。そうならないよう創ったのが不知火・壱型乙、そして不知夜じゃねぇか」

 

「年考えろよ!内蔵イカれたっておかしくねぇんだぞ!」

 

「そうだな。だがまだ死ぬ気はねぇ。最悪00ユニットにでもなるさ」

 

「勝手にしろ。明日命日にならねぇことだけは祈っとくぜ」

 

そういうと良佑はブリーフィングルームから出ていった。

 

「分かっているさ。でもな、あと少し。あと少しなんだ、俺の目的、俺の夢、俺が生きている理由。それを終わらせなくちゃいけない。そのための起動実験。ここは足がかりでしかない」

 

かつて日帝にいる国連兵が起こしたアレの第一段階。それは悲惨な結果となって終わった。

吹雪3機に搭載された『IGNIS』を起こしたバカ三人がやらかしたこと。

吹雪は墜落。機体全部がイカれ、三人は即死。ただし管制ユニットの中で見るも耐えない姿となって。

それ故にイムヤは近衛でなくなった。すべての責任を負う形で。

 

「あと少しだ。ここを乗り越えて、アイツと決着をつける。それでデッドエンド(終演)だ」



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stage 25

近々TEルートからオルタルートに移行します。



「小隊、傾注。これより我が隊はインフィニティーズ、F-22を叩く。02、03、04が分隊となり、俺が囮となる。やっこさんのやり方を真似させてもらう。あいにく、機動力ならこちらが勝っている。クソッタレな大国に一泡吹かせてやろうぜ!」

 

「「「了解」」」

 

「行くぞ!」

 

各機が市街地演習上に赴く。日は未だ高く、最高とも最悪とも言えるコンディションだった。

始まるまでの数分を静かに待った。

 

『スコーレスト小隊、インフィニティーズ。両隊、演習を開始してください』

 

開始の合図がなった。

初手で動いたのは不知夜だった。

迷いなき突撃。

ラプターがあるであろう場所に一直線に走る。

警報が鳴り響く。センサーに2機。後方から迫ってくるのを確認すると反転。後退しながら牽制する。

少量の動きで回避され、反撃せんが為に近づいてくる。

不知夜は後退をやめ、空に上がった。ラプター2機もそれに続いた。

ラプターからの砲撃を難なく避けるが、不知夜は一切反撃をしなかった。埒が明かないとラプターが速度を上げたとき、下から砲撃が入った。直撃はしなかったが、突撃砲の無力化に成功する。

これ以降、15分以上におけるドッグファイトと言う名の膠着状態が続いた。

 

 

 

 

 

事が動き出した。

ドッグファイト中にそれが聞こえてきた。

 

『スコーレスト02、03、大破。04、管制ユニットに被弾。撃破』

 

分かりきっていたことと切り捨てようにもそうはいかず、不知夜は十字路の中心に降り立つ。その四方を固めるようにラプターが姿を現す。管制ユニットで大きな溜息を吐く。敵が足を止めたのならとっとと撃てばいいものをそれをしないインフィニティーズに苛立つ。

 

「IGNIS、IGNITION!」

 

『ALL READY! ALL ERROR!ERROR!ERROR!

…Are You Ready?』

 

無機質な機械音が叫ぶ。それに応える。

 

「KILL THEM ALL」

 

不知夜のツインアイに見えるセンサーアイが翠色から深紅へと変貌する。

背部兵装担架(ブレード・マウント)が展開し、両マニピュレータがフォルケイトソードを掴む。

振り下ろされた二刀が止まると同時に正面に立つラプターに不知夜が疾走った。

後退し、反撃を貰うよりも先にフォルケイトソードの鉤爪状の尖端が右腕ごと切り落としていた。

腹部に蹴りを入れ、空に上がった3機に続く。その内の1機を捉える。真正面からフォルケイトソードが振り下ろされる。反撃の一撃を入れるラプターに後方から斬り上げる一撃よりも先に側面からの一撃で撃破する。

センサーには先程までいたであろう三ケ所にアイコンがあった。ただし動いているのは側面から攻撃した不知夜のみだった。

 

 

«作戦司令室»

大型スクリーンに映っている不知夜を見て各隊が驚愕の声を上げていた。

無論、そこにいる良佑に質問が飛んだ。

 

「中森少尉、なんだアレは!?」

 

「アレもクソもねぇよ。ああ言うやつなんだよ。対光線級を想定して作られた不知夜の最終兵器、IGNITIONシステム。使えば短時間だがそれ相応の機体性能が得られる。その代わり代償はデカい。ほら、見とかねぇとだめだろ。また1機喰われたぞ」

 

ボロボロのラプターの管制ユニットにフォルケイトソードの尖端が食い込んでいた。

これで2機目を墜とし、残る2機もすでにボロボロだが、それ以上に不知夜も装甲は剥がれ、場所によってはケーブル等が剥き出しになっていた。それでも今なお動いている姿に畏怖の念しか浮かばない。

再び、司令室がざわつく。それをせせら嗤うかのように良佑は続けた。

 

「その機動性故に使える衛士は少ない。その異常性故に使う衛士はいない。残像が見えるのは剥離した装甲片と排熱等、それから異常なまでの移動速度によるものだ。だから、センサーにも残るし、機体が残っているようにも見える。ただし、他の機体じゃ使えない。唯一無二のあの機体だけが使えるが、それでもイカれてる人間ですら使おうとしない。使って得るものは勝利のみ。残るのは無慈悲な死と残骸だけさ」

 

生き残ること自体、想定しない最終兵器。

特攻なんかよりよっぽど無意味な兵装。

と、良佑は続けた。

 

「ほら、終わったぞ」

 

3機目を斬り伏せたところで演習終了を告げるアラート。

二刀を捨て、戻ろうとしたところでそれは起こった。

不知夜が落ちた。機体の全てが強制終了した。

落ちてるところをファルクラム改が回収するがイムヤからの返答は一切ない。

結果としてスコーレスト小隊が白星を上げたがその異常性だけがあとを引いていた。

 



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stage 26

「待て!それ以上は、行くな!ラトロワ!」

 

『これ以外に道はあるまい。後を頼んだぞ!イムヤ!』

 

Γ標的の衝角腕を止めるべくの自爆。

残る2機の不知火・弐型でヤツを討たなければ人類に勝ち目はない。

怒号とも咆哮とも言えるこえを上げてイムヤはΓ標的に挑んだ。

 

 

 

 

 

「…ハァ…ハァ…ハァ。またかよ、また俺は。まだ俺は何もなし得てないのか」

 

Γ標的の残骸の上に立つ黒い不知火・弐型の中でイムヤは愚痴を零した。

前と何ら変わらず、変えられず。ただ、仲間たちが死んでいくのを許してしまう自分が許せず、未だに過去に囚われる自分が嫌いだった。

 

「クソッ!クソッ!クソッ!………クソッタレー!!」

 

コンソールを叩き、全ての通信状態が切れている不知火の中で吠えた。

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ」

 

医務室らしき場所で目を覚ます。気分は最悪としか言いようがない。

 

「どうやらあの夢を見ていたようだな。半日で起きたのは褒めておく」

 

隣にいたのは良佑だった。不知夜の整備中であろうに関わらずいることに驚いた。

 

「ダメだな、俺は。まだ何も…「変わりましたって言って変わったやつがどこにいる。変わろうとして変えられるやつがどれだけいる。アンタはあんたのやり方でやればいいさ」

 

「…」

 

何も言えないイムヤに良佑は告げる。

 

「帝国に戻るぞ。例の彼が近々来るだろう?少なからず不知夜の強化につながるからな」

 

それに不知火より強い不知夜にやれないことはない。と続けて良佑は医務室を出た。

 

「弱いな。俺は」

 

 

 

 

 

「ったく。どうすんだこれ?」

 

良佑は格納子でぼやいた。

目の前には解体された不知夜本体ではなく、IGNITIONシステムによって剥げたり、溶けたりしている各部装甲だった。

当の不知夜自体はフェイズ2‘のパーツを流用することでいつでも出撃できるようにはなっていた。

 

(しかし、あちらで処分しきれないものになるとこっちで処分…待て。まだフェイズ2の不知夜ではIGNITIONシステムは活かしきれていない!この廃装甲とデータ、それと横浜の魔女の頭脳があれば不知夜はフェイズ3となることだってできる!そうなれば不知夜はラプターを軽く凌駕することの出来る戦術機…)

 

「廃装甲は処分せずにこちらで保管する。横浜に持ち帰るぞ。各員、急げよ。アイツが起きた今、そこまで時間はないんだからな」

 

開発副主任として、整備主任としてより、上を目指そうとしてるところはどこに行っても変わらない、どこの国の整備主任でも同じことを考えただろう。

そして目指すは頂。全てを圧倒する機体を目指して。

 



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stage 27

オルタ編と言うべきでしょうか。
帝国及び横浜基地が主体になっていきます。


「それで不知夜はどうなったのかしら?」

 

「結果から言えば成功した…だな。ただし、想定よりも機体性能が上回ったからあんたの頭を借りに来たってわけだ。そこまで忙しくないしいいだろ。香月博士」

 

部屋には一組の男女。片方は黒い近衛の服を着ており、もう一人は白衣をまとっていた。

近衛の男は傍らに資料を置いており、この世界では貴重品であるコーヒーを啜っていた。

 

「結果的に成功しているなら十分じゃない。それともその結果に不服があるから私のところに来たの?」

 

「そのトーリ。不知夜は既に戦術機として機能していない。いや、機能はしているが…そうだな、資材を喰い潰しかねないトンデモ兵器になっている。見てもらったほうが早いか」

 

男は懐に入れていたUSBメモリを投げ渡した。

博士が視聴開始から少しばかり時間がたち、視聴をやめた。

 

「…欠陥機にしても性能が良過ぎるじゃない。アレ相手に当然のように勝利をもぎ取ってるなんて」

 

「あんたから見ても欠陥機のレッテルか。ま、機体性能は折り紙付き。使える衛士は一人だけ、使えば確定完全分解整備。ここまでくればね〜。」

 

「最ッ高じゃない!専用機ってところは抜かしても十分過ぎる戦果よ。あの阿呆から一本取ってくれるなんて。…それで、どうしたいの?」

 

「興が乗ってくれたようでなりよりです。コイツが完全分解整備をしないでもいいようにしたいんですよ。主任からどうしたかは開発資料にも書いてあるんで」

 

「そういえば本人はどこいったのよ?」

 

「アイツなら今帝国ですよ。元近衛として久々に行きたいんじゃないですかねぇ。たまには羽も伸ばさせてやらねぇと、歳でポックリ逝っちまいますよ」

 

「簡単に死ぬわけないでしょう、彼が。でも、歳なら逝きそうね」

 

「あんたが言うと、マジにしか聞こえねえや」

 

「あら、言い出したのはあなたの方じゃない」

 

「違いねえや。それでいつから始めますか?」

 

「今からでも始めるわよ。彼、まだ戦う気でしょ?」

 

「そうですね。第四計画の為にも」

 

 

 

 

 

一方、帝都にて

 

「コイツを着るのは久しぶりだな。さて、急ぐか」

 

山吹色の礼装を着こなし、長年行くことのなかった

帝都に足を進めた。

本来、彼は無名であり、アメリカ育ちであるため近衛にいる時点でおかしいのだが、篁唯依の父親である篁祐唯の計らいにより近衛として戦ってきた。

イムヤの存在は帝国にとって意外と重要な位置におり、世界を周り情勢を帝国に伝えると言う使命であった。

そのため、戦闘データの一片ですら重要視され近衛及び帝都守備隊に大きく貢献し対人戦闘における戦闘力が昔に比べ格段に上がっているのである。

今回は特に上物であり、各国の改修機及び新型、それだけでなく米軍の新型機『F-22』のデータも持っている。

帝都守備隊には友人である沙霧尚哉がおり、F-22は彼ら帝都守備隊がぶつかる壁である。

それは未来のことではあるが、イムヤ自身は既に経験済み、そしてそれを回避する方法も計算済みであるがそれがどう転ぶかが問題だった。

だが、それすらもイムヤは頭の隅に置いているだけで本来は第四計画の遂行を第一に考え、幾つか前の記憶の再現だけは絶対に阻止する考えだった。

 

「…ハァ。結局、こういうのばっかりだな。でもこういうのが性に合ってるのかもな」

 



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