寝オチしたらギレンになっていたが 何か? (コトナガレ ガク)
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寝オチしたらギレンになっていたが 何か?

俺はガンダムをこよなく愛している。

 幼少の頃見たガンダムの衝撃と感動をアラサーと呼ばれる大人になっても失わなかった。

 ある日の金曜日、仕事も終わりコンビニで食料・スナック・酒を買い込み自宅に帰る。今日は家に帰ったらファーストガンダムをオールナイトで観る予定だ。

 これで準備は万全。

 家に帰り、先に風呂に入り着替え、大量の食料を用意して鑑賞スタート。

「ふっふ、一気に最終回まで観てやるぜ」

 久々のオールナイト決行。

 と意気込んではいたが、やはりもう若くは無い。

 酒を飲みつまみをいい調子で食って腹が膨れてくると、強烈な眠気に襲われてきた。

「まっいっか」

 俺は大好きなガンダムをBGMに眠気に身を委ねることにした。

 

「んっんん~」

 どれくらい寝たのであろうか、自然と眠気が醒め目を開けると、見知らぬジオンの軍服に身を包んだ男達がずらりと目の前にいた。

 はれ、俺コスプレ会場にいたっけ?

「ギレン様、どうしましたか?」

 声の方に目を向ければ、そこにはタマネギヘヤーが特徴的な美人セシリアがいた。

 ん? これってどういうこと、俺ってもしかしてギレンになっている?

 

 今起こったことを整理しよう。

 信じれないかも知れないが目が覚めたらギレンになっていた。

 何を言っているか分からないかも知れないが事実。

 なぜ納得しているかだって。

 どういう原理か知らないが、俺は元のガノタとしての記憶と人格があるが、ギレンとしての記憶と能力を引き継いでいるハイブリットになっている。

 おかげで今自分が何をしているが理解している。

 これは開戦前の御前会議、ジオンの主だったメンバーが揃って国力何倍どころか何十倍の連邦に対してどうしたら勝てるか戦略を立てている会議だ。

 ハッキリ言えば、勝ち目なんかあるわけが無い。それでも戦争をしなければならないほどにジオンの国民の連邦の棄民対策への怒りが溜まっている。もはや、これを抑えることなど不可能だ。

 ならば、どうする?当然普通の戦略など立てない、勝つ為に人道から外れた手段を執ることになる。

 以前の俺なら兎も角、ギレンと混じり合った俺には開戦を止められないことは理解できるし、止める気もない。

 だが

 だが

 このまま開戦して非人道的な手段により最初は飾れても、最後には頭パーン、頭パーンですよ。碌な終わり方じゃ無い。

 冗談じゃ無い。そんな結末納得できるか。

 そんな未来をどうすれば回避できるか?

 そういった意味では、開戦前に転生できたことは幸運だ。

 未来を変えるには今しか無い。

 よって、俺はガノタの知識とギレンの頭脳を持って新戦略を立てる。

 そして今俺は口を開く。

「諸君には失望した」



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第2話 ジオンガールズ

「閣下、失望したとは」

「言葉の通りだ。

 なんだこの戦略は、核による先制攻撃、後にコロニー落とし。

 これでは仮に勝ったとしても、ジオンは千年悪魔の帝国と呼ばれるぞ」

 まあ勝てば官軍、勝てればどうにでも成るけどね。

 でもここまでやっても勝てないのは歴史が示しているからね、却下。

「しっしかし、つい先日までは閣下も賛成していたでは無いですか」

 くっく、それに対する反論も用意してある。しかし流石ギレンの頭脳、ぽんぽん言葉が紡がれていくぞ。

「あれは演技だ。このような悪魔の所行誰かが止めるかと思って期待していたのだがな」

「でっではこれ以外どうやって国力差を覆すと」

 正直言えば、この国力差で戦争を仕掛ける時点でクレイジーなんだよ。

 幾らモビルスーツが多少現行兵器より強くても無敵じゃ無い。モビルスーツがスーパーロボットだったら勝ち目はあるかもしれないが、現行兵器の攻撃が通用する時点で数に潰される。

 さもなきゃ徹底的に悪に徹して初戦でもういきなり逆襲のシャアでもやれば勝てるかも知れない、νガンもサイコフレームもなければ止めようがあるまい。まあ、現代日本の倫理観を持つ俺としてはそこまでは踏み切れないけどね。そもそもこれじゃ逆襲のギレンになってしまうが、その場合キシリアが敵になるのか?

「王道だ」

「王道ですと」

 高官の顔は驚きと言うより呆れている。

「いつの時代も人は英雄を求めるのだよ」

「はあ」

「ふんっ。

 今日はここまで、各自もう一度良く考えろ」

 こうして俺はガノタ仲間とどうすればジオンは連邦に勝てるかと議論して暖めていた作戦を実行すべく動き出すのであった。

 

 後日、再び戦略会議。

「では諸君、これが我が秘策だ」

 居並ぶジオン高官の前に、ジオン軍服を可愛くアレンジした服を纏う少女達が表れた。

 クスコ・アル

 ララァ・スン

 マリオン・ウェルチ

 いずれ劣らぬ美少女達を前にしてジオン高官達に動揺が走る。

「こっこれは」

「どうだ、ジオン公国が誇る美少女達だ。彼女達にはアイドルユニット『ジオンガールズ』を結成してもらう」

「ここは戦略会議ですぞ。ふっざけているのですかっ」

 高官の一人が激高したが、取り敢えずスルー。

「兄上、とうとう色ボケしましたか」

 この冷たいばばあの声は、キシリア。こいつだジオン最大の戦犯キシリア、このばばあさえいなければジオンはア・バオア・クーで勝っていたというのがガノタの間での定説。

 この女を生かしておくといつ何時頭パーンされるか分かったものじゃ無いので、即刻処刑したいところだが、理由もなくそんなこと独裁者と言われるギレンでも出来るわけが無い。

 まあ処刑できないのなら、仲良くするしか無い。

「まあ落ち着け、愛する妹よ」

「はあ、今なんと言いました?」

 キシリアは顔を?にして混乱した。今のうちに話を進める。

「まず、プロデューサーはこのギレン。特別アドバイザーとしてフラナガン博士」

「!?」

 フラナガンの名に一部の高官達の顔が引き締まった。

「ふっふ、一部のめざとい者達には分かったようだな」

「もっもしかしてその少女達は、・・・・。しかしニュータイプなど、オカルト」

「彼女たちには戦場において『悪代官連邦なんてやっつけろを』歌って貰う」

「それにどのような意味が」

「この歌を聴いたものは、正義に目覚める。

 名付けて『エンジェル・アタック』」

 ハッキリ言ってマ○ロスのミンメ○アタックとVガンダムのエンジェルハイロゥのパクリです。

 巨人は文化に触れて動揺したが、連邦の兵士はニュータイプである少女達のニュータイプ能力に共感してしまい、連邦を裏切るという寸法。まあ其処までうまくいかなくても、自分の思考にいきなり他人の思考が入ってきたら混乱はする。まあ、メ○パニ攻撃と言ってもいい。

 ちなみにニュータイプ能力の高いハマーン様は除外しました。はい今は可愛い少女ですが、すぐにおっかない女に成って寝首搔かれそうなので。

 巫山戯た作戦に思えるが、これの為にニュータイプ少女を見いだしたと言っては連れてこさせ、一流のコーチを付けてボイストレーニングとダンスのレッスンをさせつつ、一流の作曲家に歌も作らせた。

 更に日の目を見ないでやさぐれていたフラナガン博士を煽てて引っ張り込んだ。

 更に更には試作サイコミューを搭載させた試作エルメスを特急で作らせたりと、軽くばれたらやばいくらいの予算をつぎ込んだ。これで失敗したらキシリアにパーンされる。

 だがこれこそが、核もコロニー落としもしないで戦争に勝つ秘策だ。

「彼女たちの初ライブに合わせ宣戦を布告する。

 敢えて言おう、これで勝てる」

 



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第3話 一週間戦争

 宇宙に衝撃が走った。

「我がジオン公国は地球連邦に対して宣戦を布告する」

 全チャンネルでギレンこと俺のシンプルで力強い宣言が流れた。

 元の俺には全くこういった能力は無いが、ギレンに成った俺には悪魔的カリスマも手に入れたようで、この宣言にジオンの兵士達は感服している。

 

サイド1 ザーン

その首都

「ギレンはとうとうトチ狂ったか」

「ですがこれは好都合、中央とジオンの戦争うまくすれば我々にも利が」

「そうだな。うまくいけば地球に返り咲ける。こんな宇宙の辺境で終わってたまるか。だが焦りは禁物。まずはギレンのお手並み拝見と行くか」

 とギレンの宣戦布告の放送を見て捕らぬ狸の皮算よで高笑いとしていた高官達であったが、その部屋に慌ただしく官吏が入ってきた。

「たっ大変です」

「ノックも無しにどうした」

「ミノフスキー粒子が戦闘濃度で散布されました。目下、各コロニーとの連絡が途絶しました」

「なんだとっ。ジオンなのか? ギレンめいきなりここを襲撃するとは。直ぐさま連邦のコロニー駐留艦隊を出すように要請しろっ」

「はっ」

「それと万が一に備え私の脱出艇の準備を」

「はあ」

 官吏は呆れた顔で答えるのあった。

 

 一方駐留艦隊

 官僚に言われるまでもなくミノフスキー粒子が散布された時点で出航の準備を進められていた。

 駐留艦隊旗艦マゼランの艦橋。

「急げ、このままじゃ戦うまでも無く撃墜されるぞ」

「はっ」

「それと他のコロニーにいる艦隊の動きは分かるか?」

「駄目です通信が完全途絶確かめられません」

 初のミノフスキー粒子を散布され通信が途絶された宇宙戦争。対応が後手後手になるのは仕方が無い。後年に成ればレーザー通信などが使われるようになるが、今はまだ無線に頼るのが普通なのであった。

「くそっ。だが対応してくれると信じるしか無いか」

「うあっ」

「どうした?」

 クルーの一人が突然頭を抱えて俯いたので艦隊司令が尋ねた。

「うわーーーー地球連邦軍は悪、ジオンこそ栄光あれ」

「何を言って、うっあっ頭の中に声が響く。

 悪代官地球連邦軍をやっつけろ。いけいけ、ゴーゴージオン軍♪」

 艦隊司令も突然拳を振り上げ踊り出した。

 

「ギレン様。本日ザーンにて行われました戦闘結果です」

 秘書のセシリアが俺に報告する。

 う~ん、スタイル良し顔良し、なのに何でこの人はタマネギヘアーなんだろう。

 非常に残念な美人さんだ。

「何か」

「いやなんでも無い。続けてくれ」

「ミノフスキー粒子の散布による艦艇間の連携の遮断。更にジオンガールズによる精神攻撃により連邦艦隊はまともな抵抗どころか出航すら出来ずに壊滅しました。ジオン軍の被害は軽微です。

 閣下大勝です。流石閣下です」

 新機動兵器モビルスーツとニュータイプによる精神攻撃のミックス。どちらか一方だけでも圧倒的アドバンテージだというのに二つ同時攻撃、予想以上に嵌まった。

 問題は対策が取られる前にどれだけ勝ち進めるかだな。

「そんなことは当たり前だ。それよりも、厳重注意したことは守られたのか?」

「はっ。閣下の厳命通り、コロニーの港には被害が出ましたがコロニー本体には傷一つ付けていません。また駐留艦隊壊滅後、軍は占領すること無く退却しました」

「うむ」

 ガノタの定説。ジオンはスペースノイドなのに自分たちの大地であるコロニーを破壊したから負けた。その負けフラグを一つ回避できた。

「しかし閣下、占領しなくて良かったのでしょうか?」

「ふん、宇宙は広い。各コロニーを占領してたら幾ら兵がいても足りない。

 今は宇宙の同志に地球連邦に逆らえる牙があることを示せれば良い。

 愚民共への啓蒙は焦ってはいけない」

 焦ってはいけない。ジオン対地球連邦で無く、スペースノイド対地球連邦の流れに持っていかなくては勝ち目はない。

 人口の半分はスペースノイドだ、味方に出来れば互角じゃないか。

 綺麗な一週間戦争はその第一歩に過ぎない。

「流石です閣下。それでは失礼します」

 セシリアが引き締まったいいケツを振りながら退室していく。

 うん今度機会がったら髪型変えてと頼んでみよ。

 さて賽は投げられた。

 悪役フラグを全てへし折って、頭ぱーんを回避してみせる。

 その為にも次の一手を打たねば。



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第4話 分水嶺

 サイド1に続きサイド4の駐留艦隊壊滅、グラナダを陥落と順調に進んでいく。

 ここまでは史実の1週間戦争に当たる。だが、史実ではここで総人口の半分を失ったとあるが、今回はそんなこともなく民間人の被害はほぼ無い。

 毒ガスも核攻撃もコロニー落としもしてないからね。

 やっているのは、ニュータイプアイドルを使った精神攻撃のみ。

 うんうん、クリーンな戦争だな。

 ここで、サイド2への進撃と史実だと行くのだが辞める、放置。

 ジオンガールズやモビルスーツの慣らしは終わりだ。一旦本国に戻して補給を万全にした後、いよいよ本番のサイド5 ルウムへ行く。そう一年戦争序盤の天王山だ。

 サイド5の位置は重要で、サイド3と月を挟んで反対側、ここを落とせば月を中心とした絶対防衛圏を作ることが出来る。

 っと言うわけだ、この決戦俺ことギレン自ら出陣する。

「聞け、我が愛するジオンの兵士諸君。

 これより、スペースノイドこそ次の時代の担い手であることを示す為、正面から連邦艦隊と決戦を行う。

 これぞジオンのスペースノイドの、いや人類の分水嶺である。

 これより、ルウムに進撃する。

 宇宙要塞 ソロモン発進」

 俺の号令の元、宇宙要塞ソロモンは各パルスエンジンに火が付き、ルウムに向けて進撃を開始した。

 艦艇のように簡単に進路変更はできないが、決められた座標への移動なら問題ない。史実でもそうやってソロモンは前線まで移動させたんだし、問題は座標を決めて発進した以上もう後戻りは出来ない。

 覚悟を決めろ。

 

「連邦艦隊目視にて確認」

 ソロモンの移動は連邦も察知し今までと違うジオンのこの決戦に賭ける意気込みを感じたはず。当然連邦もこのまま負け続ければスペースノイドに示しが付かなくなる。宇宙艦隊の総力を結集してきた。

「よし、艦隊は全てソロモンの後ろに退避させろ」

 今ジオン艦隊はルウムにて必勝の陣形で待ち受ける連邦艦隊ともうすぐ戦闘距離になろうとしている。連邦艦隊の放つ光がまるで天埜川のような煌めきを放っている。観ている分には綺麗なんだが、今からあそこに突入する身には胃が痛い。

「しっしかし、それではソロモンが矢面に。何よりギレン閣下が」

 付いてくるなと言ったのに強引に付いてきたセシリアが心配げに進言してくる。意外と情の厚い人なんだな。てっきりギレンの金と権力に媚びているだけの腐れ女かと思っていたんだが。

 それにポニーテールにしてと冗談気味に言ったら本当にしてきてくれたし。もし生き残れたら可愛がってあげよ。

「くどい。作戦に変更は無い」

 敵連邦艦隊はジオン艦隊の約6倍。確か史実では3倍だったのが、核攻撃もコロニー落としもしないクリーンな戦争をした代償がこれだが、逆にここを破れば歴史が大きく変わる可能性が高い。

 ジオン艦隊は必殺の距離に成るまで温存する為ソロモンを盾と化す。連邦の攻撃は全てソロモンが受け止める。我が身を犠牲にするのは格好いいが、自分がその中心にいると成ると少々身震いがするな。だが、ドズルを差し置いてこの決戦の総大将になったんだ、これくらいしてみせねば人は付いてこない。

「連邦艦隊から一斉射。衝撃来ます」

「総員、ショックに備えろ」

 その数秒後、ソロモンは震度5の地震の如く揺れた。だが揺れは収まった。ソロモンは砕けはしなかった。

 ふっふっっふ、間合いが甘い。もう少し引きつけられたら危なかったかもな。

 連邦もこの時期は素人に近い。

「今度はこちらの番。ミサイル一斉射」

「了解」

 連邦の一斉射に耐えたソロモンのハッチが全て開きミサイルが連邦艦隊に向けて楕円軌道を描いて向かっていく。

 ミノフスキーの所為で誘導は出来ないが予め航路を設定して放つことは出来る。これで一直線に飛ぶよりかは撃墜されにくいはずだが。

「全弾連邦艦隊に撃墜されました」

「命中は無しです」

 そうか。まっいいけどね。回避機動はフェイクだから。

「連邦艦隊の前にビーム攪乱膜散布されました」

「連邦艦隊の主砲を完全に無効化しました」

「この機を逃すな、モビルスーツ隊発進」

 カタパルトに設置されていたモビルスーツが弾丸の如く連邦艦隊に向けて、次々と打ち出されていく。

「続いて、ジオンガールズ。

 ホログラフィ展開」

 ソロモンに設置された巨大な投影機により、戦場にスタイリッシュな軍服に身を包んだクスコ、ララァ、マリオンが映し出されていく。

「燃え上がれジオン熱唱開始」

 エンジェルアタックの有効時間は約5分であることが今までの実践データより判明した。5分しか無いのなら、ジオンにとっての虎の子モビルスーツの突入時に敵を混乱させて、一機でもザクを連邦艦隊に食いつかせるのが有効。

 美少女達が拳を振り上げ、その美声を戦場に響かせ始める。

 

 燃え上がれ~燃え上がれ~燃え上がれ~ジオン。

 正義に燃える闘志があるなら~巨大な連邦を撃てよ撃てよ討てよ~。

 

 作詞作曲 ギレン。はいとある曲の丸パクリです。だがここにはカスラックはいないのでノー問題だ。

 今、エンジェルアタックで士気高揚したジオンザク部隊が混乱した連邦艦隊に突入していく。

 さあ、ここまでは計算通り。だが6倍もの戦力差を覆せるかは、今後の賽の目次第と。

 



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第5話 圧倒的では無いか我が軍は

「ふははははっ圧倒的では無いか我が軍は」

 しまった。あまりに快調なので死亡フラグを立ててしまった。如何如何気を引き締めないと。そもそも敵は6倍ここで多少圧倒しようとも直ぐに弾切れとなり、数に押し潰されてしまう。 

 次々に最善策を打っていき且つノーミスで無ければ勝てないとは、このギレンの野望はベリーハード過ぎるぜ。

「ドズルに繋げ」

「はっ」

「アニキ、いよいよ俺の出番か」

 スクリーンに映ったドズルが自信溢れる顔で言う。

「そうだ。モビルスーツ隊が開けた穴に突入しろ」

「おう、任せておけ兄貴」

 うん、こういうときにはドズルは頼りになる、キシリアやギレンと違って腹黒くないから裏切られる心配も無い。

 誠実に向かい合えば誠実に返してくれる。まあ体育会系なので、俺とはノリが合わないが、そこは此方が合わせていく妥協が必要だろうが、お酌くらいしてやるさ。

「頼む」

「連邦なんぞ蹴散らしてやる」

 これからドズルは倍以上の数の艦隊に突撃していく。幾ら周りの護衛の艦艇に囲まれていても多少兵器の有意差があろうとも、マゼランの主砲の流れ弾一発の当たり所が悪ければ簡単に宇宙の塵と成る。

 それが分かっていながらドズルは泣き言一つ言わない。

 これが武人という者か、元の世界じゃ会ったことが無い人種に俺は恐れと敬意を抱く。

 

 ソロモンの後方に控えていたジオン艦隊が横陣を引く連邦艦隊中央に向けて縦陣で突入していく。

 Z以降の時代と違って、この時代では艦艇はまだまだ大事な攻撃の要。MSの補給だけしていればいいなどと遊ばせてはおけない。銀雄伝ばりの艦隊運用とMSを上回るビームによる艦砲射撃で大いに連邦を削って貰わなくてはジオンの勝利はない。

「ジオン艦隊連邦艦隊に突入、連邦横陣の中央を食い破っていきます」

 突入艦隊の役目は連邦横陣を食い破りつつ、モビルスーツを回収し補給すること。横陣を突破後はそのまま反転し満腹となったモビルスーツを共に更に横陣を食い破る予定だ。予定だが、敵も馬鹿じゃ無いこちらの予定に付き合ってはくれはしない。

「連邦艦隊右翼がこちらに回り込んできます」

 ほらな敵は数が多いんだ。戦力を集中しないといけないこちらと違って、こういう真似が簡単にできる。

「ギレン様」

「狼狽えるな。ここでソロモンが抜かれればジオン艦隊は包囲されてしまい壊滅する。なんとしてもここで食い止めるぞ」

 精神論だけを言っているわけじゃない。ソロモンには要塞砲が多数設置されている。正史ではソーラ・システムで焼き払われてほとんど役に立たなかったが、今回は無傷で残っている。簡単には墜ちない。墜とさせやしない。

 



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第6話 ガンダム

「きゃあああああああああ」

 ソロモンが大きく揺れ女性オペレーターの悲鳴が響く。

「五番要塞砲沈黙しました」

 くっ幾らソロモンが強固な岩盤による装甲と巨大な砲を持つ要塞とは言え、護衛のモビルスーツも碌にない現状では、連邦の数の前にじりじりと押され始めている。

 ここで何か手を打たねば、終わりだ。

 やるしかないか。

「ここの指揮は任せる。私が出る」

「閣下、おやめ下さい。総帥自ら出るなんて自殺行為です」

 セシリアが狂乱気味に止めてくる。

「ドズルが戻ってくるまでだ。ここで座して滅びを待つわけにはいかない」

「閣下」

「止めてくれるなセシリア、男にはやらねばならぬ時がある」

「ああ、閣下」

 

 俺はノーマルスーツを着、ソロモンの第三格納庫に来た。

「閣下」

「準備は出来ているか」

 俺を迎えた整備兵に問い掛ける。

「万全であります」

「そうか」

 今俺の目の前には総帥の権力をフルに使って作らせた。ジオン軍最新鋭モビルスーツ『ガンダム』が鎮座していた。

 ガンダムとはただのモビルスーツじゃ無い。それは象徴。もはや悪に対抗する正義の象徴のようなモビルスーツなのである。

 どっかの軍オタかぶれが連邦はガンダムが無くても勝てたとかのたまうが、俺の説は違う。連邦はガンダムという象徴を手に入れたからこそ、あの劣勢下で軍をまとめあげ反抗に出れたのだ。

 敢えて言おう、ガンダムが無ければ連邦は勝てなかった。

 そんなモビルスーツが連邦に出ると分かっていて放置するほど馬鹿じゃない。そんな象徴なら先にこっちが貰ってしまえばいい。

 っと言うわけで作らせました。けっして乗ってみたかったからでは無い。先に作ってしまえば、連邦はもうガンダムを作れない。同じ物を作ってもガンダムと名乗れない。同じ物でも名前が違えば、それはもうガンダムじゃ無い。別のモビルスーツ。そしてガンダムじゃ無い以上、象徴としての力は失い、ただの兵器と化す。

 まあ名前がガンダムと言っても今のジオンに同じ物を作る技術は無いので、多少のインチキはした。

 パイプが出ていないザクⅠの装甲を引っぺがして、採算度外視のルナチタニウムでガンダムに似せた装甲を取り付ける。機動力不足は高軌道型ザクのランドセルを乗せることで何とか補う。

 ツインアイは片目にモノアイを固定、もう片目はレーザー通信機。モノアイの利点を全く享受できず視野角は狭まるが、サブカメラでそれを補う。

 ブレードアンテナはVアンテナに換装。武装はビームライフルが用意できなかったが、代わりに凶悪なガトリングシールドを装備、ビームサーベルの代わりにヒートサーベル。でも頭部バルカンだけは再現したぜ。

 最後にトリコロールでペイントすれば、ガンダムの完成だ。くっく、ガンダムと呼ばれる要素は全て備えているだから、中身がザクでもガンダムだ。

 俺はガンダムのシートに乗り込み、ハッチを閉める。そしてスイッチをぺちぺちっと上げていき、ガンダムに灯が灯る。

 く~男のロマン。

「ガンダム、ギレンいきまーーーす」

 カタパルトで射出された瞬間、俺はGで数秒気を失った。



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第7話 戦慄のG

ピーピーピー

 喧しいアラーム音で目が覚めると、目の前に光が迫っていた。

 グオンと強烈な横Gと共に、また気を失った。

 

「はっ」

 数秒後なのか数分後なのか知らないが、俺は再び気がついた。

 体の実感がある幽霊では無い。どうやら俺は生きているようだ。

 先程のメガ粒子砲は、このガンダムに搭載された自動回避プログラムにて避けてくれたようだ。

 くっく、各エースパイロットのザクⅡに搭載しておいた学習型コンピュータにより生み出された回避プログラムは優秀なようだが、ぐお。

 メインスクリーン一杯映り込む連邦艦隊、雨霰の如き攻撃を自動回避プログラムにて避けてくれるのはいいが、強烈な横G縦G斜めGとランダムに掛かり俺はシェイクシェイクでとろける寸前だ。

 まずいこれまずい、40代のオッサンが耐えられる機動じゃ無い。考えてみれば地上で比較的まっすぐ飛ぶジェット機だって、パイロットに掛かるGは凄いと聞く。それが宇宙で縦横無尽に加速するモビルスーツは、もはや素人に扱える物じゃ無い。

 誰か助けてくれ。ギレンは頭脳派で肉体派じゃ無いんだ~。

 と弱気を吐いているといつの間にやら俺はマゼランの真ん前を飛んでいた。まっまずい、マゼランの全砲門がこちらを向くのが分かる。あれを一斉射された流石に避けられない。

 おっ終わりだ~。

「おっおか・・・」

「総帥邪魔です」

 定番の台詞を言いかけたところでマゼランが爆散した。

 そして目の前を緑の試作エルメスが横切った。ララァか。

 と驚いている内に横に迫っていたサラミスが爆散。その爆炎から黄金の試作エルメスが飛び出してくる、クスコか。

「総帥。助けたんだから後でご褒美頂戴ね~」

 軽い、ギャルかよ。

「二人とも総帥に向かって無礼ですよ」

 白いエルメスが俺を護衛するように横に並ぶ、マリオンか。

 うんこの子は、委員長気質だな。だからジオンガールスのリーダーを任せているのだが、正解だったかな。

 そして三機のエルメスが俺の周りにいる連邦艦隊の掃除を始める。 

 試作エルメス、脳波を飛ばすサイコミューはあるがビットは無いので、純粋な戦闘となればただの大型戦闘機に過ぎないが、それにニュータイプが乗れば話は違う。敵にモビルスーツが無いのなら、その機動を戦艦では捕らえることなど出来やしない。まさに縦横無尽の傍若無人の一騎当千。

「総帥ご指示を」

「うむ」

 敵の攻撃が無くなりGが無くなったことで何とかしゃべれる。

「このまま連邦艦隊をつっきる」

「ええ~逃げるの~」

「違う。突っ切った後は反転、背後から連邦艦隊を襲いソロモンと挟み撃ちにして連邦艦隊を徹底的に混乱させる」

「了解しました」

「あったまいいじゃん~」

「邪魔にならないように」

 こうして俺達のというかエルメスの反撃が始まった。

 んっ俺は何で出撃したんだ?



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第8話 俺ギレンの始まり

 気がつけば俺は宇宙を漂っていた。

 ガトリングガンの弾は尽き。

 ヒートサーベルも折れていた。

 ガンダムの装甲には無数の傷跡があり、ルナチタニウムでなかったらとっくに爆散していただろう。

 周りにいたはずのエルメス隊もなく、代わりに無数のトリアーエズに囲まれている。

 終わったか。

 それでも大決戦中に油断して実の妹に頭パーンされる最後よりは多少ましかな。

 いや素直に名乗って降伏すれば、虜囚として命だけは助かるかも知れない。

 

 駄目だ。

 それだけは駄目だ。

 成り代わってしまって始まった戦争とはいえ、ここまでで何人死んだ?

 綺麗な戦争を目指したところで死人は出ている。

 ギレンを信じて戦った兵士、ギレンを憎んで散った兵士。

 それらに報いるため、俺は最後までギレンであり続けなければならない。

 ギレンとして駆け抜けることだけが贖罪。

 覚悟と共に胸の内から熱い物が込み上げてくる。

 

 矢尽き刀折れ、それで闘志は死なず。

 せめてギレンの名を勇士として歴史に刻んでやる。

 ガンダムよ、最後まで俺に付き合ってくれ。

 ああ、こういうとき人型だと素直に感情移入できるな。

 俺の呼び掛けに、ガンダムの目が光り、ボロボロの腕が動いて、まだまだ戦えると応えてくれる。

 人型だ、武器はなくても拳があり蹴りがある。最後まで戦える。

 俺が最後の特攻をしようとしたその時、俺の前を赤い彗星が横切った。

 遅れて爆散していくトリアーエズ。

 あの三倍速くピンク色、もっもしかしてシャアなのか?

『其処のパイロット良くやった。その勇気には賞賛を送る。後は私に任せたまえ』

 格好いい声が流れてくる。

 そして俺ではあり得ない軌道を描いて三倍早く敵を蹴散らしていく。

 ガノタからマザコン・シスコン・ロリコン疑惑の三暗刻でネタにされるが、そういった偏見を捨てて見れば確かにシャアは格好いい。男でも惚れる。

 しかし、シャアはガンダムにギレンが乗っているとは知らなかったようだ。自分が復讐相手を助けたなどと知ったら、どんな顔をするのやら。

 しかし今まで一杯一杯だったので忘れていたが。ギレンをする以上、シャアの取り扱いには気をつけないとな。

 暗殺するか。

 飼い殺すか。

 兎に角絶対にキシリア配下にだけはしてはいけない。

 俺はシャアの取り扱いについて考え始めているうちに大ターンを決めたドズルの艦隊が応援に駆けつけ、その数時間後連邦は敗走していった。

 こうして戦力比1:6でもルウムでジオンは勝利したのであった。

 だがある意味ここまでは、史実をなぞっただけとも言える。

 最後の勝利を掴み取る為、ここからは史実にない未知の道を切り開く。

 ここからが俺ギレンの始まりだ。



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第9話 演説

「元々は地球上に人が増えすぎ、地球はその重みに耐えられなくなった故の宇宙移民であり、地球環境改善が目的であった。

 だがそれは新天地への旅立ちにより人への革新を促すことになった。

 そう、かのジオン・ダイクンが提唱したニュータイプである。

 このように宇宙移民は母なる地球からの人類の自立なのである。

 けっして棄民では無い。

 だが地球の魂に惹かれた旧人類は新人類を恐れ、自分たちは地球の元でぬくぬくと暮らし、スペースノイドを搾取の対象と見なすようになった。

 こんな事許せるか、いや断じて許せない。許してはいけないのである。

 だが、今までは地球連邦の強力な軍の前に正義の人は口を紡ぐしか無かった。

 しかし、それは今日をもって終わったと宣言する。

 そう我々は勝ったのである。

 ルウムにおいて六倍もの戦力差を覆し、我々は勝ったのである。

 さあ、正義の人々よ、もう口を噤む必要は無い、暴力に恐れることはない。

 我々は牙がある。

 さあ、人類の革新たるスペースノイドの同士達よ。

 今こそ立ち上がれ、今こそジオンと共に、にっくきアースノイドに鉄槌を下そう」

 

 このルウムでの勝利後に俺は全世界に向けて演説を行った。

 これにより、ジオンの泣き所である「ジオンに兵なし」を克服する優秀な人材が集まることを期待してのことである。

 

「閣下、素晴らしい演説でした。これでジオンに呼応するコロニーも出てくるでしょう」

「そうか」

 髪型をポニーテールに変えてくれたセシリアからタオルを受け取る。

「それで連邦の残存艦隊は?」

「ルナツーに集結しているようです」

「そうか」

「どうなさいますか閣下」

 本来ならここで南極条約だが、人類の半数が減っても降伏しなかった連邦が、たかが一戦に敗れた程度で降伏するわけ無い。

 それに残念ながらレビルは生きている。高級将校の捕虜は取る必要なしと命令したら、捕まえるどころか、いつの間にか逃げていた。歴史の修正力恐ろし。

 以上からするだけ無駄。

 まあ、ある程度此方の優位が固まったら結ぶ気ではあるけどね。

 今は優先すべき事がある。

「まずは例の極秘作戦は?」

「はっ隠密部隊が動いていますが、本当に・・・」

「この件に関して反論は許さない」

「すいませんでした。必ずや遂行して見せます」

 セシリアに頼んだのはジオンの行く末を左右する重要作戦。

 アムロ・レイ、セイラ・マス 誘拐作戦である。

 未来を知っているガノタで無ければ立案できない作戦、果たして吉と出るか凶と出るか、神のみぞ知る。



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第10話 勧誘

「おっお前は誰だ」

 子鹿のようにぷるぷる震えながら俺の前に立つ少年は精一杯強がる。

 これが後年キリングマシーンと呼ばれる英雄なのだが、今はただのニート。

 特殊部隊に命令して拉致してきた目標2である。

 さて、どうするかな。

「オジサンかい。オジサンはジオンのトップのギレンって言うんだ」

 にこっと笑い、下積み社会人の経験を生かし目一杯フレンドリーに挨拶する。

「ギレンだって! なんで僕を誘拐なんか」

 ヒキコモリでも流石にギレンの名は知っているようだ。

「それはね。君に才能があるからだよ」

「僕に才能?」

「そう。是非君を勧誘したくてね。でもおじさんジオンの偉い人じゃん、会いたいと思ってもオジサンの方からは会いに行けないじゃん。

 だから多少強引だったけど君に来て貰ったんだ。

 勿論強引だったことは謝るよ。申し訳なかった」

 俺は一回りも下の少年に深々と頭を下げる。

 それに気をよくしたのか少年の態度か和らぐのを感じ取れた。

 ちょろい。社会経験の無い引き籠もりなど手玉の如くよ。

「それで僕に何をさせる気だ」

「私と一緒に人類を革新して欲しい」

「人類の革新」

「君は聡い子だ。だからこそ絶望して引き籠もってしまったんだろ。

 今の地球連邦政府は腐敗しきっている」

 と色々とご託を述べて。

「腐敗した世界を変えられるのは君しかいない。

 どうか君のその力貸して貰えないか。

 勿論断ってもいい。その場合君を無事家に送り返すことを約束する」

 と最後ちょっと逃げ道を与え締めくくって、力強く肩を叩いた。

 これで少年は俺が悪には思えなくなったはず。

 勿論、ノーと言われたら本当に家に帰す気だ。

 何も勧誘は一回しかしちゃいけないことは無い。振られても機会を見て再び勧誘するつもりだ。

 三顧の礼という奴だな。

 こうして誠意を見せればいつか心を開いてくれる。

「でも僕にそんな力なんて」

 これは謙遜か卑屈か? どっちか分からないが、ここは大人の狡さで天秤を傾けさせて貰おう。

「イエスと言えば、君にこれを託そう」

 そう言ってディスプレイのスイッチを押し、映し出されたのは先程の戦いで大活躍をしたジオン製ガンダム。

「こっこれを僕に」

 メカオタクだけあって格好いいメカを見せた途端目が輝きだした。

 いや、元々少年とガンダムの出会いは必然。

 運命の力に少年の心が抗えるというのか、いやない。

「これを自由にしていいの?」

「ああ。その代わり私に力を貸して欲しい」

「分かったよ。僕の力を貸す。そして世界を変えよう」

「ありがとう」

「はい」

 俺と少年は固く握手した。

「そう言えば名乗ってませんでしたね。

 僕はアムロ・レイ。アムロと呼んで下さい」

 



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第11話 勧誘2

「こんなところに私を連れてきてどうするつもりですか?」

 こちらを睨み付ける鋭い視線。連行されてきたというのに下手になんか絶対出ない強気強気の上から口調。

 流石ガンダム世界のくっコロ姫、セイラさんだ。

「君と話がしたくてね。

 セイラ・マス、いやアルテイシアとお呼びしたほうがよろしいですかな」

 こちらも負けずに椅子に深々と座って足なんて組んで片肘ついてみる。

 アムロとは違う、セイラさん相手に下手に出れば見下され、弱気を言えば軟弱者と殴られる。ある意味ニトロ並みに扱いが難しいのもセイラさん。

「私をアルテイシアと知ってこの扱いですか?」

 うわ~扱いにく。

 確かに美人だけど、遠くから見ているだけの方がいいな。

 仮に一緒になったらきっと心が安まらない。元平凡な日本人のメンタルじゃ無理っす。

 しかしここは頭パーンを避ける為逃げるわけには行かぬのだ。

「そう尖るな。私は幼い君と遊んであげたこともあるのだよ」

 父の会社の上司の子供さんと遊んであげる。休日は潰されるし~バイト代も出ないし~気はずりずり磨り減らされる。こう言い換えるとザビ家も結構社畜根性合ったんだな。

「こんな扱いを受ければ尖りたくも成ります」

「それについては謝ろう」

 椅子に座って全然詫びる態度で無い態度で詫びる、これがギレン。

「謝罪をしたところで、ここからは建設的な話をしよう」

「話が終われば帰して貰えますか」

 ほんとすげえなセイラさん。元の世界の俺だったら目線すら合わせられない、こんな眉無しオールバックに堂々とした態度で挑めるメンタルは最高だ。

「それは無理だな。君はダイクンの忘れ形見、ここで私が引いても他の者が放って置くまい」

「だから身分を隠して暮らしていたのに。

 静かに暮らしたいだけのなのにっ」

 初めてセイラさんが年相応の少女らしい激昂をぶつけてきた。その姿に少し良心が痛む。

 実際セイラさんは戦争後は悠々自適に静かに暮らしていたんだよな。

「私でさえ君を見つけたのだ。いずれ誰かが見つける。そして担ぎ上げる」

「私はそんなこと望んでません」

「この際君の意思は関係ない。このギレンには敵が多い。そしてジオンは決して一枚岩では無い」

「ダイクン派が私を担ぐと」

「そうだ。このままだと例えこの戦争で地球に勝っても今度はスペースノイドが割れて戦争を始める」

「不毛だわ」

 吐き捨てるように言う。

「だが君が協力してくれれば防げる可能性がある」

「どういうことですか?」

「ザビ・ダイクン家を生み出す気はないか?」



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第12話 悲劇のヒロイン

これぞ一晩考え抜いた名案

 仮にだが連邦に勝ったとしてザビ家内部で権力争いが勃発するのは必定。

 そうなれば頭パーンである。

 奇跡で妹と仲良くなったとしても、今度はダイクン派。

 ダイクン派を粛正すれば、シャアが。

 内部に敵を抱えすぎだろジオン。戦争する以前の問題だろ。

 それらを解決する名案。

 それはザビ家とダイクン家の血を引くものに後を任せること。

 戦争に勝った暁にはガルマとセイラの結婚を発表。

 その子にジオンを譲ると言えば万事オーケー。その子ならキシリアもダイクン派もシャアも喜んで協力するだろう。

 俺はまあ退職金を一杯貰ってハーレムでも作ってどっかのコロニーで平穏に暮らそう。

 正直勝った後の世界、非道なことはしてないので人口も100億以上いるし、こんなの地球が潰れるに決まってるだろ。それを導いていくなんて、鉄仮面のように狂ってみせるしかどうしようもないじゃないか。そんなのシャアにでも任せよ。

 まあこの計画で一番わりを食うのはガルマだろうが、あいつは地球に行かさない。行かなければ運命の出会いも無いのだから文句を言うことも無いだろう。まあ怖い嫁さん貰って尻に敷かれるのは確実だが、親友に裏切られて死ぬ運命よりはマシだろう。

「けだもの」

「へっ」

 思考に耽っていると今までの人生で言われたことの無い罵声が響いた。

「私の体を弄ぶつもりですか、ギレン」

 セイラさんが俺をゴミを見るような目で見てくる。

「このロリコン」

 ぐさっと心に刺さったが、勘違いしていることも分かった。

 そうかあの会話の流れでは俺がセイラさんと結婚すると思われても仕方が無い。早く誤解を解かないと。ガルマはお坊ちゃんで性格いいしイケメン、ハッキリ言って政治家には向かないけど、いい恋人いい夫にはなる。

「なにか・・・」

「だがそれしか平和をもたらす方法が無いというなら、この身を差し出しましょう。この体を自由にするがいいわ」

 あっセイラさんのあの顔、悲劇のヒロインに酔っている。

「ですが私が欲しいというなら、まずは勝って見せなさいギレン」

 悲劇のヒロインに酔った上で高飛車に出るとは流石セイラさん。

 今更ガルマとは言い出しにくくなってきたぞ。

 なんだろうね~自分を男なら求めてくるとナチュラルに思い上がれる思考。流石ガンダム界きってのくっころ姫。下手に言えばセイラさんの面子を潰してしまい、折角その気になっているのに臍を曲げてしまう。

「いいだろう。地球連邦如き直ぐにでも下して見せよう。

 その時お前は世界の指導者の妻となるのだ」

 あ~あ言っちゃった。どうしよ。

 まっ勝ってから考えるか。

 兎に角これでシャアに対する切り札は握った。

 



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第13話 禁忌

「良く来てくれた諸君」

 ここは前線基地ソロモンの忘れられた会議室。ここの区画は先の戦いでの爆撃が酷く記録上は消失したことになっている。その忘れられた会議室の俺の前にノーマルスーツを着用したシュタイナー大尉、シーマ大尉の両名が表れたのだ。

 今この隔離された空間には俺、セシリア、シュタイナー、シーマの四人のみ。ギレンの首を狙うものにとっては、絶好の機会とも言える。かなり危ない橋を渡っている自覚はあるが、それでもこの橋は勝つため渡る必要があったのだ。

 会議室の記録の抹消、気密を施しエアーボンベの設置などはセシリアさんがやってくれました。

「総帥直々のお出迎えとは、嫌な予感しかしませんな」

 エアーがあることを確認しヘルメットを取ったシュタイナーが苦み走った渋い声で言う。総帥を前にして毒を吐ける胆力は流石、こうでなくてはこの作戦は任せられない。

「まあ、座りたまえ」

「はっ」

 シュタイナー、シーマ共に敬礼をすると申し訳程度に設置してあった椅子に着席した。シュタイナーと違ってシーマはなんか毒女の片鱗は無く、まじめな女性士官といった感じだな。何か黒髪ロングストレートからお嬢様にすら見える。

「まずは嫌な予感に関して答えよう。

 今から話す作戦は特秘事項Sだ。つまり知った以上断ることは出来ない。今なら引き返すことが出来るぞ」

「そして最前線送りですか」

「口が過ぎるぞっ」

セシリアがシュタイナーを咎める。

「良い。それぐらいでないとこの作戦は任せられない」

 やんわりとセシリアを窘める。憎まれ役を買ってくれるセシリアさんありがとう、おかげで俺が憎まれること無く場が締まる。

「出過ぎました」

「っでどうする?」

「受けましょう。これからも連邦との戦争は激化するでしょう。どこにいても最前線、なら大きな仕事を果たしたいですな。

それに我々で無ければ出来ない仕事なのでしょう」

ここでニヤリと笑ってみせるシュタイナーは、俳優でも出来そうなほどに格好いい。

「うむ。それでシーマ大尉はどうする?

 受けないのなら、それでもいい。特にペナルティーを科すつもりは無い」

「受けます。元よりこの命公国のために捧げる所存です」

 う~ん、これ本当にシーマ様? 全然毒が無い。可愛いとすら思ってしまう。

「うむ。危険な任務だが、成功の暁には全員の2階級特進を約束する」

「ほう、殉死でもしてしまいそうですな」

「何を犠牲にしても作戦を果たせと言うことだ」

「部下を捨て石にしろと」

 シーマがここで憤慨して食ってかかってきた。本当にこの頃は真っ直ぐなんだな。

「しろとは言わない。だが心に刻んでおけ。これで雌雄が決するとは言わないが、公国に大きく戦況が傾くのは確実だ。それにより戦死者の数は万は変わる」

「腕が鳴りますな。ようはそんな窮地に追い込まれなければ良いと言うことですな」

「そうだ」

「ではそろそろ焦らすのは辞めにして、本題に入りましょうや」

「うむ。詳細は後で紙で渡すが、君達にはあるコロニーに行き、秘密裏にあるものを奪取して貰いたい。当然連邦に動きを察知されれば、死にものぐるいで阻止しようとするだろう。最悪コロニーごと消滅しようとするかもしれない」

「それは怖いですな」

「この作戦は極秘を持って為すのが最上。人知れずコロニーに侵入し、人知れず奪取して離脱する。だが、万が一のこともある。これを君達に渡しておこう」

 パチンと指を鳴らせば、セシリアさんがモニターを付ける。

「こっこれは」

「スコーピオンだ」

 モニターには真紅に塗装されたモビルスーツが映った。その外観はザクとは違い、より鋭く中世の騎士風の外観と背中にはザクなどとは比較にならない推力を持った土星エンジンを搭載されていた。

「最新鋭機! いやこれはどこかで」

 シーマがモニターに映ったモビルスーツを見て頭を捻る。

「これってザクとのコンペで負けた、欠陥機ヅダじゃ無いか」

 ちっばれたか。そうこれはコンペで負けたヅダを真っ赤に塗装してリミッターを付けただけの機体。

「シーマ大尉はよく知っている」

「重大な作戦と言っておいてこんなのを回すのかい」

 あっシーマ様が切れた。今の口調姉御の片鱗が覗える。

「嫌なら持っていかなくていい。だが、総帥である私が直々に君達に指示している意味を汲んで欲しい」

「連邦と繫がっている者がいると」

「ふっ。

軍に制式採用されたザクでは足が着く。だが欠陥機として廃棄されたことになっているこの機体なら、何とか私の一存で回すことが出来る」

「総帥の深い考えを読み取れず申し訳ありませんでした」

 シーマが頭を下げて謝る。

「よい。

リミッターさえ解除しなければ、そうそう爆発することは無い。そもそもこの作戦モビルスーツは必要ないはずだ。

 これはあくまでも保険なのだよ」

「それでこのお嬢さんと私は同じ階級ですが、どちら指揮を執るのですか?」

 当初この組み合わせに付いては悩んだが杞憂だったようだ。綺麗なシーマなら大丈夫だろ。

「ここは経験を買ってシュタイナー大尉が指揮を執ってくれ。シーマ大尉は副官としてサポートをしろ」

「はっ」

「現時点をもって君達は軍から除籍され、何があっても軍は関与しない。

 今このときよりラプラス奪取作戦を開始する」

 くっくっく、究極の後付け設定。本来のギレンなら知ることのない情報だが、ガノタの俺なら知っている、ある意味コロニー落としより連邦にとって驚異の存在。ガノタの間ではUCでは意味ないじゃんとネタにされるが、この時期なら意味は大きく違う。

 使いようによっては人類の半分、スペースノイド全てがジオン側になる。これで工業力は兎も角人口なら互角に持って行ける。嫌上手くいけば連邦内部の良識派すら此方に付く。

 そう上手くいかないとしても、最低地球圏は混乱する。

 いやはや、情報こそ最高の禁忌だな。

 



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第14話 打ち上げ花火 見上げるか見下ろすか

「これより次期主力モビルスーツ開発会議を始める。

 ですがなぜこの会議に総帥自らが?」

 技術士官が困惑気味に俺に尋ねる。そしてこの会議室を埋める技官達も俺に困惑の視線を向けてくる。

「モビルスーツこそ我がジオンの力の源泉。その開発会議とも成れば私が出席するのは当然であろう」

 くっくっく、後はラプラスを奪取してくるのを待つだけ。それさえ奪取すればセイラとセットで全コロニーに発表。連邦の不正を徹底的に糾弾することで、今は日和っているコロニーもこちらに、いや違うかコロニーの代表はあくまで地球連邦から派遣された犬、味方することは無いだろう。だが市民は違う。上がどう頑張ろうが市民全てが決起すれば政権はひっくり返る。そもそもその蓋をすべきコロニー駐在軍は壊滅させてやったからな、後は点火さえさせてやればいいのだ。

 つまり果報は寝て待て。ルナツーに手を出すなんて危ない橋を渡る必要は無い。

 危ない橋を渡らないなら、暇が出来る。

 暇が出来たらガンオタがすることなど一つ、折角モビルスーツがある世界に来たんだ。堪能させて貰おうじゃ無いかMS開発という奴を。

 実は俺量産機好きなんだよね~。これぞ技術者魂が震える、俺こういうのが好きで元の世界じゃ理系だったんだ。

 やっちょうよ。国家予算使ったガンプラ作りだよ。

「分かりました。

 ではザクⅡですが、早くも性能限界を露呈し始めました。軍よりそれの改善を求められていますが、方針は二つ。

① 既存のザクのバージョンアップで対応していく。

② 全く新型モビルスーツを開発する。

 当然両方進めては行きますが、やはり予算は限られています。どちらのプランに予算と人員を重点的に投入すべきか、皆様の意見を伺いたい」

「新型機開発の目処は付いているのかね?」

「それがコンセプトすら見えない状態でして」

 まあ元々長期戦は予定してなかったのだ仕方ない。ファーストもガンダムが出たことで開発競争に火が付いた感じだったしな。

「ならば対モビルスーツをコンセプトに開発してみてはどうかね」

「対モビルスーツですか」

「うむ。今はジオンのみにモビルスーツがあるとはいえ、いずれ連邦も開発してくるだろう」

 本来ならグフになるのが陸戦はする気が無いので、ギャンになるのだろうか? グフ好きなんだけどな~いっそリック・グフとかどうだろうか。提案してみるか。

「流石慧眼です」

「おだてるな。しかしそれも新型のジェネレーター開発がうまくいってのことだ。そちらはどうなっている?」

「ミノフスキー博士の下順調に進んでいるとのことです」

「そうか」

 くっく、虐殺をしなければミノフスキー博士にジオンが見限られることはない。これでジェネレーターに関しては連邦に大きく差を付けられる。

「ならばそれを搭載した新型対モビルスーツ用モビルスーツ楽しみにしているぞ」

「はっ閣下の期待に応えて見せます」

 しかしこの流れだと開発系統からグフ、イフリート、ドム、水泳部が削除され。ザク系統、ギャン、ゲルググのみとなるのか。少し寂しいが仕方ない。せめてリック・ドムくらいは開発しておくべきなのだろうか。

 まあいい寂しい分はガンダムシリーズで埋めよう。これでも前回の反省からジョギングをしているんだ。きっと今度はスムーズにモビルスーツを動かせるさ。

 俺が悦に浸っている時会議室のドアがノックも無しに開けられ、セシリアが慌てて入ってきた。この人がこんなに慌てているなんて何があったんだ?

「総帥、大変です。至急執務室までお願いします」

 ここでは話せないと言うことか。

「分かった」

 

 戻った執務室で俺は輝きを見た。

 執務室のスクリーンには地球が映し出され、その地球の各所から打ち上げ花火のように瞬く。打ち上げ花火、見上げるか見下ろすかなんて風流に浸れればどれだけ良かったか。地球が輝くたびに、サラミスがマゼランが打ち上げられてくる。

 舐めていた。コロニー落としをされなかった地球の工業力はここまでだというのか。ルウムで葬った地球連邦艦隊が今再建された。

 どうやらルナ2攻略、危ない橋を渡す必要があるようだな。

 



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第15話 SFの巨頭

「総帥、これがルナツー偵察隊が撮影してきた映像です」

 連邦宇宙艦隊再建という事態が発生し緊急会議が招集され、ザビ家一堂及び主だったジオンの高官が揃っている。

 ルナツーに残っていた艦隊と打ち上がった艦隊を合わせて、3倍の兵力が揃えられたと推測されている。3倍なら勝てるじゃ無いかと思うかも知れないが、ジオン軍は先のルウム会戦で勝ちはしたが損耗激しく再建中であり、とてもじゃないが3倍の艦隊+要塞に攻撃を仕掛ける余力は無い。

 今はこのルウムに設置したソロモンに立て籠もり防衛ラインを維持するのがベターなのだが、ここで守っていては連邦との差は広がるばかりのジリ貧。

 この状態でラプラス奪取に成功し発表しても、連邦の圧倒的暴力の前に各コロニーは結局は沈黙を選ぶであろう。

 何としてもジオン強しを今一度見せ付けなくてはならない。

 っというわけでの緊急御前会議である。

 それにしてもセシリアさんがメインモニターに映し出したのは、GMなのか?

 ガンダムも開発されてないのにいきなりGM? 俺が?を付けるのは、確かにヘッドはGMなのだが、体がザクに酷似しているからだ。

 GMヘッドだからGMでいいのか? だが体はザク、頭が吹き飛んだら敵味方の区別が付かないぞ。まあカラーリングがGMカラーの赤白になっているけど。

「これはなんだ?」

「端的に言えば、ぱちもんザク。

 連邦が鹵獲したザクを3Dスキャナーで丸コピーして作り上げたようです。

 通称 ZAKU Refine Model、ZAMです」

 発想はし難く、真似は容易い。

 よほど科学技術に開きが無ければ、3Dスキャナーを使えば機械部、プロテクト外してしまえばソフトも簡単コピーできる時代なのだ。

 だからこそコピーされる前に決着を付ける必要があったんだが。

「性能的にはどうなのだ?」

 別の高官が聞く。

「性能的には我が軍のザクの7割ほどです。特にジェネレーターのコピーが上手くいっていないようで最大出力を出すと爆散するようです」

 何それ怖い、どこのツダ?

 っと笑ってもいられない。ミノフスキー博士を亡命を阻止したことでジェネレーターに関しては圧倒的アドバンテージを持っているようだが、楽観はしてられない。

 一対一なら勝てるが二対一ではどうなる? 三対一では?

 多少の性能差は数の暴力で覆せるし、連邦にはそれが出来る。

 数を揃えられる前にルナツーを叩く必要があり、待てない理由がますます増えた。

「ドズル。ジオン宇宙軍の再建あとどのくらい掛かる?」

「メカも酷いが負傷兵の補充も。だが二ヶ月いや一ヶ月でやってみせる」

 ドズルがこう言うなら一ヶ月は掛かるのであろう。

「分かった」

 人間の補充だけはどうにもならない時間が掛かることは元社会人理解できる。ブラック企業のように人間を使い潰すのは自分の足を喰って延命するのに等しい。

 っとなると何としても一ヶ月時間を稼ぐ必要があるということか。

「サナダ長官」

「はっ」

「以前より命じていたものはどうなっている?」

「システムに関しては工期通り順調ですが、急がせて完成させてもどのみち地球の裏側に位置するルナツーには無意味です」

「だが防衛には使える、頼むぞ。

 っで敢えて後にした二つはどうだ」

「ふっふ、こんなこともあろうかと開発を進めていた秘匿兵器。

 まずは、艦隊指揮艦ヤマトは今すぐにでも進宙式が出来ます」

「やまと? なんだそれは兄貴」

 ドズルが初耳だとばかりに尋ねてくる。

「ジオン軍の総旗艦となるべき船の名だよ。

 最速の船であり、ハイパーメガ粒子砲を艦首に装備、モビルスーツ搭載能力は1機」

「たった1機!?」

 高官の一人が驚くのも仕方ない。今の時代艦とはモビルスーツキャリーであり、モビルスーツ運用の力こそが求められる。

 だが、敢えてそこは求めない。そんなものは空母に任せれば良い。

「ヤマトの真価は単艦での攻撃力では無い、艦隊を指揮することに特化した船。ヤマトが指揮すれば艦隊の能力は2倍に跳ね上がる」

 外見は某ヤマトと瓜二つだが、決して男の浪漫、ガンダムと並ぶSFの巨塔に憧れたわけじゃない。

 銀河の果てすら見れる光学観測システム、ゼタレーザー通信リンクシステムに亜量子コンピューターを備え、艦隊戦における情報を瞬時に分析できる。

 このように攻撃力でなく情報収集能力に能力を振っている。

 この船にギレンの頭脳による指揮が加われば鬼に金棒。

 これさえ有れば、残存戦力だけでも一勝負ならできる。

「なんと」

 太鼓持ちの高官が驚いて見せているが、その横でドズルは渋い顔、キシリアは馬鹿かという顔をしている。

「それともう一つは?」

 俺はさり気なく話題を次に移す。

「秘匿モビルスーツ「ニートゥ」、5機ロールアウト可能です」

 にやっと笑うサナダ長官。

「よしこれより、オペレーション「ヒキコモリ」始動する。

 



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第16話 ステルス

「我がジオンが誇るエース達よ。良く来てくれた」

 俺の前にはジオンの誇るエース、ジョニーライデン、シン・マツナガ、ランバ・ラル、シャア、ヴィッシュと揃い踏みである。

 彼等も総帥を前に緊張しているが、平和で日本で生きてきた俺もこんな歴戦の勇士を前にしてちびりそうである。

「光栄です。ギレン総帥。この戦況が逼迫する状況で、戦線からこれだけのメンバーを引き抜いたのです。何をやらされるのか緊張します」

 シャアの俺を見る目が怖い怖い。あれ獲物を狙う鷹の目だよ。

「はっは、シャア。君らしくもない謙遜だ。君はもっと傲慢だろ」

「ご冗談を」

 怖い怖い、今ここで抜き撃ちされそうで怖い。

 この人まじで怖いよ。ガルマなんで此奴の友人なんてやってられたんだ、聖人か。

「まあ、冗談はここまでにしよう。

 君達には戦局を左右する極秘作戦を行って貰いたい。

 まずはこれを見てくれ」

 俺はこのメンバーが集められた格納庫にある黒光りするニートゥを指し示す。

「見たところ、MSより一回り大きな宇宙戦闘機のようですが、こんなもので今更どうしろとおっしゃるのですか?」

 さっきからシャア以外は黙って、その分シャアが遠慮なく来るな。

 まあ、この疑問は当然だ。MSより一回り大きかろうが宇宙戦闘機ではMSに歯が立たない。

「これは最新鋭可変分離MS「ニートゥ」。

 可変分離機構を有し目的までは宇宙戦闘機の形態で進み、作戦宙域到達次第外装をパージしてMSに可変し戦闘を行う」

 まあ言ってしまえばリ・ガジィです。中からガンダムもどきでなくザクRF改が出てくる違いはありますが。

「なるほど長距離からの奇襲が可能となるわけですか」

「それだけではない。

 ニートゥにはこの時代には珍しいステルス機能があり、ミノフスキー粒子を播かなくてもレーダーに感知されにくくなっているのである。

 なので予め言っておく、ステルス機能の為、外装は黒一色、変更無しだ」

「黒」

「黒ですか」

「黒なのか」

「黒かよ」

 ここで初めて歴戦の雄志達に戸惑いが走った。君達そんなにパーソナルカラーに拘っているの?

 しかし機能上必要なんだからしょうがないだろ。ミノフスキーを遣えばレーダーに感知されないが、逆に敵が接近することを教えることになる。つまり本当の意味での奇襲は出来ない。

 だが、これなら人知れず忍び寄れる。

「更にはニートゥには簡易居住区が設置され、最長一週間の滞在が可能になっている」

 三畳の自室。ネット接続は出来ないが、ここでは最新ゲームから漫画までとても一週間では見切れないほど揃えてある。ゲームがいやならプラモも補充しよう。

 俺なら余裕で引きこもれる。

「そんなものをわざわざ開発するということは、何処に奇襲を掛けさせられるのか答えを聞くのが怖いですね」

「ルナツーだ。

 君達には月のマスドライバーより発進し、楕円軌道を描いてルナツーを裏側から奇襲して貰う」

「この人数でですか?」

「そうだ。

 ニートゥには極めて強力な爆弾が搭載されている。それをルナツーの重要拠点に設置して爆破して欲しい」

「極めて強力ですか」

 シャアが意味ありげに呟くが、核じゃないよ。核は最後の切り札。今のところ此方で使用してない為か、連邦も使ってこないでいる。南極条約を結んだ訳ではないが、暗黙の内に核は互いにタブーになってきている。それを此方から破って悪役になっては、折角のイメージ戦略が台無しだ。

 綺麗なギレン。このイメージを崩すわけにはいかない、政治家はアイドル以上の人気商売なのだよ。

「それと当然だが作戦行動中は一切の外部との交信を禁じられる。この作戦にはMS操縦能力だけでなく、長期の孤独に耐える精神力も必要とされる」

 ここ重要。一人でいることを苦とも思わない精神が必要とされる。そこいらにいるニートなら余裕だと思うだろうが、彼等は意外とネットを使って外部と接触している。今回はそういうの一切無し、本当に孤独に追い込まれる。仏教の悟りを開く修行に近い。

「勿論君達だけを危険に晒しはしない。

 軌道修正の噴射は既に計算され全てオートで行われ、そのタイミングで我々も陽動をルナツーに仕掛ける」

 これで万が一に噴射を観測される危険を減らす。

 そして今のジオンの残存兵力ではルナツーに陽動を仕掛けるのも中々命懸け。

「バックアップは完全ということですか」

「当然だ。我々は君達の奇襲が成功するものとしてタイミングを合わせてルナツーに総攻撃を掛ける。君達が失敗すれば我々も全滅、一蓮托生というわけだ」

「心が躍りますな」

「では君達に問おう。

 この作戦受けるかね?」



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第17話 悪の帝王





 サイド1 ザーン

 一年戦争初期には反ジオンの急先鋒であったが、一週間戦争におけるジオンの奇襲で連邦駐留艦隊の全滅、ジオンがコロニーに全く手を付けた無かったことから、少し態度が軟化してきている。それでも積極的にジオンに味方するわけでもなく、連邦・ジオンの間をゆらゆらする日和見に徹していて、キシリアに調略を任せているが一向に態度を鮮明にしないで今日に到る。

 そんなある意味一年戦争においてコウモリ野郎の侮蔑の代償に平和を享受していたサイドであったが、今首脳部はそのツケを払われようとしていた。

 

「ジオンですジオンの半個艦隊が此方に向かってきます」

「どういうことなのだ? キシリアは何か言ってきているか?」

「何も」

「まさか態度を鮮明にしないことに業を煮やして武力侵略に踏み切ったのでは?」

「いや向こうはミノフスキー粒子を散布していない、まだ望みはある。

 こちらも決してミノフスキー粒子散布はするな、手を出すな」

「寧ろ此方から先制攻撃を仕掛けるべきでは、上手くいけば追い払えます」

「どうやってだ? 治安維持用のスペースシップで役に立つか」

「ルウムと同じ運命を辿るというのか」

「外交ルートを通じて何としてもキシリアと連絡を付けろ」

「そんな暇があるのか」

 ザーン首相官邸の会議室にはザーン首脳陣が一斉に揃い、慌てふためいていた。

「首相、進軍中のジオン艦隊から入電です」

「誰からだ? マ・クベかそれともコンスコンか? まさかドズルか?」

「ギレンです」

「「「なんだと!?」」」

 このとき慌てに慌てていたザーン首脳陣の心が重なったと言われている。

「やあ、ザーンの諸君。ご健勝かね」

 ミノフスキー粒子の散布は行われておらず、会議室の設置された大画面には偉そうに足を組んで座るギレンが鮮明に写しだされたのであった。

 

 ヤマト艦橋の大スクリーンには、狼狽しきるザーン首脳部の面々が写しだされる。

 どうやら、外交戦における電撃戦は成功のようだ。

 内心ニヤリと笑う横では、澄ました顔して立っているセイラさんが控えている。

 今回セシリアはお留守番というか、ジオンの内政もほったらかしに出来ないので(目を離すとキシリアが何するか分からない)信頼できる者として残って貰った。当初は付いていくと聞かなかったが、君しか信用できないと言ったら折れてくれた。

 代わりにお目付役というか、将来政治家になるための修行として秘書見習いのセイラさんが付いてきている。彼女には将来ジオンをしょって立って貰わなくてはならない以上、プライドと外見だけが高いくっころ姫のままじゃ困るということでのさせているが、変に擦れてキシリアやマーサみたいな女傑になったらどうしよう。

 まあそんな未来の心配してもしょうが無い、今は作戦に集中だ。

「これはギレン閣下。事前通告も無く突然の来訪に驚きます。

 そして今日は何の用でしょうか?」

 首脳部の一人が代表して俺に恐る恐る問い掛けてくる。

「当然、武力侵攻」

「そっそんな」

 この世の終わりのような顔をするが何を今更。

 連邦とジオンは戦争をしているんだぞ。そしてザーンは未だジオンに付くとは明言していない。なら元々の連邦側の陣営ということになる。

 攻められて当然だというのに。

 まさかどさくさで独立国家になれたとでも白昼夢でも見ていたのか?

「冗談だよ。冗談。

 笑え」

「はっはは。閣下はジョークのセンスも一流ですな」

 ザーン首脳部一同が乾いた笑いを浮かべる。

 ふふっ完璧に俺はボタン一つで気に入らない部下を落とし穴に落とす悪の帝王って感じだな。だがいい人じゃ話が進まない、悪に成らねばならぬ時もある。

 嫌な時代だ。

「それで今日の用件だが。愚妹に任せていたが、中々協議が進展しないようなので私自ら交渉に来た」

「閣下自らですか」

「そうだ」

「艦隊を率いてですか」

「人聞きの悪い。護衛だよ。何せ私の命を欲しがる奴は、それこそ星の数ほどいるんでね」

 外は連邦から身内にはキシリアと上に立つものほど命は狙われる。そして一度上に立った以上降りることは容易には出来ない。

 下手に降りれば粛正。

 かといって居座り続ければクーデター。

 ほどあいを見切るのが非常に難しい。

「ではコロニーに攻撃はしないと」

「はっは、面白い冗談だ。それでは私は悪の帝王みたいでは無いか。

 なにか、私にそういう役を演じて欲しいのか?」

「いえいえ、そんなことは。決してございません。つまらない冗談で気分を悪くしたのならお許し下さい」

 土下座でもしそうな勢いだな。

 だが得てしてこういう人間の方がしぶとく侮れない。

 ここで高潔に玉砕などと叫ばない当たり、いい政治家だ。泥を被って市民を守る。こういうところをセイラさんにも見習って欲しい。

 チラッと横目で見れば、うわ~セイラさんは豚を見るような目で見ている。くっころ姫のセイラさんとしてはこういう強い奴にへつらう太鼓持ちは嫌いなんだろうな。

「よい。許そう。

 それではこれが護衛艦隊であることは分かって貰えたのだな。

 なら、この護衛艦隊が補給と休息のためコロニーに接舷することを許可して欲しい」

「なっ」

 ザーン首脳部は一斉に息を呑んだのが伝わってくる。

 流石に、此方の意図が分からない者はいなか。

 外交訪問とか言っているが、見ようによってはザーンはルナツーしいては地球攻撃する為のジオンの補給基地となったと見なされる。

 一歩間違えれば連邦の敵に回る行為。

 さあどうするザーンの諸君。

「承知しました」

 ん? 意外とあっさり承知したな。

 何か裏があるのか?

 いやこの場ではこう答えるより仕方が無いか。下手に断って怒りを買えばどうなるか、所詮人工の大地、陽炎のように消え失せる。

「うむ。では会談の日程は補給と休息の終了後に此方から連絡する」

「ギレン閣下、場所はこちらでいいのでしょうか?」

 つまり俺にザーンの首脳部が用意した会場にノコノコ来いと言うことか。

 俺を馬鹿にしているのか、そんなに自分達が信頼されていると思っているのか。

「いや、世話になりっぱなしでは心苦しい。会談はここヤマトで行う。

 何か異論はあるか?」

「いえ、ありません」

 こうしてオペレーション「ヒキコモリ」の第一フェーズは開始されたのであった。

 



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第18話 ようこそジオン側へ

 ギレン自ら艦隊を率いてザーンへ侵攻。

 このニュースは宇宙中に駆け巡り一番騒然としたのはルナツーであった。

「あそこにギレンがいるんですよ。今すぐ全軍を持って進撃すべきです」

「あからさま過ぎる罠だ」

「罠でも何でもここでギレンを倒せば終わりなんだぞ」

「だが今のまま攻めてもルウムの二の舞になるだけだ」

「全軍で攻めて負けたら今度こそ後がないんだぞ。

 要塞に籠もっている限り負けはない。今は宇宙軍が再建されるのを待つんだ」

「そうだギレンは宇宙軍が再建されるのを恐れている。だから自ら囮になって再建される前に要塞から艦隊を引き剥がして潰すつもりなんだ。今は待ちの一手だ」

「少数とはいえザムがいる。ザクに対抗できないわけじゃない」

「それにだ。わざわざ機動戦に付き合う必要は無い、あれを使うべきだ」

「あれを使うだと。その意味が分かっているのか?」

「ギレンさえ倒せばもう戦いは終わりなんですよ。報復など恐れる必要は無い。

 このルナツーにある分だけでもギレンをザーンごと消滅させることは出来る」

「おい、その発言危険すぎるぞ」

「いいえ、ギレンを放置することこそ危険です」

 紛糾に紛糾、結論は出ることはなかったという。

 

「やあ、ザーンの諸君」

 ザーン会議室の巨大スクリーンに椅子に腰掛け足を組み片肘を突いているギレンが映る。

 とてもじゃないが人に挨拶する格好じゃない。

「これはギレン閣下、何かご用でしょうか?

 会談は明後日のはずでは」

 雁首揃えたザーン首脳部の一人が尋ねる。

「我が軍がこのザーンに向けて連邦の艦隊が向かっているのを発見してね」

 ザクが強く連戦連勝とはいえ慢心は駄目絶対。

 旧日本軍の失敗を糧に周囲の偵察に抜かりはない。

「そっそれは・・・」

「まさかとは思うが外交交渉に来ただけだけの我が艦隊に対して連邦に援軍要請などしてないよな」

 ここで眉無し三白眼で睨み付ける。我ながら、そこらのヤクザに絡まれるより数倍怖い自信がある。

「もっもちろんでございます」

 この狼狽えよう嘘ではないようだな。まあここが主戦場になって困るのはザーンの連中だからな。此奴等としては適当に会談を終わらせて、さっさと立ち去って欲しいのが本音だろう。

「そうか。ならば不当にザーンの領域に侵入する連邦艦隊を我がジオン軍が排除してやろう」

「そっそれはありがとうございます」

 適当に話を合わせているつもりだろうが、今ので言質を取ったぞ。

「なに遠慮することはない。

 さあ、遠慮無く我が軍に要請を出すが良い」

「要請!?」

「そうだ連邦艦隊の排除要請だ」

 さあ踏み絵だ。

 この踏み絵踏むか否か。

 と言ったところで、ジオン艦隊が既に駐留している以上現状踏むの一択しかない。

「・・・・・・・連邦艦隊の排除要請をします」

「了承した」

 仕方ないとは言え、これは大きな一歩、ズルズルと引きずり込まれる一歩。

 済し崩し的にジオン陣営にようこそだ。

 

 



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第19話 光る宇宙

「連邦艦隊、こちらに縦陣で向かってきます」

 先行させていたザク強行偵察型改からの情報である。

 ミノフスキーによってレーダーが効かない戦場において目は戦国時代並みに重要である。

 そこでヤマトの連携を念頭に置いてザク強行偵察型を改造することにした。長時間の作戦行動を可能にするためにプロペタントを増設。ハード的情報処理能力の向上が限界に達している為、ならばソフト的にと複座型に改造。情報処理専門のパイロットを配属することで情報収集能力を向上させることに成功した。そしてレーザー通信装置を増設してヤマトにミノスフキー下でも遅滞なく情報を送れるようにした。

 ヤマト直属部隊として八機が随伴艦のパプアに配備されている。

 そのザク強行偵察型改六機を六方向に先行させ、その六機から来る情報で連邦艦隊の陣形が手に取るように分かる。 

 レーダーが使えない戦場において、これだけの敵の位置を把握出来るアドバンテージは計り知れない。

 ふむ、連邦は艦隊による突撃戦をお望みか。まあ、下手に横綱相撲の横陣で対応するとMSの餌食になる。それよりは一気呵成に突撃してこのギレンの首を取る気か。

 ならばその血気逆手に取らせて貰う。

「波動砲発射準備」

「ハイパーメガ粒子砲です」

 俺の格好いい命令を直ぐさまセイラさんが訂正してくる。

 チラッと横目で睨んでも澄ました顔を崩さない。

「了解です。

 えっとあっと、ハイパー波動砲準備」

 俺とセイラさんの間に視線を漂わせていたヤマト副艦長ことドレンが折衷案で復唱する。

 俺は艦隊運営をせねばならず、実質的ヤマトの艦長として俺が招いた。此奴の太い神経なら総帥ことギレンがいても仕事をやり遂げられるだろう。

「良く狙えよ、敵の出鼻を挫く」

 突撃してくる艦隊にとって長距離から砲撃してくるヤマトの波動砲は驚異だろう。

 驚異は恐怖となる。

 恐怖を植え付けられたら、足が鈍るか、やぶれかぶれになるか。

 どっちにしろ、このギレンにとって手玉に取りやすくなる。

「連邦艦隊ミサイルを一斉射してきました」

 エネルギー充填の隙を狙い連邦に先手を取られたか。

 だが間合いが遠い。焦ったか連邦。

 いや、ビーム攪乱膜なのか? だとしたら突撃してくる艦隊の迎撃に支障が出る。

 エネルギーの充填率100%に達してないが、行くべきか?

「小賢しい、薙ぎ払え」

「了解。発射」

 ヤマト艦首より、波動砲ことハイパーメガ粒子砲が発射される。威力はマゼランだろうが貫通する。しかし本家ヤマトの波動砲やコロニーレーザーと違い、敵艦隊を飲み込めるほどの広がりはなく、一発で艦隊全滅とはいかないのが現実。

 だがミサイルなど直撃しなくてもその余波だけで破壊出来る。

 光線がミサイルの間を通過したとき、宇宙が光に包まれた。



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第20話 盾であり剣

「なっ」

 真っ白に染まる閃光。

 核、核だと!?

 連邦はそうまでしてギレンを抹殺したいのか。

「私の横に立つというのならしっかりなさい」

 セイラさんの小声の叱咤で気付いた。

 俺は知らず椅子からズリ落ちそうになっていた。

 そして俺を叱咤するセイラさんの足は小さく震えていた。

 そうだよな。くっころ姫なので忘れがちだけどセイラさん、まだ女子高校生なんだよな。そんな少女を時間の問題だったとはいえ俺は巻き込んでしまったのか。

 ・

 ・

 ・

 いいさ、そこまでして俺を殺したいのなら俺もとことん悪逆になってやる。

 俺は椅子に座り直すどころか、立ち上がった。

「全艦隊、全サイド、全地球へのレーザー通信による放送の用意」

「はい」

 まだ動揺が残る艦橋の中セイラさんが俺の命令にいち早く反応する。

 

「見よっ勇敢にして正義のジオンの兵士達よ。

 あの光こそ連邦が放った悪魔の光だっ」

 画面には先程の核の光が映し出される。

 これはヤマトのレーザー通信能力を使い各サイドに送信されている。後はサイドに潜伏しているジオンの諜報員が各コロニーにいる一般人に流してくれるだろう。

「卑怯にも連邦は卑劣なる悪魔の兵器『核』を使い、ザーンごと我々を葬り去ろうとした」

 別に南極条約を結んでいないので連邦が核を使っても条約破りの卑怯なことはない。だが開戦から徹底して核を使わない戦闘を繰り返すことで、何となく両軍で核を使わないのが暗黙の了解になっていた。そこを突く。

 そして連邦は俺ことギレンだけを狙ったのであり、ジオン軍ましてやザーンを狙ったわけじゃ無い。そんなことは分かっているが連邦は迂闊にもザーンの方向に向けて核を撃ってしまった。これを利用しないようでは、ギレンではない。

「このことにより地球連邦がスペースノイドを人として見なしていないことは明らかである。

 これからも連邦は非人道的な手を使いスペースノイドに暴虐を振るおうとするだろう」

 これはあながち暴論でもない。

 参政権を認めない時点で市民と認めていないことは明確だし。この後のZでは毒ガスやコロニー落としを連邦自ら行っているのが証拠であり、結局それが根本にある所為で戦乱がこの後も延々と続いていく。

 故にこの言葉は聞いたスペースノイドに刺さる。

「だが恐れるな、ジオンの兵士達よ。

 我等は盾。スペースノイドの盾となり連邦の悪烈から守らねばならぬ。

 我等は剣。スペースノイドの剣となり連邦に正義の鉄槌を下さねばならぬ」

 ここは少し迷ったが勢いで言った。

 これによりジオンはジオン国民だけでなくスペースノイドに責任を負うことになる。だが遅かれ早かれそうするつもりだった。少々早いだけだ。

「我等に負けは許されない。

 我等に許されるのは勝利のみ。

 ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

 ジオン艦隊にいる全ての兵士が復唱する。

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

 放送を聞いたジオン国国民が復唱する。

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

「ジーク・ジオン」

 放送を聞いて感化されたスペースノイドが復唱する。

 凄い。流石生粋の天才アジテーター。

 戦略や戦術、政治手腕じゃない。

 このアジテーターの能力こそギレン最大の武器。

 ドズルやキシリア、ましてガルマでは到底出来ない芸当。

 俺は演説の手応えに満足すると椅子に座る。

「諸君、さあ正義を執行しよう」



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第21話 ザーン会戦

「連邦艦隊縦陣のまま突撃してきます」

 さっきの演説の手応えはあった。流れは明らかに此方に来ている。そんなこと向こうだって分かっているだろうに引く気配はない。

 まあ分からなくもない。核を使う大義を此方に与えて、おめおめ帰っては下手すれば処刑される可能性だってある。ここで是が非でもこのギレンの首を取らなくては帰れないだろう。

 退路を断たれた敵は恐ろしい力を発揮する。

 だが見方を変えれば引くに引けない猪突猛進はおいしい獲物だ。

「艦隊、ヤマトを頂点にして逆円錐陣」

 突撃してくる敵の周りを包囲して磨り潰してやる。普通ならこんな死地に飛び込んでくるような馬鹿はいない。だが引くに引けない連邦艦隊にとっては、逃げるではなく己を囮にしてくる一発逆転という餌の誘惑には逆らえない。

「閣下」

 ドレンが覚悟を決めた顔でこちらを向いてくる。

「なんだ」

「閣下がいなくても囮の役目は果たせます。秘密裏に退艦して下さい」

 まあそれも立派な戦術。

 総大将をここで失うわけにはいかない以上、まっとうな兵法。

 そしてその忠誠心。

 分かる分かるが、今は聞くわけにはいかない。

「ここで兵を見捨てたら誰もギレンに付いてこなくなる。

 その進言は却下する」

 そんなことをすれば、後日必ず口だけ総大将と陰口を広めてくる陰険婆がいる。

 まあそれがないにしても、いざとなったら兵を置いて逃げる総大将では誰も付いてこなくなる。やるなら誰もが納得する状況がいる。今は残念ながらジオン側が押せ押せムード逃げて言い訳が出来る状況じゃない。

「しかし閣下・・・」

「くどい」

 済まんドレン。君の忠誠心、後で報いるから今は堪えてくれ。

「ならせめてノーマルスーツを着なさい。

 部下を安心させるのも上の努めよ」

 セーラさんが横から進言してくる。

 ノーマルスーツかここでもし着れば、ギレンのノーマルスーツ姿初披露じゃないか? ガノタが喜ぶレアシーンだな。

「そうだな。手伝ってくれるのか?」

「勿論です。私は秘書ですから」

 セイラさんがなぜか澄ましたドヤ顔で応える。

「後、着替えの手伝いが終わったら君は退艦するがいい」

 セイラさんは軍人ではないここで命を張る理由はない。それにまだ年端も行かない少女、逃げたところで誰も後ろ指を指さないだろう。

 寧ろジオンの血を引く姫としてこれからのスペースノイドの為にもギレンより生き残るべき人だと思う。

「断ります。私は貴方を見定める義務があります」

「そうか」

 当然の如く拒否するセイラさんに妙に納得してしまう俺だった。

 

 断崖から飛び降りるレミングスのように死地に飛び込み磨り潰されていく連邦艦隊。

 我がジオン艦隊は艦隊指揮艦ヤマトの本領を発揮し芸術のような艦隊運用を発揮して連邦艦隊の頂点への突破を阻止し続けている。

 優位に戦況は進んでいる。

 だがなぜか不安が消えない。

 この不安は何だ?

 そういえば元々この作戦を実施する動機になったのは何だっけ?

 !

「至急、ザク強行偵察型改に連絡。敵MSを探させろ」

 核の一件ですっかり失念していた。ザムだザム。連邦製ぱちもんザクは何処に行った?

 核まで使ったんだ出し惜しみしているとは思えない。

 指示を出して数分。とても長く感じる数分が過ぎて報告が入った。

「後方より接近するMS部隊を発見。

 その数20」

 やられた。

 これで立場は逆転。ヤマトは頂点、後方に護衛する艦はない。前に逃げようにも連邦艦隊が蓋をして逃げ道を塞いでいる。

 どうする?

 前門の虎後門の狼。このままでは後ろからジオン艦隊は磨り潰されていく。なら反転してMS部隊に特攻するか?

 正直、ヤマトじゃMS20機の相手にならないというか、グワジンだって無理、ドロス級でないと無理だ。なら艦隊を半分に分ける。それこそ愚策中の愚策。

 正直死にたくはない。

 だがここで一人艦隊を見捨てて脱出しては敗戦の責任取らされて頭パーンだ。

 何か何か策はないのか?

 ぐっぐっぐっぐ。

「閣下」

 あのセイラさんが慌てたように呼び掛けてきた。

「どうした?」

「後部ハッチが開いていきます」

 見ればヤマトの後部ハッチが開いていくのが見える。

「誰だっ」

 まさかヤマトに一機しかないMSをかっぱらって逃げる不届き者がいるというのか?

「ギレンさん、僕に任せて下さい」

 俺の呼び掛けに応えるタイミングで艦橋のモニターにアムロが写しだされた。

 そういえばアムロはいじいじした根暗ニートのイメージがあるが、ファーストのころから追い詰められると覚悟を決めて男らしい行動を取る少年だった。

 まさかこの危機に立ち向かおうというのか?

「アムロ君、無理だ君はまだ訓練生だ」

 今回は少しは世界の空気を体験させようとガンダムⅡ号機と共に連れてきていたのだ。だが一応まだ訓練生ということでザーンに補給艦と共に残してきたはずなのに、忍び込んでいたのか?

「さっきので分かりました。連邦は潰さないといけない」

 演説に感銘してくれたんだありがとう。でもそんな簡単にアジに乗っていたら将来碌な大人になれないよ。

「しかし、君をこんなところで失うわけにはいかない」

 君はじっくり育ててニュータイプに覚醒して貰い、改革の旗印アイドルになって貰う予定なのに。今のアムロでは、いきなり実戦いきなり20機の相手は無理だ。

「心配しないで下さいギレンさん。僕は男なんです」

「辞めるんだ、アムロ君」

 格好いいけど辞めて。

「アムロ、ガンダム行きまーす」

 俺の制止を振り切りガンダムⅡ号機は発進したのであった。

 



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第22話 エース

 ガンダムⅡ号機。

 ジオン驚異のメカニズムを駆使し、劣化ガンダム5号機と呼べるくらいの性能はある。

 空間戦闘特化、ビーム兵器使用不可、コアブロックシステム無し。代わりにジャイアントガトリングガンは装備されている。採算度外視なのだが、本物のガンダムが作れる日はまだ遠い。ビームもそうだが、コアファイターが何気に連邦驚異のメカニズムなんだよな。

 とはいえ今現在においては最高峰のMSの一つであることには代わりが無い。それにアムロが乗れば、並みの相手なら余裕だろう。

 だが20機は多すぎる。

 早く援護を回さないと。5機か10機か。俺が戦況を見つつ回せるMSの算段をしている内にガンダムⅡ号機とザムが交戦距離に入った。

 

『喰らえっ。ガトリングガン』

 ザムが間合いに入るやいなや、アムロは雄叫びと共にガトリングガンで薙ぎ払う。早くも逃げ遅れた二機が大破、数機が小破する。

 だが連邦にもいる凄腕。ガトリングガンを避け突撃してくるザム。だがそんな勇敢なザムにアムロはあっさりとガトリングガンを投げ付けてしまう。あまりの予想外に凄腕も避けられず激突中破されてしまう。

 凄いけど、早くも武器無くなっちゃったじゃん。どうすんだよ。

 そんな俺の心配をよそに、アムロは撃破したザムが手放したザムマシンガンを拾うと背後から迫っていたザムに一斉射、撃破してしまう。

 この時代MSを扱えるのはジオンだけ。よって武器を拾われて使われる心配も無いので武器に敵味方識別装置なんか付いてない。引き金を引けば弾が出る。それはザクを丸コピーしたザムの同様のようで、ザムマシンガンにも付いてないようだ。

 っと解説しているうちにバルカンでまた一機沈んだ。

 鬼神かよ。

 予想以上に強い。訓練相手にクスコを宛がったから早くもニュータイプに目覚めつつあるのか? 黒い三連星と戦ったときぐらいの強さがあるぞ。そしてクスコの貞操がどうなったのか少し興味が湧いてしまう。アムロ君以外と手が早いから。

 おっと雑念雑念。

 意外と何とかいけそうか。あっという間に5機を失い。連邦のザム部隊は及び腰になっている。

 慌てたが、これなら三機くらい回せば何とかなる。俺は戦況を見て前線から引き抜けそうなMSを3機ほど見繕うとするが、パプアから連絡が入る。

『閣下。予備として待機させておいた強攻偵察型ザク改の発進許可をお願いします』

「なにっ」

 偵察に特化させた強行偵察型ザク改だが、別にザクマシンガンが撃てないというわけでは無い。補佐程度の威嚇射撃程度なら十分出来る。寧ろスナイパーライフルを持たせればその能力を活かして驚異的スナイプすら出来る。まあ用意してないのだが。そうなるとミドルレンジ戦になるのだが、ある意味ムサイより貴重な強行偵察型ザク改を戦闘に使っていいのか? 万が一失われたら? 余裕が生まれたことで損得勘定も生まれてくる。

「閣下。命あっての物種ですぜ」

 悩む俺にドレンが進言してくる。

「分かった許可する。だがガンダムへの支援に徹底するんだ」

『了解です』

 良しこれで後ろへの懸念はきっぱり捨てる。

 前だけを見る。

 帝王には前進あるのみ。

「これより、ジオン艦隊は突撃を開始する。各艦は指定した座標に向かって突撃を開始しろ」

 包囲してじわじわ削るのは辞めだ。アムロが後ろを押さえてくれているうちに一気に決める。今までの偵察情報から敵旗艦の位置は判明している。これを叩けば連邦艦隊は後退していくはず。

 

 一時間後。連邦艦隊は後退していき、残念ながらこれを追撃する余力はジオン艦隊にも無かった。

 だがこれで十分すぎる。この戦いで犯した連邦の失態。これを活かす時間をギレンに与えたことを骨の髄まで後悔させてやる。

 追伸。アムロはザムを11機撃破。いきなりのダブルエースです。

 



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第23話 第一次ルナツー会戦

 意図してなかったであろうがコロニーに向かって核を放った。例えそれがギレンを狙ってものであろうともコロニーに与えた衝撃は大きかった。

 事実、ザーン会戦後ザーンは表明こそしないが随分とジオンに好意的になった。今までのように脅されて仕方なくでなく、ジオン艦隊に対する補給や整備を積極的に行ってくれるようになった。更には今まで拒否していたジオン兵のコロニーへの上陸すら許可してくれた。おかげで兵士は長い艦内生活でたまった色々なものを解消出来、十分に休む事が出来た。

 流れは来ている。

 このいい流れに乗って調略に力を注げば、軍事同盟すら夢じゃ無い。その意味でも時間を稼ぐ意義は大きい。

 というわけでのちに再建したジオン艦隊で行う予定のルナツー攻略戦の予行戦、第一次ルナツー会戦勃発です。

 ジオン側はザーン会戦で損耗少なく補給や整備を十分したとはいえ半個艦隊以下。

 対してルナツーはもう後がないとばかりに残存兵力二個半艦隊のうち半個艦隊を予備兵力としルナツーに残し、二個艦隊を差し向けてきた。

 兵力差四倍。

 しかも今回此方には切り札と言えるニュータイプ部隊は無い。

 ザクはいるが、向こうにもザムがいる。

 対MS戦も研究されているだろう。

 ルウムほどの圧倒的アドバンテージはもう望めないだろう。

 しかも連邦は奇策無しの王道の横陣で攻めてくる。

 正面からぶつかれば正直ジオン艦隊に勝ち目は薄い。

 正直言えば、180°反転して撤退するべきだろう。だが今回の作戦に撤退の二文字は許されない。何があろうと計画通りやるしかない。なぜならエースはもう射出され、後戻りが許される事無くルナツーに向かっているからだ。エースとはいえ、たかが五人と半個艦隊を天秤に掛けるなど愚かと断ぜられるだろう。

 だがそれは浅はかである。エース五人が見事玉砕してくれれば、まだいい。だが万が一にも見捨てられたと思い連邦に投降したらどうなる?

 決死の覚悟で挑んだ勇士をギレンは見捨てたと世界中に広まる事になる。

 そんなことになったら折角のギレン正義の帝王イメージ戦略が台無し。いい流れも一気に逆流となってしまう。

 そうなれば史実の通りジオンは孤立。孤立から追い詰められ、核攻撃毒ガスコロニー落としと悪逆の三連コンボを放って、頭パーンである。

 ここまで来てそんな未来はご免被る。

 シャアに後を託して悠々自適の楽隠居を夢見て今日を歯を食い縛って頑張る。

 

 迫り来る連邦艦隊に対してジオンも横陣で迎える。

 そして刻々と縮まる両軍の距離。

 胃がきりきりするほどのプレッシャー。

 強行偵察型ザクⅡ改から次々とデータが送られてくる。

 交戦距離は目前、込み上がってきた胃液を飲み込んで立ち上がってばっと手を振る。

「全艦180°反転。離脱する」

 

「ティアンム提督。ジオン艦隊180°反転して逃げていきます。

 どうしますか?」

「ここにきてまだ奇策を弄するか。

 だが別働隊が無い事は入念な偵察から判明している。小賢しい策に惑わされる、惑わされればギレンの術中に嵌まる。

 全艦このまま加速ジオン艦隊を猛追する」

 

「ギレン総帥。連邦艦隊スピードを上げて追撃してきます」

「ミサイルで牽制しろ」

 正直ジオンの艦船は前に攻撃力を全フリで後ろに回られると如何ともし難いものがるが、ミサイルなら後ろを向いたままでもコースを設定しておけば後ろに向かってくれるので連邦艦隊に攻撃が出来る。

「この距離では撃墜されるだけですが」

「かまわん。後の事は考えるな撃ち尽くせ」

「全弾ですが!! ですが総帥、まだ序盤で撃ち尽くすのは・・・」

「重ねて命じる。全弾撃て」

 進言にあったようにここでミサイルを撃ち尽くすのは、後の艦隊戦を考えれば愚策。だがそれはこの作戦の真の意味を知らないが故のこと。

 そもそも此方にはまともに艦隊戦をする気はない。

 潜入工作がしやすいように、ギレンという餌で此方にルナツーの目を集めておければいいだけのこと。つまり適当に逃げていてもいいのだ。

 寡兵で挑む必要など全くない。

 さ~て鬼ごっこの始まりだ。

 

「ミサイル多数来ます」

「慌てるな。この距離だ。余裕で撃墜出来る」

「ミサイル全弾、撃墜成功」

「よし、全艦再び全速前進」

「提督、前方に閃光」

「なにっ」

 

「ギレン総帥。ハイパーメガ粒子方命中。サラミス一隻中破、駆逐艦撃沈」

「ほう」

 ハラスメント攻撃で撃ったのに当たったのか。ラッキーだな。

「よし、これで敵の足は鈍る。速度は維持したまま後進」

 本当に撤退ならここで全速力だが、振り切っても駄目。適当な距離を維持する事こそ大事。

 変わらず後進し続けるジオン艦隊。

 本来ならヤマトはハイパーメガ粒子砲を撃ったばかり、暫くは動けず置いていかれる嵌めになる。別に「ここは俺に構わず逃げてくれっ」とカッコを付けたわけじゃ無い。

 ヤマトも艦隊と共に後進している。

 どうやって?

 いつの間にパワーアップしてハイパーメガ粒子砲を連射出来るようになったわけじゃ無い。ヤマトは動けない、だが僚艦がいる。現在ヤマトはムサイ3隻に曳航されている状態なのである。これなら逃げる事を気にせず撃てる。幾らでも嫌がらせ攻撃が出来るというものよ。

 

 付かず離れずティアンムをからかっていると、一機極秘裏にルナツーの監視に向けていた強行偵察型ザクⅡ改から待望の連絡があった。

「強行偵察型ザクⅡ改から連絡。ルナツーに閃光を確認とのことです」

「やったかっ」

 流石ジオンのエース達。見事ルナツーに潜入して爆弾を仕掛けてくれたか。

 くっく、何処を爆破した? 宇宙港か? ザム工場も破壊していてくれるともっと嬉しいが。

 兎に角作戦は成功。これでジオン艦隊再建までの時間が稼げる。後はルナツー付近に先行させておいた駆逐艦シマカゼが派遣したエース五人を回収すればミッションコンプリートだ。

 ちなみにシマカゼはチベより前の前時代の艦でMS搭載能力は無い。ただ足は速いので回収用に適任として派遣した。

「総帥。強行偵察型ザクⅡ改から映像来ました」

「うむ」

 セイラさんが手際よく映像をメインモニタに映してくれる。大分秘書らしくなったな。

 送られてきた映像からルナツーに巨大な火柱が上がっているのが分かる。そしてそれが消える寸前、先程の火柱がマッチの火に見えるほどの強烈な閃光が輝きルナツーの一部が砕け散ったのだった。

 はれ? 



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第24話 繋ぎ回

「ギレン総帥、連邦艦隊退却していきます。

 追撃しますか?」

 決断が早いな。

 ここにギレンがいるんだ、背水の陣で決戦を挑みギレンの首を上げるという選択肢もあったのに、迷わず撤退を選ぶとは保守的な男だ。

 逃げる先は、サイド7か未だ連邦よりのサイド2か?

 どちらにせよ、今後補給は先細るのみ。その前に連邦の援軍が来ると見越してのことか。

 まあいい。

「いや我々も退却する」

 窮鼠猫を嚙むというか、この場での戦力は此方が劣っているんだ。ルナツーを落とした今となっては無理はしない。

「全艦退却します」

 こうして第一次ルナツー会戦のつもりが、終わってしまったルナツー攻略。ガノタなら誰もが思っていた地上降下よりルナツー攻略を果たしてしまったのであった。

 

 連邦艦隊はサイド7でなくサイド2に退却をしていき、サイド2に駐留している。牙を剥く機会を伺うようだが、そんなことはさせやしない。

 まずパトロールを徹底し地球とサイド2の補給路を断つ。その上でサイド2駐留艦隊に対して絶え間ないハラスメント攻撃を仕掛ける。

 自業自得なことに地球はサイドの反乱を恐れてサイドに重工業や兵器工場を禁止していた為、連邦艦隊は失った弾薬の補充はおろか艦の修理も満足に出来ないのである。

 遠からず連邦艦隊は磨り潰されるだろう。いやその前にハラスメント攻撃に徐々に磨耗していく恐怖に精神の方がいつまで持つか見物である。

 どちらにせよ。ほどなく片付くであろう。

 

 ルナツーが大爆発をした原因は内部に貯蔵していた核兵器の誘爆が原因だった。外部からなら核の直撃に耐えれるかも知れない分厚い岩盤だが、内部で核爆発が起こっては逆に威力を封じ込めてしまう諸刃の剣となってしまったようだ。可哀想だが、ルナツー内に生存者はいないだろう。

 俺が指定したドック、ザム工場でなく核貯蔵庫の爆破を主導したのはシャアであった。

 彼はたちまちの内に英雄に祭り上げられ、絶対のカリスマを獲得しつつある。現に今宵の祝勝パーティーではあっという間に人の輪の中心となっている。

 宇宙での戦いは片付きつつある今、残る強敵二人との決着をそろそろ考えなくてはならないのだろうな。

 別に正体は知っているんだ。後ろめたいことをすれば片は付けられるだろうが、シャアという男はどうにも憎みきれないところがある。

 だからか細い僅かな希望への道に縋る。

 コンコン。

「入りたまえ」

 これが幸運の女神のノックであることを祈りつつ俺は入室を許可する。

「はっシャア中佐入ります」

 さあ、ここが勝負の天王山だ。



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第二十五話 妹 恋人 親友

 シャアが敬礼をした後此方に歩いてくる。

 それに合わせて俺も席から立ち上がり前に歩いて行く。

 シャアが僅かに緊張したのが覗える。

 敵意を示さないようにゆったりと俺はシャアの前まで行くと両手を広げ、この胸にシャア抱きしめた。

「総帥!?」

「私は感動している。

 あの幼かったキャスバル君がまさか身分を隠してジオンのために戦ってくれるなんて私は嬉しい」

「何を言っているのですか?」

 俺如き簡単に投げ飛ばせるのだろうが、ギレンの真意を掴めずシャアは戸惑っている。

「ふふっおじさんは幼かったころのキャスバル君と遊んであげたこともあるんだよ。分からないわけが無いじゃ無いか」

 俺はゆっくりとシャアの仮面を外してしまう。

 シャアも伏兵が配置されているだろうと警戒して、ここで抵抗するような真似はしない。

「知っていて私がジオンのために戦っていると」

 素顔を晒したシャアが鼻で笑って俺を睨んでくる。

 ハッキリ言って怖い、逃げ出したい。

「勿論復讐のためだとは分かっているよ」

「なら」

 シャアに殺意が漲り出す、せめてギレンだけでも殺しておこうかと。だがそんな短慮はシャアの理性が止める。ザビ家を根絶やしにするチャンスを掴むため、辛うじて堪えている。

「君のお父上は、愚鈍な大衆に殺された。

 どんなに偉大な理想を唱えても夢物語と笑った大衆に殺された。

 愚かな大衆と戦うということは連邦と戦うと同義でありジオンの為に戦うと同義だよ」

 ある意味嘘では無い。

 もし全てのスペースノイドがダイクンの理想を理解して立ち上がれば地球連邦から独立を勝ち取れたかも知れないが、その影響はサイド3のみに留まり結局はそうならなかった。

 独立宣言からの連邦による経済封鎖からくる閉塞感の末の悲劇。

 その悲劇からの醜い権力闘争から生み出されたのが、復讐鬼シャア。

 だがそんなシャアもガルマを謀殺したことから目が覚め、ララァと出会い癒やされている。キシリアを抹殺したのは、まああの土壇場であまりに醜い醜態を晒したからだろう。

 だが今はどうだ?

 ギレンは悪烈な行為には一切手を出していない。

 これなら多少復讐を躊躇うはず。

 その僅かな猶予の間にシャアを正気に戻す。

 その為には道化でも何でも演じて見せよう。

「大衆」

 多少は思うところがあるのだろうシャアの殺意が少し和らいだ。

「そう君がこのまま愚かな大衆と戦うというのなら、明日の戦勝祝賀パーティーで君の正体を明かし、お父上と同じ政治家と成って貰う。

 そしてゆくゆくは私の代わりに宇宙世紀を導いて貰う」

「本気ですか?」

「本気だとも」

 俺はシャアの目を真っ直ぐ見て語る。

 シャアほどの男なら俺の本質をニュータイプ能力で見抜くだろ。

 そう俺の本質は小市民。

 こんな百億に迫る人類を導いていくなど荷が重すぎる。

 戦争をしている間はある意味楽だよ。大衆をアジってればいいだから、だが本当に大変なのは勝ってしまった後。一人で全人類を導くなど神でも無ければ無理。

 どっかで引退してハーレムでも作って暮らしたいのが本音だ。

「嘘は言ってないようですな」

「軍事では相手にならなかったが、政治ではガルマがいいライバルになるだろう。切磋琢磨がんばってくれ」

 俺凄い、良く笑って話し掛けられている。

 今のシャア、凄く怖い。やはり一人殺らないと憑き物は落ちないか。

 だが、だからといってガルマを生け贄に出すような真似はしない。キシリアなら喜んで出すけど。

 兎に角シャアには癒やしが必要。

「ギレンおじさん」

 この言い方、この座興に乗る気になったか?

「なんだい」

「我が儘を言わせて貰えば、もう少しパイロットを続けたいのですが」

「シャアとして生きていくということか」

「はい。もう暫く宇宙世紀を見定めたいです」

 そのまま気楽なパイロットクワトロコースは、シャアにとっては幸せなのかもな。

 それなら喜んで、百式を開発してあげようじゃ無いか。まあ、ガンダム同様、中身はザクになるけど、サザビーに乗るよりかは未来は明るい。

「分かった。英雄として名を売るのもいいことだ。

 だが、その前に君に合わせたい人がいる。

 入りたまえ」

 シャアがやはり伏兵がいたかという顔になる。

 後ろのドアが開かれセイラさんが入ってくる。

 シャアの顔が本気で驚きで固まる。そして謀ったなと一瞬だけど俺を睨み付けた。

 まあ、なんだな。こんな再会をしたら妹を人質に取られたと勘違いするよな。

「兄さん」

「アルテイシア」

 色々思うところはあるだろうが、シャアは胸に飛び込んでくるセイラさんを拒絶しなかった。セイラさんは同じ兄妹でも復讐に取り憑かれたりはしなかった。きっと一緒にいればシャアの心を癒やしてくれる。

 そしてこれは第一弾に過ぎない。

 第二弾は、ララァ。

 第三弾は、アムロ。

 妹、恋人、親友のトリプルコンボでシャアの心を癒やしてみせる。

 まあ逆にその三人がシャア側に取り込まれる可能性もある諸刃の刃でもあるが、その三人ならシャアの凶行は止めてくれる。最悪でも俺から権力を奪うくらいで許してくれるだろう。

「部屋は用意させてある。今日は二人でゆっくりと過ごすがいい。

 では明日」

 そのままギレンが信じられなくて、連邦に亡命しても一向に構わないからね。

 シンプルに敵になってくれるのなら、それはそれでやりやすい。見張りは全く置いていない。その気になればシャアなら易々とジオンから逃げれるだろう。

 さて賽の目はどうなるか?



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第26話 暗雲

 シャアはやはり賢かった。

 三日間続いたパーティーが終わっても連邦に亡命することは無かった。

 まあシャアにとってザビ家も仇なら連邦も父を潰した仇。復讐を本当に諦めたのか諦めなかったのか、どちらにしろ今はジオンに残り俺に服従する道を選んだ。

 残るというなら、暗殺を恐れていてもしょうが無い。ギレン直属の特務部隊の隊長になって貰い、大いに役に立って貰う。

 

 他のコロニーとの関係はパーティーに招待した各コロニー代表団とネゴにネゴネゴの接待攻勢と頑張って、かなり良好になった。

 サイド2解放後には、ジオンを中核としたジオン連邦を設立しようかという話が出るくらいまでになっている。

 

 サイド2に駐留する連邦艦隊に関してはドズルに任せた。執拗なハラスメント攻撃で連邦艦隊の物資と精神をごりごり削らせている。

 またパトロール艦隊を強化し地球から打ち上げられる補給物資を徹底的に潰させて、地球コロニー間の補給路を完全に途絶させている。

 

 全てが順調である。

 なのに王手にならない。

 

 もはや連邦宇宙艦隊が掏り潰れるのは時間の問題であることは誰も目にも明白であった。

 だが、地球連邦政府は連邦宇宙艦隊が残っている内に休戦協約を結ぶのがベターだというのに未だ沈黙を保っている。

 ハッキリ言えば、このギレンが舐められている。

 良くガノタが言うルナツーを落とせば勝てたというのは、あくまで制宙圏を確保した上で宇宙からコロニーでも隕石でもボコスカ落とせる場合のこと。

 今回聖人ギレンを前面に出しすぎてしまい、衛星軌道上からの攻撃はないと完全に舐められてしまっている。

 だからといってここで方針を180°変更してコロニー落とし隕石落としを敢行すればギレンの信用は大暴落。地球を更地に出来ても、その後に各コロニーがシャアがセイラがアムロがキシリアが一斉に叛旗を翻し、宇宙戦国時代が始まってしまう。

 かといってこのまま何もしなければ遠からず地球連邦艦隊は再建されてしまう。

 それでも、次々に再建される宇宙艦隊を次々に潰していけば資源を宇宙に頼る時代、鉱物もヘリウムも備蓄が尽きて地球連邦もいずれは潰れる。

 だが、それには何年かかる?

 それまで勝ち続けることは出来るのか?

 いずれザムのようななんちゃってMSじゃない、最低GMクラスのMSを開発して対抗してくるだろう。そうなれば今のような圧倒的優位は消える。

 ガノタの間で愚策と名高い地球侵攻作戦、地上戦を行うしか無いのか?

 最後はやはり歩兵が勝負を決めるというのか?

 遠からずどちらかを決断する日が来るだろう。

 取り合えず、布石として地球侵攻用としてグフ及びドムの開発を命じた私の執務室にセシリアさんが慌てふためいて飛び込んできた。

「どうした、セシリア。君らしくも無い」

 このパターン軽いデジャブを感じる。

「総帥。パトロール一個艦隊が全滅しました」

「なっ何が起こった?」

 ムサイ5隻から成るパトロール一個艦隊だぞ、MS15機もいるんだぞ。それが全滅?

「悪魔です。白い悪魔が出ました」

 それはガンダムのことだろ?

 だがガンダムの名もアムロも此方にある。

 ならば白い悪魔とは何何だ?



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第27話 繰り上がり

「これが強行偵察型ザクⅡ改が持ち帰った映像です」

 執務室のモニターに映像が映し出される。

 5隻編成のパトロール艦隊とは独立して強行偵察型ザクⅡ改による監視網も構築されている。今回は近くにいた強行偵察型ザクⅡ改が記録をしていたらしい。

 衛星軌道上を周回しつつ地上の監視を行っているパトロール艦隊が地上で打ち上げが行われる兆候をキャッチしたと監視衛星から連絡を受け現場に急行する。

 水際での阻止の為打ち上げられてくるHLVを艦砲射撃を行うパトロール艦隊。

 だがレーダー照準が使えない目視による艦砲射撃では高速で打ち上がってくるHLVを全て迎撃することは出来ない。艦砲射撃を逃れて大気圏を突破して来たHLV、ここからが本番である。

 先行したHLV部隊から直ぐさま迎撃用にセイバーフィッシュが射出され、中にはザムすらいる。

 パトロール艦隊も慌てること無く重力に捕まらないギリギリの高度を見切ってザク12機を突撃させていく。

 ザクは艦砲射撃で援護されつつ連邦部隊と交戦に入る。

 ここまでは見事だ。

 教科書通りの連携で落ち度が見つからない。数の上では此方が劣勢だが、ほどなく他のパトロール部隊も駆けつけてくる。それまで連邦艦隊を釘付けにしていればいい。

 だがこれは囮だった。交戦するパトロール艦隊の後方より、一隻の船が大気圏を突破してきた。

 段々と見えてくるスフィンクスのようなシルエット。

 大気との摩擦が薄れていき赫く染まっていた機体が段々と本来の色である白を取り戻していく。

 ゴクン、生唾を呑み込んでしまい拳を握り締めてしまう。

 あれはまさかホワイトベースだというのか?

 連邦にとっての反抗の希望の星、ジオンにとっては悪夢を告げる吉凶の星。

 強行偵察型ザクⅡ改のカメラがハッキリと船体を映し出しそれが紛うことなきホワイトベースであることを見せ付けてくる。

 まだだ、ガンダムもアムロ君も此方の手にある。船だけなら慌てるようなことは無い。

 そのホワイトベースより発艦してくる三機のMS。

 ザムなんてなんちゃってMSじゃない。

 二機は、見慣れた赤いシルエット、ガンキャノンだ。

 そしてその二機を率いるように先行するのは白いMS、白いガンキャノン!?

 色だけで無く改良されていて高機動型ザクⅡRのように足にスラスターを増設して機動力を上げているようだ。

 まだだ、まだだ。ガンキャノンは確かに高性能だがガンダムほどじゃない。反抗の象徴に成れるほどじゃない。

 予備として残しておいたザク三機が直ぐさま迎撃に向かう。

 そのザクの交戦距離に入る前に宇宙に閃光が瞬き、一撃でザクが爆破された。

 戦艦並みの威力!!!!!!

 連邦はもうビームライフルの開発に成功したというのか? ジオンでも開発をさせているのに未だ実用化出来ないというのに。

 正史より大分早い。これが地上に損害が無いときの開発力なのか。

 これまで戦闘の経験から大分練度が上がっているだけあってザク側も直ぐさま対応。散開後ランダム軌道を描いてガンキャノンに迫っていく。

 見事な連携で挟撃し白いガンキャノンにザクマシンガンの弾を雨霰の如く撃つ。その攻撃を当たってもどうせ弾き返すんだろうが白いガンキャノンは擦らせもしない。

 そして一説にはガンダムより優れている射撃システムを使いザクを撃破していく。

 勝負に成らなかった。

 白いガンキャノンに率いられた部隊により5隻のムサイは為す術無く撃沈されていく。

 ほどなく戦闘が終わり、他のパトロール艦隊が来る前にとHLV部隊はサイド2の方に向かって消えていくのであった。

 5隻編成の部隊が援軍が来る前に全滅だと!?

 そして悪寒に震える。

 白いカラー。

 厚い装甲。

 増加したスラスターによる高機動。

 この三つから嫌な男が連想される。

 

 映像が終わりセシリアさんが手元の資料を見ながら報告してくる。

「連邦に潜り込ませているスパイからの情報では、赤いMSはガンキャノン。白いMSはその改良型でガンキャノン・オーバーという名前だそうです。

 パイロットはパプテマス・シロッコ」

 これが歴史の修正力か。

 俺がガンダムとアムロを連邦から奪い去ったから、その穴を埋めるべく宛がわれたというのか?

 ガンダムの代わりに原案での主人公機であったガンキャノンが繰り上がり。

 シロッコは木星に行くまでも無くここでニュータイプに覚醒するというのか?

 そしてガンキャノンを元にしてガンキャノンプロダクトモデルでジムが作られていくのだろう。まあ元々ジムなんてガンダムの量産型と言いつつ顔はガンキャノンだし違和感は全くない。

 このまま放置すれば歴史は本来の流れに修正されていってしまう。

 何とかせねば。



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第28話 触らぬ神に祟り無し

「諸君この映像の通りだ。

 連邦のMS開発能力がジオンを超えた」

 ざわざわと会議室は小学生の教室の如く騒然とする。

 ジオンの指導部を集結させた会議だというのにこの醜態と言いたいが仕方ない、ジオン軍の強さの源泉が失われてしまったのがまざまざと見せ付けられたからな。

「兄貴、その三機だけで決めつけるのは早計じゃ無いのか?」

 ドズルが幾分まともな意見を述べてくる。

「そうかな。連邦はこの三機を元にして直ぐにでも量産モデルを作り出してくるぞ。当然だが最低でもザクは超えてくる」

 原作の描写を見ると、どう見てもザクと互角にしか見えないが設定上はザクの上位機種であるジム。そんなMSを大量に作られては数質共にジオンは連邦に勝てるところがなくなってしまう。

 負けたのは当然すぎる結果。

 このままだと頭パーンでなく、連邦に負けて縛り首が待っている。

 どっちも碌な死に方だな。腹上死なんて贅沢は言わない、せめて畳の上で死なせて欲しい。

「そんな直ぐに量産体制が出来るものなのか?」

「その通りだ。

 ジオンには僅かな猶予がある。その猶予こそ神がジオンに与えた最後のチャンス。

 連邦がMSの生産体制を整える前に我々が取れる軍事オプションは二つだ」

 あらゆる作戦をジオンの参謀共に三日三晩の徹夜をさせて念入りにシミュレーションをさせた結果二つしか残らなかったと言ってもいい。

 優勢だと思っていたのは夢なのか、いつの間にかジオンに選択肢はあまり残されていない。

「A案。ソロモン、アバオアクーを結ぶジオン絶対防衛圏に連邦艦隊を誘い込み、これを撃滅する。

 この軍事オプションを選択する場合、ジオンはこれより絶対防衛圏の構築に全力を注ぐことになる。

 幸い前々よりシステムを用意させている。十分連邦艦隊を迎え撃つことは可能で、この一戦で連邦艦隊を撃滅し今度こそ連邦に降伏を迫る」

「防御戦か。辛い戦いになるな。それに万が一にも抜かれたらサイドは全滅だぞ」

 ドズルが渋い顔で呟くのが聞こえるが、その通り。

 だが籠城戦は精神的には辛いかも知れないが、準備は万全に出来る利点があり。汚い罠を無数に用意し数と質の差を覆す。幸いジオンにはこの手の第一人者がいるしな。

 万が一抜かれたら? 抜かれるも何もこの一戦で負けたらジオンは終わりなので、抜かれるもクソも無い。心配するだけ無駄だ。

「B案。連邦本部ジャブローを攻略し戦争に終止符を打つ」

「いきなり本部を狙うのですか!?」

 幹部の一人が驚きの声を上げてしまう。

「むろんそうではない。

 第一段階として連邦の工業地帯北米を奪取する。これにより連邦の工業力を削ぐと同時に利用することで現地での武器の補充や生産体制を整える。またあわよくばそこで生産体制を取られているであろう連邦MSのデータも入手する。

 そこで体制を整えた後に一気にジャブローに地上と宇宙両面からの総攻撃を掛ける。

 連邦本部であるジャブローの守りは堅い。だが諸君も分かっているように、もはやこのままで連邦が交渉の場に出ることは無い。

 いつかはやらねばならない作戦を今やるだけの話だ」

「おお、確かに」

「今なら我が軍の戦意も旺盛。やれないことはないですな」

 A案と違い攻撃だからか指導部高官の反応はいい。

「一つ聞きたいんだが」

 ここでまたもドズルが質問してくる。

 脳筋のようで意外と頭が回るんだな。

「なんだ?」

「サイド2の艦隊は無視していいのか?

 寧ろサイド2に攻撃を仕掛けて連邦のMSを拿捕して連邦のビーム兵器技術を奪取すべきなのでは」

 当然無視していいはずが無い。

 ドズルの言うことは正論過ぎる。だがここで正論に従いジオンのエースをシロッコに差し向けたとして、どうなる?

 原作通りの歴史の修正力が働くのなら、返り討ちに遭うだけでジオンはエースを失うだけになる。

 大軍なら? 小説ではソロモン艦隊を率いたドズルがホワイトベース隊に全滅させられている。

 はっきり言おう、最善の一手とは手を出さないこと。無視するしか無い。

 少なくてもジオンに来ることで特異点となったアムロが覚醒するまで放置するしか無い。

「それに関してはキシリアに足止めして貰う」

「私がですか?」

 ふざけんじゃねえこの眉無しオールバックがという顔を向けてくる。

「そうだ。何も艦隊を率いて足止めしろとは言わない。今まで構築した地下組織を遣え。

 ゲリラ戦、破壊工作、反戦デモ、ありとあらゆる嫌がらせをしろ」

 そういう嫌らしい手はお前の得意技だろ、痩けた頬がチャーミングだねという顔を向けてみる。キシリアにギレンの愛が通じる日は来るのだろうか。

「了解しました」

 愛が通じたかキシリアが納得してくれた。

「では聞こう諸君。プランAとBどちらを選ぶ?」



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第29話 かすがい

 会議は白熱した。当然だジオンの未来を決める二択だからな。

 そして喧々囂々の果てB案が採用された。理由として最終防衛戦で敵を殲滅しても結局は連邦は折れないで同じ事の繰り返しに成る恐れがあったからだ。だったら、体力がありザクの優位がある内に勝負に出るべきとなった。尤もらしい理由だが、どうもジオンは民族的に血の気が多い体育会系の傾向があるので結論は決まっていたような気がする。まあそうでなければ原作で負けてからも国に帰らないで何年も戦い続けたりしないよな。

 決まれば話が早くジャブロー攻略戦の総指揮は俺ことギレンが執り、降下した陸戦隊はドズルが指揮を執ることになった。

 ジオンの一応王族二人が最前線という逆シャアのシャアを笑えない配置だが、ジオンはここまでして士気を上げなければならないほど余裕が無い。

 なぜジオンにはどこかの無敗の魔術師と呼ばれるような名将がいないのだ。弱小ジオンにこそ必要で、いたらもうどこぞの同盟軍のトップのように足を引っ張らないで全面バックアップするというのに、どうしてこうエースエースエースとエースばかりが雨後の竹の子のように湧いてくる。

 愚痴ってもしょうがないか。

「ドズルたまには一緒に夕飯でもどうだ?」

「兄貴が珍しいな」

 兄弟仲良くしないとな。原作ジオンはそれで自滅したようなものだし。それにドズルは顔は怖いが部下思いの苦労人だし、なんとなく元サラリーマンの俺とは気が合う。 

「そんな気分にもなる」

「なら俺の家に来ないかミネバにも会ってやってくれ」

 どうだろうこんな眉無しオールバックが来たら奥さん嫌がらないかな~いや絶対嫌がるだろ、顔は下手すればドズルより怖いし偉そうだし。でもまあ下手をすればこれが最後になるかも知れないし、多少ゼナに嫌な顔されてもお邪魔するか。

「お邪魔させて貰うか」

 俺とドズルが連れだって会議室を立ち去ろうとすると背後から声が掛かった。

「待って兄さん」

「ん?」

 振り返ればガルマがいた。

「どうした? お前も夕飯を一緒にしたいのか?」

「違うよっ」

「!!!」

 ガルマに怒鳴られてしまった。でもなぜか子犬に吼えられたようで腹も立たない。弟というのも案外可愛いものかもな。

「兄さん、僕にも何か仕事をさせて下さい」

「急にどうした?」

 ガルマにはジオン広報部隊隊長兼アイドルとして、女性国民の戦意高揚を計るという重要な仕事を任せているというのに。

 ちなみにこの安全な仕事はデギン公王もご満悦。俺が最前線に行っても心配そうな顔一つしないというのに、偉い贔屓だ。だからギレンはぐれたんだな。

「ギレン兄さんもドズル兄さんも最前線で戦うというのに僕一人後方でぬくぬくなんかしてられないよ」

 そうか?

 俺なら喜んで後方でゴロゴロさせて貰うけどな。最前線に出るのはあくまでそうしなければ頭パーンだからだ。

「何か何か僕にも仕事をさせてよ」

 そういえばガルマはこういう奴だったな。

 お坊ちゃんで甘甘なのに前に出たがる。親の七光りをなんとしたいと思う気持ちは立派だと思うけどな~。七光りに胡座を搔くドラ息子だったら、ガルマもあんな最後は遂げなかっただろうに。

「ガルマ、今度の戦いはジオンの命運を分ける決戦だ」

 一体ジオンは何回命運を分ける決戦をすればいいんだろうな。いい加減うんざりする。そしてトップがこう思うんだ、下も嫌気が差していても可笑しくない。早めに何とかしないと士気が決壊してしまうかもな。

「最悪俺とドズル二人とも戦死する場合もある。その時ジオンを背負って立つのはお前しかいないんだぞ。お前は後方で控えていることこそ重要な仕事なんだ」

 正直ガルマに死なれるとザビ家は家庭不和で崩壊するので、君は生きているだけで役に立っていると言ったら、もっと怒るんだろうな。

 だがガルマが生きていればデギンもやる気を失わないので、俺とドズルがいなくなったら上手く連邦と停戦するだろう。

「そんな僕は飾りじゃ無い」

「だから飾りじゃ無いと・・・」

「兄貴、ガルマの気持ちも分からないでも無い。何か仕事は無いのか?」

 弟に甘甘のドズルが助け船を出してくるが、その優しさがガルマを死に追いやったんだぞ。

「分かった。お前はキシリアのサポートをしろ」

 キシリアならガルマを悪いようにはすまい。

「キシリア姉さんの」

「そうだ。サイド2にいる艦隊を抑える重要な仕事だ。キシリアの傍にいれば色々と学ぶこともあるだろう。頼んだぞ」

「分かったよ、兄さん。

 早速キシリア姉さんの所に行くよ」

 ちょうどいい監視役だ。キシリアもガルマがいてはあまり悪巧みも出来まい。

 本当に役に立つよ、ガルマ。



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第30話 信頼の裏切り

「パプア改5番艦所定位置に付きます」

「了解です」

「HLV第231番。遅れています急いで下さい」

 ヤマトの司令室のまさしく決算前の経理の如き鉄化場で、オペレーター達は次々と報告を受け取り指示を出している。

 総帥の遊びだ何だ言われたが、艦隊司令艦ヤマトの指揮能力は今回も遺憾なく発揮されている。

 良きかな良きかな。

 今地球アメリカ大陸上空衛星軌道上に、暗号名「アースドラゴンビート」作戦に向けてジオン艦隊が集結しつつあった。 

 第一陣、パプア改。

 これにはパプアを改造し、現実がアニメを超えてきた兵器「神の杖」を装備。

 衛星軌道上からレールガンで超高速で打ち出される超合金の杭。コロニー落としのように広範囲に渡って地上を破壊することは出来ないが、単位面積当たりの破壊力は此方の方が圧倒的に上、ジャブローの外殻すら貫くことも出来る。

 凄い兵器だが弱点もある。まず制宙圏を確実に取っていないと衛星軌道上に設置出来ない。だが今回はルナツーを落とし制宙圏は握っている。これで地上の対空設備を着実に破壊する。

 第二陣、コムサイ部隊。

 地上対空兵器を破壊したと言っても打ち漏らしはあるだろう。よって生き残った対空兵器を躱し確実にMSを降下させるための一番槍部隊。後続のためにも確実に迅速に行うため全ジオン軍から引き抜かれた精鋭部隊で構成されている。MSも少数ながら配備が間に合ったグフがそしてイフリートがいる。隊長にはザクでは無いグフを支給したラル少佐を任命している。

 第三陣、HLV。ご存じの宇宙地上の輸送ポッド。これで止めとばかりに各種陸戦兵器の他に大量の歩兵を送り込み敵施設を占拠する。

 結局宇宙世紀と言っても戦術の最終目標は敵本陣に歩兵を送り込み占領する事に代わりは無い。これは結局人間が戦争をする以上永遠に変わらないだろう。また、この歩兵部隊は各サイドからの志願兵も混じっている。おかげで原作では出来なかった人海戦術が可能となった。原作では歩兵のゲリラ戦法に悩まされたMSだが、今回はスムーズに行くだろう。

 以上三段攻撃で行われる暗号名「アースドラゴンビート」作戦。今度こそこれで戦争を終わらせる。

 

 ブリッジの喧噪と対象に粛々と隊列が整えられていく中、アラームが鳴り響く。

「閣下、連邦残存艦隊来ます」

 セイラさんが報告する。今回はセイラさんは情報参謀として俺の横のシートで情報の統括をしてくれている。セイラさんは原作でもオペレーターしてたし、あのお姫様ボイスは耳に心地よく、意外と向いている。

「規模は?」

「残存艦隊の半数ほどです」

 キシリアめしくじったのか、半分も逃したのか。

 キシリア良くやった、半分も足止めに成功したか。

 判断に迷うギリギリを攻めるところがキシリアらしい。

 ここには目の上のたんこぶギレンとドズルがいる。万が一が起こり二人とも戦死すれば棚ぼた式にキシリアの天下になる。本来なら素通りさせたいのだろうがガルマの目があるので、こういった結果になったのだろう。

 ガルマ君は本当にいるだけで役に立つ。

 しかし作戦が失敗に終わればジオン自体が危うくなるとは考えないのがキシリアらしい。最終防衛ラインに残した兵力と自分の交渉力で何とかなるとの算段か、流石最終決戦最中で頭パーンする女らしい判断だ。

「先頭は木馬です」

 セイラさんからの焦りが混じった追加報告がされ、ブリッジが浮き足立つ。皆パトロール艦隊が全滅させられた悪夢を浮かべているのだろう。

「浮き足立つなっ想定内だ」

 ギレンの一声で皆冷静さを取り戻す。

「セイラ、シャア中佐及びライデン中佐に繋げ」

「はい」

 モニターが左右に分割されシャア中佐とライデン中佐が並んで映し出される。

「シャア中佐、出番だ。第13独立艦隊を指揮して木馬迎撃に向かえ」

「はっ」

 ザンジバル三隻からなる第13独立艦隊。

「倒せとは言わない。木馬と白い悪魔の足止めをしてくれればいい」

 ガンキャノン・オーバー、略してジオ。THEとGの発音の区別が付かない日本人にとってみれば、あれはまさしくシロッコの乗るジオなのだろう。だがその原作でシャアは百式という型落ち機で見事足止めに成功していることからの起用である。シャアが本気を出せば足止めは可能だろう。

「分かりました」

 シャアもキシリア同様に上手くすればギレンとドズル両名を始末出来るチャンス。あの冷酷なシャアに対してセイラさんの存在がどれほどのストッパーになるかは賭だ。原作寄りのシャアならセイラを見殺しどころか奮起してくれるだろうが、オリジン版シャアだったら容赦なく見捨てるだろうな。

「ライデン中佐はキマイラ部隊を率いて連邦艦隊の側面を突いて攪乱せよ」

「はっ」

 此方もザンジバル三機とほぼ原作通りのメンバーを揃えたキマイラ隊。乗機は残念ながらゲルググじゃ無いが全員ザクR型にした大盤振る舞い、相手がニュータイプでも無ければ艦隊相手でも攪乱くらいはやってのけてくれるだろう。

 ここは二人を信じて任せるしか無い。

 俺は意識を切り替え地上降下の指揮に専念する。

 

 さて、秘密裏に先行して地上に降下させたスパイからの通信を強行偵察柄ザクⅡ改が傍受したところに寄ると、案の定カルフォルニア基地の周りには地球上から掻き集めた連邦地上軍の大部隊が巧妙に偽装して包囲しているようだ。その包囲の中にノコノコ降下すれば原作オデッサの如く幾らMSがいても戦車と飛行機の物量に押し潰されることは明白。ザクでは地上において宇宙ほど現行兵器に対してアドバンテージは発揮出来ない。せめて大量のドムがいれば違っただろうが嘆いても仕方ない。

 大部隊の集結、事前に降下ポイントを知っていなければ出来ない芸当だが、連邦は見事に果たした。その意味するところは簡単だな。

 今回の降下ポイントは未だ正式には発表していない。一部高官のみが知っている。その情報を誰がリークしたのやら。

 白い悪魔に押され地上に逃げるように降下すれば、待ち構えていた連邦地上軍に包囲殲滅される。ドズルは戦死、俺もこの場を逃げられても敗戦の責任を取らされる。

 全く一人勝ちという訳か。

 だが、ガノタである俺がこのことを想定していなかったと思うのか?

「シャア中佐が連邦宇宙艦隊を抑えている間に降下作戦を実施する。

 全将兵に通達する」

「はい、どうぞ」

 セイラさんが全部隊への通信を開いてくれる。

「我がジオンの兵士よ。

 我々を宇宙に追い出し、今回の戦争においてもどこか人ごとの気持ちでいる地球人共に我々の怒りを示す。

 暗号名「アースドラゴンビート」を解除。

 作戦名「モグラ叩き」を開始する。

 目標、地球連邦軍本部ジャブロー。

 地下に籠もるジャブローのモグラ共を叩き潰す」

 初めて明かされる攻撃目標に全ジオン兵士が騒然とする。

 下は初めて明かされる攻撃ポイントに上は変更された攻撃ポイントに。

 特に今回の降下作戦を練った作戦参謀は棒立ち。悪いことをしたが、俺も機密を守るためほぼ一人でジャブロー作戦計画を徹夜で練り上げたんだ、許して貰おう。

 ヤマトから各部隊に作戦の詳細データが送られていく、もう変更は出来ない。

 だが燃えてくるじゃないか。

 ギレンの野望をやった者なら誰でも思う。

『最初からジャブロー攻撃させろよ』

 それを今俺がやる。

 普通なら勝てない無謀な作戦。だが誰かさんが情報が漏らしてくれたおかげで連邦はジオンがカルフォルニアに降下すると思い大部隊を集結させている。それは逆に言えばジャブローは手薄になっているということ、今なら勝機はある。

「神の杖、指定ポイントに向けて発射」

 次々と打ち出される神の杖がジャブローに向けてスペースノイドの嚇怒を表すかの如く真っ赤に燃えて落下していくのであった。



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第31話 ガンダム大特集

 ジャブローの分厚い岩盤を突破するのが困難という理由もあるが、巧妙に隠されていて何処にあるか分からないジャブローだからこそ、コロニー落としなどという広範囲殲滅兵器を使用する必要があった。

 だがそんなことあるのか? 正義のヒーロー戦隊の小規模な秘密基地なら話も分かるが、地球連邦軍の本部かつ宇宙船の建造ドックまである大規模な基地を隠すなんて可能なのだろうか。資材の搬入も凄いだろうし、戦時中なら我慢出来ても平時にあんな穴蔵に籠もりっぱなしで我慢出来るはずが無く人の出入りだって結構合ったはずだ。

 連邦はミノフスキーを越える隠蔽技術を持っているというのか?

 だがその連邦驚異の隠蔽技術も、ガノタである俺は通用しない。ガンダム百科、ガンダム大辞典、ガンダム大特集などを全巻揃え読破した俺の前にはジャブローの位置など丸裸に等しい。

 いつの時代も情報を制する者が戦いを制するというわけで、チート技でジャブローの位置を知っている俺の指示のもと神の杖がジャブローに落下。衛星軌道上から肉眼でも見えるほどのキノコ雲が伸び上がった。

 舞い上がった塵で地球が寒冷化しないかと心配にもなるが、今は進むのみ。

 ミノフスキー粒子でレーダーが塞がれ、爆音で音響探査も乱され、舞い上がった砂煙で視界すら塞がれた。

「よし、これで敵の目は完全に塞がれた。この機を逃すな、第一次降下部隊降下開始」

「第一次降下部隊一斉降下を開始して下さい」

 オペレーターのおねーさん達の管制でコムサイ部隊は地球へ降下を始めるであった。

 

 コムサイからグフと随伴機ザク二機が降下し、対空砲火に晒されること無く地表に無事着地する。

「連邦はまだ混乱から立ち直れ無いと見える。

 今のうちに探索に行くぞ」

「「はっ」」

 ラルの指示に古参の部下であるクラウン、アコースが返事する。

 第一次降下部隊の目的として、後続のために対空兵器を潰すのも重要で部隊の半数以上がその任務に当てられる。だが、ラル他の少数の部隊には別の任務が与えられていた。それはジャブロー内部への進入路の発見である。

 残念ながら、数々のガンダム特集でも基地の全容を記した正確な地図は記載されてなかったというか、某B某Kの陰謀でぼかしておいた方が話を作り安いとの狙いもあるのだろう。故に潜入してみるまで詳細は確定しないシュレーディンガーの猫のような存在の基地なのである。

 初めての地球でしかも戦いながらで広大なジャブローにおいて偽装された入口を少数の部隊で見付け出せる訳ないと思うだろう。俺も何もそんなブラック会社のブラック上司のむちゃぶり命令を出したつもりは無い。

 入口を見付けられないなら作ればいい。ラル達の任務は神の杖の落下地点に行き狙い通りジャブローの岩盤を貫いたか確認するだけ、実に簡単なお仕事。まあ空いていなければ、その時には同じ箇所に神の杖を打ち込む為にガイドビーコンを出して貰い、急いで退避して貰う危険極まりないお仕事に早変わりするが。

 本当は上空から確認出来れば楽なのだが、降下時には対空砲から守ってくれた砂煙が邪魔をして、どうしても地上から確認するしか無いのである。

 

 ラル達は妨害も無く神の杖落下ポイントに程なく到達すれば、木々を吹き飛ばし月面と錯覚しそうな無機質で巨大クレーターとその中央部に穴がぽっかり空いているのを発見した。

「ラル少佐、いきなりビンゴですね」

「慌てるな、あの穴が本当にジャブローの地下基地に続いているか降下して調べる。

 アコースは連絡員としてここに残れ」

 全機で穴に降下しては、電波はおろかレーザー通信とて不可能になり宇宙にいる部隊に発見の報を送れなくなってしまう。危険だがどうしても連絡員を残しておく必要があるのだ。

「了解しました。お気を付けて」

「うむ」

 ラルのグフが穴に飛び込む。

 暗闇のトンネルを抜けると、巨大な空洞が広がっていた。その空洞の中には道路が引かれビルが建ち並ぶ。

 そして移動中の61式戦車中隊を捕捉した。地上での迎撃を諦めて地下での迎撃態勢を取ろうとしたのだろうが、一歩遅かった。

「当たりだ。

 クラウンはアコースに連絡。

 我虎の穴発見」

「了解です」

「頼んだぞ。

 私は後続のため少し掃除をしておこう」

 偶然ではあるが戦車部隊の頭上を取った形のグフの左手の指マシンガンが唸る。

 ガンダム相手では火力不足でも戦車相手なら必要十分な火力。たちまち戦車部隊は弱点である上部からの攻撃を受けて火の手を上げていく。

 そして懐に飛び込めば、ルナチタニウムすら引き裂くヒートロッドが唸り残りの地を這う戦車を切り裂いていく。

 対MSに開発されたMSではあるが、皮肉にもその武装はMS相手より対戦車戦で活躍する。そして巨大とはいえ複雑な形状の洞窟内において忍者の如く立体運動を展開するグフに戦車やヘリは翻弄されるばかりで、効果的な対応をすることなく迎撃されていく。

 ドムの開発が間に合わなくてしくじったと思っていたが、ことジャブロー内の戦闘に置いてならグフが最適解だった。今度大平原での大規模戦闘、そうオデッサ作戦でも無い限りドムは必要ないかもな。

 

「ギレン総帥。

 我虎の穴発見とのことです」

 セイラさんが俺に待ちに待った報を知らせてくれ、直ぐさまモニターにドズルを呼び出す。

「よし、ドズル」

『おう兄貴』

「いよいよ本番だ。

 大丈夫か」

『任せておけ兄貴。兄貴ばかりに活躍させていたら軍人の名が泣くからな』

「よし、これより第二陣はジャブローへの進入路周辺に降下。ジャブローを内部から蹂躙しろ。

 ドズルこれより降下部隊の指揮を委任する」

『了解した。

 降下開始』

 とうとう地上攻略の本体HLV部隊がジャブローに降下していく。

 もはや地上はドズルに任せるしか無い。

 宇宙での戦と違い地上の要塞戦は泥臭く短期で落とせるとは思っていない。長期に渡る籠城戦になるかも知れない。どうしても長期にわたり兵士を鼓舞し率いる大将がいる。本当は俺が地上戦を指揮したいが、流石に長期にジオンの政治に空白を産めば雌狐が何をするか分からない。

 誰かに任せるしか無かったのである。

 任せられる部下、信頼出来る肉親が居て良かったとつくづく感じた。

 後は俺が出来ることをしよう。

 第二陣が降下しきるまでこの宙域を死守する。



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第32 キュベレイ殺し

 ザクマシンガンが唸るがジオは構うことなく突っ込んで来る。

 カンカン跳ね返されるザクマシンガンの砲弾、完全に堅牢な装甲に頼り切った強引な戦法だが、時にはテクニックより強引な戦法が功を奏す。

 一閃。抜き放たれたビームサーベル。

「冗談じゃない」

 辛うじて致命傷を避け腕一本と引き替えに蹴りをジオに叩き込んだのは、流石シャアというべきか。

 蹴り飛ばされたジオだが、各部スラスターを適切に噴射させあっという間に立て直した。並みのパイロットならくるくる回ってお星様になっても可笑しくないクリティカルだったというのに、此方も流石天才シロッコ。

「天才を前にして平伏せ凡夫」

 立て直すと同時に、バルカンキャノンビームライフルの一斉射フルバースト。

「なんとおー」

 シャアは芸術的操縦でまたまた致命傷は避けるが両足をもぎ取られてしまう。

 原作では百式でジオ、キュベレイの猛攻を凌いだ実績があるシャア。片腕がまだ残っているこの程度まだまだ慌てるような状況じゃない。

 だが、モニターで戦いを見ていたブリッジクルーは違う。エースが手も足も出ず達磨にされていく様子に言葉を失う。

「兄さんっ!!」

 隣でセイラさんが悲痛な叫びを上げる。くっころ姫セイラさんもシャアの前ではただの妹。

「大丈夫だよ、シャアの勝ちだ」

 俺は戦闘が始まってからスタートさせていたストップウォッチを見て告げる。

 一方的に攻めるシロッコだが、やはり実戦経験が足りない。才能に任せ調子に乗りすぎた。後年自分で作成したMSならまだしも、このMS黎明期では致命的な弱点を晒す。

 

 誰もが足すら失ったシャアザクにジオが止めを刺すと思った瞬間、ジオは反転して引き返し始めた。

「どういうこと?」

 セイラさんが胸をなで下ろしながらも、どういうことかと俺に問うてくる。

「燃料切れだ。あんな高機動を長く続けられるわけがない」

 重い装甲を無理矢理スラスターで高機動させる。誰もが思い付く凄いMSだが、そんなことをすれば当然燃料を馬鹿食いすることになるのは当然の帰結。

 シャアは俺の期待通りにジオをガス欠一歩手前まで追い込んだのだ。本当にガス欠まで追い込めれば最高だったが、そこまでシロッコも迂闊じゃない。ギリギリ帰還までの燃料を見切って現状連邦唯一MSの運用が出来るホワイトベースに戻っていく。再度補給して戦場に戻るつもりだろうが、ギレンの野望でキュベレイ潰しを習得した俺がそんなことをさせるわけがない。

「白狼隊、今こそその牙を獲物に突き立てるときだ。

 発進せよ」

 俺の命令を受け待機していたパプアから、白い狼共が解き放たれる。

 そのスピードシャアザクよりも早く高機動MAビグロに匹敵する。ビグロの早期開発に成功かと言えばそんなことはない。タネは簡単、一年戦争時にはポピュラーではなかったが技術的には大したことは無いゲタ(宇宙用SFS)を作っただけのこと。

 兎に角スピード重視で作成させたゲタにザクを搭載させただけ。ゲタが使い捨てで費用は掛かるが可変MSのような技術力はいらず効果は抜群。あっという間に帰還中のジオを捕らえる。

「小賢しい、落ちろカトンボ」

 シロッコの一撃は並みのパイロットでは捕らえられない高速体であろうと正確に撃ち抜いた。白狼隊5機の内1機が早くも撃墜されたのは計算外だが、その1機が撃破された内に白狼隊はジオに追い付き追い抜いた。

「なに!?」

 驚くシロッコなど無視して白狼隊はシロッコを迎えに来ていたホワイトベースにゲタを操り肉薄していく。

「弾幕薄いよっ」と幻聴が聞こえるほどに対空砲火で応戦してくるが、チキンレースの如く白狼隊は必死にゲタに操りホワイトベースに一直線に向かって行く。

 ドゴンッ、また1機が対空砲火で撃墜されたが、残る3機はギリギリまで耐え目を瞑っても当たる距離まで来ると迫るとゲタから離脱していった。

 この誘導が聞かないミノフスキー戦闘下で超高速ミサイルの攻撃に晒されたようなホワイトベースはもはや避けきることが出来ず2機のゲタの直撃を左舷に喰らい爆炎を盛大に上るのであった。



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第33話 ザク捕獲隊

「馬鹿な」

 驚愕するシロッコに追撃してきたザク捕獲隊が襲い掛かる。

 ザクハンマー、ザクメイス、ザクモーニングスター、ザクサスマタと捕縛用の特殊装備を備えたザク4機、ジャブローに戦力の大半を回す中で何とか捻りだした数。ルナチタニウムの装甲を貫けないなら衝撃を内部に伝えるザクハンマー、ザクメイス、ザクモーニングスターの打撃武器を装備させた。中世において甲冑に身を固めた騎士には剣より有効だったことからMSでも効果は期待出来る。堅い装甲でも衝撃は逃がせない。これらの武器でジオを弱らせた後にザクサスマタで捕らえる連携プレイを想定している。

 これでジオと何よりシロッコが手に入る。シロッコに正義の為とか地球の為とかの強い政治信条は無い。天才とでも煽ててMSの開発でもさせてやれば喜んで味方に成ると踏んでいる。ただ天才故の驕りで人に使われるのを良しとせず、隙を見せれば裏切るのは明白だが、逆に言えば隙を見せなければ大丈夫。キシリアみたいな馬鹿な裏切りはしないと信頼している。

 

「なんとっ」

 シロッコは、振り回されるザクハンマーのハンマー部分だけで無く鎖にも絡まないようにジオのスラスターを活かして避ける。だがその隙に迫ったザクメイスがジオに向かって振り降ろされるがビームライフルがあっさりとザクを貫き爆散する。

 そして投げ捨てられるビームライフル。とうとう弾が切れたか。そもそもビームライフル、キャノンと残弾が豊富ならザク捕獲隊が格闘戦の距離まで近寄ることも出来なかっただろう。今のは追い込まれて放たれた最後の一発とみていい。

 遠距離武器は無いと大胆に攻めるザクモーニングスターが唸りを上げるが、まだ躱す。だが続くザクハンマーは躱せなかった。直撃こそ避けたが鎖が腕に絡みついた。

 くっく、推進剤も底を着いたようだ。

 ここぞ好機。一般兵とは言え捕獲隊に選ばれるほどには優秀なパイロットが攻め時を見逃すはずが無い。

 捕獲隊の止め役、ザクサスマタが作戦通りジオを捕獲しようと襲い掛かる。

 もはや武器も無く迎撃は出来ない。

 推進剤が無く振り切れない。

 鎖に自由を奪われ碌に腕も振るえない。

「勝ったな」

 俺は柄にも無くガッツポーズをして立ち上がって勝利を確信した瞬間、シロッコが吼える。

「天才を舐めるな」

 襲い掛かったザクサスマタ装備のザクが吹っ飛ばされた。

「なんだと、彼奴はウッソ並みだというのか?」

 なんとガンキャノン・オーバーのAパーツを吹っ飛ばし、襲い掛かるザクにぶつけたのだ。

 誰もが唖然とする瞬間、Bパーツから切り離されたコアファイターがスラスターを全開にして逃げていく。ザク捕獲隊に遠距離武器はない。捕獲に特化させたのがここに来て裏目に出た。もはや全力で逃げていくコアファイターを追撃出来ない。

 俺は椅子にどかっと力無く落ちた。

 ここまで追い詰めて逃げられたというのか。今回の経験を糧に次に会った時にはシロッコは更に手強くなっているだろう。

 勝てるのか?

「総帥兵士が見ています」

 セイラさんに囁かれ俺は姿勢を正した。

「うむっ」

 偉そうに頷き。

「すまないありがとう」

 小声で礼を言い、セイラさんもどう致しましてと微笑みを返してくれる。

 俺は負けても落胆してはいけない、ギレンは総帥なのだから。

「これで五月蠅い邪魔者は追っ払った。

 この宙域を脅かすものはもういない。ジャブロー攻略戦に集中する。

 陣形を立て直せ」

 そうだ。ジャブローを落としてしまえばシロッコがいようがいまいが関係ない。

 ここで勝ちきって、終わらせてやる。



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第34話 胃が痛い

 戦いは続いている。

 宇宙での戦いは終わったが、ジャブローでは連邦ジオン両軍入り乱れての激戦が続いている。

 正直言えばすることが無く、一報をただ待つというのは辛い。

 サッカーで贔屓のチームの応援するのとはプレッシャーが違う。

 正真正銘、チームの負けが己の負けに直結しているのだ。

 きりきりと胃が痛んでくる。

 気晴らしでもしたいが俺以外の部下が忙しそうに働いている中ゲームをするわけにもいかず、偉そうに椅子に座り続けるのは辛すぎる。

 きりきりきりきり、胃が溶けて無くなってしまうのでは無いかというときに一報が入った。

「総帥。地上軍からの通信です。

 我、ジャブローの地図の入手に成功です」

「やったか」

 俺は椅子から立ち上がりガッツポーズをしてしまった。

「地上軍より、レーザー通信でジャブローの地図及び我が軍の現在の配置が送信されてきます」

「イエスイエス、よっしゃー」

 あまりの歓喜に気勢を上げる総帥を周りのオペレーターガールズがこのオジサン何?とキモイ者を見る目で見てくるが、今は構うものか。

 早く早くデータの受信よ終われ。

 そわそわそわそわ、そわそわが止まらない。

「総帥、落ち着きなさい」

 セイラさんが小さい子供を相手にするように叱ってくる。

「うむ、そうだな」

 気を取り直して椅子に座ったが、今度は貧乏揺すりが止まらない。

 早く早く終われ。

 実際にはものの数分程度だったのだが、一日にも感じる時間が流れ告げられる。

「総帥。受信終わりました。映像に出します」

 ヤマト艦橋の正面の大スクリーンにジャブローの地下マップが映し出され、現状での勢力分布が赤がジオン、青が連邦として光点が映し出される。

 あれが宇宙港、あそこがMS工場、あれは格納庫かとIQ240のギレンの頭脳が唸りマップ情報を直ぐさま読み取っていく。

「よし、神の杖スタンバイ。ジャブロー司令部に宙爆する」

 えっどこ?という目を周りの部下達は向けてくる。

 確かに入手した地図程度では司令部の位置は隠されたままだが、ギレンの頭脳が配置から司令部の位置を推測していたのだ。普通ならここで推論をつらつらと説明しなくてはいけないが、一番偉い人なのでそんな必要は無い。

 そしてコロニー落としほど大規模な破壊は出来ないがピンポイントに優れる神の杖なら味方に損害を出すこと無く攻撃出来る。

 独裁者パワーで反論を許すこと無くスムーズに作業は進み、俺が指定したポイントに神の杖は射出され、邪魔をする者はいない状態なら狂わされること無く計算通り神の杖は指定ポイントに突き刺さったのであった。

 ほどなく連邦の各部隊に連携は失われ個別に撃破されだした。

 予想通りの位置に司令部はあったようだ。良かった。独善で出来る代わり全責任を負うのが独裁者。外れていたら面目丸つぶれだった。

 ほっと胸を撫で下ろす内に宇宙港の奪取成功の知らせが届き。

 歓喜に湧いている内にMS工場制圧の知らせが届き。

 完全に緊張が緩みだした頃にゴップ等連邦軍首脳部を多数捕虜にすることに成功しジャブローが降伏したと連絡が届いた。

 ジャブロー攻略戦は成功したのであった。

 

 そして三日後。

 宇宙拠点ルナツーに続き連邦軍本部の陥落。それ以前から続く敗戦の積み重ね。

 もはや連邦に戦う気力など残っていなかった。

 歴史は流れ南極にて休戦協定について話し合われることになったのであった。

 



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第35話 和平の使者

 休戦協定は南極で行われることになった。

 不吉なのでこの場所は避けたかったのだが、どう他の場所を提案しても何だかんだの理由で南極になってしまった。

 だが大丈夫、杞憂だな。

 今回レビルは捕らえていない。ルウムでは敗北し逃走。今回の戦いではフェイク情報に騙されて北米に軍を集結させたまま一戦もしていない。原作の負けて英雄になったのと違い、負け続きの無能将軍のレッテルを貼られている。このまま戦争が終わったら責任を取らされて処刑される可能性すらある。

 今は妥当な条件を詰める方が大事だ。

 一つ。サイド7を除く全てのサイドと月の権利をジオンに委譲。

 二つ。ジオンはスペースコロニーにかかった建設費用について地球連邦に返済する。

 三つ。ジャブローはジオンの地球における拠点としてジオンに割譲する。

「どうかねこの条件は、なかなかの落としどころだと思うが」

「随分と謙虚ですな、てっきり宇宙の利権は全て寄越せと言うかと思っていたよ」

「宇宙から完全に閉め出されては地球は早晩破滅する。今度は地球連邦が引けない戦いを挑んでくる。それではスペースノイドとアースノイドの決定的な決裂になってしまう。

 私は別に千年戦争も殲滅戦争も望んでいないのだよ」

「それで何を望みますかな」

「緩やかなる変革。いずれ全ての人類が宇宙に旅立てば良い」

「なるほど。随分と素直に言いましたな」

「腹の探り合いは時間の無駄だ」

「この条件、現状連邦がサイド2を抑えている以上、軍部が納得するか」

「その理論で行けば、ジャブローの割譲はすんなり認めて貰えそうだな」

「閣下には勝てませんな。

 いいでしょう、その線で調整します」

「後条件2ですが、其方から提案されるとは思ってませんでしたな」

「いつの時代も暴力による借金の踏み倒しは禍根が残る。合法的に権利を手に入れ争いの種を後世に残すべきでは無いと考えるが」

 原作で100年以上は続く戦乱の元はここで絶つ。

「結構です。閣下の目は既に未来を向けておいでだ」

「納得して貰えたか」

「最後になりますが、本当に私でいいのですか?」

「私の話が人類の為になると思えば君は実行する男だ。

 私は私のプレゼンが貴方に届いたと信じるよ」

「分かりました。では私はこれで失礼させて貰います」

「うむ。

 ゴップ大将が退室するお送りしろ」

 彼はこの後解放されてジオン連邦双方の仲介役として南極に向かうのであった。

 裏切られるだろうか?

 だが私が出向くことが出来ない以上、連邦ジオンをまとめられる人物などジオンにはいない。後付けで地球の未来を憂う有能官僚になったゴップを信じるしか無い。



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第36話 秘密計画

 ぽち、ぽち。

「おっこれいいな」

 サイド6の南の海を模したコロニーで、贅沢にも海があり、まさに南国を再現していてトロピカル。小麦色の美女を見ながら過ごす人生いいな。

 俺は今まさに南極で停戦について話し合われている中、一人籠もる執務室で引退後に住む家を物色中であった。

 モニターには次々とお勧めのリゾート地の別荘が紹介されていく。この程度の値段なら総帥のへそくりでお釣りが来る。そしてこの授かったチート天才ギレンの頭脳を持ってすれば、残った資金で株なり会社なり経営して小金を稼ぐなど簡単なこと。

 元小市民サラリーマンにしてみれば夢のような悠々自適の第二の人生。その為にも口の堅い整形外科医を見付けて、偽造市民証を手に入れるなどやることは多く準備は念入りに行う必要がある。

 気を抜きすぎと言われるかも知れないが、懸念材料は排除し交渉はゴップに丸投げですることがない。交渉が纏まれば暫く碌に眠れないほど忙しくなる。なら折角空いたこの貴重な時間を無駄にするわけにはいかないと第二の人生のプラニングをして何が悪い。

 部下からの中間報告ではゴップが上手く立ち回って順調に協議は進んでいるらしい。後は明文化してサインをするだけとのこと。

 楽勝楽勝、俺のギレン生活ももう直ぐ終わりだ。

 唯一未だシーマ達から何の連絡も無いのが気がかりだが、事ここに到ってはラプラスも必要ないし気にしないことにしよう。シーマ達も戦争が終われば帰ってくるだろう。

 さて、終の棲家探しを続けるか。

「総帥っ」

「あなたっ」

 ノックも無しにドアが開けられセシリアとセイラさんが入ってくる。

 俺はエロ本を読んでいたところを母親に部屋に入られた少年のように驚きつつ素早くモニターの画面を消す。

「どうした慌ただしい」

 俺は跳ね上がった鼓動を抑えつつ落ち着いた口調で言う。

 逃亡計画を知られるわけにはいかない。

 この二人が何の権力も無くなり、ただの小市民に戻った俺に着いてきてくれると思うほど、俺も世間知らずじゃ無い。ギレンの魅力はあくまで権力とセットになって溢れるカリスマにある。カリスマが無ければ、眉無しオールバックの怖いおっさんで女にもてる要素など皆無。

 だから手は出してないし、引き継ぎはちゃんとして消える鳥跡を濁さずのつもりなので後ろめたいことも無い。

「何を隠したの?」

「閣下、クーデターです。地球連邦軍の一部が蜂起して議会を占拠しました」

「なっなんだと!?」

「んっ閣下。テレビをクーデターの首謀者が演説をするそうです」

 イヤホンから何か連絡を受けたらしいセシリアが言う。

 俺は素早くテレビを付けると、中心には見知らぬ男、その横にはTV本編で見たときよりも若さが残るジャミトフが映っていたのであった。

 中央にいた金髪碧眼の美青年がしゃべり出す。

「地球に住む愛する者達よ。

 今この美しい地球が宇宙人共の土足で踏みにじられようとしている。なのに地球を愛さない売国奴共は、戦うことを諦め自身の保身のためこの地球を宇宙人共に売り渡そうとしている。

 こんな事が許されていいのか。

 許されるはずが無い。

 故に私マーセナスが売国奴共に天誅を下し、宇宙人共を追い払うため立ち上がった」

 マーセナスだと!!!

 スペースノイドとアースノイドの千年に渡る確執を生み出した、ザビ家と並ぶ呪われた一族が表舞台に出たというのか。

 演説は続いていき、最後に特大の爆弾を炸裂させる。

「軟弱な地球連邦軍に任せてはおけない。私はここに地球を守る新たな軍を創設する。

 その名は、ティターンズ。

 地球を守る剣、その剣は我が同士であるジャミトフ大佐に任せる」

 くっく、こういう流れになるのか。

 地球連邦を裏から操りスペースノイドを弾圧してきた連邦保守筆頭。そして地球をこよなく愛し地球上から人類を一掃したいジャミトフ。

 マーセナスはスペースノイドに主権を譲って戦争を終わらせたくない。

 ジャミトフはアースノイドがまるで減っていない状況で戦争を終わらせたくない。

 互いの真の目的は違えど、戦争を終わらせたくないことで一致した両者が手を組んだというのか。

 政治家と軍事がガッチリ組んだ以上簡単には倒せない。

 宇宙世紀の混迷はまだまだ続く。



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第37話 カオス

 ティターンズは議会占拠と同時に各地でも武力蜂起を行い、自分達の邪魔になりそうな人物の排除を始めた。

 ヨーロッパでアジアでオーストラリアでスペースノイド側に理解ある連邦軍高官、政治家が次々と襲撃を受けていく。だが、それらの人物とてお花畑の平和主義者ばかりでは無い、当然の如く反撃をする。その結果、あれほど俺が地上に被害が出ないように苦心したというのに、幾つもの街が戦火に飲まれていく。それも連邦軍同士の戦いでだ。

 これも地球人根絶を願うジャミトフの計算なのか? 

 当然の如く地球連邦軍において実働部隊最大の実権を握るレビルにもその魔の手は伸びていく。

 俺のフェイクに引っ掛かり北米に大部隊を集結させ、そのまま休戦協定に入ってしまった為、ほぼ無傷で残る連邦軍北米部隊。その中に紛れ込んでいたティターンズ派が、クーデターへの対応で揺れるレビルの本陣に牙を剥いた。

 強襲を受けレビルは生死不明。北米軍は各個にティターンズに反撃していき北米大陸は両軍入り乱れる無法地帯へと化していく。

 

 だがそれだけでは終わらない、ティターンズの魔の手は地球連邦の大物が集う南極にも伸びてくる。

 セシリアにはティターンズの背後関係の情報を集めて貰う為動いて貰い、俺は地球の情報を集めジオン軍に急場の指示を出すため、ジオン軍大本営作戦司令室に来ていた。

 情報将校達が忙しく動き回り、情報が入り次第オペレーター達がやり取りをしている。

「総帥。南極に向かってミデアの編隊が向かっています」

 情報を精査しセイラさんが報告してくる。

 すばやい、脱出する暇を与えないつもりだな。この抜け目ない行動、間違いなくMS部隊も引き連れていると思って間違いない。

 休戦協定の話し合いの場ということもあり南極大陸には両軍とも本格的な部隊は引き連れていない。ジオン軍もテロ警戒用に歩兵部隊にMSが三機程度しか居ない。しかも地上用に換装もしていないF型のままだ。というか元々ザクで地上戦をする気無かった為J型自体が存在しない。

 もしティターンズがGMを三機以上投入してきたら相手にならない。

「我が軍の高官は当然として、なんとしても連邦側の高官達も逃がすのだ。彼等を失ってはならん。

 ドズル」

「おう、兄貴」

 ジャブローとレーザー通信で繋げたままだったドズルが答える。この際傍受されようが構ってられない。

「ジャブローはどうだ?」

「なんとか基地として使用出来る程度には復旧出来ている。ティターンズなんぞ来たら返り討ちにしてくれる」

「頼もしいな。だがもう一つ仕事を頼みたい。

 鹵獲したペガサス級一番艦は動かせるか?」

「ああ、宇宙に送る準備を進めていたからって、まさか兄貴!?」

「そのまさかだ。ブースターを使用し弾道軌道を描いて南極に急行し、南極条約に集まった連邦ジオンの高官の救出に向かわせろ」

 ガウが存在しない以上、これ以外に使える航空母艦がジオンには無い。

「しかし虎の子の・・・」

「お前はこんな戦争をずっと続けるつもりか?

 彼等を失えばジオンは交渉相手が居なくなるぞ」

「分かった。軌道計算をさせる。その間にMSも詰めるだけ詰め込む。

 だがそれでも間に合うのか?」

 ドズルはあんな顔でも家族に檄甘のマイホームパパで戦争派じゃ無い。

「時間は稼ぐ。

 セイラ、今一番近くに居る部隊は?」

「ガイア大尉がドムをジャブローでの地上試験をする為、衛星軌道上で降下準備をしていました」

「よし、降下ポイント変更。そのまま南極に降下、地上部隊と合流してティターンズを迎え撃たせろ」

「しかしドムはまだ地上でのテストが終わってませんが」

「コロニーでの試験は済んでいるはずだ。他に手は無い」

「了解です」

 ドムは地上でならGMと互角以上に戦える。ジャブロー戦に間に合わなかったのが、ここで幸いするとは。

 運がいいと思ったときだった。

「総帥、ジブラルタルより多数の艦艇が打ち上げられるのを確認」

「何!?」

 くそっ休戦協定の間誠意を見せるために地球の軌道上から艦隊を遠ざけておいた隙を突いてきたか。

 今からでは迎撃用の艦隊は間に合わない。

 やってくれる。ここまで計算してのクーデターか。

「どうしますか?」

「偵察部隊を出せ。艦隊が何処に向かうか確認させろ」

 その艦隊がシロッコと合流するかサイド7に向かうかで宇宙での戦局が大きく変わる。

「はい」

 戦争が終わるかと思えば、これか。

 歴史の流れには逆らえないというのか、このままいけば人類の半数が死亡する一年戦争になってしまう。

 だがまだ致命的には成っていない。まだ流れは変えられる。

 ここで流れを断ち切ってみせる。



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第38話 南極決戦

 南極のドーム都市に迫るティターンズ空挺部隊。

 まずは先行するミデア一機が対空砲火を強行突破してくる。ミデアの機動性では対空砲火を躱しきれず被弾してしまうが、代わりにティターンズカラーに塗られたジム三機が無事降下されてしまう。

 ただのジムなのにティターンズカラーに塗られると三割増し強く見えるから不思議だ。

 降下したジムはミデアの犠牲に応えるように後続を無事降下させる道を切り開くため、バリケードを作り防御陣を作る連邦ジオン混戦軍に向かって行く。

「デニム隊長」

「慌てるなジーン、良く引きつけてから撃つんだ」 

 彼等にとってMS戦は初。流石に南極で交渉中にMS戦闘は起きないだろうと能力的に可もなく不可も無い無難なパイロットとして選ばれた。お飾りの警備隊だから普段忙しいエース級は休ませてやろうとしたのが完全に裏目に出た形だが、こうなった以上は頑張って貰うしか無い。

 ジムは地上用に換装していないザクF型など問題にならない機動力で迫ってくる。

「うおおおおおおおおおおお、俺もシャア大佐みたいに手柄を上げて出世してやる」

 我慢しきれなかったジーンが飛び出し戦端を開いてしまう。

 ザクマシンガンが唸り砲弾がジムに吸い込まれるように向かって行くが、シールドに全て弾かれてしまう。

「うわああああああああああ、隊長隊長ザクマシンガンが効きません」

 ションベンを漏らしそうな声で泣き言を言うジーン。

 ジムは装甲こそセラミックだがシールドはガンダムと同じルナチタニウム、ザクマシンガンの砲弾など受け付けない。

「スレンダー左側に回り込むんだ」

 デニムがシールドの無いジムの右側から攻めろと意外と的確な指示をするがジム側がそれを許さない。

 バーニアを吹かし一気に間合いを詰めジーンの懐に潜り込む。

「うわああああああああああ」

 ジーンが火事場の馬鹿力を発揮し反応した。ザクマシンガンを投げ捨てヒートホークを振り下ろす。

 ガシャン。ヒートホークを握り締めた腕がシールドごとジムのビームサーベルに切りさかれ地面に落下する。

「下がるんだジーン」

「うわああああああああああ」

 デニムの声に従いバーニアを噴かし後退するが、ジムのバルカンがそれを許さない。

 モノアイが動力パイプが吹っ飛び装甲が穴だらけになる。辛うじてコクピットだけは守れたがジーンザクは戦闘開始早々に沈黙した。

 駄目だ相手にならない、相手がドームへの直撃を恐れてビームライフルを使っていないというのに。アニメじゃザクとジムは互角みたいな描写だが、ザク側にベテランの凄腕パイロットでも乗っていない限り相手になるわけが無い。本体もだが何より武器のスペックが青銅の剣と日本刀くらい違う。

 デニムやスレンダーでも撃破されるのは時間の問題だろう。

 もう駄目かと思ったとき、騎兵隊のラッパが轟いた。

 轟く轟音に空を見上げれば、HLV。そのハッチが開きドムが三機射出される。

「待たせたな。巨人狩りは俺達黒い三連星に任せろ」

 全解放無線で響き渡る力強い声にジオン側は湧き上がりティターンズ側は恐怖する。

 だがティターンズ側とてエリート部隊恐れるばかりじゃない。MSが最も無防備な降下中を打ち落とそうとビームライフルを向けるが、それを黙ってみているほどデニムも無能じゃ無い。牽制のザクマシンガンが放たれる。

 ジム三機が攻撃を躱している内にドムは無事降下。

「オルテガ、マッシュ。久々の名を売るチャンスだ。シャアの野郎に開けらちまった差をここで埋めるぞ」

「「おう」」

「ザクは陸戦隊の相手をしていろ。

 巨人野郎のMS6機は俺達が引き受けた」

 そう先行のジム部隊が敵を引きつけている内に後続のミデアから追加のジム3機及びドーム占拠用の陸戦隊の装甲車や戦車、歩兵部隊が降下を果たしていたのだ。

 ここに南極における決戦が始まるのであった。

 

「よし。他の戦場を映せ」

「よろしいので?」

「南極は黒い三連星に任せておけば良い。

 他の戦場の方が気になる」

「分かりました」

 地球全土で始まったティターンズの蜂起はまだまだ序盤、ここで対応をしくじれば後々に響く。

 指示に抜けが無いように全部を俯瞰して見ることこそギレンの役目なのであった。

 



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第39話 一週間事変

 激動の一週間が流れ、例えるならギレンの野望を一週間不眠不休でプレイしたような疲労が俺の全身に染みこんでいる。

 あれから、ゴップ等は黒い三連星の活躍で無事南極をペガサスで脱出、ジャブローに避難することが出来た。だがそこで一安心と俺は休憩に入ることも出来ず、いつ発生するかフラグの分からないイベントに不眠不休で対応している内に一週間が流れ状況が一先ず落ち着いた。

 

 ティターンズはヨーロッパ大陸の完全支配に成功し、その余波を駆り北米にも進軍したがエゥーゴという思わぬ新興勢力の抵抗に遭い北米の東部までで進軍が止まっている。

 そう北米西部において行方不明となったレビルに変わりブレックス大佐が北米駐留軍をまとめ上げ、コロニーに理解を示す同志を糾合しエゥーゴを結成したのだ。彼等は北米西部しか支配地域がないが、北米最大の生産拠点キャリフォルニアベースを手中に収め、今後の転び方次第では一大勢力になれるポテンシャルを秘めている。

 ユーラシア大陸は各軍が軍閥を結成し乱立したままに各軍閥が自軍の行く先を見定めている状況。ただ東南アジアにおいてはライヤー大佐が軍をまとめつつある動きを見せている。

 アフリカ大陸は、元々反連邦意識の強い地域だけにこの機会に連邦脱退を宣言し、アフリカ連合を結成した。ただし混乱の隙に独立宣言をしたに等しくMSの保有はない上に生産拠点も無く、弱小勢力と言ってもいい。唯一の強みはその鉱山資源でその活用に命運が懸かっている。

 ジャブローに避難したゴップはジオンに間借りする形でジャブローに正統連邦政府を樹立、南米及びオーストラリア太平洋に残る連邦軍の結集を呼び掛けている。

 宇宙に脱出したティターンズ艦隊はサイド2にいるシロッコとの合流に成功した。これにより宇宙における唯一のジオンの抵抗勢力となる。今はいいがシロッコのことだ、その内重工業プラントの立ち上げを行い自作MSを投入してくることは十分予想される。

 以上が後に一週間事変と呼ばれる一週間の流れである。

 連邦との和平は成らなかったが、そう悪い状況では無い。なぜなら30倍の国力差がある連邦が勝手に分裂し争っているのだ。ここからの立ち回り次第では、各個撃破も夢では無い状況だ。

 そしてこれより今後の命運が決まる御前会議が始まる。

 戦士で無いギレンにとってこの会議こそ主戦場。

 会議室に居並ぶジオン首脳部や利権団体の代表達、彼等のまたこの会議で今後の自分達の運命が変わることを理解し並々ならぬ覚悟を決めている。

 俺は彼等の圧を跳ね返すように気合いを入れて宣言する。

「これより御前会議を始める」



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第40話 利権

「先の南極での戦闘で連邦の新型MSを圧倒したのを見ても明らかなように、ドムこそジオン地上軍主力に相応しい」

 ツィマッドにコネがある技術士官が力説する。

「何を言う。あれは黒い三連星のパイロットの技量によるものだ。ギレン閣下惑わされてはいけません、ジャブロー攻略戦での縦横無尽に起動し敵を圧倒したグフこそ、主力に相応しい」

 ジオニックにヒモが繋がっている技術士官が力説する。

「何を言う。あれこそラル少佐の技量頼りでは無いか。あんな奇をてらった武装だらけのMSより重装甲高機動を両立したドムこそ神MS」

 理系肌だろうに今にも掴み掛からんばかりの勢い、子供かよ。

 この混迷する戦局を打破するための方針を決める御前会議。まずは次期ジオン軍を担う主力兵器に付いての議論から始まり、始まった途端にこれだ。

 ハッキリ言ってこの議論任せていたら永遠に決着しない。

「ジオン軍地上部隊の主力はドムにする」

 俺は断を下した。

「やったーーーーーーーーーーーーーー」

 ツィマッドはガッツポーズ、ジオニックはがっくりと項垂れる。まあこれでボーナスの額が変わると思えば仕方ない。

「随時ドムを導入するが、今地上は激戦の最中であり戦力の空白期を作るわけにはいかない。地上に降ろしたザクF型の内半数をJ型に換装して対応する。

 またドムだけでは作戦行動に支障をきたす場合もある。山岳地帯などの特殊戦を考慮しグフも少数ながら配備する」

 ジオニックにも配慮を忘れない。あまり恨みを買うと暗殺とかされそうだからな。総帥といえど、いや総帥だからこそこういう配慮を忘れてはいけない。

「閣下。ありがとうございます。

 ここで我等から提案があるのですがよろしいでしょうか?」

 勢いに乗るツィマッドがグイグイ来る。

「許可する」

「閣下。我等スペースノイドは忘れがちですが地球の7割は海。つまり海を制する者こそ地球を制する」

 凄い嫌な予感がする。

「水陸両用MSゴックの開発許可を裁可願いします。

 有能性が証明された重装甲、そしてビーム兵器を内蔵した高火力MSで必ずやジオンを勝利に導きます」

「待てっそれはナンセンスだ。陸上においてもザクを上回る機動性を誇りビーム兵器を内蔵するズゴックこそ、ジオンを勝利に導きます」

 今まで大人しかったMIP(の紐が付いている技術士官)が参戦してきた。

 此奴等開発許可と言いつつ既に設計や基礎実験は終わっているのだろう、下手をすれば実機もあるかもしれない。此奴等が欲しいのは後追いでの開発予算か。そして最終的には量産化の認可。

 ゴックとズゴック。水中用MSはいらないとは言わないが、その重要性は原作を見るにそんなでも無いと言うのが正直なところ。

 どう答えるか。

「閣下。地球の7割が海等なら10割は空です。空を制した者が地球を制するのです。

 ここはMSでなく空母こそ必要。是非ジオン開発部にガウ攻撃空母の開発許可を」

 各社と紐が付いていない純粋のジオン技術士官のいきなりの乱入。

 ここは技術者にとっての戦場、大人しく口を開けて待っていては誰も予算はくれない。

 それは分かる分かるけど、うざい。

 だがここで切れるわけにはいかない。ジオンのリソースは有限、効果的に使わなくてはあっという間に無くなってしまう。楽勝ムードの時は良かったが、今は並べて楽しいMSコレクションをしている余裕は無い。

「それもいいが、鹵獲したペガサス級の解析はどうなっている? あれが量産出来ればガウはいらないだろ」

「修理及び解析は終わっています。しかし我がジオン軍の台所事情ではあれの数を揃えるのは至難かと」

 何で急にまともになるんだよ。自分で開発じゃないから興味が無いが本音だろ。だがまあここは突っ込むまい。確かにガウは必要だろう。あれば作戦の幅が広がる。上手くいけばジオン水泳部ことジオン海軍は設立する必要が無くなり、予算と人員が浮く。

「いいだろう、ガウの開発を許可する」

 すげえな。俺が元の世界で一生働いても手に入れられない金が俺の指示でぽんぽん右に左に流れていく。まともに考えたら胃に穴が空くな。

「ありがとうございます」

「最後に私からだが、全社合同で開発を命じたジオン次期主力MSはどうなっている?」

 ゲルググ量産の暁には連邦など一気に片付けてくれるわ、わはっはっはっは。と高笑い出来る状況じゃ無い。現状ではゲルググが出来てやっと連邦MSと互角と言ってもいい。宇宙において連邦MSの数が少ないから何とかなっているが、数が揃ったらザクじゃ勝てない。早くゲルググさんプリーズ。切実に願う。

「それでしたらビームライフルの開発に手こずっていましたが、連邦のMSを奪取出来たことにより大幅に開発が進みました。もう直ぐお披露目出来るかと」

「そのMSにジオンの命運が懸かっている。頼んだぞ。

 後、それまでの繋ぎはザクⅡの近代化改修で対応する」

 事実上のリックドムのリストラ宣言だ。だがしょうが無い、その分のリソースはゲルググ量産のための貯金だ。

 地上はドム+ガウ。宇宙はゲルググという基本方針が決まったところで御前会議技術の部終了。

 次は戦略の部だ。



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第41 勝利への扉

 最善の策はある。

 勝利への扉を開くことは出来る。

 後は実行するかしないかだけ。

 最善策、それは何もしないだ。

 ジオンは地上から手を引き地上は地上人同士で勝手に戦わせる。

 いや少しは手を出す。

 死の商人の如く不利な陣営に兵器を売りつけ軍事バランスを調整する。

 いずれ経済は破綻し文明の後退があるラインを下回ったとき、膨大な人口を支えることは出来なくなりダムが決壊するかの如く地上世界は一気に崩壊する。

 戦うこと無くスペースコロニーの勝利が転がり込んでくる。

 普通ならこんなうまくはいかない。

 敵も馬鹿じゃ無い此方の真意に気付き手打ちを模索する。

 だが今回に限り敵にジャミトフが居る。

 ジャミトフは此方の真意に気付いてなお此方の策に乗ってくる。

 なぜなら「戦争を起こし地球の経済を破綻させ地球上の人類を滅亡させる」ことこそジャミトフの真意だから。

 勝利への扉は開かれる。

 だがそれは何十億というアースノイドを殺すのと同義。

 ギレンならばこんな重い十字架だろうが背負えるだろう。

 だが頭脳はギレンでも心は平凡日本のサラリーマンの俺では背負えない。

 こんな十字架を背負って南国コロニーで楽しく引退人生を過ごせる訳が無い。

 ならば下策と分かってはいるがやるしか無い。

 失敗すれば世界を征服しようとした愚かな王と歴史書に名を刻まれる。

 だがそれがどうした。

 何十億には子供だって居る。

 ならばやるしかない。

 俺は決意を固め会議に挑む。

 

「基本方針として正統連邦との連携は維持する」

「それがよろしいでしょうな。それで他の勢力への対応はどうします?」

「エゥーゴは様子見とする。向こう側から同盟の要請があれば前向きに検討する」

 ブレックスはコロニー派だとして、この人は最終的に何をしたかったのか今一分からないんだよな。いや地球環境を改善したいんだろうけど、具体的な手段については何も語らずに退場してしまったし、ジャミトフみたいにシロッコが語るということもないので本気で分からない。

 その手段によっては手が結べない場合もある。

 独裁反対ザビは全員ギロチンだ、とか言われても困るわけで。

「アフリカ連合に関しては正統連邦との兼ね合いを見つつ、資源と引き替えに軍事援助もプランの一つとして検討する」

 地球を連邦で統一したい正統連邦にとっては、連邦の派閥争いに近いティターンズやエゥーゴは許容出来ても連邦からの完全独立を目指すアフリカ連合は認められないだろう。

 だが彼等が所有する鉱山資源はジオンとしても見逃せない。チャンスがあるのなら唾を付けておくべきだ。

 まあゴップと狸の化かし合いをするしかないか。

「ティターンズの支配地域及びユーラシアに関しては向こうから仕掛けてこない限りジオンからも攻撃はしない。

 地上での戦闘は基本正統連邦軍に任せ、地上に降ろした兵士達を宇宙に帰還させる」

「なんと地上から手を引くのですか!!」

 不満そうな声が幹部から上がるが無視。

「そして宇宙艦隊を再編成する。その兵力を持って宇宙に上がったティターンズどもをまずは一掃する」

 ジオンの兵士の三分の二近くがジャブロー攻略戦のために地上に降りていて、宇宙には防衛する為の最低限の兵員しか無い。まさにジャブロー戦は原作のような嫌がらせ程度の攻撃では無い、ジオンの力を結集した総攻撃だったのだ。

 つまり宇宙で攻勢に出るには地上に降ろした兵士をまず宇宙に戻す必要がある。 

 本当にジオンには兵が無い。

「おおっ」

 会議室が騒然とし俄然活気が満ちてくる。つくづくジオン国民は血の気が多い。

「まずは制宙圏の完全掌握、その上で再度地上侵攻を・・・」

「閣下」

 本来ならこの会議に出席する資格の無いセイラさんがノックもせずに会議室に飛び込んできた。

 このパターン、凄く嫌な予感がする。

「どうした?」

 俺は落ち着いてセイラさんに尋ねる。

「サイド2に駐留していたティターンズ艦隊がソロモンに向けて進軍を開始しました」

「えっ」

 どうやら俺は一手遅かったようである。



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第42話 てんどん

 情けない。俺は戦略ゲームのAI並みかよ。

 兎に角兵力があるAI側には囮を使って部隊を本陣から引き離し、手薄になったところを強襲して勝つ。こんな馬鹿なコンピューター相手にしか通用しないような戦法を俺自身が喰らってしまうとは。

「今動かせる兵力は全て動員する。

 試作機旧型は問わない、何がある」

 ソロモンに急遽援軍を向かわせ無くては成らないが、如何せん今ジオン宇宙軍には兵も居ないが主力のザクⅡはそのほとんどが地上に降下してしまったままでMSもない。

 こんな時のジオンガールズはシャアを護衛にして地方巡業(各サイド周り)に行っている為間に合うか微妙なところ。ララァやニュータイプの少女に囲まれてシャアも丸くなると思って出したのが裏目に出ている。

 丁度会議で技術部の連中が居たのは幸いだった。こいつらが独自に保有しているテストパイロットや部隊は侮れないものがある。

 特機の一騎当千に期待してはいけないのは分かっているが藁をも掴む状況だしょうがないじゃないか。

「格闘専用MSギャンを提供できます」

 ツィマッドが提案してくるが、ギャンではな~。

「後は試作リックドムが三機ほど」

 渋い顔をする俺にツィマッドが追加で提言するのはいいが、俺はそんな開発命じていない。

 また独断専行か。技術者のやる気を削がないためにあまり口出ししてなかったが、そろそろ締めないと駄目かな。

「ん?」

「いえ万が一ゲルググが間に合わなかった事態に備えて開発だけはしてました」

 睨む俺にツィマッドはしどろもどろに言い訳する。

「分かった」

 今は深く追求すまい。

「ザクレロが完成しています」

 今度はMIP。

「ザクレロ!?」

「MAを模索する為に開発しました。性能は要求値に及びませんでしたが可能性は見せてくれました。ザクよりは使えます」

「ザクよりね~」

 誇らしいのはいいが、MAでザクより強い程度では誇れるものじゃ無いぞ。

「その成果を持って試作ビグロも一応完成してます」

「ビグロ」

 ビグロ、ビグロはいい。あのアムロでさえ苦戦したMA、上手く使えば敵将への突撃に使える。

「はい、ビグロの加速性は素晴らしいです。その突撃力とクローで連邦のMSなど引き裂いてくれるでしょう」

 俺の食いつきにMIPはここぞとばかりにアピールしてくる。

「クロー? メガ粒子砲が内蔵されてないのか?」

「機動性実証の為の試作機ですので、飛び道具として90mmバルカンを内蔵していますが、なぜ閣下がビグロの完成形態のことを知っているのですか?」

「うむ。私を甘く見るな」

「はっは」

 密告員でもいると思ったのかMIPは青い顔になるが、何か覚悟を決めて口を開く。

「なら閣下に隠しごとは出来ませんな。

 決戦用兵器ビグザム、50%完成しています」

 ビグザムと喜びそうになったが50%?

「それはどのくらいの機能なのだ?」

「足がありません」

 もう俺が知っている前提で話してくる。

「そうか」

「メガ粒子砲は撃てますが、Iフィールド装置は間に合っていません」

 それはもう単なる動く砲台なんじゃ無いか? それでもあの火力使い用はあるか。

 後はガンダムか。アムロを手元に残しておいて良かった。それだけが救いだ。

 これ以上はぐだぐだ時間を掛けられないソロモンが持ちこたえている間に出撃せねば。

「閣下」

 情報収集をして貰っているセシリアさんがノックもせずに会議室に飛び込んできた。

 このパターン、凄く凄く嫌な予感がする。

「どうした?」

 俺は落ち着いてセシリアさんに尋ねる。

「ソロモンが陥落しました」

「馬鹿な。ソロモンには防御戦が出来るくらいの兵力はあったはずだ。

 早い早すぎる」

 ティターンズにそこまでは圧倒的兵力は無かったはずだ。

「未確認情報ですが、ティターンズは新兵器コロニーレーザーを使用したようです」

「コロニーレーザーだと。そんなもの誰が?」

「あるルートから来た情報ですが、ティターンズが強引にコロニー一機を徴収しシロッコが作ったとのことです」

 ガンッ思わず机を叩いてしまっていた。

 やってくれたなシロッコ。確かにあの天才なら宇宙に幾らでも転がっているコロニーを利用してそのくらい簡単に作ってくるだろう。

 まずい、これで俺は原作ギレン最後の舞台アバオアクーでの最終決戦をする嵌めになった。



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第43話 宇宙要塞ア・バオア・クー

 ジオン宇宙軍を動員できるだけ集結させた。

 必勝の策も用意した。

 キシリアも父上を頼むと本国に残してきたので、頭パーンのフラグは潰した。

 セシリアさんやセイラさんも本国に置いてきた。

 非戦闘員も退避させた。

 幸いというかコロニーレーザーに対し位置的にアバオアクーは月が盾になる。更にいえば幾ら天才とはいえ、突貫工事のコロニーレーザーに原作同様第二射はないと思っている。まあ、天才が俺の想像以上でコロニーレーザーが完璧で反射衛星とかあるかもしれないが、その時は潔く諦めるしか無い。

 懸念すべきはもう一つの大砲ソーラーシステムを完成させているかだ。こちらは先程の被害妄想と違い可能性は高い。故にヤマトを要塞防衛で無く別行動させソーラーシステムが無いか探らせることにした。

 やれることはやった、後は全力を尽くして

 ギレン非業の最期を迎えた要塞だが、まだ戦争を開始して1年たってない。俺を脅かした数々の歴史の強制力があるというなら、この時期でのジオンの敗北は無い。

 天運を待つ。

 

「ティターンズ艦隊、確認。パブリクが多数先行して向かって来ます」

 来たか、突撃棺桶。兵士が畑から穫れる連邦軍で無ければ出来ない贅沢な戦法。

 ふと思うが、パブリクのパイロットは命令拒否するとどうなるんだろうか? 民主的軍隊なら死ねという命令に対する拒否権はあるんだが・・・。意外とスカウトしたら寝返ってくれるかも知れないな。この戦いを生き残れた豪運パイロットが居たら考えてみよう。

「要塞砲で迎撃しろ。絶対に近づけさせるな」

 

 数分後。

「多数撃墜するもビーム攪乱膜を張られました。

 ティターンズ艦隊前進してきます」

「衛星ミサイルで迎撃しろ」

 

 数分後。

「第一戦闘区域に入られました。ティターンズ艦隊MSを発進させてきます」

 シロッコがどこに居るかまだ分からない以上アムロはまだ出せない。

「ミサイルで迎撃しつつ、MS隊発進。キマイラ隊を中心に迎撃させろ」

 初戦の勢いは大事だ。俺は切り札の一つを初手で切った。

 ジョニーライデンにはザクR2という現状では尤も完成度の高いMSを支給してある。きっと活躍してくれる。それと余談だが俺はジョニーといえばゲルググよりこっちの方を思い出す。ジョニ帰もゲルググじゃ無くてザクR2で活躍していたらもっと歓喜してた。

 

「キマイラ隊奮戦するも敵の勢い止められず」

「耐えろ。もう直ぐ騎兵隊が来る」

「ヤマトから暗号文。テキニタイヨウナシ。テキニタイヨウナシです」

 よしっ、思わずガッツポーズ。流石のシロッコもソーラーレイまではこの短期間で作れなかったか。

「ヤマトに任務変更を通達。敵艦隊の情報収集に切り替えさせろ」

 強行偵察型ザクⅡから送られてくる情報をヤマトが集め、更にアバオアクーに送信。

 ザクでジムを迎え撃たなくては成らないジオンにとって戦場の情報量は数少ないアドバンテージと言ってもいい。

 独り居る俺は囲まれたモニターに映し出される情報をIQ240のギレンの頭脳が処理し最適解を導き出していく。

 

「ティターンズの圧力更に強まります」

 ジオン防衛隊は大分戦線を後退させられている。最適解を導き出してこの有様、戦略の失態を戦術で覆すのが如何に困難かよく分かる。

 このままでは要塞に取り憑かれるのも時間の問題で俺は時計を見る。

 そろそろか。

「ヤマトより入電。ティターンズ艦隊の後方にて爆発を多数確認」

 くっく、思わず笑みがこぼれる。

 ここで戦うことは分かっている上に戦闘開始時間もだいたい予想出来る。この状況を利用しない手は無く、月をぐるっと回って敵後方に奇襲が出来るように月のマスドライバーから部隊を出撃させておいたのだ。

 スイングバイで噴射も最低限に抑えられるのも功を奏して敵に発見されること無く奇襲成功。もはや高速戦闘専門になってきた白狼隊が大いに敵を削ってくれるだろう。

「キマイラ隊も押し返し始めました」

「よし、予備兵力導入。ザクレロ、ビグロMA隊発進、敵の縦陣を食い破れ」

 

「マゼラン撃沈確認。サラミス三隻大破。ペガサス級一隻後退していきます」

「くっくっく、圧倒的では無いか我が軍は」

 質も量も劣るジオン軍の奮戦に思わず痛恨の言ってはいけない台詞を言ってしまった。

 だがキシリア居ないし大丈夫だよね?

 しかしこんなものか、想定より敵艦隊が少ない気がする。ソロモン守備隊が頑張って数を減らしておいてくれたのか?

 

「新たなティターンズ艦隊、Sフィールドから接近」

「なんだと!」

 まずい調子に乗ってというか対応せざるえないというか、我がジオン守備軍はNフィールドに突出している。

「敵MS部隊接近。先頭にいるのは白いガンキャノン」

 シロッコがここで来るか。

「ユニコーン中隊を発進させろ。アムロ少佐を前面に押し立て迎撃しろ」

 アムロには鹵獲したガンキャノンオーバーの頭をガンダムヘッドに交換し無くなってしまったコアファイターの代わりに最新の核融合炉を搭載したブロックを入れマグネットコーティングも施しシェイプアップしたガンダム三号機を渡してある。流石にこの時代バイオセンサーもサイコフレームも開発できないのでサイコミュ系は一切無いが、アレックス並みの反応速度を誇るMSだ。

 最強最後の切り札を切った。これで押し返せなければア・バオア・クーは終わる。

 



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第44話 脱出

「第23防衛隊突破されました」

「36砲台沈黙」

「第12MS大隊全滅」

「敵陸戦隊艇に取り付かれました」

 俺を取り囲むモニターからは悲痛な報告がひっきりなしに来る。

 限界点を超えたか。

 アムロもシロッコを良く抑えてくれている。だが所詮は一角だけのこと、後の防衛線は崩れ雪崩の如くティターンズが押し寄せてくる。

 ギレンの頭脳をフル活用して奇策を用いて延命を図ってきたが、ここまでか。

 戦争は数。勝負は如何に多くの数を揃えられるかに決まり、多少の戦術を駆使しようが覆すのは容易では無いということ。

「全軍これより撤退戦に移行する。

 要塞内にいる兵士諸君はWフィールド側から退避を始めろ」

 ここで俺は通信を別に繋ぎ、モニターにデラーズが映し出される。

「撤退戦を始める。撤退する兵士のためにWフィールドを死守せよ」

『了解です。

 しかし閣下・・・』

 禿げたオッサンが滝のように涙を流している、まさに号泣。

 本当にギレンに心酔しているんだな、中身俺でご免。

「それ以上は言うな。大義のためである」

『分かりました』

 大義のためと言えば納得してくれる、優秀だけど扱いやすい人だ。

「キマイラ隊に通達。徐々に戦線を下げていき味方の撤退を援護させよ」

 

 ギレンに転生し俺は良くやったと思う。

 正義の味方ジオンで非道なことは一切しないでここまで来た。

 もうゴールしてもいいよね。

 うん。

 

 数分後。

 ギレンによる鮮やかな撤退指示によりアバオアクー内には、無数のモニターに囲まれたギレン以外にはいなくなっていた、はず。多少逃げ遅れがいるかも知れないが時間切れだ自己責任で逃げて貰うしか無い。ほとんどはWフィールドに集結している。

 よしやるか、頭パーンよりはずっとマシのはずと思った俺の頭に暖かく柔らかいものが押しつけられる。

「えっ」

 まさか思って振り返れば、セシリアさんとセイラさんがいた。

「冗談は止せ。君達は本国にいるはずだ」

「閣下という後ろ盾無しではもう私は生きていけないほどに私は閣下に関わりすぎました。最後までお供します」

 確かにジオン敗戦後連邦に連行されて、その後は・・・。

「私の正体はあなたによって暴露されてしまったのですよ。今更平穏な生活に戻れと言われても」

 いやいやあんたしれっと投資家に成って優雅に暮らしていたじゃん。

 何より俺が二人のことを放り出すわけがない、ちゃんと責任は取っている。

「いやいや、セイラさんにはお兄さんがいるし、セシリアにしても父に頼んであるから・・・」

 むにゅっと言いかける俺の口が二人のおっぱいで塞がれる。

「女の覚悟を無駄にしないで下さい」

「どっちみち、もう脱出には遅いわよ」

 ・

 ・

 ・

「分かった。男ギレンの名に賭けて君達二人は絶対に幸せにしよう。

 協力してくれ」

「「はい」」

 笑顔で返事をすると二人はモニターをどかして席に座る。

「要塞内に敵部隊深く侵入しています」

「ティターンズ艦隊SおよびNフィールドに再集結中」

 追撃戦の準備か、最高のタイミングだな。

 シロッコめそのニュータイプ能力が仇になったな。要塞内にギレンがいることは感じているはず。ならばこんなことをするとは想像も出来まい。

「セイフティーロック解除、オーバードライブ。

 ジークジオン」

 俺は拳を振り上げ薄いガラスを叩き割り赤いボタンを押すのであった。

 瞬間、アバオアクーはティターンズを巻き込む大閃光を発するのであった。



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第45話 祝福

 閃光迸る爆発の第一陣で要塞の急所を爆破し亀裂を生じさせ、続く第二陣の爆発で内部に凝縮した圧力が噴火の如く要塞の岩石を砕き一気に噴出した。

 ギレンの芸術的爆破でN、Sフィールドには無数の岩石が撃ち出され群がっていたティターンズ艦隊に襲い掛かるが、撤退中のジオン艦隊がいるWフィールドにはほとんど岩石は打ち出されなかった。

 これによりティターンズ艦隊の半数が撃沈するのであった。

 

「おのれギレン、まさか要塞ごと爆破するとは。

 動ける部隊は我が艦を中心に集結をしろ」

 何となく流れでティターンズ艦隊の提督になっていたティアンム。後方で指揮を執っておかげで前方にいたサラミスが盾になる形で乗艦するマゼランは無事だった。

「再集結が済み次第、ジオン艦隊に追撃戦を行う」

 ティアンムは状況を見てティターンズ艦隊が半数も残っていると踏み、半数もあれば逃げるジオンを踏み付けられると嗜虐心を滾らせた。

 これは自爆に引っ掛かった怒りもあるが、半数に減った以上ここでジオンを逃がすと今後が危ういとの冷静な計算もあった。

「それと、シロッコの小僧はどうなった?」

 ティアンムにしてみれば幾ら連邦秘蔵の天才とはいえまだ十代の自分の子供くらいの男に偉そうに言われるのは腹に据えかねていた。ただシロッコの天才が生み出すテクノロジーが必要だから我慢していただけのこと。

 だが勝負がほぼ付いた今なら・・・。

「分かりません。Sフィールドでガンダムと交戦していたところまでは分かっていますが爆発後は不明、現在確認中です」

「ふんっ死んだかあの小僧」

 鬱積していた分だけ溜飲が下がりティアンムの顔は晴れ晴れとしていた。

「てっ提督」

「どうした」

「砕かれた要塞の中央から何か巨大なものが浮上してきます」

「なんだと! 直ぐに近くにいる部隊に偵察に行かせろ」

 流石名提督素早い決断で近くにいたサラミスとジム三機を偵察に向かわせるのであった。

 

 少し前。

「うぅうぅ、凄い揺れだったな。

 セイラにセシリアは無事か?」

 日本人でも滅多に経験しない震度6クラス以上の揺れはあった。シートベルトをしてなかったら四方の壁に打ち付けられシェイクになるところだった。

「はい、なんとか」

「私も大丈夫です」

 二人とも特に外傷は無いようで強烈な揺れで軽い目眩がしている程度のようだ。

「そうか、今確認したのだがティターンズ艦隊の半数を沈められた」

 宇宙要塞一つと敵の半分、安いのか高いのか。分かっているのはこれでジオンは最後の防衛線を失い、次は本土決戦しかない。

 問題は敵がしかも、どちらと思ったかだ。

 このまま大人しく地球に帰ってくれればいいんだが。

 

「ギレン様、ティターンズ艦隊戦闘隊形で再集結を計っています。逃げるジオンの追撃戦を行う可能性大です」

 セシリアが状況分析を続けるヤマトからのデータを生き残ったレーザーアンテナで受信して報告してきた。

 まだやる気か。

「ならば作戦はプランBを実行する」

「「はい」」

「各部チェック開始」

「動力炉OKです」

「モニターに異常なし」

「システムオールグリーンです」

「よし、ネオビグザム発進する」

 そうここは試作ビグザムをパワーアップしたネオビグザムのコクピットだったのだ。

 試作ビグザムと言っていたが正確にはビグザムの未完成品であり、メガ粒子砲のテストが上手くいけば、これに足とIフィールド発生装置を付ければ本編ビグザムになる(こんな大量に資材を使う機体を試作が終わってぽい出来るわけが無い)。つまり物理的に分厚い装甲は健在だった。

 これに目を付けた。自爆して差し違える気などさらさら無い俺は、これをシェルター代わりにして要塞内のW側に引き籠もり司令所とケーブルを引いてデータを貰い指揮を執っていたのである。

 計算ではネオビグザムには影響が及ばないはずだったが、流石に全てが計算通りとは行かず此方にも爆破の影響で激しい揺れに襲われ瓦礫に埋もれてしまった。下手にケチってザクレロにでも引き籠もっていたら潰れているところだった。

 だが、流石ネオビグザム何ともないぜ。

 

 瓦礫を押しのけ浮上していくネオビグザム。

「ギレン様、前方にジム3、サラミス1」

「セイラ任せた」

「はい」

 セイラが何やら操作をするとネオビクザムに先行してデブリを掻き分け二連装メガ粒子砲が飛び出した。

「あれは何だ?」

 ジムのパイロットはそれが何であるか理解する前に閃光に消えた。

 今のは試作ビグザムの無い足の代わりに付けたブラウブロに装備する予定だった有線制御式メガ粒子砲塔による攻撃である。

 Iフィールド発生器がないので出力は余っているからと突貫工事で取り付けたのだ。有線の巻き戻しは出来ないので絡まりやすいが対空砲の足の代わりになる。

「新装備は良好のようだな」

「はい、なんとか」

 セイラが答える。折角のニュータイプのセイラだが、この砲塔はブラウブロのようにサイコミュによる操作で無く有線による完全手動コントロール、インコムである。よって見えない敵には攻撃できない。

 だが今はそれで十分ハッタリが効く。

 

 有線制御式メガ粒子砲塔により近場の掃討が終わり、ついにネオビグザムが要塞の残骸から飛び出し、その全容を晒した。

「ふっふ、怖いか。恐れおののけ」

 ティターンズ艦隊が全容を表した巨大MAの姿に恐慌に陥っている内にやるべき事を済ませる。

「セシリア頼む」

「はい」

 セイラが有線制御式メガ粒子砲塔で敵に牽制を行いつつ、セシリアの今まで鍛えたカメラワークによって偉そうで偉大なギレンの姿がネオビグザムの上に方にホログラムで映し出され、ヤマトを通じて全宇宙に配信される。

 さあ、最後の大演説の始まりだ。

 

「我が愛するジオンの兵士諸君。

 君達は劣勢の状況下良くやってくれた。

 君達一人一人の奮戦は決して無駄では無い。

 君達の戦い一つ一つが明日のジオン、希望へと繋がったのだ。

 今その希望を見せよう」

 ギレンの頭上にまばゆく輝くラプラスの箱の中身が映し出されたのだ。

「見よ。これが真の宇宙世紀憲章である」

 もちろん偽物である。

 最後のガノタの知識を駆使して作り上げたレプリカ。

「心に刻むのだ。

 この条文を。

 この祝福を」

 内容は正真正銘の本物。

 これが偽物であることを知るものは本物を知るものであり、本物を知るものは条文が本物であることを知る。

 何も知らない民衆は、本物の条文を読み情勢に流されながらも真偽を判断する。

 今この時、ラプラスの箱は開けられ希望は飛び出したのだ。

 後は条文の持つ力が世界を動かしていくだろう。

 

 仮に本物のラプラスを手に入れ公表したとしても連邦首脳は偽物で自分達が持つラプラスこそ本物であると言うだろう。

 結局は水掛け論。

 憲章が刻まれた石碑が本物かどうかは重要じゃ無い

 その本当の条文が公開されるかどうかが重要なのであると気付いたからこその奇策である。連邦も必死になってその条文を死守し、サイクロプス隊やシーマ海兵隊を退けたが、中身を知っている俺が現れた時点で全ては無駄ごとだったのだ。

 

「本来ならば宇宙世紀は祝福と共に始まるはずだった。だがエゴに駆られた一部のアースノイドにより、宇宙世紀憲章はラプラスと成り宇宙世紀を呪う呪物となった。

 だが今ギレンが宇宙を蔓延る全ての呪いを浄化する。

 エゴからの解放。

 スペースノイドに祝福あれ」

 ここで放送は終わった。

 後は放送を聞いたものが自分なりに咀嚼し行動していくだろう。

 俺の仕事は終わった。 

「セイラ、セシリア。

 行くぞ。男ギレンの花道を手伝ってくれ」

「はい」

「もちろんです」

「よし、セイラは有線制御式メガ粒子砲塔のコントロールに専念。

 セシリアは状況分析。

 メインパイロットはギレンが努める。

 宇宙に蔓延るエゴを一掃する」

 

 ヤマトで中継された記録によれば、ここからはネオビグザムは混乱するティターンズ艦隊が立ち直る前に猛攻を仕掛け更にその半数を撃沈したとある。

 だが最後にはその巨体が仇となり立ち直った艦隊の艦砲射撃で次々と被弾していく。

「うおおおおおおおおおお、まだまだティアンムせめてお前だけは・・・。

 スペースノイドに祝福あれ」

「やっやめろーーーーーー俺が何をした」

 ギレンが叫び、ネオビグザムは最後ティアンム乗艦に特攻をし宇宙世紀憲章と光に包まれた。

 この光こそ希望の輝き、この輝きを持ってティターンズ艦隊は事実上の壊滅。宇宙が地球連邦の圧力、いやエゴから解放された瞬間であった。

 この輝きに導かれ、スペースノイドは新たなる道を模索する。



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第46話 優しい世界

 ギレンがスペースノイドに道を示し散った後も地球においてはティターンズやエゥーゴなどによる覇権争いが続いていた。結果街は破壊され経済は混乱し難民に溢れた。

 だが一方宇宙においては、ティターンズ艦隊が事実上消滅した事によって宇宙に掛けられていた重しは取り除かれスペースノイドは解き放たれていた。

 そして彼等はラプラス連邦を結成した。

 ギレンが公開した宇宙世紀憲章だが、ネオビグザムと共に砕けてしまったのか真偽を確かめるべく必死の捜索を行ったがついに彼等は見付けることが出来なかった。だがギレンに感銘を受けたスペースノイド達にとってはギレンが示した宇宙世紀憲章こそ本物であり、それ以外の本物などあり得なかった。そして宇宙世紀憲章がかつてラプラスの箱と呼ばれ封印されていたことを知ると、彼等はそのことを忘れないためラプラス連邦と名付けたのだった。

 そのラプラス連邦、記念すべき最初の事業はサイド7の建設再開であった。これは地球の戦乱によって土地を追われたアースノイドの受け入れ先、要は難民対策ではあったが宇宙世紀のリブートは始まったのであった。

 これからも問題は出るだろうが彼等は前に進んで行くであろう。

 

「アムロ君、今日は何処に行こうか?」

「遊びに行くんじゃ無い。パトロールなんだぞシロッコ」

「アムロ君と一緒なら何処でもいいさ」

 シロッコはアムロの肩に親しげに手を掛ける。ラプラス軍ユニコーン部隊の駐留基地での光景。

 アバオアクーでの戦闘でシロッコは初めて自分を凌駕するニュータイプを知った。そのことは衝撃であり同時に天才過ぎて孤独だったシロッコの心を満たすものであった。もう少し大人になっていたらどうしようも無かったが、幸い十代の柔軟性溢れる世代。心根が砕かれたシロッコはアムロに友情以上の感情を抱くようになった。

 以来いつの間にかラプラス軍の軍人に成りどういう手段を使ったのかアムロ直属の部下になっているのであった。

 おかげで原作よりもさばけて幸せそうなシロッコというSSRな姿がこの時空では見られる。アムロの方はちょっと迷惑そうだが、それはそれ、シロッコの目を盗んでは原作さながらのプレイボーイとして人生をエンジョイしていた。

 

 ドズルは戦死をしなかったことにより、本来彼が持つ資質のままにいい夫いいパパとして、単身赴任のジャブローで休暇を指折り数える日々を送っている。

 

 ガルマはラプラス連邦ジオン公国の次期公王のプリンスとして国民のアイドルに成り、そんな甘い彼をキシリアが眉間に皺を寄せながら支えていた。彼女もガルマにだけは甘いので裏切ること無く支え続けるだろう。

 

 かつて無い経済活況に湧く宇宙。そんな中話題のスペースコロニーがあった。そのコロニーは初期型で廃棄寸前だったのをとある資産家が手に入れた後徹底的に改修を行い、話題のリゾートコロニーとなっていた。

 そのコロニー内部の奥深い山々、昔の地球さながらの険しい山道を歩いて山を抜けた先には古びた旅館があった。その旅館は昔地球の日本で流行った千と千の神隠しに出てくる温泉旅館さながらであった。

 その旅館に少女達を引き連れた一人の男が玄関を潜った。

「いらっしゃいませ。

 とう旅館の女将セシリアと言います。遠いところからようこそお越し下さいました」

 まずはこの旅館の和装の美人女将が三つ折り付いて出迎えてくれる。彼女の顔を見れば山道を歩いてきた疲れなど吹き飛ぶという。

「予約したクワトロと他三名だ」

 黒いグラサンをした男は三名の美少女、今宇宙で大人気のアイドルユニットジオンガールズを引き連れている。

 本来なら宇宙世紀にもいるパパラッチ達の魔の手が忍び寄るが、そこはこのコロニーが誇るガード部隊、蠍座の女と荒くれ者達が徹底的に排除するので安心して素顔を晒すことが出来る。

「お部屋に案内致します」

「それと」

「分かっています。まずは温泉にでも入って疲れを癒やして下さい。逃げはしませんよ」

「そうか」

 クワトロと少女達はそれぞれ部屋に案内されると、それぞれに寛ぐことになった。この旅館内部を探索するだけでも結構冒険気分に成れる。年若い少女達は早速冒険に出掛けてしまい、クワトロは女将の言う通りお勧めの露天温泉に向かった。

 クワトロが脱衣所で服を脱ぎタオル一丁で露天温泉に入る為に戸を開け外に出ると、一人の男がいた。

「あれお客さん、今ちょっと準備中なんだけど。札出てなかった・・・」

「久しぶりですね」

「えっえ~と」

「私に政治の世界を勧めておいて自分はさっさととんずらですか」

 恨みがましい目で此方を見てくる。

「えっえ~と取り敢えずお風呂入る? 背中流すよ」

 三助姿が板に付いてきた俺はシャアに提案するのであった。

 

 ロベスピエール、織田信長、リンカーン。時代の改革者達はその辣腕で行き詰まった旧社会を破壊して喝采を浴びるが、同時に多くの恨みを買うということ。その恨みは恐ろしく彼等はいずれも非業の死を遂げている。

 あのままならギレンも宇宙世紀の改革者と喝采を浴び歴史に名を刻んだであろうが、いずれキシリアがしなくても誰かの手で頭パーンされていただろう。

「だからね。ここらが潮時だと思っていたんだよ」

 俺はシャアの背中を流しながらいう。

 だからあの試作ビグザムのIフィールド搭載予定で現状ぽっかり空いたスペースに目を付けた。Iフィールド発生装置はデンドロを見れば分かる通り巨大で体育座りしたMSくらいはある。だからそこにガンダムⅠ号機をこっそり入れておいた。ガンダムⅠ号機はビーム兵器は無くともルナチタニウム合金は堅く見事ネオビグザムの爆散から守ってくれた。

 後は任務に失敗しおめおめ帰れないと途方に暮れていたシーマ達に話を付けておいて、脱出後に拾って貰い。溜め込んでいた金を使ってコロニーを買って今に到る。

 シーマ達も当然俺の演説を聴いていて真の宇宙世紀憲章のことを知っている自分達は帰ることが益々出来なくなったと恨み節、まあ仕方ないというか罪滅ぼしで俺の部下として共に頑張ってきた。これでもシーマはたまに女中として接客もこなしている。

 事業は軌道に乗りうはうは、このまま事業を拡大していきゆくゆくは宇宙の娯楽王として元のサラリーマンでは出来なかった酒池肉林の爛れた余生を面白可笑しく過ごす予定だったのにな~。

「あなたっいつまで掃除しているの今日は大事なお客様が来ると・・・。

 兄さん」

「アルテイシア。貫禄付いたな」

 シャアが怒鳴り込んできたセイラを見てしみじみと言う。

 誤算だったのはセイラとセシリアが思った以上に情が深い女だったこと。権力を失ったギレンなど速攻で見限ると思っていたのに、セイラに到っては手すら出していなかったのにどうして。おかげで酒池肉林はパー。日々嫁さんに尻を叩かれてきびきび働いてます。

 まあ、そんな彼女達だがセシリアは気が利く女将で宿を盛り立て、セイラは経理面で俺を支えてくれているので文句は言えないし、家に帰れば優しいところもあるしね。

「幸せそうで良かった」

「ええ、だから兄さん私達のことは放っておいて」

 帰ればセイラはダイクン家の姫君として生きられるというのに未練無くきっぱりとお願いする。

「ああ、ギレンとセイラとセシリアはスペースノイドに希望の光を見せて戦死。それでいいと今納得したよ。

 だけど兄として訪ねてくるのも駄目かい?」

 優しい目をしたシャアがセイラに問い掛ける。

「勿論大歓迎よ」

「そうですよ兄さん。いつでも来て下さいね」

「但し義理弟、お前は駄目だ。お前には色々責任を取って貰う」

「そうね。主人でしたらどうぞ扱き使ってやって下さい。

 その人暇があると碌な事企みませんから」

 以前勝手に事業を拡大しようとしたことをまだ言うか。いいじゃん海側に高級ホテルを建てて若い娘を呼び込もうとするくらい。

「そんな~」

 これから何か問題がある度に影でシャアに扱き使われるかも知れない。

 まあシーマ達も腕が鳴るだろうし、俺もたまにはきな臭い政治の臭いも懐かしくなる。たまにならいいか。

 こうして、おおむね俺はこの転生した世界で楽しく過ごしていくのであった。

 

 これはギレンにもう少し良心があったらあり得たかも知れない別時空の宇宙世紀の物語。

 本編とは裏腹にこれにて幸せのカーテンコールで幕を下ろします。

 

                                      Fin



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