ちなみにロリコンである【完】 (善太夫)
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第一話◆ちなみにロリコンである

 DMMO‐RPG YGDRASIL

 

 一二年の歴史が正に終わろうとしていた。

 

 ギルド アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターであるモモンガは執事とメイド達を引き連れて玉座の間にむかう。

 

 階段の下で振り返り彼らNPCにそこで控えるよう命ずる。

 

 ふと、執事の名前が気になったモモンガは執事のステータスを表示する。

 

(ああ、そういえばそんな名前だったな……)

 

 脳裏の片隅から『セバス・チャン』の名前を掘り起こしながら、さらにステータスを読み続ける。

 

(──ん? ………たっちさん…………え? ええーー!)

 

 セバスのステータスの最後の一文にモモンガの目が泳ぐ。目の前の厳めしい執事(ハウススチュワート)からも創造者であるたっち・みーからも程遠く思える一文──『ちなみにロリコンである』──モモンガの思考は停止した。

 

 しばらくしてからモモンガは何事もなかったかのようにセバスのウィンドウを閉じると玉座にむかう。玉座に座ると目を閉じて静かに終焉の訪れを待つ。

 

 何事もなかったかのように。

 

 どれ位経ったのだろうか。いまだに訪れないYGDRASIL終了に違和感を感じて目を開けたモモンガに初めて聞く声が尋ねた。

 

「至高なる御方、モモンガ様。どうか私にご命令下さい」

 

 かつてのギルドメンバーたっち・みーにも似た声音で執事(セバス)が跪いて指示を待っていた。

 

 

 

 

 モモンガはセバスの表情をじっと眺める。セバスはそんなモモンガを見詰めたまま、指示を待つ。

 

 モモンガはそれまで感じていた違和感の正体に気づく。セバスが──NPCが自ら意思を持ち、会話しているという事を。

 

 どうやらこれはゲーム世界に良く似た別の世界だと考えて良さそうだ。

 

 モモンガはセバスに手を伸ばす。

 

 YGDRASILではセクハラ行為は禁止されていた。モモンガはセバスの股間に伸ばしかけた手を戻す。

 

 ──何も男のNPCに触れて確かめる事はないな。どうせなら魅力的な女性NPCの方が……

 

「──ゴホンゴホン。セバスよ。どうやら非常事態が起きたらしい。いまからプレアデスから二名を連れて地上に出て外の様子を調べてこい。もし、知的生命体がいたら丁重に連れてこい。敵対行動は避けよ。かりに強大な敵と遭遇したら無理せず撤退しろ。伝令としてプレアデスを使え。わかったな」

 

「……ハッ。ただちに」

 

 モモンガは厳めしい表情のまま、出ていくセバスを眺めながらふと呟いた。

 

「……でも、ロリコンなんだよな。アイツ……」

 

 

 

 

 第六階層闘技場に各階層守護者を集めてそれぞれNPCの忠誠を確認、さらにセバスからの報告を受けて現在異世界にナザリック地下大墳墓が転移したと判断したモモンガはマーレに大墳墓の隠ぺいを指示。そして自身はリモートビューイングを操作してさらに周辺の調査を行うのだった。

 

 アインズはリモートビューイングの画像をあれこれ動かす。しかしながら隣で食い入るように見つめてくるセバスが気になって仕方がない。

 

「うん? 村か。祭りでもやっているのかな?」

 

 小さな開拓村を見つけたアインズは画像を更に拡大する。その瞬間アインズは間違いに気づく。

 

 慌ただしい村人たちは祭りなどではなく、殺戮者たち──フルヘルムにチェインシャツを着込んだ兵士たちから逃げまどっていたのだった。

 

 ──嫌な光景(もの)を見てしまったな──

 

 アインズはセバスの様子を盗み見る。かわらずに直立する姿にホッとする。

 

(たっちさんばりに『困っている人がいたら助けるのは当たり前』だなんて言い出さなくてよかった……)

 

 ふとアインズと一人の村人の目線があう。男は兵士に切られて崩れ落ちる。アインズには男の口が『娘たちをよろしくお願いします』と動いたように見えた。

 

 兵士が振り返るとそこにはまだ十代半ばの少女が幼い妹と立ち竦んでいた。

 

「……ぬう。まだつぼみのままのもろくも儚い少女が……あたら美しい花を咲かす間もなく命を散らされるなどと……とても許すまじき行為ですね」

 

 アインズが顔を上げるとセバスが怒りをあらわしていた。

 

「よいですか! あの、少女と女との狭間という……今から咲こうとする蕾のような美しさが内側に秘められた、おそらく人生で一番儚く脆く美しい時期を謳歌すべき少女が……その大輪の花を咲かす事なく消えようとしているのです! ……私には我慢ができません。彼女たちはあの兵士どもではなくこの私の胸に抱かれる事こそ相応しいのです!」

 

 アインズは少女論を語るセバスをぼんやりとした目で眺めた。そして気がついた。たしか以前にも──ああ、ペロロンさんだ……

 

 セバスの演説はペロロンチーノが熱くロリコンについて語った時ににていた。

 

「……アインズ様。どうかこの私めにご命令ください。あのか弱き少女たちの命を救う事を!」

 

 アインズはうなずく。すぐさまゲートを発動させて執事と主人はカルネ村に向かった。

 

 

 

 

「ヴォオオオーーッ!」

 

 雄叫びをあげながら走っていくデスナイトをポカンとしながら見送ったモモンガは気を取り直して姉妹を見る。

 

「だ──」

 

「大丈夫かね? ……ふむ。姉の方はケガをしているようだ。……よし。これで大丈夫。さて、これを──」

 

 セバスは気功術で姉のケガを治療するとモーニングの内ポケットから白い布を差し出した。ためらいがちに受け取った姉──エンリ・エモットは布を広げて思わず赤面する。

 

「……履いてもらえないパンティーは可哀想なものです」

 

 ──いや、おかしいだろ? それにそもそもなんで内ポケットにパンティー持ってるのよ? レースのフリルのパンティーを? もしかしてハンカチと間違えたとか? おかしいだろ? ……いろいろと……

 

 モモンガは心のなかで突っこみまくる。ふとバードマンのギルドメンバーがモモンガに親指を立ててみせた気がした。

 

 姉妹──エンリとネムは失禁で濡らした下着を脱ぎ、セバスが差し出したものに履き替えた。レベルが低いもののマジックアイテムであるパンティーの履き心地に二人は思わず感動する。

 

「……落ち着いたようだな。では私にこの村で何が起きたのか教えてもらおう。私は──うむ。そうだな。……私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。通りすがりのマジックキャスターだ」



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第二話◆格言『貧乳は貴重だ ステータスだ』

「──以上だ。セバスとソリュシャンはすぐに出立してくれ。まずはエ・ランテルへ行くのだ」

 

「──恐れながらアインズ様。果たしてソリュシャンでよろしいのでしょうか?」

 

 セバスは咳ばらいをするかのような仕草でアインズに進みよる。色をなして口を開きかけたソリュシャンを片手で制したアインズはセバスに問いかけた。

 

「……うむ。ソリュシャンならばアサシンとして情報工作に適任だと思うのだが……セバスには別の考えがあるようだ。よかろう。お前の考えを聞かせてみよ」

 

「……ははっ。お聞きいただきましてありがとうございます。確かにソリュシャンはその持つスキルといい、適任かとは思います。が、しかし──」

 

 セバスの目が光を帯びた。

 

「ソリュシャンはまさに女として熟したといえる年齢であります。今回世間知らずな富豪の娘を演じるのにあたりもっと適任者がこのナザリックにいるのではないでしょうか?」

 

「──ほう。して、その適任者とは誰の事か?」

 

 セバスは深呼吸をした。

 

「いたいけな娘に相応しい妙齢の少女を演じるのはアウ──マーレ様こそが相応しいかと」

 

「……フム。わかった。……しかしセバスよ。今回はソリュシャンで──」

 

「──おそれながらアインズ様。この度の件、是非にも私とマーレ様にお命じくださいませ」

 

 セバスの気迫にアインズは押されてしまい、結局アインズは許可してしまうのだった。

 

 

 

「……えっと、あ、あの……この料理は口に……あいませんね」

 

 エ・ランテル一番の宿屋である黄金の輝き亭では年端もいかないダークエルフの少女と執事の主従が一騒動を起こしていた。

 

「──ご主人、わが主人はどれも口にあわないとおおせです。わが主人はダークエルフという種族ではありますが高貴なる血統の身、ほかにもてなす事は出来ないのでしょうか?」

 

 店の主人はただオロオロするばかりである。無理もない。年若でありダークエルフでもあるのだが、気品のある美貌は美しい夜会用ドレスとあいまってダイヤモンドの輝きのごとくの美しさであった。

 

 白髪に姿勢のよい執事は丁寧ながら強い意思を感じさせる会釈をすると振り返った。

 

「……ザックさん。これからすぐにリ・エスティーゼに向かいます。馬車の準備をしてください」

 

 セバスはマーレの後ろに立ち軽く椅子をひく。マーレは立ち上がると手をセバスに差し出して小声で言った。

 

「……あの演技で、あの、よかったでしょうか? ぼ、僕よりお姉ちゃんの方が……その、うまく、あの、やれたんじゃないかな……」

 

「そんな事ありません。マーレ様の演技は美事でございました。それに着飾ったマーレ様はまごう事なき高貴なる姫君であらせます」

 

 マーレはセバスの熱のこもった視線に思わず顔をそらす。主従は店の表にザックが回した馬車に乗り込んだ。

 

 

 

 

「……順調に運んでいるようでありんすな」

 

 馬車の中ではシャルティアが両側にヴァンパイア・プライドを従えて待っていた。

 

「はい。シャルティア様。全て順調のようです」

 

 シャルティアはマーレの姿をネットリとした視線でなめまわす。

 

「……それにしてもマーレはよく似合っていんすな。わら、コホン……私より女らしいでありんしょう」

 

 マーレがあわてて首をふる。

 

「ぼ、僕は男ですって……だからやっぱりお姉ちゃんの方が……あの、て、適任だったのでは……あの……」

 

 シャルティアがわざとらしくため息をつく。

 

「チービースーケーが? 論外にも程がありんす。あのがさつなチビスケに令嬢役は……できの悪いコスプレになるでありんしょうな」

 

 馬車の中ではしばしの沈黙が続いた。

 

「……シャルティア様。前よりお聞きしたかったのですが……」

 

 ためらいがちにセバスが口を開いた。

 

「……シャルティア様の胸は……パッド──」

 

「──ああん? セバスてめえ喧嘩うってんのか?」

 

 シャルティアの顔が激怒にそまる。

 

「……シャルティア様の胸はパッド、ですよね?」

 

「──てめえその姿で私とやりあうってのかセバス?」

 

 まさに一触即発──

 

 

「じつは私は以前、ペロロンチーノ様から伺っております」

 

「──な? ペロロンチーノ……さ……ま?」

 

 セバスはシャルティアにお辞儀をする。

 

「ペロロンチーノ様は私の設定の一部を加えてくださった事がございます。そしてその時におっしゃったのです。そう……尊い真理をしめすお言葉を……『貧乳は貴重だ ステータスだ』と!」

 

「……貧乳が……貴重? ……ステータス……」

 

 シャルティアを占めていた怒りがたちまち消える。

 

「さらにペロロンチーノ様はこうもおっしゃいました。『ちっぱい最高! ロリは正義!』」

 

 シャルティアはガックリと肩をおとした。

「……私は……私は……貧乳を恥じていた私はいったい……」

 

 セバスは立ちあがりにこやかに手を差し出した。その手には純白のハンカチがあった。

 

「……良いのですシャルティア様。貧乳を恥じてパッドで背伸びする貴女こそがかのペロロンチーノ様が望んだのですから」

 

 シャルティアはセバスからハンカチを受けとると鼻をかんだ。

 

「……ん? これはハンカチ? ……ではない?」

 

 シャルティアがハンカチを広げるとそれはパンティーだった。



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第三話◆拾いますか? 拾いませんか?

 リ・エスティーゼ王国王都リ・エスティーゼ。

 

 魔術師協会を出たセバスは裏路地を急ぐ。

 

「……早く帰ってマーレお嬢様の入浴のお手伝いをしなくては。マーレお嬢様の肌を隅から隅まで磨く事も執事の大切な勤め。けっして不純な下心など──」

 

 セバスは急に立ち止まると前屈みの姿勢をとる。

 

「……むう。私とした事が……こんなときは確かペロロンチーノ様は──」

 

 セバスは口の中でサンテンイチヨンから始まる呪文を小さく唱えだす。かつてナザリックの第六階層を訪れた至高の御方がマーレのいわゆる絶対領域に感情を高ぶらせた時の事を思い出しながら──

 

「……89793238462643383279502884197169937510…………」

 

 セバスはようやく汗をぬぐいながら腰をのばす。

 

「……ふう。危ない所でした。それにしても勿体ないですね。マーレ様が男だというのは……ふむ。今回お嬢様役はアウラ様にお願いすべきでしたでしょうか? 悩みますね」

 

 セバスは爽やかな笑みを浮かべる。

 

「……よい考えを思いつきました。お二人を双子のお嬢様という事に……是非ともアインズ様にお願いしてみるとしますか」

 

 急にセバスの足が止まる。目が鋭くなる。

 

 道の片隅に置かれた布袋から女性の細い腕がのび、セバスのズボンの裾をつかんでいた。

 

 セバスは布袋の女性を抱き起こす。と、前の店から大柄の男があらわれてセバスを咎める。

 

「おい! 何をしている?」

 

 セバスは男を無視して女性に話しかける。

 

「……貴女は助けてほしいですか? ふむ。わかりました。それでは大切な質問をします。よいですね?」

 

 女性がかすかに頷くのをみてセバスが尋ねた。

 

「貴女の年齢はいくつですか?」

 

「……に──」

 

 女性の唇にセバスが指をあてる。

 

「……大切な質問です。そして私には聞きたくない数字があります。よくお考えになった上でお答えください」

 

 改めて女性──ツアレの唇がうごいた。

 

「…………じゅう……く……」

 

 セバスが無言で女性の唇を押さえる。

 

「…………じゅう……は──」

 

 またしても女性の唇はセバスに閉ざされてしまった。

 

「…………じゅう……な……な……?」

 

 ようやくセバスが微笑んだ。

 

「……十七ですか。実に素晴らしい。貴女はまだ十八になっていない事を神に感謝すべきですね。……何故なら十八はもはや女。美少女と呼ぶには相応しくはありません」

 

 ツアレはうすれゆく意識の中で神に感謝するのだった。

 

 

 

 

「……えっと、あの、セバス……さん? ……その女のひとはいったい……」

 

 リ・エスティーゼにセバスたちが仮の拠点として借りた商館にセバスが帰ってきたのは夕方だった。

 

 胸元にレースの飾りをあしらった裾の短いパーティドレスを着たマーレはツアレの姿に動揺する。

 

「マーレお嬢様。こちらの少女は……拾いました」

 

 マーレはふとお姉ちゃんなら『少女』という言葉に反応するんじゃないかな、と思った。

 

「……ええっと。じゃあ、アインズ様にお知らせして──」

 

「──お願いします。ちょうど私もアインズ様にお願いしたい事がございまして……」

 

 マーレは〈メッセージ〉を発動させる。そしてリ・エスティーゼにアウラとペストーニャが送られる事になるのだった。

 

 

 

 かつてユグドラシルというゲーム世界が存在した頃、ギルド アインズ・ウール・ゴウンの古株メンバー、ペロロンチーノは憤っていた。

 

「……リア充死ね! クッソー……」

 

「おや? ペロロンチーノさん、どうかしましたか?」

 

 ペロロンチーノが声に振り返ると山羊の頭をした悪魔が手を振っていた。

 

「ウルベルトさん!」

 

 ペロロンチーノはたまった鬱憤を同じギルドメンバーのウルベルトにぶちまけた。お互い極端な性癖の為か、リアル世界で異性に縁がない二人は互いに共感しあえた。

 

 ふと、ウルベルトの瞳が紅く妖しく光る。

 

「ペロロンさん……そういえばウチのギルドにも一人リア充がいましたよね? そう……たっち・みーですよ。彼が大切にしているNPCにちょっといたずらしませんか?」

 

 思わず息をのんだペロロンチーノに悪魔がさらに囁いた。

 

「知っていましたか? 円卓の間に飾ってあるあのギルド武器を使えばNPCの設定を変えられるんですよ?」

 

 かくしてセバス・チャンの設定に『ちなみにロリコンである』という一文が誰知らず追加されたのだった。

 

 

 

 

「処置は終わりました……わん」

 

「ご苦労様でした、ペストーニャ。──」

 

 ベッドに横たわる全裸のツアレを一瞥するとセバスは続ける。

 

「──それからすみませんが下の毛をそっておいて頂けますか」

 

 ペストーニャは頷くと作業にかかる。部屋の外に出たセバスはアインズに頭を下げた。

 

「……この度はアインズ様じきじきにお出まし頂きましてありがとうございました」

 

 アインズはソファに座ったまま片手をあげてセバスを制する。

 

「……ツアレ……ツアレニーニャ・ベイロンといったな? あの女」

 

「……はい。さようでございます」

 

 アインズは空間から一冊のノートを取り出した。

 

「……私はな、セバス。恩には恩でかえすべきだと考えているのだ。あのツアレの妹にはかつて世話になる事があってな……」

 

 アインズはふと、ニニャの事を思いだしセバスに語りだす。普段のアインズならアルベドやプレアデスの嫉妬をおそれて話さない事だったが、男同士だった為、かなり詳しく話すのだった。

 

 やがてニニャが“漆黒の剣”のメンバー共々殺されたという話になるとセバスが叫んだ。

 

「……なんと勿体ない! 年若き乙女が、しかも男装で正体を隠したまま散るなど……実に勿体ない!」

 

 あ然とするアインズにセバスは更に詰め寄る。

 

「……アインズ様! そのニニャさんを復活させましょう! 是非しましょう! 恩をかえすなら本人にしなくてどうするというのでしょうか!」

 

 アインズはセバスの勢いに圧倒されてしまうのだった。



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第四話◆そこに立ち続ける美少女がいるならば

「するとお二方が呼ばれたのはそれぞれに世界級(ワールド)アイテムをお渡しする為でしたか」

 

 リ・エスティーゼの商館で寛ぐアウラとマーレにセバスが訊ねた。ここではダークエルフの双子は王族の血統をひくお嬢様という設定の為、アウラも普段よりは少女っぽい格好をしていた。とはいえスカートではなくフワリとしたキュロットなのだがそれがどうも限界のようだった。

 

「あ、あの……お茶をお持ちしました」

 

「ご苦労様ですニニャ。貴女も一緒にお飲みなさい」

 

 セバスが傍らの椅子をひきニニャを座らせる。完治したツアレはカルネ村に移り代わりに復活させられた妹のニニャがメイドとして商館で働いていたのだった。

 

「……しかし……あのシャルティア様がですか……たしかあの方には精神支配は無効だったはず。それがいったい何故でしょう?」

 

「……うーん。アインズ様のお話だとどうやらワールドアイテムが使われたみたいだって」

 

 アウラが紅茶をかき混ぜながら答えた。

 

「……そうでしたか。それでシャルティア様は?」

 

「ずっとあのまま立ちっぱなしみたいだね。幸い相手に完全には支配されなかったみたい……全くあの馬鹿……」

 

 アウラがかき混ぜる紅茶カッブがカチャンと強い音をたてた。

 

「……シャルティアさん、ずっと独りぼっちで立っているんですか……かわいそうですね」

 

 マーレの言葉にセバスがギュッと唇を噛み締める。

 

「あのままシャルティア様が放置状態ですか……いけませんね。それは全くいけません」

 

 セバスがいきなり立ち上がった。

 

「お二方には申し訳ありませんが……しばしのおいとまを頂きたく存じます」

 

 深々と頭を下げるセバスに対して二人は対照的な反応だった。

 

「え? あの……でもアインズ様は僕たち階層守護者にはこの件に関わるなって……あの……おっしゃって、あの、……」

 

「……こうなったらあたしの分も任せるよ。あの馬鹿の目をガツンと覚まさせてやって!」

 

 セバスは改めて二人に深々とお辞儀をした。次にニニャに向かう。

 

「私のいない間は任せます。お嬢様方の身のまわりの事はよろしくお願いします」

 

 セバスはエ・ランテル郊外に放置されたままになっているシャルティアのもとに向かうのだった。

 

 

 

 

 

「……しかしシャルティア様が放置状態だというのに誰もシャルティア様のお世話をしないなど……プレアデスもいるというのに全くなっておりませんね。女性ならば身だしなみに人一倍気づかうべきですのに……メイド失格ですね」

 

 エ・ランテル郊外に向けて走るセバスは呟いた。

 

「……あの毎日お風呂をかかさないきれい好きなシャルティア様がいくら洗脳状態とはいえ何日間もお召し物を替えないなど……あるまじき事です」

 

 セバスは両の拳を握りしめる。

 

「待っていてくださいシャルティア様! このセバスがあなた様の着替えを手伝ってさしあげます!」

 

 セバスの顔が上気する。

 

「そう……した、下着も替えてさしあげます!」

 

 セバスは更に加速した。

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓玉座の間

 

〈……アインズ様! シャルティアを監視中の姉さんから緊急にお知らせしたいと──なんですって? セバスが?〉

 

 慌ただしいアルベドからの〈メッセージ〉にアインズは緊張する。セバスという名前に『ちなみにロリコンである』という言葉を思い出す。

 

〈アインズ様! すぐにも氷結監獄へ! セバスが!──〉

 

 アルベドの緊迫した〈メッセージ〉をかき消すようにもう一つの〈メッセージ〉が聞こえてくる。

 

〈──アインズ様でいらっしゃいますか? セバスにございます。実はシャルティア様のお着替えをお手伝いしているのですが問題がございまして……そのパンティを足から抜く事が出来ません〉

 

「──え? ナンダッテ?」

 

 アインズの頭に冷静な老執事の言葉が響いた。

 

〈シャルティア様の足を地面から離せないのでパンティを脱がす事が出来ないのでございます〉

 

 ほどなく氷結監獄に辿り着いたアインズは全裸の美少女の足もとにうずくまりパンティを脱がそうとしている老執事の姿が大きく写し出された〈水晶の画面(クリスタル・モニター)〉を目にする事になる。

 

 

 

 

「ではこれから守護者シャルティア・ブラッドフォールンの復活を執り行う」

 

 ナザリック地下大墳墓玉座の間で形を溶かした巨額の金貨はやがて人の形にかわり裸体の少女となる。

 

「……セバスよ。何故写真を撮る?」

 

 セバスは厳めしい表情で平伏する。

 

「アインズ様。NPC復活……中でも階層守護者の復活はなかなか御座いません。なればこそ資料としてたくさんの写真を記録し残す事も重要にございます。……けっして自らの趣味や待ち受けにしようと考えたのでは御座いません」

 

 アウラはセバスの言葉に白々しいものを感じていた。彼女とマーレもセバスの資料写真を大量に撮られていた為だ。

 

 アインズがセバスに口を開こうとした瞬間、すっとんきょうな叫び声が上がった。

 

「胸が……胸が無くなっていんす!」



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第五話◆仮面の乙女

 リ・エスティーゼ王国 王都リ・エスティーゼ。

 

 その日はとても慌ただしかった。

 

「……それではこれから私はアウラお嬢様と一緒に挨拶回りと小麦の買い付けに行ってまいります。マーレお嬢様はニニャとお留守番をお願いします」

 

「……は、はい。わかりました。セバスさんも、あの……お姉ちゃんも気をつけてください」

 

 セバスは馬車を走らせる。アウラは馬車の中で退屈そうだ。

 

「……やっぱりこの格好だと動きにくいんだよね。それにさ、あたしよりマーレの方が似合うと思うんだ。こういうヒラヒラの服ってさ」

 

 口を尖らせるアウラにセバスは馭者席から声をかける。

 

「そんな事はありません。アウラ様も大変美しくかわいいですよ。……そうそう、この間アインズ様の膝の上にチョコンと腰かけられた様子のアウラ様とマーレ様は本当に可愛らしかったです」

 

「……えー? セバスって見ていたの? どうやって?」

 

 セバスは涼しげに答えた。

 

「……いえ、たまたま扉の隙間から見えただけですよ。けっして〈リモート・ビューイング〉などは使っておりません」

 

「……ふーん」

 

 どんよりとした空を見上げながらセバスは思った。──早く用事を済ませた方が良さそうですね、と。

 

 

 

 

「いささか遅くなってしまいました。マーレお嬢様、ニニャ、只今戻りました……これは?」

 

 セバスは館の内部の変化に気づく。

 

「……お帰りなさい。セバスさんたちが出かけた後に強盗の人たちが……あの、来たので殴り倒しちゃったんです」

 

「マーレ様。そうでしたか。……で、その者たちはどうなさいました?」

 

 マーレは気弱そうにもじもじしながら答える。

 

「……あの、デミウルゴスさんが……丁度よい使い道があるって……あの、八本指の拠点を案内させるって……」

 

 八本指の名前を聞いてセバスの顔が厳しくなる。

 

「……八本指の手の者でしたか。……狙いはツアレですね。しかし──」

 

「……バッカだね。八本指って。ツアレってもうここにいないんだし。そういえばデミウルゴスが何か計画していたよね? あたしたちが引き上げた後でゲヘナだっけ?」

 

 アウラがのんびりとした口調で話に加わる。セバスたちはこの日リ・エスティーゼを去る為、ゲヘナという計画の詳細を知らされていなかった。

 

「……八本指といえば個人的に挨拶をしておきたい人が何人かおりまして……アウラ様マーレ様は先にナザリックへ戻って頂けませんか? 私も用事を済ませたら戻ります」

 

 アウラとマーレの許しを得たセバスは暮れかかる街に出ていった。

 

 

 

 

「──おまぇがあああああ! いうなああああ! うわぁあぁあああああ‼」

 

 イビルアイの咆哮がひびく。対するは仮面の悪魔──ヤルダバオト。

 

「悪魔の諸相:豪魔の巨腕」

 

 巨大化した悪魔の腕がイビルアイを壁に叩きつける。

 

「……くっ! 悪魔め!」

 

 イビルアイは倒れたまま動かないガカーランとティアを振り返り唇をかむ。このままでは誰も助からないかもしれない。

 

 イビルアイはヨロヨロと立ち上がると覚悟を決める。

 

「いくぞ!」

 

 と、次の瞬間壁に大きな穴が開き白髪の紳士が現れた。

 

「……さて、どなたか私の助けがおいりようでしょうか?」

 

 

 

 

 セバスはイビルアイに近づく。

 

「……見たところ貴女はまだ少女のようですが……」

 

 セバスはいきなりイビルアイの仮面を外す。とっさの事にイビルアイは立ちすくむだけだった。

 

「──な、何を?」

 

「……美しい。せっかくの美しい顔ですから……仮面で隠してしまうのは惜しいですね」

 

 セバスの言葉にイビルアイの頬が紅くそまる。

 

「……失礼しました。私はただの通りすがり。セバス・チャンと申します。どうかセバスとお呼びください」

 

 セバスは洗練された動作でイビルアイに会釈する。

 

「……セバス……さま。お力を貸して貰えないか? 私は王国のアダマンタイト冒険者“蒼の薔薇”のイビルアイだ」

 

 セバスの目が光る。

 

「一つお伺いしますが……蒼の薔薇には十代の年若き乙女は他に何人かいらっしゃいますか?」

 

「……リーダーのラキュースならまだ十九だったはずだが……」

 

 セバスが眉をひそめる。

 

「……むう。どうやら私の質問が悪かったようですね。……十二から十七までの少女、はいますか?」

 

 イビルアイの瞳が絶望にそまる。セバスは軽くため息をつく。

 

「……わかりました。仕方ありません。では貴女が『何でもします』とお約束下さい。貴女の全てを頂くかわりにあの者から貴女を救って差し上げましょう」

 

 イビルアイが頷くとセバスはヤルダバオトに向き直る。

 

「お待たせいたしました。それではこの私があなた様のお相手をさせて頂きます」

 

 

 

 

 激しい戦闘を認めたアインズはナーベラルに自らをその戦闘の真ん中に降ろさせる。

 

 凄まじい轟音と共に立ち上がったアインズ──“漆黒”のモモンは叫んだ。

 

「さて──私の相手はどちらなのかな?」

 

 次の瞬間アインズは凍りつく。戦っていたのがセバスとデミウルゴスだったからだ。

 

 

 

 

 まるで神話の世界のようなセバスとヤルダバオトの戦いにイビルアイの胸が高鳴る。二百五十年動いていない心臓が激しく鼓動するように感じた。

 

 もしも願い事がひとつ叶うならば──

 

「……がんばれ、せばすさま」

 

 乙女は祈った。



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第六話◆恋する吸血姫

 アインズはアダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”のモモンとしてある貴族からの依頼で王都リ・エスティーゼに来ていた。

 

 犯罪組織の壊滅という隠された任務の為、ナーベラルに〈フライ〉を使わせて上空を移動していると目的の場所で何ものかが戦っているのを見かけた。

 

「よし! ナーベよ。あそこに私を降ろせ!」

 

「はい。モモンさ──ん」

 

 地面に降り立ったモモンは両手にグレートソードを構えて辺りを見回した。

 

「さて──私の相手はどちらなのかな?」

 

 次の瞬間モモン──アインズの思考が停止する。

 

 ──セバスとデミウルゴス? ドユコト?

 

 アインズはてっきり蒼の薔薇と八本指の幹部が激しい戦いをしていると思って乱入したのだった。それがよりにもよってナザリックのNPC同士の戦いだったとは……

 

 セバスの後ろに金髪の少女が必死に叫んでいた。ふと少女の視線がアインズと合う。

 

「お会いしたことはないが“漆黒”のモモン殿とお見受けする。私は王国アダマンタイト冒険者“蒼の薔薇”のイビルアイだ。頼む。セバス様に助力を願いたい! 一緒にヤルダバオトを倒してくれ!」

 

 アインズはいろいろと驚かされる。まずこの少女がアダマンタイト級冒険者だという事、そして何故かセバスと知り合いらしい事。

 

 アインズはセバスとデミウルゴスの表情を盗み見る。

 

「わかった。ではセバスさんに力を貸そう。いくぞデ──デーモン!」

 

 セバスとモモンを相手にしながらもヤルダバオトは強かった。イビルアイの握りしめる手に力がはいる。

 

 キンキンキンキンキキンキン!

 

 悪魔は鋭い爪、老執事は拳、漆黒の戦士は両手の大剣で激しく撃ち合う。

 

 キンキンキンキンキキンキン!

 

 悪魔が後ろに下がる。

 

「……二対一ではいささか不利ですね。今日の所はお二方に勝ちをゆずりましょう」

 

 大袈裟な手振りで挨拶をすると悪魔は〈ゲート〉を発動して消えた。

 

「……セバスさま!」

 

 セバスにイビルアイが抱きつく。セバスは優しくイビルアイの腰のあたりを抱いた。

 

 アインズの脳裏に『ちなみにロリコンである』の一文が浮かんで消える。

 

「──ゴホン。ところでいったい何があったのかね?」

 

 アインズの問いかけにイビルアイが答える。彼女は虫のメイドとの戦いとヤルダバオトの登場までの経緯を話した。

 

「その虫の──」

 

「──貴女は虫のメイドを殺したのですか!?」

 

 アインズの言葉を遮ってセバスが叫ぶ。

 

 セバスの激しい怒りを感じてイビルアイは泣きそうになる。

 

「貴女は、虫のメイドを殺したのですか?」

 

 セバスはやや怒りを抑えた声で改めてイビルアイに問いかける。

 

「…………いい……え。……とどめはさせませんでした」

 

 セバスは安堵するかのように目を閉じる。

 

 イビルアイの目からは涙が溢れてきた。

 

「……なぜ泣くのです?」

 

「……わがりまぜん」

 

 イビルアイはセバスにすがって泣いた。何が悲しかったのかわからないが涙は次々にあふれてきた。

 

 確実な事はイビルアイがセバスに恋しているという事。そしてなぜか虫のメイドの件でセバスから憎しみに近い感情を向けられたという事。

 

 イビルアイは自分の想いとセバスが自分に向ける思いの違いに不安を感じ、それが思いがけない感情の爆発となったのだった。

 

 いつしか雨がポツポツと降りだしてきた。

 

 イビルアイは決してかなう事のない恋に墜ちていた。

 

「モモンさ──ん。これはいったい?」

 

 ナーベラルの言葉にモモン──アインズは黙って首を振る。

 

 イビルアイは鼻をクスンクスン鳴らしながらセバスの胸に顔を埋め続けるのだった。

 

 

 

 

 王都リ・エスティーゼでも一番の宿屋──ヤルダバオト撃退に王家がセバスの宿泊に提供した──を訪れる一人の少女がいた。

 

 普段着けている仮面を外し金髪と紅い瞳の少女はセバスが宿泊している部屋の前に立つ。

 

 ためらいがちなノックにドアが開けられ、イビルアイは中に入る。

 

「……その……約束だからな。セバス様の望みなら……なんでもする覚悟をしてきた」

 

 セバスはしばし考え込む。やがて静かに命令した。

 

「……わかりました。では……まず着ているものを脱いでいただけますか? そう、全部です」



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第七話◆ガーターベルトな夜

 イビルアイは下着姿になりうつむく。セバスの刺すような視線を感じながら全身がぎこちなくこわばるのを感じる。

 

 パンティに手をかけた所で涙ぐんだ瞳で上目使いに見上げる。覚悟はしていたがいざとなると逃げ出したくなる。

 

 足もとに下着が落ちた瞬間にイビルアイはギュッと目をつぶる。気配でセバスが近付くのがわかった。

 

「それではこれを着けて下さい」

 

 イビルアイはおそるおそる目を開ける。自身の幼さの残る裸身に改めて羞恥を感じながらセバスが差し出すものに手をのばす。

 

「……これはただのガーターベルトです」

 

 一瞬にしてイビルアイの頭の中が白くなる。

 

「……ちまたでよくある間違いの最たるものが間違ったガーターベルトのつけ方でして。なぜって下着を履いた上にガーターベルトを着ける方が多いのでしょう? 本来ガーターベルトとは最初に着けるべきものなのです。実に嘆かわしい。……そう思いませんか?」

 

 イビルアイは答える事が出来なかった。羞恥心に耳朶まで染めてなにも考える事が出来なくなっていたのだった。

 

 セバスはそんなイビルアイに微笑んでみせた。

 

「そんなに構えなくても良いですよ。私は貴女の身体に触れるつもりはありません。……路傍の花のつぼみを愛でるのに摘み取ってしまうのは愚かな事です。路傍の花のつぼみは近くで眺めて楽しむべきなのです」

 

 そう言うとセバスはイビルアイを立たせる。容赦ない視線にさらされて思わず身体をくねらせる。

 

「……もう、ゆるして……ください」

 

 普段は気丈な彼女の弱々しい懇願を受けてセバスは優しく告げた。

 

「……では……この衣装を着ていただきましょう」

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓──自らのの執務室でアインズはユリ・アルファとエントマの訪問を受けていた。

 

「おそれながらアインズ様にお願いがございます。……セバス様をプレアデスのリーダーから外してプレイアデスに移行して頂けませんでしょうか?」

 

 アインズは驚く。プレイアデスに移行するという事は戦闘メイド(プレイアデス)の末妹のオーレオールをリーダーとした組織に変更する事であり、執事であるセバスを外す事でもある事だ。

 

「……うむ。理由を聞かせよ。その理由次第では検討しよう」

 

 アインズの言葉にユリは話しはじめた。

 

「……先日の王都での任務でセバス様がソリュシャンを任務に同行させるのに難色を示して結果、ソリュシャンは任務からはずされました。この一件はアインズ様もご存じかと思います」

 

 アインズは静かにうなずく。

 

「……この事は妹──ソリュシャンにとってセバス様に対する根強い不信感を抱かせる事になりました」

 

 ユリは一旦話をきる。そして微かに躊躇するような表情をみせてから話を続けた。

 

「……王都でエントマが怪我を負わされたのはアインズ様もご存じかと思われますが……あろう事かその憎むべき敵の女をセバス様はエ・ランテルに囲っているのです」

 

「──なん……だと?」

 

 アインズがエントマの様子を伺うと表情に変化はみられないが肩が震えていた。

 

 アインズはふと思い出していた。イビルアイという少女がやたらと馴れ馴れしくセバスに抱きついていた事を。

 

「──セバスをここに──」

 

 アインズは口ごもる。脳裏にはセバスの設定にあった『ちなみにロリコンである』との一文が浮かんでいた。

 

「──いや、あまり事を大きくすべきではないな。よかろう。私が直接セバスの商館に出向き真意をただすとしよう。……しかしセバスに対するお前たち姉妹の懸念もわからなくない。よってプレアデスはこれよりプレイアデスへ移行、ただしオーレオールはそのまま桜花領域にとどまりユリをリーダー代理とする。よいな?」

 

「「はっ。かしこまりました」」

 

 エントマが顔をあげた。

 

「……アインズ様……あの小娘の声を是非私に……」

 

「……わかった。考慮しよう」

 

 ユリとエントマが退出すると当番の一般メイドにナーベラルを呼んでくるように命じるとアインズはため息をついた。

 

「……やれやれ……たっちさん……セバスの設定……何やってんくれてんですか……まったく……」

 

 

 

 

 

 

 アインズはモモンの姿で商館の前に立つ。セバスが拠点としているエ・ランテルの商館にアダマンタイト級冒険者“漆黒”が訪れていた。

 

「アイン……モモンさ──ん。ここは私が……」

 

 ナーベラルにアインズがうなずく。おそらく『アインズ様』といいかけたであろう事には目をつぶる。

 

 ノッカーの音に中で人がやってくる気配がして、扉が開かれた。

 

「……ニニャか? しかし──」

 

 扉が開かれあらわれたニニャの予想外の格好に思わずアインズは言葉をうしなった。

 

「……これはモモン様。わざわざおいでいただきまして申し訳ありません。どうぞお上がりくださいませ」

 

 セバスがイビルアイを連れて出迎える。アインズはイビルアイの格好にまたしても驚いた。

 

「……この格好は……まさか?」

 

 アインズの言葉にセバスが答えた。

 

「はい。この二人は『魔法少女』にございます」



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第八話◆魔法少女

 イビルアイはピンク色、ニニャは水色が基調のフリルがたくさんついたミニスカートの衣装にハートがついたペンダントとステッキを装備していた。

 

 モモンの無遠慮な視線に思わず裾をおさえて顔を赤らめる。

 

「……あーゴホン」

 

 モモンは咳払いをしてごまかす。イビルアイとニニャは裾をおさえたまま身体をくねらせた。

 

 モモンの脳裏に『絶対領域ですよモモンガさん!』と親指を立てるペロロンチーノの幻影が浮かぶのをあわてて追い払う。

 

「──あー……少しセバスと二人きりにしてくれないか?」

 

「かしこまりました。モモンさ──ん」

 

 ナーベとイビルアイ、ニニャが部屋を出ていくとアインズは口をひらいた。

 

「……さて、セバスよ。説明してもらおうか」

 

 

 

 

 アインズとセバスが話をしていた隣の部屋ではナーベラル、イビルアイ、ニニャの三人が気まずい時間を過ごしていた。

 

 ナーベラルは冷たい目で二人を眺める。

 

「……あの……」

 

 ニニャがおそるおそる声をかけてきた。

 

「……“森の賢王”の時は……お世話になりました」

 

 ナーベラルは彼女に見おぼえがなかった。彼女が言っているのはおそらくカルネ村に薬草採集に行くンフィーレアの護衛をした任務の事だろうか?

 

 怪訝そうなナーベラルにニニャは勇気を出して話しかけ続ける。

 

「……ニニャです。あの“漆黒の剣”の……当時は訳あって男装していましたが……」

 

「……ああ……そういえば……」

 

 ナーベラルはようやく思い出す。たしか彼らは何者かに殺されたのではなかったか?

 

「…………」

 

 どうしようもなく気まずい沈黙が流れる。

 

「……紅茶のおかわりはいかがですか?」

 

 ナーベラルが無言でうなずくとニニャはキッチンに姿を消した。

 

 ナーベラルはイビルアイの紅い瞳と尖った犬歯に気づく。

 

「……なるほど……アンデッドだったのか……道理でガガンボにしては強いわけだ」

 

 イビルアイは無言だった。

 

「……冒険者はどうした?」

 

 イビルアイが顔をあげた。

 

「……私は愛に生きる! そう決めたのだ」

 

「──な?」

 

 ナーベラルが呆気にとられた。

 

「……私はセバス様に全てを捧げるつもりだ」

 

 イビルアイはゆっくりと宣言した。あ然としているナーベラルにイビルアイは勝ち誇ったように続ける。

 

「残念だったな。さすがの“美姫”も魔法『少女』には無理があるようだ……年齢的にな」

 

「──くっ……」

 

 

 

 

 アインズとセバスは向かい合ってソファに腰をおろす。

 

「……アインズ様。私はかねがね思っていた事がございました」

 

 セバスは遠い目をした。

 

「…………私は魔法少女になりたい、と」

 

「!!!」

 

 アインズはこれまでにない衝撃をうけた。

 

 ──たっちさん! たっちさん!

 

 こんな時にすぐ沈静化してくれるアンデッドの身体が有り難かった。でなければショック死していたかもしれない。

 

 それ位激しい衝撃だった。

 

 セバスは何事もなかったかのように話を続ける。

 

「……私の創造主のたっち・みーさんは正義のヒーローでした。私にとって魔法少女は正義の味方の一つのリスペクトでありました。しかしながら私は魔法少女にはなれません」

 

(──まあ男だからな)

 

 アインズは思わず心の中でつぶやく。

 

 セバスは哀しそうな顔で言った。

 

「残念ながら私の年齢では魔法少女になれないのでございます」

 

 アインズは慎重に言葉をえらぶ。

 

「……うむ。セバスよ。お前の魔法少女へのこだわりはわかった。つまりはお前自身の果たせぬ夢をニニャ達でかなえようというのだな?」

 

「はい」

 

 アインズは冷静に考える。今回セバスが作った魔法少女の戦隊をナザリックの評判を上げるための広告塔に出来るのではないだろうか?

 

 そもそもこの世界ではマジックキャスターの戦隊活動というものがない。さらに魔法『少女』だ。話題には事欠かないだろう。

 

「……よかろう。セバスよ。魔法少女の戦隊をつくりナザリックの威光をひろめる活動をおこなう事を許可しよう。……ところでいささか戦力が心もとなくはないか? どうせならばせめてプレアデスから──」

 

「──申し訳ございませんが現地から少女だけを集めてゆきたく存じます。なんでも世の中には一九でまだ魔法少女を名乗る輩もいるようですが……このセバスの目が黒い内は認めない所存にございます」

 

(──あ……あったな。そんな話。誰が言っていたんだっけな? ペロロンさん? ペロロンさんだったかな? で……『十八越えたら少女ではない』とかいう結論になったのだっけ? 懐かしいな)

 

「……あーゴホン。わかった。……他に装備や衣装など私も出来るだけ協力しよう。……うむ。そうだな……イビルアイの件はエントマに遺恨なきよう私から話しておこう」

 

「ありがとうございます」

 

 アインズはふと思い出す。

 

「……そういえばシャルティアならば……シャルティアならば魔法少女として適任ではないのか?」

 

 セバスは首をふる。

 

「申し訳ございません。アインズ様。実はかのイビルアイ……彼女は実は吸血姫でございまして──」

 

 セバスが顔をあげる。

 

「シャルティア様とはキャラクターがかぶってしまうのでございます。ですが──」

 

 セバスはアインズを正面から熱く見つめる。

 

「……いつか時が熟したならばシャルティア様のお力をお借りしたく思います」

 

 

 

 

 

 セバスは責任の重さを感じていた。アインズより正式に魔法少女戦隊をプロジェクトとして進める許可を得た現在、なんとしても成功させなくてはならないからだ。

 

「……しかし……困りましたね」

 

 セバスは魔法少女に対する憧れを持っていたが、実際の知識はばく然としたものに過ぎない。たまにたっち・みーが話していたセーラー●ーンやプリ●ュアといった『伝説の魔法少女戦隊』やリリ●ルなんとかやカード使いのさ●ら等のボンヤリとしたイメージしかない。

 

 ──そういえば……悪を倒し正義を為す、正義のヒーローの王道と助け合う仲間同士の友情がモチーフだとたっち・みー様は熱く語っていたものでした──思わずセバスの口もとに笑みがこぼれる。

 

 常日頃感情をあらわにしなかった至高のお方の数少ない子供っぽい一面があらわれた一瞬だった。だからこそセバスは憧れたのかもしれない。魔法少女という存在に。

 

「……どなたか詳しそうなお方がいれば良いのですが……ここはやはり──」

 

 セバスはナザリック地下大墳墓の第二階層に向かう事にした。

 

 

 

 

「……魔法少女、でありんすか? 確かに私はペロロンチーノ様から聞いた事がありんす」

 

 シャルティアは得意気に話しはじめた。

 

「……いろんな魔法少女がありんすが大概学校とやらに通っていんす。魔法少女だとクラスメイトにばれてしまったらおしまいになる事もあると聞いた覚えがありんすね。……敵は強く魔法少女の服をビリビリに引き裂いてしまうでありんして……それに必ず触手が出てくるでありんす。触手がヌメヌメといろんな所に入り込んで──」

 

「ありがとうございました。充分参考になりました」

 

 セバスはシャルティアの話を途中でさえぎると丁寧にお辞儀をして屍蝋玄室を後にした。

 

 しばらく歩いてセバスはため息をつく。

 

「むう。シャルティア様の話はすこしばかり私のイメージする魔法少女とは異なりますね。……他に魔法少女をご存じそうな方は……そうですね。ぶくぶく茶釜様なら『せいゆう』なるお仕事で接点があるかもしれませんね」

 

 セバスは第六階層にアウラを訪ねることにした。

 

 

 

 

「……魔法少女? うーん……わからないなぁ。マーレは知ってる?」

 

「……すみません。あの、僕も聞いた事はありません」

 

 ダークエルフの双子は残念ながら心当たりがないようだった。

 

「やっぱりさ、魔法少女っていうくらいだから魔法が使える女の子って事だよね。あたしには当てはまらないけどマーレならぴったりじゃないかな?」

 

「お姉ちゃん僕は女の子じゃないよう?」

 

 セバスが二人に礼を言って立ち去ろうとした時に背後から声がした。

 

「……魔法少女……知ってる。教えてあげてもかまわない」

 

 それはモコモコでフワフワな魔獣に抱きついていた少女──CZ2128 シーゼットニイチニハチ ・Δ──プレアデスの一人シズ・デルタだった。



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第九話◆ふたりはロリータ

「……よく頑張った。もうデビュー戦できるくらいになった……あとはあなた達次第……」

 

 イビルアイとニニャの二人はシズの指導で魔法少女として激しく厳しい特訓を続けてきた。

 

「二人ともお疲れ様。タオルと飲み物持ってきたよ」

 

 かいがいしくネムが世話をする。

 

「……しかし意外でした。シズにこんな知識があったとは……」

 

「……違う。私の知識ではない。……全ては博士のデータベース」

 

 シズの答えにセバスが首肯く。確かにあの至高のお方ならばあり得そうだった。

 

「それではお二人にはこれからマジカル☆ロリータとして頑張っていただきます。よろしいですね?」

 

「「はいっ!」」

 

 

 

 

 王都リ・エスティーゼの人々の表情は暗かった。先日の悪魔の襲撃により行方のしれない人間は数万にもなっていた。

 

 ブレイン・アングラウスはガゼフの家を出てあてもなく歩いていた。

 

「……ん? 騒ぎか。まあ、俺には関係ないな」

 

 往来の中で子供が殴られていた。男は酒ぐせが悪くいわば鼻つまみ者として有名だった。

 

 男の容赦ない拳骨が子供を殴り続けるが誰もが見て見ないふりをしていた。

 

「そこに悪があるかぎり愛の力で打ち倒す! 仮面のマジックキャスター改め正義の魔法少女ロリータピンク☆イビルアイここに見参!」

 

「そこに悪があるかぎり怒りの心でなぎはらう! 復讐のスペルキャスター改め正義の魔法少女ロリータブルー☆ニニャここに見参!」

 

 ブレインは二人のひらひらしたスカートを思わず目で追ってしまう。

 

「……そして同じく……謎のダンディーなモテモテ執事改め執事セバス・チャン!」

 

 優雅な身のこなしで初老の男がポーズをとる。

 

「……ただの村娘のただの妹改めお手伝いネム・エモット!」

 

 さらに少女がポーズをとる。

 

 いつの間にか最初の二人の派手な衣装の少女たちが子供を助けて男をねじ伏せてしまっていた。

 

「──俺の領域に感知しなかっただと? ……ば、馬鹿な?」

 

 ブレインは少女たちをじっと見る。そして思った。

 

 ──強い。間違いなく強い。

 

「……ま、待ってくれ!」

 

 ブレインは思わず叫んでいた。

 

「……俺も……俺も魔法少女にしてくれ! ……俺はもっと強くなりたいんだ!」

 

 

 

 

 

「……お断りします。貴方には魔法少女は無理です」

 

「…………な、何故だ?」

 

 セバスは冷たく答えた。

 

「貴方は魔法少女になるにはいささかお年をお召しになられているようですね」

 

 ブレインはガックリと肩を落とした。

 

「……さて、それでは皆さん帰りましょうか」

 

 セバスに促されてイビルアイたちは道端に停めてあった馬車に乗り込む。イビルアイは久しぶりの王都に名残惜しそうだった。

 

「──待ってください!」

 

 嗄れた少年の声に思わず振り替える。それははイビルアイもよく知っている人物──王女つきの兵士クライムだった。

 

「クライ……」

 

 イビルアイは思わず名前を口にしかけてやめる。今の姿をクライムに見られたくなかった。

 

「……何かご用でしょうか?」

 

 セバスが丁寧に訊ねる。

 

「私を……私を魔法少女にしてください!」

 

 セバスはあごひげに手をやる。

 

「……むう。同じ日に魔法少女の志望者が二人も……さて……どうしたものでしょうか……」

 

 セバスがクライムの瞳を覗きこむ。

 

「一つ質問があります。貴方は何故魔法少女になりたいのですか?」

 

「それは……強くなりたいからです」

 

「……どうして強くなりたいのですか?」

 

 クライムは拳を握りしめる。

 

「……私は強くならないとならないのです。命をくれたあのお方にご恩をお返ししたいのです」

 

 クライムは強く思った。かけがえのないラナー様の為に──

 

「……わかりました。その武器と手を見せていただけますか。……ふむ。これは予備の武器のようですね。ここに『予備用』というシールが貼ってあります。……ほう。鍛練を怠らない、よい拳ですね。……しかし……」

 

 セバスは真剣な顔で告げた。

 

「……どうやら貴方には才能がないようです」

 

 クライムは唇をかむ。

 

「……わかっています。ですが私は──」

 

「……どうしても魔法少女になりたいのですね? ……たとえそれが大切なものを失う事になっても、ですか?」

 

「ハイッ!」

 

 クライムは即答した。

 

「……そうですか。念のためにもう一度訊ねます。……たとえ貴方の大切なものを切り落としてしまう事になっても貴方は魔法少女になりたいのですね?」

 

「ハイッ!」

 

 クライムの意志はかわらないようだった。

 

「……わかりました。では貴方もついてきなさい。名前は?」

 

「クライムです! ありがとうございます!」

 

 クライムが馬車に乗り込もうとした時にブレインがひき止めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 教えてくれ! どうして君は大切なものを切り落としてしまっても大丈夫なんだ? 俺にはそんな覚悟はできない 」

 

 クライムはただ一言だけ答えた。

 

「強くなりたいんです」

 

 

 

 

 リ・エスティーゼ王国ヴァランシア宮殿の自室で王女ラナーは友人でもある“蒼の薔薇”のリーダー ラキュースからのメッセージを受けて思わずカップを落とした。

 

「なんですって? そんな……クライムが……」

 

 ラナーは鏡を見る。

 

「……駄目よ。そんな事になってしまうのは駄目。まずは相手がどこに行くのか調べてちょうだい。ティアとティナにはそのまま追跡させて。ラキュース、貴方だけが頼りよ。お願いね」

 

 ──許さない。クライムが魔法少女になるなんて決して許さない。クライムが男ではなくなるなんて許さない。……どんな手を使っても……阻止してやる。



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第十話◆ソーセージの行方

「……ふむ。何ものかが後をつけてきているようですね。……まあ、良いでしょう。……アジトに到着次第シャドウデーモンは追跡者の無力化をしてください。くれぐれも相手を殺さないように……頼みましたよ」

 

 セバスの命令を受けてシャドウデーモンたちが姿を消す。

 

「……大丈夫です。心配は無用です」

 

 セバスは表情を柔らかくすると並んで馭者席に座るネムに微笑みかけた。

 

 

 

 

「……おい! クライム! なぜここにお前がいる?」

 

 リ・エスティーゼを走る馬車の中でクライムはいきなりひじをつつかれた。

 

「……あ、よろしくお願いいたします。えっと……ロリータピンクさんでしたよね?」

 

 ロリータピンクの目つきが怖くなる。

 

「……わからないか? 私だ。イビルアイだ」

 

 クライムの顔が驚愕にかわる。

 

「──イビルアイ──様? だっていつも仮面を被っていましたし……それにもっと横柄な──グフッ!」

 

 みぞおちに一発くらってクライムはうずくまる。

 

「……そんな事はいい。それより、だ。お前は何をしている?」

 

「私は魔法少女になって強くな──グハァ!」

 

 またしてもイビルアイの容赦ない一撃がクライムを沈める。

 

「……お前はわかっているのか? 魔法少女になるということはつまり……アレをちょん切るという事だぞ?」

 

「……アレ……ですか……? ……あのう……何をちょん切るのでしょうか?」

 

 純真無垢なクライムの瞳に見つめられてイビルアイは赤くなる。

 

「……うぐ。……それはチン……ゴホン。男から女になるのだ。わかるだろ?」

 

「わかりません!」

 

 イビルアイは絶句する。

 

「……なんだと?」

 

 しばしの空白。

 

「……あのですね、女には無いんですよ。……おチンチン」

 

「本当ですか! ロリータブルーさん!」

 

 横から助け船を出したニニャも絶句する。

 

 この少年は何もわかっていなかった。

 

 

 

 

 

(……このまま馬車を追っていけば大丈夫)

 

(……クライムのソーセージは私たちが守ってみせる)

 

 走る馬車を追って二つの影が疾走する。

 

 やがて馬車は目的地の大型の倉庫の前で止まる。

 

「……どうやらここのようだ。私は一旦ボスに報告する」

 

「……わかった。じゃあ私はこのまま監視する」

 

 二人はアダマンタイト冒険者“蒼の薔薇”のティアとティナだった。ティアは煙と共に姿を消す。

 

「──!」

 

 監視を続けるティナが背後に現れた闇に一瞬で飲み込まれる。

 

 ティナは声をあげる事すら出来ずに姿を消した。

 

 

 

 

 

「……セバス様! わ……私は……その……」

 

 魔法少女マジカル☆ロリータのアジトに着くなりクライムはセバスに土下座をする。

 

「……不合格。この者には魔法の素養が無い。魔法が使えない魔法少女なんてコーヒーの無いカフェラテのようなもの……」

 

 クライムに不意に声がかけられる。クライムが顔をあげると片目に眼帯をした少女が見下ろしていた。

 

「……ふむ。そうですか。ならば仕方ありませんね。……クライムさん。残念ながら貴方は魔法少女になれません」

 

「……は、はい。わかりました」

 

 クライムは額を地面に擦り付ける。自らの下腹部の存在──ソーセージを失わずに済んだことがありがたかった。

 

「……ところで……こちらの方は?」

 

 シャドウデーモンに雁字搦めに縄をかけられたティナがつれて来られる。

 

「──ティナ!」

 

 ロリータピンクが駆け寄る。

 

「……ロリータピンクさんのお知り合いでしたか。手荒な真似をして申し訳ありません」

 

「セバス様は悪くない。きっとクライムを心配したリーダーのラキュースが我々をつけるように命じたのだろう」

 

 セバスはティナの縄を解くと立たせる。

 

「……なるほど。しかし──ご覧のようにクライムさんは魔法少女にはなれません」

 

 クライムは恥ずかしそうにうつむいた。

 

「……わかった。戻ってボスに伝える。それに──」

 

 ティナはロリータピンクをなめ回すように見る。

 

「……イビルアイが妙に色気づいた事も……」

 

「──な!」

 

 ふと激しく入り口のノッカーが叩かれる。

 

「……私は“蒼の薔薇”のラキュース・アルベイン・デイル・アインドラと申します。急用あってやってきました。是非とも話を聞いていただきたい」

 

 

 

 

 

「……リーダー。まだ落ち込んでいるのか?」

 

 リ・エスティーゼ中心に位置する最高級宿屋に場違いな装いをした一団がいた。

 

「……まあ、そのよ。とりあえずクライムの童貞は無事だったわけだしよ? 任務は成功だったんじゃないのか?」

 

 黄色を基調にしたフリフリの衣装の大柄な女──ガガーランがラキュースの肩をバンバン叩く。ラキュースは黒と紫を基調にした同じくフリルでフリフリの衣装を着ていた。

 

「……クッ!」

 

 カウンターに突っ伏したラキュースは唇を噛み締める。

 

 ラキュースの脳裏に先程の屈辱的な光景がよみがえる。

 

 ラキュースたち“蒼の薔薇”はラナー王女の発案でクライムの代わりに魔法少女を志願してクライムを無事に取り返す作戦の為、魔法少女マジカル☆ロリータのアジトを訪れたのだった。

 

 恥ずかしさに身悶えながらも辛うじてクライムの代わりに魔法少女になりたいのだと告げたラキュースに対してかけられたセバスの言葉──

 

「申し訳ありませんが貴女方は魔法少女になるにはいささかお歳をお召しになられていらっしゃるご様子。……そうですな……」

 

 セバスの鋭い視線がラキュースの身体を貫く。

 

「……せめてあと三歳ほどお若かったら……残念ですね」

 

 

 

 

 

 カウンターからラキュースが顔を上げる。その瞳には新しく光が宿っていた。

 

「決めたわ。私たち“蒼の薔薇”は今日から『魔法少女マジカル☆ローズ』に生まれ変わるの。そしてマジカル☆ロリータの鼻をあかしてやりましょう!」



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第十一話◆結成!『マジカル☆ローズ』五人のマジカル

「純潔の乙女 魔剣キリネイラムに選ばれし闇と戦うマジカル☆ローズブラック・ラキュースここに降臨!」

 

「闇を裁く影の忍び マジカル☆ローズブルー・ティアここに参上!」

 

「ショタを助けて悪を討つ マジカル☆ローズレッド・ティナここに見参!」

 

「世界の童貞食べ尽くす 闇を打ち消す正義の鉄槌マジカル☆ローズイエロー・ガガーランここに降臨!」

 

 “蒼の薔薇”改め魔法少女マジカル☆ローズの四人がポーズを決める。

 

「ポーズの最後に爆発を起こすともっと良いかもしれないわね。どうかしらクライム?」

 

 椅子に座ったラナーが振り返る。

 

「……そうですね。ラナー様のおっしゃる通りにした方がインパクトがあると思います」

 

「……そうね。では何か爆発魔法の護符でも手配しましょう。……あら? ラキュース、どうかしたのかしら?」

 

 黒と紫を基調にしたヒラヒラのミニスカートの裾を押さえながらラキュースがモジモジしながら答えた。

 

「……しかしこの衣装で本当に戦うのか? それに前回より短くなっているような……」

 

「ラキュース。貴女たちはあのマジカル☆ロリータに勝たなくてはならないと思うの。なにしろ向こうにはイビルアイがついているのよ。彼女の強さは侮れないですわ。ですから少しでも相手に隙を作らせなくてはならないの」

 

 ガガーランが手を叩く。

 

「なるほど! それでこの衣装な訳だな。こうヒラヒラしたらつい気になる訳だよな。ましてや下に何も履いていないのだから尚更だ」

 

 ガガーランはガハハと笑いながらスカートをバサバサさせる。

 

「ずいぶんスースーしやがるぜ」

 

 ガガーランとは異なりラキュースは相変わらず気がのらないようだった。

 

「……それに私がブラックなのも気になるわ。ねえ、どうしてブラックなの? 私は“蒼の薔薇”のリーダーなのだからブルーが相応しいのではなくて?」

 

「……ブルーは私。ほら、髪どめも青。私がブルーでなくなるとティナと区別がつかなくなる」

 

 マジカル☆ローズブルーのティアが異をとなえる。

 

「で、ではせめて紫を……それとも白ならどうかしら? 純潔の乙女なのだし……」

 

 ラキュースの主張にラナーが答えた。

 

「……そうね。ラキュースの意見は少し検討してみましょう。まあ……白はむずかしいと思うのだけれど……ところで貴女がたに紹介したい人がいるのよ。マジカル☆ローズに新しく加入するメンバーですわ」

 

 扉を開けて入ってきた人物に皆は驚く。

 

「「──あ、あなたは!」」

 

 

 

 

「皆さんに新しいメンバーを紹介いたします。ロリータソルトことアルシェ・イーブ・リィル・フルトさんです」

 

 セバスにうながされて一人の小柄な少女が入ってきた。オドオドとした表情の肩口に切り揃えられた金髪の少女だ。やはりイビルアイたちと同じく黄緑色を基調としたフリルの衣装を着ている。

 

「彼女はとある場所で処分──ゴホンゴホン。……命を失うところをたまたま私がみかけてマジカル☆ロリータの新メンバーとして貰いうける事にしました」

 

「……ロリータソルトのアルシェです。……よろしくお願いします」

 

 アルシェはおじぎをした。

 

「アルシェは三位階までの魔法を使う事が出来ます。これでようやくマジカル☆ロリータも三人になりました。欲をいえばあと二人ほど欲しいところですが……三人なのでリーダーを決めておくとしますか。……とりあえずピンク、お願いします」

 

「……うむ。……あ、ハイ。せばすさま」

 

 ロリータピンクはうつむきながら答える。何故か恥ずかしそうに指でのの字をかいている。

 

 と──コンコンと教べんで叩く音がして皆が振り向くとシズがホワイトボードの前にたっていた。

 

「……三人になったからフォーメーションが変わる。今から新しいフォーメーションを説明するからしっかり覚える」

 

「「ハイッ!」」

 

「……声が小さい」

 

「「ハイッッ‼」」

 

「……シズせんせいと呼ぶ」

 

「「ハイッッ‼ シズせんせい!」」

 

 

 

 

 

 夕暮れのリ・エスティーゼの街はずれで剣をふるっていたガゼフは上半身裸になり汗をタオルでぬぐう。

 

 ふと、視線を感じて茂みに目をこらす。

 

(……気のせいか……)

 

 ひとしきり汗をぬぐうと服を着て剣を構える。

 

 無言で剣を振りつづけるガゼフをじっと見つめる乙女がいた。

 

 

 

 

 

 ガゼフを熱い視線で見つめ続ける乙女──マジカル☆ローズホワイトことブレイナ──旧名ブレイン・アングラウスは小さくため息をついた。

 

「…………ガゼフ。……いや……ガゼフさま」



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第十二話◆マジカル☆ロリータ解散?

 エ・ランテルの郊外の古ぼけた商館──それが現在の魔法少女マジカル☆ロリータのアジト兼稽古場である。

 

 イビルアイとニニャの二人に新たにアルシェが加入した事はマジカル☆ロリータに亀裂を生む事になった。

 

「……ニニャ。そこのステップが大きすぎる。……ぶつかりそう」

 

「……アルシェ様はさすが『元』貴族。庶民の感覚とは違いますね」

 

「……ああ。セバスさま」

 

 息を合わせた合体魔法などこれでは習得出来そうにない。教官のシズがホワイトボードを叩く。

 

「……息が合わない。これでは練習しても無理」

 

 セバスもため息をつく。

 

「……どうもニニャさんとアルシェさんはそりが合わないみたいですね? お二人はこれまでお会いしたことはないはずですが?」

 

 ニニャはアルシェを睨んだままで、対するアルシェは俯いている。

 

 緊迫した空気が支配した部屋が突然の来訪者の訪れで和やかになる。

 

「……ただいまー!」

 

「「ただいまー!」」

 

 俯いたままのアルシェに二人の小さな少女が駆け寄る。

 

「お姉様! ウレイリカがおつかいしたの!」

 

「違う! クーデリカがおつかいなの!」

 

 買い物袋を抱えたもう一人の少女──ネムがニニャに近づく。

 

「……ニニャさん。またケンカですか? ダメですよ。それに──」

 

 ネムはぼーとしているイビルアイに指をさす。

 

「……イビルアイさん。リーダーなんだからしっかりしないとめっ!」

 

 まだ十歳位の少女のネムに叱られてイビルアイはしょんぼりする。

 

 シズが立ちあがり手を叩く。

 

「……今日のレッスンはおしまい。……もっとチームワークがないと……」

 

「……」

 

 マジカル☆ロリータは解散の危機を迎えていた。

 

 

 

 

「……ニニャさん。どうしてアルシェさんと仲良く出来ないのですか? 私の目には貴女が一方的にぶつかっているように見えます」

 

 セバスは優しくニニャに語りかけた。姉のツアレも心配そうに見つめる。

 

「……貴族は……貴族は許せない」

 

 ニニャが噛み締めた唇に血がにじむ。

 

 無理もない。彼女の家族は姉のツアレも含めて貴族に虐げられてきたのだ。その憎しみは簡単になくなる筈がない。

 

「……仕方ありませんね。こうなったら取って置きの手を使いますか」

 

 セバスは決心するのだった。 

 

 

 

 

 

「……なんか元気ないっすね? 可愛い妹の悩みをルプー姉さんが聞いてやるっす」

 

 ナザリック地下大墳墓の第九階層の食堂のテープルに伏せていたシズにルプスレギナが声をかけて来た。

 

「……セバス様の魔法少女……解散かも……」

 

 シズはルプスレギナにメンバー同士の不協和音について話した。

 

「なんだ。そんな事っすか。簡単っすよ? 魔法少女達に本当のチームワークというものを見せつけてやれば良いっすよ?」

 

 ルプスレギナは胸を張る。

 

「ここは頼れる姉のルプーさんにまかせるっす!」

 

 ルプスレギナは張り切って出ていった。

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓

第十階層玉座の間──

 

 アインズの前にプレアデス──いや、プレイアデスの面々がひざまづく。

 

「……うむ。お前たちでアイドルグループ活動をしたい、というわけか。……うーむ……」

 

「アインズ様。どうかお聞きとどけ頂けますよう、わたくしからも伏してお願いいたします」

 

 守護者統括のアルベドも片膝をついてならう。

 

 

(……ナーベラルがアイドル活動に忙しくなれば漆黒のモモンの隣はこのわたくし。アルベド……いいえ。『黒き花嫁』アルベルの出番だわ。やがていくつもの冒険を共にした二人は恋に堕ちて……)

 

「……わかった。許可しよう。……アルベド? どうかしたのか?」

 

「いえ。なんでもございません。では早速ユリ・アルファをリーダーに、ルプスレギナ、ソリュシャン、ナーベラル、エントマ、シズをメンバーにしたアイドルグループのレッスンを──」

 

「アインズ様! アイドル活動のリーダーについてなのですが……ルプスレギナに任せてみようと思います」

 

 ユリがくいっとメガネを人差し指で上げながらアインズに具申する。

 

「……うむ。ルプスレギナか……」

 

 アインズはルプスレギナのいつになく真剣な表情を見つめた。カルネ村では村人たちとそつなく関係を築いていると聞いている。プレイアデスでも社交性に富んでいる彼女ならばうまくやれそうに思えた。

 

「……わかった。ではルプスレギナよ。プレイアデスのアイドルグループ活動は任せた。……ふむ。せっかくだから何かグループ名をつけた方が良いかな? ……そうだな。『ニャンニャンメイド隊』なんてどうであろう?」

 

「ははっ! このルプスレギナ『にゃんにゃん☆メイド隊』をナザリックに恥じないものにいたします!」

 

 ルプスレギナに合わせて他の『ニャンニャンメイド隊』も平伏する。

 

「……ところでアインズ様。ナーベラルがアイドル活動をするにあたって冒険者“漆黒”のナーベに替わるメンバーを…………」

 

 

 

 

 

「……モモン……が、さん。ここが冒険者組合ですか。思ったより小さいですね」

 

 エ・ランテルの冒険者組合で黒いフルフェイスのヘルムを脱ぎ、長い黒髪をすきあげる美女戦士に誰もが見とれていた。

 

「……ゴホン。アル……アルベルよ。今日はあくまでもお前の冒険者登録だけだ」

 

「かしこまりましたモモン……が、さん。理解してございます」

 

 アルベルの優雅な身のこなしに男たちの歓声があがる。

 

「……アルベル様。……と。……ええっと……アルベル様はナーベ様のお姉様……で……モモン様のご友人──」

 

「──妻です!」「──な!」

 

 

 

 

 

 

 マジカル☆ロリータのメンバー、ニニャ、イビルアイ、アルシェはアジトでセバスを待っていた。

 

「………………」

 

 ニニャとアルシェは気まずそうに視線を合わせようとしない。しばらくすると扉を開けてセバスが入ってきた。

 

「……今日は皆さんに重大なお知らせがあります。実は──」

 

 セバスが口を開いた瞬間に背後に空間のゆがみが発生する。

 

「──わら──私が新しいリーダーのロリータ☆アリンスこと──」

 

 〈ゲート〉で登場したのはシャルティア・ブラッドフォールンだった。



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第十三話◆五人目の魔法少女

 リ・エスティーゼ王国北部にある大都市エ・ナイウル。リンデ海に面する港町は商業が盛んだ。

 

 大勢の客で賑わう酒場にセバスとイビルアイの二人の姿があった。

 

「ほう。想像以上に活気がありますね」

 

「……う、うむ。……そ、そうだな。……その……だ。……セ、セバス様と私は……まわりから……その、どういう風に……あの、み、見えるだろうか?」

 

 セバスはいつもと事なり赤面しながらモジモジするイビルアイを不思議そうに見つめる。

 

「……ふむ。少女とナイスミドルな紳士、でしょうか?」

 

「……いや、そうでなく男女のカ、カップる……とか恋びト……とか……」

 

「……カップですか……うーむ……よくわかりませんが……まあ、私はかまいませんよ」

 

 イビルアイは心の中で大きくガッツポーズをする。

 

「──やあ。久しぶりだね。君から連絡をしてくるなんて思いもしなかったよ」

 

 イビルアイに近づいて来る人物の姿にセバスは一瞬ハッとする。

 

(……白銀の全身鎧(フルアーマー)……似ている。……いや、よく見れば装飾もデザインも全く異なりますね。……私とした事が白銀のフルアーマーを見て一瞬ではありますがたっち・みー様と勘違いするとは……)

 

 来客はセバス達のテーブルの空いている席に座った。

 

「……セバス様、紹介しよう。こちらは“白銀”のツアー殿だ。私の古い友人だ」

 

 ツアーは中腰になり手を差し出す。フルフェイスヘルムは閉じたままだ。

 

「……で、こちらはセバス様だ。私が現在いろいろ世話になっている」

 

 セバスも立ちあがり二人は握手をかわす。

 

「……実はツアー殿にマジカル☆ロリータの新メンバー候補についてあてがあるらしくてな……」

 

「それは素晴らしいですな!」

 

 セバスが思わず立ち上がる。

 

「……う、うん。その事なんだけど……実はその候補者のいる竜王国は現在危機的状況でね。で、紹介したい人物の竜王国の女王は真なる竜王の血をひく少女なんだけど……このままだとビーストマンたちに滅ぼされてしまうかもしれない」

 

「──なんですと! まだ花も咲かない少女がビーストマンになぶられ散らされてしまうのですか? それはいけません! 断じて許されざるべきですな」

 

 興奮のあまり立ち上がるセバスにイビルアイは動揺する。

 

「……いや、だが……かの国にはアダマンタイト級の冒険者がいたはずだ。たしか少女趣味の変態──」

 

「違います。イビルアイさん。間違えないで頂きたい。か弱き少女を愛でるのは高尚なる愛、です。決して変態などという言葉は使わないで頂きたい!」

 

 ツアーはイビルアイに優しく諭す。

 

「イビルアイさあ、セバスさんのいう通りだよ。変態っていうのはもっとさ、グロテスクなんじゃないかな? それにイビルアイだって少女の姿なんだし……少女愛を理解する必要があると思うよ」

 

「……ふむ。もしかしてツアー様も少女愛についてご理解されているご様子ですね。良き友人になれそうですな」

 

 セバスはツアーと高らかに笑うのだった。

 

 

 

 

 “白銀の竜王”ツアーの訪れは竜王国にとり大事件であった。竜王国の女王“黒鱗の竜王”ドラウディロンも同じく真なる竜王の末裔ではあったが、ツアーの所属する評議国とは全く交流がなかったからだ。

 

「……よいですか陛下。これはビーストマンを追い払うまたとないチャンスですぞ? かの白銀の竜王様は始原の魔法を使う最強の存在だと聞きます。うまくとりいってご助力頂くのですぞ」

 

「……う、うむ。わかっておる。しかしな、今までほとんど交流がなかったわけじゃし、上手くいかなくとも仕方あるまい」

 

 投げ槍なドラウディロンに宰相は厳しく叱咤する。

 

「陛下! さような心積りで如何なさいますか! こうしている間にも我が国民はビーストマンに食べられているのですぞ!」

 

「……わかった。頑張れば良いのだな。うむ、全力をつくしてみるとする……」

 

 

 

 女王ドラウディロンの登場をツアー、セバス、イビルアイの三人は膝まずいて迎える。ドラウディロンは玉座に座り声をかける。

 

「私が竜王国の女王ドラウディロンである。楽にせよ」

 

 セバスは顔をあげ、ドラウディロンの爪先から頭のてっぺんまでじっと眺めて呟く。

 

「……ふむ。合格ですね」

 

 ドラウディロンは一瞬訝しげな表情になるが気をとり直して彼らに懇願する。

 

「──と、いうわけで今この竜王国は危機に瀕しておるのだ。どうかな? 力をかしてもらえないだろうか? 大したお礼は出来ないのだが……」

 

 セバスはスックと立ち上がると玉座の前に進みドラウディロンの手を握る。

 

「……ふっ。お礼など……困っている人がいるならば力になるのは当たり前です。……まあ、ひとつばかりお願いしたい事がなくもないのですが……」

 

 宰相が口を開きかけるが、ドラウディロンは強くセバスの手を振りながら叫んだ。

 

「ではよろしく頼む! 戦況についてはこの国の冒険者に説明させるとしよう」

 

 かくしてセバス達は竜王国の危機を救うべくビーストマンと戦うことになった。

 

 

 

 

 

 

「よろしく。私が竜王国のアダマンタイト級冒険者チーム“クリスタル・ティア”のセラブレイトです」

 

「私はセバス。こちらはツアーさん、イビルアイさんです」

 

 セラブレイトはフルフェイスを上げようとしないツアーと仮面のイビルアイにギョッとしながらも次々に握手をかわす。

 

「……さて、最初にお尋ねしますが女王ドラウディロン陛下はおいくつでしょうか? お見受けした所十代前半位の容姿のようですが……」

 

 セバスが真剣な表情で尋ねた。

 

「……実際の年齢はわかりません。しかし私のセンサーでは間違いなく十代前半かと」

 

 セラブレイトは白い歯をみせた。次の瞬間、セバスとセラブレイトは固い握手をかわす。

 

「……フッ……」

 

 その瞬間に二人の男は互いを理解した。そう……二人は同士だったのだ。

 

「……いったい何が?」

 

 無言で頷きあう男たちに混乱したイビルアイがおろおろする。ツアーは腕を組んだまま黙って見守るのだった。

 

 

 

 

「……では、戦況については以上です」

 

 セラブレイトは説明を終える。彼の話からは現在の危機的状況が理解できた。

 

 ビーストマン単体は確かに人間よりははるかに強い。しかし英雄の域に到達するような強者はごく一部なようだった。

 

 おそらくはセバスどころかイビルアイでも圧倒出来るかもしれない。しかし──

 

「セラブレイトさん。あれが相手の大将ですか?」

 

「はい。これまで何度か剣を交えましたがなかなかの強者です」

 

 セバスは相手の姿に軽いめまいを覚える。

 

「……あまり気乗りしませんが……今からあの強者を捕らえてみせましょう」

 

 セバスは敵の大将にツカツカと歩いていく。敵が名乗りを上げるまでもなく、セバスの正拳がみぞおちに決まり相手は呆気なく崩れおちる。

 

「……さて、あなた方の大将は私の敵ではありません。帰ってあなた方の長に伝えなさい。すぐさま引き上げないと次は命をとります、と」

 

 セバスは気絶したままの敵の大将を肩に担ぐと歩いて引き上げるのだった。

 

 

 

 

 

 ビーストマンの前線基地では蟻の巣をつついたような騒ぎだった。なにしろセバスに連れ去られた大将はビーストマンの種族の中でも主力である燦璃惡(サンリオ)族族長の妹、ミミィ・チャンだったからだ。

 

「……ぐぬぬ。妹の仇は必ずとる! この私、キティ・チャンが思い知らせてやる!」

 

 その時、慌ただしく兵士が駆け込んできた。

 

「たいへんです! セバスが……セバスがミミィ将軍を連れてやって来ました!」

 

 キティが外に出てみると立派な馬車に乗ったセバスが荷台にミミィを乗せてやって来た所だった。ミミィには首枷がされて鎖で繋がっている。

 

 怒りに瞳を細めるキティはふと馬車を引いている二頭の存在に真っ青になった。

 

 ──ソウルイーター──かつて三頭のソウルイーターがビーストマンの都市をひとつ潰滅させたという伝説の怪物──それが馬車馬代わりに馬車を引いていたのだった。

 

 セバスが馬車を降りるとビーストマンは全て平伏していた。かくてビーストマンの大軍は戦わずして下った。

 

 

 

 

 

「……ふう。しばらくぶりですが、やはり我が家は良いものですね」

 

 セバスは馬車を降りて振り返る。イビルアイに続いてドラウディロンも馬車を降りる。

 

 ビーストマンから竜王国を救ったセバスは唯一の要求としてドラウディロンのマジカル☆ロリータ加入を要求した。その結果、新たに五人目の魔法少女、ロリータ☆クイーンが誕生したのだった。

 

 扉を開けようとしたセバスは誰となく呟く。

 

「……そう言えばシャルティア様に魔法少女の特訓をお願いしておいたのでしたが……さてさて……」

 

 元庶民のニニャと元貴族のアルシェとの不仲を解決する為にも圧倒的な強者であるシャルティアを新加入させると同時に特訓で新しく関係を築くのが狙いだったが……

 

「──これは!」

 

 セバスは触手に全身を責められているアルシェとスライムに衣服を溶かされてほぼ全裸になっているニニャに驚愕する。

 

「思いの外早かったでありんすね。魔法少女には触手プレイやスライム姦というものがつきものでありんしょう。かつて至高のお方のペロロンチーノ様は熱く語っておりんした」

 

 部屋の奥からアイマスクをして鞭を手にしたシャルティアが笑いながら姿をみせるのだった。

 

 



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第十四話◆ローブル聖王国からの依頼

「と、いうわけで現在、魔皇ヤルダバオトに蹂躙されているローブル聖王国から救援を求める使者が来ているのだが……」

 

 ナザリック地下大墳墓 第十階層玉座の間に集められた階層守護者たちを見回しながらアインズが口を開いた。

 

 守護者たちの中にデミウルゴスの姿はない。彼は自らの替え玉──ヤルダバオト──としての憤怒の魔将を操るため、ローブル聖王国にいた。

 

「恐れながらアインズ様。かような卑しき人間共の国を助ける事になんの価値も無いように思えます。よって魔導国が救援する必要は無いかと思われます」

 

 守護者統括アルベドが意見をのべる。これはアインズにとって想定範囲内だ。

 

 魔導国として救援をしないが、魔導王アインズが単独で救援に赴く。その為に考えに考え抜いた詭弁をこれから拡げてなんとしてもアルベドを説得する──アインズは両手を思わず握りしめる。

 

「──そこでだ。アルベドよ。確かに魔導国がローブル聖王国を救援する謂れはない。だがな──」

 

「──恐れながらアインズ様」

 

 アインズの言葉がふいに遮られる。

 

「そのローブル聖王国への救援、私どもマジカル☆ロリータにお任せ下さいませ」

 

 セバスが平伏しながらおもむろに顔を上げる。真剣な眼差しに強い決意が現れていた。

 

「──ああ、うん? そうか。……いや、実は私は今回は、だな……」

 

 アインズは動揺する。

 

「……アインズ様。セバス様ではなく私たちプレイアデスにご下命下さいませ。……私たち『にゃんにゃん☆メイド隊』に是非!」

 

「………………は?」

 

 ルプスレギナの言葉にアインズの思考は停止する。しばらくしてようやくアインズはプレイアデスに魔法少女戦隊として『にゃんにゃん☆メイド隊』と名付けた事を思い出す。

 

「…………うむ? しかし…………」

 

 セバスとルプスレギナがアインズの玉座ににじりよる。二人の真剣な眼差しについアインズは根負けしてしまうのだった。

 

「……よかろう。ではセバスとルプスレギナに任せよう。現地でデミウルゴスと調整すると良い」

 

「……お任せください。アインズ様。きっとご満足いただける成果をおみせいたします」

 

「……アインズ様。この度は我ら姉妹の連携をご覧いただきたく思います」

 

「…………う……うむ。そ、そうか……期待しているぞ」

 

 意気揚々と玉座の間を後にするセバスとプレイアデスを見送りながらアインズは一抹の不安を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

「私はローブル聖王国の聖騎士団長のレメディオス・カストディオだ。今回のヤルダバオト討伐に貴殿らの働きに期待している」

 

 セバスら『マジカル☆ロリータ』が乗る馬車に颯爽と白いサーコートの女騎士が乗り込んできた。つづいて部下の騎士も乗り込む。横柄な物言いに眉をひそめるシャルティアを無言で制してセバスが答えた。

 

「よろしくお願いいたします。私は執事のセバス・チャン、そしてこちらが『マジカル☆ロリータ』のリーダーの──」

 

「ロリータ☆アリンスことシャルティア・ブラッド・フォールンでありんす」

 

「妾はロリータ☆クイーンことドラウディロンじゃ」

 

「……ロリータ☆ピンク。イビルアイだ」

 

「……ロリータ☆ソルトアルシェ」

 

「私はロリータ☆ブルー、ニニャです」

 

「私はお手伝い改め研修生、ネム・エモットです」

 

「……申し遅れました。私はレメディオス団長の部下のグスターボ・モンタニェスと申します。実際に皆さんのお世話をする事になるかと思いますので、どうぞお見知りおきください」

 

 互いの挨拶が一通り終わるとセバスが早速訊ねた。

 

「我々は貴国にヤルダバオトを倒す為に来ましたが、状況はいかがですか? 聞くところによればかのヤルダバオトは自ら魔皇と称し、亜人どもの軍勢を率いローブル聖王国のほとんどを奪ったとか……」

 

 セバスの言葉にカストディオ団長は唇を噛み締め言葉を発しない。とりなおすようにグスターボが代わりに答える。

 

 ヤルダバオトが亜人の軍勢を率いて首都ホバンスはおろか多くの地を失っている事を話す。レメディオスは露骨にいやそうな表情になっていたが、グスターボは動じなかった。

 

 なによりも亜人の軍勢からローブル聖王国を奪還する事が優先されるべきであり、そこにはちっぽけな自尊心など不要だったからだ。

 

「ふむ。だいたいの状況はわかりました。……ところでヤルダバオト……かの者は悪、という事ですね?」

 

 レメディオスは「何を今更?」とでも言い出しそうな顔をする。慌ててグスターボが答える。

 

「はい。かのヤルダバオトは自ら魔皇と名乗り、ローブル聖王国の民を虐殺しております。また、亜人どもにとって人間は食糧や玩具といった扱いで……」

 

「……くっ! ヤルダバオトめ! あの時に倒してしまえたら……むむむ……」

 

 グスターボの言葉にロリータ☆ピンクが唇を噛みしめる。

 

「……イビルアイ──いや、ピンクさん。今度は我々マジカル☆ロリータの実力を見せつけてやりましょう」

 

「そうでありんす。デミ──ヤルダバオトなどわらわにかかれば雑魚に過ぎんせんでありんす」

 

「……確かにアリンス様の魔力なら……これだけの魔力を持つ存在が他にいるとは思えない……」

 

 ロリータ☆アリンスの言葉にロリータ☆ソルトが頷く。

 

「……なんだと? 魔法においてカルカ様やケラルト以上の人間など、かの帝国のフールーダ・パラダイン殿位なものだが?」

 

 レメディオスが突然食ってかかる。

 

「そのカルカンだのレトルトだのは知りんせんが、私より強いとは思えんでありんす。確かソルトはフールーダとやらの弟子だったでありんすな?」

 

「……はい。フールーダ様は当代随一のマジックキャスターではありますが……アリンス様は別次元の存在でまさに別格かと……」

 

「……うむ。悔しいが私もアリンス殿の強さは認めざるをえない。マジックキャスターとしても戦士としてもな……しかしやはりセバス様が一番──」

 

「バカな! 戦士ならばガゼフ殿が別格の強さではないのか? 私より強い者はおそらくガゼフ殿しかいないと思うぞ?」

 

 レメディオスには信じられないようだった。

 

「……ぐぬぬ。セバス様ならば千ガゼフ、いや、億ガゼフ──」

 

「……カストディオ殿は中々の強さを自負されているご様子。しかしながらヤルダバオトには敵わなかったようですな。私も以前にお手合わせさせて頂きましたが、ヤルダバオトはなかなかの強敵にございます。我々の実力を実際にご覧頂いた上で判断されたらよろしいのではないですかな? 不毛な議論など無益な事にございます」

 

 セバスの言葉にレメディオスは黙りこむ。やがて重い沈黙が馬車の中を支配する。無言の馬車はローブル聖王国に向かうのだった。

 

 

 

 

「ギャハハハハ……良いっすね。まさに馬子にも衣装ってやつっす。……ああ、そうそう。『馬子』って『孫』じゃないらしいっすよ」

 

 にゃんにゃん☆メイド隊を乗せた馬車はにぎやかだった。

 

「……まるで殺人鬼メイド……兇悪そう……」

 

 笑い転げるルプスレギナに続いてシズが止めをさす。

 

「ルプスもいい加減笑うのをやめなさい。可哀相です……ププ……」

 

 ユリが長姉らしくたしなめるが、やはり吹き出してしまう。

 

 従者のネイアは恥ずかしさに顔を真っ赤にして泣きそうな表情だった。目つきは相変わらず兇悪なまでに怒りをたたえてみえるのだが、他の表情は困惑と羞恥にあふれていてまるで顔のパーツがバラバラな福笑いみたいな顔になっている。それがにゃんにゃん☆メイド隊の笑いを誘っていたのだった。

 

 ネイアは自らの姿を見おろす。そして後悔する。

 

(なんでこんな格好になってしまったのだろう……)

 

 ネイアがにゃんにゃん☆メイド隊のお世話係りとして馬車に乗り込んだ際に、リーダーのルプスレギナが言った一言──「突然っすが、この馬車にはメイド服を着たものしか乗せない事になったっす」

 

 フリルとリボンに飾られて少し丈が短めなメイド服の裾を恥ずかしそうに押さえながらネイアは目をふせるのだった。

 

 



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第十五話◆解放軍の基地にて

「皆さん、お疲れ様でした。ここが解放軍の基地です。たいしたおもてなしは出来ませんが、まずは旅の疲れを癒してください」

 

 馬車から降りる一行をローブル聖王国王兄、カスポンド・ベサーレスその人が直々に出迎える。聖王女カルカの生死が不明な現在、彼がローブル聖王国の代表という立場である。

 

 そんなカスポンドはにゃんにゃん☆メイド隊に続いて降りるメイド姿の従者に思わず硬直するのだった。

 

 ──殺人鬼メイド──そんな言葉が頭をよぎる。

 

「──なんだその格好は! 従者とはいえ聖騎士たる矜持が貴様にはないのか! 恥を知れ!」

 

 別の馬車から降りてきたレメディオスがすかさずネイアを叱責する。

 

 涙ぐみながらスカートの裾を握りしめるネイアには返す言葉がなかった。

 

「なんすっか? 随分えらそうな女っすね? そんなに着たいなら素直にお願いすれば良いっすよ」

 

「──な──」

 

「ほれほれ……お願いはまだっすか?」

 

「……ぐぬぬぬ……」

 

 あからさまな挑発にレメディオスの顔がみるみる赤くなる。

 

「……なにやら面白そうでありんすな。せっかくなら誰かと対決して、負けたらメイド服を着るとしてはいかがでありんしょう? まあ、もっとも聖騎士団団長風情では相手にならないと思いんすが……」

 

 シャルティアが更にレメディオスを煽る。

 

「キサマ! 許せん! いいだろう。私と一対一の勝負をしろ! なに、貴様程度聖剣サファルシアを使うまでもない。従者、お前の剣を貸せ。ローブル聖王国最強の力を思い知らせてくれる!」

 

 ネイアの剣を構えるレメディオス。シャルティアは気のない態度で答える。

 

「……では、私は武器を使わない事にしんしょう。それでも結果は見えていんすが……」

 

 逆上したレメディオスはいきなり仕掛けた──

 

 

 

 

 

「…………団長……」

 

 副団長のグスターボが情けない声を上げる。

 

「……言うな」

 

「……しかし……」

 

 レメディオスは顔を上げようとはしない。しかし耳朶まで真っ赤に染まっていることから相当赤面しているとわかる。

 

 結局、レメディオスは負けた。なすすべもない完敗だった。

 

 その結果、彼女はメイド服にホワイトブリムを着けさせられていた。

 

「……うん? 案外似合うものだな」

 

 メイド服を着たレメディオスをまじまじと見つめたカスポンドの驚いた顔を思い出す度に身悶えしてしまう。

 

「……仕方あるまい。それに、な……」

 

 レメディオスはから元気で言葉を続ける。

 

「……悔しいが、私の装備よりこれの方が断然性能が良いのだ。仕方ないではないか。これからあのヤルダバオトを相手にするのだぞ?」

 

 レメディオスは快活そうに笑い声をだす。しかしグスターボの表情は冴えない。

 

「……それはわかりますが……」

 

「……ん? なんだ? お前は不満か? 王兄殿下も言っていたではないか。『カストディオ団長にメイド服はなかなかに似合う』と」

 

 胸をはるレメディオスにグスターボは答えた。

 

「……いや、団長がメイドの格好をするのに何も異論はありません……ですが──」

 

 グスターボは叫ぶ。

 

「なにも私達聖騎士全員がメイド服を着なくても良いのではないですか!」

 

 レメディオスはグスターボから顔を背ける。そして小さな声で呟いた。

 

「……私一人だけだと……恥ずかしいのだ」

 

 

 

 

 ローブル聖王国の城塞都市カリンシャの程近くの山あいにある洞窟のひとつが解放軍の基地であった。

 

 立派とはいえない粗末な小屋の中にローブル聖王国王兄以下の幹部、マジカル☆ロリータ、にゃんにゃん☆メイド隊が集まり軍議が始められた。

 

「さて、この度のご助力改めてお礼申し上げる。早速ながらこれからの目標を──」

 

「その前にお聞きしたい。この中に死者を生き返らせる甦生魔術が使えるものはいないか?」

 

 カスポンドの言葉をさえぎりレメディオスが皆に尋ねた。

 

「……甦生魔術……ですか?」

 

 つぶやくセバスの前にレメディオスは思わず身を乗り出した。

 

「そうだ。生きていると信じたいが万が一という事があるのでな。カルカ様とケラルトを失うわけにはいかないのだ」

 

 副団長のグスターボが頭をかきながら補足する。かつてヤルダバオトに蹂躙された際にカルカ聖王女陛下と最高司祭ケラルトが生死不明となっている、という事である。

 

「……うむ。そのカルカ様とケラルト様の年齢はいかほどでしょうか?」

 

 セバスは真剣な目差しで尋ねた。レメディオスは一瞬躊躇する。

 

 ──もしかしたら復活にはある程度の年齢が必要なのだろうか?

 

「……にじゅう──」

 

「──残念ですが無理ですな」

 

 セバスは即座に首を振る。

 

 重たい沈黙が続くと思われた頃──

 

「……ゴホン。話を戻して良いかな? これからの目標なのだが……」

 

 カスポンドは皆の顔を見渡しながら告げた。

 

「城塞都市カリンシャを奪還しようと考えている」

 

 

 

 

 会議は紛糾した。何しろ解放軍は亜人の軍勢に対して僅かにすぎない。到底不可能な話である。

 

 しかし次のカスポンドの提案で事態は一変した。

 

「実は亜人の中で我々に協力したいという申し出があったのだ」

 

 カスポンドが合図をすると一人の亜人──あたかもイモムシを思わせる姿をした──ゼルンが騎士に連れられて入ってきた。

 

 



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第十六話◆カリンシャ潜入

「あ、あのー…………」

 

 ローブル聖王国聖騎士団従者のネイア・バラハは恐る恐る声をかける。

 

 ネイア達三名は亜人軍のゼルンの手引きでカリンシャ城内に来ていた。

 

「……あのー…… 」

 

 ネイアの他の二人はそれぞれ『にゃんにゃん☆メイド隊』と『マジカル☆ロリータ』から選ばれたメンバーなのだが、どういうわけか酷く反発しあっているのだった。

 

「……お二人は以前になにかあったんですか?」

 

「……別に……」「……特にぃないですぅ」

 

 ネイアは『嘘だ!』と叫びそうになる。

 

「……別に私はなんとも思っていない。ただ、セバス様からの命令に従うまでだ」

 

 そっぽを向いたままでロリータ☆ピンクが答える。

 

「セバス様もぅこんなガキ、ポイッて捨てちゃえばいいのにぃ……」

 

 同じくそっぽを向いたままでメイド☆ヴァシリッサが呟く。

 

「──なんだと!」

 

「……フン。今度はやっつけてあげるぅ!」

 

「やめてください!」

 

 ネイアは胃が痛くなる。

 

「お二人とも今がどういう状況かわかっていますか? 私達はカリンシャに命がけの潜入しに来ているんですよ?」

 

 ネイアが目の端を指でくりくりほぐしながらため息をつく。

 

 ……きっとかなり凶悪な目付きになっているだろうな……

 

「今回、ゼルンの王子様を無事に救出する為には全員の力をあわせる必要があるんです!」

 

「……私ぃにはこのチンチクリンの助けはいらないぃ……邪魔にしかぁならないんだけどぉ」

 

 チンチクリン呼ばわりされてロリータ☆ピンクの顔が赤くなる。

 

「……こいつ! 私のヴァーミンペインを食らいたいらしいな! いいだろう! 勝負してやるぞ!」

 

「──いい加減にしなさい‼」

 

 思わずネイアが叫ぶ。途端にあたりが騒がしくなる。

 

「……なんだ? 誰かいるのか?」

 

 ネイア達はあっという間に亜人達に囲まれてしまった。

 

 

 

「……あちゃちゃちゃ……失敗っすね」

 

「……これは人選がまずかったようですね」

 

 無我夢中で逃げ出したネイア達は気がつくと解放軍の前線陣地にいた。

 

「さて、どうしたものでしょうか?」

 

 セバスが回りを見回す。

 

「……完全不可視化つかうっすか?」

 

 メイド☆ベータが気軽に発言をする。

 

「……そんな……不可視化の魔法なんて伝説の域の──」

 

 ロリータ☆ブルーが震える声で呟く。

 

「そういやゼルンの話ではカリンシャにはサークレットがいたのでありんすな?」

 

 ロリータ☆アリンスが何やら思い付いた様子で発言する。

 

「私に考えがありんす。次の潜入メンバーはネイア、私、ユリで行くでありんす」

 

「わかりました。シャルティア様が行かれるのであれば問題ありません。ユリもよろしいですね?」

 

「……え? ボ……私ですか? そのう……構いませんがシャルティア様と一緒にというのは……」

 

「……ユリ姉。にゃんにゃん☆メイド隊のリーダーとして命令するっす。メイド☆アルファはロリータ☆アリンスとネイアと共にゼルンの王子を助け出すっす」

 

 かくして再びカリンシャ潜入作戦が実行されるのであった。

 

 

 

 

 ネイア、ロリータ☆アリンス、メイド☆アルファの三人は難なくゼルンの王子が収監された牢獄にたどり着く。

 

 ロリータ☆アリンスが爪で切りつけると呆気なく錠が真っ二つになる。

 

「ゼルンの王子様はこちらですか? ボク……私達は味方です」

 

 メイド☆アルファがテキパキと状況を説明する。

 

 ネイアがゼルンの王子を背負い袋で背負い、部屋を後にする。全てが順調だった。

 

「……貴様達はいったいどこから?」

 

 三人の行く手をヤルダバオトの側近の悪魔の一人、サークレットが立ちふさがった。

 

 樹木のような悪魔の頭部には二つの顔──生首が飾ってあった。一つは亜人のもの。もう一つは人間の女性のもの──

 

「……そ、そんな……ケラルト様……」

 

 

 

 

「お疲れ様でした。さすがはシャルティア様……いや、ロリータ☆アリンス様です」

 

 ネイア達は無事にゼルンの王子様を救出しただけでなく、ロリータ☆アリンスの案で堂々と表から帰還したのだった。

 

 ユリの種族、デュラハンの特性を生かした作戦により幹部のサークレットに成りすましたおかげだ。

 

「……あのう……私をそろそろ体にもどして戴けませんか?」

 

 サークレットに飾られた頭部だけのメイド☆アルファが困ったように懇願する。

 

「……うーん。ユリ姉の体はちょっと用事をお願いしているっすから、待つっす」

 

 メイド☆ベータの言葉にメイド☆アルファは戸惑うばかりであった。

 

 

 

 

「ケラルト!」

 

「…………」

 

 ぎこちなく歩くケラルトにレメディオスが抱きつく。

 

「……よくぞ無事だったな! 私はうれしいぞ!」

 

 レメディオスがケラルトの肩をつかんで揺さぶった。次の瞬間──

 

「ゴロン」

 

 

 

「けらるとおおぉぉーー!」

 

 レメディオスの悲痛な叫びが響きわたるのだった。



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第十七話◆魔皇ヤルダバオト

 解放軍によって奪還されたカリンシャではカスポンド王兄、レメディオス団長、グスターボ副団長がにゃんにゃん☆メイド隊とマジカル☆ロリータとを加えて軍議を行っていた。

 

「……ケラルト最高司祭の死は誠に残念だった。聖王女様に万が一があっても最高司祭殿ならば、と考えていたのだがな」

 

 カスポンドの声は悲痛だった。

 

「王国には復活魔法の使い手がいると聞いている。すぐにも呼んで妹を復活させてはどうなのか?」

 

 憔悴した顔に鬼気迫る目をギロリとむいてレメディオスが発言した。その言葉にすぐさまロリータ☆ピンクが反応する。

 

「……無理だ。『蒼の薔薇』のラキュースが使える神聖魔法でも無理だな。復活させる場合には遺体が損傷していない事が前提だ。こんな状態、ではな……」

 

「……くっ。しかし……クソッ」

 

 一堂は沈黙する。ケラルトの遺体はサークレットに飾られた頭部だけだった。

 

「……なにはともあれカリンシャは奪還出来ました。これからはどうなさいますか?」

 

 沈黙に耐えきれずグスターボが尋ねた。

 

「実は南部の貴族達も兵を上げてこちらに向かっている。彼らの到着を待ってホバンスを……首都を奪還するつもりだ」

 

 カスポンドの言葉にどよめきがおこる。首都ホバンスの奪還はまさに解放軍にとっての悲願でもあった。

 

「……フフフフフ。そんな事はさせませんよ──」

 

 途端に激しい爆発と共に壁に大きな穴があく。

 

「──貴様! 貴様はヤルダバオト! 『聖撃!』」

 

 不意に現れた巨体にレメディオスが必殺技を発動させる。

 

「……随分まぶしい光でしたが……ふん!」

 

 姿を現したヤルダバオトは片手でレメディオスを凪ぎ払う。レメディオスは壁に叩きつけられる。

 

「……くっ。貴様! 何故聖撃が効かないッ? 悪ではないのかッ!」

 

 レメディオスはヨロヨロと起き上がり呟く。

 

「……カルカ様は? カルカ様はどうした?」

 

「……ふむ。誰の事ですかな? ああ、あの女ならば調子にのって振り回すうちに小さくなってしまったので捨ててしまいましたよ」

 

 レメディオスは逆上した。

 

「──貴様あ! カルカ様をぉぉ!」

 

 再びレメディオスが攻撃を試みるがヤルダバオトの尾の一撃になすすべもなく吹き飛ばされる。

 

「……これはこれは……お久しぶりにございます、でよろしいですかな?」

 

 ヤルダバオトの前にセバスがゆっくり近づく。心なしかヤルダバオトの表情に緊張が走る。

 

「……え? あ……うむ」

 

 セバスが身構える。

 

「──なんですと? 『この世界の全ての女性を巨乳だけにする為にやって来た』ですと? そ、そんな事はこの私が許しません!」

 

「──いや、なにを言っている?」

 

「……ぐぬぬぬ。『巨乳以外は生きる意味がない』ですと? 何を仰いますか。貧乳には貧乳の良さがあるのです! 良いですか? 貧乳こそが正義、いや、大正義なのです!」

 

「──いや、打ち合わせと ちが……」

 

「良いでしょう! 貴方の悪の巨乳か私の正義の貧乳か──勝負しましょう! 勝った方の主張が認められるという事でいかがでしょう?」

 

 セバスは強引にヤルダバオトと話を決めるかにみえた。

 

「──スターライトブレイカー!」

 

 ヤルダバオトに巨大な光の束が直撃する。

 

 瓦礫の中から一人の少女が歩み寄る。彼女は白い服に大きな杖を持ち、銀と黒の二色の髪にリボンを結んでいた。

 

 

 

 

 番外席次『絶死絶命』はスレイン法国最高評議会の命を受けてローブル聖王国にやって来た。

 

 ヤルダバオトに対抗する為に魔導国から『魔法少女』が派遣される事を知った法国ではそれらの力量を調査する為に番外席次の派遣を決めたのであった。しかしながら番外席次の存在は評議国に知られる訳にいかず、とりあえず『通りすがりの謎の魔法少女』を装う事にした。

 

 幸いな事に法国の至宝である各種装備や魔法の杖は様々な形に擬態可能であり、法国に伝わる伝説の魔砲少女リリーカルナ・ノーハの姿を模す事にしたのだった。

 

 尚、法国以外の国ではかの魔砲少女は実は白い悪魔だったという伝説もあるらしい。

 

「……えっと……りりかるりりかる。ちょっと頭、冷やそうか、なの」

 

 全身に傷をおったヤルダバオトが立ち上がった。

 

「……フハハハハハ。面白い。これだけの強者、しかも魔法少女がここに集うとはな。よかろう。ちょっとした座興も良い。エバンスにて最強の魔法少女を決定する『魔法少女大戦』を開催しようではないか! そして勝ち残った最強の魔法少女が私と対戦するのだ。楽しみにしているぞ?」

 

 魔皇ヤルダバオトは高笑いをするとグレーターテレポーテーションで姿を消した。

 

 

 

 

「……なにやらおかしな事になったな……」

 

 ロリータ☆ピンクが呟く。

 

 ちなみにロリータ☆ソルトは先程から吐き続けていた。

 

「何がなんでも私達が勝利しなくてはなりません。ロリータこそ大正義とかの至高のお方もおっしゃっていらっしゃいました」

 

「……うむ。しかしのう……セバス殿。妾の本当の姿は──」

 

 ロリータ☆クイーンの言葉は突然乱入してきた五人組にさえぎられた。

 

「ある時は王女の親友の貴族の娘、またある時は王国を代表するアダマンタイト級冒険者チームのリーダー。しかしてその真実の姿は──封印されし世界の(ことわり)魔剣キリネイラムに嫁ぎし処女(おとめ)、マジカル☆ローズ ブラック ラキュース、ここに参上!」

 

「同じくマジカル☆ローズ イエロー、ガガーラン」

 

「同じくマジカル☆ローズ ブルー、ティア」

 

「レッド、ティナ」

 

「えっと……マジカル☆ホワイト、ブレイン……ナ、だ」

 

 心なしかラキュースの顔が赤い。

 

「……なんでありんす? またまた魔法少女でありんすか?」

 

 ロリータ☆アリンスがため息をつく。

 

「──ゲッ! シャッ、シャルティア・ブラッドフォールン!」

 

 ローズホワイトことブレイナの顔が真っ青になり、全身がガクガク震えだす。

 

「いかにも私はシャルティア・ブラッドフォールンでありんすが……はて? どこかで会ったでありんしょうか? 私には覚えがありんせんが……」

 

 シャルティアことロリータ☆アリンスが首をかしげる。と、ブレイナは何やら訳のわからない言葉を叫びながら逃げていってしまった。

 

 

 

 カリンシャの解放軍本部にカスポンド、レメディオス、グスターボが集まっていた。

 

「魔法少女大戦か……我がローブル聖王国からも選抜メンバーを出したいものだが……」

 

 カスポンドが二人を見回す。

 

「……私は嫌です。あんな服など着るものか!」

 

 レメディオスが眉間にシワをよせる。

 

「…………」

 

 グスターボはメイド服の裾を握りしめてうつむいたまま無言だ。

 

 ──お前達のそのメイド服は魔法少女たちの衣装とあまり違わないと思うが──カスポンドは喉まででかかった言葉を飲み込む。

 

「話は聞いたわ! わたちにまかちぇなさい!」

 

 いきなり扉を勢いよく開けて五歳位の幼女が入ってきた。

 

「……まさか……カルカ……さま?」

 

 唖然とするレメディオスに幼女はニッコリと笑う。

 

「レメディオス、久しぶりね。ヤルダバオトに振り回されている内に精気が抜けてしまってこんな姿になってちまったの。お兄様、カルカは戻りました。魔法少女大戦への参加、わたちにお任せくだちゃいな」



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第十八話◆ブレイナの悲劇

「みんな聞いてくれ! あのシャルティア・ブラッドフォールンの正体は化けものなんだ! 嘘じゃない! 本当の事なんだ! 誰か! 誰でもよいから信じてくれ!」

 

 ブレイナの叫びは虚しく、通り過ぎる者達は誰一人として耳を貸そうとしなかった。

 

 無理もない。聖王国の人間にとってシャルティアはわざわざ助けにやって来た救世主たるマジカル☆ロリータのリーダーである。

 

(……せめてガゼフが生きていてくれたら信じてくれたものを……残念だ。)

 

 ブレイナことブレイン・アングラウスの言葉を信じてくれたであろうガゼフは既にこの世にいない。

 

(……そうだ。クライム君……もしくはラナー王女ならば俺の言葉を信じてくれるかもしれない。ここは一旦王都に戻るべきか……)

 

 ブレイナは夜を待ってリ・エスティーゼ王国に向かう事にした。

 

 

 

「……まいったな……」

 

 ようやくの思いでリ・エスティーゼに戻ったブレイナだったが、肝心のラナー王女への面会は多忙を理由に門前払いされてしまった。

 

 かつての知り合いを探してみようとしたが何故か周囲の視線が冷たい。

 

「……クライム君! 良かった。俺の話を聞いてくれ!」

 

 市場の雑踏でようやく見知った白い鎧を見かける。

 

「……アングラウス様……ええと、ブレイナ様、でしたか……僕に何か……?」

 

「良かった。クライム君。実はあのシャルティア・ブラッドフォールンがいたんだ」

 

 クライムは首をかしげる。

 

「シャルティア・ブラッドフォールン……ああ、シャルティア様ですね。それがなにかありましたか?」

 

 ブレイナはがく然とする。

 

「……だからシャルティア・ブラッドフォールンだ。俺が以前相対して手も足も出なかった化けものだ」

 

「ブレイナ様。シャルティア様を悪く言うのはやめてください。シャルティア様の後見人はあのセバス様ですよ?」

 

「……なん……だと?」

 

 ブレイナは頭を酷く殴られたかのようにフラフラとその場を立ち去る。

 

 そんな彼に周囲の呟き追い打ちをかける。

 

「……あの人は強さを求める為に男を棄てたのよ……」

 

「……チン切りしたんだって……」

 

「……本当はそういう趣味が……ガゼフ様はそれが苦痛で自ら命を……」

 

「──違うぅううぅ! 黙れぇええ!」

 

 ブレイナは走り去っていった。

 

 

 

「……探しましたよ。貴方がブレイン改めブレイナさんですね? 私はマジカル☆ロリータ親衛隊隊長のセラブレイトです。ロリータ☆アリンス様に対する不敬の数々を見逃す事は出来ません!」

 

 セラブレイトは剣を抜いた。対するブレイナは近くにあったモップを仕方なく構える。

 

(……クソッ。なかなか腕がたつ相手と見える。普段の得物なら互角に戦えるかもしれないが……クソッ!)

 

「『光輝剣ッ!』」

 

 セラブレイトが必殺技を放つ。刀身から光が膨れ上がり剣撃とともにブレイナを襲う。

 

 ブレイナは地面を転がるようにして避けると、モップを上段に構え──投げつけると脱兎の如く逃げ出した。

 

「──貴様! 卑怯だぞ! 逃げずに戦え! それでもかつてガゼフ殿に比肩するといわれた男か!」

 

 ブレイナは全力で逃げながら笑う。

 

(悪いな。もう男じゃないのでな……しかし困ったな……一体どうしたら……?)

 

 充分逃げきれたとおぼしき町はずれでブレイナは足を止める。

 

(……そうだ。“漆黒”のモモンだ! 彼ならばたしかホニョなんとかとかいう強大な吸血鬼の片割れをまだ探しているはずだ。シャルティアはきっとそのホニョなんとかに間違いないだろう。あんなに強大な吸血鬼だ。そう何匹もいる筈がない」

 

 かくしてブレイナはモモンがいる魔導国──エ・ランテルに向かうのだった。

 

 

 

「またしても一人足りなくなってしまったわ……」

 

 ラキュースが肩を落とす。

 

「よくわからないが、別に四人でも良いんじゃねえか?」

 

 ガガーランがとりなす。しかしラキュースは首をふる。

 

「……駄目だわ。五という数字には深い意味があるの。このまま四という数字ではいつかは闇世界の暗黒面に堕ちてしまう……なんとかしないと……」

 

「四人でも五人でも大してかわらない」

 

「でも、ショタ美少年なら加入歓迎」

 

 ティナとティアにとっては人数は大した問題ではないようだ。

 

「……駄目なのよ。四はとても縁起が悪いのよ? やはりどうにかして五人揃えないと……」

 

「じゃあよ、クライムでも加えるか? ……まあ、それは姫さんが許可しないか」

 

 マジカル☆ローズのメンバーは黙りこんでしまう。

 

「……ふふふ。どうやらわしの出番じゃな? 強えぇヤツと勝負したいぞ?」

 

 突然一人の老婆が姿を現す。彼女はリグリット。かつてイビルアイが加わる前に“蒼の薔薇”に在籍していたネクロマンサーだ。

 

「……泣き虫のかわりにひとつ力を貸そうか? ちょっとばかり暇をもて余していてな。なんだかワクワクするっぞ」

 

 唖然とするラキュースらにリグリットは楽しそうに笑いかけた。

 

 

 

 

「お待たせいたしました。だいたい話はつきました」

 

 マジカル☆ロリータの宿舎となっているホテルにセバスが戻ったのは夕暮れ過ぎであった。

 

「……随分遅かったでありんすな。で、話はついたんでありんしょう?」

 

 爪をヤスリで整えながら詰まらなさそうにロリータ☆アリンスが尋ねる。

 

「うむ? 話がついたとはどういう事かの? 妾にはよくわからぬが」

 

 ロリータ☆クイーンの言葉に他のメンバーも同意する。

 

「……実はデミウルゴス様とプレイアデスと打ち合わせをしてまいりました。我々マジカル☆ロリータとにゃんにゃん☆メイド隊とは決勝で当たるようにブロックを分ける事になりました。そして互いに勝ち上って決勝戦で相まみえる、という訳です」

 

「……それは構わんでありんせんが……大丈夫でありんすか? 我らが万が一はありんせんがプレイアデスにはちと荷が重い気がいたしんす」

 

「……マジカル☆ローズは私がいないからさほど脅威にはならないかもしれないが……あのハーフエルフは侮れないかもしれないな」

 

「……確かに彼女の魔力はイビルアイさんと同等です。あ、シャルティア様程ではなさそうでしたが……」

 

 アリンスの言葉にブルーとソルトが同意する。

 

「たしかタカマーチナノーハとかいう名前でしたな。おそらく偽名でしょうが……」

 

 セバスは何やら思い出した様子で大きな包みを皆に見せる。

 

「……そうでした。皆さんに新しい衣装を用意いたしました。早速着ていただけますか?」

 

 セバスがそれぞれのカラーの衣装を渡す。各自が身体にあわせて拡げてみると──

 

「──セバス! てめえ喧嘩売ってるのかぁ? ああん?」

 

 セバスが振り向くと怒りに燃えた紅い双眼があった。



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第十九話◆開戦前夜

「セバスぅ! これはどういう事だぁあ?」

 

 新しい衣装を身体にあててみたシャルティアが怒りに燃えた紅い双眼でセバスを睨む。

 

「どういう事でしょうか? 私にはなんのことか全くわかりませんでして……」

 

 対するセバスは涼しげな様子である。不穏な空気の中で誰かが震えるカタカタカタという音だけが妙に大きく聞こえていた。

 

 シャルティア──マジカル☆アリンスが身体の前に広げた衣装はVラインのセクシーな水着に透け透けなレースのパレオが付いた物だった。

 

「……ぐぬぬぬぬ……」

 

 マジカル☆アリンスは顔を真っ赤にしながら、でも次の言葉を出せずにいた。

 

 無理もない。この衣装ではパッドでごまかす事は不可能なのだ。しかしこの衣装を否定する為には自らパッドの虚乳を告白しなくてはならない。そしてそれが出来ない事をセバスは見越しているのだった。

 

 重々しい空気が永遠に続くかと思われた時──

 

「妾も一言よいかの……この衣装じゃが……ちいとばかり肌が見えすぎじゃと思うのだが……もし着るならこう……豊満な身体の方がな……」

 

 おずおずとロリータ☆クイーンが発言する。シャルティアを除く他のメンバーも首を縦にふり、同意する。

 

「……なんですと? それが良いのではありませんか? 発育途中の裸体を最低限隠しつつ陽の目にさらす。それこそが健全なエロスなのです!」

 

 セバスは拳を高く突き上げる。

 

「本来のロリータの魅力とは思春期の大人への階段を昇るわずかなひととき、その刹那の一瞬にこそ替えがたい魅力があるのです。良いですか? 蕾の持つ美しさはその内側に今まさに花開かんとするエネルギーが内在する生命の溢れんばかりな美しさなのです!」

 

 セバスは更に叫ぶ。

 

「本来、この思春期特有の美しさは芸術的にももっと社会的評価を受けるべきなのです。それをいつしか世俗的な視線により、あたかも性的未熟者の欲求を満たす為の要因であるかのように貶め、その純粋な美しさを愛でる行為を変態と同列に見なされているというのは何とも嘆かわしい事ではありませんか? 今こそ私は世に問いたいのです! ロリは正義であると! 可愛く美しいものを素直に認める事は決して間違っていないという事を! かつての賢人の言葉にこうあります。『貧乳は貴重だ! ステータスだ!』と。決して貧乳を恥ずかしがる必要は無いのです。いや、むしろ誇るべきなのです! その小さな膨らみには無限の可能性が詰まっているのですから!」

 

 セバスの演説に誰もが息をのんだ。しばらく静寂が続いた。

 

「……ううむ。セバス様がどうしてもと言う

ならば仕方あるまい。うん。私は着るぞ!」

 

 ロリータ☆ピンクがいきおい良く立ち上がった。それを見てクイーン、ソルト、ブルーも恐る恐る立ち上がる。

 

 そしてひとり無言のままのアリンスに微笑みかけた。

 

 

「……わ……私は……」

 

 マジカル☆アリンス──シャルティア・ブラッド・フォールンにとってこの衣装を着るという事はパッドとの決別を意味していた。

 

 やがて決意したアリンスは自らパッドを外す。他のメンバーが涙を浮かべながらアリンスを囲む。

 

「……ロリータ☆アリンス様。一緒に頑張りましょう!」

 

 ブルーがそっとアリンスの肩を抱いた。他のメンバーも頷く。

 

「さあ、私たちマジカル☆ロリータの新しい門出です!」

 

 マジカル☆ロリータは『ロリは正義』を旗印に結束を固めるのだった。

 

 

 

※   ※   ※

 

「わたちはローブル聖王国のカルカでちゅわ。お久しぶり、ですね」

 

 番外席次ことタカマチ・ナノーハは突然の幼女の訪れに身構える。

 

「心配いらないわ。あなちゃが法国からのまわし者、いや、法国の切り札だという事は誰にも言わないから」

 

 番外席次は無言で構えたロッドを降ろす。

 

「……どうやらカルカ聖王女というのは本当みたいね。しかし……よく私の正体がわかったものね?」

 

「……変装するならその髪と瞳の色は変えるべきだったわ。わたちはひとつ提案があるの。わたち達と一緒に組まないかちら?」

 

 カルカは微笑んだ。

 

「無理に、とは言わないわ。ただ……断るなら貴女の正体を評議国に伝えるかもしれないけど……」

 

 

 

 

 

「最終的に参加を決めたのは『マジカル☆ロリータ』、『にゃんにゃん☆メイド隊』の他は『マジカル☆ローズ』……これは王国のアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』のメンバーですね。そして『聖少女隊』。これはあの謎の魔砲少女と聖王女カルカ様、レメディオス殿、聖騎士見習いといった顔ぶれとなっています」

 

 ナザリック地下大墳墓のアインズの執務室に集まったメンバーにデミウルゴスが説明をする。

 

「『蒼の薔薇』ならその実力は把握している。プレアデスなら良い勝負をするだろうが……念のためセバス達との対戦にすべきだろうな。シャルティアがいれば問題ないだろうし、イビルアイもいるしな。気になるのはあのハーフエルフだが……」

 

 アインズは言葉を切る。

 

「アインズ様。かのハーフエルフならば私達で倒してみせます。ご心配はいりません」

 

 うやうやしくルプスレギナが膝まづく。

 

「……うむ。私も大丈夫だとは思いたいが……」

 

 アインズは逡巡してみせる。しかしながらルプスレギナの決意の前に首肯くのだった。

 

「では、よろしいですね。順当に進めば決戦は『マジカル☆ロリータ』と『にゃんにゃん☆メイド隊』とで行ない、勝者がヤルデバオト──憤怒の魔将と対決して勝利する。という事で」

 

「わかりました」

 

「お任せ下さい」

 

 デミウルゴスの言葉にセバス、ルプスレギナが首肯く。

 

「ところでデミウルゴス。憤怒の魔将は倒してかまわないのか? いや、傭兵システムを使用しているのならば勿体なくはないか?」

 

 アインズはデミウルゴスに尋ねた。

 

「アインズ様。大丈夫で御座います。決戦で使用する魔将は私が召喚しますので問題御座いません」

 

「うむ。では、みな、宜しく頼む」

 

 



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第二十話◆キーノの恋心

「まさかプレアデス──『にゃんにゃん☆メイド隊』が負けるとは……」

 

 セバスは厳しい表情でため息をついた。

 

「あのワンド……紅い珠から姿を変えるなどまるでアルベドのギンヌンガガブみたいでありんしたな。でも、せいぜい神器級(ゴッズクラス)といったところでありんしょう」

 

 不安げなマジカル☆ロリータのメンバーの中で唯一自信ありげな様子のシャルティア──アリンスが呟いた。

 

「アリンス殿の強さなら恐らく問題ないだろうが……あの強大な魔法は恐らく真の竜王にも匹敵する……そしてそれを可能にしているのはタレント……噂で聞いたことがある。伝説のタレント『タムーラユ・カ・リー』……」

 

 ピンクことイビルアイの言葉は震えていた。

 

「……私も師から聞いたことがあります。全盛期には敵がいない最強のタレントだったそうです」

 

 ソルトことアルシェが補足する。

 

「そんな事よりお風呂にでも入りたいでありんす。このホテルには素晴らしい施設があると聞いたでありんすが……」

 

「アリンス様。素晴らしかったですよ。なんでもジャグジーとかいう気持ちが良いお風呂が最高なんですよ」

 

 アリンスの問いかけにソルトが興奮して答える。

 

「では私はジャグジーとやらに入るでありんす。ソルトは一緒にくるでありんすか?」

 

「是非お願いします」

 

 アリンスは他のメンバーを見回した。

 

「他はどうするでありんす? 明日の決戦に備えて英気を養うべきでありんしょうが……」

 

「……私はろ、露天風呂とやらに行こうと思う」

 

 何故かピンクはモジモジしながら答えた。

 

「妾はゆっくり……バーとやらに行くとする」

 

 クイーンはどうやらお酒が飲みたいようだった。

 

「……私は少しでも皆さんの足を引っ張らないように修行をしてきます」

 

 ブルーは真剣な表情で答えた。

 

 無理もない。対マジカル☆ローズ戦ではアリンスとピンクの活躍が圧倒的だった為、ブルーを含めた他のメンバーには活躍する機会すら無かったのであった。

 

「わかりんした。ではそれぞれ楽しむとしんしょう。ソルト、私達は行くでありんす」

 

 アリンスはソルトを促して浴場に向かった。

 

 

 

 

「……おや? いかがなさいましたか? ピンクさん」

 

 セバスは自分の居室を訪れた人物を招き入れて、やや不思議そうに尋ねた。

 

「……あの、せばす様。このホテルにはろ、露天風呂があるらしくてな……あ、よ、よければ入るのはどうだろうか…………わ、私と……」

 

 ピンクの顔は真っ赤だった。

 

「むう。露天風呂ですか? なるほど。それは是非とも体験したいものですね。……ですが──」

 

 セバスはため息をついてみせた。

 

「私にはまだやらなくてはならない仕事が残っておりましてな……」

 

 セバスの言葉にピンクの表情はみるみるしぼんでいく。

 

「……そうか。すまなかった。邪魔をしてしまった」

 

 肩を落として出ていこうとするピンクをセバスが引き留める。

 

「……その……よければ私の手伝いをして頂けませんでしょうか?」

 

 セバスの言葉に振り向いたピンクは花が咲くように微笑んだ。

 

 

 

「……アインズ様。申し訳ありません」

 

 ナザリック地下大墳墓 第九階層 玉座の間に整列した戦闘メイド(プレアデス)はアインズに膝まずく。アインズは片手を上げて顔を上げさせる。

 

「……よい。今回の敗退は私にも予想が出来なかったのだ。むしろこの世界では破格の強者がいた、という事だ」

 

「……アインズ様。するとあのハーフエルフはやはり……」

 

 玉座の隣に立つアルベドの言葉をアインズが遮る。

 

「間違いない。プレイヤー、もしくはプレイヤーの血を引くものだろうな」

 

 アインズの言葉に一同は黙りこむ。

 

 ナザリックにとってプレイヤーとは守護者それぞれに苦い記憶がある存在であった。

 

「……しかし、だ。仮にあのハーフエルフがプレイヤーだとしても問題はない。プレイヤーが一人いた所でナザリックにとっての脅威にはならない。私が怖れるのはプレイヤー複数を敵に回した場合だ」

 

「アインズ様。どうか今一度私達にご命令を。二度と不覚はとりません」

 

 アインズはユリの顔をじっと見つめた。

 

「……うむ。しかしな……あの者はレベル八十はある。お前達にはいささか荷が重いだろう」

 

「……では、アインズ様。わたくしが……」

 

 アルベドがアインズの前に一歩進み出る。しかしアインズは首をふる。

 

「……いや、このままマジカル☆ロリータに任せようと思う。シャルティアもいるのだ。不覚はあるまい」

 

「──はっ。かしこまりました」

 

 戦闘メイド(プレアデス)が退出したあとでアインズは呟いた。

 

「……守護者最強のシャルティアがいるのだ。万が一にも負ける事はない。万が一にも、だ」

 

 

 

 セバスは熱い視線を感じて顔を上げた。

 

「……ロリータ☆ピンクさん、どうかしましたか?」

 

「………………」

 

 ピンクの顔は熱があるかのように紅かった。

 

「……イビルアイさん?」

 

「………………」

 

 セバスを見つめるイビルアイの紅い瞳にたちまち涙が溢れてきた。

 

「…………?」

 

「…………ちが……う」

 

「……何が違うのでしょうか?」

 

 イビルアイは小さくイヤイヤをするように頭を振ると消え入りそうな小さな声で、言った。

 

「…………キーノ、って呼んで」

 

 セバスはイビルアイの肩をやさしく抱いた。

 

「……わかりました。キーノ。……これが貴女の名前なのですね」

 

 イビルアイ、いや、キーノはこくりと頷いた。そしてセバスを見つめていた瞳を閉じると唇を尖らす。

 

 セバスもキーノの気持ちにあわせて顔を近づけていく。

 

 二人の唇が微かにふれ合った瞬間──

 

「大変です! アリンス様が! シャルティア様がいなくなりました!」

 

 扉を勢いよく開けてロリータ☆ソルトことアルシェが飛び込んできたのだった。



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第二十一話◆シャルティアの消失

「……むう。ここがアリンス、いや、シャルティア様が姿を消した現場ですか……」

 

 セバスと残りのマジカル☆ロリータの四名はローブル聖王国の首都、ホバンスに用意された魔法少女大戦参加者向けホテルのスパにやって来た。

 

 大きなプールの様なメインの浴場に付属していくつかのジェットバス──ジャグジーが並んでいる。

 

「……で、シャルティア様はこのジャグジーにつかっていたら突然姿を消した、というわけですか。……ふむ」

 

 セバスは眉間にシワを寄せる。

 

「……その場にいたのはどなたですかな?」

 

 セバスが見回すとピンク以外の三名がおずおずと手を挙げる。

 

「わかりました。では、調査の為に当時の状況を再現する事にいたしましょう。幸いこのスパは本日私が貸し切りましたので気兼ねはいりません」

 

 ブルーとソルトが洗い場の椅子に座り、クイーンは浴場の前で逡巡する。

 

「……私は湯に浸かっておったのだが……」

 

 セバスが突然首をふる。

 

「……違う……違うのです。……そうじゃない!」

 

 セバスはおもむろに両手を拡げて叫んだ。

 

「なぜ、貴女方は服を脱がないのです? 貴女方は服を着たまま身体を洗い、服を着たまま湯に浸かるのですか? おかしくはありませんか? 私は当時の状況を再現しよう、そう言いました。貴女はシャルティア様が姿を消した時に服を着たままだったのですか? 服を着たまま身体を洗っていたのですか? ブルー、いや、ニニャ。そしてソルト、いや、アルシェ。答えて下さい」

 

 ブルーとソルトは真っ赤になってうつむいた。

 

「……いえ……服は着ていませんでした」

 

「……すみません」

 

 セバスは二人の肩をやさしく抱いた。

 

「……わかっていただければ良いのです」

 

「……しかしの……どうせ肌を見せるならこんな平らな胸でなくドーンとある方が良いのではないかの? あんなものは大きいければ大きいほど良いのではないのか?」

 

 クイーンは少しばかり不満そうだった。

 

「……平らではありません。この乳頭付近のわずかな膨らみ……明らかな高低さではない控えめな起伏こそが『ワビサビ』という価値観たらしめるのです。さあ、皆さん、早く服を脱いできて下さい。……ああ、イビルアイさんも、です」

 

 イビルアイは思わずセバスを凝視する。

 

「せ、セバスさま……私はその時にいなかったのだが……」

 

「イビルアイさんにはシャルティア様の役をやって頂きたいのです」

 

 

 

 

「……準備が……出来た」

 

 戦闘メイド(プレイアデス)のシズに先導されて裸のマジカル☆ロリータが入ってきた。イビルアイはタオルで胸元を隠していたが、無情にもシズにより取り上げられてしまう。

 

「ふむふむ。これはなかなか……コホン。では当時の状況を再現してみましょうか。確かアルシェさんとニニャさんはこちらの洗い場で身体を洗っていたのでしたね」

 

 セバスの言葉に弱々しく頷いた二人は洗い場の椅子に腰かける。ふと、アルシェの鋭い目線がニニャの胸元に刺さる。

 

「……コホン。アルシェさん。ニニャさんの胸が貴女より発育しているからと反発するのはやめて下さい。こうしてこの場にいる貴女達だけでもそれぞれの胸の形、大きさ、色とすべてが異なっているのです」

 

 セバスは言葉を続ける。

 

「……そして私は慎ましい、小ぶりな胸が好きです!」

 

 セバスの声がスパに反響する。アルシェの顔がみるみる紅潮していく。

 

「わ、私は──」

 

「本当なのか? 私のような胸が、セバスさまは好きなのか?」

 

 アルシェの言葉はかき消されてしまう。

 

「……イビルアイさん?」

 

 振り替えるセバスの眼前に興奮したイビルアイが立ち上がる。

 

「……あ……」

 

 自らの裸身を恥ずかしがりイビルアイは思わずしゃがみ込む。

 

「……さて、私はこうして湯に浸かっておったのだが……」

 

 タオルを頭に乗せてだらしなく足を投げ出したドラウディロンにセバスが厳しい目をむける。

 

「……ドラウディロンさん。貴女にはもう少し恥じらいが欲しいものですね。せっかくの素材がもったいありません」

 

「──ハイハイ。その辺で次にいく。イビルアイはシャルティア役、ジャグジーに行く」

 

 シズがおもむろに指示を出す。

 

「……うん。えっと……あ!」

 

 ジャグジーの水流の中に突然イビルアイの姿が消える。セバスは素早く浴場に飛び込むとイビルアイを助け上げた。

 

「まさにシャルティア殿と同じだ……」

 

 蒼い顔をしたドラウディロンが震えながら呟く。

 

「……いったい……なにが……」

 

 力なく呟くイビルアイ。

 

「水の流れは吸血鬼の弱点。つまり、シャルティアは流されてしまった」

 

 シズが断言した。

 

 

 

 

「その後の調査により、スパの浴場の隅に頭が通る程度の排水口がありまして……シャルティア様はおそらく……」

 

「流されてしまった、か。わかった。すぐさまニグレドに探させよう。だが……そうなると明日の決勝戦には間に合わないな」

 

 セバスの報告を聞いたアインズはため息をつく。決勝戦に駒を進めた「チームローブル聖王国」の得たいの知れない強さ──恐らく過去のプレイヤーの遺産とおぼしきワンド『らいじんぐはあと』の圧倒的な強さに対してシャルティアがいないマジカル☆ロリータは圧倒的に不利に思えた。

 

「かくなる上はこの私が魔法少女として──」

 

「──それは得策ではないよ。セバス」

 

 セバスは声の主を睨み付ける。

 

「デミウルゴス様。何が言いたいのですかな?」

 

「実はあの、チームローブル聖王国なんだがね。先程更にメンバーを加えたいと言ってきたそうだ。そのメンバーというのはクレマンティーヌという女なんだが……」

 

「……うん? その女なら知っている。確かエ・ランテルでズーラーノンとかいう結社の幹部だったな。二本のスティレットを使いこなす……」

 

 アインズは疑問に思った。確かに彼女は人間としての強さはかなりの実力といえたが、セバスに対抗する程では無いからだ。

 

「アインズ様の疑問はごもっともかと。しかし今回現れたクレマンティーヌはワールドアイテムとおぼしき武器を持っておりまして……」

 

「……まさか、あの……歌いながら敵を虐殺しまくる……伝説の魔法少女……」

 

 デミウルゴスの言葉にセバスが反応した。

 

「……うん? ああ、セバス。むしろそっちの方ならまだ良かったのだがね。その武器は花が付いた弓でね、未確認情報では猫みたいな白い動物を連れていたそうだ。シズによると──」

 

「──人智を超えた神のごとき存在……全ての理は彼女には恐らく通用しない……究極のチート」

 

 シズが目を閉じて静かに答える。

 

「……そんな……そんな馬鹿な事が……」

 

「仕方がないさ。セバス。こうなったらマジカル☆ロリータの残りのメンバーの実力にかけるしか無いのだ」

 

 

 セバスはガックリと肩を落とした。

 

 ──全ては私の力不足。イビルアイさん、アルシェさん、ドラウディロンさん、ニニャさん。私は参加出来ませんが、貴女方にお任せいたします。ロリの灯を消さないため、頼みましたよ。

 

 

 

「……私に大切な話とは……いったい何事でしょうか?」

 

 呼び出しのメモを読んだセバスを待ち受けていたのはロリータ☆ピンクことイビルアイだった。

 

「……明日は大切な決戦があります。早く休んだほうが良いと思いますが……」

 

 突然、イビルアイがセバスに抱きついた。

 

「──!? イビルアイ、さん?」

 

「私の本当の名前はキーノ。キーノ・ファスリス・インベルンです。セバス様、私を女にしてください」

 

「──それは……しかし……」

 

「セバス様。王都で初めてお会いした時よりお慕いしておりました。せめて一夜だけで構いません。私の愛に答えて頂けませんでしょうか?」

 

 セバスは無言でキーノを見つめた。彼女の瞳には強い決意が浮かんでいた。

 

「……わかりました。私でよければお応えさせて頂きます」

 

 セバスはフワリとキーノを抱きかかえる。お姫さま抱っこの状態のキーノは静かに目を閉じる。

 

「……初めてなので優しくして下さい」

 

「……わかりました」

 

 セバスは優しくキーノをベッドに横たえた。

 

 キーノがかすかな声で呟いた。

 

「……これでもう思い残す事はない……」

 

 二人の夜は静かに更けていった。



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番外編◆シャルティアの受難

「……ほう。これはスゴいな」

 

 ナザリック地下大墳墓 第二階層〈屍蝋玄室〉の前に立つNPCを眺めた山羊の頭の悪魔は目を細めた。

 

「これがあのダンジョンのボスキャラの真祖がベースとはね」

 

「一応あの姿にもなれるけどね。やっぱロリ美少女でしょ」

 

 得意そうにバードマンが胸をそらす。悪魔はNPCのデータを開き唸る。

 

「……素晴らしい! さすがはエロ大王の異名をもつペロロン氏だ! こんな設定はなかなか思い付かないな」

 

 悪魔──ウルベルトの賛辞にペロロンチーノの翼がバサバサと羽ばたく。

 

「──だが、甘いな」

 

 ウルベルトはペロロンチーノの正面に立つ。

 

「このNPCには足りないものがある。それは……吸血鬼らしさが欠けているんだよ」

 

「……吸血鬼らしさ?」

 

「うん。そうだな……例えば『鏡に映らない』だの『日光が苦手』だの『十字架やニンニクに怯える』といった伝説を設定に加えるべきだとね」

 

 ペロロンチーノの頬が紅潮する。

 

「いいですね、それ。ウルベルトさん、もっと教えて下さいよ」

 

「あとは『家人の許可を得ないと家の中に入れない』とか『流水だと沈んで溺れてしまう』位かな?」

 

「面白いっすね。早速設定に加えてみます。もっともNPCは拠点の外には出れないから意味ないかもしれないっすね」

 

 ペロロンチーノは嬉々としてシャルティアの設定に書き加えていく。その時、一瞬だけシャルティアの瞳が山羊頭の悪魔を睨んだ事には誰も気がつかなかった。

 

 

 

 

「じゃぐじい、でありんすか?」

 

 シャルティアは興奮しながら説明するアルシェの言葉に首を傾げる。

 

 魔法少女大戦の会場があるローブル聖王国の首都ホバンスに用意された参加者向けのホテルに付属したスパに朝から行っていたアルシェとニニャに強引に連れられて来たシャルティアは小さくため息をついた。

 

「……まあ、お風呂は嫌いではないでありんして、その『じゃぐじい』とやらも試してみんしょう」

 

 シャルティアは浴場の一角の手すりで仕切られた場所に来た。既に湯に浸かっているドラウディロンが手を振って挨拶してきた。

 

 シャルティアが手すりをつかんで湯に浸かるとたちまち水流が吹き出しあっという間にシャルティアの姿が消える。

 

「!!!!」

 

 鉛のように浴場の底に沈んだシャルティアは水流に流され排水口に挟まる。

 

 ギュギュギュ…………スッポーーン!

 

 シャルティアは排水口を抜けて下水道を流れていくのだった。

 

「……なにが……ガボン! ヒュッ! なにが起きてる? グボボボ! あっ! ガボン! ガボン!」

 

 シャルティアは足掻くが身体が重く、すぐに沈んでしまう。

 

 どうやら水が流れている限りシャルティアにはどうしようもないようだった。幸いながらアンデッドなので沈んで溺死する事はないのだが、水流は治まる様子はなく、ひたすら流れていくのだった。

 

 ──すべてはあの男、ウルベルトのせいだ。

 

 シャルティアは苦々しく思う。あの時わが主ペロロンチーノ様に余計な事を吹き込まなければこんな災難にあう事はなかったのだ。

 

「……あぶ! ウルべるっ! アゲボ! コボッ! ゴボボボボ!」

 

 シャルティアはひたすら流されていく。

 

 途中で大きな配管から大量の排水が流れ込む合流ポイントでシャルティアは排水の渦に巻き込まれてしまう。

 

 ──なんなの! このヘドロの様な排水……そして耐えられない。この臭さ! 何故私がこんな目に……くそくそくそ!」

 

 ヘドロは容赦なくシャルティアの体にまとわりつく。おそらく魔法製品の製造過程で出た不要物なのだろうか。シャルティアはただただ鼻と口を手で覆いながら流されていく。

 

 ──そもそもスパにさそわれなければこんな事には……そうか。アルシェか。あの娘、私に恨みを持っていたのでありんしょう。理由はわからないが……もしかしたら何かあったのかもしれないでありんすな……

 

 シャルティアはだんだん落ち着きを取り戻してきた。

 

 ──流れが納まらない事には私にはどうしようもないでありんす。こうなったら現実逃避とやらで乗りきるでありんす。

 

 『現実逃避』──かつてペロロンチーノが日常の三分の一を費やしたという、究極の時間の過ごし方でありかつ、万能の護身術。

 

 シャルティアは目を閉じて静かに記憶を辿る。かつてアインズに椅子の替わりとして腰掛けられた至福の時間を思い出す。

 

「……くふふ。はアインズ様……んんんん……ハァハァハァ……んっく…………んんんんんんん……」

 

 シャルティアは悶えながら流れていくのだった。

 

 

 

 熱が覚めてみるとただ、虚しいだけだった。

 

 シャルティアは相変わらず流されていた。水流はいまだ変わらず、シャルティアにはなすすべがない。

 

「……そうでありんす。アルベドがヤツメウナギとさけずんでおりんしたが、あの姿になれば泳げるんではないでありんす? 試してみる価値はあるのでは……」

 

 シャルティアは考える。……どうしたら真祖の姿になれるか?

 

 『血の狂乱』を発動させるには浴びるような量の血液が必要である。しかし、下水道にはただでさえ生物がすくなく、かつ、シャルティアは流されていて何も出来ない。

 

 ……駄目か。

 

 シャルティアは潔く諦めるのだった。

 

 

 

 それから長い時間が経った。シャルティアは依然として流され続けている。

 

 ふと、シャルティアは周りの様子に見おぼえがある事に気づく。同時に愕然とする。

 

 どうやらシャルティアが流されている下水道は円を描くように繋がっているらしい。つまり、シャルティアは永遠に流されていく可能性があるのだ。

 

 ふやけてしまった両手を胸に組み、シャルティアは祈る。ナザリックから早く救援が訪れる事を。



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最終話◆決戦! 魔法少女大戦

「ディバインバスター!」

 

 とてつもないエネルギーの束がマジカル☆ロリータに襲いかかる。

 

「……くっ……このままでは……」

 

 ソルトは唇を噛みながらピンクに振り返る。ピンクは頷き、ブルーとクイーンに合図する。

 

 相手チーム『聖幼女戦隊カルカン』の白黒のツインテール少女の魔法攻撃は予想以上に激しいものだった。他の二人はたいした脅威ではなかったが、タカーマチの強さはおそらくアリンス──シャルティアと互角に思われた。

 

 縦横無尽に暴れまわる白き悪魔に対してブルーとクイーンが攻撃をしかける。ピンクは身を隠しながらタカーマチの背後へと移動する。

 

 タカーマチの虚を突いてピンク──イビルアイことキーノが接近して自らのスキルを発動させる。

 

 白い光に包まれたキーノがタカーマチに抱きつき、共に閃光に包まれていき──

 

 

 

 

「……あのハーフエルフは強い。プレアデス──にゃんにゃん☆メイド隊ですら歯が立たなかった」

 

 マジカル☆ロリータの会議室でシズが静かに分析する。

 

 メンバーには言葉がなかった。無理もない。大会での優勝候補の一画を担うにゃんにゃん☆メイド隊が負け、しかもマジカル☆ロリータにはエースのアリンスがいないのだから。

 

「……ゴホン。……その……クイーンは真の竜王にのみ使える原始の魔法が使えると聞きましたが、どうでしょうか?」

 

 セバスの問いかけにクイーンは静かに首をふる。

 

「……無理ね。あれには万単位の犠牲が必要だし、それに私には真の竜王の血がさほど濃くないから威力もどうだか……」

 

 一同はまたしても黙りこむ。

 

 いつまでも沈黙が続くかと思えたその時──

 

「……ひとつ質問がある。あの聖幼女戦隊の強さはどこからくるのだろう?」

 

「……個別スキルかワールドアイテムだと思う。おそらく他の平行世界に存在する別の人格を再現するのだと思われる。あのタカーマチというのは博士のデータバンクにあった。魔砲少女とか管理局の白い悪魔といわれる危険な存在……」

 

「……もしも、もしもですが……それがスキルならなんとかなるかも……」

 

 ピンクが自信なさげに話す。

 

「──本当ですか? キーノ」

 

「「──?キーノ?」」

 

 突然のセバスの言葉にメンバーは面食らう。

 

「……ああ、いや、その……私の本当の名前がキーノというのだ……」

 

 ピンクの顔は真っ赤だった。

 

「……キーノ。せっかくですから皆さんにお話ししておきましょう。私とキーノさんは、いわゆる男と女の関係なのでして──」

 

 

「「えーーー! ま、マジ?」」

 

 

 

 

「──と、いうわけです」

 

 セバスが簡潔にキーノとの関係を説明する。

 

「……あの……セバス様は……その……」

 

 ドラウディロンがおずおずと口を開く。

 

「……セバス様は……一人で満足、いや、その……出来るのか? ……たとえば私ならペタンコとバインバインの両方が……その……楽しめると思うが……」

 

 セバスはじっとドラウディロンの顔を見詰めて、小さく首をふる。

 

「……今はまず魔法少女大戦を勝ち進む事だけを考えましょう。その後の事は『聖幼女戦隊カルカン』に勝ってから、それでよろしいですね?」

 

 セバスは毅然とした視線でメンバーを見渡す。彼女たちは黙って頷くのだった。

 

「……さて。話を戻しましょう。キーノ、貴女には何か策があるようですが?」

 

「……相手の強さの秘密が固有のスキルならばなんとかなるかもしれない……」

 

「それは本当ですか?」

 

 キーノは静かに頷く。そして彼女は自らの過去を語り始めるのだった。

 

 

 

 かつてキーノはインベルノ王国の王族に生まれた。そしてある日、王国は崩壊し、キーノを残しすべての生き物はゾンビとなってしまう。

 

 キーノ自身も吸血姫というアンデッドになってしまったのだが、それはどうやら彼女自身の固有スキルのおかげだったようだ。

 

 長年調べてわかったのは、キーノの固有スキルは何らかしらの固有スキルが発動した際にそのスキルを自分のスキルとして発動出来るものらしい、という事だった。

 

 つまりキーノが吸血姫になったのは『一つの国の住民をアンデッド化してしまうスキル』を発動した何ものかのスキルをキーノ自身も発動したから、というわけである。

 

 だから、仮に『聖幼女戦隊カルカン』の魔砲少女の強さが固有スキルであるならばキーノもそれを使用可能かもしれない。しかし、その場合は──

 

「……キーノさん。貴女は意思を持たぬゾンビとなってしまうのではないですか?」

 

 セバスの問いかけに対してキーノは無言だった。しかし、その無言が答えであると皆、理解していた。

 

「……すべては……セバス様の為……私はどうなっても……かまわない」

 

 キーノの眼には涙が溢れていた。

 

 そう、すべては愛のため……

 

 

 

 

 

 戦いの最中にキーノはスキルを発動させる。キーノとタカーマチの身体を包んだ白い光は拡がっていく。

 

「……こ、これは……ち、ちまった!」

 

 危険を覚ったカルカが逃げようとするが、もう遅い。

 

 カルカも光に包まれていく。

 

「……これでお前たちの固有スキルは私の手の中だ。相手が悪かったな」

 

 勝利宣言するキーノの胸に白い光は吸い込まれていき、やがて消える。

 

「……これで……わたしたちの……かち……」

 

 キーノの身体がゆっくりと崩れる。

 

「──ピンクーー!」

 

 駆け寄ったニニャに抱き起こされてキーノはゆっくりとタカーマチを指さす。

 

「……これで……」

 

 口もとに微かに笑みを浮かべてニニャの胸もとに顔を埋めるキーノ。

 

「……どうやらスレイン法国の至宝『セイユウ-マ-イーク』は無事だ。なんだったのだ? 固有スキルがどうとか……」

 

 タカーマチが身体をはたきながら立ち上がる。

 

「……あの女の顔、ツヤツヤなっている! わたちのシュキル、泥棒ちたのね! ゆるちゃない!」

 

 カルカの小さな身体が怒りの炎にそまる。カルカの言う通り、キーノの肌はツヤツヤになっていた。

 

 ニニャ、アルシェ、ドラウディロンはキーノを守るように前に立つ。しかしながら彼女達にはもはや打つ手はなかった。

 

 キーノの捨て身のスキルも不発に終わり、もはや『聖幼女戦隊カルカン』の勝利は揺るぎないものに思えた。

 

「これで終わり! 『スターライトブレイカー』」

 

 タカーマチのステッキから高出力エネルギー弾が発射される。

 

 マジカル☆ロリータはかろうじて身をかわした。

 

「諦めないで下さい! ロリータは正義なのです!」

 

 ステージの下からセバスが叫んだ。

 

 と、次の瞬間、奇跡が起きた。

 

 先程タカーマチが放ったエネルギー弾が一周して戻ってきたのだった。しかも、その速度は加速されており──

 

 

「グワー!」

 

 『聖幼女戦隊カルカン』は星になった。

 

 

 

 

「セバス様。やはり行くのですね」

 

 キーノを背負った旅支度のセバスをニニャ、アルシェ、ドラウディロンが見送る。

 

 意思を持たないゾンビとなってしまったキーノを元に戻す方法を求めて、セバスは旅に出る。

 

「……可能性は僅かだがある。真の竜王のどれかにキーノのアンデッド化の原因となったものがいるらしい。さらにこの世界の何処かに魔王のスライムがいて、取り込んだ相手の能力を自分のものに出来るらしい」

 

「……スライムの魔王、ですか……」

 

「……そのスライムは人の形をしていてボブゴブリンやハイオーガを従えているらしい……と、博士のデータにあった」

 

 セバスはシズに頭を下げ、背を向けると歩き始める。

 

 どれ程の時間がかかろうとも、きっとキーノを元に戻す。それがキーノが捧げてくれた愛に応える道なのだ。

 

 セバスの旅はこれから始まる。

 

 

 

 

 ─────────完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で……どうしたら?」

 

 ヤルダバオト役の憤怒の魔将は呆然としていた。

 

 魔法少女大戦の途中でなんとなく良い感じで終わってしまって、出番がなくなってしまったのだった。

 

「……仕方ない。今さらセバスに戻って来いとも言えないしな」

 

 アインズもまた、ため息をつくのだった。

 

 

 

 



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