東方博麗伝説 (最後の春巻き(チーズ入り))
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巫女、始まり

久々に筆を取り、心のままに書き上げた。
完結まで頑張れるといいなー。




 

 前世持ちの博麗霊夢だけど、何か質問ある?

 

 ちなみに前世は男の子である。

 息子は前世に置いてきた。残念ながら不肖の息子は一度も実戦を経験することなく、私と永遠に離れ離れになってしまった。……予習は沢山シてたのにね、可哀想にね。

 

 一度死んだ影響というやつなのか、どういうわけか前世の記憶というものはかなり薄まっており、朧気になっている。

 ただ、自分が自他共に認める東方ダイスキーだった事、東方のために人生の大半を捧げた勇者であった事。

 そして、仕事の収入どころか全財産も何もかも東方につぎ込み続け、その果てに過剰な自慰によって、PCの前で下半身丸出しでテクノブレイク*1を起こして死に絶えた、小っ恥ずかしい残念人間だった、という悲しい事実だけは覚えている。

 前世の死因を思い出す度に、喉を掻き毟って死にたくなるのは此処だけの話だ。

 

 前世の自分の名前は何だったのか? どういう性格だったのか? どういう交友関係を持っていたのか? その辺は全く思い出せない。

 まぁ思い出したところで、ティッシュで丸め込まれた精○並に役に立たないからどうでもいい。最早何の生産性もないし、博麗霊夢として今世を生きている私には関係のない話だからだ。

 

 一つだけ不満があるとすれば、世界三大美人すらも遥かに上回る超絶美少女の博麗霊夢をこの手で愛でることが出来ないことだ。

 

 何てったって、私自身が博麗霊夢なんですもの。

 

 せめて双子設定だったり、霊夢の兄、もしくは弟設定だったりしたら、存分にあーんなことやこーんな事が出来た筈なのにね。本当に残念極まりない事だよ。

 別に私自身のパァァァ→フェクトォッ↑ボディィィィ↓(とても大事な事なので強く主張しています)を弄っても良いのだが、それではただのマ○ターベーション*2である。確かに気持ちは良いだろうし、興奮もするだろうが、あんまり楽しくないし、何よりも虚し過ぎるだろう。

 

 どうせ弄るなら、自分の身体よりも他人の身体の方が良いに決まっている。

 自分の身体ではなく、他の美少女の身体を弄ったほうが何億倍も楽しい。美少女が私の手で乱れて喘ぐ姿は大変目の保養になるし、何よりも私の性的興奮が満たされる。

 私の心のマーラ様が叫んでいるのだ。美少女を、美少女を寄越せ、沢山の美少女を寄越すのだと。

 

 これまでの私の言動から誰もが察しているかもしれないが、私は所謂ガチレズというやつである。女として生を受けた身でありながら、同性の美少女しか恋愛対象としてみることが出来ない。

 キレッキレのムキムキマッチョより、ふわふわでむちむちの女体。反吐が出る腐れイケメンより(極々一部を除く)、涎が出る美少女が大好きだ。

 まぁ前世の影響もあって、中身がある意味で男みたいなもんだから仕方ないのである。

 この私の歪みは前世の記憶、より正確には博麗霊夢になる前の私が蓄えた知識が主な原因である。

 私の記憶にある知識は、大きく分けると二つに分類出来る。

 人間らしい普通の知識と、なんだァ? てめェ……と言いたくなるマジキチな知識だ。

 

 \ブトイウヨリハマイ、ブトウダナ。シカシナゼイシヤキヲ?/

 

 独○、キレた!……ハゲダンサー*3乙。

 普通の知識は、人間が生きる上で欠かせない常識やマナー。箸の使い方や挨拶の仕方。一般的な社会人が必要とする教養。愛すべき東方projectに関する知識。アニメや漫画、ゲームなどに関する知識などである。

 コレだけ見れば有用な知識であり、二回目の人生を生きる上で大きなアドバンテージになるだろう。特に東方projectに関する知識は、この幻想郷を生き抜く上で圧倒的アドバンテージになる事は言うまでもない。

 

 そして、問題になるのが他の知識、さっきも言ったマジキチな方の記憶である。

 知識に対して具体的にタイトルを付けるなら……『誰でも出来る! 今日から君は殺人鬼』、『狩りの美学(殺)』、『動物調教術(人型編上巻〜恐怖で縛ろう〜)』、『右の頬を打たれたら、相手の鳩尾を抉り抜きなさい』……などなどあまりにも物騒極まりない殺しなどに関する知識。

 『誰ともヤれる! 今日から君はハーレム王』、『狩りの美学(性)』、『動物調教術(人型編下巻〜依存させてみよう〜』、『右の胸を触ったら、相手の゚ピ――ッをピ――ッしなさい』……などの明らかにアレな事に関する知識。

 いやいや、出版社何処だよ。何でこんな物騒でアレな知識があるんだよ。前世の私は一体ナニになろうとしていたんだよ。完全にシリアルキラーな性犯罪者ルートじゃねぇかよ、バカヤロウこの野郎。

 

 前世の私が一般的な思考をしていなかったことは確定的に明らかである。殺人鬼で性欲魔神とか、本当に全く以て救いようがない。死因は引くほど残念だったけども。……テクノブレイク、童貞、うっ頭ががが。

 前世の私が奇行種過ぎて、私のぽんぽんがストレスでマッハな件。

 

 こんな感じでぶっ飛びすぎた知識が頭の中に埋め込まれていたのだ。多少なりとも、今世の人格に影響を及ぼすのも納得できるだろう? ね?

 逆に考えて、こんなまともじゃない知識があって、殺人ダイスキーな人間になっていないだけマシだと思って欲しいものだ。……代わりに、性的な部分でのタガがぶっ壊れてしまっているが、些細な問題なんや、些細な問題なんやで。

 仕方ないやろ、変に知識があるせいで、自分のいる世界が美少女溢れる夢の様な世界だと知ってしまった上に、そういうアレコレに関する知識が無駄に豊富なせいで、乱れる狂う美少女の姿を容易に想像出来るんだもの。

 今の私の妄想力なら、例え初対面の相手でも、それが美少女であるなら脳内で簡単にR指定状態を作り出すことが出来るだろう。

 まぁいくら妄想できても、今の私にはモノが無いから突っ込むこともままならないんだけどね。……将来的には竹林の名医であるおっぱいえーりん辺りと交渉して、バベルの塔を建設する予定。それもただのバベルの塔ではない、長さと太さは変幻自在で、私の霊力が続く限り何度でも波動砲(比喩表現)をぶちかませる仕様にするつもりである。

 いやー原作の博麗霊夢としての面影が全く無くて非常に申し訳ないわー。自分の欲望に正直で本当に申し訳ないわー。

 欲望に勝てないのが人間の性だから諦めて許してほちぃ。

 

 そんな私の前世の記憶が覚醒したのは、五つになって間もない頃。

 ある人物との出会いが切っ掛けで、私は前世の記憶を思い出したのである。

 

 視界に広がる荘厳な神社の光景。柔らかい日差しに照らされて、神秘的な雰囲気を纏った神社──博麗神社。

 そんな幻想的な雰囲気を醸し出す博麗神社を背景に、私に向かって手を差し伸べていたのは、見惚れるほどの胡散臭い笑みを浮かべた、綺麗な金髪のデカパイちゃんねー。……つまり八雲紫さんじゅうななさいであった。

 

 そのふつくしい微笑みを見た瞬間、私の脳内で溢れ出した記憶。まるで決壊したダムの様に、私の知らない記憶がどんどん頭の中に溢れ出していった。

 膨大な前世の記憶が思い出されたことで、脳髄を直接ぶっ叩かれているかの様な激痛に苛まれる頭をそのままに、紫の手を取ったのを覚えている。私の手を包みこんだ柔らかさを、すべすべした肌の感触を覚えている。

 

 覚 え て い る

 

 正直ペロペロ舐め回したいとか考えてました、はい。我慢できなくて、ほっぺたスリスリしたけども。

 そのお陰で、脳みそシェイクの痛みなんて一瞬で吹き飛んだ。そんな余計な事に脳のソースを使うくらいなら触れていたときの感触とか、匂いとか諸々を脳の記憶領域に焼き付けていた方が、遥かに有意義に決まっているからである。

 当然ながら記憶を思い出したと同時に、私の性癖がぶっ壊れてしまっていたのは言うまでもない。……私の今世での性の目覚めは、ゆかりんだったのである。幼女でありながら、若干下着を濡らしてしまったのは大きいお友達と、私だけの秘密だ。

 

 このゆかりんとの邂逅から、私の博麗霊夢としての人生は始まったと言っても過言ではない。

 前世含め、何の面白味もない日常から、ファンタジー溢れる、美少女いっぱいの日常へと足を踏み入れたのである。

 ゆかりんは私に博麗の巫女になるための修行を課した。

 霊力の使い方、式の使い方、結界の作り方、弾幕の避け方、妖怪との戦い方、能力の使い方、と様々な事を私に教え込んだのである。

 修行の合間合間に、どさくさに紛れて色々とタッチしたり、弄ったりした。……子供ってこういう時便利よね。しかも私、同性ですしお寿司。ゆかりんの警戒度が低いのなんのってゲヘヘへ。

 

 修行自体は全く苦ではなかった。ゆかりんが私に対して少ーしばかり、いや、かーなーり過保護過ぎていたのもあるけど……何より毎日が新鮮で楽しかったからである。

 特に過保護なゆかりんと、同じ湯船に浸かったり、一緒のフートンに入ったりするのは非常に心がオドル体験だったわ。

 ねぇ知ってるぅー? ゆかりんは無意識に人を抱き枕にするんだよぉー。私の頭を抱え込んで眠るものだから、やわっこい感触が幸せ過ぎて呼吸できなくて死ぬかと思ったよぉー。……ゆかりんの初めて貰うまで死なねぇけども。

 

 ゆかりんへのセクハラ七割。真面目に励むこと三割の修行をこなすうちに、私は原作の博麗霊夢が努力することを放棄していた意味を理解した。……いや、せざるを得なかった。

 博麗霊夢とは才能の塊だった。頭の出来も肉体も、何もかもが人の域を超えていた。

 一の努力で十の、百の結果が返ってくる。人間という種族の中において、最高峰とでも言うべき才能、それが博麗霊夢という人間には備わっていたのだ。

 だから彼女にとってみれば、努力とはただただ時間を浪費するだけの無駄なものに感じたのだろう。何故なら、他人と違って、少しやれば何でも理解できて簡単に熟すことが出来たからである。

 だが、私は原作の彼女とは違い、修行を怠けたり努力を放棄することはしなかった。

 何故なら、私が博麗霊夢を、主人公を育てる事が出来るからだ。原作でも魅力的な存在だった博麗霊夢、その本人の無関心さとは裏腹に、周囲の心を掴み、いつの間にか皆の中心にいる少女。

 そんな彼女を自分が育てることが出来る。自 分 好 み に育て上げることが出来るのだ。

 つまり原作の博麗霊夢以上により幻想的で魅力溢れる、美しい少女に成長させることも可能であるということだ。

 別に私はナルシストというわけではない。ただ鏡さえあれば、自分が育て上げた究極の美少女が乱れる姿を拝むことも出来るという事に気付いただけだ。……最早、自分自身の身体にすら欲情する始末である。はいはい、手遅れ手遅れ。

 そして、何よりも重要なのは原作以上の実力を身につけることも可能である、という点だ。

 

 博麗霊夢主人公 は 幻想郷にて 最 強誰にも負けてはならない

 

 それを崩すわけにはいかない。中身が私の様な俗物の紛い物だったせいで、原作以下の実力しか無いなんて事態になったら、原作の博麗霊夢に申し訳ない。ならもう強くなるしか無いだろう。

 博麗霊夢は最強。博麗の名を持つ以上、私に敗北は許されない。

 そ れ に 強い存在には必ず美少女が寄ってくるとも言うしね。偉い人も言ってたし、古事記にもそう書いてある。ダカラ、オデ、ツヨク、ナル。ハクレイ、ツヨク、スル。

 

 私は頑張った、それはもう頑張った。頑張り過ぎて、頑張った。頑張った結果、超頑張って頑張れたのが頑張れる……頑張ったゲシュタルト崩壊現象である。

 前世のアニメやゲーム、漫画を参考にした修行で基礎能力を徹底的に鍛え上げ、ちょっとアレな知識などから魅力溢れすぎる美貌を引き出す方法を学び、磨き上げ。おまけに殺しの知識で敵対者の排除、無力化の術を学んだ。

 そのついでに一度触れば相手のどの部分が一番感じやすいのか、一瞬で把握できたりする技能と、相手の感度を瞬間的に千倍に引き上げる力を手に入れた……対魔○*4乙。

 

 その結果……

 

「博麗様だ。今日もお美しい」

「博麗様ぁぁぁ俺だぁぁぁ結婚sグワァーッ! ナニスルダァー!?」

「我ら」

「博麗様を」

「「見守り隊!」」

 

 博麗霊夢()は人気者になっていた。

 

 ちょっと人里を訪れただけで、お祭り状態である。その様子、まるで某人気アーティストが某空港に訪れた際のファンの反応そのものである。

 ネコを被りに被りまくった結果がコレだにゃー。皆私を聖人のようにゃ巫女だって呼んでるにゃー。中身が鬼畜外道にゃ変態レズビアンだにゃんて夢にも思ってにゃいにゃー。……にゃーにゃーうるせぇよ!(←アホ)

 

 えっ、何これ、こわ。

 気付いたらこんな風になっていたでござるの巻。拙者も何が起こったのか分からないのでござる。誰か説明を、説明をするでござるよ。

 周囲が人で溢れかえり、私が一歩進めば、ただそれだけで人垣が割れる。

 視線を向けるだけで、誰もが喜びの声を上げて笑い。微笑みを浮かべれば、必ず誰かが気絶する。……酷いときには心停止で永遠亭に運び込まれる者もいる始末だ。……私の人気で、人里の住人の寿命がマッハな件について。

 

 どうして私がこんな爆発的な人気を博しているのか、というと。先に述べた通り、ネコを被りに被りまくって、人里で妖怪退治やら何やらをやりまくったからである。

 

 東で誰かが妖怪に襲われていたなら、退治しに行き。

 

 西で誰かが困っていたなら、助けに行き。

 

 北で飢えに苦しむ誰かがいたなら、食事を用意し。

 

 南で喧嘩があったなら、仲裁に入って仲直りさせた。

 

 他にも寺子屋で子供達に文字の読み書きを教えたり、某稗田家の手伝いで幻想郷の妖怪への対処法を教授したり、外界から迷い込んできた人間を送り返してあげたりと、まぁ思いつく限りの善行を積みまくったのである。……これには地獄のヤマザナドゥもニッコリだね。

 

 その結果が、このアイドルもかくやと言わんばかりの人気ぶりなのである。

 色々と献身的に接し続けたお陰で、寺子屋の講師、ワーハクタクのけーね先生とも仲良くなれたのは一番の収穫と言っても良い。

 けーね先生、もとい上白沢慧音は人間とハクタクという妖怪の間に生まれた半人半妖である。満月の夜になると、角が生えケモミミになるという萌えポイントを持っている人里の守護神ちゃんで、その真面目な気質から融通の利かない所もあったりするが、正義感が強く頼りになる。

 何よりもポイント高いのが、幻想郷では希少種である教師属性を持っているという点である。

 是非とも密室で二人だけの特別補習をお願いしたいのであります。

 けーねてんてー! 私に保健体育をおせーてー! みたいな?

 

「ああ、おはよう諸君」

 

 薄い微笑みを浮かべつつ、優雅に手を振る。……おいおい、誰だよお前って、私じゃねぇか。

 余裕に満ち溢れた偉そうな態度。常に優雅に底の見えない笑みを浮かべている。淑女の模範とも言うべき巫女(客観的な評価)。……嘘みたいだろ? これ、私なんだぜ。

 

 息を吐くように下ネタを垂れ流す変態の極みである本性を覆い隠すために、私は自分を偽って生きることにした。その集大成こそが、この『博麗霊夢、覇王モード』である。

 前世の記憶に紛れていたあらゆるアニメ、漫画、ゲームなどに登場しているラスボスクラスのキャラクターを参考に磨き上げた究極の強化外骨格。……即ち本性を覆い隠す仮面だ。

 効果は至って単純、私の下衆下衆しい本性が表に出ないように、ガッチガッチに固めた覇王的な仮面で覆い隠すだけである。

 例えば、私が「ゆかりん今日もおっぱいデカイね。揉んでいい?」と言うとする。だが、実際には「紫、お前はいつ見ても美しいな。……まるでこの幻想郷の様に」と、言葉が強制的に変換されるのである。

 また、さりげなーく尻を鷲掴みにしようと手を動かしても、相手の腰を引き寄せて、少女漫画的なドッキドッキが止まらない展開に持って行ったりするのである。

 

 私がどれだけエロいことをしようとしても、自動的にカッコイイ覇王お姉さん的な動作に変換してくれるモード。……これのお陰で私は誰にも侮られることもなく、逆に周囲の畏怖と尊敬を集めるほどの圧倒的なカリスマを得ることが出来たのである。

 

 だが、一つだけ、一つだけ問題がある。

 私にとっては死活問題と言っても過言ではない、大きな問題があるのである。

 自分で演じ始めたのにも関わらず、私はこの外骨格を外すことが出来ない。まるでRPGに登場する一度装着したら二度と外すことが出来ない呪いのアイテムのごとく、外すことが出来ないのである。

 何処にいても、誰と話していても覇王的な態度しか出来ないし、一人でいる時も一切この状態を崩せない。

 

 つまり、私はエロいことが出来ないのである。自分からゆかりんにボディタッチ(性的に)することも出来ないし、そういった行動を起こすことも出来ない。それどころかマ○ターベーションも出来ない。

 日常的に美少女と触れ合う機会があるというのに、溜まりに溜まった性欲を発散させる術がないのである。どれだけ、頑張っても無理だった。自分で演じ始めたのに、やめられないとまらない、にとりの海老せんとはこれ如何に。

 凄い勢いで欲望は溜まっていくのに、それを一切発散できないため、日々を悶々として過ごしている。ナニもしていないのに、常に一部分がぐちょぐちょに濡れてしまっているのは博麗の巫女と君だけの秘密だ。

 

「はっ、はっ、はっ、博麗様ぁ! よっ、ようこそそおこしくだささいまましたぁ!」

 

 緊張感を隠せない様子で、私と向き合う店主(未亡人、子持ち、そこそこ美人)。

 足がガタガタ震えて重度のマナーモードになってるし、気を抜いたら今すぐにでも倒れてしまいそうな勢いである。

 お、おう、なんかすまんな。買い物したらすぐに去るから、もうちょっとだけ頑張ってな?

 こんな有様だから、私は月一程度にしか人里には訪れない。……主に人里の人たちの心身の健康の為に。

 本日は、新しく服を作りたいから布類を買いに来た。金銭はゆかりんから依頼された妖怪討伐の報酬なんかでそこそこの収入があるから、全く問題ない。むしろちょっとやそっとの散財程度では揺るがない程度には金持ちなのである。博麗の巫女は貧乏ではない。貧乏ではないのである。

 

「ほっ、ほほほっ、本日はありがとうごごございましたぁ!」

 

 もういっぱいいっぱいになっている店主に少しだけ料金を上乗せして会計を済ませ、店を後にする。

 店を出たと同時に後ろの方でドシャッって何かが崩れ落ちた様な音が聞こえたけど、もう毎度のことだから気にしないでおく。

 まったく、わたしのかりすまにもこまったものね!

 

「おーい、霊夢ー!」

 

 私を呼び止める声がする。背後を振り返ると、そこには一人の少女がいた。

 可愛らしい魔女帽子、黄金色の猫のような瞳に太陽を思わせる金色の髪。輝かんばかりの笑顔で、私に手を振りながら駆け寄ってくる少女。

 彼女の名前は霧雨(きりさめ)魔理沙(まりさ)。よく二次創作などで百合ネタに使われている「弾幕はパワーだZE☆」で有名な女の子である。

 活発的で元気いっぱい、常に笑っている笑顔が可愛らしい魔女ッ娘で、その能力は『魔法を使う程度の能力』。主に砲撃魔法などを得意とする生粋の固定砲台である。

 私と一緒に修行したりする内に、色々と砲撃のバリエーションを増やしていき、今では何処ぞの管理局の白い悪魔を彷彿とさせる魔力砲撃の達人になってしまった。

 ちなみに約束された星の破壊(スター◯イトブレイカー)*5はまだ教えていない。教えてないったら、教えてない。

 ちなみに私は心の中で尊いと愛情を込めて魔理沙たんと呼んでいる。可愛い親友だからね、愛称は必須だろう。

 

 私と魔理沙たんは原作と同じ様に……いや、むしろそれ以上に親友である。

 具体的にどれだけ親友かと言うと、一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂に入って、一緒にお布団で抱き合いながら、スヤァ出来るくらいの仲である。

 魔理沙たんは私の嫁! 異論反論は認めない、むしろ口出ししたやつは消し炭にしてやるのでヨロシクゥ!

 

「魔理沙か、今日も元気が良いな」

「元気は私の長所の一つだからな!」

「それで、何の用だ?」

「昨日の夜に新しいスペルカードが完成したもんだから、霊夢に見せてやろうって思ってな! 神社の方に行っても誰もいなかったから、取り敢えず人里まで飛んで来たってわけだ」

「はぁ、その行動力はお前の美点だが、もし入れ違いになったらどうするつもりだ」

「その時はその時で考えれば良いし、霊夢だったら人里にいるだろうなって何となく分かったからな!」

 

 ニシシッと満開のひまわりの様に明るい笑顔を私に向けてくれる。

 何だお前天使かよ。天使だよ(確信)。少なくとも私の中では天使だよこの娘。私の邪な感情が浄k……は出来ないけど、多少はマシになる程度には天使だよ。

 そ し て 私の事は何でもお見通し、ということですか、それは。

 これはもう結婚するしか無いですね、結婚。子供は何人欲しい? 私は大家族が良い、大家族を作りたい。嫁が百人と、子供(美少女)が百人の大家族。正妻は君だよ、魔理沙たん。……うわーい、私ってば、きもーい。

 私の魔理沙たんが天使で可愛すぎて、理性が蒸発してしまいそう。……蒸発しても外骨格のせいで行動には移せないけどね。天使を堕とすのもアリだと思っているだけに非常に残念である。

 

「それにしても、霊夢が人里に来るなんて珍しいな」

「買い出しだ。布が切れたからな」

「まーた作るのかよ。自分が着るわけでもないのに」

「趣味だからな、それに今度アリスとのお茶会がある、その時に見せる物も作らなければならないからな」

「アリスと……その時は私もついていっていいか?」

「別に構わないが、お前が思っているよりも退屈だと思うぞ? それでもついて来るのか?」

「……行く、ついて行く」

 

 想い人が私と二人っきりで会うのに嫉妬しているんですね。分かります。

 さっきまで快活だったのに、ちょっとだけしょんぼりとして、何やら考え込んでいる。……べ、別にちょっとイジメたいとか考えてなんかいないやいっ!

 

 安心してくれ魔理沙たん、私は二人の邪魔はしないよ? むしろ推奨しかしないよ?

 私はガチレズだから、そういう女の子同士の恋愛には非常に理解があるよ、むしろ百合大歓迎な人間だよ。心境的には、マリア様が見守っている的な気分だよ。……今、汚いマリア様って言った奴、後で博麗神社まで来なさい、ね? 凹ませてやるから、ね?……ねっ?

 

 そもそもの話、マリアリは私のジャスティスなのだ。

 魔女っ娘達が、付き合いたての中学生カップルのように、照れながらイチャイチャしている光景だけで、ご飯軽く三杯は余裕で食べられる。むしろ幻想郷中の米という米を食らい尽くせるだろう。

 さっきまで、嫁云々言ってたのに良いのかよ、ってツッコミは分かる。分かりみしかない。だが、安心して欲しい。私はマリアリで癒やされた後に、二人共同時に頂くだけである。むしろ混ざりに行きたいスタイルなのである。百合の花びらが咲き乱れるのである。お姉様と妹が愛し合っている中に、マリア様が乱入していくだけなのである。だからナニも問題はない。……問題だらけでごめんね、許せ裸王。

 

「さて、用事も済んだことだ。私は帰る事にするが……魔理沙」

「な、何だ?」

「やることも済んで私は非常に暇を持て余している。余りにも退屈過ぎて、何処かの普通の魔法使いとお茶でもしよう、などと考えてしまうくらいにはな」

「っ!?……な、なぁ、霊夢」

「フフッ、何だ?」

「わ、私とお茶でもしないか?」

「フフフッ、ああ、構わないとも」

 

 その笑顔プライスレス。

 あらあら頬を真っ赤に染めちゃってまぁ、本当可愛らしいですわぁ。……端的に言って、思う存分に犯sゲフンッゲフンッ愛でたくなる、なるだけで行動には移せないんですがね!

 

 残念だけど、帰った後のアレコレは割愛するよ!

 魔理沙たんが新しいスペルカードを使ってドヤ顔していたり、私と弾幕ごっこして負けて涙目になったり、私が煎れたお茶を飲んでホッと一息吐いての柔らかい表情や、私の手作りのお団子を食べて「美味い!」と輝く笑顔を浮かべてくれたり……。

 服が汚れてしまったために、一緒にお風呂的な展開になって洗いっこしたり、夜も遅いから、魔理沙たんが博麗神社に泊まって、一夜を一つのお布団で過ごしたりしただけだからね!

 

 魔理沙たんの新しいスペルが綺麗で、弾幕と共に空を舞う魔女っ娘マジ天使だとか思ったり、涙目の魔理沙たんを慰めている途中で、ちょっと意地悪したり、お茶を飲んでホッと一息吐いて油断している魔理沙たんを悪戯で擽ったり、手作り団子食べた後の輝く笑顔が脳内保存余裕だったり……。

 一緒のお風呂展開で魔理沙たんの未発達だけど、桃色がかった健康的な素肌に理性を焼かれ、一緒のお布団で抱き付いてくる彼女の身体の柔らかさと、温かい吐息に何回かイッただけだから、詳しく語っても詰まんないだろうしね!……それとも気になる? 気になるかな? ざんっねんっ! おせーてあーげないっ!(物凄い笑顔)

 

 まぁ一言だけ言うならば……

 

「うにゃあ……りぇいむ〜」

「っ!?」

 

 魔理沙たんはただの天使じゃなくて大天使だったってぇことだね!

 

 私にしっかりとしがみついて、胸元にスリスリと顔を押し付けてくる猫みたいに愛くるしい魔理沙たんの姿に、私が結局一睡も出来なかったのは仕方のないことだと思うのよ。

 寝る暇があったら、この寝顔を、この安心したように私に抱き付いている大天使の顔を脳内保存していた方が遥かに有意義に決まっているからね!

 

 良い娘の大きなお友達、博麗お姉さんの夜は長い。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 普通の魔法使い、霧雨魔理沙にとって、楽園の素敵な巫女、博麗霊夢は不思議な友人である。

 濡鴉の様な美しく艶のある髪。陶磁器のように白く滑らかな素肌。人形と見間違わんばかりに整った顔。それをより映えさせる紅に輝く瞳。

 年齢の割りに高い身長。それ故にスラリと伸びる程よく筋肉で引き締められた手足。肩口を露出させた特徴的な巫女服は、豊満で形の良い胸が覗き、何故か下乳が露出されているため大変目の毒である。また肌は陶磁器の様に白く、薄く桃色がかっており、十四の娘とは到底思えない、大人びた妖艶な色気を醸し出している。

 

 自分と比べてなんて綺麗で、大人っぽい女の子なんだろうか。……いや、そもそも同じ人間なのだろうか? 実は妖怪なんじゃないのか? なんて考えた事は一度や二度では収まらない。

 本当に同じ年なのか? 頭二つ分くらいの身長差と、自身のぺったんこな胸と彼女の豊満な胸を見比べて、女としての自信がなくなった事も星の数ほどある。

 

 霊夢は誰よりも自信に満ち溢れた態度を崩さない。

 どんな時も、どんな状況でも余裕たっぷりに薄く微笑んでいる。……そんな態度だから、偉そうだとか、人をバカにしているとか、色々と誤解されるけど、本当は誰よりも心優しい。

 人が困っていたら、手助けせずにはいられないお人好しで。相手が人間でも妖怪でも、分け隔てなく接する事が出来る差別しない人間だ。

 だから少女、霧雨魔理沙にとって、誰よりも綺麗で誰よりも心優しい博麗霊夢は自慢の友人なのである。

 

 魔理沙はそんな霊夢が好きだ。

 霊夢と話していると、胸がポカポカと温かくなる。自然と笑顔になれるし、どんな話をしていても楽しく思える。触れられると嬉しいような恥ずかしいような気持ちになるし、触れると安心する。

 魔理沙自身も分かっていない、霊夢に対する淡い想い。……ただ、霊夢が自分の前で他の誰かの話をすると、誰かの事を楽しそうに語る姿を見ると、少し面白くない気持ちになり、胸にズキッとした痛みが走る。

 

 魔理沙には分からない。この気持ちが何であるのか。

 分からないなりに、自分の幸せには霊夢が必要なんじゃないか、ということだけは分かる。自分がいて、隣で霊夢が微笑んでくれる。ただそれだけで、魔理沙の心はこんなにもほっこりと温かくなる。

 だから魔理沙は霊夢を探す、何処にいても探すのだ。何故なら──

 

「私は霊夢が好きだから」

 

──霊夢の隣は私の場所だから。

 

 普通の魔法使いは巫女の隣で笑う。今はまだ、二人は友達。

 

*1
昇天すること。過剰な自〇は人の生命力を無効化する。

*2
所謂、自〇行為のこと。人によっては毎日抜き抜きアヘアヘしないとヤる気が満々過ぎて大変な事になる模様。……この猿め(サマーオイル)

*3
某格闘漫画の稀代の空手家。武神、虎殺しの異名を持つ。『三戦!!! 呼ッ』は誰もが真似した。

*4
某アダルトなゲーム。ぴちぴちのボディースーツの現代忍者が敵にアイエーされる。

*5
リリカルマジカルな魔法。相手は死ぬ。




次回の投稿は未定。



2019 1/27
手直し完了

2023 8/21
バージョンアップ完了。
特殊タグ追加。
一部に注釈を追加。


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巫女、団欒

何とか一週間更新……行ける、か?

ちょっとだけキャラ崩壊? しています。

取り敢えず、読んで読んで。




 博麗の巫女の朝は早い。

 日が昇る前には起床して、湯浴みで身体を清め、すぐに外出の準備をしなければならない。

 何故ならば、今日も今日とて、博麗の巫女としてのお勤めを果たさねばならないからである。……いやいや、本音を言うなら、まだまだ夢の中で魔理沙たんと、くんずほぐれつの大人の組体操でもしていたかったけど、こればかりは仕方がないのよね。……だって私、真面目だもの(今世紀最大の大嘘)。

 

 博麗の巫女の仕事は、大きく分けて二つある。

 

 一つは、幻想郷を覆い尽くしている博麗大結界の管理である。

 博麗大結界。幻想郷の賢者であるゆかりんが考案し、生み出した。幻想郷という土地を作り出すための重要な結界だ。

 その効力は至ってシンプル、幻想郷という非常識と外界という常識を隔てているのである。……つまり、現実から否定された幻想達を隔離(守る)ための結界という事だ。

 私は、というか博麗の巫女に就任した者は、その博麗大結界の管理をしなければならない。

 管理とは言っても、私がするのは定期的に霊力を注ぎ込むだけの単純な仕事なんだけどね。……だが、これを怠ると、少々面倒な事になってしまうのである。

 先に話した通り、博麗大結界は幻想と現実を隔てている論理的な結界である。

 この結界の維持に必要なのが、結界に登録された博麗の巫女の霊力なのだ。……必須というわけではないが、あるのとないのとでは、結界の安定性が目に見えて違う。だから博麗の巫女は、定期的に博麗大結界に霊力を注ぎ込まなければならないのである。

 逆に、霊力を注ぎ込まないでいるとどうなるのか? 率直に言ってしまえば、幻想郷と外界が繋がってしまう恐れがあるのだ。

 幻想郷と外界が繋がるとあらゆる面で弊害が起こる。

 外界の人間が迷い込む頻度が上がったり、外の世界の常識が幻想郷へと流れ込み、弱い妖怪や意思が希薄な小妖精は存在が保てなくなって消滅したりしてしまうのだ。……最悪、幻想郷が滅んでしまう危険すらある。

 単純なようで決して欠かすことの出来ない重要な仕事、それが結界の霊力充電なのである。……幻想郷には美少女が沢山住んでいるので、傷一つ付けるわけにはいかないのだよ。

 

 もう一つが、幻想郷の警備である。

 博麗の巫女の仕事というわけではなく、私個人でやっている仕事だ。

 幻想郷の守護者である博麗の巫女は、幻想郷の秩序を乱している妖怪、神、人間を懲らしめる、あるいは消さねばならない、それが私のポリシーだ。

 秩序を乱す、つまり幻想郷に敷かれているスペルカードルールを守らず、無差別に人間を食らおうとする妖怪。多くの信仰を集めるために幻想郷の生態系に影響を及ぼす程の権能を行使する神。同じ人間を貶め、悦に浸る外道極まりない人間のクズ共。……主にそれらの対処をするのが仕事なのである。

 とは言っても、最近では見境なしに暴れまわる妖怪も減り、神も大人しく、人間に至っては悪人などは一人もいなくなった。

 数年前まではそれなりに突っ張っていた奴等もいたんだけどね。……ちゃんとOHANASHIが効いているようで何よりである。

 いやーあの頃は本当に大変だったよ。

 そこら中を血に飢えた魑魅魍魎共が跋扈しては、自由気ままに人を食い散らかし、神はその力を無差別に行使しては幻想郷の生態系に大打撃を食らわせ、人間は人間で、好き勝手に騙して犯して殺してと、やりたい放題。

 それを一つ一つ、二度と同じ真似が出来ないように、潰して潰して潰して潰して潰して潰しまくった。

 あらゆる妖怪共を暴力で捩じ伏せ、神を足蹴にして地に這いつくばらせ、人間は全力でジャーマンスープレックスからのコブラツイストを固めてから捕獲した。

 つまり物理で語り合ったのである。

 言ってみせ、言ってもダメなら、打ってみせ、打ってダメなら。反省するまで殴り殺す(はぁと)。

 顔がぐちゃぐちゃの血まみれになろうが、変形して柘榴のようになろうが、歯が全部折れて飛び散ろうが、目玉が取れて地に落ちようが、関係ない。

 痛みのあまり泣き喚いても、気が狂って笑ってても、心の底から反省したと思えるようになるまでは延々と殴り続ける。

 途中で耐えきれない者もいるが、此処は自然溢れる幻想郷、捨てるところは何処にでもある。

 妖怪や神は自然に還るだけだし、人間も獣や妖怪達が綺麗に片付けてくれるから、手間も掛からない。

 残酷かもしれないが、幻想郷の秩序を守るためには必要な事なのである。

 

 ちなみに仕事の時のテンションと、プライベートの時のテンションが違うのは意図的なものである。

 いくら規制が入るレベルの変態淑女と言えども、感性は普通の人間と同じなのです。お仕事中はグロテスクな感じの描写や、闘いの空気に当てられて、変態発言は自然と消え失せてしまうのですよ。

 その代わり物騒極まりない思考が顔を覗かせるけど、大体は前世の知識の影響なので許してね。……前世がある種の免罪符になっている気がしないでもない。

 

「……どうやら問題はないようだな」

 

 何やかんや幻想郷中を見て回り、スタート地点の博麗神社まで戻ってきたが、特に変わった事はなかった。

 不自然に血の臭いがするわけでもなく、天候が乱れている様子もない。気配を探ってみるに邪悪な思考を持った存在も周囲にはいない様子だ。

 

 今日も幻想郷は平和そのものであった。

 

 くぅぅぅ疲れましたぁ! これにて今日のお勤め終わりやぁ! 幻想郷を見回るのものっくそ疲れるわぁ! 真面目な態度とるの疲れるわぁ!

 元々が真面目じゃない変態ピンクなので、シリアス醸し出すのは精神的な負担が大きいんやで。

 とりま、先ずは飯から食べねば、寝起きからすぐにお仕事だから、お腹と背中がくっつきそうな勢いでぽんぽんがペコペコなのよね。……取り敢えず何か腹に詰めないといけない、いけないのでござる。

 

 そんなわけで、始まりました。

 博麗霊夢のぉ! 皆で作ろうワックワッククッキングゥ~ポロリもあるよぉー! いえーい! どんどんパフパフぅー!

 本日の調理担当兼司会担当を努めさせていただきます。幻想郷の素敵でbeautifulな巫女娘、博麗霊夢でぇーす! いえーい! どんどんパフパフぅー!(二度目)

 助手は要りませーん! だって一人で出来るもん!

 ではでは〜調理を開始しましょうか!

 

 先ずは調理器具の準備から始めよう!

 ぺったんこ……まな板、包丁、フライパンなどの調理器具を取り出し、それに出来る限りの圧縮圧縮ぅぅぅを繰り返した霊力を込めるんやで! この時、込め過ぎは要注意や! 強く力を込めすぎると調理器具が自壊してしまうで! 何事もヤリ過ぎはアカンって事やな!

 

 準備が出来たら、いよいよお待ちかね、クッキング開始や!

 玉ねぎを用意して、パパっと切り刻む。ポイントとしては出来るだけ繊維に傷を付けないように、しっかりと細胞と細胞の隙間を見極めて切るんや。こないすることで、玉ねぎ本来の甘味を完全に閉じ込めたまま、素材の味を活かし切ることが出来るんやで。

 次はそれをフライパンに投入し炒める、炒める時は弱火で中までしっかりと火を通すんや! 中まで火が通るのに少ーしばかり時間が掛かるさかい、その間に別の作業をするとええで!

 

 野菜に火が通るのを待つ間に、メインとなる肉の準備や!

 肉やで肉、皆大好き食卓の貴公子ミート様のご登場や! 牛肉やで牛肉ぅ! これは簡単や! お好みの部位を用意して好きな大きさにカッティングするだけでええんや! カットした肉には塩をまんべんなく振り掛けて、しっかりと揉み解すんやで! この一手間を加えるだけで味に大きな変化が生まれるから、かなり重要や! 覚えときや!

 

 ちょうどええ具合に玉ねぎにも火が通った辺りで、肉を投入、弱火で肉をじっくりと焼いて徐々に火力を上げていくんや! いきなり火を強くしたら中はぐちゃぐちゃ、そとは焦げ焦げのクッソまずいダークマターはんが出来てまうから、要注意やで!

 ええ感じに肉が焼けてきたら、醤油、みりん、砂糖を適量加えて、よーく炒めるんやで、ちゃんと焼けたら火を止めてそのままにしておくんや。

 

 次に用意するのは丼。せやで、丼の器や! そこに炊きたてのホカホカご飯をこれでもかと詰め込んでおくんや! そーしーてー、よく溶いた卵を丼のご飯にぶっ掛けて、よーく掻き混ぜるんやで!

 その上に、そのままにしておいた牛すき炒めを豪快に乗っけていく、気が済むまで乗っけていくんや! これでもかと、まいったか! この俗物め! いやしんぼ! ヨッ! 丼界のトリックスター!

 ここまでの工程を完全に熟すことで、漸く完成するのが、この私、博麗霊夢が考案した丼メニュー!

 

――『博 麗 式ッ! 究 極ッ! 牛卵かけご飯丼!』

 

 お腹が空いているときこそ格別! すき焼きの濃厚なタレと、ご飯に染み込んだ卵が合わさる絶妙な味わい、それとジューシーな肉の旨味がマッチング! 出来立てホヤホヤなら旨さがぐーんとアップや! ほんまに旨いで! 私の身体から絞り出した(意味深)霊力も染み込んでいるから、なおのこと旨さ倍増なんやで! 隠し味、霊力ってやつや!

 これに味噌汁が付けば、もう誰も文句言えない最強のメニューの完成や! 是非作ってみてくれよな!……あれ? 誰に宣伝してんの私。

 まぁそれはさておきまして……。

 

「……いい加減出てきたらどうだ?」

 

 用意した()()()の丼を居間に運びつつ、自分の背後にある空間を掴んで引き裂く。

 空間を引き裂くのは博麗の巫女の嗜み、常識常識。むしろ私レベルの博麗(ちから)を手に入れたら、もっと凄いこと出来る自信まである。

 私が引き裂いた空間から、姿を現したのは一人の女性である。

 胡散臭い微笑み、夜に輝く黄金色の月の様な金糸の髪。その瞳もまた金色に輝き、吸い込まれそうな美しさを魅せる。

 その大人の女性、といった容姿とは裏腹に可愛らしいふんわりとしたナイトキャップを被り、八卦の萃と太極図を描いた中華風の服を身に着けている。……隠し切れていないムチムチボディが大変よろしい。

 彼女こそ、幻想郷の創始者の一人にして、私の育て親。

 世界で唯一の境界を司る妖怪。……スキマ妖怪にして、私の絶対の女神、ゆかりんさんじゅうななさいである。相変わらずエロ可愛いくて美しいね。

 今すぐ触れ合いたい。おっぱいを、あの賢者っぱいを揉みしだきたいです。揉ませて、揉ませてよ、揉んでいいよね? 揉んでいい筈だ! 揉ませろぉぉぉ!

 むしろ吸いたい、吸い付きたい、今すぐに授○プレイしたいです。はい。ゆかりんは胡散臭いけど、本当に ほ ん と う に胡散臭いけど、かなりの包容力をお持ちなので、賢者ママァープレイがしたいです。……彼女の名前は八雲紫、私のママにする予定の女性だ(断言)。

 全く、覇王モードになる前は、このワガママボディに思う存分タッチできていたと言うのにね。……チクショォォォメェェェ!

 血の涙を流しつつ、全身の穴という穴から血が吹き出す勢いで、口惜しいでござる。ぐぎぎぎ。 

 

「ふふふっ、流石ね。これでも結構本気で隠れたつもりだったのだけど」

「他ならぬお前の気配だ。私が気付かない筈がないだろう」

 

 私の超感覚から逃れたいのなら、美少女レベルを下げるか、男になるぐらいしか対抗策は無いぞ。

 何故なら、私の感覚は、この幻想郷内に存在する全ての美少女の位置情報を常に把握しているからだ。どんな隠密能力を有していようと、美少女であるなら、私の感覚から逃れることは出来ない。

 

 ちなみに現在、私の感覚は魔理沙が自宅でお風呂に入っている、という情報を既に掴んでいる。私の感覚が訴えかけているのだ。美少女がお風呂に入っているという事実をな。

 そして、それを私の類稀なる妄想力で補完することで、目の前にお風呂に入っている魔理沙の姿を投影することが可能だ。

 ああ、魔理沙の魔理沙を私の霊夢が魔理沙してて、それで魔理沙が魔理沙して私の霊夢が夢想封印して、魔理沙の魔理沙をマスタースパークしたい。

 妄想の中で魔理沙と霊夢するのも良かったけど、今はそれよりも現実の、目の前にいるゆかりんだ。

 ゆかりんマジゆかりん。私の育ての親がふつくしすぎて死にそうな件について、死ぬ前にせめて一揉み、いや、その先端にある桜色の果実をぉ↑私に下さい! 

 

「あらあら、霊夢。随分と情熱的な事を言ってくれるじゃない。……私と会えなくてそんなに寂しかったのかしら?」

「ああ、お前と離れている時間は、私にとってはまるで悠久の時のようだった」

「れ、霊夢?」

 

 ピキーンッ!?

 無理矢理音にするならこんな感じだろうか? まるで敵の位置が分かった時のニュー◯イプの様に、私の身体が意思に反して自動的に動き出し、ゆかりんの方に歩み寄る。

 異様な雰囲気に押されたのか、ゆかりんは困惑の表情を浮かべたまま後ずさる。……が。

 

「ッ!?」

 

 背中が壁に当たり、これ以上後に引けなくなってしまう。

 一瞬動きを止めた、そのスキを逃さず、私の身体は瞬時にゆかりんとの距離を詰め。

 

「私を一人にするな」

 

 ゆかりんを逃さないように、両手で壁に手をつき、互いの吐息が当たる距離まで顔を近づけ、そんなセリフをのたまった。……ゆかりんの顔が真っ赤っかで、大変よろしい。これだけで丼駆けつけ三杯は余裕で行ける。

 

 これこそ、私の外面。霊夢ちゃん覇王モードの真骨頂! 「イケメン行動」! 私がどれだけ脳内で変態行為を働いていても、その状況状況に適したカッコイイ(小並感)行動を反射的に行うのだ!

 ちなみにこの瞬間、私は脳内でゆかりんを着せ替えして遊んでいた。無論、脱ぐところから着るところまで全部を妄想してたんやで、覇王モード無かったら、絶対押し倒してR指定待ったなしなんやで。……興奮しすぎて、若干下着がマズイことになっているんやで、うぇへぇ。

 

 というか、この状況どうしようか? どうした方がええんやろうか?

 ゆかりんは覚悟を決めたかのように、真っ赤な顔のまま、目をギュって閉じてしまっているし。私は私で覇王モードがこの状況のまま、静止を選択しているため、動けない。

 自由に動けるなら、このまんま大人のキスでも交わして、ゆかりんルートを突っ切ってゴールインしている。……正直なところ辛抱堪らんのですよ。ぶっちゃけゆかりんの匂いとかでイッちゃいそう。

 

 くそッ! くそッ! くそッ! くそッ!! イキたくねぇ! イキたくねぇ! イキたくねぇッ! こんなところでイッてられっかよ……! 動け! 動けよ体……! 止まるな覇王(モード)ッ!! 私をもう少しだけ前に動かしてくれ……! 私は……私はゆかりんと……えっちぃ事をしなきゃいけねぇんだ!

 

 私の熱い想いが届いたのか。……身体が動き出し、私の顔が徐々にゆかりんの顔に近づいていく。

 あ、これはそのまんまキッスのパターンですな。少女漫画とかで壁ドンからのキスは最早鉄板と言っても過言ではない展開だからな。むしろここで止めてしまったら、覇王モード的にはカッコ悪いんもんね。

 つまり、ゆかりんの唇を堪能出来るチャンスが巡ってきたということである。……ファッ!? ままま、マジでッ!? こここ、心のじゅじゅじゅ準備がまだ出来てないんだけですけどぉぉぉ!?

 可愛らしい小さな唇、瑞々しくプルップルだと見ただけで分かる桜色の果実。これを私がマウストゥマウスゥ!? いやいやいやいや、覇王モードさぁん!? 何故いきなりご褒美をぉ!? この卑しいわたくしめにこのようなご褒美をぉぉぉ!?

 距離が零になり、互いの唇が――

 

「霊夢、邪魔をするぞ」

「お邪魔しまーす!」

「「――ッ!?」」

 

 残ッ! 念ッ! 触れ合わなーい。

 声に反応して、一気に互いの距離が離れる。私は覇王モードぱいせんのお陰で表に出てはいないが、心臓バクバクのドッキンドッキン。ゆかりんはゆかりんで、焦ったように少し乱れた服装を整えて、懐から扇子を取り出して顔を隠している。……可愛い過ぎかよ。

 

 襖を開けて入ってきたのは、二人の少女であった。

 ゆかりんの式神で従者である八雲藍ちゃんと、その藍ちゃんの式神で従者である橙ちゃんである。

 

 藍ちゃんは、九尾の妖怪で、金髪のショートボブに、金色の瞳。狐耳の様な二本の尖りが生えたナイトキャップに、ゆかりんと似た中華風の導師服の様な服装をしている。……何よりも目を引くのはそのお尻の方から誇らしげに揺れている、九つのモフ☆モフ尻尾である。

 一言だけ言わせてもらうと、あの尻尾は私のものである。誰にも渡さない、アレは私のものである。アレをモフるのは私の特権である。誰にも、誰にも渡してなるものかァァァ!……べ、別に最高級の油揚げとかで、ちょっとアレな要求したいとか考えていないんだからね! 勘違いしないでよね!

 

 橙ちゃんは、猫の妖怪で、茶髪のショートヘアーに、茶色の瞳。黒い猫耳に、緑のナイトキャップを被り、赤いベストとスカートを身に着けている。お尻の方には二本の黒い尻尾が、楽しげに揺れており、大変愛らしい。

 一言だけ、この娘は私のものである、猫じゃらしで延々と遊んであげたいくらい愛らしい、あの娘は私のものである。異論反論は許さない、誰にも、誰にもだ!……べ、別に大量のマタタビを与えて、アレやコレや仕込みたいわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!

 

 そもそもゆかりん達は、私の嫁にするんだからね! 邪魔したら消すからね!……消すからね?(ハイライトオフ)

 

 って、気付いたら八雲一家が大集合してんじゃねぇか。

 居間の美少女密度が上がったことにより、私の全能力値が三倍された。勿論、ただでさえ抑えきれない性欲も天元突破してきた。……これはもう皆でフォープレイするしか無いですね。真っ昼間だけど、肉体と肉体が絡み合う、組体操(意味深)限定の運動会を開催するしか無いですね。

 

「やっぱり此処に居られたのですね、紫様」

「ら、藍、どうしたのかしら? 仕事なんて残っていなかったのだと思うけど」

「いえ、昼食時が近づいてきたのでお声を掛けようと思ったのですが、姿が見えなかったので、こうして探しに来たのです。……すぐに見つかりましたが」

「紫様は霊夢が大好きですもんね!」

 

 藍は若干呆れたように、橙は目を輝かせて、そんな事を言っちゃう。

 ゆかりん、お前、私の事好きなん? 相思相愛なのか? おまいらけこーん的な感じのアレなんですか?

 

「ななな、何を言っているのかしら、この娘達は! 確かに霊夢の事は嫌いじゃないけど、友人として、そうよ! 友人としての好きなのよ、私は!」

 

 友人同士でも、最近はセ○レという関係があってだな。

 友達同士での裸の付き合い、というものがあってだな。こう、ゆかりんと私もお友達だったら、そういう一歩踏み込んだ関係になりたいというか、何と言うか、ね。

 それにしても、ゆかりん、あたふたし過ぎててワロタ。子供みたいに腕ぶんぶん振り回すなよ。可愛いだけやで。脳内保存余裕でした。

 このままゆかりんの面白可愛い姿を堪能するのもエエけど、本格的にお腹空き過ぎてヤバイんで、そろそろご飯タイムに移行しよう、そうしよう。

 

「ふむ、お前たちも食べていくか?」

「良いのか? 見たところ二人分、しか用意されていないようだが?」

「何、すぐに出来る。元々、紫の気配を察して多めに作っておいたんだ。後二人増えたところで問題はない。……それに一人で食べるよりも、お前たちと食べた方が美味しいだろうしな」

「ッ!? そ、そうか」

「私は大盛りが良いです!」

「そうかそうか、よく食べて大きくなるんだぞ? 橙」

「えへへ〜、分かりました!」

 

 君たちもお腹空いていたのかな? ちょっとニヤケ顔隠せていないでっせ、狐のお姉さん。モフ☆モフの狐尻尾がぶんぶんしてるし、ソワソワしてるしな。

 そして、橙は可愛い。ハッキリ分かんだね。子供っぽいところを全面に押し出してくるスタイル、私嫌いじゃないわ! こんな可愛い子はもう頭ナデナデしちゃう。ほーらここがええんかぁ? ほーれほれほれ、うーりうりうり。……髪質柔らかいし、猫耳フッサフサやん。これなら何時間でもナデナデ出来る自信がある。

 

「紫、いつまでそうしているつもりだ? そろそろ落ち着け」

「そ、そうね。ごめんなさい。少し取り乱してしまったわ」

 

 少し(困惑)?……私の脳内フォルダには慌てふためく、賢者の姿が焼き付いているのだが、はて?

 

 数分後経ちまして……。

 八雲一家との、擬似的一家団欒の光景がそこにはあった。

 私の作った、私の身体から絞り出したもの(意味深)が、たっぷりと混ぜ込まれた丼を頬張る美少女の姿に、私の霊夢が夢想天生し掛けたけど、大丈夫だよ。……私、これからも頑張ってイクから。

 

 食後も、八雲一家と一日中仲良く過ごしたんやで、羨ましかろう? 羨ましかろう?

 ゆかりんに膝枕しつつ、橙を抱きしめて、藍の尻尾にくるまれながら、そのお御足による膝枕を堪能しつつのお昼寝タイムをしたりね。……無論、感触が幸せ過ぎて、一睡も出来ませんでしたが、何か? 目は閉じるだけ(左手は添えるだけみたいに)。

 橙の修行とやらに付き合って、私の修行内容にドン引きされたり。……まるで人間が妖怪を見たかのような目で見られた時は、素直に死のうかなって思った。

 

 夜になったら、マヨヒガに帰ろうとする八雲家を引き止めて、お泊り会を開催したりしたぜ。

 勿論、皆で風呂に入った。……もう、私は死んでも良いかも知れない。むしろ、あの幸せの絶頂の中で死にたい。あの肌色に囲まれて、心地よい香りに包まれて、死にたい。

 

 当然、最後は一緒に寝たよ。

 私を中心にして、八雲家が固まってスヤァする光景がそこにはあった!……んっ、ふぅ。興奮のあまり、イッてしまった。非常に申し訳ない。

 

 何はともあれ、私の日常の一幕とやらは、こうして終わっていくのである。

 毎日毎日、美少女に溢れている優雅で華麗な日常がなぁ! フハハハハハhゲホッゲホッ!

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 幻想郷の賢者、八雲紫にとって、今代の博麗の巫女、博麗霊夢とは希望である。この幻想郷を、本当の意味での楽園へと変えてくれるであろう、希望。

 紫にとっての、理想の幻想郷とは、人と妖怪、神が完全に共生し切った場所である。勝負事は相撲や、知恵比べ、スペルカードルールなどで執り行う、誰も傷つかず、誰も他者を虐げない、理想の世界。時には喧嘩もあるだろうが、すぐに笑って仲直りできる、そんな夢のような世界。

 

 だが、幻想郷はそんな理想を叶えるには、少々物騒だった。

 妖怪が跋扈し、人間を食い荒らし、神は自分勝手にその力を振るう。スペルカードルールなど無視して暴れ回る人外が大半だった。その上、昔は人間の中にも悪さをする者がいて、とてもではないが理想を叶えることは出来なかった。

 

 それを変えたのが、霊夢だった。

 その力で幻想郷を跋扈する悪しき妖怪共を一網打尽にし、神を力づくで捻じ伏せ、人間たちを改心させていった。

 霊夢の尽力があり、幻想郷は少しずつ、少しずつ、しかし、確実に紫の理想へと近付いていった。

 

 妖怪は無闇に人を襲ったりしなくなり、神は自分勝手に権能を振るわない。人間も善人しかおらず、争いという争いは、スペルカードなどのルールに沿ったもののみとなった。

 まだまだ問題は残ってはいるが、それでも確実に幻想郷は変わった。今代の博麗の巫女、霊夢のお陰で変わったのだ。

 

 幻想郷に変化を齎してくれる、唯一無二の人間、それが霊夢という少女だ。

 紫にとっての希望そのもの、これから先、幻想郷を理想の楽園へと導いてくれる唯一絶対の希望なのだ。

 

――出会いがあった。

 

 紫は今でも思い出せる。あの時の光景を、これまでの軌跡を、全て思い出せる。

 博麗神社の前で、一人寂しげに佇んでいた童女の姿を、差し伸べた手をしっかりと握ってきた手の感触を、はにかんだ時の咲いた花の様な、可憐な笑顔を覚えている。

 母の姿を投影して、甘えてきた姿。初めて作った黒焦げの料理を、おいしいと言って食べてくれた時。一緒に布団で眠った時に見せた安心した表情。

 必死に修行に打ち込む姿、結界を張った時の得意げな表情、怪我をしても唇を引き結んで耐えていた姿

 

 そんな幼かった彼女が成長した姿。

 戦っている時の美しくも凛々しい姿。ふとした時に見せる優しい笑顔。人をからかっている時のちょっと意地悪な表情。

 その全てを紫は大事に覚えている。

 

 だって紫は霊夢が大好きなのだから。

 友人としても、娘のような存在としても、そして――

 

「ふふふっ、今日もあの娘のところに行こうかしら?」

 

――ずっと隣に居て欲しい存在としても。

 

 スキマ妖怪は巫女が好き。今はまだ、この距離で。

 




書くのって楽しいね(粉ミカン)
書いているうちにどんどん、変な方向に飛んでいったりするので、その衝動に身を任せてみた。
推敲が上手く出来ているか、心配なのですよ。

誤字脱字があったり、この表現おかしいよって思ったらバンバン感想に投げ入れていってくれて構いません。
春巻きは春巻きなので、感想を貰うと若干パリパリになったりします。
美味い小説書きたいので、どうぞよろしくお願ぇします。

……ふと、思ったけど、最後の春巻きってことは売れ残りj



2019 1/27
手直し完了



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巫女、お茶会

何かお気に入り登録が三十人超えてた。
自分の目を疑った「ファッ!?」ってなった。

嬉しすぎて書きまくってたら、気付いたら一万文字超えていた。

書き終わってから「……は?」ってなった。



 突然だが、衣服とは何なのだろうか?

 身に付けるもの? 知性ある生命体のみに許された文化の象徴?……本当にそんな単純なものなのだろうか?

 

 曰く――最初の人間、アダムとイブは全裸であった。

 衣服などという窮屈なものは一切身に付けておらず、フルティンをブンブン振り回し、オパーイをユサユサと揺らしていた。……それこそ動物と同じように、全てを曝け出し、丸出しのまま生きていたのだ。

 

 ある日、アダムとイブは悪戯な蛇に騙されて、神の言いつけを破り、知恵の実を口にしてしまう。

 これにより二人は知恵を身に付けた。……そして、何故自分達はこんなに恥ずかしい格好をしているのだろう? と、羞恥に悶えたのである。

 羞恥に耐えきれず、二人は葉っぱや蔓などで即席の衣服を作り、身に付けた。胸を、股座を、大事なところのみを隠すことしか出来ない、本当に必要最低限の衣服だった。……これが最初の衣服である。

 アダムは思っただろう、あれだけ見慣れていた筈のイブの素肌が、何故こうも美しく見えるのだろう? どうして私の股座にあるモノはこうも激しい熱を帯び、いきり立っているのだろうか?

 イブは思っただろう、どうしてアダムは私の胸と股の方を舐め回すように見ているのだろう? あの股座にある巨大で恐ろしく脈打っている黒々とした物体は何なのだろう?

 神は言ったことだろう。……おまいら追放ね。

 

 楽園から追放された二人は、知恵を身に付けた反動で、盛りに盛った事だろう、何もかもが初めてで新鮮極まりない。こんな気持ちが良いことが、この世にあったのか、とドッキング作業を繰り返した事だろう。

 

 アダムは悟った筈だ。

 何も身に着ていない時よりも、何かを身に着けている時の方が興奮するッ!……隠されている物にこそ、僅かに見える隙間にこそ、神秘が生まれるのだと、理解したのだ。……恐らく、これこそがエロスの原点。

 

 熱く長々と語ってしまったが、つまり私が何を言いたいのか。……それは、衣服を身に着けると瞬間的にエロスが増幅されるのではないか? という非常に哲学的な考えなんだよ、ワトソン君。

 別に全裸が悪いわけではない、全裸はシンプルに魅力的だ。何も身に付けていない故に全てを見ることが出来る、その女性の自然体の魅力が余すこと無く表現されている素晴らしい状態だ。

 だが、私は思うのだ。……衣服を身に付けることで、女性たちの性的な魅力を、より一層輝かせる事が出来るのではないのか? むしろ着ている方がより上質なエロスを表現できるのではないのか?

 

 想像力を、想像力を高めてみて欲しい。

 ミニスカートで足を組んで座る女性がいるとしよう。

 足を組んでいるが故に、引き上げられたスカートの裾。そこから伸びている美しい足。更に奥へと目を凝らせば、そこに見えて来るものがある。……そう――白だ。穢れのない純白が、視界に映る筈だ。

 白だけではない。そこには数多くのバリエーション……否、夢がある筈だ。大人びた黒、情熱的な赤、青春の香りを醸し出すストライプ、あるいは健康的でメルヘンチックな毛糸だってあるかもしれない。……その光景にこそ、我々は宇宙の神秘にも似た無限に等しい輝きを投影することが出来るのだ。

 

 その時の心理にこそ、我々が求めたエロスがあった。……そう、チラリズムだ。

 チラリズムには、衣服は決して欠かせない存在だ。どんな服でも良い、ちょっと動いただけで、中身がぽろりしてしまいそうな服装でも、それこそ露出が最低限な服装であっても、服越しに垣間見える瞬間にこそ、絶大なる希望が宿るのだ。……それは隠す物、衣服無くしてチラリズムは有り得ない。

 

 様々なチラリズムがある。

 衣服の数だけ、チラリズムがあると言っても過言ではない。

 壊れかけの鎧から覗く素肌。乱れた着物から垣間見える素肌。メイド服から覗くガーターベルトに覆われた素足。スカートとニーソが生み出す絶対領域。

 その全てにチラリズムがあり、オンリーワンのエロスがある。

 私はチラリズムを、女性としての魅力を最大限にまで高めるチラリズムを、世界に、この幻想郷に広めていきたいと考えている。

 つまりエロス溢れる衣服を、この幻想郷に存在する全ての美少女達に着て貰いたいと、考えているのである。……いや、ぶっちゃけよう。私がエロい服作るから、それを身に着けてエロいポーズして欲しい。眼の保養になって貰って、そのまんま私と弾幕ごっこ(意味深)して欲しいんだよ。

 

 幻想郷の少女たちは、少々美意識に無頓着なところがある。それぞれ個性溢れる魅力的な服装をしてはいるが、そこには幻想的な美しさはあっても、垣間見えるエロスが足りないのだ。

 私が趣味で服を作っている理由はそこにある。……幻想郷の少女たちを私の手でエロカッコ良く、もしくはエロ可愛くコーディネートしたいのだ。

 既に私の魔の手に落ちた者は数知れず、少なくとも私の知り合いの美少女達は、私が丹精込めてハンドメイドした衣服を着用して貰っている。メイド服とかの色物系とか、シンプルに可愛らしい物とかね。……ゲヘヘ、奴ら自分が私色に染められていることも知らずに、ノコノコ服を強請りおって(暗黒微笑)。

 

 私の作る衣服は、少女たちの個性を尊重し、少女たちの固有の魅力を最大限にまで引き出す。

 例えば、魔理沙たんになら、彼女の快活な微笑みと、元気一杯な少女像を最大限に活かすために、スポーティで健康的なエロス溢れる衣服。……運動部女子をイメージさせる、制服とジャージ、更にはスパッツの組み合わせ。

 ゆかりんになら、彼女の余裕溢れる笑みと、大人の女性としてのイメージを損なわせない、アダルトで扇情的な魅力を醸し出す衣服。……胸元、背中を大胆に開いたチャイナドレス、スリットは大きめにカット。

 逆に意表をついて、それぞれのイメージにそぐわない服装をさせてみたりするのも面白い。

 胸元がブカブカで丈も合わない服装で、子供が大人振っている様にしか見えない魔理沙たん。「やくもゆかり」と書かれた名札を胸元に、パッツンパッツンな園児服を身に付けた、明らかに無理があるゆかりん。……ムフフ、想像するだけでも涎が出てくる、こりゃあ辛抱堪りまへんな。

 

 また、私が普段身に付けている衣服も、当然私自身で手掛けた作品である。

 原作の博麗霊夢の服装をベースにした、黒を主軸に置いたデザインの巫女服で、ところどころで赤の色合いを混ぜ込むことで、ダークで妖艶な魅力を醸し出すことに成功した。

 博麗の巫女の伝統的なスタイルである、大胆な脇の露出を維持しつつ、私は更に巫女服の前を開かせてみた。全開である。

 だが、残念だったな。中には黒のインナーを着込んであるから、おっぱい丸出しなわけではないぞ。……ただインナーがピッチピチに張り付いているため、胸のラインどころか、先端部分の乙女の果実の形までもがハッキリと見えるだけである。ちくび。

 そして、黒のインナーにはおしゃれポイントとして、胸の谷間の下部分に穴を開けている。所謂ところのパイ○リ穴である。誰のイチモツも挟むつもりねぇけど、エロカッコイイから付けてみた。……別に痴女ではない、痴 女 で は な い。

 更に頭のリボンは原作の博麗霊夢よりも長くしてみた、そうすることでポニーテールとの鮮やかなコントラストを演出し、まるで花魁の如き豪華できらびやかな魅力を演出する事に成功したのだ。

 磨き抜いた美貌を極限まで引き上げる、それを成功させた私の作品の中でも上位に入る逸品だという自負がある。……言っては何だが、私以上の美少女は、この幻想郷に於いても、そうはいないことだろう(渾身のドヤ顔)。

 

 そんな私には裁縫仲間という奴がいる。

 その仲間とは、アリス・マーガトロイド。……通称、あーちゃん。私の裁縫技術の先生であり、一緒にお茶したりする仲でもある美少女だ。

 まるで人形の様な、という言葉をそのまま体現したかの様な美少女であり、柔らかそうな金のショートヘアーに、宝石みたいな青の瞳をしている。

 服装はノースリーブの青のワンピースに白のケープを羽織り、頭には赤いリボンがヘアバンドのように巻かれている。……可愛いトリコロールだな。まるでキャンディじゃねぇか、ペロペロさせろよオラァ。

 また、あーちゃんは人形作りの天才でもあり、度々人里の方で人形劇を披露している。……ちなみに私は、これまであーちゃんの人形劇を一度も見逃したことはないため、皆勤賞である。私が見に来る度にちょっと嬉しそうにするあーちゃん可愛いよ、あーちゃん。

 人形劇の内容も、ちょっとメルヘンチックで乙女な内容なところもポイント高いよ。あざとい、流石あーちゃんあざとい。……一緒に不思議な国(意味深)に行きたいですな〜。

 

 今日は、そんなあーちゃんとのお茶会がある。

 自分達が作った作品の見せ合いっこをしつつ、お菓子を食べて、お茶を飲んでお話したりしながら、イチャイチャするのである。……いやーあーちゃんのクッキーは、本当に美味しいから毎回毎回楽しみなのよね。絶対、嫁にしたい、する、した。

 

 まぁ、本日のお茶会はこれまでとはちょっと違った雰囲気になるかもだけど、ね。

 隣にいる人物に視線をやる。何が楽しいのやら、今日も今日とて、ニコニコと元気一杯な普通の魔法使いの少女。

 

「……? どうしたんだ? 霊夢」

 

 ズバリ、魔理沙たんが付いてきているのでござる。

 おっふ、不思議そうに首傾げんといて、白昼堂々襲いたくなっちゃうよ。その綺麗な金の髪を弄びながら、魔理沙たんの大事な大事な魔理沙たんを私の舌先でペロリとしたくなっちゃうよ。

 以前、何時になくグイグイきて可愛かったので、ついつい連れてきてしまったのである。ちなみにあーちゃんにはまだ言ってない。事後承諾する予定である。……この言い方だと、私があーちゃんとヤッてから、けこーんする流れっぽくて正直興奮する。

 

 あーちゃんには「誰も連れて来ないで、一人で来てね」って上目遣いで言われてるけど、両想いであろう魔理沙たんなら別に問題ないよね!

 むしろ私が助け舟を出して、この二人の仲を取り持ってやろうかねぇ。……恋の伝道師ラブアンドピースとまで称された私の手助けを受ければ、その日のうちに既成事実すらも作れるまであるぜ! フハハハハハッ!……平和になってんじゃねぇか。

 

「いや、本当に付いてきて良かったのか? と思ってな」

「またそれかよー、いい加減しつこいぞ?」

「お前が退屈そうにしていても可哀想だからな、念を入れて言っているんだ」

「私が行きたいんだ……それとも、霊夢は私に来て欲しくない、のか?」

 

 なして涙目になるん? 一滴残さず舐め取るよ? むしろ別のところまでペロペロするよ? むしろその身体をペロペロしても良い?……ペロペーロペーロペロペロ♪ ペロペーロペローペロー♪――圧 倒 的 出 落 ち。

 

 盛大に醜態を晒してしまった私である。大変カッコ悪い事この上ない。

 しかし、此処に来て、そんなの関係ねぇッッッ!!! と言わんばかりに、私の身体が勝手に動き出した。……は、覇王モード先輩! 覇王モード先輩じゃないっすか! 今日もお仕事お疲れ様です!

 私の手が魔理沙たんの頭に伸び、優しく梳くように撫でる。同時に少しだけ屈んで、魔理沙たんとしっかりと目を合わせる。

 

「本当にお前は可愛いやつだな。……来たいなら来ると良い。出来る限り退屈しないようには努力しよう」

「――ッ!? ああ! 分かったぜ!」

 

 パァーッと花開くとは、こういう事を言うんだね。

 花が満開になった時の様な、とても綺麗過ぎる笑顔を魔理沙たんから頂戴しました。……ただただ無言で、脳内カメラのシャッターを切りまくる。そして、魔理沙たん専用フォルダに保存して、複製しまくる。

 ふぅ、やっべぇ本気と書いてマジで浄化されるとこだった。……本当、魔理沙たんはマイエンジェルだよ、マイエンジェル。いずれ堕天させる予定だけど、本当にマイエンジェルだよ。

 

 マイエンジェル魔理沙たんも元気になり、暫く歩いて、漸く目的の場所に到着である。……つまり、あーちゃんのお家に到着したって事だね。

 あーちゃんのお家は、ドールハウスをそのまんま大きくしたみたいに、とても可愛らしいデザインをしている。白い壁に、赤い屋根、そして、レンガ造りの煙突からは白い煙がポカポカと出ている。……まるで自分が童話の世界に迷い込んでしまったかの様にメルヘンチックな光景だ。

 

 いつものようにノックを一定のリズムで三回ほど鳴らす。

 

「はい、どちら様で――あら、霊夢じゃない。遅かったわね」

「すまないな。……代わりに今日はお客様を連れてきたぞ」

「よ、よう」

「魔理沙?……霊夢、誰も連れてこないでって言ったわよね?」

「いじらしく強請られてな、連れてきてしまった。……約束を破ったことについては謝罪する」

「はぁ……仕方ないわね。良いわよ、入ってちょうだい」

 

 ちょっとモジモジしている魔理沙たんテラかわゆす。

 それと、なしてあーちゃん不機嫌なん? 想い人を連れて来たのにそっけないのはこれ如何に?

 ふむふむ。……ハッ!? そういうことか! 「べ、別に貴女が来てくれて嬉しいわけじゃないんだからね! 魔理沙の事が大好きだなんて、全然思ってないんだからね! 勘違いしないでよね! ぷんぷん!」って事かっ!? あーちゃんツンデレさんやったんや! 新しい発見や! 私もツンツンされたい! ツンツンされだいッッッ!!!

 

「そこに座っていて、すぐに準備するから」

「手伝おう」

「そう? なら手伝ってもらおうかしら」

「ああ……魔理沙、物珍しいからとアレコレ触らないで、良い子にしているんだぞ?」

「普通に待てるって! 子供扱いすんなよ!」

「そうね、魔理沙は 良 い 子 だものね」

「バカにしてんのかアリス! さっさと行け!」

 

 こわぁい、魔理沙たんが怒ったぁ。……いやいや、その怒り顔も素敵だね! もっと怒らせたくなっちゃうよ!

 それにしても、イジメっ子なあーちゃんもテラかわゆす。基本的にいつも無表情なのに、こんな時だけニヤッとドヤ顔しているのが本当可愛い。……これは是非とも、私にも意地悪して欲しい。私にも意地悪を、性的な意地悪をしてくださぁぁぁい! はあぁぁぁん!

 

「はい、これと、これを運んでちょうだい」

「分かった。それにしても良い香りだな。……ふむ、この香りはアーモンドか?」

「よく分かったわね。今日はアーモンドクッキーにしてみたの。表面はビターチョコレートを塗って甘さを抑えてみたわ。……その、貴女の口に合うと思って」

「私の好みなんて教えたか?」

「これだけ一緒にいたら、流石に覚えるわよ」

「フフッ、ありがとう、アリス」

「ど、どういたしまして」

 

 ほんま、あーちゃんは友達思いの良い子や! お姉さん、感激し過ぎて、思わず心のマーラ様が侠客(おとこ)立ちを披露しちゃうわ!

 

 幾度、続けたお茶会で

 何度も交流続けたが、

 

 友の善意を身に受けて

 うん千回目の〝侠客立ち〟

 

 自主規制をも刻まれて

 一歩も引かぬ〝侠客立ち〟

 

 とうに理性は枯れ果てて

 されど倒れぬ〝侠客立ち〟

 

 とうに理性は枯れ果てて

 女一代〝侠客立ち〟

 

 花○さん、ごめんなさい。謝りますので握撃だけは、握撃だけは勘弁してつかーさい。

 

「お、来たか」

「はぁ、何をしているんだ?……私の記憶が正しければ、大人しくしていろ、と言った筈なんだがな?」

「宝探しだぜ!」

 

 何そのドヤ顔、ドチャクソ犯したい。……やれやれ、すこーし目を離したら途端にコレだよ。

 数分前まで整理整頓が行き届いた洋室が――何ということでしょう。辺りに本や何やらが散らばり、この家の持ち主の物であろう、服やら下着やらが散乱している光景に生まれ変わりました。……あーちゃんの下着とか、私とっても気になるんですけど? 貰って良いんですかね? むしろ食べたい。出来れば着用済みだと嬉しいです、はい。

 匠の仕事には、この博麗の巫女も脱帽せざるえない。……こんな事をした仕立て人にはお仕置きを、お仕置きをしてあげねば、はぁはぁ。

 だ、大丈夫だよ、魔理沙たん。最初は痛いかもだけど、後からどんどん気持ちよくなるだけだから、ちょーっとだけ、お姉さんとイヤらしい組体操の練習するだけだから、天井のシミ数えているだけで全て終わるから、ね?

 

「なーにーがー宝探しなんだ、この悪戯娘!」

「いふぁい! いふぁいってりぇいむ! はにゃせっ! はにゃせっちぇ!」

 

 このほっぺか! このむちむちほっぺがいけないんか! このっ! このっ!

 八割本気の冗談はさておき、この腕白天使にはちょっとした罰を与える事にする。これまでありとあらゆる悪戯っ娘たちを改心させた博麗の巫女が誇る最終奥義、ほっぺたふにふにの刑だぁ! これを食らった相手のほっぺは必ずすべすべになりゅぅぅぅ!

 おーりゃおりゃおりゃおりゃおりゃっ! すべすべにぃ、すべすべになるんだよぉぉぉ! この悪戯天使めがぁ!……ふっふっふっ、私の尋常ではないこねりスキルの前では、流石の魔理沙たんも抵抗出来ないと見えるな、クケケケケケッ!

 

「ふにゃぁぁぁ!?」

「この通りだアリス。一応、罰は与えているから、許してやってくれないか?」

「はぁ、別にいいわよ、片付けは人形にさせればいいし。……そんな事よりも、お茶にしましょうか」

「ああ、了解した」

「はぁぁぁにゃぁぁぁしぇぇぇっっ!!」

 

 こらこら大人しくしなさい、まだまだお仕置きは続くからね。……しばらくこねてやるから覚悟するんだなぁ。

 悪戯の罰は重たいのである。……全く、悪戯するならあーちゃんじゃなくて、私にしろっての! 無論、性的なものでお願いします(渾身の土下座)!

 

「それで、今回はどんな服を見せてくれるのかしら?」

「ああ、今日は――」

 

 何やかんや、色々あったけど、お茶会が始まった。

 いつも通り、私が作成した衣服を見せ、あーちゃんの感想を聞く。あーちゃんの裁縫技術は幻想郷一といっても過言ではない。そのため、とても参考になる意見をくれるから、本当にありがたい。

 この時のあーちゃんの真剣な表情は、とても美しい。そんじょそこらの芸術品では表現する事の出来ない、神秘的な美しさを持っている。……正直、お金取れるレベルだよ。いや、本当と書いてマジの方で。

 そんなお金が取れるレベルの美貌を、ドロっとしたケフィアでペイントしたい、とか邪な事を考えている私は相当な変態エロスケベなんだろうか? ええ、とっても(無慈悲)。

 

「……霊夢? 私の顔に何かついてるかしら?」

「フフッ、すまない。余りにも綺麗でな。……少し、見惚れていただけだ」

「き、綺麗って……ばか」

 

 はい、本日の「ばか」を頂きましたぁ! ありがとうございますっ! ありがとうございますっ! これだけで後百八年(煩悩の数と一緒)くらいは戦えます!

 あーちゃんは頬を真っ赤に染めて、そっぽを向いている。未だに褒め言葉に耐性がないとか、本当可愛いよね。

 私が褒める度に、こんな魅力的な表情を拝ませてくれるあーちゃんは、本当もう私のベストフレンドと言っても良いよね! いずれはベッドの上でその顔見せてね! 博麗の巫女との約束だよ!

 ゆびきりげんまん、嘘吐いたら、胸千回揉ぉぉぉますッ! 指切ったッ!……何故だろうか、約束を守っても欲しいし、破って欲しいとも思っている、何というジレンマ。

 

「なぁなぁ霊夢! これ見てくれよ! アリスのやつ、何か面白そうなものを書いて――」

「きゃああああああ! それ私の日記! 返して、返しなさいよ!」

 

 魔理沙たんは大変な物を奪っていきました。あーちゃんの日記です。

 部屋の中を、普通の魔法使いと人形師が駆け回る。せっかく、上海や蓬莱といったアリスの可愛らしい人形たちが片付けしてたのに、まーた振り出しに戻った。心なしか人形たちもションボリしている様に見える。……あーちゃんの作る人形も美少女多いよね。

 あんまりにも可哀想だったので、ちょいちょい手招きして、一体一体を膝に乗せて頭をナデナデ。

 おーよしよし、頑張ったのにね。偉かったねぇ。よーしよしよし。

 気分は孫を思いやるお年寄りのそれである。あらあら喜んじゃってまー可愛い奴らめ、うりうりぃ。

 さてさて、人形たちも慰めたので――

 

「お前たち、いい加減に落ち着け」

「にゃふっ!?」

「きゃんっ!?」

 

 はいはい、大人しくしましょうねー。暴れて良いのはベッドの中だけだよー。

 走り回る二人の首根っこを捕まえて、持ち上げる。……ちなみに、にゃふっ! が魔理沙たんで、きゃん! があーちゃんね。咄嗟の悲鳴が、まるで子猫と子犬じゃねぇか。

 次の作品は、猫耳と犬耳がテーマで決定ですな。悪戯猫の魔理沙たんと、ツンデレワンコなあーちゃんか。……意地でもこの二人に着せてやる。絶対に、絶対にだッッッ!!!

 

 私がそんな邪な決意を固めているのを他所に、最後まで二人の争いは続いた。

 魔理沙たんがからかい、あーちゃんが怒る。あーちゃんが煽り、魔理沙たんが怒る。……喧嘩するほど仲が良いとはよく聞くが、そんなレベルの話ではないと思いました(小並感)。

 げ、原作のゆるゆりは何処に行ったんや! もっと、私にくんずほぐれつの百合百合してる光景を見してくれてもええやん! ちくしょうめぇぇぇ!

 

 帰宅する時に、あーちゃんに袖をクイクイされて、目を閉じて顔を近づけて欲しい、と言われたので、目を閉じて顔を近づけてみたら、一瞬だけほっぺに柔らかい感触を感じた。

 あんまりにも一瞬すぎて何だったか分からないけども、あーちゃんが満足そうにしていたから良しとしよう。

 ただその後、魔理沙たんが急に不機嫌になっていたのは、わけが分からなかったでござる。魔理沙たん、魔理沙たん、反抗期でござるか? 違う? 自分の胸に手を置いて考えろ? えぇぇ?

 結局、魔理沙たんをお家に送るまで、魔理沙たんの機嫌は直ることは無かった。……本日最大のミステリーってやつである。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 人形師、アリス・マーガトロイドにとって、巫女、博麗霊夢は王子様だ。……お伽噺に出てくる、強くて優しい、何処までも温かく光り輝いている素敵な素敵な王子様。

 

 これまでの長い生、アリスは一人ぼっちだった。

 誰とも必要以上に関わらず、友達も作らず、ただただ、一人で人形を作り続ける。そんな日々を送っていた。

 全ては彼女の夢である完全に自律する、命を持った人形を作り出すためである。その夢を叶えるために、他の事にかまけている余裕はないのだ。

 寂しいと思ったことはない、辛いとも思わない。他者の必要性なんて感じないし、自分一人でも生きていける。

 

 孤独に人形を作り続ける日々が続いた。一人で試行錯誤を繰り返す日々が続いた。……やがて、そんな日々に限界が生じ始めた。

 進展がないのだ。ある時を境にアリスの夢は動きを止めた。どんな風に作っても、どんな手段を講じても、人形に命が宿ることは無かった。

 

――どうして? どうして成功しないの? 何がいけなかったの? どうして? どうしてどうしてどうしてどうして?

 

 人形を作る事に関して、アリスは天才だ。それは疑いようはない。だが、一人で成功させるには、彼女の夢は余りにも大きすぎたのである。

 生命の創造とは神のみに許された特権だ。それを天才とはいえ、一介の人形師が出来る筈もない。

 何をしても失敗し、挫折する日々……孤独に耐えられる程に強いアリスの精神は徐々に徐々に少しずつ摩耗していった。

 

 悪い想像ばかりが頭を過ぎる。

 このまま夢を追い続けても叶えられないんじゃないか? もしかしたら、夢の一歩目も踏み出せていないんじゃないか? このまま、無為に日々を過ごす事になるんじゃないか?

 長い時を生きる魔女であるアリス。しかし、その途方もない時間を使ってなお、夢は叶わないのではないか、と考えてしまった。

 アリスの心は折れ掛けていた。……そんな時だ。彼女に出会ったのは。

 

「そこの少女よ、落とし物だぞ?」

 

 最初の邂逅は偶然だった。

 人形作りに使う材料を落とし、それを拾ってくれた人間。――博麗霊夢。

 その時は一言礼を言っただけで、その場を後にした。どうせ次からは関わることもないと考えたからである。

 

 それから不思議なことに、アリスは何度も何度も霊夢と出会った。人里で、森で、偶然にも霊夢と出会い続けたのである。

 いや、アリスが行く先々に霊夢が現れるのだ。これを偶然として片付けるには、余りにも不自然だった。

 

 ある日、アリスは霊夢に尋ねてみたことがある。

 

「どうして私に付きまとうの? 貴女には何のメリットもないでしょ?」

 

 その言葉を受けて、霊夢は苦笑しながら言った。

 

「お前が、余りにも苦しそうな表情をしていたからな」

 

 何か悩みがあるなら、力になれないかと考えていたと霊夢は付け足した。

 訳が分からなかった。苦しそうだったからといって、何だというのか。貴女に何か関係でもあるのか。

 確かに苦しい思いはしていた。夢は叶う気配を一向に見せず、ただ無為に時間のみが過ぎていくのだ。そんな日々に嫌気がさして、最近では碌に人形作りもしていない。

 表情には出していないつもりではあったが、どうやらこの人間の前では通用しないらしい。

 

 アリスは言った。

 

「私に悩みがあったとして、貴女に関係があるのかしら?」

 

 純粋な疑問だった。この人間が何を思って、そんな事を考えているのか、少しだけ興味が湧いた。

 

「面と向かって言うのも、恥ずかしい話ではあるが――」

 

 少し頬を染めながら、アリスとしっかり目を合わせて霊夢は言った。

 

――お前と友達になりたかったからだ。

 

「とも……だち?」

 

 アリスは最初、霊夢の言葉が理解できなかった。

 この人間は何を言っているのか? 友達? そんな事のために、私に関わり続けていた、と?

 

「ふざけているのかしら?」

「ふざけてなどいない。私は本気でお前と友達になりたいと思っている」

 

 その目に一切の揺らぎは無かった。本気で自分と友達になろうとしている。そんな強い意思のみがそこには込められていた。

 

「そう、ご苦労様。けれど私はお断りよ。そんな暇なんて無いし、興味ないわ」

「そうか、だが諦めないぞ。必ずお前を私の友達にしてやる」

 

 まだ言うか、その時のアリスは思った。何と言われようと、絶対友達になんかなってやらない、そう決意した瞬間でもあった。

 

「しつこいのは嫌いよ」

「安心しろ、すぐに慣れる」

 

 何処に安心しろと?

 楽しくなってきたと言わんばかりに綺麗な笑みを浮かべる彼女の表情に、途轍もない不安を抱いたのを覚えている。……少しだけ、ほんの少しだけ、自分を求められている事が嬉しかったのは気のせいだろうか?

 

「アリス、これを使ってみるといい」

「え、何それ」

「仙桃だ。天界からくすねてきた」

「何してるの!? 戻してきなさい!」

 

「はぁぁぁぁぁ!」

「ちょっと何してるのよ!」

「ありったけの霊力だ! 全て持っていけ!」

「やめなさい! 家が吹き飛んじゃう、吹き飛んじゃうから! って、きゃあああああ!?」

 

「れ、霊夢、何を作っているの?」

「ガン○ムだ」

「は?」

「ガン○ムだ」

「」

 

 本当に色々なことがあった。

 霊夢がよく分からない理論で、えげつない結果を齎したり。明らかに人間が出来ない事を平気でやらかしたり。

 行動が予測できない霊夢に大変な思いもしたが、どうしてだろうか、そんな日々がどうしようもなく楽しく思えた。……有り体に言って、アリスは絆されてしまったのだ。

 自分のために、一生懸命になってくれる霊夢の姿に、どんなに突き放しても、変わらず親身に接してくれる霊夢の優しさに、ささくれだった心が和らいでいった。

 一人で人形を作り続けていた日々が懐かしく感じる。もう、どうやってもあの日々には戻れそうにない。

 

 人形作りも順調だった。

 一人で作っていた頃が嘘のように、どんどん成果を上げていく。やればやるだけ、少しづつ少しづつ、夢に近づいていく。

 それこそ、夢を見ているみたいだった。起きたら自分がまだあの地獄の中にいるんじゃないか、と考えてしまいそうなくらいだ。

 だが、夢ではないのだろう。

 それはこのどうしようもないお人好しが……友人である巫女が証明してくれていた。

 

 そして――

 

「上海、蓬莱……目覚めなさい」

 

――奇跡が起こった。

 

 アリスの声に反応して、上海と蓬莱……二体の人形が目を開ける。手を伸ばし、足を曲げ、動き出す。

 誰も、何も操作していないのに、不思議そうに顔を傾げたり、自分の顔を触ったりしている。それはまるで、その人形たちに意思があるようで。一個の命が宿っている様にも見えた。

 

「動い……た? 動いて……る?――ッ!? やった! やったわ! 霊夢! 私、遂にやったわ!」

 

 思わず感極まって、霊夢に抱き付いた。

 嘘みたいだった。本当に現実なのか、何度も自分の頬を抓ってみた。

 命ある人形が作れた。予めそんな命令を下したわけでもない。本当の正真正銘の、自分自身の意思で動く人形が完成したのだ。

 夢が、夢が叶うなんて、しかもこんなすぐに叶うなんて。

 

「霊夢、夢、ひっく、叶った。ぐすっ私の夢、叶った、よぉ」

 

 涙が溢れ出てくる。拭っても拭っても止まらない。感情の制御が出来ない。悲しみではなく嬉しさで涙が溢れ、止めることが出来ない。……今、自分がどんな顔をしているか分からないけど、とても酷い顔をしているのだけは分かる。

 何度も挫折した。何度も絶望した。何度諦めようと考えたか分からない。

 それでも作り続けた。だって、夢だったから、小さい頃からの夢だったから、諦めることなんて出来なかった。

 

「ああ、おめでとうアリス。ここまでよく頑張ったな」

 

 思えば、全てが変わったのは、この巫女と出会ってからだった。

 一人暗闇の中で過ごそうとする自分を、無理矢理にでも手を引いて陽だまりの中へと連れて行ってくれたのは、霊夢だった。

 霊夢はアリスの頭を撫で続ける。そして言うのだ。よく頑張ったな。偉いぞ。流石はアリス、私の友達だ。

 その霊夢の柔らかな微笑みに、優しく自身を撫で付ける手の暖かさに、アリスの心臓はどくん、と熱い鼓動を放った。

 

――胸が熱い。

 

 霊夢の顔を見るだけで、胸が熱くなり、ドキドキと心臓が痛いほどに拍動する。

 

――顔が熱い。

 

 霊夢の声を聞くだけで、顔が熱を帯び、気恥ずかしい気持ちになる。まともに視線を交わそうものなら、それだけで、気を失ってしまいそうなくらいだ。

 

 病気? いや、違う。魔女は病気にはならない。

 呪い? いや、違う。恨みを持たれたことはないし、代わり身の人形も作ってある。

 じゃあ何だろう?……アリスは唐突に思い出した。この時の症状に当て嵌まるものを、いつか目にした事があった。

 あるお伽噺の一文に、こんな言葉があった。

 

 貴方を見るだけで、私の心は熱を上げる。

 貴方の声を聞くだけで、私の顔は燃え上がる。

 貴方を思うだけで、私はいつも幸せになる。

 

 恋するお姫様と隣国に住まう王子の恋物語だった気がする。

 そう、恋物語だ。そこに書かれていた一文が、今のアリスの身に起きている症状と当て嵌まった。当て嵌まってしまったのである。

 

 自覚してから、アリスの想いは日に日に強くなっていった。

 霊夢の姿を見る度に、霊夢と言葉を交わす度に、徐々に徐々にその想いを強く強く募らせていった。

 霊夢が会いに来てくれるだけで、幸せな気持ちに満たされ、霊夢が帰ってしまうだけで、寂しい気持ちが抑えられなかった。

 

――霊夢、会いたい。会いたいわ。

 

 いつの間にか、貴女がいる日々が当たり前になってしまった。貴女がいない日々は、もう考えられない。

 

――好き。好きなの。貴女のことが、大好きなのよ。

 

 まだ恥ずかしくって言えないけれど。いつの日か、面と向かって貴女に言いたい。

 

――私の王子様。

 

 昔々、あるところに人形の姫がおりました。――それはきっとそんな恋物語。

 




書くのってやっぱり楽しいね(粉ミカン)。

取り敢えず、閲覧頂きありがとうございますね。
プロット自体は用意しているのに、書いていると、どんどん当初の予定とは別の方向に行ってしまうこの不思議。
つまり、プロットが息してないのだよ。
まだ三話目なのに……どうしてこうなった。


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巫女、宴会

何か気付いたらお気に入り登録が100を超えていてだね。
それで、何か色がね、色が赤くなっていてだね。

皆楽しく読んでくれているんだなぁって思って
めっちゃ書いたんやで。



 人を駄目にするものがある。……それは酒、タバコ、女、賭け事である。

 

――酒。

 

 適度に飲むだけならば何も問題はない。問題は飲み過ぎにある。酒は飲めば飲むほど、酔えば酔うほど気分が高揚していく飲み物だ。

 高揚するだけなら問題ない。しかし、侮ることなかれ。酒の真に恐ろしいところはそこではない。気分が高揚しすぎて、冷静さを失うところにある。普段は物静かで大人しい人物が、傍若無人に理不尽極まりない振る舞いを見せたり、普段は豪快で明朗快活な人物が、卑屈で涙脆い振る舞いを見せることもある。己の感情を制御できなくなって暴力沙汰を起こしたり、その挙句に人を殺してしまう事もあるのだ。

 そして、酒には中毒性がある、人を虜にしてしまう魔力を秘めているのだ。酒を飲まないと落ち着かない、酒を飲んでいないと手が震えてしまう、なんて禁断症状を引き起こし、その魔力に溺れていってしまう。

 故に本人の意思で酒を断つことは難しい、ほぼ不可能と言ってもいいだろう。……極論だとは思うが、酒は一種の麻薬と同じなのである。一度、その魅力に取り憑かれてしまったら、余程の事が無ければ逃れる術はないのだ。

 

――煙草。

 

 色々な煙草がある。

 一般的に普及しているのはダース単位で売られている紙巻き煙草、煙を味わう葉巻。煙草を刻んでパイプの様な器具に入れて吸う煙管、などがある。

 煙草は恐ろしい代物だ。その中毒性もさることながら、何よりも恐ろしいのはその毒性だろう。吸った人間の老化を促進し、病気になりやすい身体を作り出し、寿命を削り取っていく。……百害有って一利無し、とは良く言ったものだ。

 

――女。

 

 古来より女という生き物は、男を堕落させる魔性を秘めている。美しい色香に惑わされ、財を注ぎ込み、破滅へと道を進めた者は多いだろう。

 彼の有名な楊貴妃も、それはそれは美しい女性だったと聞き及ぶ。

 ただ一人の女の身でありながら、その美貌で時の権力者を骨抜きにし、弄んだ。権力者は彼女のために国が傾くほどの財を注ぎ込み、やがて国そのものを破滅へと導いたのである。

 一人の女の色香が、国すらも傾ける。……それ故に傾国、全く以て恐ろしい話である。

 

――賭け事。

 

 少ない金銭が、上手くいけば一瞬にして数倍にも数十倍にも跳ね上がる。

 もしもそのカタルシスを一度でも味わってしまったら、その魅力から抜け出すことは至難の業だ。

 もしかしたら次は、その次は、そのまた次は、自分が勝利した時の光景を思い浮かべ、賭ける。賭け続けてしまうのだ。……絶対に勝てるという保証は何処にもない筈なのにだ。

 勝ったら、あれを買おう、あれをしようなどと考え、賭ける。泡沫の、叶う筈もない泡の様な欲まみれの夢を見て、賭けるのだ。……その金があれば、もっと他に有意義な事が出来ただろうに。

 

 此処までで、酒、煙草、女、賭け事が如何に人間を駄目駄目にする恐ろしい魔力を秘めているのか、手を出すのがどれほど危険なのか、分かっていただけたのではないだろうか。

 

 その上で一言申し上げる。

 はばかりながら、この博麗霊夢。その全てを修めております。……はいはい、駄目人間駄目人間。

 一応、言い訳させて貰えると、私は別にこれらに取り憑かれているわけではない。むしろ人を駄目にするこれらの要素を飼い慣らしている、という自負すらある。

 酒はいくら飲んでも酔わないし、酒の席でも周りが酔い潰れている中、最後まで一人だけ素面のままでいるのは珍しくもない。

 煙草は煙管を愛用しており、健康に害がないように薬草を煎じて使っている。吸うと気分がすこーしだけハイになるだけの細やかな品だ。中毒性なんてものはない。だから問題はないのだ。問題は、ないのだ。

 賭け事に関しては、幻想郷に住んでいるのであれば、いくらか嗜んでおかないとならないだろう。

 娯楽が少ないからか、幻想郷の住人達はやたらと賭け事を好む。特に古い時代から生きてきた大妖怪などはそれが顕著である。つまり妖怪の美少女と仲良くなるためには、賭け事は一種の常套手段。……やきゅうけんとか楽しそうだから絶対広めよう、そうしよう。

 ちなみに、私は賭け事では常勝無敗である。これまでの人生でただの一度も敗北したことはない。……無駄に勘が当たるんだよ。態と外そうとしない限りは、絶対に外れないんだよ。博麗の巫女ってスゲぇ(小並)。

 

 ……はい? 女には狂ってるだろ? 美少女狂いの色狂い? え、ちょっと何言ってんのかわかんないです、こわぁ。

 まぁつまり、結論として何が言いたいのか、それは――

 

「丁か! 半か! さぁ、勝負勝負!」

「ピンゾロの丁だ」

「さ、サブロクの半!」

「……ピンゾロの丁! ピンゾロの丁が出ました! またまた霊夢さんの勝ちです!」

「ぐがぁぁぁぁぁ!?、また負けたぁぁぁ!」

 

――博麗は宴会にて最強。

 

 審判役の文ちゃんの判定を受けて、小さな鬼の萃香ちゃんが崩れ落ちる。

 よっぽど悔しかったのだろう。うつぶせのまま、「あああああ」などと変な呻き声を上げたまま、ピクリともしない。

 地面は土だから汚れるで?……後で顔を、色んな所を拭き拭きしてあげねば(使命感)。

 いやまぁ、如何にポジティブで豪快な鬼でも、連続で賭けに負けたら流石に堪えるだろうね。賭けが強すぎてごめんね。……賭けたモノは容赦なく要求しますけど(ゲス顔)。

 

 現在、博麗神社では宴会が行われている。

 人間、妖精、天狗、鬼、吸血鬼、幽霊。……などなど、ありとあらゆる種族が入り混じり、飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎ。

 あちらこちらで間抜けに芸を披露していたり、死なない程度に弾幕ごっこで遊んでいたり、仲良く談笑していたり、それぞれがそれぞれで楽しく過ごしている。

 彼女たちが楽しそうにはしゃいでいる光景を見る事が出来て大変満足している。彼女たちの幸せこそが、私の喜びであり、幸せであり、生きる意味その物である事は、最早言うまでも無い事だろう。……美少女可愛い、美少女可愛いよ、はぁ、はぁ(恍惚の笑み)。

 

 私も彼女たちと戯れるために、賭け事をしていたのである。

 ちなみに連戦連勝。ついさっき十回目の勝利を飾ったところである。常勝無敗、最強無敵の天才美少女とは、この博麗霊夢の事さぁ!(渾身のドヤ顔) やだ、わたしってば、サイキョーね!

 

「いやはや、流石といいますか、何といいますか……萃香さんも賭け事は強い方なんですがねー」

「審判ご苦労だったな、文」

 

 審判役を任せていた文ちゃんこと、射命丸文(しゃめいまるあや)が私の方に呆れたような、それでいて何処か楽しげな様子でやってきた。……ふへへ、そんな表情も素敵です。

 

 ショートボブの黒髪に赤の瞳、尖ったお耳が可愛らしい。

 服装はシンプルなもので、白いフォーマルな半袖シャツに、フリルがあしらわれた黒いスカート。頭には山伏風の帽子を被り、赤い靴は天狗の下駄の様に高くなっている。

 射命丸文。妖怪の山に住まう烏天狗で、由緒正しき幻想郷の新聞記者である。彼女の書く「文々。新聞」は、面白可笑しい捏造も多々あるが、それなりに読み物としての完成度は高いため、毎日楽しく読ませて貰っている。

 能力は『風を操る程度の能力』で、竜巻を起こしたり、風を推進力として圧倒的加速で飛び回ったりと、文字通り自由自在に風を操る力だ。その力と本人の高い飛行能力も相まって、幻想郷最速の文屋とも呼ばれている。

 空を自由自在に舞う度に彼女のスカートが翻り、白くスラリと伸びた生足と、その奥に見える純白の輝きが、何物にも変え難き名画のように、私を魅了してくれる。……あぁ、風が、風が、風が泣いている。

 

 文ちゃんは私の友人である。

 勿論、文ちゃんだけではない、この宴会に集まっている美少女達は全員が私のお友達(意味深)と言っても良い。

 人間も妖怪も妖精も、幽霊もみーんな私のソウルフレンドなのさ! やだ、私のコミュ力高すぎぃ。

 あんまりにも仲良すぎて、一緒にお風呂入ったり、眠ったりもしている仲の娘が殆どである。……あの娘のあーんな姿やこーんな姿、あんな一面やこんな一面、その全てが私の脳内フォルダに大切に厳重に、保管されておるのだよ。

 文ちゃんも博麗神社でお泊り会したよねー。

 霊夢知ってるよぉー。文ちゃんってばパッと見ではスレンダーに見えるけど、脱いだら結構凄いってこと知ってるよぉー。お風呂場で洗いっこしたから、感触も知ってるよぉー、ゲヘヘへへへ。

 霊夢知ってるよぉー。文ちゃん眠っている時、抱きつき癖があるってこと知ってるよぉー。抱きつかれた時の柔らかいふわふわ感と、あったかい温もり未だに思い出せるよぉー。

 霊夢知ってるよぉー。起きた時に、私に抱き付いている事に気付いて、羞恥に悶えていたけど、寝た振りしていたこと知ってるよぉー。あんまりにも可愛すぎて微妙にイッたからよーく覚えているよぉー。

 私、変態過ぎワロタ。

 

「いえいえ、私も見てて楽しかったですし、何よりもいい絵が撮れましたしね。……ふふーん、明日の一面は『山の四天王敗れる!? 賭博の覇者、博麗霊夢!?』でしょうかねー」

「フフフッ、いつも通り面白く可笑しく書いてくれよ? 楽しみにしているからな」

「あはは、任せてくださいよ! 完成したらいの一番に届けますので! 是非とも楽しみにしててくださいね!」

 

 それでは私はもう少し飲んできますね、と身を翻して酒の席へと戻っていった。……身を翻した際に、黒いスカートが風でめくり上がり、その艶めかしいお御足の先に、非常に美しい輝きの純白が見えたのはきっと気のせいではない。脳内保存余裕でした。あややのおぱんちゅ、脳内保存余裕でしたよ。ありがとうございますっ! ありがとうございますっ! これだけで今晩ご飯三杯は軽く食べられますっ!

 

 文ちゃんが去り、この場に取り残されたのは、私とうつ伏せになって悔しがる鬼の少女、萃香ちゃんの二人。

 

 この鬼の少女、フルネームを伊吹萃香という。

 伊吹萃香と聞けば、この幻想郷に知らぬ者など一人としていないだろう。

 幻想郷に於いて最強と称される鬼であり、その中でも取り分けて強力な力を持った存在である。

 先っぽを一つに結んだ薄い茶色のロングヘアーに赤い瞳を持ち、その頭には幼女然とした見た目に不釣り合いな、水牛を思わせる立派な二本角が誇らしげに聳え立っている。

 服装は、白いノースリーブに紫のロングスカート。可愛らしい大きな赤いリボンを頭につけ、左の方の角にも紫色のリボンを結びつけている。そして、腰の方には、それぞれ三角、球、四角形の分銅と酒が入った紫色の瓢箪を、鎖で吊るしている。

 そのロリロリしい見た目とは裏腹に内包する力は、強大だ。

 『疎と密を操る程度の能力』という、あらゆるものの密度を操る力を持ち、自身の身体の大きさなんて自由自在、霧にまで変化することも可能とし、自身の身体を分割して分身を作り出す事も出来るのである。

 一応、妖怪としては、ごく一部の例外を除けば最強の一角である。

 

 目の前で「ふおぉぉぉぉぉ」などという、何とも情けないうめき声を上げていても、最強の一角なのである。……威厳? 知らねぇな。

 そして、この鬼っ娘。博麗神社に住み着いていたりする。……正確に言えば、博麗神社の横に作った小屋にだけども。

 住む場所がないって言ってたから、私が作ってあげたのである。本当、私ってば最高に優しいわー(棒)

 

 萃香ちゃんが快適に過ごせるように、思いつく限りでオプションを付けまくった幻想郷最高峰の小屋である。

 

 手始めに霊力によるゴリ押sげふんげふんっ……特別な術式で冷暖房完備! 夏だろうが冬だろうが関係ないっ!

 風呂は露天風呂を採用し、霊脈を無理矢理引っ張ってきて力任せに再現したっ! 疲労、肩こり、腰痛、癌なんでも完治させる効能有り!

 擬似的に再現した冷蔵庫も有るし、炊事洗濯は私がやったげるからもーまんたい! 更に更に幻想郷では全く存在しないだろう水洗式トイレ(ウォシュレット、便座ヒーター付)も完備しているのだっ!

 

 ここまでやって、なんと家賃は無料! 無料なのですよ! どうですか! お買い得でしょう!?

 偶に私と一緒にお風呂に入ってくれたり、一緒のお布団で一夜を明かしてくれるなら、もっとサービスしてあげるぜ! R指定な事をしてくれたら、死ぬまで面倒見てあげちゃう!

 美少女には優しくがモットーの駄目人間製造機こと博麗霊夢、博麗霊夢です。どうぞ、よろしくお願いします。

 

「いつまで倒れているつもりだ。いい加減に立て」

「あああああ、強すぎだろぉ霊夢ぅ」

 

 首根っこを引っ掴まえて、無理矢理立たせる。

 ほーらほら、しっかり自分の足で立ちなさいな。全くもう、この子はいっつもこうなんだからー。

 あんまりにもだらしないと、お仕置きにその小さい胸を揉みしだいちゃうよ? 小さいと感度が良くなっちゃうらしいから、余りの気持ちよさに昇天しちゃうよ? むしろそれ以上の事もぐっちょりとヤッちゃうよ? なんせ私は、美少女であるなら、上は老女から下は幼女までイケる口だから大変な事になっちゃうよ? ねぇ(ねっとり)?

 

「さて、萃香。賭けの約束は守らないとな?」

「うぐっ……くそぉ分かったよぉ」

「鍵は開けてあるから、神社の中で着替えてくると良い。……それとも手伝ってやろうか?」

「うっさい! 自分で着れるわ!」

 

 萃香ちゃんは、あっかんべーと私に向かって舌を突き出して、そのまんま神社の方へと駆けて行った。……何それ可愛い。

 

 私が賭けをする理由がコレだ。……賭けに勝利して、自分好みの服を、私の趣味趣向の限りを尽くした服を、私に敗北した美少女達に合法的に着せる。着せることが出来るのだ。

 

 どんな際どい服であっても――そう、どんなえっちぃ服であってもだ。

 過去にはゆかりんに、ピンクのフリフリドレスやバニー服を着て貰ったり、魔理沙にミニスカメイドや、スク水を着て貰ったりして楽しんだ。

 そして、色々なポージングを取らせ、私の記憶領域に鮮明に焼き付けた。……恥じらう乙女の顔を、私のもの(意味深)に包まれた美しき肢体を、その最高の瞬間を焼き付けたのだ。

 宴会の度に、私の手に掛かる美少女が増えていく。これから先も増えるだろう。いや、増やす。増やしてみせる! 博麗の巫女の名に懸けて!

 

 幻想郷が私色に染まる日も近い。……ああ、素晴らしきかな幻想郷ッ!

 今回の敗者である萃香ちゃんには、それはそれはもう、とびっきりに可愛らしい衣装を用意してあげている。……クククッ、ああ楽しみだ。とてもとても楽しみだ。

 

 さて、萃香ちゃんが戻ってくるまでの間、のんびり一人酒と洒落込もうか。

 

 秘蔵の日本酒を豪快に盃に注ぎ込み、一気に呷る。

 喉を通り過ぎる熱、それが徐々に食道を伝い、胃の底へと下っていく。鼻を突き抜ける米酒特有の香りに、ある種の風情を感じる。

 いやー美少女が沢山いる中での日本酒はやはり味が違うね。いつもより何倍も美味しく感じるよ。

 酒を飲んだ後は、つまみである刺し身を一切れ醤油に浸して、ぱくりと一口。

 魚介類特有の臭みなどはなく、醤油の塩辛さと相まって、非常に美味しい。……ふむふむ、下処理さえしっかりとしていたら、川魚でも刺し身で美味しく頂けるね。

 味に不安があったけど、これなら、皆も喜んで食べてくれるだろう。作った以上は美味しく食べてほしいし、それが美少女ならなおさらだよね。

 それにしても我ながら良く出来ていると思うな、辛味の酒に良く合うこと。まさに酒の肴には持ってこいやね、魚だけに……ごめん、ちょっと首吊ってくるわ。

 

「「霊夢!」」

 

 酒を楽しんでいた私に襲いかかってきたのは、薄いピンク色の影と赤色の影。……私の超直感が言っている、影の主は確実に美少女である、と。ならば取るべき行動は唯一つ。

 万が一にでも怪我をしないように、瞬時に振り向き、片手で一人ずつ、受け止める。

 いいかね? 激流に逆らうのではない、同化して流れを掌握することが大事なのだ。受け止めた時に発生した衝撃は、私の身体を通して、全て地面に逃がしていく。

 如何に日常的な場面であっても、無駄に高等な技術を使うのが博麗クオリティである。

 

「レミリアにフランか、危ないから飛び付くなといつも言っているだろう?……もし怪我でもしたらどうするんだ」

 

 飛びついてきた影の正体は、可愛らしい吸血鬼の姉妹。……レミリアちゃんと、その妹であるフランちゃんだった。

 

 レミリアちゃんこと、レミリア・スカーレット。

 紅魔館という場所の当主を務めている吸血鬼の少女で、御年五百歳を迎える合法ロリ。

 青みがかった銀色のウェーブ掛かったセミロング、真紅の瞳。日に一切当たっていないと分かる色白の肌。そして、背中には大きい悪魔の様な翼が生えている。

 頭に被るナイトキャップは、白が強いピンクで、可愛らしい赤のリボンで締められている。その身に纏う衣服もナイトキャップに倣った色合いをしており、所々にレースやリボンがあしらわれ、大変可愛らしい。

 『運命を操る程度の能力』という強力な能力を持っており、本人曰く、現実的に実現可能な運命を引き寄せたり、都合の悪い運命を遠ざけたり、極めて大雑把にではあるが、未来の出来事を予知することが出来たり、と。何処のラスボスかな? かな? と言いたくなる様なカリスマックスな力を持っている。この力に加えて、吸血鬼としての怪力だったり、魔法力だったりもあるため、その実力は並みではない。

 普段のレミリアちゃんは、紅魔館の当主らしくカリスマ溢れる姿を披露してくれるのだが、私の手に掛かればこの通り、かりちゅまぶれいくはお手の物さ。まるで飼い主に懐くワンコもかくやと言わんばかりに、構って構ってオーラ全開で、私にしがみついている。……幼女特有の温もりと、慎ましやかながら、確かに存在しているちっぱいの感触が大変よろしい。もっと擦り付けてもらいたいものである。

 

 フランちゃんこと、フランドール・スカーレット。

 レミリアちゃんの妹で、御年四百九十五歳を迎える吸血鬼の合法ロリ。

 濃ゆい黄色の髪のサイドテールに、姉のレミリアとよく似た真紅の瞳、白い肌、そして、背中には一対の枝に、七色の結晶がぶら下がっているかの様な、特徴的な翼が生えている。

 ナイトキャップを頭に被り、服装は真紅の色を基調とした、半袖とミニスカートを着用している。スカートは一枚の布を腰に巻いて、二つのクリップで留めた、ラップ・アラウンド・スカートという奴である。……ズリ落ちてしまわないか、心配です(正直、見たい)。

 『あらゆるものを破壊する程度の能力』というラスボス的な能力を持ち、理屈の上ではこの世の全ての物質を破壊出来るとんでもガール。

 

 その振る舞いは無邪気な子供そのもので、四百九十五年もの月日を生きている吸血鬼とは、到底思えないほどに純粋な少女で、とても好奇心旺盛である。……純粋な娘ほど、染まりやすいよね? 今から仕込めば、ドスケベ吸血鬼フランちゃん爆誕! って、出来るのではなかろうか?

 

「私達は吸血鬼だから大丈夫! 結構頑丈だし、それに怪我してもすぐに治るよ!」

「それに、貴女が私達を受け止め損なうなんて、ありえないでしょう?」

 

 一体どういうわけなのか、二人共私にすっごく懐いていたりする。

 紅魔館に行ったら、すぐに私に向かってダイブしてきて両サイドを固めてくるし、帰ろうとしたら、捨てられた子犬の様にションボリとした表情をする。

 何かした覚えもないのに、大好きな飼い主にじゃれつくワンコの如き勢いで、懐いてくれているのである。

 どうしてなのか本当にわけ分からんけど、私としてはロリッ娘と戯れられて嬉しい限りなんで、好きにさせている。

 あっちから近づいてくるんだから、犯罪じゃないんやで? ロリっ娘の方から身体なすりつけてくるんだから、犯罪じゃないんやで?

 ぜーんぶ、しっかりと堪能しているけど、犯罪ではないんやで?……おまわりさん、博麗です。

 

「いや、私が怪我する可能性もあるのだが……」

「「いや、ないから」」

 

 人外に断言されたでござるよ、解せぬ。

 アレだね。美少女に真顔で断言されると、何とも言えないくるものがあるね。……ちょっとだけ首吊ってきますね、はい。

 私、いっつも首吊ろうとしてんな(首に荒縄を卷きつつ)。

 

「霊夢が怪我? え、何の冗談なの?」

「笑えないよ?」

「……私は人間だぞ?」

「「にん……げん?」」

 

 お前何いってんの? みたいな不思議そうな顔しないでくだせい。ショックで死んでしまいます。

 いやいやいやいや、私人間だからね? 完全無欠に人間だからね? デオキシリボ核酸的な意味でもモノホンの人間だからね?

 ちょっと空飛んだり、未来予知並みの勘を持っていたり、空間引き裂いたり、幻想郷中の気配(美少女限定)を探れたり、全力出したら宇宙が蒸発したりするけど普通に人間なんだからね!……え、にん……げん?

 

「この、悪い子め!」

「「キャー!」」

 

 私のガラスハートがブレイクしちゃったのでお仕置きします。

 ほーらほら、霊夢お姉さんがギュッてしてあげよう。ただ愛のままに抱き締めてあげよう。愛ッ! 愛ッ! 愛ィィィィィッ!……擽り込みでな(ド外道)!

 このロリっ娘吸血鬼共は、博麗が誇る対悪戯っ子専用奥義が一つ、「擽りハグ」の刑に処す。

 せっつめいしよう(裏声)! この技は相手を腕で押さえつけながら、その娘の脇腹などに手を伸ばし、延々と擽り続けるという、限りなく恐ろしい技なのである。

 その効果は単純、相手は笑い悶える! そして、ヤり過ぎると相手を大変な状態にしてしまうのである。

 さぁ、笑え笑えぇぇぇ! 私の手で笑うのだぁ! そして、悶えろぉ! 悶えるんだぁ! エロ可愛くぅ! 息を荒げてぇ! 色っぽく悶えるのだよぉ! フハハハハハッッッ!

 

「あっちょ、霊夢、待って、あんっ! 擽ったい、からっ! んひっ!?」

「あ、謝るきゃら、んくっ、ふあっ!? もぉ止めてぇ!」

「だ が 断 る」

 

 この私、博麗霊夢の最も好きな事は、止めてと悶え続ける美少女にNOと行って無理強いすることだ。……クッソ外道ですみませんね。

 いやー私としてもこれは逃せないチャンスなのでね。

 お仕置き判定であるためか、覇王モード先輩がストップしないので、思う存分、ロリっ子吸血鬼姉妹の身体を堪能できるんですわ、これが。

 擽っている、という意識さえしっかり持っていれば、結構ギリギリな部分もお触りできるのである。これがもう堪らないんですわ。

 スカート越しに足の付け根部分とかさわさわしたり、脇のところから若干その慎ましやかな果実に触れたり、お腹から上へと上下運動させている時に、偶然を装って、果実の先端部分に触れたり……ああ、ロリは良いぞぉ(ド変態)。

 私だって、二人のお願い聞いてあげたいんだよー? 聞いてあげられないのは、私の両手が何者かの意思によって勝手に動き回っているせいなんだよー本当だよー(棒読み)。

 

「「やっああっあぁぁぁぁぁ!?」」

 

 遂に私の責苦に耐えきれなくなったのか、二人の身体が一瞬だけビクッと海老反りになって、グッタリと脱力して私にもたれ掛かる。

 ふぅ……これが博麗式のお仕置き、というやつである(賢者モード)。

 息を荒げて、グッタリしている二人を横にして、頭を私の膝に乗っける。……楽しませてもらった礼だ、青春の憧れであるHI ZA MA KU RA(膝枕)を堪能させてあげようじゃないか。

 私のお膝は美少女の頭を乗っけるために存在しているので、柔らかさも弾力性もバッチシなのである。どんだけ眠れない人でも、すぐに安眠できること間違いなしやで! あのゆかりんでさえ「人を駄目にする膝」って言ってたからね!

 

「お嬢様! 妹様! どうなされたのですかっ!?」

 

 さっきの嬌声を聞きつけたのか、保護者もとい、レミリアちゃんの従者であるさーちゃんが駆け付けてきた。

 今日もメイド服から覗く白いお御足が素敵でございますね。酒が進む進む。

 

 十六夜咲夜……通称、さーちゃん。

 さっきイカせた吸血鬼姉妹の姉、レミリアちゃんの従者を務めているメイドである。

 銀髪のボブカット、もみあげ辺りから三つ編みを結っており、その三つ編みの先端には緑色のリボンが付けられている。瞳の色は深い青で、興奮したりすると、赤になったりする。

 服装はミニスカのメイド服、青と白の二つのシンプルな色合いで、頭にはホワイトブリムを着けている。そして、腰には銀色の懐中時計が取り付けられている。

 二つ名を「完全で瀟洒な従者」といい、その名に恥じないくらいの働き者である。メイドとしての仕事で彼女の右に出るものは、この幻想郷には一人としていないだろう。

 普段は冷静沈着で落ち着き払った態度をしているのだが、今のさーちゃんの姿にはそんな様子はない。自身の仕えている主の嬌声を聞いたせいで、冷静になれないのだろう。

 表面上は冷静を装ってはいるが、かなり焦っていることが見て取れる。

 

「霊夢! お嬢様と妹様に何をしたの!?」

「何、失礼な事を言われて傷ついてな、少々お仕置きをしてやっただけだ」

「お仕置き、ですって、一体どんな――ハッ!?」

 

 へーい、そこのメイド長さんよぉ。一体ナァニを想像したんですかねぇー?

 顔が真っ赤で、視線があっち行ったりこっち行ったりしていますぜ? もーさーちゃんってば、ムッツリさんよね。イケない子だわ、イケない子。やらしいんだからー。

 いやらしいメイド長って単語聞くだけで、心のマーラ様が荒ぶりだしたので、さーちゃんさんは責任持って私の霊夢を鎮めるべきだと思うんですけども。

 具体的にはさーちゃんのさーちゃんで、私の霊夢をザ・ワールドして、私の夢想封印がさーちゃんのさーちゃんに放たれるみたいな感じで。

 

「いや、擽っただけだぞ?」

「う、うううう嘘言わないで! 擽られた程度で吸血鬼であるお嬢様や妹様が、こんなになるわけがないじゃない!」

 

 擽っただけなんやで(すっとぼけ)。

 ギリギリを攻め続けた結果とも言う。覇王モード先輩がアップをしない程度のギリギリを狙って、擽り続けた結果なのだよ。

 正直ヤりすぎた思うので、反省はしている。無論、後悔なんて毛ほども抱いていないけど。……ロリっ娘吸血鬼のお身体、存分に堪能致しました。次の機会では最後までヤりたいですね、はい。

 それよりさーちゃん、全然信じてくれないのね。仕方ないので、これはもうさーちゃんの身体も堪能……もといお仕置きして差し上げなければなりませんね、はぁはぁ。

 

「なら、一度その身で体験してみるか?」

「なっ!?」

 

 ほーらほらさーちゃん、私だよー。博麗の巫女の霊夢さんだよー。全然怖くないよー。

 ちょっとギュッとして、身を委ねていればすぐに全部終わるから。先っぽだけだから! 先っぽだけだから!

 ジリジリとさーちゃんの逃げ道を塞ぎつつ、ゆっくりと距離を縮めていく。

 さーちゃんはさーちゃんで私が近づいて来る分だけ、距離を離す。……相当怖いのか、涙目である。

 

「い、いや。やめて、こないで」

「安心しろ、加減はしてやる」

 

 これだと私が無理矢理関係を持とうと迫る変態みたいだな。というか、此処まで拒否られると興h……泣けてくるんですが、それは。

 そんなに嫌なん? ただの女同士のハグじゃないですか(ゲス顔)。――おやぁ?

 

「嘘っ!?」

「つ か ま え た」

 

 残念、博麗の巫女からは逃げられない。

 駄目だよ、さーちゃん。時を止めて逃げようとしちゃー。思わず、距離詰めちゃったじゃないかー。もーじっくりと追い詰めようと思っていたのにー。

 まぁ、時止め程度で動けなくなるほど、軟な鍛え方はしていないんですがね。そっちだと、圧倒的絶望感でさーちゃんが気絶しちゃうから、ね。

 希望は最後まで残してあげるのが、ラスボススタイルなのだよ。……その希望が通用するとは言ってないけども。

 絶対に逃げられないように、背後からガッチリと羽交い締めである。さーちゃんの髪ってええ匂いするね。フローラルな香りだ。

 

「どうして逃げるんだ?……お前が信じてくれないから、実演してあげようとしてるんだぞ?」

「あ……い、いや。やめて、やめてよ、霊夢」

 

 さぁ、その身を明け渡すのだ、さーちゃん!

 私の魔の手が、さーちゃんのスレンダーな身体に伸びる。……擽るだけや、擽るだけなんやで。

 さーちゃんはギュッと目を瞑って、唇を固く引き結んでいる。何が来ても耐えられるように、出来る限りの必死の抵抗をしている。……何で微妙に頬を染めているのかは聞かないでおいてあげよう。

 そんな彼女の姿を見て私は――

 

「なんてな……期待したか? 咲夜」

「……へ?」

 

 ポンッという気の抜けた音を立てて、彼女の頭に手を乗せる。……そして、そのままナデナデにシフトする。

 お仕置きするための理由が出来ていないのに、お仕置きできるわけないじゃないですかー。私がああいう事出来るのは、お仕置きっていう名目が有ってこそ、なのだよ。

 さーちゃんはアタシに何もシツレイしてないから、アタシはさーちゃんにナニも出来ないのヨ。これジョーシキアルネ。

 もしもオシオキしてもらいたかたら、私にシツレイするよろし。ハクレイのミコとの約束ネ。

 

「……本当、貴女って意地悪な人よね」

「何、気になる相手にはちょっかいを掛けてみたくなるだけだ」

「〜〜ッ!? またそんな事言って!」

 

 嘘ではないのでね。

 幻想郷の美少女の事は、毎日気になっておりますからな。

 それに、さーちゃんはからかうとしっかりと可愛らしい反応を返してくれるから、私もからかい甲斐があるというもの。これからもからかっていきたいと考えているのでどうぞ、よろしくね。

 

「あー! 咲夜が霊夢を取ってるー!」

「こうしちゃいられないわ! 私達も行くわよフラン!」

「分かったわ! お姉様!」

 

 おい、学習しろよ吸血鬼。

 復活した吸血鬼姉妹が、力の限り突進してくる。……さっきよりも速い。勢い的に人間を軽くミンチに出来る程度の威力はありそうだね。

 一旦、さーちゃんを上に放り投げて、一人ずつ受け止める。受け止め方は前と同じで、衝撃を地面に流すだけ。次にその場に一瞬で胡座をかいて、両膝の方に吸血鬼姉妹の頭を乗っける。

 そして――

 

「え? え?」

 

――空中散歩から帰ってきたさーちゃんをお姫様抱っこで受け止める。

 

 この間、実に三秒である。

 あんまりにも短い出来事だったせいで、さーちゃんも何が起きていたのか、分かっていないだろう。目を点にして混乱している様子だ。……可愛い。

 そのまんま、胡座の間に腰掛けさせる。……紅魔館欲張りセットの完成である。

 両膝にはロリっ娘吸血鬼を侍らせ、私の胡座の上には、私を椅子にしてやわっこいお尻で座っているさーちゃんがいる。

 やばい、幸せ過ぎて死にそう。美少女の柔らかさと香りに包まれている状況が素晴らしすぎて昇天してしまいそうだ。

 

「すごーい! もう一回! もう一回やっtむぎゅ」

「寝ていろ」

「そうよ! もう一回だけ! もう一回だけでいいかrうにゅ」

「お休み」

 

 何かはしゃぎまくっている吸血鬼姉妹は、お休みしましょうねー。

 ほらほら、私の膝枕だよー。気持ちいいだろー? 眠たくなるだろー? 今ならナデナデもサービスしてあげようジャマイカ。

 

「えへへ、それはふりゃんのおかしぃ……すぅすぅ」

「うー、うーーッ!……すぴーすぴー」

 

 約束された安眠をあなたに、博麗の膝枕。

 お買い求めの方は、1081(いいおっぱい)1081(いいおっぱい)でご連絡下さい。

 ロリっ娘が眠ったので、今度はさーちゃんの番である。

 

「ふにゃあぁぁぁ」

「よしよし」

 

 エロい事はしてないので、よろしくね。

 猫を可愛がる様に、頭のツボを刺激するようにナデナデ、そして、耳の付け根とか喉とかもゴロゴロしてあげる。

 どうだ、気持ちよかろう? 橙で鍛え上げたこのナデナデ技術。人間相手でも効果があるのか不安だったが、さーちゃんの表情を見る限りでは、それも大丈夫そうだね。

 ほーれほれ、サービスでほっぺたもムニムニマッサージしてあげようか。

 

「え、何なんだ? この状況」

 

 紅魔館の面々と戯れていたら、萃香ちゃんが戻ってきた。

 この状況、と言われても。見たまんま吸血鬼姉妹を膝枕してて、胡座の上に咲夜ちゃんを乗っけて猫可愛がりしているだけなのだが。

 

「どうやらちゃんと着てきたようだな」

「めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!? もう脱いできていいよな!?」

「いやいや、今日の宴会は、それで過ごしてもらうぞ?」

「そ、そんなー」

 

 賭けで負けちゃったからね。仕方ないね。

 うんうん、見立て通り、萃香ちゃんによく似合っているね。……その特製巫女服。

 勿論、由緒正しき脇巫女スタイルでデザインされている。原作の博麗霊夢の衣装を、もう少し露出多めにした感じかな。

 服の丈を短くすることで、ヘソを露出させ。スカートを短くして、黒いニーソを付け足すことで絶対領域を発生させる。本来有るべきサラシを無くす事で、もしかしたら少女の果実を見ることが出来るのでは? という期待感を演出する。

 幼い見た目の萃香ちゃんが、そんな服装をしている。そこには何処か背徳的な情欲を駆り立てる魅力が溢れている。

 

「ふふふ、よく似合っていて可愛いぞ萃香」

「ふんっ!」

 

 ほほぉう、ヘソ丸出しの鬼っ娘巫女が、ヘソを曲げておるわ。……相当にご機嫌斜めと見える。

 まぁ賭け事負け過ぎて、着せ替え人形同然の扱いされていたら、そうなるかぁー。色々着せられたもんねー。ゴスロリとか、ナース服とか、スク水とか。

 半ば無理矢理着せられたに等しいけど、何だかんだ褒められて嬉しいのは、その顔見てれば分かるよ。ニヤケ顔が全く隠せてないからね。……本当素直じゃないね、萃香ちゃんは。

 

「もう一回! もう一回、勝負だ霊夢!」

「別に構わないが、次は何を賭けるんだ?」

「負けた奴が恥ずかしい格好をする!」

「ふむ、そうか。なら次はーー」

 

 そして、再び始まる十一回戦目の賭け事。

 勝負前に着替えに行くのに、巫女服のままとは、相当気合が入っていると見える。ギラギラと戦意に満ち溢れた瞳で私を睨みつける。

 対する私は、紅魔館の美少女を侍らせ余裕のスタイル。ぐっすりスカーレット姉妹に、猫と化したさーちゃんを装備した状態である。

 

 勝負の形式は運が絡まない物にした。……将棋である。

 これなら勝てる、と思ったのだろう。不敵な笑みを浮かべる鬼っ娘。……ふっ、浅はかなり。

 ふふん、残念だったね。萃香ちゃん。実は私――

 

「ば、馬鹿な」

「王手……残念だったな、萃香」

 

――竜王クラスの実力があるのだよ。

 

 ゆかりんと将棋したら嫌でも実力上がるよねって話。ゆかりん頭脳派だから、マジで強すぎるんだよぉ。

 一応、最近になってから三戦中一回くらいは、勝利をもぎ取れるようにはなったけどね。……何故かゆかりん落ち込んでいたけども。

 

「さて、約束だ。これを着て貰おうか」

「い、嫌だ。そんな恥ずかしい物、着れるわけがないだろっ!」

「ふむ、ならば私が着替えを手伝ってやろう」

「い、嫌だァァァァァ! ぐへっ!?」

 

 はいはい、博麗の巫女からは逃げられない、逃げられない。

 無駄な抵抗は止めて、大人しく着なさいな。この――

 

「ま、前しか隠せてないじゃないか、それ!」

「こういう服なのだから仕方ないだろう? ちゃんと見えない様に工夫されているから安心しろ」

「そんな問題じゃないだろ!」

 

――裸エプロン(新妻の最終兵器)をな!

 

「や、やめろぉー! 離せぇぇぇ!」

 

 必死に逃げようとする萃香ちゃんを、結界その他諸々で押さえつけ、身に付けている衣服を無理矢理剥ぎ取り。私が丹精込めて作り上げたエロ可愛いエプロンを身に着けさせていく。

 

「う、うぅぅぅ、見んなぁぁぁ! 見んなよぉぉぉ!」

 

 涙目で露出部分を押さえている鬼の幼女の姿に、私の内側にいるケダモノもハッスルせざる得ない。……具体的に言うならば、萃香ちゃんの萃香ちゃんと、私の霊夢で初の共同作業(意味深)を行いたい。

 

「引っ張るな! 見えるからっ! 見えちゃうからっ! 力強っ!?」

 

 エプロンの裾をちょっとずつ上の方にずらしていく。段々と露わになっていく萃香ちゃんの太腿。そしてその先にあるであろう魅惑の領域には、鬼の保有している大事な大事な宝物には、大変興味を唆られる。

 匂いで分かるぞ? 萃香ちゃん、お主経験ないな?……じゅるり(獲物を狙うケダモノ)。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけ、先っぽだけ、先っぽだけだから」

「嘘だろ絶対っ! っていうか、お前いつもと何か色々と違うぞっ!? 何処の色ボケオヤジだよっ!」

 

 酒に酔ってるんだよ(酔えない体質)。

 おっかしいなー、覇王モードぱいせんが仕事してくれないな―、困ったなーどうしよっかなー……何はともあれ、裸エプロン着用時の萃香ちゃんは大変可愛らしかったです(小並感)。

 

 その後は騒ぎを聞きつけて、色んな方々が乱入しての大騒ぎになってしまった。

 

 酒に酔ったゆかりんが萃香ちゃんを執拗にからかったり、文ちゃんが際どすぎる写真を激写してたり、遂には萃香ちゃんがぶちキレて巨大化して大暴れしたり、そんな萃香ちゃんを止めるために、皆が一致団結して止めに入ったり。……私? 私は紅魔組を愛でながら、そんな面白可笑しい美少女たちの光景を肴にして酒を楽しんでいたよ。皆楽しそうで、私は嬉しかったです(全ての元凶)。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 紅魔館の当主、吸血鬼レミリア・スカーレットに仕える従者、十六夜咲夜にとって、博麗霊夢という少女は、意地悪な友人である。

 何かにつけては、冗談とは思えないような冗談で、自分をからかってくる意地悪な友人。

 自分が慌てふためく姿を見て、憎たらしいくらいに綺麗な笑みを浮かべるあの友人。

 

 悪い人ではない、むしろどうしようもないくらいの善人だ。

 自分が人里に買い出しに出かけている時も、人助けをしている姿を何度も目撃したことがある。

 それに、重い荷物を運んでいる時は、然りげ無く持ってくれたりしてくれる。それでいて何の見返りも求めないのだ。これを善人と言わずしてなんとするのか。

 

 紅魔館を訪れる度に、あの巫女は自分にちょっかいを掛けてくる。

 掃除をしていようと、料理を作っていようとお構いなく、ちょっかいを掛けてくる。

 急に抱き締められたり、頭を撫でられてべた褒めされたり、料理のダメ出しされたり、手伝ってくれたり……そして最後には決まってこう言うのだ。

 

――何、気になる相手にはちょっかいを掛けてみたくなるだけだ。

 

 どうしてそんな恥ずかしげな言葉を臆面も無く言えるのか、この巫女の心臓は鋼か何かで出来ているんじゃないのか、何度もそう思った。

 あの巫女の言葉に、どれだけ惑わされたか分からない。本気で言っているのか、冗談で言っているのか、どちらにしても質が悪い。

 

 かと言って、霊夢の事が嫌い、とかそういうわけでもない。

 毎度のちょっかいには辟易するが、それでもあの巫女の様に気楽に付き合える友人、という存在は咲夜にとっては希少なのだ。

 

 話は変わるが、紅魔館に存在している人間は、咲夜ただ一人だけである。

 それを苦だと感じたことはない。仕えている主は良識のある吸血鬼だし、妹様も無邪気で可愛らしいし、同僚の門番も気さくで明るく、図書館を住処にする魔女も知識が豊富で頼りになる。

 まるで家族の様な、そんな温かい雰囲気が紅魔館には漂っていた。

 

 そんな温かい空間なのに、いや、そんな温かい空間だからこそ、か。

 稀に自分一人だけが、取り残されているような、気持ちになるときがある。

 周りだけ自分と違う時間を生きているんだ、と強く感じる時が有るのだ。

 周りが変わらない中、自分だけがどんどん歳を取っていく、変わらない景色の中で自分だけが変わっていく。

 人間と妖怪であるならば、避けようがない絶対の摂理。そんな当たり前の事実がたまらなく恐ろしく感じる時があるのだ。

 

 お嬢様に頼んで、吸血鬼にしてもらおう、と考えたこともある。

 だけど、そうしたら、吸血鬼になってしまったら人間としての自分が死んでしまうような気がして、最後の一歩が踏み出せなかった。

 

 皆と同じ時間を過ごしたいけど、人間のままでいたい。……そんな矛盾を抱えたまま、日々を過ごすのが苦痛だった。

 そんな咲夜の苦痛を粉々に破壊したのは、一人の人間だった。……初めての人間の友人、博麗霊夢である。

 

 博麗霊夢は、どうしようもなく人間だ。

 その在り方が、その意思が、どうしようもなく人間なのだ。

 人間として当たり前に生き、人間として当たり前に過ごし、人間として当たり前に歳を取る。

 自分以上に妖怪と過ごし続けている彼女、それなのに微塵たりとも揺らぐことがない。悩み続ける自分とは全く違うその姿に魅せられた。

 

 一度、聞いてみたことがある。

 

「どうして、貴女はそんなに堂々としていられるの?」

 

 自分が一人で取り残されるのが恐くないのか? 周りが変わらない中、自分一人だけが歳をとっていく事が恐くないのか?……咲夜の疑問に対して霊夢は即答した。

 

「私が私だからだ。それ以上でもないし、それ以下でもない」

 

 難しい理屈なんて一つもいらない。

 単純な事だった。自分が自分として生きている以上、それを変えることなんて出来はしない。それならば、自分に一切の恥がないように生きていけばいい。……そういうことなのだろう。

 人間である以上は人間。博麗霊夢という名の一人の人間。十六夜咲夜という名前の一人の人間。何も難しくない、当たり前の事なのだ。

 

「咲夜、お前という人間もまた、お前以上でもないし、お前以下でもない。お前以外の何者にもなれないし、なる必要もない。……何故なら。お前という存在はこの世にたった一人だけしかいない、唯一無二のものだからだ」

 

 もう疎外感なんて感じなかった。

 

「だから胸を張れ、お前は私の大事な友人、十六夜咲夜という人間なのだから」

 

 いや、そんなものを感じる必要は最初から何処にも無かったのだ。

 

――自分だけが人間で他の皆は妖怪? ただ、それだけでしょう?

 

――時の流れが違う? ただ、それだけでしょう?

 

 恐れるものなど何もない。ただ人間として精一杯毎日を生きて、過ごして、歳を取っていけばいい。……なぜならば、それが自然で人間らしい生き方なのだから。

 最後には別れもあるだろう。お嬢様、妹様、パチュリー様、小悪魔、美鈴。……家族である彼女たちとの別れはいずれ必ず訪れるだろう。でも、それでも自分は人間として生き、最後までこの温かな空間で過ごしていきたい。

 

――私は人間であることを誇りに思う。

 

 人間だったからこそ、お嬢様に拾われ、この紅魔館でメイド長を務めていられる。

 

――私は人間であることを誇りに思う。

 

 人間だったからこそ、あんなに素敵な友人を得ることが出来た。

 

――私は人間であることを誇りに思う。

 

 人間だったからこそ――

 

「……馬鹿霊夢」

 

――貴女と同じ視点で、貴女の事を想うことが出来る。

 

 紅魔の従者は人間である。完全で――されど不完全な、たった一人の人間なのだ。

 




書くのってやっぱりめちゃんこ楽しいね(粉ミカン)!

四話目、如何でしたでしょうか?

いつもかなり長く書いてしまいましたね。
何やねん15000って、書いてる私が一番意味が分かっておりません。
読みにくかったらスマンな。
プロットが完全に息を引き取ってて、完全に草も生えない砂の○星状態。

多分、誤字とか表現可笑しいところ出てくると思っているんで、
次の次に次の次? まで投稿したら、一旦清書というか、取り敢えず、全部細々と読み返して脱字などの部分とか、表現の部分をもう少し読みやすく改善する作業に入りたい、と考えています。

ではでは、次は五話とお楽しみに!


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巫女、道場

お気に入り登録が800超えてて、びっくりし過ぎて死ぬかと思ったんやで。

とりま、お読みくだされ読者様(畏み)


――鍛えるのは良い事だ。

 

 肉体、精神、知力。それがどのようなものにしても、鍛えるという事は良いことだ。

 

 肉体を鍛えるのは良い事だ。

 腹筋や腕立て伏せ、スクワットなど、自重のみで、筋肉に負荷を掛ける鍛え方、ダンベルやバーベルなどの道具を用いて、筋肉に負荷を掛ける鍛え方、様々な鍛え方がある。

 食事や回数などにも気を使った計算的な鍛え方、倒れるまでやり続けるという根性論丸出しの鍛え方。人それぞれにそれぞれの鍛え方というものが、この世には存在している。

 

 そして、その鍛える理由も、また人それぞれである。

 女であれば、モデルの様に理想的な美しい肉体になりたい――今よりも優れた美貌を求めて、己の身体を鍛え上げる。

 男であれば、筋肉モリモリマッチョマンの変態になりたい――今よりも圧倒的に強い力を求めて、己の身体を鍛え上げる。

 今の自分に変化を、つまり――

 

――今の自分よりも先へ、先へと進みたい。

 

 だからこそ鍛える。自分自身を変えるために鍛えるのだ。

 

 鍛えていると様々な変化が訪れる。

 ある日、自分の身体が軽くなっていることに気付いたり……。

 メジャーを巻き、ウエストが細くなっている事を、理想の体型に近づいていることを知る。

 以前は持ち上げるどころか、動かすことすら出来なかった物を簡単に持てるようになったりする。

 それは前の自分より変化した、先へ進んだと言っても良いだろう。それはとても素晴らしい変化であり、各々が鍛え続けた末に手にした価値ある結晶だ。

 

 故に私は思う、肉体を鍛えるのは良い事だ、と。……うぃーあーまっそぉ。

 

 精神を鍛えるのは良い事だ。

 静かな場所で胡座をかいて、静かに目を閉じてみて欲しい。

 聞こえてくる草木の揺れる音。肌を優しく撫でる風。自分の胸より感じる生命の鼓動。

 僅かな邪念さえ一切持たず、心を無にして、それら自然のものをありのままに感じ取る。

 そして、自分を客観視し、痛みも苦しみも、あらゆる全てを受け入れる。ただそれだけで精神というものは、鍛えられていく。

 昔ながらの精神修行、これにより得られるのは平常なる精神。何事にも冷静に考え、対処できる精神へと鍛え上げることが出来る。

 

 無論、これだけが精神を鍛える事ではない。

 自分を常に追い詰め続ける事で精神を鍛える者もいる。敢えて過酷な環境に身を置くことで、自身に苦しみを強いて、打たれ強い精神を作り上げるのである。

 山籠りや無人島生活など、一切の道具を持たず、己の身一つで大自然に挑む。

 これによって鍛えられるのは、本能に則った生きるために必要な精神だ。自身の生存を賭けて大自然へと挑む事で、命を奪うという事、耐え忍ぶ事、その全てを養える。

 文明を得たが故に、疎かになりつつある生物としての原初の精神を鍛え上げることが出来るのだ。

 精神。……それ即ち心。心を鍛える事で己と向き合い。これからの生を、より純度の高いものへと変えていくのである。

 

 故に私は思う、精神を鍛え上げるのは良い事だ、と。……ぎぶみーすちーるめんとぉ。

 

 知力を鍛えるのは良い事だ。

 一概に知力と言っても、発想力、理解力、記憶力などがある。

 それらの知力は勉強なり何なりをして、知識を増やしたり。脳力トレーニングなど、頭を使った遊びをすることでどんどん鍛えられていく。

 要は考える習慣を身につける事が大事なのだ。

 例えば、掃除をするならば、何処から手をつければ良いだろうか? アレを使えばすぐに終わるんじゃないか? あの場所から順番にしたらすぐに終わるかな? 一人だと時間が掛かるから、前に紹介された業者を呼ぼうかな?……などと考えることが出来る。

 どんな馬鹿げた事でもいい、考えて考えて考える事が重要なのだ。考えないと知力は成長していかない。それは逆に言えば、考えることさえ出来るなら、いつでもどこでも知力を鍛える事が出来るのだ。

 

 知力を鍛え上げていると、日常生活を生きる上でも多くの恩恵が得られる。

 発想力が鍛えられている者ならば、常人では全く考えつかない様な方法で問題を解決出来るだろう。

 理解力が鍛え上げられている者ならば、物事を誰よりも早く理解し、適切な対処が出来るだろう。

 記憶力が鍛え上げられている者ならば、その頭に入れてある膨大な知識量が、そのまま力となるだろう。

 何か問題が起きた時、鍛えられた知力があるならば、それにも対処できるようになる。

 

 故に私は思う、知力を鍛えるのは良い事だ、と。……あいあむじーにあそぉ。

 

 結論を言うならば、鍛えるのは素晴らしいぞぉ、という事だ。

 素晴らしい肉体を、強靭な精神を、明晰な知力が欲しいならば、今の自分を変えたいならば、鍛える以外に道はないのだ。

 どっかのマッスルも「鍛えよ、さすれば与えられん」とかいう謎の言葉を残していたりする。つまり何かを成し遂げるには鍛えるしかない、という事なのだ(脳筋思考)。

 

 もう一度言おう、鍛えるのは良い事だ。

 鍛えて得をすることはあれど、損をすることは決して無いのだ。鍛えることで、我々は先へ先へ、変化という名の成長へと足を進めることが出来るのだから。

 

「お前たちもそうは思わないか?」

「何のっ! 話っ! ですかっ!」

「どうしてっ!? 当たった筈なのにっ!」

 

 フゥ↑ハハァー、残念だったな美鈴、それはただの残像だぁ!(渾身のドヤ顔)

 

 現在、私は二人の少女と相対していた。

 私に向かって我武者羅に剣を振り続ける少女――魂魄妖夢(こんぱくようむ)。そして、そのサポートをするように、剣撃の隙間から私に向かって蹴りを放ち、距離を詰めて拳を叩きつけてくる少女――紅美鈴(ほんめいりん)

 

 魂魄妖夢。

 半分人間で半分幽霊の半人半霊という種族で、冥界の白玉楼に住んでいる剣術指南役兼庭師の少女である。

 髪は白色のボブカット、瞳の色は暗めの灰色で、肌は普通の人間よりは白く、ほんのりと桜色に色づいている。

 普段の服装は、白いシャツに青緑色のベストを好んで着用し、その胸元には黒い蝶ネクタイを付けている。短めの動きやすいスカートからはドロワーズが覗く。足には白い靴下に黒い靴を履いている。

 傍らには常に自身の半身――半霊という大きな白いモチの様な物体が漂っている。半霊は物体を透過したり、逆に硬化してぶつけたり、人型に変形できたりと自由性が高く、人間の半身と共に、高度な連携をとることも出来る優れものである。

 

 性格は真面目ではあるが、天然で未熟な面が目立つ。

 本人の一生懸命さとは裏腹に、空回りしてしまうこともしばしば……この未熟者めがぁ!(byマスター・アジア)

 妖夢は失敗が続いて涙目になっているところが一番可愛いんじゃないかと思う今日この頃である。……涙目で落ち込む妖夢に優しくして、そのまま私の家まで誘導してから、ゴートゥーフゥートンしたいですな。

 そして「れ、霊夢さん?」って戸惑っている妖夢に大人の世界というものをグッチョリ教えこんで、いずれは自分から私を求めてくる様に調教していくのだ。……うへへー、もぉー妖夢ってば欲しがりさん何だからー(妄想)。

 能力は『剣術を扱う程度の能力』。

 読んで字の如く剣術を扱う程度の能力? である。……いや、これを能力と言っても良いのか? などとちょっと疑問に思うかもしれないが、能力は能力だ。何か色々と凄い剣術を使いこなすだけの能力なのだ。うん、きっとそうに違いない。細かい事を考えてはいけない、考えるな、感じるんだ(戒め)。

 ぶっちゃけ私もどんな能力なのかは詳しくは知らない。ただ、教えれば教えた分だけ、色んな剣術を身に着けていくから、様々な剣術を高いレベルで習得する事が出来る程度の能力だと思っている。……そのうち、剣術だけなら私を超えそうで楽しみである。

 

 紅美鈴。

 二つ名を華人小娘、紅魔館の主であるレミリアちゃんに仕えており、紅魔館の門番をしている。

 髪は腰まで伸ばされた紅のストレートヘアーで、側頭部を編み上げて、リボンで結んでいる。スタイルは抜群で、むしゃぶりつきたくなる豊かな胸とすらりと伸びた美しいお御足が大変素晴らしい。

 普段は華人服とチャイナドレスを足してから二で割ったような、淡い緑を主体とした服装をしている。頭には龍の一文字が入った星型の飾りが付いた、緑色の帽子を被っている。

 

 職務には忠実で真面目ではあるが、本人の性格は穏和で、暢気である。

 そのため、紅魔館への侵入者か、喧嘩を売られでもしない限りは決して襲ってくることはない。人間相手でも友好的であるので、紅魔館のイメージアップに貢献もしている。

 また妖怪でありながら、人間の武術に精通しており、特に八極拳や中国拳法などのアジア圏の武術を得意としている。彼女の能力である『気を操る程度の能力』と相まって、こと近接戦闘の技術に於いては、この人外魔境である幻想郷でもそれなりの上位にランクインする強者である。 

 舞うような武術の冴えと、それに合わせて揺れる大きな乳房のコントラストは、見ている者を魅了する。

 ちょっとそこの門番さん。すこーしだけ、そこの木の陰で私の動きに合わせて、前後運動しないかい? イチモツは無いけど、霊力とかの応用で擬似的に再現したりは出来るからさぁ。ちょっと私が果てるタイミングで体内に私の霊力が放出されるだけだからさぁ。

 能力はさっきも言った『気を操る程度の能力』である。

 どこぞの野菜人の様に、手の平からビームを出したり、身体を強化したり色々と応用が効く能力である。しかし、それ故に器用貧乏にもなりやすく、美鈴本人も決定打を持っていない事に歯噛みしている様子。

 うーん、今度色々と仕込んであげようかねぇ? 美鈴だったら絵になりそうな技も幾つか知ってるしねぇ。……勿論、二人っきりだよ? 房中jゲフンッゲフンッ! 気を使った色々な技を教えてあげたいからさ!

 

「このぉっ! 当たって! 下さいっ!」

「当ててみろ」

「またですかっ!?」

「フッ、残像だ」

 

 二人共、汗をダラダラと垂れ流しながら、今にも倒れてしまいそうなくらいに必死な表情で、私を攻め続けている。上から、下から、はたまた横から、ありとあらゆるところを攻め立ててくる。

 こ、こんなに美少女に求められるなんてっ! んっ、ふぅ……いやいや、何もヤッてないし、何もイッてないぞ。ちょっと股の方が湿ってる気がするけど、きっと気のせいだぞ。

 

 それにしても、必死になっている美少女ってどうしてこんなにエロティックに感じるのだろうか?

 息を荒げているから? それとも汗で服が透けているから? 紅潮した肌が色っぽく見えるから?……何にせよ、必死な美少女はエロく美しい、それが真理である。

 でも、ごめんね。君たちの想いには応えてあげたいんだけど、私はそんなに安い女じゃないんだ。……私は攻められるよりも、攻める方が好きなんだよぉ!

 

 私の手でヨガり狂う、そんなお前たちの姿が堪らなく大好きなんだよぉっ!

 

「踏み込みが浅いぞ、妖夢。もう少し深く切り込んで来い」

「はいっ!」

「美鈴、お前少しは焦り過ぎだ。冷静になって一撃一撃を考えて打て、それではただ闇雲に攻め立てているだけだ」

「了、解っ!」

 

 妖夢が振るう刀の腹をデコピンで弾き返し、美鈴の蹴りを同程度の威力に調整した手刀で弾いて返す。……傷を付けないように、怪我をさせないように、最大限に、細心の注意を払って、一つ一つ丁寧に丁寧に迎撃する。

 

 一応、反撃もしている。かるーく胸を揉んでみたり、頭を撫で撫でしたり、腰を鷲掴んだり、太腿をスリスリしたり。

 ふむふむ、妖夢はちょっと前より育ったかな? 胸の膨らみが僅かに増している。……だけど、それでもまだまだ身体の線が細いなー。もう少しよーく食べて肉を増やした方が良いんじゃないか? って巫女は思うよ。

 ははーん、美鈴の奴め。まーたまた門番の仕事をサボって昼寝してたな? 運動不足のせいか、腹回りがすこーしだけむちむちしているぞ? ぽっちゃり体型が嫌なら、一緒に運動(意味深)してダイエットしようねー。

 

 うむ、対象的な身体つきしているけど、どっちもええ身体しているなぁーッ! ぐふふっ、ジュルリジュルリ……た、鍛錬だからね! 他意は無いからね! ちょっと私が妖夢と美鈴で(過激な)運動するだけなんだからね!

 

 話は変わるが、私達が修行してる場所は、『博麗道場』である。

 

 博麗道場。……正式名称を博麗式女傑育成修行道場という。

 博麗神社の近くにある森を開拓して、無理矢理建てた違法建築物である。

 建物自体の大きさは、紅魔館と同じ程度。しかし、内部の方は、力任せに空間拡張して大きく広げてあるからかーなーりー広い。……大体で霧の湖三個分くらいの広さはあるんじゃなかろうか?

 

 女、特に選りすぐりの美少女のみに入門することを許可された道場である。

 まぁ、不細工だったとしても、磨けば光る原石もいるし、私が課している修行を受ければ、例えゴリラ顔でも数ヶ月で、目も覚めるような天女の出で立ちにする事も不可能ではないから、別に美少女だけに限定しているわけでもないんだけどね。……だが、野郎共、テメーらは駄目だ。寄ってくるな、あっちへ行け、しっしっ。

 

 そう、此処は男子禁制の乙女の花園。

 あらゆる多種多様の少女達がこの場を訪れ、肉体を、精神を鍛え、技を磨き上げるための施設だ。

 私が作ったお手製の鍛錬グッズが数多く揃えられており、空気中の霊力や妖力から飲み物を生み出すウォーターサーバ的な物を設置しており、更には鍛錬の疲れを癒やすため、私の手による特別なマッサージを受ける施設なども完備している。

 妖怪の美少女を中心に人気を集めている、この幻想郷でもかーなーりーホットなスポットである。

 

 今日は、道場に妖夢と美鈴の二人が訪れてくれたので、道場の師範であるこの私自らが鍛錬に手を貸してあげているのである(邪心百二十%)。

 

「取った!」

「捉えましたっ!」

 

 考え事をしていたせいで出来てしまった僅かな隙、それを突いてきた。……無論、態とである。

 ほうほう、さっき指摘したところを直して、ちゃーんと反映していますな、動きのキレが良くなってるよ。

 妖夢はより深く踏み込めているし、美鈴はちゃんと私の動きを予測しつつ、身体の中心を狙って打ち込んでいる。

 更には個々のタイミングを僅かにずらす事で、回避しにくい様に工夫している。……うん、成長速度が早いな。流石は妖夢と美鈴だぁと褒めてやろう。

 

 しかし、残念。取ったんじゃない――

 

「「嘘ぉっ!?」」

 

――取られたんだ。

 

 踏み込んできた二人が攻撃を繰り出すよりも速く、一人ずつ動きを抑える。

 

 確かに素晴らしい動きだった。

 力の入れ方、呼吸の合わせ方、その全てが精錬された高水準なものだった。並みの相手ならば確実に致命傷を与える事が出来る程……相性によっては格上すら通用するかもしれないキレのある完璧な連携だった。

 

 その上で君たち二人には決定的に足りないものがある。

 情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ! そして何よりも――

 

「踏み込みも良かった。タイミングも完璧だった。――だが、足りない。足りないぞ二人共」

 

――速 さ が 足 り な い。

 

「フッ、精進あるのみだな。……飛べ」

「きゃあぁぁぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

 美少女が、錐揉み回転、大変だぁ。……博麗霊夢、心の俳句(字余り)。

 二人は空中高くまで吹き飛ばされ、目にも止まらない速さで縦に大回転している。抵抗しようと頑張っているみたいだけど、回転の勢いを少しも落とせていない。……むふふー、この私がそれなりに本気で投げたんだから逃げられるわけないじゃないか(強気)。

 

 やがて、二人が徐々に落ちてきて……。

 

「みょーん」

「ふへぇ」

 

 床に叩きつけられる前に、猫を持つみたいに、首根っこを掴まえる。

 

 強い回転に晒された影響で、二人共漫画みたいに目をぐるぐると回して、ぐったりとしている。

 妖夢、美鈴戦闘不能! 博麗の勝ち! 二人の身柄を手に入れた! やったね霊夢ちゃん! 家族(意味深)が増えるよ!……具体的に言うならば、妖夢と美鈴の二人の他に、私と二人の血を引く小さな生命が増えるよ!(ドストレート)

 

 まぁ、覇王モードパイセンがスタンバってるんで、手は出せないんだけどね。

 仕方がないので、普通に優しく介抱することにする。……そう、博麗が誇る伝家の宝刀、膝枕(HI・ZA・MA・KU・RA)の出番が来たのである。

 私の膝枕は特別中の特別、疲労、傷の回復などの効果もある優れものなのだ。こうして私の膝に頭を乗っけてあげるだけで……。

 

「……うぅ、目が回りました」

「頭が、ふらふらします」

 

 ほーらこの通り、気絶程度ならすぐに回復させることが出来るのである。

 さっすが私の膝枕だね! 一家に一人博麗霊夢の膝枕、貴方の全てを癒やします! 美少女相手なら、特別に耳かきや子守唄、おまけに赤ちゃんプレイなどの特殊なサービスなどもお付けします!(ただし野郎ども、オメェらは駄目だ)

 

「全く、あれくらいで情けないぞ二人共」

「霊夢さんを基準で考えないで下さい」

「人間どころか妖怪でもアレは耐えられませんって」

 

 身体を起こしながら、ぶーたれる二人。……普段から鍛えていないから駄目なんだと思いますー。

 私は鍛えているから耐えられる、貴女達は鍛えていないから耐えられない。そんな単純明快でシンプルな答えなのだ。……どぅーゆーあんだーすたんど?

 

「あの程度は鍛えていれば問題はないと思うが……魔理沙なら、あの程度では音を上げないぞ?」

「……魔理沙さんって人間でしたよね?」

「その筈です。……うぅ、あの頃の純粋な魔理沙さんはいなくなってしまったんですよ。これも全部この巫女のせいです」

「おのれっ霊夢さん! 貴女の血は何色ですか!」

「……後半は覚悟しておけよ?」

「「すいませんでしたぁぁぁ!」」

 

 全く失礼しちゃうわね! ぷんぷん。

 確かに私は魔理沙たんの鍛錬に手を加えたけど、殆どは魔理沙たん自身の努力が実った結果だ。

 面と向かって言われちゃったよ。「今に見てろよ! いずれ私はお前の隣に立ってやるんだからな!」ってさ……キャッ、プロポーズされちゃった。てれりこてれりこ。

 その時の魔理沙たんの真剣な眼差しに不覚にもですね、ちょっと下着がまずーい事になってしまったね。

 

 正直、魔理沙たんには才能と呼べるものはない。魔法使いとしての才は並程度、格闘センスも人並みの域を出ない。……それでも魔理沙たんには一つだけ、誰にも負けない才能があった。それは――

 

――努力する才能。

 

 周りが自分よりどれだけ優れていようとも関係ない、それに追いつくためにめげずに努力し続ける。つまり決して諦めない不屈の精神が、燃え上がる情熱が、魔理沙たんにはあるのだ。

 十の努力で一を知り、百の努力で漸く十を知る。才能という一面では、誰よりも平凡な魔理沙たんであるが、しかし、膨大な鍛錬から得られるバックボーンは計り知れない。

 言うなれば魔理沙たんは大器晩成型。時間を掛ければ掛ける分だけ、後から得られる結果は計り知れない価値を持つことになるのだ。

 無論、まだまだ負けるつもりは毛頭ないけど、将来的には私もうかうかしていられないくらいの実力を手にすると踏んでいる。……博麗霊夢は幻想郷にて最強、それを覆しかねない可能性を秘めている存在なのだ。

 まぁ、私にとっては可愛い可愛い魔理沙たんっていう事実は変わらないんですがね。ああ、可愛い可愛いよ、魔理沙たん。はぁはぁ。ちょーっと博麗の巫女と大人の階段に上ろう? 気持ちいいからさぁ、ね。

 結論を言うなら、私の魔理沙たんは努力家で可愛い天使だって事だ。

 

「それにしても、霊夢さんに貰ったこの服。ちょっと変わってますけど、かなり動きやすいですね。いつもより刀が振りやすかったです」

「私もいつもよりも技にキレが出せた気がします」

「フフッ、気に入ってくれているようで何よりだ」

 

 鍛錬中、二人には普段の服装とは違う、私が自作した衣服を身に着けてもらっている。

 ピッタリと肌に張り付き、二人の少女達の美しい身体のラインがハッキリと見て取れる。それなりに露出が高いため、大変目の保養になっている。……言うなれば競泳水着のエロいバージョン、レオタード的な?

 

 妖夢のは、緑色のラインを奔らせ、腰からスカートの様に緑色のレース伸ばしてみたり、胸元には半霊に黒いリボンが付いたマークを入れてみたりしたもので、彼女の僅かに花開き始めた若葉を楽しめる一品となっている。

 美鈴のは、全体的に中華の要素を取り入れて、赤と緑の入り混じった華やかなデザインに仕上がった。出来栄えとしては、肌にピッタリとくっついたチャイナドレス、と言ってしまった方が良いかもしれない。そして、胸元には彼女のトレードマークである龍の文字が入った星を付けてみた、彼女自身の肉付きの良い豊満な肉体と相まって、非常に魅力的である。

 

 それぞれの特徴を基にデザインしてみたんだけど、うむうむ、私の考え通りでバッチリ似合っているね、可愛いし、綺麗だよ二人共。

 

 この服、生地をかなり薄くしたから、汗で濡れれば濡れるほど透けるんだよね。

 彼女達の美しい素肌は勿論、胸の先端にある桜色の果実もうっすらと見ることができるくらいだ。おまけに、私の眼力であれば、彼女たちの大切な乙女の花園まで確認できる。……ちなみに未使用でした。穢れを知らない少女って良いよね。

 女同士だからか、本人たちもそこまで羞恥心はないみたいだし、結構ガン見してても何も言われない。……本当に良い仕事したな、私(満足)。

 

「何が食べたい? 前半の鍛錬は中々に頑張っていたからな、それなりに要望を聞いてやるぞ?」

「では、私は和食を頂けますか? 霊夢さんの作る味噌汁が食べたいです」

「私はシンプルにラーメンで、前に作ってもらった豚骨が良いですね」

「了承した、少しだけ時間を貰う。ゆっくりと寛いでいてくれ」

 

 場所を移動して、博麗神社の居間である。

 鍛錬後でお腹が空いているだろうと思い、二人にご飯を振る舞うことにしたのだ。

 

 ではではー、早速お料理と洒落込みましょうかね。

 さーて、今回もまた博麗霊夢のーパーフェクトクッキング教室の時間が始まりました。司会進行兼調理担当は、皆さんご存知、博麗霊夢、博麗霊夢でお送りさせてもらいまーす!

 今回のお題は、味噌汁を中心とした和食と豚骨ラーメン。これは腕の見せ所といったところですな!

 先ずは使用する道具に、私の霊力を込められるだけ込める。……これが味の決め手になるからね、仕方ないね。

 

 霊力を込め終えたらいよいよ、料理開始である。

 今回の和食は無難に具沢山味噌汁で行くつもりだ。

 白菜とか大根とか里芋とかしいたけなんかの野菜を沢山切り刻んで、沸かしておいたお湯の中に投入して、柔らかくなるまで、じっくりと時間を掛けて煮込んでおく

 その間に、ラーメンの準備だ。先ずは自家製の豚骨スープを温める。そして、温めている間に、上に乗っける具材を切っていく、極太のチャーシューに、ナルト、ゆで卵、これらを切り、メンマやモヤシなんかを用意する。

 で、昨晩寝かしておいた生地を取り出して、麺棒で何度か引き伸ばして折りたたみ、それを細麺サイズに切ります。細麺サイズにすることで、スープが絡んで味を楽しめるからね!

 そして、このタイミングで味噌汁の野菜が柔らかくなっている筈だから、お味噌を投入。ゆっくりと溶かし、調味料を加えて味を調整していく。

 最後に自家製の油揚げを一口サイズに切り分けて、投入すれば具沢山味噌汁の完成である。

 ラーメンは、作った麺をお湯で湯掻いて、湯切りもしっかりと行う。

 仕上げに器にその麺を入れて、特製の豚骨スープを入れていく。そして、切って置いたチャーシューなどの具材をこれでもかと豪快に乗っければ、ラーメン完成である。

 そして最後に料理に向かって「美味しくなーれ! 巫女巫女きゅん!」っと、私の味の素(霊力)をたっぷりと注入したら終了である。

 

 完成ッッッ!! これこそが博麗の巫女たる私の手料理『べ、別にあんたのために作ったんじゃないからね! 博麗具沢山子沢山味噌汁〜ツンデレ風味〜』と『巫女の霊力がたっぷりと染み出た博麗豚骨ラーメン』である。

 

「ほら、出来たぞ。存分に食べると良い」

「うわぁ、具が沢山で美味しそうです」

「妖夢さん、見てくださいよ、このラーメンのトッピング。すっごい贅沢ですよ」

 

 であろう? であろう? 美味しそうであろう? そうであろう?

 こんな毎日食いたいでしょ?……なら家に住みなよ〜、夫婦の関係になろうよ〜、みーと結婚しちゃいなよ〜。

 

「「いただきます!」」

 

 一心不乱に脇目も振らずに食べるッ、食べるッ、食べるッ! ただただ、食らうッ 食らうッ、食らうッ!

 こんだけ美味しそうに食べてくれるのって、嬉しい限りだよね。私の物を美少女が飲んだり食べたりしている姿に興奮するよ。

 よくよく考えたら、素材の味を引き出すために私の霊力が使われているから、彼女たちの体内には私の一部が漂っているということになる。つまり彼女たちと私は一心同体、一つに合体(意味深)しているという事なのでは?……やべぇ、下着が、下着が変態な事になってしまった。博麗ぱわーで乾かさねば。

 

「「ごちそうさまでした」」

「お粗末さま」

 

 もう食べやがったよこの娘達。

 満足気にお腹擦りやがって、ぽっこりしてやがるじゃねぇか。……妊娠かな? 是非とも私と妊婦プrげふんげふん。

 いやーでも、残さず完食してくれて、嬉しいねぇ。これが料理人冥利に尽きるって事だねぇ。

 

「では、後半の準備をしてくる。その間、少し休憩を取ると良い」

「準備ですか? 普通に霊夢さんと組み手をするだけでは?」

「いつも私ばかりと稽古してもつまらないだろう?……少し趣向を変えようと思ってな」

「はぁ、趣向を変える、ですか?」

 

 うん、絶対楽しいよー。さっき思いついたんだけど、絶対楽しいと思うよー。

 この博麗式女傑育成修行道場の師範である、博麗霊夢が考案する一大イベント『博麗女傑祭り』はねー。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 白玉楼の剣術指南役兼庭師を務めている半霊、魂魄妖夢にとって、博麗霊夢という人間は憧れである。

 

 強さの極限。自分の目指す先にいる存在。

 人間の身でありながら、超越的存在である神も、悪逆非道の限りを尽くす大妖怪すらも屈服させる絶対的強者、それが博麗霊夢という人間である。

 

 初めて出会ったのは、異変の時。

 世に言う『春雪異変』にて、西行妖が暴走し、冥界どころか危うく幻想郷にまで甚大な被害が広がろうとしたあの時。幻想郷でも名だたる実力者達のどんな攻撃も効かず、あの隙間妖怪ですら、半分諦めるほどの災厄。

 そんな絶望的な状況の中、颯爽と現れ、その圧倒的な強さで以て、西行妖を駆逐し、取り込まれた幽々子様を助け出し、奪われてしまった春すらも全て取り返したのが博麗の巫女である彼女だった。

 妖夢はその姿に、その強さに惹かれたのだった。自分もあんな風になりたい、と思ったのだ。

 

 だからこそ妖夢は博麗霊夢の強さに迫るために、彼女が建てたという道場に足を踏み入れたのである。

 その直後に少しだけ後悔することになってしまったが……彼女の鍛錬は一言で表すなら、異常そのものだった。

 

「切れないものがある? なら切れるまで切れ」

「妖力が足りない? なら限界まで使って無理矢理にでも限界値を底上げしろ」

「私に勝てない? そんな事は当たり前だろう、この私が最強なのだから」

 

 何ですかそれ、意味が分からないです。

 基礎の基礎から徹底的に鍛えさせられた。剣の振り方、的確な急所の突き方、そして、片手平突き牙突? なる技のやり方とかまで、色々と教え込まれた。

 普段は菩薩の様に優しい巫女は、こと鍛錬に関して言えば、それこそ地獄の閻魔よりも恐ろしかった。

 少しでも身が入っていなかったりサボったりしていたら、お仕置きと称して、イイ笑顔でほっぺたをムニムニされたり、死ぬほど擽られたり、絶大な痛みと飛んでしまいそうな快楽が同時に体験できる、あまりにも危ないマッサージを強行されたりした。

 何度死ぬ、と思ったか分からない。お仕置きのせいで恥ずかしい姿を晒したのも一度や二度どころの話ではない。

 だが、そのお陰で、妖夢は以前とは見違えるくらいに強くなれた。

 剣術だけに関して言えば、この幻想郷でも最上位に立てると、あの霊夢にも太鼓判を押されたほどだ。

 自分がそれを成し遂げたという事を誇らしく思うし、正直、霊夢に対しては感謝の気持ちしかない。……お仕置きなどの恨みがあるから、本人に面と向かって言ったりはしないけども。

 

 そんな霊夢が、今までとは趣向を変えると言う。

 基本的に、この道場では自己鍛錬と、霊夢との組手が中心だ。霊夢から改善点を指摘され、技などを教えられ、それを基に自己鍛錬をし、霊夢と組手をし、改善点を指摘され、自己鍛錬。その繰り返しで実力を伸ばしていくのだ。

 それを、変える。一体、どんな風になるのだろうか? 妖夢は興味津々だった。

 

「一体、どんな内容になるんでしょう?」

「さぁ、でもあの霊夢さんの事です。普通ってことはまず有り得ないでしょうね」

「ですよねー」

 

 あの霊夢が普通で終わらせる筈がない。

 こちらの予想だにしない、とんでもない地獄が待ち受けているに違いない。

 

――準備が出来たぞ、表に出てくるといい。

 

「の、脳内に直接?」

「うわーこんな事も出来るんですね」

 

 突然、頭に響いた霊夢の声に、妖夢は戸惑いを、美鈴は呆れ返った。最早、何でもアリだな、あの巫女は……。

 取り敢えず、霊夢の指示通り、表に出てみる二人。そこには――

 

「「何コレぇ」」

 

――『博 麗 女 傑 祭 り』

 

 妙に達筆な文字が掘られた、巨大な門が立っていた。

 更に、その門には様々な絵が描かれていた。描かれていたのは宴会の風景だ。

 妖精が妖怪が鬼が、舞い、騒ぎ、酒を飲み、つまみを食らう。幻想郷で霊夢と交友関係にある少女たちの姿が描かれていた。……当然、妖夢や美鈴の姿まで綺麗に描かれている。

 

「え、一時間も経ってないですよね?」

「霊夢さんが、本当に人間か怪しくなってきましたね」

 

 人間って何だっけ?……。二人は考えるを止めた。これ以上考えたら戻れなくなる気がした。

 

――そこの門から入ってこい、門の先には試練が待ち受けている。

 

「ああ、趣向を変えるって」

「そういう感じですか」

 

 霊夢の悪い癖が出た。興が乗りすぎると、偶にこういったお遊びを盛り込んでくるのだ。

 以前は鬼の萃香相手に、コスプレで組手を行うという遊びをしていた。萃香にはマイクロビキニという布面積が極端に少ない衣装を無理やり着せ、霊夢自身もまたスリングショットという紐みたいなやつを着込んでいた。動く度に、大事なところが溢れてしまいそうで、皆目のやり場に困っていた(一部はガン見していたが……)

 

 今回は二人に試練を課して、四苦八苦している様を見ながら楽しみたいという事だろう。

 無論、二人のためになる試練なのだろうが。……二人の脳裏には、意地悪な笑みを浮かべる博麗の巫女の姿が浮かんでいた。

 

「美鈴さん」

「何でしょう、妖夢さん」

「完膚なきまでに試練を乗り越えて、霊夢さんに一泡吹かせましょう!」

「ええ、絶対に、絶対にだ!」

 

 「打倒博麗の巫女」を目指して、二人の結束は固まった。

 おのれ博麗の巫女めっ! お前の思い通りになって溜まるかっ! そんな決意のもと、いざ、門へ――

 

「よ、よく来たわね! わ、私はモヤシパープル!……モヤシって何よ、モヤシって」

「私は腹ぺこ仮面よ〜、よろしくね〜」

 

――何かいた。

 

 開け放たれた門の先には、奇妙な姿をした二人の人物が待っていた。

 一人は上半身から下半身を紫色のレオタードで覆い隠し、舞踏会で付けるような蝶のベネチアンマスクを付けた人物。その髪の色は紫色で、頭に付いた月を模倣した髪飾りが幻想的だ。

 もう一人は、露出が多い桜色の着物に、謎のピンク色の生き物を模倣した仮面を付けている人物。桃色のミディアムヘアーが美しく。ひと目で高価と分かる蝶が描かれた扇子から、彼女がそれなりの立場にいると分かる。

 

「貴方達は……何者ですかっ!」

「え、妖夢さん?……マジで言ってるんですか?」

 

 妖夢の声に驚きしか出ない美鈴。

 服装こそ違うかもしれないが、どう見てもパチュリー様と、貴女の主である幽々子さんでは?

 

「妖夢、気を使わなくても大丈夫よ。どうせバレて……あ、これ本気で分かっていないみたいね」

「妖夢は天然さんだからね〜」

 

 何とも言えない微妙な空気がその場に流れる。……真面目な顔をしているのは妖夢だけ。

 

「と、兎に角! この先に進みたいのなら、私達の正体を暴きなさい!」

 

 パチュリーもといモヤシパープルは、締まらない空気をそのままに、強引に話を進める事にした。

 ただでさえ、こんな下らないお遊びに無理矢理付き合わされているのだ、こんなにグダグダされて堪るかっ!

 

「言われずとも! 美鈴さん! あのモヤシパープルなる人は私が相手をします! 貴女はそちらの腹ぺこ仮面と名乗った方を頼みます」

「はぁ、分かりましたよ」

 

 モヤシパープルの前には妖夢が、腹ぺこ仮面の前には美鈴が、それぞれ立つ。

 

――では……始めぇぇぇい!

 

 妙に威圧感を醸し出している霊夢の声が、それぞれの脳内で響き渡る。

 

「さぁ、掛かってきなさい」

「何処からでも掛かってくるといいわよ〜」

 

 勝負の幕が切って落とされた。

 先に動いたのは挑戦者である妖夢。刀を構え、一直線にモヤシパープルとの距離を詰める。

 

「せやっ!」

 

 刀の切っ先が煌めき、一閃――

 

「甘いわね」

 

――が、しかし、突然その場に出現した分厚い本によって防がれる。

 

 驚くことに、刀とぶつかりあったにも関わらず、本には僅かな傷も付いていない。恐るべき強度で以て、妖夢の斬撃は完全に受け止められていた。

 

「お返しよ」

「きゃぁ!?」

 

 防がれている刀をそのままに、モヤシパープルはもう片手にもう一冊本を出現させ、思いっ切り振りかぶって妖夢にぶつけ、そのまま妖夢を吹き飛ばす。

 

「くっ、強いっ」

 

 まだ一合のみしか刃を交わしていないが、相手が生半可な実力者ではないと思い知らされた。

 体格や筋肉の付き具合などから、接近戦は不得意であると踏んで速攻を掛けたが簡単にあしらわれてしまった。

 

「まさか、本を武器にするなんてっ」

「本当は魔法の方が得意なのだけど、一応は肉弾戦限定って言われたから……最も、私は肉弾戦もそこそこ出来るのだけど。れい……あの人に徹底的に扱かれたから」

「それの何処がモヤシなんですか」

「知らないわよ、れい……あの人が勝手に付けたんだから」

 

 はぁ、と重たい溜息を一つ。どうやらあの人とやらに相当苦労させられているようだ。妙に親近感が湧いてくる。

 モヤシパープル、侮りがたい実力。でも――

 

「霊夢さんほどじゃない! 貴女を倒して、私は先に進みます!」

「暑苦しいわね、勝手にしなさい。……出来るものならね」

「覚悟ッ!」

 

 今、白玉楼の庭師妖夢と、七曜の魔女であるモヤシパープルがぶつかり合う!

 

 

ーーーーー

 

 

「あっちは始まったようね〜、それで〜貴女は攻めてこないのかしら〜?」

 

 隙を一切見せないくせによく言いますね。

 ただ立っているだけなのに、まるで空を舞う蝶の様に掴みどころがない。どんな風に仕掛けても、次の瞬間には手痛い反撃を受ける。……そんな光景しか見えない。

 

「いや、流石は冥界の女主人ですね。全然隙がありません」

「何の事かしら〜私は腹ぺこ仮面よ〜」

 

 会話を混ぜて隙を作ろうとしても、柳に風と言わんばかりに流されてしまう。

 

「はぁ、仕方がないですね。考えていても埒が明きませんし、胸を借りる気持ちで、一回仕掛けてみましょうか」

「ふふふっ」

「紅魔館が門番、紅美鈴! 行きますっ!」

 

 床を踏み砕いて力を溜め、瞬時に距離を詰めながら、重心を乗せて蹴りを放つ。狙いは仮面がある側頭部っ!

 速さ、重さ、全てを兼ね備えた、これ以上無いほどベストな蹴り。無防備に当たれば相手が大妖怪でも少なくないダメージを与えることが出来る――

 

「はい、ざ〜んねん」

「っ! やっぱりそう甘くはないですよね」

 

――しかし、防がれる。

 

 片手に持っていた扇子。それで美鈴の蹴りは軽々と防がれていた。

 遅れて美鈴の足に響く鈍痛。扇子の強度に負け、逆に蹴った方の足にダメージが入ってしまったのだ。

 

「気で強化していなかったとはいえ、蹴った私の方がダメージを受けるだんて……それ、鉄扇ですか」

「そうよ〜あの人にすっごい仕込まれたんだから〜」

 

 あの人――この茶番の元凶である博麗の巫女の事だと、美鈴は思った。……ただでさえ強い人に何て事を、恨みますよ霊夢さんっ!

 笑顔でサムズアップしている巫女の姿が一瞬だけ頭に浮かぶ。……とても腹が立つ。

 

「安心していいわよ〜肉弾戦だけしかしないから〜」

「それだけが唯一の救いです。……元々の力に差がありすぎるから、それでも大分キツイんですが」

「簡単だと試練じゃないでしょ〜?」

「確かにそうですね。……それでは改めて参ります!」

「頑張りなさ〜い」

 

 再度駆けるは紅魔の門番、迎え撃つは冥界の女主人腹ぺこ仮面。此処でも試練が開始された。

 

 

ーー数時間後ーー

 

 

 試練が始まって数時間が経つが、戦いはまだまだ続いていた。

 一方では妖夢とモヤシパープルによる一進一退の攻防。その一方では美鈴が圧倒的格上である腹ぺこ仮面に粘り強く食らいついていた。

 

「その本、固過ぎですっ! 魔法は使わないんじゃなかったんですか!」

「魔法じゃないわ、ただ魔力を込めて強化しているだけよ」

「魔法使ってるのと一緒じゃないですか!」

「負け犬の遠吠えね。つまらないわ」

 

 接戦も接戦。妖夢が攻め、それをモヤシパープルが防いでカウンターを返す。そのカウンターを妖夢が躱して、再度攻める。そしてまた防がれカウンター。

 攻めては防がれ、カウンターすれば躱される。……終わりの見えない膠着とした戦いが続いていた。

 

「そんなに悔しかったら、貴女も霊力で強化してしまえばいいのにね」

「霊力で、強化……」

「魔力も霊力も一緒よ、武器に込めればそれだけの恩恵があるの、それなのに貴女はただ刀を振るうだけ、そんな様では、私の守りは永遠に突破できないわ」

 

 そう言えば、そうだ。

 相手が魔力を使ってくるなら、自分が霊力を使っても何も問題は無い。そんな簡単な事に気が付かない自分の未熟を妖夢は恥じた。

 

「私の未熟を正して頂き、ありがとうございます」

「別にいいのよ、私もただ戦い続けるのは飽き飽きしてたから」

「それでは――行きます」

「漸くお目覚めね。……さぁ、来なさい」

「いざっ!」

 

 妖夢が駆ける。それを迎撃するモヤシパープル。

 モヤシパープルが無数の本を出現させ、強化して投げつける。それを妖夢は躱して、躱して、剣で払って、払って駆け抜けていく。そして、モヤシパープルに向かって刀を大きく上段へと振り上げる。

 

「そんな単純な攻撃!」

 

 刀が振り下ろされる前に、モヤシパープルは再度妖夢を吹き飛ばすために、本を投げる、投げる、投げまくる。……もう、遠距離攻撃とは言ってはいけない。

 本による物理的弾幕が妖夢の胴体にぶち当たり、為す術もなく妖夢は吹き飛んでいく。……筈だった。

 

「すり抜けたですって!?」

「残念ですが、それは私ではありません。私の姿を模倣した半霊です!」

 

 吹き飛ばされていく筈の妖夢の姿が崩れ落ち、もちもちしてそうな真っ白な塊に変化する。そして、モヤシパープルの背後には、刀を引き絞って構える妖夢の姿がっ!

 

「いつの間、にっ!」

「これで最後です! 霊夢さんに散々仕込まれた技の数々! その内の一つを見せましょう! 一撃必勝――」

「ぐっ、間に合わない!?」

「牙突ッ!」

 

 突き出された刃の一撃が煌めき、銀色の閃光となって、モヤシパープルの仮面を切り裂き、粉々に吹き飛ばす。

 

「我が楼観剣に切れぬものなど、あんまり無い!」

 

 決まった、これ以上無いくらいに決まった。妖夢はみょんな達成感と共に、モヤシパープルの方を見る。……果たしてその素顔はどんなものなのだろうか?

 

「そこは何もないって言っておきなさいよ。締まらないわね」

 

 仮面が割れ、露わになったのは呆れた表情を浮かべる美しい顔。髪の色と同じ紫色の瞳、そして、その瞳には確かな知性が垣間見える。

 

「それが貴女の素顔ですか、その顔、貴女は――」

「流石に顔を見たら分かるわね。そうよ紅魔館のヴワル魔法図書館、そこの司書をしているパチュリー・ノーレッジ」

「――に似てる人!」

「もうヤダ、この娘。……もう合格でいいわ。先に行きなさい、私は疲れたわ」

 

 あんまりと言えば、あんまりと言える妖夢の天然っぷり。それに心底疲れたと首を振り、先へ向かう様に促すモヤシパープル改め、パチュリー・ノーレッジであった。

 

 

 一方、である。

 

 

「くっ、重い」

「も〜女性に重いは失礼よ〜」

 

 腹ぺこ仮面の振り下ろした鉄扇の一撃を、気を込めた拳で防ぐ。しかし、余りにも重いその一撃に、美鈴の足元は軽くクレーター状に凹んでしまっている。

 

 美鈴と腹ぺこ仮面の戦いは、美鈴の防戦一方な状況だった。

 

「隙有り! って、痛ぁ!?」

「全然効かないわ〜」

 

 何故、防戦一方なのか? それは、美鈴の攻撃が腹ぺこ仮面に全く通用していないのが原因だ。

 腹ぺこ仮面の身から溢れ出る膨大な妖力。圧倒的な妖力が壁となり、美鈴の攻撃の威力を完全に殺していたのだ。どれだけの力を込めようが、どれほどの気を込めて殴ろうが、一切貫けない。天然の絶対障壁。

 この時の美鈴の脳裏に浮かんでいたのは巨大な城塞、個人の力だけでは打ち砕く事の出来ない腹ぺこ仮面という名の城塞の姿だった。

 

「ちょっとは抑えて下さいよ! そのアホみたいな妖力! 全然試練にならないじゃないですか!」

「ごめんね〜これが限界なのよ〜」

 

 化物ですか? 美鈴は素直にそう思った。

 でも、この人を突破しないと、後から霊夢に色々されてしまうだろう。

 それを考えたら、せめて一撃だけでも入れないといけない。……如何に暢気な美鈴と言えど、あの巫女の手によるお仕置きコースは嫌なのである。これはもう死にものぐるいでやってのけるしかない。

 維持でも突破してやるっ! 美鈴の拳に無意識に力が入る。

 

「私の気の総量では、貴女が無意識に垂れ流している妖力ですら突破できない。……だったら、こうする、までです!」

 

 己のリミッターを無理矢理外して、自分の潜在能力を爆発的に増大させる禁じ手。

 下手をすれば、自分の身体が壊れてしまうかもしれない禁じ手だ。……開放された気を無理矢理にでも操って制御し、安定させる。

 

「確かにさっきよりは強くなったわね〜、でも」

「はい、確かにこれだけでは足りません、だから――」

「っ!? 器用な事するわね〜」

「――こうしますっ!」

 

――美鈴を中心に、膨大な気が”周囲”から集まっている。

 

 一人で足りないならっ、一人の力で足りないのならっ! 周りから持ってくればいいっ! 個々で駄目なら、束ねてぶつけてしまえばいい!

 美鈴に収束していく膨大な力に、流石の腹ぺこ仮面も、おちゃらけた雰囲気を消して警戒している。

 

「私一人の全力では足りない、なら他から持ってくれば良いんです。どうですか? 少しは驚きました?」

「驚いたわ〜そ~んな隠し玉が有ったなんて〜……少しは本気を出さないと、拙そうね〜」

 

 腹ぺこ仮面から漏れ出す妖力が増大する。

 限界まで気を高め、周囲からまで気を集めた自分よりも、頭一つか二つは上の膨大な妖力。……だけど、それがどうした。そんなもの、あの化物巫女に比べたら遥かにマシだ!

 

「だから何ですか! 我が拳に貫けぬものなし! 行きますよぉぉぉ!」

 

 狙うは一点集中。

 あの巫女も言っていただろう。常に冷静になって状況を見極めろと。相手の妖力が膨大とは言え、何処かに必ず薄い部分がある筈、それを探せっ! それを見つけ出せっ! そして――

 

「捉えたッ! いっけぇぇぇ!」

 

――見つけたッ!

 

 他と比べて僅かに妖力が薄い部分、そこに向かって気を全て集中させた一撃を渾身の力でぶつける。一瞬の抵抗と共に、美鈴の拳は妖力の壁を突っ切って――

 

「あら〜抜かれちゃったわ〜」

 

――腹ぺこ仮面の仮面を吹き飛ばした。

 

 仮面が吹き飛び、露わになったのは美麗なる少女の素顔。桃色の髪と同じ瞳を持った、見目麗しい冥界の女主人、西行寺幽々子その人であった。

 

「はぁ、はぁ、やっぱり、はぁ、幽々子さんでしたか」

「素顔を見られたからには私の負けね〜残念だわ〜」

 

 などと言いつつも全く残念そうに見えない。

 本人にとって、勝負の勝ち負けはどうでも良かったのだろう。のほほんとした雰囲気で、上品な微笑みを浮かべている。

 

「霊夢さんに頼まれたんですか?」

「そうよ〜試練の相手をやってくれるなら、おはぎを沢山くれるって言ってたから、手伝ったのよ〜」

 

 おはぎって、そんな事のために、私はこんな化物みたいな人と戦う羽目になったんですか。最早、怒りを通り越して、変な笑いしか出てこない。

 

「幽々子さんらしいと言えば、らしいですね。……私は先に進みます。お相手ありがとうございました」

「いいのよ〜私も最後のアレはちょっとだけ楽しかったしね〜、妖夢をよろしくね〜」

「頼まれました。……では」

 

 ゆるりと手を振る幽々子に礼を返して、美鈴は先に進む。

 次の扉の前には、既に妖夢が立っていた。妖夢は何やら難しい顔をしている。一体何があったのだろうか?

 

「どうしたんですか?」

「あの、美鈴さん」

「……はい、何でしょう?」

「さっきの人の素顔、幽々子様に似ていましたよね」

「……え?」

「それに、あのモヤシパープルなる人も、パチュリーさんに似ていませんでしたか?」

「あ、はは、ハイ、ソーデスネ。ニテマシタニテマシタ」

「ですよね! 私、びっくりしましたよっ!」

 

 いや、そんな貴女に一番びっくりしていますよ。

 至極真面目な表情で、天然丸出しな発言をした妖夢に、美鈴は苦笑いを浮かべながらそう思った。

 

「何はともあれ、先に進みましょう!」

「そうしましょうか」

 

 そこからは先は、更に過酷な試練の連続だった。

 「通常の三倍は重い」と真っ赤に塗装された巨大な丸太を背負わされて、何百段もある階段を登らされたり。

 目隠しした状態で、床一面が白い液体(霊夢が霊力をコネて作った)でヌルヌルに満たされた場所で素振りなどをさせられたり。

 バナナを咥えさせられた状態で、狭い通路を四つん這いで進まされたり。

 兎に角、罰ゲームとしか思えないような数々の試練を四苦八苦しながら、二人は乗り越えた。……時折脳内で響いている、あの性悪巫女の押し殺したような笑い声にイラッときて、根性で乗り切ったのである。

 そして辿り着いたのが――

 

「はぁ、はぁ、ここが、はぁ、最後の扉ですか」

「はぁ、はぁ、ただならない、はぁ、威圧感を、はぁ、放っていますね」

 

――『最終試練、獣の扉』。

 

 獣と書いて、けだものと読む。

 シンプルに真っ黒に塗装された巨大な扉は、妙な威圧感を放っている。

 

「獣の扉、ですか」

「行きましょう妖夢さん」

「はい」

 

 扉を開け放つ。

 そして、驚愕に目を見開いた二人。扉の先に広がっていた光景は、圧巻の一言だった。

 

「こ、これは!?」

「そんな馬鹿な」

 

 扉の先に広がっていたのは、草原だった。青々とした草原が広がっていたのだ。

 何よりも有り得ないのが、室内なのに空が、無数の星々が散りばめられた満点の星空が存在しているという事実。

 幻術とか空間操作とか、そんなちゃちなもんではない、博麗の巫女の恐ろしい片鱗を味わった気分だった。

 

「よく来たな、挑戦者諸君」

「「っ!?」」

 

 眼前に広がる光景に圧倒されていた二人に背後から声が掛かる、途轍もない威圧感を秘めた声だ。背後を取られた事に色んな意味で危険を感じる、声。

 

 反射的に後ろを振り返り、再び驚愕する。

 そこにいたのは女だった。長身でスタイル抜群な身体、その身に纏っているのは露出が目立つ特徴的な巫女服。……何よりも目を引いたのが、狼の頭を模倣した仮面だった。

 無駄にリアルに再現されている狼の仮面に、ちょっとした恐怖心が芽生える。

 

 狼の仮面を付けた巫女服の女。彼女から溢れ出る圧倒的な覇気が、埋めようのない実力の差を二人の頭に理解させた。

 無理だと悟った。どう足掻いたところで、例え逆立ちしたって傷一つ付けられないっ!

 

「っ!? 何て強大な存在感。それにその特徴的過ぎる巫女服に、妙に聞き覚えのある魅力的な声……貴女は何者ですか!」

「な、ナニモノナンダー」

 

 マジか妖夢さん、マジなのか。どう考えてもあの人の正体は、あの巫女だって分かるでしょうに。……美鈴の嘆きをよそに、話は進んでいく。

 

「ほぅ、この威圧の中、よくぞ吠えた。その勇気に免じて、我が名を聞く栄誉を与えよう。聞け、我が名は――」

 

――けだもの仮面!

 

「けだ?」

「もの?」

「「仮面?」」

 

 妖夢は純粋に驚愕を、美鈴は彼女に似合わない名称に、ちょっとした疑問を抱いた。

 普段から優しい貴女がけだものとは……いや、お仕置きしてる時とか、今みたいに悪ふざけしている時はその限りではないのですが。

 

「抑えられない獣性と欲望を兼ね備えた私に相応しき面だ。……さぁ語りはここまでだ。掛かってくるが良い」

 

 けだもの仮面が構える。……左手を上に、右手を下に。

 

「あれは、拙いですね」

「めいり院、アレを知っているんですか?」

「美鈴です。あれは天地魔闘の構えです。私でも知る限りで、実戦レベルで使えるのは霊夢さんしか知りません」

「天地、魔闘?」

「そう、天地魔闘です。天とは攻撃、地とは防御、そして魔は魔力を使うことを意味するんですが……彼女の場合は霊力ですね。相手の攻撃に対して、いくつかの必殺技クラスの攻撃を同時に繰り出す。所謂、究極のカウンター技です」

 

 つまりは絶対に破れぬ、難攻不落の迎撃要塞の出来上がりというわけだ。

 

「一応、カウンターの直後には僅かに硬直するらしいんですが……」

「よく知ってますね。めいり院」

「美鈴です。次言ったら殴ります。以前に霊夢さんが、お嬢様と妹様に教え込んでいるのを見ましてね。その時に説明も小耳に挟んだんですよ。……今回は肉弾戦のみに限定されていますから、私達でも攻略できる可能性があります」

 

 あの時はヤバかった。

 お嬢様と妹様が連携して必殺技を繰り出しているにも関わらず、その全てを撃ち落とし、挙句お二人も容易く捕まえる始末。……あの後のお仕置きが一番恐かった。その時の光景は未だに目に浮かぶほどだ。軽くトラウマになっているかもしれない。

 逃げようとするお嬢様たちを無理矢理腕力で押さえつけ、そして、その幼い肢体を徹底的に揉み解していた。……博麗式のマッサージで痛みと快楽を同時に叩き込まれて嬌声を上げるお二人の姿。

 もしも、アレが自分に向けられたらと思うと……恐怖で心臓が激しく動悸する。

 あんな目に遭うと分かっているのに、どうしてお嬢様達は霊夢に突っ込んでいくのだろうか。それが分からない。

 

「兎に角、先ずは隙を作らないことには話にもなりません。……私がどうにかして隙を作ります。妖夢さんが決めて下さい」

「分かりました。タイミングはお任せします」

 

 美鈴はけだもの仮面の正面に、妖夢は背後にそれぞれ移動する。

 挟撃、というわけだ。……小賢しい手ではあるが、やらないよりはマシだろう。

 

「美鈴、お前なら自分達がこの技を破れない事くらいは理解できる筈だ。何故、抗う?」

「一応、試練らしいですからね。やりもせずに諦めるのは格好悪いですし……何より、此処まで頑張ったんですから、結果がどうであれ、最後まで全力を出し切りたいんですよ」

「フフフッ! 良い心掛けだ。お前のそういうところが本当に大好きだよ」

「ッ!? 不意打ちは止めてくださいよ。意地が悪い」

 

 全く、この巫女は。

 そういうところが本当油断ならない。……自分を含めて、この巫女に何人の女の子が堕とされたんだろうか。

 美鈴が知っている限りでは、紫さん、魔理沙さん、アリスさん、そして我らが紅魔館の面々。……少なくともこれだけの少女たちが、巫女の魅力にやられてしまっている。

 本当に女たらしというか、人たらしというか、この巫女に惚れてしまった自分が言うことでもないが、この人ほど質の悪い人はいないんじゃないかと思う。

 せめて息を吐くように口説く癖を止めて欲しいものだ。

 

 これから仕掛けるというのに、何とも締まりが悪い。だが、適度にリラックス出来たお陰で緊張が解れている。……恐らく、これを狙って声を掛けたんだろう。本当に、この巫女は。

 兎にも角にも、これで最高のコンディションで動くことが出来る。……此処までお膳立てされたのだ、目にもの見せてやるっ!

 

「すぅ、では……行きますッ!」

 

 掛け声と共に、美鈴がけだもの仮面に向かって突っ込む。狙いは、一つ!

 

「はぁッ!」

「甘い!」

 

 一撃目は、大地を思いっ切り踏みしめて、その時の踏み込みの力を全て拳に伝える一撃、寸勁。それをけだもの仮面は、同じく同程度の威力にまで抑えられた寸勁で、相殺する。

 もしも、けだもの仮面が本気だったら、この時点で駄目だった。自分の一撃ごと身体が吹き飛ばされていないなら、かなり手を抜いているという証明だ。それなら勝ち目は十分にある!

 

「それで終わりか? なら潔く吹き飛べ」

 

 技を放って硬直している状態の美鈴に向かって、けだもの仮面の拳が襲い掛かる。

 天地魔闘にしては動きが遅い。天地魔闘の真骨頂とは、三連続同時カウンター攻撃だ。これでは同時とは到底呼びがたい。

 つまり、天地魔闘は使っていない、ということだ。かなり所か全く力を出されていない。これなら普段の組手の方がまだ力を出しているくらいである。

 しかし、力を全く出していないとしても、拳を繰り出してくる相手が相手である、殺人的な速さで拳が美鈴に迫る。

 

「やっぱり速いっ! だけどぉ!」

 

 これぐらいなら無理矢理回避できる!

 美鈴は全身の力を抜いて脱力、それにより自然に身体が傾いて、辛うじてけだもの仮面の拳を回避することに成功する。

 

「せいやッ!」

 

 そして脱力で傾いていく勢いをそのままに、一回転して回し蹴りを繰り出し、けだもの仮面の側頭部を狙う。

 

「ほぅ? やるな」

 

 だが、その回し蹴りは、同じく同程度の威力を持った踵落としで相殺される。……合計三回の反撃、美鈴の考えが正しければ、ここで動きを止めてくれる筈。

 

「……身体が動かんなー」

 

 棒読みも棒読み、態とらし過ぎる発言と共に、その動きを完全に静止させるけだもの仮面の身体。チャンスは、今である(投げやり)!

 

「今です! 妖夢さんっ!」

「了解ですっ!……これで決めますっ! 射殺せっ――」

「来るかっ!」

「――神槍っ!」

 

 霊夢から伝授された、とある悲しい毒蛇の技。

 その銀色の閃光は、けだもの仮面の覆面を掠め、深く走り抜ける。……ビームではない。ただ霊力で刀身を覆って、突き出すと同時に、思いっ切り伸ばしただけである。断じてビームではない。

 妖夢の放った一撃により、けだもの仮面が被っていた仮面が破れ落ちていく。……この戦い我々の勝利だ!

 

「フフッ、成長したな二人共」

 

 破れ去った仮面の下から姿を現したのは、我らがお巫女様である。仮面の中身は、幻想郷最強の人間と名高い人物、博麗霊夢その人であった。

 件の巫女は、何やら満足げな笑みを浮かべて、うんうんと首を縦に振っている。

 

「何言ってるんですか、あんなに分かりやすく手加減しておいて……技一切使ってないじゃないですか」

「使ったじゃないか、天地魔闘を」

 

 ほれほれ、と手を上下させる霊夢。……こやつ煽りおる。

 

「あれは、天地魔闘モドキじゃないですか! 普通だったら、あの後に馬鹿みたいに分厚い結界で押し潰してきたり、追尾してくる凶悪な霊力の塊が襲ってきたりするじゃないですか!」

「フフッ、成長したな二人共」

「だからッ!」

「フフッ、成長したな二人共」

 

 何処のゲームの村人なのだろうか。

 微笑んだまま、同じセリフばかりを喋り続ける博麗の巫女に、敢え無く美鈴は追求を諦めた。

 

「その顔はっ!? 霊夢さん――」

「フフフッ、そうだぞ、よくこの試練を突破s」

「――に似ている!?」

「妖夢さんぇ」

「……ほぅ?」

 

 あ、青筋が立ってる。菩薩の様な笑みを浮かべているのに、目が笑っていない、確実にキレている。

 霊夢から溢れ出す不穏な気配を感じ取り、「同じ顔の人が三人もいたっ!?」と何やら興奮している妖夢をそのまま放置して、そーっと、美鈴はその場から離れる。

 

「まさか三人目のそっくりさんと出会ってしまうとは――な、何するんですかッ!? 離して下さいッ!? そこを触ってはッ!? あああッ!」

 

 妖夢は一瞬で押し倒されて、手を頭の上で交差させられ縛られる。よく、エロ同人などでベッドに縛り付けられている人みたいにギチギチに縛られ、開脚させられる。

 そして、そのまま霊夢は妖夢の下半身を弄り出す。時に優しく、時に強く、時にゆっくりと、時に激しく。

 自分という人間を、この天然の剣士が思い出せる様に、感情を込めて、じっくりねっとりと執拗に弄り続ける。

 

「いぃぃぃッ!? この足のツボを的確に抑えて、痛みと快楽を同時に送り込んでくるマッサージ!」

「まーだ思い出せないのか、ん?」

 

 ナニもしてませんよ。ただのマッサージですよ? R指定に引っかかるような事は一切していませんよ?

 博麗式女傑修行道場。そこの名物である、博麗霊夢のマッサージ、そのフルコースバージョンが妖夢に対して行われていた。

 グリッとツボを抉り、優しく擽るように肌を撫でる。その上、霊力を込めて妖夢の足の感度を何倍にも引き上げる。

 妖夢は押し寄せる痛みに、脳髄をガンッと殴られたかのような衝撃を与え続ける快楽に悶える。

 

「この親しみ慣れた感じはっ!? まさか霊夢さんっ!? あだだだだだっ!?」

「気付いてくれて嬉しいよ……よ う む」

「ひぇっ、あ、あ、あああああっ!?」

 

 今更気付いたところで、時既に遅し。

 イイ笑顔を浮かべた博麗の巫女による、お仕置きマッサージが本格的に動き出す。

 足だけにのみ行われていたマッサージが徐々に上の方へ進んでいき、妖夢により一層の痛みと快楽を流し込んでいく。

 どれだけ、どれだけ喚いても、どれだけ涙を流そうとも、口から大量の涎が垂れ続けようとも。

 この鬼畜外道のお巫女様が満足するまで、妖夢への責苦は終わらない。

 

「今度は忘れないようにしろ」

「な、なにか んひっ! きてるっ! あんっ! きてますっ! やっあああああッ!?」

 

 目を見開いて、背を限界まで反らせて嬌声を上げる。

 限界以上まで蓄積した快楽が一気に開放されたショックで、妖夢はそのまま気絶したように脱力する。

 頬を真っ赤に染め上げ、息を荒げて、全身から溢れ出ている汗が、生地の薄い衣服を濡らし、妖夢の女を強調し、淫靡な雰囲気を演出する。……ナニも知らない人が見たら、ハッキリ言って完全に事後のような光景がそこにはあった。

 

「これでお仕置きは終わりだ。全く、手間を掛けさせる……美鈴、すまないが妖夢の事を頼めるか? 私はこの建物を片付けねばならん」

「ア、ハイ」

 

 口答えしたら、私も同じ目に合わされる。

 真っ赤な顔で霊夢の頼みごとに了承を返す美鈴なのであった。……ほんの少しだけ、霊夢に乱される自分の姿が思い浮かんだのはきっと気のせいである。

 

 後日、霊夢の姿を見る度に、切なげに頬を染め、内股でモジモジしている半人半霊の姿があったとか何とか。

 詳しい話は、あの時、最後まで熱心にその光景を見ていた何処ぞの門番のみが知っている。……ただ、一言門番から言える事があるなら――

 

「はぁ、はぁ、霊夢、さん」

 

――ああ、惚れましたね。完全に。

 

 あの時の妖夢さん、完全に雌の顔していましたもの。

 以前からその兆候はあったんですけどね。今回が止めになってしまったようで……。

 

 此処は博麗道場。

 今日も一人の少女が、巫女の魔の手に掛かって堕ちる。明日は何処の娘? どんな娘か?……それは誰にも分からない。

 

 半霊剣士は堕ちていく、巫女の手の中、堕ちていく。

 呆れる門番、何想う。巫女への期待で何想う。

 




書くのt(ry

最近、忙しすぎてギリギリの投稿が増えている気がするのである。
なのに、文字数はどんどん増えていっている。……あれかな、自分から首絞めていくスタイル。

今回のラストは展開が急過ぎる気もしたけど、ある意味で納得出来る感じに仕上げれてはいるのではないかと思いました(小並感)。

では、次は六話で会いましょう。


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【番外】普通の魔法使い『友人』

まだ五話目だってのに、いきなり番外編を載っけていくスタイル。

痺れるだろぉ?

そんなわけで見てほしいのよ。


 霧雨魔理沙は普通の魔法使いである。

 魔法の森の奥深くにて、『霧雨魔法店』を構えて一人暮らしをしており、日夜魔法の研究に勤しんでいる。

 

 人間の中でも強者と分類出来るほどの実力者であり、その磨き抜かれた魔法の技量もさる事ながら、何よりも彼女を象徴するのが、その圧倒的と言っても良い程の馬鹿げた魔力砲撃である。

 天を穿ち、大地を焼き焦がす閃光……圧倒的という言葉すら生温い。下手な妖怪では、一瞬のうちに消し炭になっても可笑しくないほどの砲撃力。

 放つ砲撃の一発一発がまさに必殺。……もしも、彼女と相対する者がいたならば、正面に立つべきではない。彼女の目に映ったその瞬間、防ぐことすら馬鹿馬鹿しい鮮烈なる光が、その命を焼き尽くす事だろう。

 あの博麗の巫女が、「いずれは己に追いつくほどの潜在能力を持っている」と評しただけはあり、人の身でありながら(ごく一部の例外を除いた)この人外が蔓延る幻想郷でも、屈指の実力者として名を揚げている。

 

 そんな彼女ではあるが、何も最初から(人間詐欺な)魔法使いだったわけではない。元々は人里にある大手古道具屋にて、普通の少女として生きていた。

 

 代わり映えのない日常、道具屋の娘として道具の鑑定やら何やらを続ける毎日、そんな刺激も何もない日々に飽き飽きしていた。

 魔理沙には世界が色褪せて見えていた。何の色もないセピアな世界。輝きなんて一つもない。夢も希望もない白黒世界。

 自分はこのまま普通の人間として、普通に生きて、普通に死んでいく。……普通という名の絶望が常に魔理沙の心を蝕んでいた。

 

 ある日の事、魔理沙は古道具の中に、何か異質なものが紛れ込んでいるのを見つけた。

 それは古い本だった。日に焼けて所々が黄ばみ、カビだらけになっているボロボロに朽ち果てた本だった。

 

 魔理沙は何故かその本が気になって仕方なかった。

 自分の退屈で変化のない日常をぶち壊してくれるような。……そんな予感めいたものを感じたからだ。

 

 魔理沙は家の人間に見つからないように、本をこっそりと自室に持ち帰った。

 文章は英語という文字で書かれていたが、これでも道具屋の娘、似たような文字が書かれた本は沢山見てきたし、それなりの教養もある。

 単語と単語を繋ぎ合わせ、意味を推測しながら、少しずつ少しずつ、一文一文、じっくりと咀嚼するように読み解いていった。

 

「すごい」

 

 長い時間を掛けて内容を全て読み切った魔理沙は、興奮を抑えきれなかった。

 これには、このボロボロのゴミクズみたいな本には、魔法に関する事が書かれていた。

 魔法、魔法だ。箒に乗って自由に空を飛びまわったり、杖を振って石ころをお菓子に変えたりする、あの魔法だ。

 本の魔法は、魔法と一言に言っても、小さな火を出したり、小物を浮かせたりするなど、とても簡単なものであったが、それでもただの少女であった魔理沙にとっては、大魔法も同然の素晴らしいものに思えた。

 

 それからというもの、魔理沙はどんどん魔法の世界に傾倒していく。

 家族から隠れながら、少しずつ少しずつ魔法の練習をしたり、時々、古道具に紛れている魔法の道具を盗み出して研究してみたりと本当に様々な事をやった。

 楽しかった。普通に生きているだけじゃ味わえないスリルのようなものが堪らなく心地よかった。自分みたいなただの人間でも、魔法という不思議な力を使えている、その事実が嬉しくて嬉しくて仕方なかった。

 色褪せて見えていた世界が、キラキラとお星様の輝きで満たされ、染め上げられていく。……そんな幸せな気持ちで一杯だった。

 

 そんな日々を過ごし続け――魔理沙は実家と絶縁した。

 何故か? それは魔理沙が魔法の研究をしているというのが、全部実家にバレてしまったからである。

 魔法の事を知った実家の者たちは、口々に魔法の研究を止めるように言い迫った。

 

――魔法なんてくだらないものに時間を潰すんじゃない!

――普通の人間が、進んでいい道じゃないんだ!

――この家の娘としての自覚が足りていないのか、お前は!

 

 不快だった。

 色褪せて見えた世界。そんな退屈で退屈で仕方なかった世界を様々な輝きで満たしてくれた魔法。

 それを否定された。……その事実がどうしようもなく不快で、不快で。魔法を否定している実家の連中が、不倶戴天の敵であるかの様に、憎らしくて、憎らしくて、憎らしくて仕方なかった。

 

 何も知らない癖にっ! 変化を恐れているだけの凡人の癖にっ! 魔法をただ恐れているだけの臆病者の癖にっ!

 研究を邪魔されたり、魔法の道具を捨てたり、ありとあらゆる手段を講じて、魔理沙を元の退屈な世界へ引きずり戻そうとする実家の凡人共。……最初は、此処まで育てて貰った恩も有り、大人しくしていた魔理沙であったが、限界だった。だから――

 

「じゃあな」

 

――魔理沙は家を出た。

 

 こんな場所では落ち着いて研究も出来ない。話が通じないお前たちとはこれっきりだと、自ら実家との縁を切ったのだった。

 

 もうこんな退屈な場所になんて戻ってやらない。こんな場所になんて何も未練は無い。実家の奴らがどうなってしまおうと関係ない。私は自分の世界を守るためだけに生きる。

 

「此処に来んのも随分と久しぶりだなぁ」

 

 家を出た魔理沙は、『香霖堂』と呼ばれる小さな古道具店を訪ねた。

 魔法の森の入り口にあるその店には、魔理沙にとっての昔馴染みに当たる人物がいるからである。

 

「邪魔するぜ」

「邪魔をするなら帰ってくれないかな?」

 

 森近霖之助(もりちかりんのすけ)。古道具屋『香霖堂』の店主である。

 銀色に近い色合いの白髪のショートボブに一本だけ跳ね上がったくせ毛。瞳の色は金色で、怜悧な眼光は彼にクールな印象を与える。

 黒と青の左右非対称の、和服と洋服の特徴を併せ持った奇っ怪な服装をしており、下だけに黒い縁がある楕円形の眼鏡を掛けている。

 眼鏡を掛けているだけあり頭脳派で、物事を深く考えて考察することを趣味としている。そのため保有している知識量は並ではない。

 騒々しいのを嫌い、静寂を好んでいるため、よく一人でいることが多い。

 そんな性格もあり、こんな人があまり寄り付かないような場所に店を構えて、日がな暇な一日を過ごしているのである。

 

「久しぶりだなこーりん!」

「はぁ、相変わらず元気そうで何よりだよ、魔理沙」

 

 魔理沙にとって、霖之助は歳の離れた兄のような存在だ。

 元々、魔理沙の実家である古道具屋で修行を積んでいた霖之助は、赤ん坊の頃から魔理沙の遊び相手を任されていた。忙しい家族達に変わって霖之助が面倒を見てきたのだ。

 今でこそ修行を終えて、個人で古道具屋を営んではいるが、時々ふらりと魔理沙の実家を訪れては、こっそりと珍しい魔法の道具やら何やらを持っていってあげたりしていた。

 魔理沙もまた霖之助には非常に懐いており。二人はまるで本当の兄妹の様に温かな関係にあった。

 

「こんな夜遅くにどうしたんだい?」

「ちょっと、な」

「あぁ……成る程、ね」

 

 遂に、か。

 顔を歪ませる魔理沙の姿を見た霖之助は全てを察した。……「あ、この娘、完全に家出(一生)したなぁ」と。

 特に驚きは無かった。何時か魔理沙が実家から飛び出すであろうと分かっていたからだ。

 

 魔理沙はいささか魔法という不思議に傾倒し過ぎている。そんな彼女が普通で退屈の象徴と言ってもいい場所から離れたいと思うのは必然だった。

 猪突猛進と言うか何と言うか……その行動力には見習うべきものがあるかもしれないが、考えなしに動き回るのは正直感心しない。

 人里から離れた此処に来るまでに妖怪にでも襲われたらひとたまりもないだろうに。……確かに、少しは魔法を使える様にはなったのかもしれないが、多少かじった程度では、そこら辺の木っ端妖怪にすら容易く食い殺されて終わりだろう。

 

「……はぁ」

 

 小さな背中に背負った大きな荷物。

 そして、態々自分の店までやってきたという事は、最早実家に戻るつもりはないのだろう。……此処で自分が、この娘を実家に送り返しても、すぐに飛び出してくる光景がありありと目に浮かぶ。

 

 仕方ない。せめて独り立ち出来るくらいには面倒を見よう。

 早速、店の中にある魔法の道具やら珍しい物品を、目を輝かせながら見たり触ったりしている幼い魔法使いの卵を見て、霖之助は重たい溜息を吐いた。

 

 

――数年の時が経った。

 

 

 霖之助の元で魔法の研究を続けていた魔理沙は、一介の魔法使いと呼べる程に成長していた。

 すでに基礎の魔法は習得済みで、平均的な魔法使いが扱えるレベルの魔法まで扱える様になっていた。流石に上級クラスの魔法は、資料自体が全く出回っていないために習得することは出来ていないが、環境を考えると非常に優秀な魔法使いだと言えた。

 しかし、残念な事もあった。魔法の成長とは裏腹に、身体の成長は芳しくなく。同年代の子たちと比べたら、身長は余りにも小さいちんちくりんで、胸も摘める程度しかないぺったんこそのものだった。

 

「そういう訳で、私は魔法の森に拠点を移そうと思うんだ」

「どんな訳だい。……残念だけど、僕は反対だね。あそこは、まだまだ未熟な君が住んでいい場所じゃないよ」

 

 魔理沙と霖之助は揉めていた。内容は独り立ちについての話し合いだ。

 

 魔理沙の主張としては、魔法の森の中に小屋なり、何なりを建てて、そこに拠点を移したい。理由としては魔法の森には魔法薬の研究に使えるような素材が沢山溢れているからだ。

 対して、霖之助の主張は真逆で、魔理沙には人間の里……せめて、その近くに拠点を構えて貰いたい。理由として、人間の里近くは、妖怪と遭遇する確率が低いため、安全であるからだ。

 一端の魔法使いとして成長したと言っても、まだまだ未熟な少女。兄貴分としては、出来る限り危険から遠ざけてあげたい。そう考えるのは当然の事だった。

 

「こーりんは心配症だなー、大丈夫だって! 私は強いんだ!」

 

 当の本人は、霖之助の気遣いを無碍にしてしまっているのだが……。

 

 有り体に言ってしまえば、魔理沙は浮かれていた。自分の力に、才能に酔っていたのだ。

 まだ妖怪とは一度も戦ったりしたことはないけど、自分は魔法使いなんだ。例え妖怪と遭遇しても返り討ちに出来るだろう。……そんな何の根拠もない自信が魔理沙の中にあった。

 

「フフッ、霖之助の忠告を聞き入れないのは感心しないな、魔理沙」

「うげっ、れ、霊夢」

「そんなにあからさまに顔を歪めるな。流石の私も傷つくぞ」

 

 香霖堂に入ってきた一人の見目麗しき少女。

 魔理沙よりも頭一つか二つ分は高い身長。露出が目立つ扇情的な巫女服に、同性すらも魅了する抜群のプロポーションが映える。

 

――博麗霊夢。

 

 博麗神社の巫女であり、この香霖堂の常連さんである。

 魔理沙と霊夢は、知り合ってからそれなりに長い付き合いになる。魔理沙が香霖堂に世話になり始めてから、僅か数日後に出会ったのが、この博麗霊夢だった。

 

 (身長や胸を見る分に)とてもそうは思えないが、自分と同年代らしい少女。

 どういうわけか自分に対して好意的な態度を取ってくる意味の分からない奴。何かにつけては関わろうとしてくるし、魔法以外に無頓着な自分の世話を焼きたがる奇特でお節介な奴。……それが魔理沙の霊夢に対する印象である。

 

 魔理沙は霊夢と仲良くするつもりはこれっぽっちも無かった。

 そんな無駄な事に時間を使うくらいだったら、魔法の研究などに時間を使ったほうが遥かに建設的だ。そう考えているからである。

 それなのに、こちらの考えなど知ったことじゃないと言わんばかりに、この巫女はぐいぐいと関わってくる。

 

「いらっしゃい、霊夢。……少し立て込んでいてね。出来れば出直してもらえると、ありがたいんだけど」

「何か問題でも?」

「まぁちょっと、ね」

「……ああ、成る程な」

 

 魔理沙の方を見て、少しだけ苦笑する霖之助。

 それだけで大体の事を察したように、霊夢もまた少しだけ苦笑する。

 

「魔理沙、妖怪はお前が思っているほど甘い存在ではないぞ?」

「そんなことは――」

「ない、とでも言いたげだな? 一応、言っておくが、紫や藍、橙の様な理性ある妖怪を想像しているなら止めておいたほうがいい。……殆どの妖怪は、己の欲望を優先させる獣以下の存在が多い。人などただの食料としか見ていない奴らが山ほどいるんだ。――お前が思っているよりも、ずっと危険なんだよ」

「うぐっ」

 

 ない、と反論する前に、考えていた事を全て言われて反論を潰された。

 図星だった。実際、魔理沙の中での妖怪とは、時偶に霊夢と一緒にこの香霖堂を訪れる友好的な妖怪しかイメージがない。

 紫や藍のような、力の強い大妖怪はともかく、橙の様な妖怪だったら、今の自分でも楽に対処出来ると思っていた。

 

「魔理沙、聞き入れてはくれないか?」

「っ!?」

 

 心配するように、悲しげに眉を下げて優しく諭しかけてくる霊夢。

 そんな彼女の姿に、魔理沙は思わず怒鳴りつけそうになるが、咄嗟に怒声を飲み込む。

 ここで怒鳴ってしまったら、霊夢の言葉を肯定しているようなものだ。そんなカッコ悪いところ、絶対にコイツの前で晒したくない。

 

 魔理沙は霊夢の事が苦手だった。

 自分に優しくし、あれやこれや世話を焼いてくるこの巫女の事が心の底から苦手だった。……まるで自分が何も出来ない子供であると思い知らされることになるからだ。

 

 霊夢は天才だ。

 少し学んだだけで、どんな事でも簡単に熟してしまう、才能の塊みたいなやつだ。

 魔理沙が何ヶ月も掛かって漸く習得できた魔法だろうと、霊夢は見てから数分で使いこなし、応用までやってみせた。挙句の果てには、更に効率の良い方法を自分に教えてくる始末だ。

 常に冷静沈着で落ち着いており、気配りも出来る。同じ年齢なのに、身長も胸も、その精神に至るまで大人で、自分では逆立ちしたって太刀打ちできない。

 魔理沙は霊夢を前にすると、自分が何もかも彼女に劣っている惨めな存在に思えた。

 自分には魔法の才能が有ると自負していたが、それを粉々に打ち砕かれた気持ちにされたのだ。

 

 だから、魔理沙は霊夢の事が苦手だ。

 自分の事をいつまでも子供扱いし、一人前と認めてくれない、この巫女の事が苦手だった。

 関わるなと、邪険に扱っても何度も何度も関わってくる、この優しい巫女の事が苦手だった。

 笑顔で母親が見守っているような、そんな温かく思いやりに満ちた視線を向けられるのが、嫌だった。

 

「気分が悪い。ちょっと外に出てくる」

 

 耐えきれず魔理沙は香霖堂を飛び出していった。

 

「あ、待つんだ、魔理沙っ!……はぁ、行ってしまったか、気を悪くしたなら、すまない、霊夢。あの娘の代わりに謝るよ」

「いや、構わないさ。あんな風に意地を張りたい年頃なんだろう」

「同い年の君がそれを言うのかい?」

「私もそれなりに、な……だからこそ、魔理沙の気持ちは痛いほどよく分かる」

 

 魔理沙が出ていった扉を、何処か遠くを見る様な目で、霊夢は見つめていた。

 

 

ーーー

 

 

「クソッ! どいつもこいつも、私の事を子供扱いしやがって!」

 

 香霖堂から出ていった魔理沙は、魔法の森を歩いていた。

 むしゃくしゃする。どうして誰も自分の事を認めない! どうして子供扱いするんだ!

 一人前だと認めてほしいだけなのに! ただただ対等であるって認めて欲しいだけなのに! どうして? 私に何が足りないって言うんだ! 

 

 魔理沙はこれ以上無いほどに荒れていた。

 自分の考えを認めてくれない霖之助が……何より霊夢の事が、腹立たしかった。

 

 長い付き合いになる腐れ縁のアイツ。誰よりも認めさせたいと思っているアイツ。

 そんなアイツは、自分を労るように、優しく声を掛け、あろうことかあんな、あんな顔をしやがった。

 悲しげに眉を下げ、自分を心配そうな顔で見るアイツのあの顔が、腹立たしくて仕方なかった。

 どうすれば認めてもらえる? アイツに認めさせるには、どうすれば――

 

「なぁんだ、簡単な事じゃないか」

 

――あった。

 

 一つ、確実な方法があった。

 最近、魔法の森には凶悪な妖怪が出没するという噂が、人間の里では出回っていた。

 里から少しでも外に出たら、その妖怪が魔法の森から現れて、人間を攫って貪り食う、という幻想郷ではありふれた噂だ。

 もう何人もの人間が、この妖怪によって惨殺され、その血肉を食い散らかされている。

 噂の元凶である妖怪を、人里を恐怖に陥れている妖怪を討伐することが出来たら、流石の霊夢でも私の力を認めるのではないか? 魔理沙はそう考えたのである。

 

「ちょうど魔法の森にいるんだ。この優秀な魔法使いである霧雨魔理沙様が、この事件を解決してやるぜぇ!」

 

 魔理沙は魔法の森の奥深くまで歩みを進めた。……そこに、恐怖が待ち受けていることも知らず。

 

 

ーーー

 

 

――ぐちゃり……くちゃ……くちゃ。

 

 瑞々しい何かを咀嚼している様な音が響き渡る。

 

「あ、ああ……たず、けで」

 

 咀嚼音に混じり、今にも息絶えてしまいそうな弱々しい女の声が僅かに聞こえてくる。

 

「ヒェッヒェッヒェッ、やはり絶望に満ちた女の声は最高だぁ」

 

 それは凄惨な光景だった。

 血に塗れた女の上に馬乗りになり、腰を振っている一匹の異形。……悍ましい異形だった。人間とカマキリを無理矢理融合させたかのような、奇っ怪で醜き異形。

 

 異形は女の身体を犯しながら、少しずつ少しずつその血肉を貪るように食らっていた。

 恐怖に震える姿を出来るだけ長く見続けるために、痛みに苦しむ声を出来るだけ長く聞き続けるために、じっくりと、じっくりと、殺さないように加減しながら、女の尊厳を犯し尽くし、その血肉を味わっていた。

 

「なん、だ、これ」

 

 物陰から息を殺して、その光景を見ている者が一人。……魔理沙である。

 魔法の森を虱潰しに探索し、魔理沙は、漸く噂の妖怪を見つけ出した。……まさか、食事中だとは思わなかったが。

 

「うっぷ」

 

 吐きそうになるのを必死で堪える。

 あまりにも酷い光景。人としての尊厳を踏みにじり、まるで玩具の様に扱っている冒涜的な光景。

 

――これが妖怪? こんな恐ろしい存在が妖怪だというのか? こんな恐ろしい存在と戦おうとしていたのか?

 

 恐怖によって、心臓が嫌な鼓動を刻み続ける。二本の足は、石か何かになってしまったかの様に固まってしまって全く動かせない。

 動けっ! 動けっ! 動けっ、動け動け動け動け動けっ! 動けよっ! 動けよ足っ! 早く逃げないと、次は自分がああなってしまうっ!

 

「……あ」

 

――見ている。

 

 今にも死んでしまいそうな女が、自分の方を見て、震える手を伸ばしている。

 口をパクパクと開いて、何かを訴えかけようと、涙を流し、口から夥しい血を吐きながら――「た、す、け、て」。

 

――グシャリッ!

 

 女の顔が無くなった。首から先がいきなり消えた。

 残された首からは、噴水の様に勢い良く血が、命が吹き出していく。……吹き出した血液は、雨の様に、辺り一面に降り掛かり、無数の赤い斑点が地面を化粧していく。

 

「ヒェッヒェッヒェッ! 今日は良い日だなぁ……人間を二人も食えるなんてぇ」

 

 醜い異形が――妖怪が、ゆっくりと振り返る。

 その口元から覗くのは、食われた女の成れの果て。……妖怪の歯の間から、助けを求めていた目が、光を失った眼球が、無機質にこちらを覗いていた。

 

「う、うわぁぁぁああ!?」

 

 魔理沙は弾かれたように駆け出した。

 

――殺されるッ! 殺されるッ! 殺されるッ! 殺されるッ! 殺されるッ!

 

 自分は優秀な魔法使いである。……そんな自信は何処かに飛んでしまった。

 魔理沙の胸中にあるのは「逃げる」という思いのみ、早く此処から離れないとッ! あの異形から逃げないとッ! 殺されてしまうッ!

 今まで命を脅かされた事がない、幼い少女は、危険から逃れようと必死になって走る。脇目も振らずに駆け、進む先に見える僅かな光を目指して走り続ける。

 

 光はもう少し、もう少しで森を抜けられる。

 

「何処に行くんだぁ?」

「ひぃっ!?」

 

 しかし、光を遮るように、妖怪が立ち塞がる。

 まだ幼い少女である魔理沙の足では、妖怪から逃げる事は不可能だった。

 その上、この森は妖怪のテリトリーである。どう行けば、何処に出るか、近道だろうと抜け道だろうと簡単に、それこそ手に取るように分かるだろう。

 鬼ごっこは始まる前から試合終了だった。ただそれだけの残酷な話である。

 

 魔理沙は力が抜け、その場に座り込んでしまう。

 逃げないといけないのは頭で理解出来ているが、恐怖で身体が竦んでおり、ピクリとも動いてくれない。

 

「何だぁ? まだガキじゃねぇかぁ? 食いでもねぇし、楽しめねぇ身体ぁ……ガッカリだぁ」

 

 下卑た視線で、魔理沙の肢体を舐め回すように見る妖怪。

 自分がさっき食った女とは悪い意味で違う身体に、残念そうに肩を落とす。……妖怪には残念だが、一部には需要がある。むしろ、需要しか無い。

 

「まぁ、食いではねぇが、イイ声で鳴いてくれそうだぁなぁ」

「っ!?」

 

 妖怪が鎌を振り上げ、一閃。

 その鎌による一閃は、器用に魔理沙の胸元部分にある服のみを切り裂いた。……露わになるのは、少女の穢れを知らぬ、幼き白い肌。

 

「食う前に、その身体を堪能させてもらうかねぇ」

 

 魔理沙の穢れを知らない身体を汚し尽くそうと、妖怪が迫る。

 魔理沙の頭を過ぎるのは、先刻の光景。……無残に女としての尊厳を踏みにじられ、玩具のように殺された名も知らない女の姿。

 あの時の恐ろしい光景が、今度は自分に対して行われようとしている。

 恐怖のあまり、絶望に沈みゆく心。そんな時――

 

――「魔理沙」

 

 アイツの心配する顔が、慈しむような優しい声が頭に浮かんだ。

 恐怖が根本から消え失せた、身体の震えも完全に止まった。……それどころか身体の奥底から力が、溢れんばかりの力が漲ってくる。

 

「……そうだっ、そうだったよっ!」

 

 アイツに認められてもないのに、こんなところでっ、こんなところでっ! こんなクソ野郎にいいようにされて、死んで堪るかァァァッッッ!!

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!? 俺の目ぇ!? 目がぁぁぁぁぁ!?」

 

 油断しきった妖怪の顔面にめがけて、思いっ切り魔法を放つ。

 放たれたのは星型の魔力の弾。魔弾は狙い通り、綺麗に妖怪の目に直撃し、片目を奪い去った。

 油断したところに訪れた激痛に、妖怪は悶え苦しみ、叫び声を上げる。失った片目から溢れ出す血を抑えながら、のたうち回って苦しみ叫ぶ。

 

「へっ、ざまぁみろってんだっ!」

 

 中指を立てながら、ふんぞり返る。

 最早、怯えていた少女の姿はそこにはない。そこにあるのは一人前の魔法使い。……霧雨魔理沙という名の勇気ある魔法使いの姿だった。

 

「やってやんよっ! かかってきやがれカマキリ野郎! この霧雨魔理沙様が退治してやるぜっ!」

「ガキがぁ! 震えてた分際でほざくなぁぁぁ!」

 

 鎌を巧みに振りかざし、自分を傷つけた存在へと振り降ろす妖怪。

 しかし、魔理沙はそれをヒラリと躱し、お返しに鎌を振り抜いて、隙だらけな妖怪に向かって魔法の弾を連射する。

 星の弾幕が、妖怪の身体を撃ち据えていく。……だが、効果は薄い。当たりはするが、ダメージは微々たるものでしかない。

 先程、大きくダメージを与えることが出来たのは、相手が油断しきっており、なおかつ急所である目を攻撃することが出来たからだ。

 

「ちょこまかぁ逃げるなぁ!」

「当たったらヤバイからなっ! 避けるに限るぜ!」

 

 妖怪の猛攻を避けながら……さて、どうしたものか? 魔理沙は考える。

 自分の攻撃は当たってはいるが、ダメージは少ない。相手の攻撃はトロいから問題なく避けれているが、自分の体力は無限ではない。このまま延々と同じことを繰り返していても、いずれは自分の体力が尽きて、殺されるだろう。

 魔理沙は考える。状況を打破する方法を――そして、閃いた。

 

 自分が使える魔法、自分が持っている道具、周囲の環境。

 ありとあらゆる要素を考え、導き出したその方法。……それが上手くいけば、あんな妖怪なんて簡単に吹き飛ばせる。

 

「へっ、覚悟しやがれっ、この虫野郎っ!」

 

 魔理沙は懐から袋を取り出し――投げつける。

 

「邪魔だっ! ぬぐぉ!? ゴホッ!? ゲホッ! 何だぁコレはぁ!?」

 

 投げつけられた袋を鬱陶しげに切り裂く――その瞬間、切り裂かれた袋を中心として、辺り一面に真っ白な煙が広がっていく。

 

 魔理沙が作った魔法の道具。……名前はまだない。

 効果は単純そのもの、白い粉を大量に辺り一面にバラ撒くという傍迷惑な代物である。……元々はジョークグッズの類で作成してみた道具であり、いつか霊夢に対して使ってやろうと画策していた物だ。

 

「クソがぁ何も見えねぇ、目くらましのつもりかよ人間めぇ」

 

 苛立つように、デタラメに鎌を振り回している妖怪。

 その行為が逆に、粉を宙に舞わせ、余計に視界を悪くしている。更に視界が悪くなり、怒り、鎌を振り回し、大量に粉が舞い、更に視界が悪くなり……負の無限ループが出来上がっていた。

 

「うんうん、上手く言ったな」

 

 そんな妖怪をよそに、こっそりと煙の範囲から抜け出していた魔理沙。

 自分の作った道具が思った以上の効果を発揮してくれた事実に満足気に頷いている。少しだけ、粉まみれになっているのは、ご愛嬌と言ったところ、わんぱくな少女らしくて可愛らしい。

 

「よしっ、ここまでは計画通り、後はこうして――」

 

 悪戯っ気のある笑い声を漏らしながら、手の平に出現させたのは、小さな小さな火の塊。ロウソクに火を灯すことしか出来なさそうな、小さな火種。

 

「――こうする、と」

 

 それを妖怪がいる方に向けて投げ入れ、一目散に木の陰に隠れて身を伏せる。次の瞬間――

 

「うぎゃあぁぁぁぁぁ!?」

 

――轟音と共に、途轍もない大爆発が起こった。

 

 轟音に紛れて、爆炎に焼かれ、衝撃波に蹂躙される妖怪の声も僅かに聞こえる。……そう、魔理沙が引き起こしたのは、外の世界で言うところの――

 

――粉塵爆発。

 

 空気中に不純物が多く含まれている状態で、火を着けると発生する現象。

 本来は室内などでないと発生することは少ないが、木々が生い茂り、風が余り吹き込まない一種の密封状態にある森と、魔理沙が作り出した道具による馬鹿げた量の粉。……そんな二つの要素が揃った事により、屋外でありながら、周囲の木々を根こそぎ吹き飛ばし、地面にも巨大なクレーターを作るほどの大爆発を引き起こしたのである。

 

「ふぅ……流石に死んでる、よな?」

 

 いそいそと隠れていた場所から抜け出し、妖怪がいたであろう場所を確認する。

 大爆発が地面に作り出したクレーター……その中心部で真っ黒に焦げたカマキリのような物体が転がっていた。死んでいるのか、ピクリともしない。

 

「あー……何とかなったぁ」

 

 その場に腰を下ろし、一息。

 

「しっかし、まさかアイツの声に助けられるなんてなー」

 

 いつも苦手苦手と思っていた巫女の姿を思い浮かべる。

 不思議と苛立ちは湧いてこなかった。それどころか、無性にあの心配症な巫女に会いたくて仕方がない。あの優しげな微笑みを向けられて、あれやこれやと世話を焼かれたい。

 

「……ははっ、帰ったら少しだけ優しくしてやるか」

 

 ボロボロの自分を見て、オロオロするだろう姿を想像して、苦笑をこぼし。その場を後にしようとして――

 

「あぐっ!?」

 

――吹き飛ばされた。

 

 吹き飛ばれた魔理沙は地面を数回バウンドしながら、木に叩きつけられる。

 

「あっぐぅ……一体、何が」

 

 痛みに悲鳴を上げる身体を起こしながら、自分がさっきまでいた場所を見る。

 

「なっ!?」

 

 死んでいた。そう思っていた妖怪がいた。その全身は多少焼け焦げているものの、傷は少なく。まだまだ健在だった。

 何故? 確かに黒焦げになって死んでいるのを確認した筈だ。他にもう一匹いたのか? いや、そんな……。

 

「クソが、俺が脱皮できなかったら死んでたぜぇ」

 

 妖怪には能力があった。それは一日に一度だけ脱皮できる、という能力。

 脱皮する事で、それまで自分が負ったダメージを一度だけ無かった事にできるのだ。

 爆炎の中で咄嗟に、自身の身体を脱皮させる事により、身体が死に絶える前に無かったことにしたのだ。……身体は爆炎に焼かれたが、死ぬよりはマシだった。

 

「クソがぁ、人間ごときがぁ、この俺を、俺をぉぉぉ!」

「ぎゃっ!?」

 

 力なく倒れ伏す魔理沙を蹴り上げ、地面に叩きつける。

 

「げほっ、げほっ……う、うぅ」

 

 全身が痺れるように痛い。頭がフラフラする。

 口の中は鉄の味で一杯だ。喉の奥からも溢れ出てくる。……恐らく内蔵でもやられてしまったんだろう。

 腕どころか指一本すら動かせない。視線だけを動かして見てみると、右腕が不自然な方向に曲がっており、左足も、足首が逆の方向を向いている。

 

「はぁ、ちょっ、と、はぁ、叩か、れただけ、はぁ、で、これ、かよ、ごふっ」

 

 人間と妖怪、両者の間に存在する絶対的な力の差。それを思い知らされたような気分だった。

 慢心はなかった、今出来る全てで対抗した。現にあの妖怪の身体もボロボロに焼け焦げている。本当にもう一歩、後もう少しで倒せた筈だった。……だけど、結果はこの様だ。

 

 立っているのはあの妖怪で。倒れ伏しているのは自分。

 最早、力は出し尽くした。これ以上何も出来やしない。つまり待っているのは――

 

「犯してぇ、泣き叫ぶ声を聞きながらぁ、ゆっくりと食らってやろうと思ったがぁ、止めだぁ。お前はそのまんま死んでしまえぇぇぇ!」

 

――死。

 

 巨大な鎌を振りかぶる妖怪。その目には遊びなど一切存在せず、殺意の色しか無い。

 妖怪にとって、人間とはただの食料、玩具でしか無かった。その玩具に自分がここまでボロボロにされた。おもちゃごときが、この自分を傷つけた。それが許せない。だから、確実に殺してやる。その思いのままに、魔理沙に向かってその殺意の凶刃を振り下ろさんとする。

 

「ちぐ、じょう」

 

 涙が溢れてくる。……こんなところで死んでしまうのか?

 自分はまだ何も成し遂げていない。まだまだやりたいことは沢山ある。魔法の研究だってもっとしたいし、色んな魔法の道具だって見たい、霖之助のやつにだって礼の一つも言ってない。……何よりアイツに、あのお人好しのバカ野郎に、何一つ認めさせていないのにッ!

 

 振り下ろされる鎌。魔理沙は思わずギュッと、目を閉じてしまう。そして――

 

「何だ魔理沙、いつものお前らしくないな」

 

――聞き慣れた優しい声が聞こえた。

 

 耳を疑った。この場所にいる筈のないアイツの声が聞こえた。閉じていた目を見開く。

 

「あ、え?」

 

 そこにはアイツがいた。

 片手だけで、妖怪の鎌を受け留めているアイツの姿が……霊夢がそこにいた。

 

「れい、む?」

「済まない魔理沙、霖之助と話し込んでしまってな。……少し遅れてしまった」

 

 どうか許して欲しい。そう続けながら、顔をこちらに向けて、申し訳なさそうにその形の整った眉を下げている。

 

「どうし、て?」

「お前がどう思っているかは知らないが、私にとって、お前は大切な友人だからな。……友人の危機は救うものだろう?」

 

――友人。

 

 友人と呼んでくれるのか、お前にそっけない態度ばっかり取っていた私を友人と、友人と呼んでくれるのか?

 魔理沙の瞳から涙がこぼれ出る。……どうしてだろうか? 霊夢に友人と呼んで貰ったことがこれ以上無いくらいに嬉しかった。

 

「ぐぬぅ、貴様! 邪魔をすr」

「少し黙れ――破道の一『衝』」

「ぐあぁぁぁ!?」

 

 指先から放たれた不可視の衝撃が、妖怪を彼方遠くまで吹き飛ばす。

 魔理沙との会話を邪魔しようとした不届きな輩を、情け容赦無く、一欠片の慈悲なども与えず、一方的で理不尽な感情のままに吹き飛ばす。

 

「しかし、すごいな魔理沙。初めて妖怪と戦って、ここまで追い詰めたのか……フフッ、これだけ出来るなら、もう一人前かな?」

 

 惜しみない称賛。その言葉がより一層魔理沙の涙腺を刺激し、涙を溢れさせていく。

 

 認めて、くれたっ! 初めて、初めて認めてくれたっ! あの霊夢が、私の事を確かに認めてくれたっ!

 霊夢の目にはいつもと同じような……だけど、それ以上に魔理沙の事を認めてくれているような優しい光に満ち溢れていた。

 これまでの努力が全て報われた気がした。それが堪らなく嬉しい。

 魔理沙の頬を幾筋もの涙が流れていく。……悲しいからじゃない、嬉しさで涙が溢れてくる。

 

「れい、む、わた、しは、ひっく、わた、しはっ」

「休め魔理沙、後は私が全て片付ける。……後で、ゆっくりと話そう、な?」

 

 だから今は休めと、優しく頭を撫でつける。

 何処までも優しい声。全てを包み込むような温かい力が、魔理沙を覆っていく。

 

「あり、がとう」

 

 心地いい微睡みと共に、魔理沙の意識はゆっくりと沈んでいった。

 

 

ーーー

 

 

「――さて」

 

 果してそれは、魔理沙を優しく寝かしつけた者と同一人物なのだろうか?

 魔法の森が震えていた。生き物たちが騒ぎ出し、木々が揺れる、森そのものが恐怖でざわめいている。

 

――殺気。

 

 余りにも強大な殺気。その身より溢れ出している膨大な霊力と共に発せられたその波動が、魔法の森一帯を押し潰していく。

 殺気はただ一人の人間から……博麗の巫女である、博麗霊夢というただ一人の人間から放たれる。

 

「どうしてくれようか」

 

 感情を感じさせない声色で、人形染みた無表情で、ゆっくりと妖怪の元へと歩みを進める。……静かな歩みとは裏腹に、周囲を圧する恐ろしい殺気は徐々に徐々にその鋭さを、重さを増していく。

 

「何だお前はっ!? 何なんだよぉ!?」

 

 怯えに怯え、みっともなく距離を取ろうとする妖怪。……しかし、その足は殺気に当てられたせいで全く動かない。まるで地面に直接縫い付けられているかの様に、全く動かす事ができない。

 

「私は博麗霊夢。博麗神社の巫女で、この幻想郷の秩序を守る者だ」

「はく、れいだとぉ!?」

 

 博麗の巫女の名を知らぬ者など、この幻想郷には一人としていない。人も妖怪もただの一人も、かの巫女を知らぬ者はいない。

 善なる者には光に満ち溢れた希望を、悪なる者には覆ることのない絶対的な滅びを与える超越者。……その中でも、今代の博麗の巫女である博麗霊夢は、過去現在、そして未来永劫に於いて最強と称される人間だと謳われていた。

 

「こう見えても、頭にキていてな。……私が遅かったせいで、あの娘には、魔理沙には随分と恐い思いを、痛い思いをさせてしまった。だがな――お前、ふざけるなよ?」

「ぎぃぃぃやぁぁぁ!?」

 

 突然、両腕がねじ切れた。鋼よりも固いと自負していた筈の自慢の鎌が宙を舞い、ズタズタに切り刻まれ、瞬きの間に血霞へと変わる。

 耐え難い激痛が、理解不能な現実が、妖怪の精神を蹂躙する。……何も見えなかった。何が起きたのか、何をされたのか、全く理解できない。この巫女は一体何をした!?

 

「私の友人を犯すだと?」

「うぎゃぁぁぁ!?」

 

 今度は両足が引き千切られた。千切られた足は、発火して消し炭になり、この世から跡形もなく消え失せる。

 

「殺すだと?」

「ぐぎゃぁぁぁ!?」

 

 倒れ伏す妖怪を強大な圧力が襲う。

 見れば妖怪の頭上にはいつの間にか透明な壁――結界が出現しており、容赦なく妖怪を押し潰していく。……ゆっくり、ゆっくりと、圧力を引き上げながら、少しでも長く妖怪を苦しめようと、ゆっくり、ゆっくりと、その身を押し潰していく。

 

「そこらの木っ端妖怪風情が粋がるな、虫酸が走る」

「が……はっ」

 

 殺される。惨たらしく殺されるっ! 恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い!……それは、長い時を生きてきた妖怪が、初めて恐怖した瞬間だった。

 人間は自分の餌では、玩具ではなかったのか? いつも自分がしている様な事が、逆に自分に対して行われている。これではまるで自分がこの恐ろしい巫女の玩具ではないか。

 感情を一切排した表情で、ただただ無慈悲に徹底的に己を痛めつけ続ける巫女。その有り様、最早人のそれとは思えない、狂気すら感じる有様に、妖怪の心が悲鳴を上げて泣き叫ぶ。

 

「もぅ、やめ、人間を襲うのは、止める、止めるぅ」

 

 妖怪は最早、見逃してもらうように懇願するしか無かった。

 

「そうか、反省したのか。なら特別に許して――」

 

 先ほどとは一転して、菩薩のような微笑みを浮かべ、結界を解除する巫女の姿に妖怪は安堵する。死なずに済むと、安堵する。

 安堵し、胸中に浮かび上がるのは憎悪だった。……上手くこの場を生き延びて、絶対にこの巫女に最大の絶望と最大の屈辱の中で、犯し尽くして食らってやると憎悪する。

 いつか必ず報復を、この巫女の大切な存在を目の前で犯して食らい、この巫女自身も陵辱の限りを尽くして骨の髄まで貪り食ってやる。そこまで考えて――

 

「――やるわけがないだろう」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 

――頭を思いっ切り踏みつけられた。

 

 あまりの威力に妖怪の頭を中心に、地面に幾つもの亀裂が走っていく。

 

「何故だぁ!? 見逃してくれるんじゃぁ!?」

「私は一言もそんな事は言ってはいないが? 都合の良いことを考えてもらっては困るなぁ」

 

 嘲笑を浮かべながら、グリグリと妖怪の頭を踏み躙る。ゴリッゴリッと骨が削れる音が響き渡る。

 

「そもそも魔理沙に傷をつけた貴様が、今もなお生きているという事自体が不快なんだ。……早々に諦めて、苦痛と恐怖に震えながら死に果てろ」

「うばぁっ!?」

 

 その細い足に見合わない力で、妖怪の腹を蹴り、空中高くまで飛ばす。蹴りの威力が高かったせいで、妖怪の腹は歪に陥没しており、妖怪は赤い飛沫を上げながら壊れた玩具のように宙を舞う。

 

(ウノ)

「ぎぃっ!?」

 

 そして、落ちてきた妖怪に向かって、陥没した土手っ腹に向かって抉りこむようなレバーブロー。ゴキンッという鈍い音と共に、妖怪の身体が不自然にくの字に折れ曲がる。……たった一撃で背骨が粉々に粉砕されたのだ。

 

(ドス)

「ぎゃぁっ!?」

 

 続いて、その苦痛に歪み白目を向いている醜い面に、右フックをぶちかます。それだけで妖怪の顔面は半分以上が潰れ、ただでさえ醜い面が、余計に醜く形を変える。

 

(トレス)(クアトロ)(シンコ)……」

 

 左フック、右フック、ジャブ、アッパー、ボディブロー……。

 放たれる拳の猛襲が、妖怪の身体を徹底的に破壊していく。恐ろしいことに、妖怪の身体は宙に浮いたまま一度も地面に落ちていない。拳の衝撃が大きいが故に、宙に浮かび続けているからだ。

 最早、妖怪はなすすべもなく、これから訪れる絶対なる死の運命を受け入れる事しかできない。

 

「止めだ、100(シエントス)ッ!」

 

 トドメに膨大な霊力を込めた拳を打ち込んだ。

 打ち込まれた拳から、暴力的な破壊の霊力が妖怪の肉体を破壊する。砂の様に崩れ落ちていく妖怪。……最初から存在そのものが無かったかの様に、その場から妖怪の姿が消え去った。

 

「すぅ……すぅ」

「……魔理沙」

 

 一人の人間による一方的な処刑が終わった。……その場に残ったのは、穏やかな寝顔を浮かべた”無傷”の魔法使いと、その魔法使いを抱き上げ、憂いを帯びた笑みを浮かべる巫女の姿のみだった。

 

 

ーーー

 

 

「ここ……は?」

 

 沈んでいた意識が戻る。……頭が重い。長い間、眠っていた様な気がする。

 

「気がついたようだね、魔理沙」

「……こーりん?」

 

 魔理沙が目を覚ましたのは香霖堂だった。

 傍らには、兄貴分である霖之助が座っており、ホッと一息を吐いて、心底から安心した表情をしていた。

 

「君が運び込まれてきた時は、本当に心臓が止まるかと思ったよ。あんまり無茶はしないでほしい」

「……ごめん」

「君が必死なのは分かっているつもりだ。……だけど、君の事を心配している人がいるってことは忘れないでくれよ」

 

 君が傷付いてたら僕も……何より霊夢も悲しいんだからと続ける。

 魔理沙が霊夢に拘っているのは知っていた。……霖之助から見れば、魔理沙の態度は、気になる女の子に声を掛けたくて仕方がないくせに、全然素直になれない少年みたいにしか見えなかったからだ。

 

「……霊夢は?」

「霊夢なら、表の方でお茶でも飲んでいるよ。――って、魔理沙! 病み上がりだから、安静に!……はぁ、本当に話を聞かない娘だ」

 

 霊夢の居場所を霖之助が言った途端、弾かれるように、魔理沙は身体を起こして、走って行ってしまった。……寝起きだというのに元気が良いことだ。最早、霖之助は呆れて、やれやれと首を振るしかなかった。

 

 

ーーー

 

 

「霊夢!……あ」

 

 霊夢は香霖堂近くの岩に腰掛け、お茶を啜っていた。

 日の光が霊夢の姿を淡く映し出し、緩やかに吹く風が彼女の長い黒髪を、巫女服をサラサラと靡かせる。

 魔理沙はその姿に思わず見惚れてしまっていた。……同じ人間だと思えない、人ならざる神秘的な美貌が、そこにあった。

 

「綺麗」

 

 無意識に声に出してしまう。

 

「フフッ、珍しいな。お前が私のことを褒めるなんて」

 

 思わずといった様子でクスリッと笑い。目を細めながら優しげに魔理沙を見やる霊夢。

 そんな笑みを向けられた魔理沙は、自分の頬が熱く茹で上がり、ドキドキと心臓が張り裂けてしまいそうな鼓動を刻んでいくのを感じた。

 

「べ、別に私だって人を褒めたくなる時だってあるんだよっ!」

 

 可笑しい。自分はどうしてしまったのだろうか?

 霊夢の顔を直視できない。あの優しげな笑みを向けられるだけで、嬉しくて、恥ずかしくて、色んな感情が入り混じって意味が分からなくなる。そこに以前の様な反発する思いは一切ない。

 

「あ、のだな。……ちょっと、聞きたい事があるんだ」

「これは告h……改まってどうした?」

 

 嬉し恥ずかしのごちゃ混ぜの感情を無理矢理押し殺し、意を決して霊夢に声を掛ける。

 それは告白する寸前のように、真剣で甘酸っぱいモジモジとした様子であり、内心テンションが天元突破しつつある霊夢であったが、空気を読んで真意を問い掛ける。

 

「その、私とお前の関係って……何だ?」

 

 気を失ってしまう直前に聞いた霊夢の言葉、私の事を友だと、友人だと言ってくれた。あの言葉の真相。……それがどうしても気になっていた。

 あの時の言葉が聞き間違えだとは思わない、それでももう一度だけ、霊夢の口から聞きたかった。

 

「……? 何と言われても友人だとしか言いようがないが、それがどうした?」

 

 期待通りに、私の事を友人と呼んでくれた。呼んでっ、くれたっ!

 

「〜〜〜っ!?」

 

 この気持ちをどう表せばいいんだろうか? 歓喜のあまり声にならない悲鳴を上げてしまう。

 ぶっちゃけると小躍りしてしまいたい。手元に箒があったなら、そのまま気持ちのままに飛び上がって空の彼方まで全力疾走してしまいそうだ。

 

「ど、どうしたんだ魔理沙? まだ何処か痛むのか?」

 

 慌てて立ち上がり、自分のところに駆け寄ってきた霊夢。

 大切にされている。私は霊夢に大切にされているんだ。触れてくれる霊夢の温もりに、注がれる深い愛情に、しあわせな気持ちで胸がいっぱいになって、だらしなく頬が緩んでしまう。

 

「何でもない! 何でもないんだ!……そんな事よりもお腹が空いた! 何か作ってくれよ!」

「フフッ、そうか。……なら、カレーを作ってあげるとしよう」

「かれーって、前に作ってくれたあの茶色のやつだよなっ!? あれ私、好きなんだよなぁー」

「なら特別に今日はカツカレーにしようか。……カレーの上にトンカツを乗っけるものなんだが」

「何だそれ、超美味そう」

 

 きっと、その日が魔理沙にとって、本当の幸せの始まりだった。

 これから先もずっと続いていく。巫女との長い長い物語の本当の意味での始まりだったのだ。

 

 故に魔理沙は思う。

 

――魔法に出会えて良かった。

 

 魔法に出会えたから。自分はこうして頑張ってこれた。

 

――家を飛び出してきて良かった。

 

 家を飛び出してきたから。こうして大切な友人を得ることが出来たのだ。

 

――霊夢に出会えて良かった。

 

 霊夢に出会えたから。こうして私は幸せな気持ちでいっぱいになれた。

 

「どうだ魔理沙、美味しいか?」

「ああ、美味しい! 毎日食いたいくらいだ!」

「フフフッ、そうか」

 

 カツカレーを口いっぱいに頬張る魔理沙。

 それを優しく見守り、美味しいという一言を告げる度に嬉しそうに目を細め、甲斐甲斐しく魔理沙の口元を拭っている霊夢。

 快活な妹と甲斐甲斐しく世話を焼く姉のようにも、子供の面倒を見ている親のようにも見えるその光景。二人の間に確かな信頼があるからこそ見られる団欒な光景がそこにあった。

 

「僕、蚊帳の外じゃないかな? まぁ静かでいいけども……それにしても美味いな、これ」

 

 そして、そんな団欒の光景を他所に、男一人でカツカレーを頬張る霖之助がいた。

 

 

ーーー

 

 

 霧雨魔理沙は普通の魔法使いだ。

 そんな彼女には大好きで大切な自慢の友人がいる。

 

 その友人は誰よりも尊大な態度と、偉そうな口調で話す。

 だから色々と誤解されるけど、誰よりも心優しい。人が困っていたら、手助けせずにはいられない。相手が人間でも妖怪でも、分け隔てなく優しく接する事が出来る人間だ。

 だから霧雨魔理沙にとって、誰よりも綺麗で、誰よりも心優しい彼女は自慢の友人なのである。

 

 魔理沙はそんな霊夢が大好きだ。

 彼女と話していると、胸がポカポカと温かくなる。自然と笑顔になれるし、どんな話をしていても楽しく思える。触れられると嬉しいような恥ずかしいような気持ちになるし、触れると安心する。

 魔理沙自身分かっていない。彼女に対するこの感情がどういったものなのか分かっていない。ただ、彼女が自分の前で他の誰かの話をすると、誰かの事を楽しそうに語る姿を見ると、少し面白くない気持ちになり、胸にズキッとした痛みが走る。

 

 魔理沙には分からない。この気持ちが何であるのか。

 分からないなりに、自分の幸せには霊夢が必要なんじゃないかということだけは分かる。だから今日も彼女を探す。何処にいても探すのだ。

 

 魔法使いは星を追う。今度の星はお友達、優しく強いお星様。

 




k(ry

五話まで読み返して思ったのだ。
魔理沙の心情描写少なくないかなって、補足と言うかそんな感じで
入れたくなって入れてみたんよ。

書いている時、いつも書いている霊夢視点で書けなかったんで、
少しだけ苦労したのである。

真面目な描写は難しいね。シリアスじゃなくてシリアルが食べたい。

もしかしたら、変な文章とか誤字脱字あるかもだけど、よろしくね。

では、次話で会いましょう!

2019 5月7日
手直し完了!


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巫女、先生

ま た せ た な!



 学ぶという行為は素晴らしい。

 誰かに教えを授かる、自分で本を読む。……学び方は様々であるが、共通して何よりも本人の意欲というものが重要である。

 何故ならば、学ぶという行為は、個人個人の意欲……やる気によって成り立っているからだ。

 例えば、学校で成績を上げたい、という場合は国語、算数、理科、社会などの勉強をしたり。

 賢くなりたい、IQを高めたい、そんな考えで雑学の知識を学ぼうとしている者もいるだろう。

 すなわち、頑張るための目標が明確に定まっている者ほど、勉学に、学びに対して積極的な行動を取ることが出来るのだ。

 

 自分の夢に向かって努力を積んでいるやつほど、学びを大事に大事にしている。

 かく言う私だって、この幻想郷の美少女たちを愛でるために、日々、自分を高めるために学んでいる。

 美少女を効率良く愛でるために、人体のあらゆる部分のツボの在り処や効能などを。

 美少女のチラリズムをより美しく魅せるために、服飾系の知識などを。

 美少女が笑顔に慣れるように、美味しい料理の作り方を、甘いお菓子の作り方などを。

 試行錯誤を繰り返しながら、学び続けている。……全ては愛すべき彼女たちのために。

 何故ならば、私のこの人生は、幻想郷の美少女を愛で続けるためだけに存在しているのだから……勿論、いずれはR18指定になりかねない勢いでの関係を持ちたいとは常日頃から考えているけども。

 

 なんだかんだ、偉そうに語ったが、結論として。

 私は学ぶという行為は、長い人生を生きる上で、最も重要な要素なのではないか? と考えている。

 学びがあるから、人は言語を身につけることが出来るし、学びがあるから常識やマナーなどの人間関係を構築する上で重要なものを身につけることが出来た。

 もしも、学ぶ事が出来なかったとしたら、我々は未だに原始時代よりも酷い、本能で生きる理性なきただの獣同然の存在でしか無かっただろう。

 私も美少女を愛するための心を、美少女を愛でるための思考をする事なんて出来なかったかもしれない。……そんな絶望的な状況に陥ったら間違いなく死んでいるね。

 学ぶことは大事である。学びのない人生なんて何の面白味もない、価値のない、クソ以下の肥溜めだ。

 どんな些細なことでも良い。ちょっと気になった事を調べるだけでも良い。ただただ、本を流し読みするだけでも良い。……何かを学ぶという行為さえできていれば、人生はそれだけで光り輝く何かを生み出していくのだから。

 だからね、皆さんそんなわけでして……

 

「諸君、授業を始めるぞ!」

「「はーい!」」

 

 寺子屋、夜間学習組ぃぃぃ! 霊夢先生のぉ! ドッキドキ(はぁと)おべんきょう教室始まるぞぉ〜!

 先生の言うことは素直に、はいって聞きなさい! 先生のお仕置きは素直に受けなさい! 先生の要求には全部しっかり丸っと、その身体で応えなさい! ここを卒業する時は、必ず先生と二人っきりで卒業式(意味深)するって誓いなさい! 以上!

 

 せっつめいしよう(妙に高い声)!

 寺子屋、夜間学習組、霊夢先生のドッキドキおべんきょう教室とは。

 読んで字の如く、この寺子屋の非常勤講師である私が、妖怪の小さなおにゃのこたちにあーんな事やこーんな事に関する色々な事をねっちょりと教え込んでいく、とっても有り難ーい授業なのである。

 本日は記念すべき最初の第一回目の授業が行われようとしている。……けーね先生に頼まれちゃったのよね。妖怪の少女たちの教育を見てもらえないか? って。

 私としては妖怪の少女と戯れられる機会が増えて嬉しいし、けーね先生は妖怪の少女たちが教育を受けられて嬉しい。まさに一石二鳥と言ってしまっても過言ではないよね!

 

 ではでは、先ずは今日集まってくれた可愛らしい我が生徒を紹介しよう!

 

 最初の生徒はこの娘だぁぁぁ!

 紅魔館の現当主。永遠に幼い紅い月の異名を持つ、絶対なるかりちゅまの持ち主! レミリアァァァスカァァァレットォォォ!

 

「ふふーん、どんな問題でも返り討ちよ!」

 

 ほうほう、言ったな?

 そんな傲岸不遜なレミリアちゃんには特別にかーなーりー難しい問題出してあげよう。

 間違える度に、背中にあるその可愛らしくパタパタしている蝙蝠ウィングの付け根部分を弄りまくってあげようかね。……レミリアちゃんの一番弱い部分だから、ね。感度も極限まで引き上げて念入りに、ね。私なしでは生きられない身体に大改造劇的ビフォーアフターしてしんぜようか、ムフフフフフ。

 さっちゃん宛に、信じて送り出したお嬢様が鬼畜巫女教師の魔の手によってアヘ顔ダブルピース〜。みたいな、ちょっとアレな写真でも撮って、送りつけてやろうかねぇ? ゲヘヘへへへ。

 

 次の生徒はこの娘だぁ!

 先程紹介したレミリアの妹で、悪魔の妹という異名を持つ、狂気のぷりちーがーる! フランドォォォルゥゥゥスカァァァレットォォォ!

 

「フラン、頑張るよ!」

 

 グッとガッツポーズでふんすふんす……あらやだ、可愛いわこの娘。すっごいめちゃくちゃにしたい。

 こーんな可愛い娘には、先生ちょっとだけ、えこひいきしちゃいそうだわ。……主に下の意味で。

 だから、後で先生と一緒に職員室に行こう、ね? お菓子いっぱいあるから、ね? 先生とちょっとだけ、保健体育の予習するだけだから、ね?

 ちょーっとだけじっとしてくれてたら、後は先生が全部しっぽりとやってあげるから……はぁはぁ。天井の木目でも数えていたら、すぐに、すぐに終わるから……はぁはぁ。

 

 次の生徒がこの娘だぁ!

 幻想郷最強の妖獣八雲藍の式神で、凶兆の黒猫という異名を持つ、ぬこみみが可愛らしい八雲家が誇るマスコット! ちぇぇぇぇぇん!

 

「ら、藍しゃまの恥にならないように頑張ります!」

 

 舌足らずなところがあざとい! 百点満点あげちゃう!

 三者面談の時には、藍ちゃんと橙ちゃんと私の三人で、じっくりとこれからの将来設計について肉体言語で語り合おうね!……親娘丼(ぼそり。

 そして、ゆかりんも連れてきて欲しいな! ゆかりんの我儘ムチムチボディと、藍ちゃんの柔らかふわふわボディ、橙ちゃんの抱き締めたくなるミニマムボディを味わい尽すのは、先生としての! せ ん せ い と し て の! 責務だからね! 大事なことなので二回言ったよ!……八雲丼(ぼそり。

 

 ラストォォォ! 最後の生徒がこの娘だぁ!

 幻想郷の源氏蛍。闇に蠢く光の蟲の異名を持つ、ボーイッシュ可愛らしいおんにゃのこ! リグゥゥゥルゥゥゥ! ナァァァイトォォォバァァァグッ!

 

「な、何で私が参加することに?」

 

 理由? 美少女だからですけど何か?

 そんなことよりも、困惑しているボーイッシュガールの表情はベリーグッドネ! これだけで丼駆け付け三杯は余裕のよっちゃんだよ!

 

 リグル・ナイトバグ。幻想郷でも結構珍しい、人型の姿をとっている蟲の妖怪である。

 とても幼い体躯をしており、首元に掛かりそうな緑色のショートヘアーに、同じく緑色の瞳をしている。

 服装は、長袖の白いブラウスに、紺色のキャロットパンツを着用。その上から、甲虫の外羽を模していると思われる、燕尾状に別れた黒いマント羽織っている。

 そして、その頭にはリグルちゃんのチャームポイントである、可愛らしい二本の触覚が生えている。

 私の勘が正しければ、リグルちゃんの一番感じるであろう部分はあそこだ。……いつか絶対にペロペロ舐め舐めしたり、ジュッポリと咥えてやりたい、と考えているのは此処だけの話だ。

 中性的で可愛らしい容姿とボーイッシュな服装のせいか、ショタだとか、男の娘だとか勘違いされているけど、ちゃんとしたおんにゃのこだから間違えないであげて欲しい。

 後、彼女の可愛らしい触覚を見てから、黒い悪魔を想像したやつは処すので、今夜あたりにでも、博麗神社の裏に来なさい。……削 ぎ 落 と す(ナニを)。

 

 いやーそれにしてもボーイッシュな女の子って可愛らしいよね。

 他のおんにゃのこに比べて、自分が魅力的な雌である、という事を理解していない節があるから、すんごい無防備なのなんのって。

 前にあんまりにもくぁあいぃ過ぎてぎゅぅぅぅって抱き締めた(覇王補正有り)時も、頭に大量の疑問符を浮かべるだけで、全然なーんにも抵抗しなかったしね。……無知かよ、仕込み甲斐があるな、お前。

 

 本当は他にも生徒がいるらしいけど、今回はこの四人だけにお勉強を教える事になっている。

 私も本職じゃないから、あんまり大人数は面倒見きれないからね、仕方ないね。問題児というか、何と言えば良いのか、それぞれ個性に溢れていて、人数が多くなり過ぎると収拾もつかなくなるから、この程度の人数で抑えているのである。

 問題児筆頭のチルノちゃんのおバカな行動とか、ルーミアちゃんの能天気さとかは、事前に対策していても予想の斜め上を軽々と飛び越えてくるから、要注意らしいのよね。……けーね先生でさえそんな有様だから、私じゃあとてもじゃないが対処できないだろう。

 まぁ、今回のメンバーはまだまだ、やりやすいのではあるけども。……レミリアちゃんとフランちゃんの両名をどう抑えるか、が鍵だね。

 

 ではでは、将来の夢は先生のお嫁さんって、躊躇い無く言えるようになるまで、じーっくりと教育していきましょうかねぇ。

 今回は初めてということで、幻想郷の基本的なルールのおさらいとか、幻想郷の歴史とかについての授業をヤッた後に、それぞれの生徒たちのお悩み解決コーナーというか、そんな感じで進めていこうと思っている。

 

「この幻想郷には特別なルールがある。……誰か知っている者はいるか?」

「はい!」

「橙か。……では、そのルールとは?」

「スペルカードルールです!」

「正解だ。流石は八雲の式の式、といったところか」

「えへへ〜」

 

 頬を真っ赤にして、頭の後ろの方に手をやっている。

 分かりやすく照れている姿に、この博麗、劣情を隠せないでござる。……こんな日常的な動作でさえ煩悩全開の私、危険人物じゃね? 覇王モードぱいせんがいなかったら、絶対千回くらいはヤらかしているに違いない。

 

「スペルカードルール……皆馴染みがある呼び方をするなら、弾幕ごっこか? 弾幕ごっことは、そこの橙の主である八雲藍の主である八雲紫が考案、施行した。この幻想郷で生きる上で欠かせない決まりだ」

 

 続けて、弾幕ごっこについての説明をしていく。

 弾幕ごっことは、読んで字の如く、魔力やら霊力やら、妖力やらを込めて作られた弾を、最初に相手にぶち当てたら勝ち、というシンプルな遊びだ。

 本人の思想や力に応じて、様々な美しい軌道を描く弾幕は、見せ物としても優れており、幻想郷ではある意味では一種の伝統芸の様な代物と化している。

 元々は、力の弱い人間でも妖怪に対抗できるようにするために施行されたもので、その本質は力ないものが、力あるものから一方的に搾取されないように、抵抗できるようにする、という点にある。

 人間は基本的には弱い種族だ、妖怪の様に力に優れているわけでもなく、面妖な技を使えるわけでもない。簡単に流行病で命を落とす事もある、とても脆い生き物だ。

 そんな人間はいざ、戦いになった場合は、妖怪に対してあまりにも不利だ。そんな一方的な関係性をゆかりんは否定したかった。その結果生まれたのが、この弾幕ごっこというわけだ。

 予めルールを設けて、そのルール上の条件を達成してしまえば、力のない存在でも力ある存在と対等に勝負できる。

 勿論、それだけでなく。力ある存在同士が、必要以上に強大な力を振るわずに勝負事が出来る様になった。

 

 これにより、妖怪は力を維持するのに不可欠とされる「妖怪が人間を襲い、人間は妖怪を退治する」という関係が、疑似的な決闘という形で保たれるようになったのである。

 いわば妖怪側はスポーツ感覚で、ちょっとした悪さが出来るようになったし、それに対して人側も対処しやすくなった、という事だ。

 

 当然ながら、このルールに反発し好き勝手に力を振り回すクソ野郎もいるにはいる。

 そんな輩には、私が直接出向いて、お話(物理)をして、言うことを聞かせたり、場合によってはこの幻想郷からいなくなってもらう。

 顔見知りの娘が暴れていたら、無力化してお仕置きタイムが始まる。それもいつもの軽いお仕置きではなく、一週間は足腰立たなくなるレベルの超絶ドギツイやつをぶちかます。……私は愉しいし、お仕置きの結果、その娘は二度と同じ様に暴れなくなるのでウィンウィンである。

 

「だから、ルールは破らないようにしろよ?……何故、顔を赤らめているんだ? お前たち」

 

 説明を終えると、何故か生徒たちが顔を真っ赤に染めていた。

 私が視線を向けると狼狽えるように、視線を逸らしている。……ふむふむ、ナニを想像しているのかな? お仕置きの下りでナニを想像していたのかな? 言ってみなよ、ね?

 

「い、いつも、わ、私達にやってる事が手加減!? アレよりも凄いの!?」

「お、お姉様ぁ、ふ、フラン、なんだか変な気分になってきたよぉ」

「お、落ち着くのよふふふフランッ、ここここんな時はそそそ素数を数えるの……素数って何よ!?」

 

 何やら面白おかしい事になっているスカーレット姉妹。

 何やらモジモジとして、時折ビクリっと水晶の羽を揺らすフランちゃんに、その横でうがーッとカリスマブレイクを極めているレミリアちゃん。……お仕置き常習犯の二人の明日はどっちだ!

 

「それって、紫しゃまと霊夢が前にやってたみたいなやつですよね!」

 

 何やら思い出して、キャーッと興奮している橙。

 ゆかりんとのキャッキャッウフフを覗き見られていたらしいですね。……いや、何も規制に引っかかるような行為はしてねぇよ。

 ただ単純にゆかりんに膝枕して耳かきしたり、後ろから抱き締めて、あすなろ抱きしてみたりしただけだから、全然やましいことしてないし……嘘です、ちょっとパイタッチとか、お尻モミモミとかしてました。ごめんなさい。

 

「お、お仕置きって」

 

 単純にお仕置きの内容を想像して、顔を赤らめているリグル。

 そう言えば、君は私のお仕置きを見たことがあったね。永夜異変の時に、何か色々と調子に乗っていた不死身のお姫様と、その従者である医者に色々としていたのガッツリ目撃してたもんね。……リグルちゃんにはちょっとだけ刺激が強かったね、ごめんね。

 

「お前たちが良い子にしていたら、何も問題ないさ……良い子にしていたら、な」

「「ッ!?」」

 

 此処で笑顔で威圧するのが教育ポイント。

 こうすることで、生徒達の意識の奥深くに恐怖とか色々埋め込んで、行動を縛ることが出来る……筈や、知らんけど。

 

 ビックゥゥゥって感じで固まる、我が可愛い可愛い生徒たちの姿に、私の内なるマーラ様ももっこり、もといほっこりしている。

 ちょっと怯えている少女とかってマジで可愛いと言うか、もっとイジメたくなると言うか何というか……教師の風上にもおけない思考回路ですまないねー(棒)。

 文句は私みたいな変態を教師として雇った、けーね先生に言ってね(盛大な責任転嫁)!

 

「では、次に幻想郷の歴史について語ろう。……何時まで固まっているつもりだ? さっさと動かないと、お仕置きするぞ?」

 

 むしろお仕置きさせて欲しい。

 左手とか右手が疼いていてな、お前たちの身体でこの疼きをどうにかして抑えたいのだよ。

 

「「問題ないです!」」

「よろしい。では幻想郷の歴史だがーー」

 

 幻想郷の歴史って、面白いよね。

 この幻想郷という地が発足してからかれこれ、もう五百年余りの月日が流れている。

 元々は、数多くの妖怪が住んでいた土地に、陰陽師の様な妖怪を退治することを家業としていた人間が移り住んでいた辺鄙な土地だった。

 しかし、人間の文化の急激な発展により、人間側の勢力が一気に拡大。それに妖怪が押され気味になってしまったため、境界を操る妖怪、ゆかりんによって、「幻と実体の境界」なる結界を張ったのである。

 これにより、何の変哲もない、何処にでもある山奥でしかなかった幻想郷は、結界の作用によって、「幻となった存在を自動的に呼び寄せる土地」となったのである。……外国を含んだ、外の世界で勢力の弱まった妖怪は幻想郷へと流れ着くことになったのだ。

 

 そして更に時が流れたことで、人間は妖怪や神の存在を迷信や空想上の存在であると定義し始めた。

 それにより、ただでさえ、勢力の衰えていた妖怪たちが、外の世界の人間に否定されたせいで、滅亡の危機に陥り。更には幻想郷も滅びの寸前まで追い込まれたのだった。

 

 それに待ったを掛けたのが、またもやゆかりんである。

 彼女は幻と実体の境界に、更に手を加えて、常識の結界というものを作り上げたのである。

 それは幻想郷の内側を非常識として定義することで、外側の常識の力が強ければ強いほどに、結界の力が上がる論理的な結界だ。……すなわちこれこそが博麗大結界。外の常識を利用した、非常識の存在を守るための結界である。

 この結界のお陰で、今日まで幻想郷は保たれている。……いやいや、ゆかりん優秀すぎない?

 

「ーーとまぁ、このように幻想郷という土地は保たれているというわけだ」

「先生、質問いい?」

「何だ? リグル」

「この博麗大結界って、一体どんなものなの?」

「……良い機会だ、この博麗大結界がどういったものなのか、簡単に説明するとしようかーー」

 

 博麗大結界は、非常識である幻想郷を内側として、常識である外側から隔離している特殊な結界だ。

 その結界を維持するために必要なのは、結界を管理する役割を持っている博麗の巫女の霊力。そして,この幻想郷の人間勢力と妖怪勢力のバランスだ。

 人間と妖怪、どちらか一方が増えすぎていたり、逆に減りすぎていたりするだけでこの博麗大結界に影響が出る。

 つまり、妖怪は無闇矢鱈と人を襲ってはならないし、逆に人間は妖怪を退治し過ぎても駄目、という事になっているのである。

 代わりにスペルカードルールなど、双方が対等の関係で勝負できる決まり事を作ることで、両者の間に友好的な関係を築き、全体的な勢力の調整が容易になり、「妖怪が人を襲い、人が妖怪を退治する」という理想の関係性を維持することに成功したのだ。

 勿論、結界なぞ関係ない、自分たちの好きにやるという輩は一定層存在している。人間を無秩序に襲ったりする妖怪もいるし、逆に何の罪もない妖怪を殺して回る人間もいるのだ。

 そんな輩には、さっきも言ったように博麗の巫女である私が直々に武力制圧しにいくんだけどもね。ルール無視はモストダァイするんだよ! 慈悲なんて与えねぇぜ!

 

「ーーというわけだ」

「へぇ、そうだったんだ」

 

 此処はテストに出すから、しっかりとメモろうね。……テストで間違えてたら、罰則与えるよ?

 罰則の内容はお察しの通りってやつさ、成績を盾に先生と生徒のイケない関係が始まるってやつなのさ。

 

「じゃあ、幻想郷の歴史などについてはこの辺までにしておいて……皆、私に聞きたいこととかは無いか?」

「聞きたいこと、ですか?」

「何でも良いぞ? 自分の悩んでいることでも、詰まらないことでも構わない」

 

 あんまりにも詰まらなかったら、手が出る可能性あるけども……性的に。

 私が美少女に、ましてや自分の可愛い生徒に手を上げるわけがないだろうが! ちゃんとド淑女として優しくエスコートするに決まってんだろうが!……夜のダンスパーチーにな!

 

「じゃあ、質問いいかしら?」

「何だ、レミリア」

「その、私、最近カリスマが低くなっているというか、あんまり尊敬されていないような気がするのよ。……それで、貴女みたいにカリスマを出すにはどうしたら良いのかしら?」

 

 ションボリと言うか、情けないくらいに眉を下げて自信なさげに指をツンツンしているレミリアちゃん五百歳。……確かにカリスマは微塵も感じないね。むしろ、かりちゅまだね。可愛いから良いんじゃね(適当)?

 

「レミリア、カリスマというは一朝一夕で身に付くものではないぞ?……ただ、そうだな。口調を変えてみたりする、というのはどうだ? 偉そうと言うか、一人称を変えてみるとかだな」

「少し試してみるわね。……あーあーコホンッ、我が名はレミリアッ! レミリア・スカーレットッ! 由緒正しき真祖ヴラド・ツェペッシュの末裔にして、紅魔館の現当主ッ! そして、この世全ての運命を操る者ッ!……死ぬわ」

「ステイステイ」

 

 スピア・ザ・グングニルという技を発動して、ダイナミックに自決しようとするのを羽交い締めにして阻止する。

 いや、確かに恥ずかしいけども? 何か厨二病末期患者みたいな発言していたけども? 別に死ななくてもええやん。……永遠にこの黒歴史は君の心の中に残り続けることになるけども(クソ外道)。

 

「止めないで霊夢! 私みたいなノンカリは生きていたって意味なんてないのよ!」

「新しい造語を作るな! それとお前が死んだら私が悲しい!」

「嘘よ! 誰にでもそんな事言ってるんでしょう! 私なんて大勢のうちの一人でしか無いんでしょう!」

「レミリア!」

 

 何か、昼ドラ的な妙な展開になってて、先生めちゃくちゃ困惑しているんだけども。

 

「離して! 離しなさいよ!」

「駄目だ、お前が落ち着くまで離してやらん」

「ふぇ、離し、なさい。ぐすん、離して、よ」

「カリスマが無くてもお前は魅力的な吸血鬼だ。唯一無二のレミリア・スカーレットという存在なんだよ」

「れい、む」

「私はカリスマが無いお前でも、大好きだよ」

「う、うわぁぁぁぁん」

 

 私の言葉で遂にレミリアの涙腺が決壊し、泣きじゃくる。

 大粒の涙を流すレミリアを優しく抱き上げ、落ち着かせる様に背中をポンポンと優しく叩いてあげる。……それが功を成したのか、レミリアは落ち着ついて、すやすやと可愛らしい寝息を立て始めたので、そっと机に戻してあげる。

 

 うん、一つ言っていい?……ナニコレ?

 私が普通にお悩み相談しようとしたら、何故か昼ドラ展開みたいなめんどくさい恋愛物語的な謎の光景が出来上がったんだけども。

 カリスマがないから助けて霊夢って話からどうしてこうなったんだ。全く以て意味が分からない。

 

 さぁ、気を取り直して次はフランちゃんのお悩みを聞いていこう。

 

「フランは何か悩みはあるか?」

「あの、さっきのお姉様の」

「忘れような」

「でも、お姉様の」

「忘れような」

「で、でも!」

「わ す れ ろ」

「は、はひっ!」

 

 何で震えているかなフランちゃん。先生はこんなにも 笑 顔 だと言うのにね。

 

「あの、霊夢に聞きたいんだけどね。……その、お友達ってどうやったら出来るの?」

「レミリアもだったが、先生を付けろ。……友達、か。あんまり参考にはならないかもしれないが、先生のやり方は兎に角、しつこくでもいいから関わろうとする事だな」

「しつこく関わる?」

「私の友人に、魔理沙という魔法使いがいるのは分かるな?」

「うん、前に紅魔館に霊夢と一緒に来ていた人だよね?」

「その魔理沙と私なんだが、元々はそんなに仲良くなかったんだ、というよりも最初は露骨に避けられてもいたな」

「え、そうなの?」

 

 意外と言わんばかりに、驚きの表情を浮かべるフランちゃん。

 そうだよね。今みたいにワンコな魔理沙たんの姿を見ていたら、想像できないよね。

 

「そんな魔理沙と仲良くなれたのは、私が諦めないで関わり続けたからだ。鬱陶しがられても、嫌われていても、決してへこたれないで、な」

「関わり、続ける」

「そうだ。フランにもいるんじゃないか? どうしても友達になりたいって思える、そんな存在が」

「……うん」

「じゃあ、諦めないことだ。諦めなれば友達は絶対に作れる。経験者の私が言うことなんだ、間違いない」

 

 何やら考え込んでしまっているフランちゃんの頭を、優しく髪を梳くように撫でる。……いや、何もエロいこと考えていないけども? いくら変態ドスケベ巫女の私であったとしてもシリアスとシリアルの境界くらいは分かるってーの。

 

「霊夢!」

「先生だ。……何だ、フラン」

「覚悟しててね! フランもしつこいんだからね!」

「……ふっ、楽しみにしているぞ」

 

 私に宣戦布告をするとは良い度胸だな。気に入ったぞ、お前も私のフレンドにしてやろう。

 まぁフランちゃんの頑張りを無駄にしないためにも、フランちゃんが行動するまでは私も明確に友人扱いはしないけどもね。

 可愛い吸血鬼が、私にしつこく付きまとうのを楽しみたいとか、少しからかって遊びたいとか、そんな事一切考えていない。考えていないったら、考えていない。言いがかりは止めて欲しい。……フランちゃんペロペロ。

 

「次は橙か……橙には悩みごとあるか?」

「ないですね」

「そうだな、現状で満足していそうだからな」

「あ、でも一つだけ気になることがあります!」

「ほう?」

「藍しゃまや紫しゃま、霊夢みたいにカッコイイ女性になるにはどうしたらいいんですか?」

「先生を付けろ。……カッコイイかどうかは分からんが、先ずは実力を身につけることを考えたほうが良いだろうな」

「実力、ですか?」

 

 どんな世の中でも実力ないやつは、見た目が良くても淘汰されていくものだしね。

 顔は一種のステータスというけども、それだけで優遇されるほど世界は甘く出来てなどいない。何よりも実力、それこそが重要視される。

 戦国時代とかでも分かるだろうけど、顔良くても武力無かったら、ぶっ殺されて犯されて終わりだろう?

 

「そうだ。例え見た目がカッコ良くなれたとしても、中身がそれに伴わないんだったら何の意味もない。強さというものは何時の時代もカッコイイというものの定義の一つだ。紫や藍を見てみろ、妖怪としての実力は最強クラスで、地力もその技量も高いだろう?」

「わ、私ももっと精進しないと!」

「橙なら大丈夫だ。私が保証する。お前は式としての才能に溢れているからな……勿論、ちゃんと修行しないと才能の持ち腐れだぞ?」

「はい、ありがとうございました! 霊夢せんせー!」

「よくできたな。橙は偉い娘だ」

 

 頭ナデナデですね。分かります。素直な娘って本当に可愛いよね。真面目な娘ほど教師が優遇したくなる気持ちも分かる気がするわ。

 

「では、最後になったが……リグル、お前は何か悩みはあるか?」

「……んな、らしく」

「ん、聞こえないぞ?」

「お、女らしくなるには、どうすればいいんですか?」

「質問の意味が分からん。……何処からどう見てもお前は女だろう?」

「そういうことじゃなくて、いや、そういうことなんだけど。……私ってこんな格好してるから女の子っぽくないというか、偶に男の子に間違えられたりするんだ」

「間違えたやつを連れてこい。……教育してやる」

 

 こんなに可愛くて魅力的な女の子を捕まえて、言うに事欠いて男扱いするだなんて、先生許せないんですけどー。……ったく、見る目がねぇし、節穴かよー。

 ちゃんと小さいけど、ふっくらとブラウスを押し上げている、揉みしだきたくなる柔らかそうな膨らみとか、キュロットパンツから伸びる細くて白い、むしゃぶりつきたくなる綺麗な足とか見たら、おんにゃのこにしか見えないだろうに。

 

「シンプルに思いつくのは、髪を伸ばしてみる、とかだな」

「髪を伸ばすかぁ。……私はもうこの姿で固定されちゃってるからなぁ」

「伸ばしてやろうか?」

「出来るの?」

「やろうと思えばな。……流石に全く違う姿にする、なんて事は無理だが、元の姿を成長させたり、髪を伸ばしたりする程度なら造作もない」

 

 自分の霊力を使って、相手の妖力とかの流れを操作することで、ある程度、肉体を変化させたりとか出来るのよね。

 簡単に言えば、某海賊漫画の、世界政府の諜報機関が習得している数々の特殊な体術の一つ生命帰還。それと似たような事が出来るのである。

 勿論、自分自身の肉体を操作することも出来る。……実を言うと、その気になれば胸の大きさも何もかも自由にカスタマイズ出来たりする。

 美少女は自分も含めてありのままの自然体が良い、と考えているからそんなに多用することは無いんだけどね。使う時は髪型を変えたりとか、そんな時にしか使わない。……チラリズムは良いのかって? チラリズムはチラリズムだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「本当、呆れるくらいに何でも出来るんだね。霊夢先生は」

「博麗の巫女だからな、これくらい出来ないと幻想郷の守護者は名乗れん。……それで、どうだ?」

「ちょっと気になるから、伸ばしてもらってもいいかな? 髪型は任せるよ」

「心得た。……すぐに済むから十秒ほど目を閉じていろ」

「早くない!?」

 

 それが博麗クオリティ。

 リグルちゃんが目を閉じたのを確認して、即座に両手に霊力を纏わせて、リグルちゃんの髪に触れる。そして、始めるのが、私の霊力と、リグルちゃんの霊力の同調だ。

 同調させることで、私はリグルちゃんの妖力の動きを自由に動かせるようになる。そして、自由に動かせるようになったリグルちゃんの妖力を、こねくり回し、想像する形へと変化させていく。……感覚でいいったら粘土細工に近い、指先で作品の形を広げ、削って整えていく。

 そして、最後に整えた妖力を、実体のある身体と繋げて物質化することで、完全に肉体を変質させることが出来る。

 

「どうだ?」

「これが……私?」

 

 何と言う事でしょう。

 先程まで、ボーイッシュ可愛いかったリグルちゃんの姿が。匠の手により、精霊の様な美しさを秘めた虫のお姫様になってしまいました。

 髪を腰より下ほどまで伸ばしたロングヘアーにし、片目を髪で隠れるようにセッティング。……そうすることで何処か不思議な雰囲気を醸し出させることに成功した。

 そして、彼女をよりお姫様らしく魅せるのが、頭に載っけられた赤色のリボン。緑色の髪とのコントラストが、より一層、彼女の魅力を引き上げている。

 

 後、目を閉じている間に、服装もお姫様を意識した物に変えておいた。……色々と見させて貰いました。本当に、ごちそうさまでした。

 お姫様、と言ってもそう見えるゴスロリ服なんだけどね。

 元々の彼女の服装を発展させて、女の子らしい要素を色々と付け加えた代物である。

 フリルとかリボンを多めに付けたドレス風のワンピース、姫袖になっている黒色のボレロを羽織らせて、可愛らしくデフォルメしたホタルが描かれた緑色のタイツを付けている。

 

「こんなに、変わるんだ」

「気に入ったか?」

「う、ん……まるで、自分が自分じゃないみたい」

 

 まだ現実に思考が追いついていないようで、ボーッとしている。……そんな間抜けな姿晒してても綺麗に見える。

 自分でデザインしておいて言うのもなんだけど、本当良い仕事したと思うわ。こりゃとんでもない逸材を発掘してしまったやもしれん。まぁそれでも……。

 

「私は今のリグルの姿も素敵だとは思うが……私個人としては前のリグルの方が好きだな」

「……え?」

「自然体でありのままの、活発的で元気に動き回るお前の姿の方が私は大好きだ」

 

 目をしっかりと合わせて言い放つ。……今の私は、きっと世界で一番のイケメンモンスターに違いない。

 モンスターって付けたのは、私がケダモノだからね。仕方ないね。……美女は野獣に食われる(性的)運命にあるんだよ。お伽噺になっているくらいだからこれが真理だ。

 リグル姫はこの野獣博麗と一緒にお伽噺になるんだよ(意味不明)!

 

「あ、えと。……あ、ありがとう?」

 

 困惑したように、首を傾げているリグルちゃん。

 おうふ、せっかくのイケメン発言も、リグルちゃんの前では効果ないのね。

 リグルちゃん自分の魅力が分かっていないから、容姿とか色々褒められてもあんまり照れたりとかしてくれないのよね。

 今日こそは照れ顔を拝めると思っていたけど……本当に残念である。

 それにしても滑った感が凄い。今の私、超絶カッコ悪すぎやしないか。

 

「戻すぞ」

「あ、うん」

 

 はいはい、十秒目を閉じてね。……気まずくなったんのを誤魔化してなんか無いやい、ちくしょう。

 

 リグルちゃんの見た目を戻した後は、普通に授業を終了して、皆を見送った。

 特に何も語るべきことはないし、変わったことなんて何もなかった。強いて言えば私が最後の最後でカッコ悪かった事くらいか……ははは(乾いた笑み)。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「さて、色々あったが今日の授業は終了だ。各自、気を付けて帰宅しろ」

「「はーい」」

 

 先生……博麗霊夢に見送られて、少女、リグル・ナイトバグは寺子屋を後にする。

 リグルにとって、この博麗霊夢という巫女は、何と言うか不思議な人間と言うか何と言うか。妖怪である自分に対しても、分け隔てなく優しく接してくれる稀有な存在だ。

 

 出会いはごく最近。

 幻想郷で起こった異変……永遠亭の医者である八意永琳が引き起こした永夜異変。

 その異変で、満月の光に当てられて暴走していたところを、霊夢の手によって止められたのである。

 

 霊夢は優しかった。

 スペルカードルールすらも破って暴れまわる自分を、傷つけないように優しく、それこそ割れ物を扱うように優しく倒して、暴走を止めてくれたのである。

 それも仲間である他の蟲妖怪達も、傷つけないように、潰してしまわないように止めてくれた。

 それが、ただそれだけのことが、自分たち蟲妖怪にとって、どれだけ嬉しかったか。

 

 蟲妖怪という存在は、その見た目のせいで、人間は疎か同じ妖怪からも嫌われている存在が多い。

 蝶やカブトムシみたいな、綺麗だったり、カッコ良かったりする見た目の蟲はまだ大丈夫だけど。他の……百足だったり、蜘蛛だったり、所謂害虫のような見た目の蟲妖怪は特に嫌悪の対象だった。

 ゴキブリの姿をしている蟲妖怪だった場合は目も当てられない、何もしていなくても、即座に殺しに掛かられる。

 虫はいつの世でも好かれる存在ではないのだ。

 リグルはそんな虫全体の扱いを常に歯痒く思っていた。私達だって生きているんだ。ちゃんと意思だってある。何かを大事にする心だってあるんだ。

 見た目の違いだけで、どうしてここまで嫌われないといけないんだ。

 

 男でも嫌う奴がいるのに、あの巫女……霊夢は、そんな見た目の蟲妖怪もまとめて、優しく倒してくれたのだ。後遺症も一切残らないで、優しく倒してくれたのだ。

 去り際に言ってくれた、あの時の言葉は今でも良く覚えている。

 

「一寸の虫にも五分の魂だ。……それに、その虫達はお前の大事な仲間なのだろう? で、あればまとめて助けるのが筋というものだ」

 

 虫だからといって、害虫だからといって差別せずに、平等に救ってくれた。

 その事には、リグル自身だけでなく。仲間の蟲妖怪たちも感謝している。実際、リグルの仲間である蟲達は、リグルに対するのと同じくらいに霊夢に懐いていたりするくらいだ。

 霊夢も霊夢で、巨大百足が近づいてきても嫌悪せずに、優しくその頭部を撫でてくれるから、よりそんな風に懐かれるんだろう。

 リグル自身、ゴキブリの様な見た目の蟲妖怪に張り付かれても普通に笑みを浮かべている巫女の姿には本当に感心したものだ。

 

 何処までも平等で優しい博麗の巫女。

 そんな奇跡の様な存在を、リグルを筆頭にした蟲妖怪たちは心の底から信頼している。

 自分たちのような存在を、嫌悪され続けてきた存在を優しく包み込んでくれる巫女を、慕っているのだ。

 それは当然、蟲妖怪のまとめ役である彼女も含まれている。

 

「えへへ、褒められた」

 

ーーヤッタナァアネゴ!

ーーハクレイホメタ! ハクレイホメタ!

ーーオニアイ! オニアイ!

 

 誰もいない森の中。

 数多の蟲妖怪が蠢いているその場所で、リグルは両頬に手を当てて照れていた。

 彼女の周囲では蟲妖怪が集まって、口々に拙い片言の言葉で騒ぎ立てている。

 実はリグル、褒められた時は嬉しすぎて一周回って冷静になるが、後で一人になって思い出すとこうして照れてあたふたとしているのである。

 特に今回は、色々とリグル本人が気にしているところを大好き、と言って貰えたのだ。彼女の喜びもひとしおだろう。

 

「もぉ! 皆もそんなに騒がなくても良いよ!」

 

ーーリグルハクレイオニアイ! オニアイ!

ーーケッコン! ケッコン! ケッコン!

ーーコヅクリハヨ! コヅクリハヨ!

 

「けっこん!? こづくり!?……って、コラッーー!」

 

 ちょっとアレな事まで騒ぎ始めた蟲達を追いかけ回すリグルの姿がそこにはあった。

 森は夜遅くまで賑やかだった。時折、何かを追い回すように明るい光が空を舞い、夜の闇に彩りを与えていた。

 

ーーケッコン! ケッコン! ケッコン!

ーーケッコン! ケッコン! ケッコン!

ーーケッコン! ケッコン! ケッコン!

 

「いい加減、黙ってよー!」

 

 蟲の姫は空駆ける、くるりふらふら空駆ける。蟲が姫をからかって、姫は蟲を追い掛ける。追い掛け姫は、頬染める。蟲が語る言葉を想い。巫女との未来を想い描く。

 

 蛍は今日も光輝く。その純情を内に秘め、光って光って光るのだ。

 




かくたの(挨拶)!

最近、いそがすぅいくて、更新遅れてしまったけど、無事に更新できたことにホッとしている、春巻きだぜ。

色々と語りたいことあった筈だけど、ド忘れしたぜ、すまねぇな!
暑すぎて頭が可笑しい事になっているし、バキ面白いし、ドリアンのところで泣いた。

\キャンディ/

違うでドリアン、それキャンディやない。とうきょーたわーや。

取り敢えず次回更新は、ちゃんと土曜日の予定だ。
今度は期日をちゃんと守るんで応援よろしくなんだぜ!


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巫女、花

いつも見てくれてる皆さん、ありがとう。
最近寝不足気味で、エナドリが友達の春巻きだぜ。
ギリギリの更新で済まない。本当に済まない。

一言だけ言わせて欲しい。
何か色々とテンションが可笑しい状態で書いたから、誤字とか
文章の言い回しがオカシイかもしれないけど。笑って許してくだちい。

今回は、あの人が出ます。


 お花はイイものだ。

 花と一言に言っても、その種類は膨大である。

 場所、季節、それぞれに応じて、様々な花が、この世には咲き乱れている。

 本当に色々な花があるのだ。定番なのものを挙げるならば、ひまわりだったり、桜だったり、薔薇だったりだろうか?

 

 花は、それぞれが独自の美しさを秘めている。一つ一つがオンリーワンの輝きを持っているのだ。……その輝かしい在り方は、何処か女性の様で美しい。

 色、香り、あるいはその花独自の花言葉など……花は、花それぞれに応じた魅力を持っているのだ。

 情熱的な赤色の花もあれば、控えめな美しい白い花もある。

 色気を感じさせる魔性の香りを持った花もあれば、目も覚める爽やかな香りを持つ花もある。

 暗く、恐ろしい花言葉もあれば、それとは逆に、明るく、心が安らぐ花言葉もある。

 それぞれの個性を、唯一の個性を秘めているのが、花という植物なのである。

 

 私はそんな花の中でも、百合の花が好きだ。

 それは、私がガチレズの変態だから、などという単純な理由ではない。

 確かに、百合百合している女の子同士のキャッキャウフフは大好きだ。見てるだけで興奮するし、自分もそこに混ざってイケない事をしたくなる。

 しかし、これに関しては、そんな不純な感情は一切なく、純粋に花として、百合が好きなのだ。

 百合の花は綺麗だ。白やピンク、黄色、オレンジなど様々な色が存在しており、その香りも芳しい。……何よりも、その花言葉には引かれるものがある。

 百合には花言葉として『威厳、純粋、無垢』というものがある。……そして、百合には色ごとに対応する花言葉が存在している。

 白であるなら『威厳』に加えて『純潔』。ピンクであるなら『虚栄心』。黄色であるなら『陽気』に『偽り』。オレンジであるなら『華麗』で『愉快』。

 

 言ってはなんだが、まるで私自身を指している花ではないか? そう思えてしまうのだ。

 

 威厳ーーというのは、私が普段から御用達である覇王モードの事を指す。

 純粋ーーある意味で、私以上に自分の欲望に純粋で、正直な者はいないだろう?

 無垢ーーおう、無垢やろ? 混じりけのない、ピンク一色やで? 文句ないやろ? な?

 純潔ーー処女やで? 下どころか上の経験もないんやで? それよりも童貞捨てたい。……モノがないけど。

 虚栄心ーーいっそ喜劇と思えるくらいに、滅茶苦茶取り繕ってますが、何か?

 陽気ーー私のポジティブに勝てるとでも?

 偽りーー覇 王 モ ー ド ぱ い せ ん。

 華麗ーー覇 王(略。

 愉快ーー私の頭の中。……うっさい、ちゃんと自覚あるわ、ばーかばーか!

 

 ね? 当て嵌まるでしょう?

 だから私は花の中では一番、百合の花が好きなのだ。……他の花もそれなりに好きだけどね。

 

 いきなり長々と花について語ったが、何故花なのか? もっと他に考えることはなかったのか? そう思われても仕方ないが、これに関してはちゃんとした理由があったりする。

 私だって、いつもこんな気取った感じて花について真面目に考えていたりしない。……こんなキャラじゃねえし。

 それに、そんな事考えている暇があるなら、美少女を頭の中で裸にひん剥いてエロい事考えていた方が、遥かに建設的だからだ。……美少女、じゅるり。

 まぁ、そんなどうでもいい話は、そこら辺に放り投げておいて、何故、私がお花の事を考えているのか、それは……。

 

「えぇそうよ、筋が良いわね れ い む。……うふっうふふふふふっ」

「そ、そうか」

 

 誰か、誰か助けてください、お願いしますっ!

 私は現在、圧倒的に危険な状況に立たされていた。その原因は語るまでもなく、私の横でにこやかに、淑女然とした笑みを浮かべている美しいお姉さん。

 

ーー風見幽香。

 

 恐らくこの幻想郷で、その名を知らない者は一人としていない。

 人、妖怪問わず、誰もがその名を聞いたら震え上がるに違いない。

 曰くーー幻想郷最強の妖怪。

 曰くーー妖怪の超越者。

 その高すぎる実力から、この幻想郷内で、最も恐れられている超が幾つも付く凶悪な妖怪である。

 

 癖のある緑色の髪。血のように真っ赤で怜悧な瞳。薄く微笑むその姿は余りにも美しいが、底が知れない何かを感じさせ、恐ろしくもある。

 白いカッターシャツにチェック柄の赤いロングスカートを着こなし、その上からは同じくチェックの入ったベストを羽織っている。

 首元には黄色のネクタイを付け、常に日傘を持ち歩いている。その傘が壊れたところは誰も見たことがなく、幽香本人も『幻想郷で唯一枯れない花』と言っている。

 自然そのものが人の形を取ったらきっと彼女の様な姿になるに違いない。そう思わせる程に彼女の姿は自然体で美しい。

 その母なる自然を彷彿とさせる抜群なプロポーションには、殺されると分かっていても手を出す輩は多いらしい。……勿論、触れる前に醜い肉塊にされるそうだが。

 私も彼女の身体の事はよく知っている。何せ博麗神社に訪れた時に、いつもマッサージを頼まれて触りまくっているからね。……うん、隅々まで知ってるよー、一応、性感帯とかも全部把握しているよー。

 

 今、幽香は私にガーデニングのやり方を教えてくれているんだ。

 こんなに綺麗なお姉さんに手取り足取り、色々と教えて貰えるなんて私ってば勝ち組じゃねぇ? アハハハハハー……はぁ。

 

 いつもよりも食いつきが悪いだろ? 流石の私でも火傷すると分かっていて手を出すほど愚かじゃあないよ。……端的に言って、私はこの風見幽香という美しいお姉さんが苦手だ。

 嫌いではない、むしろその逆で、幽香の事は好きだ、大好きである。出来ることならそのままの勢いでベッドインからのくんずほぐれつのキャッキャウフフの展開に持ち込んでしまいたいくらいに好きだ。……好き、好きなんだけど、それ以上に苦手なのである。

 

「幽香っ!? 何処を触っている!」

「別に良いじゃない。……私と貴女の仲でしょう?」

 

 何か、このお姉さん、いきなり真後ろから胸を鷲掴みにしてきたんですけどっ!? ガーデニングはどうした! ガーデニングは!……しかし、意外と揉み方優しいな、オイ。

 まるで私の胸の感触を楽しむようにゆっくり、じっくりと指を動かし。時折、先端部分を摘み上げたり、挟み込んだり、と色々とテクニシャンな事をしている。……くっ、殺せ。

 

「ふっ、くぅ、やめろ馬鹿!」

「あら、つれないわね」

 

 これ以上のお触りは厳禁でっせ、姉御。

 腕を振り払い、二、三歩ほど距離を取る。……私が、幽香を苦手としている最たる理由がコレだ。

 幽香は私に対して、セクハラまがいの執拗なボディタッチが多い。それもかなりのギリギリを攻めてくるところが、非常にイヤらしい。……はいはい、普段の私、普段の私。

 

 この幽香のセクハラが、私の身体を良いように弄ばれるのが苦手なのである。

 私は普段攻める側だ。触る側で、揉む側で、愛でる側だ。

 そんな立場に居続けたせいなのか、私はこうして触られたり、揉まれたり、愛でられたりすることに耐性がない。皆無と言っても良い。……自分で言うことではないが、攻めるのは強いが、攻められると非常に弱いのである。

 つまりアレだ。攻撃力は高いが、防御力はまるで紙の様にペラペラの紙装甲なのだ。

 あんまりにも、紙過ぎて、素人(美少女)の技でも即落ちニコマ出来る自信がある。……これ、美少女限定の話な。野郎に触られたら、首を捩じ切って殺してやる。絶対に、絶対にだ。

 

 いつもは攻撃は最大の防御と言わんばかりに、攻め続けているから、受けのことは考えなくても良いんだけども……この幽香に関して言えば、別だ。

 私が幾ら攻めても攻めても、常に余裕を崩さず、逆に反撃と言わんばかりに私を攻め返す。その返しが恐ろしく、強力なのだ。

 さっきの胸鷲掴みも、一時的に視覚以外の感覚を遮断して、頭が妙にエロいことを考えてしまわないように、自己暗示を掛けて、漸く回避できたのだ。……それでも、多少感じてしまう辺り、自分の煩悩に呆れればのいいやら、幽香の技量に感心すればいいのやら。

 

「はぁ……ガーデニングを教えてくれるんじゃなかったのか?」

「もう教えたでしょう? 後は私と貴女の時間よ。……もう、我慢できないのよ、霊夢。早く、早くっ!」

 

 種の蒔き方と、水の掛け方しか教わってないんですが、それは。そして、それも開始五分位で終わったんですが、それは。

 おいおい、何だよ。その興奮した表情は。真っ昼間からおっ始める気満々じゃねぇかよ。オ○ニー覚えたての年がら年中発情している男子中学生でもここまで酷くねぇよ。……はいはい、特大ブーメラン特大ブーメラン。

 

「結局、こうなるのか」

「さぁ、始めましょう霊夢! 私と貴女、貴女と私だけの殺し愛!」

 

 幽香は興奮で目をギラつかせて、私は対照的に気を沈めながら、お互いに距離を取る。

 

 ナニするのかって? そりゃあ当然、幽香曰くのーー殺し愛だ。

 幽香は戦闘狂だ。……それもかなりの戦闘狂だ。自分の命を脅かしてくれる強者が相手でないと満足できないタイプの厄介な戦闘狂で、こうして時々、私が相手をしてやらないと、その衝動は治まらない。

 これは放置できない問題だ。幽香の戦闘衝動を抑えておかないと、無差別に破壊と殺戮を撒き散らす凶悪な暴力装置と化すからだ。

 それは幻想郷にとって大変よろしくない。幽香ただ一人のせいで、幻想郷という土地が壊滅する恐れもある。また、幽香の殺戮に巻き込まれて、有望な美少女が死んでしまうのは嫌だし、友人である幽香が美少女を殺す姿なんか見たくもない。

 私としても幽香は、余裕たっぷりのエロいお姉さんで居て貰わないと困るからね。……まだ、攻め勝ったこと無いし。

 

「アハッ、アハハハハハーッ!」

「はぁ……相変わらず、滅茶苦茶だな」

「貴女だけが私と戦えるっ! 貴女だけが私をっ、私を楽しませてくれるっ! だからもっとっ! もっと私にっ、貴女を感じさせてよっ! 霊夢ぅぅぅぅぅ!」

 

 豪腕一閃。ただのテレフォンパンチが、大地を砕き、強風を引き起こす。……これをまともに食らったら、如何に最強である私でも痛みを感じるだろうな。

 技なんて欠片も感じさせない、ただの腕力だけでそんな災害を引き起こすのが幽香だ。流石は最強の妖怪と言えるだろう。

 

「いい加減に落ち着けっ! (ウーノ)ッ! (ドス)ッ! (トレス)ッ!ーー100(シエントス)ッ!」

「かはっ!?」

 

 大振りの拳を躱した後に、その懐に一瞬で入り込み、某死神漫画に登場するオレンジアフロの得意技である百連続の打撃を叩き込む。

 最後の一撃には霊力を込めて、打撃の瞬間に開放して、吹き飛ばす。それにより幽香の身体は吹き飛ばされて、地面に激突し、粉塵が巻き上がる。

 一瞬で距離を詰めたのは、某死神漫画の死神さん達が多用している高速移動方法、瞬歩である。霊力を足に集めて、反発させての高速移動は日常生活でも重宝させてもらっている。サラマンダーよりも、速い。

 

「うふふ、良いわよ。面白くなってきたわ」

「やはり、あの程度では傷一つ付けられないか。……流石の耐久力だな」

 

 煙から歩いてゆっくりと出てくる幽香、服は多少汚れているが、その身体には傷の一つも見当たらない。

 身体から無尽蔵に溢れ出ている膨大な妖力、そして、彼女自身の強靭な身体が、私の拳の威力を完全に押さえ込んだのだろう。

 

「本気を出していない貴女に言われてもねぇ」

「何を言っているんだ。お前も全く本気じゃないだろう?」

「だって、貴女がまだ結界を張っていないんですもの。私達の全力にこの地が耐えられるわけないじゃないの……ねぇ、もう我慢できないのよ、霊夢。準備運動は終わりにして、そろそろ……ね?」

「はぁ……堪え性のないやつだ。

 

軍相八寸(ぐんそうはっすん) 退くに能わず(ひくにあたわず)

 

青き閂(あおきかんぬき) 白き閂(しろきかんぬき) 黒き閂(くろきかんぬき) 赤き閂(あかきかんぬき)

 

相贖いて(あいあがないて) 大海に沈む(たいかいにしずむ)

 

 流石に、私と幽香が普通に幻想郷でぶつかりあったら、余波だけでも大変なことになるからね。それなりの対策は取らないといけない。

 

竜尾の城門(りゅうびのじょうもん)

 

 私の詠唱と共に、私の背後に白い柱が幾つも出現し、積み重なり、巨大な門へと変化する。

 

虎咬の城門(ここうのじょうもん)

 

 光の輪っかが出現し、それが巨大な円形の物体へと変化する。

 

亀鎧の城門(きがいのじょうもん)

 

 光り輝く六角形の結晶がが幾つも出現し、やがてそれらが積み重なり巨大な六角形の板へと変化する。

 

鳳翼の城門(ほうよくのじょうもん)

 

 炎の円が頭上に描かれ、それが傘の様な物体へと変化する。

 

四獣塞門(しじゅうさいもん)ッ!」

 

 完成だ。

 私と幽香を閉じ込めるのは巨大な結界、四獣塞門。当然参考にしたのは、某死神漫画のピンク髪の巨大なおっさんだ。

 これならば、私と幽香がぶつかりあってもそうそう壊れることはない……筈だ、多分。

 ま、まぁ、そこそこ力を込めて構築したから簡単には壊れないだろう。……壊れるなよ? 振りじゃないからな?

 

「貴女の使う術って、本当、強力な代物が多いわね。この結界は私でも壊すのに苦労しそうだわ」

「無理だと言わないお前が恐ろしいな。……さて、準備は整ったぞ、何時でも来い」

「じゃあ、遠慮なーー」

「っ!?」

「ーーくっ!」

 

 瞬きの間に距離を詰められて、殴り掛かられる。

 それを、両腕に霊力を纏って防御力を増加させ受け止める。……この異常な加速は。

 

「……瞬歩か」

「へぇ、これ瞬歩って言うのね。便利そうだったから……覚えてみたわ」

「はぁ、出鱈目な学習スピードだな。……お前には幾つの技を盗まれたか分からん」

「例えばこれとか?ーー虚閃(セロ)

 

 幽香の指先に緑色の妖力が収束し、それが一筋の閃光として私目掛けて放たれる。

 虚閃。某死神漫画の敵キャラが使用した技である。簡単に言ってしまえば、自分の霊力、または妖力などを収束させて放つ破壊光線だ。単純な破壊力もそうだが、何より驚異的なのが、その攻撃範囲である。……魔理沙のマスタースパークと同程度の規模といえば、この脅威が理解できるだろうか?

 

「だが、甘いな」

 

 至近距離で放たれたそれを、片手で掴み取り握り潰す。

 この私に対して、霊力や妖力での戦いを挑むのは間違いだ。言ってはなんだが、この幻想郷で私以上に霊力などの力の使い方を極めている者は一人としていないだろう。

 先の虚閃もこうして、霊力を纏わせた上で、上手く相殺しながら打ち消せば、簡単にかき消すことが出来る。

 

「あら、あっさりと受け止めるのね。……本当、貴女に出鱈目なんて言われたくないわ」

「手を抜いているとはいえ、この私をここまで梃子摺らせることが出来るのは、お前以外にはいないよ。……それで十分出鱈目だろう?」

「その自信はどこから来るのかしら、ねェッ!」

虚弾(バラ)

「ぐふっ!?」

 

 殴り掛かる幽香を、虚弾で弾き飛ばし、ダメ押しに連発で幽香にぶつけていく。

 虚弾。これも先に述べた某死神漫画の敵キャラが使用した技である。その仕組みは単純明快、霊力の衝撃波を飛ばすだけである。

 この虚弾は先程の虚閃よりも、威力は小さいが、その速度は虚閃の二十倍にも及ぶ。こうして至近距離から打ち込めば、如何に幽香でも躱すことは不可能に近い。

 

「……ふふふ、今のは効いたわよ」

 

 効いた、と言いつつも外傷は一切見当たらない。……やれやれ、土手っ腹に数発撃ち込んでみたが、全く応えた様子は無いな。

 それに、先程よりも幽香の妖力が上昇している。……これが、幽香の恐ろしいところだ。

 二割ほども力を出していないとはいえ、この私とほぼ互角に渡り合っている現状でありながら、幽香はまだまだ底を見せてなどいない。

 勿論、幽香は本気のつもりだろう。本気で私と戦っているつもりなのだろう。それは彼女の楽しそうな顔を見ていれば分かる。だが、幽香自身の感情に反して、身体の方にはまだまだ余力がある。……つまり、何が原因かは分からないが、幽香は本来の実力を全く出し切れていないのだ。

 私の目測では、幽香の本来の実力は、私の正真正銘の全力のおよそ七割強程度は軽くあると見ている。……分かりやすく言えば、幻想郷を一撃で真っ二つに出来るレベルだ。

 しかし、現状の幽香は、その十分の一ほども力を出し切れていない。

 私との戦闘の影響で、枷が外れていくように本来の実力に少しずつ近づいていっているが……このペースでは、百年同じことを繰り返しても、半分程もいかないだろう。

 仕方ない、あんまりやりたくはなかったけど……

 

「荒療治だが、これも幽香のためか……」

「何を言ってーーッ!?」

 

 幽香の本気を引き出す方法、それは単純に命の危機レベルの状況に晒すことだ。

 この幻想郷において、それが可能な人物は私だけだ。他と幽香では余りにも実力差が有り過ぎる。……ならば、私が責任を持って幽香の面倒を見てやらないといけない。

 

「アハッ、それが貴女の本気なの?」

「期待させてしまって悪いが……これで五割だ」

「何それ、最ッ高じゃない!」

「これ以上力を開放したら、結界の方が持たないからな。……では、始めようか」

「霊夢ぅぅぅ!」

 

 さぁ幽香、思う存分に楽しみなさい。

 

 

ーーー

 

 

「はぁ、はぁ……クフフッ、アハハハッ! 最高ッ、最高に楽しいわ!」

 

 あれからそれなりに時間が経ったが、私の目論見通り、命の危機に瀕するレベルで戦闘を繰り返せば繰り返すほど、幽香は本来の力を取り戻していった。

 現在は、彼女の本来の力の半分並……つまり、私の全力の三割強から四割の力を持っている計算になる。

 生かさず、殺さず。その絶妙な力加減で攻撃を繰り返し、幽香が傷を負うギリギリを狙い続ける。言うは易し、されど実行するのはいささか難しいところだった。

 でも、私やり遂げたから偉いよね。神経滅茶苦茶疲れるけどもね。

 

「妖力を撒き散らしても潰れない、どれだけ殴っても壊れない。アハハッ! 本当、貴女と戦っていると、血が沸騰するように熱くて、心がぐちゃぐちゃに掻き乱されてッ! 楽しいッ!」

「そうか、それは良かったな。……だが、まだだ」

「アハッ! そうよ。まだ足りないの、まだまだ満足できてないのよ、私はァ!」

 

 先のそれとは別次元の一撃が幽香から繰り出される。

 単純な右ストレートであるが、そこにはかなりの量の妖力が込められている。

 それを、私も同じ量の霊力を込めて相殺し、お返しに幽香を殴りつける。それを、幽香も同じように妖力を込めた拳で相殺し、そして、殴り返し、殴り返し、殴り返し、殴り返し続ける。

 瞬歩による高速移動で離れ、ぶつかり合い。虚閃や虚弾などの光線や衝撃波の撃ち合いによる応酬が。何度も何度も繰り返される。

 

「はぁぁぁぁぁ!」

「アハハハハハッ!」

 

 一進一退の攻防、殴り殴られ、撃ち撃たれが幾度と無く繰り返される。

 そうしている内に、幽香の力も徐々に開放されていく。……もう少し、もう少しで完全だ。

 後ほんの少し、ほんの一歩を進めば、幽香は彼女本来の実力を完全に取り戻せる。

 私は、柄にもなく戦闘で興奮していたりする。現状、私以上に強い存在など、この幻想郷には一人としていない。将来的に私並に強く慣れるであろう素質を持った者はいるが、それだけだ、確定的ではない。

 だが、幽香は違う。彼女本来の実力を取り戻し、彼女がかつての自分を取り戻せば、少なくとも私を害せるだけの力を持つことになる。そして、幽香には類稀なる戦闘センスが、私に匹敵するであろう才を持っている。

 そんな幽香が鍛えたら、どれだけの実力を持つのだろうか? それこそ、私に匹敵するだけの力を身に着けてくれるのではないだろうか?

 それを考えてしまったら、私には幽香の力を取り戻させる以外の選択肢はなかった。……ふふふ、私も幽香の事を戦闘狂などとは言えないな、自分と同格かもしれない存在が出来るのに強い興奮を覚えている。

 私はエロスだけの人間ではない。エロスも大事だが、この幻想郷を守護する者として、力への執着もそれなりにあるのだ。

 だが、私も強くなり過ぎた。切磋琢磨出来る存在が一人もいないのは、苦痛なのだ。その苦痛を終わらせてくれるかもしれない。……そう思うと、期待が高まる。

 

 私の期待を他所に、幽香の力の解放が収まった。……まだ、完全ではないにも関わらず。

 まるで幽香自身が越えることを躊躇するように、力の開放が、ピタリッとそこで止まってしまったのだ。

 

 どうした幽香、何故、最後の最後で躊躇する?

 後、もう少しだ。もう少しなんだぞ? 後、もう少しで、お前は本来のお前自身を取り戻せるんだ。なのに何故そこで恐がるんだ?

 遊び相手がいなくなるのが恐いのか? また、頂きで独りぼっちになるのが恐いのか?

 なら安心しろ、お前の上には私がいる。お前の遊び相手は私がしてやる。超えられない頂きとして、ずっとずっとお前の上で立ち続けてやる。だからーー

 

「いい加減に、目を開けろ! この寝坊助め!」

 

ーー王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)

 

 瞬歩で幽香から距離を取り放ったのは、私自身の霊力を収束させた虚閃の完全上位互換の破壊光線。

 先に紹介した虚閃の更に上、血を媒介として莫大な霊力を込めた、絶対なる破壊を撒き散らす死の光線だ。

 紅黒い霊力が、空間を捻じ曲げながら幽香に迫る。このまま喰らえば如何に幽香であろうと、ただでは済まない。お前が完全に力を出さないと、防げない一撃だぞ……さぁ、起きろ。起きてこい。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 幻想郷最強の妖怪、風見幽香は、生まれたその瞬間から自身が最強の存在である、という事実を理解していた。

 この世界に己よりも強い存在は誰一人としていない、と確信していたのである。

 普通ならそれはただの思い上がり、すぐに潰されて消えていく感情だ。……だが、彼女、風見幽香は普通ではなかった。

 

 彼女の妖怪としての種族、花妖怪は、本来戦闘能力など殆ど持たない弱小種族だ。

 妖力は最低値、身体能力も低く、下手をすればただの人間にすら殺されてしまう恐れもある最弱の妖怪。

 唯一の長所と言えば、花の声を聞いたり、花をを自在に操ったり出来る事だけ。……そんな花妖怪として誕生したにも関わらず、風見幽香は最強だった。

 妖力は誰にも、それこそ本人ですら底が見えないほどに膨大で計り知れない。身体能力もまた、最強の妖怪の代名詞である鬼に匹敵、あるいは凌駕するほどに優れていた。

 

 中級以下の妖怪は、彼女が無意識に垂れ流す妖力だけで押し潰された。

 同じ最上級クラスの妖怪が相手でも、少し本気で相手をすればそれだけで容易く殺すことが出来た。

 妖怪を殺す力に長けた陰陽師などの人間側の実力者を相手にしたこともあったが、尽く鏖殺した。

 

 誰も、誰も、誰も、誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰も! 彼女の、風見幽香の足元に迫れる存在はいなかった。

 誰にも辿り着く事が出来ない、最強という頂きに立ってしまったのだ。それが、その事実が幽香を失望させた。

 

 頂きに立つ、ということはもう登るべき場所がない、という事だ。

 それはこれから先の未来、目指すべきものが何一つとしてない、という意味を現している。つまり、強さにおいて自分が目指すべき場所はもう何処にも残っていないのだ。

 

 幽香は戦闘狂だ。戦うことを喜びと感じる。自分が苦戦するほどの戦いが、自分と相手が命の取り合いをしているという感覚がどうしようもないくらい好きな、戦闘狂だった。

 そんな彼女が最強であるなら、最早、楽しい戦いは味わえない。誰も彼も自分より格下の弱い存在でしか無く、ちょっと本気で殴れば瞬時にただの物言わぬ肉の塊になってしまう。

 自分と拮抗、などという贅沢は言わない。せめて、足元程度の実力を持った存在がいればこの苦痛も少しは和らぐというのに。……絶対的な強者として生まれたが故の苦痛。それが幽香を蝕んでいたのである。

 強く生まれ過ぎたせいで、幽香は最早、梃子摺ることさえも難しくなっていた。

 

 やがて、幽香は自分の力に枷を設けた。どんな相手とも楽しい戦いを演じられるように力を抑えたのだ。……そして、幽香の考えは半分当たって、半分外れた。

 以前に比べて、力を抑えたことにより、自身に向かってくる妖怪が増えた。だが、その全てが幽香の圧倒的な実力の前にただの骸と化した。

 幽香は愕然とした、これほどまでに力を抑え込んでも、お前たちは自分に手傷一つ負わせることが出来ないのか? と苛立ちもした。

 そして、更に幽香は力を抑え込んだのだ。それこそ、自分が本来どれほどの実力を持っていたのかを忘れるほどに強力に力を抑え込んだ。

 

 だが、それでも、それでも幽香は最強だった。誰も彼女に勝てる者はいなかった。

 如何に力を抑え込んでいたとしても、本来の自分の力を忘れてしまっていると言っても、彼女の戦闘センス、才能だけは抑えられない。どれだけ強力な能力を持っていようと、例え幽香以上の妖力を持った敵だったとしても、幽香は圧倒的な勝利を飾った。

 これからも幽香は孤独のまま、頂きで一人寂しく佇む事になる。……それが覆ったのは、最近の話だ。

 

 博麗の巫女、と呼ばれる存在がいる。

 この幻想郷において、守護と結界の管理を担っている、力ある人間。無論、ただの人間ごときではこの風見幽香の相手にはなりはしない。……そう、ただの人間だったなら。

 

ーー博麗霊夢。

 

 彼女との出会いが、幽香の失意に彩られたこれまでの全てを変えたのだ。

 

「ぐっ、うぅ……身体が、動か、ない?」

「あまり手荒な真似はしたくなかったからな、縛道で徹底的に縛ってある。お前が如何に強力な妖怪と言えども逃れられんよ」

 

ーー敗北。

 

 初めて出会った時に殺し合いを吹っかけ、完膚なきまでに叩きのめされた。

 手も足も出なかった。清々しいくらいの敗北だった。どれだけ拳を叩きつけても受け止められ、どれだけ妖力をぶつけても欠片も怯まず、本気のマスタースパークをぶつけても焦げ目一つ付けられなかった。

 挙句、傷つけたくないから、と身体の動きまでも完全に封じられてしまう。

 その後に行われたお仕置きは、今も夢に見るくらいに幽香にとっては色々と衝撃的な体験だった。後にも先にもアレ以上の衝撃はない、と断言できる。

 

 幽香にとって、敗北とは初めての経験だった。

 これまでは自分が圧倒的な強者であり、誰にも、それこそ人間だろうと妖怪だろうと、神であろうと一方的に捻じ伏せてきたのである。

 

ーーーそんな自分よりも、強い存在がいた。

 

 その時に自身に浮かび上がった感情を、どう表現すれば良いのか、幽香には分からなかった。

 ただただ、嬉しかった。ホッとした。自分以上の存在がいた、いてくれた事に、どうしようもないくらいに心が震えた。

 

 彼女なら、霊夢ならば、自分の全力を受け止めてくれるんじゃないか?

 霊夢ならば、私とずっと戦ってくれるんじゃないか?

 

 幽香が霊夢にゾッコンになるのに、そう時間は掛からなかった。

 自分が望んだ強者、自分の全力を受けても死なない存在、逆に自身を打ち負かす力を持った唯一無二の存在。いつも自分と遊んでくれる、大好きな好敵手!

 

 そしてーー現在(いま)

 その大好きな好敵手から送られてきたのは素敵なプレゼントだ。

 

「何て、綺麗な光なの」

 

 凶悪な光が自分に迫ってくる。たしか名前は王虚の閃光。

 次元を歪ませながら迫りくるその光に、幽香は恐怖を感じるのでもなく、ただただ幸福と安堵を感じていた。

 この一撃に込められた霊夢の想いが、伝わってくる。

 

ーー起きてこい。もう我慢しなくてもいい。全力で遊んでも良いんだ。

 

「この感覚、何年ぶりかしらね。……アハッ!」

 

ーーパキンッ

 

 何かが壊れる音が、幽香には聞こえた。そして、音が聞こえたと同時に、己の内側から止めどなく溢れ出す膨大な妖力。

 幽香はかつての自身を思い出していた。力を封じる前の、圧倒的な力を惜しげもなく古い森羅万象の尽くをぶち壊していたあの頃の自分自身を、思い出していた。

 

「アハハッ、アハハハハハーッ!」

 

 幽香の内側にあった最後の枷が完全に取り払われた。

 最強の妖怪が高嗤う。己の枷を引き千切り、愛しい巫女を見て嗤う。

 今ここに、もう一人の超越者が降臨した。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 五割で放った王虚の閃光が、幽香が覚醒した時の余波だけで、完全に吹き飛ばされた件について。

 覚醒した幽香の姿は、かなり様変わりしていた。

 

 元々ショートだった髪は一気に、腰丈まで伸び、背中からは悪魔を思わせる緑色の翼と、腰から紫色の翼がそれぞれ一対ずつ生えている。

 そして、身に纏う妖力の総量は想定よりも強大だった。……その強さ私の八割強にも匹敵する。つまり、私の命を脅かせるだけの力を持っている、という事になる。

 

「お目覚めか、幽香」

「お陰様で、本来の私自身を取り戻せたわ」

「で、まだやるか?」

「本来の力を取り戻せたし、早速……と言いたいところだけど、無理そうね」

 

 幽香の視線の先では、私達を囲っていた結界が罅割れて崩壊し掛けていた。

 私の放った王虚の閃光でもギリギリだったのに、そこに加えて完全に力を取り戻した幽香の妖力が撒き散らされたのだ。

 逆にここまでよく持ってくれたものだとも思う。

 

「そうだな。……だが、完全には壊れていない。後一撃だけなら耐えられそうだ」

「そう、ならお互いに最後の一撃を撃ち合って、今回の遊びは終わりにしましょう」

「フフフッ、ああ、そうしようか」

 

 私と幽香は笑い合い距離を取る。

 そして、構えを取る。幽香はただただその右腕に膨大な妖力を集中させ、私は力を八割程度まで開放して、幽香と同じように、膨大な霊力を右腕に集中させていく。

 ただの力の比べ合いに、まどろっこしい技などいらない。必要なのは力、ただそれのみだ。

 やがてお互いの力の収束が終わり、後はタイミングを見計らいーー

 

「はぁ!」

「やぁ!」

 

ーーぶつけ合うのみ。

 

 私と幽香、二人の拳がぶつかり合う。ただの拳のぶつかり合いと思うこと勿れ、これは私と幽香、二人の超越者が放った本気の一撃だ。

 ただ幻想郷に打つだけで、大地を砕き、博麗大結界を損傷させ、外の世界にすら破壊を撒き散らすであろう、破壊の一撃だ。

 私がそれなりに真面目に張った結界も、その衝撃により罅割れが大きくなり、今にも消えてしまいそうなほどだ。

 

「礼を言うわ、霊夢」

「いきなり改まってどうした?」

「私に本当の自分を思い出させてくれて、私の先にいてくれて」

 

 幽香の拳から感じられる圧力が数段上がる。……ほぅ? ここにきて更に力が増すのか。

 

「だから、貴女にも敗北というものをプレゼントしてあげるっ!」

「フフフ、それは面白い、なっ!」

 

 敗北、敗北か。それは楽しみだ。楽しみだが……すまないな、幽香。

 

「うそっ!?」

「すまないな、幽香。……博麗の巫女に敗北は、ないッ!」

「きゃあぁぁぁぁぁ!?」

 

 幽香の拳を真正面から押し返す。

 その時の衝撃で、幽香は吹き飛ばされ辛うじて残っている結界にぶつかるーー

 

「ふっ」

「っ!?」

 

ーー前にお姫様抱っこでーす。

 

 美少女お姉さん、ゲットだぜ! ピッピカチュー(下手な裏声)!

 柄にもなく、幽香は赤面している。幽香はね。普段はエロいセクハラお姉さんなんだけどね。こういうお姫様抱っことか、女の子女の子しているのには、弱いんだよね。……私が知る数少ない幽香の弱点である。

  

「ちょ、下ろして! 下ろしなさいっ!」

「そうか、可愛かったのに……残念だ」

「くっ!? いいから! 下ろしなさい!」

「了解しました、お嬢様」

「あ、貴女ねぇ」

 

 もう少し、赤面ゆうかりんを堪能していたかったけど、コレ以上は幽香の報復が恐いので止めることにする。

 まぁ、赤面ゆうかりんの光景はぁ、私の脳内フォルダぁにたぁっぷりぃと保存してぇいるぅんですがぁーげへ、げへへへっ!

 

「ふぅ、それにしてもまだ勝てないのね。貴女、強すぎないかしら?」

「いや、正直私も危なかったからな。……まさか、九割まで使わされることになるとは思わなかったぞ?」

 

 いや、本当にマジで。幽香さんの成長スピードマジパネェっすわ。

 私の最初の予想を大きく超えて、幽香の実力は私の九割程度まで届いていた。その上、純粋な腕力などでは私でも敵わなかったりする。

 これにまだ伸びしろがあるというのだから、恐ろしいな。

 これは私もうかうかしていられない。今以上に力を付けないと、幽香に追いつかれてそのまま抜かれる可能性も十分に考えられる。

 

「……貴女の本気ってどのくらいなのか、少し興味が出てきたわね」

「見たいなら見せても構わないが……辛うじて結界も残っているからな、一瞬だけなら見せてもいいぞ」

「へぇ……じゃあ、お願いしようかしら」

「では、いくぞーー」

 

ーー限定解除。

 

 瞬間、比喩でも何でも無く。私以外の全ての音が消えた。

 一瞬で、残っていた結界を粉砕し、尋常じゃない速さで辺りに広がろうとする私の霊力。それが幻想郷に何かしらの影響を及ぼすーーその前に、再び限定霊印を施す。

 限定解除、とは文字通り私の本来の霊力を封じている限定霊印を解除する方法だ。これにより私が本来持っている霊力を完全に解放することが出来る。

 何故、私が限定霊印で自分の霊力を縛っているのか、それは私の霊力が余りにも膨大過ぎて、ただ垂れ流しているだけで幻想郷の住人たちに悪影響を及ぼすからだ。

 私の霊力に当てられて、本来力を持たない存在が力を持ってしまったり、逆に力のない存在が、魂ごと消滅してしまったりする。

 そんな事になってしまわないように、こうして封印している、というわけだ。

 近くには幽香以外には誰もいなかったし、今回は結界が張ってあったために、辺りに影響を及ぼす前に、霊力を抑えることが出来た。

 

「どうだ幽香。これが、お前の上にある頂きだ」

「……」

「幽香?……うっ!?」

 

 いきなり、そう、いきなりである。……押し倒された。幽香に、私は押し倒された。

 更に、幽香は私の両腕を片手だけで封じ込み、逃げられないように、馬乗りになっている。

 待って、待ってくれよお姉さん。ちょっと力強過ぎじゃない? 掴まれている腕が痛いんですけど? 何かピキピキ音がなっている気がするんですけど? あばばばば。

 今の状態だと、流石に貴女の相手できないんですけども? 限定解除なしだと、腕力では勝てなくなっちゃってるんで。……あれ、私詰んだ?

 

「あんな、あんな物凄いの見せられてっ! 我慢できる筈がないじゃないのっ!」

「やめ、止めろ! 何処を触っあんっ」

 

 何処触ってんねん!? 変な声出ただろうが! ええ加減にせぇよ!

 幽香の白く細い指先が、私の脇のところから服の中に入り込み、直に素肌を撫ぜる。……お、落ち着け霊夢。私は襲う側なんだ。襲って興奮する側なんだ。決して、襲われる側じゃないんだ。襲われて興奮する側ではないんだ。……でも、悔しい。ちょっと感じちゃうビクンッビクンッ。

 

「やめっ、あっ!?」

「はぁはぁ、霊夢っ、霊夢っ!」

 

 幽香は私の身体に自身の身体を擦り付けながら、身体中を弄ってくる。

 あ、ば、馬鹿者! そ、そんなところに手をやるんじゃない! 触るんじゃない! やめ、やめろぉー!

 ふあぁぁぁ!? 嘘だろ!? 何処でそんな技術を覚えて、くぅぅぅぅぅ!? 駄目だ、このままでは駄目だ、ヤバイヤバイヤバイヤバイ。

 私にお仕置き受けている娘達はこんな感じだったのか!? ごめんね!? 確かにコレはヤバイ、こんなん即雌落ちするわ。……これからもヤメないけどぉぉぉ!? うにょおぉぉぉ!?

 

「ふ、っく、あんっ。ゆ、ゆうっかぁっ!」

「良いわ、良いわよ霊夢、その表情が堪らないわぁ」

 

 幽香の指が、私の聖域近くを行ったり来たりぃぃぃ!? ひえぇぇぇ!?

 脇を、脇を舐めるんじゃあない! 汚いでしょうが! ペッしなさいペッ! それよりもザラザラしてる舌の感触ががががが……あ、アッーーー!?

 

 幽香による攻めは、この後数時間に及んだ。……う、うぅもう、お嫁に行けない。

 貞操は死守したけど、何か大事な物を奪われてしまった、そんな気がする。

 おのれ、この恨み晴らさでおくべきか……絶対に、絶対にいつかギャフンと言わせてやる! 幽香めぇ、覚えておけよ! この私の超絶テクニックでヒィヒィ言わせてやる。絶対に快楽地獄に叩き落としてやるぅ。……ごめん、何か自分の体液とかで下着とかグチャグチャだから着替えてくるわ。




かくたの!

如何でしたでしょうか?
個人的にはちゃんと描写できてたんじゃね?って思って入るんですが……駄目だ、一旦寝ないと正常な判断が出来ねぇ。

取り敢えず、二日目に読んだ範馬刃牙に影響は受けてませんよ? 受けてないからね?
後、ブリーチのノイトラVS剣八も見てませんよ? 本当だよ?

ハルマキうそつかないアルヨ、ほんとうヨ。

次回更新はもっと余裕で行けたらいいなぁー。


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巫女、竹林

二週間ぶりの投稿なのだよ!
待たせてしまって本当に申し訳ないです。
リアルがな、リアルがな、忙しくてな、忙しくてな。

取り敢えず、見てって下さいな!


 時は、満ちた。

 遂に、遂に待ち望んでいたこの時が、やってきたのだ。

 停滞した時が動き出し、新たなる変革の時が訪れるのだ。

 

 私、博麗霊夢はこれ以上無いくらいに歓喜していた。

 瞳孔は開き切り、息は乱れ、その身体は興奮により震え出し、その身からは莫大な霊力が溢れ出している。

 我ながら、無理もないと思う。……何せ、今日この日を以て、私は生まれ変わる事が出来るのだから。

 

 私は、興奮に暴れ出しそうになる身体を必死に理性で押し留めながら、ある場所に向かっていた。……その場所とは、永遠亭である。

 

 永遠亭。

 迷いの竹林と呼ばれる、無数の竹が生い茂る広大な林。その奥深くにそれは在る。

 昔話にも伝え聞く、かの有名なお姫様と、その従者たちが住まう場所であり、幻想郷で唯一の診療所を営んでいる場所でもある。

 私はそんな場所を目指して迷いの竹林の中を歩いていた。そう全てはーー

 

「漸く、漸く私の望みが……」

 

ーーあの大いなるバベルを、手に入れるためにッ!

 

 そのために、永遠亭に住まう医師、八意永琳……えーりんの力を借りるのだ。

 前々からえーりんに頼みこんでいたモノ、それが完成間近まで迫っているらしい。今日はそのブツを受け取るために、こうして永遠亭に向かっている。

 

 私がこの幻想郷という地に生を受けて、十と余年の歳月が流れた。

 その長いとも短いとも言えぬ時間、私はずっと歯がゆく思っていた事がある。

 それは私の身体が女の身であるが故に、幻想郷に存在する美少女たちに真の快楽を教えてあげることが出来ない、という事だ。

 確かに私の磨き上げた指の動き、感度を引き上げる技を使えばそれなりの快楽を刻むことは出来るだろう、だがそれは真の快楽とは言えない。真の快楽とは、めしべとおしべが出会うことで、アワビとマツタケが戯れる事で、漸くその先にある、本物を味合うことが出来るのだ。

 めしべとめしべだけではダメだった。アワビとアワビだけではダメだった。如何に私の技術を持ってしても、バベルの代わりは出来なかった。

 そして、バベルのない身では、美少女の秘密の花園の奥深くを暴き、堪能する事など出来はしない、それが何よりも悔しくて仕方なかった。

 

 だが、この耐え難き股座の空白は終わる。

 

「ーーこれからは私が天(比喩表現)に立つ」

 

 バベルの上から、この世に存在するあらゆる美少女に快楽を与えるのだ。……そのためには、先ずバベルを、マイバベルを手に入れなければならない。

 

 フハハハハハッ! 迷いの竹林とは片腹痛しぃ! 今の私を迷わせることなど出来はしないわ!……まぁ、私の美少女探査回路(ペスキス)で、永琳達がいる場所を察知しているからなんだけどね。

 美少女探査回路とは、私が某死神漫画の技を改良して編み出した技である。

 その効果は単純、美少女の所在や、情報を全部知ることが出来る、というもの。これにより私は自分の近くに存在している美少女の情報を何時でも仕入れることが出来るのである!

 気になるあの娘のあーんな事や、こーんな事、趣味趣向や性癖、何処を触られると弱いのか、初めてはどんなシュチュエーションが良いのか、全てが手に取るように分かるのだ!

 簡単に言えば、ギャルゲーやエロゲーのキャラクター完全攻略ガイドを常にチェックしているのと同じ状況なのだよ。……私の手に掛かれば、どんな女もイチコロだぜぃ!

 

 そうこうしている間に、永遠亭の前に辿り着いた。

 何時見ても立派な建物だ。由緒正しい日本家屋が、竹林の中にひっそりと建っている。そこには古き良き日本の和を感じさせる確かな風情がある。

 私、個人的にはこの建物大好きなのよね。幻想郷の好きな建物ベスト三には確実にランクインしてくる建物だ。……何か良いじゃん、日本家屋(浅はか)。

 ちなみに、一位は自画自賛になっちゃうけど、我が家である博麗神社で、二位は全身真っ赤な建物である紅魔館である。

 

「邪魔をする……永琳はいるか?」

 

 異変で乳繰り合った(一方的な認識)仲なのだから、今更、遠慮なんてしません。ノックなどせずに、一気に扉をガラガラッと開く。

 

「あー! れーむだー!」

「れーむ! じゃまするかー!」

 

 永遠亭に入った途端、すぐさま私を取り囲んできたのは、ウサミミの可愛らしいロリっ子軍団である。

 皆、赤いクリクリお目々をパチパチさせながら、私の周りで何が楽しいのかキャッキャと騒いでいる。……あらやだ、可愛い。

 話は変わるけど、ウサギってさぁ、性欲強いよね。年がら年中発情期で、子作りする時はそれはもう、すんごいらしいね。……他意はないよ。他意は、ね。

 そんなわけで、はよ、バベルを手に入れねば(使命感)。

 

「こらこら、お前たち、お客さんに迷惑を……なーんだ、霊夢じゃないか。いらっしゃい」

 

 ウサギロリを注意しながら、私を出迎えてくれたのは、同じくウサミミ可愛い美少女。

 彼女の名前は、因幡てゐという。

 ショートな黒髪に、くりくりおめめが可愛らしいく映える童顔。頭上で揺れている垂れウサミミが、大変よろしい。てゐちゃん、ペロペロ。

 服装は、桃色の半袖ワンピースで、裾の方には赤い縫い目がある。そして、靴や靴下なんてものは一切身に付けていない。ちっちゃくて可愛らしい素足が晒されている裸足なのである。……足舐めてぇ、ペロペロしてぇ。

 竹林や、永遠亭に住んでいる妖怪ウサギ……さっきのウサギロリ達のリーダーであり、かの有名な因幡の素兎伝説に登場する因幡の兎張本人……であると噂されている。

 それが本当かは定かではないが、てゐ本人が長生きをしている兎妖怪である、と言うことは事実だ。……本人曰く、健康に気を遣って長生きするうちに、妖怪変化の力を身に付けたそうだ。

 まさに地上の兎達のレジェンド、健康長寿を心掛けている由緒正しきロリババァである。

 話は変わるけど、ロリババァって、ものほんのロリと違って、事案が発生しないから合法的に手を出せるのがポイント高いよね。……この幻想郷は、その合法ロリで溢れている。あのレミリアやフランドールだって、数百年の時を生きているし、チルノや大妖精、ルーミアだって合法だ。

 つまり、何が言いたいのか……ロリババァ最高! 世間体なんて気にしないで色々できる存在、ロリババァは最高! ロリババァ結婚してくれぇぇぇ! ヒャッハァァァ!

 

「何か失礼な事を考えなかったかい?」

「き、気のせいだ」

「声、震えてるよ?」

「……そんな事よりも、永琳はいるか?」

「露骨に話題を変えたね。まぁ別に気にしてないけども……お師匠なら、奥の方にいるよ」

 

 ふぅ、何とか誤魔化せたね。

 ババァは乙女に対しての禁句と言っても過言ではない。

 もし乙女に言ってしまおうものならば、面倒なくらいに泣かれるか、冷たい目で蔑まれるか、殺されるかの、どれかだろう。

 だが、敢えて言わせてもらおう……ババァの何が悪い、と。

 美少女であるなら、例えそれがババァであっても美少女であることに変わりはない。

 てゐを見てみろ、百万年以上もの長い月日を生きておきながら、その肌は真珠のように美しく、赤ちゃんのようにモチモチしており、尚且つ髪もサラサラとした手触りで柔らかい。正直、今すぐドッキング作業に移りたいくらいの愛らしさである。

 普通の女ではこうはいかない。ただの女では、この境地に辿り着くのは至難の技だ。

 確かに若いのは良いさ、それは認める。若い方が締まりが良いし、初な反応を見せてくれる。それは理解できる。

 そうだとしても、私はババァを、年齢詐欺の美少女ババァを厚く信仰している。

 長い年月で磨き抜かれた美しい肢体、知識だけで経験がない故のテンパった姿……どれをとっても一級品だ。

 結論、美少女ババァ最高! 幻想郷の美少女最高! 皆、是非とも嫁に、嫁にしたいッッッ!

 

「しっかし、お師匠にどんな用事があるんだい? 天下の博麗の巫女様なら、態々お師匠の手を借りなくても、色々とやりたい放題出来るだろうに」

「お前は私を何だと思っているんだ」

「理不尽の権化、歩く災厄……後、女殺し。霊夢のせいで、異変の時は散々な目に遭ったし、うちの姫様やお師匠様、鈴仙が色ボケのアホにされちゃったからね」

 

 酷い言い草だな。人のことを理不尽だの、災厄だのと(後半の部分聞こえていない)。

 まぁ、異変の時は正直スマンと思ってはいる。私も色々とテンションがハイになってて自分を制御することが出来なかったんだ。本当にスマナイ。まさか覇王モードぱいせんがユルユルのガバガバになって、暴走してしまうとは思わなかったんだ。スマナイ。

 

「何を言いたいのか分からんが、取り敢えず私は悪くないぞ?」

「へーへー異変を起こした私らが悪かったですよー」

 

 ちょっとむくれているてゐちゃんが可愛いくて生きているのが辛い。ほっぺたむにむにして良い子良い子してあげたい、というかナデナデするわ。

 横を歩いているてゐの頭に手を置いて、梳くように指を滑らせる。

 

「うわっ!? いきなり何するんだ霊夢!」

「謝罪の意を込めて頭を撫でているだけだ。……お前の髪は柔らかいなてゐ、ずっと撫でていたいくらいだ」

 

 いや、本当に滑らかで指が通る通る。見た感じ、くせっ毛だから絡まると思っていたんだけど、髪の一本一本がサラサラで、柔らかくて……正直なところ、時間が許すなら何時までも触っていたいくらいだ。

 

「ふ、ふふーん、こ、これでも髪には気を遣っているからね。……み、耳は弱いからあんまり触らないでくれ、擽ったい」

「その割には、物欲しそうに揺れているが?」

 

 耳にほど近いところへと指を滑らせながら、てゐに問いかける。

 そーれ、此処がエエんやろ? な? 本当は辛抱堪らないんやろ? な? 気持ちよくなりたいやろ? な?……だから、ほらほら、お姉さんに身を委ねなさい。天上楽土へと連れて行ってしんぜよう。

 ウサギの妖怪であるてゐの性感帯とは、やはりこのむき出しになっている垂れウサミミ。これをこねくり回せば、てゐを一瞬で即落ちニコマよりも酷い感じに滅茶苦茶に出来るんやで?……永夜異変の時に、すんごい触りまくったからね。耳の何処を抓んで、揉んで、解せば良いのかは十分に理解できているよ。

 

「き、気のせいに決まってるだろ?」

「ふふふ、声、震えているぞ?」

「ーーッ!? 本ッ当ッ! この巫女はッ!」

 

 さっきの意趣返しというわけではないが、てゐに言及されたときと同じ返しをする。

 てゐは今にも地団駄踏んで悔しがりそうな勢いで、憤慨している。……れーむ、知ってるよー、そんな風に怒り見せている割に全然抵抗していないてゐちゃんが、実は頭ナデナデ気に入っていること知ってるよー。

 

「あー! てゐがれーむになでなでされてるー!」

「ずるいー!」

「っ!? さっさと自分の持ち場に戻れ!」

「キャー! てゐ、おこったー!」

「にげろー!」

 

 こっそりと私達の後ろを付いて回っていたウサミミロリが、蜘蛛の子を散らしたように、わらわらと逃げていった。

 てゐは、子分であるウサギロリに、自分の恥ずかしい姿を見られて、少々頬が赤くなっている。

 うんうん、分かる分かる。目上の者としては、少しでも良いカッコしたいよね。

 私も美少女の前ではカッコイイ私を存分に見て貰いたいから、その気持ちは十分に理解できるよ。

 

「災難だったな」

「誰のせいだよ! 誰の!」

「ふふふ、お詫びにまたナデナデしてあげようか?」

「お断りだよ!」

 

 擬音にするならプンスカ、だろうか? そんな感じで足を怒らせながら、さっさと先の方へ向かうてゐ。……待って、置いて行かんといて、謝る、謝るから。巫女、土下座する勢いで謝るから。

 

 

ーーー

 

 

 何やかんやで永琳がいる部屋の前まで辿り着くことが出来た。

 てゐは仕事が残っている、と私を残してさっさとこの場を後にしてしまった。……私は寂しい、ポロロン。

 

「永琳、入るぞ?」

 

 いざ、部屋の中へ……Oh。

 

「やめっ、止めて下さいよ、お師匠様ぁー!」

「大丈夫、大丈夫よ鈴仙、ちょっとだけチクッとするだけだから、ちょっとだけこの薬の実験d……コホンッ、この薬の実験台になって貰うだけだから!」

「言い直せてませんよッ!? 誰かっ! 誰か助けて下さいっ!」

 

 なぁにコレ?

 部屋を開け、目の前に広がっていた光景は、縦にされた診察台に磔にされているウサミミのブレザー姿の美少女……鈴仙と。その鈴仙へ、注射器を片手に、微笑みを浮かべながらにじり寄る、銀髪三つ編みのナース姿の美女……永琳であった。

 うん、正直関わり合いになりたくない類の状況やね。

 

「あっ、霊夢さんっ!? た、助けて下さいぃぃぃ!」

 

 やっべ、鈴仙に気付かれた。

 救いの神が現れた、と言わんばかりに声を張り上げ、目を輝かせている鈴仙。

 そのウサミミはユサユサと揺れており、鈴仙の心情を如実に現している。……そんな鈴仙の様子を見た私は。

 

「……失礼した」

「いやぁぁぁ!? 待って下さいよぉぉぉ! 戻ってぇぇぇ! 戻ってきて下さいぃぃぃ! 霊夢さぁぁぁん! カムバァァァックッ!」

 

 磔にされていた彼女の名前は鈴仙・優曇華院・イナバ。

 元々は、月の都に住んでいた月の兎であったが、何やかんやあって、月から逃げ出し、この永遠亭で暮らしていいる。永遠亭では、幻想郷屈指の名医であるえーりんの元で、様々な雑用を任されつつ、師事している。

 足元まで届きそうな薄紫色の髪に、紅い瞳を持ち、頭頂部にはヨレヨレのウサミミが誇らしげに揺れている。

 服装は、制服的なもの……簡潔に述べると女子高生のようなブレザータイプの服装をしている。……そして、幻想郷の少女たちでも珍しく、ドロワーズを身に着けておらず、動けば動くほど、ミニスカートからパンツが垣間見れる。

 好奇心旺盛で、褒められたりするとすぐに調子に乗る。そして、妖怪の割りには、誠実で善良な一面が強い。その一方で、兎らしく臆病な面が有り、そこら辺を弄られてしまうこともしばしば。

 そのイジメっ子心を擽る仕草は、同性であっても魅了されてしまう。かく言う私も、鈴仙に意地悪して涙目になってあたふたしている姿を見るのは大好きである。……いつかはベッドの上でイジメてあげるつもりだ。

 戦闘と言うか、戦う時は自身の能力である『狂気を操る程度の能力』で、自分に暗示を掛けて狂わせているのか、どうなのか、普段とは一変して厳粛な理想の兵士像を体現する。……ぶっちゃけ、その状態だと、くっころが似合って仕方がないので、エロ同人誌みたいに乱暴したくなる。

 

「今度っ! 今度、何でもしますからァァァ!」

 

 ん? 今、何でもするって言ったよね?

 この私に向かって、何でもするって、そう言ってしまったよね?

 そうと決まれば、先ずは部屋から離れて、思いっ切り走って加速します。……で、扉が近付いてきたら、丁度良いタイミングで飛びます。

 

「天ッ誅ぅぅぅ!」

「きゃあぁぁぁ!?」

 

 加速の勢いをそのままに、部屋の扉を蹴破って、内部に侵入します。

 そして、今にも鈴仙の腕に注射をしようとしていた永琳を、背後から仰向けになるように押し倒し、馬乗りになって拘束します。……制圧完了。鈴仙救出ミッション、クリア。

 

「うぅ……きゅう」

 

 おやおや、勢いが強過ぎて頭を打ったのか、えーりんは意識を失っているご様子。

 一応、念には念を入れて、動けないように、何故か手元にあった荒縄で縛り上げます。……腕を頭の後ろに持って行って縛り、足は開脚させてM字で固定する。

 更に縛り上げたら、念を入れて、体重が掛からないように、覆い被されば完成だ。

 

 しかし、何時見ても美しいなえーりん。

 えーりん……フルネームを八意永琳は、この永遠亭で薬師をしている。

 元々は、月の都に住んでいたんだけど、輝夜が月から追放された時に付いてきたそうな。……一応、本人曰く、月に住んではいたけど、元は地上出身らしい。

 長い銀髪を三つ編みにしており、前髪は真ん中分けしている。瞳の色は珍しい銀色で、神秘的である。

 服装は少々変わっており、左右で色が分かれた特殊な配色の服を着ている。

 青と赤からなるツートンカラーで、上の服は右が赤で左が青、下のスカートは上の服の左右逆になる配色をしている。袖はフリルが付いた半袖になっており、全体的な色合いを除いたら中華服的な要素がある。

 頭には、全面中央に赤い十字架のマークが入った青いナース帽を被っている。

 出るとこ出て引っ込むところ引っ込んだナイスボディをしており、チャームポイントは、その存在を主張しまくる超巨乳。

 私の育ての親である、きょぬーゆかりんですら、えーりんのダイナマイトおっぱいには一歩譲る事になるほどの大きさだ。……正直、むしゃぶりつきたいです、はい。

 性格は基本的には物腰穏やかな大人の女性そのもの、だが微妙に行動的で好奇心旺盛なところもあったりする。……お転婆えーりん。

 長い年月を掛けて得た、豊富な経験と膨大な知識量を武器にしており、また、それらを使いこなす思考能力も並みではない。

 幻想郷きっての賢者であるゆかりんも、何度か出し抜かれたことがあるくらいに策士なところがある。

 まぁその分、突発的な事だったり、計画を大きく乱されたりしたら、焦って頭の中真っ白になっちゃうみたいだけどね。……永夜異変の時も、それで異変解決できたし。

 

 あ、それと、私の片手が気絶している永琳の胸を鷲掴みしているのは事故なんや、事故なんやで、意図的に手をそっちの方向に持っていったわけではないんやで?……せっかくの機会だから揉みまくるけどもね。

 片手から溢れ出る大きなおっぱい、服越しでも柔らかな感触と確かなハリを感じさせ、更には手の平にはその存在を主張するさくらんぼが一つだけポツンとある。……うんうん、おっぱいえーりん、マジ最高。

 

「あ、あら? 私は……なっ!?」

「ふふふ、おはよう。永琳」

「お、おはよう。……れ、霊夢がどうして? って!? 何なのこの状況っ!?」

 

 意識を取り戻したえーりんは自分置かれている状況を見て、面白いくらいに顔を真っ赤にして取り乱している。

 普段、人をからかったり弄ったりする立場にいる人って、いざ自分がからかわれたり、弄られたりする立場に立たされると、混乱して何も出来なくなるよね。

 

「お前が少し暴走気味だったからな、こうして拘束した」

「ぼ、暴走?……え、れ、鈴仙っ!? どうして磔にされているの!?」

「お、お師匠様が新薬の実験だって言って磔したんじゃないですかぁ」

「……し、新薬?」

 

 鈴仙の口から飛び出た新薬、という単語に首を傾げて困惑を露わにしているえーりんである。……えーりんには先程までの記憶はない。何故なら一度気を失ったら、薬を作った記憶を忘れるように細工したからね。

 

 実は此処までの騒動、最初から最後まで、私がコントロールしていたのさ。

 以前に、この永遠亭を訪れた際に、えーりんにちょっとした暗示を掛けておいたのである。……その暗示の内容とは、『バベルの塔を建てるための薬を、誰にもバレないように秘密裏に作る』というもの。そして、『もしも誰かの手によって気絶させられた場合は、薬を作っていた時の記憶を忘れる』というものの二つ。

 これにより、私は誰にも、そう誰にもバベル建造計画を知られること無く、マイバベルを手に入れることが出来るのだ。

 後は、何かしら適当な言い分を考えて、新薬をぶんどれば大成功、というわけだ。……クックックッ! まさに、計画通り(新世界の神)。

 

「そ、それよりも……何で私は、貴女に押し倒されているのかしら?」

「確実に動きを封じるために、な」

「んっ、ふぁ……む、胸を触っているのは、どうして?」

「さて、どうしてだろうな? 頭の良い永琳なら、分かるんじゃないか?」

「……意地悪」

 

 実は永夜異変以降から、調子が悪い覇王モードぱいせんのお陰で、胸を揉みしだいたりする程度なら出来るんやで、やでー。……お仕置きの判定がゆるっゆるっになってるのだよ、ワトソン君。

 羞恥からか、屈辱からか、頬を真っ赤に染めたまま、私から目を逸らすえーりん。首を傾けたことにより、露わになる首筋が色っぽくて、大変よろしい。……れーむ、いっきまーす!

 

「ひゃっ!? れれれ、霊夢!?」

「ふふふ、暴走してた分のお仕置きだよ」

「何処を舐め、てっ!? ひぅ!?」

 

 お仕置きだから、ペロペロするぜぇ。

 首筋に顔を近づけたことにより、えーりんの匂いが鼻腔を擽り、私の中の獣性を強く刺激する。そして、舌先をえーりんの首筋に着け、ゆっくりと舐めていく。

 ここで、勢い良く舐め回すのは素人のやる事だ。真のペロリストは、その瞬間瞬間を味わうように、ゆっくりと時間を掛けて、嬲るように、堪能するのだ。

 えーりんの体臭は媚薬効果でもあるのか、吸い込めば吸い込むほど、私の内側からえーりんを蹂躙したいという衝動が溢れ出してくる。

 そして、極めつけには、彼女自身の味だ。私と密着していることで、薄っすらと汗をかいている。……それが私の舌先に触れる度、下腹部が熱くなっていく。

 覇王モードぱいせんが無かったら、とっくの昔に、えーりんは私の毒牙に掛かり、ぶっ壊れる寸前まで滅茶苦茶にされていただろう。

 

「ひっあぁ、ふぅっくぅぅ、あ、やめ、やめて、れい、む、んっ」

「んっ、れろっ、くちゅ、ぷはっ……反省したか?」

「は、反省した、したから、もぉ許し、て、はぁはぁ」

 

 新薬開発のご褒美も兼ねて。何時もよりもマシマシでお仕置きにプラスしています。

 えーりんは、息も絶え絶えと言った様子で、口の端から涎が溢れ出し、涙目になりながら、時折身体を震わせている。そして、その身体は荒縄で縛られている。……見る人が、見ないでも完全に拉致監禁からの無理矢理パティーンのやつやね。本当にありがとうございました。

 

 取り敢えず、堪能したことだし、永琳の拘束を解く。

 手刀を一閃で、荒縄なんてすぐに切断できるのだよ。……鍛え上げた拳は、やがて鈍器へと変わり、最後には刃へと変わる。何処ぞの眼帯付けた空手家のハゲダンサーが言ってたんだから間違いない。

 

「ふぅ……酷い目に遭ったわ」

「その割には、身体はもっと欲しがっていたようだが?」

「あ、貴女の見間違いよ」

 

 えぇ〜ほんとにござるかぁ〜?

 そう言う割には、物足りなさそうに股を擦り合わせていたり、チラチラと何かを期待している様に、私の方を伺っているみたいでござるが?……ふふふ、このムッツリドスケベナースめ。

 

「ふふふ、お前は本当に愛しいな永琳」

「れ、霊夢」

 

 頬に手を当て顔を近付ける。

 何処か期待したように、目を瞑るえーりん。そのえーりんの唇と私の唇が重なるーー

 

「ふぇーん、何で二人して私を無視して盛り上がってるんですかぁ」

「「ッ!?」」

 

ーー筈もなく。

 

 鈴仙の泣き喚く声に驚いたえーりんは、私からさっさと距離を取る。……その顔は今、自分が何をしようとしていたのか、そんな事を考えていてリンゴのように真っ赤に染まっている。年齢的にはこの幻想郷でもトップレベルなのに、反応が乙女極まりない。えーりん可愛いよえーりん、はぁはぁ。

 

「すまないすまない、今開放してやる」

 

 技のバリエーションが多彩なので、今度は足刀で鈴仙の拘束を断ち切る。

 

「どうして霊夢さんはお師匠様ばっかりに構うんですか……やっぱり胸ですか? お師匠様みたいにバインバインじゃないとダメなんですか? 私だってそこそこあるのに、どうしてなんですかぁ、うぅ」

 

 漸く、診察台から開放された鈴仙は、しかし、その場に蹲って、メソメソとしている。

 

「どうせ、私なんてお師匠様たちと比べたら月とスッポン、それこそ天と地くらいの差があるんですよ。だから霊夢も全然構ってくれないんです。……ふんだ、どうせ私は弄られることしか芸のないウサギですよ」

 

 どうやらあんまりにも蔑ろにしすぎたせいで、すねているようだ。

 誰が見ても、すねてますよーと分かるくらいに暗くどんよりとしたオーラを纏いながら、グチグチと小言を言っている。……一番、面白いのは鈴仙のウサミミが心情を表すように、ショボーンと垂れ下がっているところだ。そのあまりの変わりように、さっきまで誇らしげに揺れていたウサミミと同じ物とは思えない。

 やれやれ、ウサギのお嬢さんはたいそう寂しがりやと見受けられる。此処は淑女(笑)として、彼女の笑顔を取り戻してやらねば。

 

「何をすねているんだ?」

「すねてなんかいません! 霊夢さんはお師匠様とよろしくやってたら良いじゃないですか!」

「お前をほったらかしにしていたのは、悪かったと思っているさ」

「助けてくれた時はカッコイイと思ってたのにぃ、なのにお師匠様といい雰囲気になってるし」

「あれは不可抗力というやつだ。それに、もしも永琳が暴走したままだったら、またお前が危険に晒されるだろう?……それとも、羨ましかったのか?」

「ううう、羨ましくなんかありませんよ! ななな、何言ってるんですか霊夢さんっ!」

 

 動揺しすぎクソワロタ。……この永遠亭はムッツリスケベが多いですな。

 本当は、私とえーりんのやり取りを見てて自分も混ざりたくなったんやろ? 教えを請う位に憧れているえーりんと、この幻想郷でも屈指の美少女である私との絡みに、混ざりたくなったんやろ? サンピーしたかったんやろ? な?

 

「それと鈴仙、お前私に助けを求めていた時に何でもするって言ったな?」

「……あ」

「永琳」

「……何かしら?」

「今晩、鈴仙を博麗神社に連れて帰るが、大丈夫か?」

「別に大丈夫よ。……良かったじゃない鈴仙、思う存分構ってもらえるわよ」

「の、ノォォォウ!」

 

 はい、ウサギ一名、お持ち帰り入りましたー。

 今日の抱き枕は、鈴仙、君に決めた!……私は眠っていても美少女を弄りまくるくらいに手癖が悪いからな。たっぷりと調教してあげよう、ムッフッフッフッ!

 翌日、はしたない格好で乱れに乱れているウサギの姿が、目に浮かぶようだ。楽しみである。

 

「さて、この薬どうしましょうか?」

「お師匠様、本当に作った覚えないんですか?」

「無いわね。……薄っすらとバベルがどうだとか、新世界の幕開けよ! なんて単語が浮かぶだけで詳細は全く分からないわ」

 

 思いの外、覚えていて戦慄している私がいる。

 流石はえーりん、この幻想郷でも最高峰の頭脳を持った美女である。……でも、流石のえーりんも意味不明な単語の羅列では、真相に行き当たることは厳しいようだね。ネットスラングとか、俗語とかには知識ないだろうし。

 

「良ければ、私の方で引き取ろうか? 私なら毒の類は一切効かないし、万が一ということもないだろうしな」

「そう? 貴女がそれで良いならお願いしたいくらいだけど」

「決まりだな、コレは私が責任を持って保管しよう」

 

 霊夢は念願の生える薬をゲットした!

 これで明日からプレイガール日和が始まることになるな! 幻想郷百合ハーレム計画が本格的に動き出すんや!

 さぁて、先ずは万が一にもお薬が壊れてしまわないように、仕舞っちゃいましょうねー。……やっぱり薬を仕舞うなら、胸の谷間やろ。

 机の上に置いてある薬に手を伸ばしーー

 

「このっ! 呪い日本人形めぇぇぇ!」

「うっさい! おばはん白髪頭ぁぁぁ!」

 

ーー目の前で、私の野望の集大成であるお薬が吹き飛んだ。

 

 あのね、いきなりね。天井を突き破って部屋に飛び込んできた二人組がいるんだ。

 名前はね、もこたんとぐーやって言うんだぁ。二人共すっごい美少女なんだよぉ。

 

 もこたんはねぇ、藤原妹紅って名前でねぇ。

 綺麗な白髪のロングヘアーに、深紅の瞳をしていてね。髪には白地に赤が入った大きなリボンを付けててね、毛先を小さい同じような色合いのリボンを複数結んでいるんだぁ。

 服装は、上は水に濡れたら良い具合に透けそうな白いワイシャツに、下は赤いもんぺみたいなズボンをサスペンダーで吊っているんだぁ。各所に貼られている護符がチャームポイントだねぇ。

 気が強くてねぇ、やさぐれてて執念深い性格でねぇ、不良みたいな美少女なんだぁ。不老不死であるせいかねぇ、かなり自虐的な行動が目立つ困ったさんなんだぁ。

 それでも心根は優しくてねぇ、誰かが竹林で迷っていたりしていたらねぇ、人里まで護衛を買って出たり、親しい者にはたけのこなどの山菜を取ってきてあげたりしてくれるのだぁ。本当、良い子だよねぇ。

 不良然としてても根は素直な娘ってねぇ、初な反応してくれるからねぇ、色々とイジり甲斐があるの本当ポイント高いよねぇ。口では反抗的な事言って必死に強がっているのに、身体は正直に反応して、どんどん堕ちていく。……ジュルリ。

 後、おっぱいの形は綺麗に整っているから、見応え有るし、感度も良いから、思ったよりも楽しめる反応を返してくれるのよね。流石は、もこたんだよねぇ。……何で知っているのかってぇ? 異変の時に少々、ね。色々とあったのよ、ね。うぇへへへ。

 

 ぐーやはねぇ、蓬莱山輝夜って名前でねぇ。

 あの有名な、竹取物語に登場するかぐや姫、その人なんだぁ。

 ストレートで腰まで伸ばした黒檀の如き黒髪をしていてねぇ、前髪は眉を覆う程度のぱっつん系なんだぁ。それでねぇ、目の色は日本人特有の黒でねぇ、ぐーやのは黒曜石みたいに吸い込まれてしまいそうなくらい深い色をしてるんだぁ。

 服はねぇ、上はピンクでね、胸元に大きな白いリボンがあしらわれていてねぇ、服の前側を留めているのも小さな白いリボンなんだぁ。それでねぇ、袖が長くってねぇ手を隠すくらい長くってねぇ、左袖には月とそれを隠すような雲、右袖には月と山のようなモノが、黄色で描かれているんだぁ。後、ピンク色の服の下には、白い服をもう一枚着ているみたいだねぇ。

 そして、下はねぇ、赤い生地に月、桜、竹、紅葉、梅みたいに、ザ・日本を連想させる色んな模様が、金色で描かれているスカートを履いていてねぇ、その下には白いスカートを履いてねぇ、更にその下には半透明のスカートを重ねて履いているんだぁ。スカートは非常に長く、地面に着いてなお横に広がるほどなんだよぉ……露出度少ないねぇ、悲しいねぇ。でも、脱がす楽しみは有るねぇ、ねぇ。

 月に住んでいた時から、我儘放題の箱入り娘として育てられていたらしくてねぇ、天然気味で少し世間知らずなところあってなぁ。

 性格は人見知りせず天真爛漫で、好奇心旺盛なんだぁ。……その好奇心を是非ともアッチ方面に向けて欲しいものだよねぇ。「霊夢! このピンク色のブルブル震えているの何?」みたいな感じでねぇ、うぇへへへぇ。

 

 二人共、喧嘩ばっかりしてて、いっつもこうしていがみ合いを続けているのよねぇ。……まぁ、喧嘩というよりもじゃれ合ってるって感じが強いかもしれない。喧嘩するほど仲が良いとも言うしねぇ、アハハハハハッ!

 もぉ、二人共やんちゃなんだから、アハハハハハッ!……はい、ぎるてぃ、ぎるてぃ。

 

「いっつもいっつも邪魔をして! 一体、私に何の恨みがあるんだよ! 折角、霊夢と一緒にご飯でもって思ってたけのこ集めてたのに!」

「別に良いじゃないの! 退屈だったのよ! 後、霊夢は、私の暇潰しに付き合わせるのよ! 田舎臭い炊き込み女は引き下がりなさい!」

「このぐーたら女!」

「何を! この時代遅れ!」

「「やるかッ!」」

 

ーーガシッ!

 

「「邪魔しないでよっ!……ひぃぃぃ!?」」

 

 言い争う二人の頭を引っ掴む。

 多分だけど、私はとっても笑顔になっているんだろうなって思う。……ほら、昔から言うじゃん? 笑顔って威嚇の意味合いも含んでいるって。

 

「互いの主張を通すために争い、勝敗を決めんとする。それは構わん。誰もがそうして己の主張を通してきた……だがな」

「あ、あのっれれれ、れい、む?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 何やら言い訳をしようとするもこたんと、壊れたゼンマイ玩具のようにごめんなさいを連呼するぐーや。……ごめんね、いくら美少女の頼みでも今回ばかりはどんなに言い訳しても、どんなに謝っても決して許さない。許してあげない。

 

「そ こ に 直 れ ぃ ッ ッ ッ !」

「「は、はいぃぃぃ!」」

 

 俊敏な動きで、その場に正座するもこたんとぐーや。

 おやおや、どうしてそんなに顔を青褪めてガタガタと震えているんだい?

 私はね、楽しみにしていたんだよ。この日をね、漸く念願かなってオニューのバベルを手に入れることが出来ると思っていたんだ。そうすれば、女体の神秘も暴きに暴けるだろうし、お仕置きの幅も広がって、とても気持ちよくて楽しい事になるんじゃないかって確信にも似た予感を感じていたんだよ。

 それが台無しにされてしまった。……私が今抱いている思いは一つだけ、たった一つのシンプルな思いだ。

 

「人様の迷惑にならんところでやれぃッッッ!」

 

 お前たちは私を怒らせた。……私のこの怒りが鎮火するまで、今夜は寝かせないぞ(はーと)。

 

 それから翌日に及ぶまでの長い時間、竹林の方から若い女の断末魔にも似た嬌声が鳴り響く事になる。

 もこたん、ぐーや……それと、巻き込まれた鈴仙。三人の快楽に悶え苦しむ声が延々と永遠亭に木霊したという。

 

 翌日の朝、様子を見に来たえーりんが目にしたのは変わり果てた三人の姿。

 全身を自分自身の体液で汚し、まるで襲われた後のようにハイライトが消え去った目で、快楽の余韻に身を震わせる変わり果てた三人の姿だったという。

 

 私? 私は満足したから普通に家に帰ったよ。

 バベルの件は残念な結果になったけど、よくよく考えてみたら、代用出来そうな技とか作れば問題ないだろうしね。……肉体変化、マツタケッ! みたいな?

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 永遠亭の薬師、八意永琳にとって、幻想郷の守護者、博麗神社の巫女、博麗霊夢は興味深い研究対象である。

 人間でありながら、種族的なハンデをものともせず、妖怪を叩き潰し、こちらの予想を遥かに越えるような常識破りの事をしでかす規格外の存在。

 

 ハッキリ言おう、永琳はこの巫女に、同性であるこの巫女に恋愛感情にも似た強い感情を抱いている。

 

 初めての出会いは異変の時。

 自分達が起こした永夜異変の時に初めて、この巫女と出会った。

 

 最初は何の関心もなかった。

 自分達の計画を邪魔する、ただの敵。自分達の計画を妨げる不確定要素の一人。それだけだった。

 

 次に感じたのは恐怖だ。

 様々な策を講じて、敵対している妖怪たちを封じ込み、非力である人間の巫女だけを孤立させた。

 後は煮るなり焼くなりどうとでもなる。計画が終わるまで苦労して作り出した結界の中に閉じ込めておこう、そう考え……その思い上がりを、正面から粉々に打ち砕かれた。

 ただの霊力を込めた拳の一振りで、結界を粉砕され、妖怪達を封じていた術を力業で無理矢理解除された。

 何だ、この人間は、いや、本当に人間なのか? 妖怪か? 神か? 少なくともその時の永琳にとってはそれらをも容易く凌駕する怪物に見えて仕方なかった。 

 

 そして、最後に感じたのは困惑と熱を孕んだ興味。

 この永遠亭では半ば恒例行事のように、永琳が仕えている主である蓬莱山輝夜と、その輝夜に浅くない因縁を持っている藤原妹紅による殺し合いが行われている。

 殺し合いと言っても、二人とも不老不死であるため、死ぬわけではないのだが……

 永夜異変の真っ最中、永琳が計画を進めている間も、輝夜と妹紅による殺し合いが行われていた。

 輝夜の放つ霊力の弾丸が、竹林を吹き飛ばし、地上を穴だらけにする。

 妹紅の放った炎が、竹林を焼き払い、大地を焦がす。

 互いの敵の事しか見えていない二人は、永琳を巻き込んで殺し合いを続けた。

 疲弊していない永琳ならば対処も出来ただろうが、彼女は強大な力を秘めた妖怪達を封じるために、力を大幅に磨り減らしていた。

 その挙げ句に、規格外の存在が現れ、どうにか足止めしようと更に力を磨り減らしていたのだ。

 殺し合いの渦中に放り込まれた永琳は、弾幕の雨に、嵐のような炎に晒される事になった。

 永琳も不老不死だ。どれだけ致命傷を与えられようと、例え細切れにされたとしても、肉体を再構成して復活する不老不死だ。

 だが、不老不死と言えど痛みは感じる。死なないと言っても痛みは感じるのだ。

 永琳は長い年月を生きてきた。今さら痛みに泣き叫ぶような柔な神経は持ってはいない。

 もう慣れたと、目を閉じ……しかし、一向に訪れる筈の痛みがやってこない。

 目を開き……驚愕した。

 

 自身の前に敵対者である筈の巫女が立っていたのだ。

 無数に飛び交う弾幕を、拳で打ち砕き。迫り来る炎を蹴りの一振りでかき消す。

 一切の迷いなく行われるその行為に、心の底から困惑した。

 何故、敵対者である自分を庇ってくれているのか。そのわけが理解できなかった。

 

「どうして? 敵である私を、どうして庇ったの?」

「異変が解決したら個人的に頼みたいことがあってな、その時のために借りを作っておきたかった」

 

 確かその時だ。

 真剣な表情でそんな事を言ってのけた巫女の姿に、強い興味を抱いたのは。

 

 その後はトントン拍子に状況が進んでいった。

 巫女……霊夢はその圧倒的な実力で以て、易々と輝夜と妹紅を鎮圧し、

 異変の要である術式をも破壊せしめた。……それなりに長い時間を掛けて作り出した最高傑作が呆気なく。

 

 此処まで来ると如何に天才であっても、どうにでもなれ、と半ば投げやりな気分にもなってしまう。

 

「さて、異変も解決したことだし、罪の精算……お仕置きの時間だな」

 

 そして、そんな時に霊夢の手によって行われた、お仕置きという、恐ろしい拷問の数々。

 逃げようとする動きを力任せに抑え込み、無理矢理、服を剥ぎ取られ、股を開かされ、頭が可笑しくなってしまいそうな快楽を強制的に味わわされた。

 敵対していた霊夢に身体を見られている、触られている、好き勝手にされている、という恥辱、屈辱、怒り。

 様々な感情が己の中で渦巻き、矢継ぎ早に注ぎ込まれる快楽が思考を真っ白に染め上げる。

 抵抗なんて出来なかった。……しても無駄だと分からされたから。

 拒絶なんて出来なかった。……この身体が、霊夢の手によって快楽を教え込まれてしまったから。

 最後には求めることしか出来なかった。……何故なら。

 

「ああ、綺麗だよ。永琳」

 

 どうしようもなく愛しい存在を見るように、柔らかな微笑みを浮かべている霊夢の姿が、心を掴んで離してくれなかったから。

 あれはダメだ。一度魅入られてしまったら、死ぬまで心に残り続ける。……まるで呪いと同じだ。

 最早、永琳は博麗の魅力に飲まれてしまった。……もう、どう足掻いても抜け出せない。

 恐らく、自分だけではない、と永琳は確信した。

 あの場で同じようにお仕置きされていた、てゐ、鈴仙、輝夜、妹紅も自分と同じように、霊夢に骨抜きにされてしまっただろう、という確信があった。

 

ーー無から始まり

 

ーー次いで恐怖

 

ーーやがて、恐怖は興味へ変じ

 

ーー最後の最後に沈み込む

 

 故に永琳は、霊夢をこう評するのだ。

 悪魔のような魔性の女、と。

 悪魔は古来、人を堕落させる存在として伝えられている。

 霊夢もまた、その圧倒的な力と、その心根からくる優しさ、お仕置きの時の意地悪な性格から、人を……特に女をドロドロに溶かし、愛欲の底へと引きずり込んでいく。

 一度、捕まってしまったら最後、絶対に逃がしてはくれない底無し沼のように。

 

 だからもう、永琳は逃れられない。いや、逃れる気すらも湧いてこない。

 何故なら永琳も、霊夢という底無し沼に溺れてしまった、恋する乙女の一人でしかないのだから……。

 

「はぁ、はぁ、霊夢……んっ」

 

 竹林の名医は溺れゆく、巫女の魅力に囚われて、愛欲の底に沈みゆく。

 




かくたの!

本日は、そこそこ狙って描写してみました。……アウトじゃないよね? ね?

取り敢えず、次回の更新は、前で予告したのもあり、連投……と言いたいんですけど、まだ修正が進んでいないので、明々後日の火曜日にしたいと考えています。
こ、今回のお話し、そこそこ長めだから許してくれ。
春巻きさん、最近睡眠不足やから本当、ギリギリやねん。

出来るだけ投稿日守れるように執筆してるけど、こればっかりはね。ごめんね。

感想とかいっぱい下さると春巻きの春巻きが春巻きして春巻きして、励みになるので、どうぞよろしくお願いしますね!
おすすめの何かや、逆に春巻きさんへのちょっとした質問も含んでくれても大丈夫でっせ……勿論、ハーメルンのガイドラインは守ってな、どやされたくないし。

そんじゃ、長ったらしい後書きは此処ら辺までにしておきましょうかね。
ではでは、皆さん、次回の更新まで、またのぉー


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巫女、戦い【前】

長らく待たせたが、再び諸君らと相まみえることが出来たこの奇跡に深い感謝を。

どうも、春巻きです。
何やかんや忙しく、その上、戦闘描写とか書くのすっげぇめんどkげふんげふん! 難しかったから時間掛かってしまった。
でもでも、それなりには上手く書けているんじゃないか? って、自画自賛してみる春巻きなのでした。

はいはい、下らない前口上はこの辺で、本編をどうぞお楽しみ下さい!


 こちら博麗の巫女、こちら博麗の巫女、本日は晴天なり、本日は晴天なり。

 いやー今日もお日様が気持ちいい、最高に快適な一日が始まりやがりましたなー。博麗神社の縁側で、お茶を啜りつつ、しみじみとそう思う。

 こんな日は、美女、美少女を鑑賞するに限る。陽光を浴び、より一層、その愛らしさと美しさを輝かせる彼女達をじっくりと鑑賞するに限りますわ。

 太陽の光と、輝く彼女たちの笑顔のコントラスト、その肢体を光が照らし、場合によっては中身が透けて見える可能性もあるやもしれん。……うん、心が踊るね。思い描いただけで、お茶が更に美味しくなったよ。ウマァー

 

「ーーむ! 霊夢! はぁ、話を聞いているのか?」

 

 私の眼前にも美女が一人。

 彼女の名前は上白沢(かみしらさわ)慧音(けいね)……皆ご存知、けーね先生である。

 腰ほどまで伸びた、青いメッシュ入りの銀の髪。瞳の色は赤。

 頭頂部には赤いリボン、更にその上に六面体と三角錐の間に板を挟んだような形の青い帽子を乗せ、帽子には赤い文字のような面妖な模様が描かれている。

 衣服の方は胸元が大きく開き、上下が一体になっている青い服。……エロ教師め、良いぞもっとやれ。

 袖は短く白で、襟は半円をいくつか組み合わせており、それを更に白が縁取っている。胸元には赤いリボンをつけ、下半身の長いスカート部分には幾重にも重なった白のレースが付けられている。……何でそこで露出減らしたし。

 性格は面倒見がよくて、生真面目なお人好し。困っている人がいたら助けずにいられない良い娘。しかし、思い込みが激しくて、何かと物事を決めつけて行動しがちな欠点がある。……この思い込みで、永夜異変の時に私を説教した事は絶対に許しはしない。いつか絶対に【不適切な表現があります】してやる。ぐへへへっ!

 能力は『歴史を食べる程度の能力』。特定の物事の歴史を消して「なかったこと」にする力である。歴史を食べられた物事は外部から認識できなくなる、というもの。慧音は真面目だから、人里が妖怪に襲われないように、隠蔽したりすることに使っている。……簡単に言うならば、もしも私が存在していた、という歴史を消すことが出来たら、私の姿が誰にも認識できなくなり、好き放題出来るということだ。

 慧音の力を大きく超えている、高位の妖怪なんかには、歴史の隠蔽は効かないから、ゆかりんなんかにはすぐに見破られちゃうんだけどね。

 そして、満月を見ると、角が生え、髪の色が青いメッシュの銀から、緑メッシュの銀へと変化し、獅子のような尻尾がニョキニョキにょっと生えてくる。……ああ、きもけーね可愛い、可愛いよ。その角をペロペロしたり、挟んだりしたいよぉ。尻尾をモフモフしたいよぉ。

 その姿の時の力は、人間時の比ではなく、強靭な肉体に、幻想郷中の全ての歴史を知り、『歴史を創る程度の能力』という力を使うことが出来るようになる。

 歴史を創る。それは自身にとって都合の良い歴史を編纂する能力である。歴史から自分にとって都合の悪い事実を消し去ったり、自分にとって都合の良い出来事を捏造して歴史にできるのだ。

 例えば、幻想郷の美少女は博麗の巫女のものにならなければならない、なんて歴史を捏造することも可能だ。

 残念ながら、歴史を編纂するだけで人の認識まで変えたりとかは出来ないため、改ざんされた歴史を知る者には、それが改ざんされた歴史であると、バレてしまう。

 さっき例えで出した、私ハーレムな歴史で言うならば、代々博麗の巫女に関わっていたゆかりんや、その従者達ならば、そんな歴史は存在しなかった筈だ、と気付けるのである。……何事もうまい話は無いね。

 

 そんな慧音が、私怒ってます! って雰囲気を醸し出しながら、腰に手を当てて、頬を膨らませている。……けーねせんせーが可愛すぎて、私の胸がドキのムネムネしてる。

 いやーすまない、幻想郷の美女、美少女たちに思いを馳せていたら、少しばかり意識がどっかにお散歩していたみたいだ。今だけはけーねせんせーの事しか考えないから許して、はぁはぁ。

 

「聞いているとも、慧音。チルノ達と模擬戦をすれば良いんだろう?」

「聞いているなら、反応を返してくれ。……寂しいだろう」

「……邪ァッッッ!」

 

ーーゴッスンッ!

 

「霊夢っ!?」

 

 ごめん、今本能のままに襲い掛かりそうだったから、顔面パンチで無理矢理抑えたわ。

 覇王モードぱいせんが仕事できない勢いで、けーねせんせー襲おうとしてたわ。きもけーねならぬ、きもれーむが爆誕して、ワーハクタクのハクタクを美味しく頂くところだった。けーねせんせーとけだものセッ【規制】するところだった、危ない危ない。

 

「れ、霊夢? 大丈夫、なのか?」

「大丈夫だ問題ない。ちょっと居眠りしている小町が見えた気がしたが、何も問題はない」

「それ、一回死んでないか?」

 

 問題ないんやで。ちょっと額が割れて出血してるけど見た目ほど、酷くはないんやで。大量に肉食ってワインでも飲んでいたらすぐに塞がるし。……ハハッ、私、テラアンチェイン。

 

「それで、いつやるんだ? 私はいつでも大丈夫だが……」

「……今から頼めるか? チルノを筆頭に問題児たちが騒ぎ出していてな、そろそろ我慢できなくなってーー」

「霊夢ぅぅぅ! あたいと勝負しろぉぉぉ!」

「ご飯だぁぁぁ!」

「ひゃぁぁぁ!?」

「ーー襲撃してくる」

 

 お、親方! 空からおんにゃのこが!

 慧音が言い終わる前に、青と水色の影、黄と黒色の影、そして、その影に引っ張られている緑と青色の影が、私目掛けて突っ込んでくる。……やれやれ。

 

「……馬鹿者共め」

「はぐぅ!?」

「ふげぇ!?」

 

 無謀にも私に突っ込んできた三つの影のうち、青と水色、黄と黒の影を、その頭を引っ掴まえて衝撃ごと無理矢理力で押さえ込む。

 抑え込んだ際、お仕置きの意味も込めて、最小限にした衝撃が二人に行くように調整した。……本当に最小限だよ? デコピンくらいの痛さに抑えてるんやで?(霊夢基準)。

 

「あ、頭がいたぁぁぁい!?」

「ふぇあぁぁぁっ!?」

 

 頭を抑えてゴロゴロとその場で転がっている青と水色の少女がチルノちゃん。

 髪は薄い水色で、ウェーブがかったセミショートヘアーに、青い瞳。背中には氷で出来た六枚の羽を持っている。

 頭には青色のリボンを付けており、服装は白いシャツの上に青いワンピースを身に着け、ワンピースにはスカートの縁に白のギザギザ模様が入っている。また首元には赤いリボンが巻かれており、足は水色のストラップシューズを履いている。

 子供っぽくて悪戯好き。頭はあまり良くないが、その代わりにおバカ故の行動力は全く予想がつかない。良くも悪くも天真爛漫で、人懐っこいため、基本的に誰にも物怖じせずに接することが出来る稀有な存在である。

 霧の湖に住まう妖精で、年がら年中その身体から冷気を溢れ出させている。そのためか、チルノちゃんの周りは冷っこい。夏場の抱き枕にぴったりの冷っこさである。我が博麗神社では、冷房の代わりにチルノちゃんを常在させる事で、快適な夏の一時を満喫している。……その間はチルノちゃんを拉致監禁、もとい餌付けして、一ヶ月近く博麗神社に閉じ込めているのは、此処だけの話である。

 能力は『冷気を操る程度の能力』で、自分の周囲の冷気を自由に操ることが出来る。下げる温度に限界は無く、瞬時に物体を凍りつかせることも出来るため、それなりに強力な力だ。使う本人が全然自分の力を理解できていないから、本領を発揮することはあんまりない。……私が彼女の能力をゲットしていたならば、火照った身体を冷やすのに使うね。私、熱持ちやすいし。

 

 妖精二人の横で、涙目で額を抑えている黒い少女がルーミアちゃん。

 髪は黄色のショートボブで、赤い目を持った幼い少女の姿をしている。……ほんと、幻想郷、幼女、多い、好きぃ。

 服装は、上は白の長袖ワイシャツに、その上に黒い服を身に着けている。そして、下は黒のロングスカートを身に着けている。

 頭には左の側の側頭部に赤いリボンの様な、お札が付いている。

 このお札はルーミアちゃん本人では取ることが出来ず、誰が何のために付けたのかは分からない。……私の目には、ルーミアちゃんの力を縛っている様に見えるため、何かしらの封印的な役割を果たしている、と考えている。

 かなり強力な封印で、そのせいかルーミアちゃんは中級妖怪程度の力しか出せなくなっている様子だ。……もしも解除したならば、その実力は私がそれなりに本気にならないと危ないレベルまで、一気に上昇するだろうね。

 性格は幼くて単純、容姿そのままに子供みたいに自分の気の赴くままに行動する。目的意識なんてものは一切なく、その辺をフラフラと浮遊している姿が度々目撃されている。

 後、食べることが好きで、食事を求めて頻繁に博麗神社に訪れる。

 いくらでも食べさせてあげるから、脱げよ、オラ。……最近、一品ごとに服が一枚無くなっていく遊びを教え込んだ。単純な娘って、扱いやすくって興h……心配になるよね。

 能力は『闇を操る程度の能力』で、文字通り闇を操ることが出来る。自分から闇を作り出すことも出来るが、基本的には夜など、光が少ない場所で本領を発揮する能力である。闇に物体を捕食させたり、自身の姿を闇で覆い隠したり、と闇は決まった形がない不定形であるため、自由度が高い。ゲームなんかでもラスボスクラスの敵が使う能力であるため、使いこなせたら一気に最強クラスに成長できるだろう。……私が闇を操れるなら、闇に紛れて少女を襲う。そして、じっくりと捕食(意味深)する。ジュルリ。

 

 二人共、私のお仕置が相当痛かったのか、まだ立ち上がれていない。……くぁいいねぇ(クズの極み)。

 何か厳しくね? って思うだろうけど、コレばっかりは仕方ないよね。私、一応はこの娘達を指導する立場ですし、お寿司。この娘達の成長のために、断腸の思いで、厳しくしているのだよ(建前)。

 決して、痛みに涙目で震えて、悶えている美幼女の姿に興奮なんてしていない、していないったらしていない。……ところで、席を外しても良いかね? ちょっと下着だけ着替えたいんだ(大洪水)。

 

「えっ!? えっ!?」

 

 そして、最後に残った緑と青色の影……大ちゃんを優しく抱き止め、そのままお膝の上に不時着させる。

 何が起きたのか理解できていない様子で、頭に疑問符を浮かべて忙しなく周囲を見回している姿に思わず、心のマーラ様がもっこり、もといほっこりしている。

 緑色の髪を、左側頭部でサイドテールにし、黄色のリボンで結んでおり、髪の色と同じ緑の瞳をしている。

 服は白のシャツに青いワンピースを身に着け、首には黄色いリボンを付けている。更には、その背中からは虫とも鳥ともつかない、縁のついた一対の羽が生えている。

 大ちゃん……大妖精は、妖精でありながら見識が高く人間並みの知力があり、その幼い見た目に似合わず大人びた考えを持っている。そのため、妖精達の中では保護者的な立場に置かれることも少なくないが、押しに弱いため、こうして他の妖精たちに押し切られて騒動に巻き込まれることもしばしば。

 基本的に良い娘で、悪い事はあんまり出来ないので、こうして一人だけお仕置き対象から外したのである。

 決して、大ちゃんの小さくて可愛らしいお尻の感触をこの膝で味わいたいとか、そんな下劣でイヤらしい事は一切考えていない。

 逃げられないように、お腹に手を回している上に、お腹をさすさすしてるけど、別に手触り良いとか、どうせなら上のお胸大ちゃんを揉み解したいとか、そんな某脳まみれの邪な考えなんて一切抱いていない。

 私、淑女ですから、ね?

 

「れ、霊夢さん?」

「ふふふ、大ちゃんは良い娘だな」

「ふぇぇぇ」

 

 気分はムツ○ロウさん。

 これでもかと頭をナデナデしつつ、愛情と恋情と元気と情熱と友情と希望と勇気とほんの少しの劣情を込めて、壊れない程度に力いっぱい抱きしめる。

 これまでの人生、私がこうすることで、喜ばぬ美少女はいなかった。

 現に見よ、大妖精の表情を、顔を真っ赤にしつつ、照れたように目をしきりにあちらこちらへと巡らせ、指をもじもじと動かしている。身体を密着させていることで、彼女の心臓の早鐘を打ったような心臓の鼓動もしっかりと伝わっているから間違いないね。……何処ぞのアゴ()とは格が違うのだよ、格が。

 はいはい、存分に撫で終わったことですし、お膝から下ろしましょうねー……ちょっとだけ残念そうにしている大ちゃん、可愛い。持ち帰りたい、あ、ここ私の家だ。

 

「全く、襲撃するならせめて声は出すな。声を出すのは二流、三流のすることだからな。……その点では、お前たちは優秀だな、サニー、ルナ、スター」

「あ、やっぱりバレてた」

「まぁ、そう上手くは行かないか」

「流石は霊夢、隙が全然ないわ」

 

 私の声に応え、背後より三つの影がその姿を表す。

 三人の少女だ。それぞれ赤、黄色、青を強調させた服を着込んでいる。名前を、赤がサニーミルク、黄色がルナチャイルド、青がスターサファイア。

 三人合わせて光の三妖精と評される妖精トリオ。それぞれが太陽光、月の光、星の光を司るという妖精であり、いつも三人で行動するほどに仲が良い。

 

 サニーミルクは日の光の妖精。

 オレンジのかかった金髪のセミロング。そして、その両側を赤いリボンで二房のツーサイドアップで括っている。瞳の色は青。背中には笹の葉っぱにも似た四枚の羽があり、チャーミングポイントは、無邪気で可愛らしい印象を強調させる八重歯である。……正直、萌える。

 服装は袖の大きな長袖ブラウスと赤のロングスカートを身に着け、頭の上には白のヘッドドレス、首元には黄色いリボンを巻いて、腰の方に赤い腰巻を着けている。

 日光を司る妖精だからなのか、表情豊かで明るい元気な娘。妖精らしく悪戯好きで、私を始めとした色んな人物に様々な悪戯を仕掛けている。

 悪戯と言っても、背後から背中をツンツンして、振り返ってもそこには誰もいませんよ? などというとても可愛らしいレベルの悪戯なので、害は全くない。

 私としては、サニーちゃんには、もう少しレベルを上げて貰って、大人の悪戯を所望したいところである。……本音を言えば、むしろ私が悪戯したい。悪戯したい、したいッ(真顔)。

 能力は『光の屈折を操る程度の能力』で、この力により、光を屈折させて自分の姿を隠したり、軽い幻を見せたりする事が出来る。……もしも私が彼女の能力を手に入れることが出来たなら、透明になって幻想郷中の美少女という美少女にあんなことやこんなことを白昼堂々から出来るのにね。誠に残念である。

 

 ルナチャイルドは月の光の妖精。

 亜麻色に近い金髪のくるくる縦ロールに、赤い瞳をしており、背中には上方に反り返った三日月型の羽が生えている。何よりも特徴的なのが、その栗みたいな口である。その造形から、我々、紳士淑女一同からは親しみと抑えきれない欲望を込めて「栗みたいな口しやがって」と呼ばれる。……何度あの口に突っ込んでみたいと、考えたことやら。

 何よりも、何よりも彼女の特徴だと言えるのが、そのジト目! ジ ト 目! Hooooo!……是非ともその目で見て罵倒して欲しい。「このっ変態っ!」って、涙を滲ませたジト目で罵倒して欲しい。

 服装は、白地に黒いリボンをふんだんにあしらったシックな装いのワンピースで、靴はスリッパのような物を履いている。……そんな靴を履いているからなのか、頻繁に転んだりする。可愛い。

  妖精らしく悪戯好きで子供っぽいが、サニーちゃんやスターちゃんに比べるとどことなく慎重な性格で、ツッコミ役に回ることが多い。

 三妖精の中で最も知的好奇心に溢れていて、妖精なのに新聞や本を好んで読んでいる。読書用の眼鏡まで持っているのだから筋金入りだろう。……金髪縦ロールジト目メガネ属性とか、最高やろ。

 コーヒーやふきのとう味噌などの苦みのあるものが好きで、ぬいぐるみや人形などの人工物を拾ったりと、普通の妖精とは明らかに違っている、ずれた部分がある。

 能力は『周りの音を消す程度の能力』で、読んで字の如く、自分の周囲の音を消すことが出来る。悪戯に最適な能力であり、誰かから隠れたり逃げたりする時にも重宝する。ルナちゃんはその能力での静かな悪戯(サイレントトリック)を得意としており、彼女の能力の餌食になった者は数知れず。また、消す音の範囲を自由に操ることが出来るため、誰かから隠れつつ仲間と悪戯の相談をしたりも出来る。……もしも私に彼女の能力があったなら、人気の無いところに美少女を引きずり込んで、真っ昼間から嬌声を上げさsげふんっげふんっ。

 

 スターサファイアは星の光の妖精。

 さらさらしている腰まである黒髪ロングの前髪ぱっつんヘアー、目はタレ気味で、瞳は黒。背中からはアゲハ蝶のような大きな羽が生えている。

 服装は青色のドレスを身にまとい、頭には青いリボンが着けられている。

 外見だけ見るならば、かなり清純な印象で、古き良き日本の少女と、言わんばかりであるが。妖精なので、その本質は悪戯好きで子供っぽく、サニーちゃんやルナちゃんとどっこいどっこい。

 他の二人と比べると、したたかな一面があり、機転もあるため、何度か私のお仕置きから逃れた経験もあったりする。……まぁ一回逃げられた程度で私が諦めるわけもなく、後日改めて割増でお仕置きをしてあげた。

 その能力は『動く物の気配を探る程度の能力』で、レーダーの様に、自分の周囲の生物の存在を探る事が出来る。……ぶっちゃけ、私の探査回路と似たような能力だ。

 私直々に能力を鍛え上げるのに手を貸したせいか、こと回避能力に関して言えば、この幻想郷でもトップレベルの技量を持つに至った。……自分に近づいてくる存在を感知して、ほぼ条件反射の域で回避する。ただそれだけであるが、単純であるが故にその技量の高さが際立つ。この私でもそれなりに真面目にしないと捉える事は出来ない。……まぁ、逃さないんだけどね?

 

 三人共、博麗神社の裏にある大木に住んでいて、ちょくちょく遊びに来る。

 毎度毎度飽きもせずに、私に悪戯を仕掛けようとあの手この手で頑張っているのだ。……今の所は、私の全戦全勝であるが、最近になってからは、徐々に怪しくなってきた。

 段々と能力の練度が上がってきたのか、最初は肉眼でも違和感を感じていたサニーちゃんの透明化も自然になってきたし、ルナちゃんの音消しも、乙女の秘密を知るために鍛え上げた私の聴力を持ってしても、最早何も聴き取ることが出来ない。スターちゃんに至っては、私が行動する前の一瞬の意思までも感じ取れるようになったのか、悪戯実行、撤退への判断力が的確になってきた。……流石の私でも油断していたら、隙を突かれてしまうかもしれない程だ。

 私の知る中でも、最も成長率の高い少女たちである。流石に妖精故に素の力は小さいが、三人で協力すれば自分よりも強大な大妖怪クラスの存在とでも渡り合えると予想している。

 

「慧音、これで全員か?」

「いや、それがな……」

 

 少し言い淀む慧音。……えぇーまだ増えるんでござるかぁ?

 まぁでもぉ? 私ってば最強、さ い き ょ う ですしぃ? どれだけ数を揃えようと関係なく相手できますしぃ? 何なら、幻想郷中の美少女が相手でも一向に構いませんしぃ?

 それに沢山美少女が増えると、私、とても嬉しい気持ちで一杯になっちゃいますしね。……弾幕を躱す度に翻るスカート、そこから垣間見える色とりどりの魅力的な三角形。風に靡く髪、僅かに香る少女たちの芳しき体臭、少女たちの美しい肢体が宙を舞い、それにともない揺れる胸。勿論、揺れないものもあるが、それはそれで素晴らしい物がある。ええ、本当に最高だと思いますよ。ゴチになります。

 

「邪魔するよ」

「お邪魔しまーす!」

「霊夢さん、お邪魔しますね!」

 

 返答を待たず、博麗神社に入ってきたのは、三人の女性。

 注連縄を背負った美女、目玉が付いている謎の帽子を被った幼女、どこか私に似ている巫女服を身に付けた少女である。

 三人合わせて守矢一家。ごく最近、この幻想郷に外の世界から引っ越してきた。

 外の世界での信仰が無くなり、この幻想郷に避難してきた。そのため、信仰を獲得するために日夜奮闘している。

 一回、信仰を欲するあまり、家の神社の譲渡やら、営業停止やらを要求してきたけど、ね? いくら美女や美少女、美幼女の願いでも、ね?……取り敢えず、三人共大変眼福でした。ありがとうございますね。あの時の幸せな光景は、永久に私の脳内にて奉らせて貰いますね。やったね! 神奈子ちゃん! 信仰獲得できたよ!

 

 神奈子ちゃんは、フルネームを八坂神奈子。

 髪の色は紫で、サイドが左右に広がった、非常にボリューミーなセミロング。瞳は茶色に近い赤眼。そして背中に、複数の紙垂を取り付けた、大きな注連縄を輪っか状にしたものを装着している。

 服装は、全体的に赤いシルエットをしており、上着は赤色の半袖、袖口は金属の留め具で留めている。上着の下には、白色のゆったりした長袖の服を着用しており、小さな注連縄が首元、白い長袖上着の袖、腰回り、足首、とあちこちに巻かれている。

 スカートは、臙脂色のロングスカートで、裾は赤色に分かれ、梅の花のような模様が描かれている。 足は、裸足に草履を履いている。……顕になっているお御足が大変色っぽくてね。正直舐め回したいわ。

 胸には黒い鏡……真澄(ます)の鏡と呼ばれる諏訪大社の宝物。頭には冠のようにした注連縄を頭に付け、右側には、赤い楓と銀杏の葉の飾りが付いているのが特徴的だ。

 ただでさえ豪奢な見た目なのに、戦闘時には、四本の御柱までも装備する。……それで何故あんなに動き回れるのか理解に苦しむ、ええい! 諏訪大社の風神は化物か!

 性格は基本的にフランクで堅苦しい雰囲気はあまり好まない。お祭り大好きで、博麗神社で開催されている宴会には毎回と言っても良い程に参加している。

 だけど、締めるところではきちんと締めるので、その際には神らしく、威厳たっぷりの口調に変わったりする。

 後、本人に自覚有るのかは分からないけど、隠れドMである。お仕置きの際に、一番悦んで、欲しがっていたからから間違いない。

 能力は『(けん)を創造する程度の能力』で、乾……すなわち『天』を自由自在に創り操ることが出来る。風神様とさえ称される神奈子ちゃんのその能力は平たく言えば天候操作である。雨だろうと、風だろうと、雷だろうと自由自在に生み出し、操作する絶大な力を行使できる。 

 大自然である天候を操るその力、まさに神のみに許された能力と言える。……能力をフル活用し始めたら、近づくことは難しいだろう。

 

 諏訪子ちゃんは、フルネームを洩矢諏訪子。

 金髪のショートボブ。瞳の色は基本的には水色であるが、興奮すると黄金に輝く。見た目は完全にロリであるが、言葉の言い回しや、行動の節々から年季と確かな威厳を感じさせるため、対面した者に下に見られることはない。……初対面で強烈なハグをかました私のセリフじゃないけどね。

 服装は青と白を基調とした、壺装束と呼ばれる女性の外出時の格好をしている。更に、足には白のニーソックスを履いており、その頭にはまるで蛙の様に二つの目玉が付いた特殊な帽子を被っている。また服の各所には鳥獣戯画の蛙が描かれている。

 普段は温厚かつお気楽な雰囲気で、行動もどことなく見た目相応で子供っぽいが、惚けることが結構多く、何を考えているのかその心中を窺い知ることは難しい。

 先に述べた通りに日本の古き神であり、語るも恐ろしい祟り神、その元締めで、土着神の頂点に君臨する最強クラスの神格である。……暗黒ロリとか言ってはいけない。萌えるけども。

 同じ守矢神社で祀られている神奈子ちゃんとは大の仲良しで、「ケンカするほど仲が良い」関係である。二人で悪ふざけして早苗を困らせたりしている光景はデフォである。

 実は早苗の祖先であるため、早苗を猫可愛がりしている。……端から見ると、お姉さんに構ってもらいたい妹の図にしか見えない。おいおい、可愛いな土着神。

 守矢神社に訪れたら、必ずと言っても良いくらいに突撃してくるので、私のお膝の上は常に彼女で塞がっていたりする。……神様の威厳は何処?

 能力は『(こん)を創造する程度の能力』で、坤……つまり大地を生み出し、操る力である。

 岩石、土、水、マグマなどを無から創造、操作などはお茶の子さいさいでやってのけ、生命の創造すらやってのける絶大な力を持っている。この幻想郷広しと言えども、生命の創造などという規格外の力を使えるのは諏訪子ちゃんだけだろう。

 私でも一人で生命創造するのは無理だ。二人なら出来るかもだけども。……やっぱめしべとめしべでは無理かな?

 

 早苗は、フルネームを東風谷早苗。

 胸のところまで伸ばされた緑のロングヘアー、その髪の左側を一房髪留めでまとめて、前の方に垂らしている。瞳の色は髪よりも濃ゆい深緑。年齢の割りに発育が良く。たわわに実った美味しそうな果実が二つ、その胸にある。……吸いてぇ(真顔)。

 白地に青の縁取りがされた上着、水玉や御幣のような模様の書かれた青いスカートを着こなしている。原作の博麗霊夢が着ている巫女装束とデザインが共通していて、特徴的な脇出しスタイルまで同じ。……早苗の場合は、その隙間から、豊かに実った部分がこんにちはしちゃうから色っぽさが増している。

 頭には蛙の髪飾り、髪には白蛇の髪飾りを身に着けており、それぞれ蛙は諏訪子ちゃん、白蛇は神奈子ちゃんの象徴としているものである。こんな些細な部分からでも、守矢一家の繋がりの深さが窺い知れる。……髪飾りから膨大な神力が感じ取れるあたり、神奈子ちゃんと諏訪子ちゃんは当分の間、子離れ出来そうにないね。

 素直で責任感が強く、純粋で他人に影響されやすい。二柱の神の元で、修行してきた影響か、真面目で自信家であるが、惚けたところもある。社交的で、誰とでもすぐに仲良くなれるところが強み。……私ともこれからもっと仲良く(意味深)なろうね!

 元々は外の世界、所謂常識で塗り固められた世界の住人だったせいか、この幻想郷の感覚に未だ慣れていない。倫理観などが特にそう。自分の意識と、幻想郷のルールとの差異に四苦八苦している様をよく見かける。

 最近になって「この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!」などと迷言を言い放ち、突飛な行動が多くなってきた。……前の宴会で神奈子ちゃん「早苗が暴走しててお腹痛い」と愚痴られた。普段、振り回す側なのにね。可哀想にね。今度永琳あたりに胃薬を処方してもらおう。神に効くかは分からないけど、気持ち的には楽になるやろ。

 能力は『奇跡を起こす程度の能力』で、本来は神奈子ちゃんと諏訪子ちゃんの力を借りて発動する能力であり、天・地・海すべてを操ることができるとんでもない代物。しかし、力を奮っている内に、何故か早苗自身に信仰が集まってしまい、人として生きる身でありながら神の力を得るに至ってしまった。所謂現人神になってしまった、というわけである。……さなパイは尊いからね、仕方ないね。そりゃ信仰したくもなるよ(性欲馬鹿)。

 

 三人共、違った属性を持った美少女で大変私は満足している。

 大人の魅力と、よいてーこーしょーの魅力を醸し出す、神奈子様。

 大人の魅力を醸し出しつつ、姿は幼女であるという背徳的な魅力を醸し出す、諏訪子様。

 特に早苗という巫女仲間の後輩が増えて、私は感謝感激雨あられって感じだよ。年齢も近くて接しやすいし、何よりもおっぱいがデカイ、何よりもおっぱいがデカイ。大事なことなので二回言っておいた。お仕置きの時みたいに、また、さなパイ滅茶苦茶揉みしだきたいものである、ぐへへへ。

 

「お前たちまで参加するとは珍しいな。こんな事には興味はない、と思っていたのだが……」

「私達もやられっぱなしは性に合わないって事さ。……今日は、我ら守矢の神としての威厳をたっぷりと堪能させるつもりだ」

「神様だってのに、私も神奈子もいっぱい修行したんだからね! 前と同じだと思ったら……ケロケロ、すぐに終わらせちゃうよ?」

「ほう? それはそれはーー」

「「っ!?」」

 

ーー楽しみだ。

 

 神としての威厳を出し、その身体から強力な神力を放出させる神奈子ちゃんと諏訪子ちゃんの二柱の神の姿に、思わず全身から霊力を迸らせてしまう。

 最近はまともな戦いなんてあんまり出来ていないからね。仕方ないね。自分でも笑顔になっているって分かるくらい頬が吊り上がっちゃってるよ。

 

「ちょぉぉぉっと待ったっ! 私を置いて三人だけで盛り上がらないで下さいよっ!?」

「何だ早苗、居たのか?」

「おや、早苗。今日は留守番している筈では?」

「早苗、ごーほーむ」

「霊夢さんも神奈子様も諏訪子様も酷い! 霊夢さん、神奈子様達と入ってきたの見てたじゃないですか!? 神奈子様、一緒に来ましたよね!? 諏訪子様は覚えたての英語を使って帰れって言わないで下さい!」

 

 擬音にするなら、むきぃぃぃだろうか? 早苗は地団駄を踏み、腕をブンブン振り回しながら「ひぃぃぃどぉぉぉいぃぃぃでぇぇぇすぅぅぅ!」と騒いでいる。……ウザ可愛い。

 やはり、早苗と接する時は意地悪するに限る。涙目で騒いでいる姿は本当に可愛らしい。神奈子ちゃんと諏訪子ちゃんも私と同じ気持ちなのか、ニヤニヤが抑えられていない様子だ。

 

「私だって、沢山修行したんですからね! 霊夢さんなんてギッタンギッタンにしてやるんですからね!」

「フッ、ギッタンギッタンか。……そうかそうか、早苗は私をギッタンギッタンにするんだな」

「ブフッ! ギッタンギッタン……早苗はまだまだ子供だねぇ」

「むしろ、あざといよねぇー」

「ぐぬぬぬ!」

 

 怒れば怒るだけ、幼児退行していく早苗マジ天使。

 羞恥で顔を真っ赤に染め、目の端に涙を溜めて、プルプルと震えている。……泣く一歩手前ってところか、別に泣いてる姿も可愛いから良いんだけど、私の趣味じゃないから、意地悪はここまでだな。

 ニヤニヤしている神様二柱に、アイコンタクトで意地悪終了の合図を送りつける。……ニヤけつつグッドサインを返す神様共は、かなり俗世に染まりきっていると思うついこの頃。はいはい、また今度ね。

 

「お前の反応が可愛くてな、私も神奈子達もついつい意地悪したくなってしまうんだ」

「そんなぁ、もう意地悪しないでくださいよぉ」

「ふふふ、すまないすまない、今日はもう意地悪しないよ。……早苗、お前は本当に可愛い奴だな」

 

 ほーらほら、ごめんねー。博麗の巫女反省してるから許してねー。

 正面から、謝意と労りを込めて、優しくハグして、頭をナデナデしてあげる。お腹に当たるさなパイの感触が大変よろしい。マシュマロみたいに柔らかく、グニグニと形を変えている。

 お返しに私の胸に顔を埋める権利をあげようじゃないか、早苗の顔をゆっくりと私の胸の谷間に埋めてあげる。……ほーれほれほれ、柔らかいやろ? モチモチしてるやろ? 気持ち良いやろ?

 大きさ、ハリ、柔らかさ、ありとあらゆる全てを、じっくりと育成した最高峰の胸だからな、どんな相手だろうと、一瞬で堕落させる事が出来ると、自負しているよ。

 

「うぅ……やっぱり、意地悪ですよぉ」

 

 早苗もまた、私の魔乳の魅力に囚われ、トロンッとした目で、胸に顔を埋めながら、上目遣いに私を見ている。……フッ、堕ちたな。

 これで私の魔乳の犠牲になった美少女の数は二十三人目だ。お前もおっぱいフェチにしてやろうかぁ!

 

 早苗も落ち着かせたことだし、これで全員……なわけないかぁ。

 頭上から気配を感じ取る。よく知っている気配だ。……そうだよね、こんな面白そうな祭りが始まろうって時に、あの娘が黙って見過ごすわけないよねー、知ってた知ってた。

 

「話は聞かせて貰ったぁぁぁ! 私も混ぜろぉぉぉ!」

 

 突如、天井から姿を現したのは立派な角を持った鬼の少女。

 目を輝かせて登場したのは、我が博麗神社のすぐ隣に住居を構えている鬼幼女、萃香ちゃんである。

 直前まで、存在に気づけなかった。……ああ、なるほどね。自分の気配と言うか、存在そのものを霧散させ博麗神社に分散させることで、私を欺いたのか。

 彼女が起こした異変、初めて相対したあの時とは比べ物にならないくらいに、能力の技量が上がっている。その上、妖力の総量も跳ね上がっているな。

 

「異変の時のりべんじまっちってやつだ!」

「良いだろう萃香、お前を含めたこの場に集まっている全員、まとめて相手をしてやる。……安心しろ、怪我はしないように優しく倒してやる」

 

 カッチーンと頭にきた様子で、慧音を除いた全員が、顔をムッとさせている。……うんうん、これなら皆、全力全開で向かってきてくれることだろう。

 

 数というのは、良くも悪くも油断を招くものだ。

 集団で行動している故の安心感、自分が何かミスを起こしても、誰かがフォローしてくれるだろう、という無意識な甘えが表面化しやすい。皆本気で掛かっては来るだろう、しかし本気なだけで全力ではないし、油断もするだろう。

 この私を相手にして、全力を出さず、油断する。それは、相手が美少女だとしても、許しがたい。……思わずお仕置きの名目の元に、ぐちゃぐちゃのどろどろにして壊してやりたいくらいにはね。

 ごく一部の例外を除けば、私を脅かせる者などいないのだ。だからこそ、君たちには全力を出してもらわなければ意味はない、私も楽しくないし、何よりも君たちのためにならないからね。

 

「話は決まったみたいだな。……では、場所は霧の湖にしようか。あそこなら回りの被害をあまり考えなくても、大丈夫だろう」

 

 慧音先導の元、霧の湖へを向かう、私達一行。

 正直なところ、楽しみではある。妖精が、妖怪が、神が、人間が、徒党を組んで私と戦おうというのだ。

 どんな手段で、どんな作戦で、どんな連携で、私を追い詰めてくれるのか、非常に興味がある。……幽香と戦った時の並みの高揚感を得られたら嬉しいところだ。

 

「双方前へ!……皆、準備はいいか?」

「問題ないよ、慧音」

「……覚悟してくださいよ、霊夢さん!」

「……ギッタンギッタン」

「〜〜〜ッ!?」

 

 何だかんだ、道中何事もなく霧の湖へと辿り着くことができた。

 お日様も出ているし、どうせならこのまんま、模擬戦なんてせずに、皆でピクニックしたい気分である。……さっきの挑発のせいで、皆殺気立ってるから不可能だけどもね。

 慧音だけを残して、皆空中を舞い。私と対立する形で向かい合う。後、ダメ出しに挑発したけど許してね早苗、今夜は満足するまで胸枕を堪能させてあげるから。

 

「ルールは簡単だ、どんな手段を使ってもいいから、相手を行動不能にすればいい。ただし殺傷行為だけは禁止する。ではーー」

 

ーー始め!

 

 慧音の声と共に、一斉にこっちに向かって飛び出してくる。

 チルノを中心とした妖精たちが、守矢の神々と早苗が、鬼の萃香とルーミアがそれぞれ力を極限まで高めて、突っ込んでくる。……楽しめそうだ。

 

ーーさぁ、始めようか。

 

 私とお前たちとの模擬戦(デート)をな!

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 寺子屋にて教師を務めているワーハクタク、上白沢慧音は、本日何度目になるか分からない溜息を吐いていた。

 彼女の溜息の原因は、視界の先で行われている模擬戦。

 一対複数による模擬戦だ。普通に考えれば勝負になる筈がない。一人を複数人が囲んで、一方的に叩きのめして終わるだろう。ではーー目の前の模擬戦はどうだろうか?

 

「どうした? この程度なのか? お前たちの力は……」

 

 見目麗しき少女が薄く嗤う。

 劣勢なのは当然一人の方……ではなく、複数人いる方だった。

 無傷で余裕を露わにしている巫女服の少女。そして、その周りをボロボロの格好で取り囲む、息を乱している少女たち。

 

 一人の少女は巫女だ。この幻想郷で最も有名な存在、博麗の巫女。その名を博麗霊夢という。

 ただ空中で佇んで不敵な笑みを浮かべているだけだというのに、その身体から、押し潰されそうな程に強烈な威圧感を溢れ出させている。

 模擬戦に参加せず、遠くから観戦しているだけの慧音ですら、その威圧に当てられ、無意識の内に身体が一歩、また一歩と後退し、震えが止まらない。

 本能が叫んでいるのだ。目の前の存在の危険性を、敵対することの愚かしさを、必死になって理性に訴えかけているのだ。

 それはまるで、被捕食者が捕食者に見つかった時の様な、逃れられようのない災厄を目前にしてしまったかの様な、どうしようもない絶望的な状況、それの再現に近い。

 これが博麗の巫女。幻想郷最強と呼ばれ、数多の神魔霊獣から恐れられている人間。

 

「そうだ、分かり切っていたことじゃないか」

 

 慧音にとって、目の前に広がっている光景は不思議な事ではなかった。

 博麗霊夢という人間が規格外であるのは、今に始まったことではない。心・技・体の全てで他の追随を許さず、あらゆる存在を超越している幻想郷においての伝説。

 数多の異変をその身一つで完璧に解決し、幻想郷に仇をなす存在達を完膚なきまでに叩きのめしてきた、恐るべき人間なのだ。

 どれほど数を揃えようが、どれだけ力ある存在を並び立てようが、彼女の前では塵に等しい。突出した個による暴力は、数の暴力を凌ぐ、それを体現できる常識外れの怪物(人間)なのだ。

 

「恐いな、霊夢。私はお前が心底恐くて堪らないよ」

 

 恐いからといって、嫌っているというわけではない。むしろ、慧音個人としては霊夢の事は好ましく思っている。

 自分の仕事を手伝ってもくれるし、自分と同じかそれ以上に、人里の人間達を慈しみ、守ってくれている。大切な友人である妹紅の事も気に掛けてくれる。そんな霊夢を好ましく思うのは、むしろ当然とも言えた。

 だが、慧音にとって、霊夢は好ましいが、同時に恐ろしい存在でもあった。

 霊夢の性格は知っている。誰よりも幻想郷を愛し、誰よりも幻想郷に住まう存在達を慈しんでいる心優しき少女だ。

 困っている人は見過ごせない。誰にでも手を差し伸べ、最後まで寄り添うことが出来る……そんな、とても情の深い娘だ。

 だからこそ、慧音はその優しい霊夢が、友人と思ってしまった人に対して何処までも親身になれる霊夢の事が、恐ろしく思えた。

 

 慧音は以前、妖怪の集団に徹底的に痛めつけられた経験がある。

 人里の周辺に出現した妖怪の集団。真っ昼間だと言うのに、その尋常じゃない数で、人里に襲撃を掛けようとしていたのだ。

 妖怪の頭目は、それなりに名の知れた妖怪だった。幻想郷の名だたる大妖怪には及ばないまでも、それに準ずる程度の力を持った妖怪だった。

 慧音はそれを防ぐために、一人立ち向かい……敗北した。夜だったら、せめて満月の出ている夜だったならば、もう少しは抵抗できた。しかし、これは太陽が輝く昼の出来事、人間としての力しか使えない慧音では、下級の妖怪や、中級の妖怪はともかく、その頭目である強力な妖怪の相手は無理があったのだ。

 

 全身に傷を作り、手足を折られ、妖怪共に地面に押さえつけられる。そして、今まさに止めを刺されるという刹那ーー霊夢が現れた。

 慧音を押さえつけていた妖怪を一瞬の内に引き裂いて殺し、優しく慧音を抱き上げ、安全地帯に運んだ。

 その時の霊夢の表情を、慧音は今も鮮明に思い出せる。慧音を心配そうに労る表情をしていながら、その内側に見え隠れする感情は暴力的な物だった、霊夢の内側から漏れ出ているその感情が、慧音の目にハッキリと映って見えた。

 

ーー殺意。

 

 あるいは憎悪。黒い黒いドス黒い漆黒の感情が、霊夢の内側から漏れ出ていた。霊力を伴って辺りに放出される黒い感情は、地面を叩き、天を衝く。

 あの光景を見た時、慧音は自身の身体を襲う痛みすら忘れて呆然とした。

 目の前にいる霊夢が、いつも優しい笑顔を浮かべているあの霊夢が、コレほど禍々しい、恐ろしいモノに変わってしまっている。……まるで、知らない誰かになってしまったように。

 黒い感情が向かう先にいるのは、慧音を痛めつけていた妖怪達だ。

 妖怪たちは固まっていた。蛇に睨まれてしまった蛙のように、身体が固まって動くことが出来ない。動くどころか、霊夢が発する殺意に飲まれ、死に絶える者すらいた。

 傷ついた慧音の頭を何度か優しく、壊れ物を扱うように優しく撫で付け、結界で保護した後ーー殺戮が始まった。

 

 霊夢が動く度に、誰かの身体が引き千切れ、砕かれ、抉り取られる。

 霊夢の手が、足が、妖怪たちの身体を破壊し、破壊し、破壊し、破壊し、破壊し尽くしていく。

 しかも、どういうわけか、妖怪たちが感じる痛みは、通常よりも大きかった。

 ほんの少し身体を切られただけで、まるで身体を真っ二つにされたかのような、痛みが襲いかかる。

 ほんの少し頭を打たれただけで、まるでその直接脳みそをかき回されたかのような、衝撃的な痛みが襲ってくる。

 霊夢の手による痛覚の増大。それにより通常よりも大きな痛みを感じやすくなってしまったのである。

 謝ろうとも、泣き叫ぼうとも、殺してくれと懇願されても、精神が折れ、頭が可笑しくなっていようとも、霊夢は構わず妖怪たちを甚振り続けた。

 壊れたように「よくもっよくもっよくもよくもよくもよくもよくも」と小さく呟き続けながら、何度も、何度も、何度も。

 声を上げる妖怪が一匹もいなくなる、その最後まで。

 

 殺戮を終えた後、慧音の元に戻った霊夢は「安心しろ慧音、お前を苦しめた奴らは、一匹残さずいなくなったぞ」と何時もと変わらない優しい笑顔を浮かべて言い放った。

 その笑顔が、殺しを行った後に浮かべたその笑顔が、手を血で染め上げ、屍の山を背後に笑いかけているその姿が、どうしようもなく歪に思えた。

 霊夢は優しい。しかし、その優しさは何処か危うさを孕んでいる。霊夢の優しさは、彼女が友誼を結んだ相手にのみ、より強く発揮される。

 何が彼女をそうさせているのかは知らないが、嫌われていようと、邪険にされていようと、ただただ親身に、いっそ健気に思えるほどに友人に尽くすのが、彼女の在り方だ。

 そんな霊夢だからこそ、自分の友人を傷つけられることを極端に嫌う。傷つけられないように、あらゆる手段を講じて見守るし、簡単に傷付いてしまわないように、修行を課して力を付けさせる。

 そして、もしも傷つけられてしまった場合、報復する。全力全開で、報復するのだ。殺すだけでは足りない、自分から死にたいと願うまで、甚振り、甚振り、甚振り、甚振り……この世の地獄をこれでもかとその身体に刻み込み、極限の恐怖を味わわせて殺す。

 

 慧音とて、友人が害を受けたら怒るし、相手を殴ってやりたい、とは思いはする。それでもあそこまで、あそこまでの暴虐の限りを尽くして報復することなど、とてもではないが出来はしない。

 知性ある生き物には、どうしても倫理観という物が付属してしまうものだ。その倫理観に則って、人を傷つけてしまう事に躊躇いを、自分の手が血に染まるのを恐れるのが普通だ。

 しかし、霊夢は、その倫理観が薄い。いや、皆無と言ってもいいかもしれない。そのため、報復に上限というものが無いのだ。自分の友、自分が守る対象、それ以外の存在に対しては、何処までも冷徹に、残酷に、理不尽に振る舞うことが出来る。

 例え掠り傷程度でも、少しの罵倒でも、肉体にしろ、精神にしろ、少しでも自身にとっての大切な存在が傷つけられたら、それだけで相手を殺すだけの理由になる。……それが、博麗霊夢の狂気。

 

 その底なしの狂気が、優しさの裏側に見え隠れする悍ましい狂気が恐かった。何故ならーー

 

「恐いんだよ、霊夢」

 

ーーいつかその狂気が、お前を壊してしまいそうで。

 

 あの優しさが、私達を包み込んでくれるあの笑顔が、消えてしまいそうで。

 

 今回の模擬戦を企画したのは慧音だ。

 遊びたい盛りのチルノを上手く焚き付け、他の面々も話に乗っかるように上手く誘導を掛けた。道中で守矢神社の早苗も引き込み、異変の時の敗北の話などをチラつかせ、二柱の神々までも焚き付けた。

 話をするのに、博麗神社を選んだのも、神社の近くに居を構える鬼を引きずり出すためである。上手く誘導が嵌まり、こうして霊夢との模擬戦をさせることが出来た。

 全ては霊夢に思い知らせるため、自分たちがただ守られるだけの存在ではないと、霊夢に知ってもらうために、それだけのために、この模擬戦を企画した。

 霊夢の狂気の根底にあるのは、他者……それも霊夢自身にとって、友と呼ぶべき者たちに対する依存だ。そして、その依存は、友に対する心配なのだ。

 だからこそ、慧音は考えた。どうすれば、霊夢の依存を薄めることが出来るのか、彼女の心配を少しでも軽くしてあげるにはどうすれば良いのか?……考えて、考えて、考えて、思い至った。

 この幻想郷で唯一、霊夢の過保護の対象から外れている人物がいる。その人物とはーー風見幽香。

 『幻想郷最強の妖怪』の名を欲しいままにしている。この幻想郷の数ある実力者達の中でも頭一つ二つ分くらいは軽く飛び抜けている強者。

 あの霊夢ですら、手を抜けば、例え自分であってもただでは済まないと言ってしまう程の本物の実力者。

 

 ここで慧音は確信した。

 霊夢の狂気を薄めるには、私達が強くなる他ない、と。あの風見幽香の様に、霊夢が「守る必要がない」と思えるくらいに実力を認めさせれば、霊夢の心配もなくなるのではないか、と。

 だからこその模擬戦なのだ。

 

 慧音は知っている。

 チルノは自分の能力の限界値を高めるために、頭が足りないなりに頑張っていた。

 ルーミアは本来強力で応用力の幅が広い自身の能力を、自由自在に操れるように、操作の練習を。

 大妖精は、瞬間移動の力をより早く、より正確に繰り出せるように、何度も反復練習を。

 三月精は、それぞれの能力を高めつつ、三人での連携を重点的に。

 あの守矢の神々も早苗も、鬼の萃香ですら、霊夢に実力を認めさせるために、勝つために修行に励んでいた。

 

 膠着状態が終わり、再度両者がぶつかり合う。

 それは先程の様に一方的な展開になりはしなかった、霊夢に勝つために全力で、認めさせるために力を振り絞って、あらゆる手を使って戦ってる。

 

ーーどうか頑張って欲しい。

 

 慧音は霊夢と戦っている少女達に願う。

 今回、自分は審判役であるために参加出来なかったが、どうか霊夢に少しでも実力を示して欲しい。

 

ーー認めて欲しい。

 

 そして、何よりも霊夢に願う。

 守られるだけの非力な存在じゃないんだ、と。自分たちだって肩を並べられるんだ、と。分かって欲しい。

 

「……霊夢っ!」

 

ーー絶対にお前を壊させはしない!

 

 人里の守護者は、吠え願う。愛する友を、その心を守るため。

 

「……(やだ、慧音せんせーがすっごい熱い目で私を見ているわ! もしかしてあちきの勇姿に惚れた!? 惚れちゃったのね!?……んっ、ふぅ、危ない危ない、後もう少しで達するとこだった。霊夢のラブスプラッシュが溢れ出るところだった)」

 

 なお、本人はただのガチ百合変態アホの模様。

 戦っているさなかだと言うのに、慧音の視線を感じ取り、その視線に含まれる想いを下衆な妄想で勘違いし、微妙に身体……特に下半身の方をガタガタと震わせていた。

 




かくたのぉ!

前編はどうも人物紹介とかが中心になっていた感じがする。
読みにくかったらゴメンね。許してくださいよ。

何となく、色々と弄った感がすごかった気がするんだけど、どうでしたかね?
どんな感想が来るのか戦々恐々としております。

取り敢えず、後編も投稿しておくので宜しくね。

まぁ、何はともあれ次話の投稿まで、さらばっ!


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巫女、戦い【後】

連投なんやで?


「ちくしょー! 何でアタイのこーげきが当たらないのよ!」

「ち、チルノちゃん、闇雲に攻撃しても当たらないと思うんだけど?」

「それどころか、姿消しても見つかるし」

「音を消しても捕まるし」

「動きが速すぎて、私の感知も意味がないし」

「「「ほんと、出鱈目だよねー」」」

 

 何度氷の弾幕を放っても、一度たりとも掠らせることが出来ず、チルノは地団駄を踏んで悔しがる。能力を活かして、周囲の空間ごと思いっ切り凍らせても、いつの間にやら距離を離されて全くダメージを与えることは出来ない。それどころか、チルノの氷が周りの味方の邪魔をしている始末である。

 チルノを宥めている大妖精も、言葉の割りには少し悔しそうにして霊夢を見ている。大妖精には転移能力がある。それはあまり遠い距離は跳べず、自分の視界に入っている場所にしか跳べないが、それでも戦闘などで使用すれば、相手の意表を簡単に衝くことが出来るほどに便利な力だ。なのに、その転移が霊夢には一切通用しない、背後をとっても、気づけば、逆に背後に立たれている。

 サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイアも、また自分たちの連携が全く通用しない霊夢に、ぼやいていた。

 サニーミルクが光の屈折を利用して、この場にいる妖精組全員の姿を消しても霊夢の目を誤魔化すことが出来ず、簡単に補足されてしまう。ならばと、ルナチャイルドが霊夢の周囲にある音を消しても、嘘みたいに効果がない。スターサファイアの感知能力も、そもそもの圧倒的な身体能力の差などで追いつくことが出来なかった。

 

「出鱈目も、アタリメもないのよ! 絶対に当ててやるんだから! 行くよ、大ちゃん!」

「ま、待ってよ、チルノちゃん!」

 

 うおぉぉぉと威勢良く声を上げながら、飛び出していくチルノ。そして、その後を慌てて追い掛ける大妖精。

 

「チルノだけじゃダメだ、私達も行くよ!」

「取り敢えず、霊夢の周囲以外の音も全部消してみるよ」

「私はもっと集中して、霊夢が動く前に感知してみるわ」

「「「突撃ぃぃぃ!」」」

 

 三月精も二人の後を追い掛けるように、霊夢に向かって飛んでいく。

 無知であるが故の行動力、その中心となるチルノのお陰で、行動力は他の誰の追随を許さない。何度も何度も向かっていき、何度も何度も吹き飛ばされるが、ただの一度も諦めずに突っ込んでいく。

 

「……ふふふ、掛かってこい。何度でも相手をしてあげよう(イエーイ! 幼女! 幼女! 妖精幼女! 服とかボロボロで色んなところが、見えるッ! 見えるぞッ! 私にもあの楽園が見えるッ!)」

 

 なお、相対している霊夢(変態巫女)は、表面上は覇王モードという名の強化外骨格で取り繕っているが、内面はかなりの勢いで邪に染まっていたりする。

 模擬戦である故に、極限まで手を抜き、手刀や足刀で相手の服のみを狙い、切り刻み少しずつ少しずつボロボロにして、素肌を晒していく、という遊びをしていた。

 妖精組は、何度も突っ込んではあしらわれているために、かなり際どいところまで服を剥がされていた。

 チルノは胸から下腹部までに掛けての布が存在しない。つまり、彼女の幼い胸部が剥き出しにされており、世のロで始まる方々が、歓喜する事態に陥っていた。

 大妖精は、この中では比較的被害は少ないが、スカートが綺麗にダメージ加工されているために、動き回る度に、その隙間から彼女のストライプ柄の下着が垣間見える。

 サニーミルクは、そのロングスカートの丈が最早ミニスカート並にしか残っていない上に、赤い腹巻きも霊夢に奪い取られている。

 ルナチャイルドは、その身に付けているシックなワンピースがボロボロで、もうネグリジェにしか見えないほどに加工されていた。

 スターサファイアは、青色のドレスがズタズタにされてはいるが、比較的原型を保っている。しかし、何故かスカート部分の被害が大きく、下半身の純白の下着が丸出しになってしまっている。

 霊夢は嗤う。さぁ、このまま何度も向かってこいと、嗤う。そうすれば、最後まで剥けるからである。そして、剥き終わったら、模擬戦の名目の元に、お仕置き用の全力マッサージや、感度を数百倍まで引き上げたりしよう。……などという控えめに言ってもかなりの下衆な事を考えていた。

 

 

ーーー

 

 

「あーうー! 分かってたけど! 分かってたけどっ!……いくら何でも強過ぎないっ!?」

「げげげ幻想郷最強の人間は伊達ではない、とととという事なんだろう……神の力を纏わせた御柱を、真っ向から拳で打ち砕くとは思わなかったががががが」

「神奈子様、神奈子様、声震えてます」

「そっそう言う早苗は、足元ガクブルじゃないか……まさかチビったわけじゃないだろうね?」

「そっそそそ、そんなわけないじゃないですかっ!……すこーしだけ、本当にすこーしだけ危なかったですけども」

 

 別のところでは守矢一家も、霊夢の尋常ではない強さに辟易していた。

 諏訪子が大地を操作し、祟りを込めた蛇を創造し、襲いかからせても、拳のひと振り、蹴りのひと薙ぎで一蹴し、込められていた祟りの力は、その身から垂れ流されている膨大な霊力に押し潰された。

 神奈子が天候を操作し、風を起こし、雷雨を呼び込んで、けしかけても、身じろぎ一つせず。それどころか、雷の直撃を受けて、一切のダメージを負わない滅茶苦茶っぷりを披露した。

 挙句、早苗がその奇跡の力によって、特大の隕石を呼び込んでも、簡単に結界で止められ、正拳の一撃で粉々の木っ端微塵に粉砕された。……早苗も大概ではあるが、それを容易く凌駕する博麗の巫女に、二柱の神は最早呆れ果てて溜息すら出ない。

 

「取り敢えず、早苗を中心にして、私達はその補助ってところが妥当かね?……人間恐い」

「もう、それしかないよねー。私達の権能、あんまり効いているように見えないし。早苗の力はある程度は効果あるみたいだけど……本当、人間恐い」

 

 ジト目で、早苗の方を見やる二人。

 霊夢の圧倒的な武力の前に、なすすべもなく自分たちが吹き飛ばされたと言うのにも関わらず、この早苗は霊夢と真正面から戦っていたのだ。

 小細工など一切使わず、真正面から。隕石をぶつけようとしたり、その手に持った払い棒を巨大化させて、殴りつけたり。

 

「神奈子様も諏訪子様も、そんな化物を見る目で私を見ないでくださいよ!?」

「普通の人間は隕石を呼び込んだり、奇跡とか言って、攻撃避けたりとかダメージを受けなかったりだとかしないんだけどね」

「何か、霊夢と向き合って戦っている時だけ、微妙に人が変わっているし……「ミラクル! 偉大なる我が力!」って何なのさ?」

 

 少なくとも神奈子と諏訪子の二人の目には、人以外のナニかにしか見えなかった。霊夢といい、早苗といい、この幻想郷には、化物みたいな人間が多すぎて困る。これでは神としての立場が無いではないか。

 本当に人間恐い。二人が若干の恐怖と呆れが混じった溜息を吐いてしまうのも無理がないことだろう。

 

「霊夢さんに気圧されないように頑張ってるんですよ!……と、悪ふざけはこの辺で、そろそろ、次に行くとしましょうか? この私の力を霊夢さんに魅せつけておかないといけませんので」

「れ、霊夢のせいで、早苗が、純粋だった早苗が……うっ!? はぁはぁ、お腹がっお腹が痛くなってきたっ!」

「大体霊夢が悪い、私の可愛い早苗が意味不明になったのも、神奈子が実は今の状況に興奮していたりだとか、私が滅茶苦茶してる霊夢の事を割りと嫌いじゃない、逆に好ましく思っていたりだとか、全部、全部霊夢が悪いんだよ。……責任取らせてやる、絶対に許さない。あらゆる手段を使っても、絶対に責任取らせてやる、絶対に私達の、守矢のモノにしてやる」

 

 話している途中から、いきなり豹変したように、口調が傲慢が隠し切れない丁寧口調に変わっている早苗。

 そんな早苗の変わり様を見て、痛そうにお腹を抑えている神奈子。……心無しか、頬を紅潮させて、息遣いを乱している。

 そして、残った諏訪子はそのくりくりした愛らしい瞳からハイライトを消し。全身から強大な祟りと神力を溢れ出させ、ぶつぶつとおっかない企みを呟き続けている。

 彼女たちの状態、その全てに博麗の巫女が関わっているのだと言うから驚きである。

 その肝心の巫女はというとーー

 

「……権能だろうと、何だろうと、使えるもの全てを使って向かってこなければ、私には届かないぞ?(早苗ノールちゃん来たァァァ! アドバイス通りに成長してくれてて、博麗の巫女大歓喜だよ! 奇跡起こす系傲慢おっぱいとか、ジャンルの開拓が著しくて、霊夢の霊夢がエマァァァジェンシィィィ! そして、二柱の神々も最高! 実はかなりのドMな神奈子様とか! 実は闇が深くてヤンデレの素質がある諏訪子ちゃんとか! もうっホントに守矢最っ高!)」

 

ーー荒ぶっていた。

 

 何だコイツ、クソうぜぇ。

 もしも、霊夢の頭の中が覗ける奴がいたならば、瞬時にそう返すであろう、とても頭が悪そうな事を考えていた。

 霊夢の頭の中では、既に目の前に立っている守矢の三人をどんな風に弄り倒してやろうか? という考えしか無い。

 先輩後輩プレイで、憧れの先輩に求められて、ついつい身体を差し出してしまう、みたいなシチュエーションで、早苗の早パイをどのようにして揉み解し、トドメに自身の胸に溺れさせることで、完全に堕としてやる、と邪な考えを巡らし。

 隠れドMである神奈子を、これでもかとイジメてあげることで、威厳溢れる彼女の内側に隠れていた欲求を表面化させ、色々と卑猥な単語を言わせたりしたい、など外道な考えを巡らし。

 諏訪子のヤンデレの才能を開花させて、自分を殺したいほど好きというくらいの状況に持っていって、愉しみたい。ぶっ殺されるくらいに求められたい、などとドン引きな考えを巡らしていた。

 ちなみに、こんな思考を巡らしている間も、普通に戦闘を継続している辺り、この変態巫女の実力が規格外過ぎる事が見て取れる。

 今この瞬間にも、早苗曰くの奇跡の力を片手間に防ぎ、彼女の巫女服を少しずつ削ってダメージ加工。……胸元の部分がかなり削られており、その乳房が溢れてしまいそうである。

 神奈子の天候操作による雷が直撃するも無傷で、瞬きの間に接近し、神奈子に回し蹴りを見舞い、その服の一部を奪い取る。……ついでに霊夢は痛みを快楽に変換するように、細工をしたため、神奈子は別の意味で息を乱している。

 諏訪子の創造した石で出来た蛇の群れも、指先から飛ばす光線で消滅させ、その光景を見て驚愕し、隙を晒す諏訪子の胸ぐらを掴み上げ、投げる。……当然ながら、掴んだ部分の布を引きちぎりながらである。

 激戦の中、遊びながら服を剥いでいく。博麗の巫女は今日も平常運転であった。

 

 

ーーー

 

 

「かーっ! やっぱりアイツは強いなっ! 手も足も出ねぇ!」

「でも、さっきのは惜しかったねー」

「後一歩で、あの済ました顔に一撃入れられたんだけどなー。やっぱ簡単には当たってくれないかぁ」

 

 この場で唯一の妖怪同士のチームを組んでいる萃香とルーミア。

 彼女たちは、今の所、一番霊夢に食らいつくことが出来ているチームである。

 ルーミアが、闇を周囲の空間全域に広げ、萃香が、その闇に自身の身体を散らして紛れ込み、神出鬼没の奇襲を何度も仕掛け続けているのである。

 闇にはルーミアの妖力が、つまりルーミア自身の気配が染み付いている。それが一種のカモフラージュの役割を果たし、萃香の位置を補足させないのだ。相手が霊夢でさえなければ、最初の奇襲で勝負が着いているほどに、二人の連携技は巧みだった。

 勿論、それだけではない。萃香は疎と密を操る力を十分に活かして、自分の攻撃が霊夢に通用するようにしているのだ。

 霊夢の身体は、その身から溢れ出ている強大な霊力によって常に守られている。簡単に言うなれば、常に分厚い鎧を着込んでいるようなものなのだ。萃香は自身の能力を全力で行使し、霊夢が纏っている霊力を霧散させてから攻撃を仕掛けているのである。

 萃香の攻撃を、霊夢が避けている事から、当たりさえすれば、少なからずダメージを与えることが出来る。萃香達はそう考えていた。

 

「でも、まだまだ本気は出してないみたい」

「ちくしょう舐めやがって! って言いたいところだけど、私らが弱いのがイケないんだから文句は言えないよなぁ。……霊夢といい、幽香といい、幻想郷は規格外の化物だらけで、本当嫌になるよ」

 

 だが、霊力の鎧を突破できているからといって、簡単に攻略できる筈もない。

 何せ相手は博麗の巫女、この幻想郷で最強と呼び称されている存在なのだ。現に霊夢は当たらなければどうということもない、と言わんばかりに、萃香達の攻撃を全て紙一重で避け、迎撃している。……それも、相手である萃香達を傷付けないように遊びながらである。

 

「せめて真面目にはさせたいよねー」

「本当にな、何か知らんけどあのアホ巫女、私らに直接的に攻撃はしてないみたいだしな。……代わりに服がボロボロだけども」

「私はもうワイシャツしか残ってないよー……これ以上は無理、ギリギリだよ。このままだと裸にされちゃう」

「安心しろ、私は大事なところしか隠れていない! 霧になっているのに服だけ持って行かれたからな!」

 

 ルーミアは黒い服の全てを持っていかれ、地肌にワイシャツ一枚という非常に扇情的な姿にされていた。

 萃香に至っては、大事な部分を辛うじて隠しきれているだけで、大変危うい格好をしていた。……大きなお友達大歓喜である。

 

「服が無くなるまでに、どうにかしてケリを付けてやる! 行くぞ、ルーミアっ!」

「がってんだよ! 萃香っ!」

 

 二人の妖怪幼女は、決意を新たに霊夢に向かって飛んでいく。……果たして、服が完全に剥ぎ取られるまでに、決着を付けることが出来るのだろうか?

 少なくとも霊夢はーー

 

「……何、まだまだ終わらせんよ(裸ワイシャツのルーミアたんが可愛すぎて、私のハートがアハトアハト。次は上からボタンをどんどん奪っていこうかしら? そして、萃香よ。お前さん、もう殆ど布無いで? このまま向かってくるともれなく全裸コースやで? 私は萃香たんの鬼っぱいとか、鬼の花園とか色々と拝見できるから大変ありがたいんだけどね? むしゃぶりつくように見るよ? むしろ今もガン見しているよ? はぁはぁ)」

 

ーー長引かせる気満々である。

 

 博麗の巫女に自重はない。

 美少女たちの艶姿をこの目に焼き付けるために、どんな下劣な手段でも使う所存である。

 霊夢の脳内は既に桃色に染まりきっていた。ショッキングピンクである。脳内で繰り広げられている光景は、とてもではないが、描写することは出来ない。

 目の前に立っているルーミアや萃香をあーんな事やこーんな事であはんうふんのくんずほぐれつ的な妄想で、滅茶苦茶に乱していた。覇王モードによる行動抑制が無かったら、本物のルーミアと萃香が大変な目に遭っていただろう。

 実は霊夢、今日はロリな気分なのである。別に触ったりえっちぃ事が出来るなら、美女でも何でものいいのであるが、出来れば、抱え込めるような小さい少女を弄くり回したい、と考えていた。

 そんな変態、もとい博麗の巫女の前には、極上の美幼女がいるのである。……故に、この巫女が自重できる筈もなかった。

 計画としては、服を剥ぎ取り終わった後に、色々とコスプレさせてから着せ替えつつ、偶然を装って、かつ覇王モードに引っかからない程度に二人を堪能する腹づもりであった。

 ルーミアを押さえつけ、覆い被さり、ルーミアのルーミアに霊夢の霊力で作り出した霊夢でドッキング、熱いリビドーに身を任せ前後運動をすることで、ルーミアに天国を見せ、更にルーミアのルーミアに霊夢の霊夢から放たれた熱く煮えたぎる真っ白な霊力の塊が放たれる。

 萃香に自分と同じデザインの巫女服を着せ、手を縛り身動きが取れなくなっているところを、背後から萃香の萃香に狙いを定めて、霊夢の霊力で作り出した霊夢をコネクトし、激しくビートを刻みながら、お互いに真っ白な世界を垣間見る。そして、全身に走る電流と共に、霊夢の霊夢から放たれた膨大な霊力が萃香の萃香を通して、彼女の小さな身体に注ぎ込まれる。

 ここまで全部、霊夢の妄想の一部である。何処からどう見ても、性犯罪者の思考で、コイツ本当に幻想郷の守護者なのか、と疑問に思えてくるほどに、博麗の巫女は絶好調だった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 濡れるッ!

 こんなに沢山の美少女がッ! 私をッ! 私をッ! 求めてくれているッ!

 その事実に何処とは言わないが、私の身体の一部分がとっても拙い状態になっている。濡れ濡れである、大洪水である。ノアの方舟が必須レベルでの大災害である。ひゃっはーッ!

 模擬戦が楽しすぎて、私の心がプリティーでキュアキュアのマックスハートォォォ! ちなみに私は初代派です。ブラックとホワイトの肉弾戦には感動した。 感 動 し た ッ(大事なことなので二回言った)!

 

 それは兎も角、模擬戦も漸く佳境に入ろうとしていた。

 私の周囲を囲んでいるのは、チルノを筆頭とする妖精組。早苗を中心にしている陣形を組む二柱の神。闇を操る妖怪ルーミアと鬼の四天王萃香のタッグコンビである。

 こいつぁ油断できねーぜぃ。さっきまでの様子とはえれぇ違いだぃ!

 さっきまでのこの娘達は、妖精組は妖精組で、守矢組は守矢組で、妖怪タッグは妖怪タッグで、と一つのチームごとにバラバラに私と戦っていた。

 無論、その程度では私には通用する訳もない。軽々とあしらってやりましたとも。……ついでに剥ぎ取りショーも出来て大変楽しかったです(小並)。

 

 そんなバラバラだった彼女たちが、一致団結して私と向かい合っている。私を倒すために手を取り合い、向かい合っているのである。

 正直、この状況に興奮している。こんなに複数の少女たちが、私を倒す(意味深)ためだけに、種族も性格も、何もかもが違う少女たちが、私を倒す(意味深)ためだけに、団結しているっ!

 最後の最後に主人公の前に立ち塞がるラスボス達の心境が今、私にも理解出来る。これは良い、これは良いものだ。そうか、彼ら彼女らは、この興奮を味わっていたのか(お前だけ)。

 

 あの娘達がその気であるなら、私もそれなりに礼を持って応じるのが筋というもの。おふざけの時間は此処で終わりだ。ここからは少々本気で、彼女たちを恥ずかしm……叩きのめしてあげようっ!。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 霧の湖上空。

 現在、此処で行われているのは模擬戦。博麗霊夢対妖精組、守矢組、妖怪タッグによる模擬戦である。力を高め、両者が睨み合い。何時戦いの火蓋が切られても、可笑しくはない。周囲は異様な緊張感に包まれていた。

 

「個々の力で太刀打ちできないのなら、数で囲んでしまえば良い。成る程、そう考えたわけか。……フッフフフッ、随分と単純な解だな」

 

 そんな中、最初に動き出したのは、当然と言うべきか、博麗霊夢であった。

 彼女はまるで庭を散歩しているような、何の気負いもしていない様子で、悠々と歩み出した。薄い笑みを浮かべ、ゆっくりと相対する少女たちに向かって、近付いていく。

 

「数と力で叩けば、私を潰せるとでも思っていたのか? 甘いな。……いや、おそらくは元来、力というものの認識そのものが、お前たちと私では異なっているんだろう。教えよう、力とはーー」

 

 刹那、霊夢の姿が消え失せる。

 

「ーーこういうものを言うのだ」

 

 再び霊夢が姿を現したのは、神奈子の背後である。片腕を振り上げ、今まさに振り下ろさんとしていた。

 

「っ!? 後ろですっ! 神奈子様っ!」

「何ぃっ!? はあぁぁぁ!」

 

 早苗の声に咄嗟に反応した神奈子は、自身の背後に向かって、御柱を撃ち放つ。嵐を呼び、雷をも操る風神の力を纏った柱による一撃は、まさに稲妻の如し、雷速に匹敵する速度で、霊夢に向かいーー

 

「う、ぐぅ!?……そん、な」

 

ーーただの手刀一閃で、神奈子の衣服諸共、両断された。

 

 霊夢はただ、手を振り下ろしただけ、能力も霊力も、ましてや技などというものも一切使用していない、ただの腕のひと振り。ただそれだけで、雷速で迫る御柱を、真正面から切って落としたのである。

 その上、神奈子の身に纏っていた衣服を、真っ二つに両断するというおまけつきである。

 衝撃で吹き飛ばされた神奈子は、そのまま吹き飛んでいき、湖の水面を何度かバウンドし、慧音が待機している岸辺に叩きつけられた。気絶したのか、起き上がってこない。

 この一部始終の間も、霊夢は思考を加速させ、神奈子の身体をじっくりと堪能していた。衝撃で神奈子が吹き飛ばされる直前、思考を加速した霊夢は、その一瞬の時間の間に神奈子にぴったりと接近し、神奈子が認識するよりも早くその匂いを胸いっぱいまで吸い込み、両断された服から垣間見える神奈子の神奈パイを観察していたのである。まさに能力の無駄遣い。

 

 兎にも角にも、早くも一人目が脱落してしまった。しかもその一人目は、強大な力を操る神の一柱である。その場で霊夢と相対している者たちの背筋を冷たいものが走り抜ける。

 先程までの、遊んでいた時とは明らかに違う。ほんの少し真面目に相手されただけで、この様だ。実力が、否、生物としての格が違いすぎる。コレが本当に人間なのだろうか?

 

「さて、次だ」

 

 戦慄を露わにする少女たちを気にすることもなく、再び悠々とした歩みを再開する霊夢。その向かう先には、神奈子と同じ神の一柱、幼い少女の姿をした土着神の最高峰がいた。

 

ーー次の獲物はお前だ。

 

「あ、あぁぁぁぁぁっ!」

 

 薄い笑みを浮かべる霊夢、その瞳を正面から目の当たりにしてしまった諏訪子は発狂したように、形振り構わず霊夢に攻撃を仕掛ける。

 自身の権能を全力で使い、目の前にいる脅威を排除しようと必死に力を振り絞る。

 諏訪子の周囲に石で出来た無数の大蛇が現れ、霊夢を囲う。大蛇には諏訪子の神力がたっぷりと練り込まれており、一匹一匹が上級の妖怪すらも容易く食い殺せる程の恐ろしい力を宿していた。

 

「ほう? やれば出来るじゃないか」

 

 そんな恐ろしい大蛇に囲まれているというのに、霊夢は一切変わらず余裕を崩さない。むしろ、感心したように息を漏らし。諏訪子を賞賛する始末だ。

 

「く、ら、えぇぇぇぇぇ!」

 

 諏訪子の叫びと共に、無数の大蛇が霊夢に向かって殺到する。神によって生み出された、言わば神獣とでも呼称すべき化物だ。たとえ妖怪でも、神であっても、噛まれればひとたまりもない。

 そんな大蛇の牙を前にしても、霊夢は変わらない、変わる筈がなかった。

 

ーー当たらない。

 

 無数の大蛇の攻撃が、牙が、当たりも掠りもしない。前後左右、上からも下からも隙間なく大蛇が襲いかかっている。しかし、一度も当たらない。

 霊夢にとってみれば、この程度の攻撃を避け続けることなど朝飯前もいいところだった。大蛇は確かに恐ろしい。その牙に食いつかれれば多少の手傷は負うだろう。だが、その攻撃は単純な噛み付きのみだ。

 それ故に読みやすい。この程度であれば、避けるのに最早目視する必要すら無い。

 

「いい加減飽きたな、そろそろご退場願うとしよう。これは楽しませてもらった礼だ。破道の九十ーー」

 

ーー黒棺(くろひつぎ)

 

 静かに紡がれたその一言と共に、霊夢を中心として辺り一面を黒い箱が覆っていく。

 比較的霊夢から離れていた早苗、チルノ達妖精組、そして萃香とルーミアの妖怪タッグは、その箱の範囲から逃れられたが、攻撃に集中し過ぎて警戒が疎かになっていた諏訪子は、逃れることが出来ず、箱の中に取り込まれてしまった。

 完全に箱が閉じたと思ったその次の瞬間。キィィィィィンッ! と、黒板を爪で引っ掻いたような不快な音が響き渡る。

 空気全体を震わせ、周囲を蹂躙するその音、箱から発せられる規格外の霊力の奔流に、その場にいた者たち全員の身体が凍り付いた。そしてーー

 

「あ、うぅ」

 

ーー箱が消え去る。

 

 僅か数秒という短い時間、その短い時間だけで大きな爪痕を残した黒い箱ーー黒棺。

 箱が消え失せ、中から姿を現したのは、原型を止めないほどに、服をズタズタに引き裂かれた諏訪子と、その諏訪子の首根っこを掴み上げ、平時と変わらぬ笑みを浮かべる霊夢の姿だった。

 あれほど無数にいた大蛇の姿など何処にもなく、代わりに粉々に砕かれた石の欠片が宙を舞っていた。

 

「失敗したな。本来の破壊力の三分の一程度の威力もない。やはり九十番台は扱いが難しい。素直に詠唱しておくべきだった、なっ!」

 

 恐ろしい事を言いつつ、諏訪子を慧音が待機している地上の方へと投げる。誰も視認できないほどの速度で地上まで投げられた諏訪子であったが、着弾する直前、どういうわけか勢いがゼロになり、傷一つ追うこと無く地面に降ろされた。

 霊夢としても美少女を必要以上に傷つける事はしない。服のみしか攻撃していないし、その身体へのダメージも気絶する程度にまで抑えているのだ。

 そして、霊夢はこんな状況でもしっかりと諏訪子の肢体を脳内カメラで激写していた。服がズタズタに引き裂かれ、その隙間から彼女の幼い少女としての瑞々しい果実が垣間見えるのである。下着もズタズタにしているため、生の感動が視界を楽しませてくれる。諏訪子の小さな諏訪パイが、そして足と足の間、その付け根部分にある、諏訪子の諏訪子が、ズタズタの下着からこんにちはしているのであった。霊夢、大興奮である。

 

「……ん?」

 

 しかし、その興奮が、霊夢に隙を晒させてしまった。

 

「っ!? これはっ」

 

 霊夢の身体を縛り付けているのは、氷で出来た鎖。

 霊力で吹き飛ばそうとするも、どういうわけか霊力を上手く操ることが出来なかった。まるで何かに阻害されているかのように、上手く操れない。それどころかーー

 

「ーーぐっ!?」

 

 腹部に衝撃を感じ、息を漏らす霊夢。小さな拳が霊夢の腹に向かって突き出されていた。その拳を放ったのは……

 

「やっと一撃ぃ! 油断大敵ってね!」

 

 鬼の四天王が一人、伊吹萃香である。

 鬼の剛力をまともに食らった霊夢、流石にダメージは大きいのか、身体を前のめりにしたまま動かない。

 

「上手く霊力が練れないだろ? チルノの氷に霧散させた私自身を混ぜ込んだ特注品さ! 例えお前であっても簡単には壊せない! そぉら、もう一発っ!」

 

 振り被った拳が、霊夢の顔面を捉えーー

 

「……成る程、面白いことをする」

 

ーー掴み取られた。

 

「だが、私の霊力を封じた程度で勝った気になられるのは心外だな」

「いぃっ!? いたたたたたっ!」

 

 ギチギチと掴み取られた萃香の手が悲鳴を上げている。

 この鬼の身体が、人知を超えた強靭な肉体が、人間の握力に屈している。限界まで力を込めているのに、ガッチリと掴まれていて振り解く事が出来ない。

 鬼が、人間に力で負けている。その事実に萃香は戦慄する。霊力さえ封じてしまえば、鬼である自分なら身体能力の差で圧倒できると踏んでいた。流石に簡単には倒せないだろうが、それでも心の何処かで、いくら強くても、所詮は人間、鬼である自分に力で勝てるわけがない、と高を括っていた。

 しかし、現実はどうだ。こうして簡単に力で負けてしまっている。それも大人と子供、否、それ以上の差が自分と霊夢の間にはあった。

 

「お返しだ」

 

 霊夢が腰の方まで拳を引き絞る。

 拳に収束しているのは力だ。霊力などは用いられておらず、ただただゆっくりと握り込まれた拳。しかし、ただそれだけの拳に、萃香は例えようのない尋常ではない圧力を感じ取った。

 あれは拙い、まともに喰らえば如何に頑丈な肉体を持つ鬼であっても、軽く気を失ってしまうであろうとんでもない力が秘められている。

 

(こんな、こんなところで終わるのかっ! ここまで頑張ったのにっ!)

 

 じわりと、萃香の両の瞳に涙が滲む。

 悔しかった。霊夢に勝つためだけに、萃香は沢山修行した。自分の能力を磨き上げ、鬼としての地力を引き上げるために、人間がやっているという筋力トレーニングなるものにも手を出し、妖力も以前とは比べ物にならないくらいに高めてきた。

 大好きなお酒を断ち、修行に入り浸る日々。苦しくて苦しくて、途中で投げ出したくなった事もある。だけど、それでもどれだけ苦しくても、霊夢に、霊夢に一泡吹かせたかった。

 霊夢に分からせてやりたかった。自分達がただ守られる存在なんかじゃないんだって、いつでも隣で一緒になって戦えるくらいに強いんだと、証明したかった。

 

(ちくしょうっ!)

 

 霊夢の拳が迫る。

 

「あたい、サイキョォォォ! うおぉぉぉっしゃぁぁぁ!」

「奇襲する時は、声を上げるな。そう、教えた筈だが?」

「ぐっはぁぁぁ!」

 

 突然、勇ましく雄叫びを上げながら突っ込んできたチルノ。奇襲のつもりだろうが、声を上げては意味などない。容易く霊夢に対処され、デコピンで吹き飛ばされる。

 

(ーー今だっ!)

 

 その隙に萃香は、自分の身体を霧に霧散させて霊夢の手から逃れて一気に距離を離す。

 

「すまない! 助かったぞ、チルノ!」

「あ、アタイは何処? こっちは誰? サイキョーが何処で、アタイが誰?」

「チルノちゃんが、チルノちゃんがっ、余計おバカになっちゃったぁぁぁ!?」

 

 恐るべきは巫女のデコピンだろう。ただでさえ(バカ)と呼ばれている愛すべきチルノが、余計に大変な事になってしまっていた。

 若干保護者的な立場にいる大妖精も、これにはあたふたと涙目で慌ててしまっている。チルノを正気に戻そうと、肩を掴んでゆさゆさと前後に揺らしまくっている。……勢いが強すぎて、チルノの頭が荒ぶっている。余計バカになるとか言ってはいけない。

 

「おー萃香ー大丈夫だったかー?」

「正直、危なかった。やっぱり一人だと勝ち目がないな。皆で一気に掛からないとダメだ」

 

 真正面からぶつかっても、先程の守矢の神様二人のように、叩き潰されて終わる。単純に全員で掛かっていったとしても、同じ結末を迎えることになるだろう。

 ならば策を、霊夢の意表を突き、確実にダメージを、倒しきれるだけの策を用意すればいい。

 

「もしもし、鬼のお姉さん。私達に一つ案が有るんだけど? 聞いてみない?」

「今ならお得だよー。妖精印のアンティーク用品(盗品)が付いてくるよー」

「更にオマケで、博麗神社から盗み出した霊夢の愛用しているリボンも付いてきます!」

 

 策を考える萃香とルーミア。そんな二人に話しかけるものがいた。……三月精である。

 サニーミルクは、ちょっとここだけの話なんだけど、などと今時のJK風に。ルナチャイルドは、若干罅割れているアンティーク用品(盗品)を片手に無表情に。スターサファイアは、何とあの霊夢から盗み出したという赤いリボンを片手に萃香達に近付いてきた。

 

「取り敢えず先にリボンをくれ。……うん、ありがとな、すーはぁー。……良い匂いがする」

「萃香萃香、私にもリボン貸してー」

「ほれ」

「ありがとー、すーすー。……ほわぁ、霊夢の匂いがするー」

 

 スターサファイアからリボンを受取り、そのまま流れるように匂いを嗅ぎだした妖怪二人。何ともまぁ、幸せそうな顔である。

 後に二人は語った。霊夢の匂いは安心する。心がぽかぽかしてしあわせな気持ちになるんだと、今日も一日頑張ろう! という気持ちになるんだと。

 

「ーーっ!?(あ、アレは私のリボンジャマイカ! 一本だけ無くなっていたと思っていたら、あんなところにあるとは! あ、あぁぁぁぁぁ!? す、萃香ちゃぁぁぁん!? なして!? なして匂いをお嗅ぎになっておられるのでぇぇぇ!? その上ルーミアちゃんもぉぉぉぉぉ!? ふぉぉぉぉぉ!?)」

 

 霊夢は霊夢で自分のリボンに顔を押し当てながら、ほんわかしている二人の姿を見て、荒ぶりが止められない、止まらない、止めるつもりもない。

 表面上に出てはいないが、大興奮を超えての大興奮、絶頂の中の絶頂を迎えている。足元はよく見なければわからないが、かなりガタガタと震えており、耳も若干赤く染まっている。

 違う意味になるが、まさに上は大火事、下は大洪水という状態である。微妙に瞳を揺らし、瞳孔が定まっていない。どんだけ動揺しているのだろうか、この巫女(へんたい)は。

 霊夢は攻められるのに弱い、ハッキリ分かんだね。いや、攻めにもなっていない。萃香達の行動にすら動揺してしまう有様である。ただ、自分の私物を盗られて、その匂いを嗅がれた程度で、大変な状態だ。……文面にすると十分ヤバイとか言ってはいけない。そもそも、この巫女はもっとヤバイ。

 

「それで、サニーミルクだったか?」

「長いからサニーでいいよ」

「分かったサニー、お前たちの案ってのは何なんだ?」

「案って言うのはねーー」

 

 こっそりと、残った全員に自分たちの考えを説明するサニーミルク。

 内容を聞いている内に、徐々に萃香達の顔にも笑みが浮かんでいく。成る程、それならば、あの霊夢にも通用するかもしれない。

 

「良いなそれ、面白そうだ。乗ったよその案。協力してやる」

「私も賛成するよー」

「何だか、わけ分かんないけど、分かったわ! このサイキョーのあたいに任せて、泥舟に乗った気持ちでいなさい!」

「チルノちゃん、泥舟じゃ沈んじゃうよ」

 

 いつの間にか復活したチルノを含めて、全員が了承する。今ここに妖怪、妖精連合軍が結成されたのである。

 

「いつでも仕掛けられたくせに、随分と優しいんだな」

「何、お前たちがどんな策で私を打倒せんとするのか、それが気になってな。安心しろ、お前たちの策の内容は一切聞いていない。存分に力の限り、私にぶつけて来ると良い」

「そうかよ、その判断を後悔しないようになっ!」

 

 言うなり、萃香が突っ込む。単純な特攻だった。鬼の強靭な身体能力をフルに活かした全力の突撃だ。ただの人間であれば、木っ端微塵、肉片すら残らず砕け散るだろう。

 しかし、眼前に立つのは博麗の巫女。幻想郷で最強と呼び称されているただ一人の人間だ。当然その一撃は止められるだろう。

 霊夢は迎撃する、突撃が当たる瞬間に、自身の掌底で以て萃香を吹き飛ばしてやろうと、その衝撃でついでに残った衣服も剥ぎ切ってやろうと、手を突き出しーー

 

「何っ!? がっ!?」

 

ーーすり抜けた。

 

 霊夢の一撃は空振りに終わる。そして、突っ込んできた萃香の姿が薄まり、空に溶けるように消えていく。

 その次の瞬間、背後から衝撃が襲い。霊夢を吹き飛ばした。霊夢が背後に視線を向ければ、そこにいたのは萃香の姿である。

 それも一人だけではない。ざっと数えただけで、数十人もの萃香が、背後に立っていた。全員が同じ笑みを浮かべ、同じ挙動をする。

 

「これは分身、いや、幻影か。……お前の仕業だな、サニー?」

「せいっかーい!」

 

 サニーミルクの光を屈折させる程度の能力で、生み出した萃香の幻影。それにより、霊夢の掌底を不発させたのである。

 無数の萃香軍団も、サニーミルクの能力によるものだ。光の屈折を利用した幻影。しかもその幻影には霧散した萃香の気配が紛れ込んでおり、どれが本物であるかなど判別することは不可能に近い。更にはーー

 

「音が聞こえない?……そうかルナ、お前だな?」

「ーー(ニコリ」

 

 霊夢は音を欠片も認識することが出来なかった。視線をある方向に向ける。その視線の先にいたのは、無表情に僅かな笑みを浮かべたルナチャイルド。

 彼女の能力は、音を消す程度の能力。それにより、霊夢の周囲から音を奪い取ったのである。これにより、霊夢は音での感知が出来なくなった。そして、自分たちが堂々と声を出しながら、策を実行する事できる。

 

「何故、此処まで動きを読まれ……成る程、お前かスター」

「ーー(ぺこり」

 

 霊夢の呟きにスターサファイアは反応し、お辞儀を返す。

 スターサファイアの能力は、動く物の気配を探る程度の能力。それを霊夢ただ一人にだけ使用することで、霊夢の動きをある程度まで、事前に察知することが出来る様になっていた。スターサファイアが霊夢の動きを周囲に知らせる続けることにより、霊夢を翻弄することが出来ているのだ。

 

「あはッ!」

 

 更に、霊夢の周囲をドロリとした闇の塊が囲んでいく。そう、ルーミアの闇だ。物理的攻撃すら可能にする闇の塊で、霊夢の動きを少しでも阻害する。

 

「準備は整った! そんじゃもう一回だ! とっておきをくれてやる!」

 

 再び、萃香が突撃する。

 今度は無数の分身を従えて、霊夢に向かって真正面からの突撃だ。萃香は腕を限界まで引き絞り、そこに自身の能力を使用する、自身の身体の密度を操作して、限界まで肉体を強化し、逆に拳の表面には接触した対象の力を霧散させる力を付与した。

 

「分身程度で、私を打ち取れると本気で思っていたのか?」

 

 詰みにも近いこの状況、されど霊夢は余裕を崩さない。この程度では何の問題もない。まだ何か手は無いのか? 私を打倒するための策は? 手段はないのか?

 霊夢は萃香に指先を向ける。指先に霊夢の霊力が収束している。赤黒い禍々しい霊力の奔流が、指先に収束していく。霊夢は虚閃を放とうとしていた。

 僅かであるが、霊夢の収束のほうが速い。このまま行けば萃香は拳を当てる前に虚閃の餌食になるだろう。ーーその筈だった。

 

「氷だとっ!?」

 

 瞬間的に、霊夢の腕を氷が覆い尽くす。そしてそのままーー

 

「そぉらぁ!」

「ぐっ!?」

 

 萃香の拳が、霊夢の土手っ腹に吸い込まれるようにしてぶち当たった。これ以上無いほどのクリティカルヒットだ。

 極限まで強化した拳に加え、相手は霊力の装甲を剥がされた生身の肉体。霊夢と言えど無傷とは言えないだろう。現に霊夢の腹部分の服は衝撃で吹き飛んでおり、そこには薄っすらとアザになっている。

 萃香は勝ちを確信していた。自分のベスト中のベストで放った力任せの一撃だ。それ故に絶対の自身が萃香にはあった。しかしーー

 

「……久しぶりに痛みというものを感じた」

 

ーー博麗の巫女健在。

 

 変わらない笑みを浮かべた霊夢。

 普通であれば、骨は愚か、腹に穴の一つは開いていそうな一撃を食らっておきながら、まるで効いていない。

 

「高々霊力を剥がした程度で打ち倒せるほど、私は軟な鍛え方はしていないよ」

 

 腕を封じていた氷を割り、萃香の小さな身体を抱き寄せる。

 藻掻く萃香であるが、霊夢の腕からは抜け出せない。万力か何かで締め付けられているように徐々に力が加わっていく。

 身体を霧散させようにも、能力が使用できない。何故、何故? と混乱する萃香に、霊夢は感情の読めない柔らかく、冷たい微笑を浮かべる。

 

「霧散して逃げようとしても無駄だ。私の霊力によってお前の力の流れを乱している。……さぁ、大人しくご褒美の抱擁を受けるが良い」

「むぅ〜ッ!? むぅ〜ッ!?」

 

 ぎゅぅぅぅっと萃香を抱き締めていく。

 萃香の顔は、霊夢の豊満な胸に埋まり、呼吸をする事が出来ない。そもそもの問題として、萃香は呼吸も忘れてしまうほどの幸福の真っ只中にいた。

 ほっとしてしまう温もり、優しく包み込んでくれる柔らかな感触。脳を甘いしびれが支配し、まともに思考することすら困難になり始める。

 霊夢曰くの魔乳。何人もの幼気な少女たちを堕としてきた。魔性の乳が萃香をも堕とそうとしているのである。精神的にも、物理的にも。

 

「むぅ、んぅ」

 

 萃香の動きが徐々にぎこちなくなっていく。意識が落ちようとしているのだ。霊夢の乳によって呼吸を止められ、その上に精神をも魅了された。幸福な夢の中に萃香の意識が沈む刹那ーー

 

「此処までだよー!」

 

 闇が溢れ出し、霊夢の抱擁を解除して、萃香を救出した。

 そして、そのまま霊夢の四肢を縛り、動きを封じ込める。霊夢の力を考えるならば、この程度の拘束に意味はない。数秒足らずで引き千切られて終わるだろう。だが今はその数秒だけで良い。

 

「終わりよ、霊夢!」

 

 真打ち登場! そう言わんばかりに威風堂々とチルノが飛び出していく。氷の羽を巨大化させながら霊夢に向かって突進する。

 結構な力の収束がなされたその突進は、妖精にしては余りにも強大な力を秘めていた。チルノの動きに合わせて、真下にある湖の水面が氷結していく、それ程の強力な冷気を纏った一撃だ。

 

(やはり⑨、勝機と見るや、図り無く飛び込んでくる。それがお前の最大の欠点だよ。チルノ)

 

 だが、それでも霊夢を驚かせるには足りない。

 冷静にチルノの突進を見極め、対処するために向き合う。この程度であるならば、拘束されていようと問題はない。真正面から切って捨ててやろう。……そこまで考えて、ふと視界に入った。

 

「「ーー(にっこり」」

 

 してやったりと、笑みを浮かべている三月精の姿が。

 

(しまったっ!ーー)

「喰らえぇぇぇ! アタイのちょーサイキョー必殺技ぁぁぁ!」

 

ーー幻影だ。

 

 向いた方向とは逆からの突撃。

 霊夢の身体に飛び込んだチルノ、チルノの身体が触れた部分から、霊夢の身体が氷結していく。霊力で吹き飛ばそうとしても、その霊力自体が霧散してしまう。

 そうか、と霊夢は思い至る。チルノの冷気に萃香の力が付与されている。霊力などによる干渉を霧散させ、相手を確実に凍らせる、二人の合わせ技。

 

「……見事だ」

 

 その言葉を最後に、霊夢は氷の牢獄の中に閉じ込められた。

 

「や、やった! 勝った! 勝ったわ! 霊夢に勝った!」

「よっしゃぁぁぁ!」

 

 歓声が辺りに響く。あの霊夢に、博麗の巫女に、最強の人間に勝ったのだ。この喜びは、この達成感は例えようもないほどに甘美なものだった。

 特にトドメを決めたチルノの喜びような尋常ではない。いつもの二割増しくらいはバカになって、騒ぎまくっている。

 

「はぁはぁ、もうダメかと思った」

「お疲れ様、萃香ー……で、霊夢に抱き締められた感想はー?」

「最高だったっ! 何だよアレ!? 何だよアレ!? 後、一歩遅かったら、変な扉が開くところだったぞ!」

「私もやられたことあるから分かるよー」

 

 ギリギリで生存した萃香は、霊夢の感触を思い出し赤面しながら腕をブンブン振り回す。……実際は開き切っている、なんて空気の読めない発言はしてはいけない。

 なおルーミアも霊夢の魔乳の被害者であった。以前お腹が空いて、霊夢に食べ物を強請りに行った時、交換条件で一晩だけ抱き枕にされたのである。萃香ほど力強く抱き締められはしなかったが、それでも良い匂いがするやら、温いやら、柔らかいやら大変だった。あの時の事を思い出すと、ルーミアは時折下腹部が熱くなって、もじもじしてしまうそうな。……もう手遅れである。

 

 何だかんだ模擬戦は萃香達の勝利に終わった。後は霊夢の氷を解除してしまえば終了だ。

 そうーー本当に終わったのであればの話ではあるが……

 

「皆っ、皆一体何をしているんだっ!?」

 

 その異変に最初に気がついたのは、慧音であった。

 慧音の叫びを聞いて、弾かれたように氷漬けにされているはずの、霊夢の方を見やる。見て、衝撃ーー

 

「っ!?」

「だっ」

「だ、大ちゃん?」

 

ーー大妖精。

 

 氷漬けにされていたのは霊夢ではなかった。霊夢ではなく、他の人物、自分たちの味方である大妖精。彼女が霊夢の代わりに氷漬けにされていた。

 

「ちっちくしょぉぉぉがぁぁぁ!」

 

 大妖精は確か、三月精の背後に待機していた筈だ。

 萃香が視線をそこに向けると、そこには 無 傷 の霊夢の姿があった。萃香が付けたはずのアザなども一切無い。

 

「う、そ」

「ばか、な」

「ひで、ぶぅ」

 

 ゆっくりと、落ちていく三月精達の姿。ご丁寧に、落下していく場所は、慧音がいる場所だった。

 

「何時からだ」

「何時? 面白い事を聞くじゃないか、私は君たちにされていた事をそのまま返してあげただけだというのに」

「だから何時、アイツと入れ替わったんだと聞いているんだ!」

「最初からだよ」

「さっ最初からっ!?」

「お前たちが、私を策に嵌めることが出来た、と考えているその瞬間から、お前たちが私だと認識していたのは大妖精だったという事だ」

 

 簡単な事だと、霊夢は語る。

 光の屈折による幻影。音を消すことによって、自分たちの行動を悟らせない。相手の行動を事前に察知して行動することで、自分たちの策を完全なものにする。

 それを自分なりに真似してしまえばいい。予め大妖精の動きを術で縛り、霊力で姿形を、声を、強さすらも偽り、後は探査回廊で萃香達の動きをコントロールしてあげればいい。

 勿論、万が一にも大妖精が怪我を負わないように、ある程度の保険を掛けておいた。此処まで打ちのめされても、傷一つ負ってはいない。……見た目的には氷漬けにされているように見えるが、実際は霊力の膜でしっかりと覆い隠しているため、ダメージどころか、寒さも感じていない。

 むしろ大妖精は、霊夢の温かい霊力に覆われて微睡んでいた。大妖精だけ平和である。

 

「あ、ああ」

「あれ? ちるの、ちゃん?」

 

 氷を溶かし、大妖精を救出したチルノ。急いで、慧音が待機している岸辺の方に大妖精を運んで、横たえる。氷から救出されたが、ぐったりとしている様に見える大妖精の姿にチルノは動揺を隠せない。

 自分が霊夢だと思って攻撃していたのが、大妖精だったのだ。大親友を知らずとはいえ、全力で攻撃していた、その事実にチルノの感情は大きく揺らされていた。

 

「どう、して?」

 

 疑問を口にして、そのまま気を失った(様に見える)大妖精。実際には、襲い来る睡魔に抗えず眠っただけであるが、事情を知らないチルノからしてみれば、怪我か何かで気を失ったようにしか見えない。

 チルノは大妖精の疑問に答えられなかった。大妖精の瞳にある困惑と少しの恐怖を見てしまったから。自分が何をやっているのか理解したくなかった。

 目線をずらせば、悠然と佇む霊夢の姿があった。瞬間、チルノの頭に血が上る。自分が大妖精を攻撃してしまったのは、霊夢の作戦だった。そう思い至った。思い至りーー

 

「うわあぁぁぁぁぁ!」

 

ーー突貫。

 

 再び氷を形成して、霊夢に突撃を仕掛けるチルノ。錯乱しているように突っ込んでいる。

 

「待て! 待つんだっ! チルノォォォ!」

 

 萃香の制止も無視して、チルノは霊夢に向かって突っ込んでいく。チルノは理解したくなかった。

 大妖精を氷漬けにしたのが、自分だという事実を。何より優しい霊夢がこんな酷いことをした事が信じられなかった。

 あんなに大事そうに頭を撫でてくれていた霊夢が、大妖精を利用した。その事実を信じたくなかった。

 信じるも何も、元から霊夢は大妖精が傷つかないように、無駄に手間を掛けて守りを万全にしていた、という事実は霊夢と、ぐっすりと眠っている大妖精以外には分からない。

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

「隙だらけだよ。何もかもが」

 

 霊夢の姿が一瞬だけ消え、すぐにチルノの背後に現れる。

 

「あ、くっ」

 

 チルノの纏っていた冷気が、その身に纏う衣服ごと全て切り裂かれ、衝撃はチルノの意識をも刈り取った。

 マッパである。全裸である。ロリコン大歓喜である。気絶したチルノが落ちる前に、霊夢がお姫様抱っこで救出する。素肌の感触が大変よろしい。小ぶりだがやわっこい小桃の感触も大変素晴らしい。

 霊夢は無意識にチルノの尻を撫で回していた。……事案である。だがしかし、周りに感づかれないように、こっそりと死角で触っているため、誰も気づくことが出来ない。

 

「このぉー!」

「ぬるいな」

 

 ルーミアの闇が迫るが、霊夢は気にせず一歩進み。気付けばルーミアの懐に立っていた。

 

「あうっ!?」

 

 そして、手刀のひと振りで、ルーミアの残ったワイシャツのボタン全てと共に、意識を刈り取った。

 ボタンが全て引き千切れたことで、ルーミアのワイシャツの前部分が全開になる。そこから霊夢の視界に入ってきたのは、沢山の肌色と、若干の桃色でデザインされた芸術であった。

 具体的に言うなれば、ルーミアのちっぱいと、ルーミアのるーみあがこんばんわしている状態だったのである。霊夢の心にいるマーラ様も、これにはにっこりである。

 無論、ルーミアも空いている方の腕でしっかりと保護。両手に幼女を装備した犯罪者の誕生である。……霊夢自身が超絶美少女であるために、本来であれば犯罪的な光景であるはずなのに、妙に絵になっている。これが美醜の格差というものなのだろうか。

 

「さぁ、最後はお前だけだ萃香」

「くっそぉぉぉ!」

「ゆっくりと休むといい」

 

 抵抗しようと破れかぶれに突っ込んだ萃香を、無情にも構え無しで放たれた虚閃が覆い隠し。

 

「う、あ、ちく、しょ」

 

 萃香も撃墜された。虚閃によって、身に纏っていた服は綺麗に消し飛んでいる。

 勿論、萃香もちゃんと回収された。霊夢の腕の中には、チルノ、ルーミア、萃香の服を一切身に纏っていない生まれたままの姿の三人がしっかりと抱え込まれている。重性犯罪者にランクアップしてしまった。

 更には手の位置的に真ん中に抱えている萃香の小さい膨らみ、萃香っぱいをしっかりと掴み込んでいる。意識が朦朧としている萃香はそれに反応できていない。……つまり揉み放題である。

 霊夢はこの世の春を謳歌していた。自身の腕の中には可愛らしいロリが三人もいる。とっても良い香りがするし、柔らかいし、合法的に触れるし、揉めるからもう何も言うことはな。欲を言うなら、そのまま自宅にまでお持ち帰りして、そのまま美味しく頂きたいところであるが、慧音が下で待っているため、それも断念することになる。

 

「やれやれ、手間の掛かる」

 

 三人を運び、横たえる。若干名残り惜しそうにしているのは、気のせいではない。

 霊夢としては、後最低でも三日間くらいは抱え込んだまま、一緒にお風呂入ったり、お布団で仲良くお休みしたりしたかった。……霊夢の妄想の中では、全裸のチルノ、ルーミア、萃香と戯れている自身の姿が思い描かれていた。本当に度し難い変態である。

 

「もう模擬戦はこれで終わりみたいだな。……思いの外、強くなっていた。これから先が楽しみだ」

「霊夢に認められるために、ずっと頑張っていたからな」

「……」

「れ、霊夢? どうしたんだ?」

 

 無言で慧音の手を掴み、見る霊夢。

 いきなり手を掴まれた慧音は流石に動揺を隠せない。真剣に自分の手を観察している霊夢。それに気恥ずかしいやら何とやら、慧音は顔を真っ赤にしている。

 やがて、観察を終えた霊夢は、ふっと笑みを浮かべ、慧音と顔を合わせる。その目は、しょうがない奴め、と言いたげな、優しい色に満ちていた。

 

「この手を見れば分かる。……お前も以前とは比べ物にならないほど、力を付けているな」

「傷は隠していたつもりだったんだがな。やはり霊夢には隠し事は出来ないか」

 

 慧音とて霊夢に認められたいと考えている者の一人だ。それなりに努力して、少しでも力をつけようと頑張り続けてきた。その実力はハクタクの力を使わなくても、上位の妖怪に匹敵する程度には高まっていた。

 今回は参加していなかったが、慧音が参加していたら、もう少しだけ模擬戦は長引いていただろう。

 

「お前だけではなく、この娘達全員にも言えることだが、無理だけはするなよ?」

「分かっているさ」

「さて、模擬戦は終わりだと思ったが、どうやら最後の一人の準備が漸く整ったらしい。……慧音、私から三歩離れろ、巻き込まれるぞ?」

「っ!?」

 

 霊夢に言われたとおりに慧音が下がった瞬間、二人を隔てるように、半透明のエメラルドグリーンの結界が出現する。

 かなりの霊力が練り込まれた特製の結界だ。霊夢ですらも本気で壊そうとしなければ破れないだろう。そう、思えるほどの強力な結界だった。

 

「……早苗、随分と遅い登場じゃないか? お前が遅かったせいで、お前以外の全員が脱落したぞ?」

「正義の味方は遅れてやってくるって、相場が決まっているんですよ。それに、私以外の全員が脱落したとしても、私一人が残ってさえいれば、事足ります。……我が力、奇跡(ミラクル)の前に這い蹲らせて上げましょう」

「面白い、やってみろ後輩」

 

 霊夢を結界に閉じ込めた人物は、早苗だった。

 全身からエメラルドグリーンの霊力を迸らせながら、不敵な笑みを浮かべている。平時の際の喧しく社交的な早苗の姿は、そこには無かった。あるのは不遜で、自信に満ち溢れた傲慢な顔。自分が一番強いと疑っていない紛れもない強者としての顔が、そこにはあった。

 

「ええ、そうさせて貰いましょう。」

 

ーー常識破りの奇跡(アンリミテッド・ミラクル)

 

 今、此処に奇跡が起こる。

 早苗の力、奇跡を起こす程度の能力とは、本来、風神である神奈子より神の力を借りて発動する力である。その能力は、本来雨を降らせたり、風を起こしたりする程度の規模でしか奇跡を起こせない。

 しかし、早苗は自身の力を極限まで高め、文字通り奇跡っぽいことならば任意で何でも起こすことが出来る力まで昇華させるに至った。

 奇跡を起こす程度の能力。改め、奇跡(ミラクル)。時間を掛けながら、自分自身が起こせる奇跡の規模を際限無く上昇させていく、恐るべき力である。

 最初は微々たる奇跡しか起こせないが、徐々に徐々に時間が経過する毎に出力が上がっていき、最終段階では無敵に等しい力を得ることが出来る、という早苗のみに許された力だ。

 

 発動してから既に相当な時間が掛かっており、早苗の奇跡の規模は最終段階に近付いて来ていた。

 

「ほう? 奇跡による身体強化か、限定的ではあるが、幽香に匹敵しないまでも、それなりに強いな」

「この私を前にしてその余裕。不遜ですね。許しがたいです」

 

 早苗の振り下ろした払い棒が、凄まじい衝撃波を発生させ、霧の湖を真っ二つに切り裂く。

 

「その程度は出来るようだな。だが、まだ甘い」

 

 衝撃波はそのまま霊夢に向かって飛んでいくが、片手で受け止められ、そのまま握り潰される。

 

「流石は霊夢さんですね。ここまで高まった奇跡の力でも、簡単に対処しますか」

「安心しろ早苗、お前は強いからな。全力の半分の力で叩きのめしてあげよう」

「ふんっ、傲慢ですね。気に入らない。……良いでしょう。貴方のその思い上がりごと、私の奇跡で以て粉々に粉砕して差し上げます」

 

 人差し指を天に掲げる早苗。

 

「我が力、奇跡の前に常識などというものは、存在しないも同然」

 

 指先に不可視の力の塊が収束していく。

 

「故に、本来では有り得ない超常現象をも生み出すことが出来ます」

 

 不可視の力の奔流は、周囲の光を引きつけ、黒より黒く染まっていく。緑色の霊力と共に収束していく。

 

「つまり重力を捻じ曲げ、束ねることで圧縮したマイクロブラックホールを生み出すことも出来るということです」

 

 早苗の指先に集まっていた力の塊の正体は、マイクロブラックホール。早苗の霊力によって無理矢理圧縮されたエネルギーの塊だった。

 

「さぁ、霊夢さん。時空そのものを蝕む、剥き出しの特異点。何者も逃れられない重力崩壊を味わわせて差し上げましょう」

 

 早苗はゆっくりと指先を霊夢に向ける。

 

「事象の地平へ、ご招待ーー」

 

ーーブラックホールクラスター。

 

 時空すらも捻じ曲げる規格外の一撃が、霊夢に向かって放たれる。

 如何に頑丈な肉体を持ち、霊力の鎧で身を守っている霊夢であっても、まともに喰らえば致命傷は免れない。

 

「幽香に続いてお前もか、早苗……フッフフフッ! フハハハハハッ!」

 

 自分を害することが出来る一撃を前に、霊夢は嗤っていた。心の底から、嗤っていた。そこにいつもの変態性は微塵も感じられない。

 これで二人目だ。自分を傷つけ、その命まで手を伸ばすことが出来る存在が現れるのは。その事実が堪らなく嬉しい。

 やはり幻想郷は素晴らしい。自分を楽しませてくれる猛者がどんどん現れてくれる。

 霊夢の変態性の中に隠れている、戦闘狂としての側面。そこを刺激され、霊夢はこれ以上無い程の喜びを感じていたのである。それは美少女を愛でているだけでは味わえない類の快楽。脳内麻薬が分泌され、自身の心の底にある戦闘本能が、歓喜の雄叫びを上げ続けている。

 楽しい、楽しい、楽しい、楽しい、楽しい。楽しい戦いが出来るっ!

 

「認めよう、東風谷早苗。お前は私の前に立つ資格が、私と戦う資格がある」

 

 迫りくるマイクロブラックホールを鷲掴みにして、無理矢理止める。余りに絶大なエネルギーに、受け止めた手が裂け出血するが、そんな事など関係ない。力で無理矢理抑え込む。

 

「さぁ早苗、私と戦おう、語り合おう、伝え合おう、殴り殴られ、壊し壊されよう。私の想いを、お前の想いを、骨が砕け、肉と肉が引き裂かれ、血と血が混ざり合い、溶け合うほどに、思う存分戦り合おうっ!」

 

 霊夢の言葉と共に、マイクロブラックホールが握り潰される。ただの握力で超自然現象が握り潰される。

 

「さっきの言葉は撤回しよう、お前に失礼だ。……ここからは七割の力で戦ってやろうっ!」

「くぅっ!?」

 

 奇跡の力で極限まで身体能力を強化した早苗。彼女の目を以てしても、なお消えて見える程の速度で、霊夢が早苗に襲い掛かる。

 一瞬で懐に入り、早苗に向けて七割の状態で放つ、加減なしの正拳突き。咄嗟に、片手に持った払い棒で防ぐ早苗であるが、そのガードの上から、早苗の土手っ腹に拳がねじ込まれる。

 

「おこがま、しぃぃぃ!」

 

 奇跡の力で、受けたダメージを瞬時に回復させ、早苗は反撃に出る。

 霊夢の胸ぐらを掴み上げ、ヘッドバット。脳を揺らされ、ふらつく霊夢に向かって、更に払い棒による薙ぎ払いを、横腹に向けて叩き込む。

 

「ハッ!」

 

 しかし、それは霊夢の肘と膝による挟み込み、蹴り足ハサミ殺しで止められる。早苗が持っていた、払い棒は、その余りの威力に砕かれてしまう。

 

「何ですって!? ごふっ!?」

 

 自身の武器を砕かれた事で、僅かに動揺する早苗。その隙を突かれ霊夢の攻撃をモロに食らってしまう。

 中国拳法秘伝の奥義、寸勁である。別名をワン・インチ・パンチと呼称されるこの技は、ワンインチ……つまり三センチ程の距離からの打撃である。

 体捌きや、体重移動などにより、体の各部位で発生した運動量、自身の体重などを拳に伝え、破壊力とする打拳。

 それが、早苗に向かって放たれた。

 その威力、圧巻の一言。早苗の身体が宙を舞い、撃ち出された弾丸のように物凄い速さで吹き飛ばされる。

 

「がはっ!」

 

 そして、早苗の身体は、早苗自身が張った結界にぶち当たって、漸く止まる。

 何という、何という威力なのだろうか。予想だにしない衝撃、腹の中の内蔵を直接シェイクされた様な感覚、胃から喉まで上がってくる鉄臭い味、ふらつき思い通りに動かない足。

 奇跡による強化、それを用いてもなお、ここまでのダメージを身体に刻み込まれた。その事実に早苗に去来したのはーー

 

( 素 敵 ッ ッ ッ ! )

 

ーー愛だった。

 

 何と言う規格外ッ! 何という強さッ! 何という常識外れッ!

 これがッ! これこそがッ! 博麗のッ! 博麗の巫女の真骨頂ッ!

 奇跡を開放し、傲慢になった思考。自分が唯一絶対の強者だと叫び続ける思考。その中で、早苗は溢れ出てくる愛に満たされていた。

 

「……欲しい」

 

 あの女が、霊夢が欲しい。霊夢の全てが欲しい。笑顔も、身体も、心も全て、全て、全てが欲しい。否、全て自分の物だ。

 

「……霊夢さん、貴女の全てが欲しいっ!」

 

 此処に来て、早苗の力が更に上昇した。奇跡の位階が、最大になったのだ。

 早苗の容姿に変化が起こる。瞳の色が黄金に輝き、髪が更に伸びてボリューミーに。身体も僅かに成長し、霊夢に匹敵する身体つきになる。その全身からは膨大なエネルギーを発し、背中には神を彷彿とされる光輪を背負っている。

 これが早苗の、東風谷早苗の全身全霊の境地。その名をーー

 

「そのために貴女に勝利して、貴女の全てを貰い受けるっ!」

 

ーー『一騎当千天地無双(ザ・ネオ)

 

 僅か一分だけの短い時間ではあるが、想像を絶する無敵の権化となる早苗の奇跡の最終到達点である。

 霊夢を打ち倒すためには、この身にある全ての力を出し切らなければならない。さぁ、最後の技を霊夢に魅せつけよう。霊夢の心に己の存在をしっかりと刻みつけよう。

 

「私は奇跡を起こす者っ!」

 

 言葉を紡ぐ。

 

「奇跡、最大限」

 

 早苗の背負いし光輪から光が溢れ出す。

 

「霊力、増大」

 

 光に呼応し、霊夢の頭上に空間の歪みが出現する。その歪みは凄まじく、霧の湖一帯を覆い尽くし、嵐を巻き起こす。

 

「重力崩壊臨界点、突破」

 

 早苗は両手を自身の胸の前で、広げる。するとそこに、三つの緑色の光の玉が出現する。その光の玉の正体は、早苗自身の霊力だ。それも奇跡の力を帯びた特別性の強力な代物。

 

「霊夢さん、これが私の気持ちですっ!」

 

 三つの玉を両側から押して、一つの玉へと合成する。

 合成した結果、生まれたのは、途方もない力を放つエネルギーの塊である。存在するだけで、周囲の空間に影響を及ぼすほどの絶大なる力だ。

 光輪がより一層の輝きを放ち、空を大地を白く染め上げる。

 

「受け取ってくださいっ!ーー縮退砲、発射っ!」

 

 その一撃を例えるなら、天地開闢の一撃。

 恒星の何倍にもなるエネルギーが、ただ一人の人間に向かって放たれた。

 

「……(にっ」

 

 迫る縮退砲を目にした霊夢は、何を語るわけでもなく嗤った。

 最高の贈り物だ。本日最大の贈り物だった。早苗の想いが詰まった、この世で唯一つの、霊夢だけの、霊夢のためだけの贈り物。

 喰らえば怪我は免れぬ。喰らえば命に届きうる。それどころか幻想郷をも滅ぼして、世界を、宇宙にすら大きな爪跡を残すだろう一撃。

 幽香でも易々とは行えない。早苗にのみ許された彼女だけの至高の一撃だ。

 

「早苗、私の愛しい好敵手の一人よ。お前の強い想い、確かに受け取った。……だが、間違えるな。私がお前の物になるんじゃない、お前が私の物になるんだ」

 

 霊夢がこの日初めて構える。静かに、ただ静かに、ゆっくりと、ゆっくりと。

 迫りくる天地開闢の一撃を前にしていながら、緩慢な動作で、静かにゆっくりと構えを取った。

 それは構えと呼ぶには余りにも平凡で、些か普通過ぎる構えだった。否、それは構えと読んでも良いのだろうか? ただ普通にその場に立っているだけにしか見えないその構え、ただただ自然体に立っているだけの構えである。少なくとも、戦闘中にする構えではない。

 しかし、ただそれだけの構えであるのに、霊夢の存在感が何倍にも大きくなったように早苗は錯覚した。ただ立っているだけに見えているだけなのに、隙と呼べるものは一切見当たらない。それどころか、ただこちらを見ている視線だけで、全身が凍えたかの様に震える。

 

「奥義ーー」

 

ーー夢想天生。

 

 霊夢の言葉とほぼ同時に、縮退砲が霊夢に直撃した。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 いやー早苗さんは強敵でしたね! 博麗の巫女大満足ですよ! 大 満 足 !

 ん? 何で生きてるんだ? 死んだんじゃねぇのかよ、この変態! だって? うるせぇ、グーで殴るぞ。

 

 簡単に説明しよう。

 縮退砲が直撃する。

 しかし、私は奥義を発動していたために、無傷。それどころか、縮退砲を消し去る。

 早苗、約束の無敵状態の一分が解除されて元に戻ってヘタレになる。

 戦いという名の、私の私の手による、早苗大攻略祭りが始まる。

 あはんっあはんっいやんっいやんっぺろぺろちゅっちゅギガント。

 私、大勝利。

 大体、こんな感じなんやで。

 

 え? 説明が足りない? 説明してくれたら、(美少女の)パンツをくれる?……しょうがないなーしっかりと状況説明してあげよう。優しい私に感謝しろよ(無駄に煽り顔)?

 

 早苗の一騎当千天地無双状態から放たれた規格外の一撃、縮退砲。

 時空間を砕きながら迫るその一撃は、私に傷を負わせるどころか、その命を奪い取れるだろうと、そう思えるほどに強力な一撃だった。

 防御しようにも、限定解除しないと防御できそうに無かったから、仕方なく私はある技を繰り出すことにした。

 それこそが私の奥義の一つである、夢想天生である。

 効果は至って単純で、全ての事象から浮かび上がり、あらゆる干渉を弾いて、無敵になる技である。これを使って早苗の縮退砲から逃れたのである。

 しかもこの技の利点は、これだけではない。私という人間をあらゆる場所から浮かび上がらせて、存在しているのに存在していない、という矛盾を孕んだ状態にすることにより、幻想郷に影響を与えること無く、正真正銘の全力を、本気と書いてマジの力を出せるようになるのである。

 夢想天生を使って、その後に限定解除をして、本来の力で以て、縮退砲がその威力を発動する前に全力で握り潰したのである。……だって、あのまま爆発とかさせたら、早苗の結界ぶち破って、そのまま世界が滅びることになるしね。早苗、ちょっとアゴが外れるんじゃないかってくらい、口をガバーッてしてたしね。

 

 んで、その直後に早苗の一騎当千天地無双状態が解除されて、元のヘタレな早苗にキャラチェンジ。

 ガタガタ震えつつ、涙目で逃げようとする彼女を取り押さえて、そのまんま戦闘と言う名目で、色々と弄り倒したというわけだよ。

 

ーー羽交い締めで、早苗の早パイを全力で揉みしだいてあげたり。

 

 ずっと揉んでいたくなる柔らかさ。手の平に吸い付いてくるんじゃないのかって言いたくなるくらいの弾力性など。早苗の胸だけで、ご飯駆け付け三杯は余裕で食えるんじゃないのかっていうくらいの触り心地だった。早苗のマウンテンの頂上に存在するチェリーも抓んだり、引っ張ったり、爪を立ててみたりと、色々と堪能した。……ぶっちゃけ吸いたかったのは博麗の巫女だけの秘密である。

 

ーー関節技で、早苗の身動きを封じつつ、下半身を攻めまくったり

 

 電気アンマとか色々とやりました。楽しかったです(小学生の作文)。

 早苗が何度もビクビクとエビ反りして、えっちぃ声で泣き叫ぶ姿は、私の下半身に奇妙な刺激を与えてくれました。おかしいなぁ、こわいなぁ、と思いつつ。早苗の股の間を足で、エイッエイッとするわけですよ。すると早苗が「ひぅっ!?」だの「あんっ!」だの妙に苦しそうな、だけど艶掛かった声を上げるんですよね。

 私はこれでも淑女でありますから、彼女が何かを我慢しているな? 我慢は身体に悪いぞ! と思いましてね。もう足なんて使わないで、ひと思いに、こうズバーッと手を使うわけですよ。

 これ言ったら、怒られるかもしれないんで、ぼかすんですけどね。いやーね。高級食材のアワビってあるじゃないですか? あれを優しく撫でたりする。それに近いですね。

 それで、何度も擦ったり、時に直接かき回したりするんですよ。それで、苦しげに叫んでいる早苗の声がどんどん大きくなって大きくなって、遂にーー

 

「あ、あああああああっ!?」

 

ーー絶叫。

 

 恐かったですね。いや、本当に恐かったですよ。人の出せる声じゃあぁないです。まるで悪魔か色魔でも乗り移ったような。そんな声でしたね。

 私、巫女ですから。早苗の中に居座っている悪いモノを根こそぎ払おうと頑張るわけです。その度に早苗は血を吐くんじゃないのかってくらいの叫び声を上げるものだから、私自分の力のなさを嘆きましたね。

 で、気がついたんですよ。もしかしたら、いやそんな筈は。もしかしたら、私がやっている行為のせいで、早苗は苦しんでいるんじゃないのかって、止めれば、早苗は落ち着くんじゃないのかって、思ったんですよ。

 思い立ったが、吉日と言うじゃないですか? 試しにこうピタッと指を動かしたり、色々とペロペロするのを止めてみたんですよね。

 それでですね、はぁはぁと悩ましげな息を吐いている早苗は不思議そうに、辺りを見回し、私の方を見たら言ったんですよ。

 

「れ、霊夢さぁん、どうして意地悪するんですかぁ」

 

 私、もう意地悪するしか無いなって思いましたよね。

 

 で、何やかんや色々と私と早苗二人だけによる、霧の湖上空での模擬戦(意味深)がしばらく行われ、無事私は勝利した、というわけなのだよ。

 あの後辺りから、早苗が妙に距離を詰めてくるようになったと言うか、必要以上のボディタッチが多くなってきたというか。私の作った露出多めの服も、進んで着るようなって、「似合いますか?」なんてやり取りも増えた。

 後は何故か、魔理沙との仲が微妙に悪いというか、犬猿の中と言うか、そんな感じになっていたのだよ。謎。

 

 まぁ何はともあれ、今日も素晴らしい一日だったということだね。

 色々と美少女に触れ合えたし、早苗は私を驚かせるくらいに力を付けていたし、ね。

 これだから博麗の巫女は止められない。

 




かくたのぉ!

色々とギリギリのライン攻めてみた。
アウトだったら修正する。……ま、まぁ、私以上にヤバイ描写の作品あるから大丈夫やろ(震え声)。


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巫女、図書館

やぁやぁどうも、春巻きですよー。
ちょっと遅くなっちゃったけど投稿の時間ですよー。

予告通りに博麗伝説の最新話は図書館のお話しですよー。


 本とは素晴らしいものだ。

 知識を深めたり、文章を読んで感動できたりと、本の数だけ一つ一つの物語が存在している。

 

 特に童話は素晴らしい。

 童話は面白い。子供向けに作られた内容ではあるが、深く読み進めると、その内容の裏には教訓などが隠されている。

 例えば、有名な童話の『白雪姫』を例に挙げる。

 あの物語は、可憐な美少女である白雪姫が、意地悪な義母に追い出され、森で七人の木こりに拾われ、魔女に騙されて、毒のリンゴを食べて、覚めない眠りに付いてしまう。しかし、そこにさっそうと現れる王子様のキスによって、目を覚まし。そのまま王子様と結婚して幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。……そんなお話しだ。

 私はこの物語に疑問を抱く。もしも、もしもの話だ。

 義母に追い出され、七人の木こりに拾われたが、もしも木こり達が鬼畜だったらどうするのだろうか? どうして身も知らない魔女から渡されたリンゴを食べてしまったのか? 王子とはいえ、知らない男に唇を奪われたのに、そのまま結婚までしてしまったのだろうか?

 私には白雪姫が、無知ゆえに流されて生きているようにしか思えないのである。

 もしも私が彼女ならば、七人の木こりを最初から信用して一緒に住んだりしないだろうし、魔女の渡したリンゴも食べない。仮に王子のキスで眠りから覚まされたとしても、寝込みを襲った野郎とは絶対に結婚しない、むしろ助走をつけて全力で殴る。

 心根の優しいものは幸せの方から寄ってくるとも、見て取れる話ではあるが、私は別の解釈をしている。

 心優しいが故に人を疑うという事を知らず、人を疑わないがゆえに、自分の身に差し迫る危険に気付く事が出来なかった少女の、無垢で純粋であるが故の危機管理能力の欠如。

 穿った見方かもしれないが、私にはこの白雪姫という童話は、白雪姫という少女の危機に対する無知が描かれているのではないのか? と、考えるのだ。賛否両論もあるかもしれないが、少なくとも私はそう考えている。

 そもそもの話だ。白雪姫が義母が自分を疎ましく思っているという事に気付けたならば、何かしらの対策を取る事も出来ただろう。義母と面と向かって話し合い、お互いの腹の内にあるものを全て曝け出して語り合えば、もしかしたら、二人の間にちゃんとした絆が芽生えたかもしれない。……白百合姫的な話が始まったかもしれないのだ。それを思うと本当に残念でならない。

 兎にも角にも、童話には考えさせられるような、様々な教訓を得られる話が多いのだ。

 

 また、外国の童話以外にも、日本の昔話などにも面白い話が沢山ある。

 有名所を出すならば『桃太郎』や『鶴の恩返し』などだろうか? 桃太郎からは、正義は必ず勝つという、勧善懲悪。鶴の恩返しからは、良いことをすれば、自分に返ってくるという善因善果などの深い教訓を得ることが出来る。

 

 色々な物語があり、その物語に応じた教訓があるのだ。それらの教訓は、成長過程にある子どもたちの人格形成に役立ち、将来どのような人物に成長していくのか、という基盤にもなるだろう。

 私自身も、小さい頃はよくゆかりんに読み聞かせしてもらっていた。カチカチ山や金太郎などの日本昔話、外国の赤ずきんちゃん、不思議の国のアリスなど、色んな本を読み聞かせてくれた。

 最も私の場合は、最初っから人格がクライマックスだったので、影響もクソもなかったんだけども。……むしろ読み聞かせの内容よりも、ゆかりんのおっぱいの記憶しか無い。絵本なんて眼中になかったんや。本より乳なお年頃だったんだよ。

 いやーあの頃は、覇王モードぱいせんもいなかったから、結構自由に行動してたなー。揉んだり抓んだりするのは当たり前、吸い付くことだって出来たんだから。……ちなみに、美味しかったけど、ミルクは出なかった。出なかった。

 

 何かスマンね、少し脱線してしまったよ。

 まぁ、何やかんや色々と絵本素晴らしいって語ったけども、つまり私が何を言いたいのかーー

 

「霊夢、霊夢! この本読んでっ!」

「早くしなさい霊夢っ!」

「こらこら、慌てずともちゃんと読んでやる」

「「わーい!」」

 

ーー本、最っ高っ!

 

 だって読み聞かせを始めたら、すんごい勢いで幼女が寄ってくるんだもの。

 私に本を渡しながら、読んで読んでと抱き付いてくる吸血鬼姉妹の姿にほっこりするついこの頃です。押し付けられた、幼女のちっぱいの感触が大変心地良い。幼女特有の体温の温かさもあって、そのままベッドインしたくなっちゃうよ。……じゅるりじゅるり。

 

 さて、いつもの大興奮ド変態霊夢ちゃんはひとまず置いといて、可愛い可愛いスカァァァレッツシスタァァァズに御本でも読んであげようねー。

 霊夢お姉さんが読み聞かせしてあげちゃうからねー。じゃけん、私の膝に、ハァハァ、私の膝の上に、ハァハァ、その小さなお尻で、ハァハァ、座っちゃいましょうねー、ハァハァ。

 

「ちょっとフランっ! もう少し左に寄ってよ! 貴女だけ幅取りすぎよ!」

「お姉様の方がいっぱい場所取ってるよ! フランは絶対動かないんだから!」

 

 あ、あぁぁぁぁぁ! 私の膝で暴れないで、暴れないでよちょうだいスカーレッツ! わ、私の膝にダイレクトに貴方達の可愛らしい桃の感触が、感触がががががっ!?

 私の膝の上で繰り広げられる吸血鬼姉妹のキャットファイト。お互いに、膝の真ん中に行こうと左右からギュウギュウと詰めてくる。そのため、私の膝に伝わってくるのはダイレクトな桃の柔らかさ、動けば動くほどに体温が上がっていき、姉妹の熱量が私の心にあるバベルの塔に火を灯し、理性という名の鎖を砕こうとしてくる。

 正直、興奮のあまりこのまんま、二人をこの場でおかs……キャッキャウフフしたくなるね(必死の誤魔化し)!

 

「落ち着けレミリア、フラン。……ほら、こうすれば二人共ちゃんと座れるだろう?」

 

 あのまま放置してたら、何時までもキャットファイトしてるから、賢くて最高にクール(笑)な私は、二人を確実に仲裁できる手段を取る。

 二人のお腹に手を回し、シートベルトの様にしてから、膝の上に固定する。そして、回した手をそのまんま、前に持ってきて本を手に取ってしまえば、完成である。

 名付けてっ! 博麗霊夢のぉぉぉ! 抱っこ椅子ぅぅぅ! 私が全身で包み込むように貴女を抱え込むだけのシンプルな座法だぁぁぁ!……ひねりもネーミングセンスの欠片も無いとか、そんな冷たいこと言ったらいけない。博麗の巫女の心はボロボロの発泡スチロールをギリギリで砕く程度の耐久度しか無いから、すぐに泣いちゃいます。うえーん(棒)。

 

「あ……うぅ」

「うぅーうぅー」

 

 借りてきた猫の様に大人しくなったスカーレッツ。

 何でか知らないけど、私が抱え込んだら、大体のおんにゃのこって今の二人みたいに、カチコチに固まってほっぺを赤くしちゃうんだよね。

 この前、怒ってるのかと思って膝から下ろそうとしたら、凄い絶望的な表情で涙目になっちゃったから、基本的に膝に誰か乗っけたら、かなりの時間乗っけたままにしてるんだよねー。

 鍛えてるから別に疲れるってわけじゃないし、良い匂いするし、お尻の感触気持ちいいから私としては役得だから別に何時までも乗ってくれてて構わないんだけども。……私にバベルがあったら、抱え込むと同時に、彼女たちの秘密の花園にブツをねじ込んでいただろう。

 

「はぁ、全く世話の焼ける」

「人気者は大変ね」

 

 吸血鬼姉妹を落ち着かせて一息ついたところで、私に話しかけてきた者がいた。

 この図書館……紅魔館、ヴワル魔法図書館の司書を務めているパチュリーである。彼女はいつも通り、無表情で気怠げな雰囲気を醸し出している。……ダウナー系の美少女って何もしてないのにエロく感じる不思議。

 パチュリー……パチュリー・ノーレッジ。先程も言ったばかりだが、この紅魔館のヴワル魔法図書館の司書を務めている魔法使いの少女である。

 長い紫髪の先っぽ部分をリボンでまとめており、瞳の色は髪と同じ紫色。気怠げな雰囲気が彼女の魅力を引き立てる。

 服装は、紫と薄紫の縦縞が入ったゆったりとした服装を好んで着ており、更にその上から薄紫の服を重ねて着ている。また、頭にはドアカバーにも似たナイトキャップを被っており、ナイトキャップには三日月の飾りが付いており、彼女の魅力をより一層引き立て、まるで月の女神の様な神秘的な美しさを醸し出す。身に纏う服の各所には、可愛らしいリボンがふんだんにあしらわれており、大変可愛らしい。……脱がしたい、というか脱げよ。

 ぶっちゃけ、見た目的には寝間着にしか見えない。……寝る準備(意味深)は万端だってか? このやらしい娘め。

 冷静沈着にして、他人にあまり関心がないタイプの魔女っ子。本が読めれば幸せだと言い切る重度の引きこもり。知識人と呼ばれているだけに、かなり理屈っぽく、書物から得た知識から考察、行動する事が多い。……後、何故か私に対して微妙に辛辣で罵倒してきたりする事が多い。この前なんて「このッ唐変木ッ!」って言われて、本の角で脳天をぶっ叩かれた。……うん? ご褒美かな? かな?

 精霊魔法に長けており、それを使った属性魔法を操る。東洋で言われているところの五代元素、地・水・火・木・金に加えて、日と月という希少な属性も操れるため、魔法の腕はかなりの物。魔法という一点だけで見るならば、現段階で彼女以上に優れている存在はいないだろう。

 そして、私が色々と修行させたため、本を武器とした体術にも優れている。これにて近接戦もある程度はこなせるスーパーヒッキーの出来上がりである。……此処まで来るのに、パチュリーは何度も何度も私のシゴキ(意味深)を受けちゃったね? あの時の君の嬌声とか身体の感触は絶対に忘れない! 私の頭にある思い出フォルダーに完全保存してから、複製して複製して複製しちゃったからね!

 

「パチュリー……何だ、羨ましいのか? 代わってやってもいいぞ?」

「嫌よ、人気者なんて。疲れるし、何よりも五月蝿いのは嫌いよ」

 

 あーやだやだと片手で頭を抑えながら、首を左右にフリフリする、パチュリー。その仕草は妙に様になっていて可愛らしい。

 パチュリーはどっちかと言えば、静かなところとかが好きだからね。周りが五月蝿くなるのは嫌なのだろう。

 

「それよりも霊夢、図書館を利用するならもう少し静かにして欲しいものね」

「私に、ではなく、この二人に言ってほしいものだな」

「アハハ、ごめんねパチュリー」

「ちょっと騒ぎすぎちゃったわ」

 

 ちょっと罰が悪そうに笑っているフランと。済まし顔でふんすっとした態度を取るレミリア。

 姉妹でも性格に違いがあるのは面白いよね。素直で無邪気なフランに、ちょっと大人ぶってて生意気なレミリア。どっちも尊くてお姉さん沢山甘やかしたくなっちゃうよ。……具体的に肉体言語でのキャッキャウフフで。

 

「まぁ反省しているのなら別に良いんだけど……それで、何をそんなに騒いでいたの?」

「霊夢に絵本を読んでもらおうと思って!」

「お願いしていたのよ!」

 

 二人でお気に入りであろう絵本を掲げて見せる。一冊の本を両側から二人で持つという仲良し姉妹特有のあざとすぎるコンビネーションである。……可愛すぎかよ、忠誠心出そうだわ。

 

「絵本って……子供じゃあるまいし」

「私はまだ五百歳よ」

「フランもまだ四百九十五歳だよ?」

「……ちなみに霊夢は?」

「十四だな」

 

 待ってパチュリー、嘘だろお前、みたいな目で見ないで、地味に傷ついちゃう。

 そうだよ、私はまだまだ思春期真っ盛りのティーンエイジャーだよ。花の十代だよ。恋に恋するお年頃なんだよ。

 そりゃあ、見た目はそんじゃそこらの大人にだって負けてない圧倒的なスタイルを確立しているけども、これでも十四歳なんだよ。スタイルだけだったらゆかりんとか幽々子ちゃんとか、幽香とかえーりんとかに匹敵してるけど、十代の成長期なんだよ。……最近、胸元が重たくなってきたから、確実にバストがアップしてると思う。やだ、私成長し過ぎぃ。

 

「霊夢が年齢詐称レベルな見た目なのはともかく。……レミィ、それにフランも、五百年近くも生きている吸血鬼が、自分の五十分の一しか生きていない人間に甘えるのって恥ずかしくないの?」

「あら、甘えるのに年齢なんて関係有るのかしら?……それに、霊夢に甘えられるならプライドなんていくらでもかなぐり捨ててあげるわ」

「霊夢お母さんみたいだから、フラン全然恥ずかしくないよ!……ほ、ほんとのお母さんになってくれないかなぁ」

 

 パチュリー何気に私に対して辛辣すぎないかなぁ。美少女からの罵倒ならむしろご褒美だから甘んじて受け入れられるけども。

 最後の方は聞こえなかったけど、レミリアの言っていることは正しい。甘えるのに年齢は関係ない、と私は思っている。幻想郷の重鎮とか、結構な年数を生きている妖怪達って世間体とか色々気にしすぎてあんまり甘えてくれないのよね。ゆかりんとか、幽香とかは特に甘えてくれない。

 私としては抱き締めてあげたりとか、頭を撫でてあげたりとか、膝枕とかしてあげたりとかして、ベロンベロンに甘やかしたりしたいんだけどね。……ふ、深い意味はないよ? け、健全な意味でですよ?

 そしてフラン、今日から私がお前のマミーだ。存分に甘えてくれて良いよ。お料理作ってあげたり、本を読んであげたり、一緒のお布団で子守唄を歌ってあげよう(慈愛)。ところで、私がフラン達の母親になったとしたら、名前って霊夢・S(スカーレット)・博麗になるんかね? 知らんけど。

 

「フランは良いとしても、レミィはもうダメね。手の施しようがないわ」

「ふんっ、甘え下手のパチェには言われたくないわね」

「だ、誰が甘え下手よ! レミィ、勝手なことを言わないで頂戴!」

「私、知ってるわよ? 前にパチェが物憂げに「……霊夢」って呟いているのとか」

「し、知らないわよ!」

「フランね。パチェの部屋の前通りかかった時、「あっ、霊夢。そこはっダメッ! あんっ!」って苦しそうに霊夢の事呼んでたの聞いtふにゅっ!?」

「フラン、それ以上は言わないで頂戴、ね?」

「ふぁ、ふぁい」

 

 私を放っておいて何をコソコソと秘密のお話をしているんだね?

 取り敢えず、パチュリーが私と戯れたいという事だけは理解したよ。そういうわけで……。

 

「きゃっ!? ちょっと霊夢! いきなり何をするのっ!?」

 

 はいはい、三人目入りまーす。

 丁度真ん中辺りにスペースを作って、パチュリーも抱え込む。パチュリーもレミリアやフランと同じか、少し上程度の身長しかないから、抱え込むのに何の支障もない。流石に、レミリアとフランとパチュリーと三人抱え込んでいると、大分キツキツ感というか、狭い感じはするけど、そこら辺は私の腕でしっかりと固定して抱えてしまえば問題はない。

 そんな事よりも、流石はパチュリーその小さな身体に不釣り合いな立派なお胸様をお持ちですな。着ている服が大きめだから、そこまで目立たないけど、随分と大きなお山がある。それに身体はムチムチとしているワガママボディ。座っているだけだというのに、私の膝に吸い付くようにむっちりとした柔らかさを伝えてくる。……むしゃぶりつきてぇ。

 

「降ろして頂戴!」

「だが、断る。この私、博麗霊夢の最も好きなことは、お前達の可愛いらしい姿を見ることだからな」

「このっ、変態っ!」

「ふっ」

 

 ヤバイ、パチュリーからのご褒美のせいで、私の大事なところが危ないことになっちゃってりゅよぉぉぉ!

 簡単に言ってしまうと……イッちゃいましたね。これまた見事にイッちゃいましたね。下着が若干ベチャベチャしてて大変な事になっている。

 私が身に付けている巫女服が厚手のものじゃなく、薄手のものだったら、膝に抱えてしまっている少女たちの可愛らしいお尻も濡れ濡れにしてしまったかもしれない。

 特にパチュリーの被害は半端ないことになっていただろう。ちょうど真ん中に抱え上げている状態だし。位置的に私の花園と彼女の花園は重なってしまっているからね。もしもあのまま私が夢想封印ッッッってスプラッシュしてしまっていたら、私の花園から溢れ出た博麗霊夢が、パチュリーの花園へと侵略を開始していたに違いない。……薄手のッ! 薄手の服で来るべきだったッ! 博麗霊夢一生の不覚ッ!

 

「はぁ、もういいわよ。……それに貴女、一度決めたらテコでも動かないしね」

「良く分かっているじゃないか」

「それで、何を読み聞かせするのよ?」

「これだ」

「『レミリアとフランドール』?……私の知っているタイトルと微妙に違うのだけど?」

「当然だ。この本は私の手書きだからな」

 

 可愛らしいスカーレッツのおねだりには勝てなかったよ。

 私が知っている童話とか昔話の内容を元に、フランやレミリアを主人公にして話を作ってみたのである。イラストやら何やらまで全部手描き、本の材質やら何やらにも気を遣いましたとも。

 本の紙は樹齢うん千年にもなる木を使用し、革には前に異世界から侵略してきた魔龍の皮を使用した。そして、空気中に飛び交う魔素を自動的に吸収して、自己修復機能も付与してみた。

 折れず、曲がらず、破れず、潰れず、燃えず、濡れない、まさに究極の絵本。そんじゃそこらの魔法書よりも高性能な絵本が誕生したのである。……材料の無駄遣い? 知らんな。

 私のモットーは、美少女イズマイライフだ。美少女の笑顔、美少女の喜び以上に大事なものなど存在しない。美少女のためなら、この命すらチップにするのに何の躊躇いもない。ビバ美少女ッ!

 

「ちなみにレミリアとフランドールは、見ての通りフランとレミリアを題材にしたものだ」

「本当、呆れるくらい何でも出来るのね、貴女は」

「何でもは出来ないさ、私は私が出来ることしか出来んよ。……最も、出来ない事の方が少ないがな」

「……その自信は何処から来るのかしらね」

 

 だって(博麗霊夢)は幻想郷最強ですし、お寿司。これぐらいは出来て当然でしょうよ。

 私の上に人は無く、私より先にも人はいない。唯一絶対の頂点として、この幻想郷に君臨しているのが(博麗霊夢)だ。

 (博麗霊夢)は誰にも負けないし、誰にも劣らない。それが真理であり、絶対の法則。……つまり、(博麗霊夢)以上に幻想郷を守護できる者もなく、(博麗霊夢)以上に幻想郷の平和を維持できる者もいないのだ。

 

――私の足元までは許そう。だが、私よりも上に立たれるのは我慢ならない。

 

 それが例え、彼女たちの誰かであっても。私より上に立つことは許さない。

 何故なら(博麗霊夢)は最強に、この幻想郷(世界)で最も強い存在でないといけないのだから。

 

 まぁ単純に、私よりも優れている存在がいるのが気に入らないから、色んな知識を集めたり、身体を鍛えたり、技術を磨き上げたりとかしているだけなんだけどね。

 だって、何でも出来る完璧超人って女の子的にポイント高いでしょ? この幻想郷の美少女たちに注目されたり、ちやほやされたいから、最強のままでありたいんだよね。

 実際、私の最強とかいう肩書目当てで勝負を挑んでくる、可愛い娘って多いしね。

 お仕置きが目当てとか、罰ゲームが目当てとかそんな事実はない。ないったらない。……勝負中に服とかがちぎれ飛んだり、事故で見たり、触ったりしてしまう事は偶に有るけど。そんな卑猥な目的で勝負したりなんかしない。私、淑女アルネ、そんなイヤらしい事しないヨ。

 

「じゃあ、そろそろ読み聞かせの時間だ。……お話しの最中は?」

「「お静かに!」」

「これ、私も言う流れ?……お、お静かに」

 

 はい、よく出来ました。ではでは、ゆっくりとお話ししましょうかね。

 

 

 

ーー『レミリアとフランドール』ーー

 

 

 

 むかしむかし、ある湖の近くのお屋敷に吸血鬼の姉妹が住んでおりました。

 姉がレミリア、妹がフランドールです。二人は仲睦まじく、楽しく毎日を過ごしていました。

 

 しかし、ある日の事、突然の嵐が襲い掛かり、お屋敷が吹き飛んでしまいました。お金も食料も、何もかも一瞬で無くなってしまいます。

 

「見てフラン、私のお屋敷が吹っ飛んでるわ」

「何それ恐い」

「ちなみに、お金も食料も何一つ残っていないわ」

「何それも恐い」

 

 さぁて、困りました困りました。

 家が吹き飛ぶというあまりにも突然な悲劇に姉妹は、途方に暮れてしまいました。

 その上、お金も食べ物もありません。このままでは如何な吸血鬼と言えども、空腹で死んでしまいます。

 かと言って、山菜を集めたり、動物を狩ったりする事も出来ません。仮に食材を見つけても、調理する知識がありません。

 

「や、焼けば大抵のものは食べられるよね?」

「フラン、落ち着いて。その明らかにヤバイ色しているキノコを捨てなさい」

 

 フランが危ない色をしたキノコを食べようとしたり。

 

「見てフラン、このケーキ美味しそう」

「お姉様……それ石、だよ?」

「最近のケーキって固いし、味がしないのね」

「石、だよ?」

 

 レミリアが色々と末期な状態になり始めた頃。

 

「あ、あれは」

「建物だ! 建物だよお姉様!」

 

 森の中で、飲まず食わず(石は食べた)の日々を送っていた二人の前に、綺麗な鳥居を構える神社が現れました。

 漢字で博麗神社、と書かれている神社には人の気配はありません。どうやらこの神社に住んでいる人は留守のようです。

 

「ここの人が戻ってくるまで待ちましょう」

「そうだね」

 

 二人は待つことにしました。しかし、待てども待てども、神社の人は帰ってきません。

 姉妹の空腹に限界が差し迫っていました。そんな時の事です。

 

「あ、良い匂いがする」

「ご、はん」

 

 神社の方からとても良い匂いが漂ってきました。

 とっても美味しそうな匂いです。嗅いでいるだけで、お腹が鳴ってしまいそうな、美味しそうな匂いでした。

 

――きゅるるるるる!

 

 言ったそばから二人のお腹が鳴りました。空腹はもう我慢できません。

 

「お、お邪魔しまーす」

「お邪魔するわ」

 

 いても立ってもいられず、二人は神社に無断で入ってしまいました。

 

「こ、これはっ!」

「美味しそう!」

 

 台所についた二人が目にしたのは、とっても美味しそうなお鍋。

 グツグツと煮込まれた具沢山のお鍋です。キノコ、白菜などの野菜、タラや蟹などの沢山の魚介類が入った海鮮鍋です。見れば見るほど食欲をそそります。

 そして、その横にあった釜戸にはふっくらと炊かれたご飯がありました。ツヤツヤでお米がひと粒ひと粒立っている、とっても美味しそうなご飯。

 ごくりっと二人の喉が鳴りました。食べたらいけない、食べたらいけない、と考えるほどに食べたい、食べたいと食欲が湧いてくる。

 

「もう、ゴールしても良いよね?」

「い、いただきまーす!」

 

 もう二人は我慢なんて出来ませんでした。

 一心不乱に二人はお鍋を食べます。釜にあったご飯も全部全部食べました。米粒すらも残さず食べました。

 

「ふぅ、満足したわ」

「お腹一杯、もうフラン動けないや」

 

 お腹いっぱいになった二人は満足そうです。その場で、大の字になって寝っ転がり笑顔でお腹をポンポンと叩いています。

 そして、此処が人の家だということをすっかり忘れて、思い思いに寛ぎ始めてしまいました。

 

「おや、これはこれは可愛らしい泥棒だな」

「う、うーーっ!?」

「にょわっ!?」

 

 何てことでしょう。家の持ち主が帰ってきてしまいました。

 いきなりの声に、二人は素っ頓狂な声を上げて、お互いに抱きつき合いながら、声の方に振り返ります。

 

「き、綺麗」

「カッコイイ」

 

 そこにいたのは女の人でした。

 背がスラッと伸びてて、ボンッキュッボンッとスタイルも良い女の人です。後、強いです。最強です。

 

「私は博麗霊夢という。お前たちは誰だ?」

「私はレミリア、レミリア・スカーレット。それでこっちが……」

「フランは、フランドール・スカーレット」

「「吸血鬼よ(だよ)」」」

 

 レミリアはない胸を張って自信満々に、フランは可愛らしくにこやかな笑顔で言い切りました。

 

「そうか、どうして人の家に土足で上がり込み、勝手に食事までしたんだ?」

「じ、実はーー」

 

 二人は霊夢にわけを話しました。

 突然の嵐で、家が吹き飛んだということ。

 何日も何日も飲まず食わずで、森の中を彷徨っていたこと。

 運良く、この神社に辿り着くことが出来たということ。

 お腹が空き過ぎて、用意されていた料理を全部食べてしまったこと。

 

「ふむ、成る程な」

 

 腕を組み、何かを考えている霊夢。

 不安そうにレミリアとフランドールは霊夢を見ます。

 自分たちがいくら切羽詰まっていたとはいえ、霊夢には何も関係のないことです。勝手に霊夢のお家に入って、用意されていた料理を勝手に食べるのはいけないことです。

 この綺麗な人に怒られるかもしれない、と二人は不安でいっぱいでした。

 

「事情が事情とはいえ、お前たちが悪いことをしたというのは覆しようがない事実だ。これに対する罰は与えなければならない」

「そう、よね」

「フランたち、悪い子だ」

 

 咎めるように霊夢は言う。どんな理由があろうとも悪いことは、悪いこと、それに対するお咎めは受けなければならないと言う。

 それを受け、涙目でションボリとする二人。分かっていたことだけど、怒られるのはやっぱり悲しいものです。

 

「お前たちには私の虐待を受けてもらう」

「ぎゃくっ!?」

「たいっ!?」

 

 笑顔でそんな恐ろしい事を言ってのけた霊夢の姿にギョッとする二人。確かに悪いことをした、だけど罰が重すぎる。

 

「うぅっ!?」

「にゃっ!?」

「逃さないよ」

 

 咄嗟に外に逃げ出そうとした二人であるが。仲良く捕まってしまいます。

 ああ、これから自分たちはどんな酷い目に遭うのだろうか? 差し迫ってくる恐ろしい未来に絶望する姉妹。

 

「先ずは水責めだ」

 

 霊夢は、手始めに、二人の身に付けている薄汚れた服を剥ぎ取り、生まれたままの姿で熱く煮え滾ったお湯の中に二人を投げ込みました。

 そして、驚きで固まる二人の頭に、目に入ると途轍もない痛みが走る薬品をぶっかけ、ゴシゴシと擦り付けました。

 同じように、身体の表面を削り取るザラザラした布に、同じく身体の表面を削りやすくする泡を使って、彼女たちの柔らかそうな素肌をゴシゴシと擦り付けました。痛みで身体を震わせる二人に構うこと無く、執拗に擦りました。

 そして、トドメに熱く煮え滾ったお湯を頭からぶち撒けるという、余りにも非道な事をしました。

 

「そして、食べれば食べるほど止められなくなる麻薬を与える」

 

 白い三角形型で、上にイチゴという果物が乗った麻薬を、二人に食べさせる。

 恐る恐る一口目を口に運び、気付けばレミリアとフランドールは、その麻薬と呼ばれる食べ物を一心不乱に食べてしまっていた。

 霊夢は計画通りとほくそ笑む。その麻薬は一度魅了されてしまったら、最後、吐きそうになるまで止められない止まらない。

 これを食べまくってブクブクと肥え太るがいい、と霊夢は嗤う。

 

「最後にお前たちには私の関節技の餌食になってもらう」

 

 そう言って、重たい布団の中に二人を引きずり込んで、思いっ切り両の腕で締めました。

 霊夢は胸に押さえつけるように、二人の小さな頭をガッチリとホールドしました。どんなに抵抗しても逃げられません。逃しません。

 二人が気絶するまで、霊夢は力を緩めることはありませんでした。

 

「ふふふっ、どうだこれが私の虐待だ」

 

 気絶した二人を尻目に、霊夢は満足げにむふーっと鼻から息を吐くと。そのまま二人を抱えたまま眠ってしまいました。

 

「お姉様」

「なぁに、フラン」

 

 霊夢が眠ったのを確認して、レミリアとフランは目を開け、お互いに抱え込まれたまま視線を交わします。

 

「この人、優しいね」

「……うん」

 

 レミリアとフランは霊夢にギュッと抱き着きました。

 水責めは、単にお風呂に入れてくれただけ。麻薬と言ったのはとっても美味しいショートケーキのこと、そして関節技は、こうして抱きしめて一緒に寝てくれること。

 虐待と称して行われたそれらの行為には、何処までも優しさと慈しみが込められていました。

 

「お姉様。フラン、ずっと此処にいたいな」

「……私も同じよ」

 

 お互いの手をつなぎながら、霊夢により強く抱き着く。二人の顔には安心しきった可愛らしい少女の笑顔が浮かんでいた。

 

 それからというもの、家をなくした吸血鬼の姉妹は、巫女の家の居候としてお世話になり、三人でいつまでもいつまでも仲良く暮らしましたとさ、チャンチャン。

 

 

 

ーーおしまいーー

 

 

 

「ちなみにこの話は、半分が事実だ」

「嘘っ!?」

「以前に一週間ほど、レミリアとフランが行方不明になった事件があっただろう?」

「……もしかして」

「あれは、私の家でホームステイしていただけだ」

「やっぱりね!」

 

 パチュリーツッコミ上手だねぇ。博麗の巫女感動しちゃうわ。

 そう、このお話は半分が実話である。

 捏造したのは、紅魔館が吹き飛んだ、という事。レミリアとフランが何日も飲まず食わずで森を彷徨っていたという事だ。

 虐待云々は、ただ単に勝手に人の家に入った悪い子をお仕置きしようとした話。お仕置きの内容は、一緒にお風呂に入って、デザート食べて、お布団で寝たって事である。

 つまり、ヘン◯ルとグレー◯ルをベースに、ロリっ子と戯れてたのを絵本にしてみただけである。……何故か、この絵本はスカーレット姉妹のお気に入りになっている。

 やれやれ、この絵本を読み聞かせするのは、もう何度目になるのやら。少なくとも、私の記憶が正しければ、百は軽く超えていると思う。

 

「面白かったわ!」

「また今度お願いね!」

「流石に同じ話を何度もするのは私も疲れるんだが。……次は別の話にする気h」

「「ないわ(よ)!」」

「あ、はい」

 

 ふえぇ、偶には別のお話しさせてよぉ〜。

 他のお話しとか色々作ってるんだよ? 『不思議の森のアリス』とか、『泣いた伊吹童子』とか、『ぐーや姫』とかあるよ? 面白いよ? モノによってはR指定もあるよ?

 

「ふぅ……それで、パチュリーは何か読んで欲しい本はあるか?」

「わ、私は別に」

 

 遠慮せんでもええんやで? パチュリーに満足してもらえるように、精一杯読み聞かせさせていただきますとも。

 

「霊夢さん、霊夢さん」

「む、お前は小悪魔か。何の用だ?」

 

 背後から私に声を掛けてきたのは小悪魔。パチュリーの使い魔で、悪魔の少女である。

 赤い長髪に、真っ赤な瞳、悪魔特有の尖ったお耳が特徴的で、頭と背中には悪魔らしい羽を生やしている。

 服装は、上は白いシャツに黒のベストにネクタイを着け、下はベストと同じ色のロングスカートを着用している。

 基本的には真面目ではあるが、時折悪戯を仕掛けたりするなど中々に愉快な性格をしている。

 悪魔としての特性かは不明ではあるが、割りと直ぐにエロい方向に話を持っていったりするため、大変けしからん。良いぞもっとやれ。

 

「これをどうぞ読み聞かせてあげて下さい」

「……『魔女と巫女、図書室の一時』?」

「パチュリー様が書いた恋愛ものです!」

「ほう?」

 

 どんな内容だろう? 私、気になりますっ!

 

「ちょっと小悪魔っ! どうしてそれを此処に持ってきたのよっ!」

「え、私てっきり霊夢さんにお見せするために書いているとばかり思っていたんですが?」

「そんなわけ無いじゃないの! 霊夢、読まないでよ? 読んだら嫌いになるからね? 絶対に、絶対に読まないでよ?」

「パチュリー様、言ってたじゃないですか。霊夢さんへの想いを文章化して吐き出さないと、霊夢さんの前で冷静に振る舞えないって」

「な、何のことかしら?」

「『巫女の指先が、私の頬をゆっくりと撫で付ける。ほんの少しの熱が私に伝わり、二人の唇がーー』わっぷっ!?」

「わあぁぁぁぁぁっ!?」

 

 私の膝から飛び降りて、小悪魔に飛びかかり、彼女の口を塞ぐ。

 まさかパチュリーがインドア派とは思えないアグレッシブな動きを披露してくれるなんて、激しい動きと共に、彼女の胸部にある大変豊かな物体が、ブルンブルンと動いている。……アレでビンタされたい。

 そんなにまでパチュリーが必死になって読むのを防ぐ本。これにはどんな秘密が隠されているのだろうか? 博麗の巫女として調査しないといけないな。

 パラリッとめくりじっくりと読み進めていく。

 

「やめ、ヤメロォー! 止めなさい! 読まないでっ! 読むのをっ! 話を聞けっ!」

 

 何か背中をポカポカ叩かれている気がするけど、本の内容に集中したいので無視する。

 

「やめ、えっぐ、読まないで、読ま、ないでよぉ、ひっく」

 

 何やら背中にしがみついて来る何かの感触を感じるが、敢えて無視する。

 

「うっ……っ……ぐすっ……ふぇ」

「済まない、意地悪しすぎた。ちょっと読むふりをしただけだ。内容は一切読んでいないよ」

 

 本格的にガチ泣きし始めたので、本を閉じて、パチュリーに向き合い真正面から優しく抱き締めてあげる。

 読んでないよー博麗の巫女、本読んでないよー、大丈夫だよー。そもそもの話だよ? 私がパチュリーの嫌がることするわけないじゃないか(信用ゼロ)。

 

「このっ、バカ巫女っ」

「ああ、バカだな」

「このっ、唐変木っ」

「そうだな、唐変木だな」

「貴女なんてっ! 貴女なんてっ!」

「うん」

「だい、すき、よ」

「私もお前が大好きだよ」

 

 見てよ皆、この可愛らしい司書を。涙目で上目遣いで私に向かってあんなっ! あんなっ! いじらしくも可愛らしい事を言ってしまうなんてっ!

 お姉さん、もうゴール(意味深)したくなっちゃったわ! くぅぅぅこんな時、覇王モードぱいせんが疎ましく感じるぜい! 私にもっとイチャイチャのドロドロのくんずほぐれつの【ピ―――ッ】や【ピ―――ッ】な日常を謳歌させてくれよっ!

 

「パチュリーずるいっ! 霊夢! 私も霊夢のこと大好きだよ!」

「私は霊夢を愛してるわ!」

「じゃあフランも愛してる!」

「私の方がもっと霊夢を愛してるわ!」

「私が!」

「私が!」

 

 横で私とパチュリーのやり取りに嫉妬したのかな?

 どっちかと言えば、近所のお姉さんを取られた子供的な心境なんだろうけども(唐変木)。どんな理由にせよこんなおんにゃのこに取り合いされると、ハッキリ言って嬉しい気持ちになる。

 

「だ、ダメよ! 今は私の霊夢なんだから!」

 

 身体全体を使って、私にひっしりと抱き付いてくるパチュリー。……グチャグチャニオカシテクレヨウカ?

 彼女のムチムチとした身体の感触と、ダイレクトで私の下腹部を刺激する巨大なマシュマロの柔らかさに、私の思考回路が一瞬、けだものになりかけたが、何とか踏みとどまることが出来た。出来たんや、出来た筈なんや。

 だから、ドサクサに紛れて、パチュリーのおっぱいに張り付いている私の右手はただの事故なんや。事故なんや。すごい嫌らしい手つきで指がワキワキと動いて、おっぱい柔らかいけど事故なんや、事故なんやで。

 

「んひゃ!? 霊夢っあふっ何処をっ触ってっあんっ」

「……」

 

 は、覇王モードぱいせん? 事件発生ですよ? 仕事を、仕事をして下さい! 私の獣の右腕(ビースト・ライト)を止めて! 私の理性が千切れる前に! 止めてぇぇぇ!

 

 何やかんやあったが、これから先の話は割愛する。

 取り敢えず、パチュリーと私が図書館でイケない遊びをおっぱじめたという事はない。私も未経験のまんまだし、パチュリーも清い身体のままだ。

 ただ、覇王モードぱいせんが機能するのが遅すぎて、パチュリーの身体が私の獣の右腕に蹂躙されたのと、密かにスカーレッツ姉妹を付け狙っていた楽園の左腕(エデンズ・レフト)の手によって、昇天し掛けるという事態に陥っただけだ。

 それと、小悪魔が何処からとも無く取り出したカメラらしきもので、その光景を撮りまくっていただけの話だ。……勿論、カメラは回収したし、両腕の餌食にしてやった。乱れた姿は流石は悪魔だと思いました。

 

 読み聞かせに来ただけなのに、最後の最後でとんでもないプレゼントを頂いてしまった。

 脳裏に浮かび上がる、司書の艶姿。吸血鬼姉妹の幼い肢体。小悪魔の痴態が私の興奮を誘う。……やれやれ、今夜は眠れないぜ(妄想する的な意味で)。

 

 今宵も博麗の巫女の夜は長い。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 紅魔館にあるヴワル魔法図書館。

 そこの司書を務めるパチュリー・ノーレッジにとって、博麗の巫女、博麗霊夢とは、気兼ねなく接することの出来る友人である。

 元々パチュリーは人と関わり合うのがあまり好きではない。そんな無駄な事に貴重な時間を使うよりも、静かな場所でゆっくりと本を読んで知識を蓄えていたほうが、よっぽど為になるからだ。

 

 しかし、そんなパチュリーを無理矢理外に連れ出し、執拗に誰かに関わらせようとする人物がいる。……それが霊夢だ。

 どんなに嫌だと言っても、どんなに抵抗しても、本を取り上げられて、無理矢理担ぎ上げて、外に連れ出してしまう。騒がしい場所に連れていき、皆と関わらせようとしてくるのだ。

 

 パチュリーは、霊夢のこの行為が大嫌いだった。

 こちらの都合なんて一切考えないで、自分勝手の自己満足で、パチュリーにあれやこれや余計な世話を焼いてくるあの巫女の事が心底から嫌いだった。

 日陰者である自分を、無理矢理日の当たる眩しい場所に連れて行く、あのお節介焼きが鬱陶しくて仕方なかった。

 

「パチュリー、また徹夜したな? 目元のクマが取れていないぞ? ほら、ベッドに横になれ、私が心を込めて、子守唄を歌ってやろう」

 

 本を取り上げられて、無理矢理寝かしつけられたり(子守唄は凄い綺麗だった)。

 

「パチュリー、昼食を抜いたそうだな? それだと健康に悪いぞ?……そうだ、今からピクニックにでも行こうか? レミリアやフラン、咲夜に美鈴、小悪魔。紅魔館の全員でのピクニックだ」

 

 拒否しても、無理矢理抱き上げられて、そのまんまピクニックに連行されたり(出されたサンドイッチはとても美味しかった)。

 

「宴会を欠席するつもりだったんだろう?……ほら、行くぞ?」

 

 騒がしいところは嫌いだと言っているのに、宴会なんて場所に出席させられたり(不覚にも楽しいとか思ってしまった)。

 

「パチュリー」

 

 見惚れるほどに綺麗な笑顔で名前を呼ぶ。

 

「パチュリー」

 

 優しい声で、気安く触れてくる。

 

「いい加減にしてッ! どうして私に構うのよッ!」

 

 何度もそんな事が繰り返され、遂にパチュリーの堪忍袋の緒が切れる。

 理解できなかった。こんな日陰者に構うのかが、どれだけ邪険にされても笑顔で手を引っ張り、抱え上げるこの巫女の事が全く理解できなかったのである。

 

「目障りなのよッ! いつもいつも私の邪魔をしてッ!」

 

 自分は本を読んでいられたらそれだけでいい。知識を蓄え、魔法を研究していられれば、それだけで良いという魔女の筈なのだ。

 だからこの巫女の事は、お節介好きなこのどうしようもないお人好しは邪魔、邪魔だった筈なのだ。

 

「もう、私に関わらないでッ!」

 

 なのにどうしてだろうか? 胸が痛い。張り裂けそうなほどに胸が痛むのだ。

 違う、自分はこの巫女が嫌いな筈なのだ。静かとは無縁で正反対なこの巫女の事が、大嫌いでないといけない筈なのだ。

 なのに、なのにーー

 

「貴女の事なんてッ! 大ッ嫌いよッ!」

 

ーーどうして、涙が止まらないんだろうか?

 

 パチュリーには分からなかった。

 どうして自分の胸がこんなにも苦しいのか、どうして涙が止まらないのか、理解できなかった。

 これまで生きてきた長い時、人付き合いを必要最低限に抑えてきた彼女にとって、此処まで関わってきた人物は非常に稀だ。……この紅魔館で共に暮らしている吸血鬼の姉妹や、従者、門番とは家族のような関係であるために除く。

 つまり、パチュリーにとって、霊夢という人物は、外部の、身内以外で明確に関わり合いになった初めての人物なのである。

 対人経験が少ないからこそ、パチュリーは自分の本心に気付けない。自分が本当は何を求めているのか? この巫女とどういう関係になりたいのか? 気付くことが出来ないのだ。

 

「そうか、パチュリー」

 

 静かに霊夢の声が紡がれる。顔を伏せているため、表情は見えない。

 

「残念だーー」

「ッ!?」

 

 紡がれた言葉は、刃となってパチュリーの心を貫いた。

 心臓に杭を突き立てられた吸血鬼の様に、何か大事な物が傷付いてしまったように、パチュリーは呆然と涙を流し続ける。

 自分の本心に漸く思い至ったからだ。そうか、自分はあの巫女とーー

 

ーー友達になりたかったのか。

 

 素直になれないのは、初めて出来た友達と何を話せば良いのか分からず、気恥ずかしかったから。

 胸が張り裂けそうなほどに痛むのは、本当はあんな酷い言葉を霊夢に言いたくなかったから。

 

 もっと霊夢のあのお節介に巻き込まれていたかった。手を引っ張って連れ出して貰いたかったのだ。

 

 本当は分かっていた。自分が霊夢の訪れを毎日心待ちにしていたということも。

 本を読んでいるのに、内容は頭に入ってこず、頭では今日は来ないのか? 今日は何処に連れていくつもりだ? なんて事を考えていた。……来なかったら来なかったで、何だか寂しくなり、本を読む気もなくなり、ふて寝した。

 気付けば、咲夜や小悪魔に頼んで、二人分の紅茶を用意させていたり。霊夢に読んでもらいたい本を無意識に探していたり。

 

 これからも霊夢に振り回されて、連れ回される日常が続くとずっと考えていた。……だが、それはもう叶わない。

 

 誰でも考えれば分かることだ。

 霊夢がいくら優しいと言えども、こんな面倒な女、いつまでも相手にするわけがない。こんな偏屈で、頭でっかちで、素直になれない引きこもりのモヤシみたいな女など嫌われて当然だ。

 

「ふっ、くっ」

 

 パチュリーの頬を伝って、いく筋もの涙の雫が流れていく。

 これまで感じたことのない激しい感情が自身の心をかき乱す。混乱する頭ではまともな思考も出来ない。

 霊夢に嫌われるというのが嫌だった。霊夢と話せなくなるのが、霊夢と関われなくなるのが、霊夢に引っ張ってもらえなくなるのが、嫌だった。

 

「ーー私はお前の事が、こんなにも大好きだというのに」

 

 だから、霊夢の言葉が理解できなかった。

 いつもと変わらない微笑みを浮かべながら、私にそんな好意的な言葉を投げかけてくる霊夢が理解できなかった。

 

「嘘よ、こんな、こんなっ、面倒で、分からず屋で、根暗な私をっ」

「嘘じゃないさ」

「ふぁっ!?」

 

 パチュリーは何が起きたのか一瞬理解できなかった。

 全身を包み込んでくれる柔らかい感触と、温かさ。絶対的な安心感が、パチュリーを包み込んだ。

 

ーー抱き締められていた。

 

「れ、霊夢っ!? 何をっ!?」

「聞こえるか? パチュリー」

「え?」

「私の心臓の音だ」

「お、と?」

 

 とくんっとくんっと霊夢の心臓の音が聞こえる。

 

「高鳴っているのが分かるだろう?」

 

ーー大好きなお前に触れているからだ。

 

「れい、む」

 

 霊夢の想いに触れ、パチュリーは自分の胸が何かに満たされていくのを感じた。甘くて、暖かくて、とても心地よい感覚だった。

 頬が熱くなる。霊夢に顔を合わせると、心臓が早鐘を打ち始める。甘く微笑まれると気恥ずかしくなり、触れられると、胸がキュッと締まり、もっと触れていて欲しくなる。

 パチュリーはこんな感情は知らない。いや、知識としては知ってはいるが、自分自身で感じたことは初めての経験だった。

 

「霊夢」

「何だ?」

「責任、取ってよね?」

 

 散々振り回してくれているのだから、これから先もずっと手を引っ張って欲しい。

 頬を染め、パチュリーは思う。この先、ずっとこの友人と過ごすことが出来たのならば、それは何て素敵な事なのだろう。

 

「ふふふっ……ああ、勿論だ」

 

ーー貴女の笑顔、貴女の優しさ、貴女の強引な所も全て

 

「大好きよ」

 

 今はまだまだ素直になれなくて、心にもない事を言ってしまう。でもいつか、とパチュリーは思うのだ。

 

「だから、ずっと私を振り回してね?」

 

 素直に慣れない魔女は笑う。友との未来を想って笑う。

 明日は何処行く? 何をする? いつもの様に連れ出して、愛しい愛しい素敵な友人。

 




かくたのぉ!

文章が思い通りに書けている時が一番幸せ。
何やかんやネタが被ったりしている部分とかあるのが気になるけど……まぁいいや(思考放棄)。
何気にスカーレット姉妹の登場率が多いのは、私がロで始まってンで終わるタイプの人間だからかな?

そんなわけで、後書き短めだけど、此処らへんで切り上げます。

では、次回の投稿まで! またのぉ!


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【番外】スキマ妖怪『愛し子』

お 待 た せ




――もう、どうしたらいいのか分からない。

 

 スキマ妖怪、八雲紫。

 幻想郷という、この世全ての幻想が最終的に行き着く楽園の創始者の一人で、数千年の長い時を生きる大妖怪だ。

 『境界を操る程度の能力』という、この世全ての境界を自由自在に操る強力な力を宿し、ありとあらゆる事象の境界を操作し、幾通りもの策謀を巡らす賢者である。

 

 そんな彼女は、絶望の中に立たされていた。

 

 原因は、彼女自身が創り出した幻想郷にあった。

 幻想郷。ありとあらゆる幻想が最終的に行き着く楽園である。外の世界の常識から弾かれた非常識な存在達が、自動的に流れ着いてしまう幻想達の最後の楽園。

 幻想郷は、その特性上、善悪問わず様々な神魔霊獣が集まる場所である。人、妖怪、神、ありとあらゆる種族がひしめき合って暮らしている。

 その混沌とした特性であるが故に、幻想郷ではトラブルが絶えない。妖怪は自分勝手に悪行をし、神もまた自分勝手に己の権能を行使する。人間は虐げられ、遊びで命を奪われるのも日常茶飯事だ。

 それ故に幻想郷は荒れ果てていた。秩序と呼べるものなど無く、力を持った者のみが全てを手に入れ、力を持たないものは全てを奪われる。

 共存とは、平和とは程遠い、楽園と呼ぶのもおこがましい世紀末のような場所だった。

 

 本来、幻想郷とは、紫の目的、人間と人外が共存する夢のような理想的な楽園となる筈だった。

 人間と妖怪が襲われ、退治されの理想的な関係を維持しつつ、むやみたらに命が奪われることのない、平和で優しい世界、それこそが幻想郷。幻想達の最後の楽園にして、幸福そのものの楽園となる筈だったのだ。

 しかし、紫の想いとは裏腹に、幻想郷は今、世紀末も真っ青の無法地帯と化してしまっていた。命の価値が低い、毎日大量の命が消えていく場所になっていた。これでは楽園などとは口が裂けても言えない。

 

「私が目指したのは、こんな場所なんかじゃない」

 

 自分が目指したのは楽園だ。本当の意味での他種族全てが共存する理想的な楽園。こんなめちゃくちゃに荒れ果てた秩序のない、混沌とした場所ではない。

 

「どうしたら、どうしたらいいの?」

 

 紫とてただ黙って手をこまねいていたわけではない。当然、様々な手を打った。

 自分と志を同じくする者を集めて、幻想郷の荒くれ者共を鎮めようと尽力した。幻想郷全域に紫自身の声を届けてみたり、時に力で相手を屈服させたりなど、様々な、本当に様々な事をやった。

 しかし、どれもそれほど大きな効果を発揮することはなく失敗に終わってしまう。紫が発した声はただの雑音として切って捨てられ、それどころか小馬鹿にされる始末で、力で屈服させようにも、相手の中には紫と同等以上の実力を持った妖怪やら、神やらが山ほどいたのである。軽々しく手を出せるわけもなかった。

 

「止めて、止めてよ」

 

――これ以上、私の幻想郷を汚さないで。

 

 愛する幻想郷が、自分の夢を理想を叶える場所が、どんどん他者の手によって汚されていく。

 真っ白いキャンパスに、綺麗な絵を書こうと張り切っていたら、心無い輩にドス黒いペンキをぶちまけられてしまったように。

 愛する土地を、自分の手で守ることが出来ない自分の不甲斐なさに絶望していた。

 

 紫の心は、底の見えない闇の中に囚われようとしていた。

 

 

 

――そんな時だった。

 

「かーごーめー、かーごーめー」

 

――あの娘に出会ったのは。

 

 思い通りにならない現実に打ちのめされ、一人になりたくなってやって来た博麗神社。

 神社と言っても形だけで、そこには誰にもいない。元々、博麗の巫女という、力を持った人間が代々管理していたのだが、今代の巫女は、つい先日妖怪同士の争いを止めようとし、力及ばずその命を散らしてしまったのである。

 だから、この場所には誰もいない筈だった。

 

「かーごのなーかの……誰?」

 

 それは可愛らしい少女だった。

 人間なのに、人間じゃない様に見える神秘的な美しさを持った幻想のような少女。幻想という言葉が姿を得たならば、きっとこの少女の様な姿になるに違いない。そう、断言できるほどの愛らしく、美しい少女だった。

 

「お姉さん、誰?」

 

 気がつけば少女がすぐ近くに来ており、下から紫の顔を覗き込んでいた。……吸い込まれてしまいそうな、深い深い色合いの瞳。

 

「わ、私は紫、八雲紫よ。……貴女の名前は?」

「霊夢。……ただの霊夢」

「……霊、夢」

 

 何度か少女の名前を反芻した。確かめるように、噛みしめるように何度も何度も繰り返し、己の記憶に刻み込むように。

 紫は初めて会ったこの少女に、確信にも似た強い予感を感じていた。この娘が全てを変えてくれるという強い確信を、そして、少女が自分にとって最も大事な存在になる、そんな確信を。

 

「霊夢、貴女一人なの? 親は?」

「親? 私は、ずっと一人」

 

 一人? 親がいない、ということなのだろうか?

 周囲には霊夢以外に人間の気配は微塵も感じない。それはつまり、霊夢は何一つ嘘を言っていないということだろう。

 

「気付いたら此処にいた。その前は分からない」

 

 前……此処に来る前の記憶ということなのだろうか? 記憶喪失? それとも嘘を吐いている? いや、こんな少女が嘘を吐いたとして何のメリットが有るというのだろうか? そもそも、そんな事を考えるだけの考えを巡らせているとも思えない。

 霊夢は一人ぼっち、記憶すらもない、本当の意味での一人ぼっち、という事なのだろう。

 ただ無言で、無表情に虚空を見つめている霊夢の姿に、紫は少し胸を痛めた。……だからなのだろうか?

 

「そう……霊夢、私と一緒に来ない?」

 

 ついそんな事を言ってしまったのは。

 殆ど無意識だった。無意識のうちに、紫は霊夢に手を差し伸べていた。

 どうして自分がこんな行動を取ったのかは分からない。気付けば身体が勝手に動いていた。

 やってしまった、と紫は思う。自分で言うことではないが、かなり胡散臭い。初対面の怪しい女に付いてくる者がいるわけがないだろう。人拐いでも、もっとマシな方法を思いつく。

 絶望し過ぎて、ついに頭がおかしくなったのかもしれない。いよいよ焼きが回ったか、八雲紫、と内心で自分自身を叱責する。

 

「うん……紫と一緒に行く」

「っ!?」

 

 紫の思考を他所に、マイペースに霊夢は紫の手を握り締めた。

 幼い少女の小さく柔らかい手が、紫の手、というか指を可愛らしくちょこっとだけ握る。

 半ば不意打ち気味のそれに、驚いたのは紫である。背筋をピンっと伸ばし、一瞬だけ、石化したように固まってしまう。……反応が生まれて初めて女の子と手を繋いだ童貞のそれと同じであった。

 

「えへへ」

 

 紫の手をにぎにぎっと何度か確かめるように握り、にへらっと笑う霊夢。

 

――何なのだろう、この可愛らしい生き物。

 

 紫のハートが射抜かれた瞬間である。

 

「か、かわいい」

「紫、どうしたの?」

「な、ななな何でもないわよ!?……さ、さぁ、それでは行きましょう」

「?……変な紫」

 

 紫と霊夢はそのまま並んで、博麗神社の中へと入っていった。此処に他に誰かがいたならば、その者の目には、並んで歩く二人の姿は親子のように映っていただろう。

 

――そう、全ては此処から、此処から始まったのだ。

 

 紫が夢描いた幻想の理想郷は、此処から始まったのだ。

 

 

ーーー

 

 

 自慢するわけではないが、紫に育児経験というものは一切ない。そもそも男性経験なんてものもないし、それに伴い家事経験自体が皆無だ。

 家事などは基本的に自分の式である、八雲藍に任せっきりで、自分から家事などを行ったことはない。料理だって作ったことはないし、おにぎりすらも握ったことはない。掃除もしたことないし、箒だって持った試しもない。

 

「藍、お願い。私に家事を教えてちょうだい」

「はい?」

 

 だからこそ、自分の従者に土下座してでも頼み込む、情けない主の姿がそこに晒されていた。

 

「ちょっ、紫様!? いきなりどうしたんですか!?」

「ちょっと人間の女の子を拾っちゃったから、育てないといけないのよ」

「……育てて食べるんですか? 紫様、人食い妖怪でしたよね?」

「結構失礼よね、貴女。……次代の博麗の巫女として育てるのよ。後任の巫女は誰もいなかったし。……それに、拾ってきたあの娘、霊夢にはその素質があったから」

 

 紫の言っている事は本当の事である。紫自身が霊夢の事を気に入ったというのも一つの理由であるが、もう一つだけ理由があった。それは、霊夢に博麗の巫女としての素質があったという事。

 紫の見立てでは、歴代でも類を見ないほどの才能が霊夢には眠っている。もしも、それを完全に開花させることが出来れば、自分すらも超えて強くなると考えていた。

 

「成る程。……それでその娘は何処に?」

「ほら、霊夢。私の従者の藍よ、挨拶をしなさい」

「霊夢。藍、よろしく」

「うむ、中々礼儀が良いな。紫様にも紹介されたが八雲藍という。紫様の式で従者をしている。これからよろしく頼むぞ、霊夢」

「うん」

 

 紫の後ろに隠れながら、ちょこんと顔を少しだけ出して藍に挨拶をする霊夢。

 藍は、その霊夢の可愛らしい姿に満足そうに笑うと、膝を折り、霊夢と視線を合わせながら手を差し出し、丁寧な挨拶を返す。

 会ったばかりであるが、早くも藍は霊夢の事を気に入っていた。元々、自分の式である猫又の橙にも甘々の藍である。可愛らしい霊夢の姿に内心ほっこりとしていた。

 藍の優しげな様子に霊夢も警戒心が解けたのか、おずおずと紫の背後から出てきて、差し出された藍の手を取ってしっかりと握手する。

 

「狐?」

「ん? この尻尾が気になるのか?……触ってみるか?」

「いいの?」

「お前は紫様の庇護を受ける身だからな。つまり、私にとっての庇護対象も同然だ。遠慮なく触っていいぞ」

「わぁ、もふもふだぁ」

 

 藍の許可も有って、遠慮なく藍の九つのモフモフとした尻尾に抱き着く霊夢。尻尾の毛に顔を埋めて全身でギュッとしがみついている。

 

「紫様、この娘。私にくれませんか?」

「ダメよ、藍」

「可愛い従者に対する褒美だと思って」

「貴女には橙がいるじゃないの」

「それはそれ、これはこれというやつです」

 

 というか橙と並べてみたい、というのが藍の本音である。

 まるで自分の本当の娘のように可愛らしい己の式神と、主である紫が連れてきた愛らしい少女。二人を並べたらどれだけ微笑ましい光景になるのだろうか。

 表面上は真面目で冷静を装っているが、藍は内心かなり荒ぶっていた。母性本能全開である。

 

「と・に・か・く! 先ずは私に家事を教えなさい! 教えている間は霊夢を貸してあげるから!」

「本当ですね紫様? 言質は取りましたよ?」

「隙間妖怪に二言はないわ」

 

 尻尾に夢中になっている本人を差し置いて、何やらヒートアップしている八雲主従である。

 

「さて、紫様はどの程度まで家事が分かりますか? 炊事洗濯から、掃除に色々とやることはありますが……」

「全部よ」

「はい?」

「全部教えなさい。今の今まで貴女に任せっきりだったからまともに家事をしたことは一切ないのよ」

「そんな情けない事を自信満々に言わないで下さい。……分かりました。家事全般、一から十まで全部お教えします」

 

――何で自分はこの人の式になったんだろう?

 

 教えてもらえると聞いて、よっしゃーと喜びを露わにしている主の姿を見て、死んだ目でそう思わずにいられない藍であった。

 

 

ーーー

 

 

 紫が家事を覚えるのは困難を極めた。

 

 料理をすれば……。

 

「……お、美味し、い」

「こら霊夢! 飲み込むな! ペッするんだ!」

「あ、あら? おかしいわね?」

 

 真っ黒に焦げた得体のしれないナニか。不気味に振動し、触手を振り上げ、うめき声のような者を上げている謎の物体Xである。……これが、元は玉子焼きだと誰が想像できるだろう?

 紫の料理の腕は壊滅的だった。どんなに正しい手順を踏んでも、どういうわけか最終的には、名伏しがたいク◯ゥルフ的で冒涜的な、おぞましいナニかが出来てしまう。

 

「いぐな……いぐな……とぅふるとぅkもがもが」

「待て霊夢、何を言おうとしているのかは分からんが、それ以上は言うな、な?」

 

 藍は必死になって事態の収拾に努めた。

 紫が生み出した物体X的な得体の知れないナニかを食した霊夢が、何やら不味いことになりそうな呪文を全力で阻止。

 ただでさえSAN値が削られているのに、これ以上混沌とされて堪るか、と全力で阻止に掛かった。

 

「あ、塩じゃなくて砂糖を入れてたのね」

「もう、そんな次元の話じゃないですよ!?」

 

 塩と砂糖間違えたくらいで、こんな事になるんだったら、とっくの昔に世界は滅びてるでしょう!?

 世界滅亡の原因が、ク◯ゥルフクッキングの結果だとしたら余りにも救われない。ましてや自分の主にこんな欠点があるだなんて知りたくなかった。

 何言ってるんだこの馬鹿主! と、藍は無駄にキレッキレッの突っ込みを入れたのは言うまでもない事だろう。

 

 洗濯をすれば……。

 

「……ぱねぇ」

「ちゃっ、ちゃうねん」

「何がちゃうねんですか! どうするんですかこれ!?」

 

 幻想郷での洗濯とは、現代でいうところの洗濯機に洋服を突っ込んで、洗剤を投入して終わり、というような方式ではない。昔懐かしの洗濯板を使って洋服などをゴシゴシこする作業である。

 そのため、入れる洗剤を間違えて大変な事になる、という事もなく。ただただ単純に洗濯板で服を擦り続ければ良い作業をするだけ。……その筈、なのだ。

 

「それが、それがっ! どうして全部いかがわしい服に変わっているんですか!?」

「……ヒモ?」

「私も知らないわよ! 普通に洗濯していたんだもの!」

 

 練習のために洗っていた八雲家の衣服の数々。中華風の道士服や、ドアノブキャップの様な特徴的な帽子、下着などである。……それらが全ていかがわしい服に変わってしまっていたのだ。

 道士服などは、露出過多のバニーガールや、スリットが腰まで入ったチャイナ服へ。帽子は荒縄やロウソクなどのアッチ系の道具へ。下着は面積が恐ろしく少なくなり、最早ヒモにしか見えない様なもの、隠すべき大事な部分が露出したものなどにすり替わっていたのである。

 異性が見てもドン引き間違い無しのとんでもなく変態的な代物の数々がその場に散乱していた。

 

「まっまさかそれを私達に着せるつもりじゃ」

「そっ、そそそんな馬鹿な事をするわけないじゃないの! 私が信用できないの藍!」

「近寄らないで下さい!」

「ぶふっ!?」

 

 誤解を解こうと近づく紫に、洗濯物をぶつけて距離を取る藍。

 近づかれたら何をされるか分かったものじゃない。死んでもこんな恥ずかしい服なんて着たくない。前々から自分や橙の事をイヤらしい目(誤解)で見ていたのは知っていたが、まさか本当に変態だったなんて!……藍の誤解が秒で加速していく。

 

「うわー……すっけすっけだぁ」

 

 霊夢は霊夢で、騒がしい八雲主従を放っておいて、マイペースに下着などを漁っていた。何が楽しいのか、左右を引っ張って伸ばしてみたり、丸めてみたりして遊んでいる。……食べるのは止めたまえ。

 

「うっふーん」

 

 挙句、その場で自分の衣服を脱ぎ捨て、自分の体格にあったバニー服などに着替えて、一人ファッションショーをする始末である。本来色っぽい服装である筈のバニーガールであるが、幼女が着れば可愛らしいものである。色気のいの字も感じられず、若干微笑ましい。……藍の誤解を解きながら、横目でその霊夢の光景をしっかりと目に焼き付けようとしているスキマ妖怪さんは、そろそろ自重するべきだろう。

 無論、その後、怒り心頭の藍に叱り飛ばされ、強制的に服を着替えさせられた。破廉恥はダメなのである。そして、この事態を引き起こした張本人である紫は、これ以上ない素晴らしい笑顔で親指を立てていた。……鼻から真っ赤な液体を滴らせながら。

 

 掃除をすれば……。

 

「此処……何処?」

「博麗神社の中……の筈だ」

「ちゃんと掃除したのにねぇ?」

 

 何がどうしてこうなった。

 辺り一面が真っ暗闇に包まれ、そこらかしこに不気味な目玉が浮かび上がっている。その上、空中には電車やら、お地蔵様やら、紫色の巨大な人型決戦兵器やら、勇者王やらが無秩序に放置され、そして、上を見上げれば、滅茶苦茶な威圧感を醸し出す最終にして原初の魔神的存在と、惑星サイズも軽く越えるであろうデタラメな大きさを誇る進化の皇帝が飛んでいた。

 紫の掃除が終わり、博麗神社の扉を開けた瞬間に目の前に飛び込んできたのが、この恐るべき光景だった。

 

「紫さま? 何をどうしたらこんな事に?」

「ごみを一気に掃除したくて、スキマを使ってあっちこっちに転送してみたのよ。そうしたらこうなっちゃたわ、てへぺろ」

「てへぺろ、じゃないですよ! 元に戻してください!」

 

 闇の帝王も真っ青になって復活を放棄するレベルの光景である。

 見る人が見れば、この状況が如何に拙い状況であるかが手に取るように分かるだろう。否、誰が見てもヤバイと一発で分かる。

 何を何処にどう捨てたら、こんな意味不明かつ出鱈目で絶望的な状況になるのだろうか? 主だとかそんな事関係なく、この大馬鹿隙間ババァの頭を引っ叩いてやりたい、と藍は拳を固く握り締め、プルプルと怒りに震えた。

 

『ホウ? 我ラト似タヨウナ存在ガ他ニモイタトハナ』

「かっくいぃ」

『ハハッハハハハハッ! 我ノカッコ良サガ分カルカ小娘! コヤツ中々見所ガアルゾ! ゲッ◯ーノ!』

『……』

『フンッ相モ変ワラズ無口ナ奴メ』

「ふあぁ、おっきい」

『……ポッ』

『何ヲ照レテオルノダ? ゲッ◯ーノ』

 

 紫の胸ぐらを引っ掴んで滅茶苦茶に振り回している藍を他所に、霊夢はマイペースに魔神さん、皇帝さんとお話していた。

 男心と、一部の女心を擽るメタリックなボディに目を輝かせながら、ワッシワッシと撫でまくってみたり、バンッバンッと力一杯叩いてみたりしている。

 恐いもの知らず此処に極まれり、好奇心の赴くままにやりたい放題である。

 唯一の救いは、好奇心の対象となっている魔神と皇帝が、一切怒っていないという点である。むしろべた褒めされて上機嫌。……ちょろいとか言ってはいけないのである。

 

『デハナ、因果ノ果テデ楽シミニ待ッテイルゾ』

「……ばいばい、またね」

『……バイバイ、ヨウジョ!』

『ゲッ◯ーノッ!?』

 

 最後の最後で、その巨体に似合わぬ頓珍漢な言葉を発したお茶目な皇帝さんと、その皇帝さんに無駄にコミカルに驚愕している仕草を取る魔神さんを見送る霊夢であった。

 

 他にも色々と家事に類する事をやっていった紫であるが、その度に果てしなく面倒で、とんでもなく奇想天外かつ、出鱈目で理不尽で、意味不明な現象を引き起こし、藍の正気度をじわじわと削っていった。

 そんなどうしようもない自身の主に対して藍が出した結論はーー

 

「紫様は家事をしないでください、お願いします」

 

――紫の家事全般禁止。

 

 伏してお願い申しあげる。……当然と言えば、当然の結果であった。

 

「それって土下座してまで頼むことなのっ!?」

「紫様が家事をしないのなら、死ぬまで油揚げが食べられなくなっても良いです」

「酷いっ!」

 

 貴女の家事スキルほどではありませんよ。

 藍はにこやかな表情を浮かべたまま、ピキピキッと青筋を立てて密かにそう思った。

 

「はぁ……見ての通り、紫様の家事は異次元だ。紫様の代わりに霊夢、お前に家事を教えようと思うのだが」

「分かった。頑張る」

「ちょっと藍! 家事は私がやるっt」

「は? 何かおっしゃいましたか、紫様?」

「イイエナンデモナイデス、ゴメンナサイ」

 

 表情はにこやかなのに、とんでもない殺気を感じた、よく見たら目が全然笑って無くてとっても恐かった、と後に隙間妖怪は語った。

 取り敢えず、紫が家事をすることはもうない。否、藍が絶対にさせない。

 

「紫様は家事などと余計な事をせず、霊夢の教育や修行などをしっかりと見てあげれば良いんじゃないでしょうか? 仮にも賢者なのですから、誰かを教え導くのは得意でしょう? まさかそれすらも出来ないとはおっしゃいませんよね?」

「ちょっと藍? 私、貴女の主よ? もう少しちゃんとした態度というものがあるんじゃないかしら?」

「……はっ!」

「鼻で笑われたっ!?」

 

 これ以上ないくらいに冷たい目で見下された紫の明日はどっちだ。

 

 なんやかんやあって、家事が出来ない代わりに紫は霊夢の教育、修行全般を見る事にした。

 本当であれば、家事もやりたかったが、それは仕方がない。従者から蔑みの視線を貰うより、大人しく身の丈に有った事をしていた方が、精神的に幸せになれる。

 

 そんなわけで、取り敢えず霊夢の修行を見ることになった紫であるが……。

 

「……ていっ」

「……嘘でしょう?」

 

 修行開始早々に紫は驚愕する事となった。

 霊夢は天才を通り越して、鬼才とも呼ぶべき才能の塊だった。幼き身の上にして心・技・体、その全てに於いて、紫の想定を遥かに上回る結果を出したのである。

 特に霊力を操るという一点においては、他者の追随すらも許さない圧倒的な天性の才能を有していた。

 本来、霊力を操るという行為は、超常の力を操る術を持たぬ人の身では相当の修練を積まねばならない。己の内にある霊力を知覚し、それを動かし、体外へと放出し操る。それが出来て初めて、霊力を用いた術を使うことが出来るのだ。

 しかし、霊夢はそれを一瞬で体得してみせたのである。霊力の知覚は勿論、放出、操作、更には物質化、属性付与、およそ考えつく限りの全てを容易く使いこなした。

 

「私、すごい?」

「凄いわよ霊夢! よーしよしよしよし!」

 

 抱き寄せてこれでもかと頭を撫でまくる紫である。出会って間もないのに既に親バカを発症していた。

 確信した。霊夢はこれからの幻想郷を変える人間だと。この娘の才能を伸ばしていったら、自分の夢を、理想郷を、必ず実現してくれると、紫は確信したのである。

 

「霊夢、結界は……」

 

「霊夢、術はこうして……」

 

「霊夢、戦術っていうのはね……」

 

 紫は自身が教えることが出来る事を全て霊夢に教え込んだ。

 自身の得意とする結界や、術、戦い方など、基本的な事から応用、自分の全ての技術を事細かく、霊夢に伝授していった。

 長い年月を生きたスキマ妖怪の全ての戦闘技術を、幼い人間の少女に覚えさせる。普通に考えるならば無茶無謀、ミミズに龍の真似事をさせるに等しい行為だ。

 しかし、霊夢は紫の期待に応えた。否、紫の期待すらも上回っていったと言っても良い。その小さな実から溢れ出る才能を思う存分に発揮して、紫が伝えようとする技術の全てを、水にスポンジ、砂漠に水、と言わんばかりの驚異的な吸収力で取り込んでいったのである。

 その上で、自分自身で技を編み出したり、独自の鍛錬方法を行っていたりと、強くなるために様々な事を率先ししていたのである。

 

 霊夢は流星のごとく凄まじい速さで成長して、あっという間に紫の教えを全て体得した。僅か数年という短い期間で、霊夢は紫の全てを持っていったのである。技も、その心も……。

 紫としてはそれを喜べば良いのやら、悲しめば良いのやら。自分の長い年月の修練の結果が、人間の少女の数年に満たないなんてと、悲しく思う気持ちもあれば、流石は自分の可愛い霊夢だと、誇らしく思う気持ちもあった。

 そして、何よりも残念な気持ちが強かった。もう、自分が霊夢に教えられるものは何一つとしてない、という事実だけが紫の心に影を落とす。

 確かに霊夢はこれ以上ないくらいに立派に成長してくれた。師匠として鼻が高いし、誇らしく思う。

 だが師匠としては、いつまでも弟子の前に立ち続けたいものである。しかし、遠の昔に力関係は逆転し、こと戦闘行為では、真正面からでは全く以て相手にならなくなってしまった。辛うじて、チェスや将棋などのボードゲームなどでは勝ち越してはいるが、それも何時まで持つか分からない。

 紫としては、霊夢に尊敬される存在でいたいのである。……家事の件で、とっくの昔に残念美人の印象を与えてしまっている、などという事実は当の本人は全く気付いていなかった。そういうところが残念だという悲しい現実である。

 

「れ・い・む♪」

「む、紫?」

「修行ばっかりは詰まらないわ。偶には師匠である私に構いなさい」

「やれやれ、しょうがないお師匠様だじぇぃ。ムギュ〜ッ」

「ふふっ、師匠である私に存分に甘えるといいわ!」

 

 背後から覆いかぶさるようにして、霊夢(弟子)に持たれかかる(師匠)である。そこに威厳なんてものは皆無であり、尊敬されるような要素は微塵たりとも存在しない。

 霊夢も、霊夢で、仕方がない奴めと、苦笑を浮かべながら紫に向き合い抱き着く。そんな霊夢の行動に、紫は満面の笑みを浮かべ、力一杯に抱き締め返す。

 十になるかならないかくらいの少女と、妖艶な美女が抱き合っている、大変犯z……微笑ましく、百合百合しい光景がそこに広がっていた。そういう趣味の人が見たら、尊みでそのまま昇天するくらいの甘々っぷりである。

 

 紫はすっかり霊夢に夢中だった。あっちへ行けば霊夢、こっちへ行けば霊夢。

 何をするにも霊夢、霊夢、霊夢、霊夢と、頭が心配になる程度には霊夢に夢中になっていた。従者である狐も、この主の現状には辟易しており、余りにも酷いときには物理的に言うことを聞かせる始末である。

 子離れできない親のように、大好きな彼氏に構ってもらいたい面倒な彼女のように、紫は霊夢に構いっぱなしになっていたのであった。

 

 紫にとって、霊夢は特別な存在になっていた。

 僅か数年で自分を超えてしまった天才であり、早くも幻想郷の名だたる実力者に匹敵しようとしている、紫の夢の体現者となっている存在である。

 自分の育てた優秀な弟子が、幻想郷に平和を齎している。その事実が紫にとってどれだけ喜ばしく、嬉しい事か、無力だった自分が育て上げた最高傑作が、幻想郷を汚す輩を完膚なきまでに叩き潰す姿を見るのが、どれほど愉快で痛快な事か。

 そして、何よりも紫は霊夢を自分の娘のように思っていた。霊夢という少女。何処からとも無く現れ、紫の心を救った希望そのもの。

 霊夢と過ごしたこの僅か数年の時間が、自分が今まで歩んできた長い年月と比べたら余りにも短い霊夢との時間が、これ以上無く甘く、穏やかで幸せな時間だったから。

 霊夢から向けられている無条件の好意が、触れてくれる小さな温かさが、この心に負った深い傷跡さえも癒やしてくれたから。

 紫はもう霊夢がいない生活など考えられなかった。霊夢がいるから頑張れる。霊夢と一緒なら、きっと幻想郷はかつて夢描いた理想郷へと生まれ変わることが出来る。

 

 分かりやすく言えば、紫は浮かれていたのである。霊夢という清涼剤を得た反動で、今までの緊張感が無くなり、致命的な隙を晒してしまったのである。

 これが原因で、まさかあの様な事態になってしまうなど、この時の紫も、まして当時まだまだ実力不足で発展途上の霊夢には思いもしない事だった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 ことが起こったのは、霊夢が齢十を超えた辺りの頃である。

 毎日の日課である修行を行い、八雲一家と楽しく過ごすいつもの光景。

 紫が霊夢を構い倒し、それを藍がしばき倒し、橙が霊夢にじゃれつき、霊夢が三人と戯れる。そんな団欒とした光景である。

 

「見つけたぞ、八雲のガキ」

 

 そんな光景に水を指すように現れたのは一体の異形。

 幻想郷でも高名で残虐な妖怪である。強力極まりない力を私利私欲のためだけに使い、ありとあらゆる悪逆非道を行ってきた幻想郷の汚点、唾棄すべき邪悪そのもの。

 そいつは全身から妖気を溢れ立たせ、その視線には殺意が満ち満ちていた。

 

「暫く現れなんだと思うたら、何やら面白い事をやっておるな」

 

 異形の隣に更に何者かが現れる。

 怜悧な視線でほのぼのとしている八雲一家を睨みつけるのは、この幻想郷の中でも特に強力な部類に入る神の一柱である。人に試練という名の理不尽を課し、己の楽しみのためだけに人々の人生を弄ぶ、自分勝手な災害。

 その神は神剣を携え、押し潰さんばかりの神威を全身から迸らせている。

 

「クククッ」

「フハハハッ」

「「ハハハハハッ!」」

 

 その二体の出現を皮切りに、八雲一家を囲むように妖怪が、神が現れる。

 それもただの妖怪、神ではない。先に現れた二体ほどではないが、並みではない力を持った恐るべき存在たちである。

 

「一体、何の用かしら?」

「決まってんだろうが、いい加減、テメェが煩わしぃんだよ。人間どもを喰ってやろうと人里に降りても、テメェが邪魔をして隠しやがるから、最近は碌に喰えてねぇんだ。だからこの苛々の解消も兼ねて、ぶっ殺してやろうとな」

「左様、たかが妖怪風情が、我ら神々の道楽の邪魔をするなど不届き千万。天に唾を吐き捨てた、愚かなるお前を滅ぼすために、この我が態々足を運んでやったのだ、感謝するが良い」

「まぁテメェを確実にぶっ殺すために、こんなカトンボ見てぇなクソと手を組んだのは甚だ納得いかねぇんだけどよ」

「阿呆、それはこちらの台詞というものだ。貴様らごとき矮小で愚劣なる蛆虫と手を組む羽目になるという我らの屈辱が分かるか? 何が悲しゅうて、この様な辱めを受けねばならぬというのだ」

「あぁ? テメェからぶっ殺してやろうか?」

「死にたいなら掛かってくるが良いぞ?」

 

 神と妖怪、光と闇、水と油と言っても良い関係性である二体の相性はお世辞にも良いとは言えず。反発するように、いがみ合う。

 こうして、一つの目的を成すために、徒党を組んでいるという事実そのものが異常なのだ。

 

「……っ」

 

 拙いことになった。

 一体一体ならまだしも、これほどの実力者達が一度に集まり、その上自分を狙っているときた。いつもなら境界を敷いて、干渉できないようにしているのだが。……最近は些か気が緩んでいたようだ。まさか、補足されてしまうとは。

 それに、ご丁寧なことに逃げられてしまわないように、重厚な結界まで張り巡らせている。妖力と神力、二つを混ぜ合わせて生み出された強力極まりない結界だ。反発し合う力を同程度の出力で上手く回して張り巡らされた結界は、想像だにしない力を発揮している。これでは、スキマを開いて逃亡を図ることも出来ない。

 

「紫様、如何しましょう?」

「結界のせいで逃げることも出来ないし、実戦経験が皆無な霊夢、そもそも力が足りていない橙を除けば実質的に戦力になるのは、私と貴女の二人だけ。……大変ね、完全に詰んでるわ」

「一体一体ならまだしも、これほど大勢が相手では流石に相手取るのは無理がありますからね」

「それでも、私と貴女なら霊夢と橙が逃げるための時間くらいは稼げるわ。そうでしょう?」

「無論です。これでも最強の妖獣として、その名を轟かせている妖怪ですよ? それにそんな私を従えている紫様も賢者と謳われた大妖怪です。勝てぬまでも、人と妖怪の二人を逃がすなど造作もありません」

「なら決まりね。……藍、覚悟を決めなさい。此処を死地と定めるわ」

「御意」

 

 大切な者たちを守るために、八雲の主従が立つ。

 

「ハハハハハッ! たったの二人で、俺らに勝てるとでも思っているのか!」

「滑稽滑稽! 数の差も理解できぬ分際で、よくも賢者なぞと呼ばれたものよ!」

 

 妖怪、神の軍勢の前に立った二人を見て、妖怪は、神は嘲笑う。その無謀を、その愚かしさを、ただただ嘲笑い、紫と藍を蔑み見下している。

 

「そのたった二人に対して、これだけ数を揃えないと碌に敵対することも出来ない弱虫さんの言葉なんて、全く響かないわ。……ねぇ藍、こんな哀れな方々を何と言ったかしら?」

「負け犬ですよ紫様。もっと言ってしまうならば、彼奴らの言っていることは負け犬の遠吠えと同じですね」

「クスクスクスッ、そうそう負け犬。負け犬なのよ貴方達。……よく見れば、皆一度私達に敗北した面々じゃないの、一回敗北しただけじゃ足りなくて、また負けにきたみたいねぇ」

 

 有象無象の嘲笑を柳に風と言わんばかりに聞き流し、それ以上の嘲笑と侮辱を返す。

 全ては自分たちに注意を引き付けるため、この場にいる全ての敵の注意を自分たちに向けさせるため、敢えて強い言葉を使って、相手を煽っているのだ。

 

「橙、戦いが始まったら、そのまま霊夢を連れて裏から逃げるんだ。決して振り返ったらいけないぞ?」

「だ、ダメです藍しゃま。殺されちゃう。死んじゃ嫌ですよぉ」

「私は死ににいくわけじゃないぞ? 今まで放置していた問題を片付けに行くだけさ。それに、私と紫様の二人が揃っているんだ。勝利はあっても負けはない」

「藍、しゃま」

「少しのお別れだ。また皆一緒に遊んだり出来るさ」

 

 そう言いつつ、藍は自分が再び橙と会話できるとは思っていなかった。

 自分と紫が如何に強かったとしても、相手もそれなりの手練が揃っている。その上、数では圧倒的にこちらが不利なのだ。

 力も拮抗し、数で負けているとなれば、後はもう……。

 

「藍しゃま、絶対ッ、絶対ッ帰ってきて下さいね!」

「ああ、分かっている。……すまない橙、これでさよならだ」

 

 別れの言葉を小さく溢し、走り出した橙を見送った藍。願わくば、あの娘の未来が幸あるものでありますように。

 それが、これから死地に赴く狐の心からの願いであった。

 

「紫、私も戦う」

「ダメよ霊夢、いくら貴女のお願いでもこれだけはダメ」

「でも、私の方が紫よりも強い」

「そうね。確かに貴女は私よりも強いわ。真正面からの戦闘では、貴女に勝てる奴はこの場には一人もいないでしょうね」

「だったら!」

「調子に乗るな!」

「っ!?」

「霊夢、いくら強くても貴女は人間、人間なのよ。ちょっと病気になっただけで死にかけて、少しの怪我をするだけで死んでしまうかもしれない人間なの。私達妖怪みたいに頑丈じゃないの」

「……」

「貴女が死んだら、今度こそ私は耐えられない。だから、聞き分けて頂戴」

「……死んだら絶対許さない」

「ええ、分かったわ。絶対に貴女の元に帰ってくると約束する」

「ゆびきり」

「え?」

「ゆ・び・き・り!」

「あ、はい」

 

 幼女の無表情滅茶苦茶恐い。霊夢の無言の圧力にあっさりと負けた情けない隙間妖怪さんである。

 そして、行われる霊夢とのゆびきり。……ゆびきーりげんまーんうそついたら、紫の一生もーらう。指切った。

 

「ちょっと待って、今すっごい恐ろしい言葉が聞こえたんだけど!?」

「じゃあ、頑張って」

「待って! 待ちなさい霊夢! って、はやっ!?」

 

 瞬く間に、霊夢はすたこらっさっさと駆けて行った。紫の手が虚しく宙をかく。……軽はずみでやべぇ約束取り付けちまった。

 内容的に考えるならば、紫が約束を破ってしまった場合、その後の一生は全部霊夢のものになる、ということ。奴隷みたいに馬車馬のように働かせられたり、ちょっとえっちな辱めを受けたりするかもしれない。……あれ? 意外と有りかもしれない。霊夢馬鹿になりつつある紫からしてみたら、むしろご褒美かもしれない。

 これから死んでしまうかもしれない激戦に身を投じる事になるというのに、何ともアホらしい事を考えている八雲紫であった。

 

「紫様、何をふざけているんですか?」

「ふざけてないもん! 霊夢がふざけたんだもん!」

「良い歳したおばさんが、そんなにもんもん言わないで下さい。控えめに言ってもかなり気持ち悪いです。吐きますよ?」

「おばさんじゃないわ! お姉さんよ!」

「はいはい、お姉さん(笑)でしたね。お・ね・え・さ・ん(笑)」

「アイツらの前に貴女から先にぶっ飛ばすわよ?」

「可愛い従者のちょっとしたお茶目じゃないですか、それにマジになる主ってすっごいカッコ悪いですよね。……霊夢が見たら幻滅するんじゃないですか?」

「さぁ藍、迎撃するわよ」

「……うわっ、何か急に真面目を装い始めた。引くわー」

「あ、貴女ねぇ」

 

 従者が主を弄り、それに主が半ば本気で食って掛かる。ある意味で非常に息が合っている八雲のコンビである。

 

「まぁ、冗談はこれくらいにしておいて、そろそろあちらも痺れを切らす頃合いですね」

「ええ、ふざけて時間稼ぎをすれば、その分だけあの二人に対する注意が減るもの。冗談とは言ってもかなり失礼な貴女の態度も、これに免じて許してあげる」

「はい? あれは私の本心だったのですが?」

「……貴女の冗談はこれに免じて許してあげる。あげるからね。だからこれ以上意地悪しないで? 戦う前に私の心が折れちゃうから」

「……紫様って、泣いている時が一番可愛いですよね。以前、霊夢が紫様の泣き顔が一番好きって言ってた言葉の意味が理解できましたよ」

「え? 霊夢そんな事言ってたの? 普通にショックなのだけど」

「あ、これは言ってはいけないんでした。忘れて下さい」

「忘れられるわけないじゃないのぉぉぉ!」

 

 いやぁぁぁっと髪を振り乱して頭を振るゆかりさんじゅうななさい(自称)である。 

 自分が娘のように可愛がっている存在が、まさか自分にそんな感情を抱いていただなんて。尊敬されるようなキャラを維持していた筈(思い込み)なのに、イジメたくなると思われていたなんて!

 よくよく考えてみれば、霊夢は結構自分に対して意地悪な事をしていた気がする。

 好物のお菓子を、眼の前で全部平らげたり、紫が構ってほしそうに霊夢に話しかけても無視したり、止めてと言っても擽ってくるのを止めてくれなかったり、といった意地悪を行い。

 意地悪されて泣いている紫をこれ以上ないくらいにベタベタに甘やかし、膝枕したり、頭を抱き締めてあげたりして、あやしていたりしていた。

 

「し、師匠としての威厳ががが」

「何を今更、そんなもの最初からないじゃないですか。……そろそろ始まりますよ。構えて下さい」

「全く以て納得できないけど、仕方ないわね。……では、参りましょうか」

「御意」

 

 冷静さを取り戻した紫は、何時もの様に胡散臭く余裕に満ち溢れた笑みを浮かべる。その身からは、先程の情けない様子からは考えられない程の膨大な妖力を漲らせており、周囲に恐ろしい圧力を加える。

 その傍らにいる藍からも、紫が放出している妖力と同程度の妖力が溢れ出し、周囲の妖怪達を威圧する。

 

 これこそが、これこそが幻想郷を守護し続けてきた八雲の主従の本気である。その威圧に当てられた妖怪、神は嘲笑を止め、固まるしか無い。

 手を組んだ妖怪、神の軍勢は悟った。追い詰められている? 数の差も理解できない愚か者? そんな馬鹿げた事を誰が言ったか。

 この二人にとって数の差など問題ではない。数で勝っているから? 実力で拮抗しているから? それを理由に油断をしたら、手を抜いたら、それこそ逆に返り討ちにされる。

 

「さぁ、掛かっていらっしゃい有象無象。美しく残酷に、幻想郷(この世)から消し去ってあげる!」

「我ら八雲の命、容易く取れると思うな!」

「舐めるなぁ! 八雲のゴミクズどもがァァァ!」

「神の威光、無知蒙昧なるそなたらに知らしめてくれようぞ!」

 

 紫と藍の啖呵、妖怪共、神の怒号を引き金として、合戦の幕が切って落とされた!

 

 

 

ーーー

 

 

 

 戦いは三日三晩もの間続いた。

 八雲の主従のコンビの超絶たる連携は、妖怪も神も寄せ付けず。結界で押し潰し、境界で切断し、術を用いて燃やし、砕き、ぶっ飛ばす。

 長い年月を共に過ごした主従であるからこその連携。主の考えを従者が読み、逆に従者の考えを主が読んで、互いに動き回り、攻撃を最大の防御に、防御を最大の攻撃へと転じ、数の差を覆したのである。

 二人の獅子奮迅の働きにより、妖怪共も神もその数を徐々に減らしていった。そして遂に、奴らを率いていたリーダー格の妖怪と神の二体を残すのみ、となるまで敵を追い詰めることに成功した。

 

「う……あ、ぐぅ、ら、藍? ま、だ、生き、て、る?」

「ごふっ、げほっげほっ……。は、い」

 

 だが、その代償は大きい。

 いくら紫と藍の連携が優れていたとしても、相手の数が数であり、力が力だった。大妖怪、少なく見積もっても、中級妖怪の上位クラスの力を持った奴らが縦横無尽に攻め立ててくるのである。流石に無傷とはいかない。

 紫と藍は妖力の殆どを使い果たし、身体はボロボロ、無事なところを探すのが難しい程にボロボロに傷付いていた。

 対して、相手側に残っている二人は、あの集団を率いる者であるだけに、その実力も紫と同等かそれ以上、その上に戦闘に積極的に参加していなかったために、傷は殆ど無い。

 

「クッハッハッハッ! 流石は幻想郷の賢者を名乗るだけあるわ! 俺の部下共が一匹も残っていねぇ!」

「我の忠実なる部下も軒並みやられておるな。……全く情けない。これでは神の面汚しよ」

「だがまぁ、此処までだな。見たところテメェらには妖力はカス程も残っちゃいねぇ、立っているのもやっとってとこだろ?」

「今のそなたらならば、この指の一本でも容易く滅する事が出来るな」

 

 妖怪共の首領と、神々を率いし長、その二人の手が紫と藍に向けられる。そして、その手に収束していく妖力。

 万全の状態ならまだしも、傷付いている紫と藍にそれを防ぐ術はない。成す術もなく、自身に向けられる力の収束を眺めるしか無い。

 

「これまでの無礼を謝罪し、我らの軍門に下るのならば、その命だけは助けてやっても良いのだが? もっとも、その時は貴様らは我らの慰み物となっておろうがな、フッハッハッハッ!」

「何なら俺の女にでもしてやろうかぁ? テメェら見てくれだけは良いからよぉ、ヒャッハッハッハッ!」

 

 勝ちを確信しているんだろう。紫達を見下して高笑う妖怪と神。水と油の関係並みに相性が悪い癖に、こんな時は息がぴったりである。下衆同士何か通じるものがあるのだろう。

 

「ぺっ、そん、な屈辱、受け、るくら、い、なら、死ん、だ方が、マシ、よ」

「死ね、クズど、も」

 

 八雲の主従の返答は当然NOである。

 この八雲紫、八雲藍のもっとも好きな事の一つは、テメェが勝利を確信している相手にNOと断ってやることだ、と言わんばかりにバッサリと切って捨てた。……二人共無駄にキメ顔で言ってのけている辺り、かなりノリノリである。

 

「じゃあテメェらを生かす理由はねぇな。……死ね」

「せいぜいあの世で後悔すれば良かろう。……滅」

 

 妖怪の手から放たれたドス黒い光が、神の手から放たれた眩い閃光が、紫と藍の二人に向かって放たれた。

 

「ごめん、ね、霊夢」

 

 迫る死を目前として紫の頭に思い浮かんだのは、あの愛しい少女の姿。

 

「約束、守れそうも、ないわ」

 

 そして、少女との約束だった。

 

 やがて閃光が紫を覆い尽くし、紫の意識は真っ白に染まり――

 

 

 

 

 

「――じゃあ、紫の一生貰った」

 

 閃光が一瞬で弾け飛んだ。

 

「は、え?」

 

 意味が分からなかった。どうしてあの娘が此処にいるのか?

 逃げろと言った筈なのに、この場所から離れてくれたと思っていたのに、どうして此処にあの娘が、霊夢がいるのだ!?

 

「へーい、紫げんきぃ?」

「どうしてっ、どうして戻ってきたの!」

「……紫が死んだら、約束もクソもない。だから、私 が 来 た」

 

 何処ぞのNo.1ヒーローばりの台詞をかます霊夢である。……一瞬だけ画風がアメコミ風に変わったのはきっと気のせいではない。

 

「霊夢、今からでも遅くないわ。私は大丈夫だから、此処を離れrもがっ!? にゃ、にゃにゅしゅりゅにょよぉ(な、何するのよ)!?」

「何かうざかったから黙らせた」

 

 息も絶え絶えながら、霊夢の身を案じて言葉を紡ぐ紫を強制的に黙らせに掛かる霊夢。その小さな手を紫の口に直接突っ込んで、舌を押さえつけるという鬼畜の所業である。

 幼い美少女が、ボロボロになっている美女の口に手を突っ込んでいるという、絵面だけを見ると、かなり倒錯的な光景である。

 

「取り敢えず黙って見てて。……返事は?」

「でぇきゅりゅわきぇにゃいぢぇしょ(出来るわけないでしょ)!」

 

 シリアスが壊れ始めた。

 

「らんしゃま! 救援に来ましたよ!」

「橙!? どうして戻ってきたんだ!」

「霊夢が「最後の最後で絶体絶命なのは確定的に明らか、しょうがないから助けに行こう」って言ってたので!」

「あ、あの馬鹿者めぇ」

 

 何故か頭に浮かび上がる無駄にイイ笑顔の霊夢がサムズアップしている光景。ご丁寧に歯までキラリと光らせる無駄に無駄を重ねた演出までしている。

 そんな普通に見たら腹が立つ光景でも、うっかり可愛いと思ってしまうのは、藍が霊夢の事を橙と同じくらいに溺愛しているからだろうか?

 

「はぁ、来てしまったものは仕方がないか。……すまないな橙。危うく約束を破ってしまうところだった」

「間に合って良かったです!……まぁ、私まだ何もしてないんですけどね!」

「自信満々に言うんじゃない」

 

 可愛いから許すけども。

 先程までの殺伐とした雰囲気は何処へやら、藍と橙の主従はマイペースにほのぼのとした雰囲気を醸し出していた。

 

「何だぁ? 誰が来たかと思えば人間のガキじゃねぇか」

「人の子よ、我らの邪魔立てをするとは不遜なり」

 

 いきなり現れたのが、人間と見て甘く見る妖怪と神である。

 自分たちの放った力を防いだところから、それなりに力を持っているようだが、所詮は人間、妖怪、神である自分たちに敵う筈もない。

 むしろ、妖怪は美味そうな人間がのこのことやって来たと、神は弄び甲斐のありそうな玩具がやって来たと、それぞれ笑みを深めた。

 

「紫、ねぇ聞いてるの? 返事は?」

「くちゅぎゃふしゃぎゃってはにゃしぇにゃいにょ(口が塞がってて話せないのよ)!」

「ん、紫。そんなに舐めちゃイヤ」

「しゅっしゅきゅでぇにゃめてにゃい(すっ好きで舐めてない)!」

「紫は変態さん、はっきり分かんだね」

「ちゅぎゃうにょよ(違うのよ)!」

 

 しかし、そんな敵を無視して紫と戯れるのが博麗スタイルである。

 紫の舌を強引に指でこねくり回して、思うように発言させない。涙目になって反論しようとし、意味不明な言葉を垂れ流す紫の姿を見て、恍惚とした笑みを浮かべるこの少女はきっとドSに違いない。

 分かりやすく言えば、紫を弄るのに夢中で他の、ましてや敵対している輩の事など全く眼中に無かったのである。それどころか露ほどの興味どころから、認識すらしていない始末。

 

「おいテメェ、聞いているのか小娘ぇ!」

「説明しよう、霊夢ちゃんイヤーは、どうでもいい声は聞き流す、お利口さんなのだ」

「この我を無視するとは、余程死にたいと見えるな人間の子よ」

「あ、偉いんだぞ星人だ。……でも残念、私はお前のこと知らないから偉さが分からない。ででーん、アウト〜」

 

 煽りは基本戦術。

 幼い少女に馬鹿にされるのは、如何に煽り耐性に強い者でもそれなりに来るものがある。ましてや、今回煽られているのは、ただでさえプライドが高そうな、妖怪と神である。結果――

 

「殺してやるぞテメェェェ!」

「塵すら残さぬぞぉぉぉ小娘ェェェ!」

 

――当然のようにブチ切れる。

 

 出し惜しみなどしない、全力の殺意を乗せて、たった一人の人間にムキになって襲いかかる妖怪の首領さんと、神の長さんである。絵面がとても見苦しい。

 妖怪の刃の如き鉤爪が、神の薙刀が、霊夢に向かって振り下ろされる。普通に考えるならば、状況は絶望的を通り越して詰みゲー。逆転の手段なんて全く無く、このまま少女……霊夢は惨たらしく殺されてしまうだろう。

 

「残念、此処から先はいっぽーつーこーだったりぃ」

 

 だが、霊夢は普通ではない。

 五歳の頃より数年もの間、八雲紫直々に修行を課し、ありとあらゆる技術を叩き込まれ、更には、自分自身で力を探求し、ありとあらゆる技を身に付けるに至った鬼才とも言うべき存在なのだ。

 

「ば、馬鹿な!?」

「我の一撃を!?」

「軽くね? ちゃんとご飯食べてる? 私は食べてる。藍のご飯美味しい」

 

 鉤爪を力任せに鷲掴んで握り潰し、薙刀を蹴りの一撃で蹴り砕いていた。ぅわっょぅj゛ょっぉぃって奴である。

 

「あっりぇ〜(あれ〜)?」

 

 これに困惑したのは八雲紫である。

 霊夢の実力が、前に見た時とは、三日前に見たときとは明らかに違うのである。

 三日前までは、自分よりも少し上程度であり、やりようによっては、紫でも勝利出来る程度の力だった。

 それが、どういうわけだろう。紫と同程度の実力を持っている筈の妖怪と神を相手にして、ふざけている余裕もある始末。……これは一体?

 

「りぇ、りぇいみゅ(れ、霊夢)? ぢょうにゅうきょちょにゃにょ(どういうことなの)?」

「三日間みっちり修行した、頑張った、まる」

 

 続けて修行内容を語り出す霊夢。

 先ずは座禅を組んで、自分との対話。自分の中にいるもう一人のボクと全力で殺し合い。討ち果たして屈服させて、力を得て、精神世界を修行場として、体感時間を現実の数十倍〜数百倍にまで引き伸ばして延々と思いついた修行を試し続けただけ、だという。

 で、精神世界から現実に帰還したら、精神世界での修行分の経験値がボーナスポイント込みで自分の肉体に反映されて、霊力云々の力が大幅に上昇した。流石に肉体年齢は上がらなかったが、心なしか、身長が微妙に伸びた気がしないでもない。

 

 意味が分からないよ。紫は霊夢が何を言っているのか理解できなかった。何だその謎理論。

 要するに頭の中でイメージトレーニングして、滅茶苦茶修行している自分を想像したよ〜。で、妄想から帰ってきたら、何か身体がマッスルボディになっていたよぉ〜。……凄いね、人体、ということらしい。

 

「わ、わちゃしぃぎゃりぇいみゅをにゅぎゃしぃちゃいみゅってぇ(私、私が霊夢を逃した意味って)」

「修行時間の確保、テンクス。でも、ゆびきりは守れ、な?」

「あ、ひゃい(あ、はい)」

 

 イイ笑顔で、紫の舌を弄りながら自分の要求を通す鬼畜少女。

 

「く、くそっ! たかが人間風情に、此処まで虚仮にされるだとぉ!」

「わ、我の面目丸潰れではないか!」

 

 自分達の力が通用しない。

 何だこの人間は? 意味が分からん、分からんぞ!

 何故、人間ごときが、矮小な存在である人間ごときが、妖怪である、神である自分の攻撃を、あれほどまでに容易く受け止め、砕けるのだ!?

 

「ちぇーん、かもーん」

「呼んだ霊夢?」

「藍、無事だった?」

「応急処置もばっちりだよ!」

「おっけい、じゃあ後はアイツらボコれば終わり。……あれやるから。合わせて」

「らじゃー!」

 

 その場で姿勢を前のめりに傾ける橙。そして、その橙の頭に手を置いて集中する霊夢。

 

「や、やっと解放された」

「凄い弄られてましたね紫さま」

「藍、どうやら無事みたいね」

「橙が手当てしてくれましてね。橙は回復系統の術なんて使えなかった筈なんですが……全く、霊夢の奴め、橙に色々と教え込んだようだな」

「そうらしいわね。……見てみなさい藍、回復術だけじゃなく、他にもとんでもない物を教え込んだみたいよ」

「っ!? これはっ、この場一帯の妖気が、橙に集中している?」

 

 周囲に溢れている妖気。それら全てが橙という妖怪に収束していっている。

 

「妖気固定、潜在能力解放。……覚醒(おきろ)

「変化ぇ!」

 

――ボフンッ!

 

 収束した妖気が一気に爆発し、辺り一面を煙が多い尽くす。

 

「こ、これはっ!?」

「ちぇ、橙?」

 

 やがて、煙が晴れる。

 

「じゃーん、かんせーい」 

「この格好、藍しゃまみたいでカッコイイです!」

 

 無駄に決まっているドヤ顔を披露する霊夢。そして、その霊夢の前には一人の女性の姿があった。

 頭には立派な猫耳を持ち、切れ長のクールな瞳に整った顔立ち、赤を強調した道士服を身に纏い、臀部の方から二本の黒い尻尾をゆらゆらと揺らしている。

 冷静でクールな雰囲気を醸し出しているが、しかし、口を開けばその外見に似合わない気の抜けそうな暢気な発言である。

 突如として現れたこの美女、その正体は……

 

「橙、もちつkげふんげふん、落ち着け」

「うわー、霊夢ちっちゃいなー、可愛いよぉ」

「抱き上げるな、下ろせ」

「にゃひぃっ!? 尻尾は強く握らにゃいでぇぇぇ!」

 

 そう、この猫耳美女の正体こそ、何を隠そうあの橙なのである。

 霊夢が三日間の修行で習得したとある術によって、強制的に覚醒させられた結果、肉体が変化したのである。

 つるぺったんの幼女が、ボンキュッボンの爆発ボディを持った美女へと一瞬で華麗に変身した。その事実だけでも驚愕に値するというのに、変わったのはそれだけではない。

 

「見た目だけじゃなくて、その中身も前とは比べ物にならないわね」

 

 見た目だけではないのだ。

 橙の内包する妖力が、格段に上昇していた。紫や藍に匹敵、あるいは凌駕するほどのとんでもない量の力が、彼女の中に渦巻いていたのである。

 これこそが、霊夢が開発した『覚醒』術。周囲に妖気が満ちている時にのみ発動可能な術であり、効果は至ってシンプル。霊夢が周囲の妖気を集めて、集まった妖気を橙に吸収させて、なんやかんや術を発動して、あれがこうして、身体が大人になっちゃうくらいに強制的に力を覚醒させるのである。

 ちなみに、現在の橙のプロポーションは紫と藍を大きく超えている。……バインバインのボインボインである。素晴らしい。ディ・モールトベネ。

 

「ら、藍、さっきから固まってるけど大丈夫?」

「わ、私の可愛い橙が成長した成長した成長した成長したあばばば」

「あ、ダメねこれ」

 

 藍にとって、可愛らしい橙が一気に可愛いというよりも綺麗だとか、美しいと評される姿に成長してしまった、という事実は、処理落ちを起こしてしまうくらいに辛い現実だったようだ。

 

「準備は整った。さぁ、小便は済ませたか? 神様へのお祈りは? あ、お前神様か、じゃあ祈らなくていいわ」

「そこら辺でガタガタふるえて、命乞いをする心の準備はおーけー?」

 

 成長した橙に肩車して貰いながら霊夢は某死神執事の台詞を言っちゃう。教えてもらったのかどうか、定かではないが、橙も同じように台詞を言っちゃう。

 この時、二人は全身から霊力を、妖力を放ちながら言っているため、ちょっとアホみたいな台詞でも十分威圧的に感じる。

 現に二人と相対している妖怪と神は、地力の差を悟ったのか、何の発言も出来ずただただ震えて、自分たちの現状を嘆くしか無い。

 

 だが、それも仕方のないことである。

 自分たちが手も足も出ない、訳が分からない人間が現れたと思ったら、猫の小妖怪がいきなり自分たちでも勝てないかもしれない大妖怪に化けたのである。これに絶望しない者はいないだろう。

 

「それでは紳士諸君」

「任務ごくろー」

「「さ よ う な ら」」

 

 後はもう酷いものだった。

 成長した橙の放つただのひっかき攻撃で、大地が切り裂かれ、神が張った、結界諸共切断する。妖怪が力任せに殴り掛かろうとも、霊夢が適当に出した結界で容易く防がれ、吹き飛ばされ錐揉み回転。

 ならばと、妖力で術を使おうとも、そもそもの地力が圧倒的に開いてしまっているために、ただの霊力の放出で、術が押し潰される始末。

 逃げようとしても、橙の足の速さに敵わず、追いつかれ猫パンチでボコボコにされる。

 妖怪と神は、その自信をバキバキに叩き折られて、二度と立ち上がることが出来ないくらいにボッコボッコにやられてしまったのである。

 

「勝った、第一部完」

「にゃっ!? 霊夢! 何してるの!? むずむずするんだけど!?」

「よいではにゃいかーよいではにゃいかー」

「あーにゃー!?」

 

 ズタズタのボロボロにされてボロ雑巾状態の妖怪と神を放っておいて、橙を弄り出すドSな少女霊夢氏であった。

 橙の育ちに育ちきった立派な山脈を小さな手でこれでもか、と蹂躙している。ノリノリで鷲掴んだり、揉んだり、摘んだり、ラジ◯ンダリー。

 橙は橙で、自分の身体を襲っている未知の感覚に身体を悩ましげによじったりして何とも色っぽいことになっていた。

 二人はそのままイチャイチャと戯れ合いながら、空を飛んで行き……やがて彼方へと見えなくなった。

 

 

 

 

「……え?」

「橙が、橙がぁ」

 

 倒れている紫と藍を放置して(数時間後に回収に来ました)。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「みたいな事もあったわねー」

「む、昔からぶっ飛んでたんだな、霊夢」

「いや、あの時は本当にびっくりした。心臓が止まるかと思ったぞ」

 

 時は流れ、現在。

 今日も今日とて、博麗神社には沢山の訪問客が来ていた。八雲一家と魔理沙である。一同、卓を囲んでのんびりとお菓子を食べながら、昔話に花を咲かせていた。

 

「フフフッ、それは大袈裟だぞ藍。なぁ、橙」

「そうですよ藍しゃま! 私の成長した姿を見たくらいで驚きすぎです!」

「橙は何時までも可愛い橙でいてくれ、霊夢が一気に成長したから、癒やしが足りないんだ」

「何だ藍、今の私では癒やしにならないのか?」

「い、いや、癒やしというより何というか、な。気恥ずかしいんだよ。今のお前と昔みたいなやり取りをするのは……」

 

 小さい時のお前は何を言っても可愛いなぁで済ませたが、今のお前はいちいちカッコ良くて綺麗だから、変な気分になるんだ、という言葉は飲み込んだ。

 

「分かるぜその気持ち、霊夢は事ある毎に口説きやがるから、油断も隙もねぇんだよな」

「そうそう、この前なんて「紫、月が綺麗だな」って言って、キャーってなっちゃったもの」

「何それロマンチック。羨ましいな、おい」

「わ、私はこの前「藍、私のために毎日味噌汁を作ってくれないか?」って言われてしまった。……その後の記憶はない、気付いたら、居間の方で寝かされていた」

「耐性がないと精神持たないからな、仕方ない仕方ない」

 

 女三人寄れば、姦しいとはよく言ったもので、わいわいがやがやと、やれ霊夢がああした、ああ言った、などと騒ぎ出す。

 

「別に口説いているつもりはないのだが……」

「私、知ってる。霊夢ってば天然ジゴロなんでしょ?」

「解せぬ」

 

 膝に乗せている橙にまでそんな事を言われてしまった霊夢は、納得いかないと言った様子で、大人しく茶を啜っていた。

 

「ああ、楽しいわね」

 

 紫はこの団欒とした光景を見て、独りごちる。

 昔の自分では考えられなかったこの光景、愉快に楽しく、愛おしいあの娘と、周囲の仲間たちと毎日毎日どんちゃん騒ぎで、退屈とは無縁の尊い日常。

 

「ああ、平和ね」

 

 幻想郷も生まれ変わった。

 争いなど殆ど無く、あってもすぐに鎮圧する平和そのものの世界。妖怪と人間が、ありとあらゆる種族が共存し、仲良く暮らしている理想の楽園。

 紫の夢と希望に満ち溢れた、幻想達が最後に行き着く優しい場所。

 

 全てはあの娘。……霊夢との出会いから始まった。

 

――あの日、貴女と出会えて良かった。

 

 貴女と出会えたから、私は希望を知ることが出来た。

 

――あの日、貴方と出会えて良かった。

 

 貴女と出会えたから、私は愛を知ることが出来た。

 

「フフッ、霊夢。私の愛しい愛しい可愛い娘」

 

 でも、ごめんなさい。何時までも親でいる事は出来そうにない。だって――

 

「私、貴女の事が大好きよ」

 

――貴女の事が、狂おしいほど好きなんですもの。

 

 だから親ではいられない。

 

「それに、約束も守らないといけないし、ね」

 

 いつぞやの約束はきっちりと守る。紫の一生は霊夢の物だ。だったら、約束を果たすためにずっと一緒にいる必要がある。……つまりはそういう事である。

 

 八雲の賢者は恋をする。初恋の味は甘酸っぱく、心を掴んで離さない。愛しいあの娘の心を狙って、今日も静かに謀(なお、尽く失敗する模様)。

 




かくたのぉ(いつもの挨拶)!

地霊殿を楽しみにしている方々には申し訳ないが、何やかんやでこの話は入れたかったんや、済まないね。
結構、急ピッチで書いていた部分もあるから若干言い回しが汚いかもしれないけど、大きな懐で笑って許してつかぁさい。
年末年始忙しいけど、今年までに地霊殿書けたらいいなぁ(願望)。

と、いうわけで次の話からいよいよ待望の地霊殿を書き始める予定です。プロットは温まっているし、割りと面白く書けるのでは! と自信もあるので、是非とも楽しみにお待ちくださいね!

では、次回の更新まで、じゃあの。

8/20
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【地霊殿】巫女、守護る【プロローグ】

ふはははっ! 私だよ!
驚いたか? 驚いたよな!

君たちが楽しみにしている地霊殿編、その一話目の更新だ!
昨日から私の筆の勢いが加速しておってな! 早速、投稿したよ!
自分でハードル上げまくったから、内心ガクブルしてるよっ! 震えるな、震えるんじゃない、マイボディ!

前書きは、この辺で、本編の方、楽しんで下さい。
(※春巻きは深夜テンションです。最高にハイになっています)



 良い子の皆ぁぁぁ! 博麗お姉さんだよぉぉぉ!

 今日も一日張り切って、幻想郷のおにゃのこ達と、くんずほぐrげふんげふんっ、頑張って行くんやでぇぇぇ!……あぁ、乳揉みてぇ。

 

 さてさて、いつもの発情霊夢ちゃんは、その辺にポイッと投げ捨てておいて、本題に入ろうか。……喜べ諸君、事件発生だ。

 間欠泉が爆発して、温泉がヒャッハーした。その序でに地底の方から怨霊がおんりょぉぉぉんしてしまったようだ。我ながら詰まらないな、座布団は返しますね。

 温泉云々で、怨霊がたくさん湧き出てて大変やね、と来たらもう一つしか無い。……そう、遂に東方地霊殿が始まったのである。

 東方地霊殿については、皆ご存知の通り、この幻想郷の真下にある旧地獄と呼ばれている場所が舞台となる異変だ。

 ツインテ可愛い釣瓶落としやら、スカートの中身が気になる土蜘蛛やら、嫉妬可愛い橋姫やら、姐さんパネェ鬼やら、マタタビ投げつけたい火車やら、アホの子マジ天使の八咫烏in地獄鴉やら、小五ロリ可愛いサトリ姉妹やらが出てくるため、正直大変楽しみである。……ぐへっぐへへへへへ!

 

「で、話とは一体何かな? 古明地少女よ」

「ひぃ……は、はい。ごめんなさい、許して下さい。お願いします」

「いや、謝ってほしい訳ではないのだが……」

 

 今、私の眼の前には一人の可愛らしい小五ロリがいる。

 名前は古明地さとり。幻想郷の地下、旧地獄の灼熱地獄後に、地霊殿と呼ばれている屋敷を構えて、そこの主人を務めている大変可愛らしい、大変可愛らしい(大事なことなので二回言いました)、私が常日頃からペロペロペロペロしたいと考えている幼女である。むしろ食べたい(いかがわしい意味で)。

 癖のあるサイケデリックな薄紫のショートボブ、ジトっとしたハイライトが消失した瞳は大変可愛らしく、あの目で睨まれたらそれだけで達してしまうかもしれない。そして、顔立ちは幼いながらも何処か大人びており、知的な印象を与えてくれる、可愛い。

 服装はフリルが多くついているゆったりとした水色の服に、膝丈くらいのピンクのスカートを身に着けている。そして、頭には赤いヘアバンドを着け、胸元には複数のコードによって繋がれている第三の目(サード・アイ)が浮いている。コードの末端部分はハート型になっており、思いっ切りにぎにぎしてみたいくらいに可愛らしい。むしろ口に含んで舐め回したいです、はい。

 頭に頑固な汚れのごとくこびり付いている原作の知識によると、古明地さとりは母性に溢れ、寛容さと優しさに満ち溢れた性格をしている。この幻想郷中を探しても、彼女ほどに愛情深い妖怪は中々いない、との事である。

 これは是非とも仲良くなりたいところ、仲良くなってあわよくば、彼女の【禁止用語】を【止めたまえ】したいところである。

 しかし、そんなさとりちゃんに私はーー

 

「やだぁ、恐い恐いよぉ。助けて、お燐、お空」

 

ーーガタガタガタガタガタ。

 

 怯えられている。ハイライトが消えた瞳一杯に涙を溜めて、身体全体を震わせているさとりちゃん。……ごめん、何か知らんけどすっごい興奮した。本当、ごめんね。はぁはぁ。

 どうしてかは知らんけど、自己紹介したっきりあの調子で、ガタガタとマナーモードになっているのである。

 ちなみに私は何もしていない。むしろこれ以上無いくらいに馬鹿丁寧に壊れ物を扱うように優しく、慎重に慎重を重ねて接したという自信がある。

 本当に意味が分からないよ。……あ。

 

 さとり、サトリ、悟り、小五ロリ、覚り。……覚り妖怪。覚りの名の通りに、相手の心を読むことが出来る力を持っている。

 

ーー相手の心を読むことが出来る。

 

ーー相手の心を。相手の心を。相手の心を読むことが出来るのだよ、ワトソン君。

 

 つまり、私の心を読むことが出来る。

 この私の魂の叫びも、欲望に満ち満ちたショッキングピンクな精神も、全部読み取ることが出来る。

 

「……お、おうふっ(大量の汗)」

 

 し、シマッタァァァ! 私の心の叫びとか筒抜けじゃねぇかァァァ!? うわァァァ!

 そりゃあ、怯えるよ! こんな変態ド畜生の、心の中だけケダモノオンリーの毎日発情中のお猿さん状態の淑女(笑)の心の声を聞いたら誰でも怯えるに決まってんだろぉぉぉ! ぬおぉぉぉ!

 ご、ごめんねさとりちゃん。私の汚らわしい欲望に満ち満ちた声に怯えてしまっていたんだね! 許して、許して下さい! 何でも、何でもするから許してください! 頼みます! 嫌いにっ! 嫌いにならにゃいでぇぇぇ!

 美少女に嫌われたら、嫌われちゃったら、私死んじゃいます。そんな悲しみに耐えられる強靭な精神なぞ、この博麗霊夢、一切持ち合わせてはおらん!

 

 届いて、私の精一杯の気持ち! らぶらぶきゅん!

 あ、間違えてさとりちゃんと仲良くしたい、ラブラブでキャッキャウフフな事したい、という大変アレな思考をしてしまった。……終わった。これ、完全に嫌われちゃったわ。送りつけたイメージのせいで、むしろさとりちゃんのハートにトラウマ攻撃だわ。さとりちゃんとお友達コースの道が完全に閉ざされちゃったわ。

 

 拝啓、私を此処まで育ててくれた八雲一家の皆様、魔理沙たんを始めとする友人様方。

 お元気ですか? 私はあんまり元気じゃないです。調子悪いです。死にそうです。自重が出来ない自分に腹が立ってしまって、いい加減本気で首でも吊りたくなってまいりました。

 愚かな私は、幼気な少女の心にトラウマを作ってしまうという、余りにもドッし難い大罪を犯してしまったのです。これはもう死んで詫びるしかありません。

 仲良くしてくださった皆様には大変申し訳ございませんが、この博麗霊夢、けじめを付けるため、潔くこの命で以て償おうと思う所存でございます。かしこ。

 

「ど、どうして泣いているの?」

「っ!?」

 

 気が付いたら心の汗が流れていたらしい。ボタボタッと止めどなく溢れ出す私の心の汗。

 これは、これは私の心が美少女を怯えさせてしまったという事実に嘆き苦しんでいる証だ。耐えきれずに、汗となって、目から溢れ出してしまったのだろう。

 ああ、何と情けないことか、守るべき美少女に、それも私が怯えさせてしまった美少女にこんなみっともなく、カッコ悪い姿を見せてしまうとは。……情けねぇ、オラ、本格的に死にてぇぞ、べ◯ータ。

 

「い、いや、すまないな。見苦しいところを見せた」

「……あの」

「な、何をっ!?」

「ずっと昔の話なんですけど、母に「泣いている人がいたら、こうして抱きしめて上げなさい」って、家のペットの子達も、悲しい時はこうしてあげているんです」

 

 子供特有の温かさが、私の頭を包み込む。柔らかく慎ましやかな胸に顔を押し付けられて、ゆっくりと髪を梳くように頭を撫でられる。

 本来の私だったら、この状況に荒ぶり続けて大変危険な思考で暴走を始めたことだろう。さとりんのちっぱいだぁぁぁヒャッハーなどと興奮し、そのままさとりちゃんを押し倒していたかもしれない。しかし、今の私の心にあるのは、ただただ一つの感情だった。

 

ーー許された。許してもらえた。

 

 それは、圧倒的な安心感。

 母親に抱き締められる子供のように、温かで絶対的な安心感が私を包み込んでいるのだ。

 邪な気持ちで接しようとしていたこの下劣で愚かなる巫女を、このさとりちゃんは許してくれた、許してくれたのである。

 涙は当の昔に止まった。そして、代わりに私の心に燃え上がる強大な意思。

 

ーー守護(まも)らねばならぬ。

 

 己の欲からも、ありとあらゆる外敵からも、さとりちゃんを、尊さの化身である、この愛おしい妖怪の少女を守護(まも)らねばならぬ。

 この命の全てを掛けて守護(まも)り、慈しまなければならぬ。

 

「ありがとう。もう、大丈夫だ」

「くすっ、ごめんなさい。私も恐がりすぎました。悪い人ではないと分かっているんですけど、貴女が強すぎるのが恐かったんです。もしもこの力が自分に向けられたら、何も出来ずに殺されてしまうから……」

「安心しろ、私は幻想郷の守護者だ。お前たちを守護りはするが、傷つけることは決して無い。……そして、すまない。私の醜い心根を、お前のように優しい奴に見せてしまった」

「ふふっ、いえ、謝らなくて結構です。私の家にいるペット……お燐や、お空も似たような感じなので」

 

 え、此処に来て一番の衝撃なんだけど。

 お燐とお空の思考回路が私によく似ている? ちょっと待って、ステイステイステイステイステイ。……え?

 あんな可愛らしい猫耳ゴスロリ素足少女と、鳥頭グラマラスな天然系少女が、私と似たような思考回路をしている? えぇ?

 ってことは、いつもいつも万年発情期で、常に身体を火照らせ、同性の少女たちとあーんなことやこーんな事をしてしまいたいと考えているってことですかい? 何それ胸熱。

 彼女たちとは一度、一緒にお酒でも酌み交わしたいところだ。絶対私達ソウルフレンドになれると思うよ。なんなら、お互いの火照った身体を冷やし合う関係でも可。

 

 そ、それならば、私の変態的な思考を晒してもさとりちゃんは怯えていなかったって事? ただ私の力を読み取って、それに対して怯えていただけって事なの?

 確かにさとりちゃんは妖怪の中でも強い方ではないけど。……そうかそうか、それならば、ある程度はさとりちゃんの前でも素の思考をしても良さそうだな。

 じゃあ試しに、おっぱい! 乳首! 美少女と夜の大運動会! セッ◯ス! 【ピッ―――】! 【ピッ―――】! 【ピッ―――】!……どうや?

 

「……? 何でしょう?」

「……私の心を読んでも平気なのか?」

「くすっ、はい、変わっているとは思いますけど。もう、大丈夫ですよ」

 

 さとりちゃんが天使を超えて、パーフェクトな女神だった件について。……ああ、尊い。

 

「ど、どうしたんですか? 今にも死んでしまいそうな安らかな顔をしていますけど」

「ああ、大丈夫だよさとり。私はこれからも頑張っていくから」

「ちょっと待って下さい!? 消えてます! 身体が消えてますよ!」

 

 ああ、身体が軽いな。今なら何処へでも飛んでいけそうだ。……そう、あの空の彼方まで!(さとりちゃんの必死の説得と、抱き着き攻撃により無事に帰還しました)

 

 

 

ーーー

 

 

 

「お空を止めて欲しい?」

「はい、家のお空を、霊烏路空を。神の権能を手にして暴走しているお空を止めて欲しいんです」

 

 さとりちゃんは語った。

 曰くーー灼熱地獄の温度管理をしているお空が、どういうわけか神の権能を手に入れてしまったということ。その権能を使って、際限無く力を高め続けており、地底の旧地獄は地獄よりも地獄らしい極暑に見舞われているということ。そして、最終的にお空は地上を焼き払う気でいること。

 

 ふむ、話を総合したら原作の地霊殿とあまり変わりは無いみたいだね。いきなりさとりちゃんが押しかけてきた、というトラブルはあったけど、大筋に変化はないようだ。

 ならば、これからやることは地底に行って、原作同様、弾幕ごっこでお空達を下せば良いって事かな?

 

「止めるに当たって一つ問題があるんです」

「問題?」

「弾幕ごっこのルールが、まだ地底では普及していないんです。未だに勝敗は、ケンカとか殺し合いで決めたりしている世紀末です」

「……つまり」

「お空も全力で殺しに来ます」

 

 うん、いきなり原作が死んだぞ。この人でなしめ。

 マジか―、マジでかー。地底の娘達とガチの潰し合いかよぉ。いい加減、弾幕ごっこさせろよぉー。異変の度に弾幕ごっこのルールが守られていないじゃんかよぉー。

 過去に起こった異変。……吸血鬼異変、紅霧異変、春雪異変、三日置きの百鬼夜行、永夜異変、大結界異変、守矢が信仰を集めようと滅茶苦茶やった事件、天界の総領娘が引き起こした博麗神社大崩壊事件。

 その全てにおいて、弾幕ごっこのルールが適応されたことはない。私、全部で普通に殺し殺されのデッドファイトしている。……勿論、殺そうとしてくるのは相手だけで、私はどうやって無力化しようか四苦八苦している。美少女は幻想郷の宝だからね、仕方ないよね。

 でも、そっかぁ、今回の異変もかぁ、マジかぁ、折角弾幕ごっこ用の弾幕考えていたのになぁ。……当たると服だけ綺麗に吹き飛ばす弾とか、一発直撃する毎に、相手の感度を1.1倍ずつ高めていく弾とか色々と用意しているのに、使った試しがないぞ、ちくせう。

 

「止める、という事は出来る限り怪我などはさせたくはないんだな?」

「はい、難しいことだとは思いますが、幻想郷最強の人間と言われている博麗さんならば、と思いまして。……お願いします。私に出来ることなら何でもします。どうか、お空を、私の家族を助けて頂けないでしょうか!」

「顔を上げろ、古明地……いや、ここはさとりと呼ばせて貰おうか。さとり、そこまでお願いしなくても大丈夫だ。この幻想郷が危機に晒されるとあっては、私が動かないわけにはいかないしな」

「博麗さん」

「霊夢で構わないとも。だから私に任せろさとり。お前の大事な家族は、この博麗霊夢の名において、無事にお前の元に帰す事を約束しよう」

「はい、はいっ! どうか、どうかっよろしくお願いします。霊夢さん」

 

 では解決のために、動くとしましょうかね。……先ずは、この状況を作り出したであろう犯人を捕まえに行きましょうか。

 

 さとりちゃんを伴って、目指す場所は守矢神社。用があるのは、その神社で祀られている神の一柱、風神の八坂さんである。……フフッ、逃 さ な い ぞ ?

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 その人間を初めて目にした瞬間、古明地さとりの心を襲ったのは恐怖だった。

 古明地さとりには、相手の心を読み取る力がある。その力を使って、この巫女の、博麗霊夢の心の内を覗き込んだのだ。……そして、その直後に後悔した。

 

『好き、大好き、好き、大好き、好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きッーー』

 

ーー愛している。

 

 自分に向けられる好意という感情の嵐。

 途轍もない好意という名の巨大な桃色の壁が自身に迫ってくるという、とんでもなく恐ろしいイメージがさとりの頭を駆け巡る。

 恐い。初対面のこの人間がどうしようもなく恐い。

 人間とは思えない、妖怪すらも超越したその身に秘められた圧倒的な力もさることながら、何よりもその心が、その思考が恐ろしくて、恐ろしくて身体の震えが止まらない。

 

(どうして、どうして?)

 

 どうしてこの人間は、初対面である筈の自分に対して、これ程までに強い、強過ぎる好意を持っているのだろうか?

 どれだけ記憶を遡ってみても、この巫女と邂逅した記憶など欠片もない。正真正銘、今回初めて顔を合わせた。……そんな自分に対して、どうしてこれ程までに強い感情を持てるのだ?

 

 不可解、理解不能。

 本来、好意というものを向けられるのは嬉しいものだ。だが、これは余りにも、余りにも突然過ぎる。自分と関わりのなかった存在から向けられる好意が、まさかこれ程までに理解し難く、恐ろしいものだったなんて、思いもしなかった。

 

 その上、その上である。さとりは、霊夢の思考をまともに読み取ることが出来ないでいた。

 さとりの力は相手の心の声を拾うことが出来る、それは即ち相手の考えていることが読み取れるということに他ならない。しかし、この霊夢から読み取れるのは、霊夢の思考ではなく、霊夢の感情の声だけだった。

 

(感情が大き過ぎて、心の声を読み取ることが出来ないっ)

 

 さとりにとって、これは初めての経験だった。心の声を遮るほどの感情の奔流など今の今まで見たことはない。

 今までのそれなりに長い妖怪としての生の中で、自分に読み取れなかった心はなかった。悪意に満ちた声であろうと、何だろうと感情にかき消されること無く、思考を読み取ることが出来た。それなのに、この人間の思考は一切読み取ることが出来ない。

 

 相手の考えていることが読めない、という衝撃的な事実が、さとりに恐怖心を抱かせたのである。

 心を読めない、理解できないこの人間が恐い。恐くて、恐くて仕方ないのである。無意識に身体は震え、言葉は上手く紡ぐことが出来ない。

 地上に出てはならない、という賢者との約束を破ってまで、やって来たのに、この巫女の助力を得ようと、地底で起こっている異変を解決して貰おうと、此処まで足を運んだというのに、大事な家族であるあの娘を助けてもらいたいのに、どうしても、言葉が出ない。

 

「やだぁ、怖い怖いよぉ。助けて、お燐、お空」

 

 それどころか、この場にいない、しかも助けを待っている己のペットに助けを求める始末。これではいけない、と己を叱責するも、身体は今まで以上に震え出し、どうにもならない。早くしないといけないのに、こんな事で時間を掛けてはいられないのに。

 弱い自分が情けない、心が読めないからって、相手が理解できないからって、此処まで震える自分が情けない。

 

(動いて、動いてよ身体。震えないで、手足っ! こんなところで立ち止まっているわけにはいかないのっ!)

 

 強い意志を込めて、手足に力を込める。心を読めないからって何だと、理解が出来ないからって何だと、己を強く叱責しながら、力を込める。

 眼前で佇む巫女をしっかりと見据えて、此処に来た己の目的を果たすためにーー

 

ーーポタッ、ポタッ。

 

(ーーえ?)

 

 そして、己の目を疑った。

 

「ど、どうして泣いているの?」

 

 恐ろしいと感じていた巫女が泣いていた。

 その美しすぎる顔を僅かに歪めて、真珠のように綺麗な涙の雫をポタリッポタリッと地面に落としながら、泣いていたのだ。

 さとりの声に反応して、驚いた様子を見せていることから、自分が泣いている事に気が付いていなかったらしい。

 

 そして、さとりが何よりも驚いたのが……。

 

『ごめん、ね? 恐がらせて、ごめんね? 嫌いに、嫌いにならないで』

 

 あれ程、強く自己主張していた強過ぎる感情の奔流が、まるで波紋一つ立たない水面のように、静まり返って悲しみの声を上げていたのだ。

 悲しみが深すぎて、相変わらず彼女の思考を読み取ることは出来ない。だが、さとりはもうこの巫女の事が恐くなくなっていた。

 分かったのだ。この巫女はーー

 

(あの娘達と、お燐やお空みたいに能天気で、ちょっとお馬鹿なんだ)

 

 特に人を疑うこと無く、すぐに懐いてしまうところなんて、お空に似ている。

 思えば、あの娘達も、最初から好意全開でさとりに接していた。流石に、この巫女のように、頭の中で考えている事が読み取れない、などという異常な事態は起きなかったが、それでも同じように、最初からその感情は好意に満ちていたのだ。

 この巫女もお燐やお空と一緒、初対面であっても仲良くなりたい、という気持ちが先走ってしまうのだ。そして、この巫女はその感情が、他の何よりも強い。それこそ、その頭で考えている言葉まで打ち消してしまうほどに。

 

「い、いや、すまないな。見苦しいところを見せた」

 

 痛々しく目元を腫らせ、巫女は笑う。悲しみを隠しきれていない不格好な笑顔を見たさとりは……

 

「……あの」

 

 身体が勝手に動いていた。

 

「な、何をっ!?」

「ずっと昔の話なんですけど、母に「泣いている人がいたら、こうして抱きしめて上げなさい」って、家のペットの子達も、悲しい時はこうしてあげているんです」

 

 遠い遠い昔の記憶。母と呼べる存在がいた頃の懐かしい記憶。

 心を読む力を制御できなくて、辺りの恐い感情まで読み取ってしまい、泣き喚く自分を、母は優しく抱き締めて、ゆっくりと優しく頭を撫でてくれた。

 お燐も、お空も、自分にこうして抱き締められて頭を撫でられると、どんなに塞ぎ込んでても、安心してくれる。

 だから、貴女もーー

 

「大丈夫、大丈夫ですよ」

 

ーー安心して欲しい。

 

 気付けば震えは止まっていた。もうさとりが恐がることはない。

 今はただ純粋に、悲しみの声を上げているこの巫女の心を癒やしてあげたい、と思うだけである。

 

「ありがとう。もう、大丈夫だ」

 

 泣いている姿を見られたのが恥ずかしかったのか、それとも見た目が幼いさとりに慰められたことが恥ずかしかったのか、どちらかは定かではないが、霊夢は頬を真っ赤に染めて、少しだけ名残惜しげに、さとりの胸から顔を上げる。

 さとりはそんな霊夢の顔を見て、可愛らしいものを見たと、頬を緩めた。

 

「くすっ、ごめんなさい。私も恐がりすぎました。悪い人ではないと分かっているんですけど、貴女が強すぎるのが恐かったんです。もしもこの力が自分に向けられたら、何も出来ずに殺されてしまうから……」

 

 本当のところは、あんまりにも好き好きって言われるからびっくりしただけなのだが、それはさとりの胸の内に留めておくことにする。また、霊夢が悲しんじゃったら可哀想だったからである。

 

「安心しろ、私は幻想郷の守護者だ。お前たちを守護りはするが、傷つけることは決して無い。……そして、すまない。私の醜い心根を、お前のように優しい奴に見せてしまった」

 

 醜いだなんてとんでもない、むしろ可愛らしいと思いますよと、さとりはついつい笑ってしまう。

 

「ふふっ、いえ、謝らなくて結構です。私の家にいるペット……お燐や、お空も似たような感じなので」

 

 特に抱き締められて、悲しい気持ちが何処かに飛んで行くところなんて瓜二つと言っても良い。

 見た目は綺麗でカッコイイのに、中身は相手のことを好き好き大好きって言っちゃう意外な一面があるなんて、ね。残念というよりは、可愛らしい。思わず、抱き締めて頭を良い子良い子したくなるくらいに可愛らしい。

 いつの間にか、さとりは霊夢の事が好きになり始めていた。甘やかしてあげたい、安心させてあげたい、と思ってしまう程に。

 さとりは目覚めていた、母性本能という物に完全に目覚めてしまっていたのである。

 

「……? 何でしょう?」

 

 ふと気付けば霊夢が自分の事を、じっと見つめていた。

 

『大好き、大好き、さとり、大好き、愛している、ギュッとして? 頭撫でて? 大好きっ!』

 

 その心には、グレードアップした、けれど最初の時のように威圧的ではない、親愛の情が渦巻いていた。心なしか、感情の声が幼児退行している気がしないでもない。

 

「……私の心を読んでも平気なのか?」

 

『さとり、嫌い? 霊夢のこと、嫌い? それとも好き? 霊夢のこと、好き?』

 

 表面上の綺麗でカッコ良く大人びている少女と、内部の感情の声の温度差が凄まじい事になっている。それが何とも面白く、笑いを堪えながらさとりは言う。

 

「くすっ、はい、変わっているとは思いますけど。もう、大丈夫ですよ」

 

『さとり大丈夫、なら霊夢のこと好き! 好きなんだ! 好きぃ!』

 

 喜びの声を上げている霊夢の感情の声が、さとりに伝わってくる。それが何とも可笑しくて、可愛らしくて、さとりは今日一番でとても優しい気持ちになれた。

 

 なお、その後のやりとりで、いきなり天に召されようとした巫女については、心臓が飛び出るんじゃないのか、と言わんばかりに驚き、全力でそれを阻止した。

 可愛いと好意を持った相手がいきなり死にそうになるなど、誰が想像できるというのだ。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「お空を止めて欲しい?」

「はい、家のお空を、霊烏路空を。神の権能を手にして暴走しているお空を止めて欲しいんです」

 

 さとりは態々八雲紫との約定を破ってまで、地上にやってきた経緯を語った。

 お空が神の権能を得てしまい、その権能のせいで暴走し、地底が大変なことになっている。挙句、最後には地上を焼き滅ぼすとさえ言っている、と霊夢に話して聞かせた。

 

 さとりの力では神の権能に振り回されるお空を止めることは出来なかった。さとりの呼びかけにも応じず、ただただ力を高めて、地上を焼き払うことのみを考えているお空。

 お空は優しい子だ。本当はこんな酷い事をしようだなんて、思っていない。神の権能が強すぎて、あの子の意識が乗っ取っられてしまっているんだ。

 そんなお空を止めたかったから、さとりは約定を破って地上にやって来たのだ。

 さとりは聞いたことがあった、幻想郷の地上には、ありとあらゆる大妖怪をも屈服させ、神すら地べたに這い蹲らせる、尋常ではない力を持った一人の人間がいる、という噂を。

 信憑性は定かではなかったが、藁にも縋る思いでさとりは、噂を信じて地上にいるというその人間……博麗神社で巫女をしているというその人間を探した出したのである。

 

「止めるに当たって一つ問題があるんです」

「問題?」

「弾幕ごっこのルールが、まだ地底では普及していないんです。未だに勝敗は、ケンカとか殺し合いで決めたりしている世紀末です」

 

 ルールの整備など進んでいない。

 皆、やりたい放題に好き勝手にケンカや殺し合いをしている。昨日見た顔が、今日はいなくなっているなぞ、珍しいことではない。

 弱肉強食。力こそ全て、力持たない者は、あの地底の中では生きていけない。

 さとりはそこまで強力な妖怪ではないが、心を読むという力を忌み嫌われていたお陰で、あまりやっかみを受けることは無かった。

 

「……つまり」

「お空も全力で殺しに来ます」

 

 弾幕ごっこのルール無しで、今の状態のお空を相手にするのはとても危険な行為だ。

 八咫烏という、太陽の化身と言っても過言ではない神の鳥の力を得たお空は、最早並みの妖怪とは比べ物にならない力を手にしてしまっていた。

 あの有様はまさしく、地底に君臨する地獄の太陽。核融合を司り、膨大なエネルギーで以て敵対する全てを蒸発させる圧倒的破壊力を持った人型の最終兵器その物だった。

 

「止める、という事は出来る限り怪我などはさせたくはないんだな?」

「はい、難しいことだとは思いますが、幻想郷最強の人間と言われている博麗さんならば、と思いまして。……お願いします。私に出来ることなら何でもします。どうか、お空を、私の家族を助けて頂けないでしょうか!」

 

 お空は自分にとって大事な家族なのだ。あの子は今も苦しんでいる。自分が望まぬ、破壊をしようとしている。その事実に苦しんでいるに違いないのだ。

 そして、願うならば、あまり大きな怪我はさせずに、止めて欲しい。あの子は自分の意志で破壊を撒き散らそうとしているわけではないのだ。

 さとりの頭に、お空の苦しげな声が思い出される。

 

ーー「さとり、様。恐いよぉ、頭の中で、コワセ、モヤセって、カミサマが言うの。さとり、様、助け、て」

 

 自分の身に起きる異常に、顔を歪ませ泣いている、可愛いペットの声が思い出される。

 

「顔を上げろ、古明地……いや、ここはさとりと呼ばせて貰おうか。さとり、そこまでお願いしなくても大丈夫だ。この幻想郷が危機に晒されるとあっては、私が動かないわけにはいかないしな」

「博麗さん」

 

 だから、さとりにとって、霊夢は最後の希望なのだ。大事な家族を救うための最後の希望。

 

「霊夢で構わないとも。……私に任せろさとり。お前の大事な家族は、この博麗霊夢の名において、無事にお前の元に帰す事を約束しよう」

 

『だから、出来たら褒めて? ギュッとして?』

 

「はい、はいっ! どうか、どうかっよろしくお願いします。霊夢さん」

 

 この巫女に全部任せてみよう。

 初対面の相手でも全力で大好きって言ってしまう、今も真剣な顔の裏で可愛らしい発言をしている、あの子によく似た心を持っているこの巫女に。……この巫女ならきっと、お空の事をしっかりと救ってくれると思うから。

 

(だから、お願いしますね。可愛い巫女さん)

 

ーーもしお空を救い出せたら、また抱き締めてあげますから。

 

 覚りの少女は願いを託す。救って欲しいと願いを託す。

 聞き入れるのは博麗の巫女、心の内より愛叫び、覚りの願いを叶えるために、その一歩目を踏み出した。

 




かくたのぉ!

春巻きだよ! 地霊殿書いたよ! 今までの更新速度を超えたよ! やったね!
スキマ時間を利用して、めちゃくちゃ書きまくった結果、これほどの更新速度で投稿できました。スキマ時間は偉大。ありがとう紫様(違うと思う)。

書いている端から頭に文字とか展開が思い浮かぶから、指の速度を必死で追い付かせていた。おかげで指がボドボドだぁ(でも楽しい、楽しいぞ)。

いきなりさとり様の登場で、何だこりゃ? って思っている人もいるとは思いますが、私はこんな風に最初っからさとり様が出てきてもいいんじゃないのか? って思っちゃったんだよ(プロット通り)。
ちなみに私の作品内でのさとり様には敬語キャラになって頂きました。さとり様って敬語も似合うと思うのよね。……+で母性全開とか最強だと思わないかね?

そんなわけで皆様。
次の話まで、どうぞ、ゆっくりしていってね!!


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【地霊殿】巫女、仕置き

待たせたな!
最近年末で忙しい春巻きだぜぃ!
書く時間が、書く時間が足りないっ! まとまった時間を誰かオラに恵んでくれぇぇぇ!!!

そんなわけで、次の話です。どうぞお楽しみ下さいね。


ーー私、霊夢。今、守矢神社の鳥居の前にいるの。

 

 守矢神社の鳥居はとっても綺麗。あ、諏訪子ちゃんだ、こんにちは。え、隣の女は誰かって? さとりちゃんって言うの可愛いでしょ? おいおいコラコラ、鉄輪を投げるな、投げるんじゃない。

 

ーー私、霊夢。今、守矢神社の本殿前にいるの。

 

 此処があの女のハウスね。ああ、早苗じゃん、こんにちは。掃き掃除? ふーん、頑張れよー。え、今日は意地悪しないんですかって? 今日はいいや、じゃあねー。

 

ーー私、霊夢。今、守矢神社の中にいるの。

 

 意外にも中は近代的、電気引かれていないのに、何故か冷蔵庫と電子ジャーがある。ん? これって、前に無くしたと思っていた、私の下着じゃね?……うん、どうして此処にあるの? とりま回収しとこうね。うわ、何かすんごい湿っちゃってるよ、心なしか生暖かいし。

 

ーー私、霊夢。今、八坂神奈子の後ろにいるの。

 

 偉そうにふんぞり返りながら、胡座かいて座っている。威厳でも醸し出しているつもりかな? 私にとっては生意気なだけで、威厳は全く感じ取れないけどもね。……これはもう仕置ですね。泣いて謝っても許してやんない。

 

「こ ん に ち は」

「ひぇっ!? な、なななな何だぁ!?」

 

 神奈子ちゃんは弾かれたように飛び上がり、背後を、つまり私の方に全力で振り返り、ハッと目を見開く。

 おうおう、落とし前つけさせて貰いに来ましたでお姉さん。この騒動の発端はオメェやろ? な? オメェやろ? さっさと吐けよ、なぁ?

 

「神奈子、お前に聞きたいことがある。少し時間を貰えるか?」

「む、無理だ。時間なんてない。こう見えても、わ、私は忙しいんだ! か、帰ってくれ!」

 

 えぇ? ほんとにござるかぁ?

 

「……ふむ、その手にある紙は何だ?」

「何でもないっ! 何でもないぞッ!」

 

 それ、何かあるって暴露しているようなものだよ? 今時の映画に登場する、宝の地図の場所を知っているパン屋のおっちゃんとかも、そんなに分かりやすい動揺はしないよ?

 

「『守矢温泉、信仰大繁盛計画』?」

「何故それをっ!? お、お前は地底の覚り妖怪ッ!」

「こんな、こんな事の為に私の家族を利用したんですか!」

「こんなつもりじゃなかったんだ! 私は温泉に入りたかっただけなんだよぉ! その序でに、守矢で信仰を得ようと思っただけなんだぁ!」

 

 神奈子ちゃんは語り出した。

 近くにある水源を八咫烏の権能を用いて温めて、神工(じんこう)的に温泉を作り出そうと計画した。

 真澄の鏡に封ぜられた八咫烏を解き放ち、さぁ温めようと思ったら、その八咫烏が変な方向に飛んでいき、そのまんま地底の奥深くで温度管理の仕事をしていた地獄鴉の少女に直撃、融合してしまった。

 神奈子ちゃんは頑張って、取り憑いてしまった八咫烏を引き剥がそうとしたが、鳥同士相当相性が良かったのか、どうなのか、神奈子ちゃんの力を大きく上回る実力を持っており、逆にこてんぱんにされて返り討ちにあったのだと言う。

 

「神様(笑)」

「笑うなぁ! 温泉計画はおじゃんになるし、神様もどきになった妖怪にはボコボコにされるし、踏んだり蹴ったりだよぉ! ちくしょうめぇぇぇ!」

 

 うわぁぁぁん、とそのまんま四つん這いになって泣き叫ぶ神奈子である。威厳? 何それ知らない。

 

「う、うわぁ」

 

 さとりちゃんには何が見えているのか、引いたように神奈子ちゃんの事を見ている。そんなに変な事を考えているのかな?

 

「れ、霊夢さん。この人『お仕置きまだかなぁ? まだかなぁ?』って変な期待をしていますよ?」

「ぎくりっ」

「かーなーこー?」

「ソンナコトハナイヨ、ワタシハンセイシテルヨ、ホントダヨ。カミサマ、ウソツカナイ」

 

 片言じゃねぇか。

 

「『れ、霊夢の冷たい視線だぁ、良いよぉ。気持ち良いぃよぉ。もっともっと欲しいよぉ』って、喜んでいますね。何か恐いです、この人」

「ふむ……喜べ、神奈子。お前はどうやら反省しているみたいだからな、お仕置きはしないでおいてやる」

「え、霊夢? ま、待ってくれ! 私だぞ? いつも問題ばかり引き起こしている八坂神奈子様だぞ? 信仰集めるためなら何でもやってしまう私が、反省してると思うのか? 思わないだろ? それなのに見逃すつもりなのか? 博麗の巫女ともあろう人間が、こんな異変の元凶みたいな奴を見逃すのか? いや、お前はそんな奴じゃない、お前は幻想郷に災厄を齎すであろう奴は絶対に許さない。私には分かる。だからそんな冗談を言わずに私にお仕置kへぶっ!?」

「話が長い!」

 

 私に向かって詰め寄りながら、捲し立ててきた神奈子ちゃんがあんまりにも五月蝿かったので、ビンタしました。滅多なことでは美少女に手を上げないこの私が、思わず手を出してしまうほどに、神奈子ちゃんは鬱陶しかった。

 最初の八坂神奈子様だぞ? までしか聞き取れなかった。神奈子ちゃん、話長い。めんどくさい。これだからドMは困る。

 

「はぁはぁ、やればっ、やればっ出来るじゃないか霊夢っ! そうだ、お前はそうして私をボコボコに、ボッコボッコにしてくれればいいんだよ! さぁ、次は何処だ? また顔を打つか? それともお腹か? 何処でも良いぞ? お仕置きだからな、私は甘んじてお前からの責苦を受けいれるしかないんだ。はぁはぁ」

「凄いですねこの人、喋っていることと考えていることが全く一緒です」

「……お、おうふっ」

 

 神奈子ちゃんがぶっ壊れた。神様の威厳マジで何処行ったの?

 両手で両の頬を抑えながら、首を傾げて再び私に迫ってくる神奈子ちゃん。……恍惚のヤンデレポーズじゃねぇか。お前、ドMだろうがよ。

 

「どうした霊夢、私にお仕置きするんだっ! さぁ! さぁ! さぁ!」

 

 何コイツ恐い。

 さとりちゃんが恐がって、私の背後に隠れて必死にしがみついているの可愛い。癒やされる。尊みを感じる。

 でも、正面で恍惚とした笑みを浮かべながら、お仕置きを強要してくる神奈子ちゃんが恐くて、尊み成分が瞬時に枯渇してしまう。

 誰だ、誰が神奈子ちゃんをこんな変態に進化させてしまったんだ(お前だよ)!

 

「うっぐすんっ、何だよぉ、ひっく、お仕置きしろぉ、私は反省してないだろぉ」

 

 な、泣いたぁー!?

 お仕置きされたくて泣くってどういうことだよぉぉぉ! 前見た時は此処まで酷くなかったのに、何でぇ!?ーーぬぅッッッ!?

 

「誰だっ!」

 

 私の美少女センサーが過敏に反応している。この反応は、さとりちゃんクラスの小五ロリと同じ反応だ。

 そのさとりちゃんクラスの小五ロリが、我々に近付いてくる。……十メートル、五メートル、零。

 

「やっほーお姉ちゃん。久しぶりだね」

「こいしっ!?」

 

 私とさとり、二人の背後に一人の少女が現れた。

 こ、この娘が古明地こいしっ! さとりちゃんの実の妹であるこいしちゃんかっ! 可愛いっ!

 古明地こいし。大天使さとりちゃんの実の妹であり、自由気ままに辺りを放浪する無意識少女である。

 薄く緑がかった癖のある灰色のセミロングに緑の瞳。顔立ちは姉のさとりちゃんによく似て大変可愛らしく、さとりちゃんがジト目でクールに可愛らしいなら、こちらは逆に明るく生意気そうな可愛らしさが特徴的である。

 服装は、上の服は、黄色をベースとして、黒い袖、二本白い線が入った緑の襟、鎖骨の間、胸元、そしてみぞおち辺りに一つずつ付いたひし形の水色のボタンが付いている、とても可愛らしいデザイン。

 下のスカートは、緑の生地に白線が二本入っており、また名前は知らないが、薄く花柄の模様が描かれている。黒い靴を履いており、更に両足には紫色のハートが付いている。

  姉であるさとりちゃんと同じように胸元には目玉があり、しかし、姉と違ってその目は閉じられている。二本のコードが目玉から伸びて、一本は右肩を通って、左足にあるハートに繋がり、もう一本は顔の横側でハートマークを形作り、そのまま右足のハートに繋がっている。

 外見相応に幼く、無邪気で行動的。好奇心旺盛で、ジッとしていられないため、あっちこっち放浪する癖がある。

 本来、相手の心を読む覚り妖怪としては異質で、『無意識を操る程度の能力』を持っており、相手の無意識に干渉して、自分の存在を認識できなくしたりする。視界から外れてしまったら、こいしちゃんの存在を忘れてしまうというのだから無意識に干渉するこの力がどれほど強力かというのが分かるだろう?……まぁ、私には効きませんがな。この私が美少女の存在を忘れたりするわけないし、例え目に見えなくなったとしても、匂いとか感覚とか、その他諸々の理由で知覚するから何の問題もない。そもそもの話、私に無意識という物はないからね。一分一秒、例え刹那の時間であっても、美少女から意識を外すなど、私の吟味に反する行為だから仕方ないね。

 

「お前は」

「始めまして、かな? お噂はかねがね聞いてるよ。博麗霊夢さん、だよね? 私は古明地こいし、そこにいるさとりお姉ちゃんの実の妹よ」

「成る程、神奈子が何時にも増して可笑しいのは、お前が原因だな?」

「あーあ、残念。バレちゃったかぁ。流石だね、博麗の巫女。……そうだよ、私は覚り妖怪でも変わり種でね。心を読む力を閉じちゃったの、そして、目覚めたのがこの力、ありとあらゆる生物の無意識を操っちゃう力。それで、その神様の無意識に思っている願望を表に出してあげたってわけ」

 

 え、神奈子ちゃんのお仕置き願望、マジもんだったの? 神奈子ちゃんは、ドM変態。ハッキリ分かんだね。……正直、すまんかった。反省も後悔もしていないけど。

 

「うぇ、ひっく、ぐすん」

「神奈子、そこまでして私の仕置を受けたいのか?」

(う゛)げたいっ!」

 

 よーし分かった。ロ◯ンちゃんに謝れ貴様。

 

「さとり、少しだけ席を外すぞ?」

「え、はい、それは別に構いませんけど。……あの、霊夢さん? もしかして、その人のお願い聞いて上げるつもりですか?」

「ああ、こんなどうしようもない変態(特大ブーメラン)でも、私の大切な友人だからな」

「あぁ、ふふっ、そうですか。分かりました」

 

 なして、そんな微笑ましいものを見る目で、私を見るん? 神奈子ちゃんに人には言えないえっちぃ事するだけなのにね。

 あれか、堪え性のない子ねって呆れられているのかな? ちょっとおバカな子を見る目で見られているのかな? やだ恥ずかしいわ。さとりちゃんにそんな目で見られていると想像するだけで、ちょっと顔が熱くなっちゃう。

 

「ちょっとー、私を無視しないでよー」

「お前は後だ、そこで大人しく待っていろ。雷鳴の馬車、糸車の間隙、光もて此を六に分かつ、縛道の六十一」

 

ーー『六杖光牢(りくじょうこうろう)

 

 六つに分かれた帯状の光が、こいしの胴体に突き刺さり、その動きを奪う。

 

「ちょっ」

「縛道の六十三」

 

ーー『鎖条鎖縛(さじょうさばく)

 

 更に更に、私の手から現れた光の極太い鎖が、まるで蛇のようにうねってこいしに巻き付き、動きを完全に静止させる。……ちなみに亀甲縛りな、無意識って恐いわー(棒)。

 

「まっ」

「縛道の七十九」

 

ーー『九曜縛(くようしばり)

 

 ダメ押しに、こいしの周りに円を描く八つの黒い玉、そして、こいしの胸元に一つの黒い玉を出現させ、絶対に逃げられないように縛り付ける。

 

 これだけやれば逃げられんだろ、この無意識を操る少女は何気に曲者だからね。これだけ雁字搦めに縛り付けておかないと、何をするか分からん。

 それに、さとりちゃんには悪いけど、今回の異変に関わっている可能性がある重要参考人の一人だから、逃げて貰ったら困るのよね。またいちいち捕まえるのは面倒だし、姿を晒している今の内に捕まえておくことにする。

 

「れ、霊夢さん。こいしをどうするつもりですか?」

「いや、どうもしない。ただ話を聞いておきたいだけだ。私の直感では、お前の妹は、今回の異変に何かしらの関係がありそうだからな。……それに私が思うに、お前の妹は、放置していたら何をしでかすか分かったものじゃないし、逃げられたら探し出すのが面倒だ、悪いが封じさせてもらった」

「そうですか、確かにこいしは自由気ままな子ですし……霊夢さんも酷いことをするつもりはないんですよね?」

「無論だ」

「ちょっとぉぉぉ!? お姉ちゃんっ! 助けてよぉぉぉ!」

「大丈夫ですよ、こいし。霊夢さんも酷いことはしないと言っていますし、少しの間だけみたいですから」

「絶対何かされるぅぅぅ! 春画みたいに酷いことされるんだぁぁぁ! 鉄◯ぬらぬら先生の絵みたいに倒錯的な事されるんだぁぁぁ!」

 

 いや、さとりちゃんの前でそんな事するわけねぇだろ、いい加減にしろよお前。というか、その物言いだと、私の事をタコ野郎だとか、触手のお化けだとでも言いてぇのか、コラ。……生意気可愛いな、おい。

 あんまりふざけたこと抜かしおると、本気でそのロリータボディを滅茶苦茶のどろどろのグッチョグッチョにして、足腰立たなくなるまで犯しまくって枕元に飾って、定期的に私のムラムラを抑えるための愛の奴隷にすんぞ、コラ。……キャーヤダヤダ、私ってばはしたないわ。さとりちゃんの前なのよ、自重しなきゃ。

 

「そうださとり、待っている間は退屈だろうから、これでも読んでいてくれ」

「……これは?」

「こう見えても私は服作りが趣味でな、それには私の作った服を着た友人たちの写真が入っているんだ」

「凄いですね。……ふふっ、可愛いです」

「それで、お前の服も作ってみたくてな、それを読んで要望を聞かせて欲しい」

「私に、服ですか?……くすっ、ありがとうございます」

 

 さとりちゃんの笑顔に見送られ、私は神奈子ちゃんを引き連れて、その場を後にした。

 さとりちゃん、どんな服を作って欲しいって言うのかなぁ? 清楚系? ゴスロリ系? それとも和風な感じかなぁ? さとりちゃんの可愛らしさをもっと表現できる服を作れたら、絶対良い気分になるだろうなぁ、えへへへ。

 

「……ほら神奈子、言い加減に泣き止め、望み通り仕置してやる」

「な゛い゛でな゛い゛ぃ」

 

 泣いてんじゃねーか。

 私の服の裾を掴んで、目元をゴシゴシと擦って後ろから付いてくる、良い歳したおんにゃのこが、まるで子供かよって状態だ。

 やれやれ、そんなに目を真っ赤に晴らしちゃってまぁ、折角の美人さんが台無しじゃないか。

 

ーーペロリ

 

「にゃ゛い゛っ!?」

「ふむ、しょっぱいな」

 

 顎クイして、神奈子ちゃんの目元を一舐め。ちょっとだけ塩辛い味が舌先に染み渡る。

 

「にゃにゃにゃ、にゃにをしてるんだぁ!」

「お前が何時までも泣き止まないからな、なら全部舐め取ってやろうかな、と」

「どうしてそんな発想になるんだ!」

「お、涙が引っ込んだな。……さて」

「きゃっ!?」

 

 顔を真っ赤に染めて、私から距離を話そうと後ずさる神奈子ちゃんを逃さないように、胸ぐらを掴んで、壁際に押し付け、両手を上に抑えつける。

 

「ちょ、霊夢っ!? やめっ止めてっ!」

「どうしたんだ? これはお前が望んだ事だぞ?」

「ちがっ、恥ずかしいのじゃなくてっ! い、痛いのをっ!」

「 黙 れ 」

「あ、ふぁ」

「お仕置きの内容はお前じゃない、私が決めることだ。お前は大人しくそれを受け入れろ。……良 い な ? 分かったら返事をしろ、か・み・さ・ま?」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

 良い返事だ。じゃあ、神奈子ちゃんのお願い通りに、お仕置きの時間だ。ゆっくり、じっくりと溶かし尽くすように、丁寧に仕置きしてやろう。……そんなわけで、残念だが諸君、此処から先はR指定だ、音声だけお楽しみしてくれ。

 

「ひぃあぁぁぁ!?」

「中々の感度だな、流石は神の肉体。……堪能し甲斐があるな」

「んひぃっ!? そこはっ、み、見ないでぇ!」

「隠すな。……そうそう、良い子だ。そのまま開いていろ」

「あ、あぁぁ、や、やだぁ見るなぁ」

「クククッ、そうだ。お前たちのその顔が堪らなく大好きなんだ。もっとその顔を見せろ」

「あひぃぃぃ、触っちゃ嫌ぁ!」

「そう言いつつ、お前の身体は私に身を委ねているぞ? ほらもっと良い声で鳴けぇ!」

「あ、あああああっ! いぃっ!? ひゃあぁぁぁぁぁ!?」

 

 全部を全部説明すると、大いなる意思によって私の存在が消されてしまうから、濁してナニをしていたのかを語ってやるとしようか。

 神奈子ちゃんにお仕置きをした。肉体言語での対話を目的とした、お仕置きである。

 勿論、ただ神奈子ちゃんを悦ばせるだけの、痛みを伴ったお仕置きでは、ちゃんとお仕置きとして成立しないので、辱める事を目的として色々とヤりまくった。

 神奈子ちゃんの身体の動きを力で無理矢理抑えつけ、羞恥に身悶える彼女の瑞々しく色っぽい素肌を、私の博麗ハンドで、蹂躙し征服したのだ。

 上にある二つの大きく実った揉み応え抜群の柔らかい果実も、メリハリの付いた細くしなやかなウエストも、そのむっちりで女性としての魅力が際立つ安産型のヒップも、全部全部、私、博麗霊夢が堪能し尽くした。

 撫で、揉み、摘み、舐め、噛み、吸い、彼女の秘密の花園に我が博麗フィンガーを侵入させてみたり、色々とそう、色々とやったのだ。お仕置きという名目さえあれば、覇王モードぱいせんも、我が身を阻むことは出来ないからな。

 最早、八坂神奈子という神の身体について、私が知らない場所は一切ない、と言っても良い。何処をどれくらいの力で、どう触れば達しやすいのかも全部分かる。

 

「あひっ、コヒュー、あぁ、コヒュー、あっ」

 

 そのせいで、神奈子ちゃんはちょっと人前に出せない状態になってしまっていた。その顔は、ちょっと薬でもキメちゃってんの? ってくらい惚けており、上半身は主に私がペロペロしたりしたせいで、下半身は本人から分泌された体液とか諸々のせいで、もう色々と濡れ濡れのぐっちゃりぐっちゃりで特に【不適切な表現であるため省きます】は【お止め下さい】が【止めたまえ】して【止めろ変態】になっており、神奈子ちゃんの二つの果実も先端の【もう何も言わん】が、私が吸ったり噛んだりしたせいで【勝手にしろ】していた。

 まとめると。……完全に事後ですね、はい。誤解しないで欲しいけど、私にはバベルがまだないので、本格的に致してはいないという事は理解して欲しい。何よりも、本番まで行こうとしたら、流石に覇王モードぱいせんが「お、出番か? お?」と顔を出してアップし始めるから無理だ、残念。

 

「流石に汚れているな。……神奈子、風呂場は何処だ?」

「は、ひぃ、りぇいみゅしゃまぁ」

 

 誰が霊夢様だ、誰が。

 震える身体を必死に動かしながら、案内しようと這い蹲って移動を始める。服は乱れに乱れており、移動の度に、大事な部分が見え隠れするとても扇情的な格好だ。……ふむ、シンプルにエロいな、誘ってんのかな? かな?

 

「仕方のないやつだな」

「あっ」

「ほら、風呂場に案内しろ」

 

 このまんまじゃ時間が掛かり過ぎちゃうからね。お姫様だっこするぜ。べたつくけどこの際仕方ない。お仕置きをした私の責任でもあるからね……どっちかと言えば、ご褒bげふんっげふんっ。

 兎にも角にも、責任を持ってこの私が、神奈子ちゃんの全身を速やかに綺麗にしてしんぜようではないか、ハッハッハッ!

 

「ちょっと、あははっ! 擽ったいぞ霊夢!」

「あ、こら! 動くんじゃない神奈子!」

「あはははっ!」

 

 斜め四十五度から衝撃を加えて、無理矢理正気に戻して、一緒に浴室へと入る。

 そして、神奈子ちゃんの頭をワシワシと洗い。その次に体中のベタついている部分を隅々まで綺麗に洗い落としていく。……まだ身体が震えていて、自分で洗えないみたいだから仕方ないよね。

 事後特有の生臭さと、女性特有の甘い匂いが浴室には充満しており、むせ返るような匂いが私の内側にいるケダモノを刺激する。うっかりまた第二ラウンドを開始しそうになるが、さとりちゃんを待たせており、時間が厳しいので、鋼の理性でケダモノ霊夢を無理矢理屈服させて、ただただ無心で神奈子ちゃんの身体をじっくりねっとりと洗っていく。

 

「ほら、目を潰れ」

「ふぅーっ、あぁーさっぱりしたぁ」

「それは良かったな。そら早く着替えろ」

 

 さとりちゃんがお待ちかねなんやで。そして、こいしちゃんもじっくりと尋問してやらないといけないしね。……何となーく今回の事件の重要な鍵を握っている気がする。そんな匂いがプンプンするんだよ。女の子の甘い香りに混じって、やらかしている奴特有の匂いがな。

 

「着替え終わったぞ。……というか、何なんだこの服、私はこんな服持っていなかった筈なんだが」

「お前のために自作してみたものだ。フフフッ、中々に可愛いだろう? よく似合ってるぞ神奈子」

「かわっ!? かっ、からかうんじゃない! 私みたいなガサツな女にこんなフリフリした物が似合うわけないだろうが!」

「いやいや、私の見立て通りだ。何時ものお前は凛々しくて見惚れてしまうほどに格好いいが、今のお前は花のように愛でていたくなるほどに可愛らしい」

「ばっ、ばばばば馬鹿者ぉ! さっさと戻るぞっ!」

 

 顔を瞬時に真っ赤にした神奈子はふらつきながらも、逃げるようにその場を後にした。……嘘みたいだろ? こんな可愛らしく照れている神様が、潜在的には超絶ドMなんだぜ?

 やれやれ、本当に一体誰のせいでこんな度し難いドMになってしまったんだろうね(二度目だが、お前のせい)。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「待たせたな、さとり」

「いえ、お借りしたこの写真集が面白かったので大丈夫です。……お仕置き、とやらは無事に済ませられましたか?」

「ああ、問題なくな。……ほら、そこにいる神奈子の様子を見れば一目瞭然だろう?」

「『えへ、えへへ、霊夢に可愛いって言って貰っちゃった。可愛いって褒めて貰っちゃったよ、えへへ』ですか。……成る程、さっきの様子とは打って変わって、とんでもなく幸せそうにしていますね」

 

 その場で回ってみたりして、頬を抑えながらイヤンイヤンと身悶えている神奈子ちゃんである。普段の凛々しさ、そして先程までの変態っぷりは何処へやら、完全に乙女になってしまっている。可愛い。

 

「いや、そんなに気に入ったのか? 喜んで貰えて何よりではあるが、些か大袈裟な気がして、少しこそばゆいな」

「私から見ても、かなり細工が綺麗で、とても可愛らしい服だと思いますよ。……正直なところ、私も着てみたくなりました」

「フフフッ、なら今度はさとりの物でも作るとしようか。丁度良いアイディアも思い浮かんだからな」

 

 ティンってね。

 和風テイストのドレスなんか、さとりちゃんによく似合うんじゃないか? って私は思うのだよ。

 さとりちゃんが普段好んで身に付けているであろう、ゴシックロリータ風の服装を参考にして、着物などの和の要素を組み合わせて作るんや。

 色は薄紫やピンクなんかが良いかな? 気持ち多めにフリルもふんだんにあしらって、露出は最小限に、されど乙女の絶対領域を確保するために、ミニスカートとニーソは外せない。……うん、想像するだけで昇天してしまいそうなほど可愛い。膝枕されながら、優しく頭を撫でられたい感じのふんわりとした可愛らしさだ。

 

「くすっ、じゃあ楽しみにしていますね。霊夢さん」

 

 は、ははぁー! 仰せのままに、我が天使!……さてさて、十分に癒やされたことだし、本題に入ろうかね。

 

「待たせたなこいし。……さぁ、知っていることを全部吐いて貰おうか」

 

 お待たせしてごめんね、こいしちゃん。博麗お姉さん、神奈子ちゃんへのお仕置きで、ついついハッスルし過ぎてしまったんだよ。

 待たせちゃった分、たーっぷりと尋問してあげちゃうからねぇ(これ以上無い下衆顔)。

 

「その前にこの変なの全部外してよぉ! んあっ!? な、何これっ!?」

「ふむ、始まったようだな。……私がお前に掛けたその術は特別性でな、一定時間が経過するごとに、どんどんゆっくりとその束縛力を増していく、という効果があるんだ。尋問用に開発してみたが、見たところ中々使えるみたいだな」

「んぅ!? へ、へんなとこ食い込んじゃってるんだけどぉ!?」

「知らん。……さぁ、解除して欲しかったら、知っていることを全て話してもらおうか?」

「こんのぉ鬼畜外道めぇぇぇ! あひぃ!?」

 

 ぷんすか怒りながら、そして時折艷やかに鳴きながらも、こいしちゃんは語った。

 無意識を操作してたら神がかり的に、大変な事になってしまった、という非常に間抜けな事の顛末を……。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「退屈だぁー」

 

 地底の奥深く、旧地獄と呼ばれるそこには、地霊殿という館がある。

 

 その地霊殿の主である古明地さとり。……その妹である古明地こいしは暇を持て余していた。

 地底という場所は、良くも悪くも変化のない、閉鎖的な場所である。代わり映えのない日常、ただただ時間だけが過ぎていくだけの刺激とは全く無縁の場所。

 こいしは退屈を持て余していた。本来好奇心旺盛な子供っぽい性格をしている少女である。それなりに広い地底を放浪しては、あっちの鬼にちょっかいを掛けてみたり、こっちの嫉妬するお姫様にちょっかいを掛けたり、色々とそれなりに退屈しのぎをしていた。

 しかし、流石に何年も何年も、同じことの繰り返しでは飽きも来る。地底においてこいしが探検していない場所は最早何処にもなく、また誰かにちょっかいを掛けて見ても反応が薄くなってきた。

 

「そうだ、地上に行ってみよう!」

 

 だからこそ、こいしがそれを思い付くのは必然とも言えた。

 

 思い付いてからは早かった。

 自身の能力『無意識を操る程度の能力』で、誰にも認識出来ない、透明人間の様な存在へとなったこいしは、その足で直ぐ様地上へと向かった。

 

「此処が地上かぁ。いいなぁ、キラキラしててすごい綺麗」

 

 感動だった。目に見える全ての光景が輝いて見えた。

 何の変哲もない草木も、湖も、建物もその全てが地底のそれとは比べるのも烏滸がましいほどに輝いていた。

 

「あのお空の光が一番綺麗だなぁ」

 

 そして、地底には存在しない太陽が何よりも輝いて見えた。

 あれほどに美しい物がこの世にあるのか? と、自分の目を疑ったほどだ。

 

ーー来て良かった。

 

 こいしは久方振りの楽しい、という感覚に心を踊らせていた。

 

 こいしは暫く地上を満喫した。

 そして、地上には地底には存在しない様々な妖怪がおり、人間、神といった、妖怪とは異なる種族がいる、ということも知った。

 そんな面白そうな奴等がいると知ってしまったこいしの反応は当然ながら……

 

「直接見てみたいな!」

 

 こいしは幻想郷中を見て回った。

 大きな湖を見て回り、そこで遊び回る氷の妖精と、緑色の妖精、真っ黒な妖怪を見た。……途中で能力を解除して、自分も混ざって遊んだ。楽しかった。

 全部真っ赤の目に悪い建物にも侵入して、そこに暮らしている中華服を着たグータラしてる妖怪、無駄に色っぽい悪魔、寝間着姿の魔女、フリフリした服装の人間、偉そうな吸血鬼、その妹の吸血鬼。……フランちゃんには能力使ってても気付かれた。何でや? 妹だからか? 妹だからなのか?

 他にも魔法の森という場所の普通の魔法使いの人間、人形師の魔女。

 冥界からやって来たという、半分幽霊で半分人間のやつ、その主ののほほんとした幽霊。……などなど、様々な妖怪、人間を見た。

 そして、最後に見たのが。

 

「へぇー、あれが神様かぁ」

 

 守矢神社の神々である。

 守矢の神、風神八坂神奈子。祟り神、洩矢諏訪子。その二人と共に暮らしている、現人神である守矢神社の巫女、東風谷早苗。

 こいしには疑問に思っている事があった。

 それは、神と呼ばれている。自分達妖怪とは違った超常の存在が、どんな願望を持っているのだろう? 潜在的にどんな事を考えながら日々を過ごしているんだろう?

 

 こいしは能力を使った。

 無意識を操る己の能力で、この守矢の神の一柱である神奈子の無意識をちょっとだけ操作して、神奈子が無意識下で思っている願望を面に出やすくしたのである。その結果ーー

 

「あ、あはは。……ま、まさかこんな大事になるなんて」

 

 無意識の願望が面に出やすくなってしまった神奈子は、唐突に謎の計画を思い付いた。

 それは『守矢温泉、信仰大繁盛計画』。神工的に作った温泉で、大量の信仰を得ようという企みだった。訳が分からん。

 別に温泉で信仰を得るというのは良い、勝手にやって成功するなり、失敗するなりは神奈子の自由だ。

 

「さぁ、気張れよ八咫烏。お前の力で地下水を沸騰させておくれ」

 

 しかし、その手段が問題だった。真澄の鏡に封じられた太陽の化身八咫烏。神の権能を持った怪物の力を、あろうことか温泉のための湯を沸かすためだけに使おうと言うのだ。いくら無意識を操られて願望が面に出やすくなっているとはいえ、これは控えめに言っても頭がおかしい。

 

「そぉら! 行ってこい!」

 

 放たれる太陽の烏。

 地下へと向けて放たれた怪物は、地面を溶かして地下の深く深くへと進み、瞬く間に水源へと到達しーー

 

「おい! 何処へ行くんだ!?」

 

ーー通り過ぎた。

 

 烏は更に奥へ奥へと進んで行き。

 

「ほぇ?」

 

 大地の奥深く。旧地獄と呼ばれし深い場所に到達し、灼熱地獄後と呼ばれている場所の温度管理の仕事をしている地獄鴉の少女に直撃した。

 

「なぁにこれ? 神さま? 太陽? ん?」

 

 そのまま八咫烏は地獄鴉の少女と融合して、その小さな身体に取り込まれるように入っていった。

 

「進化? 進化するの? うん、力を貯めて。地上を焼くの? どうして? そんな酷いこと出来ない。出来る? あれ? 何これ? こわい、こわいよ」

 

 頭を抱え込んで、少女は自分の頭の中を反響する烏の声に身を震わせる。

 焼け、焼けと響く声に、イヤイヤ、と反論して涙を流す。だがしかし、それに反して増大していく力。権能が暴走し、地獄の鴉を強制的に神域の存在へと昇華させていく。

 

 そこからは本当に大変な有り様だった。

 逃げた八咫烏を追って灼熱地獄跡までやって来た神奈子が、少女から八咫烏を引き剥がそうと戦いを挑んだが、余りの強さに返り討ちにあってしまい。

 完全に八咫烏の意志と同調したのか、少女がいきなり「地上は焼き払う、焼いて、焼いて、焼く」などと、言い始めたり。

 

 自分が始めた小さな事が、まさかこんな大事件にまで発展してしまうなどとは、こいしは夢にも思わなかった。ましてや自分の家族であるペットの地獄鴉の少女までもが、それに巻き込まれてしまうなんて……。

 

 こいしは途方に暮れていた。

 そんな時に姉が何処からか、この事件を解決できそうな人間がいる、という噂を拾ってきた。人の身でありながら、強大な力を持った妖怪が引き起こした異変を力づくで解決してきた、とんでもない力を持った人間の噂を。

 

 で、なんやかんや心を読める姉が巫女を見ていきなり怯えだしたり、そんな姉の様子に巫女が涙したり、涙を流した巫女を姉があやしていたり、いつの間にか急激に仲良くなっていく二人の様子を、遠くの方からひっそりと見ていたのである。

 

 そして、現在。

 試しに姿を現してみたら、ぐるぐるのがんじがらめに縛り付けられてしまったのである。

 縛り付けた当の本人は、お仕置きとか言って、神様と一緒に何処かへ行き、姉は姉で、呑気に写真集などを見ている始末である。

 

 縛られながらこいしは思う。私、これからどうなるんだろう?

 こんな事になるなら、地上になんて出てこないで、大人しく地底で遊んでおけば良かった。

 後悔先に立たずとはまさにこの事、こいしは巫女の手によって沙汰が下るまで、大人しく待っているしかなかった。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「それで、今に至ると。……ふむ、まるでバタフライ・エフェクトだな」

「ばたふら、い?」

「蝶が羽ばたいたら、その時の羽ばたきで発生した風が、世界の何処かで竜巻となってしまう、という考えだ。……始まりは小さなきっかけだったとしても、最後にはとても大きなものへと変わってしまう」

「つまり、こいしの起こした小さな事が、巡り巡って大惨事を引き起こしてしまった、という事ですね?」

「その通りだ。……さて、こいし、お前が全部悪いとは言わないが、それでも原因の一つであることに変わりない。悪いことをしたら、どうするんだったかな?」

「……ご、ごめんなさい」

 

 顔を横に背け、チラッと目線だけをこっちに向けながら、小さな声で謝っちゃうこいしちゃん。その姿が何ともまぁ、素直に謝ることが出来ない悪戯少女特有の可愛らしさと言うか、いじらしさというか、もうとっても愛らしくて、愛らしくて仕方がないので、許しちゃいますね。

 流石はさとりちゃんの妹ちゃんだね、姉のさとりちゃんとは別ベクトルで可愛いよ。この可愛らしさは天使とは真逆の悪魔的な可愛らしさ、まさにデビル可愛いという外ない。

 

「フフフッ、良い子だ。約束だったな、この縛りは解いてやろう」

「ほ、ほんと!?」

「ただし、こいし、お前もこの異変の解決に協力することを条件に、だ」

「この変なのを解いてくれるんだったら、何でも協力するよ!」

「約束だぞ? もしも約束を破ったら、私が思いつく限りで最も過酷なお仕置きを受けてもらうぞ?」

「も、もももも勿論だよ! わ、私が約束破るわけないじゃない!」

 

 むしろ破っても良いんやで? じょるりじゅるり。

 天使超えて女神としか思えないくらいに尊いさとりちゃんに手を出すのは、例え変態鬼畜外道と呼ばれるこの私でも躊躇する、……というか、さとりちゃんとはくんずほぐれつしたい、というよりも、デロデロになるまで甘やかされたい、抱き締められたい、頭をナデナデされたい、という感情が強い。言ってしまえば、清く正しいお付き合いをしたいのである。

 しかし、その妹であり、デビル可愛いおんにゃのこであるこいしちゃんならば話は別だよ。生意気そうなあの表情を恥辱と悔し涙に濡らして、一緒に地の底の底の底まで堕ちて堕ちて堕ちて、堕ち続けて、欲望と快楽の縁まで堕落して、互いを貪り合うような関係性になりたい。……なりたいッッッ! あの小さな身体を思う存分に堪能したいッ! そう思わせる悪魔的な魅力がこいしちゃんにはあるのだッ!

 

「話は決まったな。……では、そろそろ異変解決のために地底へと向かうとしようか。……神奈子。何時まで惚けているつもりだ?」

「えへ、えへへ、えへへへへへ」

「う、うわぁ、滅茶苦茶ニコニコしてるんだけど、この神様どうしたの?」

「ふふっ、『褒められたぁ、褒められたんだなぁ』って、まだ言ってますね」

 

 微笑ましいものを見る目が遂に神奈子ちゃんにまで向けられてしまった。ホント、さとりちゃんの母性は留まるところを知らないなぁ、ママァー。

 

「一言褒めただけだというのに、本当に大袈裟な奴だな」

「ふふっ、霊夢さんに褒めて貰えたのが、それだけ嬉しかったんですよ」

「こんな鬼畜に褒められて、あれだけ喜ぶっていうのが分かんないなぁ」

「そんなものか。……もう神奈子は放置でいいな。行こう、さとり、こいし」

 

 こいしちゃん、後で覚えておけよ? 肉体言語で褒め殺してやるからな?

 

「はい」

「分かったよ」

 

 こうして私達は、異変解決への第一歩目を漸く踏み出したのである。

 目指すは深い深い大地の底、地底。そこで暴走を続ける地獄の鴉を止めるため、歩みを進めるのだ。

 うん、異変ついでに、地底の美少女たちの美しさ、可愛らしさもじっくりと拝んでおこう。……つるぺったんな桶幼女とか、その保護者的な蜘蛛妖怪とか、怪力自慢の筋肉美女の姐さんとか、嫉妬してる君に嫉妬したい橋姫とか、さとりちゃんのペットである、妖怪死体運びの猫とか、今回の異変を引き起こしている暴走状態の地獄の鴉とかね。うぇへへへ。

 




かくたのぉ!

地味に長引いてしまった。前の話は二日で投稿できたのにちくせう。
今回の話、序盤でペース早くに書けたけど、後半から失速してしまった。また、修正もしっかりやったつもりだけど、下手したら変な誤字とかしてる可能性もある。……まぁいっか!(ポジティブクソ春巻き)

出来れば今年中に地霊殿書けたらいいな、とは思っているけど、思っているだけで多分無理だという悲しみがある。
時間ないんや許してや。

そんなわけで、また次回まで! またのぉ!


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【地霊殿】魔女っ娘+α、追掛け

はいはい、お待たせしました。春巻きです。
三週間ぶりくらいに漸く更新できました。お待たせして本当申し訳ない。

そして、タイトル見たら分かると思うけど、今回の話では博麗(変態)は出ない。


出ない。

では、本編の方をどうぞ宜しく。


――これは、博麗の巫女が異変解決に乗り出した後の少女達の話である。

 

 主が不在である筈の博麗神社には三つの人影があった。

 

「折角、新しいスペルを思いついたから見せてやろうと来てやったのに。……アイツ、何処行きやがったんだよ」

 

 スペルカードをペラペラと揺らしながら、ちぇーっとつまんなさげに口を尖らせているのは、普通の魔法使い、霧雨魔理沙。

 

「はぁ、今日は私と一緒にお茶会の約束があった筈でしょう? 約束すっぽかして何処行ったのよ。……霊夢の馬鹿」

 

 自分の人形の手入れをしながら、ちょっとだけ悲しそうに目を伏せているのは、人形師、アリス・マーガトロイド。

 

「あの馬鹿巫女の事だから、異変解決のために何処か行ってるんでしょ? 最近、間欠泉が吹き出して大変な事になっているそうじゃない。……はぁ、新しい本を持ってきてあげたのに」

 

 口ではツンツンしつつ、霊夢を擁護するような事を言っている紅魔館ヴワル魔法図書館の司書、パチュリー・ノーレッジ。

 

 主不在の博麗神社に土足で踏み入り、自由気ままにお茶菓子などを広げて談笑している魔女っ子三人娘である。

 それぞれがそれぞれ、巫女の不在を嘆きながら、好き勝手にお菓子を食べたり、お茶を飲んだりしている。……ちなみに、このお菓子とお茶は博麗神社の物である。

 

「それにしても、パチュリーが一人で出歩くなんて珍しいな。従者の小悪魔とかはどうしたんだよ?」

「あの娘には図書館の掃除を任せてあるわ。……此処に来たのは霊夢に貸している本があるから、それを返却してもらおうと、ね」

 

 序でに新しく本を貸してあげようと思って、と何冊かの本を取り出して見せる。

 

「私が借りに来た時とは偉い対応の違いだな、おい」

 

 魔理沙は自分がヴワル魔法図書館に訪れる度に、弾幕が降ってきたり、罠が張り巡らされたりしている光景を思い出して、霊夢と自分に対する対応の違いに若干ムッとする。

 

「当然じゃない。霊夢はお客さん、貴女は泥棒。対応も変わるわ」

 

 それに間違っても霊夢に嫌われるなんて、嫌だもの、という言葉は飲み込んだ。

 魔理沙にだけ、ちょっと対応が厳しいのは、自分と同じように一人の人間を慕っているライバルだからである。しかも、自分よりもあの巫女との距離が近い。それに嫉妬して、ついつい言葉が強くなってしまうのだ。

 

「へぇー、そうなのか」

 

 嘘つけ、本当は嫉妬だろうが。

 魔理沙は知っていた。パチュリーが霊夢に対して並みではない強い感情を抱いている、という事を。

 いや、パチュリーだけではない、この場に集っている者たちや、この場にいない者たち。……数多くの女たちが、大なり小なり、あの霊夢の事を慕っている。

 女の勘は鋭い。特に自分が慕っている者に寄せられている好意には敏感だ。

 パチュリーは魔理沙に嫉妬している。恐らくは霊夢と親友同士であるからだろう。

 親友であるがゆえに、確かに自分と霊夢の距離は近い。長い間ずっと親友同士で一緒なのだから、必然的に距離は近いものになる。……だがちょっと待て、と魔理沙は言いたい。

 

(霊夢に手を出された事があるお前に、嫉妬なんかされたくない!)

 

 魔理沙は霊夢に手を出された事は一度もない。せいぜい、ほっぺたを執拗にこねられたりした事があるくらいだ。修行の時のペナルティやマッサージをされた時でも、過激な事は一切されたことがない。

 何が基準なのかは分からないが。霊夢はお仕置きで、周りの女の子達を玩具みたいに弄んでくる。此処にいる奴等で、霊夢の本格的なお仕置きを受けたことがあるのは、この引きこもりだけである。

 自分とアリスは、あの霊夢から手を出された事は一度もない。その事実に嫉妬してしまう。自分には魅力がないのかよ、とちょっと悲しい気持ちにもなってしまう。

 霊夢がお仕置きしているのは、パチュリーみたいなグラマラスな体型の奴だけではない。レミリアやフランドールなんかの、自分に近い体型の奴もお仕置きの対象になっているのだ。それなのに、自分は手を出されない。

 自分だって霊夢と大人みたいなやり取りしたいんだぞ、と魔理沙はパチュリーに嫉妬するのだ。

 

「この引きこもりめ」

「五月蝿いわよ泥棒猫」

「私の方が霊夢の事を一番よーく知っているんだぞ!」

「ふんっ子供ね。私は霊夢に胸を揉みしだかれた事があるわ!」

「なら私は霊夢と一緒にお風呂に入ったことがある!」

「なっ!? 羨ましいっ! このっ泥棒猫っ!」

「羨ましいのはこっちだよっ! このっ紫モヤシっ!」

 

――バチバチバチバチ

 

 お互いがお互いへ嫉妬し、二人の間に火花が散る。

 一人の巫女を巡って争うライバル、肩を並べて仲良くする、なんて事が出来る筈もない。

 

「霊夢に胸揉まれたって何なんだよテメェ! どんな感じだったのか聞かせろよっ!」

「優しくも荒々しく、私の身体を労るように、だけど激しく貪るように、徹底的に揉みしだかれたわ! そっちもどんな風に一緒にお風呂に入ったのか聞かせなさいよっ!」

「私の頭を優しく洗ってくれたり、手で直接身体を洗ってくれたり、後は霊夢の身体を私が洗ってみたりした! 後、一緒に湯船に浸かって、抱き締められたりしたぞ!」

 

 お互いが霊夢との間に起こった嬉し恥ずかしのエピソードを赤裸々に語っていく。エピソードが語られる毎に、いいなぁやら、羨ましいっみたいな言葉も飛び交っている。……訂正、意外にも仲は良いのかもしれない。

 

「何か盛り上がってるけど、今回の異変にどうやって介入するか、それを考えるのが先決じゃないの?」

 

 そのやり取りを止めたのは、基本的にクールビューティーな人形師、アリスである。

 若干呆れたような表情なのは、きっと気のせいではない。……しかし、本心では混ざりたかったのだろうか、よく見れば微妙にそわそわしていたりする。

 

「あ、そうだったな。パチュリー、続きはまたの今度にしようぜ」

「異論はないわ。次こそは、どちらが羨ましい体験しているのか決着をつけさせてもらうわよ」

「へっ、望むところだ!」

「……その時は私も混ざるわ」

「「え?」」

「え?」

 

 え?

 

「えー、アリスが何か言ってるけど、それは置いておいて、何か意見があるやつ挙手」

「待ちなさいよ! 私も混ざって良いじゃない! 私にも霊夢との思い出を語らせなさいよ!」

「ちょっと何言ってるのか分からないわ」

「分かりなさいよ! 私も自慢したいのよ! 霊夢と一緒にお茶してる話とか、一緒にお料理してる時に、手が触れ合った時のドキドキとか色々と語りたいのよ!」

 

 私にも語らせなさいよぉぉぉ、と魂の叫びを上げる人形師(くーるびゅーてぃー)。

 霊夢が絡むと途端にキャラ崩壊待ったなしである。普段の冷静沈着さ、人形のように冷たい美しさは何処へやら。子供のように腕を振り回し、憤りながらバンッバンッと机を叩いている。……哀れ、あまりにも哀れ。

 

「いや、アリスの話は何かフワッフワッで色気も何もないからな」

「そうね、砂糖菓子みたいに甘過ぎて、(苛々で)胸がムカムカしてくるから、聞きたくないわ」

「良いじゃない健全で! これこそ王道って感じの恋愛じゃないのよ! 霊夢が王子様で、私が霊夢のお姫様、そんな素敵なお話だから甘くて当然よ!」

「へぇ? 誰が誰の王子様だって?……霊夢は私の大事な親友だ」

「聞き捨てならないわね。霊夢は私の大事な友人よ」

「「「あ?」」」

 

 今度は三人でにらみ合いである。

 魔理沙は八卦炉を取り出し、アリスの背後にはいつの間にかおびただしい数の人形達が現れ、パチュリーは静かに魔導書を開いた。

 魔力と魔力、尋常ではない三つの魔の力が解き放たれ、三人の中心で壁の様にぶつかり合う。せめぎ合う魔の力は博麗神社を、大地を、空気すらも震撼させる。

 普通の魔法使い、七色の人形遣い、七曜の魔女と謳われし彼女たちは並みの実力者ではない。どちらも極限まで研ぎ澄まされた魔法を行使する強者である。

 そんな彼女たちが本格的にやり合い出せば、この場所は確実に消し飛ぶことになるだろう。

 

「止めた止めた、こんな事をしてても埒があかないぜ」

「そうね不毛にも程があるわ」

「此処を滅茶苦茶にしたら霊夢に申し訳ないし。決着はまた別の機会にでもしましょう」

 

 しかし、三人とて馬鹿ではない。すぐに三者ともその矛を収める。先ずは魔理沙が魔力を収め、続いてパチュリー、アリスも魔力を収める。

 三人共、この場所を荒らすつもりはないのだ。現在進行形でお菓子を勝手に食べたり、お茶を勝手に飲んだりしているが、決して荒らしたいわけではないのである。

 

「それはそうと、今の今まで触れなかったが、アイツは一体何をやっているんだ?」

「知らないわよ、というか知りたくもないわ」

「すごい楽しそうにしているのだけは伝わってくるわね。ええ、本当に」

 

 魔理沙が指差した方――博麗神社の庭。

 そこに佇む一つの影がある。自然そのものが物質化したような深い緑の髪を風に靡かせ、肉食獣が獲物を前にして舌舐めずりするような、獰猛過ぎる笑みを顔に貼り付けたその人物。

 ひまわりに似たシルエットの日傘をくるくると回し、機嫌良さげに鼻歌を歌っているその人物。

 

「アハッ♪」

 

――風見幽香。

 

 幻想郷最強の妖怪が、そこにいた。

 住処である太陽の畑から滅多に動くことはない、その筈である凶悪極まりない暴力の化身が博麗神社にいる。……では、その凶悪な妖怪である風見幽香が、博麗神社の庭でナニをやっているのか?

 

「うふふっ、これが霊夢の育てた花々ね。……うん、うん、良い香りね。あの娘の匂いがするわ」

 

 博麗神社の庭、霊夢が育てた花々。その香りを嗅いでは恍惚とした笑みを浮かべていた。……どう控えめに言ってもただの変質者である。

 幽香は花々の匂いを嗅ぎながら、霊夢の香りを、正確には霊夢の霊力の名残を感じ取り、興奮していた。見れば片手は下腹部に伸び、時折「霊夢、霊夢っ!」などとこの場にはいない巫女の名前を呼びながら、ナニかしていた。……どう取り繕っても完全なる変態である

 

「お、おい、幽香!」

「はぁはぁ、霊夢っ! 霊夢っ! アハッ! アハハッ! アハハハハハッ!」

 

 魔理沙が声を掛けるも反応はない。

 幽香は幸せの絶頂にいるかの様な恍惚としすぎた表情……俗に言うアヘ顔を惜しみなく晒しながら、薬でもキメたかのように物凄い勢いで狂ったような嗤い声を上げている。

 美少女である分、需要はあるかもしれないが、狂気的な絵面で精神的に大変宜しくない。有り体に言ってしまえばかなり恐い。

 

「何だコイツヤッベェ」

「全然聞こえてないみたいね」

「触らぬ幽香に祟りなしよ。放って置きましょう……そんな事よりもよ」

 

 庭の方で悶えている凶悪妖怪を放置して、三人は話し合う。

 

「先ずは私達が今回の異変でどんな風に霊夢の手助けが出来るのか? それを考えることが重要よ」

「そもそもアイツと合流しないことには始まらないけどな」

「それについては問題ないわ。私の魔法を使えば、誰が何処に向かったのかを探り出すことも可能よ」

 

 パチュリーは本を開き、手に魔力の光を灯しながら言ってのける。

 実際、ありとあらゆる属性魔法を極めたパチュリーに取ってみれば、自然の精霊たちの力を借りて、情報を拾ってくることなど容易いことだった。

 

「へぇ、便利だなその魔法。私を覚えてみようかな?」

「貴女みたいに不器用な娘には無理よ。諦めて力任せに破壊光線でも打ちまくっていなさい」

「モヤシはすぐに人をけなすから嫌になるな」

「あら、必要最低限の女子力も身に着けられないお子様には言われたくないわね」

「「あ?」」

「ちょっと二人とも、喧嘩は後にしてちょうだい。……それでパチュリー、霊夢は何処に向かったの?」

「少し待って。……見えたわ。霊夢ともう一人、小柄な妖怪の足跡が妖怪の山の方角へと進んでいっているわね」

 

 パチュリーの目にはくっきりと霊夢ともう一人の足跡が見えていた。霊夢の力強くも神聖な霊力、そしてその横にピッタリとくっついている妖力。……妙に距離感が近いことに少しばかりイラッとしたのは此処だけの話だ。

 

「へぇ? どうやら今回の異変にはアイツらが関わっているようねぇ」

「「「ひゃいっ!?」」」

 

 すぐ真後ろから聞こえてきた愉悦混じりの声に、びっくりする魔女っ子三人娘である。

 

「びっくりしたっ! マジで、びっくりしたっ!」

「い、いいいいいきなり声を掛けるのは止めてちょうだい!」

「し、心臓が止まったかと思ったわ」

「あら、ごめんなさい。あんまりにも隙だらけだったから背後取っちゃたわ。……私が敵だったら、この時点で貴女達の命はないわねぇ、うふっうふふふっ」

「「「ひぇ」」」

 

 凶暴な肉食獣が舌舐めずりするような、ペロリと自身の唇を舐める。

 実際、幽香がその気だったらこの場にいる魔理沙、アリス、パチュリーの三人の命はないだろう。それだけ三人とこの目の前のバケモノの間には絶対的な力の差が存在している。

 だからこそ、冗談で言っていると分かっていても恐いのである。三人は捕食者を前にしてしまった被食者の様に、プルプルと震えるしかない。

 幽香も幽香で、自分を恐がって震えている少女たちを見て、Sっ気に塗れた恍惚とした笑みを浮かべ、ニヤニヤとしている。

 

「まぁ、冗談はさておいて。……今回の異変について話しましょうか」

「な、何か分かったのか?」

「ええ、そこのモヤシちゃんの話、此処最近の幻想郷で起こっている異常。この全てをまとめたら私達が何をすればいいのか、何処に向かえばいいのか分かったわ」

 

 幽香はニヤニヤと嗤いながら自分の考えを口にした。

 

「モヤシちゃんは言ってたわよねぇ? 霊夢と小さな妖怪の足跡が妖怪の山に向かって伸びているって。そして、今の幻想郷には間欠泉の異常が起こっている。間欠泉の位置はあの守矢神社の近くであり、どういうわけかクソッタレな”神の気配”を大地の奥深くから感じる。……なら、答えはもう出た様なものじゃない」

「神様の気配。……そうかっ! 霊夢は関連性のありそうな守矢神社へ先に向かったのか!」

「幻想郷にいる神で今も表立って活動できるのって、守矢神社の八坂神奈子と洩矢諏訪子の二人しかいないものね」

「他の神共は好き勝手やりすぎて、霊夢にボッコボコにされて二度と顕現できない様にされたからねぇ、うふふっ」

 

 あれは見ものだったわぁ、と幽香は嗤う。

 数多の神々を討ち滅ぼす、人間という一匹の怪物の事を。自身すらも捻じ伏せる圧倒的なまでの力を思い出しては、ニタニタと凄惨な笑みを浮かべる。

 

「つまり私達も、先ずは守矢神社に向かわないといけないって事か」

「そうなるわね。……ねぇ、貴女達。私と協力しないかしら?」

「協力? 幻想郷最強の妖怪からそんな台詞が聞けるなんて思ってもみなかったわ」

「いくら力が強くても出来ないことはあるのよねぇ。……人探しなんて特に苦手よ。すぐに迷う自身があるわ」

「そこで真顔になられても反応に困るわね。……はぁ、どうするの? 魔理沙、パチュリー」

「私は良いと思うな。何だかんだ言って強いし、頼りになりそうだ。……恐いけど」

「勝手にしなさい。いてもいなくてもどっちでも良いわ。……出来ればいないで欲しいけど」

「らしいわよ」

「うふふっ、礼を言うわ。キノコちゃん、メルヘンちゃん、モヤシちゃん」

「「「は?」」」

 

 嘲るように言った幽香を見て、魔理沙、アリス、パチュリーはその額に青筋を作り上げる。

 

「……ねぇ」

「何かしらぁ?」

「さっきからモヤシちゃん、モヤシちゃんって、私はモヤシじゃないわ。パチュリーって、ちゃんとした名前がある」

「へぇ? この私に意見しようって言うのかしらぁ?」

「知らないわ。貴女も私にとってはライバルみたいなものだもの」

「アハッ、アハハハッ! なるほどねぇ、霊夢と関わるとどいつもこいつもこんなに面白い奴にねぇ。……気に入ったわ、貴女、もう一度名を名乗りなさい」

「パチュリー、パチュリー・ノーレッジよ」

「パチュリーね、覚えたわ。私は負けてあげるつもりは毛頭ないからこれから宜しくねぇ」

「ふんっ、最後に笑うのは私よ。……それと、他の二人もちゃんと名前で呼んで上げなさい。人の名前をちゃんと呼べないのは正直軽蔑するわ」

「アハッ」

 

 好戦的な視線を向けてくるパチュリーの様子を、心底可笑しいと笑みを浮かべ視線を返す。

 

「私は霧雨魔理沙だッ! 断じてキノコちゃんなんかじゃない! 次そんな風に呼んだら、ぶっ飛ばすぞ!」

「はぁ、私はアリス。アリス・マーガトロイドって名前があるわ。メルヘンちゃんなんて変な呼び方は止めて貰いたいものね」

「この私に殺気をぶつけるなんてねぇ。……アハハッ、本当、面白いわぁ」

 

 勇ましく八卦炉を構え、幽香を睨みつける魔理沙。

 静かに両脇に人形を控えさせながら、冷たい目を向けてくるアリス。

 パチュリーだけではない。魔理沙もアリスも、この場にいる三人は自分と戦っても良いという、殺し合っても良いという覚悟がある。

 それが出来るだけの最低限の力は持ち合わせており、想いの強さに至ってはこの自分にも匹敵している。……恐怖を押し殺している足がプルプルと震えているのはご愛嬌と言ったところか。

 

――楽しみだわ。

 

 この三人が成長して、自分とあの娘を巡って争い合う関係になるのが。

 恋の障害は大きければ大きいほどに熱く燃え上がる物。想いの強さは百点満点。後足りないのは実力だけ。それもこの娘達ならばすぐに埋めてくるだろう。

 

――本当に楽しみ。

 

 この娘達と血で血を洗う様な、巫女争奪戦をするのが。

 

「改めて宜しくするわ。魔理沙、アリス、パチュリー」

「「「こっちは願い下げだ(よ)!」」」

 

 凄惨な笑みを止めて、まるで聖女のような柔らかい笑みを浮かべだした幽香に対して、三人の返答は、それはそれは力強い拒絶だったという。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「へぇ? 地底ねぇ」

「そんなところがあったんだな、知らなかった」

「私と早苗も詳しくは知らないんだけどね」

 

 何やかんやあって、早速守矢神社にやってきた四人は、住人である守矢の神、洩矢諏訪子と、風祝、東風谷早苗に聞き込みをしていた。

 

「神奈子のやつが何かやらかして異変が起きて、霊夢が神奈子に尋問と、お仕置きのためにやって来て、そのまんまの足で異変解決に地底へと向かって行ったよ。……私達には殆ど構わずにね」

「ちょっと挨拶したらすぐに神奈子様のところまで行っちゃいましたからね。……今晩は夕食抜きですかね?」

「いやいや、お前ら目が恐いぞ?」

「仕方ないじゃないですか、折角霊夢さんが訪ねてきたからワクワクしていたのに、神奈子様に独り占めされたんです。そりゃーもう、テンション下がっちゃいますよ」

「神様を無視するなんて、本当に不敬なやつだよ全く。……まぁ、それが霊夢らしいって言えば霊夢らしいんだけどね」

 

 その上、知らない小さな妖怪まで連れ回しているときた。……二人の距離感が妙に近くて、モヤモヤしたのは記憶に新しい。

 

「で、その肝心の神奈子は何処にいるんだ?」

「神社の奥の方で頭の中お花畑になってるよ。視界に入れるのもイライラするから、祟って、ふん縛って吊るしておいた」

「それでも笑顔で幸せオーラ全開なのには流石の私でもイラッとしました。ぶっちゃけ奇跡(ミラクル)パワーでぶっ飛ばしてやろうと思いましたよ」

 

 心底からイライラしている、というが伝わる冷たい表情で拳を握る祟り神の頂点と、守矢最強の奇跡の巫女である。

 

「何が……いいえ、ナニがあったのかしらねぇ?」

「そう言えば、此処を去る時の霊夢さんから、家で使ってる石鹸の香りがしたような。……あ」

「神奈子も髪の毛とか濡れてたような。……あ」

「「あ〜〜〜ッ!?」」

 

 その場にいた全員に電流が走る。

 

――妙に幸せオーラ全開の脳内お花畑な風神。

 

――風神の髪の毛は濡れていた。

 

――この場を去った霊夢からは、芳しい石鹸の香りがした。

 

 つまり、つまりつまりつまりつまりつまりッッッ!

 

「あ〜の〜バ神奈子ぉ! 私達に黙って霊夢のやつと一緒にふ、ふふふふ風呂に入ってたなぁ!」

「偉大なる私も流石に怒りましたよ。ええ、これ以上ない怒りです。……ふぅ、久々に我が奇跡(ミラクル)の力をお見せする事になりそうですね」

 

 自分だけ良い思いをしていたと知った神と巫女の怒りは凄まじいものがあった。

 片や、祟り神としての力に恥じぬ、禍々しくも強大な神気をその小さな身体から溢れ出させ。

 片や、その全身から迸る圧倒的な威圧と、超越的なまでの膨大な霊力を濁流の様に辺りに撒き散らし、徐々にその力の上限を引き上げていく。

 神奈子(裏切り者)をしばくべし。その強い怒りの感情で、力を漲らせているのである。……簡単に言ってしまえば、一人で抜け駆けした神奈子に嫉妬していた。

 

「わ、私だって最近一緒にお風呂なんて入っていないのにぃ!」

「確か、拷問用に作った人形があった筈。……ああ、これよこれ」

「ふ、ふふふっ、この本なら丁度いい鈍器になりそうね」

 

 魔女っ子三人娘もその例外ではなく。

 普通の魔法使いである少女は地団駄を踏んで悔しがり、その身から爆発的な魔力を放出して、空に向かって魔力の破壊光線を連射し。

 七色の人形遣いである少女は冷たい笑みを浮かべながら、何処からか恐ろしい名伏し難い得物を携えた、不気味極まりない人形を取り出して、何やら準備を始め。

 七曜の魔法使いである少女は吹っ切れたように清々しい笑みを浮かべながら、人を殴りつけたら確実に死ぬであろう、とても重厚な本で勢い良く素振りをしていた。

 

「へぇ? 一緒にお風呂にねぇ?」

 

 そして、何よりも危険極まりない凶悪妖怪、風見幽香はただただ意味深に狂気的な笑みを浮かべている。

 

 各々が各々で、嫉妬と羨望に突き動かされ、一人美味しい思いをした神奈子討つべし、といった殺る気満々状態で、その場には混沌とした空気が広がりつつあった。

 

「ふはははははっ!」

 

 しかし、突如として響き渡る自信に満ち溢れた笑い声が、混沌としたその場の空気を引き裂いた!

 

「この声はっ!?」

「まさかっ!」

「その通り! とおっ!」

 

 その者は、無駄に神々しく光り輝き、無駄に威光を撒き散らしながら、少女たちの前に降り立つ。

 

「ふっはははははっ! 我が輝きを、幸福に彩られし我が威光をその目に焼きつけよ!」

「眩しいっ!?」

「あ、あああああっ!?」

 

 その輝きは、見るもの全ての目を潰さんばかりに無駄にピカピカと光を撒き散らし続け、普段から暗がりを好む魔法使い達の視界を閉ざす。

 アリスは目を抑えてプルプルと震え、パチュリーは刺激的な光に目を焼かれ、その場で両目を抑えてゴロゴロと転がっている。

 

「神奈子ぉ!」

 

――守矢の風神、八坂神奈子。

 

「何だっ! 何なんだその姿はっ!」

 

 普段の紫色の髪は何処へ行ったのか? その髪は太陽を一杯に浴びた稲穂の様に輝く黄金色。瞳の色も常の赤から、雲一つとして浮かんでいない空の如き碧眼である。

 

――何が、一体何が神奈子の身に起こったというのだっ!

 

 その場にいた全ての女たちは、目の前に現れた神奈子の姿に同じことを思った。

 

「見ての通りだっ! 私は幸せの絶頂から(霊夢の)全てを手に入れるために(脳内の)楽園より帰還した守矢の神。……誇りすらドブに捨てた純粋な被虐願望を持ちながら、霊夢との甘い一時により目覚めた伝説の神……(スーパー)守矢神、八坂神奈子だぁぁぁ!」

「「な、なんだってぇぇぇ!?」」

 

 超守矢神、八坂神奈子。字面はふざけているが、その身から溢れ出す力の奔流は成る程、確かに(スーパー)を自称するだけはある。

 単純な力だけで言うならば、この場にいる規格外筆頭の最高戦力である風見幽香、東風谷早苗の両名の足元程度までには達している、という出鱈目っぷりである。……何だコイツ。

 

「話は丸っと聞かせて貰ったぁ! 霊夢を追いたくば、この私を越えて行けぇ!」

「あ、じゃあ遠慮なく――恋符『マスタースパーク』!」

「ぬわぁぁぁぁぁ!?」

 

 破壊の閃光が一瞬にして神奈子を覆い尽くし、天高くまで光の柱を形作る。山にすら風穴を開けるマスパを躊躇いもなく、一個人に向けてぶっ放すとは……魔理沙、非常に非情で容赦なしである。

 それも仕方ない、自分の想い人とイチャついていた疑惑のある女が、ノコノコと目の前にやって来た上に、隙だらけで、無駄に喧しいのだ。これはもう開幕ブッパで薙ぎ払うしかないだろう。誰だってそうする。

 

「ふっ、全てを薙ぎ払う破壊の光でも、たった一人の神を壊すことは出来ないようだな!」

 

 しかし、超守矢神、八坂神奈子は健在である。恐ろしいことに傷一つない。

 これが超守矢神の力とでも言うのか、その身からは迸らせる圧倒的な神気で、魔理沙のマスタースパークを無力化してしまった。

 

「マジかよ」

「次はこちらの番だな。……はあぁぁぁぁぁ!」

「うわっ!? な、何て力の高まりだっ!」

 

 神奈子、否、(スーパー)守矢神、神奈子の叫びと共に、神奈子の神気が高まっていく。

 

「お、ん、ば、し、らぁぁぁぁぁ!」

 

 黄金に輝く御柱が、空中に現れ、雷速を大きく上回る圧倒的な速度で、地面に向かって突き刺さっていく。突き刺さる度に、衝撃波が走り、森を、大地を震撼させる。

 

「ふはははははっ! はーっはっはっはっはっはっ!」

 

 神奈子は自分の限界の殻を打ち破った。霊夢への熱い燃え滾る想い、神としての誇り(プライド)、そして、何よりも打たれ強くなることで、霊夢に長い時間ボコってもらえるんじゃないのか? という異常なまでの神様サンドバック願望が、神奈子のステージをワンランク引き上げたのである。

 それこそが超守矢神。神としての基本性能を数十倍まで引き上げる変身だ。いや、変態だ。

 

 神奈子は酔いしれていた。脳内麻薬が分泌するほどの幸福感が、神奈子を暴走させていく。

 脳裏に浮かび上がるのは、自分が霊夢にひたすらイジメられている光景、頬が真っ赤になるまでビンタされたり、お腹をゆっくりと踏みつけられたり、椅子にされたり、首を締められたり、罵倒されたり、などといったアブノーマルなプレイ。そして、霊夢に褒められ、犬のように喜ぶ自分の姿だった。……神奈子の脳内は未だにお花畑である。

 こんなやつでもいきなり最強クラスの領域に片足を突っ込んでいるのだから、この世界は間違っている。……上に行くやつほど、変態になっている事実からは目を背けるべきだろう。

 

「「五月蝿いわよ(です)」」

「はふんっ」

 

 だが、如何に殻をぶち破り、限界を越えて強くなったとしても、この怪物達に勝てる道理は何処にもない。

 幽香が無造作に振り下ろした傘が、早苗が横薙ぎに振るった払い棒が、それぞれ神奈子の脳天に、脇腹に直撃し。瞬時に神奈子を沈黙させた。

 

「ざまぁぁぁ! 神奈子、ざまぁぁぁ!」

「さぁ、今の内に縛っときましょうか」

 

 気を失った神奈子を縛り上げ、木に逆さ吊りにする。逆さ吊りにされた神奈子の周囲を回りながら、諏訪子は「ねぇねぇ、どんな気持ち? どんな気持ち? 調子乗って出てきたのに、一蹴されたのってどんな気持ち?」などと煽っている。

 もう大丈夫だとは思うが、念の為である。もう一度あの状態で暴れられると、幽香や早苗はともかく、魔女っ子三人組と、諏訪子の身が危険だ。

 

「な、何だこの状況はァァァァァ!?」

 

 数瞬の間に意識を取り戻した神奈子。

 ふんぬぅぅぅぅぅ、やら、ぬあぁぁぁぁぁんなど妙な声を上げながら、物凄い勢いで、身を捩り出す。余りにも力を込めて身を捩っているために、宙吊りの神奈子は、まるで振り子の様に右から左へと高速で移動している。

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!? け、景色が歪んでりゅぅぅぅぅぅ!?」

 

 挙句、目を回して更に見苦しく叫び出す始末である。

 神としての威厳ゼロ、むしろ女として大事なものを幾らか失っているようにも見える。

 

「おい、誰か止めろよアレ。……早苗、お前んところの神様だろ? 止めてやれよ」

「態々、偉大なる私が止める必要はありませんね。……諏訪子、貴女が止めてきなさい」

「嫌だね、神奈子の自業自得だし。……ねぇ、人形遣い、アンタが止めてきてよ」

「私は部外者で、一切関係ないから遠慮しとくわ。……パチュリーはどう?」

「やると思うの? 力尽きるまで回っていれば良いんじゃないかしら?」

 

 誰も神奈子を止めようとしない。

 もう色んな意味で、天元突破している神奈子に触れたいと思う者が皆無なのだ。何処ぞの変態の様に、取り繕えば良いものを、素直に自分の熱意を表に出すからこんな事になる。

 

「止ぉぉぉまぁぁぁらぁぁぁなぁぁぁいぃぃぃぃぃ!?」

 

 回転に応じて、騒々しさが増している。そろそろ止めないと、鼓膜がヤバイ。

 

――ガシッ!

 

「頭痛いっ!?」

 

 神奈子の叫びが最高潮に達しようというところで、何者かが神奈子の高速移動を止めた。

 高速で動きすぎて残像すら見え始めた神奈子の頭を正確に捉え、無理矢理筋力で回転を止めた何者か――我らが危険人物(ミス・デンジャラス)、風見幽香その人である。

 

「な、何だ貴様は、わ、私はお前の責苦で興奮するほど安い女じゃないぞ? 私がイジメられて興奮するのは霊夢だけd」

「ねぇ」

「ッッッ!?」

「次、五月蝿くしたら――」

 

――ドズンッ。

 

 その日一番の鈍い音が周囲に木霊する。幽香が地面を軽く足の裏で叩いた音である。たったそれだけの動作で、地面は大きく罅割れ、衝撃波が一瞬の内に幻想郷中を駆け巡った。

 

「――殺すわよ?」

「あ、はい。ごめんなさい」

 

 常に浮かべる狂気の笑みすら浮かべぬ無表情。感情を一切排したその表情を見て、神奈子は悟った。

 次にこの女の気に障ることをしてしまったら、自分に明日はない。生きて未来を迎えることは出来ないだろうと、本能が理解した。

 神奈子ガクブルである。喧しい神奈子はもういない。そこにいるのは涙目で恐怖に耐えている宙吊りにされた残念な美少女(博麗の巫女限定のドM)である。

 

「――というわけで、霊夢のやつは古明地さとりを伴って地下の奥深く、旧地獄と呼ばれている場所に向かったんだ」

「やっぱりね」

「幽香の推測どおりだったな」

 

 幽香に脅されるままに、神奈子は霊夢達に伝えた事をそのまんま一から十まで全部吐いた。

 自身が立てた温泉計画。それを実現させるために八咫烏を利用しようとしたこと、失敗して八咫烏が地底の妖怪と融合して、半端じゃないバケモノが生まれてしまったこと。

 霊夢にバレて、お仕置きされたこと。そのお仕置きの後に一緒にお風呂に入って、隅々まで身体を洗ってもらったこと、可愛いって褒めてもらったこと。

 後半に至っては完全に自慢であるが、取り敢えず全部吐いた。……後半の話で、神奈子を見る全員の目に殺気混じりの嫉妬が乗ったのはきっと気のせいではない。

 

「でなでな、霊夢がな〜私を可愛いって言ってだな〜」

「……さっきから同じことを言いまくっててすっげぇ腹立つんだが?」

「完全に自分の世界に入ったわね」

「はぁ、まーた始まったよ。……なんかすごいムカつくから祟っとこ」

「我が奇跡の力で封印もしときましょう」

「んじゃ、私は顔に落書きでもしとく」

「私は」

「私は」

 

 少女たちは団結し、神奈子に悪戯を開始する。顔に神(笑)と書いたり、全身が痒くなるように祟ったり、封印して数時間の間絶対に身体を動かせないようにしたり。

 

「……聞きたいことは聞けたわ。これは放って置いて先を急ぎましょう」

 

 話の途中から完全に自分の世界に入って戻ってこれなくなった神奈子を放置して(悪戯も終え)、一同は守矢神社を後にする。目指すは地底、想い人たる博麗の巫女がいる異変の地。

 

 魔理沙は親友である巫女の力になるために。

 アリスは自分の王子様の勇姿を一番近くで見守るために。

 パチュリーはカッコイイ友人の勇姿をこの目に焼き付けるために。

 幽香はあわよくば、今回の異変に乗じて霊夢との殺し愛をするために。

 そして、途中で参加することになった守矢組。

 早苗は異変に乗じて、守矢の信仰、そして、巫女の身と心を完全に手中に収めるために。

 諏訪子はあの巫女を無理矢理にでも自分たちの勢力に迎え入れるために。

 

 それぞれの思惑を抱えながら……。

 

 

 

 一方、残された神奈子は……。

 

 富・威厳・力、その全てを手に入れた女、守矢の風神、八坂神奈子。頭までお花畑になっている彼女が放った一言は、女達を地底へと導いた。

 

――私の温泉? 欲しけりゃくれてやる。探せぇ! あらゆる全てを地底に置いてきた。霊夢大しゅきぃぃぃ! もっとお仕置きしてぇぇぇ! 褒めてぇぇぇ!

 

 イヤンイヤンッと悶え続ける風神(脳内お花畑ドM)を他所に、女達はアンダーグラウンドを目指し、巫女を追い掛ける。世はまさに大温泉時代。

 

 よく分からないテンションで、よく分からない事をしていた。……何処の海◯王のつもりなのだろうか?

 




かくたのぉ!(恒例の挨拶)

如何だったであろうか?(内心ドキドキのブルブルの春巻きである)
時間掛かったのもあるけど、ちゃんとキャラ一人ひとりの描写を使い分けきれているのかが心配なところです。
個人的には、神奈子様の下りはきっちり書けているんじゃないのか? って思ってはいるんだけどね。……別に、最近ドラゴンボール見直しているから、それをネタとしてぶっこんだわけじゃないよ? 本当だよ? ナメック星人ウソツカナイよ。

それよりも感想を、感想を下せぇ。春巻きさんに愛と勇気をくだせぇ(アソパソマソ感)。
んじゃ、次の更新まで、またのぉ!


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【地霊殿】巫女、地底

紳士淑女諸君、待 た せ た な !

百合を愛し、百合にボコられた伝説の変人、春巻きさんが帰ってきたぞぉぉぉ!

漸く漸く更新なんやでっ!
リハビリも色々やってたけど、拙い文章とかになってる可能性あるけど……誤字報告とか宜しくお願いします(土下座ッ! 敗北のベスト・オブ・ベストッッッ!)

待たせた代わりに結構、話は長めである。読みにくかったら済まん。でも面白く書けたと思うから、ゆっくり楽しんでいってネ! 春巻きさんとの約束だよぉ!


↓ 巫女の伝説へ進む ↓



 やぁやぁこれなるは、幻想郷を守護する巫女、博麗霊夢と申します。私は頭の中までラブたっぷりの淑女にございます!……よ ろ し く ね。

 色んな偶然が重なり合った結果、悲劇的に引き起こされてしまった異変を解決するため、私はわざわざッ、わざわざッ ! 遠路遥々とッ、遠路遥々とッ! この深い大地の底までやってきたのである。

 そんな大胆不敵に可憐で見目麗しくも豪華絢爛な私ではございますが、今日も元気おっp……失礼、間違えました。元気いっぱいっ! 百合の花が咲き誇る、尊き日々を過ごしております(マリア様が見ている)。

 

 お供のさとりちゃんは天使をぶっ通り越して女神でバブ味を感じるし、その妹であるこいしちゃんは小生意気で小悪魔犯してぇだし(犯罪者的表現)……。

 二人ともとっても個性的で非常に愛らしい美少女である。古明地姉妹という地底でも屈指の美少女姉妹を両脇に侍らせている、という贅沢な状況。この不肖博麗霊夢、幸福感が天元突破して、そのまま天に昇って逝ってしまっても良い、とすら考えてしまう始末であります(既に道中で三回ほど昇天しそうになった情けない巫女)。

 

「此処が地底か……随分と酷い有様だな」

「本当はもう少し賑やかで楽しい場所なんですけど。……その、異変の影響で」

 

 目に映る光景。……これを何と形容すれば良いのだろうか?

 地底とは、深い深い……それこそ陽の光など一切差し込む筈のない大地の底である。しかし――明るく照らされた地底の町並み。地底の暗闇を照らし出すのは、地底の空に煌々と燃え上がる巨大なる火の玉である。

 

――太陽。

 

 地底にある筈のないソレ。轟々と全てを灰燼に帰さんと光り輝くソレが、我が物顔で地底の空を占領していた。

 

 ただ、太陽があるだけならば問題はない。ただ地底を明るく照らしているだけならば問題はない。太陽とは生命の源だ。命に熱を灯し生かす。命を育む温かい光そのものだ。そう――それだけならばの話だが……。

 

 燃えていた。地底の全てが燃えていたのだ。美しい日本家屋が並んでいた筈の地底の町。……その全てが炎上し、辺り一面が尋常ではない熱気に覆われている。

 それを例えるならば、命を焦がし尽くす赤のみで染められた地獄絵図。……何もかもを焼き焦がし尽くし、一切合切全ての生命の存在を排する、この世の地獄の再現そのものだった。

 

「私のせいだ。……私がっ、勝手な事したからっ!」

 

 こいしちゃんが顔を俯かせる。

 押し殺した声は震え、地面へと幾つもの小さな雫が零れ落ちる。……幼女の涙ぺろぺろぺろぺろ。はいはい、頭までマーラたっぷり(トッ◯のCM風)でごめんなさいね。真面目にするから勘弁してくれぃ。

 

「そんなに自分を責めるなこいし。確かにお前は異変の切っ掛けを作ったかもしれない。だがそれは原因の一つというだけだ。……それに、あの神奈子の事だ。お前に無意識を弄られなくても、遅かれ早かれ今回の様な異変を引き起こしていただろうさ」

 

 あの守矢神ならやりかねない。……だってドMだもの。

 恐らくだが、遅かれ早かれ、今回の異変に限りなく近い異変は起こっていただろう。……だって神奈子ちゃんドマゾだもの。

 成功すれば守矢の信仰が爆上がり、失敗したとしても私からお仕置きを受けられる。神奈子ちゃんにとってはメリットしかない、ひと粒で二度おいしい展開なんだもの。……全く、救いようがない変態さんだよ(お前が言うな)

 言ってくれれば、お仕置きくらい適当に理由を付けて、幾らでもねっとりぐっちょりとヤッてあげるのにね。全くしょうがない神様だよ、あの娘は。……本当、一体誰のせいでああなったんだろうね!(←)

 

「だから泣き止め、こいし。……私は笑っているお前が好きだぞ」

 

 まぁそんなわけだから、あんまり自分を責めるのは止めときなされ、こいしちゃんは生意気に小悪魔チックな笑顔を浮かべているのが良く似合うんだからね!……泣き顔は泣き顔で、滅茶苦茶にイジメたくなるくらい可愛らしいけども(ゲス顔)。

 

 慰めるときのポイントは、ちゃんと腰を落として、目線を合わせながら頭をナデナデする事。大概のおんにゃのこはコレで調子を戻してくれる。……筈だ。

 少なくとも魔理沙たんや、吸血鬼姉妹を始めとする私のお友達(意味深)の幼女達には効果がある。……ふむ、冷静に考えると、知り合いの幼女達って犯罪臭が凄い言葉だな。此処は可愛らしく知り合いのロリータと言っておいた方が良いだろう(犯罪者予備軍)。

 

「ふ、ふんっ! きゅ、急に優しくされたからって勘違いなんかしてあげないんだからね!」

 

 私からそっぽを向きつつ、生意気にも反抗的な言葉を言い放つ。……しかし、耳は真っ赤である。

 あぁもうっちくしょー! 可愛いなぁコイツゥ! お姉さんの母性本能をこちょこちょしないでよ、もうっ! あんまり可愛くしちゃうとぉ――保護(拉致)しちゃうぞ?(にっこり)

 

「ところで、此処に住んでいた者達はどうした?」

 

 いくら灼熱地獄真っ青な有様とはいえ、この場に妖怪が一匹たりとも見当たらないのは不思議でならない。

 少なくとも中位から上位辺りの力を持った妖怪――特に熱に対して耐性を持っている種族なら、この熱気の中でも十分生存可能だと思うのだが……。

 地底の美少女レベルはかなり高そうだったから、滅茶苦茶期待していたのにね。美少女の影も形もありゃしない。

 桶入り幼女とか、エロい蜘蛛女さんとか、姐さんとか、嫉妬のお姫様とかの愛らしくも美しい姿を、脳内カメラで激写して、あわよくば彼女たちのあーんな姿やこーんな姿を堪能してやろうと考えていただけに、非常に残念である。

 

「それが――っ!? 霊夢さんっ!」

「分かっているッ! ハァッ!」

 

 突如として四方八方から放たれる殺気。……そして、殺気と共に差し迫る無数の巨石群。――だが、残念。私に死角はない。飛来してきた巨石群、その全てを霊力を纏った拳の連撃で叩いて壊す。

 

 勿論、古明地姉妹の二人を全力の結界で保護する事も忘れてはいけない。

 二人とも身体能力は、下手をすれば普通の人間よりも低い。粉砕した欠片が直撃しただけで致命傷を負いかねないからね。……My Sweet AngelとMy Sweet Little Devilは、この私が命を懸けて全力で守るんだよぉ!

 

「成る程。……これが私に助けを求めた理由の一つか」

「はい、地底の住人達は……」

 

 何処からともなく複数の人影が現れ、私達を取り囲んでいく。

 感じられるのは純粋な殺意のみ。無駄な感情の一切が排除された、純粋な殺戮本能。己の欲のためだけに殺すという、シンプルな意志。……よいよい、これじゃあ、幽香が何人もいるようなもんじゃないかよい(不死鳥のよいよい)。

 

「首、首……首首首首首首首首首首ッ!」

 

 開き切った瞳孔を危険な色に染めながら、首を求めて狂う桶に隠れた美少女――妖怪、釣瓶落としのキスメ。

 桶の中に入った人間の様な少女というあまりにも特徴的な容姿。今まで目にした美少女たちと比べても更に幼い外見で、若草のような緑髪を水色と白の玉がゴム留めでツインテールに纏めている。動く度にぴょこぴょこと揺れるのは大変可愛らしい。

 服装は、桶から見えている範囲でしか判別できないが、恐らく白い着流し一枚だけ、それもかなり薄いタイプの生地であるため、水に濡れると未成熟な肌色が透けて見えることだろう。……水の場所って何処だっけ? いや、待てよ。むしろ私の舌で舐め回せばええんやないか? 唾液とかでヌレヌレにも出来るだろうし、視覚的にも味覚的にも大満足できること間違いなしや、じゅるりじゅるり。

 

 前世知識からは、桶の中で生活する程度には内気であるとされている。またその反面で妖怪らしく凶暴な一面もあるそうだ。……些か凶暴すぎる気がしないでもない(白目)。

 薬でもキメてんの? って勢いで目は爛々と輝いているし、口の端から唾液を溢れさせながら、しきりに私の首元を狙って鎌を振るい続けている。……見て回避余裕ですけども。

 うん、美少女に求められる(首的な意味で)なんて、私ってば、かっ、勝ち組だねっ!(震え声)

 能力は『鬼火を落とす程度の能力』。釣瓶落とし固有の能力であり、読んで字の如く、目標の頭上から鬼火をドーンッと落とす力を持っている。……なお本人はその力を使う様子は一切なく、鎌をブンブン振り回し続けているだけなんだけどね! あ、コケた。

 

「病めろ病めろ病めろ病めろ病めろ病めろぉぉぉッッッ!!!」

 

 全身からドス黒い瘴気を発しながら、狂った様に同じ言葉を繰り返す、ありとあらゆる病を操る美少女――土蜘蛛、黒谷ヤマメ。

 金髪のポニーテールが愛らしく揺れ、瞳の色は落ち着いた茶色。漸く大人になり始めた、蕾が花開き始めたあどけなさの残る少女然とした容姿をしており、とても魅力的である。

 頭に茶色の大きなリボン。服装は、ふっくらとした黒い上着の上に、こげ茶色のジャンパースカートを着用している。

 胸元には黄色いボタンが規則正しく並び、スカートの広がり方や、そのスカートの上から黄色いベルトの様なもので何重にもクロスさせて巻いている様子から、見方によっては、蜘蛛を表現している様にも見える。……此処だけの話、ヤマメちゃんが巻いているベルトを一枚一枚解いていって、ヤマメちゃんの本体を顕にしたいところであるが、私は淑女なので自重します。

 

 前世知識からは、気さくで明るく、誰とでも仲良くなれそうな性格をしているとあり、地底の妖怪の間では彼女はアイドルの様に扱われているそうだ。……だけど、今のヤマメちゃんの様子を見ると、幻滅しました。ヤマメちゃんのファン止めます(ついでに、那珂ちゃんのファンも止めます)。

 狂ったように「病めろ」という言葉を連呼しており、蜘蛛らしく逆さ吊りになりながら、黒々とした瘴気を私に向かって放ってきている。……多分、病魔か何かを煙状にして放っているんだろうけど、私の肉体と霊力が余りにも強いため、ただの煙発生機と化してしまっている。何かゴメンね。

 いや、待てよ。この瘴気はヤマメちゃんが分泌した物質(意味深)で出来ているんだろ?……吸わねば(使命感)。

 能力は『病気を操る(主に感染症)程度の能力』。読んで字の如く、この世に存在するありとあらゆる病原体を操る事が出来る能力を持っている。インフルエンザや黒死病でも何でもござれ、集団生活を基礎としている人類種の天敵に近い。最も、妖怪などの人外は身体が強いため、基本的に病気に掛かることはない。そのため、妖怪などが相手だと、基本的に相性が悪い。……病気を操る能力を持っているんだから、私が患っているヤマメちゃんやその他の幻想美少女の面々に対する恋の病も、全部このヤマメちゃんのせいとも言える(言えない)。

 

「妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい」

 

 瞳からはハイライトが消え、憎しみに満ちた表情を浮かべた美少女――橋姫、嫉妬妖怪の水橋パルスィ。

 稲穂の様にきらびやかに輝く金髪のショートボブで、目の色は宝石のように煌めく緑色。そして、何よりも目を引くのがクリクリ触りたいエルフ耳である。この幻想郷でも希少なエルフ耳である。他のエルフ耳は文ちゃんしか知らない。……私、この戦いが終わったら、パルスィちゃんの耳を思う存分弄くり回すんだ(謎のフラグ立て)。

 服装は、ペルシアンドレスに近く、服の裾などやスカートの縁などは、橋姫伝説の舞台となった宇治橋を彷彿とさせる、模様や装飾が施されている。

 橋姫伝説とは、簡単に言ったら、浮気され男に裏切られた女が、憎悪と殺意のあまり川に身を投げ、身も心も鬼と化し恨みを晴らした、という伝説だ。……取り敢えずパルスィちゃんが妖怪になる原因を作ったであろうクソ野郎は感謝と怒りと殺意諸々を込めて、十割の力で思いっきり殴ってあげよう。

 それと、これは私の直感なんだが、パルスィちゃんは未経験だと思う。相当身持ちが固かったのか、ただ単にそこまで行く前に裏切られたのかは定かではないが、恐らくは未経験だ。……喜べ童貞紳士諸君、パルスィちゃんはクソ野郎に汚されていなかった。そんなわけで、これから私が食べます(←)。

 

 前世の知識からは、親切で優しい性格をしている。その一方で、極めて嫉妬深く自身を卑下している節があり、自分よりも他者が幸せだったり、優れていると思えば嫉妬し、それとは逆に相手に嫉妬する部分が無かったら、自分自身の不幸話を自慢気に話し出すらしい。それと、もしも自分よりも不幸な相手がいたら、それに対しても嫉妬をするという、ね。……やだ、面倒くさい娘ね、可愛いわ。

 見た感じ、嫉妬心などの感情が暴走しているご様子。嫉妬すればする程、その力を速度を上げて、私に襲い掛かってきている。……嫉妬妖怪の面目躍如といったところか、だが当たらんよ。私に当てたければ、今の嫉妬心の千倍は持ってきなさいな。

 考えてみたら、相手を妬んでいる、嫉妬しているという事は、パルスィちゃんはそれだけ相手の良いところを探し出すことが出来ているという事実に他ならないよね。……やだ、この娘、本当に良い娘だわ。お姉さん興奮しちゃう。

 能力は『嫉妬心を操る程度の能力』。嫉妬妖怪、橋姫の彼女であるからこそ使える力。相手の嫉妬心を煽る忌み嫌われた力である。

 彼女にとって、嫉妬心とは力の源、周囲の嫉妬心を集めたり、自分自身の嫉妬心が高まったりすることで、パルスィちゃん自身の力は上がっていく。周囲が、自分が嫉妬すればする程、その力を増していく……感情に左右される珍しい能力だ。

 まぁ私としては、そんなパルスィちゃんが妬ましいんだけどね。

 本当に何だよ、あの可愛らしい顔立ちに、程よく引き締められつつも乙女としての最低限の魅力を内包した完全に整った抜群のプロポーションとかよぉ。私が今の肉体を創り出すためにどんな修行に励んだと思ってんだ。私が今の美貌を手に入れるために、どれほど試行錯誤して色々と邪道な手段まで使って此処まで磨き上げる事が出来たと思ってんだよ。ああ、妬ましい妬ましい本当に妬ましくてパルパルしいよ、このエルフ耳美少女め。あんまりふざけた事抜かすんだったら、お前のその犯し甲斐のありそうな身体を全力で蹂躙して、私の内より溢れ出るありとあらゆる嫉妬という嫉妬を暴力的な獣欲に変換して、足腰どころか、暫く気が狂ってしまうくらいにグチャグチャのドロドロに犯し尽くした後に博麗神社の寝室に監禁するぞコラ(早速、能力の影響を受ける幻想郷の守護者)。……さて、冗談はともかく、パルスィが嫉妬かわいすぎて生きていくのがパルスィ。

 

「■■■■■■■ッッッ!!!」

 

 目を真っ赤に染め上げ、空気を引き裂く咆哮を放つ一本角の美女――山の四天王が一人、鬼の星熊勇儀。

 鮮烈に光り輝く金髪のロングヘアー、瞳の色は血を浴びたが如き赤色。特徴的なのが、その額から誇らしげに突き出されている一本の赤い角である。角には黄色い星のマークが入っており、大人っぽい本人の顔立ちとの間に素晴らしいギャップを生み出しており、色んな意味でハートを撃ち抜かれてしまう。……可愛いですよ。勇儀姐さん!

 服装は、外の世界で言うところの……青春を生きている少年たちの心に同年代の少女たちが女であると認識させ、性の目覚めと共に新たな青春への道を指し示した禁断の衣服――体操服に酷似しており魅力的である。

 体操服は少女が着るという先入観があるが、勇儀姐さんが着ているとその魅力が別方向で増してくるのだ。本来体操服とは、少女の未成熟な身体を覆い隠す神秘のベールとしての側面を持つ故に、その先にあるであろう禁断の領域を想像させ、我々の心に熱い情熱を灯してくれる素晴らしい衣服なのである。しかし、これを勇儀姐さんが着ているとなると話が変わってくる。

 

――エロい。

 

 シンプルにエロいのである。勇儀姐さんは完全に美女だ。大人の女性としての、カッコイイ年上としての魅力を持った見目麗しき美女である。その美女である勇儀姐さんが、体操服を身に纏う。あの鍛え上げられた爆発ボディを体操服が覆い隠さんとするが、しかし、隠しきれず、その慎ましやかとは無縁の豊満極まりない、けしからん乳が「私は、私は此処にいるッッッ!!」と言わんばかりに自己主張するのだ。

 それが、どれほど私の心に耐え難き劣情を生み出したのか、体操服を押し上げ、動く度に窮屈そうに揺れるその二つの果実に魅了されたことかッ! 貴女は知らないだろうッ! どれだけ罪深い事をしているのかッ! このドスケベめッ!

 上はそんな状態であるにも関わらず、下は赤い線が入った青いロングスカートで、妙に清楚なところもポイントが高い。何だよ勇儀姐さん、アンタはエロスの暴力か? 私の精神力を試しているつもりなのか?……その日、博麗は思い出した。エロスに支配されていた興奮を、欲望のままに貪り尽くした快楽を(進撃のエロス)。

 

 ふぅ(聖女タイム)……前世の記憶からは、鬼らしく豪快で男気溢れる性格で、曲がったことや、嘘を吐くのも、吐かれるのも大嫌い。まっすぐ一直線にぶつかり合うその姿から、同性でも勇儀姐さんに惚れてしまう者も少なくない。……私も惚れてるぜ、あの男顔負けにカッコイイ勇儀姐さんが、私の手でヨガり狂って、可愛らしく鳴く姿を想像するだけで、私の心に秘められし剛直はそそり立ち、今すぐに勇儀姐さんのハートにある乙女の部分にドッキングしたいとだらしなく涎を垂らしているところだ(聖女タイム終了)。

 勇儀姐さんは鬼の本能に、人間を食らいたいという本能に飲まれているのか、私の事を熱心に見つめて、食べようとしている(食事的な意味で)。食べるためには、先ず殺さないと、とでも考えているのか、やたらめったらに殴り掛かってきている。……正気がぶっ飛んでて動きが単調すぎるから、見ないでも回避余裕なんだけどもね。

 別にひと齧りくらいならば、食べられてやっても構わないんだけどね(数秒で治る)。それに、勇儀姐さんの身体に私の一部が入って、そのままどうかしていくなんて……ああ、考えただけではしたなく濡れてしまいますわ。

 でも、ごめんね。今日は異変解決のために地底を訪れているから、勇儀姐さんに私を食べさせることは出来ないんだ。……次の機会にでも、ゆっくりゆっくり食べさせてあげるから、ね(恍惚のヤンデレポーズ)。

 能力は『怪力乱神(かいりょくらんしん)を持つ程度の能力』。怪力乱神とは、人知を超えた、不思議な現象や存在のことを指す言葉である。その名の通り、勇儀姐さんの身体能力などは、人知の想像を遥かに超える。咆哮しただけで木々をふっ飛ばしたり、地面を踏みならしただけで周辺の建築物を倒壊させるほど。

 恐らく、こと身体能力に関して言えば、鬼という種族の中でもトップクラスであり、幻想郷でも一部の例外を除けば、最高峰であるんじゃないか、と思う。

 私は、自分の力に自信を持っているであろう勇儀姐さんを真っ向から捻じ伏せて、無理矢理女であることを自覚させ、快楽という快楽を身体に刻み込んであげたい、とか考えているけどね。……ぶっちゃけ、あの引き締まった腹筋とか二の腕をペロペロしたい。したいッ(食い気味)

 

「首だ、首だ、首だ。……え、首ぃ? 首だぁ!」

「病んだッ!? 病んだのッ!? アハッ、アハハハッッッ!!!」

「■■■■ッ!? ■■■■■ッッッ!!!」

「妬ましい、妬ましくない、妬ましい、妬ましくない。……ねた、ましい? 妬ましいッッッ!!!」

 

 東方地霊殿。――その登場人物である美少女妖怪たちが、私達の前に立ち塞がった。

 

 知識としては知っているけど、実際に目にしてみると……うむ、大変ふつくしいね!

 一人一人、魅力的な個性に満ち溢れていて、見ているだけで得した気分になっちゃうよ! ちょっと個性強すぎやしないかって巫女思うんだけどね!(光速ブーメラン)。

 

 見たところ、四人共完全に暴走しているご様子。

 ふむふむ……ナルホドォ、それぞれの妖怪としての側面が、強制的に表に引き出され、自分自身を一切制御出来ないようになっているみたいだね。

 

 キスメちゃんは、釣瓶落としらしく、人間の首を求めて狂い。

 ヤマメちゃんは、土蜘蛛らしく、周囲に病魔を撒き散らす。

 パルスィちゃんは、橋姫らしく、強烈に他者を妬み、その力をどんどん高めていく。

 勇儀姐さんは、鬼らしく、人間を拐い食らおうと、その暴力を本能のままに撒き散らす。

 

 そんな姿を見ても、可愛い結婚したいとすら思えてしまっている私は、そろそろ頭がパッパラパーになっちゃっているのかもしれない(元から定期)。

 

 そして、あの娘達の力、思ったよりも強い。……私の目測になるが、最低でも私の本気の三割弱程度の力は確実に持っている。

 私の三割弱程度と言えば、単騎で(一部の例外を除いた)幻想郷を滅茶苦茶に蹂躙し、滅ぼす事ができる程度のポテンシャルを持っていると考えて貰って良い。……やだァ、地底組強すぎィ。

 

 何がどうしてこうなった。パワーインフレも甚だしいぞ(←インフレの象徴)。

 

 まぁ、私の手に掛かればこの程度は脅威の内にも入らなんだけどね。幻想郷を滅ぼせるとは言っても、所詮は三割程度の力、どれだけ数を揃えたところで、幻想郷最強の人間()と呼ばれている、この博麗霊夢様に勝てる道理などないのである。

 

 現に、手を抜いている今も、誰一人として私に一撃を与えることが出来ていないからね。……決して、決して、今のシリアスな状況を利用して彼女たちを視姦しているとかそんな事実は何処にも存在していない、ないったらない。

 そもそも幻想郷の守護者である、この私がそんな邪で救い難い事をするわけがないだろうが、いい加減にしろッ!(脳内で連続シャッター音)

 

「綺麗なうなじ、お姉さん綺麗、首、首頂戴?……ねぇ、首、首を、首を寄越せぇぇぇ!」

 

 お、妖怪首おいてけかな? あげないけども。

 いや、流石の私でも首チョンパは潔く死ぬしかないんで、止めてくだされ。

 まぁ、私のうなじをガン見してくるのは興奮するので、正直アリだと思う。……首チョンパ的な意味じゃなければね!

 しかし、ペロペロ的な意味だったらいくらでも許す。むしろ私がペロペロしたい。キスメちゃんのツインテールに隠された愛らしい首筋をペロリと一舐めしてあげたいのだよ。

 

「病めっ! 病めぇ、ひっぐ、病めぇ、ぐすん」

 

 お前が病んでるんだよぉ!

 いくら病魔マシマシの瘴気をぶつけてきたところで無駄である。私が病気に掛かることなどないからなっ!(馬鹿は病気にならない)

 全然、病を発症しないからか知らんけど、ちょっと涙目になっている気がしないでもない。……あ、ごめん。普通に泣いてたわ。本能全開で狂ってる筈なのに、ガチ泣きしちゃってるわ、この娘。

 それでも健気に瘴気を飛ばし続けるヤマメちゃんの姿に、私の心が刺激されちゃって、愉悦的な笑みが出そうになっているのは此処だけの話だ。……これが、恋か。

 

「私、妬ましいの。貴女綺麗だから、分かるでしょ? 妬ましいの、ね? 分かってるでしょ? 聞いてるの? 無視?……そう、妬ましいわ」

 

 うん、妬ましいね!(挨拶)

 他の面々と比べて、積極的に攻撃してくるわけではないけど、「妬ましい、妬ましい」とパルパルしながら、私を睨みつけ、親指の爪を噛んでいる。……うーん、後であの親指をしゃぶらせてくれないだろうか?

 ある意味では一番正気なのかもしれない。感覚的には、気持ち的にパル度が五割マシされているだけだしね。

 そもそもの話、一般的に見たら、完全におまいう状態だからね。普通の人からしてみたら、エルフ耳で超絶美少女である上に実力派スレンダーなパルスィちゃんは、嫉妬通り越して憎悪で人が殺せればレベルの存在だからね?

 かく言う私も色々と嫉妬しすぎて、君に対して博麗式の妬ましいドッキングを試みたいなんて考えているんだからね?

 

「■■■■■ッ! ■■■■■■■ッ!?」

 

 フゥハハーッ! 残念だったなァ! 本体だよォ!

 眼前に迫った勇儀姐さんの拳を、手の平で受け止める。……壊れやすいガラス細工を扱うように、柔らかく丁寧に受け止める。

 一番原型を留めていないのが勇儀姐さんである。言語中枢がぶっ飛んでいるのか、咆哮すらも意味不明。理性なんてものは欠片も感じられず、ただ本能のままに動き回っている。……その荒々しい姿、まさにバーサーカー。地底のバーサーカー、ほし☆ぐま〜勇ちゃん爆誕である。

 受け止められた拳を振り解こうと必死になっているが、そんなか弱い腕力じゃあ、他の有象無象はどうにか出来ても、この博麗霊夢様が相手じゃあ、どうにもならんぜぇ。

 更に、拳を解かせて、勇儀姐さんの指の間に、無理矢理私の指を絡ませ、強制的に恋人つなぎにする。マッサージする様に指をグニグニすると、姐さんの柔らかい手の平の感触などがダイレクトに楽しめちゃう。……ああ、身体が火照ってしまいます。

 

 うん、地底たのしいぁ(お目々グルグル)。

 じゃあ、そろそろ脳内フォルダも満tげふんげふんっ……様子見も終わったし、無力化しますかねぇ。

 

「く、びゃいッ!?」

「やめぇッ!?」

「妬ましぇいッ!?」

「■■ッ!?」

 

 四人の動きが止まったやろ? これな、ただ威圧しただけや。

 強い意思と霊力を込めて相手を睨みつける。ただそれだけの攻撃とも呼べないもの。だが、それも私の域まで昇華させれば……。

 

「ひぅ(腰が抜け、内股で倒れている)」

「や、めぇ(首をイヤイヤ振りながら後退る)」

「……(呆然としている)」

「ふぅーッ! ふぅーッ!(警戒する猫となった、やまのしてんの)」

 

 こうして、威圧だけで相手を無力化することも可能である。

 名付けて、博麗さんの覇気(ネーミングセンスの鎌足)。某海賊漫画で言うところの覇◯色の覇気に相当する、私だけの技である。

 別に数百万人に一人の王の資質なんて持ってないし、海賊王なんぞになる気など微塵たりともないけども、まぁ、この幻想郷全て(の美少女)を手中に収めたいとは考えているので……ガチレズ王に私はなるッ!(性欲の鎌足)

 

「さて、どう料理してくれようか」

 

 目には目を、歯には歯を、攻撃には攻撃(性的な)をが私のモットーですからぁ。

 妖怪としての本能すらも捻じ伏せられ、ただの少女のように震え、怯えている少女たち。私が少し近付けば、更に恐怖で一段と震えを大きくしてしまう。……そう怯えることもなかろうに、全く愛らしい娘らじゃのう。

 

「こらこら、逃げるな」

「「ッ!?」」

 

 逃げられちゃうとちょっとだけ面倒くさいので、逃げられないように結界で逃げ道を塞ぐ。

 はっはっはっ、何処へ行こうと言うのだね? 気分はラピュタ王。今なら「見ろ、人がゴミのようだ!」と言ったムスカの気持ちが理解できる気ガスる。私の場合は「見ろ、美少女がダッチのようだぁ!」だけども(最低発言)。バルスはヤメロォー!

 

 震える彼女たちに近づき、私は――

 

「安心しろ、怖がらせてすまなかったな」

 

――ただ優しく抱き締めた。

 

 勇儀姐さんはともかく、他の三人は比較的小柄だったから何とか全員一緒に抱きしめることが出来たぜぃ。

 

「「……?」」

 

 何が起こっているのか? 何をされているのか? 理解できていないような表情でキョトンとしている四人の姿に珍しく、普通にほっこりしている私がいる。

 私としては暴走しているとはいえ、美少女を、それも大好きな幻想郷の少女たちを傷つける事はしたくないからね。……私が持つ手の中でも一番穏便な手段を使わせて貰った。

 それに、今の彼女たちは半ば妖怪としての本能……つまり、理性が薄くなり獣に近い思考となっているために、私が圧倒的捕食者(意味深)だと理解すれば、無力化出来るだろうとも考えていた。

 結果は目論見通り、無力化に成功。ちょっと効き目が強すぎて怖がらせてしまったのだけが、失敗だったかな。私って威圧の加減が分からんからね。ごめんね。

 

 おーよしよし、怖かったね―。ごめんねー、お姉さんちょぉっと大人気なかったね―、ほーらよーしよしよしよし!

 某動物博士も真っ青な勢いで、四人の頭をナデナデしつつ、警戒心を無くしてもらうために、頬を寄せて親愛の証のほっぺたスリスリである。この時のポイントとしては、あんまり力を込めないで、抱擁することである。抜け出そうと思えば抜け出せる、それくらいの力加減で、優しく、信頼してもらえるように、温かく接することが大事である。……私はそれを幻想郷の少女たちから学んだ。

 

「綺麗な首のお姉さん、怒ってない?」

「フフッ、怒ってないよ」

「そっかー……えへへ」

 

 私のスカートにしがみついて、上目遣いに様子を伺うキスメちゃん。……うん、可愛いね。こんな可愛い娘を怒るわけないじゃない。

 安心させるために、しっかりと目を合わせ優しく微笑む。

 どうにか安心してくれたのか、キスメちゃんは、にへらっとあどけなく笑ってくれた。……これが和睦ッ! 圧倒的ッ! 和睦ッ!

 

「病む?」

「そうだな、実は病んでいるんだ」

「本当?」

「ああ、ちゃんと病んでいるさ」

「……何の病?」

「フフッ、内緒だ」

 

 オイラは掛かっちまったんだよ。……恋煩いと言う名の病になぁ! お前に、お前に恋してんだよぉ! ヤマメェェェ!

 勿論、ヤマメちゃんだけでなく、此処にいる地底組や、地上にいるディアマイフレンド達も恋しく思っている。

 え、節操なし? このレズビッチ、だって? うるせぇ黙れぶっ殺すぞ。……別に節操なしなんかじゃないですー、ただ恋多き乙女なだけなんですー、むしろ前前前世から恋してるんですー。

 だから、私と幻想郷の乙女たちは純愛、イイネ?(恐いくらい笑顔)

 

「あの、私妬ましくて、それで、あの」

「フッ」

「あのっ、あのっ……あぅ」

「何も言わなくて良い、大丈夫だ。全部、分かっている。お前が何を思って人を妬むのかも、その嫉妬心の中で、どれだけの尊敬と憧れを抱いてくれているのかも全て、な」

「……ね、妬ましい」

 

 状況が変わりすぎて着いていけていない様子のパルスィちゃんの頭をイイ子イイ子しながらのイケメン発言である。……さっすが、私ぃ! 普通の野郎どもには出来ねぇ事を平然とやってのけるぅ! そこに痺れて憧れてぇ!(大体覇王モードぱいせんのお陰である)

 私のありがたい言葉を受けたパルスィちゃんは、ちょっとだけ頬を染めながら、照れている様子を誤魔化すように、ツンっとした態度を取り繕って、私から少しだけ顔を背けてしまった。……何だよこの娘、ただでさえ属性過多の癖に、今度はツンデレまでも開拓しようと言うのか、良いぞ、もっとやれぇ!

 

「にゃあ♪(背後から霊夢に抱きついている、やまのしてんの)」

「お前はどうしてそうなったんだろうな?」

「はにゃ?」

「かわいい……こほんっ、何でもないぞ」

 

 背中に幸せな感触が当たり、肩口からは首に顔を擦り付けている勇儀姐さん。私の胸元に手を回し、ひっしりとしがみついている。

 先程まであったバーサーカーな様子は微塵もなく、幼子の様に無防備で無邪気に笑っている。……まさか、私の覇気一発で狂気が残らず消し飛び、鬼の本能すら押し潰されるとは思わなかった。この博麗の目を持ってしても、こんな事は予想できなかったぞよ。

 その代わり、勇儀姐さんは、古今東西あらゆる場所に存在しているマスコットキャラクターすらも素足で逃げ出すほどの、圧倒的愛らしさを手に入れてしまった。

 大人の魅力に溢れた爆乳ダイナマイトボディと、飼い主に甘える子猫の様な態度、二つの間にある余りにも大きなギャップが、この煩悩に支配されていた筈の私の邪なる精神すらも蹂躙し、穏やかに温かく、勇儀姐さんの愛らしき姿を見守ることしか出来ない。……ば、馬鹿なッ、この私の百八を余裕で凌駕している筈の煩悩がッ、百合の王である、この私の性欲が負けるッ!? そんな事がッ、ある筈がッ!(茶番)

 

「流石は霊夢さんですね。この地底でも有数の実力者を、あんなに簡単に手玉に取るなんて」

「強い強いとは思っていたけど、此処まで来ると普通にドン引きものなんだけど……本当に人間なの? 霊夢」

 

 さとりちゃんは、素直に感心した様子で、こいしちゃんは、心底ドン引きした様子で、各々反応を示す。……さとりちゃんはともかく、こいしちゃんは些か失礼すぎるんじゃなかろうか? どっからどう見ても私は人間じゃないか(←笑顔で神や妖怪を殴り殺せる人類)。

 

 まぁ、それはともかく地霊組の四人が暴走していた理由が分かったぞい。

 

「……さとり、こいし、恐らくアレが彼女たちを狂わせていた元凶だ」

 

 恐らくと言いつつ、これはもう確信なのだが……これ、明らかにあの太陽が原因だよねー。

 私の目測と推測になってしまうが、あの太陽は『意思を持って動き回る知的生命体全てに干渉し、強制的に進化させている』のである。

 進化とは本来、長い時間を経てゆっくりと行われるもの。それを、短時間で強制的に引き起こす。するとどうなるのか?……地底組の様子を見て分かる通り、暴走する。進化と共に肥大化していく妖怪としての本能に理性を飲まれて、暴走してしまうのだ。

 力の代償は安くはない。力の代わりに理性が吹き飛び、自分自身を制御できなくなる。ただただ己の本能が求めるままに、襲い、殺し、食らうだけの生き物となってしまうのだ。

 地底組もかなり危なかったが、今は何とか沈静化させる事に成功している。今は、私の霊力で太陽からの影響を完全にシャットアウトしている状態だ。……暫くしたら、完全に正気に戻るだろう。それまではちょっと頭おかしいままだけども。

 

「じゃあ、アレを壊しちゃえば今回の異変って半分以上は解決したことになるね! 霊夢だったら壊せるでしょ? 人間やめちゃってるし!」

 

 こいしちゃんが言うように、太陽をどうにかした方がいい、そう思うかもしれないが、問題が一つあってな。……後、無意味に煽るの止めないと、お仕置きするよ?(菩薩の笑み)

 

「太陽なのに、声が……うそ」

「お、お姉ちゃん? どうしたの?」

「れ、霊夢さん。……あ、アレは、あの太陽は」

「さとり、心を読めるお前ならば理解できた筈だ。そう、あの太陽は――」

 

――霊烏路空そのものだ。

 

 正確には、霊烏路空――お空ちゃんという存在の意識が僅かに混ざり込んでいる、と言った方が正しいね。

 あの太陽に意識を集中させてみて、違和感を感じた。太陽特有の膨大な熱を孕んだエネルギーに混じって、ほんの僅かに匂う妖力。……それは、さとりちゃんからも感じた、お空ちゃんの妖力に他ならない。

 勿論、あの太陽自体にお空ちゃんがいるわけではない。……あの太陽とお空ちゃんの間に強い繋がりの様なものがあるのだ。

 あの太陽が傷つけば、お空ちゃんの精神にダメージが入り、逆にお空ちゃんの精神が壊れれば、太陽の力が弱まる。つまり、アレとお空ちゃんの間には相互関係にあるのだ。

 

 それ故に、あの太陽を消すことは出来ない。あの太陽を消してしまった場合、もしかしたらお空ちゃんの精神そのものが消えてしまうかもしれないからだ。

 さとりちゃんからの依頼は『お空を助けて欲しい』というもの、依頼人の願いを破るのは博麗の巫女の矜持に反する行為だし、何よりも私自身が幻想郷の美少女を傷つける行為を許容できない。そんな事をするくらいなら、死んだ方が遥かにマシだ。……ちっ、八咫烏、あの烏め、本当に厄介な事をしてくれる。

 

 意識を今いる場所よりも更に地下深くに集中させる。そして――感じ取れたのは、異常な熱量と膨大な神の力である。……そこに異変の元凶が、八咫烏に精神を乗っ取られた空ちゃんがいる。

 

「お空を、お空を助けないと。あの子の声が、声が聞こえたんです。「恐いよ、助けてさとり様」って、泣いてるあの子の声が、あの子の声がっ」

「霊夢、お空はっ、お空は大丈夫だよねっ!? 死んじゃってないよねっ!?」

「ああ、今のところは無事だと思う。……だが、さとりが聞いた声から悠長にしている時間はなさそうだ。これ以上、お空を怖がらせたままだと、私達が救出する前に、お空の精神が壊れてしまうだろう」

 

 自分の身体を得体の知れないナニか巨大なバケモノに操られているのだ。

 意識はハッキリしているのに、何一つ自分の意志で身体を動かすことが出来ず、自分の身体は周りを滅茶苦茶に壊していく。家も町も何もかも、大切な家族でさえも、一切合切全てを燃やそうとする。

 抵抗なんて出来ず、ただただ黙って成り行きを見ていることしか出来ない。……誰だって恐いし、私だって恐いと思うだろう。

 

「あ、あぁ」

「そん、な」

 

 直接お空の声を聞いたであろうさとりちゃんと、お空の現状を知ったこいしちゃんの二人は、呆然とした顔で立ち尽くしていた。

 見た感じ、さとりちゃんは自分の力の無さを嘆き、こいしちゃんは自己嫌悪に陥っていると見た。……幻想郷のありとあらゆる美少女を目にしてきた私にっては、表情から相手の心境を読み取ることなど容易いことだ。

 

「しっかりしろ! 古明地さとり! 古明地こいし!」

「「っ?!」」

「敵はただ一人、我々は三人。……何を嘆く必要がある、何を嫌悪する必要がある、恐怖は捨てろ、前を見ろ、進め、決して立ち止まるなっ!」

「れ、霊夢さん」

「霊夢」

「退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ……なんてな、安心しろ、お前たちには私という力がある。この私の命に懸けても絶対に救ってやるさ」

 

 ハッピーエンドをお届けってねぇ! この私に助けられない美少女なんていないんだよぉ! 徹底的にっ、完膚なきまでにっ、完全でスタイリッシュに全てをハッピィィィセットにしてやんよぉぉぉ! ヒィィィハァァァ!(無駄にハイテンション)

 さぁ、君たちも私と一緒に馬鹿みてぇなポジティブ精神でお空ちゃんを助けに行こうぜ!

 気持ちから負けてたら駄目だ駄目だ駄目だッ! どうしてそこで諦めんだよ! 君たちなら絶対立ち上がれる! 立てっ! 立って一緒に戦うんだっ! ネバーギブアップッ! 古明地ぃふぁいとぉーッ!

 

「そう、ですね。そうでした。あの子の事を思うなら、こんなところで嘆いている場合ではないですよね。……くすっ、ありがとうございます。霊夢さん」

「あぁぁぁもうっ! そうだよ私が切っ掛けになったんだから、何としてもお空を助けなきゃいけないんだよっ! クヨクヨするの終わりっ!……えーと、一応、ありがと、その激励してくれて」

「礼には及ばん。……さて、残りの問題は」

 

 私にしがみ付いてひっつき虫と化している、地底組をどうするか、だけども。

 

「……♪(にぱぁー!)」

「むぅ、何の病?(胸に顔を埋めている)」

「綺麗、妬ましい。カッコイイ、妬ましい……温かい、妬ましい(嫉妬妖怪赤面パルパル)」

「なー(背中から覆い被さったまま微睡んでいる)」

 

 うむ、幸せであるっ! って、違う違う違う違う違う、いちゃいちゃしている場合ではないってーの!

 

「お前たち、少し離れてくれ、話がしたい」

「やー!」

「やだ」

「嫌」

「ふしゃあーッ!」

 

 首を振るんじゃない、指に噛み付くな、胸に爪を立てるな、髪を引っ張るな、服が伸びるから強く引っ張るんじゃない、耳を舐めるな、首が痛い痛い痛い痛いっ、いでででっ!?……おい。

 

「いい加減にしろよ? 嫌いになるぞ?」

「「っ!? もっとやだ!」」

 

 驚きの速さで私から離れて、その場に正座する四人。……おや、どうして震えてるのかな? かな? 私ってばこれ以上無いくらいに笑顔なのにね? 自分でも分かるくらい口角上がってるし、目なんて優しく見守るように細めているつもりなんだけどねぇ?……失礼、ちょっと取り乱したね。

 

「こほんっ、別に怒っていないからそんなに怯えるな。……お前たちに頼みがある」

「頼み?」

「うにゃあ?」

「私達が行ったら、此処から先に誰も通さないで欲しい」

 

 明らかに地上からこっちに向かってきている面々がいるんだよね。……気配から、恐らく魔理沙たんを始めとする魔法使い三人娘。ヤバげな気配の幽香。神奈子ちゃん(何か少しの間だけ気が爆発的に膨れ上がっていたけど、何だったんだアレ)を除いた守矢神社の二人である。

 何でこいつら地底に向かってきてんだよってツッコミはこの際しないけど……正直なところ今回は来てほしくなかったなー。

 

 これからお空ちゃんを救う私としてはイレギュラーは避けたいところだ。

 上からやってきた面々はお空ちゃんの事情も知らないだろうし、幽香や早苗とぶつかればお空の命がマッハでヤバイ、あの娘達は私ほど手加減上手くないしね。

 それに、幽香や早苗以外の面々がぶつかった場合は実力不足でお空ちゃんに殺されかねない。いくら私でも死者蘇生は無理だからね。危険地帯に友人たちが来るのを見過ごすわけにはいかないのだよ。

 あの娘たちが異変に介入したら、幽香や早苗がやり過ぎないように注意しないといけないし、他の面々も死なないように、怪我をしないように守らないといけない。

 そして、そうなってしまうと、私はお空ちゃんに集中できず。救えるものも救えなくなってしまうだろう。……だから私が異変を解決するまでの数刻の間、地底組にこの場所を守っていて貰いたいのである。

 

「頼みを聞いてくれたら、ご褒美をやるぞ?」

「まかせてっ!」

「頑張る!」

「ご褒美、妬ましい。……欲しい」

「ニャァァァァァ!」

 

 おお、やる気満々だね、良い事だ。……何気に他の面々が正気に近付いていっているのに、勇儀姐さんだけ猫化している気がしないでもない。

 あんまりにも素直だからか分かんないけど、気のせいか、四人の頭にケモミミが、そして、お尻の方には尻尾が揺れている様にすら見える。……ふぅ、疲れてんのかな、私。

 

「此処は四人に任せて、私達は先を急ぐぞ」

「はいっ!」

「おっけー!」

 

 四人の愉快な地底組に見送られながら、私と古明地姉妹は、更に地底の奥深くへと進んでいく。その先で待ち受けるお空を救い出すために……私達の冒険はこれからだぁ!

 

――博麗霊夢の次回作にご期待下さいっ! さとりちゃん大好きぃぃぃ! こいしちゃんも大好きぃぃぃ! いえーい!

 

 シリアスな空気に耐えきれなかったんや、許して。

 あ、心を読んだらしいさとりちゃんに脇腹抓られた。地味に痛い。……「こんな時に恥ずかしいことを言わないで下さい」? ごめん、ごめんって。

 そして、何かを察したらしいこいしちゃんにも反対側の脇腹を抓られた。だから地味に痛いってば。……「何か、急に恥ずかしくなったから」? 許さんっ、許さんぞぉ! テメェの血は何色だァァァ!

 

 古明地姉妹とじゃれ合いながら、私はお空ちゃんを救うために進む。悲しいシリアスを破壊し、楽しく幸せなシリアルを、地底に広めるためにっ! そう――

 

――お空ちゃんにも私のシリアルを食わせるためになぁ!(意味不明)

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

――太陽。

 

 地上にあると言われている、煌々と燃え盛る巨大なる火の玉。空よりもずっと高い場所にあると言われている、全てを照らし出す恐るべき光の塊である。それが。どうしてなのか――

 

「ぎゃあぁぁぁああ!? あづぃあづぃよぉぉぉおお!」

「何だっ!? なんだぁっごりゃあぁぁぁああっ!?」

 

――燃えていた。

 

 この地上から遠く離れた地の底で、地底の暗闇を引き裂き、全てを照らし出して燃やしていた。町も、そこに住まう住人たちも、全て、何もかも全てを、その大いなる熱量で以て、燃やし尽くしていた。

 何故? と疑問に思う暇もない。力の弱い存在は、太陽の威光の前に為す術もなく、火達磨となり灰になって散るしか無い。

 

「これれれれれががががが?!」

「ヒッヒッヒャァァァアアアハッハッハッハッハッ!」

 

 否、灰になり燃え散った者達は、まだマシだったのかもしれない。

 熱に強かったが故に生き残った者、妖怪としての力が優れてたが故に生き残った者。目の前でいきなり起こった異常事態に呆然と佇んでいただけの彼ら、彼女らにも異変が襲い掛かる。

 お歯黒を塗りたくった口だけの女は、壊れたように叫び出し、その姿を徐々におぞましいものへと変質させていき。

 鬼の系譜に面なる妖怪だった男は、理性を無くしたように壊れた形相で笑い狂い、全身を肥大化させながら力の限りに暴れ回る。

 

――進化。

 

 あるいは成長。

 妖怪としての本能が活性化され、力が高まっていく。理性が蒸発し、まともな思考が出来なくなる。獣以下の存在へと成り下がり、ただ本能の赴くままに暴れ回る事しか出来ない。

 

 下位から中位の力持たない妖怪たちは、一瞬にして己の本能に飲み込まれケダモノと化してしまった。やがて遂には――

 

「ぐっ!? あ、たまがっ割れちまうっ!」

 

――上位の妖怪さえも。

 

 此処にいる一人の鬼、山の四天王と呼ばれる星熊勇儀もまた、己の中で暴れ回る鬼としての衝動に抗っていた。

 直接脳みそを掴まれて全力で振り回されているかのような、とてつもない衝撃が断続的に、勇儀の理性を押し潰そうとしてくる。

 常人ならば、例え妖怪でも一度も耐えきれない恐るべき衝撃。それに耐えられているのは、勇儀の精神力が他を凌駕する程、呆れるほどに強靭だったからに他ならない。

 

「は、ははっ、なんのっこれしきっ!」

 

 勇儀は一人、ギリギリの瀬戸際で正気を維持しながら動く。自分の仲間を守るために、動き出す。

 

「ぎゃはははははっ! 死ねぇぇぇぎゃばぁっ!?」

「おやっさん、あんた、あんなに喧嘩嫌いだったじゃないのさ」

 

 行き付けの飲み屋の店主。喧嘩はするのも見るのも嫌いと言い切った。地底に似合わないヘタレた妖怪を気絶させる。

 

「女ぁ! 女だァァァ!」

「馬鹿野郎、お前この前婚姻を上げたって言ってただろうが」

 

 舎弟の一人。この前、仲睦まじそうに結婚の報告に来ていたそいつ。心底嫁さんを大事にしていたソイツも気絶させる。

 

 一人ずつ、一人ずつ、傷つけないように、傷つけないように、丁寧に気絶させていく。

 己の理性を必死に繋ぎ止めながら、暴走しそうになる己を律しながら、住人たちを気絶させ、地底の町から遠く離れた場所に移動させていく。

 

 此処は、この地底の町は勇儀のシマだ。此処にいる奴らは己のシマの者達だ。ならば、此処を取り仕切る者として、彼ら彼女らを守らないわけにはいかない。否、自分の誇りに懸けても守らないといけない。

 じゃないと、自分は嘘吐きだ。此処で一番強いのに、此処で一番頼りになるのに、誰も守れないなんて、あって良い筈がないのだ。

 

「ごふっ、でも、流石に全員、運ぶとキッツいねぇ」

 

 勇儀は満身創痍だった。今の万全とは程遠い体調で、この地底の町に住まう殆どの妖怪たちを相手にするのは、如何に勇儀と言えども無謀に等しい行為だ。その上、相手を殺さないように、あんまり傷つけないように加減しながら戦わないといけなかった。

 

「ごぼっ、駄目だ、ね。こりゃあ」

 

 その代償として、勇儀は最早指一本として身体を動かすことが出来ないほどに消耗してしまっていた。これでは――

 

「ぐぎ、がっ、やっぱり、な。万全でもっキツかったん、だ。耐えられ、ない、よなっ」

 

――理性が崩れていく。

 

 その強靭な精神力で抑え込んでいた鬼の本能、破壊衝動が表に出てこようとする。万全の状態ならばいざ知らず、今の勇儀にはそれを止める術はない。

 

「ぐうぅぅぅ! あぁっ!?」

 

――理性が本能に飲み込まれていく。

 

 勇儀の感情が、暴力的な鬼の衝動に支配されていく。理性が、破壊し、略奪し、食らい尽くす、怪物的な衝動に飲み干されていく。

 

「があぁぁぁああ■■■■■ッッッ!」

 

――意識が消失する。

 

「■■■■■■■■■■ッッッ!!!」

 

 咆哮だけで周囲の建物を軒並み吹き飛ばす破壊の権化、鬼の本能に支配されし狂戦士が誕生した。

 

 

――別の場所では……。

 

 

「何、アレ」

 

 土蜘蛛、黒谷ヤマメは、地上にある筈のない、ソレを見て、呆然と頭上を見上げることしか出来ない。

 かつて、遠い昔、まだ己の種族が地上に住んでいた頃に見ていたソレ。何よりも高い天から地上を照らし出す光の塊――太陽。

 

「いつっ!? 頭がっ」

 

 呆然と太陽を見つめていたヤマメの頭を衝撃が突き抜けた。

 進化を促す陽の光が、ヤマメの妖怪としての本能を強く、強く刺激する。

 自分の頭から止めどなく衝動が溢れ出てくる。妖怪としての土蜘蛛として、世界中を病魔で満たせ、という強い衝動。この世全ての存在を病ませ、土蜘蛛の威光を知らしめん、という衝動だ。

 意識していないのに、ヤマメの身体から徐々に病魔が溢れ出す。風邪などの定番なものや、人一人を簡単に壊してしまいそうな恐ろしい病原体まで、多種多様な病魔が、彼女の身から溢れ出していく。

 

「病ませ、ないと」

 

 土蜘蛛の本懐を果たせと声が聞こえる。本能が叫んでいる。生き物を病魔で侵せと。人間を病ませ、その負の念を食らいつくせと痛いほどに叫んでいる。

 

「あはっあははハハハッ!」

 

 抗いなど無意味。加速する進化は、ヤマメの意識を土蜘蛛の本能の奥深くへと沈め込んだ。

 

「病め、病め、病め、病め、病め」

 

 土蜘蛛。かつて地上の人間どもを震え上がらせた病魔の化身が、再びその力を奮わんと、歪んだ笑みを浮かべた。

 

 

――また別の場所では……。

 

 

「うぅ、何これ」

 

 桶に身を隠せるほどに小さな少女。妖怪、釣瓶落としであるキスメが、その身を震わせていた。

 キスメは恐怖していた。目が潰れてしまいそうな眩い光が、膨大な熱量を孕んだその火の玉が、恐ろしくて仕方なかった。

 キスメは地上を知らない。地底で生まれ、地底で育った妖怪だ。そのため、目の前にある火の玉――太陽などを見たことは一度もない。

 初めて目にする太陽は、その暴力的な光と熱で、キスメを恐怖させたのだ。

 

「う、あぁぁぁあああっ!?」

 

 そして、進化が始まる。

 キスメの頭の中で、妖怪釣瓶落としの本能が暴れ狂う。釣瓶落としの性――即ち、人間の首を落とし、食らいたいという食欲。

 

「首、首、首首首首首首首首首首ッ!」

 

 しかし、地底には人間はいない。故に衝動はそのまま破壊的なソレへと変化し、手当たり次第に、周囲に撒き散らされていく。

 偶々、近くを通り過ぎた妖怪へ、首に似た形の灯籠へ、人の首を思わせるものを目にした瞬間。キスメはそれを刈り取らんと、その手に持った鎌を振り下ろす。

 

「首を寄越せぇぇぇ!」

 

 釣瓶落とし。鬼火と共に現れ、旅人の首を切り落とす人食い妖怪は、その本能に導かれるままに、首を探して地底を彷徨い歩く。

 

 

――また別の場所では……。

 

 

「あんなに光り輝くなんて、妬ましいわね」

 

 嫉妬妖怪、水橋パルスィはいつも通りに嫉妬を顕にしながら、頭上に輝く光の塊を睨みつけていた。

 自然現象だろうが、何だろうが、あんなに光り輝いているなんて妬ましい。自分とは比べ物にならないくらいに誇らしげに地底を照らしているその在り方が妬ましくて妬ましくて仕方ない。

 

「ん……何、今の?」

 

 嫉妬妖怪であるが故に、太陽にすら嫉妬しているパルスィ。

 そんな彼女にも進化の光は容赦なく襲い掛かる。……しかし、暴走していた他の面々と比べると大人しい。頭を痛める素振りも、見た目に変化が起こったわけでもない。

 ただ――

 

「あぁ、妬ましいわ。本当に……全部全部妬ましい」

 

――明らかに何かが変わっていた。

 

 見た目に変化も、言動に大きな変化もない。だが、何かが、彼女の何かが大きく変化した。

 今まで以上の嫉妬が込められた視線は、憎悪すら感じさせ、この世全てを恨んでいると評しても何ら可笑しくはないおぞましさを孕んでいた。

 彼女は嫉妬妖怪、嫉妬心を糧に力を得る妖怪だ。そのため、彼女の本能は嫉妬する事に終始する。何よりも、誰よりも卑屈に、嫉妬深く他者を見やる。

 

「あの太陽も、この地底の町並みも、狂う者共も、私達を地底へ追いやった地上の奴らも、皆っ、皆っ、皆っ! 妬ましいッ!」

 

 妬めば妬むほど、嫉妬すれば、嫉妬するほどに、ドス黒い憎悪に染まった妖力がパルスィの身体から立ち上る。今、この瞬間にも、より強く、より深く、この世全てを己の嫉妬で染め上げんと、その勢いを増していく。

 

「あはっ、はははっ……最高よ、最高に妬ましいッ!」

 

 橋姫。かつて裏切られ、その復讐を果たした嫉妬の妖怪。この世全てを憎まんと、その嫉妬に塗れた瞳で何処までも卑屈に世界を睨みつける。

 

 

 地底の妖怪の中でも特に強力な力を持った存在へと進化を果たした。四人の少女たち。

 

「■■■■■ーッ!」

 

――暴力の化身となった鬼、星熊勇儀。

 

「病め、病めぇぇぇ!」

 

――病魔の化身となった土蜘蛛、黒谷ヤマメ。

 

「首、首、首だッ」

 

――首刈りの殺戮者となった釣瓶落とし、キスメ。

 

「皆、強いのね。……妬ましい、妬ましいわ」

 

――嫉妬に塗れ憎悪の塊となった橋姫、水橋パルスィ。

 

 各々、進化して手に入れた力を思い思いに奮い、地底で暴れ回っていた。

 このまま、このまま、己の本能に飲み込まれ、全てを破壊し尽くすまで止まることなない。……そう思われていた。そう――

 

「成る程。……これが私に助けを求めた理由の一つか」

 

――博麗の巫女がいなければの話であるが……。

 

 地底に訪れた、人間の巫女。

 見ただけで鬼の本能を刺激され、食らってしまいたいと衝動が暴走してしまう美味そうな人間。

 見ただけで病に侵してやりたいと思った、病ませ甲斐のありそうな人間。

 見ただけでその首を落として、食らってやりたいと思った綺麗な人間。

 見ただけで嫉妬に狂い、その全てを台無しにしてやりたいと思った完璧過ぎる人間。

 

 襲い掛かろうとした。本能に任せて、進化して強大になったその力で、その巫女の全てを蹂躙してやろう、と襲い掛かった。だが、軽くあしらわれた。

 殴りかかった拳は優しく掴み取られ、常人ならば、一瞬で死に至る病の瘴気すら一切効かない。

 首を落とそうと振り回される鎌はその服に掠らせることすら出来ず、嫉妬して睨みつけても、それ以上の嫉妬が籠もった視線で射竦められる。

 たかが人間だと侮ったわけでもない。そもそも侮るだけの理性はない。ただ本能が促すままに全力で、全力で奮った自身の力が全く以て通用しなかった。

 その挙句――

 

「く、びゃいッ!?」

「やめぇッ!?」

「妬ましぇいッ!?」

「■■ッ!?」

 

 ただの威圧で、全員が悟らされた。

 目の前の人間には逆立ちしたって、どれだけ進化したところで勝てない、と無理矢理理解させられた。

 

「さて、どう料理してくれようか」

 

 四人に共通する思い――恐怖。耐え難い恐怖が、剥き出しにされていた妖怪の本能を、暴走していた本能を徹底的に、完膚なきまでに叩き潰した。

 逃げたい、此処から逃げ出してしまいたい。みっともなくても構わない、どれだけ無様を晒しても構わない。ただ、この目の前の巫女から、この目の前の、薄く微笑んでいる人間から、一歩でも遠くへ離れてしまいたい。

 形振り構わず逃げようとするが――

 

「こらこら、逃げるな」

 

――結界が行く手を阻む。

 

 逃げられない、終わった、絶望。

 ゆっくりと近付いてくる巫女、四人は無意識に身を寄せ合い震えることしか出来ない。

 目の前に巫女が立つ、四人は目を強く瞑って、これから自分の身に起きるであろう痛みに耐えようと構える。構える、構えて――

 

「安心しろ、怖がらせてすまなかったな」

 

――温かい何かに包み込まれた。

 

 恐怖が一転して困惑へと変じる。

 半ば理性を失っていても、この行為が如何に不可思議なものかは理解できる。敵対している筈の相手を抱きしめるという行為。

 慈しむように、安心させるように、親愛を込めて優しく、優しく、どうしようもなく優しくて、柔らかく包み込んでくる。

 頬を寄せ、擦り付けてくる。親犬が、子犬に対して行うソレと同じ様に、大事なものを可愛がる様に、愛情が込められている。

 

 恐る恐る、怒っていないのか尋ねるキスメの頭を撫で付け、菩薩のように柔らかく、優しく微笑んでくれる。

 直訳して「お前病気か?」と問い掛けるヤマメにも、冗談交じりに直訳して「私は病気だ」と言って笑顔で対応してくれる。

 驚きが大きすぎて、嫉妬心すら湧いてこなくなってしまったパルスィにも、優しく言葉を交わし、その嫉妬の裏にある想いを理解してくれる。

 言語が絶賛大崩壊中の勇儀が、本能のままに甘え出しても、その全てを受け入れ、限りなく甘やかしてくれる。

 

 本能が剥き出しにされた思考の中。

 

 釣瓶落とし、キスメは――

 土蜘蛛、ヤマメは――

 橋姫、パルスィは――

 理性無き鬼、勇儀は――

 

「お前たち、少し離れてくれ、話がしたい」

 

――この巫女を己の飼い主にする事に決めた。

 

 決して離れてなるものか、この人間を己の主にするのだ。

 

「いい加減にしろよ? 嫌いになるぞ?」

 

 ちょっと恐いけど、それでもこの人間を己の主にする。

 

「こほんっ、別に怒っていないからそんなに怯えるな。……お前たちに頼みがある」

 

 ひと目見たその瞬間から、妖怪としての本能を擽られた。あの人間がどうしても欲しいと、本能が叫んだ。

 

「私達が行ったら、此処から先に誰も通さないで欲しい」

 

 その本能すらも叩き潰されたが、その上で、この人間が魅力的に映った。人とは思えない圧倒的な力も、その凛々しい表情も、頬を緩めて優しく目を細めながら見守ってくれる優しさも、全部。

 

「頼みを聞いてくれたら、ご褒美をやるぞ?」

 

 取り敢えず、ご褒美は絶対に欲しい。

 

「まかせてっ!」

「頑張る!」

「ご褒美、妬ましい。……欲しい」

「ニャァァァァァ!」

 

 四人の……否、四匹の妖怪が、博麗の命を受け、勢い良く散開する。

 この先へと決して進ませてなるものかっ! あの人、ご主人様の元へは絶対に行かせてなるものかっ!

 その在り方はまさしく忠犬。己が決めた主人の願いを叶えるために、その力を奮う、四匹の忠実なるペットの姿がそこにはあった。

 

 地の底を、四匹の走狗が往く。主の願いを叶えるために、芽生えたばかりの忠心を示すために……。

 

 

 

 これは完全に未来の話であるが、正気を取り戻しても、この時の記憶はしっかりと頭に残る。

 四人が、自分の記憶に身悶え、巫女と鉢合わせる度に、恥ずかしそうに顔を真っ赤に染め上げ、その上で未だに自身の内側から溢れ出すペット願望に心臓をドキドキとさせる日は、割と近い未来だ。




かくたのぉ!(いつものアレ)

長らく開けていたから、ちゃんと書けているか心配だけども、何度も見直ししたから、まぁ、エエやろ(いつもの春巻き)。

さて、そんなわけで本格的に地霊殿に入り始めました。
いつも通り、巫女が自分勝手に暴れ回り、その巫女に落ちていく少女たちの姿が描写されていく。ワンパターンですね、分かります。
でも春巻きさんは、基本的に書きたいものを書いていくスタイルなので、このパターンは鉄板ですね、はい。

うちの巫女(変態)は最強なんだよぉ!

ではでは、また次の更新まで、アディオス。


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【地霊殿】少女、対峙


お待たせしたのですわ!

どうも春巻きザマス! 色々と長引いてしまったザマスが、それはよーござんしょ。

これよりお待ちかねの博麗伝説の続きを投下するザマス!

用意は良いザマスか? では……

ホィザマスゥ~(ノ゚∀゚)ノ ⌒ 【最新話】


 これより語られるのは、博麗霊夢と古明地姉妹が去った後の地底での出来事である。

 

 

 霊夢の言いつけを守り、その場で地底への侵入者の迎撃に努めるキスメ、ヤマメ、パルスィ、勇儀の四人。

 

「ふぇぇぇ!」

「な、何で私はっ、あ、あんな事をぉぉぉあばばばばばっ!」

「あぁぁぁぁぁああ!」

「何だアレッ! 何だアレッ! ぐおぉぉぉおおお!」

 

 既に狂気は過ぎ去り、正気を取り戻した地底組。……彼女たちは悶えていた。

 キスメは顔を真っ赤にしてあたふたと手足をバタつかせ、ヤマメは錯乱したように首をイヤイヤと振り回す。

 パルスィは崩れ落ちるように膝を折りながら頭を抱えて絶叫し、勇儀は四つん這いになって悲痛な叫び声を上げる。

 

――穴があったら入りたい。

 

 それが、地底組に共通する心境である。

 いくら正気を失っていたとはいえ、初対面の人間に甘えたり、駄々をこねたり、甘えたり、駄々をこねたり、甘えたり、駄々をこねたrああぁぁぁああ!

 

 キスメは、親に甘える子供の様にあの巫女の手にひっしりとしがみついた。

 ヤマメは、抱き締められたまま、あの巫女の豊満な胸に顔をしっかりと埋めて匂いを堪能した。

 パルスィは、パルパルするのも忘れて、ただただ笑顔で巫女の腕に己の腕を絡めてまるで恋人の様に横に並び、巫女の腕に頬ずりした。

 勇儀に至っては、発情した猫みたいな鳴き声をあげながら、巫女の背中にひっしりと抱き着き、ガッチリと大しゅきホールドを決め込んだ。

 これは恥ずかしい。いや、恥ずかしいを通り越して恥ずか死ぬ。耐え難い羞恥心が、四人の精神に多大なるダメージを与えていた。どうしようもなく恥ずかしい、恥ずかしいが。しかし――

 

「「温かかったなぁ」」

 

――思い出す。

 

 あの時の感触を、匂いを、温かさを……。

 巫女との触れ合いは、ちょっと意味が分からないくらい心地良かった。

 頭を優しく撫で付けてくれる手の平の感触。見ているだけでこっちも幸せになってしまいそうな笑顔。何よりも愛おしいと言わんばかりに抱き締めてくる柔らかい胸の中。……その全てが地底組の心の底に刻み込まれてしまっていた。

 

 強制的な進化による、妖怪としての本能の暴走。

 剥き出しにされた本能は、己よりも圧倒的強者である存在を感じたことにより屈服し、屈服した存在から与えられた優しさと温かさに、完全に魅了されてしまったのである。

 理性を取り戻した今もソレは変わらない。気付けば、あの時の触れ合いが脳裏を過ぎり、体の芯から熱く熱く、火照ってしまうのである。

 

 またあの時みたいに触れ合いたい。出来れば、優しく頭を撫でて欲しい。……屈服した本能が巫女への恭順を促してくる。

 本能の奥深くへと刻み込まれた恭順欲。……支配されたいという強い思い。自分よりも強い存在に屈服し、その存在の思い通りに、意のままに、犬猫の様に扱われたいという強い強い願望。

 

――ペットになりてぇ。

 

 ぶっちゃけてしまえばそんなところである。

 

「いやいやいやいや、何を考えているんだ私はぁぁぁ!?」

「ペット、ペット、かかか飼い主に嫉妬ととと」

「ヤバイ病んでる。今の私めちゃくちゃ病んじゃってるよぉぉぉ!」

「お姉さんと一緒、ずっと一緒、ふぇぇ」

 

 理性を取り戻しても、飛んでいるときと殆ど変わっていないとかそんな事言ってはいけないのである。

 

「何だ、この状況」

「霊夢がまた何かをやらかしちゃったようね」

「そうね。逆にあの馬鹿霊夢がやらかしていない方が不思議だわ」

「んっふぅ……くふふっ、霊夢は何処かしらぁ?」

「あそこで悶えている奴らに聞こっか、早苗GO!」

「ご自分で行って下さい、諏訪子様」

 

 感情を持て余す地底組の元にやって来たのは、地上組。……地上から地底へと、一人の巫女を追い掛けてやって来た少女たち。

 魔理沙、アリス、パチュリーの魔法使い三人娘。幻想郷で最も危険な妖怪、幽香。今回の異変の原因を解き放った超守矢神のお仲間である諏訪子と早苗の守矢神社の二人。

 魔法使い三人娘は、場の雰囲気からあの巫女のやらかしを悟り、幽香は場に残った霊夢の匂いに軽く絶頂しながら霊夢を探し、守矢の二人は地底組を指差しながら、どちらが声を掛けに行くかで揉めている。

 それぞれの我が強すぎてマイペースにやりたい放題である。……余りにもまとまりがない。これこそまさに幻想郷クオリティ。

 

「良いから行けってのッ! 早苗GOォ! GOォォォ!!」

「はぁ、騒々しい。全く以てこの神は、仕方がないですね」

 

 しきりに行け行けと声を荒らげる諏訪子を冷たい目で一瞥し、ため息を一つ溢した早苗は、やれやれと首を振りながら、未だに這い蹲っている地底組へと歩み寄る。

 

「もし、そこの方々、何やら悶えているところ申し訳ないのですが、少しお時間宜しいですか?」

「ッ!? だ、誰だっ!」

「おやおや、これは失礼しました。……私は東風谷早苗、後ろで喧しいのはその愉快な仲間たちです」

「「誰が愉快だってっ!?」」

「ご覧の通り愉快な仲間たちです」

 

 仲間を適当に説明した早苗にツッコミが入るが、流石は傲慢なる風祝、抗議の一切合切を無視して問答無用に切り捨てる。

 

「さて、自己紹介は終わりました。此処に巫女服の女性は来ませんでしたか? 夜の帳の様に黒い髪に、赤と黒の露出過多な巫女服を身に付けた大変見目麗しい女性です。……後、近い内に私の物になる女性です」

「「誰が、誰の物になるだってっ!?」」

 

 挙句、本人の同意なく勝手に自分の物宣言(巫女本人は喜びそうだが)。……早苗さん、マジ早苗さんである。

 

「来たと言えば来たんだけどね。……悪いけど、此処から先にお前たちを通すつもりはない」

「それはそれは……何故かお聞きしても?」

「それが、あの人間との……あの巫女との約束だからさ」

 

 そう、約束である。……ご褒美込みの約束である。

 巫女は言っていた、此処から先に誰も通すなと。お願いを聞いてくれたらご褒美をあげると。……ご褒美、ご褒美だ。だったら頑張らないといけないじゃないか。

 

「だから、意地でも此処から先には行かせないよ」

「面白い事を言いますね。貴女達程度で、そこにいる魔法使い達、風見幽香、諏訪子様……何よりもこの私を止められるとでも?」

「止めるさ」

 

 止めてやる。ああ、止めてやるさ。

 それぞれがそれぞれの決意を込めて、地上からやってきた少女達を睨みつける。

 星熊勇儀――鬼として、一度した約束を違えることなど有り得ない。……己の誇りと、本能の奥深くに刻まれた恭順欲のままに、漢気溢れる迫力で、地面を踏み砕きながら力強く。

 水橋パルスィ――妬ましい、妬ましい、己にこんな気持ちを植え付けた巫女が妬ましい。……此処を去った巫女への嫉妬混じりの強い想い。そして、そんな巫女を付け狙う少女たちへの憎しみが吹き出していく。

 黒谷ヤマメ――病めぇ……。……巫女の豊満な胸に包み込まれ、そのままその匂いやら体温やらを直接堪能してしまった彼女は、もう色々と手遅れかもしれない。

 キスメ――お姉さんと一緒。……巫女に好かれたい、その役に立ちたいと考えている純粋な少女。ある意味ではこの地底組の中で一番まともな感覚で巫女からのお願いを守ろうとしているのは彼女だけである。

 まぁ地底組の想いを簡単に説明するなら――

 

「これでも昔は星熊童子と言われてた鬼さ、真っ向からの力比べでは負けないよっ!」

「黙って聞いてれば貴女、さっきから偉そうで妬ましいわね」

「もう悩むのは止めたぁ! きっちりと足止めしてご褒美貰っちゃうよ!」

「頑張るっ!」

 

――ペット舐めんなファッ○ユー。

 

 拳を鳴らし、鋭利な爪を光らせ、瘴気を放ち、鎌を構える。

 それぞれの想いを胸に、地底の少女達は地上より来たりし少女達へとその牙を向けた。

 

「うふふっ、霊夢とヤる前の準備運動くらいにはなりそうねぇ」

「あーうー、やっぱりこうなったかぁ……霊夢のやつ、ほんっとうにっ! めんどくさい事してくれたねぇ」

「ふぅーっ、嘆かわしい。実力差が理解できていないのですか?」

 

 応じ、構えたのは地上の実力者達。

 風見幽香――ああ、霊夢。ああ、ああ、霊夢。ああ、霊夢。……完全にイッちゃてる目で舌舐めずりしながら、霊夢の匂いが強く残っている地底の少女達を品定めする(主に誰から一番霊夢の残滓を感じ取れるか的な意味合いで……)。

 洩矢諏訪子――へぇ、私らを放っぽって、こんな地の深くで新しい女を引っ掛けたのかい。……自分達に構ってくれなかった馬鹿巫女をどう困らせてやろうか考えながら、あの馬鹿巫女に何やら熱意を燃やしている少女たちを睨め付ける。

 東風谷早苗――私の物に懸想するなど、実におこがましいですね。……天井知らずの傲慢さを振りまき、その身に宿る奇跡を増大させながら、強者たる己に挑み掛からんとする無知なる少女達を遥か高みから見下ろす。

 そう、彼女たちの心境を簡単に説明するならば――

 

「良いわぁ、お前(霊夢の匂い的な意味で)。そう、鬼のお前よ。貴女から先に相手してあげる。……うふっうふふっあはっあはははははーっッッ!!」

「なぁにがご褒美だってぇ? あの馬鹿には私ら守矢がきっちりと落とし前付けさせるんだよ。……残念だけど、あんた達の取り分はなしだよっ!」

「偉そう? 当然でしょう。何故なら私は奇跡を起こす者。即ちこの世全ての頂点に立つ存在なのですから」

 

――黙れぽっと出の新参がっ! 調子に乗んじゃねぇぞッッッ!!

 

 優雅に傘を回して凶笑しながら、神の力を漲らせて鉄輪を取り出しながら、何処までも傲慢に異質な奇跡の力を高めながら払い棒を手に取る。

 巫女への想いを(変な方向に)燃え上がらせながら、牙を向けてきた少女たちを、真っ向から切って落とさんとする。

 

「此処はやる気のある奴等に任せて、私らはとっとと奥に進むとしよう。……離れると同時に目くらましでぶっぱするからよろしく」

「同感ね。……なら私は撹乱用のデコイでもバラ撒いとくわ」

「此処での消耗は馬鹿のすることよ。……念のため、邪魔されないように適当に妨害用の罠でも置いときましょう」

 

 戦意を漲らせる面々を他所にさっさと離脱の準備を整えるのは、魔法使い組。

 霧雨魔理沙――いや、私は別に戦いに来たわけじゃないし、霊夢の手伝いに来ただけだし。……箒に飛び乗り、八卦炉を構え、魔力を収束させながら離脱準備を整える。

 アリス・マーガトロイド――当然、回避一択でしょう? 此処でまともに相手するのは馬鹿か脳筋のすることよ。……内心、挑発に乗って構え出した幻想郷屈指の実力者達にため息を吐きながら、離脱用のデコイ人形たちを大量に喚び出す。

 パチュリー・ノーレッジ――普通に面倒くさい、アイツら強そうだし。……地底組の少女たちの実力に内心冷や汗をかきながら、その有り余る魔力を用いて、空間上に、地面に、ありとあらゆる場所に魔法陣を出現させ、不可視の罠を仕掛けていく。

 彼女たちの考えを簡単に説明するならば――

 

「んじゃ、お先に失礼するぜ!」

「さようなら」

「また会わないことを願っているわ」

 

――サラダバァァァ!

 

 全速力で空を駆けながら後方に向かってドデカイ砲撃をブチかまし、魔法使い三人にそっくりな人形たちが四方八方に散らばり、見えない罠がそこら中に張り巡らされる。

 先に向かった巫女を追って、その場にいる全ての者を置き去りに一目散に離脱していく。……計画通り(By、某新世界の神)。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 はっ!? 今、何処かで面白い事が起こっているような気がする!

 今日も京都で怪電波を受信中、皆のアイドルにして、オ◯ズの超絶美少女、博麗霊夢だよ! やぁ、このオス豚、メス美少女共ぉ! 今日も元気にシコシコ自◯行為してるぅ? そんな君たちには博麗お姉さんからのご褒美を、ア・ゲ・ル(はぁと)。……いや、嘘だよ(真顔)。そんなのあげるわけねぇじゃん、気持ち悪っ。

 ねぇ、期待した? ねぇねぇ、期待した? ハハッ! 期待した卑しい卑しい変態は挙手したまえー。この社会で最も価値のない卑しい卑しい畜生は手を挙げたまえぇー。お姉さん怒らないから挙手しなさァァァい!(最高にゲス顔)

 

 う・そ(レ◯プ目)、清く正しい幻想郷の守護者であるこの博麗お姉さんが、そんな酷い事を言う筈がないじゃないの。

 ごめんねー、お姉さん言い過ぎちゃったねぇ。さぁおいでー、今なら博麗お姉さんが抱き締めてイイ子イイ子してあげよう。精一杯の愛情と、その他諸々の色んな気持ちを込めてやさしーく、抱き締めてあげよう(ただし美少女に限る)。……何してんだろ、私。

 

 はい、何時もの悪ふざけは、次元の彼方に放り込んどいて……本題である。

 唐突だが、一言だけ言っておきたいことが……否! 言わねばならぬ事があるのだ! これを言わなかったら私は、私である存在意義を失ってしまうほどに重要な事だっ!

 私が博麗霊夢である以上、決して無視することの出来ない重大な事。それは――

 

「さ、とりさまぁ、お空がっお空がぁっ!」

「よしよし、お燐。良い子だから泣き止んで、ね?」

「そーだよ、お燐、助っ人も連れてきたんだから大丈夫だよ!」

 

――百合って良いよね(何時もの色ボケ巫女)。

 

 いや、シリアスな空気なのは理解している。ちゃんと理解しているとも。

 お友達であり、共に同じ主に仕える家族でもあるお空ちゃんが暴走している。そんなお空ちゃんを想って涙しているお燐ちゃん。

 涙を流すお燐ちゃんを圧倒的母性で包み込みながら、泣き止ませようと頭を優しく撫でてあげているさとりちゃん。

 横ではこいしちゃんが、さとりちゃんと同じようにお燐ちゃんの頭を撫で撫でしながら、身振り手振りで励まそうとしている。

 いやいや、何度も言っているが、シリアスな光景でこーんな下衆な想像をしてはいけないのは、ちゃんと、ちゃーんと理解している。それは私の師匠であり母であり、女神でもある由緒正しきスキマ妖怪のゆかりんに誓っても良い。

 でもね、知っての通り、私はガチレズで、百合の化身と言っても良いくらいには美少女大好きお姉さんだ。そんな私が、目の前で少女たちが抱き合いながら、頭をナデナデなどしている光景を目の当たりにしてみろ。……そんなの色んな意味で元気になるに決まってるだろうが、ふざけんなこんちくしょう(お前がな)。

 

「霊夢さん、紹介します。この娘が私のペットの一人、お燐……火焔猫燐です」

「ほら、お燐! 自己紹介っ!」

「ぐすっ、は、始めま、して、火焔猫、燐、です。ひっく、お、お燐って、ひっく、呼んで、下さい、うぇ」

「ああ、始めましてだな、お燐。私は霊夢、博麗霊夢だ。お前の主であるさとりとこいしから依頼されてな、今回の異変の中心となっている霊烏路空……お空の救出のため、この地霊殿に来た」

 

 目をグシグシと拭いながら、涙声で自己紹介するお燐ちゃん。……ああ、もう鼻水出てるじゃないか、ほらほらお姉さんのハンカチを使いなさい、ほらチーンして、チーンするんだよ、うんうん、チーンしたね? ハハッ!(←ハンカチに付着した液体をガン見する変態の図)

 

 火焔猫燐……通称、お燐。

 地霊殿の主である古明地さとり、その妹である古明地こいしのペットであり、地底の萌キャラ筆頭でもある美少女だ。灼熱地獄跡で怨霊の管理や死体運びを任されており、本人の趣味も灼熱地獄の燃料になる死体集め、と中々にイイ趣味をしている。……また、その特性故か、霊や死体と会話することが出来る。

 深紅の髪を両サイドで三つ編みにして、根本の方と先の方を黒いリボンで結んでいる。所謂おさげという奴、前髪はパッツンで揃えられている。後は、瞳の色は髪と同じ赤色の猫目ね。

 何より特徴的なものが、その頭部にてニョッキリ生えている黒い猫耳である。……可愛い。後、猫耳あるのに、人間としての耳もあるので、実質耳が四つある事になる。……可愛い。ぶっちゃけた話、どちらの耳でも楽しめるのはポイント高いと思うのよね、まさに耳フェチ歓喜ってやつだよ。

 服は黒の下地に何やら緑の模様の入った物を着用している。……簡単に言ってしまえば、ゴスロリファッションに似た服装だ。そこにプラスして、手首と首元には赤いリボンを、左足には黒地に白の模様が入ったリボンを巻いている。

 そして、その形の良いお尻の方には、ニャーンと揺れている二本の黒い尻尾。……思いっ切り掴んで、シュッシュッって擦ってあげたい(息ハァハァ)。

 

 その性格は陽気で人懐っこい。

 前世の知識によると、主であるさとりちゃんやその妹であるこいしちゃんに対しては、親に対する子供のような感情を持っており、非常によく懐いているそうだ。また、仲間意識も強く、同じペットの霊烏路空ちゃんに対して良く世話を焼いている世話焼きな一面もあるらしい。

 今はお空ちゃんの件もあって元気がない様子。……さっさと異変を解決して、この可愛らしい猫娘の元気いっぱいな姿を拝みたいものである。出来れば、私に懐いてくれるととても嬉しい。

 いやー猫耳属性は、まだ橙ちゃんくらいしか見た事がないから正直テンションアゲアゲですな。あの猫耳をこねくり回してみたいし、あの尻尾も弄んでみたいし、猫がだーいすきなマタタビをコレでもかと嗅がせて、思いっ切り発情させてみたいとか色々と考えてしまう。……是非ともこれからイイ関係を築いていきたいものである。

 それに、さとりちゃんとの話では、私と内面が似ているそうだし(誤解です)、これは是非ともじっくりねっちょりと語り合いたいものだねぇ(酷い誤解です)。

 能力は『死体を持ち去る程度の能力』、あるいは『怨霊や死体を操る程度の能力』である。

 死体を持ち去る程度の能力と言ってはいるが、ただ単に死体を素早く猫車に乗せて運び去るという、呼んで字の如くの技術の事を指している。

 彼女のメインとなる能力は、怨霊や死体を操る力の方であり、文字通り怨霊や死体を自由自在に操ることが出来るそれなりに強力な代物だ。その能力故か、幽霊や怨霊、死体などと会話することも出来る。

 また火車という妖怪としての特性なのか、炎を操る力も持っており、かなり芸達者な娘である。

 私個人としては、美人の幽霊や怨霊、また死体と会話できるという能力は非常に興味あるところではある。流石に、霊や死体と致したいなどというとんでもない事は考えていないが(明後日の方を向きながら)、既に死んでいる美少女とも会話し放題とは大変素晴らしい力だと思う。……これから先、私の前に立ち塞がるであろうキョンシー少女とも会話を楽しめる様になるかもしれないしね。うーあー!

 

「それにしても、お燐、お前はあの太陽の影響を受けていないようだな。……いや、お燐だけじゃなくお前たちもと言った方が良いかもしれんが」

「は? 太陽? えっと……何の話をしてんですか?」

「いや、可笑しいとは思っていた。地底の全ての妖怪が影響を受けている中、一部の妖怪……地霊殿に住んでいる、お空に最も近しい存在だったお前達が、何の影響も受けていないことに、な」

「「っ!?」」

 

 いやー実際おかしいとは思っていたのよね。どうして、この三人だけが、お空ちゃんの家族である地霊殿の三人だけが、何の影響も受けずにピンピンとしていられるのか。

 既に八咫烏に取り込まれている筈のお空ちゃんが、どうしてこの三人だけを見逃しているのか、それは、つまり――

 

「ああ、お空! 貴女って子はっ!」

「自分が大変なのにっ、そんな無理してっ!」

「あたいなんかの事よりも、自分の事を考えてればいいのにっ!」

 

――間に合う。

 

 というか、間に合わせるけども。……恐らく、お空の精神は、まだ八咫烏のクソ野郎とは完全に融合していない。

 それは、古明地姉妹や、お燐ちゃんが進化の影響を全く受けていないという事実から証明できる。……完全に融合していた場合や、身体の制御が奪い取られていた場合は、此処にいる三人は無事では済んでいない。悪ければ、進化の影響を受ける前に、あの太陽の圧倒的な熱量によって蒸発していた可能性すらあった。……不幸中の幸いとはこの事である。

 

 万が一、億が一の話ではあるが、もしも幻想郷の美少女が、さとりちゃんやこいしちゃん、お燐ちゃんが、私と出会う前に死んでいたみたいな事になったら、私は――発狂する。発狂して、全てをぶち壊そうとするだろう。……元凶を討ち滅ぼし、彼女たちがいなくなった世界を認められず、全てを滅茶苦茶にして無かったことにしようとする事だろう。そして、救えなかった己自身に幻滅し、絶望し、二度と転生できないように、己の全てを殺し尽くすことだろう。

 まぁ、あくまでももしもの話だから、単純に元凶をぶっ殺してから、ハラキリするだけかも知れないけどね。

 

 とにかく、この考えの通りであるならお空の救出はかなり楽になる事は間違いない。

 何せ、融合しきっていない八咫烏の力をお空の身体から摘出して、八咫烏の精神を握り潰せば終わりだからね。……その前の無力化が少々、いやーかなりめんどくさそうなんだけどね。

 

 地霊殿より深く――旧地獄の方から感じる力の波動。……それはドクンッ、ドクンッと心臓が脈打つように、強く重い響きを撒き散らす。

 

――強くなっている。

 

 ほんの僅かな間に、急速に、確実に、その力を増している。

 ただでさえ、この幻想郷でも強力極まりなかったその力が、時間が経つ毎に、徐々に徐々に引き上げられていく。……そうだよね。あのアホみたいな太陽を作り上げた本人が、その進化の力を自分自身に適用できない筈がないよね。

 

――進化。

 

 既にその力は、幽香の本気モード(全力モードではない)や常識外の奇跡(アンリミテッド・ミラクル)の早苗(無論、一騎当千天地無双(ザ・ネオ)は除く)にすら差し迫っている。……いや、このまま放置してイタズラに時間を消費していったら、ほぼ確実に幽香や早苗にすら匹敵する強者に進化を遂げるだろう。

 あの太陽の莫大な火力を秘めたまま、幻想郷の例外連中と同程度の実力を持つ。……うん、幻想郷どころか、世界とか宇宙とかがヤバイね。ヒェッ(今更である)。

 

「お空の力が、八咫烏の力が増している。……これは、一刻を争う事態だ」

「なら急がないとっ!」

「急ぎたいのは山々なのだがな。……どうやら、お客様のご登場らしい」

「「――ッ!?」」

 

 後方から、こちらに向かって物凄い勢いで迫る三人の少女の気配を感じ取る。

 快活とした魔力に満ち溢れた気配――魔理沙たん。静謐な魔力に満ち溢れた気配――あーちゃん。ツンと尖った魔力に満ち溢れた気配――パチュリーちゃん。

 魔理沙たんを筆頭にした、幻想郷の魔法使いっ娘トリオが、超スピードで迫ってきていた。サラマンダーよりも速ーい!……アカン(関西風)。

 

「やっと追いついたぜ!」

「ごきげんよう霊夢」

「ふん、私から逃げ切れるなんて思わないことね」

 

 降り立ったのは三人の少女。

 魔女帽子を被ったちんまい少女、ビスクドールの如き美貌の少女、寝間着のようなゆったりした服装の少女。

 ちんまい――魔理沙たんは目を爛々と輝かせながら、ビスクドール――あーちゃんは頬を少しだけ膨らませながら、寝間着――パチュリーちゃんは無駄にドヤ顔をかましながらである。

 あれか、私が何も言わずに置いていったのが、そんなに嫌だったのか? 可愛い奴らめ。愛でるのは最後にしてやる。

 

「れ、霊夢。あの人たちは?」

「友人だ。……はぁ、どうやら私を追ってきたらしいな」

「霊夢、私を仲間外れにするなんて酷いじゃないか!」

「ねぇ、霊夢。今日は私とお茶会の約束をしていた筈でしょう? 何時まで経っても来ないから、こうして探して、探して、探したのに……まさか、こんなところで他の女と一緒にいるなんて」 

「私が態々新しい本を持ってきてあげたってのに、留守にしているのはどういう了見なのかしら?」

 

 いやいや、魔理沙たん、別に仲間外れにしたわけじゃないんやで? ただ、今回の異変が特殊過ぎて、私一人で対処した方が良さげだったから、声掛けなかっただけなんやで?

 あーちゃんは、何で「信じていた彼氏が、他の女とイチャついていた光景を見てしまった可哀相な彼女」みたいな面しているん? 涙目可愛いけどさ。

 パチュリーちゃんは、理不尽すぎてワロタ。でも、本云々の話が友達である私に会いに来るための口実だって知ってるから許しちゃう。

 

「こんな地の底まで私を追ってくるとは、物好きな奴らめ。……そんなに私に構って欲しかったのか?」

「おう!」

「ええ!」

「そうよ!」

 

 やだ、魔法使い組可愛過ぎぃ。

 全員が何でかドヤ顔しながら、私に向かってサムズアップである。いや、本当マジ無理ぃ。死んじゃう、可愛さとか尊みとかで私死んじゃうぅぅぅ! はあぁぁぁんっ!(胸を抑えて仰け反ってるイメージ)

 でも、ごめんね。今回は君たちに構っている時間はないのよね。……残念だけど、君たちの冒険は此処までにしてもらわないといけないんだ。

 

「突然だがお燐、お前に一つ頼みがある。報酬はお空を無傷で助け出す事だ」

「あ、あたいに出来ることなら何でもするよ!」

 

 ん? 今、何でもするって言ったよね? じゃあ、脱gゲフンッゲフンッ!

 

「んなっ!? い、いきなり頭を撫でないでよ!」

「騒ぐな、気が散る」

 

 えーっと、お燐ちゃんの潜在能力はー……うんうん、な・る・ほ・どねぇ。

 これなら、此処をこうして、アレをあーして、私の霊力を呼び水にして、此処を上手く統合して引き合わせて、固定してしまえばー。

 

「妖気固定、潜在能力最大開放。……覚醒(おきろ)!」

「うにゃ!? あ、あたいに何がぁ!?」

 

 お燐ちゃんの身体を溢れんばかりの閃光が包み込む。周囲一帯を照らし、地底の空に光の柱を形成する。……私がガキの頃に、一度だけ橙ちゃんを相手に使った技だけど。どうやら上手くいったみたいだねぇ。

 

「お、お燐?」

「さ、さとり様? あたいに何が起こってるんですか?」

「わぁー! お燐が大きくなったぁー!」

 

――博麗さん式覚醒術。

 

 私の霊力を呼び水にして、周囲からあらゆるエネルギーを集め、膨大な妖力を作り出し、作り出した妖力を覚醒させたい対象に向かって注ぎ込む技である。

 この技の特徴は文字通り覚醒。対象者の潜在能力を引き出し、その者が成長し、最終的に行き着くであろう全盛期の力を再現する荒業である。

 欠点は、その効果時間、僅か数時間という短い間のみしか強化できない。そのため、長期戦には不向きの技である。……最も、その欠点に見合った効力は発揮するんだけどね。

 かつてこの技の対象になった橙ちゃんは、幻想郷最強クラスまでその力を引き上げ、敵対していた馬鹿な妖怪や、阿呆な神を血祭りに上げていた。当時、中級にも満たなかった弱小妖怪だった橙ちゃんが、自分より何百倍も実力のあった妖怪を一方的に惨殺できたのだ。その上、当時この技を使った私の技量は今の私よりも遥かに劣っていた。つまり――

 

「お燐、お前への頼みというのは、この三人娘を怪我させないように足止めする事だ」

「あ、あたいにそんな事が出来るんですか?」

「試しに、そこら辺に爪を振ってみろ」

「え、は? そ、それぇ!」

 

――覚醒完了。

 

 お燐が振り下ろした爪、その直線状にあった景色に五本の爪跡が刻み込まれた。

 

「え?」

「「えぇぇぇぇぇッッッ!?」」

 

 その場にいた全員が、目玉も飛び出さんばかりに驚愕の声を上げる。

 当然だろう、精々中級クラスの力しか持たなかった妖怪が、突如として幻想郷の例外連中には届かないまでも、それらのつま先程度には迫っている馬鹿げた力を出したのだ。……その事実に驚愕しないものなどいる筈もない。

 

「どうだ驚いたか?」

「あ、あたいどうなっちゃったのぉぉぉ!?」

 

 そう、これが今の私が行える覚醒術だ。

 対象となる相手の潜在能力を全て開放した上で、その開放した潜在能力が極限まで引き出された状態を更に強化した状態で固定化する。

 どんな弱小妖怪でも、瞬時に幻想郷でも屈指の実力者へと変貌を遂げる。その辺の有象無象の虫けらが、その次の瞬間には遥か見上げる天空の竜すらも噛み殺せるほどの存在へと昇華するのだ。

 

――たかだか数瞬余りで、蚊トンボを獅子に変化(かえ)る。覚醒とはそういうものだ。

 

 お燐ちゃんの姿は、もう少女と呼べるそれではなく、大人の女性としての魅力に溢れた姿へと変貌していた。

 少しだけ慎ましかった胸も、すっかりと実を付け、まるでスイカかメロン、否、それ以上に豊満な代物へと変化し、少し身じろぎするだけで、重力に逆らって弾む弾むッ弾むッッッ!!

 身体の艶めかしさ、括れは流石猫の妖怪とでも言えば良いのか? 手足は長く靭やかでしっかりと引き締まっており、その姿、先程までのお燐ちゃんがキティだとするならば、今のお燐ちゃんは獲物を狙う美しきハンターである。

 更にその色っぽい大人のエロスに満ち溢れてた肉体を、少女然としたゴシックロリータで覆い隠しているのである。しかし、ゴシックロリータのサイズが微妙に合っていないのか、胸は窮屈そうにパッツンパッツで、下はその白く長い足が露わになっており、ミニスカートにしか見えない。

 エクセレント! ディ・モールトベネ! もう最高だよお燐ちゃん! 異変が終わったらお姉さんと一緒に、夜の狩りの練習しようね!

 

「お燐、やれるな?」

「な、何が起こってるのか正直全然分かってないけど。……分かった、やってみる」

「よし、良い子だ」

「うにゃ、だ、だからいきなり頭を撫でないでよ! もう!」

 

 猫耳ゴスロリ美女が、顔真っ赤でプンプンしている光景だけで、軽くご飯五合くらいはかき込めそう。そう、私は思いました(粉ミカン)。

 

「そんなわけだ。……私を追いたいなら、此処にいるお燐を超えてから来るといい」

「へんっ! そんなの言われなくてもぉっと!?」

 

 いきなりお燐ちゃんを無視して、特攻をかましてきた魔理沙たんが、思いっきり仰け反る。

 

「行かせないよ!」

 

 お燐ちゃんが放った炎が、魔理沙たんの顔面ギリギリコースを横切っていったからである。……うん、見た感じ、ちゃんと怪我はさせないように攻撃できているみたいだね。これなら任せても安心できそうだ。

 

「さて、行くぞ。さとり、こいし。お空が待っている」

「お燐、私達は先に行くけど、無理だけはしないでね!」

「お燐頑張ってぇ!」

「分かりました!……霊夢! さとり様とこいし様をちゃんと守ってよ! お空もちゃんと救ってよね!」

「フフッ、任せろ。博麗の巫女に二言はない」

 

 お燐ちゃんに見送られながら、私達は地霊殿の奥深くへと進んでいく。その先にて助けを待つお空ちゃんを救うために、今回の異変をしっかりとハッピーエンドに導くためにッ!

 

「あの、霊夢さん。流石にちょっと恥ずかしいんですけど……」

「ちょっと霊夢! 自分で歩けるってば!」

「喋るな、舌を噛むぞ?」

「ひゃああぁぁぁああ!?」

「へにゃぁぁぁあああ!?」

 

 ちなみに、古明地姉妹に合わせて移動するより、私が抱えた方が早いという事実に気付いてしまったので、片腕に一人ずつお姫様抱っこで抱え込んでいます。……腕に伝わる古明地姉妹の感触、程よい体温が大変心地いい。これだけで私は千年は戦える気がします。

 高速移動の際に二人が涙目で騒いでいる光景は素直に可愛かったので、脳内カメラで激写しました。……ふふーん、別にエロい光景だけ保存しているわけじゃないんやで? むしろ、私にとっては幻想郷の美少女たちのこういう可愛らしい光景や、ちょっとした日常のシーンの方が大変美味しい代物なんや、むふふっ!

 

 無論、降ろした後に私の脇腹が抓られたのは言うまでもない。……いてぇよいてぇよ!(唐突なハート様)

 





か・く・た・のぉぉぉぉぉおおおお!!!(いつものぉぉぉおお!)

色んな意味でテンションが上がっている伝説を語りたい系職人の春巻きです。
え? 何の職人かだって? そんなの納豆混ぜ混ぜ職人に決まっているじゃないか。

来る日も来る日も、納豆を混ぜて混ぜて混ぜまくる日々。
熱い日も、寒い日も、風の強い日も、混ぜて混ぜて混ぜる。そして、遂に到達する混ぜの境地、納豆という発酵食品が最後に行き着く未知なる領域。
その果てに至らんと、日夜混ぜを行っている職人だ(此処まで全部嘘)。

はい、意味の分からない話はゴミの日にでも捨てておいて……春巻きです。皆さん、最新話楽しんで頂けましたか?
いつも通り、軽快なステップとノリとテンションと、その他の謎要素で書きまくっている当作品ですが、そろそろ、皆さんに「このっ変態めっ!」と罵倒をされないか心配になってきているところです(何を言っているんだコイツ)。

何か色々とアウトに限りなく近いグレーゾーンを相変わらず爆走させていますが、大丈夫です、安心して下さい。これから先も完全なシリアスは書くつもりはありません(書いているとぽんぽんがペインペイン)。
これからもどうか、皆様には巫女(ヤバイ)の暴走を生暖かく見守って欲しいと考えています。

以上、尻切れトンボの春巻きからでした(これ以上語るの秋田)。
では、次の更新までまたのぉ!


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【地霊殿】少女、激闘


長らくおまたせしたね。春巻きさんだよ。
いや、長らくおまたせしたね。春巻きさんだよ。
いや、本当に長らくおまたせしたね。春巻きさんだよ。
いや、本当にマジで長らくおまたせしたね。春巻きさんだよ。
いや、本当にマジでヤバイくらい長らくおまたせしたね。春巻きさんだよ。
いや(ry

そんなわけで最新話です。
予告通り、色んな意味でネタをぶっ込んだカオスな状態になっちゃってます。
多分、いや楽しく書けたのは確定的に明らか(いつものハードル上げ)ですので、遠慮なく楽しんで、いっぱい感想を下さい。

↓【最新話】 投下ッ!



「アッハッハッハッハッハーッ!」

「そらそらそらそらぁぁぁ!」

 

 空気が悲鳴を上げるほどの暴風。大地が震撼し、砕かれた瓦礫が宙へと吹き飛んでいく。

 片や凶笑、何処までも純粋に、悪魔的に歪んだおぞましくも美しい微笑を浮かべながら、その暴力を振るい続ける大妖――風見幽香。

 片や豪快、刺すように真剣に、されど何処か楽しげに快活で勝ち気な笑みを浮かべながら、その豪腕で迎撃し続ける鬼――星熊勇儀。

 二人の妖怪が拳を振るい、力のままにぶつけ合わせる度に、地底が大きく揺らぐ。衝撃波が空を叩き、地面に亀裂を走らせる。

 

「良いわ、良いわね貴方。それなりには出来るじゃない」

「へっ、まだまだこんなもんじゃないさッ!」

 

 そう、こんなものではない。鬼の、私の力はまだまだこんなものではないっ!

 

「うっおりゃァァァアアア!!」

 

 地面に思いっ切り腕を差し込んで、そのまま一息に引っぺがして持ち上げる。自分の何百倍もの大きさの巨石を軽々と片手だけで支える。――何のために?

 

「そりゃあぁぁぁあああ!!」

 

 無論、投げるためだ。

 鬼の剛力をフルに活用しての投擲である。勇儀が投擲した巨岩は、音速の領域すらも軽々と突破し、空気の壁を何枚もぶち破りながら、幽香に向かって突き進む。

 並みの妖怪では――否ッ! それが例え上級の妖怪であろうとも、まともに喰らえばタダでは済まない。タダで済むわけがない強力極まりない鬼の豪速球。……相手が、そう――

 

「アハッ!」

 

――風見幽香でなければッ!

 

 迫る巨岩を凄絶な笑みで出迎える。……やるのは単純明快、真っ向からの迎撃だ。

 拳を思いっ切り握り込む。周囲の空間そのものが歪んで見えてしまいそうな程に、しっかりと、しっかりと力一杯握り込む。……そして、ゆっくりと、幽香は己の身体を捻る、捻る。固めた拳を後ろに引き、上半身を限界まで捻った独特の構え、刹那――

 

「ヒュ〜……やるねぇ」

 

――轟音。

 

 勇儀が投げた巨岩が爆発四散し、砂煙が辺りに立ち込め、砂利の雨が周囲に降り注ぐ。……幽香の凶拳が、真正面から巨岩を微塵に粉砕した。

 

 勇儀は素直に驚嘆する。

 妖怪の中でも極めて強力な存在である鬼、その中でも「怪力乱神」、「力の勇儀」とまで呼ばれ、畏れられている自分にすら匹敵、あるいは凌駕するほどの馬鹿げた腕っ節。

 身に纏う妖力に至っては上限が見えず、底が見えない。推し量ることすら出来ない天井知らずときた。

 

「ッ!?」

「うふふっ、次は私の番――」

 

 煙が晴れ、勇儀が目にしたのは、指先を此方に向ける幽香の姿。……収束するのは妖力、目に見えるほどの膨大な力が指先に収束していく。

 

「――虚閃」

「う、うおぉぉぉおおお!?」

 

 緑と黒の光線が、真っ直ぐと勇儀に向かって突き進む。……疾いッ! 回避は不可能ッ!

 勇儀は即座に防御を選択、地に足をどっしりと構え両手を前に突き出す――ッ!? 衝撃が手の平を伝って、全身を駆け巡る。身体は後ろに押し出され、構えた足は大地を削っていく。

 とんでもない力だ。強靭な鬼の皮膚を焼き、怪力無双の力が押されている。この鬼の肉体が無造作に放たれたただの光線に押されているッ!

 

「はあぁぁぁああ!」

 

 勇儀は襲い掛かる熱、衝撃に耐えながら、両腕に力を込めて、光線の軌道を無理矢理上へと逸らしたッ!

 上へと軌道を変えた閃光は、頭上――地底の天井へと着弾。そして、そのまま直線状に存在している岩盤を全て破壊し、直進していく。

 

「はぁ、はぁ……たまげたねぇ」

 

 勇儀を照らす光。幽香の放った閃光は、頭上にあった岩盤を軒並み吹き飛ばし、地上へと続く巨大な風穴を開けていた。

 戦慄した。その強さに、何処までも突出した、暴力という形の一つの完成形とも言えるその女の姿に震えが止まらない。

 正しく規格外。その一撃一撃が地形を変え、天変地異にも匹敵する破壊を撒き散らす。……これが、これこそが風見幽香。幻想郷で最も凶悪――最凶の妖怪の二つ名を冠する、妖怪の超越者。

 

「へぇ、それなりに力を込めてみたつもりなんだけど。……霊夢が目を掛けてあげただけの事はあるじゃない」

 

 一方の幽香は、勇儀の力を僅かばかりではあるが高く評価していた。

 なるほどなるほど、確かにあの霊夢が気にしただけの事はある。己には遠く及ばないが、他の有象無象の雑魚共よりは遥かに上等な存在だ。

 霊夢以外で、あの人間(?)の規格外以外で、己と真っ向から拳を交わした者は、己の放った虚閃を耐えきった者は誰一人としていなかった。

 全力でもないし、大して本気も出してはないとはいえ、これは快挙である。己と遊ぶ資格がありそうな妖怪を見たのは、随分と久しぶりだった。

 

「霊夢って、あの巫女さんの名前か?」

「あら、知らなかったの? なら特別に教えてあげるわ。お前達が見た巫女の名前は霊夢、博麗霊夢。私の唯一無二の好敵手にして、私の大好きな大好きな大好きな大好きな大好きな……ふふっ、殺してしまいたいほど大好きな人間よ」

「色々と突っ込みたいけど、あんたが霊夢の事を大好きだというのはよーく分かったよ。……だったら、なおさら此処から先に行かせるわけにはいかなくなったね」

「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて地獄に落ちるって言葉を知らないのかしらねぇ?」

「生憎、あんたは人じゃないし、この地底に馬は一匹もいないよ」

 

 ましてや、絶望的なまでに開き切った実力差を悟った上で、真っ向から戦いを挑もうとする大馬鹿者など、この長い長い妖怪としての生の中で見たことなど一度としてなかった。

 

――面白い。

 

 単純にこの大馬鹿者が、どれだけ抵抗してくるのか興味が湧いた。……無論、手は抜こう。壊れない程度には闘ってやろう。だから――

 

「その減らず口、何時まで持つのかしら?」

「聞きたきゃいくらでも言ってやるさッ!」

 

――精々、私を楽しませてみなさい。

 

 せめて霊夢とヤる前の肩慣らし程度にはね。

 山の四天王が一角と最凶の妖怪。二体の怪物が、その強大な力をぶつけ合う。大地を砕きながら、空を切り裂きながら、再度、互いの拳をぶつけ合った。

 

 

ーーー

 

 

「あーうー! イヤになるなーっ! もうっ! うわっ!?」

 

 守矢神社の土着神――洩矢諏訪子は自分に襲い掛かる青白い炎――鬼火とドス黒い瘴気の塊を回避しながら叫ぶ。

 

「外しちゃった」

「あーあ、惜しかったねキスメ。……それにしても流石は神様だよ。私の力も効き目が薄いみたいだし」

 

 小さな身体を桶に入れ、残念そうに眉を顰めている少女、キスメ。黒い瘴気を纏いながらケラケラと笑う少女、黒谷ヤマメ。

 首を刈り取る妖怪、釣瓶落としと、ありとあらゆる病魔を操る妖怪、土蜘蛛。……正直、種族として見るならば、彼女たちはそこまで強い妖怪というわけではない。人間にとっては危険極まりない妖怪ではあるが、同じ妖怪、ましてや神からしてみれば、歯牙にも掛けない矮小な妖怪だ。

 

「ふぁっくっ! 全く、本当にッ、厄介なこんびねーしょんだねッ!」

 

 覚えたての英語で悪態を言い放ちながら、二人の攻撃を捌き続ける。

 矮小な妖怪、その筈だ。その筈なのだ……だが、実際はどうだ。二人がかりとはいえ、「土着神の頂点」とすら呼ばれ、畏れられているこの洩矢諏訪子と互角――否、上回ってすらいる。

 

 何より厄介なのが――

 

「逃さないッ!」

「ふわあぁぁぁ!?」

 

――桶。

 

「おらおらおらおらぁぁぁ!」

【ハーッハッハッハッハッハッ!】

「うばばばばば!?」

 

――謎の人型。

 

 キスメが搭乗している桶。どういう原理なのか、底の部分から緑色の粒子の様な物を吐き出しながら自由自在に立体機動を繰り返している。防御力も生半可ではなく、仮に此方の攻撃を当てることが出来たとしても、傷一つすら付けることが出来ない。

 ヤマメの背後に浮かび上げっている半透明の巨人のような存在。獅子のように広がる赤毛を靡かせ、般若のような恐ろしげな面をした六本腕の筋骨隆々の怪人。その見た目通りのとんでもない馬鹿力で周囲の景色を薙ぎ払いながら、強力な瘴気を周囲に撒き散らしまくっている。

 

 何だアレ、何がどうしたらこんな意味不明な状況になるんだッ!?

 あの桶は何だ!? 最近の桶はあんなに無駄に高性能なのか!? 何でビーム出せるんだよ! そもそも、桶なのかアレは!?

 あの人型は何だよ!? 絶対アレだけ世界観可笑しいだろ!? どっかの奇妙な世界に登場する妙にスタイリッシュなヴィジョンかナニかかよ!?

 

 諏訪子大混乱である。変な怪電波を受信するくらいには大混乱である。いや、むしろこんな訳のわからない状況に立たされて発狂していないだけ、彼女は偉い。流石は土着神の最高峰である。(関係ない)

 

「GNサイスを使う!」

「だからっなんじゃそりゃぁぁぁ!?」

 

 桶から射出されたやたらメタリックな近未来兵器を振り下ろすキスメ。それを諏訪子は驚愕のままにイナバウアーで回避する。本人の必死さとは裏腹に、上体を後ろに反らした彼女のその姿は余りにも美しいフォームを描いていた。(百点満点)

 

「おらぁ! 行きなッ!」

【セイメェェェッッッ!!!】

「人違いですぅぅぅ!?」

 

 ヤマメの掛け声と共に、六本腕の巨人が諏訪子に向かって乱打を繰り出していく。その一撃一撃が強力な打撃、空を穿ち、大地を砕く鉄拳だ。

 しかし、諏訪子は避ける、避ける、避ける。諏訪子がこの怪物の攻撃を避けられるのは、この怪物の攻撃が単調であるのと、何よりも長い年月を生きている膨大な経験値があるからである。

 というか、一発でも当たったらその瞬間に諏訪子致命傷である。打撃ダメージと、状態異常を同時に付与されて大変なことになっちゃうのである。……避けないと。(諏訪子涙目である)

 

 これが進化で手にした真の力である。

 キスメ――手にした力は、世界を変革する力を有するOKE。平行世界、純粋種と称された青年が駆る人型兵器の力を宿した最強のOKEである。

 ヤマメ――手にした力は、遭遇してはならない妖と称された怪物の力を、恥知らずと称された猛毒の人型の力を宿したヴィジョンである。

 

 暴走した状態では気付かなかった力。正気に戻った時に初めて自覚した力である。

 

「いい加減にしろぉぉぉ!」

 

 少女たちの執拗な攻めに遂に土着神がブチ切れる。

 足裏で地面を叩いて、地底の奥底で渦巻いている祟り神たちを呼び起こす。諏訪子の呼びかけに応じた祟りの力は石で出来た無数の蛇の怪物へと変じ、敵対者に牙を剥く。

 生命創造。幻想郷広しといえど、これほどいとも容易くこの奇跡を行えるのは、諏訪子以外には誰もいない。あの博麗霊夢を始めとする規格外の怪物たちでも、不可能な御技だ。

 諏訪子が創造した蛇は神獣。神の力を与えられ、神の敵対者を排除せんと、その牙を振るう怪物だ。

 その牙に噛まれれば、たちまち身体中を祟りの力が駆け巡り、苦しみ悶えて死に絶える。ましてや相手は妖怪としての格ならば上級にも届いていない。……筈である。

 

「あっちゃー、やっぱり祟り神かぁ。私と一番相性最悪な相手じゃん」

「同意」

 

 そう言いつつ、本人たちは笑顔である。

 キスメの桶が妙な起動音を奏で出し、ヤマメの背後の巨人がその般若面をぐにゃりと笑顔へと変化する。

 

「でも、さっきのお姉さんと本気で戦うよりは大分マシ」

「だよねー!」

 

 少し前、四体一で遊ばれていた時の光景を思い出す。鎌は微塵たりとも当たらず、挙げ句、瘴気の中で深呼吸される始末。

 最終的に自分達を一瞬で屈服させた、あのとんでもなく規格外な威圧感。……あの時と比べたら、目の前の神は、蛇は、なんとも小さく頼りない。

 

「来いよ! 地底の小娘共!……出来れば桶とかその人型とか捨てて掛かってこい!」

「やだ」

「お断りするよ!」

「だと思ったよ、こんちくしょう!」

 

 諏訪子が放った大量の蛇がキスメとヤマメの両名に殺到する。

 

「うん、分かった。行こう」

 

 桶の内側部分に文字が浮かび上がる。

 

――【OKENS-AM】

 

「気合い入れて行くよぉッ!」

【千年ぶり(生後数時間)の本気だァァァ!】

 

――発気よぉい!

 

「神様舐めんじゃないよ!」

 

――あの、帰って良いですか?(by祟り神)

 

 桶が人型が、蛇が、それぞれの主の命を受けその力を存分に振るい出したッッッ!

 

 

ーーー

 

 

「妬ましい」

 

 その人間にあるまじき容姿も、強さも、自信に満ち溢れた傲慢過ぎる表情も、何もかも全てが妬ましい。

 橋姫、嫉妬妖怪である水橋パルスィは妬み、憎悪する。目の前の存在を、これ以上ない負の感情で以て妬み、憎悪する。

 

「妬ましい」

 

 何より妬ましいのが、あの巫女と親しい間柄であろうという事実。

 己に抗いがたい感情を植え付け、颯爽と去っていたあの見目麗しくも恐ろしい、あの巫女と親しいであろう存在。

 自分より早くあの巫女と出会い、あの巫女と言葉を交わし、あの巫女と触れ合い、あの巫女と笑い合い、親交を深めたであろう存在。

 

「妬まッしいッ!」

 

 この女だけではない。あの凶悪顔の妖怪も、ガキみたいな神も、無駄に個性的な魔法使い共も、あの巫女と一緒にいた地霊殿の覚妖怪もッ! 自分を差し置いて、あの巫女と仲良くしようとしている全ての存在が妬ましい(憎たらしい)ッ!

 自分が理不尽な考えをしているのは分かっている。自分とあの巫女が出会ってからまだ数時間も経っていないのも分かっている。言葉を交わしたのも、触れ合った時間も、他の面々に比べると遥かに短く、薄い繋がりでしかない事も分かっている。

 

 しかし、しかしだ。それでもパルスィは己の内より湧き出る感情を抑えるつもりは一切無かった。確かに僅かな時間だ、ほんの少しの間の戯れにも等しい一時しか過ごしていない関係だ。

 だが、それがどうしたというのだ。自分があの巫女に惹かれたという事実は変わらない。あの巫女の存在を深く刻み込まれた己には関係ない。

 

――恋は、愛とは時間ではないのだ。

 

 たとえ一目惚れだとしても、身を焦がさんばかりに燃え上がるこの想いを否定される謂れは何処にもありはしない。

 

「邪魔よ」

 

 目の前にいるこの女も、他の有象無象共も皆、皆。

 そう、だからこそ、目の前にいるこの女に嫉妬するのだ。深く深く、憎悪すらも込めて、己の内にある全ての負の感情を剥き出しにして、嫉妬に狂う。

 

「ふぅ、全てにおいて頂点に立つ私に嫉妬するのは当然のこと、と言いたいところですが、貴女の場合は些か度が過ぎていますね」

 

 まるで深く底の見えない奈落の様だ。

 常人であるならば恐怖し、狂ってしまっても可笑しくはない、黒い黒い、とてもドス黒い負の感情。それを向けられている当の本人である人間――傲慢なる奇跡の体現者、東風谷早苗はしかし、微塵も動じない。……何故か?

 

「まぁ、それでも貴女程度の睨みでは、何も感じないのですがね」

 

 それはひとえに傲慢故に……。

 驕り高ぶった思考。獅子の如き圧倒的自負心に裏付けされた、異常極まりない強靭なる精神力。

 確かに恐ろしいのでしょう。憎悪と呪詛が込められた視線は、対象の魂を染め上げ、侵し、狂い殺すほどまでに凶悪な代物なのでしょう。

 ですが、それが何なのでしょうか? 如何におぞましかろうとたかが視線、たった一匹の妖怪の睨み。そんなものでこの早苗を、この世全ての奇跡を体現するこの東風谷早苗を、どうにか出来ると本当に思っているのか?

 

「折角なので教えてあげましょう――」

 

――常識外の奇跡(アンリミテッド・ミラクル)

 

 恐るべき奇跡が解放される。

 

「――埋めようのない圧倒的な格の差というものを」

 

 ですので、私の所有物である霊夢さんの事は綺麗サッパリ、すっぱりと忘れて下さい。

 そんな副音声が聞こえて来そうなドヤ顔で、何処までも何処まで上から目線で、嫉妬に狂っている妖怪を見下ろす。

 

「……」

「おや? 返事が聞こえませんね。……では、もう一度だけ言いましょう。あの霊夢さんはこの私の所有物ですので、綺麗サッパリと忘れて、嫉妬しか出来ない哀れな貴女は、一人寂しくこの地底の奥深くで自分を慰めていなさい」

 

 副音声の部分どころか、余計な部分まで継ぎ足して言い放った。無駄に綺麗で無駄に腹の立つ無駄に完成されたドヤ顔である。……こやつ煽りおる。

 

「……やる」

「はい? 聞こえませんよ? もう少し大きな声でお願いします。Repeat after me」

「コロシテヤル」

 

 火に油どころか核燃料をぶっこんだ早苗である。

 パルスィの纏っている負の感情が尋常ではない事になってしまっている。黒い感情はパルスィ自身の妖力と混ざり合い、周囲の空間を叩いて砕いて押し潰して引き裂いて引きちぎって切り刻んで噛み砕いて磨り潰して飲み干していく。

 

「妬ましい、お前が、私の想いを馬鹿にしたお前が妬ましい。強いお前が妬ましい、あの人と親しいお前が妬ましい、あの人を自分の物だと断言するお前の傲慢さも全てが、全てが全てが全てが全てが全てが全てが全てが全てが全てが全てがッ!――」

 

――妬ましい(コロシタイ)

 

 塞き止められていた何かが壊れる音が聞こえた。

 

「あ、ああっ、あはっアハハハハハッ!」

 

 極限まで高まりに高まった嫉妬(憎悪)の念が、パルスィの身体を包み込みドス黒い繭のような形状となる。

 繭は胎動し、肥大化し、瞬時にその大きさを増していく。ナニかが、ナニかが生まれようとしている。恐ろしいナニかが、おぞましいナニかが、この地底で生まれようとしている。

 

「おぎゃあああああ!!】

 

 生まれた、最悪が。生まれ出た、恐怖が。

 九つの尾を持った金色の化生。憎悪に歪み切った怪しげに輝く緑の瞳。見るものの精神を絶望で満たすその悪魔的で毒々しい表情。

 

【我、緑眼也。我とあの女以外の全て滅ぶ可しッ!】

「ほぅ、面白い。出来るものならやってみなさい」

 

 青白い炎を吐きながら、破壊を撒き散らす災厄の化身――緑眼の者(パルスィ)。

 払い棒で軽く素振りをしながら、変わらない傲慢さで息を漏らす奇跡の体現者――早苗。

 

 光と闇、両極端な属性を持った二人の戦いの幕が遂に切って落とされた。

 

 

ーーー

 

 

「霊夢のやつぅぅぅ! 余計なことしやがってぇぇぇ!」

「ゴ、ゴリアテェェェ!?」

「……お家帰りたい」

 

 魔法使い組、阿鼻叫喚である。

 箒を巧みに操りながら、背後から襲い掛かってくる存在から必死に逃げ回る魔理沙。迎撃するために召喚した巨大人形が一瞬で大破した事実に悲鳴を上げるアリス。頭を抱えてしゃがみ込みながら現実逃避するパチュリー。

 もう一度だけ、敢えて言おう。魔法使い組、阿鼻叫喚である。

 

「うーん、一時はどうなるかと思ったけど、ちょっとはこの力の使い方も分かってきたかな?」

 

 その原因は、このゴスロリ猫耳美女と化した彼女――火焔猫燐である。

 火焔猫燐、お燐は強かった。否、強すぎた。巫女の手によって、強制的に潜在能力を引き出され、極限まで強化された彼女の実力は幻想郷でもトップから数えた方が早い程に高まっていた。

 身体能力――語るに及ばず、爪を立てて振り下ろすだけで直線状にある景色を引き裂くことすら可能になり、少し足に力を込めて飛ぶだけで、音速の壁を何個も突破した殺人的な加速で移動出来る。相手の攻撃を受けても、本人の妖力と純粋な肉体強度に阻まれてダメージを与えることすら出来ない。

 更には――

 

「そぉらぁ! 出番だよアンタ達!」

【ゔぁあああああぁぁぁぁ!】

 

 彼女の言葉に反応して、地面から這い出てくる無数の人型。

 生気を感じさせない死んだ目、腐敗し、ボロボロになっている肉体。……所謂ゾンビという奴らが、お燐に付き従って、魔理沙達魔法使い組に襲い掛かっていた。

 人間の、妖怪の、妖精の、神の、屍となった彼らが、生前に違わぬ力を持って、押し寄せていく。落ち窪んだ目で見ながら、腐敗しすぎて骨が見える手を伸ばしながら……。

 

「うわぁぁぁぁぁ!? こっち来んなァァァァァッ!」

「嫌ァァァァァ!?」

「お家帰りゅぅぅぅぅぅ!」

 

 普通にコワい。助けて霊夢。

 魔法使い組、ガン泣きである。攻撃の意思すらかなぐり捨てて、少しでも距離を取ろうと無我夢中で逃げ惑う。……だって涙が出ちゃう。女の子だもの。

 ホラーは駄目、駄目なのだ。如何に普通の魔法使いといえども、如何に七色の人形遣いといえども、如何に七曜の魔法使いといえども、コワいものはコワい。

 以前、霊夢がイタズラで仕掛けた怖い話(作り話)でも本気で恐がって、暫く一人でトイレに行けなくなる程に恐がりなのだ。(無論、霊夢が責任を持って連れていきました)……何で君たち魔法使いしてるの?

 

「これで、一応は足止め成功しているって考えてもいいかなぁ?」

 

 いや、普通にゾンビ出しただけなんだけど。

 死体を一時的に操ってけし掛けただけで、早くも足止めが成功した。この事実に喜べば良いのやら、歯ごたえの無さに悲しめば良いのやら。

 ちなみに、死体を操るのは霊夢によって強化される前も出来た。流石に、一人バイオハザード……もとい辺り一面を覆い尽くす程の死体の山を操ることは出来なかったが、それでも数十程度の死体の群れを作り出すことは造作も無かった。

 

 魔法使い組の様子を見るに、強化前の自分でも足止め出来たんじゃないかと思ってしまう。……いくら何でも恐がりが過ぎる気がする。よく今までやってこれたなこの三人。

 

「取り敢えず、念のためもう少し追加しとこ」

 

 あれ? こんな妖怪いたっけな? シルクハットにコートを身に纏った意味不明な大男が何体か地面から這い出てくる。……うん、見るからに強そうだ。

 なるほど、これが霊夢の強化か、とうんうん、と頷き、大男もけし掛ける。(鬼畜)

 

「なんだコイツぅぅぅ!?」

「ゴリアテが投げられたッ!?」

「お……家」

 

 大男は無表情で魔理沙たちを追跡する。無言で歩き、静かに歩を進める。途中で倒れているゴリアテ人形を片手で掴んで投げ飛ばしながら、無言で歩み寄っていく。

 SAN値(正気度)がステータスとしてあるならば、間違いなく直葬されてもオカシクない絶望的でホラーな光景。

 そろそろ発狂しそうな、三人の明日はどっちだ!?

 

――「BIOHAZARD -UNDERGROUND-」

 

 ゲームを始めますか?

 

→ はい 

  はい

 

 どう足掻いても絶望。

 

 

ーーー

 

 

 何か私が真面目に、真面目にッ!(大事なことなので二回叫びました) 異変解決に尽力している間に、面白い事が起こっている気がするッ!

 主に地底組と地上組のキャットファイト的な意味で、キャットファイトがちょっとネタにしか思えない状況に陥っている的な意味でねッ!

 

 もっと具体的に言うならば……。

 ちょっと殴り合えそうな相手を見つけてキャッキャウフフしているゆうかりんとかッ! そのゆうかりんに決死の覚悟で挑むカッコイイ勇儀姐さんとかッ!

 神様ムーブしてたのに、相手の予想外の実力にキャラ崩壊待ったなしで押されまくっている諏訪子ちゃんとかッ! 武力介入しちゃいそうなキスメちゃんとかッ! スタンドに目覚めたヤマメちゃんとかッ!

 傲慢が過ぎて相手を挑発しまくって煽りまくる早苗ちゃんとかッ! その早苗ちゃんの煽りによってヤバイ方向に覚醒してしまったパルスィちゃんとか!

 何かとっても面白そうな事が起こっている気がするのだよ! 私、気になりますっ!

 

 こりゃあ、さっさと異変解決して、合流するしかあるめぇ! 祭りじゃ祭りじゃぁぁぁ!

 

「と、止まってくだしゃいぃぃぃぃぃ!?」

「吐くッ! 吐いちゃうぅぅぅ!? うっぷ」

「ッ!?……すまない」

 

 私の高速移動のせいで、抱っこしている二人がグロッキーになってしまった。いや、本当に申し訳ない。巫女ったらうっかりしちゃってたわ、てへぺろっ。(可愛いけど、可愛くない)

 二人を降ろして、その背中をサスサスしてあげる。……邪な気持ちは一切ないよ。二人の小五ロリの背中がすべすべしてて気持ちが良いとか、背中を撫でているせいで、微妙にくすぐったそうに身を捩っている姿にくるものがあるとか、そんな事実は何処にもないんだよ?

 そもそも、私がさとりちゃんママァにそんないかがわしい邪な感情をぶつけるわけないじゃないか、私の天使で女神である彼女に、そんな感情をぶつけるわけがないじゃないか。ぶつけるわけがないじゃないかっ!(大事なry)

 ただし、こいしちゃんテメェは駄目だ。お前にはさとりちゃんの分の劣情も込めていやらしくサスサスしてやる。私のハートに詰まったこの真っ白でドロドロになった感情を、君の奥深くで解き放つために、ありとあらゆる手を使って、君の全てに刻み込んであげよう。フハハハッ!(と言いつつ優しくサスサスしてあげる霊夢ちゃんなのでした)

 

「此処が最深部か」

 

 うん、シンプルだね。普通に地底の奥深くって感じの場所だよ。

 イメージ的には、溶岩の火口? みたいな感じかな。……火口とか見たことないけど。

 その中心部分で円球状に丸まっている膨大なエネルギーの塊がある。……神の、八咫烏の膨大な力の波動を撒き散らし、成長を、進化を続けている。

 

「「お空ッ!」」

 

――霊烏路空。

 

 異変の元凶となってしまった少女の姿がそこには合った。

 此処で霊烏路空――お空ちゃんについておさらいしてみよう。恒例の原作知識的な意味合いで。(メ、メタァ)

 

 しっとりとした濡鴉のような長い黒髪に、赤い瞳を持った可愛らしい顔立ちの少女であり、その背中からは鴉らしい漆黒の翼が生えている。身体つきも幻想郷の美女連中には及ばないまでも、それに匹敵する程度には抜群のプロポーションを誇っており、うにゅほの八咫烏っぱいとかに魅了された哀れな亡者は数知れないだろう。(その内の一人である巫女が何か言ってる)

 服装は白いブラウスに緑のスカート。頭には緑色の大きなリボンを身につけ、背中の翼には上から白いマントをかけており、マントの内側は宇宙空間が映し出されているという謎仕様。

 右足には「融合の足」と呼ばれている溶岩上の固形物が具足のように装着され、左足には「分解の足」と呼ばれている、黄色に輝くリングが装着され、右腕には「第三の足」と呼ばれている、多角形の制御棒が装着されている。

 更に、胸元からは「赤の目」と呼ばれる、大きな真紅の目が飛び出しており、大変羨ましい(お空ちゃんの赤の目になりたいついこの頃)。

 それぞれ「融合の足」は核融合を、「分解の足」は原子の分解を、「第三の足」は制御を、「赤の目」は……は? 知らない。

 

 お燐ちゃんと同じく、地霊殿の主であるさとりちゃんのペットの一人で、主に灼熱地獄跡の温度調整を仕事としている。

 種族は地獄の闇から生まれた妖怪、地獄鴉であり、灼熱地獄の温度に耐えられるほどの圧倒的な熱耐性を持っている。実は炎を吐いたり出来る、といったシンプルな能力しか持たない妖怪である。……勿論、八咫烏と融合する前の話だけどね。

 八咫烏(分霊)と何やかんやあって憑依装着しちゃったお空ちゃんは、最早ただの妖怪ではなくなってしまったのである。

 太陽神の能力、大いなる太陽の神、天照大神の使神であり、自身も太陽の使い、太陽の化身と呼び讃えられていた八咫烏。そんな怪物の分霊を受け入れてしまった結果、お空ちゃんが手にしたのが――

 

――『核融合を操る程度の能力』

 

 ゴ◯ラかよ(疑問)、ゴジ◯だよ。(確信)

 簡単に言ってしまえば、原子とかそんなものを自由自在に操作して融合させ、膨大なエネルギーを得るのである。

 その火力は比喩でも何でも無く太陽のエネルギーに匹敵する。何も考えずに力を振るうだけで世界を滅ぼしうる圧倒的な破壊を撒き散らすことが出来る存在なのだ。

 

 しかし、本人にはそんな野心なんてものは微塵もなく、純粋で全体的に子供っぽく、脳天気に日々を生きている鳥頭のアホの娘なんだけども……。色んなことを手取り足取り教え込んだりしたいものだねッ!

 

 ま、それはあくまでも私の頭にある原作知識での話。

 今この瞬間、私の目の前でうつむき、無言でエネルギーを蓄え、進化を続けている彼女は違う。

 先ず、彼女の身に憑依装着し、完全に融合をしようとしている八咫烏は分霊ではない。……感じる神威は分霊などでは収まらない、圧迫感すらともなう太陽の如き灼熱の威――本霊、八咫烏の本霊が、霊烏路空という一人の少女の身に降ろされていた。

 故に彼女の得た力も原作の比ではないだろう。私の知識は微塵も役に立たないに違いない。(今までもゆうかりんとかその他大勢で役に立っていないとかそんな事を言ってはいけない)

 

 そして、彼女の姿は私が知る、原作知識の彼女の姿とは大きく変貌していた。

 先ず、普通の少女だった(胸は水爆級)筈の彼女の身長。それは私、原作の博麗霊夢よりも遥かに高くなった身長である私よりも頭一つ分程度にデカイ。……恐らく二メートルちょいは軽く超えているだろう。

 ソレに伴い、胸の大きさも水爆どころではなく、かのツァーリ・ボンバに匹敵するまでの圧倒的爆発力を持った乳へと育ってしまっていた。……うん、アレに顔埋めることが出来たら、他では満足できなくなるな、絶対。

 私の胸もそれなりにデカく、グラマラスだという自信があるが、彼女のソレと比べると余りにも貧相、まさに月とスッポン、これじゃあ私のお胸様もぺったんこと変わらない。(全国のぺったんこに土下座して謝れ)

 

 進化の力がまさかこれほどとは思わなかった。私の博麗さん式覚醒術も大概だが、これも半端ではない。……まさかあそこまでの爆乳を手にするとは、この霊夢ちゃんの目を以てしても見抜けなんだ。

 

「……さとり、様? こいし、様?」

「お空! 私よ! 私は此処にいるわ!」

「今から助けるから! もう少しだけ頑張って!」

 

 私の腕から飛び出して、お空の元に向かう二人。

 おーい、気持ちは分かるけど、私から離れないでー。此処危険地帯だから、まだ異変解決していないからー。……こいしちゃんはともかくとして、さとりちゃんもあんな風になるなんてね。よっぽどお空ちゃんの事が心配だったんだろう。やれやれだじぇい。

 さーて、さっさと八咫烏を駆逐して、お空ちゃんを救ってあげるとしましょうかねぇ。むふふぅー、お空ちゃんとも仲良くなっちゃうもんねぇー!

 

「みん、な……にげ、て」

 

 何かを抑えようとしているお空の悲痛に満ちた表情。その瞳から流れ出る滂沱の如き涙を見たその瞬間――

 

【死ね】

 

――閃光、爆発、轟音、熱、衝撃。

 

 この異変が簡単には解決出来ないものだと、嫌でも思い知らされた。

 





かくたのぉ(いつものぉ)

皆、リアルじゃなくて二次元に生きればいいと思うの。春巻き二次元に逝きたい。

さて、いきなりの闇深い発言は北極にでも投げ捨てておいて(大迷惑)。
皆様どうでしたでしょうか? 博麗伝説、地霊殿も遂に異変の元凶と相対する事になってしまいました。途中までふざけたのに、最後の最後で気になる引きやったやろ? 続き気にやるやろ? やろ?(←煽りクソ春巻き)

多分、次話はそれなりにシリアス風味に書くかもしれない、と予め宣言しておこう。(シリアルを混ぜないとは言ってない)

それと、本文内で分からない単語やネタが出てきた場合、後書きに説明でもぶっこもうかと考えている。……地霊殿書き終わったら、入れてみよっかな?

さてさて、そんなわけでして、次回の更新までお楽しみにそれじゃ……

またのぉ!


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【地霊殿】少女、覚醒【前】

お待たせした、紳士淑女諸君。

約一ヶ月ぶりに春巻きさんが投稿するよ。
長らく待たせて申し訳ない。取り敢えず、詰まらない話は後回しにぽいぽいしておこう。
楽しんでくれたまえ。

↓【最新話】↓ 投下ッッッ!!



 星熊勇儀は鬼である。

 かつて妖怪の山にて、鬼の四天王と呼ばれ畏れられた鬼。……その中でも特に腕力に秀でていた彼女は『力の勇儀』と称され、その剛力で以て、ありとあらゆる困難を薙ぎ払ってきた。不可能を可能にしてきたのだ。

 

「オラオラオラオラオラァ――ッ! オラァッ!」

「無駄無駄無駄無駄無駄ァ――ッ! 無駄ァッ!」

 

 その鬼の剛力が通用しない。山河を砕き、震撼させるこの鬼の力が、この女には微塵たりとも通用しない。

 いくら力強く拳を固めて、思いっ切り振り下ろそうが、薙ぎ払おうが、関係ない。それ以上の力で以て、無理矢理に弾き返され、無効化される。

 

――勇儀は押されていた。

 

 幾度と無くこの拳を叩き込んだ。幾度と無く己の打撃を、その身体へと打ち込んだ。その筈だ。その筈なのだ。

 

「うふふっ」

 

 しかし、風見幽香は揺らがない。今この瞬間も、勇儀の拳をその顔面に食らったというのに笑みを浮かべる余裕すらある。

 事実、幽香にダメージは無かった。……あの人間の規格外筆頭、博麗霊夢の攻撃を受けてもダメージを負わない程に馬鹿げた耐久力を有した肉体だ。

 霊夢以下の実力しかない勇儀ではいくら力を込めて、思いを込めて殴ったとしてもダメージを与える事は不可能に等しい。

 

 たった一つのシンプルな答えだ。……勇儀の予想を遥かに超えて風見幽香は怪物だった。鬼の剛力でさえも歯が立たない。規格外の怪物だっただけの話なのである。

 

「ぐっ!?」

 

 連打を全て叩き落され、無防備となった勇儀の土手っ腹に幽香の掌底が炸裂する。……衝撃と痛みで声も出せず、苦しげに顔を歪める勇儀。そして――

 

「まだ終わりじゃないわぁ……喰らいなさいッ――」

 

――虚弾(バラ)

 

 追撃である。

 勇儀の腹に添えられたままだった掌から赤黒い衝撃波が放たれる。

 虚弾の威力は強力だった。周囲の建造物を軒並み吹き飛ばしながら、そのまま勇儀の身体を軽々と吹き飛ばし、背後にあった岩盤へと叩きつける。

 

「うふふっ、中々良い技じゃないの。……虚閃と同じく気に入ったわ」

 

 いつぞやに霊夢との心が踊る夢のような一時(殺し愛)を堪能したあの時、一度だけ見たあの技。

 恐らく虚閃の派生技であると思われるソレを、たった一度の戦いの中でしか目にしたことが無かったソレを幽香は寸分の狂いもなく再現して見せた。

 

――風見幽香が恐ろしいのは何故か?

 

 他者を虐げることに快感を覚えている加虐的で凶悪極まりない性格であるから? 生まれ持った身体能力に身を任せた圧倒的な暴力があるから? 存在しているだけで世界を揺るがす規格外な妖力があるから?

 

 否、否ッ! 否ッ! 否ッ! 否ッ! 風見幽香の恐ろしさはそんなありきたりな物ではない。

 

――学習能力。

 

 彼女の最も恐ろしい点はソレに尽きる。

 ひと目見ただけで、相手の技を全て盗み取るラーニングスキルこそが、彼女の恐ろしさ。

 鍛錬? 才能? 種族特有の力? そんなものが何だとばかりに、瞬時に体得し、それ以上の完成度で以て相手に返す理不尽な技能である。

 別の世界線では『見稽古』と呼ばれ、恐れられたソレが、風見幽香にはあったのだ。……この技能に抵抗できるのは、彼女と同格以上の実力を持った者か、彼女以上に優れた学習能力を有している存在しかいない。

 この幻想郷でいうなれば、奇跡の力で強引に全てを捻じ曲げる早苗か、純粋に戦闘能力で幽香を上回り、馬鹿げた成長力と学習能力を併せ持つ巫女、霊夢の二人が該当する。

 

「どうしたの? まだ私は全然力なんか出してないわよ?……まさか鬼の力がこの程度だなんて詰まらない事は言わないわよねぇ?」

「がふっ……へ、へへっ、まだ、まだ、こんなもんじゃ、はぁはぁ、ないさッ」

 

 片足を引きずりながら、幽香の対面まで戻る。

 歩く度に走る激痛。……あー感覚からして折れてはなさそうだが、思いっ切り捻ったかね、こりゃあ。

 

 苦笑する、その絶望的なまでの差に。失笑する、己の力の無さに。

 自分が一番強いだなんて自惚れているつもりは全く無かった。むしろ、この広い世界、己よりも強い存在はごまんといるだろうとすら考えていた。

 だが、いくらなんでもこれはないだろう。手も足も出ないどころではない。大人と子供どころでもない。月とスッポン? いや、それ以上の格の差が、余りにも隔絶した力の差が二人の間には存在している。

 

――諦める?

 

 力の差は歴然、万に一つも勝ち目はない。いくら抵抗しても無駄だ。

 

――諦める?

 

 今、自分が立っていられるのだって、幽香が手加減して遊んでいるからだ。彼女が本気だったら、ほんの数秒で肉塊に変えられている。

 

――諦める?

 

 あの霊夢とかいう巫女からのお願いだって、言ってしまえばただの口約束だ。守ってやる義理もないし、守らなかったとしてもきっとあの心優しい巫女は怒らないだろう。だから――

 

――ア キ ラ メ ル ?

 

「ふざけんな」

 

 そんなみっともない真似なんて出来るわけないだろうが。

 鬼として、一度吐いた言葉を違えることは出来ない。鬼は嘘が大嫌いだ。嘘を吐くのも、吐かれるのも大嫌いだ。

 そんな鬼である自分が、霊夢との約束を違えるということは、鬼の矜持に反する。そんな誇りもないクズになるくらいなら、今この場で死んでしまった方が遥かにマシだ。それに――

 

「舐められたままじゃあ、はぁはぁ、終われない」

 

――自分らしくない。

 

 このまま何もしないのはっ!

 勝てぬまでも、せめて一泡くらいは吹かせてやりたい。

 勇儀は喧嘩が大好きだ。相手と全力で力を比べ合い、全力で殴り合い、全力で押し合い、全力全開でぶつかり合うのが、全力全開で競い合うのが大好きだ。

 別に勝ちに拘っているわけではない。負けたら負けたで悔しいが、それはそれで酒の肴になる。自分の全力を出して負けたとなったら仕方ないと諦めもつく。

 だが、こんな圧倒的に負けるのは流石に悔しすぎる。相手の全力も引き出せないで負けるのが悔しくて悔しくて堪らない。

 

――思い出せ、あの力を。

 

 理性がぶっ飛んで、暴れまわっていた時のあの力をッ!

 

――引き出せ、あの力を。

 

 今もなお、己の内側に眠っているだろう。常識をぶち破る怪力乱神の力をッ!

 

――あの力をッッッ!!

 

「鬼をッ! 四天王をッ! 星熊勇儀を舐めんじゃねぇぇぇッッッ!!」

「――ッ!?」

 

 勇儀の雄叫びとともに、衝撃波が周囲を駆け抜ける。

 震撼せよ、地底よ。震撼せよ、幻想郷よ。震撼せよ、世界よ。これが鬼のッ! これこそがッ! 怪力乱神と謳われし我が力也ッ!

 

「此処からが本番だァッ!」

 

 勇儀の目が反転する。黒き眼に紅玉を光らせ、その全身が赤く放電する。

 ソレは、まさしく神話の再現。古くより語られし力の象徴、妖怪共の中でも殊更に強力と恐れられた最強の姿そのものッ!

 星熊勇儀は限界を超越した。約束を違えぬために、鬼の矜持を、己の誇りを守るがために、星熊勇儀は己の限界を無理矢理ぶち破ったのだッ!

 

――鬼神覚醒。

 

 奇跡か偶然か? 否、それはまさに必然也。

 

「……うふっ、うふふっ、アハッ! アハハハッ! アハハハハハッアーッハッハッハッハッハッ! ヤれば、出来るじゃないの!」

 

 幽香大歓喜。

 オードブルにすらならない食前水が、ポアソン程度には進化してくれたのだ。これに喜ぶなというのは無理がある。

 やっぱり霊夢が認めただけのことはある。その愚直なまでに真っ直ぐな精神も、感じられる力の波動も。……これならば、己が全力を以て叩き潰してあげるだけの価値はあるだろう。

 

「良いわ、良いわよ。此処からは手加減はなし……本気でぶち壊してあげるッ!――」

 

 幽香が殴り掛かる。……手加減なしの、今の状態で出せる本気の一撃だ。

 腕の振りによって発生した風圧だけで、地底の岩盤に亀裂を発生させるほどの強力な一撃。それを――

 

「ハハッ! 痛ぇな、この野郎ッ!」

 

――耐えた。

 

 まともに受けたら吹っ飛んでいたであろう一撃。それを顔面に喰らいながら、その場で踏み留まって耐え切ったのだ。

 

「あら? 手を抜いたつもりも無かったんだけど。……一体どういう事なのかしらね?」

 

 手応えはあった。……だが、その感触は肉を打ったソレではなく。大質量の金属を思いっ切りぶん殴った時のような鈍い手応えだ。

 幽香の圧倒的な身体能力から繰り出された、凶悪極まりない一撃を顔面に食らった勇儀は、殴られた箇所を黒く変質させながら、笑う。

 

「私は喧嘩屋だっ! そんじゃそこらの奴とは経験が違うッ! オリャッ!」

「ッッッ!?」

 

 豪快に笑いながら殴るつける。

 幽香の顔面に突き刺さった鬼の一撃は、そのまま幽香の身体を後ろへと押し出し、後退させる。

 まともに喰らいはしたが、幽香の身に傷はなかった。常識外れの肉体を持った幽香に傷を与えるには、まだまだ足りなかったからだ。だが――

 

「……アハッ」

 

――後退した。

 

 この戦いの中で風見幽香は初めて後退させられた。

 あの風見幽香が、幻想郷最凶の妖怪である、あの風見幽香が、鬼の一撃を受けて、僅かにであるが後退したのだ。

 

「お前、本当に面白いわ」

 

 己を後退させたものなど、霊夢を除いて誰もいない。それをこの鬼はやってのけたのである。

 幽香の表情が更に喜色に歪んでいく。闘争を是とし、命の奪い合いを是とする幽香にとって、己と殴り合える存在はあまりにも希少だ。

 その強力な力の前には、どんな存在も原型を留めることは出来ず、相手がどんな手段で攻撃しようとも、並外れた肉体強度があるがために、傷一つとして負うことはない。

 そんな幽香であるからこそ、己と対等に殴り合い、殺し合える相手を好意的に思う(霊夢に対しては恋愛感情が限界突破して殿堂入りしているため除外するが)。……つまり幽香は目の前にいる鬼に対して、友愛にも似た強い好意を抱いてしまったのである。

 

「ちっ、やっぱりまだまだ足りてねぇか」

 

 この馬鹿げた耐久力を持った女には今のままでは足りない。今のままの妖力では、腕力ではまだまだ足りない。

 己個人の力だけではこの女にダメージを与えることは出来ない。……ならばどうするか?

 

「足りねぇならッ――」

 

 その場で大きく片足を上げ、思いっ切り地面に叩きつけて四股を踏む。

 勇儀の踏み込みは地底を大きく揺らし、大地を砕きながら衝撃波を発生させる。……何のために? 威嚇? それとも単純に気合の入れ直し?――否、勝つためだッッッ!

 衝撃波に呼応するように、地底のありとあらゆる場所から妖気が幾つもの塊となって勇儀へと押し寄せるッ!

 

「――他所から持ってこれば良いってねぇッ!」

 

 そして勇儀は、押し寄せてきた妖気の塊をまとめて己の身に取り込んでいく。一欠片も残さず吸収し、己の血肉へ、力へと、妖力へと変えていく。

 全ては霊夢との約束を守るためにッ! 己の誇りを守るためにッ! 風見幽香に打ち勝つためにッ!

 既に限界以上まで力を引き出している自分の身体は悲鳴を上げている。妖気を取り込んで行く度に、身体の内側で力の塊が暴れ回り、耐え難い激痛が走るッ!

 だが、ソレがどうしたッ! 限界なんて誰が決めたッ! 痛みなんて気合でねじ伏せろッ! 目の前の怪物に勝つためだったら、こんなの屁でもないッッッ!!

 

「準備万端だッ! さぁ、力比べと行こうじゃないかッ!」

 

 遂に勇儀は乗り越える。

 己の肉体が許容できる限界ギリギリまで取り込んだ妖気。……取り込めきれなかった妖気を、赤い蒸気として放出しながら豪快に笑う。

 そう、準備は万端だ。限界まで高まったこの力があれば、例え相手が風見幽香であろうとぶっ飛ばせるっ!

 

「あはっ!」

 

 あらゆる限界をぶち破り、遂には己の立っている領域にまで足を踏み入れた鬼を見て、幽香は笑う。歓喜の余りに哄笑し、狂気の余りに凶笑する。

 久方ぶりに血が滾る。肌をピリピリとした妖気が撫で上げ、鋭い殺気が胸を貫いていく。気分が高揚し、全身を心地の良い震えが襲う。

 幽香は確信していた。この鬼は、今のこの勇儀とかいう鬼は、自分を傷つける事が出来る力を持っている。己の命を奪えるだけの力を有している壊れにくい最高の玩具へと急成長を遂げたのだと、強く確信していたッ!

 

「ウオォォォォォッッッ!!!」

「アッハッハッハッハッハッ!!!」

 

 勇儀と幽香は、真っ向から互いの両手を掴み合い。全てを掛けて力を込める。ギチギチッ、ギリギリッと、互いの骨と骨が軋み合い、耳障りな不協和音を奏でる。

 強大極まりない二人の妖力がせめぎ合い、まるで二つの壁がぶつかり合っているかのように歪な境界線を作り出している。

 

「ぶっ飛びやがれッ!」

「うふふっ! お断りよッ!」

 

 スキを突いて繰り出した勇儀の蹴りを、同じく蹴りで相殺する。

 殴り、殴られ、蹴り、蹴られ、ぶん殴っては、ぶん殴られ、叩きつけては、叩きつけられ……拳には拳が、蹴りには蹴りが、手刀には手刀が返される。

 防御なんてクソ食らえと言わんばかりに、真正面からノーガードでぶつかり合う。血を噴き出そうが、痣が出来ようが、骨が折れようが、そんなの関係ないッ!

 相手よりも速く、相手よりも一発多くッ! 目の前のこの女をぶっ飛ばすためにッ! 己の全力を掛けてぶつかり合うッッッ!!

 

「ぶほっ!? ハハッ! オラッ!!」

「がはっ!? ふふっ! アハハッ!」

 

 だが、どうしてだろうか……。

 

「やりやがったなっ!」

「それはこっちの台詞よっ!」

 

 互いに傷つけ合っている筈なのに……。

 

「チョッ!? 遠距離攻撃は卑怯だろうがッ!」

「悔しかったらお前もやってみたら?……あぁ、どうせ岩投げしか出来ないわよねぇ?――げふっ!?」

「残念だったなっ! 石もあるぜっ!」

「痛っ!? いたたたたたっ!?」

 

 悪友同士で悪ふざけしているかのような……。

 

「いい加減にしなさいっぶっ殺すわよ?」

「あ? 出来るのならやってみろよ」

 

 血みどろの殴り合いをしているというのに、何て綺麗な笑顔をしているのだろうか。

 

 鬼と最凶の戯れは続く。

 地底を互いの血で真っ赤に染め上げながら、暴れ暴れて、舞って舞って舞い狂い、笑い笑って笑うのだ。

 

 

 

ーーー

 

 

 

O()O()! 目標を駆逐するッ!」

 

 紅の閃光が地底の戦場を駆け抜ける。

 閃光の正体は、緑色の粒子を身に纏いながら縦横無尽に飛翔するわけの分からない(OKE)。そして、その桶に乗っている駆逐系少女――キスメ(私がOKEだッ!)である。

 何故かピンク色のビームを放ちながら、何故かビームで出来た鎌を振り回しながら、何故か時折粒子そのものへと姿かたちを変えながら、戦闘を続けている。……一人だけ世界観が違うとは口が裂けても言ってはいけないのである。

 

「うわあぁぁぁ!? 簡単に駆逐されてたまるかァァァ!」

 

 対するのは土着神の頂に立つ少女。

 ありとあらゆる祟り神達を支配し、彼女自身も強力な神の力を宿している土着神の中の土着神(ゴッド・オブ・ゴッズ)――洩矢諏訪子。

 迫りくる未来兵器の数々を鉄輪で弾き、神の力で創造した石蛇で反撃を繰り返す。……性能差がありすぎて蛇がただの的にしかなっていない。そんな事実は何処にもないのである。

 

「私を忘れてもらっちゃ困るなぁ! そぉらっ! やっちまいなっ!」

【回転ッ! 阿修羅腕ァァァァァ!】

 

 土蜘蛛の少女の掛け声と共に、彼女の背後に浮かび上がった半透明の怪物がその豪腕を振り回す。

 病魔を操りながら、自由自在に半透明の怪物を操っている少女――黒谷ヤマメ。

 異形なる怪物が拳を振り下ろす度にナニかが割れる音が響き、周囲に紫色のガスのようなものが撒き散らされる。

 ガスにはウィルスが――神にすら通じる極悪なウィルスが含まれている。無防備に喰らえば、如何に祟り神の頂点たる諏訪子であってもタダでは済まない。……時間が経つ毎にヤマメの奇妙な決めポーズのキレが上がっていっているのは気のせいではない。

 

「くっ、何だかんだアンタのソレが一番厄介だねっ!」

 

 一撃でも喰らえば終わる怪物の連撃。それを諏訪子は紙一重で躱し続ける。小柄の体型を活かして、石蛇へと変じた祟り神達をけし掛けて、躱し続ける。

 確かに強力極まりない力だ。だが、当たらなければどうということはない。……何処ぞの赤い彗星のような事を考えながら、妙にアクロバティックな動きで攻撃を回避し続ける。

 

 戦況は拮抗している……様に見える。

 キスメとヤマメの両名の異常な攻撃の数々を、諏訪子が捌き続けている。逆もまた然り。お互いに攻撃し、防ぎのやり取りを延々と繰り返している千日手にしか見えない。だが――

 

「はぁ、はぁ」

 

――疲労。

 

 蓄積していく疲労。時を重ねる度に諏訪子の精神を身体を蝕んでいく。

 そう、拮抗していると思われているが、実際のところは諏訪子の劣勢である。

 猿でも分かる、簡単な事だ。如何に諏訪子が優れた技量を持っていたとしても、相手がその技量をものともしない存在であるならば、その技量に意味はない。

 例えるならば、武術の達人である人間が、大型の肉食獣相手に肉弾戦を仕掛けている様なものである。……元々の身体能力、肉体強度などに大きな差が存在している以上、勝率は限りなく低いだろう。

 諏訪子と対している二人は、最早ただの妖怪の枠組みに入れていい存在ではない。進化を経て、種族の限界を大きく逸脱した純然たる強者なのだ。

 諏訪子がどれほど攻撃を当てようが、キスメの桶には傷一つ付かないし、ヤマメの怪物は怯みはしない。

 逆にヤマメとキスメの攻撃は、一撃でも喰らえば致命傷は確実と来た。……故に、諏訪子は一撃一撃を神経を擦り減らしながら躱し続けているのである。

 

「はぁ、はぁ」

 

 諏訪子の体力も限界が近付いて来ていた。長引けば長引くほど、諏訪子はどんどん疲弊し、追い詰められていく。

 

「いけ、ファングっ!」

「っ!?」

 

 諏訪子が疲労し、徐々に動きが鈍くなっていこうとも、対している二人は関係ないと言わんばかりに、容赦なく追撃を加えていく。

 キスメが駆る桶から射出されたのは、その名の通り牙の様な形をした遠隔兵器――先端部分から、剣状のビームを発生させ、高速で諏訪子に襲い掛かる。

 さしもの諏訪子もこのオールレンジ攻撃を完全に防ぐことは出来ず、徐々に全身に切り傷が作られていく。辛うじて致命傷は避けられているが、それも何時まで持つか……。

 

「爆発するかのように襲い、消える時は嵐のごとく立ち去る。……それがこのモンスペイラー(死の怪物)ディストピア(地獄領域)

【え、俺、そんなダサい名前なのかァ?】

「シャラップ! ス◯ンドが喋るんじゃないよ!……ん? ス◯ンドって、何?」

【ス◯ンドとは、超能力を擬人化したものである。外見は召喚獣や背後霊に似ており――】

「待って、何言ってんのか分かんない」

 

 諏訪子を追い詰めているキスメとは対象的に、自身が従える怪物――ヤマメ曰く、ス◯ンドのモンスペイラーという謎の生命体? と無駄な会話を楽しんでいた。……怪電波受信中とかそんな酷いことは言ってはいけないのである。

 

「というか、もっとちゃんと狙ってよ! どうして誰もいないところ攻撃してるの!?」

【俺の精密操作性は-Eだからなァ、細けぇ動きは苦手なんだよォ】

 

 一応、その間にもモンスペイラーというス◯ンドはその六本ある豪腕による拳の弾幕を放っているが、本人が申告している通り精密性が最低値なので当たらない。……-Eは伊達ではないのである。

 

「げほっ、げほっ……ぅ」

 

 拳は当たっていないが、諏訪子にダメージが入っていないわけではなかった。

 ヤマメのス◯ンド、モンスペイラーの能力は、何処ぞの世界の恥知らずさんと似ている。六本の拳にはカプセルがあり、その中には神の肉体すらも侵し尽くす強力な病原体が山ほど詰まっているのだ。

 あの巫女の知り合いらしいので、致死力の高い病原体は撒き散らしていないが、それでも一度でも発症してしまえが、極度の倦怠感、手足の痺れ、心肺機能への負荷、目眩、頭痛。……様々な症状が一気に襲い掛かる。

 

「そらそらぁ! 当たらぬ弾も何とやらさぁ!」

【回転阿修羅腕ァァァ乱れッ撃ちィィィ!】

 

 そう、当たらなくても良いのだ。当たらなかった拳は地面や壁に激突し、その衝撃で拳のカプセルが割れる。つまり、病原菌が周囲に撒き散らされるのだ。

 後はじっくりじわじわと、相手が動けなくなるまで攻撃を続ければ、いずれ病に侵され、動けなくなるのだ。……そうなってしまえば、簡単に致命の一撃をぶつける事が出来る。

 

 もう一度だけ敢えて言おう。

 

「うぅ……ちく、しょうっ」

 

――諏訪子は追い詰められていた。

 

 地底の妖怪は予想外に強すぎたのだ。……(別の場所で戦っている面々よりは遥かにマシではあるが)神である諏訪子ですら歯が立たないほどに強かったのだ。

 技量では経験値では負けていない。遥か太古の日本で猛威を奮った土着神の最高峰、ありとあらゆる祟り神達を操り、自然を操り、生命創造すら成し遂げる諏訪子が、目の前にいる数百年程度しか生きていない妖怪よりも、技量や経験で劣るという事はない。

 何度も言っているが、これは技能などではなく純粋な性能差の問題だ。……身体能力であったり妖力などの差であったり、訳の分からない桶の存在だったり、意味不明なス◯ンド的な怪物な存在だったり、ありとあらゆる要素で、諏訪子が二人に劣っていたが故。……それ故に諏訪子は追い詰められているのだ。

 

「ちくしょうっ」

 

――……えるか?

 

「は?」

 

 声が聞こえた。この場にいない筈の声が。……具体的には守矢神社に置いてきた(封印した)、抜け駆け大馬鹿女の声が。

 

――……聞こえ……てる……か……諏訪……子?

 

「……神奈子?」

 

 守矢の神の片割れたる八坂神奈子の声が、諏訪子に呼びかけてくる。それは最初はノイズがかった不鮮明なものだったが、徐々に徐々に鮮明にハッキリとした声になっていく。

 

――……今、お前の脳内に直接語りかけている。

 

 何それコワい。

 

――諏訪子、どうやら苦戦しているみたいだな。

 

 何でテレパシー的な事してんの? なんてツッコミは、この際置いておこう。……本当はかなりツッコんでやりたい気持ちをグッと堪えて、神奈子の言葉に耳を傾けることにした諏訪子である。

 

「はぁ、何で苦戦してるって分かったんだよ」

 

――オメェの神気が小さくなってっかんな!

 

 黙れ悟◯。

 

「無駄話している余裕はないんだけどねぇ」

 

 こうして神奈子と話している間も、キスメとヤマメの攻撃の嵐は絶えず続いている。集中力が削がれるようなことは極力避けたいのだ。

 

――まぁ、聞け。……諏訪子、このままだとお前は負ける。それは理解っているな?

 

「うぐっ、い、いきなり、痛いところを突くね。……理解っているよ。このままだと、遅かれ早かれ私は負ける。それも完膚なきまでに叩きのめされて、ね」

 

 諏訪子だってここから逆転できるなどとは考えていない。今の自分と相手の戦力差がどれだけ開いているのか、しっかりと理解しているつもりだ。

 現状はただの時間稼ぎ、自分の敗北するまでの時間を引き延ばしているだけだ。

 

――そう、だから助言してやろうとな。

 

「助言?」

 

――お前も成れる筈なんだ。私が至った境地に……超守矢神の領域にな。

 

「いや、無理だよ。何言ってんだお前」

 

 超守矢神。

 数刻前、守矢の神の一人である。八坂神奈子が至った究極の形態。

 溢れんばかりの神気を漲らせ、黄金に輝く威光で、全てを照らし出す。まさしく超という名に相応しき圧倒的な力を秘めた、神が至りし最強の形態である。

 高まり切った、純粋な想いの爆発……あるいは暴走により、神の肉体が突然変異の如く急激な変化を引き起こし生まれる何処ぞの野菜人ばりに理不尽な存在。

 

――超守矢神は混じりっ気のない純粋な想いを抱いた神が、感情を爆発させることにより変化するものだ。

 

「話聞けよ」

 

 色んな意味で尊厳とか何もかも捨て去っている神奈子ならともかく、普通の神様である自分がなれるわけがないだろうが、いい加減にしろ。

 

――霊夢様へのこの燃え滾る熱い想いによって、私は私という神の限界を超えた力を手に入れたんだ。

 

「やめろ、変な思念を送りつけるな」

 

 神奈子の言葉と共に、霊夢にされたあんなことやこんなこと(お仕置き)、そしてその時、神奈子が感じていた快感やら、霊夢に対する情念やら何やらがまるでハッピーセットの如く、諏訪子の脳内にダイレクトアタックを仕掛けてくる。

 

――つまり、私と同じように霊夢を想っているであろうお前にも可能性は十分にあるというわけだ。

 

「取り敢えず、戻ったらお前、絶対にボコボコにしてやる」

 

 グーパンで顔面整形してやると強く決心する諏訪子である。……何で必死こいて戦っている最中に、仲間の情事(神奈子のフィルター付き)を見せられないといけないんだ。羨ましいわ、しばくぞボケ。

 

――諏訪子、思い出せ。霊夢様への想いを、恋慕を、劣情を、あの方とまぐわいたいと考えている私達の強いラブをッ! 思い出せぇぇぇ!! 以上だ、健闘を祈る。……ガチャンッ! プゥ―プゥ―プゥ―

 

「これ電話だったのッ!?」

 

 神奈子のド変態発言にツッコむ間もなく。テレパシー的なものが電話仕様だったという、更にツッコミどころな事実が出てきてツッコミが追い付かない可哀想な土着神が一人。……そろそろ諏訪子は本気で神奈子をボコボコにしても許されるだろう。

 

「さっきからごちゃごちゃと何言ってるのさ!」

「余裕、ダメ、絶対」

「こっちにも色々あるんだよ!」

 

 忘れてはいけないのが、諏訪子と神奈子のやり取りの間も、戦いは続いているという事実である。

 会話に集中して少しだけボーッとしていた諏訪子の態度に、キスメとヤマメの二人は憤慨としていた。自分達と戦っているというのに、余裕そうに(見えるだけ)余所見するとは生意気だと言わんばかりに、攻撃の手が更に激しくなっていく。……理不尽だ。

 

「あのっバ神奈子めぇぇぇ! お前のせいで、余計に状況が悪化してんじゃないかぁぁぁ!」

 

 ヤバイ、死ぬ。普通に死ぬ。

 ただでさえ体力がマッハで付きかけている上に、限界ギリギリまで力を振り絞って耐え忍んでいるというのに、相手の勢いが倍速で増し始めたのだ。……シンプルにヤバイし、シンプルに死ぬに決まっているだろうが、馬鹿野郎、この野郎。

 

「破壊するッ! ただ破壊するッ! こんな行いをする貴女をッ!」

 

 怒りでテンションが上がったのか、ただ単に最高にハイにでもなったのか、妙に饒舌になったキスメ嬢である。

 遠隔兵器の勢いが更に増し、その上、キスメ本人も何処からとも無くドデカイ砲身の兵器を取り出して、滅茶苦茶にぶっとい粒子砲を打ちまくっている。……アレが直撃してしまったら如何に諏訪子といえども、消し炭になるだろう。桶ロリコワいという奴である。

 

「うばぁしゃあああああ!」

【え、何この宿主、コワァ】

 

 お前が言うんかい。

 怒りの余り、ただただ可愛いだけの謎の叫び声を上げながら、無駄に忙しない動きで飛び掛かる地底のアイドルヤマメちゃんである。

 背後に従えているモンスペイラーさんが微妙に引いた表情をしているのはきっと気のせいではない。自分の宿主が意味不明なテンションで暴れている光景を見せられて平静でいられるほど、強靭なメンタルは持っていないのだ。

 

「やばっ!?」

 

 ともかくとして、諏訪子大ピンチである。このままではこの頭のオカシイ二人組に蹂躙されて敗北する。

 

「神奈子のバカの言葉に従うのは癪だけど。仕方ない、か。……あーうー、感情の爆発だっけ?」

 

 神奈子は言っていた。……霊夢へとの燃え滾るような熱い想いを爆発させて、神として更に上の領域に到達したのだと。

 想い――そう、想いだ。想いなら自分も負けてなどいない。神奈子の馬鹿には変態加減で負けちゃうけど、純粋な想いの強さでは自分も負けてはいないッ!

 簡単じゃないか、別に恥ずかしいことでも何でもない。ただ自分の中にある霊夢の奴に対する感情を思いっ切り爆発させてやれば良いんだ。

 自分は霊夢とどうなりたい? 霊夢と何をしたい? 霊夢の事をどうしたい? 霊夢に何をされたい?

 

「そうだよ。こんなところで足止めされているわけにはいかないんだ。……だって、霊夢を迎えに行ってあげなきゃいけないからねぇ」

 

 霊夢と同じ屋根の下で生活するようなもっと親しい関係になりたい。

 霊夢とイチャイチャしながら、一緒に遊んだり、一緒にご飯を食べたり、一緒にお風呂に入ったり、一緒にお休みしたり、色々したい。

 霊夢の事を自分の手で可愛がってあげたい、あの触り心地の良い身体も、あの綺麗でカッコイイ表情も全て思い通りにしてみたい。

 霊夢に滅茶苦茶にされてみたい。いや、ほんの少しの触れ合いでも良い、抱き締めて、頭を撫で付けて欲しい。

 ぶっちゃけてしまうなら、霊夢を守矢神社に監禁して、自分だけの物にしてしまいたい。

 

――なら、ね?

 

「邪魔」

「ッ!? 緊急回避ッ!」

 

 咄嗟に粒子と化して、その場から離脱する。瞬間、先程までキスメがいた場所を紫色の極光が通過する。極光は地底の大地を消滅させ、破壊を撒き散らす。

 

「邪魔」

【うおおおおお!?】

「モンスペイラーッ!?」

 

 モンスペイラーの巨体が宙を舞う。見れば、彼の腹部には巨大化した鉄輪。……放たれた鉄輪は衝撃波を巻き散らしながら、モンスペイラーに直撃したのだ。

 

「私と霊夢の間にある奴。……全部、全部、全部邪魔だ」

 

 諏訪子の目の色が変わる。ハイライトが消え失せ桃色に輝き出す。

 

「あぁ、何か良い気分だなぁ……なるほど、神奈子の奴が調子に乗る筈だよ」

 

 力が溢れ出す。諏訪子の身体から、力が溢れ出していく。

 神の気、本来白い輝きのソレが、徐々に変化していく。黒みがかった桃色へと変化していく。

 

「散々やってくれたね。……借りはきっちり返させてもらうよ?」

 

 最後に、諏訪子の太陽の光を浴びた稲穂の様に黄金色に輝いていた淡い金の髪が変化する。まるで、諏訪子の心の内を表しているかのような、黒が入り交じる桃色の髪へと変化する。

 

「OOが震えている?」

【CAUTION! CAUTION!】

 

 キスメの桶が危険信号を鳴らす。

 

「だ、大丈夫?」

【ぺっ……問題ねェ、脇腹をちょっと持ってかれただけだァ】

「致命傷じゃん!?」

 

 ヤマメのス◯ンドに無視できない損傷が出来る。

 

「そうだなぁ、敢えて神奈子の奴に合わせるんだったら。……タタリ――」

 

――超守矢神タタリ。

 

 諏訪子が至りし神の境地。

 正の方向性?に進化した神奈子の超守矢神とは真逆……まさに負の方向性に特化したとでも言うべき超守矢神の姿である。

 諏訪子の内に育まれていた霊夢に対する余りにも重すぎる想い。自分の物になって欲しい、誰の目にも触れられないように、自分達の神社の中に監禁してしまいたいという余りにも歪んでしまった想い。……その強すぎる想いを解き放ったために発現した、諏訪子だけの超守矢神である。

 

「早く、邪魔な物を片付けて、霊夢を連れて行かないと、ね。あはっ」

 

――ヤンデレ。

 

 いっぱいちゅきぃという感情が行き過ぎて、暴走し、諏訪子を染め上げる。

 

――閉じ込めたいくらい愛してる。

 

 それが諏訪子の、霊夢に対する感情だった。

 神という生き物は恐ろしい生き物だ。自分の気に入った存在を大事に大事に仕舞い込んで、自分以外、誰にも手の届かない場所へと閉じ込めていたくなる。

 諏訪子もまた神だ。霊夢という人間を気にってしまった一人の神なのだ。……故に、諏訪子は気に入ってしまった人間を、己の領域である守矢神社の中に閉じ込めたいという想いがあった。

 それは、愛であり、独占欲。他の誰にも……それこそ仲間である神奈子や早苗であったとしても、触れさせたくないほどに、深くて強い独占欲。

 

「酷い奴だよ。私はこんなに想っているのに、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ……他に目移りしちゃう悪い娘はしまっちゃわないとねぇ?」

 

――神隠し。

 

 発言がしまっちゃうおじさんのそれと同じだとか、そんな事実は何処にもありはしないのである。

 

「これが、世界の歪みッ!」

 

 キスメは超守矢神の領域へと覚醒した諏訪子の危険性を瞬時に理解した。

 あれが、あの神が世界の歪みの一つであると、祟りという恐ろしい災厄の根源であると理解した。

 世界の歪みは破壊しなければならない。それが、桶マイスターである、自分の宿命なのだから。……場の雰囲気と、高性能過ぎる桶の影響で、若干暴走気味な釣瓶落としは、そろそろ冷静になった方が良いかもしれない。

 

「ぎゃ、逆に考えるんだ。あ、あああげちゃってもいいさと、か、かか考えるんだだだ」

【宿主、落ち着けェ】

 

 ヤマメの恐怖は臨界点を突破していた。

 あの危険で危ない気迫を感じさせる、諏訪子の凄みに当てられて、呂律が回っていないのだっ! 同じ系統の力を扱うヤマメだからこそ、気付いた! 気付いてしまったッ!

 

 ヤベェどころの騒ぎじゃねぇ、私は今奴の力の波動を真正面から直にほんの少しだけ体験した。い、いや……体験したというよりは、まったく理解を超えていたのだが……。

 あ、ありのまま、今、起こったことを話すよ!

 『キスメと一緒にアイツを追い詰めていたと想ったら、次の瞬間には桃色になったアイツがいて、私達が吹き飛ばされていた』

 な……何を言っているのか、わからないと思う。私も何をされたのか分からなかった。頭がどうにかなりそうだった。

 の、能力だとか、カミサマパワーだとか、そんなちゃちなものじゃ、断じてない。も、もっと恐ろしい物の片鱗を味わったかもしれないよ!

 

 ヤマメは混乱している。

 

「さぁて、お邪魔虫共。私はさっさと霊夢の奴を神社に連れ帰らないといけないだよ。……退かないと、末代まで祟るよ?」

「目覚めてOOッ! 未来を切り拓くために!」

「う、うわあぁぁぁぁぁ!」

【もう駄目だ、コイツ】

 

 邪悪で異質な神の気を身に纏う諏訪子が凄む。

 しかし、キスメはその気迫に屈すること無く睨み返し、OOを再始動させ、戦闘態勢を整える。

 ヤマメは、恐怖と混乱がピークに達して、叫び声を上げながら、やけになった烈◯王のごとく腕をグルグル回し続けている。……モンスペイラーはあんまりにもアレな宿主の様子に呆れ返り、額に手を当てるしかなかった。

 

 土着神と釣瓶落とし、土蜘蛛の戦い。……その幕引きは近い。

 

 

ーーー

 

 

「ふぅ……少し、焦ったぞ」

 

 手の平を襲う熱。眼前に迫っているのは、全てを滅却せんとばかりに燃え滾った業火である。……ふむ、私がごいすーですぺしゃるな結界師じゃなかったら、燃え燃えキュン()されていたな。

 あ、あぶねぇー! 後、もうちょっと遅かったら、マイスウィートサトリシスターズの珠の肌に、無視できない傷が出来てしまうところだった。……さとりちゃんやこいしちゃんの陶器の様に滑らかで、白雪の様に透き通った神秘的で国宝級な素肌に傷が付いてしまったら、世界の損失になるところだった。

 よくぞ間に合わせた。超偉いぞ私。……いや、本当に、本気と書いてマジでよく間に合ったな、私。鍛えといて良かったぁぁぁ!

 

「さとり、こいし、怪我はないな?」

「あ、お、空?」

「何、で?」

 

 アイヤー(額をポンッ)、茫然自失って感じだね、こりゃあ。

 そりゃそーだよねー。家族だと思っている娘から殺意マシマシで攻撃されちゃったんだからねー。そりゃー、そうなるよねー。

 私もゆかりんとか、魔理沙たんとか、幽香とか、藍ちゃんとか橙ちゃんとか、あーちゃんとかパチュリーちゃんとか、レミリアちゃんとか、フランちゃんとか、萃香ちゃんとか、えーりんとか(以下略

 大好きで大事で大切な少女たちに敵視されて、殺意持たれちゃったら涙が出ちゃうもの。……え、どうせすぐに鎮圧して(肉体言語での)お話をする? ちょっとナニを言ってるのかお姉さん分かんないなー。

 

「ほら、気をしっかりと持て」

 

 お、落ち着かせるためだから、抱き締めて頭ナデナデは普通普通。……あ、さとりちゃんの髪サラサラだ。こいしちゃんはくせ毛になってるけどふわふわしてる。

 

「……すいません、落ち着きました」

「ごめんね霊夢、ありがとう」

「礼には及ばんさ。……それよりも、此処から先は、お前たちには荷が重い。結界を張っておくから、此処から決して前に出るな」

 

 流石に守りながら戦うのは厳しいっぽいからね。お二人さんには、此処で見守っていて貰いたいのだよ。

 

「霊夢さんっ! お空をっ! お空をどうかお願いしますっ!」

「絶対に助けてよね!」

「無論だ」

 

 泥舟に乗った気分で待っていてネ!……今、絶対沈むだろって思った人、後でお姉さんのところに来なさい。お姉さんが作った泥舟が如何に沈まないか、二十四時間三百六十五日に及ぶ、懇切丁寧な説明をしてあげるから。

 

【ほう? あの距離で防ぐか】

 

 五月蝿いよ八咫烏、この野郎。

 いきなり、サトリシスターズを狙うとか、本当いい加減にしろよお前。お前がお空ちゃんに取り憑いていなかったら、全力全壊でこの世からサヨナラバイバイさせていたぞ、おい。

 

「いきなり不意打ちとは、随分なご挨拶だな、八咫烏」

【その不意打ちを完全に防いだ貴様に言われたくはないな、博麗の巫女】

 

 クツクツと、お空ちゃんの愛らしくも凛々しい顔で笑う八咫烏。……え、お空ちゃんの身体で勝手に笑わないでよ。好きになっちゃうから(即落ち)。

 お空ちゃんとは、快活でアホっぽく笑うのがポイント高くて愛らしくて大変可愛らしいのが特徴的な美少女なのに、そんな、意地悪そうに妖怪特有の残酷な面と、神特有の冷徹さが入り混じった表情で笑うだなんてそんなの好きになっちゃうしかないだろ、本当に八咫烏いい加減にしろ(完落ちダブルピース)!

 今のやり取りで理解っちゃった。理解ってしまった。……八咫烏はッ、八咫烏はッ! メスッ! 圧倒的ッメスッ! 其の上、美少女ッ! 美少女だッ! 私の美少女センサーがビンビンにッ! 猛烈にッ! 反応しているッ!

 

 そんなわけで討伐できねぇです。はいはい、無理無理、絶対ムリです。

 いや、ごめん。本当にごめん。最初はさ、こう簡単に解決できると思っていたのよ。

 私が暴走した覚醒お空ちゃんを完全に無力化して、今回の異変の元凶となっているお空ちゃんの中に居座っている八咫烏をボコボコのボコにして、引き剥がして消し去ってしまえば何の問題はないと、高を括っていたのよ。

 ほら、八咫烏ってまんま化物のイメージあるじゃん? で、ガチの八咫烏って、オスってイメージあるやん? だって、三本足ですしぃ? 二本足の真ん中にデッカイ足が一本ありますしぃ? おっきくて太くてガチガチな足が真ん中から生えていますしぃ? 普通にオスって思うやん?

 だが、現実はメスッ! 圧倒的なまでにッ! メスッ! それも大好物のッ! 大好物のッ!

 

「……お空を返してもらおうか(震え声)」

【断る。これ程までに相性の良い依代はない。……返してほしくば力づくで来るが良い】

「は? 嫌だ(美少女をきずちゅけたくない的な意味で)」

【は?】

「は?」

「「……」」

 

 ここは、しずかなちれいでんですね。

 

「話し合いではどうにもならんのか?……私は出来る限り、この幻想郷の者達は傷付けたくないんだ」

【くどいぞ博麗の巫女! こうして対峙した以上、戦わぬことなど出来ぬ! 我の意地と、貴様の意地! そのどちらか一方を通したくば! 戦い勝ち取るしかなかろう!】

 

 何でいきなり大声出してるの? 可愛いけども。

 はぁ、やっぱり戦うしかないのね、知ってたけども。……私、異変の度に美少女と殺し合い(相手からの一方的な)をしている気がするよ。

 しかも、強い娘ばっかりだから、面倒くさいことこの上ない。幻想郷に悪影響がない様に戦わないといけないし、幻想郷の美少女たちが巻き込まれてしまわないように気を使わないといけないし、相手を傷付けてしまわないように、細心の注意を払って、丁寧に丁寧に、慎重に慎重に、それこそ硝子細工を扱うように手加減に手加減を重ねて相手をしないといけない。……いくら私でも神経擦り切れちゃうよ、ふぇぇ。

 

「先ずは無力化しないと、話し合いも出来ない様だな……少々、面倒だが」

【そう簡単に上手く行くと思わない事だな。……進化した我らの力はお前の想像の遥か上を行くぞ】

 

 知ってるよ。だから面倒なんじゃないか。

 見た感じ、会話している今も力が増しているみたいだしね。……手加減が難しくなるなーコレ。

 

【そら、小手調べだ。……行くぞ、空】

「う、うぅ、うにゃあああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 八咫烏の気配が引っ込み、お空ちゃんの意識が表に出てくる。……が、様子が可笑しい。まるで、獣のように吠えたかと思うと、その次の瞬間――

 

「にゃあああああぁぁぁぁぁ!!」

「甘いっ!」

「うにゅっ!?」

 

 爆発的な速さで、距離を詰め、右手の制御棒を叩きつけてきた。ハハッ……速すぎワロタ(驚愕)。

 取り敢えず、私の顔面に向けられたお空ちゃんのご立派な棒(意味深)を、両手で優しく握って、ゆっくりと上下運動しつつ、達してしまわないように寸止めの要領で背負い投げる。……そして、優しく放り投げられたお空ちゃんは、そのままの勢いで地面にフォールされ、変な声を上げる。

 流石、私。百点満点の背負い投げだよ。お空ちゃんをきずちゅける事なく、優しくフォールしてあげる事に成功したじぇい! いえぇい!

 

「うにゅ! う、にゅうがあああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 悲報、うにゅほもとい暴走お空ちゃんブチ切れる。

 赤い眼を黄金へと変化させ、全身から尋常ではない熱風を発しながら、その身に宿る神の気を高めていく。……へぇ? 八咫烏の力をそのまま降ろしたのか、暴走している状態で器用な事をする。

 感じ取れる力の波動は、先程の比ではない。数十倍にまで高まったお空の力が、熱と共に周囲に撒き散らされている。……今、この場に白ワイシャツ一枚の美少女が居たら、暑さの余り発汗し、あられもない姿を晒していたことだろう。

 

【第二ラウンドだ】

「うにゃあああああぁぁぁぁぁ!」

 

 掴みかかってくるお空ちゃん。……お、力比べか? お?

 自慢じゃないけど、お姉さん腕力には自信があるんやで(←人間とは名ばかりの馬鹿げた怪力持ち)

 

「良いだろう――ふっ!」

「うにゅぬぬぬぬぬ!」

 

 お空ちゃんの手の感触が素晴らしすぎて、力抜けそう。……だが、手の感触は問題じゃない。いや、十分に幸せな状態なんだけど、それよりも更に重大な問題がある。

 

――むにゅん、むにゅむにゅ。

 

 今のお空ちゃんの身長は、私を遥かに上回っている。私よりも頭一つと半分くらいは上の高身長。そんな相手と組み合っている私は、お空ちゃんの胸に、たわわに実ったあの魅惑の果実に、顔面を埋めるような形になってしまっていた。

 谷間に、私の顔面が挟まっているような感じだ。ちょうど良い感じに私の顔とフィットするようにピッタリと埋まってしまっている。

 私の鼻孔をくすぐるのは、お空ちゃんの香り。僅かな蒸れた汗の香りと、彼女自身の甘く芳しい魅力的な香りである。そして、何よりも、何よりもッ! 感触だッ! どう表現すれば良いのか、柔らかくて弾力のあるマシュマロに顔全体を埋めている様な、そんな幸せで筆舌し難い感触が私の顔面を包み込んでいるのだッ!

 

――幸せしゅぎてらめになりゅぅぅぅぅぅ!

 

「うにゃぁっ!」

「ぐはぁ〜〜〜(恍惚)」

 

 どうやら、力比べは君の勝ちみたいだ。

 流石だなお空ちゃん! まさか、こんな方法で私を無力化してくるとは思わなかったよっ! 出来ればもう一回くらい、私と力比べしてほしいなッ! お願いッ!

 

【えらくあっさりと負けたような気がするが。……気のせいか?】

 

 気のせいや。気のせいなんやで……だからもっかい力比べはよ。

 

「随分と強くなったな。……正直、驚いたよ」

「うにゅうぅぅぅぅぅ!」

【抜かせ、その強くなった力相手でも手加減する余裕がある貴様に言われたくはないわ。……ふっ、やはり博麗の巫女を相手取るにはまだまだ進化が足りないようだな。空ッ!】

「うにゅあっ!」

 

 更に倍プッシュだと言わんばかりに、お空ちゃんの力の波動が増す。……えぇ、この下り何回するの? 流石の博麗お姉さんも飽きてきたんですけど?

 まぁ、今のお空ちゃんで漸く通常幽香の全力、常識破りの奇跡(アンリミテッド・ミラクル)状態の早苗に匹敵するね。この短時間によくもまぁ、こんなに強くなれるもんだよ。

 

【第三ラウンドだ。やれっ空ッ!】

「にゅやあああああぁぁぁぁぁ!」

 

 八咫烏の指示により、お空ちゃんは幽香や早苗を彷彿させる馬鹿げた力を放出しながら、再び突撃してくる。

 

「やれやれ、仕方がないな。……気の済むまで何度でも相手してやろう」

 

 どうやら長期戦になりそうだ。

 元気一杯に突っ込んでくるお空ちゃんの勢い(とブルンブルンっと揺れる二つの巨大な夢の塊)を見て、否が応でも理解するしかなかった。……出来れば、掴み合いとか取っ組み合いのくんずほgゲフンッゲフンッ! 血肉沸き立つ強者と強者のぶつかり合いをしたいところだね。

 




か・く・た・のぉぉぉぉぉ!(CV野◯さん風)

みんな、楽しんでくれた?
今回の話は、割と楽しく書けているんじゃないのか? って個人的には思っていますわ。

取り敢えず、副題を付けるとするならば【覚醒祭り】、まともだと思われていた勇儀姐さんがやっぱりまともじゃなかったり、諏訪子が超守矢神になっちゃったり、お空がブロってたり、もうわけが分からない状況になってるけど、最後まで見放さずにいてくれると、春巻きさんは嬉しいです。

久しぶりで、色々と言いたいこともあるけども、そんな気持ちをグッと抑えて、私は締めの言葉を言っちゃうのです!

と、その前に感想とか沢山下さると春巻きの栄養とか、その他諸々のガッツに繋がります。ですから感想をッ! 感想をくだしゃいぃぃぃ!(頭春巻き)

ではでは、そんな欲塗れの本性を曝け出しつつ……。

またのぉ!


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【地霊殿】少女、覚醒【後】


前編と後編に分けたくせに、思いっ切り間を開けるという鬼畜の所業。

どうも皆様、春巻きです。
ごめーん、待ったぁ?(面倒くさい彼女風)

最近、色々と忙しくて、特に白nゲフンゲフンッとかFGゲフンッゲフンッとか
うん、イベントが沢山あって、忙しかったんだ(開き直り)

べ、別にこんな言い訳を聞かせたいわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!(近所に住んでいるツンデレ幼馴染風)

では良い感じに、混沌としてきたところで、本編をどうぞ

最新話投下ッ!

↓ 【最新話】 ↓



【滅びよっ!】

「お断りします」

 

 場面は変わり、地底の某所。やり合っているのは、二人の規格外。

 不気味に輝く緑の瞳を揺らし、九つの尾を縦横無尽に動かしながら、破壊を撒き散らしている金色の化生――緑眼の者こと、水橋パルスィ。

 対するのは、緑の髪を揺らし、髪より深い緑の瞳を冷たく細めながら、パルスィの攻撃をいなしている守矢が誇る最終兵器――傲慢なる風祝、東風谷早苗である。

 

「ふむ、負の感情を蓄えることで力を増すのですか。……中々、面白い能力を持っていますね」

 

 己の奇跡(ミラクル)とよく似ている。

 早苗の力は、時間が経つ毎に己の奇跡の上限を増していく。数刻前よりも、数分前よりも、数秒前よりも、確実に。

 目の前で嫉妬に塗れた恐ろしい形相を浮かべている異形もまた同じ。嫉妬心という感情を起点として、周囲からも、自分からも取り込んで、その力の上限を引き上げていく。

 

【けっ……】

「ッ!? 本当に厄介ですねぇ!」

 

 背後から強襲する尾の一撃。それを奇跡の力を纏わせた払い棒でギリギリ防ぐ。

 

 そう、何より恐ろしいのが、九つの尾である。

 嫉妬という負の感情を多分に練り込んだ呪詛。常人が浴びれば一瞬の内に廃人と化すであろうおぞましくも恐ろしい力を秘めた呪詛が込められた尻尾。……それを槍のように振り回し、雷を纏った嵐のように苛烈に扱うのだ。

 一本でも厄介極まりない尾が九本、それぞれが別の意思を持った生き物であるかの様に動き、電光石火の勢いで、早苗に襲い掛かってくるのである。

 最大限にまで奇跡を高めた状態ならば、何の問題はない。しかし、今の早苗の奇跡は全開とは程遠い。……それこそ、眼前で不気味な笑みを漏らす怪物にすら劣るほどに。

 

「いい加減にしなさい!」

 

――一条の奇跡(早苗ちゃんビーム)

 

 額から奇跡の力を光線上にして放つ。並みの妖怪が相手であるならば、その肉体を一瞬で蒸発させる早苗の技の中では、最も威力の低い技である。……未だ、奇跡の出力が低いために、この程度の技しか使えないのだ。

 

【欠伸が出るぞ、人間】

 

 当然、そんな弱々しい技が緑眼に効くはずもない。

 早苗の光線を顔面に受けて、身じろぎ一つしない。……単純に肉体強度が強すぎるために、早苗の低出力な技では突破できないからである。

 

【くっくっくっ、踊れ踊れ、死の舞踏で我を楽しませろ】

「ッ!?」

 

 遂に、緑眼の尾が早苗を捉える。

 空中から地面へと叩き落された早苗へと、更に追い打ちの連撃を加えていく。一個人に向けるには余りにも過剰過ぎる連撃だ。まるで鞭のように高速で振り下ろされる尾が、空を切り裂きながら地面を切り刻んでいる。

 普通なら終わり、普通じゃなくても致命傷を受けるのは明らかである。

 

「少々、おいたが過ぎますよ?」

【あの一瞬で逃げたか】

 

 いつの間にか、緑眼の背後には早苗の姿があった。……緑眼の猛攻を避け、その背後を取ったのは、流石は守矢最強の名を背負う者と言えよう。しかし――

 

【だが、完全には避けられなかったようだなぁ】

 

 緑眼が笑みを深める。

 

「っ……この程度、傷のうちには入りませんよ」

 

――負傷。

 

 右肩から、左脇腹まで伸びた裂傷。溢れ出た血液が早苗が身に纏っている純白の巫女服を朱へと染めていく。……致命傷ではない。しかし、これからの戦いに確実に支障が出るほどの傷が早苗の身に刻まれていた。

 強がってはいるが、無視できないダメージを受けていることは明白、僅かに顰められた表情からもそれが窺い知れる。

 

「ふぅーっ……我ながら、情けない限りです」

 

 奇跡が足りない。奇跡が足りないのである。

 無論、平常時の能天気かつ頭のユルイ自分よりは遥かに上なのだが、それでも全開とは程遠い。今の早苗の奇跡の出力を数字に表すとするならば、二十数%……いや、ギリギリ二十%に届く程度しかない。

 この程度の出力では、何時ぞやのように超自然現象の数々を自由自在に操作することなど出来はしない。精々、先程の様に奇跡の力を内包させたビームを放ったり、空間同士を繋げて瞬間移動するくらいしか出来ない(何を言っているんだコイツ)。

 

【げげげげ、げげげげげげげ!】

 

 緑面が嗤う。さも可笑しいと嘲笑う。

 全てに嫉妬し、憎み、黒き感情を燃やし続ける化生は、全てを滅ぼさんと、破壊を撒き散らしながら、仄暗い大地の底で悍ましい声を響かせる。

 恐ろしい牙が並んだ巨大な口を吊り上げ、全てを憎み見上げる瞳を三日月の様ににんまりと細めながら、嫉妬に塗れたドス黒い声で嗤いやる。

 

【楽しいな人間、なぁ、楽しいなぁ? 妬ましい己らが傷付くさまは心地が良いなぁ!】

 

――妬ましき者共、全て傷付き滅べばいい。

 

 憎悪入り交じる嫉妬心を爆発させた水橋パルスィが至った最悪にして最凶の力。いくら奇跡が足りないとはいえ、あの早苗が真っ向から撃ち負けるほどの馬鹿げた力である。

 

【なぁ、人間、貴様は言ったな? 格の差を教えてやると、そう言ったな? 確かにそうだ、お前と我では格が違うなぁ】

「それは私に勝ってから言いなさい」

【もう勝ったぞ?】

「ッッッ!? ガフッ!」

 

 一瞬の出来事だった。

 早苗の四肢を緑面の尾が貫き、その細い首を絡め取る。……持ち上げられた彼女の身体は宙で固定され、まるで今から裁きを待つ罪人の様に磔にされてしまう。

 

【なぁ、人間、奇跡を操ると嘯く傲慢な人間。あの女を己の物だと嘯く人間よ。大言壮語とは、無様よなぁ?】

「……」

【何か言えよ人間。もう一度、我を見下してみろ。我の想いを踏み躙ってみろよ! なぁ、人間!】

「ふぅーっ……やれやれ、やはり思い違いをしていましたか」

【……思い違いだと?】

「一つ、私は貴女を見下しては居ません。見下すのは、己を強者だと勘違いしている弱者の愚かな行いです。……全ての頂点に立つ私が抱くのはただの哀れみ、私という絶対の存在に戦いを挑まんとする貴女の無知蒙昧に対する哀れみです」

【……】

「二つ、私は嘘を吐いてはいませんよ。今はまだ私の物ではありませんが、霊夢が私の物になるのは時間の問題です。……確定している未来を、少々先走って言ってしまっても何の問題もないでしょう?」

 

 絶対絶命の状況下であろうと早苗は変わらず傲慢に言い切った。

 命乞い? 全ての頂点に立つ存在である己が、みっともなく命乞いをする? そんな無様を晒すのなら死んだ方が遥かにマシだ。

 

「それに――」

【熱ッ!?】

 

 莫大な光と熱が早苗から発せられる。

 

「――私の勝利は揺らぎません」

 

――早苗、発光。

 

 尋常ではない光が、地底を明るく照らし出す。

 早苗から発された光は、その圧倒的な光量で以て、己を拘束している緑眼の尾を焼き、滅ぼしていく。

 

「言ったでしょう? 格の差を教えると」

【目がッ、目がァァァァァ!?】

 

 瞬きの間に、緑眼の眼前へと移動した早苗が、緑眼の目に向かってピースサイン。……そして、指先から発せられるのは、先程発せられたものよりも更に眩い光。

 発せられた光は、暴力的なまでに神々しく輝き、爆発的な威力で、緑眼の目から視覚を奪い取った。痛みすら感じる光の洗礼を受け、緑眼はその身を苦痛にのたうち回す。

 

「此処まで来て漸く半分程度ですか、我が力ながら寝坊助で困ってしまいますねぇ」

【おのれぇ、おのれぇ! おのれ人間めぇぇぇぇぇ!】

「ただの人間ではありません、この世全ての頂点に立つ人間です。……それと自己紹介したでしょう? 私の名は東風谷早苗。守矢の風祝、奇跡(ザ・ミラクル)の東風谷早苗様です」

 

 時間稼ぎは終わった。これから先が本当の勝負の始まりだ。

 早苗の奇跡の上限が繰り上がる。その出力は全開時の約六割程度。だが、侮るなかれ、早苗の奇跡は――

 

「我が力、奇跡(ミラクル)は唯一絶対。……貴女が如何に強力なバケモノでも、この力に抗う事など出来ませんよ」

【おぎゃあぁぁぁぁぁ!?】

 

――奇跡の破壊者(ミラクル・スマッシャー)

 

 文字通り、奇跡と呼んでも決して過言ではない程に、常軌を逸した力なのだから。

 ミラクル・スマッシャー。奇跡の力で空間を無理やり捻じ曲げ、同次元に存在している座標と座標を結び合わせ、無数の早苗ちゃんビームを敵に浴びせる技である。

 その最大捕捉範囲は早苗の認識が及ぶ範囲。つまり、早苗の知覚できる範囲内にいる存在全てに同時攻撃を仕掛けることも可能である。

 早苗の放った無数の光線が、緑眼の全身をまんべんなく叩いていく。光線によってその身体が焼かれることはないが、衝撃は別。奇跡の上限が繰り上がった早苗の早苗ちゃんビームが、雨の如くその身体に重い衝撃を送り込んでいく。

 緑眼は最早為すすべもなく、光の蹂躙を受け続けることしか出来ない。

 

「哀れな貴女に、せめて安らぎを――」

 

――秩序の崩壊(オーダー・ブレイク)

 

 早苗の胸元で練り上げられた奇跡の力が唸りを上げる。

 球体上に展開されたそれは、急速に乱回転し、周囲の空間を捻じ曲げ、膨大なエネルギーを放出しながら、放たれる。

 それを例えるならば光の柱。異常なまでに蓄えられた奇跡のエネルギーが、ただ一体の妖怪に向かって放たれる。

 

【こんなもの! こ、こんなもの……っ! こ、こんなっ……こんな……! う、うぎゃあああああぁぁぁぁぁ!?】

 

 何処かの悪の帝王の様に受け止めようと抵抗した緑眼であったが、断末魔の叫びと共に、膨大なエネルギーの奔流の中に飲み込まれた。

 緑眼を飲み込んだエネルギーは、そのまま地底の大地を破壊しながら突き進み、地底の奥深くに存在している地底湖に巨大なクレーターを作り出して消えていった。

 

「ふぅーっ……久々に疲れましたね」

 

 正直なところギリギリだった。

 尋常ではない敵。霊夢や風見幽香などには及ばないが、通常時の自分では苦戦を余儀なくされる実力を持った相手だった。

 自分とはちょうど対極にある緑眼の力。嫉妬を糧として、負の力の極限を振るう。……それは、正の力の究極と言っても良い己の奇跡に匹敵するほどに凶悪極まりない力だった。

 己の全開時の半分以上の力を惜しげもなく使って、漸く仕留めることが出来た。その事実に驚嘆せざる得ない。……そんな埒外の輩など、この幻想郷には、恐らく片手の数ほどもいないだろう。

 

「ともあれ、これで漸く霊夢さんを追いかけることが出来ますね」

 

 随分と時間を取られてしまった。霊夢の実力を考えればもう既に異変は解決しているだろう。これでは霊夢の好感度稼ぎが出来ないじゃないか。早苗は残念そうに深いため息を吐き――

 

「ッ!? しぶといですね!」

 

――背後からの奇襲を受け止めた。

 

 奇襲の正体は金色に光り輝く尾、おぞましき闇を纏った尾の槍だ。早苗は、己の心の臓目掛けて放たれた尾を、殺意に満ちた尾を、その手に持った払い棒で受け止める。

 

――重いッ!?

 

 先程よりも遥かに、それこそ別人と言っても良い程に。

 驚愕する早苗を他所に、事態が急変していく。……辺り一帯を禍々しき闇が包み込み、地底湖の水面が揺れる。その存在の強大な力に、地底という場所そのものが怯え震えている。

 

【おのれぇ、おのれぇ、人間、人間めぇ、東風谷早苗ぇぇぇぇぇ!】

 

 地底湖の水が全て吹き飛ぶ。黒く禍々しい力の奔流がその場に存在していた水を全て弾き飛ばし、雨と暴風を伴った局地的な天変地異を巻き起こす。

 湖だった場所には怪物が、緑色の瞳を負の感情に染めたあの怪物が、げに恐ろしき緑眼が佇んでいた。

 

【許さぬぞ東風谷早苗ぇぇぇぇぇッッッ!!】

 

――邪悪再臨。

 

 より強大な負の力を纏わせ、山ほどもある金色の巨体を更に肥大させ、この世の全てを妬み、憎悪する緑の瞳を爛々と輝かせる。

 

「……ちょっと厳しいですかね、これ」

 

 強大化した悪の化生を見て、早苗は頬を僅かに引きつらせる。……あれ? アイツ、今の私より強くね?

 

【我を倒したと思うたか? 我に勝てると思うているのか? 思うていぬだろうな! おまえの力では我に傷を入れられぬからな!】

 

 緑眼は無傷だった。あの早苗の猛攻を、最上級の妖怪ですら一瞬で蒸発してお釣りが来る程の早苗の猛攻を、無傷で防ぎきったのだ。その恐るべき事実には驚愕するしかないだろう。

 

「これはもう、アレを使うしかありませんね」

 

――アレ。

 

 奥の手中の奥の手、切り札にして最終兵器。

 早苗の奇跡の力が限界まで上昇したその時にのみ使用することが出来る早苗だけに許された、早苗の早苗による早苗のためだけの究極奥義。

 

「ふぅーっ、また時間稼ぎから始めないといけませんねぇ」

 

――【一騎当千天地無双(ザ・ネオ)

 

 使うためには膨大なまでの奇跡が必要だ。今の奇跡ではまだ足りない。

 

「さぁ、貴女の嫉妬心が勝つか、それとも私の奇跡が勝つか――勝負ですッ!」

【おぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!】

 

 究極の奇跡と、究極の嫉妬がぶつかり合う。正の力が世界を照らし、負の力が世界を飲み込む。

 勝つのは奇跡か、それとも嫉妬か……その決着はまだまだ先の話である。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「きゃあああああぁぁぁぁぁ!?」

「いやあああああぁぁぁぁぁ!?」

「ひゃあああああぁぁぁぁぁ!?」

 

 絹を切り裂くような甲高い悲鳴が地底に響き渡る。

 此処は地底の地霊殿。灼熱地獄跡の真上に建てられた、地底屈指のお屋敷である。由緒正しい小五ロリの姉妹と、その愉快なペット達が和気藹々と暮らしている地底のほのぼのスポット。

 

「ヴァアアアアア!」

「くりゅなあぁぁぁぁぁ!」

 

 逃げ惑うのは、魔女風の格好をした、普通の魔法使いの少女――霧雨魔理沙。……普段の勝ち気で快活な彼女の姿は霞のごとく消え失せ、恐怖に震え、滂沱の涙を流しながら、絶えず途切れぬ悲鳴を上げ、逃げ惑っている。

 

「キシャアアアアアァァァァ!」

「きぼぢわるいよぉぉぉぉぉ!」

 

 同じく、逃げ惑うのは、トリコロールな格好をした人形の様な少女――アリス・マーガトロイド。……キャラ崩壊待ったなし、平時であれば冷静沈着の氷のような彼女の表情がぐちゃぐちゃに歪み、涙の雫を撒き散らしながら、地底の大地を掛けている。

 

「スタァァァァズ!」

「何でヤバそうなのがこっちにくりゅのぉぉぉぉぉ!?」

 

 同じく逃げ惑うのは、寝間着のような服装をした少女――パチュリー・ノーレッジ。……普段の運動不足は何処へ消えたのやら、その豊満なバストをバルンッバルンッと揺らしながら、必死の形相で全力疾走している。

 

「ヴァアアアアア!」

「キシャアアアアアァァァァ!」

「スタァァァァズ!」

 

 逃げ惑う麗しき少女らを追い掛け回しているのは、ほのぼのとした噂がされている地霊殿には似つかわしくない奇っ怪な面々である。

 

「ヴァアアアアア(金髪魔女っ子ペロペロぉぉぉぉぉ)! ふぅぅぅぅぅ!!」

 

 エントリーナンバー、一番、ゾンビ君。

 由緒正しきホラーのド定番、ロ◯ロが生み出した生ける屍が、腐っているとは思えない勢いで大地を駆ける。

 その姿はまさに地底のスプリンター、世が世ならオリンピックですらも軽々と踏破し、彼の大英雄アキレウスと並び立てるであろう、韋駄天のごとき疾走である。

 しかし、その形相はコワいを通り越して、気持ち悪いの一言。何を……いや、ナニを考えているのか分からない(分かりたいくない)イヤらしい表情で、生前の自分の性癖にドストライクな少女を追い掛け回している。

 ゾンビに知性はない。何故なら彼は腐っているからである。……彼らの頭に残されているのは、純粋なまでの動物的本能。食べたい(意味深)という超動物的本能のみが、彼を突き動かしているのである。

 金髪で元気の良い魔女っ子にむしゃぶりつきたい。……その一心で地底を駆ける変質者の姿がそこにはあった。

 

「キシャアアアアアァァァァァ(尻をペロペロさせろぉぉぉぉぉ)!」

 

 エントリーナンバー、二番、リッ◯ーさん。

 某、傘マークの会社が色々と実験して生み出した新種のウィルスで、何やかんやした結果誕生した生物兵器が、何故か幻想郷の地底で無駄に元気に疾走していた。

 その生物兵器であるリッ◯ーは、長い舌を限界まで伸ばして、伸ばして、グルングルンと物凄い勢いで触手のごとく振り回している。

 舌が狙っているのは、勿論、逃げ惑うアリスその人……の臀部である。

 リッ◯ーは尻フェチであった。その上、度っし難いペロリストでもあった。

 彼には人の魅力は分からぬ。そもそも目がないのだから美醜の感覚など皆目検討もつかない。だが、それでも舌先で感じるヒップの柔らかさ、弾力、香り、味、嫌がる少女の声を楽しむだけの感性は持ち合わせている。

 若く瑞々しい少女の尻を舐め回したい。……そんな、ケダモノ以下の最低な意志で動く生物兵器が一匹、地底の大地を駆け抜ける。

 

「スタァァァァズ(おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいおっぱいぃぃぃぃ)!」

 

 エントリーナンバー、三番、ネ◯シス君。

 案の定、某傘マークがやらかした結果誕生した。皆のトラウマである最強の追跡者(ストーカー)だ。

 凄まじい戦闘能力、尋常ではないタフさを合わせ持ち、多種多様の重火器を手足のごとく操る頭脳も有している。

 そんな彼は、全身からどういうわけか無数の触手を溢れ出させながら、物凄い勢いでパチュリーを追いかけ回している。

 彼の目的はパチュリーの胸。幻想郷でも上位に食い込む、パチュリーの豊かな果実を弄ばんとギンギンに触手をいきり立たせ、先端から迸る汁を滴らせ、その柔肌を蹂躙せんと興奮しているのだ。

 紅魔館随一の我儘ボディをこの俺様の触手で思う存分堪能したい。……つまり、エロ同人みたいに乱暴しようとしているのである、これは酷い。

 

「にゃあああああ!?」

 

 そして、この娘も。

 

「……」

「何であたいもぉぉぉぉぉ!?」

 

 魔女っ子達に生物兵器共をけし掛けていた側である筈の彼女、火焔猫燐。

 お燐もまた、必死に逃げ回っていた。……覚醒当初の余裕綽々とした様子は彼方へと消え失せ、魔女っ子達と同じように逃げ惑っている。

 何故、彼女が逃げているのか? それは――

 

「……(猫耳ぃ)」

 

――猫耳ぃ。

 

 素敵なシルクハットを被った黒コートに無言で追い掛けられているからである。

 最後のエントリーとなった彼こそ、お燐が召喚してしまったヤベェ奴、タ◯ラントさんその人であった。

 某傘マークが生み出した生物兵器にして量産型の決定版。ネ◯シスには一歩劣っているかもしれないが、それでも強力極まりない性能を持った生物兵器の傑作の一つである。

 無言で、お燐の可愛らしい猫耳と猫尻尾を凝視しながら、ずっしりしっかりとした足取りで、一歩一歩確実に大地を踏みしめ、お燐を追跡(ストーキング)している。

 彼は生物兵器随一のケモナーだった。その彼の好みにどストライクだったのが、自身を呼び出してくれたお燐の耳と尻尾。

 それを視界に入れてしまった瞬間、どういうわけか彼は自由になってしまった。お燐の支配下から離れ、自分自身の意志で好きに行動する事が出来るようになってしまったのだ。

 出来ることならば、普通に頭をナデナデさせて欲しい。その交渉のためにお燐を追い掛ける。……しかし、無言で近付いてくる強面の大男が普通にコワいため、逃げられているのが現状だ。

 ある意味、生物兵器共の中で一番純粋でまともなのは、彼かもしれない。

 

 地霊殿では、恐怖の鬼ごっこが開催されていた。

 逃げるのは、幻想郷でも指折りの美少女たち。そして少女たちを、追い掛けているのは、地底の死体運びが召喚した、異質なる怪物共。

 余りの恐怖に涙を流し、必死の形相で逃げ続ける少女達と、その背後を興奮しきったイヤらしい形相で追い掛ける怪物たち(一人は無表情)。……どう見ても事案ですねありがとうございました、な光景が展開されていた。

 

「ヴァアァァァァ(魔女子ちゃぁぁぁぁぁん)!!」

「うひゃあっ!?」

 

 無駄に綺麗に整ったルパンダイブで飛び込んできたゾンビを、間一髪で避ける。……避ける間際に見てしまった。ゾンビの表情を見てしまったのだ。

 奴は唇を突き出していた。腐食した顔面をこれでもかと言わんばかりにねっとりと歪ませ、血走った目をギラリと輝かせながら、その汚らしい唇を突き出していたのだ。……その唇の先は、先程まで魔理沙の顔があった場所である。

 つまり、後一歩遅かったら――

 

「あああああ! もぉかえるぅぅぅぅぅ!」

 

――ガチ泣きである。

 

 魔理沙は泣いた。これ以上ないくらいに泣いた。こんなに泣いたのは、霊夢に意地悪されて嫌われたと勘違いした時以来だ。それくらいの勢いで泣いた。

 何せ、自分の貞操の危機である。危険と書いてデンジャラス。本気と書いてマジ。ヤベェと書いて矢部、それくらいの勢いで大ピンチがやってきてしまったのだ。

 戦うという選択肢も取れない。いや、戦う前に逃げるという行動しか浮かび上がってこない。それほどの恐怖と混乱が魔理沙の中で渦巻き、彼女から冷静な判断力というものを根こそぎ奪い取っていたのだ。

 

「ぴやあぁぁぁぁぁ!?」

「キシャアアアアアァァァァァ(貰ったァァァァァ)!!」

「ぴゃいっ!?」

 

 此処も色んな意味で大変な状況になり始めていた。

 元々、身体能力的にはそこまで高い水準には居ないアリスだ。生物兵器屈指の俊敏性を持つ変態ペロリスト相手に、いつまでも逃げられるわけではない。徐々に距離を詰められ、追い込まれていく。

 リッ◯ーの舌先が、アリスが身に纏う衣服のみを少しずつ引きちぎり奪い取っていく。そして、その切れ端をそれはそれは美味しそうにニタッとした笑みを浮かべながら、咀嚼し飲み込んでいるのだ。

 変態である。どう足掻いても変態。あんまりにもドッし難い最低最悪のペロリストである。

 そんな相手に追われる人形少女は――

 

「ぴょぴょぴょぴょぴょっ!?」

 

――バグった。

 

 アリスは混乱している。普段冷静である彼女が、此処まで取り乱したのは、霊夢が意地悪で怖い話を聞かせ続けた時以来だろう。……あの時は、三ヶ月以上一人でトイレに行くことも、お風呂に入ることも、寝ることも出来なかったのだ。

 その時と同等の恐怖が麗しの人形師に襲い掛かる。しかも、今回は己の貞操の危機である。これはもう死物狂いで逃げるしかない。

 魔理沙と同じく、戦うという選択肢はない。というか触れるどころか、見るのも嫌な気持ちの悪い怪物相手に、戦うという選択肢を取れるほど、彼女のメンタルは強くはないのである。

 

「スタァァァァズ(ボイィィィィィン! ボィィィィィン! バルンバルンバルンバルンッッッ!!)!」

「無理無理無理無理無理ぃぃぃぃぃ!」

 

 ネ◯シスの左腕から生えている触手が猛烈にうねる。先端から何かを我慢するように、透明でネットリとした汁を分泌させ、飛び散らせながら、パチュリー・ノーレッジという一人の少女の身体を蹂躙せんと、その欲望のままに暴走している。

 本体である異形の怪物もまた興奮に震え、下半身のとある部分を膨張させながら、パチュリーの豊満でむっちりとしたわがままボディを求めて、全力で駆けている。

 

「〜〜〜〜〜ッ!? 〜〜〜〜〜ッ!?」

 

 常日頃の彼女の姿はそこにはない、すでに顔面は涙と鼻水だらけのぐちゃぐちゃで、散々と言った有様であった。

 こんなにみっともない姿を晒したのは、ある日、ふらりと紅魔館を訪れた霊夢から、イタズラで恐怖ドッキリを仕掛けられた時以来だ。……あの時はもう涙とか、鼻水以外にも色んな液体ががが(パチュリーは思い出すのを止めた)。 

 あの恐怖体験に匹敵する恐怖と戦いながら、パチュリーは思う。「自分を無理矢理鍛えてくれてありがとう霊夢、本当大好き」……実際、この場にいたのが、運動が全く出来ない過去の自分だったら、とっくの昔にあのバケモノの触手に囚われ、その強靭な肉体に組み伏せられ、【見せられないよ】な状況になってしまっていただろう。

 何とか逃げることが出来ているのは、霊夢の霊夢によるパチュリーのためだけのとれーにんぐ教室があったからだ。いや、本当にありがとう。

 だからと言って、現状パチュリーに反撃するだけの気力はない。逃げるので精一杯だ。……だって捕まったら何を、ナニをされるか分かったもんじゃないんだもの。

 この身体は足のつま先から、髪の毛の一本一本に至るまで、全部霊夢のためだけに磨いてきたものだ。何処とも知れない有象無象の気持ちの悪い触手のバケモノに触れさせるわけには行かないのである。

 それ故に、パチュリーは逃げる。万が一などあってはいけないのだ。

 

「「「というか何でお前(貴女)(アンタ)も逃げてんだ(のよ)」」」

「あたいも知らないよぉぉぉぉぉ! 何で言う事聞かなくなってるのぉぉぉぉぉ!?」

 

 この状況を作り出した元凶とも言っても過言ではない猫耳ゴスロリ少女も魔女っ子組に混じって逃げていた。魔女っ子組ほど切羽詰まってはいない様子ではあるが、それでも表情は青褪め、涙目になってしまっている。

 

「……(もふ、もふ)」

「いっそ何か言って!? 無言が一番怖いよ!」 

 

 それでも彼は喋りません。

 他の面々が殺伐とした尋常ではない殴り合いや、殺し合いを繰り広げているというのに、この場の空気は何処までもシリアスになれない。……いや、ある意味では他よりも大変な状況になってはいるんだろうが(主にハジメテがピンチ的な意味で)

 

「他のは他ので変なのしかいないしッ!」

 

 お燐達を追い掛けている生物兵器共以外の奴らも変な奴らが多かった。

 

「私の歌を聴けぇぇぇぇぇ!」

「「うおぉぉぉぉぉ! シェ◯ル様、うおぉぉぉぉぉ!」」

 

 何処ぞの銀河の妖精を彷彿とさせる謎のゾンビガールと、そのファンらしきゾンビ共がいたり。

 

「ハハハッ! 見ろ! 人がゴミのようだ!」

「「バルス(目潰し)」」

「目がッ! 目がァァァァァッッッ!!」

 

 天◯の城的な遊びをしている謎のグラサンと少年少女達のゾンビがいたり。

 

「おっぱいのペラペラソース!」

「あーりえんなー!」

「ロリが鉄火ロール!」

「ウンコがしてーよー」

「ッ!? おい、汚いのしてなまーす!」

「「手コキッ!」」

 

 変な村人ゾンビが、日本語に聞こえる言葉で妙な会話を繰り広げていたり……

 

 控えめに言ってもカオス。最早、どう足掻いてもカオス。これ以上ないくらいのカオス。

 お燐の頭を頭痛が痛い状態にして、お腹を腹痛がペインペイン状態にまで叩き落とした、圧倒的コレジャナイ感がする、混沌とした現状。

 

「どうしてこうなったぁぁぁぁぁ!」

「「あーりえんなぁぁぁぁぁ!(村人一同)」」

「ッッッ! 黙れぇぇぇぇぇ!」

「「パピヨッ!?」」

「「パピヨ!?」」

「「パピヨッ! うれしっ!」」

 

 地霊殿にて虚しく響き渡るお燐の怒声。妙な掛け声と共に吹き飛んで逝く村人達。

 最初は、魔女っ子VSお燐&ゾンビーズだった……それが、いつの間にやら、魔女っ子&お燐VSゾンビーズ(変なのしかいない)&生物兵器共(一部を除いて重度の変態しかいない)という混沌とした状況に陥ってしまっている。

 少女たちは逃げ惑い。その背後を生物兵器共がねっとりと追い掛ける。……オーディエンスは好き勝手に騒ぎ続ける意味不明なゾンビーズ。

 

 どの場所よりもカオスで、どの場所よりもシリアルな戦いは、まだまだ続く。……いや、何時になったら終わるんだろうね?(知らね)

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 お空ちゃんのお空ちゃんがツァーリ級の爆発力で揺れるに揺れるせいで、私の心の中のアハトアハトが、お空ちゃんの核融合炉に向かって、鉛玉をブチ込みたいって猛りに猛っている件について(略して、おくわた)。

 

【避けてばかりでは我らを止める事は出来んぞ!】

「にゅやあぁぁぁぁぁ!」

 

 敢えて言わせて貰おう。ざぁんねぇん! 見て(視姦しながら)回避余裕でしたぁ!

 お空ちゃんが我武者羅に繰り出す連打の数々を、細長い筒状のナニかから撒き散らされる(意味深)、真っ白なアレ(光線的な)を、優雅に華麗に大胆に、舞い踊りながら避けていく。

 より美しく、より鮮烈に、この場にいる少女たちに、私の全身全霊の魅力を理解させるために、その一心で、舞い狂う!

 もっと私を見てッ! 私の胸の高鳴りをッ! この情熱をッ! 私の身から溢れ出すこのパトスをッ! 見てぇぇぇぇぇ!(←頭オカシイ)

 

「何て、綺麗……」

「ほぇ……」

 

 我が舞いは、老若男女問わず、あらゆる者を魅了する天女の舞也ッ! ゆかりんと藍が太鼓判押してくれたから間違いないッ!

 現に見よ! あのさとりちゃんも、こいしちゃんも! 今のシリアスな状況を忘れて、私の舞に魅了され、ただただ見惚れている有様だ! さっすが私ぃ! どんな時でも輝いているわね!

 私に視線を集めたタイミングで、とっておきのぉぉぉぉぉ!

 

「〜〜ッ!? 〜〜ッ!? 〜〜ッ!?」

「ほぇぇぇぇぇ!?」

 

――流し目。

 

 静かにそっと、流水の流れに沿うようにゆっくりと、瞳と瞳でぴったりと、少女たちにキスをする様に甘く艷やかに見つめる。……フフフッ、これで落ちぬ女はいなかった(そろそろ背後から刺される)。

 

【ッ!?……な、何という、かかかか可憐なッ!】

「うにゅ?」

 

 おやぁ? おやおやおやおやおやぁ?

 今、見惚れたな? 見惚れたな八咫烏さんよぉ。私の溢れんばかりの美貌に見惚れたなぁ!

 反応が童貞のそれでワロタ。お隣りに住んでいる憧れのお姉さんのえっちぃ姿を思いがけず見てしまった思春期に入ったばかりで、己の内にある性衝動を発散する術を知らない、素人童貞の様なねっとりとした青臭さを感じたじぇい。……年中発情しているケダモノの私が感じたんだ、間違いない。

 で、本体であるお空ちゃんは何が何だか分かっていないご様子だけども。……それはそれで性知識を知らずに、育ってしまった爆乳ガール的な愛らしさとか、それ何処の同人誌ですか? ってシチュエーションを期待できるという、とても楽しみなムフフ要素がふんだんに盛り込まれているから最高だ。

 そもそもの話、お空ちゃんは私と同じ淑女である可能性があるんだから性知識皆無ってわけではないんだろうけど(思い違いです)……ハッ!? もしや、動物的本能で無意識に生殖行動に及んでしまう様な、そういったアレなのか!? それはそれでポイントが高いので、私と是非とも本能大開放の次世代創造運動を繰り広げたいところである(一人でヤッてろ)。

 

【く、くそぅッ、我が人間に見惚れるなどッ……空! アレを使え!】

「う?」

【う? じゃないッ! くそッ! 頭が足りないから、簡単な命令でもこの様か! この鳥頭め!】

「うにゅ! にゅっ! にゅやぁぁぁぁぁ!(訳:ヤタがあの巫女に見惚れて、ちょっとえっちぃ妄想していたのが悪い! にゅやぁぁぁぁぁ!)」

【ば、馬鹿者! そんな事実はない! 我はそんなはしたない感情を抱いてはッ!】

 

 お空ちゃんの肉体と喧嘩をする八咫烏の姿に草が生い茂る。

 八咫烏さん、口喧嘩雑魚すぎやしないかい? お姉さん敵対しているのも忘れて、ちょっとあの娘の将来が心配になってきたんだけども。……アレ、私がちょっと本気で罵倒したり、イジメたりしたらガチ泣きするレベルだよね? 傲慢そうに振る舞っているけど、実は中身結構残念だよね?

 ポンコツっていうか、アホっぽいというか……まるで、某素晴らしい世界にいる駄目な方の女神みたいな、圧倒的なまでの残念臭と、隠しきれない駄目駄目オーラを感じた。

 あ、フーン、お空ちゃんと相性がすこぶる良かったって、そういう意味なのね。

 

「……(優しい目)」

「……(可哀想なものを見る目)」

【や、やめろぉー! そんな、そんな目で我を見るなぁー!】

「うにゅ!(訳:ぷぎゃー!)」

 

 さっきまでこの八咫烏を敵視していた古明地姉妹もすこぶる残念な生き物を見る目で、八咫烏inお空ちゃんを見ている。

 いや、本当に今回の異変をこの八咫烏がどうやって引き起こしたのかが気になるんだけど……。

 

「はぁ……お前、本当に異変の元凶か?」

【フフフッ、我が考えた素晴らしい作戦を見れば分かるだろう! まずは地底を太陽で照らすことで、八咫烏の威厳を示し、力を蓄えた後に地上を同じく太陽で照らす。……あぁ、何て慈悲深くも大胆で素敵な作戦だろうか! 流石、我だな!】

「……あの太陽はやりすぎな気がするんだが?」

【我が八咫烏の権能の大半を使って作ったからな! 空の奴が背が伸びたら嬉しいと思うって言ってたから、進化の力まで備え付けたのだ! 我、超頑張ったぞ!】

「……(これ以上ない、残念な生き物を見る目)」

【空の奴もノリノリでな! 途中から無理矢理やらされている感を出して演技してな! 我、もう久しぶりのドッキリでワックワックだったぞ!】

 

 ちなみに、サトリ妖怪の力は、我の力で誤魔化してみた! などと無駄に綺麗な笑顔で言われた。……何で、私が解決しようとする異変って基本的にしょうもない理由で始まるんだよ! シリアスをッ、シリアスを返せよぉ!(お前が言うな)

 

「あの、お空が焼き払えって言ってたというのは? それに、すごく苦しそうにしてたのはどうしてですか?……」

【久々に会話出来るのが嬉しくて嬉しくて、ちょっと調子に乗っていたのだ。地上を焼くとか、恐いこと本気で言うわけ無いだろうが……いや、途中からは空が本気で演技し始めてな、我も止めたのだが、止められなかったのだ】

「いきなり死ねって言われたんだけど……」

【……ついさっきまで寝ててな。機嫌が悪くて、つい】

 

 いつの間にか、私が張った結界から出てきていたさとりちゃんとこいしちゃんも、八咫烏に質問を投げかけている。……あぁ、うん。危険はなくなったもんね。

 それにしても理由がヒドすぎる。さとりちゃんとこいしちゃんも困惑してるじゃん。……取り敢えず、お空ちゃんはお仕置き確定だな。絶対にゆるしゃない。泣いて謝っても絶対に許してあげない。あのデッカイ夢の塊を私が満足するまで徹底的に開発してやる(揉みたいだけ)。

 

「……お空の意識は何処にあるんですか?」

【道中、地底に輝く太陽が見えただろう? あそこに直接送り込んでいる。……随分と好き勝手に遊んでいるみたいだから、そろそろ回収しようとは思っていたんだが】

「じゃあ、今すぐ回収してください」

【は、いや、流石に今すぐには……】

「回収してください」

【いや、だから……】

「回収しろ」

【はいッ! 分かりましたッ!】

 

 おっふ、これはさとりちゃんお怒りですわ。

 まぁ、散々心配させておいて、当の本人はのんきに遊んでいたり好き勝手していたというのだ。これに怒らない者はいないだろう。誰だってキレる。私だってキレる。

 

「ねぇ、霊夢」

「……何だこいし」

「私の反省は? 私が反省した意味って何だったのかな? かな?」

「落ち着けこいし」

 

 瞳孔が開き切った目で私を見上げながら、しきりに首を傾げて疑問の声を上げ続ける。まるで壊れたラジカセの様に、何度も何度も、壊れた様に、何度も何度も。……ヤダ、コワいわこいしちゃん、夢に出てきちゃいそう(がくぶる)。

 

【空! いい加減に本体に戻って来ぬか! というか戻れ! 戻って下さい! 我、大ピンチ! ちょー大ピンチ! 我の命がごいすーでデンジャーなのだぁぁぁぁぁ!】

「うにゅぅ? うにゅにゅ……うにゅ、今いいとこだったのにぃ」

【空、空、後ろだ、後ろ……ひぇっ】

「うにゅ? 後rヒィッ!?」

 

 戻ってきたらしいお空ちゃんが背後を振り返り……悲鳴を上げる。

 

「お空……随分と楽しそうにしてたわねぇ?」

「私達、すっごく心配したんだよ? ね?」

「さささささとりさままままま、こここここいししゃままままま!?」

 

 日ノ本言葉を話しなさい。日ノ本言葉を。

 いや、コワいのは分かるんだけどね。私も表面に出していないだけで、かなりガクガクのブルブルで、ちびっちゃいそうなくらい震えているんだけども。……

 

【空、逃げろぉぉぉぉぉ! あのサトリ妖怪共から離れろぉぉぉぉぉ!】

「うにゅあぁぁぁぁぁ! コワいよぉぉぉぉぉ!」

 

 あ、逃げた。

 恐怖に耐え切れなかったのか、物凄いスピードでその場から飛び上がり、更に奥深くへと逃げ去っていった。……恐怖の化身となった古明地姉妹を置いて。

 

「……霊夢さん」

「……霊夢」

「……何だ」

「「お空をお願い(しますね)」」

「……わ、分かった」

 

 ひぇぇぇ、つ、つつつ遂にさとりちゃんとこいしちゃんの瞳から完全に光が消えちゃったよぉ(ガン泣き)!

 というか、お願いされなくても、お空ちゃんには私のお仕置きが待っている。散々引っ掻き回して、異変まで引き起こしたのだ。これで何のお咎めも無しだったら、博麗の巫女としての沽券に関わる。……何より、お仕置きという名目で、あのたわわに実った、柔らかそうな身体の全てをたのsゲフンゲフンッ。

 





かくたのぉ(控えめ)

書いてて思いました。……まともな戦闘描写が早苗とパルスィしかねぇ。
残りは全部ネタでしたね。それも下ネタ多めの奴……性格ってこういうところにも出るんですね。びっくりですよ。
当初の予定ではシリアスにしようと思っていたのに、どうしてこうなったのだろう?

初期プロット(「止まるんじゃねぇぞ」)
春巻き「しょ、初期プロットぉぉぉぉぉ!」

はい、そんなわけです。次回を楽しみにしてください。
感想をいただくと、春巻きの内なる春巻きが覚醒して、シン・春巻きになるとかならないとかです。

では、またのぉ!


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【地霊殿】少女、決着【前】


ただ一言言わせて欲しい。……(待っていてくれて)ありがとう。
そして、これが私という一人の人間(という名の春巻き)が唯一返せる感謝の気持だ。

  (´・ω・`)< コレヲ
 ⊃【最新話】⊂

  (`・ω・´)< コウジャ!
⊃       ⊂
   ||| ビューン!
  【最新話】



「はぁ、はぁ、くっくふふっ」

「はぁ、はぁ、くっハハハッ」

 

 どれほどの間、殴り合っているのだろう。

 風見幽香と星熊勇儀、二人は既に満身創痍だった。身体の何処にも無事なところなどありはしない。ボロボロの傷だらけで、真っ赤な血に塗れた酷い有様だった。

 

「かぁ―ッこれだけやって漸く互角かよッ! やっぱりアンタ強すぎるなッ!」

「ふふっ、私に此処まで力を出させたのは、霊夢を除けばお前が初めてよ」

 

――拮抗。

 

 二人の力は完全に拮抗していた。

 進化の光を浴びて極限まで高まった己の力を引き出し、更に周囲の妖気を集めて束ねて漸く互角。その事実に勇儀は絶望すれば良いのやら、呆れてしまえば良いのやら、それとも、そんな怪物じみた規格外を相手にして匹敵できている自分自身に驚けば良いのやらと、色んな感情が入り混じって複雑な心境だ。

 

「はんっ、力を出させた? 馬鹿を言ったらいけないねぇ。……アンタ、ホントはもっと上があるんだろ?」

「……へぇ、どうしてそう思うのかしら?」

「感じるんだよ力を……比べることも馬鹿馬鹿しい力をッ! アンタの中からなッ!」

 

 勇儀は感じ取っていた。……幽香の力に近づけたからこそ、感じ取ることが出来た。

 まるで聳え立つ果ての見えない断崖絶壁の前に立たされているかのような――そんな錯覚に陥ってしまいそうになる、幽香の次元違いな力を感じ取っていたのだ。

 実際、”今”の幽香が出している力は、幽香が内に秘めている強大な力のほんの上澄み部分でしかない。その上澄み部分と互角になるのにもかなりの苦労をしたのに、当の本人の全力には程遠かった。……その事実に絶望せず、逆に闘おうとしている勇儀のメンタルは恐らく幻想郷でも最強であろう。

 

「うふふっ、うふっ、うふふふふふっ……良いわよ、気が変わったわ」

 

 幽香の笑みが変わる。

 狂気に満ちていた凶笑から、慈愛すら感じさせる綺麗な微笑みへと変化する。

 変化と共に空気が重苦しくなる。……幽香を中心として、地底の空気が徐々に徐々に重苦しくなっていく。目に見えない圧力が空間を侵食し、物理的に地底を蹂躙していく。

 

「こんなに頑張ってくれたんだものぉ……ご褒美に少しくらい見せてあげても良いわよねぇ?」

 

 別にこのままの状態でも時間を掛ければ勝てるだろう。元々の地力の差が違うのだ。勇儀の限界が訪れるその時まで待てば、遠からず勝手に自滅するだろう。……だが、そんなものはちっとも面白くない。

 何故なら、自分は風見幽香だ。幻想郷で最も恐れられているのが自分だ。……そんな自分が、安い勝利で満足できるわけがない。否、満足などしてたまるものか。

 幸い此処は深い深い大地の奥底だ。少しだけなら全力で遊んでも幻想郷に影響はないだろう(影響がないとは言ってない)。

 

「な、何だこりゃッ!?」

 

 勇儀の背筋を鋭く悪寒が駆け抜ける。

 己の生存本能が悲鳴を上げている。眼前で佇む妖怪から、圧倒的な生命の危機を感じ取る。……流石に霊夢の威嚇ほどではないが、それに限りなく近い絶望的なまでの圧迫感を感じ取る。

 

「折角、殴り合えるオトモダチ(玩具)が出来たんだもの、全力で相手してあげないと失礼よねぇ?」

 

 高まり続ける莫大な妖力。上昇していく妖力と共に、幽香の傷が癒え、同時にその姿形が変貌していく。

 徐々に徐々に、深緑のごとき髪が、まるで草木が成長する様に伸びていき。見目麗しきその容貌はより美しく洗練されていく。更には、背中から六枚三対の悪魔を思わせる翼が生え、幽香の足元を中心として花畑が広がっていく。

 神々しいまでに美しく、禍々しくも悍ましい。全てを蹂躙せしめる破壊の権化が深い大地の底にて顕現した。

 

「それが、アンタのッ」

「そうよ。……光栄に思いなさい。私のこの姿を見たのは霊夢以外ではお前が初めてよ」

「ははっ! そりゃあ、良いもんを拝ませてもらったねっ!」

 

 しかし、勇儀は絶望しない。快活とした笑みを浮かべながら、拳を握り締め。絶望へと立ち向かう。

 生存本能が叫んでいる。屈してしまえと、命を粗末にするなと叫んでいる。だが、それがどうしたと気合で誤魔化す。

 足は恐怖で震えている。無謀だと、あの怪物に立ち向かってはならないと震えている。だが、それがどうしたと無理矢理力を込めて歩みを進める。

 

「今からお前をぶん殴るわ。もしもそれで立っていられたらお前の勝ち、倒れたらお前の負けよ」

「へっ、そいつは分かりやすくて良いじゃないかッ!――」

 

 勇儀は全身全霊で防御態勢に入る。己の妖力を総動員して、全身の筋力を、力を、その全てを防御に回す。

 

「――来いッッッ!!」

「お前の奮闘は、此処で終わる――ハァッ!」

 

 幽香の気合の声と共に、幽香を中心とした周囲の空間がひび割れ、発生した異空間が地底を侵食していく。

 

「ッ!? やっぱッデタラメッ、だねッ!」

 

 空間を侵食しているのは、幽香の莫大な妖気が生み出した異次元空間、圧倒的な規模の空間が広がっていき、遂には勇儀も飲み込んだ。

 そして、飲み込まれた勇儀は思わず息を呑んだ。眼前に広がる光景に、馬鹿げた光景に、己の目を疑った。

 

――宇宙。

 

 無数の光り輝く光点が点在する空間。上下左右、前後の全てが見たこともない異空間に覆われてしまっている。

 これがたった一人の妖怪によって作り出された光景だと誰が思う。天地を創造せしめた全知全能の神と同等。否、それ以上とも言える大いなる御技。

 

――風見幽香は世界すら容易く生み出せる力を持っている。

 

 そんな怪物と相対している己のなんと矮小な事か。……勇儀の意識に一瞬の空白が生まれる。

 

「妖怪も神すらも滅ぼす圧倒的な暴力を見せてあげる!」

「ッ!?」

 

 刹那、勇儀の懐に幽香が瞬間移動する。

 まるで勇儀の意識の隙間を突くかのように、唐突に、彼女の懐へと幽香が現れた。

 

「逃がさないわぁッ!」

「ぐはっ!?」

 

 繰り出された幽香の拳が、ガードの上から勇儀の身体を思いっ切り叩く。

 しっかりとガードしていたにも関わらず、ガードの上から勇儀の肉体に重いダメージが刻まれ、吹き飛ばされる。

 折れてはいない、折れてはいないが、刻み込まれたダメージは勇儀の腕に痺れを残し彼女の動きを極限まで阻害してしまう。これでは再びガードしようにも、まともに防ぎ切ることが出来ない。

 

「せいっ! はぁっ! せいやぁっ!」

「ぐっ!? がっ!? ぐわっ!?」

 

 吹き飛ばされた先に、幽香が超スピードで先回りし、追撃の蹴りを繰り出す。

 連撃、連撃、連撃、連撃、連撃ッッッ!! 超スピードで、まさに電光石火の勢いで、勇儀を追撃していく。

 幽香のデタラメな威力の鉄拳が空を切り裂き、尋常ではない蹴りが空間そのものに甚大なダメージを刻み込んでいく。

 さしもの勇儀も防戦一方、あまりにも激しい連撃の嵐を前に、為すすべもなく過ぎ去るのを待つことしか出来ない。

 そして――

 

「その魂ごと叩き潰してあげるッ!」

 

――トドメ。

 

 拳を解いて、そのまま指を揃えて伸ばし、闘気を纏う。更に、纏った闘気を研ぎ澄ませ、刃のように鋭く収束させていく。……いうなれば手刀、この世に並ぶものなどない。風見幽香という極上の素材で形作られた、最強の刀である。

 ただ一人の妖怪に向けるにしては余りにも過剰だ。……一体どれほどの力を収束しているのか、収束しきれていない闘気が、幽香の全身から溢れ出し、空間そのものを捻じ曲げ、幽香が展開した世界に歪みを生み出していく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、くくくっ、ハハッ、ハハハハハッ! 全く、本当にデタラメな奴だなアンタ!」

「私も呆れたわ。勝ち目なんて万に一つも、それこそ那由他の果てもありはしないというのに、笑顔で立ち向かってくる。……そんな貴女の馬鹿さ加減にね」

「アハハッ、鬼は馬鹿正直が一番だからねッ!」

「ふふっ、これで本当に最後よ。もしも、この一撃を耐え切れたなら貴女の勝ち、耐えきれなかったら私の勝ち」

「はんっ、耐えきった上で一撃叩き込んでやるさッ!」

 

 しっかりと体勢を整えて、自分の全身に力を込める。

 何処からの一撃であっても耐えられるように、どれほどの一撃でも耐えられるように覚悟を決める。

 その佇まい、まさに肉の城壁。ズタボロでありながら、どんな攻撃すらも弾き返すであろう鉄壁の城壁、星熊勇儀という名の絶対防御である。しかし――

 

「アハハッ、楽しかったわぁ」

 

――太極・風見

 

 幽香が振り下ろした手刀が、勇儀の絶対防御を、その覚悟ごと異空間諸共叩き切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふっ、驚いたわ」

 

 瓦礫に腰掛けた幽香は嗤う。

 戦いは終わった。地底の一角を破壊し尽くし、その挙句に幻想郷を覆う博麗大結界にすらも僅かに傷を刻み込んだ最強の鬼と最凶の妖怪の激突は終わった。

 

「……」

 

 沈黙する勝者と――

 

「まさか、この私に土をつけるなんてねぇ?」

 

――悠然と佇む敗者という形で。

 

 あの幽香の一撃の後に何があったのか。

 簡単な話だ。たった一つのシンプルな答えだった。勇儀が幽香の一撃を耐え、なおかつ反撃することが出来た、ただそれだけの話だ。

 

 己の作り出した世界ごと、勇儀を両断した幽香の規格外な一撃。

 それをまともに食らった勇儀は、勿論無事では済まなかった。肩から、脇腹にかけての裂傷、勇儀の意識をも両断し、幽香の勝利が確定したかにも思えた瞬間。

 勇儀は、手を出したのだ。それは緩慢とした動きでハエどころか蚊すらも仕留めきれない、僅かな力も込められていない、ただ単に手を前に突き出した。……その程度の攻撃にもならないもの。だが――

 

「良いわ、認めましょう」

 

――当たった。

 

 確かに当たったのだ。

 無論、ダメージは微塵もない。触れただけだが、確かに当てたのだ勇儀は。宣言通り、幽香の一撃をその身に受けてなお、反撃したのだ。

 

「お前――いや、勇儀。……貴女の勝ちよ。恐怖すること無く、この私にぶつかってきた貴女の勇気の、ね」

 

 だから、この勝負は己の、風見幽香の負けなのだ。

 

「今回は霊夢との逢瀬(殺し愛)は諦めるしかなさそうね。……ふふっ、代わりに面白そうな玩具(オトモダチ)と出会えたから良しとするわぁ」

 

 最凶の妖怪は微笑む。慈愛すら感じさせる、柔らかな笑みを浮かべて。……その視線の先にいるボロボロの勇儀が、青い顔で冷や汗をかきながら、うぅーうぅーとうなされているように見えるのは、きっと気のせいではない。

 ヤベェ奴に目をつけられた星熊勇ちゃんの明日はどっちだッ!? 答えは神の味噌汁。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 場面は打って変わって、地底の某所である。

 

「ハーッハッハッハッハッ! 神の御技を知れぇぇぇぇぇ!」

「OO! 避けてッ!」

yes My Master(了解しました、我が主)

「うみょおぉぉぉぉぉ!?」

【人の言葉を話しやがれぇぇぇぇぇ! バカ宿主がぁぁぁぁぁ!】

 

 完全に超守矢神としての力を発現した、愛に狂う最強のしまっちゃう系ヤンデレ祟り神、洩矢諏訪子。

 超高性能な近未来兵であるOKEを乗りこなし、世界に変革を齎さんと武力介入する期待の桶マイスター、キスメ。

 己の背に天災級のヴィジョンを浮かばせ、奇妙な動きで奇妙な事を口走る地底のアイドル、黒谷ヤマメ。

 馬鹿馬鹿しい程に強力な力を持った神妖が、地底の大地を荘厳なる神威で祟り、近未来粒子で照らし、悍ましい病魔で侵し尽くしていく。

 

「か・み・さ・ま・波ぁぁぁぁぁ!」

「ひえぇぇぇぇぇ!?」

【ぬぐぅぅぅぅぅっ!?】

 

 両手を腰の方で上下に構え、神の、祟り神の力を収束し、溜まりきった絶大なエネルギーを前方へと放つ。

 それは黒みがかった桃色の破壊の光、直線状に存在する全てを、祟り滅ぼす、絶対なる祟り神の力の放出だ。

 これを喰らえば、進化の光を浴びて極限まで進化しているキスメ、ヤマメの両名と言えど、タダでは済まない。否、まともに喰らえばそのまま身動きも取れない程の甚大なダメージを受けてしまうだろう。

 そのため、ヤマメは妙な叫び声をあげながらも、必死に避ける。彼女のスタンドのモンスペイラーもまた、その攻撃を宿主に直撃させまいと、仁王立ちになりながらその六腕を盾の様に広げて光線を受け止める。

 

「させないっ!」

Beam Rifle(ビームライフル)

 

 更に、耐えるヤマメを救うため、キスメが近未来兵器で諏訪子を狙い撃つ。

 桶より放たれる光線は、並みの存在であるならば、例え神であっても蒸発させる桁違いの力の奔流だ。

 

「甘いよっ! ハァッ!」

「っ!?」

No Effect(効果なし)

 

 しかし、諏訪子が気合と共に全身から放出した祟りの力によって、弾かれ霧散してしまう。

 

「……強くなってるっ」

Oh My God(おお、神よ)

 

 馬鹿げた話だが、諏訪子が発している神の気が強くなっている。戦えば戦うほどに強く、より強くその力を増しているのだ。

 

――戦いの中で成長している。

 

 まるで適応するように、戦いの中で成長を続けているのだ、この神は。

 既にキスメとヤマメの攻撃では、諏訪子の肉体にダメージを与えることが出来なくなりつつあった。

 キスメが駆る桶が、どれほど高出力の近未来的な粒子兵器をぶっ放そうが、諏訪子が全身から垂れ流している莫大な祟り神の気のみで防がれ。

 ヤマメが己の力の結晶であるスタンドでやたらめったらに殴ろうが、その豪腕は諏訪子の細腕によって容易く捕らえられ、受け流され躱されてしまう。

 

「ハッハハハハハッ! 気分がいぃねぇ!」

 

 諏訪子はラリっていた。全能感に酔い痴れ、まともな思考が働いていない。

 超守矢神・タタリという恐ろしくも神々しい力の奔流が、諏訪子の思考を染め上げているのだ。

 目の前の有象無象を薙ぎ払えぇ! この先で待っている愛しいあの人をしまっちゃうために、他の全てを薙ぎ払ってしまえぇ!……しまっちゃう系、土着神、洩矢諏訪子とは彼女の事だぁ!

 

「はっ!? ここは何処? 私はヤマメ?」

【このスカタンがァ!】

「いったぁぁぁぁぁ!? ナデェナグゥルゥノォウ(何故、殴るの)!?」

【オンドォル語は止めろォ!】

 

 漸く混乱状態が解けた様子のヤマメである。

 早速、ヤマメとそのスタンドであるモンスペイラーの二人による主従漫才が開始される。……いや、飽きないね、君らも。

 

「……ヤマメ、提案」

「き、キスメ?」

 

 主従漫才を華麗にスルーしてキスメはヤマメに声を掛ける。

 

「提案って、何するの? あんなバケモノに勝てる手段なんて何にも思いつかないんだけど?」

「……私がなんとか隙を作るから、ヤマメの最大火力をぶつけて」

 

 キスメの提案はこうだ。

 あの祟りのバケモノは、時間が経過すればするほど、その力を適応させ恐ろしい速さで成長していく。即ち、このまま時間を掛ければ掛けるほど、あの土着神は徐々にその力を増していき、最終的には自分達では手がつけられないほどの馬鹿げた存在になるだろう。……そうなってしまう前に、こちらの攻撃がまだ通用するであろう今、こちらの最大火力で以て、相手を無力化するのだ。

 

「準備に少し時間が掛かるけど……」

「大丈夫、それくらいは持たせる。……じゃあ、お願い。いくよ、OO」

Yes My Master(了解しました、我が主)

 

 時間稼ぎ、そして、隙を作る。……キスメは我ながらよくもまぁ簡単に言ったものだと自嘲する。

 この異常な覚醒をした神を相手に、極限の進化を果たしたとはいえ、元は中級程度の妖怪だった己が、真っ向から挑もうとしている。……何と無謀なことか、何と身の程知らずだろうか。

 だが、キスメに後退の二文字はない。……意地でも時間を稼いで、このバケモノを食い止めてやる。

 何故ならば、キスメには約束があるからだ。己とヤマメにこの場を任せて先へと進んだあの巫女との約束があるからだ。

 あの短い邂逅で、その存在感を己の奥深くまで刻み込んだ巫女からの約束。……それを違えることなど、キスメには出来なかった。

 

――「頼みを聞いてくれたら、ご褒美をやるぞ?」

 

「OO、限界を超えるよ」

OK My Master(了解しました、我が主) Let’s carve out a future together(共に未来を切り拓きましょう)

 

 ぶっちゃけご褒美欲しいのである。

 キスメの搭乗している桶が、これまでとは比較にならない、莫大な粒子を放出する。

 それは暖かな光の輝き、闇を照らし出し、心を包み込んでいく対話の輝きだ。……純粋種として覚醒した革新者であるキスメが至りし奇跡。

 桶が姿かたちを変えていく。そう、まるで桶であることを捨てるかのように、桶が桶としての役目を放棄し、遂に、キスメ自身と一体となり、その存在を鎧へと昇華させる。

 まるで未来の兵器である人型決戦兵器の様に、キスメの鎧と化した桶。その新たな名は――

 

「私が、私達がっ! オケダムだァァァァァ!」

OKEEEEE!(桶ぇぇぇぇぇ!)

 

――オケダム。

 

 絶妙にかっこ悪い。……しかし、当人達はカッコイイと思っているのだろう。僅かにキスメは興奮で頬を紅潮させ、桶の方も普段とは違って魂のシャウトを放っている。

 

「何をしようと私の相手になると思うなぁ!」

「世界の歪みッ! お前を破壊するッ!」

 

――激突

 

 諏訪子の振り下ろした鉄輪と、キスメが展開したビームサイズが鍔迫り合い、衝撃と火花を撒き散らす。

 

「ハハッ!」

「ッ! 後ろっ!? アァッ!?」

「遅いんだよぉ! オケダムさんよぉ!」

 

 キスメが背後から奇襲を受ける。……いつの間に召喚したのだろう。石で出来た大蛇がその牙を突き立てていた。

 鎧のお陰でキスメの本体に牙が届くことはないが、衝撃までは殺せない。そのまま大蛇に咥えられたまま、地面へと叩き落されてしまう。

 

「調子に乗るなぁ!」

「ギシャァァァァァ!?」

 

 大蛇の噛みつきを力任せに振りほどき、そのまま鎌を一閃――頭部を真っ二つにして破壊する。

 

「いない!?」

「何処を見てるのかなぁ?」

「あぐっ!?」

 

 気付けば地面に押さえつけられ、首を締められていた。

 大蛇に意識を持って行かれてしまったキスメの懐に忍び寄っていた諏訪子は、そのまま、死角からキスメの首を鷲掴み、地面へと叩き伏せたのだ。

 首に掛かる絶大な圧迫感、鎧越しだというのに、キスメの首に耐え難い圧力が襲い掛かる。

 

「ぐっ!? は、離せっ! このっ! このっ!」

「がふっ!? げふっ!?……アハハッ! バァカ、離すわけ無いだろぉ! がぁ!」

「あっ、がっ!?」

 

 キスメが首に掛かる手を退けようと、何度も諏訪子の身体に粒子兵器を叩き込む。

 ビームライフルで撃ち抜いたり、ビームサイズで切りつけたりと、何度も何度も攻撃を叩き込んだ。……だが、離さない。まるで固定されてしまっているかのように、微動だにしないのである。

 それどころか、その痛みにすら適応しているかのように、徐々に力が増している。そのままねじ切ろうとでもするかのように、首を締め付けてくるのだ。

 

「あっ……っ……っ」

「ほぉら、もう少し、もう少しだよぉ」

 

 キスメの意識が消えていく。

 身体から力が消えていく。最早、手足は動かない。……ギリギリと鎧が悲鳴を上げている。諏訪子の、超守矢神の圧倒的な握力の前に屈しようとしているのだ。

 このままではキスメがアヘ顔を晒して失神するのも時間の問題。だが――

 

「真打ち登場ぉぉぉぉぉ!」

【うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!】

「があぁぁぁぁぁ!?」

 

――殴打。

 

 そんな事はさせねぇと言わんばかりに、諏訪子の横っ面を思いっ切り殴り抜いたヤマメである。

 見れば、ヤマメもまたその装いを変化させていた。見慣れた地底のアイドルの姿はそこにはなく、代わりに傾奇者が着ていそうな豪華絢爛な着物を羽織、胸元には晒を巻いて、その髪をまるで獅子の様に振り乱していた。

 

「これが私と相棒の奥の手にして最大最強の切り札」

【俺の力を宿主が纏いィ、自由自在に殴り潰すゥ】

「【モンスペイラーストライカーポゼッション(憑き殴る、死の怪物)】ッ!」

 

 己のヴィジョンを、肉体へと憑依させることで、その力を何倍にも高める荒業。

 自分自身の身体とスタンドを融合させるため、この状態になるまでに僅かばかりの時間を要するが、それを加味してもなお、強力極まりないヤマメの切り札だ。

 

「キスメ、無事?」

「けほっけほっ……だい、じょ、ぶ。それよりも、アイツを」

「後はこのヤマメちゃんに任せなさいっ!」

 

 胸をドンッと叩いて、後は任せろと笑みを浮かべるヤマメちゃんである。……その姿に、つい先程までの余りにも情けない地底のアイドルの姿は何処にもない。

 あるのは、ただ一人の傾奇者の姿。地底を股に掛ける、殴打系トップアイドルの溢れんばかりの輝かしい勇姿のみである。

 

「くそっ、くそっ、くそっくそくそくそくそくそっくそがぁぁぁぁぁ!」

 

 殴り飛ばされた諏訪子が怒り狂い、その神の気を放出させる。

 神の気に呑まれた諏訪子が思うのは唯一つ。自分に屈辱を与えた馬鹿な妖怪をズタズタのボロボロのギッタンギッタンのケチョンケチョンにしてやるというあまりにも物騒? な思いのみだ。

 

「消えろぉぉぉぉぉ!」

 

 神の気を収束させて放つ技、カミサマ波。

 黒みがかった桃色の閃光が再び、ヤマメを焼き滅ばさんと地底の空気を切り裂きながら迫る、が――

 

「しゃらくせぇ!」

【欠伸が出るぜェ!】

「何っ!?」

 

――一閃。

 

 ヤマメが思いっ切り振り抜いた拳の一撃でぶち抜かれて破壊される。

 

【続けていくぞぉ! 合わせろ宿主ぃ! オラァ!】

「任せろ相棒っ! オラァ!」

「ぐぅ!?」

【オラァ!】

「オラァ!」

「ぎぃ!?」

【「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァ!」】

「ぐっはぁぁぁぁぁ!?」

 

 動揺する諏訪子の隙を突いた形で、ヤマメのオラオラが炸裂する。

 超高速の拳による連続攻撃が、諏訪子が纏っている神の気すらも削り取り、その肉体に向かって直接ダメージを刻み込んでいく。

 

「こんなっ、ことっ、がっ!?」

 

 諏訪子の混乱は相当なものだった。

 神の中の神、守矢の中の守矢、究極にして意味不明な力の権化である、超守矢神となった自分が、たかが妖怪ごときに良いようにぼこぼこにされている!?

 そんなっそんなことがーーッ!

 

「そんな事があっていい筈がないだろうがぁーーッ!」

「ぐぅっ!? ど、何処にこんな力がっ!?」

【油断すんなァ! コイツは普通じゃねェ!】

 

 気合一閃、全身から神の気を噴出させて、ラッシュを仕掛けるヤマメを吹き飛ばす。

 既にその身はボロボロで、体力なぞ欠片も残っていない筈なのに、何処からこんな力が出ているというのか。……これが神、土着神の最高峰。人間の、妖怪ごときの尺度では決して推し量ることが出来ない、恐るべき頂上の存在の力ッ!

 

「ふぅーっ、ふぅーっ、消してっ、消してやるぅ!……お前ら一人残らず、消してやるぅーーッ!」

 

 此処に来て、諏訪子は更に力を増す。

 怒りの感情を全て力へと変換しているのだ。圧倒的な神威で、周囲へと重圧を振りまきながら、破壊の嵐を巻き起こしている。

 

「はぁぁぁぁぁっっっ!!」

 

 諏訪子が両手を思いっ切り上に突き出す姿勢を取る。

 すると、その両手に向かって周囲から夥しい程の力が収束していく。……力の正体は、祟り神。この幻想郷という場所全てに存在している祟り神達の力を集め、膨大なエネルギーの塊を作り出しているのだ。

 

「――消えてなくなれぇぇぇぇぇ!」

 

 ソレに名を付けるならば、祟り玉。

 全ての土着神の頂点にして、祟り神の頂点に君臨している諏訪子が、超守矢神としての本領を完全に発揮した今だからこそ使用できる諏訪子にとっての最強で最凶の究極奥義である。

 幻想郷中の祟りという祟りの力が集められたその力の塊は、まさに祟りの太陽と言っても過言ではない。近くにいるだけで魂の髄まで祟り殺してしまいそうな呪力が吹き出している。……直撃したら、どんな生命体でもタダでは済まないだろう(ごく一部の例外を除く)。

 

「は、はは。……終わったッ! オワタッ! 私達の冒険は終わってしまったッ! 完っ!」

【言ってる場合かッ!】

 

 ヤマメちゃんのカッコイイシーンは此処で終わってしまうのか?

 

「ヤマメっ! そのまま突っ込んで!」

「ファッ!? キスメェッ! それ私死んじゃうんだけどォ!?」

「良いからッ! 突っ込めっ! 早くッ!」

「……あぁっもうっ! や、やれやれだじぇぇぇぇぇ! ちっくしょぉぉぉぉぉ!」

 

 キスメの叱責を受けて、カッコよさが半減しているヤマメちゃんが祟り玉に向かって突っ込んでいく。……「やばいやばいやばいやばいヤバイ、ヤバイよヤバイよ」とはヤマメちゃんの心の叫びである。

 

「……OO、やるよッ!」

【OKENS-AM!】

 

 キスメの全身を覆い隠している装甲が真っ赤に染まる。

 

「ここで決めるッ!」

Beam Scythe Break Through(ビームサイズ、限界突破)

 

 キスメが握るビームサイズの出力が臨界点にまで達する。

 背中に存在するエネルギー生成炉から、輝く粒子が溢れ、ビームサイズへとどんどん取り込まれていく。祟り玉の恐ろしい力に対抗するかのように、ビームサイズ自体が巨大化していく。

 

「未来を照らせぇぇぇ!」

 

――振り下ろす。

 

 その直線上に存在する全てを切断しながら、キスメのビームサイズが、諏訪子の放った祟り玉と真正面からぶつかり合うッ!

 

「今だよヤマメェ!」

「おっしゃぁ! やったるよぉぉぉぉぉ!」

【全力だぁぁぁぁぁ!】

 

 そして――キスメのビームサイズによって、僅かに勢いが落とされた祟り玉に向かって、ヤマメが物凄い雄叫びを上げながら、色々とアイドルとしては終わっているとしか思えないような、最高にハイな表情で、突っ込んでいく。

 

「私をッ!」

【俺達をっ!】

「【誰だと思っていやがるぅぅぅぅぅ!】」

 

 Q,私を誰だと思っていやがる。

 A,とても残念な地底のアイドルです。

 

――光の矢。

 

 一直線に突き進むその姿、まさしく流星のごとし。……一条の光と化したヤマメが、吸い込まれるように祟り玉へと突き刺さり――

 

「ぎゃん!?」

「病めぇ!?」

 

――思いっ切りぶち抜いた。

 

 そして、そのまま諏訪子と正面衝突である。

 互いの額と額がごっつんこ、鈍い音と共に、二人はもみくちゃになりながら地面を転がり、そのまま沈黙した。……戦いの後とは思えない、何とも言えない静寂がその場を支配している。

 

「……きゅう」

「……や、病めぇ」

 

 超守矢神タタリの力が霧散し、いつも通りの土着神の姿に戻った我らが守矢が誇るスーパー合法ロリ、諏訪子は、額を真っ赤にしたまま白目を剥いてアヘ顔を晒しながら仰向けに倒れ(ダメージの影響で服がボロボロ)。

 己のヴィジョンを具現化し、スタンドへと覚醒させた地底が誇るトップアイドル、ヤマメは、尻を大きく突き出したアイドルの風上にも置けないみっともない様を晒していた(ちなみに色は汚れなき純白である)。

 両者ともに完全に気絶している。気絶、してしまっているのだ。……何処ぞの巫女が見たら、大歓喜待ったなしな姿を晒しながら気絶してしまっているのである(●REC)。

 

「……締まらないなぁ」

Do Not Mind(どんまい) My Master(我が主)

 

 最後の最後で締まらない勝利に、キスメは、はぁとため息を一つ。……桶から発せられる某電子でネギな歌姫風の機会音声が主に投げかける慰めの言葉が、妙に大きく地底に木霊した。

 

――END, 虚しい勝利。

 

 少女よ、強く生きろ。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 敢えて言わせてもらおう! 博麗霊夢であるとッ!

 (多分)乙女座の私は、センチでメンタルな運命を感じざるえないよっ! お空ちゃぁぁぁん! 八咫烏ちゅぁぁぁん!

 大人しくぅ! 神妙にぃ! 服を半脱ぎしてぇ! 四つん這いになってぇ! その胸を強調してぇ! 口を半開きにしてぇ! 涙目でぇ! おねだりしながらぁ! お縄に付きなさいぃぃぃッッッ!

 私は某マスターでアジアな師匠も真っ青な、上半身を一切揺らさない直立不動の構えで空中を踏みしめ、お空ちゃんを追い掛けていた。

 古明地姉妹のお怒りに触れて、半泣きになっている見目麗しき愛すべき我がアホガールを追掛けているのである。……ぶっちゃけ、追いつこうと思えば何時でも追いつける。普通に追い掛ければ、速攻で捕獲することは可能だ。

 

「こらお空っ! 逃げるなっ!」

「やだやだぁ! 捕まったらっ! 怒られるからっ! やだぁっ!」

【我も怒られるのはいやだぁぁぁぁぁ!】

 

 駄々っ子可愛いかよ。

 そう、泣きながら逃げているお空ちゃんとそのお空ちゃんに同調する様に威厳のいの字の欠片もない勢いで残念ムーブを極めつつある八咫烏ちゃんが可愛すぎて可愛すぎて、博麗お姉さん、もう辛抱堪らなくなっちゃってるんです。ハートの股ぐらがいきり立っちゃってるんです、かしこ。

 この博麗霊夢の最も好きな事は、美少女の可愛い瞬間をこの目に焼き付けて、脳内で焼き増しする事である。……脳内の記憶領域に新しく作ったお空ちゃんフォルダその①とやたがらす(いげんたっぷり)フォルダその①が満杯になるまでは、この逃走劇を終わらせるわけにはいかないのである、お分かりぃ?

 

「しつこいっ!」

【来るなぁ!】

 

 私の追跡を振り切るため、お空ちゃんがその雄々しくそびえ立つ制御棒(意味深)を此方に向け、そのままお空ちゃんの温かいアレ(太陽光線的な意味で)を私に向かってぶっ掛けてくる。

 迸る白いソレは熱く、恐ろしいまでに熱く、触れただけでイッてしまいそうな熱を孕んでいる(あの世的な意味で)。……お空ちゃんと八咫烏ちゃんの生命の輝きを感じせるソレを私はノーガードで顔面に受ける。

 

「ふぁっ!?」

【にゃんとぉ!?】

 

 私の顔に降り掛かるお空ちゃんの白濁としたソレ(太陽の力的な意味で)を、余さず口へと運び、こくりと喉を伝って胃に流し込んでいく(※普通は死にます)。

 お腹が、下腹部が熱を持っている(文字通り)。お空ちゃんの生命の輝きが私の体内で叫び狂っているからだ。

 優しく、優しく下腹部を擦ると、暴れ狂っていたお空ちゃんの力は大人しくなり、そのまま私の身体に取り込まれて消えていく。……ぺろりんちょ、ごちそうさまでした。

 

「わ、私のメガフレアが食べられたぁ!?」

【え、人間こわい】

 

 食ったら力が湧いてきたぁ!

 何となく出来る気がしたからやってみた(粉ミカン)。これから私のことは美少女の攻撃絶対食べるWoman(Beauty Predator)のレーム・ハクレイと呼んでくれ!

 極めて簡単な話である。

 

 私が

 お空ちゃんの放ったメガフレアを

 食べた ←今ここ

 

 霊力とかそこら辺の関係で、力の流れを操る術に長けている私だから出来るのである。

 ふっふっふっ、崇め奉るが良いっ! この私を、レームちゃんサイコーってヨイショしなさい! ふはははははっ!……良い子の美少女は真似しないでね? 普通に死んじゃうからね? 飲み込むのは相手の体えkげふんっげふんっだけにしておきなさいね!

 

「こ、こうなったらギガフレアで!」

【ストップっ! ストップだぞ空! また食われるのが目に見えている!】

「よく分かってるじゃないか」

 

 おかわりは自由ですか?……出来れば今度は直接その身体をぶちゅけてきて欲ちぃなぁってぇ、れーむはぁ、れーむはぁ思っちゃったりぃ?

 

【こうなったら接近戦しかあるまいっ! いけぇ! 空ぉ!】

「合点だよぉ! けちょんけちょんにしてやるんだからぁ!」

【むぅ……いやいや空よ、此処は普通ギッタンギッタンだろう?】

「えーじゃあ、けっちょんけっちょんがよくない?」

【間を取ってぎっちょんぎっちょんでどうだぁ!】

「それだぁ! お前をぎっちょんぎっちょんにしてやるんだからぁ!」

 

 あっ、可愛い。もぉむりぃ、死んじゃうぅ。お空ちゃんと八咫烏がおバカでかわゆすぎて、霊夢しゃんの霊夢しゃんがいただきストリートしちゃうにょぉぉぉぉ!……こりゃあ、お空ちゃんの攻撃を全部この身で余さず受け止めてやるしかあんめいぞ、いまでうすぅぅぅぅぅ!

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

【もっとだぁ! もっと力をひねり出せぇ! 空ぉぉぉぉぉ!】

 

 お空ちゃんの力が収束していき、彼女の身体が光り輝いていく。……そして、次の瞬間、太陽の如き閃光がまるで大瀑布の様に広がり、周囲の景色を染め上げていく。

 

「……うにゅぅ(気持ち的には低い声)」

【はっ! はははっ! 流石っ、流石だっ! 流石は空っ! 流石は我が依代っ! まさかここまで進化できるとは思っても見なかったぞっ! ハハハハハッ!】

 

 薄い黃緑色のオーラを激しく全身から噴出させながら、その瞳を真っ赤に光り輝かせるお空ちゃん。

 見ただけで分かる。自分の限界の壁を連続で何枚もぶち破って、有り得ない領域に到達したのだ。……私とか幽香とかがよくやらかしている事だから分かる(常習犯)。

 名付けるならば、(スーパー)うにゅほだろうか。……太陽の化身にして、無限進化の体現者。戦いながら成長を続ける規格外の超越者である。

 

 急展開、もとい超展開すぎて着いていけてないお友達もいると思うけど、ちゃんと着いてきてね(無慈悲)。

 分かりやすく表現すると。……【悲報】お空ちゃん、更に進化【何番煎じ?】と言ったところだろう。多分、「何度目だよ」「いい加減にしろよ」「進化のバーゲンセール」「何処の力の◯会だよ(ドラ◯ンボール感)」と言われちゃうこと間違いなしだね。

 ウヘェ、強さ的には完全体幽香に一歩二歩だけ劣る程度かにゃぁ? 瞬間火力的には匹敵、もしくは凌駕してそう。……やだ、乙女の成長って早いのね、博麗お姉さんも流石に驚いちゃう。

 ま、まぁ、私からしてみればこんなのお茶の子さいさいですしぃ? こーんな強い子でも割と簡単に倒せますしぃ?……ちょちょちょっと本気で頑張らんととと(震え声)。

 

「うにゅおぉぉぉぉぉ!(無理矢理出したであろう低い声)」

【ぶっ倒せ空ぉぉぉぉぉ!】

 

 私に向かってお空ちゃんが空を駆けてくる。……私に勝って、古明地姉妹のお叱りから逃れるために(なお、勝敗に関わらず、怒られる運命の模様)。

 よしよし、快く受けて立とうジャマイカ、お空ちゃんに八咫烏さんよぉ! 君達の激しい愛(妄想)を全て受け切って、抵抗しても無駄だと悟らせた上で、その身体に博麗式のお仕置きというお仕置きを叩き込んであげるじぇぃ、うえへへへへへぇ。

 

「フフフッ、面白くなってきたな」

 

 まだまだ戦いは続いていく。私とお空ちゃんのどちらかが倒れるまで、戦いは続いていくのだ。……多分、尺的に次の話くらいで終わると思うけど(メメタァ)。

 





長らくお待たせしたね。
リアルの私が忙しさにかまけてヘタレていたのが原因なのだよ。……人間ってね、疲れていると、横になっただけで夢の国に逝けるんだよ(菩薩の笑み)。

最近、某ジョージ声の旦那が「諦めが人を殺す。諦めを拒絶した時、人間は人道を踏破する権利人となるのだ」って大変ありがたいセリフを言い放っているのを聞いたので、藁のように死ぬその時まで頑張ろうと思います(頭吸血鬼)。

それじゃあね、またのぉ!


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【地霊殿】少女、決着【後】


敢えて何も言わないスタイル



【くけけけけけっ! 消えろ人間っ!】

「貴方が消えなさい!」

 

 より邪悪に力を増した負の怪物が、ほの暗き地底の大地でどす黒い妖気を撒き散らしている。

 対するは光を纏う人間、奇跡のごとき輝きで邪悪に抗い、地底を明るく照らしている。

 

【他愛なしぃ!】

「それはッこちらのッ台詞ですッ!」

 

 怪物ーー緑眼の者、パルスィが一喝すると共に九つの尾が縦横無尽に暴れまわり、尋常ではない破壊を周囲に撒き散らしている。

 人間ーー傲慢なる奇跡、早苗がその手に持った払い棒に奇跡の力を込めて振り下ろせば、眼前の全てを吹き飛ばさんと、暴風が巻き起こる。

 方や、己の規格外極まりない巨体を生かした災厄。方や、己の埒外の力を存分に使った災厄である。……だが、どちらも恐ろしく強力で、理不尽そのもの。

 地底へのダメージなぞ知ったことかと言わんばかりに力を撒き散らす彼女たちの姿は、正と負という全く正反対の性質でありながら、まるで鏡写しのように似通っていた。

 もしも、地底という場所に意志があったとするならば、間違いなくこう言った事だろう。……「お前ら、他所でやれ」。

 

「消し飛びなさい!」

 

――【秩序の崩壊(オーダー・ブレイク)

 

 奇跡の力が練り込まれた常識外れの一撃が、早苗から放たれる。

 放たれたその一撃は空間を捻じ曲げ、地底そのものを蹂躙しながら、緑眼の者、パルスィへと突き進む。

 

【もうそれは効かぬわぁ!】

 

 しかし、パルスィには通じない。否、通じるわけがなかった。パルスィは己に迫りくる空間を捻じ曲げる一撃を、その九つある尾の内の僅か一本の尾で迎撃し、容易く引き裂いてみせた。……そう――何故ならば、パルスィは先程までのパルスィとは別次元の領域まで成長を遂げていたからである。

 

 矮小なる人間、奇跡を操る、妬ましき存在。正の力を司る、負の極限の己とは正反対の全く以て忌まわしき存在。……怨敵と言っても過言ではないその存在から受けた屈辱が、パルスィの内に秘められた緑眼の者としての力を、己の嫉妬心というおぞましくも恐ろしい力を引き出したのである。

 引き出されたのは単純な力。ただでさえ巨大な身体をより大きく強靭に成長させ、その身から溢れ出す負の妖気をより強力にするだけの単純な力の底上げである。……それ故に強力無比。

 現に見るがいい、あの早苗が、傲慢極まりない奇跡の権化が、守矢が誇る最終兵器である人間が、終始押され続けている。

 本人曰く――奇跡の出力が足りていないというのだが、それを加味したとしても圧倒的である。それほどまでに今のパルスィは逸脱していた。……恐らく単純な妖怪としての力だけを見るならば、この地底で進化を遂げた妖怪たちの中で、彼女が一番規格外だ。

 

「くっ、やはりダメですかっ」

 

 歯噛みする早苗。

 早苗には分かっていた。どう逆立ちしたところで、“今”の自分ではこのバケモノには勝てないという現実を理解していた。……今の己の奇跡では、このバケモノを倒し切るだけの奇跡を起こすことなど出来ない。

 早苗の力は、奇跡の力はこの幻想郷でも類を見ないほどに規格外だ。だが、その規格外には時間という大きな代償が存在している。……早苗がその本領を発揮するにはどうしても時間が必要なのだ。

 故に早苗は、相手の力を上回る奇跡を使えるようになるまで耐え続けるしかないのだ。……当然、相手が強大であればあるほどに、その難易度は劇的に跳ね上がる。

 

【どうした人間! もっと踊ってみせろぉ!】

「かはっ!?」

 

 大技を放って動きが鈍っていた早苗目掛けて、パルスィの尾による横薙ぎが直撃する。

 尾は早苗の脇腹に直撃した。……衝撃でくの字に折れる身体、続いて骨がピキピキとひび割れる鈍い音を早苗の鼓膜を叩く。

 吹き飛ばされ、地底の大地に強かに打ち付けられる。打ち付けられた身体はまるで鞠のように跳ね上がり、何度か地面をバウンドして、そのまま大岩へとぶつかって漸く静止する。

 

「ごほっ、ごほっ……ふぅ、まさかこの私がここまでやられるとは、ね」

 

 何度か吐血する早苗。

 早苗は満身創痍と言った有様だった。幾度と無くあのパルスィの猛攻を捌き続けたせいで、その肉体はボロボロだ。無事なところを探すほうが難しい。

 奇跡の力で身体の回復力を無理矢理引き上げているが、回復した端から傷を負っているために、焼け石に水で、何の気休めにもならない。

 

「ふ、ふふっ、フハハハハハッ!」

【絶望して気でも狂ったかぁ?】

「いえ、己の無様極まりない有様が可笑しくてね。……こんな有様で傲慢なる奇跡を自称する私自身が余りにも余りにも滑稽で滑稽で」

【分を弁えぬ人間らしいではないか。……そうだ、お前は無様だ。そして、これから何も出来ずにくたばるのだ】

「フハハハハハッ! ええ、そうなるでしょうね。このままだと私は確実にボロ雑巾の様に、それこそ貴女の玩具にされる運命でしょうねぇ!」

 

 早苗は嗤う。傲慢に振る舞い、この世全ての奇跡を操ると豪語した己自身を嘲笑う。

 笑わせるなよ東風谷早苗、お前の何処が奇跡に満ち溢れているというのだ。お前程度の存在など、この幻想郷には山程いるぞ(※いません)。お前以上の力を持った存在は両の手では数え切れないほどにいるぞ(※両の手に収まる程度です)。

 

「滑稽ですよねぇ! こんな奇跡があるわけがないですよねぇ! 超越者? 傲慢なる奇跡? こんな無様を晒している私がそんな大層な存在であると? 煽てられて調子に乗ったただの矮小な小娘がですかぁ!?」

 

 人間の超越者の一人? あの博麗の巫女に好敵手の一人として認められた規格外? 驕るなよ小娘。

 おこがましいにも程がある。この程度の力を奮って、あの巫女に並んだ気になっていた自分自身の愚かしさに反吐が出る。こんなものはもう傲慢ではない。こんな人間が奇跡の体現者であるわけがない。

 

――否。

 

「認めません」

 

――否。

 

「認めませんよ」

 

――否。

 

「そんなの認めるわけがないじゃないですか」

 

――断固として否。

 

「この“我”が矮小などと、認めるわけがないだろうが」

 

 己は東風谷早苗。この幻想郷に君臨する絶対強者の一人。人間という種族の限界を超えた領域に座する超越者の一人だ。

 奇跡という神の領分の力を好き勝手に振るい。この世全ての事象現象を己の思いのままに操作する埒外の存在、それが己という存在だ。

 そんな存在である己がここで負ける? この程度の脅威に挫け、敗北する?……認めぬ、認めてはならぬ。そんなものは断じて認めない。

 自分に勝って良いのは博麗の巫女、あの愛しい博麗霊夢だけだ。それ以外の存在に負けるなど認めない。死んでも負けてなどやれない。

 

――もうこれ以上の無様は晒さない。奇跡が足りないなどという戯言は金輪際吐かない。

 

「礼を言おう。貴様という強者の存在が、この我をまた一つ強く成長させてくれた」

【何を言って――ッッッ!?】

「これは慈悲だ。我が奇跡、その最たる力を貴様に拝ませてやろう」

 

――【一騎当千天地無双(ザ・ネオ)

 

 早苗の姿が変化す(かわ)る。

 見目麗しき乙女は、その輝きを更に増し、より大人びた姿へと成長していく。少女から女のそれへと変化していく。

 若草色の長髪は、星を散りばめていくかのように輝きを放ちだし、地面すれすれまで伸びていく。ただでさえ豊満だった胸も、何処ぞの巫女に匹敵するほどに成長を遂げ誇らしげに揺れている。

 何よりも目を引くのが、彼女の背後に現れた日輪のごとき輝きを放つ光輪だ。まるで神、全てを睥睨し、全てを掌握する神のごとき威容、その絶対的な光は見るものに畏怖の念を刻み込む。

 

【なん、だそれはっ】

「一騎当千天地無双、私の全力全開の姿です」

 

 動揺を隠せない緑眼。

 当然だろう、今の今まで虫の息、吹いたら倒れる満身創痍、風前の灯と言っても過言ではなかった人間が、今すぐにでも無様に倒れゆく筈だった人間が、息を吹き返したのだ。

 いや、息を吹き返したどころの話ではない。明らかに、確実にだ。更なる嫉妬によって、その身をより強靭な肉体へと変化させた自分よりも、上の力を。……同じ生物とは思えないような圧倒的な力の奔流を感じる。

 ただ対面しているだけで、この巨大な我が身が蒸発してしまいそうな、それほどの暴威を伴った威圧を、負の側面である我が力を打ち消さんと輝く、絶対なる光を感じている。

 

【あああああぁぁぁぁぁ!】

 

 無意識だった。無意識に緑眼は攻撃していた。

 それは恐怖から来る破れかぶれの攻撃、その九つある尾を、全力全開で敵対しているこの人間に叩き込む。

 

「かゆっ」

【ぎぃっ!?】

 

 がしかし、無傷。薄皮一枚も傷つけることが出来ない、逆に打ち込んだ此方の尻尾が傷つき壊れる始末だ。

 滑らかな金の毛皮が抉れ、血が溢れて滲み出し、その骨が粉々に砕け散っている。九本全部がその有様、最早、無事な尾は一本も存在しない。

 固い金属の壁を、ただの人間が加減を考えずに殴りつけた状況を想像して欲しい。何かと何かがぶつかりあった場合、特殊な状況を除けば、固い方が勝つのは自明の理。……それはまさしく緑眼の強靭な肉体が、人間である早苗の肉体強度に劣っているという証明に他ならない。

 

「あまり長く時間を掛けるのも好ましくないですね、一撃です。……精々、抗いなさい」

 

 早苗はゆっくりと両腕を左右に広げる。

 さぁ、幕引きの時間だ。これで最後だ。これが東風谷早苗という人間を象徴する一つの技だ。

 

【くそっくそっくそっくそくそくそくそくそくそくそがぁぁぁぁぁ!】

 

 悪寒がする。とんでもない規模の悪寒が我が身を襲う。

 あの女が、東風谷早苗という人間の女に、この緑眼が恐怖している。嫉妬の化身、負の権化、この世全てを妬み呪う、この緑眼が、ただ一人の人間の女に恐怖しているッッッ!?

 

【あああああぁぁぁぁぁくるなくるなくるなくるなくるなぁぁぁぁぁ! 我にッ! 我に近付くなァァァァァ!】

「哀れ……【奇跡――」

 

 広げられた両腕が全てを包み込むように閉じられる。

 

――サナエサーン】

 

 それだけで全てが終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決着は静かだった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……い、いやぁー、し、死ぬかと思いましたぁ」

 

 早苗の放った奇跡の一撃は、緑眼の巨大な身体を打ち砕き崩壊させて、その中身に潜んでいた本体――水橋パルスィにすらも直撃した。

 

「……どうして、どうして情けを掛けたの? あの一撃で私を殺せたはずでしょう?」

 

 パルスィに傷は一つもなかった。ただの一つも、それこそかすり傷一つとて、その身には負っていなかった。

 代わりのパルスィの身から立ち上っていた負のオーラ。嫉妬混じりの極大な負の力が消し飛ばされていたのだった。

 当然だ。語るまでもない簡単な話だった。早苗は――

 

「や、やだなぁ、私が霊夢さんの友達を殺す筈ないじゃないですか」

 

――始めから殺す気はなかったのだ。

 

 傷つけるつもりは微塵たりともなかったのだ。

 始めから早苗は、パルスィを戦闘不能にまで追い込み、無力化することだけを考えて動いていたのだ。

 全ては彼女にとっての至上である霊夢のため、そのためだけに苦戦しながらも、決してパルスィを傷つけることはなかったのだ。

 無論、それは困難な事だった。他ならぬ早苗だったからこそ出来たのだ。奇跡の体現者であり、幻想郷に存在する超越者の一人である彼女だったからこそ出来たのだ。

 

「はぁ、負けたわ、負け、完敗、私の負けよ。……本当に妬ましい、妬ましいわ」

「は、ははっ、私もまさかこんなに追い込まれるなんて思いませんでしたよ。……緑眼さんとっても強くて、私も全力でやらないとダメでした」

 

 実際のところ早苗としてもギリギリだった。

 大抵の相手を常識破りの奇跡(アンリミテッド・ミラクル)で叩き潰してきた早苗であったが、まさか霊夢以外の相手に返り討ちに遭うとは考えていなかったのだ。……それこそ奥の手である一騎当千天地無双を使わざる得ないほどに。

 

「……パルスィよ」

「え?」

「緑眼はあの時の姿の名前。……私の本当の名前は水橋パルスィ」

 

 自己紹介するパルスィ。

 辺りの地形がぐちゃぐちゃに崩れていなければ、とても戦闘の後とは思えないやりとりだ。

 

「アンタもあの巫女……霊夢の事が好きなんですって?」

「パルスィさんもでしたね」

「……負けないから」

「私としては全員霊夢さんのものぉーでも良い気がするんですけどね」

「……アンタ、何か性格変わってない?」

「あ、あはは、私、奇跡を貯め始めると我が強くなるみたいでして……いや、パルスィさんも人の事言えなくないですか?」

「私も嫉妬が高まると気が可笑しくなる質だから……」

「……」

「……」

 

 身に纏う力の方向性は違えど、奇妙に似通った二人。お互いに見つめ合い――

 

「「ぷっくふっ、アハハハハハッ!」」

 

――同時に吹き出した。

 

「アハハッ、何か絶妙に似た者同士ですね私達」

「本当に妬ましいくらいに似てるわね私達」

 

 芽生えた親近感。まるで長年苦楽を共にした友にやっと巡り会えたかのような、不思議な感覚。

 

「早苗、一つ提案があるの」

「何でしょうパルスィさん」

「手を組みましょう早苗。……私と貴女で霊夢を独り占めするの」

「……それはそれは面白そうですねぇ!」

 

 謎に芽生えた友情が、此処に異色のコンビを生み出した。

 絶対的な正の存在、奇跡を司る東風谷早苗と、その対照に存在する絶対なる負の側面、嫉妬という感情を司る絶対悪、水橋パルスィの二人という余りにも卑怯極まりないコンビ。

 

「例え一目惚れでも、私は霊夢に惹かれちゃったのよ!」

「ぶっちゃけると私も人の事言えないので! その気持ち分かります!」

 

 即席ながらも妙に調子が合う二人のコンビは友情を育む。

 

「やっぱり霊夢の一番の良いところは絶対に支えてくれると確信できる腕にあると思うのよ」

「おっ、流石はパルスィさん、短い邂逅でもうそこまで分かるんですか! ですが、敢えて私はあの吸い込まれそうな瞳だと答えましょう! あの瞳で直視されたらもうそれだけで幸せになれますよ!」

「早苗、貴女天才? 嫉妬していい?」

「いいえ、奇跡です。存分にパルってください」

「「パルパルパルパルパル!」」

 

 いつかこの二人による、とある巫女を相手とする攻略物語が始まるかもしれない。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

「そして、私は言ってやったんだ。これは逃げてるんじゃない、次を繋げるために走っているだけなんだとぉぉぉぉぉ!?」

「喋ってる暇あったら走ってよぉぉぉぉぉ!?」

「霊夢、私怖くないわ。だって今もほら貴女が側で笑ってくれているもの。霊夢はいつだって私を連れ出してくれるんだもの、そうよ怖くないわ。怖くない怖くない怖くない怖くない怖くないぃぃぃぃぃあああああぁぁぁぁぁ!?」

「ゾンビよりも紫の人のほうが怖いぃぃぃぃぃ!?」

 

 阿鼻叫喚。此処は地獄か? 地底だよ。

 魔女組とお燐は逃げていた。背後から迫りくる絶望の使者。主に彼女達の貞操を狙っている恐怖の追跡者たちから逃げ惑っていた。

 

「魔女っ子ちゅうぅあぁァァァァん!」

「キシャァァァァァ!(金髪っ子のお尻ペロペロぉぉぉぉぉ!)」

「スタァァァァズ!(おっぱぁぁぁぁぁい!)」

「猫……耳?(あれ? これ怖がられてね?)」

 

 背後から襲い掛かるゾンビーズの魔の手から逃げ惑っていたのだ!

 捕まったら無事では済まない! 主に貞操がっ! 主に彼女たちのハジメテが無事では済まないのは確定的に明らかである!

 現状では逃げ切れている。だが、相手は体力無尽蔵のゾンビーズ! このままでは体力切れで捕まってしまうのは時間の問題っ! どうにかしてこの状況を切り抜けねば、彼女たちに未来はないッッッ!

 

「あっ!?」

 

 しまった!? 地底一の猫耳美少女である、お燐が小石に躓き倒れる!

 妖怪である彼女が石に躓くということは通常考えられない。これは、霊夢の手によって覚醒させられてしまったが故の弊害ッ! 自分の認識と肉体スペックの差が余りにも開きすぎているがために、この単純なミスを引き起こしてしまったのだ!

 

「ウホッ! これは良い猫耳美少女ぉぉぉぉぉ!」

「キシャァッ!(猫耳少女の尻ッ!)」

「スタァズッ!(猫耳おっぱいッ!)」

「ひぃっ!?」

 

 そんな彼女に迫るのはゾンビーズ! 別々の獲物を狙っていたはずの彼らが、目の前に置かれた極上な獲物に標的を変える。……ぶっちゃけ彼らは自分の性癖にマッチングする女なら誰でも良いのだ、その柔肌を、乙女の純血を蹂躙できれば満足できてしまうケダモノ共なのだ。

 恐ろしいケダモノ集団が迫りくるッッッ!? 危険、余りにも危険ッ! このままお燐は蹂躙されてしまうのかッ!?

 

「猫耳ぃぃぃぃぃッッッ!(させるかぁぁぁぁぁ!)」

 

 しかし、此処であの巨漢が、あのシルクハットの巨漢が動いたッ!?

 お燐を狙っていた筈のシルクハットの巨漢――タイ◯ントが、他のゾンビーズを横合いから思いっ切り殴りつけて吹き飛ばした。

 

「猫耳ぃ?(無事か猫耳よ)」

「え? えぇぇぇぇぇ!?」

 

 お燐の目の前に片膝をつき、そのまま手を差し伸べるタイ◯ント……伏せ字が面倒なので、以降はシルクハットの男、即ち、紳士で帽紳士とする。

 意味が分からない。どうしてこうなっている。

 お燐の頭を大量の疑問符が支配する。この眼の前にいる帽紳士は、己の身を狙っていたのではないのか? それが何故、自分を守ってくれているのだ!?

 訳も分からず立たされ、背後に隠される。……お燐は見た。男、否、漢の背中を! 何と逞しき背中なのか! 何と頼れる背中なのか!

 

「猫耳……猫耳ッ!(猫耳は……猫耳は俺が守るッ!)」

 

 この漢は、帽紳士は猫耳好きだ。より正確に言うならば、猫が大好きだ。

 勿論、普通に愛でる対象として、庇護するべき対象として大好きなのだ。そこには性欲は微塵たりとて存在する余地はなく、恋愛感情も皆無だ。

 そんな彼だからこそ、猫耳が悲しむことを否とする。猫耳は、猫耳は、常に笑顔でなければならない。自由気ままに笑い、自由気ままに世界を謳歌する存在でなければならないッ!

 それが、あのような下劣な欲望に蹂躙されるのはッ! そんな理不尽など絶対に認めるわけにはいかないのだッ!

 そう彼は――

 

「猫ッ! 猫耳ぃぃぃぃぃッッッ!!!(守るためッ! 俺は阿修羅となろうッッッ!!!)」

 

――何処までも紳士だった。

 

 紳士とは、愛していても決して手を出さない。

 紳士とは、愛のままに全てを守る漢をそのまま指し示す言葉だ。

 紳士とは、愛するものに迫りくる脅威を取り除く絶対的な矛なのだ。

 

 帽紳士は吠える。

 彼の肉体が咆哮と共に強靭に進化を遂げる。目の前にある猫耳の脅威を取り除く為に、彼の筋肉が一瞬だけ膨張し、その次の瞬間には圧縮を繰り返し、彼の姿をより強力な存在へと進化させるッ!

 これまで無駄だった部分を収縮して、よりコンパクトに、そして、より早く動かせるようにシャープに進化させたッッッ!

 

「これが! これが! 猫耳の守護者の姿だッッッ!!!」

 

 キャーフツウニシャベッタァァァァァ!?

 彼……否、彼女の頭には誇らしげに揺れる猫耳がッ!? 臀部には、日本の猫尻尾がッ!?

 大きく開いた猫のような丸い瞳。色白であるが僅かに桜づいた肌。髪はクールな彼女をそのまま体現したかの様に青一色。四肢はスラリと長く伸びており、引き締まった筋肉で覆われた抜群のプロポーションが美しい。

 服装は先程まで着ていた黒一色のコート、同じく真っ黒なシルクハットを女性用に置き換えたようなデザインッ!

 まるで、そう、まるでお燐の色違いッ! お燐をそのまま色を反転させたかのような色合いの美少女がそこにはいたのだッッッ! 服装は違う上に、その肉体は少し筋肉質ではあるが、その姿形は、明らかに、間違いなく火焔猫燐その人だったッッッ!

 そう、この場で帽紳士は進化を遂げたのだッ! 意味が分からないが、帽紳士はただの帽子で紳士なマッチョから、猫耳美少女へと進化を遂げたのだッッッ! 意味がわからないがッ!(コレ大事)

 

「あ、アンタは一体」

「後は私に任せてゆっくりと見物していると良いぞ、素敵な猫耳を持つ我が主よ!」

 

 言うな否や、猫耳を愛する猫耳美少女はその身を舞うように踊らせ、ゾンビたちに向かっていく。……全てはこの世の猫耳を守るためにッ!

 

「……なぁ」

「何だい?」

「アレ、何?」

「何だろうねぇ?」

 

 死んだ目をした魔理沙の質問に、同じく死んだ目で返すお燐なのであった。

 

「男で、しかもゾンビだったわよね?」

「そうだね。ゾンビだったね」

「それが女の子になったわね」

「そうだね、女の子になったね」

 

 死んだ目をしたアリスの質問に、同じく死んだ目で返すお燐なのであった。

 

「何で、貴女と同じ姿なの?」

「五月蝿いッ! あたいが知りたいよそんなのぉぉぉぉぉ!」

 

 死んだ目をしたパチュリーの質問に、遂に死んだ目を返上してうがぁぁぁぁぁと叫び声を上げて、頭をかきむしるお燐。

 何で、自分が召喚したゾンビ共はイカレポンチが大量に出てくるんだッ! と憤慨している。覚醒する前にゾンビを召喚しても、そこら辺にいる小妖怪や、妖精のゾンビしか出てこなくて平和だったのに。……あっ(察し)。

 

「あ、アレだぁぁぁぁぁ!?」

 

 お燐は気付いた、気付いてしまった。

 この可笑しな状況を生み出すに至った、そもそもの元凶をッ! 自分の力を覚醒させた張本人である巫女の存在をッ!

 気付いてッ! あの巫女のッ! 博麗霊夢の顔が思い浮かんだッ!……奴は嘲笑っていた。笑っていたのではなく、嘲笑っていたのだ。綺麗に、憎たらしいほどに綺麗に嘲笑っていたのだ。

 力に振り回されているお燐の無様な姿を、逃げ惑う魔女組の姿を見て嘲笑っていたのだッ!(思い込みです)

 

「れ、霊夢ぅぅぅ!」

「うぅ、酷いわ霊夢」

「絶対に許さないわよ、霊夢」

 

 お燐から巫女の所業(仮)を聞かされた魔女組も憤慨する。

 本気で怖かったのだ、本気の本気で怖かったのだ。何せ貞操の危機だ、乙女の純血が脅かされたのだ。……霊夢めぇッ! こうなること分かっていやがったなぁ!

 

「「「ゆ゛る゛さ゛ん゛!」」」

 

 実際のところ、霊夢はこの件には無関係……というわけではない。

 霊夢の覚醒術はその特性上、自分の霊力の一部が僅かに覚醒対象に混ざり込んでしまう。……あの幻想郷最強の人間(ガチレズの変態)の一部がお燐に混ざったのである、影響を受けないわけがない。

 つまり、彼女達の怒りは正当なものであり、元凶である霊夢は、彼女たちの怒りを全て受け止めてあげないといけないのである、QED完了。

 

「あたいの!」

「「「私達の!」」」

「怒りと!」

「「「恐怖を!」」」

「「「「絶対に味あわせてやるぅぅぅ!」」」」

 

 あの巫女本当どうしてくれようか(全員目が据わっている)。

 霊夢にどうにかして(色々とお見せ出来ない)お仕置きをしてやろうと、魔女組と地霊殿の火車が手を組んだ、組んでしまったのだ。……近い将来、自分の身に迫りくる危機(襲われる的な意味で)を、霊夢はまだ知らない、知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「唸れぇぇぇぇぇ! 我が拳ぃぃぃぃぃ!」

「ぐわぁぁぁぁぁ!? ば、馬鹿なァァァァァ!?」

「ギシャァァァァァ!?(せめて一舐めだけでもぉぉぉぉぉ!?)」

「スタァァァァァズ!?(揺れる乳を見れただけ満足ぅぅぅぅぅ!?)」

 

 決着は早かった。……というよりも猫耳美少女が強すぎた、余りにも強すぎたのだ。

 その手で、ゾンビーズの一角である魔女専、もとい美少女なら何でもいい系ゾンビの顔面を吹き飛ばして消滅させ。

 その手で、ゾンビーズの一角である尻フェチの脳味噌剥き出し野郎の舌を断ち切り、その胴体を両断し、粉々になるまで、連打で破壊し。

 その手で、ゾンビーズの一角であるおっぱい大好き改造人間のフランケンシュタイン野郎の触手を無理矢理引き千切り、骨という骨を砕いて、トドメに拳圧で押し潰した。

 蹂躙、ただしく蹂躙。元同族相手であろうと容赦なく蹂躙して、この世から跡形もなく消し飛ばしたのだった。

 

「ご苦労様、助けてくれてありがとね」

「ありがとな!」

「ありがとう」

「礼を言うわ」

「気にしないで欲しい。……私はただ、猫耳の危険を取り除いただけだ」

 

 主である猫耳のお燐と、彼女と共に追われていた猫耳が似合いそうな魔女組さん達の感謝の言葉を受けつつ。……自分の身に生えた猫耳の触り心地を味わいながら、気にするなと手を振る。

 事実、猫耳美少女にとって、猫耳を守るという行為は無償の奉仕。己の損得鑑定などを挟む余地もない、当然の行動でしかなかった。

 

――感謝など要らぬ。ただ、この世全ての猫耳が幸福であることこそが、我にとっての至上の喜びなのだ。

 

 ましてや今は、自分自身が猫耳美少女へと進化したのだ。

 切っ掛けをくれた愛すべき猫耳主のためならば、それこそ地獄の果てまでも飛び込んで見せよう。

 

「その熱い猫耳推しは何なんだ?」

「これは異な事を言うな、猫耳が似合いそうな魔女ッ娘よ。……猫耳は猫耳で私が猫耳を愛するがゆえに猫耳もまた私、故に私は猫耳となり、猫耳を守護する猫耳となったのだ」

「待って、何言ってんのかわかんない」

「即ち猫耳とは、全ての中心であるがゆえに猫耳であり、猫耳を得た私もまた守護するべき猫耳と共に猫耳で以て猫耳を愛するという事なのだ」

「……そうだなっ!」

 

 猫耳の圧が半端ではない、そう思った魔理沙なのであった、猫耳。

 

「魔理沙が不甲斐ないから私が聞くわ、貴女さっきまであのゾンビ共と同じだったじゃないの、それがどうしてそんな事になってしまったのよ?」

「猫耳だ」

「はい?」

「猫耳を、見たのだ。ただの愚かしい俗物だった我らに追われ、涙を流して逃げ惑う猫耳を。……その時、私の中で猫耳が揺れたのだ。それはつまり閃き、あの有名なニュートンがリンゴが落ちるのを見て万有引力を提唱した様に、私は私の中で燻っていた全ては猫耳に通じるという一つの結論を得たのだ」

「ちょっとm」

「結論を得てからは早かった、まさに猫のように俊敏だった。私は嫌悪した猫耳に欲をぶつけようとしていた愚かな私自身を、ただ表面的な部分でしか猫耳を見ていなかった愚かな私自身を嫌悪したのだ。……気付いたのだ、猫耳は猫耳は追い求めるものではなく、ただそこにあるのを見守るべき存在なのだと」

「話を聞いt」

「故に猫耳を愛した私もまた猫耳だった。猫耳にならなければならなかった。だからこそ、私もまた主と同じく猫耳なのだ」

「……私が悪かったわ魔理沙、これは手に負えない」

 

 アリスは知った。猫耳は全てに通じるという謎の知識を情熱を。……猫耳の霊夢を想像してちょっと彼女の気持ちが分かった気がした、猫耳。

 

「二人共だらしないわね、後はこの私に任せなさい。……猫耳?」

「猫耳だ」

「つまり猫耳とは猫耳であるが故に猫耳であると、猫耳がそこにあったからこそ、貴女もまた猫耳の猫耳による猫耳のための試みとして猫耳と化した。……そういうことね?」

「その通りだ同志よ」

 

 無言で握手。……何故かパチュリーとは通じ合った。

 

「な、何で通じ合ってんだよ?」

「……一時期、猫耳霊夢で書いてた時期があったのよ」

「成る程、つまり猫耳霊夢可愛いって事で大丈夫かしら」

「大丈夫よ、問題ないわ」

「……全然話に付いて行けない。コイツらヤベェ」

 

 この中で一番純粋、霊夢とは健全な友人関係を育んできている魔理沙だけが取り残されてしまっている。

 他の二人は、一人は霊夢を王子様扱いして常日頃から妄想している恋愛脳で、もう一人は霊夢を使って自分自身のためのちょっとえっちぃ内容の小説などを書いているちょっとアレな人物だ。……そのため、話に付いて行けないのは仕方がない。

 

「ところで主よ、一つだけ願いを聞き入れて貰えないだろうか?」

「な、何よいきなり改まって……助けてもらったんだし、アタイの出来る範囲でなら大丈夫だけど」

「――名を」

「え?」

「名を、貰えないだろうか? これから貴女を守る下僕としての名を」

 

 恭しく傅き、お燐を見上げる猫耳美少女。

 そう、猫耳美少女と化した彼女には名前がない。本来、召喚され、ただただ消費されるだけにしか過ぎなかった存在である彼女にはタイ◯ントという種族の名はあれど、彼女個人を指し示す名などなかったのだ。

 故に、彼女は欲した。自分を示す名を、自分というただ一人を指し示す名を欲したのだ。

 

「……お煉」

「お煉?」

「火焔猫煉で、お煉。……アンタ、アタイとよく似てるし、アタイの力で生み出されたって事はアタイの娘みたいなもんだしね」

「娘……お煉、お煉か」

 

 貰った名前を噛みしめるように何度も繰り返す猫耳美少女――お煉。

 嬉しかった、まさに歓喜だった。その場で躍り上がってしまいたいほどに、それほどまでに湧き上がる感情がお煉の心を一杯に満たした。

 そして、娘……娘と呼んでくれた。我が最愛の猫耳主が、取るに足りない存在である己を、ただの下僕でしかなかった己を娘と、呼んでくれた。

 目頭が熱くなる。歓喜の余り、涙が溢れ出しそうだ。……いや、もう溢れ出ている。嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。頬を熱い雫が伝っていく。

 

「……って、何だ泣くのッ!? そんなに嫌だったッ!? 嫌なら別の考えるから!」

「いや、いい。これで、いい。……ありがとう、母よ」

 

 涙を流しながらも少女は笑った。この喜びを、感謝を精一杯込めて笑った。……まるで可憐な花が、満開に咲き誇っているかのように。

 

 

 

 また一つ、地底での戦いが終わった。……残るは、後一つ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「ふむ、他はもう終わっているようだな」

 

 ハロー、幻想郷の由緒正しき巫女巫女霊夢ちゃんだよぉ。

 どうやら皆の戦いが終わったようだね。大きな怪我もないようで安心安心。……え、お前は見てもいないのに、何を言っているんだって?

 チッチッチッ、甘いな、甘い、甘すぎる、まるでチョコラテの様に甘い、クリームマシマシのチョコレートパフェにこの世のありとあらゆる甘味料を注ぎ込んだ意味不明なスイーツ(笑)よりも甘いッ!

 私の知覚能力は、君たちの想像の遥か上だという事実を忘れてはいないかね?……この幻想郷のありとあらゆる美少女の状態を常に把握しているというのを忘れてはいないかね?

 そう、私は全てを知覚していた。この地底で行われていたありとあらゆる戦闘行動を全て知覚していたのだ。……いつでも介入できるようにしっかりと見守っていたのだよ。

 もしも危険が危ないな状況だったら、瞬で駆けつけていたよ。……この博麗霊夢の手に掛かれば、瞬間移動とか朝飯前だ。多分、寝てても瞬間移動とか余裕余裕。

 

「雨降って地固まる、というわけではないが……皆、仲良くなれたようだな」

 

 まぁ、そんな心配なんてしなくても良かったみたいだけどね。

 幽香と勇儀姐さんは、血湧き肉躍る殴り合いから始まる女同士の友情的な感じで終始ぶつかり合って仲良くなっていたし。……幽香が最後に放った一撃で博麗大結界がちょいヤバイけどな!

 諏訪子ちゃんとキスメちゃんとヤマメちゃんは、ヤンデレ諏訪子ちゃんの暴走っぷりを、見事なコンビネーションで止めて最後には額と額でごっつんこで止まったし。……うん、突っ込まんからな。

 早苗とパルスィちゃんは、もう怪獣大決戦という有様で、地底が危うくアボーンするかなぁと思ったんだけど。……何やかんや意気投合してキャッキャしているの尊いので後でギュッギュしてあげようと思います。

 魔理沙ちゃんとアリスちゃんとパチュリーちゃんとお燐ちゃんは、ゾンビ共ぶっころ案件だったけど、途中で寝返ったゾンビが、お燐ちゃんによく似た猫耳美少女になって解決したから正直意味が分からない。……あの猫耳美少女から、お燐の妖力と混ざっている私の霊力を感じるのは気のせいか?

 何はともあれ、無事に解決したみたいだから良かった良かった。……一部、突っ込みきれないけどな!

 

「後は、私がお空を仕置すれば終わりか……ふんっ!」

「うにゅっ!」

【もっと力を上げろぉ! 空ぉ!】

 

 暴れ回るお空ちゃんの攻撃を全部受け止めて無力化したりする。

 やれやれ、本当にじゃじゃ馬娘だなぁお空ちゃんってばぁ。……進化した力を全部火力に極振りしているせいで、私自身の身体で受け止めてあげないと、地底そのものが崩壊してしまうほどだ。

 もう何度も、お空ちゃんの放っている熱線を食べたりして無力化している。……お空ちゃんの妖力と、八咫烏ちゃんの神力、美味しいです、もぐもぐ。

 二人共気付いているのかなぁ? 攻撃すればする程、私が食べれば食べるほど、自分の攻撃が効かなくなってきているという事にさぁ。

 

【このままでは埒が明かんっ! 空ぉ! 最後の手段だぁ! アレを使えぇぇぇぇぇ!】

「うにゅぁぁぁぁぁ!!」

 

――【地獄の新星(アビス・ノヴァ)

 

 瞬間、お空ちゃんを中心として莫大な核エネルギーが増幅し、周囲の空間を焼き払いながら、私目掛けて迫ってくる。……熱いな、これが恋の核融合ッ!(アホ)

 まぁ、私が攻撃を食べているのは、別に私がお空ちゃん達の力をペロペロして性欲を発散したかったというだけではない。……相手の力を取り込むという行為に意味があるのだ。

 私の霊力操作。……もっと言うならば力の流れを自由に操る技量は唯一無二、誰にも真似出来ないと自負できるほどだ。

 そんな私が相手と同じ力を取り込み、その本質を理解する。……それがどれほど驚異的なのかは、語らずとも分かるだろう。まぁ、その、つまり何だ――

 

「うにゅっ!?」

【ば、馬鹿な!? 太陽よりも莫大な核エネルギーだぞ!?】

 

――もうそれは効かん。

 

 お空ちゃんから放たれていた核エネルギーを全て掌握し、地底に被害が出る前に私の中へと取り込んでいく。……あぁ、熱い、熱い、身体が、火照ってしまいます(恍惚のヤンデレポーズ)。

 お空ちゃんの力はもう覚えた。取り込んで身体が理解した。……だから、もう何も出来ないし、させない。

 嘆くことはない、悔いることはない。……最初から詰んでいたのだ。私に攻撃したあの瞬間から、私に熱線を食われたあの瞬間から、君達の敗北は決定していたのだ。

 

「うにゅぅぅぅぅぅ!」

【まだだ! まだ我らは負けていないッ!】

「フフフッ、良いぞ。……おいで」

 

 遠距離では効果がないと踏んだのか、近距離戦に持ち込もうとするお空ちゃん。制御棒を振り回し、溶岩上の固形物質で覆われた右足で踏付けてくる。

 

「うにゅぁ!?」

【ぐぬっ!?】

 

 その全てを真正面から切って落とす。

 振り下ろされた制御棒を、柔らかく受け止めて、全ての力を受け流し、踏付けてきた右足をそのまま荒々しく力任せに掴み、そのまま彼女を地面に叩き下ろす。

 背中から強かに打ち付けられたお空ちゃんは、中にいる八咫烏ちゃん共々短い悲鳴を上げる。……さぁ、お仕置きの時間だッッッ!!(今回一番の心の叫び)

 

「う、うにゅにゅにゅにゅにゅ!」

【空! 頑張れッ! 頑張るのだ!】

 

 お空ちゃんと両手を絡み合わせながら押し合う。……いや、必死に押しているのはお空ちゃんだけで、私はそのまま抑えているだけなんだけどもね。

 フフフッ、さっきのように胸で私の顔面を包み込んでも無駄だぞ。今の私は、お仕置きという大義名分を得たスーパーでアダルティな私だ。……最早、胸に顔を埋めるだけでは動きを封じることは出来ぬよ(イッパイイッパイ)。

 

「そら、もう少し強くするぞ」

「うにゃぁ!?」

【空ぉ!?】

 

 僅かに力を込めて、お空ちゃんを完全に押し倒す。

 抵抗するお空ちゃんだが、私に敵うはずもない。完全体幽香に匹敵するほどに迫っているとは言っても、所詮は進化したての雛鳥だ。……力の使い方が分かっていないお空ちゃんでは例え逆立ちしたって、私に勝つことは出来ない。

 私より体格が良い? 太陽の力を進化の力として振るい、無限に成長を続ける進化の怪物?……で、それがどうしたのかな?

 まさか進化できるのが自分だけだとか、思っていないよね? 最強で無敵のこの博麗お姉さんが、進化できないとか思っていないよねぇ?

 

――甘ぇよ。

 

 お空ちゃんは確かに強いよ。私が好敵手として認めた彼女達を除けば、このパワーインフレな幻想郷でもトップレベルと言っても良いくらいにはチート街道を爆走している。

 

「う、うにゅぅ」

【う、空が完全に抑え込まれて】

「たかが進化で、この博麗の巫女を止められると本気で思っていたのか?」

 

 でもねぇ! そんな彼女達を抑えて頂点に立っているのが私だぁ! この私博麗霊夢だッ! 最強の存在は私一人だッ! 進化? 進化だとッ! そんなもので超えられるほど私は甘くねぇ! 私達クラスになるとなぁ! 戦いの一瞬一瞬で、日常の一コマ一コマで見違えるように成長するのは普通なんだよッ! 今更進化の何だのとォ! 甘すぎるぜぇぇぇお嬢ちゃぁぁぁぁぁん!

 

「食い尽くしてやろう。……二度とこんな馬鹿な事をしでかさないように、ゆっくりと刻み込むように」

【な、何を、言っている】

「さとりとこいしにお仕置きを頼まれている。……徹底的にお仕置きして欲しいそうだ」

 

 今日の霊夢ちゃんはさとりちゃんとこいしちゃんとのお約束を守るとっても良い子なのぉ(無垢な笑顔)。

 

「さて、覚悟を決めろ」

「うにゅ、ぁ……ぁぁ、ぁ」

【や、止めろ、来るな、来るんじゃない】

 

 恐怖一色に染まったお空ちゃんの表情と、八咫烏ちゃんの怯えた様子の声に軽く興奮がニュークリアフュージョン。

 大丈夫、大丈夫、ほら私優しいから。最初から感度マックスで絶頂できるように色々と手を加えるから大丈夫、大丈夫。……お仕置きだから取り合えず軽く百倍からイッてみよっか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舐めたらダメだよぉ、汚いよぉ」

「フッ、期待で溢れさせておいて良く言う。……お前はイヤらしい娘だな」

「あ、あぁッ!? うにゃぁぁぁぁぁッ!?」

「またイッたか」

 

 博麗の巫女の手によって、ヨガり狂う地獄の鴉。

 明るく脳天気で純粋な、穢を知らなかった一羽の鴉。……そんな彼女が淫靡に嬌声を上げ、己の身体中で暴れ回る快楽に振り回されている。

 知らなかった。無垢なる少女は知らなかった。かつてない程の衝撃が全身を隈なく駆け巡り、休む間もなく意識の消失と覚醒を繰り返される。

 もう止めてと懇願しても巫女は止めてくれない。狂いそうになっても、無理矢理意識を元に戻されて、何度も何度も繰り返し快楽を刻みつけられる。

 巫女の口が、この身体の何処かに触れる度に、お空の身体から進化の力が吸い出され、代わりに快楽が与えられる。吸われた力は、そのまま音を立てて咀嚼され、目の前で巫女の身体の一部として同化していくのを見せ付けられる。

 

「うにゅ、あ」

 

 あれは、私の力なのに。

 息も絶え絶えに見せ付けられる屈辱的な光景。自分の力を噛み砕かれて飲み干されるという余りにも屈辱的な光景。

 お空が如何に能天気とは言え、自分の力にはある程度の誇りはある。その誇りが巫女によって土足で踏みにじられ、蹂躙されていく。

 屈辱、屈辱だ。末代まで祟ってもなお足りない屈辱的な行為だ。だが、どうしてどうしてだろう?

 

「なん、でぇ?」

 

 全身が疼く、耐え切れないほどに疼いている。

 巫女が口付けた場所が堪らないほどに熱を持ち、心臓が激しく鼓動する。彼女の唇から零れ落ちた力の残滓が、散っていく光景を見て、どうしようもない程に身体が熱を持ってしまう。

 

「フフフッ、もっと可愛い姿を見せておくれ、お空」

「あ」

 

 地獄の鴉は思い知らされたのだ。……誰が上で、誰が下なのかを。誰が捕食者で、誰が被捕食者なのかを。

 地獄の鴉は刻み込まれたのだ。……自分の一部を喰らわれるという喜びを。誰かと一つになるという行為がどれだけ素晴らしいものなのかを。

 

――もっと、私を食べて。

 

 また一人、無垢なる少女が狂気に落ちた。

 

 

 

 

【ひっ!? な、何でッ】

「お空の意識とお前の意識を入れ替えた。……成る程な、入れ替わるとお空とは正反対の容姿になるのか」

【何だ、これ、知らない。我はこんなの知らない、恐い、これが恐怖? イヤだイヤだイヤだぁぁぁぁもがっんっん】

「敗者は敗者らしく大人しく沙汰を受け入れろ。……さぁお前にもお仕置きをしてあげようか」

【んっ!? んぅぅぅぅぅ!?】

 

 お空が無事にお仕置きを終えた後も、巫女の調k……お仕置きは終わらない。

 次に巫女の対象となったのは、お空と同化していた八咫烏である。巫女の手によって、既に屈服したお空の精神と入れ替えられてしまった。

 そして、八咫烏を襲うのが、お空が受けていた快楽の余韻。今の今まで一切感じたことのない未知の感覚が、性知識が僅かしか存在しない八咫烏の精神を横合いから殴りつける。

 未知の感覚に恐怖し、逃げようとする八咫烏だったが、無論、そんな事、この巫女が許す筈もない。……一切の抵抗を許されること無く、猿轡をされ、亀甲縛りにされて、その場に転がされてしまう。

 

【ふぐぅ! んぅッ! んッ!?】

「神の精神が強いのは神奈子と諏訪子で分かりきっているからな。……少々、痛いくらいが丁度いい」

【んぐっ!? うぅぅっ! んッ!】

 

 涙が溢れる。

 高貴なる太陽、天照の使いである八咫烏。そんな存在である自分が、ただ一人の人間に手も足もでない。良いように弄ばれている。……その事実が彼女の神としての自尊心を粉々に打ち砕く。

 休む間もなく送り込まれる痛みを伴った快楽が、未知の感覚として押し寄せてくる快楽が、彼女の心の恐怖を煽り続け、抵抗という抵抗を封じていく。

 もう、そこに神の使いである八咫烏は何処にもいない。神の力を持っただけのただの恐怖に怯える少女の姿がそこにあるのみだ。

 

【ひっく、ぐす、うぅ】

「ああ、済まない。やりすぎたようだな」

 

 巫女は、それまでの仕置の一切を止め、泣いている八咫烏の縄を解きあやす。まるでガラス細工を扱うように丁寧に、母親が子供を泣き止ませるように柔らかに、何処までも優しげにあやしている。

 

「よしよし」

【……】

 

 ストックホルム症候群という言葉を知っているだろうか?

 誘拐や拉致、人質に取られた被害者が、犯人と一時的に時間と場所を共有することで、依存関係にも似た強い同情心や、好意を抱いてしまう心理学である。……そう、自分を害している筈の存在に対して好意を抱いてしまうのである。

 

【もっとぉ】

「ん?」

【もっと撫でてぇ】

「……よしよし」

 

 可哀想なことに八咫烏は落ちてしまった。

 深い深い、二度と戻ってこれぬ依存の沼へと、ズブズブ、ズブズブと落ちていったのだ。……沈みゆく彼女を引き上げる者は誰もいない。誰も、いないのである。

 

 

 

 

 

 異変は終わった。全ての戦いは終わり、異変は間違いなく終結したのだ。……数々の問題を残して。

 

 

 

 

 

「霊夢ぅ、もっとギュッてしてぇ……もっとぉ、もっとぉ一杯、私を食べてぇ」

【空、次は我の番だぞ、霊夢にナデナデしてもらうのだ】

「……うむ! やりすぎた!」

 

 ごめん、コンティニューって出来ない?

 





かぁくぅたぁのぉ!(若本風)

猫耳とは?(哲学)

多分、猫耳関係の調べものしてたからそのせいだと思う。だから私は悪くない。
何だかんだ、地霊殿での戦闘シーンのラストがヤベェ事になっているけど、大丈夫やで(白目)

何で、書けば書くほどキャラクターが壊れていくんだ(困惑)。……うん、これも全部巫女が悪いな、そうに違いない(盛大な責任転嫁)。

色々とカオス極まりない事になっている当作品ですが、多分これからもカオスは広がります。
感想でも何処でも良いので存分に突っ込んでくれて結構です。むしろ突っ込んで下さい(ドギツイ下ネタ)

それはそうと皆さん。……性転換とかどう思います?(極悪スマイル)

では、またのぉ!


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【地霊殿】巫女、温泉【エピローグ】


長々とお待たせして申し訳ない。
リアルの都合で時間があんまり取れなかったのですよ。

その代わりに、恥霊伝(どこに出しても恥ずかしい霊夢の伝説)の最新話を投稿するので許して下さい(土下寝ッ! 敗北のベストオブベストッ!)



――温泉

 

 それは大地の奥底から溢れ出た現象、あるいは場所そのものを指し示す言葉であり、この世に存在するありとあらゆる生命体を魅了する神秘である。

 何だよ……温泉とかただのお湯じゃん、などと馬鹿げた事を思うなかれ。……温泉とは癒やしなのだ。ほっとする温かさで諸人の疲れという疲れを包み込み、身体を労ってくれる幸せな場所なのだ。

 

 温泉とは、理想郷である。……そう、理想郷、理想郷なのだ。

 温泉とは風呂だ。つまり、その中に入っている者達は一糸纏わぬあられもない姿を曝け出しているのである。……それは、汚れなき透き通る様な肌だったり、健康的な色気を醸し出す褐色肌。温泉という場所特有の熱により、淡く桃色に染まったその素肌は、この世のどんな芸術にも勝るとも劣らない至高の物だと思う。

 栄養を蓄え、大きく実った二つの果実が、その存在を主張するかのように揺れている。逆に、僅かな膨らみしかない、平原に現れた丘のごときソレも、揺れはしないが凛とした姿を魅せてくれる。

 熱を帯びる桃も、大小それぞれの違いはあるが、総じて色合いをより赤へと近付け、むしゃぶりつきたくなる衝動に駆られてしまいそうなほど、甘く甘く誘惑してくる。

 恥ずかしげにその肢体を薄く白い布切れで隠そうと、健気に抵抗している者もいるが、その行動こそが逆に、その身をより扇情的なソレに変貌させていることに全く気付いていない。……水を吸い、全身にピッタリと張り付き、その白いベールは向こう側の光景を透かして見せているのだ。その有様の何と淫靡な事か。

 

 まぁ何だ、長々と語ってしまったが、私は温泉を、温泉という場所を心の底から愛している。

 

「あぁ……あったかい」

「おねえちゃん、おねえちゃん! おんせんきもちいいねぇ!」

「うにゅっ! おんせんたまごおいしい!」

「そんな急がないでも沢山あるから、ゆっくり食べようね、お空」

 

 もう、私は死んでも良いかもしれない。……死なないけど。

 異変を解決してからの話だ。いつも通り、異変解決後の事後処理として、地底の復旧作業を行っていたのだが、その過程で、偶然温泉を発掘してしまったのだ。……元々、色んな頭おかしい戦いで、地盤とか地脈とかがぐちゃぐちゃになっていたから、その影響かもしれない。

 そんなわけで、ちゃちゃっと復旧作業を終わらせて(質量を持った分身とか、時間停止とか云々で……)、今回異変に関わった面々を集めて、お疲れ様パーティーと称して温泉に入ることにしたのだ。……肌色多めで、博麗の巫女は大変満足です。私の心のマーラ様も菩薩の笑みを浮かべている。

 

「……(微笑みながら固まっている)」

 

 いきなりで悪いが、私は今、大変嬉しいような、嬉しいような、嬉しいような、嬉しいような。……うん、大変で嬉しい状況に陥ってしまっている。

 私が博麗霊夢として人生を謳歌してきたこの十と数年でも、類を見ないほどの嬉しいが過ぎる状況に陥ってしまっているのである。

 

「あ、意外と二の腕柔らかいんですね。……もっとカチカチだと思ってました」

「ホントだ! ぷにぷにしてて柔らかーい!」

「むぎゅぅぅぅぅぅ!」

「霊夢って、身長高いからちょうど良いなぁー」

 

 私の両サイドを古明地姉妹が陣取り、それぞれが左腕と右腕を抱き締め、好き放題にさすっていたり、揉んでいる。……二人から感じられるのは、少々小ぶりだが確かにそこにあると分かる柔らかさである(悟り)。

 背後には、お空ちゃんが鎮座しており、私よりも更に高い身長に物を言わせて、強引に私を抱え込んでいるのである。……主人とは対象的に、私の背中に押し付けられているのは圧倒的な存在感と包み込んでくる柔らかさである(う乳)。

 そして、私の膝上には何処となく楽しげに猫耳を揺らしてのんびりとしているお燐ちゃんの姿があった。……主人と同僚に比べるとアクションこそ少ないが、身じろぎする度に、私の乙女の聖域の上空では魅力的なキャットダンスが繰り広げられているのである(ケダモノフレンズ)。

 そう、地霊殿一家である。地霊殿の主人姉妹と、そのペットたちが、私の全身に纏わり付いているという嬉しすぎる謎現象が巻き起こってしまっているのである、謎。

 

「何でさ」

 

 いや、本当、何でさ(赤い弓兵)。

 別にこの状態が嫌なわけじゃないんだけどね。いや、本当に、この状態が毎日続くのであるならば、世界征服であろうが、神様をコロコロするくらいどうってことないくらいには、何でもする勢いで、本当に嬉しい状態なんだけどね。……正直、状況が飲み込めないのでござりまする。

 温泉に入って一息入れて、さぁて、美少女を眺めますかと、視線を横にずらした瞬間、私はこの状態にあった。……何が起こったのか、全く理解らなかった、時間停止とかそんな類のものでない事は理解っていたが、気付けば私は地霊殿女体饅頭の具にされてしまっていたのである(しあわせぇー)。

 

「お礼のつもり、です」

「……お礼?」

「霊夢さん、人と触れ合うのが好きみたいなので……ちょっと恥ずかしいですけど、こうして触れていたら喜んで貰えるんじゃないかと、思いました」

「……Oh」

 

 さとりちゃんの女神化が留まるところを知らない。

 私の中でのさとりちゃんに対する純粋な意味での好感度が鰻登りの爆上がり、上限を突き抜けて天元突破で上昇していくのが分かる。……私のさとりちゃんがこんなにも尊い(お前のじゃない)。

 

「こら霊夢! お姉ちゃんだけに構ってないで私にも構えぇー!」

「痛っ、痛いぞこいし!」

「あはははははっ!」

 

 こいしちゃんが私の髪を引っ張って、自分の方に向かせようとしている。いや、普通に痛いから、毛根が死滅しちゃうから、乙女で美少女なのに、落ち武者ヘアーとか洒落にならんから止めろ下さい。

 全く、なぁにが楽しいのかキャッキャッとしやがって、お前という奴は、はぁ……もぉきゃわいいからゆるしゅっ!(美少女脳)

 でも、後でお仕置きは確定だから宜しくね! お風呂上がりに運動(意味深)だからね! ね!(念押し)

 

「むぅ」

「お空、首が締まってるから緩めてくれ」

「むぅ〜〜〜っ!」

「ぐっ!?」

【ふはははははっ! 諦めて我らにも構うが良い!】

 

 私の首が捻じ切られそうな件(捻じ切られるとは言ってない)。

 それよりも、私の背中に当たる山盛りの果実の感触が半端じゃなくて、一瞬で昇天しちゃいそうなんだけどね。

 八咫烏ちゃんェ、あんまりお空ちゃんを焚き付けるのは止めて欲しいんだけどなぁ。微妙に進化の力使って腕力底上げしてくるから、本気で首が締まって呼吸が苦しいんだよぉ。……まぁ、私はぁ? 五日間の無呼吸運動が出来ますしぃ? 別に問題ないんだけどねぇ?(スペェェェェェック!)

 

「すぅー、すぅー」

「……お前だけが救いだよ」

「すぅー……後で……皆で……霊夢にぃ……復讐……むにゃむにゃ」

「……」

 

 いつの間にやら私の胸を枕にしてすやすやと寝息を立てている可愛らしい猫耳美少女、お燐ちゃんがべらぼうに大人しくて、さとりちゃんと並んで私の癒やしになりつつあるついこの頃。いやはや、流石は地霊殿の常識人筆頭ですわ。……後、復讐については完全に不可抗力なので、手打ちにして貰いたい。あ、無理ですか、そうですか、はぁ。

 

「……(じぃー)」

「……」

 

 さっきから団子状態になっている私を、真正面からずっと見つめているお燐ちゃん似の猫耳娘……確か、名前は火焔猫煉ちゃんだったかな? じゃあ、呼ぶときはお煉ちゃんで良いな!

 ふむふむ、こうして間近で観察してみると。……ふむ、お燐ちゃんに似ているとは言っても、やっぱり彼女なりの個性が出ているのが分かる。

 お燐ちゃんの猫耳はどちらかと言えば、ちょっとくせっ毛で、ふわふわしているが、このお煉ちゃんは、シュッとして滑らかだ。

 顔立ちも、あどけなさが残るお燐ちゃんに対して、若干ツリ目でクールな印象を受けるし、筋肉の付き方が全然違っているからね。……より具体的に言うなれば、ライオンとチーターくらい違う。ついでに胸の大きさもDとBでこの娘の方がこじんまりとした手乗りサイズでクールな印象とは正反対に可愛らしい感じだ。

 

「……(じぃー)」

「……猫耳?」

「っ!?……理解るのか!?」

「ああ、皆まで言うな。私もまた猫耳だ」

 

 一番の驚きは、お煉ちゃんが生粋の猫耳マイスターだった事だよね。

 猫耳マイスターとは、猫耳を愛し、猫耳の為に生き、猫耳を守り、猫耳を繁栄させ、やがて、自分自身も猫耳と化す、愛すべき大馬鹿者達を指す言葉である。

 無論、私もまたその一人。……最も、私は猫耳マイスターの中でも上から数えた方が早い位置にいる者だがね(圧倒的強者感)。

 ふっふっふっ、格上の猫耳マイスターに出会ったのは初めてかな? 驚愕が透けて見えるぞお煉ちゃん? まだまだ私の猫耳パワーは全開には程遠いんですがねぇ?

 

「こんな、馬鹿な」

「恐れるな、恐れは猫耳を曇らせる。……ただ刮目してみるのだ、猫耳とは、猫耳があるから猫耳なのではない。猫耳とは猫耳であるからこそ、そこに猫耳としてあるのだ」

「つまり、猫耳とは猫耳である、と?」

「無論、そのための猫耳だ」

 

 ぶっちゃけると、私の猫耳ぢからは常人の理解を遥かに超えていると言っても良い。……無論、猫耳だけではなく、その他の属性も網羅しているがね(犬耳とか、狐耳とか、エルフ耳とか……)。

 

「……師と呼んでも?」

「学びたければ教えよう……娘よ」

 

 あ、それと多分この娘、血の繋がりはないけど私の娘になると思うわ。……もっと正確に言ったら私とお燐ちゃんの娘だけど。

 いや、ね。この娘からお燐ちゃんの妖力と同時に、若干私の霊力も感じられるんですわ。……割合で言ったら、大体お燐ちゃん要素が八で、私の要素が二割くらい?

 そもそもの話、私の因子を受け継ぎでもしない限り、こんな馬鹿みたいに濃ゆい美少女が出現するわけがないだろうが(説得力のある回答)。

 

「師であり父よ。……貴女も私の様に猫耳を生み出せるのか?」

「お前に出来て私に出来ないとでも思っているのか?――ほれ」

 

――フサァ。

 

 肉体変化の応用で、私自身の頭部に猫耳を生やしてみせる。……うん、神経もちゃんと通っているし、感度も良好。久々に試してみたが、中々に上手くいったぜ。

 我ながら、今の猫耳巫女霊夢さんは、その手のマニアには眉唾ものだと思う。大枚叩いてでも一夜を共にしたいレベルの圧倒的猫耳美少女になっている自信が私にはあるぞ。

 

「……これが、最高峰の、猫耳」

「触ってみるか?」

「良いのぉ!?」

 

 目をキラッキラさせよってからによぉ、ええからええから、好きなだけ堪能しんしゃいな。……それにしても興奮しすぎてキャラ崩壊してやがる、こりゃあ相当な猫耳マイスターだなぁ(呆れ)。

 

「ふぅ……何だこれ」

 

 両腕には、しがみついて揉み揉みしてくる古明地姉妹。

 背中には、もう一人のボクとシンクロして、必要以上のパワーで抱きつき、首を締め付けてくるお空ちゃん。

 膝は地霊殿の常識人筆頭にして、猫耳の最萌筆頭であるお燐ちゃんが独占しており、すやすやと穏やかな寝息を立てている。

 極めつけには、私の猫耳を全力全開で触って、はわわしているお煉ちゃんである。……流石だな、猫耳を大事にしているが故に、猫耳を猫耳して、猫耳の安全を第一に猫耳している(意味不明)。

 

 展開されるのは乙女たちのキャッキャウフフなお団子空間である。

 古明地姉妹が主導する、地霊殿が誇る決戦お色気兵器、地霊美少女団子が、幻想郷の守護者であるこの博麗霊夢に向かって使われているのである。……私は抗う術もなく、ただ好きなように弄ばれるしかない。

 いつものようにスキンシップ(やらしい方の肉体言語)をしても良いかもしれないが、此処には女神であるさとりちゃんがいるため、不可能なのだ。……そう、さとりちゃんはさとりちゃんであるが故に女神なのだから、私という名伏し難きど淑女の欲望を曝け出すわけにはいかないのである。

 え、もうバレているだって? 諦めて素直になれ?……この博麗霊夢にも意地というものがあるのだ。さとりちゃんから直接的なモーションを掛けられない限りは決して手を出すわけにはいかないのだ(真面目)。

 

「どうしたらこんなにスベスベになるんでしょう?」

「さ、さとり、流石にそろそろ擽ったいのだが?」

「も、もうちょっと、もうちょっとだけですから」

 

 私の腕を堪能しているさとりちゃん、すりすりすりすりと、ゆっくりゆっくり撫でている。……何だろう、イヤらしい要素は何にもない筈なのに(感覚麻痺)、ちょっとエロいとか思ってしまった。

 別にさとりちゃんが望むなら、私の何処であろうと自由に触らせてあげるんだけどなぁ〜、腕だけじゃなくて、我ながらよく引き締まった脚だろうが、鍛え上げられた柔らかくも強靭な腹筋だとか、この豊満なバストだろうが何でも触らせてあげちゃうんだけどなぁ〜。

 まぁ、今は腕だけで満足している様子なので、好きなだけ触らせておきましょう、そうしよう。……何なら、このままさとりちゃん専用の腕クッションを作るために私のこの片腕を切り落としても良いくらいだ(猟奇的発想)。どうせ一瞬で生えるし(※あくまで人間です)。

 

「美味しそう」

「おい、こいし、噛むな、噛むんじゃない」

「じゃあ、ちょっと味見するね!」

 

 おい、私がペロペロするんじゃなくてお前がペロペロするのかよ、解釈違いだから止めなさいな。

 良いかね、こいしちゃん? 私、襲い掛かる側、君、襲われる側なんだよ? つまり、捕食者と被捕食者という関係なんだよ? 被捕食者が捕食者に向かってペロペロするか?……しないだろ? じゃあ、この状況は自然の摂理的な意味合いで、間違っているんだ。

 だから、私の二の腕を執拗以上にペロペロするのは止めるんだ。……何故なら、私は、好きな相手からの行為ならば、例え手を繋がれただけでも簡単にイッてしまいそうなクソザコナメクジだからな(紙装甲)!

 や、やめてぇー! 私、落ちちゃうからぁ! こいしちゃんの巧みな舌使いで、霊夢の霊夢が無双封印して、無意識の内にこいしちゃんのこいしちゃんによるぺろちゃんでハルトマンしちゃうからぁ! ひぎぃ!

 

「うにゅおぉぉぉぉぉ!」

【空ぉ! 進化の時間だぁぁぁぁぁ!】

「お、お前たち、言い加減にしないと、本気で仕置するぞ?」

「【むしろ来い!】」

 

 んで、何気にキツくなってきたのがこのコンビ。

 地獄が誇るおっぱいであるお空ちゃんと、そのもう一人のボク的な、遊戯で王的な、千年でパズル的なアレを完成させたら、エジプトのファラオがやっはろーしたみたいな、二重人格コンビが地味に首を折りかねん勢いで抱き締めてくるので、首への負担が半端ではない。……死にはしないけど(※人間?)。

 後、興奮しているのか、発情しているのかは知らんけど、背中に当たっている柔らかさに混じって、二箇所だけ固い感触があるのよね。……ポッチが勃ってるのね、分かっているわ(本日二回目の悟り)。

 ぶっちゃけ、今すぐにもむしゃぶりつきたいのは此処だけの話である。

 

「うにゃぁ? この枕柔らかいにゃぁ〜」

「っ!?」

「むにゃむにゃぁ、さくらんぼ美味しい」

「ふぅっ!? っ!?」

 

 お燐さん、お胸を吸うの、止めなされ。……博麗霊夢、心の俳句。

 背後から襲い掛かってくるお空ちゃんのダブルポッチに気を取られていた私は、前方から迫りくる脅威に気付けなかった。

 お燐ちゃん、今まで大人しかったあの猫娘が、突如として私に牙を向いたのだ。文字通り牙を向いてきたのだッ!

 私のお胸様に顔を埋め、その先端部分の桜色の果実に口を寄せ、そのまま食らいついたのだッ! それはまるで、生まれた直後の子猫が、栄養を求めて母にすがりついているように、一心不乱に食らいついたのだッ!

 それだけならば問題はない(大アリ)。問題はないがッ!……それはあくまで歯の生え揃っていない赤子の話である。お燐ちゃんは立派に成長した乙女、当然その牙は綺麗に生え揃っている。

 結論、痛い。突き立てられた鋭い牙が、私の弱い部分に噛み付いてくる。肉体強度故に、ダメージ自体は入っていないが、それでも若干の痛みを感じるほどだっ!……同時に、私の胸元から電流が走ったかのような衝撃が全身に走り、私の脳神経を叩いて揺らす。まるで、頭の中に直接雷を落とされてしまったかのような、とんでもない衝撃が、私に襲い掛かってきた。

 気持ちよかったのだ。痛みと共に私を支配したのは快楽。……お燐ちゃんはやってしまったのだ、私という幻想郷最強の人間を、一瞬の内に、ただのメスへと叩き落としたのだ。

 こんな偉業、あの幽香ですら出来なかった。それなのに、お燐ちゃんはやってのけた。……もうこれは私がお燐ちゃんに嫁入りせざる得ない。

 

「ん!? 父よ、猫耳が激しく揺らいでいるが如何なされた!」

 

 ほら、ちょうど娘もいるから私達は良いおしどり夫婦になれると思うのだよ。

 父親扱いされている私が、母親的な立場になっているお燐ちゃんによってメス落ちさせられて、そのままゴールインする。……ふむ、こうして言葉にすると妙だな。

 で、お燐ちゃん。夫婦になったらどうしようか? やっぱり毎日毎日仲良し夫婦が良いよね? 一緒にご飯作って、一緒にお風呂入って、一緒に同じお布団で眠って、一緒に愛して愛して愛して愛して愛して愛される関係が望ましいよね? 

 だって、お燐ちゃんは、私の事が大好きなんでしょう? 霊夢分かるよ、だって私もお燐ちゃんの事大好きだから、当然だよね? そもそも私は幻想郷のありとあらゆる美少女たちを愛しているから、その美少女の一人であるお燐ちゃんの事を愛しているのは当然だよね。ああ、そうそう私をメスにしていいのはお燐ちゃんだけだからそこは安心して、私は皆をメス落ちさせるけど、私をメス落ちさせて良いのはお燐ちゃんだけだからね。だから、お燐ちゃんのヤりたいことは全部私にしてくれて良いよ? 基本も応用も、アブノーマルな事でも全部受け入れるからね。あ、そうだ、お燐ちゃんも確か人を食べる事が出来る妖怪だったよね。だったら私の身体の一部を食べて文字通り一心同体で一つになろうか? そしたら、お燐ちゃんは私というメスの存在を何処にいても感じることが出来るし、私もお燐ちゃんの一部になれて嬉しいでウィンウィンだもんね。それとやっぱり住むとしたら主であるさとりちゃん達がいる地霊殿が良いかな? でも私は地上も良いと思うんだ、だって地上だったら、私とずっと二人っきりで一緒にいられるもんね、夫婦の時間は大事にしようね。あ、そうだ、何時でも会えるように空間を捻じ曲げて博麗神社に直結させれば良いんだね。はい、繋げたよ。これで何時でも私と一緒にハグハグ出来るね、良かったよ。ところで、子供は何人欲しい? 私はお燐ちゃんが満足できるなら、何人でも産んでも良いよ? それで、いつか孫とかが生まれた時には博麗神社の縁側で二人仲良く座って「これからもずっと一緒だからね」ってやるの、キャーそんな事して私の心臓持つのかし(省略

 

――【我が生涯にいっぱいの食いありぃぃぃぃぃ!】

 

「あばばばばば!?」

 

 ぎゃあぁぁぁぁぁ脳内に無数の裸王がががががぁぁぁぁぁ!?

 ど、どうやらは、覇王モードパイセンの精神保護機能が発動したらしいな。……これを使う羽目になったのは随分と久しい、それほど追い詰められていたということか。

 精神保護機能とは、私の精神が可笑しくなったら発動する一種のショック療法のような代物だ。……私の精神がレッドゾーンに突入するか、人格が病みサイドにシフトした瞬間に、私の脳内におぞましい光景を直接流し込むのである。

 ちなみに前回正気を失いかけた時は、ガチホモ達の血湧き肉躍る、精で精を洗うヤベェ祭りの光景だったぜ、オエェ。

 こほんっ、失礼した。少しだけっ! 少しだけっ! 取り乱したなっ! 取り敢えずさっきのは忘れて欲しい、ちょっとした気の迷いだったんだ。私は、メス落ちしてない、私はメス落ちしない、そう、私は博麗霊夢、百合の花園で微笑む聖母のごとき淑女の博麗霊夢なんだ。……そんな私を此処まで取り乱させるなんて、お燐ちゃん恐ろしい娘(劇画タッチ)。

 

「……うむ、逃げるか」

 

 このまま此処にいたら開発されてしまう(お燐ちゃんに)。

 何やら楽しげに私で遊んでいる他の面々には本当に申し訳ないのだが、此処は引かせてもらうっ! だが、無理矢理引き剥がそうとしたら、一部はともかくさとりちゃんとこいしちゃんが大怪我を負いかねない。……ならばっ!

 

「あれ? 霊夢さん?」

「れ、霊夢が消えたっ!?」

「うにゅっ!?」

【おのれっ! 逃げられたかっ!】

「ああっ!? 猫耳がッ!」

「むにゃむにゃ」

 

――夢想天生。

 

 あんまりにもしょうもない理由で奥義の一つが使用された瞬間だった。……うん、ある意味で私にとっては危険で危ない状況だったから仕方ないんだ、仕方ないんだ。だから、何も言うな! 言うんじゃない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんやかんや、地霊殿の面々から離れることに成功したので、お茶でも飲んでゆっくりしている。……少し名残惜しい気もするが、流石にあのままだと博麗霊夢の霊夢さんが霊夢さんであることを放棄して、ただの卑しいメス豚になっていたのはかくてき(確定的に明らか)だったので仕方ないのである。

 

「ふぅ……それで、一体何の用だ?」

 

 私が地霊殿の面々から離れるのを待ってましたと言わんばかりに、取り囲む影。……彼女達は、とてもとても熱い眼差しで、刺殺さん勢いで私をじっくり、ねっとりと睨みつけ、息を荒げながらじりじりと距離を詰めてくる。

 どうやら私は、一時も休むことは出来ないらしい。……やれやれ、人気者は辛いじぇ。

 

「うふふっ」

「ハハハハハッ!」

 

 前方、無駄に綺麗な笑みを浮かべてこちらを熱の籠った目で、穴を開けそうな勢いで見つめ続ける、幻想郷最強の妖怪、幽香。……そして、そんな彼女にも匹敵しかねない気迫を全身から吹き上げ、猛獣が如く、舌舐めずりしている鬼、勇儀姐さんである。

 

「ふぅー」

「れいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむれいむあはっあはははっ!」

 

 対して後方、傲慢極まりない不遜な態度で全てを等しく見下ろしながら、莫大な奇跡の波動で水面を揺らしている、現人神、早苗。……その彼女の隣に立ちながら、ハイライトが消失した目でこちらを見つめ、私の名前を連呼しながら、おぞましくも強大な嫉妬の力を邪悪に漲らせている橋姫、パルスィちゃん。

 

「……Oh(汗)」

 

 前門の虎後門の狼とは、まさにこの状況の事を指すのだろうか(遠い目)。……いや、敵意はないのは分かっているんだけどさ、そのぉ、ね、目がね、明らかに私のことを「めちゃめちゃに食い散らかしてやるぜぇ(性的な意味で)」みたいな殺意の波動に目覚めた某格闘家並に鋭い眼光で睨んできているからね。

 何度も言うけど、私はあくまで攻撃タイプ、攻めに特化した紙装甲なのだ。こんな獰猛過ぎる方々に囲まれて攻められたら逝く(二重の意味で)。

 

「幽香――」

「ああ、漸く会えたわね私の大好きな霊夢。そうよ、貴女の素敵な素敵な好敵手(恋人)の私よ。ねぇ、どうしてせっかくの異変で私を呼んでくれなかったの? 私以外の相手とあんな素敵な戦いをしようだなんてイケない人ね。でも大丈夫安心していいわよ、だって私貴女の事なら何でも知っているものぉ。私に嫉妬させようとしていたんでしょ? 怒りに震える私を見て、貴女と戦えない苦しみに打ち震える私を見て、嫉妬に狂う私を見て愉悦するためにあんな風に焦らしていたんでしょ? ねぇ、貴女の目論見通り私、本当に狂ってしまいそうなくらいに熱く熱く熱くて苦しいのよ。新しく出来たお友達のお陰で此処まで抑えることが出来たけど、もう限界よぉ。だからねぇ? 今すぐ私とヤり合いましょう? ねぇ、殺し愛ましょうよ? ねぇ? ねぇ? ねぇねぇねぇねぇねぇ!」

 

 うん、恐い(真顔)。恍惚のヤンデレポーズは止めてください、死んでしまいます。……戦闘狂はこれだからっ! これだからっ!

 それとね、興奮しているのは分かったから、完全体幽香になるのだけは止めて、それ止めるの面倒だから止めて、幻想郷がモストダァイしちゃうから止めてっ!……あ、これダメみたいですね、分かりたくないです。もぉやだぁー!

 

「ゆ、勇儀――」

「圧制である!」

「は?」

「おおぉ、圧制者よ。私の心を奪った者よ。君とこうして湯に浸かるという不思議な体験で、我が心は打ち震えているぞ! おおぉ、これは歓喜である! 君と同じ土俵に立った私と! 同じく、私と同じ目線で会話を求める君が分かり合うための絶好の機会である! 故に、圧制者よ、我が抱擁を受けるが良い! この我が身から溢れ出す君への無限の愛を、存分に君へと伝えてみせよう! さぁ、圧制者よ、我が胸に飛び込むが良い! この愛でもって、君の全てを包み込もう! さぁ! さぁぁぁぁぁ!」

 

 こやつ酔っておるな(確信)。

 勇儀姐さんをよぉく観察して分かった、酔ってるわ、この娘。……その身から溢れ出す酒の香り。どれだけ飲んだのかは分からないけど、鬼である勇儀姐さんが酔っていると言うことは相当な量を飲んだのは想像に固くない。

 両腕をめいっぱい広げて、無駄に綺麗で快活な、愛らしさ全開の満開に咲いた花の如き笑顔を見せる勇儀姐さんのギャップで私の心臓が圧制されている、可愛い。

 何処ぞの反逆の英雄がインストールされたのかは知らんけど、これは可愛い。うん、カワイイデスネ。……全身から闘気とか妖気とか滅茶苦茶な覇気を垂れ流していなかったらね。

 これ、抱き締められたら、流石の私でも骨が軋むくらいはするかもしれない、そんな気がする。そんくらいヤバイ。……ああ、そう言えば勇儀姐さん、幽香と殴り合いできるんだったね(白目)。

 

「早苗――」

「喜びなさい霊夢、今こそ、貴女を我が手中に収める時がきたのです」

「はぁ?」

「どれだけ私がアピールしても、どれだけ貴女に思いを伝えても、貴女は揺るぎもしなかった。屈服させようとも、私と貴女では実力に差があり、とてもではないが敵わない。……私は理解しました、まだ、甘かった。貴女という一種の災厄にも等しい人間を相手取るには一人では足りない」

「ええ、一人ではねぇ?」

 

 既に奇跡の力を開放している早苗。その隣に嫉妬の力全開のパルスィが並び立つ。

 

「……パルスィか」

「そう、ならば数を揃えて押し潰し山分けしてしまえば良い。……単純な話です、質でダメなら数で、一人でダメなら二人で貴女を屈服させてしまえばいい」

「奇跡と嫉妬のコンビというわけ、か」

 

 渾身のドヤ顔を披露しながら、私に向かって自信満々に言い切った早苗。……普段のダメダメな早苗もカワイイけど、これはこれでアリだな。傲慢カワイイという新ジャンルを開拓してしまったよ。

 霊夢さんはね、こういう自信満々で誇り高い女の子が、プライドをバッキバキにされて、涙目で這い蹲って私に傅いて快楽落ちする、くっころ展開も実は嫌いじゃなかったりするんだよ。……ぶっちゃけ、今の早苗を今すぐにでもねじ伏せて、どっちが上にいるのか分からせてあげたい。

 でも、今動いたら手痛い反撃を受けちゃうよね。

 早苗一人ならどうとでも出来た。なんなら、時間をたっぷり使って、戦いという名の調教で、一匹のメス犬を作り上げることも容易いだろう。

 問題はその横でハイライト消失した目で私に微笑みかけているパルスィちゃん。……光のない目って正直見ているだけで吸い込まれそうで大好き、是非ともそのまま吸い込んで欲しい。いや、むしろその眼球を直接ペロペロして、その尖った愛らしいエルフ耳を噛み噛みしたいです、はい(狂気)。

 早苗とパルスィちゃんの戦いの全容は私も確認済みだ。圧倒的な奇跡の力で戦う早苗と、その早苗に対抗するように、大量の呪詛を撒き散らしながら巨大化した身体で暴れまわったパルスィちゃん(緑眼の者モード)。……あの早苗が、奥の手を切らなければ勝てなかったかもしれないのがパルスィちゃんだ。

 そんな二人がコンビを組んだ。……普通に強いに決まってんだろうが馬鹿野郎この野郎。下手したら幽香と同じくらい厄介だぞこの二人。

 

「さぁ、霊夢! お楽しみはこれからよッ! ハリィィィ! ハリィッ!」

「……そ、そろそろ飛び込んできても良いのだぞ、圧制者よ(涙目)」

「さて、パルスィさん、私達の計画を実行する時が遂にやってきましたよ」

「ええ、『霊夢捕獲作戦〜今夜は寝かせないぞ(はぁと)〜』で、絶対に霊夢を私達の物にするのよ」

 

 わい、死ぬん?

 いやいや、流石の私もこの四人を相手取って不殺の誓いを守りつつ無力化するの無理なんですがそれは。下手したら私の命が幻想郷から彼岸の果てまでランデブーしちゃうんですがそれは。

 お、落ち着くだぁー! 霊夢! わ、私はやればできる子だ! こんな危機的な状況でも私ならっ! 私なら回避できるぅっ!

 この場での最適解は何だッ!? どうすれば、この絶対的な危機を脱出できるのだッ!?……い、いや、一つだけっ! 一つだけ手段があるっ! だがアレはッ! アレだけはッ!

 

「霊夢ぅ!」

「圧制者よ!」

「霊夢さん!」

「霊夢!」

 

 くっ、止むおえんッ!

 

「い、イジメないで(全力の涙目+上目遣い+首傾げ)」

 

 屈辱である。誠に遺憾である。私はかっくいぃ(小並感)霊夢さんを目指しているのに、これはあんまりである、起訴も辞さない。

 私、博麗霊夢の技は、何も攻撃的なものだけではない、相手を一瞬で萌え殺す物も当然用意している。……私のキャラに合わないから使わないけど使える。

 今使った技こそ、私が博麗霊夢として持てる全萌え要素を投入して初めて使用できる禁じ手中の禁じ手である(主に私が恥ずかしい的な意味で)

 某ポケットでモンスターな世界で言うところの「つぶらなひとみ」に「あまえる」要素と泣き要素を付け加えた一級品である、効果は――

 

「い、イジメないわ。イジメないから、ね」

「圧制者は弱者だった? では、我が愛は、愛は(半泣き)」

「……今回は止めておきましょうかパルスィさん(鼻血垂れ流し)」

「そうね早苗、今回は止めておきましょう(目を覆いながら)」

 

――対象の無力化である。

 

 簡単に言えば、弱者ムーブすることで、相手からやる気とかヤル気とかを全部根こそぎ奪い去るのである。……想像してごらん? 君は、涙目で震えている可愛らしい少女に酷いこと出来るかい? ちなみに私は出来る(無理矢理にでも合意に持ってく)、他は知らん。

 つまりカワイイを装うのである。……普段の私はクールな覇王系美人()を気取っているので、そのギャップによって、大概の相手は無力化出来るのだ。

 私個人としてはあんまりやりたくない技だけどね。たしかに問題なく相手を無力出来るのは凄いけど、それをするには、私の覇王的な誇り(笑)と言うか、そんな感じのソレがね、微妙に傷付いちゃうわけですよ。……今更感が酷いとかそんな事言わないで欲しい(上目遣い)。

 

「ほら霊夢、貴女のお口に合うと思って作ってみたのよ」

「……おひたし美味しい」

「うふふ、霊夢は良い娘ね」

 

 わーい、ゆーかおねえちゃんのおりょうりおいしいなー(近所の子供)。

 あの幽香ですらご覧の有様である。常日頃の戦闘狂は何処へやら、まるで年下の子供を見守る近所の優しいお姉さんの様に柔らかく微笑みながら、おひたしを食べている私の頭を撫で撫でしてくれている。……まさか、幽香にバブ味を感じるとは、この霊夢の目を持ってしても見抜けなんだ(節穴)。

 

「圧制者よ、同じ圧制者ばかりに構わず、反逆者である私にも構うのだ! ほら酒だ! 共に飲み交わそうぞ!」

「……お酒美味しい」

「うむっ!」

 

 輝く笑顔が最高ですね、はい。

 勇儀姐さんとお酒を飲み交わす。……アレ、度数高過ぎね? 多分、というか確実に鬼殺しとかそこら辺のヤベェお酒だ。

 私は飲んだ端からアルコールが自動分解される体質だから、どんなに度数が高いお酒でも水みたいにごくごく飲めるんだけど、これは常人(鬼)にはキツイだろうなぁ。

 取り敢えず、勇儀姐さんが飲みすぎないようにちゃんと見てあげねば。……潰れたところを持って帰るのもアリかもしれない。酔っ払った勇儀姐さんカワイイ、カワイイよ。

 

「霊夢さん! 私達とも、もっと仲良くしましょうよ!」

「そうよ、知り合ったばっかりの私が言うことでもないけど、早苗共々もっと霊夢と仲良くしたいのよ」

「……え、仲良しじゃないの?(涙目)」

「んぐっ!?……か」

「か?」

「可愛すぎんじゃこんちくしょぉぉぉぉぉ!」

「ふぁぁぁぁぁ!?」

「あぁ、か、可愛すぎて、妬ましいって気持ちも湧いてこないわ。……抱き締めていいかしら? いえ、抱き締めるわ」

「パルスィ、苦しいよ」

 

 早苗、何でいきなり叫んでんの、こわぁ。……後、パルスィちゃんがいきなり抱き締めてきたせいで、私の霊夢ちゃんヘッドがパルスィちゃんのパルスィッぱいにジャストフィットしてて程よい柔らかさとすべすべした肌の質感で、霊夢の霊夢さんが夢想封印しちゃってて、内側にある膨大な霊力がピチュりそうなの。

 冗談はさておき、早苗(通常モード)が絶叫するのも無理はないだろう。そう、この『博麗式悩殺アタック』にはデメリットがあるのだ。……見ての通り、一時的に私の言動やら仕草やら何から何までが、幼児退行してしまうというあんまりにもあんまりなデメリットがあるのだ。

 普段はクールでカッコよく、イケメンよりもイケメンで、常勝不敗、天下無敵の才色兼備、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」もかくやと言わんばかりの凄まじき美少女であるこの博麗霊夢(わたし)が、ガキの頃の天真爛漫(当社比)な姿を晒してしまうのである。……覇王系が聞いて呆れるほどの、純粋無垢(表面のみ)を晒してしまうのである。

 これでは私のイメージ壊滅である。「あの人、クール気取っているけど、実は……」みたいな噂が立てられてしまうのである。……ふぇぇぇ、私は悲しい、ポロロロン。

 

「……皆、優しい」

 

 まぁ、私の誇り(笑)がズタズタになった甲斐もあって、幽香とかヤバイ奴らの勢いが大きく削がれ、やわらか戦車も真っ青なふわっふわっ感で、私と共にほんわかムードを漂わせている。

 当初はどうなることかと思ったが、無事に平和に過ごせそうで何よりである。……いや、流血沙汰とかにならなくて本当に良かった、マジで助かった。

 折角の温泉で美少女とキャッキャウフフでのんびり出来る機会なのに、台無しにならなくて良かった。……本当に良かったよぉ(女泣き)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さーてさてさて、ゆーかおねえちゃん達が満足したみたいなので、皆とは分かれて別のところへと向かっております。……本当は最後まで渋られたけど、温泉慰労会の主催者としては皆とキャッキャウフフ、もとい顔合わせはしておかないといけないので説得(年上殺しの目)しました。

 

「遅いぞ霊夢!」

「私達を放っておいて何やら楽しそうだったわね」

「あんな目に遭わせた償いをしてもらうわ!」

「私、頑張ったからご褒美欲しい!」

「みぃとぅー!」

「……は、はは、か、神様が負けるなんて、あは、あはは」

 

 魔女っ子三人娘と、地底のアイドルコンビ&土着神の頂点ちゃんの元へとやってきた次第です。

 あーちゃんを除けば(身長的な意味で)幼女しかいねぇ空間なので私、イケないことしている気分になっちゃうのん、じゅるりじゅるり……わ、私はロリコンじゃねぇ! ロリコンなんかじゃねぇだ! ただ、ロリも大好物なだけだッ! ぶっちゃけるならば、今この場にいる少女たちとお遊戯会(下ネタ)をしたいだけなんだ! そして、博麗神社に持って帰りたいまである(犯罪)。

 

「色々と(ヤベェ感じに)立て込んでいてな、最後になってしまった。……楽しんでいるか?」

「普通に湯船に浸かるのも良いけど、こんな風に皆と入るのも中々乙なもんだな!」

「気に入ってくれて何よりだ。……お前たちが喜んでくれると思って、精一杯作ったからな」

「はぁ、本当に何でも出来るのね、貴女」

「何でもは無理だ。……出来ない事の方が少ないだけで」

 

 魔理沙たんが喜んではしゃいでる光景を見れただけでも頑張った甲斐がある。……いやぁ、掘り当てた温泉をしっかりと整えるのには少しばかり時間が掛かってしまったよ。

 まさか、この私が一時間も掛けてしまうとはね。流石は温泉、乙女たちの花園であり、男たちが遠く夢見た幻想である。

 魔理沙たん達の普段の疲労回復、健康促進、お肌に優しい成分、魔力の量を増強、質の向上、身体能力に補正、戦闘力の成長性、金運アップ、精力増強などなど、ありとあらゆる要素を付け加えた。……いやぁ、苦労したよ。まさか素材集めのために異世界まで出張する羽目になるとは思わなかったよ。

 その話をしたら、魔理沙たんは普通にすげぇって感じに笑っていたけど、あーちゃんは若干ドン引きしていた。……あーちゃん酷いっ! 霊夢さん傷付いちゃった! のでっ! 後でえっちぃ感じに慰めて欲しいなっ!

 

「この歩く不条理さ、魔女として長い年月を生きてきた私だけど、貴女以上に意味不明な存在は見たことがないわ。……本当に人間なの? ちょっと調べてみていい? いえ、答えなんてどうでも良いわ、勝手に調べさせてもらうから」

「んっ!?……調べるのに胸を掴む必要はあるのか?」

「大丈夫よ、ちょっと揉めば分かるわ。……やだ、柔らかい、ナニコレ」

「いきなり胸を揉みしだかれている私がナニコレなんだが?」

 

 目にも止まらぬパイタッチ、私じゃなきゃ見逃してるね。

 パチュリーちゃんはその心の往くままに私の胸を揉み揉みしている。どうやら、普通に柔らかさとか弾力を楽しんでいる様子で、そこに情欲は一切見受けられない。……強いて言うなら、女友達とのキャッキャッウフフとした触れ合いが恥ずかしいのか、ほんの少しだけ頬を真っ赤に染めているくらいだね。

 やれやれ、この程度の行為で恥ずかしがっていては心臓が持たないぞパチュリーちゃんよ。……いずれ、私と賢者の石の錬成(下ネタ)する時になったらもっと恥ずかしくて堪らない事になるんだからね。

 

「それで、諏訪子はどうしてそんな風になっているんだ?」

「あは、ははは。……所詮私は井の中の蛙、ただのケロちゃん、ケロケロケロケロ、あははははは」

「ダメだこの神様、早く何とかしないと」

 

 諏訪子ちゃんの沈み具合が半端ではない。そのまま放っておいたら腐海を作り出しかねない勢いで、祟り的なエネルギーを垂れ流しながら落ち込んでいる。……落ち込んでいる諏訪子ちゃんの姿を見ていると、その、下品なんですが、心のマーラ様が勃◯しちゃいましてね。

 今の諏訪子ちゃんは、乱暴されて現実を受け止めきれていない薄幸の美少女的な暗い雰囲気が醸し出されているので、思わず人目につかない場所に連れて行って、無理矢理にでも現実を分からせてあげたいような、そのまんま空想の世界で幸せになってもらいたいような。……私のエゴと情欲を無理矢理押し付けたくなる危険な愛らしさを持っているのだ! のだッ!

 

「あー、すっごいノリノリだったのに、私達に負けたからじゃないかな?」

「……私の桶は最強です」

 

 あーナルホドね。

 神様として、土着神の頂点として、祟り神としてのプライドが強い諏訪子ちゃんとしては、如何に強力に進化を果たしたとはいえ、元々は中堅クラスにギリギリ届く程度の実力しかなかった妖怪を相手に、二人がかりという厳しい条件ではあったが、負けたのは素直に悔しいという、そういうわけだね?

 しかも、途中で自分自身もあの神奈子と同じ領域である、超守矢神という意味不明そのものである滅茶苦茶な力を手に入れていたにも関わらず敗北してしまった。その事実が、悔しいという気持ちに拍車を掛けちゃっているというわけか。

 神様ってのは無駄に自尊心が高いから、一回凹んじゃうとかなりめんどいんだよなぁー。……ちなみに同じ守矢の神様である神奈子ちゃんは落ち込むどころか、無駄に元気いっぱいになる。ドMはこれだから困る。繊細さの欠片もねぇよ。

 

「諏訪子、いい加減に元気を出せ」

「はは、笑いなよ霊夢、この無様に落ちぶれた土着神(笑)を笑いなよ、神奈子にそそのかされてイキリまくった結果、ボコボコの返り討ちにあった、この合法カエルロリを笑いなよ、あははははは!」

「いや、普通に良い戦いだったと思うのだが」

 

 いや、マジで私としてはかなり良い勝負だと思うんだけどなぁ。

 だって、奇妙なスタンド使いとして覚醒したヤマメちゃんとその相棒である筋肉オバケのスタンドさん、桶の中の桶、桶を極めた者のみが名乗ることを許される桶マイスターと化したキスメちゃんの二人が相手だったんだよ? その訳分からん二人を後一歩のところまで追い詰めていた諏訪子ちゃんは十二分に驚異的と言っても良いだろう。

 もしかしたら、状況によっては諏訪子ちゃんの勝ちもあり得たかもしれない。それだけ拮抗した戦いだった。幻想郷最強の人間である私が言うんだから間違いない(ドヤァ)。

 

「あは、あははははは……はぁ」

 

 何はともあれ、このまま放っておいても流石に可哀想なので、強制的に正気に戻すとしますかね。

 

「はぁ。……諏訪子、こっちを向け」

「……んぇ?」

 

――チュッ。

 

 リップ音が響き渡り、周囲から音が消える。

 見れば、この温泉に浸かっている美少女たちの全てがその動きを止めて固まっており、穴が開きそうな勢いで、此方を凝視している。……何だよ、見るんじゃねぇよ。今更、額にキスぐらいで動揺するんじゃねぇよ。私が恥ずかしいでしょうがガールズ。

 君ら、普通に私と過剰なボディタッチをしたりされたりする仲でしょうが、マウストゥマウスでもないのに、そんなに狼狽しないで欲しいんだけど。

 何をしたのか、単純に諏訪子ちゃんの額にキスしただけである。……精神を安定させるために、親愛の情と鎮静効果のある霊力を同時に流し込んであげた。

 これで少しは諏訪子ちゃんの沈みっぷりも緩和されるだろう。

 は? エロ目的じゃないのかって? いやいや、キスは愛情表現の一種でしょうが、英国園では挨拶と同時にほっぺにチューくらいが普通、つまり幻想郷の少女たちを愛している私は愛情表現でキスするくらいは普通普通。……言えない、実は最近外の世界から流れ着いた雑誌に書かれていた内容に感化されちゃったとは口が裂けても言えない。

 そもそもの話、単純に私がキスしたかっただけだなんて、誰にも言えない真実だじぇ!

 

「れ、霊夢なにしてるんだぁ!?」

「ちょ、私の、私の霊夢なのにぃっ! ズルい!」

「くぁwせdrftgyふじこlp!?……――」

 

 魔女っ子三人娘の動揺っぷりに草を禁じ得ない。

 魔理沙たんは、そのまんま純粋に親友である私が誰かにキスしているという光景が恥ずかしくて顔を真っ赤かにしている。……うん、そのまんまの純粋な君でいてね、魔理沙たん。

 あーちゃんは、何か胸元を隠していたタオルを噛みながら、バンバンと水面を叩いて涙目で喚いてキャラ崩壊をしている。……もうあーちゃんがクールキャラを気取るのは無理だと思うついこの頃である。あーちゃん、強く生きて(←キャラ崩壊の元凶)

 パチュリーちゃんは、謎の奇声を上げた後、FXで有り金の全てを溶かしたかのような表情で、ジッと私を見ている。……こいつぁヒデェや、この数瞬の間にナニがあったんだ。

 

「……どうしてでしょう、何故か胸が痛いです」

「奇遇だねお姉ちゃん、私も何だか胸がムカムカする」

「ねぇねぇ、八咫。お空何だかすっごいイライラする!」

【処す? 処す? 我、今なら天照大神よりも輝ける自信あるぞ】

「……罪な猫耳だ、父よ」

「あたいが寝てる間に修羅場が始まってる!?」

 

 さとりちゃんは、何処か寂しげに胸を抑えながら私の方を見ている。……罪悪感が倍プッシュで襲い掛かってきている。温泉上がったら潔く死にます(血反吐)。

 こいしちゃんは、何やら笑顔を浮かべているが、よく見るとその目は一切笑っていない。……目が語っている、「お前此処から正気で帰れると思うなよ、ぶち犯すぞ、ファンタジーシャーマン」と。

 お空ちゃんと八咫烏ちゃんのコンビは、無駄に光り輝きながらその身に纏う圧力を徐々に上昇させている。……えぇ、異変再開のパターンでござるかぁ?

 我が娘であるお煉ちゃんは、呆れたように私を見やり、やれやれと首を振っている。……彼女の猫耳が、この状況は私の自業自得であると訴えかけている、即ち、猫耳、全ては巫女の業になったのだ。

 お燐ちゃんは、おはよう、よく寝たね。……後で個人的に話したい事があるので、何処か二人っきりになれる宿を借りようか(メス顔)。

 

「……?」

「あっしぇい?」

「……やっぱり計画を進めましょうか、パルスィさん。このまま放っておいたら、もっと大変な事をしでかしそうで恐ろしいです」

「ええ、早苗。いきなりはちょっと可哀想だと思ったから勘弁してあげたけど……どうやらさっさと首輪をつけて閉じ込めとかないとダメみたい」

 

 幽香は、逆に何で皆動揺してんの? みたいな感じに疑問符を浮かべながら首をかしげている。……初めて純粋な戦闘狂に感謝した。君が暴走したら手が付けられなかったから本当に良かった。

 勇儀姐さんは、お酒に呑まれていて、色んな意味で戦線離脱仕掛けている。……お酒で火照る身体、とろんとした眼差し、勝ち気だった姿は見る影もなく、そこにはお持ち帰りしても大丈夫そうな見目麗しき一糸纏わぬ鬼娘が一人。これは霊夢さんも狼にならざる得ないね。

 早苗は、目をギラギラと光らせ、優しい笑顔を浮かべながら覇気を身に纏っている。……その容姿がどんどん、奇跡大開放中の最強状態の早苗に変化しているのは気のせいではない。背中に光輪が浮かび始めているから絶対に気のせいではない、ヤバイ。

 パルスィちゃんは、相変わらずハイライトが消失したドロッとした目つきで、私の事を舐め回すように見つめている。……何やら緑眼に変化する途中なのか、モフ☆モフしてそうな尻尾が生えてきている、触りたい。

 

「え、私達が勝者なのに何だろう、この損した気分。……いやいや、別に羨ましいとか思ってないし、後で私達はご褒美貰う予定だし、額にキスくらいで動揺する私じゃないし、羨ましいとか全然思ってないし、本当に全く思ってないし」

「……これが、世界の歪み、俺は、僕は、私は」

 

 ヤマメちゃんは、釈然としない様子で私達を見つめながら時折首をぶんぶんと横に振っている。……素直になれよ、なぁ? 羨ましいんやろ? なぁ? ご褒美にド凄いの一発仕込んであげてもええんやで?

 キスメちゃんは、目の色を虹色に変化させてブツブツと何かを呟いている。……そうです、私が世界の歪みです(変なおじさん風)。混乱している娘を正常に戻すには、何かしらの精神的なショックを与えればいいって、外の世界のエロい人が言ってたので、後でキスメちゃんの桶を私の払い棒でグリグリします。

 

「な、なな、何をををっ!?」

 

 顔を真っ赤にして、まるで生娘の様な反応をする諏訪子ちゃん。……君、本当に長い年月を生きている神様なの? 見た目相応の反応されちゃうと、巫女困っちゃうんだけど? 具体的には、このまんまお持ち帰りして、もっと可愛らしい反応を引き出しちゃいとか考えちゃうんですけど、いいの? 巫女、遠慮しないで、諏訪子ちゃんのケロちゃんが、土着神してタタリするまで色々と夢想封印しちゃうけど?

 

「はぁ。……今更、額にキス程度で動揺されても困るのだが」

「おま、キス程度ってっ!」

「何なら、それ以上もしてやろうか? ん?」

「な、なななななっ!?」

 

 此処でゆっくりと相手の唇を指先で撫でるのがポイントです。同時に相手の目を見つめながら、自分の唇を舌先で湿らせる仕草をすると効果が倍増します。

 

「うにゃあああああぁぁぁぁぁ!?」

 

 ふふふっ、どんなに沈んだ相手でもね。少なからず友好のある相手からの愛情表現を喰らえば、否が応でも元気になるものなのさ。……ちなみに私は好きな子が相手なら、例え罵倒されたとしても嬉しい。何なら心臓抉り取られても許しちゃう(←)。

 

「さて……次は誰にしようか(ケダモノ)」

「「……っ!?」」

 

 諏訪子ちゃんがダウンしちゃったので、他の獲mごほんごほんっ、私のラブを注入する相手を探す。……いや、遅かれ早かれ全員にする予定だったから、近くにいる娘から順にヤッちゃえば良いや(キス魔)。

 

――ユクゾッ!

 

「ちょ、霊夢、ちょっとだけ待って欲しい、心の準備が出来てないの! ほんの少しほんの少しだけで良いから待ってっ! あ、あぁぁぁぁ!?」

 

 奇妙なスタンド使いと化した愛らしい地底のアイドルが健気に抵抗するが、構わず押し通らせてもらう。

 

「これが、ご褒美ぃッ!?」

 

 ご褒美を欲しがっていたらしいので、ご褒美という名目でヤラせていただいた。

 

「私の霊夢がこんなにも尊い」

 

 何故か天を仰いで固まったので、そのまま放置。

 

「あっしぇぇぇぇぇい!?」

 

 妙な奇声と共に、目をぐるぐるにしながら仰向けに倒れた。……そのデッカイ胸が浮き輪代わりになっているから、溺れる心配はなさそうだね、次。

 

「奇跡は此処にありましたっ! もう私死んでもいいっ! いえ、死にますっ! ひでぶっ!?」

 

 何か号泣された挙句に、そのまんま天に召されそうだったので、当て身を食らわせて強制的に眠らせる。……多分、次に起きた時は正気に戻っていることだろう、次。

 

「えへ、えへへ、妬ましい、妬ましい。……私が妬ましい」

 

 そうだね、妬ましいね、次だ。

 

「あの、れ、霊夢さん? あの、私達まだ出会って間もないですし、そのぉ。……あ」

 

 女神かよ、女神だよ。

 

「にゃめろーんはなせぇぇぇ! ふぇあっ!?」

 

 残念、博麗の巫女からは逃げられない。

 

「お空知ってるよ、こういうのスケコマシって言うんだよね。……んにゅ!?」

【え、何でこんな時だけ感覚切るの? 可笑しくない? ねぇ、可笑しくない? 聞いてる? おい、聞こえてるだろ? 我、泣くよ? 八咫烏みっともなく泣き喚くよ? 三日三晩泣いて泣いて泣き喚くよ?……ふぉう!?】

 

 何かお空ちゃんが八咫烏ちゃんに意地悪しているみたいなので、無理矢理八咫烏ちゃんの意識を引っ張り出して、しっかりとねっちょりヤッたげた、次。

 

「偉大なる猫耳の父よ、もう少し自重しないとその内刺されるぞ?……んっ!? いや、これは悪くない、悪くないな」

 

 君達に刺されるなら本望なんやで? 次。

 

「あたい、いまいち状況分かってないままなんだけど。……ちょっ、い、いいいきなり何してるのさっ!?」

 

 お燐ちゃんにいきなりメスにされちゃったから、私もお燐ちゃんにいきなりナニしても良いと思うの(汚れきった瞳)。

 

「にひひっ! 霊夢にこんなことされると流石に恥ずかしいな!」

 

 天使かよ、天使だよ。

 

「キスされた、これはもう結婚したと言ってもいいのでは?」

 

 私とドッキングしてからが本番なんやで?

 

「意気消沈とした魔女の頬を撫でながら、彼女はゆっくりとその唇を魔女の額へとととととっ!?」

 

 お前はナニを言ってるんだ?

 

 

 

 フッ、他愛なし。我がキス捌きに掛かれば、さしもの幻想美少女達であっても、まな板に載せられた魚も同然よッ! 

 皆、恥ずかしそうに顔を赤らめ、混乱しているか、あるいは笑顔で喜んでくれている。……勢いに任せてやらかした感が半端ではないが、勇儀姐さんから貰ったお酒のせいにします(←体質的に酔えない)。

 べ、別にええやん、私だって異変解決の報酬が欲しかったんや! むしろ褒めて欲しいくらいだよ! 本当ならもっと色々とえっちぃ事したかったけど、女神さとりちゃんの前だし、魔理沙たんの教育にも悪いしで、悪いこと出来なかったんやから抑えたんやで! 偉いやろ!

 でもぉ、霊夢ちゃんとしてはぁ、皆とぉ、マウストゥマウスをしたかったとかぁ、思っていたりぃ? 皆、霊夢ちゃんの恋人になってほしかったりぃ? えへへぇ(脳内麻薬畑)。

 

 ま、それはこれから先、もっと仲良くなってからのお楽しみとして取っておくとしましょうかね。

 最終的には皆でくんずほぐれつキャッキャウフフの酒池肉林、幻想の果てまでイッてくぎゅぅの百合百合したパラダイスで、この世の快楽という快楽を積立保険しないとイケないからね、ぐぇへへへへへ。

 

 この後の予定としては、皆で宴会しながらご飯食べたり、修学旅行形式で枕投げを楽しんだり、雑魚寝したり、夜這いしたりしてキャッキャウフフする予定だからとてもワクワクしている。

 あぁ、皆カワイイ、カワイイよぉ! 魔理沙たんも、あーちゃんも、パチュリーちゃんも、諏訪子ちゃんも、ヤマメちゃんも、キスメちゃんも、幽香も、勇儀姐さんも、早苗も、パルスィちゃんも、さとりちゃんも、こいしちゃんも、お空ちゃんも、八咫烏ちゃんも、お煉ちゃんも、お燐ちゃんも。……皆、皆、みーんなカワイイッ!

 霊夢さん、もっともーっと、皆と仲良くなりたいなぁ(恍惚の笑み)!

 

 狂乱の夜はまだまだ始まったばかりだ。

 





かくたのぉ!

楽しんでもらえたでしょうか?
いつも通り、変な女が意味不明に暴れまくっているお話でしたね。
ネタをぶっ込み過ぎてて原作の面影がないとか、そんな冷たいと言わないで欲しいです(←)。
春巻きのハートはね、富士山くらいの山に風穴開けられる程度の強度しか無いから、傷つきやすいんだぞぉ!(いい加減くたばったほうがいい)

なんやかんや、無事に地霊殿の終わりまで書けたので良かったです。
これからもどんどんネタ要素満載のお話を書き上げていく所存ですので、何卒最後までお付き合いいただけると春巻きは嬉しいです。

異常、解散ッ! シュビッ!


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巫女、メイド【上弦】

春巻きだよ。
久しぶりに執筆したから色々と忘れてたからリハビリからしてたんだよ。

自分の作品読み返して、過去の私頭オカシイってなったんだよ。

え、今の私?……



見たら分かるよ(白目)



──メイド。

 

 それは従者。……主のお世話を仕事とし、ありとあらゆる技能を有する者達である。

 炊事、洗濯、掃除などの基本的な家事に始まり、庭の手入れ(ガーデニング)、屋敷の修繕作業、主の教育などなど、出来ないことは何もないとでも言わんばかりの万能超人。……それがメイド。

 メイドとは主を支える者であり、主を導く者であり、主の絶対なる理解者として、主を守護し、慈しむ者でなければならない。

 

 主が苦悩しているならば、ただ静かに寄り添い支え、主の苦悩の全てを真心を込めて受け入れるのが当然である。

 主が進む道を誤ったのであるならば、例え主に嫌われたとしても、その道を正道へと導いて差し上げる。

 主が誰からも信じて貰えず孤立してしまった時は、必ず主の味方となり、敵対する全ての存在から、この命を懸けて全身全霊守り抜くのだ。

 親が我が子を愛するが如く、常に慈愛の心を持って主に接する絶対的な守護者。……それがメイドなのである。

 

 そう──メイドとは、ただの従者ではない。……否、ただの従者であってはならないのだ。

 メイドとして一度、主と定めたのなら、最後の最後まで主の意向を汲み取り、その身と心を全身全霊で守り抜かなかればならないのだ。

 故にメイドはメイドとして生きていくならば、努力を、自己の研磨を欠かしてはならない。……何故なら、メイドには完璧が求められるからである。

 

 メイドは誰よりも優れた知性を有しておかねばならない。……そうでなければ、主を教え導くことが出来ないからである。

 メイドは誰よりも優れた肉体を有しておかねばならない。……そうでなければ、多忙を極めるメイド業を完全無欠に熟すことが出来ないからである。

 メイドは誰よりも力強くあらねばならない。……そうでなければ、有事の際に主の身命を傷一つ無く守り切ることが出来ないからである。

 

 無論、完璧を要求されることだけがメイドの仕事ではない。……特殊な事例ではあるが、この広い世の中には、他にも様々な形態のメイドが存在している。

 洒落た喫茶店で働くような、外見の可愛らしさを最重要視されるメイド。……彼女達は、来店する者達をご主人様と見立て、その愛らしい小鳥のような声で囀り、オムライスにケチャップでハートマークを描いたりして、来店されるご主人様を癒やすのが仕事である。

 また昨今では、仕事が全く出来ないダメダメなドジっ子メイド、逆にご主人様に養われてしまっているメイド、メイド好きなご主人様の為にメイドになったドラゴン、元軍人で自分好みのロリお嬢様に無理矢理迫る変態メイドなど、限りない多様化が進んでいる。

 

 しかし、メイドはどれだけ形を変えたところでメイドであり、その本質は変わらない。……己のご主人様を喜ばせる、即ちご主人様に奉仕するという点では、全く変わっていないのである。

 メイドには主が必要であり、主があるからこそ、メイドは何処までも美しく、より完璧に華麗に舞う気高き奉仕のプロとして輝けるのである。……長々と語り申し訳ございません、メイドとして仕事を行える喜びのあまり、つい熱く語りすぎてしまいました。

 

「……お嬢様方、午後のおやつの準備が整いました」

「わーい! 私の大好きなケーキだぁ!」

「フフッ、綺麗ね」

「本日はフランお嬢様の大好物であるショートケーキをご用意させていただきました。……僭越ながら、ご説明をさせて頂くと、使用されている生クリームは、とある異世界からやってきた天の牝牛から採れた牛乳を使用した特別な物となっております。……またスポンジ部分は空気を含むように焼き上げることで、ふんわりとした食感を楽しめる様に仕上げました。……使用されているイチゴは、私の住まいで栽培している畑から採れた物を使用し、自家製のジャムシロップで包み込んだことで瑞々しさをそのままにお召し上がり頂けます」

「……美味しいわね、ほっぺたが落ちちゃいそう」

「もぐっもきゅっ……おかわりっ、おかわりあるっ!?」

「ご満足頂けているご様子で何よりでございます……フランお嬢様、おかわりはこちらに」

 

 口の端をクリームで汚しながら、おかわりを催促するフランお嬢様の笑顔に癒やされ、レミリアお嬢様の美味しいという一言に顔がほころんでしまう。……やはり、お嬢様方のお世話をしていると癒やされます。メイドとして、此処まで愛らしい主人に仕えることが出来る自分は、これ以上ないほどに幸福な従者だろう。

 

「うふふっ、それにしても咲夜には悪いけど感謝しないとね」

「ねー!」

「……お戯れを」

 

 ニマニマと悪戯な笑みを浮かべるお嬢様方の表情に、内心、やれやれとため息を吐きながら苦笑を浮かべてしまう。

 

「フランお嬢様、レミリアお嬢様。……病人がいる場所で騒ぐのはマナー違反でございますよ?」

「キャー霊夢が怒ったぁ!」

「逃げるわよフラン!」

「合点だよお姉様!」

 

 構って貰えるのが楽しいのか、それともただ単に私の反応を見て遊んでいるだけなのか定かはないが、キャッキャッと笑いながら、慌ただしく走って出ていってしまいました。

 お嬢様方のお転婆にも困りましたね。淑女たるもの、もう少しおしとやかにして欲しいものではありますが。……これはその内教育して差し上げねばいけませんね。

 

「こほっ……ごめんなさい、霊夢。……本当は私の仕事なのに」

「いえ、咲夜お嬢様はお気になさらず。……今はお身体を休めることだけをお考え下さい」

「こほっこほっ……ありがとう」

 

 頑張り屋のメイド長であるお嬢様には、もう少し休むという概念を覚えてもらわないと困ります。

 

「はい、咲夜お嬢様。お薬の前に、お食事に致しましょう。……ふぅーふぅー」

「っ……じ、自分で食べれるわよ」

「はいどうぞ、咲夜お嬢様。……お熱いのでお気をつけくださいませ」

「……ぅ」

「咲夜お嬢様?」

「……はむ……んっ、お、美味し、ぃ(顔真っ赤)」

「ふふっ、ありがとうございます」

 

 未だ続く高熱の影響で頬を赤く染めながら、私の差し出した匙からお粥をゆっくりと食べてくれる。

 フフッ、最初に遠慮したりするのは真面目で義理堅いお嬢様自身のご性格からでしょうか?……意気地にならず、ちゃんと食べてくれてホッと致しました。

 病気を効率良く治すには、きちんとした食事と清潔に保たれた環境、適度な睡眠が必要になります。……症状が重いと、あまりご飯を食べられない場合もあることを考えれば、軽い風邪で良かったと考えて良いでしょう。

 

「うっ、苦い」

「良薬は口に苦いものです。……ゆっくりで良いので、最後までお飲みくださいませ」

「もう少し水を頂戴」

「畏まりました」

 

 薬もお飲みになってくださったので、一先ずは安心ですね。……後は一日、ゆっくりとお休みを取っていただくだけです。

 

「僭越ながら咲夜お嬢様がお休みになるまで、子守唄を歌わせていただきます」

「ぅ……わたし、子供じゃないわ」

「〜♪」

 

 いえいえ、今は子供の頃の様にお世話をされて下さい。

 

「すぅー……すぅー」

「眠ったようですね。……それでは咲夜お嬢様、良い夢を」

 

 気持ち良さそうに寝息を立てていますね。……張り切って歌った甲斐があります。

 毛布を掛け直し、音を立てないように寝室から出ていく。……この分なら、明日には元気な咲夜お嬢様の姿を見ることが出来るでしょう。

 

「……」

 

 咲夜お嬢様の看病も済みましたので、これからやる仕事を頭にリストアップしていく。

 庭の手入れ、侵入者がいないかの確認、ヴワル魔法図書館の本棚の整理作業の手伝い、お嬢様方のご相手、その合間に夕飯を作り、掃除して、洗濯して。……万が一でも手が足りなくなったら、分身することも視野に入れましょう。

 咲夜お嬢様は時間を操る事で、これだけの広大な紅魔館のメイド業をこなしておりましたが、私には残念ながら時間を操る能力はございませんので、自力でなんとかしなければなりません。

 

「……」

 

 申し遅れました。

 皆様ごきげんよう。……私、博麗霊夢は、紅魔館の巫女メイドございます。

 この度、紅魔館の本来のメイド長であらせられる、咲夜お嬢様が、高熱で倒れてしまったため、急遽、私が代理としてその仕事を引き受けることになりました。

 メイドとして、咲夜お嬢様のご迷惑にならないように、見た目も、中身も何時もとは雰囲気を変えているため、普段の私を知っている皆様は大変困惑なされると思いますが、ご容赦下さいませ、おほほほ……申し訳ございません、その前に少々着替えの方を済ませてきます。

 高熱の影響で普段よりも弱り、顔を赤らめながらも笑顔を浮かべる咲夜お嬢様のお姿に、私のメイドとしての忠誠心が、ザ・ワールドされてしまい、このままでははしたなくもルナダイアルしてしまうので、一旦、スペルブレイクして参ります。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 さて、スペルブレイク(意味深)も済ませましたので、本日のメイド業に戻ることに致しましょう。

 先ずは庭のお手入れでございましたね。……ついでに、生粋のサボり魔である美鈴お嬢様のご様子も確認しておきましょう。

 

「うへへぇ、もう食べられませんよぉ」

 

 あらあら、予想通りでございました。……残念ながら美鈴お嬢様は門番の仕事をおサボリになり、口の端からだらしなくヨダレを垂らし、門にもたれ掛かって眠っていらっしゃいました。

 しかし、なんとも気持ち良さそうに眠っていらっしゃるため、起こすのも憚られますね。……どう致しましょうか?

 

「仕方ありませんね。……メイドたるもの、お嬢様方が安心して快適に過ごせるよう尽力せねばなりません」

「うぃ〜?」

 

 嫁入り前の美鈴お嬢様をそのまま放置するのは、メイドの名折れ。……何より美鈴お嬢様のお身体にも悪いので、お嬢様が快適に過ごせる環境を整える事に致します。

 

「すぅ──【冥(土)の呼吸 一ノ型 彼岸送り】」

 

 最近、呼吸の仕方を変えたら身体能力などが上昇することに気付いてしまいました。……何処かの世界線では、人食いの鬼を狩る人たちが使っていそうですね(ジャンプしてみた感)。

 この冥(土)の呼吸の極意は、一言で表すならば、何人たりとも到達出来ぬ異常をこの身に宿す事にあります。……まるで、この世ならざるモノが現世に顕現したような、そういった類の想像も出来ないような恐ろしい力を身に宿す特殊な呼吸法なのです。

 その効果は至ってシンプル、どんな相手も速やかに冥土に送り届ける圧倒的な暴力を付与する、というだけの簡単なものとなっております。

 最も、強化の度合いは、何の力も持っていないただの一般人が鬼の頭領クラスのバケモノ(無z)を相手にして一方的に勝利を収めることを可能にするほどの倍率なのですがね。……まぁ、その辺はどうでも良い些事ですし、この呼吸自体何となくで発見しただけなので、多くは語らないでおきましょう(縁◯が助走をつけて殴るレベルの理不尽)。

 

「骨組みはこれで完成ですね」

 

 一ノ型である彼岸送りは、呼んで字の如く、視界に入っている光景を瞬く間もなく切り刻み、彼岸に送り届ける技です。……斬撃の後に黒い炎の様な演出が走るのが特徴でして、私個人と致しましては、大変厨二的カッコイイと思っております。

 取り敢えず、手刀でこの技を行い、材料を切り刻んで組み立て、即席のベッドを完成させました。……寸分の狂いもなく綺麗に切り取った木材を僅かなズレなく組み立てましたので、即席と言っても侮らないで欲しいですね。

 

「後は──【冥(土)の呼吸 二ノ型 冥土帰り】」

 

 死者の魂を乗せて、ゆっくりと静かに三途の川を下りゆく舟の様に、波を一切立てない技でございます。

 あの世とこの世、異なる世界を行き来する死者の魂の様に、あらゆる隔たりを無視して、全てを切り伏せる。……例え、次元の壁を隔てていようと、私がそこにいると確信して切ったならば、その対象をそのまま目の前に呼び出し一閃することを可能といたします。

 ぶっちゃけますと、私も原理はよく分かりません。……一体、どうやっているのでしょう? 謎でございます。

 

「コケェッ!?」

 

 異世界から引きずり出した、無駄にデカイ怪鳥(目測で全長五十メートル程度)を絶命させ、その羽根を全て毟り取ります(この間三秒)。

 軽く見たところ、脂の乗りも良いですし、栄養も多く含まれているので、中々に上質な肉ですね。……今晩はコレを使って料理致しましょう。

 

「少々、羽根が大き過ぎますね──【冥(土)の呼吸 三ノ型 地獄巡り】」

 

 簡単に申しますと、対象を粉々にする技です。……例えるのならば、外の世界で言うところのミキサーでしょうか? アレをもっとエグく、惨い状態にしたのが、この地獄巡りという技でございます。

 強弱は私の力加減で自由自在に調整出来ますし、規模も思いのままに出来ますため、中々に使いやすい技となっております。……他の技に比べると少々威力が低く、最大威力で放ったとしても、私の周囲五キロメートルの範囲を物理的にミンチにする程度の事しか出来ません。

 この技で、無駄にデカイ怪鳥から採れた無駄にデカイ羽根を切り刻み、小鳥サイズに調整します。……此処でのポイントとして、細胞単位での切断を心がけましょう、細胞を傷つけること無く切ることで、羽根がバラつくのを防ぎ、柔らかいままの状態をそのまま維持出来ます。

 

「後は布ですね。……これは神社の方から直接取り寄せましょう」

 

 正拳突きの要領で、空間に風穴を開け、博麗神社の自室に直接繋げます。

 目的の布を入手することが出来たら、霊力を纏わせた手で穴が開いた空間を撫でながら「直れ〜♪ 直れ〜♪」とはぁとまぁくを付けながら、念じましょう。……元に戻ります、不思議でございますね。

 

「これでっ、最後ですっ!」

 

 用意した材料を使い、高速で目的の物を作り上げていきます。

 冥(土)の呼吸もフル活用して、布を的確に裁断し、縫い合わせ、羽根を詰め込み、形を綺麗に整えていきます。

 

「……完成でございますね」

 

 最後の仕上げに、私自身の霊力で浄化処理を完了させれば……完成致しました。

 

「さぁ、美鈴お嬢様。……ゆっくりとお休みくださいませ」

「うぇへぇ?」

 

 完成したベッドの上に美鈴お嬢様を横たえ、そのまま首元まで羽毛百%の毛布で包み込む。

 大変気持ち良さそうに笑顔を浮かべていらっしゃいますね。……お嬢様方の笑顔を見守る、ただこの瞬間のためだけに生きております。

 

「えへぇ、むにゃむにゃ」

 

 あぁ、美鈴お嬢様、ヨダレが──ペロペロ、ごっくん。……いえ、何をやましいことはしておりませんよ、この巫女メイドの誇りに懸けて、いかがわしい真似は一切やっておりません、何なら、私の処◯を掛けても構いません。

 そもそもの話でございます、由緒正しきスカーレット家のメイド長代理を務めるこの私が、そんな犬畜生にも劣る所業をすると、本気で思っていらっしゃるのですか?……酷い、あんまりです、名誉毀損です、訴えてやります。

 ところで話は変わりますが、美鈴お嬢様はどうやら間食を食べたばかりのご様子ですね。……中華料理でも食べたのでしょうか? 微かににんにくの味と香りがしました(どうして知ってるんですかねぇ?)

 

「門番の仕事の方は、結界を何重にも張れば大丈夫ですね」

 

 全力で霊力を込めた結界を紅魔館を中心に張りました。……余程の怪物がやってこない限りは問題ないでしょう(※主に幽香とか幽香とか幽k)。

 

「さて、庭の手入れでも致しましょうか」

 

 庭のお手入れ、本来は庭師の仕事でありますが、この紅魔館ではメイドの仕事となっております。

 沢山いる妖精メイドにさせれば良いなどという意見もございますが、妖精である彼女達に細かい作業を任せると、大変愉快で取り返しのつかない事態が引き起こされてしまうため、私自らの手で庭作業を行います。

 

「~♪ ~♪」

 

 鼻歌混じりに庭のお手入れ、我ながら優雅で華麗に大胆なメイドでは? などと密かに自画自賛してしまいます。

 先ずは伸びすぎた草木を見映えよくカットしていく、浅すぎず深すぎず、紅魔の庭に相応しく、威厳と優美に溢れた庭を形作っていく。……お嬢様方が見て楽しめるように、ちょっとした遊び心として、動物の形にカットしたりするのも忘れません。

 踊るように流れるように軽やかなステップを踏みながら、リズミカルにかつ一欠片の塵すら残さずに掃き掃除。……自然に還るものは自然に還し、それ以外はその場で消滅させておきます。

 最後に仕上げで水を撒いていけばお手入れ完了です。水を撒く際には、注意点として、自然に雨が降り注ぐように疎らに、過不足無くしっかりと撒くことです。……簡単に申しますと、庭の上空で人工的に雨雲を発生させ、水撒きをなさってください。

 補足と致しまして、雨雲が流れてしまわないように結界なりなんなりで固定しましょう、結界で固定した後は勝手に水撒きをしてくれます。……これは便利ですね、真似しても良いですよ?(※無理よりの無理)。

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「さて、後は図書館の方の仕事ですね。……急ぎましょう」

 

 次の仕事の為、音を立てず、背後に残像を量産しながら、流れるような動きでヴワル魔法図書館へと向かいます。

 そう、まるで何処かの世界線での東方で不敗な師匠の様に、大量の残像を生み出しながら廊下を移動するのです。……途中で出会う妖精メイド達がびっくりして、おパンツを晒しながら転倒していらっしゃる光景をじっくりと目に焼き付けながら、加速していくのでございます。

 何故これほどまでに急いでいるのか? それは、パチュリーお嬢様が私の到着を、首を長くして待っていらっしゃるのでは? とビビッとキタからでございます。……気の所為? いいえ、私がキタと言ったらキタのです。「れーむまだかなぁー? まだかなぁー? ぱちゅ寂しいよぉ〜ふえぇ〜」……というパチュリーお嬢様の嘆きが私にはハッキリと聞こえたのでございます!(幻聴)

 

「殿中でございます! 殿中でございます!」

「ふぁ!?」

 

 図書館の扉を全力で開いた後、そのままの勢いでなだれ込むように入室致します。

 パチュリーお嬢様が音に驚いて飛び上がるのと同時に、お嬢様が座っていた椅子を蹴り飛ばし、お嬢様の足を払って、そのまま横抱きに致します。

 腕に伝わるのは少女一人分の重み。……これこそがお嬢様の、お嬢様の命の重みでございます。メイドとしてこの重みを忘れてはいけません、彼女の命を守るのもまたメイドとしての使命なのです。

 あぁ、パチュリー様。どうかこの霊夢に全てをお任せくださいませ、貴女の完全に完璧に身の回りのお世話を致しましょう。……そう、何処でも、どんな場所でもお供してお世話をさせてイタダキマス(性的な意味ではない)、うふっうふふふっ!

 

「何っ!? 何なのっ!?」

「パチュリーお嬢様、急ぎます故──何卒ご容赦を」

「何が!? って、あぁァァァァァ!?」

 

 パチュリーお嬢様が落ちてしまわれないように、しっかりと腕でその魅力的なムチムチボディを抱え込み、再度加速致します。……まだです、まだでございます、私はもっとっ! もっと速く動ける筈っ!

 

「こあぁぁぁぁぁ助けてぇぇぇぇぇ!」

「ぱ、パチュリー様ぁ!? れれれ、霊夢さん、何をしているんですか!?」

「おや、丁度良いところにいらっしゃいましたね、こあお嬢様。……失礼致しますっ!」

「こあァッ!?」

 

 途中で本棚の影から顔を出したこあお嬢様も回収致します。

 一瞬の内に背後を取り、こあお嬢様の全身を緊縛し動けないようにしてから、肩に担ぎ上げます、所謂お米様抱っこでございますね。……本当でしたら、この腕に抱えたいのですが、残念な事に私の両の腕はパチュリーお嬢様が占領していらっしゃるので、泣く泣くこの体勢になりました。

 肩口に感じるこあお嬢様のお腹の温もりと、包み込む柔らかさにメイドとしての忠誠心が極まってきております。……ふふふっ、従者の理性に此処までのダメージをお与えになるとは、流石は悪魔でございます。

 ちなみに、お米様抱っこをなさる場合の注意点と致しましては、こあお嬢様の腹部に負担が掛からないように、常に衝撃と体重による負荷を逃しながら走ることでございます。

 メイドたるもの、どの様な場合であっても、お嬢様方に負担を強いてはいけないのです。……この程度は出来て当然でございます。

 

「ちょ、待って! 何処にっ、何処に向かっているの!? 私何をっ、ナニをされるのぉぉぉぉぉ!?」

「こあぁぁぁぁぁ!? 私、こんなキャラじゃないのにぃぃぃぃぃ!? もっとお色気っぽい担当だった筈なのにぃぃぃぃぃ! あぁぁぁぁ!?」

 

 少々、お嬢様方がうるsゲフンゲフンッお騒がしくなって参りましたが、気にせず加速加速加速っ! 加速に次ぐ加速で廊下を走り抜けます。……もう時間がないので巻いております、巻きに巻いております! メイド巻いております! 巻きにッ! 巻きに巻いてッ! おりますッ!(ふんすふんすっ)

 

「到着致しました。……さぁ、お嬢様方、お召し物をお脱ぎくださいませ」

 

 加速し、辿り着いた場所は脱衣場。……はい、お嬢様方にはお風呂に入っていただきます(●REC)。

 

「れ、霊夢? いきなり脱げだなんてそんな」

「お召し物をお脱ぎください」

「霊夢さん霊夢さん。……私、縛られたままなんですが?」

「お召し物をお脱ぎください(縄を切りつつ)」

「「……」」

「スゥ──脱 げ ッ!

「「ひぃ!? は、はい、脱ぎます! 脱ぎますからぁ!」」

 

 ダラダラとしていらっしゃいますと、ちょうど良い温度に調整した湯船が冷めてしまいます!

 そうです、そうなんです! 急いでいた真の理由は、パチュリーお嬢様とこあお嬢様のお二人をお風呂に入れるためなのです!

 絶好のタイミングで、お二人に素晴らしい湯加減を堪能して頂くために、心を鬼にしてこの場まで駆け抜けてきたのです。

 温め直すなどという逃げは、この博麗霊夢、嫌いでございます。……一度で全てをパーッフェクトッにこなすのがこの巫女メイドたる私の矜持なのでございます。

 いいえ、言葉を濁すのは止めましょう。……単純にお二人の身体をお流ししたいのでございます! あのパチュリーお嬢様のムチムチとした柔らかな身体を隅々まで手洗いしたいのでございます! あのこあお嬢様の悪魔的でSweetでDevilなお身体に密着したいのでございます!

 メイドはっ! メイドはっ! ちょっとばかりの肌色桃色スキンシップがっ! ご褒美が欲しいのでございます!

 

「パチュリーお嬢様、かゆいところはございませんか?」

「……ないわ」

「こあお嬢様は如何でしょう?」

「ちょっと、背中の辺りが……んひぃ!? いいい、いきなりナニをするんですか!?」

「かゆみは取れましたか?」

「……何でもないです」

「あ、霊夢、やっぱりかゆいところあったわ」

 

 パチュリーお嬢様とこあお嬢様、お二人の身体をゆっくりねっとりと洗っていく。

 勿論ですが、お二人の珠の肌が傷つかないように、垢擦りなどという無粋な代物は一切使いません。……全てこのメイドハンドで洗わせて頂いております。

 たっぷりと泡立て、滑らかにその肌に手を這わせていく。……私の手の動きと共に、ビクビクと身体を震わせるお嬢様方の反応に、メイドの忠誠心が刺激され、巫女メイドとしてのアレやソレやがソイヤッしてしまいそうになりますが、何とか堪えながら無心を装って、お身体を流すことに成功致しました。

 流石にデリケートな部分、所謂乙女の秘密の花園に関してはご自身で洗って頂く事になりました。……お嬢様方も流石に恥ずかしいご様子でございましたし、何よりも私自身が、これ以上の刺激には耐えられそうもありません、メイドさんの中の巫女が「ヤッちゃうぞ(はぁと)」してしまいます。

 

「では、ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」

「ん、ごくろうさま」

「うへぇ、からだがとけちゃいそうれすねぇ」

 

 最後に湯船にお二人を浸けてしまえば、完璧ですね(意味のないドヤァ顔)。

 まぁ、ぶちゃけますと、お風呂に入れる必要は全く無かったのですが、何となくこうするべきだと私の中でゴーストが囁いてしまったので、お二人には強制的に温湯・ア・マークをしていただきました。……ええ、先程も申しましたように、単純に私のモチベーションが爆発的に引き上がるだけでございます。

 お嬢様方の裸体をじっくり堪能した挙句、そのすべすべお肌を手洗いしたって良いじゃない。……だって、メイドですもの。

 一つだけ失敗した点を挙げるとするならば、スカーレットなお嬢様達やぐっすりと夢の世界にへと旅立っていらっしゃる中華なお嬢様をお連れすることが出来なかった点ですね。……咲夜お嬢様は風邪で寝込んでいるため、仕方がないにしても、これはこれは非常に惜しい事をしてしまいました。メイド一生の不覚でございます。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「お嬢様方がごゆっくりとしていらっしゃっている間に、図書館の清掃も終わらせてしまいましょう」

 

 瞬きの間に廊下を駆け抜け、再びヴワル魔法図書館へと突入致します。

 

「ほほぅ、これはこれは」

 

 軽く周囲を見回してみる。……ふふふっ、このメイドアイから逃れられるとは思わないことです。

 確認してみましたところ、思った以上に埃が溜まっていらっしゃいますね。これでは虚弱体質のパチュリーお嬢様にとっては危険でございます。

 僅かでもお嬢様の身に危険が生じるのならば、その原因を根本から抹消するのは、メイドとしての最重要事項でございます。

 

「チリ一つ残さず消してご覧に入れましょう──【冥(土)の呼吸 四ノ型 餓える鬼】」

 

 ヴワル魔法図書館という場所に存在する全ての埃を、汚れや穢れなどの負に連なる物体全てを補足します。……そして、放たれるのがこの技です。

 私の身から放たれた霧状の霊力が、ヴワル魔法図書館という場所の全てを一切の隙間なく覆い尽くします。……やがて霧は覆い尽くした場所にある埃やゴミなどを全て取り込み、この世から完全に消滅させます。

 

「……戻りなさい」

 

 全てを消滅させた霧状の霊力は、再び私自身の身体へと帰還致しました。

 ご覧の通り、この技は私の冥(土)の呼吸の中でも凶悪な代物となっております。……当然でございましょう? この技は、私が認識し消すと思った対象全てを喰らい潰し、この世から完全に抹消してしまうのですから……我ながら、えげつない技を作ってしまったものです。

 

「折角ですし、本の整理も致しましょうか」

 

 本の整理は、普段から、こあお嬢様の手によってなされておりますが、やはり一個人では限界がございます。

 ましてや、この膨大な蔵書数を誇るヴワル魔法図書館です。いくら気を付けていたとしても、ミスがないとは言い切れません。……こあお嬢様の為、僭越ながらこの巫女メイドが一肌脱ぎましょう(物理的には脱ぎませんよ?)

 

「言語毎、アルファベット、日ノ本言葉。……一先ずはこの順で並べれば問題はないでしょう」

 

 冥(土)の呼吸で爆発的に向上した身体能力に任せて、本を整理していく。……当然ながら、この程度では全く手が全然足りませんので、最後の呼吸を使用致します。

 

「【冥(土)の呼吸 五ノ型 三悪童子】ッ!」

 

 冥(土)の呼吸の五ノ型にして、最後の型となる技でございます。……どういう技なのか、それは見てのお楽しみでございます。

 

「分身【い】はその棚を、分身【ろ】はそちらの棚を、分身【は?】はこちらの方をお願いします」

「「「了解!」」」

 

──分身。

 

 あるいは分裂。

 私の魂を力任せに無理矢理引き裂いて、仮初の肉体を与え、私自身の力の九割程度(幽香約一人分)を完全に再現した分身として、現世に召喚する程度の何の面白味もない技でございます(大惨事)。

 分身の見た目は、私の幼少期を模した姿をした三人の幼い少女でございます。それぞれを【い】【ろ】【は?】と名付けました。……大変個性的で愉快な子たちでございます。

 

「ヒャッハー! 本棚は整頓だぁ!」

 

 分身【い】は、幼少期の私を模した、やや目の鋭い少女でございます。……口調は世紀末のモヒカンとなっており、見る者を何とも言えない残念な気持ちにさせてくれます。

 

「調和を乱す物よ、無限の混沌(カオス)へと還るが良い!」

 

 分身【ろ】は、幼少期の私を模した眼帯の少女でございます。……見ての通り重度の厨二病を患っており、聞く者が思わず耳を塞ぎたくなる程に、発言の全てが痛々しい残念な子です。

 

「本って何? 食べ物?」

 

 分身【は?】は、幼少期の私の姿を模したアホ毛の少女でございます。……見ての通りアホの子でございます、誰もが口を閉ざしてしまう程のアホで、常にお腹を空かせた残念な子でございます。

 

「余計に仕事が増えたような。……気のせいですね」

 

 ええ、私の分身がこんなに残念な筈がないのです、ええ、ええ、決して現実から目を背けているわけではございません。……むしろ、逆でございます、私は彼女達を食い入るようにしっかりと見守っております。

 分身とはいえ、流石は私ということもあり、その見た目だけは大変見目麗しい少女の姿をしているのです。正直、分身でなかったならこの場で肉bげふんげふんっ。……ところで、分身相手におセッセをしてしまったら、それは果たしてオ◯ニーになってしまうのでしょうか?(誤魔化しレベルクソ雑魚ナメクジ)

 

「これで最後でございますね」

 

 兎にも角にも、我が愛すべき分身達と呼吸を合わせて連携し、僅か数分の間に全ての蔵書を本棚に整理し終えました。

 パチュリーお嬢様が混乱してしまわれないように、念の為、整理した本棚の配置を記載したメモでも書いておきましょう。……巫女と魔女っ子のガチ百合中心の艶本の場所は南側の棚、と。

 

「ご苦労様、【い】【ろ】【は?】」

「へっへっへっ、本体様のお願いとありゃあ、この【い】、他の全てを差し置いても駆けつけますぜ、げへへへっ!」

「ふっ、この【ろ】も同じく、我が魂が還る神たる貴女の命あれば、この世の全ての掌握すらも造作もなくやってみせよう」

「本体本体、そんなことよりも【は?】は、お腹が空いたよ」

 

 まぁ、見た目は愛らしいのに何て残念な子たちなのでしょう(特大ブーメランがソニックブームを引き起こしながら返ってくるレベル)。

 とてもではないですが、私を元に生み出された分身にしては慎みが足りませんね(ブーメラン過労死)。

 

「「「また何かあったら呼んでくれ(欲しい)(ね)!」」」

「ええ、その機会があればまた呼びましょう」

 

 恐らく次の出番は自家発電的な意味になると思います。……私はまた一つ新たな可能性に気付いてしまいました。

 例え私自身だとしても、分身であり、かつ中身が完全に別物だと断言出来るなら、それは私が愛でる対象になるという事実に気付いてしまったのでございます。

 例え元は私自身の魂から生まれた存在だとしても、生まれた以上彼女達は彼女達自身という個人であり、一個の生命体なのです。……ぶっちゃけますと、私の妹とか娘とかに近い存在になりますね。

 これは愛でねばなりません。……近い内に彼女達専用に生身の器を用意してあげるのも良いかもしれませんね、じゅるりじゅるり。

 

「図書館の方も無事に完了いたしました。……そろそろお嬢様方がお風呂からお上がりになる頃合いですね」

 

 私は再び風になりm……あぁ、そうでしたね、危うく忘れるところでした。

 

「お召し物は……これにしましょう」

 

 ええ、その方がとても素敵ですもの。……ふひっ、ふひひひひひっ!

 メイドは、メイドはお嬢様方の素敵なお姿を見るのが大好きな生き物なのでございます。……ですので、パチュリーお嬢様、こあお嬢様、楽しみに待っていて下さいませ。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「お嬢様方、お待たせいたしました。……本日のお召し物は此方になります」

 

 寄り道した場所から調達してきたソレをお嬢様達に手渡します。

 あらあら、余程お気に召したのでしょうか?……両の目を見開き、口をパクパクと大きく開けていらっしゃいますね。そんなお顔も素敵でございます。

 

「こ、これは何なのかしら?」

「こあぁ……今日の霊夢さんはいつにも増して変な気がします」

 

 失礼ですねこあお嬢様、私はいつも通りでございます。

 いつも通り、お嬢様方を優しくねっとりとした温かい眼差しで見守りながら、身体と身体が触れ合う程の超近距離で、その身も心も私の手垢でベタベタにする程のお世話をし、どんな外敵からもお守りする。……それが究極にして完全無敵、完璧超人たる巫女でメイドな貴女の博麗霊夢なのでございます。

 こあお嬢様の事をこんなにも真剣にお守りしている私に対してなんて酷い。……これは私も心を鬼にして、私が如何にお嬢様方を想っているのかお分かり頂けるよう、そのお身体に全身全霊のご奉仕を尽くさねばなりませんね。

 

「……これを着ろと?」

「はい、着て下さいませ」

「……マジ?」

「マジ、でございます」

「本気の本気で? 冗談とかではなく?」

「本気の本気でございます。……失礼ですがパチュリーお嬢様、私のこの顔が冗談を言っている様に見えますか?」

 

──ダッ!(パチュリーがダッシュで逃げた音)

 

──ガシッ!(速攻で捕まった音)

 

「いやぁぁぁぁぁ!?」

「さぁ、パチュリーお嬢様〜……お着替えの時間でございますよぉ〜」

「こあ! 小悪魔ァ! 助けてぇ! たしゅけてぇぇぇむぐぅ!?」

「あまり、手間を取らせないで下さい。……流石の私もイラッとキてしまいます」

「むぅ〜!? むぅ〜!?」

 

 お口チャックでございますよぉ、パチュリーお嬢様ぁ。……あぁ、パチュリーお嬢様、泣かないで下さい。メイドの立場を、従者としての立場を忘れてしまうじゃないですかぁ、きひっ、きひひひひひっ! くけけけけけっ!

 

「ぱ、パチュリー様ぁ!?」

「あぁ、こあお嬢様」

「ひぇ!?」

「こあお嬢様に限ってそんな事はないとは思いますが、邪魔だけはしないで下さいませ。……もしも邪魔をしたら、ね?(にっこり)」

「さ、サーッ! イエッサーッ!」

「それと、私がパチュリーお嬢様のお着替えを手伝っている間に、こあお嬢様もソレに着替えておいて下さいませ。……もしも着替えていらっしゃらない時は──」

「着替えます! お着替えさせていただきしゅぅぅぅぅぅ!」

「ふふふっ、こあお嬢様は素直で良い娘でございますね」

 

 早くお着替えになってくださいませ、湯冷めして震えているじゃありませんか。

 いえいえ、此処は私自身の人肌で温めて差し上げるのが道理ですね。パチュリーお嬢様のお着替えが終わり次第、この身で温めて差し上げましょう。

 

「うぅ、いっそ殺しなさいっ! 殺しなさいよぉ!」

 

 さぁ、パチュリーお嬢様ぁお着替えの時間でございますよぉ!

 先ずは、生まれたままの肢体を覆い隠す邪魔な布切れを一瞬で剥ぎ取り、お身体の水滴を残さず拭き取り、水気を吸い取ります(呼吸法って便利)。

 その後、持ってきたソレをしっかりとパチュリーお嬢様のお身体に纏わせていきます。……大丈夫でございます、大丈夫でございますパチュリーお嬢様、安心して下さいませ。

 まだ……まだ、手は出しません(渾身のメイドスマイル)。

 

「……うぅ、どうして私がこんな、こんな破廉恥な格好をぉ」

「あ、あはは……此処まで一方的にアレコレされたら、流石に恥ずかしいです、ね」

 

 さぁ、刮目しなさい。この見目麗しくも淫靡なお嬢様方の艶姿を!

 

「霊夢のっ……霊夢の馬鹿ぁ!」

 

 お嬢様の頭頂部で恥ずかしげに、だがしかし、誇らしげに揺れている二本の物体──そう、耳……それは耳でございます。

 パチュリーお嬢様の小さな肢体とは対象的な二本の大きなお耳。……あの大きなお耳は何だッ!? この心を鷲掴みにするあの大きくて愛らしいお耳の正体は一体何なんだっ!? そうでございます! アレがっ! アレこそがッ!

 

「ばかぁ!」

 

──ウサミミ。

 

 永遠亭のお嬢様方で見慣れている筈のソレが、見慣れていた筈のソレが、パチュリーお嬢様の魅力を何乗倍にも引き上げていらっしゃるっ!

 更に幼さを残しつつも、しっかりと女としての魅力を搭載しているダイナマイトパチュっとボディを覆い隠していらっしゃるのは、肩やお腹、胸元が大胆に露出していらっしゃるボディースーツ──所謂、バニースーツでございます。……パチュリーお嬢様がおっしゃっていた通り、破廉恥極まりないそのお姿は見る者全てを確実に虜にするでしょう、少なくとも私は魅了されてしまいました。

 この博麗霊夢、メイド歴一日と六時間二十七分三十五秒が断言します。……私はとんでもないモンスターをこの世に生み出してしまいました(鼻から忠誠心)。

 

「霊夢さん、霊夢さん。……これ、そんなに私に着せたかったんですかぁ?」

 

 やや伏し目がちに、しかし何処か挑発的に私を見ながらこあお嬢様がおっしゃいました。……どうやら混乱から多少は落ち着きを取り戻したご様子ですね、いつも通りの調子が戻ってきていらっしゃいます。

 ええ、お嬢様のおっしゃる通りでございます、こあお嬢様の魅力を完全に引き出すことが出来た一品であると自負しております。

 そうです、パチュリーお嬢様と双璧を為すと言っても過言ではない程に、こあお嬢様も大変魅力的な格好をされていらっしゃるのです。

 

「霊夢さんのス・ケ・ベ♡」

 

 こあお嬢様の種族は悪魔でございます。……普段からその名の通りに挑発的に淫靡に他者を魅了するお嬢様は、まさに名は体を表すと言わんばかりに小悪魔チックでございます。

 そんなお嬢様の魅力を完全無欠に引き出すにはどうすれば良いのでしょう?……ええ、簡単です。簡単な話でございます。たった一つのシンプルなエロスでございました。

 話は少し変わりますが、悪魔の中には女としての魅力を武器にしている種族がございます。……それは――淫魔(サキュバス)

 異性の夢の中に現れ、その者が望んでいる理想の姿で精を吸い尽くすという恐ろしくもイヤらしい色欲の化身でございます。……こあお嬢様にはその淫魔の姿を模した衣装を身に着けてもらっているのです。

 こあお嬢様もノリノリで腰をくねらせ、その胸の谷間を強調しておられます。……正直なところ、私がメイドでなければ、今すぐにでもこあお嬢様を押し倒し、魔力供給(R指定)しておりました。

 

「……(●REC)」

 

 無言でこの素晴らしい光景を脳内カメラに収めている私は異端でございましょうか?……いえ、そんな筈がないでしょう。

 私はメイドです、お嬢様方に仕える忠実なる下僕でございます。……なればこそ、お嬢様方の素敵なお姿をその脳味噌の奥深くまで記録し、この身が朽ち果てる最後の瞬間まで絶対に忘れてはなりません。

 ぐふふっ、パチュリー様ぁ、もう少しそのおみ足を開いて貰えないでしょうかぁ? その食い込み部分をしっかりとこの脳内に叩き込みたいのですぅ。

 げへへっ、こあお嬢様ぁ、ノリノリで挑発的な態度が素敵ですわぁ、もう少しだけ前かがみになってお尻を突き出して下さるとメイド的に嬉しいですぅ。

 ヴワル魔法図書館のお嬢様方万歳! ノーレッジ万歳! 小悪魔万歳!……メイドとして感無量でございます。

 

「ふぅ、大変目の保養になりました。……満足しましたので、着替えて下さって結構でございますよ?」

「貴女の娯楽の為だけに、私はこんな破廉恥な格好したの!?」

 

 おや、何やら気に入らないご様子ですね、パチュリーお嬢様。

 僅かな間とはいえ、お嬢様方のお世話をするこの卑しいメイドに少しの施しを与えても良いではないですか。

 え、無理矢理でございますか?……いえ、アレは合意です。パチュリーお嬢様も「私を霊夢の色に染め上げてちょうだい(はぁと)」とおっしゃっていたではございませんか(記憶捏造)。

 

「何をおっしゃいます。……この紅魔館の巫女メイドを務める私が、パチュリーお嬢様にそんな酷い事をするわけがないじゃないですか」

「そう、よね。……この格好にもきっと意味があるのよね」

「まぁ、今回は完全に私の趣味なのですが」

「表に出やがれぇぇぇこのぉ鬼畜メイドぉぉぉ!」

 

 激昂するバニーガールが私に向かって色とりどりの弾幕を撃ち込んできました。……当然、怒りに任せた一撃がメイドたるこの私に当たるわけがありません。

 弾幕の隙間をヌルヌルとした舞うようにCoolな動きで華麗に避けて、バニーガールお嬢様の元へと近付いていきます。……ふふん、他愛なしでございます。

 

「来るなぁぁぁぁぁ!」

「知らないのですか?──メイドからは逃げられません」

 

 例えそれが魔王だとしてもです。

 

「あぁぁぁぁぁ!?」

「あ、あぁ、ぱ、パチュリー様が大変な目に……に、逃げないと、逃げn」

「こあお嬢様、自分は関係ないというお顔をしていらっしゃいますが──当然、貴女もでございますよ?」

「ひぇっ!? やっぱりィッ!? こあぁぁぁぁぁん!?」

 

──見 せ ら れ な い よ(はぁと)

 

 ふぅ、ごちそうさまでした。……ナニをしたのかですって?

 大変失礼ではございますが、その件に関しましては、メイドとして黙秘権を行使させていただきます。……少々メイドとして、決してヤッてはいけない事をしてしまいましたので、コレ以上はお口チャックでございます。

 パチュリーお嬢様とこあお嬢様につきましては、体力を著しく消耗してらっしゃったので、それぞれのお部屋のベッドに優しくお運びしました。……息も絶え絶え、全身から発汗し、人前には出せないしあわせそうなお顔を晒しておられましたが、何の問題もございません(心の思い出フォルダが潤いますね)。

 勿論、そのままにしておくわけにもいきませんので、もう一度改めてお風呂に入れて差し上げました。……勿論、今度は全身隅から隅まで洗わせていただきましたよ?(曇りのない笑顔)

 洗っている最中に気づきましたが……お二人とも、まだまだ子供でございますね、何処とは申しませんが……えぇ、何処とは申しませんが、ツルツルでございました。

 

「……」

 

──ツルツルでございました!

 



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巫女、メイド【下弦】

「さて、パチュリーお嬢様方のお世話(意味深)も済みましたし、後は「霊夢、見ーっけ!」……フランお嬢様、いきなり飛び掛かると危ないですよ?」

「えへへ〜、霊夢はちゃんと受け止めてくれるでしょ?」

「全く、仕方のないお嬢様ですね」

 

 私に思いっ切り抱き着きながら、フランお嬢様は屈託ない満面の笑顔を浮かべていらっしゃいます。……控えめに申しましても、ドチャクソ可愛らしいとしか言いようがありません。

 あんまりにもフランお嬢様が可愛らしいので、思わず頭をナデナデしてしまいます。……はぁはぁ、フランお嬢様可愛過ぎてるぅ、これは危ない、我慢出来ません、フランお嬢様様素敵ぃ!

 

「残念ね、フランだけじゃないわよ! とぉぉぉぉぉ!──って、あれ?」

「残像でございます」

「う、うー! 私は猫じゃないわよ!」

「似たようなものでしょうに」

 

 主に愛玩動物的な意味で大差はないでしょう。

 背後から飛び掛かってきたレミリアお嬢様の突撃を難なく躱し、逆に背後をとって後ろから襟を掴んで猫のように吊るし上げます。……生意気そうな態度がなんとも愛らしいですね、流石レミリアお嬢様、あざとさの極みでございます。

 

「うー! う―! ご主人様に向かって失礼よ!」

「主が道を誤るならば、それを正すのもメイドの仕事です。……お二人とも、何かご用事でしょうか?」

「フラン達と遊ぼ!」

「どうせ仕事ももう終わりでしょう?」

「そうですね、特にこれといった業務はございません。……畏まりました、このメイド博麗霊夢、お嬢様方のお相手を務めさせて頂きます」

「「やったぁー!」」

 

 お二人で仲良く万歳をしていらっしゃるお嬢様方の溢れんばかりの愛らしさに、私の忠誠心がスピア・ザ・グングニルからのレーヴァテインで、紅霧異変を引き起こしてしまいそうです。

 

「ではナニを……もとい何を致しましょうか?」

「ふっふっふっ! 私とフランで考えたとっておきの遊びがあるのよ!」

「この遊びで霊夢をけっちょんけちょんにしちゃうんだから!」

「けちょんけちょんとは穏やかではありませんね?……その遊びとは一体何でしょうか?」

 

 何とも可愛らしいキメ顔をなさりながら、自信満々に告げるお嬢様方。……しかし、私をけちょんけちょんにするとは大きく出ましたね。

 この博麗霊夢、如何に相手がお仕えする主であろうと、勝負事で手を抜くつもりは微塵もございません。……完膚なきまでに返り討ちにして、世間知らずの愛らしい蝙蝠姉妹に大空の広がりというものを教えて差し上げましょう。

 

「ルールは簡単、私達が全力で貴女を驚かせちゃうから……」

「霊夢は驚かないように頑張ってね♪」

「畏まりました。……いつでもどうぞ」

 

 フフッ、この究極の巫女メイドである私を驚かせる自信がお有りでしたら、どうぞご自由に、何処からでもどうぞ(圧倒的な強者のオーラ)。

 

「先ずは私からね、こほんっ!……うー! うー! わたしれみりあ! ごひゃくねんをいきたきゅうけつきなのぉー! がおーたーべちゃーうぞぉー!」

「ゴフッ!?」

 

 ぐわああああ────ッ!!(れ、レイムダイ―ン!)

 

「が、ふっ」

「れ、霊夢? どうしたの?」

「ふ、フランお嬢様。……だ、大丈夫です。ええ、大丈夫でございます。……少々、致命傷を喰らっただけですので」

「それ全然大丈夫じゃないよね!?」

 

 大丈夫、です。メイドは、メイドは大丈夫なんです。危険が無事で、危ないが安心に繋がるのです。……ええ、大丈夫です、大丈夫に決まっているではありませんか。

 お嬢様がッ! あの普段からカリスマカリスマと嘆いていたレミリアお嬢様がッ! プライドを投げ捨て、可愛らしさ全開でっ! あのようなッ! あのようなッ!……お嬢様のあのような素敵なお姿を魅せつけられて、一介のメイドごときが耐えられるわけがないじゃないですかッ! いい加減にしてくださいませッ!

 

「ごほっ! ごほっ!……さ、さぁ、レミリアお嬢様、貴女の全力はまだまだこんなものではないでしょう? もっと見せて下さい。……私を、私を驚かせるのでしょう?」

「霊夢。……えぇ! 分かったわ! 私の本気を見せてあげる!」

 

 大丈夫、大丈夫です。私がこんなところで死ぬ筈がないじゃないですか。……だって、お嬢様はあんなにも愛らしく、幻想郷には沢山のくぁいいお嬢様が溢れているのですから。

 

「いくわよぉ! こほんっこほんっ……れ、れみりあ、れいむのことだぁーいすきっ♪」(にぱー)

「あっ──……」

 

 あっ──……。

 

「あれ、霊夢?……霊夢!? どうしたの霊夢!?」

「……」

「……し、死んでる」

 

 

ーーーーー

 

 

 巫女メイドこと博麗霊夢は死んだ。

 レミリア・スカーレットによる可愛いを超えた可愛いの可愛いによる可愛い仕草にヤラれてしまい、一日の可愛い成分の摂取量を大きく超えてしまったためだ。

 具体的に言えば「おぜうがくぁいい過ぎてしんどい、もう無理、死ぬ」を発症し、そのまま昇天してしまったのだ。

 ところで話は変わるが、私はおぜう派ではあるが、同時に妹様派でもある、二人の可愛らしい姿を同時に味わえる姉妹百合を推したいので、このままこの変態にはあの世へと旅立って貰いたいものdごはぁぁぁぁぁん!?

 

 

ーーーーー

 

 

 大丈夫です、生きてます。生と死の狭間を彷徨いましたが、無事に戻ってくることが出来ました。……意味不明な発言をしていた神父は消しておきましたので、安心してくださいませ。

 

「霊夢、大丈夫!?」

「大丈夫でございます、心配をお掛けして申し訳ございません。……少々、張り切って仕事をしていたので、立ちくらみか何かで意識が一瞬飛びました」

「もうっ! 頑張り過ぎはメッなんだからっ!」

「……レミリアお嬢様は、私を殺すおつもりですか?」

「何がっ!?」

 

 お嬢様にメッされるとメイドは死にます、蒸発してこの世界から完全に消滅してしまいます、これ常識でございますよ?……出血多量でこの世から亡き王女のためのセプテットしてしまいます(意味不)。

 

──クイックイッ

 

「……フランお嬢様、如何なされましたか?」

「ずるいっ!」

「ずるい……とは?」

「お姉様ばっかりに構って、ずーるーいー!」

 

 プクゥーっと頬を膨らませながら不満そうにしていらっしゃる。

 

「ゴバァッ!?」

 

 ふっ、ふふふっ、この姉にしてこの妹ありでございますね。……本気で私を殺すおつもりですか、お二方?

 表面上では吐血で済んでおりますが、内部へのダメージが、特に内蔵系へのダメージがそろそろ無視できない所にまで迫ってきております。……此処で、こんなところで倒れるわけにはっ! ハァ、ハァ、いかないのですよっ!(満身創痍)

 私には、この愛くるしいスカーレッツお嬢様達の全てをこの記憶の奥深くまで根付かせるために、これから二十四時間、三百六十五日に及ぶ観察を行う義務がございます! あぁお嬢様お嬢様お嬢様お嬢様お嬢様ぁぁぁぁぁ! あぁレミリアお嬢様ぁ! あぁフランお嬢様ぁ! あぁスカーレッツ! あぁスカーレッツ! あっあっあぁぁぁぁぁん!……失礼、お嬢様方のあまりの素晴らしさに、少々取り乱してしまいました。

 

「くっ、まさかこの私が此処までのダメージを受けるとはっ!」

「うー! うー! ふらんだよぉー!」

「がおぉー! がおぉー! たーべーちゃーうぞー!」

「ングッ!?」

 

 愛でたくなるドヤ顔を見せつけながら、私の周りでくるくる、くるくると入れ替わり立ち替わりで、カリスマブレイクなポーズを取り続けるスカーレッツなお嬢様方、そのあんまりにも最高過ぎる愛くるしさに、私の寿命がエマージェンシーでございます。……お二人が尊過ぎて、生きるのがしんどい。

 そうだ! 冥土に逝こう、メイドだけに。……お後が宜しいようで。

 

「ゴフッ……レミリアお嬢様、フランお嬢様」

「何かしら霊夢? ひょっとして降参かしら?」

「……降参ではありませんが、一つだけ提案がございます」

「提案?」

「私だけがずっと我慢し続けるのは少々不公平というもの、此処は公平に、かわりばんこにしてはみては如何でしょう? お嬢様方が私を驚かせるとおっしゃるならば、逆に私はお嬢様方をヨロコバセマショウ。……勿論、レミリアお嬢様とフランお嬢様のどちらかが成功したなら、潔く負けを認めましょう」

「それ面白そう! いいよぉ!」

 

 えぇ、しっかりと悦ばせて差し上げます。……吸血鬼であるお嬢様方が足腰立たなくなる程に、ご満足頂けるように、このメイド博麗霊夢、全身全霊を以て事に及ばせてもらいます。

 

「っ!? 霊夢!?」

「いきなり何をしているのっ!」

「ふふふっ……当然、お嬢様方にお喜び頂けるように、準備をしているのでございます」

 

 ええ、それ以外の理由などございません。

 

「だ、だからって、い、いきなり」

「必要なことでしたので……」

 

 お嬢様方は動揺していらっしゃいます。……無理もないことでしょう、いきなり目の前で自分自身の手首を切る光景を見せられたら、流石の吸血鬼姉妹でも多少の動揺は免れない。

 私の手首から大量の血液が吹き出し、床を真っ赤に染め上げる。……普通の人間でしたら数分と持たず絶命するのでしょうが、生憎と私は普通ではございません。

 普通の人間では命に関わる出血ではございますが、出血量を上回る勢いで血液を生産してしまえば、問題はございません。……簡単に申しますと、霊力のちょっとした応用で体内で生成されている血液の量を増加させているのでございます。

 私の霊力が尽きぬ限りは、ほぼほぼ無制限に血を生産できるでしょう。……最も、血を生み出す程度の霊力ならば呼吸よりも簡単に回復するので無限と言っても過言ではないのですが。

 

「さぁ、レミリアお嬢様、フランお嬢様。……悦ばせて差し上げます」

「にょわあぁぁぁぁぁ!? な、ナニするダァー!」

「うぅぅぅぅぅ!?」

 

 動揺し、硬直していらっしゃったお嬢様方を拘束する。……ええ、逃しません。逃してなるものですか。

 

「吸血鬼であるお嬢様方を悦ばせるにはどうすれば良いか。……簡単な事です、吸血鬼が大好きなモノを差し上げれば良いのです──ささ、先ずはレミリアお嬢様からっ! ですっ!」

「もががっ!? んっ!? んちゅ、くちゅ」

 

 レミリアお嬢様の口を塞ぐように、血が溢れ出している手首を押し付ける。……くふっくふふふっ! あぁ、感じます、お嬢様の中に私が入っていくのを感じますっ!

 

「ん、んくっ、んっ」

「混じり気のない処女の血でございます。……文字通り浴びるほどにご堪能下さいませ」

 

 とろんとした目で私の血を啜り始めたレミリアお嬢様のお姿に、私の背筋をゾクゾクとした忠誠心が駆け抜け、脳天すらも貫いたかのような衝撃を感じてしまいました。

 あのレミリアお嬢様が私の、私の血を美味しそうにお飲みになっていらっしゃる。頬を真っ赤に染め上げ、恍惚とした表情で、美酒に酔いしれるかの如き艶がかったご様子でっ!

 

「んっ、ぷはっ!……はぁ、はぁ」

「うふふっ……私のお味は如何でしたか? レミリアお嬢様?」

「もぉ、ダメぇ……こんな、こんなの知ったら、もぅこれしか飲めなくなっちゃうぅ、霊夢がいないとダメになっちゃうぅ」

 

 ちなみに私の血には催淫効果があるそうです。……そんなものを大量に摂取してしまったら一体どうなってしまうのでしょう? メイド、気になります!

 

「はぁ、はぁ、もっとぉもっとぉ欲しいよぉ」

 

 切なげに眉を顰めながら、涙目で上目遣いに見上げてくるレミリアお嬢様のお姿は非常にマーベラスでございます。……更にはその身に襲い掛かっているであろう、強力な性的興奮を押さえきれないのか、ご自分の股を磨り合わせながら、秘部に利き手を這わせてビクビクとしていらっしゃるお姿には、流石のメイドも夢想封印を仕掛けたくなるほどでございます。

 

「お次はフランお嬢様の番でございますので、レミリアお嬢様には少し我慢をしてもらいます」

「そ、そんなぁ……いや、いやよ、霊夢、これは命令、命令よ。今すぐ私に血をっ! 血を寄越しなさいっ!」

「──レミリア」

 

 ふっくらとした頬に手を添え、ルビーの様な紅い瞳を見つめる。

 

「ふぁ!?」

「我儘はいけないな……ふふっ、安心しろ、ちゃんと我慢できたら一杯ご褒美をあげよう」

「ふぁ、ふぁい」

 

 レミリアお嬢様の躾のため、一瞬だけメイド業を離れましたが些細な事でございます。……レミリアお嬢様が顔を真っ赤にしたまま固まってしまいましたが、本当に些細な事なのでございます。

 

「さて、フランお嬢様も」

「ふ、ふんだっ! 私は霊夢の血なんて全然欲しくないんだからねっ! 本当に欲しくないんだからねっ! お姉様があんなになるくらい凄い血だったとしても全然! 全然っ! 興味ないんだからねっ! どんな味がするんだろうとか、霊夢の血なら毎日飲んでも飽きなさそうとか全然考えて何かいないんだからねっ! フランは全くそんなこと考えていないんだkもがもがっ!?」

「欲しいなら欲しいとおっしゃってくださいませ」

 

 何やら言い訳の様な御託を並べていらっしゃいましたが、血を飲みたいのは一目瞭然でしたので、レミリアお嬢様と同じように押さえ込み、口元に無理矢理手首をセッティング致しました。

 

「ごくごくごくごくごく!」

 

 いや、めっちゃ飲むやん。……失礼しました、フランお嬢様のあまりのいきおいに少々取り乱してしまいました。

 これ以上ないほどに目が輝いておりますね、私の血を全て吸い尽くさん勢いでお飲みになっております。……此処まで気に入ってもらえると、下僕冥利に尽きますね。

 

「ぷはっ! もう一杯!」

「一気飲みは身体に毒でございますよ?」

「えぇ〜? フラン〜子供だからわかんにゃあ〜い」

「はぁ……四百九十五年歳が何をおっしゃっているんですか」

「もうっ! れでぃーに歳を聞くのはまにゃー違反よ!」

 

 はて、私が知っているレディーは、酒に呑まれたおっさんのような駄々はこねないのですが……まぁ、フランお嬢様は大変可愛らしいので、多少の醜態を晒したとしても変わりなくお慕いし、この手で滅茶苦茶にして差し上げたいのですがね。

 

「フラン! 今度は私の番なんだからぁ!」

「やだやだやだやだやだぁー! もっと一杯飲むのぉー!」

「うー! フランのわからず屋! 良いからさっさとかーわーりーなーさーいー!」

「いーやー!」

 

 私にしがみつくフランお嬢様をレミリアお嬢様が引き剥がそうとする。しかし、当然のながら、フランお嬢様も抵抗致します。……吸血鬼パワー全開で、私を抱き締めておられます。

 ええ、平然としていますが、普通の人間だったら死んでます。……具体的にはお腹から真っ二つになります、本当に命がいくら有っても足りませんねぇ(←無傷)。

 

「はーなーれーろー!」

「やーだー!」

 

 私(の血)を取り合うこの光景だけで、駆けつけ三杯は余裕でございますね。

 それにしても、当人である私を放っておいて、楽しく姉妹喧嘩ですか。……横合いから全てかっさらってしまったらどれ程楽しいのでしょう(愉悦)。

 

「ひゃん!?」

「りぇいむっ!?」

「お二人だけで楽しそうになさるのは──寂しいです」

「どどどどど何処を触ってりゅのよ!?」

「しょこはりゃめなのぉぉぉ」

 

 お嬢様方を力いっぱい抱き締めながら、その愛らしい翼の付け根を鷲掴みして、揉み解しているだけですが、何か?

 付け根部分は吸血鬼の性感帯ですから、こうして手の平に霊力を込めて感度を引き上げながら揉み解せば、イイ声で鳴いてくださるのです。……ええ、とても良いお声で啼いてくださるのです。

 

「はにゃあああああぁぁぁぁぁ!?」

「にょおおおおおおぉぉぉぉぉ!?」

 

 どうか愉しんでイキ狂いなさいませ(完全で瀟洒な微笑)。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 ふぅ、堪能致しました。

 はい? スカーレット姉妹──お嬢様方はどうしたのかですか?……貴方方のような感の良い、人間は大嫌いですよ。

 冗談でございます、ちゃんとお部屋へとお運び致しましたよ? 別にお嬢様方から分泌された吸血鬼エキス(意味深)を綺麗に舐め取っていたなどという畜生にも劣る事実は何処にも存在致しません。

 この博麗霊夢は、スカーレット家のお嬢様方に仕える忠実なるメイドなれば、お嬢様方をこの手で汚すなどという大罪を犯す筈もございません。……ええ、そんな大罪を犯すほど私は愚かではございませんとも。

 

「んはぁぁぁぁぁあああああ!?」

「もうだめなにょぉぉぉぉぉおおおおお!」

 

 何やら、お嬢様方を寝かしつけた筈のお部屋から少々艶めかしいお声が聞こえますが、気のせいです……気のせいですとも、私が気のせいと言ったら気のせいなのです。

 何故か私の指が湿っているのも、口元が湿っているのも気のせいでございます。……私の血を啜り興奮のあまり発情するお嬢様方の姿に辛抱堪らず手を出した、などという確定的に明らかな事実は何処にも存在致しません。

 

「……ごちそうさまでした」

 

 お嬢様方がお休みになっているお部屋に合掌しておりますが、別にナニもしておりませんよ?……私の着衣が若干乱れているのも、首元に小さな傷跡があるのも、勿論気のせいでございますよ?

 お嬢様方を更に興奮の渦に叩き込むために、首筋に噛み付かせたなどという証拠付きの事実など、何処にもありませんよ?……お嬢様方の噛み跡が愛おしすぎて態と残しているだとか、そんな事実も何処にもございませんよ?

 

「全く、まだまだ子供でございますね。……あんなに強く噛み付かれては、こちらも加減が出来ないではございませんか」

 

 何度も言いますが、私は従者でございます。……この紅魔館に住まう見目麗しきも恐ろしき吸血鬼姉妹と、それに付き従うお嬢様方に仕える、ただのメイドでございます。

 その私が、主であるお嬢様方を好き勝手に蹂躙するなどという愚かな行為をするわけがありません。……いえ、訂正しましょう、求められたら吝かでもありません。

 主のご要望にお応えするのもメイドとしての務めでございますれば……お嬢様方を悦ばせるためならば、この霊夢、この身をケダモノとするのも厭いません。

 愛を以て接することこそが、この博麗霊夢のメイド道の真髄でございますれば……お嬢様方を愛するあまり、少々過激な手段を取ってしまうのも仕方がないでしょう?(開き直り)

 

「お加減は如何でございましょう、咲夜お嬢様」

「あ、霊夢。……ありがとう、貴女のお陰で、大分楽になったわ」

「恐縮でございます」

 

 場所は変わって、再び咲夜お嬢様がお休みになっているお部屋に参上致しました。

 おや、ゆっくりとお休みすることが出来たようですね。……目測でございますが、咲夜お嬢様の体温、呼吸、瞳孔などが平常値に戻っていることが確認できます。

 無事に回復なされたようで何よりでございます。……これでじっくりとお世話(意味深)させていただけますね。

 

「お身体をお拭き致します……ささ、咲夜お嬢様」

「う、それぐらいは自分で出来るわ」

「いえ、いくら回復したと言ってもまだ病み上がりでございます。……今日ぐらいは、私にお世話させてくださいませ」

「……背中だけお願いするわ」

「ふふっ、畏まりました」

 

 服をはだけさせ、背中を此方に向ける咲夜お嬢様。

 滑らかな陶磁器を思わせる白い素肌は、羞恥からか鮮やかな桃色に染まり、蒸れた汗の香りが匂い立つ。……純粋な少女の匂いでございます。香水などという無粋なものを一切使っていない、十六夜咲夜という一人の少女の芳しい香りが、私の脳髄を犯し尽くしていく。

 

「……」

「れ、霊夢?」

 

 見惚れていた。……咲夜お嬢様の素肌の美しさに見惚れてしまっていた。

 落ち着け、落ち着きなさい、落ち着くのよ博麗霊夢。……生唾を飲み込み、指が震えてしまう。

 目の前に存在する至高の芸術に触れてしまっても良いのだろうか? たかが従者であるこの身の上で、この麗しき乙女に触れても良いのでしょうか?

 まるで、地上の人間が天に舞う天女を仰ぎ見て、その寵愛を欲しているがごとく。……罪深い我が身には、過ぎたる僥倖である。

 

「で、では失礼致します」

「……ふっ、くぅ」

 

 布越しに、咲夜お嬢様の熱を感じる。……仄かに暖かく、こちらの心を侵食するかのように指先から染み込んでいく。柔らかな感触が手の平全体に広がり、何とも言えない幸福感が我が身を包み込む。

 あぁ、咲夜お嬢様。……素敵、素敵でございます。

 

「……うッ!?」

「ど、どうしたの霊夢?」

 

 心臓が大きく跳ね上がる。……これは、恋?(不整脈です)

 比喩ではなく心臓が止まりかけました。……これが十六夜咲夜、紅魔館が誇る完全で瀟洒なメイドの真骨頂と言えるでしょう。

 弱っていてこの可憐さでございます。予め血抜きしていなければ、今この場で全身の穴という穴から忠誠心が勢い良く噴き出していたでしょう。

 

「いえ、大丈夫。……大丈夫でございます」

「指先が震えているけど……」

「き、気のせいにございます! 気のせいです! 気のせいという事にしてくださいませ!」

「あ、はい」

 

 こ、こんな邪な気持ちを病み上がりの咲夜お嬢様にぶつけられるわけがないだろうがっ! いい加減にしろぉぉぉ!

 いえ、お嬢様が健康ならば大丈夫なのです。健康なお嬢様が相手ならば、私の熱い熱い、煮え滾る熱いパトスをその柔らかくてしなやかな、珠玉の宝石にすら勝るとも劣らないめいどぼでぃ(IQ低めの表現)で受け止めて貰いtげふんげふんっ!

 

「はぁ……はぁ……き、綺麗になりました」

「あ、ありがとう」

「ご、ご気分は如何でしょうか?」

「そ、そうね。……や、やっぱりちょっと恥ずかしい、わ」

「──ッ!?」

 

──ッ!?(声にならない悲鳴)

 

 ほぉぉぉらぁぁぁまたそんな事をおっしゃるぅぅぅ!(両手で顔を押さえて頭を左右にブンブン)

 あぁもう無理、しんどい、尊さの過剰摂取で召されてしまいます。具体的には全身の血液が尊みで沸騰して蒸発し、心臓が歓喜の叫びと共に超高速で振動して衝撃波を生み出し、そのままの勢いで周囲の建造物を軒並み破壊し、私自身の身体が、お嬢様だいしゅきぃぃぃ! を抑えきれずに自己崩壊して、破壊した建造物を取り込みながら肥大化して、収束された特殊な解を持つメイドブラックホールとなって、天地開闢のエネルギーを尊さの余りに生み出して、平行世界の存在たちにすら影響を与えるほどの局地的な特異点となって、そのままメイドのメイドによる、メイドな世界のために、全世界の麗しきお嬢様方のためだけに、最終で原初なメイドと化して全ての世界線に存在する究極の生命体メイドさんZEROに覚醒しちゃいましゅぅぅぅ!!(控えめに言って頭オカシイ)

 

「寝ましょう」

「ふぇ?」

「ご就寝いたしましょう、咲夜お嬢様。……大丈夫でございます、このメイド博麗、抱き枕としても優秀でありますれば」

「ちょっと何言ってるのか分からないんだkひゃんっ!?」

 

 細かいことはどうでもいいのです、このままですと私は大変な事を引き起こしてしまいます。

 私のよく分からない覚醒を防ぐためには、咲夜お嬢様と密着する必要があります。……尊さで壊れるなら、より尊い気持ちでいっぱいになりゃあ良いんですよ!

 そうですとも、これはお嬢様方の身を守るためにも必要な事なのです。……決して私の我慢が限界だったとか、そんな事実は何処にもナイト・オブ・ナイツなのでございます!

 

「むぅ〜!? むぅ〜!?」

「ふぁ、くぅ……さ、咲夜お嬢様、そんなに嗅がれると流石に……あんっ♪」

「もがもが(あ、貴女が顔を押し付けるからっ)」

 

 咲夜お嬢様の頭を抱え込み、私の胸に顔を押し付けます。……以前も申しました通り、私博麗霊夢の胸は人をダメにする胸でございます。

 今の咲夜お嬢様は著しく体力を消耗し、疲弊しております。なればこそ、私の胸の出番というわけです。……疲れている方に言ってみたい言葉の一つ「大丈夫? おっぱい揉む?」ではなく、病気の方には魔法の言葉「疲れてる? おっぱい枕するね?」なのでございます。

 

「すぅー……すぅー」

「こうして見ると、咲夜お嬢様もまだまだ子供でございますね」

 

 たっぷり癒やされて下さいませ咲夜お嬢様。……お嬢様が癒やされている間、私は本能と理性の間で戦いながら、病み上がりの咲夜お嬢様の愛らしさにミスディレクションしておりますので。

 

「〜♪ 〜♪」

 

 

 

 メイドが歌う愛の唄。

 誰にも届かぬ愛の唄。

 されど彼女は高らかに。

 心を込めて叫ぶのだ。

 仕える者へのこの想い。

 情と欲の入り交じる。

 穢れに満ちた純粋な。

 お嬢様への愛情を。

 

 

 

 寝る前にカッコつけてみました。……カッコ悪いとか言った方は美的センスゼロでございます。生きてて恥ずかしいので、首を吊ってどうぞ(つ縄)

 どうせ明日にはいつもの私、ただの巫女の博麗霊夢に戻っているのです。つまり、メイドとして暫くのお暇を頂戴するのでございます。……次にお嬢様方にお仕えする機会が訪れるのは、随分と先になるでしょう。

 なればこそ、なればこそです。……この日の思い出を、大切に思い出せるように歌う事に何の不思議がございましょう。この身に溢れた想いを力の限り音にする事に何の不思議がございましょうか。

 

──メイド

 

 それは従者。……主のお世話を仕事とし、ありとあらゆる技能を有する者達である。

 

──メイド

 

 私、博麗霊夢は一日限りの巫女メイド。

 この日の楽しい思い出を私は生涯忘れないでしょう。……目を閉じれば思い出します。

 

──ケーキを美味しそうにお食べになるレミリアお嬢様のお姿。

 

──鼻の先に生クリームを付けながら笑うフランお嬢様のお姿。

 

──恥ずかしそうにお粥を召し上がる咲夜お嬢様のお姿。

 

──門番の仕事をサボり、あどけない寝顔を見せる美鈴お嬢様のお姿。

 

──素っ頓狂な声を上げながら、しがみついてきたパチュリーお嬢様のお姿。

 

──キャラ崩壊を起こしながら、背中を流されていたこあお嬢様のお姿。

 

 どれもが大切な思い出でございます。

 

──逃げ切れず私に捕まって嬌声を上げるこあお嬢様。

 

──最初の餌食になったパチュリーお嬢様。

 

──味見された美鈴お嬢様。

 

──血を大量に飲まされ、お持ち帰りされたフランお嬢様。

 

──妹よりもイくのが早かったレミリアお嬢様。

 

 そして……

 

「すぅーすぅー」

 

──腕の中で穏やかな寝息を立てる咲夜お嬢様。

 

 どれも、大切な思い出でございます(完全で瀟洒な笑顔)。

 途中で少し過激な思い出が入りましたが、メイドは普通にメイドとして働いていたので、きっと気のせいでございます。……桃色描写とか、ちょっとメイド分かんないです。

 さて、バカをヤッている内に、私の思い出フォルダーも潤いました。このまま騒いでおりますと、折角オネムなされた咲夜お嬢様が起きてしまいます。

 私も色々とあり過ぎて少々疲れましたので、本日は此処で業務終了とさせていただきます。明日の事は明日の私が頑張れば宜しいのです。

 メイドも人間ですので、休息したいのです。

 

──それでは皆様ごきげんよう。

 





かくたの!

久しぶりの投稿でめちゃくちゃ楽しかった春巻きさんです。
色んなことが重なって春巻きさんは、春巻きさんとして、ハーメルンで中華できなかったけど、戻ってきたから許してクレメンス(地味に古い)。

お仕事も一周回って楽しくなってきたので、このままの勢いで執筆も全盛期の勢いを取り戻せるように頑張るので、これからも博麗伝説をヨロシクネ。
尻切れトンボだけど

じゃあのノシ


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巫女、笑劇【開幕】


変態、三年会わずんば、刮目して見よ!






そんなわけで、初投稿です。
某ジャンプのとある作品で空白の百年という話があってだね……。


 唐突だが……諸君、笑顔は好きかな?

 両の頬を吊り上げ、心の底から楽しい気持ちになって笑っている人を見るのは好きだろうか?(愉悦スマイルではない)

 私は好き、大好きだ。愛していると言っても良いくらいに笑顔が好きだ。……だって、幻想郷の美少女たちって笑顔になったらその魅力がおっくせんまんくらいの勢いで鰻登りの天元突破グレン◯ガンなんだもの。

 笑顔でいるということは、つまり幸せであるということの証明である。……私の行動原理の基本は、美少女が何不自由無く、幸せに満ち足りた一生を過ごし続けることなのだから、私の身の回りにいる愛しい彼女達には極力笑顔でいて貰いたいのだ。

 まぁ当然だけど、笑顔以外の表情も好きなんだけどね。……涙目とか、悔しがっている顔とか、怒っている顔だとか、間抜け面だとか、蔑んだ顔だとか……えとせえとせ。

 でもね、何だかんだ笑顔が一番なのである。笑っているおんにゃのこには誰だって勝てねぇよ。……君の一番素敵な顔が見たい(キメ顔ダブルピース)。

 

「「──ッ!──ッ!」」

「ふふふっ、盛り上がっているようだな」

 

 会場の雰囲気がざわぁ……ざわぁ……って、なってるじぇ。

 本日、人里の大広場にて、一つのイベントが開催されたのである。……テーマは──

 

「さぁて盛り上がってまいりましたぁ! 第一回、幻想郷人妖笑劇大合戦! 司会は私、射命丸文とぉー!」

「審査員の博麗霊夢だ、宜しく頼む」

 

──笑い。

 

「霊夢さん主催で始まった今大会!……霊夢さん、どんな目的で開催したのでしょうか?」

「幻想郷をより平和に導くために、人と妖怪の間にある隔たりを無くすことを目的としている。……というのは建前で、単純に皆で盛大に馬鹿騒ぎしたかったのが理由だな」

「成る程ぉ! 実際、これまで定期的に行われていた宴会の比ではない賑わいと謎の盛り上がりを見せていますね!」

「一応、大会と銘打っているからな。当然だが、優勝した者には特別なプレゼントを用意している」

「……ちょーっと文ちゃん用事を思い出したので、すこーしだけ司会を抜けますね!」

「こらこら、私を一人にするな。……寂しいだろう」

「かわわっ……こほんっ、霊夢さんが、私をっ! このっ! わ た し をっ! 必要としているみたいなのでっ! あややと司会を頑張りますね!」

 

 あや可愛い。……密着する勢いで、ぐいぐい椅子を寄せてきてるところとか最高に風神少女してますわ。

 

「それでは第一回、幻想郷人妖笑劇大合戦を開催致します!」

「「ワァァァァァ!」」

 

 はい、そんなわけで始まりました。第一回、幻想郷人妖笑劇大合戦。……我ながら結構良い感じのネーミングセンスじゃないかと思っている。

 幻想郷の一文を入れ、人と妖の文字を隣り合わせにすることで、本来混じり合う筈もない二つの存在が、あたかも何の隔たりもないのだとアピールをしている。

 更には、二つの意味をより高度な次元に立たせているのが、笑劇という言葉と大合戦という言葉である。……笑劇は衝撃の意味も含めており、この大胆な祭りがこれまでにない楽しい余興であるという暗示であり、大合戦と銘打つことで、競い合う要素が含まれているという見世物としての力強さまで演出している。

 

 流石私、こんな素晴らしい言葉を世に生み出すなんて、略してさすわた。……ちなみに、これまでの説明は今適当にでっち上げた嘘だから、刹那で忘れてくれても大丈夫よ。

 

「時間の都合もあるからな、出場する者は私の独断と偏見で選ばせてもらった。……私が選んだ四組による勝ち抜き戦だ。単純に四組の中で一番得点が高い組が優勝となる」

「さてっ! ではではお待ちかねぇ! 最初の一組の登場ですっ!」

 

 会場のボルテージが一気に最高潮へと引き上がっていく!……さぁ、者共! 今宵は存分に楽しむが良いさ!

 

「かぁつてぇ! 博麗神社を倒壊にまで追い込んだ大異変。……その元凶にして、天界一の問題児ぃ! 仙桃で鍛え上げた強靭な肉体とぉ! 自分勝手で我儘な性格を合わせ持つ比那名居一族のお嬢様ぁー! 天界最強の生物ぅぅぅ! 有頂天──」

 

──ひなないぃぃぃてぇぇぇんしぃぃぃぃぃ!

 

 文の声に応じるかのように、天空から立派な要石が落ちてくる。

 

「アハハハハハッ! 天人の笑いって奴を、お前たち下界の者共に見せつけてあげるわ!」

 

 要石に乗っていたのは、一人の少女。

 桃の実と葉がついた丸帽子を被り、空のように青い髪を腰まで伸ばした彼女は、大胆不敵、傲岸不遜、何処までも果てしなく、誰もを平等に見下した笑みを浮かべ、高らかに宣言する。

 彼女、彼女こそが有頂天、天界一の問題児──比那名居天子(ひなないてんし)その人である。

 【大地を操る程度の能力】という何気にヤバイ能力を持っており、地震や地盤沈下などの災害を引き起こすことも簡単にやってのける。……異変の時は、どっかの白いひげのおっさんみたいに地震の衝撃波ぶつけられてびっくりした。

 更には、とある道具を持つことで【気質を見極める程度の能力】という、どんな相手の弱点も突けるという強力な力を使うことも出来るのだ。……やだぁ、天子ちゃんつよつよすぎぃ。

 またこの娘が引き起こした異変は、私をガチギレさせた数少ない異変として有名だ。……いや、流石にあそこまでやらかされたらキレざる得ないわ。私が美少女にガチギレとか相当やぞ? 基本的に美少女にナニされても怒らない私がガチギレってそれ、世界の終末レベルでマズイ異常事態だかんなぁ、おい。

 

 ま だ 許 し て な い ぞ(はぁと)

 

「ヒェッ」

 

 何を察したのかガクガクと震えてるみたいだけど、何でやろね(すっとぼけ)。

 

「そんな問題児の従者を務める苦労人にしてぇ! 天界一の破天荒ぉ! 主であろうと空気を読んで、煽りに煽って煽り倒す竜宮の使いぃ! 龍神のお告げを引っさげてぇ! 主と共に凱旋だぁー! 美しき緋の衣ぉ──」

 

──ながえぇぇぇいぃぃぃくぅぅぅぅぅ!

 

 文ちゃんの紹介が強過ぎて流石に笑うわ。……自他共に認める幻想郷一の文屋なだけはあるよね、司会を任せたら右に出るものは誰もいない。

 紹介中、ずっと腕組んできているのだけ気になる。……やわっこい天狗っぱいが絶妙な加減で当たっているせいで、全然集中できないんですがそれは。……イイゾモットヤレィッ!(剥き出しの本音)

 

「やれやれ、何処ぞの頭お花畑の脳内桃色総領娘様が勝手に私の名前を使って応募したせいで、こーんな面倒な場所に出てきてしまいましたよ。……こほんっ、皆様おはようございます。ご紹介に預かりました。永江依玖と申します。別に名前は覚えて頂かなくて結構でございます。……というか早く帰りたいです、はい」

 

 観客の視線があろうと何のその。綺麗な桃色の羽衣を身に付け、二本の触覚のような長いリボンをユラユラとさせた帽子。やる気が微塵も感じられない姿勢で、気だるげに舞台に上がってきた見目麗しきクールビューティーこそ、天界より舞い降りた竜宮の使い──永江衣玖(ながえいく)

 【空気を読む程度の能力】という、場の特性を瞬時に理解して、馴染むことが出来る能力を持っている。……文面で見る以上に応用力が高く、場の空気に溶け込んでその姿を消したり、雷や電撃を操ったりも出来るそうだ。後ついでに場の空気(会話的な意味で)を読み取れる。

 本人はこの力をもっぱら相手を煽るために使っている様子。……本人曰く、煽っているつもりは毛頭なく、興味もないらしいが、依玖さんの言動を見る限り、空気を読んだ上で煽りに煽っているようにしか見えない。

 いつかこの娘の煽りに全力で応えてあげて、私を煽った代償を(身体で)払わせたいとか思っている。龍っぽい要素を持っているなら、絶対性欲強いと思うのよね。……古来、龍って性欲強くて一晩中ヤッていても体力尽きないらしいしですし、こりゃあ、おせっせしないとイカンデスヨ、おせっせ。

 

「……」ペコリ

 

 目と目が合った瞬間、軽く頭を下げなさる。……この娘はめんどくさがりの割には、そこそこ真面目さんだからこそ、主の不始末の尻拭いから何やらまでやっちゃうのである。有頂天を主に持つと大変ねー。

 

「二人合わせてぇぇぇ! イキュイキュ天子ちゃんだぁぁぁぁぁ!」

 

 文ちゃんの勢いしかない紹介に応じ、方や上から目線で偉そうに、方ややる気なさげに気怠げにしながら、舞台の中心に歩み出る。

 

「「はいはーい、どうもーイキュイキュ天子ちゃんでーす!」」

 

 いよいよ待ちに待ったお笑いが始まる! 私は(多分)笑うの我慢するからよぉ、お前らが(笑うのを)我慢する限り、私はその先にいるぞ!(腹筋崩壊的な意味で) だからワクワクよ、止まるんじゃねぇぞ……(キボウノハナー)。

 

「はい、あたし達の芸名を聞いて、変な想像したそこのアンタ。……アンタの心は薄汚いから、悔い改めて出家しなさい」

「いきなりの客イジリとは流石ですね、総領娘様」

「いやいや、これはハッキリさせておかないと駄目よ」

「ハッキリですか?」

「ええそうよ、これからあたし達が芸名言う度に「あぁ、あのイヤらしい名前の……」みたいな反応されたくないもの」

「いや、この芸名を考えたのは総領娘様でしたよね? 「『ぐへへっ! 地上の奴らは単純だからちょっとイヤらしい感じの名前にしたらバカな野郎供が釣れるでしょう、ぐへへへへへっ!』って、おっしゃっていたではありませんか」

「え、貴女の中のあたし小物過ぎない?」

「コレは失礼しました。てーへーぺーろっ♪」

「……しばくわよ?」

「可愛い従者の冗談ではありませんか」

「はぁ……適当に衣玖の名前をいきゅって変えて、語呂よく並べてみたら出来上がったのよ」

「他意はないと?」

「……ないわ」

 

 目を逸らす天子ちゃん。やだこの娘、他意しかないじゃない。本当やらしい娘だわぁ。

 

「答えるまでの間が気になりますが……まぁ、良いでしょう。追求はしないでおきます」

「そうしなさい」

「えぇ、感謝しろよ?」

「何様なのよお前ぇぇぇ!」

 

 早速、掛け合いが始まる。

 我儘お嬢様な天子ちゃんと、空気の読める(読まない)衣玖サンの組み合わせは何が飛び出てくるか予想不可能。

 天子ちゃんのイキリっぷりに衣玖サンの煽り芸。……この二つが交わった時、一体どんな超反応を起こすのか? 私気になります!

 

「いきなりですが総領娘様。此処は景気づけに一発、面白い話をしても良いでしょうか?」

「え、本当にいきなりじゃないの。しかも無駄に大きく出てるし」

「いえいえ、楽しいお話ですから是非とも総領娘様に聞いて貰いたいのです」

「へぇ? いい度胸ね。このあたしを笑わせる自信があると?」

「えぇ、抱腹絶倒でしょうねぇ」

「面白い、やってみなさいな」

 

 衣玖サンめ、何か企んでいるな? 私がいるところからは、天子ちゃんを嘲笑うようにニッコリとした笑みを浮かべた彼女の姿がよく見える。……毎回思うけど、主に対する扱いが雑過ぎて、天子ちゃんが可哀想になってくるなー(棒)。

 

「ごほんっ……えーむかーしむかし、あるところに一人のペチャパイがおりました。

見事な見事なペチャパイです。上から下までストンストンストンの三拍子。……見るも無残、掴めるとこなぞ何処にもない、完全無欠、情け容赦のない断崖絶壁でございます。

そんな希望も何もないペチャパイですから、常日頃から頑張っておりました。……牛の乳を飲み干し、ない胸を揉み解し、豊かな胸を育む体操を、それはそれは毎日毎日と来る日も来る日も、それこそ寝る間も惜しんで頑張っておりました。

しかししかし、残念無念、現実は非情で無情なり、ペチャパイはどんなに足掻いてもペチャパイでした。……何せペチャパイは天人でございますれば、不老長寿の永劫不変、食した桃の力で強靭で硬くなった肉体では、たわわに実った柔らかな果実など、望んでも手に入らない代物だったのです。

いやいや、それでもと頑張るペチャパイ──その名を比那名居天子と申します。……そんな天人が、此度はどうやら地上へと、胸への希望を諦めず、今大会へと臨みます」

 

 死んだ目で淡々と、どっかの有頂天の涙ぐましい努力と壁の物語を語る。

 うぅ色々と影で頑張ってたんだね天子ちゃん。……今の天子ちゃんを見る限り、その努力の成果は一切なかったみたいだけど、努力は裏切らないとか何とかだから、もっと頑張ってね! 絶対に育たないと思うけど!(←下種の極み博麗)

 

「誰がペチャパイよ! しっしかも、こんな大勢の前で何てこと言ってるのよ、お前ぇ!」

 

 憤慨する天子ちゃん。……乳酸菌取ってるぅ~?↑

 

「これからどんな顔して幻想郷を歩けばいいのよっ!」

「恥が服を着て歩いている天人である貴女様からそんな言葉が出るとは。……成長したのですね、総領娘様。衣玖は、衣玖は嬉しゅうございます。よよよ」

「ねぇあたしをイジメてそんなに楽しい!?」

「イジメるも何も…… 事 実 ですから、しょうがないでしょう?」

「無いわけじゃないもん! ちゃんと揉めるくらいにはあるもん! だからペチャパイとか絶壁って言うなぁぁぁ!」

 

 揉むではなく、摘まむでは? れーむとかいう名のボブだと思い込んでるジョニーの振りをしたマイケル(アンダーソン)は訝しんだ。

 というか、胸が大きい天子ちゃんは解釈違いなので、いつまでもそのまんまのひんぬー天子ちゃんのままでいてくれ。

 ひんぬーであることを嘆き、愛らしくバタバタとしている天子ちゃんこそ至高なのだ。……大は小を兼ねるが、貧は乳を平定するのだ。

 つまり平坦であるということは、そのまま山も谷もなく、凹凸がないことで荒れることなく、なだらかに直線を描くことで争いなど何処にもないということなのだ。

 ぶっちゃけ、おっきくてもちいさくても、おっぺーはおっぺーだから貴賤なんてないのさ(おっぺーソムリエ四段なミカン)。

 

「あたしにだってちゃんとおっぱいあるもん! おっぱいあるんだもんっ! おっぱいあるんだからぁぁぁ!」

「総領娘様、漫才中でございますよ?……あ、それと人の夢と書いて儚いって読むって知っていますか?」

「え、それ何で今言ったの?」

「……お可哀そうに」

 

 ハンカチを取り出して目元を拭く衣玖サン。……中々に煽り力が高いね。そのハンカチください(ふんたー見習い)。

 

「は? 殺すわよ?」

「ところで総領娘様、貧乳という生き物は、常日頃から余裕がない故に無駄に沸点が低いそうですよ」

「じょっ冗談、冗談よ! 冗談に決まってるじゃない! あっあたしは貧乳じゃないし優しいから、これくらいじゃ怒らないわ!……貧乳じゃないしね!」

「……うわぁ、ちょろ」

「ん、何か言った?」

「いえ、何も……この主ちょろすぎて、うわぁ雑魚い雑魚いなどとはほんの少しも思っておりませんわ」

「おい、テメェちょっと表に出ろ」

「既に表ですが?」

「あぁぁぁぁぁもうっ!」

 

 煽りに煽る衣玖サンと、そんな衣玖サンに憤慨し、まんまと騙される天子ちゃんの様子を見て、広場に集まった観客達は声を上げて笑っている。

 まぁ私もその一人なんだけどね。……お腹抱えて笑うのは、流石にちょっとはしたないからクスクスって控えめに微笑んでいるけども(←はしたないの権化)。

 

「そんな事より総領娘様」

「何よ!」

「レッツミュージックターイムッ♪」

「はぁ!?」

 

 ちゃんちゃんちゃん♪ ちゃんちゃんちゃん♪ ちゃんちゃんちゃんちゃん♪

 

「は、え? ちょ、このネタはやらn」

「おや、審査員の霊夢が此方を見てますよ?」

「っ!?……あっあーたしーは天界の天子ー、煽りまくる従者とー桃を食って暮ーらしーてるー」

 

 戸惑っていた様子だったけど、衣玖サンに耳打ちされて気を取り直したのか、天子ちゃんは歌い始めた。

 

「気質の剣を落としてー、無くした剣をさーがすためー、噂を頼りにやってきたー……この森の何処かに緋想の剣がある筈よ、何処? 何処なの? 何処にあるの?」

「追ーいついたぞ私がー、なーやめる主を救うー、ひっそり着いてきたー衣玖サンだぁー」

「わぁ!? 衣玖ぅ!? わぁ!?」

「必死に探すお前のー、無様な姿に胸打たれー、おー前を助けにやーってきたー」

「お前って言うな! 丁度良いわ! アンタの力貸しなさいー!」

「貴女の望み、一つだけ叶えまーしょー」

「なーらーばー!」

 

 天界コンビのミュージカルな漫才に思わず聴き入ってしまう。……取り敢えず衣玖サン、そのギター何処から出したん?

 

「大きなパイオツを下さいー!」

「ん?」

「大きなパイオツを下さいー!」

「は?(威圧)」

「ボタンが弾けるくらいのー!」

「何言ってるんでしょう、このお馬鹿」

「大きなパイオツをあたしに下さいー!」

「……はぁ」

 

 天子ちゃん自分で言ってて恥ずかしいのか顔が真っ赤だね。……天子ちゃん自身の本意ではないことがよく分かる。

 改心したとはいえ、プライドの高い天人である彼女にとって自分のコンプレックスを盛大に取り入れたネタを使うのはかなり勇気のいる事だっただろう。……天子ちゃんのバストに敬礼。

 恐らくこのネタを考えたのは衣玖サンか。……ヒデェことしやがる(ナイスゥ!)。

 

「そうじゃないでしょー? 話が違うー、緋想の剣はどうしたー?」

「そうよ、そうだった! 緋想の剣が一番大事ー! だーけーどー!」

「ん?」

「大きなパイオツを下さいー!」

「またですか」

「大きなパイオツを下さいー!」

「いい加減にしなさい」

「道行く人が二度見するー!」

「ある意味で二度見される胸ですが?」

「大きなパイオツをあたしに下さいー!(半泣き)」

「泣かないで下さい、見苦しい」

 

 勿論天子ちゃんのバストなら私はガン見するけどね。……あの小さくて控えめなほんの僅かな膨らみが素晴らしいんでしょうが! あのロリ妖精であるチルノちゃんや、吸血鬼ロリのスカーレット姉妹にすら劣る弱小バストであるからこそぉ! 希少で至宝で尊いんでしょうがぁ!

 あの胸は天子ちゃんが天子ちゃんであるからこその唯一無二の個性であり、天子ちゃんが天子ちゃんを構成している重要な要素にして、最大の魅力なのだから是非とも大事にして欲しい。……いっそのこと、あのバストに誇りが持てるように、この私自らの手で色々と称え、崇め奉るべきでわ(みっこみっこにしてやんよぉ)?

 

「もう帰りますー! 貴女の後をー! 着いてきた私が馬鹿だったー!」

「嘘よ、嘘なのよー! 一緒に剣を探して下さいー! お願いしーまーすー!」

「分かりました、最初からそう言っt」

「つーいでーにー」

「はい?」

「大きなパイオツを下さいー!」

「ついでとは?」

「大きなパイオツを下さいー!」

「あの、聞いてます?」

「枕に使えるくらいのー!」

「……そろそろしばきますよ?」

「大きなパイオツを私に下さいー!」

「……はぁ」

 

 しつこい天子ちゃん(顔真っ赤)に嘆息して、ギターを一旦止める衣玖サン。……そして、曲調が変化する。

 

「天子よー、パイオツはー、大きさではーないー

大きさーのことをー、気ーにしーてるのはー、お前だけだー、お前だけだー、すべーてーは

愛さーえあればー、愛さーえあればー、心満たされー、やーさしさー溢れだーす」

「「あーいさえあればー、あーいさえあればー」」

「愛にーまーさるものーなどー……なーいのーd「そーれーよーりーもぉー!」……あ?(威圧)」

 

 ネタとは言え、かつて此処まで巨乳になりたいと叫んだ天人がいただろうか? いや、いない。……全く、自分の魅力が分かっていない娘には困ったものだね。

 揉むほどなかったとしても、それが美少女の胸であるなら、もうそれだけでこの世のどんな宝にも勝る至高の宝になるんだよ。ましてや天子ちゃんの胸はこの幻想郷でも唯一無二、なだらかに築き上げられた比那名居一族がこの世界に生み出した天界の宝物なのだ。

 それをどうして嘆き悲しむ事があるのだ。誇りに思えば良いじゃないか。確かに膨らみはないのだろう。平均値よりも遥かに下、幼女にすら敗北する大きさなのだろう。……だが、それがどうしたというのだ。大きさではない。貧乳だろうが、巨乳だろうが、胸があるという事実そのものが重要なのだ。

 

 つまり何が言いたいのか……天子ちゃんはひんぬーかわいい、ただそれだけである。

 そもそも、如何に小さい胸だとしても揉もうと思えば揉めるのだよ。……後、貧乳のほうが感度は良いってエロい人も言ってたし、天子ちゃんもきっと感度が良いはずだからそれだけで、並みの巨乳には余裕で勝てると思う。

 

「大きなパイオツを下さいー!」

「またそれですか」

「大きなパイオツを下さいー!」

「全然響いていないみたいですね」

「愛とか優しさなどいらぬッッッ!(劇画タッチ)」

「何処の世紀末ですか?」

「大きなパイオツをあたしに下さいー!」

「もう知りません、勝手になさってください」

「待゛っで頂゛戴゛ー衣゛玖ぢゃん゛ー! 待゛っで頂゛戴゛ー衣゛玖゛ぢゃん゛ー! 待゛っで頂゛戴゛ー衣゛玖゛ぢゃん゛ー!……(号泣)」

 

 羞恥に耐えきれず、最後の最後で泣きながら衣玖サンの後を追って退場していった天子ちゃん。本当に色んな意味で頑張ったね、お疲れ様だ。……後で労ってあげねば(胸を揉み解す的な意味で)

 

「文字通り身を切りながらの突き抜けた漫才でございましたね! ではでは、気になる得点は!?」

「え?」

「え? ではなく、何点なんですか?」

「ふむ、難しい。実に難しい質問だな文。これは非常に哲学的で、とても複雑かつ難解な問題だ」

「いやいや、普通に百点満点中の何点か答えてくださいよ。此処に集まっている皆さんも霊夢さんの得点を楽しみにしているんですよ?」

「むぅ、だが普通に数字の羅列をするだけでは、面白くないだろう」

「点数に面白さは求めていません。イイから速く て! ん! す! う!」

「あやや……ごほんっ! いきゅいきゅ天子ちゃんの得点は──」

 

──修羅道至高天ッッ!

 

「……言った側からこの様ですか?」

「点数は私の匙加減で決める。数字であるかどうかも私が決める。異論反論は断じて認めぬ、この笑劇の場では私が法だ、黙して従え」

「はぁ、もう良いです。どうせ言っても聞かないんでしょうし……それで、意味は何なんですか?」

「修羅道至高天──それは永遠に繰り返される闘争によって支配された修羅の宇宙。愛すべからざる光(メフィストフェレス)の魔名を持つ黄金の獣によって齎されたヴァルハラである。……この世の総てを愛している、故に全てを破壊する。全力を出したい。全力で総てを愛したいとする彼の渇望は、やがて世界を侵食し、法則すらも塗り替えていく。……故に今宵の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう、あくたえすとふぁーぶら」

「ちょっと何言ってるのか分からないです」

「私は総てを愛している。……故にお前も破壊(意味深)する!」

「むぐぅぅぅぅぅ!?」

 

 我が(かいな)に抱かれて果てるが良い、愛しき鴉よ。

 

 我が愛は破戒の情。

 まず感じたのは『絶賛』──求めしものは全霊の交わり

 ああ なぜだ なぜ耐えられぬ 抱擁どころか 柔肌を撫でただけでなぜ壊れりゅ なんたる無情──森羅万象 この世の幻想は総じて繊細にすぎるから

 愛でるためにまずは犯そう 生を想え 世界の果てを匍匐しろ

 私は総てを愛している──百合道・至尊伝

 

 エロスの日 開幕の時 天地万物は愛人と化し

 愚梨と蔵のお話のごとくにほのぼのる

 たとえどれほどの滑稽さが待ちうけようとも、(性)犯罪者が来たり

 厳しく犯され 一つ余さず萌え萌え滾る

 我が愛人に響き渡れ 妙なる快感 開戦(意味深)の号砲よ

 皆すべからく 我が胸元に集うべし

 彼の日 全裸か着衣の迷いを 卿ら 愛より 悟らん

 さればマリアよ その時乙女を見守りたまえ

 いと尊き者らよ 今永遠の性を与える ラァメェ

 

 流出Atziluth――

 

「──混沌より昂れエロスの日

 

 それは『総て(の美少女を)全力で愛したい(意味深)』という魔(乳)の宇宙。

 ただ一人の人間が昂らせる欲望が世界の法則すらも犯し塗り替えていく。染め上げられた法則に囚われた少女達は、この世界に存在している限り、私が望んだその瞬間に、私のおっぺぇに強制的に挟まり、その奥深くに顔を埋めることになるのである。

 例えこの星の反対側に居ようと、次元の壁を隔てていようとも関係はない。この私が認識し、そうであれと望んだ瞬間から、少女達は私が愛し慈しむ存在となり、私のおっぺぇに包まれるのだ。……故に、あややと反抗する余地すらなく、文ちゃんの可愛らしいお顔は、私の胸に強制的に埋まっているのである。

 

「もがぁっ!? もがぁ!」

「んっ!?……あまり動くな文、擽ったいだろう」

 

 文ちゃんの顔面を押さえつけ、頭をなでりこなでりこする。いやー文ちゃんの髪の毛スベスベで気持ちが良いですわー、これなら世界の終わりが来るまで延々となでりこ出来る自信がありますわー。

 え、窒息の心配? そんな危険なんてあるわけないでしょう。ちゃーんと文ちゃんが呼吸できるように気道も確保しているに決まっている。密着してるから私の体臭を直接体内に取り込むことになるがな!

 あぁ、文ちゃんの鼻や口から入った私のスメルに含まれる酸素が、文ちゃんの肺に吸収され、血液循環して細胞に取り込まれていくのが分かる。……私と文ちゃんはまさに今この瞬間、深く繋がっているのだ! これはもうS◯Xと言っても良いのでは?

 

「とは言え、このままでは進行に差し支えるな。……仕方がない。非常に、非常に残念だが今回はこのくらいにしておくとしよう」

「ぷはぁーっ! い、いきにゃりにゃにしゅるんでしゅかぁー!」

 

 顔真っ赤だね、これが所謂天狗面ってやつか。……アハハ、おもしろ(百点満点中五点)。

 何するって言われてもねぇー、文ちゃんが文ちゃんであるが故に、私の内側にある修羅道が怒りの日しちゃった(はぁと)としか言いようがないんだけどねぇ。

 ぶっちゃけると、文ちゃんが私の採点方法に異議を申し立てたので、イライラ(魔羅的な意味で)して物理的に黙らせました。おまいをぉー抱ぎだがっだんだぁーわだじぃゔぁ!

 反省はしよう、だが後悔はしない。むしろ航海したい、今すぐに女体という大海原の果てへと大航海したい。

 

 ありったけの胸をぉー! 揉み集めぇー! 捜しモノをぉ探しにぃゆくのさぁー! まんピーー!

 

 さて、ふざけるのはこのくらいにしておこう。いい加減に進めないと、集まってくれた皆(美少女)に申し訳ないからね。……野郎共? 知らん。

 

「分かった分かった。ほら、お客様がお待ちだぞ?」

「うぅ、この鬼畜巫女めぇ!……こ、こほんっそれではお次はこの方々です!」

 

 まだまだ宴は始まったばかりだからね、どんどん盛り上がっていこうね。私も色々と盛り上がっているよ(意味深)。

 

「幻想郷にやってきたぁ守矢が誇る最終兵器ぃ! この世総ての常識すらも打ち破る、奇跡の体現者がぁ! 笑いの奇跡を巻き起こすぅー! 現人神ぃぃぃ! 傲慢なる奇跡ぃーッ!」

 

──こぉちやぁぁぁさなえぇぇぇ!!

 

「ふっふっふっー、奇跡の漫才というのを見せてやりますよ!」

 

 ノーマル早苗って意外とレアリティ高いよね。

 最近、傲慢モードしか見ないから逆に新鮮で魅力的だ。……まぁ、どうせ漫才とか関係なくすぐに傲慢モード発動して、それが奇跡()とかするんだろ? 私は詳しいんだ。

 

「イエーイ」ピースピース

 

 ハハッ、はしゃぎおる。

 あのエネルギッシュ加減はとてもではないが真似できないねー(……と生まれて落ちて十と四年が申しております)。流石は元祖JK。この幻想郷に新たな息吹を感じさせてくれる最高の逸材だ。

 

「地底の底で開花したぁ悪の権化が牙を剥くぅ! 嫉妬の極限、人類種の天敵ぃ! その見上げる緑眼がぁ! 恐怖の感情を掻き立てるぅ! 嫉妬妖怪ぃ! 緑眼の者ぉぉぉ!」

 

──みずはしぃぃぃぱぁぁぁるすぃぃぃ!!

 

「早苗に誘われたし、霊夢にお願いされたから出てみたけど……うぅ、こんな大勢って聞いていないわよ」

 

 ちょっとモジモジしてんのすっごくポイント高い。

 誰かに嫉妬するのを生業とするジェラシーガールだけど、パルスィちゃんってそこらの美少女より圧倒的に愛らしくてあざといから、明らかに嫉妬される側なのよね。……本人にその自覚ないみたいだけどね! パルパル(される方)の化身だね!

 

「ガンバルゾイッ」グッ

 

 あざとさがパルパルっ! 以上!(かぁーっ、見んねぇ! まっことかわいかおんなばいっ!)

 

「二人合わせてぇぇぇ! ジェラシィィィミラクルだぁぁぁ!」

 

 嫉妬する奇跡か、中々洒落た名前ですな。……およよ?

 

「だーれだ♪」

 

 背後から何者かが私の目を塞いできた。柔らかな手の平の感触が私の瞼を刺激し、芳しい乙女の香りが私の鼻孔を擽ってくる。

 声から察するに私の背後を取っているのは女性だな、コロコロと胡散臭げに笑っているから相当の策士と思われる。……いっいったい何処の綺麗なおねえさんなんだ!?

 

「……紫か」

「うふふっ、正解よ。流石は霊夢ね」

「こんな悪戯をするのはお前しか考えられん」

 

 もうゆかりんってばぁー悪戯っ子なんだからぁー。

 そうです。私の育ての親にして、幻想郷一綺麗で素敵なスキマのお姉様、八雲ゆかりんさんじゅうななさいが現れたのでございます。

 ゆかりんは背後から私に抱き付き、肩口から顔を覗かせている。まさにあざとさの極み、これで数千年生きてるっていうんだから、妖怪って本当にズルっこい生き物だと思うよ。

 

「いきなりどうしたんだ? この時期はまだ寝ている筈だが?」

「私がぐっすりと眠っている間に、何だか面白そうな事してるじゃない? 仲間外れはい・や・よ♪」

「仲間外れにしたつもりはないが。……まぁ良い」

 

 指パッチンで、足りない椅子を呼び寄せる。指を鳴らせば魔法が叶うって、それファンタジーの常識だから。

 

「ほら、此処に座れ」

「話が分かるわね! 流石は私の愛弟子! ご褒美にギュッてしてあげる!」

「……前が見えぬ」

 

 柔らかい双丘のせいでな! ゆかりんが持つ暴力的な果物が私の視界を遮っているせいで全く前が見えないな! あぁ、安心しゅりゅうぅ、ゆかりんのにほい安心しゅりゅにょぉぉぉ!

 小さい時から嗅ぎ慣れている匂いは、何とも言えない安心感でこの身を包み込み、遠い遠い夢の彼方へと私の意識を誘っていく。今度から寝る時はゆかりんに抱き締めて貰おうかな? めがっさ安眠できること間違いなしやでコレ。

 

「そこの師弟! イチャイチャしないでください、目の毒です! はーなーれーてー!」

 

 見かねた文ちゃんが、私に抱きついているゆかりんを引き剥がす。お陰様で視界が正常に戻った。しかし、この胸に去来する虚無感は、一体?

 でも、文ちゃんが顔真っ赤にして憤慨してるの可愛いので、プラスマイナスゼロという事で満足してあげることにする。何様だって? 私は、私だぁ〜!

 

「あら、毒とは酷い言い分ね。そんなこと言って、本当は文も羨ましいんでしょう?……仕方がないわね、私は右側から抱きつくから、貴女には今回だけ特別に左側を貸してあげるわ」

「私は物ではないのだが……いや、何でもない」

 

 ゆかりんに物扱いされるってシチュエーションだけでお米三合余裕でパックンチョ出来る。でででっできれば、乱暴に扱って欲しいんだな。

 べ、別に私がドが付くMってわけじゃないんだからね! ちょっとだけ興奮するだけで、ゆかりんの物になれば、あーんなことやこーんなことは勿論、ゆかりんの椅子になったり、ゆかりんのお布団になったり、ゆかりんのゆかりんのゆかりんのゆかりんになったりするんだぁーッ!……ゆかりんの足拭きマットになりたい、博麗霊夢です。

 

「むふぅー!……では、このまま再開するとしましょうか」

「流石は幻想郷最速の文屋ね、ちゃっかりしてるわ」

 

 この性の博麗の目を持ってしても、文ちゃんという女を読めなかった。この娘の、萌えに萌え萌えした動きを……。

 気付いたら左腕にしがみついていた。私の動体視力を持ってしても、文ちゃんの動きが読めなかったのである。そ、そんな馬鹿ぁんな話があるかぁん! わ、私がっ! この博麗霊夢がっ! 負けたとでも言うのかっ!(茶番)

 嘘でーす、ぶっちゃけ見て回避余裕だったけど、避けたら文ちゃんが泣いちゃうかもなので、敢えて避けませんでした。さっすが私、空気が読めるイイ女ねっ!

 左側に抱き付いてきている文ちゃんは、むふぅーとでも擬音が付きそうな見事なドヤ顔を披露しながらマイクを片手に司会に戻っている。……この鴉天狗の愛らしさには流石の私も閉口せざるを得ないね。

 ところで諸君、文ちゃんはあややだから、ドヤ顔をしている文ちゃんは、どややでドヤァ?(輝く笑顔)

 

「しかし、あの早苗とパルスィがなぁ。招待した私が言うのもなんだが、意外だな」

「奇跡の体現者と、絶対悪にまで駆け上った嫉妬の化身ですものね。……見たところあの二人、随分と仲が良いみたいね」

「私が調べた情報によると、一緒にお茶したり、色々と人に話せない悪巧みをするくらいには仲が良いみたいですね」

 

 前に直接早苗に聞いてみたら「パルスィさんとは盟友ですからっ!」ってグッドボタン連打されたからね。さなパルとか新ジャンル過ぎて、私の博麗大結界が大決壊しちゃうわ。

 

「「……」」

 

 あれ? 何だか二人の機嫌がかなり悪い感じが……。

 

「「ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるッッ!!」」

 

 あ(察し)。

 

「か、会場が震えています! 二人の全身から吹き上がるオーラで、会場が震えています!」

「すぐに結界を張ったからこの程度で済んでいるが。……あのままだったら、会場が吹き飛んでいたな」

 

 余波だけで幻想郷はかるーく吹っ飛んでたね。相変わらず規模が可笑しくて草も生えない。

 

「「ね、妬ましいわぁぁぁぁぁ!!」」

 

 激震。

 

 嫉妬の感情を爆発させて、奇跡の体現者と、絶対悪たる嫉妬の化身が力の限りに叫ぶ!

 その凄まじさたるや、荒ぶる神の怒りすらも軽々と超越し、森羅万象の尽くを震撼させ、溢れんばかりの膨大な圧力で空間そのものを捻じ曲げてしまっている。

 

「私達が真面目に漫才をしようって時に、霊夢さんとイチャイチャイチャイチャとぉ!」

「煽ってるんでしょう? ねぇ煽ってるんでしょう? 嫉妬妖怪の前であんな事するってことは、そういうことでしょう? 妬み潰すぞ、あ゛ぁ!」

 

 上から押し潰すように、下から突き刺すように。某冒涜的な邪神達も素足で逃げ出すであろう恐ろしい眼力である。

 だってだって、パルスィちゃんは緑眼化一歩手前くらいの嫉妬エネルギーを全身から垂れ流しながらガチでブチ切ちゃってるし。早苗だって、奇跡の体現者の二つ名に恥じないとんでもレベルな圧力を吹き上げながら怒気を顕にしてるし。

 目の前のこれが最終決戦って言われたら、何も知らない人マジで信じちゃうよ。

 

「落ち着け、皆怯えているだろう」

「アンタらのイチャイチャ見せつけられて落ち着けるか馬鹿ぁ!」

「羨まけしからんとはこの事ですよ! 怒りますよ!? 早苗ちゃんカム着火インフェルノォォォしちゃいますよ!?」

 

 ちなみ怒り表現の神級は激おこスティックファイナリティぷんぷんドリームらしい(古)。

 駄目だこりゃ、二人とも怒りに飲まれてて全く話が通じない。……こりゃあ一回正気に戻すためにちょっとだけガチで仕置きしないと駄目かな?(下ネタ)

 

「そこのお二人さんに提案があるのだけど……」

「何よスキマ妖怪」

「良いご身分ですよねぇ紫さんは、私達が必死にひーこらと漫才やってる間、ずーっと霊夢さんと思いっきりイチャつけるんですから」

「まぁ話を聞きなさいな。……ちゃんと漫才できたら、と・く・べ・つ・に、この位置変わってあげても良いわよ?」

 

 扇を開けば、其処には随分と達筆に「報酬」の二文字が描かれていた。

 

「報酬、報酬ですか。……パルスィさん、此処は一旦怒りを収めて落ち着きましょうか」

「そうね早苗、さっさと終わらせるわよ……ホウシュウホウシュウホウシュウ!」

 

 ゆかりんによる鶴の一声で、一瞬で怒りが沈静化された。……流石に幻想郷の賢者は伊達ではないと言ったところか(何から目線)。

 そもそもどうして私がゆかりんとあややってイチャついて、二人がパルパルしてたのかが分からない。私が友人同士でキャッキャウフフするのはいつものことだろうに。

 

「霊夢はそういうところ本当に鈍感で可愛いわ〜」

「むぅ、何故撫でる」

「霊夢さんってしっかりしているようで、結構抜けてますからね」

「文も止めろ、そんな目で私を見るな」

 

 むむむ、この乙女とキャッキャウフフに関しては百戦錬磨の霊夢ちゃんを捕まえて鈍感とは?

 や、やめろぉーそんな「しょうがないなぁ」って感じの目で私を見るのをヤメルンダァー! 何か恥ずかっ恥ずかしっ! ナニコレ!? 予想以上に恥ずかしっ!? ま、まるで自分の性癖を仲が良い子に知られてしまった時の何とも言えない生暖かい視線的な威力を感じるぅぅぅ!?

 

「う、うぅ」

「あらあら、拗ねっちゃたわごめんなさいね」

「流石は紫さんですね、霊夢さんの師匠兼育ての親は伊達ではないという事ですか」

 

 もぉ霊夢知らない! 早苗とパルスィちゃん見るもん!

 

「霊夢さんの膨れっ面も見れましたし、準備も整ったみたいなので、改めまして、ジェラシーミラクルのお二人です! どうぞ!」

 

 知らないもん! ぷんすこ!……ふぅ、気持ちを切り替えてネタに集中する。

 

「いきなりだけど早苗」

「はい、何でしょうかパルスィさん」

「妬ましいが足りない」

「いきなりどうしたんですか?」

「いやね、最近の幻想郷は質の良い妬ましさが足りない」

「さっき嫉妬してたじゃないですか、アレじゃ駄目なんですか?」

「アレは私自身の嫉妬だから駄目よ」

「じゃあ私のは?」

「盟友から摂るほど私は落ちぶれてないわよ」

 

 自分由来の嫉妬は駄目だし、盟友である早苗から摂取するのも心情的に駄目らしい。

 

「そもそも嫉妬心に質とかあるんですか?」

「勿論あるわよ」

「例えば?」

「近所の子供の「友達が新しいおもちゃを買ったのを羨んでいる(妬んでる)」みたいな奴なら、大体五十〜百キロカロリー、隣の家のモテ女を呪いたいほど恨んでいる女の嫉妬が大体一万キロカロリーね」

「へぇどうしてその極端な二つを並べたのか分かりませんが、取り敢えず基準はあるんですね」

「ちなみに私が一日に摂取しないといけない嫉妬カロリーは大体十万キロカロリーね」

「わぉ女のドロドロした感情十倍分。……二重の意味でよく胃もたれしませんねパルスィさん」

「私、燃費悪いので」

 

 ドクターなんちゃら風。

 

「本当に死活問題よ、全く足りてないの。需要に供給が追い付いてないわ。時代が時代なら一揆よ、一揆」

「出ました一揆、百姓の本気です」

「今思えば私が妖怪になる前の頃の人間は滅茶苦茶可笑しかったわ。やたら燕を切ろうとする農民やら、怪異殺しの専門家の無駄乳お化け、その無駄乳の部下であるやたらゴールデンな武将、恨み辛みで怒り狂って嘘つき絶対コロシテヤルって感じに化けて出たお姫様……色々、いたわ(遠い目)」

「ドン引きです」

 

 い、一体何処の型○時空の話なんだー(棒)……時代背景が滅茶苦茶なのは多分仕様だと思う(メメタァ)

 

「そんな輩に一揆起こされたら幻想郷なくなっちゃうじゃないですか」

「今ならもれなく酔っ払わせた鬼の四天王とかも付いてくる勢いよ」

 

 圧制者絶対死ぬんですね、分かります。

 

「分かりました。そんなに欲しいのなら、この私が一肌脱いでやりましょう」

「貴女に解決できるの?」

「私を誰だと思ってるんですか、この幻想郷の奇跡を司る女──早苗様だぞ?(渾身の傲慢スマイル)」

 

 キャァァァ早苗様素敵ィィィ抱いてェェェ!

 今まで見せていた見た目相応の乙女ムーブからは全く想像も出来ないその力強い眼差し、傲慢に満ち満ちた自信たっぷりの笑みがギャップ萌えという強力極まりない魅力となって、私のハートを鷲掴みしゅる。

 はぁはぁ、やっやだわたしってば、こんな人前でッ! く、悔しいでもっでもっ感じちゃうにょぉぉぉ!……早苗ってば、漫才中に私に向かって流し目なんてするから霊夢さんの霊夢さんが霊力充填百二十パーセントォォォしちゃったじゃないの!

 

「で、具体的に何をするの?」

「簡単です、私の奇跡の力で以て、パルスィさんが満足する嫉妬を提供させていただきます」

「出たわ、困った時の奇跡の力」

 

 スゴイな、まるでドラ◯ンボールだ。

 

「どんな嫉妬が欲しいですか?」

「まるでお店でご飯を注文するみたいに言うのね」

「嫉妬専門店『麗しき奇跡亭』ってどうでしょう?」

 

 少なくとも私は毎日通うな。

 

「じゃあ、先ずは怒りが強い嫉妬を頼むわ」

「畏まりました、この東風谷早苗の手に掛かれば、嫉妬の一つや二つ──」

 

──エマタエナカヲイガネ、ラカチノキセキガワ……。

 

「ユ・ル・サ・ナ・エェェェ!」

「え、呪文ダサくない?」

 

 ダサいです(無慈悲)。

 早苗の呪文と共に、光の柱が天から降り注ぎ、パルスィちゃんと早苗がいる舞台の方へと到達する。

 

「これは……写真?」

「霊夢さんのちょっぴり恥ずかしい写真です」

 

 は? え、ちょm

 

「同じ写真が二枚もありますので、盟友であるパルスィさんにも一枚贈呈致しましょう」

「あ、ありがとう」

「次に、写真をしっかりと見つめて下さい」

「こっこれはスゴイわね」

「はい、スゴイですね。……どうしよう、鼻血が止まらないです」ボタボタ

 

 取り敢えず鼻を拭いてどうぞ。……いや、その前にどんな写真なの? え、どんな写真なの? 待って本当にうわ恥かしいぴゃあぁぁぁ!

 何度も言ってるじゃないか! 私は攻めるのは良いけど、攻められるのは駄目だとぉ! こんな公衆の目があるところで、私の恥ずかしい写真を持ってくるとかどんな羞恥プレイだよぉぉぉ! きゃあぁぁぁん!

 

「良いですか、パルスィさん。この写真をこうします」

 

 ペロリ。

 

 【悲報】早苗、私の写真を舐める【公衆の面前】……ふぇぇぇもぉやだよぉ。恥ずかしいぃよぉ。

 

「ちょっと早苗!? いっいきなりナニをっ!?」

「見て下さい」

「へ?……え、こっこれは!?」

 

 周囲を見渡して絶句するパルスィちゃん。……そりゃそうでしょう。

 

「「ぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱるぱる!!」」

 

 この場にいる殆どの者が血涙を流さん勢いで、怒りが混じった嫉妬の感情を垂れ流しているのだから。……これ、何ていう地獄絵図?

 私はこれでも、この幻想郷でも希少価値の高い最高峰の超絶美少女(外側のみ)。……そんな美少女である私の相当アレな写真に、変態チックな行為されて怒り狂わない奴がいないわけがない。

 具体的に言うならば、世界中で人気を博すトップアイドルの胸を全国放送で揉みしだいた挙句、ブラを剥ぎ取って帽子代わりに引っ被り、煽りの呼吸を極めながら逃走するくらいの勢いでヤバイ変態行為なのである。

 

「へぇ? 霊夢の(際どい)写真にあんな事を、ねぇ?」

 

 目からハイライトを消失させながらドス黒い感情を吐き出す我が育ての親。

 

「司会の文です。司会の文です。司会の文です。司会の文です。司会の文です。……司会の、司会の司会の司会の司会の司会の文なんなんなんですですですででですよォォォ!」

 

 何だかヤバイ具合に壊れたご様子の幻想郷最速の文屋。

 私の横で漫才を見ていた二人もどうやら憤りを隠せないみたいだね。……ま、まぁゆかりんは私の親みたいなものだし、娘にふしだらな行為をしてくる輩が許せないとかそんな感じの親心だと思う。文ちゃんは多分、写真にペロペロしたのが純粋に許せないんでしょうね、彼女自分の記事で使っている写真とかにはこだわりとかありそうだし(節穴)。

 

「大惨事じゃないの!」

「反省はしましょう、ですが後悔は微塵もありません。……さぁパルスィさん! 遠慮することはありません! この場に溢れる嫉妬を思う存分吸収するのです!」

「量にして軽く数千万を超えているコレを食えと!? お腹弾け飛ぶわ!」

 

 過食は体に毒なんやで。……いや、嫉妬の食い過ぎでぽっちゃりしちゃったパルスィちゃんか、有りか無しかで言えば有りだな、採用。

 幻想郷の女の子は多少太ったとしても余裕で愛せる自信がある。何なら元の体型に戻るまで一緒に運動(意味深)すれば私も楽しめるしねぇ。

 

「ほらどうした、食えよ盟友。貴女の大好きな嫉妬ですよ、ほら」

「このっ、そろそろ本気でしばくわよっ早苗ぇ!」

「何と、まだまだ足りないと申しますか、パルスィさんのいやしんぼ!」

「お前ぇぇぇェェェエエエ!!」

 

 これ以上ない煽り顔、私じゃなきゃ殴ってるくらいうぜぇうぜぇ。まさか早苗にこんな特技があったとはね。

 強引に奇跡を押し付け、相手の神経を逆撫でにする施し(ありがた迷惑)。……ねぇ見てよ、パルスィちゃんのあの顔、ネタとはいえ、結構本気でブチ切れなさってやがりますわ。

 

「仕方がないので、この東風谷早苗、更にもう一肌脱いで差し上げましょう」

「やめっ……ヤメロォー!」

「エマタエナカー……あーめんどいので省略して! ユ・ル・サ・ナ・エェェェ!」

 

 早苗は自分で作った呪文設定を秒で投げ捨てて奇跡の力を行使する。……残念だ、早苗のダサダサ呪文が聞けないなんて。

 

「それは、まさか」

「ええ、そのまさかですよ」

 

 早苗の手元にあるアレはッまさかッ!?

 

「えぇ、そのまさかですよ、パルスィさん。……これは──」

 

 動悸が激しくなり、顔に熱が集中していく。身体が物凄い勢いで震え出し、目の前に広がる現実を直視したくないと言わんばかりに視界がブレ始める。

 

 早苗、それは、それだけはっそれだけはっ勘弁しtッ

 

「──霊夢さんのおぱんちゅですっ!」

「ッッッ!?」

 

 ぎゃあぁぁぁぁぁすっ!? 恥ずかしい写真に続いてにゃんてものをぉぉぉ!? しかもそれぇぇぇ! それぇぇぇえええ!!

 

「驚いたことに、何とこれ……脱ぎたてです」

「うっそでしょ早苗」

 

 下半身に感じる圧倒的な違和感。袴の隙間から風がスーッスーッと入り込み、私の心に不安が募り始める。……今、私という乙女の秘密を守ってくれる純白の守護者は何処にもいない。完全な無防備を晒してしまっている。

 

「早苗ぇぇぇ! それは流石にアウトでしょうがぁぁぁ!」

「これは異なことを申しますね。良いですかパルスィさん、これは奇跡が導き出した最適解です! 奇跡の力は全てにおいて絶対ッ! つまり、奇跡の力によって霊夢さんの脱ぎたておぱんちゅが召喚されたとしても何も問題はございませんっ!」

「問題しかないわ! 見なさいよ審査員席の霊夢を! 羞恥で真っ赤になるの通り越して燃えちゃってるじゃないの!」

 

 はわわわ! 熱い熱い熱いっ! 羞恥で身体中が熱くて熱くて燃え上がってしまいそうっ!(物理的にも燃えてる)。

 

「あはははっ! 見てくださいよパルスィさん、あの可愛らしい霊夢さんの表情をっ! あの完全無欠な霊夢さんのっ! 究極的に可愛らしいあのお顔をっ!」

「くっ悔しいけど同意せざる得ないわ! 羞恥の余り目を回し動揺してる霊夢は確かに可愛い!」

 

 やめてよね。本気で辱しめられたら、私が君たちに勝てるわけがないじゃないか。

 

「そして、残念ですね! この霊夢さんの極上な羞恥心を引き出すことが出来るのは……この私の奇跡の力しかありません」

「「ッッッ!?」」

 

 会場が震撼する。

 早苗は、東風谷早苗という女は何時でも何処でも奇跡を願えば、博麗霊夢を自由自在に辱しめる事が出来る恐ろしい力を有しているのだと。……別に何でも良いけど、これ以上辱しめを受けたら流石の私でも恥ずかしさの余り蒸発するぞ、おらぁ。

 

「嘘だッッッ!」

「早苗だけの特権……こんな、こんな妬ましいことが他にあるのかっ!」

「あたいさいきょーだけど、奇跡は無理だったよ! ガッデムホォォォットォ!」

「「ぱるぱるぱるぱるぱるパルパルパルパルパルっっっ!」」

 

 会場中の乙女達が咆哮している。

 守矢の神々が、氷の妖精が……ありとあらゆる種族の乙女達が血を吐かんばかりの勢いで、心の底からどうでも良いことを全力で叫んでいる。

 種族の壁なぞ関係ない。この場にいる全員が共通の想いで吼えている。……何コイツらヤベェ(本日のテメェが言うな案件)。

 

「ふっふっふっ、刮目してごらんなさいパルスィさん、これが悲しみに満ち満ちた嫉妬です! さぁ存分にお食べなさい!」

「だから無理だって言ってるだろうが、この阿呆」

「これこそが奇跡(ミラクル)、偉大なる我が力!」

「は・な・し・を・聞・け!」

 

 早苗はまさにゴーイングマイウェイ。最早誰にも止められない。

 

「さぁて、次は何を……もといナニをして差し上げましょうか」

 

 傲慢に、妖艶に。興奮で頬を朱に染めながら、全身から溢れんばかりの劣情を放出させている奇跡の体現者、名は早苗。

 私の下着を剥ぎ取る以上のナニって何だ。あんまりな目力に流石の私でも身の危険を感じざるを得ない。

 具体的には巫女の一点の穢れなき柔肌がこの場で晒されてしまいそうな予感がする。……全部っ全部持っていかれてしまうッ!

 

「奇跡を唱えましょう。奇跡を(うた)いましょう。……我が奇跡で以て、霊夢さんの秘密を全て露にしてしまいましょう」

「……ヒェッ」

 

 足がすくんじゃう、だって女の子だもん。

 あぁこのまま私は公の場で全てを晒されてしまうのね。あの傲慢な女に全てを暴かれてしまうのね。

 ちくせう何時もなら反撃でお仕置きするから、ここまでの辱しめは受けないのに。お仕置きしようにも漫才中だから手を出せぬ。……ぐぬぬ、くっころぉ!

 

「ぐへへっ! れ・い・むさぁ~ん!」

 

 下衆顔を晒しながら、両手をワキワキさせて近付いてくる早苗に、流石の私でも(性的な)身の危険を感じざる得ない。……くっクルナァー!

 

「いい加減にしろぉぉぉ!」

「げっふぅぅぅ!?」

 

 えええぇぇぇぇぇ!?……さっ早苗が上に吹っ飛んでいった。土手っ腹に素晴らしい一撃を食らってしまった為だ。

 

「ふぅーっ! ふぅーっ!……あぁぁぁ! スッキリしたぁ!」

 

 下手人は早苗の相方であるパルスィちゃんその人。好き勝手に暴れ続ける早苗の土手っ腹を、いつの間にか手に持っていた槍で凪ぎ払ったのだ。

 

 まさに一蹴。油断していたとはいえ、あの早苗が、傲慢なる奇跡が、ただの一撃でぶっ飛ばされた。

 

「って、え?……何っ、これ?」

 

 パルスィちゃんは戸惑いの表情を浮かべている。……無理もない。何故ならパルスィちゃんの姿は変化(かわ)ってしまっていたのだから。

 

 獅子の鬣の様に靡く長髪。緑色に煌々と光輝く両の瞳は瞳孔が開き、頬にかけて虎を思わせる模様が浮かび上がっている。

 その歯は牙へと変わり、あらゆるものを噛みちぎり砕いてしまうだろう。両手の爪はより鋭利に研ぎ澄まされ、触れただけで切り刻まれてしまいそうである。

 

「何です、パルスィさん……その、姿は」

 

 あの早苗も普段の傲慢さを綺麗さっぱりと引っ込めて、その顔に驚愕を張り付けている。

 それは当然だろう。からかっていた相方が、いきなり自分に匹敵しかねない領域まで変化を遂げてしまったのだから、驚かないわけがない。

 

「……成る程、そういうことか」

 

 周囲を見回して、パルスィちゃんの身に何が起こったのかを理解した。

 

「あーうー……頭、いたぁ」

「ぐぬぅ……さっ早苗ぇ、お前が滅茶苦茶するからだぞぉ」

「あたい、つかれたよー!」

 

 消えていた。

 

 あれほど荒れ狂っていた、愛と怒りと悲しみの嫉妬が全て綺麗さっぱりと消え去っていたのだ。急激な感情の変化により、観客の皆は一人残らず崩れ落ち、全身を襲う虚脱感に混乱している。

 

 この場に満ち満ちた怒りと哀しみの嫉妬心。

 

 パルスィちゃんは吸収したのだ。神が妖怪が人が、あらゆる存在達が生み出してしまった感情を吸収してしまったのだ。

 この場にあったありとあらゆる種族のごちゃごちゃちゃんぽんな嫉妬の感情を吸い取ってしまったのだ、何も起こらないわけがない。

 

「あの槍……凄まじいな」

 

 そして、パルスィちゃんがいつの間にか手に持っていた槍。……あれが相当ヤバげな代物だったりする。

 パルスィちゃんが吸収した怒りと哀しみの嫉妬。……二つのうち、怒りの嫉妬から作り出されたその槍は、対人外用の最終兵器だ。

 ただの一刺しで大抵の人外に致命傷を負わせ、持つ者には強靭な肉体と莫大な妖力を与えるだろう。

 

「ふ、ふふ、流石は我が盟友パルスィさん。此処にきて大きく化けましたね。……というか、食べきれないって言ってましたよね?」

「食った端から消費したに決まってんでしょうが! 馬鹿! ほんっと馬鹿!」

 

 パルスィちゃん曰く、吸収した瞬間にエネルギーを全て自分のパワーへと変化させていったらしい。

 (スーパー守矢神とかを含んだ)大量の嫉妬エナジーを存分に吸収していったのだ。……あんなデタラメちゃんぽんしたら、そりゃパルスィちゃんも強力進化しちゃうよね。

 

「こんな姿になるとは思わなかったけど、これであんたの暴走を止められるわ!」

「いだだだ!? いたっ痛いです、痛いですってパルスィさぁぁぁばばば!? 爪っ刺さってるぅぅぅ! 刺さってますからァァァ! 死んじゃう! 死んじゃいますぅぅぅ!」

 

 見事なアイアンクローが早苗の頭部を襲っている。……流石にお痛が過ぎたから博麗の巫女も弁護してあげない。

 公衆の面前で辱められて博麗の巫女、それなりにおこなので絶対に助けてあげない。……それよか、その手に握り締めているパンツ返して。

 

「貴女が好き勝手するから後のネタ全部飛んじゃったじゃないの! 観客もドン引きしてるし、いい加減にしなさいよ!」

「は、ははっ反省はしています、だけど後悔はしません……それと、霊夢さんのパンツも返しません。断固拒否します!」

「そう……ねぇ知ってる? 人間の頭部って圧力を掛けるとザクロみたいに弾け飛ぶらしいのよ」

「……」

……(ニ゛コ゛ォ゛)

 

 パルスィちゃんは、とってもえがおがきれいですね。

 

「……ぱ、パルスィさん」

「何かしら、早苗」

「調子こいてすいませんでした、何でもするので許して下さい(泣)」

 

 ん、今何でもするっt。

 パルスィちゃんの高度な交渉術(脅し)の前には流石の早苗でも無力だったようだ。……いや、一瞬だけ緑眼の目で超絶至近距離から睨みつけられたら誰でもSAN値チェック不可避だと思う。

 ちなみに私がパルスィちゃんの緑眼なお目々で睨みつけられたら、パルスィちゃんのことをもっと好きになって、緑眼と化したパルスィちゃんに大怪獣プロレスを吹っ掛けるかもしれないね。……はいはい、業が深い業が深い。

 

「……次やったら、生爪剥いだ後、傷口に五寸釘を打ち付けるから」

「……ヒィッ!」

 

 流石の早苗も今の状態だと、パルスィちゃんには逆らえないみたいだね。……まぁ、無理もないか、だって今の早苗って、かなり弱体化しているんだもの。

 

 今回、早苗は奇跡の力で二回ほど願いを叶えた。

 一つ目は、この世界には存在しない筈の、私の恥ずかしい瞬間を収めた写真を奇跡の力で強引に、この世界に生み出した事。

 二つ目は、実力が大きく掛け離れている存在に対して奇跡の力を行使し、その身に付けている衣服を、パンツを奪い取った事。

 特に最後に行ったパンツ剥ぎ取りが拙かった。……写真ならまだしも、パンツを剥ぎ取るということは、私に対して術を行使しているに等しい行為だ。

 そう、仮にも幻想郷最強の人間である私に対して術を行使してしまったのだ、色んな意味で最強な私にね。

 

「あぅ、こっ困りました。奇跡は暫く使えないですし、どっどうしましょう」

 

 奇跡の力を一切使えないただの人間。……それが早苗の現状である。

 私という存在から何かを奪うという許容範囲を大きく超えた奇跡は、早苗から一時的に奇跡の力を使えなくしていたのだ。……力を使い果たした早苗は最早何の抵抗も出来ない無力な少女でしかない。

 この場にいる誰よりも弱い、何の力も使えない現人神。……今の早苗では、それこそただの村人にすら容易く力負けしてしまうだろう。

 

「……」

 

 薄い本が厚くなりますねぇって事ですね、分かりmジュルリジュルリ。

 

「これってもしかしなくても、漫才終わったら、私とっても不味いことになるのでは!?」

「見なさい霊夢の顔を……まるで新しい玩具を買って貰った子供みたいにキラキラ輝いているわ。ざまぁないわね、早苗」

「パルスィさん、せめて後三時間くらい漫才引き伸ばしませんか? 私の一生のお願いです」

「……」

「……」

「ゆっくりして逝きなさい。……お疲れさまでしたぁぁぁぁぁ!」

「ですよねぇぇぇぇぇ!」

 

 早苗、お前の敗因はただ一つ。……テメェは私(とパルスィちゃんと他大勢)を怒らせた。

 

「わっ!? ちょっとmモガッ!? むーッ!? むーッ!?」

 

 逃げようとする早苗を光の速度で捕獲し、えっどい感じに縛り付けてみた。……これからどう料理してくれようか、ぐへへへへへ!

 

「はい、では霊夢さん、早苗さんにお仕置きする前に点数をお願いします」

 

 早苗のお仕置きは後にして、取り敢えず点数を付けてやらねばならない。

 やらかし具合はともかく、漫才の質としてはある程度纏められていて結構よく出来ていたのではないかと思う。

 

「そうだな、ジェラシーミラクルの点数は──」

 

──永劫回帰。

 

「例によって意味が分かりませんが……どういう意味で?」

「永劫回帰──それは一人の男の「納得の行く結末以外を認めない」という想いが具現化された回帰する宇宙。魔名水銀の王(メルクリウス)、己の望んだ結末に至るまで世界を永遠に回帰させ続ける男の渇望は、過去現在未来、多元宇宙の全てに至るまでを巻き込んだ盛大なやり直しを強いる。……幾度と無く繰り返されるが故に彼を既知の狂気へ落とし入れながら、されど愛しき既知である黄昏の女神の胸に抱かれ果てるまで決して終わることはない牢獄なのだ」

「やっぱり何を言っているのか分からないです」

「分からずとも理解せずとも良い。……貴女に恋をした文グリット、どうか跪かせて欲しい花よ」

「ちょっ今度は足ぃ!?」

 

 アクタ・エスト・マレフィキウムゥッ!

 まず感じたのは『視姦』――求めしものは未知のお触り

 見ている 眺めている 触りたい ペロペロしたい

 ああ何故 総てが魅力的に見えるのだ

 輝く女神達よ 宝石達よ どうかその愛でもって 楽園へと連れて行っておくれ

 あなたに恋をした(色んな女性の名前)! その総てを手にするまで

 那由他の果てまで見守り触れん──辛抱解禁!

 

 武器(意味深)も言葉スケベしようやぁも(美少女を)傷つける傷つけるとは言ってない

 Et arma et verba vulnerant Et arma

 順境は友を与え、欠乏(欲が満たされない的な意味で)は友を試す

 Fortuna amicos conciliat inopia amicos probat Exempla

 運命は、軽薄である(軽薄な女神すこ) 運命は、与えたものをすぐに返すよう求める(だが、返さない)

 Levis est fortuna id cito reposcit quod dedit

 恐れは望みの後ろからついてくる(追跡者ストーキング的な意味で)

 Spem metus sequitur

 喜んで(ナニを)学べ

 Disce libens! 

 

「──暗黒変態参上惨状

 

 それは『この世のありあらゆる者(美少女)を見て触れ合いたい』という渇望により生まれた観察の宇宙。この幻想の地に存在しているありとあらゆる存在を見守り(SECOMなミカン)、是が非でも触れ合いたい(意味深)とする執着は、幻想という概念そのものすらも捕らえ、己の内側へと取り込んでいく。

 過去未来現在、多元世界からあらゆる可能性に至る不確かなものさえも取り込んだ極大の宇宙は、幻想の箱庭さえも超えてあらゆる可能性を侵食し始める。……観察と(過度な)触れ合いを伴って。

 

「ふぁっ!? くぅんっ!?」

 

 そう、見てるだけでは足りない、まるで足りないのだ──故に触れる、愛しい文グリットから齎される全てに触れるのだ。

 その柔らかくきめ細かく滑らかな素肌を隅から隅まで撫で回して堪能し。吐き出す吐息を、文グリットが存在している空間ごと肺に取り込んでそのまま血肉へと変換する。

 彼女が足を付けた大地を切り出し、博麗神社にある文グリットコレクションの一つへと加え。彼女の愛らしい唇から紡がれる声を、矮小なる我が脳髄でしかと受け止め、余すこと無く記憶していく。

 

「あぁ、その瞳が、その手が、その足が、その翼が、その声が……君を構成している全ての要素が愛おしい」

「れっ霊夢さん!? 駄目です! これ以上は駄目なんです!」

 

 足に頬を寄せ、ゆっくりと愛撫しながら頬を擦り付ける。……何という甘美な感触。

 まるで巨大なマシュマロを抱き寄せているかのような……甘い甘い幸福が私という存在を包み込んでいる。

 彼女の黒曜の髪の毛の一本一本から、美しくスラリと伸びた足先の僅かな角質に至るまで、その全てが愛おしい。

 この感情こそ、まさに愛。幾度生を繰り返そうとも、幾度転生しようとも決して色褪せることのない極限の感情が、物理的接触を伴って文グリットへと還元されていく。……うっ、ふぅ。

 

「……」

「あれ? 霊夢さん? おーい!……いきなり固まってしまいました」

 

 文グリットって何だよ。冷静に考えて頭可笑しいな、大丈夫か私(大丈夫ではない)。

 

 どうやら私はまだまだ錯乱していたらしい。

 早苗のやらかしは近年稀に見るほどに盛大だったからね、仕方ないね。

 公衆の面前で私にあんな事をやらかすとか。……早苗ェ、本当に許さんからな早苗ェ。

 同じように公衆の面前で辱しめてやる覚悟しろよ、マジで早苗ェ。……早苗ェは絶対許早苗ェ。

 そして、ついさっきの私の事を宇宙的暗黒大変態とか言った奴は逆さに吊し上げて、強制股裂きの刑な。……裂○るチーズみたいにしてあげるよ(ハイライトOFF)。

 

「……すまない文。少々、いやかなり混乱していたようだ」

「あやや、私の事を文グリットって言うくらいですからねぇ……流石の霊夢さんでも早苗さんの一件は堪えましたか」

「霊夢は意外と繊細なのよねぇ」

 

 それな。……(性的な)攻めに特化した分、(性的な)受けは苦手なのよ。

 何度でも言うが、私の紙装甲を舐めるな。マウストゥマウスを無理矢理されただけでくっころ即落ち女騎士よりもヒドイ、ひぎぃぃぃな様を披露することになるぞ。

 

「そうだ、私はこれでも純情だ。……だから早苗は許さない。絶対にっ絶対にだ!」

「あらあら、霊夢ったら。そんなにむくれちゃって、折角の凛々しい顔が台無しになっちゃってるわよ?」

 

 ゆかりんが優しくほっぺをムニムニしてくれてるけど、早苗は絶対に許してやんないもんっ! ぷんすこっ!

 

「むぅー!? むぅー!?」

 

 早苗は何かを目で訴えてきている。……何々「何でもするので許して下さいお願いします。二度とこんな非道な真似はしません。許して下さいお願いします。今なら早苗ちゃん特製の守矢せんべえも一緒にお付けしますので、許して下さいお願いしますぅ!」だって?

 もうっ早苗ってば、お前は絶対に許早苗ェって言ってるでしょ?(一考の余地なし)……私が満足するまで離さないんだからぁ!

 

 早苗は好き勝手やった。なら今度は私も好き勝手しても良いでしょ?(普段からやりたい放題)

 

「あっ、そろそろ切りが良いので一刻程休憩を挟みます! ご飯を食べるなり、一眠りするなり、お仕置きするなり、各々方好きになさってください!」

 

 おやおや丁度良い。……楽しい楽しい休憩時間にしましょうねぇ(暗黒微笑)。

 

「むっ、むっ──」

 

──むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううッッッ!?

 

 助けを求める早苗の呻きが木霊したが、無論誰も助けに来なかった。

 早苗はやらかし過ぎたが故に、その代償を己の身体で支払うことになったのだ。……早苗は犠牲になったのだ、私のパンツの犠牲にな。

 





何と上下構成である。


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巫女、笑劇【閉幕】


続きだYO☆



 ふぅ(スッキリした笑顔)。

 

 満足した、満足したよ。これ以上無いくらいにな。……視線をゆっくりと下に落としてみる。

 

「あ゛っ♡……あひぃっ♡」

 

 そこには【見せられないよ】な表情をした早苗の姿がッ!?

 ひっ酷いっ、一体誰が早苗をエロ同人みたいに酷い状態に追いやったんだッ! 私がっ、私がいながら早苗をこんなっ、対◯忍よりもドロドロのアヘアヘで、見てるだけで世のイヤらしい野郎共が、興奮の余りに股間のゲイボルグを宝具開帳してしまいそうな、えっどい表情にしてしまうなんてッ!

 

「……ギリッ」

 

 己の無力を噛み締める。……私はッ私はッ! たった一人の友も守ることが出来ない無力な人間だッ!

 

「……」

「あひぃ♡ ふぁっ♡ れ、れいむしゃぁん♡」

「……(プルプル)」

 

 だ……駄目だ まだ笑うな……こらえるんだ……し、しかし……。

 

 今の早苗の姿を改めてじっくりと隅々まで見てみる。

 

「みっみにゃいでくだしゃいぃぃぃ♡」

 

 まるでひよこのように黄色の小さな帽子を被り、明らかにサイズ感の合っていないパッツンパッツンな水色の服を苦しげに身に付けている。胸元を強調するように掛けられた黄色のポシェットが、何とも言えない淫靡な様子を演出している。……うわぁ、えっどぉ。

 

「こんにゃかっきょうぅ、はじゅかしぃでしゅうぅぅぅ!」

 

 園児服。

 

 そう、早苗は園児服を着た状態で乱れていたのだ。

 外の世界では花のJKが、無垢な幼女が身に付ける服装で、あられもない姿を晒して泣きじゃくりながら乱れてしまっているのだ。

 ご丁寧な事に、胸元には「もりやぐみ こちや さなえ」と可愛らしく名札が付けられている。……くふっ、くふふっ!

 

「くっ、ふはははははっ!」

 

 堪えきれない笑みが、次から次へと溢れ出してくる。

 あの早苗がっ! 調子に乗り始めると傲慢極まりない暴れっぷりを見せ付けるあの早苗がっ! 園児服を着た情けない姿でアヘアへしているっ!

 クマちゃんおぱんちゅを見せ付けながら大開脚して、あられもない姿を見せつけている彼女の姿には、何とも言えない背徳感と、体の奥底から嗜虐的な快感が溢れ出してしまう。

 

「ごめんなしゃいっ! ごめんなしゃいぃぃぃ!」

「駄目だ、許さん。二度と同じ真似が出来ないように、その魂の奥深くまで羞恥を刻み込んでやるッ!」

 

 泣きながら謝る早苗だが、最早そんな早苗の姿も私を興奮させる材料にしかならない。

 これはお仕置きなんだ。早苗が二度と私を辱めるなんて酷い真似が出来ないように、私がこの手でお仕置きしてあげないといけないんだ。……それに、ね。

 

「あっ♡」

「こんなに汚して。……お仕置きで感じているのか?」

「ちっちがいまひゅっ♡」

「じゃあ、これはどういうことだッ!」

「あっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?」

 

 早苗も悦んじゃってるみたいだしね。

 おやおや、早苗ちゃん? クマさんが水浴びしちゃってるじゃないかぁ。

 正直なところ、私はもう早苗に怒ってはいない。公衆の面前でパンツを剥ぎ取られたとはいえ、早苗は早苗でしっかりと代償を支払っているからね。

 怒ってはいない、怒ってはいないが……

 

「ふえぇぇぇん」

「……ッ……ッ」

 

 ゾクゾクゾクゾクゥゥゥッ! と快感が走っていく。

 早苗の情けない泣き顔を見ていると、自分でも訳が分からなくなるくらいの嗜虐心が湧き出してくるのだ。……園児服を着ているのも相まって、いつもよりも幼く見える早苗の姿がより一層、私の嗜虐心を刺激し、早苗をもっと啼かせてやりたいと叫び狂っているのだ。

 一つだけ、訂正させてもらう。私は別に美少女が本気で悲しむ姿を見て悦に浸る外道ではない。……だが、早苗は別だ。

 

「もぉいじめにゃいでぇ」

「あぁ、可愛い」

 

 平時では傲慢なる奇跡とまで言われる傲慢な性格にすら変貌する彼女の、あまりにも弱々しく庇護欲を誘う可愛らしい姿に、ついついイジメたくなる欲求が抑えられなくなるのだ。

 勿論、本気で悲しませるわけではない。日本の言葉にも「嫌よ嫌よも好きのうち」という素晴らしい言葉が存在している。

 早苗も口では嫌がったり、泣き声を上げてはいるが、実はしっかりと興奮しており、私と戯れている現状を愉しんでいるのだ。

 故に私も早苗の期待に全力で応えるために、全身全霊で心を鬼にしてサドっ気マシマシの霊夢ちゃんモードになっているのである。……QED完了。

 

「まだまだ休憩時間はあるな」

 

 後ろに引っ込んですぐにお仕置き開始したから、まだまだ十分な時間があるのは嬉しい限りだよジュルリジュルリ。

 

「こりぇいじょうはっ、こわれちゃいましゅ」

「大丈夫だ、安心しろ早苗。……壊れない程度に全力で弄り尽くしてやる」

 

 でもまぁ、少なくとも今日一日は足腰立たなくなると思うけども。……くふふふっ、物は試しだ。次は百倍くらいで頑張ってみようか?

 

「はひゃあぁぁぁぁぁあああああ!?」

 

 早苗の【禁則事項】を! 私の博麗ハンドで【禁則事項ッ!】して! 【禁則事項ッッ!】した早苗の大事な大事な【禁則事項ッッッ!】に向かって! 私の体内で生成された博麗産地直送の濃厚で芳醇な霊力をありったけ注ぎ込んでやるじぇぇぇ!

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「で、そんな状態になったわけですか」

「正直、ヤりすぎたと思っている」

 

 どうも私、霊夢さん。今、お笑い会場で審査員してるの。

 

「さなえ、れーむおねぇちゃんだぁいしゅきぃ♪」

 

 私と向かい合う形で膝に座って抱き付いている園児服の少女。……そうだよ、早苗だよ。

 

「ぱるすぃちゃんもいっしょにれーむおねぇちゃんとぎゅってしよっ!」

「さっ、早苗が壊れてる」

 

 お仕置きし過ぎたせいで、早苗が幼児退行した。

 恐らく身に付けている服と同じ、幼稚園児くらいの年齢まで退行してしまっているだろう。……屈託のない無邪気な笑顔でしがみついてくる早苗の姿には、何というか、色々と込み上げてくるものがある。

 

 Q,もしかしてロリでコン?

 A,Yesロリータ。GOタッチ。

 

 まぁ今の早苗ちゃんは、精神的に幼児なだけでダイナミックJKボディは健在なんだけどね。中身幼児だけど、身体は大人のままで、体験したことのない快楽で身を捩りながら頬を真っ赤に染め上げる早苗か……閃いたっ!

 

「ちょっと早苗さn……ちゃん! 霊夢さんも困っているのでいい加減に降りて下さい!」

「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ! うえぇぇぇぇぇん!」

 

 ギャン泣きである。お子様特有の危険に対する防衛本能。何か困った時は取り敢えず泣く。

 これの恐ろしいところは、如何に注意している側が正しくても、場合によっては悪者扱いされてしまう結果になってしまうところだ。

 可哀想は強い。子供はか弱い存在であるが故に、周囲を味方に付ける力が異様に強い。……大人が子供泣かしたら速攻で大人気ないで致命傷だからな。相手がどんな生意気極まったメスガキであろうともね。

 

「こっこれじゃぁ私が悪者みたいじゃないですかっ」

 

 あやや、たじたじだね。

 腕ブンブン振り回しながら泣き喚く早苗に手出し出来ない気持ちは痛いほどよく分かるよ。

 本当、癇癪起こしたお子様って、謎に無敵だよね。……私も今思えばお子様の時が無敵だったかもしれない(やりたい放題レベルMAX)。

 

「ほら早苗、そろそろ落ち着け」

「はぁーい」

「霊夢の言うことはすぐ聞くのね」

 

 お仕置きで刷り込みされたんとちゃう? 知らんけど。

 さっきまでわんわん泣いていたのに、私の一声でキリって泣き止んでご満悦である。子供って泣くのも早ければ、泣き止むのも早いよね。いや、早苗は見た目的には立派なグラマラスJKなんだけども。

 

「ぐっぐぬぬっ! 何ですかっこの敗北感はっ!」

「あのおねえさんこわーい!」

「はぁ、生意気なのはこの頃からだったみたいね」

 

 憤慨する文ちゃんを指差してキャッキャッと笑う早苗(中身幼女)。相方であるパルスィちゃんもその様子に思わずため息を吐いてしまう。

 漫才中の早苗ってば、結構生意気な感じで調子乗ってたからね。あの生意気加減がこんな小さな頃からってなったら、流石にね。……おうおう、分からせてやろうかぁ!

 

「こっこほん……でっでは、気を取り直して、そろそろ再開致します!」

 

 次の一組も中々に面白い組み合わせである。……食物連鎖的な意味で。

 

「かつて幻想郷を襲った未曾有の大災害ぃ! 幻想郷中の春が冥界へと吸い込まれるというとんでもない事件を引き起こしたぁ! めぇいかい一のお転婆お嬢様ぁ! 天然極まった冥界の主がぁ! 今宵笑劇の場で舞い踊るぅ! 幽冥楼閣のゆぅれぇい少女ぉ!──」

 

──さいぎょぉぉぉじぃぃぃゆゆこぉぉぉ!!

 

 膨大な妖力によって生み出された無数の蝶が、笑いの舞台を染め上げる。

 触れる者を冥界へと誘う死蝶は、桃紫の吹雪となって、今宵の宴に恐怖の彩りを添える。……死蝶吹雪から現れ出るは桃色の亡霊。美しきも恐ろしい冥界の支配者。

 

「あらあら~いっぱい集まってるわねぇ~……お腹が空いたわぁ~」

 

 腹ペコ出陣。

 

 容器端麗、絢爛豪華……この世ならざる美貌を惜しげもなく見せ付けながら見目麗しき亡霊が、たおやかな笑みを浮かべながら笑劇の場に舞い降りた。

 

「キャーレイムチャーンゲンキー?」

 

 キャー幽々子ちゃーん久し振りー! うん、元気元気ー!

 このやり取りは久し振りに顔合わせた時の大阪のおばちゃんのそれなんよ。飴玉食べるかい? もっと身体に良いの一杯食べるんだよ?

 

「めぇいかいを統べる亡霊のお嬢様と組んだ命知らずぅ! 夜の闇を深くするぅ! 鳥目じゃないよ鳥目だよぉ! 闇に響く歌声がぁ! 視界を閉ざして恐怖へ誘うぅ! 幻想郷一の歌自慢! 夜に舞う可憐な雀が今ここにぃ! 夜雀の怪ぃぃぃ!──」

 

──みすてぃあぁぁぁろぉぉぉれらぁぁぁいッッッ!!

 

 羽根が舞う。夜に紛れて羽根が舞い吹雪く。誰もがその幻想的な有り様に見惚れ……。

 

「め、目がぁぁぁぁぁ!?」

「前が見えねぇ」

「お前のそれ、顔潰れてるからじゃね? 何があったし」

 

 光を失う。……観客席がだいぶ愉快なことになってるけど私は突っ込まないぞ。

 

「~♪ ~♪」

 

 歌声が響き渡る。美しく響き渡る彼女の歌声は、あらゆる者を惑わし、夜の闇へと沈めていく妖歌。

 彼女こそ、幻想郷一の歌姫、夜雀の怪こと──ミスティア・ローレライその人である。

 鮮やかな桃色の髪に、羽飾りが付いた帽子を被り、雀のようにシックなジャンプスカートには、蛾を思わせるようなリボンが散りばめられ何処か蠱惑的な印象を彼女に与えている。

 

「~♪」チラッ

 

 歌ってるアイドルとかが目線くれたらテンション上がっちゃうよねぇ! ひゃーみすちーちゃんがこっち見てくれたわー!(鳥目にしてー!)

 

「二人合わせてぇぇぇ! 冥界夜雀(めぇぇぇいかぁぁぁいよすずめ)だぁぁぁぁぁ!!!」

 

 うるさっ。

 

「どうも、私たち……」

「冥界夜雀と申します」

「「どうぞ、よしなに……」」

 

 冥界を統べる亡霊少女、夜に紛れる麗しき鳥妖怪、美しく華麗に見参。……感動した。でも、登場シーンだけ見たら絶対に漫才じゃない。

 

「いきなりだけど、みすちーちゃん」

「何でしょう、幽々子さん」

「亡霊飽きちゃったわ」

「いやいや、飽きるって何ですか」

「亡霊歴かれこれ数百年よ、これだけ長いと飽きもきちゃうわぁ」

「飽きたからって止められるものでないでしょうに……」

 

 飽きるだけで止められるなら、態々石仮面なんて被らなくても「俺は人間を止めるぞぉ! ジョ○ョォォォ!」って出来るね。

 

「それでね、みすちーちゃん」

「はい、何でしょう幽々子さん」

「私、色んな妖怪になってみたいのよ」

「そんな簡単に種族って変えられるんですか?」

「外の世界では割りと簡単に変えられるみたいなのよね」

「外の世界凄いですね」

「昨日まで人間だったのに鬼になったり、男だったのに女の子になったり……挙げ句、死んだ後に別の世界に生まれ変わったりするみたいねぇ」

 

 外の世界凄いな(棒)。

 

「だから今日は私も亡霊じゃない自分になりきってみたいのよ」

「はぁ……仕方ないですね」

「ありがとうみすちーちゃん……お礼は夜雀の唐揚げで良いかしら?」

「食べる気っ!?」

 

 ジュルリジュルリと舌を舐める幽々子に飛び上がるミスティアちゃんである。……やはり、非常食。

 

「まずは定番の妖怪、鬼になってみたいわね」

「有名な妖怪ですね。……この幻想郷では萃香さんや、勇儀さんみたいな豪快な鬼が一般的になります」

「じゃあ早速なってみるわね。……酒、酒が足りねぇ……酒が足りねェェェヨォォォッッッ!! ウオォォォンッ!」

「酒に呑まれてるじゃないですか!」

「駄目?」

「むしろどうして正解だと?」

「ほら鬼はお酒大好きじゃない」

「大好きですけどもっ!」

「決め台詞は「へっ、笑えるだろ? 手が、手が震えやがるぜ」ね♪」

 

 にやけた表情を作りながら、指を高速でマナーモードさせる幽々子ちゃん。……末期ですやん。

 

「アル中ッ! お酒足りなくて禁断症状出てるじゃないですか!」

「酒は飲んでも飲まれるな♪……西行寺幽々子ですっ♪」

「あら可愛い。……じゃなくて、年齢考えて下さいよ」

「心は何時までも若々しいつもりよ。……そう、今でも私はさんちゃいのおんにゃのこ♪」

「露骨に年齢下げましたね、流石にそれは無理があります」

「無理があるかなぁ」

 

 正直、舌足らずでロリボイスな幽々子ちゃんは可愛いと思いました。

 

「鬼はしっくり来ないわね」

「そもそも認識が間違ってますから」

「次は吸血鬼にするわ!……こほんっ、血ぃ、血が足りないィ、血が足りないのォ、血、血、血、血ィィィ、血が欲しィィィ! UREYYYYYィィィィィ!」

「二番煎じッ!」

「これも駄目?」

「駄目以前の問題です! 女の子がしちゃいけない顔してましたよ!?」

「霊夢曰く、オリジナル笑顔って言うらしいわよぉ~」

 

 何だよ、そんな目で見るなよ。良いだろ別に、幽々子ちゃん天然さんだから、教えたら教えた分だけ吸収して面白い事をやらかしちゃうのだから仕方ない。……そのうちドギツい下ネタを教え込んで無自覚天然スケベお嬢様に仕立てあげるつもりだ。

 

「兎に角駄目です!」

「難しいわねぇ~」

「もっと自分がお嬢様である自覚を持ってくださいよ」

「ゴーストレディ?」

「何故に南蛮言葉で?」

「最近霊夢から色々教わってるからねぇ」

「何を教えちゃってやがるんですか霊夢さん!?」

 

 済まぬ。

 

「もう良いです。……他になってみたい妖怪はいるんですか?」

「……河童とか?」

「却下です。どうせ「キュウリィ! キュウリィが足りねェェェ! キュウリィを寄越せェェェ! キェェェェェィッ!」って言うんでしょう?」

「凄い! 今の声凄く似てたわ! 百点満点!」

「だまらっしゃい!」

「ふぎゅっ!?」

 

 流石は七色の声を持つという妖怪界のスーパー歌姫。

 彼女の手に掛かればどんな声も変幻自在に繰り出せるのだ!……前に聴いたとき若○ヴォイスでぶるぁしてたのには、流石の私でも鍛え上げた腹筋を崩壊させてしまったよ。

 こんなにも可愛い顔から、想像も出来ないような野太い声を出さないでよ。……ちょっとアリだなとか思ったのは此処だけの話だ。

 

「普通、お嬢様をぶつかしら?」

「普段は天敵でも、今は相方ですからね。立場とか気にせずにメッタメッタに叩きます」

「それ、日頃の恨み込もってなぁい?」

「込もってなぁいです」

 

 ハイライト消えてて説得力なぁい。

 

「そんなに叩かれたら目覚めちゃうわよぉ~」

「目覚めれば良いじゃないですか」

「公共の面前で「あひぃぃぃ頭に響いちゃうぅぅぅ!」とか言っちゃうわよ?」

 

 聞きたい(真顔)。

 

「はいはい、目覚めた目覚めた」

「お嬢様の言葉を流すかね」

「一々付き合ってたらお腹痛くなっちょ……なっちゃいますので」

「……皆聞いたぁ? なっちょですって、なっちょ!」

 

 聞いてたなっちょ。

 

「言ってません」

「いいえ、言ってたわぁ。この西行寺幽々子の耳は冥界で一番の地獄耳! みすちーちゃんはなっちょしてたわ! なっちょ!」

「なっちょなっちょ言わないでくだしゃ……ください!」

「今度はくだしゃ! 今度はくだしゃですって!」

「ぐ、ここぞと言わんばかりに仕返しを……」

 

 幽々子ちゃんがイキイキしてくだしゃって私も胸がドキドキしなっちょ。

 みすちーちゃん、分かる。分かるよその気持ち。人前に立つのって緊張するよね、分かる。

 緊張のあまり噛んじゃったりするよね。うんうん分かる、分かるよ。私にもそんな時期があったよ。

 でも、その緊張こそが君というただ一人の妖怪を成長させるんだ。この経験を大事に噛み締めて、これから更に強く光輝いて欲しい。……だから、もっと緊張して噛み噛みになってどうぞ(外道)。

 

「わ、私にだってなりたいものがあります!」

「強引に逸らしたわねぇ」

「五月蝿いです!」

「はいはい、それでみすちーちゃんのなりたいものって何かしらぁ? 焼き鳥? 丸焼き?……それとも か・ら・あ・げ?」

「食べる気満々じゃないですか!?」

「えぇ、食べるわよ?……今後の練習(意味深)のために」

 

 幽々子ちゃんのあの目には既視感を覚える。まるで常日頃から私自身がしているような、そんなケダモノ染みた感じがする。……気のせいか?(ないです)

 

「私、自分のお店を持ちたいんです!」

「自分のお店が欲しいの?」

「ほら私って、移動式屋台で女将してるじゃないですか。……最近、思うんです。もっといっぱいの人たちに、私の作ったおでんやヤツメウナギを振る舞いたいと」

 

 ちな私常連。ミスティアちゃんの作るおでん美味しくて美味しくて、週に二、三回は通ってしまうのよね。……割烹着女将最高かよ。

 

「ヤツメウナギは私も好きねぇ〜」

「ウナギとおでんの専門居酒屋『幻想居酒屋・ローレライ夜雀』という名前で、バンッと看板を構えてお店を開きたいのです!」

 

 何だ、その田舎の裏道とかにひっそりとありそうな微妙な名前の居酒屋は。

 

「新メニューも考えているんです!」

「例えばどんなものがあるのかしらぁ〜?」

「オードブルにBBコーン、スープにセンチュリースープ、魚料理にオウガイ〜遠い海の記憶〜、肉料理にエンドマンモス、メインにGOD、サラダにエア、デザートに虹の実、ドリンクにビリオンバードの卵を用意します!」

「……おでんとヤツメウナギは何処にいったのかしらぁ?」

「……貴女の様なカンの良い亡霊は嫌いですよ」

 

 そう言えば、この前ゆかりんが適当にスキマを開いたり閉じたりしてたら、幻想郷の一角が某グルメな世界に繋がったんだったね。

 お陰様で幻想郷の食文化が急速に発展してしまったよ。……グ◯メ細胞取り入れたせいか、皆の基礎戦闘力とか諸々が跳ね上がってしまったのは記憶に新しい(遠い目)。

 かく言う私も、グ◯メ細胞に完全適応した影響で色んな事が出来るようになったのでね。……ノッキングマスター・霊夢ちゃんと呼んでくれ。

 

「みすちーちゃんが言ったメニューって、私が本気になったとしても採ってくるのは難しいわねぇ〜」

「大丈夫です。食材は全部、霊夢さんにお願いして採って来てもらいますので」

 

 私、霊夢さん。ミスティアちゃんのお願いでグルメハンターするの。

 

「対価がとんでもないことになりそうねぇ」

「大丈夫です。霊夢さんは優しいので酷いことはしません!」

「そう。……修行のためにと信じて送り出した妖夢が、毎晩毎晩霊夢の名前を呼びながら盛る発情期の猿より酷い事になった話でもする?」

「……先ずはおでんとヤツメウナギを極めることにしますね!」

 

 別に私は採ってきても良いんだけどね! その対価にミスティアちゃんと女将さんごっこするけども。……ミスティアちゃんにホトトギス*1させるのは、この私だ。

 

「やっぱりお店をやるとなると従業員が必要になるじゃないですか」

「屋台と違って一人では手が足りないわねぇ〜」

「そこで相方の幽々子さんの出番というわけです」

「私の?」

「白玉楼に漂ってる人魂の一部を従業員として働かせるわけです」

 

 喜べ諸君、君達が死んでも労働は続くっ!

 

「わぁブラック、死んでも訪れない安らぎだなんて。……みすちーちゃんってば、鬼畜上司ねぇ」

「人聞きが悪いです! ずっと漂ってて暇してそうですから、仕事という名の暇潰しを提供してあげてるんじゃないですか!」

「シゴト、ヒマツブシ、チガウ。ワタシ、シゴト、キライ、ゴクツブシ、オーイェー」

「片言ラップ! また外の世界のやつ! 霊夢さん、いい加減にしてください!」

 

 済まぬ(びゃっく゛ん゛)。

 

「人魂を活用する件は分かったけど問題があるわぁ」

「何でしょう?」

「……あの子達、手足がないのよねぇ~」

「……?」

「だから、手足がないのよぉ~」

「……あっ」

 

 あっ。

 

「で、ですが、お皿を運んだりくらいは……」

「妖夢の半霊と違って、あの子達お箸くらいの重さの物しか運べないのよぉ~」

「う、嘘だぁ! ウソダァー!」

 

 ドンドコドーン……もう素揚げにするくらいしか価値がねぇじゃん。

 

「ほら、食材として使ってあげて頂戴な」

 

 取り出したるは冥界産の人魂である。

 

「……」

「……(ガクガク)」

「……」

「……ぼ(プルプル)」

「……ぼ?」

「……ボク、悪い人魂じゃないよぉ(ガクガクプルプル)」

「罪悪感ッッッ!!」

 

 ふむふむ、あの人魂、生前の見た目はショートヘアで人畜無害の大人しいボクっ娘美少女だったようだな。

 生来の大人しさと、天然気味な性格から、生前はかなりの異性から好意を寄せられていたようだな。……まるでラブコメの主人公のように。

 人魂になってもそのあざとさは失われていない様子で、ぷるぷると震える姿は見ている者の庇護欲を駆り立てる。……人魂萌えという新しいジャンルを開拓した。大丈夫だ、あの愛らしさなら抱ける。

 

「あら、食べないの?」

「食べられるかぁ! 戻してあげて下さい!」

「しょうがないわねぇ……ほーら、白玉楼に戻りなさぁ~い」

「しつれいしまひゅ!」

 

 一目散に逃げ出す姿に会場中にいる皆がほっこりする。……あの人魂をモデルにして、白玉楼のご当地キャラを産み出しても良いかもしれない。

 虐めないでヒトダマちゃんって名前で売り出したら、コアなファンが増えそうだ。

 

「もっとまともなメニューはないんですか!?」

「それこそもうみすちーちゃんで出汁を取るくらいしか……」

「私は食料かッ!?」

「良い鶏ガラの出汁が取れる筈よ!」

「取れて堪るか!」

 

 たとえ取れなかったとしても、私は飲むぞ(ガチ勢)。

 

「さっきから私の事を食べる食べるって! 私は美味しくないです!」

「そんな瑞々しい身体してて、美味しくないわけないでしょう?」

「……」

「……(菩薩の笑み)」

「……ちっ、ちなみに食べるって、どういう意味ですか?」

「?……性的によ?」

「ッ!? ッッ!? ッッッ!?」

 

 まさかのゆゆみすか、これは美味しい。幻想郷の汚いマリア様を自称する私も、これには微笑まざる得ない。

 

「女同士だから、ノーカンよ。ノーカン」

「そういう問題じゃない」

「実は前々からみすちーちゃんの事が気になっていたのよねぇ~」

「ちょっと待ってくださいよ幽々子さん……霊夢さんが好きだったんじゃ?」

「それはそれ、これはこれ」

「見境なしか!……止めろ、頬を撫でるな!」

 

 淫靡な笑みを浮かべながら、ミスティアちゃんの頬っぺたを撫でる幽々子ちゃん。……くそえっどぉ。

 

「さきっちょだけ、さきっちょだけなっちょするだけだからぁ〜」

「なっちょ言うなぁ! 止めろぉ! 近づくなぁっ! はーなーれーろー! ぐぎぎぃ……力強ぉっ!?」

 

 そのままミスティアちゃんを抱擁して、そのほっぺに頬擦りする幽々子ちゃんである。……百合要素ある漫才とか、マジ助かる。

 

「うぐぐっ! このままではっ」

「うふふぅ〜もう観念なさぁ〜い」

「 だ が 断 る 」

「……何ですって?」

「このミスティア・ローレライの好きなことは自分で有利だと思っている奴に「否」と断ってやることだ」

 

 奇妙だな、いきなり空気が、変わったぞ(無駄に語呂良く)。

 

「うっ!? こ、これはっ!?」

「気付いたみたいですね」

「あ、頭が割れるようにっ!? 視界が揺れるぅ!?」

「そう、私が最初に登場した時に発した歌声が、巡り巡って貴女の頭を直接揺らしているのです」

「くぅ、貴女の能力では、私に影響を与えるほどの強い力は出せない筈っ、なのにっ!」

「波の合成です」

 

 そう、実は私も気付いていた。

 ミスティアちゃんの歌声が、周囲の壁や人に当たって反響し、最終的に舞台上にいるミスティアちゃんの周囲で重なるように放たれていたことを、ね。

 歌声によって放たれた複数の異なる振動を音の反響を利用して、自分の周囲で幾重にも重なり合うように何度も往復させ続けることで完成する。波の合成を利用した振動波の不可視結界。重なり合うことで増幅された振動は、敵対する者の脳髄を直接揺らして破壊する。……それが幽々子ちゃんに襲い掛かっている頭痛の正体だ。

 

「相方と言えど、私と貴女の間にあるのは捕食者と被捕食者という絶対関係。……私の中の妖怪の本能が教えてくれました、策を弄さないと一瞬で食われるとね」

「ふっ、ふふふっ、油断してると思ったけど、中々やるじゃないの」

「とは言っても、ひるませることしか出来ませんでしたね。……幽々子さん、もう回復してるでしょう?」

「あら〜バレバレだったかしらぁ〜?」

「バレバレです。大根役者にも程がありますね」

「大根。……おでん食べたくなったわぁ〜」

「はぁ、丁度漫才も終わりですし、しょうがないので作ってあげますよ」

「流石は私の相方ね! お礼は夜雀n」

「だーかーらー! 私は食べ物じゃないです! いい加減にして下さい! やめさせてもらいます!」

「ありがとうございました〜。……待って〜みすちーちゃ〜ん」

 

 憤慨して舞台から去っていくミスティアちゃんと、その後ろをのほほんとした足取りで追いかけながら退場していく幽々子ちゃんだった。……ふむふむ、良いコンビだったね。普段の関係性とは裏腹に、見事に息が合ったコンビネーションだったよ。

 

「はい、食物連鎖の関係を打ち崩すユニークな漫才でした! それでは気になる得点はっ!」

「冥界夜雀の得点は──」

 

──無間刹那大紅蓮地獄!

 

「むげんせちゅにゃだいぎゅれんじごきゅ!」

「良く言えたな早苗、よしよし偉いぞ」

「えへへぇ〜」

「はい、そこの二人ほのぼのしない!……こほんっ、それで、これはどういった意味なんでしょうか?」

「無限刹那大紅蓮地獄──それは永遠に仲間たちとの変わらない日常を味わい続けたいと願った一人の青年の渇望が形となった。未来永劫静止し続ける不変の宇宙である。過去も未来も意味はなく、ただ現在(いま)のみを享受するそのあり方は、何時までも平凡で変わらない日々を送りたいという素朴な渇望に対して余りにもおぞましく、世界を染め上げるのだ」

「またしてもよく分かんないです」

「だからこそ。……時よ止まれ、お前達は美しい」

「何を言っt──」

 

 君たちと過ごす、この幻想が永遠に続けば良い。

 

 愛(欲)は幅広く 無限に広がって込み上げるもの

 女体の輝きこそが永久不変

 永劫たる推しの尊さと共に 今こそ全力全壊で駆け抜けよう

 どうか聞き叶えて欲しい 巫女は健全()に抱き抱かれる日々を願っている

 自由な想いと自由なお触りで どうかこの瞬間に言わせてほしい

 時よ止まれ 君達は誰よりも美しいから

 永遠の君達に願う 私を高みへと導いてくれ

 流出(Atziluth――)

 

──新世界へ・語れ超越の物語(一緒に新しい世界に行かへん?)

 

 時の世界への入門おめでとう。

 目の前の文ちゃんだけではない、この場にいる私以外の全ての者達が、まるで一時停止ボタンを押したかのように静止している。……今ならば、ナニをしてもバレないですねぇ(ニチャァ)。

 ん? 「前に時間操作とかそんな高度な技は使えないとか何とか言ってなかったっけ」だと? やれやれ、鈍いな、鈍すぎる、にぶにぶだよ君たちィ。……なぁに、簡単な話だよ。

 

 たった今、使える様になった。

 

 原理的には永遠の刹那と同じだと思いまーす。

 自分の中に存在している「幻想の様に美しい少女達と永遠の今を過ごし続けたい」という、私の内から溢れ出す感情を膨大な霊力と共に放出し、世界の法則その物を一時的に書き換えたのだ。

 本来、親しい者達が時間停止に巻き込まれることはないけど……まぁ、それは私の匙加減でどうとでもなるよねぇ(せちゅなしゅまいりゅ)

 時間停止物とか正直大好物です、はぁはぁ。

 

「……」

「ふむ、意外と着痩せするタイプか」

 

 あやや、これはイケませんね。隠しきれないやらしさが、身体の奥底から溢れ出ているぞ文ちゃん。

 触れる指先に感じるのは、しっとりとした柔らかさに指を押し返す様な弾力性。文ちゃんのむね肉は柔らかさと弾力性が丁度良いバランスで同居している素晴らしいものだ。……取り敢えず文ちゃんのあやっぱいを三十分ほど揉みしだいておく。

 

「……」

「ふむふむ、今日は黒か」

 

 ついでに文ちゃんの絶対領域の先もこの目に焼き付けておく。

 白く滑らかで、瑞々しい太ももの先にあるのは、黒だった。それもスケスケで大分いやらしい感じの黒くてフリフリとした三角の物体が、誇らしげにその存在を主張していた。……眼福である。

 

「……取り敢えずはこのくらいで良いか」

 

 さーちゃんの『時間を操る程度の能力』みたいに特化してるわけではないからね。強引に力技で時を止めてるから流石の私でも疲れてしまうよ(疲労レベル腹筋十回くらい)。

 

「そして時は動き出す」

 

 最後に奇妙なポーズで締めるまでが時止めの作法だって、学ランのムキムキマッチョマンと首元に星形のマークがある金髪の吸血鬼が言ってた。

 

「~~~ッッッ!?」

 

 時間停止を解除したと同時に、嬌声を上げながら崩れ落ちる文ちゃん。……これが時間停止の醍醐味だよね。

 

「はぁッ!? んぅッ!? ひぎぃっ!?」

 

 一応、何が……もといナニが起きたのかを説明すると、止まっていた間に私が文ちゃんのあやっぱいを揉みしだいた時の刺激と、見事な黒い三角形を視姦しながら色々とお触り申した分の刺激が、この一瞬で同時に押し寄せたのである。

 

「はぁ……はぁ……ひぅッ!?」

 

 その結果はお察しである。

 文ちゃんは、息も絶え絶えに頬を真っ赤に染め上げて、視点が定まっていない虚ろな瞳で宙を見つめ、だらしなく涎を垂れ流しながら煽情的な姿を晒してしまっていた。……うーん、百点満点だね!

 

「このおねえちゃんどうしたの?」

「恐らくは発情期だろう。……幽々子とミスティアの雰囲気に当てられて発情してしまったと見える」

「はぁはぁ、なっ、にをッ! ひぅ!? てっ、適当にゃっ!? ことぉ!? んひぃッ!?」

 

 流石の記者魂、喋るどころか立つ事すらキツイ状態で反論するとは。……やはり文屋は根性が違う。

 無理矢理動こうとして、感度ビンビンの身体に悲鳴を上げる姿に博麗の巫女も興奮が込み上げてきます。……そこの記者のお姉さん、今夜空いてる? 空いてるでしょ? 空いてるって言えよ! なぁ!

 

「地上の世界の連中ってどいつもこいつも苦労を知らない妬ましい奴等って思っていたけど。……此処まで不憫だと嫉妬するのも馬鹿馬鹿しく思えてくるわね」

「文も運がなかったというか何というかね。……霊夢ってば、昔からその日の気分で優しかったり意地悪だったりするから」

「そう言えば、霊夢を一時期育ててたんだったわね」

「楽しくもあったし、苦労もあったわ……今より悪い意味で素直だったから悪戯も激しくて」

「涙、拭きなさいよ」

 

 ちょっとそこの嫉妬妖怪とスキマ妖怪、聞こえてるよー?

 全く、失礼しちゃうわ! 今も昔も手が掛からない良い子でしょうが! 容姿端麗、才色兼備、仏のように慈悲深い心と、神の様に平等な愛情を振り撒く、聖人君主のごとき私が良い子じゃないわけがないじゃないか!

 ちょっと好きな娘の愛らしい姿が見たくて、ちょっとだけ意地悪しちゃったり、能力が高いのを良い事に、人に言えないようなあーんな事やこーんな事をして、幻想少女達の艶姿をこの頭に刻み込んだり、我慢できなくてちょっとだけ襲ったり、触ったり、揉んだり、擦ったり、吸ったり、舐めたり、噛んだり、飲んだり、飲ませたり、挟んだり、挟まれたり、出し入れしたりしただけじゃないのさぁ!……あはははははっ、ごめんね! 裁判所で会おう!

 

「ふぅ……ふぅ……やっ、やっと少しだけ落ち着きました」

「ふむ、ご苦労」

「誰のせいだと思ってるんですかぁっ!」

 

 私だよぉ!

 

「今日の霊夢さんは意地悪です! さっきから漫才終わる度に私をイジメてくるじゃないですか!」

「さなえのとなりあいてるからおちついてあやおねえちゃん!」

「うぅ早苗ちゃんは良い娘ですねぇ、間違ってもこんな鬼畜外道にはなったらダメですよぉ~」

 

 こんな超が五つは付くであろうド聖人を捕まえて、鬼畜外道とは失礼ですな(←)。

 

「霊夢さんのお膝も確保出来たので、次の漫才に行きましょう!……そ れ と! 罰として霊夢さんは、このまま私を目一杯甘やかしながら、審査してください! 良いですねェッ!」

「はいはい、分かった分かった」

「「はい」はっ、一回ですっ!」

 

 泣いたカラスが何とやら……さっきまで泣きながら憤慨していた文ちゃんは、ご機嫌な様子で私の膝の上に座っている。

 

「……お待たせしました。──それでは四組目の登場だぁぁぁ!」

 

 正直、文ちゃんのシャウト好き。

 

「幻想郷の人食い妖怪代表格ぅ! お前は食べてもいい人間かぁ? 「はい」と答えたら命の保証は出来ないぃ! 可愛らしい少女の裏には恐ろしき血濡れの牙が隠されるぅ! この世の闇は私のものだぁ! 宵闇の妖怪ぃ!──」

 

──るぅぅぅみあぁぁぁ!

 

 舞台の中央から、闇が溢れ出す。

 霧状の闇は獰猛な獣が餌を探す様に蠢き、この世の光全てを飲み込んでいく。

 

「わはははははーっ!」

 

 闇が消え、舞台に姿を現したのは一人の少女。……禍々しい闇とは正反対な、太陽の様に輝く朗らかな笑みを浮かべながら宙を舞う。

 

「聖者は十字架に磔られましたって見えるかぁー?」

 

 闇に愛されし妖怪ルーミア、悍ましく可憐に登場。

 ちなみに質問に対する正しい答えは「人類は十進法を採用しました」だって、私の大親友である魔理沙たんが言ってた。

 

「ソーナノカー?」

 

 そーなのだー。

 

「人里の守護者此処に有りっ! かつて中国で神獣とまで謳われた妖怪ハクタクっ! 何と何と何とぉ! そんなハクタクと人間との間に生まれたハァァァイブリットな乙女の登場だぁ! 人に仇為す輩は、このワァァァハクタクが許さないぃ! お前も頭突いてやろうかぁ! 知識と歴史の半獣ぅ──」

 

──かぁぁぁみしらさわぁぁぁけぇぇぇねぇぇぇ!

 

「……やれやれ、随分と持ち上げてくれるな」

 

 水色の髪を靡かせながら、ゆっくりと登場したのは知的な雰囲気を纏った女性。

 歴史を操る力を持つ神秘の獣。……その血を受け継いだ人里の守護者が、この笑劇の場に登場した。

 

「我ながら似合わないとは思うが……ふふっ、たまにはこんな風に騒いでみるのも楽しいものだな。すぅ──」

 

 血が騒ぎだす。妖気が渦巻きけーね先生の姿が変化していく。

 水色の髪が、深緑が混じった白へと変わり。身に纏う青の服すらも緑へと変わる。……そして、何よりも目を引くのが、天高くまで突き上がった二本の角。

 

「──がおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 顔の横で両手を構え、大声で威圧してくるけーね先生の姿はまさに獣そのもの。何人たりとも抗えぬ圧倒的なカリスマを纏った神々しき獣の姿に、私も首を垂れ、平伏せざる得ない。

 

「がおぉぉぉ! がおぉぉぉ! がぁぁぁおぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ん゛ん゛ん゛っ、可愛いが過ぎるっ!

 誰か私を殺してくれ、このままだと可愛さの余りけーね先生に襲い掛かってしまう。し、静まるんだぁぁぁ! 私の中のビィィィストォォォッッッ!

 

「えんがちょー!」

「ぐふぅ!?……さ、早苗?」

「なんか、やれっていわれたきがしゅる」

 

 私が発した怪電波を受信したのかは不明だが、早苗の(霊力)が込められたボディーブローのお蔭で何とか正気を保つことに成功した。……いや、助かったには助かったけど、どうして鳩尾に抉り込んだの? 私じゃなかったら大怪我よコレ。

 

「霊夢さんが慧音さんを見て、こわーい顔してたからですよ。……まるで美味しそうな羊を見る狼さんみたいでした」

「……目の前の烏も旨そうだな」

「えんがちょー!」

「うぐっ!?……早苗、分かった、分かったから、顔をぶん殴るのは止めろ。大人しくするから」

 

 子供すぐ手が出るのどうしてぇ……鼻が痛いよぉ。

 むぐぐ、このままふざけると、早苗が情け容赦ない攻撃をブチかましてくると予想されるので、悪ふざけせずに大人しく審査することにする。……いや、全力で霊力込めて叩かれると地味に痛いのなんのって。(※博麗の巫女は非常に特殊な訓練を受けています。画面の前の良い子は決して真似をしないようにしましょう。普通に死にます)

 

「二人合わせてぇぇぇダァァァクネスヒストリィィィだぁぁぁ!」

 

 ()歴史ですね、分かります。

 

「お前も歴史の闇に沈めてやろうかぁ!」

「いきなりどうした!?」

「私の中のダークネスソウルが溢れだしちゃったのだぁ!」

「痛い痛い痛い痛い痛い……止めてルーミア、何故か私にもダメージが入ってる」

「けーねもダークネスソウルしてたの!?」

「そうそう、何を隠そうこの私がヒストリーブラックって、バカ野郎」

「黒歴史なのかぁ~」

 

 けーね先生にも恥ずかしい時代があったんだろうね。……くっ、我がハクタクの血が満月の光を浴びて疼いている、みたいな?

 ルーミアの発言を聞いて恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めていらっしゃる。……普段のけーね先生は真面目で威厳に満ち溢れた様子だけど、心の内にはでっかいモンスター(黒歴史)を飼ってるんやろね。

 

「黒歴史と言えばだけどね、けーね」

「何だ?」

「私、結構幻想郷の黒歴史知ってたりするのよ。これはけーねにも負けない自信があるよ」

「歴史を操る半妖を捕まえて随分と大きく出たな……面白い、では黒歴史暴露対決でもしようか」

「やるのかぁー?(首かしげ)」

「やるのだぁーっ!(どやっ)」

 

 可愛い顔して、何地獄みたいな勝負しようとしてるの?

 心なしか、会場全体の空気がざわめいている気がする。……周囲を見回してみると、皆可哀想になるくらい青ざめてしまっている。

 そりゃそうだ。もしかしなくても自分の黒歴史が大衆の面前で暴露されてしまうかもしれないのだ。これに恐怖しない奴はいないだろう。

 

「れ、れーむ? だいじょうぶ?」

「だだだだ大丈夫だだだっ、問題なななっ」

 

 ふ、ふふふっ身体の震えが止まらねぇぜ。

 私ほどにもなると恥ずかしい黒歴史の百や二百余裕で持ってるからなぁ! あばばばばばっ!?……やっべぇ、私今日死ぬかもしれん。

 

「誰のを暴くのかぁ~?」

「そうだな……では、審査員の席に座っている者にしようか」

「「ふぇあっ!?」」

 

 うん、知ってた。……そりゃこんな目立つ場所に座ってたら狙われちゃうよねー、狙われない方がおかしい。誰だって私たちを狙うし、私だって狙い撃つよ。

 

「じゃあ、早速暴くとしよう──先ずは、この大会の開催者である霊夢からにしようか」

「けーねも同じ考えだったのかぁ~」

 

 ぐっ、やはりこの博麗を先に指名したかっ! ふっ、はははっ!皆から人気者で嬉しいがマックス牡丹餅だよこん畜生めぇぇぇ!

 こうなりゃやけくそだぁ! 私の黒歴史ネタで楽しませて貰おうじゃあないかよぉぉぉ! ぢぐじょぉめ゛ぇぇぇ!

 

「では、先攻は私からだ。……霊夢の恥ずかしい秘密、そのいちィィィ!」

「わくわく」

「一人で寝る時、寂しさの余り、某人形師から貰った人形に囲まれて寝ている!」

「わはぁー! 普段カッコいい霊夢っぽくないねぇー!」

「まだ十四歳の女の子だからな! 人肌寂しくて人形を集めるのも当然だろうな! ちなみに霊夢が持っている人形は、霊夢の交友関係を参考に作成されているらしいぞ! 一番のお気に入りは育ての親でもある八雲紫のデフォルメ人形らしいぞ! 何せこの前寝ぼけた様子で「……ゆかりぃ、さびしいよぉ」と半泣きしてたからな!」

「可愛いねぇ~!」

 

 私の恥ずかしい秘密をばら撒かないでよぉ……。

 別にいいだろぉ! 一人で眠れなくたってよぉ……人肌が恋しくて人形抱き締めてもいいだろぉ!

 そうだよ! その通りだよ!、普段滅茶苦茶クール気取ってるけどっ、中身はこんなもんですよ! この年にもなって一人で寝るときはゆかりんとかのぬいぐるみが一緒じゃないと眠れないのが、この私ですよ! 笑いたきゃ笑うがいいさ! くそぉぉぉ!

 

「くぅ……っ」

「パルスィちゃんパルスィちゃん。霊夢お姉ちゃん顔真っ赤だよ?」

「早苗、今はそっとしておきましょうね」

「おぉぉぉっと! これは流石の博麗霊夢でもっ、つぅぅぅっこんの一撃ぃぃぃ! 顔から火が出るとはまさにこの事だぁぁぁ! 普段クールぶってる仮面の裏にはぁ! とぉぉぉしんだいの可愛らしい女の子の姿があったぁぁぁ!」

 

 止めてくれあやや、その煽りは私に効く、止めてくれ。

 

「では、次は私の番だねぇ~」

 

 此処で倍プッシュ…だと…。

 

「霊夢って時々、すっごいカッコいい事言うだろぉ~? あれってじ・つ・は……」

「じ・つ・は?」

 

 けーね先生、何でそんなにノリノリなん? 人の黒歴史で遊ぶのそんなに楽しいの(絶望)?

 

「ぜーんぶ、皆に隠れて必死に練習した成果なんだよ!」

「何だってルーミア!? それは本当なのかい!?」

「人が闇に放り込んだ歴史を語る事に関して、私は一切の虚言は吐かないのだぁ~」

「これ見よがしに、「ふふふっ」とか笑ったり、何やら訳知り顔で「……」ってちょっと溜めて何か言うのも、隠れて練習した成果なのか!?」

「そーそー別に技の名前言わなくても結界張れるのに態々口に出してー「夢符【二重結界】……ふっ、この程度か、態々スペルカードを使う必要もなかったな」とか、相手の攻撃を態と受けて「たった一人の人間すら壊せない一撃で大妖怪を名乗るか──恥 を 知 れ(迫真)」みたいなのもぜーんぶ皆に隠れて練習した成果なんだよ!」

「ひゅーカッコいい! 皆の憧れであり続けるために努力を惜しまない姿勢は実に見事だ!」

 

 ──ッッッ!?……。

 

「あら、霊夢?……霊夢っ!?」

「気絶してますね、これ」

「過剰配給された羞恥に耐えられなかったみたいね」

 

 オデノカラダハボドボドダァウソダドンドコドーン!

 

 現実逃避も現実逃避、何処ぞの忍び絶対殺すマンによってニンジャリアリティショックを受けてしまったチンピラみたいに、ルーミアちゃんの黒歴史暴露にアイエエエエ!? されてしまった私である。……殺してぇ、誰か私を殺してよぉ。なんでそんなことまで知ってんだよぉ。

 ああ、もえる、もえる、しゅうちでけしずみになる、たもてない、いつものじぶんを、たもてない。なんで、どお゛じで、どお゛じでごん゛な゛ごどに゛……わたし、わたしわるいことなんかなにも、なにもしてないのに()、なんでぇ──やだ……やだよぉ……こんなのひどい……あんまりだ……さらさないで……さらさないで……いわないで……いわないで……わたしを、いじめないでぇ、るーみゃさまぁ、けーねさまぁ──

 

「霊夢が練習してたので最近面白かったのが──「ふっ……けっきょく、わたしがいちばんつよくて、すごいってことなんだよね!(渾身のどやぁ顔)」ってやつだよ! 頭悪そうなのが可愛いよね!」

「これは流石に、な。……あのチルノでも、もう少し捻った事が言えるぞ」

 

 わァ…………ぁ……(泣いちゃった!!!)。

 

「あらあら、仕方がないわね。……早苗、ちょっとだけ退いててもらえるかしら?」

「なにするの?」

「霊夢が元通りになる魔法よ」

 

 おひざのうえからなにかがいなくなり、しかいがかたむいていく。

 

「……」

「はい、良い子良い子」

 

 やわらかななにかが、やさしいぬくもりがわたしをいやす。

 

「……」

「大丈夫、大丈夫よ」

 

 ちいさなころからだいすきだったにおいがする。

 

「……?」

「貴女は私が守るから、だから安心して、ね?」

「……ッ!?」

 

 私の頭を包み込んでいた柔らかな感触。

 混乱する思考をそのままに目を開く。金糸の様な髪が揺らめいている。美しい容貌に輝いているのは優し気に細められた黄金色の瞳。一定のリズムで私の頭を撫でながら、彼女は私に微笑んでいた。……ああ、ズルい。こんなの好きにならない方がどうにかしている。

 

 八雲紫──私の育ての親である大好きな妖怪。貴女は何度でも私の心を奪うのだな。……そう、恥ずかしすぎる黒歴史を晒されて一時的にゼパっていた*2私は、スキマ妖怪の圧倒的にぬくもりてぃ溢れる完璧にしてけんじゃーなHI・ZA・MA・KU・RAをされていたのだ。正直、幸せすぎて昇天しそうです、はい。

 

「イチャイチャの波動を感じるッッッ!」

「急にどうしたんだルーミア!?」

「これはぶち壊さないとダメなのかーッ!」

「本当にどうしたお前は!?」

 

 何やら雲行きが怪しくなってきやがりましたねぇ。

 

「次の黒歴史は──お・ま・え・な・の・だぁ~♪」

 

 ハッハムタロサァン!?

 

 ルーミアちゃんの指し示した先にいたのは、見目麗しきお姉様。溢れる母性で私を癒してくれている我が愛すべき至上の女神、八雲ゆかりんその人であった。

 

「わ、私っ!?」

「……知ってた」

 

 河童と言えばキュウリ、鬼と言えば酒、私と言えばゆかりん。その法則に沿うならば、私の黒歴史が大開放されちゃったら、その次は当然ゆかりんだよね。

 地底に住んでいるもう一人の女神であるさとりんに心を読んでもらわなくても納得だよ。

 

「覚悟するんだな! 幻想郷の賢者よ!」

「早速、逝くのだぁ~♪」

「せめて心の準備をさせてちょうだい!?」

 

 だが、黒歴史晒し隊の二人は止められない、止まらない。そして……。

 

「ちょっ、霊夢!?」

「私だけが晒されるのは嫌だ。……一緒に逝こう、ネ?」

「目が逝ってらっしゃるぅぅぅ!?」

 

 ゆかりんのくろれきし、れーむとってもきになるー。

 

「あの八雲紫の黒歴史……それはっ!」

「それはぁ~?」

「自室でこっそりと可愛いポーズの練習をしている!」

「わぁ~賢者なのに意外だねぇ~」

「ちなみに前はルーミアの恰好で、「そーなのかーそーなのかー」と両手を開いてニコニコしてたぞ」

「これガチだねぇ~」

「他にも某紅魔館の吸血鬼姉の服装で「これが八雲のカリスマよ!」とかなんとか、意味の分からん事を言いながら、非常にかりすま溢れるどや顔を披露していたな」

「これじゃあ、カリスマじゃなくてかりちゅまとかだね~」

 

 ゆかりんは少女趣味、ハッキリ分かんだね。

 正直、ゆかりんが客観的に見てキツイとしか言いようがない若い恰好をして、キャッキャしているだけで血反吐を撒き散らして絶命する自信がある。いや、ゆかりんの膝枕を堪能していなかったら、確実に血の海に沈んでいたね。

 流石、幻想郷の賢者は格が違った。その愛らしさ、天井知らず。ゆかりんはキツ可愛いというジャンルを持っている稀有な存在だから、皆も推せ。そして、照れて顔真っ赤で涙目になりながら、服の裾を握り締めて俯いているゆかりんの姿を私に見せろ。

 

「あぁぁぁぁぁ! あぁぁぁぁぁ! あぁぁぁぁぁきゃぁぁぁぁぁ!」

「あばばばばば!?」

 

 耳がっ! 耳がぁぁぁあばばばっ!? ゆかりん待って待ってぇぇぇ! 私の頭を抱え込んで叫ぶの止めて、鼓膜が召されるっ!? 鼓膜が召されちゃうってぇぇぇ!

 

「追加情報によると、最近は魔法少女マジカル☆ゆかりんを自称して、夜な夜な一人で撮影会をしているそうだぞ!」

「さらにさらに補足すると、従者の藍と橙は知ってて知らなーいふりをしてあげているらしいよ~」

「ピィギュッ!?」

 

 ゆっゆかりぃぃぃん!?

 聞いたことない鳴き声を発して、ゆかりんは完全に沈黙する。……抱え込まれている私にはゆかりんの表情が見えていた。

 もう真っ赤、これ以上ないくらいに真っ赤で涙目になりながら目をグルグル回している。……信じられるか? ゆかりん、こんな状態なのに追撃があるんだぜ?

 

「次は私なのだー」

「もうすでにいっぱいいっぱいみたいで申し訳ないが、これは私とルーミアの真剣勝負なんだ。諦めて逝ってくれ」

 

 慈悲などなかった。

 

「れ、霊夢。たすけ、たすけて……」

 

 これ以上はゆかりんの精神が持たない。

 愛すべき女神ゆかりんが助けを求めているのだ。幻想郷の守護者であるこの私が、あの暴走黒歴史(晒す的な意味で)コンビを何とかしてやんないといかんね!

 

「ねー霊夢、大人しくしないと、さっき以上に恥ずかしい黒歴史暴露しちゃうよー?」

 

 ……。

 

「私は、無力だ」

「霊夢っ!?」

 

 すまない、すまないゆかりん。これ以上は私も耐えられないのっ! 後一回暴露されたら、れーむ死んじゃうっ! 死んじゃうのっ! 許してっ、許してぇ!

 

「それじゃとっとと逝くのだぁ~……私が話す八雲紫の黒歴史とはぁ~」

「うむっ、わくわくだな!」

 

 うん、そうだね、ワクワクだね。これ見よがしに高速で尻尾をフリフリしやがってこのワーハクタクはよぉ。こんな恐ろしい目にあってなかったら襲ってるレベルだぞ、このワクワクケモミミホイホイめぇ。

 

「ある日、霊夢への想いが募りに募ってしまった八雲紫は思ったのだ。……そうだ、この想いを詩にしてみようとー」

「あっ、これは聞いてる方も恥ずかしくなるやつだな」

 

 人それを自作ポエムと読む。

 

「何でっ、何でそれも知ってるの!?」

「私、歴史を操る程度のワーハクタク」

「私、闇(闇に葬った黒歴史)を操る程度の常闇妖怪」

「そんな私たちが」

「逆に聞くけど……」

 

 互いの位置を立ち替わり、入れ替わり……。

 まるで踊るように、歌うようにくるくるくるくると壇上を回りながら、二人は至極当然と言わんばかりに太陽すら霞んでしまう笑顔をキラキラと会場に振り撒く。

 

「「何で知らないと思ったの?」」

 

 恐怖の一言を添えて。……

 

「──」

 

 ゆかりん、息して。

 

「さて、脱線したがお待ちかねの詩を披露するのだー!……私も初めて目にしたときは共感性羞恥で暫く動けなくなるほどの破壊力を秘めた怪作なのかー!」

「何だその最終兵器」

 

 大衆の面前でそんなのぶちかまされたら、ゆかりん死んじゃうのだが?

 

「題名は──「私の光」」

 

 あっ、これアカンやつ。

 

「絶望する私の世界を切り開いたのは、あの日出会った幼き人の子。弱く儚い貴女は、私という妖怪を希望と言う名の輝きで以て照らしてくれた。曰く──最も古き時代に光あれと始まりの神が言った。それこそが世界の始まりだったと。私にとっての貴女はまさに光だった、得難いほどに尊く、かつて夢見た理想郷が人の身となって目の前に現れたかごとき麗しさ──(中略)」

 

 すまん、それ誰のこと話してるの?(困惑)

 

「──あぁ霊夢、私の光。貴女はどうして人の子なの。いつか訪れるであろう別れを思うと、私のこの胸は今にも押し潰れてしまいそうになる。光を失った私は、一度貴女という欠けがえのない光を知ってしまった私は、貴女を失うという恐怖にどう耐えれば良いというの? いえ、決して耐えられない。耐えられる筈がない。貴女が私の前からいなくなるなんて考えられない。貴女が消えるというならば、私も共に消え去りましょう。貴女を想うならば全てを捨てても構わない」

 

 やだぁゆかりん重すぎぃ!

 

「だから幻想よ、どうか私の細やかな望みを受け入れたまえ。私の光が未来永劫輝き続けることを許したまえ。……ただ一人の妖怪の浅ましき願いを、私の愛しい光の巫女が永遠と続く夢を叶えたまえ……以上なのだー」

「ふむ、流石幻想郷の大賢者だ。大分拗らせて大変なことになっているぞ」

「今年で三千と〇〇歳を迎える妖怪とは思えないのだぁー」

 

 (年齢の話は)やめたげてよぉ!

 

「ふーふーふー、こんにちわ、わたしやくもゆかりん。すきまのせかいからやってきたふしぎようかい。みこのれいむちゃんがしんぱいですきまのせかいから、いろいろとおたすけしにきたのよ!」

 

 壊れちゃったですぅ。

 FXで有り金全部溶かした人みたいな顔で意味☆不明な事を言っている。

 

「うひ、うひひひっ。ふひひひっあはははははー」

「よーしよし紫、お前はもう休め、休むんだ」

「れーむちゃんはやさしいなー、ゆかりんはしあわせもんだー」

 

 取り敢えずこれ以上壊れないように、巫女巫女だいしゅきホールドで保護しておくわ。

 

「時間的に次でラストだな」

「最後の犠牲者は──お前なのだぁ~!」

 

 ルーミアちゃんが指し示したのはっ!

 

「あやっ!?」

 

 今大会の司会を務めている文ちゃんだった。……正直一番目立っているからね、仕方ないね。

 

「ど、どうじでわだじなんでずがぁぁぁ!」

「正直、五月蠅いからだな」

「ちょっと黙らせたかっただけなのだぁー」

「五月蠅い!? いやいやいやいや、司会っ! 私っ司会なんですがっ!? 場を盛り上げているだけなんですがっ!?」

「文よ、そんなものは理由にならないぞ」

「そーなのかー……良いから黙って晒されろよ、捻り潰すぞこの騒音烏がよぉ

「ひぃっ!?」

 

 あれ? 今一瞬だけルーミアちゃんの声めがっさ低くならんかった?……気のせいだな、うん。あの笑顔が愛らしい我らがルーミアちゃんがあんな真っ黒な声で文ちゃんを脅しにかかるわけがない。

 なーんか文ちゃんが真っ青になって「ビビシ、たけってんのかよ」してるけど、気のせいだな。

 

「うひひっ、れーむちゃんみてみてー、ゆかりんきょうふのあまりにたいかしちゃったよー」

 

 そして、私が抱き締めているゆかりんが更に壊れて逝ってるのも多分気のせいだ。

 いつの間にやらゆかりんの姿が饅頭のようにふっくらした生首に変わっちゃってるけど、きっと気のせいだ。もうなーんか等身が縮んでいるどころの騒ぎではないけど、絶対に気のせいだ。

 

「……」

「ふひひー」

「……」

「うふふー」

「いや──何 だ こ れ」

 

 な ん だ こ れ。

 

「何か司会席で大変な事が起こっているみたいだけど、気にせず晒していくぞ!」

「さっさとお前を終わらせてやるのだぁー!」

「嫌だぁぁぁぁぁ!」

「ふひひひひひぃー!」

 

 もう、どーにでもなれー(投げ)

 

「では私から行かせてもらうぞ。……幻想郷最速の文屋である射命丸文の黒歴史、それは──」

「わくわくなのだぁー」

「自撮りだ!」

「詳しく説明してほしいのだぁ!」

「これは文が初めてカメラを手に入れた時のお話だ。初めてカメラを手に入れた彼女は感激のあまり、何を思ったのか気に入った場所や珍しい物と一緒に自分を写真に収めだしたんだ」

「ぶっちゃけ外の世界で言うところのソーシャルネットワーキングサービス的なあれだねぇー」

 

 あやや、そんな事してたんだ。私が幻想郷にいる時にはもう既にカメラ持ってたからなー。正直、私が生まれる前話には興味あるわ。私ぃ気になりまぁす!

 どの娘にどんな秘められた過去。……もとい黒歴史があるのだろうか。大人しく黒歴史晒された甲斐があるってもんだねぇ!(顔真っ赤ぐるぐる目)

 

「その自撮り写真を収めたのが、このアルバムだ」

「ふむふむ【文ちゃんの優雅な幻想郷日記其ノ九十九】? 目茶苦茶撮ってるのかぁー」

 

 全て良い値で買おう(真顔)。

 

「わあああああぁぁぁぁぁ!? 何故です! 何故なんです!? ちゃんと誰にも見られないように焚き上げしたのにぃぃぃ!?」

「これが(黒)歴史を司る私の力だ」

「おのれ、ヒストリーブラックゥゥゥ!」

「そうかそうか、そんなにこれ(アルバム)をばら蒔かれたいのだな」

「生言って申し訳ありませんでした。何卒っ何卒それだけはご勘弁をっ!」(土下座)

 

 恐ろしく早い土下座。私じゃなきゃ見逃してるね。

 

「さて、このアルバム全百八巻は、物欲しそうに此方を見つめている霊夢にあげるとして」

 

 やったぜ!(お目目キラキラ)

 霊夢ちゃんのけーねてんてーへの好感度が上がった! しかし、好感度は既にMAXであるため、これ以上は上がらない!

 霊夢ちゃんのけーねてんてーへの好感度が上がった! しかし、好感度は既にMAXであるため、これ以上は上がらない!

 霊夢ちゃんのけーねてんてーへの好感度が上がった! しかし、好感度は既にMAXであるため、これ以上は上がらない!

 霊夢ちゃんのけーねてんてーへの好感度が上がった! しかし、好感度は既にMAXであるため、これ以上は上ががががが──好感度が天元突破しました! 霊夢ちゃんの好感度が【ルナティック】から【激ルナスティックモリモリドリーム】へと極限進化しました。 

 これにより、霊夢ちゃんの依存度が上昇しました(ヤンデレもドン引くレベル)。

 霊夢ちゃんの欲情度が上昇しました(二人っきりなら即仕込まれるレベル)。

 霊夢ちゃんの守護キャラ度が上昇しました(産毛レベルの損傷すら許さないレベル)。

 霊夢ちゃんの……(以下略)。

 

「れ、霊夢さんの目があんなに輝くなんてぇ! 私の黒歴史なのにっ! うがあああぁぁぁどお゛じで慧音さんの好感度が上がっでる゛んでずがぁ゛ぁ゛ぁ゛!」

 

 現実ってそんなもんやで文ちゃん。

 正直文ちゃんの濁音混じりのちょこっとだけ汚い泣き声大好きよ、もっと聞かせて(好感度上昇)。

 

「な、何はともあれ私の黒歴史は晒されたので、これで私の番は終わりですね」

「何勘違いしてるのだぁ?」

「あやっ!?」

「まだお前の黒歴史は残ってるのだぁー! 速攻スペル発動っ! 大公開【黒歴史千変万化(ダークネスソウルヒストリカ)】、相手の精神が砕け散るまで、黒歴史を晒し続ける!」

 

 以下余りにも惨いのでdieジェスト(誤字にあらず)。

 

「まず一つ目ぇ! 自作の和歌を作っては新聞に掲載していた!」

「ひぐぅ!?」

 

「二つ目ぇ! 部下の犬走椛からの扱いを変える為に出来る上司を演じようとしたが、鼻で嗤われた上にダメ出しされた! こっそり物陰で泣いていたがその場面すらも椛に見られている!」

「にょぅ!?」

 

「三つ目ぇ! 外の世界の番組に憧れて舞台セットを作ったのは良いが、悲しいほどの低クオリティで人に見せられず、押し入れの天井に隠している! しかも十セットぉ!」

「かはっ」

 

「四つ目ぇ! 自分が作った新聞は、誰よりも先に霊夢に読んでほしいため、霊夢が起きる一時間前には博麗神社の前で待機して、初めてのデートで待ち合わせしているヤツみたいにそわそわしてにやけているぅ! なお霊夢にはバレバレ!」

「ぐわぁぁぁぁぁ!?」

 

「五つ目ぇ!「もう止めるんだ! ルーミア!」HA・NA・SE*3・な・の・だぁ!」

「もうとっくに文の精神力は尽きている! もう勝負はついたんだ!」

 

 今古代エジプトの闇の王様いなかったか?……あっ、ダークネスソウルってそういう。

 

「アヤァ」

 

 文ちゃんは、いつの間にか出来上がっていたクレーターの中心でヤムチャしてる。

 良く見れば新鮮なケチャップで血文字が……何々、「犯人は我が名はATMの人」……うん、お金を下ろすことに生き甲斐でも感じてる人かな? れーむ無知だから分かんない。

 所でBMGってマジシャンの小娘の事どう思う? 初登場の時のあの衝撃は未だに忘れられないよね。マジシャン使いのパ〇ドラさんも驚愕してたしね。……その後すぐに超電導波サンダーフォースで世の中の何も知らない(ナニは知ってる)無垢な青少年達の性癖を歪ませた初代を許すな(第66話)。

 というか最近のOCG環境って露骨に素晴らしいカード群増えたよね。……蠱惑魔とか、ラビリンスとかえとせえとせ。

 え、あのカードゲームは昔からあんなんだった?……水の踊り子? ホーリーエルフ? キーメイス? うん! カットピングだね! ワイトもそう思います。

 

「……あ、あややと死ぬかと思いました」

 

 皆があややって言いまくるから文ちゃんのちょっと前から口癖が「あやや」になってんじゃん、やったぜ←主犯。

 

「チッ、まだくたばりやがらねぇか」

「おいおい、ルーミアよ。さっきから何か黒いぞ」

「ちょっと何言ってるのか分からないのかー……無駄乳センコーが生言ってんじゃねェぞ、あ゛ぁ゛ん゛?」

「やだこの娘こわい」

 

 薄々気付いてたけど普段は猫被りなんやね。

 つり上がった目、苛立たしげに曲がった口角、全身から溢れだすアウトロー(闇)。

 あんまりルーミアちゃんを相手にしてこんな表現はしたくないんだけど、表の顔が闇夜にキラキラと光輝く満点の星空なら、裏の顔は人を絶望のドン底に陥れて悦に浸るクソ外道の灼熱麻婆煮込みである。アゾットォ!

 

「おい、れーむはこんなあたしは嫌いか?」

 

 大 好 き で す !(顔ブンブン)

 

 何ならニヒルな笑みを浮かべる貴女に蔑まれながら踏み踏みされたい!

 

「そーなのかー(にぱぁー☆)」

「真っ黒な本性曝け出した後によくそんなに猫を被れるな。正直尊敬するよ」

「始めから言ってたじゃないかー」

「ん? 何をだ?」

「私の中のダークネスソウル(真っ黒な心)が溢れ出したって」

「ふむ、なるほどあれはそういう意味だったのか……」

「そうなのだー、だから恥ずかしい黒歴史の塊であるけーねとは黒さの方向性が違うよね!」

「さっきからちょくちょく刺すのを止めてくれないか、流石の私でもそろそろ泣くぞ?」

「勝手に一人で泣いてろよ鬱陶しい」

「は? キレそうなんだが?」

 

 外道モード全開状態であるルーミアちゃんの煽りが留まるところを知らない。遂には相方のけーねせんせーもターゲットになる始末である。こりゃあ手に負えませんわ。

 

「まぁ、けーねのダークネスヒストリー(笑)は置いといて、それなりに満足したからこれ以上は勘弁してやるのだ」

「うむ、分かった。ルーミアよ、月の出る夜には気を付けることだな」

「はっ、返り討ちにしてやるよ。……今日はこの程度で勘弁してやるけどよぉ、そこのホッとした顔してるテメェら、あたしの知ってる黒歴史はまだまだこんなもんじゃねぇからな、だから──」

「無論、私もまだまだ語っていない黒歴史は沢山ある。ので──」

「「──今後は精々震えて過ごせ(過ごすが良い)」」

 

 片や見惚れそうなほどのゲス顔で、片やいっそ優しさすら感じさせる穏やかな顔で、そう告げて壇上から去っていった。

 

「「……」」

 

 二人は最後にとんでもねぇ物を奪って行きました。

 

「「う、うわぁぁぁぁぁ!?」」

「「いやあぁぁぁぁぁ!?」」

 

 我々の平穏です(ビビシタケッてんのかよ)。

 

「あ、あはっ、あはははっ、す、素晴らしい漫才でしたね!」

「文、無理するな。足が震えてるぞ」(ガクガブルブル)

「そ、そそそー言う霊夢さんだって、ガクブルじゃないですかぁ!」

 

 違うもん、武者震いだもん。

 

「はぁーすぅー……気を取り直してぇ! 早速ですが霊夢さん! ダークネスヒストリーの点数は!」

「うむ、ダークネスヒストリーの点数は──」

 

──黄昏輪廻転生。

 

「……はーい、それでは解説をお願いしまーす」

「スルーは悲s「はいはい、解説をお願いしまーす」だかr「解説をお願いしまーす」少しは話w「か・い・せ・つっ!」……黄昏輪廻転生とは──万物の幸せを願う慈愛の女神の元に生まれた輪廻転生の宇宙である。黄金の獣が敷く闘争の宇宙とも、水銀の蛇が敷く繰り返しの宇宙とも、永遠の刹那が敷く停滞の宇宙とも違う。善悪問わず、全ての者に「いつかきっと幸せになれる、だから頑張って」と願い続ける、心優しき女神が敷いた生まれ変わりの宇宙である。本人が持つ厄介な性質故に、誰とも触れ合うことのなかった彼女が、愛しい者を知り、守りたいものを見つけ、己の在り方を変えた果てに至った理は、先に述べた三柱の覇道の神々すらも共存させる程に美しく、全てを抱き締める愛に満ち溢れているのだ」

「何か思った以上に良い話ですね。……おや、今回は何もしないんですね?」

「流石の私でも今回ばかりはふざけるわけにはいかないからな」

「成る程、今まではふざけていたと」

 

 ふざけてなどいないさ。今までもこれからも、私はお前達(幻想郷の美少女)に対しては、全力の愛で以て応じるとも。

 此処まで来たら最早詠唱も不要。黄金を真似た『触れ合い』も、水銀を真似た『見守り』も、刹那を真似た『時間の積み重ね』も全てが不要になる。

 何故なら既に私はこの幻想の全てを受け入れ、また受け入れられているからだ。敢えてこの法則に名を付けるのであれば一つしかないだろう。それは──

 

──【幻想夢想転成】

 

 それは共有の宇宙。

 私、博麗霊夢の内から漏れ出した渇望が幻想郷の法則を塗り替えた最新にして最古の宇宙である。

 共有とは分かり合うこと、私という人間と、この幻想郷の全ての少女たちが対話を通して分かり合い、対等の友として慈しみ合い。友情と愛情を育んでいくことを願い続ける、ただそれだけの私自身が私に敷いた絶対の法則なのだ。

 故に私は対話を諦めない(美少女限定)。今後どのような形で幻想郷に異変が起こったとしても私は分かり合う努力を惜しむことはない。私の愛が尽きぬ限り(尽きない)分かり合う事を諦めはしない。分かり合うまで何処までも追いかけ対話をし続ける。……誰が諦めの悪いストーカーの宇宙だって? ク〇ンタムバースト*4するぞ貴様。

 

「私自身の在り方を、そのまま幻想郷に届けるだけの些細なものだ」

「つまりどういうことです?」

「私の愛が幻想郷に蔓延する」

 

 具体的に言うと始末剣ダーオカが「おまんも人」とかあたおかしながら辻斬りフィーバーし、姉を名乗る不審者が都会を海に沈めて妹と弟たちに囲まれたイルカの楽園を生み出し、呆れた魔術王の術式が「あーもう人類はやれやれ、本当にやれやれ、やれやれのやれやれ」して、†逆行運河☆創世光年†で新時代を作るために「お待たせ皆ァ! ゲティだヨ♪」しながら最強で無敵なアイドルになる。ついでにマネージャーにされたフラウロス(もみあげ)の胃は死ぬ。

 つまりどーいうことになるのか……世界中が私みたいな愉快な存在になる(終末論)。

 

「言ってる割には何にも起こりませんね……さっきは「私が全てをパフパフする」とか「最終痴姦連写エンドレススリスリ」とか「時さ、どまれ、オメェらめんごい」とか、もうあやちゃん意味分かんにゃいって有り様だったじゃないですかー」

「発動済みなんだ」

「ふぁ?」

「私が誕生した時に既に発動済みなんだ」

「あれ? 今までの可笑しな出来事ってもしかしなくても全部霊夢さんのせいでは?」

「そんなに褒めるな。……流石に照れる」

「褒めてないが???」

 

 ええじゃないか。減るもんでもないし。シリアスな世界出身の人にとっては、全てが茶番になるからある意味ヘルかもしれんが。

 

「たのしんだって、いいじゃない、にんげんだもの れいむ」

「お黙り下さい人でなし。いい加減にしないと怒りますよ?」

「ゆかりー文がいじめるー」

「うーふーふー、れーむちゃんは愉快だなぁー」

「あ、駄目だ。まだ元に戻ってなかった」

「ねーねーれーむおねぇちゃん、さなえおなかすいたー」

「ほらほら早苗、霊夢は手が離せないみたいだから、こっちで私とお団子食べときましょ」

「わーい! ありがとー! パルスィちゃん!」

「比那名居天子ちゃん見参! さぁ私にひれ伏すが良いわ!」

「はぁ……帰りたい」

「あらあら、楽しそうねぇ~」

「待ってください幽々子さんっ!? おでんの鍋持ったまま歩き回らないで下さい! あつっぁ!? 零れてる! 零れてますから! 零れてるって言ってるだろうがっ!」

 

 ま さ に カ オ ス

 

「ほらもう、収拾つかないじゃないですかこれぇ!」

「そら頑張れ、頑張れ」

「シャラァップ!」

「げらげらげらげらげらっ!!!」

「無表情でその笑いは止めろぉ! 止めろって言ってるだろぉ!? いい加減にしないと、文ちゃん本気でビンタしますよぉ!?」

「あなや」

 

 文屋あや、いといかりて、いとこわや。……どうも平安奇行種、独り廃句祭りの博麗霊夢です。あーかしこみかしこみっ!

 

「ふぅ、やれやれ霊夢の周りはいつも騒がしいな」

「本人が一番五月蠅いから仕方ないのだー」

「慧音とルーミアも来たか、取り敢えずはお疲れさま。……これ以上黒歴史を衆目に晒すのは止めてくれないか?」

「??? 嫌だが?」

「ちょっと日本語で話してほしいのかー」

「この二人コワイ」

 

 え、人の心とかないんですか?……妖怪だったわ、一人は半分人間だけど。

 

「はぁーっ! 収拾付けようにもどうにもならないので、さっさと優勝の組だけ決めて終わりましょう!」

「優勝の組、か。どの組も尖りに尖っていて甲乙付け難いのが本音だ。……皆優勝では駄目だろうか?」

「駄目に決まっているでしょう」

「……文が決m」

「霊夢さんが決めた点数言いましょうか?……イキュイキュ天子ちゃんが【修羅道至高天】、ジェラシーミラクルが【永劫回帰】、冥界夜雀が【無限刹那大紅蓮地獄】、ダークネスヒストリーが【黄昏輪廻転生】ですよ? どう判断しろと? 何がどんな基準なのか、文ちゃんにはひとっつも理解できないんですが???」

「あやや、我ながらこれは酷い」

「分かっててやってたんだろうが貴様ぁーっ!」

 

 文ちゃんキャラ崩壊である。正直済まないとは思っている。

 

「だが、私でも決めるのは難しいぞ。実際どの組も素晴らしい漫才だったからな。文だって誰が優勝でも可笑しくはないと思っているだろう?」

「それは……まぁ、そうですが。一応ちゃんとした大会だと明言しているわけですし、優勝賞品の話もしているのですから、どれか一組を決めないと示しがつかないです」

「ふむ、ではこうするのはどうだろうか──」

「え、確かにそれなら丸く収まる気がしますが……」

「物は試しだ。ちょうどこの場には当事者しかいないんだ」

 

 古来、人間達は諍いの場を収める手段として数を利用した。

 多数決、二つ以上の意見が同時に出た場合、賛成派が多い意見が採用される極めてシンプルな方式である。今宵の笑劇の場でも、この方法を採用させてもらうとしよう。……戦いは数だよ、アニキィ!

 

「おさらいしよう。

一つ、必ず自分以外の組に投票すること。

二つ、他の組を脅さないこと。

三つ、それぞれの力を使って投票用紙に細工をしないこと。

……そこで明後日の方を見ている早苗。こっちを見ろ、主にお前に言っているんだぞ?」

 

 奇跡使ったら分かるんだからな? 幼児退行してても割と腹黒いのは分かってるんだからな?

 

「ふむふむ、何事もなく集まりましたね。ではでは集計結果を──はい?」

「どうした文、何か問題でもあったのか?」

「可笑しいです。こんなの絶対可笑しいですよ」

 

 文ちゃんが頭を抱えて蹲ちゃったので、私も見てみようかね。……おやおや、これは?

 

 集計結果……

 イキュイキュ天子ちゃん──0票。

 ジェラシーミラクル──0票。

 冥界夜雀──0票。

 ダークネスヒストリー──0票。

 

 そして、全ての組に手書きで追加された謎の組が一つ。

 

 司会ガールズ巫女天狗──4票。

 

「明らかに私と文の二人を指しているなこれは」

「どお゛じでだよ゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!! わ゛だじに゛ち゛ゃんどじがい゛ざぜでよ゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」

 

 何処のカ〇ジだよ*5

 文ちゃん、そーゆうとこだぞ。見てよ投票した組の娘たち、文ちゃんの汚くて可愛い声聞いて笑っているもの。

 

「何故か優勝してしまったが、優勝した感想はどうだ文よ」

「もーいいです。霊夢さんが関わっている時点でちゃんとした大会になる筈なんてなかったんですよ! 優勝しちゃった以上は仕方ないですし! 開き直ってやりますよ! どお゛でずが! ま゛んぞぐでずが! わ゛だじを゛い゛じめ゛でだの゛じい゛でずがっっっ!」

「正直追い詰めた時の文の声は好きだ(イケボ)」

「み゛ぃ゛っ!?」

 

 耳を寄せて囁きますよっと。……私にこうされて興奮せぬおなごはおらなんだ。

 気絶しちゃった文ちゃんはそのままゆっくりと寝かせといて、何で投票したのか他の組にも聞いておきますか……

 

「では、先ずはイキュイキュ天子ちゃんからだな。何故私たちに投票した?」

「ふふふっ! よくぞ聞いてくれたわね! 私があんた達に投票してあげたのh「総領娘がおっしゃっていたのですが」ッ!?」

「「霊夢たちの掛け合いは見事ね! 私たちの漫才が終わった直後にねじ込まれる笑いの数々には天人である私も脱帽ものよ! あの烏天狗も紹介文をしっかりと考えた上で見事な叫びは良かったわ! 思わず熱くなっちゃうくらいよ! それに負けないように霊夢も独自の世界観で点数を付けたりしてて正直意味が分からなかったけど、その後の烏天狗とのやり取りは面白かったわ! 互いに互いの事が分かっているからこそ限界ぎりぎりを攻めた良い漫才ね! この私に評価されるのをありがたく思いなさいな!」などとかなりの高評価をしていましたよ」

「いきなり何を暴露してるのよ!?」

「空気を読んだところ、総領娘様が喋ってほしそうにしていらっしゃったので、気配りのできる優秀な部下としては、徹底的に晒し上げるべきだと思いました」

「そんなわけないじゃないの! 霊夢! 今のは依玖の妄言だからね! 信じちゃ駄目なんだからね!」

「と言いつつも、霊夢さんに優しく見つめられて満更でもない総領娘様でした。……では、私はこの辺でお暇させて頂きます。今日は流石に疲れました」

「依玖ーっっっ!!!」

 

 何処までもマイペースにやりたい放題な依玖サンと、振り回され続けた哀れな天子ちゃんはそのまま天界に帰っていった。……天子ちゃんよ、強く生きろ。……それと女の子が人前で「イクーッッッ!!!」とか言っちゃいけません。今のは依玖サンに失礼だな、ごめんちゃい。

 

「次にジェラシーミラクルだな。話を聞かせてほしい」

「じゃあ私から言うわね。……正直なところ嫉妬したわ。元々霊夢に対しては好感を持っているのもあるけど、純粋に文が面白かったわ。霊夢のボケに全力で反応して、返り討ちにされて泣き喚いたり、汚い声を上げたりって、生きているだけで面白いのは反則よ。私たちはしっかりとある程度の流れを決めて漫才してたのにね」

「つぎさなえのばん! あのね! あやおねえちゃんかわいかったね! こえきたないけど! さなえあやちゃんがさけんでるのすき! だからパルスィちゃんとそうだんしてあやちゃんたちにひょういれたの!」

「早苗、あんた恐ろしい子ね」

「元に戻るまでまだ時間かかるだろうから、その間に常識というものを叩き込んでいてほしい」

「はぁ相方がこんなじゃ私の沽券にも関わるしね。分かったわ、少しでも矯正できないか試してみるわ。ほら早苗ちょっとあそこでお団子食べながらお話しししましょう?」

「おだんごだぁー! じゃーね、れーむおねえちゃん!」

「うむ、食べ過ぎには注意するんだぞ?」

 

 頑張れパルスィお姉ちゃん。早苗が元に戻った時にどれだけまともになれるかは君の教育に掛かっている。……団子か、私も少しお腹空いたな。

 

「次だ。冥界夜雀の二人はどうして私たちに投票したんだ?」

「では、私からですね。……他の組に比べてアピールする時間が長かったのが一番の要因なのかなと思いますね。イキュイキュ天子ちゃん、ジェラシーミラクル、私たち冥界夜雀にダークネスヒストリーの漫才の合間合間でそれなりに長い時間、文さんと掛け合いをしていたので、凄く印象に残りました」

「私としては霊夢の意味の分からない点数付けも面白かったわ~、黄金の獣に水銀の蛇、永遠の刹那に黄昏の女神。……まるでお伽噺を聞かされているみたいで楽しませてもらったわね~」

「その後の大暴走はどうかと思いましたけどね」

「霊夢らしくて良いじゃないの~……そ・れ・と・も、文ちゃんの事が羨ましいって思ってたりするんじゃないの~?」

「そ、そそそんなことあるわけないじゃないですかっ!」

「声震えてるわよぉ~……裏でボソボソ呟いてたのが偶々聞こえただけなの~秘密にしておくから安心して~」

「思いっきり本人の前で暴露されたんですがっ!?」

「あら~……ごめんなっちょ」

「なっちょ言うなー!」

 

 そのままふわりふわりとその場を後にする幽々子ちゃんを追って、ミスティアちゃんもその場から飛び去って行った。……大丈夫だよ、霊夢は聞いてないなっちょ。

 

「最後になるが、ダークネスヒストリーの二人は何故私たちに投票を?」

「ぶっちゃけると迷惑料なのか―」

「秘密にしているはずの歴史を語ってしまったからな。……いや、祭りの雰囲気というものは恐ろしいものだな、普段の自分だと絶対に語らない歴史でも簡単に口に出してしまったぞ。……霊夢の恥ずかしい秘密は私だけのものだったのにな」

「あどばんてーじが無くなるからあんまり晒さない方が良いんだけどね。……ま、大勢に晒されて羞恥で顔面真っ赤な霊夢は見てて最高に面白かったんだけどなぁ!」

「面の皮どうなってるんだ、それ」

「何を言われているのか分からないのか―」

「慧音の相方怖すぎない???」

「安心しろ霊夢、私も怖い」

「次の機会があったら、邪魔者連中の死んでも世に出したくない歴史を光の下に大開放する予定な・の・だ~。……霊夢の秘密もまだまだあるよっ! 暫くの間は、あたしを想って震えて過ごしてね☆」

「──え」

「では、そろそろ失礼するよ。……ちなみに私もまだまだ話していない歴史はあるから、ルーミアと同じくらいには想ってくれると嬉しい」

「あれ? もしかして私嫌われてる?」

 

 常闇のハ〇太郎と歴史を司るワーハクタクの二人は会場を後にした。……暫くは本当に夢の中にまで出てきそう。

 「明日もきっと良いことあるよね! ルミ太郎!」「レムちゃんはいい加減寂しくなったら親指をしゃぶる癖を何とかするのだ」「ルミ太郎?」「後、お酒で酔えないからって、意味もなくスピリタスでシャンパンタワーの真似事して遊ぶのは止めるのだ。殆ど蒸発して消えてる上に酒臭いのだ」「ルミ太郎っ!?」「横から失礼するが、友達の胸をガン見するのは止めた方が良いぞ? 隠しているつもりだろうがバレバレだからな?」「先生ぇぇぇ!?」……わぁい、頭痛がストマックしてきたからもうれーむ考えるの止める―。

 

「……らしいぞ、文」

「ふっ、ふんっですよ。司会としては複雑ですけど、意外と皆見てくれていたんだなとか。霊夢さんと騒いでただけなのに、物凄い高評価で嬉しいなんてすこっしも思ってないですよっ!」

「ふ、ふふふっ、顔真っ赤で言われても、な」

「そーいう霊夢さんだって、にやけ顔隠しきれていませんよ!」

「私のは菩薩の笑みだ」

「こんな邪悪な菩薩がいるわけねェだろがァ!」

 

 文ちゃんってばひどぉい。こんな清廉潔白な巫女を捕まえて邪悪だなんて。……悟らせてやろうか?

 

「さて、冗談はさて置き、私たちが優勝してしまったわけだが。……欲しいのだろう?」

「そうでした! 優勝者には特別なプレゼントがあるんでした! 霊夢さんが用意した特別なプレゼントが私の手に!」

「というわけで、はい」

「あっさりですね!?……あの、霊夢さん。これは何です???」

「博麗霊夢成りきりセット~夏の悩殺せくすぃーヴぁーじょん~だな」

「こんなもの貰ってどうしろとっ!?」

「こんなものとは失礼だな。私が丹精込めて作った博麗神社の由緒正しき伝統的な巫女服だぞ?」

「悩殺せくすぃーの何処に伝統を感じろとっ!?」

「五月蠅い、黙って着ろ」

「こんな際どい巫女服を着ろと!? 下乳モロじゃないですか! 挙句背中はバッサリ開いていて、お腹も丸見え! 袴もエグめのスリットが入っていて横からほぼ丸見えじゃないですかぁ! こんなん下手な水着より恥ずかしいわぁ!」

悩殺せくすぃーヴぁーじょん(震え声)

「やかましいわぁ!……まさかとは思いますが、これを誰かに着させるためだけに今回の大会を開いたとか、そんな事言いませんよね?」

「……わたし、むずかしいことわかんない」

「このっ、巫女はっ」

 

 だって、可愛い(エロい)服着た女の子が見たかったんだもん。ついでに笑顔の女の子と戯れたかったんだもん。霊夢悪くないもん。

 

「嫌ですよ! 私ぜぇぇぇったいに着ませんからねぇ!」

「何と優勝者には特別なプレゼントがっ!」

「説得が無理なら実力行使ですかっ!? やめ、離してっ離s離せえぇぇぇェェェッッッ!!!」

「安心しろ、私と二人っきりだ」

「何゛処゛に゛も゛安゛心゛の゛要゛素゛が゛ね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ェ゛ェ゛ェ゛え゛え゛え゛エ゛エ゛エ゛!!!」

「どうやってその声出してるん?」

 

 烏天狗一名ごあんなーい。

 

 

 

 

 

 あの後どうなったか、だって? 烏天狗のお味は如何でしただって?……いやいや、誤解しないでほしいな。私は文ちゃんにプレゼントした巫女服を(強制的に)着てもらっただけだよ。そう、文ちゃんの水着写真集を作るためにちょっとした撮影会を開いて個人的に楽しんだだけなんだよ。際どいポーズとか滅茶苦茶撮ったけどなぁ! 途中から文ちゃんも開き直ったのか、ノリノリでポーズ撮ってくれたり、蠱惑的に棒付きアイスをぺろぺろしてくれたり、サービス精神満載だったのが良かったねぇ!

 ところで、巫女服と烏天狗の漆黒の翼の相性凶悪過ぎない? 妖怪という本来人間に仇をなす存在が、それを祓う巫女の服装をしているってだけで背徳感満載なのに、天狗って要素が加わる事で神秘的な要素まで散りばめられているんだよね。

 そもそも天狗って、かの有名な源義経の伝説にあるように、度々人間と関わる話があるくらい人に近い存在だし、神隠しの逸話からしても、山に住まう常識では考えられない超常的な存在という側面が強いんだよね。それこそ一部地域では生贄を捧げることで恵みを得ようとさえもする神のごとき存在という扱いも受けていたんだ。

 だったら文ちゃんと巫女服の組み合わせが常識では考えられないくらい神秘的で愛らしく、天上の神々すらも平伏して奉るレベルに神々しいのは最早必然でもあり、なるべくしてなった、みたいなものだよね。つまり、司会でありながら優勝するのも当然で、特別でヴェ〇タースオリジナルな彼女が特別なプレゼントを受け取るのは運命だったとしか言いようがないよね。QED完了。

 

「んっ、ちょっと霊夢さん! 気になるのは分かりますけど、翼触りすぎです!」

「いや、すまん。……文の翼は綺麗だな。しっとりとして艶やかで」

「褒めても写真しか撮らせませんよ!」

 

 背中バッサリ開いているデザインだから、肩甲骨辺りにある翼の付け根部分とか丸見えなのよね。具体的には人肌と烏の翼のちょうど繋がっている部分に何とも言えない込み上げてくる衝動があるんだ。……具体的には手で可能な限りもにもにしてたい。大体の翼付き少女たちにとっては性感帯みたいだからあんまり触らせてくれないからレア度が高いのよね。

 いやー翼がある系の人外少女の魅力って、普通の人間には絶対に存在しないパーツにこそあると思っている私からしてみたら、もうこれだけで満足できそうだよね。文ちゃん以外だと、最近ではスカーレット姉妹と小悪魔くらいしか触らせてもらえてないのよね。

 蝙蝠っぽい翼も、フランちゃんの明らかに異質な宝石のような翼も私としては大変アリだと思っている。……舐め回したい。

 

「全く、こんな一烏天狗の写真なんて撮っても何の得にもならないでしょうに」

「私にとってはお前たちとこうして思い出を作っていくのは何よりも得難い宝だ」

「まーたそんな調子の良いことを言ってぇー」

「事実だからな。あぁ……今日も本当に楽しかった」

 

 本当に楽しかった。

 文ちゃんとの司会。途中参加の壊れちゃったゆかりん。天子ちゃんと依玖サンの問答。早苗のやらかしに翻弄されるパルスィちゃん。

 腹ペコうふふな幽々子ちゃんと被捕食者なミスティアちゃん。黒歴史晒し隊のルーミアちゃんにけーねせんせー。

 彼女たちとの思い出は、これから先もずっと私の中で輝き続けるだろう。

 

「文は楽しくなかったか?」

「……そんな事、聞かなくても分かるでしょう?」

「ふふっ、ああそうだな……本当に──」

 

──楽しかった。

 

 言葉は飾らない。偶にはそんな日があっても良い。

 

*1
鳴かぬなら鳴かせてみせようほととぎすの意。ダイナミック太閤検地で有名な豊臣秀吉こと木下藤吉郎の才覚を詠ったとか何とか

*2
某人気アプリゲーム、FateGrandOrderに登場する敵役ゼパルくんが、キアラを名乗る魔性菩薩の吐き気を催す慈愛によって、色々と解放されちゃった結果、後戻りできないキャラ崩壊と共にネットの玩具になった姿のこと……みすてないで、キアラさま──

*3
某人気カードゲームの主人公の王様の名台詞。「もう止めて遊〇!」 → 「HA☆NA☆SE」 → 「もうとっくに羽〇のライフは0よ! もう勝負はついたのよ!」は当時の少年たちの心を鷲掴みにした。多分、一番の被害者は遊〇に私刑を強要された魔導戦士ブ〇イカーだと思う。

*4
「俺がガン〇ムだ!」で有名な某ソレスタルでビーイングなガン〇ムマイスターの必殺技である。心と心を繋げる領域的なものを広範囲に展開する、対話のためのシステムらしい。待ち兼ねたぞ! 少年!

*5
文ちゃんに許された贅沢、柿ピー一日半欠け!




かくたのぉ!(書くのってたのちぃたのちぃ)

長らくお待たせした。博麗伝説の最新話!
無事に上下投稿出来たので、拍手して褒めて下さい。
喝采されたいのだよ! 私ぃはぁ!

はい、調子乗りは部屋の片隅にジャス〇ウェイしておいて、長らくお待たせしましたね。
今後は定期的な供給が出来るように更に力を入れていこうと思います!(キーボードクラッシュ)

ところで、今回試作で注釈機能なるものを試してみたのだが、どうだろうか? ネタの解説もしやすいので、他の話にも展開予定である。(独断と偏見っ!)


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