学園黙示録〜暁の芸術家になった転生者〜 (☆桜椛★)
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第1話だ…うん!

床主市の外れにあるとある森の中で、1人の男性が木々の間を縫うようにして歩いていた。朱色の雲模様がある黒い外套の様な服を身に纏い、長い金髪を頭頂部で結って、前髪で左目を隠すという珍しい髪型と服装に、何かのマークが付いた額当てをした見た目20代後半程のその男性がしばらく歩き続けていると、少し開けた場所に辿り着き、足を止めた。

 

 

「この辺りでいいか…うん」

 

 

男性はあたりを見回しながらそう言うと、自分の右手のひらに視線を向けた。いたって普通の手のひらだが、中心辺りが裂け始めたかと思うとそこに1つの『口』が現れた。その男性はそれを見ても慌てる事なく両腰にあるチャックの開いた大き目のウエストポーチに突っ込み、少ししてからウエストポーチから出して手のひらを見る。手のひらの『口』はクチャクチャと何かを噛み締めており、やがて噛んでいた物を吐き出した。それは白い粘土だった。男性はそれをグッと握り締めてから手を開くと、どうやったのかは不明だが、粘土が小さな小鳥の形になっていた。

 

 

「んじゃ、先ずはこれぐらいで行くか…うん」

 

 

男性は自分が作った小鳥の形をした粘土造形品を見て満足そうに頷くと、それを少し離れた場所にある木に向けて投擲した。投げられた粘土造形品はポン!と煙に包まれるとまるで生きているかの様に動き出し、粘土で出来た翼を羽ばたかせて狙っていた木に向かって飛んで行き、木の枝に停まった。それを見た男性はニヤリと笑いながら片手で()を結んだ。

 

 

「芸術は…爆発だァ!……喝ッ!!」

ドゴォンッ!!!

 

 

男性が声高々と唱えると、木の枝に停まっていた小鳥型の粘土造形品は盛大に爆発した。男性はそれを見るとウンウンと頷いて大変満足した様子だった。

 

 

 

 

 

 

主人公side…

 

 

突然だがオイラの名前は《暁月(あかつき) デイダラ》。もう今年で27歳になる所謂“転生者”ってヤツだ。前世で仕事が休みの日に買い物をしに出掛けていたら『あ、ヤバ!』って声を最後に意識を失って、気が付いたら真っ白な空間で美少女に土下座されていたから驚いたものだ。話を聞くとどうやらオイラは手違いで殺されちまったらしく、お詫びとして特典付きで新しい世界に転生してくれたんだ。

貰った特典は【NARUTOのデイダラの能力と装備品】だった。デイダラってのはオイラが生前好きだったNARUTOという忍ばない忍者が出てくる漫画のキャラクターの1人で、両手のひらにある『口』に起爆粘土を食わせ、作った粘土造形品を操りそれを爆発させる能力を持っている。爆発は“C1”、“C2”、“C3”、“C4”と、数字が上がる程威力が上がっていき、最後に胸の辺りにある『口』に起爆粘土を食わせると、半径10kmの大爆発を起こす

CO(シーオー)”という自爆能力がある。

更に、起爆粘土以外にもデイダラには他にも忍術が使えるのだ。だからこの特典は当たりだと思っていた。

……そう、思っていた(・・・・・)のだ。

何故なら、オイラの転生したこの世界は、NARUTOの世界でも、剣や魔法のファンタジーな世界でもない。車が道路を走り、飛行機が空を飛び、夜は電気で明るい、オイラの前世によく似た世界だったんだ。しかも滅茶苦茶平和な日本の一般家庭だぜ?こんな能力いつ使うんだって話だ。

しかしせっかく貰った特典だし、使わずに一生を終えるのは勿体無い気がしたからこうやって町外れの山や森で忍術の修行(笑)をしているんだ。

 

 

「うん!うん!やっぱり芸術は爆発だ。どんどん行くぜ!…うん!」

 

 

オイラは先程の爆発の威力を見ながら新しい作品を作る為に今度は両手を腰のウエストポーチに突っ込んだ。

どうやらオイラはデイダラになった所為か、性格もデイダラ寄りになっており、戦闘狂ではないが、儚く散りゆく一瞬の美に芸術を感じるようになった。しかもこのウエストポーチは何故か起爆粘土が無くならない…いや、正確には減りはするが、使い切って少し時間が経つとまたポーチの中が起爆粘土でいっぱいになるのだ。だから補充する必要がない。

オイラは今度は蜘蛛型の粘土造形品を4つ作り、近くの岩まで移動させる。そして岩に飛び付いたのを確認して印を結ぶ。

 

 

「喝ッ!!」

ドゴォォンッ!!!!

 

 

蜘蛛型の起爆粘土が先程の小鳥型より大きな爆発を起こし、岩を粉々に粉砕した。その爆発の威力に心満たされる気持ちになっていると、オイラの携帯の着信音が鳴り響いて少しムッとした。

 

 

「あ〜あ…ったく。誰だよ今いいとこだってのによぉ…うん」

 

 

オイラは溜め息を吐きながら携帯を取り出して誰から掛かってきたかを確認し、名前を見て首を傾げた。

 

 

「あん?リカからだと?あいつ今日は仕事で床主空港に行ってる筈だろうが。なんかあったのか?」

 

 

電話して来たのはオイラの現在同棲している幼馴染の

(みなみ) リカ》だった。県警特殊急襲部隊第1小隊の狙撃手で、巡査長を務めており、全国の警官でベスト5に入るという射撃の腕前の持ち主だ。昔っから警官を目指してはいたが、まさかこんなにも出世するとは思わなかったぜ。オイラも去年まで県警特殊急襲部隊の隊員だったが、今はもう辞めちまった。

 

 

「う〜む、取り敢えず出るか…うん。《ピッ!》リカか?いったいどうし『やっと出た!!デイダラ、貴方無事!?今どこにいるの!!?』〜〜〜ッ!!?」

 

 

耳痛ァッ!!あのバカそんな大声で電話するんじゃねぇよ!リカの奴オイラの鼓膜を破る気かよ。

 

 

「うるせぇぞリカ!!電話でデカい声出してんじゃねぇぞ!…うん!」

 

『それどころじゃないのよ!急いで藤見学園に行ってちょうだい、静香が危ないわ』

 

「おいおいおい!落ち着けよリカ。なんで静香の奴が危ねぇんだ?何をそんなに焦ってやがるんだ?」

 

 

静香ってのはリカとオイラと同い年の友達だ。フルネームは《鞠川(まりかわ) 静香(しずか)》。さっき電話で言っていた私立藤見学園の校医だ。リカの紹介で知り合ったが、初見のオイラでも一目で分かる程おっとりした性格の天然で、凄まじい機械音痴だ。洗濯機やコピー機のを何をどうやったらそうなるかは不明だが、少しボタンをポチッと押しただけで煙を吐くぐらいで、最早呪われているんじゃないだろうかと真剣に考えてしまう程だ。少し前に車の免許を取ったのだが、オイラとリカは信じられない思いだったぜ。

しかし、静香の奴が危ねぇってのはどういう意味だ?

 

 

『とにかく急いで静香を迎えに行って!それと貴方も気を付けてよ?町がまるでゾンビ映画みたいになっているから』

 

「はぁ?それは何かの冗談か?それ本気で言ってるのか?…うん?」

 

 

オイラは一瞬リカが言っている事を理解出来なかった。普通いきなり電話掛かって来て町が映画のワンシーンみたいになってるって言われても信じられないが、リカの焦り用から察するに本当だろうな。

 

 

『えぇ、信じられないでしょうけど本当なの』

 

「………分かった、今から行く。なんかあったら連絡してくれ。そっちも危なくなったら躊躇わずに使え(・・)。いいな?」

 

『分かったわ。気を付けてね』

 

 

オイラは通信が切れた携帯をポケットにしまいながら腰のポーチに手を突っ込み、起爆粘土を用意した。少しの間粘土を噛んでいた『口』から起爆粘土を吐き出させ、それを鷲の様な形にして地面に転がす。そして印を結んぶとその造形品がボフン!と煙を立て、人1人が乗れる程の大きさになった。オイラはそれに飛び乗り、起爆粘土を飛ばして藤見学園に向かった。

 

 

 

 

 

 

空を飛んでいるとすぐオイラ達が住んでいる町が見えて来た。しかしつい数時間前までいつも通りだった町ではなかった。あちこちで煙が上がっており、地上は何やら慌ただしい様子だった。オイラはポケットから原作でデイダラが左目に付けているスコープの様なものを取りだし、左目に付けて地上の様子を見た。

 

 

「マジかよ。こりゃ確かに映画の撮影って言われた方がまだ納得出来るな…うん」

 

 

地上はまさに映画ワンシーンと呼ぶに相応しい状況になっていた。そこ等中から悲鳴が上がり、道端や建物の壁には血痕があり、道路は所々交通事故で塞がっている。そして何より、そこら中を動く死体がヨロヨロと歩き回り、必死の形相で逃げ回っている人間を捕まえては喰らっているのだ。

こいつ等は映画の通り頭を潰したら活動を停止するのか?こういうのは大体音に反応するとか、噛まれただけでアウトとかが有名なんだが……試してみるか。

オイラは起爆粘土を用意して適当な動く死体に狙いを付けて落とした。用意した蜘蛛型の起爆粘土はポン!と煙を立てて動き出し、狙いを付けた動く死体の顔に自ら貼り付いた。それを確認したデイダラは印を結ぶ。

 

 

「まずはチャクラレベル“C1”で試すか。……喝ッ!!」

ドゴンッ!

 

 

起爆粘土に噛み付いていた動く死体は爆発によって頭を吹き飛ばされ、活動を停止した。どうやら頭を潰したら活動を停止するのは間違ってないみたいだな。それに爆発の音を聞いて周りの奴等が集まり始めてやがる。しかも互いにぶつかってもなおまっすぐ進もうとする辺り、視覚や痛覚は死んでるみたいだな。

 

 

「ハァ……それにしても、何がどうしてこうなった?特典がこんな形で役に立つとは思わなかったぜ…うん。まさかこのウエストポーチ、こうなる事分かってて改造したんじゃねぇだろうな?ま、取り敢えず早く藤見学園に行って静香の奴を迎えに行かねぇとな…うん」

 

 

オイラはこの世界に転生させたあの女神にいつか【C4・カルラ】を食らわせてやると思いながら静香のいる藤見学園に急いだ。実際に来るのは初めてだが、校庭は既に学生の動く死体でいっぱいだ。

 

 

「外でコレじゃ、中はもっとヤバいかもな…うん。取り敢えず屋上の奴等は少ないからそこに降り……あん?」

 

 

オイラが屋上の様子をスコープで確認すると、そこには3人の生きた人間がいた。金属バットを持った黒髪の少年と、知的な感じのイケメン君、そして棒を持った長髪の美少女だ。彼等は天文台に登ろうとしているのか、階段に向けて走り出した。階段を登る途中、最後尾の長髪の美少女が手にした棒を近付いてきた動く死体に突き刺していた。

 

 

「へぇ?槍術か…いや、銃剣術も混ざってるな。いい構えだな……ってヤベ!!」

 

 

刺した後に油断して目を離した為、棒を動く死体に掴まれて壁に叩きつけられやがった!オイラはすぐさま起爆粘土を急降下させて少女に近寄る死体を足で捕まえさせて動きを封じた。そのままオイラは起爆粘土から飛び降り、動く死体を捕まえた起爆粘土をそのまま上空に飛ばした。

 

 

「………え?」

 

「危ねぇから伏せてろ!上のお前等もだ!……喝ッ!!」

ドガァァァンッ!!

 

 

少年少女達は呆けた顔をしていたが、オイラの言うことを聞いて伏せた。それを確認してすぐに印を結び、もがく動く死体を捕まえて飛んでいる起爆粘土を盛大に爆発させた。



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第2話だ…うん!

小室 孝side…

 

 

それは、僕…《小室(こむろ) (たかし)》が非常階段でボンヤリしている時に起こった。校門の方から門を叩く様な音が響いて来て、そっちな方を見るとスーツ姿の男の人が門に何度も自分の体をぶつけていた。

 

 

「なんだアレ?不審者か?」

 

 

僕はその不審者らしき男の人の方を見ていると、4人の先生達がその不審者の方に近寄って行った。少し気になってそれを眺めていると、不審者の胸倉を掴んでいた体育教師の腕に不審者が噛み付き、肉の一部を噛みちぎった。

僕も一瞬何が起こったか分からなかった。話の内容は遠くてよく聞こえなかったが、突然体育教師が不審者に腕の肉を食い千切られ、吹き出る血を悲鳴を上げながら押さえて地面を転がり回った。

やがて完全に動きを止めた体育教師に心配した女性教師が近づいて行くと、先程まで動かなかった体育教師が体を起こし、その女性教師の首に食らいついた。

僕はその瞬間全速力で廊下を走って行った。アレはヤバいと、早く麗を連れて逃げないと、そう思った。

授業中の教室に駆け込み、先生が何か言っているのをガン無視してまっすぐ幼馴染の《宮本(みやもと) (れい)》の机に向かった。

 

 

「来い麗、逃げるぞ!」

 

「ッ!?はぁ?な、何言ってんのよ?」

 

 

麗の腕を引っ張って立たせると、教室の中がざわめいた。

それもそうだろう。俺は元彼女(・・・)の麗を連れ出そうとしている。今の僕はもう麗の彼氏じゃない。今の彼氏は……。

 

 

「どういう事だ?孝」

 

「校門で人が殺された。ヤバいぜ…」

 

「ッ!?本当なのか?」

 

「嘘を吐いてなんか得があんのか?」

 

 

井豪(いごう) (ひさし)》。僕の同級生にして親友。僕は不良というレッテルを貼られた落ちこぼれだが、こいつは頭脳明晰で空手の有段者、顔だちは整っており人当たりもいい、非の打ちどころのない好人物だ。そして、麗の今の彼氏でもある。

僕が永と話していると、麗は僕が掴んでいる腕を振りほどいた。

 

 

「待ってよ!いつも、何を考えてるんだか《パチン!》ッ!?」

 

「いいから、言う事を聞けよ!!!」

 

 

僕は麗が言い終わる前に叩いた。女子に手を挙げる事は今までなかったが、それでもここから一刻も早く連れ出す為に叩いた。先生を無視して永と麗に廊下を足早に歩きながら校門で起きた事を説明した。

そしたら永がそれなら武器が必要だと言い出して、掃除用具の隣にあったロッカーから野球部の誰かの金属バットを拝借した。麗は永がモップの先端を捻じ切って尖らせた槍を持っている。

 

 

「お前は?武器はいいのか?」

 

「空手の有段者だぜ?これでも。とにかく、学校を出よう」

 

「先ずは警察よ。お父さんも居るし」

 

 

僕は麗に携帯を渡した。校則違反はしておくもんだな…。

すぐに110番に通報しようと電話を耳に当てた麗だったが、目を見開いて固まってしまった。どうやら、110番がいっぱいで繋がらないらしい。それを聞いて僕と永も固まっていると、校内に放送が響き渡った。

 

 

『全校生徒に連絡します!ただ今、校内で暴力事件が発生中です!生徒は、先生の指示に従って、避難して下さい!繰り返します!校内で暴力事件が発生中です!生徒は、先生の指示に従ってッ!!?』

 

 

放送の途中で先生の声が聞こえなくなった。

……まさか!?

 

 

『ヒッ!?助けてくれ!止めてくれ!嫌だ!い、痛い痛い痛い!!助けッ!?い、うわぁあぁぁぁぁぁあ!!!』

ブツッ!

 

 

その悲鳴を最後に、放送は終了した。しばらくの静寂の後、学校中がパニックに陥り、あちこちで悲鳴が上がった。廊下は人で溢れ返っているだろうと、永は管理棟から逃げる事を提案し、僕達はそれに従って廊下を走った。

途中、現国の授業の担当の先生に遭遇した。しかし様子が違う。足は出血してるし、顔色も悪く、眼球は白く濁っていた。

先生が僕達の方に向くと、麗に襲い掛かってきた!最初は躊躇っていた麗だったが、槍術部の力を発揮して心臓を突き刺した。しかし、心臓を突き刺したにも関わらず、先生は動き続けた。麗を助ける為に永が先生を羽交い締めにして引き剥がしたが、有り得ない怪力で永は顔を驚愕に染めた。先生は永の制服をガッチリ掴むと、離れようともがく永の腕に噛み付いた。永は必死に引き剥がそうとし、僕と麗も槍で突いたりバットで殴ったが先生は気にも留めなかった。最後に手が痺れる程強く先生の頭を殴ると、ようやく先生は止まった。永の腕は肉を削がれていた。

動かなくなった先生を見ていると下から女子生徒の悲鳴が上がった。下を覗くと1人の女子生徒が男子生徒に首に噛み付かれ、血を吹き出していた。

下から逃げるのは諦め、永の案で屋上に行って立て篭もり、救助を待つ事にした。なんとか無事に屋上に辿り着いたが、そこから見える町の様子は酷かった。更には近くに駐屯地が無いのに自衛隊のヘリまで飛んで来たが、僕達を無視して飛んで行ってしまった。

 

 

「病気の様なもんなんだ。〈奴ら〉は…」

 

「〈奴ら〉?」

 

「幾ら死人が襲って来ると言っても、映画やゲームじゃないからな。だから〈奴ら〉さ。〈奴ら〉は人を食う…そして食われた奴が死ぬと、〈奴ら〉となって蘇る。理由は分からないが、頭を潰す他に、倒す方法はない」

 

 

成る程な、だから〈奴ら〉か。…クソッ!いったい何がどうなってんだよ!?

僕がそう思っていると、永が天文台の方を見て、階段を上ってバリケードを作ろうと提案した。僕も今はそれが最善だと思った。

僕達はなんとか天文台の階段に辿り着いたが、最後尾の麗が〈奴ら〉に槍を突き刺したが、そいつに槍を掴まれてそのまま壁に叩きつけられた。

ヤバい!麗の奴槍を落としちまいやがった!!

永がすぐに助けに行こうとしたが、それより早く麗に襲い掛かっていた〈奴ら〉を巨大な白い鷹の様な鳥が足で捕らえ、鳥の背中から朱色の雲模様が付いた黒い外套を着た金髪の男の人が飛び降りてきて、鳥はそのまま〈奴ら〉を足で掴んだまま空に舞い上がった。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「………え?」

 

「危ねぇから伏せてろ!上のお前等もだ!」

 

 

突然の事で唖然としていた僕達は反射的に指示に従って頭を伏せた。それを確認した男の人は片手を前に出して何かの形を作ると、声高々と唱えた。

 

 

「喝ッ!!」

ドガァァァンッ!!

 

 

すると先程〈奴ら〉を掴んだまま空に舞い上がった白い鳥が盛大に爆発した。

何をやったのかは分からないが、おそらくあの男の人がやったんだろうと自然と思えた。

その人は突然の出来事に動けない麗を抱き上げると、一気に僕達がいる所までジャンプして登って来た。そしてハッ!と我に返った永は麗を優しく下ろしている男の人に話しかけた。

 

 

「どなたか存じませんが、手を貸してください。そこの扉の中に椅子とテーブルがあるので、それで階段の入り口を塞ぎます」

 

「あ?まぁ、いいけどよ…うん」

 

 

僕達は麗をあの爆発で助けてくれた?人と協力して階段の入り口をバリケードで塞いだ。

 

 

 

 

 

 

デイダラside…

 

 

(はぁ、つい助けちまったが……普通にこいつ等の前で能力使っちまったなぁ。まぁこの非常時だから仕方ないか…うん。しかし、急いでたとは言え何も言わずに女子を抱き上げるのは不味かったな。しかも世に言うお姫様抱っこ…だったか?それしちまったしなぁ)

 

 

オイラは今、バリケードを越えようと力の無い体当たりを続ける〈奴ら〉(イケメン君がこいつ等をそう呼んでたからオイラも使うことにした)を天文台の屋根の上見ながら頭を掻いていた。

さっきの爆発で大半は爆発地点の真下に集まっているが、バリケードを作るのにガタガタ音を立て過ぎたから6体程階段を登ってバリケードに体当たりしてやがる。もう1発離れた場所で爆破する手もあるが、今はできるだけ起爆粘土は温存して置きたいからな。無くならないとは言え、使い切って時間が経たないといっぱいにならないからな。

 

 

「あ、あの……」

 

「あん?なんか用か?…うん?」

 

 

さっき助けた少女が下から話し掛けてきた為、オイラは屋根から飛び降り3人の前に着地した。

 

 

「あ、さっきは助けていただき、ありがとうございました」

 

「あぁ、気にするな。オイラも黙ってお前を抱き上げちまったからな。急いでたとは言え、済まなかったな…うん」

 

「い、いえいえ…」

 

 

さっき助けた少女がペコリと頭を下げながら礼を言ってきた。こっちも抱き上げた事を謝罪したら思い出したのか少し顔を赤くしていたが許してくれた。

 

 

「あの、貴方は自衛隊か何処かの部隊の人でしょうか?」

 

 

少女と話をしていたら少し顔を歪めているイケメン君にそんな事を聞かれた。もしかしてこの2人は付き合っているのか?こりゃ悪い事したな。

 

 

「去年まで警察の特殊急襲部隊の隊員だったぞ…うん。だが今日ここに来たのは別の理由だ。ここで校医をしている静香を迎えに来たんだ…うん」

 

「静香先生の?でも、学校中こんな状況じゃ…」

 

「……はぁ。じゃあ聞くが、その学校にいるオイラ達はどうなんだ?もう死んで〈奴ら〉のお仲間か?…うん?」

 

 

険しい顔をしながら言う黒髪の少年にオイラは少し睨みを利かせて聞き返すと、少年は一歩後退ってから「すみません」と謝った。黒髪少年はイケメン君と少女にジト目で見られている。

まぁ確かにここに来る途中そんな事も考えたが、あいつがそう簡単に死ぬとは思えねぇし、もし死んで〈奴ら〉になってたら……責めてオイラの芸術であいつの人生の幕を引いてやる。

 

 

「…ッ!ガフッ!ゲホッ!ガハッ!」

 

「永!?どうしたの!?孝、永が!!……ッ!…なんで?どうして?ちょっと噛まれただけなのに…どうしてこんなに酷く……」

 

 

さっきまで黒髪の少年…孝だったな。そいつをジト目で見ていたイケメン君もとい永が急に口元を押さえ、血を吐いた。

おいおい、まさかこいつ……?

 

 

「お前、まさか…噛まれたのか?〈奴ら〉に……」

 

「ゴホッ!ゴホッ!…えぇ、ここに来る途中に。映画通りだって事ですよ…ハァ、ハァ、噛まれただけでアウトなんだ」

 

「そんなの嘘!そんな映画みたいな事…絶対に「周りは映画通りだ」ッ!!」

 

「ハァ…ハァ…孝、済まないが、手を貸してくれ」

 

 

腕を抑えながら苦しそうにしている永が孝にそんな事を言い出した。ついさっき初めて会ったオイラだが、永が何を考えているのかはすぐに分かった。

 

 

「…お前、死ぬ気か?…うん?」

 

「「ッ!!?」」

 

「ハハッ…分かっちゃいますか?…僕は、人間のまま死にたい。〈奴ら〉なんかになりたくない!!」

 

 

永はオイラの目をしっかり見ながらそう訴えた。その眼は少し白く濁り始めていたが、確かな覚悟を持っていた。

オイラは少しの間その眼を見つめ、目を閉じて腰のポーチに手を突っ込んで起爆粘土を用意した。孝と少女は永の方を向いている内に手の『口』から吐き出された起爆粘土をグッと握り、起爆粘土を10体の蝶々の形にした。オイラはそれを永に見えるようにしゃがみながら言った。

 

 

「コレはさっき〈奴ら〉を吹き飛ばしたオイラの作品と同じ物で出来ている…この意味が分かるな?」

 

「ッ!ダメッ!止めて!永は〈奴ら〉になんかならない!」

 

「……分かりました。やってください」

 

 

オイラは立ち塞がる少女を無視し、永の返事を聞いて頷いた。少女をどかして孝に預け、離れるように命じてオイラも永から離れた。孝が暴れる少女をなんとか引き止めている内に起爆粘土を操作して永の周りを漂わせて印を結んだ。

 

 

「何か、言い残す事はあるか?…うん?」

 

「じぁあ、最後に1つだけ…頼みがあります。……2人を…孝と麗を…頼みます」

 

「あぁ……分かった」

 

 

オイラの返事を聞いて永はフッと微笑んでゆっくり目を閉じた。

 

「お願い止めて!!いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「あばよ……喝ッ!!」

ドドドドゴォンッ!!

 

 

蝶々型の起爆粘土は連鎖爆発して永の体を吹き飛ばした。少女…麗はそれを見て永の体があった場所に座り込んで泣き始め、孝はそんな麗を慰めていた。オイラはその2人をただ黙って見ていた。



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第3話だ…うん!

sideデイダラ…

 

 

「この人殺し!!どうして…どうして永を…永を殺したのよ!?」

 

「おい麗!よせっ!」

 

 

先程まで永の体があった場所で泣いていた麗は恨みの篭った目で永を爆破したオイラを睨み、有らん限りの罵声をオイラに浴びせている。

そりゃ恨むだろう。なんたってオイラは理由はどうであれ、彼女の彼氏を殺したんだからな。麗を抑えていた孝は今にも手に持つ槍でオイラを殺さんとする彼女を止めようと必死になっていた。

 

 

「恨むな…とは言わねぇよ…うん。確かにオイラはお前の彼氏を殺した。恨んで当然だ…うん。だが、オイラはあいつの覚悟を無駄にしたくなかったんだ。そしてあいつは最後の最後までお前等を思って人間のまま死んだ。それだけは絶対に忘れるなよ…うん」

 

 

オイラの言葉を聞いて麗は槍を落とし、その場に座り込んで再び泣き始めた。

さて、最後の言葉を使ってまで頼まれた事だ。この2人の面倒は見ねぇといけねぇ。それにさっきの爆発で他の奴も階段に向かい始めやがった。早くここを離れて静香も回収しなくちゃいけねぇしな。

オイラがこれからの行動を考えていると、麗をなんとか泣き止ませた孝が話し掛けてきた。

 

 

「あの…これからどうするんですか?」

 

「悪いが永君にお前等の事を頼まれたからな。悪いがオイラと一緒に行動してもらうぞ…うん。それでどうするかだが、先ずは職員室に向かおうと思う…うん。静香の奴は多分、自分の車で脱出する為に車の鍵を取りに向かう筈だ。職員室の場所は分かるか?…うん?」

 

「あ、はい。分かります」

 

 

なら道に迷って時間を無駄にする心配は無いな。起爆粘土もまだ残っているし、脱出する際ある程度無茶は出来そうだな。チャクラ量も問題ないから起爆粘土が切れたら別の術でなんとか出来そうだ。

オイラがウエストポーチの中にある起爆粘土の残りを確かめていると、泣き止んだ麗が近寄って来た。

 

 

「あの、さっきは…酷い事言って、ごめんなさい」

 

「気にする事はねぇよ…うん。そもそもオイラは恨まれて当然の事をしたんだ。罵詈雑言を浴びせて当然だ…うん」

 

「で、でも……」

 

「納得いかねぇならあいつの分も生き延びろ。それでチャラだ。さて、悪いがさっきの爆音に反応して〈奴ら〉が集まってやがる。これから職員室に向かうぞ…うん」

 

「ッ!!……はい!!」

 

 

麗は一瞬また泣きそうになったが、それどころじゃないと涙を拭って落とした槍を拾い上げた。孝の方も見てみると緊張した顔で金属バットを握っていた。オイラはポーチの中に手を入れて蜘蛛型起爆粘土を2つ用意した。これだけあればバリケードごと〈奴ら〉を吹き飛ばせる。オイラは蜘蛛型起爆粘土をバリケードの向こうに向かわせた。そして印を結んでから隣の2人に目配せをする。

 

 

「オイラがバリケードごと〈奴ら〉を吹き飛ばす。準備はいいか?…うん?」

 

「「はい!!」」

 

「んじゃ…行くぜ!…喝ッ!!」

ドゴォォンッ!!

 

 

起爆粘土の爆発で予想通りバリケードごと〈奴ら〉を吹き飛ばせたが、思ったより強い爆風によって麗が転びそうになった為すぐに手を貸して転ばないようにした。

 

 

「悪いな、ちと爆風の威力が大きかった…うん」

 

「だ、大丈夫です!早く行きましょう!」

 

 

麗は少し顔を赤くしながらも槍を構えて階段を降りて行った。オイラと孝もすぐにその後を追って階段を駆け下り、3人で職員室に向かった。

 

 

 

 

 

 

宮本 麗side…

 

 

(どうしてこんな事になっちゃったんだろう…?ほんの数時間前までいつも通りだったのに…)

 

 

私はそんな事を思いながら廊下を走っていた。永がモップの先端を捻じ切って作ってくれた槍で偶に遭遇する〈奴ら〉を倒しながら幼馴染の孝とさっき屋上で私を助けてくれた金髪の男の人と一緒に職員室を目指す。私はチラッと隣を走る私を助けてくれた人を見る。

朱色の雲模様がある黒い外套の様な服を着た彼は屋上で〈奴ら〉に殺されそうになった私を助けてくれた。どうやったのかは分からないけど、彼はポーチから取り出した生き物の形をした物を動かして爆発させて〈奴ら〉を倒していた。そして、私の恋人の永を人間として殺した人だ。

 

 

『この人殺し!!』

 

「……ッ!!」

 

 

私は彼に酷い事を口走ってしまった。彼は永の頼みで永を人間として殺してくれた人だ。彼がやってくれなかったら私か孝が永を殺していたかも知れないのに、私は永を殺した彼に『人殺し』と言ったのだ。

それなのに彼は何も言い返さず、それどころか恨んで当然だと怒らずに私の罵声を目を離さず聞いていた。そして私は涙を出し尽くし、自分が口走った事に気付いた。

そしてさっき、職員室に向かう為にバリケードを爆破する前に謝罪したけど、気にするなと許してくれた。それどころか爆風で転びそうになった所を体を支えて転ばない様にしてくれた。

あの時は少し恥ずかしかったからさっさと階段を駆け下りたけど……悪い気はしなかった。

彼は私の事をどう思ってるのかな?

そんな疑問がふと頭をよぎり、彼を再びチラッと見ていると、職員室の方から悲鳴が響き渡った。

 

 

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!』

 

「ッ!?職員室の方からです!」

 

「何ッ!?急ぐぞ!…うん!」

 

 

私達は廊下を走って職員室に向かった。そこにはガス式の釘打ち機に色々取り付けた物を持っている少し太った体に眼鏡を掛けているクラスメイトの《平野(ひらの) コータ》君と、同じクラスメイトのピンク色の髪をツインテールにしている《高城(たかぎ) 沙耶(さや)》さんが〈奴ら〉に襲われていて、高城さんが〈奴ら〉の頭に電気ドリルを刺していた。その音を聞きつけて他の〈奴ら〉が10体程集まって来たがそれを見て彼が動いた。

 

 

「お前等!!〈奴ら〉から離れろ!!」

 

 

その時、私は見間違いかと思った。何故なら、ポーチから出した彼の手に、舌を使って白い塊を吐き出している『口』があったように見えたから。

 

 

 

 

 

 

デイダラside…

 

 

悲鳴を聞きつけて急いで職員室に来てみれば、そこにはガス式の釘打ち機を銃のように構えた眼鏡を掛けた太った少年と、〈奴ら〉の頭に電気ドリルを食らわせているピンク髪のツインテールの少女がいた。

彼女の悲鳴や戦闘の音を聞きつけて廊下の向こうからヨロヨロと歩み寄ってくる〈奴ら〉を見つけた時、その近くに木刀を構えた紫色の長髪美少女と金髪の長髪天然校医の静香がいた為オイラはすかさず両手をポーチに入れて起爆粘土を用意した。

 

 

「お前等!!〈奴ら〉から離れろ!!」

 

「ッ!?分かった!!」

 

「ふぇ?デイちゃん!?わっ!ちょっと待って!!」

 

「デイちゃん言うなっていつも言ってるだろ静香!…うん!」

 

 

オイラはついいつもの調子で静香に怒鳴り返してしまった。

『デイちゃん』ってのは静香が髪を下ろした姿が女の子みたいだと言ってオイラに付けやがった渾名だ。オイラは何度も何度もその渾名は止めろと言っているのだが、「だってぇ、デイちゃんはデイちゃんでしょ?」と、こんな感じで首を傾げるのだ。

まぁオイラの渾名はどうでもいい!…いや、どうでも良くないが、今は戦闘に集中だ。オイラは4体のムカデ型起爆粘土で〈奴ら〉の動きを封じた。眼鏡少年と木刀美少女は何やら驚いた顔をしているが、気にせず印を結ぶ。

 

 

「芸術は、爆発だ。……喝ッ!!」

ドゴォォンッ!!!

 

 

オイラが声高々に唱えると〈奴ら〉の体に巻き付いていたムカデ型起爆粘土は爆発を起こし、〈奴ら〉を吹き飛ばした。他に〈奴ら〉がいないのを確認すると、「お〜!」と言いながら能天気に拍手している静香に呆れながらも、見た所〈奴ら〉に噛まれていない様子でホッとした。

取り敢えずオイラ達は音を立て過ぎた。これ以上集まってもらっても困るので、翼が4つある鳥型起爆粘土を2つ作って遠くに飛ばした。それを目で追っていた木刀美少女がオイラに話し掛けて来た。

 

 

「失礼、先程の爆発は貴方のもので間違いないだろうか?それと貴方は?鞠川校医と知り合いの様だが……」

 

「悪いが、それに答える前に職員室に入った方がいい、話は安全を確保してからだ…うん。……そろそろだな。…喝ッ!!」

 

 

オイラが印を結んで唱えると遠くの方で2つの爆音が聞こえて来た。これで〈奴ら〉は爆発地点に集まる筈だ。

さて、それよりもあのピンク髪の少女が心配だな。さっきから俯いたまま顔を上げようとしないし、手が震えてるしな。

オイラが話し掛けようかと思っていたら、その前に先程の木刀美少女が彼女に歩み寄った。

 

 

「君、怪我は無いか?」

 

「ッ!あ、当たり前よ。私は天才なんだから…こんな奴等なんか、天才の私が本気を出したら……」

 

 

大丈夫そうに振る舞おうとしているが、声が震えているし、無意識なのか自分の体を抱き締めている。それに気付いた木刀美少女は彼女の肩にポンと手を置いて落ち着かせる様な声で話し掛けた。

 

 

「…もういい。十分だ」

 

「…ッ!………あ」

 

 

ピンク髪の少女は視線を逸らした先にある鏡に映る自分の姿を見た。制服は先程の攻撃による返り血で汚れており、顔にも血が付着していた。

 

 

「あぁ…こんなに汚れちゃった。……ママに言って、クリーニングに出さないと…」

 

 

震えながらそんな事を言う彼女を孝が背後から見つめていた。彼女はそれに気付くと耐え切れなくなったのか、木刀美少女に抱き付いて泣き声を上げた。オイラ達は、ただ彼女が泣き止むまで見守っていた。

 

 

 

 

 

 

毒島 冴子side…

 

 

私は《毒島(ぶすじま) 冴子(さえこ)》。これでも剣道部の主将をしている。

私は剣道場にいた為教室棟の混乱には巻き込まれずに済んだ。それに私の愛用する木刀を置いてあったのも幸いした。

教室棟に向かう頃には既に学校中で人が人を喰らう事が行われていた。あちこちから悲鳴が上がり、噛まれて死んだ生徒達も喰らう側として蘇り、生者を襲っていた。

彼等は私にも襲い掛かって来た。血を流し、呻き声を上げながら私を喰らおうとしてくる様は最早人間とは思えなかった。しかも普通の人間より力が強く、1体ずつなら余裕を持って倒せるが、囲まれでもしたら、私に勝機は無いだろう。

生き残った人間を探して校内を進んでいると、保健室で鞠川校医を助ける事が出来たが、彼女を守っていた男子生徒…2年生の《石井(いしい)》君を助ける事が出来なかった。彼も噛まれた者がどうなるか知っており、彼が人である内に私がとどめを刺した。

彼の最後を見届けた後、私は鞠川校医を連れて血塗れの生徒を避けながら職員室に向かっていた。鞠川校医の車の鍵が職員室にあると言うのだ。

 

 

「職員室とは…まったく面倒な事を言ってくれる」

 

「だってぇ、車のキーはみんなあそこなんだもん」

 

 

ここから少し離れた場所にある職員室に向かっているが、途中で鞠川校医のスカートが走るのに向かなかった為少し破かせてもらった。鞠川校医は文句を言っていたが、私はそれより先程から聞こえる爆発音が気になる。音の大きさからして、敷地内である事に間違い無いだろう。

ようやく職員室に辿り着いたが、そこには2年生の生き残り達と、黒い服を見に纏った金髪の男性がいた。どうやら鞠川校医と知り合いらしいが、彼には驚かされた。

彼が投げた小さなムカデの形をした物が煙に包まれて巨大化した上に動き出し、血塗れの生徒達に巻き付いて拘束すると爆発した。先程まで聞こえて来た爆発音は彼の仕業だろう。

だがそれだけではなかった。彼の姿を見た瞬間、彼がこの中で1番強いと感じたのだ。彼から発せられた指示に反射的に従ったのもその所為だろう。

鞠川校医と知り合いの様だが…彼は一体何者なのだろうか?



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第4話だ…うん!

デイダラside…

 

 

ピンク髪の少女が泣き止んだ後、オイラ達は一旦職員室に避難し、扉の前にバリケードを作った。ピンク髪の少女は給湯室の水道で今顔を洗い、眼鏡を掛けて戻って来た。どうやらコンタクトレンズがズレるので眼鏡に変えたらしい。

 

 

「さて、先ずは自己紹介をしよう。鞠川校医は皆も知っているな?私は毒島 冴子。3年A組だ。剣道部の主将をしている」

 

 

木刀美少女…もとい冴子は、木刀を皆に見えるように少し持ち上げながらそう自己紹介をした。彼女の名前を聞いて麗が口を開いた。

 

 

「去年、全国大会で優勝された毒島先輩ですよね?私、槍術部の宮本 麗です」

 

 

へぇ?全国大会で優勝か…それは凄いな。さっきから視線をチラチラ感じていたからバレない程度に観察していたが、剣道部主将なだけあって動きに殆ど無駄がない。

 

 

「小室 孝。2年B組」

 

「あ、えと……B組の平野 コータです」

 

 

さっき釘打ち機を銃の様にして構えていた眼鏡の少年はコータって名前なのか。

オイラは彼の持つ釘打ち機を観察した。ガス式の釘打ち機に木製の巨大直角定規をテープで固定して銃床(ストック)代りにして、短くした鉛筆と2つに切った消しゴムで照準器(サイト)代りにしている。しかも先に倒されていた〈奴ら〉を見たが、全て眉間に命中させている。あんな武器でよく当てるものだと感心しながら興味本位でコータに聞いてみた。

 

 

「平野って言ったな?お前、以前どっかで実銃撃った経験があるだろ?しかも1日2日じゃなくて1、2ヶ月ぐらいは誰かに教えてもらっていたな?」

 

「え!?た、確かに…アメリカに行った時、民間軍事会社ブラック・ウォーターに勤めていたインストラクターに、1ヶ月教えてもらいました。しかも元デルタ・フォースの曹長にですよ!?…あっ…す、済みません。でも、どうして分かったんですか?」

 

 

なんか凄い事聞いた様な気がするな。民間軍事会社の奴に教えてもらってたのかこいつ。通りで命中精度が高い訳だな。

 

 

「さっき倒れていた〈奴ら〉の眉間に釘が刺さってた。お前があの場からあまり動いてないとしたら、色々くっ付けたとは言え、ガス式の釘打ち機で眉間を狙い撃った事になる…うん。それにお前の構え方はなかなか良かったし、ただの学生が出来る芸当じゃねぇからな…うん」

 

 

オイラの説明にコータは驚いたような顔をしてオイラを見ていた。孝や冴子も目を見開いているが、静香は「流石デイちゃんね♪」と笑っている。

だから…デイちゃんは止めろって!

 

 

「私は高城 沙耶よ。それで?さっきから気になってたけど、貴方何者?警察でも自衛隊でもなさそうだし、変な爆弾みたいなの使ってたし」

 

「おい!オイラの作品を『変な』とはなんだ!?アレはオイラが起爆粘土で作った作品だ!『変な爆弾』なんかじゃねぇ!…うん!」

 

「…作品?」

 

 

ピンク髪の少女…沙耶はオイラの作品と言う単語に首を傾げている。静香以外の奴も同様にだ。

 

 

「そうだ!オイラの使ったあの粘土造形品、洗練されたラインに二次元的なデフォルメを追求した造形、まさにアートだ!だが、オイラのアートはアレだけじゃない。オイラのアートは流動的だ。形ある時はただの造形物に過ぎない…うん。オイラの作品は爆発(・・)する。その爆発により、その存在を昇華させて、初めて本来の作品となる!芸術は…爆発なのだァ!!…うん」

 

 

おっと!つい熱く語っちまったぜ。みんなオイラの語りに目を見開いている。沙耶って少女もだ。しかし、これでオイラの作品が素晴らしい芸術的な作品だと分かっただr…

 

 

「済まない。私はそれのどこが芸術か上手く理解出来ない。何せそういう物に疎いのでな」

 

「う〜〜ん、私もちょっと分からないかな。高城さんは?」

 

「私も理解出来ないわ。ていうか、生き物みたいに動いて爆発する粘土なんてどういう原理よ?」

 

「済みません。僕も全く分からないです…」

 

「それって軍用プラスチック爆薬のC4みたいな物ですか?」

 

「全然分かってねーじゃねぇか畜生!!」

 

 

まぁ半分分かってはいたが、こうも理解してもらえないのは辛いな。最初はリカや静香も全く理解出来てなかったからなぁ。

 

 

「ハァ……例えば、夏祭りの夜に空に打ち上げられる花火。学校とかにある桜の花が散って舞い落ちる光景。それを『綺麗だ』とか、『芸術だ』とか思ったりしねぇか?…うん?」

 

「あぁ、納得した」

 

「それなら私にも分かる。成る程、つまり貴方はそれを自身の粘土造形品を爆発させる事で表しているのだな?」

 

 

冴子の奴はすぐに分かってくれた。やっぱりこういう分かりやすい例えを挙げないとオイラの芸術は伝らねーのかなぁ?

……って、今自己紹介の途中だったな。オイラの芸術を語っててすっかり忘れてたぜ。

 

 

「そういやまだ名乗ってなかったな。オイラは暁月 デイダラ。デイダラでいい。オイラは知り合いに頼まれてそこにいる静香を迎えに来たんだ…うん」

 

 

オイラは静香を指差しながら自己紹介した。しかし沙耶はなんだか求めていた答えと違うと言いたげな顔をしていた。どうせオイラの職業とかが聞きたかったんだろうが、残念ながらオイラは今無職だ。…いや、少し違うな。正確には静香の世話係的な事をリカに頼まれている。報酬付きで。

あいつ、よく今まで生活してきたなと今更ながら感心するぜ。

 

 

「あ、そうだ。鞠川先生、車のキーは?」

 

「あぁ、バッグの中に……」

 

 

孝に聞かれて静香は自分の机の上にあるバッグの中をゴソゴソと探った。

ん?でも確か静香の車って……?

 

「全員を乗せられる車なのか?」

 

「2人乗りの軽自動車だな…うん」

 

「うっ!そうだった……」

 

 

静香の奴、確か冴子と2人で行動してだからな。途中で生き残りと合流して逃げる可能性を忘れてやがったな?

 

 

「部活遠征用のマイクロバスはどうだ?壁の鍵掛けにキーがある」

 

「えっと……バス、あります」

 

 

冴子の提案を聞いて窓に近い場所にいたコータが窓の外を覗き、駐車場にマイクロバスがあるのを確認した。

成る程バスか…確かにそれならこの場にいる全員が乗れる。

 

 

「それはいいけど…どこへ?」

 

「家族の無事を確かめます。近い順にみんなの家を回るとして、必要なら家族を助けて…その後は、安全な場所を探して…」

 

 

コピー機にもたれ掛かる様に座り込んでいる孝に静香は行き先を聞き、孝は家族の安否を確認する事を提案した。

オイラは机の上に座って孝の話を聞いていると、ふと職員室のテレビを見上げながら固まっている麗を見つけた。

 

 

「ん?宮本、どうかしたのか?…うん?」

 

 

オイラの問いに麗は何も答えず、周りのみんなも麗の様子がおかしいのに気付いて麗に視線を向ける。全員に見られながらも、麗はテレビから目を離さなかった。

 

 

「なんなの?……これ」

 

「あん?…ッ!?毒島、そこのリモコンで音量を上げろ!」

 

 

オイラが麗に釣られてテレビに視線を向けると、すぐさまリモコンの置いてある机の近くにいた冴子に音量を上げるように言う。冴子はリモコンを手に取って音量を上げた。

 

 

 

 

 

 

小室 孝side…

 

僕達は様子のおかしい麗に釣られて、音量を上げられたテレビに視線を向けた。テレビではあるニュースが流れていた。

 

 

『…()ん国各地で頻発する暴動事件に対し、政府は緊急対策の検討に入りました。しかし、自衛隊の治安維持活動については…』

 

「暴動ってなんだよ!?暴動って!?…」

 

 

僕はテレビについ聞き返してしまった。

〈奴ら〉が現れ、生きた人間が〈奴ら〉に喰われ、死んだ後は〈奴ら〉となって蘇り、生きた人間を喰らう為に彷徨う……これだけの事が起きてるのに、暴動事件で済む訳が無いだろ!!

すると毒島先輩がチャンネルを切り替えて他の番組を確認した。チャンネルを変えた先でも似た様なニュースをやっていたが、こっちは生中継だった。

夕日に照らされるなか、女性キャスターの背後では警察官と救急隊員が走り回り、〈奴ら〉に襲われたであろう怪我人達が救急車に運ばれていた。

 

 

『ていません。既に埼玉県内の被害は1万名を超えたという見方もあります。知事により、非常事態宣げ

《パンッ!》ッ!!は、発砲です!遂に警察が発砲を開始しました!いったい何に対して……ッ!?』

 

 

突然発砲音がして、そちらの方向にカメラが向けられた。そこでは複数の警察官が腰から拳銃を抜いて救急車の前に置かれた担架から起き上がろうとする〈奴ら〉に更に2回発砲した。

 

 

『きゃぁぁぁ!!嫌!来ないで!あぁ助けて!!ああぁ!あ〝あ〝ぁぁぁぁぁぁあ!!…』ザァ、ザァーー!!

 

 

女性キャスターの悲鳴を最後にテレビ画面は砂嵐になった。僕達はただ黙ってテレビの画面を見つめていた。

 

 

『…ぁ、何か、問題が起きたようです。こ、ここからは、スタジオよりお送りします。えー、どうやら、屋外は大変危険な状態になっているようです。可能な限り、自宅から出ないよう注意して下さい。通信が復旧し次第、再び…』

 

ガンッ!「それだけかよ!?どうしてそれだけなんだよ!?」

 

 

僕は机を殴りながら声を荒げた。さっきの映像は生中継だった、だから女性キャスターやスタッフ達が〈奴ら〉に襲われているのも写ってたんだぞ!?それなのに自宅から出ないように注意するだけだなんて……。

僕がそう思っていると、あの人…デイダラさんが僕の問いに答えてくれた。

 

 

「パニックを抑える為だな…うん」

 

「パニック?……今更?」

 

 

麗がそう聞き返すと、今度は高城が眼鏡をクイッ上げながら麗の疑問に答えた。

 

 

「今だからこそよ。恐怖は混乱を生み出し、混乱は秩序の崩壊を招くわ。そして…秩序が崩壊したら…どうやって動く死体に立ち向かうと言うの?」

 

 

高城が鋭い目をしながら説明をしている間に、毒島先輩が他のチャンネルを確認していた。

それによって分かった事は、〈奴ら〉が現れているのは日本だけじゃないって事だ。世界各国が日本と同じ状況になっているらしい。しかもまた砂嵐状態になり、それっきりテレビは砂嵐の画面を流し続けた。

 

 

「そんな……朝ネットを覗いた時は、いつも通りだったのに…」

 

「だが、今はこの町どころか、日本全体、更には世界中に〈奴ら〉が出現し、人間を喰らっている。信じたくねぇ事実だな…うん」

 

 

砂嵐を映すテレビの画面を見上げながら平野が呟き、デイダラさんも深刻そうな表情をしている。

 

 

「この分だと、安全な場所があるかどうかすら分からねぇな…うん」

 

「そんな!でも、きっといつかは…またいつも通りに…」

 

「なる訳ないでしょ?パンデミックなのよ?」

 

 

麗の言葉を高城はキッパリと言った。しかし、パンデミックって、なんだ?

僕が首を傾げていると、それに気付いたデイダラさんが簡単に説明してくれた。

 

 

「集団爆発…世界中で同じ病気が大流行してるって事だ…うん。まぁ分かりやすく言えばインフルエンザとかだな。だが今回の場合はヨーロッパの3分の1が死んだ14世紀の黒死病に近いな。あの時は感染する人間がみんな死んじまって感染は止まったが……」

 

「そう、今回は感染した動く死体が生者を求めて自分で動いてる。感染する人間がいなくなったら……別の場所に移動して、また感染が始まる可能性があるわ」



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第5話だ…うん!

デイダラside…

 

 

「あ!これから暑くなるし、肉が腐って骨だけになれば動けなくなるかも」

 

 

静香がそう言うが、オイラはそうは思えねぇ。確かに暑くなれば死体の肉なら夏なら20日程度で1部は白骨化するだろう。

だが……。

 

 

「それは普通(・・)の死体ならの話だ…うん。しかし〈奴ら〉はどうだ?死んでいるが活動を続けている。この時点でもう医学じゃ説明がつかねぇ。もし腐りもせず動き続けたら?腐るとしても、それまでの間に感染者が増えない訳でもないんだぜ?…うん」

 

「そっかぁ…確かにデイちゃんの言う通りね」

 

 

だからデイちゃんは止めろっつってんだろうが!!

オイラは無言のまま静香の両頬を引っ張ってやった。静香は「いふぁい!いふぁい!」とか言ってオイラの手を外そうとする。

こいつは本当に懲りないな。

 

 

「次デイちゃんって言ってみろ?その色々抜けてる頭をオイラの作品で爆破するぞ…うん」

 

「ご、ごふぇんなひゃい……あうっ!」

 

 

反省した様なので手を離してやる。解放された静香は赤くなった頰をさすっていた。これに懲りてデイちゃん呼びは止める…訳ねーよなぁ?静香だし…。

オイラが小さく溜め息を吐いていると、冴子が話し出した。

 

 

「家族の無事を確認した後、どこに逃げ込むかが重要だな。…兎も角、好き勝手に動いていては生き残れまい…チームだ。チームを組むのだ」

 

「成る程な…確かにその方が互いにカバーし合えるしな…うん。…あ、そうだ。おい静香」

 

(酷いよデイちゃん)…あ、何?」

 

 

こいつ今またオイラの事デイちゃんって言わなかったか?

まぁそれよりも…

 

 

「これからは思いっきり()使え」

 

「え?いいの?今まで人前で使っちゃダメって言ってたじゃない」

 

「こんな状況だからな…。他人の目を気にして使わずに死にましたってなったら洒落にならねーだろ…うん」

 

 

さて、ここまでの会話で気付いただろうが、実は静香と、この場には居ないがリカは忍術を使える。

オイラがまだ小学生の頃に隠れて忍術を使って居たらリカに見つかっちまって、「私もやりたい!」ってずっと言って来たから試しにやり方とかを教えたんだ。デイダラの知識の中にチャクラの練り方とかあったからな。

そしたら4ヶ月程経過した頃、リカがチャクラを練れるようになっちまったんだ。最初はオイラだって出来る訳ないと思ってたんだが、実際に手を使わない木登りや、水上歩行も出来たからかなり驚いたぜ。

で、オイラも面白半分でリカに忍術を教えてたら、ある日リカが「私の友達にも教えてあげてほしい」って頼んで来たんだ。その時オイラもリカ以外の奴にもチャクラは練れるのか気になっていたからそれを許可し、リカが連れて来たのが静香だった。

結果を言うとリカより時間はかなり掛かったが、リカ以外にもチャクラは練れる事が分かった。

流石に忍術を使える事がバレたら面倒なので、2人には緊急時以外の使用と忍術を他言する事を禁止しているが、その頃には静香は“水遁”と“医療忍術”、リカに至っては“風遁”と“雷遁”の血継限界の“磁遁”が使えるようになっていた。

まぁどちらもあまり厳しい修行はしていないが、それでも原作の下忍の中でも上位辺りの強さだ。

 

 

「あの…さっきからなんの話をしているんですか?術ってのは?」

 

 

オイラと静香が話しをしていると、孝が小さく手を挙げながら質問してきた。オイラ達が孝の方を向くと、他にも冴子や麗達も気になるのかオイラ達に注目している。

 

 

「あぁ、オイラと静香は所謂忍術を使えるんだよ」

 

「「「「「はぁ?」」」」」

 

 

オイラが素直に答えたら「何言ってるのこの人」と言いたげな顔をされた。

……まぁ、そうなるわな。

 

 

「じゃあ何?貴方と静香先生は忍者だとでも言うの?」

 

「いや、オイラは忍の家系だが静香はオイラが術を教えた一般人だな…うん」

 

「そんな話信じられる訳ないでしょう?本当なら分身の術なり変化の術なりやって見せなさいよ」

 

 

沙耶はオイラと静香に忍術を見せろと言ってきた。一応どちらも出来るのだが、今はあまりチャクラを消費したくない。かと言って見せなかったら頭のおかしい人扱いされるだろうしな……仕方ない。

オイラは素早く印を結んでチャクラの消費が少なくて済む【変化の術】を発動させた。

するとオイラを包み込むように白い煙がボフン!と現れ、オイラは高城 沙耶の姿になった。オイラの姿が沙耶になったのを見て静香以外のみんなは顔を驚愕に染めた。

 

 

 

 

 

 

毒島 冴子side…

 

 

私は今自分の目を疑っている。何故なら私の目の前には2人の高城君が向かい合っているからだ。いや、違うな。正確には高城君の姿になった暁月さんだ。

彼が鞠川校医と話をしている時、彼等の会話が気になって小室君が質問したのだが、返ってきた答えは自分と鞠川校医が忍術を使えると言うもの。

当然私は単なる冗談か何かだと思っていた。しかし高城君が術を見せろと言われた後少し考える素振りを見せ、手を素早く動かして何かを形作ると突然彼が煙に包まれ、晴れる頃には体格や服装、動く死体の返り血の場所などが全く同じのもう1人(・・・・)の高城君がそこにいた。

 

 

「これでいいかしら?」

 

「え……うそ。…私?」

 

 

更に声まで一緒とはな…それに煙が上がって晴れるまで数秒だけ。そんな短時間で同じ髪の色のカツラや服などに着替えるなど前以て準備していても出来ないだろう。

 

 

「……どうやら忍術というのは本当のようだな。となると、貴方が言っていたあの爆発する作品も忍術なのか?」

 

「えぇ…《ボフンッ!》その通りだぜ…うん。と、言っても。オイラのは少し違うがな」

 

 

彼がまた煙に包まれ、元の姿になると、右手を前に出した。何をするのだろうとその手を見ていると、手の中心辺りが裂け始めたかと思うと、そこに『口』が現れた。

 

 

「ヒッ!!?」

 

「な、なんだよそれ!?」

 

 

高城君が小さく悲鳴をあげ、小室君が反射的に金属バットを構えた。私も木刀の柄に手を添えていたが、暁月さんが私達を見て面白そうに笑い始めたので手を離した。

 

 

「ハハハハッ♪やっぱコレ見たらビビるか!初めてリカと静香に見せた時もそんな反応だったぜ…うん」

 

「やっぱり見間違えじゃなかったんだ…」

 

「うん?なんだ、宮本は気付いてたのか?オイラは忍術の中でも使っちゃいけねぇ禁術を使っちまってな。起爆粘土を作れるようになった代わりに両手にこの『口』が現れたんだ…うん」

 

 

宮本君は既に気付いていたようだな。それにしても忍か…本当に実在していたとは驚きだ。

 

 

「それより早くバスに向かおうぜ?グズグズしてたら日が暮れちまうぞ…うん」

 

「…そうだな。出来る限り、生き残りは拾って行こう」

 

「ッ!はい」

 

 

私が木刀を手にしながら立ち上がると、他の皆も自分の得物を手にしながら立ち上がった。暁月さんも机から飛び降り、鞠川校医は治療に必要な道具や薬品の入った鞄を肩に掛けて両手を自由にしている。

 

 

「どこから外へ?」

 

「駐車場は、正面玄関からが1番近いわ」

 

「よし、じゃあ扉を開けたら出来る限り戦闘は避けて正面玄関に向かおう。平野、デイダラさん、バリケードを退かすのを手伝ってください」

 

「うん、了解」

 

「はいよ」

 

 

小室君達が扉の前に設けたバリケードを退かし、小室君が金属バットを片手に扉に手を掛けた。私達もいつでも動ける様にする。

 

 

「よし……行くぞ!」

ガラガラガラッ!

 

 

小室君が扉を開けると、そこには3体の血塗れの生徒達…〈奴ら〉がいた。それを視認した瞬間、素早く平野君が釘打ち機を構えて手前の2体の額に釘を撃ち込み、最後の1体は先頭にいた小室君が金属バットで撃退した。

それを合図に私達は正面玄関に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

デイダラside…

 

 

職員室を出たオイラ達は、正面玄関に向かう途中にある連絡通路から下にいる〈奴ら〉を見ながら再確認を行なっていた。

 

 

「確認しておくぞ。無理に戦う必要は無い。避けられる時は、絶対に避けよう」

 

「連中、音にだけは敏感よ。それから、普通のドアなら破る位の腕力があるから、掴まれたら喰われるわ。気を付けて」

 

 

冴子と沙耶の注意事項を聞きながら連絡通路の下を覗く。オイラ達が今いるのは3階の連絡通路。下にもう1本連絡通路が2つの校舎を繋いでおり、下の通路へはこの連絡通路から階段で降りれる。

思ったよりいやがるな。起爆粘土が足りるかちょいと心配になってきたぜ。それにしてもこの校舎、無駄に入り組んでやがるな。迷路かよ。

 

 

「きゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ッ!あそこ!生存者です!」

 

 

突然女性の悲鳴が響き渡り、下を見ていたコータが生存者を見つけた。首にタオルを掛けてバットを持った少年、その後ろに茶髪と青っぽい色の髪をした2人の少女と1人の少年。そしてバットを持った少年の隣に刺又を持った少年の計5人が6体の〈奴ら〉に下の連絡通路に降りる階段の踊り場で囲まれていた。

いきなり5人か。尚更マイクロバスが必要だな。

オイラが起爆粘土を用意する為に両手をポーチに入れようとすると、それを見つけた冴子が待ったを掛けた。

 

 

「済まないが、暁月さんは今回戦闘には参加しないでもらいたい。貴方の作品は音が大き過ぎる」

 

「……そうか。それなら仕方ねーな…うん。ほら、早く行け。助けるんだろう?」

 

「はい。行くぞ、みんな」

 

 

最初はコータの釘打ち機による狙撃だった。今にもバットを持った少年に喰らい付こうとしている所を見事にヘッドショットを決める。そして冴子が木刀を振り上げながら飛び降りもう1体を撃破。更に階段から下に降りた孝と麗が2体撃破。そして最後の2体を素早く孝と冴子が撃破した。全部片付けたのを確認して上の通路にいたオイラ達も助けた少年達の所に向かった。

 

 

「あ、ありg「大きい声は出すな。噛まれた者は?…いるか?」い、いません、いません」

 

「……大丈夫みたい。本当に」

 

「ここから脱出する。…一緒に来るか?」

 

 

孝の誘いに少年達も乗り、正面玄関から入って直ぐの階段まで無事にやって来たんだが、正面玄関には既に複数の〈奴ら〉がうろついていた。今はもしも視覚も残っていた時のための保険で階段からこっそり覗いている。

 

 

「もう、〈奴ら〉は音に反応するのよ?隠れなくたっていいのに」

 

「じゃあ高城が行って証明してくれよ」

 

 

沙耶は今思いっきり隠れている。なんせ沙耶の『音に反応する』説が正しいかまだ不明なのだ。もしかしたら視覚があるかもしれない。だから今は隠れて様子を見ている。

 

 

「しかし、このまま校舎の中を進み続けても、襲われた時に身動き出来ない」

 

「正面突破しか無いってことね?」

 

「高城君の説を、誰かが証明するしかあるまいよ」

 

「「「「「………」」」」」

 

 

ま、こうなるわな。もし視覚があったら真っ先に喰われる可能性がある。態々危険を冒す事はしたくないだろう。

しかし、このままじゃ埒があかねぇ。

 

 

「オイラが行こう。お前等はここで見てろ…うん」

 

「え?でも…大丈夫なの?」

 

 

立ち上がったオイラに心配そうな視線を向ける麗にオイラは心配するなと麗の頭に手を乗せた。

 

 

「さっきは何も出来なかったんだ。この位やらせろ…うん」

 

「ッ!?わ、分かりました。でも気を付けて下さいね?」

 

 

オイラは黙って頷いてから足音を消して階段を降り始める。

なんか麗の顔が赤い様な気がしたが、アレだけ動いたから当然だろうな。

そんな下らない事を考えている内に階段を終え、〈奴ら〉の間を縫う様に歩く。

分かっちゃいたが間近で見るとおっかない顔してやがるな。

だが、見えてはいない様だ。オイラは足元に落ちていた誰かの上靴を拾い上げ、少し離れた所にあるロッカーに向けて投げつけた。するとロッカーに上靴が当たった音に反応して〈奴ら〉はそっちに歩いて行った。

 

 

(…よし、大丈夫みたいだな…うん)

 

 

オイラはみんなに合図を送り玄関を開けた。次々と足音を消して階段を降りて来る。そして最後に刺又を持った生徒が階段を降りている時、それは起こってしまった。

 

 

カァァ〜〜〜〜〜ンッ!……

 

 

その生徒の持つ刺又が階段の手すりに当たり、学校中に響く音を鳴らしやがった。

 

 

「全員!バスまで走れ!!」



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第6話だ…うん!

デイダラside…

 

 

「なんで声を出したのよ!?黙っていれば、手近な奴だけ倒して、やり過ごせたかも知れないのに!!」

 

「アレだけ響いたら、学校中の〈奴ら〉に聞かれてるだろうよ!…ッ!伏せろ!」

 

 

オイラは声を出した事に怒る沙耶にそう指示し、慌てて彼女が伏せた瞬間、背後から迫っていた〈奴ら〉の腹に蹴りを入れた。そいつは更に後ろにいた〈奴ら〉も巻き込みながら吹き飛び、壁に激突した。冴子と孝も木刀と金属バットで〈奴ら〉の頭を潰し、麗も手にした槍で〈奴ら〉の足を払い、地面に倒している。オイラはすぐさま起爆粘土を用意しながら釘打ち機を構えるコータに撃たないよう命じる。

 

 

「平野!ここはオイラがやる!数が多過ぎるだろ!?…うん!」

 

「わ、分かりました!お願いします!」

 

「任せな……うん!」

 

 

オイラは用意した起爆粘土を4匹の小鳥型に変えて投擲し、駐車場に続く道を塞いでいる〈奴ら〉の方へ飛ばした。そして4匹がそれぞれ爆破予定地点に到達するのを確認してから印を結んだ。

 

 

「吹き飛べッ!!……喝ッ!!」

ドドドドゴォォォォォンッ!!

 

 

起爆粘土は盛大に爆発して〈奴ら〉を吹き飛ばした。道が開いたのを確認して、金属バットで〈奴ら〉を殴り飛ばした孝が先陣を切って走り出し、他のみんなもそれに続く。

 

 

「話すより…走れ!走るんだ!!」

 

 

オイラも起爆粘土を用意しながら走り出した。手の『口』に目を向ければまだクチャクチャと起爆粘土を噛んでいる。少し多めに食わせたからな。

先頭を行く孝と冴子が道を塞ぐ〈奴ら〉を走りながら撃破し、その後に続いてコータと麗が前の2人が仕留め損なった〈奴ら〉を撃破して行く。オイラも近づいて来る〈奴ら〉を蹴りで撃退していった。ようやくマイクロバスが見えて来た時、あの首にタオルを掛けた少年が〈奴ら〉に捕まり、噛まれてしまった。

 

 

「グァッ!!あ〝あ〝ぁ〝……な、なおみ!逃げろ〝ぉ!!」

 

「たくと!!」

 

「諦めて!噛まれたら逃げても無駄!!」

 

 

彼の恋人らしき青っぽい髪をした少女が戻ろうとするのを沙耶が腕を掴み、諦めるよう言った。しかし彼女は涙を流しながら首を横に振り、掴まれた腕を振り解いて彼の下へ走って行った。

それを沙耶が有り得ないと言いたげな顔で見送る。

 

 

「待っ……なんでよ!?ちゃんと教えてあげたのに…どうして戻るのよ!?」

 

「だったらお前は、世界中こんな風になっている時に、目の前で大切な家族や友人が噛まれてもすぐに捨てて逃げようと思うか!?…うん!?」

 

「……ッ!!」

 

 

オイラの質問に沙耶は答える事が出来ずにいる。彼女も戻る理由を理解したのだろう。すると沙耶の背後に再び〈奴ら〉が迫り、それに気付いた静香がそいつに手をピストル(・・・・)の形にして指先を頭に向けた。

 

 

「高城さん伏せて!!【水遁・水鉄砲】ッ!!」

パァンッ!!

 

 

静香の指先に水滴が集まり、その水滴がまるで弾丸の様な速度で飛んで沙耶の背後で噛み付こうと口を開ける〈奴ら〉の頭を貫通した。

【水遁・水鉄砲】の術。手をピストルの形にして指先から水滴を発射する術だ。水鉄砲なんて子供っぽい名前だが、上達すれば鉄板だって貫けるだろう。

原作では鬼灯(ほおずき)一族の秘伝忍術だったのだが、使い勝手が良さそうなので試しに教えてみたら出来た術だ。これはオイラの考えなんだが、この世界では忍術は秘伝忍術でも適正があれば覚える事は可能のようだ。リカだってサソリの『人傀儡』の三代目風影の“磁遁”の術使えるようになったしな。

秘伝忍術ってなんだっけ?…まぁいいや。

 

 

「良くやったぞ静香…うん!……静香?」

 

 

オイラが静香の方を見ると静香は【水鉄砲】を撃ったピストルの形にした手を見て固まっていた。いや、良く見ると少し震えている。オイラは黙って静香に近付き、肩に手を置いた。静香はビクッと肩を震わせてオイラを見た。

 

 

「いいか?〈奴ら〉はもう人間じゃねぇ。だから遠慮するな。お前が動かなかったら今ので高城が死んでたぜ?…うん」

 

「ッ!?………ふぅ。落ち着いたわ。ありがとうデイちゃん」

 

「だからデイちゃんは止めろ……って言ってる場合じゃねぇ!静香!お前はバスを運転しろ!…うん!」

 

「わ、分かったわ!」

 

 

静香はすぐに走り出してマイクロバスの扉を開けて中に乗り込み、オイラは手の『口』を見る。『口』は先程まで噛んでいた起爆粘土を吐き出した。

いっちょ、派手にやるか……。

 

 

 

 

 

 

鞠川 静香side…

 

私は鞠川 静香。藤見学園で保健室の先生をやっていたわ。でも今日現れたデイちゃん達が〈奴ら〉って呼んでいる人達の所為で平和だった学校が悲鳴に包まれた。

私は保健室にいたから騒ぎに巻き込まれずに済んで、保健室にやって来た男子生徒2人と一緒に居たんだけど、すぐに危なくなって鞄に持ち出せるだけ薬を入れて逃げる事にしたわ。でも片方の生徒が〈奴ら〉になっちゃうし、もう1人も保健室の窓を破って入って来た〈奴ら〉に噛まれちゃったわ。

どうやら噛まれたらすぐに死んじゃうし、死んだら蘇っちゃうみたいなの。まるで変な人達が大好きな映画みたい。

勿論私にも〈奴ら〉が襲って来た。だからリカの紹介で知り合ったデイちゃんに教えてもらった忍術を使おうと思ったけど、毒島さんがみんな倒してくれた。

それから毒島さんと一緒に車の鍵を取りに職員室に向かった。そしたらデイちゃんがいたからびっくりしたわ。で、その後私達はチームを組んで、途中で助けた生徒達とマイクロバスで逃げようとしたの。

でも途中で〈奴ら〉に見つかって、私達はマイクロバスまで走らないといけなくなっちゃったわ。

その時、私は初めて〈奴ら〉に向けて忍術を使った。

 

 

「ッ!!!」

 

 

私は頭を私の術で撃ち抜かれて倒れる〈奴ら〉を見て色々な感情が芽生えて動けなくなった。どれくらいそうしていたかは分からないけど…デイちゃん肩に手を置かれた事でハッと我に返った。

 

 

「いいか?〈奴ら〉はもう人間じゃねぇ。だから遠慮するな。お前が動かなかったら今ので高城が死んでたぜ?…うん」

 

 

そうよ。私が今撃たなかったら高城さんが死んでいた。それに……もう〈奴ら〉は人間じゃない。……人間じゃないの!!

そう思ったら段々落ち着いていった。だから私はデイちゃんに頼まれてバスの中に入って運転席に座った。……んだけど。

 

 

「……えぇ!?私の車と全然違う!え〜っと、先ずはエンジンを掛けて…」

 

「……あの、鞠川先生」

 

 

私が自分の車とバスとの違いに少し混乱していると、運転席の後ろの席で伏せている高城さんが話し掛けてきた。

 

 

「ふぇ?どうしたの?高城さん?」

 

「あの…さ、さっきはありがとうございました」

 

「……うん、気にしないで♪」

 

 

あの高城さんが私にお礼を言ってくれた。私はそれがとても嬉しかった。

私はそう言ってバスのエンジンを掛けた。

 

 

 

 

 

 

デイダラside…

 

 

「お!ようやくエンジンが掛かったみてぇだな…うん!」

 

「ハァ!!……暁月さん!小室君!全員乗った!」

 

「よし!お前等先に乗れ!……喝ッ!!」

ドゴォォンッ!!

 

 

オイラ達は今、バスに集まって来る〈奴ら〉を撃退し続けていた。最後の1人がバスに乗り込み、残りはオイラと冴子、そして孝だけになった。オイラは孝と冴子を先に乗せ、オイラも起爆粘土の残量を確認しながら後退した。

 

 

(起爆粘土は……足りるか微妙だな…。そろそろオイラもバスに乗るとするか…うん)

 

 

オイラがバスに乗り込み、スライドドアを閉めようとしたちょうどその時、「助けてくれ!!」と言う声が聞こえた。オイラが声のした方を見ると、何人かの少年少女と眼鏡を掛けた教師らしき男性がこちらに向かって走って来ていた。

 

 

「まだ生き残りがいやがったのか…うん」

 

「誰だ?あの先生」

 

「3年E組の紫藤(しどう)だな…」

 

「ッ!!……紫藤ッ」

 

 

冴子の言った教師の名前を聞いてオイラの近くにいた麗の様子がおかしくなった。どうやら麗もあいつの事を知っているみたいだが、殺気立っているところを見ると、仲が良い訳ではないみてぇだな。

 

 

「もう行けるわよ!」

 

「もう少し待って下さい!」

 

 

いつでも出せる準備が整った静香に孝は待ったを掛けた。どうやらあの紫藤とかいう教師達も助けるつもりらしい。

 

 

「前にも来てる!集まり過ぎると動かせなくなる!」

 

「踏み潰せばいいじゃないですか!!」

 

「戦車じゃねーんだ!この車じゃ何体も轢いたら横倒しになっちまうぞ!…うん!」

 

 

孝は苦虫を噛み潰したような顔をして、金属バットを片手にバスから飛び出そうとした。しかしそれを麗が止める。

 

 

「あんな奴助けることない!」

 

「麗!?なんだってんだよ!?いったい!?」

 

「助けなくていい!あんな奴死んじゃえばいいのよ!!」

 

 

そうとう嫌ってるみてぇだな、あの紫藤って教師を。麗がこんな風になるとは……あいつ何したんだ?

オイラはそう思いながら紫藤という教師を観察した。今そいつは避難誘導もしており、、生徒を励ます言葉も投げかけている。すると最後尾を走っている教科書を抱えたガリガリ眼鏡の少年が転んだ。

 

 

「アァ〜〜〜〜ン!!!足首を、挫きましたぁ!!」

 

 

なんだ今の声、なんか無駄に響いたな。

オイラは紫藤の足を掴んだ生徒の声に少し変な感じをしながら観察を続けた。そして次の瞬間、紫藤が少年の顔面に笑顔でヤクザキックをかました。

 

 

(なッ!!?あいつ……)

 

 

オイラは背後で〈奴ら〉に食い殺されている生徒を気にも止めずにネクタイを締めて歩いてくる紫藤って教師の警戒レベルを最大まで引き上げた。

成る程、麗があんな事を言う訳だ……。

オイラは席に着きながら悠々とバスに乗り込んでくる紫藤を睨んでいた。

 

 

「静香先生!!」

 

「ッ!行きます!!!」

 

 

バスの扉を閉めた孝の声を聞いて静香がバスのアクセルを踏んだ。バスは急発進して、〈奴ら〉の間を走り抜けて行く。

 

 

「校門へ!!」

 

「分かってる!」

 

 

静香は慣れないバスをなんとか操縦し、校門を目指した。途中何体か〈奴ら〉を轢いたが、静香はいつもの天然っぽさを消し、真剣な表情で運転を続ける。

 

 

「ッ!!静香先生!」

 

 

孝が校門の方を見ながら叫んだ。まだ少し離れた場所にある校門の前には多数の〈奴ら〉が道を塞いでいた。このままではあの集団に突っ込むと、横転してしまう可能性が高い。

オイラはその集団を見て大きく舌打ちをした。

 

 

「チッ!静香!このまま校門に向けてまっすぐ走れ!…うん!!」

 

「ッ!!……分かった!」

 

 

オイラはすぐに起爆粘土を用意して鳥型にし、バスの窓から解き放った。鳥型起爆粘土は校門の前に集まっている〈奴ら〉の方へ飛んで行き、爆破予定地点に急降下した。起爆粘土が〈奴ら〉に当たる直前にオイラは印を結んだ。

 

 

「喝ッ!!」

ドドドドドゴオォォォォンッ!!!!

 

 

オイラの作品は今日1番の大爆発を起こして〈奴ら〉を吹き飛ばした。爆破の衝撃で校門も破壊され、バスは荒れた地面の所為で少し揺れたが無事に学校を脱出する事が出来た。

 

 

「ふぅ…今日1番の芸術だったな…うん。(しかし、さっきので起爆粘土があと蜘蛛型3発分しか残ってねぇな)」

 

 

オイラは溜め息を吐きながらポーチの中を確認した。すると後ろの方の席から紫藤が歩いて来て、木刀に着いた血を拭き取っている冴子に話し掛けた。

 

 

「助かりましたぁ。リーダーは毒島さんですか?」

 

「そんな者はいない。生きる為に協力し合っただけだ」

 

「…それはいけませんねぇ。生き残る為には、リーダーが絶対に必要です。全てを担うリーダーが」

 

 

紫藤はまるで獲物を見つけた蛇の様な目でそんな事を言った。今は仕方ないが、機会を見つけてあいつから離れる必要があるな。

オイラがそう思っていると、麗が紫藤を睨みながら孝に警告した。

 

 

「後悔するわよ。…絶対に助けた事を後悔するわよ」

 

「オイラもそう思うぜ…うん」

 

 

麗は意外そうな顔をしてオイラを見た。そんなに意外だったか?

 

 

「あッ!ま、町が!!」

 

 

1人の生徒が窓の外を見て叫んだ。そこにはあちこちから煙が立ち昇る町の姿があった。



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第7話だ…うん!

デイダラside…

 

 

なんとか藤見学園から脱出したオイラ達は、静香の運転するマイクロバスで床主市の町中を走っていた。いつもは通行人や自動車などで賑わっていた町は不気味な程人気が無く、道端や建物の窓には血痕が付いている。偶に見掛ける人影は全て〈奴ら〉だった。

……それより、オイラは後ろで騒いでいる金髪チャラ男にイライラしてしょうがない。

 

 

「チッ!だからよぉ!このまま進んでも危険なだけだってばぁ!」

 

 

後ろの方の席では、あの紫藤と一緒に乗り込んで来た金髪の不良みたいなガキが喚き続けていた。あいつ、さっきからギャーギャーうるせぇんだよな。

 

 

「大体よぉ、なんで俺等まで小室達に付き合わなきゃならねぇんだ!?お前等勝手に町に戻るって決めただけだろぉ?学校の中で安全な場所を探した方が良かったんじゃねーのかぁ!?」

 

「そうだよ!どこかに立て篭もった方が…さっきのコンビニとか!」

 

 

金髪のガキに続いて今度は気の弱そうなガキも混ざりやがった。

オイラ以外にも沙耶やコータ、孝に麗が後ろで喚く金髪のガキを睨んでいる。するとさっきから黙って運転していた静香が急ブレーキを掛け、運転席から後ろを向いた。

 

 

「いい加減にしてよ!!こんなんじゃ運転なんか出来ない!!」

 

 

静香が珍しく怒鳴った。確かに真剣に運転している最中にずっと喚き続けられたら運転に集中出来ない。しかし、静香に怒られた金髪のガキは負けじと言い返そうとした。

 

 

「ッ!……()んだよ!!」

 

「ならば君はどうしたいのだ?」

 

「クッ……!!!」

 

 

しかしそれは先程から腕を組んで目を閉じていた冴子の問いによって防がれた。すると金髪のガキは一瞬悔しそうな顔をしたが、今度は何故か孝に指を指して喚き始めた。

 

 

「気に入らねぇんだよ!!こいつが、気に入らねぇんだ!!」

 

 

それを聞いたコータが釘打ち機を構えて立ち上がろうとするが、隣に座っていた沙耶に止められた。一方で、矛先を向けられた孝は金髪のガキを睨みながら立ち上がった。

 

 

「何がだよ?…俺がいつお前になんか言ったよ?」

 

「ッ!!…テンメェ!!」

 

 

金髪のガキは孝の言葉が癇に障ったのか、孝に向かって殴り掛かった。それを見た瞬間、麗がモップで作った槍を構えた。このままオイラが何もしなくても問題無いだろうが……。

 

 

ドゴッ!「ゴハァッ!!?」

 

「小室と宮本を頼むって頼まれてるんでな…うん」

 

 

オイラは金髪のガキと孝の間に入り、金髪のガキの腹に少し強めに蹴りを打ち込んだ。金髪のガキは胃液を逆流させながらバスの後方へ吹っ飛び、腹を押さえて蹲った。

 

 

「さっきからギャーギャーうるせぇんだよ…うん。喚きてぇなら今すぐバスを降りろ。そもそも、なんでテメェ等はこのバスに乗ったんだ?学校に篭った方が安全なんだろ?…うん?」

 

「ゴホッ!ゴホッ!…んだよ…テメェ…」

 

 

腹を押さえながらオイラを睨むガキを鼻で笑っていると、パチパチと拍手しながら紫藤が歩み寄って来た。

なんの用だよ?

 

 

「いやぁ〜、素晴らしい身のこなしでしたねぇ?貴方は学校の者ではないようですが、どちら様でしょうか?」

 

「あ?テメェに名乗る気はねぇよ…うん」

 

 

こいつ、まるでオイラを品定めする様な目を向けて来やがる。オイラが名乗らないと言っても笑みをほとんど変えずに「そうですか。それは残念です」と笑いながら肩を竦めた。

 

 

「まぁしかし、こうして争いが起こるのは、私の意見の証明にもなっていますねぇ?」

 

「何が言いてぇんだ?」

 

 

紫藤はオイラの問いに眼鏡をクイッと上げてオイラの顔を覗き込む様にしながら質問に答えた。

 

 

「やはり、リーダーが必要なのですよ。我々には」

 

「で?候補者は1人きりって訳?」

 

「私は教師ですよぉ?高城さん。そして皆さんは学生です」

 

 

紫藤が肘を乗せている席に座っていた沙耶が紫藤を睨みながら聞くが、紫藤は顔の表情を変える事なく質問に答えた。紫藤は両手を広げながらまるで選挙の演説の様な話し方をする。

 

 

「それだけでも資格の有無はハッキリしています!私なら…問題が起きない様に手を打てますよ!?ど〜ですか皆さん!?」

 

 

紫藤はバスの前側…つまりオイラや孝、麗などのチームが自分を快くないと思っているのを察知すると、自分が連れて来た生徒達が座っている後方を向きながら演説を続ける。

てか、教師で資格があるなら静香だって教師だし、オイラに至っては辞めたとは言え、1年前まで県警特殊急襲部隊の隊員だったぞ?

しかし紫藤の演説は効果を発揮し、1人、また1人と、席を立ち上がって紫藤にパチパチと拍手を送った。紫藤はそれを聞いてクネクネしながらお辞儀をし、再びこっちを向いた。

 

 

「と、いう訳で…多数決で私がリーダーという事に成りました」

 

(これ多数決で決めるんだったのかよ…うん)

 

 

オイラがニヤニヤ笑っている紫藤に呆れていると、背後でバンッ!と勢い良く扉が開く音がして、振り返ると麗がバスから降りて歩き出していた。孝は麗の行動に驚いてバスの中から呼び止めた。

 

 

「麗!?おい!ちょっと待てって!」

 

「…ッ!嫌よ!そんな奴と、絶対に一緒に居たくなんかない!!」

 

 

麗の迫力に孝はグッと押し黙った。オイラはリーダー(仮)殿はどうするのかとチラッと紫藤の方を見ると、無駄にイラッとする動きをしながら困った様な顔で口を開いた。

 

 

「う〜〜ん、行動を共に出来ないと言うのであれば、仕方ありませんねぇ」

 

「ッ!?何言ってんだあんた!!」

 

 

こいつ麗を止めようと思いすらしなかった!オイラが紫藤の言葉に驚いていると、外にいる麗が紫藤を睨んで歩き出した為、オイラは急いでバスを飛び出して彼女を引き止めた。

 

 

「ちょっと待て!1人で歩いて行くのは危険過ぎるぞ…うん!」

 

「ッ!離して下さい!!私は絶対にあんな奴と一緒に行動したくない!だから孝にも言ったのよ!絶対に後悔するって!」

 

 

参ったな。こりゃバスに連れ戻すのは難しいぞ…てか、オイラもあのリーダー(笑)は気に入らねーんだよなぁ?さてと…どうしたものか……。

 

 

「……はぁ、じゃあ…ッ!!ヤベッ!!」

 

「え?…きゃああ!!?」

 

 

オイラが解決策を言おうとすると、オイラ達が乗って来たマイクロバスとは違うもっと大きい車のエンジン音が聞こえてきた。オイラがそっちに視線を向けると、1台のバスがこっちに猛スピードで走って来た。だが様子がおかしく、左目のスコープで見えたのは、バスの車内で〈奴ら〉に運転手と乗客が襲われている光景だった。するとバスは近くに停まっていた車に激突し、横転してオイラ達に向かって来た為、反射的に麗を抱き上げて近くにあったトンネルの中に入った。バスはちょうどトンネルを塞ぐ様に激突し、炎上した。

 

 

「おい、怪我はねぇか?」

 

「え、えぇ…暁月さんのお陰でなんとか…」

 

 

オイラは麗を下ろしながら怪我がないか確認した。怪我は無い様で安心したが、トンネルの中に避難するのは選択ミスだったな。お陰で静香達と分断されちまった。トンネルと炎上するバスの間の隙間目掛けて飛び越えようにも、思ったより火の勢いが激しくて麗を抱えながら飛び越えることは出来ない。

 

 

「宮本君!暁月さん!大事無いか!?」

 

「デイダラさん!麗!無事か!?」

 

 

オイラが一度トンネルを抜けて残った起爆粘土で鳥型を作って空から戻るかと考えていると、炎上するバスの向こうから冴子と孝の声が聞こえて来た。心配になってバスから降りて来たのだろう。

 

 

「あぁ!オイラ達は無事だ!…うん!」

 

「良かった!ここはもう通れません!警察で…東署で落ち合いましょう!時間は午後7時に!…今日が無理なら…明日もその時間で!」

 

「は?…いや、オイラ達は…ッ!!危ねぇ!!」

 

 

孝にオイラが自分の案を言おうとすると、バスの上から火達磨になっている〈奴ら〉が落ちて来た為話を中断して退がった。〈奴ら〉は火も効かないのかと思ったが、少ししたら自分から倒れて動かなくなった。どうやら火は時間が少し掛かるが効くようだ。

オイラが新しい発見をしていると、エンジン音が遠去かって行くのに気付いた。これ、もしかしなくても置いていかれたか?

 

 

「最悪だ…うん。仕方ねぇ、東署であいつ等と合流す《バチバチッ!》あん?」

 

 

何かが弾けるような音が聞こえた為、オイラは音の聞こえた方を向いた。そこには燃え盛るバスが有る。

……ま、まさか!?

 

 

「クソッ!バスが爆発する!走るぞ!」

 

「は、はい!…きゃ!!?」

 

 

オイラ達はトンネルの出口に向かって走り出したが、途中で麗が躓いて転んでしまった。オイラはすぐに足を止めて麗を連れて行こうとするが、バスは爆発寸前になっていた。オイラは素早く麗の前に移動し、印を結んで手を地面につけた。

 

 

「【土遁・土流壁】!!」

 

 

するとオイラの少し前にある地面から岩で出来た壁が出現した。壁がトンネルを塞ぐと同時に火花がバスの燃料に引火して大爆発を起こした。しかしその爆発はオイラの【土流壁】によって完全に防がれた。

 

 

「はぁ…ま、間に合ったぜ…うん。おい宮本、大丈…ッ!!?」

 

「………ッ!!」

 

 

オイラが後ろにいる麗の安否を確認しようと振り返ると、腹の辺りに衝撃が走った。突然の事に尻餅をついてしまったが、衝撃の正体が麗だと分かっていたから問題ない。

・・・・・いや、滅茶苦茶問題だわ。

 

 

「ちょ!いきなりどうしたってんだ!?」

 

 

暗くなっているトンネルの中で麗みたいな美少女に抱きつかれるってのはかなり問題だ!オイラは慌てて麗を引き剥がそうと肩に手を置いたのだが、ここで麗の肩が震えているのに気付いた。

 

 

「お、おい?ホントにどうした?怪我でもしたのか?…うん?」

 

「……うっ…し、死ぬかと…思った…ッ!!」

 

 

あぁ、成る程な。学校で〈奴ら〉への恐怖心はどうにか出来ても、さっき見たいに明確な死に対する恐怖はどうにも出来ないからな。オイラだって死ぬのは怖いし御免だ。

オイラは小さく泣き始めた麗の頭を撫でてやり、麗が落ち着いて泣き止むのをジッと待った。

 

 

 

 

 

 

宮本 麗side…

 

 

「さ、さっきは…その、ありがとうございました」///

 

「気にする事はねぇ…うん」

 

 

私はさっきの爆発から守ってくれた事と、いきなり抱き付いて泣いてしまった私を黙って受け入れてくれた事を合わせて暁月さんにお礼を言った。

私はあいつ…紫藤と一緒に行動するのが嫌でバスから降りた。勝手な事だと分かっているが、どうしても嫌だったからだ。そしたら暁月さんが引き止めてくれて嬉しく思ったが、それでも私は戻ろうとしなかった。

結果、突然突っ込んで来たバスによって私と暁月さんは孝達と分断され、暁月さんにはバスの爆発から守ってもらった。

その時私は恐怖した。普通では有り得ない忍術を使う暁月さんにではない。爆発に巻き込まれるという明確な死に恐怖したのだ。暁月さんがいなかったら、私は今頃死んでいただろう……。

だから私を心配して声を掛けてくれた彼に私はつい抱き付いて泣いてしまった。彼は驚いた様子だったが、黙って私が泣き止むまで頭を撫でてくれた。

……〜〜ッ!今思い出しただけでも恥ずかしい事したなぁ///

私は少し顔が赤くなるのを感じながら頭を振って暁月さんにこれからどうするのかを聞いた。

 

 

「あの、これからどうするんですか?」

 

「静香達はもう行っちまったし、オイラ達で東署に行くしかねぇだろ…うん。静香達の方も心配だが、静香は忍術の使用を許可してるし、大丈夫だろ。ホントは空からバスに戻ろうとしたんだが…もう行っちまったからな…うん」

 

 

そう言えば暁月さんは鷲みたいな粘土に乗って飛んで来てたわね。

 

 

「それにお前はあの紫藤とかいう奴と一緒にいたくねぇんだろ?」

 

「ッ!!……はい」

 

 

私は紫藤の名前を聞いて殺意を持ったが、今あいつはいないのですぐに収まった。

 

 

「ま、兎に角行くぞ…うん。道中武器になりそうなもんや食料を回収しながらな…うん」

 

 

暁月さんはそう言ってトンネルの出口に向かって歩き出し、私も後に続いた。トンネルを出るとバイクのヘルメットを被った〈奴ら〉に襲われたが、暁月さんが簡単に撃退し、その人の物らしきバイクが落ちていたから2人でそれに乗って、夕日が赤く染める町の中を走って行った。



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第8話だ…うん!

デイダラside…

 

オイラ達はモトクロスバイクですっかり暗くなっちまった夜道を走り、東署を目指している途中、休憩がてら町を見渡せる場所に停車して町の様子を観察していた。下に見える街灯によって照らされている道路は〈奴ら〉が列を成してどこかへ向かっているのがスコープを使わなくても見える。

 

 

「誰か助けに来てくれないのかしら?」

 

「来てくれるならありがたいが、望みは薄いだろうな…うん」

 

 

オイラに抱き着く形でバイクの後ろに乗っている麗がそう言ってきたが、来る可能性は低いだろう。これだけの騒ぎなのに、ここに来るまでSAT(サット)の車両どころかパトカー1台見掛けてねぇからな。

それにコレだけの事態だ。警察も手が回り切れてないんだろうな。多分、空港に行っているリカも〈奴ら〉の対処に大忙しだろうな。

・・・あ、リカに静香無事だったって連絡するの忘れてた。

 

 

「どうしてですか?」

 

「コレだけの事態なのにパトカー1台見掛けてねぇだろ?だが、警察が出動していない訳がない…となると?」

 

 

オイラが麗に聞き返すと、彼女は少し考える素振りをして、やがてハッとした表情になる。

 

 

「……警察も救助に手が回っていない?」

 

「正解だ…うん。まぁちゃんと警察は動いているだろうが、完全に人手不足だろうな…うん。……っと、そろそろお話は終わりだ。しっかり掴まれよ」

 

 

オイラが麗の後ろを見ながらそう言うと、麗も釣られて自分の背後を見た。少し離れた暗闇で複数の人影があり、街灯に照らされて現れたのは〈奴ら〉だった。

麗はオイラに抱き着くように掴まるが、正直に言ったらもう少し離れて欲しかったりする。別に彼女が嫌いって訳じゃないんだが…その…(胸がな)

オイラは頭を振って気を取り直し、バイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

高城 沙耶side…

 

 

『外は危険です!決して車外には出ないで下さぁい!!』

 

 

午後11時45分。宮本とあの暁月って男と別れた私達は、見事に渋滞に巻き込まれてしまった。あちこちからクラクションが鳴る中、外では警察の人が拡声器を使ってみんなに車の外に出ないよう言っている。

 

 

「1時間で1キロ…と言ったところか…」

 

「この調子だと、朝までに橋を越えられるかどうか…」

 

 

私はそう不安を口にした。すると私の隣に座るデブオタ…平野のお腹からグゥ〜〜ッと聞こえて来た。私もお腹が空いてるのにそんな大きな腹の虫を鳴かせるデブオタに私はつい怒鳴ってしまった。

 

 

「うるさいわね!黙りなさいよ!」

 

「黙れって言われても…お腹空いたな…」

 

「落ち着けよ高城。態とやってる訳でもないんだろ?」

 

 

小室がそう言っているが、私だってお腹空いてるのよ。私が少しムッとしながら小室を見ると、外から銃声が聞こえて来た。

どうやら車のクラクションやエンジン音に釣られて〈奴ら〉が近付いて来るのを撃退しているようね。

 

 

パンッ!パパパンッ!パパンッ!

 

「「きゃあぁ!!」」

 

 

後ろの方の席から2人分の女の悲鳴が聞こえて来た。どうやら銃声が怖いみたいね。私が腕を組みながらそっちを向いてみると、紫藤が2人の席に歩み寄って話し掛けた。

 

 

「大丈夫。この中は安全です。大丈夫…」

 

「…先生」

 

「何も心配要りません。だいじょ〜〜〜ぉぶ…」

 

 

紫藤は2人の女子生徒に腕を回して抱き締めながらそう言っている。普通ならセクハラよ?セクハラ。宮本が紫藤を嫌がる理由がよく分かったわ。

そういえば宮本達は無事かしら?あの暁月って男が一緒だから大丈夫かも知れないけど、絶対って訳じゃないし……。

いや、それよりあの男は本当に何者なの?自分を忍者だと言い、私そっくりに変身したり、変な爆弾粘土作品を生き物みたいに操って爆発させたり、おまけに両手に『口』だなんて……どういう原理なのかしら?

私は暁月 デイダラに少し興味を持っていた。

 

 

 

 

 

 

デイダラside…

 

 

オイラ達は無事に町の中に入れたが、ここはもう〈奴ら〉に襲われた後のようだ。店や建物には所々明かりが灯っているが、人の気配が全くしない。それに幾つかの窓には血がベッタリと付いている。

道路には偶に車が停まっているが、大破していたり、座席に血が付いていたりした。そして烏や猫の姿は見かけるが、〈奴ら〉の姿は1体も無かった。

 

 

「誰も…いない…」

 

「逃げたか、〈奴ら〉に喰われて死んだかのどちらかだろうな…うん」

 

「でも、死んだら〈奴ら〉になるじゃないですか」

 

「生きた人間を追い駆けて行ったんだろうよ」

 

 

オイラが一度停車して後ろに座って町を見回す麗と会話する。それにしても見事に人がいねぇな。コレだけ無人だったら盗みとかし放題だろうな…やる前に喰われてたら意味ねぇが。

オイラがそんな事を思っていると、麗が嬉しそうな声を上げた。

 

 

「ッ!暁月さん!あれ!」

 

「あん?〈奴ら〉か?…って、アレは…」

 

 

オイラが麗の指差す方に視線を向けると、そこには半分建物の陰に隠れているが、ヘッドライトが点いているパトカーが停まっていた。ランプも点灯している。

今日初めて見たな。まだ無事なヤツがあったのか…?

そう思いながらパトカーに近付いたが、パトカーはトラックに後ろ半分を潰されていた。警官も2人乗っているが、絶命している。

 

 

「マジかよ…こう来たか。……よし、宮本。ちょっとあのパトカーから使えそうな物回収するぞ…うん」

 

「ッ!分かりました」

 

 

オイラ達はバイクから降りてパトカーに近付いていく。念の為に麗に槍で警官の頭を刺してもらい、確実に死んだのを確認してからパトカーを漁った。オイラが漁った警官から手に入れたのは手錠と鍵、警棒、そしてラッキーな事に、警察に支給されている拳銃…【S&W M37】が手に入った。弾はちゃんと5発入っている。

 

 

「こんなもんか…うん。宮本、そっちはどうだ?」

 

「こっちも似た感じ…でも銃は握る所が折れてたから、弾だけ抜き出しておきました。…はい、どうぞ」

 

 

オイラは麗から血を拭き取られた弾を手渡そうとする。しかしオイラはそれを手で制し、M37を麗に差し出した。実銃を差し出された麗は驚いた表情でオイラと銃を交互に見る。

 

 

「コレはお前が持ってろ…うん」

 

「え?で、でも…」

 

「オイラには起爆粘土と忍術があるからな…うん。警棒1本と手錠があれば十分だ。撃ち方はオイラが教えてやる。これでも去年まで県警特殊急襲部隊の隊員だったんだぜ…うん」

 

「そうだったんですかぁ!?」

 

 

オイラは驚愕の表情を浮かべる麗にM37の撃ち方と注意事項を教え、オイラが教えた事を復習をしている麗を再び後ろに乗せてバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

しばらく走り続けていると、ガソリンが無くなりそうになっているのに気付いた。すぐにガソリンスタンドを探したが簡単には見つからず、結局15分程走ってようやくガソリンスタンドを見つけた。

近くには〈奴ら〉がいないようなので、さっさとガソリンを入れたいのだが……。

 

 

「オイラ金持ってねぇぞ…うん。宮本、お前は持ってるか?」

 

「アハハ…私も、お財布学校に置いて来ちゃって…」

 

 

選りに選ってセルフ式のガソリンスタンドとはな…運がねーなぁ。麗はガソリンが残っているかを心配しているが、今時のガソリンスタンドはどこも乗用車千台分のガソリンがあるから問題無いだろう。

 

 

「はぁ…元県警の特殊部隊の隊員が金銭泥棒かぁ。でも他に方法は無いしな…うん。よし、宮本はここで待っててくれ。オイラはちょっと建物の中に入ってお金を拝借して来るぜ…うん」

 

「元県警特殊急襲部隊の隊員なのに大丈夫なんですか?」

 

「仕方ねーだろ!オイラだって複雑な気持ちなんだ…うん!」

 

 

オイラはクスクス笑う麗を置いてガソリンスタンドの建物の中に入った。中は荒れまくっており、近くの自販機には血が付着していた。

オイラはカウンターにレジが置かれているのを見つけてお金を引き出そうとするが、当然開いてくれない。

 

 

「ま、そうだよな…うん。こういう時は……フンッ!!」バキャッ!!

 

 

オイラはレジを蹴り砕き、中に入っていたお金を取り出した。コレだけ有れば足りるだろうと思ったその時だ。

 

 

「きゃああぁぁぁぁぁあ!!!」

 

「ッ!?宮本!!?」

 

 

建物の外から麗の悲鳴が響き渡ってきた。

 

 

 

 

 

 

宮本 麗side…

 

 

「ッ!いや!離して!!」

 

「チッ!おい!暴れんな!!」

 

 

私は暁月さんにここで待つように言われたからスタンドにもたれ掛かって暁月さんを待っていたら、突然この男に捕まった。男は私の首にナイフを突きつけると、私の体を舐め回すように見てきた。

 

 

「ヘヘッ♪…いい体してんじゃねぇか?あぁ?」

 

「………ッ!!」

 

 

今度は私の体を撫でるように触り始めた。気持ち悪い…もの凄く嫌な気持ちだ。男は私のスカートの方に手をやり、ポケットに入れていた銃を見つけてしまった。

 

 

「ッ!?おいおい!いいもん持ってんじゃねぇか!!」

 

「クゥッ!!………」

 

 

銃は当然取られてしまい、今度はナイフを仕舞って銃を私に突きつけた。実弾の入った銃は怖いが、それ以上に今の私はこの男から離れたかった。

 

 

「クククッ♪こりゃあいい拾いもんだぜぇ!ヒハハハハッ!!」

 

「拾ってすぐで悪いが、その子を返してもらおうか?」

 

 

すると私の悲鳴を聞きつけたのか、スタンドの陰から暁月さんが現れた。私を捕まえた男は私に銃を突きつけたまま暁月さんの方を向いた。男は暁月さんをしばらく見た後、急に笑い出した。

 

 

「…ククッ…ハハハハハハ!!兄ちゃん!可愛い彼女を連れてるじゃねぇかよぉ!?」

 

「そんな事より、その子を離してもらおうか…うん」

 

 

暁月さんはまるで作り物みたいに冷たい感じの無表情で私を捕まえる男を睨みながらそう言った。

 

 

「バァ〜カ!離すかよ。化け物だらけになっちまった世界で生き残るには…女がいねぇとなぁ!ハハハハハッ♪」

 

「ッ!暁月さん!!」

 

 

私は男の腕を振り解いて暁月さんの方へ走ったが、すぐにまた捕まってしまった。しかもこいつ、今度は私の胸を触ってきた!!

 

 

「はぁ…こいつは最高だぁ。おいお前!レジぶっ壊したんだろ!?今すぐバイクに給油しろ!でないとこの女を殺す!いいなぁ!?」

 

「………分かった」

 

 

暁月さんはそれだけ言うとスタンドに歩み寄ってお金を入れ、バイクの給油を始めた。普通ならこんな奴あっと言う間に倒しちゃうんだろうけど、私がそれを邪魔しているみたいで、申し訳ない気持ちで一杯だった。

やがて給油は終わり、男は暁月さんにバイクから離れるよう命じた。

 

 

「給油を終えたな!?よし、今すぐバイクから離れろ!」

 

「…分かった。だが、お前に1つだけいい事を教えてやるよ…うん」

 

「あぁ?」

 

「自分の背後は常に気を付けた方がいいぜ…うん」

 

暁月さんはバイクから離れると、ニヤリと笑いながらそんな事を言い出した。男も私も彼がいきなり何を言っているのか分からなかったが、突然男の銃を持つ手が何かに叩かれ、男は痛そうに呻きながら銃を落とした。私が後ろをなんとか振り返ると、そこにはもう1人の(・・・・・)暁月さんが警棒を手に持ち、落ちた銃を拾いながらそう言った。



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第9話だ…うん!

デイダラside…

 

 

「て、テメェ!!なんで2人いやがる《バキャッ!!》ガハァッ!!?」

 

「ギャーギャーうるせぇぞ!…うん!!」

 

 

オイラは銃を持っていた手を押さえて睨んでくる男の腹を蹴って【粘土分身】の方に吹っ飛ばし、分身に男を羽交い締めにさせた。こいつはオイラが起爆粘土で作った分身だ。残っていた起爆粘土を全部使ってギリギリ作れた。

オイラが麗の悲鳴を聞いた時、スタンドの陰から麗がいかにも俺不良って感じの奴に捕まっていたのが見え、残った起爆粘土を使って分身を作り、本体のオイラは【土遁・土竜隠れの術】で軟質化した地面に潜って男の背後に廻り、隙を見て警棒で拳銃を持つ手を殴り付けたのだ。

しかし迂闊だったぜ。こんな世界になっちまったんだ。そりゃ色々ぶっ壊れて普通に犯罪を犯す奴がいるだろう。

麗だって〈奴ら〉と戦っていたとは言え一般人だ。それに〈奴ら〉なら兎も角、まだ生きてる人間と殺り合うなんて出来るはずもねぇ。1人にしとくのは失敗だったな。

オイラは自分の選択ミスに溜め息を吐きながら男から解放された麗に歩み寄り、先ずは謝罪した。

 

 

「すまねぇ宮本。今回の事はオイラの選択ミスだ…うん。お前を1人にしなきゃこんな目に遭わなかったのによ」

 

「い、いえ。気にしてない…って言ったら嘘になりますけど、最悪な事になる前に助けて貰いましたから……あ、後私の事は麗で構いませんよ?」

 

「本当にすまなかった。オイラもデイダラでいいし、敬語も使わなくていいぜ…うん」

 

「分かりま……分かったわ。デイダラ」

 

 

麗はあんな事があったのに思ったより普通に接してくれた。しかし1年ですっかり鈍ったか?元警察だったらこの位覚えてねぇといけないだろ普通。

オイラがそう思っていると、体を曲げて呻いている男を羽交い締めにしているオイラの分身を指差して麗が質問してきた。

 

 

「ねぇ、あそこにいるもう1人のデイダラって……あの有名な分身の術?」

 

「あぁ、まぁ分身って言ってもオイラの起爆粘土を使った【粘土分身】だがな…うん」

 

 

オイラが麗の質問に答えていると、ようやく腹の痛みが治まったのか、【粘土分身】に羽交い締めにさせた男が騒ぎ出した。

 

 

「おいテメェ!!なんで2人いるんだよ!?こいつをどうにかしやがれ!!ぶっ殺されてぇのか!?あぁ!?」

 

「ッ!あんた……ッ!!」

 

 

麗は男の声を聞くと紫藤の名前を聞いた時並みの怒りや憎悪が混じった様な顔をすると、地面に落としていたモップで作った槍を拾い上げて男に近付いて行った。男は麗に気付いて「ヒィッ!?」と情けない悲鳴を上げた。

 

 

「あんた……よくも…よくもッ!」

 

「おっと、麗。悪いが急いでここを離れるぞ」

 

「でもッ!!こいつ、私を…」

 

「そいつが騒ぎまくったから〈奴ら〉があちこちから大量に来てんだ…うん。気持ちは分かるが我慢してくれ」

 

 

オイラがバイクに乗りながら麗に頼むと、麗は悔しそうな顔をしたが、渋々といった様子でオイラの後ろに乗った。それを見た男は慌ててオイラ達に助けを乞うた。

 

 

「ま、待ってくれ!俺を1人にする気かよぉ!?なぁ!助けてくれよ!」

 

「じゃあその分身を置いて行ってやるよ。すぐに出番が来るからよ…うん」

 

 

オイラ達は男をひと睨みしてから【粘土分身】を置いてガソリンスタンドを離れた。後ろからあの男の絶望した様な声が聞こえて来たが、気にせずバイクを走らせた。

………この辺りでいいか。

オイラは十分ガソリンスタンドから離れた場所でバイクを停車させ、スコープでガソリンスタンドの方を見た。すると急に止まったオイラを不思議に思ったのか、麗が後ろから聞いてきた。

 

 

「デイダラ?行かないの?」

 

「さっき言ったろ?あの【粘土分身】の出番がすぐ来るってよ…うん」

 

 

スコープには多数の〈奴ら〉がガソリンスタンドに集結している様子が映っていた。オイラが印を結ぶと、それを見た麗が何かに気付いた様に後方のガソリンスタンドを見た。

 

 

「分身は起爆粘土で作ったオイラのアートだ。当然それも爆発する。一度やってみたかったんだ…夜に起こす芸術的大爆発(・・・)をな…うん!芸術は、爆発だァ!…喝ッ!!」

ドゴオォォォォォォォォンッ!!!!

 

 

夜の町が一瞬昼間の様に明るくなった。後方で起きた大爆発は夜の町を爆炎で照らし、しっかり備えていなければ吹き飛ばされそうな爆風を発生させて周囲の建物のガラスを割った。

オイラは今までにない芸術をその爆発から感じた。街灯や看板を照らす光ぐらいしかない暗い町中で、他より明るい光に群がる様に集まる〈奴ら〉を吹き飛ばす巨大な爆発!まさにアートだ!!

 

 

「うん!うんうんうん!これぞ芸術だ!夜の町を照らす一瞬の巨大な爆発!残り物で作った割にはいい出来だ…うん!」

 

「ちょ、ちょっと!何してるのよ!?デイダラは警察よね!?」

 

「元だ元!今はアーティストだ!さてと、そろそろ行くか…うん」

 

 

オイラは予想以上の大爆発にオロオロしている麗を気にせずにバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

宮本 麗side…

 

 

「よし、オイラからあまり離れるなよ…うん」

 

「分かってるわよ」

 

 

午前4時頃、私とデイダラは今、道中見つけたスーパーマーケットの中にいる。ここも〈奴ら〉に襲われたようで、ガラスが割れていたり、商品が散らばっていたりしている。壁や床にも血が付着している。〈奴ら〉は生き残った人達を追いかけて行ったのか見当たらない。

 

 

「先ずは紙だな…うん。後筆と墨が必要だな」

 

「え?こういう場合って、映画とかなら食料とかを回収するんじゃ?」

 

「食料は回収するぞ?後、飲み物と他にも役に立ちそうな物もだ」

 

 

デイダラの言っている事が理解出来ない。食料や飲み物を回収するのは分かる。それは分かるけど、それと紙と筆とどう関係があるのかしら?

私が不思議に思っている内に文房具コーナーに入った。デイダラは商品棚から画用紙と筆と墨汁を取り出すと、画用紙を地面に置いて何か模様のような物を描き始めた。

それにしても描くの速いわね…慣れてるのかしら?

 

 

「良し、先ずは食料からだ…うん」

 

 

デイダラは画用紙3枚、トランプのカード位の大きさに切った紙数枚に同じ様な模様を描くと、それ等を持って食品売り場に向かった。

食品売り場は既に誰かが漁ったのか、いくつかお肉や魚の棚が無くなっていた。デイダラは画用紙を床に置くと、缶詰やカップ麺、更には残っている肉や野菜などを回収し始めた。

 

 

「あん?何してんだ?麗も手伝え」

 

「手伝えって、そんなに沢山どうやって持ち出すのよ?」

 

「いいから手伝え。口で言うより見せた方が早いからな…うん」

 

 

見せた方が早い?もしかしてデイダラの忍術?

私は首を傾げつつも、商品棚から食品を回収し、デイダラの指示に従って彼が置いた紙の前に置いていった。やがてデイダラがもういいぞと声が掛かり、デイダラが置いた紙の前には食品の山が出来ていた。

 

 

「デイダラ、貴方コレをどうする気なの?」

 

「まぁ見てなって…うん!」

 

 

デイダラは床に置いていた画用紙を1枚持ち上げると、模様が描かれている方を食品の山に向けた。

 

 

「【封入の術】!」

 

「え、えぇ!!?」

 

 

私は自分の目を本気で疑った。デイダラの持った画用紙がまるで掃除機の様に食品の山を吸い込んでいった。やがて最後の1つを吸い込むと、画用紙に先程の模様の中心に『食』という文字が浮かび上がった。

 

 

「ハハハハッ!驚いたか?…うん?」

 

「な、何よ今の!?今何が起きたの!?」

 

 

私は笑いながら画用紙を巻くデイダラに混乱しながらなんとか質問した。

 

 

「今のは【封入の術】って言ってな。こんな風に紙や巻物、またはカードなんかに食料や武器なんかを入れて保存する術だ…うん。保存されている間は劣化しないし、この術の対になる【開封の術】を使えばいつでも好きな時に取り出す事が出来る。まぁ、破いたりしたらその場で中身が全部出て来ちまうがな…うん」

 

「そんな術もあるのね…なんだか忍術ってなんでも有りな気がしてきたわ」

 

「言っとくが、忍術は確かに便利だが、万能じゃねぇぞ…うん。ちゃんとデメリットも存在するからな?」

 

 

それでも効果が凄すぎるのよね。特にこの【封入の術】と【開封の術】だっけ?コレなんか荷物運びには凄く便利だし、保存した物が劣化しないなんて冷蔵庫要らずじゃないの。

 

 

「よし、次は飲み物だな…うん」

 

 

デイダラはスタスタと飲料コーナーに向かって歩いて行き、私も小走りでそれを追った。そしてそこから水やお茶、ジュースなどを回収して再び食品の山があった場所に持って行き、山になった所でデイダラがもう1枚の画用紙に飲み物の山を吸い込ませて封入した。画用紙の模様の中心に今度は『飲』と書かれている。

 

 

「コレでいい。次はライターとか絆創膏なんかの役に立ちそうなものを運ぶぞ…うん」

 

「?最後の画用紙はどうするの?」

 

「それは道中ドラッグストアがあった時用だ…うん」

 

 

成る程ね。確かにお薬とかは持って置いた方がいいと思うし…。

その後私達はライターや絆創膏などを小さい紙の方に幾つか分けて封入し、小さい紙はポケットの中に2人で分けて仕舞い、画用紙の方は更に小さい紙に封入してデイダラがポケットに仕舞った。

 

 

「良し、そろそろ行くぞ…うん」

 

「えぇ、分かったわ」

 

 

私は出口に向かって歩いて行くデイダラの後を追って外に出た。

 

 

 

 

 

 

デイダラside…

 

 

スーパーで物資を調達したオイラ達はバイクに乗り、道中見つけたドラッグストアで薬などを回収した。

因みにオイラが使っていた【開封の術】と【封入の術】この2つの術はオイラが修行してようやく使える用になった術だ。原作では木の葉のチャイナ娘のテンテンや、後の2代目『畜生道』のアジサイが使っていた時空間忍術で、便利そうだったから習得した。

 

 

「さて、そろそろ行くか…うん」

 

「本当に便利よね?その【封入の術】と【開封の術】」

 

 

麗が薬や包帯などがあった場所とオイラが持っている小さめの紙を交互に見ながら感心していた。この小さい紙には薬や包帯を保存した画用紙が入っている。これで持ち運びが楽になったし、小さい方が破けても画用紙の方が無事なら食料とかが散らばる心配も無い。その気になればさっきのスーパーの商品全部回収出来たが、生き残りがいたら必要になるだろうから残しておいた。

オイラ達はドラッグストアから出て、バイクのある方へ向かう。麗は一足先にバイクに跨るが、悪いがここからはバイクは使わない。

 

 

「麗、悪いがここからはバイクは使わないぞ?…うん」

 

「え?じゃあどうやって行くの?」

 

 

オイラは麗が降りたバイクを残った少し大きめの紙に封入した。不思議そうにオイラを見る麗から少し離れて腰のポーチに左手を入れた。

既に起爆粘土はポーチいっぱいになっている。オイラの左手の『口』は起爆粘土を噛み続け、しばらくすると吐き出した。それをグッと握り、手を開くと、そこには梟の形をした起爆粘土があった。

麗はそれを見て驚きの声を上げた。

 

 

「わぁ!凄い!今のどうやったの?握るだけじゃ絶対作れないわよコレ」

 

「企業秘密ってヤツだな…うん。あ、麗は高い所って平気か?」

 

「え?うん、大丈夫よ。でもなんで?」

 

「なら好都合…うん!」

 

 

オイラが梟型起爆粘土を投げて印を結ぶと、ボフンと煙が上がって人が乗れる程の大きさになった。驚いて固まっている麗を置いて先に起爆粘土に飛び乗り、麗の方に手を伸ばした。

 

 

「こっから先は、空の旅だ…うん」

 

 

麗は恐る恐るといった様子でオイラの手を取り、梟型起爆粘土に乗った。オイラにしっかり掴まるよう言って、麗がしっかりオイラに掴まったのを確認してから梟型起爆粘土を飛ばした。巨大な翼を羽ばたかせて空に舞い上がると、最初は悲鳴を上げていた麗も次第に落ち着いて今日何度目か分からない驚きの声を上げる。

 

 

「うわぁ!ホントに空を飛んでる!」

 

「なかなかいい眺めだろう?…うん。〈奴ら〉がいなけりゃ、もっと良かったんだがな…うん」

 

 

オイラ達は段々と朝日が昇って行く中、町の上空を進み始めた。



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第10話だ…うん!

床主市国際洋上空港。世界でも珍しいこの洋上空港にも〈奴ら〉は現れていた。そんな滑走路を我が物顔で彷徨う〈奴ら〉を離れた場所に停車している警察の大型人員輸送車の屋根の上で見ている人間が2人いた。

1人は白いキャップを被り、弾着観測用(スポッティング)スコープを覗いている男性。彼は県警特殊急襲部隊第1小隊の隊員の観測手、《田島(たじま) (あつし)》。

そしてもう1人は、彼の隣で伏せ撃ち状態で【H&K PSG-1】というスナイパーライフルを構え、スコープを覗いている紫色の髪をポニーテールにし、引き締まった身体をした美女。この小麦色の肌した彼女がデイダラの幼馴染であり、県警特殊急襲部隊第1小隊の隊員で狙撃手である

南 リカだ。

リカは【H&K PSG-1】のスコープの向こうに見えるにやけ面で眼鏡を掛け直す動く死体を見て少し顔を顰めた。

 

 

「はぁ…嫌なにやけ面」

 

「俳優だよ。床主市にロケに来ていた…」

 

 

リカの呟きに隣の田島が答えた。田島は耳に付けた通信機に手を当て、真剣な表情になった。

 

 

「距離、450……伏仰角、(マイナス)6……左右の風はほぼ無風……射撃許可…確認した。いつでも撃っていいぞ」

 

「了解…」

ズダァンッ!!

 

 

リカは返事をして数秒後、先程から見ていた元俳優の動く死体に狙いを付け、引き金を引いた。放たれた弾丸は真っ直ぐ元俳優の動く死体の眉間に飛んで行き、見事に眉間を撃ち抜いた。リカはすぐさま次の目標に狙いを定め、再び引き金を引いた。彼女のライフルが銃声を発し、弾丸を飛ばす度に、滑走路を彷徨っていた〈奴ら〉は1体、また1体と頭を撃ち抜かれ、地に伏していった。

 

 

 

 

 

 

南 リカside…

 

 

(最後の1人……)

ズダァンッ!!

 

 

私は【H&K PSG-1】のスコープに映る動く死体に狙いを定め、気圧・気温・湿度などを計算してから引き金を引いた。放たれた【7.62x51mm NATO弾】は私の狙い通りの軌道を通って最後の1人の眉間に命中した。

 

 

「命中確認。お見事」

 

「ふぅ……」

 

 

私の隣で弾着観測用(スポッティング)スコープを覗いていた田島がすかさず報告する。それを聞いて私は朝からずっと伏せ撃ち状態だった体を起こし、立ち上がって凝った場所をマッサージしていく。

 

 

滑走路(Runway)上のターゲットは全て無力化した…終わり。……って、何やってんだ?」

 

「朝からずっと寝転びっぱなしだったのよ?痺れちゃった。ん、ん〜!」

 

 

全く、テロリスト対策の為にこの洋上空港に派遣されたのに、まさか噛まれるだけでアウトな動く死体を相手取るなんて思いもしなかったわ。お陰で朝からずっと伏せ撃ち状態で胸とかも痺れちゃったわ。

 

 

「俺が揉んでやってもいいぞ?」

 

「私より射撃が上手いなら少しだけ考えてあげてもいいわよ?ま、その後デイダラに物理的に潰される可能性が高いけどね」

 

「ゲッ!全国の警官でベスト5に入るお前にかぁ?しかもあの剣道や柔道の試合で無敗の記録を残したデイダラ先輩にか……無茶言うなよ。あの人、射撃だってお前の次くらいに上手かったろ?」

 

「そうよ。ま、無理なら諦めて」

 

 

私はベストを脱ぎながら田島に諦めるよう言った。そう言えばデイダラはちゃんと静香と合流出来たのかしら?まぁ、あいつの事だから昨日の内に静香とは合流して学校を脱出しているでしょうけど…まだ連絡が無いのよね。少し心配だわ。

 

 

「にしても、船でしか来られない洋上空港にも出るとはな……立ち入り規制はしてるんだろ?」

 

「えぇ、要人とか…空港の維持に不可欠な技術者、彼等の家族。その中の、誰かがなったのよ」

 

 

それによって増えた動く死体を今さっき私達が無力化した。私が撃った連中の中に幸いパイロットはいなかったけど、航空機の整備士や要人の家族も何人か含まれていた。

 

 

「今はまだいいけど…いつまで持つか」

 

「ここだって、俺達がテロ警戒の為に派遣されてなければ…どうなってたことか。とは言え、弾も無限にある訳じゃないから…」

 

 

私の場合はデイダラに教えてもらった忍術でなんとかなるかもだけどね。私の“磁遁”は最大ドラム缶1個分の砂鉄なら操れるけど…他の人達はそんな事出来ないし。

 

 

「逃げるつもり?」

 

「そのつもりは無い。……まだな」

 

「そう……」

 

 

ちょうどその時、無力化した死体が片付いて空いた滑走路を旅客機が1機走って行き、空へ飛び立った。私は次第に遠くなって行く旅客機を眺めながら自分の考えを田島に言った。

 

 

「私は町に行くよ……いずれは」

 

「へぇ?なんだ?男でもいるのか?」

 

「……友達がいるのよ」

 

 

私がそう言うと田島は目を見開いて私を凝視した。

……何よ?

 

 

「お前……デイダラ先輩と俺以外に友達いたのか?」

 

「あんたの頭にライフルの弾撃ち込んでやろうか?」

 

 

 

 

 

 

鞠川 静香side…

 

 

はぁ〜、全然進まないなぁ。ちゃんと進んではいるんだけど、今じゃ1時間経っても1キロの半分も進んでないし、デイちゃんは宮本さんと一緒に別行動中だから退屈ねぇ。

 

 

「そ〜です!ですから、それぞれが勝手に行動するよりどこか、安全な場所を得た後に行動すべきです!」

 

(あ、紫藤先生まだあの演説してたんだ。もしかして一晩中あんな大袈裟な素振りをしながら演説してたのかしら?)

 

 

もしそうなら凄いわね。ずっと話し続けてるけど…喉が渇いたりしないのかしら?……もう飽きて来たからちょっと高城さん達の所に行きましょう。

私が運転席を離れて高城さん達の所に向かった。高城さん達と軽いお話が出来たらいいな〜と思ってたんだけど、なんだか難しい話をしていた。

 

 

「確かに、町の外に行くなら車じゃなくても、洋上空港なら飛行機があるし…後は電車っていう手もあるな」

 

「そう、小室が言う通り、車以外の町からの脱出手段はあるわ。都市部が危険なのは目に見えてるから、どこかの島や、武器の人口比が高い独立した地域とかに逃げようとしている連中が、山の様にいる筈」

 

「沖縄…とか?あそこにいるアメリカ軍は戦闘部隊じゃなくて…ッ!自衛隊がいるか」

 

 

高城さん、言っている事はあまり分からないけど、小室君や平野君が真剣な表情をしているからきっと凄い事を言ってるんだろうなぁ。

 

 

「じゃあ、空港に向かっているのはそういった自衛隊とかが〈奴ら〉の対処が出来ているかも知れない所に行く連中だって事か?」

 

「じゃあ、僕等もそういうとこ行きますか?」

 

「いいえ!遅過ぎるわ!既に対処出来ているなら、その地域への外部からの受け入れに厳しい方針を取り始めているはずよ。例え何処かに立て篭もろうと考えても、世界中の人間が同じ事を考えたらどうなるかしら?生きる為に必要な、最小限のコミュニティを作るようになったら……」

 

 

小室君と平野君が難しい顔をしてるけど、全然話について行けないわ。後で分かりやすく教えてもらおうかしら?

 

 

「ゴクッ!…高城さんは、本当に頭がいいんですね」

 

「何言ってんのよ?…あいつ、もうそういう乗りになってるわ。…自分で気付いてるかどうかは分からないけど…」

 

 

高城さんが指差した先にあったのは紫藤先生が女子生徒の1人の頬を撫でている光景だった。なんだか紫藤先生が気持ち悪い……。

 

 

「いい?たった半日でそうなのよ?」

 

「…追い出しますか?」

 

「やめとけ平野。あんな奴より、今は僕等がどう生き残るかを考えるのが重要だろ?」

 

「そうね。信用出来る相手と、水と食料。後は〈奴ら〉に対抗するための武器……小室はそんな人間に心当たり無い?」

 

「悪いが無いな。…静香先生はどうですか?」

 

 

ふぇ!?いきなり私に話振らないでよ小室君!え、え〜〜っと…つまり信用出来て、ご飯とか分けてくれそうで、武器を沢山持っている人だから………あれ?

それ全部デイちゃん当てはまってないかな?

 

 

「う〜〜ん、多分デイちゃんかな?」

 

「?デイダラさんですか?」

 

 

私の答えに小室君達は首を傾げた。でも仕方ないじゃない。だって、今の条件に当てはまるのはデイちゃんか友達のリカぐらいしか思い浮かばないもの。

 

 

「うん!デイちゃんは私に忍術教えてくれたし、ご飯はとっても美味しいし、武器だって、刀とか手裏剣とか沢山持ってたわよ?」

 

「刀や手裏剣って……バリバリ忍者の使いそうな武器じゃない。本当に何者よあいつ?静香先生はあいつの職業とか知らないの?」

 

「ふぇ?ん〜〜っと、去年辞めちゃったけど…警察の…確か、特殊急襲部隊って所で働いてたわよ」

 

 

私の言葉を聞いて平野君と高城さんが石みたいに固まっちゃったわ。え?私、何か不味い事言ったかしら?

 

 

「「と、特殊急襲部隊ぃ〜〜!!?」」

 

「うわぁ!?ビックリした!どうしたんだよ突然?デイダラさんってそんなに凄い所で働いてたのか?」

 

「凄いに決まってるわよ!何!?あの人そんな経歴の持ち主だったの!?」

 

 

高城さん達が突然大声で叫んだ。演説の最中だった紫藤先生もこっちを見る程だったけど、すぐに演説に戻っちゃった。

私…本当に何か不味い事言っちゃったかしら?

 

 

 

 

 

 

デイダラside…

 

 

梟型起爆粘土に乗って空を進んでいたオイラ達は、合流場所に行くにはまだまだ時間がたっぷりある為、取り敢えず麗が持ってる【S&W M37】みたいな武器か、静香達の乗ったマイクロバスを上空から探していた。バスがあるであろう橋に続く渋滞は警察が守っていたから後回しにして、今は武器がありそうな警官の遺体がある無人の事故ったパトカーや人員輸送車を見て回っている。

今の所収穫は大破したパトカーから手錠が4つ、警棒3本、【S&W M37】が1丁と弾を幾つか手に入れた。

当然〈奴ら〉と遭遇したが、空を飛んでいたから問題なかった。そして昼頃になった頃、床主大橋に続く道だ爆発が起こり、気になったオイラ達はそこに向かった。

 

 

「何よこれ?…まるで戦争じゃない」

 

「こりゃ確かにひでぇな。しかも、生きてる連中も関係なしに殺してやがるな…」

 

 

そこはまるで戦争の様な状態だった。銃や肉切り包丁を持ったヤクザからサラリーマンなどの一般人の集団が〈奴ら〉や生きた人間問わず銃をぶっ放していた。麗は眼下のそれを見て顔を蒼ざめた。

 

 

「どうして!?あの人達は〈奴ら〉じゃないのに!!」

 

「頭に血が上って、連中にとっちゃ関係ねーんだろうよ。オイラ達と一緒だな…うん」

 

 

銃を持ってるならここも危ねぇな。流れ弾に当たる前に大橋に向かうか。

オイラはそう決めると大橋の方へ向かった。しかし、そこでもパニックが起きていた。警察が橋を抑えて橋の向こうへの立ち入りを規制していた。

盾を構えた機動隊の隊員達が〈奴ら〉を少しずつ倒していき、橋の入り口では噛まれていないかどうかの検査をしてから住民を通している。時間は掛かるが、今の所コレぐらいしかいい方法は無いからな。

オイラが左目に付けたスコープで様子を見ていると、怪しい行動をしている学生の男女4人組を見つけた。拡大してみるとデカいカバンを持っており、中から一万円札の束が見え隠れしている。学生達は柵を乗り越えて橋を渡り始めた。麗もその目立つ4人組に気付いた。

 

 

『そこの学生諸君!無理に橋を渡るのは止めなさい!これは最終警告である!』

 

「ざっけんじゃねぇ!ポリ公の言うことなんざ聞けるかよ!少年法は俺達の味方だぜ!」

 

 

少年達は警察の最終警告を無視してそんな事を叫んでいる。こんな状況で少年法がどうだこうだ言っても意味がねぇんだがなぁ?

 

 

「デイダラ、あの4人は何しているのかしら?」

 

「オイラが知るかよ。ただのバカ共だ…うん」

 

 

オイラがいい終えると、丁度叫んでいた少年が遊撃放水車の放水によって橋から川に落とされた。高圧力の放水を受けた学生達は気を失って川に落ちたからほっといたら溺れ死ぬかもな。

 

 

「容赦ねーな…うん。引き返して物資集めに行くぞ。探したら〈奴ら〉に襲われたヤクザ共の銃と弾が手に入るかもしれねぇ」

 

「……えぇ、分かったわ」

 

 

麗は同じ学生が容赦無く警察に川に落とされたのを見てショックを受けた様子だった。しかし、さっきの戦争状態をみると静香達が心配だな。

……物資集めは早めに切り上げて静香達を探すか。



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第11話だ…うん!

デイダラside…

 

 

オイラ達は大橋以外の橋に続く渋滞の上空を旋回しながら静香達が乗ったマイクロバスを探していた。オイラは左目に付けたスコープで、麗はオイラが渡した予備のスコープを使ってもらっている。このスコープ、実は驚いた事に電子機器どころか電気を使ってないのだ。なのに拡大縮小どちらもボタン操作で出来る。

前世から思っていた事だが、『NARUTO』の世界って何気に現代の科学では出来なさそうなアイテム使ってるよな。

 

 

「麗、どうだ?静香達は見つかったか?」

 

「ダメ、まだ見つからない。デイダラは?」

 

「見つけてるならこんな事聞かねーだろ…うん」

 

 

しかしホントに全然見つからねぇな。もしかしてこことは違う橋に向かったのか?

 

 

「もう少し探したら別の所に行くぞ。この大渋滞だと静香達も橋を渡れてない筈だからな」

 

「分かったわ。そうしましょう」

 

 

梟型起爆粘土を操作して1度橋から渋滞の終わりまで飛んで回った。この橋も床主大橋の様に交通規制がされている。渋滞の最後尾辺りは機動隊と〈奴ら〉が戦っており、市民達は車を捨てて自分の足で逃げている。

これが映画の撮影か町ぐるみのドッキリで〜す♪…とかだったらどれだけ良かった事か……あ、その場合オイラ達は殺人、窃盗、バイクのノーヘル、強盗、銃刀法違反、その他もろもろで刑務所行きか。…あ、刑務所に逃げるって手もあるか?取り敢えず静香達と合流しねーと始まらねぇ。

ホントにどこにいるんだよあいつら?

 

 

「……ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」

 

「ん?どうした?」

 

 

オイラが色々考えていると、麗がふと思い浮かんだかのように質問してきた。

 

 

「デイダラって携帯持ってないの?」

 

「………あ。その手があったか」

 

 

しまった完全に忘れてた。今まで静香と電話でろくに話した事なかったから忘れていた。うっわだせぇ…そうだよ携帯をこっちから掛ければ幾ら機械音痴の静香でも出る事ぐらい出来ると思うし、静香がダメでも周りに孝や冴子達がいるじゃねぇか。

オイラはこんな簡単な事を思い浮かばなかった自分を恥ずかしく思いながらポケットから携帯電話を取り出した。

 

 

「もしかして…忘れてたの?」

 

「…静香達に言うなよ…うん」

 

 

クスクス笑っている麗に静香達には黙っているよう頼み、オイラは静香の携帯電話の番号に掛けた。

 

 

 

 

 

 

高城 沙耶side…

 

 

もうすぐ4時…この調子じゃ宮本達との待ち合わせ時間に間に合わないわね。バスを捨てて別の橋を目指した方がいいわね。何より、後ろの席の方がヤバくなって来てるし。

 

 

「こういう時だからこそ、我々は藤見学園の者としての、誇りを忘れてはならないのです!その意味で、バスを飛び出した宮本さん、そして彼女を追ってバスを降りたあの男は、皆さんの仲間に相応しくなかったのです!生き残る為に、団結しましょう!」

 

 

紫藤は私達以外の生徒達にずっとあの調子で演説…いえ、最早洗脳を続けている。既に私と毒島先輩、デブオタ、小室、静香先生以外の生徒達はみんな紫藤を信頼しきった目で見つめている。

 

 

「マジヤバいわよ…」

 

「確かにな…アレではまるで、信仰宗教の勧誘だ」

 

「まるでじゃなくてまんまその通りよ。話を聞いている連中を見てみなさい。宗教カルト…紫藤教の始まりを目の当たりにしてるのよ。私達は…」

 

「洒落になってねぇな。麗の予言は見事に的中した。あいつ等は助けるんじゃなかった」

 

 

私以外にも小室と毒島先輩は険しい顔で紫藤達を見ていた。これは一刻も早くバスを捨てて宮本達と合流しないと…。

 

 

「道がこの有様では、バスを捨てるしかないな。早く行かねば暁月さん達との待ち合わせ時間に遅れてしまう」

 

「はぁ…静香先生があいつの電話番号を知ってたら、今頃バスを捨てて紫藤達から離れられたのに」

 

「うぅ…ごめんなさい」

 

 

静香先生は申し訳なさそうに頭を下げた。それにしても携帯の扱いすら上手く出来ていないのに、よくここまでバスを運転出来たわね。

 

 

「しかしどうする?どうにか橋を渡って東署に向かわねば本当に待ち合わせに間に合わんぞ?」

 

「なんか、随分と暁月さんとの待ち合わせを気にしますね?ご両親とか心配じゃないんですか?」

 

 

確かにさっきから待ち合わせの約束を気にしてるわね?何か理由があるのかしら?

 

 

「心配だが、家族は父1人だし、国外の道場にいる。つまり、今の私にとって守るべきは、暁月さんとの待ち合わせの約束以外には、自分の命だけなのだ。まぁ、静香先生の話を聞いてから一度手合わせを願いたいと思ってはいるが…この状況ではな」

 

「そういえば暁月さん、剣道や柔道の試合で無敗記録残してるんでしたね」

 

 

毒島先輩の話にデブオタが思い出した様に言った。静香先生にあいつ…暁月が県警の特殊急襲部隊の元隊員と聞いてから、暁月の事を色々聞いた。その内の1つにあった剣道や柔道などの試合に一度も負けた事がないという話を聞いてから毒島先輩が暁月に興味を持ち始めたのだ。

 

 

「皆さん、お家はどこなの?」

 

「僕と高城は橋の向こう側です」

 

「あ、僕も両親は近所にいないんで…その、高城さんと一緒なら…」

 

 

キモッ!モジモジしながら言わないでよデブオタ!!

モジモジしながらこっちを見るデブオタから少し引くと、ピリリリリ♪と携帯の着信音が鳴った。私はこの中で携帯を持っているであろう静香先生を見ると、予想は的中し、手には着信音を発し続ける携帯があった。静香先生はオロオロした様子で携帯を開くと、途端に嬉しそうな顔になった。

 

 

「デイちゃんからだわ!良かった〜♪無事だったのね♪」

 

「ちょ!それより早く電話に出て下さい!」

 

「あ!そうだったわね!《ピッ!》はーい!もしも〜し?」

 

 

なんか……ホントに嬉しそうね。静香先生。

私が静香先生を見ていると、先生の電話から声が漏れてきた。

 

 

『よぉ静香。悪いが今どこにいるか教えてくれねぇか?』

 

「ふぇ?え〜〜っと……ここどこだっけ?」

 

「(あ、コレはダメね)静香先生、ちょっと電話代わって」

 

 

私は静香先生に電話を代わってもらい、暁月と話をする事にした。

 

 

「もしもし?聞こえてるかしら?」

 

『あん?その声…高城か?ちょうどいいな…うん。静香じゃちょっとダメな感じがしたからな。お前等、今どこにいる?』

 

「御別橋の渋滞の中よ。でもここに来る必要はないわ。もうすぐバスを捨てて別の橋を目指そうと思ってたから」

 

『………紫藤って教師が何かしたのか?』

 

 

へぇ?ピンポイントで当ててきたわね。可能性は他にもあった筈だけど?

 

 

「えぇ、今や紫藤教の教祖として宗教勧誘中よ」

 

『成る程な…うん。まぁちょうどオイラ達も他の橋回り終えて次が御別橋だったから取り敢えず合流はするぞ…うん』

 

「早いわね?どうだったの?」

 

『全部警察が交通規制をしてやがった。無理に渡ろうとしたら学生でも容赦してなかったな…うん』

 

 

成る程ね。じゃあ今日は橋を渡るよりどこかで泊まった方がいいわね。とにかく、暁月達の方から来てくれるなら早めに来てもらいましょうか。

 

 

「そう。じゃあ取り敢えず合流しましょう。ちょうどすぐそこに歩道橋があるわ。バスの周りは軽自動車ぐらいしかないから、すぐに見つかる筈よ」

 

『了解した……とか言ってる間に見つけた。すぐ行くぜ…うん』ブツッ!

 

 

暁月はそう言い残して電話を切った。その後私が携帯を静香先生に返していると、バスの天井からバン!と何かが落ちて来たような音が響き、洗脳をしていた紫藤やされていた生徒達、そして私達は上を見上げた。静かにしているとバスのドアがコンコンと叩かれ、ドアを見ると、窓の外に暁月と宮本がいた。

 

 

 

 

 

 

デイダラside…

 

 

「デイちゃん、無事で良かったわ♪」

 

「デイちゃん言うな!責めて『ちゃん』は止めろ『ちゃん』は!後今抱き付くのは止めろ…うん!」

 

 

オイラはバスに入った瞬間抱き付いてきた静香をどうにか引き剝がしながら『デイちゃん』呼びの訂正を求めた。というか力強いなお前!

 

 

「イチャイチャするのは後にしてくれないかしら?」

 

「ちょっと静香先生!何やってるんですか!?」///

 

「あら宮本さん!土偶ね♪」

 

「静香先生、それ多分奇遇です」

 

 

オイラも別にイチャイチャしてる訳じゃねぇっての!ってそれどころじゃなかったな。バスを捨てて逃げるんだったな。

 

 

「分かってるって高城。準備は出来てるのか?…うん?」

 

「えぇ、そもそも持って行く物はほとんど無いし」

 

「よし、取り敢えず外に出るぞ…うん」

 

 

オイラ達が外に出ようとバスの扉を開けると、ずっと見ていた紫藤が待ったを掛けた。

 

 

「何をしておられるのですか?皆さん?宮本さん達が戻って来た今、ここは一致団結して…」

 

「御遠慮するわ、紫藤先生。私達には私達の目的があるの。修学旅行じゃあるまいし、あんたに付き合う義理は無いわ」

 

 

気味の悪い笑みを浮かべる紫藤に沙耶が堂々と言った。紫藤は気にした様子はないが、後ろにいるオイラが蹴り飛ばした金髪チャラ男は怒りの形相だ。

 

 

「バスはテメェ等にくれてやる。安心しな…うん」

 

「……ほう?貴方方がそう決めたのならどうぞご自由に、高城さん。何しろ日本は、『自由の国』…ですからねぇ。ククッ……しかし」

 

 

紫藤は舌なめずりをしながらある一点を見つめた。その視線の先にあるのは冴子でもオイラでも、ましてや沙耶でもない。もっと後ろ…静香だった。

 

 

「貴女は困りますねぇ……鞠川先生」

 

「ふぇ?なんで私?」

 

「現状で医師を失うのは、マイナスが大き過ぎます。どうです?残ってもらえ「普通に嫌です」……は?」

 

 

眼鏡をクイッと上げながら話していた紫藤は静香の返事を聞いて呆けた顔をした。ぶっちゃけるとオイラも静香が即答した事に驚いていた。

 

 

「な、何故です!?こちらにも、貴女を頼りにする生徒が居るのですよ!?」

 

「頼りにしてくれているのはデイちゃん達も同じだし、デイちゃん達と一緒にいた方が安全だもの。それに、デイちゃんをバカにした紫藤先生は…こう言ったらダメなんでしょうけど、正直嫌いなの」

 

 

デイちゃんは止めろ静香。てか何?こいつ等オイラをバカにしやがったのか?

オイラはそれに腹が立ってポーチに手を入れ、普通よりかなり少量の起爆粘土を用意した。

 

 

「で、ですが《タシュッ!》…ッ!!ひ、平野君?」

 

 

静香に断られたにも関わらず引き止めようとした紫藤の頬を、コータの放った釘が掠め、傷を付けた。

 

 

「平野、今の弾…態と外したな?」

 

「暁月さんの言う通りですよ。態と外したんです」

 

「き、君はそんな乱暴な生徒では…」

 

 

釘打ち機を構えて紫藤を睨むコータに、紫藤は慌てて落ち着かせようと声を掛けたが、それは逆効果だった。

 

 

「俺が学校で何人片付けたと思ってるんです?大体…お前は前から俺の事バカにしてやがったじゃねぇかぁぁぁぁ!!ずっと我慢してきた…普通でいたかったから。でも、もうそんな必要なんてない。普通なんてなんの意味もない!だから俺は…殺せる。生きた人間だって殺せる!」

 

「ッ!?…ひ、平野君…そ、そんな事は…」

 

「ハハッ♪言うなぁ平野…いやコータ!良く言ったぜ…うん!よし、殿はオイラが務める。お前等先に行け!…うん!」

 

 

オイラはコータと紫藤の間に立つと、起爆粘土を持っていない方の手を紫藤達に見えるように挙げ、舌を出す『口』を見せた。それを見た紫藤達は悲鳴を上げてバスの後方へ逃げた。冴子はオイラを見てクスリと笑うと、開いたドアから静香達を連れて次々と出て行った。10秒もすればバスにはオイラと紫藤達しかいなくなった。

 

 

「テメェ等、オイラの事をバカにしてやがったらしいな?そんなお前等にプレゼントだ…うん」

 

「あ、貴方は…何者ですか!?」

 

 

オイラは震え声で聞いてくる紫藤に作った作品を放り投げた。それは小さな蜂の形をしていた。蜂型起爆粘土は自身の羽を動かして自分から紫藤達の前に滞空した。

オイラはニヤリと笑いながら印を結んだ。

 

 

「オイラか?オイラは…アーティストだ。…喝ッ!!」

パァァンッ!!!!!

 

 

普通より弱めに作った蜂型起爆粘土は爆竹を4つ同時に破裂させた様な音を出して爆発した。紫藤達が悲鳴を上げて頭を伏せた隙にオイラも静香達を追ってバスを飛び降りた。歩道橋を走って行く静香達に一瞬で追い付くと、オイラに気付いた冴子がこれからの行き先を聞いて来た。

 

 

「それで、これからどこに向かうのだ?」

 

「ここから少し離れた場所に、オイラとオイラの幼馴染の住んでる家がある。今日はそこに泊まるぞ…うん」

 

「分かった。道案内は任せる」

 

 

こうしてオイラ達は紫藤達と別れ、リカの借りている部屋があるアパートを目指した。



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第12話だ…うん!

デイダラside…

 

 

バスを捨てたオイラ達は、なんとか夜になる前にリカの部屋があるアパートに辿り着いた。道中〈奴ら〉との戦闘もあったが、問題なく撃破した。

しかし、【S&W M37】を渡したコータの反応が正直怖かった。なんか銃を手の上に置いた瞬間雰囲気がガラリと変わって滅茶苦茶嬉しそうに構えながら【S&W M37】の説明を早口で喋り出したぞ?なんだよアレ?二重人格って奴か?

まぁ、取り敢えずアパートには元住民の〈奴ら〉がいた為、全て片付けた後、部屋の鍵を開けた。最初は高価そうな部屋(まぁ実際それなりに高いのだが)に住民のオイラとよく家に遊びに来る静香以外の全員が少し緊張した様子だったが、10分もすれば皆それぞれ好きな様にくつろぎ始めた。オイラはみんな…特に女性陣は汗を流したいだろうと思って風呂の準備をしようと風呂場に向かった。

 

 

「あれ?デイダラ、どうしたの?」

 

「いや、お前等も疲れただろ?だから風呂沸かして来ようと思ってな…うん」

 

「「「お風呂!!!」」」

 

 

風呂場に向かう途中で麗に何をするのか聞かれて普通に答えたのだが、その答えに麗と静香と沙耶、そして声には出さなかったが冴子が目を輝かせた。まぁ昨日は誰も風呂になんか入れなかったし、女性だから風呂に入りたいだろうと思っていたが、予想外の食いつきっぷりだな。

……後、顔を赤くしてる孝とコータ。お前等今何考えた?

 

 

「やった!やっと汗を流せる♪」

 

「昨日は皆さんずっとバスで椅子に座ってだものね♪」

 

「何ボサッとしてるのよ暁月!早くお風呂を沸かして来なさい!」

 

「滅茶苦茶食いつくなお前等?後高城のそれは人に物を頼む態度か?…うん?」

 

 

オイラは上から目線で命令する高城に呆れながらも風呂を沸かしに行った。風呂の準備を終えて、後はお湯が溜まるまで待つだけになった時、ふとリカに連絡をしていない事を思い出した。オイラはポケットから携帯を取り出し、リカの電話に掛けると、すぐリカが出た。

 

 

『ちょっとデイダラ!遅いじゃない!心配したんだからね!?静香はどうだった?無事?今どこにいるの!?』

 

「〜〜ッ!!?うるせぇぞリカ!だから電話で大きな声を出すな!オイラの鼓膜を破る気か!?…うん!」

 

 

昨日電話して来た時みたいに耳にキーン!とする大きさで電話に出たリカにオイラは怒鳴りかえした。すると今度はちゃんと普通の大きさでリカは喋り始めた。

 

 

『ご、ごめん。それで?今どこにいるの?静香は無事?』

 

「今は家にいる。学校で出会った生存者達と一緒にな。静香は勿論無事だ…うん」

 

『良かった…無事でなによりよ。ありがとうね、デイダラ』

 

「気にするな…うん。オイラとリカの仲だろ?」

 

 

オイラがそう言うと、リカは小さく笑いながら『そうね』と同意した。それからオイラは町の様子、〈奴ら〉の事、一緒に行動しているメンバーの事などをリカに話した。

 

 

『私達の部屋を使うのはいいとして、忍術の事話して良かったの?』

 

「まぁな。こんな状況じゃ使わないといつ死んじまうか分かんねぇからな…うん」

 

『確かにね。私もいざという時使うわ』

 

 

そんな話をしている内に、機械音声で『お風呂が沸けました』と聞こえてきた。どうやら思ったより長く話し続けてしまったようだ。リビングの方から女性陣の歓声が聞こえてくる。

 

 

『ねぇ、今もしかしてお風呂沸かしてる?』

 

「うん?あぁ、今沸いたとこだg『ちょっと田島!私少しの間ここを離れるわ!…え?もう逃げるのかって?大丈夫よすぐ戻るから。…デイダラ、私を口寄せして頂戴』ちょっと待て色々説明しろ…うん」

 

 

いやまぁ【口寄せの術】は使えるが、今お前洋上空港にいるんだろ?しかも今田島にすぐ戻るって言ってたろうが。

 

 

『大丈夫よ。【影分身】置いて行くから。帰る時は分身に【口寄せ】してもらうわ』

 

「……お前、よくそんなやり方思いつくな?…うん」

 

 

つまりは【影分身の術】で分身を1人作り【口寄せ】の契約を結ぶ。本体のリカはオイラの【口寄せの術】でここに来る。そして帰る時は空港にいる分身に【口寄せ】してもらえば、本体は空港に戻ることが出来るって訳だ。リカが出せる分身は最大2人。1人だけにすればリカのチャクラ量でも【口寄せ】1回なら出来るだろう。簡単に言えば【飛雷針の術】の劣化版みたいな感じだな。アレはマーキングした場所に自分を【口寄せ】する術だからな。

 

 

「だがそれはかなりチャクラ使うだろう?後で凄く疲れるんじゃないか?…うん」

 

『もう重装備のまま何時間も空港の屋根の上で陽の光浴び続けてるのよ?お風呂に入れるなら入りたいのよ』

 

「分かった、分かったから。んじゃ、電話切ってから3分後だ。それまでに準備しろ…うん」

 

『分かったわ。よろしくね♪(やった♪)』ブツッ!

 

 

オイラは少し苦笑いしながら携帯をポケットに仕舞い、リビングに向かった。そこにはお風呂が沸くのを今か今かと待っていた女性陣がいた。

 

 

「あ!デイダラ、お風呂沸いた?」

 

「沸いたがちょっと場所開けてくれ…うん」

 

 

オイラがそう言うとみんな不思議そうな顔をしたが頷いて場所を開けてくれた。オイラはみんなに礼を言って開けてくれた場所に立ち、腕時計を見る。丁度3分経った為、印を結んで片手を床に付けた。

 

 

「【口寄せの術】!!」

ボフンッ!!

 

 

手を付けた場所を中心に筆で書いたような文字が床に現れ、ボフン!と煙を上げた。やがて煙が晴れると、そこには紫色の髪をポニーテールにし、小麦色の肌をした美女…リカが立っていた。

孝達はオイラの突然の行動と突然現れたリカに驚いて口をパクパクさせているが、【口寄せの術】とリカを知っている静香は嬉しそうにしながらリカに抱き付いた。

 

 

「あぁ〜〜!!リカ〜〜♪!!」

 

「おっと!静香!心配したんだからね!無事で良かったわ♪デイダラも!」

 

「おい、オイラは次いでかよ…うん」

 

 

リカは静香を優しく受け止めて嬉しそうにしている。オイラも苦笑していると、1番最初に我に返った沙耶がオイラの胸ぐらを掴んで前後に揺さ振り始めたってちょっと待て止めろ気持ち悪くなるだろうが!

 

 

「あ、あ、あんた!!今の何!?あんた一体何やったのよ!?」

ブン!ブン!ブン!

 

「は、放しやがれ!ちょ!マジで気持ち悪くなる!!」

 

「高城君、気持ちは分からなくもないが、放さないと彼が説明出来ないだろう?」

 

 

それもそうねと沙耶は掴んでいた手を放してくれた。ヤベェ…ちょっと気持ち悪りぃ……。

 

 

「た、助かった…うん。サンキューな毒島…」

 

「何、私も今の術が気になったからな。済まないが説明してくれないだろうか?それと、彼女は誰なのか教えてくれないか?」

 

「ん?あぁ、貴女達がデイダラが言っていた生存者達ね?私は南 リカ。静香の友達で、一緒にこの部屋で暮らしているわ」

 

 

静香の頭を撫でていたリカは冴子達を見回しながら自己紹介した。目の前にいる人物がオイラと住んでいる人だと知った孝達は自分達も自己紹介をした。

 

 

「成る程…高城さんに毒島さん、宮本さんに小室君に平野君ね?よろしく。…あ、そうだ。さっきの術については女性陣には私がお風呂で教えてあげるわ。小室君と平野君にはデイダラが教えてあげて」

 

「あぁ、了解だ…うん。オラ、2人共。上の部屋行くぞ…うん」

 

「あ、それともみんな入った後に2人で入る?デイダラ?」

 

「「「「「はぁ!?」」」」」

 

 

リカはニヤリと笑いながらオイラにそう言ってきた。あの顔は半分本気で言ってやがるな。半分は早く風呂に入りたいからだろうな。

 

 

「ちょ!?な、何言ってるんですかリカさん!?」

 

「え?別に構わないでしょ?私達だし」

 

「だ、だからって!幼馴染でも彼とお、お風呂に入るのはどうなのよ!?」

 

「あら?もしかしてデイダラ、貴方私達の事それだけしか言ってないの?」

 

 

リカは首を傾げながらオイラの方を見た。いや、言える訳ねぇだろうが。だってオレ達……。

 

 

「私達、付き合ってるのよ。ただし、双方合意の上で静香も彼と付き合ってるけどね」

 

「「「「「はぁぁぁぁぁ!!!?」」」」」

 

「だから言いたくなかったんだ…うん」

 

 

 

 

 

 

南 リカside…

 

私と静香とデイダラの関係を話したら静香の学校の生徒達がかなり混乱してたけど、取り敢えずその事も含めてお風呂に入りながら全部説明するという提案を出してその場は収まった。

それにしてもやっと汗を流せるわ。なんだか色々あり過ぎて何日もお風呂に入ってない感じがする。

私は一足先に服を脱いで風呂に入り、シャワーを浴びて湯船に浸かった。静香達は私が湯船に浸かった頃に入って来た。

 

 

「ん、ん〜〜!はぁ…気持ちいいわ〜♪」

 

「あ、あの〜…リカさん。暁月と静香先生と貴女の3人が付き合ってるっていうのは…本当なの?」

 

 

私が体を伸ばしていると、ピンク色の髪をした子…確か高城さんだったわね。彼女が早速聞いて来た。毒島さんも気になるのか私と静香の方を見てるし、宮本さんも私達を見ている。…でもこの子、さっきからちょっと暗い顔してるのよね。

 

 

「本当よ。2年ぐらい前に、デイダラの誕生日に私と静香でお祝いしてね。その時に私と静香が酔っ払って、デイダラを押し倒しちゃったの。それで勢いでそのまま静香と2人で襲っちゃって、気が付いたら次の日の朝…」

 

「その後、酔いが覚めた私達はお互いに話し合って、2人でデイちゃんと付き合おうって話になったの。私もリカも、デイちゃんの事大好きだったし♡」

 

「「「………」」」///

 

 

静香が途中で私の代わりに残りの説明をしてくれた。静香が少し顔を赤くしながら嬉しそうに話す中、高城さんと毒島さんは顔を真っ赤にしてゴクリと喉を鳴らした。宮本さんも顔を赤くしていたが、どちらかと言うとションボリしている。………もしかして?

 

 

「ねぇ、宮本さん。ちょっと聞きたいんだけど…」

 

「あ、はい。なんですか?リカさん」

 

「貴女……デイダラに惚れちゃった?」

 

「…………ファ!!?」

 

 

私の質問に宮本さんは顔を真っ赤にしてアワアワしだした。成る程、やっぱりそうだったの。さっきから分かりやすい反応だったものね。

 

 

「意外ね?てっきり小室の事が好きなんだと思ってたわ」

 

「た、確かにデイダラには何度も危ない所を救ってもらいましたし…じ、自分でもあの人に好意を寄せているような感じはしてました…けど……」

 

「私と静香が付き合ってるって知ってショックを受けたのね?」

 

 

コクリと宮本さんは頷いた。これは吊り橋効果ってヤツだったかしら?まぁデイダラって意外に面倒見がいいからね。警察にいた時も偶に後輩に色々アドバイスしたり、ご飯奢ってあげたりしてたし。

 

 

「じゃあ、宮本さんもデイちゃんとお付き合いすればいいんじゃない?」

 

「……え!?」///

 

 

静香が思いついた様にそう言った。確かに私と静香の2人が付き合ってる時点で今更1人増えても大して変わらないような気がする。

 

 

「確かにそれなら解決ね。私は別に気にしないし、静香もその案を出したって事は構わないんでしょ?後はデイダラに言えばいいわ」

 

「そ、そんな急には無理です!せ、せめてもう少しだけ時間を…」///

 

「ま、なんとかなるわよ。頑張りなさい。さて、次は【口寄せの術】についてね」

 

 

私は顔を真っ赤にしてモジモジし始めた宮本さんに少し笑いながらも次の話に移る。

 

 

「なんだか色々突っ込みたい所はあるけど、気にしないようにするわ。それで?貴女がいきなり現れたアレは何?アレも忍術?」

 

「そうよ。【口寄せの術】と言って、契約を結んだ人や動物なんかを召喚出来るのよ。まぁ、分かり易く言えばワープとかテレポートみたいなものよ」

 

「それ本当に忍術なの?完全に科学的に説明が付かないんだけど?っていうか忍術ってなんだっけ…」

 

 

高城さんは頭を抱えて唸り始めた。まぁ私も初めてデイダラにこの術を教わった時は似たような反応になったわ。さて、説明も終わったし、後はゆっくり湯船に浸かっていましょう。

折角のお風呂だものね♪




こんな感じでいいのでしょうか?正直どういう風にすればいいのか分かりません。ダメならばコメント下さい。書き直しますんで。


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第13話だ…うん!

デイダラside…

 

 

風呂場の方が騒がしい。多分修学旅行の時みたいな感じで遊んでるんだろうな。因みにオイラの方はもう孝とコータの2人にオイラとリカ達の関係と、さっき見せた【口寄せの術】については説明済みだ。そして今は風呂に入る前に「私の銃出しといて。この子達に貸そうと思ってるから」とリカに頼まれたので、2人を連れてリカの銃が入ったロッカーのある2階にやって来た。

 

 

「楽しそうだな…」

 

「セオリーを守って、覗きに行く?小室」

 

「おいお前等、約2名オイラが付き合ってる女が居るってのにいい度胸じゃねーか?行ったらオイラのアートで昇華させてやるよ…うん」

 

 

オイラが割と本気で殺意を込めた目で背後の2人を睨み付けると、孝達は顔を蒼くして首を横にブンブン振った。事故で襲われたとは言え、今ではあの2人はオイラの大切な人だ。もし手を出したら跡形も無く消し飛ばしてやる。

オイラはロッカーの鍵を開ける間も2人を睨んでいた。

 

 

「ま、やらなかったらいいんだがな…うん」

 

「お、おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

ロッカーの扉を開けた瞬間、先程までビクビクしていたコータがロッカーの中にある銃を見て大声を出して中を覗き見た。

てか顔こっわ!!

 

 

「【スプリングフィールドM1A1 Super Match】!!暁月さん!さ、触ってもよろしいでしょうか!!?」

 

「あ?あ、あ〜うん。いいぞ」

 

 

コータの勢いについ許可してしまった。コータは嬉しそうにロッカーにある【スプリングフィールドM1A1 Super Match】を取り出すと、実際に構えたりした。

 

 

「おぉ!凄い、凄いよ!!セミオートだけどM14シリーズのフルオートなんて弾の無駄使いにしかならないからいいよね!弾倉(マガジン)は20発入る、日本じゃ違法だ違法!クゥ〜!!」

 

「おい小室。コータって前からこんな感じだったのか?…うん?」

 

「いや、コレは僕も初めて見ました…」

 

 

コータはスプリングフィールドをしばらく観察した後、ロッカーの中にある他の銃を見て更に目を輝かせた。

 

 

「【ナイツ SR-25 狙撃銃】!!?いや、日本じゃそんな物手に入らないから、【AR-10】を徹底的に改造したのかぁ!?それにロッカーに入ってるのは【クロスボウ】!ロビン・フッドが使ってたヤツの子孫だよ!【Barnett Wildcat C5】!イギリス製の熊も殺せる【クロスボウ】だぁ!」

 

「おいコータ。悪いが熱くなるのは後にして、弾倉(マガジン)に弾を込めるの手伝ってくれ…うん」

 

 

オイラは【クロスボウ】の事まで詳しいコータにそう言いながらロッカーに残っている最後の銃を取り出した。

 

 

「それはぁ!!【イサカ M37 ライオット ショットガン】!!アメリカ人が作ったマジヤバな銃だぁ!ベトナム戦争でも活躍した!!」

 

「いい加減にしやがれ!!コレじゃあ終わるもんも終わらねぇだろうが!…うん!」

 

 

オイラがブチ切れてコータに怒鳴ると、コータは我に返って慌てて謝罪した。

ったくコイツ本当に二重人格なんじゃねぇか?銃を持つ前と後で全然違うぞ?

 

 

「とにかく2人共弾を込めるのを手伝え。小室もやり方ぐらいは大体分かるだろ…うん」

 

「あ、はい。まぁ…大体は」

 

 

オイラ達は床に座ってそれぞれスプリングフィールドと【AR-10】の弾倉(マガジン)に弾を込め始めた。しばらく弾を込めていると、孝がオイラに話し掛けて来た。

 

 

「あの、デイダラさん。リカさんってどんな人なんですか?ここにある銃は絶対違法だと思うんですが…」

 

「いや、基本的には違法じゃないよ?ここにある銃とパーツを別々に買うのは。それを後で組み合わせたら違法になる。でもあの人は警察の…ホラ、 SAT(サット)の隊員らしいし…」

 

「まぁな。リカは全国の警官の中でベスト5に入る程のスナイパー でな。ここにある銃は休暇の時とかにオイラと射撃場へ行って撃ってるんだ…うん。射撃の腕を鈍らせない為にな」

 

「デイダラさんも?じゃああの残っているロッカーにはデイダラさんの銃が?」

 

 

孝はそう言いながら視線を開いているリカのロッカーの隣にある更に2つあるロッカーに向けた。

 

 

「あぁ、あるぞ。まぁそっちは後でいい。だから先ずはこっちを先に済ますぞ…うん」

 

 

しばらくして全ての弾倉(マガジン)に弾を込め終え、次はオイラのロッカーの中にある銃だ。オイラは自分のロッカーの鍵を開け、扉を開けた。どんな銃が有るのだろうとワクワクしていたコータは待ち切れずにロッカーの中を覗いたが、中にある物を見て疑問符を浮かべた。

オイラのロッカーの中には、大量の巻物(・・)が入っていたからだ。

 

 

「あ、あの〜暁月さん?じゅ、銃はどこに?」

 

「黙って見てろ…うん」

 

 

オイラはロッカーから巻物を1つ取り出し、空いている場所で広げた。紫色の巻物には『銃』という文字を中心に、模様の様な文字が書いてあった。

 

 

「【開封の術】!!」

ボフンッ!

 

 

オイラが巻物に手を付けながらそう唱えると、巻物から煙が上がる。そして煙が晴れると巻物の上に、ロシアが開発したセミオート狙撃銃…【ドラグノフ狙撃銃】が鎮座していた。

 

 

「ド、【ドラグノフ狙撃銃】!ロシアが【AK-47】を参考にして開発したセミオート狙撃銃だぁ!!しかもスコープは【PSO-1】!」

 

 

目を輝かせまくるコータが【開封の術】を無視してオイラの【ドラグノフ】を見て興奮している。後1丁あるんだが…その前にコータが興奮し過ぎて死にそうなんだが?

オイラはコータを少し心配しつつも、ロッカーからもう1つ赤色をした巻物を取り出して【開封の術】を使用する。すると今度は【フランキ・スパス12】というショットガンが現れた。

 

 

「この2丁がオイラの銃だ。ロッカーにある残りの巻物には大量の手裏剣や苦無、煙玉、起爆札とかの忍具が入ってる…うん」

 

「しゅ、手裏剣や苦無って…デイダラさんってホントに忍者なんスね…」

 

 

孝が苦笑いしながらオイラを見ている。コータは新しく現れた【フランキ・スパス12】に夢中の様子だ。因みに弾も大量にある。巻物に封入しているがな。それと手裏剣や苦無は転生特典で貰った物なのだが、まさかガキの頃に宅配便で届くとは思わなかった。当時はこの世界の両親にバレないよう隠すのが大変だったのを覚えている。

まぁ…その両親は15年も前に交通事故で死んじまったがな。あの時程本気で泣き叫んだ事は今の所無いな。

オイラは昔を思い出しながらも【ドラグノフ】と【フランキ・スパス12】の整備を始めた。

 

 

 

 

 

 

オイラは取り敢えず全ての銃の整備を終え、暇潰しに孝とコータと一緒に話をしていた。そうしているうちに、この部屋の事についての話になった。

 

 

「それにしても、ホントにいい部屋ですね。ここ」

 

「確かにね。リカさんの実家は金持ちなんですか?それとも暁月さん?」

 

「半分正解だな。オイラは教えただけで、金持ちなのはリカ自身だな…うん」

 

 

一応オイラも警察で働いていた頃の金が結構ある。辞めてからは静香の世話をしつつ、新しく別の仕事を探していたが…こんな世界になっちまったら近い内に金は殆ど何の意味も無くなっちまうだろうな。

 

 

「あいつにもオイラは忍術を教えていてな。リカはそれを利用して今じゃ高級車や家をポンと買えるぐらいには金持ちなんだよ…うん」

 

「そういえば忍術を教えたって言ってましたね?忍術って誰でも覚えられるんですか?」

 

「いや、誰でもじゃない。人間には多かれ少なかれチャクラ…まぁ分かりやすく言うとゲームのMPみたいな物を持っている。詳しい事は今は省くが、 それを扱えないと術は発動しない…うん。そして忍術には火・水・風・土・雷の性質があるんだが、リカはかなり珍しい風と雷の混合の“磁遁”…まぁ金属を操る術を身に付けたんだよ…うん」

 

「それと金持ちになるのとなんの関係が?」

 

 

孝とコータは意味が分からないと言いたげな顔で聞いてくる。さて、“磁遁”を使える=お金持ちになるでリカが何を考えたか分かる人は前世の世界でどれくらいいるのだろうか?答えは……。

 

 

「それは『きゃあ!ちょ、ちょっとリカさん!?』『へぇ?なかなかいい肌触りね』『ちょ!どこ触って…あ!』……あいつは…」

 

 

風呂場から聞こえてくる声を聞いてオイラは頭を抱えた。コータは顔を赤くしてポーッとした様子で風呂場の方に目をやり、孝は慌てて置いてあった双眼鏡を掴み取ってベランダに行った。外の様子を見にいったのだろう。

 

 

「流石に騒ぎ過ぎじゃないですか?」

 

「確かにな…ちょっと行って注意してくるか…うん」

 

「いや、大丈夫だと思いますよ……」

 

 

リカ達に静かにするように言いに行こうと腰を上げた時、ベランダに行った孝が必要ないと言った。何が見つけたのかとオイラとコータもベランダに向かうと、孝は双眼鏡で橋の方を向いていた。橋の方はライトで明るくなっており、遠くからでも分かる程の騒ぎになっていた。

オイラもスコープで見てみると、橋ではブルドーザーまで引っ張り出してまで交通規制を行なっていた。しかし騒ぎに誘われて〈奴ら〉が集まり続けており、それから逃げる為に市民達が早く橋を渡ろうとして更に騒ぎになっている。この辺りに〈奴ら〉があまりいなかったのは殆どが橋の騒ぎに誘われて行ったからだろうな。

 

 

「……確かにアレなら必要ないな…うん」

 

「まだ2日も経ってないのに……なんだよコレ?映画みたいだ」

 

 

孝は双眼鏡を隣にいるコータに渡して橋の様子を見せた。

ホントに映画だったら良かったんだがな…。

 

 

「…地獄の黙示録に、こんなシーンが…?なんだアレ?小室、テレビ点けてみて」

 

「何か見つけたのか?…うん?」

 

 

コータに言われて孝は部屋のテレビを点けた。オイラとコータも部屋に戻り、テレビを見る。そこではちょうどオイラ達が観察していた橋の様子が映し出されていた。

そこでは警察や政府に抗議する団体らしき人々が何を叫んでおり、話を纏めると、日本とアメリカが合同開発した殺人病の原因である生物兵器が漏れてこんな事態になった為、コレを作った連中を糾弾し、橋を解放しろという内容だった。それを聞いたオイラ達はこの団体の正気を疑った。

 

 

「せ、生物兵器!?正気かよ!?死体があるいて人を襲うなんて現象、科学的に説明がつかないだろ!」

 

 

孝がそう叫んでいると、テレビの方で動きがあった。1人の警官が〈奴ら〉に発砲したのだ。それを見た団体のリーダーらしき男は更に騒ぎ出し、「政府の連中を許すな!」とか「殺人病感染者に愛を!」などと叫んでいる。すると1人の警官がリーダーらしき男に歩み寄っていき、カメラはその警官を映した。

 

 

『直ちに去りなさい。ここにいては貴方達も危険だ』

 

『断固拒否する!か〜え〜れ!か〜え〜れ!』

 

『『『『『か〜え〜れ!か〜え〜れ!』』』』』

 

 

警官はリーダーの肩を叩いて去るように警告したが、リーダーはそれを拒否し、後ろの団体達も警官に帰れと叫んだ。すると何かを呟いた警官はホルスターから【S&W M37】を抜いてリーダーの眉間に突き付け……。

 

 

『《パァンッ!!》ガッ!!?』

 

 

発砲した。これにはオイラも驚いた。団体達は悲鳴を上げ、カメラは止められた。砂嵐状態になったテレビを消す。

 

 

「もう警察でも手が付けられなくなってるな…うん」

 

「…すぐに動いた方がいいんじゃ?」

 

「それは悪手だな…うん。これだけ暗いと〈奴ら〉を見つけにくいからな…うん」

 

 

孝が焦った様子で提案するがオイラはその案を却下した。責めて日が昇ってからにしないと危険だろうしな。

 

 

「デイダラ〜?銃出し終わった?」

 

「あぁ、出し終わってるぞ……って!!なんつー格好してんだお前!!?」

 

「「ブッ!!?」」

 

 

オイラは階段を登って来たリカの格好を見て叫んでしまった。しかしそれも仕方ないだろう。何故なら今のリカの格好は、かなり刺激の強い服装だったからだ。どれくらい刺激が強いのかと言うと、孝とコータが顔を赤くしながら目を逸らし、鼻を押さえるぐらいだと言っておく。



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第14話だ…うん!

最後辺りをちょっと書き変えました。


小室 孝side…

 

 

「リカ!ここにはオイラ以外の男だっているんだぞ!?ちゃんとした服を着ろ!…うん!」

 

「何よ?いつもよりはマシでしょう?」

 

 

デイダラさんは僕等には刺激の強過ぎる服を着て階段を登って来たリカさんに顔を少し赤くしながらも服装を注意した。男子高校生の僕と平野にとって今のリカさんの服装はヤバい。

と言うか、あの服よりヤバいのがあるのか……///

デイダラさんはリカさんに自分が着ていた外套を着せると、リカさんと一緒に下に降りて行った。

 

 

「平野…大丈夫か?」

 

「うぇ?…うん。僕見張りに行ってくる……」

 

 

平野はフラフラとベランダに出て行った。しばらく僕もだいぶ落ち着いてきた。水を飲みに行きたいが、下に行ったら多分着替え中のリカさんとか居そうだからもう少ししたら下に行こう。

 

 

「それにしても、これからどうなるんだろうな…」

 

 

さっきのテレビで見た感じ、警察も手に負えない状態になっているのは間違いないだろう。警官が市民に向けて拳銃を向け、射殺するなど普通ではあり得る事じゃない。すぐに動いた方がいいのではと考えたが、それはデイダラさんに止められた。取り敢えず今日はここに泊まって、明日の朝橋を渡って1番近い高城の家に行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

デイダラside…

 

 

オイラは下に降りた後、リカにもう少しマシな服を着るように言ったが、なんかもうどうでもよくなっちまった。何故なら下に降りたらリカとどっこいどっこいの服装をしている麗達がおり、静香に至っては体にバスタオルを巻いただけという完全にアウトな服装をしていたからだ。しかも静香は風呂から上がった後に冷蔵庫にあった酒を飲んだようで、さっきからオイラに絡んでくるのだ。

 

 

「あはは〜☆デイちゃ〜ん♪はれ?デイちゃん、きょーはよく首か回ってりゅね〜?」

 

「回ってねーよ!…うん!どんだけ酔っ払ってんだ静香!!」

 

 

こいつベロンベロンに酔っ払ってやがる。まぁこいつはいい…訳ではないが、大体静香は酒を飲むとこんな感じになる。テーブルに座るオイラの腕に絡み付いてくるのももう慣れた。だが問題は……。

 

 

「だ〜か〜ら〜!孝は人の気持ちを全っっっっ然!考えてくれないの〜!!分かる〜!?」

 

「なんでお前まで酔っ払ってんだよ…」

 

 

静香とは反対側の腕にグチグチ言っている麗が絡み付いている事だ。手に空になったお酒の缶を握っており、顔がほんのり赤い所を見るに、麗もお酒を飲んでいるようだ。何やってんだよ麗?お前学生だろ?酒は成人してからにしないとダメだろうが。

 

 

「あらあら、両手に花ってヤツね。デイダラ」

 

「笑いながら言ってんじゃねーよ…うん」

 

 

テーブルの向かい側には缶ビールを飲みながらニヤニヤ笑うリカが座っている。その隣には溜め息を吐いている沙耶がいる。キッチンには現在なんとか着せたシャツの上にエプロンを掛け、下はもう下着しか履いていないというギリギリアウトな服装の冴子が料理をしている。明日の弁当を作るのだそうだ。

 

 

「う〜〜……デイちゃ〜ん…スゥ…スゥ…」

 

「あら?静香寝ちゃった?」

 

「みたいだな…うん。悪いがリカ、静香をどっかに寝かしてやってくれ」

 

 

「了解」と言いながらリカは席を立ってオイラの腕に絡み付いて寝ている静香を引き剥がしてソファーに寝かした。

 

 

「いつ空港に戻るんだ?」

 

「そうねぇ…後20分程したら向こうに戻るわ。あ、デイダラ何か食べる物ない?夕飯まだ食べてないから」

 

「あん?じゃあ…サンドイッチでいいか?」

 

「ありがと」

 

 

オイラはポケットから取り出したカードからコンビニでいただいたサンドイッチを開封し、リカに渡した。リカは礼を言いながらサンドイッチを食べ始めた。因みにカツサンドである。

パクパクとカツサンドを食べるリカにオイラは聞きたかった事を聞くことにした。

 

 

「リカはいつ頃オイラ達と行動しようと思ってんだ?」

 

「そうねぇ……もう少しだけ空港にいようと思ってるわ。何かあったらこっちから連絡するわ」

 

「了解だ…うん。こっちも何かあったら連絡する」

 

 

リカは少し考えてからそう言った。それからしばらくリカと今後の話をしていると、麗が「ム〜〜!」と言いながらオイラの手の甲をつねって来た。地味に痛いんだが?

 

 

「ねぇ〜!聞いてるのデイダラ〜!?」

 

「へいへい、どうした麗?」

 

 

それからしばらくの間オイラは麗の話を黙って聞くことになった。酒の所為かは不明だが、若干幼児退行してる様な感じがする。最初は孝の事でグチグチ言っていたのだが、段々とオイラが人間のまま殺した永君の事や、麗の両親の話になっていった。リカは麗が話している途中に自分の銃の扱いや注意事項を上の孝とコータに教えに行った。一応後少ししたら空港に戻る為、既に来た時の服装に戻っており、あの2人も大丈夫だろう。

 

 

「どうしてこんな事になっちゃったのかな?…世界はこんな事になっちゃうし……永は死んじゃうし…」

 

 

麗は最終的には俯いて泣き始めてしまった。流石に泣かれたらオイラは何を言えばいいのか分からねーから黙って麗の頭を撫でてやる事にした。そして麗が落ち着き始めた頃、外から犬の鳴き声が聞こえて来た。麗もそれに気付いて声のする外の方を見る。

 

 

ワン!ワンワン!ワン!

 

「…?わんこが吠えてる。…近いわよ?」

 

「……ちょっと上から外を見てくる。ここで待ってろ…うん」

 

 

オイラは麗にそう言って席を立ち、2階に上がって行った。2階に上がると孝とコータ、そしてリカがそれぞれ銃を持ってベランダに出ていた。

 

 

「リカ、何かあったのか?」

 

「ちょっとやばいわね。犬が〈奴ら〉を威嚇して吠えるからこの辺りに残ってた〈奴ら〉が集まり始めたわ」

 

「マジかよ…」

 

 

オイラもベランダから下を覗くと、そこそこの数の〈奴ら〉が集まっていやがった。だがやはり柵は乗り越える事が出来ない様で、アパートの周りに群がるだけで済んでいる。…まぁ、それはオイラからしたらだがな。

 

 

「……さて、デイダラ。私はそろそろ空港に戻るわ。しばらくの間静香達をお願いね?近い内に私も空港を出るから」

 

「了解だ…うん。お前も気を付けろよ」

 

 

リカはニコリと笑いながら頷き、分身に持たせていた自分の携帯に電話した。電話を終えて少しすると、リカはボフン!と煙に包まれて空港に戻って行った。手を振りながら煙に包まれて消えて行ったリカに手を振り返していると、外から銃声が聞こえて来た。

厄介な事になりそうだな。

 

 

 

 

 

 

毒島 冴子side…

 

 

私は風呂から上がった後、キッチンを借りて明日の弁当を作っていた。完成した料理を重箱に入れていると、外から銃声が聞こえて来た。

リカさんの話では私達に銃を貸していただけると聞いていたのだが、音に反応する〈奴ら〉を試し撃ちの的にするとは思えない。となると生存者が近くにいるとみていいだろう。

私は一旦作業を止めて2階に向かった。皆はベランダにいた。リカさんの姿は見えなかったが、風呂場で教えてもらった忍術で帰ったのだろう。

 

 

「どうした?先程から銃声が聞こえて来るのだが…何か問題か?」

 

「毒島先輩。実はさっきからずっと外を観察していたのですが…状況が更に悪化しているんです」

 

「何?…私にも見せてくれないか?」

 

 

私は平野君から双眼鏡を借り、銃声がする方を見た。そこには1人の青年が銃を構え、手当たり次第に〈奴ら〉を撃ち続けていた。しかし弾は頭部には当たっておらず、倒れた〈奴ら〉は起き上がり、再び青年を追っていく。

そして遂に彼は〈奴ら〉に囲まれてしまい。食われてしまった。

 

 

「……確かに、悪化しているな」

 

「あぁ…おそらく、これから更に悪化していくだろうな…うん」

 

 

私の隣で目に付けた機械?を使って彼の様子を見ていた暁月さんが同意した。すると銃を握り締めていた小室君が口を開いた。

 

 

「ッ!畜生…!酷過ぎる!!」

 

「おい、待て小室。お前、その銃を持ってどこに行く気だ?…うん?」

 

 

中へ向かおうとした小室君を暁月さんが肩を掴んで止めた。止められた小室君は何故止めるのだと言いたげな顔で暁月さんの方を向いた。

 

 

「決まってますよ!〈奴ら〉を撃って、みんなを助けに行くんですよ!」

 

「忘れたのか?〈奴ら〉は音に反応して襲って来る。銃なんか撃ったら銃声で只でさえ集まりつつある〈奴ら〉を更に呼び寄せちまうだろ…うん。いいか?オイラ達には生きた人間を全員救う力も物資もない。良くて後2、3人が限界だ…うん」

 

 

暁月さんは小室君を鋭い視線を向けている。その視線を受けて小室君は後退った。暁月さんは小室君から銃を取り上げると、それを見える様に持ち上げながら話を続けた。

 

 

「毒島、部屋の電気を消してくれ…うん。生きてる奴等は建物の灯りやオイラ達の姿を見つけると、助けを求める為に集まって来るからな…うん。後、今の内に暗闇に目を慣らしておけ。いつ何が起こるか分からないからな…うん」

 

 

私は暁月さんに言われた通り、部屋の電気を消した。彼の言う通り、我々には生きた人間を全員救う力はない。それにこれから先、ただ漢らしくするだけでは生きて行く事は出来ないだろう。

 

 

「……デイダラさんは、もう少し違う考えだと思ってました」

 

「事実だからな。オイラやリカは忍術を使えるが、忍術も万能じゃねーからな…うん。助けられる人数には限りがあるって事を忘れるなよ?…うん」

 

 

暁月さんはそう言い残すと部屋の中へ入って行った。私もそれに続いて部屋に入った。しかし下に降りようとすると、暁月さんに呼び止められた。

 

 

「毒島、ちょっといいか?」

 

「ん?何か用だろうか?」

 

「あぁ、コレを渡して置こうと思ってな…うん」

 

 

暁月さんはそう言って私に向かって何かを放り投げ、私はそれを掴んだ。暗くて最初は何か分からなかったが、段々暗闇に目が慣れて来ると、それは1本の刀だと分かった。

 

 

「お前にはそれを渡しておく。これから先木刀1本じゃ心許ないからな…うん」

 

 

暁月さんはそう言って下に降りて行った。確かにこれから先木刀1本では心許ないと思っていたが、まさか本物の刀を渡されるとは思わなかった。それに刀身を見た所そこらの刀よりいい刀だ。

彼には本当に世話になってばかりだな。

私がそう思いながら刀を鞘に納めると、ベランダから平野君の声が聞こえて来た。

 

 

「ロックンローーール!!!」

ダァァンッ!!

 

 

平野君の声に続いて聞こえる銃声。今度は平野君が撃っている様だ。するとベランダから小室君が入って来た。

 

 

「どうしたのだ?小室君」

 

「毒島先輩…小さな女の子を助けに行って来ます。どうやら僕、こういう人間らしいです」

 

 

小室君はそう思って下へ降りて行った。私も続いて下に降りると、玄関で宮本君と小室君が話をしていた。彼女も小室君から話を聞いたのだろう。靴を履いて外に出ようとする彼を心配そうに見ている。

 

 

「孝…どうしても行くなら、せめてコレくらいは持って行って」

 

「あぁ、サンキューな麗」

 

 

小室君は彼女から差し出された銃をポケットに入れると、外へ出た。外には暁月さんが持って来たバイクがあるはずだ。おそらくそれを使って女の子を助けに行くのだろう。私と宮本君も彼に続いて外に出る。

 

 

「小室君。言っておくが、銃を過信するな?撃てば〈奴ら〉が群がって来る」

 

「分かってます。でもどうせバイクで音が出ますよ」

 

「バイクは走る為に音を出すのだ。ここの事は任せろ。必ず生きて戻って来るのだぞ?」

 

 

小室君は分かりましたよと言いながらバイクに跨った。私と宮本君は門の前で待機し、彼がエンジンを掛けて走り出したと同時に門を開けた。小室君を乗せたバイクはそのまま〈奴ら〉の隙間を縫う様に走って行った。私と宮本君がそれを見送っていると、背後から声を掛けられた。

 

 

「やっぱり小室の奴は動いたか…うん」

 

「ッ!暁月さん…」

 

 

私達が振り返るとそこには朱色の雲模様がある黒い外套を着た暁月さんが立っていた。いつの間にそこにいたのだろうか?全く気付かなかった。

 

 

「んじゃ、オイラもオイラで迎えの準備をするか…うん」

 

 

暁月さんはニヤリと笑いながら腰にあるポーチに左手を入れながら中に入って行った。彼は自身の作品で小室君の手伝いをするつもりなのだろう。確かに女の子を連れて戻るのは彼の向かった方向にいる〈奴ら〉の数を見て難しい。

彼には本当に世話になってばかりだな。小室君も、私達も。



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第15話だ…うん!

デイダラside…

 

 

オイラが【ドラグノフ狙撃銃】を手にしながらベランダに出ると、そこではコータが【AR-10】を使って数軒先の家の前に群がる〈奴ら〉の頭を撃ち抜いていた。やっぱりなかなかいい腕してやがるなコータの奴。

 

 

「おいコータ。件の女の子ってのはあそこの家にいるのか?」

 

「ひゅい!?あ、暁月さん!!すすすすみません!勝手に発砲して」

 

 

コータに話し掛けると、さっきまでハイテンションだったのに一気に下がってアワアワしながら謝罪し始めた。オイラは溜め息を吐きながらコータの隣に立って【AR-10】の銃口が向いている方へ銃を構えた。

 

 

「別に怒っちゃいねーよ…うん。あいつはこういう性格なんだろうなとは予想してた。それより早くお前も撃て…うん」

 

 

距離は大体75mってとこか?オイラもコイツ(ドラグノフ)を使うのは久々だし、試し撃ちぐらいにはなるか。

オイラはスコープを覗いてバイクで数軒先にある家の庭に入って行った孝を見つけ、庭の中にいる〈奴ら〉の数を数えた。

 

 

「1…2……6体だな…うん。おいコータ、お前は庭にいる6体を撃て。オイラは門から入ろうとする〈奴ら〉を撃つ」

 

「ッ!!了解!!」

 

 

コータはニヤリと笑いながら【AR-10】を構え、数回引き金を引いた。銃声と共に弾丸が発射され、それ等は吸い込まれる様に〈奴ら〉の眉間に命中した。距離は100もないがいい腕をしてるな。やっぱり。

 

 

「やるなぁコータ。じゃ、オイラも負けてらんねーな…うん!」

ダァーン!ダァーン!ダァーン!

 

 

オイラは門から入ろうとする〈奴ら〉に狙いを定め、3発の弾丸を放った。弾丸はオイラの狙い通りに飛んで行き、計7体(・・)の〈奴ら〉を撃ち抜いた。うん、腕は鈍ってなさそうだな。

オイラは狙い通りの結果に満足しながら今入ってる銃倉(マガジン)を使い切るまで撃つ事を決め、更に引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

平野 コータside…

 

 

暁月さんと毒島先輩が中に入った少し後、僕と小室は小さな女の子の手を引いて走る父親らしき男の人を見つけた。2人は灯りの点いた家を見付けると何かを叫び始めた。多分、助けを求めてるんだろうけど、距離があり過ぎて話は聞こえなかった。

すると突然父親の方がドアを開けた瞬間刺されて倒れた。それを見た女の子が泣き出してしまい、それに釣られて〈奴ら〉が集まりだした。それを見た小室と僕は女の子を助ける事にし、僕はここから小室の援護をしていたんだけど……。

 

 

「よし。いい感じだな…うん!」

ダァーン!ダァーン!

 

 

今は隣で【ドラグノフ狙撃銃】を撃ち続ける暁月さんを呆然と眺めている。彼は先程から1発も弾を外していない。それは僕も同じだし、彼は警察の特殊急襲部隊の元隊員だから分からなくもない。

僕が驚いているのは、彼が放った弾丸の数より、倒された〈奴ら〉の数の方が多い事だ。彼は1発撃って少なくて2人、多くて4人を倒している。僕も射撃とかに関しては天才だと思ってたけど、上には上がいるもんなんだなぁ。

 

 

「お!小室の奴門を閉めたな。後はオイラが迎えに行くだけだな…うん」

 

「え?…あ、本当ですね」

 

 

暁月さんがちょうど今入ってる弾倉(マガジン)を撃ち切った頃、小室が門の扉を閉めているのが確認出来た。中にいた〈奴ら〉は既に僕が全員倒している。どうやら女の子も小室も無事みたいだ。

 

 

「ん?小室の奴は何やってんだ?…うん?」

 

「はい?……あ」

 

 

暁月さんがスコープを覗きながらそんな事を言ったので、僕もスコープを覗いて見てみると、小室が刺されて倒れていた女の子の父親に物干し竿に掛けてあったシャツを被せ、上に花を置いていた。多分、もう死んでいるんだろう。

 

 

「………ありゃ、あの子の父親か?」

 

「あの子の手を引いて走っていたし、刺されて倒れたあの人にあの子は泣きながら抱き付いていたので…多分親子かと」

 

 

成る程なと暁月さんは【ドラグノフ狙撃銃】を立て掛けながら腰のポーチに左手を入れた。なんとなくそれを見ていると、僕が見ているのに気付いた暁月さんが話し掛けてきた。

 

 

「なんだコータ?気になるのか?…うん?」

 

 

暁月さんはニヤリと笑いながらポーチに入れていた左手を出して僕に見えるようにしてくれた。左手の中心辺りで暁月さんの『口』が何かをクチャクチャと噛み締めており、暁月さんが手の平を上に向けると、『口』が白い粘土を吐き出した。その粘土を暁月さんが握り締め、開くとそこには雉の様な形をした粘土作品があった。

 

 

「えぇ!!?なんですかそれ凄い!」

 

「ハッハッハ♪麗の奴も似た様な反応したぜ…うん!」

 

 

暁月さんは僕が驚くのを見て笑うとそれをベランダの外に投擲して指を結んだ。するとボフン!と粘土作品が煙に包まれて、人が乗れる程の大きさになった。

僕がその光景に驚愕して固まっていると、暁月さんは滞空する粘土作品に飛び乗った。ていうか落ちないんですねソレ。

 

 

「オイラは小室達を迎えに行ってくる。道を塞いでる〈奴ら〉を全員ぶっ潰してもいいが、弾の無駄使いだからな…うん」

 

「あ、じゃあ僕等はここを出る準備をしましょうか?」

 

「いや、その必要はない。最後に遠くで1発ドカンと音を立てておくから問題はない…うん」

 

 

暁月さんはそう言い残すとそのまま小室達の方へ飛んで行った。それを見送っていると、高城さんがベランダに出て来た。

 

 

「ちょっと平野!さっきから何やってるのよ!?」

 

「あ、高城さん。いや、小さな女の子を発見したんで、小室が救出に向かったのをここから暁月さんと援護してたんです。暁月さんは今さっき小室達を迎えに行きました」

 

「はぁ!?仕方ないわね…すぐに準備しなさい!ここを離れるわよ!」

 

「大丈夫ですよ。暁月さんが離れた所で爆発を起こすらしいですから」

 

 

僕が先程暁月さんに言われた事を高城さんに言うと、高城さんも納得していた。それにしても暁月さんの射撃は凄いなぁ。でも確かリカさんの方が射撃上手いんだよね?

………今度コツとか聞いてみようかな?

 

 

 

 

 

 

希里 ありすside…

 

 

「……パパ」

 

 

希里(まれさと) ありす》。それがありすの名前。今年で小学2年生になったの。本当なら今日だって学校で友達と遊んだり勉強したり、家でパパとママと一緒にお話したりしていた筈なんだけど……2日前、パパとママに連れられて家を出たの。

お外はいつもと違ってパトカーや消防車とかがサイレンを鳴らしながら走ってたり、怪我をした人が他の人を食べていた。そんな中3人で走ってる途中、ママと逸れちゃったけど、パパは「大丈夫、後で会える」って言って笑っていた。でも、いつもより暗い感じの笑顔だった。

そのままパパと走り続けて今日、パパが知らない人の家のドアを叩いて中の人を呼んでいた。しばらく誰も出てこなかったけど、ようやくドアが開いたと思ったら………パパの胸の所に包丁が刺さってた。

最初は何が起きたのか分からなかったけど、血を流しながら倒れたパパを見て慌ててパパの側へ行った。

 

 

「はぁ…はぁ…ありす。パパは…大丈夫だから。…何処かへ隠…れなさい。誰にも…見つからないように……何処…か…へ……」

 

 

パパは血をいっぱい流しながらありすの頭を撫でて動かなくなっちゃった。ありすでも分かった。パパは……死んじゃったんだと。

ありすは段々冷たくなっていくパパに抱き着きながら大声で泣いた。泣いていて気付かなかったけど、その内にあの怪我をした人達がありすに近寄って来ていた。怖かったけど、パパから離れたくなかった。そう思っていたら、怪我をした人が次々と倒れて行った。

ありすは今の内にパパの言った通りに何処かへ隠れようとしたけど、隠れる場所がなかった。壁の端に追い詰められた時は怖くて目を瞑って泣いてるだけしか出来なかった。

そんな時、バイクに乗ったお兄ちゃんが助けに来てくれた。お兄ちゃんは怪我をした人達を次々と倒していくと、門を閉めて、怪我をした人達が入ってこれないようにした。

 

 

「お兄ちゃん…パパ…死んじゃったの?」

 

「……君を守ろうとして死んだんだ。立派なパパだ」

 

 

お兄ちゃんはそう言ってパパに白いシャツを被せて、お花をありすに差し出した。ありすはそれを受け取ってパパの胸の上に置いた。またしばらく泣いちゃったけど、助けてくれたお兄ちゃんが静かにするよう言ってきた。

 

 

「大きな声を出しちゃいけないよ。〈奴ら〉が寄って来るからね」

 

「逃げられないの?」

 

「ドアがいっぱいなんだ」

 

 

お兄ちゃんにそう言われてドアの方を見ると、怪我をした人達がいっぱいいて、お外に出れそうになかった。でも、あそこを出ないと道路に出れない。

 

 

「道路じゃないとこを逃げればいいのに…」

 

「そ、空でも飛べってのか?」

 

「だったら、そうすりゃいいじゃねぇか…うん」

 

 

突然空から声が聞こえてきて、上を見上げると大きな白い鳥に載っている金色の髪をした人がいた。

 

 

「で、デイダラさん!?どうしてここへ!?」

 

「どうしてって…お前等を迎えに来たんだろうが…うん」

 

 

大きな白い鳥はゆっくりと着地して、金色の髪の人…デイダラさん?が降りて来た。

 

 

「さて、さっさと乗ってもらいたいんだが、そこの犬は嬢ちゃんの犬か?…うん?」

 

 

デイダラさんはありすが抱えている子犬を見ながらそう聞いて来た。この子はありすの犬じゃないけど、ありすの側にずっといてくれたから、いい子なんだと思う。

 

 

「違うけど、一緒に連れて行ってもいい?」

 

「別に構わねぇよ…うん」

 

 

デイダラさんはそう言ってありすと子犬を抱えるとジャンプして大きな白い鳥の背中に飛び乗った。凄いジャンプ力!

 

 

「あの〜……デイダラさん、僕は?」

 

「悪いが、こいつは2人と1匹乗りなんだ。お前は足で掴んでくから問題ねーだろ…うん」

 

「酷くないっスか!!?」

 

 

大きな白い鳥は翼を羽ばたかせて宙に浮かび上がり、足でお兄ちゃんの両腕を掴んだ。なんだかお兄ちゃんが悲鳴を上げてるけど、多分大丈夫だと思う。ありす達を乗せた大きな白い鳥は空を飛んで少し離れた場所の家に向かうと、デイダラさんがまたありすと子犬を抱えてベランダに降りた。お兄ちゃんもちょっと元気無さげだけどちゃんとベランダに降りた。

 

 

「暁月さん!お疲れ様です!」

 

 

ベランダには眼鏡を掛けたちょっと太ったお兄ちゃんがいた。デイダラさんがそのお兄ちゃんと話している内に、大きな白い鳥は再び空を飛んで遠くの方へ飛んで行った。なんとなくそれを見ていると、話を終えたデイダラさんが指を結んで飛んで行った白い鳥を見ていた。

 

 

「芸術は…爆発なのだァ!!………喝ッ!!」

ドゴォォォォォォン!!!!

 

「ひゃあ!!?」

 

 

デイダラさんがそう唱えると遠くの方で大爆発が起きた。ありすは驚いて目をパチパチさせていたけど、デイダラさんはなんだか興奮した様子だった。

今の、どうやったのかな?



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第16話だ…うん!

デイダラside…

 

 

女の子…ありすちゃんを助けた日の朝、オイラ達は沙耶の家に向かう為に準備をしていた。孝とコータはそれぞれリカの【イサカ M37】と【AR-10】を持って準備完了。オイラは起爆粘土を入れたポーチとは別のポーチに手裏剣と苦無、それと起爆札や煙玉などを入れ、ロッカーの中に入っていた巻物をボンサックに詰め込んで準備を終えた。

因みにちゃんと画用紙とかに入れていた食品や飲み物は、ちゃんと巻物や破れにくい専用のカードに封入している。

で、オイラ達男性陣は準備が終わり、女性陣の準備が終わるのを待っている……のだが。

 

 

「お前等ぁ、準備は終わったか?…うん?」

 

「もう少し待って〜!今着て行く服を決めている最中なの〜!」

 

「同じ言葉をオイラは20分前に聞いたんだがな…うん」

 

 

そう、オイラ達が準備を終えてかれこれ30分ぐらいは経っているのだが、女性陣の準備がまだ終わらないのだ。服はリカから事前に許可を得て、リカの服を着る事になっている。なので、あいつ等の着替えが終わるまでオイラとコータで孝に【イサカ M37】の扱い方を教えていた。

 

 

「…後、この銃は反動が強い。撃つ時は突き出すように構えて、胸の辺りを狙えば大体当たる…うん」

 

「う〜〜ん、一度に聞いたって分からないっスよ。最悪棍棒代りに使いますよ」

 

「でも小室、扱いには十分注意しないと。それに多分小室が思ってるより反動も強いし」

 

 

銃を棍棒代わりとは…随分高価な棍棒だな。しかしそんな事をしたら元の持ち主のリカにぶっ殺されちまうぞ?

オイラが銃をバットみたいに振る孝に深い溜め息を吐いていると、孝の足元にいたあの仔犬がワン!と吠えた。

 

 

「お!相変わらず元気だなぁ」

 

「けど、あんまり吠えるなよ《ジーク》」

 

「「ジーク?」」

 

 

孝が抱き上げる仔犬にそう言ったコータにオイラ達は聞き返した。コータは仔犬を指差しながら説明した。

 

 

「そいつの名前さ。ジークってのは大平洋戦争でアメリカが零戦に付けた渾名さ。小さくてすばしっこいから、そう呼ぶ事にしたんだ」

 

「成る程な。そんじゃジーク、これからよろしくな…うん」

 

「ワン!」

 

 

仔犬改めジークは元気良く1回吠えた。本人…いや、この場合は本犬か?とにかくジーク自身はこの名前を気に入っている様子だ。そんな会話をしていると、やっと着替え終えた女性陣が2階に上がって来た。オイラ達がそっちの方を見てみると、リカの服を着た静香達がいた。麗や沙耶は若干ドヤ顔しているがまぁいいか。

 

 

「やっとか…おぉ?結構似合ってるじゃねーか…うん」

 

「………ホゥ」

 

「フッ…フッ…フッ…フッ…」

 

「ワン!」

 

 

孝は頬を赤らめて呆けており、コータに至ってはなんか不気味な笑い方をしながら顎に手を当てながらじっくり女性陣を眺めている。オイラがちょっとコータから距離を取ると、眼鏡をクイッ上げながら沙耶が話し掛けてきた。

 

 

「それで?準備は終わったけど、なんで2階に来る必要があったのよ?」

 

「確かにそうね。駐車場にあった車も巻物の中にしまっちゃったし」

 

 

駐車場にあった車とはリカの軍用モデルのハンヴィーの事だ。まぁそれで行くのもいいんだが、今は起爆粘土に余裕があるから安全な方法で沙耶の家に向かおうと思ったので、ハンヴィーは巻物に封入してみんなには2階に集まってもらった。

 

 

「ハンヴィーで行くのもいいんだが、橋は塞がってるから無駄に時間が掛かっちまう。川を直接行くのもいいがそれでも日が暮れちまうからな…うん。別の方法で高城の家に向かおうと思ってな」

 

「ならばどうするのだ?」

 

「まぁ、見てろって…うん」

 

 

オイラは両手の『口』に起爆粘土を食わせながらベランダに向かった。麗はオイラの行動を見て何をしようとしているのか察したらしいが、他のみんなはただジッとオイラの行動を見ていた。オイラはベランダから向かいの家の屋根にジャンプして飛び移った。

 

 

「うわ!!凄いジャンプ力!!」

 

「流石は忍だな」

 

 

みんながオイラのジャンプ力を見て驚いている中、オイラは両手の『口』が吐き出した起爆粘土を握って1つの大きめの作品を作り出し、片手で印を結んだ。するとオイラごと包み込む様にボフン!!と煙が立ち上がり、煙が晴れるとオイラは起爆粘土で作った巨大な竜…【C2・ドラゴン】の頭の上に乗っていた。

 

 

「うっわスッゲェ!!ドラゴンじゃんか!!」

 

「凄〜い!ありすドラゴンなんて始めて見た♪」

 

「これは……凄いな」

 

 

ベランダから見ていた孝達は【C2・ドラゴン】を見て驚愕していた。今回はあの沙耶や冴子もかなり驚いた様子だ。

 

 

「この作品で空から行くぞ…うん」

 

 

オイラは【C2・ドラゴン】を操って尻尾をリカの家のベランダにつけた。孝達はそれぞれ荷物を持って恐る恐るといった様子で尻尾を渡って胴体の部分に乗った。全員乗ったのを確認し、落ちない様念の為に胴体の起爆粘土を一部紐状に変えて腰に巻きつけて固定した。

 

 

「じゃ、飛ぶぜ?落っこちるんじゃねーぞ…うん!」

 

 

オイラが印を結ぶと【C2・ドラゴン】は翼を羽ばたかせ、ゆっくりと空へ舞い上がった。段々高くなって行く度に孝達は興奮した様子ではしゃぎ出した。

 

 

「うわぁ!たっか〜〜〜い♪」

 

「なかなか良い景色だな。暁月さんの忍術はこんな事も出来るのか」

 

「やっぱりいい景色ねぇ♪風が気持ちいい♪」

 

「宮本、あんた前に経験した事あったの?」

 

「流石デイちゃんね♡」

 

「デイちゃんは止めろって言ってんだろーが!…うん!」

 

 

静香の奴は相変わらずオイラをデイちゃんと呼びやがるな。いや、注意するだけ無駄だと分かってはいるんだが、言わないと気が済まないからな。

オイラは【C2・ドラゴン】を高城の家に向けて飛ばしながら小さく溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

宮本 麗side…

 

 

「川で阻止出来た……訳じゃないみたいね」

 

「世界中で〈奴ら〉が大量発生したんだ。川1つで防げたら苦労しねーよ…うん」

 

 

私達はデイダラの粘土で出来たドラゴンのお陰で無事に川を渡り、上空から町の様子を観察していた。町は全く人気が無く、〈奴ら〉の姿すら見当たらなかった。みんな生きた人達を追いかけて行ったのかしら?

 

 

「それで高城、お前の家は東坂の2丁目でいいのか?…うん?」

 

「えぇ、そうよ。そこの大きな屋敷が私の家」

 

「もしかしてあの馬鹿デカイ家か?お前あそこの家の奴だったのかよ…うん?」

 

 

高城さんの家かぁ…確かにアレは凄い家だったものね。デイダラの気持ちがなんとなく分かる気がするわ。

 

 

「しかし、妙だな。なんでさっきから〈奴ら〉の姿が見当たらないんだ?」

 

「あ、孝も気付いた?そうなのよね」

 

「…………いや、そうでもねーみてーだ…うん」

 

 

デイダラが下を覗きながらそう言った。私達も落ちない様に下を覗くと、ポツリポツリと〈奴ら〉の姿が見え始めた。やっぱりまだこの辺りにいたんだ。

……あれ?

 

 

「ねぇ、なんだか高城さんの家の方に近づく度に〈奴ら〉の数が増えてない?」

 

「確かに…我々が高城君の家へ近づく度に数が増えていっているな」

 

 

毒島先輩も双眼鏡で下を確認しながら同意した。しばらく飛んでいると、デイダラが何かを見つけた様にある方向をジッと見始めた。私も同じ方向を見てみると、妙な光景が目に入った。

〈奴ら〉が沢山道路を歩き回っているのだが、ある場所を境に〈奴ら〉が前に進んでないのだ。

 

 

「ありゃ……ワイヤーか?」

 

「ワイヤー?」

 

 

私もデイダラから借りたスコープで拡大してよく見てみると、道路を分断する様に、細い線の様なものが太陽の光を反射して見えた。あれで〈奴ら〉が通れない様にしているのね。

 

 

「ワイヤーが張ってあるって事は……この先に生存者がいるんじゃないですか?デイダラさん!」

 

「確かにな。じゃ、このまま高城の家に《パァーン!!》うお!!?」

 

 

デイダラさんが話している途中、突然銃声が鳴り響き、ドラゴンの翼を貫通した。

 

 

 

 

 

 

デイダラside…

 

 

「あっぶねーな!!どこのどいつだ!?撃ってきやがったのは!?アァ!?」

 

「……ッ!暁月さん!一時の方向!!」

 

 

突然撃たれたことに驚いていると、コータが【AR-10】のスコープを覗きながら叫んだ。すぐに左目のスコープで確認すると、ほぼ真下辺りに黒い制服の様なものを着た男性4人組が見えた。1人がアサルトライフルをこちらに向けているところを見ると、撃ってきたのは奴等で間違いないだろうな。

オイラが4人組を観察していると、またさっきの奴が発砲した。オイラは【C2・ドラゴン】を操作して回避行動を取った。放たれた弾丸は先程まで起爆粘土の頭があった場所を通過して行った。

 

 

「きゃあ!!ちょ、ちょっと暁月!気を付けなさいよ!!」

 

「弾が当たるよりかはマシだろうが!…うん!」

 

 

4人組は続けて発砲してきた為オイラは右へ左へと【C2・ドラゴン】を動かして弾を避ける。だが巨体な為1、2発は命中し、翼を貫通、または胴体に減り込むなどしている。

 

 

「野郎!オイラと殺り合おうってか!?上等だぜ…うん!」

 

 

オイラは両手を合わせて印を結んだ。すると【C2・ドラゴン】の球体が連なった様な尻尾が少し短くなり、オイラが乗っている頭部の口がパカッと開いた。口の中には【C2・ドラゴン】が小型化した竜型起爆粘土がいつでも発射出来るようになっている。

オイラが竜型起爆粘土を発射させようとすると、さっきから下の連中を覗いていた沙耶が慌てた様子で止めてきた。

 

 

「あ!ちょ、ちょっと待ちなさい!あの人達は爆破しないで!!」

 

「ハァ!?何言ってんだ高城!こっちはさっきから撃たれてんだぞ…うん!」

 

「あの人達、パパの部下達なのよ!!」

 

「「「「「はぁ!!?」」」」」

 

 

高城の親父さんの部下だと!?そんな奴等がなんでアサルトライフルなんか持ってやがんだ!?お前の親父さん何者!?

 

 

「じゃあ、なんでその人達は私達を撃ってるの?」

 

「普通こんな状況で突然白いドラゴンが飛んで来たら敵だと思うわよ。それにあの人達がいるのはほぼ真下。多分太陽の逆光で私達の姿が見えないから敵と判断して撃ち墜とそうとしてるんだと思うわ」

 

「マジかよ。仕方ねーな、だったら近くを爆撃して怯ませてから逃げるぞ…うん!」

 

 

オイラは4人組の近くにあるバリケードに群がる〈奴ら〉に向けて竜型起爆粘土を発射させた。風邪を切るような音で竜型起爆粘土は飛んで行き、最後尾あたりにいる〈奴ら〉にぶつかりそうな所で声高々に唱えた。

 

 

「喝ッ!!」

ドゴォォォンッ!!!!!

 

 

竜型起爆粘土は〈奴ら〉を巻き込んで盛大に爆発し、4人組は爆発に驚いてそっちの方を向いた。オイラはそのまま4人組の頭上を通り過ぎ、高城の家である屋敷の敷地内にある庭に高城の許可を得て着陸した。

んだがなぁ……。

 

 

「動くな!!銃を捨てて手を上げろ!!」

 

「やっぱ、こうなると思ったぜ…うん」

 

 

着陸した瞬間屋敷の中からさっきの4人組と同じ制服を着た奴等が沢山出て来て、オイラ達に銃を向けて包囲した。



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第17話だ…うん!

デイダラside…

 

 

「………腹が立つ程いい天気だなぁ…うん」

 

 

オイラは今、沙耶の屋敷の屋根の上で寝そべって空を眺めていた。結果的に言うと、この屋敷の主人である沙耶の父親…《高城 壮一郎(そういちろう)》の部下達に完全包囲されていたオイラ達は、現れた沙耶の母親である紫色の髪をした美女…《高城 百合子(ゆりこ)》さんの一声で高城家に迎え入れられた。

それから1日経ち、今では久々に穏やかな時間を過ごしていると感じている。この屋敷は高く分厚いレンガの塀に囲まれており、この屋敷に繋がる全ての道はワイヤーやコンクリートバリケードで完全封鎖されており、〈奴ら〉は侵入出来ない。更に銃や刀で武装した高城家の部下達によって守られている。食料だってありすちゃんがケーキを食べれるくらいには余裕があるし、足りなくなったら高城家の部下達がトラックなどで街へ向かって回収してくる。しかもそこで生存者がいたら救助して連れ帰る。敷地内には難民キャンプまで出来ている。

まだこんな事態になってから3日程度しか経っていないんだが、よくこんな短期間でこれだけの対策を考えて実行出来たものだな。

 

 

「だが、オイラの芸術を探求出来ねぇのは問題だな…うん」

 

 

この屋敷についてからすぐ、沙耶にここにいる間は芸術を探求する事を禁止すると言われてしまったのだ。まぁ自分の家の敷地内で爆発を起こされるのは嫌だと思う気持ちは少しだけ分かるが、芸術家ってのはより強い刺激を求めていねーと感情がにぶっちまうもんなんだがなぁ。

 

 

「はぁ…今日明日にでも高城に街へ行って芸術を探求して来ていいか聞いてみるか。屋敷の外なら多分問題ねーだろ…うん」

 

 

オイラは体を起こして屋敷の屋根の上から玄関に飛び降りた。普通なら足挫くどころか天に召される程の高さでも、オイラには殆ど関係ない。玄関から出てきた段ボールを持った2人組と入れ替わる様に屋敷の中に入ると、そこにはどことなく不満そうにしている孝がいた。

 

 

「あん?小室、どうかしたのか?」

 

「あ、デイダラさん。いや、なんて言うか……」

 

「子供扱いされて不満になってるだけだよ。暁月さん」

 

 

孝の代わりに答えが返ってきた方を見ると、青い着物を着た冴子が歩いて来た。〈奴ら〉との戦闘でずっと木刀を使っていた事もあり、着物を着た彼女はとても良く似合っていた。

 

 

「へぇ?似合ってるじゃねーか…うん。その姿で難民キャンプに行ってみろ。男共の視線はみんなお前に行くだろうよ」

 

「な!!?か、揶揄わないで欲しい。流石にお世辞でも言い過ぎだ」///

 

「お世辞じゃねーよ。これはオイラの本心だ…うん」

 

 

オイラの言葉に隣で孝がコクコクと頷いた。冴子は顔を真っ赤にしてオイラから視線を逸らした。

 

 

「そういや、さっきのはどういう意味だ?子供扱いされて不満ってのは?」

 

「え?…あ、あぁ。小室君が先程、荷物を運んでいた大人達を手伝おうとしたのだが、その人達に『これは大人の仕事だ』と断られてね」

 

「ほぉ〜?だから〈奴ら〉を倒しまくっている大人な小室君は、年齢で子供扱いされて不満そうにしてたって訳だ?」

 

「う〝!?えっと…あははは」

 

 

孝はそう言って笑って誤魔化した。どうやらオイラの言ったことは図星だったらしい。オイラと冴子もそれに釣られて苦笑していると、玄関のドアを開けてありすちゃんとジークが入って来た。

 

 

「え?何々?何かいい事でもあったの?」

 

「ん?別にそんなんじゃねーよ。ただ1人の男の子が子供扱いされて不満そうにしてたのが可笑しかっただけだ。なぁ?小室()?」

 

「あははははは……そうっスね」

 

フッ……(笑)

 

 

ニヤリと笑いながらありすちゃんの頭を撫でて孝に視線を送ると、孝は笑いながらスッと顔を逸らした。ありすちゃんはそんな孝を不思議そうに見つめていた。なんか今ジークが孝を鼻で笑った様な感じがしたが気の所為だよな?

 

 

『分かったわよ!!ママはいつだって、正しいわよ!!』

 

「む?今の声は……」

 

「高城のお嬢様だな…うん。随分と御乱心みたいだが」

 

 

突然上の階から沙耶の怒鳴り声が聞こえて来た。どうやら百合子さんと話をしていたみたいだな。

 

 

「僕、ちょっと様子を見てきます」

 

「あ、ならオイラはコータの所に行ってくる。ガレージで銃の手入れを任せてるからな…うん」

 

 

オイラは沙耶の事を孝に任せてコータが銃の手入れをしているガレージに向かった。この時頭の隅で「これなら最初からガレージに向かえば良かったんじゃね?」とか思ったりしたが気の所為という事にする。

 

 

 

 

 

 

「よぉ!コータ、調子はどうだ?」

 

「あ、暁月さん」

 

 

ガレージの中に入ると、作業台でどっかの悪の科学者みたいに不気味な笑みを浮かべて【イサカ M37】を整備しているコータがいた。ホントこいつって銃の事になったら人が変わるよな。

オイラはコータの隣に立って作業台に置かれた整備済みの【AR-10】を手に取って構える。スコープを覗いて空のまま引き金を引く。

 

 

「動作は良好だな…うん。いい腕してるな」

 

「ハハハ…暁月さんにそう言ってもらえて嬉しいです。………良し、コレも終わりました」

 

「どれ、貸してみろ。………コレも問題なさそうだな…うん」

 

 

コータが整備を終えた【イサカ M37】を構えて空撃ちしていると、背後から人の気配がした。誰か来たのかと振り返ってみると、首に赤いスカーフを巻いた中年のおっさんがガレージに入って来た。おっさんは銃を構えているコータを見つけると、オイラ達に近付いて来た。

 

 

「オイオイ、兄ちゃんそれ本物だろう?子供がいじっていいものじゃないぞ」

 

「あぁ、問題ねーよ…うん。ここに置いてある銃は全部オイラの私物だからな。ただ整備を手伝ってもらってただけだ。それに、こいつは銃の扱いに関しては一級品だ。こいつがいなかったら、ここのお嬢様は今頃〈奴ら〉の仲間入りしてたかも知れない程にな…うん」

 

「ほぉ〜〜?そうは見えんがなぁ?」

 

「人は見かけによらねーって言うだろ?…うん」

 

 

中年のおっさんはジーッと銃を抱えるコータを観察する。コータはこういった事に慣れていないのか、少し緊張した面持ちで観察されていた。するとまた新しく人の気配がした。そちらに目を向けると、赤いドレスに白いストールを纏った百合子さんが笑顔を浮かべて歩み寄って来た。

初めて会った時から思っていたが、この人動きに無駄が無いんだよな。何か武道でもやっていたのか?

 

 

「《マッド》さん。どうかしましたか?」

 

「お、奥様!?いえ…その、車両の整備に必要な工具を取りに来たらその子供が本物の銃を持っていたので…」

 

「そう……確か平野君と暁月さんだったわね?沙耶から話は聞いてますよ。マッドさん、ここは大丈夫なので、早く仕事に向かってあげて下さい」

 

 

中年のおっさん…マッドさんは少し歯切れの悪そうに報告した後、百合子さんに頭を下げると棚に置いてあった工具箱を取るとガレージから去って行った。百合子さんはマッドさんを見送ると、こちらに向き直った。

 

 

「ごめんなさいね?こんな怖い所で。一度お礼を言いたいと思っていたの。娘がお世話になったようね」

 

「い!?いえいえそんな!!気にしないで下さい!」

 

「まぁ、オイラも静香を迎えに行く次いでだったからな。礼を言われても少し困るんだが…」

 

「ふふふ♪でも助けて頂いた事には変わりありませんから」

 

 

百合子さんはクスリと笑いながら笑顔でそう言った。コータはその笑顔を見て顔を真っ赤にしながらなんか幸せそうな顔をしていた。

 

 

「あ、そうだコータ。ここにある銃は布とかに巻いて隠して持ち歩け」

 

「え?なんでですか?」

 

「さっきのマッドさんの反応見たろ?この屋敷ではお前や小室達はただの子供として扱われてんだ…うん。だからそんな子供が実銃を持っていると知られたら、必ず面倒事になるだろうが…うん」

 

 

オイラがそう説明するとコータは滅茶苦茶不満そうな顔になった。さっきの孝と一緒で子供扱いされていると知って不満なんだろう。だが実際こいつ等は日本の学生だ。そんな連中がリカの物とは言え、実銃を持っているとここの連中にバレたらすぐにそれを取り上げようとするだろう。

その事も追加で説明しようとすると、今度は孝がガレージにやって来た。

 

 

「あ!よかった、まだ居た。悪いけど、高城がみんなを集めてくれって言ってるんだ。来てくれ」

 

「高城さんが?なんだろ?」

 

「オイラに聞くなよ。んじゃ、百合子さん。オイラ達はこの辺で失礼するぜ…うん」

 

 

オイラ達は百合子さんに礼をしてからガレージを出て、沙耶が待っている部屋があるという屋敷の中へ向かった。

 

 

 

 

 

 

鞠川 静香side…

 

 

私は今、高城さんに話があるって言われたから、高城さんのお家の部屋の一室に来ているわ。今集まっているのは私と宮本さん、毒島さん、ありすちゃん、高城さんの5人と、ありすちゃんの足元でお座りしているジークちゃん。小室君もさっきまでいたんだけど、デイちゃんと平野君を呼びに行ったわ。

しばらくデイちゃん達が来るのを待っていると、部屋のドアが開いてデイちゃん達が入って来た。

 

 

「高城、暁月さん達呼んで来たぞ」

 

「おう、来たぞ。それで?話ってのはなんだ?…うん?」

 

 

デイちゃんは高城さんにそう言った。これからとても大事な話がある事はなんとなく分かるけど、私が聞いても分からないかもだし、後でデイちゃんに教えてもらいましょう。あ!このバナナ美味しいわね♪

 

 

「えぇ、私達がこれから先も…仲間でいるかどうかよ」

 

「ッ!!?ケホッ!!コホッ!!」

 

「し、静香先生…大丈夫ですか?はい水」

 

 

いきなり私にも分かりやすくてかなり大事なお話だったからむせちゃったわ。私は宮本さんから水を貰ってなんとか落ち着くと、話は続いた。

 

 

「いきなりだな…うん。確かに今オイラ達はよりでかい集団に合流した形になっているからな。となるとチームとしての選択肢は、呑み込まれて集団の一部になるか、別れるかだな…うん」

 

「えぇ…暁月の言う通りよ」

 

「で、でもよ…別れる必要あるのか?町は酷くなる一方だけど、お前の親父さんは手際がいい。お袋さんも凄いし…」

 

 

確かに、まだパンデミックが始まって3日ぐらいしか経っていないのに高城さんのお家はもう対策を打っているものね。

私がそう思っていると、高城さんの肩が少し震えているのに気付いた。

 

 

「えぇ、それが自慢だった。でも、それが出来るなら…」

 

「高城…ご両親を悪く言っちゃいけない。こんな状況だし…」

 

「名前で呼びなさいよ!分かってるわよ!パパとママは凄いわ!町が変なのを逸早く察知して行動して、屋敷と部下とその家族を守った!凄いわ!勿論娘の事は1番に考えてた!流石は私のパパとママ!生き残ってる筈ないから!即座に諦めたなん「止めろ沙耶!!!」ッ!!?」

 

 

高城さんが興奮して怒鳴り続けていたら、小室君が高城さんの胸倉を掴んで持ち上げた。先生として止めた方がいいんだろうけど、デイちゃんが私を見ながら首を横に振ったので、黙って小室君に任せることにした。

 

 

「お前だけじゃない!みんな同じなんだよ!!両親が無事だと分かってるだけお前はマシだ!マシなんだよ!!」

 

 

そうなのよね。私やデイちゃんは兎も角、平野君や小室君、宮本さんや毒島さんはまだ両親が無事か分かってない。無事だと分かっているだけ高城さんはまだいい方なのよね。

 

 

「ッ!!………分かったわ。分かったから離して」

 

「ッ!あぁ………悪かった」

 

「ホントよ…でもいいわ」

 

 

小室君はゆっくりと高城さんを下ろして一言謝った。高城さんは床に落ちた眼鏡をかけ直した。何もしなかった私が言うのもおかしいけど、少しハラハラしちゃったわ。

 

 

「さて、本題に入るわ。私達は……?」

 

 

高城さんが話を再開しようとしたとき、外から複数の車の音が聞こえて来た。

何かあったのかしら?



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第18話だ…うん!

デイダラside…

 

 

話の途中に聞こえて来たエンジン音が気になってベランダに出て下を見ると、1台の黒いSUVを先頭に、小型トラックと給水車が1台ずつ屋敷の門を通って来た。下の噴水の周りには難民キャンプの人々が集まっており、高城家の部下達と百合子さんも外で走って来る車を待っている。しかも部下達は皆頭を下げて待機しているな。

 

 

「どうやら、この百合子さんの旦那様がお帰りの様だぜ?…うん」

 

「高城さんのお母さんの?て事は……高城さんのお父さん?」

 

「そう。旧床主藩高城家、現当主。全てを自分の掟で判断する男……私のパパ。高城 壮一郎よ」

 

 

沙耶の紹介が終わった直後、車は百合子さん達の前で停車し、SUVの後部座席から1本の日本刀を持った厳つい顔の男性が降りて来た。軍服の様な服を着ている事もあり、その姿はまるで軍人の様だった。

 

 

「(ほぉ?あれが高城の親父さんか。百合子さんと同様に動きに全く無駄が無く、更に隙が全くねぇ。もしかしたらチャクラの練り方教えたら1発で高度な術使えるかもな…うん)……?ゲッ!?」

 

「?どうかしたのか?暁月さん」

 

「あ?あぁ…なんでもねーよ…うん」

 

 

冴子が不思議そうな顔で聞いて来たがオイラは誤魔化した。というかあの人怖ッ!なんでこんだけ離れてんのにオイラの視線に気付くんだよ?しかも鋭い睨みに若干の殺気までピンポイントにオイラに当てて来やがったし。

オイラが少し苦笑い気味になっている間に、壮一郎は噴水の前に置かれた台に登った。すると小型トラックから檻に入った高城家の部下と同じ制服を着た〈奴ら〉になった男性がフォークリフトで降ろされ、壮一郎の前に運ばれて来た。

 

 

「この男の名は…《土井 哲太郎》。高城家に仕えてくれた旧家臣であり、私の親友でもある。そして今日…救出活動の最中、仲間を救おうとし、噛まれた!まさに自己犠牲の極。人として、最も高貴な行為である」

 

 

壮一郎は声高々に〈奴ら〉と成り果てた親友を紹介し、〈奴ら〉になった経緯を説明し始めた。周りで見ている避難民達は恐ろしい物を見る様な目で檻の中の元人間を見つめている。

 

 

「しかし、今の彼は人ではない。ただひたすらに危険なものへと成り果てた。だからこそ、私はここで…真なるものへ、高城の男としての義務を果たす!」

 

 

壮一郎は刀を鞘から抜き出して構えた。部下の1人がそれを見てコクリと頷き、檻の鍵を開けた。扉が開いた瞬間、中にいた〈奴ら〉は檻の前に立って刀を構えている壮一郎に襲い掛かった。壮一郎はそれに臆する事なく、振り上げた日の光を反射してギラリと輝く刀をぶれる事なく〈奴ら〉の首に振り下ろした。刀は〈奴ら〉の首を見事に切断し、胴体から切り離された首は宙を待って噴水の中に着水した。壮一郎は刀に付いた血を刀を振って取り除き、ゆっくりと鞘の中に収めた。

 

 

「これこそが、我々の()なのだ!素晴らしい友、愛する家族、恋人だった者でも躊躇わず倒さねばならない。生き残りたくば、戦え!!

 

 

壮一郎の言葉を彼の部下達、難民キャンプの難民達は皆黙って聞いていた。難民達は半分程が目を逸らしたり閉じたりしていたが、彼の部下達と1部の人々は彼から目を離さずにいた。話を終えた壮一郎は、台から降りて百合子さんと屋敷の中に入る途中、チラリとオイラを見てから中に入って行った。

あちゃ〜……ありゃ、目を付けられたな。

 

 

「刀じゃ……効率が悪過ぎる……」

 

「あん?刀がなんだって?」

 

「効率が悪いんだよ!日本刀の刃は骨に当たれば欠けるし!3〜4人も斬ったら役立たずになる!」

 

「それは違うな…うん。確かに刀は鉄や骨なんかに当たれば欠ける。だが、刀の出来と使う者の技術によっては木の丸太や岩だって斬れるんだぜ?なぁ?」

 

「いや…そんな当然だろう?とばかりに私を見ないでくれ。だが確かに決め付けが過ぎるよ、平野君。剣の道において、強さは乗数で表わされるのだ。剣士の技量、刀の出来、そして精神の強固さ…この3つが高いレベルで掛け合わされたなら、何人斬ろうが戦闘力を失わない」

 

 

冴子はいきなり話を振られて少し困惑した様子だったが、コータに優しく説明した。孝達は成る程と言わんばかりにフムフムと頷いていたが、コータはまだ納得いかないようだった。

 

 

「でも!血脂が付いたら…」

 

「そんな物は拭き取ればいいだろうが…うん。いいか?確かに銃は刀より安全に離れた場所から戦えるが、弾が無限にある訳じゃねぇ。銃だって弾が切れたらただのお荷物か、鈍器になるだけだしな…うん」

 

「でも…ッ!!」

 

 

まだ言い返そうとするコータにオイラは少しイラッとしてポーチから取り出した苦無を突き付けた。オイラの行動を見て冴子や孝達は目を見開いて驚いた。

 

 

「ッ!?デイダラさん!何を…!?」

 

「お前等は黙ってろ。おい平野(・・)。いい加減にしろよ。戦いってのは何も銃を撃って終わりって訳じゃねーんだよ…うん。自衛隊や軍隊でも銃以外にナイフやシャベル、果てにはそこらの棒を使って戦闘を行う。それに、銃は構えて狙い、引き金を引く必要があるから近接戦では寧ろ刀やナイフの方が弾切れもジャミングも無いから戦い易い。それにさっきのはインパクトの為に刀を使ったんだよ…うん」

 

 

ここまで言うと平野はハッとした顔をした。どうやらやっとオイラが言った事を理解出来たようだ。オイラが苦無を下ろしてポーチに仕舞うと、平野は申し訳なさそうに顔を俯かせた。

 

 

「暁月さん……すみませんでした」

 

「分かりゃいいんだよ。分かりゃ。こっちもいきなり苦無突き付けて悪かったな…うん」

 

 

コータはどことなくションボリした様子で部屋を出て行った。まぁ、あいつだったらすぐにいつもの調子に戻るだろ。

 

 

「はぁ…平野の調子が戻るまで話は後にしましょう」

 

「そうだな。平野君も私達のチームのメンバーだ。後でまたこの部屋で話し合おう」

 

 

沙耶達の案にオイラ達は賛成し、また呼び出しが掛かるまでオイラは再び屋敷の屋根の上に飛び乗り、寝転んだ。日が傾き始めた空は段々オレンジっぽい色に染まり始めており、雲が風に流されていた。

しばらく新しいアートのアイデアを考えていると、庭の方から何人かの怒鳴り声が聞こえて来た。

 

 

「い、嫌だ!」

 

「ふざけんじゃねぇ!!」

 

「さっさと渡せ!!」

 

(あん?今の声……コータか?)

 

 

聞こえて来た声の中にコータの声が混ざっていた為、オイラは体を起こした声のする庭の方を見下ろした。そこにはリカの銃を守るように抱えたコータと、それを囲むように立っている壮一郎の部下達がいた。

 

 

「なぁ君、こういうご時世だ。それだけの武器を独り占めしてはいけない。渡したまえ」

 

「ダメです!コレは借り物なんだから…それに!ここで俺以上に上手く扱えるのは、暁月さんしかいません!」

 

「チッ……おい、取り上げろ。こうなったら、子供の我が儘なんかに構っていられるか」

 

 

コータの奴…銃を出しっ放しで持ち歩きやがったな?話の内容からしてリカの銃を壮一郎の部下達が渡せとコータに要求してるが、コータがそれを拒否してるって所か。流石にリカの銃を奪われるのは黙ってられねぇな。

オイラは起爆粘土を用意し、それを7匹のムカデ型にして投擲し、印を結んだ。ムカデ型起爆粘土はボン!と煙に包まれて巨大化し、コータから銃を取り上げようとしている壮一郎の部下達を拘束した。

 

 

「グァ!な、なんだ!?」

 

「なんだこの変なのは!?離せ!この…!」

 

「これは…暁月さんの」

 

 

壮一郎の部下達はなんとか拘束を逃れようと腕に力を込めるが、そんなんじゃオイラの芸術は外せない。オイラは屋根の上から直接コータの前に飛び降り、いつでも爆破出来るように印を結んだ。

 

 

「変なのはねーだろ。そいつはオイラのアートだぜ?…うん。おうコータ、だから銃は布とかに包んで隠して持ち歩けって言ったろうが…うん」

 

「あ、あああ暁月さん!?す、すみませんでした!」

 

「次同じ様な事したらその銃返してもらうからな?さてと、こいつの持ってる銃はオイラの私物だ。勝手に取り上げられると困るんだが?…うん?」

 

「な、なんだテメェ!この変なのはテメェの仕業か!今すぐ離せ!」

 

「コータちゃん!」

 

「平野!」

 

拘束されている連中がオイラを睨みながら怒鳴っていると、ありすちゃんとジークが駆け寄って来てコータの下へ行き、少し離れた所に立っていた孝がコータの名を叫んだ。どうやら騒ぎを聞きつけたらしい。すると新しい気配を感じ、そちらの方を見ると、壮一郎と百合子さんが歩いて来た。

 

 

「何を騒いでいる?」

 

「そ、総帥!奥様!こ、この子供が、銃をオモチャと勘違いしている様で…」

 

「おい!さっき言ったろうが!この銃はオイラの私物で、こいつに貸してんだよ!…うん!」

 

「ふむ…私は高城 壮一郎!旧床主藩藩主、右翼団体憂国一心会会長である。2人共、名を聞こう!」

 

「ひ、ひひ平野コータ。藤見学園、2年B組!主席番号32番ですぅ!」

 

「…暁月 デイダラ。こいつが抱えている銃の持ち主だ」

 

 

壮一郎…いや、高城総帥の方がいいか。高城総帥にオイラ達は名を聞かれ、コータは高城総帥の気迫にビビりながらも自己紹介をし、オイラも面倒だったが名乗った。

 

 

「2人共、どうあっても銃を渡さぬつもりか?」

 

「あぁ、渡す気はねーよ…うん」

 

「だ、ダメです!嫌です……銃が無かったら俺はまた元通りになる…元通りにされてしまう!自分に出来る事が…ようやく見つかったと思ったのにぃ!!」

 

 

コータは泣きながらも首を横に振った。勿論オイラもリカの銃を渡すつもりは無い。もし高城総帥がオイラの話も無視して奪おうとすればこの屋敷を“C3”で木っ端微塵にしようとも考えている。

 

 

「出来る事とはなんだ?言ってみろ」

 

「そ、それは…それは……」

 

「貴方のお嬢さんを守る事です!」

 

 

孝がコータを庇う様にオイラの隣に立ち、高城総帥にコータの代わりに答えた。

 

 

「小室…!!」

 

「小室?成る程。君の名前には覚えがある。幼い頃より娘と親しくしてくれているな」

 

「はい。ですが、この地獄が始まって以来、沙y…お嬢さんを守り続けていたのは、平野です!」

 

 

高城総帥は孝を鋭い目付きで観察し、コータは自分の前に立つ孝を涙目で見上げる。

 

 

「彼の勇気は、私も目にしています。高城総帥」

 

「私もよ!パパ!」

 

 

すると着物を着た冴子と沙耶、更には静香と麗までやって来た。というかこれでオイラ達のチーム全員集合しちまったぞ。

 

 

「チンチクリンのどうしようもない軍オタだけど、こいつが居なかったら…私は今頃、動く死体の仲間よ。そうよ、こいつが私を守ってくれたのよ!パパじゃなくてね!」

 

「た、高城さん……」

 

 

コータは沙耶を涙を流しながら見上げていた。高城総帥と百合子さんはしばらく沙耶を黙って見ていると、フッと小さく笑った。

 

 

「いいだろう。その銃は君達が使うがいい。部下達にもそう伝える。だから彼等の拘束を解いてはくれぬか?」

 

「了解だ…うん」

 

 

オイラが印を結ぶとムカデ型起爆粘土はボン!と煙を上げて消えた。高城総帥と百合子さんは面白いものを見たとばかりに顔に小さな笑みを浮かべた。

 

 

「ほう?消えたか。暁月君だったな?君はいったい、何者だ?」

 

「あん?オイラか?オイラはただの爆発に芸術を感じるアーティストだ…うん」

 

「ふむ、芸術家の割には随分と鍛えられている。興味深いな。…ふむ、暁月君。私と1つ…手合わせをしてもらいたい」

 

「「「「「………は?」」」」」



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第19話だ…うん!

デイダラside…

 

 

「いやいや、いきなり何言ってんだよ…うん。なんでいきなり手合わせしなきゃならねぇんだ?悪いが手合わせはしないからな…うん」

 

 

オイラはいきなり手合わせをしろと言う高城総帥に呆れ顔で聞き返した。というか絶対この人と手合わせしたくない。刀持たせたら多分オイラより強いだろうしな。術を使えばすぐに勝てるだろうが、オイラの起爆粘土は手合わせには向かねーし。

 

 

「そうか、それは残念だな。剣道や柔道などの武道の試合で無敗記録を残した元県警特殊急襲部隊隊員の暁月 デイダラとは以前から一度手合わせしてみたく思っていたのだがな」

 

「知ってて言ってたのかよ……」

 

「知り合いに警察関係者がいてな。君が警察を辞めたのをとても残念そうにしていたぞ?」

 

 

あぁ、なんか納得した。この人なら警察や自衛隊のお偉いさんが知り合いにいてもおかしくねーな。

 

 

「では私はこれで失礼しよう。お前達も各自自分の作業に戻れ」

 

 

高城総帥は部下達にそう指示を出すと、部下達は一礼して何処かへ走り去って行った。高城総帥と百合子さんも屋敷の中へ歩いて行った。

 

 

「はぁ…あんなパパは初めて見たわ」

 

「沙耶も親父さんの知らない一面があったんだな……って、毒島先輩?どうしたんですか?」

 

 

溜め息を吐く沙耶に孝は意外そうな表情をしていると、冴子が少し残念そうにしていた。オイラもなんで冴子がそんなに残念そうにしているのか理解出来ない。

 

 

「いや、実を言うと私も暁月さんとは一度手合わせ願いたいと思っていたのだ」

 

「お前もかよ……一応言っておくが、オイラは手合わせなんて面倒な事はしねーからな?オイラは武道家じゃなくて芸術家だ。手合わせするより究極の芸術を探求する方がいい…うん!」

 

「まぁ、デイダラならそう言うわよねぇ?」

 

 

麗はまるでオイラの考えが分かっていたみたいな表情で頷いた。オイラってそんなに分かりやすいのか?

オイラが首を傾げていると、辺りが薄暗くなり、空を見上げると灰色の雲が太陽を隠し始めていた。

 

 

「一雨来そうね。取り敢えずみんな中に入りましょう」

 

「そうだな………あん?」

 

 

沙耶達が屋敷の中に向かったのでオイラも付いて行こうとすると、1人の少年が妙に辺りをキョロキョロしながら建物の裏に歩いて行くのを見つけた。

あのガキ確か……バスで別れた紫藤の信者じゃねーか?何してんだあいつ?

 

 

「…?デイちゃん?どうかしたの?」

 

「デイちゃん言うな。ちょいと用事を思い出しただけだ…うん。先に行っといてくれ」

 

 

オイラは紫藤の信者が気になり、足音と気配を消してそいつを追いかけた。ポツリポツリと雨が降り始めるなか、そいつは建物の裏で携帯電話を取り出した。オイラは近くの木の陰に隠れて様子を伺った。

 

 

「えぇ…えぇ、そうです。……えぇ、逃げる準備を整えています。…えぇ、今助けを求めたら、中に入れてくれる筈です!紫藤先生(・・・・)!」

 

(紫藤……て事はあいつ、あの野郎にここに偵察するよう命じられたな?……ちょっとお話ししといてやるか)

 

 

オイラは木の陰から飛び出して一瞬で紫藤の信者の背後に立ち、苦無の切っ先を喉に突き付けた。先程まで気持ちの悪い表情をしていた紫藤の信者は目を見開き、動いた際に少し喉が切れた事で痛みを感じ、顔を蒼ざめた。

 

 

「よお?また会ったな…うん」

 

「ヒィッ!?お、お前は!!なんでここに!?」

 

「おっと、喋るんじゃねーよ。変な動きしたら殺すからな…うん」

 

 

少年はガタガタ震えだしたが、涙を流しながらも声を出すまいと固く口を閉じた。彼の手に握られている携帯からは先程から『どうしました?返事をして下さい』という紫藤の声が聞こえてくる。オイラは携帯を取り上げて、代わりに電話に出た。

 

 

「よお、誰かと思えば、偉大なる紫藤教の教祖様である紫藤センセーじゃねーか。まだ生きてたのか?…うん?」

 

『ッ!?だ、誰かと思えば…我々とバスを高城さん達と捨てた化け物ではありませんか。まだ生きていたのですね…』

 

 

紫藤は震える声で返事をして来た。にしても化け物か、オイラより〈奴ら〉の方が化け物だと思うがな。それよりさっきから電話の向こうから喘ぎ声が聞こえるな。

 

 

「そっちは随分楽しんでるみてーだな。ガキ共の喘ぎ声が聞こえてくるぞ?」

 

『あ、貴方にはもう関係のない事でしょう?』

 

「あぁ、関係ねーな。だが、警告しておく……お前等がこの屋敷に近寄る様なら、バスごとお前等を爆破する。もし生き残っていたとしても消し飛ばしてやるよ…うん。このガキは諦めな。オイラにお前と通話しているのを見つかった時点でアウトなんでな…うん」

 

『フッ、別に構いませんよ。我々は今貴方がいる場所が安全だと分かっただけで十分です。彼にはもう少し頑張って貰いたかったのですが、仕方ありませんねぇ。では…』

 

「……切りやがった。ほら、携帯は返すぞ。見逃してやるからこの屋敷から出てけ…うん」

 

 

紫藤はそのまま電話を切った。オイラは見捨てられて膝から崩れ落ちたガキに携帯を投げ返し、屋敷の中に入る事にした。正直ああは言ったが、ここでガキを殺すのは面倒だからな。それにこいつだってまだ生き残りたいだろうし。

 

 

「…………(の所為だ)

 

「あん?なんだって?」

 

「お前の所為で……僕は…僕は、紫藤先生に見捨てられたんだぁぁぁぁぁ!!!

 

 

ガキはいきなり叫び出したかと思うと、ポケットからカッターナイフを取り出してオイラに襲いかかって来た。嘘だろオイ、あの野郎に見捨てられたぐらいでオイラを本気で殺しにくるか?

オイラはブンブンとカッターナイフを振り回しながら突進してくるガキを躱し、ジャンプして近くの木の枝に飛び乗った。ガキは狂った様にドス黒い殺意のこもった目でオイラを睨み付ける。

 

 

「おいおい!オイラはお前を見逃してやろうとしたのに、いきなりカッターナイフで切り掛かるか普通?…うん」

 

「黙れ!紫藤先生は、この屋敷の偵察を僕に頼んで下さったんだ!もう少しで紫藤先生の頼みを完遂出来たのに…お前が…お前がぁ!!

 

 

ガキはカッターナイフの切っ先をオイラに向けて叫ぶ。オイラは仕方なくポーチに手を突っ込んで起爆粘土を用意する。そして『口』から吐き出された起爆粘土を握ってムカデ型を1つ作り、バレない様に地面に落とした。

 

 

「最終警告だ。今すぐカッターナイフ仕舞ってこの屋敷を去れ。死にたくなかったらな…うん」

 

「殺す!殺してやる!!お前を殺して、紫藤先生の下に戻る!そうすれば、紫藤先生はもっと僕を頼ってくれるんだ!」

 

「んじゃ、さよならだな…うん!」

 

 

オイラはムカデ型起爆粘土を操り、地中を移動させてガキの足元から飛び出させ、ガキを拘束した。ガキはなんとかオイラの起爆粘土の拘束から逃れようと力を込めるが、そんなのは無駄だ。

 

 

「バスでも見せたよな。オイラが作った粘土アートは爆発する。そして、今お前を拘束しているそのムカデもオイラが起爆粘土で作った粘土アートだ。この意味が分かるよな?…うん?」

 

 

オイラが印を結びながらガキにそう言うと、ガキは途端に顔を蒼ざめ、振り回していたカッターナイフを落とした。

 

 

「い、嫌だ!助けてくれ!さっきのはちょっとふざけただけなんだ!」

 

「ハンッ!お前はオイラの警告無視して殺す気でいただろうが。今更そんな事言っても意味なんざねーんだよ…うん」

 

 

オイラの返事を聞いてガキは今度は泣き始めた。……うん、ちょっと原作のデイダラのセリフ言って爆破してみるか。

オイラは印を結んだまま、前世でデイダラが“CO”を使うシーンのセリフを言った。

 

 

「さあ、怯えろ!!驚嘆しろ!絶望しろ!!泣きわめけ!!オイラの芸術はァ……喝ッ!!」

 

「や、止め…!!!」

ドゴォォォン!!!!

 

「爆発だァ!!!」

 

 

起爆粘土は盛大に爆発し、ガキは跡形も残さず消し飛んだ。オイラはその爆発に満足し、先程より強くなっている雨が更に強くなる前にその場から去った。

 

 

 

 

 

 

ガキをオイラの芸術で爆破し、屋敷に戻って飲み物を飲もうと思っていると、沙耶と孝とコータが階段を駆け下りて来たみんな何やら慌てた様子だが、何かあったのか?

 

 

「おいお前等!そんなに慌ててどうしたんだよ?…うん?」

 

「あ!デイダラさん!今裏の方から爆発音が聞こえて来たんですけど、何かあったんですか!?」

 

「あん?あぁ、ちょっと侵入者を排除しただけだ。オイラの芸術でな…うん」

 

「侵入者?まさか〈奴ら〉がいたの!?」

 

オイラの口にした侵入者という言葉に沙耶が反応した。まぁ確かに『侵入者』とだけ言っても今じゃ生きてる奴か死んでる奴かで別れるわな。

 

 

「いや、紫藤の奴が偵察目的で生徒を1人送り込んで来ていたんだよ…うん」

 

「なんですって!?という事は、さっきの爆発は…!!」

 

「おっと!オイラはちゃんと警告したし、最後のチャンスをやったぜ?だがあのガキはそれを自ら捨てて、オイラを殺しに掛かって来たんだぞ…うん」

 

 

オイラは先程の事を詳しく説明した。すると3人は納得してくれたが、沙耶はすぐに苦虫を噛み潰したような表情をした。

 

 

「でも参ったわね。ここが安全だと分かったなら、紫藤は多分高確率でここに来るでしょうね。しかも見捨てられてすぐに貴方を殺そうと考えるまで、みんなを洗脳してるとはね……」

 

「オイラもアレには驚いたぜ…うん。いきなり狂った様にカッターナイフを振り回して来たからな。それにあいつの目、あの野郎に見捨てられたぐらいであんなドス黒い殺意を籠らせるとは思ってなかった…うん」

 

「やっぱり、別れて正解でしたね」

 

 

コータの言葉にオイラ達は激しく同意した。もしあのバスに残ってたらヤバかったろうな。信者共が束になって襲って来そうだ。

 

 

「それより麗と毒島はどうした?あの2人なら真っ先に確認しに来そうなんだが?」

 

「毒島先輩なら、沙耶の親父さんに呼ばれて別室に。麗には念の為、静香先生とありすちゃんを見てもらってます」

 

「あ、そうだわ。暁月、貴方どうせ今暇でしょ?ちょっと付き合ってちょうだい」

 

「あん?デートの誘いか?…うん?」

 

 

オイラがちょっと揶揄うつもりでそう言うと、沙耶が顔を赤くして顔にパンチしてきた為、オイラはそれを躱して謝った。

 

 

「ハハッ♪悪い悪い。ちょっと揶揄っただけだ…うん」

 

「次は無いわよこの爆弾魔アーティスト!!」

 

「へいへい。で?何すりゃいいんだオイラは?」

 

 

オイラが沙耶に質問すると、沙耶はまだ拳を握り締めていたが、溜め息を1つ吐くと内容を説明した。

 

 

「これから苦情を垂れ流す難民達と話をしに行くから、貴方にはもしもの時のためについて来て欲しいのよ」

 

 

………なんか面倒な事になりそうだな。



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