なんにでも変身出来るヒーロー志望ですが何か 怪! (輝く羊モドキ)
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黎明
主人公の初期設定的な第一話


このお話は、稚作『なんにでも変身できるヒーロー志望ですが何か』の改稿版となります。ご了承ください。


 世界は光に満ちていた。

 未来は希望に満ちていた。

 自分は、なんにでもなれる可能性を秘めていた。

 

 

 あの時まで、そう思っていたんだ。

 

 

 

 

 昔話をしよう。『僕等』の昔話だ。

 『僕』はヒーローになりたかった。でも、なれなかった。そもそも、なれるような器じゃなかったんだ。だって、『僕』は友達を見捨てたんだから。そうだろう?

 ヒーローってのは弱きを助けて、悪を挫く。だけど、『僕』は弱きを見捨てて悪に従ってしまった。

 そんな自分を『僕』は嫌いだった。そんなんでも『僕』はまだヒーローに憧れていたんだ。

 テレビや、マンガの中だけのヒーロー。誰かの為に立ち上がれるヒーローに。

 

 そうして、気が付いたら『僕』は『俺』になっていた。

 

 『俺』の世界は暗い闇で満たされていた。

 未来は不安でどうしようもなかった。

 自分は、いくら頑張っても所詮ただの人にしかなれなかった。

 それで諦めて、流されて、漂って。何かを成し遂げようといった努力をしない『俺』になった。

 過去を見ようともせず、いずれ来る未来に向き合おうともせず。

 現在からも逃げるようにヒーローに憧れ続けた。

 ただ、憧れて見ているだけだった。

 

 そうして、気が付いたら『俺』は『私』になっていた。

 

 『私』にとって、この世界は既知の物だった。既に知っていた。それだけで幼少の頃では大きなアドバンテージだった。

 それがある意味、『私』の運命を決めたのだろう。

 未来はぬるま湯のようだった。例え隣で阿鼻叫喚の地獄が繰り広げられようとも。

 幼少の頃に如何に優れてようと、『私』は結局は凡人でしかなかった。

 右に倣えが道理。列から外れず、ただ背景の如く目立たない存在であれ。

 上に倣えが真理。そこに善も悪も無い。正しさなんて物は何処かに忘れてきた。

 それで、日常を常としてただ、寿命を浪費するままに生きてきた。

 

 『私』は、本当にこうなりたかったのか?

 『俺』は、こんな結果で本当に良かったと思うのか?

 『僕』は、こうなると知っていたら何をした?

 

 

 『僕等』は、何故ヒーローに憧れた?

 

 

 『僕』は友達の為に戦うことが出来なかった。立ち向かおうともしなかった。

 『俺』はそんな自分を変えようと努力をしなかった。自分から変わる勇気が足りなかった。

 『私』は自分を変える事が出来たが、その方法が間違えていた。間違いに気が付いた時に、すぐにでも間違いを正すべきだった。

 

 ……だから、『僕等』はヒーローに憧れ、そしてヒーローになれなかった。

 だけど『キミ』は違う。『僕等』と同じでも、『キミ』は友達の為に戦うことが出来る。自分で変わる事が出来る。間違いに気が付いたら、すぐに正せる勇気を持っている。

 

 世界は光に満ちている。同じだけ、闇にも満ちている。

 未来は希望に満ちている。希望以上に障害は沢山ある。

 自分は、なんにでもなれる可能性を秘めている。なろうとする努力を怠らなければね。

 きっと『キミ』は良いヒーローになれるよ。

 

 ずっと努力を続けている『キミ』に、プレゼントがあるんだ。是非、受け取ってほしい。

 

 『僕等』はこうして応援することしか出来ないけれど、『キミ』の努力が実る事を願っているよ。

 『キミ』の人生に。『キミ』の未来に。『キミ』の運命に。

 せめてもの祝福あれ。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 

 ……ぐごぁっ。……ぅぁ~。あ~?なんか、変な夢見た……ような……。ぁぅ~……・

 

 

 ……スヤァ

 

「いや起きろよクソあにぇき」

 

 ゴスッ。

 と身体から出していい音ではない大きさの殴打音が部屋に響く。

 殴られたその勢いのまま、ベッドから殴り落とされた。今度はそこそこの衝撃が全身に駆け巡る。

 ビターン!

 

「いたぁい!寝起きドッキリなんて頼んでないんですけども?!」

「中学の初日から早々に二度寝ブチかまそうとしたクソあにぇきに対する手段としてはかなりおとなしい方だと自分でも思うけどな」

「ううっ、愛しのブラズァァが寝込みを襲う最低男になるなんて……お姉ちゃん育て方間違えたかしら」

「口を閉じろ無性生物。いびきうるさいんだよ雌雄同体。とっとと起きろ両性具無」

「なんでそんなアタイの性別に対してめちゃ言ってくるの?」

「どうでもいいだろ」

 

 寝惚けた頭も話しているうちにゆっくりと回転を始めた。二度寝の魔力から辛うじて逃れられた私は腕を伸ばし、ベッドからまだ温もりが残っている布団を引っ張りくるまった。

 

 オフトゥンの中、あたたかいナリィ……

 

「朝飯だってんだよカタツムリクソ野郎。とっとと起きて着替えやがれ」

 

 そう言って容赦無く寝ている私に対してかかと落としを放つ弟君。君は実に無慈悲だな……。

 

「前から思ってたんだけど、最近おねーちゃんへの扱いかなり酷くない?なんなの?思春期なの?」

「お前が最近やたらと姉アピールしてくるからじゃねえの」

 

 かかと落とし再び。ア艦コレわちきが起きるまで繰り返されるヤツや。

 いつまでも床ペロ状態はマズいのでいい加減起き上がる。

 

「なんじゃい、弟ちゃんはおねーちゃんじゃなくておにーちゃんが良かったのかよ」

「どっちでもいいけど、家でも外でもどっちかに固定しろってんだ単細胞」

「つまり弟ちゃんはホモ……と」

「な訳ねーだろボケ!」

 

 ひゅー!恐ろしく早い手刀。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 なお避けられなかった模様。

 

「手刀じゃなく貫手って言うんだよアホ。次はその喉だぞ」

 

 ほんま弟ちゃん暴力系男子に育っちゃって……アタイ悲しい……。

 

「母ちゃんにメシ要らないって言ってくるわ」

「御待ちなすって!そんなご無体な事をなされば空腹で死んでしまいます!」

 

「弟ちゃん!ちょっと!」

 

 

「マジで行きやがったあの野郎!待て!待てやゴラァ!!」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「ひゅぅ、危ない危ない。マジでメシ抜きになるとこだったぜ……」

「家の中でチーターに化けるんじゃねえよ馬鹿野郎」

「お前がなー!母ちゃんになー!飯抜きだとなー!ユルサーン!!」

「食卓で喧嘩する子はー……」

「「ヒェッ」」

 

 私の名前は殺生石(せっしょうせき) 化太郎(ばけたろう)。何処にでも居るようなヒーロー志望だ。

 何処にでも居るようなヒーロー志望だが、ちょっと普通じゃない人でもある。何が普通じゃないのかというと、まず家族が普通じゃない。

 

「ほらー貴方達、食べ終わったのなら皆の分の朝食分けるのを手伝いなさいな」

「ん」「あい、マム」

 

 我が殺生石家の普通じゃないポイントその一。数えるのが億劫になるほど家族が多い。

 まあ家族が多いと言っても、人型は5人しか居ないのだけど。

 では何が多いのか?ペットが多いのか?

 

 答えは否だ。

 

「おら。お前等整列しろー」

 

 目の前の光景を一言で表すとしたらそう。

 

『狐狸戦争』

 

 視界を埋め尽くすほどの狐、狐、狐。そして狸、狸、狸。なんてケモケモしいのか。

 それらが大広間いっぱいにずらりと並んでいるのだから凄い迫力である。これら全部が殺生石家の家族なのだ。

 

 やっぱりペットじゃないかって?だから違うって言ってるだろう。

 この狐狸共は、全て遠からず私と血が繋がっているのだ。

 

 

 血が繋がっているのだ。冗談ではない。二つの意味で。

 

 

 我が殺生石家の普通じゃないポイントその二。先祖が狐と狸。

 これはもう説明するまでも無くヤバイ。

 

「こらこら、全員分あるからしっかり並べ。順番守らんとしばくぞ。」

 

 動物虐待発言をしている我が弟、殺生石 統狸(とうり)。個性がそのまま『化け狸』である。

 世間的にはタヌキっぽいことが出来るのとちょっとした変化の術が出来ると見せかけているが、実際にはタヌキが人化の術で人の世界に紛れ込んでいるのだ。

 

「クソあにぇき。サボってんじゃねえよ蹴るぞ」

 

 そう言って平手打ちしてくる我が弟。口より先に手が出ちゃう系男子。

 

「既に殴られてるんですがそれは」

「更に蹴るって言ってんだよ。とっととやれ」

 

 お前マジでちょっとは私に敬意はらいやがれください。

 

「貴方の教育が悪かったからじゃないですかね」

「あ、さとりん。おはよう」

「はい、おはようございます。化太郎さん。統狸さん」

 

 突然現れた謎の美少女の正体。それは私のマブダチであり、殺生石家に居候をしている。名前は先詠(さきよみ) さとり。

 

「私は貴方とは血の繋がらないただの他人で同居人程度にしか思っていないのですが」

「そりゃないぜさとりん」

 

 ひどい。こんなにも愛しているのに。 

 

「ふざけた言動と、ふざけた思考を何とかすれば好感度も上がるかもしれないですがね。まあ、貴方には期待するだけ無駄ですか」

「もうやめて、アタイのライフはもうゼロよ!」

「そういう所だって言ってるんですよ」

 

 ちなみに家庭内ヒエラルキーのトップ2である。居候の癖に私より偉いのだ。不思議。

 個性は(多分)読心。その個性を用いて多くの喋らぬ狐狸共と意思疎通をし、手なずけている。

 

「サボんなって言ってんだろ不定形動物ぁ!」ゴベキッ!

「バベルッ!!」

「ローリングソバットとは、統理さんはまた器用になりましたね」

 

 最近統理の体術レベルが爆上がりしてってるんですが。この前は筋肉バスター喰らったし、こいつ本当にタヌキかよ。

 

「喧嘩はだめよー?」

 

 この間延びした声が特徴のお方は我が母である。そしてワガママである。うまいこと言った。

 名前は殺生石 瑞久女(みずくめ)。ふっさふさの尻尾が九本ある美女であり、家庭内ヒエラルキー堂々の一位である。母の言葉に従わぬ者は誰であれ、家の某所にあるなんだかよくわからない部屋に連れていかれるのだ。怖い。

 だが私は、そんなマザーのテイルでシエスタするのが日課であった。

 

 すると、突如部屋の襖がカラリと開けられる。そこから、大きな身体をした男がのしのしと歩き、食卓の席に着いた。

 

「……おはよう」

「おはようお父さんー。朝ご飯出来てるわよー」

 

 我が家最後の人型のマイファザーである。名前は二ツ岩(ふたついわ) 団九郎(だんくろう)。もっふり尻尾と寡黙な所がチャームポイントさ。

 昔はなんでも、一つの国を一人で納めていたとか何とか。まるで意味が解らんぞ。

 

 一匹のタヌキがするすると父さんに近づき、口に咥えた新聞を差し出した。父さんは無言で受け取り、そのまま新聞を開いた。

 家庭内のヒエラルキーの頂点は母さんだが、家庭外、この辺り一帯の全動物達のヒエラルキーの頂点は父さんだ。そして家庭内ヒエラルキーでも番外に位置している。

 基本的に父さんは無口で語らないが、何かしら家庭内での揉め事が起きると偶に父さんが口を出す。父さんの決定は絶対であり、母さんも従う。

 

 どんな時に口を出すかというと、この前の私の小学校卒業記念の旅行に何処に行くかで家族で揉めに揉めた。私の卒業旅行なのだから私が行きたい所に行くべきだと主張したが受け入れられず。東京デステニーランドか不死Qハイランドかで大口論になった。

 因みに母君とさとりんがデステニーランドで私と統理が不死Qハイランドだ。

 (一緒に行かないのに)狐と狸全体を巻き込んだ口論にうんざりしたのか、父さんが覇気を携え一言で争いを治めた。

 

「行き先はジェーワールド東京」

 

 きんとうんわたあめおいしかったれす^p^

 

 何の話だっけ。

 

 ああ、そうこうしているうちに時間が迫ってきてしまった。そろそろ出ないと流石に学校に遅れてしまう。

 

「さあ諸君!学校に行く準備をしたまえ!時間は止まってはくれない「五月蠅いメタモル野郎」モスロンッ!」

 

 ▼ 統理の平手打ち! 家庭内暴力が加速した!

 

「あにぇきももう中学生になるんだからいい加減性格と行動に落ち着きを持てよ」

 

 言ってそれが出来れば苦労しないんじゃぁ!

 

 

 ……本当にね。

 

 私の普通じゃないポイント。不定形。

 言葉通りに一定の姿形を持たない。持てない。

 

 改めて自己紹介をしようか。私は殺生石(せっしょうせき) 化太郎(ばけたろう)。個性は変質。

 私と、私の身に着けている物を私がイメージできる様々なものに姿を替えることが出来る個性だ。

 そこには恐らくだが制限というものが無いのだろう。生物、無生物、空想上の存在あるいは、無。其処にイメージが出来てしまったら、姿を変えてしまうのだ。

 自身の身体が気体になるイメージをもったら、肉体の無いガス生命体に。

 自身の身体が不明の金属になるイメージを持ったら、謎合金で出来たSFの人型ロボットに。

 自身の身体が目の前の人になるイメージを持ったら、目の前の人に。

 常に変質し続けてしまう。自身の個性が常に暴走してしまっているのだ。其処に自分の意志は無い。

 私は、生まれた時から自分の顔を持たなかったらしい。

 人間の、最も個性的な部分の欠落。

 ましてや、この誰のモノかも分からない知識、記憶、経験はなんだ?私は誰だ?私は私なのか?

 私で。

 私とは。

 私の。

 私は。

 

 

 

 

 

 どうでもいいやぁ……。

 

 と、まあそんな感じで私はいつも性格不安定なのだ。

 小学校の成績通知表でも『もっと落ち着きを持ちましょう。』とか書かれる位に落ち着きを持たない。三つ子の魂百までっていうし、許して。

 

 さあ、そんなこんなで、朝起きてからもう変質するのが10回目を迎えた。小学生の頃は100回とかが普通だからこれはもう成長といっても過言ではないんじゃなかろうかいやしかし五十歩百歩ともいうし結局10回も100回も変わんないんじゃないかなでも実際変質回数は減っているんだから順調に成長していってるねコレは高校に上がる位になったら一日2,3回くらいまでに抑えられるのではないかなそう考えたらテンション上がってきた流石に友達もっと欲しいしね親友と呼び合うような間柄なら居るんだけどやっぱりもっと友達が多いほうがいいかなでも一人親友が居るんだから贅沢もいっていられないかブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ

 

 

 ……おっと、また無意識に変質してしまった。そういえばあの緑のモジャ髪君元気かな。

 というか気が付いたら弟もさとりんも居ない。二人とも小学校に行ってしまわれたのね。

 時計を確認。時間さん、無事死亡。なんてふざけてる場合じゃねえし。このままでは入学式初日に遅刻をしてしまい遅刻マンのレッテルを貼られてしまう。

 

 折角なら遅刻ウーマンの方が良い。

 

 違う、そうじゃない。私は着の身着のまま、学校指定のカバンすら持たずに家を飛び出した。

 

「いってきまーす!!」

 

 制服も、カバンも。学校に着いてから作ればいいや。こういう時にこの個性は便利だよなぁと思いながら鳥に変質し、飛び立った。個性の不正使用?ばれなきゃ犯罪やないんやで?それに私の個性、どっちかってーと異形型ともいえなくもないかもしれないし、ノーカンノーカン。

 

 何故か頭に違和感を覚える。まあいいやと無視した。学校までの道をひとっ跳びぞ。

 

 

 

「……なあ」

「あらー。どうしたのお父さん?」

「……化太郎、あんなお面着けてたか?」

「ついにオシャレに目覚めたのかしらねー?」

 

 

 ギリギリ時間内に到着。遅刻マン、遅刻ウーマン等のレッテルは貼られなかった。

 

 が、代わりにマスクマンの称号を頂いた。解せぬ。

 

 





ちなみに化太郎の両親とも普通の人(というか動物)ではないので顔の無い化太郎を産んでも
「まあこういうこともあるか」
と気にしなかった。器広し。


BAKETARO
SESSYOSEKI

○個性

 変質

全身及び身に着けている物をあらゆる物に変えることが出来るぞ!
但しイメージだけで変わってしまい未だ制御が出来ていないから非常に不安定だ!
しかし個性の制御が出来ればまさに何でも有りだぞ!


殺生石’s顔-生まれつき無い。
殺生石’s全身-生まれつき無性。変身してないときは胸部装甲も槍も穴も無い。
殺生石’s服-体とともに変質するから基本的に安物かボロ布。
殺生石’s仮面-夢の住人?からの貰い物。何故か個性の影響を受けない。


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主人公の相方紹介的な第二話

「よおマスクマン。お前のセンスは相変わらず解らんが、まさか学校にそんな物着けてくるとは思わなかったぜ」

「はぁいディアフレンド。頼むからマスクマンと呼ぶのは止めれ」

 

 入学式が始まる前の謎の時間。その時間に私に話しかけてくる奴が居た。

 奴の名前は遊戯(ゆうぎ) 融剛(ゆうごう)。私の唯一無二の親友である。

 何時でも何処でもテンションが振り切れたり振り切れなかったり忙しない私に仲良くしてくれる現人神(アラジンシン)で、小学校からの仲だ。正直こいつになら尻を貸しても良い。

 

「というかこの仮面はなんか、いつの間にか頭にくっついてたんだよ。『だから僕は悪くない。』」

「そうだな。悪いのは頭の中身だもんな」

「ふぇぇ……今日も容赦無いお言葉なのじゃぁ……」

 

 融剛キミどうして私に対して口悪いの?他の人にはそんな言葉つかわへんやん。

 

「てか融剛。髪切った?」

「切ってねえよ」

「シャンプー変えた?」

「変えてねえよ」

「香水変えた?」

「元から使ってねえよ」

「オシャレな服だね」

「学校指定の制服だよ」

「彼女出来た?」

「まだ入学初日だぞ」

「メガネ変えた?」

「掛けてねえよ」

「あ、コンタクトだっけ?」

「裸眼視力2.0だよ」

「じゃあ小学校卒業してから何が変わったってんだよ!」

「中学生に変わったんですけど!?」

 

 イエーイとハイタッチを仕掛ける……も、融剛はそれを躱し、腹パン入れてきた。解せぬ。

 

 だが待ってほしい、親友と同じクラスになれたのだからこれくらいはしゃいだっていいじゃないか。情状酌量の余地はあると思います!

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 こんなん入りきらないだろって位の人数が学校の体育館に詰め込まれた入学式から漸く解放された。何が楽しくて息苦しい思いをせねばならぬのか。これが哲学って奴ですか先生。

 

「殺生石君、それは哲学じゃねえ。アリストテレスに謝れ」

「アリス・テスタロッサ?(難聴)」

「どちら様でしょうね」

 

 きっとボインボインの金髪チャンネーに違いない(偏見)

 

 一息ついたのもつかの間。我がクラスの担任と思わしき教師が我が物顔で自己紹介を始めた。

 

「はいどーも。お前等クソガキの担任、唯野(ただの)京士(きょうし)だ。趣味は美女観察。特技は見ただけでスリーサイズを当てられる事。一応担当は国語だ、よろしくね」

「ただの糞ヤローじゃねえか」

「遊戯君。ただの糞ヤローじゃない、ちゃんと唯野先生と呼べ」

「了解しましたただの糞ヤロー先生」

「殺生石君。唯野先生と呼べ」

「了解しましたタダクソ先生」

「先生と敬う気ゼロか君たち」

 

 こんなのが教師(聖職)とか舐めてんのか。

 そんな流れで生徒共も一人一人自己紹介の流れになった。

 私はこの自己紹介の流れが嫌いだ。だってこんなんで顔と名前をすぐ覚えれるわけないやん。もっと顔と名前を覚えやすいように改良するべきだと思う。

 ちなみに私の思う覚えやすい自己紹介方法は面接方式かな。39人(先生入れて40人か)対1人。超圧迫面接じゃねえか。

 でも絶対キョドるから覚えると思うんだけどな。ほら、人の失態っていつまでも覚えていられるでしょ?

 

 そんなくだらないこと考えてるから人の顔と名前を覚えられないんだ。そうして自己紹介は自分の番になった。

 ようやく。ようやくこの時が訪れた。このクソ地味な時間をぶち壊して差し上げましょう。

 私は勢いよく席から立ち上がり、自分の机の上に飛び乗った。

 

 さあ、俺を見ろ!

 

「わーたーしーがー……来た!!」

「「「オっ!?オールマイトォォォ!!??」」」

 

 バァァ―z__ァン!!と効果音が付きそうな位にブチ決まった。今日の私、ガチイケメン。

 

「HAHAHAHA!!初めまして少年少女達!私の名前は殺生石 化太郎!気軽に殺生石様と崇め奉っても構わんぞ!」

 

 それっぽいマッスルポーズを決めながら自己紹介。狭い机の上をビシィッ!ビシィッ!と効果音を出すような雰囲気で次々ポーズを取る。

 

「やややややばい……生オールマイトだぁ……!」

「やっべやっべ!写メ写メ!」

「『オールマイトが中学校の教室に出現したけど質問ある?』と……」

 

「 や め ん か 」

 

 殺気っ!

 を感じると同時に融剛が座ってた方向から消しゴムが飛んでくる。消しゴムは光の矢と化し私の後頭部に衝突。私は死んだ。スイーツ(笑)

 

 勿論、大げさである。

 POFと変身が解け、ノーマル普通スタンダードフォルムに戻った。

 

「……と、オールマイトの大ファンです。個性は見ての通り、自分の身体を色々変える事が出来るッス」

「……えぇ……」

「え、と。色々って、具体的には?」

 

 隣の席のメガネ図書委員(偏見)が聞く。

 

「そりゃもうボインボインのチャンネーから渋くてナイスなちょいワルオヤジにまで。」

「「「言い回しが絶妙に古い!!」」」

 

 ほっとけ。

 

「よぉ、オレ質問イイッスかー?」

「なんだ如何にも中学生デビューしたかのようなパツキンヤンキー」

「偏見すげえなお前……。結局お前って男なの?女なの?」

 

 さっき自己紹介したばかりだというのに名前で呼ばずにお前呼ばわりとは……まあ、いい。私は大人なのだ。

 

「男とか、女とか。それって重要な事かしら?大事なのは人の内側なのではなくて?」

「どの口がほざきやがる」

 

 ヤンキーリスナーの方を振り向きながら絶世の美女(笑)に変身し、ウインクしながら悩殺ポーズ(爆笑)をとった。

 

 ヤンキー含めクラスの男子の大半が鼻血を吹いた。や っ た ぜ 。

 

「……あー、殺生石君。学校内で個性の使用は控えなさい(上から92・63・86か。エロいな!)

「副音声聞こえてんだよダクソ先生」

「その略し方は駄目だぞ」

 

「あらぁ。こういうのはお嫌いですか?セ・ン・セ?」

 

 くるりと振り向いてノーサツポーズ(失笑)。

 何のとは言わないが、谷間を強調したポーズだ。おまけにホラ、増量しておいたぞ喜べよ。

 

「馬鹿な!?95、98、105!?まだ上がると言うのか!!(コラ、先生を誘惑するんじゃありません!)」

「お前本当に教師かよ……」

 

 やったぜ。そうれもういっちょ。

 私は上の服を脱ぎ余す事無く見せつけた。

 

 

 某コマンドー部隊の筋肉モリモリマッチョマンの変態に変身した後にだがなァァァ!!

 さあ余す事無く見るんだよォォォこの完璧なるダブルバイセップスをよォォォ!!

 

「」

「……し、死んでる……」

「あちゃぁー、まぁーたやり過ぎちまったかー。ごめーんネ!」

「お前マジいい加減にしろよお前!」

「本当に申し訳ないと思っている!」

 

 だからお詫びのサイド・チェスト!

 

「止めろってんだよこのポンコツが!」

 

 融剛から鉄拳が飛んでくる。しかしこの私の筋肉の鎧の前には

 

「バルクッ!?」

 

 融剛の右腕には勝てなかったよ……。

 

 ちなみに半裸のモリモリマッチョに変身した所為でクラスの女子もノックアウトされてしまった。男子も美女が野獣に変わったあまりの落差にノックアウトされてしまったようだ。そして最後に私が融剛にノックアウトされ、唯一生き残ったのは融剛だけとなった。

 

 融剛、お前がナンバーワンだ……ガクッ。

 

 

 

 

 その日からあだ名がメタモン仮面になった。解せぬ。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 何とか全員生き返った後のレクリエーション的なサムタイム(誤字)でほとんどの生徒がオールマイト好きだって事が判明した。

 そんな事はどうでも良い。既に大半の生徒が家まで邁進し、その大半に入らずに入学初日から友を獲得した生徒のほとんどが近くの娯楽施設へと進軍していった。寄り道せず帰れ、校則違反だぞ。

 

 そして、そのほとんどにも入らなかった私は何処に向かっているのかというと……。

 

「ただいまー」

「お邪魔しますん」

「邪魔するんなら帰ってー」

「ほなサイナラ」

 

「いや、本当に帰らなくても」

「冗談ですやんか」

「もう。改めて、いらっしゃいバケちゃん」

 

 遊戯家にお邪魔していた。

 お出迎えしてくれたスレンダー美女は我が親友の姉に当たるお方。遊戯(ゆうぎ) 調律(ちょうりつ)

 融剛とは歳が離れていて、なんと既に働いているのだ。職業はメンタリストらしい。なんか強そう(小並感)

 

「あれ、重合は居ないのか?」

「融剛、ちゃんとお兄ちゃんって呼びなさいっていつも言ってるでしょう?」

「へーへー」

 

 遊戯(ゆうぎ) 重合(じゅうごう)。調律さんとは双子の兄に当たる。職業が化学者だとかなんとか。フラスコ投げてきそうで強そうと思いました(小並感)

 

「わぁ、たろちゃんだぁ~。いらっしゃぁい~♥」

「わぁ」

 

 ドスドスドスと、凡そ女性が歩いているとは思えないSEをだしながら此方に向かって来るお嬢様は遊戯(ゆうぎ) 振子(ふりこ)

 遊戯家の長女であり職業プロのニートである。遊戯家にお邪魔する度に肉感溢れるボディに包まれる。

 この感覚、不思議と嫌いじゃないわ!

 

 私が遊戯家に入り浸るようになったのは親友と出会ってから1年程経過してからだ。

 切っ掛けは……まあ、話してて気分のいいものでもないし、割愛。

 ここで重要なのは、遊戯家は広い敷地面積を持っている事。そして、親友の両親がプロのヒーローであるということだ。ヒーロー志望としては見過ごせませんなぁ。

 同じくヒーロー志望である親友と共にプロヒーローから色々教わっている……と言いたいが。

 プロのヒーローだもの。そりゃ忙しいですよねー。休日もゆっくりしたいですよねー。し っ て た 。

 それでもご厚意により暇を見つけては様々な事を教えてくださる。個性を使った戦闘から始まり、怪我人の救護、個性の制御方法、国語、算数、社会等。

 ……何もおかしなことは無いな。

 ほいほい。ともかくそもかく、今日はおじさんおばさん二人とも居ないらしい。まあそんな日も別に珍しくは無い。親が居ないときは滅茶苦茶広い庭で親友と戦闘訓練っていう暗黙の了解があるからね。

 さあさあ、それでは早速庭へ行きましょう。

 

「バケちゃん、今日はたけ○この里があるよ」

「頂きます!」

 

 ○のこの山も良いけどた○のこの里もいいよね!

 おやつを食べてから庭に行きましょう。

 

 ドスドスドスドス……

 

 

「……あの」

「なぁに~たろちゃ~ん♥」

「そろそろ放して頂けると大変助かるのですが……」

「たろちゃんが『戦コイッ!!』の織田○長になって壁ドンしてくれたら放してあげる~♥」

「マジですか」

「マジですよ~♥」

 

 この後滅茶苦茶壁ドンした。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 さあ、おやつを食べてエネルギー補給完了。変質するには体力とかなんかそういう感じのを使うのだ。ましてや本気で戦う用の変質は特に。

 見た目だけ変容するならそれほどじゃないんだけどメェェ~。

 親友も準備運動を終えて闘気全開。触れたらヤケドしそうだじぇ。

 

 戦闘訓練とは言っているが基本的に全力で戦う。今更手加減し合うような仲でもないし必要ないからね。

 私は多少の攻撃程度ならダメージすら受けないようなメタルボディ&衝撃吸収トロトロスライムボディに変質。

 そして、親友はその個性によりダメージを相手に倍返し出来る。理不尽かよぉ。

 

 ここいらで遊戯 融剛の個性を紹介しよう。個性は融合。ざっくり言うと色々融合できる。

 長年の個性制御訓練のおかげか、融合を始めてから終わるまでの間が異常に早い。具体的には人の身体ほどの大きさの岩石と融合するのに最速1秒である。

 そうやって身の回りにある物と自身を融合することで攻撃力や防御力の底上げ、リーチの長さを稼ぐことが出来る。さらには融合した物を体から勢いよく分離することも可能。つまり擬似的人間大砲。ヤベェーイ。

 そしてその個性の真骨頂。それは相手から受けるダメージと自分の攻撃の融合。つまり自分が受けるダメージがそのまま攻撃力に加算されるのだ。細かな制御が必要らしいが、成功すればどんな攻撃でも怪我を負わず、攻撃力が跳ね上がる仕様。お、チートか?なーんてね。ダメージを融合するためには、攻撃を受けるタイミングジャストで個性を発動する必要があるらしい。タイミングが少しでもズレたら失敗するそうだ。中々狙って使うのは難しいらしい。

 

 その難しいをブチ超えるのが融剛なんですがね!(何故か誇らしげ)

 

 と、まあ。個性の使用限界があるとはいえ、親友を倒すには正面からの殴り合いでは勝ち目が薄い。ましてや普通に組み合うと、地面と融合させられるからアウト。

 

 貴方と、合体したい(白目)。

 

 とはいえ、生き物と融合する。或いは他人と物を融合するには若干時間がかかるからヒット&アウェイで融合されるのは回避可能だけども。

 さぁてさてさて。どうやって倒そうかにゃーん?

 

 と思案している途中、親友からの一言。

 

「お前のその仮面。変身してもついたままなのな」

 

 

 ……はて。

 

 ……はて、さて。私の変質能力は、身に着けている物ごと変わるのだからこの仮面も当然変質して何処かに消える……筈なのだが……?

 私の個性により、所持している物はそれが生物由来だろうが化学製品だろうが金属類だろうが一緒に変質するのだが?

 

 頭にくっついていた仮面を両手に持ち、まじまじと仮面に目を合わす。

 中々にコミカルな表情の、キツネなんだかタヌキなんだか分からないがとにかく可愛い顔つきをしている。

 

 

 

 ドクン。

 

 

 

 私の心臓が、大きく蠢いたような気分だ。

 私の個性でも変わらない。変えられない仮面。

 

 唯一の、顔。

 

 

 私の、顔。

 

 

 私だけの、顔。

 

 

 ああ、そうだ。これが私の『顔』なんだ。生まれた時から無かった顔。人間の、最も個性が出る部分。顔。

 『誰か』ではない『自分だけの顔』。

 

 この仮面こそが、私の、私だけの唯一無二の顔なんだ。決めた。今決めた。決まっていたとも言い換えよう。

 

 仮面を改めて被りなおす。ああ、なんて調子がいいのだろうか。今ならきっと、オールマイトすら倒せそうだ。

 仮面の下の顔は戦闘フォームである、ツルツルのメタリックなスライムフェイス。当然、起伏なんて無い。

 だが、私の顔はここについている。ここに在る。ここに、確かに存在している。ああ、なんて、この感情はなんて表現すればいいのだろう。

 

 ああ、思わず笑ってしまう。思わず嗤ってしまう。はは、ははは、ははははは、

 

 

 ハハハハハハハハ!!!

 

 

「急に笑い出すんじゃねえよ。気持ち悪いな」

 

 酷いよぅ。

 

 





 主人公は多少おバカなので多少間違った意味で言葉を使っている所があります。
 でも作者もバカなので意図せず間違っている所もあります。ゆるしてちょ。

 遊戯家の面々……察しの良い方は元ネタが分かりますよね?同じジャンプ作品だからというので一つ。


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主人公の千変万化的な第三話

「急に笑い出すんじゃねえよ。気持ち悪いな」

 

 俺は遊戯 融剛。プロヒーローの子供であり、ヒーロー志望だ。目の前に居るコイツとは小学生の頃からの仲だ。

 化太郎は俺の事を親友と呼んでくれる。ありがたい事だ。俺も化太郎の事は親友だと思っている。

 ……あまり口には出さないけどな。でもそれだけじゃないんだ。

 

 昔話をちょっとだけしようか。俺と、小さなヒーローの話を。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 俺が豆粒くらいの時、有体に行って俺はクソ人間だった。両親はプロヒーロー。個性は超強力。そして当時から軽くとはいえプロに鍛えられた肉体。少なくとも同世代の間では最強だったからな、そりゃもう増長しまくった。

 小学校に入ったばかりの時でも俺の性格は変わらない。むしろさらに醜さは増大していた。その時くらいから自身と他者を一時的に融合することが出来るようになり、瞬間的な強さも激増した。

 気に入らないヤツは力で脅し、従わない奴には暴力を振るう。そうして手下、取り巻きを増やしていった。今思えば典型的なヴィラン予備軍で、本気でヒーローを目指しているような子供じゃあなかったよ。

 

 そんな小学校生活をしていたある日。転校生がクラスに来た。化太郎だ。コイツは第一印象からして衝撃だった。どういう挨拶をぶちかましたと思う?

 

 

 

『今日から新しいお友達がこの学校に来ました。皆さん仲良くしましょーねー!』

『『『 はーい!! 』』』

『いい返事ですね!それじゃあ化太郎くん!教室に入って来てくださーい!』

 

『化太郎くーん?』

 

 

『わーたーしーがー!!』

 

 バリィィィンと飛び散るガラス片。

 

『教室の窓から入ってきた!!』

 

 HAHAHA!!とやたらアメリカンな笑い声。

 そして、この日本において最も有名なヒーローが目の前に現れたのだ。

 

 

 

 あの時の担任の先生の顔は忘れられねえな。目の前に隕石でも落ちて来たような、宝くじに当たったかのような、あんな顔は。

 もうね、オールマイトかよと。普通に扉から入って来いよと。突っ込むことも出来なかったね。画風が違い過ぎる。

 今だからわかるけど、アレはアイツなりのつかみのギャグらしかった。効果は抜群だったけどな。そして改めて、アイツ成長してねえなとも思う。

 そうしてすぐに変身を解いて普通に自己紹介して普通に空いてる席に座った。先生が動き出したのは授業開始の鐘が鳴ってからだった。

 

 俺は思った。アイツを俺の側近に取り上げ、何時でもあの『偽マイト』と融合出来るようにすれば、中学生すら簡単に怖気づかせることが出来るってな。そうだろ?いきなり目の前の奴が筋肉ダルマに変貌すれば誰だって驚く。そのスキを突けば、俺の実力ならどんな相手も余裕だからな。

 

 その日から化太郎籠絡作戦が始まった。授業終了の鐘が鳴り、休み時間に入ったとたんすぐにアイツの周りに人だかりが出来た。まあ当然だな。転入生というのもあるし、何よりあのふざけた個性だ。もう一度オールマイトを間近で見たいって思うのは誰でも思う。

 だが、残念だったな。ソイツは俺が目を付けているんだ。

 

『お前等、退け』

 

 その一言で人だかりはモーゼが海を割るかのごとく離れて行った。ガキ大将、つまり俺に目を付けられた転校生を哀れに思うが誰も助けようともしない。

 当然だよな。俺の邪魔をすれば痛い目を見るのだから。俺は悠々と転校生に近づき、話しかける。

 結果から言って、徒労に終わった。なんていうか、当時から話すだけでも疲れるイカレ具合だった。

 個性の制御が出来ていないのか、コロコロ姿を変える。それ以上に、俺をじっと見ながら俺の姿になるのは止めろ。なんか鏡に話しかけてる痛いヤツみたいで嫌だ。

 ああ、このテンションのブチ切れ具合について行けねえ。と、未だかつて出会ったことのないタイプに終始翻弄されまくっていた。だが俺は諦めなかった。俺の目指す最強のヒーローへのロードのためにコイツには人柱になってもらうのだから。

 

  そうして化太郎が転校してきて1年が過ぎた。コイツは未だに友達が出来ないと嘆いている。まあ当然か。ガキ大将が特別に目を掛けている存在であり、コイツ自身どんな奴相手でもイカれたテンションのブチギレ具合から周りからどう思われているのかなんて明らかだ。だが、俺は俺でコイツのブチ切れているテンションのアップダウンについていけるようになってしまった。これは成長ではないと思いたい。

 しかし、コイツと色々話し続けているおかげで新たな個性の運用法を思いついた。これだけは成長と言えるな。

 

 そんなこんなで未だにコイツに執着していたある日、俺は本当の(ヴィラン)って奴に出会ってしまった。

 

 

 

「やあ、君もしかしてフレンドシップの息子さんかい?」

「?ああ、確かにフレンドシップは俺の母ちゃんだけど。」

 

 誰だ、このスーツの男は。母ちゃんの知り合いか?生憎だが母ちゃんは今遠出してるから家に来られても困る。

 

「おお、そうかそうか。やっぱり君があの『ゲームマスターズ』の子か。うんうん、目元とか口元とか、確かに似ているなぁ」

「……あの、何の用ですか?」

 

 言ったとたん軽く袖を引っ張られる。引っ張った犯人は一緒に下校していた化太郎だ。

 

「(こいつ、なんかヤバイ匂いがする)」

「(はあ?なんだそれ)」

 

 こんな如何にも優男然として、高級そうなスーツを着こなしている奴がか?と、疑問に思った瞬間強く引っ張られ、俺は尻もちをついた。

 

「っ痛ぇな、何するんだ!」

 

 声を上げ、顔を上げる。そこで俺は、声を失った。

 化太郎の左腕が不自然に曲がっていた。

 

「……は?」

「っっっ!」

 

 化太郎は声にならない声を更に押し殺していた。

 

「はは、ひははは!おいおいおい、今のをよく避けられたなぁ!だが他のガキを盾にするなんざヒーローの子供のすることじゃあねえなあ!!」

 

 なんだ、今、何が起きたんだ?

 

「ひひはは!何が起きたかって顔してるなぁ?」

「!!」

「っぐぅ、見えない……武器だ……。多分……鉄パイプか何か……」

「ひひはぁ!よぉぉく分かったじゃねえかぁ!ええおいガキィ!そーですそのとーり、俺の個性は透明化!触ったものを誰にも見えなくすることが出来るのさぁ!!」

「っなあ!」

 

 なんてふざけた個性だ。見えない武器なんてどうやって防げばいいのか。

 ……なーんて思っちゃいない。要は見えないだけで其処に存在はしているのだ。ならば話は早い。

 

 1、相手の武器の無効化

 2、相手の拘束

 

 1は簡単だ。地面のアスファルトか、壁のコンクリブロックか、どっちかにでも融合させてしまえば鉄パイプなどどうってことは無い。

 2も余裕だ。こんなチンピラ程度、鉄パイプと同じように地面か壁と融合させてしまえば簡単に拘束できる。

 それに今は下校途中。こんな街中で騒いでるのだ。どうせヒーローがすぐに駆けつけてくれるだろう。折角だ、駆け付けてきたヒーローに俺の活躍を見せておくのも悪くない。有能な若者はどの界隈でも欲しがるものだ。

 

「ひひははは!さあフレンドシップのガキぃ!お前にはヤツをおびき出す人質になってもらおうかなぁ!」

「っは、バカが!ヒーローが敵に屈するかよ!」

「ひははは!じゃあ無理やりにでもオネンネしてもらおうかなぁ!この鉄パイプでぇ!ひひはは「嘘だっ!」はは、あ?」

「っ化太郎!?」

 

「お前は、二つ、嘘をっ痛ぅ、吐いている」

 

「一つ、お前の武器、鉄パイプだけじゃねえだろ?」

「……あ?」

 

 ……なんで。

 

「二つ……お前の個性、ッハァ、透明化じゃ、ない。そうだろ?」

 

 なんで。

 

「……」

 

「は、はは、ええおい。おいおいクソガキさんよお、お前、お前よお。どぉ~してわかったんだぁ?」

 

 目の前の(ヴィラン)の顔が真顔に変わり、目は異常にギラギラと輝きだした。背中にぞわりぞわりと悪寒が走る。俺にはまだ何もされてないというのに呼吸が荒くなっていく。

 化太郎が、不自然に曲がった腕をかばいながら(ヴィラン)に向けて指を立てる。

 

「一つ。()()私の目は特別製でね……。あらゆる物から放たれるオーラ的なモノを見る事が出来るんだけど……」

 

 オー、ラ。お前、何言って……。お前の個性は見た目が変わるだけじゃねえのか……?

 

「お前の周り、そして私たちの後ろ側に、無数の、武器のオーラが見えてるよ」

 

「……へぇ」

 

「そして二つ。人からもオーラが出ている。そのオーラの色は人の、特に個性によって色が大きく異なるんだけど……お前のオーラと、武器のオーラが一致してない」

 

「……はっ」

 

「ついでに言えば、武器に繋がっているオーラの色からして、あと最低二人は近くにいるんでしょ?」

 

 ……あ?つまりそれって、最低でも今、三人の(ヴィラン)に狙われてるって事か?

 

「ふ」

 

「ふひははは!ひひははははは!!あ”あ”ぁ!?何だそのふざけた見破り方はよぉ!オーラが見えるぅだぁ~?ひはは!こりゃあ予想外だぜおい!お前等!出てこい!」

 

 目の前の(ヴィラン)がそう声を上げると、空気から分離されるようにどろりと二人の男女が(ヴィラン)男の後ろから現れた。

 

「っかぁー!なんや、けったいな方法でバレよったなぁ!」

「未だ計画に支障なし」

「ひはは!なあに、今からでもこのガキを拉致っちまえばいいんだからよぉ!」

「おぃ、フレンドシップのガキじゃねえ方はどうすんや」

「殺害すればいい」

「ふひは!目撃者は殺さねえとな!」

 

 な、なんなんだよこいつ等……。まるで今日の天気の話をするかのような気軽さで拉致するだの、こ、殺すだの……。異常、異常だこんなの。

 

「お、お前等……何でこんな……」

「あぁ~?どーちまちたかー?怖くてブルっちまいましたかー?ひははは!馬鹿なガキだ!」

「っか!エエ事教えといたる。ワイらはなぁ、お前んトコの両親に恨みを持ってん。んの恨みを晴らすっちゅーからにゃ、ちぃとお前ん協力が必要なんや。分かるやろォ?」

「必然、貴方は無様に泣き叫ぶだけでいい」

「ひはは!お前を人質にして『ゲームマスターズ』をぶっ殺してやるんだよぉ!!」

「おぃおぃ、ただ殺すだけやアカンやろ。生まれて来たことを後悔するまで甚振り続けてやるわ!」

「目の前で息子を殺すのも良さげ」

 

 なんなんだよ、なんなんだよこいつ等。理解できない。訳が解らない。怖い、怖い怖い。

 

「ひひは。分かってくれたかオイ?お前にはこれから人質としてお先真っ暗な未来が待ってんだよ。なら痛い思いをしないうちに諦めな?」

「ケハハ!そない言葉で諦める奴が居るんかいな!」

「抵抗してくれた方が楽しい」

「ひひはは!そういう事だ!精々ガキらしいカワイイ抵抗してみろや!」

 

 何かが空気を切り裂きながら振るわれる音がする。ふ、防がなければ……。頭ではそう思っていても身体が思う様に動いてくれない。濃密な悪意、或いは殺意に触れて、心と体がバラバラになってしまったようだ。勝手に腰が引け、足を滑らせて尻もちをついてしまった。

 

 バキィッ。

 耳にへばりつく様な、水っぽい嫌な音が響く。

 俺の視界には、ランドセルを背負った男にも女にも見えるその後ろ姿。化太郎が居た。

 

「融剛、怪我は無い?」

 

 振り向いた化太郎の笑顔は、額が裂けたのかドクドクと流れ出る紅に染まっていた。

 

「お、まえ……血が、血が……」

「こんなモノ、変身すれば治るわ。まあ痛いっちゃ痛いけど気にしないで」

 

 怪我しても、すぐに治る……?嘘だろ……?

 

「それよりあんた等、さっきから随分好き勝手な事言ってんじゃないの。拉致するだの殺すだの。私の目が黒い内には私の目の前でそんな事させないわ」

「ああ?ちぃと目が良いだけのガキがなに言ってんねん。死にたいんかワレ?」

「子供は理想と現実の区別がつかない」

「ひひははは!威勢の良い小さなヒーローさんだこと!そんなに守りたいってんなら守ってみろや!」

 

「化太郎ッ!」

 

 大丈夫。

 そう、呟いた気がした。

 

 

バギィン!!

 

 

「……アァ!?何が起きたんや!」

「理解、不能」

「ひは?おいお前等、どうした」

 

「「ナイフが折れた(よった)」」

 

「……あ”あ”?」

「ふふ、残念でしたー。アタイの頭は石頭なんでね、安物のナイフなんて効かないわよ?」

「……なんやコイツ。目が良い個性とちゃうんか?」

「聞かないで」

 

「ば、化太郎……」

「融剛、ここはわたしに任せて、あんただけでも逃げなさい」

「は、はあ!?」

 

 逃げろ?この俺に逃げろって言ったのか!?

 

「早く行け!死にたいのか!!」

「っ!」

 

 ふざけるな。俺を誰だと思ってやがる。俺はヒーローの息子で、同年代に敵なしの強個性持ちだぞ。

 ふざけるな。滅茶苦茶な努力をして鍛え上げた力で、大の大人すらブッ倒せることだってできるんだぞ。

 ふざけるな。

 ふざけるな。

 

 なんで、俺は。

 

 感情と行動が一致せず、無様に滑りながらも、無様に転びながらもその場から逃げ出してしまった。

 チクショウ。

 

 チクショウ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 ボギッ!

 右足から嫌な音が聞こえる。左腕、右腕に続いて、今度は右足かぁ。ああ、参ったなぁ。私の個性、変質の力はイメージだけで簡単お手軽に変身できるんだけど、これじゃあ完全に折れたっていうイメージがこびり付いちゃうよ。まあ、最悪飛べばいいか!(極論)

 

「なんや、なんなんやこいつは!」

「化け物」

「ひは、打撃も。斬撃も。刺突も。効果が今一つとはな。その上すぐに再生?幾つ個性をもってるんだっつーの!」

 

 今の私は完全にボロボロ。鏡で自分の姿を見たら卒倒しそう。

 左腕は見えない鉄パイプが突き刺さり、その上から釘バットや角材でズタズタのドロドロ。右腕は刃渡りの長いナイフや包丁だのを受けてバラバラのボロボロ。お腹回りは未だにアイスピックや錐、フォークが突き刺さったままだ。何で生きてんの?

 

 油断した、と言えばそうなのだが、このヴィラン共えらい戦い慣れをしている。飛んでくる武器を弾く程の硬化は、私が意識した部分にしか出来ない事をいち早く察し、意識外からの攻撃を重点的に行って来る。未だにオーラを見る目を持ったままだが、三人全員で攪乱してくるから武器だけに意識を集中出来ない。攪乱だけじゃない、隙を見せればそれぞれが手に持ったスタンガンやサバイバルナイフ、警棒で殺しに掛かってくる。

 オーラを見た限り、クソ方言男が武器を浮かし操る個性。女が武器を透明にする個性。スーツ男は不明……だが恐らくこの辺りの空間に何かしらの作用を与えている。平日の昼間だってのにこの道を誰も通らず、ましてやこんな派手に暴れてるのにヒーローの一人も来ないなんて異常だ。スーツ男がなんかしたのだろう。

 

「なんでお前、こないボロボロになっても生きてんねん!」

「不死身かしら」

「ひはは、そんなになってまでまだ立ち向うのか?いい加減諦めちまえよ!」

 

 お前等が融剛襲う事を諦めたら諦めてやるよ!

 とはいえ流石にキツイ。腕や足が折れたということ自体は全く問題ではない。痛いは痛いが、怪我自体は変身して無かった事に出来る。だが、ダメージを受けるということは当然私の集中力を削がれる事に繋がる訳で。

 今は皮膚の下は筋肉でなくスライム状のドロドロで構成されているから原型を保っているけど、骨組み部分がそろそろ限界かな。戦闘用のフォルムに変化したいが、息継ぐ暇もなく攻撃を受け続けて変身出来ない。うーん思わぬ弱点だ、これならもっと個性訓練を真面目にやるべきだったなぁ。後悔先に立たず、これから直していこう。

 

 次が、あればの話だけどね。

 

「チィッ!何やコイツホンマウザったいなぁ!」

「ひはは、再生個性と思ったが……お前の身体、まるでゲームに出てくるスライムみたいじゃねえか!?」

「言い得て妙。打撃も斬撃も効かない事に説明がつく」

「ハッ!なら電撃で焼き殺してやるで!」

 

 バヂバヂとスタンガンが鳴る。電撃はアカン。

 とは言え、だ。数の限られているスタンガンを警戒すればいいが、余りこのまま長い事戦ってられない。私の個性は使えば使う程にお腹がすく。非常に燃費が悪いのだ。既にお腹がぺこぺこちゃんなのだ。こうなるんだったらランドセルにお菓子でも常備しておけば良かった。

 校則違反なんですがね!

 このままじゃ千日手、しかも私の方が分が悪いときた。何かしらのブレイクスルーが欲しいとこ

「油断、大敵」

 

 斬ッ

 

 私の首が飛ぶ。

 

「首と身体が分かれて生きてる生き物は居ない」

「ひはは!スタンガンだけに気を取られ過ぎだっつーの!!」

「ケッ!丁度楽しくなってきたとこやっつーのに……まあええわ。万一復活しないように念入りに焼くで」

 

 なるほど、私は斬られたのか。透明で見えないが、恐らく肉切り包丁的な何かなんだろう。斬られた感覚的にそんな感じがした。

 そして、残念だったね。私は首と身体が分かれても生きてるタイプの生き物なんよ。何故かは聞くな。分からん。

 飛んだ首が地面に落ちる寸前にイメージを固める。頭と、身体がどろりと崩れ、再構成される。するとそこには素敵な賽銭箱によくご案内している素敵な巫女さんが!

 

「あー、いったいわねー……。あんた等、こんなモン振り回して良いと本気で思ってる訳?」

「……首と身体が分かれて生きてる生き物は居ない、筈。貴方、化け物ね」

「ひはは!なら俺等は化け物を狩る側(モンスターハンター)ってか!?いいな、それ!」

「アホ(ゆー)てんなやダラズ。ワイらがそない英雄(ヒーロー)的な行動してたまるかいな!」

「ホントよね。(ヴィラン)(ヴィラン)らしくヒーローに倒されてれば良いのよ」

「ひはは!ガキが粋がんなや!死なねえなら、死ぬまでブッ刺すだけだ!」

「同感。殺せるなら、殺せる。道理」

「ッカ!その心臓抜き取りゃぁ死ぬやろ!」

 

 辺りの見えない凶器が一斉に私に向かって来る……気がする。さっきまでのようにオーラを視て判別は出来なくなったけど、その代わりに余りある超感覚()が告げる。なら、目に見えなくてもここからは私の領域(弾幕シューティングゲーム)よ。

霊符「夢想封印」

「ぐわっ!?な、なんやぁ!!?」

 

 私の弾幕が周囲一帯に散りばめられる。威力自体は周りの建物や塀にちょっと焦げ目が付くくらいだが、それでも見えない武器を全て叩き落とせる位には高い。

 そして、私の勘が叩き落とした武器全てがまた浮き上がることは無いと告げた。勘、便利。

 

「な、なんだ今のは……!?」

「光の弾……?」

「クソッ!なんにせよ今ので武器とのリンクが全部切れよった!」

「ッチィ!肝心な時に使えねえなお前の個性は!」

「アアッ!?何やお前のクソ地味個性ほどやないやろボケェ!!」

「あ”あ”?テメエ誰のおかげで今の今までヒーローに捕まんないと思ってんだカス!」

「喧嘩してる場合ではない。アイツはとても危険」

「……ケッ!後でカタ付けたる!」

「上等だ、ブッ殺してやるよ!」

 

「「先にテメエを殺してからなぁ!!」」

 

 お腹が空いてヤバみを感じる今日この頃。だがここで倒れる訳にもいかない。某S級エリートに変容し、持っているブレードで迎え撃つ。

 あ、これ思ったより軽すぎ……?

 

「何処向かって斬ってるんや!?」

「ひははっ!刃物はこう使うんだよぉ!」

 

 地面に向かって空振りした隙を狙ってスーツ男が持ってるナイフを側頭部に向けて突き立ててくる。回避しようにも避ける方向から金属バットが振り下ろされ、動ける方向が制限されてしまっている。

 

 まあ、『視えてた』んだけどね。実力派エリートは伊達じゃない。

 

 ズバァン!

 

「ギィ!?」

「ガハッ!?」

 

 持っていたブレード『風刃』から伝った斬撃が男二人の胴体を無慈悲に斬る。本来なら人一人程度なら真っ二つに斬れる斬撃だが、私のイメージ力不足と男達の防御力で皮膚ちょい底程度を切り裂くに留まった。流石に人殺しはマズいからいいんだけどね。

 

 ま、その結果も『視えていた』けど。

 

 ドサリと地面に崩れ落ちる男二人。本当なら()()()()では済ましたくない程にボコボコにしたいが、私怨は抑える。

 融剛を庇って左腕を折られた時、突然の衝撃で瞬間的にS級エリートに変質し、融剛を『視て』しまった。そこで『視えた』のが、転校してから今日まで毎日話しかけてくれた、友人どころか親友と言っても過言じゃない融剛の、無惨とも言える死に様で。

 身体が勝手に動いた、口が勝手に動いた。融剛を守る為に。

 『凝』の要領で相手と周囲のオーラを読み、『言霊』を使って意識を引っ張る。そうして融剛から意識を反らし、逃がす。

 そこからはもう全部アドリブだ。私が逃げてしまえば、追いかけてくるかもしれないが、融剛に向かって行くかもしれない。だからなるべく戦闘を長引かせたかった。

 一対三なのもマズい。一人でも融剛の所に向かってしまえば万が一がある。だから『存在感』を放ち常に意識を私に向け続けた。その所為でまともに回避も出来ず変身も出来なかったが。

 あーやばい。お腹が究極的にペコちゃん。頭が回らなくなってきた。

 ▼早く何か食べないと!

 ▼うえ死にしてしまう!

 

「あ”ー……クソ。まさかコレに助けられるとはな」

「ケッ……ホンマ、やってられんわ……」

 

 そう言って男共は服を捲り上げ、腹から何かを落とした。

 

 何かって言うか、ジャンプだコレ。お前等の防御力の高さの元ってそれかよ。

 

「あ”ぁ……どうしてくれんだよお前。もうコレ読めねえじゃねえかよ、ああ?」

「ホンマお前許さへんで……」

 

 ヤバイ。何がヤバイってもう、こいつ等の目に殺意が満ち満ちている。貴方は殺意に包まれたってか?笑えねえ。

 

「ひはは、刺突も、殴打も効かねえなら……奥の手だ」

 

 そういってスーツ男が取り出したのは手のひらよりは大きな……基盤?

 

「最悪でも『ゲームマスターズ』の事務所でも爆破してやろうと思ったが、気が変わった。ひはは!ありがたく思えよ?お前みたいなガキを殺すには高すぎるモノだが特別製だ。コイツの二つ名は『必ず、殺す』だ!」

「そないモンあるなら最初っから使えやダラズ!」

「抗議」

「うっせえ!最終手段って奴だ!これ使っちまったら俺の個性でも誤魔化しきれねえんだよ!」

 

 爆弾はらめぇ。

 

「ひははは!もう死に体のお前には逃げることも出来ねえだろ!爆散して死ねやぁ!!」

 

 そう言ってスーツ男は離れていく。代わりに私に近づいてくる爆弾。やべえ、爆弾に強いなにかイメージを!

 

 爆弾に対して何が強いんですかね(哲学)。

 

 ちがう、ふざけてる場合ではない。これ爆発したら流石に死ぬ。死ぬ?死ぬのか。まあ、『視えてた』結果ではあるんだけど。流石、暗躍が趣味のエリート。自分に対しても格が違う。

 あーもーほんと。あの時なんでヴィランを挑発するような事言っちゃったかなぁ。

 でも、まあ。結果的に融剛守れたからいいかな。仕方ないよな。転校する前だって私にまともな友達居なかったし。初めての親友だもんなー。そんな親友を見捨てて自分だけ生きることは出来るだろうか。いや、出来ない(反語)。

 というかあれだね、勝手に体が動いちゃったってやつだね。うん。やべえよ、これもしかして私トップヒーローの器なんじゃね?うっはやべえ、学生時代から逸話残したとか言うレベルじゃねえ。だって私小学生だもん。

 いや、方やまともに友人作れないロクデナシ。方やロクデナシ相手でも気さくに話しかけてくれるちょっと口の悪い神サマ。世界がどっちを取るかっていったら当然神サマだよねぇ。

 ていうかあれだ。今更だけどこれ走馬燈的な奴か。そうだよなー、爆発するまで長いんだよなー。長いというかほら、まだ地面に落ちてってる最中だし。

 とか思った瞬間ピーとか甲高い音聞こえるし。あ、はい。爆発するんですねわかります。

 

 まあ、悔いのない人生だったんだろうか。

 

 

 死にたくないなぁ。

 

 

 

   て、え、ちょ。 融剛おま  な   ん     で

 

 

 

 

 そうして視界が光に包まれた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 死ぬか思った死ぬかと思った!

 やった事は単純明快。化太郎を爆弾から庇う位置に立って爆風を個性で自分に融合。言ってしまえばそれだけなのだが、融合するタイミングを間違うと俺も死ぬところだった。ぶっつけ本番で出来るもんだな。二度とやりたくないけど。

 

「え、ちょ。融剛?え?なにここ天国?」

「バカ、現世だよ。」

「ええ……死んだかと思った」

「なんだよ、死にたかったのか?」

 

 俺をかばったんだ、この借りを返す前に勝手に死んでは困る。

 

「いやぁ、生きてるならそれはそれで」

「は、そうかよ」

 

 ああ、そうだ。こいつには借りがある。あの時凶器から俺を庇ったっつー借りが。さらにはさっき『逃げちまった』借りが。

 ヒーローってのは逃げてはいけないのだ。ヴィランから逃げるということはそれだけ市民が傷つく可能性が増えるのだから。もしあのまま、こいつを……友達を見捨てて逃げてしまったら俺はもう、真っ当に生きれなかっただろう。ヒーローには一生なれないのだろう。

 一度逃げたっていう過去は消せねえ。だから、もう逃げないと此処に誓う。この胸に誓い、そしてそれを体現する。

 まずは目の前のヴィラン共から逃げない。此処で、倒す。そのためには友達の協力が必要だ。必要……なのだが……。

 

「おい」

「んぅ……私かな?」

「お前以外いねえだろ?」

「そうかぁ」

 

 そうかぁ、じゃねえよ。いやそれよりもだな。

 

「お前のその……身体……なんだその状態」

「……?あ、そっか爆発のショックでイメージが完全に吹っ飛んじゃったか」

 

 そこにはまるでデッサン人形に気持ち肉を付けた程度の人型がいた。肌も無く、毛も無く、顔も、目や口といったパーツすらも無い人型が居た。

 

「これは、アレだ。生まれつきでね、気にしないでくれたまへ」

「何目線だ馬鹿」

 

 普通に考えたら、こんなモノは気持ち悪いと思うだろう。当然だ、人の形と呼べる最低限の構成物しかない存在が動いて喋っているのだ。

 だが、俺に不快感は無い。コイツは化太郎なんだから。

 

 ふと、思いついた事を試してみる事にした。

 

「あー。ちょっと待ってて。ゆっくりでも良い感じの人に変化するけんね」

「いや、無用だ。それよりお前、手ぇ貸せ」

「ん?」

 

 相変わらず化太郎の事はよく分からないが、とにかく今の形がきっと本来の、()()()()の化太郎なんだろう。この状態でコイツと融合したらどうなるんだろうな?

 

 

 

 

「ひは、ひは!木っ端微塵だ!ざまあみろ!」

「絶対死んだわね」

「ワイのオモチャも木っ端微塵やねんけど」

「ひひははは!あんな化け物をぶち殺すことが出来たんだ!やっすいものだろぉ!」

 

「……待った。見て」

「ひは、は……は?」

「……なんや、まさか!?」

 

 

『うひょー!融剛お前なんだこの個性バリかっけぇ!』

「うるせえお前耳元で叫ぶんじゃねえよ。こんなもんまだ序の口だぞ。」

『だってお前合体だぞ合体!こんなもんテンション上がらないわけないだろーが!』

「合体じゃねえ。融合だ。おら、これで少し慣らしたらギアあげんぞ!」

『おう、そうだな。これじゃあまだ乗っただけ融合とか言われるもんな。ゲートガーディアンも思わず突っ込むわ』

「褒める流れで急にディスんのやめてくれない?」

 

 

((( 何だあれ!? )))

 

 

「おぃおぃありゃどーなっとるんや!?何やアレ……なんや!」

「委細不明」

「チィッ!何で仕留めそこなったか分かんねえが……この際もうターゲットごとブッ殺してやる!!」

「……透明化」

 

 

 女が男二人の背中を触り、見えなくなった。あの女が凶器を透明化してた奴か!

 

「おい化太郎!ヴィラン共が見えなくなったから何とかしろ!」

『おっおっ?これはつまり主人公のお助けフェアリー的なポジション?おっけー!なんかエネルギー満ちてってるから私にまっかしといてー!いざ変身っ!』

 

 すると視界が急変し、見えない筈の物までよく見える様になった。どこまでも深く、深く。それは空気の流れだったり、意識の向ける方向だったり、植物の声だったり。

 頭がパニックになりかけたが、視界が勝手に不必要なモノを排除していった。きっとこれも化太郎の仕業か。

 そうして残ったのは、いつも自分が見ている景色に、うっすらと色のついた湯気のような物が見える世界だった。その湯気は自分からも出ているし、辺りの植物も、塀や建物等の無機物も湯気は出ていた。無機物から出ている湯気は明らかに植物よりも少ないし、植物から出ている湯気も自分から出てくる湯気より少ない。

 そして、前に意識を向ければ何もないが、何もないところから確かに三人分の湯気が出ているのが見えた。これが、オーラ……!

 

『どう?どう?見える?見えてる?ばっちりオッケー?』

「ばっちりオッケー!!」

 

 なら、後は鍛えた肉体で、鍛えた技術で、ヴィランを仕留めるだけだ!

 

「っ!?なんでヤツらこっちにまっすぐ来んねん!ホンマに見えへんようにしたんやろなぁ!?」

「当然でしょ?殺すわよ?」

「ひは!喧嘩は後!迎え撃つぞ!」

 

『刃物はNO!中距離攻撃だ!オーラを掌に集めて撃ち出せぃ!!』

「撃ち出す……こうか!?」

 

 自分の掌にオーラを集めるように意識を向ける。するとオーラは確かに掌に集まっていき、圧縮されていく感じがする。そしてそれを……撃ち出す!

 ヒュボッ!

 

「ギャハッ!?」

「ひは!!?な、なんだぁ!?」

「正体不明……」

 

 掌からオーラの塊が撃ち出され、方言男の鳩尾に一直線に飛んで行き、直撃をした。

 方言男はそのまま撃ち出されるように塀にブチ当たり、意識を失った。

 

「マジかコレ!強いな!」

『でもあんま連発出来ないよ!オーラが尽きちゃうと動けなくなるんだからねっ!』

「それ先に言えよ!」

「ひひはっ!距離を取るのはマズい!一気にブッ殺す!」

「近接推奨」

 

 スーツ男と女が見えない武器を持って迎撃に当たる……が、関係ない。そうだろ化太郎?

 

『変身!マッハ20の殺せない教師!』

「当たらなければどうということは無いパンチ!」

「速びごぉ!?」

 

 流石にマッハ20で殴ったら血霧になるっていうレベルじゃないので加減したが、無事意識を奪うだけで済んだようだ。

 

「さあ、ラストワンだ!」

「っ、ま、待って降参」

 

 高速で殴りかかるが、女のその声を聞き身体が一切の慣性を無視してビタリと止まった。

 

「ッちょ!?おい化太郎!急にとまんじゃねえよ!」

『それはゴメン!だけどほら、ヒーローとしてさ、敵意の無い相手を殴るのもどうなのって話よ』

「ああ?そんなモン口だけの嘘に決まってるだろ!ヴィランはとりあえず殴って捕まえた後で処罰を考えるんだよ!」

『まーまー、ヒーローたるもの、悪人には更生の機会を与えるべきだよ。ね?』

「……ちっ!」

 

(……助かっ、た?)

 

『まあ、とはいえ、だ。持ってる武器は全部捨てて貰おうかね』

「……当然ね」

 

 そう言って女は手に持っている武器の透明化を解除して地面に捨てた。バールのような物だった。

 それ以外にも腰に付けていたポーチからは刃渡りの短いナイフ、メリケンサック、針、剃刀、金槌を捨てた。

 

「……外したわ」

「ほら化太郎、これで満足か?」

『んっんー。私は全部、と言ったんだよ?』

「……全部」

『嘘はNONONO!』

 

 俺の腕が勝手に動き、女の服に手を掛け……っておい!?

 

 ビッ、ビリビリィッ!!

 

「バッ!?おま、何して!??」

 

 ジャランガランガランカラカラ……

 

「……」

「……」

『さて、もう一度言うわ。持ってる武器は全部、捨てて貰おうかしら?』

 

 引き裂いた服からは小型の銃、特殊な形状のナイフ、鋼線、マキビシ、アイスピック、靴下に小銭を入れて振り回すアレ、等、等。

 お前何処にそんなモン持ってた。

 

『捨てないというのなら、私の手で一つづつ丁寧に剥いでいってあげるわよん?』

「今は俺の手なんだけど!?」

「ガクブル」

 

 一つ分かった事がある。

 女って、いろんな所に隠せる場所があるから完全に動けなくなるまで油断してはいけないって事だ。うん。

 

「あっ!あっあっ!」

『ココか~?ココにまだ隠してんのか~?』

「やめっ!?ああっ!?」

『このカタいのはなんや~?毒針か~?注射針か~?ん~?』

 

 ぼくこどもだからむずかしいことわかんない!

 

 

 

「捕獲ヒーローただいま見参!ヴィランはお縄に……て、なぁにこれぇ」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 あの後子供がヴィランに立ち向かうなんて無謀すぎると説教を食らい、遅れてやって来た警察にも説教を食らい、保護された俺等を迎えに来た両親からも説教を食らった。化太郎は最初の説教の時に

 

「あ、電池切れだわ」

 

 といって寝るし散々だったぜ。

 ん。まあ、そういうようなことがあってからかな。俺は今までやっていたガキ大将的な悪行を止めた。暴力を振るったり虐めたりした奴らにも謝罪した。謝罪した時、ついでに何発か貰ったがな。まあ自業自得だ。

 化太郎も化太郎で全然友達が出来てない。まあ結局、ヴィラン襲撃事件に関しては大人の都合とやらで情報操作されたし、ガキ大将がいきなり心変わりしたんだ。アイツが何かしたーって陰で凄い噂流されちゃぁ友達も出来るもんも出来んわな。

 

 ……あ~、要するにアレだ。俺にとって化太郎ってのは。あ~、一言で表すのには難しい関係ってことだ。

 

「お~っし。こっちの準備はいつでもおっけーね!」

「こっちはとっくに準備終わってんだよ待たせやがって」

 

 つまり、そういう事。あれ以来、こうやって真のヒーローを目指して互いに高め合ってるのさ。

 さあ、今日の戦闘訓練を始めようじゃないか。今日こそ俺が勝ち越してやるからな。

 

 

 

 一応言っておくが、別に化太郎に恋愛感情は抱いてねえからな。だって、性格とかがアレだし。

 

 

 




今後どうせ出ないキャラの紹介コーナー。


幻影埼(げんえいさき) 真保呂(まほろ)
個性:幻影

 ひはひは言ってるヴィラン。個性の力でヒーローや警察を欺き、こそこそあくどい事を積み重ねた武闘派ヴィランチームのリーダー。
 個性の幻影は一見なんの事件も起きていない日常風景を見せるだけ。爆弾みたいなド派手な物を使うと流石にばれる。


物浮(ものうき) 繰々利(くくり)
個性:物体操作

 エセ方言使いの男。手に持てる程度の道具を浮かし振るうことが出来る個性。
 浮かせるだけなら10個くらい浮かせられるが、振るうことは同時に2個までしか出来ない。


神隠(かみがくれ) 透助(すけすけ)
個性:不可視

 見えないニンジャガール。触れた物と自身を見えなくすることが出来る。見えなくしたものは自分にも見えない。
 大量の暗器を扱い、更に見えない凶器で確実な死をお届けする。


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主人公の奮励努力的な第四話

「お~っし。こっちの準備はいつでもおっけーね!」

「こっちはとっくに準備終わってんだよ待たせやがって」

 

 なんだか戦闘準備が整うまでものすっごい時間が掛かったような気がするがそんなことは無かったぜ!

 親友と対峙しながら改めて訓練のルールを思い起こす。

 

 ルール壱、互いに相手をヴィランだと思う事。

 ルール弐、殺傷を目的とした攻撃は禁止。

 ルール参、最後まで油断してはいけない。

 

 ルール壱は、まあ互いに本気を出しましょう程度の意味と弐、参を意識した作りになっている。

 ルール弐は、壱を前提とし、それでも相手を確保しろって事だ。ヒーローたるもの、いかなる理由でもヴィランを死に至らしめてしまってはいけない。まあ、ヴィランを殺すのはヒーローじゃなく法ってことさぬ。

 ルール参は、この戦闘訓練をより実践的に捉えさせる働きがある。ヒーローに捕まりました。参った。で終わるようなヴィランなんぞ居ないってことだ。捕まってもまだ暴れられるだけの体力や個性が残っているのなら生き足掻こうとするのがヴィラン人情。

 ……ちなみに今までで最後の最後の油断で逆転負けした回数はもはや両手の指では数え切れない。学習しねえな私。

 

 さてここで問題です。此処に、あらゆる物と融合できる男と、様々な物に変身できるヒトが居ます。どの様にすれば捕獲できるでしょう?

 

A.相手が動けなくなるまでボコる。

 

 普通にヒモかなんかで括っても、どちらも個性で容易に脱出が出来る。故に個性が使えなくなるまでボコボコに殴って体力を奪うのがセオリーというか唯一の解法というか……そういうアレなのよ!個性も身体能力、使い続ければいつか疲れ果て機能しなくなる。ならば疲れ切るまで延々とマウント取り続けるしかないじょのいこ。

 

 そう、何が言いたいかというとですとね……

 

「さあ、行くぜ。『融合活人拳(フュージョンアーツ)』!!」

「かかってきんしゃい。『変幻自在戦闘モード!!(メタモルコマンド)』」

 

 互いに必殺技ぶつけまくっても千日手になっちまいやがりやすんですねんよ!

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 つま先だけ地面と融合し、すぐに融合解除。その時に勢いよく分離することにより踏み込みの勢いにプラスされ、たった一歩で爆発的な推進力を得る。見た目上ではほぼ予兆の無いこの技は『縮地』と呼ばれてる。呼んでるのは主に化太郎だけだが。

 弾丸の如き速度をもってあいつに接近。先手必勝とばかりに腕を伸ばし掴みかかる。捕まえればそのまま地面と熱烈に融合させることが出来る。ま、()()()()()()()だがな。

 パシャン。

 水が打ちつけられたような音をたて、視界から一瞬にして消え去った化太郎。この時慌てて化太郎を探そうとしてはいけない。飛びかかった勢いをそのままに化太郎の消失点を超え、離れる。

 ズブァッ!

 重量のある()()が振るわれる音が聞こえた。地面に飛びこむようにして受け身を取りながら音が聞こえた向きを確認すれば、銀色の人の胴体ほどもある大きさの握り拳が突き出ていた。

 これでだいたい予想がついた。今、化太郎は水銀のような何かになっているのだろう。化太郎の基本戦術の一つだ。

 

 化太郎は、その日の調子に物凄く左右される。その個性は、十全に使いこなせることが出来れば敵なしなのだろう。だが、制御方法が『自分のイメージ』だけ故にあまりに不安定だ。

 俺の個性なら、ベースは常に俺。個性発動時において起点は常に俺。言ってしまえば、1+1=2にする個性であり、片方の1は基本的に俺だから発動も、制御も容易い。

 だが、化太郎は常に自分だけの数式を組み立て続けなけらばならない。それが小学生レベルの物になるか高校レベルの物になるかは、全て化太郎のイメージ次第。しかも数式が簡単なら制御も簡単だ、数式が難しければ威力も高い、等というものでは無い。目まぐるしく状況が変わり続ける戦闘時、非常時において確固たる『自分のイメージ』を持ち続けなければならない。

 何かしらの理由でそのイメージが揺らいでしまったが故に無防備な隙を晒した、なんて事が今までに何度もあった。だが、逆にどれだけ手を付くしてもイメージが一切揺らがない時だって何度もあった。

 

 何が言いたいというと、今日の化太郎は今まで俺が知る中で最高に調子が良い状態だということだ。

 水銀のような何かになっており、その身体を自在に操って水銀の拳を作り上げた。見た目質量と振るわれた時の音からして、重量もかなりの物だろう。何よりもあの速さが、当たればヤバイって事を否応にも無く理解させられる。

 化太郎曰く、『不定形だからこそイメージし易いが、反面攻撃に転じるとイメージがブレ易い』液体状の姿でありながらしっかりと攻撃のイメージが確立している様子を見て冷汗が出てくる。

 

 水銀の拳が解れ、ばらばらと棒状の何かに変わっていく。イメージがブレた……のではなく、次の布石か!

 

「叩いて伸ばしちゃうよー!」

「悪いが、俺は褒められて伸びるタイプだ!」

 

 棒状の何かは、ウゾウゾと姿をクネらせて伸びていく。それはさながら、イソギンチャクの触手の様だった。男の触手プレイとか誰得だよ……。

 直後、触手の一本が鋭い軌跡を残しながら俺に向かって振るわれる。

 一歩、脚を動かすだけで回避したが、振るわれた触手がその勢いのまま地面に叩きつけられ、地面に浅くはない穴を開けた。

 

「……人に向ける技じゃねえだろそれ」

「大丈夫!直撃しても骨の一本や二本パッカーンするだけだから!」

「ソレを向けられてる俺からすりゃ大丈夫じゃねえやい」

 

 触手は未だに水銀と同じ位の質量を保持しているのか重く、それが高速で振り回されることから直撃すれば相応の衝撃が身体を貫くだろう。少なくとも、頭に当たっちまえば頭蓋骨がパッカーンするのは間違いなさそうだ。

 ……流石に、そんな事は起きないように計算して振るってるとは思うがな。

 

 なんにせよ、このままの状態であの攻撃を受けたらダウンは必至。倒れたら当然のようにマウントを取られ、その重量で一切の身動きが取れないまま一方的にボコボコにされる。故に生半可な異形系や増強系個性ならそのままノックアウトだ。

 だが、俺は違う。

 数多の触手が鞭のように振るわれ、一見すると逃げ場が一切無いかのような面攻撃が行われる。しかし、俺の逃走経路は常に確保されている。

 『縮地』の時はつま先だけを地面と融合し直後に解除したが、何も地面と融合できるのはつま先だけではない。俺の全てを地面と瞬間的に融合する!

 その直後、『痛い』では済まされない高威力の鞭が嵐のように俺が居た所に落ちてくる。こんなモンに生身で当たったら身体がバラバラになるわアホ!

 

 だが、もう()()()は終わった。

 

「HEYHEY!フュージョンボーイ、ビビってんのか?わちき達がやってんのはかくれんぼ違うさぬ!」

「ああそうだ。捕獲勝負だもんな?」

「ひょ?」

 

 バグン!と化太郎とその周囲の空間ごと土と草で出来た逆開きのくすだまにぶち込む。

 個性訓練とは、発想との勝負。自分が出来ると思えた事は訓練してでも出来るようにしておくべきだ。このようにな。

 地面と融合した俺は、圧し固められた土で出来たいわゆる『土人形(ゴーレム)』の様な姿を取る。それは、自身の身体能力に土の頑強さと重量を更に加算する、お手軽戦闘用コスチュームな訳だが、その本質は違った。周囲一帯の地面を操り、自身の手足の延長線にすることこそがこの姿の真骨頂だったのだ。

 地面の中で土の半球と半球を造り。相手を巻き込むように、半球同士をトラバサミの如く勢いよく閉じ合わせる。するとそこには、土で出来た巨大なくすだま(相手入り)が出来上がるのだ。

 突然、土で出来た拘束具の中に閉じ込められるのだから相手からすればたまったものでは無いのだろう。身じろぎ一つとれない様にガッチリ土を固め、脱出をより困難なモノにする。『土人形(ゴーレム)』状態の俺なら、土の中の相手の様子が手に取る様に伝わってくる。故に窒息しかけたなら呼吸用の吸排気孔を作ればいい。これにより事故なくヴィランを捕獲できるようになった。

 

 だが、それでもまだ油断は出来ない。何故なら今の相手はあの化太郎なのだから……

 

「んん~~!ミッシングパワー!」

 

 ドバァン!とくすだまを内側から割られる。見れば、化太郎の身体が3メートルほどに巨大化していた。

 化太郎の変身は、自身の元々の質量に囚われずに変化することが出来るらしい。つまり元の化太郎の体重が30キロだったとしても、変身後の重量は化太郎がイメージした通りの重量に変化出来る。質量保存の法則何処行ったし。

 

「さあ第二ラウンドでゲソ!」

「せめて見た目と口調を合わせる努力をしろ」

 

 化太郎がその巨体の四肢を振り回す。巨体相応の重量が当たれば『土人形(ゴーレム)』形態でもただでは済まないと告げている……が、その巨体相応に動きが緩慢でもあり、当たる事も無い。

 

「と思っているのかァ?」

「は?」

 

 右の大振りを悠々と回避した次の瞬間、視界の端から光る何かが高速で飛んできた。転ぶようにして避けたが、体勢を崩してしまった。

 その、隙を狙われた。

 

「それ土竜昇破拳(巨)」

「お前ソレ巨体でやる技じゃバッ!?」

 

 地面が爆発した。下から突き上げるような衝撃に成す術なく空へと吹き飛ばされる。あまりの勢いに纏った土鎧の一部が剥がれ飛ぶ。

 

「フハァーン!空に浮いてしまえば身動きもとれまーい!」

 

 化太郎の両手から大量の光弾が放たれる。これは直撃待ったなしだ。

 

「と思っているのか?なんてな」

「フォッ!?」

 

 初手の『縮地』と原理は一緒。俺は融合を解除する時に勢いを付けることで離脱するように跳ぶことが出来る。勿論、融合対象が俺より軽すぎたらそっちが飛んで行くがな。今は『土人形(ゴーレム)』がかなりの重量を持っている。ソレを空中で脱ぎ捨てるが如く光弾の直撃コースから逃れる。代わりに土鎧が何処かに吹っ飛んでった。

 

「んに……逃がさん!」

 

 再度光弾が放たれる……が、自分に直撃するコースの数個だけを、融合解除するときに敢えて残した石を投げて壊す。そのまま石があらぬ方向に飛んで行くが、俺が無傷なので無問題。

 漸く地面の上に降りた。さて、仕切り直しだ。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ううーん。やっぱり融剛は強い。私は家系的に()()()()()()()()()()からともかく、融剛もヒーロー一家の期待のタマゴなだけあってかなり厳しく育てられている。私も融剛も、既に戦闘面ならそこらのプロヒーローに後れを取らないとのお墨付きを頂いている。しかし私達の夢は、トップヒーローなのだ。『そこらのヒーロー』程度の強さで満足していられない。

 ……いや、もっと本質的な事を言えば、負けたくないのだ。目の前の相手に。

 融剛は私の親友でもあるが、ライバルでもあるのだ。なら、負けられないじゃないか。

 さあ、テンションが上がってまいりました。私の顔。私だけの新しい『顔』がここに在って、何でも出来そうな気分だ。素晴らしい。

 何でも出来そうで思い出したわん。きっと今なら考えてた必殺技イケるかもにゃ。うふふ、見てろよ見てろよぉ~。

 

 さあ、今から始まるのは歴戦ヒーロー達によるスペシャルパレードだ!

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ……雰囲気が変わった。なんとなく、化太郎が良くない事を考えている気がする。化太郎と長く付き合っているが、最近どうもこういった『第六感』とでも言える物が発達していってる気がするなぁ。

 化太郎がその巨体の両腕を更に巨大化させ、地面に振り下ろす。何が目的か分からないが、この距離じゃあ俺に掠りもしないぞ?

 巨大な腕が地面に振り下ろされ、辺りに相応の衝撃波をまき散らす。その衝撃で土埃が巻き上がり、視界を遮った。何のつもりだ?

 と、思ったその時。土埃の中から大量の小さな錨が飛んできた。これは……。

 

「必殺!キャプチャーアンカー!」

 

 小さな錨は、よく見たら細いロープが結ばれていた。そのロープを巧みに操り、一見不規則に、だが精密な計算が成された軌跡で俺を追い立てる。避けるが、数が多すぎて躱し切れない。直撃こそ避けたが、小さな錨がロープと共に腕に巻き付いてしまった。まあこの程度のロープならすぐ斬れ……

 

「ボルトアンカー!」

 

 身体に巻き付いた怒りがデカく、重くなった。あまりの重さに抵抗することも出来ずに腕が怒りと共に地面に縫い付けられた。

 ってか、この捕縛方法は『キャプテンアンカー』のじゃねえか。マズい。これはマズい。

 腕に巻き付いたロープを自身と融合。そしてすぐ解除。拘束から離れたが、その隙だらけな姿を見逃すほど化太郎は甘くはない。

 

「でやあああああああああああ!」

 

 大気が震えたんじゃないかって言うほどの気合いの入った声を出し、いつの間にかその手に持っていた竹刀で超速連撃を繰り出してきた。今度は……『バンブシドー』!?

 この振り回す竹刀が普通の物だったならば多少痛い程度なのだが、アレは間違いなくバンブシドーの『雷光竹刀』。一撃目を食らったら、竹刀から弱めのスタンガン程度の電気が流れて体が一時的に麻痺し、すぐさま二撃目が、そして三撃目が、と体力が尽きるまでボコボコにされ続けてしまう。

 一旦退こうにも既に間合いの中。間違いなく一撃は貰ってしまう……ならば、俺も切り札を切るしかない。

 

「『ダメージフュージョン』」

 

 竹刀が振り下ろされる。それを俺は、掌で受け止める。そして流れる電撃を()()する。

 これが、俺の個性の真骨頂。相手の攻撃と自身を融合する。融合した攻撃はそのまま返すことも出来るが、その攻撃力を形を変えて自身の攻撃力に加算することも出来る。

 かなり強力な技だが、欠点も当然ある。この技は基本的にカウンター技だ。目に見えない『ダメージ』を自分と融合する所為か、普通の物と融合する時とは勝手がだいぶ違う。なにより動きながら発動が出来ない。そして、来ると分かっている攻撃しかまだ融合が出来ない。さらに言えば、ダメージを融合しきれる許容範囲を超えて融合しようとすると、内側からダメージが()()()

 ぶっちゃけ、欠点とは言えない程度の欠点かも知れないが、相手が化太郎となると話は別だ。先の光弾のように、さも当たり前のように人体の構造を無視しまくった攻撃を仕掛けてくる。さらに言えば、今までの経験上、化太郎は『人の死角を取るのが上手い』。死角とは、認識の外だ。『ありえない』を平然とやってのける規格外さが化太郎にある。まあ、とは言えそれも化太郎のその日の調子に左右される要素なんだが……。

 

「ぶるぁあああああああ!!!」

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

 化太郎は一息で超速の連撃を繰り返す。俺はその連撃に対して的確に掌で受け止め、流れる電撃を()()する。化太郎の息が切れるか、俺の許容量が限界を迎えるかの我慢比べになった。

 我慢比べの結果は、意外とすぐに現れた。化太郎の竹刀を振る速度が目に見えて落ち始めてきた。

 

 今ッ!吸収したダメージを今度は()()する!

 

「『ダメージディフュージョン:エレキストライク』」

「つ”ぁばばばばばばッ!?」

 

 攻撃と攻撃の僅かな合間。刹那に腕を滑り込ませ、竹刀を振るう化太郎の腕を取った。腕を引き、化太郎の腹に掌底を撃ちこみ電撃を解放した。そのダメージは、バンブシドーのコスチュームである武者鎧を貫通し化太郎に直撃した。

 けして軽くはないバンブシドーの身体が地面を離れ宙に浮く程度の威力でもってもまだ化太郎は倒れない。むしろ空中で器用に受け身を取りつつまた変身した。調子に左右されやすいとはいえ、今日の変身頻度と速度が早過ぎる!

 

「ロケットアームズ!」

 

 空を飛びながら、その両腕を射出した。今度は『アストロハンド』だと!?ミサイルの様にその両腕が俺に向かって飛んでくる。俺はその腕を叩き落とす……が、空中を自在に動ける腕を捕らえることは出来ず、むしろ逆に俺がその両腕に捉えられてしまった。

 

空気一本背負い(エアロ・ア・ラウンド)!!」

 

 一瞬にして天地がひっくり返り、地面に叩きつけられる。

 こ、呼吸が……

 

D・D・G!!(Deadly-Dive-Graveyard)

「ガボッ!?」

 

 瞬間的に空に引き上げられ、振り回す様に地面に再度叩きつけられる。

 あまりの加速度に意識が一瞬遠のいたが、気合で無理やり意識を繋ぎ止める。

 が、化太郎は容赦がなかった。

 

「マウント頂き」

「っ……!」

 

 衝撃で呼吸すらままならない俺に向かって、()が拳を振り下ろす。

 

「ダメージディフュージョン:キャノンインパクト!!」

 

 

ドズゥゥゥン!

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 勝った!第三部完!

 いやまだ三部始まってすらいねえよ、それどころか序章終わってもいねえよ。

 ……あれ何言ってんだ私。ま、いいや。

 ふふふ、やはり今日の私はサイキョーであった。間違いない。これはトップヒーロー目前ですわ。

 いやはや。良くあれだけのヒーロー達に連続して変身出来たよね。んっん~自画自賛。

 よしよし、ヒーローの必殺技を連続して借り続けるこの変身技。早速名前付けしなくては。必殺技には名前を付ける物。古事記にも書いてある。

 うーん。やっぱり『HERORUSH』かな?安直すぎるかにゃん?

 ん~、『HEROVision』……ちょっと違うな。

 『ExtraHERO’s』……ちょい狙いすぎかな?もっと自然な感じのネーミンg ズボォッ!!

 

 はて、気が付いたら首から下が地面に埋まってますわん?

 

「お前最後まで油断するなってあれほど言われてただろうが……」

「ばかなっ!?貴様、死んだ筈では!?」

「殺すな馬鹿」

 

 あぁん踏むのらめぇ。

 

「お前はとにかく最後は大振りって決まってるからな。まあ、やられた振りして倒れてればトドメを刺しにくるだろ。とは言え、アストロハンドの投げはキツかったがな……。まあそこを狙ってダメージフュージョンで防御。反撃を……と思ったところでお前が油断しまくりだったからなぁ。こうして拘束させてもらった、と言う訳だ」

「ぐぬぬ……。今日はとにかく絶好調だったのにぃ。サイキョーへの道は今だ遠し」

「はいはい。ということで今日の戦闘訓練は俺の勝ちだ。今日はもうおしまい」

「ぶーぶー、もっかい!次は勝てそうな気がしないでも無いわけじゃないぜ!」

「喧しい、疲れた、終わり。今日はもう帰れ」

 

「おっとそうはいかないわよ?」

 

 融剛の後ろからそこそこに聞き慣れた声が聞こえる。そっちに意識を向けたら、ニコニコ笑顔の調律姐さんが立っていた。

 

「んだよ律姉、俺とっとと汗流したいんだけど」

「助けて調律姐様!融剛の奴が急にSに目覚めたの!」

「喧しいぞ負け犬。口を慎め負け犬」

「酷い!」

 

 そんなやり取りをにこにことしながら見つめる調律姐さん。いや、むしろもっと笑みを深めて……。

 

 そこで私は妙な違和感を悟った。

 何かとんでもない、とんでもない間違いを犯しているかのような、そんな違和感。

 

 すごい違和感を感じる。今までにない何か肌寒い違和感を。

 風・・・なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。

 中途半端でやめよう、とにかくこの辺で帰ってやろうじゃん。

 視界の向こうには融剛がいる。決して一人じゃない。

 信じよう。そして彼に任せよう。

 もしかしたら融剛が邪魔に入るだろうけど、絶対に流されるなよ。

 

 地面から出てる顔を辺りに向ける。そう、違和感の正体はこれだったのだ。

 

「融剛、唐突で悪いけど私は帰る事にするよ」

「え?お、おう?」

 

 私はミミズ。私はミミズ。私はミミズ。私はミミズ。私はミミズ。

 

■■■■■(まちなさい)

「ピュィッ!?」

 

 今なんか人語ではない何かが聞こえたような。

 あ、あ、あ、だめ。身体が自分の意志に反して動かされるこれ、だめ。

 もこり、と地面から顔を出す私。すると目の前にはとても深い笑顔をこしらえた調律お姉様が。

 ああ、私はその時魂で理解した。笑うという行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である事を。

 

「私は、毎回毎回、何度も何度も、口を酸っぱく、すぅぅっぱくして言ってるよね。庭を荒らすなって。言ってたよね」

 

 その声はまるで地獄から響く怨念の声のように。

 

「なのにあんた達と来たら、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も……」

 

 やばい。先ほどの戦闘訓練とかいつぞやのヴィランにリンチされた時以上の生命の危機が訪れている。私のサイドエフェクトがそう言ってる。

 逃げよう。こんなもの、人が対峙出来るものじゃない。動け、動け動け動けぇええええ!!

 俺は……無力だッ!誰も救えない、ただ自分の身を護ることしか出来ないなんて……!すまない融剛。俺は、俺はお前を……見捨てるっ!

 再びモコモコと地面に沈んでいく。

 

 

 ▼ しかし まわりこまれてしまった。

 

 

「よぉ親友。お前俺を置いて逃げるとか無いよな?」

「何を言っているのでしょう大親友。そんなことはある訳無いじゃないですかだからその手を放してください」

「お互い死ぬまで一緒って約束したじゃないか。俺達、ズットモだょって」

「えぇえぇ、どうせ人間死んだら皆同じ所に行くんです。だからちょっとの間離れてようとも大丈夫ですよ」

「いやいや。ほら、今の俺ってウサギモードだから。寂しいと死んじゃうから。だからお前も一緒にいようぜ」

「馬鹿なこと言わないでください。ウサギほど縄張り意識の強い小動物なんてそうそういる物じゃあありませんよ。だからここはお互い少し距離を取ってですね「ねぇ」ピヨッ!?」

 

 

 私達二人はゆっくりと、ゆうっくりと同じ方向に首を向けた。

 すると、そこには

 

 

庭の修繕。お願いね?

 

 

 

 ああ。未だ嘗てこのようなお願いなんてあっただろうか。(反語表現)

 私達は同じ言葉を紡ぐことしか出来なかった。

 

 

 




 原作開始までこのような戦闘訓練を続けていくことで経験値めっちゃ貯めていくってスタイル。
 原作開始時にはヤベー強さに育ってます。既にヤベーですが。


化太郎の変身先リスト

水兵ヒーロー『キャプテンアンカー』
 いつもセーラー服(学生服じゃない方)を身に纏い、錨を担いでいる女性ヒーロー。
 個性は『重厚長大』。持っている物を重く、厚く、長く、大きくできる個性。変化させたものを元に戻すことも可能。
 セーラー服の中に隠している紐付き錨を用いて主にヴィラン確保をしている。
 融剛の両親であるヒーローコンビ『ゲームマスターズ』の相棒サイドキック

サムライヒーロー『バンブシドー』
 コッテコテのサムライ服を身に纏い、腰に竹刀と竹光を挿しているアメリカ生まれの日本オタク。
 個性は『帯電剣』。剣状の武器に麻痺属性を付与する。
 元々無個性と思われていたのだが、日本オタクを拗らせて日本に行き、剣道体験したところ個性が発現した。化太郎はすぐに息切れしたが、本物は相手が倒れるまで打ち込み続けても息切れ一つしないスタミナ馬鹿。1対1ならかなり強い。『ゲームマスターズ』の相棒サイドキック

ロケットヒーロー『アストロハンド』
 元々コイツを主役に考えていたが格闘系ヒーロー多くね?(原作にも二次創作にも)との思いから主役から外れてしまった悲劇のヒーロー。でも個性はなんか好きだからせめてもの供養。
 個性は『操腕』。自分の腕を関節単位で切り離し、見える範囲まで自在に操ることが出来る。腕だけワンピースの道化のバギー。必殺技名が無駄に格好いい。


『ミッシングパワー』
 幻想郷に住むとある鬼の技。身体がでっかくなっちゃった!

『土竜昇破拳』
 ジャンプ漫画でドラゴンをクエストしている漫画のとある拳聖の技。



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主人公の宿敵登場的な第五話

緑谷出久に死柄木弔がいるように。
オールマイトにオール・フォー・ワンがいるように。
主人公にも宿敵となる存在がいるようです。



「これ以上この地に狐狸共をのさばらせておく訳にはいかぬ」

「そうだ」

「然り」

「奴らを駆逐するのだ」

「……」

 

 ここは、日本のとある県の地下。巨大な地下帝国の会合所。そこに、明らかに人ならざる者達が大勢顔を突き合わせていた。

 ザワザワと、議長の居ない会議が無意味に進行していく。

 

「あの禿狸と女狐が手を組んでから何一つうまく行っておらん!」

「西だけでなく東にまで勢力を伸ばしおる」

「おとなしく片田舎に籠って居れば良かったものを」

「彼奴等さえ居なければ我等が天下を取っていた」

「……」

 

 ザワザワ。各々が好き放題に語り出すその様は正に無駄話としか表現が出来ない。

 

「今月に入って我らが傘下が既に5人やられおったわ」

「ワシらの所の若いモンは既に半数が奴等の手に……」

「そも、かの騒乱から先詠のとも連絡が取れん。ヤツはわえ等の期待の星じゃったがな」

「……」

 

 そんな中、不気味に沈黙を貫き続けている者が一()

 座布団に胡坐をかきながら分厚い書物を広げ読み進めているその姿は、まるで大きな汚い毛玉とでも言えるような姿だった。

 周囲の人ならざる者と比べ、一回りも二回りも大きいその姿は薄暗い会合所の中でも目立つ筈の存在だが、背景と同化するように気配を殺している。否、それがその者にとって当たり前だった。

 

「そう言えば聞いたかのぅ?浄土様のご容体が芳しくないらしい……」

「ふん、わえ等よりも無駄に長生きしてるくたばり損ないめ。とっとと死ねば良い物を」

「ほほ、浄土様が斃れれば、次の覇権は必然的にワシら『経立会』が握る事になるのう。今の内に地盤を固めておくに越したことは無いわいの」

「フン、他の奴等が首級を挙げない事でも祈るのかぃ?」

「馬鹿々々しい、ワシらでもまるで歯が立たん相手にヤツらが束になっても敵うもんか!」

「ひょっひょっ、束になる前にぬしが散らしておいて、よく言うわぃ」

「……」

 

 音もなく書物を読み進めるが、聞こえてくる不快な会話に遂に限界を迎えたのか読む手を止める。

 

「とにかく一刻も早く狐狸共を駆逐するのじゃ!」

「なら駆逐できる案を早く出しんじゃ」

「浄土様も近いうちに斃れる。なら我等が覇権を握ってからでようやろぉ」

「ひょひょ、それまでにやつ等が我等を滅ぼしに来なければええのう?」

「それよりも狐狸共が更に力を付け始めておる。例のアヤツは余りに手ごわいぞ?」

「はん!所詮今だガキの分際よ!このワシに掛かればすぐに殺してやるというのに!若いモンはどいつもこいつも役立たずよのう!」

 

 バタンッ!と力強く書物を閉じる音が響く。

 その音で、漸く会合所に集まる者達が其処に座っている者に気が付いた。

 

「やっかましいんじゃジジババ共がぁぁあああ!」

 

 聞いた者の全身の毛をぶわりと逆立てるほどに大きな声が耳を貫く。

 

「何だ何だよ何ですかァ!?老害共が揃いも揃ってブツブツザワザワダラダラベラベラ無駄話してェ!僕は此処で『経立会』の未来について話し合うって聞いてるんですがァ!?実際どうだァ!?テメエ等の老い先短いクソッ垂れのプライド守る為に毎日毎日こんなくっだらねえ話し合い繰り返してんのかァ!?」

「なんじゃ貴様はッ!このワシを誰だと思っておるんじゃ!」

「ゴミみてえなプライドを守る為に同胞何十匹も見捨てたクズ共のトップだと思ってますがァ!口だけは達者の実力皆無で智将ぶってる無能な頭だと思ってますがァ!?」

「き、き、貴様ッ!殺せ!この無礼者をぶち殺せ!!」

 

 偉そうにふんぞり返って指示を飛ばす。だが、帰ってきたのは断末魔の声だった。

 

「ギャアアアア!!」

「な、何ぃ!?」

「ああ、失礼。主に牙を向けようとした者の()()()牙を抜いてしまいました。次は上手くやるので、どうぞお気になさらず」

「あ”、あ”がぁ……が、が……」

「『実力主義』が理念ならテメェがかかって来いよなァ?あーあーァ、上が腐ってんのは知ってたが、まさかここまで腐り落ちてるとは思わなかったぜェ……」

「き、貴様……何者じゃ……!」

「ああァ?はっ、テメェ等の腐った脳味噌にゃぁ金と権力とプライド以外覚えてられるモンが無いらしいな。まあいィ、僕は優しいからよォ。そのクソの詰まった脳味噌抉じ開けて良く聞けよォ?」

 

 先程まで誰にも認識されていなかった筈の存在が、いまや誰もが目を放せぬほどに存在感を放っていた。自身の気配に、殺気と狂気を乗せて辺りに放つ。

 

「僕は『旧鼠 公星(きゅうそ こうせい)』。テメェ等が使いつぶそうとした若手の希望(ホープ)にして、腐ったカス共に絶望(ディスピア)を与える英雄(ヒーロー)だァ。冥土の土産に覚えておきなァ!」

 

「貴様、どこまでの舐め腐りおってぇ……!」

「腐ってんのはテメェの根性だろォ?まあいいやァ、『経立会』の膿を捨てて僕が新しい会長に就いてやるよ。精々テメェは無様に騒いでなァ?」

「貴様、貴様貴様ぁ!!この経立会が今の今まで続いてきたのは誰のおかげだと思ってるんじゃ!!」

「うるせえんだよ騒ぐだけの老害がァ!誰のおかげで続いてきただァ?テメェ等が食いつぶしていく未来の為に命を掛けていった同胞のお陰だろうがァ!テメェ等ザコ共が何時までも昔は昔はなんて言ってるから狐狸共にいいようにやられてここまで衰退したんじゃねえのかァ!?」

「っぎ、貴様ぁ!!ワシがこの手でブッ殺してやる!『針万本地獄』!!」

 

 一番の上座に座っていた()()()()()が身体を膨らませ、その身の針を太く、長く、そして数え切れない程に増やしていった。その両手足が地面に付かないどころか、人一人分の大きさを余裕で超えるほどに肥大化し、転がっていく。

 

「木材すら容易く貫くワシの針で串刺しになれぃ!」

「主」

「引っ込んでろォ」

 

 自転車程度の速度で転がってくるソレは、事実公星にとって回避は余裕なモノだった。だが、一切回避するつもりは無かった。ただそこに悠然と立っていた。

 

「その余裕を抱えたまま死ねぇ!!」

 

 その針は、木を貫けるほどに硬かったのだろう。その身は、人を轢き潰せるほどに重かったのだろう。

 だがしかし、その針は公星の皮膚を貫くことは無かった。その重量は公星を轢き潰す事は叶わなかった。

 

「っくはァ」

 

 哂う。嗤う。歪な顔で嘲笑う。

 

「ざんねェんだったなクソジジイ。僕の毛皮は鉄より硬ェんだ。その程度でイキがれたのは昔の奴等が全員ザコだったからなァ?時代遅れのカスがいつまでものさばってんじゃねえよォ」

 

 ただ片腕を伸ばし、醜く膨れ上がったハリネズミの顔を掴むだけで攻撃を受け止めた公星は最後の慈悲をみせる。

 

「このまま握りつぶすのは簡単だァ。だが、テメェが今まで切り捨てた同胞に謝罪をするのなら握りつぶすのは考えてやるよォ」

「(なんだ、なんだなんだなんなんだコイツ!?このワシを、経立会の会長たるワシを何だと思っておるんじゃ!?誰がこの『浄土』において最勢力を誇る経立会を育てたと思っておるんじゃ!?)」

「どォした?謝罪一つも言えねえ程にビビったかァ?それとも同胞にすら下げる頭は無いとその下らねえプライドが言ってんのかァ?」

「(コイツっ……言いたいように言いおって!殺す!コイツは絶対殺す!だが、今はコイツの隙を伺わねば……!)」

「そうかァ、下げる頭はねェか。なら……」

「ま、待て!ワシは……くっ、ワシが間違っておった……。お前達若いモンを大事にするべきじゃった……。(屈辱じゃっ!だが今は耐え忍ぶ時……)」

「……そうか、そうかそうかァ」

 

 そう言って、ハリネズミの頭から手を放す公星。

 

「(馬鹿がッ!ワシの切り札がこの針だけだと思ったか!)」

「つまりあいつ等はただテメェの自尊心を守る為だけに散っていったって……言ってんだなァ?」

「は」

 

 刹那。頭部を()()()()ハリネズミは何が起きたのかも理解出来ないままに息絶えた。

 

「握りつぶすのは止めてやる。代わりに無様にィ、無惨にィ……殺してやるよォ」

 

 バリッ。

 バリッ。

 既に息絶えた死体の針を剥ぐ様に食い千切ってはそこらに散らす。

 

「ハッ!老害にしちゃぁキレイな死に様だなァ!そのまま派手な葬式にしてやるよォ、感謝しやがれ!」

 

 ブチッ。

 ブチッ。

 その四肢を捥ぐように引き裂き、そのはらわたを千切るように引きずり出す。そこに死者に対する尊厳など一切考えられてなかった。食べるために死体を解体する訳でも無い。弔うために死体を解体する訳でも無い。猫が鳥の死体を引きずり回し、振り回し、飽きて捨て置くように。ただの気まぐれで引き起こされた凄惨な場面を唯々見ていることしか出来なかった経立会の重鎮達は正気を保っていられなかった

 

「馬鹿な、こんな、有り得ぬ。有り得ぬ。有り得ぬ」

「ひ、ヒヒ、ひひひひひ」

 

 そんな中、唯一正気を保っていられた()()()()()()は公星にすり寄っていった。

 

「お、おお!お主こそが次の浄土様に相応しい!お主ほどの実力があればこの地を真の意味で統一することも出来るじゃろう!どうじゃ?この婆がお主のさぽーとに付けば正に鬼にかなぽギャ」

「あ?テメェ等老害は残らずぶち殺し確定だァ。膿は残らず絞り出さなきゃだよなァ?」

「おっしゃる通りで御座います」

「なら残りは任せたぞォ?」

「御意に」

 

 ほんの僅かな間。ただそれだけでこの場にいた生命の殆どは死に絶えた。あえて惨たらしく、あえて残酷に。死体を穢し、辱め、虐げた。その空間は悪意と害意によって満たされたのだ。

 

「おィ」

「はっ」

 

 公星がただ一言声を出せば、一匹のリスがまるで元から其処に居たかのように跪いていた。

 

「経立会及び他の組の幹部共に伝えなァ。『今より、旧鼠 公星が経立会会長に就任する。従うなら生きる事を許す。だが従う気が無いのなら、この僕が直々に殺しに行く』となァ!」

「御意に」

「っくははァ!ああ、これで漸く経立会を手中に収めた。そして間もなくこの浄土全域を支配できるだろォ……。あァ、後は浄土様がとっとと死ぬのを待つのと……邪魔な狐狸共を殲滅するだけだァ。あァ、長かったなァ!もうじき、もうじきだァ……!くは、折角だァ。狐狸共の『期待のホープ』ってヤツの顔でも拝みにいって来るかァ?今週号のジャンプを読んだ後でなァ!!」

 

 くは、ははは、はははははァ!!

 

 

 ゲホッゲホッ

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 私 で す 。

 さて、早いもので中学校に入学してからもうじき3年になるぜ。つまり私は3年生ってわけだぜ。

 思えばあれからすったもんださすさすちゅっちゅあったけんど、大きく変わった事と言えば志望校はやっぱり雄英高校だよなってところかな。変わってないと言えば変わってないのかも。

 あ、それとヒーロー志望友達が増えました。やったね。今まで友達少なかったからね。片手で数えられるほどってマジ卍。

 

 泣いてないし。

 

 そう、私の新しい友達のお話。ヒーローを目指してるフレンズなんだね!

 まあ、多くは語らないけどのっぺりぼでーがチャーミーパイセンでヤバみ。

 そんな友人と融剛と私の3人で放課後よくトレーニングをしている。ついでに勉強もよく教えて貰っている。むしろ最近は勉強がメインストーリー感ある。メインストーリーだけじゃなくサブクエストが充実してるRPGは名作ってそれマジ卍。

 

 仕方ないんじゃ!雄英って滅茶苦茶倍率高いんじゃ!体鍛えるだけじゃなく頭も鍛えなきゃいかんのじゃ!卍の書き順だって出るかもじゃんって何だよ!?出るか!いや、出るか?出、出る?あれ、出って漢字こんな字だったっけ?出出出出出出出出炎出出出出缶出出川出出出山出出出出出

 

 そんな事よりおうどん食べたい。ソバよりウドン派。キノコよりタケノコ。イカよりタコってそれ。

 な、何の話だぁ!?

 

 うえぇん。勉強嫌いぃ。僕たちは勉強が出来ないぃ。

 そう、新しい友達はその個性的に一度覚えた物は忘れそうもない。正に頭の出来が違うって奴だ。親友は親友で知識を頭に融合するとか訳わかんない事……え、やってない?まぁじでぇ~?

 

 ぽいぽい(閑話休題)

 

 私は生まれつき謎の記憶を持っている癖に、残念ながらこの記憶が勉強において全く生かせないにゃん!詐欺じゃん!かなーしーみのー。

 そう、悲しみの余り最近見かけたMt.レディ(私服ヴァージョン)に変身しながら雄英の過去問とにらめっこしながらアイス片手にペロペロペロリーヌしながら帰路についていた。

 

 すると、

 

「キャァアアアア!!」

 

 女性の絶叫!?

 この声は、まさかのさとりん!?あの、大人顔負けの毒舌砲をブッパしてくるさとりんが悲鳴をあげるなんて!?

 新鮮!

 

 じゃねえよ馬鹿野郎!何かあったんだよホラすぐ向かうからなさとりん!

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「その汚い手を離しなさいっ!汚らわしいっ!」

「汚らわしいはねェだろォさとりちゃんよォ。かれこれ5年ぶりの再会になるっつーのにまァ嫌われたもんだぜェ」

「離せッ!貴方が私にした仕打ちを忘れたとは言わさないわよ!」

「んァ?さァて、何のことを言ってるのか……心当たりがあり過ぎて分からねェなァ!」

「ッ……下衆めっ!貴方みたいなヤツは死んでしまえばいいわ!」

「おォ怖い怖い。今まで誰がお前を()()()()()やったってんだっけェ?」

「監禁した、の間違いでしょう!」

「あァ?面白ィコト言うじゃねえか。なんだったっけかなァ~?そう、『悪魔の子』」

「っ!?」

「『妖怪』『バケモノ』『三つ目の怪物』」

「止めなさい!やめて!」

「そうそう、他にも『心食いの魔物』とか呼ばれてたよなァ?」

「やめて!嫌っ!やめて……」

「っくはははァ!人間ってのは身勝手な生き物だよなァ!同じ種族の子供相手にまあ好き勝手言えるもんだァ!思ってる事を読まれることがそんなにも疎ましいことかよォ!」

「嫌……いやぁ……」

「石を投げられ、斬りつけられ、生まれたことが罪とまで言われるなんてよォ!実の親からも散々に暴力を振るわれて捨てられたテメェを拾ったのは何処の誰だったかなァ?」

「っ……」

「っくははァ、テメェの立場が漸く解かったよォだなァ?だがそれなのに現実はどォだァ?今まで守ってやった恩義を忘れ、僕等の財貨を盗んで逃げた代償は高くつくぞォ?」

「ぅ……っ……」

「泣いたって許さねェよォ。くはっ、そォだなァ……。あァ、イイ事思いついた。テメェのその身体で払って貰う事にしよォか!」

「ぅ……?」

「なんだァ?まさか本気で解らねェ程にガキかテメェ。なら僕の心を読んでみろォ」

「……」

 

「……!!?嫌、いやぁ!!離しなさいっ!離せぇっ!!」

「くははァ!僕にゃそんなシュミはねェがよォ!旺盛な子分共にゃ丁度イイだろォ!テメェの穴っぽこ貸すだけでメシと寝床は保証してやるよォ!服はしらねえがなァ!!」

「離せっ!この外道っ!いやぁっ!!」

「くははァ!狐狸共のホープとやらを探してたが、思わぬ成果だ!タナボタってヤツかァ!?僕の日頃の行いって奴だなァ!!」

「いやぁ……たすけて……化太郎……」

 

 

 

その薄汚い手を離せよ

「あン?」

 

 

DETROIT…

S  M  A  S  H  !!!

 

「ガァェ!!?」

 

「もう、大丈夫だ。さとりん」

「あ、ああ……っ!」

 

 

私が来た!

 

 

「お、遅いんですよ馬鹿!」

「それについてはマジゴメン!怪我は無いかいさとりん!?」

「だ、大丈夫です……」

 

 本気で殴り飛ばしたヴィランが震えながらも立ち上がる。なんて頑丈な体してやがるんだ、偽物とは言えオールマイトパゥワーで殴っても立ち上がるとか人間じゃねえな。

 改めてヴィランを見る。人の身体ほどもある大きな毛玉だ。

 

 目を軽くこすってみる。

 そうして改めてヴィランを見れば、それは人の身体ほどもある大きな毛玉だった。

 

「ぐっ……ゲホッ。ぉ、オールマイト……だとォ……?」

「私はオールマイトではない。オールマイトの姿をした通りすがりの仮面ライダーゲフンゲフン、仮面(マスク・ド)ヒーロー(志望)だ!」

「……」

 

 なんか私の横から感じる視線が絶対零度を下回るほどに冷たい。

 

「あァ?……そのフザケた仮面……そうか、テメェが狐狸共の期待のホープ、殺生石化太郎ってヤツかァ!」

「はっ!お前みたいなカピバラにも知られてるなんてアタイったらちょーゆーめーじんね!」

「カピバラじゃねェ、ハムスターだァ!!」

 

 お前のような小汚いハムスターが居るか。

 

「……化太郎、気を付けて。アイツは経立会で最も残虐と知られているネズミです」

「……そっか、さとりん!」

「な、なんでしょう?」

 

「『経立会』ってなんだ!?」

「そこからですか!?」

 

「て、テメェ……どこまでも僕をコケにしやがってェ……!!」

「うっせ!アタイはここんとこの齧歯類ラッシュに疲弊してんのよ!いつまで来る気よ!」

「……『経立会』というのは貴方が倒した齧歯類ヴィラン達を擁していたヴィラン組織です」

「そういう事か!つまり私が経立会の構成員をボコボコにしてたせいでそこのトップがお礼参りに来たって訳か。ヤクザみたいな奴等だな!」

「まあそうなんですが……貴方妙な所で察しの良さを発揮しないでください。馬鹿の癖に」

「酷いや」

「僕を無視してお喋りしてんじゃねェよォ!!」

 

 毛玉ハムスターが飛び掛かってくる。は、速いっ!

 

「テメェ等仲良く血祭りにしてや「昇竜拳ッ!!」パガァッ!!?」

 

 スマンな、甘えた滞空許さないマンこと私は小足見て昇竜余裕でした。

 そしてまだ終わらない。重力に引かれるままに落ちてくる毛玉にさらなる追撃。

 DX仕様の絶空!

 DX仕様の絶空!

 

「動き方が気持ち悪い!?」

 

 それな。でも思ってても口に出さないのが良い女なんやで(号泣)。

 ヴィランの落下地点に先んじて到着。降ってくるのを待つ。

 

「ぷ、が、アアアアアアア!!!」

 

 昇竜を顔面に直撃ったのにまだ意識が残ってるなんてマジで頑丈すぎやしませんか。しかも的確にこちらを視認して、その爪を振るってくるつもりかい。本当に大した奴だよ。

 まあ、いい。さっきので気絶してたら興ざめもいいとこ。少なくともさとりんを泣かした分はぶん殴らないと気が済まないのだから。

 こうみえて、結構キてるんですよ私。

 

「最初は、グー」

 

 流石にあそこまではボっきれては無いけど。ありったけの怒りとオーラを込めて。

 

「じゃん、けん……」

「しィィィねェェェェ!!」

 

 爪が僅かに頬を切り裂く。だから何だってんだ。この一撃はさっきのオールマイトの拳より痛いぞ?

 

 

「 グ ー !! 」

 

 

 拳を振り抜いた。汚いハムスターは再び空の旅へと飛んで行った。……だが、イマイチ。手ごたえ的にまだ普通に意識ある感じだった。

 

 

 あ、いけね。アイツ普通に殴り飛ばしちゃった。確保しないとマズいやん。

 さとりんに警察を呼んでもらうように頼みながらヤツが飛んで行った方向に駆け出した。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 はぁ、やれやれ。最近受験勉強が捗り過ぎてやる事が無い。今日は家で訓練をやる日でも無いし、帰宅したらもう完全にやる事が無い。やる事がない状況に不安を覚えるなんて、俺はいつからワーカホリックになったんだ?

 ……帰ったら軽く筋トレでもするか?とは言え毎日のルーティーンを崩すのはなぁ。

 と、そう思いながら帰り道を歩いていると、誰かの声が聞こえてきた。しかもどんどん近づいてくる……空から?

 

ぁぁああああああああああ!!

 

 親方―。空から毛玉がー。

 

 って言ってる場合じゃねえ!?あのまま地面に激突でもしようもんなら大怪我ですまねえぞ!?

 落下地点を予測。縮地で落下軌道に沿うように跳び、抱きかかえる。

 成功。そのまま地面に無事に着地し、毛玉を一旦地面に横たえる。

 毛玉の様子をよくよく観察してみる。同年代の女子程度の大きさで、恐らく(と言うかほぼ間違いなく)獣型の個性だろう。毛玉を軽く掻き分け、顔を覗いてみる。鼻から血が吹き出ている以外は普通(異形型にしては)の顔だった。

 

「おい、大丈夫か!?」

「っうぐゥ……」

 

 意識はあるようだが、目を回しているようだ。鼻から血が出てる事から、恐らく何らかの理由で顔面を強く打ったのだろうか。鼻以外にも出血個所が無いか確認するために、カバンの中の救急キット(常に持ち歩いてる)を取り出した。

 

「ゥァ……っ、だ、誰だッ!?離せェ!!」

「うぉ、落ち着け。今から応急処置するから」

 

 モサモサの毛玉さんはかなり興奮しているようだ。無理もない。なんせ(何でかは分からないが)空をぶっ飛んでたのだ。そりゃぁ混乱もする。

 とはいえこのまま放置も出来ない。このまま暴れられたら治療も何も無いからな。

 

「ほーらどうどう、落ち着いて、落ち着いて」

「うァ」

 

 後ろからするりと、相手の両眼を手で覆う。動物タイプの異形型個性はこうすることで落ち着きやすいらしい。本能だろうか?

 

「……」

 

 どうやら本当に落ち着いたようだ。よしよし、父さんが言っていた救急術は正しかったらしい。そのまま抗菌ティッシュで顔周りに付いてる血を拭う。

 うん、鼻以外からの出血は無さそうだ。

 

「っは!な、なにしてやがるゥ!?」

「な、なにって止血してんだよ。ほら、頭強く打ったんなら安静にしておかないとだめだぞ」

「あゥ」

 

 再度目を抑え、落ち着ける。救急車を呼ぼうと携帯を取り出す。

 

「な、なんなんだよテメェ……。なんで僕に優しくするんだァ!?何が目当てだァ!!」

「は?見返りなんて求めねえよ。助けたいから助けただけだ」

「嘘つけェ!何処にこんな見た目がボサボサのドブネズミモドキを何の見返りも求めずに助ける野郎が居るんだよォ!」

 

 自分で自分の事をドブネズミって言うのか………。こんなに捻くれるほどに気にしてるんだな、自分の見た目を。

 

「なあに、俺の知り合いには生物なのかよって見た目の奴が二人居るからな。見た目がどうとか全然拘らないんだ」

「だ、だからって理由も無くこんな奴を助けるのかァ!?有り得ねえだろうがァ!!」

 

 助けたいから助けた……じゃ、納得しないタイプの人間かぁ……。うーん、こういう時どうすればいいんだ?救急車が来るまで落ち着いて待ってくれないと困るんだが……。

 ……こう言う言葉をあんまり使いたくないが、まあ落ち着いてくれる事を祈るか……。

 

「じゃあよ、可愛い女の子に良いところを見せたくなるのが男の性だから。ってのは理由にならないか?」

「……は?……あァ?何言って……………はェ!?あ?え?お、女ァ!??誰がァ!?何がァ!?!?可愛いィ??!!!」

 

 ……掛ける言葉を間違えたかもしれん。なんか凄い混乱している。まあいきなりこんなキザったらしい言葉を言われたらこうなるのも無理ない……か?

 

「か、かっかかかか可愛いとか目が腐ってんじゃねえのテメェ!こんなネズミ女なんかに何言ってんだボケがァ!」

「さっきも言ったが見た目がどうとかは拘らないんだ。でも可愛いと思ってるぜ」

「はッ、アッ、ゥ……。っっ~~~!!」

 

 絶句、の一言に尽きるな……。うん、これよく考えたらアレだ。※ただしイケメンに限るってやつだ。イケメンに産んでくれてありがとう両親。

 長い毛で隠れているがきっと顔は茹蛸の様に赤くなっている事は想像に難くない。何故なら唯一見える地肌要素の丸い耳が真っ赤に染まっているからだ。

 

「(何だ何だよ何ですかァ!?いきなり僕の事をか、可愛いなんて言いやがってェ……。そんな事言う奴なんて今まで……)」

「ところでもう大丈夫なのか?顔はさっき確認したが、他に痛むところは無いか?」

「っ、近づくんじゃねェ!」

 

 腕を我武者羅に振り回して暴れる。おいおい頭打ったんなら暴れるな!

 彼女の両腕を掴み優しく組み伏せる。

 お、お……意外と力強いな……。人体の構造的に容易く外れないように拘束しなおす。かなり密着してしまうが、暴れられるよりましだ……。

 

「ァ、はゥ……。(近いッ!近すぎるゥ!?あっ、これ……強い、オスの匂い……やばィ……)」

「ほら、今救急車呼ぶからもう少しこのまま落ち着いてくれよ」

「っは!?っ!っ~!(待てよっ!こんな、密着した体勢で……組み伏せられて……こんな、濃い、強いオスの匂いさせて……こんな、こんなの……)」

 

 ……なんだ?急に静かになったぞ?多少力を入れてるとはいえ、痛くはならないように気を付けてるんだが……まさか、呼吸困難になった!?待て待て待て、少なくとも気道は確保されて……。

 あ、なんか鼻ひくひくさせてますね。

 

 嘘っ!?まさか俺臭い!?確かに今日体育あったけど!?俺が臭すぎて呼吸困難になっちゃったか!?ゴメンて!確かに獣人型は鼻が人より利くと聞くけど!?そこまでですか!?

 

「実質セックスじゃねえかァ!!!」

「ファ!?」

 

 俺の匂いがキツイのかと思ってちょっと離れようとしたら、その隙を狙ったのか簡単に拘束を解いて……ちょ!?

 

「あ、あのー。なんで俺は逆に組み伏せられてるのでせう?」

「く、ひ、ヒ。ん、すゥ……は、ァ♥オス、雄の匂ィ……イィ……あァ……これェ……欲しィ、欲しィ欲しィ」

「おい、ちょ、痛い……」

「あァ~……この匂いを嗅いでるとォ……僕もメスだったんだァって思いだせるよなァ……♥」

「ッ!!」

 

 彼女と目が合った。この目はヤバイ。この目は、化太郎が全力を出す時の目。

 

 捕食者の目。

 

「っら”ぁ!」

「ん”ォ!?」

 

 組み伏せられていた僅かなスキマで、膝蹴りを行う。男で言えば金的に入る所に入ったがはたして。

 一瞬、拘束が緩む。瞬時に地面と融合し、脱出した。

 少し離れた場所に出て、彼女を再度観察する。

 

「ふ、ふゥ~♥んふゥ~♥」

 

 うずくまっているが、なんか様子がおかしい。……なんかテラテラ光ってる?

 ふと、膝蹴りした方の膝を確認してみる。濡れ……っ!?

 その現象が意味する事を理解した瞬間、本能で()()から跳ぶように離れた。

 

「ふ、きィひひ……♥ハジメテって痛ィんだなァ……♥あァ……これ完全にセックスだよなァ♥イチモツを捻じ込まれたみたいでついイっちゃったァ♥」

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!まるで蛇に睨まれた蛙。ワニの口の中の調教師。ヤンデレ妹に愛され過ぎて夜も眠れないお兄ちゃん。

 まるでそんな状況。凄く俗っぽくいうと、マジ卍!

 

「くはァ♥見ろよォ、見てくれよォ。僕のココ、こんなにドロドロになっちまったァ♥」

 

 少年誌的にアウトォォォォォォォ!!!

 誰か助けてェェェェェ!!

 

 

 

「おーい融剛~!こっちになんか毛むくじゃらのネズミみたいなヴィランが飛……んで居るゥゥゥゥゥ!!!?」

「化太郎!?」

 

 助けてくれ化太郎!何か俺このままじゃ色々テイクアウトされる未来しか見えない!!

 

「融剛!アイツ、なんか経立会っていうヴィラン組織のトップらしい!しかもめちゃ頑丈だ!」

「なんて素晴らしい情報なんだろうか、5分前の俺に教えておいてほしかった事を除けば値千金の情報だぜ」

「えぇ……」

 

「くはァ♥ゆうごうゥ……ゆうごうクンかァ♥イイねイイねェ。イイ名前だねェ……♥」

 

「……え、なにあの放送コードに引っかかりそうなヴィラン。夢の国っていうか泡の国出身みてーなヴィジュアルしてんな」

「お前のその語彙力どこから来るんだマジで」

 

 必殺技の命名といいお前ほんと語彙力の宝石箱やぁ……。

 いかん、化太郎が来てから一気に気が緩んでしまってる。

 ヤツは漸く化太郎が視界に入ったのか、興奮が収まってきたみたいだ。明らかにヤバイオーラが下がっていく。

 

「……ハァ。折角の逢引なのに邪魔するなんてェ、マナーがなってねえなァ?」

「ア”ア”ン?彼女いない歴イコール年齢の融剛が逢引なんて出来る訳ねえだろうがバーカ!」

「お前後でシメる」

 

 お前人をモテないみたいな言い方しやがって……。

 

「はははァ、流石に2対1は不利かァ。ここは一時撤退してやるよォ!次会う時はテメェの最期だぜェ殺生石ィ。それと次会った時はネットネトの子作りしようなゆうごうクン♥」

「融剛お前いつのまにそんなプレイボーイになったの!?」

「馬鹿野郎ちげえよ!誤解だ!」

「五回!?五回もヤったの!!?この恥知らず!ヤリチン!」

「お前マジで黙ってろ!」

 

 

 

「……ハっ!?あいつが居ない!」

「アホなお前がアホな事言ってるうちに逃げたんだよアホ!」

「アホアホ言い過ぎなんじゃぁい!泣くぞ!泣きますよ!しまいには泣き喚きますよ!」

「止めろ!」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 下水道の奥、隠された通路の更に奥。某所に存在する地下帝国へと続く道がそこにあった。その道を隠す様に存在している部屋に、一匹と一人が座っていた。

 

「っくはァ……ゆうごうクゥン……♥」

「……主、えらく上機嫌ですね」

「ん?あァ、居たのかァ。くは、出先でなァ、滅茶苦茶良いオスを見つけたんだよォ」

「……はぁ、それで?」

「捕まえ損ねたが、まァいい。機会はこれから幾らでもあるからなァ……。次会う時にゃ、向こうから寄ってくる程に良いメスになってないとなァ♥」

「……はぁ。主、貴方は確か狐狸共の期待のホープとやらに会いに行ったのでは?」

「んァ?あァ……あの仮面野郎は殺す。あァそうだ。先詠のヤツが狐狸共ンとこに居たなァ」

「っ!?それは本当ですか!?」

「あァ?テメェ僕の言う事を疑ってるのかァ?」

「い、いえ。そういう訳では……。し、しかし何故連れてこなかったのですか?」

「……その狐狸共のホープに邪魔されたんだよォ。んな事はどうでも良い、それよりゆうごうクンの事を調べ上げろォ」

「どうでもよくないです!先詠はあの『導師』を見つけるための重要な手掛かりで……ッ!」

 

「僕がどうでもいいと言ったんだ。お前は()()僕に楯突くのか?」

 

「……ぁ、はっ!出過ぎたマネをお許しください!」

「……次はねェ。その腐った脳味噌に刻み付けろォ」

「御意にっ!」

「フン、殺生石化太郎は殺す。先詠は犯す。ゆうごうクンは婿にする。何時だってやる事は単純だァ」

「おっしゃる通りに御座います」

「くははァ。まずはこの『浄土』を支配する。その後に狐狸共をブッ殺して、『導師』探しはその後でいいだろォ?くはははァ!この国の王となるその時に、盛大な結婚式を挙げよォか!それまでに何匹子供産めるかなァ!あァ勿論ゆうごうクンが望むなら何匹でも産んであげるからなァ♥くはァ……♥アッチの方も強ければいィなァ♥」

 

 

 

 

「失礼、少々お話をよろしいですか?」

 

 

 

 悪意と悪意が交差する時、物語は漸く始まりを迎える。

 

 




この話に入って時間軸はようやく原作1巻目。そして序章が終わりを迎えました。

ハムスター会長の事男と思ったろ。残念、僕っ娘だ。ハハッ。

融剛君、実はたちの悪いタイプのジゴロかもしれない。


YUGO
YUGI

○個性

 融合

様々な物と自身を融合することが出来るぞ!
自分以外の物と物同士を融合するのは意外と苦手だ!
自分と他の人を融合することで戦闘力が倍算される!かもしれないぞ!


遊戯's顔-イケメンだが性格は悪そう。

遊戯's髪-つむじを中心に毛先まで同じ方向に渦巻いている。

遊戯'sカバン-常に救急キット、非常食、常備薬、小型ろ過装置が入ってる。

遊戯's全身-手先、足先に近ければ近い程融合にかかる時間が短い。


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入学
オリ主ってクッソ優秀なのに推薦貰えないのはなんでですか!?


坊やだからさ。

そして先に謝っておく。ホークス、お許しください!


 

 駆ける。

 私は学校の中を駆ける。

 途中で教師が立ちはだかるがそんなものはお構いなしだ。ただ、これ以上ない理不尽に対して私は憤りをぶつける先を探しているだけだ。

 きっかけはとある親友の一言だった。その一言は心がバチカン市国並に広い私の心を激昂させるに十分な一言だった。

 親友の制止を物理的に振り切り、廊下にたむろする有象無象をすり抜け、立ちふさがる教師は無理矢理に押し通った。そうして、たどり着いたのは私にとって第二の教室と言っても過言ではない部屋だった。

 そこに、目的の人物が居る。私の勘がそう告げていた。ならば、言葉は要らない。最後に立ちふさがる扉をブチ破った!

 

 

「先生!私が雄英の推薦を受けられないってどういう事ですかッ!」

「うん。てめぇのやって来た事を振り返れバカ一号」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 私にとって第二の教室であるこの場所は、別名指導室とも呼ばれる場所だ。健全な中学生なら誰しもがお世話になった場所である。

 

「健全な中学生は此処に来ることは一度もねえよ殺生石君」

「じゃあ健全じゃねえんだろ!」

「暴論」

 

 私の知識には、学校の外れにある誰も来ない鍵のかかった指導室はKENZENな中学生なら誰しもがお世話(意味深)になったはずだ。そこが母校かどうか、現実か二次元かはともかく。

 

「言い方」

 

 そんな事はどうでも良い、重要な事じゃない。今ここで問題にするべきは学校一の天才である私が、雄英の推薦枠が二枠もある贅沢な学校において何故推薦から外されるという暴挙、愚行についてだろう。

 

「お前を推薦する方が暴挙だダラズ。逆に、なにを根拠に推薦貰えると思ってんだ」

「え、全国模試満点一位、成績優秀スポーツ万能学校内外問わず誰もがご存じスーパー中学生ばけたろにゃんとは私のことゾ?」

 

 キメ顔ダブルピース。

 

「それらすら霞む程内申点地の底這ってるって自覚あんのかお前」

「なんだぁ?ヨツンヴァインになれってかぁ?」

「そういうとこだぞマジ自覚しろ。雄英一般通ってもすぐ除籍されんぞお前」

這い這い(はいはい)

「お前返事じゃねえだろそれ」

 

 流石ダクソ先生。指導室の中では大変いきいきとしてらっしゃる。これには指導室マイスターの私も鼻高々である。

 

「誰の所為で指導室のヌシとまで言われるようになったと思ってんだ……」

「……ダクソ先生が嫌がる私を何度も何度も指導室に連れ込む所為?」

「言い方。俺だって好きでこんなとこに来ねえわ」

「つ、つまりそれは教室の中で衆人環視の下でシたいって事ですか……?」

「言い方ぁ!説教!説教をな!」

「まぁーまぁー、そこまでにしなさい。この超美少女ばけたろにゃんの顔を立てると思って」

「お前が生徒じゃなければ逮捕覚悟でボコボコにしてるぞ」

 

 深い、深ーいため息を吐くダクソ先生。この三年間で完全に最適化されてしまった動作で指導室に置いてあるコーヒーメーカーを起動させる。

 

「……俺はな、なんというか教師に成りたての頃はもっとキラキラとした輝かしいモンだと思ってたよ……」

申隙N(申し訳ないが隙あらば自分語りはNG)

「お前もっと年上を敬え……」

 

 私の嫌いな事に年寄りの身にならない自分語りが第7位くらいにランクインしてるのだ。年寄りならもっと若人導いて、どうぞ。

 

「お前さぁ……これで指導室に来るの何回目だと思ってんだ?」

「えぇ~?……年に一回だと仮定して3回目ですかね?」

「……」

「……」

「年に一回って仮定が正しかったら確かに3回目だ。だが仮定が間違えていたら結論も間違えているのは理解できるな?」

「はぁ」

「そしてここのノートにお前がここで指導を受けた回数が乗っている。改めて聞くが……何回だと思う?」

「HAHAHA!そりゃあ私が中学校に入学して何回授業を受けたかと聞いてるのと同じ事だぜ!」

「ちったぁ常識で考えてくれよ……。何処の世界に校庭に行く回数より多く指導室に来る奴が居るんだ」

「鏡見ろよ」

「お前の事じゃバカモン!」

 

「……で、だ。ここからはマジな話だ。正直言って、今のお前に進学をオススメすることは無いぞ。お前ん家がもっと普通な感じの家庭だったらまだ何とかしようもあるんだが……三者面談すら無理ってなんだよ」

「それについては本当に申し訳ないと思っている。こればっかりは家の事情としか」

「……はぁ~ぁ。マジでこれならヤクザんとこのお子さん相手の方がどうにかしようがあるっつーの。まぁ、悪い事じゃあねえんだけどなぁ。ほれ、コーヒー」

「いただきまーす」

 

 学校の七不思議の一つ。指導室に隠された白い粉の正体は私専用と言っても過言ではないコーヒー用シュガーである。前、手が滑って床にブチまけてしまったのだが、それを完全に除去しきれなかったのか次指導室に来た生徒に白い粉が見つかってしまった。結構お高いシュガーなのでめっちゃキメ細かい砂糖を見たその生徒が、例のトぶ薬と勘違いして大騒動になってしまったのだ。『僕は悪くない。』こればっかりは僕は悪くない。

 まあ、どうでもいい事だ。

 

「……お前宛てにサイドキック受け入れ申し込みが学校まで来てる事は知ってるな?」

「モロチン」

「モチロンな。……先生調べたぞ。特例も特例だが、仮免も取ってないうちにヒーローの御膝下でサイドキック活動する事も無いことは無いらしい。まあ仮免が無いから当然ヒーロー活動なんてまともな事は出来ないけどな。それでも仮免試験に向けて実践的な勉強が出来るだろう。大抵のヒーロー科が二年生の時に仮免試験を受けさせるようだが、正直殺生石なら今から仮免試験受けても合格するだろうとは思ってるよ。ま、勿論遊戯と安藤の奴もだがな」

「それほどでもない。ジュースを奢ってやろう」

「謙虚。それほどまでにお前達は他より何十歩も先を行ってる。別格と言ってもいいくらいだ。これは俺の個人的な考えなんだが……お前も、遊戯も安藤も、さっさと社会に出て活躍するべきだと思ってる」

「……」

「まあ強制はしない、お前等の人生だからな。遊戯にゃもう話したが、それでも雄英に行くそうだ。現場でしか学べないこともある様に、学校だから学べることもあるってよ。立派なモンだよ本当に。あれだけ優秀だっつーのにストイックだよな。ああいうのがオールマイトの様なトップヒーローに成れるんだろう。だからこそ、先に言っておく。殺生石、お前はヒーローが天職だ。むしろそれ以外まともな就職先は無いと断言する。そんなお前が中卒で社会に出るのはちょっと……とか、キャリアを気にしてるんだったら無駄でしかないぞ。ヒーローは実力社会だ。学歴も無いよりあった方が良いが、お前の場合そんなモン唯のアクセサリー以下だ。実力有るんだから、ヒーロー活動だけで大活躍し続けられるだろ。改めて聞くが……それでも、雄英に行きたいか?」

「……私は」

 

「私は、それでも雄英に行きたい!勿論早くプロヒーローになれるに越したことは無いけど、私にはもっと学ぶべきことがあるってそう思うから!」

「……そうか。若いのによくそう腰を落ち着けられるな。わかったよ、ならとっとと進学してプロヒーローになってこい。雄英がお前のヒーローアカデミアだ」

「うん!だから雄英の推薦頂戴!」

「やらんわバカ!」

 

 

「それに『ハヤすぎる男』って言われるの不名誉じゃん!」

「お前ホークスに謝れ!全力で謝れ!」

 

 ホークスはそうろゲフンゲフン

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 そんな訳で私は一人、寂しく雄英高校ヒーロー科の門戸を叩き壊しに来たのだ。我が友人も、我が親友も、推薦で先に合格を貰いやがった。ちくせうちくせう。

 雄英のヒーロー科は毎年倍率300を超えるらしい。まあ、記念受験も含めてるからね仕方ないね……?

 近年のヴィラン増加の煽りを受けてか、今年から定員が増えた。とある芸能人がヴィランのお陰でヒーローが増えるとかブログに書きこんで大炎上した。何だお前エンデヴァーかよ。

 まあ、それでも一般入試の定員は38人。推薦入試入れても44人しか合格しないからさして変わりはないかなぁ。うーんまさしく受験戦争。隣にいる奴は戦友じゃなく倒すべき敵。勝ち抜いた者だけが戦友となれるのだ。サツバツ!

 そんな狭き門をなんとしてでも潜り抜けねばならぬ。

 

 

 うん、まあ私の目の前にある雄英高校入口のゲートは明らかに20人くらいがラジオ体操しながらでも通行できるほどに広いんだけどね!雄英の門は広くて狭いのだ!

 

 寂しい……。

 

 あーちくしょーめー……何であいつら先に合格するんじゃぁ……。しゃみしぃ……。

 

 

「おっおっおぉおおおお」

 

 

 ニャハァ、何だいきなりアラーム音か!?叫び声か!貴様何奴!?モジャ髪貴様か!

 

 ん、モジャ髪?はてさて、な~んかあの男の子どっかで見たような気もしないでもないが。うーむモヤモヤっとボール。

 こういう時は顔を見るに限る。音もなくスススと近づいて顔を覗き込む。

 

「グッドモーニングチューユー!」

「うわああああ変なお面着けた人!!!」

 

 至極真っ当な意見であり私からは訂正の言葉は無いが傷つくぜ……。

 無礼であるとは分かってはいるがジロジロと顔を凝視する。目、無いけど!

 

「え、えっと。僕に何の用……ですか……?」

「まあ待て。今君を観察中だから」

「は、はぁ……」

「……『ひょっとして凄い変な人に目を付けられたんじゃ』と思って無いだろうね?」

「へぁ!?な、なんで!?」

「顔にべっとり書いてあるぜ。あ、思い出した。キミ出久君やな!」

「え、どうして僕の名前を?」

「……覚えてない?」

「うん、ご、ゴメン」

「そっかー。私の事を覚えてないなんて悲しいなぁ……」

「ご、ゴメンね!」

「いや、良いんだ。時の流れはかくも残酷であるということを再認識しただけさ……」

「本当にゴメン……。そんな特徴的なお面を付けた子だったら絶対忘れないと思うんだけど……」

「いいんだよ出久君、僕は本当に気にしてないんだ。だってキミと出会った時この仮面着けてないし」

「僕の罪悪感を返して!」

「HAHAHA!しょうがないしょうがない!なんていったって私は世界一同窓会で『お前変わったなー』って言われるからね!同窓会参加したことないけど!」

「えっ、えっ?」

「しょうがないにゃぁ……。あ、そうだ。これで思い出してくれるかな」

 

「『いずく!オールマイトごっこしようぜ!私町におりてきたクマな!』

「……えっ、もしかして……化太郎くん……?」

 

 ああ懐かしき過去。オールマイトごっこなんて何時振りだったか……。そう、あの時は……なんと言うか、毎日がこう……輝いてたよね。(ボキャ貧)

 

 

 

 

『みてみてバケタロウくん!オールマイトへんしんセット!おかあさんにかってもらったんだ!』

『……フフン。そんな物無くても私はオールマイトに成りきれるけどな!だけどせっかくかってもらったんなら使わなきゃもったいないよねぇ。よぉっし!今日もオールマイトごっこするぞ!私町に降りてきたクマな!』

『……まえからおもってたけどなんでクマなの…?』

 

 

 

 

 昔の友達に偶然会えるとかテンション爆上がりィ!

 

「と言う訳で出久君!オールマイトごっこしようぜ!」

「今から試験だよ!?」

「あ、そうだったわ」

「素で!?」

 

 テンションマシマシなまま試験会場へ向かう。姿は変わっても、昔とあまり変わっていない出久君まじぷりちー。

 

 姿……姿。うん、お前それでもヒーロー科志望かよ!?もっともっと筋肉付けてホラ!そんな筋肉とも呼べないキンニキじゃガチ個性じゃない限り活躍も何もねえぞ!

 

 あ、あれ?出久君って無個性だったはずでは……?

 このままでは気になって気になって夜しか眠れないので聞きに行きたいが、無情にも筆記試験が始まってしまう。私の明日はどっちだ!?

 

「(なんか隣のヤツうるせえな)」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

『今日は俺のライヴにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!』

「YOKOSOーー!!」

((((((え、何こいつうるさっ!)))))

 

 周りのヘイトが高まるのを感じる。何やお前等黙りこくって緊張しとるんか!もっとほらちゃんとリア充するんだよ!

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 色々あって模擬市街地演習!超広いっ!凄いな雄英、流石トップと呼ばれるだけあるわこれ。

 ま~ぁ~?ウチの敷地の方が断然凄いんですけどぉ~??(対抗心)

 

「あ!さっきのうるさい人!可愛いお面だねー!」

 

 誰だおま……なんだお前!?お前肌……お前、肌お前肌!目!お前目お前!

 

「ピンクは<<ピー>>ッ!!」

「えっ、何て?」

「何でもないわ!それよりこの仮面の可愛さが分かるなんて貴方……デキるわねッ!私、殺生石化太郎よ!よろしく可愛いツノの人!」

「私芦戸三奈!試験がんばろーねー!ねえねえ殺生石!なんか男みたいな名前だね!」

「それはこんなナリだけど女じゃないからよッ!男でもないけどね!」

「……ん?どういう事?」

『ハイスタートー!』

「じゃそういう事でお先に!お互い合格すると良いわね!」

「えっ?えっ!?ちょっと!?」

 

 芦戸ちゃんにゃ悪いがこれは試験。時に隣のヤツを蹴り落としてでも勝利を掴むんだよぉ!

 ほんとに蹴落とすとアンチヒーロー行為で失格かもだが。

 

 閑話休題(どーでもいいねー!)

 

 スタート地点に固まってる組から離脱するべく、私は跳ぶ。速く、疾く!変身するは最速の天狗!

 

「Ah-Yah-Yah!!」

 

 私は風っ!誰よりも先んじて、誰よりも仮想敵をブッ倒し!誰よりも目立つっ!

 音すら置き去りにして市街地の中心部に陣取った。さあ、此処が私の独擅場だ。楽しい楽しい孤独なお遊戯会にご招待!

 さあ、誰よりも早く、速く。開戦の号砲をあげよう。

 

「目標発見!ブッコロス!」

 

 なんかいかにも三下って感じのが来た。丁度いい、再変身。その後、指先から小さな小さなマッチ棒程度の火種を出し、三下ロボに当てる。

 その、直後。

 

 轟炎と共に三下ロボは灼け落ちた。

 

「今のはメラゾーマではない、メラだ」

 

 なーんつって。そもそも魔法ですら無い。でもかっこつけたいやん、男の子(推定)だもん。

 さあお立会い。今の轟炎に釣られてワラワラと三下ロボが現れる。お前等さっきの超高速フラグ回収見てねえのかよ。まあ下手に逃げられるよりましですわな。さぁて、なんかいっぱい来ちゃったし……アレやるか。

 

「メ」 人差し指に火がともる。

「ラ」 中指に火がともる。

「ゾ」 薬指に火がともる。

「ー」 小指に火がともる。

「マ」 親指に火がともる。

 

 例のアレやんぞお前等ァ!

 

五指爆炎弾(フィンガーフレアボムズ)(メラ)!」

 

 五つの火の弾丸がそれぞれ別のロボに直撃。そして焼失した。うーんこの。

 

「この非効率感、大好き!」

 

 萌えるッ!

 

 今のは燃えると萌えるをかけた高尚な、あ、説明要らない?はい。

 と言う訳で、燃やすのはなんか効率的ではない気がしてきた。そもそも、こんな入試用のロボなんて耐久性カスだろうしもっと手早くバラバラにしましょ。

 

 と い う わ け で 。

 

「ハデ死刑!バラバラフェスティバル!!」

 

 爆散したかの勢いで自分の身体の各パーツが飛ぶ。当然そのままならポンコツとは言え機械の身体を壊すに足りない。

 なら強化すればいいだろ!

 

「バラバラプロセッサー!」

 

 各パーツがまた刃の様に鋭く、硬く変化する。こ……こんなん強キャラやん……。(戦慄)

 スパパーン!と気味良くロボの関節を断ち切っていき、そして誰も居なくなった(大げさ)

 んっん~!エェクセレンツ!素晴らしい!実に悪魔的な光景ではないか!

 

 わしヒーロー志望やぞ!?

 

 あんまりにもあんまりな惨状を見て反省しつつ、残りの仮想敵をおびき寄せるために爆音鳴り響かせながら移動を開始した。

 

「YEAHHHHHHH!!どぉしたどぉしたヴィラン共ォォ!!ビビッて腰抜かしてるヒマあったら俺の声を聞いてビビッて感じなぁぁ!!」

 

 爆音……うん、爆音。多分騒音じゃない。きっと騒音じゃない。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「凄いですねー彼、彼女?どういうアレかは分からなかったですけど、一瞬で市街地中心にワープしたかのような機動力、仮想敵を即座に燃やし尽くした文字通りの火力、一対多に瞬時に切り替えられる判断力に対応力、そして仮想敵のAIを読み取る洞察力。どれをとってもプロ並み、いや、プロ以上ですね」

「それだけじゃなく、最初の交戦でロボの耐久度の低さを完全に見破った。必要最小限の力で最大限の効果を発揮してやがる。まだ中学生だろ?どういう鍛え方してんだありゃ?」

「校長、もしかしなくてもあの子が例の天才ヒーローの卵では?」

「なんだそりゃ?」

「知らないの?中学生にしてヴィランをバンバン捕まえてるっていう期待の新星よ?まあ仮免持ってないから個性の不正使用でもあるんだけど……」

「そのどれもが状況的に正当防衛なんでしょう?」

「それならあの場慣れした戦い方も……いや、それだけじゃ説明つかない強さだぞ?」

「アレは明らかに日常的に戦闘訓練をしてる動き方だね。しかも生半可なモノじゃない、正に命懸けとでも言えるような厳しいモノだろうね」

「他の子と比べて遥かに格上じゃないか……」

「でも、雄英に来たのならどんな子でも生徒さ!彼がこれからも正しい道を歩めるように教えるのも僕たちの仕事さ!それに彼だけじゃなく他の子も見ないとね!さあ、圧倒的な脅威を前にどう立ち回るかな?」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 割とヤバイ状況に追い込まれた。そう……飽きた!

 そもそもたった三種類しか居ない仮想敵な上、どれも私にとって等しくザコである。弱点を突いて、お終い。つまらなすぎワロタ。まだ10分経ってないってのに何この苦行。暇やヒマ、ヒマヒマ!

 余りにも暇すぎて綺麗に解体した仮想敵を再度組み立てる暴挙に走る。自分でも解かってるわ、暴挙だって。

 でも大丈夫!なんてったって片手間に涌き出る仮想敵を倒してってるから!

 他の受験生からすればそっちに本気出せって言いたいんだろう。だがなぁ、もう100ポイントは稼いでんねんで?流石にええやろ……。

 てな感じで、はい完成。私の力作『キメラテック・オーバー・ヴィラン』。攻守が素材の数×800ポイント有りそう。

 さあ動け、動けってんだよポンコツが!

 『キメラテック・オーバー・ヴィラン』が起動し、さあその雄姿を見せる時!と思った瞬間。

 

 地面が裂け、その穴の中に『キメラテック・オーバー・ヴィラン』が落ちていった。

 

 『キメラテック・オーバー・ヴィラン』が落ちていく、その瞬間はまるでスローモーションのよう。落ちる挙動に合わせるようにゆっくりと顔に当たる部位を此方に向け、真顔で地面に飲まれていくその様はまるで一つの喜劇のよう。

 そして、入れ替わる様に地面から出てきたのはこれまた巨大なロボだった。デカァァァァァいッ説明必要!!

 な、何だ!?何が起こったというのだ!?私の……私の『キメラテック・オーバー・ヴィラン』は!?

 巨大なロボが腕を振り回し辺りの建造物を破壊するが、私は一切気にならなかった。私の、私の『キメラテック・オーバー・ヴィラン』は何処に……。

 

 見つけた。

 ああ、見つけてしまった。

 巨大ロボの動作に巻き込まれたのか、ただでさえまともな脳味噌をしていれば造り出そうともしない様な造形であったというのに(自覚あり)、もはやスクラップ同然に……。

 

「あ、あぁ……。あぁぁ……」

 

 『スクラップ・ヴィラン』に変わってしまった我が子(極端)に駆け寄る。もうその目は光を映し出すことは無い。だが、最後の、最期の力を振り絞って首をもたげ、此方に視線を寄越す。もはや喋る事は叶わず、せめて最後の思いを伝えるかのように。

 

 ボクを作ってくれてありがとう……サヨナラ……。

 

 ガシャンと音を立てて、ソレはもう二度と動かなくなってしまった。

(全力で感情をこめて)

「ンNO......ンNOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

 

 

 

 

 

 

 はい、茶番終了。流石にあのデカブツの登場は予想外だったけども。

 

「ってか何だあれ色々ぶっ壊しすぎィ!!?」

 

 見境なく……って訳ではなさそうだが、とにかく手に届く場所をメタメタに壊していた。ヴィランでもそうそう見ねえヤベー奴じゃん。

 あんな巨大で、かつ相応の重量があるモノが受験生を攻撃したら大抵の場合即死するので有り得ないとは思うが、一応早めに鎮圧する事にした。巨体は巨体だが、私のように物理法則ガン無視してる訳では無く相応に遅いのでどうとでもなるだろう。

 脚から崩すかと駆け寄ってみれば、何処かで見たことあるピンク肌の発育暴力勢がロボから逃げる訳でも無く、かといってロボに立ち向かうでもなく。ロボの進行方向に対して左側に駆けている。なーんか気になったので俊足でピンク肌に寄る。

 ピンク肌が瓦礫の前にしゃがみ込むと同タイミングくらいで到着。

 

「なーにしてんの?」

「ひょぉわ!?えっ!?誰!?」

「あ、どうも。可愛い仮面の殺生石です。どうぞ良しなに」

「えっ!?あ、でもそのお面……あっ、ともかく!手ぇ貸して!」

「どったの?てんてー」

「ココに透明な子が倒れてるの!助けないと!」

「嘘!?マジですか!」

 

 すると、この場には二人しかいないのに、確かに三人目の声が聞こえた。

 

「だ、大丈、夫……!ちょっと足挟んだだけだから……!」

「それ絶対だいじょばないヤツの台詞だべ?」

「あは、は。言えてる……」

「ちょ!?言ってる場合!?早く助けないとあの巨大ロボに潰されちゃう!」

「私のことはいいから……行って……!」

「な、そんな事出来る訳無いでしょ!?すぐに助けるから!殺生石!そっちの瓦礫持って!」

「いやぁ、無理。この透明な子を救出して、私達二人も一緒に逃げる?そんな時間ないでしょ」

 

 まあ、これが実際の災害現場ならって話だけどね。流石に試験だってのに人死にが出たら雄英閉校待ったなしだし、何かしらの安全策が練られてない筈が無い。そう、例えばあの巨大ロボは人の近くに寄ってくるけど、ある一定の距離以上は近づいて来ず、その場で威嚇行動を取るとかな。

 無論そんな説明をしてる暇は無いわけで。

 

「っ!じゃあいいよ!私一人だけでもこの子を助ける!」

「な、駄目!アナタだけでも逃げてよ!」

「ココにっ!助けられる命があるのに逃げられる訳無いでしょうがぁ!!ふんぎぎぎぎぃ~!!」

 

 瓦礫が自分の腕に食い込むことすら厭わず、自身の安全すら投げ打って目の前の名前も知らない誰かを助けようとする。きっとそれは正しくない事だ。何故なら、出来もしない事に時間をかけるなど愚の骨頂。努力次第とか、根性論だとか、そういう話じゃない。自分では絶対に助けられないのに、それでも有り得ない可能性に掛けて奮起する。思考停止といえよう。

 

 だが、それがヒーロー。英雄の行為其の物なのだ。

 

「超カッコいいじゃん」

「なんだって!?いいからあんたはドコにでも行きなさいよバカっ!」

「酷いなぁ芦戸三奈ちゃん。おバカちゃんな芦戸三奈ちゃんに、その透明な子と、貴方と、ついでに私自身を救うたった一つの賢い方法を教えてあげるってのに」

「本当にそんな方法があるならやってみてよ!」

「イイヨー!」

 

 さぁ、お立会い。

 くるりと向きなおすは、あのデカブツロボ。デカイは脅威だが、アレのAI的にコチラを積極的に攻撃しようとしてないのか周りのビルを攻撃している。まあ、当然その余波がこっちに来てる訳だけど。

 

「たった一つの最も賢い方法。それは、あのデカブツをぶっ飛ばす。以上!」

「は、ハアア!?出来る訳無いでしょ!?」

「出来るさ、芦戸三奈ちゃん。無理、不可能、ありえない。そんな言葉を言われても、ヒーローだけは弱音を吐いちゃいけない。あらゆる困難を、あらゆる可能性の向こう側を、笑って乗り越えろ」

 

 変身するは、神。空に浮かぶ島を支配し、月を支配し、天を支配した雷の権化。大自然の一部を人の形に押し固めた、圧倒的な”天災”にして統一された()()

 

「ヤハハハハ!!神を前にして頭が高いぞ鉄クズ!」

 

 ジャッジメント。

 

神の裁き(エル・トール)!!」

 

 天から極光が地面に向けて撃ち出される。視界を、景色を、全てを眩い光で染め尽くし、後には何も残らない。

 

「我が、神也(かみなり)

 

 芦戸三奈ちゃんと名も知らない透明っ子の視界が戻ってきた辺りで私はノーマルスタンダート(いつもの)状態に戻る。めっちゃお腹ペコちゃんなんですけど。

 

「え、えっ!?何が起きたの!?」

「んっんー。まあ私自身よく人に『無理』とか言っちゃうんだけどね。現にさっきも言っちゃったし。さて、脅威もなくなった事だしその子救けよ?」

「……えっ!?あ、そうだね!」

 

『 終 了 ~ !!! 』

 

「おー、丁度終わったか。ま、いいか。ちょい待っちに、このスキマにこうして……ほいほい。芦戸三奈ちゃん。瓦礫持ちあげるからこの子引っ張り出してー」

「う、うん……。もうちょっと待ってね、すぐ助けるから!」

「ありがと……」

「どういたしまして。さあってと……いよいっしょっ、ハイ引っ張って!」

「わかった!」

 

 ずざささっ、と無事(?)透明な子を救出出来た。うーん全身透明で怪我してるかどうかまるで判別つかにゃい。

 

「えーと、大丈夫?どっか怪我とか、痛むとことか無い?」

「う、うん。ちょっと足ひねっちゃったくらいかな?他に痛い所は無いよ」

「そっか、良かったぁ」

 

 あまり大きな怪我が無いのは良い事だ。試験も終了したし、お腹もすいたし。私は省エネモードに切り替え地面にごろ寝する事に決めた。

 

「ちょ、ちょっと?大丈夫!?」

「大丈夫やで芦戸三奈ちゃん」

「そ、そっか。……あの……さ」

「ん~?」

 

「ゴメン!さっきあんなこと言って……本当に、ゴメンなさい」

「イイヨー!」

「軽いっ!?いや、もっとこう……無いの!?」

「ねえよ(真顔)」

 

 ごろんと寝返りをうち、芦戸三奈ちゃんの方向に顔を向ける。寝ながらでごめんね?

 

「むしろ私としては芦戸三奈ちゃんにお礼を言いたい位だよ。ありがとうね」

「ぅえ!?なんで!?」

「だってきっと、芦戸三奈ちゃんが透明な子に駆け寄ってなかったら私、きっと透明な子に一切気が付かなかった。気が付かないままあのデカブツ攻撃して、気が付かないまま攻撃に巻き込んでたかもしれない」

「いや、だってそれは、アレは、咄嗟に動いたって言うか……そう言うアレだし……」

「どういうアレだかわかんないけど……。とにかく、もしかしたらあのデカブツ倒しても、透明な子に大けがを負わせてたかもしれない。もしかしたら、一切気が付かないうちに死なせちゃってたかもしれない」

「大げさだよ!?だって、そんな私大したことしてないよ!?」

「大げさじゃない、大げさじゃないんだよ。私の個性の事は、私がよく知ってる。この個性で、簡単に誰かを傷つける事も、簡単に殺すことも出来るんだって知ってる。だから」

 

 立ち上がり、芦戸三奈ちゃんの手を掴み、仮面越しに芦戸三奈ちゃんの黒い目を見つめる。

 その目は、まるで闇夜に浮かぶ月の様に輝いていた。

 

「私に、人殺しさせないでくれてありがとう」

 

「ぅ、あ……だって、私なにも……」

「ちぇい」

「痛いっ!?いきなり何すんの!」

 

 なんか急に痛がってきょろきょろとあちこちに目を配る芦戸三奈ちゃん。どした。

 

「ええっと、芦戸三奈ちゃん?だっけ?こういう時、お礼を言われた時は?」

「え、う……。……ん。どういたしまして」

 

 ヤバイ。このテレ顔超かわいい。これが女子力か……。

 私のはどう頑張っても女死力だからな……。これが天然モノと模造品の違いですわよ。

 

「んっん”!改めて、助けてくれてありがとう二人とも!私、葉隠透!」

「殺生石化太郎でごぜぇます」

「……芦戸三奈!三奈って呼んでね!」

「透でいいよ三奈ちゃん!」

「殺生石様とお呼び!」

「……フフッ、なにそれー!」

 

 

 なんとなく、なんとなくだが……この二人と雄英でまた会える。そういう気がした。これは巫女じゃなく、私の勘だけどね。

 

 





芦戸三奈ちゃんはカワイイってのが書きたかった。
無論私が書かずとも読者の皆様方には遥か昔から知られている事実ではあるのですがね。
ほんすき

ハヤすぎる男は誰もが考えたハズ。考えたであろう?そうであろう?
早漏(ソロ)モンってネタ誰が初出しだか忘れたけど大好き。
一人(ソロ)モンも好き。

ワイトもそう思います



一撃であんな巨大ロボをぶち壊すキャラ考えるのにクッソ時間掛かったゾ……。

神の裁き(エル・トール)
誰もが知ってる漫画の敵キャラの技。初見の絶望感はんぱナス。



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入学式から免除されるってそれどこの十三組ですか!?

どこの十三組も流石に入学式は免除されてはない筈……。


 

 雄英の一般入試から早一週間!今日も今日とて二度寝が捗るなぁ!

 

 ……スヤァ

 

「起きろやあにぇき」

 

 ドスッ。

 と身体から出すのはマズいような音が部屋に響く。今日も今日とて弟の家庭内暴力で起こされる。毎日寝起きドッキリ仕掛けられちゃう身にもなれ!

 

「毎日毎日あにぇき起こす不毛な作業を繰り返し繰り返し行い続ける俺の身にもなれ」

「はぁん?それはつまり愛しのブラズァァに熱烈なモーニングコールをお届けしろって要請かぁん?ええのかぁ~?寝起きのアレやコレや治める間も無くのしかかってやるぞおらぁん?」

「菩薩掌」

「アバァァァ!!?」

 

 最近になって弟の格闘スキルがカンストしてる件。まあ毎日のように閃きレベルの高い相手に攻撃してればそうなるね。ほんとかなぁ?(ゴロリ感)

 

「雄英からなんか届いてたぞ。合格だってよ」

「せめてもうちょっと情緒のある知り方をしたかったって思うのは贅沢かい?」

「あにぇきが落ちる訳無いだろ。分かりきった事に一々期待してんじゃねえよ」

「なんでこの弟素直に褒めることも出来ないの?」

 

 おっしゃる通り合格なんて分かりきっていた事だけど。筆記試験では自己採点では全問正解。実技だって私以上に動ける奴が同年代で居る訳が無い。融剛と安藤は例外。

 ブラドゥアァが投げて渡してきたのは謎の円盤。くるくると回って私の頭の上に軟着陸した。

 

 フライングゲット(言いたいだけ)

 

『私が投影された!!』

「お、オールマイト!?」

「うるせえ」

 

 そう言って統狸は円盤を私の頭ごと叩き割った。

 

「オールマイトォ!?」

「だからうるせえ」

「おま、お前ェ!なんでオールマイトが映る円盤を持ってんだとか投げて渡すなとかいろいろ言いたいが一番言いたいのはなんで壊した貴様ぁ!」

「映像一つにごちゃごちゃうるせえんだよ。ソレが合格通知だ。良かったな合格してて」

「ならなおさらなんで合格通知にオールマイトが映るんだよ!?」

「雄英に就任するんだと」

「それオールマイトの口から直接聞きたかったってのは贅沢な悩みかなぁ!?」

「……さっきからオールマイトオールマイトって本当うるせえ。あんな老いた人間の何が良いんだ?強さか?実績の数か?馬鹿々々しい。あにぇき、お前は殺生石家の跡取りって自覚あんのか?」

「……」

「老いて、衰えていくだけの人間にいつまで無意味な憧れを抱いてやがる。最強?伝説?今はどうなんだよ。人間の世界じゃ未だに平和の象徴とか呼ばれてるが、だからなんだ?俺等とは()()()()()()()。創作物の主人公に憧れてるのに変わんねえだろうが」

「その口閉じないと毛づくろいしてやらんぞ」

「ゴメン」

 

 ……確かに、統狸の言う通りだ。

 

 シャレじゃないよ!?今のは咄嗟に出てきちゃっただけなんだからねっ!

 そう、無意識に出てしまった駄洒落ほど処理に困るものはそうそうないよね。

 

 今のは始めのそう、とすぐ・直後と言った意味のそうそうとかけた……黙りマース。

 

 とりあえず、ご飯食べよ。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「化太郎、本当に雄英高校に進学するのかしらー?」

「うん。私は本気だよ」

 

 自分の食事を終え、家の皆の分の食事を分けて一息。今日は学校に行く必要が無いから家でのんびりしようとした矢先、マイマザーに呼び止められた。

 今まで何度も、何度も確認した事と同じ。よっぽど雄英に……というか、()()()()()に行ってほしくなさそうだ。

 でも、こればっかりは変えられない。変えたくない。なんにでも変身出来るからこそ、変えてはならない芯がある。

 

 私の存在は、()()()()()()()において奇才と呼ばれ、異端中の異端であるようだ。まあ、確かにそうだろう。他の動物達は人間のフリをして人間社会に少しだけ足を踏み入れている()()だというのに、私は社会の縮図とも呼ばれる『学校』に好き好んで入り込んでいる。彼等の思う()()では考えられない事だそうだ。

 現に私の弟である統狸も私に倣って一時期小学校に通っていたが、『人』と『獣』の意識の差がどうしても埋まらなかったようだ。

 ……だからこそ私は分からない。何故決して交わらないと考えているのに、それでも『人の世界』に動物達は足を踏み入れたがるのかが。

 

 話がだいぶ逸れた。

 私が雄英に通いたい理由。それは、どうしようもなく恋い焦がれてしまったからだ。ヒーローの、その在り方に。

 切っ掛けこそ、私の中に眠る誰ともわからない知識、記憶、経験だった。私が私として覚醒する前まではこの知識が私の身体を支配していたという理由もあるだろう。私が私として生きてきた時間よりまだ、誰とも知れぬ記憶の方が長く生きていたというのもあるだろう。

 だが、結局は。

 そう、結局は。

 この私が、ヒーローに憧れちまったから、ヒーローになりたいだけだ。

 切っ掛けこそ私じゃない他人だが、今日まで続いてきた原動力っつーのは私がそうしたいってだけだから。

 

 母さんはいつもの間延びした口調で、それでいて目元は不安に揺れている。母さんは純人間だが、人間に捨てられ人外に育てられた過去を持つ……らしい。だからこそ同じ人間に対して不信感を抱いている。それなのに子供は人間の世界に旅立とうとしているから不安も不安なのだろう。

 確かに人間の中には悪いヤツも居る。だけどそれ以上に良い人も居る。入試試験で出会ったあの二人の様に。

 だからと言う訳ではないが、母さんにはせめて私の夢を応援してもらいたい。

 

「瑞久女、お前もいい加減納得しろ。言って聞かせるだけじゃコイツはテコでも動かないって分かってるだろう」

「……お父さん」

 

 部屋の襖を開けながら、普段寡黙な父上が珍しく雄弁に語りながら現れる。

 のしのしと歩き、そのまま指定席に座った。

 

「化太郎……。ここの所、俺等の世界が慌ただしくなっているのは理解しているな?恐らく近いうちに『北の奴等』と戦争になるだろう。それなのに『人間の世界』に行くということが、どういう事か分かっているのか?」

「うん」

「その結果、殺生石家から勘当されるとしてもか?」

「……うん。私は、ヒーローになりたい。統狸や、父さん母さんに会えなくなるのはすっごいつらいけど、それでも私はヒーローになる!」

「……そうか」

 

 そう言って、父さんはもの凄い重圧を放ってくる。まるで山を相手にしてるかの様な、遥かな『格』の差。ただ其処に居るだけで身体を、精神を、魂を揺さぶる覇気を放つその姿は、島一つを動かした伝説が事実である事を理解させられる。

 

 でも、逃げない。泣きたいほどに怖いけど、私が目指すヒーローは()()()()で怯んではいられないのだから。

 

 

 

「好きにしろ」

 

 その一言を言い放つと同時に、身体を押さえつけていた重圧が霧散する。

 

 ……え、いいの?

 

「元々お前の人生に口を挟むつもりもない。この俺が生きてる限り、お前が抜けた()()の穴なぞ幾らでも埋められる。統狸も、他の奴等も強くなっている。お前のような半端者が初めから居なくてもどうにでもなる」

 

 それはそれで酷いっすお父上様。

 

「……ただし、これだけは言わせてもらおう」

 

 そう言って、その鋭い眼光を光らせて私の顔を見る。私はその気配に、無意識にごくりとつばを飲み込んだ。

 

「化太郎。お前は殺生石家の一員であり、家族だ。お前が家族の縁を切らない限り、俺達から家族の縁を切ることは絶対にない。お前が家族を守りたいと思い続ける限り、俺達もお前を守りたいと思い続ける。つらい事、苦しい事、困った事があったらいつでも戻ってこい。この場所が、この家が、お前の帰る場所なのだから」

「お父様ぁぁぁぁぁ!!!」

 

 感激のあまりお父さんのもっふり尻尾に抱き着いてしまった。だが今ばかりは許してほしい。お父さんのその言葉で、私の中に残っていた僅かなわだかまりが無くなったのだ。

 

 

 ありがとう、お父さん。

 

 

 

「……人間の世界に、本当に行っちゃうのね化太郎。お母さんすっごく、すっごく、すぅぅぅぅっごく寂しくなるわー……」

「……そんなに寂しくなるなら、俺が忘れさせてやるよ」

「あ、ちょっと、やん♥だめよアナタ♥まだ日も高いのに♥」

「ア、ジャアワタシアソビニイッテキマース」

「夜まで帰ってこなくていいぞ」

「はぁん♥ソコらめぇ♥♥♥」

 

 最近は控えめだなと思った矢先の事だよこんちくしょう。おまえら子供の前でおっぱじめてんじゃねーぞバカップル夫婦め。

 早いとこ雄英高校の近くで借りれる部屋探さないと(使命感)

 

 

「んひゃぁぁぁ♥♥♥」

 

 

 こりゃ入学前に妹か弟デキるな。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 そして、色々あって雄英高校の入学式の日ッッ!!

 本当にあれから色々あった。色々あり過ぎてなんか思い出すのもつらみ。

 まず中学の卒業式。雄英高校に合格した私と融剛と安藤はそりゃあもう盛大に祝われた。『学校創立以来の快挙じゃぁぁぁ!』と号泣してたハゲは誰だったんだ?

 

「それきっとその学校の校長ですよ」

 

 なるほど、言われてみればそんなんだったような気もしないでもないかもしれないが本当の所はきっと誰にもわからないと思う。そう、シュレディンガーの猫のように!

 

「それ誤用ですよ」

 

 ゴヨウ・ガーディアン?(突発性難聴)

 いや、そんな事はどうでも良い。重要な事じゃないんだ。

 そう、中学を卒業した私達は、一緒に童貞も卒業したのだった。

 

「へぇ……?その話、もっと詳しく聞かせてもらっても良いですか?」

 

 殺気!?

 あ、いや。この場合の童貞ってのはメディア露出的な童貞って意味で……。

 

「ああ、てっきり息苦しい学校から解放された勢いにのって衆道に走ったのかと思いましたよ」

「まってさとりん、さとりんの中の私像どーなってんの?そこまで性欲おさるさんじゃないよ?」

「いえ、貴方がというより貴方のオトモダチが貴方を掘ったのかと」

「私襲われる側なの!?怖いわーさとりんの妄想力怖いわー!」

 

 しかもなぜ衆道なのか。別に私女の子でもよくねー?

 と、とにかく春休みの間に偶々取材中のカメラの前で事件が起き、それを私達三人で見事に解決したらその後テレビ局でスーパー中学生と特集を組まれたのだ。どうしてこうなった!?

 まあスーパーな中学生である事はもはや周知の事実なんですがねぇ!!

 

「貴方の私生活がテレビに映されれば羞恥の事実だと思うんですが」

「さとりん、私にも涙腺はあるんだ」

 

 しまいには泣きますよ。

 話がそれてますよ~それそれ。

 

 ……要するに僅か一週間に満たない間で超有名人になったのだ。そりゃあもう劇的に。なんせ会う人会う人皆が『お、スーパー中学生じゃん!』って言って来るからな。馴れ馴れしいぞ貴様等。もっと褒めよ。讃えよ。崇め奉れよ。

 

「神ですか貴方は」

「そう、私はKAWAIIの神、ばけたろにゃん!」

 

 今日も絶対零度の眼差しが我が身を刺し貫く。いや、KAWAIIの神はネット上で呼ばれてる愛称やし……。許してにゃん!(デスボイス)

 とまあ、諸々あって私は一人暮らしを始めたのだ。知名度って凄いね。部屋借りる時敷金礼金賃貸料利子担保ゼロだったし。あれ、もしかしてこの部屋、ヤバい?

 

「安心してください化太郎。大家さんには私がキッチリOHANASHIをしておきましたから」

 

 あれ、もしかしなくてもさとりん、ヤバい。大家さん許してにゃん!(震え声)

 

「ってか今更だけどさ」

「なんでしょう?」

「なんでさとりんはこの部屋に居るの?」

「いてはいけませんか?」

「いや、そういう訳では……」

 

 さとりんの目が昏く光った。

 ああそうだった。正直な所独り暮らしなんて私なんかが出来る訳無いのでさとりんに一緒に暮らして貰うように頼んだったっけ。

 そういう訳でさとりんに万が一が無いように家から護衛用の狸を数匹、大家さんにばれないように部屋の増築をするように狐数匹を一緒に新居に連れていったんだった。

 ペット禁止と書かれているが、家族なのでセーフ。その結果、元々1Kだった部屋が4LDKの風呂トイレ別、冷暖房完備、完全防音、衝撃耐性、オール電化。ともはや原型留めて無いやん……な部屋になった。何が凄いってこれ外から見れば唯のマンションなんだぜ……。

 足元でキューキュー鳴いてる我が家族達。まあ、常識何それ美味しいのと言わんばかりの個性の不正使用パーティな訳だが実際バレてないしいいよね。誰に迷惑かけてる訳でもなし。それに彼らのお陰で窮屈な思いもすることは一切無いわけだから実際感謝してるのだ。

 ほーらお前達毛づくろいの時間だぞぅ。

 

「それよりいいのですか?もうこんな時間ですが」

「ふふ、私が何の為に雄英の近くで部屋を探したと思ってる?通学時間を出来るだけ短縮したいからさ!当然朝仕度の時間は悠々と「ですから」

 

「もう、こんな時間ですが」

 

 そう言ってさとりんはKAWAII時計を私に見せる。その長針は数字の5を刺し貫いていた。

 

「幾ら近くとはいえ、5分前行動も出来ないようではヒーロー以前に人としてどうなのでしょうね」

 

 ……

 

 サーッ!(血の気の引く音)

 

「さとりん行ってきます!家の事とかその他諸々お願いします!!」

「いってらっしゃい」

 

 このオレに足りないもの、それは――情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そしてェなによりもォーーー 時間感覚が足りない!!

 

 

 

「……あ、なんかさっきの新婚っぽかったですね。ふふっ」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ。てめーどこ中だよ端役が!」

 

 高校に登校したと思ったら、動物園だった。何を言ってるか分からねえと思うが正直俺も何を言ってるのかわからん。あー、こういうの完全に化太郎の役割だろ……長く一緒になり過ぎて伝染っちまったか?

 それともう一つ俺の頭を悩ませてる現象が……。

 

「(なあ、あれってもしかして『スーパー中学生』か?)」

「(うお、マジか!あんなバケモンみてぇなヤツも来るとかやっぱ雄英スゲーな!)」

 

 聞こえてんだよショウユ顔、イガグリ頭。俺は珍しい動物か何かか?

 はぁ……鬱陶しい。いや、この程度ならまだいいんだよ。実際これくらいならテレビ出た後何百と経験したしな。それ以上に鬱陶しいのは……。

 

「……」チラッ

 

「……」チラッ

 

 俺の前の席で長いポニーテール振り回しながらチラチラこっち見てる女だよ。何なんだよお前さっきから。その毛先で遊んでやろうか。見るんなら堂々と見ろよ。

 ……図らずも胸や股を男子にチラ見されるJKと同じ気持ちに浸りながら教室の前方にある時計を確認する。その時計の長針は数字の5を刺し貫いていた。

 

 ……化太郎は別のクラスだったっけか?いや、確かに電話じゃA組って言ってたが……まさか、また()()()()()の偉業を遂げる気かアイツ。学習能力皆無かあのアホは。

 

「……あの!」

 

 目の前のポニテ女が意を決してか小さく声を張るという器用なマネをしながら振り向く。

 

「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ」

 

 が、教室入口にいる不審者の一言に出鼻を挫かれた。不憫だなお前。

 そうして、不審者はモゾモゾと蠢きながら寝袋のまま教室の中に入ってきた。

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね。……担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 アレ担任かよ。中学といい高校といい、なんで担任は不審者なんだ……。中学は見た目はともかく中身が不審者だったが、今度は見た目からして不審者……バリエーションに富み過ぎだろ。担任ガチャの引き直しを要請する。だめかやっぱ。

 

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」

 

 ……入学式は?

 

 

 

 

 

「「 個性把握……テストォ!? 」」

 

 なにこのジャージ、超イカすじゃねえか。

 言われた通りにジャージに着替え、グラウンドに出る。移動中に見えた他のクラスの教室には普通に教師と生徒が揃って何か言ってたみたいだけどなんで俺等だけ外に出てるんだよ。

 

 雄英は”自由”な校風が売り。先生側も然りねぇ。話には聞いてたけど、まあ中々どうして……その自由って俺等に押し付けて良い自由なのか?

 

「……ん?……19、20、21……?おい、後一人は何処に行った」

 

 相澤先生がそう言うと、クラスの奴等もキョロキョロしだす。

 

「……あー、相澤先生。その一人は多分遅刻です」

「なに?」

「そいつ俺の友達なんですが、まだ来てないみたいです」

「……そうか。まあ、今はいいよ。そうだな……爆豪、中学の時、ソフトボール投げ何mだった?」

「67m」

 

 嘘やろ……キミ強肩とかそういうレベルやないやん……。

 驚きすぎて口調狂ったわ。ぱっと見どう見ても異形型でもないのにその記録はおかしい。普通の男子高校生の平均が大体25m。トップクラスでも40mくらいだっつーのに中学生でソレは無いわ。室伏の生まれ変わりかよお前。

 爆豪とかいう見た目不良少年の評価を上方に修正する。雄英ヒーロー科に合格するくらいだから相当な実力者だというのに、随分まあ甘く見てたもんだな俺。

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円からでなきゃ何しても良い。はよ。思いっきりな」

 

 爆豪は軽くストレッチをした後大きく振りかぶり、そして『死ねぇ!!』と叫んで投げる。

 ……死ね?……上がった評価がダダ下がりだよお前。

 しばらくした後、相澤先生の持つ機械に705mと記録が示される。大した威力だ。

 生徒達は楽しげな声を上げる。皆、個性を使用しても良い体力テストなど経験が無いのだろう。ま、俺はこんな事いつもやってたけどね。

 個性を思いっきり使える事に『面白そう!』と声を上げた。その瞬間、相澤先生の纏う空気が変わった。

 

「面白そう……か。ヒーローになる三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?……よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう……生徒の如何は教師の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 まじかよ。これには他の生徒達も文句を言うが、先生は一切聞き入れはしない。自然災害、大事故、身勝手な敵、いつどこからくるか分からない厄災、日本は理不尽にまみれていると言う。

 

「そういう理不尽を覆していくのがヒーロー。プルスウルトラさ。全力で乗り越えて来い。さあ、ここからが本番だ」

 

 んー、いいね。そういうのはとても好ましい。足手纏いは不要、効率的にプロヒーローを育てていくっていう気概を感じる。素晴らしい。まあ、見た目は最悪だがな。どれ、まずは総合一位を取るか。

 まずは、50m走か。

 

 

『世界は平凡か?』

 

 

 ……ん?今何か聞こえた?

 

「ねえ、今何か聞こえた?」

「ああ、ハッキリと世界は平凡か、と聞こえた」

 

 

『未来は退屈か?』

 

 

「……え、この台詞は!」

「な、なんだぁ!?」

 

 

『現実は適当か?』

 

 

「い、いやいやありえねえって!だって、アレはマンガのキャラクターだぞ!?」

「どこから聞こえるんだ!?」

「……あそこだ!屋上!」

 

『安心しろ!それでも生きる事は劇的だ!』

 

 

 こんなアホな事するのは俺の知り合いではアイツしか居ねえんだよなぁ……。

 誰かが雄英の校舎の屋上から()()()。控えめに言っても唯の身投げの瞬間だが、アレはあんな高さから落ちた所で死ぬようなタマじゃないのはよく知ってる。ただ、なんであそこに居たのかは全く分からん……。

 

「うわ!?落ちてる!落ちてる!!」

「ば、馬鹿じゃねえのアイツ!?」

「見ろ!アイツ落ちてるんじゃねえ……()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 変態に技術を与えないでください。

 壁を走る(落ちる)速度のまま地面に着弾。砂埃が異様に立つが、突如暴風が舞うように砂埃を飛ばした。そして、開けた視界にはまるで『凛ッ!』とでも効果音が出てるかの様に堂々と立っている黒神めだか(主人公)が居た。

 

「そんな訳で本日から箱庭学園……じゃなかった、雄英高校ヒーロー科に入学した黒神めだ……でも無かった。殺生石化太郎だ!学業・恋愛・仕事・友人関係全てに渡ってなんでも相談を受け付けるわけでは無いが相談があるというのなら乗ってやろう!」

「馬鹿じゃねえのお前」

 

 なんで遅刻しておいて堂々とあんなこと出来るんだよお前。ほれ見ろ。クラスの奴等全員アゴ外れるんじゃねえかってくらいビックリしてるぞ。

 

「う、嘘だろ……?あんな北半球丸出しのおっぱい……。揉まないと逆に失礼じゃねえのか?」

「駄目だぞ、お前」

 

 な、なんだこの性欲丸出しのチビ助……。北半球って何だよと思ったが秒で理解したわ草。

 

「……さて、先生は何処だ?そこのメガネ君か?」

「ボッ……俺は先生では無いぞ!先生はそちらのお方だ!」

「……コレが?」

「化太郎、仮にも教師相手に『コレ』は駄目だろ」

「遊戯、教師相手に『仮にも』は駄目だろ」

「先生、教師がというか、良い大人が人前に出るならその不潔感満載の無精ひげと長髪は駄目だろ。そこの真面目そうなメガネ君の方がよっぽどマトモな大人だ」

「ちゃんと必要になったらその時に身だしなみは整えるよ。それより殺生石、ヒーローが事件現場に遅れましたじゃ済まされないのはキチンと理解しているのか?」

「遅刻したのは悪いと思っている。だが、教室から移動するならキチンと連絡するか、せめて書置きの一つでも残しておくのが筋ではないのか?ギリギリとは言え、私は本鈴前には教室に到着し、無人の教室から既に入学式に移動しているものだと考えたが違ったようだ。親切で小さなネズミさんに教えてもらわねば私は一人で体育館に駆けこんでいた所だったが?」

「そもそもお前がもっと早く来ていれば防げた結果だろ」

「それなら最低限の礼儀すら欠いても良いと?雄英にはなんて素晴らしい大人が居るんだろうか。これが生徒の手本(教師)だなんてな。これが最高峰のヒーロー育成機関だなんてな。私は来る場所を間違えたのかもしれん」

「おい、化太郎。今のその恰好(めだかちゃん状態)だとマジで来る場所間違えてる奴だから。箱庭学園に帰れって話だから」

「それもそうか。あっはっは」

「はっはっは」

 

 化太郎。まあ、良い奴だったよ……。

 

「(う、嘘でしょ!?なんでいきなりあんなヤバそうな先生とバトってんのあの子!?)」

「(ま、マジで除籍されんじゃねえかアイツ!?)」

 

「……まあいいよ。ほら、お前達はさっさと個性把握テストの準備をしろ。殺生石、お前はすぐにジャージに着替えろ」

「もう既に着替えた」

「「( いつの間に!? )」」

「は、発育の暴力……!ジャージを押し上げる双丘ッ!揉まねば」

「駄目だぞ、お前」

 

 性欲丸出しのチビを蹴り倒す。つい足が出てしまったが、丁度いい身長なのが悪い。

 

 

 

「……先生。私は別に『教師』というものを特別視している訳ではないけど、今の貴方の恰好は『教師と名乗る不審者』に過ぎない。そんな人相手に信頼関係を築けるほど私は寛容じゃないよ」

「……善処しよう」

「確約しろや。国会議員かオドリャぁ」

「化太郎、お前もういい加減にしとけよマジで。相手はお前より長く生きてる大人だぞ」

「善処しよう!」

「確約しろや。地方議員かお前は」

 

 

 なんか先行き不安だなぁ。優秀なのに怒らせて除籍とか勘弁してくれよ……?

 

 




人に厳しいばけたろにゃん。
KAWAII神は生放送中に『いつもの』をやった所為。

Q.『いつもの』って?
A.ああ!


前作知らない人は気にしなくてよいですが、今作では化太郎及び殺生石家の立場について一つ明確化しました。これが今後の展開にどう繋がっていくかな。


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初日から前途多難感が激しいのはヒーロー科だからですか!?

 察しのいい方ならわかると思いますが、主人公が色々はっちゃけます。
 他のキャラのお株を奪いまくります。
 そんな展開ゆるさゃなへぞ!!ってお方は無理せず最後まで見て行ってください。



 50m走、何やかんやで私と融剛が最後に走る事になった。

 

「化太郎、オマエなぁ……入学初日から教師とバトる奴が居るかよ」

「えー、だってあれどう見ても不審者じゃん。私はヒーローになる為に雄英に来たんだよ?あの髭ぼしゃの髪ばさばさのがヒーローとか笑かしに来てるじゃん」

「バカ、あんなモンフルフェイスのメット被れば素顔なんて見えねえだろ。それに雄英の教師は全員がプロヒーローだ。あの相澤先生もプロヒーローだぞ」

「私あんなボッシャいヒーロー見たことないんだけど」

「……まあ、それでも雄英のヒーロー科の教師なんだ。間違いなく強いだろ」

 

 多分、という言葉は融剛の口の中でかみ殺された。だがまぁ、確かに融剛の言も一理ある。あんなんでもプロのヒーローなのだからまあ、少し、いや多少、僅かでも、一ミクロンくらいは信用しても良いのかもしれないしそうじゃないのかもしれない。あやふや止めろ。

 

『位置ニツイテ、ヨーイ……スタート!』

 

 そしてまた同級生がスタートラインから発射される。うんうん、皆実に個性的な個性を持っているねえ。

 

「何目線だお前……」

「上から目線ですが?」

「お前、ちっとはそういう態度直せよマジで。今まで友達が出来なかったのはそういうとこだぞ」

「だ、大丈夫大丈夫。こう見えて人の良い所は積極的に取り入れていくポジティブシンキング持ちだから」

「どう見ても変態する変態なんだよなぁ……」

 

『位置ニツイテ、ヨーイ……スタート!』

 

 あ、また同級生がスタートラインから発射された。ふーん、あの個性ってああいう……

 

「……化太郎、研究熱心なとこ悪いが、まさかこの場で同級生の個性をコピーしようとしてないよな?」

「ギクリンチョ。さ、さーてなんの事やら……?」

「個性ってのは、言葉通りその人の”個性”だ。それを真似されて良い顔出来る奴なんて限られてる事に気付け」

「むぬぅ……」

 

『位置ニツイテ、ヨーイ……スタート!』

 

 同級生がまた走り出す。ああ、うん。そろそろ私達の出番かい。うん、うーん。うーん?

 

 よし、ぶっ飛ばしていこう。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「お、おい。ついにあの『スーパー中学生』が走るぞ」

「『スーパー中学生』ねぇ……。言っても、アタシたちと同い年でしょ?」

「ヴィランを捕まえたことが有るっつったって……なあ?」

「……そういや、あの『スーパー中学生』の横の仮面のヤツ、どっかで見たな?」

「あの仮面は、確か彼の横に座っていた巨漢の人が付けていた物じゃないか?」

「あ~、言われてみれば確かにそれっぽいわ。何アレ、商品化してたの?」

「つーか、マジであの子めだかちゃんだとしたらヤバくね?」

「おっぱい……」

 

『位置ニツイテ』

 

「お、来るか。50m走はどんなもんかな?」

「うーん、見た所かなり鍛えられてるのは流石だと思うけど」

「頑張れよー『スーパー中学生』」

 

『ヨーイ……スタート!』ピーッ!『0秒99!』『1秒32!』

 

「……は」

 

「「「 はぁぁぁ~!!? 」」」

 

「……ッチ、負けたか」

「へへ、この()()()()()に速さで勝とうなんて100年早いぜ!」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「お、おい。ついにあの『スーパー中学生』が走るぞ」

 

「……は、マジで俺は珍獣かなんかか」

「いいじゃんいいじゃん。注目されてるって事はさ、それだけ度肝をぶち抜きやすいってことじゃん?」

「ぶち抜いてどうすんだよ……はぁ、まあいいか。変にナメられるよかマシだと思おう」

「でさー、でさー。どーする?本気出す?」

「はぁ?当たり前だろ」

「じゃあさ、じゃあさ!勝負しようよ勝負!勝った方がアイス奢る!」

「おう。……ん?勝った方が?

 

『位置ニツイテ』

 

「よしゃー本気だすぞー!変身!『恋色の魔法使い』!」

「……まあ、いいか。よし、俺も全力だすか……『グラウンドフュージョン』」

 

『ヨーイ……』

 

「彗星……」

「瞬速の……」

 

『スターt』「ブレイジングスター!!」「地走魚雷!」

ピーッ!『0秒99!』『1秒32!』

 

「……ッチ、負けたか」

「へへ、この()()()()()に速さで勝とうなんて100年早いぜ!」

「つーかなんだよ、50m走で1秒切んなや」

「言いがかりにも程がある!てかそっちこそなんだよ!『瞬速の地走魚雷』ってなんだよ!ネーミングセンスクソダサいな!」

「は~ぁ?ダサくないし?地面を走る魚雷ってカッコいいだろ!?」

「無いわ!無し寄りの無しだわ!」

「じゃあお前なんかいいの有るのかよ!」

「えー?……『神速のリヒトブリッツ』とか?」

「……ちなみにどういう意味で?」

「ドイツ語で稲光とかそういう意味」

「え、ええやんけ……」

「融剛ってさ、ネーミングセンスの無い厨二病だよね」

「お前等、いつまで残ってる。早く次いけ」

「うぃっす」

「神速の、リヒトブリッツ……良いなこれ。使おう……」

「てか融剛のさっきの、どういう原理?」

「んぁ?予め地面と融合しておいて、移動するときに地面と一体化することで一切の抵抗なく地面を瞬時に移動する技だ。一応まだ直線移動しか出来ないけどな」

「ほぁー、融剛の機動力が補われるんか。こりゃたまげた。今まで融剛って足クソ遅かったもんねぇ」

「お前と比べたら誰だって遅いだろ。いやそうじゃねえよ、個性無しだったら俺学校一の瞬足なんですが?」

「個性アリだったら?」

「言うな」

「何度も言わせるなよ?」

「うぇい」

「はいっす」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 その後も……

 

握力測定!

 

「融剛ー、540キロだって」

「まあ、流石異形型って感じだな」

「いや、お前等が言ってもまるで説得力ねえぞ!?」

 

 殺生石化太郎 万力に変化し測定不能!

 遊戯融剛 握力計と融合し測定不能!

 

立ち幅跳び!

 

「そーらーを自由に、とっびたっいなぁ!はい!」

「無茶振り!?」

「嘘嘘。だって自力で飛べるし」

「俺は飛ぶって言うより跳ぶだし」

 

 殺生石化太郎 鳥に変化し測定不能!

 遊戯融剛 地面と融合、分離し人間大砲化!記録72m!

 

「くっ!」

「いや、何故に」

 

反復横跳び!

 

「マッハ20は伊達じゃない!」

「ちょ!?速すぎて数えられねえ!?」

「ヌルフフフ!見切れますかこの速さを!」

「もっと相手を思いやれ」

 

 殺生石化太郎 残像が残る程の速度で測定不能!

 遊戯融剛 普通に反復横跳びをして記録130回!

 

 

「な、何だあの仮面女子は……!並外れたなんて物じゃない!」

「女子……女子いうんかなアレ……」

「うーん、分かってたけど化太郎ってめっちゃすっごいヤツ?」

「なんにでも変身出来るって言ってたねー」

「なんにでもって……それマジ?強個性とかそう言うレベルじゃねえじゃん!」

「めっちゃエロイ女体になれんのかな」

「いや、あのお面のヤツもそうだけど『スーパー中学生』も滅茶苦茶な記録だぞ!?」

「正に個性のレベルが違う……どうやって鍛えたんだろう?」

「……やはり、流石遊戯さんですわね……」

「……ッケ!」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

ボール投げ

 

「化太郎、∞だってよ」

「いやぁ、流石に∞はねえわ。どないすりゃええねん、全記録一位狙ってたのに……」

「測定不能は扱い的に一位なのか……?」

「まあ、そんな事より出久君は大丈夫かなー?」

「誰だよいずくくんって」

「今サークルに入ってる緑髪のもしゃもしゃ君。転校前の小学校で友達だったお方ですわ」

「そうか、随分奇特な奴だな」

「さっきの説明でどうしてそう思ったのかを小一時間」

「そんな暇ねえよ。それよりアイツ目立った記録残してた覚えが無いんだが、このままだと最下位じゃねえの?」

「そうかもねー。ま、私の記憶が正しければ出久君は無個性だったから、妥当っちゃ妥当?」

「……いや、友達ならもうちょっと心配してやれよ。除籍されるかどうかの瀬戸際だぞ」

「……?え、なんで除籍されんの?」

「は?あ、ああ。そういやお前丁度そのタイミングで居なかったわ。アレだ、相澤先生が個性把握テストのデモンストレーションの時に最下位は除籍って言ったんだよ」

「……はぁ!?」

 

「46m」

 

「……普通、うん。普通だな」

「いやいや!?え!?除籍!?なんで!?除籍ナンデ!?」

「知るかよ」

「……てか、え?今先生『個性消した』って言わなかった?」

「言ったな。見ただけで人の個性を抹消する、抹消ヒーロー『イレイザー・ヘッド』。そんなヤツが担任とはねぇ……」

「……誰?聞いた事無いんだけど」

「あんまりメディアに出ない、アングラ系とか呼ばれてるヒーローだ。前、父さんが教えてくれた」

「ふーん……強いの?」

「ヒーローの実力としてはかなりのモンらしいとは聞いたが……まぁ、個性が使えなくなるんだ。咄嗟の対応が難しいのは間違いないな」

「……ふーん。イレイザー・ヘッド、ねえ……?いや、今は出久君だよ。ど、どうしよう、折角再会できたのに最下位になっちゃったらマズいじゃん!マズみじゃん!」

「そうなったら仕方ないと受け入れるんだな。それもまた運命」

「くそ!使えねえなこの厨二野郎!」

「んだとゴラァ!!」

「出久君、何とかしろよぉ……またオールマイトごっこしようぜ……!」

「何だよオールマイトごっこって……。ほれ、もう二投目だ」

「ど、どうしよう。投げたボールをこっそり透明になって運んだりしちゃマズいかな?」

「ばれたら今度はお前が除籍になるだろ」

「む、む、」

「……ま、なるようになるだろ」

 

 二球目、出久君はさっきと同じように振りかぶってボールを投げようとしている。普通の記録じゃヤバイよ出久君……。

 と、私の耳が出久君の囁き声、否、ブツブツと呟く声を拾った。まだ……?まだだ……?何かのタイミング?それが、今?

 

「SMASH!!」

 

「フォッ!?」

「フォッ!?」

 

 かなりの速度をもってボールは飛んで行った。

 

「……おい、お前さっき出久君無個性って言ってなかったか?」

「アレかな、突然変異かな?」

「突然変異ってそう言うヤツじゃねえよ。お前じゃあるまいし……ってかアイツ指腫れあがってるぞ。どんな個性だ」

「うーん。見た目的に超パワー?でも反動で指ブッ壊れるとかヤバみ。日常生活に支障でそうやんけ……」

 

 出久君の顔を見れば、痛みで涙を堪えている……ヤバみ!

 

「705m……デモの爆豪とほぼ同じ位か。変なヤツだな、なんであんな超パワー持ってて前の記録に生かせない?」

「使う度に身体ブッ壊れるからとか?いや、それなら普通壊れない範囲で個性使うよね。まるで個性発現したての子供みたいに制御できてないのかな?」

「発現したての子供……か。もしくは本当に0か100かでしか使えない個性なのか?」

「……だとしたらなんで最初相澤先生が個性消したのさ?」

「それこそ知るかよ……」

「……あ、そろそろ出番じゃないの?私もだけどさ」

「ん。まあ、クラスメイトの個性なんて今考えてもしょうがないか。それに除籍されるかもしれない奴なんて尚更な」

「……」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「じゃあ次、遊戯」

「うぃっす。先生、円から出なきゃ何してもいいんすよね?」

「ああ、良いよ。さっさと準備しろ」

「おいーっす」

 

 何しても、ね。よし、まあとりま最初はこのボールをぶち壊す勢いでやってみようかね。

 グラウンドフュージョン……リミテッドゴーレム!!

 

「うわっ、何だァ!?『スーパー中学生』の奴が巨大化してくぞ!?」

「呼ばれてないけどジャジャジャジャーン!解説のばけたろにゃんです!」

「うぉ!?お前、測定不能仮面!?」

「 ば け た ろ に ゃ ん です!!」

「え、お、おう……」

「ばけたろにゃん……?え、お前まさか……『KAWAII神』の!?」

「YES!!I'mKAWAII神!!SayHO↑」

「……」

「ノれや!私がなんかイタイヤツみたいやんけ!!」

「え、なんかゴメン」

 

 化太郎うるせえな……。ちょっとは俺の集中が切れるとかそういう心遣いしろや。……まぁ、仮に耳元で騒がれてどうにかなるような集中してねえけどよ。

 

「とまあ、融剛の個性は『融合』。色々なモノと融合出来る。今は地面と融合して大きな土人形に変化してるね。見たまんまか」

「……や、お前のそのテンションの落差に付いてけねえんだが……」

「私はお前のその尖った髪についてけねえんだが!?」

「いきなり人の髪型ディスんの止めろ!?」

「まあともかく、融剛は今ここら一帯の地面を吸い上げて質量を上げているんだ。ま、そのままだとデカすぎて円に入りきれてないけど……」

 

 さて、そろそろ頃合いか。圧縮、フュージョンコンプレッサー!

 

「お、おお?今度はなんだ?縮んでくぞ?」

「圧縮してるんじゃよ、圧縮。重量はそのままに、密度を上げていってるのさ」

「それに何の意味があるんだよ?」

「まず一つ、重量をガンガンに上げて一撃の威力を際限なく高めるのサ!融剛は、自身が融合した物ならどんな質量でも自分の身体の様に自在に操れる!超すごい!」

「マジかよ!スーパー中学生は個性もダンチじゃねえか!」

「ふふ、勿論それだけに留まらないZE★二つ、土を限界いっぱいまで圧縮するとどうなると思う?」

「……ど、どうなるんだよ?」

「うっふっふ。ご覧よ!あの通り、限界いっぱいまで行くと圧縮されることによる熱とか融解曲線とかで赤熱した液状になるのさ!」

「な、なあ!?何でも有りかよ!?」

「出来る事を極限まで突き詰めていった結果さ!さあ見よ!融剛の本気の一撃、溜めに溜めまくった全力を!『ラヴァ・ブレイク』!!」

「なんでお前が必殺技の名前言うんだドアホ!!」

 

 そうして俺は手に持ったボールを真上に高く飛ばした。いわゆるトスって奴だな。そうして、ボールが落ちてくる間に腕をぐるぐると振り回して遠心力を溜める。まだまだ一撃の威力は上がる。

 ヴォン!

 ヴォン!

 寒気すら感じる大質量が高速で振り回される音に、周りの生徒達は無意識に一歩後ずさっていた。遠心力に釣られ、振り回している腕に溶岩が集まっていく。気が付けば、俺の腕が半径5mほどに膨れ上がっていた。

 

「融剛がゴーレムになり200万パワー!いつもの2倍の質量が加わり、200万×2の400万パワー!! そして、いつもの3倍の回転を加えれば、400万×3の1200万パワーだーっ!!」

 

 何の計算だ。俺ぁウォーズマンかなんかか?

 そしてボールが落ちてきた。そしてそのボールに吸い込まれるように俺の赤熱した巨大な腕がぶち当たった。

 バギリ、たしかにそう聞こえた。

 もはや高速道路を走るダンプカーに轢かれるよりえげつない衝撃を加えられたボールは、何で出来てるかは知らないけど粉々に消し飛んだ。

 

 粉々に消し飛んだ。

 

「遊戯、記録0m」

「なんで!?」

「当たり前だろ、馬鹿かお前は。次壊したら本当に記録0mだからな」

 

 ガチで凹んでたら化太郎が大爆笑してやがる。滅茶苦茶ムカついたから膨れ上がった右腕をパージして投げつけてやった

 

「死んじゃーう!」

「くたばれ」

 

 マジで。

 

「こ、これが……最高峰……!」

「いや……たぶんちゃうと思う……」

「す、凄い個性だ、手に触れた物と自分を融合する個性……?しかも自在に操る事も出来て、重量も感じさせない程に速く動かせる。自分の筋力だけで動かしている訳じゃないよな。融合出来る限界はあるんだろうか。掌からしか融合出来ない?生き物と融合も出来るのかな?」

「指壊れてるのに熱心だなお前」

 

 ちなみに化太郎の記録は1500mだった。すげえムカツク。

 

「やっぱり大砲よりミサイルだよね!」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

持久走

 

「八百万さん!バイクなんてズルい!」

「これも個性のうちですわ。それに私はまだいいじゃありませんか……」

 

「どけどけー!魔理沙様のお通りだぜぇぇ!!」ゴオオオオオオ

 

「空を飛ぶお方に比べればこの程度……」

「ああ……うん……」

「走れよ」

「お前が言うなってスーパー中学生」

「そのスーパー中学生っての止めてくれ、高校生なんだよ俺は。遊戯融剛だ」

「俺、切島鋭児郎!」

「オレ、上鳴電気!お前ヤベえな!」

「お前の語彙力ヤベエな」

 

上体起こし

 

「フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフン!!」

「分かっちゃいたけどエグイなこの速さ」

「みぃぃぃろぉぉぉぉ!はぁぁやぁぁすぅぅぎぃぃてぇぇおぉぉそぉぉくぅぅみぃぃえぇぇるぅぅだぁぁろぉぉぉ?」

「遊ぶな馬鹿」

 

長座体前屈

 

「ケロッ」

「のびーるアーム(物理)」

「「……」」

「ゲコッ!」

「もっとのびーるアーム!」

「お、おお……すげえ、長座体前屈で10mとか見たことねえよ……」

「ゲ、ゲロッ……」

「ゴムゴムのぉ~長座体前屈ぅ!」

「絶妙に使いどころのない技止めろ」

「まだ伸びるのか。20mって……あー、蛙吹?さん?その辺でやめときなって」

「ケ、ケロォ……」

「まだまだ伸びるぞ!横に!」

「横に伸びんな!気持ち悪い!!」

 

全種目終了

 

 

「んじゃパパっと結果発表」

 

「うーん……マジで最下位除籍なん?マジなん?マジなんなん?」

「少なくともあの時の相澤先生の目はマジだったぞ」

「このままじゃ出久君が最下位になるべさ……。ハッ、今ここであの先生を気絶させたら結果が有耶無耶になって出久君が助かる……!」

「止めろ馬鹿!」

「HA☆NA☆SE」

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

「「「 !? 」」」

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

「「「はぁぁぁぁぁ――――――!!?」」」

「あの先公一度ブチ■した方がいいんじゃねえか……?」

「止めなはれ融剛!ヤツはまだヴィランじゃない!」

「これからヴィランになる予定もないですわ……」

 

 やっぱりあの先生……嫌い!

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「……と、まあ皆お疲れ!出久君だけ保健室だけどこの後皆でマック行かぬぇ!?」

「清々しいまでのアホ」

「あんじゃとぉ!?」

 

 融剛が呆れた声で言う。オコですよあたしゃ。

 

「少し前に先生が放課後マック行きたかったらお生憎とか言うてたばっかやん……」

「知らん!」

「し、知らんって……いや、確かにお前その時遅れて来たけどよ……」

「遅れてなぁい!アレ先生が悪い!」

「あくまでもそう言い張るかお前」

「……今日の個性把握テストでは自身に至らぬ点が見えた。自身を鍛え直さねば」

「む、確かに……ぼ、俺もこの個性にかまけて速さを追求する事を忘れていたのかもしれない!」

「俺も、お前ら見て身体鍛え直さねえとなって思ったところだ、ワリぃな」

「なんじゃいなんじゃいお前等は!意気地なし!」

 

 手がタコみたいな無口(顔に無い的な意味で)男子と如何にも真面目なカクカクメガネ男子に頭が尖りきってる赤髪男子が言う。哀しみ。

 

「ぷぅ!そこの電撃ビリリは!?」

「うぇ!?え、あー……今日はほら、皆都合悪いみたいだしよー?」

「じゃあそこのブドウヘッド!」

「おっぱい揉ませてくれたら考えてやるよ」

「………………お前に揉まれるのは何かヤダ」

「チクショウめ!」

「そこまで考えることかよ……」

 

 ビリビリしてる男子も、ブドウみたいな髪の男子もダメだった。哀しみ。

 

「そんなにかー!そんなに私とマック行きたくないか!チクショウ!私総合一位ぞ!?個性把握テスト総合一位ぞ!?」

「だからなんだってんだよ……」

「三奈ちゃーん!皆がいぢめるー!」

「……アハハ、流石に今日はタイミングが悪かったねー」

「うわぁん!透ちゃんー!」

「おーよしよし!私の胸でお泣き!」

「うーんふかふか!」

 

 透ちゃんの発育の暴力は柔らかいなぁ!

 

「俺等は何故唐突にコントを見せられてるんだ?」

「ふーんだ、アンタ達なんて知らないしーらない!透ちゃん一緒にマック行こ!すぐ近くに個性使い放題の良い場所知ってるんだ!」

「え?本当!?行く行くー!」

「「「 ちょっと待て!! 」」」

 

 するとクラスの男子共が私の方を掴む。この置換野郎!ん?痴漢だっけ?

 

「何だよ冷血漢共!いま私は透ちゃんの発育力を確かめてるんだぞ!」

「代われ!」

「くたばれブドウ頭」

「あ、いやー……その個性使い放題の場所ってどこかなーって」

「教えなーい!さあマックへ行こう透ちゃん!融剛の奢りで!」

「待てや!なんで俺の奢りなんだ!?」

「お前どうせ来るんだろ!?このいやしんぼめっ!」

 

 私知ってる。融剛はスケベだから女の子と行きたがるって知ってる。(熱烈な風評被害)

 

「前触れなく奢れと言うお前の方が卑しいわ!行く訳ねえだろ!家帰ればトレーニング施設使い放題だわダラズ!」

「……おい遊戯、それどういう事だ?」

「……あ、あー……えっと」

「コイツん家ヒーロー事務所なんやでクチナシの君」

「バッ!?」

「「「何ィ!?」」」

 

 つい口を滑らしてしまったが、まあええか。だってみんな本気でヒーロー目指してるみたいだし。

 

「お、お前ヒーローの子だったのかよ!?」

「マジでスーパー中学生じゃねえか!」

「しかも聞いて驚け、なんとあの『ゲームマs」モゴモボ

「馬鹿お前、黙ってろ!」

 

 ああん融剛のお手てぇ……ヴォエ!!(唐突な裏切り)

 

「げ、ゲーム……まさか、()()『ゲームマスターズ』!!?」

「ヒーロー界においてオールマイトに勝るとも劣らない知名度を誇るあの!?」

「ヒーロー最強議論じゃ絶対に名が上がるあの!?」

「もふぉむもふふぉもふぉももむもふぉふぇ(それ以外のゲームマスターズを知らないけどソレ)」

「っ!化太郎、こっち来い!」

「ふぉ(いやぁ~!助けてー!暗がりに連れ込まれるー!連れ込まれて少年誌にお乗せできない内容な事されるー!)」

「絶対『ふぉ』の一言で補い切れない事言ったなアイツ」

「ってかマジで遊戯のヤツ『ゲームマスターズ』の子供なの!?」

「正に鬼才……!」

「クッソ!イケメンな上に強いとか……さらにいつでも揉ませてくれそうなおっぱいが居るなんて……モゲロ!!」

「峰田……お前……」

 

 そうして教室の外に連れ込まれ、壁ドンをされる。いやん、とぅんく。

 

「ぷぁ、いきなり口塞ぐなんて何すんだよー!」

「何すんだよはこっちの台詞ですが!?なんでお前急に俺の家庭事情暴露しちゃってんのお前!?」

「え、ダメだった?」

「ダメに決まってるだろ!おま、お前さぁ!中学じゃ暴露する雰囲気とか一切なかったじゃねえか!?」

「えー、だってそりゃあ本気でヒーロー目指してない奴等に教える意味無いじゃん」

「逆になんでさっき教える意味があったんですかねえ!?」

「えー?そりゃ、皆本気でヒーロー目指してるでしょ?じゃあ一緒に高め合う仲間じゃん?」

「だからそれがなんで俺の家庭事情暴露する事になるんだよ!」

「??いや、だから融剛ん家って普通に個性使用できるじゃん。皆で個性訓練しようよ」

「だったら学校の施設でいいだろ!」

「学校の施設じゃ何時でも使える訳じゃないでしょ?」

「俺の家も何時でも使える訳じゃねえんだよ!」

「……?なんで融剛が怒ってるのかちょっと理解出来ないんだけど?何時でも使えないのは前からだったじゃん?」

「だから勝手に俺ん家の事情暴露した事に怒ってんだよ!」

「? ? ?え、でもロイコちゃんには教えてたじゃん」

「アレは成り行きだっただろうが!」

「融剛が自分で口を滑らしたのは成り行きなんだ」

「う”っ」

「自分は良くて私は駄目なんだ」

「ぐっ……と、とにかく!今度勝手に俺ん家の事情を話すな!」

「なんで」

「何でもだよ!いいから言う通りにしろ!」

「……ふーん、そ。良いよ」

「分かったな!?……ったく、あーもー……あいつ等が家に来たいって言ったらどうしてくれんだよ化太郎……」

 

「……化太郎?」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 突然何処行ったんだ?化太郎のヤツ……まあいいか。それよりコッチの事だ。俺は教室のデカい扉を開ける。すると……

 

「おぉい遊戯!お前どういう事だよ『ゲームマスターズ』の息子って!」

「個性のレベルが段違いなのも納得だな……」

「個性鍛え放題かよ!羨ましいなー!」

「なあなあ、遊戯んトコは個性訓練施設が整ってるのか?」

「『ゲームマスターズ』のサイドキックって確かほぼ裸みたいなコスチュームのヒーローいたよな……」

「何ィ!?おい遊戯ィ!今日遊びに行くぞオイラは!」

「うるせぇ!!一気にくんな!後ブドウてめぇは一生家に来るな!」

「カタい事言うなよー!オイラとお前の仲だろー!?」

「黙れクソブドウ!テメェのタマ叩き割んぞ!」

「ヒェッ」

 

 ああもう、こうなったか……。

 

「でもよー、実際個性使い放題の訓練施設はマジで羨ましいよなぁ。しかもプロヒーローに監督付いてもらうとか最高じゃね?」

「雄英もトレーニング施設充実してるだろうが!ウチに来るんじゃねえよ!」

「えっ、マジで?」

「ええ。ですが雄英のトレーニング施設は予約制で何時でも使える物ではないですわ」

「あ、ホントだ。生徒手帳に書いてある」

「おい、よく見ればガッツリとジムみてーな施設あるぞ!」

「ほう、屋内プールもあるのか」

「今から早速予約しに行こうかな……」

「筋トレ用品も結構高いからね」

「分かったか?別に個性トレーニングなんて自主的にやりゃぁいいんだよ。じゃあ俺はもう帰るからな」

「あ、ねえねえ!それで遊戯ん家って何処なの?」

「言うか馬鹿!?極秘事項じゃ!」

「ぶーぶー!私達にも『ゲームマスターズ』の素顔見せろー!」

「ヨウツベでも見てろ!」

 

 なんなんだこのピンク女……。グイグイ来るな。素顔って……別に隠してる訳じゃないけど、言いたい事はそういう事じゃないんだろう。

 

「いいもん!じゃあ口が軽そうな化太郎に聞くし!「止めろ!」……で、その化太郎は何処に居るの?」

「あぁ?知るかよ……」

「ケロ、葉隠ちゃんもいつの間にか居ないわ」

「先に帰ったのかな?」

 

 マジでアイツどこ行きやがった?

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 そんなこんなで駅前のマックに来てます!

 

「いえーい」

「いえーい!」

 

 あかん、この子……ノリ良すぎ!好き!

 

「なんか気が付いたらマックに着いてたけどどういう事!?」

「レベル4のテレポーターにとって駅前のマックまで瞬時に移動するなんて朝飯前ですの!」

「凄い!なんかよく分からないけど個性まで使う事が出来るんだ!」

「この私に不可能はございませんのー!」

「わー凄ーい!」

 

 あかん、なんか……脳味噌溶けそうな可愛さ。いっぱいちゅき♡

 

「うーん……フィレオセットにしようかな。化太郎は?」

「ダブチにテリヤキ、ベーコンレタスにエビフィレ……クラブハウス。全部セットで」

「「「 !? 」」」

「お、お客様……全品『セット』でよろしいでしょうか……?」

「あ、サイドは全部ナゲットで。ドリンクはコーラ、白ブドウ、シェイクのバニラストロベリーチョコ一つずつね。それとシャカチキ、アップルパイ一個ずつ。以上でお願いいたします!」

「だ、大丈夫化太郎?頼み過ぎじゃない?」

「この私に不可能はございませんのー!」

「なんかすごく不安だなぁ……てか、お金大丈夫なの?」

「モーマンタイアルネー!こー見えて懐ぬくぬくヨー!」

「あ……そう……」

 

 

 

「特盛っ!」

「トレー一つに乗りきらないとか初めて見た……写真撮っていい?」

「イイヨー↑」

「うーん……と言うか本当に頼み過ぎじゃない?明らかにお腹に入る量じゃないけど……」

「これでも少し抑えた方なんだけどねー?いやー、個性がっつり使うとお腹がぺこぺこペコちゃんになっちって」

「だとしてもこのカロリーの塊。なに?全国の女の子に喧嘩売ってんの?」

「大丈夫!全部胸に行くから!」

「……」

「顔は透明なのに視線は冷たく感じる!?嘘嘘!ゴメンって!」

「……はぁ、まあいいよ」

「胸に行く云々は嘘だけど、これくらい食べないとガチめに命の危機だからね、シカタナイネ」

「そ、そこまでなんだ……」

「うん。それに幾ら太っても変身すれば常にナイススタイルだし!?」

「ゴメン、ちょっと一発殴らせてね?」

「あ”っ!?痛い!かなり痛い!本気で殴ったね透ちゃん!?」

「化太郎ってわりかし女の子の敵だよね……っ!」

「うぅん、ごめんよぅ……」

「もう……」

 

 ハンバーガー美味しいなぁ(*´ω`*)

 

「……ん。でもさー、やっぱ化太郎は凄いね」

「ふぁみふぁ?」

「ちゃんと飲み込んでから喋りなさい、はしたないなぁ……」

「ん……ゴクン。で、何が凄いの?」

「そりゃぁ個性把握テスト一位な所だよ。殆どの記録で測定不能だったじゃん!」

「ふふん、まあそれほどでも……あるけどー!」

「あるのかよー!」

 

 そんな分かりきった事を改めて言われても……照れてねーし!?

 

「むふー。まあ伊達に小学生からずっと鍛えてないからねー?」

「そんな早くから!?凄い!」

「それほどでも……あるけどー!」

「あるのかよー!」

 

 やばーい、たーのしー。ああマズい。このままだと透ちゃんに脳みそ溶かされる。

 

「いや、そーじゃなくて……ほら、化太郎の個性ならなんにでも成れるからやっぱり凄いなぁって」

「そーかな?まあ、確かになんにでも変身出来るからそこらのプロにも負けないって自負してるけど。でも透ちゃんの個性も凄いと思うよ?」

「えー?だって私の個性は透明になるだけだし、そんな凄いってモノじゃないよ……それに化太郎なら透明にもなれるんでしょ?」

「ん~……なれると言えばなれるけど……なれないといったらなれない……かな?」

「どゆこと?」

「どう説明すればいいかなぁ……」

 

 じゅるじゅるとバニラシェイクを飲み干す。

 

「あんねー。私の個性はなんというか、完全な『イメージ』で変身するんだ。だからイメージ次第で色々なモノに変身出来る。あの時みたいにめだかちゃんになったりとか、鳥になったりとか」

「へー」

「イメージが出来るモノなら完全完璧。イメージ通りに変身するけど、『透明』ってイメージがメチャむずいんだよね……。見てて?こうして自分が霧の様にぼやけることは出来るんだよ」

 

 そう言って自分が霧になるイメージをする。自分そのものが霧となり、人の形に集まっているイメージ。

 

「わぁ」

「ほら、こんな感じで『透ける』事は出来るんだけどぉ……」

 

 霧が更に細かくなるイメージ。どんどん、どんどん自分が『薄く』なっていくイメージを取る。

 

どう?見える?

「ぼんやりと!や、滅茶苦茶凄くない!?」

凄いかー。だけど、逆に言えば私はこれ以上薄くはなれないんだよ

「え?なんで?」

考えてもごらんよ。完全に透明である事と何もない事は似てるようで違う。でも、見た目上は同じだからイメージがし辛いなんてモンじゃないのさね。だから私じゃこうして霧状になって見づらい状態になる事が精いっぱいなのよん。だからこそ、完全に透明になっている透ちゃんは凄いよ。私には出来ない事だからね

 

 再度霧を集め、自分をかたどっていく。そうして、元の姿に戻った。

 

「うん……だからさ……えっと……つまり透ちゃんは凄いって事……」

「なんか急にテンションダダ下がってるんだけど!?」

「ああ……これは……自分の霧と一緒に……そこら辺の空気とか諸々巻き込んで……自分の容造ったから……不純物が混ざってる不快感と……空気の虚無感が……押し寄せてなんか……こう……何で私生きてんの……?」

「そこまでの代償を払ってまで!?化太郎元気出してー!?」

「あぁ……シェイク溶けてる……死にたい……」

「ちょ!とりあえず食べて!食べて元気だそ!?」

「透ちゃんは優しいなぁ……ハムッ」

 

 

「うまいっ!」テーレッテレー!

「えっ!?何今の音!?」

「えっ、知らない?ねるねるねるねるねのCM」

「ねる多くない!?」

「ねるね」

 

 ( ˘ω˘)スヤァ

 

「寝ないで!?」

「Σ(・Д・)ハッ 食べねば」

「いや、そうだけど……えぇ……!?」

「やー、ゴメンね透ちゃん。如何せん頭動かさずに行動してるとこう……つい」

「つい、で変に心配かけさせないで?」

「ゴメンて、優しいなぁ透ちゃんは。でも透ちゃんもポテト食べにゃ?」

「いや、化太郎が色々騒がしいからだよ?」

「ゴメンにゃ?でも私もう残りアップルパイだけだよ?」

「ふぉっ!?いつの間に!?」

「食べる速さもプロ並みさ♪」

「な、納得いかない……」

「まー兎に角、私が凄いのは小学生の頃からずっと頑張ってきたからだし。それに透ちゃんも私に負けない位凄い個性持ってるって事で」

「むー?そんな話だったっけ?」

「違ったっけ?忘れちゃったわ」

「適当だなぁ」

「モチモチお肌の秘訣はストレスフリーに生きる事よ?」

「聞いてないし。ふふっ」

「透ちゃん笑った顔可愛いわねぇ」

「うぇ!?見えてるの!?」

「んー……なんて言うかこう……波動で」

「波動で!?」

「透ちゃんって有名人で言ったら「わー!ダメダメ!!」え、ええ……?」

「顔見られるの恥ずかしいし、誰に例えられるのとかももっと恥ずかしいから禁止!波動で見るの禁止!」

「え、ええ……分かったわ……」

「むう、いきなり顔見るなんて……エッチ!」

「待ってそれは冤罪と言うヤツでは!?」

「べー、だ。化太郎なんてしーらない」

「待って透ちゃん!あ、ホラアップルパイあげるからぁ許して!」

「え、くれるの?わーいありがとー!」

「謀ったな貴様ぁ!」

「えへへっ、じゃあ半分頂戴?それで許したげる」

「……天使か」

 

 なんだこの子、めっちゃカワイイ……結婚しよ。

 そうして半分づつのアップルパイをモチモチと食べて解散となった。

 

「本当に寄ってかないの?個性訓練し放題だよ?」

「うん!確かに今日の個性テストでもっと頑張んないとなーって思ったけど、私の個性は『使う』って感じの個性じゃないし、家で出来る事からもっと頑張る!」

「そっかぁ」

「でもね、化太郎?私は負けっぱなしじゃいられないから、すぐに追いついてみせる。待っててね!」

「……なら、私は貴方よりも更に成長してあげるわ!精々追いすがりなさい!」

「にひっ。負けないよ!それじゃ、また明日!」

「うん!また明日!」

 

 ああ、やはり雄英に来てよかった。今日だけでも色々な人の個性、そしてその運用方法が間近に見れた。そして、葉隠透ちゃんと友達になれた。

 友達、ああ。友達。本気でヒーローを目指す、私の友達(ライバル)。今まで、誰も彼も口ではヒーローヒーローと言うのに、本気に成れない愚かな人達。

 やっぱり、雄英はそう言った()()()がまず違うなぁ。うん。きっと、A組の皆も他とは違う、本気の人達なんだろう。

 

 

 そう言う人たちを喰って、喰って、喰らい尽くして。同級生も、上級性も、教師も。

 オールマイトすらも、全部喰って。頂点に立つのはこの私だ。

 だからそう、皆。その為に()い人に成長してくれ。その全てを私が喰らって、私の血肉にしてあげる。

 

 逃げようと思わないでね?私が、貴方達の良い所全部、喰らい尽くしてあげるから。

 

「ふふふ。キツネも、タヌキも、どっちも雑食なんだからね?」

 

 明日からも楽しみだなぁ!

 

 

 

 ……ああ、そうそう。言い忘れていたけど、これは私が『最強』のヒーローになるまでの物語であり、私が世界の頂点に君臨するまでの物語だ。

 

 




なんかうまく纏まんねえなぁ。ま、書きたい所は書けてるしいいかな。

化太郎は雑食系です。人の良い所は積極的に取り入れていきます。だからこそ強くなり続け、結果、無意識的にも人を見下した位置から言葉を紡ぐことが有ります。

まあでも、主人公が貪欲なのはこういう創作物じゃありふれてるしいいよね(白目


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最悪腕の一本くらいは覚悟してもらってもいいですか!?

被服控除!
 入学前に『個性届』『身体情報』を提出すると学校専属のサポート会社がコスチュームを用意してくれる素敵なシステム!

「さー!今年の一年共はどんな素敵なアイデアを見せてくれるんだろうなぁ!」

 サポート会社は新しい発想を取り入れるのが大好きなのだ!



「うんうん。一通り見たけどどれもフレッシュ!って感じだね!」
「先輩。追加の『要望書』です。」
「ありがとう後輩!さてさて!どんな要望が来たのかな!?」

遊戯融剛
 どんな悪路でも怪我しない靴。動きやすく頑丈、かつ薄く。

「靴だけて!!」
「ユニーク!!」
「居るんだよねー!たまに自分の個性を万能だって勘違いして完全に機能だけを重視したようなコスチューム要望出す奴!お前ヒーロー何だと思ってんの!!」
「そんな君には嫌でもかっこいいコスチュームを作ってやろうじゃないか!!覚悟しろよ!」

「次だ!コレの後ならどんな要望でもイケそうな気分ッッ!」

殺生石化太郎
 可食

「…」「…」

「「 可食!!? 」」


VS戦闘ガチ勢


 午前は必修科目や英語等、普通の高校としての授業がある。雄英とは言え勉強をおそろかにしないのだ!

 

 お、おそろか?おろろか?おそそか……分からんぅ!

 

『おらエヴィバディヘンズアップ盛り上がれーー!!!』

「イエー!!」

(((またお前か……)))

『オーケーオーケー!じゃあ仮面リスナーこの問題の答え言ってみようかーー!!』

「I don't know how to explain it in English.(グーグル音声)」

((( !? )))

『別に答えは英語じゃなくて良いからな仮面リスナー!!』

「あ、じゃあ4番」

『ファイナルアンサー!?』

「Final Answer!」

『……』

「……」

 

『セェイカァイッ!』

「(無言のドヤ顔)」

『YEAH!仮面リスナーに拍手!』

 

 シーン

 

『おらエヴィバディヘンズアップ盛り上がれーー!!!』

「イエー!!」

((( 無限ループ……!? )))

 

 

 昼は大食堂で一流の料理を安価で頂ける!なんとあのクックヒーロー『ランチラッシュ』のメシが食えるのだ!凄い!

 

「けど私は弁当派なのです!」

「化太郎!一緒に食べよー!」

「イイヨー↑今日も可愛いツノしてんねぇ!」

「ちょ、触るのは駄目だよー!」

「私も一緒にいいー?」

「イイヨー↑今日もお肌のツヤが良いねぇ透ちゃん!」

「分かるの!?」

「適当に言った!」

「適当かよ!」

 

キャイキャイ

 

「……言ってる事はセクハラオヤジとそう変わんないのに受け入れられる。人は見た目が九割とは良くいったモンよ」

「何言ってんだお前。それよりお前はあの輪に入らねえのかよ」

「俺は食堂派だからな」

「そういう問題か?」

 

「お弁当っていつも作ってるの?」

「ん~ん。作ってもらってるの!」

「やっぱお母さんとかに?」

「違うよー、お母さんはあんまりそういうのやんないし。そもそも実家暮らしじゃないし」

「え?一人暮らしなの?」

「んにゃ、私以外にも家族が何匹ゲフンゲフン……あ、い、居候が一人」

「「居候」」

「ほら、この子」

 

 そう言って私はスマホの中に入ってる唯一と言っていいさとりんの写真を見せる。

 

「この子写真嫌いだからこれしか無いんだよねぇ……。ほら、恥ずかしがって顔隠しちゃってさ」

「は、恥ずかしがってると言うか、なんというか……」

「(目線だけ掌で遮って……これ、やらしい店の宣材写真みたい)」

「でも可愛いでしょ!?」

「あ、うん。か、カワイイネ!?」

「でしょー?もう毎日なでなでしたい。そんでこの子が作ってくれるお弁当がコレ」

 

 ドンッ!

 と明らかにカバンに入るサイズじゃない大きさの弁当箱を取り出す。

 

「「弁当というか重箱だこれ!?」」

 

 急に教室内がザワつきだした。

 

「……もしかして殺生石ってめっちゃお金持ち?」

「別にそんな事無いよ。ふつーよふつー」

「いやいやいや!お弁当で重箱持ってくる人とか漫画でしか見たことないよ!」

「まあ、一般人より滅茶苦茶食べるからね!普通サイズの弁当箱じゃ足りないモン!」

「あぁ……昨日もあれだけ食べてたしね……」

「えっ?昨日?どっか行ってたの?」

「皆がマック来ないって言うから透ちゃんとマックに行っただけだし!」

「いつの間に」

「あ、そう凄いんだよ!?気が付いたら駅前のマックにテレポートしてたの!」

「てれぽ……テレポート!?」

 

 更に教室内がザワつきだした。お前等昼飯食えよ。

 

「そ、そんな事も出来るの化太郎!?」

「ふふん、私に出来ない事など、あんまり無い!」

「あんまり無いのかよ!」

「そんな事はどうでも良い、重要な事じゃないんだ。それよりほら、ご飯食べよ?」

「あ、そ、そうだね……」

「食べよ食べよ!ねえねえ、おかず交換しない?」

「イイヨー↑」

 

 重箱を開ける。五段重ねなモンだから広げるとかなりのスペースを取るが、そこは近くの机を借りてカバーする。中身は煮物揚げ物焼き物炒め物と幅広くバランス良く詰まっている。実に美味しそう。

 

「……あのさ、化太郎」

「なぁに?」

「私の目が狂ってなければ中身の9割がお肉に見えるんだけど」

「うん、三奈ちゃんの目は狂ってないよ。良かったね!」

「良くないよ!バランス悪いってモンじゃないし白米すら無いってどういう事!?」

「私、最終的に米に落ち着かなかったタイプの人間なんだ」

「日本人か貴様!?」

「三奈ちゃん、驚きすぎて口調がおかしくなってるよ」

「いやでも透ちゃんコレ絶対おかしいよ!?」

「確かに化太郎は変だけど!いろんなところが変だけど!だけど否定しちゃだめだよ!変な所を否定するのは良くないよ!」

「透ちゃん……透ちゃんの言葉が嬉しすぎて私涙ちょちょぎれちゃうよ……」

 

 変なのは自覚してるけども!自覚はしてるけどもぉ!

 そんなこんなでがっつりご飯食べて午後の授業、ヒーロー基礎学!

 

「わーたーしーがー」

 

「普通にドアから来た!!」

 

 HAHAHAHA!!と普通に来てズンズンと教壇前まで歩いてくる。ヒャア、マジ生マイトだ!たまんねえなオイ!

 

「(何だろう、なんか化太郎で見慣れたからか、まるで感動しねえ……)」

 

 そんなこんなで戦闘訓練!に、伴って渡された戦闘服(コスチューム)!!テンション爆上がりやんけオラァ!!まあ私にとって普通の戦闘服(コスチューム)なんてマジで飾り以下なんだけど……なんで私の個性は衣服すら纏めて変質するんだ全く!お陰で毎日着る服に悩まなくていいけどね!まあとりあえず完全実用で頼んだ戦闘服(コスチューム)はどんなのかなーっと………………

 

「マイティー先生!」

「マイティー先生!?私の事か殺生石しょう……少……年?」

「私って()()()で着替えればいいと思う?」

「ど、どっちって?」

「『ブスリ♂』か『ブスリ♀』のどっちですか!」

「言いたいことは分かるが何を言ってるのか分からないぞ殺生石少年!」

 

 どっちでもいい事になった。まあ私ノージェンダーですし!?

 

「そういうのノージェンダーって言わないし」

「じゃあノンセクシャル!」

「それも意味違うと思う……」

「アンノウン・Xジェンダー!」

「未知の性……」

「厳密に言えば殺生石さんはXジェンダーでもありませんわ……」

「性別の無い存在……つまり私は天使とほぼ同義なのでは?」

「良いように言うな。お前はカタツムリと変わらんだろ」

「は?」

「あ?」

「こらこら君たち!?自由が売りとは言え流石に自由すぎると困っちゃうぞ!?着替えて着替えて!」

「ッチ」

「……」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 確かに可食としか書かなかったがよ。

 

「おぉ……凄い、化太郎なんか……お姫様みたい!」

「なんかふんわり甘い香りが……」

「これは……一体どういった素材で作られてるのでしょうか?」

「女子以上にドレスを普通に着こなしててムカツク」

「ケロッ、お菓子の家みたいね」

「なんか見てるとお腹減ってくるやん……」

 

 何この……何?何コレ?食べられるのほんとに。

 どれどれ、コスチューム説明書には……

 

『殺生石化太郎君へ。そのコスチュームはお菓子ヒーロー『マスターパティシエール』渾身の食べられる戦闘服になります。防弾、防刃、防爆、防音、防毒、防溶、その他諸々の防御力等は()()無いですが、代わりに乾パンよりも長い賞味期限に食感、味、共に最高峰である事を此処に記します。更に熱を加えることでよりサクサクとした食感に。冷やす事で溶けるような舌触りに変化しますのでお好みでご賞味ください。』

 

『P.S. デザインは私の趣味です。』

 

「知るか馬鹿野郎!!」

 

 スパァン!と説明書を地面に叩きつける。誰がここまでしろと言った。なんだこの服は、これから舞踏会にでも行くんか?

 ヒラヒラモコモコのスカートを舞わせながら外に出る。ミルクチョコレートのドレスが太陽の光を反射し、飾られた生クリームのフリルが風を浴びて優雅に靡いては男子の視線を独り占めしている。

 熟れた林檎の様に紅いリボンが胸元で揺れ、キャンディーの腕飾りがしゃらりと鳴り響く。ハチミツを固めたティアラがキラリと輝き、クッキーの靴がコツコツと音を鳴らす。

 

 誰がここまでしろと言った。いや、律儀に着る私も私だがさぁ……。

 

「お、オイ……あれ……」

「マジかよ……!」

「綺麗だ……」

 

「せ、殺生石君!なんだそのコスチュームは!?そんな動きにくそうな格好では戦闘訓練にならないのではないか!?」

「んー?もしかして、マジメガネ君?」

 

 なんか目の前のガションガション言いそうなロボモドキは顔が見えないが、特徴的な腕の動かし方でなんとなーく中身を察する。

 

「マジメガネ君とはなんだ!?俺の名前は飯田天哉だ!いや、それよりもそのコスチュームだ!?何故そんなにひらひらと動きにくそうな恰好なんだ!」

「可動域以上に絶対動かなそうな上に無駄に重そうなキミほどじゃないですわ」

「何を言う!このコスチュームは俺の個性を最大限活かせるよう、スピード重視の工夫が凝らされている!」

「なら私も私の個性が活かせるように工夫が凝らされてる上に、見る人の心を奪う一石二鳥のコスチュームだですわ?」

 

 そう言ってドレスの裾を持ち上げひらりと回る。辺りにふわりと甘い香りが漂った。

 

「な、なるほど……!確かに俺のコスチュームは人によっては威圧感を与えてしまうかもしれない。しかし殺生石君のコスチュームは、子供から大人まで幅広い年代の方から支持されるようなキャラクター性を感じる。このヒーロー飽和社会、人気ヒーローになる為にはまず愛される見た目から入るということか……!くっ、これが最高峰!俺には無かった発想だ……!すまなかった殺生石君!俺は誤解をしていた!」

 

 何だコイツ、良いように解釈してるぞ。これ適当言っただけって伝えたらどんな顔するんやろな。まあ今フルフェイスだからわかんねーけど。

 

「みんな揃ったようだな!さあ始めようか有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ……で、まあ屋内での対人戦闘訓練。最初の組の出久君と爆豪のヤローが色々あって大暴れした所為で場所を移す羽目になった。まあ、それは良いよ。問題は、私の対戦相手だ。

 話は少し戻って組み分け、Aクラスは22人、二人組で作っていけば11組、当然ヒーロー対ヴィランと別れるのなら11組じゃキリが悪い。結果、二組だけ3人のグループになった。

 透ちゃん、尻尾の君、私のヴィランチーム。そして、無口(物理)、ハーフ&ハーフ、融剛のヒーローチーム。

 これも神の思し召しって奴かねぇ。丁度ぶん殴りたいと思っていた相手が敵側に回ってくれるなんて。

 

「まあそれは置いといて、透ちゃんは知ってるけど、尻尾の君は知らないよね。殺生石化太郎で御座いますわ。宜しくあそばせ?」

 

 そう言って完璧なカーテシーを披露する。その仕草に周囲の男子はメロメロ、特に目の前の尻尾の君は分かり易く狼狽えてた。お前さては……どうt

 

「尻尾の君?こ、こちらこそよろしく……。でも測定不能マンが味方に来てくれて心強いよ」

 

 まてい、測定不能マンって何だよ。アレか?個性把握テストで測定不能出しまくったからかこの野郎。まあいいけどね。わたくしの心は寛大ですのよ。

 まあそんな事よりさっきからマジで気になってるのが、この、コレ。

 

「もし、尻尾の君。貴方の個性の尻尾、触っても宜しくて?」

「尻尾の君じゃなくて、尾白猿夫。尾白でいいよ。それと尻尾の件もまあ……いいよ」

「いやっほう」

「うわッ!?ちょ!!?」

 

 許可が下りたので早速全身で触ってみる。

 

「触るって言うか抱きつきに来てる!?」

「触っていいって言ったじゃないの!」

「限度って物が有るだろ普通!」

「普通という言葉では収まらない存在。それがわたくしでしてよ!」

「ならせめて手!手で触るだけにしてくれ!」

「む、そこまで言うのなら仕方ないですわ。このわたくしが譲歩して差し上げますわ」

「何で俺が譲歩される側なんだ……?」

 

 尻尾の君がしぶしぶと尻尾を差し出す。差し出された尻尾を、両手で包むように触る。

 

「な、なんかむず痒いなぁ……」

 

 差し出された尻尾は鍛えられた筋肉のように硬く、微細な毛に覆われているが以外にも触ると艶々した感触だった。そして、当然と言えば当然なのだが尻尾にも神経は通っていて、心臓と一緒の拍動も感じられた。

 

「うわ、尾白君のコレ……スッゴくカタい……。しかも……ヒクヒク脈打って……すごい、熱いよ……」

「ッ!??」

 

 尻尾の感想を口に出しただけだと言うのに、物凄い勢いで尻尾を振るわれた。

 

俺はノーマル俺はノーマル俺はノーマル俺はノーマル……いきなり変なことを言うな!!」

「あぁんいけずぅー。あんまり触ったことの無い感覚だったからつい尾白君のをコスコスしちゃっただけよー?」

「だ、だから変なことを言うなって!」

 

「無知シチュ……」

「お前も変なこと言うなブドウヘッド」

「す、スキンシップもその辺にしときな殺生石少年!!」

 

 

 閑話休題

 

 

 そんなわけで3on3の戦闘訓練が始まった。5分後にゃ似非ヒーローどもがノコノコやって来るわけだが、さあて。

 

「どないしょか?」

「それな」

「せやな」

「せやせや」

「あのさ……二人してボケ倒さないでくれ……」

「「せやかて工藤」」

「工藤じゃないっての……。さっきの訓練見て真面目にやろうとは思わないのか?」

「思うよ!やっぱ熱くなるよねさっきの見たら!」

「私も年甲斐なく胸が熱くなりましたわ」

「君は何歳なんだ」

「あなたが望むなら、何歳でも」

「おぉー、大人な女性って感じ!」

「いや、だから……。はぁ、いいよもう……それで、作戦はなにか考えてるかい?」

「私が手袋とブーツ脱いで本気だすわ」

 

 うおー!!と気合い入れる透ちゃん。可愛い。

 

「(葉隠さん……透明人間としては正しい選択だけど女の子としてはやばいぞ倫理的に)」

脱ぐって聞いてエロイ妄想してんじゃねえよ童貞

「してないし!?ってかど、どう……口悪いな本当に!!」

()った?」

「たってないから!?」

「何の話ー?」

「ィい!?葉隠さんは聞かなくていいから!」

 

 ぶぅー!と抗議する透ちゃんマジ可愛い。

 

「全く……!君は馬鹿なのか?」

「失礼ですわ。ただオープンなだけで御座います」

「それを馬鹿だといってるんだ俺は……」

 

 ふぅ……と大きなため息を吐く尾白。つい悪戯心がムクムクと勃ちあがる。

 音もなく尾白の耳元に近づいて……

 

「(本当に勃ってたら後でシてあげましょうか?この格好で……♥)」

「ブッッッ!!?」

「なーんて、冗談よジョーダン。ジョーダンジョータン上段突き~♪」

「っ……!君は、嫌いだ!!」

「……本当に何の話?」

 

 

 閑話休題

 

 

「とか言ってるうちにもうヒーローチーム来ちゃうじゃないか!」

「作戦どころか核何処に置くかも決まってないよ!」

「んー……しょうがありませんわね。ここは一つ、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に行きますわ!」

「それってつまり行き当たりばったりなんじゃ……」

「と、とりあえずヒーローチームが来るまでに核を動かさないと……!」

「あ、じゃあ二人は核をなるべく上に運んでいただけるかしら?私は先にオールマイト先生に確認したい事が御座いますの」

「……まあ、いいけどさ」

「化太郎!早めにね!」

「勿論ですわ!…………さて、聞こえてるかしらオールマイト先生?少し確認したい事が―――

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 さて、なんだか賑やかそうな化太郎達(ヴィランチーム)だったが、俺達は……

 

「……」

「……」

「……」

 

 作戦会議の一つも無くずっと無言だった。何なんだお前等、クールぶってんのかおい。

 そしてそんな中、俺をずっと睨み付ける様な視線を送るこの紅白のオメデタイ野郎はマジで何なんだ……。いや、()かは知ってるがよ。

 

「……おい」

「……」

「……」

「無視すんなカマボコ野郎」

「……?俺はカマボコじゃねえぞ」

「知ってんだよんな事!そうじゃねえよさっきからお前の視線がうっとおしいってんだよ!」

「わりぃ」

「お、おう……」

「……」

「……」

 

 ちらりともう一人の味方に顔を向けるが、困ったように頭を掻かれた。俺が一番困ってるんですが?と言うかお前もなんか喋れ!

 

「……お前には」

「あ”ぁ”?」

「(チンピラかコイツは)」

「お前には……負けねえ。遊戯」

「はっ、その言葉足らずな所は相変わらずだな轟クゥ~ン?今も変わらずエンデヴァーに唾吐いてんのかぁ?」

「お前には関係ねえ」

「は、そーかい」

「……」

「……」

「(なんで味方同士で喧嘩腰なんだ……?)」

 

 轟 焦凍。ナンバー2ヒーロー『エンデヴァー』の子供にして、氷と炎を操れる強個性持ち。初めて会った時はお互い身体がまだ全然出来てない頃だったが、推薦試験会場で再会した時は一目で思い出せた。肉体的にはかなり厳しいシゴキを受けたんだろう。だが個性は試験会場という場所じゃぁフルで見る事は出来なかったがな。

 

『さあ時間だ!ヒーローチームスタート!!』

 

「お前等は出てろ、俺一人でいい」

「……轟、これはチーム戦だぞ」

「はっ、ご自慢の個性ですかぁ?いーよいーよほっとけ。どーせ結果は見えてる」

「……」

 

 轟の個性なら先制打てば一瞬だろう。まぁ、それでも化太郎を倒せるかと聞かれれば首をかしげるが。

 そう考えてる正にその時。ヴィランの根城であるビルが完全に凍結した。

 

「なっ……!」

「ほぉー。随分鍛えられたな」

「……」

 

 俺の一言に一切反応せず、そのままビルに入っていった。

 

「ほ、本当に一人で良さそうだな」

「……と、思うじゃん?」

 

 じゃ、俺等は俺等で作戦会議でもしようかね。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ビルの窓を熱で溶かし潜入する。すると、一階のエレベーターホールに()()凍っているのが見えた。それと共にハリボテの核も置いてある。

 ……ナメてるのか?それとも罠か?だが俺には関係ない。

 

「っ……!こんな……強力な個性だったなんて……!」

「痛たたた……足……死ぬぅ!」

 

「おい……もう一人()()()()が居る筈だが、何処に居る?」

 

「痛っ……横に、ブーツ有るだろ……」

「ちょっとー!それより氷溶かしてぇ!凍死する!ちんじゃう!!」

 

「後でな」

 

 あんまりにもあっさりと決着がついて少し、気が抜ける。()()遊戯とつるんでいた奴だから、と思ったが……。まあいいか。

 そのままハリボテの核まで歩いて行き、ソレに触れる。

 

『ヒーローチーム WIN!!』

 

「悪かったな、レベルが違い過ぎた」

 

 そう言って氷を溶かす様に熱を放出する。

 

 

 

 

「馬鹿め!と言って差し上げますわ!!」

「あぁ?」

 

 突如、氷が溶けるように()()()()()()()()()()が溶け、そこから腕が突き出される。その手には確保テープが……

 

「ッ!?」

「チィィッ!あと僅かでその首刈り取れましたのに!!」

「物騒だな」

 

 テープで首を絞められる寸前に、間一髪で回避に成功した。だが……

 

「おい、訓練は終了したんじゃ……」

「ふふん、それこそ馬鹿め!と言って差し上げますわ!!んっんっ……『轟少年!どうだ!驚いただろう!?サプライズプレゼントだ!!』」

「……な、んだと……?」

 

 それは、正に先程聞いたマイク越しのオールマイトの声そのものだった。つまり俺は、コイツに担がれたと言う事だ。

 ふと後ろに居たはずの、尻尾の男とドレスを着た女を見る。だがそれはよくよく見れば精巧なマネキンの様な物だった。ビルごと凍り、体表面に霜が付着した事で()()()を本物と錯覚してしまった俺のミス……否、アレは確かに()()()()()そのものだった筈……!そこまで思考を巡らせたところで

 

「私相手に余所見とは、死にたいのかな?」

 

 視界が一瞬で跳んだ。数瞬遅れて全身に痛みが駆け巡った。まるで高速で走る車にでも轢かれたかのような衝撃だ。

 

「ゴボッ……な、にが……」

「あっはァ……♥い~ィ顔ねェ……その痛みに歪んで、訳のわからない事に直面したフクザツな顔、大好きィ♥食べちゃいたいわァ……♥」

「っ……!」

「アナタみたいなイケメンをぉ……グッチャグッチャに潰して、擂り潰して、犯し尽くして絶望一色の顔にするのぉ♥あはっ!」

 

 いつの間にか首に確保テープが巻きつけられていた。だが、そんな事が気にならない位に俺はコイツに恐怖している……!

 

「ウフフッ♥無骨な首輪でゴメンネェ?でもスグにイィ物に変えてあげる♥」

「っ……はっ……はっ……」

 

 確保テープがゆっくりと、ゆっくりと締め付けられていく。段々息が苦しくなり、視界がぼやけていく。だが、意識を失わないギリギリで一瞬だけテープが緩む。それが繰り返されていく。

 

「……あら、なあに先生?……訓練?……勿論分かってるわよ?アナタも言ってたじゃないの、ヴィランの思考を学べって。うふふ~♥このクラスで私以上にヴィランの思考がわかるのって、きっとオールマイト先生だけよぉ♥だぁかぁらぁ……クラスの皆に見せつけてあげるの♥本当のヴィランって奴を!」

 

 眩暈がする。身体に力が入らない。抵抗する力が起きない。もはや、死に体。油断した。

 

「そう、アナタは油断したの。その代償がこ~れ♥あなたは、無様に、無惨に、ヴィランに犯され尽して死ぬの♥素敵な最期ねぇ♥でも安心して?これはあくまでも訓練(お遊戯)。アナタには()があるのよ?でもぉ……

 

 痛みを伴わない訓練になんの意味もないわよねぇ!!

 

 腕に衝撃が走り、バキンッ!と大きな音が鳴った。その部分を見れば、不自然な場所で折れ曲がった腕が

 

「っ!?ぐ、ああああああああああああああああ!!!」

 

 ソレを理解した直後に頭に響く電気信号。殴られたり、切られたりする痛みには多少慣れてるが、それとは別次元の『痛みを与えるためだけの攻撃』に、思わず悲鳴を上げてしまった。

 

「んあああああ♥たまらなぁいスクリーム♥素敵、素敵だわぁ♥」

 

 脳に直接響く様な殺生石の声が、俺から僅かに残った抵抗の力を削ぎ落していく。

 今まで見た、どんなヴィランよりも。

 クソ親父が語った、どんなヴィランよりも。

 笑顔で狂気に満ちた姿は、正に『ヴィラン』だった。

 

「ふふ♥安心してねぇ?私って、個性的に人体の構造には人一倍詳しいの。リカバリーガールなら一瞬で治せるように痛めつけてあげたわぁ?そ・れ・に……アナタのスクリームに釣られてヒーロー共がお出ましのようねぇ……♥」

 

「おいおい……!訓練とは言えやり過ぎじゃないのか!?」

「ありゃ化太郎にとっちゃ平常運転だ。諦めろ」

「諦めるモノじゃないだろう!?」

 

「ちょっと!何今の悲鳴!化太郎どうしたの!?」

「おい殺生石!君また変な事したな!てか一人捕獲したのなら言ってくれよ!!」

 

「ふふ♥さあ役者は揃ったわ?おいでヒーロー達。貴方も私のオモチャにしてあげる!!」

 

 クソッ……俺は、俺は()()何も出来ねえのか……!

 

 腕、滅茶苦茶いてぇ……。

 




化太郎:ガンガン行こうぜ!

融剛:お前ががんばれ

的な作戦。

化太郎完全にドレスが気に入った様子(そうは見えない)
轟君に気になる伏線張った所で、今日はこれまで!また今度とか!


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死ぬ気になれば何でもできるって本気で言ってますか!?

原作は少年誌だけどこの作品は少年誌ではない。つまりそういう事だ。

未成年にエログロがんがんブチかませ!(非道)


モニタールーム

 

「うわあああああ!!!?腕!?腕が完全に折れ曲がってやがる!!?」

「ひっ……」

「狂気……!」

「なんて顔で嗤ってやがんだ……!」

「おぞましい……!」

「何なんだよアイツ……マジでやべぇヤツじゃねえか!」

 

「(皆の言う通り、おぞましいまでの快楽主義者(ヘドニスト)!自身の享楽の為に人道から外れたその姿は正にヴィランそのもの!正直(プロヒーロー)でも相手にしたくないぞ殺生石少年!だが……)君たち、よく見ておくんだ。あれが、いつか君たちが相手にしなくちゃならない凶悪犯なのだと!()()に出会う前に知ることが出来る機会なんて早々ある事じゃないぞ!」

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

ビル一階エレベーターホール

 

「……つーか轟、なにお前捕まってんの?あんだけイキって一人突っ込んでいきながらよ」

「……」

「うふふ♥だめよぉ仲間内で喧嘩なんてぇ♥」

「お、おい殺生石?何かお前さっきと全然キャラ違うぞ?」

「うふふ♥今の私はヴィランクィーン『暴食のベルゼナーヴァ』よ?次間違えたらその地味な顔から噛みちぎってあげるわ」

「怖っ!!?ってか本気でヴィランを演じ過ぎじゃないか!?」

「訓練だからこそ本気でやるべきよ?やる気の無いコは還りなさい、土に」

「土に!?」

「えーっ!?ていうか轟くんの腕が曲がっちゃいけない所で曲ってる!?」

「ちょっと透ちゃん、今は訓練中とはいえヴィランVSヒーローなのよ?ヒーローに情けを掛けるヴィランが何処に居るってのよ」

「いや、でも、ええ!?」

「それに腕の一本や二本でガタガタ言ってる奴がプロヒーローに成れるのかしら?プロになれば怪我なんて日常茶飯事よ」

「っ……そうかもだけど……」

 

 まるで化太郎を中心に部屋の温度が下がっていく様に、ひやりとした悪意、殺意が放たれる。

 仮面の奥で歪に口元を歪めた化太郎は更に言葉に悪意を乗せて語る。

 

「そもそも訓練が終わればリカバリーガールが治してくれるわ。ならなにを戸惑う必要があるの?なんで躊躇う必要があるの?貴方が本気でプロヒーロを目指すのなら、本気で更にその先を目指しているのなら、全力で『(ヴィラン)』を理解しなさい。悪意に怯んで、誰を守れるというの?」

 

 その化太郎の言葉に、その場に居た全員の気が引き締まる。そうだ、自分はこの場に、ヒーローになる為に来てるのだと。

 ただ、一人を除いて。

 

「演説長ぇんだよ馬鹿野郎」

 

 吐き捨てるように融剛が言い、地面を踏みしめる。それだけで地面が大きく揺らいだ。立ってるものは融剛と化太郎を除き地面に転げる。その直後……

 

人質(とどろき)、回収完了」

「お」

 

 融剛の足元に轟が転がっていた。轟自身も、何が起きたのか分かっていない様子だった。

 

「つーかよぉ……確保したヤツの扱いがこの訓練のルールじゃまるで分かんねえんだが?脱落者として扱うのか?それともその場で抵抗続けても良いのか?」

「ふふ♥知らないわぁ?でも私は貴方(ヒーロー)達が何かする前に足手纏いな人質として有用に使ってあげようとしたのに……ほんと、手のハヤい男ねぇ」

「お前の考えることなんざ御見通しなんだよ」

 

 そう言って、互いが独特な戦闘態勢を取る。片や、自身の個性を最大限に活かせるように。片や、過去(イメージ)のヴィランを模したように。

 

「おい障子。お前はあの二人を何とかして抑えておけ」

「な、おい遊戯!?」

「尾白、透ちゃん、貴方達はあの口無しタコを抑えて紅白饅頭をこっちに連れて来なさい。それで私達の勝ちよ?」

「ええ!?何するつもり!?」

「いや、想像つくけど……本気で考えてんのか!?」

「勿論♥さあ行きなさい!時間切れは私達の勝利だけど、座して待つのはシュミじゃないの!」

 

 そうして、その仮面からはみ出るほど大きく口を裂いて融剛に駆け出す。その姿は悪魔のソレであった。

 

 

「あっ!?思い出した!!殺生石のあの姿、『暴食のベルゼナーヴァ』じゃねえか!?」

「暴食の……?」

「聞いた事ありますわ。『暴食のベルゼナーヴァ』……確か、超常黎明期において猛威を振るった、災害級とまで呼ばれた数少ないヴィランの一人ですわ。その姿を捕らえた映像で現存する物は極僅か……峰田さん、良く御存知でしたわね」

「そりゃあもう!あの災害級おっぱいは一度見りゃ忘れらんねえよ!!」

「……」

 

 そっと峰田から距離を取る女子達。

 

「にしてもそんな昔のヴィランなんてよく再現できんな」

「いや、多分かなりアレンジ加えてる筈だぜ。なんせ本物のベルゼナーヴァは全身赤と黒のドレスだったからな」

「つまりアイツは完全に真似るだけじゃなくイイトコ取りも出来るのか?マジで何でも有りだな……」

 

 

 暴食のヴェルゼナーヴァ。個性:悪食。口に入る物は何でも食べ、消化することが出来る。それは有機物無機物一切の例外なく食い荒らし、あらゆる物を自らの血肉にした彼女は遥か昔に死んだ。

 だが、今このビルの中で嘗ての災害が蘇る。

 

「焼くのも良いわねぇ♥煮るのも好きだわぁ♥刻んで、炒めて、砕いて、蒸して♥あぁぁ、考えただけでも堪らないわぁ♥ねえ」

 

アナタの味はどんな味?

 

 彼女が災害とまで称されたその理由。彼女の好物は人間だったのだ。

 人を喰らい、街を喰らい、国を喰らった。もし、彼女の活動拠点がこの日本であったのならば未だに彼女による災害の傷跡は深く深く残されて、こうして雄英高校が出来る事も無く、オールマイトすら生まれなかったのかもしれない。

 彼女はヒーローの手では無く、軍事力によって殺されたのだ。

 そんな彼女が今、現代に蘇り空腹を満たすために悪意と殺意を振り撒いた。

 大人すら丸呑みに出来るその大口は異形と呼ぶにふさわしい。その口を()()()()コンクリートで出来た壁ごとヒーロー達を喰らわんとする。

 

「馬鹿がっ!隙だらけだぜ!!」

 

 しかし口がヒーロー達に届く前に融剛は爆発的速さをもって彼女の懐に潜り込んでいた。握りしめた拳が、異常なまでの食欲とは裏腹に細い腹部を撃ち抜く。

 だが、撃ち抜いたかと思えばその拳は彼女の両腕によって防がれていた。

 

「そううまくは行かねえか!」

「いたぁい♥でもまだよぉ?今度はこっちの番♥」

 

 彼女の脚がしなやかに揺れ、拳の距離から相手のアゴ先を蹴り抜いた。常軌を逸した体捌きもまた、彼女が血肉にしてきた物だ。融剛はぐらりと崩れ落ちそうになるのを堪えるが、その為に力を入れたまさにその瞬間。

 

 

バクンッ!!

 

 

 融剛の左肩から先が消えた。否、消えたのではなく、()()()()()

 

「~ッ!!」

 

 融剛はとっさの判断で自分とコンクリートの床を融合。肩の止血と共に左腕の代替品をコンクリートで作り上げ、その腕で彼女の顔を殴り抜いた。

 コンクリートで出来た重い腕は寸分たがわず彼女の右頬に当たり、ベキボキと骨が砕け潰れる音が鳴り響いた。

 殴られた勢いそのままに彼女は飛んで行き、ビルの壁にその身体を強かに打ちつけた。

 

 その一瞬の攻防を見ていた生徒全員が、自身の予想を遥かに上回る戦闘に度肝を抜かれていた。

 

 

「な、あ、あ、遊戯さんの腕が……!」

「な、何が起きたん……?」

「全然……何も見えなかった!」

「先生!あれぜってえやべえよ!!遊戯も、殺生石も、どっちもクレイジーだぜ!?どっちかが死んじまう!!」

「……いや、まだだよ」

 

―――聞こえてるかしらオールマイト先生?少し確認したい事があるのだけど。

何だい?殺生石少年!

―――訓練が中断する程度の怪我って具体的にはどれくらいかしら?

当然、後遺症が残るような大きな怪我だ!リカバリーガールの治癒にも限界ってのがあるからね!

―――あら、そう。なら安心したわ。一つ、先に言っておきますわオールマイト先生。

何だい?

―――私と、融剛の事なんですが。腕や脚の一本二本が無くなった位で中止になさらないでくださいまし。

な、何だって!?

―――その程度の怪我なら私も融剛もどうってことないって言ってるんですわ。それではごきげんよう。

ちょ、ちょっと待ちたまえ!

 

「(話には聞いていたが、本当に『ゲームマスターズ』の戦闘指導に()()()()るんだなぁ。例え後で治ると言っても、自身の四肢が欠けたら普通の人なら冷静じゃいられない。なのに君たちは……)」

「先生!!」

「ム、うむ……彼らは……特例だ。本当に死んじゃう時には止めるけどね。彼等の戦い方をよく見ておくといい。誰にでも出来る事じゃないけど、それでも何かを学ぶことが出来る筈だ!」

 

 

「っ……てめ、マジでオイ……俺の腕をそうポンポン取るんじゃねえよ馬鹿野郎が!!」

「おい、遊戯!?大丈夫なのか!?」

「大丈夫だ!それよか障子ィ!お前は早くそっちの二人を仕留めろ!」

「くっ、スマン!」

 

「ちょっと化太郎!?」

「い、いま凄い音したけど、大丈夫か!?」

「ふ、フフ……♥やっぱり、痛いわぁ……♥やっぱり手を抜いて勝てる相手じゃ無いわねぇ……あぁ、お腹すいちゃったわぁ……」

 

 片腕が無くなり、コンクリートと化した融剛。片頬が弾け跳び、抉れて中の肉と歯がむき出しになっている化太郎。しかし化太郎はその個性:変質により見た目上の怪我は一切無視できる。故に状況は片腕を無くした融剛が不利かと聞かれれば、そうではない。融剛は片腕が無くとも、代替品の腕は元々の腕とほぼ変わらぬ機能を取り戻していた。対して化太郎は、その凶悪なヴィランの強さ、その凶悪な個性を再現するのに見合った代償を失い続けている。その結果として空腹になっていた。

 

「あ~あ。折角のおろしたてのドレスがボロボロよぉ……。どうしてくれるのかしら……?」

 

 しかし、ここで化太郎は思い至る。このドレスが()()()()()事に。そう、腹が減ったのなら食えばいいのだ。ならば話は早かった。自身が纏っていたお菓子なドレスを脱ぎ捨て、刹那の間にペロリと平らげてしまった。

 

「ごちそうさまぁ♥」

 

 しかしそう、そのドレスは正に頭の先からつま先まで全て食べることが出来た。当然、中につける下着類も例外では無く、化太郎はその全てを食べたのだ。つまり……

 

「ちょちょちょ!!ば、化太郎ちょっとちょっと!!?」

「は、ぶっ!!!?お、俺は何も見てない!なにも見てないからな!!?」

「……」

「な、っ!!?」

「……あいつマジなーにやってんだ……?」

 

 

「果てないキラメキッ!!」

「にょ、にょた、にょた……ガハッ!?!」

「ナマエロアリガトウゴザイマスっ!!」

「ゴボッ!?」

「お、おぱ、おぱ、おおおおおお!!?」

「で、デカすぎんだろ……ブハッ!!」

「淫魔の……誘い……っ!!」

「オ、オイラはトイレに行くべきか!?それともこの無修正の身体を余す事無く目に焼き付けるべきか!?」

 

「嘘、お母さんよりでっかい……!」

「ケ、ケロ……///」

「ただのエロやん!!?」

デカすぎるだろ何食ったらあんなんなるんだろ

「な、なんて破廉恥な……!」

「「「( お前がソレ言う? )」」」

 

「わー!!?こ、これは皆見ちゃ駄目なヤツだからね!?ちょ、ちょっと殺生石少年!!?早く服を着るんだ!!」

 

 

「ふふふ……♥さあ、第二ラウンドよぉ?次は更に激しめにシてあげるから簡単にイっちゃダメよぁ♥」

「お前その恰好で変な事言うなマジで。青少年の味方かよ」

「何を言ってるのかしら?私は……(ヴィラン)よ!!」

「知ってたよ!!」

 

 互いに駆け出し、拳と拳を撃ち合わせる。その衝撃で、互いの身体全体が撓んだような気がした。

 そこから蹴りと殴りの応酬。乱打、乱打。

 

「お前は昔っからそうだ!人を理解しようともしないで場をおちょくり回しやがって!誰が収拾つけてやってると思ってんだコラァ!!」

「うるさいわ!そう言う貴方は私に対して異様に当たり強すぎじゃないの!もっと私を労わりなさい!!」

「お前こそ俺を労われ!お前の無茶振りに何度付き合ってきたと思ってんだ!」

「無茶振りするのは融剛もだからノーカンですわ!」

 

 殴り合いが激化するにつれ互いの身体は殴り合いを制するように変化していく。

 融剛はコンクリートの鎧をゆっくりと身に纏いその身体を固めていく。

 化太郎は腕を増やし、その腕が金属の様に煌めいていた。腕だけじゃなく、その身体もまたよりシャープに変化していく。

 

「大体お前は何時も好き勝手しやがって!」

「融剛こそ人を何でも言う事を聞く奴隷みたいに扱って!」

「普段からお前に振り回されてる正当な対価だ馬鹿野郎!」

「何が対価だクソダサポンコツセンス!」

「誰がポンコツセンスだこの万年不審者!」

「イケメンの皮を被った産業廃棄物!」

 

 まるで子供の喧嘩のような罵り合いだが、その戦いの中身は高度な技術の応酬だった。

 互いに鋭い一撃が入る。だがその程度では怯みもしない。

 融剛が殴る。化太郎が脚で拳を打ち落としながら顔を蹴る。融剛が蹴りを防ぎつつその脚を捥がんと腕を振るう。化太郎は脚を変化させてナイフの様に斬り払う。それを見越して融剛は身体のコンクリートを一部撃ち出しナイフの側面から叩き折った。

 

「痛いじゃないの!」

「痛覚通ってねえだろ!」

 

 化太郎が増えた6本の腕で殴る。融剛はその拳が届く僅かの間合いの外に出て回避する。化太郎はそれすら見越して胸部から鉛製の大きな立方体を突き出し、融剛をその重量で轢いた。

 

「ゴフッ!!?」

「トドメよ!ドリルライナー!!」

 

 化太郎の6本に増えた腕が一つに組み合わさり、高速で回転を始めた。そして、その回転の勢いを加速させながら融剛に飛びこんだ。

 

「っ、今だ!」

「ハアッ!!」

「ッづぶぁ!?」

 

 しかし突如割り込んできた障子目蔵に、その剛腕で殴られて吹き飛んで行った。

 障子は、追撃を行うために化太郎が吹き飛んで行った方向に駆けだす。

 

「行かせないっ!」

「ぐっ……!」

 

 しかしその行くてを阻むように尾白がその太い尻尾を障子に叩きつけた。鍛えられた尻尾の一撃はそれ全てが筋肉で出来ているのか見た目以上に重い一撃となり、障子の両腕を痺れさせるほどに強力だった。

 

「さあ、これで2対2だ!」

「フ……やるな!」

「あんな凄い戦闘を間近で見せられたんだ。やる気が湧くってもんだろ?」

「ああ、違いない」

 

 互いが互いに集中し、ジリ……ジリ……と動く……が、突如障子が尾白から飛ぶように離れ、その勢いのまま虚空に向かって腕を振るった。

 

「うわっ!?あぶなっ!!」

「やはり其処か透明人間!」

 

 こっそりと障子の後ろを掻い潜り融剛に捕獲テープを巻きつけようとした葉隠だが、障子の個性によって複製された耳は素足で歩く葉隠の足音すら聞き分けた。

 

「ちょっと!女の子に容赦ないな君は!」

「今は、ヴィランだろう?」

「そうだけどさ!」

 

 透明な葉隠は障子の攻撃をかわしていくが、障子の耳はその際に出る足音を逃さない。すぐに追い詰め、その腕で透明な身体を拘束した、が。

 

「ひゃん!?エッチ!何処触ってるのよ!?」

「っ!?スマン!!」

「……なんちゃって!」

「なっ!?」

 

 葉隠の三味線にまんまと引っかかってしまった障子は、緩んだ拘束から一瞬で抜け出した葉隠に拘束テープを巻きつけられた。

 

「へへへー、ゴメンね?でも君も言ったでしょ?私、今はヴィランなの」

「くっ……やられたか」

 

「良くやったわ透ちゃん!さあチェックメイトよ!」

 

 化太郎が戦線に復活した瞬間その両腕がミサイルの様に飛び、拘束テープを巻き付けられた障子とさながら空気のような存在感だった轟に()()()()。そして、まるでトラックに牽引されているかのような力で二人は化太郎に引き寄せられた。

 

「っ、しまった!」

「っく!?なんてパワーだ!」

「くそっ……!」

「うふふ♥️元々一人が捕まった時点で貴方達ヒーローチームは敗北がほぼ決まってたのよ?さあ融剛?好きな方を助けてみなさい!」

 

 障子と轟が化太郎の下に引きずられる。二人は抵抗をするが、それすら嘲笑うかの様に()()()()()()待っている化太郎は融剛の出方を見る。

 

「……チッ」

 

 融剛は地面に沈むようにしてその場から逃走した。

 

「遊戯のヤツ仲間を見捨てていっただと!?」

「あははははッ!!融剛はもう助からない仲間を切り捨てて当初の目的(核の確保)に切り替えたのよ!」

「えー!?じゃあ急いで追いかけないと!」

「無理よ無理♥融剛ならそう間も無く核を確保出来るわ?今から追いかけても意味ないわ。ならさっさとこの拠点を放棄しましょ?」

「いやいや、これ訓練だから!核守んなきゃ駄目だろ!?」

「うふふ♥もっと物事の本質を見抜きなさい尾白くん?何故私達ヴィランチームは核を隠し持っていたの?」

「な、何故って……そう言う訓練だとしか」

「ヴィランがわざわざこの日本に核を持ち込んだ理由……色々考えられるけど、一番シンプルなのは金目的かしら?他に有るとすれば混乱を起こして悦に浸る……とか?なんにせよ、その目的が核で自爆するとかじゃない限りここの()()()()()()で大抵間に合うのよ。ねえ、人質さん?」

「っ……!」

「お前、かなり碌でもない考えだぞソレ」

「そうよ?だってヴィランだもの。そ・れ・に♥私的にはあんなモノ()よりよぉっぽど楽しいオモチャが二つに増えたんだもの♥ヒーロー二人を犠牲にして核を回収した、なーんて素晴らしい美談よねぇ?犠牲になった二人がどんな目に合うかなんて考えもしないんだわぁ♥あぁ、楽しい。楽しいわぁ♥あはっ、あははははっ、アハハハハハハハハハハハ!!!

 

 化太郎の仮面の奥から聞こえる高笑いが、ビルの中だけでなくモニタールームの中にまでハッキリと響いた。

 

『ひ、ヒーローチームWIN……!』

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

モニタールーム

 

「え、えーっと……」

 

 いざ講評をしようとしたオールマイトだがそんな彼に注目してる者は誰も居なかった。

 

「遊戯さん!腕は大丈夫なのでしょうか!?」

「あ?ああ、まあ大丈夫だ。……おい化太郎、いい加減返せ」

「しょーがないわねー。ちょっとまってなs……ヴォエッ!!」

「絵面」

「ほうら私の涎のようなサムシングでぬるぬるべとべとの融剛の腕だよぅ」

「お前マジで俺に何の恨みがあるんだ」

 

 わざわざ口から融剛の腕を吐き出し、その上謎の液体でズルズルになっている腕を渡す化太郎。

 嫌な顔をしながらその腕を受け取って、元有った位置に繋げ治す融剛。

 

「よし、治った」

「いやいやいやいや!!?何さらっと腕治してんだオメェ!?」

「そうだ!腕の傷口から雑菌が入って壊死してしまうかもしれないのだぞ!?」

「腕や脚の一・二本はいつもの事だ。原形のこってりゃ取れても俺の個性で繋げられる。もし身近に四肢欠損したヤツが居るなら俺が治せるぞ。流石に原形無くなる程潰れてたり焼かれてたりは厳しいがな」

「ていうか手足が無くなるのがいつもの事なんや……」

「つーかお前等イロイロとガチすぎんだろ!?何度死んだかと思ったぞ!?」

「あんなんで死ぬようじゃヒーローにゃ成れねえなぁ」

「普通死ぬでしょ、人間なら」

「だいじょぶだいじょぶ。人間って案外ジョーブに出来てるし……こう……死なん!って気迫があればなんとかなーる」

「見てて本当に怖かったわ。ケロ……勿論、ヴィランとしてもだけど」

「それなー!映像しか無かったけどなんつーの?箔?それがヤバかったぜ!?」

「なあなあ!また暴食のベルゼナーヴァに変身してくれよ!」

「やだ、お腹すいたし」

「じゃあなんかメシ奢ってやるよ!」

「良いのか?破産するまで食いつぶすぞ?」

「……ま、また今度な!」

 

「はいはーい!今から講評の時間だからね!皆注目!!」

 

 仕切り直し。

 

「と、いうわけで今回のベストは殺生石少年だ!堂に入ったヴィラン演技は皆の肝を冷やしたことだろう。時に理屈を超えて自身の快楽を優先するヴィランの思考は皆には理解しにくいかもしれない。だが、常識だけでは語れないのがヴィランの心情だ!常に最悪の事態を想定して、最善の結果を目指すのがヒーローのお仕事だ!今回は残念な事にヒーローチームが二人ヴィランの手に落ちてしまった。遊戯少年は最後二人を助けるより核の回収を優先したが、目の前の人命より他の事を優先しなければならない事が時として起こる。そんな時……いや、そもそもそんな選択を迫られる前にそんな事態を回避しなければならない!そういった理不尽を覆すのがヒーローだ!てなわけでせーの!!」

 

「「「 Plus Ultra(更に 向こうへ)!!! 」」」

 

 

「あ、それと次の訓練から腕とか脚を無くすのは無しで頼むから、ね!」

「オールマイト先生……普通の高校生は腕とか脚無くす訓練なんてしないです……」

「それ私達の事普通じゃないって言ってるねえ!?」

「少なくともお前は普通じゃねえよな化太郎」

「腕無くしても平然としてた遊戯も普通じゃねえからな?」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 そんなこんなで放課後。爆豪のヤローと出久君が先帰っちゃった中、戦闘談義に花を咲かせていた私達は気が付けば雄英の室内運動場に居た。

 

「なんで私は半裸赤ウニになってるんだ?」

「半裸赤ウニってお前……いや、メシ奢る代わりに鍛えてくれるっつー話だったろ?」

「ああ、そうだったね。私はクラスメイトの個性を深く知れる。貴方は自分を強くする。互いに体だけの関係だったわね」

「言い方考えろお前!?そんなやらしい間柄じゃねえだろ!?」

「まあそうね。ほら、時間が無いしちゃっちゃとおいで?」

「な、なんて理不尽な……まあ、時間が無いのも確かか。よし、行くぜ!」

 

 そうして切島君が腕を硬化しながら殴りかかってくる。私はその拳に突き合わせるように拳を振るった。

 ガギィン!と甲高い音が響く。腕の硬さ的には申し分は無いようだ。だが殴られた反動で切島君は踏鞴を踏んでバランスを崩してる。

 

「もっと重心を落とすんだ。自分が大木であるかのような重さを意識しろ」

「おっ!?押忍!!」

「腕の硬さは悪くは無いな、なら内臓は硬く出来るか?」

 

 しなやかに脚を動かし、刹那で間合いを詰めて右手を切島君の腹部に添える。

 

「気合い入れてよ?じゃなきゃ暫くまともなメシ食えなくなるから」

「は?」

 

衝撃貝(インパクト)!!』

 

 ドゥン!!と鈍い音が室内に響く。私の掌から放たれた強力な衝撃に切島君はそのまま腹から吹っ飛んで行った。

 

 ……やっべ、死んだか?

 

「お”っ……ぐぐぐ……い”っでぇ……」

 

 生きてたか。良かった良かった、流石にそれなりに鍛えてるだけあってか派手に吹っ飛びはしたがすぐに立ち上がって来れた。

 

「どう、腹の調子は?」

「どうもこうもねえよ……まるで腹の中かき混ぜられたんじゃねえかってくらい最悪だぜ……」

「ふーむ?どれどれ……」

 

 切島君の腹部に手を当て、『気』を探る。ふむ、なるほど、ほうほう。

 

「切島君はどうも身体の表面から筋肉のちょっと奥位まで硬化出来るみたいだね。もし内臓も骨も硬化出来てればその最悪の気分は免れたかもねぇ」

「んだよ……そりゃ……」

「個性は身体能力!『硬くなる』って意識がまだ内臓に届いてないって証拠さ!もし内臓まで硬化出来ればさっきの衝撃貝(インパクト)にも耐えられるかもね?」

「あんな衝撃そのものみたいな技お前以外にやんねえだろ……」

「さあ、それはどうかな?少なくとも衝撃を相手に直接叩き込む技術はそこそこにあるよ」

 

 そう言って片腕で腹部を押さえてる切島君に再び掌を当て、衝撃を撃ち込む。

 

『鎧通し!!』

「ぐぶぉ!?」

 

 今度は吹き飛ばず、代わりに膝から崩れ落ちる切島君。今の技はこの半裸赤ウニ(姿)のままで放った技だからこういう技術があるって事を分かってもらえたと思う。

 

「そう思うでしょ?切島君」

「せめて一声かけてくれ……」

 

 さて、切島君はしばらくの間はグロッキーだから次は……と。

 

「次は、俺だ」

「はい、よろしくお願いいたしますね常闇君」

 

 こうして、クラスメイトと拳を交わして親睦を深めていったのだ。

 

 

 ああ、やはり皆の個性は興味深いなぁ……!

 

 

 




 こうして殺生石塾が時々放課後開かれるようになったとさ。(A組強化フラグが立って)めでたしめでたし。



 おまけ

Q.殺生石君ってネコですか?タチですか?
A.あたしゃゾオン系だよ。

Q.脱いだら凄いって本当?
A.ほんとほんと。そりゃあもう(変身前の状態はお見せ出来ない的な意味で)凄いから。

Q.殺生石!頼めばヤらせてくれるって本当ですか!?
A.いいよ、()らせてあげる。私より強ければの話だがな……!ゴゴゴゴ


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誰かの下に付く事を許容できますか!?

彼は誰かの下に収まる器ではないのだ。


「化太郎、起きて、起きなさい。化太郎」

「むにゃむにゃ……あと5分と1000秒……」

「20分近く起きないつもりですか?朝ご飯冷めるじゃないですか。早く起きなさい」

「にゅ……むぅ……最近さとりんのオカン化が著しいなぁ」

「誰がオカンですか。私はまだ10代ですよ」

「オカンなさとりん……オカとりん……」

「薬みたいに言わないでください。それより、早く起きないとまた遅刻しますよ?」

「ん~……おきゆ……」

 

 私は朝に弱いのだ。さとりん目覚ましが無ければきっと昼まで寝ているだろう。

 

「……さとりん、ありがとね」

「な、何ですか急に」

「いや、いつも起こしてくれたり、朝食毎日作ってくれたりさ」

「……別に、好きでやっていることですから、これくらいで感謝される謂れはありませんよ」

「私が、感謝したいから感謝してるのさ。いつもありがとう」

「なんですかそれ、まるで死亡フラグみたいですよ」

 

 そう言ってクスリと笑うさとりん。嫁にしたい。

 

「……っ///何考えてるんですか!早く朝食にしますよ!」

 

 そう言ってさとりんはリビングに駆けていった。

 ……よく考えたらさとりんとは既に同棲してる訳だし、もうこれほぼ嫁と言っても過言ではないのでは?

 

「そこんとこどう思う?」

「キュー」

 

 私の脚に擦りついてくる狐狸達にそう聞けば、帰ってくる返事は『末永く爆発しろ』との事。ひでえや。

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

「急で悪いが、今日は君らに学級委員長を決めてもらう」

「「「 学校っぽいの来たー!! 」」」

「委員長やりたいです!!ソレ俺!!」

「リーダー!!やるやるー!」

「ボクの為にあるヤツ☆」

 唐突に始まる自己アピールの場。ハイハイ喧しいわ。こちとら外のマスコミに追われまくって朝から疲弊しとんのやぞ。まあいきなりマスコミの中でオールマイトに変身したのは悪手だったのかもしれんが。(自業自得)

 そう、何が喧しいって、クラスのほぼ全員がハイハイと声を上げて自分を主張している所が喧しいわ。声がデカい奴がイインチョに成れるんか?あ?ならわたしゃプレゼント・マイクになるぞ?お?

 

静粛にしたまえ!多を牽引する大事な仕事だぞ……!『やりたい者』がやれるモノじゃないだろう!」

 

 エエ事言うやんマジメガネ君。そういうとこ好きよ?

 

「民主主義に則り真のリーダーを決めるというのなら、これは投票で決めるべき議案!!」

 

 ……手、そびえ立ってなければの話だけど。

 

「投票なんてまどろっこしい、強いヤツこそがリーダーに相応しいだろうが!」

「おうその蛮族思考やめーや融剛」

「そうだぞ遊戯君!ただ強い者が場を仕切るというのは民主主義に反する!」

「必要なのは即断即決、アレはどうするコレはどうするなんて一々話し合う時間は無駄!なら単純に人を纏められる能力なんて強さしかねえだろ?強いヤツの言葉ならそこには必ず一定のアグリーメントが生まれる。『アイツの言う事なら……』と無条件で納得させる”力”が出来る!それこそが『真のリーダー』に必要な要素じゃねえのか!?」

 

 融剛は机を叩きつつそう力説する。その姿と、周りのクラスメイトを見ると確かに融剛の言うアグリーメントってのが融剛自身にあるのか、『一理あるな』みたいな顔してる奴等ばかりだ。それでいいのかお前等……。

 

「つまり融剛は、『クラス一つえー俺以外に学級委員長はありえねー!』と言いたいんだねぇ!」

「もっとオブラートに包めやぁ!!」

「否定しねえのかよ!?」

「だが残念!その理論ならクラス委員長になるのは私なんだよねぇ!」

「あ”あ”ん!?」

「喧嘩なら他所でやれ」

 

 なんやかんやで投票になった。

 教壇の前に立ち、指を順番に立てながらルールを説明する。

 

「ルール1、投票用紙にゃ自分の名前と推薦する奴の名前を書く事」

「ルール2、自分と推薦する奴の名前は違う者の名前を書く事」

「ルール3、ルール2を破った者は教室の前でタイキックを受ける事」

「ルール4、一番多く推薦された者が学級委員長に、二番目に多く書かれていた者が副委員長になる」

 

「以上のルールで良いな?文句があるならアタイが受けるぞ?」

「ルール3の意味は!?」

「テメェが仕切んな仮面野郎!」

「お待ちください!このルールには重大な欠陥gmm」

 

 デデーン!瀬呂 爆豪 八百万 アウト!

 騒がしい奴等の口を塞ぎ、全員強制的に教壇の前に立たせる。そして手に持ったスポーツチャンバラ用のエアーソフト剣で各臀部をシバく。

 

スパァン!!「っ!?」

スパァン!!「ッソがっ!」

スパァン!!「ひんっ!?」

 

「……さて、まだ文句がある奴は居るかい?」

「ぼ、暴力で解決は良くないわ殺生石ちゃん」

 

 デデーン!蛙吹 アウト!

 

「ケロッ!?ちょ、ちょっと待って殺生石ちゃん!?」

「ばけたろにゃんと呼んで?梅雨ちゃん?」

「ば、ばけたろ」スパァン!!「ケロォォ!?」

 

「さ、最高かよ……ハァハァ」

 

 デデーン!峰田 タイキック!

 

「何でぇ!!?」

♪処刑用BGM

「待って!待ってぇ!?お、オイラ何も言ってねえよぉ!!?」

「いやぁ、なんか……存在が?」

「存在がアウトって言ってんのかテメェェェェ!!」

 

ドゴォッ!「オ”ッ……ゴッ……」

 

「……で、他に無ければ投票を始めたいんだけど、いいかな?」

「尻……尻が……」

((( ぼ、暴君……!! )))

「やれやれ、漸く投票に入れるよ。あ、先に行っておくけど私学級委員長になるつもりないから。もし私に投票するつもりなら他の人に投票してねぇん?」

「じゃあ何で今仕切ってんの!?」

「そりゃぁわちきが唯の仕切りたがりだからじゃけぇ。別に融剛が言った言葉を否定する訳じゃないけど、私は自分に皆を纏めて導く才能は無いと思ってる。言うなれば私は指揮官(コマンダー)タイプじゃなくて遊撃兵(ゲリラ)タイプなのさ。まぁ、一つ言えることは私を従えたかったらそれなりの才能(スペック)を披露してくれないと……内側から食い破っちゃうぞ♥って事ね」

 

 さあ、チャキチャキと投票用紙に名前を書きまくりなさい。じゃないといい加減後ろの不審者モドキの目がヤバいから!

 

「あっ、ちなみに投票の開示作業は私一人で行う上に、カウントするのは推薦される者だけだから匿名性については安心してね!」

「お前の時点で何も安心できねえんだが?」

 

 デデーン!遊戯 タイキック!

 

「アーッ!!」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「さて、開示終了!気になる結果は~……コチラッ!!」

「僕、3票!!?」

 

 出久君3票、八百万ちゃん2票、融剛2票に後は1票がまばらに。

 

「ちなみに自分自身に投票した爆豪君はタイキックの刑です!」

「っ!クソっ!放せ!」ドゴォッ!!「ぐっ、ソがぁぁぁああ!!」

「お前、こうなるのは分かってただろ……」

 

 それでも誰かに票を入れるくらいならタイキックくらうカッチャン君マジプライドの化身。うーんしゅき♥

 そして投票数が同数だった融剛と八百万ちゃんは公正なる代理じゃんけんの結果八百万ちゃんが副委員長に決定。

 

「何負けてやがるブドウ頭!」

「ひええっ、じゃんけんなんだから仕方ねぇだろぉ!?」

「尾白さん、勝ってくださりありがとうございます!」

「あ、うん……どういたしまして?……ってかなんで代理じゃんけんなの?」

「そりゃおめー、融剛がじゃんけんクソ強いからじゃんじょん」

 

 エグい動体視力で相手の手を見てから超反応で出す手を決めることのできるリアルハンターハンター主人公(最近出番一切無い)みてーなことしやがりますしおすし。

 

「あ、そうそう。本来自分の名前を書く場所に自分以外の誰かの名前を書いて、推薦する者の名前に自分を書いたずる賢いお方が何名か居ます。勿論そういう事を想定してこんなルール作ったんだけど……心当たりある方!」

「えっ、ソレありなん!?」

 

 何人かは目を反らす。だが残念でしたねぇ!

 

「まあ1票しか入ってない人はほとんどがそんな方でしたがねぇ!!ねえどんな気持ち!?不正ギリギリの事してまで票もぎ取ったのにまるで全然、副委員長にすら手が届かないってどんな気持ぐべぁ!?」

「お前無意味に煽るのヤメロ」

 

 裏拳が私の顔面に突き刺さる。なんでや、私悪くないやろ。(煽り厨の意見)

 

「む、不正を容認するのか!?」

「NO!あくまでもルールの隙を突いた合法!むしろヒーローならそういう所に目が行かないでどうやって不正を取り締まると!?目の前のヴィランを倒すだけがヒーローのお仕事ではアリマセン!ねえ八百万さん!」

「え、ええ。そうですわね!」

「なるほど!確かにその通りだ!」

「ちなみにこれは全く関係ない情報なんですが、出久君は自分に投票せずに3票でした!なんて清いんでしょう!ねえ八百万さん!」

「ちょっと!?それは私が清くないとおっしゃってるんですか!?」

「別にそんな事は一言も言ってないじゃないですか!ねえ遊戯融剛改め八百万百さん!」

「っ!っ!っ!」

 

 遊戯融剛改め八百万百ちゃんにベシベシ平手で叩かれる。地味に痛いから止めなはれや。

 

「ま、まあ緑谷はなんだかんだアツいしな!」

「八百万は講評の時のがかっこよかったし!」

良かったじゃねえか緑谷テメェの様な自爆パワー野郎が委員長になれてよぉ……

「凄い怨嗟の声!?そこまで学級委員長になりたかったの遊戯君!?」

「あたりめえだろうが!!」

「何が貴様をそこまで駆り立てるのだ……」

「俺より弱い奴が仕切るのは我慢出来ねえからだ!」

「蛮族」

「蛮族だな」

「蛮族だわ遊戯」

「揃いも揃って喧しい!」

「バーミヤンだぜな!」

「それを言うならバーバリアンだろうが!……や、バーバリアンでもねえよ!!」

 

「お前らいいかげんにしとけよ……」

 

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

 

 昼休み

 

「今日もメシが旨いなぁ!」

「見てるだけで胸焼けしそうなほどに油ものばかりね。化太郎ちゃん」

「お米が見当たらないですわ……」

「米より肉ですやん!」

「それはおかしい」

 

 今日も重箱弁当から肉肉肉。肉が三体……来るぞ!

 

「なんで唐揚げだけで一段埋まってるのよ……」

「カリカリタイプとジュワジュワタイプで飽きない!」

「結局同じ肉なんだよなぁ……」

「何でこんな食って太らないのよ……」

「全カロリー消費してるからー!」

「ウゼェ」

 

 シャババババ!

 と高速で唐揚げを消費してると耳郎ちゃんがじっとりした目で見てくる。

 

「?」なに?唐揚げが欲しければその卵焼きと交換ぞ?

「いや要らない……。なんでアンタは委員長に立候補しなかったの?」

「それ思った!なんでなの化太郎?」

「モグモグ」そりゃー誰かを従えるなんてアタシにゃ向いてにゃいと思ったからぞ?誰かに従う気もにゃいけど。

「従う気も無いって……プロになった時どうするおつもりですか?言うこと聞かないサイドキックなんて誰も欲しがりませんわ?」

「ゴクン」アタシゃプロでフリーランスに生きるつもりですわん。

「……さっきからその話し方何なの?頭に直接響いてくる感じでちょっと嫌なんだけど」

「ごめん」

 

 こいつ直接脳内に……!ごっこは不評だった。悲しいね。でもしょうがない、メシ食いながら話すにはこの方法が効率的なのだ。

 

ウウ~~~~~

 

「なっ、け、警報!?」

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』

 

「何!?何!??セキュリティ3って何!!?」

「セキュリティ3……確か校舎内に誰か侵入したということですわ!」

 

 生徒手帳に書いてあったな、そんな事。まあ良くスグに思い出せるもんだ、流石副委員長。さすふく。

 

「校舎内に侵入って……ヤバくない!?ど、どうしよ化太郎!」

「…」モグモグモグモグ

「落ち着いて食っとる場合かー!!?」

「モグモグモグ」こう見えて落ち着いてないからセーフ!

「いや状況がアウトだから!」

「殺生石さん!葉隠さん!お二人ともふざけてないで避難しますわよ!さあ皆さん、一旦教室の前に集まってください!!人数を確認でき次第固まって避難を開始いたしますわ!」

「あ、私その侵入者ってのを確認してくるね」

「殺生石さん!?勝手な行動は慎んでくださいませ!」

「やだよ」

 

 重箱の中身を全て口の中に詰め込み、呑み干す。そうして身体を幽霊の如く透かして壁や床を通り抜ける。

 

「言ったでしょ?私は誰かを従える気も無ければ、誰かに従う気も無い。私を従えたかったら、相応の才能(スペック)を見せなさい」

「っ……!」

「じゃあね()()()()()()?オールマイトの様に全てを救いたかったら、一秒とて無駄に出来ないですわよ?」

 

 そう言い残して私は外に向かう。床も、壁も、逃げ惑う人すらも。私の脚を止める要因になり得ない。霞の様に薄い私を見てビビる者も居るが気にならない。こんな時代、壁や床をすり抜けるなんて珍しくも無い。だからこそイメージがし易くて助かる。

 そうして騒ぎの下に飛んで行くと、数多ものマスコミとそれに囲まれてるイレイザーヘッドとプレゼントマイク。

 

「オールマイト出してくださいよ!居るんでしょう!?」

「非番だっての!」

 

 オールマイトが居たら既にお前らマスゴミの前に出てきていると思うんですが(名推理)

 つまりこれは……マスコミの不法侵入だな!写メとって拡散しとこ(現代っ子感)

 ……マスコミが雄英に不法侵入なう……と。よし、大炎上不可避。さて、犯罪者は食っていいよね?(カニバリズム)

 と、イレイザーヘッドと目が合った。あらやだ明らかに不機嫌……面倒な奴が居るなとお思いですか?個性使われる(睨まれる)前に退散……すると思ったか!馬鹿め!

 

「HAHAHAHAHA!!」

「こ、この声は……オールマイト!!?」

「オールマイトだと!?」

「カメラ!カメラこっちだ!!」

 

 マスゴミがアリの様にワラワラと方向転換しながら私にカメラを向ける。だが残念だったね。私はオールマイトの様に優しくは無い!

 

「サービスだ。見とけ」

 

 瞬間、世界が凍った。ついでに生放送でもしてたのかお茶の間も凍った。

 

 うん。やっぱサービスマンはすごいなぁ。

 

 

「これにて一件落着!!」

「してねーよ。殺生石、お前後で反省文書け……!」

「なんで!?」

「放送事故もいいとこだな!」YEAHHHHHHH!!

 

 なんか知らないけどカメラが全部割れてたらしい。サービスマンは偉大だなぁ。

 

「悪ふざけも大概にしておけよ?」

「先生達の危機を救ったヒーローにその言葉はあんまりでは!?」

「何時、誰が、何処で危機に陥ったって?」

「先生その捕縛武器で縛り上げるのは反s痛い痛い痛い!クッソ逃げらんねぇ!?個性使うなってば!!」

「YEAH!オマエんとこのクレイジーガイはサイコーだな!」

「茶化すな山田」

「名前で呼ぶのヤメテ!!」

 

 そうこうしているうちに警察が到着。マスコミは撤退していった。一件落着である!!さて教室に戻りましょ。

 

「殺生石、反省文忘れんなよ」

「チクショウ大人はコレだから!」

 

 午後、何やかんやで委員長はマジメガネ君飯田になった。投票した意味ぃ……。

 

 

 

 

 

 

 

「私だ。……ああ。……そうか。オールマイトはお前等に任せる。そォだ、生徒共は()に任せなァ。ガキでもメスなら使えるだろォ?くはッ」

 

 何処かの地下通路。悪意はそこで息をひそめていた。

 

「アァ?テメェには関係ねェだろォ?ガキのお守風情が調子乗るなよ。センセイだかなんだか知らねえが、いずれテメェ等の親玉も喰ってやるからなァ?くはッ!」

 

 悪意は留まる事を知らない。

 

「あァ。よぉく伝えておきな。この僕、『旧鼠 公星』がその喉笛喰い千切ってやる。精々それまで悪人ごっこを楽しんでなってよォ!!」

 

 悪意は、納まる事を知らない。

 

 宵の口、火曜日の出来事。

 

 

 





漸くヴィランが動き出すぞ!やったね!


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戦陣
脳ミソ丸出しでよく生きていけるよな……寒くない?


ウェルカムUSJ(Uうん、S最初のシリアスJじゃん。)


 今日のヒーロー基礎学は人命救助訓練。融剛ン家で色々なヒーロー訓練をしてきたが人命救助訓練はあまり出来なかったな。精々応急手当から緊急縫合位しかやってないからなぁ。

 まあ流石に家の中に災害や事故を再現するって言っても限度があるしそれは仕方ない。

 つまりは人命救助訓練の経験値は私も融剛も皆とあんまり変わらないって訳だ。

 話によれば雄英の人命救助訓練は大規模な災害でも再現できるって聞いたし、これは本腰を入れて学ばなければならんぬ。

 

「バスの席順でスムーズに行くよう番号順に二列で並ぼう!」

「何はしゃいでんだアイツ」

「気合い入ってるだけだろ!?はしゃいでるとか言うな遊戯!」

 

 今日も融剛の醜い嫉妬がまる出しだなぁ!切島君に突っ込まれてるがお前そういうとこ治せよー?

 

「(なんだ……?この唐突に湧き上がる苛立ちは……)」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 爆豪の性格がクソの下水煮込みな事以外は特に何事も無くバスはUSJ(嘘の災害や事故ルーム)に到着した。スペースヒーロー『13号』は何を考えてこんな名前にしたんだ?

 

「えー、始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」

 

 増える増える、乾燥ワカメか。

 そうして13号の有り難い『お小言』が終わった。ヒーローとしてもそうだけど、教師としても模範的なお話だった。やっぱり本物のヒーローってのはかっこいいなぁ。(相澤先生から目をそらしながら)

 

 ふとそらした目を広場にやれば黒い靄が見えた。

 その黒い靄はどんどん広がっていき、人一人が通れるサイズになった時、中から異様な男が見えた。

 

「一かたまりになって動くな!!13号!生徒を守れ!!」

 

 奇しくも、命を救う訓練時間に私達の前に現れたのは途方もない悪意、そして

 

 

「……脳無?」

 

 『私』の記憶に眠っていた()が首をもたげたのだ。

 

 

「の、ノウム?殺生石、ノウムって何だよ……?」

「えっ!?あっ!の、のう……脳味噌(むぃそ)むき出しのキモイ奴が居るなぁって!!」

「脳味噌むき出し……うぇ、確かに居るな……!」

 

「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってるパターン?」

「呑気かお前!?あれは(ヴィラン)だ!!!」

「ヴィラン!?バカだろ!?ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

「アホはアホだが何か目的あって来てんだろ!じゃなきゃ本校舎から離れた隔離空間で、其処にクラスが入る時間割を狙って来ねえよ!」

 

 なんでヴィランがこの場に現れたとか、その目的はどうだとか、今重要な事はそうじゃない。

 

「飯田ァ!!テメェはクラス纏めて連れて逃げろ!上鳴お前個性使って連絡出来ねえか試せ!」

「遊戯、お前は……」

先生(プロヒーロー)差し置いて戦いに行く訳無いでしょうが……!」

 

 ああ、融剛とセンセが仲良さそうで何よりよ。まあそんな事はどうでも良いけど。

 

「化太郎!お前も」

「先手必勝よ!」

「飛び出すなってんだよ馬鹿野郎!!」

 

 融剛の声が後ろから聞こえるがそんな事はどうでもよかった。入口から広場へと高低差があって助かる。()()()必然、ヴィラン共の上を取る事が出来るのだから。

 ヴィラン共の上空で両腕を広げる。イメージするのは、魔影軍団の軍団長にして大魔王の影。

 闇の衣を身に纏って眼下のヴィラン共を視界に納める。

 

「なんだアイツ!?空を浮いてやがる!!」

「構いゃしねえ、射撃隊行くぞぉ!!」

「情報じゃ13号とオールマイトだけじゃなかったか?」

「知らねえよ。だが良い的だ!あの大マヌケを打ち落としてやれ!」

 

闘魔傀儡掌 (とうまくぐつしょう)!!」

 

「「「 ぐああああっ!!? 」」」

「何なんだお前等『大マヌケ』とかちょっと可愛い言葉使いやがってほんとにヴィランかこの野郎共」

 

 自身の手から発する糸状の暗黒闘気でヴィラン共を操り、射撃隊とか呼ばれた奴等の向きを変え、そのまま射撃を続行させる。

 

「「「 ギャアアアア!! 」」」

「グっ!?お前等何しやがる!!」

「ち、違っ!これは勝手に!!」

「テメエっ!なにしやがる!」

 

 ヴィラン共が阿鼻叫喚に陥っている。ま、自業自得やんね。

 私は地面に降り立ち、そのまま辺り一帯の地面に暗黒闘気を張り巡らせる。

 

闘魔滅砕陣(とうまめつさいじん)!」

「づっ!?な、んだコレ!?動けねえ!!」

「どうなってやがる!!」

 

 フフフ、怖いか?なーんて。

 まあ、ともかく光の闘気を持たぬ貴様等にこの技は破れんよ。今まで光の闘気を持ってる奴に出会ったことないけど。

 

「す、すげぇ……!殺生石のヤツ、一瞬でヴィラン達を拘束しちまいやがった!」

「化太郎君、凄い!うっすらと光ってるアレが拘束のキモなのかな……?」

「あの、バカ……」

「……いや、今はともかく避難だ!皆!早く避難を!」

 

 

「させへんでぇ」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「おいおい……なんだアイツ。有象無象とは言え、一瞬で全員使いモンにならなくなったぞ。チートかよ……」

「死柄木 弔、恐らくアレが彼女が言っていた()()()()の……」

「あぁ……成程な。つまりアレがサブクエストか。丁度いいや、あの生意気なネズミ女にアイツの死体でも持っていってやろう。『お前が苦労した因縁の相手はこんなもんだったぞ』なんてな」

 

 うーん……明らかにボスクラス……ボス?ボスか?あの全身に手ぇくっつけてる男がボス?ヤバさだけで見れば多分ボスなんだろうがいかんせんボスっぽくないけど。

 ともかく、全身手男まで闘魔滅砕陣が届いてない……。これは、もしかしてもしかするかもじゃな?

 

「まあいいや。うっすらと見える光がヤツの個性か?有象無象には聞いたけど脳無には効くかな?」

 

 脳無。ああそうだ、そう言えばこいつg

 

ドガアァァァン!!

 

「……あー……あ~あ。やっちまったな……跡形も無く叩き潰しちまった」

 

 ガリガリと死柄木弔と呼ばれた男が首を掻きむしる。

 

「ま、いいや。あのネズミ女にゃ肉片でも出しときゃいいだろ。それより黒霧、()()()西()()()()がキチンと仕事してるか確認して来い」

「わかりました」

 

 そう言って黒霧と呼ばれた方は身体から噴出してる黒い靄を納めていき、何処かに消えていった。

 

「……さて、少なくともあの変な仮面の欠片でも残ってないかな」

 

 そう言って死柄木弔は脳無によってあけられた大穴に近づいてくる。

 

「うん。お前さては馬鹿だろ?」

「っ!?」

 

 ビュートデストリンガー!

 

「脳無!」

 

 私の鋭い爪が高速で伸び、死柄木弔を刺し貫く……前に、脳無の身体を刺し貫いた。しかし残念。この技、直線距離なら何人でもイケるんだ。

 

「ぐっあ!?」

 

 私の鋭い爪はそのまま伸びて死柄木弔を貫いた。当然、急所は外してるがな。

 

「『大魔王より強い』は伊達じゃないのさ」

「ぐふっ……ふざけやがって!脳無!!」

 

 脳無は伸びた私の爪を無理矢理捻じ切って殴りかかってくる。『脳無!』の単語だけでこんな複雑な動作が出来るとかズルい。しかも脳波コントロールできる!じゃねーよハゲ!

 まあ、物理一辺倒じゃ私は倒せないんですけどー!

 脳無の拳が私に直撃する前に全身をスライムの様に変化させる。拳が私を貫くが、既にその攻撃は私にとって致命傷たりえない。粘体は脳無の腕を伝って、身体を伝って、そのまま頭にへばり付く。うーんやっぱ脳味噌丸出しで……キモッ!!

 

「脳無!そいつを殺せ!!」

 

 死柄木弔は必死に脳無に命令を飛ばす。

 

 だが、いつまで経っても脳無は微動だにしなかった。

 

「脳無!!どうした!!?」

「残念だったねぇ死柄木弔とやら。音声認識機能が仇となったようだ」

「テメェ……何しやがった!!」

「何って……脳無の耳を塞いでやっただけさ」

 

 さらに言えば脳無の耳には常にザリザリと雑音を大音量でお送りし続けている。もうお前の声が脳無に届くことは無いよ。

 

「クソッ……クソッ!クソッ!このチート野郎が!!」

 

 そう言って死柄木弔はかなりの速さで私に向かって来た。お前将を射んと欲すれば先ず馬を射よって名言知らねえのかよ。つーか速いな本当にお前。脳無の耳を塞いだまま、私は迎撃に当たる。

 

「ヘイこのヴィランお前この野郎。雄英を襲撃した目的を話せば見逃してやらんでもないぞ?」

「ブッ殺してやる!!」

「お?お?この私を殺せると?やってみろよガキぃ。ほらほら私はココだぞぉ?」

 

 死柄木弔を挑発する。すると殺気を持ってその腕を私に向かって伸ばしてきた。手から何か出る様子は無し。なら触れる事で発動する個性か?

 私は腕を飛ばして様子を見る。HAIたーっち。

 

「馬鹿が!」

 

 パージした腕が捕まれ、ボロボロと崩壊していく。なるほど、触ったもの……それも、五指で触れた物を崩壊させる感じか。崩壊させるのに物体の硬柔関係なさそうだ。問題なのは触れた部分だけじゃなく、触れている場所から感染するように崩壊していくところか。恐らくコイツが雄英バリアーをぶっ壊した犯人だろう。掴まったらヤバいな。

 

 ま、私とは相性が悪いみたいだがな!

 

「手に触れたらヤバいなら、触れられないように戦えばいい!撃つと動く!間違えた、動くと撃つぜ!弾幕はパワーだせ!」

 

 黒い帽子を深くかぶり、黒いドレスに白いエプロンをかけたステレオタイプな普通の魔女。

 

「ふざけてるのか……!?」

「ふざけてる姿なのはそっちだろ?全身ハンドマン」

「死ねっ!」

 

 手男が飛び掛かってくる……よりも早く空へと飛んで、胸元からスペルカードと呼ばれるただの紙を取り出す。

 

「スターダストレヴァリエ!」

「っ!光の弾!?」

 

 闇夜に浮かぶキラキラとした星のように輝く弾幕が死柄木弔を襲う。ついでに辺りのチンピラヴィランを吹き飛ばしていく。

 

 USJのセンターエリアでは、一方的な戦闘が展開されていた。

 

 

 




一旦ここまで。

そんなことよりB組の女の子ってアブノーマルプレイが捗りそうな子多くない?

お前のことだぞとかげちゃん!

授業中とかげちゃんの口だけ机のしたでふぇ
げふん。
とかげちゃんはバレないようにマスクしてて
げふんげふん。
ってかキノコの子もお薬(オブラート表現)プレイ捗りそうな目つきしやがって!
幽霊の子もお外(オブラート表現)とか似合いそうだしよう!
そもそもいーちかちゃんがどスケベボディ(直喩)なのがいけないと思います!
いかん、輝くエロ羊大先生の血が鼻から騒ぐ。
あーだめだめ!えっちすぎます!

貴方の風邪は何処から?私は元から!(錯乱)


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悪役って饒舌だよね……噛んだらどうするつもりなんだろ

化太郎が無双してる間の融剛サイド


「させへんでえ」

 

 な、なんだこいつ……いつの間に俺等の後ろに!

 

「なあ、あんさん。ちーと聞きたいことあるんやけど」

「ん、だコイツ……!喋る……ネズミ!?」

「どぉもー、喋るネズミこと『鼠月(みづき)』っちゅーねん。気軽にミッキーって呼んでな。ハハッ!」

「色々とヤベー奴だコイツ!!!」

 

 ここUSJだぞTDLに帰れ……じゃねえ!

 目の前に居るってのにこの存在感のなさ、タダモンじゃねぇな。まるで木や石のような、自然そのものの様な

 

「ほい」

「っ危ない遊戯君!!」

 

 ドスッ

 いつの間にかヤツが手に持っていた短刀が俺の胸部を貫く。

 俺も、先生(プロヒーロー)達も、俺の胸に短刀が突き刺さるその瞬間まで奴の行動を認識できなかった。

 

「遊戯っ!?」

「遊戯君!!」

「騒ぐなっ!俺ぁ無事だっつーの!!」

 

 僅かに刺さる直前に短刀と俺を融合出来た。お陰でなんとかダメージらしいダメージは無いが、一番の問題はこの攻撃に対して当たる直前まで反応出来なかった事だ。明らかに殺す為の攻撃に対して、俺が!

 

「マジかいな、殺す気で行ったつもりやっちゅーに。ユウギ……ほぉん、お前が遊戯融剛か。ボスが惚れるだけゃーあるなぁ」

「気軽に殺しに来るんじゃねえよ!」

 

 拳をネズミ野郎の顔面に向かって振るう。しかし顔に拳が当たる直前に再び消えるように離れていた。

 な、何なんだコイツ……ネズミの異形型個性じゃないのか?

 

「チッチッチ……ワイに触れられると思わんこっちゃで」

「どうなってやがんだ……!」

「んー。殺せんかったし、本題に入るわぁ。ワイらはあー……敵連合(ヴィランれんごう)っちゅーねん。ワイは正確にゃ違うけど。今日こーしてココに来たんは、あー……アレや、オールマイトをブッ殺そうとな?思ってんねん」

 

 は!?

 

「だけんど、オールマイトはなんか居らんみたいやなぁ。まぁええわ、ワイの役目はオールマイトをブッ殺す事ちゃうしぃ、ワイはワイのやる事ぉ頑張るわ。ってなわけでな?お前等ちょっと死んでくれぇへん?」

 

 一歩、ネズミ野郎が踏み出そうと脚を僅かに浮かせた瞬間に爆豪と切島の奴等がネズミ野郎の前に飛び出し、腕を振るって攻撃した。

 切島は腕を鋭く硬化して切り裂き、爆豪はその掌から爆撃を当てる。

 確かに当たったはずだった。

 

「あー、スマンなぁ。ガキ殺るんはワイの役目ちゃうんよ。引っ込んでてくれへん?」

 

「なんっ!?」

「ハァッ!?」

 

 いつの間にか、そういつの間にか爆豪と切島の後ろ側に通り過ぎていた。

 すり抜けた?瞬間移動?というか、先生達はなんで未だ動かない!?

 そう思ってチラと相澤先生の居る方向を見ると、睨むような視線を忙しなく動かしている先生が居た。まさか、このネズミ野郎を認識できていない……!?13号先生は!?

 

「ちっ、お前らにオールマイトは殺させねえよねずみ野郎」

 

 轟が自身の足元から氷結攻撃を放ち、ネズミ野郎を氷の檻に閉じ込めた。

 

「だぁからワイの役目ちゃうって言うとるがな」

「なっ!?」

 

 確かに氷の檻に閉じ込めたはずだ。だと言うのにまるで最初から当たっていなかったかのように歩いてくる。

 

「あーもぉー……めんどいわぁ……おい、はよぅこんガキらを何とかせんかい」

「言われなくてもそのつもりですよ。彼等は生徒とはいえ優秀な金の卵……散らして嬲り殺す」

 

 突然黒い靄が現れ、更にその靄を広げていく。

 

「お前等!この靄なんかヤバイぞ!」

「分かっとるわクソッ!!」

 

 靄が広がって俺達を包み込む……と思いきや、突如収束していく。

 

「ねずみ野郎ってのは見えないが、その靄は見えてるよクソ共」

「相澤先生!」

「く、イレイザーヘッド……鼠月、まだ殺せていないじゃないですか」

「当たり前やろ、アホか。生徒共が邪魔で刺せんかったわ。はよぅ何とかせーや」

「イレイザーヘッドが邪魔でしかないでしょうが」

 

 仲間割れ……いや、今はともかくこの状況を打破しないとマズイ。黒い靄野郎の個性は先生が止めてくれる。だがネズミ野郎は何故か先生は認識できていない。俺等の攻撃もネズミ野郎に当たらない今、何とかしてあのネズミ野郎の個性を暴かないと相澤先生がヤベェ。相澤先生が黒靄野郎を止められなくなったら必然俺等もヤベェ。

 

「ヤオモモ!なんか武器貸せ!長い棒だ!」

「えっ、は、はい!」

「瀬呂!お前あのネズミ野郎にテープ飛ばせ!」

「お、おう」

「常闇!芦戸!耳郎!青山!峰田!遠距離行ける奴ガンガン行け!ネズミ野郎を先生に近づけるな!!」

「ああ、行くぞ黒影(ダークシャドウ)!」

「うん!酸性弾(アシッドショット)!」

「ハートビートディストーション!」

「ね、ネビルレーザー!」

「うおおお!ミッキーなんぞに負けるかぁ!グレープラッシュ!!」

 

「うおっ、なんやガキ共急にくんなや!」

「チッ、うっとおしいですね」

 

 ネズミ野郎に近づくのはマズイ。どういう手段か未だ判明していないが、認識する事の出来ない()()で俺に短刀ブッ刺してきた奴だ。他の奴等じゃ死んでいた。ならそもそも近づけさせなければ良い。その間目を凝らせ。ヤツの個性を暴くんだ。

 

 瀬呂の伸ばすテープがネズミ野郎に当たる……と思いきやテープの横にネズミ野郎が立っていた。

 芦戸の酸性弾がネズミ野郎の周辺地面を焼く。だがネズミ野郎には傷一つつかない。

 青山のレーザーが直撃する。した筈なのに次の瞬間には立っていた場所の横に居た。

 

「出来ましたわ遊戯さん!タングステン合金の棒!」

「貸せ!そんで下がれお前等!」

 

 八百万からタングステン合金の長い棒が生える。そのままその棒を引っ掴んで自身と融合する。

 

武器自在(ウェポン・ドライブ)!」

 

 俺の融合は身体に融合素材を纏うだけが能じゃない。こうして武器と融合することで、武器を()()()()()()操ることが出来る。

 俺の腕はタングステンの腕!

 

硬質手刀(タングステン・チョップ)!!」

 

 約5mほどもあるタングステン合金の腕がしなる様にしてネズミ野郎の真上から襲い掛かる。

 ズガァンと地面を叩き割る威力だが、それでもネズミ野郎に当たらない。

 

「ハハッ!なんやオラァ、当たらないやんけ全然!」

「挑発はいいですから早くイレイザーヘッドを始末してください」

 

「縦がダメなら横だ!硬質腕(タングステン・ラリアット)!!」

 

 一歩、踏み込んで長い腕を薙ぎ払うようにネズミ野郎に振るう。

 

「危ないなぁ」

 

 跳ねるようにして回避される。……跳ねるように?

 

「はぁーホンマガキの相手とかしんどいわぁ。はよぉ散らしてくれへん?」

「だから貴方が働かないと私が動けないでしょうが」

「ホンマアホやなお前。イレイザーヘッドも人間なんやから瞬きした瞬間で何とかしーや」

 

「……ヤオモモ、お前散弾銃作れるか?」

「……作ろうと思えば……まさか、撃つ気ですか!?」

「ゴム弾でいい、手足の一本二本は奪わねえと。爆豪!」

「んだオラァ!俺に指図すんなクソ野郎!」

「うるせぇ!辺りごと吹き飛ばす爆撃やれや!お前なら出来んだろ!」

「言われんでもやるわボケが!!」

 

 爆豪が両腕の籠手を前に突き出した。

 BOOOOOM!!!

 正に大爆発。ネズミ野郎と靄野郎を盛大に吹き飛ばせるほどの威力だ。だがまだだ。

 

「轟!()()()!!」

「っ、そういう事か!」

 

 パキッ!!

 一瞬。目の前は一瞬で銀世界に変わった。

 俺の予想が正しければ……

 

「い、イタタ……マジかぁ……!ガキやと思って舐めてたわぁ……!」

 

 そこには片足が凍り付き、煤だらけになっているネズミ野郎が居た。

 

「やっぱりか。お前、単体攻撃に対して絶望的に強い個性だな?」

「……ハハッ!ガキの癖に冴えてるやないか!」

「な、なんだそりゃ!?ずっけぇ!一対一じゃヤバイじゃねえか!」

「こんな社会だ。探せば()()()()個性なんて掃いて捨てるほど居るだろうよ」

「ハハッ!その()()()()個性筆頭の遊戯クゥンに言われた無いわダァホ!」

 

 ――――――――

 鼠月

 個性:回避(単体)

 単体攻撃を回避出来る!範囲攻撃は場合によるが大抵無理だ!

 ――――――――

 

「そうか!だから相澤先生には()()()()のか!抹消も言わば個性による単体攻撃だから!」

「ハハッ!そういう事やで。ちなみに遊戯クゥン、何処でワイの個性に気が付いたんや?」

「靴だ」

「靴ぅ?」

 

 このネズミ野郎、クラスの奴等の攻撃全て傷一つ無く回避していた。当然のように服も一切の傷が無かった。だが、靴だけは。芦戸の酸で少し溶けていた。ほんの少しだがな。

 

「つまりお前を狙った攻撃は回避されるが、結果的にお前に当たる攻撃は回避出来ねえんじゃないかと睨んだ」

「ハハッ!それならワイが透過の個性持ちかもしれんやんか!それならどない説明すんねん!」

「簡単な話だ。ただの透過なら俺に捕まえることが出来ない訳が無いからな」

 

 昔から化太郎との戦闘訓練で、幽霊化(ガイスト・モード)という物理攻撃完全無効状態で殴りかかってくるという理不尽に対応していれば自然と身についた、()()()()の技。触らなければならないが、触れられたなら必中だ。硬質手刀(タングステン・チョップ)の時に発動していたにもかかわらず当たらなかったなら、それは透過じゃないということだ。

 

「……ハハッ!やるやんけお前等。ガキやと思って油断したワイのミスやなぁ!」

「何笑ってやがるブッ殺すぞネズミ野郎!」

「ちょ、爆豪!」

「まぁ、ブッ殺しはしねえが下手に抵抗すんなよ?最悪お前の手足の一・二本くらいへし折っても構わねえんだぞ?ヤオモモが」

「私が!?」

「はぁー参った参った。ワイかて好きで痛い思いなんてしたぁないねん。降参や、こーさん」

「……そうか、おい瀬呂、峰田、なんか良い感じで縛っとけ」

「お前、そんな適当な指示あるか?」

「……ねえ、皆」

「んだぁ緑谷?」

 

 

 

「相澤先生と13号先生……何処?」

 

 

 

「……あ?」

「……ハッ、ハハッ!ハハハハッ!!やっぱお前等ガキだわ!ワイ一人でお前等相手してたと思ってたんかドアホ!!黒霧ィ!!」

「やれやれ、漸く仕事をしてくれましたか。遅すぎですよ……でもまあ、これで漸く作戦通りになる」

「っ!まず」

 

 それでは金の卵の皆さん、さようなら

 

 そうして俺達は全員黒い靄に飲み込まれた。

 

 




一話を短めに切って投稿する事を覚えた羊。
でも投稿先を間違えて旧作に投稿した羊。懲役一ヶ月ジンギスカンの刑。
アキラ0106さんありがとうございます。お礼にこのジンギスカンをどうぞ。


高難度ポイント
1.応援呼べてない
2.先生居ない
3.敵連合(チンピラ勢)+αが居る







4.脳無は化太郎が抑えてる奴一人だけだと思った?


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