僕、学生やめて異世界で生活しますっ! (白銀マーク)
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Turn01 異世界に呼ばれましたっ?!

 目に焼き付くような血の色、物音ひとつしない雰囲気、紅い空、紅い月。

 動いている人はいない。周りには動かない屍と、むせかえるような血の香りだけ。

 「……」

 誰も動いていない、時の止まったような世界。どうしてだろう、とても心細く、そしてとても胸が痛い。

 「な、なんで? …どうして、僕の刀から赤い液体がしたたり落ちているの?」

 ”僕”はただただ、その光景を目に焼き付けるように呆然と眺めながら、己の持つ二振りの刀と景色とを交互に確認した。

 「ねぇ、みんな起きてよ……。アレン、セレイナ、グロードぉ」

 (なんで、なんで虚しくこだまするの?)

 「ほ、ほら、ぼ、僕もう、十分に怖がったからさ。そ、そうだ、今度一緒にみんなで出かけようよ、ねぇっ!」

 (どうして誰も動いてくれないの? どうして誰も声をかけてくれないの?)

 「起きてよぉっ! 父上、母上、ユキネぇっ!」

 ゆっくりと、三人の元へ歩を進める。

 「父上、また剣術を教えてよぉ」

 体を揺らしても目覚めない。

 「母上、また母上の手作りお菓子、食べさせてよぉ」

 体を揺らしても目覚めない。

 「ユキネ、またあの丘に連れてってあげるからぁ」

 体を揺らしても目覚めない。

 「あ、あぁ……」

 (誰も起きない、誰も…誰も……)

 ここで初めて、現実を突き付けられて…。

 「あああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 怒り、憎しみ、悲しみ。すべてを込めた嘆きの咆哮(ほうこう)は、虚しく何もない空間に木霊する。残された”僕”と、彼らの血に濡れた二振りの刀を残して。

 

 

 「……目覚めの悪い朝だな…」

 ”僕”はゆっくりと体を起こし、青ざめた顔を鏡に向ける。

 「…ひどい貌だな。今日、こんな調子で大丈夫なのか?」 

 鏡に語り掛けながらゆっくりとカーテンを開けた。外はあんなことなかったように晴れ渡っている。

 「さて、支度するかな」

 時間を気にしながらゆっくりと身支度を始めた。

 

 

 「よう……ってなんだか辛気臭い顔をしてるなぁ、だいじょうぶか?」

 「おはようございます、そうですね。若干気分悪いかなぐらいですから……」

 「気をつけろよぉ、最近高校生を狙った殺人事件、多いからなぁ。いざというとき、逃げ遅れるぞぉ」

 「僕は大丈夫ですから」

 登校中、珍しい人に話しかけられている。一応担任を受け持ってもらっている先生なのだが、生徒の登校時間に合わせて通勤し、とてもフレンドリーに接してくれる半面、熱くなりすぎよく”僕”が先生のフォローに回っている。

 「俺は先に行くから、気をつけろよぉ、アキラ」

 「わかりました、先生こそお気を付けて」

 アキラと呼ばれた”僕”は校舎へと歩を速めた。

 

 

 教室では、何やら騒がしく落ち着きのない様子で会話が進んでいた。

 「あ、アキラじゃん、おはよぉっ!」

 「おはよ……どうかしたの?」

 「えっとね、これ見てほしいんだ」

 クラスメイトから手渡されたのは……。

 「何? 誰かからの手紙?」

 「そ、君宛のだよ」

 「ありがと」

 その手紙に後ろ髪惹かれながら、自分の席に移動する。

 「アキラ、お前、またラブレターもらったのかよ」

 「そんな大したものもらってないよ。ただ単にお礼させてくれって内容の手紙だけだし。まぁ、ちょっと送り相手間違えたんじゃないかなって内容のものもあったりしたけどさ」

 「いやいや、どーよんでもお前宛だよ」

 そんな突っ込みを入れられつつ、とても和む空気の中、先ほどの手紙を開けた。

 『紅き罪を背負いし少年、今ここに破滅と再生の前奏曲を奏でよ。すべては混沌の終焉のために』

 「混沌の、終焉……」

 「ど、どうした?」

 手紙の一文、それを見ただけなのに、自然と唱えてしまった。

 「紅き罪を背負いし少年、今ここに破滅と再生の前奏曲を奏でよ。すべては混沌の終焉のために。世界の変革、革命の灯。平和と戦、すべてを無に戻せたまえ。白銀と黒銀は混じりたり」 

 知らないはずなのにすらすらと出てきた不思議な文。読み終わると意識がゆっくりと遠のいてゆく。

 「アキラ…ア…キ……ラ………ラ」

 完全に意識が遠のいたと同時に、アキラの”存在”はこの世界から消えた。

 

 

  「う…つぅ~……っ!」

 後頭部に激痛が走る。起きてすぐ頭を抱え込んでしまった。

 「……見たところ、王宮内みたいだけど、ここはどこ?」

 石レンガ造りの広めの寝室、どうやら客間のようだ。

 (古い、中世にでも紛れ込んだような感じがする)

 「お目覚めになられましたか?」

 「……っ!?」

 (僕が気配に気づけなかったっ!?)

 アキラは自然と臨戦態勢に入る。武器は手元にないので、むろん格闘スタイルだが。

 「落ち着いてください。気配を消すのは私どもの性分ですので、お気を害されましたのならお詫び申し上げます」

 気配を消すことが性分であると豪語した人は目の前でメイド服を着ている。何とも不思議な光景だ。

 「わたくしは、メーネルと申します。ここ、ゼルネルス邸の専属メイドをさせていただいております」

 「ゼルネルス邸?」 

 「はい。あなた様はご主人様がこちらの世界に魔術を使って転送されましたので、こちらの世界に関して疎いところも少なからず存在していることと存じます。ですので、そのことについて説明させていただきます」

 メーネルはおもむろに机の上に世界地図を広げた。

 「この世界は魔族と神族によって大きく分けて二つの大地に分かれています。今このお邸がありますのは神族の作りし大陸、【アベリア】です。ここを収めておりますは全能神(ソロモン)。そして、もう一つの大陸を収めておりますのは魔族の大陸【ナリア】、災厄神(パンドラ)でございます」

 「なるほど? ではなぜ、僕はここに呼ばれたのですか?」

 「その事については「私が話そう、君は下がりたまえ」……かしこまりました、失礼いたします」

 「貴方は?」

 「私はゼルネルス邸主のセイル・ラ・ゼルネルスだ、セイルで構わないよ。……君を呼んだ理由はソロモン様の命なのだよ、狙いは【ナリア】の奪取だ。我々神族は長年に渡って大陸の併合を狙っているんだ、こちらの大陸にもあちらの大陸にも同じ人間が住んでいるんだ。なのに魔族に支配されているのはあまりにもかわいそうだろう?」

 「かわいそう…ですか」

 「そうだ。一応【アベリア】の議員をしているから、こちら側ついてくれればそれなりの待遇はさせてもらうよ」

 「…少し考えさせてください。僕はこの”世界”に召還されたばかりなので」

 「わかった。君以外にも40人の召喚仲間がいるから、仲良くしてくれたまえ。とりあえずそこは君の部屋だ」

 あまり回答が気に食わなかったようだ。それもそのはずだ。何もない人は何かを差し出してくれる人につくのが大体の、まぁお決まりみたいなものである。しかし、アキラはどうしても腑に落ちないところがある。それが何なのか。結果はおのずとついてくる。

 (僕以外にも異世界転生している人がいるの? そもそも異世界転生なんて話があるはずもないけど、常識はずれの僕が何思ったって意味ないね。それにしても、自分たちと違って「かわいそう」なんて考え……今も昔も異世界も考えることは一緒。本当に「かわいそうなのか」確かめもしない)

 近くにある本棚からこの世界、いや、【アベリア】側の知識を集める。魔法、剣術、生活、道徳。あらゆる分野の内容が書かれていた。

 (面白いな、これが”文化”というものになるのか。自分たちの知っているものと違うと、こんなにも奇妙に思えるんだね。不思議だなぁ)

 この世界の”理”を知るにはまだ知識が足りないが、アキラはようやく生活するための一歩を踏んだ。

 

 

 「君は本当にしぶといね。何を考えてるのかさっぱりわからないし、いい加減吐いてほしいんだけど?」 

 パァンッ!

 「あうぅ」

 場所は地下室。先ほどアキラのいた邸の拷問室。鎖に手足をつながれ、前身は傷だらけの少女がいた。

 「まったく、僕にこんなことさせないでほしいんだけど?」

 鞭を片手に少女に詰め寄るセイル。

 「だったら、しなければ、いいじゃない」

 少女はセイルをにらみながら答える。回答かどうかは定かではない。

 「…回答になってないっ!」

 パァンッ!

 「あうっ!」

 鞭がうなる。

 「はぁ、もういい。また今度来る。”それ”を元に戻しといて」

 「「はっ!」」 

 気配を消せるメイドが二人、少女の拘束を解いた。しかし、それは壁と少女をつなぐ鎖だけ。

 「逃げないようにいつも通り、監視を続けなさい」

 「「はっ!」」 

 メイドが三人増え、二人は近くの控室に。もう一人は目の前の椅子に腰を掛けた。

 セイルは部屋を後にし、次の仕事場に足を運び始めた。

 少女は目に怒りをにじませながら、去りゆくセイルを一瞥し、体を壁に預けた。傷ついていた体はいつの間にか持ち前の白い肌に戻っていた。……少女の耳は尖っており、髪は青くくしゃくしゃで、少々やせ細っている肢体。

 しかし、その碧色の瞳からは、まだ魂の灯が力強く灯っていた。いつか来るであろう迎えを信じて。

 

 

 「……魔法の概念がある…それに神界、魔界の概念まで……。神族と魔族、それを聞いた時点で疑いはしたけど、まさか、本当にあるなんて……」

 それはまさにアキラには驚愕の事実だった。一般常識でとらえてみよう。そもそも、神と悪魔がいるなんて話をした時点でおかしな人扱いされ、魔法なんて使えない。なのに、この世界にはその概念が存在する。つまり、元の常識はここでは通用しないことの表れであり、

 「……まさかのパターンかぁ」

 魔法や神、魔とのふれあいのあるアキラにとっては、とても面倒ごとを生みやすい事例であって。

 「いろいろ、僕らのことが通用する概念があるみたいだよ」

 『それ本気で言ってるの?』

 『実に耳を疑わしきお言葉なのですが?』

 「それは僕も一緒さ」

 アキラ以外の人の声がするのも事実。しかし、アキラ以外に人がいないのも事実。アキラの近くにはキツネが二匹。どちらの尾も九本ある。最初転生されたときにはいなかったものだ。

 『で、どうすんの? どっちについてもらってもあたしは構わないけど』

 『私も同意ですが』

 「正直まだわからない。この世界の概念も仕組みも」

 アキラにとってはまだわからないことだらけだ。本からでは知識に偏りがある。何せ神が統べる領域の本なのだから。

 コンコン。

 「はい」

 「セイル様から集合がかかっております。案内いたしますので、同伴ください」

 「わかりました」

 (ごめんね。二人(・・)とも)

 (了解しました)

 (わかったわ)

 九尾達はさっと、音もたてずに形を変え、アキラはそれを腰に下げた。アキラの腰には二振りの刀。

 「こちらです」

 そう言って先を進むメイド。それを追いかけて、アキラは一歩、また一歩と先を目指すのだった。

 




 このアカウント、初のオリジナル小説ということで、初めから難易度の高い連載小説を書いていきたいと思います。
 紙の小説は、書いた感想や作品のネタ晴らし等ありますが、意外とあらすじから読むという方もいますので、ネタ晴らし等無しで行きたいと思います。書いた感想は述べさせていただきますけど。
 感想はあぁ、めっちゃ面倒、でした。書いていって次の日読み直してみると何言ってんだこいつ?みたいなことになりまして、直したり、タイトル決まんねぇって悩んだりしまして。結局このような形になってしまいました。
 ゆっくり時間をかけて投稿していこうと思いますので、温かい目で見守ってください。


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