緋扇邸のオオカミくん (アニアス)
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主人公プロフィール

今回は主人公の簡単なプロフィールを作りました。


 

 

西条 秋宗《さいじょう あきむね》

 

 

出身国:アメリカ

 

 

身長:179㎝

 

 

容姿:灰色の髪で目はエメラルドアイ。

顔つきは整っている。

 

 

種族:オオカミ人間

 

 

好きなもの:肉料理・ゲーム

 

 

嫌いなもの:玉ねぎ

 

 

性格:いつもは部屋でゲームをすることが多いがとても頼りになる

 

 

設定:アメリカで生まれたが、幼少期は両親の仕事が忙しく、いつも1人でいることが多く、友達も出来ずに遠慮がちな性格だった。

しかし、両親に対しての怒りはなかった。

そんな時、両親が、自分たちの古い知り合いの緋扇我流駄のところへ連絡を入れて、面倒を見て欲しいとお願いしたことをきっかけに、1人日本へ渡った。

最初は緋扇邸の人たちと打ち解けずにいたが、我流駄の1人娘の緋扇かるらと巳虎神マトラと少しずつ打ち解けていき、どんどん明るい性格になっていった。

かるらの買い物に付き合ったり、マトラの組み手の相手をしたりと、2人の相手をすることが多々あった。

 

 

他の人たちによる秋宗の評価

 

かるら「マトラと同じくらい頼りになる幼なじみじゃ」

 

マトラ「いつも組み手の相手をしてくれるいいやつだぜ」

 

コガラシ「まぁ悪いやつって訳でもないし、今じゃあ仲のいい友達って感じだな」

 

幽奈「そうですねぇ、いい人だとは思いますげど」

 

狭霧「あいつのことは一応認めてはいる。もし、ゆらぎ荘の風紀を乱そうものなら、私が天誅を下すがな」

 

呑子「そうねぇ、お酒のつぎ方の上手な子、かしら?」

 

夜々「悪いやつじゃない」

 

朧「あの時は私の未熟さが招いた結果だ。もう恨んではいない」

 

雲雀「完全に認めてはいないけど、コガラシくんとも仲がいいし、まぁコガラシくんに何かしたら雲雀がとっちめてあげる!」

 

仲居さん「ゆらぎ荘の家事手伝いをしてくれていますので、コガラシさんと同じくらい頼りになる人ですね」

 

こゆず「あの時は怖かったけど、優しい人だとは思うよ」

 

千紗希「えっと、悩みを相談できる人、かな?」

 

 

オオカミ人間の設定

 

アメリカに伝わる妖怪でプライドが高い。

満月の夜には、オオカミ人間が人間の住みかへ赴き、血を一滴残らず飲み干すと言われている。

昼間に変身すると、毛皮が生えて頭もオオカミの顔つきになる。

夜に変身すると、狂暴性が10倍になり、身長が2mにもなり、筋肉が膨れあがり、毛皮も濃くなる

さらに満月が出ていれば、狂暴性が50倍になり、身長も3mにもなり、毛皮がさらに濃くなる。

オオカミ人間の毛皮は分厚いため、刃や弾丸なども通らず、鎧を纏っている状態と同じである。




活動報告のアンケートのご協力をお願いいたします。


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第1話 西条秋宗

ここは京都の奥深いところにある屋敷、緋扇邸。

強力な霊力持つ、大天狗たちが住んでいる。

本来なら天狗たちしか緋扇邸にはいないのだが、一つだけ例外がある。それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

???「・・・」(カチャカチャ

 

 

緋扇邸のある一室で一人の男が真剣にテレビゲームをしていた。

男の見た目は高校生、灰色の髪が特徴的にも思える。

黒の革ジャンを羽織りジーンズをはいている。

部屋は一人分にしては十分すぎる広さでギターやら男性バンドのポスターなど、いかにも男らしい部屋である。

 

 

???「よし、あともう少しで完全制覇だ」

 

 

男は相変わらずテレビ画面に集中していた。

そのせいか、ドタドタと誰かが近づいてくる足音に気づくことができなかった。

 

バンッ!

 

そして勢いよく部屋の扉が開かれた。

 

 

???「おーい秋宗!準備できたか?」

 

 

入ってきたのは褐色の少女だった。

白髪の髪を後ろにまとめ、犬歯が出ている口には飴棒が咥えられている。

そして学生服を着ており、豊満な胸を揺らしていた。

 

 

???「あっ!?・・・・・」

 

 

突然のことに驚いて操作ミスをしていまい、テレビ画面には大きく「game over」と表示されていた。

男は静かにコントローラーを置き褐色の少女に視線を移した。

 

 

???「・・・おい、なんてことしてくれたんだよ姐さん、姐さんが突然入ってきたからス◯ークが死んじまったじゃないか。つうか部屋入る前にはノックしろって言わなかったか?」

 

 

???「いいじゃねぇかよ別に、それに秋宗が諦めない限りス◯ークは何度でも蘇るんだからさ」

 

 

姐さんと呼ばれた少女は笑いながら返答した。

彼女の名は巳虎神マトラ。

鵺と呼ばれる強力な妖怪で強敵との戦闘を好んでいる。

 

 

???「そういう問題じゃねぇんだよ!って姐さん、さっき準備とか言ってたけど、もしかしてもう時間なのか?」

 

 

???「その通りじゃ、ちと早いがすぐに出発するぞ」

 

 

男が扉の方を見ると、もう一人別の少女がいた。

赤く長いを左右で結んでいて、扇子を持っていた。

彼女こそ、この緋扇邸のご令嬢である、緋扇かるらだ。

 

 

???「お嬢・・・!今出発って言ったのか?予定じゃあ確か、俺と姐さんとスズツキのおっさんで行く手筈だっただろ?」

 

 

かるら「スズツキはちと野暮用があってのう、妾自ら行くことになったのじゃ。とにかく、今回の目的であるあの男をこの緋扇邸に連れて行く。では行くぞ、マトラ、秋宗」

 

 

マトラ「任せときな!おひいさん!」

 

 

秋宗「ま、お嬢の為にも頑張るとするか」

 

 

緋扇邸の用心棒である男、西条 秋宗≪さいじょう あきむね≫は立ち上がり、かるらとマトラとともに目的の場所、ゆらぎ荘へ向かうために緋扇邸を後にした。

 

 




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第2話 天狗と鵺とオオカミ

場所は変わり、ここはどこかの場所にある温泉街『湯煙温泉郷』。

そこには『ゆらぎ荘』と呼ばれる民宿がある。

地元では幽霊が出てくると噂されている民宿である。

 

今ゆらぎ荘では、大きなイベントが開催されていた。

それは、ゆらぎ荘に入居している肉体派霊能力者高校生、冬空コガラシの誕生日パーティーのことだ。

彼の誕生日を祝ってくれているのは、ゆらぎ荘の住人たちである。

 

地縛霊 湯ノ花幽奈

誅魔忍 雨野狭霧

酒呑童子の末裔 荒覇吐呑子

猫系少女 伏黒夜々

座敷わらし 中居ちとせ

狭霧の従妹の誅魔忍 雨野雲雀

龍雅家に仕えている神刀 朧

化け狸 信楽こゆず

そして、ゆらぎ荘の住人ではないが、コガラシのクラスメイトの宮崎千紗希。

 

みんなコガラシのためにサプライズとして盛大に祝ってくれていた。

 

今は全員、ゆらぎ荘の露天風呂で水着姿となっており和気あいあいと楽しんでいた。

 

仲居さん「さあ皆さん、次は大広間で宴会ですよ~」

 

 

ちとせの呼び掛けに皆は露天風呂からあがろうとする。

その時、コガラシの頭に何かが降ってきて何かと確認すると

 

 

コガラシ「黒い羽?」

 

 

そう、それは黒い羽であった。彼はなぜこんなものが?

と疑問に思った。

次の瞬間、突如突風が吹き荒れて全員に襲いかかってきた。

まるで意思があるかのように全員の水着を吹き飛ばしてしまう。

 

 

雲雀「きゃぁぁぁ!?///」

 

 

千紗希「何!?何なの!?///」

 

 

突然の出来事に全員は訳が分からなくなってしまう。

 

 

???「久しいな、八咫鋼、忌まわしき我が父の仇よ!」

 

 

今度は声は空から声が聞こえ全員が顔を向けるとそこには、二人の少女、緋扇かるらと巳虎神マトラがいた。

かるらは背中から黒い翼が生え、マトラは雲の様なものに乗っていた。

かるらはコガラシをずっとにらみつけていた。

 

 

幽奈「あの、八咫鋼とは?」

 

 

朧「宵ノ坂や天狐と並ぶ御三家の一つだ、神々をも凌駕する力があると言われている」

 

 

狭霧「じゃあ冬空コガラシはまさか!・・・」

 

 

コガラシ「いや、違うんだ、俺の師匠が八咫鋼の末裔なんだよ」

 

 

雲雀「コガラシくんの師匠!?」

 

 

こゆず「どんな人なの~?」

 

 

呑子「気になるわ~ 」

 

 

マトラ「・・・おひいさん、あの人ら完全にあたしらのこと忘れてるよな?」

 

 

いつの間にか置いてきぼりされているかるらはとさかにきていた

 

 

かるら「貴様ら、妾を無視するとはいい度胸じゃな。妾こそ、京の妖怪を束ねる大天狗の嫡子、緋扇かるらじゃぞ!」

 

 

幽奈「すいませ~ん、とりあえず着替えてきますので、お話は後程」

 

 

夜々「このままだと、風邪ひいちゃう」

 

 

自己紹介を軽く流して着替えへ行こうとするコガラシたちにかるらは完全に怒りが頂点に達していた。

 

 

その時

 

 

???「クククッ、お嬢を前にして着替えに行こうとするなんて、よほどの身の程知らずか、それとも肝が据わっているのか、分からねえ連中だなぁ」

 

 

今度は男の声が聞こえ、全員が振り向くとそこには、革ジャンを羽織り灰色の髪が特徴的な男、西条秋宗が腕を組み、岩に背もたれしていた。

 

 

千紗希「だ、誰!?///」

 

 

雲雀「ちょっと!こっち見ないでよ!!///」

 

 

朧「なんだあいつは?冬空と同い年に見えるが」

 

 

突然現れた男にコガラシたちは混乱していた。

 

 

マトラ「秋宗、お前どこ行ってたんだよ?」

 

 

秋宗「悪いな姐さん、俺はお嬢や姐さんみたいに空を飛べる術がないんでね、玄関から堂々と入ってきたのさ。

とりあえず落ち着けよお嬢、怒りで冷静さが欠けてたら計画が全部台無しになるぞ。」

 

 

かるら「・・・それもそうじゃな」

 

 

かるらが冷静さを取り戻して落ち着いた。

かるらとマトラの二人と会話をしている秋宗を見てコガラシたちは、かるらたちの仲間だと理解した。

秋宗はコガラシたちの方に振り向き、

 

 

秋宗「はじめまして、ゆらぎ荘の皆さん。俺は西条秋宗、お嬢である緋扇かるら様のお家の用心棒をしているものだ。無駄な抵抗をするなよ?はっきり言ってお前らごとき、俺とマトラの姐さん二人だけで圧倒できるからなぁ。」

 

 

挑発と捉えてもいい自己紹介をはじめた。この発言で頭にこない輩などいないだろう。

 

 

狭霧「・・・減らず口を叩くではないか、西条秋宗とやら。たった三人で私たちに勝てると思っているのか?」

 

 

狭霧は霊装結界を身に纏いクナイを構えていた。

 

 

秋宗「いやいやいや、雨野狭霧。俺らが無謀に襲撃するほどの間抜けに見えるのか?」

 

 

狭霧「・・・確かにそうは見えないな。っ!?ちょっと待て!なぜ私の名前を知っている?」

 

 

話の中で秋宗が自分の名前を口に出したことに少し驚いてしまった。

 

 

秋宗「俺は用意周到でね、相手のことは徹底的に調べるタイプなのさ、プロに負けず劣らずの雨野家の誅魔忍、雨野狭霧さん」

 

 

狭霧「っ!雨野家のことまでも!」

 

 

秋宗「他にも色々知ってるぜ。記憶をなくした謎の多い地縛霊、湯ノ花幽奈。酒呑童子の末裔にして酒好きの漫画家、荒覇吐呑子。猫神を宿している猫少女、伏黒夜々。このゆらぎ荘の仲居にして座敷わらし、仲居ちとせ。先代黒龍神の尾から誕生した黒龍神の護り刀、朧。一人前の化け狸を目指している、信楽こゆず。湯煙高校のアイドルと呼ばれている高校生、宮崎千紗希。

んで、狭霧の従妹の"ギリギリB"の誅魔忍、雨野雲雀。」

 

 

雲雀「・・・は、はぁぁぁぁ!!??///」

 

 

秋宗の調べた情報に雲雀は思わず声を荒げた。

 

 

雲雀「あの人!今雲雀のことBって言ったよね!?///しかもギリギリって言ったよ!!///何なのあの人!?///」

 

 

狭霧「雲雀落ち着け!迂闊に突っ込むな!」

 

 

朧「師匠、Bとは何のことだ?」

 

 

千紗希「ええっと、その//」

 

 

自分の胸のことを言われた雲雀を狭霧が押さえて、朧は千紗希にBのことについて聞いている。

 

そして秋宗はコガラシに視線を移した。

 

 

秋宗「そして、借金まみれの肉体派霊能力者の高校生にして、今回のお嬢の目的でもある、冬空コガラシ。」

 

 

コガラシ「目的?」

 

 

仲居さん「狙いは、コガラシくん?」

 

 

こゆず「目的って、コガラシくんをどうする気なの?」

 

 

かるらたちの目的がコガラシと聞いた幽奈たちは彼をどうするのかと尋ねるも、秋宗はかるらたちの方を見てしまう。

 

 

秋宗「お嬢、ここは俺と姐さんに任せといてくれ、すぐに終わらせるからさ」

 

 

マトラ「おひいさん、そろそろ始めようぜ、あたしも宵ノ坂と勝負したいしよ」

 

 

かるら「・・・いいじゃろう、ではお前たち二人に任せるぞ」

 

 

マトラ「よっしゃっ!愛してるぜおひいさん!」

 

 

 

かるらの許可をもらい、マトラは秋宗の隣に降り立つ。

 

 

 

秋宗「・・・なぁ冬空コガラシ、大人しく俺らに着いてきてくれねぇか?俺はどちらかと言うと、平和的に物事を進めたいんだが」

 

 

秋宗はコガラシに交渉を持ち掛けるが、

 

 

コガラシ「何が平和的にだ、てめぇらはもうみんなを巻き込んでんじゃねぇか、師匠と何があったか知らねぇけど、そう素直に従うかよ、幽奈たちを危険な目にあわしたからには、覚悟できてるんだろうな?」

 

 

幽奈「コガラシさん///・・・」

 

 

コガラシが拳を構える姿と自分たちを守ろうとする気持ちに幽奈は嬉しくなり、顔を赤くしてしまう。

 

 

秋宗「そうか、じゃあ交渉決裂ってことでいいんだな?」

 

 

秋宗の声のトーンが低くなったことにコガラシたちは警戒を高める。

 

 

狭霧「冬空コガラシ!!貴様だけに見せ場は作らせないぞ!私だってゆらぎ荘の一員だ!」

 

 

呑子「コガラシちゃんかっこいいわぁ、なら私もやるしかないわねぇ、中居さーん、日本酒の用意よろしくねぇ」

 

 

夜々「夜々も戦う」

 

 

朧「私も加勢するぞ、相手は二人だけのようだが油断するなよ冬空」

 

 

雲雀「雲雀だって戦えるもん!それにアイツ!あの秋宗って人は徹底的にとっちめないと!雲雀のことBって言ったんだから!!」

 

 

狭霧、呑子、夜々、朧、雲雀がそれぞれ戦闘準備を取りはじめている。

 

秋宗「・・・姐さん、宵ノ坂任せていいか?」

 

 

マトラ「ん?別にいいけどよ、いきなりあれやるのか?」

 

 

秋宗「あの雲雀とかいう誅魔忍が言ってただろ?徹底的にやるって、だったら俺も徹底的にやってやるさ」

 

 

秋宗が空を見上げると、夜空には満月が浮かんでいた。

そして突然、

 

 

秋宗「う、うぅぅぅぅぅ!!」

 

 

コガラシ「なっ!?」

 

 

秋宗の体に変化が起こり始めた。

体が少しずつ大きくなりはじめ、灰色の髪も背中へ伸び、顔が獣へと変化し始めた。

 

 

狭霧「な、何だあれは!?」

 

 

呑子「あの子、まさか!」

 

 

夜々「フシャー!!」

 

 

朧「ただの妖怪かと思っていたが、これは!」

 

 

雲雀「なんなの!?なんなのあの人!?」

 

 

こゆず「千紗希ちゃん、ボク怖いよぉ!」

 

 

千紗希「大丈夫だよこゆずちゃん!大丈夫だから!」

 

 

仲居さん「初めて見ます!あの人まさか!」

 

 

幽奈「コ、コガラシさん!」

 

 

ある者は驚き、ある者は動揺し、ある者は警戒し、ある者は怯え、ある者はその者を安心させようとする。

 

 

コガラシたちは秋宗の変化に驚きを隠せなかった。

 

 

それを空から見ていたかるらはうっすらほくそ笑んでいた。

 

 

かるら「頼りにしておるぞマトラ、特に秋宗、何せ貴様はただの用心棒ではなく、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

欧米に伝わる妖怪、オオカミ人間なのじゃからな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗はもう先ほどの人間の面影はどこにもなく、身長は3mほど大きくなり、服も上半身が破けて全身体毛で覆われていて、顔も完全なオオカミとなっていた。

秋宗は再び空を見上げ、そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウオォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場にいる全身が耳を塞ぐだけで精一杯な咆哮をあげた。

 




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第3話 オオカミ人間の力

オオカミ人間

欧米地方に伝わる妖怪。

プライドが他の妖怪たちよりも一段と高く、闘争を好む者もいれば、一人となる者もいる。

欧米では、満月の夜にはオオカミ人間が血を求めて人間のいるところへ赴き、人間の血を1滴残らず飲み干すと言われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、ゆらぎ荘の露天風呂では、かるら率いる宵ノ坂と冬空コガラシたちが対立していた。

しかし、緋扇かるらの用心棒、西条秋宗の姿が愕然と変わっていった。

西条秋宗は、欧米に伝わる妖怪、オオカミ人間なのであった。

 

 

マトラ「いや~、それにしても相変わらずえらい変わりようだな秋宗!やっぱりオオカミ人間の変身はいつ見てもすごいな!」

 

 

 

秋宗「やめてくれ姐さん、地味に痛い」

 

 

 

マトラはバンバンと秋宗の膝当たり辺りを強く叩いている。

 

 

 

雲雀「オオカミ人間!?そんなの初めて見るよ!」

 

 

仲居「私も初めて見ます!てっきり外国にしかいない妖怪かと」

 

 

呑子「それにしても、あんなに大きくなれるものなの?」

 

 

 

 

雲雀と仲居さんは、いや、幽奈たちは初めて見るオオカミ人間に動揺を隠せなかった。

 

 

 

秋宗「・・・いいことを教えてやるよ、オオカミ人間は昼間だろうがいつでも変身できるが、夜に変身すると狂暴性が10倍!さらに満月が出ていれば50倍にまでも膨れ上がるんだよ!」

 

 

 

秋宗の言葉にさらに驚いてしまう幽奈たち。しかし、

 

 

 

コガラシ「・・・だからなんだよ。俺も最初は驚いたけど、こっちは妖怪やら黒龍神やらと相手してきたんだよ。今さらオオカミ人間ごときで逃げ腰になるかよ」

 

 

 

彼だけは、冬空コガラシだけは冷静さを取り戻していた。そして拳を構えて

 

 

 

コガラシ「悪いが、一気にカタつけさせて貰うぞ!!」

 

 

 

ダンッ!!

 

 

 

コガラシは駆け出して一気に秋宗の間合いまでの距離をなくした。

 

 

 

秋宗「何っ!?」(油断はしなかったが、一気にここまで距離をなくせるのか!?流石はあの黒龍神を倒しただけのことはある!)

 

 

 

コガラシ「オラァ!!」(ズドォン!!!

 

 

 

コガラシの拳が秋宗の脇腹にクリーンヒットした。

コガラシは『肉体派霊能力者』。

殴って霊を成仏させることができる為、妖怪退治も常に拳で対応してきた。

 

 

 

幽奈「やった!コガラシさん!」

 

 

夜々「案外対したことなかったね、オオカミ人間」

 

 

狭霧「所詮はただの見せ掛けだったか」

 

 

 

幽奈たちは勝利を確信していた。

なぜなら、コガラシが今まで拳で倒せなかった者などいなかったのだから。

 

 

しかし、勘違いをしていないだろうか?

コガラシの拳は確かにクリーンヒットしたが、果たして秋宗には効いていたのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かるら「・・・愚か者どもが、秋宗を甘くみすぎていたようじゃのう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「・・・・・一気に距離を詰めてきたスピードは確かに驚いたけどよ、これがお前の全力ってことでいいんだな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コガラシ「なっ!?嘘だろ!?」

 

 

 

そう、効いていなかったのだ。

 

 

 

雲雀「コ、コガラシくんの拳が、効いていない!?」

 

 

朧「馬鹿な!?あり得ない!!」

 

 

 

朧には信じられない光景であった。

かつてコガラシの拳は自分の主である黒龍神・玄士郎をも倒したことがあるのだ。

しかしその拳があの秋宗とかいうオオカミ人間には効いていない、それどころか退いてもいない。

 

 

 

秋宗「なぁ冬空、お前さっきさ『悪いが、一気にカタつけさせて貰うぞ!!』とか言ってよなぁ」(がしっ

 

 

 

秋宗はコガラシの頭を掴み、そして、

 

 

 

ドスッ!!

 

 

 

コガラシ「がはぁ!?」

 

 

秋宗「その言葉、そっくり返してやるよ」

 

 

 

自分の膝にコガラシの顔を叩きこみ気絶させた。

 

 

 

幽奈「コガラシさん!!」

 

 

千紗希「冬空くん!!」

 

 

 

二人が声に出してコガラシに呼びかけるも気を失ってしまって起きる気配が一向にない。

そして秋宗は気絶しているコガラシを肩に背負う。

 

 

 

マトラ「相変わらずえげつねぇなぁ」

 

 

秋宗「俺は目的の為ならどんなことでもするからなぁ、分かってるだろ姐さん」

 

 

呑子「コガラシちゃんを、返しなさぁい!!!」

 

 

 

今度は呑子が秋宗に突っ込んでいった。しかし、

 

 

 

マトラ「やっと来やがったな!宵ノ坂!!」

 

 

そこにマトラが立ちふさがった。

 

 

 

呑子「どいてぇ!!」

 

 

 

呑子は拳をマトラに振りかざしたが、マトラは額で受け止めたのであった。

 

 

 

マトラ「・・・こんなものなのか?」

 

 

 

対したことのない呑子の力にマトラは怒りを覚えた。

呑子の先祖は酒呑童子。

酒を飲めば飲むほど強くなる鬼のことである。

呑子も酒を飲めばマトラと互角に戦えるのだが、かるらが起こした突風により、日本酒の入っていた瓶が全部割れてしまったのである。

つまり

 

 

ガシッ

 

 

 

呑子「あら~?」

 

 

 

マトラは呑子の背後に周り、彼女の腹に手を回して、

 

 

ズドォン!!

 

 

ジャーマンスープレックスを決めて、呑子を気絶させた。

 

 

 

秋宗「やるな姐さん、じゃあさっさと緋扇邸へ帰るとするか」

 

 

朧「貴様だけは逃がさん。そして冬空は渡さん」

 

 

 

秋宗の背後に朧が回り込み、刀身へ変えた右腕で斬りかかるが、

 

 

ズバゴォン!!

 

 

 

秋宗「俺の背後とりたかったら、気配だけじゃなくて、匂いも消すことだな」

 

 

 

朧の刀身が当たる前に裏拳を当て朧を撃沈させた。

オオカミとしての嗅覚が鋭いのか、感が鋭いのかはわからない。

 

 

 

雲雀「何なの、コイツら、あの二人を圧倒するなんて」

 

 

 

今の状況ではマトラと秋宗を止める術はないだろう、誰もがそう思う。

 

 

 

かるら「よくやったな、マトラ、秋宗」

 

 

秋宗「いやいや、其ほどでもねぇさお嬢」

 

 

マトラ「こんなものかよ、御三家の力は?・・・ああそうか!!確か酒呑童子って酒飲んだら強くなるんだよな!?んじゃあ飲み行こうぜ!そのあとに再戦しよう!」

 

 

 

マトラはまだ暴れ足りないせいか呑子を飲みに誘おうとする。

 

 

 

かるら「お前のワガママに付き合うつもりはないぞ、マトラ」

 

 

マトラ「えぇ~?じゃあおひいさんと秋宗先に帰ってなよ」

 

 

秋宗「姐さん、まさか京都まで在来線で帰るつもりか?」

 

 

マトラ「ぐっ!?しゃあねぇ帰るかぁ」

 

 

 

かるらが扇子を振るうと白い渦の様なものが現れ、かるらをはじめ、愚痴をこぼすマトラ、気絶しているコガラシを肩に背負っている秋宗が渦に入ろうとする。

 

 

 

幽奈「あ、あの!!」

 

 

 

幽奈が三人を呼び止めて、

 

 

 

幽奈「コガラシさんを、どうなさるおつもりですか?」

 

 

 

幽奈の質問にかるらは気絶しているコガラシを見ながら

 

 

 

かるら「そうじゃな、せいぜい可愛がってやるとするかのう」

 

 

 

不敵な笑みを浮かべながらそう答えた。

幽奈はコガラシが殺されてしまうと思い霊力を一気に放出した。

すると近くにあった数個の岩が浮かび上がった。

 

 

 

秋宗「・・・ポルターガイストか」

 

 

幽奈「そんなの、ダメです~!!」

 

 

 

幽奈は岩をかるらたちにぶつけるために飛ばした。

 

 

 

狭霧「幽奈に続けぇ!!」

 

 

 

狭霧、夜々、雲雀も攻撃を繰り出した。

 

 

しかし

 

 

 

ブワァッ!!

 

 

 

かるらが扇を振るうと突風が起こり、攻撃を防いだだけでなく、幽奈たちまでも吹き飛ばしてしまう。

 

 

 

秋宗「諦めろ、もうこいつは、お嬢のものになるんだからな」

 

 

最後に言い残して三人はコガラシを連れて渦の中に入ると渦も綺麗に消えてしまった。

 

 

 

幽奈「そんな、そんな、コガラシさあぁぁん!!」

 

 

 

幽奈の叫び声は暗闇の空へと消えていってしまった。




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第4話 幼き頃の思い出

~京都 緋扇邸~

 

その一室にコガラシの拉致に成功したかるらの姿があった。

他にも、かるらと同行したマトラ、白衣を着た老人、三人の黒服の姿もある。

部屋には巨大なモニターがあり、コガラシのデータが表示されていた。

 

 

老人「なんと、この霊波紋は確かに、かの八咫鋼に間違いありませぬ。よもやこうも容易くあの恐ろしい八咫鋼を捕らえて連れてくるとは、流石はかるら様ですな」

 

 

かるら「ふ・・・」

 

 

老人はコガラシのデータを見ながら、彼を捕らえることに成功したかるらを褒めていた。

 

 

黒服1「あの八咫鋼をこない簡単に捕まえられるとは、こりゃ笑いが止まりまへんわ!所詮八咫鋼なんかマヌケちゅうことですわな!」

 

 

黒服の一人がコガラシを愚弄するように言葉を発した。

だが、かるらはそれを聞き逃さなかった。

 

 

かるら「マヌケじゃと!?敵とはいえ御三家の一角!侮辱は許さぬぞ!」

 

 

かるらの眼光が急に鋭くなり、黒服の一人は慌てて謝罪した。

 

 

黒服1「す、すんません!」

 

 

黒服2「仇にも礼を尽くすとは、かるら様もご成長なされましたな」

 

 

黒服3「とにかくもう邪魔立てするものもおりませぬ、ようやく東軍との決着が着くというもの」

 

 

東軍とは、御三家の1つ『天狐』を大将とする東の妖怪の軍のことであり、かるらたちは『宵ノ坂』を大将とする西軍に所属している。

この2つの軍はかつて、天下分け目の合戦を行った因縁の仲である。

そこで西軍の緋扇は、より協力な戦力を手に入れるために御三家の1つ『八咫鋼』を探していたのだ。

そして。コガラシがここに連れて来られたのである。

 

 

マトラ「それにしても肩透かしだったなぁ、せっかく宵ノ坂の力を確かめられると思ったのによ」

 

 

黒服2「なっ!?まさか宵ノ坂に喧嘩を!?」

 

 

マトラ「大丈夫だって、例の宵ノ坂とは縁が切れてるからよ」

 

 

ここで老人が咳払いをして話し始めた。

 

 

老人「問題は八咫鋼の扱いについてですが、地底深くに強固な結界を張り巡らせて置くのがよいかと。ところでかるら様、今八咫鋼はどこに?調べてから、かるら様が連れて行ってしまわれましたが」

 

 

黒服1「そういや、さっきから西条はんの姿も見えまへんな。また部屋でゲームでもしとるのですかの?」

 

 

二人の問いにかるらはこう答えた。

 

 

かるら「秋宗には八咫鋼を見張るように言いつけておる。まぁ、あやつ一人でも問題なかろうと思ってな。」

 

 

黒服2「左様でしたか」

 

 

黒服3「それで、八咫鋼は今どこに?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

秋宗「何でよりによって俺の部屋なのかね?」(カチカチ

 

 

秋宗は自室で相変わらずと言ってもいいほどテレビゲームをしていた。

ただ、部屋の状況を見てみるともう一人秋宗の部屋にいた。

そう、冬空コガラシである。

コガラシは今、椅子に鎖で縛りつけられている状況であるが、その鎖にかかっている術のせいか力が入らない状態である。

ちなみにコガラシの服装は黒のジャージ姿である。

 

 

コガラシ「くっそ~、全然外れねぇ。どうやっても解ける気がしねぇなこれ!」(ガタガタ!

 

 

秋宗「無理に外さない方がいいと思うぞ。それよりも、さっきは悪かったな、つい思いっきりやってしまって」

 

 

秋宗は無理に鎖を外そうとするコガラシに忠告するが、視線はテレビ画面に集中している。

 

 

コガラシ「お前ら許さなねぇからな、ゆらぎ荘の皆をひどい目にあわせやがって」

 

 

 

秋宗「安心しろ、全員無事だ。まぁ、何人かは少し重症みたいだかな。諦めろよ、お前はもうお嬢のものになるからな。どうあがいても無駄だ」

 

 

コガラシ「・・・なぁ、俺もオオカミ人間については詳しくは分からねぇけど、プライドが高いんじゃねぇのか?何で大天狗たちと一緒にいるんだよ?」

 

 

秋宗「・・・・・まぁ、休憩には丁度いいか」

 

 

 

コガラシの言葉に秋宗は手を止めて、ゲームを中断した。

そして、コントローラーを置いてコガラシの方を振り向いた。

 

 

秋宗「実は、オレとお嬢、そして姐さんは、幼なじみなんだ」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

10年前 緋扇邸にて

 

ある部屋の一室に当時の幼いかるらとマトラ、そしてかるらの父にして緋扇学園理事長の緋扇我流駄がいた。

 

2人とも、我流駄に呼び出されてソファに座っていた。

 

 

 

かるら『パパ、お話って何?』

 

 

我流駄『実は、この家にアメリカから新しい子が来ることになったんだ。かるらとマトラと同い年の子だ』

 

 

かるら『新しい、子?』

 

 

マトラ『それってどんな子?』

 

 

 

かるらとマトラは揃って首をかしげた。

 

 

 

我流駄『私とその子の両親とは古い付き合いなんだ。何でも仕事が忙しくて自分の子供と遊ぶ時間すらつくれず、その子自身も友達がいないそうなんだ。それで、私のところに連絡をしてきて、かるらたちと仲良くさせてほしいとのことだったんだ。突然こんな話をして分からないとは思うが、2人ともいいかい?』

 

 

かるら『・・・私はいいよ。その子と仲良くなりたい』

 

 

マトラ『アタシも別にいいよ』

 

 

 

かるらとマトラもこころよく引き受けてくれた。

 

すると、

 

 

 

コンコンコン

 

 

 

部屋の扉がノックされて、黒服の1人が入って来た。

 

 

 

黒服2『お館様、例の子供が到着いたしました』

 

 

我流駄『そうか、入ってきなさい』

 

 

 

すると、今度は子供が入って来た。

 

子供は灰色の髪が特徴的で、黒をベースとした服を着ており、背中にはリュックを背負っていた。

 

この子こそ、当時の幼かった西条秋宗であった。

 

 

 

秋宗『・・・西条秋宗です。オオカミ人間です。今日からよろしくお願いします』

 

 

 

緊張しているのだろうか、秋宗はぎこちなく部屋にいた3人に挨拶をした。

 

我流駄は秋宗の前にしゃがみこみ笑顔を向けた。

 

 

 

我流駄『はじめまして秋宗くん。君のことはお父さんとお母さんから聞いてるよ。私は緋扇我流駄、これからよろしく。』

 

 

 

そして、かるらとマトラも秋宗のところまで来て自己紹介を始めた。

 

 

 

かるら『私は緋扇かるら。これからよろしくね、秋宗』

 

 

マトラ『アタシは巳虎神マトラ!よろしくな秋宗!』

 

 

秋宗『・・・う、うん。よろしく』

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

秋宗が緋扇邸に来てから一週間が経とうとしていた。

 

秋宗は緋扇邸の人たちから距離をとって過ごしていた。

 

かるらとマトラが遊びに誘っても、遠慮して森の方に行ってしまって、日が暮れるまで外にいることが頻繁であった。

一緒にいる時は、せいぜい食事程度であった。

 

なぜ距離を取るかと言うと、幼い頃から両親が仕事詰めで1人でいる時間が多く、友達も出来なかった。

その為、ついつい遠慮がちな行動になってしまったのだ。

 

 

 

秋宗『・・・・・』

 

 

 

そしてこの日も、秋宗は1人、森の中の木の上に座っていた。

いつも、こうやってボーッとしているのだ。

 

 

 

マトラ『あ!おひいさん!あそこにいた!』

 

 

かるら『ホントだ!おーい!秋宗ー!』

 

 

秋宗『?』

 

 

 

秋宗が声のする方を向くと、かるらとマトラが空を飛んでこっちに向かって来ていた。

2人が秋宗の元に着くと、彼の両隣に座った。

 

 

 

秋宗『・・・えっと、どう、したの?』

 

 

かるら『秋宗を探してたんだよ。いつもどこに行ってるのかな、って思ってさ』

 

 

マトラ『アタシらが誘ってもどっか行くからよ』

 

 

 

かるらもマトラも秋宗のことが気にはしていて、ここまで探しに来ていたのだ。

そこで、マトラは率直に聞いてみた。

 

 

 

マトラ『・・・あのさ、秋宗ってアタシらのこと嫌いなのか?』

 

 

秋宗『えっ、いや、嫌いじゃないよ』

 

 

かるら『じゃあどうして一緒に遊んでくれないの?』

 

 

 

かるらの質問に秋宗はうつむいて答えた。

 

 

 

秋宗『・・・分からないんだ。父さんも母さんも仕事で帰りが遅いし、友達も作れなかったから、同い年の子とどうやって接したらいいのか、分からないんだ。だからついつい、遠慮してしまって』

 

 

マトラ『ふ~ん』

 

 

 

その場が少し重い空気になってしまった。

 

すると、かるらが突然立ち上がって、

 

 

 

かるら『・・・情けないのぉ秋宗。それでも主は男か?』

 

 

秋宗『え・・・?』

 

 

 

口調を変えて秋宗にしゃべり出したのだ。

突然かるらの口調が変わったことに秋宗は戸惑ってしまう。

 

 

 

かるら『そんな情けない輩は男でもないわ。もっと自信を持ったらどうじゃ?』

 

 

秋宗『・・・・・くくっ』

 

 

 

秋宗は耐えきれず笑ってしまった。

 

 

 

かるら『な、なんでそこで笑うの!?』

 

 

秋宗『ご、ごめん、つい』

 

 

マトラ『そういや、秋宗が笑ったの初めて見たな』

 

 

 

少しその場の空気が和んだ。

 

 

 

かるら『・・・秋宗、人と接するには、まず笑顔だよ。笑顔さえ作っとけば、友達なんてすぐに出来るよ』

 

 

マトラ『おひいさんの言う通りだな』

 

 

秋宗『かるらさん、マトラさん・・・』

 

 

 

かるらなりに自分を励ましてくれたことに秋宗は嬉しくなった。

そして秋宗はかるらとマトラ顔を見て、

 

 

 

秋宗『あのさ、2人とも、オレと、その、友達になってくれないか?』

 

 

 

笑顔で友達になってほしいとお願いした。

 

 

 

かるら『・・・今さら何言ってるの?』

 

 

マトラ『アタシらもう友達だろ?』

 

 

 

2人は笑顔で返してくれた。

 

 

 

秋宗『・・・これからもよろしくな!お嬢!姐さん!』

 

 

かるら『お、お嬢?なんだかいい響きだね!よろしく秋宗!』

 

 

マトラ『姐さん、か。まぁ別にいいか。』

 

 

 

これを機に、秋宗はまるで別人のように変わって、よく笑うようになり、かるらとマトラとも頻繁に遊ぶようになった。




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第5話 時迫る儀式

秋宗「とまぁ、俺はお嬢と姐さんと幼なじみになった訳だ。まぁ今はもう父さんと母さんの仕事も落ち着いてきて定期的に連絡はとってるけどな」

 

 

 

秋宗は自分の生い立ちのことをコガラシに全て話した。

秋宗の話を聞いていたコガラシは少し羨ましかった。

 

 

コガラシ「なるほど、そんなことがあったのか。親がいるなんて、羨ましいな」

 

 

秋宗「・・・そういやお前、小さい頃家出をしたそうだな」

 

 

コガラシ「・・・そんなことまで調べたのかよ」

 

 

秋宗「言っただろ?俺は徹底的に調べあげるタイプだって」

 

 

 

 

コガラシは霊に取り憑きやすい体質で、子供の頃、動物の霊に憑かれて幼稚園の先生に噛みついてしまった過去がある。

コガラシは誰にも迷惑をかけないようにと、一人で家出をしてきたのだ。

当時の幼い子供にしてはあまりにも残酷な決断であった。

 

 

コガラシ「でも、ゆらぎ荘に来て、幽奈に出会って、狭霧に呑子さん、夜々に仲居さん、宮崎にこゆず、朧に雲雀。気がつけば、俺の周りには人が集まって、今日は俺の誕生日を祝ってくれてさ。嬉しかったんだ。ここまで俺のことを思ってくれてさ。」

 

 

 

秋宗「へぇ、嬉しかった、か」

 

 

 

コガラシ「・・・だから、そんな皆を危険な目に合わせて、皆が俺のために準備してくれた日を滅茶苦茶にして、すげぇ怒ってるからな、俺」

 

 

 

秋宗「・・・流石はあの八咫鋼の力の宿しているだけのことはあるな」

 

 

 

 

椅子に縛りつけられているにも関わらず、コガラシの気迫に秋宗は少し戦慄した。

秋宗はもうコガラシに本当のことを話してしまってもいいだろうと思った。

 

 

 

 

秋宗「・・・コガラシ、お前に話してやるよ。お嬢がお前に執着する本当の理由を」

 

 

 

コガラシ「緋扇の、本当の理由?」

 

 

 

コガラシは自分の力だけが狙いかと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。

 

 

 

秋宗「お嬢がお前に執着する理由、それは・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お嬢は、あんたの大ファンなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コガラシ「・・・・・はぁ?」

 

 

 

コガラシは予想外過ぎた理由に思わず首を傾げてしまう。

 

 

 

秋宗「一応聞いておくけど、2年前のこと覚えてるか?その頃お前、修学旅行で京都行く予定だっただろ?」

 

 

コガラシ「あ、あぁ。確かその時、妖怪たちが合戦してて、新幹線が止まったことがあったな。その時は荒れてて、合戦を止めたけど」

 

 

秋宗「その合戦、東軍と西軍の天下分け目の合戦で、当時のお嬢もその場にいたらしくてな。突如乱入してきたお前の気迫に一目惚れしたらしいんだよ・・・」

 

 

 

秋宗はコガラシに色々なことを説明した。

かるらがその後、コガラシを必死に探したこと、数ヵ月前にコガラシを偶然見かけたこと、コガラシの日常をいつも影から見ていたこと、かるらの自室にはコガラシの写真やらプリントされた抱き枕があること、もはやストーカーの領域である。

 

 

 

コガラシ「でもちょっと待てよ。確か緋扇のやつ、父の仇とか言ってなかったか?」

 

 

秋宗「あぁ、実はあの合戦の後、お館さん、お嬢の親父さんがすっかり丸くなっちまってな、『八咫鋼がお館様の牙を折りおった!』って連中が騒いでな。ちゃんと生きてるから大丈夫だ」

 

 

 

その時

 

 

 

バァン!!

 

 

 

???「おい西条!しっかり八咫鋼を見張っておるか!?」

 

 

 

突然、部屋のドアが開かれて、スズメが入ってきた。

 

 

 

秋宗「・・・あのさスズツキのおっさん、姐さんにも言ったけど部屋入る前はノックしろよ」

 

 

???「やかましい!お主が八咫鋼の見張りを怠りゲームに集中しとるのではないかと思うて来てみれば!八咫鋼と仲良く話などしよって!それでも緋扇邸の用心棒か!」

 

 

 

スズツキと呼ばれた雀は秋宗の部屋に入るなり、説教を始めた。

このスズツキは天狗界でも下位に当たる雀天狗という妖怪なのだが、術者としての才能をかるらから認められており、かるらの側近を務めている。

 

 

 

秋宗「悪かった悪かった。そういやおっさん、なんか野暮用とかで襲撃来れなかったみたいだけど、もしかして例の儀式の準備を?」

 

 

スズツキ「あぁ、あと少しで終わるところだ。後は明日を待つだけ。とにかく、しっかり見張りをしておくのだぞ!」

 

 

 

スズツキは秋宗に念を押して部屋を後にした。

ここでコガラシは気になることがあった。

 

 

 

コガラシ「おい、儀式ってなんだよ?」

 

 

秋宗「ん?あぁ、気になるか?じゃあ教えてやるよ。儀式ってのは・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

~ゆらぎ荘~ 夜明け

 

ゆらぎ荘の大広間では、かるらたちの襲撃を受けていた皆がいた。

呑子と朧はまだ回復しておらず寝込んでおり、ちとせは全員の看病をしてくれた為、疲労がたまり眠っていた。

起きているのは、狭霧、夜々、雲雀、千紗希、こゆずの5人である。

そして、大広間の扉が開かれて幽奈が入ってきた。

 

 

 

幽奈「皆さん、もう起きられたのですか?」

 

 

狭霧「幽奈・・・!」

 

 

夜々「おはよう」

 

 

雲雀「雲雀たちも今起きたところだよ」

 

 

千紗希「・・・冬空くん、大丈夫かな?」

 

 

こゆず「大丈夫だよきっと!コガラシくんなら無事だよ!」

 

 

 

心配する千紗希をこゆずは必死に励ましている。

 

 

 

幽奈「・・・やっぱり、夢じゃなかったんですね。

・・・京都ですよね、ちょっと行ってきます」

 

 

狭霧「待て幽奈!一人でどうにか出来るとでも思っているのか!?」

 

 

雲雀「そうだよ!相手は京都の大妖怪!しかも強力な鵺に狂暴なオオカミ人間までいるんだよ!?」

 

 

 

狭霧と雲雀が必死に幽奈を止める。

昨夜の出来事を体験しているからこそ一人でいかせるなど無謀である行為だ。

それでも幽奈は、

 

 

 

 

 

 

幽奈「私は何度もコガラシさんに助けてもらいました。今度は私がお救いする番です!出来るかどうかなんて関係ありません!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

狭霧「・・・そうだな、ならば私もいこう!」

 

 

雲雀「とーぜん雲雀も行くもん!」

 

 

夜々「夜々も!」

 

 

千紗希「私も行きたい!力にはなれないけどしれないけど、じっとしとくよりはマシだから!」

 

 

こゆず「千紗希ちゃんが行くならボクも!」

 

 

 

幽奈の熱意に当てられて、4人もコガラシを助けに行くことを決断した。

 

その時、部屋に白い渦が現れ一通の手紙が落ちてきた。

 

 

 

幽奈「これは、手紙!?」

 

 

雲雀「なんて書いてあるの!?」

 

 

千紗希「これって、結婚式の招待状?」

 

 

 

 

手紙にはこう記載されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成29年 1月吉日

新郎 冬空コガラシ

新婦 緋扇かるら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??』

 

 

 

ゆらぎ荘に5人の驚きの声が響いた。

 

 

 

 




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第6話 コガラシを救出せよ

~緋扇邸~ 午前7時

 

緋扇邸の一室、かるらの部屋には椅子に縛りつけられたままのコガラシの姿があった。

 

なぜ秋宗の部屋にいた筈のコガラシが、かるらの部屋にいるのかというと、かるらがいきなり秋宗の部屋に入って来てコガラシを自室に連れて行ったからなのである。

 

当の本人はどこかに行ってしまっているようだが。

コガラシはかるらの部屋を見渡していた。

 

 

コガラシ「西条の言っていた通り、本当に俺ばっかりだ・・・」

 

 

かるらの自室は秋宗から聞いていた通り、コガラシの写真でいっぱいであった。

机にはプリントされたマグカップ、挙げ句のはてには抱き枕までもがあったのだ。

コガラシは若干引いていた。

 

その時、

 

 

ガチャ

 

 

かるら「ふぅ~、やはり朝の湯浴みはオツなものじゃのう、そうは思わんか?八咫鋼」

 

 

バスタオル一枚の姿のかるらが入ってきた。

風呂上がりなのだろうか、体からは湯気が立っている。

 

 

コガラシ「なんでバスタオルだけなんだよ!?せめて何かしらの服着ろよ!!」

 

 

いきなりバスタオル一枚の姿で入ってきたかるらに、コガラシは思わず顔を背けてしまう。

しかし、そんなことはお構い無しに、かるらはコガラシに近づいて、

 

 

かるら「そんなことを言うておいて、妾の姿に惚れとるのか?どうじゃ?どうじゃ?」

 

コガラシ「やめろぉ!!離れろぉ!!」

 

 

正面から身を重ねて、自分の胸を押し当てて、コガラシを誘惑し始めた。

そんな状況にコガラシは慌てふためいてしまい、足掻こうとはするものの、鎖を一向に外すことが出来ないのであった。

 

 

かるら「無駄じゃ、お主はもう妾から逃げることは出来ぬぞ。仮にその術がかけられた鎖を破いても、すぐにマトラと秋宗がお主を捕らえるからのう。さぁ、諦めて妾と結婚をしようぞ」

 

コガラシ「・・・例の儀式ってやつか」

 

 

かるらの言う結婚とは、法で定められている結婚ではなく、古くから伝わる大呪術、『支離式の儀』とうものである。

 

男を絶対服従させる呪いの1つで、どんな命令であろうと嫁に逆らうことが出来なくなってしまう。

儀式は結婚式の形で行われて、一度結ばれてしまえば最後、術者でも解くことは不可能となる恐ろしい呪術である。

 

つまり、この呪術がコガラシに掛かってしまったら、二度とゆらぎ荘に戻ることが出来なくなってしまうのだ。

 

 

かるら「そうじゃ、この結婚式さえ成功すれば、もうお主は妾のものじゃ。念願のお主さえ妾のものになれば、それでよいからのう」

 

 

ガチャ

 

 

秋宗「お嬢、入るぞ」

 

 

すると突然、扉が開かれて、秋宗が入ってきた。

突然入ってきた秋宗にかるらの顔はどんどん赤くなっていった。

 

 

かるら「な、な、なななな////何勝手に入ってきとるんじゃあ!!/////秋宗!!/////」

 

秋宗「いつも俺の部屋に突然入ってくるお嬢には言われたくない。それよりも、コガラシもう一回俺の部屋に戻すから」(ガシッ

 

コガラシ「お、おい!!」(ガタガタ

 

 

秋宗は部屋に入るなり、コガラシを椅子ごと引っ張って自室に連れて行こうとした。

 

 

かるら「待たんか!何ゆえ八咫鋼を連れて行くのじゃ!まだ妾は話をだな!」

 

秋宗「話なら儀式終わった後でも問題ないだろ、お嬢も早く準備すましとけよ。時間は有限なんだからな」

 

かるら「うぅ、分かったのじゃ」

 

 

秋宗はかるらを説得して部屋を後にした。

コガラシはなんとかしなければと思い、引きずられながらも脱出する方法を練っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~緋扇邸付近の森~ 午後7時

 

森から緋扇邸が見える位置に6人の人影があった。

それは、コガラシ救出に赴いた幽奈、狭霧、夜々、雲雀、千紗希、こゆずの6人である。

6人は狭霧の相方の、浦方うららから結婚式の内容を聞いて、なんとしてもコガラシを救出しようとしていた。

 

すると、ゆらぎ荘にいるうららから連絡が入った。

 

 

うらら『ええか?式場には百人を超える妖怪たちが出席するはずや。式場に忍び込むのは、はっきり言うて至難のわざや。式の開始は今晩の0時、その時間までに冬空くんを救出するんやで。おそらくまだ、緋扇邸にいるはずや』

 

狭霧「分かった。助かるぞ、うらら」

 

 

6人はうららのサポートを元に、救出の作戦を立てていたのだ。

 

まずはコガラシを発見次第、うららの転送の霊札でコガラシをゆらぎ荘へ飛ばすというシンプルなものだった。

この方法なら、下手な戦闘を避けることが出来るベストな手段である。

 

 

幽奈「待っていて下さいね、コガラシさん。必ずお救いいたしますから」

 

千紗希「冬空くん助けたらさ、お誕生日会の続きしようね」

 

幽奈「・・・はい!」

 

夜々「絶対助ける」

 

雲雀「・・・助けるけど、少し不安かな。だって、相手は大天狗のほかにも、鵺やコガラシくんの拳が効かないオオカミ人間までいるからさ」

 

うらら『あぁー、そのオオカミ人間なんやけどな、ウチも少し調べみたら、冬空くんの拳が効かなかった訳が分かったんや』

 

こゆず「何か分かったの?」

 

 

6人がうららの言葉に耳を傾けた。

 

 

うらら『冬空くんの拳が効かなかった訳、それは毛皮や』

 

狭霧「毛皮、だど?」

 

うらら『せや。オオカミ人間は変身すると同時に毛皮が分厚くなんねん。それのせいで刃やら弾丸すら通らんらしいねん。つまり鎧を纏ってるのと同じことや』

 

幽奈「だからコガラシさんの拳が効かなかったんですね!」

 

うらら『せやけど、毛皮を纏ってない状態、つまり変身前なら攻撃が効くっちゅうわけや。っと、こんな長く話しとる場合ちゃうな、じゃあ皆!冬空くんを必ず助けるんやで!』

 

全員は三手に別れて、警備網を掻い潜って侵入した。

狭霧と雲雀、幽奈と夜々、千紗希とこゆずはそれぞれ別々の場所から緋扇邸へ侵入して行った。

 

 

 

 

 

 

 

幽奈&夜々side

 

二人は気配を消しながら緋扇邸の周りを歩いていた。

すると、部屋の一室が明るいことに気がついた。

 

 

幽奈「では私が中を覗いてきますね」

 

夜々「じゃあここで待っとくね」

 

 

幽奈が壁抜けで部屋の様子を覗くとそこには、コガラシの写真で埋め尽くされていた部屋があった。

そう、そこはかるらの自室だった。

 

 

幽奈「コガラシさんが、いっぱい!?」

 

かるら「・・・見たな?」

 

幽奈「っ!?」

 

かるら「見たのじゃな!?妾と八咫鋼の愛の巣を!!」

 

 

幽奈が振り向くと、頭に血がのぼっているウェディングドレス姿のかるらがいた。

 

外で待機していた夜々もスズツキに見つかってしまい、黒服たちに囲まれていた。

 

 

 

 

 

 

狭霧&雲雀side

 

二人は緋扇邸の中を探索していた。ちなみに狭霧はすでに霊装結界を纏っている。

 

 

雲雀「コガラシくん、どこにいるんだろう?」

 

狭霧「どこかに捕らえられていることは確かなはずだが、一体どこに?」

 

 

ガシッ

 

 

マトラ「よう、昨日ぶりだな。宵ノ坂は何処だ?」

 

狭霧、雲雀「「!?」」

 

 

二人の背後にいきなりマトラが現れて肩組みをした。

 

 

 

 

 

 

 

千紗希&こゆずside

 

二人も狭霧たちと同じように緋扇邸を探索していた。

 

 

こゆず「安心して千紗希ちゃん!いざというときはボクがなんとかするから!」

 

千紗希「うん、ありがとうこゆずちゃん」

 

 

和みながらもコガラシを探していると、話し声が少しずつ近づいてくることに気がつく。

 

 

こゆず「誰か来るよ!どうしよう!」

 

千紗希「とりあえずこの部屋に隠れよう!」

 

 

千紗希はこゆずの手を引いて、すぐ近くの部屋に隠れた。

 

 

千紗希「・・・ふぅ、危なかった」

 

こゆず「見つかるところだったね」

 

秋宗「あのさぁ、近頃の女子ってノックしないで勝手に部屋に入ることでも流行ってんのか?」

 

千紗希,こゆず『!?』

 

 

 

二人が振り向くとそこには、ゆらぎ荘に襲撃してきたオオカミ人間の秋宗と、椅子に縛りつけられたタキシード姿のコガラシがいた。

 

 

こゆず「オオカミ人間!?」

 

千紗希「あ!冬空くんもいる!」

 

コガラシ「宮崎!?こゆず!?なんでここに!?」

 

 

緋扇邸のそれぞれの場所で、大騒ぎが起こり始めていた。

 

 

 

 




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第7話 こゆずの秘策

緋扇邸にて、コガラシを探していたこゆずと千紗希。

しかし、運悪く秋宗の部屋に入ってしまった。

 

 

秋宗「まぁ勝手に人の部屋に入ったことは一先ず置いておくとしよう。まさかお前ら二人まで来るとはな」

 

 

秋宗は眼光を鋭くしながら二人を睨み付けている。

コガラシ救出にゆらぎ荘の何人か来ることは予想出来たが、まさかこゆずと千紗希の二人までも来るとは流石に予想外だったようである。

 

そして椅子に縛られたコガラシも驚いていた。

 

 

コガラシ「お前ら!なんでここに!?」

 

こゆず「コガラシくんを助けに来たんだよ!」

 

千紗希「私だけじゃないよ!冬空くんのために、幽奈さんも!夜々さんも!狭霧さんも!雲雀さんも来てるんだよ!」

 

秋宗「なるほど、つまり6人で来たって訳か」

 

 

千紗希のセリフから合計で6人、この緋扇邸に侵入していると秋宗は断定した。

 

コガラシは二人をここから逃がそうと必死に説得を始めた。

 

 

コガラシ「二人とも早く逃げろ!!西条頼む!二人に手を出すな!!」

 

秋宗「悪いコガラシ、その頼みは聞けないな。こいつらはもう侵入してしまってるんだ。俺は用心棒として捕まえなきゃいけないんだよ。まぁ、二人が大人しくしてくれるっていうなら、話は別だが」

 

 

秋宗は二人の様子を見ているが、

 

 

こゆず「絶対に嫌だね!」

 

千紗希「私も大人しく捕まる気はないから!」

 

 

こゆずも千紗希も大人しくする気はないようである。

 

 

秋宗「そうか、じゃあ少し痛い目にあってもらうからな」

 

 

秋宗は二人に向かって歩き始める。

 

 

こゆず「こっちに来ないで!」(ピュッ

 

 

こゆずが木葉の札を秋宗に向かって投げ飛ばすが、

 

 

バチッ

 

 

秋宗「こんな小癪な技が通用するとでも?」

 

 

なんと秋宗はデコピンで木葉の札を弾き飛ばしたのである。

 

 

こゆず「このっ!」(ピュッピュッ

 

 

こゆずはめげずに木葉の札を何度も飛ばすが、

 

 

 

ビシッ!ビシッ!

 

 

秋宗は何事もなく木葉の札を弾き飛ばしていく。

 

 

秋宗「悪いが、この程度の霊力が何度来ようが俺には簡単に通用しないぞ」

 

コガラシ「もういい二人とも!早く逃げてくれ!俺のことはいいから!」

 

 

コガラシはなんとか二人を逃がそうとするが、

 

 

千紗希「・・・冬空くん、私たちは何度も冬空くんに助けてもらったんだよ。だから今度は!私たちが助ける番だよ!」

 

こゆず「千紗希ちゃんの言うとおりだよ!それに今頃、幽奈ちゃんたちも頑張ってるはずだから!」

 

コガラシ「宮崎・・・!こゆず・・・!」

 

 

二人の強い決心は、おそらく誰にも止めることは出来ないだろう。

 

しかし、秋宗は容赦なく追い討ちをかける。

 

 

秋宗「悪いけど、それは俺をどうにかしてから言った方がいいと思うけど」

 

こゆず「じゃあ今からどうにかするね!」

 

秋宗「?何を言って・・・っ!?」

 

 

秋宗が見渡すと、部屋の床には木葉の札がびっしり張り付いていた。

 

 

秋宗「いつの間に?」

 

こゆず「ボクに気をとられている間に千紗希ちゃんがばらまいてくれたんだよ!」

 

千紗希「なんとか上手くいってよかった」

 

 

千紗希自信もホッ、っとしていた。

こゆずが作戦があるとこっそり教えてくれたために、それに掛けたのである。

結果、上手くいった。

 

 

秋宗「・・・油断しちまった。それで?これで終わりって訳じゃないよな?」

 

こゆず「当然だよ!これでもくらえ!」

 

 

すると、ボン!ボン!ボン!と次々に木葉の札が白い煙を立てて何かに変化していった。

 

秋宗とコガラシは何だと思い目を凝らして見ると・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こゆず「千紗希ちゃんお色気ハーレムの術!!」

 

 

 

 

「こっちだよ~♥️」

「いらっしゃ~い♥️」

 

「気持ちいいこと、しよ♥️」

 

 

 

 

そこには、メイド、ナース、アイドル衣装、バニーガール、レースクイーン、体操着、スクール水着など、様々なコスプレをしていた大勢の千紗希たちがいた。

 

 

秋宗「・・・・・・・・・はぁ?」

 

 

秋宗はあまりにも拍子抜けな顔をしており、

 

 

コガラシ「な、なんだこりゃあ!?///」

 

 

コガラシは顔を赤くしながら慌てふためいていた。

 

秋宗は呆れて頭に手を置いた。

 

 

秋宗「・・・まさかこんな方法で俺を止められると思ってるんじゃないだろうな?ってあれ!?2人がいない!?」

 

 

いつの間にか、千紗希とこゆずの姿がいなくなっていたのである。

部屋の扉は開いた状態になっていた。

 

 

秋宗「しまった!!宮崎の分身に気をとられてる間に逃げたな!?これが狙いか!」

 

 

秋宗は部屋を出ようとするが、

 

 

「何処にいくの?」

 

「私と遊ぼうよ♥️」

 

「逃がさないよ♥️」

 

 

 

千紗希の分身たちが秋宗に群がって来て、部屋から出さないようにしている。

 

 

秋宗「邪魔だ!どけ!」

 

 

秋宗は千紗希たちを振り払いながら、部屋を出ようとする。

すると、

 

 

ポンッ

 

 

1人の千紗希が秋宗の肩を叩いた。

 

秋宗が何かと思い自分の肩を見ると、

 

 

秋宗「木葉の札・・・?まさか!?」

 

 

次の瞬間、木葉の札がボンッと音を立てて、しめ縄に変化して秋宗を拘束したのだ。

 

 

秋宗「しまった!!やられた!!」

 

 

そして、千紗希の分身たちが木葉の札に戻っていき、最後に残ったのは、

 

 

こゆず「やった!上手くいってよかったね千紗希ちゃん!」

 

千紗希「で、でも、この格好///恥ずかしいよぉ///」

 

 

最後までアイドル衣装の千紗希に化けていたこゆずと、チアガール姿になっている千紗希であった。

 

 

コガラシ「ま、まさかこんな方法で西条を捕まえるなんて」

 

 

コガラシも少し微妙な表情であった。

 

 

秋宗「お前らこんな勝ち方して恥ずかしくないのか!?」

 

こゆず「千紗希ちゃん!オオカミ人間が変身する前に早く転送の札をコガラシくんに!」

 

千紗希「うん!」

 

秋宗「無視するな!」

 

 

千紗希は転送の札を手にとり、コガラシに駆け寄った。

 

 

千紗希「これ、ゆらぎ荘まで転送出来るお札だから、冬空くんが転送されたらすぐに私たちもお札を張るからね」

 

コガラシ「お、おう、分かった」

 

 

千紗希が転送の札をコガラシに張り付ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし

 

 

 

ズバッ

 

 

 

コガラシ、千紗希、こゆず『!!??』

 

 

転送の札が突然破れてしまったのだ。

 

その理由は、

 

 

かるら「なんとも情けない姿じゃのう、秋宗」

 

秋宗「お、お嬢」

 

 

部屋の扉に、ウェディングドレス姿の緋扇かるらが立っていた。

そばに、拘束した幽奈を連れて。




投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

感想のほど、よろしくお願いいたします


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第8話 呪いの結婚式

同時刻、緋扇邸の外では、黒服たちを率いていたスズツキを倒し、猫神の側で眠っている夜々と、マトラと激しい戦闘を繰り広げて、転送の霊札でマトラを北海道の弁天島へ飛ばした狭霧と雲雀の姿があった。

狭霧は霊力を消費しすぎてしまい、雲雀に支えられながら、ぐったりしていた。

 

黒服たちは夜々が召喚した無数の猫神たちによって縄で縛り付けられている状態になっており、スズツキに至っては、猫神のアラマキとサブロウから尋問を受けていた。

 

 

アラマキ「スズメ野郎!てめぇ夜々のダチが何処にいるか知ってるよな!?」

 

サブロウ「早く居場所を教えるのです!」

 

 

もはやアラマキに至っては、恐喝と言っていいほどの迫力があった。

 

しかし、

 

 

スズツキ「・・・教える、ものか!」

 

アラマキ「なにぃ?」

 

 

スズツキは白状しなかった。

 

 

スズツキ「雀天狗は天狗界の中でも力も立場も弱い種族にもかかわらず、かるら様は吾輩に術者としての才を見出だし側近にまでしてくださったのだ。たとえこの命尽きようと!かるら様の命令は絶対である!!」

 

 

スズツキの重い覚悟にその場にいる者たちは凄みを感じていた。

 

 

かるら「よくぞ言うたぞスズツキ!それでこと我が側近よ!」

 

秋宗「流石はおっさん、カッコいいじゃねぇか」

 

 

突然声が聞こえ辺りを見渡すと、空にはウェディングドレス姿のかるらと、拘束された幽奈、千紗希、こゆず。

地上には秋宗と椅子に縛りつけられたタキシード姿のコガラシがいた。

秋宗がここまで引きずって来たのである。

 

 

スズツキ「かるら様!西条!」

 

雲雀「だ、だだ、大天狗・・・!オオカミ人間まで・・・!それに幽奈ちゃんたち捕まっちゃったの!?そして千紗希ちゃんはどうしてチアガールの格好に!?」

 

幽奈「んんー!」(すみません~!)

 

千紗希「ん~!」(ごめんねみんな!)

 

こゆず「んー!んー!」(どうしよう!転送の霊札全部破かれちゃったよぉ!)

 

 

あの後、かるらがすぐに千紗希とこゆずを拘束して、転送の霊札を全部破り捨てたのである。

 

 

コガラシ「おい緋扇!幽奈たちを離せ!」

 

雲雀(コガラシくん!なんとか隙をついてコガラシくんに転送の霊札さえ張れば!)

 

かるら「っ!マトラ!霊札を破れもせずに飛ばされたのか!全く!秋宗もあんな単純な方法で拘束されおって!主ら気が抜けすぎじゃ!」

 

マトラ『わ、わりぃおひいさん!急いでそっちに戻るからよ!』

 

秋宗「面目ねぇ、お嬢」

 

 

かるらは雲雀の心を読んで弁天島にいるマトラに他心通で説教をして、その飛び火が秋宗にも降りかかった。

 

他心通とは、神通力の一つで、相手の読んだり、電話の通信としても機能することができて、マトラも学んで体得したのである。

ちなみに秋宗は面倒だからという理由で体得はしなかった。

 

 

雲雀「また心を読まれた!?」(一つのことで頭いっぱいにすれば!コガラシくんコガラシくんコガラシくんコガラシくん!!)

 

秋宗「・・・靴の踵から霊札の匂いがプンプンするなぁ」

 

雲雀「!?」(嘘!?当たってる!?まさか霊札の匂いだけで隠してる所まで分かるの!?)

 

かるら「そうか、そこに霊札があるんじゃな?」(びゅぅっ

 

 

かるらが雲雀の心を読み、扇を振るい鎌鼬で雲雀の靴の踵に仕込んであった霊札を切った。

 

 

雲雀「あっ!転送の霊札が!」

 

秋宗「ちなみにさっき言ったことは嘘。カマかけただけだ」

 

かるら「そして、これが・・・」(キュァッ

 

 

突如、この場にいる全員の頭上に白い渦が出現した。

 

神足通。いわゆる転送術であり、ゆらぎ荘にかるらたちが来た時も、これを使ったのである。

 

 

かるら「さぁ参ろうか、我らの結婚式場へ」

 

 

周りが白い光に包まれて、そして・・・・・

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

夜々「・・・・・んんん」

 

 

眠っていた夜々が目を覚ますと、そこは結婚式の会場だった。

式場には多くの妖怪たちが参列していた。

 

 

夜々「ここは?」

 

狭霧「大天狗の結婚式場だ」

 

千紗希「夜々ちゃん、目を覚ましたんだね」

 

こゆず「よかった~」

 

 

幽奈、狭霧、千紗希、こゆず、雲雀、そして目を覚ました夜々の6人は、スズツキの術によりドレス姿に変化させられて、拘束された状態になっていた。

 

猫神たちは、会場に張られた結界の影響により夜々の中から出られなくなっていた。

 

すると

 

 

ゴーン、ゴーン、ゴーン

 

 

と、鐘の音が式場に鳴り響いた。

 

 

狭霧「零時の鐘の音が!支離式の儀式が始まってしまった!」

 

 

ギイィィィ

 

 

式場の扉が開かれて、かるらとその父、緋扇我流駄が入場してきた。

 

 

パチパチパチパチ

 

 

参列した妖怪たちが盛大な拍手を送っていた。

 

 

「なんとお美しい・・・!」

 

「かるら様素敵~!」

 

「そして、あそこに座っているのが八咫鋼とは」

 

 

コガラシは相変わらず椅子に縛りつけられた状態で神父の前にいた。

 

 

雲雀「どどどうしよう!?」

 

幽奈「このままじゃあコガラシさんが!」

 

千紗希「はやくなんとかしないと!」

 

こゆず「コガラシくんが戻って来なくなっちゃうよぉ!」

 

夜々「はっ!もしかしてご馳走が出る?」

 

狭霧「夜々!」

 

 

幽奈たちは何とかして儀式を止めようと考えているが、結婚式はスムーズに進んで行った。

 

席の一つには、スズツキと黒服の3人、そして秋宗が座っていた。

 

 

黒服2「かるら様・・・本当にご立派になられて・・・!」

 

黒服1「それより、お館様は大丈夫かいな?愛娘が急に結婚する言うて、その翌日に挙式って相当きとるはずやろ」

 

黒服3「確かに、よくお許しになられたものだ」

 

スズツキ「流石の懐の深さよ」

 

 

スズツキと黒服たちは我流駄の動じていない姿に感心していた。

 

しかし、秋宗だけは見抜いていた。

 

 

秋宗「・・・いや違う。あれは娘がいきなり結婚することに頭の整理がついていないご様子だ」

 

 

無理もない。

むしろ頭の整理が追い付く方が父親としてどうかしているとしか思えない。

 

そしてかるらがコガラシの前に立つと、彼の膝の上に腰を掛けた。

 

支離式の儀、完了の瞬間である。

 

かるらが立ち上がると同時に、コガラシを拘束していた鎖が解けて、彼が立ち上がった。

 

 

コガラシ「ったく、好き勝手にしてくれやがって、ようやく解放されたか」

 

秋宗「・・・どうやら、儀式は上手くいったみたいだな」

 

幽奈「?」

 

 

幽奈がコガラシの顔をよく見てみると、顔に模様のようなものが刻まれていた。

 

 

千紗希「何?あれ?」

 

夜々「顔に、模様?」

 

狭霧「あれは呪いの隈取り。支離式の儀は、成功してしまった・・・!」

 

雲雀「そんなぁ!」

 

こゆず「コガラシくぅん!」

 

 

幽奈たちは儀式を止められなかったことにショックを受けていた。

 

しかし、それだけでは終わらない。

 

 

かるら「では八咫鋼よ、妾に誓いのキスを」

 

幽奈たち一同『・・・・・キス!!??//////』

 

 

そう、結婚式の定番と言えば、誓いのキスである。

だが、幽奈たちは驚きを隠せなかった。

 

 

コガラシ「だ、誰がするかそんなもん!結婚式なんてヤメだ!って!?」(ガシッ

 

 

コガラシの口からはしないと言っているが、体が勝手に動いてしまい、かるらの肩を掴んでしまう。

 

 

狭霧「くっ!このままでは!///」

 

雲雀「キ、キスなんてダメェ!///」

 

千紗希「冬空くん!///」

 

こゆず「逃げてぇ!」

 

 

コガラシとかるらの顔が数センチまで近づいた。

 

 

 

 

 

そして・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想のほど、よろしくお願いいたします。


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第9話 コガラシVS秋宗

 

ピタッ!!

 

 

 

 

 

 

コガラシ・かるら『!?』

 

かるらと支離式の儀を受けて体を操られたコガラシが数センチまで顔を近づいた時、二人の動きが止まった。

まるで、何かに押さえつけられたかのように二人の体がピクリとも動かない。

 

 

かるら(な、何事じゃ!?体が、動かんぞ!)

 

 

そして今度は会場全体が大きく揺れ始めた。

 

 

雲雀「な、何!?今度は何が起きてるの!?」

 

こゆず「もしかして地震!?」

 

 

雲雀もこゆずも動揺して何が起こっているのか理解出来なかった。

 

しかし、狭霧には理解出来た。

 

 

狭霧「・・・ま、まさかこれは!幽奈のポルターガイスト!?」

 

 

狭霧が幽奈を見ると、幽奈はいつの間にか拘束術を破っており、宙に浮いていた。

幽奈は強力な霊力を持っており、感情が高ぶると一気に霊力が解放されるのである。

 

 

コガラシ「幽奈・・・!」

 

かるら(なんじゃこの強力なポルターガイストは!?妾の動きを封じるなど!)

 

秋宗「嘘だろ!?昨夜より霊力が上がってるじゃねぇか!」

 

 

かるらも秋宗も、幽奈がこんなにも強力な霊力を秘めているなど想定外であった。

 

そして、幽奈が口を開き・・・

 

 

幽奈「・・・い、いけません!いけませんよ大天狗さん!き、きき、キスだなんて!そんなの、恋人同士になってからすることです!!」

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 

間違ってはいないが、なんとも気の抜けたような叫びに会場には微妙な空気が漂っていた。

 

 

幽奈「コガラシさんからっ、コガラシさんからっ、離れてくださあぁぁぁい!!」(カァァッ!

 

 

幽奈の体から更に霊力が溢れ出した。

 

すると、

 

 

シュゥゥゥ・・・・・

 

 

かるら(なっ!?)

 

千紗希「冬空くんの顔の模様が!?」

 

 

なんと、コガラシの顔に刻まれていた呪いの隈取りが消えていっているのだ。

 

秋宗はもしやと思い、窓から外の様子を確認すると信じられない光景が広がっていた。

 

 

秋宗「っ!?ヤバいお嬢!この会場に張ってあった結界が壊れかけてる!」

 

かるら(何じゃと!?)

 

 

外には外部からの侵入を断つために、会場全体に強力な結界を張っていたのだが、幽奈のポルターガイストの影響によって、結界全体に大きくヒビが入っていた。

それほどまでにも、幽奈の霊力の大きさが物語っていた。

 

 

かるら(皆の者!!そこの人間霊を取り押さえるのじゃ!!)

 

緋扇邸一同『はっ!!』

 

 

かるらが他心通でスズツキたちに命令を下して幽奈を取り押さえようと一斉に遅いかかって来た。

だが、

 

 

ガキィン!キィィン!

 

 

雲雀「大丈夫幽奈ちゃん!?」

 

狭霧「すまない!拘束術を破るのに手間取ってしまった!」(ズバッ

 

千紗希「ありがとう狭霧さん!」

 

こゆず「やっと動ける!」

 

夜々「反撃開始」

 

 

拘束術を破った狭霧と雲雀と夜々がスズツキたちの攻撃を防いだ。

狭霧は千紗希とこゆずの拘束術を破り、夜々は猫神を召喚していた。

 

 

秋宗「・・・面倒なことになったな」

 

かるら(おのれぇ!どこまでも邪魔をしおって!)

 

マトラ「あたしに任せときなおいひさん!!」

 

 

ドゴオォォン!!!!

 

 

突如、会場の天井が崩れて中からマトラが出てきた。

鵺の力で弁天島から京都まで急いで戻ってきたのだ。

 

 

マトラ「かなり道に迷ったけど、ウェディングドレス姿は拝めたぜ!」

 

秋宗「っ!姐さん挟み撃ちだ!湯ノ花を仕留めるぞ!」

 

 

マトラが降りてくると同時に幽奈に向かって蹴りをかまし、秋宗は狂暴性50倍の姿に変身して幽奈に向かって爪で切りかかろうとする。

 

前からはマトラ、後ろからは秋宗、幽奈は絶体絶命の危機に陥った。

 

二人の攻撃が幽奈に届きそうになったとき、

 

 

ズドオォォォン!!

 

 

突如、何者かが幽奈を抱き寄せて、守るかのようにマトラと秋宗の攻撃を防いだ。

二人は思わず距離を取ってしまう。

 

 

マトラ「あたしの蹴りが防がれた!?」

 

 

秋宗「これはいよいよマズイぞ・・・!」

 

 

 

 

コガラシ「・・・どうやら呪いは解けたみてぇだな。ありがとな幽奈!夜々!雲雀!狭霧!宮崎!こゆず!」

 

 

 

 

 

顔にはもう隈取りの模様はなく、体も自由に動かせる。

肉体派霊能力者、冬空コガラシ、完全復活である。

 

 

狭霧「ふ、冬空コガラシ!」

 

千紗希「冬空くん・・・!」

 

幽奈「コガラシさん・・・!」

 

 

みんな、コガラシが戻ってきたことに安堵の表情を浮かべる。

しかし逆に、参列した妖怪たちは慌てふためいていた。

 

 

「まさか、支離式の呪いが解かれたのか!?」

 

「京妖怪最高戦力の鵺とアメリカ最強妖怪のオオカミ人間の攻撃を容易く・・!!?」

 

「一体どうすればよいのだ!?」

 

かるら「なんということじゃ!おのれぇ!」

 

秋宗「・・・そんな顔すんなよお嬢。今すぐ新郎を連れて帰って来るからよ」

 

 

焦っているかるらを安心させるために、コガラシを連れて行こうと秋宗はコガラシたちの方へ歩いて行った。

 

 

雲雀「く、来るよぉ!」

 

夜々「あれは厄介」

 

狭霧「ッ!よく聞け冬空コガラシ!オオカミ人間は変身すると毛皮で覆われて刃も弾丸も身体に通らないんだ!お前の拳が効かなかったのもそれが原因なんだ!」

 

こゆず「だから早く逃げよう!」

 

 

しかし、コガラシはそこから動かなかった。

まるで秋宗を待っているかのように。

 

そして、秋宗がコガラシの前まで来て止まった。

 

 

秋宗「・・・一応聞いておくが、大人しく捕まる気は?」

 

コガラシ「ねぇよ」

 

秋宗「そうか、じゃあ仕方ないな」(ゴオォォ

 

 

秋宗が右拳を構えると霊力が溜まり始めた。

 

秋宗は他心通は会得しなかったものの、戦闘好きのマトラからよく組み手をされて、いつの間にか自身の霊力のコントロールまで出来るようになった。

 

 

こゆず「す、すごい霊力!幽奈ちゃんほどじゃないけど、あんなのが当たったら!」

 

幽奈「コガラシさん!早く逃げましょう!いくらコガラシさんでもあれほどの霊力を受けてしまったら!」

 

コガラシ「・・・心配すんな、すぐに終わる」(ニッ

 

 

コガラシは幽奈たちに笑顔を向けて大丈夫と宣言したのだ。

 

 

秋宗「・・・たいした度胸だ。けど、あんまり俺を、嘗めてんじゃねぇぞおぉ!!」(ズバァァン

 

 

秋宗が霊力を込めた拳で殴りかかってきた。

コガラシも拳を受けて構えて秋宗に振りかざした。

 

互いの拳がぶつかり、そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドゴオオオォォォン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「がぁはぁ!!??」

 

 

なんとコガラシの拳が秋宗の脇腹に辺り、秋宗が殴り飛ばされたのだ。

 

秋宗は殴り飛ばされた反動によって、会場の壁に大きな穴が開いてしまった。

 

 

スズツキ「さ、西条!?」

 

黒服1「西条はんが!殴り飛ばされてしもぅたぁ!!」

 

黒服2「た、確か昨夜は効かなかったはずでは!?」

 

黒服3「一体、どういうことなんだ!?」

 

 

スズツキたちは秋宗がやられたことに驚きを禁じえなかった。

秋宗の実力はマトラとほぼ互角、こんなにもあっさり力勝負で負けるとは信じられなかった。

 

 

こゆず「やったぁ!コガラシくんが勝った!」

 

雲雀「流石コガラシくん!」

 

狭霧「だが、昨夜は効かなかったのに、なぜ今になって攻撃が通用したんだ?」

 

幽奈「いいじゃないですか、コガラシさんが勝ったのですから」

 

 

幽奈たちもコガラシが秋宗に勝ったことに大変喜んでいた。

 

 

マトラ「まさか、秋宗がやられるとはなぁ。じゃあ次はあたしが!」

 

かるら「やめよマトラ、もうよい。妾の負けじゃ」

 

マトラ「おひいさん・・・!」

 

 

コガラシと闘おうとするマトラをかるらが止めた。

呪いも解けて、コガラシを自分のものに出来なかったかるらにはもう諦めの色が見えていた。

 

 

かるら(妾も、こんな方法は取りたくはなかった!身勝手なことも承知しておる!じゃが妾は!八咫鋼のことを想う気持ちが押さえられぬ!たとえ仲間を欺こうとも、八咫鋼にそばに出で欲しかったのじゃ!)

 

スズツキ「・・・か、かるら、様?」

 

かるら「ッ!?」

 

 

かるらが他心通を乱していた為、かるらの心の声が会場にいる者たち全員に聞こえてしまった。

 

実はスズツキたちを始め、参列した妖怪たちも、西軍の戦力を高める為の計略結婚と思っていたのだ。

その為、私利私欲でかるらが結婚しようなどと、誰も疑わなかったのだ。

ちなみにこのことを知っていたのは、マトラと秋宗だけだった。

 

しかし、全てばれてしまい、参列した妖怪たちは腹を立てて、全員帰ってしまった。

 

かるらは思わず膝をついてしまった。

 

 

かるら「妾は、なんということを・・・!全て、妾の責任じゃ・・・!」

 

コガラシ「・・・緋扇」

 

かるら(ビクッ

 

 

コガラシに声をかけられ思わず身震いをした。

一体何を言われるのだろうと、とても不安になった。

 

コガラシは口を開き

 

 

コガラシ「その、なんだ。お前の気持ちは嬉しいけど、こんなやり方俺は気にくわねぇ。だからお前の気持ちにも答えてあげられねぇ。ゴメンな」

 

 

かるらをフッて、背中を向けて出口へ歩いた。

 

かるらはショックを受けてしまったと思ったが、むしろ逆に嬉しかった。

自分をまだ女として扱ってくれているコガラシの気持ちがとても嬉しくて涙目になっていた。

 

コガラシは幽奈たちを連れて出口へ歩き、仰向けに倒れて人間の姿に戻っている秋宗とすれ違った。

 

 

秋宗「・・・色々悪かった。俺の口からも謝らせてほしい」

 

コガラシ「・・・もういいって。次からはもうこんなことすんなよ」

 

 

コガラシは振り向いて、倒れたまま謝っている秋宗に念を押した。

 

 

秋宗「・・・分からないことがある。何で昨夜、手を抜いたんだ?お前があの時、思いっきり俺を殴っとけば、こんな面倒なことにならずに済んだかもしれないのに」

 

コガラシ「・・・あんな巨体を殴り飛ばしたら、温泉が滅茶苦茶になっちまうだろ」

 

秋宗「・・・ハッ、それが理由かよ」

 

 

秋宗との会話を終えて、コガラシは今度こそ幽奈たちと一緒に緋扇邸を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、コガラシの誕生日パーティーが再開されて、みんなは盛大に楽しんだ。

 

そして、かるらと秋宗がゆらぎ荘に赴いて、改めてコガラシに謝罪をして、やり方は改めるから友達になってほしいとお願いしたのだ。

コガラシはこころよく引き受けて、かるらたちと和解した。

 

余談だが、かるらが誕生日プレゼントとしてコガラシに自分の水着姿がプリントされたマフラーを渡したのは、言うまでもなかった。

ちなみに秋宗は自分の好きなバンドのミュージックアルバムのCDをプレゼントした。




感想のほど、よろしくお願いいたします。

※活動報告にお知らせを掲載いたしました。
ご確認下さい。


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第10話 監視役の転校生

~湯煙高校~ 午前7時45分

 

コガラシが通っている高校で、今は登校時刻の為、校門を潜っている学生が多く見られている。

 

コガラシは今、教室で幽奈、千紗希、雲雀、クラスメイトの兵藤、柳沢と会話をしていた。

ちなみに幽奈が何故いるのかというと、コガラシと一緒にいたいという理由でいるそうだ。

 

そんな時、クラスメイトの男子生徒が入って来た。

 

 

男子生徒「おいみんな!また転校生が来るみたいだぞ!」

 

 

突然の知らせにクラス中は騒がしくなった。

 

 

柳沢「また転校生?」

 

兵藤「おい冬空、まさかお前の知り合いの美少女って訳じゃないよな?」

 

コガラシ「いや、俺も心当たりが全くないんだが」

 

千紗希「でも、今の時期に転校生って珍しいね」

 

雲雀「一体誰なんだろう?」

 

幽奈「気になりますねぇ」

 

 

コガラシたちも転校生のことが気になっていた。

 

 

ガラララ

 

 

先生「ほらお前ら、早く席に着け」

 

 

すると、教室の扉が開かれて担任の先生が入って来た。

 

教室にいたクラスメイトたちは全員席に着いた。

 

 

先生「まぁ、何人か知ってる人たちもいるかもしれないが、今日からまた転校生が来ることになったから、仲良くするように。じゃあ入って来い」

 

 

教室にいる全員が扉に注目していると、扉が開かれて転校生が入って来た。

 

 

「なんだ、男子かよ」

 

「なんかカッコよくない?」

 

「後で連絡先聞いてみようよ!」

 

 

転校生の容姿に皆はそれぞれの意見を口にした。

 

しかし、

 

 

コガラシ「・・・・・んん!?」

 

幽奈「えぇ!?」

 

千紗希「ウソッ!?」

 

雲雀「なんで!?」

 

 

コガラシたちはその転校生に見覚えがあったのだ。

 

その転校生は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「京都の緋扇学園から転校してきました。西条秋宗です。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんと、かるらとマトラの幼なじみでもあり、緋扇邸の用心棒でもあり、オオカミ人間でもある、西条秋宗だったのだ。

 

 

コガラシ「さ、西条ぉ!?」(ガタッ!

 

兵藤「うおっ!?どうした冬空!?」

 

 

コガラシは突然現れた秋宗に驚いて、つい立ち上がってしまった。

 

 

秋宗「よぉコガラシ、まさかお前と同じクラスになれるなんてな」

 

コガラシ「んなことどうでもいいんだよ!何でお前がこんなところにいるんだよ!?」

 

秋宗「いや、だから転校してきたって今言ったばかりだろ」

 

担任「西条、席は廊下側の一番後ろにあるからそこに着け。冬空も座っとけ」

 

 

担任に促されて、秋宗は空いている席に座った。

 

 

担任「よし、じゃあホームルームを始めるぞ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~昼休み~

 

 

秋宗「いや~、まさか休み時間フルで質問攻めがくるとはなぁ。転校生の初日の大変さが身に染みて分かった気がする」

 

 

今、秋宗はコガラシたちと一緒に教室で会話をしていた。

 

休み時間はクラスメイトたちの質問攻めで少し疲れていた。

女子の数名からは連絡先の交換をしていた。

 

 

兵藤「まさか、また転校生が冬空の知り合いだったとはなぁ」

 

柳沢「アンタどんだけ顔がひろいんだよ」

 

 

兵藤も柳沢もそれぞれの感想を口にしていた。

 

 

千紗希「それにしても驚いた。まさか西条くんが転校してくるなんて」

 

幽奈「私もビックリしました」

 

雲雀「・・・まさか、何か企んでるんじゃないの?」

 

 

雲雀は少し警戒していた。

 

もしかしたら、かるらの手先としてコガラシに何かするのではないかと思っていたからだ。

 

 

秋宗「何も企んでねぇよ。それにお嬢とはもう和解しただろ?」

 

雲雀「それは、そうだけど・・・」

 

コガラシ「で?何でこっちに転校してきたんだよ?」

 

 

コガラシは率直な疑問をぶつけた。

 

 

秋宗「えっと、実はお嬢から頼まれてな。『もしかしたらコガラシ殿の周りに新たな女子が増える可能性があるかもしれぬ!そこで秋宗!主にコガラシ殿を監視してほしいのじゃ!』って頼まれて」

 

幽奈「な、なんと言いますか・・・」

 

千紗希「緋扇さんらしいね」

 

 

幽奈と千紗希は苦笑いを浮かべていた。

 

 

秋宗「ま、俺としても願ったり叶ったりみたいなもんだからなぁ。コガラシには興味があるしよ。まぁともあれ、これからよろしくな、コガラシ」

 

コガラシ「お、おう」

 

 

秋宗が差し出した手をコガラシが握って、二人は握手をした。

 

すると兵藤はあることを聞いてみた。

 

 

兵藤「そういや西条って、今何処に住んでるんだ?」

 

秋宗「あぁ、それならいい物件があったからな、そこに決めたんだよ。荷物も今日そこに届く予定だからな」

 

柳沢「いい物件?」

 

秋宗「すごくいい物件でさ、何でも和風のシェアハウスなんだよなぁ」

 

 

秋宗は笑いながらコガラシたちの方を見た。

 

 

幽奈「和風の、シェアハウスって・・・」

 

コガラシ「お、おい、まさか、その物件って・・・」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

秋宗「え~、という訳で、今日からこのゆらぎ荘に入居することになりました、西条秋宗です。よろしくお願いいたします」

 

 

場所は変わって、ゆらぎ荘、午後7時。

大広間では、秋宗とコガラシを始めとしたゆらぎ荘の住人たちが集まっていた。

大広間の大きな机には、仲居さんが作った天ぷらや刺身などの料理が並んでいた。

 

 

コガラシ「やっぱりここだったか。仲居さんは知ってたんですか?」

 

仲居さん「は、はい。本当なら今朝話す予定だったのですが、秋宗くんがサプライズみたいな感じで驚かせたいとおっしゃっていましたので」

 

 

仲居さんは申し訳ない表情を浮かべながらも苦笑いを浮かべていた。

 

実際、みんなはかなり驚いていた。

コガラシを拉致した1人がこのゆらぎ荘にいきなり来て入居することになったのだから。

 

 

狭霧「私は認めんぞ西条秋宗!何を企んでるかは知らないが、貴様がゆらぎ荘に入居するなど!」

 

雲雀「そ、そうだよ!狭霧ちゃんの言う通りだよ!皆もそう思うよね!?」

 

 

狭霧と雲雀は秋宗が入居することに今でもかなり反対している様子である。

 

しかし、

 

 

呑子「う~ん、私は別にいいわよぉ。もう全然気にしてないから」

 

夜々「夜々も」

 

朧「あの時は私の力不足が原因だったのだ。別に西条のことは恨んではいない」

 

こゆず「ボクも全然問題ないよ」

 

コガラシ「まぁ、もう緋扇とは和解しているからな、俺も大丈夫だけど」

 

幽奈「私も大丈夫ですよ」

 

仲居さん「まぁ、もう手続きの方は済んでいますからね」

 

 

しかし、他の人たちはもう水に流したようで、西条の入居には問題ないと言っている。

 

 

秋宗「よかったぁ。過半数が俺の入居を認めてくれて。それより腹も減ってきたし、そろそろ食おうぜ。あ、呑子さん、お酒おつぎしますよ、どうぞどうぞ」(トクトクトクトク

 

呑子「あらぁ~、ありがとう秋宗ちゃん。それにしてもお酒のつぎ方上手ねぇ」

 

秋宗「いえいえ、それほどでもないですよ」

 

 

秋宗は呑子の隣でビールをつぎ始め、呑子からお酒のつぎ方を褒められていた。

 

そして、狭霧と雲雀以外は食事を始めていた。

 

 

狭霧「呑子さん!こんなやつを認めないで下さいよ!」

 

雲雀「と、とにかく!雲雀たちは反対だからね!」

 

秋宗「・・・仕方ないなぁ。じゃあこれやるから」

 

 

秋宗は懐から白い封筒を2つ取り出して、それぞれ1つずつ、狭霧と雲雀に渡した。

 

 

狭霧「・・・なんだこれは?」

 

秋宗「中見れば分かるぞ」

 

雲雀「・・・怖いんだけど」

 

 

狭霧と雲雀は恐る恐る封筒の中身を確認すると、中には、"横浜の遊園地男女ペアチケット"が入っていた。

 

 

狭霧、雲雀『!?/////』

 

 

狭霧と雲雀は意味を理解して二人揃って顔を赤くした。

 

 

秋宗「まぁ、どう使うかはお前らで決めればいいけど」

 

狭霧「・・・私をこんなもので買収する気か?」

 

秋宗「どう捉えるかはご想像にお任せします」

 

 

しばらくして、狭霧と雲雀は封筒をポケットに入れた。

 

 

狭霧「ま、まぁ、一応貴様の入居は認めてやろう。しかし西条秋宗!もし風紀を乱そうものなら、私が天誅を下すからな!」

 

雲雀「そうだよ!コガラシくんに何かしたらただじゃ置かないからね!」

 

コガラシ「西条、二人に何を渡したんだ?」

 

秋宗「なんだろうねぇ?ッ!美味しい!仲居さん!すごい美味しいですよこの天ぷら!」

 

仲居さん「ふふっ、ありがとうございます」

 

 

その後、食事は進んで、大変賑やかになった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

食事も終わり、秋宗とコガラシは、ゆらぎ荘の露天風呂に浸かっていた。

 

 

秋宗「それにしても結構賑やかだな。賑やかすぎてお前も疲れるんじゃねぇか?」

 

コガラシ「まぁ、確かに疲れるけど、もう慣れたからな」

 

 

二人は隣あって談笑していた。

 

すると、秋宗の顔が少し真剣な表情になった。

 

 

秋宗「なぁコガラシ、お前に言いたいことがあるんだ。」

 

コガラシ「なんだよ?言いたいことって?」

 

秋宗「幽奈のことだ」

 

 

幽奈の言葉が出てきて、コガラシの顔も少し真剣な表情になった。

 

 

秋宗「あの時の幽奈の霊力、支離式の儀を解くだけでなく、周りの結界までも壊す霊力なんて異常すぎる」

 

コガラシ「でも、あれは幽奈自信も無我夢中でさっぱりって言ってたし」

 

秋宗「問題はそこだ。もしかしたら幽奈の霊力は天地がひっくり返るくらいの膨大さかもしれないんだ。もし幽奈の霊力が暴走したら、取り返しのつかないことになるぞ。だから早いうちに成仏してやらないと」

 

 

秋宗は幽奈のことに関して、コガラシに警告を言った。

 

しかし、

 

 

コガラシ「・・・西条、お前の言うことも理解できる。でも俺は幽奈と約束したんだ。必ずあいつの未練を晴らして幸せにしてやるって。だから、強制的に成仏はしない」

 

秋宗「もし、その間に幽奈の霊力が暴走したら?」

 

コガラシ「その時は、俺が責任を取って、幽奈を全力でとめる!」

 

 

 

コガラシの瞳には強い覚悟が宿っていた。

 

 

秋宗「・・・ふっ、そうか。それ聞いて安心した。俺も協力してやるよ。幽奈の手がかり探し」

 

コガラシ「え?い、いいのか?緋扇から俺の監視するように言われてたんじゃあ」

 

秋宗「いいんだよそんなの適当にしとけば。まぁ俺としても困ってる人はほおっておけないんでな。」

 

コガラシ「・・・ありがとう」

 

秋宗「いいってことよ」

 

 

こうして秋宗は、コガラシと幽奈の手がかり探しを協力することを約束して、ゆらぎ荘に入居することになった。

 

 

 




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第11話 バレンタイン

~湯煙高校~ 午前8時

 

季節も2月。

肌寒い環境となり、マフラーやらコートを羽織って登校している生徒が数多く見られている。

 

その中には、宮崎千紗希の姿も見られていた。

彼女も他の生徒と同じように、コートを羽織っていた。

 

しかし、今日の千紗希は廊下を歩きながらも周りの目線、特に男子の目線を気にしていた。

彼女は学年人気ダントツトップで注目を浴びてはいるが、今日は一段と視線があつくなっていた。

 

何故こんなにも今日は注目を浴びているのかというと、

 

 

「おい見ろ、宮崎だ」

 

「誰かにチョコをあげるのかな?」

 

「俺も同じクラスだったらなぁ」

 

 

そう、今日は2月14日、つまりバレンタインデーなのだ。

 

美人で人気も高い千紗希からチョコを貰えたら、これ以上嬉しいことはないだろう。

だからみんな、千紗希が誰にチョコを渡すのか気になっていた。

 

実際、千紗希はチョコを用意していた。

昨夜、自宅で幽奈と一緒にコガラシに渡す為のチョコを作っていたのだ。

 

しかし、彼女は悩んでいた。

 

 

千紗希(冬空くんに、なんて言って渡そうかな?このままあげたら、告白も同然になるんじゃ!?///)ドキドキ

 

 

千紗希はコガラシに好意はあるのだが、告白する勇気がいまだに持てていない。

だから、チョコを渡すか渡さないか悩んでいたのだ。

 

 

???「よっ、宮崎」

 

千紗希「っ!!」

 

 

後ろから不意に声をかけられて、千紗希はドキッとしてしまう。

 

 

兵藤「今日バレンタインデーだろ?チョコプリーズ?」

 

 

しかし、声をかけたのは、友人の兵藤だった。

 

兵藤は、友人関係の千紗希からならチョコを貰えると踏んでいたのだ。

 

 

千紗希「ごめん兵藤くん、義理チョコ用意してないんだ・・・」

 

兵藤「な、なにぃ!?」(ガーン

 

 

だが、兵藤の狙い通りとはいかなかった。

 

 

兵藤「臨海学校やハロウィンを共に過ごした俺に、義理チョコなし!?今年こそ、皆に自慢できるかと・・・」

 

柳沢「何堂々ともの乞いしてんだテメェは」(ガシッ

 

 

愚痴を漏らしている兵藤の背後から、柳沢が肩を掴み、怖い顔をしていた。

 

 

千紗希「あ、芹!おはよう!」

 

 

友人の柳沢に千紗希はあいさつをした。

 

 

柳沢「ったく、帰りにコンビニでチョコ買ってやるから大人しくしてな」

 

兵藤「ありがたやー!」

 

 

落ち込んでいた兵藤も、チョコを貰えると分かると、一気に元気を取り戻した。

例え市販のチョコでも貰えることが嬉しいのだろう。

 

 

コガラシ「どうした兵藤?やけに嬉しそうだな?」

 

秋宗「義理チョコでも貰えたのか?」

 

兵藤「おお!その声は冬空と西条か!聞いてくれよ!実は、だ、な?」

 

 

後ろから声をかけられて、兵藤は友人のコガラシと秋宗と分かり、義理チョコが貰えることを自慢しようと振り向くと、秋宗を見て絶句してしまった。

 

なぜなら、秋宗の両手には紙袋が下がっているだが、その紙袋からたくさんの箱が見えており、チョコの香りが漂っていたのだ。

 

 

兵藤「お、おい、西条?なんだ、その、両手に下げてある紙袋は?」

 

秋宗「あぁ、これか?実はコガラシと学校に行く途中で他校の学生やら女子大生から沢山チョコを貰ってしまって、なんでこんなに貰えるんだろう?って不思議で不思議で、って兵藤?」

 

 

秋宗から訳を聞いた兵藤は顔を伏せてプルプルと震えて、

 

 

兵藤「この裏切り者ー!!お前となんか絶交だー!!チキショー!!」(ダダダダダダッ

 

 

涙目になりながら、秋宗に罵倒を浴びせて走り去ってしまった。

 

 

コガラシ「ったく、兵藤のやつ」

 

秋宗「・・・でも、なんで俺こんなに貰えるんだ?」

 

柳沢「お前知らねぇのかよ?湯煙高校に灰色髪のイケメンが転校してきたって、結構有名になってるぞ」

 

 

秋宗の疑問に柳沢が答えた。

 

秋宗が転校してきて1ヶ月も経たないというのだが、いつの間にか秋宗の噂が広まり、今日のような結果になったのである。

 

 

秋宗「へぇ、そりゃあ知らなかった。そういや宮崎はチョコとか用意してんのか?」

 

千紗希「えぇ!?」

 

 

秋宗から突然質問されて千紗希は驚いてしまい、

 

 

千紗希「いや!学校にそういうの、持って来たら駄目かと思って・・・!用意してないよ・・・!」

 

コガラシ「そうなのか」

 

千紗希「う、うん」(どうしよう、ますます渡しづらくなっちゃったよぉ)

 

 

つい、持ってきてないと嘘をついてしまう。

 

コガラシに渡すかどうか悩んでいたため、持ってきていると言えなかったのだ。

 

 

先生「おい西条、ちょっといいか?」

 

 

すると今度は、秋宗の後ろから担任の先生が声をかけてきた。

 

 

秋宗「あ、先生、おはようございます。用ってなんでしょうか?」

 

先生「もうすぐ入学式があるだろ?それで新入生の親御さんに入学式用のパンフレットを渡すんだが、綴りを今日までに終わらせないといけないんだが、量が多くてな。それで生徒数人にも手伝ってもらいたいんだが、西条も手伝ってくれないか?」

 

 

先生から入学式用のパンフレット綴りの手伝いを頼まれた秋宗は、

 

 

秋宗「別に構いませんよ。帰ってもそんなやることもないので」

 

 

こころよく引き受けてくれた。

 

 

先生「ありがとう。じゃあ放課後、職員室に来るように。あと、もうすぐホームルームだから、早く教室に入っとけよ」

 

 

先生は教室に行くようにコガラシたちを促してその場を立ち去って行った。

 

 

コガラシ「・・・悪い西条、手伝いたいんだが、俺も宮崎もバイトがあるからなぁ」

 

秋宗「いいって別に。それより早く教室行こうぜ」

 

柳沢「そうだな」

 

千紗希「うん・・・」

 

 

4人は教室へと歩いて行ったが、千紗希の表情は暗いままだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

午後7時

 

 

 

秋宗「あぁ~、引き受けたとはいえ、疲れたなあ~。いくらなんでもあの量は多すぎだろ」

 

 

秋宗は先生の手伝いを終わらせて、夜の暗い道を1人歩いてゆらぎ荘へ帰っていた。

 

パンフレットの束は1人当たり約100冊近くも出来上がり、流石の秋宗も思わず愚痴をこぼしてしまう。

 

 

秋宗「腹減ったし、さっさとゆらぎ荘へ帰るか、ってあれ?」

 

 

秋宗は石橋の上にクラスメイトの千紗希が1人たそがれているのを見かけた。

その表情は、暗いままであった。

 

 

秋宗「・・・こんなところで1人でボーッとしてたら、不審者に襲われるぞ?」

 

千紗希「ッ!さ、西条、くん」

 

 

秋宗は千紗希の方へ歩いて声を掛けて、隣に行き橋の手すりに肘を置いた。

 

 

千紗希「先生の手伝い、もう終わったの?」

 

秋宗「まぁな、そっちはバイト帰りか?」

 

千紗希「うん、さっき、冬空くんと別れたんだ」

 

秋宗「そっか・・・」

 

 

二人の間には沈黙が漂っていた。

 

すると、秋宗は沈黙を破るように千紗希に話しかけた。

 

 

秋宗「・・・その鞄に入ってるチョコ、渡さなくていいのか?」

 

千紗希「・・・気づいてたんだ」

 

秋宗「オオカミは鼻が鋭いんでね」

 

 

千紗希は苦笑いを浮かべていた。

 

実は千紗希は今日用意したチョコをまだコガラシに渡せずにいたのだ。

 

 

秋宗「・・・好きなんだろ?アイツのこと」

 

千紗希「ッ!!///な、なんで知ってるの!?///」

 

秋宗「俺はお嬢や姐さんみたいに他心通使えないけど、アイツに好意抱いてんのバレバレなんだよ」

 

 

千紗希は顔を赤くして俯いてしまう。

 

 

秋宗「大丈夫だって。アイツならきっと宮崎のチョコ受け取ってくれるさ。間違ってもフッたりはしねぇだろ」

 

 

秋宗は千紗希を励まそうとしているが、

 

 

千紗希「うん・・・フラれるのが怖いっていうのもあるけど・・・」

 

秋宗「けど?」

 

千紗希「実は・・・」

 

 

千紗希は秋宗に事情を話した。

 

今まで千紗希は何人もの男子に告白されてきたが、気持ちに答えてあげられずに全員フッてきたのだ。

その度に、相手は勿論、自分の心も、物凄く重くなってしまう。

そんな気持ちをコガラシにさせたくないという、彼女なりの気遣いなのである。

 

それを聞いた秋宗は、

 

 

秋宗「・・・まぁ渡すか渡さないかは宮崎が決めることだが、それじゃあ絶対後悔するぞ」

 

千紗希「え?」

 

 

千紗希は思わず、川の流れを見ている秋宗の方を見てしまう。

 

 

秋宗「時間ってのは元に戻せないんだ。あの時やりたかったことをやれなかったら、それは一生、自分の心に残ってしまうんだ」

 

千紗希「自分の、心に・・・」

 

秋宗「だからさ、やりたかったことをやらずに後悔するより、やりたかったことをやった方が、後悔せずに終わるんだ」

 

 

千紗希は秋宗の言葉を聞いて、心に響いた。

 

一生後悔するよりも、何かをやった方が絶対に後悔しないことにその通りかもしれないと思ったのだ。

 

 

千紗希「・・・ありがとう西条くん!やっぱり私!冬空くんに渡して来る!」

 

秋宗「・・・なら一緒にゆらぎ荘まで行こうぜ」

 

千紗希「うん!」

 

 

千紗希がチョコをコガラシに渡すことを決断して、秋宗と一緒にゆらぎ荘まで行こうと思わず駆け出してしまう。

 

 

ズルッ

 

 

千紗希「ッ!?」

 

 

しかし、雪が積もっているところで足を滑らせてしまい、尻餅をついてしまう。

 

その拍子に、鞄に入っていたチョコの入った箱が鞄からこぼれ落ちて、川の方へ飛んでいってしまう。

 

 

秋宗「宮崎!?大丈夫か!?」

 

千紗希「そ、それよりも・・・っ」

 

 

秋宗は千紗希を心配するが、彼女はコガラシに渡すチョコが川に落ちてしまう光景を見てショックを受けてしまう。

 

もうだめだ。

千紗希がそう思ったその時、

 

 

パシッ

 

 

誰かが川の方へ飛んで千紗希のチョコの箱をキャッチした。

 

誰かというのは、言うまでもないだろう。

 

 

コガラシ「宮崎っ」(バッ

 

千紗希「ふ、冬空くん!?」(パシッ

 

 

そう、コガラシであった。

 

コガラシは空中でキャッチしたチョコの箱を宮千紗希へパスをして、千紗希はそれを受け取った。

 

 

秋宗「ッ!コガラシ!掴まれ!」

 

 

このまま川へ落ちてしまうコガラシに、秋宗は身を乗り出して手を伸ばした。

 

 

ガシッ

 

 

コガラシ「悪い西条!助かった!」

 

 

コガラシは秋宗の手を掴んだまま、ぶら下がった状態になった。

 

 

秋宗「宮崎手伝ってくれ!コガラシ引き上げるぞ!」

 

千紗希「う、うん!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

コガラシを秋宗と千紗希が引っ張り上げた後、3人は近くの公園へ移動して、コガラシはベンチに座っていた。

 

 

コガラシ「悪い2人とも、おかげで川に落ちずにすんだ」

 

千紗希「お、お礼を言うのは私の方だよ!でも、どうして冬空くんがあそこに?」

 

秋宗「お前、宮崎と別れてゆらぎ荘に帰ったんじゃなかったのか?」

 

 

二人の疑問にコガラシは答えた。

 

 

コガラシ「なんか今日、宮崎の様子が変だったからよ。俺が口に出すことでもねぇと思ったけど、やっぱり訊くだけ訊いてみようと思ってな」

 

千紗希「・・・・・・」

 

秋宗「・・・コガラシ、俺先にゆらぎ荘に帰ってるから、宮崎を家まで送っとけよ。女の子が1人でこんな夜中に帰ったら色々と危ないからな」

 

コガラシ「お、おう?分かった」

 

 

秋宗は空気を読んで、コガラシと千紗希を2人きりにさせて、その場を立ち去った。

 

千紗希は秋宗の気遣いを察した。

 

 

コガラシ「そうだ、その箱大丈夫だったか?それって多分・・・」

 

 

ぎゅっ

 

 

千紗希は思わず、コガラシを抱きしめてしまう。

 

 

コガラシ「み、宮崎!?///」

 

千紗希「・・・はっ!?///」

 

 

千紗希は我にかえって、コガラシから離れた。

 

 

千紗希「ご、ごめんねいきなり!///ほら!ちょっとでも暖まるかなって!///冬空くん寒そうだったから!///それとね!///」

 

 

千紗希はチョコの箱をコガラシへ差し出した。

 

 

千紗希「これ///・・・冬空くんへのチョコ、だから///」

 

コガラシ(ドキッ

 

千紗希「えっと、バイト仲間からの義理チョコってことで!///」

 

コガラシ「そ、そうか!ありがとな宮崎!」

 

 

その様子を、秋宗は遠くから隠れて見ていた。

 

 

秋宗「・・・渡せてよかったな、宮崎」

 

 

こうして千紗希は、コガラシへバレンタインデーのチョコを渡すことができたのであった。

 

 

 




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第12話 バレンタイン(ゆらぎ荘ver)

~ゆらぎ荘~ 午後7時25分

 

ゆらぎ荘の屋根の上では、幽奈がコガラシの帰りをそわそわしながら待っていた。

その手には、昨日千紗希と一緒に作ったバレンタインデーの手作りのチョコが入った箱を持っている。

 

 

幽奈(そろそろコガラシさんがバイトからお戻りになるはず、昨日一生懸命作ったこのチョコをコガラシさんへ・・・!)

 

 

幽奈はコガラシが帰ってくると同時にチョコを渡すつもりなのだ。

 

学校で渡せなかったのは、第3者からは幽奈の姿が見えず、物が浮いているように見えて大騒ぎになってしまうからだ。

その為、ゆらぎ荘でコガラシにチョコを渡すことにしたのだ。

 

すると、ゆらぎ荘に向かって来る人影が見えて、もしかしたらコガラシかもしれないと思い、幽奈は地上へ降り立った。

 

 

秋宗「おう幽奈か、ただいま」

 

 

しかし、その人影はコガラシではなく、最近ゆらぎ荘に入居した秋宗だった。

 

千紗希がコガラシにチョコを渡したことを確認した後、まっすぐゆらぎ荘に帰ったのだ。

 

 

幽奈「あ、秋宗さんでしたか、お帰りなさいませ。はぁ・・・」

 

秋宗「おい、人の顔見るなりため息ってどういうことだ?」

 

幽奈「っ!す、すみません!」

 

 

コガラシじゃなかったことに思わずため息をついた幽奈に秋宗はイラついてしまい、幽奈は慌てて秋宗に謝罪した。

 

 

秋宗「悪かったな、愛しのコガラシくんじゃなくて」

 

幽奈「本当にすみませ、っ!?///い、愛しの!?///からかわないで下さいよぉ!!///」

 

 

秋宗の発言に幽奈は顔を赤くして慌てふためいてしまう。

 

 

秋宗「あいつなら、宮崎を家まで送ってるから、もう少しで帰ってくると思うけど」

 

幽奈「そ、そうですか」(ということは千紗希さんはすでにコガラシさんにチョコを渡してるはず!私も早く渡さなければ!)

 

 

秋宗からコガラシのことを聞いた幽奈は、早くコガラシが帰ってこないかと、辺りを見渡している。

 

 

秋宗「・・・あいつにチョコ渡す気なのか?」

 

幽奈「えぇ!?///ど、どうしてそれを!?///」

 

秋宗「今日が何の日かくらい分かるわ。宮崎と同じくらいバレバレなんだよ」

 

幽奈「うぅ///・・・」

 

 

幽奈は顔を伏せて赤くなっていた。

 

そんな幽奈の様子を見て秋宗があることを提案した。

 

 

秋宗「・・・帰って来た時に渡さないほうがいいと思うぞ」

 

幽奈「え?どうして、ですか?」

 

 

幽奈は思わず目を丸くしてしまう。

 

 

秋宗「コガラシはバイト帰りで疲れてるんだ。渡すなら、本人がゆっくりしている時がいいだろ」

 

 

秋宗のアドバイスに幽奈は少し考えて

 

 

幽奈「・・・確かにそうですね。分かりました!じゃあコガラシさんがゆっくりしている時に渡しますね!」

 

 

幽奈はコガラシの提案を受け入れて、ゆらぎ荘の中へ入って行った。

 

 

秋宗「・・・さて、風呂にでも入るか」

 

 

秋宗は幽奈に続いて、ゆらぎ荘へ入って行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

秋宗は風呂から上がったあと、厨房にて、仲居さんと夕飯作りの手伝いをしている。

 

秋宗はゆらぎ荘に入居してから、かるらへの報告をしながらも、家事の手伝いもこなしているのだ。

 

 

秋宗「仲居さん、味噌汁の味の確認お願いしてもらっていいですか?」

 

仲居さん「はい、わかりました」

 

 

仲居さんが、秋宗の作った味噌汁をお玉ですくって小皿に注いで味を確認した。

 

 

仲居さん「うん、美味しいです。秋宗くん味噌汁作るのお上手ですね」

 

秋宗「いやいや、仲居さんには負けますよ」

 

 

仲居さんからOKを貰った秋宗は、味噌汁を器に注いでいく。

秋宗が手伝ってくれたことにより、予定よりも早く夕飯が出来上がった。

 

 

秋宗「じゃあ俺、これ大広間まで運んで来ますね」

 

仲居さん「あ、すみません秋宗くん、少し待っていただけませんか?」

 

 

仲居さんは秋宗を呼び止めて、冷蔵庫からあるものを取り出した。

 

 

仲居さん「こちらをどうぞ、秋宗くん!」

 

秋宗「えっ、これって、」

 

 

仲居さんが取り出したものは、秋宗のために作っておいた、手作りのチョコだった。

皿に載せられたチョコは緑色で、抹茶であることを物語っていた。

 

 

仲居さん「お抹茶のチョコです。お口に合うといいんですけど」

 

秋宗「い、いいんですか?」

 

仲居さん「はい、秋宗くんもコガラシくんと同じくらい手伝って貰ってますからね」

 

 

仲居さんの笑顔に秋宗は癒されてしまう。

 

 

秋宗「ありがとうございます。で、では、いただきます」

 

 

秋宗はチョコを一つ手に取り、口に運んだ。

 

 

秋宗「・・・やっぱり仲居さんの手料理凄いですね。こんなに美味しいチョコ初めて食べますよ」

 

仲居さん「ふふっ、気に入ってもらえて何よりです」

 

 

秋宗からチョコの感想を聞かされて、仲居さんは少し照れてしまう。

 

 

秋宗「流石に今全部食べたら夕飯入らなくなると思うんで、残りは夕飯の後にいただきますね」

 

仲居さん「確かにそうですね。分かりました」

 

 

秋宗は料理をお盆に乗せて、大広間へ向かった。

 

すると秋宗は、廊下を歩きながらふと思った。

 

 

秋宗(そういや、お嬢と姐さんからチョコをまだ貰ってないな。毎年楽しみにしてたんだけどなぁ。)

 

 

毎年、かるらとマトラから手作りのチョコを貰っていたのだが、今年はまだ貰っておらず、少しだけ落ち込んでしまう。

 

そんなことを考えながら、大広間に着いて襖を開けると、先ほど帰って来て風呂上がりのコガラシと幽奈と呑子と朧の4人がいた。

 

だが、朧は自分の着ている着物をはだけさせながら、コガラシと身を重ねていた。

そして、棒状のチョコをお互い端から咥えている状態になっていた。

 

 

秋宗「・・・とりあえず、お前は日常茶飯事、欲求不満ってお嬢に報告していいか?」

 

 

秋宗はコガラシに白い目を向けながらあきれ顔になっていた。

 

 

コガラシ「違う西条!これは誤解だ!」

 

秋宗「誤解?身をさらけ出してる女と身を重ねることの何が誤解なんだ?」

 

 

コガラシは朧から離れて秋宗に誤解と話すが、秋宗は軽く流して料理を机の上に並べていく。

 

 

朧「違うぞ西条、これは親密度が増す方法と荒覇吐の文献にあったのだ。決してやましいことではないぞ」

 

呑子「そういえばチョコ関連の色々見せてあげたわねぇ」

 

 

朧は着物を着直しながら秋宗に誤解だと話し、呑子も苦笑いを浮かべていた。

 

すると今度は、天井に白い渦が表れた。

 

 

秋宗「あ、アレって、転送術?」

 

幽奈「ということは・・・!」

 

 

そして、転送術の中から、緋扇かるらと巳虎神マトラが出てきたのだ。

 

 

かるら「久しいな、コガラシ殿!それと秋宗!」

 

マトラ「オッス!秋宗!宵ノ坂!」

 

コガラシ「緋扇!」

 

秋宗「お嬢!それに姐さんまで!」

 

 

秋宗は久しぶりに会うかるらとマトラを見て、少しほっとした。

 

かるらは顔を赤くしながら、持っていたものをコガラシに差し出した。

 

 

かるら「これは、妾からの、バレンタインのチョコなのじゃ!」

 

 

かるらが渡したチョコは、かるらそっくりのフィギュアのようで、裸姿のかるらにリボンが結ばれていた。

 

 

幽奈「フィ、フィギュアみたいなクオリティですぅ!」

 

呑子「色つきのチョコ使ってるのねぇ」

 

朧「器用なものだな」

 

秋宗「お嬢こういうの得意だよなぁ」

 

マトラ「ま、作るのに結構時間かかったけどな」

 

 

皆、かるらのチョコを見て、それぞれの感想を述べた。

 

 

かるら「こ、コガラシ殿!よろしければここで!食べてみせてもらえんじゃろうか・・・!?」

 

コガラシ「お、おう?」

 

 

コガラシはかるらから促されて、チョコを手に取り食べようとする。

 

 

かるら(お、おぉ///・・・!妾が!妾が!コガラシ殿に召し上がられてしまうのじゃあ///・・・!)

 

 

かるらは自分の作ったチョコを食べようとするコガラシを見て、自信を食べようとするコガラシを妄想してしまい、息が荒くなっている。

 

 

コガラシ「すまん緋扇、なんだか妙に食べづらいんだが・・・」

 

秋宗「ヤバいよ、お嬢絶対変なこと考えてるよ。だって上の空だもの、ちょっとヨダレ出てるし」

 

 

かるらの様子を見て、コガラシはチョコを食べるのを躊躇してしまい、秋宗は若干引いていた。

 

かるらは秋宗に言われてハッとなり、ヨダレをぬぐった。

 

 

かるら「すまないコガラシ殿・・・!見苦しいところをお見せして・・・!それと、秋宗!」

 

秋宗「ん?何?」

 

 

かるらは秋宗に赤い包み紙でラッピングされた箱を秋宗にさしだした。

 

 

かるら「いつもお前には世話になっとるからのう、ほんの気持ちじゃ!」

 

マトラ「アタシからもあるぜ!」

 

 

マトラは水色の包み紙でラッピングされた箱を秋宗に差し出した。

 

 

秋宗「お嬢・・・!姐さん・・・!ありがとう!」

 

 

秋宗は二人からチョコを貰えたことに嬉しくて涙目になり笑みがこぼれる。

 

 

マトラ「泣くなよ、このくらいで」

 

秋宗「だって・・・!お嬢絶対コガラシ用のチョコ作るのに集中して、俺の分作ってないと思ったから・・!」

 

かるら「そんな訳ないじゃろ。全く、お主は強いのか弱いのか分からんやつじゃのう」

 

 

かるらとマトラが呆れていると、襖が開き、狭霧とこゆず、夜々が入って来た。

 

 

こゆず「わーいご飯だー!」

 

狭霧「む・・・!?緋扇かるら!?巳虎神マトラ!?貴様らなぜここに!?」

 

かるら「チョコ渡しに来ただけじゃ!」

 

夜々「何で秋宗泣いてるの?」

 

秋宗「いや、何でもない・・・!」

 

 

皆が集まって来て、賑やかになってきた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

夕飯も終わり、皆大広間でくつろいでいた。

机の上には、コガラシが皆から貰ったチョコが並べられていた。

 

ちなみに幽奈はすでにコガラシにチョコを渡し終えていた。

 

 

秋宗「改めて見ると結構貰ってるな、お前」

 

 

秋宗はコガラシのチョコを見て、感想を口にした。

 

 

コガラシ「西条だって結構貰ってたじゃねぇか」

 

秋宗「俺は数よりも質がいいんだよ。俺が貰えた質のいいチョコはお嬢と姐さんと仲居さんの3人だけ、お前は全部質がいいやつ貰えたじゃねぇか」

 

 

秋宗に言われて、コガラシは頭を掻いて少し困った表情になってしまう。

 

 

コガラシ「・・・なんか不思議な感じがするんだよな、俺なんかがこんなに貰っていいのかな、って」

 

秋宗「・・・はぁ、何を今さら」

 

幽奈「いいに決まってるじゃないですか」

 

 

幽奈はコガラシのチョコを見ながら、

 

 

幽奈「このたくさんのチョコが何よりの証拠です。皆さんコガラシさんのことが大好きなんです」

 

 

みんな(秋宗とマトラを除く)は少し照れていて、ほんのり顔が赤くなっていた。

 

 

幽奈「もちろん私も!コガラシさんのことが大好きです!」

 

 

幽奈の発言に、コガラシの顔はどんどん赤くなり、コガラシにチョコを渡した面々もどんどん赤くなっていた。

 

幽奈はみんなの様子がおかしいことに首を傾げていた。

 

 

幽奈「?皆さんどうし・・・・・っ!!///」

 

 

幽奈は自分が言ったことを理解して、顔が真っ赤になっていった。

 

決して告白の意味で言ったのではないのだが、そうと捉える意味にもなってしまったのだ。

 

 

こゆず「幽奈ちゃんが告白したー!!」

 

幽奈「ち、ちち違いますよ!?///いい今のは皆さんと同じように!///」

 

 

幽奈は慌てて誤解だとみんなに話そうとするが、

 

 

秋宗「違う?これでもまだ同じことが言えるのか?」

 

 

秋宗はニヤニヤしながらスマホの画面をみんなに見せる。

 

みんなはなんだろうと思いスマホ画面を見ると

 

 

幽奈『もちろん私も!コガラシさんのことが大好きです!』

 

幽奈「なっ!?///」

 

 

そこに映っていたのは、先ほどの幽奈がコガラシに対して言っていた場面の動画だった。

 

実は秋宗、何か面白いことが起こりそうと思い、こっそり撮影していたのだ。

 

 

秋宗「頬を赤くしながら大好き、これのどこが告白じゃないって言うんだ?」(ニヤニヤ

 

幽奈「そ、それは///・・・うぅ///」

 

コガラシ「お、おい西条!幽奈困ってるだろ!スマホよこせ!動画消してやる!」

 

 

面白がっている秋宗にコガラシは手を伸ばしてスマホを取ろうとする。

 

 

秋宗「ふっ、甘いな。お嬢!」(ガシッ

 

かるら「え!?」(グイッ

 

 

秋宗は咄嗟にかるらの腕を掴み、自分の前まで引き寄せた。

 

そして、

 

 

ムニュッ

 

 

コガラシ「なぁ///!?」

 

かるら「・・・へ?///」

 

 

コガラシが手を伸ばしたことにより、突如表れたかるらの胸を揉んでしまう結果になってしまい、かるらも咄嗟のことに頭の整理が追い付かない様子である。

 

 

秋宗「ほほう?どうやらコガラシくんはチョコレートよりも、お嬢のマシュマロの方がお好みのようだ」

 

仲居さん「何うまいこと言ってるんですか!?」

 

 

秋宗の例えに仲居さんは思わず突っ込んでしまう。

 

胸を揉まれているかるらはというと、

 

 

かるら(コ、コガラシ殿が妾の胸を!///こ、これはこれで、悪くない、の、じゃ///・・・)バタリ

 

コガラシ「緋扇!?」

 

 

かるらは堪えられず、頭から湯気が立ち倒れてしまう。

 

 

マトラ「あーあ、おひいさん完全に気絶しちまってるよ」

 

秋宗「おいコガラシ、お前がお嬢の胸なんか揉むから気絶したじゃないか」

 

コガラシ「元凶はお前だろ!」

 

 

秋宗は気絶しているかるらを見ながらコガラシのせいにするが、コガラシは秋宗のせいだと主張した。

 

 

狭霧「冬空コガラシ!そこに直れ!風紀を乱すお前を成敗してくれる!」

 

 

狭霧は我慢出来ず、クナイをコガラシに向けて戦闘体制をとっている。

 

 

コガラシ「ま、待て狭霧!これはどちらかというと原因は西条のほうだろ!」

 

狭霧「問答無用!!」(ビュッ

 

コガラシ「うぉお!?」

 

 

狭霧はコガラシの言い分を聞かず、数十本のクナイを投げ飛ばすが、コガラシは必死に避けていた。

 

この状況を見て夜々が呟いた。

 

 

夜々「・・・カオスだ」

 

 

こうして、バレンタインデーは無事に?幕をおろしたのであった。

 

 

 




感想のほど、よろしくお願いいたします。


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第13話 バイトのかるら

バレンタインデーも終わり、まだ肌寒い日が続いている時期、秋宗は町中を歩いていた。

 

今日は日曜日で学校もないため、秋宗は気分転換に町中を歩くことにしたのだ。

いつもならゲームをして1日を過ごすのだが、たまには外に出るのも悪くないかもしれないと考えた。

 

 

秋宗「あぁ~、腹減ったなぁ~」

 

 

時刻は正午前、昼食を取るにはいい時間帯だ。

 

どこで食べようかと考えていると、ふとファミレスが目に入った。

しかもそのファミレスは今日のコガラシのバイト先でもあった。

 

 

秋宗「・・・ま、コガラシのバイト活動をお嬢に報告するのも悪くないかもな」

 

 

秋宗は考えた末、ファミレスで昼食を取ることに決めた。

 

秋宗がファミレスへ歩いて中へ入ると、

 

 

 

 

 

かるら「いらっしゃいませー!」

 

 

 

 

 

出迎えた従業員が元気よく挨拶してきたのだが、秋宗は絶句してしまった。

 

なぜなら、その従業員が自分の幼なじみにそっくりだったからなのである。

 

 

秋宗(・・・え?お嬢?いやいやいや!あり得ない!だってお嬢がこんなところにいる訳ねぇし!ましてやバイトなんてあり得ねぇだろ!きっとお嬢にそっくりな従業員だ!)

 

 

秋宗は頭をフル回転させて、かるらではないと断定したのだが、

 

 

かるら「おぉ秋宗ではないか!」

 

 

従業員が自分の名前を呼んだため、緋扇かるらだと決定づけてしまった。

 

秋宗は複雑な表情を浮かべながら、かるらに話し出した。

 

 

秋宗「何やってんの、お嬢?」

 

かるら「見て分からんのか?バイトに決まっとるじゃろ」

 

 

かるらは胸を張りながら、秋宗の質問に答えた。

 

 

秋宗「・・・はぁ、このファミレス、明日にはお嬢のせいで潰れてしまう」

 

かるら「どういう意味じゃ!?」

 

 

秋宗が頭を抱えて思わず漏らした言葉に、かるらがつっこんだ。

 

かるらは普段から口調が上から目線で、かるらの父親以外でかるらが敬語を使っているところを秋宗は見たことがなかったのだ。

 

だから、かるらがお客に対して上から目線で注文をとっている場面が秋宗には目に浮かんでしまう。

 

 

コガラシ「おい緋扇、どうかしたのか?」

 

 

すると、入り口での秋宗とかるらの話し声が店内まで響いており、バイトのコガラシが何事かと思い確認に来た。

 

 

コガラシ「って、西条?何でここに?」

 

秋宗「あ、コガラシ。いや、ちょっと腹減ったから昼飯でもと思ったら、何故かお嬢がここにいて」

 

 

コガラシは秋宗がいることに驚いて、秋宗はいきさつをコガラシに説明した。

 

 

コガラシ「あー、そうか。緋扇、お前注文取ってきてくれ。西条は俺が席まで案内しとくから」

 

かるら「わ、わかったのじゃ」

 

 

コガラシはかるらに注文をとってくるよう促して、かるらはお客の注文を取りに行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

コガラシ「お待たせいたしました。こちらお冷やになります」

 

 

コガラシは秋宗を席まで案内した後、秋宗のテーブルにお冷やを置いた。

 

 

秋宗「サンキュー。で、お嬢いつからここに来てるんだ?」

 

コガラシ「今日からだ。流石に俺も驚いたな。まさか緋扇がバイトに来るなんて」

 

 

店長から新入りのバイトを紹介された時に、それがかるらだったのだから、コガラシも驚いた。

 

 

秋宗「まぁ、それ以上に驚いてることがあるんだよな」

 

 

秋宗はチラリとかるらの方を見ると、

 

 

かるら「お待たせいたしましたー!こちらデミグラスハンバーグでーす!鉄板がお熱くなっておりますのでご注意下さーい!」

 

 

かるらが営業スマイルで接客をしていたのだ。

更には、お客への配慮までも怠っていなかった。

 

 

秋宗「まさかあのお嬢がマトモに接客できるなんて、今世紀最大の驚きかもしれない」

 

コガラシ「それは言い過ぎだろ」

 

 

コガラシは思わず苦笑いをした。

 

まぁ、コガラシも秋宗と同様、かるらがマトモに接客できるのかと不安だったのだが、秋宗が来るまで、かるらはミス一つなく仕事をこなしていたことに大変驚いていた。

 

 

秋宗「まぁ、お嬢のことだし、何か裏があるとは思うが、とりあえずはいいや。コガラシ、このチキンステーキのアメリカンソース頼む。あとドリンクバーも」

 

コガラシ「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 

 

秋宗はメニューのチキンステーキを指さして注文して、コガラシは仕事モードに入り厨房へと向かっていった。

 

一方かるらはというと、

 

 

かるら(ふ、悪くないではないか!『一緒にラブラブバイト大作戦』!出だしは好調と言えよう!)

 

 

秋宗の言った通り、やはり裏があった。

 

秋宗からの監視の報告を元に考案したこの作戦は、コガラシとの距離を一気に縮めるためのものであった。

そして、コガラシを惚れさせて、愛し合った結婚をしようと企んでいたのだ。

 

 

かるら「くふふ・・・ふふ・・・」

 

 

かるらは仕事中にも関わらず、作戦の出だしが好調なことに浮かれてしまっていた。

 

 

秋宗「お嬢!」

 

かるら「っ!?あ、秋宗!?何じゃいきなり!」

 

 

かるらが我にかえると、いつの間にか目の前に秋宗が立っていた。

 

 

秋宗「何じゃいきなりじゃねぇよ。仕事に集中しろよ。ほら、注文取っておいたから」

 

 

秋宗はかるらにオーダー端末を渡した。

 

かるらが浮かれている時、秋宗はかるらの腰に差してあるオーダー端末を取り、代わりに注文を取ったのである。

お客は戸惑ったものの、取り敢えず注文をした。

 

 

かるら「も、申し訳ない。じゃなくて!何故客である主が他の客の注文を取っとるのじゃ!これは妾の仕事じゃぞ!」

 

秋宗「だったら、浮かれてないでちゃんと自分の仕事をこなしとけ」

 

かるら「ぬ、ぬうぅ~!」

 

 

秋宗はかるらを論破して席に戻り、かるらは秋宗の後ろ姿を睨んでいた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

秋宗が注文しておいたチキンステーキを食べている時、かるらはミートスパゲティとチキンドリアを運んでいた。

 

 

かるら(全く!折角よい気分じゃったのに秋宗のせいで台無しじゃ!)

 

 

かるらは秋宗に言われてから、ずっと不機嫌な状態が続いていた。

 

 

かるら(まぁ良い。妾の目的はコガラシ殿との距離を縮めること!いつまでも引きずってしもうてはかえって失敗してしまうかもしれんからのう!)

 

 

かるらは気持ちを切り替えて仕事に望もうとした。

 

しかし、コガラシにアタックは試みてはみるものの、いざ至近距離で会話をすると緊張して言葉が出なくなってしまう。

 

 

かるら(何をしておるのじゃ妾は!折角コガラシ殿が近くまでおるのに!緋扇邸ではあんなにコガラシに近づけた・の・・に・・・)

 

 

かるらは緋扇邸でのコガラシとの出来事を思い出して冷静になって考えてみた。

椅子に縛り付けられているコガラシに、バスタオル一枚姿で身を重ねていた光景を。

 

 

かるら(今、あの時のことを思い返してみれば、わ、妾は、なんと大胆なことをおぉ・・・!?///)

 

 

かるらは当時のことを思い出して、顔が真っ赤になっていった。

 

 

ガツッ

 

 

そして、集中が途切れてしまい、かるらはつまづいてしまった。

 

 

かるら(し、しまった!妾としたことが!)

 

 

お盆に乗っていたミートスパゲティとチキンドリアが床に落ちてしまう。

 

その時、

 

 

ガシッ

 

 

秋宗「熱っ!!」

 

 

たまたまトイレに行こうとして、近くにいた秋宗がミートスパゲティとチキンドリアの皿をキャッチした。

だが、チキンドリアの皿が鉄板並みに熱く、今にも離したいのだが、秋宗は落とさないようちしっかり掴んでいた。

 

 

かるら「あ、秋宗!?」

 

秋宗「お嬢!早くお盆を!早くしてくれ!」

 

かるら「わ、分かったのじゃ!」

 

 

かるらはお盆を秋宗に差し出し、秋宗は掴んでいたミートスパゲティとチキンドリアの皿をお盆に乗せた。

 

 

お客一同「おぉ~!」(パチパチ)

 

 

一部始終を見ていたお客たちは思わず拍手をしてまう。

 

 

かるら「秋宗!手は大丈夫か!?火傷しとらんか!?」

 

秋宗「大丈夫だ。お嬢の方こそ怪我とかないか?」

 

 

かるらは秋宗の手を見ながら心配するが、秋宗は何事もないように手の平を見せるが、手は赤くなっていた。

 

 

コガラシ「おい二人とも!大丈夫か!?って西条!その手!」

 

 

騒ぎを見ていたコガラシも駆け寄り、秋宗の手を見て火傷していると思った。

 

 

秋宗「心配いらねぇって。洗面所で冷やしとけば大丈夫だから」

 

かるら「し、しかしじゃな秋宗!」

 

秋宗「お嬢は早くその料理をお客に運んどけ。ここのバイトなんだから」

 

 

秋宗は心配してくれている二人をよそに、1人御手洗いの方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

時刻も6時を過ぎ、外も暗くなり、街灯が点いていた。

 

あの後はというと、かるらがミスをどんどん増やしてしまい、その度に秋宗がフォローしていき、てんてこ舞いであった。

 

今は客足も落ち着いてきていた。

 

 

秋宗「あ~、疲れたぁ~・・・」

 

 

秋宗はかるらのフォローで疲労が溜まり、テーブルに頭を乗せてぐったりしていた。

 

 

コガラシ「何でバイトでもないお前が疲れてんだよ」

 

秋宗「うるせぇ。少し黙ってろバイト中毒者」

 

 

コガラシは半ば呆れながら秋宗を見て、秋宗はコガラシに毒を吐いた。

 

 

秋宗「で、どうだった?お前から見たお嬢の仕事ぶりは」

 

 

秋宗はコガラシにかるらの仕事の様子を聞いた。

 

 

コガラシ「まぁ、ちょっと失敗しがちだけど、初日だからな。いい働きぶりだとは思うが」

 

秋宗「・・・そうか」

 

 

コガラシからの評価を聞いて、秋宗は頭を上げて、笑顔で接客しているかるらを見た。

 

 

店長「あ、冬空くん!そこの君も!ちょっといいかな?」

 

コガラシ「あ、店長。お疲れ様っす!」

 

秋宗「て、店長?」

 

 

このファミレスの店長が、コガラシと秋宗に話しかけて来た。

 

 

店長「いや、緋扇さんのことで二人が話してたからさ。彼女、お偉いさんのとこの子なんでしょ?で、西条くんだっけ?君も緋扇さんの家の人だよね?」

 

秋宗「えっと、まぁ、俺はお嬢の執事みたいなもんすけど」

 

 

秋宗の説明にコガラシはあながち間違ってはないと思った。

 

 

店長「いや~、彼女の研修大変だったからねぇ」

 

コガラシ「大変?」

 

秋宗「・・・やっぱりお嬢が何かご迷惑を?」

 

 

店長は緋扇の研修について二人に話した。

最初の挨拶の段階では、明らかに上から目線で対応してしまい、なおる気配が全くしなかったのだ。

店長はもう研修を打ちきりにしようと言ったが、なんとかるらが頭を下げて、態度をなおすから研修を続けて欲しいとお願いしたらしい。

 

秋宗にはとても信じられない話だった。

かるらはオオカミ人間並みにプライドが高く、誰かに頭を下げるなんて考えられなかったのだ。

 

 

店長「まぁ、あんな風に頭下げられたら、続けざるを得ないからね。これから先輩として頼むよ、冬空くん」

 

 

そう言って、店長は厨房へ戻って行った。

 

 

秋宗「・・・なぁコガラシ」

 

コガラシ「ん?」

 

 

コガラシは秋宗に呼ばれて、秋宗の方を見た。

 

 

秋宗「お嬢はプライドが高くてさ、誰かに頭下げるなんて考えられねぇけど、そこまでしてお前と一緒にいたいっていう気持ちがあるんだ。別に好きになってくれとは言わねぇけど、お嬢の気持ちには答えてくれねぇか?」

 

コガラシ「・・・あぁ、分かってる」

 

 

秋宗は立ち上がり、

 

 

秋宗「じゃあ俺帰るわ。会計頼む」

 

コガラシ「おう、分かった。じゃあレジの方に・・・」

 

かるら「待ってくれコガラシ殿!妾がやろう!」

 

 

コガラシがレジの方へ行こうとした時、かるらがレジ打ちをすると言って来たのだ。

 

 

コガラシ「そ、そうか。じゃあ任せるぞ」

 

 

コガラシはかるらにレジを任せて、空いている皿を下げに向かった。

 

かるらと秋宗はレジへ向かい、かるらはレジ打ちを始めた。

 

 

かるら「・・・あ、秋宗」

 

秋宗「ん?」

 

 

かるらは手を止めて、秋宗の方を見た。

 

 

かるら「その、すまなかったのじゃ。今日はお主とコガラシ殿にたくさん迷惑をかけてしもうて・・・」

 

 

かるらは申し訳なさそうに顔をうつむせて、表情も暗いままであった。

 

そんな様子を見て秋宗は、

 

 

秋宗「・・・お嬢、俺が緋扇邸に来て1週間経った時にお嬢が俺に言ったこと覚えてるか?」

 

かるら「え?」

 

 

かるらは思わず顔を上げた。

 

 

秋宗「笑えばいいって言っただろ?お嬢が暗いままじゃあ、俺も姐さんも暗くなっちまうんだよ。だからさ、笑ってくれよ」

 

 

秋宗は笑顔でかるらの顔を見た。

 

 

かるら「・・・そうじゃったのう」

 

 

かるらは暗い表情から一気に明るい表情になった。

 

 

秋宗「やっぱりお嬢は笑顔が似合ってる」

 

かるら「そういうお主もじゃぞ」

 

 

秋宗は代金を支払って、ファミレスを出ようとした。

 

 

かるら「秋宗、また来てもよいぞ!」

 

 

秋宗は立ち止まり、振り向いて、

 

 

秋宗「お嬢、違うだろ」

 

かるら「あっ。そうじゃった。ありがとうございましたー!またお越し下さいませー!」

 

 

かるらは訂正して挨拶して、秋宗はファミレスを後にした。

 

 

 




活動報告を追加しております。
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第14話 スポーツ対決

今回はメッセージより、きつね蕎麦さんのリクエストでコラボ作品を作りました!

それではどうぞ!


~午後4時30分~

 

空も茜色になり、町中を歩いてる人たちも帰宅しようとしていた。

 

そんな中に、秋宗とかるら、マトラの姿があった。

何故かるらとマトラがこっちに来ているのかというと、今日は二人がゆらぎ荘の方へ遊びに来る日だったからなのだ。

 

 

秋宗「しかし、何で俺らが買い出し行くはめになったんだ?」

 

かるら「仕方ないじゃろ。仲居殿が料理をしている時に手が空いてたのが妾たちしかおらんかったのじゃから」

 

マトラ「ま、アタシは別にいいけどよ」

 

 

3人の手には、洗剤やトイレットペーパー、ティッシュなど生活用品が入ったビニール袋が下げてあった。

仲居さんが買い忘れた生活用品をかるらが買ってくると言い、マトラと秋宗も行くはめになったのだ。

 

ちなみにコガラシはバイトで、帰って来るのは夜の7時ごろである。

 

 

マトラ「で、おひいさん。バイト始めてから八咫鋼と進展はあったか?」

 

かるら「うむ!あれからコガラシ殿と話す機会も増え、近くにいても緊張しなくなったからのう!」

 

秋宗「ま、初日は失敗の連続だったけどな」

 

かるら「余計なこと言うでない秋宗!」

 

 

3人が話しながらゆらぎ荘へ戻っていると、

 

 

???「あ、西条くん。それに緋扇さんに巳虎神さんも」

 

 

声をかけられて振り向くと、そこには千紗希と雲雀、夜々の3人がいた。

 

 

秋宗「あ、宮崎。雲雀と夜々も。こんなとこで何してんだよ?」

 

雲雀「雲雀たちは図書館で勉強会を開いてたんだよ」

 

夜々「今から帰るところ」

 

 

秋宗の質問に雲雀と夜々が答えた。

 

 

千紗希「緋扇さんたちは買いもの?」

 

かるら「そうじゃ。仲居殿から頼まれてのう」

 

 

千紗希は秋宗たちの持っているビニール袋を見ながら質問してかるらが答えた。

 

 

マトラ「・・・なぁ秋宗」

 

秋宗「ん?どうした姐さん?」

 

マトラ「いや、あれ」

 

 

マトラが指を差した先には、バスケットコートがあった。

 

緑色のフェンスで囲まれて入口は一つだけあり、ゴールリングも2つあり、点数板も設置されていて、試合をするには十分な広さである。

そして誰かの置き忘れたであろうバスケットボールがコートに転がっていた。

 

 

秋宗「あぁ、バスケットコートか。誰でも使える公共のやつで、たまに湯煙高校のバスケ部とか他校のバスケ部も使ってるんだよな」

 

マトラ「へぇー?」

 

 

秋宗の説明を聞いて、マトラはコートの中に入り、ビニール袋をベンチに置いて、落ちているボールを拾った。

軽くドリブルしたり指でボールを回したりした。

 

そして、ボールを掴み秋宗たちの方を笑いながら見て

 

 

マトラ「なぁ、折角だしよ、全員で遊ばねぇか?」

 

 

バスケをやろうと提案した。

 

 

秋宗「え?遊ぶって、バスケで?」

 

雲雀「全員って、もしかして雲雀たちも!?」

 

 

秋宗と雲雀は少し驚いてしまう。

 

 

かるら「何を言うとるんじゃマトラ!妾たちには仲居殿から頼まれた買いものがあるじゃろ!こんなところで道草を食っとる場合か!」

 

 

かるらは仲居さんから頼まれた買いものをほったらかしにして遊ぼうとするマトラを叱る。

 

 

マトラ「いいじゃねぇかよ別に。まだ5時もなってないんだしよ」

 

かるら「しかしじゃな・・・!」

 

 

かるらはなんとかしてマトラを説得紹介とするが、

 

 

秋宗「・・・まぁ食品とかもないし、別に遅くなっても大丈夫か」

 

かるら「秋宗!?」

 

夜々「・・・バスケやりたい」

 

千紗希「夜々ちゃんまで!?」

 

 

秋宗がベンチにビニール袋を置いてコートに入り、それにつられて夜々もコートに入った。

 

 

秋宗「お嬢、別に遅くなっても仲居さんなら許してくれるって。たかが寄り道程度なんだからよ」

 

夜々「千紗希たちもやろう」

 

 

秋宗と夜々はかるらと雲雀と千紗希を誘い、

 

 

かるら「・・・少しだけじゃぞ」

 

千紗希「しょうがないなぁ・・・」

 

雲雀「もう、みんなやるなら雲雀もやらなきゃいけないじゃん!」

 

 

3人は渋々コートの中に入っていった。

 

 

秋宗「じゃあルールを決めるぞ。制限時間は40分、3人VS3人のチームで勝負。但し、猫神を召喚したり、忍術使ったり、羽で飛んだり、他心通で心を読むのは禁止。あくまで自身の身体能力だけでバスケをすること。このルールでいいか?」

 

マトラ「おう!問題ないぜ!」

 

 

秋宗の簡単なルール説明にマトラを始めて、他の4人も異論はないようだ。

 

 

秋宗「じゃあまずチームから決めるぞ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

チーム分けは、秋宗・マトラ・千紗希チームと、かるら・夜々・雲雀チームに分けられた。

 

 

秋宗「よし、じゃあ早速始めるか。宮崎、ボールトス頼む」

 

千紗希「う、うん」

 

 

秋宗からボールトスを頼まれた千紗希はボールを持ち、コートの中央へ立った。

 

ジャンプボールは秋宗と夜々がすることになった。

 

 

雲雀「夜々ちゃん頑張って~!」

 

マトラ「秋宗ー!ちゃんとこっちに回せよー!」

 

 

雲雀とマトラから応援を受けた二人は、なんとしても取ろうという熱意を出した。

 

 

千紗希「じゃあいくよ、せーのっ!」(ヒュッ

 

 

千紗希がボールを真上に上げたことにより、試合が始まった。

 

秋宗はオオカミの脚力で飛び上がり、負けずに夜々も小柄な体格とは裏腹に猫の脚力で飛び上がった。

 

空中で、二人は同時にボールに触れて、

 

 

バチッ

 

 

ボールが二人の手からこぼれ落ちてしまい、

 

 

かるら「もらったのじゃ!」(パシッ

 

 

偶然にもかるらの前へと転がり、かるらはキャッチしてドリブルでゴールまで向かっていった。

 

 

マトラ「行かせねぇよ!おひいさん!」(バッ

 

 

そこへ、マトラが立ちふさがり、かるらの進行を阻止した。

かるらはドリブルをやめてボールを持ち、

 

 

かるら「・・・そこじゃ!」(ビュッ

 

雲雀「よ~し!まずは先制!」(パシッ シュッ

 

 

ガコンッ

 

 

かるらが雲雀へパスを出して、雲雀が即座にシュートを決めた。

 

 

夜々「ナイスシュート!」

 

雲雀「楽勝だね!」

 

かるら「このまま流れを妾たちのものにするぞ!」

 

 

元々乗り気ではなかったかるらと雲雀もバスケが始まると、すっかり熱中してしまった。

 

 

マトラ「しまった~、まさかおひいさんがパスするなんてな~」

 

秋宗「落ち着けよ姐さん、まだ始まったばかりだ、落ち着いていこう。宮崎もな」

 

千紗希「な、なるべく足を引っ張らないように頑張るね」

 

 

秋宗がマトラへスローインして、試合が再開させた。

 

 

マトラ「んじゃ、やるか」

 

 

マトラはドリブルをしながら体制を低くして、

 

 

ビュォッ! ガコンッ!

 

 

かるら「なぁ!?」

 

雲雀「ちょっ!?」

 

夜々「ッ!?」

 

 

マトラは素早いドリブルであっという間に3人を抜き去り、ダンクシュートを決めた。

 

 

秋宗「姐さんナイス!」

 

 

パァン!と秋宗とマトラはハイタッチをした。

 

 

雲雀「ちょっと!何今の速さ!?ズルいよ!」

 

 

雲雀はマトラのプレイに抗議をしたが、

 

 

マトラ「ズルい?アタシは自分の身体能力だけで点を入れただけだぜ?」

 

秋宗「確かに、ルールでもそう言ったしなぁ」

 

 

クックックッと秋宗とマトラは憎たらしい表情のまま嘲笑った。

 

 

雲雀「ぐぬぬ~!」

 

かるら「おのれ・・・!ルールをしっかり決めて置くべきじゃった!」

 

 

雲雀とかるらは悔しそうな表情を浮かべていた。

 

 

秋宗「さぁてと・・・」

 

マトラ「ここからが本番だぜぇ」

 

千紗希「なんだか、こっちが悪者になってる気が」

 

 

千紗希が苦笑いを浮かべながらも、秋宗とマトラの目はギラギラ光っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~20分後~

 

86ー28で、秋宗・マトラ・千紗希チームが大きくリードしていた。

 

あれから秋宗とマトラの高速のドリブルやダンク、千紗希のシュートなどで点差が開いてしまった。

 

 

かるら「はぁ、はぁ、はぁ」

 

雲雀「つ、強すぎるよぉ~・・・」

 

夜々「ふぅ・・・」

 

 

かるらは膝に手を置き、雲雀は膝をコートについてしまい、夜々は服で汗を脱ぐって、3人とも疲れが見えてきている。

 

 

マトラ「よぉーし!これもうアタシらの勝ちだな!」

 

秋宗「点差も60点近く開いてるしな。これも姐さんと宮崎のおかげだな」

 

千紗希「わ、私は特に何もしてないよ」

 

 

一方、秋宗たちは勝利を確信して、余裕である。

 

 

かるら「ま、まだじゃ・・・!まだ勝負は決まっとらんぞ・・・!」

 

 

かるらはまだ諦めておらず、試合を続けようとする。

 

 

秋宗「諦めが悪いな、お嬢。もうここから逆転は不可能に近い。降参した方が楽だぜ?」

 

 

 

 

 

???「でも、最後まで諦めなければ勝てる試合もあります」

 

 

 

 

 

突如、聞き覚えのない声が全員の耳に入った。

 

秋宗は「ん?」と思い隣を見ると、そこには、水色の髪に水色の目、秋宗より背が低く、白のジャージを着ている少年が立っていた。

 

 

秋宗「・・・うおぉ!?ビックリした!」

 

 

いつの間にか隣にいた少年に秋宗を始めて、かるらたち全員が驚いてしまう。

 

 

かるら「な、なんじゃあやつは?」

 

雲雀「いつからいたの!?」

 

夜々「全然気づかなかった・・・」

 

千紗希「いつのまに・・・!」

 

 

全員がそれぞれの感想を口に出していた。

 

 

マトラ「なんだよお前?いきなり出て来て大層なこと言いやがって・・・」

 

 

マトラはいきなり現れた少年に近づいて見下した。

 

少年は臆することなくマトラの目を見ながら、

 

 

???「僕も入っていいですか?」

 

マトラ「・・・は?」

 

???「彼女たちのチームに、僕も入っていいですか?」

 

 

少年はかるらたちに視線を移して、試合に入れてほしいと言ってきたのだ。

 

 

マトラ「・・・どうする秋宗?」

 

秋宗「・・・別にいいぜ。誰でも歓迎してやるよ」

 

 

マトラは秋宗に確認をとり、秋宗はあっさり了承した。

 

 

秋宗「ところで名前は?そのジャージ、ここじゃあ見かけないけど」

 

黒子「申し遅れました。誠凛高校バスケ部1年、黒子テツヤです。合宿でこっちに来ました。」

 

 

秋宗の質問に、少年は黒子と名乗った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

かるらチームに雲雀と交代して黒子が参加することとなり、試合が再開された。

 

夜々のスローインで黒子にボールが渡り、ドリブルしてゴールへ向かったが、

 

 

マトラ「もーらいっ」(バシッ!シュッ

 

 

ガコンッ

 

 

マトラに呆気なくカットされてしまい、シュートを決められてしまう。

 

 

雲雀「簡単に取られちゃったよ!」

 

 

観戦していた雲雀は思わず声をあげてしまう。

 

 

マトラ「あんだけ言っておきながら、あの黒子とかいうやつ、たいしたことねぇな」

 

秋宗「あぁ、そこまで警戒しなくていいだろ」

 

 

マトラも秋宗も黒子を完全に軽視していた。

 

 

かるら「何あっさりボール取られとるんじゃ己は!」

 

黒子「す、すみません。少し様子を見てました」

 

 

あっさりカットさせた黒子の胸ぐらを掴みながら、かるらは怒っていた。

 

 

黒子「あの、次は適当にパスくれませんか?」

 

夜々「・・・わかった」

 

かるら「次とられたらタダじゃ置かんぞ」

 

 

黒子の作戦に夜々は承諾して、かるらは手を離した。

 

かるらのスローインで夜々にボールが渡った。

そして、夜々の視界に黒子が入りパスを出すと、

 

 

 

 

 

スパッ パシッ

 

 

 

 

 

かるら「・・・え?」

 

 

いつの間にか、ボールがかるらの手の中にあり、かるら自身も何が起きたのか理解出来なかった。

 

 

黒子「シュート!」

 

かるら「あ、あぁ!」(シュッ

 

 

ガコンッ

 

 

かるらはシュートを決めた。

 

 

マトラ「・・・秋宗、今何が起こった?」

 

秋宗「分かんねぇ。気がついたらいつの間にかお嬢がボール持ってて、宮崎は分かったか?」

 

宮崎「ううん、私も分からなかった」

 

 

秋宗たちも何が起こったのか分からなかった。

 

マトラのスローインで秋宗にボールが渡った。

 

 

秋宗(ここは取り敢えず・・・)「宮崎!」(シュッ

 

 

秋宗は宮崎にパスを出した。

 

すると秋宗は、ふと思った。

 

 

 

 

 

秋宗(あれ?そういや黒子どこにいる?)

 

 

 

 

 

次の瞬間、

 

 

 

 

 

スパンッ!!

 

 

 

 

 

秋宗「はぁ!?」

 

宮崎「えぇ!?」

 

マトラ「いつの間に!?」

 

 

なんと宮崎の前にいきなり黒子が現れて、まるでボールを弾き飛ばすかのように夜々へパスを出した。

 

 

夜々「えいっ!」(シュッ

 

 

ガコンッ

 

 

夜々は呆気に取られている秋宗たちをよそに、シュートを決めた。

 

 

黒子「ナイスシュートです」

 

夜々「・・・ありがとう」

 

 

黒子に褒められて、夜々は少し照れていた。

 

 

マトラ「アイツ今何処から出てきた!?」

 

千紗希「気がついたら、いつの間にか・・・!」

 

 

マトラも千紗希も何がなんだか理解出来ない様子だ。

 

 

秋宗「・・・まさか、影の薄さを利用してパスを出すなんて」

 

 

秋宗は黒子の警戒を高めた。

 

 

黒子「さぁ、反撃開始です」

 

かるら「・・・ここから逆転じゃ!」

 

夜々「勝てる・・・!」

 

雲雀「みんなー!頑張ってー!」

 

 

かるらチームの士気も高くなってきた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~40分後~

 

あれから秋宗たちは黒子のパスに翻弄されて点を取られてしまい、96-109でかるらたちが勝利をおさめた。

 

 

かるら「ふははは!どうじゃマトラ!秋宗!これが妾の実力じゃ!」

 

秋宗「いや、お嬢の実力じゃないから。ほとんど黒子の活躍でそっちが勝てたんだからな」

 

 

堂々としているかるらに、秋宗は冷静に突っ込んだ。

 

 

マトラ「お前すげぇな!あんなパスを出すなんて!」(ワシャワシャ

 

黒子「・・・あの、すみません、少しやめてもらっていいですか?」

 

雲雀「ちょっと!黒子くん気分悪そうだよ!」

 

 

マトラは黒子の頭を掻き撫でて、黒子は頭が大きく揺れて、雲雀は慌てて止めようとしている。

 

 

千紗希「ところで、黒子くんはどうして緋扇さんたちのチームに入ったの?」

 

夜々「・・・気になる」

 

 

千紗希と夜々の質問に黒子は答えた。

 

 

黒子「あまりにも一方的な試合だったので、流石に見ていられませんでした」

 

千紗希「た、確かに、一方的だったもんね」

 

 

千紗希も思わず苦笑いをした。

 

すると黒子は、スマートフォンを取り出して時間を確認した。

 

 

黒子「すみません、もう時間ですので、ぼくはこの辺で」

 

秋宗「もう行くのか?」

 

黒子「はい、監督に怒られてしまいますので」

 

かるら「それじゃあ仕方ないのう」

 

 

秋宗たちはベンチに置いてあったビニール袋を持ち、コートから出た。

 

 

黒子「では、失礼します。皆さんとのバスケ、楽しかったです。次会ったら、またやりましょう」

 

 

黒子は秋宗たちにお辞儀をして、町へと歩いて行った。

 

 

秋宗「じゃあなぁ~!」

 

マトラ「今度は負けねぇからなぁ~!」

 

かるら「・・・風のように現れて、風のように去っていったのう」

 

雲雀「すごく有名な選手なのかな?」

 

千紗希「不思議な人だったね」

 

夜々「でも、楽しかった」

 

 

秋宗たちは黒子の背中を見送った。

 

 

秋宗「・・・じゃあ、ゆらぎ荘に戻るか」

 

かるら「うむ、そうじゃのう」

 

マトラ「体動かしたから腹減ったなぁ」

 

雲雀「千紗希ちゃん!折角だからゆらぎ荘でご飯食べようよ!」

 

千紗希「い、いいのかな?」

 

夜々「むしろ来てほしい。こゆずも喜ぶ」

 

 

6人は歩きながら、ゆらぎ荘へ向かった。

 

その後、秋宗がバスケット界の『キセキの世代』の『幻のシックスマン』と呼ばれた人物が誰なのかを知るのはまた別の話である。

 

 

 




以上、きつね蕎麦さんより、黒子のバスケのコラボでした!

まだまだコラボ作品を考えて行きたいと思いますので、リクエストを大募集しています!

ご応募、お待ちしております!


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第15話 不良の後輩

3月の末、湯煙高校は春休み期間に入っていた。

 

秋宗にとっては、ゲームを長時間できる至福の期間なのだが、2日間徹夜してゲームをしてしまい、仲居さんから『ゲームばかりしていたら目を悪くします!今日は1日外出してきてください!』と注意を受けてしまい、今日は仕方なく町のショッピングモールの方に来ていたのだ。

 

春休み期間のためか、ショッピングモールには、秋宗と同級生の人たちも沢山いた。

 

 

秋宗「さてと、どうしよう。ゆらぎ荘には戻れないし、かといってここですることも限られてくるしなぁ」

 

 

秋宗は辺りを見回して何かないかと探していると、ふと視界に、コガラシと千紗希、兵藤と柳沢の姿が見えた。

 

 

秋宗「よぉ、お前らここで何してんだ?」

 

 

秋宗は歩きながら4人に声をかけた。

 

 

コガラシ「あ、西条!」

 

千紗希「西条くんまで来たの?」

 

柳沢「兵藤、お前西条にまで声かけたのかよ?」

 

兵藤「いや、俺は誘ってねぇぞ?」

 

 

秋宗は4人の会話に疑問を持ち、率直に聞いてみた。

 

 

秋宗「西条くんまでって、一体何をして・・・ん?」

 

 

秋宗は4人以外にもう一人居ることに気がついた。

 

長髪の金髪に頭からアホ毛が飛び出て、顔はメイクをしているのだろうが目付きが少し鋭く、スカジャンを羽織っており、小柄な女の子が柳沢の側にいた。

 

おそらく、女の子が小柄なせいで遠くから見ても気づけなかったのだろう。

 

 

秋宗「えっと、その子、誰?」

 

柳沢「あぁ、紹介しとくよ西条、コイツは・・・」

 

???「初めまして!自分は轟紫音と申します!今年から湯煙高校1年ッス!」

 

 

柳沢が紹介する前に、女の子、轟紫音は元気よく自己紹介をした。

 

 

秋宗「お、おう、よろしく。コガラシ、この子一体?」

 

コガラシ「えっと、実はだな・・・」

 

 

紫音の自己紹介に呆気に取られてた秋宗に、コガラシは事情を説明した。

 

柳沢は中学3年に千紗希と兵藤の中学校に転校する前は、有名な不良学校、仙石中学校(略してゴクチュー)でアタマを張っていたらしいのだ。

その当時の柳沢の後輩である紫音が、今年から湯煙高校に入学することになったらしく、今日は柳沢が千紗希を誘って会うことになっていた。

偶然にも兵藤がその時の会話を聞いていて、心配になりコガラシに声を掛けて様子を見に来たのである。

 

 

秋宗「おい、だったら何で俺にも声掛けなかったんだよ?」

 

兵藤「お前を誘っても『ゲームで忙しい』って言いそうだっから」

 

千紗希「確かに西条くんだったら言いそうだね」

 

 

兵藤が秋宗を誘わなかった訳を話し、千紗希は思わず笑ってしまう。

 

 

秋宗「兵藤、お前なぁ・・・」

 

紫音「あの、芹姐さんの同級生の方ッスか?」

 

 

呆れている秋宗に、紫音は話しかけた。

 

 

秋宗「あぁ、西条秋宗だ、これからよろしくな、轟」

 

紫音「よろしくお願いします!西条さん!」

 

 

紫音は勢いよく頭を下げた。

 

 

紫音「あの皆さん!あそこでちょっと休まないッスか!?自分飲み物とか買って来るッス!」

 

千紗希「あ、うん、そうしよっか」

 

 

紫音はカフェを指差して休憩しようと提案して、みんなは賛成した。

 

 

紫音「あの、西条さん!ちょいとツラぁ貸してもらえるッスか・・・!?」(ゴゴゴ・・・

 

秋宗「お、おう・・・?」

 

 

おそらく、一人で飲み物全部持つのは大変だから一緒に持ってほしい、とのことだろうが、紫音の目付きが急に鋭くなった為、第三者から見れば校舎裏まで来させてカツアゲをする光景にしか見えない。

 

秋宗と紫音は飲み物を買いにレジまで行き、コガラシと千紗希と兵藤と柳沢は空いているテーブル席に着いた。

 

秋宗と紫音が並んでレジの順番を待っていた。

 

 

秋宗「それにしても轟、あのゴクチューの番長とは思えないな。どこにでもいる学生って感じだけど」

 

紫音「いやぁ、実は自分、高校デビューしたくて、でも普通の女の子ってどういう感じなのかよくわからなくて。芹姐さんに相談したら、千紗希姐さんがバッチリ決めてくれたんッスよ!」

 

 

紫音の前の服装は、髪型はリーゼントで黒いマスクを着け、目付きもかなり鋭く、正に漫画から飛び出して来たヤンキーそのものだった。

 

それを千紗希が今風の女子高生らしく直したのだ。

 

 

紫音(ホントに千紗希姐さんには感謝しきれないッス!恩返しのためにもあの事を聞き出さなければ!)

 

 

あの事とは、コガラシの好きな人の事である。

 

千紗希がコガラシに対して好意を抱いている事を柳沢から聞いたのだが、実際にコガラシの好きな人までは分からない。

 

そこで紫音は、千紗希への恩返しのために秋宗からコガラシの好きな人を聞き出そうとしているのだ。

本人に聞いても、しらばっくれそうと考えたかららしい。

 

紫音は勇気を振り絞り、秋宗に話しかけた。

 

 

紫音「あ、あの西条さん・・・!」

 

???「紫音姐さん!?」

 

 

突然誰かから声を掛けられて秋宗と紫音が振り向くと、そこにはゴクチューの制服を着ている2人の女子がいた。

 

 

紫音「お、おまえらなんでここに・・・!?」

 

秋宗「知り合い?」

 

紫音「え、えぇ、コイツらは自分の後輩でして」

 

 

紫音は簡単に自分の後輩たちを秋宗に紹介した。

 

 

後輩1「やっぱり紫音姐さんだ!どうしたんスかそれ!?イメチェンッスか!?」

 

後輩2「スッゲー可愛くなってるじゃないッスか紫音姐さん!」

 

 

後輩たちは紫音のイメチェンに大変驚いていた。

そして今度は秋宗に視線を移した。

 

 

後輩1「まさかこちら彼氏さん!?」

 

後輩2「紫音姐さんにこんなに早く彼氏さんができるたぁ・・・!今夜はお赤飯ッスね!」

 

紫音「バッ・・・ちがうッつの!」

 

 

後輩たちから秋宗を自分の彼氏と思われた紫音は慌てて否定した。

 

 

後輩1「ウチらがあんまりお邪魔しちゃ悪いッスね!紫音姐さん泣かせたら酷いッスからね彼氏さん!」

 

後輩2「そんじゃお幸せに~」

 

紫音「だからちげぇっつんてんだろぉ!」

 

秋宗「まぁまぁ落ち着け轟」

 

 

後輩2人は走り去り、からかわれた紫音は今にも追いかけそうな雰囲気だったが、秋宗が落ち着かせていた。

 

 

紫音「す、すみませんッス!」

 

秋宗「別に気にしていないさ。でも、結構いいやつらだな。あの2人も、とてもゴクチューの不良とは思えないな」

 

 

紫音は秋宗に謝ったが、秋宗は気にせず後輩2人の様子を見て、不良とは思えないと感想を漏らした。

 

そして、レジの順番が回ってきて、人数分の飲み物を頼みトレーにのせてコガラシたちの方へ戻っていった。

 

 

秋宗「そういや轟は、不良を卒業したくて高校デビューしたいんだよな?」

 

紫音「そうッス!不良なんて誰も怖がって誰も近寄らないッスからねぇ」

 

 

秋宗と紫音は歩きながら話していた。

 

 

紫音「でも、このスカジャンもまだ脱げてないし、言葉遣いも直さないといけないんスよねぇ。けどこれ着てないと落ち着かないといいますか・・」

 

 

紫音は困ったようにため息をついてしまう。

 

そんな紫音の様子を見て秋宗は、

 

 

秋宗「・・・そのままでもいいんじゃないか?」

 

紫音「えっ・・・?」

 

 

無理に変えなくてもいいと言った。

 

 

秋宗「人にはそれぞれの魅力が必ずあるんだ。そしてその魅力を理解する人も必ずいる。だから無理に変えるよりも、轟の魅力をアピールした方がいいと思うけど」

 

 

秋宗の言葉に紫音は少し頬を赤くしていまい、

 

 

紫音「そ、そういう訳にはいかないッスよ!自分は不良を卒業して高校デビューするんスから!」

 

秋宗「・・・まぁ、別にいいけど。そこは轟が決めることだからな」

 

 

紫音は自分の不良らしさを完全に直すと言いきった。

 

 

紫音(そうッス!そんな簡単な話じゃないんスよまったく・・・!ていうかさっきからなんかドキドキしてないッスかこれ!?アイツらが彼氏なんて変なこと言うから・・・!)

 

 

紫音は先ほどの後輩たちの言葉を意識していまい、緊張してきていた。

 

 

秋宗「そういや轟、なんか俺に言いたいことがあるんじゃなかったのか?ほら、お前の後輩たちが話しかける前」

 

紫音「あっ!そうでした!実はお聞きしたいことが・・・!」(ブーッ!ブーッ!

 

 

紫音があの事を聞き出そうとしたとき、紫音のスマホのバイブがなり、紫音がスマホを取り出して確認した。

それと同時に紫音の顔が険しくなった。

 

 

秋宗「・・・どうした?何かあったのか?」

 

紫音「・・・西条さん!すみませんがこれお願いするッス!野暮用できたんで芹姐さんたちにはよろしく伝えて置いて下さい!」(ダッ

 

秋宗「おいっ!轟!」

 

 

紫音は秋宗にトレーを渡して駆け出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

場所は変わり、ショッピングモール裏の自販機のあるところでゴクチューの制服を着ている不良たちが集まっていた。

その中には先ほどの紫音の後輩たちもいたが、2人ともボロボロの状態で2人の不良に押さえられていた。

その中に1人、黒髪の長髪に頭を団子で纏め、黒いマスクを着けて、目元をメイクで目付きを鋭くしたスケバン風のゴクチューの女子がスマホを見ながら笑っていた。

 

 

???「くくっ、紫音にアンタらのザマを送りつけておいてやったよ」

 

後輩1「くっ!アズサ!テメェってやつは!」

 

後輩2「どこまでも紫音姐さんの邪魔を・・・!」

 

 

彼女の名前はアズサ。ゴクチューのナンバー2で紫音のことが気にくわないらしく、度々ちょっかいを出していた。

 

なぜこんなことになったのかというと、後輩たちが紫音の高校デビューを話していたところを偶然にもアズサが聞いてしまい、後輩たちから紫音のことを詳しく聞き出して、紫音を誘き出すように後輩のスマホで今の状況を撮って送ったのだ。

 

 

後輩1「やり方が汚ねぇんだよテメェ!」

 

後輩2「タイマン張れやコラァ!」

 

 

後輩たちがギャーギャー騒いでいると、アズサは側にいた2人の仲間の内の1人が持っていた金属バットを手に取り、

 

 

アズサ「ったく、ギャーギャーギャーギャー、うっせぇーんだよ!」(ブンッ

 

 

バットを後輩たち目掛けて振り下ろした。

 

バットが当たる直前、

 

 

ドゴォンッ!

 

 

何者かが突然アズサの顔目掛けて飛び蹴りをお見舞いした。

その拍子にアズサは吹き飛ばされて倒れてしまう。

 

飛び蹴りをしたその正体は、

 

 

後輩たち『し、紫音姐さん!!』

 

 

地面に着地すると同時にアズサを睨み付けた。

紫音がメールを見た後、すぐに駆けつけて来たのだ。

 

 

アズサ「・・・いよぉ紫音、聞いたよぉ?喧嘩なんてしていいのかい?」

 

 

アズサはまるで蹴りが効いていないかのように、立ち上がった。

 

 

アズサ「不良は卒業するんだろう?コイツらなんかほっておいてデートでもしてりゃあいいじゃねぇか」

 

 

アズサはニタァと笑いながら紫音を嘲笑っていた。

 

 

紫音「・・・ほっとく?ありえねーッスから」

 

 

紫音は後ろにいる後輩たちを親指で指して、

 

 

紫音「不良は卒業しても、コイツらのダチまでは卒業する気はねーんスよ!」

 

後輩2「し、紫音姐さん・・・!」

 

 

紫音の後輩思いの発言に、後輩たちは嬉しくて涙目になってしまう。

 

 

アズサ「ハッ、紫音!アンタのそういうところがキライなんだよ!いっそ人生まで卒業させてやるよぉ!」

 

 

アズサが側にいる2人の仲間に指示を出すと、2人が紫音目掛けてバットを振り下ろした。

 

咄嗟のことに紫音は反応が遅れてしまい、目を瞑り、動けなくなってしまう。

 

 

バキィンッ!

 

 

バットで叩く音が響くが、紫音にはその衝撃が来なかった。

 

紫音は恐る恐る目を開けると、

 

 

秋宗「よぉ、無事か轟?」

 

紫音「さ、西条さん!?」

 

後輩1「紫音姐さんの彼氏さん!?」

 

アズサ「なっ・・・!?」

 

 

なんと、目の前に秋宗がいたのだ。

 

秋宗は紫音を庇うように前に立ち、バット2本を左腕1本で盾のように防いでいた。

 

あの後、ただ事じゃないのを察した秋宗は、コガラシたちに飲みのもを渡して紫音を探していたのだ。

そして紫音を見つけて、即座に駆けつけたのである。

 

そして秋宗がバットを振り払うと同時に、アズサの仲間たちはその拍子で尻餅をついてしまう。

 

 

「あ、あいつ今!左腕だけでバット防いでなかったか!?」

 

「腕折れてもおかしくないだろ!?なんで平気なんだよ!?」

 

 

後輩2人を取り押さえていたアズサの仲間たちも突然現れた秋宗にも驚いたが、バットを防いで無事なことにも驚いていた。

 

秋宗は周りの状況を見渡して轟の方を見た。

 

 

秋宗「轟としてはコイツらと仲間と思われたくないってことなんだろうけどさ、どんな格好していようが、どんな噂が広がっていようが、理解してくれているヤツはいるさ。少なくともこの場に3人はな」

 

紫音「ッ!・・・」

 

 

秋宗の言葉に紫音は嬉しく思った。

初対面にもかかわらず、ここまで言ってくれる人などそうはいないからだ。

 

 

アズサ「ア、アンタが紫音の彼氏・・・!?」

 

秋宗「いや、俺は轟の彼氏じゃねぇよ」

 

 

秋宗は振り向いて、今度はアズサの方を見た。

 

 

秋宗「もう今後一切、轟や、轟の後輩たちに関わるのはやめろ」

 

アズサ「ふ、ふざけんな!なんで赤の他人のヤツの言うこときかなきゃいけねぇんだよ!」

 

 

秋宗の言うことを素直に聞く気のないアズサは落ちているバットと拾って秋宗に向けた。

 

 

秋宗「・・・言うこと聞く気はないってか?」

 

アズサ「当たりめェだろうが!」

 

 

気がつくと、秋宗はアズサの仲間たちにも囲まれていた。

後輩たちを取り押さえていた2人も含めて。

 

 

紫音「西条さん!」

 

 

紫音が心配するも、秋宗は動じなかった。

 

 

秋宗「・・・警告としてもう一度言うぞ?」

 

『!!??』

 

 

その場の全員が秋宗を見て驚きを禁じ得なかった。

 

なぜなら、秋宗の顔がどんどん変わっていっているからなのだ。

 

 

秋宗「今後一切、轟や、轟の後輩たちに関わるのはやめろ。もう一度こんなことしてみろ・・・。次はテメェら全員の喉を噛みちぎって肉の塊にするぞ・・・!!」

 

 

秋宗は完全にオオカミ人間の姿になり、グルルルと唸りアズサたちをにらんだ。

まるで獲物を狙う獣のように。

 

 

アズサ「ば、ば、化け物だぁー!?」

 

 

アズサは秋宗の姿を見て涙目になり、殺されると思いその場から逃げてしまった。

 

 

「ア、アズサさーん!」

 

「置いてかないでくださいよぉー!」

 

 

アズサの仲間たちも追いかけるように走り去ってしまった。

 

 

秋宗「ふぅ・・・」

 

 

秋宗はオオカミ人間から、普通の人間へと戻っていった。

 

 

紫音「さ、西条、さん・・・!?」

 

 

紫音は恐る恐る秋宗に声を掛けて、秋宗は紫音たちの方を振り向いた。

 

 

後輩1「か、彼氏さん・・・!?」

 

後輩2「アンタ一体、何者ッスか!?」

 

 

後輩たちから質問された秋宗は、

 

 

秋宗「あぁ、俺、オオカミ人間だから」

 

 

さらっとカミングアウトをした。

 

 

紫音たち『・・・えぇぇぇぇぇぇ!!??』

 

 

紫音たちは秋宗があっさり正体を暴露したらことに驚いて声をあげてしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

あの後、後輩たちと別れた秋宗と紫音はコガラシたちのところへ戻るために並んで歩いていた。

後輩たちには一応、秋宗がオオカミ人間であることを内緒にしておくようにと、本人が頼んでおいた。

アズサたちには頼まなかったが、多分話しても誰も信じないだろう。

 

 

紫音「まさか秋宗兄さんがオオカミ人間なんて、まだ信じられないッスよ」

 

秋宗「まぁ無理もないか、でも轟も絶対誰にも言うなよ?正体知ってるヤツも何人かいるけど」

 

 

紫音は歩きながら秋宗のオオカミ人間について話していた。

 

 

紫音「・・・自分、気にしすぎたのかもしんないッスね。でもやっぱりかわいい格好したいんで今くらいがちょうどいいのかもしれないッス!」

 

秋宗「ま、そこはゆっくり決めたらいいさ、ってあれ?」

 

紫音「どうしたんスか?」

 

 

秋宗は思い出したかのように立ち止まった。

 

 

秋宗「そういや轟、俺のこと名前で呼んだか?」

 

紫音「先輩っ呼んだ方がいいッスか?」

 

秋宗「いや、別にいいけど・・・。俺も名前で呼んでいいか?」

 

紫音「え?」

 

 

紫音は目を丸くしてしまう。

 

 

秋宗「お互い名前で呼ばないと不公平な気がするからさ、いいか?」

 

紫音「・・・いいッスよ!高校入ったらよろしくッス!秋宗兄さん!」

 

秋宗「おう!よろしくな、紫音」

 

 

秋宗と紫音は笑いながら、コガラシたちのところへ戻って行った。

 

しかし、紫音の内心は、

 

 

紫音(な、なんでドキドキが止まらないんスか!?///こ、これってまさか・・・!?///)

 

 

彼女の高校生活が始まると同時に、彼女の新しい何かが始まったのかもしれない。

 

 

 




投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
感想のほど、お願いいたします。


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第16話 秋宗の料理教室

今回はオリジナル回です


かるら『それで、その轟紫音という輩は、コガラシ殿に好意を抱いておるのか?』

 

 

秋宗「いや、俺が見た感じ、紫音はコガラシのことが好きって感じじゃなさそうだ」

 

 

 

ゆらぎ荘の秋宗の自室にて、秋宗はスマホ越しでかるらに定期報告をしていた。

その内容は、新しい後輩の紫音についてだった。

 

4月になり、昨日、湯煙高校は入学式を迎えた。

入学生の中には、夜々と紫音の姿もあった。

紫音がゴクチューの番長である噂が広まっていた為、クラスメイトたちは紫音を避けていた。

しかし、夜々と夜々の中学校からの友人の日暮なずなと仲良くなり、クラスにも少しずつ馴染んでいった。

 

 

 

かるら『そうか、なら安心じゃな!これ以上コガラシ殿に好意のある輩が増えてはたまらんからのう』

 

 

秋宗「そういやお嬢、バイト先でのコガラシとの進展はあったか?」

 

 

かるら『うむ!もうコガラシ殿と話すことにも慣れて、足手まといも卒業できたぞ!』

 

 

 

かるらが嬉しそうに自慢をした。

 

 

 

秋宗「ならよかった。じゃあお嬢、そろそろ切るから、姐さんにもよろしく言っといてくれ」

 

 

かるら『分かったのじゃ。ではまたのう』(ピッ

 

 

 

通話が切れたことを確認すると、秋宗は部屋から出て、厨房へと向かった。

 

少し小腹が減ったため、何か摘まむものがないかと思ったからなのだ。

 

秋宗が厨房へ入ると、厨房には誰もおらず、調理器具や皿などが綺麗に並べられていた。

 

 

 

秋宗「さてと、何か摘まめるものはあるかな?」

 

 

 

秋宗が冷蔵庫の中を確認しようとすると、調理台の上にあるものが置かれていることに気がついた。

 

 

 

秋宗「・・・これって、確か」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~午後7時~

 

外も暗くなり、ゆらぎ荘には灯りがついていた。

 

夕飯の時間となったため、コガラシたちは大広間へ向かっていた。

 

 

 

コガラシ「あぁ~、腹減ったなぁ~・・・」

 

 

呑子「コガラシちゃん、今日は相当疲れてるみたいねぇ」

 

 

幽奈「大丈夫ですか?コガラシさん?」

 

 

狭霧「少し休みを取ったらどうだ?」

 

 

 

コガラシの顔から疲れが取れていないのが伺え、幽奈たちは心配していた。

 

 

 

夜々「・・・ッ!クンクン」

 

 

 

すると夜々が漂っている匂いに気がついた。

 

 

 

夜々「いい匂い・・・!」

 

 

雲雀「ホントだ!すごくいい匂いがするよ!」

 

 

朧「今日は一体なんだ?」

 

 

こゆず「楽しみ~!」

 

 

 

大広間から漂っている匂いに、コガラシたちの空腹が更に増してきた。

 

大広間の襖を開けると、

 

 

 

仲居さん「あ!皆さんお揃いですか?」

 

 

秋宗「もう夕飯できてるから座っとけ」

 

 

 

仲居さんと秋宗がちょうど料理を机に並び終えていた。

 

机は、大皿に盛られた酢豚や麻婆豆腐、野菜炒めなどの中華料理で埋めつくされていた。

 

 

 

こゆず「うわ~!おいしそ~!」

 

 

呑子「今日は中華なのねぇ」

 

 

コガラシ「これ全部仲居さんが作ったんすか?」

 

 

 

みんなは中華料理を見て目を輝かせており、コガラシは仲居さんに質問した。

 

 

 

仲居さん「いえ。実はこれ全部、秋宗くんが作ったんですよ」

 

 

コガラシ「西条が?」

 

 

 

コガラシたちは秋宗の方を見た。

 

 

 

秋宗「まぁな。仲居さんにはいつも世話になってるし、たまにはゆっくりさせようと思ってな」

 

 

 

実際、仲居さんが厨房に入った時には、既に秋宗が料理を作っており、手伝おうとしたものの、『今日は俺が作りますから、ゆっくりしといてください』と言われたため、仲居さんは秋宗に任せたのだ。

 

 

 

幽奈「ゆっくりできてよかったですね、仲居さん」

 

 

狭霧「・・・西条秋宗、何か変なもの入れてるんじゃないだろうな?」

 

 

雲雀(狭霧ちゃん!人のこと言えないからね!)

 

 

 

全員が座り、手を合わせて、

 

 

 

『いただきまーす!』

 

 

 

と、同時にコガラシが麻婆豆腐を自分のさらによそいで恐る恐る口の中へ運んだ。

みんなが麻婆豆腐を食べたコガラシの様子を確認すると、

 

 

 

コガラシ「ッ!うまい!」

 

 

 

思ったよりも麻婆豆腐の味が美味しかったコガラシは食リポのように声を出した。

 

みんなはコガラシの様子を確認すると、一斉に麻婆豆腐や酢豚、野菜炒めを自分の皿によそいで食べた。

 

 

 

夜々「おいしい・・・!」

 

 

雲雀「麻婆豆腐ちょっと辛いけど、辛さがクセになりそう!」

 

 

呑子「酢豚の酸っぱさ加減も絶妙ねぇ!お酒のおつまみに合うわぁ!」

 

 

こゆず「野菜炒めもすごくおいしい!手が止まらないよぉ!」

 

 

朧「これは箸が進むな」

 

 

狭霧「く、悔しいが、うまいと言わざるを得ないな・・・!」

 

 

幽奈「秋宗さん!料理お上手なんですね!」

 

 

仲居さん「秋宗くんの作る味噌汁も美味しいですけど、こちらの中華料理も絶品ですね!」

 

 

 

みんなは秋宗の料理を大絶賛して、秋宗は少し照れてしまう。

 

 

 

秋宗「へへっ。気に入ってもらえてよかった。実はこの中華料理、ある食材が全部の料理に入ってるんだが、何か分かるか?」

 

 

コガラシ「ある食材?」

 

 

 

コガラシたちは料理をよく味わって、考えてみた。

 

 

 

雲雀「なんだろう?レモンって訳でもなさそうだし・・・」

 

 

仲居さん「うーん、唐辛子は麻婆豆腐にはいってますけど・・・」

 

 

朧「西条、一体何が入っているのだ?」

 

 

 

すると秋宗の口からとんでもない言葉が出てきた。

 

 

 

秋宗「雨野家秘伝の生薬」

 

 

コガラシたち一同『ブウゥッ!』

 

 

 

コガラシたちは思わず吹き出してしまった。

 

"雨野家秘伝の生薬"とは、狭霧が料理を作る度に入れる雨野家の生薬のことである。

しかし、その味はとても苦く匂いもきついため、料理に入れると、とても食べられない味へと変貌してしまう。

コガラシたちはそれを食べて、何度も気絶したことがあるのだ。

 

 

 

コガラシ「あれが入ってるのか!?」

 

 

狭霧「言われてみれば!僅かだが雨野家秘伝の生薬の風味がある!」

 

 

雲雀「でも全然気にならないし!それにあの独特な苦味もない!」

 

 

夜々「ホントに入ってるの?」

 

 

 

コガラシたちは、あの生薬が入ってるとはとても信じられない様子である。

 

 

 

秋宗「実は、厨房に入ったら調理台に雨野家秘伝の生薬が置いてあって、これで何か上手いものでも作れないかと試行錯誤をした結果、意外にも中華料理の辛さが苦味や匂いを抑えてな、これはいけると思って出してみたんだが、誰も気がつかなかったみたいだな」

 

 

 

秋宗は自慢話をするかのうように話しだした。

 

 

 

呑子「へぇ~、中華との相性がいいのねぇ」

 

 

朧「まさかここまで苦味を抑えられるとは」

 

 

こゆず「秋宗くんすごーい!」

 

 

秋宗「だろ?」

 

 

 

コガラシたちは秋宗を褒めた。

 

 

 

狭霧「・・・・・」

 

 

 

だが、狭霧だけは秋宗に鋭い眼光を向けていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~湯煙高校~ 午前10ごろ

 

今は休み時間で、教室でコガラシたちが話しをしていた。

 

 

 

兵藤「そういや冬空と雲雀ちゃん、今日はなんだか気分がよさそうだな?」

 

 

柳沢「何かいいことでもあったのか?」

 

 

 

コガラシと雲雀がいつもよりも気分がいいことに気がついた兵藤と柳沢は、何かあったのかと質問をした。

 

 

 

コガラシ「いや、なんか朝起きたらバイトの疲れが取れてたんだ」

 

 

雲雀「雲雀も十分睡眠を取った感覚なんだよね」

 

 

 

それはコガラシと雲雀に限った話ではなく、呑子もいつもよりも早く起きて、仲居さんの肩こりも治り、ゆらぎ荘の入居者全員の体調が優れていた。

 

 

 

幽奈「・・・ひょっとして、秋宗さんがお作りになられた中華料理の効果では?」

 

 

千紗希「西条くんの、中華料理?」

 

 

 

幽奈は千紗希たちから姿が見えないため、いつもメモ帳にペンで字を書いて千紗希たちとコミュニケーションを取っていた。

幽奈が書いた文字を見て、千紗希たちは秋宗の方を見た。

 

 

 

秋宗「えっと、実はだな・・・」

 

 

 

秋宗は、昨日自分が作った"雨野家秘伝の生薬入り中華料理"について千紗希たちに説明をした。

 

 

 

千紗希「へぇー、そんなことがあったんだ」

 

 

秋宗「まぁな。そうだ、今日3人ともゆらぎ荘に来いよ。特別に作ってやるから」

 

 

兵藤「マジで!?サンキュー西条!」

 

 

柳沢「忘れんなよ?」

 

 

 

秋宗は千紗希たちに作ることを約束して、3人は楽しみにした。

 

そんな時、クラスメイトの男子生徒が秋宗を呼んだ。

 

 

 

「おーい西条、なんかお前に客が来てるけど」

 

 

秋宗「客?」

 

 

 

秋宗が扉の方を見ると、隣のクラスの狭霧が立っていた。

 

 

 

雲雀「あ、狭霧ちゃんだ」

 

 

コガラシ「珍しいな、アイツが西条に用があるなんて」

 

 

秋宗「ま、とにかく行って来るわ」

 

 

 

秋宗は狭霧のところへ歩いて行った。

 

 

 

秋宗「どうした狭霧?俺に用って?」

 

 

狭霧「・・・西条秋宗、今日の昼休み、屋上に来い。もちろん1人で」

 

 

秋宗「・・・え?」

 

 

 

突然のことに秋宗は聞き返してしまう。

 

狭霧は眼光を鋭くして、

 

 

 

狭霧「もし来なければ、貴様のゲームソフトを1つ残らず叩き割るからな」

 

 

 

そう言い残して、自分の教室へと戻って行った。

 

コガラシたちは、2人の会話を聞いていた。

 

 

 

柳沢「・・・西条、お前狭霧に何かしたのか?」

 

 

秋宗「いや、特に何もしてないんだが・・・」

 

 

 

秋宗は少しだけ考えたが、教師が入ってきたため、考えるのを後回しにした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~昼休み~

 

 

 

 

秋宗「で?急に呼び出して一体何の用だよ?」

 

 

 

屋上で、秋宗と狭霧は向かい合っていた。

 

しかし、狭霧は何か言おうとはしているものの、中々口に出せずにいた。

 

 

 

狭霧「え、えっと・・・その、だな・・・」

 

 

秋宗「・・・用がないなら戻るからな?」

 

 

狭霧「ま、待て!西条秋宗!」

 

 

 

いつまで経っても何も言わない狭霧にイラついた秋宗は教室へ戻ろうと背を向けるが、狭霧が後ろから秋宗の肩を掴んだ。

 

そして、狭霧は覚悟を決めて、口を動かした。

 

 

 

狭霧「西条秋宗・・・!私に、昨夜お前が作った料理の作り方を教えてくれ・・・!」

 

 

秋宗「・・・は?」

 

 

 

秋宗は狭霧の方を振り向いた。

 

 

 

秋宗「・・・訳を聞いてもいいか?」

 

 

 

狭霧は少しうつむいて話し始めた。

 

 

 

狭霧「私は今まで、料理を作る度に雨野家秘伝の生薬を入れてきたのだが、どれも酷評の嵐だった。だがそれでも諦めず何度も試みたのだが結果はうまくいかず、バレンタインの時も、冬空コガラシを気絶させてしまう始末だった。しかし貴様は昨夜、秘伝の生薬を使用して絶品の料理を作ってみせた!だから私も証明したいのだ!私が秘伝の生薬を使用しても絶品の料理を作れると!」

 

 

秋宗「・・・事情は分かった。しかしだな」

 

 

 

秋宗は狭霧に昨日の料理を教えるか悩んでいた。

2日連続で中華料理を作ってしまえば、コガラシたちが飽きると考えたからなのだ。

 

 

 

狭霧「頼む!この通りだ!」(バッ

 

 

 

それでも狭霧は秋宗から教わろうと、なんと頭を下げてお願いした。

 

 

 

秋宗「お、おいよせ!分かった!料理教えてやるから!頭をあげてくれ!」

 

 

 

頭を下げた狭霧の姿を見て、とうとう秋宗は折れて料理を教えることにした。

 

狭霧はゆっくりと頭をあげた。

 

 

 

秋宗「じゃあ学校終わってから教えるから、予定とかは入れるなよ?」

 

 

狭霧「・・・恩にきる」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~ゆらぎ荘~ 午後5時

 

放課後、秋宗と狭霧は即座にゆらぎ荘へ帰り、エプロンを身につけ厨房にいた。

調理台には、様々な食材をはじめ、雨野家秘伝の生薬もあった。

 

仲居さんには、千紗希たちが昨夜作った自分の料理が食べたいから今夜来ると言ったため、仲居さんは秋宗に任せて厨房にはいなかった。

 

 

 

秋宗「よし、じゃあ早速始めるぞ」

 

 

狭霧「よろしく頼む」

 

 

 

狭霧は、誅魔忍の任務並みに気合いが入っていた。

 

 

 

秋宗「今日作るのは、蒸し鶏と冷奴だ」

 

 

狭霧「・・・中華じゃないのか?」

 

 

秋宗「流石に2日連続で中華はコガラシたちが飽きるだろ?」

 

 

狭霧「た、確かに」

 

 

 

狭霧はごもっともとだと思った。

 

 

 

秋宗「とは言え、ただの蒸し鶏と冷奴じゃない。その上に豆板醤を乗せてオリジナルの料理にする」

 

 

狭霧「成る程、その豆板醤に雨野家秘伝の生薬を入れるのだな?だが、確か豆板醤は1ヶ月程度寝かさなければできないはずだが?」

 

 

秋宗「大丈夫だ。実はかなり前に作って寝かせてるやつがある」

 

 

 

そう言って、秋宗は戸棚を開けて中に入っていたガラス瓶を取り出した。

瓶の中には秋宗が作った豆板醤が入っていた。

 

 

 

狭霧「いつの間にこんなものを・・・」

 

 

秋宗「細かいことは気にするな」

 

 

 

秋宗は瓶から豆板醤をスプーンですくい、ボウルの中へ入れた。

 

 

 

秋宗「さて、この豆板醤に生薬を入れる訳だが、そのまま入れても生薬の苦味と臭みが豆板醤の良さを掻き消してしまう」

 

 

狭霧「ではどうするというのだ?」

 

 

秋宗「まずは生薬をみじん切りにする」

 

 

 

秋宗は生薬を手に取り、まな板の上に乗せて、トントンと包丁でみじん切りにしていった。

狭霧も秋宗の手つきをマネて生薬をみじん切りにしていった。

 

 

 

狭霧「こんな感じか?」

 

 

秋宗「そうだ。もう少し細かくしてもいいかもしれない」

 

 

 

そして用意された生薬はすべてみじん切りの状態になった。

 

 

 

秋宗「次はすりこぎを使って粉末状にする」

 

 

狭霧「ならば最初からすりこぎを使った方がよかったのではないか?」

 

 

秋宗「最初でみじん切りにしておいた方がより細かい粉末状になるんだよ」

 

 

 

秋宗は説明しながら、みじん切りになった生薬をすり鉢の中へ入れ、ゴリゴリとすりこぎで粉末状にしていった。

再び狭霧は秋宗をマネて、すりこぎで生薬を粉末状にしていった。

 

そして生薬は完全な粉末状になった。

 

 

 

秋宗「じゃあいよいよ、これを豆板醤に入れるぞ」

 

 

狭霧「・・・粉末状しただけで生薬の苦味と臭みを抑えられるのか?」

 

 

秋宗「いや、完全には抑えられない。そこで生薬と一緒にあるものを入れる」

 

 

 

冷蔵庫を開けて、秋宗はあるものをとりだした。

それを見て狭霧は目を丸くしてしまう。

 

 

 

狭霧「・・・トンカツソース、だと?」

 

 

秋宗「そう、これが意外にも中華の辛さと相性抜群で、しかも生薬の苦味と臭みを抑えてくれて、流石に俺も驚いた」

 

 

 

秋宗はトンカツソースを狭霧の前に置くと、

 

 

 

秋宗「じゃあ狭霧、ここからは1人で味の調整をしてみろ」

 

狭霧「・・・私1人で!?」

 

 

 

狭霧1人に味付けを任せようとした。

 

 

 

秋宗「俺はその間に鶏肉の下ごしらえをしとくから。生薬とトンカツソースの分量を気をつければ大丈夫だ」

 

 

狭霧「しかしだな・・・!」

 

 

 

料理の自信がない狭霧は秋宗に協力を仰ごうとするが、

 

 

 

秋宗「自分が生薬を使っても旨い料理つくれるって証明したいんだろ?自信を持て」

 

 

 

秋宗は狭霧に1人でさせようと自信を持たせようとする。

狭霧は少し俯いて、フッと笑った。

 

 

 

狭霧「・・・そうだった。一体何のために貴様に頭を下げたのかという話だな・・・。いいだろう!ここからが修羅の道というならば!これを乗り越えて!絶品料理を作ってみせよう!」

 

 

秋宗「その意気だ」

 

 

 

狭霧はトンカツソースを手に取り、豆板醤の味付けに取り掛かり、秋宗は蒸し鶏の下ごしらえに取りかかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~ゆらぎ荘~ 午後7時

 

約束通り秋宗の料理を食べに来た千紗希、兵藤、柳沢の3人は秋宗とコガラシに案内されて、ゆらぎ荘の廊下を歩いていた。

 

 

 

兵藤「楽しみだな~!西条の元気になる中華料理!」

 

 

秋宗「悪い兵藤、中華料理は昨日コガラシたちが食ったから流石に飽きると思って別の料理作ったんだ」

 

 

コガラシ「わざわざ俺らに気を遣わなくてもよかったんだそ?」

 

 

千紗希「でもその料理にも生薬を使ってるんだよね?」

 

 

秋宗「あぁ。少し苦味が残ってるかもしれないが、そこは我慢してくれ」

 

 

柳沢「紫音も連れて来ればよかったなぁ」

 

 

 

話しながら歩いていると、大広間の前に着き襖を開けると、ゆらぎ荘の入居者たちが既に座っており、机の上には蒸し鶏と冷奴があり、その上に豆板醤が乗せてあった。

 

 

 

仲居さん「皆さんようこそ」

 

 

こゆず「いらっしゃい千紗希ちゃん!」

 

 

 

仲居さんたちが歓迎すると、千紗希たちは机の料理に視線を移した。

 

 

 

兵藤「蒸し鶏と冷奴か。結構旨そうだな」

 

 

千紗希「その上に掛けてあるのは、豆板醤?」

 

 

柳沢「この豆板醤に生薬が入ってんだな?」

 

 

秋宗「その通り。冷める前に早く食おうぜ」

 

 

 

秋宗たちが座り、全員が揃ったところで、

 

 

 

『いただきまーす!』

 

 

 

みんなが蒸し鶏や冷奴を箸で口の中へ運んだ。

 

 

 

兵藤「・・・うまっ!」

 

 

千紗希「鶏肉柔らかい!それに豆板醤も鶏肉と冷奴によく合ってる!」

 

 

柳沢「お前専業主夫向いてるんじゃねぇか?」

 

 

 

3人からも大絶賛された。

 

 

 

秋宗「ありがとう3人とも。でも、苦味までは昨日より抑えられなかったな」

 

 

コガラシ「いや、これでも十分うまいぞ」

 

 

 

秋宗は困った表情で頬を掻くが、コガラシは気にするなと言わんばかりに料理を頬張っていく。

ゆらぎ荘の入居者たちもどんどん食べていった。

 

 

 

秋宗「・・・コガラシ、今うまいって言ったか?」

 

 

コガラシ「え?あ、あぁ、言ったけど?」

 

 

秋宗「そうか、うまいか・・・。だそうですよ狭霧さん?」

 

 

コガラシ「・・・は?」

 

 

狭霧「///・・・」(もじもじ

 

 

 

秋宗は隣に座って頬を赤めている狭霧の方を見て、それにつられてコガラシたちも狭霧の方を見た。

 

 

 

幽奈「あ、秋宗さん?もしかして、この料理・・・」

 

 

秋宗「あぁ、狭霧が生薬入り豆板醤の味付けをしたんだ」

 

 

コガラシたち一同『・・・えぇぇぇぇぇ!!??』

 

 

 

コガラシたちは驚きを禁じ得なかった。

それもそのはず、今まで狭霧が作った料理はとても食べられるものではなかったのだから。

その狭霧が味付けだけとはいえ、ここまで美味しくできるとはコガラシたちは思わなかった。

 

 

 

雲雀「狭霧ちゃんが味付けしたの!?」

 

 

兵藤「本当なのか!?」

 

 

呑子「全然分からなかったわぁ」

 

 

朧「西条が嘘をつくとは思えない、おそらく本当なのだろう」

 

 

千紗希「狭霧さんすごく美味しいよ!」

 

 

 

みんなは豆板醤の味付けをした狭霧を好評価した。

 

狭霧は照れてしまい、顔が一気に赤くなってしまう。

 

 

 

狭霧「・・・西条秋宗」

 

 

秋宗「ん?」

 

 

狭霧「・・・ありがとう」

 

 

 

狭霧は小声で秋宗にお礼を言った。

 

 

 

秋宗「・・・いいってことさ。それより狭霧、これはチャンスだ。コガラシにあーんしてやれ」

 

 

狭霧「なっ!?///こ、こんな大勢の前でできる訳ないだろ!///」

 

 

秋宗「自然な感じでやりゃあいいんだよ。『冬空コガラシ、私が食べさせてやる。口を開けてくれ』みたいな感じで」

 

 

狭霧「余計できるか!///」

 

 

 

秋宗と狭霧が小声で口論している時、コガラシがあることに気がついた。

 

 

 

コガラシ「ん?これはほうれん草のおひたしか。まだ誰も食べてねぇみたいだな」

 

 

兵藤「これも旨そうだ。豆板醤は乗ってないみたいだけど」

 

 

 

コガラシと兵藤はほうれん草のおひたしを箸で取った。

 

 

 

朧「凄いな西条は、ほうれん草のおひたしまでもこんなに色鮮やかに作れるとは」

 

 

秋宗「ん?」

 

 

 

狭霧と口論していた秋宗は、2人がほうれん草のおひたしを食べようしていることに気がついた。

 

 

 

秋宗「・・・ちょっと待て。俺ほうれん草のおひたしなんか作ってねぇぞ?」

 

 

コガラシ・兵藤『え?』(パクっ

 

 

 

秋宗が言ったと同時にコガラシと兵藤はほうれん草のおひたしを口に運んだ。

 

次の瞬間、

 

 

 

コガラシ・兵藤「・・・・・」(バタッ

 

 

幽奈「コガラシさん!?」

 

 

柳沢「兵藤!?どうした!?」

 

 

 

コガラシと兵藤は2人揃って仰向けに倒れて口から泡を吹き出していた。

 

みんなが心配する中、秋宗は狭霧の方を見た。

 

 

 

秋宗「・・・狭霧、さては俺に内緒でこっそり作ったな?」

 

 

狭霧「・・・雨野家秘伝の生薬から出た煮汁の湯でほうれん草を茹でたのだが、駄目だったのだろうか?」

 

 

秋宗「駄目に決まってるだろ!2人とも倒れて気絶したじゃないか!」

 

 

狭霧「貴様が自信を持てと言ったではないか!」

 

 

秋宗「だとしても限度ってもんがあるだろ!」

 

 

 

狭霧が絶品料理を作れるのは、まだまだ先の話になりそうだった。

 

翌日、コガラシと兵藤の体調がかなり優れて元気ハツラツになっていた。

 

 

 




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第17話 紫音ゆらぎ荘へ

~ゆらぎ荘~ 午前9時

 

ゆらぎ荘前にて、2人の人影があった。

 

 

紫音「ここが、ゆらぎ荘・・・!幽霊や妖怪がわんさかいるんスよね・・・!?」

 

千紗希「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」

 

 

紫音と千紗希の2人である。

今日は千紗希が紫音を誘って遊びに来ていた。

しかし、紫音は警戒の目をゆらぎへ向けており、千紗希は落ち着かせていた。

 

紫音は高校デビューをしてくれた千紗希の恋の応援をしているのだが、柳沢から千紗希の恋のライバルがいると聞いて驚いてしまった。

千紗希は学校のアイドル的存在なため、負ける要素が見当たらないのだが、ゆらぎ荘にライバルが集っていると柳沢から情報を手に入れた為、今回は敵情視察のために気合いが入っていたのだ。

 

いざ千紗希と共にゆらぎ荘へ入ろうとすると、

 

 

???「千紗希!紫音!」

 

???「んにやぁあ!」

 

 

上から声が聞こえて、見上げると、

 

 

千紗希「夜々っち!猫神様!」

 

 

屋根の上に紫音のクラスメイトの夜々と白い大きな猫の猫神様がいた。

夜々と猫神様は屋根の上から二人の前へ降り立った。

ちなみに自分は猫神様のことを入学式の時に知ったそうだ。

 

 

夜々「いらっしゃい2人とも」

 

千紗希「おはよう夜々ちゃん!」

 

紫音「おじゃまするッス!」

 

 

3人は軽く挨拶を交わした。

 

 

紫音(そういえば夜々っちもゆらぎ荘の女・・・)「あの夜々っち、コガラシ兄さんのこと、どう思ってんスか?」

 

千紗希「紫音ちゃん!?」

 

 

夜々がコガラシに対して好意を抱いているかもしれないと思った紫音は、確認の為に聞いてみた。

 

 

夜々「コガラシ?うーん・・・有能!」

 

紫音(あ、これは大丈夫ッスね)

 

 

コガラシが作ったご馳走を想像した夜々を見て、特別な好意は抱いていないと思った。

 

 

秋宗「なんだ?誰か客でも来たのか?」(ふわぁ~

 

 

すると、ゆらぎ荘の玄関から秋宗があくびをしながら出てきた。

 

 

紫音「どうもッス!秋宗兄さん!」

 

千紗希「おはよう西条くん!」

 

秋宗「あれ?宮崎と紫音?何でここに?ってあぁ、そういや今日来るとか言ってたな」

 

 

紫音と千紗希は秋宗に軽く挨拶をした。

 

 

夜々「・・・また夜更かしでゲームしてる」

 

秋宗「別にいいだろ?休みの日に何をしようが」

 

 

夜々から白い目を向けられながらも秋宗は適当に流した。

 

すると、

 

 

キイィン!キイィン!

 

 

金属がぶつかり合う音が聞こえてきたので、全員が音のする上を見ると、

 

 

雲雀「ふふふっ!もうそれは見切ったよ狭霧ちゃん!」

 

狭霧「言うじゃないか雲雀!」

 

 

なんと空中で狭霧と雲雀の雨野家誅魔忍コンビがクナイと手裏剣を投げ合って特訓をしていた。

 

それを見た紫音は愕然となった。

 

 

紫音「な、なんなんスかアイツらは!?刃物投げ合ってるッスよ!?」

 

千紗希「言われてみれば、そうだね」

 

夜々「大丈夫。誅魔忍の忍具は霊気を具現化したもので、人間に刺さっても痛いだけで済むらしいから」

 

秋宗「アイツら、誰かに見つかったらどうする気なんだよ?仮にも忍だろ」

 

 

千紗希が苦笑いを浮かべ、秋宗は呆れて特訓光景を見ていた。

 

 

秋宗「ま、立ち話もなんだ。せっかく来たんだから中入れよ」

 

紫音「ウ、ウス」

 

 

秋宗に促されて紫音と千紗希と夜々はゆらぎの中へと入って行った。

 

廊下を歩きながら、紫音は中を見渡していた。

 

 

紫音「なんだか旅館みたいッスね」

 

秋宗「このゆらぎ荘は元々旅館だったらしいんだ。今は下宿なんだけどな」

 

 

そうこうしている内に大広間前へ到着して、襖を開けると、

 

 

コガラシ「おう!よく来たな轟!」

 

呑子「いらっしゃ~い!」

 

 

中にはコガラシ、酒を飲んでる呑子、茶を啜っている朧の3人がいた。

 

 

千紗希「おはようございま~す」

 

紫音(ッ!コガラシ兄さんの隣が空いてるッス!)「千紗希姐さんこちらへどうぞ」

 

秋宗「何で客人のお前が座らせようとしてんだよ」

 

 

コガラシの隣へ行き、そこへ千紗希を座らせようとしている紫音を見て、秋宗は突っ込んだ。

 

すると、

 

 

ふにゅっ

 

 

紫音「?」

 

 

コガラシの隣に何か柔らかい感触があり、紫音は確かめようとした。

 

 

紫音「な、何スか?何か柔らかいもんが?」(もみもみ

 

幽奈「!///・・・」

 

 

そう、それは幽奈の胸だった。

 

霊力の弱い人間からは幽奈の姿が見えないため、紫音も同じく幽奈が見えていないのだ。

 

 

秋宗「あ~紫音、それ幽奈の胸」

 

紫音「えっ?」

 

秋宗「話しただろ?ゆらぎ荘に幽霊がいるって。お前は今、その幽霊の胸を揉んでるんだよ」

 

紫音「ッ!す、すんませんっした!!」

 

 

秋宗から説明を受けた紫音は、コガラシの隣にいるであろう幽奈に土下座した。

 

 

紫音「幽奈さんのことは秋宗兄さんから聞いてたんスけど・・・!」

 

幽奈「い、いえ、こちらこそ驚かせてすみません」

 

 

幽奈は紙とペンを持ち、字を書き出して紫音とコミュニケーションをとった。

 

目の前で紙とペンが浮いている光景を紫音は興味深そうに見ていた。

 

 

紫音(ここにいる幽霊が千紗希姐さんの恋のライバルの湯ノ花幽奈さん・・・!ホントに見えねぇッス!)

 

朧「まぁ霊力が弱い者には幽霊である湯ノ花の姿が見えないのだからな、致し方あるまい」

 

 

そういいながら、朧は自分とコガラシの衣服をはだけさせて、コガラシに覆い被さるように膝の上に乗った。

 

 

紫音「しれっと何してんスかこの人!?///」

 

秋宗「大丈夫だ、朧は毎回コガラシを襲ってるから、いつものことだから」

 

紫音「いつものこと!?///」(まさかこの朧って人も千紗希姐さんのライバル・・・!?)

 

 

顔を赤くしている紫音たちをよそに、秋宗は座ってお茶を啜った。

 

 

呑子「今日は一段と賑やかねぇ。そろそろあの子たちも来る頃かしら?」

 

秋宗「・・・あっ!?そういや今日はお嬢が来るんだった!」

 

紫音「お、お嬢?」

 

 

すると突然、大広間の天井に白い渦が現れて、

 

 

かるら「何をしておるのじゃ!?田舎神属風情が!コガラシ殿から離れよ!」

 

マトラ「おーっす!久しぶり秋宗!宵ノ坂!」

 

 

中からかるらとマトラの2人が出てきた。

 

かるらはコガラシとくっついている朧を見て、頭に血がのぼっていた。

 

 

紫音「い、今何もないところから人が・・・!?」

 

夜々「あれは天狗の瞬間移動的な術の一つ」

 

紫音「スゲー・・・」

 

 

突然のことに紫音は呆然として見ることしか出来なかった。

 

かるらは朧にコガラシから離れるように言うが、

 

 

朧「断る」

 

かるら「なっ!?」

 

 

素直に言うことを聞く気のない朧はキッパリと断った。

 

 

かるら「ええい!捨て置けぬ!」

 

秋宗「ッ!待てお嬢!落ち着け!」(ガシッ

 

 

部屋で暴れそうなかるらを、秋宗は羽交い締めをして落ち着かせようとした。

 

 

かるら「離せ秋宗!今からあの田舎神属に天罰をくだしてやるところなのじゃぞ!それにこんなシーンがアニメ化されたら間違いなく打ちきりになるぞ!」

 

秋宗「大丈夫だ!この程度で打ちきりなんてありえねぇよ!それに現段階でお嬢と姐さんがアニメ化される予定はねぇだろ!」

 

千紗希「一体何の話をしてるの!?」

 

 

細かい話はさておき、秋宗は必死になってかるらを止めながら、紫音に2人を紹介した。

 

 

秋宗「紹介するぞ紫音。俺の幼なじみの戦闘好きの鵺の妖怪の巳虎神マトラ姐さんと世間知らずのヘタレ天狗の緋扇かるら嬢だ」

 

かるら「ってちょっと待てぃ!」(バッ

 

 

かるらは秋宗の羽交い締めを抜け出して、秋宗を睨んだ。

 

 

かるら「聞き捨てならんぞ秋宗!誰がヘタレなのじゃ!?」

 

秋宗「ヘタレはヘタレだろ!録にコガラシをデートに誘う勇気もねぇくせに!」

 

 

秋宗からヘタレと言われたかるらは、怒りの矛先を朧から秋宗へと向けた。

 

 

かるら「どうやら貴様には仕置きが必要のようじゃのう・・・場所を変えるぞ!」(ギュラッ

 

 

かるらと秋宗の頭上に白い渦が現れて、その渦に吸い込まれるように2人が消えてしまった。

 

 

紫音「秋宗兄さん!?」

 

幽奈「一体何処へ!?」

 

夜々「あそこ・・・!」

 

 

夜々が窓の外を指差すと、屋根の上に秋宗とかるらが向かいあっていた。

 

 

かるら「今一度、どちらの立場が上なのか分からせてやろう」

 

秋宗「そういや、お嬢と喧嘩するなんて久しぶりだなぁ」(ボキボキ

 

 

秋宗はオオカミ人間へ変身して指を鳴らしながら昔のことを思いだし、かるらは背中から羽を生やしてした。

 

 

幽奈「あ、あのマトラさん!お二人を止めなくていいのですか!?」

 

マトラ「ほっとけばいいさ。それよりも宵ノ坂、アタシらも勝負しようぜ!」

 

呑子「嫌よぉ。私はお酒を飲みたいのぉ」

 

 

幽奈たちはハラハラしながら秋宗とかるらの様子を見てマトラに止めるように言うが、マトラは呑子の隣に座って勝負に誘っている。

 

 

かるら「ではゆくぞ!」(ビュゥッ

 

秋宗「ハァッ!」(バシィッ

 

 

そうこうしている内に、かるらと秋宗の喧嘩が始まってしまった。

かるらが放った風の斬撃を、秋宗は容易く回し蹴りで打ち消した。

 

 

かるら「これならどうじゃ!」(ビュゥゥッ!

 

 

次にかるらが扇を振るうと竜巻が発生して秋宗へ向かって行った。

 

 

秋宗「うおぉっ!?」(フワッ

 

 

竜巻に飲まれた秋宗は、空中へ投げ出されてしまう。

 

 

かるら「そこじゃあ!」(ビュッ!ビュッ!

 

 

隙が出来た秋宗にかるらは斬撃を何発も繰り出した。

 

 

秋宗「ちぃっ」(ビシッ!バシッ!

 

 

咄嗟に秋宗は腕をクロスさせてかるらの斬撃を防いだ。

オオカミ人間の毛皮は分厚いため、斬撃によるダメージはないのだが、鞭で叩かれた痛みが腕に走った。

耐えきった秋宗は、屋根へ着地した。

 

 

かるら「ほう、どうやら怠けてた訳ではなさそうじゃのう?」

 

秋宗「コガラシにやられてからリベンジのために隠れて特訓してんだよ!」

 

 

秋宗とかるらのピリピリした空気が大広間まで伝わってきた。

 

 

幽奈「お二人とも凄いですぅ!」

 

コガラシ「これ流石に止めた方がいいだろ!ゆらぎ荘が壊れるぞ!」

 

呑子「はぁ、仕方ないわねぇ。コガラシちゃんたちはここで待ってて」

 

 

コガラシたちは止めに行こうとしたが、呑子が窓を開けて屋根へ飛び移った。

 

 

呑子「いい加減にしなさい秋宗ちゃん!かるらちゃん!」

 

秋宗「の、呑子さん!?」

 

 

かるら「邪魔をするでない呑子殿!」

 

 

呑子が喧嘩をしている2人の元へ行こうとするが、

 

 

マトラ「おおっと行かせねぇぜ宵ノ坂!」

 

 

目の前に酒瓶を持ったマトラが立ち塞がった。

そこまでして勝負をしたいのだろう。

 

 

マトラ「ほら!前と違って酒もたっぷりあるぜ!?」(ビュッ

 

呑子「そうねぇ、強めの鵺と天狗とオオカミ人間なら・・・」(パシッ

 

 

マトラから受け取った酒を受け取り、ゴクゴクと飲み干すと、

 

 

呑子「五合ってところかしらぁ?」(ゴゴゴゴゴ

 

 

呑子の額から角が生えて、肌も少し褐色肌になり髪も逆立っている状態になった。

 

 

かるら「マトラ!お主余計なことを!?」

 

秋宗「待って下さい呑子さん!俺らもう喧嘩しませんから!」

 

マトラ「うおぉぉぉ!?いいぜ!来やがれ宵ノさ・・・」

 

 

 

 

 

ゴオォォォォッ!!

 

 

 

 

 

呑子の角から解き放たれたとてつもない霊力が3人を飲み込んだ。

 

 

かるら「こ、これが宵ノ坂の力・・・!!」

 

マトラ「す、すげえぇぇぇ!!」

 

秋宗「何でこんなことにいぃぃぃ!?」

 

 

3人は吹き飛ばされてしまい、空へ向かって、キラーンと星になってしまった。

 

この光景を見て、紫音は思った。

 

 

紫音「・・・ひとつわかったッス。番長勝てない」

 

千紗希「いいんだよそれで。だって人間だもの」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~午後0時~

 

騒ぎの後、ゆらぎ荘へ戻って来た秋宗たちは、温泉に浸かって、大広間にて、みんなと一緒に仲居さんと千紗希の作ったイタリアン料理を食べていた。

みんな浴衣に着替えて、紫音は秋宗の隣に座っていた。

 

 

コガラシ「お~!うまいなこれ!」

 

幽奈「さすが千紗希さんです!」

 

朧「いつもながら素晴らしい腕だな、師匠!」

 

かるら「ぬうぅ、千紗希と言ったか、やりおるわ!」

 

千紗希「あ、ありがと///・・・」

 

 

みんなから料理の腕を褒められた千紗希は少し照れてしまう。

 

 

秋宗「凄いな宮崎は、こんな絶品料理を作れるなんて。もういっそのことコガラシのお嫁さんになっちまったらどうだ?」(ニヤニヤ

 

コガラシ「は!?///西条!?///」

 

千紗希「お、お嫁さん!?///」

 

紫音(ッ!ナイスサポートッスよ秋宗兄さん!)

 

 

秋宗の冗談発言にコガラシと千紗希は揃って顔を赤くしてしまい、紫音は心の中で秋宗にグッジョブした。

 

 

かるら「秋宗!貴様は妾の味方じゃろ!?何故千紗希の味方をするのじゃ!?」

 

秋宗「だったらお嬢も料理の練習しときなよ。料理出来ないお嫁さんなんて炭酸のないコーラみたいなもんだからな」(ゴクゴク

 

夜々「例えがよく分からない」

 

 

秋宗はコップに入っていた飲み物を一気に飲み干した。

 

 

紫音「・・・秋宗兄さんも料理できるお嫁さんがいいんですか?って、秋宗兄さん?聞いてます?」

 

秋宗「・・・・・」(コトッ

 

 

紫音は秋宗に呼び掛けるが、秋宗は顔を伏せてコップを静かにおいた。

 

 

仲居さん「あの、秋宗くん?どこか具合でも悪いのですか?」

 

 

仲居さんが心配になり声をかけると、秋宗はゆっくりと顔をあげて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「・・・大丈夫ですよぉ~仲居さぁ~ん///俺はこの通りぃ、なぁんともないですよぉ~?///」

 

 

 

 

 

コガラシたち『・・・・・え?』

 

 

 

顔を赤くして喋り方もおかしくなっている秋宗を見て、一同は唖然となってしまう。

 

 

コガラシ「・・・誰だアイツ?あんな酔っ払いいたか?」

 

雲雀「私の記憶が正しければ、あれは秋宗くんだよ」

 

狭霧「私の記憶が正しければ、西条秋宗はあんな酔っ払いではないぞ」

 

呑子「・・・ひょっとして」

 

 

呑子は秋宗が先ほど使っていたコップの匂いを嗅いだ。

 

 

呑子「あらぁ~秋宗ちゃん間違えてお酒飲んじゃったのねぇ」

 

かるら「ま、マズいぞ・・・!」

 

マトラ「うっわ~、やばいなこりゃあ・・・!」

 

 

かるらとマトラは酔っ払った秋宗を見て冷や汗をかいてしまった。

 

 

コガラシ「ど、どうしたんだ2人とも?」

 

かるら「秋宗は酒がもの凄く弱くて、一口飲んだだけでも酔ってしまうのじゃ!しかも酔っ払ってる間は何をしでかすか予測がつかん!」

 

マトラ「コイツはもうただのオオカミじゃねぇ!夜のオオカミだ!」

 

幽奈「よ、夜のオオカミですか!?」

 

 

幽奈たちが騒いでいると、

 

 

秋宗「じゃあ~///気分がよくなってきたところでぇ~///暴露大会やりまぁ~すぅ!///」

 

 

秋宗が勝手に暴露大会開催を宣言した。

 

 

仲居さん「ば、暴露大会?」

 

秋宗「エントリーNo.1番!///こゆずぅ!///」

 

こゆず「え?ボク?」

 

 

秋宗が勝手に進行してこゆずの名前を挙げた。

 

 

秋宗「こゆずは宮崎のブラジャーをぉ///枕にして寝たことがありまぁ~す!///」

 

こゆず「なんで知ってるの!?」

 

千紗希「こゆずちゃん!?ホントなの!?」

 

こゆず「ごめんなさい千紗希ちゃん・・・!」

 

 

秘密をさらされたこゆずは千紗希に問い詰められて謝った。

 

 

秋宗「続いてぇ!///エントリーNo.2番!///雲雀ぃ!///」

 

雲雀「雲雀も!?」

 

秋宗「先週雲雀はぁ///通販サイトでぇ///膨胸パットの種類を見てましたぁ!///」

 

雲雀「わぁー!?///言わないでよー!///」

 

 

秋宗から秘密を暴露された雲雀は顔を赤くして声をあげてしまう。

 

コガラシ「緋扇!西条を止めろ!」

 

かるら「無理じゃ!酔っ払ったアイツを止めるのに緋扇邸総動員させたのじゃぞ!妾たちだけでは・・・!」

 

 

そんな時、

 

 

紫音「落ち着いて下さい秋宗兄さん!」

 

 

紫音が1人で秋宗を止めようとした。

 

 

千紗希「紫音ちゃん!危ないよ!」

 

狭霧「逃げるんだ!」

 

紫音「大丈夫ッス!自分が秋宗兄さんを食い止めてる間に皆さんは避難を!」

 

秋宗「・・・しぃ~お~ん~」(ガシッ

 

 

紫音が振り返ったと同時に、後ろから秋宗が肩を掴んだ。

紫音が覚悟を決めたその時、

 

 

 

 

 

ギュッ

 

 

 

 

 

紫音「・・・へ?///」

 

 

秋宗が後ろから紫音に抱きついて、

 

 

ゴロンッ

 

 

2人一緒に寝転がった。

 

 

紫音「あ、秋宗兄さん・・・!?///」

 

秋宗「あったけぇ~///それにいい匂い~///」(スンスン

 

紫音「ひゃあっ!?///」

 

 

秋宗に首筋の匂いを嗅がれた紫音は思わず声をあげてしまう。

 

 

幽奈「ハレンチですぅ!///」

 

呑子「あら~、秋宗ちゃんったら大胆ねぇ~」

 

千紗希「西条くんもやっぱりオオカミさんだったんだ!?///」

 

朧「何を言ってる?西条は元からオオカミだぞ?」

 

 

この光景を見て、幽奈たちは顔を赤くしてしまう。

 

 

秋宗「・・・なんか邪魔だなこれ///」(ガシッ

 

紫音「秋宗兄さん・・・!?///何を!?///」

 

 

秋宗が紫音の来ていた浴衣を掴むと、

 

 

 

 

バッ ポロンッ

 

 

 

 

 

紫音「なぁっ!?///」(カアァァァァ

 

 

浴衣を脱がせてしまい、紫音の胸がさらけ出されてしまった。

 

しかもこれだけでは終わらず、

 

 

秋宗「はぁ~///柔らけぇ~///」(ふにゅふにゅ

 

紫音「ちょっ!?///秋宗兄さん!///やめてくださいよぉ!///」

 

 

紫音の胸を秋宗は揉みまくってしまう。

 

 

雲雀「コガラシくんは見ちゃダメェ!///」

 

コガラシ「見てない!俺は見てないぞ!///」

 

朧「あの西条がここまで豹変するとは・・・!冬空に酒を飲ませれば子作りまでいけるのではないか・・・!?」

 

狭霧「こんな時に何を言ってるんだお前は!?///」

 

仲居さん「あっ!皆さん見てください!秋宗くんの様子が・・・!」

 

 

仲居さんが秋宗の様子に気づいて、振り向いているコガラシ以外が秋宗を見ると、

 

 

秋宗「・・・くぅー、くぅー、くぅー」

 

夜々「・・・寝てる?」

 

 

いつの間にか、秋宗が寝息を立てて眠っていた。

 

 

かるら「・・・どうやら眠ったようじゃのう」

 

マトラ「一時はどうなることかと思ったけど」

 

幽奈「と、取り敢えずは一安し・・・あ」

 

 

幽奈があることに気がついた。

 

それは・・・

 

 

紫音「ッ~!!///」

 

 

胸を触ったまま眠っている秋宗から紫音が抜け出せずにいた。

 

 

呑子「取り敢えず、秋宗ちゃんを剥がしましょうか」

 

千紗希「ごめんね紫音ちゃん!こんなことになって!」

 

紫音「お気になさらず!///覚悟の上ッス!///」(見られた!男の人におっぱい見られた挙げ句!触られてしまったッス!)

 

 

その後、酔いが覚めた秋宗が事情を全て聞いて、紫音に対して滅茶苦茶謝ったのは、言うまでもない。

 

 

 




感想のほど、お願いいたします。


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第18話 秋宗の将来

今回はオリキャラが出てきます


~羽田空港~ 午前9時

 

朝にも関わらず、人が込み合っている中、ある1人の男性がいた。

 

男性の見た目は30代前半の日本人、白髪の髪を整え眼鏡を掛けており、深い緑色のスーツを着ていた。

手にキャリーバックを持って。

男性は空港ロビーの椅子に腰を掛けてスマホを取り出して、何処かへ電話を掛けた。

 

 

ガチャッ

 

 

???『はい、もしもし?』

 

???「やぁ、久しぶりだね」

 

???『ッ!君か!久しぶりだな!もう日本に着いたのか?』

 

???「まぁね、今到着したところだけど」

 

 

話の内容を察するに、2人の仲は親睦深いように思える。

 

 

???『そうか、これから向かうのか?』

 

???「いや、今から行っても早く到着してしまうし、そっちにも寄りたい所だけど、それだと遅れてしまうから、取り敢えずは故郷の日本を見て回ろうかなって」

 

???『フッ、君らしいな』

 

???「近いうちにそっちに行くさ。じゃあそろそろ切るから。また会って酒でも飲もう、我流駄」

 

 

ピッ

 

 

男性が通話を終えると、スマホを懐へ戻し立ち上がり、

 

 

???「さて、行くとするか」

 

 

キャリーバックを転がしながら、男性は空港を後にした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~湯煙高校~ 午後5時

 

湯煙高校は三者面談の期間に入っていた。

これからの進路を担任と教師と一緒に考えて決めて行く大切な時期でもある。

 

秋宗も今日三者面談を受けることになっており、図書室で順番を待っているのだが、

 

 

秋宗「くぅ、くぅ、くぅ・・・」

 

 

秋宗は机に顔を伏せて眠ってしまっていた。

待っているのも退屈だったため、本を読んでいたのだが、つい眠ってしまったのだ。

 

 

ガラガラッ

 

 

???「し、失礼します・・・あの、西条くん、居ますか・・・?」

 

 

すると、短髪の黒髪で前髪で目元を隠した女性で、秋宗たちのクラスの担任の夢咲先生が入って来た。

 

この夢咲先生、実はサキュバスの血が流れている半妖で、彼女の目を直接見ると卑猥な幻が見えてしまうのだ。

 

秋宗を探しに来た夢咲先生は寝ている秋宗を見つけると近寄って起こそうとした。

 

 

夢咲先生「さ、西条くん・・・!西条くん!」(ユサユサ

 

秋宗「んん・・・?」

 

 

体を揺さぶられた秋宗は、身体を起こしてゆっくり目を開けた。

 

 

秋宗「・・・あれ?夢咲先生?どうしてここに?」

 

夢咲先生「え、えっと、西条くんの順番が回ってきたから、探してたんですど。お、親御さんは、まだ来てないんですか?」

 

秋宗「え?もう時間なんですか?えっと、ちょっと待ってて下さい」

 

 

秋宗が懐からスマホを取り出して、連絡が来てないか確認した。

 

 

秋宗「・・・連絡の履歴がないな。もしかして学校内で迷ってるんじゃ?」

 

夢咲先生「えぇ!?じゃ、じゃあ、一緒に探しましょうか?」

 

秋宗「いえ大丈夫です。俺が探して来るので、先生は教室で待ってて下さい」

 

 

秋宗は立ち上がって、図書室から出て廊下を歩いて中庭へ向かって行った。

 

中庭は、既に三者面談を終えた生徒と親が数多く見られており、秋宗は辺りを見渡していた。

 

 

秋宗「いないな、まだ来てないのか・・・ん?」

 

 

ふと秋宗は、コガラシ、幽奈、狭霧、雲雀、千紗希、仲居さんが集まって話しているのを見つけた。

何故仲居さんが学校にいるのかというと、コガラシの保護者代表として三者面談を受けに来たのである。

 

 

秋宗「聞いてみるか・・・。おーい!」

 

 

秋宗は歩きながら、コガラシたちに呼び掛けた。

 

 

コガラシ「あ、西条。三者面談もう終わったのか?」

 

秋宗「いや、まだ始まってないんだが。ちょっと聞きたいことが・・・」

 

???「そうか、お主が西条秋宗じゃな?」

 

 

秋宗がコガラシたちにあることを聞き出そうとした途端、声を掛けられて振り向くと、そこには1人の老婆が秋宗を興味深そうに見ていた。

 

 

秋宗「えぇっと、そうですけど・・・?あの、どちら様ですか?」

 

狭霧「紹介するぞ西条秋宗、こちらは私と雲雀の祖母だ」

 

 

戸惑っている秋宗に、狭霧は自分の祖母だと紹介した。

 

 

雨野祖母「狭霧と雲雀から聞きておるぞ。なんでも異国の獣だとか。あと秘伝の生薬を絶品料理に変えたとか。今度食べさせてはもらえんかのう?」

 

秋宗「いいですよ。機会があればいつでも作りますよ、マダム」

 

雨野祖母「ほぉ!マダムとな!面白いお方じゃのう!」

 

 

秋宗のジョークに雨野祖母はホッホッホッと笑ってしまった。

 

 

???「ちょっと千紗希!誰なのあの子!?もしかして冬空くんのライバルで千紗希の取り合いでもしてるの!?」(ワクワク

 

千紗希「そんなのじゃないよぉ!///」

 

 

何やら話声が聞こえたため振り向くと、千紗希の隣に千紗希とそっくりな顔立ちでスーツを着ている女性がひそひそと千紗希と話していた。

 

 

秋宗「・・・そうか、宮崎は親御さんの変わりにお姉さんが来たのか」

 

千紗希「えっ?」

 

 

秋宗に言われて千紗希は目を丸くしてしまう。

 

雲雀は勘違いしているであろう秋宗に話した。

 

 

雲雀「秋宗くん!その人千紗希ちゃんのお姉さんじゃなくて千紗希ちゃんのお母さん!」

 

秋宗「・・・はぁ!?」

 

 

秋宗は思わず千紗希母を2度見してしまった。

何せ千紗希母の見た目は20代にしか見えなかったからである。

 

 

秋宗「宮崎!マジでお前の母さんなのか!?」

 

千紗希「う、うん。よく若いって言われるよ」

 

千紗希母「嬉しいわ。お姉さんと間違えられて」

 

 

驚きを隠せない秋宗に千紗希は苦笑いをして答えて、千紗希母は照れていた。

 

 

仲居さん「ところで秋宗くん、何か私たちにご用でもあったのですか?」

 

秋宗「あぁそうだった!実は聞きたいことが・・・」

 

 

秋宗が本題を切りだそうとしたその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「おーい!秋宗ー!」

 

 

名前を呼ばれて秋宗が振り替えると、白髪の髪を整え眼鏡を掛け、深い緑色のスーツを来た男性がこちらへ歩いて来た。

 

秋宗は男性を見て少しため息をついてしまった。

 

 

秋宗「遅いよ。どこで道草食ってたんだよ?」

 

???「いや~ごめんごめん、ここの町には慣れてなくて、なんとか地図を見たり人に聞いたりして来られたんだけど、少し遅くなってしまったね」

 

秋宗「呑気だなぁ・・・」

 

 

少し怒っている秋宗に男性はアハハと軽く笑って誤魔化した。

そのやり取りを見ていたコガラシたちは秋宗に聞いてみた。

 

 

コガラシ「西条?もしかしてその人・・・」

 

秋宗「ん?あぁ紹介するよ、俺の父さんだ」

 

 

 

 

 

夏希「初めまして、西条夏希≪さいじょうなつき≫です。いつも息子の秋宗が世話になってるね」

 

 

秋宗の言葉を繋げるように、秋宗の父、夏希はコガラシたちに自己紹介をした。

 

 

コガラシ「どうもッス。冬空コガラシっていいます」

 

狭霧「初めまして、雨野狭霧です」

 

雲雀「狭霧ちゃんの従妹の雨野雲雀といいます」

 

千紗希「宮崎千紗希です」

 

 

コガラシたちはそれぞれ自分の名前を言って夏希に挨拶をした。

 

 

夏希「みんなのことは秋宗から聞いてるよ。随分と仲のいい友人だって。それに・・・」

 

 

夏希は目線をコガラシたちから幽奈へ移した。

 

 

夏希「まさか幽霊の友達もいるなんてね。この目で見るまでは信じられなかったよ」

 

幽奈「えぇっ!?わ、私が見えてるんですか!?」

 

 

夏希に話しかけられた幽奈は驚きを隠せなかった。

それは、コガラシたちも同じだった。

 

 

夏希「うん、見えてるよ。こう見えても僕は、霊力が高い方だからね」

 

幽奈「そうなんですか。あっ!申し遅れました!私は地縛霊の湯ノ花幽奈と申します!」

 

夏希「君のことも秋宗から聞いてるよ。何でも物凄い霊力を秘めてるとか」

 

幽奈「そ、そんなことないですよぉ///・・・」

 

 

幽奈は少しだけ照れてしまう。

 

次に夏希は、仲居さんたちの方へ目線を向けた。

 

 

夏希「改めまして、西条夏希と言います。いつも息子がお世話になっています。話をしたいところですが、時間が過ぎていますので、また後程」

 

仲居さん「いえ、大丈夫ですよ」

 

秋宗「早く行こう父さん、先生待ってるから」

 

 

仲居さんたちに丁寧に挨拶した夏希は、秋宗と共に夢咲先生のいる教室へと向かっていった。

 

 

狭霧「・・・とても西条秋宗の父親とは思えんな」

 

雲雀「もしかして、あの人もオオカミ人間なのかな?」

 

雨野祖母「いや、どうやら霊力が高いだけの人間のようじゃのう」

 

千紗希母「パパさん若いわねぇ」

 

千紗希「ママも人のこと言えないよ・・・」

 

コガラシ「あの人が西条の親父さんか・・・」

 

幽奈「とてもいい人でしたね」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

夏希「いや~、申し訳ありません。少し道に迷ってしまいまして」

 

夢咲先生「い、いえ・・・!大丈夫ですよ」

 

 

教室にて、机を集め寄せたところで、夢咲先生と向かい合わせに秋宗と夏希が座っていた。

 

 

夢咲「で、では、三者面談を始めさせていただきます!えっと、進路希望調査では、進学になってますけど、具体的には、どの分野の進学を希望しているんですか?」

 

秋宗「そうですね、まだはっきりとは決まってないんですけど、ちゃんと勉強したいという気持ちが強いですかね。父さんの大学にも興味がありますし」

 

夏希「そうか、じゃあ父さんが学園長にお願いして推薦入学させようか?」

 

秋宗「いいよ、その時は自分の力で入学するから」

 

 

夏希のジョークに秋宗は笑いながら自身の実力で入学すると言い切った。

 

 

夢咲先生「あ、あの、もしかして、お父さんの職業って・・・」

 

夏希「はい、アメリカの大学で生物学の教授を務めています」

 

夢咲先生「きょ、教授!?す、凄いですねぇ!」

 

夏希「そんな対してものじゃないですよぉ」

 

 

夢咲先生から凄いと言われて、夏希は頬を掻いて照れてしまう。

 

すると、夏希があることを秋宗に聞いた。

 

 

夏希「秋宗、就職は考えなかったのか?」

 

秋宗「就職?」

 

夏希「あぁ、母さんの会社に就職すれば将来も安定するぞ?」

 

秋宗「うーん、それも考えたんだけど、やっぱり進学かと思って・・・」

 

 

西条親子の会話を聞いて、夢咲先生は恐る恐る質問してみた。

 

 

夢咲先生「え、えっと、お母さんは、どのような、お仕事を?」

 

夏希「妻は、IT企業の社長を務めています」

 

夢咲先生「しゃ、社長!?」

 

 

突然のカミングアウトに、夢咲先生は驚いて声を上げてしまう。

 

 

夢咲先生「凄いじゃないですか!大学教授とIT企業の社長なんて!」

 

秋宗「凄いなんて意識なかったですけどね」

 

夏希「だよなぁ~」

 

 

秋宗と夏希は対したことはないですよと言わんばかりに相づちをうった。

 

 

夢咲先生「えっと、じゃあ西条くんは、何か将来の夢とかありますか?もしくは、やりたいこととか?」

 

秋宗「そうですね・・・」

 

 

夢咲先生から言われて、秋宗は少し考えて答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「・・・お嬢と姐さん、2人と一緒にいたいです」

 

夢咲先生「えっ?」

 

夏希「お嬢と姐さんって、かるらちゃんとマトラちゃんのことか?」

 

 

意外過ぎる答えに、夢咲先生と夏希は驚いてしまった。

 

 

秋宗「別に2人を恋愛対象として見てはいませんが、あの2人がいたからこそ、今の俺があるんです。上手く説明出来ないんですけど、2人には、いつか恩返しがしたいんです」

 

夏希「秋宗・・・」

 

夢咲先生「・・・・・」

 

 

秋宗の何一つ曇りのない答えに、2人は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

千紗希母「へぇ~!アメリカ大学の教授なんですか!?凄いですねぇ!」

 

夏希「そこまで対したものではありませんよ」

 

雨野祖母「ご謙遜なさりおって!素晴らしいことではないか!」

 

仲居さん「それに奥様は社長なんですよね?羨ましい限りですよ」

 

 

中庭にて、三者面談が終わった後、夏希は仲居さんたちと談笑していた。

それを秋宗たちは遠くから見ていた。

 

 

コガラシ「結構いい人じゃねぇか、お前の親父さん」

 

秋宗「まぁな」

 

幽奈「あの、秋宗さんのお父様って、人間ですよね?」

 

秋宗「あぁ、父さんは正真正銘の日本人で母さんがオオカミ人間なんだ」

 

千紗希「・・・そういえば、西条くんって、どうして日本人の名前なの?」

 

秋宗「母さんが日本がとても好きで、名前をつけるなら日本人の名前にしよう!ってことになったらしくて」

 

雲雀「そんなことがあったんだ・・・」

 

狭霧「ん?どうやら終わったらしいぞ」

 

 

仲居さんたちが会話を終えて、秋宗たちの方へ歩いて来た。

 

 

雨野祖母「では狭霧、雲雀。儂は里へ戻るからのう。コガラシ殿を婿として迎える準備をしておくからのう!」

 

狭霧「お止め下さいおばば様!///こんな公衆の場でそのようなことを!///」

 

千紗希母「千紗希!今日はゆらぎ荘でご飯食べていきなさいよ!ついでに冬空くんを彼氏にして!」

 

千紗希「もうママ!///」

 

 

何やらヒソヒソと話し声が聞こえるが、取り敢えずは聞かないようにした。

 

 

秋宗「そういや父さん、いつアメリカに戻るんだ?」

 

夏希「明日の朝の便に乗って帰る予定だよ」

 

コガラシ「えっ?もう明日にはアメリカ行くんスか?」

 

夏希「うん、また忙しくなって来たからね」

 

コガラシは緋扇邸で秋宗から両親の仕事が多忙とは聞いていたのだが、まさかここまで忙しいとは思わなかったのだ。

 

 

秋宗「・・・そっか」

 

 

少し寂しい表情をした秋宗を見て、仲居さんはあることを提案した。

 

 

仲居さん「・・・夏希さん、よろしければ今夜、ゆらぎ荘でお泊まりになりませんか?」

 

夏希「え?いいんですか?何かご迷惑では?」

 

仲居さん「そんなことありませんよ。それに家族との時間を大切になされた方がいいですし」

 

 

仲居さんに言われて、夏希は秋宗の方を見て、

 

 

夏希「・・・では、お言葉に甘えます」

 

 

ゆらぎ荘で泊まることを決めた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

秋宗たちは、ゆらぎ荘へ帰っていた。

夏希は駅のコインロッカーに預けてある荷物を取りに行っているため、一緒にはいなかった。

 

 

秋宗「ありがとうございます、仲居さん」

 

 

歩きながら、秋宗は仲居さんにお礼を言った。

 

 

仲居さん「いえいえ、そんな大したことはしてないですよ。せっかくお父様と一緒にいられるのですから、家族団欒ゆっくりして下さいね」

 

秋宗「はいっ!」

 

幽奈「・・・あれ?」

 

 

そんな時、幽奈が首を傾げた。

 

 

コガラシ「どうした幽奈?」

 

幽奈「その、あれ・・・」

 

 

幽奈の視線の先にはゆらぎ荘が見えるのだが、そのゆらぎ荘前に誰かが立っていた。

 

金髪のロングウェーブに黒いサングラスを掛けて、白のシャツブラウスで花柄のロングスカートを着て、胸が豊満で旅行鞄を右手に持っている女性だった。

 

 

雲雀「・・・誰だろう?」

 

千紗希「外国人観光客かな?」

 

狭霧「大方、道にでも迷ったのだろう」

 

 

雲雀たちはそれぞれ話しているが、秋宗だけは開いた口が塞がらなかった。

 

すると、女性がこちらに気づき、

 

 

 

 

 

???「・・・ッ!」(ダッ

 

 

 

 

 

旅行鞄をその場に投げ捨てて、こちらへ駆け出した。

コガラシたちが動揺する中、近くまで来ると、

 

 

 

ガシッ

 

 

 

女性は秋宗に飛びつくように抱きついた。

 

 

 

???「久シブリ~!元気にシテタ~?」

 

 

秋宗「は!?えっ!?えぇっ!?」

 

 

 

女性は親しげに秋宗と接しているが、秋宗は動揺を隠せなかった。

そしてコガラシたちも呆気にとられていた。

 

 

 

コガラシ「お、おい西条?その人誰だ?」

 

 

秋宗「え、ええっと・・・」

 

 

夏希「おーい!」

 

 

 

秋宗が答えようとした時、荷物を取りに行っていた夏希がこちらへ歩いて来た。

 

 

 

夏希「いや~、少し道に迷ったけど、なんとか来られた・・よ・・・?」

 

 

 

夏希が秋宗に抱きついている女性に気がつくと、言葉が途切れてしまった。

 

女性が夏希に気づくと、

 

 

 

???「ッ!ナツキ~!」(ガシッ

 

 

 

今度は夏希の方へ抱きついた。

 

しかし、それだけでは終わらず、

 

 

 

???「ン~!」(チュゥゥッ

 

 

幽奈たち『なぁっ!?///』

 

 

 

夏希に熱いキスをしてきたのだ。

それを見て、幽奈たちは揃って顔を赤くしてしまった。

 

そして、数十秒に渡るキスが終わり、2人は顔を離した。

 

 

 

夏希「な、なんで日本いるの!?仕事は!?」

 

 

???「ナツキとアキムネに会イタクテ~、全部部下に押シ付ケテ来チャッタ!」

 

夏希「来ちゃったって・・・!そんなあっさりと・・・!」

 

 

可愛くテヘッ、としている女性を見て、夏希は呆れながらも、うっすら笑っていた。

 

 

仲居さん「な、何が起こったんですか!?///」

 

千紗希「い、今!///キ、キキ、キスを!?///」

 

雲雀「こ、こんな人目がつくとこで!///あんな熱いキスを!?///」

 

幽奈「見ているこっちが恥ずかしいですぅ!///」

 

狭霧「西条秋宗!///説明しろ!///これはどういうことだ!?///」

 

コガラシ「おい西条!///まさかあの人・・・!///」

 

 

コガラシと狭霧から問い詰められた秋宗は、気まずそうに話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「あぁ、俺の母さんだ・・・」

 

 

 

 

 

幽奈たち一同(((や、やっぱりかぁぁ!!///)))

 

 

 




感想のほど、お願いいたします。


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第19話 父と母の想い

オリジナル回です。
投稿が遅れて申し訳ありませんでした!



マーレ「初メマシテ~!マーレ・サイジョウと言イマ~ス!」

 

 

あの後、仲居さんによりゆらぎ荘の大広間へ案内された秋宗の母親、マーレは大広間へ集まったゆらぎ荘の入居者たちに元気よく挨拶した。

マーレはサングラスを外しており、目は秋宗と同じエメラルドアイをしていた。

 

 

仲居さん「は、初めまして。仲居ちとせと申します」

 

呑子「秋宗ちゃんのお母さんって若いのねぇ」

 

夜々「本当に秋宗のお母さん?」

 

 

呑子と夜々はマーレを見ながら率直な感想を述べた。

 

秋宗は少し気まずそうに答えた。

 

 

秋宗「間違いなく俺の母さんだ。来るなら来るって連絡してほしかったんだけど」

 

マーレ「ダッテ~、サプライズ的ナ感ジでアキムネを驚カセタカッタカラ!」

 

こゆず(あ、その考え方は似てる・・・)

 

 

実際秋宗も、ドッキリのようにみんなを驚かせたことがあったため、こゆずは血の繋がりを少しだけ感じた。

 

 

秋宗「・・・ところで母さん」

 

マーレ「何~?ドウカシタノ~?」

 

秋宗「取り敢えず父さんから離れようか」

 

 

現在進行形で、マーレは隣で座っている夏希の首に手を回して抱きついている形になっているのだ。

 

 

マーレ「エェ~?イイジャナイ別ニィ。ナツキはワタシのダーリンナンダカラァ~」

 

夏希「大丈夫だよ秋宗、僕は気にしてないから」

 

秋宗「息子が気まずいんだよ!」

 

 

目の前でイチャついている両親を見て、秋宗は声をあげてしまう。

 

一方、幽奈たちはというと、

 

 

幽奈(う、羨ましいですぅ!///)

 

雲雀(もしあれが雲雀とコガラシくんだったら///)

 

狭霧(少しは節度というものを理解していただきたい///)

 

千紗希(男の人はオオカミさんと思ってたけど、この場合は西条くんのママがオオカミさんだ!///)

 

 

頬を赤くして顔を伏せていた。

目の前でイチャつく夫婦を見て、自然に顔を伏せてしまったのだろう。

 

 

朧「まったく、客人とはいえ、少しは常識というものを理解した上で行動してもらいたいな」

 

 

まともなことを言いながら、朧はまたいつものようにコガラシの上着を脱がし、さらには自分も裸になってコガラシの膝の上に乗り抱きついた。

 

 

狭霧「お前が人のことを言える立場か!?///」

 

 

狭霧が朧に突っ込むと、

 

 

マーレ「・・・甘イワネ。ソンナ行為ダケデ男を堕トスツモリナノ?」

 

朧「なんだと?」

 

 

朧の行動を見たマーレが真剣な表情になった。

 

 

マーレ「ドウセ脱ガスナラ、パンツも脱ガシナサイ!」

 

秋宗「余計なことを朧に吹き込まないでくれよ母さん!」

 

 

真剣な表情のままとんでもないことを言っているマーレに秋宗は盛大に突っ込んだ。

 

 

朧「なるほど・・・!そこは盲点だった・・・!という訳だ冬空、こっちも脱げ」(ガシッ

 

コガラシ「ば、馬鹿!よせ朧!」

 

幽奈「ダメですよぉ朧さん!///」

 

雲雀「まだ早すぎるよぉ!///」

 

 

コガラシのベルトに手をかけた朧を幽奈と雲雀は必死に止めようとした。

 

すると秋宗はふと思った。

 

 

秋宗「・・・なんだかこのパターン、最近見たような気がする」

 

夜々「紫音が遊びに来た時に似てる」

 

千紗希「と言うことは・・・」

 

 

千紗希が予測したと同時に、突如天井に白い渦、神足通が出現し、

 

 

かるら「貴様!またコガラシ殿にそのようなことを!今すぐその手を離せ!」

 

マトラ「よっ!秋宗!」

 

秋宗(面倒くさいのが来たぁ!!)

 

 

中から頭に血がのぼっているかるらと秋宗に手を上げたマトラが現れ、秋宗は絶対面倒なことが起こると予想して、思わず頭を抱えてしまう。

秋宗はため息を漏らしながらも、かるらを落ち着かせようとした。

 

 

秋宗「まぁまぁお嬢、落ち着けよ。それに今はお客さんが来てるから、お嬢も挨拶しとけ」

 

かるら「黙れ秋宗!今日という今日はやつを懲らしめてくれるわ!それに何故妾がどこぞの馬の骨に挨拶をせねばならん・の・・じゃ・・・」

 

 

かるらが夏希とマーレの2人に気がつくと、言葉が途切れてしまう。

 

 

マーレ「カルラ!マトラ!久シブリ!」

 

夏希「久しぶりだね2人とも!また大きくなったね!」

 

 

マーレと夏希はかるらとマトラに久しぶりに会えて、嬉しそうに挨拶した。

一方かるらは、顔が真っ青になり冷や汗が止まらなかった。

 

 

かるら「お、おば上殿!?おじ上殿まで!?」

 

マトラ「あっ!おばさん!おじさん!久しぶり!」

 

 

かるらは2人がいることにびっくりしており、マトラは元気よく挨拶をした。

 

 

マーレ「ホントに久シブリネ。トコロでカルラ・・・」(ポンッ

 

 

マーレは立ち上がり、かるらの左肩に右手を置き、

 

 

マーレ「馬の骨っテ、誰のコト?」(ゴゴゴゴゴ

 

 

笑顔なのだが目が笑っておらず、右手の握る力を強めていた。

見ていたコガラシたちはゾッとした。

 

 

かるら「も、もも申し訳ありませぬ!まさかおば上殿がいるとは知らなかった故!どうかお許し下さいませ!」

 

 

痛みに堪え、かるらは涙目になりながらもマーレに必死に謝った。

 

 

マトラ「にしても秋宗。何でおじさんたちがいるんだよ?」

 

秋宗「今日は三者面談だったんだよ。本当は父さんだけが来る予定だったんだけど、母さんまで来るとは予想外だったんだ」

 

 

マトラは秋宗の隣に座り、秋宗は両親がいる理由を話した。

 

 

夏希「まぁまぁマーレ。かるらちゃんも謝ってるんだから、そのくらいにしときなよ」

 

マーレ「・・・ナツキがソコマデ言ウナラ、仕方ナイワネ」

 

 

夏希の言うことに素直に従って、マーレはかるらの肩から手を離した。

 

 

かるら「はぁ、はぁ、死ぬかと思うた・・・!」

 

 

恐怖から解放されたかるらは肩を押さえながら息切れをしていた。

 

 

千紗希「死ぬって、そんな大げさな・・・」

 

かるら「其方は何も分かっておらん!」

 

 

千紗希が笑いながら軽く流したことに対し、かるらは声を荒らげてマーレの紹介をした。

 

 

かるら「おば上殿はかつて!裏世界の武術大会で何度も優勝を収め!『モンスタークイーン』と名付けられた程の御三家に匹敵する実力の持ち主なのじゃぞ!!」

 

雲雀「そんな凄い人だったの!?」

 

マーレ「モウ何年も前の話ダケドネ~。ザクロは元気にシテルカシラ?」

 

 

マーレの経歴を聞いて雲雀を始め、幽奈たちは大変驚き、当の本人は軽く笑っていた。

 

 

コガラシ「・・・・・あっ!?」

 

幽奈「コガラシさん?どうされましたか?」

 

 

突然、コガラシが何かを思い出したかのように声をあげた。

 

 

コガラシ「どこかで見たことあると思ったら・・・!」

 

マーレ「ヤット思イ出シテクレタ!忘レテタナンテ酷イヨ!ナツキィ!慰メテェ!」

 

夏希「はいはい」

 

 

マーレはコガラシがようやく自分のことを思い出してくれたことに頬を膨らませ、夏希に泣きつくように抱きついた。

 

 

秋宗「え!?コガラシと母さんって面識あんの!?」

 

かるら「まことかコガラシ殿!?」

 

 

秋宗は自分の母親とコガラシが知り合いであることに驚いた。

するとコガラシはゆっくりと口を開いた。

 

 

コガラシ「あぁ・・・一回だけなんだが、ある任務で世界中の超越者が集まった時があって、俺もその任務に師匠と一緒に同行したんだ。師匠のライバルだったらしくて、その時に知り合ったんだ。その時と今じゃ雰囲気がすげぇ変わってたから気づかなかった・・・」

 

マーレ「アノ時は驚イタワ。マサカオーガに弟子がイタナンテ」

 

 

マーレは当時のことを思い出して、楽しそうに話していた。

 

 

こゆず「すごーい!コガラシくんのお師匠さんのライバルだったんだ!」

 

仲居さん「コガラシくんの師匠ということは、先代の八咫鋼ということですか!?」

 

朧「一体何者なんだ?」

 

 

幽奈たちはさらに驚いてしまった。

 

 

マーレ「ホントに、アノ頃が懐カシイワネ・・・」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ズドオォン!!

 

 

 

マーレ『ドウシタノオーガ!ナンダカ威力が落チテルワヨ!モウ疲レタノ!?』

 

逢牙『ハッ!抜かせマーレ!あたしがこの程度で疲れる訳ないことくらい!お前が1番分かってるだろ!?』

 

マーレ『ソレモソウネ!ジャアソロソロコノ勝負を終ワラセヨウナイ!!』

 

逢牙『いいねぇ!そう来ねぇとなぁ!!』

 

 

ズバゴオォン!!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

マーレ「何度モ何度モ勝負シタアノ頃が懐カシイワ。長イ時ジャア1週間ブッ続ケデ勝負シタモノヨ」

 

 

当時の話を聞いて、秋宗たちは唖然となってしまった。

 

 

秋宗「母さん、凄すぎる・・・!」

 

コガラシ「師匠と正面から殴り合うなんて・・・!」

 

 

すると、マーレが立ち上がり、

 

 

マーレ「ネェ!ソロソロ温泉入リタイ!」

 

 

話を切り替えるように温泉に入りたいと言い出した。

 

 

仲居さん「あっ、はい分かりました!ではご案内致しますね!」

 

夏希「マーレは先に入ってきなよ。せっかくだから、かるらちゃんとマトラちゃんと一緒に入ったらどうだい?」

 

マーレ「ソウネ!カルラとマトラも一緒に入リマショ!」

 

マトラ「入る入る!」

 

かるら「で、では、お言葉に甘えて・・・」

 

呑子「私も入っていいかしらぁ?」

 

夜々「夜々も入る」

 

こゆず「ボクも入りたーい!」

 

朧「せっかくだから、男の堕とし方を教わっておくか」

 

狭霧「何を聞こうとしているのだお前は!?」

 

雲雀「雲雀も入る!」(雲雀も聞いておきたい!)

 

幽奈「私も入ります!」

 

千紗希「私も!」

 

 

こうして女性陣全員が温泉に入ることになり、大広間から出ていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

全員が温泉に入り、仲居さんが作った料理を食べて、みんなは大広間でくつろいでいた。

 

マーレ「ソレデネ!ソノ時にナツキが闘技大会の客席に迷イ込ンデイテネ!優勝シテ怪我ヲシタワタシの手当テヲシテクレタノ!」

 

幽奈「そんなことがあったんですね」

 

マーレ「ソコデナツキに一目惚レシチャッテ!コノ人コソ私の優勝商品ダト思ッタノヨ!」

 

千紗希「随分と強引ですね・・・」

 

マーレ「女ニモ強引サハ必要ナノヨ」

 

 

幽奈たちはマーレの恋愛話を聞いて盛り上がっていた。

秋宗たちはその様子を眺めていた。

 

 

コガラシ「随分楽しそうだな」

 

秋宗「ま、そこが母さんらしいけど」

 

かるら「おば上殿はいつもあのようなテンションじゃからのう」

 

マトラ「たまにアタシと同い年って思う時があるけどな」

 

 

そんな時、

 

 

夏希「あのさ、秋宗」

 

秋宗「ん?」

 

 

夏希が声を掛けて来た。

 

 

秋宗「どうした父さん?」

 

夏希「・・・いきなりこんなこと言うのもなんだけどさ、アメリカに戻らないかい?」

 

秋宗「えっ?」

 

 

夏希の突然の発言に、秋宗はもちろん、近くにいたコガラシたちも目を丸くしてしまう。

 

 

夏希「秋宗が小さい頃、友人の我琉駄に預けた時に、親として失格だなって思ったんだ。録に自分の息子の面倒を見れないなんて、何が父親だって。でも、これからは父親として家族との時間を大切にしたいんだ。もちろん仕事もなるべく早く終わらせるから、だから、一緒に帰らないかい?」

 

 

夏希は父親として、秋宗との時間を大切に過ごしたいという言葉に、秋宗は温もりを感じた。

 

 

秋宗「・・・父さん、俺も父さんと母さんと一緒にいたいっていう気持ちが強いよ。どこか遠くへ遊びに行ってみたいとも思う」

 

夏希「じゃあ・・・」

 

秋宗「でも、ごめん。まだアメリカには戻りたくない」

 

 

しかし、秋宗は自分の意思を夏希に伝えようとした。

 

 

秋宗「お嬢と姐さんに会って、それからコガラシたちに会って、いろんな友達ができてさ、もっと日本でこの楽しい時間を過ごしたいんだ」

 

夏希「秋宗・・・。でも僕は・・・!」

 

かるら「お言葉ですがおじ上殿」

 

 

夏希の言葉を遮るように、かるらが切り出した。

 

 

かるら「おじ上殿が秋宗を大切に思っていることも十分理解できます。だからこそ、秋宗の意思を尊重していただけないでしょうか?」

 

マトラ「そうだぜおじさん!アタシも秋宗がいなくなったら寂しいしよ!」

 

秋宗「お嬢・・・!姐さん・・・!」

 

 

かるらとマトラは秋宗に居てほしいと夏希にお願いした。

 

 

マーレ「イイジャナイナツキ。アキムネの好キナヨウニヤラセレバ」

 

夏希「・・・マーレ」

 

 

すると、話を聞いていたマーレも夏希たちの話に入ってきた。

 

 

マーレ「アキムネが日本に居タイッテ言ウナラサ、ワタシタチは親トシテ息子のヤリタイヨウニヤラセレバイイと思ウヨ」

 

 

マーレは秋宗の側に座って、優しく秋宗の頭を撫でた。

 

夏希はしばらく考えて、

 

 

夏希「・・・本当にいいのかい?」

 

秋宗「あぁ」

 

 

秋宗に聞くと、秋宗は即座に返事をした。

 

 

夏希「・・・分かった。秋宗のやりたいようにやらせるよ」

 

秋宗「ッ!ありがとう父さん!」

 

 

とうとう夏希が折れて、秋宗をアメリカへ連れて行くことを観念した。

 

それを見ていたコガラシたちは、

 

 

 

コガラシ「よかったな、西条」

 

 

幽奈「また一緒に居られますね!」

 

 

狭霧「私としてはどちらでもよいが、やはり一人居なくなると寂しくなるからな」

 

 

呑子「狭霧ちゃんったらぁ、素直じゃないんだからぁ」

 

 

夜々「やっぱりみんな一緒がいい」

 

 

仲居さん「なんだかほっこりしますね」

 

 

朧「まぁ西条が何処へ行こうとも、私の瞬間移動でいつでもゆらぎ荘へ連れて行けるからな」

 

 

雲雀「ちょっとほっとしたかな・・・」

 

 

千紗希「私も・・・」

 

 

こゆず「秋宗くんゆらぎ荘に居続けられるんだね!」

 

 

 

秋宗がアメリカへ帰らないことを大変喜んでいた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

翌日、駅の改札口にて、夏希とマーレが空港へ行くのを秋宗をはじめ、かるらとマトラ、そしてコガラシたちが見送ろうとしていた。

 

 

かるら「わざわざ新幹線など使わずとも、妾の神足通であっという間に空港まで行けますのに」

 

夏希「大丈夫だよ。それにこういうのは自分の足で行くからこそ価値があるんだから。それにしても、我流駄には悪いことしたなぁ。会いに行くって約束したのに・・。」

 

マーレ「ジャア昨夜教エタテクニックを忘レナイデネネ!」

 

朧「もちろんだ。早速冬空に試すつもりだからな」

 

雲雀「一体何を教わったの!?」

 

 

みんながワイワイ話していると新幹線が到着する放送が流れた。

 

 

夏希「もう時間か。じゃあ秋宗、僕たちもう行くから、体には気をつけてね」

 

秋宗「父さんもな」

 

 

夏希と秋宗はアメリカ式のハグをした。

 

 

マーレ「アキムネ、何かアッタラ連絡シテネ。ワタシとナツキはアキムネの味方ダカラ」

 

秋宗「ありがとう母さん」

 

 

今度はマーレとハグをした。

 

そして2人は改札口を抜けて、

 

 

夏希「じゃあ皆さん!また会いましょう!」

 

マーレ「アキムネをヨロシクネ~!」

 

 

秋宗たちに手を振ってホームへ向かって行った。

 

 

仲居さん「・・・では皆さん、帰りましょうか」

 

 

2人を見送り、仲居さんの促しにより、みんなはゆらぎ荘へ戻ろうとした。

 

 

秋宗「・・・あのさ、みんな」

 

 

秋宗はみんなを呼び止めて、

 

 

秋宗「・・・これからも、よろしく」

 

 

と、照れくさそうに頭を掻きながらみんなをみた。

 

 

かるら「何を当たり前のことを言っとるのじゃ」

 

マトラ「おう!よろしくな秋宗!」

 

 

こうして、秋宗は日本でかるらたちと高校生活を続けていくのであった。

 

 

 




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第20話 銭湯

今回は銀魂パロディのオリジナル回です。


秋宗「銭湯?」

 

 

湯煙高校にて、昼休みに教室にいた秋宗とコガラシと千紗希と柳沢は兵藤の話を聞いていた。

ちなみに雲雀はトイレに行っており、幽奈も学校には来ておらず教室にはいなかった。

 

 

兵藤「そうなんだよ。実は親戚から銭湯の入浴無料券を貰ってて、有効期限が今日までなんだ。しかも6枚もあるから使い切れなくて、せっかくだからみんなで行かないか?」

 

 

兵藤は懐から銭湯の入浴無料券を6枚取り出してみんなに見せた。

 

 

コガラシ「ゆらぎ荘に温泉があるから、俺は別に行く必要は・・・」

 

秋宗「まぁいいじゃないか。期限も今日までなんだろ?それにゆらぎ荘の温泉以外での風呂も悪くないと思うし」

 

千紗希「でも、私たちだけで行ったら1枚余るよ?」

 

柳沢「じゃあアタシが紫音を誘っとくよ。アイツなら来ると思うから」

 

 

コガラシは乗り気ではないが、他の3人は銭湯に行くことに賛成して、残りの1枚は柳沢が紫音に渡すことになった。

 

 

秋宗「ところで兵藤、これ本当に普通の銭湯なんだよな?」

 

兵藤「おう、ただの銭湯のはずだけど?」

 

 

秋宗は兵藤の表情を観察して嘘をついていないことを確認した。

 

 

秋宗「・・・どうやら嘘はついてないようだな。お前のことだから裏がありそうだったから」

 

兵藤「ひでぇ言われようだな!」

 

 

こうしてみんなは、銭湯へ行くことになった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~午後6時~

 

学校が終わり、みんなは1度自宅へ戻り銭湯前で合流することになった。

 

男性陣が銭湯へ到着すると、既に女性陣が到着しており、紫音の姿もあった。

全員揃って、銭湯の中へ入ったのだが・・・

 

 

 

 

 

秋宗「おい、どういうことだ?」

 

コガラシ「説明しろ」

 

兵藤「ま、待て2人とも!俺も驚いてんだよ!」

 

 

 

 

 

男性着替え室にて、兵藤は秋宗とコガラシから詰め寄られていた。

なぜこのような状況になっているのかというと、

 

 

秋宗「なんで銭湯で水着を着なきゃいけねぇんだよ?」

 

コガラシ「混浴ってどういうことだ?」

 

兵藤「ど、どうやらここは、『銭湯プール』だったみたいだな」

 

 

秋宗たちが中へ入った時、番頭さんから水着の着用と混浴の説明を受けて、驚いてしまった。

最初コガラシと秋宗は女性陣に悪いと思い帰ろうとはしたものの、紫音が『せ、せっかく銭湯に来たんスから入っていかないと番頭さんに失礼ッスよ!』と言ってしまったため、2人は帰りづらくなってしまった。

ちなみに水着はレンタルされていたため、それを着ることになった。

 

 

兵藤「お前ら、冷静になって考えろ。これはむしろチャンスだぞ」

 

秋宗「チャンス?」

 

 

兵藤は秋宗とコガラシを落ち着かせようと説得を始めた。

 

 

兵藤「そうだ!俺らは今年1番乗りで宮崎たちの水着姿を目に焼きつけられるんだぞ!」

 

コガラシ「高校2年になっても相変わらずだなお前は」

 

秋宗「はぁ、仕方ない。もうこうなってしまった以上、腹くくって混浴するか」

 

 

コガラシと秋宗は折れてしまい、渋々水着へと着替えて浴場へと入っていった。

 

浴場は普通の銭湯よりも少し広く、大浴場やちびっこ風呂、さらにはサウナまでもあった。

しかし、浴場には秋宗たち以外誰もいなかった。

 

 

秋宗「流石は銭湯プール、結構広いな」

 

兵藤「あれ?誰もいないな?」

 

コガラシ「はぁ、なんでこんなことになったんだ?」

 

???「お、お待たせ・・・」

 

 

男性陣が振り替えると、女性陣たちが浴場へ入ってきた。

千紗希はオレンジ色、柳沢は黒、そして紫音は白の水着を身に纏っていた。

 

 

兵藤「うおぉー!宮崎に紫音ちゃんスゲェ似合ってるよ!」

 

柳沢「オイ、何でアタシを飛ばしたんだ?溺れさすぞ」

 

 

自分だけ飛ばされた柳沢は、兵藤にガンを飛ばした。

 

 

千紗希「ねぇ冬空くん、ど、どうかな?」

 

紫音「似合ってるスか?秋宗兄さん?」

 

 

レンタルとはいえ、自分たちが選んだ水着が似合っているか、コガラシと秋宗に聞くと、

 

 

コガラシ「・・・いいんじゃないか?」

 

秋宗「目のやり場に少々困るな・・・」

 

千紗希・紫音『っ!///』

 

 

そう言って顔を反らした2人に、千紗希と紫音は揃って顔を赤くしてしまう。

 

その後、みんなは掛け湯をして湯船に横並びで浸かった。

 

 

コガラシ「ふぅ、たまには銭湯ってのも悪くないな」

 

秋宗「ちょうどいい湯加減だな」

 

 

コガラシと秋宗は湯船に浸かりながら、身体の疲れが取れていくのを感じていた。

 

一方、女性陣は、

 

 

柳沢「なぁ紫音、お前西条のことが好きなんだろ?」(ニヤニヤ

 

紫音「な、何言ってるんスか芹姐さん!?///」

 

千紗希「そ、そうなの?」

 

 

男性陣に聞こえない程度で恋ばなトークが始まっていた。

 

 

柳沢「西条がいる時、いつも視線が下向いて西条と目を合わせないようにしてるだろ。分かりやすいんだよ。で?アイツのどこに惚れたんだ?」

 

柳沢に言われて紫音は観念して、秋宗を見ながら話し出した。

 

 

紫音「・・・自分を助けてくれた時、カッコいいって思ったんス。でも、秋宗兄さんはオオカミ人間ですし、自分みたいなただの人間が好きになってもいいのかって思う時があって・・・」

 

千紗希「・・・そんなの関係ないと思うよ」

 

紫音「えっ?」

 

 

紫音は思わず千紗希を振り向いた。

 

 

千紗希「相手を好きになるのに、相手が妖怪だとかは関係ないと思う。自分の気持ちを素直に伝えればきっと西条くんも振り向いてくれるよ」

 

紫音「千紗希姐さん・・・!」

 

柳沢「よくもまぁそんなことを言えるもんだな千紗希。ろくに冬空に告れてもねぇくせに」

 

千紗希「そ、それは・・・!///」

 

 

女性陣は恋ばなトークで盛り上がっている時、秋宗は改めて浴場を見渡した。

 

 

秋宗「それにしても、俺たち以外誰も来る気配がないな。今日は客足でも少ないのかこの銭湯」

 

兵藤「いいんじゃないか?俺たちの貸し切りってことでよ」

 

 

兵藤がもう自分たちの貸し切りでいいと口を滑らせてしまった時、

 

 

 

 

 

???「えぇ?貸し切り?そんなぁ、銭湯はみんなのお風呂って聞いてたのに」

 

 

 

 

 

突然子供の声が浴場に響き、秋宗たちが入り口の方を見ると、そこには褐色の肌に鬼灯のように赤い目、口から牙がはみ出しており、2本の角を生やした明らかに人間ではない子供が立っていた。

 

 

兵藤「・・・え?何あれ?」

 

 

兵藤を始めコガラシたちは異形の子供を見て驚きを隠せずにいた。

だが秋宗は、子供の姿を見てある種族が脳裏を過った。

 

 

???「ねぇ!あのお兄さんが貸し切りとか言ってるよぉ!」

 

 

子供が入り口の方へ呼び掛けると、

 

 

???「そうなの?おかしいわね?銭湯は公衆浴場って聞いていたのだけれど、ヨシ子姉さん、貸し切りみたいだけど」

 

???「そんなはずないわよイツ子、ボルグ兄様はみんなで入れるとおっしゃっていたわ。ねぇ三郎兄様」

 

???「いや、俺に聞かないでおくれよ。ねぇ次郎兄さん」

 

???「父さん、ボルグ兄さんは?」

 

???「今準備が終わったらしいぞ」

 

???「おいみんな、入り口前で一体何をしているんだ?」

 

???「あ、ボルグ兄さん」

 

 

次々に子供と同じ容姿をした身体が大きい大人たちが6人も入って来て、秋宗たちはただ呆然と見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボルグ「あれ?もしかして西条くんですか?お久しぶりです。私ですよ、ボルグです。何年ぶりでしょうか?随分と成長なされましたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗に気がついた1番ガタイのいい異形の者は、思い出させるように、自らボルグと名乗った。

突然のことに秋宗を始め、コガラシたちの表情は青ざめていった。

 

 

イツ子「あの~、この銭湯って貴方たちの貸し切りなんですか?」

 

三郎「俺たち入ったらダメなんですか?」

 

 

質問された秋宗たちは、

 

 

ザバアァン!!

 

 

秋宗たち『いらっしゃいませ!!どうぞごゆっくりとおくつろぎ下さい!!』

 

 

慌てて大浴槽から隣のちびっこ風呂に飛び込んで、大浴場を譲った。

 

 

甥っ子「やったぁ!」

 

ボルグ「申し訳ありません。何かご無理を言ってしまったようで・・・」

 

 

そう言って、ボルグたちは掛け湯の準備に入った。

 

 

兵藤「さ、西条!なんだあの怪物一家!?明らかにお前に気がついて声をかけたよな!?」

 

秋宗「しょ、小学校の頃、実家のアメリカに戻った時に知り合った、オーガ族のボルグさんだ!後は知らないけど、あれ絶対ボルグさんの家族だ!」

 

紫音「オーガ!?オーガってあの西洋の鬼と言われているあのオーガッスか!?メチャクチャ怖いんスけど!」

 

コガラシ「それよりも何であんな姿で人間の銭湯に来てるんだアイツら!?」

 

秋宗「オーガ族は幻術を使って人間に擬態することができるんだよ!」

 

千紗希「じゃあ今はその幻術が解けてるってこと!?」

 

柳沢「まさか幻術が解けてることに気がついてねぇんじゃ!?」

 

 

秋宗からオーガ族のボルグの説明を聞きながら、ボルグ一家の掛け湯の光景を見ていた。

秋宗は恐る恐るボルグに声を掛けてみた。

 

 

秋宗「ほ、本当にお久しぶりですねボルグさん。まさかこんなところで再会できるとは。ご家族で日本旅行にでも来てたんですか?」

 

ボルグ「いやぁ、実は私、数ヶ月前に日本へ移住しまして。そしたら家族が地元のアメリカから遊びに来て、何か日本らしいものが見たいと言うので、"銭湯に参った"次第で」

 

秋宗たち(((せ、戦闘に参った!?)))

 

ボルグ「みんなでお風呂に入るなんて風習私たちオーガ族にはありませんでしたから、湯船に浸かりながら談笑する"日本伝統って、素晴らしいですよねぇ"」

 

秋宗たち(((に、日本刀で気晴らし!?)))

 

 

ボルグはまともなことを言っているのだが、容姿が恐ろしいため、秋宗たちの耳には恐怖の発言にしか聞こえていない。

 

 

秋宗「ヤ、ヤベエェ!もはやボルグさんたち世界征服前に団結力を高める悪の組織にしか見えねぇ!」

 

紫音「いや、本当に世界征服しに来たんじゃないんスか!?」

 

兵藤「のんびり湯船に浸かってる場合じゃねぇぞ!」

 

千紗希「早くこの場から立ち去らないと!」

 

コガラシ「アイツらが大浴槽に入ったと同時に俺たちも出るぞ!」

 

柳沢「あんな連中と長時間一緒の空間にいられる訳ねぇもんな!」

 

 

秋宗たちが脱出する作戦を練っていると、

 

 

ザバァン!!

 

 

掛け湯を終えたボルグ一家が浴槽へ向かい、湯船につかった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちびっこ風呂の湯船に・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗たち(全員ちびっこ風呂に入って来たぁ!?)

 

 

秋宗たちが中央へ寄り、それをボルグ一家が取り囲む形になった。

 

 

秋宗(えぇ!?何で!?何でそんなデカイ身体してるのにちびっこ風呂入って来たんだ!?)

 

コガラシ「あ、あの、ボルグさん?あっちの大浴槽の方が暖かくて気持ちいいですよ?」

 

 

コガラシはボルグ一家に大浴槽へ入るように促すが、

 

 

ボルグ「いえ、実は私たちオーガ族は基本的に水浴びしかしなくて、お湯で体を洗うことに慣れてないんですよ。水風呂に浸かりたいのですが、あっちは狭いようなので・・・」

 

コガラシ(な、なにいぃ!?)

 

 

オーガの習性を聞いて、コガラシの心が驚きの声を上げた。

 

 

紫音「完全に囲まれちまったスよ!晩餐会に並べられたメインディッシュみたいな感じになっちまったッスよ!」

 

兵藤「今一瞬目が合っちまったぞ!超怖ぇ!」

 

柳沢「どうすんだよ!?出ようにも出られなくなっちまったぞ!?」

 

 

秋宗たちが小声で作戦会議をしていると、ボルグが老人の容姿でメガネを掛けているオーガの1人のお父さんに声をかけた。

 

 

ボルグ「どうですかお父さん?水加減は?」

 

お父さん「・・・ぬるいな。日本人はこんなのに浸かってるのか?」

 

ボルグ「・・・言われてみれば、確かに少しぬるいかも」

 

 

その様子を見て、千紗希は設置してある蛇口に手を伸ばした。

 

 

千紗希「あ、あの~、ぬるいようでしたらお水を足しますけど?」

 

ボルグ「あぁいいですよお気遣いなく。こんなこともあろうかとアイスブロックを用意しているので」

 

千紗希(えぇぇぇ!?)

 

 

浴槽のそばには、いつの間にかボルグが用意していたレンガ並みの大きさのアイスブロックが50個近く積まれていた。

 

ボルグの手により、すべてのアイスブロックがちびっこ風呂に入れられて、南極の水温くらいまで温度が下がった。

 

 

次郎「流石ボルグ兄さん、準備がいいな」

 

ヨシ子「やっぱりこれくらい冷たい方がいいですわよねぇ?」

 

兵藤「そそそそうですねぇ!身も心もシャキッとしますよねえぇ!」

 

 

ボルグ一家は何事もないように氷風呂に浸かってるが、秋宗たちには辛すぎて身体が震えていた。

 

 

秋宗「冷たすぎるだろこの風呂!俺たちオーガじゃないんだぞ!」

 

コガラシ「このまま入ってたら風邪引くどころか確実に凍死する!」

 

柳沢「兵藤!お前出るって切り出せ!」

 

兵藤「ふざけんな!そんなことしたら氷水が気に入らなかったって捉えられちまうだろ!鬼かお前は!」

 

柳沢「鬼は今アタシらの目の前にいるだろ!」

 

紫音「な、なんだか、だんだん眠くなってきたッス・・・」

 

千紗希「気をしっかり持って紫音ちゃん!」

 

 

そんな時、千載一遇のチャンスが訪れた。

 

 

甥っ子「ねぇ、もうそろそろ出ていい?」(ザバァ

 

 

甥っ子が浴槽から出ようとしていたのだ。

 

 

秋宗(し、しめた!子供は長風呂が苦手だ!)

 

コガラシ(流れに乗って俺たちも・・・!)

 

 

秋宗たちが甥っ子と一瞬出ようとすると、

 

 

 

 

 

ボルグ「いけませえぇん!!」(ブォン!

 

 

 

ドガラシャーン!!

 

 

 

出ようとした甥っ子にボルグがアッパーを食らわして、甥っ子は天井に頭がめり込んでしまった。

 

 

ボルグ「湯船には最低でも10分は浸からなければなりません。そうしないと身体の疲労が完全に抜けていかないだろ」

 

秋宗たち『・・・・・』(ドボォン!

 

 

一部始終を目の当たりにした秋宗たちは一斉に浴槽の中へ潜った。

 

 

ボルグ「ほら、このお兄さんとお姉さんたちを見習いなさい。頭まで浸かって疲れをとろうとしてるじゃないか。イツ子もちゃんとしつけないと駄目だろ」

 

イツ子「ごめんなさいボルグ兄さん、つい甘やかしちゃって」

 

 

ボルグたちをよそに、秋宗たちは水中で作戦会議を再開した。

そしてちびっこ風呂は意外にも深かった。

 

 

紫音「どうするんスか!?こんな水風呂に入ってたら凍死しますし!出ようとしても長男の拳が炸裂しますし!完全に八方塞がりッスよ!?」

 

コガラシ「西条!なんとかして切り出せ!知り合いなんだろ!?」

 

秋宗「無理だ!俺にだって怖いものくらいあるわ!」

 

 

秋宗たちが必死になって作戦を練っていると、柳沢があることに気がついた。

 

 

柳沢「お、おい兵藤。お前何掴んでんだ?」

 

兵藤「え?」

 

 

兵藤の左手にはいつの間にか、何か白いものを掴んでいた。

何だこれ?と思いながら全員で確認するとそれは、

 

お父さんから伸びていた長いフンドシだった。

 

 

秋宗「兵藤!?お前なんてもんを掴んでんだよ!ていうかどんだけ長いんだよあのじいさんのフンドシ!?」

 

千紗希「早く放して!早く!」

 

兵藤「だめだ!手が開かない!」

 

 

おそらく冷水に浸かっていたため、手がいうことを聞かないのであろう。

 

 

秋宗「こうなったら仕方ない!コガラシ!柳沢!2人とも浮上してフォローを入れて時間を稼げ!その間にこっちはなんとかしとくから!」

 

コガラシ、柳沢『どんなフォローを入れりゃあいいんだよ!?』

 

 

絶対に出たくないのだが、2人とも息がもたず、

 

 

ザバァ!

 

 

浮上してしまい、ボルグ一家から注目を浴びてしまった。

 

 

ボルグ「やっと出てきましたか、皆さん一体中で何をしていらしたのですか?」

 

コガラシ「ちょ、ちょっと素潜りの勝負を!」

 

柳沢「風呂上がりの牛乳を懸けてたんですよ!あ~あ、負けちまった!」

 

 

ボルグから質問されたコガラシと柳沢はうまい具合に誤魔化した。

 

 

ボルグ「ハハハ。やはり日本人は愉快な方々ばかりですね。ん?いかがされましたかお父さん?」

 

お父さん「いや、なんかさっきから股間の辺りに違和感が」

 

ボルグ「え?」

 

 

湯船の中を見ているお父さんを見て2人は、

 

 

柳沢「そ、それはきっと、この湯の効能ですよ!」

 

ボルグ「湯の効能?」

 

コガラシ「そうなんですよ!滋養強壮、精力増強に絶大な効果がありまして!きっと皆さんもここから出る時には元気ハツラツになってますよ!」

 

三郎「へぇ、それは良いや」

 

イツ子「日本の銭湯って凄いですねぇ」

 

 

違和感の正体を湯の効能と言い切った。

それにより、ボルグ一家もリラックス状態に入りとりあえずは一安心だった。

 

しかし次の瞬間、

 

 

 

 

 

ドボォン!

 

 

 

 

 

お父さんが勢いよく沈んでしまい、コガラシと柳沢は尋常なくらい汗をかいてしまう。

 

 

ボルグ「お、お父さん?」

 

コガラシ「ど、どうやら元気になりすぎて素潜りに参加するみたいですね!」

 

次郎「なるほど、そういうことか」

 

イツ子「でも、凄いブクブクなってますけど」

 

 

すると、水中から手が飛び出した。

 

 

ヨシ子「あ、お父様の手が」

 

三郎「なんだか、苦しそうに見えるんですけど?」

 

柳沢「ブイだ!きっとブイサインですよあれ!余裕ってことなんですよ!」

 

三郎「あぁ、ブイサインなんだあれ」

 

 

かろうじてブイサインに見える為、柳沢は即座にブイサインだと言い切った。

 

すると今度は、

 

 

ザバァ!

 

 

兵藤「だ、誰かぁ!助けてぇ・・・!」(ゴボゴボ

 

 

お父さんの手と入れ替わるように兵藤が顔を出して助けを求めたが、瞬く間に水中へ消えてしまった。

 

 

ボルグ「今誰か顔を出して『助けて』って・・・」

 

次郎「あの~、下で明らかに何か起こってますよね?」

 

コガラシ「起こってません!何も起こってませんよ!」(俺だって何が起こってるか知りてぇよ!)

 

柳沢「き、きっとじゃれ合ってるだけですよ!」(これ以上はもう誤魔化しきれねぇぞ!)

 

 

コガラシと柳沢が必死に誤魔化していると、

 

 

ザバァ!

 

 

水中から誰かが浮上してきた。

 

 

ボルグ「あ、出てきた」

 

イツ子「お父さん心配しましたよ、大丈夫ですか?」

 

 

コガラシと柳沢が安堵の表情を浮かべて浮上してきたであろうお父さんの方を見ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵藤「いやぁ悪い悪い。ちょっと下で排水口に吸い込まれそうになってしまってな。もうダメかと思ったぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浮上してたのはお父さんではなく、頭にタオルを巻いてそこに左右からシャンプーボトルを突き刺して、お父さんのメガネを掛けている兵藤だった。

 

 

コガラシ・柳沢((いやもうダメだろおぉぉぉ!!))

 

 

コガラシと柳沢の心の叫び声が重なった。

 

 

コガラシ(何でお前が浮上してきたんだよ!?)

 

柳沢(じいさんはどうしたんだ!?)

 

ボルグ「えっ?ど、どちら様ですか?」

 

兵藤「はぁ?何言ってんだよ、お前たちのお父さんだよ」

 

コガラシ・柳沢((いやいやいやいや!!そんな変装で誤魔化せる訳ねぇだろ!!))

 

 

ボルグたちに対して父親と言い切った兵藤を見て、コガラシと柳沢は絶対にバレると思った。

 

すると、

 

 

ザバァ!

 

 

秋宗と千紗希と紫音が浮上してきた。

 

 

秋宗「あぁ!ひょっとして湯の効能で元気になりすぎて!」

 

千紗希「若返ったんですよきっと!」

 

紫音「まるで別人みたいッスね!」

 

コガラシ・柳沢((無理だろぉ!!それは流石に無理があるだろぉ!!))

 

 

秋宗たちはお父さんが若返ったというフォローを入れてしまった。

 

 

ボルグ「えぇ!?本当ですか!?まるで別人というより、本当にただの別人なのでは?」

 

兵藤「なんだよお前!自分の父親って分かんないのか!?まあいい、とにかく出るぞ。すっかり身体の疲れも取れきったしな」

 

 

ボルグたちから半信半疑の視線を受けながらも、兵藤は浴槽からでようとした。

それにより、秋宗たちも浴槽から出られることができたのだが、

 

 

ヨシ子「お待ち下さいお父様、何かぶら下がってますよ?」

 

兵藤「ん?」

 

 

ヨシ子が兵藤の水着の裾から何か白いものが浴槽まで伸びていることに気がついた。

 

何だろう?と確認すると、いつの間にか浴槽に溺れて気絶しているお父さんが浮かんでいた。

 

 

コガラシ(お父様からお父様がぶら下がってますけど!?)

 

 

コガラシと柳沢は冷や汗をかきまくっていた。

 

 

兵藤「何を言っているんだ?これはただのフンドシだぞ?」

 

ヨシ子「これがフンドシ?以前のお父様とそっくりなのですが。それよりもどうしてお父様はフンドシの上から水着を着ているのですか?」

 

兵藤「調べてみたんだが、フンドシの上から水着を着たり、自分の容姿そっくりのフンドシを着けるのが今後の日本の流行らしいからな、流行を先取りしたんだよ」

 

ヨシ子「そうなのですかボルグ兄様?」

 

ボルグ「いや、私も初耳なのだが。そうか、これが今後の日本の流行ファッションなのか」

 

柳沢(そんな流行あるわけねぇだろ!)

 

 

柳沢は思った。

オーガって意外に馬鹿なのかもしれないと。

 

兵藤が歩いていくと同時にお父さんが引きずられていった。

 

コガラシと柳沢は秋宗に詰め寄った。

 

 

コガラシ「おい西条!」

 

秋宗「仕方なかったんだ。兵藤がもがき苦しんで余計に絡まってとれなくなったんだよ。とりあえずはあれで乗り切るぞ」

 

柳沢「あんな状況で乗りきれるか!」

 

千紗希「バレる前にボルグさんに正直に謝った方がいいよ!」

 

秋宗「親父さんを溺れてさせたなんて言ってみろ、全員あの魔王一族に抹殺されるぞ」

 

紫音「じゃあどうするんスか!?」

 

秋宗「それを今考えてんだよ!なんとかしてお前ら女子たちだけでも出る方法を・・・!」

 

ボルグ「何を揉めてるんですか?」

 

 

秋宗たちが言い争っていると、後ろから声をかけられて、振り向くとそこにボルグが立っていた。

 

 

ボルグ「今何か出るとか聞こえたのですが、みなさんまだ体洗ってないですよね?もしかして私たち一家に気をつかっているのですか?」

 

秋宗「い、いえ!決してそういう訳では・・・!」

 

ボルグ「申し訳ありません。みなさんの貸し切りのところ、上がり込んで来たのは私たちの方なのに。ぜひ、お背中流させて下さい。このままお礼もせずに返す訳にはいきません」

 

 

ボルグの顔に影が掛かり、ものすごい圧がかかっていた。

 

 

秋宗(お、お礼参りするつもりだ・・・!)

 

コガラシ(半殺しにするまで全員返さないつもりだ・・・!)

 

 

秋宗たちはボルグを見て、絶対に逃げられないと直感が走った。

 

 

ボルグ「次郎!三郎!ヨシ子!イツ子!皆様のお背中をお流しするのだ!」

 

 

ボルグの呼び掛けにより、秋宗たちの背後にボルグ兄妹が立ち塞がった。

 

 

紫音「い、いやいやいやいや!」

 

千紗希「大丈夫です!自分の身体くらい自分で洗えますから!」

 

 

何とかしてボルグたちに背中を流させることを避けようと、紫音と千紗希は遠慮するがそう簡単にはいかなかった。

 

 

次郎「そんなこと言わずに」

 

ヨシ子「さぁみなさん、お座り下さい」

 

兵藤「そうだ、せっかくだから流していってもらいなさい」

 

秋宗たち『!?』

 

 

いつの間にかボルグ一家に混ざっている兵藤を秋宗たちは一斉に見た。

 

 

秋宗(何いい加減なこと言ってんだあの野郎!)

 

柳沢(後で覚えてろよフンドシじじい!)

 

 

秋宗と柳沢から睨まれてながらも、お父さんに扮した兵藤は椅子に座り、その後ろにボルグがしゃがみこんだ。

 

 

ボルグ「今からお背中お流ししますね、お父さん」

 

 

ボルグはスポンジに石鹸を使って泡を立たせた。

 

 

兵藤「懐かしいなぁ。お前が小さいころはこうやって背中を洗ってもらったなぁ」

 

ボルグ「よくお父さんに叱られましたよね?もっと強く洗えって」(ゴシッ

 

 

 

 

 

ズリュッ

 

 

 

 

 

兵藤「・・・ぇ」(バタリッ ブシャー!

 

 

ボルグがスポンジで背中を擦ったと同時に、兵藤の背中の皮が剥がれてしまい、兵藤は倒れて血が吹き出してしまった。

 

 

 

 

続く・・・




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第21話 命懸けの接待

前回のあらすじ

兵藤の背中の皮が剥がれた。


ボルグが力いっぱい兵藤の背中を擦ってしまい、兵藤は倒れて血が吹き出していた。

 

 

ボルグ「え?お父さん?」

 

三郎「背中の皮が剥がれてるぞボルグ兄さん!」

 

ボルグ「そんな馬鹿な!?お父さんはピラニアのドクターフィッシュを受けても何ともなかったのだぞ!?」

 

イツ子「いつの間にここまで弱体化してしまったの!?」

 

秋宗・コガラシ((ひ、ひ、兵藤おぉぉぉ!!??))

 

千紗希(あれスポンジだよね!?タワシで擦ったわけでもないのに何で背中の皮が剥がれたの!?)

 

柳沢(そもそも背中を流す時に背中の皮が剥がれるってどういうことだ!?)

 

紫音(ボルグさん!その人お父さんじゃねぇッス!これ以上傷つけるのはやめて下さい!)

 

 

倒れている兵藤を見て、秋宗たちの顔が青ざめてガタガタ震えてしまった。

 

 

秋宗「そ、それはきっと石鹸が身体に合わなかったからなのでは!?」

 

ボルグ「え?石鹸?石鹸が合わなかったくらいでここまで大量出血するものなのですか?」

 

秋宗「日本製の石鹸は取り扱いに気をつけないと皮膚が溶けてしまうんですよ!」

 

ボルグ「そうだったのですか、申し訳ありませんお父さん」

 

 

背中の皮が剥がれて瀕死の状態になっている兵藤にボルグは謝罪をした。

 

 

秋宗「や、やっぱりやり方が分からないと大変そうですね!俺らが日本での正しい方法を教えますので、みなさんどうぞお座りになって下さい!」

 

 

その結果、

 

 

 

 

 

次郎「日本の方々はなんて親切なんだ!」

 

ヨシ子「貸し切っていた銭湯に入れて下さった上に、背中まで流して下さるなんて!」

 

 

ボルグ兄妹が椅子に座り、その後ろに秋宗が立ち背中を流すことになってしまった。

 

 

柳沢「オイ!なんでこんなことになったんだ!?」

 

秋宗「背中の皮剥がされるよりはマシだろ!」

 

柳沢「背中の皮剥がす化け物の背中を流すのも十分危険すぎるだろ!」

 

宮崎「だけど洗い方を教えることで、兵藤くんがこれ以上傷つくことを防げるよ」

 

 

言い争っている秋宗と柳沢を止めて、宮崎はチラリと兵藤の方を見た。

 

 

ボルグ「せっかくですから、日本のやり方で体を洗いましょうね、お父さん」

 

兵藤「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」(ガタガタ

 

 

背中の皮を剥がされた兵藤は呼吸が荒くなっており恐怖で顔も青ざめていた。

 

 

コガラシ「・・・相当優しく洗わねぇと兵藤の身はもたねぇぞ」

 

秋宗「分かってる、俺に任せろ・・・じゃあボルグさん、俺のやり方を見ておいて下さい。いくらスポンジとはいえ、強く擦り過ぎてはいけません。日本では優しく洗ってあげることが大切なんです。その証拠に、みなさんの目の前にボディソープが設置されてあります」

 

 

秋宗の言うとおり、この銭湯には鏡の下辺りに、シャンプーとボディソープが入ったボトルが設置されていた。

秋宗はボトルからボディソープをスポンジの上に出した。

 

 

秋宗「まずはボディソープをスポンジの上に出したら、泡出たせずに、そのままダイレクトに洗って下さい」

 

 

そう言いながら、秋宗は次郎の背中をそのまま泡出たせずにボディソープを塗り出した。

 

 

ボルグ「えっ?そのままでいいんですか?」

 

秋宗「はい、壁にペンキを塗るように優しく洗って下さい」

 

ボルグ「なるほど、これが日本流の洗い方なんですね。そもそも私たちは石鹸派でしたから、ボディソープ初めてなんですよねぇ」

 

 

ボルグは秋宗のやり方通りに、スポンジの上にボディソープを出した。

そして、コガラシたちはボルグより一足先に秋宗のやり方通りにボルグ兄妹の背中を洗い始めていた。

 

 

コガラシ「・・・なぁ西条、思うんだが、このやり方・・・」

 

秋宗「分かってる。このやり方だと兵藤の傷口にボディソープが染み込んでしまうが、強く洗われるよりはマシだろ」

 

柳沢「いや、でも西条・・・」

 

秋宗「何も言うな。兵藤には悪いが、ここは耐えてもらうしかない」

 

紫音「・・・秋宗兄さん」

 

秋宗「だから何も言うなって言ってるだろ!」

 

 

質問責めされた秋宗はイラついてしまい、紫音を叱りつけるように言ってしまった。

しかし、紫音は違うことを言おうとしていた。

 

 

紫音「いや、そうじゃなくて・・・。なんか、煙出てんスけど・・・」

 

秋宗「えっ?」

 

 

秋宗が振り向くと、紫音に背中を洗われていたイツ子の体から煙が出ていた。

よく見ると、イツ子だけでなく、次郎と三郎、ヨシ子の体からも煙がのぼっていた。

 

そして次の瞬間、

 

 

 

 

 

ボオオオォォォッ

 

 

 

 

 

ボルグ兄妹の体から火が出てきた。

 

 

次郎「ギャァァァァァ!!」

 

三郎「せっ、背中が焼けるようだぁ!!」

 

ヨシ子「一体何をしたんですかぁ!?」

 

イツ子「熱いぃ!!熱いぃ!!」

 

 

突然のことにボルグ兄妹は何がなんだか理解できず、背中の熱さに苦しみだした。

それはまさに、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 

 

千紗希「何これ!?なんか急に体が火が出たよ!?」

 

柳沢「ヤベェぞ!どうやらオーガたちボディソープが弱点みたいだぞ!」

 

秋宗「はあぁぁぁぁぁ!?」

 

 

オーガ族の意外すぎる弱点に秋宗は驚いて声をあげてしまった。

 

 

兵藤「ぎゃぁぁぁぁ!?背中の傷口にボディソープがぁ!!」

 

 

そして、ボルグに背中を洗われていた兵藤もボディソープが傷口に染み込んで激痛が走り、ボルグ兄妹と同じように苦しんでいた。

 

 

ボルグ「あの西条くん、大丈夫なんですかこれ?」

 

 

ボルグが自分の兄妹と兵藤の苦しむ姿を見て心配になり、秋宗に声を掛けた。

 

 

秋宗「だ、大丈夫です!このボディソープには殺菌作用があるんです!熱いのは除菌されている証拠ですので問題ありません!」

 

コガラシ「ではそろそろ洗い流しますね!」

 

 

コガラシは洗面器に水を入れて、急いで三郎の背中を洗い流そうとした。

 

だが、

 

 

ツルッ

 

 

コガラシ「あ」

 

 

ガシャァーン!

 

 

コガラシは足元を滑らせて、洗面器を三郎の後頭部にぶつけてしまい、三郎の顔が鏡にめり込んでしまった。

 

 

秋宗「何やってんだよお前!?ここでミスってどうすんだよ!?」

 

千紗希「取り敢えず洗い流さないと!」

 

 

そう言って千紗希は水の入った洗面器を持ってヨシ子の背中を洗い流そうとするが、

 

 

ツルッ

 

 

千紗希「あ」

 

 

ガシャァーン!

 

 

千紗希もコガラシと同じように、足元を滑らせて、洗面器をヨシ子の後頭部にぶつけてしまい、ヨシ子の顔が鏡にめり込んでしまった。

 

 

柳沢「千紗希!?お前までミスってどうすんだよ!?」

 

 

ガシャァーン!

 

 

また大きな音が響き、今度は何だ!?と思い秋宗と柳沢が振り向くと、紫音が掃除用のデッキブラシを使ってイツ子の顔を鏡にめり込ませていた。

 

 

秋宗「お前に至っては何してんだよ紫音!?」

 

紫音「秋宗兄さん!芹姐さん!こうなったらやるしかねぇッス!これが日本の風呂の入り方と思わせるんス!」

 

柳沢「んなことできるかぁ!」

 

 

秋宗も柳沢も絶対そんなことやりたくないのだが、

 

 

紫音「できなかったら全員ああなるッスよ」

 

 

紫音の視線の先を見ると、そこにはコガラシたちのマネをして既にボルグが兵藤を壁に叩きつけていた光景が広がっていた。

しかし、ボルグの力が強すぎた為、壁に大きな穴が開き、兵藤は気を失ってぐったりしていた。

 

 

ボルグ「みなさん、本当にこのやり方でいいんですか?」

 

 

その光景を見た秋宗と柳沢は、

 

 

ガシャァーン!

 

 

次郎の後頭部に回し蹴りをかまして鏡に顔をめり込ませた。

 

 

秋宗「大丈夫です・・・」

 

柳沢「これが日本人の粋ってやつなんで・・・」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~銭湯前~ 午後7時

 

あの後、なんだかんだあって乗りきった秋宗たちは、ボルグ一家と一緒に大浴場を出て外で合流した。

ボルグ一家は幻術で人間の姿になっていた。

ちなみなお父さんはフンドシがほどけたため、元に戻ったと言い訳した。

 

 

ボルグ「お父さんいかがでしたか?今回の日本旅行は?」

 

お父さん「いかがもなにも、風呂に浸かってからの記憶があやふやで何も覚えてないぞ。ただ、さんざんな目にあったような・・・」

 

 

ボルグから感想を聞かれたお父さんは、眉間にシワがより少し不機嫌な様子だった。

 

 

秋宗「ヤベェ!親父さん少し怒ってる!」

 

コガラシ「当たり前だろ!」

 

柳沢「溺れて気を失ってる間、ずっとフンドシ扱いしてしまったんだぞ!」

 

千紗希「もう取り返しがつかないよ!」

 

紫音「バレたら全員血祭りッスよ!」

 

 

お父さんの様子を見て、秋宗たちは小声でどうするか口論していた。

 

 

ボルグ「そうですか、お気に召されませんでしたか」

 

 

ボルグは申し訳なさそうに顔をうつむかせてしまう。

 

その様子を見てお父さんは少し笑い、

 

 

お父さん「・・・ボルグ、今回我らが日本に来たのは家族サービスを満喫するためではない、お前が心配だから様子を見に来ただけだ」

 

ボルグ「えっ?」

 

秋宗たち『えっ?』

 

 

お父さんの意外すぎる答えにボルグは思わず顔をあげて、秋宗たちもお父さんの方を振り向いた。

 

 

お父さん「お前が小さき頃からの夢、和菓子職人になりたいという夢を実現するためにこの日本に移住したのは、家族全員が納得している」

 

秋宗「和菓子職人になりたかったんだ・・・」

 

 

ボルグの意外すぎる夢に秋宗は思わず声に出してしまう。

 

 

お父さん「だがな、お前がこの日本でたった1人で生活できているのか全員が不安だったんだ。だからこうして家族全員でお前の今の様子を見にきたんだ」

 

 

お父さんは視線をボルグから秋宗たちに移した。

 

 

お父さん「正直言って日本の印象はあまりいいものとは言えん。だが、幻術が解けてオーガの姿となっていた我ら一家に対して、何事も怯えず必死にもてなしてくれた素敵な皆さんに出会えたのだから。ボルグ、いい友人ができたな」

 

ボルグ「お、お父さん・・・」

 

 

ボルグは耐えきれず、涙になってしまった。

 

ボルグ一家は横一列に並び、

 

 

ボルグ一家『皆さん、どうか兄を今後ともよろしくお願いいたします』

 

 

一斉に秋宗たちに頭を下げた。

秋宗たちはこの光景を見て、どこの一家とも変わらないいい家族だと思った。

 

そして、ボルグ一家は夕食を食べるために秋宗たちと別れてその場を後にした。

 

 

千紗希「・・・なんだか、見た目だけで判断して怖いって思ったけど、とてもいい家族だったね」

 

コガラシ「妖怪にもいいやつはいるってことさ。幽奈たちだってそうだろ?」

 

柳沢「確かにな、少し悪いことしたかもな」

 

秋宗「今度ボルグさんが働いている店に行こうぜ。住所も聞いたし」

 

紫音「いいッスねそれ!」

 

 

緊張の糸が切れた秋宗たちは、ボルグ一家の背中を見ながら談笑していた。

 

 

秋宗「・・・よしっ!じゃあ俺らも飯食いに行くか、今日は奢ってやるよ」

 

柳沢「マジで!?サンキュー西条!」

 

コガラシ「何処の店にする?」

 

紫音「じゃあ駅前のラーメン屋はどうッスか?」

 

千紗希「私は何処でもいいよ」

 

 

秋宗たちは歩きながら町の方へ歩いていき銭湯を後にした。

 

すると秋宗はふとあることに気がついた。

 

 

秋宗「・・・そういや兵藤どうした?」

 

コガラシたち『・・・・・あ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兵藤「何で俺って、いつもこうなんだ・・・?」

 

 

銭湯の更衣室で、背中の皮が剥がれた兵藤がうつ伏せで倒れており、しくしくと泣いていた。




感想のほど、よろしくお願いいたします。


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第22話 かるらVS朧




~ファミレス~ 午前11時40分

 

今日は土曜日で学校も休みの為、秋宗はかるらとコガラシが働いているファミレスへ赴き昼飯を取ることにした。

秋宗はファミレスの席に座りメニューを眺めていた。

客が混む時間帯の中、かるらとコガラシは少し忙しそうだ。

 

 

秋宗「さてと、何にしようか・・・?」

 

 

秋宗がメニューを見ながら何を食べるか悩んでいる時、

 

 

かるら「おい秋宗」

 

 

名前を呼ばれて顔をあげると、テーブルの隣にかるらが立っていた。

しかし、その表情は少し不機嫌に思える。

 

 

秋宗「・・・どうしたお嬢?」

 

かるら「相席いいか?」

 

秋宗「えっ?」

 

かるら「席が全部埋まっとるのじゃ。主と相席になってもよいかと聞いとるのじゃ」

 

 

かるらから言われて秋宗が店内を見渡すと、確かに席が全部埋まっていた。

秋宗は少し考えて、

 

 

秋宗「別にいいけど・・・」

 

 

と言いつつ、グラスのお冷やを手に取り口へ運んだ。

 

そしてかるらは、秋宗と相席になる客を連れて来たのだが、

 

 

かるら「じゃあこの席に座っとけ」

 

朧「承知した」

 

 

なんとその客は朧だったのだ。

 

 

秋宗「ッ!?げほっ!げほっ!」

 

 

予想外な人物に秋宗は驚いて口からお冷やを吹き出しそうになるが、何とか堪えて飲んだが、噎せてしまった。

 

そんな秋宗をよそに、朧は秋宗の正面の椅子に座った。

 

そしてかるらは他の客の注文を取りに行った。

 

 

秋宗「朧!?何でここにいるんだよ!?」

 

朧「なに、ただ昼食を取りに来ただけだ、気にするな」

 

秋宗「お前ファミレスってイメージ全然ないぞ?大方、コガラシに会いに来たってところだろ」

 

 

秋宗の言う通り、朧は和のイメージが強くいつも着物を来ている為、ファミレスで食べるというイメージが全然湧いてこないのだ。

 

 

秋宗(・・・朧のやつ、何考えてるか分かんねぇし、行動パターンも読めねぇんだよなぁ)

 

 

秋宗はメニューを見ている朧を見ながら朧について改めて考えてみた。

 

神刀 朧。

神に分類されている龍雅湖の先代黒龍神の尾から誕生し、現代黒龍神である玄士郎の護り刀を勤めている。

強いて言えば、朧は玄士郎の姉に当たるのである。

昨年の5月頃、幽奈に一目惚れした玄士郎は自身の妻にしようと幽奈を拐ってしまうが、助けに来たコガラシに拳一発でやられてしまう。

その力を見て、朧は強い龍雅家を作るためにコガラシとの間に子供を授かろうと毎日大胆なアタックをしているのだ。

 

 

秋宗(ま、そのせいでお嬢とは対立してるんだよなぁ)

 

 

秋宗はかるらが不機嫌な原因が理解できた。

 

 

コガラシ「朧がファミレスなんて珍しいなぁ」

 

 

秋宗が考えていると、コガラシがお冷やが入ったグラスを持ってきて朧の前に置いた。

 

 

朧「こゆずから冬空のバイト先を聞いてな。それに・・・」(チラリ

 

 

朧は視線をコガラシから秋宗に移し変えた。

 

 

朧「西条とは個人的に話がしたかったからな」

 

秋宗「・・・俺に?」

 

 

秋宗は思わず目を丸くしてしまう。

一体朧は自分に何の話があるのだろうと疑問に思ってしまう。

 

 

朧「西条、お前は何かと私を避けているな?」

 

秋宗「うっ!?」(ギクッ

 

 

朧に指摘されて、秋宗は少し体がビクッと震えてしまう。

 

朧の言う通り、秋宗はゆらぎ荘で朧と2人きりになることを回避し続けているのだ。

 

 

コガラシ「・・・言われてみれば確かにそうだな。朧が嫌いなのか?」

 

秋宗「・・・だって俺、朧を一撃で沈めちまったんだぞ?少し気まずいんだよ」

 

 

かるらたちが襲撃してきたとき、秋宗は朧を裏拳で撃沈させてしまったため、何かと気まずかったのだ。

 

 

朧「言っただろ?あの時は私の未熟さが招いた結果だと。そんなに気にするな」

 

秋宗「そう言われても・・・」

 

 

朧は水に流しているのだが、秋宗の気持ちはまだ複雑な状態だった。

 

 

朧「それにしても・・・」(チラリ

 

 

次に朧は視線を秋宗から向こうで接客をしているかるらへ移し変えて興味深そうに見た。

 

 

朧「あの女にまともな接客ができるとは、意外だな」

 

コガラシ「ははっ、だよなぁ~」

 

秋宗「俺も最初はびっくりしたな」

 

 

コガラシと秋宗もかるらのバイト初日を思い出しながらかるらの方を見ていた。

 

 

コガラシ「緋扇のヤツ案外常識あるし、努力家なんだよなぁ」

 

朧「ッ・・・・・」

 

秋宗(・・・なんだろう?何だかものすごく嫌な予感が)

 

 

コガラシがかるらの仕事ぶりを好評価しているのを見て、朧の目付きが鋭くなった。

その時、秋宗の直感が警告を促したが、取り敢えず何も起こらないようにと祈った。

 

 

秋宗「まぁいいや。コガラシ、取り敢えず焼き魚定食とドリンクバーを頼む」

 

コガラシ「分かった、朧は何にする?」

 

朧「・・・いや、私はまだいい」

 

コガラシ「そうか。じゃあ決まったら呼んでくれよ」

 

 

秋宗の注文を受けたコガラシは厨房へと戻って行った。

 

 

秋宗「さてと、何か取ってくるか・・・」(ガタッ

 

 

秋宗は席から立ち上がり、ドリンクコーナーへと歩いていった。

 

 

秋宗「うーん、何にしようか?」

 

 

秋宗がどの飲み物を飲もうか考えていると、

 

 

かるら「秋宗!」

 

 

目がつり上がっているかるらがづかづかと秋宗へ詰めよって来た。

 

 

秋宗「何だよお嬢?」

 

かるら「何だよではない!朧は何処へ行ったのじゃ!?」

 

秋宗「はぁ?」

 

 

秋宗が朧が居るであろう席の方を見ると、そこには朧の姿がなかったのだ。

 

 

秋宗「あれ?何処行ったあいつ?」

 

かるら「なぜあやつから目を離したのじゃ!?この間にコガラシ殿を連れ去ったかもしれんのじゃぞ!」

 

秋宗「いやコガラシならあそこにいるだろ」

 

 

かるらの圧が鬱陶しい秋宗は落ち着かせるために、店内の方を指さした。

秋宗の指の先には、コガラシが料理を運んでいた。

 

 

かるら「た、確かに・・・。ではあやつは何処へ?」

 

秋宗「どうせトイレにでも行ってるんだろ?」

 

 

考えて込んでいるかるらを秋宗は呆れて見ていると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朧「この盆を4番テーブルにだな。承知した」

 

秋宗、かるら『・・・ん?』

 

 

従業員の出入口から聞き慣れた声が聞こえてきて、秋宗とかるらが振り替えると、そこには従業員の制服を着こなしてお盆に料理を乗せた朧が出てきた。

 

 

かるら「お、朧!?」

 

秋宗「何してんだよお前!?」

 

 

朧の格好を見て、2人は揃って驚いてしまう。

 

 

朧「見ての通り、うぇいとれすだが?」

 

かるら「な、何故ウェイトレスを・・・!?」

 

朧「先刻、冬空が緋扇の仕事ぶりを褒めていたのでな」

 

秋宗「嫌な予感が当たっちまった・・・」

 

 

先ほどの目付きが鋭くなっていた朧を見て、秋宗は嫌な予感がしていたのだが、早速当たってしまった。

一方で、コガラシが自身の仕事ぶりを褒めていたことを知ったかるらは、

 

 

かるら「こ、コガラシ殿が妾を・・・!?///」

 

 

嬉しくて顔が赤くなっていた。

 

 

朧「冬空に見せつけてくれる・・・!私として負けぬ・・・!」

 

秋宗「ってオイオイ朧!逆にコガラシに見つかったら不味いだろ!お嬢も照れてる場合か!」

 

 

秋宗は朧を呼び止めるが、朧は料理を運びに向かってしまった。

 

すると、

 

 

「また色んな飲み物混ぜてるー!」

 

「へへっ、これ罰ゲーム用な!」(タッタッタッ

 

 

ドリンクバーから1人の子供が飲み物が入ったグラスを持って走っていた。

しかし、よそ見をしている為、目の前に朧がいることに気づいていない。

 

そして、

 

 

ドンッ!

 

 

案の定、朧にぶつかってしまい、持っていたグラスが手から落ちてしまった。

 

次の瞬間、

 

 

 

シュッ!パシッ!ビュッ!

 

 

朧は目にも止まらぬ速度でグラスから溢れた飲み物を救い入れて、子供の手に持たせて何事もなかったかのように料理を運んで行った。

 

 

「えっ?あ、あれ?」

 

 

子供も何が起こったのか理解出来ずにいた。

 

それを見ていた秋宗とかるらは、

 

 

秋宗「・・・お嬢、今の見えたか?」

 

かるら「辛うじて目で追えたが、なんという速度じゃ・・・!」

 

 

朧の素早い行動を見て、少し興味深く感じた。

 

しかし、

 

 

コガラシ「朧!?何してんだ!?」

 

朧「冬空!これはだな・・・」

 

店長「えっ!?君誰!?明らかにウチの従業員じゃないよね!?その制服どうしたの!?」

 

朧「すまない、少々借りているぞ」

 

コガラシ「すぐ返してこい!」

 

 

コガラシと店長に見つかってしまい、コガラシから制服を返すように言われてしまった。

 

 

かるら「くくく・・・、当然の帰結よのぉ」

 

 

朧の様子を見て、かるらはざまぁ見ろと言わんばかりの顔になっていた。

 

それを見た秋宗は、

 

 

秋宗「・・・仕方ないな」(スタスタ

 

かるら「秋宗・・・?」

 

 

ため息をつきながら、朧の方へ歩いて行った。

 

 

秋宗「すいません店長さん、少しいいですか?」

 

店長「えっ?あぁ西条くん」

 

 

秋宗は店長に声をかけて、店長は軽く返事を返した。

店長とは顔見知りの関係で、よくかるらの仕事ぶりを聞いていた。

 

秋宗は朧の隣に立ち、

 

 

秋宗「あの~この子はですね、コガラシの親戚の妹の朧っていう子なんですよ」

 

コガラシ「は!?西条!?」

 

 

コガラシの妹と店長に紹介した。

突然のことにコガラシと遠くから見ていたかるらは驚いてしまう。

 

 

店長「冬空くんの親戚の妹?」

 

秋宗「そうなんですよ。この子少しブラコンな部分があって、コガラシが大好きなんですよ。それで働いているコガラシを見て一緒に働きたいって強く思ってそれが行動に移ってしまったんですよ」

 

朧「・・・そうだ、私は冬空の妹だ。1日だけでいいからここで働かせてもらえないだろうか?」

 

 

秋宗の話に乗り、朧が店長にお願いした。

 

店長は少し考えて、

 

 

店長「うーん・・・じゃあ今日だけ働いていいから。冬空くん、ちゃんと面倒見ておいてね」

 

コガラシ「店長!?」

 

 

秋宗の話を信じた店長は、コガラシに朧を任せて厨房へと戻っていった。

 

 

秋宗「・・・これでヨシ!」

 

朧「そうだな」

 

コガラシ「いやよくねぇだろ!」

 

 

何とか乗りきって満足している2人を見て、コガラシは思い切り突っ込んだ。

 

 

秋宗「いいだろ別に、何事も実践あるのみって言葉があるだろ?」

 

コガラシ「ここで使う言葉じゃねぇだろ!」

 

秋宗「まぁまぁ落ち着けよコガラシ。それに朧にとってもいい経験にッ!?」(グイッ

 

 

突然、秋宗の胸ぐらを誰が勢いよく引っ張った。

 

 

かるら「秋宗ぇ!何故朧なんぞにフォローを入れたのじゃ!?」

 

 

かるらが目をつり上がらせて秋宗を問い詰めていた。

 

 

秋宗「いや、朧を倒してしまったからさ、そのお詫びってやつで・・・」

 

かるら「余計なことをするでない!」

 

コガラシ「緋扇!取り敢えず落ち着け!」

 

 

かるらが秋宗を怒り任せで揺さぶり、コガラシは必死になってかるらを止めていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~17時30分~

 

空も茜色になった頃、コガラシと朧、秋宗とかるらはゆらぎ荘へ戻って行った。

 

 

かるら「気に喰わぬが認めるのじゃ、朧にもコガラシ殿に求愛する資格有りとな」

 

朧「私も認めよう、お前のやり方や意志の強さには多いに共感できる」

 

 

何があったか秋宗は分からなかったが、バイトが終わった後、かるらと朧がそれぞれの思いをコガラシにぶつけて、お互いにコガラシに対する思い認め合った。

 

だが、

 

 

かるら「じゃったらその手を離さぬか朧!」

 

朧「断る。それとこれとは話が別だ、緋扇」

 

 

歩きながら、コガラシの両サイドからかるらと朧がコガラシの腕を絡めていた。

コガラシは2人に両サイドから攻められて困った表情で顔を赤くしていた。

 

 

秋宗「いやぁ~、両手に花で羨ましいねぇコガラシくぅん」(パシャパシャ

 

コガラシ「楽しむな西条・・・」

 

 

秋宗はニヤニヤしながらスマホのカメラでこの光景を撮影していた。

 

 

朧「・・・西条」

 

秋宗「ん?」

 

 

面白がっている秋宗に朧は声を掛けて、

 

 

朧「今日は助かった、礼を言うぞ」

 

 

自分のためにフォローを入れてくれた秋宗にお礼を行った。

 

 

秋宗「気にすんな、困ったらまた力貸してやるさ」

 

かるら「だったら妾にもフォロー入れんか!このサディストオオカミ!」

 

 

しびれを切らしたかるらは秋宗に悪口を言ってしまった。

それを聞いた秋宗は、

 

 

秋宗「・・・へぇ~、そんなこと言っていいんだお嬢。そっか~残念だなぁ~」

 

 

懐から何かを取り出して、かるらに見せびらかした。

 

 

秋宗「お嬢がバイト頑張ってるから、せっかくこの水族館入場無料券2人分をあげようと思ったのになぁ」

 

かるら「な、何じゃと!?」

 

 

かるらがよく見ると、確かにそれは水族館入場無料券2人分だった。

これがあれば、かるらはコガラシをデートへ誘うことができるのだ。

 

 

秋宗「でもお嬢がそんなこと言うからあげる気がなくなったなぁ。仕方ない、これは雲雀にあげることにするか!」(ダッ

 

かるら「ま、待て秋宗!」(ビュゥッ

 

 

秋宗が走り出して逃げたため、かるらは慌てて背中から羽を生やして秋宗を追いかけて、2人による鬼ごっこが始まった。

その光景をコガラシと朧はただただ眺めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~湯煙高校~ 同時刻

 

校内にある階段に誰かが座っていた。

その人物はこゆずと同い年にも思える少女の見た目でもあった。

 

 

???「・・・ふふっ」

 

 

その少女は少し口をニヤつかせて笑っていた。

 

 

???「あと少し、あと少しで・・・!フフフッ!ハハハッ!アーハッハッハッ!」

 

 

誰もいない校舎で、少女の不気味な笑い声が響いていた。

 

 

 




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第23話 家鳴の七海

今回はオリジナル展開に加え、オリジナルキャラが登場します!


『魔の前屈階段』

湯煙高校七不思議の1つ。

この階段を上った女子は、どういう訳かスカートが捲れてパンツが見えてしまうという・・・。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~湯煙高校~ 午後5時

 

 

紫音「という訳で、皆さんのお力をお借りしたいんス!」

 

 

窓から西日が差し込む放課後、その魔の前屈階段の前にコガラシ、幽奈、狭霧、雲雀、夜々、紫音、うらら達がいた。

夜々と紫音の友人のなずなが魔の前屈階段の被害を受けたため、このままにはしておけずみんなで解決することになった。

 

 

狭霧「全くふざけた怪奇現象だ!協力しよう!」

 

雲雀「雲雀たちの学校の問題だしね!」

 

うらら「今回は特別に無料で引き受けたるわ!」

 

 

狭霧と雲雀とうららの3人は階段を鋭く睨んでいた。

女子限定で被害が出ており、何としてでも解決してやるという勢いが出ていた。

 

 

コガラシ「でも特に何も見当たらねぇな・・・」

 

幽奈「壁や階段の中にも何もありませんし・・・」

 

 

コガラシが階段を上り降りしたり、幽奈が壁や階段をすり抜けて調べているが、何も見当たらず、何も起こらずにいた。

 

 

うらら「ほんでもこの階段には異様に霊気が充満しとるで」

 

雲雀「怪しさは満点だね!」

 

 

うららが自分のタブレットを見て何かがあることを確信していた。

タブレットには撮影した階段の画像が表示されているが、画像の周りには黒い靄のようなものが映っていた。

 

するとうららがあることに気がついた。

 

 

うらら「・・・そういや西条くんどないしたん?」

 

 

秋宗の姿が見当たらずうららが辺りを見渡した。

 

それを見て、紫音が複雑な表情を浮かべた。

 

 

紫音「一応、秋宗兄さんにも声かけたんスけど、『俺が出る間でもないだろ』って断られてしまって・・・」

 

夜々「『この程度の怪奇現象、コガラシたちならすぐに解けるはずだから』って言って帰った」

 

 

紫音の説明に夜々が補足して秋宗が来ていない理由を話した。

 

 

雲雀「ちょっと待って!じゃあ秋宗くんは犯人の正体が分かってるってこと!?」

 

幽奈「どうして私たちに教えて下さらないのですか!?」

 

狭霧「あの男のことだ。私たちに恥をかかせて感想を聞き面白がる気なのだろう」

 

コガラシ「・・・否定できないな」

 

 

紫音たちの話を聞いてコガラシたちは秋宗の考えを予測していた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

同時刻、

 

 

秋宗「ふわぁ~・・・」

 

 

秋宗は廊下を1人あくびをしながら歩いていた。

紫音たちから魔の前屈階段の話を聞いたのだが、その前に興味本意で事前に調べてコガラシたちでも解決できると思い紫音たちの誘いを断った。

そんな時、

 

 

???「あっ、西条くん」

 

 

名前を呼ばれて秋宗が振り替えると、千紗希と柳沢の2人がいた。

 

 

秋宗「宮崎と柳沢か、今帰りか?」

 

千紗希「うん、西条くんも?」

 

秋宗「まぁな」

 

柳沢「じゃあ一緒に帰ろうぜ」

 

 

そう言って、3人は一緒に帰ることとなった。

 

 

千紗希「・・・西条くんは行かなかったの?ほら、冬空くんたち、魔の前屈階段の調査をしてるみたいだけど」

 

秋宗「俺が行く間でもないさ、それにコガラシたちならあの程度の怪奇現象すぐに解決出来るさ」

 

柳沢「じゃあ西条はもう分かってるってことか?」

 

 

廊下を歩きながら柳沢は秋宗の方を見た。

 

 

秋宗「あぁ、あれはおそらく、噂による怪奇現象だ」

 

千紗希「う、噂?」

 

 

秋宗の答えに、千紗希は思わず秋宗の方を見てしまう。

 

秋宗は昔、スズツキから教わったことがあるのだが、すべての人間からは霊気が発しており、その霊気を操るのは人の思念である。

人が何かを思った時、霊気が少しだけその何かに送り込まれてしまい、その霊気が噂や何かで集まることにより、ただの噂が現実化するという極めて稀な現象が起こってしまうのだ。

 

 

秋宗「まぁウチの学校は俺も含めた霊力の強いヤツが何人もいるからな、噂で集まった霊気の量が桁違いになっちまったんだろうな」

 

千紗希「そんなことが起こるんだ・・・」

 

柳沢「じゃあどうやって解決すりゃあいいんだよ?」

 

秋宗「簡単だ、噂を書きかえて霊気を発散させればいい」

 

 

秋宗の話を千紗希と柳沢は興味深く聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「へぇ~、そこまで辿り着いたの・・・。でもあと一歩足りなかったわね」

 

 

 

 

ビュン!

 

 

秋宗「ッ!?お前ら伏せろ!」

 

 

突如聞き覚えのない少女の声が後ろから聞こえたと同時に何かが飛んでくる音も聞こえた。

咄嗟に反応した秋宗は2人にしゃがむように声をあげて、2人も反応して即座にしゃがみこんだ。

 

そして、

 

 

ガシァーン!

 

 

3人の頭上を後ろから何かが通過して、それが廊下に落ちて大きな音が響いた。

 

 

秋宗「2人とも!大丈夫か!?」

 

千紗希「う、うん・・・!大丈夫だよ・・・!」

 

柳沢「一体、何が・・・!?」

 

 

3人が立ち上がりながら、飛んできた物を確認すると、なんとそれは消火器だった。

 

 

柳沢「消火器!?」

 

千紗希「なんで消火器が!?」

 

秋宗「どうやら、つけられてたみたいだな・・・!」

 

 

秋宗がゆっくり振り替えると、そこには1人の少女が立っていた。

 

少女の見た目はこゆずと同じくらい小柄で、白いTシャツにピンクのスカートを着こなしていた。

髪は紫色でツインテールにまとめ、背中にリュックを背負い、秋宗たちに対して怪しく笑っていた。

 

 

千紗希「お、女の子・・・!?」

 

 

理解が追い付かない千紗希は、辛うじて女の子がいるということしか分からなかった。

 

 

秋宗「・・・お前か?消火器を俺らに飛ばしたのは?」

 

???「そうよ」

 

 

秋宗は少女を睨みながら消火器を飛ばしたのかと確認すると、少女は即座に自分の仕業だと答えた。

 

 

 

柳沢「何のマネだテメェゴラァ!消火器頭に当たったらどうするつもりだぁ!?」

 

 

 

柳沢は口調がゴクチュー時代に戻り、少女に対してメンチを切っていた。

そんな柳沢を他所に秋宗は少女を注意深く見ていた。

一体あんな体格でどうやって消火器を投げたのだろうと。

少女は、そんな柳沢に対して少しもびびっていなかった。

それどころか、クスクスと笑っていた。

 

 

???「大丈夫よ、そこのお兄さんに当てるつもりだったから」

 

 

少女は秋宗に指を向けてそう答えた。

 

 

秋宗「・・・一応確認するが、初対面だよな?」

 

???「えぇ、そうね」

 

千紗希「じゃあどうして西条くんを・・・!?」

 

???「私の計画の邪魔になりそうだったから」

 

 

少女の計画という言葉に秋宗たちは揃って疑問を持った。

 

 

七海「自己紹介がまだだったわね。私は佐渡七海《さわたりななみ》。家鳴の妖怪で、魔の前屈階段の黒幕ってところよ」

 

 

少女、七海は秋宗たちに自己紹介をした。

 

家鳴。

日本に伝わる妖怪で、人間の家を揺さぶってポルターガイストでいたずらをしている伝承がある。

 

 

秋宗「魔の前屈階段の怪奇現象、お前が引き起こしたのか」

 

七海「そうよ。最初は私が釣糸とか使ってスカートを捲って、その噂を広めて自然な怪奇現象を起こさせたのよ」

 

 

七海はまるで自慢するかのように堂々と話し出した。

 

 

七海「そのおかげで、結構色んなパンツが撮れたの!ご覧なさい!このコレクション!」(バッ

 

 

七海がリュックから何かを取り出して秋宗たちに見せびらかした。

それは、魔の前屈階段で撮影した複数枚のパンツの写真だった。

これを見て、千紗希と柳沢は嫌な顔になった。

 

 

柳沢「こいつ・・・!罪悪感とかそういうのが全くねぇな・・・!」

 

千紗希「何のためにこんなことを・・・!?」

 

 

千紗希の質問に七海はうっすらと笑いこう答えた。

 

 

七海「・・・私ね、王様になりたいの」

 

秋宗「王様?」

 

 

秋宗たちは王様というワードを聞いて首をかしげてしまう。

王様とは一体どういうことなのだろう?それとパンツと何の関係があるのだろう?

秋宗は頭をフル回転させて考えていた。

 

秋宗の様子を見て七海はゆっくりと口を動かした。

 

 

七海「簡単に言えば、支配してみたいのよ。自慢じゃないけど、私は結構ポルターガイストの力が強いから、これで何かできないかしら?って考えてたら、日本征服しようって結果にいきついたのよねぇ。何だか面白そうで、頂点に立ちたいって野望が宿ってしまったの」

 

 

七海はお茶目に言いながらもとんでもない夢を語っていた。

 

 

七海「それで手始めに、この学校から支配するの。パンツの写真で学校のお姉さんたちの弱みを握って奴隷にするのよ」(ガシャガシャ

 

 

七海はリュックの口を開けて逆さまにして中に入っていたものを廊下に広げた。

リュックには、手錠にアイマスク、鞭にロープ、更にはロウソクなど、様々なSMグッズが入っていた。

 

 

七海「私こう見えてSっけが強くて、特に女の人をいたぶることに快楽覚えしまったのよねぇ」

 

 

七海は鞭を手に取り、頬を赤らめて舌で舐めずりをしていた。

 

それを見た千紗希と柳沢はゾッとして思わず身震いしてしまう。

 

 

秋宗「こ、コイツ・・・!イカれてるとかそういう話じゃ収まらねぇ・・・!狂ってやがる・・・!」

 

千紗希「ど、どうするの西条くん!?」

 

柳沢「ふざけてるとか思ったけど・・・!コイツマジてやりかねないぞ・・・!」

 

 

秋宗たちは七海を見て戦慄を感じた。

 

 

七海「でも、なんだか私のことを嗅ぎ回ろうとする連中がいるみたいで、消えてもらおうとって思ってね」

 

 

七海は目を細めて秋宗を睨みだした。

 

 

七海「お兄さんには悪いけど、消えてくれないかしら?」

 

 

そして次の瞬間、

 

 

ドガラシャーン!!

 

 

教室の窓が突然開き、中から椅子やら机などが飛び出して七海の周りを飛び回っていた。

 

 

秋宗「ッ!!宮崎!柳沢!コガラシたち呼んで来い!」

 

 

秋宗は2人にコガラシたちを呼びに行くように促した

 

 

千紗希「で、でも西条くんは!?」

 

秋宗「俺はコイツを食い止めておく!その間に呼んで来い!」

 

柳沢「けど西条・・・!」

 

 

千紗希と柳沢が心配するが、秋宗は振り返り、

 

 

秋宗「心配すんな!俺を信じろ!」(グッ

 

 

2人を安心させるために、笑顔を向けて親指を立てた。

 

それを見た2人は、

 

 

千紗希「・・・分かった!すぐに連れて来るね!」

 

柳沢「その間に倒しとけよ西条!」

 

 

コガラシたちを呼びに行くために廊下を走り去って行った。

 

 

秋宗「・・・さてと」(グググッ

 

 

2人が行ったことを確認した秋宗は、オオカミ人間へと姿を変えていった。

 

 

七海「・・・あら、お兄さんオオカミさんだったの?」

 

秋宗「お前の思い通りにはさせるかよ。ここでお前を叩きのめしてやる!」

 

七海「へぇ?じゃあ2度とそんな口が聞けなくなるように、躾をしてあげるわ」

 

秋宗「やれるもんなら、やってみやがれぇ!」(ダッ

 

 

秋宗が七海に向かって走りだし、七海はポルターガイストで机などを飛ばして来た。

湯煙高校の校舎で、妖怪同士による戦いが勃発した。

 

 

 




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第24話 奥の手

秋宗と七海が戦っていることなど全く知らないコガラシたちは、魔の前屈階段の調査をしていた。

実際に狭霧たちが上って怪奇現象を体験して、うららが噂による現象と推測した時だった。

 

 

 

千紗希「冬空くーん!みんなー!」

 

 

 

突然声が響いてコガラシたちが振り向くと、遠くから千紗希と柳沢が廊下を走って来た。

2人がコガラシたちの元まで辿り着いたが、ずっと走って来たため膝に手を置いて息切れをしていた。

 

 

 

コガラシ「どうしたんだ2人とも?何かあったのか?」

 

 

 

コガラシに質問された千紗希と柳沢は呼吸を整えて話を切り出した。

 

 

 

千紗希「た、大変なの!西条くんが!」

 

 

コガラシ「ッ!?西条がどうしたんだ!?」

 

 

柳沢「実は・・・!」

 

 

 

千紗希と柳沢は何があったのかをコガラシたちに説明した。

 

魔の前屈階段による怪奇現象を引き起こした家鳴の七海のこと、その七海がパンツの写真で女子たちの弱みを握って奴隷にしようとしていること、秋宗が七海と戦っていることなど、ありのまま先ほど目撃したことを全部話した。

 

 

 

狭霧「そんなことが!?」

 

 

うらら「家鳴かぁ・・・!アイツらポルターガイストの達人やからなぁ・・・!かなり手強いと思うで!」

 

 

雲雀「しかも奴隷って何なの!?そんなの絶対許せないよ!」

 

 

紫音「その七海ってヤツ!絶対捕まえてやるッス!」

 

 

夜々「早く秋宗のところへ行こう・・・!」

 

 

幽奈「私も行きます!」

 

 

 

話を聞いた狭霧たちは険しい表情になり、秋宗の加勢に行くことを決めた。

 

 

 

コガラシ「宮崎!柳沢!案内してくれ!」

 

 

千紗希「うん!こっちだよ!」

 

 

 

千紗希と柳沢を先頭にコガラシたちは秋宗の元へ向かって行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、秋宗の方は、

 

 

 

ビュン!

 

 

 

秋宗「オラァ!」(ガラァーン!

 

 

 

七海の飛ばした机をパンチで殴り飛ばしていた。

 

千紗希たちが助けを呼びに行った直後、秋宗と七海は交戦を開始した。

七海がポルターガイストで机や椅子、はたまた文房具などを秋宗に飛ばし、それを秋宗がパンチやキックで防いでいた。

そのため、廊下は机や椅子などでかなり散らかっている状態だった。

 

 

 

七海「どうしたのオオカミさん?もしかして疲れたの?」

 

 

 

七海は余裕の表情で秋宗を嘲笑っていた。

 

 

 

秋宗「馬鹿言うな、この程度で疲れるかよ」

 

 

 

オオカミ人間に変身した秋宗は疲れてないと言わんばかりに七海を睨んでいた。

実際秋宗はそこまで疲れてはいなかったのだが、

 

 

 

秋宗(クソッ!ポルターガイストはかなり霊力を消費するから霊力が尽きたところを狙って取り押さえるつもりだったが、コイツ全然疲れてねぇな!まだ霊力を蓄えているってところか?かといって迂闊に突っ込む訳にもいかねぇし!どうすりゃいいんだ!?)

 

 

 

内心では、七海を倒すプランを必死に考えていた。

あれから5分くらい経過したのだが、ポルターガイストを発動し続けている七海には疲れの色が全く見えずにいた。

このまま長期戦に持ち込まれてしまえば秋宗のスタミナが尽きてしまい負けてしまう。

 

そんな時、

 

 

 

コガラシ「おーい!西条ー!」

 

 

紫音「秋宗兄さーん!助けに来たッスよー!」

 

 

柳沢「うおっ!?あれ西条か!?マジでオオカミ人間だったのかよ!?」

 

 

 

七海の後ろから声が聞こえて秋宗が声のする方を見るとコガラシたちが向こうから走って来た。

 

 

 

秋宗「みんな!」

 

 

七海「・・・あら、増援が来てしまったわ」

 

 

 

コガラシたちが来たことで秋宗は一安心して、七海は振り向いて半目でコガラシたちを睨んでいた。

コガラシたちは七海の10メートル手前で立ち止まった。

 

 

 

うらら「アイツが家鳴か!」

 

 

狭霧「私たちに恥をかかせた報いを受けてもらうぞ!」

 

 

雲雀「絶対捕まえてやるんだから!」

 

 

 

狭霧と雲雀は霊力で具現化させたクナイと手裏剣を構えて七海を睨んだ。

 

 

 

幽奈「あ、あの!降参していただけないでしょうか!?できれば私たちは家鳴さんと戦いたくありません!」

 

 

秋宗「そこの幽霊の言う通りにしといた方がいいぞ。誅魔忍が2人に八咫鋼、お前に勝ち目はねぇよ」

 

 

 

対して幽奈は七海を痛い目に合わせたくないためか、七海に降参するように説得を始めた。

それに便乗して秋宗も七海に警告した。

 

誅魔忍の狭霧と雲雀、猫神を召喚できる夜々、八咫鋼のコガラシ、そしてオオカミ人間の秋宗、これだけ揃ってしまえばどんな敵でも降伏してしまうだろう。

 

だが、

 

 

 

七海「・・・それは、私を倒せるつもりで言ってるのかしら?」

 

 

 

七海は諦めるどころか全く動じていなかった。

その表情は呆れた顔になっている。

 

 

 

七海「そういうセリフは、私を追い詰めてから言ってほしいものね」(ビュン!

 

 

 

そう言って、七海は廊下に落ちていた掃除用具が入ったロッカーをポルターガイストで浮かせて、コガラシたちに目掛けて飛ばした。

 

 

 

コガラシ「くっ!」(バァン!

 

 

 

咄嗟に反応したコガラシは両手でロッカーを受け止めた。

 

その間に狭霧と雲雀は同時に走り出して飛び上がり、

 

 

 

狭霧「そこまでだ!」(シュッ!シュッ!

 

 

雲雀「もう許さないよ!」(シュッ!シュッ!

 

 

 

七海に目掛けて数本のクナイと手裏剣を投げ飛ばした。

この数のクナイと手裏剣を避けるのは誅魔忍でなければ至難の技である。

 

しかし、

 

 

 

七海「ふふっ」(ガンガンガンガン!

 

 

 

七海は目の前に机を浮かせてクナイと手裏剣の雨をすべて防いだ。

それだけでは終わらず、

 

 

 

七海「くらいなさい!」(ビュン!

 

 

 

盾にした机を狭霧と雲雀に向かって飛ばした。

 

2人とも空中にいるため身動きが取れず、

 

 

 

ガァン!

 

 

 

狭霧「くっ!」

 

 

雲雀「痛っ!」

 

 

 

机に当たって吹き飛ばされてしまい、

 

 

 

ドォン!

 

 

 

うらら「うわっ!?」

 

 

 

うららにぶつかってしまった。

 

 

 

コガラシ「狭霧!雲雀!浦方!」

 

 

夜々「ッ!猫神様!お願い!」

 

 

 

今度は夜々が前に出て体の中から猫神を召喚した。

 

 

 

猫神「にゃあ!」(ブォン!

 

 

 

猫神は七海に自慢の大きな肉球を振り下ろしたのだが、

 

 

 

ピタッ

 

 

 

猫神「にゃっ!?」

 

 

 

七海の頭上ギリギリで止まってしまった。

 

 

 

夜々「猫神様・・・!?」

 

 

紫音「なんで攻撃を辞めたんスか!?」

 

 

幽奈「あっ!?猫神様の体に何か巻き付いてますよ!」

 

 

 

幽奈の言う通り、猫神の体には何か黒いものが巻き付いていた。

 

 

 

千紗希「あれって延長コード!?」

 

 

柳沢「あんなものまで操れんのかよ!?」

 

 

 

猫神の体に延長コードがよく絡みついてしまい、猫神自身もほどけずにいた。

 

 

 

七海「どれもこれも期待はずれねぇ。呆れてあくびをしてしまいそうだわ」

 

 

 

七海はコガラシたちの呆気なさを嘲笑っていた。

 

 

 

秋宗(ッ!今だ!)

 

 

 

七海が隙を見せるのを図っていた秋宗は、一瞬の隙をついて七海を取り押さえようとした。

あと少しで秋宗の手が七海に触れそうになった時、

 

 

 

ガァン!

 

 

 

秋宗「ぐぁっ!?」

 

 

 

秋宗の上から椅子と机が落ちてきて、秋宗は廊下に這いつくばってしまい椅子と机が押さえつけて動きを封じてしまった。

 

 

 

七海「残念でしたぁ~」(ベェー

 

 

 

七海は秋宗の方を見下す目付きで見て舌を出した。

 

 

 

紫音「秋宗兄さん!」

 

 

秋宗「くそっ!」(ガタガタ!

 

 

 

何とかして立とうとはするものの、ポルターガイストの力が強すぎるため起き上がれずにいた。

 

 

 

七海「さてと、まずはオオカミさんから躾をしてあげましょうかッ!?」(フワッ

 

 

 

完全に勝った気になっていた七海の体が突然浮かび上がった。

まるで誰かに持ち上げられたかのような感覚だった。

 

その正体は、

 

 

 

幽奈「そこまでですよ家鳴さん!」

 

 

 

幽奈が七海の脇に手を添えて持ち上げていたのだ。

 

 

 

コガラシ「よくやった幽奈!」

 

 

幽奈「ありがとうございますコガラシさん!さぁ家鳴さん!今すぐポルターガイストを解いて下さい!」

 

 

 

幽奈は子供を叱りつけるように七海にポルターガイストを止めさせようとした。

 

その時、

 

 

 

グイッ!

 

 

 

幽奈「えっ!?」

 

 

 

突然、幽奈が後ろから何かに引っ張られるかのように後ろへ下がってしまい、その拍子に七海から手を離してしまった。

七海はポルターガイストを使って幽奈の襟の後ろに釣糸を取り付け一気に引っ張ったのだ。

それだけでは終わらず、七海がリュックに入れていたロープが浮かび、

 

 

 

シュルルルル!

 

 

 

コガラシ「うおっ!?」

 

 

千紗希「きゃっ!?」

 

 

幽奈「わっ!?」

 

 

 

コガラシと千紗希、幽奈に絡み付き身動きが取れなくなってしまった。

 

 

 

幽奈「コ、コガラシさん!?///何処を触っているんですか!?///」

 

 

コガラシ「すまん幽奈!///わざとじゃねぇんだ!///」

 

 

千紗希「冬空くん!///あんまり喋らないでよ!///」

 

 

 

ロープが絡まってしまったことにより、コガラシの手が幽奈のお尻に当たってしまい、目の前には千紗希の胸が覆い被さっていた。

コガラシが喋ってしまうことにより、千紗希の胸に振動が走り変な感じになってしまう。

 

 

 

七海「さてと、あと残っているのは・・・?」

 

 

 

七海は服の埃を払いながら残っている面子を見た。

 

今動けるのは、狭霧、雲雀、夜々、紫音、柳沢、うららの6人だけしかいなかった。

狭霧と雲雀は先ほどの七海の攻撃で腕を痛めてしまい片手で抑えていた。

 

 

 

紫音「どうするんスか!?コガラシ兄さんも秋宗兄さんも動けなくなっちまったッスよ!?」

 

 

柳沢「どうもこうもねぇだろ!アタシらだけでもやるしかねぇだろ!」

 

 

狭霧「その通りだ!何とか私たちだけでアイツを取り押さえるぞ!」

 

 

雲雀「雲雀もまだやれるもん!」

 

 

うらら「狭霧!雲雀!無茶したらアカン!2人とも腕痛めてしもうたやろ!?」

 

 

夜々「夜々もがんばる!」

 

 

 

6人は何とかして七海を取り押さえようと身構えた。

 

 

 

七海「まぁせいぜい無駄な努力をすることね」

 

 

 

七海はポルターガイストで椅子や机を浮かせて飛ばす準備を整えた。

 

 

 

七海「手始めに、貴女たちから奴隷にしてあげるわ!」

 

 

 

七海が飛ばそうとしたその時、

 

 

 

シュッ!スパァン!

 

 

 

七海「・・・ぇ?」(バタリ

 

 

 

突如、何かが七海の頭上を高速で通過したと共に、七海の後頭部に強い衝撃が走った。

何が起こったのか七海は理解できずその場に倒れて気絶してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「ふぅ、やっと隙を見せてくれたな」

 

 

 

七海を気絶させたのは、何と秋宗だったのだ。

どうやってあの机と椅子の拘束を解いたかというと、秋宗の姿を見れば分かる。

 

 

 

紫音「あ、秋宗兄さん・・・!?」

 

 

 

紫音たちは秋宗の姿を見て唖然となってしまう。

 

何故なら、秋宗の姿は完全なオオカミだったからなのだ。

 

 

 

狭霧「西条秋宗!?何だその姿は!?」

 

 

雲雀「完全にオオカミじゃん!」

 

 

秋宗「オオカミ人間の獣バージョンだ。この姿になると服を全部脱がないといけないが、素早さが一気に上がるんだ」

 

 

 

驚いている狭霧たちに秋宗は自分の姿について説明した。

秋宗が獣型に変身したことにより椅子の拘束をすり抜けて高速で七海を気絶させることに成功した。

 

そして七海が気絶したことにより、ポルターガイストが解除されてコガラシたちと猫神は動けるようになった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

あの後、秋宗たちは廊下に散らばった机や椅子などを教室へ戻して何もなかったくらい廊下を綺麗にした。

 

そして、

 

 

 

七海「くっ!今すぐこれを外しなさい!」

 

 

 

教室にて、七海は椅子にロープで縛られて身動きが取れない状態になっており、うらら特製の霊札でポルターガイストも使えない状態になっていた。

そんな七海をよそに、秋宗たちは七海のリュックの中を確認していた。

 

 

 

秋宗「改めて見ると色んなSMグッズが入ってるな」

 

 

雲雀「うわぁ、医療用のペンチまであるよ」

 

 

紫音「しかもこんなに写真入ってるッスよ」

 

 

うらら「よくもまぁこんなに撮影したもんやなぁ」

 

 

 

秋宗と雲雀はSMグッズを見て引いてしまい、紫音はパンツの写真を確認してリュックから全部出した。

 

 

 

柳沢「それで、コイツどうする?」

 

 

 

柳沢が七海に視線を向けて秋宗たちに聞いた。

 

 

 

狭霧「コイツは私たち誅魔忍の監視下の元で行動してもらう。日本征服などふざけたことをさせぬようにな」

 

 

七海「ふんっ」

 

 

 

狭霧から処罰を宣告された七海は鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。

七海にはまだ反省の色が見えないが、誅魔忍の監視下に置かれてしまえば好き勝手に行動できないだろう。

しかし、問題はまだある。

 

 

 

幽奈「ですが、魔の前屈階段はどうしますか?」

 

 

 

魔の前屈階段は噂による怪奇現象のため、引き起こした七海でさえもなくすことはできない。

すると秋宗はあっさり答えた。

 

 

 

秋宗「簡単だ。噂を書き換えてしまえばいい」

 

 

コガラシ「口じゃあ何とでも言えるが、そう簡単にはいかないぞ?」

 

 

 

コガラシの言う通り、噂は簡単には消すことはできず、一度漏れてしまえば溢れ続けてしまう。

 

 

 

秋宗「大丈夫だ、手はある」

 

 

 

秋宗は七海の前でしゃがみこみ目線を同じ高さに合わせた。

 

 

 

秋宗「七海、取り引きしないか?」

 

 

七海「・・・取り引き?」

 

 

 

秋宗が七海に取り引きを持ち掛けてきた。

 

 

 

秋宗「俺たちに協力してくれたら誅魔忍の監視も無しにして、さらにゆらぎ荘への出入りを許可してやる。そこはパンツ見放題だ。もちろん履いている状態で」

 

 

幽奈「えぇ!?秋宗さん!?」

 

 

狭霧「西条秋宗!勝手にそんなことを決めるな!」

 

 

七海「・・・・・」

 

 

 

秋宗の持ち掛けてきた交渉材料に幽奈たちは驚いてしまう。

七海はしばらく考えて、

 

 

 

七海「・・・何をすればいいの?」

 

 

雲雀「やる気だ!」

 

 

 

取り引きに応じて秋宗に協力することを決めた。

 

 

 

秋宗「簡単なことだ、まずは・・・」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~数日後~

 

湯煙高校の放課後の時間帯、2人の男子生徒が廊下を歩いていた。

 

 

 

「知ってるか?そこの階段、女子が絶対パンチラするらしいぜ!」

 

 

「あぁ、七不思議だろ?」

 

 

 

2人はちょうど、魔の前屈階段の近くを歩いていた。

そこを差し掛かろうとした時、

 

 

 

パァン!

 

 

 

『!?』

 

 

 

突然何かを叩くような音が鳴り響き、2人は飛び上がりそうなくらい驚いてしまった。

 

 

 

「な、なんだ今の音・・・!?」

 

 

「階段の方から聞こえたよな・・・?」

 

 

 

2人は恐る恐る階段の方を覗きこむと、そこには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「下僕が1匹ぃ、下僕が2匹ぃ、下僕が3匹ぃ」(パァン!パァン!パァン!

 

 

 

何と幼い女の子が四つん這いになっている男子の上に座り、更に男子4人が女の子の目の前に四つん這いで並んでお尻を向けていた。

何より男子たちは全員上半身裸の状態だった。

女の子は男子たちを『下僕』と数えながら持っている鞭で男子たちのお尻を叩いていた。

この光景を見て、覗いていた2人は頭の整理がつかなかった。

 

 

 

「下僕が4匹ぃ」(パァン!

 

 

 

女の子が最後の1人のお尻を叩き終えた。

女の子は少し俯き、

 

 

 

「あと2人足りない・・・」

 

 

 

と少し悲しそうに呟いた。

『2人』という言葉に覗いていた2人は思わず身震いしてしまう。

そして女子は顔上げて2人の方へ顔を向けて、

 

 

 

「みぃ~たぁ~わぁ~ねぇ~!」

 

 

 

恐ろしい笑みを向けた。

 

 

 

『ギャアアアアァァァァ!!!!』

 

 

 

怖くなった2人はその場から逃げ出してしまった。

 

 

 

「何だったんだ!?何だったんだ今のは!?」

 

 

「番町皿屋敷の女王様バージョンじゃねぇのか!?」

 

 

「マジでそんなのがあんのかよ!?」

 

 

「実際に俺ら見ちまっただろ!?」

 

 

 

そう言いながら2人は廊下を走り去って行った。

 

 

 

七海「・・・意外に面白いわねこれ」

 

 

秋宗「案外悪くねぇもんだろ?」

 

 

 

女の子、七海は男子から降りて驚いて逃げて行った2人のリアクションを面白がり、椅子になっている男子、秋宗は立ち上がりながら七海の感想を聞いていた。

ちなみにお尻を叩かれていた男子4人はというと、

 

 

 

コガラシ「よくやってくれたな皆・・・!」

 

 

後輩1「いえ・・・!」

 

 

後輩2「こんなこと先輩だけにはやらせらんないですから・・!」

 

 

兵藤「痛たたた・・・!七海ちゃん強く叩きすぎだろ・・・!」

 

 

 

コガラシと兵藤、そして夜々のクラスメイトの男子後輩の2人だった。

コガラシは立ち上がりながら3人に申し訳なさそうにしており、後輩2人も顔を伏せて表情が読めず、兵藤はお尻をさすっていた。

 

秋宗の考えた作戦は、インパクトの強い噂で書き換えるというものであった。

そのためには七海の力が必要であった。

七海のドSっぷりでよりインパクトの強いものとなり、一度見てしまえば中々記憶から消し去りづらいものになる。

そこで、兵藤と後輩2人にも協力してもらいこのような方法をとった。

 

 

 

なずな「みんなありがと~!」

 

 

紫音「お礼に3人でお菓子作って来たッス!」

 

 

 

そこへ、夜々と紫音、なずなが駆け寄り、手作りのお菓子が入った箱をコガラシたちに差し出した。

 

一方で、まだまだ物足りない様子の七海は、

 

 

 

七海「・・・ねぇ、あと1週間やってみたいのだけれど」

 

 

 

コガラシたちにこの作戦を続けたいと言い出した。

 

 

 

コガラシ「・・・頼む、協力的なのは感謝するが、もう勘弁してくれ」

 

 

 

しかし、コガラシたちの心には少しヒビが入ってしまったようでもうやりたくないようである。

 

こうして、この七不思議は後に、『女王様による下僕の数え遊び』として長く語り継がれていった。

 

 

 




感想の程、よろしくお願いいたします。

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第25話 秘湯での極楽

活動報告を更新しています。
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~緋扇邸~ 午後8時

 

今日は秋宗が緋扇邸へ戻っていた。

秋宗はたまに戻って自室の清掃をしたり、スズツキたちの手伝いなどをしている。

そして、夕食を終えた秋宗は、かるらとマトラの2人と廊下を歩いて話していた。

 

 

 

かるら「秘湯巡りじゃと?」

 

 

 

マトラの口から出た言葉を聞いて、かるらは思わず繰り返して聞いてしまう。

 

 

 

秋宗「姐さんがそんな娯楽に興味を持つなんて珍しいな、何かあったのか?」

 

 

 

秋宗の言う通り、マトラは戦闘好きでそれ以外で興味を持つことなど滅多にないのである。

そんなマトラが秘湯巡りしたいと言った時、秋宗も目を丸くしてしまった。

 

 

 

マトラ「実はよ~・・・」

 

 

 

マトラは秘湯巡りの経緯を説明した。

 

御三家の1つの宵ノ坂の鬼である呑子とどうしても勝負がしたいマトラは何度もゆらぎ荘へ赴いて勝負を申し込んでいるが、その度に断られてしまった。

呑子ご機嫌を取ろうと酒の相手をしたりしているが、それでも断られてしまう。

そこでマトラは何か欲しいものがないかと呑子に聞くと、美味しい酒と温泉旅行がいいと言ってきたのだ。

 

 

 

マトラ「だが酒も温泉旅行も無理だ!なにしろアタシにゃ金がない!でも誰も知らないような場所にある秘湯ならタダで入れるって気づいた訳よ~!」

 

 

かるら「ふむ・・・」

 

 

秋宗「成る程、姐さんにしちゃあ考えたな・・・」

 

 

 

マトラは伸びをしながら説明して、経緯を聞いた秋宗とかるらはマトラが秘湯巡りに興味を持った訳に納得した。

 

 

 

マトラ「つーわけで、アタシらを秘湯に連れて行ってくれおひいさん!そんで秋宗は酒の調達を頼む!」

 

 

かるら「何故妾が!?」

 

 

秋宗「ちょっと待て!俺だけ出費が発生してるじゃねぇか!」

 

 

 

マトラの頼みにかるらと秋宗は揃って声を上げてしまう。

 

かるらは天通眼と呼ばれる目を持っており、あの世の果てまで見ることができる目、簡単に言えば千里眼のようなものである。

天通眼を使えば、秘湯など簡単に見つけることができ、更に神足通でひとっとびである。

 

しかし、秘湯へ連れていくかるらと酒を用意する秋宗には何のメリットがない。

いくら幼なじみの頼みとはいえ無理があるのだが、

 

 

 

マトラ「そんなこと言わずに頼むよ2人とも~!」(グッ

 

 

 

マトラは秋宗とかるらの間に入り、2人と肩を組んだ。

 

 

 

マトラ「それにおひいさんもさ、八咫鋼をまだデートに誘えてねぇってグチってたろ?」

 

 

かるら「ッ!」

 

 

 

マトラの言葉にかるらは反応してしまう。

 

 

 

マトラ「バイト帰りの八咫鋼を誘って5人で行こうぜ!うまいこと2人きりにしてやっからよ!」(ニヤニヤ

 

 

かるら「・・・!///」

 

 

 

かるらはこれをコガラシと親密になれるチャンスと思いマトラの頼みを聞くことを決めた。

 

 

 

マトラ「秋宗も協力してくれよ!おひいさんのために!なっ?」(ニカッ

 

 

秋宗「・・・・・」

 

 

 

マトラは秋宗の方を見て笑い、酒の調達を改めてお願いした。

しばらく考えた秋宗は、

 

 

 

秋宗「・・・ハァ、酒はお嬢と関係ないと思うが、分かった。酒は何とかしよう」

 

 

 

マトラの頼みを受け入れた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~数日後~

 

ここは日本の何処かにある秘湯。

辺りは海が広がっており、夕日で鮮やかに輝いている。

そして岩場には湧き出た源泉がある。

 

コガラシのバイトが終わった後、かるらがコガラシを誘い神足通でこの秘湯まで来たのである。

 

 

 

コガラシ「おお~!絶景ってヤツだな!連れてきてくれてありがとな、緋扇!」

 

 

かるら「そ、そう言ってもらえて何よりなのじゃ、コガラシ殿!」(あぁ、コガラシ殿の入浴姿・・・!なんと神々しいのじゃあ・・・!)

 

 

 

わざわざ秘湯まで連れてきてくれたかるらにコガラシはお礼を言った。

かるらの目には夕日でコガラシが輝いており、まさに神が降臨しているように写っていた。

ちなみに、2人とも水着を着ているのだが、恥ずかしいためか、かるらは岩場からコガラシの姿を覗き込んでいるだけだった。

 

 

 

コガラシ「・・・悪い緋扇、やっぱ混浴は気まずいよな?俺出るわ!」(ジャバジャバ

 

 

かるら「コガラシ殿!?」

 

 

 

コガラシはかるらに悪いと思い、湯から出ようとした。

 

 

 

かるら「ま、待つのじゃ!妾は水着姿を披露することに緊張しておるだけなのじゃ!心の準備が整うまでもう少し・・・!」

 

 

 

かるらが慌ててコガラシを呼び止めようとした時、2つの人影がかるらの元まで来て、

 

 

 

ガァンッ!!

 

 

 

かるらの側にあった岩を2人同時に蹴り上げた。

岩は空高く飛び、海へ落ちていった。

 

 

 

マトラ「水着くらいで何恥ずかしがってんだよおひいさん!」

 

 

秋宗「ったく、いつまでヘタレぶってんだよお嬢。バスタオル一枚姿でコガラシに抱きついただろ?」

 

 

かるら「ま、マトラ!?秋宗!?」

 

 

 

岩を蹴り上げたマトラと秋宗により、かるらの水着姿があらわになった。

 

かるらはピンクを基準とした水着、マトラは黒を基準として布地がかるらより少ない水着、秋宗は迷彩柄の水着をそれぞれ着ていた。

 

 

 

かるら「あ、あれはその場の勢いでじゃな!」

 

 

マトラ「なぁなぁ八咫鋼~!どうよおひいさんの水着姿は!?」

 

 

秋宗「今の率直な感想を聞きたいな~?コガラシくぅん?」

 

 

 

後退りしているかるらを後ろからマトラと秋宗が止めてコガラシに感想を聞こうとした。

 

コガラシは顔を少し反らし、

 

 

 

コガラシ「・・・か、かわいいんじゃねぇか?」

 

 

 

かるらの水着姿の感想を言った。

 

 

 

かるら「~!!///」

 

 

マトラ「そっか~!かわいいってよ!」

 

 

秋宗「良かったじゃねぇかお嬢!」

 

 

 

コガラシにかわいいと言われ、かるらの顔はトマトのように真っ赤になってしまった。

 

すると、

 

 

 

呑子「ホントに絶景ねぇ~!」

 

 

 

後ろから呑子の声が聞こえて秋宗とマトラ、コガラシが振り替えると、

 

 

 

呑子「秘湯ってのもオツなものねぇ~!」(バィ~ン!

 

 

 

そこには水着どころか布一切れすら纏っていない呑子の姿があった。

 

 

 

秋宗・コガラシ・マトラ『全裸ァ!?』

 

 

 

呑子の全裸姿に秋宗たちは驚いてしまう。

 

 

 

コガラシ「水着はどうしたんすか呑子さん!?///」

 

 

呑子「こんな絶海の秘湯に入れる機会なんて滅多にないのよぉ?全身で堪能しなきゃあ!」

 

 

秋宗「・・・呑子さん、恥じらいって言葉を知ってますか?///」

 

 

 

コガラシと秋宗は呑子の裸を見ないように顔を反らしてしまう。

 

 

 

マトラ「気に入ってくれたみたいだな!これで見返りは十分だよな!?早速一戦頼むぜ宵ノ坂!」(ザッ

 

 

 

マトラは戦闘体勢を取り呑子と戦おうとした。

 

まさに戦闘が始まりそうな空気だったが、

 

 

 

秋宗「何言ってんだ姐さん、せっかく秘湯へ来たんだからゆっくりして行こうぜ」(ゴソゴソ

 

 

 

秋宗は持ってきたクーラーボックスの中を漁りながら、今にも呑子に飛び掛かりそうなマトラを止めた。

 

 

 

呑子「秋宗ちゃんの言う通りよぉ!今は温泉を堪能させて頂戴!」

 

 

マトラ「そ、それもそうだな・・・」(ちょいと気が早かったか、まぁ折角の機会だ!ここでガンガン好感度を上げていい喧嘩友達になってみせるぜ!)

 

 

 

湯船に浸かっている呑子に言われて、マトラは渋々戦闘体勢を解いた。

秋宗はクーラーボックスの中から酒瓶を取り出して、マトラに差し出した。

 

 

 

秋宗「ほら姐さん、酒を用意してやったぜ。焼酎の名産地、鹿児島県より『黒霧島』だ!」

 

 

 

秋宗の持っている瓶のラベルには大きく『黒霧島』と書かれていた。

スズツキの協力の元、わざわざ鹿児島まで出向いて入手して来たのである。

 

 

 

マトラ「ありがとな秋宗!宵ノ坂~!酒注いでやるよ~!」

 

 

呑子「あらぁ!?これってかなりいい焼酎じゃない!?わざわざありがとね~秋宗ちゃん!」

 

 

 

酒を受け取ったマトラは呑子の隣へ行き、呑子は酒の銘柄を見てかなり喜んでいた。

 

 

 

秋宗「お嬢、コガラシ、2人とも何飲む?」(ゴソゴソ

 

 

 

秋宗はもう一度クーラーボックスを漁りながら、かるらとコガラシに何を飲むかを聞いた。

実は秋宗、かるら達のためにジュースを用意していたのだ。

 

 

 

コガラシ「え~っと、じゃあコーラで」

 

 

かるら「秋宗、緑茶はあるか?」

 

 

 

2人の飲みたいものを聞いた秋宗は、

 

 

 

秋宗「ほらよっ」(ビュン

 

 

 

クーラーボックスからコーラと緑茶が入った缶を取り出し、かるらとコガラシに投げ渡した。

 

 

 

コガラシ「サンキュー」(パシッ

 

 

かるら「投げて渡すでない!」(パシッ

 

 

 

コガラシとかるらは缶を受け取った。

 

すると、呑子はふと思った。

 

 

 

呑子「・・・そういえば、マトラちゃんも水着着てるんだぁ?」

 

 

マトラ「へっ?」

 

 

 

呑子から言われて、マトラは思わず聞き返してしまう。

 

 

 

マトラ「まぁそりゃアタシも女だからな。秋宗はともかく、野郎の前で裸って訳には・・・」

 

 

秋宗「姐さん、俺はともかくってどういうことだ?」

 

 

マトラ「だって小さい頃、おひいさんと一緒によく3人で風呂入ったろ?」

 

 

秋宗「そりゃ小さい頃はな!?俺の前でも気にしてくれよ!」

 

 

 

マトラが気難しそうに答えたが、秋宗が自重してほしいと返した。

確かに小さい頃、かるらとマトラ、秋宗は3人一緒で風呂によく入っていたのだが、今は思春期のため、そういうことを気にする年頃なのである。

 

 

 

呑子「まったくもぉ、みんな困ったものねぇ~。そもそも温泉入るのに水着なんて邪道なのにぃ」

 

 

 

呑子は困った表情をしながら正論を言い出した。

言われてみれば、温泉に入るのに水着はどうなのだろうと思ってしまう。

 

 

 

かるら「呑子殿はよほど温泉がお好きなのじゃな」

 

 

呑子「当然よぉ!ゆらぎ荘だって温泉目当てで住み始めたんだしぃ~」

 

 

マトラ「ッ!・・・」

 

 

 

呑子の様子を見て、マトラは躊躇してしまう。

呑子と仲良くなるためには裸の付き合いが鍵となるかもしれないが、コガラシの前では裸姿を見せたくない。

 

悩んだ末、マトラは腹をくくった。

 

 

 

マトラ「・・・しょうがねぇな宵ノ坂、付き合ってやろうじゃねぇか・・・!///」

 

 

かるら「マトラ!?」

 

 

 

マトラは自分の上の水着を掴み、

 

 

 

マトラ「オラァ!」(バッ

 

 

コガラシ「!?///」

 

 

秋宗「ね、姐さん!?///」

 

 

 

それを脱いで、胸をさらけだした。

 

秋宗とコガラシはマトラを胸を見ないように咄嗟に顔を反らした。

 

マトラは内心、とても恥ずかしがっているが呑子と友達になるために我慢している。

 

 

 

呑子「大丈夫よ~マトラちゃん!コガラシちゃんはジロジロ見る子じゃないからぁ」

 

 

 

呑子に言われてマトラがコガラシの方を見ると、コガラシと秋宗はマトラに背を向けていた。

 

マトラは2人がこっちを見ないように気をつかっていることを理解すると、

 

 

 

マトラ(じゃあ遠慮なく脱がせてもらうぜ!)スッ

 

 

かるら「マトラァ///!?」

 

 

 

下の方を脱ぎ、呑子と同じ素っ裸になった。

 

 

 

呑子「マトラちゃんやるぅ~!あなたとは将来いいお酒が呑めそうねぇ!」

 

 

マトラ「へ、へへっ///だろ!?///」(ッシャァァ!好感触!

 

 

 

呑子がマトラが裸になったことを感心して肩を組んだ。

マトラは顔が真っ赤になりながらも、呑子との好感度が上がったことに喜んだ。

 

 

 

呑子「あとはあっちの3人ねぇ」(ジィ~

 

 

 

呑子はまだ水着を脱いでいない秋宗とコガラシ、かるらをじっと見ている。

 

 

 

コガラシ「お、俺は脱がねぇぞ!?///」

 

 

かるら「妾もじゃぞ ///!」

 

 

秋宗「悪い姐さん///流石に俺も脱げねぇ///」

 

 

 

3人は絶対に脱ぎたくないと呑子に言ったその時、

 

 

 

ブシャアアア!!

 

 

 

かるら・コガラシ『!?』

 

 

 

突然、かるらとコガラシの下から間欠泉が吹き出して2人は巻き込まれてしまった。

 

 

 

秋宗「ッ!?お嬢!コガラシ!大丈夫か!?」(ジャバジャバ

 

 

 

秋宗はビックリしたものの、無事か確認するために2人の元へ寄って行った。

 

 

 

かるら「う、うむ!この程度の熱!妾ならばどうとない・・ぞ・・・?」

 

 

秋宗・コガラシ『!!・・・///』

 

 

 

かるらが無事だと伝えるが、秋宗とコガラシは顔を赤くしてフリーズしていた。

 

かるらは何故2人がフリーズしているのか分からなかったが、胸に違和感を感じて自分の胸を見ると、間欠泉により水着がずれて胸があらわになっていた。

 

 

 

かるら「・・・・・!!///」(カアァァァ

 

 

 

パチィーン!!

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その後、かるらは水着を着直したのだが、愛しのコガラシに胸を見られてしまい手で顔を覆いコガラシに背を向けていた。

一方コガラシも、かるらの胸を見て気まずくなり、かるらに背を向けていた。

2人の間には重い空気が漂っていた。

 

 

 

呑子「かるらちゃんって案外照れ屋さんだったのねぇ~」

 

 

マトラ「ったく、何やってんだよおひいさん、せっかくのチャンスだってのに・・・」

 

 

 

呑子は酒を飲みながら2人の様子を見て、マトラは少し呆れていた。

 

 

 

秋宗「・・・いや、お嬢はもう一生あのままチャンスを逃せばいいさ」

 

 

 

しかし、マトラと呑子と少し離れたところに座っている秋宗はかるらを睨んで悪口を呟いた。

 

秋宗は先ほど、かるらにひっぱたかれてしまい左頬に赤い手形の跡が残っていた。

 

 

 

呑子「まぁまぁ秋宗ちゃん、かるらちゃんだってわざとじゃなかったんだからさぁ、許してあげてよぉ」

 

 

秋宗「・・・そりゃあ分かってますけど」

 

 

 

呑子に言われて秋宗の怒りは少しおさまった。

 

するとマトラが、

 

 

 

マトラ「は~、今回はアタシが誘った手前、後悔なんてさせたくねぇんだけどなぁ・・・」

 

 

 

そう呟き、何か自分に出来ることはないかと考えていた。

 

それを聞いた呑子はマトラに知恵を貸した。

 

 

 

呑子「マトラちゃんと秋宗ちゃんってかるらちゃんと幼なじみなんでしょ?何か積極的にさせる方法とかないのぉ?」

 

 

マトラ「・・・そういやこの前、珍しく八咫鋼と腕組めたとか喜んでたんだよなー」

 

 

呑子「じゃあその時はどうしてそんなことができたのかしらぁ?」

 

 

秋宗「・・・確か、朧がコガラシに腕を絡めて、それでお嬢が負けられないと思って、咄嗟に腕を組んだんすよねぇ」

 

 

 

秋宗が当時のことを思い出しながらかるらがコガラシと腕を組めた訳を声に出した。

 

それを聞いたマトラは、

 

 

 

マトラ「・・・そっか!それだ秋宗!」

 

 

秋宗「?」

 

 

 

何かを閃いたような表情になった。

 

秋宗の話を聞いたマトラは、かるらに対抗意識を持たせる人がいれば積極的になれると考えた。

 

マトラは早速行動に移そうと、コガラシの元へ寄って行った。

 

 

 

マトラ「なぁなぁ八咫鋼~?///」(ぐいぐい

 

 

 

マトラはコガラシの背後に周り、自分の胸をコガラシに押し当てた。

 

 

 

コガラシ「み、巳虎神!?///何だよいきなり!?///」

 

 

 

突然マトラが背中に胸を押し当てたことに、コガラシは更に顔が赤くなってしまう。

 

そんなことなどお構い無しに、マトラはどんどん攻めていった。

 

 

 

マトラ「理由なんてどうでもいいだろ?///それよりどうだ?///」

 

 

コガラシ「イヤ・・・!///どうだって言われても・・・!///」

 

 

マトラ「ほらほら、柔らけぇだろ~?///」(もみゅもみゅ

 

 

コガラシ「バ、バカ!///おまっ!?・・・///」

 

 

 

イチャついているように見えるマトラとコガラシを見て、かるらと秋宗は開いた口が塞がらなかった。

 

そして、

 

 

 

マトラ「なぁ八咫鋼///アタシ結構いい身体してると思わねぇか?///なんなら好きにしていいんだぜ?///」

 

 

コガラシ「・・・!?///」

 

 

 

コガラシの上にマトラが乗り、マトラがコガラシの手を自分の胸に押し当てる状態になった。

 

 

 

秋宗「何やってんだよ姐さん・・・!?んなことしたらお嬢に殺されるぞ・・・!?」

 

 

 

かるらを本気で怒らせてしまったらかなり怖いことを知っている秋宗は顔が青ざめていた。

 

一方マトラはというと、

 

 

 

マトラ(くおおお!?///なんだこりゃあ!?///くっそ恥ずかしいなコレ!?///)

 

 

 

内心とても恥ずかしがっており、何でこんなことをしてしまったのだろうと少しばかり後悔していた。

 

 

 

マトラ(だがこれもおひいさんのためだ!おひいさん!ほら!早く来い!おひいさーん!)

 

 

 

マトラがかるらの方を見ると、かるらは扇子を構えて背中から翼を生やし宙へ飛んだ。

 

 

 

かるら「・・・マトラよ、おぬしの考えは他心通で聞かずとも察しは付くぞ。その心遣いには感謝しよう。友情のためにその身を捧げるとは天晴れじゃ」(ゴゴゴゴゴ

 

 

マトラ「あ、あれ?おひいさん・・・?」

 

 

 

マトラがかるらの様子を伺うが、突如風が吹き始めてまるでかるらの扇子に吸い込まれるかのように吹いていた。

 

 

 

かるら「じゃがな・・・!じゃがな・・・!いくらなんでもやりすぎじゃあ!!」(ビュオォ!!

 

 

マトラ「ぎゃあああ!!」

 

 

 

かるらが扇子を振るうと突風が起こり、マトラはコガラシと共に吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

秋宗「・・・こればっかりは、姐さんが悪いな」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

すっかり日も暮れて、夜空には星が輝いていた。

その下で、かるらは吹き飛ばしてしまったコガラシに必死に謝っていた。

 

 

 

呑子「んもぉ、お馬鹿ねぇ。あんなの怒られるに決まってるじゃない」

 

 

秋宗「まったく、一時はどうなるかとヒヤヒヤしたぞ」

 

 

マトラ「朧くらいやんねーとって思ったんだよ」

 

 

 

その様子を、秋宗たちは少し離れたところから見ていた。

しかし、マトラもマトラなりにかるらのために身体を張ったのを呑子と秋宗は理解していた。

 

 

 

呑子「・・・ねぇマトラちゃん」

 

 

マトラ「んー?」

 

 

 

呑子に声を掛けられて、マトラは呑子の方を見た。

 

 

 

呑子「アタシのこと、荒覇吐って呼んでほしいわぁ。そうしてくれたらぁ、暇な時に相手してあげてもいいわよぉ」

 

 

 

呑子から勝負相手をしてあげると言われたマトラは、

 

 

 

マトラ「・・・!!」(パアァァ!

 

 

 

嬉しくなり、一気に明るい表情になった。

 

 

 

マトラ「ホントか!?宵ノ、じゃねぇや荒覇吐!?じゃあ早速やろうぜ荒覇吐!」

 

 

呑子「ごめんねぇ、今日はもう原稿をしなきゃいけないのよぉ」

 

 

マトラ「なら手伝うぜ!」

 

 

呑子「あらぁ!絵なんて書けるのぉ?」

 

 

マトラ「鍛える!」

 

 

 

以前よりも2人の関係が親しくなった瞬間だった。

 

すると呑子があることに気がついた。

 

 

 

呑子「あらぁ?コガラシちゃんとかるらちゃんはぁ?」

 

 

マトラ「あれ?おひいさんと八咫鋼どこ行った?」

 

 

 

いつの間にか、コガラシとかるらがいなくなっており、呑子とマトラは辺りを見渡した。

 

そんな2人を見て、秋宗が答えた。

 

 

 

秋宗「お嬢とコガラシなら、向こうの方で夜景を見て楽しんでるぞ」

 

 

 

呑子とマトラが話に夢中になっている時、秋宗が『コガラシと夜景を見て楽しんで来い。こっちで姐さんと呑子さんを引き留めて2人きりにしてやるから』とかるらに耳打ちをして、かるらはコガラシを連れて少し離れた岩場へ向かった。

 

 

 

呑子「あらそうなのぉ?秋宗ちゃんったら優しいわねぇ」

 

 

秋宗「ま、俺がお嬢にそんなことを言ったのには、ちょっと訳があるんすよねぇ」

 

 

マトラ「訳ってなんだよ?」

 

 

秋宗「お嬢が近くにいたら、乱入して止めさせようとする可能性があるからだ」

 

 

 

秋宗の話にマトラは「?」を頭に浮かべてしまう。

 

秋宗はマトラから少し距離を取り、

 

 

 

秋宗「お嬢たちが戻ってくるまで、少し相手してやるよ」

 

 

 

と言いながら、秋宗は準備運動を始めた。

 

 

 

マトラ「・・・いいのかよ秋宗!?」(ワクワク

 

 

秋宗「あぁ、姐さんのおかげで秘湯に入れたからな」(グググッ

 

 

 

目を輝やかせているマトラを前に、準備運動を終えた秋宗はオオカミ人間の姿へ変身した。

今は満月が出ていないため、狂暴性10倍の姿になっていた。

 

 

 

マトラ「ヨッシャ!んじゃあいくぞ秋宗!!」(ダッ

 

 

秋宗「かかってこいやぁ姐さん!!」(ダッ

 

 

 

2人は同時に駆け出して戦闘を開始した。

 

コガラシとかるらが戻ってくるまでの30分間、秋宗と勝負をやり続けたマトラはとても満足していた。




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第26話 宣戦布告

~ゆらぎ荘~ 午後7時

 

みんなで夕食を食べている時、仲居さんがある話を切り出した。

 

 

 

幽奈「湯煙温泉郷フェス?」

 

 

 

仲居さんから渡されたイベントのポスターを幽奈たちは興味深く見ていた。

 

湯煙温泉郷フェスとは、ゴールデンウィークに開催される日本各地から有名なバンドやアイドルたちがこの湯煙温泉郷へ集まって音楽ライブをする企画であり、地元のPRにも繋がる大切なイベントでもある。

 

みんながワイワイ盛り上がっていると、仲居さんは気まずそうに本題を話した。

 

 

 

仲居さん「それでその、ご相談なんですけど・・・。皆さんで、出てみませんか?」

 

 

幽奈たち『・・・えっ?』

 

 

 

仲居さんの話によると、フェスに出演予定だった高校生バンドが方向性の違いで解散してしまったらしく、その代理で幽奈たちに出てほしいということらしい。

 

 

 

幽奈「む、無理ですよ・・・!舞台で歌うなんて・・・!」

 

 

雲雀「そうだよ!雲雀たちなんて普通の高校生なんだよ!?」

 

 

秋宗・コガラシ『普通の・・・?』

 

 

 

クナイやら手裏剣やらを飛ばす高校生のどこが普通なのだろうと秋宗とコガラシは疑問に思うが、幽奈たちはいくらなんでも無理があると言いきっていた。

 

確かに素人がいきなりフェスに参加するというのは流石に無理があるだろう。

 

幽奈たちが反対したことで、人見知りがある狭霧はフェスに出られないと思いホッとした。

 

 

 

狭霧「まったくもってその通りだ!仲居さん!申し訳ありませんがこの件は・・・」

 

 

仲居さん「・・・そう、ですか」

 

 

 

狭霧が断ろうとした時、仲居さんは俯いてしまった。

 

 

 

仲居さん「温泉郷フェス実行委員会の会長さんは昔から私の戸籍等で大変お世話になっている方なので、ご協力いただけるとありがたかったのですが・・・」(しゅん・・・

 

 

幽奈『!!』(ズキーン!!

 

 

 

仲居さんは深いため息をついて困った表情になり、それを見た幽奈たちは心にハンマーをぶつけられたような気持ちになった。

仲居さんは本当に落ち込んでいるのか、それともわざとやっているのかは誰にも分からないだろう。

 

仲居さんの様子を見た幽奈は、

 

 

 

幽奈「・・・わ、私やります!」

 

 

狭霧「幽奈!?」

 

 

 

フェスに参加することを決めた。

狭霧は無謀なことだと幽奈を説得しようとするが、

 

 

 

幽奈「だって!仲居さんからこんなお願いをされることなんて滅多にありませんよ!?日頃お世話になっている仲居さんのためなら私・・・!」

 

 

 

確かに仲居さんには普段から食事やら家事やらなんやらで大変お世話になっている。

その仲居さんからお願いされて引き受けない訳にもいかないだろう。

 

そう考えた夜々と雲雀は、

 

 

 

夜々「・・・夜々もやる」

 

 

雲雀「雲雀も!」

 

 

 

幽奈と同じくフェスに出ることを決めた。

 

 

 

狭霧「ま、待て待て!気持ちは分かるが落ち着け!ライブに出るといっても何を歌うんだ!?楽器の演奏はできないだろう!?練習するにしたってこのフェスはゴールデンウィークだぞ!?もう1週間しかない!」

 

 

 

狭霧の言う通り、ゴールデンウィークまでそんなに時間がなく、楽器を演奏する人を探すことや必要な機材や衣装を用意することなどに多大な時間と出費がかかってしまう。

そうなってしまえば、練習する時間などなくなってしまう。

 

しかし、それはすぐに解決した。

 

 

 

コガラシ「ドラムなら任せとけ!」

 

 

朧「私も竜笛なら任せとけ」

 

 

秋宗「ギターならいけるぞ」

 

 

呑子「衣装は私がデザインしてあげるわ~!」

 

 

こゆず「必要な機材はボクが葉札術で出してあげる!」

 

 

 

コガラシと朧と秋宗が演奏、呑子が衣装のデザイン、こゆずが機材の準備を担当することになった。

みんな仲居さんのために協力しようと一丸となった。

 

しかし、狭霧だけはフェスに出ることを躊躇していた。

それを見た秋宗は狭霧にこう言った。

 

 

 

秋宗「・・・狭霧、無理して出なくていいんだぞ?」

 

 

狭霧「なっ?」

 

 

 

秋宗から出なくてもいいと言われた狭霧は目を丸くしてしまう。

これはあくまで強制参加という訳ではないため、狭霧が出る必要はないのである。

そして秋宗はこう付け加えた。

 

 

 

秋宗「・・・ただ、七海がフェスを見に来て、狭霧が出てないと分かったら、あいつはお前になんて言うだろうなぁ?」

 

 

 

秋宗に言われて、狭霧は顎に手を当てて考えてみた。

 

 

 

 

 

七海『ねぇ?どうして貴女フェスに出なかったの?もしかして恥ずかしかったから出なかったのかしら?だとしたらとんだ笑い話ねぇ!誅魔忍である貴女が恥ずかしがってフェスに出なかったって他の誅魔忍に知られたら何て言われるでしょうねぇ?』

 

 

 

 

 

七海が自分を嘲笑い見下しているのを想像した狭霧は、

 

 

 

狭霧「・・・・・私も出るぞ!!」

 

 

 

そうなりたくないと思いフェスに出ることを決めた。

 

 

 

秋宗「よし、これで全員参加は決まったな」

 

 

 

上手い具合に狭霧をフェスに参加させるように誘導した秋宗は思い通りにことが進んだことをクックックッと笑っていた。

 

こうして、ゴールデンウィークまでの1週間、フェスへの猛特訓が始まった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~フェス前日~

 

本番を明日に向かえた秋宗は七海と一緒にフェス会場の下見に向かっていた。

 

何故七海と一緒にいるのかというと、今日は七海の買い物に付き合う約束をしていたため、その帰りに寄る形になったのだ。

七海との関係は良くなり、幽奈たちとも仲良くなっていた。

たまにゆらぎ荘へ赴いてパンツを見たりするが、直に胸を見たがるこゆずに比べればかわいいものだろう。

 

 

 

七海「いよいよ明日ね。それで練習の成果はどんな感じなの?」

 

 

秋宗「まぁ短い時間でよく頑張った方だと思うが、あとは明日に臨むだけさ」

 

 

 

七海はフェスを楽しみにしており、秋宗は少しだけ緊張していた。

 

実際秋宗を始め、幽奈たちも寝る間も惜しんで猛特訓してきたため、いいものにはなるだろう。

千紗希と紫音と柳沢も楽器の演奏で出ることになり彼女たちも一緒に特訓してくれた。

 

すると七海はふと思った。

 

 

 

七海「そういえば、幽霊さんもフェスに出るって聞いたけど、幽霊さん観客からは見えないはずでしょ?」

 

 

 

幽奈は地縛霊のため、霊力の高い人にしか見えないため、舞台に立ってもほとんどの観客からは幽奈が見えないだろう。

 

 

 

秋宗「そこは大丈夫だ。こゆずがなんとかしてくれる」

 

 

 

こゆずはゆらぎ荘で特殊な葉札を育てているため、それで幽奈の身体を作れることができるのである。

一度幽奈はこの方法でコガラシとデートしたことがあるため、問題はないだろう。

 

 

 

七海「へぇ~、タヌキちゃんの葉札って便利ねぇ」

 

 

 

そうこうしていると、フェスの会場に着いた。

 

まだ会場設営のスタッフたちが準備を行っている最中だが、まず秋宗と七海の目には大きな舞台が写った。

舞台はとにかく大きく、まるでアイドルがライブを行ってもおかしくないくらい豪華なものだった。

そして、観客側のスペースも何千人も入れるくらい広いスペースが確保されていた。

 

 

 

七海「・・・オオカミさんたち、明日ここに立つの?」

 

 

秋宗「マジかよ・・・!?こんなに大きいなんて聞いてねぇぞ・・・!?」

 

 

 

秋宗と七海はあまりにも大がかりなフェス会場を見て驚愕していた。

てっきり地下ライブ程度のイベントと思っていたが、ここまで大きなイベントなのかと改めて秋宗は実感した。

 

 

 

七海「・・・ねぇ、あそこにいるの、やっさんたちじゃない?」

 

 

秋宗「えっ?」

 

 

 

 

七海が指を差した方を見ると、コガラシと幽奈、狭霧と雲雀と夜々と仲居さんとフェス実行委員会の会長の湯野田さんがいた。

おそらく秋宗と同じようにフェス会場の下見に来たのだろう。

そして、コガラシたちの他に誰か数人いた。

 

 

 

秋宗「・・・ひょっとして、あれトゥインクルスか?」

 

 

 

トゥインクルスとは、兵藤のお気に入りのアイドルグループで、現在人気急上昇の超売れっ子でもある。

トゥインクルスもこのフェスに出演する予定になっているため、彼女たちも会場の下見に来ているのだろう。

トゥインクルスの他にもう一人、別の女性がいた。

おそらく、トゥインクルスの関係者の方なのだろうと秋宗は思った。

しかし、その人とコガラシたちの間には、何やらよろしくない雰囲気が漂っていた。

 

 

 

秋宗「・・・絶対何かあったな」

 

 

七海「取り敢えず行ってみましょ」

 

 

 

流石に見て見ぬふりは出来ず、秋宗と七海はコガラシたちの元へ歩いて行った。

 

 

 

秋宗「おいお前ら、一体何してんだ?」

 

 

七海「まるで一触即発みたいな感じよ?」

 

 

夜々「・・・秋宗、七海も来てたんだ」

 

 

 

秋宗が声を掛けるとコガラシたちは秋宗と七海の方を見て、それに釣られてトゥインクルスと女性も秋宗たちの方を見た。

 

 

 

秋宗「・・・仲居さん、何があったんですか?」

 

 

仲居さん「えっと・・・」

 

 

 

仲居さんの話によると、下見に来ていたコガラシたちにトゥインクルスのプロデューサーが声を掛けて来たのだが、コガラシたちが素人と聞くとプロの舞台に素人を立たせるなんてこの町にはがっかりだと言われてしまったらしい。

 

 

 

秋宗「・・・成る程。確かにプロデューサーさんの言うことは理解できる。俺ら素人がこんな大きな舞台に立つなんて、トゥインクルスの皆さんを始め、他のプロの方々にも失礼になるかもしれない」

 

 

 

 

腕を組みながら話を聞いていた秋宗は、プロデューサーの言うことにも一理あると肯定してしまう。

それを聞いて、幽奈たちは暗くなってしまった。

そして秋宗はトゥインクルスの方を見て続けてこう言った。

 

 

 

秋宗「けど、俺から言わせてみりゃあ、アンタらも十分素人だけどな」

 

 

一同『えっ?』

 

 

 

秋宗の発言にコガラシたちを始め、トゥインクルスとプロデューサーは疑問を浮かべてしまう。

 

 

 

雲雀「何言ってるの秋宗くん!?トゥインクルスは大活躍しているアイドルグループだよ!?素人なわけないじゃん!」

 

 

秋宗「そこじゃない」

 

 

 

雲雀の言ったことを秋宗は即座に否定した。

 

 

 

秋宗「俺が言ってる素人ってのは、この町に関して素人ってことだ」

 

 

 

トゥインクルスとプロデューサーはこの町に関して何も知らない。

仲居さんから話を聞いて、表情には出していないが秋宗はハラワタが煮えくりかえっていた。

 

 

 

秋宗「ま、俺はこの町で生まれた訳じゃないんですけど、この町の人たちの温もりや優しさを俺は理解しているつもりです」

 

 

仲居さん・湯野田さん『!!』

 

 

 

秋宗の温泉郷を思う気持ちに仲居さんと湯野田さんは目を見開いた。

 

秋宗は知っている。

かつてコガラシたちの敵として窮地まで追い込んだが、コガラシたちは見事に大逆転した。

秋宗は知っている。

仲居さんを始め、この町の人たちはとてもいい人たちばかりで、こんな町はほかにはないと。

だから、この町のことを何も知らない連中に悪口を言われる筋合いはない。

 

秋宗はコガラシたちの前に出て、プロデューサーと向き合った。

 

 

 

秋宗「つまり分かりやすく言うとですね、この町を甘く見てると痛い目見るってことですよ、素人さん」

 

 

 

秋宗は皮肉まみれの言葉をプロデューサーとトゥインクルスにぶつけた。

 

ずっと黙っていたプロデューサーは表情を崩さず、冷たい目付きで秋宗を見ていた。

 

 

 

プロデューサー「・・・あなた、随分好き勝手言ってくれたけど、この子(トゥインクルス)たちよりも盛り上がるステージを見せてくれるというの?あなたたちのような素人がステージに立ったらどうなるか、結果を見る間でもないわ」

 

 

七海「そこまで言うなら、賭けをしてみない?」

 

 

 

ずっと黙っていた七海は秋宗の隣に立ち、プロデューサーにある提案をした。

 

 

 

七海「もしオオカミさんたちがトゥインクルスより盛り上がったら、やっさんたちに謝って頂戴」

 

 

狭霧「七海・・・!」

 

 

 

七海も自分たちのためにプロデューサーに反論してくれていることに狭霧は少し感動した。

 

 

 

プロデューサー「・・・それで?あなたたちの方が盛り上がらなかったら?」

 

 

七海「そうね・・・」

 

 

 

プロデューサーに言われて、七海は顎に手を当て少し考えてこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七海「その時は、私があなたの靴を舌で舐めてキレイにしてあげるわ」

 

 

 

一同『・・・・・ハァッ!?』

 

 

 

七海の出した負けた時の行為にその場の全員が驚いてしまう。

七海の見た目は幼稚園児、こんな子供が靴を舐める絵図なんて誰も見たくないだろう。

 

 

 

コガラシ「七海!?自分で何言ってんのか分かってるのか!?」

 

 

仲居さん「そうですよ七海さん!」

 

 

湯野田さん「君がそこまで無理をする必要はないよ!」

 

 

 

コガラシたちは今すぐ七海にそんな賭けを止めさせるように説得するが、七海は取り下げる気はないらしく、

 

 

 

七海「大丈夫よ、オオカミさんとやっさんたちならきっと盛り上がるステージを見せてくれるはずだから」

 

 

 

それどころか、秋宗たちがトゥインクルスよりも盛り上がると信じている様子だった。

 

七海の提案を聞いたプロデューサーは、

 

 

 

プロデューサー「・・・ホテルに戻って、リハーサルの続きやるよ」

 

 

 

早くその場から立ち去りたいのか、それとも七海の顔を見たくないのか、秋宗たちに背を向けて去って行った。

トゥインクルスもプロデューサーの後ろを慌てて追いかけて行ってしまった。

 

 

 

狭霧「とんでもないことになってしまったぞ!」

 

 

夜々「盛り上がらなかったら、七海があの人の靴を舐めることに!」

 

 

雲雀「絶対に負けられなくなっちゃったじゃん!」

 

 

 

狭霧たちは深刻な表情になり慌てふためいていた。

 

 

 

七海「ふふっ、人が慌てる光景って、こんなに面白いのねぇ」

 

 

秋宗「何でお前は余裕なんだよ?」

 

 

 

狭霧たちの様子を見て面白がっている七海に秋宗は思わず突っ込んだ。

 

 

 

七海「あら?もしかしてオオカミさん、勝てる自信がないの?あんなにプロデューサーさんに啖呵を切っておきながら」

 

 

秋宗「・・・馬鹿言え、あんだけ特訓したんだぞ?負ける要素なんてねぇよ」

 

 

 

七海は嘲笑っていたが、秋宗は自信満々に答えた。

 

 

 

幽奈「・・・私、悔しいです」

 

 

 

するとずっと黙っていた幽奈が口を開いた。

 

 

 

幽奈「私たちは確かに素人です。でも、私たちの住むこの湯煙温泉郷が私たちのせいで蔑まれるなんて・・・!」

 

 

 

幽奈の温泉郷に対する思いは、秋宗以上に満ち溢れていた。

 

 

 

幽奈「だから皆さん!お願いします!あの方が!絶対忘れられないライブにしてやりましょう!」

 

 

狭霧「・・・あぁ!」

 

 

 

幽奈の熱に当てられ、狭霧たちは明日のフェスを絶対にトゥインクルス以上に盛り上げると決心したのだった。

 

 

 




感想の程、お願いいたします。


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第27話 フェスティバル

活動報告を更新しています。


~ゆらぎ荘~ 午後7時

 

会場から戻って来た秋宗たちは、千紗希たちと合流して明日へ向けての仕上げに掛かっていた。

ダンスの振り付けや歌の音程、演奏などそれぞれのミスがないかを確認しながら、

 

 

 

ジャアーン!!

 

 

 

最後までやりきり、みんなは達成仕切った表情になった。

 

 

 

幽奈「い、今の完璧でしたよね!?」

 

 

こゆず「すごいすごーい!」(パチパチ

 

 

うらら「エエ感じに仕上がっとるや~ん!」

 

 

七海「これなら明日は問題なさそうね」

 

 

 

練習を見ていたこゆず、うらら、七海の3人はみんなの成果を誉めていた。

これを明日の本番でもできるようになれば大いに盛り上がるだろう。

こゆずの方も葉札の成長も順調で明日までには幽奈の身体を作れて今のところ支障もない。

 

しかし、千紗希、紫音、柳沢は複雑な表情になり七海の方を見た。

 

 

 

千紗希「・・・七海ちゃん、明日私たちがトゥインクルス以上に盛り上がらなかったら、本当にそのプロデューサーさんの靴を舐めるの?」

 

 

七海「そうよ」

 

 

柳沢「冬空たちから聞いた時はマジで驚いたぞ」

 

 

紫音「・・・今からでも謝って賭けをなしにした方がいいんじゃないんスか?」

 

 

 

コガラシたちから七海とプロデューサーの賭けを聞いて千紗希たちは心配になり、七海にその賭けを止めさせるように促すが、

 

 

 

七海「いやよ」

 

 

 

七海はキッパリ断った。

そして七海は秋宗とコガラシの方を見て、

 

 

 

七海「大丈夫よ、オオカミさんとやっさんなら、きっと盛り上げてくれるから」(ニコッ

 

 

 

優しく微笑んだ。

この笑顔を見れば、多くの人たちはメロメロになってしまい、可愛いものには目がない千紗希母も思わず抱きついてしまうだろう。

 

 

 

秋宗「ったく、そこまで言われちまったら、頑張るしかねぇな」

 

 

 

秋宗は頭を掻きながら照れ臭そうに七海の期待に答えようとした。

すると七海は手を差し出し、

 

 

 

七海「はい、ワンスマイル1人につき五千円になりま~す!」

 

 

幽奈「お金取るんですか!?」

 

 

 

お金を請求しようとした。

もちろん冗談だが、空気が一気に和んでみんなは笑ってしまう。

すると、夜々が七海にあることを聞いた。

 

 

 

夜々「何でコガラシを『やっさん』って呼んでるの?」

 

 

 

七海は秋宗たちをあだ名で呼んでおり、中には少し『ん?』となってしまうあだ名もある。

 

 

 

七海「簡単よ、八咫鋼だから『やっさん』よ」

 

 

コガラシ「なんか適当な気がするなぁ・・・」

 

 

雲雀「コガラシくんなんかまだいいよ!雲雀なんて『まな板さん』なんだよ!?」

 

 

千紗希「私なんて『お母さん』だよ・・・」

 

 

紫音「まぁ千紗希姐さんは母性の塊ッスからね」

 

 

柳沢「意義なし」

 

 

 

ちなみに幽奈は『幽霊さん』、狭霧は『堅物さん』、呑子は『酔っぱらいさん』、夜々は『ネコさん』、朧は『眼帯さん』、仲居さんはそのまま『仲居さん』、こゆずは『タヌキちゃん』、うららは『裏さん、』紫音は『ヤンキーちゃん』、柳沢は『番長さん』、兵藤に至っては『アッシーくん』と七海から呼ばれている。

 

 

 

秋宗「さてと!じゃああのプロデューサーを見返すためにもうひと踏ん張りいくぞ!」

 

 

一同『オーーー!!』

 

 

 

秋宗の呼び掛けにより、練習は再開された。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~翌日~ ライブ会場

 

 

 

ワァァァァァァ!!!

 

 

 

ライブ会場は多くの観客で埋めつくされており、舞台ではプロのミュージシャンが演奏を繰り広げていた。

そして、兵藤たちもライブに出る秋宗たちを応援するために観客の中にいた。

 

一方、仮設プレハブがいくつも建てられている舞台の裏に秋宗はいた。

幽奈たちはプレハブの中でミュージシャンの舞台をテレビ越しで観ていた。

 

 

 

秋宗「・・・ふぅ」

 

 

 

衣装に着替えている秋宗はプレハブの壁にもたれ掛かりライブの様子を聞いていた。

流石にプロというだけのこともあり、ミュージシャンの熱と観客の盛り上がりが響いており、秋宗もいざとなると緊張してしまう。

 

 

 

秋宗「・・・昨日あれだけ啖呵切って置きながら緊張して何もできませんでしたじゃあ済まねぇし・・・。どうしたもんか・・・」

 

 

 

悪霊退治とは訳が違うため、秋宗は思わず愚痴を溢してしまう。

 

 

 

秋宗「にしてもあのプロデューサーはともかく、トゥインクルスには失礼なこと言っちまったなぁ・・・」

 

 

「私たちがどうかしたの?」

 

 

 

急に話しかけられた秋宗は声のした方を見ると、そこにはトゥインクルの3人がいた。

トゥインクルスたちは昨日の秋宗の発言などまったく気にしてない様子であり、笑顔の表情だった。

 

 

 

秋宗「・・・どうも」(プイ

 

 

 

昨日の発言を気にしている秋宗は咄嗟に顔をトゥインクルスと反対方向へ向けてしまう。

するとトゥインクルのツインテールの子が秋宗が顔を向けた方へ周りこみ、短髪と長髪の子も秋宗を逃がさないように取り囲んだ。

 

 

 

「なぁなぁー!どうして顔反らすのー?人と話す時はちゃんと顔を見ないとー!」

 

 

「へぇ、妙にいい顔してんじゃん」

 

 

「そういえば、昨日の子たちも可愛いかったよね。まぁ私ほどじゃないけど?」

 

 

 

何やら傲慢のような発言が聞こえたが、取り敢えず秋宗はそこに触れないで渋々トゥインクルスと向き合った。

流石はアイドルというだけのこともあり彼女たちの放つオーラが秋宗には眩しくも思えた。

 

 

 

秋宗「・・・いいんですか?こんなところで油売ってて?もうすぐ出番のはずですよね?」

 

 

 

一刻も早くこの状況を脱したい秋宗はトゥインクルスに呆れた目線を向けながら舞台へ向かわせるように促した。

しかし、そんなことなどお構い無しに話を進めた。

 

 

 

「私たちは大丈夫だよ。それにオオカミくん、少し緊張してそうに見えたからさ気になって」

 

 

 

おそらくトゥインクルスのリーダーであろう長髪の子が気軽に秋宗に接して緊張をほぐそうとした。

すると秋宗は「ん?」と思った。

 

 

 

秋宗「えっと・・・オオカミくんって俺のことですか?」

 

 

 

長髪の子が秋宗をオオカミくんと呼んだため、秋宗は少し動揺してしまう。

 

 

 

「だってあの七海ちゃんって子が呼んでたでしょ?オオカミって珍しいあだ名だよなー!」

 

 

「見た感じ、妙にオオカミに似てる気がする」

 

 

「へぇ、目は緑色なんだ。もしかしてオオカミくんって外人さん?」

 

 

秋宗「・・・えぇ、そんなところです」(この人ら近すぎだろ!つうかメチャクチャいい匂いもするし!こんなの余計緊張するだろ!)

 

 

 

トゥインクルスは秋宗の顔をジロジロと観察して、見られている秋宗も心臓がバクバクの状態になっていた。

 

 

 

秋宗(にしても・・・)

 

 

 

照れながらも、秋宗はトゥインクルスの様子を見てふと思ったことがあった。

それは、昨日の七海とプロデューサーの賭けのことである。

もし秋宗たちが盛り上がらなかったら七海がプロデューサーの靴を舐めることになっているのだが、そんなことなどまるで忘れているかのような様子でもあった。

 

 

 

秋宗(・・・ひょっとしてこの人たち、七海の賭けを冗談と思ってるんじゃ?)

 

 

 

普通に考えてみれば、あんな女の子が本気で靴を舐めるなど誰も信じないだろう。

おそらくトゥインクルスとプロデューサーも信じてないのかもしれない。

 

秋宗は七海は本気だと教えようとしたが、あえて黙っておくことにした。

もし教えたら、これからのライブに影響が出てしまうかもしれないと予測したためである。

 

 

 

「トゥインクルさーん!スタンバイお願いしまーす!」

 

 

 

そうこうしている内に、フェスのスタッフがトゥインクルスにスタンバイするように呼び掛けた。

 

 

 

「はーい!じゃあオオカミくん!またあとでね!」

 

 

 

そう言って、トゥインクルスはライブの準備のために秋宗と別れた。

 

残された秋宗はというと、

 

 

 

秋宗「・・・アイドルって、いい匂いするんだな」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

トゥインクルスのパフォーマンスも終わり、いよいよ秋宗たちの出番がすぐそこまで来ていた。

トイレを済ませた秋宗はギターを持って舞台袖へ向かっていた。

 

秋宗が舞台袖へ到着すると、幽奈とコガラシ、トゥインクルスとプロデューサーが話していた。

 

 

 

プロデューサー「ステージに立つ以上、お客にとってはプロと一緒。せいぜい盛り下げないでおくれよ」

 

 

 

プロデューサーがコガラシたちにキツいことを言ったため、秋宗はまたイラッとなってしまい、

 

 

 

秋宗「相変わらず上からものを言う態度ですね」

 

 

 

プロデューサーに対して声のトーンを低くして話しかけてしまう。

プロデューサーは振り向くと昨日の青年と分かると顔をしかめた。

 

 

 

プロデューサー「・・・私は正しいことを言ったまでよ。西条くんだっけ?あれだけ言ったからにはプロ並みのパフォーマンスを見せてもらうよ」

 

 

秋宗「・・・あとでコガラシたちに謝ってくださいよ」

 

 

 

2人の間はギスギスしており、プロデューサーは秋宗の隣を通りすぎて行った。

トゥインクルも慌ててプロデューサーの後を追っていった。

 

その後、こゆずの葉札で幽奈の身体もできてみんなは所定の位置に着いた。

泣いても笑っても今まで取り組んできたことを発揮するだけ、みんなの心は一つになった。

 

そしてついに、秋宗たちのパフォーマンスが始まった。

 

幽奈たちのダンスもミスがなくキレがあり、秋宗たちの演奏も何事も問題はなかった。

 

 

 

秋宗(よし!いい感じだ!これで盛り上がるはずだ!って・・・は?)

 

 

 

秋宗は演奏をしながら観客の様子を確認すると唖然となってしまう。

なぜなら、先程までの観客の熱が一気になくなっていたからだ。

 

 

 

「なんか素人っぽくね?」

 

 

「地元の高校生だってよ」

 

 

 

それどころか、観客は呆れていた。

やはりトゥインクルスの後だと、たった一週間程の練習しかしていない自分たちのパフォーマンスでは雲泥の差にも思えてしまう。

 

 

 

兵藤「気にすんなー!いけいけー!」

 

 

呑子「フゥゥゥ!!」

 

 

 

観客に混じり、兵藤たちは必死に盛り上げようとしていた。

 

 

 

秋宗(くそっ!マジでどうにかしねぇと!)

 

 

 

秋宗が頭をフル回転させてどうするか考えていた時、

 

 

 

 

 

ポムンッ!

 

 

 

 

 

幽奈「・・・えっ?」

 

 

 

なんと、幽奈の身体が煙を立てて消えてしまい、観客からは突然1人の女の子が消えたように見えてしまった。

 

 

 




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第28話 圧巻のパフォーマンス

 

『え・・・・・!?』

 

 

 

観客たちには何が起こったのか理解出来なかった。

目の前で歌っていた女の子たちの内の1人が突然消えてしまったからである。

 

 

 

千紗希(ゆ、幽奈さんが・・・!)

 

 

紫音(消えた・・・!?)

 

 

 

一緒に舞台に立っていた千紗希たちも突然幽奈が消えてしまったことに驚いてしまった。

 

しかし、狭霧は何が起こったのか理解できた。

 

 

 

狭霧(まさか!?幽奈の身体に化けていた葉札の術が解けてしまったのか!?)

 

 

 

今の幽奈は幽体の状態で霊力が弱い観客たちからは幽奈が見えずにいる。

 

幽奈自身も、一瞬何が起こったか理解出来なかったが、少しずつ理解していき内心はパニック状態になっていた。

 

 

 

こゆず「ボ、ボクが無理矢理間に合わせたから・・・!葉札のデキが悪かったんだ・・・!」

 

 

 

舞台袖から見ていたこゆずは自分が育てた葉札がこのような事態を起こしてしまったことに責任を感じて思わず泣いてしまう。

 

それを見た幽奈は、

 

 

 

幽奈(こゆずさんのせいではありません。これは無理にお願いした私の・・・!)

 

 

 

実際幽奈は何度も不安に思うことがあった。

幽霊である自分が舞台に立ってしまえば何か不測の事態が起こってしまうのではないのかと。

それでもみんなの役に立ちたい、頑張りたいと決心した。

 

 

 

幽奈(なのに、結局私は・・・!台無しに・・・!)

 

 

秋宗(っ!マズイ!!)

 

 

 

秋宗は幽奈の様子を見て焦りを表してしまう。

幽奈は感情が高ぶると無意識にポルターガイストを起こしてしまうため、今ここで幽奈がポルターガイストを起こしてしまえばさらに会場は大混乱になってしまう。

 

秋宗は幽奈を落ち着かせるために一旦演奏を止めようとした時、

 

 

 

パンッ

 

 

 

幽奈「!!」

 

 

 

狭霧と雲雀、夜々の3人が幽奈の背中を叩いた。

突然のことに幽奈は振り向くと、

 

 

 

狭霧(気にするな!)

 

 

雲雀(大丈夫だよ幽奈ちゃん!)

 

 

夜々(夜々たちがフォローする!)

 

 

 

3人はパフォーマンスを続けながら幽奈を励まそうとしていた。

言葉には出さなかったが、他心通を使えない幽奈でも狭霧たちが自分を励ましていると伝わった。

 

 

 

幽奈「・・・っ!」(ピシャッ

 

 

 

くよくよしている場合ではないと思い幽奈は自分の頬を叩いて気を取り直した。

秋宗は心配いらないと思い演奏を続けることにした。

 

 

 

幽奈(そうです!きっとまだ私にもできることはあるハズです!)

 

 

 

幽奈はこれからどうすればよいかと考えながら落ちた服を舞台袖へ運んで行った。

 

一方、呆気に取られていた観客たちは、

 

 

 

「・・・す、すげぇぇぇ!!」

 

 

「女の子がいきなり消えたぞ!?」

 

 

「イリュージョンかよ!?」

 

 

 

突然幽奈が消えたことに驚きこれもパフォーマンスの1つだと思った。

観客の反応に幽奈を始め秋宗たちも予想外であった。

 

そして、最初の曲が終了した。

 

 

 

狭霧「さて、どうしたものか・・・!?」

 

 

 

次の曲でどのように挽回するか考えていると、

 

 

 

幽奈「皆さん!ご提案があります!」

 

 

 

幽奈があることを提案した。

みんなは幽奈の提案に耳を傾けた。

 

 

 

幽奈「トゥインクルスの御三方が仰ってたんです!一番大切なのはお客さんに楽しんでもらうことだって!そのためならやれることはなんでもやるって!!」

 

 

 

幽奈はパフォーマンスを終えたトゥインクルスと話をしたことを思い出して、今自分たちがやれることは徹底してやろうと言った。

 

幽奈の提案を聞いたみんなはアイコンタクトを取り頷いて提案に乗った。

 

 

 

後輩1「なんか、止まってんぞ?」

 

 

兵藤「幽奈ちゃんは?」

 

 

 

観客に混じり兵藤たちはハラハラしながら幽奈たちの心配をしていた。

 

そして2曲目が始まったと同時に、

 

 

 

ぽむんっ、ぽむんっ、ぽむんっ

 

 

 

みんなの衣装が制服をモチーフにした衣装から浴衣をモチーフにした衣装へと変化した。

こゆずが舞台袖から葉札を飛ばして衣装チェンジしたのである。

 

 

 

「うおおお!?」

 

 

「今度は早着替えか!?」

 

 

「すげぇぇぇ!!」

 

 

 

突然衣装が変わったことにより、観客たちは更に盛り上がっていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

プロデューサー「ど、どうなってんだいアリャ!?」

 

 

 

観客たちから少し離れたところから見ていたプロデューサーとトゥインクルスは驚きを隠せずにいた。

最初はプロデューサーの予想通り観客が盛り上がらなかったが、その最中に突然女の子が消えてしまった。

その影響で観客は動揺したものの、パフォーマンスと思い少しずつ盛り上がっていった。

2曲目が始まったと同時に今度は衣装が変わり、プロデューサーとトゥインクルスは何がなんだか分からずにいた。

 

 

 

???「オオカミさんが言ってたでしょ?この町を甘く見てると痛い目みるって」

 

 

 

突然隣から声をかけられて咄嗟に見ると、昨日の紫髪のツインテールの女の子の七海が舞台を見ながら立っていた。

 

 

 

「七海ちゃん!」

 

 

 

トゥインクルスの長髪の子はいつの間にか隣にいた七海に驚いて声を出してしまう。

 

 

 

七海「貴女たちはこの町に関しては素人同然。まさにオオカミさんの言った通りね」

 

 

 

七海は舞台を見ながらパフォーマンスを楽しそうに観ていた。

 

すると、

 

 

 

ジャラララララッ!!

 

 

 

狭霧の周りに数十本のクナイが出現した。

クナイは勢いよく空へ飛び上がり、

 

 

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

 

 

クナイが弾けて、まるで花火が打ち上がったかのようにキレイに輝いていた。

 

すると今度は、雲雀がその場でジャンプすると、なんと観客の頭上を空中でアイススケートをするかのように飛んでいた。

雲雀は霊力で作り出した手裏剣に乗り空を飛んでいたのだ。

 

更に夜々は猫神を召喚して上に乗り飛び上がり、こゆずは葉札で空に星形の照明を取り付けた。

 

そしてなんと、観客から幽奈が見えるようになっていた。

うららが式神を使って会場内の人たちの霊感を一時的に強化して幽奈を見えるようにしたのである。

 

次から次へと様々な現象が起こる舞台に観客のボルテージはマックスになっていた。

プロデューサーとトゥインクルスも呆気に取られていた。

 

 

 

七海「・・・流石はオオカミさんたちね」

 

 

 

七海はパフォーマンスに魅了されながらも演奏しているであろう秋宗の方を見ると、そこに秋宗はいなかった。

それどころか、舞台のどこを見ても秋宗の姿が見当たらなかった。

 

 

 

七海「・・・オオカミさん?」

 

 

「あれ?オオカミくんがいないな?」

 

 

「・・・どこ行ったんだろ?」

 

 

「もしかして具合でも悪くなったのかな?」

 

 

 

トゥインクルスも秋宗がいないことに気がついてどこに行ったのかと疑問に思ったその時、

 

 

 

「オ、オイ!照明のところに何かいるぞ!!」

 

 

 

観客の1人が舞台に設営されてある照明の上に何かいることに気がつき、それに伝染されるかのように次々に観客たちが上の方を見た。

確かにそこには何か大きな黒い影があった。

そしてそれは照明から落ちてきて、舞台の上に降り立った。

 

その正体は、体長が約2メートルにも思わせる灰色の毛並みで目が緑色の大きなオオカミだった。

 

 

 

「なんだあれ!?でかい犬!?」

 

 

「いや!犬っていうかオオカミじゃねぇか!?」

 

 

「これもパフォーマンスなの!?」

 

 

 

突如上から降ってきたオオカミに観客たちは激しく動揺してしまう。

 

 

 

七海「・・・オオカミさんったら、大胆な行動に出たわねぇ」

 

 

 

七海は驚きながらも感心しながらオオカミの様子を観ていた。

 

 

 

プロデューサー「えっ?オオカミ、さん?」

 

 

 

プロデューサーは七海の発言に反応して、改めて舞台にいるオオカミをよく観察した。

灰色の毛並みに緑色の目、そして七海は昨日あの少年を『オオカミさん』と呼んでいたことを思い出した。

 

 

 

プロデューサー「ま、まさか・・・!?」

 

 

七海「そのまさかよ」

 

 

 

プロデューサーはあのオオカミが秋宗だと思い、それを肯定するかのようにプロデューサーに声を掛けた。

 

 

 

「えぇっ!?あれオオカミくんなのか!?」

 

 

「言われてみれば確かに似てる・・・!」

 

 

「オオカミくんって本当にオオカミだったの!?」

 

 

 

トゥインクルスも薄々あのオオカミが秋宗と気付き驚きを隠せずにいた。

人間がオオカミに変身できるなんて聞いたことがないため信じるには無理があるかもしれないが、舞台で起こってる人間離れしたパフォーマンスを見れば辻褄があうだろう。

 

 

 

七海「それにしてもオオカミさん、一体あの姿で何をする気なの?」

 

 

 

獣型の秋宗にできることは少なく、パフォーマンスも限られてくるだろう。

七海が考えていると、

 

 

 

秋宗「スゥゥゥゥゥ!!」

 

 

 

秋宗は勢いよく空気を吸い込み肺に溜め込み始めた。

観客たちはもちろん、コガラシたちも何をするのかまったく予測できずにいた。

 

そして秋宗が空気を吸い込むのを止めた次の瞬間、

 

 

 

秋宗「ブゥゥーーーー!!」(ビュォォォ!!

 

 

 

秋宗は一気に溜め込んだ空気を吐き出した。

そして吐き出された空気は渦を描くように空へ上がり舞台に大きな竜巻が発生した。

コガラシたちは竜巻に飲み込まれそうになりながらも何とか耐えきりながら演奏を続けた。

 

すると、観客たちの足元に落ちていた桜の花びらが竜巻へ吸い込まれるように舞い上がった。

今は5月の始めだが、まだ桜が散っているため地面には桜の花びらが落ちていた。

竜巻に飲まれた花びらは鮮やかに舞っており、まるでピンク色の竜巻のようでもあった。

 

 

 

「あのオオカミすげぇ!!」

 

 

「竜巻を起こすなんてまるで3匹の子ブタみたい!」

 

 

「桜もキレイに舞ってる!!」

 

 

 

観客たちは目の前の光景に魅了された。

 

そして秋宗は息を少し吸い込むと、

 

 

 

秋宗「ウオォォォォォォォォン!!」

 

 

 

遠吠えを起こして竜巻をかき消した。

それにより、桜の花びらは観客たちの頭上をヒラヒラと舞い上がっていった。

 

 

 

「すごーい!!」

 

 

「俺!生でオオカミの遠吠えなんて初めて聞いたぞ!」

 

 

「まるで夢を見てるみたい!!」

 

 

 

観客たちは今日で最高に盛り上がり今まで見てきたミュージシャンたちのパフォーマンスなど忘れているかのようであった。

こうして、秋宗たちのパフォーマンスは最高に盛り上がったまま終わりを告げた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

湯煙温泉郷フェスも幕を閉じて、コガラシたちは呑子たちと合流して舞台裏にいた。

 

 

 

湯野田さん「凄かったよみんな!ゆらぎ荘には不思議な子たちが住んでるとは聞いてたがここまでとは!ありがとう!期待以上だったよ!」

 

 

 

フェスを盛り上げてくれた幽奈たちを大絶賛していた。

褒められた幽奈たちは照れていた。

 

 

 

プロデューサー「あんなのマジックショーでやるもんだよ」

 

 

 

すると、声をかけられて幽奈たちが振り向くと、プロデューサーとトゥインクルス、そして七海の姿があった。

 

 

 

七海「もう、素直じゃないんだから」

 

 

 

七海はプロデューサーの態度に呆れていた。

 

 

 

「七海ちゃんの言う通りですよ」

 

 

「プロデューサー頭かたーい!」

 

 

 

短髪の子とツインテールの子は七海の意見に賛同するようにプロデューサーに反論した。

 

 

 

「少なくともお客さんはみんな、最高に楽しんでいた」

 

 

 

そして長髪の子はコガラシたちにウインクをして絶賛した。

 

 

 

プロデューサー「・・・分かってるよ。あれだけの芸当、たとえどんな才能があろうと一朝一夕でできるもんじゃない」

 

 

 

幽奈たちの舞台に対する熱は違うかもしれないが、日々の鍛練や強い思い、紡がれた絆があって初めて成し遂げられたステージだったのだろうとプロデューサーは感想を述べた。

 

 

 

プロデューサー「昨日は失礼なことを言ってしまってすまなかったね」(スッ

 

 

 

言い終えたプロデューサーは頭を下げて幽奈たちに謝罪をした。

そして頭を上げて、

 

 

 

プロデューサー「熱かったよ!キミら!」

 

 

 

笑顔で幽奈たちを絶賛した。

プロデューサーから認められた幽奈たちは思わず笑みを溢してしまう。

 

 

 

雲雀「それにしても秋宗くんのあの竜巻凄かったよねぇ!」

 

 

こゆず「まるで3匹の子ブタみたいだったよ!」

 

 

 

みんながワイワイと話していると、

 

 

 

秋宗「アァ~、やっと解放された・・・」

 

 

 

聞き覚えのある声が聞こえて振り向くと、獣型に変身したままの秋宗がコガラシたちの元へ歩いて来ていた。

 

 

 

紫音「あれ?秋宗兄さん着替えなかったんスか?」

 

 

秋宗「フェスを見に来てた子供たちにモフられて着替えられなかったんだ」

 

 

朧「それは災難だったな」

 

 

 

事情を手短に済ませた秋宗はプロデューサーとトゥインクルスの前へ歩いて行き、

 

 

 

秋宗「あの・・・すいませんでした」(ぺこっ

 

 

 

頭を下げてプロデューサーとトゥインクルスに謝罪をした。

 

 

 

秋宗「腹が立っていたとはいえ、貴女たちには失礼なことを言ってしまいました。本当に申し訳ありません」

 

 

 

秋宗も強く言いすぎたことに罪悪感を感じており、フェスが終わった後に謝っておこうと決めていたのである。

 

プロデューサーは頭を下げたままの秋宗の前にしゃがみ込み、

 

 

 

プロデューサー「頭を上げて。むしろ謝るのはこっちの方さ。キミの言ってた通り、私たちはこの町に関して素人だったよ」(なでなで

 

 

 

オオカミの容姿のためか秋宗の頭を優しく撫でた。

 

秋宗は撫でられながらもゆっくりと頭を上げると、

 

 

 

プロデューサー「キミもすっごくカッコよかったよ!」

 

 

 

プロデューサーが笑顔を向けて自分を褒めてくれた。

 

 

 

秋宗「・・・恐縮です」

 

 

 

秋宗は照れくさそうに顔を反らした。

 

すると今度は、

 

 

 

「オオカミくんの毛並みってサラサラだね!」

 

 

「自分で手入れとかしてるの?」

 

 

「ずっと撫でてたいなー!」

 

 

 

トゥインクルスの3人が秋宗の頭や背中、尻尾まで撫でて毛並みの感触を楽しんでいた。

 

 

 

秋宗「ちょっ、ちょっと!?///」

 

 

 

秋宗はアイドルたちに身体を触られていることに動揺を隠せずにいた。

 

 

 

七海「あら、オオカミさんったらモテモテね」

 

 

 

七海は秋宗の様子を見て楽しみ、

 

 

 

兵藤「くっそー!西条のヤツなんて羨ましいんだ!俺もオオカミ人間だったら!」

 

 

 

兵藤は大ファンのトゥインクルスと触れ合っている秋宗を親のかたきのように睨み、

 

 

 

柳沢「お前も触ってきたらどうだ紫音?」(ニヤニヤ

 

 

紫音「なっ!?///何言ってるんスか芹姐さん!?///」(正直言って羨ましいッス!///

 

 

 

羨ましがっている紫音を柳沢がからかっていた。

 

秋宗の毛並みを一通り楽しんだトゥインクルスは幽奈たちに別れを言ってプロデューサーとホテルへ戻って行った。

 

そしてこの後、ゆらぎ荘で打ち上げが行われみんなは夜が明けるまで楽しんだ。

 

 

 




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第29話 大喧嘩

今回はオリジナル回です。
最新刊の表紙に紫音が出た時はスゲェ嬉しかったです!


~ゆらぎ荘~ 午後2時

 

湯煙温泉郷フェスも無事に終わった数日後、ゆらぎ荘は少しだけ騒がしかった。

 

 

かるら「秋宗貴様!!何故妾にフェスのことを黙っておったのじゃ!?妾も見に行きたかったのじゃぞ!!」

 

 

大広間の机を挟み、かるらは秋宗に説教をしており怒られている秋宗は面倒くさそうに聞いていた。

 

幽奈たちのフェスがネットで話題になり、偶然にもかるらがそれを見つけてフェスのことなどまったく話していなかった秋宗に説教してやろうと思いゆらぎ荘まで赴いたのである。

ちなみにマトラも来ているが、今は呑子の部屋で漫画制作の手伝いをしている。

 

何故秋宗がかるらにフェスのことを黙っていたのかというと、

 

 

秋宗「だってお嬢にフェスのこと言ったら『妾もコガラシ殿と共に出るぞ!!』って言いそうだったから。仮に出ないって約束しても我慢できずに乱入しそうだしよ」

 

 

コガラシにまっしぐらのかるらのことを考えたら何かしでかすと思ったため、秋宗は言おうにも言えずにいた。

 

 

かるら「貴様というヤツは・・・!!」

 

仲居さん「まぁまぁかるらさん、秋宗くんだって悪気があった訳ではなかったのですから」(コトッ

 

 

怒り心頭のかるらと秋宗の前に仲居さんはお茶が入った湯飲みを置いて落ち着かせようとした。

 

すると、

 

 

スッ

 

 

コガラシ「緋扇、お前の怒鳴り声がそこまで聞こえてたぞ」

 

幽奈「もう許してあげましょうよぉ」

 

狭霧「はっきり言ってうるさいぞ、説教なら余所でやってくれ」

 

 

襖が開きコガラシと幽奈と狭霧が入って来てかるらに説教をやめさせるように言ってきた。

 

 

かるら「すまぬがコガラシ殿、今回ばかりはこの馬鹿にきつく言うとかねば気が済まぬのじゃ!」

 

秋宗「誰が馬鹿だ・・・」

 

 

かるらに馬鹿と言われたもののそこまでイラつかなかったため、秋宗は適当に聞き流して早く終わってくれないかと思っていた。

 

 

かるら「それにこゆずから聞いたぞ秋宗、貴様アイドルのおなごたちに身体を触られたそうじゃのう?」

 

秋宗「・・・こゆずのやつ、余計なことを言いやがって」

 

かるら「どうせおなごに身体を触られて鼻の下伸ばしてデレデレしとったのじゃろ?この変態オオカミめが!」

 

秋宗「・・・あ?」(ピキッ

 

 

かるらから自身のプライドを傷つけられる発言をされた秋宗はでこに血管筋が浮かび上がりかるらを睨みつけた。

確かにトゥインクルスに身体を触られたことは事実だが、決して鼻の下など伸ばしておらずましてや変態と言われたため、秋宗はプライドを傷つけられ黙らずにはいられなかった。

 

 

秋宗「そういうお嬢こそ、相変わらずコガラシのストーキングを続けてるみてぇだな?どうせ涎垂らしてハァハァ言ってるんだろ?このストーカー天狗!」

 

かるら「・・・は?」(ピキッ

 

 

秋宗から反論されて自分の悪口を言われたかるらは睨みを更に強めた。

2人のギスギスとした空気が大広間中に漂っており、コガラシたちも呑まれそうになっていた。

 

 

仲居さん「もう秋宗くん!かるらさんも!いい加減仲直りして下さいよ!」

 

 

仲居さんは何とかして2人を仲直りさせようと説得するが、秋宗もかるらも聞く耳もたずの状態である。

 

 

秋宗「止めないで下さい仲居さん、コイツは俺のプライドを傷つけたんですよ。このまま引き下がる訳には・・・!」

 

 

その時、

 

 

バシャァッ!!

 

 

秋宗「!?」

 

 

突然秋宗の顔に何かが掛かって顔がビチョビチョになってしまった。

何事かと確認すると、目の前に座っていたかるらがお茶が入っていない湯飲みをこちらに向けていた。

 

 

かるら「あぁ~すまんのぉ秋宗。うっかり手が滑ってしもうたわ」(ニヤリ

 

幽奈「絶対わざとですよね!?」

 

 

不適にかるらが笑っており、幽奈をはじめコガラシと狭霧もわざとお茶を掛けたと確信した。

更にお茶は淹れたばかりでまだ湯気が立っていたため、

 

 

秋宗「熱ゥゥゥゥゥゥ!!」(バタバタ!

 

 

秋宗は顔に掛かったお茶の熱さに手で顔を覆いその場で転げ回って叫んでしまう。

 

 

かるら「フハハハ!!妾に歯向かった報いを受けるがいいわ!!」

 

秋宗「テメェ・・・!!そっちがその気なら俺だって・・・!!」(ガンッ

 

 

嘲笑っているかるらを見て頭にきた秋宗は転げ回りながら湯飲みを蹴飛ばし、

 

 

バシャァッ!!

 

 

湯飲みがかるらの方へ飛んで行き入っていたお茶がかるらの顔に掛かり、

 

 

かるら「ぎゃぁぁぁ!!顔がぁぁぁ!!」

 

 

お茶の熱さにかるらは秋宗と同様、手で顔を押さえて叫んでしまう。

 

 

秋宗「ザマァ見ろお嬢!悪いことすると必ずこうなんだよ!!」

 

かるら「貴様ぁ!!もう許さぁん!!」(バッ

 

 

かるらは秋宗に飛びかかり2人の喧嘩が始まってしまった。

 

 

コガラシ「やめろお前ら!」

 

幽奈「あわわわ!どど、どうしましょう!?」

 

狭霧「いいに加減しないか!」

 

仲居さん「秋宗くん!かるらさん!取り敢えず落ち着きましょうよ!」

 

 

コガラシたちが必死になって秋宗とかるらの喧嘩を止めようとするが一向に止まらず寧ろヒートアップしていくばかりである。

 

 

呑子「一体何の騒ぎなのぉ?」

 

マトラ「おひいさん!?秋宗!?何やってんだよ!?」

 

雲雀「えぇ!?何であの2人が喧嘩してるの!?」

 

夜々「喧嘩ダメ!」

 

こゆず「やめなよ秋宗くん!かるらちゃん!」

 

 

騒ぎを聞き付けたみんなは何事かと思い大広間へ集まると秋宗とかるらが喧嘩をしていたため驚いてしまう。

 

 

秋宗「この野郎~!!」

 

かるら「絶対許さんぞ!!」

 

 

かるらは秋宗に馬乗りになり秋宗の鼻を摘まんで引っ張り、秋宗はかるらの頬を左右から摘まみ引っ張っていた。

 

 

幽奈「誰かぁ!あのお二方を止めて下さぁい!」

 

 

思わず幽奈は2人が仲直りして下さいかと願うように叫んだ。

その幽奈の願いが届いたかのように突如大広間の空間に黒い水面のようなものが現れ中から朧が出てきた。

 

 

朧「む?どうしたみんな?こんなところで集まって?」

 

仲居さん「あっ、朧さん!」

 

 

朧はかるらのように転送術を使えるため自由自在にいろんな場所を行き来できるのである。

 

 

朧「一体何がどうなっている?何故緋扇と西条が喧嘩をしているのだ?」

 

 

朧は取っ組み合いをしている秋宗とかるらを見ながらどういうことなのかと質問した。

 

 

コガラシ「話せば長くなるんだが・・・」

 

朧「まぁいい、取り敢えずあの2人を止めるぞ」

 

 

コガラシが説明しようとしたが、朧は秋宗とかるらの元へ歩いて行った。

 

 

朧「やめないかお前ら、みっともないぞ」

 

秋宗「止めるな朧!俺はお嬢を叩きのめさねぇといけねぇんだ!」

 

かるら「邪魔立てするならば其方とて容赦せんぞ朧!」

 

 

朧が仲裁に入ろうとはするが、秋宗とかるらは聞く耳持たずの状態である。

今2人を止めてしまえば返り討ちにあってしまうだろう。

 

 

朧「・・・どうやら大人しくする気はなさそうだな。仕方ない、後は任せるしかないようだな」

 

 

朧は開いたままの転送門の方を見た。

みんなは誰か出てくるのかと転送門を見ると、

 

 

???「ハ~イ!マッカセテ~!」

 

 

門の奥から女性の声が聞こえてきた。

みんなはどういう訳かその声に聞き覚えがあり、秋宗とかるらの顔は青ざめていた。

 

 

秋宗「こ、この声は!?」

 

かるら「ま、まさか!?」

 

 

秋宗とかるらがある人物を予想したと同時に門から女性が出てきた。

その人物は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マーレ「ミンナ~!久シブリネ~!」

 

 

秋宗の母親であるマーレだった。

マーレは久しぶりに会えたコガラシたちに笑顔で挨拶した。

 

 

幽奈「マーレさん!?」

 

コガラシ「どうしてここにいるんスか!?」

 

朧「駅で偶然会ってな、ゆらぎ荘へ連れて来たんだ」

 

 

マーレがここにいることに驚いているコガラシたちに朧は経緯を説明した。

 

 

マーレ「モウ一回アキムネに会イに来タンダケド、ナンカカルラと喧嘩シテルミタイネェ」

 

 

マーレがチラリと秋宗とかるらに視線を向けると、2人は窓からこっそり逃げ出そうとしていた。

そうはさせまいとマーレは一瞬で2人の背後へ立ち、

 

 

ガシッ

 

 

マーレ「2人トモ?ドコに行クノ?」

 

秋宗・かるら『!!』(ビクッ

 

 

秋宗とかるらを逃がさないように肩を掴み、2人は思わず肩が上がってしまう。

2人は恐る恐る振り向くと、笑顔なのだが目が笑っておらず後ろに阿修羅の幻影が立っているマーレがいた。

 

 

秋宗「待って母さん!これには訳が!」

 

かるら「おば上殿!どうかお聞きください!」

 

 

秋宗とかるらは顔を青ざめながらも必死にマーレを説得しようとした。

 

 

マーレ「・・・別に喧嘩をスルコトは悪イコトジャナイワヨ。ワタシダッテナツキと喧嘩スルコトモアルワ」

 

 

しかし、マーレは2人が喧嘩をしていたことに怒っていなかったのだが、

 

 

マーレ「デモソノ喧嘩で周リに迷惑を掛ケテイイッテ訳ジャナイノヨ」(ゴゴゴゴ

 

 

2人が見境なく喧嘩をしたことに怒っており、笑顔だった顔も険しくなっていた。

 

大広間は机もひっくり返り、畳にはお茶が零れ、更には襖までもが外れていた。

秋宗とかるらの喧嘩がいかに惨状なものなのか物語っていた。

 

 

マーレ「ネェ、チョット10分ダケ部屋を出テクレナイ?少シコノ2人にオ説教スルカラ」

 

仲居さん「・・・分かりました。では皆さん、一旦出ましょうか」

 

 

仲居さんはお説教をマーレに任せてコガラシたちと一緒に大広間から出て行こうとした。

 

 

かるら「マトラ!何とかおば上殿を説得しとくれ!」

 

秋宗「姐さん助けてぇ!」

 

 

かるらと秋宗は幼なじみのマトラに助けを求めたが、マトラは2人を見て、

 

 

マトラ「わりぃおひいさん、秋宗。アタシまだ死にたくねぇ・・・」

 

 

哀れみの視線を向けて謝りながら大広間を出て行った。

 

 

かるら「マトラァ!!」

 

秋宗「姐さぁん!!」

 

 

そんな2人の叫びも虚しく響きコガラシたちは大広間を後にした。

今大広間にいるのは秋宗とかるら、そしてマーレの3人だけになった。

 

 

マーレ「ジャア2人トモ、オ説教を始メマショッカ!」

 

 

マーレは秋宗とかるらの前に立ち説教を始めようとした。

秋宗とかるらは涙目になりブルブルと震えてしまい、そして、

 

 

『ギャァァァァァァァァァァァァ!!!!』

 

 

ゆらぎ荘に2人の悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そして20分後、

 

 

ガラララッ

 

 

千紗希「こんにちは~!」

 

紫音「お邪魔するッス!」

 

 

何も知らずゆらぎ荘へ遊びに来た千紗希と紫音は玄関の扉を開けて出迎えてくれた夜々とこゆずに挨拶した。

 

 

こゆず「いらっしゃい千紗希ちゃん!」

 

夜々「紫音もようこそ」

 

 

互いに挨拶を済ませた4人は中へ入って行った。

 

 

千紗希「今日はクッキー焼いてきたから一緒に食べようね!」

 

こゆず「わーい!ありがとう千紗希ちゃん!」

 

 

千紗希とこゆずが仲良く話していると、紫音が夜々にあることを聞いた。

 

 

紫音「あの、夜々っち。秋宗兄さんはいるッスか?」

 

夜々「・・・秋宗ならいるけど」

 

紫音「そ、そうッスか///」(今日は秋宗兄さんにガンガン攻めてみるッスよ!)

 

 

秋宗に好意を抱いている紫音は今日、秋宗に積極的に攻めていこうと計画しているのである。

 

 

夜々「でも今の秋宗は元気がないかも」

 

紫音「えっ?」

 

 

夜々から秋宗の現状を聞いた紫音と千紗希は少し驚いてしまう。

 

 

千紗希「西条くん、具合でも悪いの?」

 

こゆず「う~ん、具合が悪いっていうよりは、なんて言ったらいいのかな?」

 

夜々「取り敢えず見れば分かる」

 

 

夜々が大広間の襖を開けるとそこには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「あぁ、宮崎に紫音か・・・」

 

かるら「2人とも、遊びに来とったのか・・・」

 

 

秋宗とかるらが散らかっている大広間の片付けをしていた。

千紗希と紫音は散らかっている大広間よりも2人の様子を見て唖然となってしまった。

 

秋宗とかるらの頭には大きなタンコブができており、更には元気がなく心なしか窶れているようにも見えていた。

 

 

コガラシ「おう宮崎、轟も遊び来てたのか」

 

 

すると廊下からコガラシと幽奈が歩いて来て千紗希たちに声を掛けた。

 

 

千紗希「コガラシくん、幽奈さん。これって一体?」

 

紫音「あの2人に何があったんスか!?」

 

 

秋宗とかるらの状態を見て心配になった千紗希と紫音はコガラシたちに聞いてみた。

 

 

コガラシ「・・・まぁなんだ、自業自得ってヤツだ」

 

幽奈「お二人には気の毒ですけど・・・」

 

 

コガラシと幽奈は窶れている秋宗とかるらに哀れみの視線を向けて気まずそうに答えた。

 

その時、

 

 

 

マーレ「アラ~チサキジャナ~イ!久シブリ~!」(ギュッ

 

 

 

マーレが千紗希の後ろから抱きついて元気よく挨拶をした。

突然のことに千紗希は驚いて抱きついてきた相手を確認すると更に驚いてしまう。

 

 

 

千紗希「マーレさん!?日本に来てたんですか!?」

 

マーレ「ソウヨ~。ソレニシテモマタ大キクナッタンジャナイ?コレはGイッテルカモ」(モミモミ

 

千紗希「ちょっ!?///マーレさん!///」

 

 

マーレは千紗希の胸を揉んで大きさを確認して千紗希は顔を赤くしてしまう。

紫音はマーレと初めて会うため、いきなり現れた外人に驚いてしまう。

 

 

紫音「・・・誰ッスか?あの金髪外国人は?」

 

夜々「秋宗のお母さん」

 

こゆず「アメリカの会社の社長なんだって」

 

紫音の質問に夜々とこゆずが答えた。

 

 

紫音「えぇ!?秋宗兄さんのお母さん!?」

 

マーレ「んん?」

 

 

紫音が驚いたと同時にマーレは千紗希の隣に紫音がいることに気付いた。

数秒間、紫音をジーッと見たマーレは、

 

 

マーレ「・・・カッ、可愛イ~!!」(ギュッ

 

紫音「うおぉっ!?」

 

 

紫音の顔を自分の豊満な胸に押し付けるように抱きしめた。

 

 

マーレ「何ナノコノ子!?スゴいカワイイ!ペットにシタイワ~!」

 

紫音「く、苦しい・・・!」

 

幽奈「マーレさん!紫音さんが苦しそうですよ!」

 

マーレ「アラ、ゴメンネ。カワイカッタカラツイ」

 

 

幽奈に言われてマーレは紫音に謝りながら彼女を話した。

解放された紫音は息を整えながら改めてマーレを見た。

 

 

紫音(この人が秋宗兄さんのお母さんッスか・・・。滅茶苦茶美人ッスね!)

 

 

紫音はマーレの綺麗な肌に整った髪などに思わず見とれてしまう。

 

すると、

 

 

秋宗「あの、母さん・・・」

 

かるら「掃除を終えました・・・」

 

 

大広間の掃除を終えた秋宗とかるらがマーレの元へ行き報告をした。

マーレが大広間を見渡すと机も元の位置に置かれ、お茶が零れた畳も綺麗になり、外れた襖も元通りでまるで大掃除を終えたかのようにピカピカになっていた。

 

 

マーレ「・・・ウン!チャントキレイにナッテルワネ!モウ周リに迷惑を掛ケタラダメヨ?」

 

秋宗・かるら『はい・・・』

 

 

マーレに言われて秋宗とかるらは説教と掃除の疲れが溜まった声で返事をした。

 

 

コガラシ「もう喧嘩すんなよ?」

 

千紗希「えっ?緋扇さんと西条くん喧嘩したの?」

 

幽奈「そうなんですよぉ~」

 

こゆず「もう凄かったんだよ」

 

夜々「マーレさんがいなかったらどうなってたか」

 

紫音「だからあんなに散らかってたんスね」

 

 

コガラシたちから訳を聞いた千紗希と紫音は2人が疲れている理由を察した。

 

 

秋宗「・・・コガラシ、迷惑かけて悪かったな」

 

かるら「本当に済まなかったのじゃ・・・」

 

 

すると、秋宗とかるらがコガラシたちに頭を下げて謝罪をした。

 

それを見たコガラシは、

 

 

コガラシ「・・・お前ら、謝る相手を間違ってるぞ」

 

秋宗・かるら『えっ?』

 

 

呆れた表情になってしまい、秋宗とかるらは思わず頭を上げてしまう。

仲居さんたちには先程謝ったため残っているのはコガラシたちだけだったのだが、まだ謝っていない相手がいるのかと秋宗は顎に手を当てて考えた。

 

 

秋宗「・・・・・あっ」

 

 

秋宗はあと1人に謝っていないことに気がつき、かるらも同じように気がついた。

そして秋宗とかるらは向き合って、

 

 

秋宗「ごめんお嬢、さっきは言い過ぎた」

 

かるら「妾こそ、そなたに酷いことを言うてしもうた。許してくれ」

 

 

互いに喧嘩をした相手に謝罪をして仲直りをした。

 

 

マーレ「ウンウン!2人トモチャント仲直リデキタネ!偉イ偉イ!」(なでなで

 

 

 

マーレは仲直りをした2人の頭を撫でて優しく微笑んだ。

それにつられて秋宗とかるらも思わず笑みを溢してしまう。

 

 

 

紫音「じゃあお二人とも仲直りできたようですし!千紗希姐さんのクッキーでも食べましょうよ!」

 

 

 

紫音が場を仕切りコガラシたちは大広間で千紗希の手作りクッキーを食べることになった。

こうしてゆらぎ荘の大騒動は無事に秋宗とかるらが仲直りをしたことにより幕を閉じた。

 

 

 




ご感想の程、よろしくお願いいたします。


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第30話 アクティブツアー

今年最後の投稿です


 

~山道~ 午後1時

 

秋宗とかるらが大喧嘩した2日後の昼過ぎのことだった。

 

 

 

秋宗「待てぇ!!」(スタタタッ!

 

 

 

秋宗は獣人化した状態で山道を走っていた。

その表情はなにがなんでも成し遂げる勢いでもあった。

 

 

 

「はぁ!はぁ!はぁ!」(タッタッタッ

 

 

 

秋宗が走っている先には、カッパが必死になって逃げていた。

 

何故秋宗がカッパを追いかけているのかというと、昨日の夜に何者かが緋扇邸に忍びこみ金品を盗もうとしていた。

幸い金品は盗まれずに済んだが、盗人は逃げてしまった。

かるらとスズツキの調べにより西軍にも東軍にも属していないカッパの仕業と判明し、かるらが天通眼で探すと温泉郷まで逃げていたため秋宗と黒服たちで捕まえることになったのである。

 

そして現在、

 

 

 

秋宗「おりゃ!!」(バッ!

 

 

 

ズサァァァ!!

 

 

 

「ガァッ!?」

 

 

 

秋宗がカッパに追い付きタックルをして動きを封じた。

その拍子にカッパはうつ伏せで倒れてしまい、秋宗は上に乗って両手を抑えた。

 

 

 

秋宗「大人しくしろっ!」

 

 

「クソッ!放せ!」(バタバタ

 

 

 

秋宗に取り押さえられながらもカッパはなんとしてでも逃げようとしていた。

 

するとそこへ、

 

 

 

黒服1「西条はーん!」

 

 

黒服2「あれは!盗人のカッパ!」

 

 

黒服3「もう見つけられたのか!」

 

 

 

黒服たちが空から秋宗たちの元へ降りてきた。

そして黒服たちによりカッパには拘束具が取り付けられ逃げられないようにした。

 

 

 

黒服2「よし、あとは雀天狗に連絡を取れば問題はないな」

 

 

黒服1「にしても、流石は西条はんやな」

 

 

黒服3「見事なお手並みです」

 

 

 

黒服たちは自分たちよりも先にカッパを捕らえた秋宗を絶賛していた。

 

 

 

秋宗「別に対したことではありませんよ。あと、俺なんかに敬語を使わなくても・・・」

 

 

黒服2「何をおっしゃってるのですか!西条殿はお館様のご友人のご子息!」

 

 

黒服3「無礼な態度など取れません!」

 

 

 

秋宗と黒服たちが話していると、

 

 

 

黒服1「ん?」

 

 

 

黒服の1人が向こうに誰かがいることに気がつき、目を凝らしてよく見てみた。

 

 

 

黒服1「・・・西条はん、あそこにおるのって八咫鋼ちゃいます?」

 

 

秋宗「えっ?」

 

 

 

黒服に言われて秋宗が黒服の視線の先を見ると、そこには確かにコガラシがいた。

更にコガラシだけでなく、千紗希と紫音、日焼け肌の女性の姿もあり、みんな登山用の服装で木製の建物の前に立っていた。

 

 

 

秋宗「アイツらこんなところで何やってんだ?ちょっと聞いてみるか」

 

 

黒服1「あっ、待ちぃや西条はん」

 

 

 

秋宗がコガラシたちの元へ歩くと同時に黒服の1人は秋宗の後ろを慌てて追いかけて行った。

 

 

 

秋宗「よぉお前ら、こんなところで何やってんだ?」

 

 

コガラシ「え?西条?」

 

 

紫音「あ、秋宗兄さん!?」

 

 

千紗希「西条くんこそ何やってるの?」

 

 

 

コガラシたちは茂みの奥からいきなり出てきた秋宗と黒服に驚いてしまう。

 

 

 

秋宗「まぁこっちにも色々あってな、3人はこれから登山でもするのか?」

 

 

コガラシ「いや、登山じゃなくてだな・・・」

 

 

 

コガラシの話によると、紫音の先輩が沢登りのツアーガイドの仕事をしており、カップル客が楽しんでもらえるツアー、名付けて『らぶらぶシャワークライミング』を発案し、今回はその試験としてコガラシと千紗希が呼ばれたらしいのである。

 

 

 

秋宗「ちょっと待て、お前ら付き合ってたっけ?」

 

 

コガラシ「付き合ってねぇよ・・・///」

 

 

千紗希「まぁ仕方なくって感じで・・・///」

 

 

 

コガラシと千紗希は揃って顔を赤くして気まずそうに答えた。

 

 

 

秋宗「にしてもシャワークライミングか・・・。面白そうだな」

 

 

 

一通り話を聞いた秋宗は沢登りに興味をもった。

その様子を見た黒服は、

 

 

 

黒服1「西条はん、せっかくやからやってみたらどないですか?」

 

 

秋宗「えっ?」

 

 

 

秋宗は黒服に言われて思わず振り向いてしまう。

 

 

 

秋宗「いや、でも・・・」

 

 

 

秋宗は先程捕らえたカッパのこともあるため遊ぶ訳にはいかないだろうと考えてしまう。

 

 

 

黒服1「あとのことは任しといて下さいな。雀天狗にも事情は説明しときますさかい」

 

 

秋宗「ですけど、飛び入り参加は流石に・・・」

 

 

ガイドさん「別にいいよ!むしろ大歓迎さ!」

 

 

 

秋宗と黒服の会話に入り、ガイドさんは秋宗のツアー参加を認めた。

 

 

 

秋宗「・・・いいんですか?」

 

 

ガイドさん「あぁ!予備ならたくさんあるし!紫音とカップルってことで!」

 

 

秋宗「はぁっ!?///」

 

 

紫音「ちょっ!?///えぇっ!?///」

 

 

 

ガイドさんが勝手に話を進めて秋宗と紫音をカップルとしてツアーに参加させようとすることに2人は顔を赤くして慌ててしまう。

 

 

 

黒服1「話はまとまったみたいやな。じゃあ西条はん、楽しんできて下さいな~」

 

 

 

黒服は秋宗をガイドさんに任せて他の黒服たちと合流するために森の奥へ行った。

 

 

 

秋宗「えっと、じゃあよろしくお願いします」

 

 

ガイドさん「よろしく!じゃあ早速中に入って着替えるよ!」

 

 

 

ガイドさんについて行くように秋宗たち4人も建物の中へ入って行った。

 

 

 

秋宗「なんか悪いな、3人で楽しむ予定だったんだろ?」

 

 

コガラシ「別にいいさ」

 

 

紫音「そうッスよ!気にしないで下さい!」

 

 

千紗希「こういうのって人数が多い方が楽しいと思うし」

 

 

 

秋宗たちは歩きながら楽しそうに話していたが、内心では、

 

 

 

秋宗(カップルか・・・。紫音には悪いな、好きでもない男とカップルにさせられて。今度何か奢るか)

 

 

コガラシ(男1人だと気まずかったし、西条が来てくれて本当に助かった)

 

 

紫音(今回は千紗希姐さんとコガラシ兄さんの距離を縮めようとしたのに何で秋宗兄さんまで来たんスか!?///しかもカップルって!///余計意識しちゃうじゃないッスか!///)

 

 

千紗希(確か紫音ちゃんって西条くんのことが好きなんだよね?なるべく2人きりにさせたほうがいいかな?)

 

 

 

と思いながらも更衣室へ着いた。

 

更衣室は広くヒノキの匂いが漂っていた。

 

 

 

ガイドさん「じゃあここでウェットスーツに着替えてくれ。君は先にシャワー室でこっちを着て。後でウェットスーツを渡すから」

 

 

 

ガイドさんからコガラシたちはウェットスーツ、秋宗は水着を受け取った。

コガラシたちは事前に紫音から水着着用と聞かされていたため、既に下に水着を着ていた。

 

 

 

秋宗「・・・あの、ウェットスーツも渡してくれればすぐに着替えらるのでは?」

 

 

ガイドさん「ダメダメ!皆この部屋で着替えるんだから!」

 

 

千紗希「・・・はい?」

 

 

 

ガイドさんの言葉に千紗希を始め残りの3人も一瞬思考が止まってしまう。

 

 

 

ガイドさん「そっちの2人は紫音から聞いてるだろ?水着着用って。カップルで互いの着替えを手伝おうっつうイチャラブイベントだ!」

 

 

秋宗たち(((えぇぇぇぇぇ!!??///)))

 

 

 

確かにこれはカップルが楽しむツアーなのだがまさかここまで徹底するとは思わず、秋宗たちは顔を赤くしてしまう。

 

 

 

ガイドさん「分かったらさっさと着替えてきなさい!」

 

 

秋宗「は、はい・・・」

 

 

 

ガイドさんに促されて秋宗は水着を持ってシャワー室へと入って行った。

シャワー室に入った秋宗は革ジャンとジーンズを脱いで水着を着用した。

幸いにも水着のサイズは秋宗にピッタリですんなり履けた。

 

水着に着替えた秋宗がシャワー室から出ると、衣服を脱いで水着姿のコガラシたちがウェットスーツを着ようとしていた。

 

 

 

ガイドさん「あっ、着替えたみたいだね。サイズは大丈夫だった?」

 

 

秋宗「はい、ちょうどでした」

 

 

ガイドさん「なら良かった。じゃあ次はこれに着替えて」

 

 

 

ガイドさんからウェットスーツを渡された秋宗は下の方から足を入れた。

ウェットスーツを初めて着るため、足を通すのに少し苦労した。

 

一方で千紗希がウェットスーツを着終えて背中のファスナーを締めようとすると、

 

 

 

千紗希「ん・・・。これ背中締めにくいね?」

 

 

 

何とかしてファスナーを上まで上げようとするが、上手い具合に締まらずにいた。

 

 

 

ガイドさん「本来は自分で上げ下げできるように長い紐が付いているんだが、今回は敢えて紐は外してある。パートナーに締めてもらえるようにな!」

 

 

千紗希「なっ!?///」

 

 

秋宗「成る程。それはいいかもしれませんね」

 

 

 

ガイドさんの説明に千紗希は顔が赤くなってしまい、秋宗はカップル同士の仲を深めるにはいい効果かもしれないと肯定してしまう。

 

 

 

秋宗「となるとここは必然的にコガラシが宮崎のファスナーを上げることになるな・・・」

 

 

コガラシ「はぁっ!?///何で俺が!?///」

 

 

紫音「そういうツアーッスから!」

 

 

コガラシ「・・・そ、そんじゃ上げるぞ?」

 

 

千紗希「よ、よろしく!」

 

 

 

コガラシは秋宗と紫音に流されて千紗希のファスナーを上げることになった。

コガラシが千紗希の背中のファスナーに手を掛けて上まで上げようとするが、

 

 

 

コガラシ「あれ?これちょっとキツメだな」

 

 

 

ファスナーが上手く上がらず、少しずつしか上がらなかった。

 

 

 

紫音「胸のせいッスよ胸の!///千紗希姐さんおっきいから!///」

 

 

秋宗「コラ紫音。そういうのはもう少しオブラートに包んで言え。この場合は、胸に夢と希望がたくさん詰まってると言うんだ」

 

 

千紗希「そっちの方がなんかヤダよ!!///」

 

 

 

紫音と秋宗から胸のことを言われて千紗希は咄嗟に自身の胸を手で隠してしまう。

 

 

 

コガラシ「えっと、じゃあ宮崎。一気にいくぞ」

 

 

 

コガラシはファスナーに力を入れて一気に上まであげた。

 

 

 

千紗希「んう・・・!///」

 

 

 

急にファスナーが上がり自分の体が締め付けられた感覚に襲われた千紗希は思わず声を出してしまう。

 

 

 

千紗希「あ、ありがと///」(変な声出ちゃった・・・!)

 

 

コガラシ「お、おう」

 

 

 

千紗希はファスナーを上げてくれたコガラシに照れながらもお礼を言った。

 

 

 

秋宗「じゃあ次は俺らだな。紫音、背中向けろ」

 

 

紫音「えっ!?///いやいや自分はいいッスよ!///」

 

 

ガイドさん「何言ってんだよ紫音。今回は彼とカップルなんだから締めてもらいな」

 

 

紫音「うぅぅ///じゃ、じゃあお願いするッス///」

 

 

 

紫音は頬を赤くしながら秋宗に背中を向けた。

秋宗はファスナーに手を掛けてファスナーを上げようとすると、

 

 

 

ジィーーーーー

 

 

 

ファスナーは一度もつっかえることもなく首の後ろまで上がった。

千紗希は胸が大きいせいでファスナーが上手く上がらなかったが、対照的に紫音は胸が小さいためすんなり上がってしまったのだろう。

 

 

 

秋宗「・・・紫音はスレンダーだからすんなり締まったな」

 

 

紫音「胸が小さいって言いたいんスか!?///」

 

 

 

秋宗は紫音を傷つけないようにフォローを入れたが、かえって逆効果になってしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そして全員が着替え終わり、いよいよ沢登りが開始された。

ガイドさんを先頭に、千紗希、コガラシ、紫音、秋宗と列を作り川を登って行った。

秋宗とコガラシと千紗希は初めてのため上手く進めないが、紫音は慣れているせいかスイスイと歩いていった。

 

 

 

千紗希「こんな風に川を登るなんてなんか新鮮!」

 

 

秋宗「こりゃあ面白いなぁ!」

 

 

紫音「こっからどんどん激しくなっていくッスよ~!」

 

 

 

沢登り初体験の秋宗と千紗希とコガラシは少し足を取られながらも楽しんでいた。

進んで行くと、川の地形が急斜面になっているところにたどり着いた。

ガイドさんは岩の出っ張りを利用して慣れた感覚で一気に上まで登っていった。

 

 

 

ガイドさん「まぁゆっくり登っていいから!気を付けてね!」

 

 

秋宗「分かりました!」

 

 

 

それに続いて秋宗たち3人は岩を利用しながら落ちないように慎重に登って行った。

 

 

 

千紗希「うわ、結構高いね・・・!」

 

 

コガラシ「心配すんな!下に俺がいる!」

 

 

 

千紗希が不安になりながらも下にいるコガラシを信用して上まで一気に登ろうとしたその時、

 

 

 

ズルッ

 

 

 

千紗希「きゃっ!?」

 

 

 

千紗希が足を滑らせてしまいそのまま後ろへ退いて、

 

 

 

ドシィーン!!

 

 

 

コガラシの顔面にお尻が覆い被さる体制になってしまった。

 

 

 

紫音「大丈夫ッスか!?」

 

 

秋宗「流石はラッキースケベ症候群患者、こんなところでも発揮するとは」

 

 

 

紫音は心配する方が、秋宗は呆れた表情になっていた。

 

 

 

千紗希「ご、ごめん冬空くん!///」

 

 

コガラシ「き、気をつけてな!///」

 

 

 

千紗希は慌ててコガラシから離れて互いの顔は真っ赤になっていた。

 

 

 

コガラシ「じゃあ俺が先に登って引き上げてやっから!」

 

 

千紗希「う、うん!」

 

 

 

そう言ってコガラシが千紗希より先に登り手を掴んで安定した場所まで引き上げた。

 

 

 

紫音(おおっ!いい感じッス!誘った甲斐があったってもんッス!)

 

 

 

コガラシと千紗希を見て、紫音は2人の距離が縮まったように感じた。

 

 

 

コガラシ「ほら、轟も!」

 

 

 

千紗希を引き上げたコガラシは紫音を引き上げようと手を伸ばしたが、

 

 

 

紫音「いえいえ!自分は大丈夫ッスから!」

 

 

 

2人の邪魔をしたら悪いと思った紫音は遠慮して自力で登ろうとした。

 

しかし、

 

 

 

ズルッ!

 

 

 

紫音「あぁぁぁぁぁ!?」(ズザァ!

 

 

 

足を滑らせてしまい一気に下の方へ滑り落ちてしまう。

 

 

 

千紗希「紫音ちゃーん!?」

 

 

コガラシ「西条ぉ!受け止めろぉ!」

 

 

秋宗「は?」

 

 

 

秋宗が足元に注意しながら登っていた時、急にコガラシが叫んだため顔を上げると紫音がこっちへ滑り落ちてきていた。

 

 

 

秋宗「し、紫音!?」

 

 

紫音「秋宗兄さーん!退いて下さいッスー!」

 

 

 

紫音は秋宗に退くように言うが、秋宗は退こうとはしなかった。

秋宗の後ろには大きな岩があるため、もし退いてしまえば紫音が大怪我を負ってしまう。

だから秋宗は紫音を受け止めようとした。

 

そして、

 

 

 

トスッ

 

 

 

秋宗は自分の体を盾にして紫音を優しく受け止めた。

 

 

 

秋宗「大丈夫か!?」

 

 

紫音「ウ、ウス!///すんませんッス!///」(ドキドキ!

 

 

 

秋宗と体を密着させているため紫音の顔は真っ赤になり胸の鼓動も激しくなっていた。

そして秋宗と紫音は互いに支え合いながらコガラシたちの元まで登って行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ある程度進んで行くと小さい滝の所へたどり着いた。

周りは木々で囲まれておりまさに絵に描いたような光景だった。

 

 

 

千紗希「上流に上がるにつれてどんどん水が棲んできてるね!」

 

 

コガラシ「おぉ~!言われてみれば!」

 

 

秋宗「カメラ持ってくりゃあ良かったなぁ」

 

 

 

秋宗たちが滝を眺めているのを紫音は少し頬を赤らめながら遠くから見ていた。

 

 

 

ガイドさん「あの灰色髪の彼に惚れてんの?」(ポンッ

 

 

紫音「ハイッ!?///」

 

 

 

すると、ガイドさんが紫音の肩に手を乗せて紫音を宥めた。

ガイドさんは紫音をずっと見ていたため秋宗のことになると顔を赤めていることに気が付きそこから紫音が秋宗に好意を抱いていることを推測した。

 

 

 

紫音「何言ってんスか!?///そんなワケ・・・!///そ、そりゃあ秋宗兄さんはコガラシ兄さんと同じくらい激強で憧れるッスけどあくまで漢としてっつーか!///」

 

 

 

紫音は必死になって秋宗に対して好意を抱いていないとガイドさんに弁解した。

実際は好きなのだが、あまり他人に知られたくないからである。

 

 

 

ガイドさん「ふ~ん?でも彼アタシから見ても結構イケてるし、今の内にガンガン攻めとかないと他の子たちに取られちゃうかもしれねぇよ?」

 

 

 

ガイドさんはあまり詮索はしなかったものの、紫音に恋のアドバイスを授けた。

紫音はガイドさんのアドバイスを聞いて2日前のマーレの言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~2日前~

 

秋宗とかるらが大喧嘩をして仲直りをした後、大広間で秋宗、かるら、コガラシ、幽奈、千紗希、紫音、夜々、こゆず、そしてマーレが千紗希の手作りクッキーを食べている時だった。

 

 

 

マーレ『ねぇねぇシオン、アキムネのどんな所が好きなノ?』

 

 

 

マーレが隣に座っている紫音に周りに聞こえない程度の小声で質問をした。

 

 

 

紫音『はっ!?///ちょっ!?///えぇ!?///』

 

 

 

唐突にマーレから質問された紫音は思わず大きな声を出そうとしたが何とか堪えてマーレの方を見た。

 

 

 

紫音『何ワケわかんねぇこと言ってんスか秋宗兄さんのお母さん!?///』

 

 

マーレ『別に隠す必要はないわヨォ?確かにアキムネはいい顔してるシ、好きなってもおかしくはないワ』

 

 

 

マーレが秋宗の方を見ると秋宗はかるらの湯飲みにお茶を注いでいた。

それに吊られて紫音も秋宗の方を見た。

 

 

 

マーレ『でも今の内に色々アピールしとかないと後悔するわヨォ』

 

 

紫音『・・・・・』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~現在~

 

沢登りを再開した秋宗たちは更に上へ目指して登って行った。

 

 

 

紫音(って、何思い出してんスかね・・・?)

 

 

 

 

紫音はマーレから言われたことを思い出しながらも慎重に登って行った。

 

すると、

 

 

 

スッ

 

 

 

紫音「ヒャアッ!?」

 

 

 

突然誰かに腰に手を添えられて紫音は思わず変な声を出してしまう。

誰が手を添えているのかと確認すると、隣で秋宗が紫音を支えながら一緒に登っていた。

 

 

 

紫音「あ、秋宗兄さん・・・」

 

 

秋宗「気を付けろよ、この辺りさっきよりも滑りやすくなってるから」

 

 

 

秋宗は足元を注意しながらも紫音が滑り落ちないように支えながら慎重に登って行った。

そんな秋宗を見て、紫音は改めて実感した。

 

 

 

紫音(・・・そうッス!自分は!この人が!秋宗兄さんが好きなんス!)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そして空が夕焼けになるまで一通り遊び尽くした秋宗たちは小屋へ戻り中にある温泉に浸かることになった。

 

 

 

千紗希「楽しかった~!今日は誘ってくれてありがとね紫音ちゃん!」

 

 

紫音「いえ!礼を言うのはこちらのほうッス!先輩も参考になったって感謝してるッスよ!」

 

 

 

女湯では、千紗希と紫音が湯に足を浸けて今日の沢登りの感想を談笑していた。

 

 

 

千紗希「・・・紫音ちゃん、私応援するよ、頑張ってね」

 

 

紫音「えっ・・・?ハッ!?///」

 

 

 

紫音は千紗希が何を言っているのか分からなかったが、後になって理解して一気に頬が赤くなった。

 

 

 

紫音「い、いや何言ってんスか!?///別に秋宗兄さんとは・・・!///」

 

 

千紗希「誰も西条くんなんて言ってないけど?」

 

 

紫音「あっ!?///えっとその!///うぅ~!///」

 

 

 

千紗希から少しからかわれてしまい千紗希は顔を附せてしまう。

しかし、千紗希が自分の恋を応援してくれていることも嬉しく思った。

 

すると、

 

 

 

ガラララッ

 

 

 

千紗希・紫音『?』

 

 

 

扉が開く音が聞こえてガイドさんでも入ってきたのだろうかと振り返って確認すると、なんとコガラシと秋宗が入ってきたのである。

コガラシと秋宗は既に入っていた女子2人を確認すると一瞬固まってしまい、

 

 

 

『・・・・・!!??///』(カァァァァァ

 

 

 

4人揃って顔を赤くしてしまった。

 

ちなみに何故秋宗たちが女湯へ入って行ったのかというと、秋宗たちは男湯の暖簾を確認して中へは入って行った。

しかし、これはガイドさんの仕掛けた罠でもあった。

男湯と女湯の暖簾をすり替えてわざと秋宗たちを女湯へ入るように仕向けたのである。

これぞ『らぶらぶシャワークライミング』最後のイベント、『混浴ドッキリ大作戦』だったのだ。

 

そして女湯では、

 

 

 

秋宗「テメェコガラシ!///何俺にまでラッキースケベ症候群を伝染させてんだ!///」(グィ!

 

 

 

沈黙を破った秋宗がコガラシの首を掴み上げて睨み付けていた。

咄嗟のことだったため、コガラシは秋宗の手をさばけず首を締め上げられてしまった。

 

 

 

コガラシ「何ワケ分かんねぇこと言ってんだ西条!?///これは俺のせいじゃ!///」

 

 

秋宗「うるせぇ!ラッキースケベを受けるのは!テメェだけで十分だぁ!」(ブォン!

 

 

 

秋宗は持ち上げたままのコガラシをそのまま千紗希目掛けて投げ飛ばし、

 

 

 

ドシィーン!!

 

 

 

見事千紗希にぶつかり、コガラシの顔が千紗希の胸に埋める体制になってしまった。

 

 

 

千紗希「キャアアアアア!?///」

 

 

コガラシ「西条!///お前マジで覚えてろよ!///」

 

 

秋宗「知るか!俺は出るからどうぞごゆっくり!」

 

 

 

2人がごちゃついてる隙に秋宗は女湯から出ようとした。

その時、紫音の脳裏にガイドさんとマーレの言葉がよぎった。

 

 

 

 

 

ガイドさん『今の内にガンガン攻めとかないと他の子たちに取られちゃうかもしれねぇよ?』

 

 

マーレ『今の内に色々アピールしとかないと後悔するわヨォ』

 

 

 

 

 

これはチャンスと思い紫音は立ち上がり、

 

 

 

紫音「あ、あぁ~!足が滑ったッス~!」

 

 

 

わざと秋宗の方へ飛び付くように飛び付いた。

 

 

秋宗「えっ?」

 

 

 

秋宗が振り向くと紫音がこちら目掛けて飛び掛かってきていた。

咄嗟のことに秋宗は反応できず、

 

 

 

ドシィーン!!

 

 

 

秋宗「うおっ!?」

 

 

 

2人同時に倒れてしまった。

 

 

 

秋宗「イタタタ。何が起こったんだ?」

 

 

 

仰向けに倒れた秋宗が体を起こそうとすると、

 

 

 

フニュッ

 

 

 

秋宗「ん?」

 

 

 

左手に何やら柔らかい感触があり目を開けて確認すると、

 

 

 

紫音「~~!!///」(カァァァァ

 

 

 

紫音が秋宗に覆い被さるように四つん這いになっており、更に秋宗の左手は紫音の左胸をガッチリ触っていた。

 

 

 

秋宗(ヤ、ヤバい!///殴り殺される!///)

 

 

 

元番長の紫音のパンチを受けてしまえばいくら秋宗といえど無事では済まないだろう。

秋宗が殴られる覚悟を決めていると、

 

 

 

紫音(や、やっぱ恥ずかしすぎるッスよ~!!///)

 

 

 

紫音は裸を見られたことと胸を触られたことで頭の中がごちゃごちゃになってしまい、

 

 

 

バタリッ

 

 

 

体験したことのない恥ずかしさにオーバーヒートしてしまい、そのまま秋宗と体を重ねるように倒れこんでしまった。

 

 

 

秋宗「し、紫音!?///大丈夫か!?///紫音!?///」

 

 

 

今この女湯はとてつもないカオスな空間に包まれていた。

 

そして、このツアーは色々危険と判断されてお蔵入りになってしまった。

 

 

 




感想のほど、よろしくお願いいたします。


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第31話 妖狐のミリア

新年明けましておめでとうございます!

今年も『緋扇邸のオオカミくん』をよろしくお願いいたします。


~ゆらぎ荘~ 午後2時

いつもと変わりのないゆらぎ荘。

そこへ続く階段の下に1人の少女がいた。

 

少女の見た目はこゆずや七海と同い年くらい、黒髪のロングヘアで赤紫を基本とした洋服を身に纏っていた。

 

 

 

???「ここに、天狐幻流斎様の霊が・・・!」

 

 

 

少女は少し気を引き締めた様子でゆらぎ荘を見ていた。

 

少女の名は、葛城ミリア。

葛城家と呼ばれる妖狐の娘である。

妖狐は化け狸同様に化けることが可能で今は耳と尻尾を隠している。

そして彼女の周りには狐の頭だけから尻尾が2本生えている式神が2匹いた。

 

何故ミリアがゆらぎ荘に来たのかというと、話は少し遡る。

 

数日前、ミリアはある動画を見つけた。

それは、湯煙郷温泉フェスの動画である。

それには普通の人たちでは信じられないようなパフォーマンスをしているコガラシや秋宗たちの姿もあり、もちろん幽奈の姿もばっちり写っていた。

ミリアはその動画を見て幽奈に目が止まった。

何故なら、幽奈の姿が後三家の1つ『天狐』の中でも最高傑作と言われた天狐幻流斎にそっくりだったからである。

もしやと思い霊波紋も調べると見事に一致したため、ミリアはまだ成仏できておらずにこの町にいると推測したのである。

そして直接ゆらぎ荘へ赴いて幽奈と接触しようとここへ来たのである。

 

 

 

ミリア「では行くです」

 

 

 

ミリアは覚悟を決めて階段をゆっくり上って行った。

 

 

 

式神2「あれっ?人間に変化したままで行くのー?」

 

 

 

幽奈と接触するのにわざわざ素性を隠す必要はないのでは?と式神は疑問に思ってしまう。

 

 

 

ミリア「当然です!天狐一族は依り代としてその肉体を数多の妖狐から狙われているわけですから、妖狐とバレれば警戒されるですよ!」

 

 

式神2「そっかー!」

 

 

 

ミリアの説明に式神はその通りだと納得した。

 

 

 

ミリア(フフフ、天狐幻流斎の霊、ですか。私にもついに追い風が吹いてきたですかね・・・!うまく利用して葛城家の悲願、天狐一族入りを果たしてみせるです!この妖狐、葛城ミリアが!!)

 

 

 

葛城家のために野心を燃やしながらミリアは階段を上って行った。

 

そして階段を上りきり、いよいよゆらぎ荘へ入ろうとしたその時、

 

 

 

ピュッ ピトッ

 

 

 

何処からともなく葉っぱが飛んでミリアの制服に張り付き、

 

 

 

ぽむんっ

 

 

 

変化の術が解けてしまい髪も黒から白へと戻り耳と9本の尻尾が生え、そして何より服もピンクの水着姿になってしまった。

 

 

 

ミリア「なっ・・・!?///」

 

 

 

一瞬何が起こったか理解出来なかったが、ミリアは冷静になって考えてみた。

 

 

 

ミリア(私の変化が上書きされたです!?この葉札術は・・・!)

 

 

こゆず「ゴメンゴメン!驚かせちゃったかな!?ちょっと手品の練習してて・・・!」

 

 

 

すると向こうからこゆずがミリアの元へ慌てて駆け寄って来た。

こゆずは他人に化け狸であることを隠すために帽子を被っていた。

 

 

 

こゆず「ってあれ?もしかして、化け狐!?」

 

 

 

こゆずはミリアの耳と尻尾を見て普通の人間じゃないと少し驚いてしまう。

 

 

 

ミリア「ダサい呼び方するなです!妖狐と呼べです!」

 

 

こゆず「ダサいの?」

 

 

 

化け狐と呼ばれたことにイラついてしまいミリアは自身は妖狐だとうっかり口を滑らせてしまう。

 

 

 

ミリア(はっ!?し、しまったです!つい・・・!)

 

 

 

ミリアはあとになって自分からうっかりカミングアウトをしてしまったと思った。

自分が妖狐であることを幽奈を始め、ゆらぎ荘の人たちにはバレたくなかったというのにやらかしてしまった。

 

 

 

こゆず「でもやっぱりね!ボク実は化け狸なんだ~!」

 

 

 

ミリアが妖怪だと分かるとこゆずは帽子を脱いで自身の耳を見せて化け狸であると明かした。

 

 

 

ミリア(あの動画で変化の術を使っていたのはコイツですね!おそらく幻流斎様の仲間、妖狐とバレるわけには・・・!)

 

 

 

ミリアはこゆずに見えないように背中に葉札を用意して、

 

 

 

ぽむんっ

 

 

 

前の姿へと変化した。

 

 

 

ミリア「わわっ!?元に戻ったです!すごい手品ですねー!」

 

 

 

ミリアはあからさまにこゆずの仕業かと思わせるように演技をしてなんとかこの場を乗りきろうとした。

 

 

 

こゆず「・・・今自分で変化したよね?」

 

 

 

一方何もしていないこゆずは勝手に自分で変化の術を使ったミリアを見てポカンとなってしまう。

 

 

 

ミリア「ななななんのコトです!?私はただのフツーの人間の美少女ですケド!?」

 

 

 

ミリアが必死になって誤魔化していると、

 

 

 

ヒラリッ

 

 

 

ミリア「!?///」

 

 

 

突如スカートが捲れてお尻に風が当たりミリアは少し驚いてしまう。

強い風が吹いたわけでもないのにスカートが捲れてしまうなんておかしいと思い首だけ振り向くと、

 

 

 

七海「ん~。色は白、それに形も普通ねぇ・・・」

 

 

 

紫髪のツインテールの家鳴、七海がしゃがみ込んでミリアのスカートを捲っていた。

七海は目を細めてミリアのパンツの色やデザインなどをチェックしている。

 

 

 

ミリア「な、ななな何してやがるんです!?///」(バッ

 

 

 

ミリアは七海の手を払いスカートを押さえて睨みつけた。

 

 

 

こゆず「あっ!七海ちゃん!遊びに来たの!?」

 

 

七海「こんにちはタヌキちゃん」

 

 

 

こゆずは七海が遊びに来てくれたことを喜び、七海はミリアから払われた手をさすりながらこゆずに笑顔で挨拶をした。

 

七海はこゆずからミリアへと視線を移し、

 

 

 

七海「貴女、もう少し他のパンツを履いてみたらどうなの?今時白だなんて時代遅れもいいところよ」

 

 

 

履いているパンツのダメ出しをした。

パンツ好きの七海にとっては白は時代遅れらしい。

 

 

 

ミリア「なんなんですいきなり!?どうしてスカート捲ってまでパンツを見ようとするのです!?」

 

 

七海「・・・どうして見ようとするのですって?」

 

 

 

七海は目付きを鋭くしてミリアを視界に捉えた。

ミリアは思わず唾をゴクリ飲み込んで後ずさりをしてしまった。

何か深い訳でもあるのかとミリアは考えてみた。

 

そして七海はゆっくりと口を開き、

 

 

 

七海「そこにパンツがあるからでしょ!!このバカちんが!!」

 

 

ミリア「オマエは桜中学校3年B組の担任ですか!?」

 

 

 

首を激しく振りろくでもない解答をした七海にミリアは盛大に突っ込んだ。

こんな解答のために考えた自分が恥ずかしく思ってしまう。

 

すると、

 

 

 

ピュッ ぽむんっ

 

 

 

 

ミリア「!?///」

 

 

 

またミリアがピンクの水着姿へと変化してしまった。

ミリアは振り返り変化の術を使ったこゆずを睨みつけた。

 

 

 

ミリア「オマエまた・・・!///」

 

 

こゆず「ほらやっぱり化け狐・・・あっ妖狐じゃん!今の葉札術で元の変化解いて水着着せただけだもん!」

 

 

ミリア「なんで水着です!?///」

 

 

七海「あら、貴女キツネさんだったの?」

 

 

ミリア「あっ・・・!」(も、もうこうなったら!)

 

 

 

七海にも正体がバレてしまいミリアの中の何かが吹っ切れてしまった。

このままやらっぱなしというわけにもいかず葉札を構えた。

 

 

 

ミリア「この、コダヌキ!!」(ピュッ

 

 

 

ミリアは葉札をこゆずに目掛けて飛ばし、

 

 

 

ぽむんっ

 

 

 

ミリア「オマエも恥ずかしがるがいいです!」

 

 

 

こゆずは変化の術で赤ピンクのフリル付の水着姿へとなってしまった。

これで自分同様に恥ずかしがるだろうとミリアは思ったが、

 

 

 

こゆず「え?ただの水着じゃん」

 

 

ミリア「なっ!?ま、まだまだガキですね!」

 

 

 

こゆずはちっとも恥ずかしがらなかった。

ミリアは動揺したものの、外でこんな姿になっても恥ずかしがらないこゆずを見てガキだと悪口を言った。

 

それを見た七海は、

 

 

 

七海「まぁ外で水着姿にさせれば恥ずかしがるという貴女の考え方もガキだけどね。そんな幼稚な考え方しか出来ないなんてこれはもう悲劇だわ。グスッ」

 

 

 

ミリアを馬鹿にして、からかうかのようにハンカチで目元を拭いた。

 

 

 

ミリア「オマエはさっきから何がしたいんです!?」

 

 

 

スカートを捲りパンツをチェックした挙げ句、更に自分を馬鹿にした七海をミリアはもう許さずにはいられなかった。

 

 

 

ミリア「オマエもコダヌキ同様に変化させてやるです!」(ピュッ

 

 

 

ミリアは七海に目掛けて葉札を飛ばしが、

 

 

 

七海「甘いわよ、キツネちゃん」(スッ

 

 

 

七海は右手を正面に翳すと、

 

 

 

ピタッ

 

 

 

葉札が七海の1メートル手前で止まってしまった。

 

 

 

ミリア「なっ!?オマエさては家鳴ですね!?」

 

 

 

ミリアは七海のポルターガイストと霊波紋を見て家鳴だと推測した。

 

 

 

七海「返すわ」(ピュッ

 

 

 

七海はポルターガイストで葉札をミリア目掛けて飛ばした。

 

 

 

ミリア「し、しまっ・・・!」

 

 

 

ぽむんっ

 

 

 

ミリアはかわしきれず変化の術を受けてしまい水色の水着姿になってしまった。

 

 

 

こゆず「あっ!なんかかわいい!」

 

 

 

こゆずはミリアの水着姿を見て思わず可愛いと言ってしまう。

しかしミリアは自分を恥ずかしい目に合わせたこゆずと馴れ馴れしくする気はなく、

 

 

 

ミリア「黙れです!このガキ!」

 

 

 

こゆずに対してまたしても悪口を言った。

 

 

 

こゆず「もうボクも七海ちゃんも11歳だよ!そっちは?」(ピュッ

 

 

ミリア「同い年ですね!」(ピュッ

 

 

 

こゆずとミリアは互いに葉札を飛ばしてそして変化の術を受けてしまった。

 

 

 

こゆず「わっ!コレもかわいいね!」

 

 

ミリア「なぜごく自然にえっちな水着を出せるです!?///」

 

 

こゆず「こういうの教えてくれるお姉さんがいるんだ~!」

 

 

 

こゆずは黄緑色、ミリアは紫色のきわどい水着姿になってしまった。

ミリアはあまりのきわどさに思わず顔を赤くしてしまう。

 

 

 

七海「なんだか面白くなってきたわね、私も混ざるわ」

 

 

 

 

こゆずとミリアの勝負を見てウズウズしている七海は我慢できず混ざろうとしていた。

 

 

 

ミリア「またオマエですか!?邪魔をするな・・で・・・す?」

 

 

 

振り向いたミリアは七海を見て固まってしまった。

何故なら七海の手には鞭が握られていたからだ。

しかも競馬とかでよく見る馬専用の鞭だった。

 

 

 

ミリア「な、なにをするつもりです!?」

 

 

 

ミリアの表情はひきつってしまい冷や汗をかいていた。

 

 

 

七海「大丈夫大丈夫。痛くしないから。むしろ最高の快楽を与えるから!」(ハァハァハァ

 

 

 

一方七海の表情は頬を赤らめ息も荒くなっており、捕まったら何をされるのか全く予測できない。

ミリアは七海の様子を見て顔を青ざめてしまう。

 

 

 

ミリア「ヒィィィィィ!こっちに来るなです!」(ピュッ

 

 

 

ミリアは恐くなりもう一度七海に目掛けて葉札を飛ばした。

 

 

 

七海「無駄よ」(スッ

 

 

 

ピタッ

 

 

 

しかし先ほど同様、また葉札が七海の手前で止まってしまう。

 

 

 

七海「次はどんなのかしら?」(ピュッ

 

 

 

そしてまたポルターガイストでミリアへ葉札を飛ばした。

 

 

 

ミリア「同じ手を何度もくらうかです!」(サッ

 

 

 

ミリアは咄嗟に反応して葉札をかわした。

 

 

 

呑子「なんだか騒がしいわねぇ・・・?」(ふわぁ

 

 

 

するとゆらぎ荘から呑子が出てきた。

寝起きのためか欠伸をしており髪もボサボサの状態だった。

 

先ほど七海が飛ばした葉札が呑子に当たり、

 

 

 

ぽむんっ

 

 

 

呑子「あらぁ?」

 

 

 

変化の術を受けてしまった。

その姿はパンツを帽子代わりに被り、更に胸にはパンツの足を通すところから胸を出している状態だった。

 

 

 

七海「この化け狐がやりました!」

 

 

ミリア「なっ!?」

 

 

 

七海は即座にミリアに指をさして彼女の仕業だと呑子に説明した。

 

 

 

ミリア「オマエなに私に罪を擦りつけてるんです!?」(ユサユサ

 

 

 

濡れ衣を着せられたミリアは七海の肩を掴んで激しく前後へ揺さぶった。

 

 

 

七海「えぇ~?変化の葉札使ったのキツネちゃんでしょ?ねぇタヌキちゃん」

 

 

こゆず「うん、そうだね」

 

 

ミリア「ぐぬぬぬぬ~!」

 

 

 

確かに変化の葉札は元はミリアが飛ばしたため、七海の言うことにも反論できず言葉が詰まってしまう。

 

 

 

呑子「あらぁ、七海ちゃん来てたのぉ?そっちはこゆずちゃんのお友達?いらっしゃぁ~い!」

 

 

 

恥ずかしい姿になっても呑子は明るく七海とミリアに挨拶をした。

普段からゆらぎ荘でも水着姿である呑子にとってはこの程度の格好は大したことはないのだろう。

 

 

 

ミリア「平然です!?なんと器もお胸も大きなお姉さんですか・・・!」

 

 

 

怒られると思ったがあっさり許してくれた呑子を見て驚いてしまう。

このままでは寒いと思いこゆずとミリアは変化の術を解いた。

そしてミリアは本題を切り出した。

 

 

 

ミリア「私は別にそこのコダヌキと家鳴の友達でも何でもないのです!私はここの幽霊さんに用があってですね・・・」

 

 

こゆず「幽奈ちゃんに?」

 

 

呑子「幽奈ちゃんならコガラシちゃんとお使いに行ってるけどもうすぐ帰ってくるわよぉ~」

 

 

七海「あら、やっさんもいないの?」

 

 

 

こゆずと呑子の台詞から出てきた『幽奈ちゃん』という言葉にミリアは反応した。

 

 

 

ミリア(幽奈ちゃんとは?幻流斎様の他にも幽霊がいるですか・・・?いや、幻流斎様が素性を偽って?まぁいいです、それよりさっさと決着付けてやるです!)

 

 

 

ミリアはいろんな推測をしたが、今は取り敢えずこゆずとの変化勝負を決めようとした。

ミリアは大型の葉札を出し、それを受けてこゆずも大型の葉札を出した。

 

 

 

ミリア「同い年でこの私と互角の変化勝負をできるヤツがいたとは驚きなのですよ、コダヌキ!」

 

 

こゆず「ボクは信楽こゆずだよ!キミは?」

 

 

ミリア「葛城ミリアです!」

 

 

 

ボムンッ!!

 

 

 

大きな音と共に煙が吹き出しそれが晴れると、ゆらぎ荘と同じ大きさの九尾と同じくらい大きい緑色の水着姿の千紗希が現れた。

そして九尾の頭の上にはミリア、千紗希の頭の上にはこゆずが乗っていた。

 

 

 

ミリア「何ですかその巨大な女は!?」

 

 

こゆず「千紗希ちゃんマンだよ!」

 

 

ミリア「意味がわからないです!」

 

 

 

変化でどんなものを繰り出してくるのか予測していたミリアも流石に予想外だった。

 

 

 

式神1「あぁっ、ミリアしゃま・・・!」

 

 

呑子「気をつけて遊ぶのよぉ~」

 

 

七海「タヌキちゃんとキツネちゃん、あんなところに乗って大丈夫かしら?」

 

 

 

式神2匹はハラハラしており、対照的に呑子と七海は軽い感じで見ていた。

千紗希マンと九尾は互いに攻撃を仕掛けたが2体とも攻撃を防ぎきれず受けてしまい、

 

 

 

ボムンッ!!

 

 

 

2体同時に消えてしまった。

 

 

 

こゆず・ミリア『あ・・・』

 

 

 

その影響でこゆずとミリアは地面へと落下してしまった。

 

 

 

七海「あら大変」

 

 

呑子「んもぅ!気をつけなさいと言ったそばからぁ~」

 

 

式神1・2『ミリアしゃまー!!』

 

 

 

呑子と式神たちは落下する2人を助けようとすると、

 

 

 

がしっ

 

 

 

買い物から帰って来たコガラシと幽奈がこゆずとミリアを空中でキャッチした。

コガラシはこゆず、幽奈はミリアをキャッチした。

 

 

 

呑子「おかえり~!コガラシちゃん!幽奈ちゃん!」

 

 

七海「お見事」(パチパチ

 

 

 

七海はこゆずと七海をキャッチしたコガラシと幽奈に拍手を送った。

 

 

 

コガラシ「気をつけねぇとダメだろこゆず!」(スタッ

 

 

こゆず「ご、ごめんなさい・・・」

 

 

 

地面へ降り立ちこゆずはコガラシから起こられてシュンと落ち込んでしまう。

 

一方空中で幽奈にキャッチされているミリアはというと、

 

 

 

ミリア(て、天狐幻流斎様!?)

 

 

 

今回の目的である幽奈が目の前にいるため焦っていた。

 

 

 

ミリア(しまったです・・・!妖狐の姿では天狐の人間に警戒されてしまうです・・・!)

 

 

 

今のミリアは服装は普通だが耳と尻尾が生えており一目で妖狐だと分かってしまう。

もし自分の素性がバレてしまえば計画が破綻してしまう。

ミリアが必死になって打開策を考えていると、

 

 

 

幽奈「はじめましめ!湯ノ花幽奈と申します!化け狐さん、ですよね?こゆずさんと七海さんのお友達ですか~?」

 

 

ミリア「へっ・・・?」

 

 

 

幽奈が笑顔でミリアに自己紹介をした。

ミリアは思わず呆気に取られてしまう。

妖狐だとバレたにもかかわらずまったく幽奈に警戒されず、一体どうなっているのかと疑問に思ってしまう。

 

 

 

七海「幽霊さぁーん!気をつけた方がいいわよー!」

 

 

幽奈「えっ?」

 

 

 

すると、地上から七海が幽奈に声を掛けた。

 

 

 

七海「その子のことは妖狐と言わないとダメなの!もし化け狐なんて言ったらボコボコのギッタンギッタンにされるわよぉー!」

 

 

 

七海は半分本当のこと、半分嘘のことを幽奈に話した。

 

 

 

幽奈「ボ、ボコボコ!?すす、すみません化け・・・あぁ妖狐さん!わざとじゃないんですぅ!!」

 

 

ミリア「オマエもう黙れです!」

 

 

 

幽奈は七海の話を鵜呑みにしてしまい慌ててミリアに謝り、ミリアは顔を真っ赤にして七海に怒鳴った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

あの後、ゆらぎ荘の大広間で仲居さんからもてなされてミリアはお菓子とお茶を頂いており、みんなでワイワイ騒いでいた。

 

 

 

幽奈「そうですか!温泉郷フェスの動画を観て、なんだかテレちゃいますねー!」

 

 

ミリア「で、です!」

 

 

 

幽奈は少し頬を赤らめて照れていた。

 

ミリアは幽奈に会いに来た理由をフェスの動画に出た幽奈に一目会ってみたかったからと誤魔化した。

 

幽奈が記憶をなくしていると聞いたミリアは一体どうしたものかと考えていた。

 

 

 

ミリア(私がお教えすれば記憶が戻ったりするですかね・・・?)

 

 

式神1「ミ、ミリアしゃま!ミリアしゃま!」

 

 

 

すると、式神たちがミリアの耳元で他の人たちに聞こえない程度であることを知らせようとした。

 

 

 

式神1「こちらのみなしゃまの霊波紋を葛城家のデータベースと照合してみたところ、とんでもないコトが!」

 

 

式神2「あのおっぱい大きなメガネのお姉さんは宵ノ坂の娘でしゅ!」

 

 

式神1「そしてあのお兄さんは2年前の合戦に現れた八咫鋼を継ぐものでしゅ!」

 

 

 

式神たちから呑子が『宵ノ坂』、そしてコガラシが『八咫鋼』だと聞かされたミリアは思考がフリーズしてしまう。

そして徐々に自分が今とんでもないとこにいることを理解した。

 

 

 

ミリア(御三家の者が揃ってるです!?これが偶然!?いやどう考えても何かあるです!このゆらぎ荘には!)

 

 

 

確かに最強と言われている者たちが1つの場所に集まっているなどいくらなんでもおかしすぎる。

ミリアは取り敢えず幽奈に天狐幻流斎のことを伏せておくことにした。

もし仮に言ってしまえばとんでもない事態を引き起こしてしまいそうだからだ。

 

 

 

こゆず「ねーねーミリアちゃん!」

 

 

ミリア「なっ、なんですこゆず!?」(ビクッ

 

 

 

不意にこゆずが声を掛けてきたため、ミリアは少し驚いてしまう。

 

こゆずはミリアに、

 

 

 

こゆず「また遊ぼうね!」

 

 

 

もう一度遊ぼうと笑顔で約束をした。

ミリアは呆気に取られてしまうが周りを見渡すと和やかなムードが部屋中に広がっていた。

とても御三家が集っている空間とは思えない。

 

 

 

ミリア「・・・まぁたまになら、また勝負してやってもいいです!」(なんなのですかね、まったく。気が抜ける人達です。まぁまた調査に来る時のいい口実ができたですね!)

 

 

 

ミリアの緊張の糸もほぐれまた遊びに来ることを楽しみに思うのだった。

 

すると突然、ミリアの目の前にせんべいが現れた。

ミリアは一瞬ビックリしたがよく見ると、

 

 

 

七海「あげるわ」

 

 

 

隣に座っていた七海がミリアにせんべいを差し出していたのである。

 

 

 

ミリア「い、いいんですか?」

 

 

 

あれだけ自分のことをからかっていた七海がお菓子をあげてきたのだからミリアはキョトンとなってしまう。

 

 

 

七海「いいわよ、今はそんなにお腹すいてないし。それからタヌキちゃん、キツネちゃんが遊びに来たら私に連絡してくれないかしら?私も勝負したいから」

 

 

こゆず「うん!いいよ!」

 

 

 

ミリアは七海を見て、実は根が優しい子なのだと思った。

 

 

 

ミリア「・・・まぁ七海とも勝負してやってもいいですけど、当然私が勝つです!」(バリッ

 

 

 

ミリアは七海から受け取ったせんべいを食べながら自信満々に勝てると言いながらも内心ではとても楽しみに思うのだった。

 

そして七海はミリアがせんべいを食べたことを確認すると、

 

 

 

七海「ふ~ん?でもまぁ、取り敢えずこの勝負は私の勝ちね」

 

 

ミリア「んっ?」

 

 

 

不敵な笑みをミリアに向けた。

ミリアはどういうことなのか分からなかったが、次の瞬間、

 

 

 

ミリア「・・・・・!!??」

 

 

 

ミリアの口の中に突然辛い味覚が広がり思わず手で口元を押さえて涙目になってしまう。

 

 

 

こゆず「ミリアちゃん!?」

 

 

幽奈「だ、大丈夫ですか!?」

 

 

コガラシ「七海!お前何したんだ!?」

 

 

 

こゆずと幽奈がミリアの側に寄りコガラシは七海が一体何をしたのかと問い詰めていた。

 

 

 

七海「べっつにぃ~、そんな大袈裟なことはしてないわよぉ~」

 

 

 

そう言いながら七海はみんなに赤い小瓶を見せびらかした。

小瓶のラベルには大きなドクロマークが貼ってあり『HELL SOURCE』と記載されていた。

 

 

 

仲居さん「十分大袈裟ではありませんか!」

 

 

 

仲居さんを含め全員、七海が先ほどミリアに渡したせんべいにソースを掛けたのだと理解した。

 

 

 

ミリア(七海はいつか!!絶対に痛い目にあわせてやるですぅ!!)

 

 

 

辛さに耐えながら七海に復讐してやると心に誓うミリアだった。

 

 

 




という訳で今回は秋宗くんが登場しませんでしたが、こういう回もたまに出ますのでどうかご了承ください。

感想の程、よろしくお願いいたします。


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第32話 天才発明家

今回はオリジナル回でオリジナルキャラが登場します!


~湯煙温泉郷~ 午後3時

 

5月の半ばを迎えまだ肌寒い時期が続く季節、町では厚着を羽織る人たちが多く見受けられている。

その中に1人の男が歩いていた。

 

男の見た目は高校生、青のジャンパーを着て髪は緑色でおとなしそうにも思える。

そして彼の右手にはケーキ箱、左手には大きなシルバーのアタッシュケースを持っていた。

 

数分後、男が階段の前で立ち止まり上を見上げた。

彼の視線の先には、ゆらぎ荘があった。

 

???「・・・本当にあんなところに、あの子がいるのかな?」

 

地元でも幽霊が出ると噂されており誰もあまり近づかずにいるゆらぎ荘を男は興味深く眺めていた。

 

???「まぁここまで来ちゃったし、挨拶くらいはしとかないとなぁ」

 

男は気だるそうな態度を見せながらもゆっくりと階段を上がって行った。

 

階段を上り終え男はゆらぎ荘の玄関の前に立った。

そして一呼吸おいて扉に手を置き、

 

???「ごめんくださーい!」(ガラララッ

 

扉を開けると同時に大きな声で挨拶をした。

 

するとそこには、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千紗希「やめてよ七海ちゃん!///パンツなら昨日見せたでしょ!?///」

 

七海「何を言ってるのお母さん!昨日は昨日!今日は今日よ!さぁパンツを見せなさい!」

 

かるら「朧!またコガラシ殿を不意に襲いおって!今すぐ離れぬか!」

 

朧「断る。これから冬空と風呂を共にするのでな、これはその下準備だ」

 

コガラシ「そんな約束してねぇだろ!///」

 

七海が千紗希のスカートを握って無理やり捲ってパンツを見ようとしているが、千紗希が必死になってスカートを抑えていた。

更にその横では朧が着物をはだけさせコガラシの服も脱がそうとしており、かるらが顔を真っ赤にして朧をコガラシから剥がそうとしていた。

5人は玄関に人がいることなど全く気づいていない様子である。

 

???「・・・何このカオス空間?」

 

男は呆気に取られてしまい声を掛けた方がいいのかそれとも静かに立ち去った方がいいのか考えこんでしまう。

 

秋宗「またお嬢と朧が揉めてんのか?」

 

マトラ「相変わらずやってんな~」

 

すると向こうから騒ぎを聞き付けた秋宗とマトラが歩いて来た。

見慣れた光景に2人は呆れてしまうが、

 

秋宗「・・・ん?」

 

秋宗が玄関に知らない男がいることに気がついた。

男は秋宗が自分に気がついたと分かると、

 

???「こ、こんにちは・・・」

 

目の前の光景に引きながらも秋宗に挨拶をした。

 

それに気付きマトラを始め、揉めていた5人も玄関に人がいることに気が付いた。

 

コガラシ「・・・誰だ?」

 

目の前にいる男にコガラシたちは動揺してしまう。

 

七海「あら、浩介じゃない」

 

呆気に取られているコガラシたちを余所に七海は男の方へ歩いて行った。

 

???「七海、何やってるの?」

七海「見て分からないの?パンツを見ようとしてたのよ」

???「本当にパンツ好きだね、一体いつからそんな風になったんだか・・・」

 

男は呆れながらも苦笑いで七海と親しげに会話をしていた。

 

秋宗「何だ?七海の知り合いか?」

 

秋宗は2人の会話に入り七海と男の関係を聞こうとした。

 

七海「えぇそうよ。紹介するわ。私の同居人よ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~大広間~

 

浩介「初めまして、平賀浩介《ひらがこうすけ》です。七海の遠い親戚です」

 

大広間にて男子高校生、平賀浩介は秋宗たちに自己紹介をした。

大広間にいるのは秋宗、かるら、マトラ、コガラシ、幽奈、千紗希、朧、そして七海と浩介がいた。

 

秋宗「初めまして、俺は・・・」

浩介「西条秋宗くん、でしょ?」

 

秋宗は自己紹介をしようとしたが浩介が遮って名前を答えた。

秋宗は浩介が自分の名前を知っていたことに驚いてしまう。

 

秋宗「何で俺の名前・・・」

浩介「七海からある程度のことは聞いてるさ。もちろん他のみんなのこともね」

 

浩介は秋宗からコガラシたちへと1人1人視線を移していった。

それはまるで博物館の展示品を見るかのような視線でもあった。

 

七海「それにしても浩介、貴方どうしてゆらぎ荘に来たの?」

浩介「七海から聞いてた人たちがどんな風なのかこの目で確かめたくてね。それに七海がお世話になってるから挨拶しないとって思ったから」

七海「そういうことだったの」

 

話に夢中になっている浩介と七海を余所に秋宗たちはヒソヒソと小声で話し出した。

 

秋宗「お嬢、どう思う?」

かるら「他心通で心を読んどるのじゃが、どうやら嘘偽りはなさそうじゃのう」

コガラシ「初対面で何を疑ってんだよ?」

マトラ「にしてもヒョロヒョロで弱そうなヤツだなぁ」

朧「まるで西条の父親みたいな男だな」

千紗希「確かに雰囲気は似てるね」

幽奈「七海さんと仲が良さそうですし、いい人なのでは?」

 

秋宗とかるらは直感で浩介を疑っていたが嘘をついてないと分かると警戒を解いた。

何故浩介を疑っていたのかというと、このゆらぎ荘には霊力の高いコガラシや幽奈がいるため悪用するのではないかと考えたからだ。

 

すると、

 

スゥッ

 

仲居さん「みなさ~ん!ケーキとお茶を持って来ましたよ~!」

 

仲居さんがお盆に浩介が持ってきたケーキとお茶を乗せて運んで来た。

大皿に置かれたケーキはショートケーキやチョコレートケーキなど様々な種類のケーキが数十個もあった。

 

マトラ「オォー!ウマそうだな!」

千紗希「これ全部平賀くんが買ったの!?」

浩介「うん、人数が多いって聞いたから結構奮発しちゃった」

七海「浩介ったら太っ腹ねぇ」

秋宗「なんか悪いな、こんなに頂いて」

かるら「まったくじゃ」

 

秋宗たちは少し申し訳ない気持ちになりながらも小皿とお茶を並べていると、

 

スゥッ

 

こゆず「ただいま~!」

 

出掛けていたこゆずと狭霧、雲雀が帰って来て大広間の襖を開けた。

3人は襖を開けたと同時に数十個もあるケーキが目に飛び込んできた。

 

こゆず「わぁ~!ケーキだ~!」

雲雀「しかもたくさんあるよ~!」

 

こゆずと雲雀はたくさんあるケーキを見て目を輝かせてしまう。

一方狭霧は、

 

狭霧「ん・・・?」

 

七海の隣に座っている浩介に気がついた。

玄関に見慣れない靴があったため誰か来ているのかと疑問に思ったためケーキからすぐに浩介の方へ視線が移った。

 

狭霧「お前は、平賀浩介・・・!?何故ここに・・・!?」

浩介「こんにちは雨野さん」

 

少し驚いている狭霧に浩介は軽く挨拶をした。

 

コガラシ「狭霧?」

幽奈「どうかされたのですか?」

朧「何だ?2人は知り合いなのか?」

 

狭霧の反応を見てコガラシたちは狭霧と浩介は何か関係があるのかと疑問に思った。

 

狭霧「あ、あぁ、私と同じクラスの男だ」

 

狭霧はコガラシたちに自分と浩介はクラスメイトだと説明をした。

それを聞きコガラシたちは浩介へと視線を移した。

 

秋宗「ってことは、平賀は俺らと同じ湯煙高校の学生だったのか?」

浩介「まぁ、そういうことになるね」

コガラシ「マジかよ・・・」

 

浩介が湯煙高校の学生と知った秋宗たちは少し驚いてしまう。

 

狭霧「幽奈、何故あの男がここにいる?」

 

狭霧は周囲に聞こえない程度で幽奈に浩介がゆらぎ荘にいるのかと聞いてみた。

 

幽奈「えっと、どうやら七海さんと同居しているらしいんですよ。それで今日はご挨拶に来たそうです」

狭霧「・・・そういうことだったのか」

 

幽奈から訳を聞いた狭霧は浩介を見ながら雨野祖母の話を思い出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~雨野家~

 

ゴールデンウィーク期間に雨野祖母から呼び出された狭霧と雲雀は囲炉裏を挟んで雨野祖母と向き合っていた。

一体何の用があるのだろうと疑問に思う2人だが取り敢えず話を聞くことにした。

 

雨野祖母『狭霧!雲雀!お主らに長期任務を命ずる!』

 

雨野祖母から長期任務を言い渡された狭霧と雲雀は思わず身を引き締めてしまう。

長期任務は過酷なものが多いため腕の立つ誅魔忍でも一苦労である。

そして雨野祖母は口を開き任務内容を切り出した。

 

雨野祖母『冬空コガラシ殿を籠絡し、雨野家の婿に迎えよ!』

狭霧『!?///』

 

任務内容を聞いた狭霧は顔を赤くしてしまい、雲雀はまさに自分向けの任務だと胸が高ぶっていた。

一見ふざけているようにも思えるが、実際は正式な命令でもあるのだ。

 

狭霧『な、何を言っているのですかおばば様!?///』

雲雀『ってなんで狭霧ちゃんまで!?雲雀だけでいいのに!』

 

狭霧は思わず反論してしまい、コガラシに好意を抱いている雲雀は自分1人でいいと主張した。

 

雨野祖母の話によると、2年前の合戦以降、東軍も西軍も大きな動きを見せてはいないが、また合戦が起きてもおかしくない状況でもあり日本全土を巻き込む事態へと陥ってしまう可能性もある。

それを防ぐためには、誅魔忍軍が八咫鋼を含む第三勢力になり均衡を保つしか方法がない。

つまりこれは政略結婚のようなものでもある。

 

雨野祖母『狭霧よ、雲雀と2人で臨むのは、より確実に冬空コガラシ殿を雨野家の婿へ迎えるための策じゃ。けして雲雀に譲ろうなどと思わぬようにな!』

狭霧『!!///・・・』

雲雀『そ、そういうことなら・・・』

 

雨野祖母から訳を聞かされた狭霧は誅魔忍軍のためにと自分に言い聞かせて任務を引き受け、雲雀も渋々納得して狭霧と一緒に任務に臨むことを承諾した。

 

2人が部屋を出ようと立ち上がろうとした時、

 

雨野祖母『またぬか、まだ話は終わっとらんぞ』

狭霧・雲雀『えっ?』

 

雨野祖母が呼び止めて座らせようとした。

狭霧と雲雀は呼び止められたため、座り直して再び雨野祖母と向き合った。

 

雨野祖母『実はもう一つ長期任務があるのじゃ』

狭霧『もう一つ?』

 

狭霧と雲雀は顔を向き合ってしまい他にどんな長期任務があるのだろうと疑問に思ってしまう。

 

雨野祖母『狭霧よ、この男を知っておるか?』

 

雨野祖母は懐から写真を一枚取り出して狭霧と雲雀に見せた。

写真には緑色の髪をしたおとなしそうな男が写っていた。

雲雀にはまったく分からなかったが、狭霧は写真の男を見て目を丸くしてしまう。

 

狭霧『こいつは、平賀浩介・・・?』

雲雀『えっ?狭霧ちゃん知ってるの?』

 

狭霧が写真の男の名前を口に出したため雲雀は思わず狭霧の顔を見た。

 

狭霧『あぁ、私と同じクラスの男なのだが・・・。おばば様、この男がどうかされたのですか?』

雨野祖母『それをこれから話す。もう1つの長期任務と平賀浩介殿についてな』

 

狭霧と雲雀は長期任務と浩介にどんな関係があるのだろうと思いながらも内容を聞こうとした。

雨野祖母はコホンと咳をして話を切り出した。

 

雨野祖母『まずこの平賀浩介殿、誅魔忍軍の諜報員の調べによりあることが判明したのだ』

雲雀『・・・それって、なんなの?』

 

雲雀は恐る恐る雨野祖母に浩介のことを聞こうとした。

 

雨野祖母『平賀浩介殿、どうやらこの男・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平賀源内の末永であるようじゃ』

 

 

 

狭霧『なっ・・・!?』

雲雀『ひ、平賀源内ってあの!?』

 

浩介の祖先の正体を知った狭霧と雲雀は目を見開いてしまう。

 

平賀源内。

江戸時代にエレキテルを始め様々な発明品を生み出した発明家である。

 

狭霧はクラスメイトに歴史上の人物の末永がいたことに驚いてしまうが冷静になって考えてみた。

 

狭霧『ですがおばば様、この男が平賀源内の末永であることと長期任務に一体何の関係が?』

雨野祖母『まぁ狭霧よ、話は最後まで聞かぬか』

 

雨野祖母は狭霧を落ち着かせて話を続けようとした。

 

雨野祖母『平賀浩介殿は霊能力専門の発明品をつくっているとの情報を掴んでおる。しかも我々誅魔忍軍の工房でつくっているものよりも高性能な代物らしい』

雲雀『へぇ~』

 

話を聞いた雲雀は写真の浩介を興味深く見た。

黙って話を聞いていた狭霧は顎に手を当てて考えた。

平賀源内の末永の浩介、霊能力専門の発明品を作り出している、それらに関係する長期任務。

 

狭霧『・・・では、もう1つの長期任務というのは』

 

狭霧が内容を推測したと同時に雨野祖母は静かに頷いた。

 

雨野祖母『そう、平賀浩介殿を誅魔忍軍へと引き入れる。これがもう1つの長期任務じゃ』

 

八咫鋼の力を宿すコガラシ、高性能の霊能力専門の発明品を作り出す浩介、この2人が誅魔忍軍の味方につけばまさに無敵になるだろう。

 

雨野祖母『じゃが普通に勧誘しても協力してくれる可能性は低い。平賀浩介殿と友好的な関係を築いてからが好ましいじゃろう』

 

狭霧の知り合いだからこそ、この任務は2人が望ましいと考えて出した答えたらしい。

 

雨野祖母『狭霧!雲雀!お主らなら必ずこの2つの任務を成し遂げられると信じておる!頼んだぞ!』

狭霧『ハッ!』

雲雀『任せておばば様!』

 

狭霧と雲雀は雨野祖母の期待に答えるために気合いを入れた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そして時間は戻り、現在。

 

狭霧(まさか平賀浩介が七海の親戚で一緒に暮らしてるとはな・・・)

 

狭霧はケーキを食べながら浩介の様子を伺っていた。

 

学校でも何度も話し掛けようとはしたものの何と声をかければよいか思いつかず話し掛けづらかった。

いきなり話し掛ければ怪しまれて警戒される恐れがあったからだ。

 

しかし、浩介がゆらぎ荘へ赴いた為話し掛ける絶好の機会が訪れた。

 

狭霧(だが、一体どうやって話を切り出せばよいのだ?)

 

いきなり平賀源内のことや霊能力専門の発明品のことなどを切り出してしまえば不審に思われてしまい友好的な関係を築くのは困難を極めてしまう。

 

いかにごく自然に会話に出せるのかと狭霧が必死になって考えていると、

 

こゆず「うわぁ~!スッゴ~い!」

 

こゆずの声が大広間に響いたため全員が注目すると、こゆずが浩介が持っていたアタッシュケースを勝手に開けて中に入っていたものを見ていた。

まるで新しいオモチャを貰った子供のように目を輝かせていた。

 

千紗希「何やってるのこゆずちゃん!?ダメだよ勝手に開けたら!」

浩介「いいよ宮崎さん、大したものなんか入ってないから」

 

千紗希は人の物を勝手に見ているこゆずを注意するが、浩介は軽く笑って許してくれた。

 

こゆず「みんなも見て!凄いものがたくさん入ってるよ!」

秋宗「凄いもの?」

かるら「一体何が入っとるのじゃ?」

 

アタッシュケースの中が気になる秋宗たちはこゆずの側へより中に入っているものを確認すると、中には対戦車ロケット発射機を連想させるバズーカや球体の形をした機械のようなものなど様々なメカニックを思わせるものが入っていた。

中を見た秋宗たちは少し動揺してしまう。

 

マトラ「何だこりゃ?」

 

マトラは入っていたバズーカを手に取ってまじまじと物色した。

バズーカは黒く引き金の近くにはダイヤルのようなものが取り付けられている。

 

浩介「それは『霊砲バズーカ』。使用者の霊力をランチャーのように打ち出せることができるよ」

秋宗「・・・は?」

 

不思議がっているマトラに浩介はバズーカについて説明をした。

浩介の説明に秋宗たちはポカンとなってしまうが狭霧と雲雀はもしや浩介が作ったものではないかと推測した。

 

マトラ「ふ~ん?」(ガチャッ

 

説明を聞いたマトラは窓を開けてバズーカを空の方へ構えた。

 

秋宗「ちょっ!?姐さん何する気だよ!?」

 

秋宗たちはマトラが何をするのかある程度予測できたため、身の危険を感じて少し彼女から距離を取った。

 

マトラ「決まってんだろ?試し撃ちだ!」

浩介「!?待って!それダイヤルが・・・!」

 

浩介が慌ててマトラを止めようとするが時既に遅し。

マトラは引き金に指を掛けて引いてしまった。

 

そして次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドオォォォォォォン!!!!

 

 

 

 

激しい爆音が響いたと同時に大広間どころかゆらぎ荘中に白い煙が立ち込めた。

 

コガラシ「な、何だ!?」

狭霧「みんな無事か!?」

雲雀「ゲホゲホ!一体何が起きたの!?」

千紗希「こゆずちゃん!何処!?」

こゆず「何も見えないよー!」

幽奈「何がどうなったんですか!?」

秋宗「お嬢!姐さん!大丈夫か!?」

 

視界を塞がれ立ち込める煙に秋宗たちは噎せながらも互いに安否を確認し合った。

そして徐々に煙が晴れ出してお互いに姿が確認できる程度まで視界が晴れた。

 

仲居さん「ビックリしました~!」

朧「ゆらぎ荘が爆発でもしたのかと思ったぞ」

 

みんなはお互いに怪我をしていないかを確認し合っていると、

 

秋宗「姐さん!大丈夫か姐さん!?」

かるら「しっかりせぬかマトラ!」

マトラ「ち、力が入んねぇ~・・・」

 

秋宗とかるらがうつ伏せになって倒れているマトラに寄り添って必死に呼び掛けていた。

マトラの様子はまるで長距離マラソンを完走したランナーのように疲れきっておりぐったりしていた。

 

浩介「大丈夫だよ、彼女は今霊力を全て使い切って疲れてるだけだから。まぁ無理もないか、メーターMAXで霊砲バズーカ撃ったんだからね」

 

心配になっている秋宗たちに浩介は大丈夫だと言い切った。

浩介はマトラの側に落ちている霊砲バズーカを拾ってどこも異常がないか確認した。

 

秋宗「霊力を、使い切った・・・?」

かるら「どういうことなのじゃ・・・?」

浩介「・・・ほら、ここを見て」

 

不思議がっている秋宗たちに浩介は霊砲バズーカのダイヤル部分を見えるように指し、コガラシたちも注目した。

ダイヤルには1~10までの番号があり矢印が10を指している。

 

浩介「このは霊砲バズーカが発射される霊力をこのダイヤルで調整できるんだ。1だと威力は小さいけど使用者の霊力の消費は少ない。数字が大きくなるに連れて威力は大きくなるけど当然使用者の霊力の消費者も大きくなる。で、ダイヤルを10に合わせると絶大な威力で発射されるけど使用者の霊力を全て使い切ってしまうんだ。」

秋宗「・・・成る程、そういうことか」

 

浩介から霊砲バズーカについての詳しい説明を聞いた秋宗たちはマトラが霊力を使い切った理由に納得した。

 

するとコガラシは浩介にあることを聞いた。

 

コガラシ「つうかお前何でこんな物騒なもの持ってんだよ?」

 

コガラシの言う通り、こんな危険すぎる代物を何故浩介が持っているのかみんな疑問におもってしまう。

もしかしたら何かとんでもないことを隠しているのではないかと、事情を把握している狭霧と雲雀以外は疑心暗鬼の目を向けた。

 

浩介「え、えぇっと・・・」

七海「大丈夫よみんな、これは浩介が趣味で作ったものだから」

 

戸惑っている浩介のために七海は前に立ち秋宗たちを落ち着かせようとした。

 

秋宗「つ、作った・・・?」

七海「えぇそうよ」

 

呆気に取られている秋宗たちに七海は改めて浩介を紹介した。

 

七海「浩介はね、平賀源内の末永なのよ」

『・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇ!!??』

 

浩介の正体を知った秋宗たちは驚きの声を上げた。

そして当の本人は指で頬を掻いて少し照れていた。

 

秋宗「マジかよ!?」

かるら「平賀源内の末永じゃとぉ!?」

幽奈「凄いですぅ!」

 

秋冬たちは浩介の正体を知って思わず絶賛してしまう。

 

雲雀「狭霧ちゃん!やっぱりホントだったんだよ!」

狭霧「どうやらそのようだな」

 

狭霧と雲雀は小声で情報通り浩介が正真正銘平賀源内の末永なのだと確認した。

 

朧「・・・だがお前が平賀源内の末永だからと言ってこのような発明品を作れる理由にはならんぞ」

 

しかし、朧だけは浩介に対して疑いの目を向けていた。

確かに浩介が平賀源内の末永とはいえど霊能力専門の発明品を作れるのはおかしい。

 

問い詰められた浩介は困った表情で右手で頭を掻いた。

 

浩介「う~ん、言っても信じてもらえるか分かんないけど・・・。僕のご先祖様の平賀源内は、霊能力者達に協力して発明品を作ってたんだ」

朧「何だと・・・!?」

千紗希「そ、そうなの!?」

コガラシ「平賀源内に裏の顔があったのかよ・・・!?」

 

知られざる日本の裏の歴史にコガラシたちは驚愕の表情を露にした。

 

浩介「んで、僕が小さい頃にじいちゃんの家で偶然、平賀源内が書き残した霊能力専門の発明品の設計図を見つけてね。僕にも作れるかな?って感じで作ってみたら、いつの間にか熱中しちゃってね」

 

アハハと笑いながら浩介はバズーカを眺めて当時のことを思い出した。

しかし、秋宗には引っ掛かることがあった。

 

秋宗「じゃあ何でこんなの持ち歩いてんだよ?わざわざ俺らに見せるために持ってきたって訳でもなさそうだし」

 

見た所、普段から持ち歩いてる雰囲気がしたため秋宗にはどうしてもそこが腑に落ちずにいた。

 

聞かれた浩介は少し険しい顔になった。

 

浩介「・・・実は去年の4月頃から、悪霊やら妖怪やらに襲われるようになってね。常に護身用として発明品を持ち歩かなければならなくなってしまったんだ。これは僕の推測だけど、この街に霊力が著しく高い霊能力者がいてその霊力に当てられて悪霊と妖怪が集まってきてるんだと思うんだ。西条くんたち何か知らないかな?」

秋宗「去年の、4月・・・」

仲居さん「霊力が著しく高い、霊能力者・・・」

 

浩介の話を聞いて秋宗たちの視線はある人物へ集中した。

 

コガラシ「・・・・・何だよ?」

 

そう、八咫鋼の冬空コガラシへと。

コガラシがこの街へ来たのは去年の4月頃、更に霊力が著しく高いため浩介の推測と見事に一致している。

しかし秋宗たちはストレートに言うことが出来ず、コガラシ自身も話を聞いておそらく自分だろうと思ったため気まずくなり目を反らしてしまう。

そんな中、1人空気の読めないやつが切り出した。

 

マトラ「つうことは、八咫鋼のせいってことか・・・?」

かるら「マトラ!」

秋宗「姐さん!」

 

誰も言えずにいたことを仰向けでぐったりしているマトラがポロッと溢してしまい秋宗とかるらは揃ってマトラを叱りつけてしまう。

 

コガラシ「・・・すまん平賀、俺のせいで迷惑かけて」

 

責任を感じてるコガラシは浩介に申し訳なさそうに頭を下げた。

 

浩介「冬空くんが謝る必要ないよ!そんなに気にしなくていいからさ!」

七海「そうよやっさん、貴方のせいじゃないわ」

 

浩介は慌てて自分を責めているコガラシを元気付けようとし、七海も便乗して励まそうとした。

しかし、コガラシの表情は暗いままでその影響で空気も重くなってしまった。

 

この空気を何とかせねばと千紗希が考えていると、ふと浩介のアタッシュケースが視界に入り、他にも色々入ってることに気がついた。

 

千紗希「ひ、平賀くん!これって何!?」

 

空気を変える為に千紗希はアタッシュケースに入っていたVRゴーグルのような形状をした発明品を手に取った。

千紗希に質問された浩介は話題を切り替えようとゴーグルの説明をした。

 

浩介「あ、あぁ!それは『幽霊探索ゴーグル』。霊力が少ない人でも幽霊を見ることができるんだ」

千紗希「えっ!?てことは私がこれを付けると幽奈さんが見えるってこと!?」

浩介「うん、使ってみる?」

千紗希「じゃあせっかくだし!」

 

早速千紗希は幽霊探索ゴーグルを装着して周囲を見渡してみた。

確かに浩介の言った通り、幽奈の姿がはっきりと見えていた。

 

千紗希「すごい!ホントに幽奈さんが見えてる!」

幽奈「えぇっ!?私が見えてるのですか千紗希さん!?」

千紗希「あ、あれ?見えるけど声が聞こえない?」

浩介「姿が見えるだけだから声は別だよ」

 

ゴーグルを掛けてるとはいえ声までは拾えず千紗希には幽奈が口パクをしているようにしか見えなかった。

そしてみんなも空気を明るくしようとアタッシュケースの中の発明品を手に取った。

 

こゆず「ねぇねぇ!この青いボールみたいなの何?」

浩介「『霊力分散装置』。膨大な霊力にそれを投げ入れると霊力が分散されるんだ」

秋宗「へぇ、じゃあこっちの赤いボールもか?」

浩介「そっちは『霊力爆散装置』。簡単に言えば霊力の爆弾みたいなものだよ」

雲雀「そんなの危ないだけじゃん!」

幽奈「コガラシさんも見て下さいよ!凄そうなものばかりですよ!」

コガラシ「お、おう・・・」

 

先程までの重い空気が嘘のように消え去りみんなはワイワイと発明品を見ながら賑わっていた。

ずっと黙っていた狭霧は今がチャンスだと思い浩介に話しかけた。

 

狭霧「ひ、平賀浩介・・・」

浩介「ん?何?」

 

話し掛けられた浩介は狭霧の方を見ると、狭霧はモジモジしながら何とかして話を切り出そうとした。

 

狭霧「貴様の発明品は中々のものばかりだ。それでだな。もし、良ければ、私と雲雀の誅魔忍の妖怪退治の任務を、手伝ってくれないか?」

雲雀「そ、そうだよ!狭霧ちゃんの言う通りだよ!平賀くんがいれば百人力だよ!」

 

雲雀も浩介を誅魔忍軍へ引き入れる任務を思い出し浩介に任務を手伝って欲しいとお願いした。

 

浩介「うーん・・・」

 

いきなり誅魔忍の任務を手伝ってほしいと頼まれた浩介は最初は戸惑ったものの腕を組んで考えて、

 

浩介「・・・せっかく作ったものを使わないと勿体ない気もするし。分かった!雨野さんたちの任務を手伝うよ!」

 

狭霧たちの任務に協力することを決めた。

 

狭霧「恩に切る!」

雲雀「よろしくね平賀くん!」

 

狭霧は取り敢えず浩介を任務に同行させるという形で浩介を引き入れる任務の第一段階を成功させたことに内心でホッとした。

 

七海「浩介、任務終わった後に堅物さんとまな板さんに変なことしたらダメよ?」

浩介「しないよそんなこと!///」

雲雀「それより雲雀のあだ名まだまな板さんなの!?」

 

みんなは思わずアハハ!と笑ってしまい賑わってきた。

 

すると朧が浩介の元へと歩いて行き、

 

朧「平賀、もしよければ異性を完全に惚れさせる発明品を作ってくれないか?」

浩介「えっ?何に使うの?」

コガラシ「朧、お前なぁ・・・」

 

相手を惚れさせる発明品の制作をお願いしようとし、浩介は一瞬固まってしまいコガラシはどうせ自分に使うのだろうと呆れていた。

 

かるら「朧!また抜け駆けをしおって!」

 

かるらは朧へ詰め寄るためにヅカヅカと歩いて行くと、

 

 

カチッ

 

 

かるら「ん?なんじゃ?」

 

何かを踏んだかるらは一体何を踏んでしまったのだろうと足元を見ると、浩介のアタッシュケースに入っていた赤いボールがあった。

 

秋宗「・・・赤ってなんだっけ?」

浩介「・・・霊力爆散装置」

狭霧「・・・装置が起動する条件は?」

浩介「・・・衝撃を与えるだけ」

 

秋宗たちの顔から血の気が引いてどんどん青ざめていきそして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドカアァァァァァァァァァァァァン!!!!

 

 

 

 

霊力拡散装着が起動して秋宗たちは爆発に巻き込まれてしまいゆらぎ荘の一部が壊れてしまった。

 

ちなみにゆらぎ荘の改修工事の出費は緋扇邸が全額負担してくれたらしい。

 

 

 




今回も秋宗くんがあまり登場しませんでしたが次からはどんどん活躍させます!

感想の程、お願いいたします


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第33 黒龍神

投稿が遅れて本ッッッ当に申し訳ありません!
バタバタして忙しかったものでして!

それではどうぞ!


~ゆらぎ荘~ 午前7時

 

玄関では幽奈と夜々、雲雀は学校へ登校するために靴を履いており、朧が見送ろうとしていた。

ちなみに狭霧は部活の助っ人のために既に学校に向かっている。

 

 

 

雲雀「えぇっ!?また朧さんコガラシくんの部屋に忍び込んだの!?」

 

 

幽奈「は、はい。私が滝行へ行っている間に・・・」

 

 

 

幽奈から今朝の出来事を聞いた雲雀は朧の方を見てしまう。

 

今朝朧はコガラシの部屋へ赴き一緒に横になり暗示を掛けていたのだが、当然コガラシには効果がなく戻ってきた幽奈に止められてしまった。

 

 

 

雲雀「も~!朧さんってなんでそういう常識ないの!?」

 

 

夜々「まぁ人間じゃないし・・・」

 

 

朧「全ては、龍雅家のためだ」

 

 

 

コガラシは日本最強の御三家の一角『八咫鋼』を継いでいるため、朧はその子供を産み育てて龍雅湖の守護に就いてもらうために必要なことなのだと外へ出ながら朧は言うものの、幽奈たちは全然納得はしてくれない。

 

 

 

朧「それに何度も言っている通り、私は結婚などするつもりはない。冬空がお前たちの誰と結婚しようと私は気にしない。私は私で愛人として冬空と子作りするのみだ」

 

 

雲雀「少しは気にしろよ!///」

 

 

 

真顔で非常識すぎることを言っている朧に雲雀は思わず口調が変わってしまいながらも突っ込んだ。

 

 

 

雲雀「雲雀は愛人なんて許さないんだから!///」

 

 

朧「何だと!?それは狭量というものだろう!?」

 

 

雲雀「フツーだよ!///」

 

 

夜々「みんな、そろそろ学校行く時間」

 

 

幽奈「コガラシさんと秋宗さんがまだ・・・」

 

 

 

朧と雲雀が言い争っているのを余所に夜々は学校へ行こうと促すがコガラシと秋宗がまだ来ていないため幽奈はまだかと玄関の方を見た。

 

 

 

朧「ふむ、もうこんな時間か」

 

 

 

朧が腕を振るうと空間に転送門が開いた。

朧はゆらぎ荘で暮らしながらも龍雅家の勤めを毎日欠かさず行っている。

 

 

 

朧「では私も龍雅家へ行ってくる」

 

 

幽奈「お勤めご苦労様です~!」

 

 

 

朧が龍雅家へ繋がっている転送門へ入ろうとした時、

 

 

 

ぬぅっ

 

 

 

『!?』

 

 

 

突如転送門から誰かが出て来たため幽奈たちは驚いてしまう。

 

それは身長が2メートルもある色黒の男だった。

黒い髪が逆立ちデコには何やら紋章のようなものが刻まれている。

格好はタンクトップのような服を着ているがその下から筋肉の形が露になっており、下は袴を履いている。

 

 

 

???「おぉ朧!久しいな!」

 

 

 

男は朧を見掛けると笑顔で挨拶をした。

 

 

 

朧「玄士郎様!?」

 

 

 

朧は男の姿を見て更に驚いてしまう。

 

この男こそ龍雅家の現当主にして朧が仕えている、玄士郎である。

 

 

 

雲雀「えっ?この人がさっき言ってた朧さんのお殿様・・・!?」

 

 

 

雲雀と夜々は玄士郎と初対面のため少し緊張してしまう。

 

一方で玄士郎を見たことがある幽奈は、

 

 

 

幽奈(・・・でもなんだか少し、雰囲気が変わられたような?)

 

 

 

以前会った時は髪も整えて着物を着こなしており堂々とした風格があったのだが、今はその風格も変わり荒々しくも思えてしまう。

一体何があったのだろうと幽奈が疑問に思っていると、

 

 

 

玄士郎「んん?」

 

 

 

玄士郎が幽奈たちがいることに気がついた。

 

 

 

玄士郎「おぉう!また会えて嬉しいぞ幽奈!そして見知らぬ見目麗しい女子が2人も・・・!?」

 

 

 

玄士郎は幽奈と初見の雲雀と夜々を見ると声を震わせて、

 

 

 

玄士郎「よかろう!3人とも余の妻にしてやろうぞー!」(ダッ

 

 

雲雀「うきゃぁ!?」

 

 

幽奈「やっぱり変わってませんこの方!」

 

 

 

一気にだらしない表情になり幽奈たちへ駆け出した。

玄士郎は実力はあるものの筋金入りの女好きで見境なく見かけた女性を自分の妻にしてしまう程である。

 

 

 

朧「玄士郎様!みっともない真似はお止めくださいませ!」(ゴンッ

 

 

 

朧は呆れながら玄士郎の脳天に手刀を当てた。

玄士郎が暴走したら付き添いの朧が手刀を当てていつも止めている。

 

しかし、

 

 

 

スッ・・・

 

 

 

朧「!?」

 

 

 

当たっていた筈の朧の手刀が玄士郎に届かずまるで空を切るかのように空振りで終わってしまった。

 

 

 

雲雀「朧さんの攻撃を避けた!?」

 

 

 

雲雀は朧の攻撃が玄士郎に当たらなかったことに驚いてしまう。

 

朧は神速の力を持っているためコガラシでもその速さを捉えることは出来ない。

そんな朧の攻撃をいとも簡単に玄士郎は避けたのだ。

 

 

 

朧「いや、手刀は確かに届いていた・・・。まさか、会得されたのですか玄士郎様!?極龍洞に伝わるあの秘術を!」

 

 

 

朧は何やら心当たりがあるようだが、幽奈たちには何のことだかさっぱり分からなかった。

すると玄士郎はゆっくり口を開いた。

 

 

 

玄士郎「・・・朧よ、1つ聞くが、成仏したはずの幽奈が何故未だ現世に?」

 

 

朧「!」

 

 

 

玄士郎に幽奈のことを聞かれて朧の肩がはね上がってしまう。

 

玄士郎は幽奈を連れ去った時に助けに来たコガラシに殴られて気を失ってしまったのだが、朧が龍雅家の誇りを守るために相討ちでコガラシを倒したと玄士郎に嘘をついてしまい、更に目的の幽奈も成仏したと嘘を重ねたことにより玄士郎は幽奈を諦めたのだ。

このことを龍雅家の中で知っているのは当人の朧と衛兵たちだけだった。

しかし、玄士郎が衛兵たちの話を聞いてしまい幽奈が成仏していないことと自分がコガラシに倒されて尚且つそのコガラシが八咫鋼であることを知ってしまったのだ。

 

 

 

玄士郎「よくも余を謀ってくれたな朧!」(ゴゴゴ・・・

 

 

 

玄士郎の身体から怒りがオーラが溢れており今にでも朧に危害を加えそうな勢いでもあった。

 

 

 

朧「申し訳ございません、必要なことでした。処罰はなんなりと」

 

 

 

朧は地面に膝をついて玄士郎に頭を下げて嘘をついたことを謝罪したがとても許してくれそうには思えない。

 

 

 

幽奈「あ、あの、玄士郎さん?朧さんは仕方なく・・・」

 

 

 

見ていられずにいた幽奈は玄士郎に朧を許してもらえないかと声を掛けようとした時、

 

 

 

ガラララッ

 

 

 

コガラシ「すまん!おまたせー」

 

 

秋宗「悪い、ちょっと身支度に時間が掛かった」

 

 

 

玄関からコガラシと秋宗が鞄を持って出てきた。

 

 

 

雲雀「コガラシくん!秋宗くん!」

 

 

 

雲雀はコガラシと秋宗が来てくれたことでこの場がどうにかなると思い少しホッとした。

状況が飲み込めていないコガラシと秋宗は何かあったのかと疑問に思っていると玄士郎がいることに気がついた。

 

 

 

コガラシ「お前、あん時の・・・!」

 

 

秋宗「まさか、黒龍神か・・・!?」

 

 

 

コガラシはかつて幽奈を自分の妻にしようとした身勝手すぎる玄士郎を見て少し眉間にシワが寄り、秋宗はコガラシたちのことを調べていた時に玄士郎のことも顔だけは把握しておこうと覚えているため目の前にその玄士郎がいることに驚いてしまう。

 

 

 

玄士郎「現れたな、八咫鋼!」(フッ

 

 

 

玄士郎はコガラシが来たと分かった瞬間、指に霊力を溜めだし、

 

 

 

カッ!!

 

 

 

辺りが強い光に呑まれてしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

コガラシ「ん・・・?」

 

 

秋宗「一体、何が・・・?」

 

 

 

強い光で目を瞑っていたコガラシと秋宗がゆっくり目を開けると、辺り一面の景色が一気に変わっていた。

 

秋宗たちが立っている足場は地面なのだが形は円状でその周りを龍の身体をモチーフにした装飾が囲んでいた。

今分かることは、自分たちが球体の中にいることだけだった。

そして目の前には玄士郎が立っていた。

 

 

 

コガラシ「何だここ・・・?」

 

 

秋宗「多分、転送術で飛ばされたんだろうな」

 

 

 

秋宗とコガラシは辺りを見渡しながらも冷静に心を落ち着かせている。

 

秋宗たちのいるここは、極龍洞。

龍雅家に伝わる古代の闘技場で玄士郎も今までこの場所で修行をしていた。

 

 

 

『いやぁぁぁぁぁ!・・・』

 

 

 

すると、球体の向こう側から聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきた。

 

 

 

コガラシ「この声は・・・!?」

 

 

秋宗「間違いなく幽奈たちだな・・・」

 

 

 

コガラシは幽奈たちの悲鳴を聞き心配になり何とかして助けに行けないかと考えた。

 

 

 

ドプンッ

 

 

 

朧「下手に動くなと言ったのだが、ここは罠だらけだからな」

 

 

 

秋宗たちの後ろに転送門が開き中から朧が出てきた。

朧は自分の警告を無視した幽奈たちに少し呆れてしまう。

 

 

 

玄士郎「ふははは、観戦客の1人もなしではつまらぬだろう?」

 

 

 

玄士郎は余裕の態度でコガラシと向かい会った。

 

 

 

玄士郎「八咫鋼よ、幽奈たちを解放して欲しくば余と戦え!貴様には一年前の礼をせねばならぬのでな・・・!」

 

 

 

コガラシは玄士郎が自分へのリベンジのためにゆらぎ荘へ来たことを知り目付きを鋭くした。

 

 

 

秋宗「・・・手ぇ貸してやろうか?」

 

 

 

秋宗は勝手に自分までここに連れて来た玄士郎にイラついているため、コガラシと協力して倒そうかと持ちかけるが、

 

 

 

コガラシ「大丈夫だ。西条は手を出さなくていい。これは俺の問題なんだ」

 

 

玄士郎「そういうことだ。よそ者は引っ込んでおれ」

 

 

秋宗「あんたもよそ者だろ!まぁいいや、5分で終わらせろよ」

 

 

 

コガラシと玄士郎から手出しは無用と言われてしまい、秋宗は玄士郎に突っ込みながらもあっさり引き下がり朧の隣に立ち観戦することにした。

コガラシと玄士郎が睨み合っている中で秋宗は朧に話し掛けた。

 

 

 

秋宗「・・・止めなくてもいいのか?弟なんだろ?」

 

 

朧「私が止めに入っても、玄士郎様は止まらん」

 

 

 

2人が話していると、

 

 

 

ダッ!!

 

 

 

コガラシが玄士郎へ駆け出して行った。

玄士郎は反応が少し遅れてしまい回避できず、

 

 

 

ボンッ!!

 

 

 

コガラシの拳が玄士郎の腹に炸裂した。

しかし炸裂はしたものの、なんと受けた腹の後ろの背中から何やら液状のものが飛び出しており、端から見たらコガラシの拳が玄士郎の身体を貫通したように見えてしまう。

 

 

 

秋宗「オイオイやりすぎだろ!」

 

 

朧「玄士郎様!」

 

 

 

秋宗はコガラシのやりすぎな攻撃に冷や汗をかいてしまい、朧は玄士郎がやられたことにより心配になってしまう。

 

ちなみに当人のコガラシも流石にやりすぎたと内心で焦ってしまうが、

 

 

 

玄士郎「・・・かつて余を一撃で沈めたとういその御三家の力。余の防御結界をこう易々と破るとは・・・成程、恐るべき霊力よ。朧、貴様がこの男との子を欲しがるのも頷ける・・・だが・・・」

 

 

コガラシ「!?」

 

 

秋宗「なっ!?」

 

 

朧「!!」

 

 

玄士郎「もはや無用」(ドロッ

 

 

 

なんと玄士郎は腹を突き抜けられたにもかかわらず、まるで身体が液体になっているかのようにコガラシの拳をかわしており、秋宗たちも玄士郎の状態に目を見開いてしまう。

玄士郎が右手を上げると、

 

 

 

ギュルルルルルッ!!

 

 

 

ドリルのように回転をしてコガラシの眼球を貫こうとした。

コガラシは咄嗟に反応できず眼前には玄士郎の右手が迫っており、

 

 

 

ギャリギャリギャリギャリ!!

 

 

 

鋼鉄を重機で削るような鈍い音が響いた。

既に手遅れ、コガラシの眼球は抉られてしまっただろう。

 

 

 

玄士郎「・・・ふはは!」

 

 

 

玄士郎はコガラシを見て思わず笑ってしまった。

その笑いは自分の攻撃が届いたことに喜んだ笑いではなく、

 

 

 

玄士郎「流石は八咫鋼を継ぐ者よ・・・!」

 

 

 

なんと玄士郎の当たる筈だった右手がコガラシの眼球の紙一重で粉々に散っていた。

コガラシの防御結界は一般の霊能力者よりも桁違いに頑丈なため玄士郎の攻撃を上回ったのである。

 

 

 

朧「・・・ふぅ」

 

 

 

朧はコガラシが無事だったことに思わず安堵の息を漏らしてしまう。

しかし秋宗は険しい表情になっていた。

 

 

 

秋宗(身体を液状化させるなんてスゲェけど、コガラシの防御結界を破れなきゃあ攻撃が届かないことなんて分かってる筈だ。コガラシが八咫鋼であることも知ってるのにも関わらず、この程度であの黒龍神が終わりなのか・・・?)

 

 

 

秋宗は玄士郎の余裕な表情を見てまだ何かあるのではないのかと疑心暗鬼になっていると、朧が玄士郎に話し掛けた。

 

 

 

朧「玄士郎様!もう十分でしょう!己の肉体を液状化させ攻撃を無効にするその秘術、確かに冬空の拳であっても打ち破れはしないでしょう。しかし玄士郎様の拳とて冬空の防御結界は破れない、不毛な争いです。ゆらぎ荘には御三家の一角、宵ノ坂の娘もいますし、更にそこにいる西条は西軍の幹部の軍に所属しています。これ以上彼らの怒りを買う前に引くべきです」

 

 

 

これ以上コガラシたちに迷惑がかからないように朧は呑子と秋宗を脅しに使い玄士郎を引かせようとした。

 

 

 

朧「冬空、西条、玄士郎様は私が諌めておく。私にできることならばどんな償いでもしよう。許してもらえないだろうか」

 

 

 

朧はコガラシと秋宗を見て今回の件を玄士郎に変わって謝罪をした。

 

 

 

コガラシ「まぁすぐに幽奈たちを解放してくれりゃそれでいいけどよ・・・」

 

 

秋宗「コガラシ、構えとけ。まだ勝負は終わってねぇぞ」

 

 

 

コガラシの言葉を遮って秋宗は構えを解いているコガラシに忠告をした。

 

 

 

コガラシ「は?どういうことだよ?」

 

 

 

理解ができていないコガラシは拍子抜けな顔になってしまい秋宗は呆れてため息が出てしまう。

 

 

秋宗「あのなぁ、こういうリベンジに来るヤツってのは前回の戦いの反省点を踏まえてくるもんなんだよ。二の手三の手と、ありとあらゆる作戦を考えて置いた上で勝負しに来る。しかも相手は黒龍神だ。これで終わりだとは思えねぇ」

 

 

 

冷静な分析をコガラシに説明して秋宗は視線を玄士郎へと移した。

 

 

 

玄士郎「ほう、貴様は八咫鋼とは違い、物事を冷静に考え判断するようだな」

 

 

 

玄士郎は秋宗の解説に感心して頬が上がってしまう。

 

 

 

 

玄士郎「それに比べ朧よ、貴様は余の勝利が信じられぬようだな・・・」

 

 

朧「玄士郎様・・・!?」

 

 

 

玄士郎の表情が段々険しくなっていき、朧の心中を貫く一言を発した。

 

 

 

玄士郎「朧よ、ゆらぎ荘とやらで過ごしたせいで貴様はおかしくなってしまっている」

 

 

 

玄士郎に言われて朧はハッとなり冷静になって考えた。

 

自分は玄士郎の守り刀だというのにも関わらず、玄士郎の敵のコガラシが無事であることに安心してしまい、自分の主の勝利をも信じられていない。

どうしてこんな風になってしまったのだろうと朧自身も理解できなかった。

 

 

 

玄士郎「・・・ところで八咫鋼。貴様の結界に砕かれたこの余の右手、今何処にあると思う?」

 

 

 

玄士郎はなくなっている右手を見せながらコガラシに質問をした。

聞いていた秋宗も何処かに落ちているのではないのかと辺りを見渡すも何処にも右手は落ちていなかった。

 

では一体何処に?と秋宗が考え込んだその時、

 

 

 

ボンッ!!

 

 

 

コガラシ「!?」

 

 

 

突如コガラシの身体の中から衝撃音が響いてコガラシは口から血を吹き出して気を失ってしまった。

 

 

 

朧「冬空!?」

 

 

 

朧は慌ててコガラシの元へ寄り体を支えた。

 

 

 

秋宗「何が、起こったんだ・・・!?」

 

 

 

ずっと見ていた秋宗も理解が出来なかった。

玄士郎はその場から動いていないためコガラシに攻撃が届く筈もなく、例え届いたとしても防御結界を破れる筈もない。

では一体どうやって攻撃をしたのだろう。

 

秋宗が頭をフル回転させて考えていると、コガラシの身体から黒い煙のようなものが吹き出してそれが玄士郎の右手へと戻っていった。

 

 

 

秋宗「ッ!そういうことか!」

 

 

玄士郎「気付いたようだな」

 

 

 

秋宗が事の全てを理解して玄士郎は術を見破った秋宗を称賛した。

 

 

 

玄士郎「余の右手は液体から気体となって八咫鋼の吸う息と共にその体内に侵入しておったのよ!これぞ極龍洞に伝わる龍雅家の秘術、極龍如水《ごくりゅうみずのごとし》!!御三家など余の敵ではない!!」

 

 

 

身体を液状化させて攻撃を無効化、気化させて体内から攻撃。

玄士郎はまさに無敵の秘術を習得してしまった。

 

 

 

朧「冬空!?しっかりしろ冬空!」

 

 

秋宗「マズイんじゃねぇか!?多分これ内臓が破壊されてるぞ!」

 

 

 

意識がなく見るからに死にかけているコガラシを見て朧と秋宗は焦ってしまう。

 

 

 

朧「玄士郎様!勝負は着きました!早く我々をこの極龍洞から解放してください!」

 

 

 

このままでは死んでしまうコガラシに手当てをさせようと朧は玄士郎にゆらぎ荘へ戻すようにお願いした。

 

 

 

玄士郎「・・・やれやれ、余の勝利を祝うどころか敵の心配か」

 

 

 

玄士郎はコガラシを心配している朧を見て呆れてしまう。

そして玄士郎は朧に冷酷な命令を出した。

 

 

 

玄士郎「朧よ、ゆらぎ荘を出て龍雅湖に帰ってこい」

 

 

朧「・・・・・」

 

 

秋宗「は・・・?」

 

 

 

玄士郎の発言に朧と秋宗は目を丸くしてしまう。

 

 

 

朧「・・・玄士郎様、私は今も日々龍雅湖に勤めております。ご存知の通り私には転送術があります故、住居は何処でも構わぬ筈・・・」

 

 

秋宗「まったくその通りだ。大体、朧がゆらぎ荘にいる理由はあんたら龍雅家のためなんだぞ?」

 

 

 

朧は玄士郎の命令に反論して、秋宗も肯定するように玄士郎に反論した。

 

 

 

玄士郎「それはそうだが、朧よ。貴様は本当に八咫鋼との子を成せるのか?」

 

 

 

玄士郎の指摘に朧は意表を突かれてしまう。

ゆらぎ荘に来て1年、何度もアタックしているもののコガラシは一度も自分に惚れたことがない。

今まで行ってきた色気作戦はすべて本などの知識によるもので自身にその技が在るわけではない。

考えた末、朧は自分がコガラシの籠絡作戦には向いていないと実感してしまった。

 

 

 

玄士郎「だから帰ってくるのだ!そして今後一切、ゆらぎ荘と関わることを禁ずる!元の貴様に戻れ!朧!」

 

 

 

催眠を解くように玄士郎は強く声を張って朧に戻ってくるように命令した。

このまま口論を続けていたらコガラシは死んでしまう。

そう考えた朧は玄士郎の命令に従った方が最善の手だと思ってしまった。

 

 

 

朧「それに従えば、冬空を、他の皆を解放していただけま・・・」

 

 

秋宗「待て朧」

 

 

 

玄士郎に従おうとしたその時、秋宗が朧の前に出て玄士郎と向き合った。

 

 

 

朧「西条・・・?」

 

 

秋宗「さっきから黙って聞いてりゃ、まるで朧の意思をまったく尊重してねぇことばかり言いやがって・・・。朧はあんたの姉だろ・・・!だったら姉の気持ちくらい弟のあんたが尊重してやれよ!」(グググッ

 

 

 

朧の意思など聞く気もない玄士郎の態度に我慢の限界がきた秋宗は怒り任せに玄士郎に怒鳴ってオオカミ人間へと姿を変えていった。

 

 

 

玄士郎「ほう。貴様、異国の獣だったか・・・。まぁどうでもよいが、朧は余の守り刀だぞ?ならば持ち主の我がどうしようと貴様には関係ないだろう?」

 

 

 

玄士郎は嘲笑い朧のことを道具としか思っていない発言をした。

そしてついに秋宗の怒りのボルテージはMAXを超えた。

 

 

 

秋宗「・・・テメェ朧をそんな風に見てんのか?後で詫び入れても手遅れだからな!!」

 

 

朧「西条よせ!冬空のようにやられるだけだぞ!」

 

 

 

これ以上犠牲を出したくない朧は秋宗を必死に止めようとしたが、秋宗は振り向いて、

 

 

 

秋宗「心配すんな。それよりコガラシを頼むぜ」(グッ

 

 

 

親指を立てて朧に大丈夫だと断言して玄士郎と向かい合った。

 

 

 

秋宗「取り敢えず、先手必勝だ!」(ダッ

 

 

 

両者が睨み合う中、先に切り出したのは秋宗だった。

秋宗は一気に玄士郎との間合いを詰めて右手を振り上げて、

 

 

 

ズバッ!!

 

 

 

すれ違いざまに爪で玄士郎の右腕を斬り身体から分離させた。

 

右手を斬られた玄士郎は、

 

 

 

玄士郎「・・・貴様は余と八咫鋼の戦いを見て何も学ばなかったのか?」

 

 

 

まったく攻撃が効いておらず呆れた表情になっていた。

斬られた箇所の断面は液状化していた。

 

 

 

玄士郎「時間の無駄だ。これで終わりにしてやろう」

 

 

 

玄士郎は秋宗に背を向けたまま右腕を気化させてコガラシと同様に秋宗の体内に侵入させようとした。

 

 

 

玄士郎「・・・?」

 

 

 

しかし、玄士郎にはある違和感があった。

身体の何処かを気化させる時、必ずその感覚が伝わってくるのだが、その感覚がまったく伝わってこなかった。

 

 

 

ゴトッ

 

 

 

それと同時に何かが落ちた音が聞こえて玄士郎が音のした方を見ると・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにはなんと凍りついた右腕が落ちていた。

 

玄士郎は理解出来なかった。

極龍如水は身体の液状化と気化のどちらかしかできないため凝固することはあり得ない。

それなのに自分の右腕が凍ってしまっている。

見ていた朧も何が起こったのかまったく分からなかった。

 

 

 

玄士郎「・・・貴様、一体何をした・・・!?」

 

 

 

玄士郎は右腕を凍らせたであろう秋宗の方を振り向くと、秋宗を見て目を見開いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故なら、秋宗の両腕も凍っていたからなのだ。

 

玄士郎のただ凍っている右腕とは違い、まるで氷の籠手をつけているようで手の指は爪よりも鋭利になっており龍の手をイメージさせるような形だった。

 

 

 

秋宗「・・・俺もあんたと同じく秘術を習得してるのさ。これぞカナダに伝わりし秘術・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷河獣王

《グレイシャー・ライオンキング》!!」

 

 

 

 

 

 




今回は秋宗くんをなかり強化させました!

感想の程、よろしくお願いいたします!


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第34話 朧の涙

 

 

~数ヶ月前~

 

ここは緋扇邸が管理している書物室。

中には古い書物が保管されており、その殆どが様々な地方に伝わる秘術が記されいる。

 

 

 

秋宗「・・・・・」(ペラッ ペラッ

 

 

 

その部屋の中で秋宗は書物を読み漁っていた。

いつも書物室は綺麗に整理整頓されているが、机の上には倒れそうな程に本が積まれていた。

秋宗がどのくらいの時間、この書物を読み漁っていたのかが伝わってきそうだった。

 

 

 

ガチャ

 

 

 

スズツキ『入るぞ』

 

 

 

すると書物室の扉が開いてスズツキが入ってきた。

 

 

 

秋宗『・・・あぁ、おっさんか』

 

 

 

秋宗は一瞬スズツキに目がいったものの即座に書物に視線を移した。

まるですべて暗記をするかのような凄まじい集中力だった。

 

 

 

スズツキ『西条、一体どうしたというのだ?』

 

 

 

スズツキは真剣に書物を読んでいる秋宗に恐る恐る質問をした。

三羽鴉の黒服たちから秋宗が書物室に籠って勉強をしていると聞いた時、スズツキは少しだけ驚いてしまった。

秋宗は今まで術に関してはまったく興味がなくかるらとマトラのように他心通を習得しなかったため、そんな秋宗が書物室で勉強をしているとは、スズツキもこの目で確認するまでは信じられなかった。

 

 

 

秋宗『いや、俺でも体得出来そうな秘術はないかな、って思ってさ・・・』

 

 

スズツキ『・・・今さら何故術を習得しようと思うたのだ?』

 

 

 

スズツキに言われて秋宗は書物から視線を外して天井を見上げてポツリと話した。

 

 

 

秋宗『俺、今まで俺自身の力を過信してからよ、簡単に負ける訳がねぇって思ってたんだ・・・。でも、コガラシに負けて、このままじゃ駄目だ、もっと強くなってお嬢や姐さん、おっさんやお館さん、この緋扇邸の人たちの今まで以上に役に立ちたいって思ったんだ・・・』

 

 

 

身体を鍛えることはもちろんだが、かるらのように術を体得することも大事だと思い書物を読むことにした。

しかしどうにも自分に合う術が見つからないため悩んでいた。

 

 

 

スズツキ『西条・・・!そこまで我輩たちのことを想っていたのか・・・!』

 

 

 

スズツキは秋宗の話を聞いて感激してしまった。

そうと分かれば自分も協力してやらねばと思い本棚の中から一冊の本を取り出して机の上に置いた。

 

 

 

秋宗『これは・・・?』

 

 

スズツキ『ここに記されておるのは、カナダに伝わりし秘術、氷河獣王《グレイシャー・ライオンキング》と呼ばれるものでのう・・・』

 

 

 

氷河獣王《グレイシャー・ライオンキング》

カナダに伝わる秘術の1つ。

ありとあらゆるものを凍てつさせ敵を蹂躙し、その術の使用者の姿はまさに百獣の王と言われている。

 

 

 

秋宗『ライオンって、俺オオカミなんだけど・・・』

 

 

スズツキ『そこはあまり気にするでない。まぁこの秘術なら西条と相性が良いかもしれぬ。だがこの秘術は使い方次第によっては大陸を凍てつかせることも可能じゃからのう、気をつけるのじゃぞ』

 

 

秋宗『・・・分かった、ありがとうおっさん』

 

 

 

秋宗は氷河獣王の書物を開いて読み始めた。

 

ちなみに書物室の扉の向こうでは、

 

 

 

黒服1『西条はん~!』

 

 

黒服2『我々のことをあそこまで想っていたとは!』

 

 

黒服3『誠にご立派です!』

 

 

 

三羽鴉の黒服たちが秋宗の話を扉越しで聞いて感動して泣いていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そして現在、秋宗は玄士郎に対して氷河獣王を発動させて右腕を斬り落として凍らせていた。

 

 

 

秋宗「・・・・・」(ギュッ ギュッ

 

 

 

秋宗は自分の氷に覆われている両手を見て手を開いたり閉じたりして異常がないか確認した。

 

 

 

秋宗(実戦で氷河獣王を使うのは初めてだが、なんとか腕を凍らせることはできた。まだまだ修練が必要だが今はそんなこと言ってる場合じゃねぇしな)

 

 

 

朧「西条・・・!お前・・・!」

 

 

 

朧は秋宗が玄士郎に倒されてしまうだろうと思っていたが、秋宗が秘術を使って玄士郎の右手を凍らせたため目を見開いてしまった。

 

 

 

玄士郎「・・・余の防御結界を容易く破るだけでなく、余の右腕をも凍てつかせるその秘術・・・なんとも恐ろしいものよのぉ」

 

 

 

玄士郎は凍っている右腕を見ながら冷静に秋宗の秘術を分析した。

身体を液状化させる極龍如水にとってあらゆるものを凍らせる氷河獣王はまさに天敵だろう。

 

 

 

秋宗「覚悟しろよ、黒龍神玄士郎!テメェを完全に凍らせてやる!」

 

 

 

秋宗は身構えて玄士郎を倒すと宣言した。

 

 

 

 

玄士郎「だが、恐るべしとは言うものの、貴様のその腕さえ警戒しておれば大したことはない」

 

 

 

しかし玄士郎は片腕を失いつつも堂々とした振る舞いで秋宗と対峙した。

玄士郎の言うとおり、秋宗の手が右腕を捉えたことで凍らせられたものの、そこさえ警戒していれば二度と凍ることはないだろう。

 

 

 

秋宗「確かに、俺はまだ完全にこの秘術を使いこなせていない。長時間発動し続けるのも無理だ。だから・・・」

 

 

 

秋宗は右手で拳を作り振り上げて、

 

 

 

秋宗「今はまだこういう風に攻撃することしかできねぇんだよ!鎖傘氷柱《さかさつらら》!!」(ズドォン!!

 

 

 

拳を思いっきり地面に目掛けて振り下ろした。

 

すると、

 

 

 

バキィン!!

 

 

 

拳から氷が玄士郎に目掛けて地面に走り、1メートル手前で氷柱が地面から飛び出して玄士郎へと伸びていった。

玄士郎は咄嗟に避けたものの、氷柱が左頬をかすり切り傷のように氷が張られた。

 

 

 

玄士郎「・・・ふっ」

 

 

 

玄士郎はかすったものの攻撃を受けたことに頭に血が上らず、寧ろ頬が上がっていた。

 

 

 

玄士郎「ふははははは!いいぞいいぞ!余が身を挺して習得した極龍如水をこうも容易く破るとは!気に入ったぞ異国の獣!久々に血が滾ってきたぞ!!」

 

 

 

玄士郎は左手を龍の爪へと変化させて秋宗に対して好戦的な笑みを浮かべて身構えた。

 

 

 

秋宗「奇遇だな!俺もこの秘術を思う存分発揮してみてぇって思ってたところだ!」

 

 

 

秋宗もオオカミ人間としての血が騒ぎ出して玄士郎と同じ顔になっており早く闘いたくなりウズウズしてきていた。

互いに戦闘好きな顔になっておりどちらが勝っても可笑しくない雰囲気が漂っていた。

 

両者が睨み合う中、

 

 

 

秋宗「行くぞぉ!!」

 

 

玄士郎「来ぉいぃ!!」

 

 

 

ついに神に類する龍と誇り高き獣の闘いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、秋宗たちがいる球体の外では、

 

 

 

雲雀「何なの秋宗くんのあの秘術!?」

 

 

幽奈「玄士郎さんの右腕を凍らせるなんて!」

 

 

夜々「うぅ、寒そう・・・」

 

 

 

一緒に飛ばされた幽奈たちが球体に映し出されている秋宗と玄士郎の闘いの様子を見ていた。

朧から待っておくように言われたもののいても経ってもいられずコガラシの元へ行こうとしたものの、蜘蛛の巣の罠に掛かってしまい身動きが取れない状況になっていた。

コガラシがやられてどうなるかと思っていたが、秋宗が氷河獣王を発動して玄士郎の右腕を凍らせたため、幽奈と雲雀は唖然となってしまい、夜々は冷気を感じるかのように身震いしてしまう。

 

 

 

秋宗・玄士郎『うおぉぉぉぉ!!!!』(ギィンギィンギィンギィン!!

 

 

 

秋宗と玄士郎はインファイトを繰り出すボクサーのように激しい戦闘を繰り広げていた。

玄士郎は片腕にもかかわらず秋宗の手が自分の身体に触れないように肘辺りに攻撃を当てて反らし、その隙を狙って攻撃をした。

秋宗も攻撃が当たらずも玄士郎に休憩する暇を与えず連続して攻撃を繰り出し続けた。

 

 

 

幽奈「どちらも一歩も引かない激しい闘いですぅ!」

 

 

雲雀「コガラシくんも凄いけど、秋宗くんも凄すぎ!」

 

 

夜々「・・・なんか、秋宗の方が押してきてる?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ギィン!!ギィン!!

 

 

 

秋宗と激闘が繰り広げられる中、ついに均衡が崩れ出した。

 

 

 

玄士郎「ぬぅっ・・・!?」

 

 

 

玄士郎が少しずつではあるが、秋宗に押されて来て防戦一方の状況に追い込まれつつあった。

力量では黒龍神の玄士郎が明らかに上なのだが、片腕だけでは流石に攻撃を裁ききれず左腕も徐々に氷が張ってきている。

コガラシのように腕を気化させようものなら隙ができてしまうためそれができずにいた。

 

 

 

秋宗(黒龍神の左腕が凍ってきてる!それに勢いも弱くなってきてる!このまま押しきってやる!)

 

 

 

チャンスと見るや秋宗は最後の力を振り絞りラッシュのスピードを上げた。

 

 

 

玄士郎「嘗めるな!」(バッ

 

 

 

玄士郎は体制を低くして秋宗のラッシュ攻撃をかわし、

 

 

 

ズバァン!!

 

 

 

秋宗「うおっ!?」

 

 

 

両手を蹴り上げて腹ががら空きになり大きな隙を作らせた。

玄士郎にとっては千載一遇のチャンス。

左腕を秋宗の腹部に狙いを定めて貫こうとした。

オオカミ人間の毛皮が厚いとはいえど、黒龍神の攻撃を受け止めて切れるかは定かではない。

 

 

 

秋宗「ヤバッ!」

 

 

 

脅威を察した秋宗は蹴られた反動で上体をイナバウアーのように仰け反らして左腕を紙一重でかわした。

 

 

 

玄士郎「ちぃっ!おのれぇ!」(ブォン!

 

 

 

玄士郎は攻撃をかわされたことにイラつきながらもそのまま左腕を振り下ろしたが、

 

 

 

バッ! ゴロゴロッ!

 

 

 

秋宗は咄嗟に飛び退けて転がりながら玄士郎と距離を取った。

両者が激しい戦闘を繰り広げ装飾は壊れ辺りも氷が所々張っている。

このまま行けば秋宗が玄士郎を凍らせるのも可能になるだろう。

 

しかし、

 

 

 

ピキッ!

 

 

 

秋宗「ッ!やっぱ使うにはまだ早かったか!」

 

 

 

秋宗の両腕を覆っていた氷の籠手に大きなヒビが入ってきていた。

氷河獣王を秋宗は完全に習得出来ていないため、次で決めなければ玄士郎に対抗する手段がなくなってしまう。

 

 

 

玄士郎「ふははは!どうした異国の獣!?貴様の秘術はもうここまでか!?だが極龍如水と渡り合えたことに敬意を評し手厚く終わらせてやろう!」

 

 

 

玄士郎は秋宗のヒビが入った氷の籠手を見て秘術が限界目前だと判断して一気に終わらせようとした。

左手を手刀へと変化させて秋宗へと駆け出した。

観ていた朧もここまでかと諦めたが、秋宗の目は諦めてなかった。

秋宗は即座に身をかがめて手を地面に置いた。

 

 

 

玄士郎「また氷塊で攻撃する気か!?だが先程の貴様の攻撃は見切っておる!何度やろうと」

 

 

秋宗「いや、もう終わりだ。あんたは俺が作った結界の中に入っちまったんだからな」

 

 

玄士郎「何・・・?」

 

 

 

秋宗の言っていることを玄士郎理解出来なかった。

その直後、玄士郎はハッと表情に出して辺りを見渡した。

 

辺りには激しい戦闘により発生した氷が所々に張っている。

しかしそれをよく見てみると、氷に霊力のオーラが漂っていた。

 

玄士郎は危機を察してそこから離れようとするが、もう手遅れだった。

 

 

 

 

 

秋宗「樹氷結界《スノーライムフィールド》!!」

 

 

 

 

 

ドシュッザシュッグサッ!!

 

 

 

 

 

玄士郎「がぁっ!!」

 

 

 

 

 

張っていたすべての氷から鋭利に尖った氷塊が玄士郎に目掛けて飛び出して身体を貫いた。

極龍如水でダメージはないものの、パキパキと玄士郎の身体を貫いた箇所から凍っていった。

秋宗は闘いながら辺りに氷を張って最初からこれを狙っていたのだ。

 

そして玄士郎は完全に凍りついてしまい身動きが取れなくなってしまった。

秋宗と玄士郎の闘いの終わりを知らせるかのように、

 

 

 

バキィーン!!

 

 

 

氷の籠手が粉々に砕け散った。

霊力を使いすぎた秋宗はハァハァと息切れしながらも人間へと姿を戻し玄士郎を倒せたことに安堵した。

 

 

 

秋宗「ハァ~。結構ギリギリだったがなんとか倒せたな」

 

 

朧「・・・西条」

 

 

 

朧は表情には出していないものの目は心配な眼差しをしていた。

 

 

 

秋宗「大丈夫だ。時間が経てば黒龍神の氷も溶ける。しばらくここに放置しておけばいい」

 

 

 

秋宗は心配してくれている朧をよそに凍りついている玄士郎を注意深く見ていた。

 

しかし朧の内心はとても複雑な思いが漂っている。

主である玄士郎が倒されたにも関わらず自分はどうして焦っていないのだろう?どうして秋宗のことを心配しているのだろう?と頭で考えても答えが出なかった。

 

 

 

秋宗「それより朧、転送門で幽奈たち含めてここから出してくれ。コガラシを手当てしねぇと」

 

 

 

内臓を破壊されて倒れて気を失っているコガラシを見て秋宗は朧に転送門を開くように指示を出した。

朧も「・・・あぁ」と内心が晴れないまま転送門を開こうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「グフゥッ!?」

 

 

 

秋宗の身体から衝撃音が響いて口から血を吐き出してしまった。

 

 

 

朧「西条!?」

 

 

朧は突然口から血を吐き出した秋宗を見て驚いてしまう。

 

秋宗も何が起こったのかまったく分からなかった。

まるで体の中に仕掛けられていた爆弾が爆発したかのような感覚だった。

 

 

 

秋宗(これは・・・!?さっきコガラシが攻撃を食らった時と同じ・・・!?まさか!?)

 

 

 

秋宗はバッと振り返り凍りついている玄士郎を見た。

 

数秒後、

 

 

 

パキ、パキパキ・・・

 

 

 

と、小さな音を立てながら玄士郎の身体にヒビが走っていった。

 

やがてそれは身体全体を覆い尽くしそして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パリィーン!!

 

 

 

 

 

玄士郎「油断したのぉ異国の獣」

 

 

 

 

 

張っていた氷が割れて中から何事もなかったかのように玄士郎が現れた。

玄士郎は身体のどこにも異常はないかと左肩を動かしたり上半身を捻ったりした。

 

 

 

秋宗「馬鹿な・・・!?どうして・・・!?」

 

 

 

氷河獣王で完全に凍らせたはずの玄士郎がこうも簡単に氷を破ったことを秋宗は信じられなかった。

 

 

 

玄士郎「何故こうも容易く術を破れたかという顔よのぉ?それはこういうことだ」

 

 

 

焦りを見せている秋宗に玄士郎はニヤリと笑い答えを教えようとした。

すると秋宗の身体から黒い煙が吹き出し、それが玄士郎の切断された右肩へと集まり右腕へと変化した。

 

 

 

秋宗「なんで右腕が!?右腕は凍らせたはず!」

 

 

玄士郎「左様、確かに余の右腕は凍てついてしもうた。だがそれは表面だけに過ぎなかったのだ。それは余の身体も同様。貴様はまだ完全に秘術を使いこなせておらん。其故にこのような結果となったのだ」

 

 

 

秋宗との戦闘の中、自分の右腕が完全に凍っていないことに気がついた玄士郎は少しずつ個体から気体へと昇華させて秋宗の体内へ侵入させていたのだ。

 

 

 

秋宗「クソッ・・・!」

 

 

 

霊力をほとんど使ってしまった上に体内からのダメージを負ってしまった秋宗はもう玄士郎と闘う術がない。

完全に形勢逆転されてしまった。

ダメージが大きすぎるため、その場に手と膝をついてしまう。

 

 

 

玄士郎「だが、流石に先程の攻撃は肝を冷やしたぞ。もし貴様が秘術を完全に我が物としていれば負けていたのは余の方だ。褒めてやろう」

 

 

 

玄士郎は額に汗をかきながらゆっくりと秋宗へと歩みを進めてトドメを差そうとした。

秋宗はここまでかと諦めかけたその時、

 

 

 

朧「玄士郎様!」(ザッ

 

 

 

朧が秋宗を庇うように玄士郎の前に立ち塞がった。

 

 

 

朧「もう決着は着きました!お願いいたします!私は・・・ゆらぎ荘を退きます故!即刻!冬空と西条!そして彼女たちの解放を!」

 

 

 

これ以上を犠牲を出したくない朧は玄士郎の言うことに従いゆらぎ荘から出て行こうとした。

 

元は自分が龍雅家の誇りを守るために嘘をついてしまったことが原因だ。

そのせいで周りの人たちを危険な目に逢わせてしまった。

ならば自分が責任を取るしかない。

自分だけが犠牲になればいい。

そもそも自分は黒龍神の守り刀。

ゆらぎ荘にいるのも龍雅家のため。

 

朧は何度も自分に言い聞かせた。

 

そんな朧を見て玄士郎はやはりそうかと言わんばかりの顔になっていた。

 

 

 

玄士郎「本当に変わってしまったな、朧よ」

 

 

朧「・・・何も変わってなどおりません。私がゆらぎ荘にいたのはすべて・・・すべては龍雅家のためを思えばこそ・・・!」

 

 

 

ズドン!!!!

 

 

 

秋宗「ふざけんな!!」

 

 

 

突然大きな衝撃音と怒鳴り声が響き朧が振り向くと、這いつくばっている秋宗が朧を睨み付けていた。

右手は拳を作り地面に叩きつけて大きなヒビが入っていた。

 

 

 

秋宗「朧!!素直にそんなやつの言いなりになりやがって!!テメェそれでもお嬢のライバルか!?テメェの気持ちはどうなんだよ!?本当にこれでいいと思ってんのかよ!?」

 

 

 

まるでロボットのように玄士郎の命令に従い自分の気持ちをまったく主張しない朧に秋宗は玄士郎以上に怒りが込み上げてきていた。

 

 

 

朧「いいんだこれで・・・。それにお前と冬空は重症だ。一刻も早く治療を受けなければ死んでしまう。ここは玄士郎様の言うことに従うことが最善だ。それに言っただろう?私がゆらぎ荘にいたのは龍雅家の・・・」

 

 

秋宗「だったら!!だったらテメェの流してるそれは何だよ!?」

 

 

 

秋宗に言われて朧は自分の顔に触れると、左目の眼帯から一筋の涙を流していた。

朧は何故自分が涙を流しているのか分からなかった。

 

 

 

朧「これは・・・?」

 

 

秋宗「それがテメェの本心ってことだろ!?本当はゆらぎ荘を離れたくねぇんだろ!?自分の心に嘘ついてんじゃねぇよ!!」

 

 

 

秋宗の心からの叫びの振動が朧の頬に流れている涙へと伝わり、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポチャンッ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と音を立てて地面へと落ちた。

 

それを目覚ましの合図とするように、

 

 

 

コガラシ「そうだぞ朧・・・あんなヤツの命令に従う必要なんかねぇよ」

 

 

 

今まで気を失って倒れていたコガラシがヨロヨロと立ち上がった。

朧と秋宗、そして玄士郎も思わず目を見開いてしまう。

そして朧の前まで歩き玄士郎と向き合い、

 

 

 

コガラシ「どうしても出られないってんなら、こんな場所・・・俺がぶっ壊す!!」

 

 

 

拳を構えて玄士郎から朧を解放すると宣言した。

 

 

 

秋宗「・・・ったく!今まで気を失ってたヤツがでしゃばりやがって!」

 

 

 

いい所を持って行こうとしているコガラシに秋宗は怒りが込み上げてくるものの、なんとか立ち上がりコガラシの隣に並んだ。

 

 

 

秋宗「乗り掛かった船だ!!俺たち2人でこの身勝手野郎をぶっ飛ばして朧の心を救うぞ!!」

 

 

コガラシ「おう!!」

 

 

 

重症を負いながらも、秋宗とコガラシは朧を助けるために玄士郎に立ち向かおうとした。

 

 

 




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第35話 感謝の言葉

 

玄士郎「おおう、もう立ち上がるとは!流石は御三家の一角といったところか・・・そして異国の獣も大したものよのぉ・・・」

 

 

 

玄士郎は重症を負いながらも闘おうとする秋宗とコガラシを見て感心して思わず頬が上がってしまう。

 

 

 

朧「冬空!西条!傷は大丈夫なのか!?」

 

 

コガラシ「おう、気合い入れりゃあ破裂した肺くらいすぐ治る」

 

 

秋宗「もはやなんでもアリだなお前・・・」

 

 

 

チートすぎる八咫鋼の能力に秋宗は呆れた顔になってしまう。

 

ちなみに秋宗は僅かな霊力で体内の出血している箇所に氷を張り応急処置を施している。

氷河獣王を完全に体得していないとはいえ、氷の籠手を着けなければ秘術を発動出来ないわけではないためこのような芸当は可能である。

 

しかし、

 

 

 

秋宗・コガラシ『はぁ、はぁ、はぁ・・・』

 

 

 

ダメージが回復していない2人は呼吸が乱れてフラフラで立っているのがやっとの状態である。

 

 

 

朧「冬空!西条!」

 

 

 

限界が近い2人を朧は心配するがコガラシは手で静止した。

 

 

 

コガラシ「大丈夫だ、もうさっきみたいな不意打ちは喰らわねぇ。息止めてりゃいいだけだからな・・・」

 

 

秋宗「ま、取り敢えず・・・」(スッ

 

 

 

秋宗がコガラシの頬に手を翳すと、

 

 

 

パキィン!

 

 

 

コガラシ「!?」

 

 

 

コガラシの口元に氷が張られた。

氷はマスクのように鼻を口を覆い呼吸が出来ない形状になっていた。

 

 

 

秋宗「これでもう体内からの攻撃はできなくなるぞ」(パキィン!

 

 

 

そう言いながら秋宗も口元に氷のマスクを張った。

 

幼稚な方法だが、呼吸をしなければ玄士郎は体内へ手を侵入できないため効果は抜群である。

声には出せないが、コガラシはコクリと頷いて秋宗に礼を表した。

 

 

 

ガッ!!

 

 

 

秋宗・コガラシ『ッ!!・・・』

 

 

 

秋宗とコガラシの戦闘準備が整ったと見るや、玄士郎は2人に殴りかかってきた。

氷のマスクには当たらなかったが、拳が2人の頬をかすりそこから血が吹き出した。

 

 

 

玄士郎「ふははは!防御結界が薄くなっているぞ八咫鋼に異国の獣よ!?立ち上がったところで結局満身創痍ではないか!確かに呼吸をせねば体内への侵入は防げよう!だが!重症の貴様らにいつまで耐えられるかな!?」(ガガガガガガガッ!!

 

 

 

玄士郎は秋宗と闘った時のように連撃を繰り出した。

秋宗とコガラシは攻撃をすべて受けてしまい今にでも倒れそうなくらいフラフラの状態だった。

そして玄士郎は重い一撃を繰り出そうとしたその時、

 

 

 

キンッ!!

 

 

 

朧が秋宗とコガラシの前に立ち玄士郎の腕を弾き返した。

 

 

 

玄士郎「・・・なんの真似だ、朧!?」

 

 

 

邪魔をする朧に玄士郎は怒りを含ませて睨み付けた。

主の邪魔をしている朧は、

 

 

 

朧「・・・分かりません」

 

 

 

分からないと一言、そう答えた。

 

 

 

朧「ただ、冬空と西条が私のために傷つけられているが耐えられず・・・!」

 

 

 

声を震わせながら秋宗とコガラシのために玄士郎と闘おうとした。

 

 

 

玄士郎「邪魔をするならば貴様とて容赦せぬぞ朧!」

 

 

 

玄士郎は右手を巨大な刃へと変化させて朧へ切りかかった。

朧も両腕を刀身へと変化させて玄士郎と向かって行った。

 

 

 

ガキィン!ガキィン!

 

 

 

互いの刀を打ち合いながら朧の内心は混乱していた。

 

 

 

朧(分からない・・・何なのだこれは!?)

 

 

 

自分は龍雅家のためだけに生きてきた。

そう育てられ先代の黒龍神からもそう望まれた筈。

コガラシとの間に子供を授かるのも龍雅家のための筈。

それなのに何故、玄士郎の守り刀である自分はその玄士郎と闘っているのだろう?

そして何故自分は先程涙を流していたのだろう?

一体自分に何が起こっているのだろうと朧自身にも分からなかった。

 

 

 

玄士郎「おのれ朧!余の敵を庇い立てするとは!よもや龍雅の神刀ともあろう者が!人間如きに本気で情が湧いたとでも!?」

 

 

 

玄士郎に言われて朧はハッとなり目を見開いて秋宗がさっき言っていた言葉を思い出した。

 

 

 

 

 

秋宗『それがテメェの本心ってことだろ!?本当はゆらぎ荘を離れたくねぇんだろ!?自分の心に嘘ついてんじゃねぇよ!!』

 

 

 

 

朧(・・・あぁ、そうか。私は・・・)

 

 

 

朧は心に温もりを感じ思わず涙を溢してしまう。

 

 

 

玄士郎「もはや許さぬ!八咫鋼と異国の獣と共に消えるがいい!朧ォォォォ!!」

 

 

 

玄士郎は右手の刀を龍の手へと変化させて秋宗とコガラシもろとも朧を仕留めようとした。

玄士郎の怒りの一撃が朧に届きそうになったその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドンッ!!

 

 

 

 

 

秋宗が玄士郎の前に飛び出して拳を打ち込んだ。

そして打ち込んだ箇所からパキパキと氷が張ってきた。

 

しかし、

 

 

 

玄士郎「忘れたか異国の獣!?貴様の秘術は表面だけしか凍てつかせられないと!それに先刻と比べ氷が薄くなっているぞ!」

 

 

 

霊力を消費仕切っている秋宗の秘術は先程と比べ、氷の張るスピードが遅く氷の層も薄くなっていた。

 

だが秋宗はこれで十分だった。

一瞬でも玄士郎の動きを止めるだけで十分だった。

 

 

 

バッ

 

 

 

秋宗が拳を離して右へ跳ぶと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄士郎・朧『!?』

 

 

 

玄士郎の前から巨大な拳が迫ってきており直撃した。

巨大な拳の後ろにはコガラシが拳を突き出していた。

 

 

 

玄士郎(一体何が起きているのだ!?液化、いや気化して逃れ・・・!!)

 

 

 

しかし、玄士郎の身体は秋宗の氷河獣王で一部が凍っているためすぐに気化させることができなかった。

 

そのため逃れることができず拳に呑まれてしまい、

 

 

 

 

 

ズドゴォォォン!!!!

 

 

 

 

 

そのままドームを破壊して空間に大きな穴が開いた。

 

 

 

コガラシ「・・・っはぁ!」(パリン!

 

 

秋宗「やっと終わったぁ!」(パリン!

 

 

 

秋宗とコガラシは氷のマスクを拳で壊してようやく呼吸をすることができた。

2人ともドッと疲れがのし掛かりその場に座り込んでしまう。

 

 

 

朧「冬空、今のは八咫鋼の奥義か何かか?」

 

 

コガラシ「いや、ただの拳圧だ。拳に気合い溜めてる間はガードが薄くなっちまうのが難点だな」

 

 

朧「拳圧・・・!?」

 

 

秋宗「ダメだ・・・やっぱコイツに勝つイメージがまったく湧かねぇ・・・」

 

 

 

コガラシの攻撃の説明を聞いた朧は拳圧だけであれほどの破壊力があるのかと驚き、秋宗は上を向いて弱音を吐いてしまう。

 

 

 

コガラシ「だからさっきは助かったぜ朧!」

 

 

秋宗「まぁ俺も拳に霊力を集中させてたから隙だらけだったしな、守ってくれてサンキュー朧」

 

 

 

コガラシと秋宗は自分を守ってくれた朧に笑顔で礼を言った。

朧は少し戸惑ってしまうも口を開いた。

 

 

 

朧「いや、巻き込んですまなかった。それとな冬空、西条・・・私はその・・・」

 

 

玄士郎「ふははは!甘い!甘いぞ八咫鋼!そして異国の獣よ!」

 

 

 

朧の言葉を遮るように玄士郎の声が聞こえたため3人が咄嗟に振り向くと、

 

 

 

玄士郎「余は未だ健在なり!!」

 

 

 

そこにはなんと小さな玄士郎が立っていた。

先程の貫禄は綺麗さっぱり消えて3頭身のフィギュアのようになっており少しばかり可愛さも伺えた。

 

 

 

コガラシ「・・・えらくかわいくなったもんだな」

 

 

秋宗「黒龍神がLサイズからSSサイズになってやがる・・・」

 

 

朧「ご無事でしたか玄士郎さま!」

 

 

玄士郎「ギリギリ逃れた分がこれしかなかったのだ!残りの身体は八咫鋼の拳圧と共に空の彼方よ!」

 

 

 

玄士郎の現状の姿に秋宗たちは少し動揺してしまう。

間違って踏み潰さないように注意しながら玄士郎と向かいあった。

 

 

 

玄士郎「今の闘いは家臣たちも観ておった。これで奴らもよく分かったことだろう、まだまだ余では御三家に敵わぬと・・・」

 

 

秋宗「・・・ん?」

 

 

 

玄士郎の発言に秋宗は疑問に思った。

まるで最初からコガラシに倒させる前提で勝負を仕掛けたように聞こえたからである。

 

 

 

玄士郎「もはや余にはどうにもできぬわ!今後は貴様の好きに生きよ!朧!」

 

 

 

続けて放った玄士郎の言葉に朧はキョトンとなってしまう。

 

玄士郎の話によると、極龍如水を会得し龍雅城へ帰還すると家臣たちが盛大に喜びコガラシに1年前の復讐をと言っていた。

最初は玄士郎もその気だったが、朧の事情を知っていた衛兵たちからコガラシの人柄の良さや朧の楽しげな様子を知って気が変わった。

そこで朧の籠落作戦続行を家臣たちに認めさせるために玄士郎自ら一芝居打ったという訳らしい。

 

 

 

コガラシ「お前それ、俺が負けてたらどうするつもりだったんだ?」

 

 

玄士郎「その時は龍雅家当主として家臣たちの意を汲むのみよ。その程度の男ならば朧が籠落する価値はないのでなぁ」

 

 

コガラシ「お前ってホント偉そうだな」

 

 

秋宗「コガラシ、この人実際偉いから。一応は神に類する人だからな」

 

 

 

玄士郎の傲慢な態度にコガラシは呆れてしまうが秋宗は冷静に突っ込んだ。

 

 

 

玄士郎「だがな・・・」

 

 

 

玄士郎はフッと笑い、

 

 

 

玄士郎「そんなにか弱いわけがなかろう!貴様は余の姉が認めた男だぞ?冬空コガラシよ!」

 

 

 

朧のことを弟として大切に思っている言葉をコガラシに向けた。

聞いていた朧も感極まって泣き出してしまいそうだった。

 

 

 

秋宗(・・・この人、最初から朧のことを大切に思ってたんだなぁ)

 

 

 

秋宗は玄士郎の心情を読めなかった自分をまだまだだなと批評した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~ゆらぎ荘~ 午後7時

 

 

 

雲雀「ってことがあってさ~!散々だったよも~!」

 

 

 

食事をしながら雲雀は朝の出来事を仲居さんたちに話していた。

あの後、玄士郎は幽奈たちに謝り朧が転送門でコガラシたちを学校まで送っていったが、秋宗は治療を受けなければならなかったため緋扇邸へ送りスズツキに治癒の術を受けてから学校へ行ったため遅刻してしまった。

狭霧は自分がいない間にとんでもない自大になっていたことに表情が険しくなっていた。

 

 

 

仲居さん「それで、当の朧さんは?」

 

 

幽奈「色々後始末があると言ってましたけど・・・」

 

 

朧「それは無事に済んだ」

 

 

 

大広間に転送門が現れて中から朧が出てきた。

 

 

 

朧「家臣たちの説得に成功し今まで同様、私による冬空籠落作戦の続行が決まった。龍雅家のため、玄士郎さまのため、私は必ず成功させてみせる!」

 

 

 

そう言うものの、朧は神速で動いているため誰の耳にも入らなかった。

服をはだけさせてコガラシの上着を脱がして腕を前に出させてその上に座りお姫様抱っこさせられている状況をつくった。

 

 

 

朧「私は今日気づいたんだ、この速さで言っても聞き取れんだろうが・・・おそらくもう///私は貴様に惚れてしまっているぞ///」

 

 

 

頬を赤くしながらコガラシの耳元で好きだと呟いた。

 

 

 

コガラシ「・・・ハッ!?///」

 

 

 

コガラシは今自分が置かれている状況に気付き固まってしまった。

 

 

 

幽奈「朧さん!?///」

 

 

狭霧「朧!///貴様また・・・!///」

 

 

雲雀「も~!///何も変わってないじゃん!///」

 

 

 

幽奈たちは朧の相変わらずの行動に呆れて顔を赤くしてしまう。

 

 

 

呑子「あらおかえりぃ~」

 

 

夜々「おかえり朧」

 

 

 

呑子と夜々からおかえりと言われた朧は、

 

 

 

朧「あぁ・・・ただいま」

 

 

 

笑顔でただいまと返事をした。

 

 

 

『・・・・・』

 

 

朧「どうした・・・?」

 

 

 

ポカンとなっている幽奈たちに朧は疑問を浮かべてしまう。

 

 

 

こゆず「朧ちゃんが笑った~!」

 

 

幽奈「もう一回!もう一回笑ってみてせて下さい~!」

 

 

 

今まで朧が笑ったところを見たことがない幽奈たちにとって朧の笑顔はすごくレアなため盛り上がってしまう。

 

 

 

秋宗「・・・・・」

 

 

狭霧「どうした西条秋宗?ボォーっとして?」

 

 

秋宗「え?あぁいや、なんでもねぇ・・・」

 

 

 

みんなが盛り上がっている中、ずっと黙り込んでいる秋宗を見て狭霧はどうかしたのかと聞くが本人はなんでもないと言い切った。

 

なんでもないと言っていたが、秋宗は朧が転送門で緋扇邸に行く前に玄士郎が話したことを思い出していた。

 

 

 

 

 

玄士郎『よく聞くがよい異国の獣。貴様のその秘術は確かに強力だ。だが強力すぎる故に危険でもある。使い方を誤れば貴様の周りにいる者たちをも巻き込んでしまうぞ。だからこそ、1日でも早く完全に会得するのだぞ』

 

 

 

 

 

玄士郎から秘術の警告を受けて秋宗は自分が会得しようとしている氷河獣王がいかに危険な代物なのかと実感してしまった。

だからこそ、かるらとマトラの役に立つために氷河獣王を完全に我が物としなければと思った。

 

 

 

夜々「あ、氷が無くなった。秋宗、氷出して」

 

 

秋宗「夜々、俺は氷製造機じゃねぇぞ?」

 

 

 

グラスの氷が無くなってしまった夜々は秋宗に氷河獣王で氷を出すようにお願いするが一々そんなことで秘術を使うことが面倒な秋宗は冷静に突っ込んだ。

 

 

 

雲雀「それにしても秋宗くんのあの秘術凄かったよね~!」

 

 

呑子「夏とか便利そうねぇ~」

 

 

こゆず「一回見てみたいな~!」

 

 

朧「せっかくの機会だ秋宗、みんなに見せたらどうだ?」

 

 

秋宗「だからそんなことで一々秘術を使う訳には・・・ん?」

 

 

 

氷河獣王の話題で盛り上がっている中、秋宗はあることに気がつき朧の方を見た。

 

 

 

秋宗「朧、今俺のこと名前で呼んだか・・・?」

 

 

 

今まで名字で呼んでいた朧が名前で呼んだため秋宗は少し驚いてしまう。

 

 

 

朧「何だ秋宗?名前で呼んだらダメか?」

 

 

秋宗「いや、別にいいけどよ・・・」

 

 

朧「なら良かった。それとだな・・・」

 

 

 

朧は神速を使い秋宗の膝の上に乗った。

 

 

 

秋宗「・・・うおっ!?」

 

 

朧「お前にも感謝しているぞ、私のためにあそこまで怒ってくれたのだからな・・・」

 

 

 

秋宗はいきなり目の前に現れた朧に驚いてしまう。

一体何をする気なのだろうとみんなが注目していると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チュッ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「・・・へ?」

 

 

 

 

なんと秋宗の首の後ろに手を回して頬にキスをしてきたのである。

そして周りのみんなもポカンとなってしまう。

 

 

 

秋宗「お!?///おまっ・・・!?///」

 

 

朧「米国では感謝の気持ちを表す時はこうするのだろう?」

 

 

 

顔を赤くして戸惑っている秋宗を見て、朧は思わず笑ってしまう。

秋宗もまさか朧が自分にこんなことをするとは予想外で少しパニックになってしまう。

 

 

 

幽奈「何をやっているのですか朧さん!?///」

 

 

こゆず「朧ちゃんもしかして秋宗くんも狙ってるの!?」

 

 

雲雀「欲張りすぎるよぉ!///」

 

 

朧「いや、私はただ感謝の気持ちをだな・・・」

 

 

 

コガラシだけが狙いだと思っていた朧がまさか秋宗の頬にキスをするとは思わなかったためどういうことなのだと問い詰めようとした。

勿論朧はコガラシだけが狙いのためそんなつもりは毛頭なかった。

 

一方秋宗は、

 

 

 

秋宗「///・・・・・・・」

 

 

仲居さん「あのぉ~?秋宗くん?」

 

 

呑子「完全に思考停止してるわねぇ」

 

 

 

顔を赤くしたままフリーズしてしまい、復活するのに翌朝までかかってしまった。

 

 

 




感想の程、よろしくお願いいたします


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第36話 パンチラ大会

更新遅れてすんません!!
ではどうぞ!


~ゆらぎ荘~ 午後6時

 

 

うらら「つまり、冬空くんはな?女子にパンツ見せてもらわな・・・死ぬんや」

 

 

ピシャァァァッ!! ゴロゴロゴロ・・・

 

 

雨が激しく降り雷も鳴り響いている天気の中、ゆらぎ荘の大広間では布団に横になって顔色が悪いコガラシを囲み、幽奈、狭霧、呑子、夜々、千紗希、仲居さん、こゆず、朧、雲雀、かるら、マトラ、うららの12人が集まっていた。

そしてうららの口から訳が分からない発言が出て来て一部はポカンとなってしまう。

 

 

仲居さん「えっと・・・何言ってるか分かんないんですけど・・・?」

 

千紗希「わ、私も急に朧さんに連れてこられて全然状況がわかんないんだけど!?」

 

朧「浦方が師匠も必要だと言うものでな」

 

 

状況がまったく読み込めない仲居さんたちはどういうことなのかと少し混乱していた。

 

 

狭霧「みんなすまない。私から簡単に説明させてもらおう・・・」

 

 

狭霧の話によると、今日の放課後、狭霧と雲雀はとある討伐任務を遂行していたのだが、敵は出鱈目で多種多様な呪いを操るとても厄介な悪霊だった。

悪霊を追い込んでいる中、偶然バイト中のコガラシに居合わせてしまい、コガラシの拳で悪霊を倒すことができた。

しかし問題はその後だった。

悪霊は消滅する直前、最後の力を振り絞りコガラシに強力な呪いを掛けてしまったのだ。

 

 

うらら「そんでウチが解析したところ、12時間以内に女子のパンツを12枚見ないと死ぬっちゅー呪いやと判明したんや・・・!」

 

千紗希「だからなんなのその呪い!?」

 

 

馬鹿げている話かもしれないが、実際コガラシにその呪いが掛かっているため信じざるを得なかった。

 

 

千紗希「じゃ///じゃああたし、冬空くんにパンツ見せるために!?///」

 

朧「いかにも」

 

こゆず「ごめんね千紗希ちゃん。葉札術で出したパンツじゃダメだったからさ~」

 

幽奈「やっぱり本物の女の子でないとってことになりまして・・・」

 

うらら「呪いが強すぎてウチも大天狗でも解呪できひんかってな・・・!」

 

呑子「あらあらぁ~また大変なことになっちゃってるわねぇ~」

 

かるら「ぬぅ、妾もまだまだ未熟よの・・・!///」

 

マトラ「ま、まぁおひいさんのためだ!///一肌ぬぐぜ!///」

 

仲居さん「12枚ってことはやっぱり私も・・・!?///」

 

狭霧「すみません、我々が不甲斐ないばかりに・・・!///」

 

夜々「コガラシ相変わらず呪いや術には弱いの」

 

雲雀「うぅ、黒龍神も一撃だったのになんで・・・!?」

 

 

みんながコガラシの安否を心配する中、

 

 

コガラシ「う、うぅ・・・!」

 

幽奈「コガラシさん!?」

 

 

呪いで身動きがとれず具合の悪いコガラシがゆっくりと口を動かした。

 

 

コガラシ「すまねぇみんな・・・!お、俺が不用意に、悪霊に近づいたりしなけりゃぁ・・・!無理だけは、しないで、く、れ・・・」

 

 

自分があと数時間で死ぬかもしれない状況にも関わらずみんなの心配をしてくれているコガラシに幽奈たちは絶対助けなければと思った。

 

 

狭霧「も、元は我ら誅魔忍の責任だ!誅魔忍を代表して先陣を切らせてもらおう!」

 

 

自分の力不足に誰よりも責任を感じている狭霧が一番手でパンツを見せることになった。

 

狭霧は恥ずかしさを堪えながらプルプルとスカートの裾を捲りパンツを見せたのだが、

 

 

マトラ「・・・遠くね?」

 

 

マトラの言う通り、狭霧は部屋の隅まで下がってパンツを見せていた。

やはりパンツを見せるなど卑猥な行為はいざとなると踏み留まってしまう。

 

 

狭霧「どうだうらら!?///効果はあったか!?///」

 

 

恥ずかしさに目を瞑っている狭霧はうららにコガラシの状況を聞いた。

 

しかし、

 

 

うらら「あかんわ狭霧!」

 

狭霧「なにぃ!?///」

 

 

まったく効果がないことに狭霧は驚いてしまう。

 

 

うらら「冬空くんがパンツを見るとこの額の紋章に火が灯るはずなんや!この12のパンツ全てに火が灯った時、冬空くんの呪いは解ける!」

 

狭霧「なんだそのギミック!?」

 

 

コガラシの額には骸骨の紋章が刻まれているが、その回りをパンツで囲っている模様になっている。

 

 

うらら「冬空くんは目が霞んどるんや!もっと近くで見せたり!大丈夫や!意識朦朧で何見とるかよく分かってへんはずや!」

 

狭霧「くぅ・・・!///うぅ~・・・!///」

 

 

先陣を切ると言ってしまったため狭霧はもう引き下がれず覚悟を決めてコガラシの近くへ寄り、

 

 

狭霧「ここ、これでどうだ・・・!?///」

 

 

至近距離でスカートを捲りパンツを見せた。

ちなみに色は白でタイツ越しで見せていた。

 

 

うらら「ほら冬空くん、パンツやで」

 

 

うららはコガラシの身体を起こしてパンツを見えるようにした。

 

 

雲雀「ホントもうなんなのこれ!?///」

 

千紗希「あ、あの雨野さんがここまで・・・!///」

 

 

これから自分たちもパンツも見せるとなると恥ずかしくてコガラシと顔を合わせられないと思ってしまう。

 

すると、

 

 

ボッ

 

 

コガラシの額の紋章に火が1つ灯った。

 

 

うらら「やったで狭霧!複雑な呪いやからちょいと心配やったけど、ウチの解析は合っとったようやな!」

 

千紗希「本当なんだね呪いって・・・」

 

 

千紗希は呪いが本当なのだと信じ、狭霧は緊張の糸が切れて恥ずかしさのあまりにドッと落ち込んでいた。

この調子でトントン見せていこうとうららが進めようとすると、

 

 

 

 

 

???「まったく、呆れて何も言えないわ」

 

 

 

 

 

大広間に聞き覚えのある声が聞こえて幽奈たちが振り向くとそこには、

 

 

幽奈「七海さん!?」

 

 

いつの間にかゆらぎ荘に来ていた七海が壁に背もたれしながら腕を組んでいた。

 

 

七海「話はすべて盗聴k・・・んんっ!話はすべて偶然聞かせてもらったわ」

 

雲雀「今盗聴機って言いかけたよね!?」

 

仲居さん「まさか仕掛けてあるんですか!?」

 

 

雲雀と仲居さんは盗聴機がどこかにあるのかと大広間を見渡した。

そんな2人をよそに七海は狭霧の前まで歩いて目の前に立った。

 

 

七海「堅物さん、何なのあの見せ方は?ただスカートを捲るだけなんて。普通にも程があるわよ。オマケに色も白でタイツ越し?はっ!そんなんでやっさんを堕とせるとでも思ってるの?」

 

狭霧「"堕とす"とはなんだ!?///私だって好きでやってる訳ではない!///それにどのように見せても問題は!///」

 

七海「シャーラップ!言い訳は聞きたくないわ!もっと腕を磨きなさい!」

 

狭霧「どこを磨けばいいのだ!?///」

 

 

パンツの見せ方に徹底してダメだしをしてくる七海に狭霧はただ突っ込むことしか出来なかった。

 

一通り言い終えた七海は机の上に置かれていた雑誌をクルクルと丸めてマイクのように持ち、

 

 

七海「はい!というわけで始まりました!第1回!やっさんを堕とせ!パンチラ大会~!」

 

千紗希「なんか始まっちゃったよ!?」

 

 

勝手にパンチラ大会の開催を宣言してしまい、幽奈たちは呆然と見ることしか出来なかった。

 

 

七海「司会実況兼審査員はこの私!七海が努めさせていただきま~す!」

 

仲居さん「ふざけないで下さいよ七海さん!」

 

うらら「せやで!これは遊びとちゃうんや!」

 

七海「さて!この中にやっさんを堕とせる選手は現れるのか!?」

 

かるら「人の話を聞かぬか!」

 

 

トントン進めていく七海にみんなはふざけるなと言うが、そんなことなどお構い無しに七海は司会をやめようとはしなかった。

 

 

七海「優勝者には、こちらの『女王秘書と醜いブタ社長第35シリーズ』のDVDを贈呈しまーす!」

 

幽奈「いりませんよそんなの!///」

 

夜々「というより、それ35シリーズもあるの?」

 

 

七海の手にはDVDがあるがパッケージには鞭を持った秘書が肥満体の中年男性を踏みつけているなんともおぞましい写真が掲載させていた。

こんなものを欲しがるのはよっぽどのマニアくらいしかいないだろう。

当然幽奈たちはそんなものなど欲しくはない。

 

 

七海「さらに副賞は焼肉店『肉まみれ』のお食事券2名様分もありますので頑張って下さいね~!」

 

雲雀「優勝商品そっちでいいじゃん!」

 

 

ポケットから焼肉店のお食事券を2枚取り出してヒラヒラと幽奈たちに見せびらかした。

こっちならまだ欲しいと思うが、七海の次の一言で幽奈たちの目の色が変わってしまった。

 

 

七海「このお食事券があれば"2人っきり"で行けるから"より親密な関係"になれるわねぇ~」

 

幽奈・千紗希・かるら・雲雀『!!!!』

 

 

『2人っきり』と『より親密な関係』の2つの言葉に幽奈と千紗希、かるらと雲雀は反応して想像してしまった。

コガラシと2人っきりで焼肉店で親密になっている光景を。

 

 

幽奈「で、では次は私が見せます!」

 

 

焼肉店のお食事券が欲しくなった幽奈はパンツを見せようとコガラシの元へ寄ろうとするが、

 

 

かるら「いいや!妾が先じゃ!」

 

雲雀「雲雀が先だよ!」

 

千紗希「私が先に見せるよ!」

 

 

あとの3人も幽奈に遅れを取らせまいと率先してパンツを見せようと名乗り出るが被ってしまったため互いに見合ってしまう。

 

 

かるら「貴様らそこまでしてかような不埒なDVDが欲しいと申すか!?」

 

千紗希「欲しくないよ!」

 

雲雀「雲雀が欲しいのはお食事券だよ!」

 

幽奈「あの!名乗りを上げたのは私が先なんですけど・・・!」

 

 

なんとしてでもお食事券が欲しい4人は我先にと見せようとするが中々話が決まらず言い争っていた。

それを見て呑子は呆れていた。

 

 

呑子「先に私たちからやっちゃいましょうかぁ。それに焼肉も行きたいしぃ」

 

夜々「う!」

 

朧「浦方、私の下着はぱんつではないのだが」

 

うらら「下着なら大丈夫やと思うで」

 

狭霧「何故そう平然と!?///」

 

 

なんの躊躇いもなくパンツを見せようとする呑子たちに狭霧はもう呆然とするしかなかった。

 

そして3人はパンツをコガラシに見せた。

 

 

呑子「もぉ、変な呪いにかかっちゃダメよぉ~?」

 

朧「冬空、お前を死なせはしない・・・!」

 

夜々「元気になって、コガラシ!」

 

 

呑子は真っ赤色、朧は白いフンドシ、夜々は深い緑色をそれぞれ履いていた。

 

 

ボッボッボッ

 

 

それを見たコガラシの額の炎も3つ連続で灯っていった。

 

 

雲雀「あぁっ!?呑子さんたちに先越されてる!?」

 

かるら「お主らが邪魔するからじゃ!」

 

幽奈「お互い様ですぅ!」

 

千紗希「だから喧嘩はよくないって・・・!」

 

 

言い争っている4人をよそに七海の審査が始まった。

 

 

七海「酔っ払いさんは大人の色気を誘う真っ赤なデザインで素敵ね。対照的に眼帯さんはフンドシという斬新なセンス。ネコさんはただパンツを見せるだけでなく敢えてお尻を強調させるテクニック。どれも素晴らしいわ」

 

仲居さん「なんでそんな解説ができるんですか!?」

 

 

真剣な目で審査をする七海に仲居さんは突っ込んでしまう。

 

 

七海「決まったわ!酔っ払いさん76点!眼帯さん68点!ネコさん78点!」

 

呑子「えぇ~?たったそれだけぇ~?」

 

朧「やはり色のある下着をつければ良かったか・・・」

 

夜々「夜々が1番なの!」

 

 

呑子は点数に不満を持ち、朧は顎に手を当てて反省点を述べ、夜々は現段階で自分が1番だということに喜んだ。

 

 

七海「ちなみに堅物さんは28点だから」

 

雲雀「狭霧ちゃん赤点!?」

 

狭霧「前から思っていたがお前私を嘗めてるだろ!?」

 

 

結構なダメ出しをした挙げ句、低い点数を付けてくる七海に狭霧の目はつり上がっていた。

みんながギャーギャーと騒いでいる中、仲居さんがうららにこっそり話しかけた。

 

 

仲居さん「あ、あのー///どうしても履いてる状態で見せなきゃだめなんでしょうか?///」

 

うらら「えっ?あぁせやねん、パンツ見せるだけ見せてもダメやったんや」

 

 

こゆずの葉札がダメならば本物のパンツならどうだと試してみたものの額の火が灯ることはなかった。

 

 

うらら「ま、まぁなんやったら七海に代役を任せるように頼んでみるで!」

 

 

仲居さんに無理をさせる訳にはいかないとうららは七海に代役を頼もうとするも、

 

 

仲居さん「・・・いえ!やります私!」

 

 

コガラシにパンツを見せることを決意した。

 

かるらたちが襲撃に来た時、自分が何も出来なかったことに不甲斐なさを感じていた。

だからこそ、どんな辱しめを受けようともそれでコガラシが助かるならば、

 

 

仲居さん「出来ることがあるならば私は・・・!///」

 

こゆず「じゃあボクと一緒にやろうよ!誰かと一緒なら恥ずかしくないし!」

 

うらら「せ、せやな!ほならウチも便乗させてもらおかな・・・!///」

 

 

恥ずかしさを押しきってパンツを見せようとする仲居さんにこゆずとうららも一緒にパンツをコガラシに見せて上げようと決めた。

 

そして3人はパンツを見せた。

 

 

うらら「こ、これでどや!?///」

 

仲居さん「あ、あんまり見ないでください・・・///」

 

こゆず「はい!パンツだよコガラシくん!」

 

 

うららは薄い水色、仲居さんは白、こゆずも白だがネズミがプリントされているパンツを履いていた。

そしてコガラシの額の火も灯っていった。

 

 

千紗希「ってこゆずちゃんまで何やってんのー!?」

 

こゆず「ボクだってコガラシくんを助けたいんだもん!」

 

 

千紗希はこゆずを人間社会で生活できるように教育しているためこのようなことをさせないように目を配っていたがいつの間にか見せていたため驚いてしまう。

 

 

七海「んー・・・うらさんもネコさんと同じようにお尻を強調させているけど色はもう少し派手でもいいんじゃないかしら?タヌキちゃんは恥ずかしがらずに元気いっぱいにパンツを見せてあげるなんてやるじゃない。仲居さんは影でパンツがはっきり見えないけど敢えてそうすることにより見る側は『一体どんなのを履いてるんだ?』という期待感が膨くらむわ、まさか仲居さんがこんな手の込んだことをするなんてね」

 

雲雀「何なの七海ちゃん!?パンチラのプロなの!?」

 

 

七海の分かりやすい解説も終わり採点を告げようとした時だった。

 

 

スゥッ

 

 

浩介「七海!やっぱりここにいた!」

 

 

襖が開きそこには浩介が立っていた。

 

何故浩介がゆらぎ荘にいるのかというと、七海が突然家を飛び出して何処かへ行ってしまったため浩介も慌てて探しに行った。

そうしている内にゆらぎ荘へ行ったのではないかと思いここへ来たのだった。

 

 

浩介「何やってんのここで?いきなり来たら仲居さんたちに迷惑で・・しょ・・・?」

 

 

浩介が大広間へと入り七海に説教しようとするが浩介は言葉が途切れてしまった。

何故なら仲居さんとこゆず、うららの3人が布団に横になっているコガラシにパンツを見せていたのだから。

状況が読み込めない浩介は何が何だか理解出来なかった。

 

 

浩介「は・・・!?///へ・・・!?///」

 

 

パンツを見られた仲居さんは、

 

 

仲居さん「キッ、キャーーーー!!!!///」(ビュンッ

 

 

ガァンッ!!

 

 

浩介「グハァッ!?」

 

 

バタリ・・・

 

 

思わず机の上に置かれていた湯飲みを浩介目掛けて投げてしまった。

湯飲みは見事に浩介の頭にヒットしてそのままうつ伏せに倒れてしまった。

 

 

仲居さん「あぁっ!?すす、すいません浩介くん!つい!」

 

呑子「大丈夫浩介ちゃん!?」

 

夜々「思いっきり湯飲みが頭に当たったの」

 

 

心配する仲居さんたちを代表して狭霧が浩介の安否を確認しようとうつ伏せから仰向けへと体制を変えて呼吸や心臓の音などを聞いた。

 

 

狭霧「・・・大丈夫です。どうやら気を失っているだけのようですので」

 

幽奈「良かったです~!」

 

七海「まぁ浩介のことはさておき、点数発表するわよ」

 

朧「平賀に対する扱いが酷いな・・・」

 

 

仰向けで気を失っている浩介を余所に七海の口から仲井さんたちの点数が発表された。

 

 

七海「うらさん65点!タヌキちゃん71点!仲居さん81点!」

 

こゆず「やったね仲居さん!今1位だよ!」

 

仲居さん「嬉しくないですよこんな1位・・・!///」

 

 

暫定で仲居さんが1位なのだが本人は恥ずかしさのあまりに手を顔で覆ってしまう。

 

 

マトラ「さてと、じゃあそろそろアタシもいっとくか///」

 

 

頬を少し赤くしながらもマトラはコガラシの側に座りスカートを捲った。

ちなみにスカートの下はスパッツを履いていた。

 

しかし、

 

 

シーン・・・

 

 

マトラ「あん?紋章に火ィつかねぇな?」

 

 

見せたにも関わらずみんなと同じように火が灯らないことにマトラは首を傾げてしまう。

 

 

うらら「どうやらスパッツじゃあかんみたいやな」

 

マトラ「んだとぉ~!?///」

 

 

うららの推理にマトラは声を上げてしまう。

ちゃんとスパッツの下も履いているため問題はないがいざとなると恥ずかしさが込み上げてきてしまう。

それでも幼なじみのかるらの為にとそれらを押し殺して、

 

 

マトラ「ったく!///ほらよっ!///」

 

 

スパッツを下ろして虎柄のパンツを見せた。

それによりコガラシの紋章にも火が灯った。

 

 

マトラ「はー・・・///八咫鋼のくせにしょーもない呪いにかかりやがって・・・!///」

 

 

自分の番が終わりスパッツを履き直そうとしたその時、

 

 

スゥッ

 

 

秋宗「ったく最悪だなオイ。コンビニ行ったら途中で雨降ってくるとか不幸すぎるだ・・ろ・・・」

 

 

出掛けて帰って来た秋宗が愚痴を言いながら襖を開けて入って来た。

髪も雨で濡れて服も肩の辺りがびしょびしょになっていた。

入って来たと同時に秋宗は絶句してしまった。

何故なら幼なじみの1人がスパッツを下ろしてパンツを露にしていたのだから。

 

 

秋宗「ね、姐さん!?///何やって!?///」

 

 

パンツを秋宗に見られたマトラは、

 

 

マトラ「こっ、こっち見るんじゃねぇーーーーーーーー!!!!///」(ブンッ

 

 

ズドォン!!

 

 

秋宗「ゲボォォ!?」

 

 

バタリ・・・

 

 

秋宗の脇腹にボディブローを食らわした。

秋宗は訳も分からず浩介と同じようにうつ伏せに倒れてしまった。

 

 

呑子「マトラちゃんこの間秋宗ちゃんに見られても恥ずかしくないって言ってなかったかしらぁ?」

 

マトラ「いざ見られるとハズいんだよ!!///」

 

千紗希「というか西条くん大丈夫なの!?凄い音したけど!?」

 

かるら「大丈夫じゃ。少なくとも骨は折れとらん筈じゃからのう」

 

 

秋宗を浩介の隣に寝かせて七海によるマトラの採点が始まった。

 

 

七海「始めはスパッツを見せて『えっ?それで終わり?』と思わせておきながら更にそこからパンツを見せる技、『パンツダブルフェイント』を鵺さんが使えるなんて!これは驚きだわ!89点!」

 

雲雀「まさかの高得点!?」

 

マトラ「ッシャア!!どうだ荒覇吐!!」

 

 

呑子より点数が高いことにマトラは思わずガッツポーズになってしまう。

 

これで残りは幽奈、千紗希、雲雀、かるらの4人だけになってしまった。

 

 

幽奈「いつの間にか私たちだけですよ!」

 

かるら「ええい!ならアミダくじでどうじゃ!」

 

雲雀「そ、それならまぁ・・・!」

 

千紗希「用意するね!」

 

 

誰が先に見せるか揉めないようにアミダくじで順番を決めることにした。

 

その結果、1番千紗希、2番かるら、3番雲雀、4番幽奈と順番が決まった。

 

 

千紗希「じゃ、じゃあ行ってくるね!///」

 

 

千紗希はコガラシの側へよりスカートを上げようとするが、

 

 

千紗希(うぅ・・・やっぱり恥ずかしいよ・・・!///お食事券が欲しいあまりに見せるとか言っちゃったけど・・・!///)

 

 

コガラシにパンツを見せることに躊躇してしまう。

男子の前でパンツを見せるなど死ぬほど恥ずかしい行為は舌を噛んでもやりたくない。

 

だが、

 

 

千紗希(こんなことで元気になってもらえるなら!///いくらでも見せてあげる!///)

 

 

覚悟を決めてスカートを捲りパンツを見せた。

色は桜色でデザインは前に小さいリボンがついているものだった。

 

 

うらら「はいオッケーや!」

 

こゆず「七海ちゃん!千紗希ちゃんの得点は!?」

 

 

こゆずは千紗希が何点か七海に聞こうとすると、

 

 

七海「う~ん・・・」

 

 

七海は腕を組んで難しそうな表情を浮かべていた。

 

 

雲雀「どうしたの?」

 

七海「いや、色とデザインは文句なしだったんだけど、見せ方がねぇ・・・これじゃあ80点以上は上げられないわ」

 

 

七海の言うとおり、千紗希はただスカートを上げただけのため夜々とマトラに比べたら至って普通すぎる。

その為七海も何点にするか悩んでしまう。

 

 

呑子「七海ちゃんそれは可哀想よぉ!」

 

朧「そうだぞ、師匠は恥ずかしさを押しきってまでも下着を見せたのだ。その心意気くらいは汲んでやれ」

 

夜々「せめて80点以上はつけるの!」

 

千紗希「もうやめて・・・!///気持ちは嬉しいけどもういいから・・・!」

 

 

呑子たちがブーイングするも千紗希はあまりの恥ずかしさに体育座りで顔を伏せてしまう。

しかし七海はそれでも悩んでしまう。

 

 

七海「確かにお母さんの気持ちは汲んであげたいけど・・・」

 

こゆず「七海ちゃん」

 

 

七海が振り向くとこゆずが見たことのないような真剣な目をしていた。

こゆずはポケットに手を入れてあるものを七海に差し出した。

何を握っているのか近くにいない幽奈たちには分からなかった。

手から何かしらの布がはみ出ているのは分かったが。

 

 

こゆず「千紗希ちゃんのだよ」

 

七海「・・・・・」

 

 

しばらくの沈黙が続き、

 

 

スッ

 

 

七海はこゆずが持っていたものをポケットへと仕舞った。

 

そして、

 

 

七海「お母さん92点」

 

狭霧・かるら『ちょっと待てぇ!!』

 

 

千紗希に高得点をつけた七海に狭霧とかるらは声を揃えてツッコんでしまう。

 

 

七海「何よ・・・?」

 

狭霧「明らかにこゆずから賄賂を貰っただろ!」

 

かるら「しかも察するに貰ったのは千紗希のパンツじゃろ!」

 

 

不正行為を見逃すまいと狭霧とかるらは七海を追及するが、

 

 

七海「証拠はあるの?私がタヌキちゃんからお母さんのパンツを貰ったという証拠でも?仮に私のポケットからパンツが見つかったとしてもそれはホントにお母さんのものなのかしら?」

 

狭霧「ぬぅ!?」

 

 

狭霧たちも近くで見ていなかったためこゆずから何を貰ったのかまで分からなかった。

シラを切っている七海に確たる証拠を掴めなかった狭霧はぐぬぬぬと睨むことしかできなかった。

 

 

かるら「ふん!まぁよいわ!不正だろうと妾が見事に巻き返してみせようぞ!」

 

 

しかしかるらはこれ以上七海を追及せずにコガラシにパンツを見せることにした。

 

 

かるら「そ、そもそもじゃ!///病床に臥せる者を無理に起き上がらせるものではない!///コガラシ殿はそのまま寝ておればよいのじゃ!///」

 

 

体調が優れていないコガラシに配慮してかるらは起こさなくていいとうららに言った。

 

そして寝たきりのコガラシの顔を跨ぐように膝立ちになりスカートを捲った。

 

 

かるら「つまりこれが誠の・・・///いたわりの心というものよ・・・!///」

 

 

パンツは紫でいかにも大人の女性が履きそうなデザインだった。

幽奈と雲雀はかるらの見せ方に呆然となってしまった。

 

 

秋宗「うぅ・・・」

 

かるら「!?///」

 

 

その時、気を取り戻した秋宗が上半身をゆっくりと起こした。

かるらはまだスカートを上げた状態のためパンツが丸見えになっていた。

 

 

秋宗「一体、何が・・・?」

 

 

頭を抑えながら秋宗が辺りを見渡そうとした時、

 

 

かるら「見るでないわぁーーーー!!!!///」

 

 

ズバァン!!

 

 

秋宗「ブベラッ!?」

 

 

 

かるらが秋宗の顔面に膝蹴りを食らわしてしまい、秋宗は再び倒れてしまった。

仲居さんは気を失っている秋宗と浩介を見て可哀想にと思ってしまった。

ピクピクと少し痙攣している秋宗を余所に七海は審査を始めた。

 

 

七海「成る程!見る側を敢えて下から見させることにより更に興奮を高まらせる・・・!やるわね天狗さん!95点!」

 

かるら「どうじゃ見たか!///お食事券は妾のものじゃ!///」

 

 

涙目になりながらも暫定1位のかるらは勝った気の顔になっていた。

 

 

雲雀「雲雀だって負けないもん!///」

 

 

しかし雲雀は諦めなかった。

お食事券を手に入れてコガラシと2人きりで行くために。

 

かるらと同じように膝立ちで股がりスカートを捲った。

色は水色と白の縞模様だが、これではかるらと同じである。

更に雲雀はここからアレンジを加えた。

 

 

雲雀「雲雀だって・・・!///雲雀だって・・・!///」(シュル・・・

 

 

なんと腰の紐をほどいてギリギリ見えないところまで下ろした。

 

 

七海「紐パンほどき!?ただパンツを見せるだけでなく見えるか見えないかのギリギリのラインまで下ろすなんて!素晴らしいわまな板さん!97点!」

 

かるら「なんじゃとぉぉぉ!?」

 

 

まさかのどんでん返しで雲雀が逆転してしまいかるらは畳に手をついてしまう。

 

 

かるら「おのれぇ誅魔忍風情がぁ!!」

 

雲雀「これでもう雲雀の勝ちだよ!!」

 

七海「まだよ!まだ幽霊さんが残ってるわ!」

 

 

いつの間にか盛り上がってきてしまい最後の幽奈は頭がオーバーヒートしてしまいそうなくらい顔が赤くなっていた。

 

 

幽奈(か、かるらさんも雲雀さんもすごいですぅ!///一体どんな下着なら!?///どんな見せ方なら!?///)

 

 

大逆転してお食事券を手に入れるためにはどうすればいいのだろうと必死になって考えていた。

審査されているのは色、デザイン、見せ方、これらすべてを完璧にするパンツはどんなのだろうと悩んでいると、

 

 

コガラシ「はぁ・・・はぁ・・・」

 

幽奈「!」

 

 

苦しい表情のコガラシの顔が視界に入った。

 

幽奈は我に返り改めて考えた。

自分たちはお食事券を手に入れるためにパンツを見せているのではなくコガラシを助けるためにパンツを見せていると。

 

 

幽奈(・・・バカでした私は。本当はお食事券なんてどうでもいいんです)

 

 

幽奈は膝立ちで股がり、

 

 

幽奈(ただ、コガラシさんのために・・・!!///)

 

 

浴衣の裾を捲った。

 

そしてその下は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も履いていなかった。

 

 

 

 

 

雲雀「履いてないじゃん!?///」

 

かるら「やりおったなこの痴女めがぁぁ!!///」

 

幽奈「ちちち違うんですぅ!!///」

 

 

恥ずかしさのあまり幽体変化するのを忘れていたためノーパンでコガラシに見せてしまった。

 

 

七海「ここでまさかのエアパンツ!履いてないと見せかけて実は空気パンツを履いてるとアピールするなんて!裸の王様もビックリだわ!技術点は100点よ!」

 

幽奈「ひゃっ、100点!?」

 

こゆず「ということは優勝は・・・!」

 

 

七海から100点と言われて幽奈は驚いてしまう。

 

こゆずたちも優勝は幽奈で決まりかと思ったが、

 

 

幽奈「でも結果的にパンツ履いてないので基本点マイナス100点でプラスマイナス0点です」

 

幽奈「はぅっ!?そんなぁ!?」(ガーン!

 

 

七海が急に真顔になり冷静にジャッジして幽奈は0点と点数を決めた。

技術点では100点にも関わらず基本点でマイナス100点のため総合点が0点になっしまった幽奈は酷く落ち込んでしまう。

 

 

ボシュゥゥ・・・

 

 

そして大会の終わりを告げるようにコガラシの額の紋章が消えていった。

 

 

七海「ということで優勝は!雲雀選手に決まりましたー!!」

 

雲雀「ヤッターーー!!!!」

 

 

七海から優勝を告げられて雲雀は涙目になって飛び上がり喜んだ。

 

 

七海「優勝者には『女王秘書と醜いブタ社長第35シリーズ』と副賞の肉まみれのお食事券を贈呈しまーす!」

 

 

そう言って七海は卑猥なDVDとお食事券を雲雀に差し出した。

 

雲雀は奪い取るようにお食事券だけを手に取り、

 

 

雲雀「やったよ!雲雀はやったよ!」

 

 

子供のようにピョンピョンと飛んで喜びを表に出していた。

これでコガラシと2人きりで焼肉に行けると思った時だった。

 

 

仲居さん「・・・ん?」

 

 

仲居さんがあることに気がついた。

 

 

仲居さん「すみません雲雀さん、そのお食事券ちょっと見せてもらってもよろしいでしょうか?」

 

雲雀「えっ?別にいいけど・・・?」

 

 

雲雀は仲居さんなら奪い取ることはないだろうとお食事券を渡した。

仲居さんはジッとお食事券を見るとある文章に目が止まった。

 

 

仲居さん「あの・・・このお食事券、『女性限定』って書かれてあるんですけど・・・」

 

雲雀「・・・え?」

 

 

雲雀は唖然となってしまうがすぐにお食事券を確認した。

そこには確かに、女性限定と書かれていた。

 

 

雲雀「な、七海ちゃん?あの、これって・・・」

 

 

どういうことなのかとお食事券を用意した七海に聞くと、

 

 

七海「私はただ"2人っきり"で行けるから"より親密な関係"になれると言っただけよ?これで女性同士で交流を深められるじゃない」

 

 

『何を言ってるの?』と言わんばかりで嘲笑っている七海の顔を見て幽奈たちは思った。

 

 

幽奈・千紗希・雲雀・かるら(((は、嵌められたぁ!!!!)))

 

 

コガラシと2人っきりで行けると思っていたのに一体自分たちの頑張りはなんだったのだろうと酷く落ち込んでしまう。

ここまで七海の思い通りに事が運んでいたことに不甲斐なさを感じていた。

 

 

七海「まぁいいじゃない。結果的にやっさんが助かったんだから」

 

 

ぐうの音も出ない七海の正論に幽奈たちは気持ちを切り替えてそれもそうだと思った。

何はともあれコガラシの命を救うことに繋がったのだから。

 

 

うらら「ッ!いやちょい待ち!」

 

 

みんながワイワイと騒いでいるとうららが声を上げた。

コガラシの様子が可笑しいことにいち早く気づいた彼女は確認すると、

 

 

うらら「あかん、今度はブラを見せな死ぬ呪いに変わっとる・・・!」

 

 

コガラシの額には先ほどと同じ紋章が表情されているが、パンツからブラジャーへと変わっていた。

 

 

狭霧「何だとぉ!?///」

 

マトラ「今度はブラジャーかよ!?///」

 

 

また恥をかかなければならないのかと狭霧たちが顔を赤くしている時だった。

 

 

千紗希「・・・ねぇ、なんか寒くない?」

 

夜々「う?」

 

 

大広間の温度が低くなっていることに気がついた千紗希は腕を組んで手で腕を擦り寒さに耐えていた。

夜々も千紗希に言われて寒さを感じて彼女に寄り添って体温を高めた。

 

 

呑子「言われてみればそうねぇ・・・」

 

こゆず「だんだん寒くなってきてるよぉ・・・」

 

雲雀「もうこれ冬だよ!冬の寒さだよ!」

 

 

呑子たちも大広間の寒さに手にハァーと息を吹き掛けると息が白くなっていた。

雲雀の言うとおり、まるで冬並みの寒さだった。

 

 

かるら「何故急にこのような寒さに・・・ハッ!?」

 

 

するとかるらが何かに気付き顔面蒼白になっていった。

 

そしてゼンマイが切れたブリキのようにギギギと振り向くと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「・・・・・・」

 

 

 

 

 

いつの間にか気を取り戻した秋宗が立ち上がっておりかるらたちに冷たい視線を向けていた。

おまけに氷河獣王を発動させて氷の籠手をつけていた。

 

 

かるら「あ、秋宗・・・!!」

 

 

かるらの震えた声に反応して幽奈たちも振り向き秋宗が起きていることに驚いてしまう。

 

 

幽奈「秋宗さん!?いつの間に・・・!?」

 

千紗希「何あれ!?何で西条くんの腕凍ってるの!?」

 

朧「秋宗が体得した秘術、氷河獣王だ。ありとあらゆるものを凍てつかせることができるらしい」

 

こゆず「カッコいい!」

 

狭霧「感心してる場合か!?西条秋宗のやつ絶対怒ってるだろ!?」

 

 

それもそのはず。

有無を言わさず2回も殴られ気絶させられたのだから怒るのも無理はない。

 

うららはみんなを代表して秋宗の怒りを抑えようとした。

 

 

うらら「さ、西条くん!これには深~い訳があるんや!冬空くんはパンツを見せな死ぬ呪いに掛かってたんや!せやから大天狗たちにも協力してもらってやな!」

 

秋宗「・・・それだけか?」

 

うらら「へっ?」

 

秋宗「遺言は、それだけかって聞いてんだよ」

 

 

聞く耳持たず。

秋宗は指をガチャガチャと動かし全員仕留めてやると言わんばかりだった。

 

 

雲雀「どうしよう!?完全にキレてるよぉ!」

 

幽奈「ってあれ?七海さんは?」

 

 

いつの間にか七海がいないことに気がついた幽奈は辺りを見渡すと、

 

 

七海「浩介を介抱しないといけないから、みんなオオカミさんよろしくね」

 

 

ポルターガイストで浩介を浮かせて大広間から出ていった。

 

 

マトラ「あの野郎逃げやがった!」

 

仲居さん「呑子さん!なんとかなりませんか!?」

 

呑子「今お酒切らしてるからムリィ~・・・」

 

 

涙目になっている者も現れてしまい、もうここには秋宗を止められる者はいなかった。

 

そして、

 

 

秋宗「テメェら・・・ショ・ケ・イ・カ・ク・テ・イ・ナ!」

 

 

何処ぞの学園都市のLEVEL5のようなセリフを言ってユラリと女性陣へと歩き出した。

 

 

かるら「ま、待て秋宗!妾たちの話を聞いとくれ!確かにお主を2度も気絶させたことはこちらにも非がある!じゃが決してわざとでは・・・!」

 

 

怒りに飲まれて話を聞かない秋宗はユラリユラリと歩みを進め、そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キャァァァァァァァァァ!!!!』

 

 

 

 

女性たちの悲鳴がゆらぎ荘に響いた。




感想のほど、よろしくお願いいたします


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第37話 離れない、否、離れたくない

今回はオリジナル回です!

どうしても投稿が遅れてしまうな~・・・


~ゆらぎ荘~ 午後3時

 

 

 

浩介「はい宮崎さん、頼んでた物だよ」

 

 

千紗希「ありがとう平賀くん!」

 

 

 

コガラシと幽奈の部屋204号室に、浩介と千紗希、そして幽奈の姿があった。

珍しい組み合わせである。

 

浩介は千紗希に箱を渡していた。

 

千紗希が箱を開けると、中には柄がピンク色のメガネとコードレスの黒いインカムが入っていた。

早速千紗希はメガネを掛けてインカムを耳につけて辺りを見渡した。

 

 

 

幽奈「千紗希さ~ん、どうですか~?」

 

 

 

幽奈は千紗希の前で手を振った。

本来霊力が少ない千紗希には幽奈が見える筈がないのだが、

 

 

 

千紗希「凄い!幽奈さんが見えるし声も聞こえるよ!」

 

 

幽奈「ホ、ホントですか!?」

 

 

 

なんと幽奈の姿がはっきり見え話すことも出来た。

幽奈は千紗希と話が出来たことに喜び思わず千紗希の手を取ってしまう。

 

何故千紗希が幽奈の姿を確認できているのかというと、

 

 

 

浩介「どうやら成功したみたいだね」

 

 

 

浩介が渡したメガネとインカムのおかげだった。

 

数週間前、千紗希が浩介に幽奈と直接会話が出来るようになる発明品を作ってくれないかとお願いしたことが始まりだった。

この前持ってきた幽霊探索ゴーグルは幽奈の姿が見えるだけで声が聞こえなかったため会話が出来なかった。

いつもは幽奈がメモに書いて意志疎通を行っているが千紗希はどうしても幽奈と会話がしたかった。

そこで霊能力専門の発明家の浩介に頼んで今に至ったのである。

ちなみに幽霊探索ゴーグルをVRゴーグルからメガネに変えたのは浩介の粋な計らいである。

 

 

 

千紗希「ホントにありがとう平賀くん!これでいつでも幽奈さんとお話出来るよ!」

 

 

幽奈「ホントにありがとうございます~!」

 

 

浩介「いいよ別に」

 

 

 

女子2人からお礼を言われて浩介は照れくさそうに頬を掻いてしまう。

 

すると、

 

 

 

スゥッ

 

 

 

雲雀「あ、平賀くんいた」

 

 

狭霧「平賀浩介、ここにいたのか」

 

 

 

誅魔忍コンビの狭霧と雲雀が襖を開けて入って来た。

 

 

 

浩介「どうしたの?雨野さんに雲雀さんまで?」

 

 

狭霧「実は先程まで、雲雀と模擬戦をしていてな」

 

 

雲雀「霊力をかなり使っちゃってさ~。平賀くんに『アレ』を貰おうかなって」

 

 

 

狭霧はポーカーフェイスだが雲雀は疲れが顔に出ており気だるそうに見えた。

 

 

 

浩介「あぁアレ?いいよ、ちょっと待ってて」

 

 

 

浩介はアタッシュケースを開けて狭霧と雲雀が言っているアレを取り出そうとした。

幽奈と千紗希はアレとは何のことか分からず顔を見合わせてしまう。

 

 

 

浩介「はいどうぞ」

 

 

 

そして浩介が取り出したのは自販機とかで売られてそうな缶のようなものだった。

浩介は狭霧と雲雀に1本ずつ渡した。

受け取った2人は缶のプルタブに指をかけると、

 

 

 

カシュッ

 

 

 

と音を立てて口を開けた。

 

すると口から何やら緑色の煙が吹き出して狭霧と雲雀を包み込むと、

 

 

 

狭霧「ふぅ~・・・」

 

 

雲雀「はぁ~生き返る~」

 

 

 

2人ともとてもリラックスした表情になった。

 

 

 

幽奈「あ、あの浩介さん・・・?今のは?」

 

 

 

幽奈は浩介に狭霧たちが使った缶について聞いてみた。

 

 

 

浩介「あれは霊力補給装置って言ってね、口を開けると開けた人の霊力が5割回復するんだよ」

 

 

 

浩介は狭霧たちの任務に同行しているため何か霊力を回復出来る発明品を作れないかと考えた結果、霊力補給装置が完成した。

これが意外にも好評で他の誅魔忍から依頼されて何個か作ったりしている。

 

 

 

狭霧「すまないな、こんなことで補給装置を使ってしまって」

 

 

雲雀「そう言えば、何で千紗希ちゃんメガネ掛けてるの?」

 

 

 

千紗希がメガネを掛けていることに気がついた雲雀は何故彼女がメガネを掛けているのか不思議に思い首を傾げてしまう。

 

 

 

千紗希「平賀くんに頼んで作って貰ったんだよ」

 

 

幽奈「凄いんですよ!このメガネを掛けると私が見えるようになってですね!」

 

 

 

幽奈と千紗希が自慢するように話していると、

 

 

 

浩介「あれ?」

 

 

 

浩介がアタッシュケースの中をあさって何かを探していた。

しかし中々見つからず何処だ何処だと必死になっていた。

 

 

 

狭霧「どうした?」

 

 

浩介「いや、朧さんから頼まれてある発明品を作ったんだけど、それがないんだよ・・・」

 

 

 

アタッシュケースから発明品を1つずつ外へ出しながらその発明品を探したが見つからず何処へやったのだろうと頭を抱えてしまう。

 

 

 

雲雀「・・・ちなみに朧さんから頼まれて作った発明品って何?」

 

 

 

コガラシに裸で抱きついてくる朧のことだからどうせ録でもないものだろうと雲雀は思うが一応聞いておくことにした。

 

 

 

浩介「大丈夫だよそんな卑猥なものじゃないから、作ったのは・・・」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

秋宗「♪~」

 

 

 

一方その頃、秋宗は鼻唄を歌いながら廊下を歩いていた。

ゲームでハイスコアを記録したためかなり上機嫌である。

 

 

 

秋宗「お?」

 

 

 

廊下を歩いていると、目の前に箱が落ちているのに気が付いた。

気になるためそれを拾い上げて用心深く観察した。

振ってみるとカランカランと中から何かが転がる音が聞こえて、匂いを嗅ぐと金属の匂いが出ていることが分かった。

 

 

 

秋宗「取り敢えず開けてみるか」

 

 

 

恐る恐る箱を開けると、

 

 

 

秋宗「・・・これって、ブレスレット?」

 

 

 

中に入っていたのは2つのブレスレットだった。

1つは黒を基準とした龍が彫られているデザインでもう1つはピンクを基準とした花が彫られているデザインだった。

 

 

 

秋宗「何でブレスレットが落ちてんだ?」

 

 

紫音「どうもッス秋宗兄さん!」

 

 

 

後ろから声を掛けられて振り向くとそこに紫音が立っていた。

 

 

 

秋宗「おう紫音、遊びに来たのか」

 

 

紫音「ウスッ。って何持ってんスか?」

 

 

 

軽く挨拶すると紫音が秋宗の持っている箱に食いついて覗き込んだ。

 

 

 

紫音「ブレスレットッスか?」

 

 

秋宗「あぁ、どういう訳か廊下に落ちててな」

 

 

 

箱からブレスレットを取り出してジッと見てみることにした。

見た感じは綺麗でいかにも新品らしさを漂わせていた。

 

見れば見る程ブレスレットのデザインに引かれてしまった2人は、

 

 

 

秋宗「・・・つけてみるか」

 

 

紫音「・・・そうッスね」

 

 

 

つい魔が差してしまいブレスレットをつけることにした。

秋宗は黒のブレスレットを右手首に、紫音はピンクのブレスレットを左手首につけた。

 

 

 

秋宗「似合ってるじゃないか紫音」

 

 

紫音「秋宗兄さんこそ似合ってるッスよ!」

 

 

 

互いにブレスレットが似合ってると褒めていると、

 

 

 

ブゥゥゥンッ

 

 

 

秋宗「ん?」

 

 

紫音「え?」

 

 

 

急に2つのブレスレットが青白く光り出した。

ブレスレットから蛇のように光が伸びて出会うかのように繋がった。

 

そして次の瞬間、

 

 

 

ギュゥンッ!!

 

 

 

秋宗「うおっ!?」

 

 

紫音「どわぁっ!?」

 

 

 

ガキィィィン!!

 

 

 

まるで磁石に引っ張られるかのように秋宗の左手首と紫音の右手首が勝手に動いて2つのブレスレットが金属の音を立てて当たった。

 

 

 

秋宗「な、何だ!?」

 

 

紫音「何が起きたんスか!?」

 

 

 

秋宗も紫音も何が起きたのか全く分からなかった。

急に自分たちの腕が動いてブレスレット同士が当たったのだから。

 

取り敢えず腕を離そうとすると、

 

 

 

秋宗「・・・ん?」

 

 

紫音「・・・あれ?」

 

 

 

2人とも怪訝な表情を浮かべてしまう。

離そうとしているがブレスレットがまるでくっついたかのように動かず、どんなに力を入れても全く離れる様子がなかった。

 

 

 

秋宗「これって・・・!?」

 

 

紫音「まさか・・・!?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

『せーのっ!!!!』

 

 

 

グイィィッ!!

 

 

 

場所は変わり大広間。

コガラシたちが集まり秋宗と紫音がつけたブレスレットを力ずくで離そうとしている。

秋宗にコガラシ・浩介・かるら・マトラ・呑子・朧がつき、紫音に幽奈・千紗希・狭霧・雲雀・夜々・こゆず・仲居さんがついてそれぞれ反対方向へ思いっきり引っ張るも、

 

 

 

秋宗「イタタタタッ!!」

 

 

紫音「もげるッス!腕がもげるッス!」

 

 

 

まったく外れず秋宗と紫音は苦痛の悲鳴を上げてしまう始末である。

これ以上やったら本当に腕がもげてしまいそうなためコガラシたちは引っ張るのをやめた。

 

 

 

マトラ「ダメだ、全然外れねぇ・・・」

 

 

幽奈「びくともしませんね」

 

 

夜々「取れないの」

 

 

 

何故2人がこのようなことになったのか、原因は浩介の発明品にあった。

秋宗と紫音がつけたブレスレットは浩介が朧に頼まれて作った発明品『コネクトリング』。

これをそれぞれ1人1つずつ手首に嵌めると互いの霊力をN極とS極のように磁力に変化させて手錠のように離れなくする効果がある。

霊力が大きい程引き付ける力も大きくなるため秋宗の大きい霊力が紫音の霊力を引き付けてしまい外れなくなってしまった。

 

 

 

浩介「ごめん2人とも、こんなことになっちゃって」

 

 

 

浩介は申し訳なさそうに秋宗と紫音に謝った。

 

 

 

紫音「別にいいッスよ、気にしてないッスから」

 

 

秋宗「それより早くこれ外してくれよ」

 

 

 

しかし秋宗も紫音も怒っておらず早く外してくれと浩介に言った。

コネクトリングを作った浩介なら外せる筈と思っていたが、

 

 

 

浩介「え~っと・・・じ、実はさ・・・僕にも外せないんだ・・・」

 

 

秋宗・紫音『・・・え?』

 

 

 

浩介が額に汗をかきながら目も泳いでいた。

秋宗と紫音はポカンとなってしまいどういうことなのだと思った。

 

 

 

狭霧「どういうことなのだ?」

 

 

浩介「これ、鍵とか何にもないから・・・磁力が弱くなるのを待つしかないんだ・・・多分、半日でほぼ磁力がなくなると思うんだけど」

 

 

 

半日、つまり約12時間。

2人がブレスレットをつけたのは午後の3時ごろ。

つまり、

 

 

 

呑子「ブレスレットが取れるのは明日の午前3時ごろってところかしら」

 

 

 

みんなを代表して呑子が大広間の時計を見ながらコネクトリングが外れる時間を当てた。

時間を聞いた紫音は、

 

 

 

紫音(ってことは明日の朝までこのままってことッスかぁ!?///)

 

 

 

今日はずっと秋宗と近距離で居なければならないと理解して顔が赤くなってしまう。

 

 

 

秋宗「ふざけんな浩介!今日ずっとこのままでいろってことか!?」

 

 

浩介「ホントにごめん!今度何か奢るから!」

 

 

秋宗「コガラシ!お前の拳でこれ壊せ!そんくらい出来るだろ!?」

 

 

コガラシ「出来るは出来るけどよ、壊したらお前はともかく轟が破片とかで怪我するだろ」

 

 

秋宗「あぁそっか、じゃあ・・・!」

 

 

 

何か方法がないかと頭をワシャワシャと掻き乱して考えるもまったく思いつかず、

 

 

 

秋宗「・・・仕方ねぇ、磁力がなくなるのを待つか」

 

 

 

コネクトリングの効果がなくなる明日の午前2時までこのままでいることを決めた。

 

 

 

かるら「まぁこやつらのことはそれで良しとして、少し聞きたいことがあるのじゃが?」

 

 

 

かるらはジロリとある人物に目線を移した。

 

それは、

 

 

 

朧「・・・何だ?」

 

 

 

コネクトリングが完成した原因を作った張本人、朧だった。

かるらから睨まれても朧はポーカーフェイスのまま動じなかった。

 

 

 

かるら「朧、お主平賀に頼んでこのブレスレットを作らせたそうじゃのう?」

 

 

朧「私はただ『冬空と常に共にいられるようにできる発明品を作ってくれないか?』と頼んだだけだ、別にやましいことは何も・・・」

 

 

かるら「お主のことじゃ!これを使うてコガラシ殿にやましいことをするつもりだったのじゃろうが!」

 

 

 

かるらは鬱憤を晴らすように朧の頬を上下左右に引っ張り回した。

コガラシたちも同じようなことを考えていた。

 

 

 

秋宗「にしてもこのリングすげぇ硬いんだが、何で出来てんだ?」

 

 

浩介「素材はロンズデーライトだけど」

 

 

秋宗「ロンズデーライト!?」

 

 

 

※ロンズデーライトとは地球上で2番目に硬い物質で『六方晶ダイヤモンド』とも呼ばれている。

 

 

 

千紗希「何でそんな物質で作ったの!?」

 

 

浩介「どうせなら硬く作った方がいいかな~?って感じで」

 

 

こゆず「匠の粋な計らいだ!」

 

 

雲雀「粋が良すぎるよ!」

 

 

マトラ「つーか改めて思うんだがスゲェよなコイツの技術力」

 

 

仲居さん「確かにそうですね、この前も壊れた洗濯機とか直してもらいましたし」

 

 

 

高度な霊能力専門の発明品に限らず家電製品の修理もこなせる浩介の腕にみんなは感心してしまう。

そもそもロンズデーライトなんてどこで手に入れたのだろう。

 

 

 

秋宗「まぁ今日だけの辛抱だし我慢するか、って紫音?どうした?」

 

 

紫音「///・・・」(モジモジ

 

 

 

頬を赤くしながら身体を揺らしている紫音を見て秋宗は疑問に思い声を掛けた。

紫音は口で何かモゴモゴ言っており何を言っているのか聞き取れない。

 

 

 

紫音「えぇっと///その、ッスね///・・・」

 

 

秋宗「なんだよ?言いたいことがあるなら言ってみろ」

 

 

 

困っている後輩を放っておけない秋宗は先輩として紫音の悩みを聞こうとした。

紫音は言うべきか黙っておくべきか悩むがとうとう観念してはっきり言葉にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫音「ト///トイレ、行きたいんス・・・!!///」

 

 

 

 

 

ピシッ・・・

 

 

 

紫音の発言によりその場の空気が一気に固まった。

当の本人は恥ずかしいあまりに涙目になっている。

 

本来ならここまで切迫詰まって言うことではないのだが、秋宗と紫音は今はコネクトリングで離れることが出来ない。

 

つまり今の段階で紫音がトイレに行くということは秋宗も一緒にトイレへ入らなければならないということ。

 

 

 

かるら「秋宗!///分こうとると思うが共に厠へ入ることは社会的に死を意味することになるぞ!///音を聞くだけでもお主は終わるぞ!///」

 

 

秋宗「分かってるわそんくらい!///」

 

 

夜々「でも秋宗も一緒に入らないと紫音がトイレに行けないの」

 

 

雲雀「じゃあどうするの!?」

 

 

紫音「ヒック・・・!///グスッ・・・!///」

 

 

千紗希「紫音ちゃん泣かないで!」

 

 

 

紫音はとうとう泣き出してしまい千紗希が必死になって慰めている。

一体どうすれば秋宗は助かり紫音はトイレに行けるのか考えていると、

 

 

 

幽奈「あっ!じゃ、じゃあこういうのはどうですか!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

しばらくして、

 

 

 

スゥッ

 

 

 

秋宗・紫音『///・・・』

 

 

 

秋宗と紫音、そして幽奈の3人がトイレから戻ってきたが、秋宗と紫音は顔を赤く染め互いに目を合わせないようにしていた。

 

 

 

かるら「・・・どうじゃった?」

 

 

 

恐る恐るかるらが幽奈に2人はどうなったか尋ねると、

 

 

 

幽奈「多分、大丈夫だと思いますよ、ですよね秋宗さん?」

 

 

秋宗「・・・あぁ///」

 

 

 

幽奈は大丈夫だと言うものの秋宗は少し元気がなく返答をした。

 

幽奈が立てた作戦はこうだった。

まず秋宗を目隠しさせて現場を目撃させないようにする。

次に紫音と一緒にトイレに入り幽奈が扉をすり抜けて秋宗の耳を塞いで音を聞こえなくさせる。

そうすれば秋宗は何も目撃せず何も聞かずで事なきことを得る。

秋宗も何も見えず何も聞こえずで問題はなかったが、

 

 

 

秋宗「俺もう、明日から学校に行けねぇよ・・・」

 

 

紫音「自分なんかもうお嫁に行けないッスよ・・・」

 

 

 

男女が一緒にトイレに入ったことがかなり効いてしまい2人は死んだ魚のような目をしていた。

このままでは鬱になってしまうことを恐れた浩介は急かさずフォローに入った。

 

 

 

浩介「大丈夫だよ秋宗くん!轟さんも!冷静になって考えてみてよ!冬空くんだって覗き魔の如く毎度毎度女の子の裸ばっかり見てるし!雨野さんに宮崎さんだって露出狂の如く冬空くんに裸見られてんだよ!それに比べれば大したことないって!」

 

 

コガラシ「オイ!」

 

 

 

フォローのためにディスられたコガラシは浩介に声を上げてしまう。

 

 

 

秋宗「・・・確かに、そう考えると」

 

 

紫音「自分ら、まだマシかもしれないッスね」

 

 

 

浩介の言葉にそれもそうだと思い秋宗と紫音は少し立ち直ることができた。

 

 

 

浩介「よかった、2人とも立ち直れて」

 

 

狭霧「それはそうと平賀浩介は後で話がある、いいな?」

 

 

浩介「・・・はい」

 

 

 

立ち直させるためとはいえディスられた狭霧の怒りは治まらず睨みを効かしており浩介は冷や汗を掻いている。

 

 

 

仲居さん「あっ!もうこんな時間!」

 

 

 

仲居さんが時計を見ると針は4時を差していた。

つまりは夕食を作らなければならない時刻である。

 

 

 

仲居さん「では私は夕飯の支度をしなければなりませんので皆さんはお先にお風呂に入っておいて下さいね」

 

 

 

そう言って仲居さんは厨房へ向かうために大広間から出て行った。

 

 

 

夜々「紫音はゆらぎ荘にお泊まりなの」

 

 

紫音「まぁそうなるッスね」

 

 

コガラシ「平賀も夕飯食べてけよ」

 

 

浩介「じゃ、じゃあ遠慮なく・・・」

 

 

こゆず「それなら浩介くん!七海ちゃんも呼んでよ!」

 

 

秋宗「絶対俺らのことイジってくるなアイツ」

 

 

 

今日の夕食は賑やかになりそうだとみんながワイワイ騒いでいると、マトラがあることに気がついた。

 

 

 

マトラ「・・・そういや秋宗たちって風呂どうすんだ?」

 

 

秋宗・紫音『え?・・・・・アッ!!///』

 

 

 

マトラに言われて秋宗と紫音はポカンとなるも一瞬で理解して再び顔が赤くなった。

繋がっている2人は離れることが出来ず今日は常に一緒に行動しなければならない。

それはつまり風呂も一緒に入らなければならないということ。

 

 

 

夜々「それなら大丈夫なの」

 

 

秋宗「夜々!?」

 

 

紫音「何か秘策でも!?」

 

 

 

自信満々に問題を解決出来ると断言する夜々に秋宗と紫音は期待の眼差しを向けた。

もしかしたら互いの裸を見ずに済むかもしれないからだ。

 

 

 

夜々「うららに頼んで転送用の霊札を持って来てもらうの、それなら服を簡単に脱げるの」

 

 

秋宗・紫音『・・・ん?』

 

 

 

夜々の解決策に秋宗と紫音は目を丸くしてしまう。

 

 

 

マトラ「アタシもそこを気にしてたんだよ。それなら何とかなるか」

 

 

呑子「そうねぇ。手が繋がってたら着替えられないもんねぇ」

 

 

朧「なら私が浦方から札を貰って来よう」

 

 

 

確かにブレスレットが繋がっている状態では服を脱ぐことが出来ないため転送用の霊札で服だけを転送させれば風呂に入ることが出来る。

マトラたちはこれで解決だと納得していたが、

 

 

 

秋宗・紫音((そ、それなんの解決にもなってねぇぇぇぇぇぇぇ!!///))

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~午後7時~

 

あの後服を脱いで何とか互いの裸を見ずに済み風呂に入れた秋宗と紫音。

風呂から上がって5分経つにも関わらずまだ顔が赤い2人。

見えていなかったとはいえ互いに近距離で布一枚纏わず風呂に入ってしまったのだから無理もない。

 

そして今は夕食の時間。

今日はエビフライで七海も呼んで浴衣に着替えたみんなは机を囲み談笑しながら食事をしている。

 

 

 

秋宗「んんっ・・・くそっ・・・」

 

 

 

利き手の右手が塞がっている秋宗は反対の左手で箸を持たざるを得ないため、何とかエビフライを取るもののすぐに皿へと落としてしまう。

そのため他のみんなよりも箸が遅い。

 

 

 

マトラ「秋宗、エビフライ食べないのか?」

(ヒョイッ パクッ

 

 

 

秋宗の皿の料理がまったく減っていないのに気がついたマトラは平然と秋宗のエビフライを箸で取り口へと運んだ。

 

 

 

秋宗「あっ!?何勝手に取ってんだよ姐さん!」

 

 

マトラ「なんだ食べるつもりだったのか、ワリィな」

 

 

 

秋宗は勝手に自分のエビフライを食べたマトラを筆跡するも彼女は軽く謝っただけだった。

 

 

 

紫音「・・・・・」

 

 

 

秋宗の悪戦苦闘している様子を隣で見ている紫音は自分が食べさせてあげればよいのではないかと考えた。

みんなの視線が集中してしまう可能性は大だが秋宗が可哀想なため食べさせることを決めた。

 

 

 

紫音「あの、秋宗兄さん・・・」

 

 

 

紫音が秋宗に声を掛けようとした時だった。

 

 

 

ビュンッ

 

 

 

秋宗「ムグゥッ!?」

 

 

 

突如エビフライが宙に浮き秋宗の口へと吸い込まれるように飛んでいった。

その正体は、

 

 

 

七海「オオカミさん、ちゃんと口開けなさい」

 

 

 

七海がポルターガイストで飛ばしていたのだ。

秋宗はエビフライを噛んでゴクンと呑み込んだ。

 

 

 

秋宗「いきなり何すんだよ!?」

 

 

七海「だってオオカミさん食べづらそうじゃない。それにこんな可愛い美少女からアーンしてもらえるのよ?むしろ喜びなさい」

 

 

雲雀「こんな愛情のないアーン初めてみるよ」

 

 

呑子「言われてみればそうねぇ~」

 

 

七海「ほら、つべこべ言わずに口を開けて」

 

 

 

七海が手を翳すと秋宗の茶碗と箸が浮かび、箸がご飯を取り秋宗の口へと運んでいった。

秋宗もこの方法が食べやすいためされるがままに口に入ったものを食べていった。

 

 

 

コガラシ「にしてもポルターガイストをこんなに器用に扱えるなんざスゲェな」

 

 

浩介「まぁ家でもテレビのリモコン操作したり片付けとかでも使ってるからね」

 

 

かるら「流石は家鳴、と言ったところよのう」

 

 

狭霧「だが行儀が悪すぎる。少しは自分の手を使え」

 

 

紫音「・・・・・」

 

 

 

七海のポルターガイストにコガラシたちが感心している中、コガラシにアーン出来なかった七海はトボトボとエビフライを食べるのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~午後10時~

 

ゆらぎ荘での秋宗の部屋、207号室では布団が2つ敷かれて1枚ずつに秋宗と紫音が横になっていた。

布団は引っ付けた状態で近距離でいるため一緒に寝ることになってしまったのだ。

 

 

 

秋宗「・・・ワリィな紫音、俺があんなこと言ったばかりに」

 

 

紫音「いいッスよ別に、もう過ぎたことなんで」

 

 

 

互いに目を合わさず天井を見上げたまま秋宗と紫音は話していた。

 

 

 

秋宗「・・・なぁ紫音」

 

 

紫音「なんスか?」

 

 

秋宗「お前さ、俺のこと嫌いじゃねぇのか?」

 

 

紫音「えっ?」

 

 

 

紫音は思わず秋宗の方を見てしまう。

 

 

 

秋宗「だってよ、お前の胸2回も揉んだりしたんだぞ?普通なら嫌いになるだろ?」

 

 

 

1回目は酔っ払った勢いの時、2回目はシャワークライミングの時で確かに紫音の胸を触ってしまっている。

しかし紫音は忘れたかのように秋宗と接している。

秋宗はどうしてもそこが附に落ちなかった。

 

 

 

紫音「ま、まぁ確かに秋宗兄さんには胸触られたりしたッスけど・・・///ほら!千紗希姐さんだってコガラシ兄さんに裸見られてようと接してるじゃないッスか!///それと同じッスよ!///」

 

 

秋宗「・・・そんなもんなのか」

 

 

 

当時のことを思い出し顔を赤くしながらも紫音は秋宗のことをまったく拒んでないと説明した。

秋宗はまだ納得できないところもあるがこれ以上は深く聞かないことにした。

 

 

 

紫音「それに・・・///なんたって、自分は秋宗のことが・・・///」

 

 

秋宗「何か言ったか?」

 

 

口をモゴモゴと動かしながらポロッと本音を溢してしまうが秋宗はよく聞き取れなかったため何を言ったのかと聞こうとするも、

 

 

 

紫音「い、いえ!///何でもないッス!///んじゃお休みなさいッス!///」

 

 

 

紫音は勢いよく布団を頭まで被り無理やりにでも寝ようとした。

秋宗も瞼が重くなってきたためそのまま眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

チュンチュン、チュン・・・

 

 

 

紫音「んん・・・」

 

 

 

スズメの鳴き声が聞こえそれを目覚ましにするかのように紫音はゆっくりと瞼を開いた。

窓から朝日の光が差し込み部屋を明るくしていた。

 

 

 

紫音「もう朝ッスか・・・あっ!そういやブレスレット・・・!」

 

 

 

眠気が吹き飛んだ紫音は上半身を起こして自分の左手を確認すると、秋宗と繋がっていたコネクトリングが離れ、それどころかリング自体も2人の手首から外れていた。

 

 

 

紫音「よかったッス~!もう外れたんスね!」

 

 

 

紫音は左手首をグルングルンと回しながら解放感を味わった。

秋宗はまだ眠っておりスゥ、スゥと寝息を立てていた。

 

 

 

紫音「秋宗兄さんはまだ寝てんスか・・・」

 

 

 

ここは秋宗を起こしてコネクトリングが外れたことを教えるべきだが紫音は無理に起こすのもどうかと思い秋宗が起きるのを待つことにした。

 

 

 

紫音「・・・・・・」

 

 

 

紫音は自分の左手を見ながら昨日の秋宗の右手の温もりを思い出した。

もうあんな長時間秋宗と手を繋ぐ?機会なんて滅多にないだろう。

そう考えてしまった紫音は、

 

 

 

紫音「も、もう少しだけ///もう少しだけなら、いいッスよね・・・?///」

 

 

 

紫音は再び布団へ横になり、横向けに眠っている秋宗の胸に顔を埋めた。

昨日と違い更に近距離にいるため秋宗の呼吸やら心臓の音などが聞こえており、紫音の心臓はバクバクの状態になっている。

 

 

 

紫音(万が一、秋宗兄さんが起きても///寝惚けてたって言えば///大丈夫な筈ッスから・・・!///)

 

 

 

離れたくない。

このまま一緒にいたい。

ずっとこの時間が続いてほしい。

 

いろんなことを思いながら紫音は好きな人が起きるまで近距離で接するのだった。




~オマケ~

一方、207号室の襖の向こうでは、


ジーーーーーーッ


七海「フフフッ、これはネタになるわ」


隙間から七海がビデオカメラを回して一部始終を録画していたのだった。


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第38話 暗躍する影

~ゆらぎ荘~ 午前7時

 

 

 

秋宗「ふわぁ~」

 

 

 

朝日が昇り眠気を堪えながらもアクビを漏らして秋宗は廊下を歩いていた。

顔を洗うために洗面所へ向かっているとコガラシたちが集まっていることに気がついた。

 

 

 

秋宗「何やってんだお前ら?」

 

 

幽奈「あ、秋宗さん、おはようございます・・・」

 

 

 

挨拶をした幽奈の表情は少し複雑で周りにいるコガラシたちの空気も少ししんみりしている。

そう感じた秋宗は絶対に何かあったのかと察した。

 

 

 

秋宗「仲居さん、何があったんすか?」

 

 

仲居さん「そ、それが・・・雲雀さんが、誅魔の里に帰ってしまったんですよ」

 

 

秋宗「・・・はぁ!?」

 

 

 

突然の朗報に秋宗は驚いて眠気も吹き飛んでしまった。

 

話によると厨房に雲雀が書いたであろう書置きが置かれており突然のことに仲居さんたちも驚いていた。

 

 

 

秋宗「アイツ俺らに何も言わないで出てったのかよ・・・!?」

 

 

 

雲雀は子供のように無邪気な所もあるが、突然理由も言わずこのこような行動を取るなど絶対にしない筈。

そう考えた秋宗は何か訳があると推測すると、

 

 

 

ガラララッ

 

 

 

浩介「おはようございまーす」

 

 

 

玄関の扉が開き浩介が挨拶をしてきた。

突然の朝からの訪問に秋宗たちは少し驚いてしまう。

 

 

 

秋宗「どうした浩介?こんな朝っぱらから?」

 

 

浩介「あのさ秋宗くん・・・雲雀さんいる?」

 

 

 

浩介は気まずそうな表情になりながら雲雀がいるかを聞いてきた。

秋宗たちはどうして雲雀のことを聞くのだろうと疑問に思ってしまう。

 

 

 

狭霧「・・・雲雀なら、誅魔の里に帰ったぞ」

 

 

秋宗の代わりに狭霧が雲雀のことを言うと、

 

 

 

浩介「・・・やっぱりか」

 

 

 

浩介は答えを分かっていたかのようにポツリと口から言葉を溢した。

 

 

 

こゆず「やっぱりって?」

 

 

浩介「へ・・・?あぁいや!いないならいいんだよ!朝早くにごめんね!じゃっ!」

 

 

 

まるで逃げるかのように浩介は慌てて扉を閉めてゆらぎ荘の階段を降りていった。

 

 

 

夜々「・・・怪しいの」

 

 

秋宗「やっぱそう思うか」

 

 

 

いつもと様子が違うことに気がついた夜々は目を細くして浩介が立っていたところを見た。

秋宗も浩介が雲雀のことを聞いてきたことに違和感を感じて雲雀が出ていったことに何か関係があるのではないかと推測した。

 

すると幽奈があることに気がついた。

 

 

 

幽奈「そ、そういえば!コガラシさんと狭霧さんと雲雀さんって昨夜一緒に任務行ってましたよね!?その時に浩介さんと何かあったのでは!?」

 

 

 

確かにコガラシたちは昨夜遅くまで妖怪退治の任務に行っていたためその時に何かあったのではないかと思ったが、

 

 

 

狭霧「い、いや、私も心辺りがまったくないんだ。それに、平賀浩介は昨夜の任務には動向していなかったんだ」

 

 

 

狭霧は即座に否定して浩介は関係ないだろうと主張した。

みんながどうしたものかと悩んでいると、

 

 

 

秋宗「・・・仕方ねーな」

 

 

 

秋宗が靴棚から自身の靴を取り履き出した。

 

 

 

幽奈「秋宗さん、どちらへ?」

 

 

秋宗「浩介に聞いてくる、アイツ絶対なんか知ってる筈だ」

 

 

 

爪先をトントンと踏んで玄関の扉を開き浩介を追いかけに行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、ゆらぎ荘の近くにある公園では、

 

 

 

浩介「はぁ~・・・」

 

 

 

浩介が1人ベンチに座りため息をついていた。

その表情は後悔と悩みが入り交じっている表情だった。

 

 

 

浩介「雲雀さん、本当に帰るなんて・・・」

 

 

秋宗「やっぱりなんか隠してたな」

 

 

浩介「!?」

 

 

 

慌てて浩介が顔を上げると目の前に秋宗が立っていた。

 

 

 

浩介「あ、秋宗くん・・・!」

 

 

 

浩介の顔からは一気に汗が流れ引きつった表情になっていった。

それを見て秋宗は少し笑ってしまう。

 

 

 

秋宗「大丈夫だ、別に隠してたことを怒るつもりはねぇよ」

 

 

 

秋宗はそう言って浩介の隣に座った。

 

 

 

秋宗「なぁ浩介、雲雀に何があったんだよ?」

 

 

浩介「・・・・・」

 

 

 

最後の最後まで話すか話さないか悩んだ末、浩介は観念して昨日何があったか話すことにした。

 

 

 

浩介「実はさ、昨夜雲雀さんに会ったんだけど・・・」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

時間が遡ること昨夜の午後10時。

 

 

 

浩介『うわ~、夜ってこんなに暗かったっけ?』

 

 

 

暗い夜道を浩介が1人歩いていた。

 

本来なら今日は狭霧たちと一緒に任務に行く筈だったのだが、学校に提出する課題を明日までに提出しなければならないためそれを優先することにして同行しなかった。

そして課題を終わらせた浩介はジュースを買うためにコンビニに行った帰りで夜中の町を歩いている。

 

 

 

浩介『悪霊が出る前に早く帰んないと・・・ん?』

 

 

 

歩いていると向こうのバス停の前に誰かが立っているのが見えた。

一体誰だろうと目を凝らしてよく見てみると、

 

 

 

浩介『雲雀さん・・・?』

 

 

 

そこに立っていたのは雲雀だった。

今日の任務が終わってその帰りなのかと思い浩介は雲雀に声をかけた。

 

 

 

浩介『こんばんは雲雀さん』

 

 

雲雀『ッ!平賀、くん・・・』

 

 

 

声を掛けられた雲雀は肩をビクッと震わすも浩介と分かり少しホッとした表情になった。

 

 

 

浩介『任務の帰り?ごめんね今日来れなくて・・・』

 

 

雲雀『う、ううん!大丈夫だったよ!』

 

 

 

雲雀は申し訳ない表情になっている浩介に笑顔で気にしないでと言った。

 

 

 

浩介『にしてもこんなとこで何やってんの?それにその荷物・・・』

 

 

 

浩介は雲雀が背負っている大きめのリュックに視線を移した。

こんな時間に大きな荷物を背負い、オマケにバス停前に立っているのだから何ごとなのだろうと疑問に思ってしまう。

聞かれた雲雀は顔を伏せたまま声を震わせてこう答えた。

 

 

 

雲雀『・・・雲雀ね、誅魔の里に帰るんだ』

 

 

浩介『え?・・・あぁ帰省ね。今週戻るんだ』

 

 

雲雀『ううん、帰省じゃなくて・・・もう、この町には戻って来ないんだよ』

 

 

浩介『へぇ~そうなんだ~・・・えぇっ!?』

 

 

 

突然のカミングアウトに浩介は驚いて声を上げてしまう。

何の予告もなしにいきなり帰ると言われれば浩介でなくとも驚いてしまう。

 

 

 

浩介『な、何で急に!?秋宗くんたちは知ってたの!?』

 

 

雲雀『言ってないよ、さっき決めたから』

 

 

浩介『さっき!?』

 

 

 

トントン拍子にとんでもない事態へ進んでいることに浩介は頭の整理が追いつかなかった。

 

 

 

浩介『ちょっと待って雲雀さん!せめて何かあったかだけでも説明してよ!』

 

 

 

理由もなく雲雀がこんな行動を取ることに理解できない浩介は納得がいく理由を説明してほしかった。

 

そして雲雀は何があったかを言うことにした。

 

 

 

雲雀『・・・雲雀ね・・・コガラシくんに、告白したの・・・!』

 

 

浩介『・・・はい!?』

 

 

 

2つ目のカミングアウトに浩介は再び声を上げてしまう。

 

雲雀の話によると、任務の終わりに雲雀はコガラシと2人きりになり思いきって告白をした。

ずっと自分だけを見ていてほしいと気持ちを伝えたまでは良かったのだが、なんとコガラシはフッてしまったのだった。

フラれた雲雀は咄嗟にコガラシから逃げるように逃げてしまいこのまま一緒に居てもとても複雑な気持ちになってしまうため誅魔の里へ帰ることにしたのだった。

 

 

 

浩介『そんなことがあったんだ・・・』

 

 

 

雲雀の顔をよく見てみると目の周りが赤くなっており先程まで泣いていたのが理解できた。

 

 

 

雲雀『でもいいんだ!もう終わったことだから!』

 

 

 

雲雀が見せる笑顔は浩介から見れば悲しさを無理やり隠すための笑顔にしか見えなかった。

 

 

 

浩介『・・・あのさ雲雀さん、僕から雲雀さんの事情をとやかく言う筋合いはないけどさ・・・逃げるのは駄目なんじゃないかな?』

 

 

雲雀『・・・え?』

 

 

 

浩介の発言に雲雀は目を丸くしてしまう。

 

 

 

浩介『確かに好きな人からフラれるってのは凄く辛いことだと思うよ。けどさ、そこから逃げるだけじゃ何も解決しないと思うよ』

 

 

雲雀『・・・・・・』

 

 

 

任務の仲間として、友人として、浩介は雲雀が誅魔の里へ帰らないように説得をした。

人生は辛いことが必ず待ち受けている。

だからこそ、それと向き合っていかねばならない。

 

 

 

浩介『つまりさ、たかが1回フラれたくらいで諦めるんじゃなくて、何度も積極的に冬空くんにアピールすれば・・・』

 

 

雲雀『1回、フラれたくらい・・・?』

 

 

浩介『ひ、雲雀さん・・・?』

 

 

 

顔を伏せていた雲雀が突然肩をプルプルを震わせてギリギリと握り拳を作ったため、浩介はどうしたのかと疑問に思った。

そして次の瞬間、雲雀はバッ!と顔を上げて、

 

 

 

雲雀『平賀くんに何が分かるの!?知ったかぶりで好き勝手言わないででよ!!それにたかが1回フラれたくらい!?フラれたこともないくせによくそんなこと言えたね!!雲雀にとっては凄く悲しいことなんだよ!!もう雲雀のことなんかほっといてよ!!』

 

 

 

まるで鬱憤を晴らすかのように大声で浩介に怒鳴った。

フラれた辛さを体験していない浩介に涙を流しながら心の中で思ったことを洗いざらいぶつけた。

今までこんなに怒った雲雀を見たことない浩介は何も言い返すことができなかった。

 

 

 

ブロロロ・・・ プシュー

 

 

 

そこへ2人を仲裁するかのようにバスが到着してドアが開いた。

 

 

 

雲雀『・・・じゃあね!』

 

 

 

一刻も早くこの場を立ち去りたいが為か、逃げるかのように雲雀はバスへと乗り込んだと同時にドアが閉まり走り出した。

 

 

 

浩介『・・・・・雲雀さん』

 

 

 

浩介は茫然としたまま雲雀を乗せたバスを見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

秋宗「なるほど・・・」

 

 

 

時は戻り現在、浩介から事情を聞いた秋宗は腕を組んで険しい顔になっていた。

事情は把握したものの事態はとても深刻なものとなっているためどうしたものかと悩んでしまう。

 

 

 

浩介「あ~もう!僕があんなこと言わなければ!何で僕は女の子のデリカシーを考えなかったんだろう!」

 

 

 

頭を抱えて後悔を口に出して浩介はひどく落ち込んでしまう。

もしあの時違う言葉をかけていれば雲雀を留めることができたかもしれないのにどうしてあんなことを言ってしまったのだろうと後悔の気持ちが強くなっていた。

 

 

 

秋宗「元気出せって。浩介は何も悪くねぇよ」

 

 

 

しかし秋宗は浩介を責めることもなく励ました。

浩介は別に悪気がなかったことを理解している秋宗は責めるようなことはしなかった。

 

 

 

秋宗「悪いのはそこに隠れてる女のデリカシーのデの字も知らないやつだ」

 

浩介「え?」

 

 

秋宗が数メートル先の木に言葉を投げ掛けると、

 

 

 

コガラシ「・・・・・」

 

 

狭霧「・・・・・」

 

 

 

なんと木の後ろからコガラシと狭霧が出てきた。

浩介の様子がおかしいことが気になった2人はこっそり秋宗の後を追っていたのだが秋宗の嗅覚で見つかってしまった。

 

 

 

浩介「冬空くん、雨野さんまで・・・」

 

 

 

当事者のコガラシが来たことにより、その場の空気が一気に重くなってしまう。

 

 

 

狭霧「平賀浩介、今の話は本当なのか・・・!?」

 

 

浩介「いや冬空くんに聞けばいいじゃん」

 

 

秋宗「で、どうなんだコガラシ?」

 

 

コガラシ「・・・全部本当だ」

 

 

 

問い詰められたコガラシは隠すこともなくあっさり答えた。

 

 

 

浩介「ちなみに聞くけど、何でフッたの?」

 

 

 

浩介から見て雲雀にフラれる要素がまったく分からない浩介は何故雲雀をフッたのかコガラシに恐る恐る聞いた。

 

 

 

コガラシ「・・・雲雀はいいヤツだし好きだけど、これが恋なのかどうなのか、はっきり言えねぇ。そんなあやふやな気持ちで付き合うってのは違うって気がしたんだ・・・」

 

 

狭霧「・・・そうか」

 

 

浩介「それは、確かにそうかもしれないけど・・・」

 

 

 

コガラシの言うとおり、相手のことを心から愛してるのか否か分からない状況で付き合うのは相手にとっても失礼だと狭霧と浩介は納得してしまう。

しかし秋宗は「はぁ~」とわざとらしく大きなため息をついた。

 

 

 

秋宗「だとしてもだ。返事をすぐに出さなくても『考えさせてほしい』って言って雲雀のことをどう思ってんのか深く考えてから答えを出しても良かったんじゃねぇのか?」

 

 

コガラシ「それでも、答えは同じだったと思う。それに、答えはすぐに出しとかねぇと、雲雀に失礼だろ」

 

 

 

秋宗の言うことも一理あるが返事を先延ばしにするのはかえって逆効果になってしまうかもしれない。

だからコガラシはすぐに返事を出したのである。

 

 

 

浩介「秋宗くん、これからどうしよう・・・?」

 

 

 

浩介は秋宗に雲雀のことをどうするか聞いてみた。

 

 

 

秋宗「放っておくしかねぇよ。これはコガラシと雲雀の問題なんだ。蚊帳の外の俺らが口出ししたところで意味ねぇさ」

 

 

狭霧「・・・そうだな、雲雀はしばらくそっとしておこう」

 

 

浩介「う、うん・・・」

 

 

コガラシ「・・・・」

 

 

 

昨夜みたいに励ましの言葉をかければかえって逆効果になってしまうため秋宗たちは口出ししないことにした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、誅魔の里の雨野家の一室では、

 

 

 

雲雀「・・・・・」

 

 

 

部屋の隅で雲雀が体育座りをして顔を伏せていた。

昨夜のコガラシにフラれたこともかなりのダメージを受けており、起きてからずっとこの調子である。

 

 

 

雲雀「はぁ・・・雲雀、平賀くんに、ひどいこと言っちやった・・・」

 

 

 

今思えば浩介は自分を励まそうとしてしただけなのに、冷静さを失って好き勝手浩介に言ってしまったと深く落ち込んでいた。

浩介を誅魔忍軍に率いれる任務を全うしているというのに自分のせいで浩介が身を引いてしまうと責任も感じていた。

 

 

 

雲雀「・・・このままじゃダメだ!」

 

 

 

雲雀は立ち上がり両手で頬をパン!と叩いて気持ちを切り替えた。

今さら思ったところで後の祭り。

コガラシのことは綺麗さっぱり忘れていかなければと決心した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~湯煙温泉郷~ 午後4時

 

空が赤くなっている時間帯、温泉郷の神社では骨董市が行われていた。

骨董市というだけあって、いかにも高そうな壺や皿、掛け軸などが売られていた。

 

その中を狭霧と浩介は一緒に歩いていた。

今日の任務は異常がないかの見回りで至極簡単な任務をこなしている。

 

 

 

うらら『2人とも、状況はどうや?』

 

 

浩介「今のところ、異常はないよ・・・」

 

 

狭霧「こっちは大丈夫だ・・・」

 

 

 

霊視通信でうららから連絡が入り浩介と狭霧は異常なしと答えるも雲雀のことが気になっているせいかいつもより元気がなかった。

 

 

 

浩介「・・・ねぇ雨野さん」

 

 

狭霧「何だ・・・?」

 

 

浩介「雨野さんってさ、雲雀さんのことどう思ってるの?」

 

 

 

浩介の突然の質問に狭霧は首を傾げてしまう。

 

 

 

狭霧「どうとは?」

 

 

浩介「いや、なんて言うか、心配してないのかなー?って思ったからさ」

 

 

狭霧「・・・確かに雲雀のことは心配だ。しかし西条秋宗も言ってただろ?私たちが口出ししたところでどうにもならん、今はそっとしておくのが1番だ」

 

 

 

従姉妹として雲雀のことは心配だが今さらどうこうできる訳もないため狭霧は事が治まるまで待つことにした。

 

 

 

浩介「・・・そういえばさ、雨野さんと雲雀さんって、冬空くんと結婚する任務があるって浦方さんから聞いたんだけど」

 

 

狭霧「ッ!?話したのかうらら!?」

 

 

うらら『ス、スマンな!つい口が滑ってしもうて!』

 

 

 

霊視通信越しにうららは慌てて狭霧に謝った。

ちなみに浩介を誅魔忍軍に率いれる任務は喋っていないため浩介にはまだバレていない。

 

 

 

浩介「けどさ、雲雀さんは任務とか関係なしに、本当に心から冬空くんのことが好きだったんだと思うよ」

 

 

 

もし任務だったらあそこまで泣く訳がないと思った浩介は雲雀が本当にコガラシのことを好きだったのだと理解していた。

狭霧もそこは薄々感じていたが任務の時間を無駄にする訳にもいかないため、

 

 

 

狭霧「この話は終わりだ。任務を続けるぞ」

 

 

 

見回りを再開しようとしたその時だった。

 

 

 

「うわぁーーーー!!」

 

 

「きゃーーーー!!」

 

 

狭霧・浩介『!?』

 

 

 

突如悲鳴が聞こえてきたため狭霧と浩介が悲鳴の方を見ると、なんとそこには江戸時代に使われていそうな大きな鋏が浮いており握る箇所には黒い火が灯っていてまるで目がついているかのようだった。

大きな鋏はブンブンと動いて辺り構わず暴れていた。

 

 

 

狭霧「妖怪だと!?うらら!」

 

 

うらら『分かっとる!今解析中や!』

 

 

 

鋏の妖怪の正体を知るためにうららは急いで情報を集めていた。

そんなことなどお構い無しに妖怪は骨董品を次々に壊している。

 

 

 

コンッ・・・

 

 

 

「!」

 

 

 

すると妖怪に何かが当たり何が当たったか確認すると地面に石がコロコロと転がっていた。

この石を誰かが自分にぶつけたと理解した妖怪は辺りを見渡すと前方に何かを投げた後の体制になっている男を見つけた。

 

その男とは浩介だった。

 

 

 

浩介「こっちだ!」

 

 

 

人に被害が及ぶ前に妖怪をなるべく遠くへ引き付けようと浩介は森の中へと走っていき、妖怪も追いかけるように森へと入っていった。

 

 

 

狭霧「平賀浩介!なんという無茶を!」

 

 

 

浩介を助けるために狭霧も森の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

浩介「ハッ!ハッ!ハッ!」

 

 

 

暗い森の中を浩介は必死になって走っていた。

後ろを見ると黒い炎が見えてちゃんと妖怪が自分を追いかけていると理解した。

自分でも馬鹿なことをしたと少し後悔するものの周囲の人たちから注意を反らせたと少し安心した。

 

しばらくすると木が生えていない広い場所へ着き浩介は立ち止まり振り向いた。

奥から浩介に追い付いた妖怪が飛び出してきた。

 

 

 

浩介「ここまで来れば大丈夫な筈・・・!」

 

 

 

浩介は持っていたアタッシュケースを開けてあるものを取り出したその時、

 

 

 

シュンッ! スタッ

 

 

 

狭霧「1人で無茶をするな平賀浩介!」

 

 

 

木から狭霧が飛び出してクナイを構えて浩介の隣へ降り立った。

しかし狭霧の姿はさっきとうってかわって私服から黒い全身タイツを身に纏っていた。

 

狭霧が身に纏っているタイツは霊装結界。

肉体的なダメージや呪いなどを防ぐことができる代物でダメージを受けると痛みは来ないが代わりにランダムで何処かが破けてしまうものである。

身体のラインが露になっており、浩介は初見でかなり慌てふためいてしまったものの何度も狭霧と任務を同行したおかげで今ではすっかり慣れていた。

 

 

 

浩介「ごめん雨野さん・・・!」

 

 

狭霧「分かってるなら構わな・・・貴様一体何を持っているのだ?」

 

 

 

狭霧は浩介が持っているものを見て思わずゾッとしてしまった。

何故ならそれはショットガンだったからだ。

 

 

 

浩介「大丈夫。これは対妖怪・悪霊用に作った発明品だから」

 

 

 

いつも使っている霊砲バズーカは威力は高いものの霊力の消費の効率が悪いため試作としてショットガン形状のものを作ったのである。

使用者の霊力を消費しないがデメリットとして霊力がこもった弾を込めなければならない。

 

 

 

狭霧「それならハンドガンとかの方が効率がいいだろ」

 

 

浩介「だって僕ターミネーター好きなんだもん」

 

 

狭霧「ターミネーターが好きだという理由でショットガンにしたのか!?」

 

 

浩介「いいじゃん別に、ッ!危ない!」(ドンッ!

 

 

 

2人によるコントに痺れを切らした妖怪が突っ込んできたことに気づいた浩介は咄嗟に狭霧を突き飛ばした。

おかげで妖怪は2人の間を通り過ぎただけで空振りに終わってしまった。

 

 

 

狭霧「す、すまん!助かった!」

 

 

浩介「浦方さん!何の妖怪か分かった!?」

 

 

うらら『まだ解析中やけど切られると何かしらの呪いを受けるみたいや!』

 

 

 

うららはまだ特定出来ていないものの判明した限りの情報を狭霧と浩介に説明をした。

 

 

 

狭霧「下がっていろ平賀浩介!生身の貴様では攻撃を受けてしまえば確実に呪いを受けてしまう!」

 

 

浩介「分かった!じゃあ僕は後方支援ってことで!」

 

 

 

狭霧が前に出て近距離で攻撃を与え浩介はショットガンで援護をするコンビネーションがいい役割で妖怪を倒すことにした。

 

まず狭霧が飛び出して妖怪に目掛けてクナイを振り下ろした。

キィィィン!と金属がぶつかる音が響き妖怪は諸に攻撃を受けてしまう。

お返しと言わんばかりに妖怪も狭霧に攻撃をかまそうとするものの、

 

 

 

ズドォン!!

 

 

 

ショットガンを構えた浩介が妖怪に弾を打ち込みその反動でよろめいてしまう。

 

まだ数分も経っていないにも関わらず妖怪はヨロヨロとふらついており明らかに限界が近い状態になっていた。

 

 

 

浩介「なんとかいけそうだね!」

 

 

狭霧「あぁ!だが油断するな!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

???「フ~ン?アレがアメノサギリとヒラガコウスケ・・・」

 

 

 

狭霧と浩介が妖怪を倒している光景を離れたところから見ている人物がいた。

森の影で容姿までは見えないがカタトコの日本語口調で喋っている。

 

 

 

???「サワギが起コテタから来テミタラ、アノ2人がイタから少シ驚キネ・・・ソレニシテモ2人トモ中々強クテイイ連携ネ」

 

 

 

狭霧と浩介の戦いぶりをその人物は評価していた。

妖怪もあと一歩で倒せる状況になっていた。

 

 

 

???「デモコノママ終ワテモツマラナイネ。ワタシが少シ面白クシテアゲルヨ」

 

 

 

そう言ってその人物は人差し指と中指を立ててボソボソと何かを呟いた。

 

 

 




感想のほどよろしくお願いいたします。


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第39話 断ち切る絆

狭霧と浩介が鋏の妖怪をあと一歩の所まで追い詰めた時だった。

 

 

ガサガサッ

 

 

浩介「ッ!?気をつけて雨野さん!何かいる!」(ガチャッ

 

狭霧「何!?」

 

 

突然茂みから音が聞こえて浩介は反射的にショットガンの銃口を向けた。

狭霧も目の前の妖怪を警戒しながらも茂みの方へ視線を向けた。

 

 

ガサガサッ ガサガサッ

 

 

茂みからの音は徐々に大きくなっていき、そしてそれは姿を現した。

 

 

???「・・・・・」

 

 

現れたのは黒い何かだった。

全長はおそらく50センチ程度。

球体を半分に切った形状で2つの黄色い目がついている。

最大の特徴は漆を塗ったかのように艶々に輝いておりゼリーのようにプルプルと揺れている。

 

 

狭霧「・・・何だあれは?」

 

浩介「分かんないけど・・・黒いスライム?」

 

 

現れたのがあまりにも予想外すぎたため狭霧と浩介もリアクションに困ってしまう。

黒い何かは辺りをキョロキョロと見渡すと鋏の妖怪が視界に入った。

 

しばらくジーッと見た次の瞬間、

 

 

???「!!」(バッ

 

狭霧「なっ!?」

 

浩介「えぇっ!?」

 

 

突如妖怪へと飛び込んだと同時にまるでアメーバのように体の体積を広げた。

 

 

ベチャッ!!

 

 

そして妖怪を包み込みその場に落ちた。

妖怪が足掻いているのか、黒い何かを内側から切ろうとしているようだが中々抜け出せそうになかった。

 

 

狭霧「うらら!何だあの黒いのは!?どうなっている!?」

 

うらら『ウチにも分からんわ!取り敢えず解析してみるわ!』

 

浩介「まさか、食べてるんじゃ・・・!?」

 

 

突然の出来事に狭霧も浩介もうららも理解が追い付かなかった。

そんなことなど余所に黒い何かの動きがピタリと止まった。

中にいる妖怪も出ることを諦めたのかまったく動く気配がなかった。

狭霧と浩介は警戒をしながらそれぞれ武器を構えた。

 

その時だった。

 

 

ブシャァァァァァッ!!!!

 

 

狭霧・浩介『!?』

 

まるで噴水の如く黒い何かから液体が吹き出して先程呑み込まれた鋏の妖怪が現れた。

狭霧と浩介は鋏の妖怪の姿を見て唖然となってしまった。

先程の様子とはまったく異なり、刃も獣の歯のように鋭利になっており禍々しい霊力が溢れ出ていた。

今まで食らっていたダメージなど忘れていたかのようにピンピンしており今にでも襲い掛かってきそうな様子だった。

 

 

狭霧「何だあれは!?」

 

浩介「なんか凄くヤバい状況になってんだけど!?」

 

うらら『気ぃつけや2人とも!霊力が桁違いに上がっとるで!』

 

 

一気に形勢逆転へと追い込まれてしまうものの狭霧と浩介はここで妖怪を倒さなければならないと考えた。

もしここで撤退したり逃がしたりしてしまえば街の人たちが危険に晒されてしまうから。

 

 

ズドォン!!

 

 

先手必勝と言わんばかりに浩介が弾丸を撃ち込むも、

 

 

「・・・・・」

 

 

まったく効いている様子ではなかった。

 

 

浩介「そんな!?」

 

 

さっきまで効いていたのに急に効かなくなってしまい焦燥の顔になっていた。

妖怪はその隙を見逃さず一気に浩介との間合いを詰めて刃を振り下ろした。

 

 

ギィィィン!!

 

 

狭霧「くっ!」

 

 

しかし狭霧が咄嗟に浩介と妖怪の間に入りクナイで刃を受け止めた。

ギギギッと金属が擦れる音が響く中、

 

 

ガキィィィン!!

 

 

狭霧「ぐぁぁぁ!?」

 

浩介「雨野さん!」

 

 

妖怪は力任せに刃を振り下ろしクナイごと狭霧を斬りつけた。

斬られた箇所は破けて肌が露になった。

このままではマズイと思った浩介は妖怪に霊力爆散装置を投げつけると、

 

 

ドカァァン!!

 

 

凄まじい爆発が起こった。

狭霧と浩介は爆風で飛ばされてしまうも妖怪と距離を取ることができた。

 

 

浩介「ゲホゲホ!ごめん雨野さん!アイツと距離を取るにはこれしか思いつかなくて・・・!」

 

狭霧「気にするな・・・!はぁ、はぁ、むしろ、助かったぞ・・・!」

 

 

フラフラに立ち上がりながら爆発が起きた場所を見ると煙から妖怪が飛び出した。

握る箇所に少しヒビが入っているだけでなんともない様子だった。

 

 

うらら『2人とも!あの黒いヤツの正体が分かったで!』

 

狭霧「本当か!?」

 

 

狭霧と浩介はうららの言葉に耳を傾けた。

何か突破口が見つかるかもしれないと思い話を聞くことにした。

 

 

うらら『あの黒いヤツの正体はべたべたや!』

 

浩介「べ、べたべた・・・?」

 

うらら『べたべたは人間や動物、はたまた妖怪を呑み込んで狂暴化させてしまうんや!』

 

 

つまり先程の黒い何か、べたべたは妖怪を食べたのではなく妖怪を呑み込んで狂暴化させたのだった。

 

 

狭霧「べたべたの弱点は!?」

 

うらら『べたべた自体の攻撃力はそこまで高くはないんやけど、べたべたが何かを呑み込んだらソイツごと倒すしか方法がないんや!』

 

浩介「ってことは現段階で突破口は、無い・・・?」

 

 

べたべたはもう既に妖怪を呑み込んで狂暴化させているため妖怪ごと倒すしか方法がない。

狭霧と浩介は苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。

 

 

うらら『せやけどまだ勝つ見込みはあるで!べたべたが呑み込んだ妖怪の正体さえ分かればソイツの弱点を狙えば大丈夫や!ウチも急いで解析するから2人とも頼むで!』

 

狭霧「・・・あぁ分かった。どちらにせよコイツはここで食い止めねば!」

 

浩介「そうだね・・・!」

 

 

まだ勝機は無くなってはいない。

狭霧と浩介は再び妖怪と戦闘を繰り広げた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

???「マサカ、ベタベタ1匹に苦戦スルナンテ、アノ2人タイシタコトナイネ。折角コノ小サナ島国に来タノ二、コレジャ拍子抜ケヨ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、誅魔の里にいる雲雀はコガラシのことを綺麗さっぱり忘れようと友人の巴と葉月と共にショッピングを楽しんでいる。

最初は普通にショッピングを楽しんでいたのだが、

 

 

雲雀「うぅっ・・・!ぐすっ・・・!」

 

巴「雲雀・・・!?」

 

 

突然涙を流してしまい巴と葉月が慰めていた。

今までのコガラシとの思い出が走馬灯のように頭の中に写り込んでいき忘れようにも忘れられなかった。

そして昨日浩介が言っていたことを思い出した。

 

 

 

 

 

浩介『確かに好きな人からフラれるってのは凄く辛いことだと思うよ。けどさ、そこから逃げるだけじゃ何も解決しないと思うよ』

 

 

 

 

雲雀(平賀くんの言う通りだった!こんなことしても、コガラシくんのことを忘れられる訳がないって・・・!でもどうすればよかったの!?どうすれば・・・!?もう分かんないよぉ・・・!)

 

 

いつの間にかコガラシのことをこんなに好きになっていたのかと雲雀は自分でも驚いてしまう。

コガラシのことが頭からまったく出て行かない雲雀はどうすればいいのだろうと切羽詰まった時だった。

 

 

うらら『雲雀!?聞こえるか雲雀!?』

 

雲雀「!?」

 

 

突然雲雀の頭の中にうららの声が聞こえてきた。

 

 

雲雀「う、うららちゃん!?どうしたの急に!?」

 

巴「雲雀!?」

 

葉月「あ、もしかして霊視通信!?」

 

 

雲雀だけにか聞こえていないためか、巴と葉月にはうららの声が届いていなかったがすぐに霊視通信だと理解した。

 

 

うらら『キツイ時に堪忍な・・・!狭霧と平賀くんがピンチなんや!』

 

雲雀「えっ!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

場所は戻り森の中。

 

 

浩介「ガァッ!?」(ズダァン!

 

狭霧「グッ!?」(ズダァン!

 

 

狭霧と浩介は妖怪に吹き飛ばされて木に叩きつけられていた。

あれから10分は経過しているものの、まったく突破口が見つからず防戦一方を強いられている。

狭霧の霊装結界もボロボロになり浩介の霊力補給装置も使いきってしまい圧倒的に不利な状況に陥っている。

そこでうららはコガラシや秋宗、雲雀たちに打診して駆け付けさせるようにした。

 

 

狭霧「何ということだ・・・!」

 

浩介「べたべたに呑み込まれると、こんなに強くなるなんて・・・!」

 

 

息切れが激しい2人の体力は見るまでもなく限界に陥っていた。

しかし決して諦めることなく武器を強く握りしめた。

 

 

うらら『2人とも!すぐに雲雀がそっちに来る!それまでもう少しの辛抱やで!』

 

狭霧「何!?」

 

浩介「雲雀さんが!?」

 

 

うららの言葉に狭霧と浩介は耳を疑ってしまう。

 

何故雲雀がすぐに来られるのかというと狭霧の元へ転送できる緊急用の霊符を持っているため、それを思い出したうららは苦汁の選択として雲雀にここへ来させるように促したのだった。

 

 

狭霧「うらら!雲雀の気持ちを考えろ!」

 

浩介「そうだよ!雲雀さんはそれどころじゃ!」

 

うらら『そんな気ぃ遣える状況ちゃうやろ2人とも!』

 

 

狭霧と浩介は雲雀のことを考えて来させない方がいいとうららに抗議した。

しかしそれが妖怪にとって好機となってしまった。

 

 

キィィン!!

 

 

浩介「あっ!?」

 

 

妖怪は浩介との間合いを詰めてショットガンを弾いた。

ショットガンは浩介の手から離れて遠くへと転がってしまい、浩介は丸腰になってしまった。

そして妖怪は刃を大きく開いて浩介を切ろうとした。

 

 

狭霧「平賀浩介!」

 

浩介(あ、もうダメだこれ・・・!)

 

 

回避は出来ないと理解してしまった浩介は覚悟を決めて目を瞑ったその時だった。

 

 

ギャリィンッ!!

 

 

転送霊符で来た雲雀が浩介の前に立ち手裏剣を手に妖怪に攻撃を食らわした。

不意討ちを受けた妖怪は堪らず3人から距離を取ってしまう。

 

 

浩介「あ、ありがと、雲雀さん・・・!」

 

狭霧「助かったぞ・・・!」

 

雲雀「早く倒しちゃお!」

 

 

雲雀は狭霧と浩介に背中を向けたまま妖怪と対峙した。

 

 

うらら『みんな!べたべたが呑み込んだ妖怪が解析できたで!』

 

 

解析が終わったうららは3人にどんな妖怪かを伝えた。

 

 

うらら『妖怪の名は縁切鋏!その呪いを受けたら想い人との縁を断ち切られて二度と会えんようになる!』

 

狭霧・浩介『!?』

 

雲雀(ッ!?コガラシくんに、二度と会えなくなる・・・!?)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

???「今度はアメノヒバリが来タネ。マァゼイゼイワタシを楽シマセテヨ」

 

 

 

 

 




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第40話 想いを力へ

呑み込んだものを狂暴化させる妖怪、べたべたに呑み込まれた妖怪に苦戦している狭霧と浩介逃れ元に雲雀が駆け付けた。

そして妖怪の正体は切った人の想い人との縁を断ちきる縁切鋏だった。

 

 

雲雀「縁を断ち切るって、どうなるの・・・!?」

 

 

呪いを受けると実際にどんな影響が出るのかピンと来ない雲雀はうららから詳しく聞いてみた。

 

 

うらら『仲井さんの運勢操作知っとるやろ?アレみたいにありとあらゆる不可抗力が働いて、二度と想い人に関わることができんようになる呪いや。顔を見ることも、声を聴くことも、手紙を受け取ることすらな・・・!』

 

浩介「こんな時になんて妖怪が出て来るんだ!」

 

 

コガラシにフラれて心に傷を負っている雲雀の前にタイミングが良すぎるかのように縁を切る妖怪が現れたため浩介は疲れながらも苛立ちを露にした。

呪いのことを聞いた雲雀はあることを思いついた時、

 

 

グルンッ

 

 

縁切鋏が大きく回転させて、

 

 

ギュルルルルッ!!

 

 

雲雀「!?」

 

 

まるでブーメランのように高速で回転して雲雀目掛けて突っ込んで来た。

 

 

ギャリギャリギャリギャリッ!!

 

 

雲雀は咄嗟に手裏剣を盾にして縁切鋏の攻撃を防いだものの徐々に押されていってしまっている。

 

 

狭霧「早く霊装結界を纏え雲雀!この妖怪はべたべたという別の妖怪の影響で強力になっている!私たちにはもう霊力が・・・!」

 

うらら『生身で縁切鋏の攻撃を受けたら縁を切られてまうで!』

 

浩介「霊力補給装置も使いきってもうないんだ!だから急いで・・・!」

 

 

縁切鋏との戦いでダメージと疲労が蓄積した狭霧と浩介はその場に膝をついてしまう。

今この状況でまともに戦えるのは雲雀だけのため、2人はできるだけの情報を雲雀に教えた。

 

 

ガンッ!

 

 

攻撃を防いでいた雲雀だったが縁切鋏に手裏剣を弾かれてしまい隙が出来てしまう。

それでも雲雀はまだ霊装結界を纏おうとしない。

そんな雲雀の様子を見て浩介にある考えが過った。

 

 

浩介「ッ!!まさか雲雀さん!縁切鋏の呪いをわざと受けるつもりなんじゃ!?」

 

狭霧「何!?」

 

 

コガラシのことを諦めようとしていたことを知っていた浩介は雲雀がそのような行動を取ってしまうと思ってしまった。

確かに呪いを受けてしまえばコガラシに会えなくなり諦められるだろう。

しかし、それは同時に大怪我をしてしまうということ。

 

 

浩介「ダメだって雲雀さん!呪いを受けても肉体的なダメージも受けちゃうんだ!」

 

狭霧「そうだ!下手をすれば命を落としてしまうぞ!聞いているのか雲雀!?」

 

 

そんなことをさせてはならないと狭霧と浩介は必死に雲雀に呼び掛けるも雲雀は体制を崩したまま宙へ投げ出されてしまい、縁切鋏の刃が迫って来ていた。

 

 

雲雀(・・・二度と会えなくなれば、諦められるかなぁ・・・?)

 

 

宙に投げ出されている雲雀はそんなことを考えていると頭の中にある記憶が浮かんできた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

数ヶ月前のこと。

 

 

秋宗『んじゃ、行くぞ・・・』

 

雲雀『う、うん・・・!』

 

 

ゆらぎ荘の庭で秋宗と雲雀が対峙していた。

この日雲雀は秋宗に勝負をしてほしいと頼んだのである。

自分の実力がどのくらい上がっているのか確かめたいとのことらしい。

 

秋宗が氷河獣王を発動させて拳を振り上げ、

 

 

秋宗『氷柱乱咲!!』(ズドンッ

 

 

思い切り地面に叩きつけると、

 

 

ギンギンギンギン!!!!

 

 

地面のあちこちから氷柱が飛び出して来た。

 

 

雲雀『!!』(ダッ

 

 

それを合図にするかのように雲雀は秋宗へ突っ込んで行った。

飛び出して来る氷柱を避けながら徐々に秋宗との距離を詰めていっている。

あと数メートルまで近づいたその時だった。

 

 

雲雀『ッ!?』

 

 

スタタンッ

 

 

ギィィン!!

 

 

秋宗『なっ!?』

 

 

一瞬雲雀が立ち止まり横へ飛ぶと今居た場所から氷柱が飛び出して来た。

攻撃を仕掛けていた秋宗もまさか避けられるとは思わず驚きの顔になってしまう。

 

 

雲雀『えいっ!』

 

 

その間に雲雀が突っ込んで秋宗に手裏剣を振り下ろした。

 

しかし、

 

 

ギンギンギンギン!!

 

 

雲雀『わわっ!?』

 

 

雲雀の足元から何本もの氷柱が飛び出して来て、刺さらなかったものの身動きが取れなくなってしまった。

 

 

秋宗『ま、こんなもんか』

 

 

そう言って秋宗が氷河獣王を解除すると氷柱も消えていった。

 

 

雲雀『はぁ~・・・』

 

 

解放された雲雀は疲れよりも秋宗に攻撃が届かなかったことに落ち込んでその場に座り込んでしまう。

 

 

コガラシ『何やってんだお前ら?』

 

 

すると騒ぎを聞き付けたコガラシが駆け付けて2人の元へ歩いて行った。

 

 

雲雀『あっ、コガラシくん・・・』

 

コガラシ『ほら、立てるか?』(スッ

 

 

コガラシは雲雀に手を差し出し雲雀は掴んで引っ張り起こされた。

 

 

秋宗『雲雀が勝負してほしいって言って来たからよ、それに付き合ってんだ』

 

コガラシ『へぇーそうなのか・・・』

 

秋宗『ちなみに今のところ10戦10勝で俺が勝ってるぞ』

 

 

ブイサインをして余裕の表情で秋宗は勝負結果を堂々と伝えた。

 

 

雲雀『ハァ~、やっぱり雲雀ってまだまだだなぁ~』

 

 

一回も秋宗に勝てなかった雲雀は実力が足りないことに落ち込んでしまう。

 

 

秋宗『そうでもねぇさ。最後の一撃を避けた時はマジか!?って思ったぞ。よく分かったな』

 

雲雀『うん、氷柱が飛び出る所に薄く霊力が見えるからもしかしたらって思っただけだよ』

 

秋宗『だとしてもだ。咄嗟に避けるなんていい反射神経だぞ』

 

 

秋宗は決して手を抜いた訳ではないため雲雀の咄嗟の判断力と反射神経に感心してしまう。

同時にそれほどまでに雲雀の実力が上がっている証拠でもある。

 

 

雲雀『でも雲雀なんて狭霧ちゃんに比べたら全然だよ!もっと頑張らないと!』

 

コガラシ『そっか!応援してんぞ雲雀!』

 

 

雲雀の頑張る姿をコガラシは笑顔で応援した。

その笑顔が雲雀にとって忘れられない笑顔になっていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

狭霧「雲雀ぃぃ!!」

 

浩介「雲雀さぁん!!」

 

 

縁切鋏が雲雀を真っ二つにしようと口を開いて切ろうとしていた。

狭霧時浩介はもうダメだと思ったその時だった。

 

 

どろんっ!! ガッ

 

 

正に間一髪。

切られる直前に雲雀は霊装結界を纏い攻撃を防いだ。

 

 

浩介「よかった・・・!」

 

狭霧「間に合っ・・・っ!?」

 

 

最悪の事態を免れることができた浩介は胸を撫で下ろすが狭霧は雲雀の霊装結界を見て目を細めてしまう。

 

 

狭霧(白い霊装結界・・・だと!?)

 

 

基本的に誅魔忍の霊装結界は黒なのだが、今の雲雀は白の霊装結界を纏っているため不思議に思ったのだった。

しかし雲雀にとってそんなことなどどうでもいいことだった。

何故なら頭の中にコガラシの笑顔が浮かんでそれどころではなかったのだから。

 

 

雲雀「イヤだ・・・コガラシくんにもう会えないなんて、そんなのイヤだよ!」

 

 

シュルルル!!

 

 

やはり呪いを受けたくない、コガラシを諦める切れない雲雀は縁切鋏をここで倒すと決めた。

手裏剣を投げて縁切鋏にダメージを与えていき、縁切鋏も負けずと攻撃を繰り出していき五分五分の戦いが繰り広げられた。

 

 

シュンシュンッ

 

ズドンッ!ズドンッ!

 

 

雲雀だけに任せる訳にはいかない狭霧と浩介も援護をしようとクナイや弾丸を縁切鋏に当てていった。

 

 

ビキィィッ!!

 

 

そしてようやく縁切鋏の刃に大きくヒビが入った。

 

 

狭霧「亀裂が入った!もう一息だ!」

 

うらら『いや、ここは一時撤退や!』

 

浩介「え!?なんで!?」

 

 

あと少しで倒せそうにも関わらず退くように指示したうららに狭霧と浩介は驚いてしまう。

 

 

うらら『雲雀の霊装結界ももう半壊しとる!これ以上は呪いを防ぎきれへんかもしれへん!』

 

 

うららの言う通り、雲雀の霊装結界はもう狭霧以上にボロボロでもう裸同然の姿だった。

ここまでボロボロだと呪いを受けてしまうかもしれない。

 

 

雲雀「ダメだよそんなの!ここで逃がしたら他の人たちが・・・!」

 

 

ギュルルルルッ!!

 

 

絶対に逃がしたらいけないと雲雀が主張した時だった。

縁切鋏がドリルのように回転して雲雀目掛けて突っ込んで行った。

 

 

ガッ!!

 

 

咄嗟に反応できなかった雲雀は諸に攻撃を食らってしまい霊装結界がさらに破れてしまった。

 

 

狭霧「雲雀ィィ!!」

 

 

狭霧が必死に声を掛けるも、

 

 

雲雀「平気だもん!」

 

 

雲雀は即座に体制を立て直した。

 

 

雲雀「コガラシくんとの縁が切られたってなんとかして結び直してみせるし!」

 

うらら『んな無茶な!?』

 

雲雀「狭霧ちゃんがコガラシくんといい感じでも関係ないし!」

 

狭霧「ななな何の話だ!?///」

 

雲雀「まったく関係ない平賀くんになんと言われようとどうだっていい!」

 

浩介「なんかディスられたんだけど!?」

 

 

 

雲雀「それでもいつか絶対!雲雀が手に入れてみせるんだからぁぁぁ!!」

 

 

 

ガシャァァァン!!

 

 

 

雲雀のコガラシに対する想いが力となり、縁切鋏は完全に砕け散っていった。

 

 

うらら『やるやんか雲雀~!』

 

浩介「スゴいよ雲雀さん!」

 

狭霧「大丈夫か雲雀!?」

 

 

縁切鋏は残骸となっており狭霧たちは雲雀の実力に感心してしまう。

しかし雲雀はガタガタと震えていた。

 

 

雲雀「ど、どうしよう・・・!ひ、雲雀、コガラシくんとの縁、切られちゃったのかな・・・!?」

 

 

あれだけ攻撃を受けてしまったため雲雀はもしや呪いを受けてしまったのではと震えてしまう。

 

 

うらら『縁切られても構わん言うとったやないか!』

 

雲雀「そりゃ諦めないけど!やっぱ大変なのはヤだし!」

 

狭霧・浩介『ハァ・・・』

 

 

先程までの頼もしい姿は何処へ行ったのだろうと狭霧と浩介はため息をついてしまう。

一件落着に思えたその時だった。

 

 

ズバッ!!

 

 

『!!??』

 

 

突如縁切鋏の残骸の中から黒い影、べたべたが飛び出して来た。

 

 

狭霧「べたべた!?」

 

浩介「な、何で!?」

 

うらら『仕留め切れてなかったんや!』

 

 

どうやら仕留められたのは縁切鋏だけでべたべたは運良く生き残ってしまったらしい。

べたべたは先程と同じように身体の体積を広げて雲雀目掛けて飛びついて行った。

 

 

狭霧「まさか、今度は雲雀を呑み込む気か!?」

 

浩介「マズイよ!こっちにはもう霊力も弾丸もないよ!」

 

 

狭霧と雲雀も霊力が底を尽きており浩介も弾丸どころか霊力爆散装置も使いきっていた。

雲雀は呑み込まれてしまうという恐怖で身体が硬直して動くことが出来なかった。

 

 

雲雀(そんな・・・!雲雀は、食べられちゃうの!?)

 

 

目の前が黒で覆われている雲雀の頭の中には走馬灯のようにあの男の顔が浮かんでいた。

 

 

雲雀(助けて!助けてコガラシくん!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドバァァァァン!!

 

 

 

 

 

雲雀「!?」

 

 

 

突然べたべたの身体が粉々に散ってしまい目の前の景色の黒が全て取り除かれた。

そしてそこには、

 

 

コガラシ「よかった、間に合ったみてぇだな・・・!」

 

 

拳を突き出して額に汗をかいているコガラシの姿があった。

 

 

雲雀「コガラシくん!?」

 

 

雲雀はコガラシがここにいることに驚いてしまう。

 

 

秋宗「何だ?相手は鋏の妖怪じゃなかったのか?」

 

浩介「秋宗くんまで!?」

 

 

更にそこへ少し息切れしている秋宗も駆け付けて来た。

うららが打診していたため2人はここへ駆け付けたのだった。

 

 

コガラシ「なんかほぼ終わってたみたいだったな///」

 

秋宗「何で俺らの周りの女たちは当たり前のように裸同然なんだよ?///」

 

浩介「言っとくけど一緒に居たけどそんなにジロジロ見てないからね!?///」

 

 

男たちは狭霧と雲雀の裸同然の姿を見ないように顔を赤くして反らしてしまう。

すると雲雀はあることに気がついた。

 

 

雲雀「あっ、コガラシくんとまた会えたってことは、縁は切られてないってことだよね!?」(ヘタリ

 

 

縁切りの呪いを受けていないと分かった雲雀は安心したあまりにその場に座り込んでしまう。

そうでなければコガラシと会うことなどできない筈だからだ。

雲雀と狭霧は同時に霊装結界から私服へと戻った。

 

 

狭霧「だが何故だ?あれ程霊装結界を消耗した状態で呪いを防ぎきれるとは・・・」

 

浩介「そういえば、さっきの雲雀さんの霊装結界って白だったよね・・・?」

 

 

霊装結界の色が違うことに気がついた浩介は何か関係があるのではないかと考えた。

すると霊視通報越しでうららが呪いを受けなかった謎を解いた。

 

 

うらら『こら驚いた!さっきの雲雀の霊装結界は、ほぼ完全な霊装結界やったんや!』

 

狭霧「なっ!?」

 

雲雀「ほ、本当!?」

 

コガラシ「どういうことだ?」

 

秋宗「ほぼ完全な霊装結界?」

 

浩介「雨野さんの霊装結界と違うの?」

 

 

うららの言葉を聞いて狭霧と雲雀は驚嘆してしまい秋宗たちはどういうことなのかと理解出来なかった。

 

そもそも霊装結界とはあらゆる攻撃や術を防ぐ誅魔忍の奥義である。

これが非常に難しい術の為、狭霧の黒い霊装結界も不完全で消耗すればするほど攻撃や術を防ぎきれなくなってしまう。

しかし、完全な霊装結界であれば一切れでも纏っている限り防御力が落ちることなく完全に防ぎきることができるらしい。

 

 

雲雀「てことは雲雀・・・ついに狭霧ちゃんを越えたってこと・・・!?」

 

 

誅魔忍として狭霧を越えることを目標にしていた雲雀にとってはこれ以上ない嬉しさが込み上げてきた。

 

 

浩介「でもなんで雲雀さんがそんな完璧な霊装結界を纏えたの?」

 

うらら『霊装結界は心の影響を受けやすいからな~。冬空くんとの縁を切られたないっちゅー雲雀の強い想いの賜物やろな』

 

雲雀「!」

 

 

確かに雲雀はあの時、コガラシとの縁を切られたくないと強く思ったためそれが縁切鋏を倒す結果に繋がったのだろう。

聞いていたコガラシも顔を少し赤くしていた。

しかしコガラシは雲雀をフッているため複雑な心境だった。

 

少し気まずい空気が流れる中、

 

 

浩介「・・・雨野さん、秋宗くん、少し見回りしない?」

 

秋宗「は・・・?」

 

狭霧「何・・・?」

 

 

浩介が切り出して秋宗と狭霧と一緒に見回りをしないかと提案した。

 

 

浩介「もしかしたらさっきの妖怪、べたべたがもう一匹いるかもしれないからさ、また誰かに呑み込まれたら厄介じゃん」

 

狭霧「確かにそうかもしれんが・・・」

 

浩介「そうと決まったら行くよ」

 

 

そう言って浩介は秋宗と狭霧の背中を押して歩き出した。

 

 

秋宗「お、おい浩介!」

 

狭霧「分かったから押すな!」

 

 

少し口論をしながらも3人はその場から離れて行き、コガラシと雲雀は2人きりとなった。

雲雀は浩介が気を使ってあのようなことをしたのではないかと思いあとでちゃんと謝らなければと決めた。

 

 

雲雀「あ、あのねコガラシくん!」

 

 

沈黙の中、雲雀がコガラシに話を切り出した。

 

 

雲雀「雲雀、フラれちゃったけど・・・!やっぱりまだ、諦めたくないの・・・!だからね?このままコガラシくんのこと、好きでいてもいいかな・・・!?」

 

 

一回フラれたくらいでは簡単に諦められない雲雀はずっとコガラシと一緒にいたいと心の内を明かした。

もしかしたら断られるかもしれない恐怖に涙目になりながらも自分の思いを伝えた。

聞いてたコガラシはしばらく黙りこんだ後にこう答えた。

 

 

コガラシ「・・・俺もあれから色々考えてみたんだ。雲雀のために何かできることはねぇのかって。でも、フッた側の俺が何をしたって、雲雀の幸せに繋がらないんじゃねぇかって気がして、なんにもできねぇままだった・・・!本当は今も、冷たく突き放した方が雲雀のためになるかもしれねぇって考えてる。でもそんなのは他人が決めることじゃねぇと俺は思うんだ・・・だから」

 

 

コガラシはまっすぐ雲雀の目を見て、

 

 

コガラシ「それが雲雀の出した答えならそれでいいんだ。それで雲雀が本当に、笑顔でいられるなら・・・!」

 

 

一緒に居ても構わないと答えを出した。

 

 

雲雀「・・・うん!ありがとうコガラシくん!」

 

 

またコガラシと一緒に居られると雲雀は感極まって泣き出してしまいそうだった。

そんな2人の様子を遠くから見ている集団がいた。

 

 

秋宗「なんだかんだで結局、元の鞘に収まっちまったってか?」

 

狭霧「そう言うな。あれでこそ雲雀だ」

 

浩介「まぁこれで一件落着、だね」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方その頃、森の中を1人の人物が歩いていた。

 

 

???「マサカ、アメノヒバリがベタベタで強化サレタ妖怪倒スナンテ予想外スギタネ」

 

 

その人物は狭霧たちの戦いを見てべたべたを操っていた張本人だった。

 

 

???「ケド結界的にベタベタ倒シタのはフユゾラコガラシダケドネ。ソンデ最後の最後にナンカ2人の空間がホンノリ桃色にナテタヨ」

 

 

その人物は雲雀が完全な霊装結界を纏っていた所やコガラシがべたべたを倒した所、そして雲雀がコガラシに想いを伝えた所までしっかり見ていた。

 

 

???「アァ、ホントに、ホントに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クダラナスギテイラツクヨ・・・!!」

 

 

 

ボォゥゥゥゥゥッ!!!!

 

 

 

先程まで陽気な声のトーンが急に低くなり顔が強張ったと同時にその人物の周囲に生えていた草や木が燃え上がった。

そして炎は燃え広がることなく瞬く間に草や木は燃え尽きて灰となり辺りは焦げた臭いで充満した。

 

 

???「オォット、ワタシとシタコトが、ツイ術を使テシマタヨ」

 

 

まるで人格が変わったかのように陽気な口調へと戻り歩き出した。

 

 

???「マァヤツラの実力も分カタコトダシ、トリアエズイイネ。今回はホンノゴ挨拶ダシネ。セイゼイ強クナテルコトを願テルヨ~」

 

 

そう呟いてその人物は鼻唄を歌いながら森の奥へと消えて行った。

 




感想のほど、よろしくお願いいたします。


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第41話 新聞記者

今回は長編のオリジナル回です!


~ゆらぎ荘~ 午後2時

 

トントントントン・・・

 

かるら「大きさはこのくらいでいいじゃろ」

 

雲雀がゆらぎ荘に戻って数日後、ゆらぎ荘の厨房でエプロンを付けたかるらが料理を作っていた。

雲雀がコガラシに告白したと知ったかるらは追い越される訳には行くまいとコガラシに料理を振る舞うことにした。

何故料理なのかというと、マーレに相談したら『男を落トスナラマズは胃袋!』とアドバイスを貰ったことがきっかけだった。

ちなみに今作っているのは肉じゃが。

下ごしらえとして野菜を切っている。

 

秋宗「張り切ってんなお嬢」

 

すると、かるらの様子を見ようと秋宗が厨房へと入って来た。

 

かるら「秋宗か、すまぬが今は手が離せぬのじゃ。後にしとくれ」

 

声で秋宗と分かったが、手を止めずにせっせと野菜を切っていった。

 

秋宗「しかし少し驚いたな。お嬢が肉じゃが作れるなんて」

かるら「コガラシ殿の希望じゃからのう。この日のためにどれだけ練習したと思うとるのじゃ」

 

肉じゃがはコガラシのリクエストのため、かるらは作り方だけでなく食材にまでこだわりコガラシに美味しい肉じゃがを食べさせようと頑張ったのだった。

 

秋宗「けど張り切りすぎてコガラシの腹壊すんじゃねぇぞ」

かるら「そんなことなど有り得んわ!お主は妾が失敗するとでも思うとるのか!?」

 

秋宗にからかわれたことに怒ったかるらは持っていた包丁を向けた。

 

かるら「まったくお主と言うヤツは!妾を何だと思っておるのじゃ!」

秋宗「傲慢ストーカー天狗」

かるら「よーし、肉じゃがの肉はオオカミの肉にでもするかのう」

秋宗「ごめんなさいお嬢、マジで・・・」

 

堪忍袋の緒が切れてしまい、包丁が秋宗の首に当たった。

このままでは本当に肉じゃがの肉になってしまいそうなため、からかい過ぎたことを謝罪した。

 

かるら「ならば食事後の菓子を買うて来い」

秋宗「はぁ!?何で俺が!?」

かるら「文句があるのか?」

秋宗「あぁいや・・・はぁ~分かりましたよ」

 

罰としてお菓子を買いに行かせることを命じられた秋宗は渋々引き受けて厨房を後にした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

買い出しを頼まれた秋宗はスーパーへ向かうために町中を歩いていた。

 

秋宗「めんどくせ~、でも流石に俺も言い過ぎたな~」

 

愚痴を溢しながらも秋宗先程のことを反省している。

いくら幼なじみといえど言い過ぎたからだ。

 

千紗希「あ、西条くん!」

 

不意に後ろから聞きなれた声をかけられた秋宗は振り向くと千紗希が立っていた。

 

秋宗「なんだ宮崎か、買い物か?」

千紗希「うん、ノートが切れちゃったから。西条くんも買い物?」

秋宗「あ~買い物っつーか、罰っつーか、まぁそんな感じだ」

千紗希「?」

 

曖昧な答えを言う秋宗に千紗希は首を傾げてしまう。

そんなこともあり秋宗と千紗希は一緒に歩くことになった。

 

千紗希「へぇー、緋扇さん肉じゃが作ってるんだ」

秋宗「あぁ、それで少しからかい過ぎて・・・」

千紗希「それは西条くんが悪いよ。緋扇さんが真面目に作ってるのに」

秋宗「宮崎もお嬢の味方かよ?もし肉じゃがが旨かったらお嬢とコガラシの距離がグッと縮まるんだぞ。コガラシ取られちまうぞ」

千紗希「なっ!?///もう!今度は私をからかわないでよ!///」

秋宗「ハハッ!ワリィワリィ」

 

頬を膨らませて怒っている千紗希に秋宗は笑って謝った。

そんな2人が歩いていると、

 

カランカランッ

 

秋宗・千紗希『ん?』

 

前を歩いていた男性が何かを落としていた。

2人がよく見るとそれは万年筆だった。

しかし男性は万年筆が落ちたことに気がついていないのか、そのまま歩いて行ってしまっていた。

 

秋宗「気づいてねぇのか?」

千紗希「と、届けないと」

 

万年筆を拾った秋宗と千紗希は早足で男性へと歩いていった。

 

秋宗「すんません!少しいいですか?」

???「んん?」

 

秋宗に呼ばれた男性は立ち止まってそのまま振り返った。

 

男性の見た目は四十過ぎで少し老けているが黒髪のオールバックのおかげで若々しさもあった。

服装は白のTシャツに青のジーンズと実にシンプルで背中にリュックを背負っていた。

 

???「えーっと?オジサンに何か用でも?」

 

突然呼び止められた男性は動揺することなく笑顔で秋宗と千紗希に接した。

 

秋宗「これ落としましたよ」

 

そう言って秋宗は先程拾った万年筆を男性に差し出した。

 

???「えっ?オジサン万年筆落としてたの?」

千紗希「はい、そうですけど・・・」

???「あぁそうなんだ!いや~ありがとう!わざわざ届けてくれて!」

 

千紗希に言われて男性は秋宗から万年筆を拾ってどこも壊れていないか確認した。

男性を余所に秋宗はこそこそと千紗希に話した。

 

秋宗「あの万年筆、結構いいヤツだぞ」

千紗希「そ、そうなの?」

秋宗「間違いねぇよ。父さんも似たのを持ってるから。確か数百万はする代物だぞ」

千紗希「えぇ!?ホントなの西条くん!?」

???「ん?西条くん・・・?」

 

万年筆の値段を聞いて千紗希が驚いて声を上げた時、男性が千紗希の声に反応して万年筆から2人へと視線を移した。

 

???「もしかして・・・西条秋宗くん・・・?」

秋宗「へ?」

 

男性が自分のフルネームを喋ったことに秋宗は動揺してしまう。

 

秋宗「何で俺の名前を・・・!?」

???「やっぱり!オジサンちょうどキミを探してたんだよ!」

千紗希「西条くんを・・・?」

 

男性が何故秋宗を探していたのか千紗希にも秋宗自身にも分からなかった。

 

???「あぁゴメンね、少し興奮しちゃって。オジサンはこういうものなんだ」

 

動揺している2人に男性はポケットから名刺を取り出して秋宗に渡した。

受け取った秋宗は名刺の名前を声に出して読み上げた。

 

秋宗「えっと何々?霊界新聞営業部、有馬京太郎《ありまきょうたろう》さん?」

京太郎「そうです。オジサンが有馬京太郎です」

 

男性、京太郎は胸を張って堂々と答えた。

 

千紗希「霊界新聞って、何?」

 

初めて聞く単語に千紗希は首を傾げてしまう。

 

秋宗「あぁ霊界新聞ってのは、簡単に言えば霊能力者や妖怪側で起きた出来事が載っている新聞のことだ」

京太郎「まぁあながち、間違ってはいないね」

 

秋宗の簡潔な説明に京太郎はうんうんと頷いた。

 

秋宗「んで、その有馬さんが俺に何か用で?」

 

京太郎が自分に用があるのかと秋宗は少し警戒しながら聞いてみた。

 

京太郎「大した用事はないよ。ただ少~しだけ取材を受けてくれないかな~?って」

秋宗「取材・・・?」

 

取材の依頼してくる京太郎に秋宗は疑問に思ってしまう。

自分なんかよりも八咫鋼のコガラシや宵ノ坂の呑子の方がまだネタになるだろうと。

 

京太郎「うん、少し話題になってるあのモンスタークイーンの息子の秋宗くんの取材を個人的にしたくてね」

秋宗「そんな理由で・・・?」

千紗希「西条くん話題になってるんだ」

 

知らぬ間に話題になっていることに秋宗は少し驚いてしまう。

 

京太郎「ってコトで、少し喫茶店に行こうよ。もちろんそっちのお嬢ちゃんも。万年筆拾ってくれたお礼も兼ねて、ね?」

 

勝手に秋宗が取材を受けることで話を進めて京太郎は秋宗と千紗希を喫茶店に誘おうとした。

 

千紗希「どうする・・・?」

 

こちらが取材を受ける義務はないが少し考えた秋宗は、

 

秋宗「・・・断る理由もないですし、分かりました。受けますよ取材」

 

京太郎の取材を受けることにした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

京太郎「ほほう。黒龍神とやり合うなんて流石だね~」

秋宗「最終的にトドメ指したのはコガラシですけど」

京太郎「にしても千紗希ちゃんもスゴいねぇ。普通の人なら幽霊なんて怖がって軽蔑するってのに友達になるなんて」

千紗希「そ、そんなことないですよ。それに、幽奈さんは優しい幽霊ですから」

 

喫茶店へ入った秋宗と千紗希は飲み物を注文して京太郎の取材を受けていた。

最初は秋宗がメインだったがいつの間にか千紗希も取材を受けることになった。

そして一通り取材を終えた京太郎は手帳を閉じた。

 

京太郎「いや~どれもこれもいいネタばっかりだよ!やっぱりこの町に来て正解だった!」

 

面白い話ばかりで京太郎はとても満足な表情をしていた。

 

千紗希「そ、それはどういたしまして・・・」

京太郎「キミたちの記事は数日後に載せるから楽しみにしててよ」

秋宗「分かりました。それじゃあ俺たちはこれで、行こうぜ宮崎」

千紗希「うん」

 

買い物の途中だったためそれに戻ろうと椅子から立ち上がり店を出ていこうとした時だった。

 

京太郎「あぁちょっと待って2人とも」

 

急に京太郎が呼び止めたためまだ何かあるのかと秋宗と千紗希は顔を見合わせてしまう。

 

京太郎「取材を受けてくれたお礼に、オジサンが飛びっきりの情報を教えてあげるよ」

秋宗「情報、ですか?」

 

新聞記者なのだから何か情報を握っていても同然かと秋宗は思った。

 

京太郎「実はね・・・」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一時間後、喫茶店を後にした秋宗と千紗希はそれぞれ必要なものを買い揃えてゆらぎ荘へと向かっていた。

 

千紗希「いいのかな?私までお邪魔しちゃって」

秋宗「大丈夫だ、お嬢結構作ってたから宮崎の分もあるさ」

 

何故千紗希も行くことになったかというと、秋宗が千紗希を夕飯肉じゃが誘ったため一緒に行くことになったのだ。

千紗希は最初遠慮したもののこゆずに会えるという秋宗の言葉に揺らいでしまい行くことにした。

今は午後4時で空は茜色に染まっている。

そろそろかるらも肉じゃがを作り終えているだろうと思い秋宗と千紗希は人通りが少ない道を歩いていると、

 

???「ハァ~イ!ソコのオフタリサン。チョトイイデスカネ?」

 

急に声を掛けられたため2人が前を見るとそこには1人の少女が立っていた。

 

少女の見た目は秋宗たちと同い年で真っ赤なポニーテールが風で靡いており目はぱっちりと開いている。

服装はタボタボコーデのオレンジのパーカーにレザーショートパンツのボトムで生足が露になっている云わばボーイッシュのファッションだった。

 

秋宗「なっ・・・!?」

千紗希「さ、西条くん・・・!あの人って・・・!」

 

秋宗と千紗希は少女の顔を見て動揺が隠せなかった。

何故ならその少女の顔は見覚えがあったからだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

喫茶店から出ようとした時、京太郎に呼び止められて再び椅子に座った時だった。

 

京太郎『実はね、この日本にとんでもない人が来てるんだ』

秋宗『とんでもない人?』

 

ハリウッドスターでも来るのかと秋宗は思うが霊界新聞の記者の京太郎が言うことなのだからこっち関連の有名人なのだろうと理解した。

京太郎はリュックから一枚の写真を取り出して秋宗と千紗希に見せた。

写真には1人の少女が写っていた。

 

千紗希『この子は・・・?』

京太郎『今、中国を騒がしている超極悪人』

秋宗『中国?』

 

秋宗は中国と超極悪人の2つの言葉に反応した。

写真の少女は中国人ということなのだろうが、見た感じは活発な女の子というイメージが強くとても極悪人には見えなかった。

 

京太郎『この子、武道家の霊能力者でね、かなりの実力の持ち主なんだ。その実力は御三家とほぼ同等と言えるかも』

秋宗『御三家と同等・・・!?』

 

つまりコガラシや呑子と互角ということ。

秋宗はこんな子が相当の手練れなのかとジッと写真を見た。

 

千紗希『あ、あの、極悪人っていうのは・・・?』

京太郎『オジサンの情報によると、どうやらこの子は最強の座を目指してるようでね。そのために中国にいた霊能力者を1人残らず殲滅しちゃったんだよ』

秋宗『えっ!?』

 

京太郎から少女のことを聞いて秋宗は再び驚きを露にしてしまう。

それと同時に少女が極悪人と言われている理由を理解した。

 

京太郎『つまり、今後は気を付けた方がいいってこと。まぁ出くわすなんてことはないと思うけど。ちなみに、この子の名前は・・・』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

秋宗「龍・炎焔(ヴォン・フォンイェン)・・・!!」

 

 

 

炎焔「オ!ワタシノコト知テルノ!?嬉シーネー!」

 

 

 

少女、龍・炎焔は笑顔で秋宗たちに手を振った。

しかし、その笑顔はどこか不気味だった。




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第42話 極悪非道の龍・炎焔

ヤバい、完全に遅れちまったよ・・・
ホントにすんません!

目次に主人公のイメージ画を載せたので確認してください!


ゆらぎ荘へと向かっていた秋宗と千紗希だが、2人の前に中国の極悪武道家霊能力者、龍・炎焔が現れた。

 

炎焔「フッフフ~」

 

炎焔はニコニコの笑顔を秋宗たちに向けていたが、どこか不気味さも感じる笑顔だった。

 

千紗希「西条くん・・・!」

秋宗「まさかいきなり出会うなんてな・・・!」

 

京太郎から炎焔のことを聞いている千紗希は恐怖で震えておりその場から動くことができなかった。

秋宗も御三家と同等の実力を持っている炎焔に冷や汗をかきながらも冷静を装っている。

 

秋宗「・・・俺らに何か用か?」

 

動揺を隠しながら秋宗は炎焔に話し出した。

 

炎焔「エットネ~、チョトワタシに着イテキテホシインダケド、イイカナ?」

 

炎焔は片言の日本語で陽気なテンションで秋宗たちに着いて来てほしいと言った。

 

秋宗「断る、って言ったら・・・?」

炎焔「ン~・・・」

 

中国の霊能力者を1人残らず殲滅させた極悪人の言うことなど聞く気はない秋宗は炎焔の誘いを断る意思を示した。

炎焔は腕を組んで考えると、

 

炎焔「イイヨ!見逃シテアゲル!」

秋宗・千紗希『えっ!?』

 

道を開けて秋宗たちを通そうとした。

炎焔の行動に秋宗と千紗希は呆気に取られてしまう。

極悪人がまさかあっさり見逃すとは思わなかったからだ。

 

秋宗「意外だな、最強の座を狙ってるアンタのことだからここでやり合うと思ったんだが」

炎焔「ワタシはソコマデ常識知ラズジャナイネ。ココデ闘タラ騒ギ起キテシマウヨ。ワタシトシテはソレハマズイコトネ」

 

いくら最強の座を狙ってるとはいえマトラのようになりふり構わず闘う程、炎焔は常識知らずではないらしい。

秋宗は警戒しながらも炎焔が嘘を言ってるようには思えなかった。

 

秋宗「・・・じゃあ遠慮なく通るぞ。宮崎、俺を壁にして歩け」

千紗希「う、うん!」

炎焔「ドーゾドーゾー!」

 

秋宗と千紗希は炎焔を警戒しながらゆっくりと歩き出した。

千紗希は炎焔から秋宗を壁にして隣を歩いていた。

一歩二歩とだんだん炎焔との距離が縮まっていきそして、

 

スッ

 

そのまま炎焔を通り過ぎて行った。

これには秋宗も本当に驚いてしまった。

嘘をついているようには思えないといえど人の本心とは誰にも分からないもの。

だからこそ炎焔があっさり見逃す行為に内心動揺してしまう。

 

秋宗「大丈夫か宮崎?」

千紗希「う、うん!大丈夫だよ・・・!」

 

このままこの場を離れて一刻も早くゆらぎ荘へ向かおうとした時、炎焔が口を開いた。

 

炎焔「アッ、ソウイエバサ。キミタチにカワイイ金髪のヤンキー後輩イルヨネ?」

 

ピタッ

 

秋宗「・・・どういうことだ?」

 

炎焔の言葉を聞いて秋宗は歩みを止めて振り向き千紗希も止まって振り向いた。

『金髪のヤンキー後輩』というワードからは秋宗も千紗希も1人しか思い浮かばなかった。

 

炎焔「ドシタノ?ワタシタダ後輩の話をシタダケヨ」

 

2人の反応を見て炎焔はクスクスと笑った。

 

炎焔「別ニコノママ行テモイイヨ。デモソノ間にトドロキシオンチャン、コノ町の人タチが大怪我シチャウカモネェ」

 

言い換えてしまえばこのまま立ち去れば他の人たちを襲うということ。

炎焔はお茶目に笑いながらとんでもないことを口にしていた。

 

千紗希「な、何でそんなことを平然とやるって言えるの!?さっき騒ぎは起こしたくないって!」

炎焔「事故ッテコトにスレバヨクナイ?」

 

勇気を振り絞って千紗希は炎焔に反論するもののあっさり返されてしまう。

 

秋宗「・・・極悪人とは、まさにこのことだな」

 

ここで立ち去ってしまえば目の前のコイツは紫音を始めとした兵藤や柳沢、この湯煙温泉郷の人たちに手を出してしまう。

そう考えた秋宗はここから逃げる訳にはいかなくなってしまった。

 

秋宗(とは言うものの、どうしたもんか・・・相手は御三家と同等の実力者。ここはお嬢たちに連絡するのがいいかもしれんが・・・)

 

1人で闘うよりもかるらやコガラシたちを呼ぶことが懸命だと考えるが呼ぼうにも呼べなかった。

今日はかるらがコガラシの為に肉じゃがを作っている。

もし今起こっていることを話してしまえば今日までのかるらの努力が無駄になってしまうため秋宗はそんなことはしたくなかった。

何より相手は得体が知れないためかるらたちを呼んだとしても無事では済まない気がしてならない。

 

色々考えた末、秋宗が出した答えは、

 

秋宗「・・・お前に着いて行けばいいんだよな?」

炎焔「ソダヨー」

秋宗「・・・分かった。但し宮崎は見逃せ」

炎焔「オッケー!」

千紗希「西条くん!?」

 

1人で行くことを決めて千紗希を見逃すように頼んだ。

炎焔は即答で2つ返事で承諾した。

秋宗は千紗希にお菓子が入った袋を持たせ面向かってこう言った。

 

秋宗「宮崎、お前はゆらぎ荘に行って何事もなかったように平然としてろ。お嬢に俺のことは西軍の知り合いと一緒に飯食いに行ったと言っとけ」

千紗希「でも西条くん1人じゃ危ないよ!」

秋宗「俺が信用出来ないか?」

千紗希「それは・・・!」

 

秋宗の圧に呑まれて千紗希は言葉を詰まらせてしまう。

確かに自分が行ったどこでどうにもならない。

かえって足手まといになってしまうと。

 

秋宗「・・・心配すんな。俺はコガラシと母さん以外には負けねぇよ」

千紗希「だけど・・・!」

炎焔「ネーマダー?」

 

秋宗が千紗希に更に念を押したと同時に痺れを切らしたのか、炎焔が少しイラつきを含ませながら声を掛けた。

 

秋宗「・・・ワリィな、今終わったところだ。待たせて悪かったな」

 

これ以上相手を不機嫌にさせないように、秋宗は千紗希との話を切り上げて炎焔と向き合った。

 

炎焔「ソレジャ、行コッカ!」

秋宗「あぁ」

 

炎焔が歩き出したと同時に秋宗はその後ろをついて行った。

 

千紗希「さ、西条くん・・・!」

 

何もできない千紗希は秋宗の背中を見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

秋宗「そうか、この間のべたべた操ってたのはテメェだったって訳か・・・」

炎焔「マァネ~。ホンノ挨拶ッテトコロヨ」

 

帰宅時間で人混みが少し激しい商店街の大通りを秋宗と炎焔は並んで歩いていた。

歩きながら話していく内に炎焔は自ら日本に来た目的を話してくれた。

 

炎焔は元々有能で将来を期待されていた素晴らしい武道家の霊能力者で周囲の人々からも高く評価されていた。

しかし炎焔自身はどこか腑に落ちずにいた。

武道家の大会で優勝しても、将来を期待されても、周りからどれだけ評価されようと、炎焔は満足感というものがまったく沸いて来なかった。

一体自分は何を求めているのだろうと炎焔は苦悩し続けた。

 

そんな日が続いたある日のこと、炎焔は指名手配犯を捕まえる任務に赴いた。

しかし炎焔は力加減を誤ってしまい、指名手配犯を殺害してしまった。

炎焔の同期の武道家たちは『仕方がないことだ』『君は何も悪くない』『気にすることはない』と誰一人責めることはなかった。

 

しかし炎焔は不思議な感覚に呑まれていた。

指名手配犯を殺害してしまった時、炎焔はまるで空を飛んでいるかのような解放感が込み上げてきたのだ。

 

そして炎焔は気づいてしまった。

 

自分が求めていたのは将来でも人望でもない。

人を血に染めた時の快楽感なのだと。

 

そこから炎焔は狂気の快楽に目覚めてしまった。

同期の武道家から名の知れた霊能力者、挙げ句の果てには自身の師までも手にかけてしまった。

強ければ強い相手ほど、血に染めた時の快楽は格段に違うものらしく炎焔はついに中国の霊能力者たち全員を倒してしまった。

 

それでもまだ足りず、何処かに強い相手がいないかと探している時に、風の噂で日本に強い霊能力者たちがいると聞いた炎焔は中国を抜け出し今に至ったのである。

 

秋宗「テメェ予想以上のクソ野郎だな・・・!」

炎焔「何カヲ成スタメニハ犠牲ガツキモノネ」

 

自身の快楽のために仲間や師匠に手を出した炎焔に秋宗の怒りのメーターはMAXを切っていた。

 

秋宗「・・・ところで、今何処に向かってんだ?」

 

歩いていく内にいつの間にか商店街を抜けて再び人通りが少ない所へ入っていた為、秋宗はどこに行くつもりなんだと炎焔に聞いた。

 

炎焔「心配シナクテモ、モウスグ着クヨ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

秋宗「・・・おい」

炎焔「ン~?」

秋宗「だいぶ町から離れたぞ、もうすぐ着くんじゃなかったのか?」

 

あれから数十分、2人は町から離れ森の中を歩いていた。

炎焔の狙いは自分を倒すことだと秋宗は考えてが、こんなところまで来て勝負できる場所などあるのかと疑問に思ってしまう。

 

炎焔「着イタヨー」

秋宗「ッ!これは・・・!」

 

そうこうしている内に炎焔の目的の場所に到着した。

 

そこにあったのは大きな廃倉庫だった。

コンクリートの壁は長い年月の影響であちこちにヒビが入っており、屋根も赤錆に覆われて、窓ガラスも割れており、人を立ち入らせない雰囲気を漂わせていた。

 

町の近くにこんな廃倉庫があったのかと秋宗は少し驚いてしまう。

 

炎焔「コッチコッチー」

 

炎焔は大きな扉の方へ歩き手を掛けると、

 

ギィィィィィィ・・・

 

と、その見た目とは裏腹の腕力で扉を開けた。

 

中に入ると錆び付いた鉄骨の柱、2度と動きそうにない機械など、いかにも古びた風景で錆の匂いが漂っていた。

 

秋宗「ここがお前の根城って訳か・・・」

 

人が住むには少しキツいかもしれないが身を隠すにはうってつけの場所だと思いながら秋宗は倉庫内を見渡した。

 

炎焔「ソンナコトドウデモイイデショ。早ク始メヨ」(チャキッ

 

そう言って炎焔は倉庫に置かれていた薙刀に似た長い柄の太刀、青龍刀を手に取り秋宗に向けた。

どうやら一刻も早く秋宗を血で染めたいらしくソワソワしている様子だった。

 

秋宗(青龍刀か・・・ヤツの力はまったく分かんねぇし、ここは攻撃を捌きながら様子を見とくか)

 

相手の実力は計り知れないため、秋宗は炎焔の攻撃パターンを観察して倒す作戦を立てた。

 

炎焔「・・・ネェ、一回シカ言ワナイヨ」

秋宗「?」

 

炎焔は青龍刀を高く振り上げた次の瞬間、

 

炎焔「避ケテネ?」

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォンッ!!!!

 

 

 

 

 

秋宗「ッ!!?」

 

獣としての危険察知能力が反射的に働いた秋宗は咄嗟に炎焔の攻撃を避けることが出来たが、攻撃した箇所を見て唖然となってしまう。

 

青龍刀の振り下ろされた場所からまるで線を引いたかのように赤いラインが倉庫の外まで続いており、その線上にあった機械やら鉄骨、壁などが斬られ断面は溶鉱炉に入れられた鉄鉱石のように赤く熱を発してドロドロと溶けていた。

再び炎焔へ視線を戻すと青龍刀が炎を纏ってメラメラと燃えていた。

 

炎焔「ドォ~?私ノ秘術『獄炎花』ハ?」

 

炎焔は自分の炎系統の秘術を自慢するかのように余裕の笑みを浮かべた。

 

秋宗「こりゃあ最初から本気でやんねぇと不味いな・・・!」

 

様子を見る余裕なんて作れなくなった秋宗は始めから全力で行く作戦に切り替えた。

流石は御三家と同等の実力者と言われるだけあるため、一瞬でも隙を見せたらやられてしまう。

 

秋宗はオオカミ人間へと変身したと同時に氷河獣王を発動させた。

 

炎焔「フ~ン氷系統ノ秘術カ~。相性悪スギタネ」

秋宗「それはやってみねぇと分かんねぇだろ」

炎焔「アハハッ!ソレモソウネ!」

 

炎焔は青龍刀を構え秋宗も臨戦体制を取った。

ジリジリと空気が張り積める中、

 

炎焔「ハイヤァーーー!!」

秋宗「ドォラァ!!」

 

ドォォォォォン!!

 

2人の闘いが勃発した。




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第43話 変幻自在

~ゆらぎ荘~ 午後7時

 

『いただきまーす!!』

 

コガラシたちは大広間で夕食を取っていた。

料理はサラダや冷奴、そしてこの日のために練習したかるらが作った肉じゃがだった。

大広間にはコガラシたちゆらぎ荘の入居者と千紗希と紫音、浩介と七海もいた。

浩介は狭霧に、七海はこゆずに、紫音は夜々に誘われて来ていた。

 

みんなは真っ先に肉じゃがに箸を伸ばし口へ運んだ。

 

呑子「おいし~!」

浩介「流石ッスね!」

狭霧「くっ!悔しいが認めざるを得ない・・・!」

 

みんなはかるらが作った肉じゃがを大絶賛していた。

しかし、かるらはそんなことなどまったく耳に入っておらず愛しのコガラシの感想だけを聞こうとしていた。

 

かるら「コ、コガラシ殿!///その、味の方はどうじゃ・・・!?///」

コガラシ「あぁ!スゲェ旨いぜ緋扇!」

かるら「さ、さようか!///」

 

コガラシから褒められ更に笑顔まで見ることができたかるらはとても嬉しく顔が真っ赤になっていた。

寝る間も惜しんで特訓した甲斐があったと心の中で実感した。

 

かるら「で、では妾が自ら食べさせて」

雲雀「ダメ!コガラシくんにアーンさせるのは雲雀がするんだから!」

かるら「黙れ雲雀!コガラシ殿のアーンは妾がするのじゃ!」

幽奈「いえ!かるらさんはお料理を作ってお疲れですならここは私が!」

朧「抜け駆けは許さんぞ湯ノ花!」

 

誰がコガラシにアーンさせるのか本人の前でかるらたち4人が言い争い、その見慣れた光景にみんなはやれやれと笑ってしまう。

 

七海「相変わらずモテモテね、やっさん」

仲居さん「ふふっ、そうですね」

マトラ「にしても秋宗のヤツ、予定かなんか知んねぇけどアタシらになんも言わずに食べに行くなんてなぁ」

 

マトラは秋宗がいない席を見ながらポツリと呟いた。

 

かるら「・・・放って置け、あんなアホのことなど」

 

千紗希がかるらが秋宗に頼んだお菓子を持って来た時、かるらはどうしたのだろうと疑問に思ってしまうも千紗希から秋宗が西軍の知り合いとご飯を食べに行ったと聞いた途端、かるらは顔を真っ赤にして怒ってしまった。

自分が肉じゃがを作っているにも関わらず食べに行った秋宗に怒りしかなかったからだ。

 

こゆず「ねぇねぇ千紗希ちゃん、秋宗くんに会いに来た人ってどんな人だったの?」

夜々「気になるの」

紫音「もしかして、女性の人ッスか・・・!?」

千紗希「えっ!?」

 

約1名気になる発言をしたものの、こゆずたちからその人物に聞かれた千紗希は内心焦ってしまう。

 

千紗希(どど、どうしよう・・・!?)

 

秋宗から口止めされている千紗希は中国から来た超極悪人などと言える訳もなく必死に言い訳を考え、そして、

 

千紗希「ち・・・」

こゆず「ち?」

 

千紗希「ち・・・チャラい人だったよ!」

 

夜々・紫音『・・・チャラい人?』

千紗希「うん・・・!チャラい人!」

 

中国と言いそうになったものの適当にチャラい人と言って誤魔化した。

チャラい人と言われてこゆずたちは首を傾げてしまう。

 

マトラ「・・・おひいさん、もしかして茜のことじゃねぇか?」

かるら「確かにアヤツしかおらんのう・・・アヤツめ、とうとうここまで来よったか・・・!」

 

千紗希の話を聞いていたマトラは茜という人物の名前を挙げるとかるらの眉間にシワが寄りイライラし出していた。

 

呑子「かるらちゃんたちの知ってる子?」

マトラ「まーな、アタシとおひいさんと秋宗以外にもう1人緋扇軍にいるヤツがいてな。中学からの付き合いなんだけどよ、やたらおひいさんにちょっかい出すんだよなぁ~」

かるら「あんなヤツ大ッ嫌いじゃ!妾のケーキを勝手に食べるわ!昼寝をしていたら顔に落書きされるわ!コガラシ殿の湯上がりシーンの写真を燃やすで嫌がらせしかしとらんのじゃぞ!」

狭霧「待て!最後のはおかしいだろ!」

浩介「少なくとも最後のはその人が正しいと思うよ!」

 

偶然にも適当に言ったチャラい人がかるらたちの知り合いらしく千紗希はホッとするのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方、町から離れた廃倉庫では、

 

ズドォォォォォン!!

 

秋宗「チィッ・・・!」

炎焔「オォット!!」

 

秋宗と炎焔が激闘を繰り広げていた。

夜になり秋宗は狂暴性10倍の姿で身体能力が上がっているも、炎焔の素早い動きや青龍刀からの灼熱の斬擊で翻弄し互いに五分五分の状況である。

廃工場は煙の臭いで充満し、あちこちで火がついていたり氷が張ってあったりと2人の激しい闘いを物語っていた。

 

炎焔「流石ネ~!アメノサギリヤヒラガコウスケトハ大違イノ実力デ嬉シーヨー!」

 

炎焔は秋宗の中々の実力に喜ぶが、その表情は狂気が混ざった恐ろしい笑みだった。

 

秋宗「クソッ・・・!余裕ぶっこぎやがって・・・!」

 

炎焔の余裕の様子に秋宗は苛立ちしか込み上げて来なかった。

しかし実際、炎焔の実力は筋金入りで霊界新聞の記者の京太郎の情報通り御三家と同等と言える程だった。

その証拠に刃物や弾丸を防ぐ毛皮にも切り傷があちこちにできており毛が黒く染まっている。

 

秋宗(けど、だいたいヤツの秘術、獄炎花だったか?それの攻撃も大方掴めてきた・・・)

 

平静を装いながら、秋宗は炎焔の秘術を理解しかけていた。

 

炎焔の秘術、獄炎花の特徴は術者の持っている武器に炎を纏わせることができ、その影響で切れ味が増したり攻撃範囲を拡げたり斬擊を飛ばすことができる。

更に術者の周囲に炎を一気に放出することもでき一対多数にかなり有利な攻撃もできる。

 

炎焔と激闘を繰り広げた末、秋宗は炎焔の攻撃範囲やパターンを予測し次の攻撃で一気にカタをつけようと決心していた。

 

その時だった。

 

炎焔「攻撃パターンモ分カタカラ次デ決メテヤル!テ思テルデショ?」

秋宗「ッ!!」

 

炎焔はまるで秋宗の頭の中を読んだかのような発言をした。

これには秋宗も驚いてしまう。

 

炎焔「マァ当然ト言エバ当然ネ。闘エバ大体ノ人ハ攻撃パターンヲ掴ムヨ・・・デーモー、コノ程度ノコトデヤラレルヨウダッタラ、私ハトック二ヤラレテルヨ」

秋宗「?・・・」

 

攻撃パターンを予測されているにも関わらず余裕の炎焔を見て秋宗は警戒してしまう。

まだ何か奥の手でもあるのかとそう思った時だった。

 

炎焔「セイッ!!」

 

ボォゥッ!!

 

秋宗「クッ!!」

 

炎焔が炎の斬擊を秋宗目掛けて飛ばし、咄嗟のことに反応が遅れた秋宗は腕をクロスさせてなんとか防ぐことができた。

それと同時に炎焔へ視線を戻すと、いつの間にか炎焔が秋宗との間合いを詰めて青龍刀を持っている右手を振り下ろそうとしていた。

もう避けることもできず食らってしまうと思った時、

 

秋宗(もうここしかねぇ!!)

 

秋宗はこれを逆にチャンスと思い炎焔に爪で斬りかかろうとした。

狙うはカウンター、もうこれしかない。

相討ち覚悟で互いの攻撃が届きそうになったその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビュオォォォォォォッ!!

 

 

 

 

 

秋宗「何ッ!?」

 

突然炎焔が翳した左手から突風が発生し秋宗は吹き飛ばされてしまい、

 

ガァンッ!!

 

秋宗「グゥッ!?」

 

そのまま背中から壁へ激突してしまった。

 

秋宗には理解出来なかった。

炎系統の秘術を使っていた相手がいきなり風を起こすなどありえないと。

 

炎焔「アッハハハハハ!!」

 

苦痛の表情の秋宗を見て炎焔は腹を抱えて大笑いをしていた。

 

炎焔「油断シチャッタネ!ネェネェドウドウ?私ノモヒトツノ秘術『烈風覇』ノ威力ハサ!?」

 

どうやら炎焔は炎系統の秘術の他にも風系統の秘術も使えるらしく思い通りに引っかかった秋宗にもう笑うしかなかった。

 

秋宗「んなのアリかよ・・・!?」

 

秋宗は壁に手を掛けながら立ち上がり炎焔と向き合った。

まさか風系統の秘術を使うなど夢にも思わず、完全に見誤った自分を悔いてしまう。

 

炎焔「ホラホラドンドン行クヨ!」(ビュォンビュォン!!

 

休む暇も与えず炎焔は左手から突風の塊を連続で秋宗へ飛ばしていった。

 

秋宗「チィッ!!」(シュルルルッ

 

今の姿では恰好の的になってしまうため、秋宗は一旦人の姿へと戻り向かってくる突風の塊をかわしていった。

氷の壁を作って防ぐ手もあるがなるべく霊力を消費しないために攻撃を掻い潜る手段を選んだのだった。

 

そして攻撃をかわし続けた秋宗は重機の陰へ身を隠すことにした。

 

秋宗「はぁ、はぁ・・・!まさか、秘術を2つも持ってるとはな・・・!」

 

息を整えながら炎焔の炎系統の秘術だけでなく風系統の秘術も間合いやパターンを見抜かなければと思った。

 

その時だった。

 

 

 

バチバチ・・・

 

 

 

秋宗「?」

 

何やら変な音が聞こえてきたため秋宗が耳を傾けると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バリバリバリバリィィィィッ!!!!

 

 

 

 

 

秋宗「!!?」

 

 

 

突然大きな音へ変わり秋宗の横を何か白い光のようなものが走った。

その箇所を見ると獄炎花とは違い黒い焦げた線が伸び煙が上っていた。

 

秋宗はまさか!?と思い重機から飛び出し炎焔を見ると、なんと今度は炎焔の左手から白い光を発している鞭のようなものが出ていた。

そしてその鞭はバチバチと音を立てて電気を帯びていた。

 

炎焔「ゴッメ~ン!実ハ私モヒトツ『威鳴』テイウ秘術持テルンダッタ~!」

 

ニヤニヤと口元を歪ませながら炎焔はもう1つ秘術を持っていたことを心なしに謝った。

 

秋宗「今度は雷系統かよ・・・!?」

 

コイツは一体いくつ秘術を使えるのかと秋宗の頭は少しパニック状態になっていた。

もしかしたら今まで見た3つの秘術の他にもまだ隠しているかもしれないと思ったからだ。

 

炎焔「サァ~テト、ココカラガ本番ヨ!!」(ブォン!

 

そう言って炎焔は左手の雷の鞭を振るった。

 

秋宗「ウォッ!?」

 

鞭はまるで生き物のように秋宗に目掛けていくが身体を捻ったり反らしたりで中々捉えられずにいた。

しかし徐々に秋宗に疲れが見え出し、そして、

 

バチィィン!!

 

秋宗「アガッ!?」

 

ドォォォン!!

 

とうとう鞭が秋宗の身体を捉えて電気を帯びてしまいそのまま壁へと吹き飛ばされてしまった。

 

秋宗「コイツ・・・!マジで強すぎる・・・!」

 

痺れる身体に鞭を打ち秋宗はフラフラになりながら立ち上がると、

 

ビュォンビュォン!!

 

秋宗「!!」(バッ

 

バキィィィンッ!!

 

風の音が聞こえまた突風が来たと思い咄嗟に氷の壁を作って攻撃を防ぐも、

 

ボォゥッ!!

 

氷の壁が斜めに斬られその向こうから炎を纏った青龍刀を持った炎焔が突っ込んで来ていた。

 

秋宗「オラァッ!」

 

ドカッ!!

 

炎焔「オォッ!?」

 

このままやられっぱなしはゴメンの秋宗は炎焔の腹に蹴りを入れて後ろへ吹き飛ばすも、咄嗟に受け身を取っていた炎焔はまるで空中パフォーマンスのようにスタッと着地をした。

 

炎焔「中々ヤルネ~」

 

蹴られた箇所を軽く払いながらも炎焔にはまだ余裕が見受けられている。

 

秋宗「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

一方秋宗はまだ霊力は残っているものの、今までのダメージが蓄積しており疲労がズッシリと身体にのし掛かっていた。

 

秋宗(ヤベェ・・・こりゃなんとか打開策を見つけねぇとやられちまう!何かないか!?ヤツの弱点!?)

 

炎を武器に纏わせる『獄炎花』

突風の塊を飛ばす『烈風覇』

雷の鞭を振るう『威鳴』

 

この3つの秘術に何か弱点がないかと必死に考えるも炎焔が使いこなしているせいか全く思いつかなかった。

何かないかと頭を捻っていると、ふと疑問に思うことがあった。

 

秋宗(そういや、俺が最後に蹴り入れた時、何で風系統の秘術を使わなかったんだ・・・?)

 

蹴りを入れた時、炎焔は烈風覇を使わず敢えて攻撃を受けたことに秋宗は疑問を持った。

初めて自分に秘術を見せた時のようにカウンターの隙をついて突風を飛ばすこともできた筈。

にも関わらず炎焔は攻撃を受けた。

 

普通なら使う暇もなかったから仕方なく防御の体制を取ったと考えるが秋宗にはどうしてもそこが引っ掛かっていた。

 

秋宗(まてよ・・・!?そういえばコイツ・・・!)

 

その時、秋宗の頭にある仮説が過った。

 

炎焔の3つの秘術。

カウンターで風系統の秘術を使わなかった。

秘術を使うタイミング。

 

今までのバラバラに散っていたピースが当てはまっていき、そして、

 

 

 

 

 

秋宗「・・・・・そうか分かったぞ!お前の秘密!」

 

 

 




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第44話 満月の大逆転

炎焔「エ~ナニナニ~?私ノ何ガ分カタノ?聞キタイナ~!」

 

秘密を見破ったと言った秋宗に炎焔は相変わらず余裕の態度を見せていた。

しかし秋宗は冷静になり心を静めていた。

今までの闘いで得た情報から導き出した答えを秋宗は説明しだした。

 

秋宗「確かにお前の実力はスゲェ。身体能力や青龍刀の扱いもそうだが、何より3つの秘術を完璧に使いこなしてやがる」

 

炎系統の『獄炎花』、風系統の『烈風覇』、そして雷系統の『威鳴』。

炎焔はこの3つの秘術を完全に我が物として達人並みに扱っている。

まさに天才と言っても過言ではない。

 

秋宗「けど、俺は大きな勘違いをしていた」

炎焔「・・・ト言ウト?」

 

炎焔は惚けるかのように首を傾げた。

 

秋宗「ま、気づけなかった俺も間抜けだが、お前は秘術を切り替えるのは、俺があることをした時だけだった」

 

炎焔が秘術を切り替えるタイミング、それは、

 

秋宗「俺の視界からお前が消えた時だ」

炎焔「・・・・・」

 

獄炎花から烈風覇へ切り替えた時は秋宗が吹き飛ばされて顔が地面を向き、烈風覇から威鳴へ切り替えた時は秋宗が重機の陰に隠れ、その他にもフラフラに立ち上がったり氷の壁を作ったりなど秋宗が視界から炎焔を外した時に炎焔は秘術を一々切り替えていた。

 

秋宗「じゃあ何でお前は俺がお前を視界から外した時だけ秘術を切り替えるかってことだが・・・」(ガシッ

 

そう言って秋宗は側に置かれていた1立方メートル程の鉄の箱を頭上まで持ち上げ、

 

秋宗「これが答えだ!!」(ブォン!

炎焔「ッ!!」

 

ガシャァーーーン!!

 

そのまま鉄の箱を炎焔の後ろにある重機目掛けて投げ飛ばすと大きな音を立てて箱は重機と共にバラバラに散っていった。

 

そして、

 

秋宗「錆の臭いで全然気が付かなかったけどよ、つまりお前は、いや・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前たちは、三つ子だった!!」

 

 

 

 

 

???「チィッ・・・!?」

???「クッ・・・!?」

 

 

 

なんと重機の陰から炎焔とそっくりの女の子が2人飛び出したのだった。

顔や髪型、体型や服装などありとあらゆる所まで瓜二つ、いや瓜三つだった。

 

秋宗「これがお前、いや、お前たちの秘密だ!」

 

秋宗に自身の秘密を見抜かれた炎焔は、

 

炎焔「・・・ア~ア、バレチャッタ」

 

頭を掻きながら目線を明後日の方へ向けてめんどくさそうな態度を見せた。

 

秋宗の推理通り、炎焔は秋宗が目を反らした隙に他の2人に青龍刀を持たせて入れ替わり、まるで1人の人間がたくさんの秘術を使えるようにカモフラージュしていたのだった。

 

その炎焔の側に炎焔とそっくりな女の子2人が歩いて来た。

 

???「ヤルナァ!アタシラノ秘密ヲ見破タノハテメェガ初メテダ!」

 

1人は炎焔と同じようにカタコトだが男っぽい口調をしており、結んでいた髪をほどきそのまま後ろへ流しオールバックの髪型へと変えた。

 

???「ま、いつかはバレると思ってたけど」

 

もう1人は他の2人と比べてスラスラと日本語を話し、ずっと被っていたであろうカツラを外すとショートヘアとなり懐に持っていた眼鏡を掛けた。

 

これで3人の見分けがつくようになった。

 

炎焔「ジャア、改メテ自己紹介スルヨ。私は『獄炎花』の使い手の長女、龍・炎焔(ヴォン・フォンイェン)」

 

風「アタシハ次女ノ龍・風(ヴォン・フゥ)!得意ノ秘術ハ『烈風覇』ダ!」

 

雷「そして私は、龍・雷(ヴォン・レイ)。三女で『威鳴』を取得してる」

 

オールバックの烈風覇の術者が風、ショートヘアの眼鏡を掛けた威鳴の術者が雷、そして長女の炎焔。

 

これが炎焔の秘密、龍三姉妹だったのだ。

 

炎焔「秘密ヲ見破タノハ褒メテアゲルネ。デモダカラ何?ッテ話ダケドネ~」

 

秘密がバレたにも関わらず炎焔は相変わらずの余裕の態度だった。

そして風と雷も同じような態度で秋宗を囲んだ。

 

風「炎姉(フォンネェ)ノ言ウ通リダ。テメェノシタコトハ結局、自分ノ首絞メタダケナンダゼ」

雷「今までは偽りの1対1だったけど、ここから正真正銘の3対1になったということ。炎焔姉さんと風姉さんの言うことは、そういうことになるの」

 

先ほどまで秋宗は龍三姉妹と1人ずつ闘っていたが、秘密を暴いてこの状況を作ったせいで3人まとめて相手をしなければならなくなってしまった。

 

炎焔「サテト、ソレジャ今カラ君ヲ八ツ裂キニシテアゲルヨ!」(ボォゥゥゥゥッ!!

風「イヤイヤ、ココハナブリ殺シダロ!雷ハドウスル?」(ビュォォォッ!!

雷「私は、どっちでもいい。姉さんたちの好きにすれば?」(バチィンバチィン!!

 

炎焔は青龍刀に再び炎を纏わせ、風は両手に突風を起こし、雷は両手から雷の鞭を出して大きく降った。

龍三姉妹に囲まれ秋宗は追い詰められてしまった。

 

しかし、

 

秋宗「・・・いや、もうお前らの負けだ」

 

鼻で軽く笑い炎焔と同じような余裕の態度を見せた。

 

炎焔「ハァ?何言テルノ?」

風「炎姉、コイツ追イ込マレテ頭オカシクナテルゼ」

雷「強がりはよして、私たち3人に勝てると思ってるの?」

 

秋宗の実力を闘いを通して大方理解している龍三姉妹は所詮はったりだと思い込んでいた。

1対1で苦戦していたのに3人まとめてとなると火を見るよりも明らかだと。

 

秋宗「そいつはどうかな?」

 

そう言って秋宗が右手を挙げて人差し指を立てた。

龍三姉妹は釣られるように人差し指の先を見上げると、穴が開いている屋根から満月が顔を出していた。

 

炎焔「満月・・・・・ア!」

 

満月を見上げてポカンとなっていた炎焔だがあることをを思い出して声を上げた。

目の前にいるのはオオカミ人間。

満月が出ていたら狂暴性が50倍にも膨れ上がる。

 

つまり、

 

秋宗「ウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」(グググッ

 

秋宗は狂暴性50倍の姿、3メートルまで体格が大きくなり筋肉も通常以上に膨れ上がった。

 

炎焔「アチャ~、完全ニ忘レテタヨ・・・」

風「ビビルコトナンカネェゼ炎姉、アレダケデカクナリャ攻撃ガ当タリヤスクナルッテモンサ」

雷「そうよ、例え強くなったとしても私たちには到底敵わない」

 

炎焔は姿が変わった秋宗を見て困ったら表情を浮かべるも、風と雷は所詮は見かけ倒しだと炎焔に言い聞かせそれぞれ身構えた。

 

まず最初に仕掛けたのは、風だった。

 

風「コレデモ食ライナ!爆風連破!!」(ビュンビュンビュンビュン!!

 

風は先ほどと同じように手から突風の塊を飛ばすが今は両手が使えるため一気に何十発も撃ち込んで来た。

 

この攻撃で秋宗は吹き飛ばされていたが、

 

パァンパァンパァンパァン!!

 

風「何!?」

 

なんと身体に当たったと同時にかき消されてしまったのだった。

当の秋宗はなんともない状態だった。

狂暴性が50倍になったと共に毛皮も更に分厚くなっているため、効かなくなっていたのだ。

 

雷「私がやる!乱武!!」(ブンブンッ!!

 

次に飛び出したのは雷。

両手の雷の鞭を高速で振るい秋宗の逃げ場をなくした。

いくら攻撃に耐えられても雷までは防げまいと思ったが、

 

バチンバチンバチンバチン!!

 

秋宗「・・・・・」

 

雷「ウソ・・・!?」

 

なんと鞭が当たったものの、毛皮の影響なのか雷すら通さなくなっており堪えている様子がまったくなかった。

 

風「何ナンダヨコイツ!?」

雷「満月でこれ程までに強くなるの・・・!?」

炎焔「・・・少シ、マズイカモネェー」

 

さっきとはまるで別人のように強さが変わっている秋宗に龍三姉妹は動揺してしまう。

 

秋宗「もう終わりか?んじゃ今度はこっちの番だな」

 

秋宗は氷河獣王を発動させて少し体制を低くした。

そして足に力を込めて、

 

ダッ!!

 

一瞬で風との間合いを詰めた。

 

風「ナッ!?ヤベッ!」

 

ビュォォォォッ!!

 

風は秋宗の驚異的な瞬発力に驚くも、両手から強風を起こしペットボトルロケットのように宙へ飛び出し再び距離を取った。

 

風「危ネェ~・・・!」

 

もしあのまま呆然と立ち尽くしていたら確実にやられていたとビビるも秋宗から離れられたと安心しきっていたその時、

 

秋宗「逃がすかよ」

風「!?」

 

なんといつの間にか秋宗が風の真横まで飛び上がっており拳を振り上げていた。

 

風「チョ!?チョト待テ!」

 

パニックになっている風などお構い無しに秋宗はそのまま拳を振り下ろした。

 

ズドォォォォォン!!

 

風「グハッ!!?」

 

拳は見事に風に当たりそのまま地面へ叩きつけられた。

風は仰向けに倒れるも直ぐに起き上がれる様子ではなかった。

 

スタッ

 

秋宗「まずは、1人目だ」

 

着地した秋宗は呼吸を整えて風を見下ろしていると、

 

フッ・・・

 

秋宗「?」

 

月の明かりで照らされていた廃倉庫内に急に大きな影が現れ秋宗が見上げると、なんと重機が宙に浮いていた。

よく見ると重機に白い光のようなものが巻き付いており目で辿っていくと雷が威鳴で重機を持ち上げていたのだった。

 

雷「風姉さんから離れて!」(ブォン!

 

そのまま雷は凪ぎ払うように重機を秋宗目掛けてぶつけようとした。

 

しかし、

 

秋宗「フンッ!」

 

ガシャァン!!

 

秋宗は右腕を盾にして防ぎ重機はバラバラに砕け散っていった。

だがそれが雷の狙いだった。

雷は秋宗が防御をした瞬間を狙い一気に懐へ入った。

 

雷(毛皮の上からダメなら傷口から!)

 

毛皮の影響で雷を通らなかった為、傷口からなら通ると思いこの作戦を思い付いたのだった。

実際秋宗には炎焔が付けた傷がいくつもあった。

 

そして雷は鞭を秋宗の傷口に目掛けて振った。

 

バチィィィィン!!

 

見事に鞭は秋宗に命中した。

 

しかし、

 

雷「・・・えっ?」

 

雷は唖然となってしまった。

何故ならいつの間にか秋宗の上半身を氷が纏っており雷を通さなかった。

 

秋宗「ワリィな。もしかしたら傷口を狙うかもしれねぇって思ったからよ、氷のプロテクターを着けさせてもらったぜ」

 

雷がどう攻撃してくるか予測していた秋宗は咄嗟に氷のプロテクターを纏い攻撃を防いだのだった。

 

そして唖然となっている雷の腹に手を添えると、

 

秋宗「アイスネット!!」

 

バキィーーーン!!

 

雷「うわっ!?」

 

秋宗の手から衝撃波のようなものが雷を壁へ吹き飛ばすした。

そのまま雷は壁に叩きつけられただけかと思いきや、全身を氷が張りまるで粘着性のある物質にへばりつかれたかのように壁と引っ付き身動きが取れなくなってしまっていた。

 

雷「う、動けない・・・!」

 

なんとかして脱出を試みるも手も足も出ないためどうすることも出来なかった。

 

秋宗「これで2人、あとは・・・」

 

氷のプロテクターを解いて秋宗は最後の1人の炎焔と向かいあった。

今まで黙って観戦していた炎焔は、

 

炎焔「・・・マサカ風ト雷ヲ仕留メルナンテ流石ト言ウベキカナ~・・・デモ妹タチヲ痛メツケタノハ許サナイケドネ~!」

 

ボォゥゥゥゥゥゥッ!!

 

風と雷を傷つけられたことに鶏冠にきており、周囲が瞬く間に炎に包まれた。

炎の勢いは止まることなく燃え広がっていきこの廃倉庫が火事で倒壊するのも時間の問題であった。

 

炎焔「コンナニイラツイタノハ初メテカモネ・・・モウイイヤ。八ツ裂キニスルツモリダタケドモウ殺ス、首ヲ跳ネテヤルヨ!」(ダッ!

 

怒り心頭の炎焔は炎を纏わせた青龍刀で秋宗へ突っ込み首を斬ろうとした。

炎も先ほどまでと比べ物にならないくらいの熱量でまさに炎焔の怒りを表しているかのようだった。

 

一方秋宗は、呼吸を整えて地面に手を置いた。

 

炎焔「ハッ!今更命乞イシテモ無駄ヨ!コノママ首を!」

秋宗「そうじゃねぇ、これで終わりだってことだ」

 

秋宗の両手に徐々に霊力が溜まっていき、そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バキィィィィィィィィィン!!

 

 

 

 

 

秋宗「雪景色・銀世界!!」

 

 

 

炎焔「ナッ!?」

 

 

 

なんと秋宗を中心に氷が広がっていき、勢いを増していた炎までもが凍ってしまい辺り一面まるでカナダの自然の風景と間違える程にまで変わっていた。

炎焔は周りの景色が一変したことに驚くが何より驚いたのは青龍刀の炎が消えてしまっていたのだった。

 

炎焔「マ、マサカ!?気温ガ低クナタカラ炎ガ!?」

 

炎焔は再び獄炎花を発動させようとしたその時、

 

秋宗「させるかぁ!!」

炎焔「!?」

 

秋宗が炎焔との間合いを一気に詰め、そして、

 

 

 

ズドォォォォォォン!!

 

 

 

炎焔「ガハァッ!?」

 

 

 

炎焔を宙高くへ蹴り飛ばしたのだった。

炎焔は見事な曲線を描くように飛んでいき、背中から地面へ落ちていった。

 

 

 

秋宗「形成逆転、だな」




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第45話 秋宗絶体絶命

秋宗「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 

龍三姉妹との激闘の末、秋宗は勝利し心底安心して人間へ戻っていった。

長女の炎焔は蹴り飛ばされ、次女の風は仰向けで動けず、三女の雷は氷で壁に張り付けにされ、3人とも動ける様子ではなかった。

 

秋宗「ホントに、ギリギリだった・・・!」

 

秋宗は息を整えながら龍三姉妹の実力に感心していた。

炎焔を始め風も雷も相当手強く、ここまでの強敵と闘ったのはコガラシ以来だった。

もし満月が出ていなかったら確実に負けていただろう。

 

秋宗「さて、どうしたもんか・・・」

 

このままのボロボロの状態で帰ったらかるらたちに質問攻めされるのは目に見えているためどうにかして誤魔化せる言い訳を考えていると、

 

炎焔「ヤッテクレタネ」

秋宗「!?」

 

後ろから声が聞こえ咄嗟に振り向くと、そこには倒れていた筈の炎焔が立っていた。

蹴られたせいか、服が少しボロボロで髪も乱れていた。

そして自分をここまで追い込んだ秋宗を静かに鋭く睨んでいた。

 

炎焔「マサカココマデノ実力ヲ隠シテタナンテ、甘ク見スギテタヨ・・・」

秋宗「チッ、まだやれんのかよ・・・!?」

 

霊力をかなり消費してしまっているはイラつきを露にしながらも身構えた。

 

炎焔「・・・風、雷、動ケル?」

 

炎焔は妹の風と雷に声を掛けると、

 

風「ナントカ、大丈夫ダゼ・・・!」

雷「ごめんなさい炎焔姉さん、動けない・・・」

 

ダメージが回復した風はフラフラになりながらもなんとか立ち上がるも、氷で張り付けにされている雷は動けそうになかった。

 

炎焔「・・・2人トモ、少シ待テテネ。オ姉チャンガナントカスルカラ」

 

風は雷と違い動けるが万全に動くにはもう少し休ませた方がいいと炎焔は判断し、2人にじっとしておくように言い聞かせた。

風は何か言いたそうだったが、ここは素直に炎焔の言うことを聞くことにした。

 

炎焔「・・・マズ謝トクヨ、私タチハ完全ニキミノコトヲ嘗メテタヨ」

 

秋宗は油断せず炎焔と対峙しながら風と雷も警戒していた。

もしかしたら回復し終えた風が攻撃を仕掛けてくるかもしれないと。

 

炎焔「ダカラ、オ遊ビハモウ終ワリ。ココカラハ、本気デヤラセテモラウヨ・・・!!」

秋宗「ッ!!」

 

声のトーンが急に下がり尋常じゃない程の霊力が溢れ出している炎焔を見て秋宗は額から汗を流してしまう。

 

秋宗「こうなりゃ、もうやるしかねぇ!!」(グググッ!

 

秋宗はもう一踏ん張りと言わんばかりに狂暴性50倍の姿になり氷河獣王を発動させた。

既にボロボロだがそれは炎焔も同じこと。

このまま一気に攻めれば勝てると思った。

 

炎焔「・・・モウ手段ハ選バナイヨ。徹底的ニ追イ詰メテ殺シテアゲルヨ」

 

そう言って炎焔は左手で拳をつくり、

 

炎焔「フンッ!」(ブンッ

 

ガァン!!

 

後ろに建っている柱を思い切り叩いた。

 

秋宗は何をやっているんだ?と疑問に思うと、炎焔が叩いた柱に赤いスイッチが設置されていた。

 

そして次の瞬間、

 

 

 

プシャァァァァァァァァァァッ!!!!

 

 

 

秋宗「!?」

 

なんと天井から大量の水がシャワーのように降り注いできて、秋宗を始め炎焔、風、雷を濡らしていった。

突然のことに秋宗は咄嗟に上を向くと天井に取り付けられている無数の鉄パイプから水が噴き出していた。

 

つまりこれは、

 

秋宗「スプリンクラー・・・!?」

 

そう、今炎焔は押したのはスプリンクラーの作動スイッチだったのだ。

 

秋宗「・・・けど、こんなことして一体?」

 

スプリンクラーを作動させて辺り一面を濡らす炎焔の狙いが秋宗にはまったく理解できなかった。

 

考え込んでいたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクンッ・・・

 

 

 

 

 

秋宗「ッ!?グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!??」

 

 

 

突然秋宗が苦痛の悲鳴を上げてその場で転げ回ったのだ。

秋宗はまるで全身を鞭で叩かれいるような、または熱湯を浴びているかのような、そんな言葉では表せられない激痛が身体中に走っていた。

 

秋宗「ガァァァッ!?ウグァァァァッ!?」

 

激痛で考える暇もない秋宗は無意識に人間の姿へと戻ってしまい氷河獣王も解除されていた。

更に辺り一面に張っていた氷も徐々に溶けていき、

 

雷「ふぅ、これでようやく動ける・・・」

 

雷の氷も溶けて身動きが取れるようになってしまった。

 

秋宗「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!???」

 

その後も秋宗の苦痛の叫びは続くもスプリンクラーの音でかき消されてしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

5分後、

 

ポタッ、ポタッ・・・

 

秋宗「ッハァ・・・!ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

スプリンクラーがようやく停止し排水口から雫が静かに垂れ落ちていた。

秋宗はスプリンクラーが止まったことに安心するが、身体中には火傷でも負ったかのように至るところが赤くなっており見るに堪えがたいものだった。

 

秋宗「な、何だよコレ・・・!?」

 

秋宗はなんとか立ち上がろうとするが、身体中に激痛が残っており、どういう訳か力も入らず四つん這いになるのがやっとだった。

 

炎焔「・・・噂通リ、効果適面ネ」

風「マサカ、ココマデ苦シムナンテナ」

雷「少し驚き」

 

一方同じくスプリンクラーを浴びていた龍三姉妹は濡れているにも関わらず平然としていた。

 

炎焔「苦労シテ聖水ヲ手ニ入レタ甲斐ハアッタネ」

秋宗「せ、聖水・・・!?」

 

炎焔の口から出た聖水という言葉に秋宗はオウム返しをしてしまう。

つまりあのスプリンクラーの水は聖水ということになるが、それがどういうことなのかまったく分からなかった。

 

炎焔「ン?モシカシテ、知ラナイノ?」

 

秋宗の様子を見て炎焔は聖水について何も知らないことに少し驚いてしまう。

そこで風と雷は秋宗に聖水について説明を始めた。

 

風「聖水ッテノハナ、西洋ヤ欧米ノ妖怪ニトッテハ天敵ナンダゼ!」

雷「効果はダメージを与える他にも、弱体化させることもできる」

 

風と雷の説明を聞いて秋宗はあることを思い出した。

 

秋宗(そういや、前に母さんがなんか言ってたな!)

 

 

 

マーレ『聖水ナンテ浴ビタラダメヨ!ホントにアレ痛インダカラ!!』

 

 

 

と、前にマーレが言っていたことを思い出し、まさか聖水がここまで効くなんて秋宗にとって想定外だった。

 

その時、

 

ズドォンッ!!

 

秋宗「グフッ!?」

 

突然間合いを詰めてきた風が秋宗の腹にボディブローをかました。

その拍子に秋宗は立ち上がることができたが、口から血が霧のように吹き出した。

 

風「サッキノオ返シヲサセテモラウゼ!」

 

風は両腕に突風を纏わせて秋宗に殴り掛かってきた。

 

秋宗「クッ!?」

 

咄嗟に秋宗は風の攻撃を身を翻し紙一重でかわしたが、

 

ザシュッ!!

 

秋宗「ガァッ!?」

 

なんと回避した筈なのに秋宗の胸に爪で引っ掻かれたかのような大きな切り傷ができた。

 

風「ドーヨ!?回避不可能ノ技『旋風迅』ハ!?」

 

風が両腕に纏っている突風には無数のかまいたちが発生しており、拳を回避できたとしてもかまいたちの射程範囲から逃れることができず斬撃まで回避することはできない。

秘術を応用した風だけにしかできない技である。

 

秋宗「くっ・・・!ぅあぁ・・・!」

 

人間の姿でマトモに斬撃を受けてしまい更に聖水の影響で秋宗は窮地に追い込まれてしまった。

 

雷「抜け駆けしないで風姉さん、私も彼にやり返したいから」

 

そこへ追い討ちを掛けるように雷が前に出た。

秋宗はフラフラになりながらも攻撃を回避するために身構えた。

 

雷は威鳴の鞭を出し振り上げると、

 

雷「乱武!雷速・壱段(らいそく・いちのだん)!!」

 

フッ

 

なんと突如、雷の両腕が消えてしまった。

 

秋宗「!?消え・・・」

 

スパパパパパパパパパパァン!!

 

秋宗「ブヘァッ!?」

 

それと同時に突然秋宗の身体中に叩かれたかのような痛みと雷の痺れが襲い掛かってきた。

 

そして消えた筈の雷の腕もいつの間にか戻っていた。

 

雷「私の『雷速』に追いつける人なんていないわ」

 

雷は目に止まらぬ速さで鞭を振るい攻撃を当てていったのだった。

その速さはまさに雷の如し。

 

風「マ、アタシラガ本気出セバテメェナンザコノ程度ッテ訳ダ」

雷「例え聖水で弱体化していなかったとしても、あなたは本気の私たちには敵わない」

 

風と雷は秋宗を大したことないと嘲笑い形成逆転の状況を楽しんでいる様子だった。

 

秋宗「クソッたれがぁ・・・!!」

 

秋宗は歯を食い縛りながら風と雷を睨み付けているが身体は当に限界を越えており立っているのも奇跡だった。

もうこうなったら最後の力を振り絞りイチかバチかの攻撃をするしかなかった。

氷河獣王を発動させて両腕を前に出すと、

 

ビュォォォォォォォッ!!

 

そこに冷却を発している1メートル程の氷塊が出現した。

それを風と雷に向けて構え、そして、

 

秋宗「フリーズ・バースト!!」

 

ドビュゥゥゥゥゥン!!

 

氷塊が両手から大砲のように発射された。

氷塊は勢いが強くなったまま風と雷へ向かっていきそして、

 

 

 

ボジュゥゥゥゥゥゥゥ・・・

 

 

 

秋宗「なっ!?」

炎焔「残念ダッタネ~」

 

攻撃は届くことなく前に出た炎焔の獄炎花により氷塊は一気に昇華してしまった。

 

炎焔「コレデ詰ミダネ」

 

今の攻撃が秋宗の最後の一撃と読んだ炎焔はこの闘いにケリをつけようと青龍刀に炎を纏わせて突っ込んでいき、

 

炎焔「コレニテ終幕!獄落爆蔡!!」

 

 

 

ザシュ!!

ドカァァァァァァァァン!!

 

 

 

秋宗を斬ったと同時にとてつもない爆風が起き廃倉庫の窓がすべて割れてしまった。

 

そして、煙が晴れていくとそこには・・・

 

秋宗「う・・・ぅあ、ぁぁ・・・」

 

壁に寄りかかり座り込んでいる秋宗がいた。

頭から血を流し身体中のあちこちに傷や痣ができ、そして炎焔の攻撃で出来た大きな切り傷が右肩から左腰にかけて斜めに伸びていた。

秋宗も何が起きたか分からず呼吸しているのも苦痛の状態だった。

 

目線を前へ向けると龍三姉妹が平然と立っていた。

 

炎焔「ソコガ、キミノ限界ネ。ココデ終ワラセテアゲルヨ」

風「エ~!?炎姉ズリィ!アタシガトドメ差シタイ!」

炎焔「ダ~メ。ココハオ姉チャンニ譲リナサイ」

 

本気モードからお遊びモードに戻っている龍三姉妹たちは誰がトドメを差すのか盛り上がっており、その結果炎焔がトドメを差すことが決定した。

秋宗は立ち上がろうとするが力が入らず動けずにいた。

 

炎焔「ジャアイクヨ~」

 

炎焔がトドメを差そうと近づこうとした時だった。

 

雷「・・・待って炎焔姉さん」

 

雷が声を掛けて炎焔の歩みを止めた。

 

炎焔「ンン?ドシタノ雷?」

雷「彼ほどの実力の持ち主、殺すには惜しくない?どうせなら私たちで有効活用しよう」

風「ンア?ドウイウコトダ?」

 

炎焔と風が揃って首を傾げているのを他所に雷は秋宗に歩みよりしゃがんで目線を合わせた。

一体何をするつもりなのかと秋宗は雷を黙って睨んでいると雷が唐突に切り出した。

 

雷「ねぇ、私たちの仲間にならない?」

秋宗「・・・はぁ?」

 

突然のスカウトに秋宗は拍子抜けな声を出してしまう。

 

炎焔「エッ!?チョト雷!?」

風「何言ッテンダオ前!?」

雷「落ち着いて姉さんたち」

 

勝手に秋宗をスカウトした雷に炎焔と風は驚いてしまうも、雷は落ち着かせた。

 

雷「私たち、まぁお尋ね者になっているのは炎焔姉さんだけだけど、これから多分私たちを捕らえるために中国に限らず世界中の霊能力者たちが追いかけてくると思う。いくら私たちでもそれが続いたらいつか捕まってしまう」

炎焔「マァ、ソウダネ~・・・」

雷「だけどもし、私たちに強い味方がいたら?」

風「・・・ナルホド、ソイウコトカ」

 

炎焔と風は雷が秋宗をスカウトしたがる理由を理解し出した。

指名手配されている自分たちを守る仲間が欲しいから秋宗をボディガードにする気なのだと。

 

雷「もし仲間になってくれるなら、貴方を殺さないことを約束してあげる。どう?悪い話じゃないでしょ?」

 

仲間になれば命を助けると交渉を持ちかけてきた雷に秋宗は、

 

秋宗「・・・誰が仲間になるかよバーカ」

雷「・・・・・」

 

雷のスカウトを蹴ってこう続けた。

 

秋宗「テメェらの仲間になるくらいなら死んだ方がマシだ・・・それに、俺は今の仲間を裏切らねぇって決めてんだよ」

 

かるらとマトラを裏切らない秋宗は龍三姉妹の仲間に死んでもならないと示した。

 

雷「・・・そう」

 

誘いを断られた雷は秋宗の耳元に近づき、

 

雷「バカな人」

 

と囁いて立ち上がり秋宗に背中を向けて離れた。

 

雷「炎焔姉さん、もう好きにしていいよ」

炎焔「残念ダッタネェ、スカウト失敗シチャテサ」

 

雷と入れ替わるように炎焔は歩み寄り秋宗の前に立った。

 

チャキッ

 

そして青龍刀を頭の上へ振り上げ、

 

炎焔「久シブリニ本気デ闘エテ楽シカタヨ。トイウ訳デ、バイバイ!!」(ブォン

 

狂気の笑みを浮かべながら秋宗に青龍刀を振り下ろした。

 

秋宗(くそっ・・・ここまでかよ・・・)

 

秋宗は青龍刀が迫ってくる状況でいろんなことを思い出していた。

 

かるらとマトラの2人と出会ってからいろんな思い出があった。

2人で一緒に遊んだり、遊園地へ出掛けたり、くだらないことで喧嘩したり、かるらの買い物に付き合ったり、マトラの特訓の相手をしたりと語りきれない思い出が頭の中を過っていった。

そして、小さい頃3人で約束したことを思い出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

かるら『マトラ!秋宗!私たちずっと一緒にいようね!』

秋宗『うん!』

マトラ『当たり前だろ!』

かるら『じゃあ約束!私たちは何があってもずっと一緒!絶対に3人一緒だからね!』

マトラ『あぁ!約束だ!』

秋宗『オレも約束する!』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

秋宗(ワリィお嬢、姐さん・・・)

 

3人ずっと一緒にいると約束したにも関わらずそれが破られてしまうことに秋宗は心の中でかるらとマトラに謝った。

 

そして青龍刀が目と鼻の先まで来ており秋宗は覚悟を決めて目を瞑った・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュラッ

 

 

 

炎焔「ン?」

 

 

 

ズドォォォォォォン!!

 

ガシャァァァァァン!!

 

 

 

秋宗「!?」

 

刹那、突然衝撃音が聞こえ思わず秋宗は瞼を開けると、なんと炎焔が奥の瓦礫の上で仰向けに倒れていた。

 

風「炎姉!?」

雷「炎焔姉さん!?」

 

突然の出来事に風も雷も何が起きたかまったく理解できず慌てていると、

 

 

 

ブオォォォォォォォォォッ!!

 

 

 

風「ウワッ!?」

雷「キャァッ!?」

 

ガシャァァァァァン!!

 

今度は竜巻が発生し風と雷は炎焔と同じ瓦礫へ吹き飛ばされてしまった。

 

秋宗「あっ・・・」

 

一瞬秋宗も何が起きたか分からなかったが、目の前を見て何が起きたか理解した。

 

それは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かるら「貴様ら!!」

 

マトラ「秋宗に何してんだ!!」

 

 

秋宗「お嬢!?姐さん!?」

 

 

 

幼なじみのかるらとマトラが秋宗を守るかのように立っていたのだった。




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第46話 かるらの涙

~5分前~

 

浩介『うわぁ!?結構食らっちゃった!』

七海『何やってるの浩介!ネルギガンテが手を大きく振りかざしらた回避でしょ!』

夜々『回復するの』

紫音『イビルジョーが来たッスよ浩介兄さん!』

マトラ『リオレウス亜種まで来たぞ!どうすんだ!?』

こゆず『逃げて逃げて!』

 

肉じゃがを食べ終えたゆらぎ荘では、みんなが秋宗の部屋の207号室に集まっていた。

そこでは、浩介が小型テレビの前でコントローラーを操作してモンハンをしており、マトラたちがそれぞれ言い合っていた。

何故こうなったかというと、マトラが秋宗が持っているモンハンをやりたいと言ったことがきっかけでそれに便乗して浩介たちもやりたいと主張したためその結果、207号室にみんなが集まったのである。

マトラ、浩介、七海、紫音、こゆず、夜々と交代でコントローラーを操作しておりコガラシたちは観戦するという形になった。

 

狭霧『夜中だというのに元気だな』

雲雀『多分有り余ってるんだと思うよ』

幽奈『あの、コガラシさんはやらないのですか?』

コガラシ『俺はいい、あんまゲームなんてやらねぇからな』

 

マトラたちがハイテンションでゲームをしている様子を狭霧たちは呆れながらも少し苦笑いしながら見ていた。

 

千紗希『・・・・・』

 

一方千紗希は浮かない顔をしていた。

秋宗に口止めされてから数時間が経ったにも関わらず帰って来なければ連絡もないため心配になっていたのだ。

 

朧『どうした師匠?さっきから様子が変だぞ?』

千紗希『へっ!?』

 

そんな千紗希の様子を気にかけた朧がどうしたのかと聞いてきた。

 

千紗希『そ、そうかな?なんでもないけど・・・!』

朧『・・・ならいいんだが』

 

しかし千紗希は言おうにも言い出せない状況にいるため素直に話すことができなかった。

朧もこれ以上追及することもなかったため一安心していると、

 

スッ

 

トイレに行っていたかるらが襖を開けて部屋へ入って来た。

 

かるら『・・・皆、少しよいか?』

呑子『かるらちゃん?』

仲居さん『どうされました・・・?』

 

かるらの声のトーンが少し低く顔も険しくなっており、みんなは一気に様子が変わったかるらに注目し、マトラたちも思わずモンハンを中断してしまった。

盛り上がった空気から静かな空気へ変わった中でかるらが口を開いた。

 

かるら『千紗希、秋宗に会いに来たヤツはどんな容姿をしておった?』

千紗希『えっ・・・!?』

 

突然のかるらの質問に千紗希は一瞬固まり汗をかいてしまう。

 

マトラ『何言ってんだおひいさん、それは茜だったって話だろ』

 

秋宗に会いに来たのはチャラい人だったと千紗希から聞いたマトラは友人の茜だと思っていた。

しかし、

 

かるら『さっき茜に連絡したら、アヤツは秋宗に会いに来ていないと申しておった』

マトラ『・・・は?』

 

先ほどかるらはスマホでその茜という人物に連絡をしていたのだ。

いつまで秋宗を連れ回しているんだと文句を言うつもりだったのだが、彼女は秋宗に会っていないと答えたためかるらは秋宗に会いに来たのは違う人物だと理解した。

そもそも誰か会いに来たというのも信憑性に欠ける話へと流れていった。

 

マトラ『茜じゃねぇのか・・・!?』

雲雀『じゃあ違う人だったんじゃ・・・?』

朧『師匠、秋宗に会いに来た人物というのは誰なんだ?』

 

話を聞いたマトラとコガラシたちは秋宗の伝言を預かっていた千紗希へと視線を移した。

 

千紗希『えっと・・・その・・・!』

 

みんなからの視線を受けている千紗希の顔色はどんどん悪くなり本人も目がかなり泳いでいた。

 

かるら『何故容姿を言うのに渋る必要があるのじゃ?』

こゆず『千紗希ちゃん?』

コガラシ『宮崎、俺らになんか隠してんじゃねぇだろうな?』

幽奈『あの、千紗希さん?』

 

かるらの視線が更に鋭くなりコガラシたちからも質問攻めされ、ついに、

 

千紗希『ご、ごめんなさい!!』

 

とうとう折れてしまい千紗希はかるらたちに頭を下げた。

それと同時にかるらたちは千紗希が隠し事をしていると理解した。

 

かるら『・・・知っとることを包み隠さず話せ』

千紗希『じ、実は・・・!』

 

声を震わせながら千紗希は正直に話し出した。

 

秋宗とゆらぎ荘へ向かっている時に中国から来た超極悪人の武闘家、龍・炎焔が現れたこと。

一緒に来なければ自分たちの身の周りの人たちを危険に晒すと脅され秋宗がたった1人で行ってしまったこと。

秋宗からこのことを口止めされていたことなど、ありのまま起こった出来事を全て話した。

 

狭霧『龍・炎焔だと!?』

コガラシ『知ってるのか・・・!?』

浩介『う、うん・・・!確か先月日本に入国してきたって情報だったんだけど・・・!』

雲雀『この町に来てるの!?』

 

どうやら誅魔忍軍の情報網で狭霧たちは龍・炎焔についてある程度知っている様子だった。

 

仲居さん『で、では秋宗くんは・・・!?』

朧『何も連絡がないとなると・・・!』

紫音『き、きっと大丈夫ッスよ!秋宗兄さんがやられるワケが・・・!』

 

仲居さんと朧が最悪の事態を想定するが紫音は即座にそんな訳ないと主張した。

 

マトラ『まだ見つかんねぇのかおひいさん!?』

呑子『かるらちゃん急いで!』

かるら『今探しとる!』

 

かるらが天通眼を使って秋宗を探すが中々見つからずマトラと呑子に急かされるも集中して必死になっていた。

 

すると何かを思い出したかのように七海がハッと顔を上げた。

 

七海『もしかしたらあそこかも!』

夜々『どこ?』

七海『この前タヌキちゃんとキツネちゃんで町外れにある廃倉庫でかくれんぼしたんだけど、オオカミさんそこにいるんじゃないかしら!?』

こゆず『あの大きな建物?』

 

かるらは七海の情報から町外れにある廃倉庫を天通眼で見ると、そこには血まみれで倒れている秋宗と青龍刀を振りかざしている炎焔とそれを見ている風と雷の姿があった。

 

かるら『いたぞ!秋宗じゃ!』(ギュラッ

 

秋宗を見つけたや否や、かるらは即座に神足通の門を出現させて廃倉庫と繋いだ。

 

ダッ!!

 

そして繋がったと同時にかるらとマトラは駆け出して神足通へと突っ込んで行った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そして現在。

 

かるら「貴様ら!!」

マトラ「秋宗に何してんだ!!」

 

神足通で廃倉庫へ到着するや否やマトラは炎焔を思い切り蹴り飛ばし、かるらも竜巻を起こして風と雷を吹き飛ばしたのだった。

 

秋宗「お嬢!?姐さん!?何でここに!?」

 

突然現れたかるらとマトラに秋宗は驚いてしまう。

 

更にそこへ、

 

コガラシ「西条!」

幽奈「ご無事ですか秋宗さん!?」

秋宗「ッ!お前ら・・・!」

 

神足通からコガラシたちがやって来た。

 

紫音「あ、秋宗兄さん!」

雲雀「大丈夫!?」

呑子「酷いわねこれ・・・!」

 

秋宗の重症の状態を見るや、紫音と雲雀は声を震わせてしまい、呑子は険しい表情になっていた。

そして秋宗はかるらとマトラ、コガラシたちが何故ここへ来たのか理解した。

 

秋宗「・・・喋ったな宮崎」

千紗希「だ、だって!もう隠しきれなくて!」

 

口を割った千紗希をジト目で見るが、千紗希は少し反発して言い返した。

 

浩介「と、取り敢えず秋宗くんを運ばないと!」

 

酷い怪我を負っている秋宗を一旦運ぼうと浩介は自分の肩に秋宗の手を回して抱えた。

 

秋宗「ワリィな・・・」

浩介「いいよ、まずは怪我の手当をしてから」

マトラ「ちょっと待て」

 

浩介が秋宗をゆらぎ荘別運ぼうとした時、マトラが声で静止させて秋宗と向かいあった。

 

マトラ「・・・・・」

秋宗「ね、姐さん・・・?」

 

いつもと様子が違うため秋宗が声をかけると、

 

グイッ!

 

秋宗「うおっ!?」

 

突然マトラが秋宗の胸ぐらを掴み引き寄せ、無理やり立たされてしまった。

 

マトラ「秋宗・・・お前な・・・!」

 

いつも笑顔で前向きなマトラが今は目がつり上がり声のトーンが低くなっており完全に怒っている様子だった。

 

秋宗「姐さん、怒ってんのか・・・!?」

マトラ「これが怒ってねぇように見えんのか?」

秋宗「・・・見えねぇ」

 

ここまで怒っているマトラを今まで見たことがない秋宗は少し動揺していた。

 

コガラシ「西条、何で俺らに知らせなかったんだ?」

 

それに怒っているのはマトラだけでなく、コガラシたちも少し怒っている様子だった。

みんなからの視線をチクチクと受けた秋宗はゆっくりと口を開いた。

 

秋宗「・・・お前らを、巻き込みたくなかった」

かるら「・・・・・」

秋宗「相手は目的のためなら関係ねぇ人たちを巻き込む狂気に満ち溢れた連中だ。そんなのを相手したら、間違いなく無事じゃ済まねぇだろ」

 

龍三姉妹と闘っている最中でも連絡は出来たのだが、これ程までの実力者が相手となれば重症を負ってしまう可能性が高い。

だから秋宗は連絡をするのを止めたのだった。

 

秋宗「それに、今日はお嬢がコガラシのために肉じゃがを作ってるし、姐さんも呑子さんのアシスタントしてるしよ。そんな2人の邪魔なんかしたくなかった」

マトラ「・・・秋宗」

 

フッと笑っている秋宗を見て、マトラは怒ろうにも何と言えばいいか直ぐに出て来なかった。

 

秋宗「俺なんかがいなくても、お嬢はコガラシと結ばれればそれで幸せ」

 

 

 

 

 

パァンッ!!

 

 

 

 

 

秋宗「ッ!!?」(ドサッ

 

 

 

話している途中、ずっと黙っていたかるらが秋宗の頬にビンタをかました。

その拍子に秋宗はその場へ座り込むように倒れてしまう。

 

幽奈「か、かるらさん!?秋宗さんは重症なんですよ!?」

 

アワワワと慌てふためいている幽奈を他所にかるらは秋宗にこう言い放った。

 

 

 

 

 

かるら「このっ!!大馬鹿ものが!!」

 

 

 

 

 

今までにないかるらの大怒声が倉庫中に響き、幽奈たちは身体が跳ね上がったり耳を塞いだりとしており秋宗に至っては面食らった表情になっていた。

 

かるら「何1人で勝手に突っ走っとるのじゃ!!」

秋宗「お、お嬢・・・」

かるら「妾がコガラシ殿と結ばれればそれでよいと思っとるのか!?そんなワケあるか!!」

 

秋宗に怒鳴りながらも徐々にかるらの目に涙が溜まり声も震えてきていた。

 

かるら「幼き頃妾たちが交わした約束を忘れたのか!?」

秋宗「ッ!!」

 

小さい頃、何があっても3人ずっと一緒の約束をまだかるらが覚えていたことに秋宗は目を見開いてしまう。

 

かるら「例え妾がコガラシ殿と結ばれたとしても、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴様とマトラが傍にいなければ何の意味もないのじゃぞ!!勝手なことを言うでないわ!!」

 

秋宗に対して言いたいことを全て言い終えたかるらはとうとう涙を溢してしまい顔を手で覆ってしまう。

気品がよく弱みを見せることなど滅多にないかるらがここまで泣き崩れた姿を見て秋宗は心の中で反省した。

巻き込みたくないから自己犠牲覚悟をした行いが逆に幼なじみを悲しませる行いになっていたのかと。

 

秋宗「・・・すまねぇお嬢」

 

足に力を入れてなんとか立ち上がり秋宗はかるらに頭を下げた。

かるらは涙を拭いて秋宗をジト目で睨み、

 

かるら「・・・今度の日曜、買い物付き合ってもらうからのう」

秋宗「・・・あぁ」

 

心配かけさせた罰として日曜日に買い物に付き合うように約束をした。

 

グッ!

 

マトラ「アタシが言いたかったこと全部おひいさんが言ってくれたな。まぁいいや、アタシも一緒に行くぜ!秋宗の奢りで焼き肉な!」

 

そこへ笑顔に戻ったマトラが秋宗とかるらの肩を組み買い物に着いていくと言った。

 

かるらとマトラを見て秋宗は思わず少し笑ってしまい3人ずっと一緒の約束を絶対に守りきると誓った。

 

七海「じゃあ私は駅前の喫茶店のDXパフェを奢ってもらうから。タヌキちゃんも食べたいよね~?」

こゆず「うん!スゴく美味しそうだったよね!」

浩介「僕は海外映画のDVDを5本お願い」

呑子「私お酒~!」

夜々「お寿司!」

秋宗「オイさりげなく何追加で頼んでんだ?迷惑掛けたけど嫌だからな」

『え~~~~~!!??』

秋宗「え~じゃねぇ!殆どお前らが欲しいもんだろ!」

仲居さん「でも迷惑を掛けたのは事実ですから、このくらいは当然かと」

秋宗「・・・正論すぎて何も言えねぇ」

 

冷えきっていた空気が一気に和み気づけば思い切り盛り上がっていた。

コガラシたちも苦笑いをしており一件落着。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎焔「何和ンデンダオ前ラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

ボォォォォォォォォォッ!!!!

 

 

 

 

 

『!!??』

 

 

 

 

かに思えた矢先、突然響いた怒声に秋宗たちが振り向くと、そこには天井を突き抜ける程の火柱が上がっておりその中心に先ほどマトラに蹴り飛ばされた炎焔が立っていたが完全に怒り狂っていた。

 

ビュォォォォォォォォォッ!!!!

 

風「ブッ飛バシダ挙ゲ句放置トハイイ度胸ジャネェカ!!!!」

 

バリバリバリバリバリバリィ!!!!

 

雷「ここまでコケにされたのは生まれて初めてかも・・・!!」

 

更に突風を起こしている風と電気を纏っている雷も傍に立っておりこちらも完全にキレていた。

 

狭霧「なんという凄まじい霊力だ・・・!」

雲雀「て言うか何でが3人もいるの!?」

秋宗「三つ子だったんだよアイツら」

朧「では炎を出しているのが龍・炎焔というやつか」

 

龍三姉妹のとてつもない霊力に狭霧たちは身を固めてしまう。

 

浩介「どうしよう!?冬空くん女の人殴れないから何の役にも立たないし!」

七海「そうね、女性が相手ならやっさんは無能同然だものね」

コガラシ「お前ら何か俺に恨みでもあんのか?」

 

更に浩介と七海がさりげなくコガラシをディスり空気が張り詰めていながらも何処か抜けているという微妙な状況になっていた。

 

炎焔「モウ狂気ノ快楽トカドーデモイイ!オマエラムカツクカラ殺ス!イラツクカラ殺ス!眼球抉ッテ顔ノ皮剥イデ殺シテアゲルヨ!!」

風「ソノ通リダゼ炎姉!手足引キ千切ッテ肉削イデ心臓ムキ出シニシテヤル!!」

雷「少なくとも、あなたたち全員楽に死ねると思わないで・・・!!」

 

完全に頭にきている龍三姉妹は秋宗を含めこの場にいる全員の抹殺すると断言し、それぞれの殺し方にかるらたちは身構えてしまう。

 

秋宗「ま、やるしかねぇわな・・・」

 

しかし、頭を掻きながら秋宗は龍三姉妹と向かいあった。

今までにないほどの霊力を見て窮地だと思うがここで退くワケにもいかなかった。

 

炎焔「取リ敢エズ、オ前カラヤッテヤルヨ!」(ブンッ

 

ガァン!!

 

秋宗「ッ!?しまった!」

 

秋宗は炎焔が行った行動を見て焦りを露にしてしまった。

何故なら炎焔が近くの柱に取り付けられていた赤いスイッチを押したからだ。

そう、スプリンクラー作動のスイッチを。

 

炎焔「聖水ガ効果抜群ダトイウコトハ明ラカ!コレデ終ワリヨ!」

幽奈「せ、聖水?」

かるら「ッ!おば上殿が前に申しておったオオカミ人間の弱点のことか!」

秋宗「そうだ!あれスプリンクラーの作動スイッチなんだ!」

 

かるらもマーレから聖水のことは聞いていたため秋宗が聖水を浴びたのだと理解した。

今の満身創痍の秋宗が聖水を浴びたらどうなるか、火を見るよりも明らかであった。

 

炎焔「マズハ1人!アーハッハッハッハッハッ!!」

秋宗「クソォッ・・・!!」

 

これで秋宗はリタイアだと確信した炎焔の笑い声が倉庫中に響き秋宗は苦痛の表情を浮かべていた。

もはや絶体絶命、と思っていたが、

 

炎焔「アーハッハッハッ・ハ・・ハ・・・ハ?」

 

シーン・・・

 

コガラシ「・・・何も起きねぇぞ?」

 

一向にスプリンクラーが作動せず時間だけが流れ炎焔も笑うのが止まってしまった。

何故スプリンクラーが作動しないのか、秋宗にも準備していた龍三姉妹にも分からなかった。

 

炎焔「ナ、何デ・・・!?」(カチッカチカチッ

風「聖水ハマダアッタ筈ダゾ!?」

雷「どういうこと?」

 

スイッチを連打するがスプリンクラーが作動する気配がまったくせずどういうことなのだと焦っていると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「いや~、どうやら間に合ったみたいだね~」

 

 

 

突然男の声が聴こえ全員が振り向くとそこには、

 

 

 

 

 

秋宗「有馬さん!?」

 

京太郎「よっ!さっきぶりだね秋宗くん!千紗希ちゃんも!」

 

昼に秋宗と千紗希を取材した霊界新聞の記者、有馬京太郎が立っており、笑顔で人差し指と中指を立ててフッと前に振った。

 

雲雀「だ、誰・・・?」

千紗希「えっと、霊界新聞っていう新聞の記者の人らしいんだけど」

 

突然現れた京太郎のことなどコガラシたちが知るワケもなく首を傾げてしまう。

 

秋宗「何でここに・・・!?」

京太郎「いや~実はね、本社に帰ろうとしたら森の奥から煙が上がっているのが見えてね、何か事件かもしれないと思ってオジサンはその場所へ走って行ったのさ。そしたら秋宗はボロボロだわ龍・炎焔がいるわ実は三姉妹だったわで驚きの連続だった」

 

どうやら秋宗がスプリンクラーを浴びた直後に京太郎は隠れて様子を伺っていたらしい。

 

京太郎「まぁ何とかして秋宗くんを助けようと思ったんだが、生憎オジサンには霊力がこれっぽっちもないし霊感も精々幽霊さんとお話できる程度。そんなオジサンにできることといえば、外に置かれていた貯水タンクとスプリンクラーを繋ぐバルブの栓を閉めるくらいだよ」

秋宗「有馬さん・・・!」

 

秋宗を龍三姉妹が追い詰めている最中、京太郎は外に設置されていたスプリンクラーのバルブの栓を閉めていたのだ。

京太郎が自分を助けてくれたことに秋宗は思わず笑顔になってしまう。

 

炎焔「ヨ、余計ナコトヲ!コノ卑怯モノ!」

京太郎「卑怯?オジサンから言わせてみれば、君たちの方がよっぽど卑怯だよ。君たちも武闘家なら聖水なんて頼らずに、正々堂々と勝負したらどうだい?」

 

炎焔から卑怯者と言われるも京太郎はあっさり論破して憎たらしい笑みを浮かべた。

それにより龍三姉妹の怒りを買ってしまった。

 

炎焔「・・・分カタヨ。オ望ミ通リ、正々堂々ト勝負シテアゲルヨ・・・雷」

雷「了解」(ダッ!

 

炎焔が雷に指示を出すと京太郎へ一気に駆け出した。

 

京太郎「えっ!?ちょっ、ちょちょちょちょっと待って!オジサンホントに霊力ないんだって!やめてぇ!こっちこないでぇ!お願ぁい!」

 

完全に調子に乗っていた京太郎は一気に青ざめてしまい慌てふためくも雷は聞く耳もたず。

手から威鳴を出して京太郎へと振るった。

 

ガキィィィン!!

 

雷「ッ!!」

朧「させんぞ」

 

しかし、神足で雷と京太郎の間に立った朧により威鳴が防がれてしまった。

 

朧「誰だか知らぬが、秋宗を助けてくれたことに礼を言う。下がっていろ」

京太郎「は、はい!じゃあお願いね!」

 

朧から言われて京太郎は少し離れた場所に置いてあるドラム缶に身を隠した。

 

朧「さて、私の恩人である秋宗を痛め付けた報い、その身を持って受けてもらうぞ」

雷「・・・やれるものなら、やってみなさい。貴女は私に追い付けはしない」

 

朧と雷が互いに睨み合い距離を置きながらもジリジリと間合いを詰めていった。

 

炎焔「ドコマデモ邪魔バカリシテ・・・!」

 

せっかく京太郎を仕留められると思ったのに朧が助けに入ったため炎焔のイライラが更に増してきていた。

 

秋宗「龍・炎焔」

炎焔「!」

 

名前を呼ばれ振り向くと秋宗とかるらとマトラの3人が立ちはだかっていた。

 

秋宗「俺はもう、テメェを許す気はねぇ。ここでテメェを完膚なきまで叩きのめしてやる!!」

かるら「もはや貴様に勝ち目などないぞ。貴様が相手にしているのが一体誰なのか、思い知らせてやるわ!」

マトラ「さっさとコイツぶっ倒して帰ろうぜ!」

 

満身創痍にも関わらず秋宗のとてつもない覇気に炎焔は身震いしてしまう。

もしかしたら自分はとんでもないのを敵に回してしまったのではないのかと。

 

紫音「あ、秋宗兄さん・・・!」

 

後ろから紫音が声を掛けてきたため振り向くととても心配な表情をしていた。

 

秋宗「・・・心配すんな」(ワシャワシャ

紫音「わっ・・・!?」

 

安心させようと秋宗は笑いながら頭を少し乱暴に撫でた。

 

秋宗「コガラシ、紫音を頼むぞ」

コガラシ「おう」

 

女性を殴れないコガラシは千紗希たちに身の危険が及ばないように守る役目につき紫音もコガラシの元へ戻っていった。

 

そして、

 

秋宗「よし・・・いくぞ!!」

かるら「うむ!!」

マトラ「っしゃあ!!」

 

ダッ!!

 

秋宗たち3人は一斉に炎焔へと駆け出して行った。

 

風「行カセネェゾ!!」(ビュォォォッ!!

 

しかし、風が立ちふさがり旋風迅で殴りかかるが、

 

ギィィィィン!!

 

風「ナッ!?」

浩介「そのまま走って!」

 

咄嗟に浩介がショットガンを盾にして旋風迅を防いだ。

その隙に秋宗たちはそのまま通りすぎていった。

 

風「コイツッ・・・!」

 

風はもう片方の腕で浩介に殴りかかるが、

 

シュンッ

 

風「!!」(キィン!

 

右からクナイが飛んで来たため風が片腕を翳すと風の流れでクナイの軌道が逸れた。

 

狭霧「私たちが相手だ!!」

雲雀「覚悟してよね!」

 

そこへ霊装結界を纏った狭霧と雲雀がクナイと手裏剣をそれぞれ構えて風を取り囲んだ。

 

風「チィ!誅魔忍風情ガ!」

浩介「僕も忘れないでよっ!」

 

ガンッ!!

 

風「グッ!?」

 

気が反れている隙をつき浩介は押しきりショットガンで顔を殴り距離を取った。

 

風「テメェラ~!!」

 

邪魔をされた挙げ句殴られた風は完全に怒りが頂点を越えていた。

狭霧と雲雀、そして浩介は風の怒りに押されながらも対峙した。

 

そして秋宗たちはようやく炎焔の元へたどり着いた。

 

秋宗「行くゾ炎焔!!」

 

炎焔「イイヨ!コレデ決着ツケテアゲルヨ!!」

 

ついに、この闘いに終止符が打たれようとするのだった。




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第47話 神速VS雷速、姑息VS外道

秋宗「オラァ!」(ブンッ

炎焔「チィッ!」(ガキンッ

 

秋宗が殴り掛かるのを炎焔は咄嗟に青龍刀を盾にして防いだ。

しかしその重みは今までより重く踏ん張ることで精一杯だった。

一体何処にここまでの力を隠していたのだろうと。

 

マトラ「そらよっ!」

 

ドスッ

 

炎焔「グハッ!?」

 

そこへマトラの渾身のボディブローが炸裂し炎焔はモロに受けてしまい後ろへ吹き飛ばされるも何とか体制を立て直した。

 

ビュン!

 

炎焔「ッ!!」(スタッ

 

ズドン!

 

更に上から突風が向かってきたため炎焔は咄嗟にバックステップでかわした。

見上げると羽を生やし飛んでいるかるらが扇を構えていた。

 

かるら「どうした?秋宗に痛め付けられて限界か?」

 

一向に攻撃をしてこない炎焔をかるらは嘲笑いながら挑発した。

 

炎焔「・・・ドイツモコイツモ!人ノ神経逆撫デシテクレルネ~!」

 

ただでさえイラついている炎焔はかるらの挑発で更にイライラが増してきていた。

 

するとマトラがあることに気がついた。

 

マトラ「秋宗、変身しねぇのか?」

 

今の秋宗は人間の姿のままで氷河獣王も使っていないため疑問に思った。

 

秋宗「変身はしねぇ、霊力を消費しちまうからな。霊力はアイツを倒すとっておきの技で使う」

マトラ「とっておき・・・!?」

かるら「それで倒せるのか?」

秋宗「・・・多分な」

 

なるべく霊力を温存しておきたい秋宗は最後の一撃に賭けるために敢えて変身や秘術を使わずに闘おうと決めた。

 

炎焔「何ゴチャゴチャ話シテンノ!?」(ボォゥゥゥッ!!

 

再び放置されて会話している秋宗たちに炎焔は獄炎花を発動させて炎を青龍刀に纏わせた。

 

マトラ「んじゃアタシとおひいさんで隙つくってやっから、絶対決めろよ」

かるら「失敗は許されんからのう」

秋宗「・・・あぁ、分かってる」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

キィン!キィンキィン!!

 

朧「フンッ!」

雷「ハァッ!」

 

一方、雷と闘っている朧は神足を使い雷の雷速と渡り合っていた。

端から見たら2人が消えては現れて、また消えては現れてと目にも止まらぬ速さで繰り広げられていた。

 

雷「驚いた、まさか雷速の参ノ段に追いつけるなんて」

朧「たかが雷程度、私に追いつけないことなどない」

 

雷は朧の神足の速さに感心するも、朧は当然だと言わんばかりの表情をしていた。

実際雷の速さと渡り合えることができるのは朧しかいないであろう。

 

雷(でもいくら速くても私の威鳴の電撃は間違いなく刀身で捌いた時に伝ってダメージが行く筈なのに・・・って思ってたけど、刀身に防御結界を纏わせているわね)

 

電撃で堪えている様子がまったくないことに疑問を持っていた雷だが、目を凝らしてよく見てみると朧の両手の刀身に霊力が纏っておりあれが防御結界なのだと理解した。

初見で即座に電撃対策を行った朧に少し驚いてしまう。

 

雷「その様子だと、もう少しスピード上げても大丈夫かも」

朧「!・・・」

 

雷の言葉を聞いて朧は神足の体制を取った。

これから敵が更に速くなるため本番はここからかもしれないと。

 

雷「じゃあ肆ノ段行くわよ・・・」

 

雷が体制を低くし鞭を大きく掲げると、

 

雷「と見せかけて!」(ブォン!!

 

なんと咄嗟に後ろを向き後方へ鞭を振るった。

一体何をしているのだろうと思われてしまうかもしれないが、鞭の先には、

 

夜々「う!?」

 

猫神の力を借り獣のような霊装結界を纏っている夜々がいた。

夜々は猫神の力で気配を消し朧に気を取られている雷を倒そうとしていたのだった。

 

雷「気配を消したつもりみたいだけど私は耳が凄くいいの!その気になれば目隠しして世界中の何の硬貨が落ちたか聞き分けることもできる!」

 

雷は朧と闘っている最中、後ろから呼吸の音や心音が聞こえたため、不意討ちを狙っていると確信していた。

だから敢えて気づかないフリをしてギリギリまで近づけさせたのだった。

 

夜々はまさか気づかれるとは思っておらず咄嗟に反応できず鞭が迫ってくるのを呆然として見ることしかできなかった。

 

バチィン!!

 

雷「!?」

呑子「ダメじゃな~い、そんなことしたら~」

 

しかし、いつの間にか夜々の前に呑子が立ち塞がり素手で鞭を掴んだのだった。

更に電撃に堪えている様子もまったく無く防御結界が桁違いだと理解できた。

雷は振りほどき咄嗟に鞭を自分の元へ戻した。

 

呑子「夜々ちゃん大丈夫~?」

夜々「・・・ありがと」

 

呑子は相変わらずのほのぼのとした様子で夜々に怪我がないか確認をした。

 

呑子「と言うワケで、私たちもやっちゃうけど別にいいわよね~?」

朧「あぁ、私としては別に一対一に拘るワケではないからな」

夜々「頑張るの!」

 

呑子と夜々も秋宗を痛めつけた炎焔たちに一泡吹かせたいらしく朧と協力して雷と闘おうとするのだった。

 

雷「好きにすれば?おばさん」

呑子「おばっ・・・!?お~ば~さ~ん~!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

風「オラオラオラオラァ!!」(ビュンビュンビュンビュン!!

狭霧「くっ!」

 

更に此方では、風と対峙している狭霧たちだったが苦戦を強いられていた。

三対一という有利な状況でありながらも風の旋風迅でクナイや手裏剣、弾丸などの飛び道具の軌道を反らされて当たらず、近づこうものなら接近戦で今度は風が有利になってしまい防戦一方へ追い込まれていた。

そして風の旋風迅を正面から受けている狭霧はクナイで何とかガード出来ているものの、反撃の隙も与えられず霊装結界も所々破けていた。

 

風「チィッ!シャラクセェ!!」(ブォン!

 

ガキィン!!

 

狭霧「しまった・・・!」

 

一向に致命的なダメージを与えられないことにイラついた風はアッパーでクナイを宙高く吹き飛ばした。

これにより狭霧はがら空きになってしまった。

 

風「モラッタゼ!」

雲雀「狭霧ちゃん!」(シュンシュン!

浩介「雨野さん!」(ズドンズドン!

 

風が殴り掛かろうとしたその時、背後から雲雀が手裏剣、浩介がショットガンで援護するも、

 

風「ウゼェンダヨ!」(ガキンガキン!!

 

裏拳で手裏剣と弾丸をすべて叩き落とされてしまった。

しかしその隙に狭霧は風から距離を取ることができたものの、状況は相変わらず変わらずにいた。

流石は百戦錬磨の武闘家というだけあり多対一の闘いにも慣れている実力を兼ね備えている。

 

風「テメェラ如キガアタシニ勝テルト思テンノカ!?」

狭霧「なんという強さだ・・・!」

雲雀「で、でも雲雀たちでコイツを倒さないと!」

 

風の実力に狭霧と雲雀は焦燥の顔になってしまうが諦めずにそれぞれクナイと手裏剣を構えた。

しかし、この後浩介がとんでもないことを言い出した。

 

 

 

浩介「勝てると思ってんのかって?そんなの、思ってる訳ないでしょうが!!」

 

 

 

『・・・・・・』

 

 

 

狭霧・雲雀((思って!?))

風(ナイ!?)

 

 

 

浩介のとんでもない発言に狭霧と雲雀はおろか、風でさえ動揺してしまった。

まさかこの状況で弱気なことをこんな堂々と言えるなど一体誰が予測できたであろうか。

 

そんな浩介に狭霧と雲雀は慌てて詰め寄った。

 

狭霧「平賀浩介!貴様一体何を言っているのか分かっているのか!?」

雲雀「何堂々と弱気なこと言ってるの!?」

浩介「だって考えてみてよ。秋宗くんを窮地に追い込んだ相手に真っ正面から勝てる訳ないじゃん」

雲雀「いやそうだけどさ!」

 

確かにマトラとほぼ互角の秋宗を苦戦させた敵に勝つことなど極めて困難である。

しかしそんなことを率直に言ってしまった浩介に狭霧は怒りが込み上げてきていた。

 

グィッ

 

狭霧「見損なったぞ平賀浩介!貴様は他の男とは違うと思っていたというのに!」

 

狭霧は胸ぐらを掴み浩介を叱責するも、浩介はいつも通りの様子で相手を宥めた。

 

浩介「落ち着いて雨野さん。僕は、"真っ正面から勝てる訳がない" って言っただけだよ」

狭霧「何・・・?」

雲雀「えっ・・・?」

 

そう言って浩介は狭霧の手をほどきショットガンの銃口を風へ向けた。

 

風「ハン!何度ヤッテモ同ジコトダゼ!」

 

また弾丸を弾いてやろうと風は旋風迅を構えた。

飛び道具はまったく効果がないということを十分理解している筈だというのに懲りない馬鹿だと風は心の中で嘲笑った。

 

一方、銃口を向けたままの浩介は只々冷静だった。

その表情は真剣とも言えず、無心とも言えない様子だった。

それも狭霧と雲雀が不気味に思う程に。

 

浩介「・・・真っ正面から勝てないんだったら、姑息に卑怯に勝つだけさ」

 

ジャキンッ ズドンズドンッ!!

 

そして銃口を風から天井へ向けて弾丸を数発放った。

一体何をしているのだと狭霧と雲雀、そして風も疑問に思ってしまう。

 

すると、

 

ギギ、ギギギィ~・・・

 

風「ン?何ノ音ダ?」

 

何やら金属が擦れるような音が聞こえ風が辺りを見渡すと音は天井から聞こえており上を向いた。

その先には天井を支える鉄骨が何本も組まれているが長い年月で錆が目立っていた。

そしてそれを繋ぐ接続部には最近できたような穴が数ヶ所できており風は段々顔を青ざめていった。

 

雲雀「さ、狭霧ちゃん、なんだかイヤな予感がするんだけど、雲雀の気のせいかな・・・!?」

狭霧「・・・平賀浩介、この後のこと考えているんだろうな?」

 

狭霧と雲雀もこの後起こることを予測してしまい、その原因を作った浩介に恐る恐る声を掛けると、

 

浩介「・・・ゴメン、考えてなかった!」

 

ガゴォン!!

 

それを合図にするかのように浩介たちの頭上に組まれていた数本の鉄骨が落ちてきた。

 

風「コイツ正気ナノカ!?」

雲雀「浩介くんのバカーーー!!」

 

ガシャァァァン!! ガランガラァン!!

 

浩介のとんでもない行動に呆気に取られた直後、鉄骨の雨が降り注ぎ巻き込まれてしまった。

そして徐々に煙が晴れていき、辺りは降ってきた鉄骨で埋めつくされていた。

 

狭霧「ぶ、無事か雲雀・・・!?」

雲雀「し、死ぬかと思った・・・!」

 

かろうじて鉄骨を避けることができた狭霧と雲雀だったが、雲雀は少し涙目になっていた。

 

浩介「いや~ホントに危なかったね~」

 

一方浩介は奇跡的に鉄骨が当たらず何もなかったかのように平然としていた。

そんな浩介を狭霧と雲雀は睨み今にも殴り掛かりそうな形相になっていた。

 

狭霧「貴様!こういうのは前もって私たちに教えろ!」

雲雀「そうだよ!さりげなく雲雀たちを巻き込まないでよ!」

浩介「でもさ、こう言うじゃん。"敵を欺くならまず味方から"って。欺かれるいい経験になったでしょ?」

狭霧「ならば八つ裂きにされる経験を味会わせてやろうか!?」

雲雀「浩介くんってたまに変なところで度胸があるよね」

 

敵を倒すために自分たちを巻き込んだ浩介に叱責するも軽くあしらわれてしまい頭を抱えていると、

 

ガシャァァァン!!

ビュュュュュ!!

 

『!!?』

 

風「テメェラァ!!死ヌ覚悟デキテンダロウナ!?」

 

突然鉄骨が吹き飛び、そこから突風を纏い怒り狂った風が飛び出し宙に浮いていた。

どうやら風もかろうじて避けることが出来た様子だった。

そして突風は風の周りをバリアのように覆い球体状になっていた。

 

雲雀「余計に怒らせただけじゃん!」

狭霧「まずいぞ!あれではヤツに近づけん!」

 

突風のバリアに覆われている風に飛び道具どころか接近戦も出来ないと狭霧たちが再び焦るも、

 

浩介「・・・いや、多分勝てるかも」

狭霧・雲雀『!?』

 

ポロッと浩介が溢した言葉に狭霧たちは目を丸くしてしまう。

 

狭霧「本当か!?」

雲雀「またさっきみたいに雲雀たちを巻き込むつもりじゃないよね!?」

浩介「いや、もうさっきの手は使えない、今度は雨野さんたちの協力が必要だ。作戦は・・・」

 

風を警戒しながら狭霧と雲雀は浩介の作戦に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

雷「よっと!」(スタタタッ

呑子「コラーー!待ちなさーーい!」(ギュンギュン!

 

戻って此方では激しい闘いが繰り広げられている筈が、雷と呑子が鬼ごっこを繰り広げていた。

呑子が酒呑童子の技の一つ、鬼火砲を連発し、それを雷がバックステップやジャンプで軽々と避けていた。

ちなみに何故これ程までに呑子がムキになっているのかというと、

 

雷「そんなに怒ってばかりだと肌荒れちゃうよ、おばさん」

呑子「また言ったわねぇ!?これで4回目よぉ!それに私はまだピチピチの20代よ!!」

 

先程雷におばさんと言われたことに対し頭に来て鬼火砲を撃つも避けられて更に立て続けにおばさんと何度も言われたためこのようなことになってしまったのである。

しかし昼間から酒ばかり呑んでいる20代もいかがなものかと思うが。

 

雷「軽い挑発のつもりだったんだけど、まさかここまで簡単に引っかかるなんてねっ!」(ビュンッ

 

キィン!

 

朧「・・・そう簡単にはいかないか」

 

御三家ともあろう者がここまで簡単な挑発乗ってしまうことに少し呆れながらも雷は威鳴を後ろへ振るうといつの間にか朧がおり咄嗟に威鳴でガードした。

呑子の攻撃は一見荒っぽく見えるが朧の元へ誘導していたのだった。

しかしあっさりと見抜かれてしまい朧は落胆の表情を浮かべてしまう。

その隙に雷は2人から距離を取った。

 

呑子「ぐぬぬぬぅ~!あの子に一発お仕置きしないと気が収まらないわ~!」

朧「荒覇吐、気持ちは分かるが抑えろ」

 

何度もおばさんと言われ今にも飛び掛かっていきそうな呑子を朧は落ち着かせた。

しかし雷の素早さは朧並み。

御三家である呑子の攻撃を意図も簡単に避けてしまう相手となると攻撃を当てるのは至難であろう。

いかにして雷の動きを制限させるか朧が考えていると、

 

夜々「任せるの!」

 

なんと夜々が前に出て雷へ駆け出した。

咄嗟のことに朧と呑子は唖然となってしまう。

 

雷「はぁ、また性懲りもなく・・・」

 

気配を消す攻撃は自分に通用しないと分かっている筈だというのに無策に攻撃を仕掛けてくる夜々に雷は呆れてしまう。

 

雷「この程度の相手、雷速を使うまでもない」

 

威鳴を夜々に目掛けて振るおうとしたその時、

 

ズルッ

 

雷「え・・・?」

 

突然足元が滑ってしまい雷は体制を崩してしまった。

雷は何が起きたか分からず反応が遅れてしまい、

 

シュッ!

 

雷「くっ!?」

 

避けられる筈だった夜々の引っ掻きを受けてしまった。

引っ掻かれた肩の服は破け頬にも傷ができていた。

体制を立て直した雷は足元を滑らせた場所を見ると、そこには大きな水溜まりが出来ていた。

 

雷「もしかして、聖水・・・?」

 

おそらくスプリンクラーの聖水で出来たであろう水溜まりで足を滑られたのかと理解できた。

しかしこんなことでダメージを受けてしまうなんて運がないなと思ってしまう。

 

雷「・・・面倒だし、一気にカタつけよ」

 

足を滑らせてしまった憂さ晴らしを夜々たちにぶつけようと雷は手に霊力を集中させると、

 

バリバリバリバリィィッ!!!!

 

夜々「う!?」

呑子「ウソ!?」

朧「これは・・・!」

 

なんと今まで両手から一本ずつしか伸びていなかった威鳴の鞭が全ての指から伸び計10本へと増えていった。

 

雷「奥義!鳳凰の翼!」

 

ズババババババッ!!

 

雷はこの10本の鞭を今まで以上に高速で振るった。

鞭が増えた影響により射程範囲も驚異的に広がり資材や鉄骨なども次々に破壊していき周りを気にしない、正に無差別攻撃というものだった。

 

バチィィン!

 

夜々「ヴっ!?」

 

かろうじて避けていた夜々もとうとう当たってしまい電撃を食らってしまった。

 

雷「そこぉっ!!」

 

その隙を容易く見逃す訳がない雷は鞭を夜々へと集中させてトドメを刺そうとした。

もはや絶対絶命と思ったその時、

 

ズルッ

 

雷「なっ!?」

 

またしても足を滑らせてしまい体制を崩したと同時に鞭が夜々から反れていった。

足元を見ると先程と同じように聖水の水溜まりが出来ていた。

 

雷(また聖水!?立て続けにこんな!?)

 

まさかもう一度水溜まりで滑るなんて夢にも思っていなかった雷には信じられなかった。

まるで自分には運がないような・・・

 

雷(運が・・ない・・・まさか!?)

 

雷は体制を崩しながらあるところへ視線を向けると、

 

こゆず「わっ!?こっち見てるよ!」

仲居さん「気づかれたようですね!」

 

コガラシの後ろにいる仲居さんが雷に手を向けていたのだった。

そして雷は同時に理解した。

自分が水溜まりで滑ったのは偶然ではなかったのだと。

 

座敷わらしである仲居さんは運勢操作という能力を持っており、人の幸運と不運を人為的に操ることができる。

つまり仲居さんは気づかれないように雷の運勢を不運にしていたのだった。

 

雷「まさか、こんなことが・・・!」

 

明らかに戦闘向きではない能力だったため仲居さんたちを完全に軽視していた雷は運勢操作を体感して驚嘆してしまう。

 

呑子「スキあり!」(ギュン!

雷「!?」

 

ズドォォォン!!

 

仲居さんへ気が反れた雷に呑子は渾身の鬼火砲をぶつけた。

散々おばさんと言われた怨みが篭った鬼火砲の威力は凄まじいものだった。

 

雷「ぅあ・・・!くぅっ・・・!」

 

煙が晴れると雷は完全にボロボロとなり服も破け立っていられるのがやっとの様子だった。

 

呑子「よーし!あともう一息!」

朧「待て」

 

呑子がトドメの鬼火砲を打とうとした時、朧が止めに入り前に出た。

応戦しようとしていた夜々も朧の行動に思わず足を止めてしまった。

 

雷「はぁ、はぁ・・・何の、つもり・・・?」

朧「・・・来い、貴様の雷速と私の神速、どちらが上か白黒つけようではないか」

雷「・・・は?」

 

朧の提案に雷は目を丸くしてしまう。

朧は雷の雷速に内心ではとても感心していた。

自分の速さと互角に渡り合える相手と出会ったことがなかった朧にとっては雷は天敵。

だからこそ、自分の神速と雷の雷速のどちらが速いか確かめたくなったのだった。

 

雷「・・・ふん、いいよ。全力で貴女を叩き潰してあげる」

 

朧の心情を察したのか、雷は身体に鞭を打ち体制を低くした。

2人の空気が張り詰めて誰もが固唾を呑み込み・・・

 

 

 

雷「雷速・伍ノ段!」

朧「!!」

 

 

 

フッ!

 

 

 

2人が一瞬きえたかと思いきや、2人の立ち位置が入れ替わり互いに背を向けていた。

 

朧・雷『・・・・・』

 

互いに動かず語らず、時間だけが過ぎていきそして、

 

 

 

雷「・・・流石ね」(フラッ

 

 

 

バタリ・・・

 

 

 

口角を上げ、雷はうつ伏せに倒れていった。

それは同時に朧の神速が勝ったことを示すことでもあった。

 

朧「・・・貴様の雷速、中々のものだったぞ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

雲雀「えぇ!?そんな作戦で大丈夫なの!?」

浩介「アイツを倒すにはもうこれしかないよ」

狭霧「しかし理にかなってはいる、いけるかもしれん」

 

浩介の作戦を聞いた狭霧と雲雀はそう上手くいくのかと疑問に思うが風を倒す方法はもうこれしかないと思い作戦に乗るのだった。

 

風「何ゴチャゴチャ話シテンダ!?」(ビュンビュン!!

 

ほったらかしにされシビレを切らした風は鎌鼬を連発し狭霧たちは咄嗟にかわした。

 

浩介「じゃあ手筈通りに!」

狭霧「分かった!」

雲雀「うん!」

 

作戦を実行へ移すために3人は散らばり風を撹乱し始めた。

 

狭霧「はぁっ!」(シュンシュン!

雲雀「えいっ!」(シュンシュン!

浩介「それっ!」(ズドンズドン!

 

それぞれがクナイや手裏剣、ショットガンを風に目掛けて放つも突風のバリアで軌道が反れ明後日の方向へ行ってしまう。

 

風「ハッ!今サランナモン効クカヨ!」(ビュンビュン!!

 

飛び道具を使ってくる3人に呆れながら風は鎌鼬を飛ばした。

 

ビリビリィィ!!

 

狭霧「くっ!?」

雲雀「きゃぁ!?」

 

モロに鎌鼬を受けてしまった狭霧と雲雀の霊装結界が大きく破けてしまいこれ以上受けてしまえば間違いなく大怪我を負ってしまう状況に追い込まれてしまった。

 

風「ハッハァ!ソロソロ終ワラセテヤルゼ!」

 

風がトドメを刺そうとしている最中、浩介がこっそり風の背後に回っていたのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

浩介『あの突風のバリア、あれは多分即興技だと思う』

狭霧『何故そう言える?』

浩介『よく見たらさ、所々に隙間が出来てるんだよ』

雲雀『あ、ホントだ!』

狭霧『ではあの隙間を掻い潜れば攻撃が届くというワケか』

浩介『でもいきなり狙ったら気づかれてしまう可能性もあるから、アイツを油断させてからがいいと思う』

雲雀『・・・雲雀たちが囮になれってこと?』

浩介『うん、申し訳ないけど・・・ここは大きく派手な攻撃じゃなくて、小さく鋭い攻撃でいくしかない』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

浩介「よしっ」

 

ここまで作戦通りに事が進み浩介は懐からあるものを取り出した。

 

それは偶々試作で作った、44マグナム型の発明品だった。

一見ショットガンよりも劣るかもしれないが威力はショットガンよりも高く自分でもかなりの高性能の仕上がりだと思っている。

 

浩介「フゥ・・・」(チャキッ

 

額に汗を掻き手に汗握りながら浩介は右手に持ったマグナムを風に合わせた。

外せば作戦は台無し、責任重大である。

 

そして引き金に指をかけ、

 

ドンドンドン!!

 

風目掛けて弾丸を数発放った。

 

隙間を掻い潜れば直撃は必須、勝負ありと思った。

 

 

 

ヒュンヒュンヒュン!!

 

 

 

浩介「え!!?」

 

 

 

しかし、そう簡単にはいかなかった。

なんと突然隙間が塞がり弾丸は明後日の方へ飛んで行ってしまった。

 

風「・・・バレテネェトデモ思タカァ?」

 

ニヤリと笑いながら風は浩介の方を振り向いた。

 

浩介「な、なんで・・・!?」

風「バレバレナンダヨテメェラノ作戦ゴトキ!確かにアタシノバリアハ即興技ダ!ダカラ敢エテ誘ッタンダヨバーカ!!」

 

作戦を見破っていた風は敢えてその作戦に乗せられたフリをしていたのだった。

つまり誘われていたのは浩介たちの方だった。

 

浩介「そ、そんな・・・」

 

浩介は作戦を見破った風を見て絶望に染まった表情になってしまう。

 

風「残念ダッタナァ!作戦見破ラレテヨォ!!ハッハッハッハッハッ!!」

 

そんな浩介を見て風は高笑いをしてしまう。

今まで相手を血に染めてきた外道にとってはこれ以上ない嬉しさなのだろう。

 

浩介「ま、まさか・・・こんな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなに思い通りに作戦が進むなんてね!!」

 

 

 

風「・・・ハ?」

 

 

 

ドンドンドン!!

 

 

 

風「ガァッ!!?」

 

 

 

さっきまで絶望に染まっていた顔が一気に明るくなり、唖然となっている風の身体に突如痛みが走った。

痛みが走った場所は右肩と左太もも、そして脇腹の3ヶ所だった。

突然のことに風は何が起きたか理解できなかった。

 

風「ナ、何ガ・・・!?」

浩介「さっき僕が打った弾丸だよ」

風「何!?」

 

浩介が放った弾丸はバリアで反れて何処かへ間違いなく飛んでいった。

戻ってくるなど絶対に有り得ない。

弾丸に意思でもない限り不可能だと風は思った。

 

浩介「周りを見てみなよ」

 

しかし、浩介に促され周囲を見てみると、

 

ヒュンヒュンヒュンヒュンッ

 

風の周囲を取り囲むかのように数十枚の手裏剣が宙に浮いていた。

 

風「コ、コレハ!?」

雲雀「よ、よかったぁ!なんとか当たって!」

 

そう、この手裏剣は雲雀が霊力で浮かしていたのだった。

当の雲雀は心底ホッとしている様子だった。

 

風「ハッ!?マ、マサカ!?」

 

それと同時に風はあることを理解した。

 

浩介の作戦はこうだった。

まず狭霧と雲雀が撹乱しながら浩介から注意を退かせ囮になる。

次にわざと風の攻撃を受けて油断させる。

そして浩介がマグナムでバリアの隙間を狙う、フリをして弾丸を放つ。

弾丸がバリアに当たれば当然軌道は反れてしまう。

それを利用して雲雀が手裏剣で弾丸を跳ね返して軌道を修正しバリアの隙間を掻い潜る。

 

これが作戦の全貌だった。

 

浩介「言ったじゃん、真っ正直から勝てないなら、姑息に卑怯に勝つだけだって」

 

秋宗やコガラシのように霊力が高くない浩介は仲間と協力しサポートに周りながらも確実に勝てる算段を立てる。

これが浩介の闘い方である。

 

風「クソガァ・・・!」

 

弾丸のダメージを受けてしまった風は思わずバリアを解除してしまう。

それにより無防備になってしまった。

 

風(マ、マダダ・・・!マダヤレル・・・!セメテヤツダケデモ!)

 

風は最後の力を振り絞り浩介だけでも始末しようと霊力を集中させた。

 

だが、

 

浩介「けど、今回の僕は囮。本命はそっち」

 

そう言って浩介は風の後ろを指差した。

浩介に言われて風は肝心なことを思い出した。

誅魔忍がもう一人いたことを。

 

咄嗟に振り向くとそこには、

 

 

 

狭霧「ハァァァァァッ!!」(ギュアアアアアッ!!

 

 

 

狭霧が攻撃の準備を整えていた。

頭上には槍のような螺旋状の霊力の塊が出来ており、まるで装填準備を整えた大砲のようだった。

 

浩介「頼んだよ雨野さん!」

雲雀「やっちゃえ狭霧ちゃーん!」

 

狭霧「雨野流誅魔忍術奥義!雨蛟龍!!」

 

ドォン!!

 

2人の声援を受け狭霧は自身の最高の技を風に目掛けて放った。

 

 

 

風「コ、コンナ!コンナヤツラニィィィィィィ!!」

 

 

 

ズドォォォォォン!!

 

 

 

雨蛟龍は風の身体を突き抜け大きな爆発を起こした。

そのまま風は気を失いながら背中から落ちていった。

 

狭霧「ふぅ、手強いヤツだった・・・!」

雲雀「勝ったぁ!雲雀たち勝ったよぉ!!」

 

風をなんとか倒せたことに狭霧は安堵し雲雀は嬉しさのあまり跳び跳ねてしまう。

 

浩介「・・・ねぇ、2人とも」

 

そんな2人の元へ浩介が複雑そうな表情を浮かばせながら歩いてきた。

狭霧と雲雀は何だろうと思っていると、

 

浩介「その・・・ゴメン!!」(バッ

 

なんと浩介は勢いよく頭を下げて2人に謝った。

 

浩介「いくら勝つためとはいえ、2人を囮に使っちゃって・・・!ホントにゴメン!」

 

どうやら作戦を立てた時に罪悪感を感じていたようで囮役にしてしまったことに必死に謝っていた。

 

しかし、

 

狭霧「・・・気にするな、貴様の作戦がなかったら私たちは確実に負けていた。寧ろあの状況で咄嗟によくあんな作戦を思い付けたな」

雲雀「そうだよ!まぁ鉄骨落としたのはやり過ぎだと思うけど、雲雀たちだけだったらどうなっていたか分かんなかったし!」

 

そんな浩介を責めることなく感謝の言葉を送った。

それを聞いて浩介は頭を上げて2人がまったく怒ってないと理解した。

 

浩介「・・・ありがとう、2人とも」

狭霧「それは私たちのセリフだ」

雲雀「こちらこそありがとね!浩介くん!」

 

コンッ

 

そして3人は拳を合わせ互いに笑い合った。

 

浩介「あ~それとさ・・・///」

狭霧・雲雀『?』

浩介「前、隠しといた方がいいかも・・・///」

狭霧「なっ!?///み、見るな貴様ァ!!///」

雲雀「きゃぁぁぁ!?///霊装結界ボロボロなの忘れてたぁ!///」

浩介「痛い痛い痛い痛い!腕折れる!腕折れるって雨野さん!大丈夫そんなに見てないからぁ!!」

狭霧「そんなに見てないということは少し見たということだろう!?///」

雲雀「浩介くんのバカバカァーーー!!///」

浩介「ギャー!雲雀さん何でエビ反り使えるの!?やめてぇ!死んじゃうぅ!!」

 

こうして2頭の龍を倒した狭霧と朧たち。

残す龍は、あと1頭。




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第48話 冷酷な獣

ヤバいよ・・・完全に投稿遅れてるよ・・・

ではどうぞ!!


ズドォォォン!!

 

炎焔「チィッ!」

 

風と雷が倒されてた頃、秋宗たちと炎焔は激しい闘いを繰り広げていた。

秋宗とマトラの息のあった格闘の連携攻撃やかるらの風の霊撃で炎焔を追い込むも、青龍刀や獄炎花で迎え撃ちどちらも五分と五分の実力であった。

 

秋宗「ったく!しつけぇ野郎だ・・・!さっさとくたばれよ!」

炎焔「コッチノセリフナンダケド!?君ノ方ガボロボロナノニ!何デ動ケルノ!?」

かるら「ふん!秋宗を嘗めるでないぞ!この程度で音をあげる程軟弱ではないわ!」

マトラ「そーいうこった!アタシらを甘くみんなよ!」

 

散々痛めつけられたにも関わらず、まるで仕切り直したかのように元気になっており炎焔にはまったく理解できなかった。

それはかるらも内心同じことを思っていた。

 

かるら(じゃが確かにアヤツの言う通り秋宗の霊力は残り少ない筈なのじゃが、そんな様子がまったく見えんな・・・いや、寧ろ霊力が回復しとる・・・!?)

 

秋宗の様子を見ると先程に比べて霊力が半分程回復しており思わず自分の目を疑ってしまった。

浩介の霊力回復装置を使った訳でもないのに一体どういうことなのだと疑問に思ってしまう。

 

炎焔「ドウスレバ・・・へ?」

 

必死に頭を回転させている炎焔の視界にあるものが入りこんだ。

それは、狭霧と朧たちによって倒された風と雷だった。

2人とも地面に倒れて動く様子がなかった。

 

炎焔「フ、風・・・!?雷・・・!?」

 

炎焔には信じられなかった。

実力がずば抜けて高い自分の妹2人が負けるなんてあり得ない。

八咫鋼のコガラシが相手ではないというのにそれ以外の連中に破れたのかと。

 

マトラ「向こうは終わったみてぇだな」

秋宗「あとはこっちだけか・・・」

かるら「さっさと終わらせるぞ」

 

向こうが風と雷を倒したことを理解した秋宗たちは安堵するも炎焔を倒さなければと切り替えた。

風と雷との連携が取れなくなればもはや勝ったも同然。

間違いなく勝てると思っていた時、

 

炎焔「・・・ハァ~、モウイーヤ」

 

炎焔が驚嘆から面倒な表情へと変わり雰囲気も今までとは違うものになっていた。

そしてとんでもないことを口にしたのだった。

 

炎焔「ッタク、風モ雷モアンナ連中ニ負ケルナンテ。ホント役立タズダヨ」

秋宗「んだと・・・!?」

 

今まで2人の妹を慕っていたにもかかわらず、急に態度を変えて風と雷を役立たずと罵倒した炎焔に秋宗たちは唖然となってしまう。

 

マトラ「テメェ、今なんつった・・・!?」

炎焔「ン?聞コエナカタ?役立タズッテ言ッタンダヨ。使エナイ妹タチダヨ」

かるら「貴様、自分の妹たちが怪我を負い倒れてるのじゃぞ!何とも思わんのか!?」

炎焔「全然?ソレニ、私ハモウアノ2人ヲ妹ダナンテ思テナイシ」

 

狂気の快楽の底の底まで沈んでしまった炎焔には周りがどうなろうと知ったことではない。

例え自分の妹が死んだとしてもそれは些細な問題でしかない、自分が気持ち良ければどうでもいいのだと。

 

炎焔「ナーンカメンド臭クナッチャッタ。モウ一気二ヤッチャオ!」

 

そんなことなどお構い無しに炎焔は青龍刀を両手で持ち頭上へ掲げると、

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 

剣先に赤く光る球体が発生した。

そしてそれは徐々に大きくなっていき天井に届きそうな程までに巨大化していった。

まるで太陽が目の前にあるかのように。

 

雲雀「な、なな、何あれ!?」

こゆず「おっきい!」

幽奈「何をする気なんですか!?」

 

それを見ていた幽奈たちは炎焔の突然の行動に慌てふためいてしまう。

するといつの間にか仲間と化している京太郎が目を見開いた。

 

京太郎「マズイ!あれは堕天太陽だ!」

浩介「だ、だてんたいよう?」

狭霧「何か知っているんですか!?」

京太郎「あぁ!堕天太陽は小型の太陽を作り出す秘術でとてつもない大爆発を引き起こすんだ!このままじゃあオジサンたち処か町にも被害がでちゃうよ!」

千紗希「えぇっ!?」

朧「何だと!?」

 

京太郎から炎焔がやろうとしている秘術『堕天太陽』の説明を聞いて幽奈たちは驚愕の表情になってしまう。

つまりここに居たら完全に黒焦げの死体になってしまうと。

 

コガラシ「うしっ!じゃあ壊すか!」

 

しかしそんなことなど知るかとコガラシは拳を構え堕天太陽を壊そうとした。

確かにコガラシの力ならば打ち消すことはできるであろう。

だが、

 

京太郎「待って待ってストップストップゥ!!」

 

堕天太陽を壊そうとするコガラシを京太郎は慌てて後ろから羽交い締めをして抑えた。

 

コガラシ「何すんすか!?あれ壊さないと町が!」

京太郎「何ちょっとコンビニ行くかみたいなノリで壊そうとしてんの!?あれは衝撃を与えるだけでも爆発しちゃうんだよ!」

呑子「そうなの!?」

 

無理やり破壊しようものなら大爆発が起きてしまうことを知りコガラシは拳を引いてしまう。

範囲も驚異的に広く破壊することもできない堕天太陽にもはや成す術はなかった。

 

紫音「どど、どうすんスか!?」

七海「これ洒落になんないわよ!」

夜々「こんがり焼けちゃうの!」

仲居さん「こうなったら私の運勢操作で!」

 

秋宗「待って下さい仲居さん!」

 

運勢操作を使ってなんとかしようとした仲居さんを秋宗は声を荒げて止めた。

秋宗の様子を見てみると冷静にはなっているものの、どこか大きな怒りを抱いているようにも思え、かるらもマトラも同じような様子だった。

 

秋宗「コイツは救いようのねぇグズ野郎だ・・・」

かるら「今まで生きてきたが、かような下衆なものが存在するとはな・・・」

マトラ「こんな野郎は倒すだけじゃ物足りねぇ。こうなりゃもう・・・」

 

 

 

『徹底的に叩きのめす!!!!』

 

 

 

自分の快楽のためだけに他人を犠牲にし、挙げ句の果てに妹たちも簡単に切り捨てようとする炎焔に秋宗たち3人は怒りや憎しみを通り越して殺意すら芽生えた。

こんな下衆は倒すだけでは生温い、確実に叩き潰すと。

 

炎焔「フン、ヤレルモンナラヤッテミナヨ」

 

しかし炎焔は表情を崩さず相変わらず余裕だった。

そして発動準備を整え終え青龍刀を振り下ろした。

 

炎焔「バイバ~イ!秘術!堕天太陽!!」(ブンッ

 

堕天太陽は青龍刀から離れて秋宗たち目掛けて迫っていった。

徐々に距離が詰められていく中、かるらは持っている扇に霊力を込め出し、

 

かるら「ハァッ!!」

 

ビュォォォォォォォッ!!

 

突風を起こし堕天太陽を迎え撃った。

突風なら衝撃を与えず爆発する恐れもないためこのまま押し返そうとした。

 

かるら「くっ!中々やるのう・・・!」

 

しかし、堕天太陽の霊力があまりにも凄まじいため中々押し返せず徐々に押し切られてしまった。

 

炎焔「アッハハ!イイ加減諦メナヨ!」

 

苦痛の表情を浮かべているかるらを炎焔は腹を抱えて笑っていた。

それほどまでに自分の秘術が破られない自信があるのであろう。

 

かるら「・・・そうやって余裕を咬ましておるのも今のうちじゃぞ!」

 

そんな炎焔の様子を見て益々負ける訳にはいかないと力を振り絞った。

全ての霊力をフルに使い突風の威力を更に上げると堕天太陽が徐々に突風で押されていった。

 

かるら「これでどうじゃぁぁぁ!!」

 

ビュォォォォォォォォッ!!

 

そして突風に押された堕天太陽は天井を突き抜け空へと上がり、

 

 

 

ズドォォォォォンッ・・・・・

 

 

 

とてつもない大爆発を起こした。

しかし空高く押し上げられた為被害はまったく出ずむしろ花火のように綺麗に散っていた。

 

炎焔「・・・ハ?」

 

突然のことに炎焔は呆気に取られるしかなかった。

自分の最強の秘術がこうもあっさり破られたのだから信じられず目が点となり口も半開きになってしまった。

 

炎焔「ウ、ウソデショ・・・!?アリ得ナイ、アリ得ナイヨ!コンナ、コンナコトッテ・・・!!」

 

今までの余裕が一気に崩れ明らかに動揺している様子だった。

 

マトラ「もらったぁ!!」

炎焔「ハッ!?」

 

その隙をマトラは逃がさず間合いを詰めてラッシュをかました。

 

ズドドドドドドドドッ!!!!

 

炎焔「グハァッ!?」

 

一見荒々しく見えて顔に脇腹と人体の急所となる箇所を正確に捉えたラッシュは炎焔の体に堪えてしまう。

 

炎焔「コノ・・・!」

 

なんとか反撃をしようと青龍刀を振りかぶるも、

 

マトラ「そらよっ!!」

 

バキィン!!

 

炎焔「ナッ!?」

 

回し蹴りが見事に炸裂し青龍刀は折られ刀身は粉々に砕け散った。

 

かるら「今じゃ秋宗!!」

マトラ「やっちまえ!!」

秋宗「おう!!」

 

2人の呼び掛けで秋宗は高く飛び上がりオオカミ人間へと変身した。

右手に霊力を込めそのまま炎焔へと突っ込んでいきそして、

 

 

 

秋宗「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

ザシュッ!!!!

 

 

 

炎焔「ガハァッ・・・!!」

 

 

 

すれ違い様に炎焔を爪で斬りつけた。

その拍子に血飛沫が舞い炎焔の体を赤黒く染めた。

 

秋宗「はぁ、はぁ、はぁ・・・ふぅ」

 

そして最後の力を振り絞り返り血を浴びた秋宗は攻撃が当たったことに胸を撫で下ろし安堵の息を吐くのだった。

 

炎焔「・・・残念ダタネ~」

 

しかし、斬られたにも関わらず炎焔はまだ立っていた。

 

雲雀「そんな!?」

狭霧「ありえん!今の攻撃は明らかに致命傷だった筈だぞ!」

浩介「しぶと過ぎるにも程があるよ!」

 

秋宗の攻撃は大きかったものの致命傷には至らず炎焔を倒すことができなかったのだ。

秋宗は先ほどの一撃で霊力を使いきってしまった為もう反撃は出来ない。

 

炎焔「セッカクノチャンスモ無駄ニナチャタネ・・・コレデ私ノ勝チダ!!」

 

運良く生き残り勝利を確信した炎焔はもう一回堕天太陽を発動させようとした。

 

その時、

 

 

 

 

 

パキ、パキパキ・・・

 

 

 

炎焔「ハ・・・!?」

 

 

 

突如秋宗により出来た傷口から氷が発生し炎焔の体中へと広がり始めた。

血が流れ熱くなっていた箇所も凍っていき一気に冷たくなった。

獄炎花で氷を溶かそうとするも体が徐々に冷えてしまっており力が入らない状況へとなっていた。

 

炎焔「ナ、何コレ!?ドウナッテンノ!?」

秋宗「タイム・イズ・ワン」

炎焔「!!」

 

バッと正面へ顔を上げるといつの間にか秋宗が目の前に立っていた。

その表情には怒りや憎しみなどが見えず、冷たい視線を向けていた。

 

秋宗「お前に使った技の名前だ。氷河獣王を会得した時、この技だけは生涯使わないと決めてたんだが、お前みたいなヤツが相手なら話は別だ」

炎焔「ナ、何言ッテ・・・!?」

秋宗「こうなっちまったらもう俺でも解除は出来ねぇ。例え解除できたとしてもするつもりは更々ねぇけどな」

炎焔「一体何ナノコノ技!?」

 

そうこうしている内に下半身は凍ってしまいその場から動くことができなくなってしまった。

完全に動揺している炎焔を見て秋宗は表情を崩さず淡々と答えた。

 

秋宗「この技は言わば禁術。自身の霊力を他者の体内へ送り込み相手を凍らせる技。技を受けたヤツは秘術を使うこともできず氷が溶けるのを待つしかない」

 

玄士郎と対峙したときに似た技を使ったことがあるが、この技、否、禁術は使った術者にも解除できないという違いがある。

 

秋宗「ちなみに、この技の解凍期間は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

100年だ」

 

 

 

炎焔「ハァッ!?」

 

 

 

禁術が解除される期間を聞いた炎焔の顔は明らかに顔が青ざめていた。

つまり100年もの間氷で覆われていなければならないということでありかなり残酷である。

人間は1人で部屋などに籠っても誰かと会ったり話したりしなければ精神に影響が出てしまう生き物である。

それが100年も続くとなるとどうなってしまうのか誰にも想像がつかない。

 

そしてついに炎焔の上半身も凍ってしまい、残すは首だけになってしまった。

 

炎焔「チョ、チョト待ッテヨ!嫌ダヨ100年ナンテ!オ願イ!!助ケテヨ!!」

 

封印のような技を受けたくない炎焔は泣きながら助けて欲しいと懇願した。

100年封印となればそれはもう死んだも同然。

しかし秋宗は可哀想とは思わず冷たくこう言い放った。

 

秋宗「お前、そうやって命乞いした人たちを見逃したことがあったか?」

炎焔「ヒッ!?」

 

そんな秋宗を見て炎焔の忘れ去られていた感情が吹き出した。

 

恐怖

決して同情せず冷酷で非道に相手を見下す秋宗に炎焔はガタガタと歯から音を出した。

 

そして氷は炎焔の顔へ到達し、口、鼻、耳と順に覆っていき最後に目に移った光景は・・・

 

 

 

 

 

秋宗「じゃあな。運がよけりゃあ、100年後にまた会おう」

 

 

 




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第49話 謝謝

秋宗「・・・・・」

 

激闘の末、100年間凍結させる技『タイム・イズ・ワン』で勝利した秋宗は氷に覆われた炎焔をジッと見ていた。

炎焔の顔は先ほどまでの人を見下すような下衆の表情ではなく窮地に追い込まれ絶望に染まった表情のまま凍りついていた。

 

かるら「やったのか?」

秋宗「・・・あぁ、コイツはもう終わりだ」

 

かるらは力なく返事をした秋宗を見て、内心では使わないと決めていた禁術を使ってしまったことを少し後悔しているのだろうと察した。

 

かるら「・・・気にするでない、主は何も間違ったことなどしてはおらん。このような輩には似合いの最後というものじゃ」

秋宗「いや、別に禁術を使ったことを後悔してる訳じゃねぇんだ」

かるら「?どういうことじゃ?」

秋宗「もし炎焔が、狂気の快楽に呑まれずに俺出会っていたら、きっといいライバルになれたんじゃねぇかって」

 

戦いを通して炎焔の実力は下手をすればコガラシに匹敵するかもしれないと実感していた。

もし炎焔が正常のままだったら中国一の武闘家になっていたかもしれない。

もしそのまま出会っていたら良い関係を築けたかもしれない。

そう考えると次第に炎焔への憎しみもジワジワと薄れていった。

 

かるら「秋宗、気持ちは察するが決して同情するでないぞ。こやつはもう救いようのないところまで堕ちてしまったのじゃからのう」

秋宗「あぁ、分かってる・・・」

 

マトラ「なーに暗くなってんだよ!アタシら勝ったんだから喜ぼうぜ!」

 

勝利したにも関わらず暗い雰囲気になっている2人を明るくしようとマトラは背中を叩き笑顔で接した。

その笑顔を見て秋宗もかるらも思わず笑ってしまい肩の力が抜けた。

 

かるら「それもそうじゃのう。それと!秋宗は帰ったらたっぷり説教じゃからな!」

秋宗「はぁ?お嬢の説教ならさっき受けただろ」

かるら「いいや!あれだけでは全然足りん!この際じゃから言いたいことも全部言わせてもらうからのう!」

マトラ「じゃーアタシも秋宗にいっぱい説教する!スゲー心配かけさせたからな!」

秋宗「勘弁してくれよ~・・・!」

 

帰っても休む暇が無さそうだとため息を吐くもいつも通りの日常に戻れたような気がすると実感するのだった。

 

秋宗「まぁ、取り敢えずここから・・・」

 

フラッ・・・

 

その時、今までのダメージのツケが周り仰向けへ倒れ込んだ。

しかしその倒れた先は、

 

 

 

パフッ・・・

 

 

 

マトラ「・・・へ?」

 

 

 

マトラの豊満な胸だった。

顔中に広がる大きく柔らかくどこかいい匂いがする感触を楽しむことなく秋宗はそのまま気を失ってしまった。

 

マトラ「なっ、なな、何やってんだお前!?///」(ブォン!

 

ガシャァァァン!!

 

咄嗟のことに理解が追いつかなかったマトラは恥ずかしさのあまり秋宗をぶん投げてしまった。

その拍子に頭から壁へぶつかりピクリとも動く様子がなかった。

 

かるら「あ、秋宗ーーー!?」

紫音「秋宗兄さーーーん!?」

七海「オオカミさんが死んだーーー!」

浩介「いや死んでない死んでない!多分・・・」

 

みんなは慌てて秋宗へ駆け寄ると頭から血を流し身体が少し痙攣を起こしていた。

ただでさえ重症だというのに更に追い打ちをかけて傷を負ってしまい瀕死の状態へと陥ってしまった。

 

かるら「マトラ!秋宗になんということをしてくれたのじゃ!?」

マトラ「だっておっぱいに顔を埋めてきたんだぞ!?///んなのブン投げるに決まってんだろ!///」

幽奈「ですから秋宗さんは重症なんですって!」

雲雀「ていうかこれ生きてるの!?凄い血を流してるんだけど!」

夜々「違うの、こっちは返り血なの」

仲居さん「とにかく今は秋宗くんを運びましょう!」

 

取り敢えずは一度ここを離れて秋宗を手当てしようと思った時だった。

 

京太郎「あの~ちょっといいかな・・・」

 

どこか気まずそうに京太郎が手を上げた。

その表情は目が泳ぎ額に汗を掻き明らかに動揺している様子だった。

 

コガラシ「え?どうしたんすか?」

京太郎「え~っとね~、ちょっと言いにくいんだけど、まだ終わりって訳にはいかないみたいだよ・・・」

呑子「それってどういうことなの?」

 

そう言って京太郎はみんなの後ろの方へ指を指した。

釣られてその方向へ振り向くとそこには、

 

 

 

雷「・・・・・」

 

 

 

ボロボロの状態になりながらもいつの間にか意識を取り戻した雷が立っていた。

 

こゆず「うわぁ!?起きてる!」

七海「まだやる気なの!?」

 

咄嗟に七海はこゆずを後ろに下がらせ手を前に翳しポルターガイストを発動させようとし、みんなも各々身構えた。

しかし幽奈と千紗希、朧はこれ以上争っても無意味だと分かっているため雷を説得しようとした。

 

幽奈「もうやめて下さい!私たちはもう貴女方と戦いたくありません!」

千紗希「そうだよ!こんなことしてもなんの意味もないよ!」

朧「貴様らの姉は貴様らのことを捨て駒としか思っていなかったのだ。これ以上の争いは無駄だ」

 

炎焔が風と雷を妹だと思っていないことを伝えるも雷は表情をピクリとも変えずにいた。

いきなりそんなことを言われても信じられないのだろうと思った時、雷が口を開いた。

 

雷「・・・そんなの、最初から知ってた」

 

『・・・えっ?』

 

雷の突然の発言にみんなはポカンとなってしまう。

炎焔が妹と思っていないにも関わらず何故一緒に行動していたのだろうと疑問に思った。

それを余所に雷は秋宗へと視線を移した。

 

雷「私はそもそも、彼を逃がすつもりだった・・・」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

雷『・・・そう』

 

秋宗をスカウトとしようとして断られた時、雷は秋宗の耳元へ顔を近づけ、

 

雷『バカな人』

 

と囁いた時だった。

 

スッ・・・

 

秋宗『?』

 

炎焔と風から見えない角度で秋宗のズボンのポケットにあるものを入れた。

少し動揺している秋宗に雷は続けてこう言った。

 

雷『私が隙をつくるから、これを使ってここから逃げて』

秋宗『ッ!?お前・・・!?』

 

秋宗は思わず目を見開いてしまうも雷は平静を装い秋宗に背を向けて離れた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

雷「でもその時はダメージが大きすぎてポケットに手を入れる力も残ってなかったみたいだけど」

 

その時の状況を説明した雷の言葉通りにマトラが秋宗のポケットに手を突っ込むとあるものが入っていた。

 

マトラ「何だこれ?」

 

入っていたのはガラスでできた小瓶だった。

中は飲み終えたペットボトルのように赤い水滴が残っていた。

その小瓶を見て京太郎が反応した。

 

京太郎「あっ、それ霊力を回復させる秘薬じゃん」

夜々「秘薬?」

京太郎「うん、確かそれ飲むと半分くらい霊力が回復する効果があるんだよ」

かるら「そうか・・・!秋宗の霊力が回復しておったのはそういうことじゃったのか!」

 

戦っている最中、秋宗の霊力が回復していたことにかるら理解した。

秋宗はこの秘薬の飲んだのだと。

そんな中、狭霧は雷にあることを聞いた。

 

狭霧「しかし何故だ?何故西条秋宗を逃がすようなことを?」

 

言ってしまえば雷の行動は炎焔と風を裏切ったようなもの。

もしバレたらただでは済まなかった筈。

にも拘わらず何故危険を犯してまで秋宗を助けようとしたのだろう。

 

質問された雷は観念したかのように答えた。

 

雷「・・・これ以上人が死ぬのを見たくなかった、それだけ」

 

雷は小さい頃から長女である炎焔の背中を見て育ってきていた。

誰よりも優れ武闘大会でも数々の成績を残してきた炎焔は雷にとって憧れの存在だった。

次女の風も炎焔に憧れ3人で中国の頂点に立とうと強い約束を交わした。

 

しかし、炎焔が狂気の快楽に落ちてから全てが変わった。

次々と霊能力者たちを殺害していきどんどん手を汚し取り返しのつかないところまで落ちてしまい、その影響を受けて風も変わってしまった。

しかし雷だけは呑まれずに殺害しているように装いこっそり逃がし炎焔から助けようとしたりした。

そして雷は察してしまった。

もう私たち姉妹はあの頃には戻れないと。

 

雷「本当は姉さんたちを止めたかった。けど私は、自分が殺されるのが怖いから一緒に行動するしかなかったの。だったらせめて姉さんたちの魔の手から遠ざけようと努力したけど殆どの人たちが犠牲になってしまった。結局私は、自分の身がかわいいだけの臆病者よ」

 

全て言い終え目線を下へ落とし悲しい表情を浮かべる雷を見て幽奈たちは黙り込んでしまう。

 

狂気の快楽に呑まれなかったとはいえ自分が姉2人を止められず多くの人たちが犠牲となってしまった。

もし勇気を持っていたら犠牲者なんて出なかったかもしれないのにと悔やんでいると、

 

コガラシ「お前、臆病者って言ってるけどよ、それは違うんじゃねぇか?」

雷「え?」

 

コガラシが即座に論破をし雷は思わず顔を上げてしまう。

幽奈たちも驚くもコガラシは続けてこう言った。

 

コガラシ「西条に秘薬渡した時、隙を作るって言ってたらしいけど、どうするつもりだったんだ?」

雷「そ、それは、不意討ちで姉さんたちを襲うつもりだったけど・・・」

コガラシ「ってことはだ。お前は覚悟を決めてあの2人と戦おうとしたってことになるんじゃねぇのか?」

雷「あっ・・・!」

 

死ぬのが怖くて自分を押し殺し炎焔と風と行動していたにも拘わらず秋宗を逃がすために戦おうとしていた。

自分が無意識に覚悟を決めていたと気付いた雷は恥ずかしくなり顔を赤くしてしまう。

 

コガラシ「まぁ兎に角、お前は姉の2人が間違ってるって思ってたんだろ?それを止めようと勇気を振り絞ったお前は正直スゲェと思うけどな」

雷「・・・どうしてそこまで言ってくれるの?」

 

演技とはいえ確実に仕留めようと襲いかかったにも拘わらず自分の言葉を信じてくれたコガラシに思わず首を傾げてしまう。

そんな雷に呆れながらもかるらが答えてくれた。

 

かるら「今更何を言うとるのじゃ。貴様は身の危険を犯してまで秋宗を助けようとした。それ以外に理由などないわ」

雲雀「そうだよ!貴女は何も悪くないよ!」

仲居さん「辛かったですよね。お姉さん2人が変わってしまって、誰にも頼れなくて1人で耐えて・・・!」

 

それに便乗して雲雀と仲居さんも雷を責めず寧ろ同情の言葉を掛けた。

それを聞いた雷は不思議と心が軽い気持ちになったと同時に不思議な人たちだと思った。

 

浩介「冬空くんの言う通りだよ。あんな2人と一緒に居ながら他の人たちを助けようとしたなんて。僕だったら絶対ボロが出ちゃうよ」

呑子「貴女ホントにスゴいわ~」

雷「・・・そう言ってもらえるだけでも嬉しいよ、オバサン、チェリーボーイ」

呑子「ちょっと一回引っ張叩かせて」

浩介「脳天に一発撃ち込んでもいいよね?」

幽奈「お、落ち着いて下さい呑子さん!」

雲雀「浩介くんも抑えて!」

紫音「何でさりげなく毒吐いたんスかあの人!?」

 

それぞれ雷から悪口を言われた呑子と浩介は痛い目に合わそうとズカズカと近づくも幽奈たちに阻まれてしまい近づくことができなかった。

そして雷は一息ついてこう言った。

 

雷「最後にこれだけ言っておく。私に同情なんてしなくていい。狂気の快楽に呑まれなかったとはいえ姉さんたちに協力してしまったのは事実。だから私は姉さんたちと一緒に祖国に戻って罪を償うわ。それが、今の私にできる唯一のことだから。それと、彼が起きたらこう伝えて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謝謝(シェイシェイ)って・・・!」

 

 

 

そう言い終えて雷は涙を流しながら笑顔を見せた。

その笑顔は炎焔や風とは全くの別のもで心の呪縛から解放された本物の笑顔だった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その後、誅魔忍経由で炎焔、風、雷の3人は中国へと強制送還された。

殺人を犯した炎焔と風は当然罪は重くなり雷も姉2人とともに罰を受けることになった。

中国の霊能力者たちも殺人を犯していない雷の罪を軽くしようとしたが本人からの要望で姉たちと共に罪を償いたいということでこのような結果になったのだった。

 

そして秋宗は全治数週間の診断を受けしばらく絶対安静ということで学校も休学する羽目になってしまった。

緋扇邸で療養中、我琉駄とスズツキから叱られたり、三羽烏の黒服たちが重症の身体を見て号泣したり、かるらとマトラから説教の続きを受けたり、コガラシたちが見舞いに来たりと休む暇などなく寧ろ疲れが溜まるもいつも通りの日常が向かえることが出来ることに安心するのだった。




感想の程、よろしくお願いいたします


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第50話 通達

今回はオリキャラが多数登場します!


~緋扇邸~ 午前9時

 

秋宗「ご心配お掛けして!申し訳ありませんでした!!」

 

緋扇邸の我琉駄の仕事部屋にて、秋宗が我琉駄とスズツキ、そして三羽烏に頭を下げて大きな声で謝っていた。

炎焔との激闘から数週間、療養のおかげで身体も万全の状態へと戻り歩けるどころか走れる程まで回復することができた。

そして秋宗は改めて謝罪したいということでこの場を設けさせてもらったのであった。

 

我琉駄「いや、もう反省しているならそれでいいんだけど」

スズツキ「まったく!貴様というヤツは!今回は本当に危なかったのだぞ!」

 

我琉駄はもう怒っていない様子だったがスズツキはまだ怒り足りないようだった。

それもそのはず、殆ど瀕死の状態で帰って来たのだから怒るのも無理もない。

しかし秋宗のことが心配だったからこその態度である。

 

秋宗「ホントに、返す言葉もないです!すんません!」

「もうええですって西城はん」

「そうです、こうして無事に復帰できたのですから」

「しかし、数週間経ったにも拘わらずこの件はいまだに注目を集めているようです」

 

そう言って黒服の1人は『霊界新聞』と表紙に記載去れた雑誌の1面を秋宗に見せた。

そこには『龍・炎焔敗れる!』『現れる西軍の超新星!』など秋宗と炎焔との激闘が詳細に記載されており最後の一撃のシーンの写真までもが掲載されていた。

 

秋宗「あの人ちゃっかり仕事してんな~」

 

本来の取材の記事は前菜扱いでこっちをメインディッシュに持っていった京太郎に秋宗は思わず苦笑いを溢してしまう。

 

我琉駄「まぁ今回の件は夏希たちに知らせたから近い内に来る筈だよ」

秋宗「はい・・・」

 

その時だった。

 

ドドドドドド・・・

 

『ん???』

 

何やら不審な音が聞こえて来て全員が耳を澄ますと、

 

バァンッ!!

 

マーレ「秋宗ーーー!!」

秋宗「か、母さっ」

 

ガシャーーーン!!

 

突然扉が開きなんとマーレが入ってきて秋宗に飛び付きながら壁に激突し、我琉駄たちも突然の出来事に唖然となってしまう。

 

マーレ「聞イタワヨ秋宗!強イ敵ト闘ッテ怪我シタッテ!大丈夫ダッタ!?」(ギュゥゥゥ!!

秋宗「ア"ッ、ア"ァ・・・!!」

「いや今の一撃で死にかけてますけど!?」

 

入って来たや否や、マーレは秋宗を抱き締め泣きながら心配するも締める力が強すぎる為、秋宗は窒息してしまいそうだった。

せっかく復帰したのにまた療養しなければならないと悟った黒服たちは慌ててマーレを引き剥がした。

 

秋宗「ゲホッゲホッ!母さん!?もう日本に来たのかよ!?」

夏希「僕もいるよ」

 

秋宗がマーレがこんなに早く来たことに驚いていると夏希もマーレに続いて入って来た。

 

秋宗「父さん・・・!」

我琉駄「夏希!もう着いたのか・・・!」

夏希「まぁね。はい手土産のロマネ・コンティ」

 

そう言って夏希は我琉駄の机の上に手土産として持ってきたワインを置いた。

そして頭を抑えながら秋宗は気まずそうな表情をしていた。

自ら危険なことへ足を突っ込んでしまったのだから一体何を言われるのだろうと不安になっていた。

 

夏希「・・・秋宗」

秋宗「!!」

 

夏希に名前を言われるだけで思わず身体が飛び上がってしまう。

きっと怒られるのだろうと覚悟を決めると続けてこう言われた。

 

夏希「いろいろ言いたいことはあるよ。誰にも言わないで危険な人物と闘うなんて許されることじゃない。でも・・・」

 

ギュッ

 

秋宗「!!」

夏希「無事で、良かった・・・!」

 

そして夏希は優しく秋宗を抱きしめた。

その声は震えており自分の息子が無事だったことに心から安堵している様子だった。

 

秋宗「・・・わりぃ父さん、心配かけて」

 

その光景に三羽烏の黒服たちは涙を流していた。

 

マーレ「マッタク、秋宗ッタラホントニヤンチャナンダカラ」

夏希「いやマーレも人のこと言えないよ。若い時僕に内緒でよく喧嘩に行ったでしょ」

マーレ「ソ、ソウダッタカナ~?」

スズツキ「あのお二方、ここで痴話喧嘩はお止め頂いてもよろしいでしょうか」

 

そしていつの間にか夏希とマーレが口喧嘩をしている光景へと変わりスズツキは仲裁に入ったことによりその場の空気が和んでいった。

 

秋宗「おっさん、ゆらぎ荘に行きてぇんだけど、神速通頼めるか?」

スズツキ「あぁ、構わんぞ」

我琉駄「あ、ちょっと待って秋宗くん」

 

復帰したことをコガラシたちに伝えに行こうとした時、不意に我琉駄が呼び止めた。

まだ何かあるのだろうと疑問に思っていると我琉駄が引き出しを開けて手紙を差し出した。

 

秋宗「これは・・・?」

我琉駄「君宛の手紙だ。取り敢えず読んでみて」

 

そう促され秋宗は手紙を受け取り封を開けて内容へ目を通すとそこには、

 

 

 

秋宗「・・・え?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その頃ゆらぎ荘では、炎焔襲撃に関係したメンバーが揃って雑談をしていた。

 

コガラシ「えっ?マーレさんたち日本に来てんのか?」

かるら「うむ。先程父上から連絡があってのう。今は緋扇邸にいるらしいぞ」

京太郎「え!?モンスタークイーンが来てるの!?これは取材のビッグチャンスじゃん!」

雲雀「て言うか何でこの人当たり前のようにゆらぎ荘にいるの?」

浩介「さぁ・・・?」

 

ギュラ

 

みんなが大広間でワイワイ話していると神速通の門が開きそこから秋宗が出てきた。

 

マトラ「おっ!秋宗!」

呑子「退院おめでとー!」

紫音「お体はもう大丈夫ッスか?」

秋宗「・・・・・」

 

みんなから心配の声を掛けられるも当の本人は呆然となりながら自然に紫音の隣に座った。

 

紫音「あ、あの~秋宗兄さん・・・?」

夜々「どうしたの?」

朧「両親から叱られたのか?」

秋宗「・・・・・」

 

秋宗の様子に心配になるもまるで周囲の声が聞こえてないかのように目が点になっていた。

そんな秋宗の様子を見てこゆずと七海は両隣へ行き頬を思いっきり引っ張った。

 

こゆず「秋宗くーん」

七海「おーいオオカミさーん」

千紗希「って2人とも何やってるの!?」

仲居さん「怒られますよ!?」

秋宗「・・・・・」

 

しかしそれでも反応せずどうしたものかと悩んでいると七海が明後日の方を指差しこう叫んだ。

 

七海「アー!あんなところにバニーガールがいる!」

狭霧「いや、そんな子供騙しで騙される訳が」

秋宗「どこだ?」

幽奈「反応した!?」

 

やはりオオカミはウサギが好物なのだろうか、七海に促され周囲を見渡した。

そして自分がゆらぎ荘に来ていたことに少し驚いてしまう。

 

秋宗「あれ?俺いつゆらぎ荘に来たんだ?」

コガラシ「今気づいたのか」

かるら「どうしたのじゃ秋宗?様子がおかしいぞ?おじ上殿とおば上殿に絞られたのか?」

秋宗「いや、そういう訳じゃなくてだな・・・」

 

頭を掻きながら言葉を詰まらせている秋宗の様子を見て何かあったのかと全員が悟った。

 

マトラ「秋宗、一体どうしたってんだよ?」

秋宗「・・・お前ら、落ち着いて聞いてくれ」

 

いよいよ訳を話そうとする秋宗に全員が注目すると、彼はこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋宗「俺、幹部に昇格しちゃった・・・」

 

 

 

 

 

『・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??』

 

 

 

突然の報告に全員の衝撃の声がゆらぎ荘中に響き渡った。

 

幽奈「か、幹部になったんですか秋宗さん!?」

雲雀「大出世じゃん!?」

かるら「待て秋宗!一体どういうことじゃ!?」

秋宗「今回の件の功績が認められたらしくて、その証拠に、ほら」

 

そう言いながら我琉駄から貰った手紙を見せると、

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

西城 秋宗 殿

 

貴殿を幹部への昇任を

認めることとする

 

宵ノ坂家当主

宵ノ酒 醸ノ介

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

かるら「こ、これは!西軍総大将殿の直筆の手紙!」

仲居さん「宵ノ坂当主ってことは、呑子さんのお父様ですよね?」

呑子「そうねぇ~」

マトラ「マジかよスゲェな!」

京太郎「これはまたまたいい記事が書けそう!」

 

手紙を見て幹部昇任の話が事実だと理解し更に盛り上がっていると秋宗が口を挟んだ。

 

秋宗「おい、お前ら勘違いしてんぞ」

『えっ?』

 

幹部へ昇格したのではないのかと首を傾げる全員に秋宗はこう続けた。

 

秋宗「この手紙はあくまで『軍を作ってもいい』ってことでまだ正式に幹部へ昇格した訳じゃねぇんだ。それに軍を作ったとしてもそん時は緋扇軍の傘下ってことになるんだ」

 

つまり軍を作ったとしても西軍の幹部になれる訳ではないということ。

それなりの功績を更に出せば正式に西軍の幹部になれるが決して簡単なことではない。

 

かるら「な、なんじゃそういうことか」

狭霧「まったく驚かせるな」

浩介「でも凄いよ!総大将に認められるなんて!」

秋宗「けど、まさか幹部昇格とはな。あんまり実感が湧いて来ねぇんだ」

朧「だから呆然となっていたのか」

マトラ「で、どうすんだ?軍を作んのか?」

 

マトラに近い内に軍を作るのかと聞かれた秋宗は首を横に振った。

 

秋宗「いや、俺はまだ緋扇軍でいい。軍を作るにはまだ早すぎる」

かるら「それがいい。焦っていては失敗するだけじゃからのう」

 

それに別に軍を作らなければならないということではない為、このまま緋扇軍でいいかもしれないと内心で思っていたのだった。

 

だが秋宗たちはまだ知らない。

今回の事件を日本各地の霊能力者たちが注目していることを。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「・・・・・」

「あ、またその記事見てるんですか~?」

「・・・えぇ、気になってしまいまして」

「凄いですよね~。西軍にこんな怪物がいたなんて」

「ですが、相手がどれだけ強敵だろうと雪崩様の前では」

「それはどうでしょう?」

「えっ?」

「なんと言っても彼は、マーレ・インフェルノの実の息子ですから」

「えぇっ!?」

「あのモンスタークイーンの・・・!?」

「おそらく彼は更に高みへと昇る筈。私でも苦戦してしまうでしょう」

「雪崩様なら大丈夫ですよ~!」

「そうです!こんな獣、雪崩様の敵ではありません!」

「・・・ふふっ、そう言ってもらえるだけでも嬉しいですよ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「ふっふふふ~ん!」

「・・・ここ最近、随分とご機嫌ね」

「あれじゃないかな?ほら、霊界新聞に載ってた人のことで」

「そういえば、緋扇軍所属でごさったな」

「流石かおるん!分かってんじゃ~ん!やっぱり身内が注目集めるって自分のことみたいで嬉しいんだよね~!」

「いや、注目を集めてるのは西条秋宗さんだよね?」

「でも、龍・炎焔を倒すなんて。ちょっと会ってみたいわね」

「じゃあせっかくだから今度みんなに会わせてあげるよ!楽しみにしててね!」

「そこまで言うなら期待しておくでごさる」

「ふふふっ!待っててねアッキー!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「・・・西軍にはかような強者が」

「ホント凄いよね~。それにいい面構えだ。思わずアタイも惚れちまう程のね」

「ほう、ならばヌシのその望み、我が叶えてやろうか」

「いいよそんな気遣い。それに気に入ったものは自力で手にいれるさ」

「さようか・・・」

「それよりも、いよいよお前さんの野望が始まるねぇ」

「うむ。ここまでの手助け、感謝するぞ」

「礼なんていいよ。50年前、お前さんの野望はある女に阻止された。その野望がようやく再開される。これ以上おもしろいことなんざないさ。だからアンタに手を貸した。それだけさ」

「それでも、礼は言わせてもらうぞ」

「はいはい、じゃあ受け取っておくよ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「・・・随分大きくなったもんだなぁ」

「あの、彼と面識があるのですか?」

「あぁ、アイツの出産に立ち会った時な」

「それは面識があるとは言えないのでは?」

「細けぇことなんざ気にすんな。でも一度でいいから会ってみてぇな」

「・・・言って置きますが、勝手に行ったらダメですからね?」

「わーってるって!」

 

 

 

 

 




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第51話 PV撮影

~午前10時~

 

「もしもしお館さん。無事に手紙を渡し終えました」

ありがとう秋宗くん。わざわざ悪いね。こんなこと頼んでしまって』

「大丈夫ですよお館さん。手が空いてたの俺だけでしたし、それにここにはいつか行ってみたいと思ってたんで」

『それならいいんだけど・・・』

「にしても本当にここ鹿だらけですね」

 

電話越しに我琉駄と会話をしている秋宗が辺りを見渡すとたくさんの鹿がウロウロと歩いていた。

 

秋宗は今、広島県の宮島に来ているのだった。

 

何故秋宗が宮島にいるのかというと、宮島にいる西軍の幹部に手紙を渡して欲しいと我琉駄から頼まれたため行くことになったのである。

秋宗も宮島には興味があったため正に願ったり叶ったりで少し浮かれている。

 

「じゃあ少し観光してからそっちに戻りますんで」

『分かった、何かあったら連絡するように』

「了解です」

 

そう言って秋宗は電話を切りスマホをポケットへ戻した。

 

「さて、行くとしますか」

 

心を踊らせながら秋宗は観光を楽しもうとした。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

しばらく宮島を見て回るも、どこもかしこも鹿だらけで宮島の印象は鹿と強く印象付けてしまう。

そんな秋宗は今、お土産屋が並ぶ通りに来ており仲居さんたちへのお土産を選んでいた。

 

「仲居さんはしゃもじでいいとして、お嬢と姐さんには何買ってくりゃいいんだ?って・・・ん?」

 

誰にどのお土産がいいか秋宗が悩んでいると、通りの向こうで何やら人が集まっているのが見えた。

一体何事だろうと気になったため秋宗は人混みへと歩いて行った。

 

「すんません、これ一体の集まりですか?」

「知らねぇのか?これからここでトゥインクルスの新曲のPV撮影があるんだよ!」

「トゥインクルスが・・・?」

 

野次馬の1人に声を掛けると少し興奮気味で説明をした。

遠くの方を見るとスタッフたちが準備に取り掛かっており撮影機材も多く置いてあった。

まさかこんなところにトゥインクルスがいるなんてと秋宗は少し驚いてしまう。

トゥインクルスとは湯煙温泉郷フェスで仲良くなった時以来会っていないため秋宗は顔だけでも見ていこうとした。

 

「でもおかしいな。予定じゃもう撮影が始まる時間なのに、まだ来ないな」

 

野次馬はトゥインクルスはまだかまだかと落ち着きがない様子だった。

それを聞いた秋宗は何かあったのではないかと思い一旦人混みから離れていった。

路地裏を通り人混みとは反対方向へ周り込み撮影場所へと近づいた。

スタッフたちに見つかると面倒なことになりそうなため電柱の影に隠れて様子を見ると、

 

「まだ来ないのか!?」

「あと数時間掛かるみたいです!」

「どうすんだよ時間ねぇぞ!?」

 

何やらスタッフたちが慌ただしくしていた。

秋宗の読み通り、何かトラブルがあったようだった。

もしやトゥインクルスを乗せた車が遅れているのかと思ったが、

 

「撮影まだかな?」

「どうしよう?」

「ま、なんとかなるでしょ」

 

トゥインクルは既に現場に到着しており椅子に座っていた。

ロングヘアの子とツインテールの子はオドオドとしているがショートヘアの子は落ち着いていた。

 

「一体何があったんだ・・・?」

「ちょっと!そこで何をしてるんですか!?ここはスタッフ以外立ち入り禁止ですよ!」

「げっ!?」

 

隠れていたつもりが女性スタッフに見つかってしまった。

トゥインクルスもスタッフの声に気づいて顔を向けると、

 

『オオカミくん!?』

 

撮影現場に秋宗がいることに驚いてしまう。

秋宗を注意している女性スタッフにトゥインクルは慌てて駆け寄った。

 

「待って下さい!この人私たちの知り合いなんです!」

「えっ?そうなんですか・・・?」

「そーそー!」

「大丈夫ですので」

 

女性スタッフを説得して秋宗を追い出させないようにした。

女性スタッフは向こうのスタッフたちから呼ばれたしまったためトゥインクルスに秋宗を任せて走っていった。

 

「オオカミくん久しぶり!」

「フェス以来だなー!」

「何でここにいんの?」

 

秋宗と久しぶりに会えたトゥインクルスは急に笑顔になり落ち着きを取り戻していた。

 

「ま、まぁ観光がてら立ち寄ったって感じで・・・それより、何かあったんすか?」

「えっと、実はね・・・」

 

話によると今日のPV撮影のメインはトゥインクルス1人1人がデートをしているという設定だったのだが彼氏役の人たちを乗せた車が高速道路での事故のトラブルで大渋滞に巻き込まれてまだ到着できてないらしい。

それでスタッフの人たちも撮影が出来ずに慌ただしい状況が続いているらしい。

 

「そりゃ大変すね。じゃあ撮影は延期ってことっすか?」

「ううん、撮影は今日までにやらなきゃいけないの」

「来月までスケジュールがパンパンだし~」

「それに新曲は今月末にCDとDVDが発売されるから時間がないんだよ」

 

撮影を今日までにやらなければ新曲の発売日まで絶対間に合わずトゥインクルスは再び焦燥の顔になってしまう。

一番手っ取り早いのはかるらかスズツキに頼んで神速通で連れてくることだが流石に人前でそんな術を使う訳にはいかない。

どうしたものかと秋宗も一緒に考えていると、

 

「ちょっといい?」

 

向こうからトゥインクルスのプロデューサーとサングラスを掛けた男性が歩いて来ていた。

 

「プロデューサー!監督!」

 

どうやらプロデューサーの隣にいる男性は今回のPV撮影の監督らしい。

 

「プロデューサー、向こうどうだった?」

 

ツインテールの子は彼氏役の人たちはどうなっているかと聞くと、プロデューサーは険しい表情になった。

 

「どうやら大きい事故だったみたいであと3時間掛かるみたい」

「到着してもその頃にはもう夕方になりますからね。それは流石に・・・」

 

監督曰く、この時間帯からの撮影が好ましいらしい。

 

「誰か代役を呼べないんですか?」

「今から呼んだとしても結構時間掛かりますからそれは・・・」

 

完全に手詰まり。

かくなる上はDVDの発売日だけを延期するしかない。

誰もがそう考えた時だった。

 

「・・・というか何で西条くんここに居るの?」

「今気付いたんですか?」

 

頭をフル回転させることに必死だったプロデューサーはようやく秋宗がいることに気が付いた。

それほどまでに悩んでいたのだろう。

 

「えっと、彼は・・・?」

「この子たちの友人の西条くんです」

「ども」

 

秋宗は会釈をして監督に挨拶をした。

監督はサングラスを外し目を細くしてジーッと秋宗をよく見た。

 

「・・・いけるかも!」

「ん・・・?」

 

監督が悩みが詰まった暗い表情から急に希望に道溢れた明るい表情へと変わった。

秋宗は監督の言葉の意味を理解出来なかった。

 

「西条くん!彼氏役をやってくれませんか!?」

「・・・はい!?」

 

監督から代役を頼まれた秋宗は驚いて声を上げてしまう。

 

「無理ですよ今から彼氏役なんて!」

「私は人を見る目があります!西条くんならできます!」

「それに彼氏役って3人必要ですよね!?あと2人どうするんですか!?」

「大丈夫です!そこはヴィッグでカバーします!」

「1人3役やれってことですか!?」

 

抗議しても返されてしまい監督の圧に秋宗は少し呑まれかけてしまう。

今まで何かの撮影などやったことがない素人同然の秋宗は流石に無理だろうと思うが、

 

「では私はこれから撮影のスタンバイの方をしておきますのでよろしくお願いします!」

「人の話を聞けぇーーー!!」

 

一方的に話を進めて監督は撮影スタッフの元へと走って行った。

まだ撮影をするとは言ってもいないというのに切羽詰まり過ぎだろうと思った。

 

「オオカミくんお願い!撮影出て!」

 

更に追い討ちを掛けるようにロングヘアの子もゴマ擦りで撮影に出てくれないかと秋宗に頼んだ。

 

「いやだから!俺素人だって!」

「そこをなんとか!」

「それにオオカミくんが相手だとウチらもやりやすいから!」

 

そして残りの2人も畳み掛けるように秋宗に頭を下げて頼んだ。

 

「プロデューサーさん!」

 

こうなったら最後の望みのプロデューサーに賭けるしかなかった。

素人をプロの舞台に立たせることが嫌いなプロデューサーならきっと承諾しないだろうと思ったからだ。

 

「・・・西条くん、今すぐ衣装係さんの所行って着替えて来て」

「プロデューサーさんまで!?」

 

しかし結果は空振りに終わってしまった。

プロデューサーは親指で後ろを指して着替えて来るように指示した。

藁にすがるどころか蜘蛛の糸にすがるくらい危機的状況なのだろう。

もはやこの場に秋宗の味方はいなかった。

 

「オオカミくん急いで!」

「衣装係さんは車の中で待機してるから!」

「早く早くー!」

「ちょっ、ちょっとぉぉぉぉ!?」

 

秋宗はトゥインクルに背中を押されて無理やり連れて行かれてしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

~数十分後~

 

落ち着きを取り戻した撮影現場ではスタッフたちが最終確認を行っていた。

 

「何でこうなったんだ・・・?」

 

秋宗はまだ乗り気ではなく渋々承諾してしまい断ることが出来なかった。

衣装へ着替えた秋宗の服装はスモーキーパープルのサマーニットで黒のボトムス、黒髪のカツラを被って一目見ただけで秋宗と分からない変わりようだった。

 

「おぉー!オオカミくん似合ってるー!」

 

一方ツインテールの子は肩まで見えているカットソーサイズのTシャツとスカートを組み合わせた女子高生らしいファッションだった。

 

「なんだろう?この嬉しさと悲しさの中間にいる気分は?」

 

撮影に無理やり連れ出されたが芸能人と近距離で話せるというとても複雑な気持ちになっている。

 

最初の撮影はツインテールの子からで設定は表参道を巡り歩いているカップルということらしい。

ちなみに台本はなくごく自然な感じで行っていいということである。

 

「はいじゃあ撮影の方を開始しまーす!」

 

監督の掛け声でカメラ数台が秋宗とツインテールの子に向けられた。

するとツインテールの子が秋宗の右隣に立ち左手を握った。

 

「あの~これは一体・・・?」

「ウチらはカップルってことなんだから手を繋いで当然でしょ?」

「そ、そうすね」(ヤベェよ!メチャクチャ可愛いじゃねぇか!///

「あと敬語とか使わなくていいから気軽にね!」

「うすっ///」

 

秋宗より身長が低いせいか、上目遣いで首を傾げる動作が心に大きく響いてしまい心臓が激しく動いた。

 

「はいじゃあいきまーす!よーい!スタート!」

 

そして監督の掛け声と共に撮影が開始された。

秋宗とツインテールの子は互いに手を繋ぎ通りを歩き始めた。

 

「いろんなお店がいっぱいあるね~」

「・・・ホントにいろいろあるな、どっか入るか?」

 

最初は抵抗があった秋宗も吹っ切れてしまい彼氏を演じツインテールの子と表参道を見渡し最初に探す店を選び始めた。

そして2人の名に止まったのは名物もみじ饅頭が売られている店だった。

ちょうど焼きたてが出来上がったのだろうか香ばしい香りが2人の鼻を刺激した。

 

「あの店にするか」

「うん!早く行こ!」

 

そう言ってツインテールの子は秋宗の手を引きながら店へと走っていった。

 

「もみじ饅頭2つ下さ~い!」

 

到着するや否やツインテールの子はもみじ饅頭を秋宗の分まで頼み代金を払うと店員が慣れた手つきで1つずつ包み紙に入れてそのまま手渡した。

 

「お待たせしました~!」

「ありがとうございます」

 

早速自分の分を口へ運ぼうとした時、ツインテールの子が持っていたもみじ饅頭を秋宗の口の前へ差し出した。

 

「はいオオカミくん!どーぞ!」

「・・・あーそういうことか」

 

これはアーンしてくれるということなのだろうと察した秋宗はツインテールの子のもみじ饅頭をパクっと食べた。

 

「おいしい?」

「あぁ、スゲェ旨い!」

「そっかー!じゃあウチも!アムッ」

 

そう言ってツインテールの子は秋宗が持っていたもみじ饅頭を美味しそうに頬張った。

 

「いい感じですね北条さん、やはり私の目に狂いは無かったみたいです」

「えぇ、これなら問題ないですね」

 

2人の様子を見て監督とプロデューサーは互いに頷き心配ないと思った。

 

「じゃあ次行こっか」

「ちょっと待て」

「ん?」

 

次の店に行こうとした時、秋宗がツインテールの子を呼び止めた。

一体どうしたのだろうと首を傾げていると、

 

「口にあんこついてるぞ」

 

秋宗はツインテールの子の口周りについていたもみじ饅頭のあんこを指で拭き取りポケットティッシュに包み込んだ。

 

「うし、んじゃあ次は・・・ってどうした?」

「ッ~~~!?///」

 

カップルを演じての行動か、それとも無意識なのか、秋宗の突然の行動にツインテールの子は顔が真っ赤になってしまっていた。

いくら撮影とはいえ、こういうことには抵抗が低い様子である。

 

「・・・大丈夫か?」

「う、うん!///全然大丈夫だよ!///それよりも早く行こ!///」

 

照れているのを誤魔化そうとツインテールの子は先に次の店を探すために先を歩き秋宗はその後を着いていくのであった。

 

「・・・これ事務所的に大丈夫か?」

「・・・セーフティゾーンです」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ツインテールの子との撮影も終わり、場所は変わって芝生が広がる公園。

そこには見渡す限り鹿で溢れかえっていた。

次の撮影はショートヘアの子で、公園で鹿と戯れているカップルという設定である。

 

「やっぱ鹿多いな」

 

公園を見渡す秋宗の続いての服装はスタンドカラーのロングスリーブカーディガンで茶髪のカツラを被っていた。

 

「よろしくね、オオカミくん」

 

それに対しショートヘアの子は白シャツとデニムパンツを組み合わせた大人らしさが表現されているファッションであった。

 

「こちらこそ、お手柔らかに」

「言っとくけど、私にも敬語とかいいから」

「りょーかい」

 

互いにリラックスしていると数台のカメラが一斉に向けられ撮影開始が間もなくということを物語っていた。

 

「はいじゃあいきまーす!はいスタート!」

 

そして監督の掛け声と共に撮影が開始された。

2人は公園を歩きながら周囲にいる鹿を見渡していた。

 

「鹿だらけね」

「確かにそうだな、下手すりゃ奈良以上にいるんじゃねぇか?」

 

すると一匹の小鹿がこちらへ歩いて来た。

ショートヘアの子はしゃがんで小鹿の頭を撫でると、小鹿は手を舐めようと顔を上へ上げようとしていた。

 

「ふふっ、可愛い」

「こうして近くで見ると、案外可愛いもんだな」

 

そして秋宗も一緒にしゃがみ小鹿の首を撫でた。

端から見ると正にカップルそのものであった。

 

「いい感じですよ。その調子でお願いしますよ」

「まぁこれでいいとして・・・」

 

撮影の様子を見ていたプロデューサーがチラリと後ろの方を振り向くと、

 

「うぅ~!///恥ずかし~!///」

「しっかりして。オオカミくんも悪気があった訳じゃないんだから」

「・・・はぁ」

 

先程の撮影のことでまだ顔を赤くしているツインテールの子をロングヘアの子が宥めていた。

やはりさっきのはレッドゾーンだったのかもしれないとプロデューサーはため息をついた。

 

一方撮影の方はというと、いつの間にか秋宗とショートヘアの子の周りをたくさんの鹿が取り囲んでいた。

 

「ちょ、ちょっとこれは身動きが取りづらいな」

「そうね、一旦離れて」

 

その時だった。

一頭の鹿が後ろからショートヘアの子の腰に頭から体当たりを食らわした。

 

「きゃっ!?」

 

後ろから体当たりされたためショートヘアの子はバランスを崩してしまい前のめりで倒れそうになってしまった時、咄嗟に秋宗が肩を支え受け止めた。

 

「大丈夫か・・・!?」

 

どこか怪我をしていないか確認すると、

 

「だ、大丈夫・・・///」

 

ショートヘアの子は顔を赤くして目線を反らしていた。

今の2人の体制は、秋宗が正面からショートヘアの子を受け止めており身体が密着するかしないかギリギリの距離だった。

 

「えっと、そろそろ離れて・・・///」

「あっ!わ、わりぃ・・・!」

 

状況を理解した秋宗はショートヘアの子の肩から手を離し距離を取るのであった。

 

「・・・これってホントに大丈夫ですかね?」

「・・・グレーゾーンですね」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

ショートヘアの子との撮影も終え、残すはロングヘアの子との撮影。

場所は宮島包ヶ浦自然公園の浜辺。

空もすっかり茜色に染まっており海を赤く輝かせていた。

そして最後は浜辺で遊んでいるカップルの設定である。

 

「はぁ、いよいよ最後か」

 

撮影の疲れを見せながらも最後まで取り組む秋宗はフライトジャケットを着こなし藍色のカツラを被っていた。

 

「さっきの服装もそうだけど、オオカミくんって何着ても似合うね」

 

対してロングヘアの子は白Tシャツとロング丈チュールスカートを組み合わせたこれからの流行を抑えたファッションであった。

 

「その言葉、そっくりそのまま返すぞ。初めて会った時もスゲェ似合ってたし、流石アイドルって感じだったしな」

「そんなことないよ。他の子たちだって着こなしてるし。まぁ私ほどじゃないけど?」

「取り敢えずその傲慢発言なんとかした方がいいぞ」

 

すっかりタメ口に慣れた秋宗は気軽に話をしており端から見たらまるで親しい友人関係のようであった。

 

「では最後の撮影始めまーす!」

 

そうこうしていると撮影の準備が終わり監督の掛け声と共にカメラが一斉に向けられた。

 

「いきまーす。よーい、スタート!」

 

そしてついに最後の撮影が開始された。

2人はまず互いに手を繋ぎ波打ち際を一緒に歩き出した。

 

「うわぁ、綺麗だね夕日」

「あぁ、俺こういった自然の風景とか結構好きなんだ」

「へぇ~そうなんだ」

 

夕日で輝く海を眺めながら会話を楽しんでいる2人は正にカップルそのものであった。

 

「あっ、貝殻みっけ」

 

するとロングヘアの子が貝殻を見つけたのか、その場にしゃがみ手に取った。

その貝殻はマリンブルーの珍しい色をしておりとても綺麗に見えた。

 

「珍しい色の貝殻だな」

「ホントだね。もしかして海から可愛い私へのおくりもだったりして」

「ははっ、なんだそりゃ」

 

偶然流れ着いたであろう貝殻を贈り物と表現したロングヘアの子に秋宗は思わず笑ってしまう。

 

「記念に貰っとこっと!」

 

そう言って立ち上がった時だった。

履いていた右足のヒールが根元からポキッと折れてしまいその場に倒れ込んでしまった。

 

「きゃっ!?」

「ッ!?どうした!?」

「カット!」

 

突然起きたアクシデントに監督は撮影を止めて側に駆け寄りプロデューサーも慌てて駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!?」

「怪我はしてない!?」

「は、はい。ヒールが折れちゃったみたいで」

 

取り敢えず怪我はしてないもののヒールが折れてしまっては撮影出来ないため一時中断とし靴を履き替えることとなった。

ロングヘアの子は片足でなんとかテントへ行こうとした時だった。

 

「それじゃまた転ぶぞ」

「わっ・・・!」

 

秋宗が肩を貸し腰に手を添えてロングヘアの子を支えた。

 

「オ、オオカミくん・・・///」

「んじゃ行くぞ」

「う、うん・・・///」

 

突然のことにロングヘアの子は他の2人同様顔が赤くなってしまうも秋宗に見えないように顔を下ヘ向けるのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「はいオッケーでーす!お疲れ様でしたー!」

 

日も沈み辺りが暗くなった頃、ついにPV撮影が終了した。

監督の掛け声と共に撮影スタッフたちは一斉に機材の撤収に取り掛かった。

 

「ふぅ~!やっと終わったぁ~!」

 

トゥインクルスの3人とは違い昼過ぎからぶっ通しで撮影を続けた秋宗の疲労はピークに達しており椅子でぐったりと項垂れていた。

 

「お疲れ様、どっち飲む?」

 

そんな秋宗にプロデューサーが側に寄り缶コーヒーの微糖とブラックを差し出した。

 

「・・・じゃあ微糖で」

「どうぞ。今日はごめんね、無理やり付き合わせちゃって」

「いいっすよ別に。それに少し楽しかったんで」

 

プロデューサーは隣の椅子に座り秋宗から今回の感想を聞いた。

突然撮影に参加させられながらもトゥインクルスたちとプライベートのように楽しめた秋宗はどこか満足そうであった。

 

「・・・ごめんね西条くん」

「だからもういいっすよ」

「撮影の方じゃなくて、ほら、初めて会った時のこと」

「ん?」

 

初めて会った時というと湯煙フェスの時かと思い出すも今さらどうしたのだろうと疑問に思ってしまう。

 

「あの時、ちゃんと西条くんに謝ってなかったからさ。本当にごめん」

「え?そうでしたっけ?」

 

あの時のことを思い出すも謝ってたような気がしないようなしたような曖昧であったためあまり気にはならなかった。

 

「そんなの気にしないで下さいよ。それに一々気にしてたらキリねぇっすよ」

「・・・ありがとう、君は優しいね」

 

そんな秋宗に肩の力が抜けたのか、プロデューサーは思わず笑ってしまう。

 

「んじゃ、俺はこれで失礼します」

 

そう言って秋宗は椅子から立ち上がり現場から立ち去ろうとした。

 

「えっ?もう帰るの?これから打ち上げの予定があるんだけど」

「俺はいいっすよ。それに、アイツらのとこに帰らないといけないんで」

 

スマホの着信履歴を見ると、かるらとマトラから何十件もの不在着信が表示されており早く帰らなければという気持ちが強くなっていた。

 

「んじゃ俺はこれで。トゥインクルスたちによろしく言っといてください」

 

『オオカミくーん!!』

 

プロデューサーに軽く挨拶をして帰ろうとした時、着替えを終えたトゥインクルスの3人がこちらへ走って来た。

どうやら秋宗が帰ろうとしていたことを察し慌てて引き留めたようである。

 

「どうした?」

「どうしたじゃないよ!私たちに挨拶もしないで!」

「黙ってに帰るなんてオオカミくんひどーい!」

「せめて何か一言言ってほしいんだけど」

 

何も言わずに帰ろうとしていた秋宗にトゥインクルスはやや怒っていた。

撮影を共にした仲なのだから黙って帰ることは許さないということらしい。

 

「悪かったよ。でも俺は帰んねぇといけねぇから」

「それは分かったけど・・・あ!じゃあさ!連絡先交換しよ!」

「・・・は?」

 

そう言ってロングヘアの子はスマホを取り出し秋宗の連絡先を聞き出そうとした。

突然の行動に秋宗は一瞬呆気に取られてしまう。

芸能人が一般人と連絡先を交換してもいいのかとプロデューサーをチラリと見やるも何も口出しする様子がなかった。

 

「撮影に協力してくれたのにお礼もしないなんて可笑しな話だし、せめて私の連絡先でもってことで」

「抜け駆けズルい!ウチもオオカミくんと連絡先交換する!」

「ついでに私もいいかな?」

 

トゥインクルスのファンたちが喉から手が出るほど欲しがる連絡先。

そう考えるとかなり高価な代物かもしれない。

 

「・・・分かった。じゃあ今回のギャラはアイドルの連絡先ってことで」

 

一通り考えた秋宗はトゥインクルスと連絡先を交換することにした。

1人ずつ電話番号をスマホに打ち込んでいき、新しく3人の名前が連絡先に追加された。

 

「じゃあ俺はこれで。今日は楽しかったぜ、またどっかで会おうな」

「うん!またねオオカミくん!」

 

そして秋宗はトゥインクルスと挨拶を済ませ今度こそ現場を後にするのであった。

 

『・・・・・』

 

秋宗の後ろ姿を見送るトゥインクルスにプロデューサーは声を掛けた。

 

「・・・言っておくけど、恋愛は程々に」

 

『なっ!!??///』

 

突然の発言にトゥインクルスの3人は揃って顔を赤くしてしまう。

 

「何言ってるんですかプロデューサー!?///」

「べ、別にオオカミくんとそんなこと思ってないもん!///」

「そうですよ!///」

「ふ~ん?」

 

撮影中、秋宗の行動に全然が顔を赤くしていたにも拘わらず慌てて否定する3人にプロデューサーは目を細くしてしまう。

 

「ま、あんたたちのプライベートに口出しするつもりはないけど、芸能人なんだから理解しておくように」

「だから違いますって!///聞いてますか!?///」

 

少し面白がりながら映像の確認へ行こうとするプロデューサーの後ろをトゥインクルスたちは慌てて追いかけて行くのであった。




おまけ

~下校中~

「西条、少し聞きたいことがあるんだが」
「どうした兵藤?」
「お前さ・・・最近トゥインクルスと会ったのか?」
「・・・なんだよ唐突に」
「いや、トゥインクルスの最新曲のPVの男性キャストがお前にスゲェ似てる気がすんだが」
「・・・んな訳ねぇだろ」
「何今の間?」
「あ、そういやお前確か先週緋扇に頼まれ事されて宮島行ったよな?」
「そういえば、そうでしたね・・・」
「お前、余計なことを・・・!」
「てことはお前・・・!?」
「・・・まぁ、あれだ、成り行きってやつ?」
「ふ、ふざけんなぁ!成り行きでトゥインクルスとお近づきになったのか!?それにPVのあれなんだよ!?やたらボディタッチが多かったような気がすんだが!?」
「うっせぇな、成り行きって言ってんだろ」
「秋宗兄さん・・・」
「紫音、このアイドル馬鹿に大袈裟って言ってやれよ、って何でそんなゴミを見るような目で俺の方見てんだ・・・!?」
「いくらなんでもアイドルの方々にボディタッチは引くッスよ」
「いや紫音、だから今回のは」
「欲求不満のケダモノッスね」
「グハァッ!?」
「あぁ!?秋宗くんの心に会心の一撃が!?」
「行きましょう芹姐さん」
「そうだな、流石に今回のはアタシもドン引きだわ」
「な、何でだ・・・?俺別に悪いことしてねぇのに・・・どうしてだ?」



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第52話 狢

今回はオリジナル回でオリジナルキャラが登場します!


学校も無事に終わり只今下校中の秋宗たち。

今日は金曜日のため明日の土日に何をしようかというテーマで盛り上がっていた。

 

「コガラシさん、明日バイトがないのですか?」

「あぁ、店長から休んでいいって言われてな」

「確かに貴様は働きすぎだから少し休んだ方がいいな」

「そういえば明日って誅魔忍の任務無かったよね?」

「せやな。なんか久しぶりの休みの気がするわ」

「うん、おばば様からお休み貰ったから服とか買いに行こうと思ってて」

「雲雀ちゃん、私も一緒に行っていい?」

「夜々も行きたいの」

「西条はやっぱゲームか?」

「あぁ、ペルソナの新作をぶっ通しでクリアする予定だ」

「相変わらずッスね・・・」

「あんまやりすぎると視力落ちるぞ」

 

それぞれ土日に何をするのか話していると浩介がふとあることを思い出した。

 

「ねぇ秋宗くん」

「どうした?」

「ちょっと気になってることあるんだけど、秋宗くんのお見舞い行った時、やたらデカイ花束あったんだけど、あれって誰から?」

 

浩介が緋扇邸で療養中の秋宗のお見舞いに行った時、まるで開店祝いの花輪のような大きな花束があったのを思い出し一体誰からのだろうと疑問に思っていた。

 

「そういえばあったね、思わず二度しちゃったけど」

「やっぱお母さんからッスか?」

「あぁ~あれか。あれは中学からの友人からの見舞いの品だ」

「中学からの?」

 

中学からの友人というと、この前かるらの口から出た同じ緋扇軍に所属している茜という人物のことなのだろうかとコガラシたちは察した。

しかしかるらの話によるとあまり彼女のことを良く思っていないらしく謎に包まれた印象しかなかった。

 

「あの~、その方とはどういう関係なのですか?」

「どういう関係って言っても、ただの友人ってだけだぞ」

 

その時だった。

 

「え~?ただの友人じゃなくてぇ、すっごく仲がいい恋人でしょ~?」

 

『!!??』

 

突然秋宗の背後から女子高生が肩を組んで引っ付いて来た。

いきなりのことにコガラシたちは驚くも思わず声が出なかった。

まるで誅魔忍のように気配を消して背後から近づいていたことに誰も気がつかなかったのだから。

 

クリーム色のウェーブが掛かった髪を靡かせ、ブラウンのベストの上からフード付きの上着を羽織っており、見るからにチャラい雰囲気を漂わせていた。

 

「・・・来るなら連絡くらいしとけ」

「いいじゃん別に~!ウチとアッキーの仲なんだから~!」

 

落ち着いて返す秋宗にお構い無しに女子高生は背中から右腕へ移り自分の胸を押し付けるように抱き寄せた。

 

「お、おい西条?誰だそいつ?」

「・・・さっき話しただろ。中学からの付き合いの友人」

 

置いてけぼりにされているコガラシたちに秋宗は女子高生に紹介を促した。

 

「初めまして~!アッキーの彼女にして緋扇軍所属の狢の半妖JK!光明院茜(こうみょういん あかね )ちゃんでーす!気軽に茜ちゃんって呼んでいいからね~!」

 

女子高生、光明院茜は明るく陽気に自己紹介をした。

 

『か、彼女ぉ!!??』

 

自己紹介の際、秋宗の彼女だと言った茜にコガラシたちは思わず目を見開いてしまう。

 

「秋宗くん彼女いたの・・・!?」

「ふざけんな西条!こんな美少女の彼女いたの黙ってたのかよ!?」

 

浩介は驚きのあまり言葉が詰まるも兵藤は目から血の涙を流さんとする勢いで怒りを露にしていた。

一方千紗希と柳沢はハッとなりチラリと紫音の方へ視線を移すと、

 

「・・・・・」

「紫音ちゃん!?」

「しっかりしろ紫音!」

 

まるで死んだ魚の目のように呆然となっており、2人は声を掛けたり肩を掴んで揺さぶったりと正気を戻そうとした。

驚いているコガラシたちに秋宗はため息をつきながら弁解をした。

 

「違ぇよ、コイツが勝手に言ってるだけだ。彼女じゃねぇよ」

「でもいずれそうなるもーん」

「取り敢えず離れろ」

 

いつまでもベタベタ引っ付いてくる茜の手を振りほどき彼女でないことを説明した。

それを聞いたコガラシたちは茜が勝手に言っているだけかと納得して落ち着きを取り戻した。

 

「にしても狢の半妖か。狢なんてあんまり見かけたことないわな」

「言われてみたら、確かにそうだな」

 

狢とは、化け狸のこゆずや妖狐のミリアのように誰にでも化けることができる妖怪。

違いがあるとすれば葉札なしで化けることができるくらいである。

 

「けどよ、緋扇軍にこんなヤツっていたか?」

 

コガラシが今までの記憶を辿っていくも、茜がいた記憶が一向に出て来ず、他のみんなも同じ様子だったを

 

「そりゃそうだよ。コガッチたちに会うの今日が初めてだもん」

「コ、コガッチ?」

 

いきなり馴れ馴れしくあだ名で呼ばれたことにコガラシは少したじろいでしまう。

 

「だって八咫鋼のコガッチを誘拐して結婚しようってかるかるの計画なんて成功する訳ないじゃん」

「確認だが、かるかるというのは緋扇かるらのことか?」

「そうだよさぎりん。それ以外にないでしょ」

「さ、さぎりん・・・!?」

 

茜の性格や言動から察するに、からかい好きのマイペースの持ち主でどんな相手でもフレンドリーに接する性格だとコガラシたちの中で決定づけられた。

 

「それにしてもアッキー、ちょっと聞きたいんだけど?」

「なんだよ?」

「何で小学生と一緒に帰ってんの?」

 

そう言った茜の視線の先にいたのは紫音だった。

 

「なっ・・・!?じ、自分は小学生じゃねぇッス!湯煙高校1年の轟紫音ッス!」

 

紫音の身長は秋宗たちの中でもかなり小柄で中学生ではないかと見間違える程である。

しかし小学生と言われたことに紫音は反発して高校生だと断言した。

 

「またまた~!そんな嘘お姉さんについたらダメだよ~!」

「紫音は高校生だぞ」

「・・・えマジで?」

「マジだ」

 

最初は信じなかったが秋宗に言われた茜は紫音をジーッと見やり、そして、

 

「・・・発達性障害患者?」

「誰が発達性障害患者ッスか!?」

 

小柄な理由を病気の一種なのかとポロッと口に出してしまい、余計に紫音の火に油を注いでしまった。

 

(何なんスかこの人!?小柄な自分を馬鹿にして!それに、秋宗兄さんとあんなにベタベタして!///)

 

自分の想い人に人目を気にせずベッタリと引っ付く茜に紫音は腹を立て初対面にも拘わらず嫌いな人と認定してしまった。

 

「茜、一体何しに来た?」

「そんなのアッキーに会いに来たに決まってんじゃん」

「お前がそれだけの理由で会いに来たとは思えねぇ。お前なら緋扇邸に俺を呼び出すとかする筈だ。面倒くさがりのお前がわざわざ湯煙町に来るなんざ考えられねぇ」

「・・・流石アッキー、勘が鋭いねぇ~」

 

長い付き合いだからこそ秋宗は茜が他の目的のために湯煙町へ足を運んだことを見抜き疑いの目を向けた。

そして問い詰められた茜はニヤリと笑い本当の目的を話し出した。

 

「実はお願いがあって来たんだけど、皆これ知ってる?」

 

そう言って茜は自分のスマホをいじり画面を全員に見えるように見せた。

画面にはネットニュースの記事が表示されておりそこに記載されている見出しをコガラシが声に出して読み上げた。

 

「これで被害17件目、名古屋切り裂き事件?」

 

これによると、先々週辺りから名古屋で人々が次々に重症を負う被害が何件も発生しており、その共通点として被害者が全員男性でまるで鋭利な刃物で斬られたような怪我を負ってしまっているようである。

 

「友達の彼氏がこの事件に巻き込まれちゃってさ、何とかしてくれないかって頼まれちゃってねぇ。で、ウチの調べた情報だと結婚詐欺の被害にあって自殺した幽霊が悪霊になって形振り構わず男を襲ってるみたいなんだよねぇ~」

「男に恨みを持つ悪霊か・・・」

「なんか聞くだけでゾッとするな」

 

男に対し激しい憎悪を抱いている悪霊に兵藤は巻き込まれたら堪ったもんじゃないと身震いしてしまう。

そして秋宗は茜が何をしに来たのかを察した。

 

「つまりあれか?この悪霊を俺に退治してほしいと?」

「そゆこと~!」

「・・・はぁ。分かった、とっとと退治してやんよ」

 

明日の予定が狂ってしまったことに少し落ち込むも、この事件を放っておくわけにもいかないため秋宗は悪霊退治を引き受けた。

 

「ありがとアッキー!それからコガッチとすっちーとさとるんも来てほしいんだけど」

「は?俺も・・・?」

「すっちーって、僕のこと・・・?」

「何で俺まで・・・!?」

 

更に茜はコガラシと浩介、兵藤にも一緒に来て欲しいと頼みこんだ。

悪霊関連のことならコガラシと浩介はまだ分かるが幽霊すら見えないほどの霊力しかない兵藤も来る必要はないだろうと疑問に思ってしまう。

 

「だって被害にあってるのは男オンリーだよ。大勢いた方が悪霊の出現率がグーンって上がるじゃん」

「まぁ、そりゃそうだけどよ・・・」

「俺は別にいいぞ?特にやることもねぇし」

「僕も大丈夫だよ。それに悪霊も放って置けないし」

「・・・ちょっと怖ぇけど、俺もいいぜ!」

 

茜の説得が効いたのか、悪霊を野放しに出来ないのか定かではないが、コガラシたち3人も意見が一致し一緒に行くことを引き受けた。

 

「で、では私も一緒に行きます!」

「ダメダメ!何言ってんのゆなゆな!?女の子はウチ1人で十分!これ以上増えたら出現率が落ちちゃうよ!」

 

何やら必死そうに同行しようとする幽奈を止めて茜は女の子は1人でいいと断言した。

 

「じゃあ明日10時に駅集合、遅れたらだめだからね。じゃあねアッキー!明日はよろしく~!」

 

そして茜は集合時間と場所を伝えてその場を走り去って行った。

まるで嵐のように去って行った茜の背中をコガラシたちは呆然と見送った。

 

「悪いなお前ら。茜の身勝手に付き合わせてしまって」

「気にすんなって」

「そうだよ、明日は特に何もなかったからね」

「な、なぁ3人とも。いざって時は俺を守ってくれるよな・・・!?」

「何なんスかあの茜って人!初対面で人を馬鹿にして!」

「落ち着け紫音、突っかかったらキリねぇぞ」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

翌日

高層ビルが立ち並ぶ名古屋。

その中でも一際存在感を主張している名古屋駅の人混みに紛れ、秋宗とコガラシ、浩介と兵藤、そして茜の5人が外へ歩き出た。

 

「ここが名古屋か・・・!」

「初めて来たけど思ったより人が多いね」

「流石は日本五大都市」

「はぐれたら終わりだな」

「おーい4人ともー!こっちこっちー!」

 

名古屋の人の多さに秋宗たちが呆気に取られていると既に茜が遠くの方まで行ってしまっており慌てて追いかけて行った。

 

「ごめん茜さん、こんな都会来るの初めてだったから」

「いいよいいよ、気持ちは分かるし」

「それで?悪霊が出現する場所の目星はついてるのか?」

 

名古屋の神出鬼没の悪霊についてどんな対策があるのか秋宗が聞くと、茜が衝撃の事実を告白した。

 

「あ~それなんだけどさ~・・・ゴメンみんな!悪霊っていうの嘘なんだ!」

 

『・・・は?』

 

突然手を合わせて謝りながらカミングアウトをした茜に秋宗たちは理解が追い付かなかった。

 

「どういうことだ光明院?」

「いやだから嘘なんだよ」

「友達の彼氏が被害にあったっていうのは?」

「作り話」

「じゃあ昨日のネットニュースは!?」

「あれは自作だよ~ん」

 

次々に嘘を明らかにする茜に黙っていた秋宗は頭にきてしまい彼女の頬を思いっきりつねった。

 

「てめぇ全部嘘なのかよ・・・!?」

「いひゃいいひゃい!いひゃいはっひー!ふぉふぇんっふぇふぁ~!」(訳:痛い痛い!痛いアッキー!ゴメンってばぁ~!

「ふざけんなよ!こっちはペルソナ我慢してわざわざ付き合ってやったんだぞ!」

 

ゲーム好きの秋宗にとってこのようなことは許されることではない。

しかしよくよく考えると、そんな事件が起きていたら間違いなくニュースで報道されている筈なのに全く取り上げられてないことに気がついた。

 

そして一通り頬をつねった秋宗はパッと手を離した。

 

「いったいなぁもう~!」

「ちゃんと話せ。俺だけなら兎も角コガラシたちまで連れてきた訳を」

「分かったよ~」

 

つねられた頬を押さえながら茜は秋宗たちを名古屋へ連れてきた理由を話し出した。

 

「実はウチの友達が霊界新聞に載ってたアッキーに興味持ってね。そんで会ってみたいって言ったから合わせて上げようと思って・・・あともう2人来るけど」

「・・・で、俺らを連れてきた理由は?」

「どうせなら面白くしようかな~?って感じで」

「お、面白く・・・?」

「茜ちゃん?それって一体・・・?」

 

「ふっふっふ~!初対面の男と女が同じ人数でやることって言ったら・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合コンに決まってんじゃん!!」




感想の程、よろしくお願いします


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第53話 合コン

「ふっふふ~ん 」

 

茜を先頭に秋宗、コガラシ、浩介、兵藤の5人は名古屋の街中を歩いていた。

男4人を騙し合コンへ参加させることに成功した茜はご機嫌で途中ではスキップを加えていた。

 

「すまねぇお前ら、ウチのもんが迷惑を・・・」

「・・・もういい。過ぎたもんは仕方ねぇ」

「まさか合コンに強制参加されるなんてね・・・」

 

騙された秋宗たちの足取りは重く乗り気ではないが仕方なく茜の後について行っていた。

但し、約1名を除いて。

 

「なぁなぁ茜ちゃん!他の女の子たちってやっぱ可愛いの!?」

「もっちろ~ん!さとるんのストライクゾーンに嵌まるの間違いなしの自信があるよ!」

「うぉぉぉ!なんか盛り上がって来たぁ!」

「何でアイツら意気投合してんだ・・・?」

「さ、さぁ・・・?」

 

いつの間にか前方で茜と兵藤が仲良く話をしており、他の3人は呆然となるしかなかった。

女子との交流が少ない兵藤にとって合コンはビックイベントそのものなのであろう。

 

しばらく茜の後ろをついて行くと、いつの間にか街中から人通りが少ない路地裏を歩いていた。

 

「おい茜、一体どこに行こうとしてんだ?」

「そんなの合コンする場所に決まってんじゃん」

「こんなところにあんのか?」

 

建物の影で辺りが薄暗くなりどこからともなく悪霊が飛び出して来そうなところに合コンができる場所などあるのかと疑問に思ってしまう。

そして茜が急にある建物の前で立ち止まり見上げた。

 

「さぁみんな!着いたよ!」

「えっ?着いたよって・・・」

 

全員の視線の先にあったのは、何の変哲のない雑居ビルだった。

壁の塗装が所々剥げており、ベランダの鉄格子も錆びれ長年建ち続けていることを物語っており、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせていた。

 

「ここ、ただのビルだぞ?」

「こんなとこで合コンすんの?」

「百聞は一見に如かずだよ。とにかく入って」

 

そう言って茜は秋宗たちを連れてビルの中へ入って行った。

5人を迎えたのはエントランス。

しかし床一面は埃やらゴミなどで散らり階段に至っては手摺が壊れとても上れる様子ではなく明らかに老朽化が進んでいる様子だった。

 

「・・・なんか俺、帰りたくなったんだが」

「安心しろ。俺たちも同じだ」

 

とうとう兵藤も秋宗たちと同じように帰りたい気持ちが強くなり気分が盛り下がってしまった。

 

「大丈夫だよみんな。さ、乗って乗って」

 

しかし茜はお構い無しに階段の隣にあったエレベーターのスイッチを押した。

すると電気が通っているのか、エレベーターの扉が開き5人は中へと入った。

 

「茜、ここに何があるってんだよ?」

「まぁまぁアッキー。それはお楽しみってことで」

 

いい加減にしないとブチキレそうな秋宗を宥めて茜は階の番号のボタンを適当に押した。

すると扉が閉まりエレベーターは下へ降りていった。

 

「えっ!?これって、もしかして下がってる!?」

「ビルの地下か・・・!?」

「けどよ、このエレベーター、地下行きのボタンなんてねぇぞ!?」

「おい茜!何なんだ一体!?」

 

一体エレベーターはどこへ向かっているのだろうと秋宗たちは少し焦ってしまう。

しばらくするとエレベーターが止まり扉が開くと、そこは奥へ伸びる一本の廊下だった。

そしてその奥には大きな扉が立っていた。

 

茜を先頭に秋宗たちは廊下を歩き扉の前へたどり着いた。

茜は扉に手を掛け、秋宗たちの方を向き、

 

「さぁさぁお待ちかね!ここが今回の合コンの会場だよ!」

 

そして勢いよく扉を開いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「な、何だこれは・・・!?」

 

唖然となっている秋宗たちの眼前に広がっていたのは、大勢の人々で溢れている巨大な施設だった。

まるで東京ドーム3個分くらいの広大な広さで上の雑居ビルとは正反対の輝かしい場所。

そして人々の大半が、角が生えてたり翼を拡げてたり頭が獣になってたりと異形の者たちばかりであった。

 

 

 

「ようこそ!巨大地下娯楽施設!パラダイスへ!」

 

 

 

呆然となっている秋宗たちに茜はこの施設の紹介をした。

 

「きょ、巨大地下、娯楽施設・・・!?」

「名古屋の地下に、こんな場所が・・・!?」

 

パラダイスなど今まで聞いたことがない施設の名前に秋宗たちは再び辺りを見渡した。

まるでラスベガスのカジノのような場所でこの施設を利用している人々は凄く楽しそうにしていた。

 

「ここはね妖怪も人間も関係なくみんなが仲良く楽しく遊ぶためにある施設でね、誅魔忍の情報網にすら引っ掛からないところなんだ。簡単に言えば『睨み合ってる東軍と西軍なんて無視して遊ぼうぜ!』っていう人たちの集まりなんだよねぇ~」

 

東軍と西軍が一触即発だろうが関係なく全員が遊ぶために誕生したのが、このパラダイスという施設であった。

 

「まさかこんな場所があったなんて・・・!」

「なんかスゲェ場所に来ちまったな」

「俺だけ、スゲェ浮いてる気が・・・」

「でも見た限りだと兵藤くんみたいに霊力が少ない人たちもちらほらいるよ」

「よし!じゃあそろそろ合流しよっか!着いてきて」

 

そして茜は再び歩き出し秋宗たちは慌ててその背中を追うのだった。

しばらく辺りを見渡しながら歩いていると、無数に並ぶテーブルに人々が座り食事をしているレストランのような場所に着いた。

 

「ここはレストランゾーン。読んで字の如く、食事をするための場所だよ。え~っと、何処かな~?あっ!いたいた!おーいお待た~!」

 

茜がキョロキョロしていると一席のテーブルへと向かって行くと、既にテーブルには3人の女子が座っていた。

 

「・・・遅い。待ち合わせしておいて5分遅刻するなんて、一体どういう了見なの?」

 

1人目は黒を基調としたフリルつきのゴスロリの服を着こなし黒のロングヘアーの上にミニハットを乗せていた。

ゴスロリの女子は手に持っていた分厚く大きな本をパタンと閉じ遅刻した茜を鋭い目で睨んだ。

 

「お、落ち着いて黒羽ちゃん・・・!きっと茜ちゃんは悪気があった訳じゃないんだよ・・・!」

 

2人目は白のトップスに青のスカートを着こなし藍色のボブカットヘアーだが、その女子の顔には2つあるべき目が1つしかなく人間でないことを示していた。

一つ目の女子はオドオドしながらも少しイライラしているゴスロリの女子を落ち着かせていた。

 

「そうでござる。遅刻をしたとは云えちゃんと来たのでござるからな」

 

3人目は黄緑の胴着を着こなし濃い緑の長い髪を一本に纏め、背中に刀を背負っていた。

侍口調の女子は一つ目の女子と同じようにゴスロリの女子を落ち着かせた。

 

3人とも見るからに個性が強そうだが幽奈や千紗希たちに負けず劣らずの美少女であった。

 

「流石は茜、合コンの面子集めでも抜け目ないな」

「でしょでしょ~?もっと褒めて~」

「けど、冗談抜きで全員可愛いね」

「まぁ、そう言われてみりゃな・・・」

「マジで可愛い子ばっかじゃん!俺的にはあの目が1個の子とかガチのストライクゾーンだぜ!」

 

集まっている女子の面子に秋宗たちがそれぞれ意見を口に出しているとゴスロリの女子が立ち上がり茜の前へ歩いた。

 

「・・・茜、何で私がこんなに怒っているか分かる?」

「な、何でって、ウチらが遅刻したから・・・!?」

「違うわ」

「ちゃ、ちゃんとアッキーも連れて来たじゃん!アッキーに会いたいって言ったのクロロンでしょ!?」

「確かに会ってみたいとは言ったわ。でもね・・・」

 

言いかけたと同時にゴスロリの女子は茜の頬を両サイドから思いっきり引っ張った。

 

「誰が合コンとしてセッティングしろって言ったのよ・・・!?」

「いひゃいいひゃいいひゃい!にひゃいふぇ!ほぉんひぃふにひゃいふぇ!」(訳:痛い痛い痛い!2回目!本日2回目!

 

どうやら合コンと聞かされてなかったのは秋宗たちだけではないようで彼女たちもまた被害者なのだと悟った。

 

「・・・まぁいいわ。さっさと終わらせ帰ることにするわ」

 

しかし観念したのかゴスロリの女子は手を離して再び椅子に座った。

 

「いったぁ~。ま、まぁ気を取り直して、アッキーたちも座って座って~」

「おう」

 

そして秋宗たちも女子たちと向かい合うように座りいよいよ合コンが始まろうとした。

 

「それじゃあまず、全員の自己紹介からやろっか!」

 

幹事を取り仕切っている茜が司会をこなし自己紹介を行おうとした。

 

「どーもー!狢の半妖JK!光明院茜ちゃんでーす!」

 

茜は昨日と同じようにVサインでウインクをしながら自己紹介をした。

 

「・・・闇本黒羽(やみもと くろは)。呪術師よ。よろしく」

 

ゴスロリの女子、黒羽はどこか面倒そうに自己紹介をした。

 

「い、一橋瞳(いちはし ひとみ)です。一つ目族です。今日はよろしくお願いします」

 

一つ目の女子、瞳は緊張してオドオドしながらも自己紹介をした。

 

「拙者、宮原薫(みやはら かおる)と申す者。見ての通り侍を目指しておるでござる」

 

侍の女子、薫はハキハキとものを口にしながら自己紹介をした。

 

そして今度は秋宗たちの番へ移った。

 

「西条秋宗だ。まぁ知ってると思うが、オオカミ人間だ」

「俺は冬空コガラシ。八咫鋼だ」

「初めまして、平賀浩介です。発明家です」

「俺、兵藤聡!ただいま彼女募集中でーす!」

 

秋宗たちも流れるように自己紹介を済ませて全員名乗り終えた。

 

「じゃあ次は飲み物頼もっか。みんな何飲む?」

 

すると今度はメニューを開いて飲み物を注文をすることになった。

みんながメニューを見ながら何を飲むか選んでいる中、浩介は再び周囲を見渡した。

 

(まさか名古屋の地下にこんなところがあったなんて。でもここにいる人たちは妖怪とか人間とか関係なく楽しそうにしてる・・・)

 

今の現状として、妖怪と人間の溝は深まったままである。

妖怪は自分たちより格下の人間を見下し、人間もまた自分たちと異なる存在の妖怪を軽蔑している中、このパラダイスの人たちは溝など関係なく交流を深めており、妖怪と人間の架け橋となっている。

もしかしたら近い将来、妖怪も人間は互いに共存できるかもしれないと思った。

 

(現に僕たちだってゆらぎ荘を通じて仲良く出来てる。今回の合コンも、きっと全員の交流が深まる筈。何事もトラブルがな・・く・・・)

 

その時だった。

浩介の視界にある団体が写り込んだ。

位置は今座っているテーブル席から3席挟んだ遠くのテーブル席に座っている団体。

各々が眼鏡やら帽子などを被り周囲を気にしている様子だった。

そしてその団体を見て浩介は目が点になってしまう。

 

何故なら・・・

 

 

 

 

 

「おのれ茜めぇ!コガラシ殿を連れて合コンとは何を考えておるのじゃ!」

「では、悪霊の話は嘘だったのですね!」

「合コンに強制参加させるなんて許せないよ!」

「よせ雲雀、ここで騒ぎを起こせばどうなるか分からんぞ」

「冬空くん・・・!」

「秋宗兄さん・・・!」

 

 

 

 

 

(・・・前言撤回。この合コン、絶対修羅場になる!!)




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第54話 遊戯

~ゆらぎ荘~ 一時間前

 

ゆらぎ荘の大広間では幽奈と狭霧、雲雀と千紗希、そして紫音の5人が女子トークをしていた。

 

「今年の流行ってこういうのらしいよ!」

「可愛いお洋服ですね~」

「紫音ちゃんこういうの似合うんじゃない?」

「そ、そうッスかね…?」

「………」

 

ファッション雑誌を広げながらどんな服を買おうか盛り上がっている中、狭霧だけは何かを真剣に考えている様子だった。

 

「狭霧ちゃん?どうしたの?」

「ん?あぁいや、昨日光明院茜が見せたネットニュースのことで気になることがあってな」

「気になること?」

「あんなに大きな傷害事件が起こっているなら間違いなく誅魔忍の情報網に掛かる筈なのだが、まったくそんな情報が入って来ていないんだ。そもそもあんな大きな事件が起きていたらニュースで毎日報道される筈」

「い、言われてみれば…」

「そんなニュース、見たことないッスね…」

 

10人以上も被害者が出ている大事件なら間違いなくニュースで報道される筈。

だがしかし、そんなニュースなど一度も見かけこともなくどういうことなのだろうと疑問に思ってしまう。

 

すると、突如神速通が開き中からかるらが飛び出して来た。

 

「なんじゃお主ら、難しそうな顔つきをしよって」

「あ、かるらさん!」

「まぁその、少し気になることがあって…」

「?…ところで、コガラシ殿はおるか?」

「コガラシくんなら秋宗くんたちと一緒に茜さんって人と名古屋に行ったけど…」

「…何じゃとぉ!!?」

 

雲雀から茜の名が出てコガラシたちを連れて行ったことを知ったかるらは目を見開き詰め寄った。

 

「ど、どうしたんスか!?」

「何故茜はコガラシ殿を連れて行ったのじゃ!?」

「えぇっと、悪霊退治の手伝いをしてほしいってことだったんだけど…」

「それは絶対ありえん!アヤツが率先して悪霊退治などする訳がない!」

 

茜の面倒くさがりな性格を理解しているかるらは彼女が自ら進んで悪霊退治なんて行く筈がないと断言した。

それにより幽奈たちもハッとなり不審な点がいくつも思い出てきた。

 

「よく考えてみればあんな大事件が誅魔忍軍の情報網に掛からない訳がない!」

「それに悪霊退治なら秋宗兄さんだけで十分な筈なのに聡兄さんまで連れて行ったのもおかしいッスよ!」

「そういえば幽奈ちゃんが行こうとした時必死になって止めてたけど…!」

「兎に角茜を探すぞ!確か名古屋じゃったな!」

 

そしてかるらは天通眼で名古屋にいる茜たちを必死に探し出した。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

そして現在。

 

『かんぱーい!!』

 

名古屋の巨大地下娯楽施設パラダイスのレストランゾーンにて、茜が幹事を努める合コンの席では全員がグラスを合わせて乾杯をしていた。

その光景をかるら、幽奈、狭霧、雲雀、千紗希、紫音の5人は変装をして遠くの席から見ていた。

 

「あんのアホ狢ぁ!普段やる気を出さんくせにこんな時だけ用意周到に準備をしおって!」

「緋扇さん堪えて!冬空くんたちに気づかれる!」

「そんな、コガラシさんが合コンに…!」

「秋宗兄さんたちを騙して合コンに参加させるなんて!やっぱあの人嫌いッス!」

「…気持ちは分かるが邪魔をする行為はよくないぞ」

「じゃあ何で狭霧ちゃん来たの?」

「そ、それは!こんな場所が存在することなど誅魔忍でも知りえなかったのだぞ!調査だ!」

 

誅魔忍として正体不明のこの巨大施設の調査の為に同行しただけに過ぎないと狭霧は言いきった。

 

(そ、そうだ!これは調査!この施設の調査ついでに同行しただけだ…!しかし何故だ!?何故もやもやするのだ!?…ん?)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「………」

 

一方合コンチームの席は盛り上がっており、それぞれの趣味やら何やらを話したり注文した料理を食べたりしていた。

そんな中、唯一幽奈たちがパラダイスに来ていることを知ってしまった浩介はチラチラと向こうの席を見ていると同行していた狭霧と目が合ってしまった。

このまま無視出来ない浩介は前髪と耳たぶを弄った。

 

「(何やってんの雨野さん?)」

 

それに対し狭霧は指を2本指したり顔を触ったりした。

 

「(緋扇かるらに昨日のことを話したらそんな訳がないと言いきってな。貴様らを探してここに来たのだ)」

 

今2人がやっているのは誅魔忍のサインで口を閉じながら意思疏通ができ浩介も自然に覚えたのである。

 

「(それよりも平賀浩介。何とかして合コンを壊せ)」

「(無理だよ!こんな楽しそうな空気壊せないよ!)」

「(こっちはギスギスして空気が重いんだ!)」

「(そんなに言うなら雨野さんが壊してよ!)」

「ねぇすっちー。さっきから何してんの?」

「えっ…!?」

 

狭霧とサインを取り合っていることに夢中になっていた浩介がハッとなるといつの間にか全員がこちらを注目していた。

髪を弄ったり指を立てたりしている浩介に思わず全員注目してしまった。

 

「え、ええっと…!合コンなんて初めてだったから、緊張しちゃって…!」

「なんだぁ、そゆことか~」

「あっ!そういえば薫さんって鳥好きなの?鶯のキーホルダーつけてるけど」

 

何とか誤魔化せた浩介は意識を反らそうと薫に鳥が好きなのかと質問をした。

浩介の言った通り、薫の背負っている刀の柄の先端に鶯のキーホルダーがぶらさがっていた。

 

「うむ。拙者は幼き頃から鳥が好きな故、今ではバードウォッチングを趣味としているのでござる」

「さ、侍なのにバードウォッチングが趣味って…」

 

侍らしさ全開の薫の口から横文字が出てきたことに兵藤は少し驚いてしまう。

 

「人の趣味にどうこう言うつもりはないけど、わざわざ私たちまでバードウォッチングに連れて行くのは勘弁してほしいわね」

「なにを言うか黒羽殿よ。自然の中で鳥の鳴き声を聞くと癒されるであろうに」

「だからって朝6時から叩き起こさないで。呪われたいの?」

「く、黒羽ちゃん…!薫ちゃんも、喧嘩はやめて…!」

 

朝早くからバードウォッチングに付き合わせようとする薫に黒羽は鬱憤が溜まっており喧嘩になりそうだったが瞳が仲裁に入り場が治まった。

 

「なぁ闇本、呪術師って普段どんなことしてんだ?」

 

少しギスギスしてしまった空気を変えようとコガラシは呪術師の黒羽に質問をした。

 

「…そうね、呪術師は依頼を受けてターゲットを呪って報酬を貰うって感じね」

「仕事は誅魔忍と少し似てるね」

「ちなみにどんな呪いをかけれんだ?」

「流石に殺生関連の呪いは無理よ。主に使う呪いは一晩中下痢が止まらないとかどんなものを食べても味を薄く感じるとか全ての歯が歯周病になるとかよ」

「地味そうでキツい呪いだな」

 

思っていた呪いと違ったものの効果として地味にキツそうな呪いを聞いて秋宗は少し身震いしてしまう。

流石は呪術師というだけあり呪いのレパートリーも豊富だろうと思っていると茜がカバーをした。

 

「確かにクロロンは呪術師だけど、医者でもあるから怖がらなくていいよ」

「い、医者?」

「何よ?呪術師が医者じゃダメなの?」

「ううん!ちょっとビックリしただけだよ…!」

「…呪いは病気と似てるの。人によっては効きやすい体質、効きにくい体質とあってね、免疫力のように呪いの効果が薄いこともあるわ。それで呪術について色々研究してたら医療関係の方も研究してしまってね、気がついたら医者になってたって訳」

 

呪いと病気は紙一重で似てる。

それを熱心に研究した結果、医者になっていた黒羽の話を聞き秋宗たち一同は納得した。

 

「凄いよクロロンは。なんと言っても全国模試5位なんだから」

「全国模試5位!?」

「それ言うの止めてって言ってるわよね?呪うわよ?」

 

医者を目指すにしても頭が良すぎると秋宗たちは驚くも、あまり自慢してほしくないのか黒羽はカミングアウトした茜を睨んだ。

 

「でも本当に凄いよ黒羽ちゃん。薫ちゃんと茜ちゃんもそうだけど、3人と比べたら私なんて普通だし…」

 

すると瞳が少し自虐的になり視線を下の方へ落としてしまった。

 

「え~っと、一橋は半妖か?それとも純血?」

「純血です。でも目が1つしかないことが唯一の取り柄でして、他は全て普通なんです…」

 

狢の茜や呪術師の黒羽に侍の薫と比べたら自分は目が1つしかない一つ目族。

特殊な能力もなく身体能力も普通だから他の3人と比べてしまい落ち込んでいるとコガラシがフォローを入れた。

 

「いいじゃねぇか普通でも」

「えっ?」

「人にはそれぞれ個性の良さってもんがあるんだからよ、お前にもきっと良さがあるさ」

「冬空さん…!ありがとうございます!」

 

例え普通だったもしても良さは存在する。

今はそれが見つかってないだけでさがせば必ず見つかる。

それを教えられた瞳は笑顔になりコガラシにお礼を言った。

それと同時に秋宗たちは同じことを思った。

 

(いや、コガラシ…スゲェいい話なんだけどよ…)

(人っていうか…)

(その子は妖怪だよ…)

 

人それぞれとはいえ瞳は妖怪なのではと心の中でつっこむも口には出さなかった。

 

「あの男はまた女をたぶらかして…!」

「違いますよ狭霧さん!コガラシさんはあの方を励まそうとしただけですよ!」

「けどあの子までコガラシくんに惚れたらまたライバルが増えちゃう!」

「これ以上増えてたまるか!」

「大丈夫ッスよ千紗希姐さん!自分は千紗希姐さんの味方ッスから!」

「う、うん、ありがとう…」

 

一方幽奈たちの方はコガラシが瞳を励ましたことに対し嫉妬が込み上げていた。

そんなことなど知るよしもなく合コンは進んでいった。

 

「西条くん災難だったわね。霊界新聞見たけど凄まじかったらしいじゃない」

「更にあの龍・炎焔が三つ子だったとは驚きの連続でござったな」

「まぁな、あの時はお嬢たちが来なかったら確実に負けてたしな…」

 

話題は秋宗と炎焔の激闘の話で黒羽たちが興味津々に質問をぶつけていた。

当時のことを思いだしながらかるらを泣かせてしまったことを後悔した。

 

「でも最後の最後で大勝利を収めるなんて流石はウチのアッキーだね~!」

「誰がお前のものだ」

 

その話にまるで自分のことのように胸を張る茜に思わず秋宗はつっこんでしまう。

 

「茜ちゃんホントに西条にぞっこんだな。どこに惚れたの?」

 

そんな2人を見て兵藤は思いきって質問をした。

昨日の茜の行動から見て完全に秋宗のことを好きなのは明白。

一体何処に惚れたのだろうと疑問に思ってしまう。

 

「え~?さとるんそれウチに言わせるの~?そうだねぇ、まずはこのカッコいい男前の顔でしょ。それに凄く強いし~、あとは~…友達を誰よりも大切にしてくれるところかな~」

 

ニッと笑い秋宗をじっと見つめる姿は正に恋する乙女の眼差しであった。

そしていろんなところを褒められた秋宗は思わず目を反らしてしまう。

 

「………」

「紫音ちゃん…」

 

それを聞いていた紫音は思わず顔を伏せてしまう。

自分は彼のことが確かに好きだ。

しかし彼女は長い付き合いのため彼のことをよく理解できている。

果たして自分は彼に相応しい人間なのかと。

 

「そんなに言うなら少しはお嬢の手伝いとかしたらどうだ?」

「ちゃんと手伝ってるよ~。この前もかるかるの服を洗濯したし~。あぁでも一緒に洗ったかるかるお気に入りのパンツ縮んじゃって、バレる前に捨てたけど」

「…茜ちゃん、バレる前に謝った方がいいんじゃ?」

「いいのいいの!だってかるかるのパンツなんて需要ないしね~」

 

かるらのお気に入りの下着を勝手に捨てた話を聞いた浩介は汗をかきながらチラリと幽奈たちの方を見ると、

 

「ぐぬぬぬぬぅぅぅ~!!」

「かるらさん落ち着いて下さい!」

「コガラシくんたちにバレちゃうから!」

「気持ちは分かるけど抑えて!」

「その手に持ってるフォークとナイフで何をするつもりッスか!?」

「早まるな緋扇かるら!」

 

真実を知り目がつり上がっているかるらが両手にフォークとナイフを持って今にもこちらへ襲って来そうな勢いであり、そんな彼女をみんなが必死になって抑えていた。

あんなに騒いでいてもパラダイスの人混みで掻き消され秋宗たちには聞こえていない様子である。

 

これ以上かるらの血圧を上げるのはマズイと思った浩介は話題を切り替えることにした。

 

「………そういえばさ、茜さんたちってよくここに来るの?」

「うん!ウチら4人で集まって遊んでるんだ~!」

「ここ色々揃ってるからまず退屈はしないわ」

「うむ、折角の機会でござる。ここは皆で1つ遊んでみるのはどうでござろうか」

「賛成!」

「俺も!」

 

そして8人が立ち上がり茜を先頭にして何処かへ歩き出したと同時に幽奈たちも後をつけるのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

プレイゾーン

パラダイスの施設の1つでそこは巨大なゲームセンターとなっている。

更にはボウリング場にダーツ、しかもサバイバルゲーム場もあり幅広く多くの人たちが利用している。

 

「よっと!」

 

そして秋宗たちが遊んでいるのはビリヤード。

秋宗はがキューを使いボールを突くと気持ちいい音がなり突かれたボールは他のボールに当たり穴へと落ちていった。

 

「うしっ」

「やったぁ!流石はアッキー!」

 

ボールが入ったことに小さくガッツポーズを取ると茜が抱きついて一緒に喜んだ。

秋宗・浩介・茜・瞳チームとコガラシ・兵藤・黒羽・薫チームに分かれて対戦しており皆で楽しくプレイしていた。

 

ちなみに幽奈たちはビリヤード場の隣のダーツ場で遊びながら秋宗たちの様子を伺っている。

 

「上手いね秋宗くん、ビリヤードやってたの?」

「まぁな、母さんが色々と教えてくれて」

 

アメリカでマーレから遊びで教わったことがここで役に立つとは思わず秋宗は頬を掻きながら答えた。

 

「コガラシ殿も中々の腕でござるな」

「あぁ、ハスラーの霊に取りつかれたことがあってな」

 

しかしコガラシも秋宗に負けず劣らずハスラーの霊に取りつかれた時の感覚を思い出しながらプレイをしており楽しそうに遊んでいる。

 

「アッキーもコガッチもプロ級の腕だね~」

「それに比べて素人の俺らミスばっかだしな」

「でも結構面白いねビリヤード」

「…言っておくけと、その俺らの括りに私は入ってないから」

 

するといつの間にか黒羽がキューを構えており、軽くボールを突くと突かれたボールはまるで意思を持っているかのようにボール2つを穴へと落とした。

 

「おぉ…!ミラクルショット…!」

「お見事でござる」

「ここに通っているせいで技が身に染み込んだだけよ」

 

周りから褒められても興味なさそうに軽く流し当たり前のようにさらりと答えた。

 

「ほらほら、次はひとみんの番だよ~」

「う、うん…」

 

茜に言われて瞳はヒューを持ちテーブルの前に立つもどこか浮かない様子だった。

先程からキューに玉を上手く当てられずかするだけのためこれ以上ミスを見せるのが恥ずかしくなっていたのだった。

 

「…腕だけに力を入れすぎなんだよ。肩も使って突いてみろ」

「!は、はい…!」

 

そんな彼女を見かねて秋宗が後ろからアドバイスをした。

瞳は腕だけに力を入れず肘から肩まで最大限に動かし始めた。

 

「ひとみんファイトー!」

「毎日通ってるんだから、せめて1つくらい入れなさいよね」

「気楽にいくでござるよ」

 

更に茜たちからも応援され瞳はふぅと一息ついて集中した。

 

(腕だけに力を入れずに、肩まで動かして………)「えいっ!!」

 

そしてヒューを突き出すと見事にボールにヒットして気持ちいい音が鳴った。

 

だが狙いが少しずれたのかボールはテーブルから離れてそのまま一直線へ飛んでいき、

 

「ぐはぁっ!?」

 

見事に兵藤の頭に直撃しそのまま後ろへ倒れてしまった。

 

『……………』

 

「…ねぇアッキー、これってミラクルショット?それともクリティカルショット?」

「…ある意味ではミラクルショットだな」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「すみませんすみませんすみません………!!」

 

場所は戻りレストランゾーン。

あの後気絶してしまった兵藤は医務室へと運ばれ元の席へと戻ったのだが、瞳は先程のことを手で顔を覆いながらずっと謝っていた。

 

「気にすんなって…」

「そうそう、アイツは常日頃から酷い目にあってるからこの程度慣れてるさ」

「秋宗くん、酷いこと言ってるね…」

 

そんな彼女を秋宗たちは優しく宥めていた。

 

「まぁまぁ、気を取り直して合コンの続きしよ」

「けど男1人減ったからバランス取れないわよ?」

「大丈夫大丈夫!今からやる定番のゲームで盛り上がればそんなの忘れるって!」

「ほう、定番のゲーム?」

 

茜の言う合コン定番のゲーム、それは………

 

「今から王様ゲームを始めまぁーす!!」

 

王様ゲーム

複数人がくじを引き王様を引いた人は他の人たちにどんな命令でも下せるゲーム。

まさにベタ中のベタ。

 

茜はあらかじめ用意していたのか、筒状の箱に棒が何本も入っている者を取り出した。

 

「さぁさぁ皆さん、お好きな棒をお取り下さ~い」

「王様ゲームか、お嬢がいたら間違いなく天通眼でイカサマしてきそうだな」

「確かにそうだな…」

 

そう言いながら全員は棒を手に取り、

 

『王様だーれだ!?』

 

掛け声と共に棒を一斉に引っこ抜いた。

 

「…む?拙者でござるか」

 

まず最初の王様になったのは薫。

証拠を示すために彼女はみんなに王様の棒を見せた。

因みに命令を下す時は他の人たちが手に取った番号で言わなければならないため誰が何番を引いているのか分からないのも王様ゲームの醍醐味である。

 

「いざ命令を下すとなると難しいでござるな…では、2番の方は4番の方の頭を撫でるでござる」

 

薫は色々考えパッと思いついた命令を下した。

 

「俺2番だ…」

「…4番は私よ」

 

コガラシは2番、黒羽は4番の棒をみんなに見せて自分たちが選ばれたことを自己申告した。

 

「ほら、さっさとやって」

「お、おう…」

 

相変わらず塩対応の黒羽はコガラシに頭を差し出した。

それに対しコガラシは恐る恐る手を伸ばし黒羽の頭を撫でた。

 

「…今日会ったばかりの女の子の頭撫でるってどんな気分?」

「仕方ねぇだろゲームなんだから」

 

やはり会ったばかりの男に頭を撫でられるのが嫌なのか不満そうな様子だった。

 

「雲雀まだコガラシくんに頭を撫でられてないのにぃ!」

「羨ましいですぅ~!」

 

一方それを見ていた幽奈たちの方は不満という名の空気で充満しており狭霧はとても気まずい状況に置かれてしまった。

 

一通り頭を撫でたコガラシは黒羽の頭から手を離し2回戦が始まろうとしていた。

 

『せーのっ!王様だーれだ!?』

 

再び掛け声と共に一斉に棒を引っこ抜いた。

 

「あっ、私です…」

 

次の王様となったのは瞳。

いざ王様となるとどんな命令がいいのか悩んでしまう。

 

「ひとみん、何でもいいんだよ。今のひとみんは王様なんだから」

「えぇっと…じゃあ、5番の人は1番の人にリンゴを食べさせる」

 

茜に促され瞳はテーブルに置かれている切られたリンゴを見ながら命令を下した。

 

「今度は俺か…」

「ということは拙者が秋宗殿に食べさせるのであるか」

 

選ばれたのは1番の秋宗と5番の薫。

薫は即座に爪楊枝でリンゴを刺して秋宗の目の前まで運んだ。

 

「秋宗殿、口を開けられぃ。命令でござる」

「わ、わかった…」

「くぅ~!かおるんめ!出来れば変わりたいけど王様命令だし!」

 

悔しそうにしている茜を余所に秋宗が口を開けると薫がそのままリンゴを口の中へと入れた。

 

(シャクシャクシャク)「………これでいいのか?」

「うむ、命令通りでござる」

 

音を立ててリンゴを食べながら2人は瞳の命令をこなした。

 

「うぅ~…!」

 

それを見ていた紫音も羨ましく思うも動くことができず傍観するしかなかった。

 

『せーのっ!王様だーれだ!?』

 

いのまにか3回戦が始まり再び棒を引っこ抜いた。

 

「…あ、次僕だ」

 

そして王様を引いたのは浩介。

チラリと幽奈たちの席を見るとギスギスした空気がこちらにも伝わってきていた。

 

「(分かっているだろうな平賀浩介!これ以上幽奈たちの機嫌が悪くなるのはマズイ!変な命令を出すんじゃないぞ!)」

「(大丈夫だよ、任せて)」

 

狭霧とサインを取り合いながらどんな命令を下すか考えいいことを思いついた。

 

「えっとじゃあ…6番の人、隠していることを暴露してください」

 

2人指名ではなく1人だけ指名すればコガラシが当たったとしても幽奈たちの不満が溜まる筈がないと推測した。

 

「(よしっ、それでいい!それなら問題はない!)」

「(やっぱりそう思うよね!?これなら絶対大丈夫な筈!)」

 

しかしこの命令は逆効果になってしまった。

 

「えっとね~…実はこの前かるかるがこっそり買ったお高いケーキ食べちゃった~!」

 

6番の茜がかるらに関する暴露をしてしまったのであった。

 

「アヤツめぇぇ~!!」

「緋扇さんやめて!」

((何でこうなるんだ………!?))

 

茜の暴露を聞いたかるらは皿を手に取り投げようとするも再びみんなに阻止された。

火に油を注がないように注意を払っていたが油どこかガソリンを投入してしまい、何をしても裏目に出てしまうことに狭霧と浩介は揃って頭を抱えてしまう。

 

しかしそれでも王様ゲームは止まらず4回戦。

 

『せーのっ!王様だーれだ!?』

 

みんなが棒を一斉に引っこ抜き次の王様となったのは、

 

「やったー!ウチが王様ー!」

 

今回の合コンをセッティングした茜だった。

ようやく念願の王様を引けたため思わずガッツポーズを取ってしまう。

 

「ん~どうしよっかな~?」

 

顎に手を置いてどんな命令にするか考えているとパッと閃き命令を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決めたっ!5番の人は王様とキスをするー!」

 

 

 

 

 

「………はっ?」

 

 

 

茜の命令に秋宗は目が点になり自分の番号を改めて見ると、そこには5番と書かれていた。

つまり今から王様である茜とキスをしなければならないということ。

 

「おっ!もしかしてアッキー!?やっぱウチらって赤い糸で結ばれてる運命なんだね~!」

「ふざけんなお前!絶対イカサマしたろ!?」

「イカサマだなんて人聞きの悪い…でも、王様の命令は絶対だもんねぇ~!」

「断る!いくら王様命令とはいえ!」

 

イカサマをしなければキスなんて命令をする訳がないと断言するもその証拠がないため不正を暴くことができない。

それでもキスだけは回避しようと必死に抗議すると、

 

「クロロン!」

「…了解王様」

 

茜が黒羽に指示を出すと、彼女は持っていた本を開きボソッと何かを呟いた。

すると突然秋宗の足元から黒い茨のようなものが何本も現れ巻きついて拘束をした。

 

「うぉっ…!?何しやがる!?」

「西条くん、王様の命令は絶対でしょ?だったら素直に命令は受けないと、ねぇ」

 

茜に加担した黒羽の相手を見下し面白そうにしている表情は七海によく似ていた。

 

「くっ!?コガラシ!浩介!見てないで助けろ!」

 

拘束され動けない秋宗はコガラシと浩介に助けを求めようと2人の方を見ると、いつの間にか2人の姿がなく代わりにタヌキの置物が置かれていた。

 

「すみません西条さん!お2人は黒羽ちゃんの変化のお札でこんな姿に!」

「なんだとぉ!?」

 

つまりこのタヌキの置物はコガラシと浩介ということ。

涙目になっている瞳には秋宗に謝ることしかできない。

 

「秋宗殿、男なら覚悟を決められぃ!」

「お前もかぁ!?」

 

そして薫も秋宗の後ろへ立ち顔を反らさないようにガシッと頭を掴んで動かないようにした。

今この場に秋宗の味方は誰もいない状況へと変わってしまった。

 

「さぁ~て下準備は万全だね、じゃあいくよアッキー」

「待て茜!///ホントに待ってくれ!///頼む!///」

 

何とか逃げ出そうとするも動けずジリジリと茜の顔が近づいてきた。

10㎝、5㎝、3㎝と互いの息が当たるまで近づいていった。

 

「アッキー///私のファーストキス、受け取って///」

 

そしてそのまま2人の唇が重なろうとした。

 

最早ここまでかと秋宗は諦めて目を瞑った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメッスーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

『!!??』

 

 

 

その時だった。

聞き覚えのある声が聞こえたかと思いきや、秋宗と茜の間に入り込むように誰かがテーブルへとスライディングをした。

茜は思わず秋宗から顔を離してしまい、黒羽も思わず術を解除してしまった。

 

「ったぁ!」

「やっと戻れた~!」

 

それによりコガラシと浩介はタヌキと置物からようやく解放された。

 

突然のことに理解が追いつかない全員はスライディングしてきた人物へ視線を集めるとそこにいたのは、

 

「いったたた~………」

「紫音!?」

 

なんと紫音だった。

紫音はテーブルの上に座りながら頭をさすっていた。

秋宗が茜とキスをすることに耐えきれず思わず飛び出してしまったのであった。

 

「あっ………ど、どうもッス秋宗兄さん………!」

「お前何でここにいんだよ!?」

 

何故紫音がパラダイスにいるのか秋宗には理解できなかった。

 

「あっ!?まさかアソコにいるのって幽奈か!?」

「はぅっ!?見つかってしまいました!」

「アヤツ何1人で飛び出しておるのじゃ!?」

「げぇっ!?かるかるもいる!」

 

そしてついに幽奈たちもコガラシたちに見つかってしまった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

あの後、少し周りから注目を集めてしまったもののそれも無くなり今は幽奈たちと合流して同じテーブルに座っている。

 

「あーあ、折角合コン組んだのにかるかるにバレちゃった………」

「ふん!貴様には何度も欺かれるからのう!これからはそう簡単には騙せると思うでないぞ!それよりもコガラシを合コンに連れて行きおって!」

 

合コンが台無しになってしまいブツブツと文句を言っている茜にかるらは隠していたことを説教していた。

 

「誅魔忍は普段どのような鍛練をしているのでござるか?」

「えぇ~っと、手裏剣で的に当てたり模擬戦をしたりって感じかな」

「貴女地縛霊なのに長距離まで行けるの?」

「そうなんですよ~」

「まさか幽奈まで来るとはな」

「それよりも紫音まで来たことに驚いたけどな」

「…ねぇ、千紗希ちゃんって呼んでいいかな?」

「うん、私も瞳ちゃんって呼ぶね」

 

「…なんだかんだで、みんな仲良くなっちゃったね」

「そうだな…」

 

話している内にいつの間にか全員が仲良くなってしまいその光景に浩介は苦笑いしてしまう。

 

「………」

 

そんな中、気まずそうにしているのは紫音。

先程の茜が秋宗に対する想いを聞いてしまってから浮かない様子であった。

キスしようとした時は咄嗟に妨害してしまったが本当は2人はお似合いなのではないのかと。

そんな彼女に隣に座っていた茜がこっそりと話しかけた。

 

「………ねぇねぇ、アッキーのこと好きなの?」

「なぁっ………!?///」

 

突然話しかけられ好きだと見破られた紫音は思わず顔を赤くしてしまう。

 

「そ、それは………!///」

「いいのいいの…確かにで分かるよ、アッキー男前でカッコいいもんねぇ~」

 

そう言いながら茜はチラリと秋宗の方を見てそれにつられて紫音も視線を向けた。

 

「心から好きならあんなことする訳ないし、アッキーが欲しいなら手に入れちゃいなよ~」

「!?」

 

その言葉に紫音は目を見開いてしまう。

自分が彼女の想い人を奪うかもしれないのに恋の応援をしてくれることに驚いたからだ。

 

「けど、アッキーは渡さないよ~。油断してると貰っちゃうから…覚悟してね、シオシオ」

「………絶対負けないッスからね、茜姐さん」

 

そして互いに宣戦布告をするもどちらも笑顔であだ名と姐さん付けで呼んだ。

 

「ねぇ千紗希ちゃん、あの子ってもしかして………」

「………そうだよ、紫音ちゃんは西条くんのことが好きなんだ」

 

それを見ていた千紗希と瞳は2人の仲が良くなったことに思わず笑顔になってしまう。

 

ここに仲のいい恋のライバルが誕生した瞬間だった。

 

「………あれ?」

「どうした?」

「いや、なんか忘れてるような………」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「………みんな、俺が医務室に運ばれたこと、忘れてるだろうな…」

 




感想の程、よろしくお願いいたします!


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第55話 仲居さんの秘密

やっと原作へ軌道修正できました…


お昼が過ぎて時計の針が2時を差している頃、町のスーパーで仲居さんが買い物をしていた。

今晩の夕飯の材料を買うために買い物をしているが、ゆらぎ荘全員分の用意をしなければならないためいつも大量の荷物になってしまう。

会計を済ませ仲居さんはいつものように両手に大量に買ったものが入ったビニール袋を持ちスーパーを出た。

 

(さて、呑子さんたちはお片付けを終わらせてるでしょうか?)

 

買い物に行く前、呑子とマトラが組み手をしていたが庭庭大きなクレーターを作ってしまい2人揃って叱り片付けをするように言い聞かせたのであった。

そしてこれからゆらぎ荘へ戻ろうとした時だった。

 

「あれ?ちーちゃんだー!」

「?」

 

急に聞き覚えのある声が聞こえてきたため、仲居さんが声のした方を振り向くと仲居さんと同い年くらいに見える2人の女の子がいた。

 

「まおちゃん!?みっちゃん!?」

 

2人の姿を見て仲居さんは驚いて声を上げてしまった。

このまおちゃんとみっちゃんと言う女の子たちは仲居さんがゆらぎ荘の面々に隠して通っている中学校の同級生で親友と呼んでいい程の仲である。

 

「ど、どうしてここに…!?」

「買い物に決まってんじゃん!」

「そっちはすごい荷物だね~?」

「えっ…?えぇ!ウチの人にお夕飯の買い出しを頼まれまして…!」

 

当然まおちゃんとみっちゃんの2人にも自分が座敷わらしでゆらぎ荘の管理人をしていることを隠しているためバレないように誤魔化そうとした。

 

「荷物持つの手伝ってあげるよ!どうせ暇だし!」

「まだちーちゃんの家行ったことなかったしね!」

「!?」

 

仲居さんの荷物の量を見てまおちゃんとみっちゃんは家まで持っていくのを手伝うと言った。

2人をゆらぎ荘へ連れて行ったら何もかもバレてしまうため断ろうとした時だった。

 

「七海、こっちのスーパーの方が近かったんじゃない?」

「今日は向こうのスーパーが特売日だったのよ」

(!?あれは…!)

 

再び聞き覚えのある声が耳に入りその方を振り向くと向こうの道から浩介と七海がこちらへ歩いて来ていた。

買い物帰りなのか、2人とも両手にビニール袋を持っていた。

このまま2人と鉢合わせをしてしまえば秘密がバレてしまう。

そう思った仲居さんはまおちゃんとみっちゃんを壁にして身をかがめ浩介と七海から見えないように隠れた。

 

「ち、ちーちゃん…?」

「どうしたの?」

「すみませんお2人とも…!そのまま動かないでください…!」

 

仲居さんの突然の行動にまおちゃんとみっちゃんは首を傾げるも取り敢えず言うとおりに動かないようにした。

浩介と七海がこちらへ近づいて来る足音が聞こえながらも仲居さんはバレませんようにと祈った。

 

「そういえば今日の夕飯って何?」

「何だと思う?」

「う~ん…七海がこの前作ったちくわがメインのちくわチャーハン?」

「残念。正解はネギも卵も入ってないかまぼこオンリーのかまぼこチャーハンよ」

「あ~そっちか~…外れちゃった~」

(何ですかかまぼこしか使わないチャーハンって!?それただのかまぼこのご飯炒めですよ!)

 

2人の会話に心の中で突っ込むもこちらに気づかずにそのまま通りすぎて行った。

2人が見えなくなったことを確認した仲居さんは壁から出てホッと胸を撫で下ろした。

 

「危なかったです…」

「ちーちゃん、今の人たちって…?」

「い、いえ!なんでもありません!それより私はこれから家の手伝いもしなければなりませんので!それじゃまた明日学校で!」

「う、うん、またね…」

 

これ以上2人から質問をされたらボロが出てしまいそうなため、仲居さんは挨拶をしてその場から逃げるようにゆらぎ荘へと帰って行った。

その背中を見送りながらまおちゃんとみっちゃんは目線を合わせた。

 

「…どう思う?」

「うーん…あたしちょっと心配かも」

「だよね!ウチも!」

 

仲居さんの行動を不審に思い2人は議論を始めた。

 

「あんな大荷物の買い出しを1人で行かせる!?土日に遊びに誘っても中々来てくれないし!たまに家の事情で学校休むし!」

「部活にも入らずすぐ帰るし!調理実習の時の手際の良さ異常だったし!それにさっきの2人も気になるし!」

 

今までの学校生活の様子や先程の行動、そして浩介と七海から隠れたことなどを見て普通の中学生にしては明らかに何かおかしいと思った。

 

「あぁ!?」

「もしかしてちーちゃん!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

『さっさと窓拭きを終わらせなさい!それが済んだら洗濯と庭掃除をやって!』

『あと電球の取り替えもしてね』

『はい…分かりました…』

『もし手を抜いたら、貴女の今日の夕飯はかまぼこチャーハンのご飯抜きだから』

『それただのかまぼこ炒めだよ。手抜きなのは料理の方だよ…』

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「さっきの2人にお家でコキ使われてるんじゃ!?」

「学校じゃ元気なフリしてるけど誰にも助けを求められず、いつもかまぼことちくわしか食べてないのかも!?」

 

いろいろ考察した結果、2人の頭にはシンデレラのように浩介と七海から召使いのように扱われ食事はかまぼことちくわしかないビジョンが浮かんでいた。

何故かまぼことちくわしか食べていないと思ったのかというと浩介と七海の会話を聞いたからである。

 

「こうなったらこっそり家までついて行こう!」

「ウチらでちーちゃんを助けなきゃ!」

 

友人として放っておくことができず、まおちゃんとみっちゃんは仲居さんの後をつけるのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

しばらくして、仲居さんの後をつけた2人は彼女が入ろうとしている建物を見て唖然となってしまった。

何故ならそこは地元で有名な心霊スポットのゆらぎ荘だったからである。

 

「こ、ここって…あの、幽霊旅館だよね!?」

「何でちーちゃんがこんなところに…!?」

 

まおちゃんとみっちゃんは茂みに隠れながら慣れた足取りで階段を上っている仲居さんに驚いてしまう。

 

そして更に目を疑う光景を目撃してしまう。

なんと仲居さんが持っていたビニール袋が宙へ浮いたのであった。

仲居さんはというと浮いているビニール袋の方を見ながら口を動かしている。

 

実は隣に幽奈がいるのだが、霊力の薄い2人にはその姿は見えずにいる。

 

「に、荷物が浮いてる!?ていうかちーちゃん誰かと喋ってない!?」

「誰!?誰かそこにいるの!?ちーちゃぁん!?」

 

2人が必死に呼び掛けるも仲居さんは幽奈と共にゆらぎ荘へと入ってしまった。

 

「も、もう帰ろうよみっちゃん!あたしお化けとかホントに無理だよぉ…!」

 

怪奇現象を目撃してしまったまおちゃんは涙目になりながら今にも逃げ出しそうであったが、みっちゃんがそれを引き留めた。

 

「ダメだよ!だってちーちゃんはいつももっと怖い思いをしているのかもしれないんだよ!?」

「!!」

「お化けなんて大人は絶対信じてくれない!ちーちゃんを助けられるのはウチらだけなんだよ!まおちゃんが無理ならウチ1人でも行く…!」

 

本当は怖くて帰りたいのは同じ気持ちだが、友人の仲居さんをこのまま放っておく訳にもいかないみっちゃんは1人でも行こうとした。

それを聞いてまおちゃんも一緒に行くことを決めた。

 

「あ、あたしも行くよ!かまぼことちくわしか食べてないちーちゃんを放っておけないよ…!」

「まおちゃん…!取り敢えずかまぼことちくわのことは一旦忘れよっか…」

「そ、そうだね…!」

 

混乱しておかしなことを言ってしまったまおちゃんは自分の頬を叩いて気合いを入れた。

 

「よしっ!2人でちーちゃんを助けよう!」

 

互いに頷きゆらぎ荘へ行こうとした時だった。

2人の目の前に巨大な顔が現れ、こちらをジッと見下ろしていた。

 

この顔の正体はこゆず。

変化の練習で巨大化していた時にまおちゃんとみっちゃんを見つけ覗き込んでいたのである。

 

「あれ?人だー!」

 

突然のことにまおちゃんとみっちゃんは頭の整理が追いつかず、身体を硬直したまま後ろへ倒れ込みそのまま気絶してしまった。

 

「わっ!?大丈夫ー!?」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

買い物から戻り私服から割烹着へ着替えた仲居さんは目を見開いて冷や汗をかいていた。

その理由は、エントランスの畳の上で友人のまおちゃんとみっちゃんの2人が顔を青くしうなされながら気を失っていたからである。

あの後こゆずが幽奈を呼んで気絶した2人をここまで運んだのである。

 

(な、何故まおちゃんとみっちゃんがここに!?もしや私の後をつけて…!?)

 

もし2人が起きてこゆずから仲居さんのことを色々聞かれたらバレてしまうのは明白。

どうにかして誤魔化さなければと考えた時だった。

 

「う~ん…」

「あぁ!?」

 

みっちゃんの眉毛が動き今にも起きそうな様子だった。

 

(こ、こうなったら仕方ありません!)

 

秘密がバレてしまうことを防ぐために仲居さんは運勢操作で自分の運を上げた。

すると庭の方から何か大きな音が聞こえた。

 

「何の音でしょう?」

「ボク見てくるー!」

 

音が気になった幽奈とこゆずの2人は庭の方へと向かっていった。

 

(今のうちに…!)

 

その隙に仲居さんがエントランスから逃げ出そうとした時だった。

向こうから歩いてきたコガラシに気づかずにそのままぶつかってしまった。

 

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

 

そして2人はそのまま倒れ込んでしまったが、仰向けになっているコガラシの顔に仲居さんのお尻が覆い被さった体制になってしまった。

仲居さんの運勢操作は確かに強力ではあるが、デメリットとして自分の運勢を上げるとその反動で不幸なことが怒ってしまうのである。

 

「あ、あぁ…!?///」

「す、すんません仲居さん!///」

 

2人は顔を赤くしながら咄嗟に距離を取った。

しかし仲居さんの不幸はこれで終わりではない。

 

「ん…?あれ…?」

「ここは………?」

(あぁ!?2人が起きてしまいましたー!?)

 

まおちゃんとみっちゃんが目を擦りながら起き上がり窮地に追い込まれてしまった。

 

「あれ?誰か来てるんすか?」

 

エントランスにいるまおちゃんとみっちゃんを見てコガラシが声を掛けようとした時だった。

 

「………すみませんっ!」

 

仲居さんが急にコガラシの胸に顔を埋めるように抱きついて来たのだった。

突然のことにコガラシは戸惑ってしまう。

 

「な、仲居さ」

「私の名前を口にしないでください!」

「はい…!?」

「何も言わずに、あちらのお2人方に話しかけずこのまま一緒にあちらへ…!お願いしますコガラシくん…!」

 

2人に顔を見られないように仲居さんは離れずかなり切羽詰まっている様子である。

 

「よ、よく分かんねぇけど、了解っす!」

 

状況を把握していないコガラシは戸惑いながらも仲居さんの様子を見て取り敢えず言うとおりにこのまま歩き出そうとした時だった。

 

「あれ?もしかしてちーちゃん!?」

「な、何やってるの…!?」

(バレたぁぁ!?)

 

割烹着を着ているにも拘らず後ろ姿だけであっさり見破った2人に仲居さんは動揺してしまう。

 

「ち、ちち違いますよ!?私はその………!?」

「っかしぃなぁ、どっかに置き忘れたか…?」

 

仲居さんが言い訳をしようとした時、奥の通路から秋宗の声が聞こえ足音が徐々に近づいていた。

 

「あっコガラシと仲居さん、ちょうどよかった。俺のドライヤー知らねぇか?部屋になくてよ」

 

そして秋宗が通路から姿を現したのだが、それを見て仲居さんは絶句してしまった。

何故なら上半身裸のまま首からタオルを下げてオオカミ人間の姿になっていたからである。

秋宗のオオカミの毛は手入れを怠ると傷んでしまうため定期的にトリートメントを行っているのである。

その際に自前のドライヤーを使っているのだがどこにも見当たらずゆらぎ荘内を探しエントランスへ来たのであった。

 

ちなみに秋宗の今の姿を目撃してしまったまおちゃんとみっちゃんはというと、

 

「きゃぁーーー!?で、出たぁーーー!?」

「化け物ぉーーー!?」

 

当然の反応と言うべきか、声を揃えて絶叫してしまった。

 

「………どういう状況だ?」

「俺が知りてぇよ………!?」

 

見かけない2人にコガラシに抱きついている仲居さんを見て秋宗はまったく理解できなかった。

 

(つ、次から次へと~………!)

 

仲居さんにとってどんどん最悪な状況へ流れていってしまう中、再び庭から大きな音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「あ~あ!また壊して~!」

「わざとじゃねぇよ!」

 

一方庭の方では片付けを終えた呑子とマトラの2人が組み手を再開していた。

片付けをしたにも拘わらず再びクレーターが出来てしまった。

すると呑子が鬼火砲を2発自身の角から発射するも、マトラは慣れたのか軽々と避けることができた。

 

「どうだ荒覇吐!?避けられるようになってきたぜ!」

「それはどうかしらぁ?」

 

そのまま突っこもうととしたマトラの後ろから先程の鬼火砲が追尾してきた。

 

「なっ!?」

 

鬼火砲は呑子の意思で自由自在に操ることができるのである。

 

「だったらよぉ!」

 

咄嗟にマトラは脚を呑子の腰に回してホールドした。

すると2発の鬼火砲は2人の左右を通りすぎていった。

もし鬼火砲が当たろうものなら呑子も被害を受けてしまうため操作して向こうへ飛ばしたのである。

 

「考えたわねぇマトラちゃん。でもそんな絞め技じゃ倒せないわよ~」

「だからこのままボコる!」

「それ無理じゃない~?」

 

マトラはラッシュを仕掛けるも呑子は軽々と受け止め中々勝負が決まりそうになかった。

 

そんな2人の様子を騒ぎに駆けつけた全員が傍観していた。

 

「なんなのあの人たち!?」

「鬼!?化け猿!?」

「そこだ姐さーん!負けんなー!」

 

宙に浮いている2人の人ならざる者たちの戦いを見てまおちゃんとみっちゃんは唖然となるも、秋宗はスポーツ観戦のように楽しみマトラに声援を送った。

 

事態が急激に悪くなってしまっていることに仲居さんが怒りでプルプル震えていると、後ろから声が聞こえた。

 

「こんにちはーって何この状況?」

「酔っぱらいさんと鵺さんがバトってんでしょ」

 

秋宗たちが振り替えるとそこには浩介と七海がいた。

2人とも買い物を終えて一旦家に帰って後、ゆらぎ荘へ来たのであった。

 

「七海ちゃん!」

「浩介、どうしたんだ?」

「ちょっと遊びにね」

「それより秋宗くん、これ返しとくよ」

 

そう言って浩介は秋宗に紙袋を差し出した。

 

「あれ?何か貸してたか?」

「ほら、この前秋宗くんのドライヤー結構いいやつだから使ってみたいな~って言ったら貸してくれたじゃん」

「………あぁ!そうだった!お前に貸してたんだな!」

 

どおりで見つからない訳だと少し恥ずかしくなりながら袋の中を確認すると、確かに自前のドライヤーが入っていた。

 

そんな中、まおちゃんがみっちゃんが浩介と七海を見て声を上げた。

 

「あぁ!?さっきの2人だ!」

「ちーちゃんを苛めてる人たち!」

『………は?』

 

突然指を差され訳のわからないことを言われたことに浩介と七海は揃って首を傾げてしまう。

まおちゃんとみっちゃんは先程のスーパーにて、仲居さんが浩介と七海から隠れたことから2人が仲居さんを苛めていると勘違いしているのである。

 

「ちーちゃんに酷いことしないで!」

「かまぼことちくわだけじゃなくてもっといろんなものをちーちゃんに食べさせてあげて!」

「か、かまぼこ?ちくわ?そもそもちーちゃんって誰のこと…!?」

 

当然そんなことなど浩介たちが知るよしもなく初対面の2人から暴言を言われたことに戸惑ってしまう。

すると七海はまおちゃんとみっちゃんを鋭く睨んだ。

 

「………初対面なのに暴言吐くなんて…少し、お仕置きが必要ね」

 

そしてそのままポルターガイストで後ろに置かれていた岩を浮かした。

 

「ひぃっ!?」

「い、岩が浮いてる!?」

「(七海…!)」

「(大丈夫、寸止めするから)」

 

怯えてしまっているまおちゃんとみっちゃんを余所に浩介は小声で七海を叱るも、七海は元から当てるつもりなどなく笑って答えた。

 

その時だった。

 

「いい加減にしてくださいよ…!」

 

突然呑子とマトラ、七海の周りに黒い人魂のようなものが現れた。

 

「んぁ?何だこれ?」

「こ、これって仲居さんの…!?」

「何この人魂?」

 

マトラと七海はこの人魂のようなものが何なのかまったく分からないが、呑子だけは察し顔が青ざめていった。

この黒い人魂の正体は仲居さんの運勢操作で運を下げた時に発生するものでこれから間違いなく不幸なことが起きる前兆である。

 

「皆さんホントにいい加減にしてくださいよ…!次から次へと騒ぎを起こして…!もう私にも何が起こるか分かりません…ただ確実に、不運があなた方を襲います!」

 

そして仲居さんの運勢操作が発動された。

 

まず空に浮いている呑子とマトラへ鳩の群れが突っ込んで来た。

 

「わっ!?」

「何これぇ!?」

 

しかし鳩の群れはそのまま通り過ぎて行ったのだが、その進行方向には先程の2発の鬼火砲が向かっていた。

 

「いけない!そっちに飛んでいったら鬼火砲が!」

 

このままだと鬼火砲が鳩の群れに直撃してしまうことを避けようと呑子は慌てて鬼火砲を操作して軌道を反らした。

しかし、鬼火砲の1発は呑子とマトラ、もう1発は七海の方へと向かっていった。

 

「あ」

「え?」

「へ?」

「ちょっと待って、僕関係なくな」

 

そしてそのまま側にいた浩介をも巻き込んで鬼火砲は3人へと命中してしまい爆発に呑まれてしまった。

 

「呑子さーん!?」

「姐さーん!?」

「七海ちゃーん!?」

「平賀ぁ!?」

 

人が爆発に呑まれた光景にまおちゃんとみっちゃんはガタガタと震えてしまう。

 

「ち、ちーちゃん…」

「これって…!?」

「………もう、隠し通す訳にもいきませんね…!」

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

あの後、千年もの時間を生き続けている座敷わらしだということをみっちゃんとまおちゃんに明かした仲居さん。

しかし2人は怖がることなくいつも通りに仲良くしたいと言い仲居さんは思わず嬉し泣きをしてしまったのであった。

そして今回の件で呑子とマトラはかなり反省し組み手も程々にしようと心に決め、流石の七海も仲居さんだけは怒らせないようにしようと誓った。

 

ちなみに大広間では、

 

「僕今回何も悪いことしてないよね!?やっぱりアレ!?かまぼこチャーハンのくだりでツッコミを入れなかったから!?」

「かまぼこチャーハン…!?」

「何言ってんだお前…!?」

 




感想の程、よろしくお願いいたします。


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第56話 霊能力者の姫沙羅様

『ここが今日の討伐対象の妖怪の住みかや!大して強い妖怪ちゃうんやけど、男おらんと出らんヤツでな~、よろしく頼むでコガラシくんに西条くん!』

「おう!」

「頑張ろうねコガラシくん!」

「ってオイ、俺は無視かよ」

 

空が暗くなった夜、町の外れに佇む廃墟を見上げる秋宗とコガラシ、そして雲雀。

うららが霊視通信で連絡を取っている。

3人は誅魔忍の任務でとある妖怪の討伐に来ており、コガラシと秋宗はその手伝いで同行している。

ちなみに狭霧と浩介は別の任務へ赴いているため一緒にはいない。

 

(今日はチャンス!早く任務を終わらせて2人きりに…!)

 

内心で雲雀は早く任務を終わらせようと少し浮かれていた。

そんなメンバーの中、いざ廃墟へ入ろうとした時だった。

 

「今回の舞台は20年前に倒産し廃墟となったこのホテル。何故か最近怪しげな女の霊の目撃情報が相次いでいる心霊スポットです」

『!』

 

後ろから人の気配を感じ3人が振り向くと大型カメラなどの撮影機材を持った人たちが1人のアナウンサーにカメラを向けていた。

おそらく何かのテレビ番組の撮影だろうと察した。

 

「果たして本当に霊はいるのか!?その真相を探るのはもちろんこの方!早速ご登場いただきましょう!」

 

アナウンサーの掛け声と共に黒子の扮装をした人たちが江戸時代に使われていた駕籠を運んで来た。

 

「混沌渦巻く闇の時代、天は彼女に二物を与えた。その美貌と霊能力で生者を癒し死者を導く…」

 

そしてナレーションの紹介と共に駕籠の中からその人は現れた。

 

 

 

「現世一美しい霊能力者!如月姫沙羅でございますわ~!!」

 

 

 

まるで浦島太郎の乙姫のような格好をした『如月姫沙羅』という女性はカメラ目線で派手に自己紹介をした。

あまりの眩しさに秋宗たちはポカンとなってしまう。

 

「はいオッケーでーす」

「先に現地入りしたヤツらは?」

「それがまだ連絡がつかなくて…」

「お疲れ様です姫沙羅様!」

 

一旦撮影が終わりスタッフたちが次の準備に取り掛かっていると雲雀と秋宗が声を上げた。

 

「わ~!如月姫沙羅だ!」

「スゲェ、本物だ…」

「2人とも知ってるのか?」

 

秋宗と雲雀の反応を見てそれほどまでに有名な人物なのかとコガラシは思った。

 

如月姫沙羅とは、今テレビで話題沸騰中の霊能力者で毎日のようにテレビ番組に出ており心霊ブームに熱を入れた人物である。

 

「へ~そんなに凄い霊能力者なのか」

『冬空くんテレビとか見なさそうやもんな~!』

「おっ、なんかこっちに来るぞ?」

 

すると向こうの方から姫沙羅とアナウンサーがこちらへ歩いてきた。

 

「こんばんは、如月姫沙羅と申しますわ」

「あ、雨野雲雀です!」

「冬空コガラシっす」

「西条秋宗です。テレビでいつも拝見してます」

 

いきなり話しかけられたため雲雀は緊張してしまうもコガラシと秋宗は落ち着いて対応した。

 

「お三方は地元の高校生ですか?」

「そうっす」

「こちらには肝試しへ?」

「いや、ここに出てくる妖怪をムグゥ!?」

 

コガラシが言おうとした時、突然秋宗が彼の口を塞いだ。

突然の秋宗の行動に雲雀も姫沙羅も少し驚いてしまう。

すると秋宗がコガラシの口を塞ぎながらこう答えた。

 

「実は俺たち地元の高校のオカルト研究部なんですよ。今日はあの有名な姫沙羅さんが来ると噂で聞きまして、是非ともその腕を近くで見たいと思って来たんですよ。そうですよね、雲雀部長」

「ぶ、部長!?」

「あ~そういうことでしたの!」

 

雲雀は秋宗から部長と言われ戸惑ってしまうも、姫沙羅は納得したかのように頷いた。

それを余所に秋宗はコガラシに小声で話した。

 

「(アホかお前は!?テレビの前で堂々と妖怪退治って言う馬鹿がどこにいる!?もし俺らが妖怪退治している光景を撮影されて放送されたら毎日ゆらぎ荘に週刊誌の記者が押し掛けて来るぞ!そんなことも考えられねぇのかこの天然ポンコツ!)」

「(す、すまねぇ…!)」

「あははは…」

 

危うくカメラの前で妖怪退治と言いそうになったコガラシを止めて誤魔化した秋宗は愚痴を入れながら説教をした。

もし妖怪退治を全国放送されたら間違いなくいつも通りの生活を送ることはできない。

そうなってしまえば自分たちはおろか幽奈たちにまで迷惑が掛かってしまう。

秋宗の行動を理解したコガラシは謝り、雲雀はその光景に苦笑いをしてしまう。

 

すると、姫沙羅が何かに気付き声を上げた。

 

「あら?あそこに霊が見えますわ!」

「ホントだ!」

「流石は姫沙羅様!私には何も見えません!」

 

姫沙羅の言うとおり、確かにそこには一体の霊がいた。

姫沙羅は臆することなく、堂々と霊に近づいていき優しく話しかけた。

 

「さまよう霊よ…満たされぬ魂よ…!」

「ラッキーですよ君たちは!生で見られるんですから!本物の霊能力というものを!」

 

アナウンサーが少し興奮しているため、今から物凄い技をするのかとコガラシが見守っていると、

 

「キェェェ!!」

『!!?』

 

姫沙羅が念じるように手を合わせ奇声を上げたのである。

突然の行動にコガラシはおろか、霊さえも驚いてしまう。

 

「ハァァァッ!ヌォォォッ!!」

 

更に奇声を続けながら奇っ怪な動きまでして、端から見たら頭がイカれてしまっている人の行動にしか見えず霊も怯えてしまっている始末である。

 

「あれは一体何を…?」

「霊との交信を可能にするために姫沙羅様の霊感を高める儀式です」

「わざわざ話すためだけに?」

「霊能力者でも普段はうっすらとしか霊を認識できないそうです。いつもそこら中に霊が見えていたら生活に支障が出るでしょう?」

 

確かにアナウンサーの言うことも理解できなくはないが、霊能力者であるコガラシには日常的に霊がはっきり見えているため納得はできなかった。

気になったコガラシは小声で雲雀と秋宗に話しかけた。

 

「(凄い霊能力者、なんだよな…?)」

「(全然、霊と会話しかできねぇんだ)」

「(でも一応本物だから凄いんだよ~)」

『メディアに出る霊能力者は殆んどインチキやからな~』

 

現世一と大袈裟に姫沙羅が言っているため他の人話すすっかり信じ込んでしまい、そのカリスマ性としては一流かもしれない。

 

「きましたわぁぁ!!」

「おぉ!ついに儀式が完了したようです!」

 

そして一通り意味のない動きを終えた姫沙羅は息切れをしながら再び霊に話しかけた。

 

「さ、さぁ…お話なさいっ…この如月姫沙羅が、聞いて…差し上げますわ…!」

「お、俺は…今回のロケのために前乗りしていたスタッフです…」

「なんですって…!?」

 

話によると、廃墟内で機材の設置をしていたところ、いつの間にか一緒にいたスタッフたちが次々に姿を消してしまい、探している内に2人の妙な女がおり追いかけたらこの世のものとは思えない化け物が現れ食べられてしまったらしい。

 

「その2人の妙な女というのはおそらく目撃情報が相次いでいるという女の霊ですわね…どんな女でしたの!?」

 

スタッフの霊の話からその2人の女が化け物の元まで誘導したのだと推理した姫沙羅は更に詳しい情報を聞き出そうとした。

 

「そ、それが…顔は見えなかったのですが、間違いなく………バニーガールと、軍服の格好でした!」

(バニーガール…!?軍服…!?)

 

スタッフの霊から女の霊の姿を聞いて姫沙羅を始め秋宗たちもポカンとなってしまう。

するとスタッフの霊を見てコガラシがあることに気がついた。

 

「霊子線が出てるな」

「ホントだ、地面から伸びてるね」

「つーことは、身体は地下ってことか」

 

スタッフの霊をよく見ると頭から白い光の線が地面へと伸びていた。

この白い線は霊子線と言い、肉体と霊気を繋ぐ霊視の線のことである。

つまりまだスタッフの身体は無事で地下にあるということを示している。

 

しばらくして、流石におかしいと気がついたスタッフたちは撮影を中断して慌ただしくなっていた。

 

「前乗りしてたヤツらが襲われた!?」

「だから反対したんだ!ここはマジでシャレになんねぇって!」

「何故バニーガールと軍服なんだ!?」

「え?え?これドッキリですか!?」

 

一向に現地入りしたスタッフたちと連絡が取れないことからこの廃墟には本当に化け物がいると信じ込んでしまい全然が動揺してしまう。

 

「姫沙羅さん!警察を呼びましたので一旦ホテルに」

「そうはいきませんわ!まだ生きている方がいるやもしれませんのよ!?大体霊相手で警察に何ができるというのです!?ここは霊能力者である私が、見事に救い出して見せますわ!」

 

囚われたスタッフたちを救うために自ら虎穴へ入ると姫沙羅は自信満々に言いきった。

その姿に他のスタッフたちは感動してしまう。

 

「き、姫沙羅さん!」

「流石は姫沙羅様だ!」

「そうですよ!救えるのは姫沙羅様だけです!」

 

スタッフの声援を受けて姫沙羅は懐中電灯を手に取り廃墟へと赴いた。

まず姫沙羅を出迎えたのはエントランス。

二度と動きそうにないエスカレーターやひび割れたガラスなどが長い時間誰も立ち入っていないことを物語っていた。

 

しばらく歩いていた姫沙羅が急に立ち止まると、

 

(カッコつけ過ぎてしまいましたわぁぁぁ!!)

 

自分で馬鹿なことをしてしまったと後悔した。

 

姫沙羅は自分で霊と会話できるだけで悪霊退治などできる訳がないと既に自覚していた。

しかし今さら引き下がることもできないため、せめて他のスタッフたちに危害が及ばないようにと自ら赴いてしまった。

 

(それにこんなちやほやされて儲かるお仕事、やめられませんものね!)

 

最終的には自己満足のためだが勇気を振り絞って危険地帯へ足を踏み入れただけでも大したものである。

 

すると姫沙羅の背後から物音が聞こえた。

 

「ひゃぁ!?」

 

突然の物音に驚いてしまうも恐る恐る振り返ると、

 

「あれ?姫沙羅さん?」

 

それには懐中電灯を持った雲雀と、秋宗とコガラシの姿があった。

3人も本来の目的である妖怪退治をするために廃墟へ入ったのであった。

 

「あ、あなた方はオカルト研究部の…!何故ここに!?」

「あ~実はですね…」

 

廃墟内にコガラシたちが立ち入ってることに驚いている姫沙羅に秋宗が本当のことを話そうとした時だった。

姫沙羅の後ろから誰かがこっそりと近づき彼女の手を掴んだ。

 

「キャァッ!?」

「誰!?」

 

その正体を確かめるべく、雲雀は姫沙羅を掴んでいる手を取り懐中電灯で照らすと、それはバニーガールの格好をした女性だった。

しかし目は開けておらず眠っているかの様子だった。

 

「気を失ったまま動いてんのかこの人…!?」

「まぁ!この方、番組のスタッフですわ!」

「もしかして前乗りした人たちの1人!?」

「あの霊はこの人に着いて行って化け物に食われたってことか…!」

 

周囲を見渡したその時だった。

雲雀と姫沙羅が突如発生した煙に飲み込まれてしまい、煙が晴れると雲雀はミニスカポリス、姫沙羅はスク水水兵のコスプレをしていた。

 

「うわぁっ!?///」

「な、なんですの!?突然衣装が!?///」

 

2人は突然服装が変わったことに顔を赤くしながら戸惑っていると雲雀がコガラシの手を、姫沙羅が秋宗の手を取り引っ張ろうとし、更にその後ろからバニーガールの女性が2人の背中を押して来た。

 

「ってオイ!なんで引っ張る!?」

「アンタらどこ連れて行く気だ!?」

「えっ!?分かりませんわ!?」

「身体が勝手に…!?」

 

身体が自分たちの言うことを聞かず勝手に動いてしまう現象に雲雀と姫沙羅は戸惑いながらも何とか止まろうと抵抗した直後、再び煙が発生しそれが晴れると2人のコスプレの布面積が少なくなっていた。

 

「きゃぁぁぁ!?///」

「一体全体何がどうなっていますのー!?///」

 

更に恥ずかしい格好になってしまったため2人の顔は更に赤くなってしまう。

すると雲雀がハッとなりあることを思い出した。

 

「そっか!抵抗するほどエッチな格好になっちゃうんだ!」

「どういうことですの!?」

「この妖怪は迷い込んだ女をあられもない姿にして男を誘い込むって!」

「なっ………!?」

「しゃ、しゃーねぇ///そんじゃこのまま妖怪のところまで案内してもらうか///」

「確かに、探すよりそっちの方が手っ取り早そうだ」

 

こうして秋宗たちは雲雀たちに手を引かれながら妖怪の元へと向かって行くことにした。

一方姫沙羅は分けがわからず頭が混乱していた。

 

(な、何故妖怪のことを知っていますの!?いけませんはこの子たち!超有名霊能力者である私がいることに気が大きくなってしまっていますのね!?)

 

そうこうしている内に地下への階段を降りると、廊下の奥に何か大きな影があった。

よく見るとそれの表面には人間が何人も張り付いており透明な何かで包まれていた。

 

「あれは前乗りしていたスタッフの方たちですわ!」

「じゃあ外にいた霊はコイツに喰われたってことか!」

『せや!ソイツは丸呑みした男を体液で包んでコーティングし己の体に寄生させ、ゆっくりと時間をかけその精気を吸い取っていく。それが妖怪、夜叉鮟鱇や!』

 

そして目の前には馬鹿デカい鮟鱇がおり、今回の事件を引き起こした妖怪であった。

 

(化け物ですわぁぁぁ!!)

 

今まで妖怪など見たことがない姫沙羅にとっては夜叉鮟鱇の迫力は恐怖でしかない。

そして操られている雲雀たちがコガラシと秋宗の後ろに立つとそのまま夜叉鮟鱇の開いている口へと突き飛ばした。

 

『あ』

 

そして2人は口へと放り込まれてしまい夜叉鮟鱇はバクンッとその大きな口を閉じてしまった。

それと同時に雲雀と姫沙羅、そして気を失っていた女性スタッフの服装が元に戻るも、姫沙羅は目の前でコガラシと秋宗が食べられてしまったことに責任を感じその場に座り込んでしまう。

 

(あぁ、なんてこと…私のせいですわ!私が、もっと必死に止めていたら…!)

『気ぃつけや!夜叉鮟鱇は女は食わへん!腹満たされて用無しになった女は排除されるで!』

 

夜叉鮟鱇は役目を終えた女性たちを始末するべく自身の鋭く尖った触覚を操作し雲雀目掛けて振り下ろした。

 

しかしその直後、姫沙羅が雲雀を庇うように夜叉鮟鱇に背を向けて壁となった。

 

「姫沙羅さん!?どうして…!?」

「ふ、ふふ…霊能力者として、当然のことですわ…!」

 

霊能力者として、そして大人としてこれ以上誰も危険な目に会わせたくない姫沙羅の勇気を震い立たせた行動に雲雀は少し感動してしまう。

 

「そっか…姫沙羅さんも立派な霊能力者なんだね」

 

するとここで姫沙羅にある疑問が思い浮かんだ。

壁になったにも拘わらず後ろからまったく衝撃が来なかった。

後ろを振り返ると夜叉鮟鱇の触覚を1枚の手裏剣が盾となり防いでいた。

 

「でも、もっと修行した方がいいけどねっ!」

 

そして雲雀が言ったと同時に手裏剣が意思を持ったかのように触覚を切り刻んだ。

 

(手裏剣!?そういえば聞いたことがある、霊気の忍具を操る霊能力者集団の存在を…!確か、誅魔忍軍!)

 

姫沙羅も霊能力者の端くれのため誅魔忍軍のことは耳にしており、雲雀がその1人なのだと理解した。

 

触覚を切り刻まれた夜叉鮟鱇は激昂し口を開けて雲雀を食べようとした時だった。

夜叉鮟鱇の口が突然凍りだし氷で固定され閉じるどころか動かすことすらできなかった。

その光景に姫沙羅が唖然となっていると口の奥から秋宗が出てきた。

 

「ったくこの野郎、俺を食うなんざいい度胸だ。鮟肝取り出して食ってやる」

(あ…!そういえばこの方見たことがある!霊界新聞に載っていた西軍の超新星…!)

 

秋宗の顔を見て霊界新聞に載っていたことを思い出し姫沙羅は再び目を見開いてしまう。

 

「コガラシくんは?」

「アイツなら胃袋の方に入って行ったぞ」

「えぇ!?でしたら彼を助けませんと!」

 

秋宗の言ったことに反応し姫沙羅は危険を冒し夜叉鮟鱇の口の中へ入ろうとしたが雲雀が止めた。

 

「大丈夫だよ!だってコガラシくんは、コガラシくんだもん!」

 

その直後、夜叉鮟鱇の内側から衝撃が起こり中から拳を突き出したコガラシが現れたのだった。

こうしてコガラシたちは夜叉鮟鱇を倒し無事にスタッフたちを救うことができたのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その後、用を済ませた秋宗たちは騒ぎに巻き込まれる前に裏口から出ていき、姫沙羅は囚われたスタッフたちと共に正面から出て外で待機していたアナウンサーたちと合流した。

前乗りしていたスタッフたちの安否確認を行っている時、姫沙羅は少し離れた場所で浮かない顔をしていた。

 

(世の中にあんな方々が存在していたなんて、とてもついて行けませんわ…!)

 

誅魔忍軍の雲雀、西軍の超新星の秋宗、そして妖怪を一撃で倒してしまうコガラシ。

明らかに自分のいる世界とはステージが違いすぎる。

廃墟の中には今回のロケのために隠しカメラが多数設置されていたため自分の醜態が曝されているのは間違いない筈。

もう自分はテレビではおしまいになってしまうが最早どうでもいい。

この機会に初心に返り霊能力者として一からやり直そうと覚悟が決まっていた。

 

「き、姫沙羅さん!隠しカメラの映像を確認したのですが…!」

「!」

 

スタッフに呼ばれついにバレてしまったのかと観念して一緒に映像を確認すると、

 

「流石は姫沙羅さんです!」

「少女を身を挺して護ったうえに!」

「手を振りかざした瞬間に怪物が爆発!」

「スゲェーーー!!」

「えっ………!?」

 

スタッフたちが何やら興奮しているため再び映像を確認すると、自分が雲雀の前にたち手を翳した直後、夜叉鮟鱇が爆発している瞬間だった。

カメラの角度からコガラシと秋宗の姿が見えず端から見たら姫沙羅が夜叉鮟鱇を倒したようにしたようにしか見えない。

更に爆発の衝撃でカメラが壊れてしまいそれ以降の映像も撮れておらず、つまりスタッフたちにバレていないということ。

 

「これはいい数字取れますよー!」

「私もう一生姫沙羅様について行きます~!」

 

何も知らないスタッフたちからちやほやされて調子に乗ってしまった姫沙羅は、

 

「………ふふっ、あの程度の妖怪!この如月姫沙羅の敵ではありませんわぁ~!!」

 

先程考えていたことなどとっくに吹き飛んで自分が倒したのだと言ってしまった。

 

しかし彼女は知らない。

 

この数十分後、とんでもない事件に巻き込まれてしまうということを……………

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

廃墟から少し離れた場所。

そこには一つの洞窟があり奥深くへと続いていた。

洞窟を辿って行くと広い空間が広がっており、そこには無数の何かがいた。

無数の何かは整列を成しており、その視線の先には大きな椅子に座っている大きな何かがいた。

 

「………今、なんと申した?」

 

腹の奥から出た低い声は第三者が聞いたら思わず震えてしまいそうで、その存在は持っていた青く光る水晶玉に話しかけた。

 

「だーかーらー、夜叉鮟鱇がやられちまったんだよ」

 

水晶玉からは色気のある女性の声が聞こえ、この水晶玉が連絡用の霊具なのだと理解できる。

 

「何があったというのだ?」

「さぁーね。アタイが戻って来た時には残骸しか無かったんだよ」

「………近くに霊能力者はいるのか?」

「まぁ、いるっちゃあいるけど、とても夜叉鮟鱇を倒せる程の霊力があるとは思えないけどねぇ」

「しかし、可能性はある。霊力が弱い者でも何かのきっかけで一時的に霊力が上がった前例はいくつもあるという」

「…確かに、ない話じゃないねぇ…で、どうする?お望みならソイツの首取って来るけど?」

 

大きな存在はしばらく唸り、再び口を開いた。

 

「暫し、そこで待機していろ。すぐに向かう」

「ってオイオイ!すぐに向かうって、わざわざお前さんが出向く必要はないだろう…!?」

「我の名を再び世に知らしめるための狼煙にはいい機会だ。今この夜をもって、我が野望が始まるのだ」

「………ハァ、用はウズウズしてじっとしれられないってことかい…分かったよ、このまま待っておくよ」

 

そして水晶玉の光が消えて連絡が途絶えた。

大きな存在は立ち上がり、無数にいる何かに言い放った。

 

「聞けぃ!この夜をもって、我が野望が始まる!我らにあるのはただ一つ!勝利のみ!!」

 

洞窟に響く声により無数にいる何かはその場で足踏みをして音が合わさった。

合わさったことにより、その場にいる何かの指揮が高まった。

 

「皆の者ォ!!出陣である!!」

 

そして命令を下したと同時に無数の何かは隊列を成して洞窟を出ていき目的の場所へ進軍を始めたのであった。




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第57話 伝説の将軍と孔雀軍司

無事に夜叉鮟鱇を退治した秋宗たちは狭霧と浩介の2人と合流するために集合場所へ向かっていた。

 

『今日はありがとさんな冬空くんに西条くん!』

「相変わらず凄かったねコガラシくん!一撃で倒しちゃうなんて!」

「んなことねぇよ、雲雀だって強くなってるしよ」

 

先程の任務についてコガラシたちが色々話している中、秋宗は1人腑に落ちない顔をしていた。

 

「ん?どうした西条?」

「いや…1つ分かんねぇことがあるんだ」

「分かんないこと?」

「夜叉鮟鱇に喰われた霊が言ってたことだ…」

 

 

 

『そ、それが…顔は見えなかったのですが、間違いなく………バニーガールと、軍服の格好でした!』

 

 

 

「バニーガールは女性スタッフとして、軍服の女って誰のことだったんだ…?」

 

スタッフの話では夜叉鮟鱇の元へ誘導した女性は2人。

1人のバニーガールの女性は操られていた女性スタッフ。

もう1人の軍服の女性は姿を現さなかった。

しかも廃墟に現地入りしていた女性スタッフは1人だけ。

一体スタッフが見たその軍服の女性とは何者なのだろうと秋宗はずっと疑問に思っていたのだ。

 

「あっ!確かにそう言ってたね…!」

「けど妖怪倒した後、廃墟の中に他の気配なんて無かったぞ?」

『ウチも一応近くを式神に調べさせたけど霊気も何にも探知しなかったで』

「じゃあ単に1人を2人と見間違えただけか?それにしちゃあ軍服なんて言葉出て来ねぇだろ」

 

軍服の女は本当にいたのか、それとも単なる見間違いなのか話し合っている内に狭霧と浩介の姿が見えてきた。

 

「あ、狭霧ちゃん!浩介くん!…あれ?」

 

雲雀が声を掛けた時、2人以外に誰かいることに気がつき近づいて確認すると、そこには霊界新聞の記者の京太郎がいた。

 

「京太郎さん…!」

「やぁ秋宗くん!龍・炎焔以来だね~!」

 

京太郎は少し驚いている秋宗に笑顔で手を振った。

 

「何であの人ここにいんだよ…?」

「実は、ここで貴様らを待っていたら偶然出くわしてだな…」

「秋宗くんたちが来るなら、一緒に待っとくて言ってね…」

 

小声でコガラシが狭霧と浩介に事情を聞くと2人は言葉を詰まらせながら答えた。

 

「何でまた来てんすか…?」

「いや~実は最近いいネタを収穫できなくてね~、秋宗くんたちなら何か持ってると思ってさ~。常日頃からトラブってるみたいだし」

「アンタは俺らのことなんだと思ってんすか?そんなの最近ないですよ…」

 

京太郎は取材を試みようとするも秋宗がそれを拒み、それでも引き下がらずを繰り返していると、

 

『な、なんやこれ!?』

 

霊視通信越しでうららが驚きの声を上げたため秋宗たちはどうしたのだろうと耳を傾けた。

 

「う、うららちゃん?どうしたの…?」

『そ、それが!そっちに無数の霊力反応があるんや!それも、ドえらい数やで!』

「何だと!?」

 

うららから無数の霊力反応があることを知った秋宗たちは驚きの顔になってしまう。

任務を終えて周辺確認を行ったにも拘らず、まるで風のように無数の霊力反応が現れたのだから。

 

「その霊力反応ってどこ!?」

『な、何か、動きが軍隊みたいに列を成して何処かに向かっとるみたいや!この方向は…雲雀たちがさっきおった廃墟や!』

「えっ!?でもあっちは…!」

 

秋宗たちが帰った時、廃墟にはまだ姫沙羅を含めた番組スタッフたちが残っていた。

もしまだ帰っていなかったら謎の無数の霊力反応と鉢合わせをしてしまう。

 

「姫沙羅さんたちが危ない!」

「どっちにしろ放っておく訳にはいかねぇな…!」

「あぁ!」

「けど、何でその廃墟に向かってるんだろう…?」

「考えるのは後だ!一刻も速く向かうぞ!」

「いいネタになりそうだからついて行くね!」

 

若干1名面白がっている者がいるが秋宗たちは無数の霊力反応の正体を知るべく再び廃墟へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

一方廃墟では番組スタッフたちが撤収作業に取り掛かっていた。

 

「その機材は向こうだ!」

「照明とマイクの数の確認お願いします!」

「廃墟中のすべての隠しカメラの回収終わりました!」

 

照明やカメラなどの機材の確認を行っている離れた場所で姫沙羅はアナウンサーと話をしていた。

 

「流石です姫沙羅様!あんな怪物を倒してしまうなんて!」

「えぇ!あの程度のこと、私にとっては雑作もありませんわ!」

 

アナウンサーに褒められ調子に載っていた姫沙羅はあることないことをペラペラと喋っていた。

 

(ふふっ、本当は妖怪を退治したのはあの子たちですけれど、やはりこんな生活はやめられませんわねぇ!)

 

心の奥底では手柄を横取りしたことに多少の罪悪感を抱いてるものの、このようにちやほやされる生活など今さらやめられる訳もなくこれからもテレビで活躍していこうと思っていた時だった。

 

「ん…?」

 

何かに気がついたスタッフが手を止めて辺りを見渡した。

 

「どうした?」

「いや、何か聞こえませんか…?」

「え?」

 

それにつられて他のスタッフたちも手を止めて耳を澄ますと何かの音が聞こえそれは姫沙羅にも聞こえていた。

よく聞くとそれは足音で1つ2つという括りに収まらない大勢の足音だった。

 

「えっ…!?ちょっと、何これ…!?」

「どうなってるんだ!?」

「姫沙羅様!これは一体…!?」

「わ、私にも何がなんだか…!?」

 

段々と近づいて来る足音に姫沙羅どころかスタッフたちも動揺する中、茂みから何かが姿を現した。

 

それは歩行している人骨だった。

しかも戦国時代の兵が着るような鎧を身につけており刀を腰に差していた。

しかも一体だけでなく2体3体と次々に茂みから隊列を成して現れた。

 

「ひぃ!?」

「何だよあれ!?」

「オイ!向こうからも来てるぞ!」

 

スタッフが指を差した先に向こうからも同じような人骨が現れ、それぞれが刀や槍、弓などを装備している。

突然現れた人骨たちに姫沙羅とアナウンサー、スタッフたちは一塊に集まることしかできなかった。

そして人骨たちは廃墟ごと姫沙羅たちを取り囲んだ。

その数は見えているだけで軽く200は越えていた。

 

「き、姫沙羅様!何なんですかこの状況!?」

「え、えぇっと………!?」(私も知りたいですわよぉ!一体何ですのあの骨!?)

 

アナウンサーが怯えながら姫沙羅に話しかけるも、彼女は冷静を装いながら内心ではとても動揺していた。

 

すると、一体の人骨が手にしている法螺貝を吹くとそれを合図にするかのように取り囲んでいた人骨たちの一部が道を開けると、向こうから何かが近づいてきていた。

茂みから出て月明かりに照らされながらそれは姿を現した。

 

現れたのは人骨だが、他の人骨たちと比べて大柄で2メートルを越え頭部は下顎がなく骨格も禍々しく目の箇所は鬼灯のように赤く光っていた。

着ている鎧も光沢を発しながら黒く光り背中のマントを靡かせていた。

 

「こ、これって、ドッキリ………!?」

「んな訳ねぇだろ!骨が動いてんだぞ!」

「てことはやっぱ妖怪!?」

「お、落ち着いてくださいまし皆さん…!」

 

スタッフたちが激しく動揺する中、姫沙羅は声を震わせながら落ち着かせた。

 

それをよそに大柄な人骨は廃墟を見やり声を発した。

 

「………どうやら、夜叉鮟鱇がやられたというのは、事実のようだな」

 

人骨の頭部から発せられる低い声は姫沙羅を恐怖で震え上がらせるのには十分だった。

大柄な人骨は廃墟をじっと見た後、姫沙羅たちへ視線を戻した。

 

「我が見た限りでは、夜叉鮟鱇を倒せる程の霊力があるとは思えん…やはり、一時的に霊力が上がったと考えるのが妥当か」

 

大柄な人骨の言動を聞き姫沙羅は冷や汗をかいてしまう。

あの大柄な格好は自分が霊能力者と見抜き分析をしているのだと。

 

「い、一体何だよお前たちは!?」

 

すると恐怖で震えていたスタッフの1人が勇気を振り絞り大柄な人骨に口を挟んだ。

 

「そうだな、では名乗るとしよう………」

 

そした大柄な人骨は一間置き自らの名を名乗った。

 

 

 

 

 

「我は百奇夜皇総大将!!髑髏将軍!!」

 

 

 

 

 

大柄な人骨、髑髏将軍の名前を聞いた姫沙羅は目が点になっていた。

 

(ど、髑髏将軍…?どくろしょうぐん……どくろ、しょうぐん………)

 

頭の中で何度も髑髏将軍を連呼した後、更に冷や汗をかき顔も青ざめてしまった。

 

(ど、どどどど、髑髏将軍~~~!!??)

 

霊能力者の端くれである姫沙羅は髑髏将軍について思い出したのであった。

 

今から50年前、日本の土地を次々に侵略していった組織が存在した。

その名を『百奇夜皇』

その百奇夜皇を率いていたのは何百年も生き続けた怪物『髑髏将軍』

その強さは桁外れで、圧倒的数の暴力で侵略を計ったり、髑髏将軍1人で数十万を越える軍勢を全滅したりと今でも伝説として語り継がれている。

当時の東軍や西軍、誅魔忍軍が応戦するも返り討ちにあってしまい、終いには世界を守る組織『黒衣機関』も動く事態となるも止めることができなかった。

そこで東軍と西軍、誅魔忍軍、そして黒衣機関が髑髏将軍率いる百奇夜皇を止めるべく連合軍を結成し大戦争を仕掛け激闘が繰り広げられた。

そんな日が続いた頃、突然髑髏将軍が姿を消し百奇夜皇もまるでそこにいなかったかのように姿を消してしまい連合軍の勝利ということになった。

一部の噂では尻尾を巻いて逃げた、誰かが髑髏将軍を討ったと広まり、長い年月が経ち髑髏将軍の脅威などすっかり忘れられてしまった。

 

(な、何故髑髏将軍がここにぃ~~~!!?)

 

何故倒された筈の髑髏将軍が目の前にいるのか姫沙羅にはまったく理解できなかった。

そんな姫沙羅などお構い無しに髑髏将軍は話を続けた。

 

「我の夜叉鮟鱇はそこらの霊能力者が簡単に倒せない強さを持っていたが、まさか貴様のような小娘に倒されるとはな…一体何者だ…!?」

(ヒィィィィィィ!!殺されますわぁぁぁぁぁ!!)

 

赤く光る目がこちらを凝視していることに姫沙羅の足の震えは止まらなかった。

相手は日本を侵略しようとした何百年も生きる伝説の猛者、対してこちらは霊と話すことしかできない下級霊能力者。

その差は天と地、いや太陽と地下道というべきである。

もう番組スタッフたちにバレても構わない、今は自分の命が大事だと思った姫沙羅は夜叉鮟鱇を倒したのは自分ではないと言おうと決めた。

 

「あ、あの…私は…!」

「あなたこそこの方を誰だと思っているのですか!?」

「へ?」

 

白状しようとしたした時、アナウンサーが前に出て髑髏将軍に口を挟んだ。

 

「こちらの方は日本一の美貌と実力を兼ね備えた霊能力者にして千年に一人の逸材!如月姫沙羅様ですよ!」

(待ってくださいましぃ~~~!!)

 

勝手に割り込んだ挙句、如何にも実力を兼ね備えていそうな自己紹介をしたアナウンサーに対し姫沙羅は内心で盛大に突っ込んでしまう。

姫沙羅の正体を知らないアナウンサーは彼女ならばこの状況を解決してくれると思い込んでいるため自信を持って髑髏将軍に反論できたのである。

 

「如月、姫沙羅…?そのような霊能力者など聞いたことがないが…我が表舞台から身を引き50年、その間に現れた逸材だとでもいうのか………?」

(向こうは向こうで深読みしていらっしゃるぅ!?)

 

アナウンサーが嘘をついているように見えない髑髏将軍は唸りながら用心深く姫沙羅を観察する。

どんどんカオスな方向へ展開が進んでいきどうしたものかと姫沙羅が焦っていた時だった。

 

 

 

「鵜呑みにしてんじゃないよ。何事にも慎重になるのはお前さんの悪い癖だよ」

 

 

 

突然女性の声が聞こえたかと思えば髑髏将軍の背後から1人の女性が現れた。

女性は腰まで伸びている翡翠色の髪を携え黒を基調とした軍服を着こなし帽子を被っている。

スカートから伸びている脚に胸元はシャツのボタンを外し敢えて強調するように見せており、大人の雰囲気を漂わせていた。

 

「だが朱雀よ、我にはあの者が偽りを語っているとは思えんのだが…」

「けどアイツから夜叉鮟鱇を倒せる霊力なんて感知しないだろ?連中を欺いている可能性もある筈だ」

「左様か…」

 

朱雀と呼ばれた軍服の女性から言われ髑髏将軍は目を覚ましたかのように冷静さを取り戻す。

軍服の女性を見て夜叉鮟鱇に捕まっていたスタッフたちが揃って声を上げる。

 

「あぁ!あの女!さっき廃墟にいた軍服の女だ!」

「あの髪の色間違いねぇ!」

「思い出した!私あの人について行ってそれで…!」

 

捕らえられたスタッフたちが見たもう1人の軍服の女とは目の前にいる女性のことなのであった。

そんな中、姫沙羅は目が点になるもまさかと思いながら軍服の女性に恐る恐る声を掛ける。

 

「あ、あの~…」

「ん?何だい?」

「もしや貴女はその…い、異次元朱雀、ですか…?」

「…へぇ、アタイもまだ有名って訳かい」

 

軍服の女性は姫沙羅が自分のことを知っていることに少し驚いてしまう。

それと同時に姫沙羅は心の中で再び驚きの声を上げる。

 

(こ、今度は異次元朱雀ぅ~~~!!??)

 

今から約10年前、とある妖怪が日本で霊能力者狩りを行っていた。

その名は『朱雀』

天狗界の上位に君臨する孔雀天狗の妖怪で片っ端から霊能力者を血に染め上げていった。

その脅威的な強さから『異次元朱雀』という通り名がつけられた。

しかし突如姿を消して行方知れずとなり霊能力者たちは朱雀の脅威を忘れかけていったのであった。

 

(髑髏将軍に引き続き、異次元朱雀まで出てくるなんてぇ!!)

 

伝説の怪物でも異常事態だというのに追い討ちを掛けるように霊能力者狩りを行っていた妖怪まで現れたため姫沙羅はパニック状態に陥ってしまう。

 

「けど、霊能力者はこの女以外にいないし。やっぱ霊力が一時的に向上したとしか考えられないしねぇ」

「ならば夜叉鮟鱇はこの者に倒されたということは事実のようだな」

 

一通り話した後、髑髏将軍と朱雀は揃って姫沙羅を見やる。

 

「姫沙羅様!この状況をどうにかして下さい!」

「お願いします姫沙羅様!」

「助けて下さい!」

 

更にロケスタッフたちも藁にすがる思いで姫沙羅に泣きつく始末。

 

(ど、どうして………!?どうしてこんなことになってしまいましたのぉ~~~!!??)

 

今まで世間を欺いてきたツケが回ったのか、髑髏将軍から敵と認識されてしまい姫沙羅は史上最高の窮地に追い込まれてしまったのであった。

今にも泣き出してしまいたいがグッと堪えて恐る恐る口を開く。

 

「ひ、1つ…宜しいでしょうか……?」

「む…?」

「な、何故…この方たちを捕らえたのですか…?」

 

髑髏将軍ともあろう者が目的もなくこんな廃墟に妖怪を置いておくなど可笑しいと思い質問をすると髑髏将軍はあっさりと返答した。

 

「夜叉鮟鱇にはここへ迷い混んだ人間たちから霊力を吸収し貯蔵する役割を担っていたのだ。尤も、霊力を吸収されてしまえば精神も崩壊し廃人となるがな」

「は、廃人………?」

 

髑髏将軍の夜叉鮟鱇は人間を捕らえ霊力を吸収する貯蔵タンクとなっているのだが、霊力を吸われた人間は精神にも影響が出てしまい廃人となってしまうらしい。

つまり秋宗たちがあと一歩遅かったらスタッフたちは廃人と化していたということになる。

 

「だが、我の野望のための犠牲となるのだ。寧ろ大義であるぞ」

「50年前に途絶えてしまった将軍の日本征服の野望が動き出すんだよ。廃人になった連中には申し訳ないが犠牲になってもらったのさ。アタイは面白そうだから今は百奇夜皇の軍司をしているけどねぇ」

 

しかし髑髏将軍と朱雀は廃人と化してしまった人間のことなど知ったことではないと淡々と話を進め、寧ろ野望のための犠牲となったことを誇りに思えという口振りであった。

この2人にとって人間はどうでもいい存在なのだろう。

 

「………許せませんわ」

「ん?」

「お?」

 

それを聞いた姫沙羅はプルプルと身体を震わせてキッと髑髏将軍と朱雀を睨む。

 

「人々を道具としか思わないその諸行!許す訳にはまいりません!この如月姫沙羅が天誅を下しますわ!!」

 

人間を道端に生えている雑草のようにしか思っていない髑髏将軍と朱雀に自然と怒りが込み上げてきた姫沙羅は高らかに倒すと宣言をした。

 

「うぉーーー!姫沙羅様ーーー!」

「カッコいいですよー!」

「頑張って下さーい!」

 

その姿にスタッフたちは感激して声援を送る。

 

「この自信…まさかコイツ、ただの下級霊力者じゃないってことかい?」

「才ある鷹は爪を隠すとは、よく言ったものだ…」

 

更に髑髏将軍や朱雀でさえもその自信に満ち溢れた様子を見て警戒してしまう。

 

一方高らかに倒すと宣言した姫沙羅の内心はというと、

 

(や、やってしまいましたわぁ~~~!!私は!なんということをぉ~~~!!私の愚か者ぉ~~~!!)

 

勢いのあまり怒り任せでとんでもないことを口走ってしまった自分を責めている。

髑髏将軍率いる百奇夜皇に完全に宣戦布告をしてしまったため戦わざる事態へと進展してしまい後に引くことなどもうできないのである。

 

「では貴様の力、この髑髏将軍に見せるがよい!」

 

すると髑髏将軍が腕を上げると周囲で待機していた骸骨の兵士たちが一斉に動き出す。

 

(き、来たぁぁぁぁ!!)

 

もうダメかと思ったその時だった。

 

「ん?」

 

朱雀が何かに気がつき上を見上げると何かが宙を舞っておりそれがスタッフたちの足元へ落ちた。

するとそれから煙が吹き出しスタッフたちを飲み込んでいく。

 

「今度はなんだ…!?」

「あれ…?」

「なんだか、眠くなって…」

 

それと同時にスタッフたちを原因不明の眠気が襲いその場に倒れ眠ってしまう。

 

「えっ!?えぇっ!?」

「これは…?」

「一体どうなってんだい?」

 

突然のことに姫沙羅どころか髑髏将軍と朱雀も理解できなかった。

一体何が起こっているのだと少し動揺していた時だった。

 

 

 

「いや~凄いですわ姫沙羅さん、あの髑髏将軍に喧嘩売るなんて」

 

 

 

『!?』

 

 

 

唐突に声が聞こえ髑髏将軍と朱雀がそちらへ注目すると茂みから何人かの人影が現れる。

しかし姫沙羅にはその声に聞き覚えがあった。

 

「正気なの?百奇夜皇敵に回すなんて…」

「だったら隠れてきゃいいだろ」

「そういう訳にもいかないよ…みんなが戦ってるのに僕だけ戦わない訳にもいかないよ」

「弱気になるな。龍・炎焔の時を思い返してみろ。それと同じ空気だろ」

「それにコガラシくんもいるから大丈夫だよ!」

 

人影は計5人。

緊張感のない会話をしながらゾロゾロと現れる。

 

「………何者だ?」

 

勝負に乱入という水を刺された髑髏将軍は圧を込めながらその者たちに声を発すると、その内の1人が声を上げる。

 

 

 

「何者って言われてもねぇ、強いて言うなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫沙羅さんの代行者ってところですよ」

 

 

 

声を上げた人物、秋宗はニヤリと笑いながら答えるのであった。




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