新人アークス、アウル【完結】 (フォルカー・シュッツェン)
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番外編
番外編:クリスマス


新人アークス アウルの番外編となります
クリスマス編を三ヶ日が明けてから投稿するというね( ・ω・)
アウルの過去の1部も見れるよ


「わあぁ…!すごい、とても綺麗ですよマスター!!」

 

眼前に広がる降りしきる雪を見てユカミが歓声を上げる

今は12月24日、世間でいうクリスマスだ

私は休暇を取って地球に来ていた

ユカミは初めての地球と雪景色にはしゃいでいる

オラクルでもナベリウスの雪山地帯があるので雪そのものはデータで知ってはいる

しかしこうして直に見て、触れるのはやはり違うようだ

しかも雪山とは違い、ここには街がありイルミネーション用のライトが取り付けられている

まだ明るいのでライトアップはされていないが夜になれば嘸かし綺麗なことだろう

 

今回休暇を取ってまで地球に来たのは遊ぶためではない

しかしユカミにせがまれたのと、前々から地球にも連れて行ってあげようと思っていたので少し連れ立って遊ぶことにしたのだ

地球人である火継達にも会う予定で、夕方頃に会って夕食を共にした後ユカミを預ける予定だ

私の用事はそれから済ます

 

「マスター、早く行きましょう!」

「はいはい、分かりましたから引っ張らないで下さい。慌てなくても大丈夫ですし前を見ないと危ないですよ」

 

私は張り切るユカミを宥め、街を散策する

今いるのは日本の大阪、心斎橋と呼ばれる場所

ここは私が日本で活動する際拠点としていた場所の1つだ

ここなら自信を持ってユカミを案内出来るだろう

 

私達はまず腹拵えをするために牛タンの専門店に入った

出てきた料理の美味しさにユカミは舌鼓を打っている

お気に召したようで何よりだ

 

それから私はユカミをゲームセンターや服屋、雑貨屋などのお店に連れて行き、ユカミはその度に目を輝かせて楽しんでくれた

見た目は年頃の少女だがハイキャストであるユカミは起動してから2年にも満たない

何もかもが新鮮で興味を唆られるものなのだろう

こうして無邪気にはしゃぐ彼女の姿を見ていると連れて来て良かったと思う

 

それからも私達は途中カフェでの休憩を挟みながらも商店街を周り続け、楽しんだ

火継達と合流する時間も迫ったので私はユカミに話しかける

 

「ユカミ、そろそろいい時間です。始めましょうか」

「そうですね、分かりましたマスター!」

 

私達は以前私が使っていた活動拠点へと向かった

拠点と呼ぶには見窄らしく、2部屋ほどしかないただの平屋だ

…表向きは、だが

私はウォークインクローゼットの奥にある操作盤でキーを入力し、地下へ続く隠し階段を出した

階段を降りた先には私が護衛や暗殺を行う時にしようする装備や万が一の為の脱出路等がある

それらに加え今はそこにライドロイドと呼ばれるものが置いてある

ライドロイドとは地球で幻創種と呼ばれるエネミーが発生し、アークス等が対処に当たる際に使う搭乗機だ

幻創種は高層ビルの屋上に出現したり、アークスと言えど移動に少し時間のかかる離れた位置に急に現れたりする

そういう時に個人での操縦、かなりのスピードを出すことが出来て更にその場での上昇や下降を可能にするのがライドロイドだ

これが開発されたおかげで地球での緊急事態への対処がかなり楽になったそうだ

 

今私達の前にあるのはそれの新型だ

アークスが地球で戦闘行為を行う場合、余程のことでもない限りは隔離領域を展開する

これで一般人に認識されなくなるし侵入も出来ないので巻き込んで被害を与えることもなくなる

当然ライドロイドを扱う際も隔離領域は展開しなくてはならない

しかし移動のためだけに一々展開するのは手間を考えればやっていられない

管制官へ申請してそれが了承されれば次に範囲を決めて展開装置を起動して…と様々な手筈をふむ必要があるのだ

更に現在それらを行うのは基本的にシエラ1人だ

他に仕事もあることを考えれば無闇に頼むのも気が引ける

 

そこでこの新型ライドロイドは小型の隔離領域展開装置が搭載されており、単体で領域の展開が可能だ

ライドロイド1台分ほどの範囲だけのため周囲への影響も考える必要がない

今は試作段階のため一人乗りのものしかないが、研究が進めば複数人が一度に乗れるものも出来るだろう

 

そしてその試作機が何故ここにあるのかと言うと、地球での起動テストを行う為だ

勿論オラクル側で十二分にテストは行われており問題なく稼働することは確認済みだ

後は実際に地球で使ってみようと言うことだ

私が休暇で地球に行くことをシャオに伝えたらついでにテストをしてきて欲しいという形で楽な移動手段を提供してくれた

大阪から東京までは距離があるしライドロイドで移動出来るとなるとかなり有難い

そして新型の地球での起動データも必要、利害の一致といったところか

半分以上は単なるシャオの心遣いの気もするが

 

ともかく新型ライドロイドを使って火継達のいる東京まで移動する

私達はパネルを操作して隔離領域を展開した後、ライドロイドを屋上へと持ち出した

そのまま2人ともそれぞれライドロイドに跨り、発進した

まずは上昇し、それから前進する

大阪から東京までは新幹線を用いても2時間ほどかかるが、これなら30分もあれば着く

上空を飛んでいる上にかなりのスピードが出ているのでフォトンで身体を守っていないと凍傷等になってしまう

 

私が先導してユカミを東京での活動拠点へと連れて行った

ここも大阪のものと同じ構造だ

屋上へと着地し、その後地下への階段を出して仕舞う

それから私達は火継達と合流するため銀座へと向かった

 

「あ、来たきた。お〜い、こっちこっち〜!」

 

火継が手を振ってこちらを呼んでいる

私達は彼女の元へと駆けた

 

「待たせてしまいましたか?」

「ううん、大丈夫!私達も今来たところだから」

「しっかしあれだな、目立ってるな俺達」

「それは…確かに」

 

炎雅がぽつりと言った言葉に氷莉が返す

先程火継が大声を上げたのもあるが、それ以前に私の容姿は日本ではかなり目立つ

紫色の髪色、身長もそうだが何よりオッドアイだ

それも紅と翠という日本では殆ど見られない色をしている

そういう意味ではユカミも目立つだろう

その綺麗な白髪と紅い眼は自然と視線を集める

それに火継達は自覚がないかもしれないが彼女らも美少女だし、炎雅も高身長イケメンと言うやつだろう

 

「まぁ良いじゃん、周りの目線なんか気にして楽しめなかったら損だよ」

「そいつもそうだな。よし、行くとしようぜ」

「そう言えば何処に行くんですか?食事は任せてくれと言っていましたが…」

「それは着いてからのお楽しみですよ、アウルさん」

 

氷莉がイタズラっ娘のような笑顔で言った

火継と炎雅もニヤニヤしている

…奇妙な所で無ければ良いのだが

 

私達は火継達に連れられ1つの店に入った

何の店かは良く分からないが食欲を刺激する良い香りが鼻腔を擽る

予め予約してあったようで店員の案内で席に着いた

流石にそろそろ良いだろう、私は聞いてみた

 

「ここは何を食べられるんですか?」

「鍋だよ、鍋の専門店なんだ」

 

火継が答えてくれる

 

「…鍋?」

「お、知らなかったのか。こりゃ成功だな」

 

炎雅が言葉尻を取る

日本で活動はしていたが特に日本料理に興味があったわけではないので詳しくはない

 

「お鍋の中に水と野菜とかお肉とかを入れて火にかけるんです。後はお出汁とかで色んな味を楽しめますよ。1つの鍋に入れたものを皆で食べるんです」

「なるほど…多量のボルシチを皆で食べるようなものですか」

「ボルシチって…なんだっけ?」

「ロシアの郷土料理だよ、バカ妹」

「バカは余計よ、バカは」

 

それから私達は談笑しながら鍋をつついた

それはとても美味しく、食べたことのない味だった

何より1つのものを皆で食べると言うのが今まで経験したことがなく新鮮だ

これは地球の問題が解決した後にまた皆で囲むのも良いかもしれない

…そこに妹の姿があれば尚良いのだが

 

食事を終えた後私の活動拠点へと皆を案内し、ユカミを彼女等に任せて1人別行動を取っていた

今日は皆そこで寝泊まりをさせる、それだけの広さは十分にある

元々この日に地球へと来たのは今からやることが目的なのだ

ユカミは着いて来たがっていたしせめて何をするのかを知りたかったようだが…このことに彼女を巻き込みたくはない

申し訳ないが1人にさせてもらった

私はライドロイドで移動した後、降りて歩く

そして木々が生い茂る樹海へと足を踏み入れた

 

もう夜も更けている

昼間でも薄暗く、人気のない樹海だ

こんな夜更けに入るのは私以外には自殺者や犯罪者くらいのものだろう

ここまで暗いと常人であれば伸ばした己の腕も見れないだろう

だが私にとっては歩き慣れた地だ、例え見えなかったとしても問題ない

私は目的の場所へと向かう

 

やがて一際大きな木が見える

その木には幾つもの切り傷があり、私の胸の辺りの高さには1つ他よりもかなり大きな傷がある

その傷は直径8cm、幅が3cmほどもあり大木を深く抉っている

私は手に持っていた菊の花束を根元に置き、その傷をゆっくりと撫でる

 

「今年も…来てしまったよ」

 

誰に言うでもない言葉が口を出る

同時に私の胸中に言い様もない悲しみが広がる

私は涙を堪え、その場で片膝をついて祈りを捧げる

ここで亡き者となった彼の鎮魂を願って

 

どれだけの間そうしていただろう

膝に痛みを感じた私は立ち上がり、服に着いた土を払う

再び傷を見る

そこには誰もいない

いないはず…なのだが

私の眼には大剣に貫かれて事切れる彼の姿が映る

貫かれた胸部からとめどなく血が流れている

見慣れたはずのその光景がまるで初めて見たかのような錯覚を覚えて身体が小刻みに震える

動けない、そこから目を離すことも出来ない

脚に力が入らずその場に崩れ落ちた

同時にダムが決壊するかのように涙が溢れる

それから私はずっと泣き続けた

悲痛な叫び声が辺りに谺する

近くを誰かが通っていればその慟哭を聞き、この樹海の怪談が1つ増えたかもしれない

 

長い時間をかけて漸く落ち着きを取り戻してきた

単に泣き疲れただけかもしれないが

私は立ち上がり三度傷を見る

それを見て私は何度したか分からない誓を立てる

 

「待っていろ、お前の望んだ平和の世を作る。例えそれが無理でも犯罪組織を潰し、理不尽に死ぬ者は必ず減らしてみせる。その為にこの力を使う、絶対に昔のように壊すために使いはしないと」

 

決意を胸にし、最後に軽く祈りを捧げてその場を後にする

彼の形見のH&K Mk.23 Mod.0を強く握りしめながら…

 

活動拠点へと戻ると皆は眠っていた

私はコートを脱ぎ、ハンガーに掛けるとベッドに横になる

明日からまたアークスとして地球の問題へ当たりながら妹を探す

それは同時に彼の遺志を叶えることにもなるだろう

私はやるべきことを確認し、意識を落として眠りにつく

これから起きる激戦を知る由もないまま…

 



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キャラ紹介
オリキャラ紹介


アウル・スペランツァ

 

種族――地球人

 

性別――女性

 

身長――179cm

 

戦闘距離――近~中距離

 

使用武器――素手、ナイフ、拳銃、その他(ほぼ何でも)

 

優秀な者同士の間に産まれた子供はより優秀な駒になるのかという実験の元、ロシアマフィアの中で武術家の父、暗殺者の母の間に産まれる

様々な武器、兵器を使いこなすが徒手格闘術と拳銃、ナイフの扱いに特に優れており白兵戦を好む

身長の高さと紫のロングヘア、紅と翠のオッドアイが特徴的でかなり目立つ

しかし殺し屋として培った技術を用いて人々の意識や死角の間を縫って動き、存在感を消すことが可能

 

殺し屋として長く活動していたがとある切っ掛けにより護り屋に転向、そして更に時を経て別宇宙に存在する組織「アークス」の一員となる

 

 

 

楓山樒(あきやましきみ)

 

種族――地球人

 

性別――女性

 

身長――163cm

 

戦闘距離――近距離

 

使用武器――打刀

 

 

アウルの妹

日本人であった母の遺伝子を濃く継いでおり、姉とは違いその容姿は完全に日本人のもの

打刀を愛用しておりそれ以外の武器を使おうとはしない

他の武器も扱えはするがその練度は低い

しかし打刀に関しては右に出る者がいないほど使いこなしており、打刀の二刀流という本来不可能なことを容易にこなすほど

暗い茶色の髪をツインテールという可愛らしい髪型にしているがこれは小さい頃姉に結って貰ったことが1度だけあり、その時にとても嬉しかったため現在も続けている

 

姉同様殺し屋としての経歴が長い

ある時原因不明の空間転移に巻き込まれて以来行方不明であったが、オラクルにて姉と15年振りに再会した

オラクルではクーナの元で重大な違反を犯したアークスの粛清や危険因子の暗殺などを行っている

 

 

 

ユカミ

 

種族――ハイキャスト

 

性別――女性

 

身長156cm

 

戦闘距離――中~遠距離

 

使用武器――TMG(ツインマシンガン、マシンピストルのようなもの)、AR

 

 

戦闘と情報処理の両方を高度に行えるよう設計された二機目のハイキャスト

白く長い髪をポニーテールにしており装甲も白く、紅の瞳をしている

まだ二体しかいないこともあってか一機目のハイキャストであるシエラとは個人的にも業務的にも交流があり仲が良い

地球人からアークスになった初めての例である(表向きには)アウルの監視も含めてアウルの元でサポートを行っている

戦闘にはTMGとARを用いる完全射撃特化タイプ

演算を用いて為される射撃の精度はかなり正確で、アウルも舌を巻くほど

精度のみならず作戦の構想、立案を行うことも可能でその場で柔軟に動く対応力を持ち合わせる

だがプライベートでは少し抜けていたり寝惚けたりなどするし、とても溌剌としていて元気が良く精密な機械らしさをほとんど感じさせない

可愛いものが好きなアウルはこれを気に入っている様子

 

 

 

ミシャー・ブライト

 

種族――人間(オラクル)

 

性別――女性

 

身長――158cm

 

戦闘距離――近距離

 

使用武器――ダブルセイバー、その他

 

 

ダーカー因子の浄化能力を持つ守護輝士

アークスにとって生ける伝説であり、これからの歴史の中で確実に語られ続けるであろう人物

戦闘能力に於いてトップクラスの実力を有しており、模擬戦ではアウルを苦戦させたほど

あらゆるクラスを使いこなすがファイターであることが多い

クヴェレスカーレットというダブルセイバーを愛用しており、見る者の目を奪うほど美しい舞のような戦闘を行う

 

本人の性格は明るく元気で、人懐っこい

昏い殺意などを一切持つことは無く、周囲にいる人を笑顔にすることからかなりの人望がある

 



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本編
初陣まで 前


私は今、ゲートエリアにいる

これからアークスとして初めての任務に出かけることになるのだ

地球で生を受け育ってきた私が今ここに、別宇宙に来ているのには色々と事情がある

まぁ話すと長いのでそれはまた別の機会にでも話すとしよう

 

…しかし遅いな

私は一応新人アークスであるし、地球人がアークスとなった唯一の例である為サポート(監視も含め)にとあるハイキャストなるものがつくらしい

今はそのハイキャストと待ち合わせをしているのだが…私がこの場所で生きていくために必要な色々な作業や情報の整理をしてから来るとのことで遅れている

私の為にしてくれていることなので怒るつもりはない

むしろ感謝すべきだろう

しかし手持ち無沙汰なのも事実

このまま無為に時を過ごすのも勿体ないので、今の状況を振り返っておこう

 

私の名はアウル

元地球人で今はオラクルという地球とは別次元の宇宙に来ている

そしてアークスとして任務に従事することになった

 

アークスとは宇宙を滅ぼす存在である「深遠なる闇」が生み出す「ダーカー」というものを殲滅するのが主な任務であるらしい

つまりは軍人のようなものだろうか、殲滅とは穏やかではないが…

他にも様々な惑星に来訪し、調査を行ったりもするようだ

無論そこでダーカーの発生を確認すれば殲滅を開始する

 

要約すると戦うのがアークスの仕事である

勿論組織である以上、情報処理専門の部署などの裏方もあるが…今は省こう

 

アークスとなった以上私も戦わなければならない

平和の中で過ごした者であれば急に戦いの中に身を置くというのは無理な話だろう

しかし私は地球にいた頃護衛任務についていた

紛争地帯に傭兵として赴いたこともある

つまり慣れている

だからこそオラクルに来訪して短期間でアークスとなり、初陣を飾ることを許されたのだ

 

しかし異なる点も多い、何しろここは私がいた場所とは別の宇宙なのだ

こちらでは「フォトン」と呼ばれるものを扱い、戦う

このフォトンを使わなければダーカーは滅ぼせないらしい

私がいた地球にはそんなものはない…いや、似たようなものはあった気がするが私には適正もなかったし何より興味がなかった

こちらに来て今までの常識外の力を使い、戦ってゆかねばならぬのだ

不安がないわけがない

その上私のフォトン適正とやらは近接特化型らしく、射撃や法撃(魔法のようなものだろうか)も扱えるには扱えるのだが、打撃に比べるとかなり劣るようだ

 

地球にいたころ私は右手に拳銃を、左手にナイフを持って白兵戦を行うのが得意だった

ある程度離れていれば銃撃で牽制し、隙を作って接近していた

 

しかし今の私のフォトン適正では銃撃には向かないという

更に近接とは言え以前ほど接近するのはやめた方がいい

何故なら私に1番合っていた武器は…「カタナ」だからだ

それも私の身長が高いため、中々に長大なカタナを渡してきた

これでは肉薄するほど接近しては思うように振るえない

 

つまり今までとは全く違った戦い方をしなければならないのだ



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初陣まで 後

「すみませーん!遅くなりました〜!!」

私が思考の海を漂っていると大きな声がこちらに向けられたのが聞こえた

「お待たせしてしまってすいません!色々と手間取ってしまって…」

彼女の名はユカミという

白い髪、白い装甲、そしてとても綺麗な紅い眼をしている

彼女が私につくハイキャストだ

なんでもまだ2機しか存在しておらず、貴重な存在のようである

「大丈夫ですよ、私の為に色々としてくれてありがとうございます」

私は柔らかい物腰、丁寧な口調を意識して返す

 

「お気遣いありがとうございます!

…わぁ、とても綺麗な服ですね♪よく似合ってますよ!」

ユカミは私の着ている服を見て目を輝かせる

今私は日本の着物のようなものを着ている

青を基調としており、私の紫色の髪とも調和が取れている

着物を着るのは初めてだったのだがどこか馴染む

着心地も良いし意外と動きやすいのだ

これもアークスの持つ技術力によるものなのだろうか

そして私が腰に佩いているカタナも淡い青と白い見た目をしていて刀身も非常に美しい

 

これはこのカタナ本来の見た目ではなく「武器迷彩」と言われるもので武器の性能そのままに見た目を変えることが出来るらしい

…正直私には理解不能だ

 

しかしこの美しいカタナは気に入っているし細いためか見た目より軽いので振るう分にも苦はない

この服や武器、迷彩は私の為にシャオという少年が用意したらしい

 

「ありがとうございます、結構気に入っているんですよ。意外と動きやすいですしね」

私は礼を言う

「良いなぁ私も着てみたいです」

「私が用意できれば良かったんですけど…ごめんなさい」

「いえいえ、気にしないで下さい!今度シャオに言ってみます!」

見ての通りユカミはとても元気が良い

少し幼さも感じるが可愛らしいので実は気に入っている

 

しかしこれでもユカミの性能はとても高い

戦闘と情報処理の両方をこなせるように設計されたらしい

戦闘の方はまだ見ていないが情報処理に関しては目を疑うほどだった

そのスピード、正確さはとても私では真似の出来ない芸当であった

だから戦闘能力の方も期待している

ちなみにユカミは射撃特化型をしており、恐ろしく正確な射撃をすることが可能らしい

彼女の腰には2丁のそこそこ大きい拳銃のような銃がある

ライフルによる中~遠距離の制圧射撃や狙撃なども出来るようだが基本はこの拳銃のような銃を扱うらしい

 

このままここで留まっていても始まらないし、そろそろ行くとしよう

「そろそろ行きましょうか」

私はユカミを促した

「そうですね、頑張って遅れた分取り戻してみせますよ!」

ユカミもやる気のようだ

さて、フォトンを扱う初めての実戦だ

未だなれないし彼女に助けられることも多々あるだろう

それは追々返していけば良い

 

しかし私は私の目的の為にここにいる

ユカミとの交流や恩返しも大事だがそれにかまけてもいられない

ともかく、今は目の前にある仕事を片付けるとしよう

 

さぁ、出撃だ

 



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帰還報告と休息

「……以上となります」

「そうか、わかった。初めての実戦にしてはやるじゃないか、流石だね」

 

私は初任務を終え、今シャオに報告をしたところだ

ここは艦橋と呼ばれており、普通のアークスが入ることはまずないとのこと

私は特殊なケースである為ここに通されているのだろう

 

「ともかく、お疲れ様。君の部屋も用意してあるから、ユカミに案内してもらって今日は休んで」

「分かりました、わざわざありがとうございます。では、これで失礼しますね」

 

私は艦橋を出た

すると外でユカミが待っていてくれた

 

「お疲れ様です!報告は無事終わりましたか?」

「ええ、初めてにしては良くやったと言ってくれましたよ」

「そうでしたか、それは良かったです!でも確かにマスターは初めてとは思えないほど凄い動きだったのです」

 

確かにそうかもしれない

元々戦うことに慣れているとはいえ、フォトンでの戦闘は初めてだ

その割にはフォトンは身体に馴染むし扱うのに苦は感じなかった

まぁまだ私には教えられていない技などもあるようでそれを扱うには武器にフォトンを注いだり身体に張り巡らせたりするのとは比べ物にならないほど難しいようだが…

しかし慣れないことをしたせいか疲れてしまった

シャオの言葉に従い今日は休むことにしよう

 

「ユカミ、シャオが私の部屋を用意してくれたらしいんだけど案内してもらってもいいですか?」

「はい、お任せ下さい!今日はもう休まれますか?」

「ええ、流石に疲れてしまいまして。部屋がもう使える状態だと良いんですけれど…」

「大丈夫なのです、私が簡単に準備しておきました!一通りの家具は揃っているので生活は出来ると思います」

 

ユカミは胸を張って言った

なるほど、最初に遅れた理由の中には部屋の準備もあったのか

これはとてもありがたい

 

「そうだったのですね、ありがとうございます。何から何までごめんなさいね」

「いえいえ、私はマスターをサポートするのがお仕事なのです!だから気にしないで欲しいのです」

 

ユカミは私に気を遣わせまいとそう言ってくれた

とは言え助かっているのは事実であるし、感謝の気持ちを忘れてはいけないだろう

 

私はユカミに案内して貰いながら自分の部屋への道を進む

初めて来た時も思ったがやけに大きく広い

私がオラクルに来てから大半の時間をここで過ごしているが、ここは宇宙船の中なのだ

 

主にアークスが任務に赴くために来るゲートエリア、買い物などが出来て任務前の準備を整えることも出来るショップエリアを初めとして、ここには一般市民の居住区や仕事をする会社などがある街、アークスの居住区に会議室や管制室、メディカルエリア(病院のようなものだろう)にカフェやエステといった施設まである

地球にいた頃の常識からは考えられないほど大きな宇宙船である

 

更にこの宇宙船は同じものが全部で10隻あり、Ship1から10と言われることが多いがそれぞれに呼称があるらしい

1から順に

・フェオ

・ウル

・ソーン

・アンスール

・ラグズ

・ケン

・ギョーフ

・ウィン

・ハガル

・ナウシズ

というようだ

現在私はShip7、ギョーフにいる

 

勿論宇宙船は宇宙空間にあるわけで本来なら無重力状態のはずである

慣れないと自由に動くこともままならず、生活など出来るわけがない

しかし今私は普通に歩いているし地球にいた頃と変わらない重力を感じている

これはこの船の内部全域へ適度に重力空間を展開し、普通の生活が送れるようにしてあるためである

その気になれば宇宙空間にすら重力を展開し、戦闘を行えるようにすることが可能らしい

 

つくづくアークスの技術力には驚かされる

一体どのようにしてこんな技術を開発したのやら…

軽く聞いたところによるとこれらは全てフォトンのおかげらしい

フォトンはこちらの宇宙ではどこにでもある自然のエネルギーらしく、戦闘以外にも様々な用途に用いられているそうだ

 

「着きましたよ、マスター。ここがマスターのお部屋、マイルームです!」

 

どうやら着いたみたいだ

アークスは各々の部屋のことを「マイルーム」と呼称している

略して「マイル」などとも言っているのを聞いたことがある

 

「ありがとうございます。入るのに鍵とかはいるのかな?」

「いいえ、マスターであればこのマイルームには鍵なしで自由に出入りできます!マスター以外の人はマスターの許可がなければこの部屋に入ることは不可能なのです!」

 

私は鍵が要らないがそれ以外の者は私の許可がなければ入れない?

…地球でいう指紋認証や声紋認証のようなロックがかけられているのか

しかしその割にはそのような機器が見当たらない

これもまさかフォトンによるものだったりするのだろうか?

地球人である私には理解出来なさそうだ

 

「つまりこの部屋は安全なのね」

「そうなのです!」

 

元気一杯にユカミは答える

彼女を見ていたら細かいことがどうでもよく思えてくる

不思議と落ち着く

 

とにかく入ってみよう

私はマイルームのドアに近づく

するとドアは滑らかに左にスライドし、開いた

部屋の中を軽く見て回ってみる

見たところワンルームにトイレと風呂が別についており、簡単なキッチンのようなものもある

普通に生活は送れそうである

 

「まだこれだけしかありませんが、パスを購入すればお部屋の数や外の景色を変えることも出来ますし、ルームグッズも色々とありますよ!」

「そうなんだ…って外の景色を変えられる?」

「はい、今は初期状態ですが海にしたり森にしたりも出来ますよ!」

 

そんなことまで可能なのか

ということは今窓の外に見えている景色は本物ではなくホログラムのようなもの、なのだろうか

そんなことまでする必要はないような気もするが…

よく見ると広いベランダのようなものもある

一部屋だけでは少々狭いものの身体を休めるのに問題は無い

 

「あ、あとパスの購入で一部屋一部屋を広くすることも出来ますよ!マスターの思い通りにコーディネイトして下さいね♪」

「そうなんですね、色々と教えてくれてありがとうございます。取り敢えず今日はあのベッドで休もうかな」

「はい、ゆっくりお休みになって下さい!」

「今日は一日本当にありがとう。貴女もしっかり休んでくださいね」

「お気遣い感謝です!では失礼します」

 

ユカミはぴょこんとお辞儀をし、マイルームを出た

とても元気がよく可愛らしいのでつい言葉が崩れてしまう

まだ初日だと言うのにあの娘の元気さに助けられているのか

どうやら私の思ってる以上に私は疲れているようだ

明日はメディカルチェックを受けた後この船の施設を色々と回ることになる、しっかり休まなければ

私は着物を脱ぎ襦袢に着替える

流石にあの着物を着たままでは寝にくい

私の服は和なのにベッドという洋の寝具で寝るのは変な感じがするがそれは追々揃えていけば良いだろう

 

身体を横たえ目を閉じる

寝る前に考え事をする癖がある私は今日の任務でのことを思い出しながら思考に耽る

 



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初任務

初めての任務で降り立ったのは「惑星ナベリウス」の「森林エリア」だ

森林と言うだけあって緑豊かだが、鬱蒼とした雰囲気ではない

開放的なところもあり、日差しの照っている場所や木陰になっている場所もある

とても過ごしやすく、人間にとって快適な場所だ

だからなのか、新人はまずはここで任務にあたることが多いようだ

 

「見たところダーカーの姿はないみたいだけど、この辺りを調査すれば良いのですか?」

 

私はユカミに問う

 

「そうです、まずは慣れるためにも散歩をするのです!」

 

散歩…そんなのんびりしていても良いのだろうか

まぁここでじっとしていても始まらないのは確かだ

私は歩き始めた

 

見た感じは穏やかな森林だが、ここに住む生き物は原生種と言い、凶暴で襲いかかってくることが多いらしいので注意を怠るわけにはいかない

それにダーカーも現れるのだ

いざという時はこのカタナを振るって戦う…つまりは斬り殺さなければならないのだ

私は殺すのが好きではない

護衛や傭兵として戦場に出ていたのだから人を殺すことは多々あった

しかしそれを喜んだことは1度もない

心苦しくなったりはしないが可能な限り殺したくはないと思う

特に原生種には何の罪もなく、ただ侵入者を排除しようとしているだけだろう

ここに於いては私達の方が異物なのだ

 

しかし、そうも言っていられない

ここにはダーカーが出るのだ

私もダーカーの脅威については耳が痛いほど聞かされた

様々な種類がおり、それぞれが特殊な戦闘能力を有している

だが最も恐ろしいのはその「侵食性」にある

これは有機物無機物問わず、あらゆるものに侵食しその存在を侵すのだ

…そう、ダーカーとは所謂寄生生物のようなものなのだ

通常であれば寄生する対象は限られているし、栄養や住処とするのが目的である

しかしダーカーは何にでも寄生するし寄生した対象をダーカーにしてしまうのだ

寄生されると凶暴性が増し、何にでも襲いかかるようになる

そうなったらもう殺す以外にその存在を救う術はない

中にはそれ意外の方法で救う者もいるらしいのだが、それが出来るのは守護輝士と呼ばれるものだけらしい

とにかく私にはダーカーに侵されたものを救うには殺す以外に出来ることはないのだ

それに躊躇しているとこちらが死ぬ

だからもしダーカーやそれに侵されたものが現れた際には躊躇いなく…殺す

 

「マスター…なんだか怖い顔してますよ」

 

ユカミが悲しそうな声をあげる

いけない、思考に釣られて表情が険しくなっていたようだ

 

「ごめんなさい、思ったより緊張してるのでしょうか」

「ならいいんですけど…大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です。行きましょうか」

 

私はユカミを促し、先を行く

覚悟を決めるのも良いが、深刻になりすぎるのも良くない

折角快適な森林にいるのだ

少しは森林浴を楽しまないと損だろう

私は深く息を吸う

とても美味しい空気が肺いっぱいに広がる

…落ち着く

私はこういう緑豊かな場所が好きだ

心が安らぐ

いくらか落ち着いた私は周囲への警戒を緩めずにユカミに話しかける

 

「そう言えばなんですけど、ここは惑星ナベリウスの森林エリアと聞いたんですが」

「はい、そうなのです!どうかしたのですか?」

「わざわざ『森林エリア』って言うのは森林以外にもあるってことですか?」

「そうです、ここナベリウスには森林、凍土、遺跡の3つのエリアが存在しています」

 

ふむ…森林と凍土はまだ分かる

しかし遺跡とは何の遺跡なのだろうか

聞いてみるとこの遺跡とはとても強力なダーカー、ダークファルスというらしい、を封印した跡地なのだそうだ

今は封印も解けているしそもそもそのダークファルスが消滅しているので一般アークスでも行けるらしい

ダークファルス、か

いつか私も戦う時が来るのだろうか

戦わずに済むのならそれに越したことはないのだが…

 

その時、前方に気配を感じた

私は近場の岩に身を隠し様子を見る

ユカミがついてきて、何事か聞いてくる

 

「急にどうしたのですか、マスター?」

「向こうの茂みに何かいると思うんだけど…どうかな」

 

ユカミには高性能センサーが備わっている

普段は半径10m以内にエネミーがいれば自動的に反応するようにしている

しかし索敵範囲を広げるとかなりの広範囲に渡り周囲の状況を知ることが出来る

 

「索敵完了しました。前方20m地点に原生種の反応があります、どうしますか?」

「その原生種はダーカーに侵食されてるのですか?」

「いいえ、どうやら正常なようです」

「それなら無理に倒すこともないですね、違う道を行きましょう」

「了解しました、マスター。ではこちらに…」

 

その時だった

 

「マスター、危ない!」

 

ユカミが私の後ろを見てそう叫ぶ

私は前方に跳ぶように移動し、身体を反転させる

すると何もない空間から何やら黒い蜘蛛のようなものが現れた

蜘蛛にしてはかなり大きいし、見た目もかなり違う

似ているのはその骨格くらいのものだ

全体的に黒く、赤い線が入っている

 

これがダーカーなのか

確かこれはダガンと呼称されるダーカーである

資料で観たのだが危険性はダーカーの中でも低いらしい

それでも研修生や新人アークスなどがこいつにやられた例はいくつもある

何より資料で観るのと実物とこうして対峙するのでは感じるものがまるで違う

油断は禁物と言うことだ

更に現れたのはそいつ一体ではない

虚空より次々と現れ、周囲を囲まれてしまった

気配をまるで感じなかった、不意打ちに遭う可能性も高いということか

 

「マスター、囲まれてしまいました!突破しましょう!」

 

ユカミはそういい、既にその両手に銃を構えている

私もカタナを抜く体勢を取る

まさかこんな急にフォトンを扱った初めての実戦が訪れようとは思わなかった

私は習った通りに意識を集中し、身体に膜を張るようにフォトンを纏った

次に手に持つカタナへとフォトンを流し込む

 

「マスター、来ます!」

 

ダガンの一体がこちらに向かってその脚をかかげ振り下ろしてくる

私は避けようとしたがそれよりも早く銃弾がダガンの脚を撃ち抜き、体勢を崩す

なるほど、確かに恐ろしく正確な射撃だ

あの細い脚先をダガンの動きも計算に入れて予測し、撃ったのだ

…負けてられないな

私は体勢を崩したダガンに向かってカタナを抜くと同時に斬り付ける

するとダガンの身体は霧散した

思ったよりも簡単に倒せるようだ

しかし油断は出来ない、未だ周囲を囲まれているのだ

 

「ユカミ、私は今ので感覚を掴めました。ここからは手分けしてやりましょう!」

「分かりました、気を付けて下さいね!」

「貴女も、ね!」

 

私は地を蹴り駆け出す

抜き身となったカタナを両手で握り、振り下ろす

また一体のダガンが消える

その隙に別の個体が襲ってくる

私はその攻撃をカタナで去なし、よろけたところを薙ぎ払う

脚が2本吹き飛ぶ

薙ぎ払った勢いそのままに身体を回転させ突きを放つ

 

これでこちらに残るダガンはあと4体だ

カタナを構えるとダガン達はこちらの様子を伺うような素振りを見せた

その隙にユカミの様子を横目で見る

するとユカミは銃を連射しながら身体を回したり転がったりなどしながら確実にダガンを撃ち抜いていく

聞いていたとおり戦闘能力も高いようだ

あちらが心配いらないと分かり私は自分の相手へ意識を集中する

 

全てのダガンを倒したのを確認し、一息つく

この程度の戦闘であれば疲れなど感じないはずだが、フォトンを使うことに慣れてないせいか少し疲労を感じた

 

「どうやら全て倒せたようですね…ユカミ、貴女も怪我などありませんか?」

「はい、大丈夫です。この程度の相手に遅れなど取りません!」

 

彼女の言う通り強くはなかった

ユカミはダーカーを含めた各エネミーの情報が予め入っているが、私は正真正銘初めての戦闘だったのだ

その生態も能力も分からない状態での戦闘

通常であれば怪我の一つもするだろう

しかし私に奴らの攻撃はかすることもなかった

それだけダガンの攻撃は読みやすかったし、何より攻撃パターンが少ない

 

「取り敢えずお互い無事だったし、任務を続行しましょうか」

「はい、分かりました!」

 

その後も私達は森林を探索した

途中、ダーカーに侵食された原生種も確認したのでその場で斬り伏せた

 

そして私達は最深部らしき場所へと到達した

そこで私達が見たのは…

 



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大型種との邂逅

「ねぇ、ユカミ」

「何でしょう、マスター?」

「あれも…原生種なのですか?」

「はい、そうなのです」

 

私達はかなり奥深くまで来た

ここは行き止まりとなっており、先へは進めない

道があったとしても"アレ"を倒さないと進めそうにはないが…

私の目は、とても大きな…熊?ゴリラ?のような骨格をした原生種を捉えた

その四肢は緑色で局所的に体毛があり、腕が異常に発達している

何よりの特徴は顔の周辺や拳に琥珀色の結晶体のようなものがあることだ

私の直感が告げている、こいつと戦うのはまだ早いと

しかし…

 

「あの突起物があるということは、あの原生種もダーカーに侵食されているのですね?」

「はい…ですがっ」

「分かっています。未だフォトンに慣れきっていない今の私では危険なんですよね」

「そういうことなのです。ですからここは退いて、ベテランの方をお呼びしましょう」

 

ユカミの言う通り今ここで戦えば私が負ける可能性が高い

だが、あの原生種はダーカーに侵されて苦しんでいる

それに1度侵食されれば敵味方など関係なく襲いかかって生態系を崩すかもしれぬし、あの巨体が森の中を暴れることで環境が破壊される恐れもある

そして何よりあの原生種もそんなこと望んではいないだろう

 

私はカタナを構える

それを見てユカミは驚いたようで、目を丸くした

 

「まさか、やるつもりなのですか!?」

「ええ。危険なのは承知の上です」

「けど…」

「あの原生種をこのまま放っておくのも危険でしょう?それに」

「それに?」

「ここで退くのは私の信念に反します」

 

そう、私は決めたのだ

救える存在は救い、護れるものは護ると

その為ならこの命、喜んで危険に晒す

それが私に出来る唯一の贖罪なのだ

 

「分かりました…では、まずはあの原生種のことを教えます。何の情報もなしに戦うよりは安全なはずです」

「そうですね…ではひとまず隠れられる場所に移動しましょうか」

 

幸いまだあちらは私たちに気付いていない

今のうちに詳しい説明の聞ける所へ行くべきだろう

 

移動した先でユカミからあの原生種について色々と聞いた

あれは「ロックベア」というらしい

その両腕から繰り出される攻撃は非常に強力で、フォトンで身を守っていないと形容しがたいほどに身体が潰れるようだ

更にはその剛力を用いて自らを宙へ飛ばし、ボディプレスすら放ってくるのだという

しかし上半身と腕が強力な代わりに下半身は貧弱なようで、腕を振るった後に体勢を崩し、転倒することが多い

更に自分の足元へ攻撃することが苦手なので距離を離した方が危険らしい

だからと言って無闇に足元へ行けばあの巨体で視界が遮られるしこちらも攻撃しにくいだろう

後は視界が狭いのでそれを利用して死角に入るのも手のようだ

 

「なるほど…大体のことは分かりました。ありがとうございます」

「いえ…しかし本当にやるのですか?マスターはまだフォトンアーツもスキルも使えないのですよ」

 

フォトンアーツ(PA)とは、フォトンを使った攻撃技である

多量のフォトンを武器に通わせ、一気に解き放つことによって発動できる

アークスの基本的な攻撃手段で、普通に武器を振るうよりも圧倒的に威力があるのだ

対してスキルはフォトンを扱うのは同じだが、こちらは武器ではなく自身にフォトンを取り込み発動する

己の肉体を強化したり脳のリミッターを外したりなども出来るようで、攻撃のみならず防御にもなる

どちらも様々な種類があり、それらを使うことによりアークスは戦闘を行う

 

しかし私はそのどちらもまだ使えない

フォトンがあることが当たり前であるオラクルの人とは違い、私には馴染みのないものだった為である

通常であればそれらを使えない者を実戦に出すことは無いが、私は素の身体能力がずば抜けて高いので特別に許可されたらしい

アークスはフォトンで補う者がほとんどなので素の状態で戦える者は数えるほどしかいない

つまり私はフォトンを扱えない状況下であれば最強のアークスと言っても過言ではないのだ

だからこそ監視されているのだが…それより今はロックベアだ

ともかく私はPAもスキルも使えない状態、更には初の実戦で大型種との戦闘になる

ダーカー侵食もあってより凶暴かつ強力になっているというおまけ付きだ

苦戦すること必至である

それでも私はあのロックベアを救いたいし、救わなければならない

それにこちらにはユカミがいる

ここに来るまでに彼女の戦闘能力の高さは散々見てきた

私はその性能の高さを信じている

 

「では、いきましょうか」

「はい…」

 

ユカミは不安そうだ

 

「大丈夫ですよ。安全重視の戦い方をしますし、何よりこんなところで死ねませんからね」

 

そう、私は命を危険に晒すことに抵抗はないが死ぬわけにはいかない

矛盾しているように聞こえるかもしれないがどれだけ死ぬ危険性があっても死んではいけないのだ

私にはやらねばならぬこと、やりたいことがまだまだ残っている

 

私達は再びロックベアのいるところへと来た

既に結構暴れており、周囲の木々がなぎ倒されている

ダーカーに侵食されて苦しんでいるのだろうか、咆哮がまるで悲鳴のように聞こえる

早く解放してやらねば…

 

私はカタナを強く握る

ロックベアはまだこちらには気付いていないので、このまま一気に接近して足元を斬り払うつもりだ

それで転倒すれば大きな隙も生じるし、足に怪我を負わせることが出来ればかなり戦闘を優位に運ぶことが可能だ

 

私は息を整え、タイミングを図る

そして地を強く蹴り、カタナを抜き放つ―

 



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初めての死闘

私は胸が地面に付きそうなほど低い姿勢で走る

ロックベアは顔の周辺に体毛や結晶体のようなものがある為視界が狭いことは聞いた

しかしこの個体は顔の下の体毛が濃く、更にダーカーに侵食された際に出来る「侵食核」と呼ばれる突起物も顔の下にある

つまり下への視界は他の個体のそれよりも更に狭い

それを利用し、可能な限り低い姿勢で突進しているのだ

 

銃声が響く

ユカミがロックベアの侵食核に向けて射撃したのだ

当然ロックベアはユカミに気付き、怒りの雄叫びを上げて攻撃しようと近づく

そのおかげで下にいる私にはより一層気付かなくなるだろう

それだけではない

ロックベアはダーカー侵食の影響か暴れ回っているため下手に近づくと巻き込まれてしまう可能性がある

しかし今の射撃により攻撃対象をユカミに定めたロックベアは無造作に暴れるのをやめた

それにより私への危険度がかなり減る

更に言えばその場に立っているより、歩いたり走ったりしている方が足が浮く関係で転倒させやすい

あの一瞬でそこまでの判断をし、行動に移したのだ

流石だ

私は心の中で感謝しながらロックベアの脚を斬り払う

思った通り私には気付いていなかったようで、不意を付かれたロックベアは転倒した

その隙にユカミは頭へ連続で撃ち込む

この巨体にもさすがに堪えたのか悲鳴が上がる

私も姿勢を戻し、ロックベアの側面へと周り込み、そのまま脇の下を斬り上げる

私のいた地球の生物と体の構造がそこまで違っていなければここの血管を切断すると多量出血するはずである

鮮血が舞った

しかし、量が思ったより少ない

…筋肉の壁が厚すぎて血管まで届かなかったのか?

それともこちらの生物は体の構造が全く異なっているのだろうか?

頭の中を疑問が走ったが今は考えている場合ではない

ロックベアは私を認識し、倒れたまま腕をこちらに振るってきた

まともに受けてはひとたまりもないだろう

私は後ろに跳びつつ腰から鞘を引き抜き、身を護る

ロックベアの腕は鞘に当たり、私の腕に衝撃が伝わる

そのまま後ろに吹っ飛ばされはしたが、先に跳んでいたことと鞘で緩和したことによりダメージは殆どない

―そう、僅かではあるがダメージを受けたのだ

その事実に私は驚愕する

通常ここまですれば私の身体にダメージを負わせるなど並大抵のことではない

それなのにロックベアは倒れた姿勢から、それに脚と脇を斬られ頭に弾丸を撃ち込まれている状態からそれをやってのけたのだ

もしも相手が万全の状態であればこの程度の防御では最低でも腕の骨折か…それで済めばいい方だ

これは早急にフォトンの扱いに熟知する必要があるようだ

 

その一方ユカミもロックベアから攻撃を受けていた

あの状況で更に両腕を別々に動かし、それぞれに攻撃を仕掛けたと言うのか

なるほど、ユカミが不安がるのも分かる

ここに来るまでに相手にしてきた小型種とは桁違いだ

ユカミはロックベアの腕撃を跳躍で躱す

かなり高い

足に装着されているブースターを上手く使ったのだろう

そのまま身体を反転させ下にいるロックベアに向けてまた連射する

ロックベアも転倒したままでは一方的に攻撃されると思ったのかその発達した腕を用いて立ち上がろうとする

私はユカミがヘイトを取ってくれている間に腕の痺れを回復させ、カタナを構え直して接近した

するとロックベアはそれを読んでいたのか身体を反転させながら裏拳を放ってきた

―甘い

狙いは悪くないがそうして反撃してくることも想定していた私はスピードを上げて一気に肉薄した

ロックベアは体高が高いのでこうすると脇の下の大きなスペースに逃げ込むことが出来る

そのまま私はカタナをロックベアの腕にそっと当てて、裏拳の方向とは真逆に刃を滑らせた

私の力だけで断ち斬ることが出来ないのならロックベア自身の剛力を使うだけだ

私の作戦は成功し、かなりの痛手を負わせることが出来た

少なくとも当分の間あの腕は使えまい

それはだらりと力なく垂れ下がる腕を見ても明らかだ

これで奴の攻撃力も防御力も大幅に下がった

いつ傷が癒えるかも分からないので勝負をかけるなら今しかない

 

「ユカミ、今のうちに畳み掛けます!全力でいきますよ!」

「了解です、マスター!!」

 

私はロックベアに向かって突進する

痛みに苦しむロックベアは私の攻撃を防ごうとしたのか拳を打ち下ろすが、思うように狙いも定められておらず避けるのに難はなかった

おそらくはダーカーの侵食も関係しているのだろう、既に正常な思考どころかこちらを正しく認識することすら出来ていないようである

その呪縛から解き放つのに手段など選んではいられない

私はその腹に思いっきり刃を突き立てた

ロックベアが怯んだ隙にユカミはその身体を駆け上がり、頭の上へと到達すると銃を顔に向け零距離から射撃する姿勢を見せた

しかしそれは今までのそれとは全くの別物であった

銃口から現れたのは弾丸ではなく、明らかに中に収まるとは思えないほど大きな丸い何かの塊であった

それがロックベアの顔面目掛けて破裂し、ロックベアは大きく咆哮した後身体をその場に横たえた

起き上がるどころか動く気配すらしない

…どうやら、死に絶えたようである

勝った

私達は勝ち、生き残り、アークスとしての使命を果たした

だが私の胸中に達成感や喜びといったものは浮かんでこない

どんな大義名分があっても、例えそれを相手が望んだとしても…私がしたのはただの殺しなのだ

決して褒められることではなく、誇れるものでもない

しかしそれでもこのロックベアを救うことは出来ただろうし、正気を失ったこの個体によって殺されるかもしれなかった他の原生種を護ることは出来た

周囲の木々への被害も食い止めることが出来た

それもまた事実であり、忘れてはいけないことだ

 

「本当に、やってのけてしまうとは…マスターは凄すぎなのです」

「そんなことはありませんよ、ユカミがいなければ絶対に無理でしたから。貴女こそ私の想像以上に凄かったです」

 

これは心の底から思う

実は今回、ユカミの兵装はかなり簡素にしてある

私がアークスとして戦闘に慣れなければいけないのにユカミの兵装が強すぎると私が戦う必要がなくなり、経験を積むことが出来ないからだ

それに初陣でここまで来るとも想定されておらず、剰え大型種相手に戦うとは誰も思っていなかったようなのだ

その為今回装備しているのは初期武装の2丁の銃のみ

にも関わらずあれだけ戦え、更にはトドメさえ刺せたのは間違いなくユカミの元々の性能が良いからである

武装に頼った強さではない

 

「ともかく、これで任務は終了ってことで良いのかな?」

「そうですね、それで良いと思います。というか本来今回の任務はフィールドに出てマスターに色々と慣れてもらうのが目的なんですよ?何でしたら散歩して適当に動いてみて帰ったって良かったですのに…」

「まぁまぁ、良いじゃないですか。頑張るのは悪いことではありませんしね」

「マスターは頑張りすぎな気がするのです( ˘・A・)」

 

そうして私達は帰還し、報告を終えて今に至る

丁度よく眠気も来たし、このまま眠るとしよう

そして私は眠りについた

 

 

 

 

 

艦橋で2つの人影が会話をしている

「ふ〜ん、そうなんだ…なんかまた大変なことになりそうな予感がするよ〜」

「そうだね、そうなる確率はとても高いと思うよ」

「貴方が言うと洒落にならないんだって…馬鹿みたいに正確な演算能力あるんだからさ」

「褒めてもらえて嬉しいよ」

「褒めてな〜い!…それで、そっちは任せちゃって良いの?」

「ああ、問題ないよ。君に役目を継いでもらって、今僕はフリーみたいなものなんだ。彼女はとても興味深いし、これからのアークスに新たな風を吹かせてくれる気がする」

「それは確かにそうかもね。それにしてもPAもスキルも使わずに侵食された大型種を仕留めるほどの使い手、か…ちょっと、羨ましいかな」

「ほんと、末恐ろしいよね」

誰に聞かれることもない会話はいつ終わるとも知れず、続く

 



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施設巡り

…ん?

眠りに落ちていた私の意識は急速に覚醒する

誰かの動く気配、ユカミだろうか

私は目を開けることなく耳に意識を集中させる

筋肉の摩擦音や骨の軋む音は聞こえない

代わりにほんの僅かな機械の駆動音と金属の擦れる音が聞こえる

普通のキャストであればここまで音を抑えることは出来ない

となればこれはやはりユカミのものだろう

私は身を起こした

隣を見るとユカミが身体を起こしていた

が、何やら眠そうでポケーっとしている

ハイキャストは寝ぼける機能すら付いてるのか…?

何故そんな機能を付けたのかは謎だが、可愛らしいので良しとしよう

私はベッドから下りて整え直す

 

「ほら、ユカミ。起きて下さい」

「ふぁ〜い…」

 

ユカミは欠伸をしながらベッドから下りた

私は身支度をする為にもシャワーを浴びに行く

私は身長も高いし髪も長いので少し大変である

シャワーを終えて襦袢を着た私は髪を乾かす

その間にユカミは目も覚めたようで、装甲の代わりに人間と何ら変わらない服を着ていた

白いワンピースでレースがあしらわれている

とてもよく似合っていて、彼女の魅力を引き出している

可愛らしい服が似合うのは…正直少し羨ましい

そんなことを考えていても仕方ないか

髪を乾かし終えた私は着替えるため箪笥を開ける

思ったよりも様々な服が入っている

和服もあるが洋服もある

昨日は寝る時も襦袢だったため、1日を和服で過ごしていた

後で聞くと昨日私が着ていたのは戦闘用に設計されたものらしい

だからあんなにも動きやすかったのか

今日は戦闘に出るわけでもないし、多少動き辛くても構わない

だが私はまだこのギョーフ(私が滞在する船の名前)の中を全て歩いた訳では無い

今日は色々な場所へと行くので少なくとも足回りは動きやすくするべきだろう

そんなことを考えながら私は無地の白Tシャツにストレッチの効いたデニムパンツ、そしてダブルライダースジャケットを着た

 

「わぁ、格好良くて素敵なのですマスター!」

「ありがとうございます。貴女も可愛くて素敵ですよ」

「えへへ、ありがとうございます!」

 

私達は部屋から出るため靴を履く

私はデニムパンツの裾を少し折り返し、ブラウンのショートブーツを履いた

対してユカミは花の意匠があしらわれたミュールを履いていた

 

「マスター、何処か行きたいところはありますか?」

「んー…じゃあまずはアークスとして必要な、装備に関する場所に案内してくれますか?」

「分かりました、ではショップエリアに行きましょう!」

「ええ、お願いしますね」

 

私はユカミに案内して貰いショップエリアへと着いた

ここは普段賑やかなそうだが、今は朝早いため流石に人通りも疎らだ

 

「ここではお買い物が出来たり物々交換が出来たりする他に装備の強化が出来ますよ」

「なるほど…とても重要な場所ですね」

「そうなのです。ちなみにここと昨日任務に出る時に集まったゲートエリアはこの3つの直通エレベーターで気軽に行き来出来ます!」

「それは便利ですね」

 

これはとてもありがたい

重要な場所同士をこうして繋げてくれれば楽だし、何よりも時間を短縮できる

緊急の際にはとても重宝するだろう

 

「あとここには…エステがあります」

 

少し歯切れが悪い

どうしたのだろう

 

「どうかしたのですか?」

「いえ、その…ここのエステは普通のエステではないのです」

「普通のエステではない?」

 

どういうことだろうか

エステと言えば美容のために女性が通うもので、オイル等を用いてマッサージなどをする店…という印象だが

 

「ここのエステはですね…その、特殊なパスやポイントを使えば体型すら弄れるのです」

「ふむ…最早手術、ですね」

「そういう感じなのです」

 

とんでもないな…

まぁそれを行うには特殊なものが必要であるらしいからそうそう気軽には出来ないのだろうが

話題を変えるため、私はユカミに問う

 

「他にはどんな施設があるのですか?」

「ここには今言った以外の施設はありません。ですがここからカフェとカジノに行くことが出来ます。あ、あとあとジグさんという刀匠の方が良く来てます!」

「刀匠?」

「はい、とても凄腕の方で特別な武器を制作されています!その方に認められればその特別な武器を貰えるかもしれません」

「なるほど…」

 

それは有難い話だ

しかしその人物に認められなければならないというのは…それほど扱いが困難なのか量産出来るものではないので限られた者にしか渡せないのか

若しくは単にその刀匠が頑固なだけなのか

まぁ少なくとも今の私では無理だろう

まだ関係ない

 

「これからカフェとカジノに行こうと思うのですが、どちらから行きますか?」

「そうですね…カフェと言うことはご飯が食べられるんですよね?」

「はい、勿論です!」

「ではまだ時間も早いですし、先にカジノへ行ってそれからご飯も兼ねてカフェに行きましょうか」

「分かりました、そうしましょう!」

 

 

私達はカジノへと移動した

とても賑やかな音楽が大きな音量で流れている

私はこう言う人工的なうるささは好きではない

 

「ここはカジノエリアで娯楽施設となります」

「私がいた地球でもカジノはありましたし、多少馴染みはありますね」

「地球にもあるんですか、1度行ってみたいです!」

「私がもっとアークスとして成長すれば行けるかもしれませんね」

「なるほど…楽しみにしてますね♪」

「ええ、期待していて下さい」

 

ここには2種類のスロットにルーレット、ブラック・ジャックがあるようだ

あともう1つあるのだが…この中央にあるのはなんと言えばいいのだろうか

砲台のついた機械に乗り、左右に移動しながらある程度離れた位置にあるステージを横切る様々なものを撃つゲームだ

一通りやらせてもらったがほぼほぼ運にのみ左右されるので結果はあまり芳しくなかった

ブラック・ジャックでは心理戦でどうとでもなると思ったが、対戦相手が人ではなくコンピューターでは通用しない

それでも傾向が分かればある程度読めたりもするがこのコンピューター、パターンをコロコロと変えるせいでそれも出来なかった

それにやはりこの場所は騒々しい

ここで手に入れたコインは特別な景品と交換も出来るので、上手く行けば良いものが入手可能だ

結構時間も経ったので私達はカフェへ行くことにした

 

「へぇ〜ここがカフェですか。程よく静かで、とても落ち着きますね」

「はい、私もここは好きです!」

 

店内を見回し、どの席に座ろうか考えていると後ろから声がかかった

 

「よう、あんたらも早めの昼食か?」

 

声のした方を向くと、頭に2本の角が生えた小柄な女の子がいた

髪も短く、言葉遣いなどからボーイッシュな子であることが分かる

 

「ええ、そうですけど…貴女は?」

「あぁ、すまない。オレはイオ、一応アンタの先輩ってことになるのかな」

 

なるほど、ということはアークスなのか

 

「そうでしたか。私はアウル、こちらはユカミといいます。よろしくお願いしますね」

「よろしくなのです!」

「ユカミは元気が良いな。それで、良かったら一緒に食わないか?」

「ユカミ、良いですか?」

「私は大丈夫なのです!」

「分かりました。では、ご一緒させていただきますね」

「その…なんだ。敬語とか、要らないぞ?」

「そうですか…でもこれは癖みたいなものなので、少し崩すくらいで良いですか?」

「あぁ、それで良いよ」

「ありがとうございます」

 

私とユカミ、そしてイオは席につき、注文を済ませた

水を1口飲んだあと私はイオに気になっていることを聞いた

 

「そう言えばイオ、どうして私達に声をかけてくれたのですか?」

「あぁ、それか…噂で聞いたんだけどさ、ロックベアを初陣で、しかもスキルもPA(フォトンアーツ)も使わずに倒した新人がいるって聞いてさ。どんな奴なのか気になったんだ」

 

昨日のことなのに随分と早く噂になったものだ

しかし噂で聞いただけなのに何故迷いなく私達だと分かったのだろうか

聞いてみると、どうやら私がユカミと待ち合わせているあの時ゲートエリアにイオもいたそうだ

それに地球人がアークスになったのは前々から皆知っていたし、特別にハイキャストがつくことも広まっていた

だから私を見た時に今まで見たことがないから新人だろうと思っていたら、また見たことの無いキャストが来たので『あぁ、あの2人がそうなのか』と思ったらしい

 

「なるほど、それで私達に」

「あぁ、1度話してみたいと思ってさ」

「何か聞きたいことでも?」

「そうだな…アウルはクラス何にしたんだ?」

「まだ決めていませんよ」

「決めてないって…それじゃ今はクラス設定してないのか?」

「ええ、そうです。まぁハンターかブレイバーになるとは思いますけどね」

「てことは…カタナを使うのか?」

「えぇ」

「ブレイバーになったら俺と同じだな」

「そうなのですか?」

「あぁ、とは言っても俺はバレットボウしか使わないけどな」

「バレットボウ?」

「ブレイバーの武装の1つでいわゆる弓のことです、マスター」

 

なるほど

ちなみにクラスと言うのは…どう説明したものか

これを設定することにより対応するスキルやPAを使うことが出来るようになる

ハンターであれば攻守のバランスに優れていて、ファイターだと攻撃に特化する代わりに防御が薄くなる、といった具合だ

本人のフォトン傾向とは別に、どのように戦うかを決めるものと言えば良いだろうか…どうにも上手く説明が出来ない

 

「しかし弓となると射撃武器ですし、私が使うことはなさそうですね」

「そうなのか?」

「ええ、どうやら私のフォトン傾向は打撃に特化していて射撃や法撃には一切向かないようなんです」

「そっか、それは残念だな」

「いえ、それはどうでしょう」

 

ユカミが異を唱える

 

「どういうことですか?」

「確かにマスターのフォトンは打撃向きなのです、それは間違いありません。しかし他を扱えないかと言うとそれは少し違うのです。マスターに射撃や法撃が一切出来ないというのは『今はまだ』という前置きがあります。今はアークスになったばかり…いえ、オラクルに来て日が浅いのでフォトンが身体に馴染み切っていないから出来ないのです。フォトンを自在に扱えるようになれば射撃も法撃も使えるようになる可能性は高いです」

「そうだったんですね…じゃあ私が弓を使うのも」

「将来的には十分有り得ます」

「なるほどな…それならバレットボウ仲間が増えるかもな♪」

 

イオはどこか嬉しそうだ

 

「いや、実はさ…バレットボウ使うやつって少ないんだよ」

「そうなんですか」

「あぁ、なんか他のやつが言うには扱いが難しいらしいんだ。俺はそうは思わないんだけどな…」

「適正があったんですかね」

「多分そうだと思う。だからさ、もしアウルがバレットボウ使えるようになったら一考してみてくれよや」

「えぇ、その時はぜひ」

「それなら私もツインマシンガンを使ってみて欲しいのです!」

「なら、早いことフォトンを馴染ませないとですね」

 

談笑していると料理が来たので私達は食べ始める

ユカミは燃料オイルを補給している

私はエビピラフ、イオはリゾットを食べる

その後も私達はしばらく話した後別れた

 

イオと別れた私達はその後も色々と見て回った

オラクルではお金はメセタ、という

私はまだメセタに余裕はないのであまり買えないが色々なお店もあり、見て回るだけでも楽しかった

任務をこなし、メセタに余裕が出れば色々と買おう

 

そして今日1番有意義だったのは、色々なアークスと話が出来たことだ

特にイオともう1人、アザナミという女性と会えたのが大きい

アザナミもクラスをブレイバーとしている、それどころかブレイバーというクラスを創設したのがアザナミらしい

実のところ私はカタナを扱う関係でブレイバーというクラスにしようと思っている

カタナを使うのにブレイバーでなければならないわけではない

だがブレイバーであればカタナの性能を最大限引き出すことが出来るのでブレイバーにするのが得策だ

だからこの2人と出会え、話が出来たのは良かった

今後もこの2人には何かと世話になることになりそうだ

関係は良好にしておくべきだろう

 

今日1日歩き回ったのとマップ情報を併用して、このギョーフの構造は把握した

過去には船の中までダーカーが攻め入ってきたこともあったようだし、もしもの時に備えて迷わずに移動出来るようにしておくに越したことはない

しかし私が打撃以外にも扱える可能性があるとは…その気になれば私にも新たなクラスを作ることが可能なのだろうか

もしそれが出来れば…私が最も得意としていた戦闘方法も……いや、やめておこう

あれはもう、使いたくない

どうしても使わなければならない時は仕方がないが、それ以外では使わないでおくべきだろう

それに私にはやることがあるのだ、そんなことに時間を費やすべきではない

あの子を早く見付けなければ

 

 

 

私の、たった1人の…妹を

 



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ブレイバーへ

数日後、私は初任務にて着ていた和服を取り出した

ユカミも装甲を装着している

また実戦に出るのかと思われるかもしれないが、そうではない

今日はクラス設定をし、スキルとPA(フォトンアーツ)を使えるようにするのだ

カタナを主力として扱うのでやはりブレイバーになるのが正解だろう

その為、アザナミとイオが立ち会って協力してくれるらしい

 

「準備できましたか、マスター?」

「ええ、ばっちりですよ」

「では、行きましょう!」

 

私はカタナを佩き、部屋を出た

私達はイオとアザナミとショップエリアにある青部屋で待ち合わせをしていた

青部屋とはショップエリアにある2つの色つきの部屋の1つで、もう1つは赤部屋という

名前の通り部屋中がその色1色で染まっており、待ち合わせや集合に使われることが多いらしい

私達は青部屋についた

 

「やっほ〜!待ってたよ〜」

 

部屋に入るとアザナミが元気よく挨拶してきた

 

「おはようございます。2人とも、今日は私の為にわざわざありがとうございます。よろしくお願い致します」

「あ〜ダメダメ、固いよ!そんな畏まらなくて良いからさ、気楽に行こうよ」

「そうだぞ、オレたちはアークスで同じブレイバー仲間だろ」

「そうですね、ごめんなさい。では、行きましょうか」

 

私達はまずはゲートエリアのクラスカウンターへと行く

そこでブレイバーを自分のクラスとして登録した

そして基礎的なスキルを習得し、訓練所へと赴いた

 

「さ〜て、まずはブレイバーとしての基本的なカタナの扱い方だね。ブレイバーでカタナを扱う際に重要なのは抜刀術だよ」

「抜刀術が?」

「そ、何せカタナのPAはぜ〜んぶ抜刀術だからね」

 

全てが抜刀術?

随分と極端な話だ

 

「しかし全てが抜刀術となると、重要になるのは寧ろ納刀の方では?」

「お、よく分かったね〜!そうなんだよ、PAを放った後に素早く納刀しないと次のPAが撃てないのよね。まぁPAはその気になれば自分でも作れるから、やりづらければ作っちゃうのもありだよ」

「自分で作れる…そう言えばブレイバーはアザナミさんが作ったんでしたね。もしかして今あるPAは…」

「その通り!ほぼほぼ私が作ったものだよ。私でも出来たんだからきっとアウルなら簡単に出来るようになるよ」

「そんなことありませんよ、私なんてそれほどでは」

「な〜に言ってんだい、PAもスキルも使わずにロックベアを初陣で倒したんでしょ?純粋なカタナの扱いなら貴女の方が上手いと思うよ。そのうち教えて欲しいくらいだね」

「では、いずれそうなれるように頑張りますね。それで、まずはどんなPAがあるか教えてもらっても良いですか?」

「おっけ〜!じゃあまずはこれ、見ててね」

 

アザナミは抜刀術の構えを取り、そこから更に深く腰を落とした

次の瞬間―

彼女の姿は遠く離れた場所に移動しており、そこから横に薙ぎ払うように抜刀した

どうやらまずは高速で移動し、敵の後ろ側に回り込む

私の目が正しければその間にも1度抜刀と納刀をしているように見えた

そして回り込んだ後に渾身の一撃を叩き込む技のようだ

 

「どう?」

「凄く早い技ですね…それもフォトンの力で?」

「そうだよ〜、だって生身でこんなスピードも威力も出せないでしょ」

 

私の持つ技術を総動員すれば生身でも出来ると思うが、それは伏せておこう

 

「このPAではね、カタナだけじゃなくて足にもフォトンを結構な量使わなければいけないんだ。でもその分相手に視認されることもなく接近出来るし、威力も結構あるから始動にもってこいだよ」

「なるほど…いい技ですね」

「でしょ?まぁ取り敢えずやってみてって言いたいところなんだけど…さ」

「どうかしたのですか?」

「アウルの実力を確かめるためにも1度受けてみてもらうよ」

 

アザナミの目が鋭くなり、口元に笑みが浮かぶ

なるほど、1番分かりやすい方法だ

私の実力に応じて何を教えるのか、その方針を固めるつもりだろう

アザナミの足に力が込められて、駆け出す寸前だ

その1.5秒後にこちらに突進してきた

先程の技を見る限り通り抜けざまに1度斬るはずだ

私は鞘ごとカタナを抜き、その抜き打ちに備える

アザナミの姿が眼前に迫った

すると思った通り彼女は抜刀した

それに合わせて私は鞘に収まったカタナを振り、抜ききる前の彼女のカタナに当てた

そのまま姿勢を低くし重心の下に入る

あの高速で移動しながらの抜刀だ、体勢は非常に崩しやすいだろう

思った通りアザナミは体勢を崩し、狼狽する

その隙を突いて私は彼女の身体を持ち上げ、カタナを振ることで飛ばす

アザナミは信じられないという顔で空中にいる

だが落下を始める頃には体勢を立て直し、綺麗に着地する

観戦していたイオも目を丸くしていた

ユカミは共に戦った経験から私の能力を多少知っている為か、そこまでの驚きはなかったようだ

 

「いやぁ、驚いたねぇ…接近する時に斬るのは言ってなかったのに、どうして分かったの?」

「どうしても何も、見えていましたから」

「あれが見えたって…どんな動体視力してんのよ」

 

アザナミは半ば呆れた感じで言った

 

「でもまぁ…実力は分かったよ。私なんかよりよっぽど強いだろうし、全部教えちゃっても問題なさそうだね」

「ありがとうございます。お願いしますね」

 

やはり実力に応じて教える範囲を決めるつもりだったのか

その後も様々なPAを教えてもらった

サクラエンド、ツキミサザンカ、ゲッカザクロ、ハトウリントウ、カンランキキョウ、フドウクチナシ、ヒエンツバキ、カザンナデシコ、シュンカシュンラン、アサギリレンダンを教わった

ちなみに最初にやっていたのはグレンテッセンと言う

そしてサクラエンドとカザンナデシコはカスタマイズして性能を変え、零式と呼ばれるものにすることが可能だ

零式にすると挙動や威力などが変わる

今のところはこれらがカタナのPAの全てらしい

先に教わった通りその全てが抜刀術となっていた

そしてカタナに関するスキルの使用方法なども教わった

 

「私が教えられることはこれで全部かな。それにしても飲み込みも早いね〜!教え甲斐があるよ」

「色々とありがとうございます。おかげで私もアークスらしい戦いが出来るようになりましたよ」

「いやいや、いいってことよ♪さ、次はイオの番だよ〜!」

「いや、そうなんだけどさ…なんか、オレに教えられることなんてないような気がして」

「何言ってんの、バレットボウのこと教えれるでしょ?」

「でも今アウルは射撃武器は…いや、教えてみれば使えるようになったりする、のか?」

「可能性はあるかもしれません、お願いできますか?」

「分かった、やれるだけやってみるよ」

 

そして今度はイオが弓の扱いを教えてくれることになった

 

「ところで、バレットボウは持ってるのか?」

「いえ、持ってないですね」

「そうか、じゃあ一先ずこれを使ってくれ」

 

イオは簡素な弓を渡してくれる

 

「それやるよ。練習用にでも使ってくれ」

「いいのですか?これは貴女のものなのでは…」

「良いんだよ、実はそれ初期武装でさ。性能はお世辞にも良いとは言えない。でも動作の確認とか、練習用には結構もってこいなんだよ。オレはもう要らないからさ、使われずに置いとくくらいならアウルに使ってもらった方が、こいつも喜ぶだろ」

「なるほど…分かりました。ありがたく貰いますね」

「礼なんか良いよ。それより装備してみてくれ」

 

私は弓と矢筒を背中に背負った

 

「よし、じゃあまずはバレットボウを構えてくれ。そしたら矢筒から矢を取って番えるんだ。やり方は分かるか?」

「ええ、大丈夫です」

 

私は矢を取った。何やら普通の矢ではないように感じる

 

「そいつは半分フォトンで出来てるんだ。だから矢筒から矢を取っても自動的に補充される。その代わりフォトンの消費が多いから枯渇には気をつけてくれ」

「なるほど、そういうことですか」

 

私は矢を番えた

「そのまま矢にフォトンを流すんだ。そうそう、上手いぞ」

 

イオは私の隣で自分もやりながら教えてくれる

実際にやっているところを見ながら出来るので非常に分かりやすい

 

「良いぞ、そのまま十分にフォトンを注げたら矢を放つんだ。…今だ!」

「ふっ!」

 

イオの合図に合わせ、私は矢を放つ

矢は思ったよりも綺麗に飛ぶ

ある程度進めば速度を失い、下降するのは地球と同じようだ

 

「なんだ、出来るじゃないか。じゃあ簡単なPAもやってみようぜ」

「そうですね、お願いします」

「基本的にはさっきと殆ど一緒なんだけどな。ちょっと見ててくれ」

 

イオは矢を取り番えた

弓を横に構え、力を溜める

そして放たれた矢は、可視化するほどのフォトンを纏い下降することなく飛んでいく

そのフォトンの奔流は矢が見えないほどだった

 

「まぁこれは単純に流し込むフォトンを多くするだけ、ではないんだ。どちらかと言うとユカミが使う銃に似てるかな」

「どういうことですか?」

「私のように銃を使う者はフォトンを弾として放ちます。つまりはフォトンで弾丸を形成するのです。銃はそのフォトン弾の入れ物であり、撃ち出すのを効率的に行う為の道具なのです」

「そういうことだ。つまりこのPAはフォトンで矢を形成するんだよ。アウルの視力なら見えたんじゃないか?オレがさっき放った時、フォトンの中に矢がなかっただろ」

 

確かにイオの言う通り、矢本体が見えなかった

ということは矢は分解され、フォトンそのものになったということか

 

「ということは…私には難しいかもしれないということですか」

「まぁそうなるな。取り敢えず、1度やってみてくれないか」

「分かりました、では」

 

私は矢を番え、フォトンを流して矢を形成しようとした

しかし…どうにも上手く出来ない

フォトンが形を為そうとはするのだが矢の形にはならない

歪で、とても飛ばせそうにない

 

「う〜ん…やっぱり難しいか」

「そのよう、ですね」

「じゃあ1度流してるフォトンを自分に戻してくれ。難しければそのまま放っちまって良いからさ」

「分かりました」

 

私はフォトンを戻した

やはり私に射撃武器は扱いが難しいようだ

 

「まぁまだフォトンが馴染んでないんだもんな。むしろそれでそこまで出来るってのが凄いよ」

「そうね、その実力なら守護輝士にだって劣らないアークスになるかもね〜」

「守護輝士、ですか」

「確かに、マスターならなってもおかしくはないのです!」

 

その後私達は模擬戦を行い、私がPAやスキルを戦闘の中で使えるように協力してくれた

この2人には感謝しなければ

これで私もちゃんとしたアークスとして戦うことが出来る

 

ひとしきり動いたあとシャワーを浴び、さっぱりしてから皆でご飯を食べに行った

4人で談笑しながら食べるご飯はとても美味しく、軽口や冗談なども交えながら会話と食は進む

こんな食事をしたのは産まれて初めて…だろうか

食事を美味しいと思ったことは何度もあるが楽しいと思ったのはこれが初めてである

食事を終えてからもしばらく談笑した後、私達は別れた

まだ寝るには早い時間であったため少し買い物をしてから帰った

 

今日は本当に楽しかった

私は襦袢に着替え、ベッドに入り目を閉じる

PAやスキルの習得、模擬戦で疲れたのかすぐに眠りについた

 



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単独任務

あれから数週間が経った

PAやスキルを使えるようになってからはかなり戦いやすくなったのもあり、積極的に任務へ出ていた

とは言え未だ射撃や法撃が使えないのは変わらない

自分なりに試行錯誤はしているものの、上手くいかないのだ

それでもいくらかはマシになった…と思う

でもカタナはかなり扱えるようになった

あれから森林以外にも火山や海、砂漠といった様々な場所へ赴いている

当然アークスとしての任務の為に行っており、大型種との戦闘も何度かあったが苦戦することはなかった

まぁまだ危険度の低いエリアしか探索許可が降りていないのもあるが

 

しかし私には1つ腑に落ちないことがある

アークスはダーカーの殲滅を目的としている

となれば無論ダーカーもアークスを敵視し、殲滅しようとするだろう

実際私は何度もダーカーに襲われ、戦闘を行い、侵食されたものも屠ってきた

それなのにダーカーの大型種と対峙したことがないのだ

ただ単に運が良いのだろうか?

私がダーカー側であれば、これから先驚異になり得る存在は成長する前に潰しておきたい

まだフォトンを自在に扱えていない私を今のうちに確実に消すならば、強力な相手をぶつけるのが最善だろう

何故それをしてこない?

…考えていても仕方ないか

いずれ相見えることは確実だろう

ならばまだ会ってない運の良さに感謝し、来る邂逅の時に備えて鍛錬を積むのみだ

私は疑問を払い除けるように雪をかき分け、進む

 

私が今いるのは惑星ナベリウスの凍土だ

最初の任務で来た森林の先にある土地である

ナベリウスに凍土があることは聞いていたし、不思議には思わなかった

しかしまさか森林から急に凍土になっているとは…

私は凍土は標高の高い位置にあり、ある程度坂道を登った先にあると思っていた

だが実際には、まるでアフリカの国境のようにある所を境に突然凍土になっていたのだ

やはりオラクルでは私の常識は通じないのか

 

ここにはやはり寒い環境に適応した種が生息している

森林にいたのと骨格がほぼ同じの種族も多い

その為動きは大きく変わらず、対処はしやすかった

原生種が襲って来た場合はカタナを抜かず、鞘で肋の当たりを打った

どうやらオラクルの生物も地球のそれと身体の構造が似ているようで、こうすると肺に衝撃が伝わって暫く動けなくなる

彼らには何の罪もないのだから殺さずに済むならそれに越したことはない

そしてダーカーや侵食されたものにだけ刃を振るうようにしていた

 

それにしても静かだ

凍土と言うだけあり環境は厳しく、原生種の個体数も森林と比べると多くはない

だが静かに感じる1番の理由はユカミがいないからだろう

ユカミは一日かけてメンテナンスを行っているため、任務には私一人で来ている

いつもは彼女と話をしながら探索をするので賑やかなのだが、今日はいないので話し声はない

たったそれだけのことでこれほど静寂に包まれるとは…彼女の影響力に少し驚く

 

そんなことを考えていると10mほど離れた位置にダーカーが出現した

その大きな体躯も特徴的だが、何よりも目を引くのはその巨大な盾だ

正面から攻撃しても一切ダメージは通らないし、あの盾を振り回して反撃してくる

後ろに周り込めば無防備なのでそれほど驚異でもない

ただ複数で囲まれると厄介だ

 

今回私の前に出てきたのは3体、私の行く手を阻むように横一列に並んでいる

囲まれるほどではないがこれはこれでやりづらい

周り込むのに大周りしなければならず、その間にこちらに盾を向けられるからだ

しかも足元は積もった雪、普通の平地よりかなり動きづらい

だが逆にこの雪を利用することも可能だ

私はカタナを抜き大量のフォトンを込め、地面の雪を辺り一面に散りばめるように振るう

飛び散った雪で視界を奪い、残留したフォトンが敵の意識を惹きつける

ダーカーは目よりもフォトンでアークスを認識し、攻撃するらしい

だからこのように大量の濃いフォトンを巻き散らせばこちらが何処にいるか分かりづらくなる

更に私は自身のフォトンを枯渇させた

これによりフォトンで私を追跡するのは最早不可能だ

相手が混乱している間に私は後ろに周り込み、フォトンを再び取り込んでから3体纏めて斬り払う

不意を突くことに完璧に成功し、痛手を負わせた上に転倒させた

この隙を逃す手はない

私はカタナを鞘に納め、一瞬の内に逆袈裟と袈裟に連続で斬る

ブレイバーのPAの1つ、サクラエンドだ

威力の高いPAを無防備な状態で受けたダーカー達が無事なはずはなく、攻撃を受けた2体は消滅した

サクラエンドの範囲上3体目を巻き込むことは出来なかったが、これで充分だ

1体となった相手に抵抗する術はない

残りを始末した私は先に進む

 

開けた場所に出た

雪は積もっているが一帯が平らでまるで戦う為のフィールドのようだと思った

しかしそれはあながち間違いではないらしい

2体の巨大な四足歩行の原生種が見える

森林では見たことの無い種だ

地球の生物で例えるならばライオンだろうか

身体を横たえて寛いでいるのか

注意深く観察するが、侵食核は見当たらない

幸いなことにダーカーによる侵食は受けていないようだ

それならば殺すこともない

私は来た道を引き返す

 

一通り探索を終えた私は行く宛もなく雪道を歩く

今回の任務は凍土の探索で、ダーカーや侵食されたものは発見次第撃破するよう言われている

既に結構な範囲を歩いたし、侵食された場合の影響が大きいであろう大型種の無事も確認した

もう帰還しても良いのだが、特にやることもないしユカミのメンテナンスも終わってないだろう

目的も何も無くただ歩く

たまにはこういう時間も必要だ

それにしてもこうして雪一面で起伏の激しい場所を歩いていると故郷を思い出す

あまり良い思い出ではないが…彼女が傍にいた数少ない時間でもあるため忘れたくはない

そのまま私の思考は過去の記憶へと落ちていく

 



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過去

雪の降り積もる山

そこを何人もの子供達が走っている

登り、降りてまた登る

何度も往復していた

それが私の1番古い記憶

私は恐らくロシアの山岳地帯で産まれた

ヨーロッパ人の父とアジア人の母と妹との4人家族であったと思う

普通の家族ではない

とあるマフィアの計画の1つに『優秀な者同士の間に産まれた子供は優秀な駒になるはず』という単純なものがあり、それによって産まれたのが私と妹だ

そう、一家全員犯罪組織の構成員だったのだ

父は武術家、母は暗殺者で、その双方の強さを併せ持った才能を持つ子供として誕生した

更に産まれた直後から両親や周囲の構成員による英才教育を受けさせられた

山を走っていたのはその一環で、共に走っていたのは妹を含めた同じ境遇の子供達だ

そうして数年も経てば一般の成人なら簡単に殺すことが可能な5歳児が出来上がる

当時の私達はそのマフィアが家で、構成員は家族だった

ナイフや銃を上手く扱えたり、技を綺麗に決めることが出来れば飴玉を貰えたりしたのでそれを良いことだと思っていた

中には傭兵やプロのスナイパーの間に産まれた子供もいて、100mの狙撃を100%成功させるような者もいた

今思い返してみるととても現実のこととは思えないが、あれは紛れもない事実だった

私がその場にいたのだから否定しようもない

しかし最も恐ろしかったのは…確か6歳になる頃だろうか

いくら才能ある子供とはいえ、無茶なことをさせられまくったので死ぬ者もいた

小学生にも満たない子供が雪山を走らされるのだ、死んで当然だろう

こうして生き残った子供達はある時1箇所に集められた

そこでとんでもない命令が下される

その場で全員に殺し合いをさせたのだ

最後に残った5人を組織の駒にするという

その命令や考え方も末恐ろしいものがあるが、それよりも異常なことが起きた

誰もその命令に疑問や抵抗を見せることも無く武器を構え、殺し合いを始めたのである

…無論、私も

私は当時から武器を扱うよりも素手の方が強かった為に武器は持っていなかった

それでも銃弾の躱し方なども教わっていたので次々と殺していった

辺りには子供の死体が転がり、地は血の海、空は血の雨が降っていた

暫くして生き残りも少なくなってきた時、私は妹と対峙した

妹は両手に小刀を握っている

彼女は子供達の中でも日本刀の扱いに長けており、扱える者が殆どいないと言われる二刀流を齢5にして扱うという天才だ

その刀身も血に濡れており、滴っている

私の手からも滴っているし人のことは言えないが…不気味だった

そして、私達は躊躇い無く殺し合いを始めた

双刃と双拳が交叉する

 

どれほど時間が経っただろう

お互い息も切れ切れで限界が近い

私は左腕を斬られて使えないし、妹の持つ刀の片方は私がへし折った

私達は最後の力を振り絞り、突進した

私の貫手が妹の頸動脈を狙い、妹の刀が私の頸動脈を狙う

あと1秒で互いに死ぬというその時、甲高い笛の音が鳴った

どうやら私達を含めて最後の5人になったらしい

私達は腕を降ろし、離れる

生き残ったのは私達姉妹と、銃の扱いに長けた女の子に槍を握っている男の子

そして…西洋の甲冑に身を包み、大剣を持つ男の子

彼とはこの先も長い付き合いになるのだが、この時は知る由もなかった

こうして生き残った5人の子供達は更なる教育を受け、優秀な人材として使われる…はずだった

しかしそうはならなかった

-離反者が出たのだ

先の殺し合いのあまりに凄惨な光景を見て、自分の子供を連れて組織から逃げた者が2名

それは他でもない、私達姉妹の両親であった

どうやら子育てをする中で情に目覚めていたらしい

そこに先刻のアレだ

耐えられず、私達を連れて逃げたのだ

このことはすぐに組織全体に伝わり、追っ手がかけられた

両親もかなりのやり手であるため、強者が送られた

多勢に無勢、その上私達を守りながらでは流石に不利すぎる

だから私達を単独で逃がし、追っ手を引き受けることにした

それから両親の行方は分からない

恐らくは死んだであろう

逃亡の途中、妹ともはぐれてそれ以来会ったことはない

しかし彼女の特徴を捉えた噂や情報が入ることはあるので、生きていると思う

生き別れた妹を探し、もう一度共に過ごすこと

それが私の今の目的であり、アークスになったのもその技術力を用いて妹を探すためである

 

その後も私は別の犯罪組織に拾われて結局は暗躍させられることになったし、それから先色々なことがあったのだが…ここで思考は止まる

 

何故なら眼前に原生種の爪が迫ってきたからだ

私はその腕を掴み、遠心力を利用し放り投げた

どうやら考え事をしている内に縄張りへと踏み込んでしまったらしい

こちらに危害を加える気はないとしても縄張りに入った以上そうも言ってられない

なるべく傷は付けないとして、取り敢えずここから離れなければなるまい

私は仕方なくカタナを抜き、戦闘態勢を取る

離脱に成功したらもう帰ろう

私はそう決めて原生種の集団に突進し、退路を切り開きにいく

 



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初めてのレンジャー

あれから1週間ほどが経った

オラクルに来てから結構な時が経ったおかげか、フォトンが身体に馴染み、射撃が出来るようになっていた

そこで今日は試験的にクラスをレンジャーという射撃クラスに変更し、任務に出ていた

ちなみにユカミはガンナーというもう1つの射撃クラスを主に使用している

レンジャーはライフルとランチャーを扱い中距離から遠距離戦闘を、ガンナーはツインマシンガン(二丁短機関銃)とライフルを扱い近距離から中距離戦闘を行う

ライフルなら私もそこそこ使用経験はあるが、フォトンを弾として扱うのでやはり勝手が少し違う

とは言えそこまでの差はない

基本的にはマガジンにフォトンの弾丸を込め、それをセットして撃つ

マガジンが空になったらリロードを行い、新しいマガジンをセットする必要がある

違うのはまず排莢がないこと

フォトンの弾であるためそもそも薬莢を必要としない

薬室に邪魔な物が残ることはないので排莢という考えそのものがない

そして持ち込むマガジンの数が非常に少ないこと

マガジンが空になろうとも身体のすぐ近くに、ポーチなどにしまっておけば纏ったフォトンにより自動的に弾を補充できる

ライフルに直接フォトンを送って撃ち続けることも可能だが、自身に負担がかかってしまうので延々と撃ち続けることは出来ない

主な違いはこの2点

フォトンの弾丸は形や大きさを変えることが可能なため、ある程度その場の状況に合わせた弾を用意することが容易に出来る

勿論、持っているライフルの構造によって制限はあるが

中にはスナイパーライフルのような大きなライフルで一撃の威力を強くする者もいるようだ

それでいてフルオート射撃も出来るというのだから恐ろしい

当然射手への負担は大きくなるだろうからそうそう気軽に出来ることではない

 

今回私は2つのライフルを用意してもらった

1つは標準的な性能のライフル

そして先の話に出てきたかなり大振りのライフルだ

こうも極端な物を持たせたのは、どちらの方が私に向いているのかを知るためだ

通常であれば素人がいきなり大きな銃を渡されても持つだけで大変だし構えることも出来ないが、私なら大丈夫だろうと判断したようである

 

私は大きい方のライフルを持ち、歩みを進める

場所は惑星リリーパの砂漠

砂漠と言っても砂しかないわけではなく、大地のある箇所も多いので歩くのに不便はない

結構大きな岩がある以外には遮蔽物も殆どないので狙いやすいし、この岩は身を隠すのにもってこいだ

リリーパには機甲種と名付けられた様々な機械達がいるのだが、砂漠地帯にはほぼ出てこない

代わりにダーカーが多く出現するため、武装の性能調査や今回のような場合には都合が良いようだ

因みにユカミはバックアップを担当してくれているので、同行はしていない

しかし…やはり大きすぎではないだろうか、この銃は

いくら私が高身長とは言え、対物ライフルの中でも大きいサイズの銃を個人に携行させるとは思わなかった

どんな素材で作られているのかは不明だが、地球のそれよりも軽いからまだいいが

そんなことを考えているとユカミから通信が入る

 

『前方2000m付近にダーカーの反応があります。注意して接近、射撃をお願いします』

「ここから狙撃するのは?」

『構いませんが、出来ますか?』

「やってみないことにはなんとも、ですね」

 

私は近場にある岩に登り片膝をつく

そのまま見降ろすようにライフルを構える

スコープを覗き、対象を見る

地球では700mのスナイプであればそこそこ命中させられるが、今回はその3倍ほどの距離がある

普通ならただ無謀なだけだが、何も考え無しにやろうと思った訳では無い

アークスの使う弾丸はフォトンであるため、使用者の力量にもよるが風などの影響を殆ど受けない

更に勢いが衰えて途中から放物線を描くこともない

つまり射程距離内であれば、放たれた弾丸は真っ直ぐに飛んでいく

この大きさだ、これなら地球のものでも射程距離3000mほどありそうだ

アークスの技術力を考えればもっとあるかもしれない

後は正確に銃口を向けてやれば良い

…よし

狙いは定まった

私は落ち着いてトリガーを引く

射撃音は思ったより小さく、重い音だった

放たれた弾丸は目標へ向けて飛んでいき、見事命中した

1発とは言えかなり威力の高い弾を受け、身体に穴が空き、霧散する

貫通した弾丸はそのまま地面に直撃し、大きく穿つ

残った数体のダーカーは混乱しているように見える

攻撃を受けたことは分かってもどこから、何で攻撃されたのか理解不能なのだろう

後で聞いた話だが今の私のようにスナイプショットを行うアークスはかなり稀である

だからこそ余計に何をされたか分からないようだ

しかし一撃の威力が大きいのは分かったが、これでは手間がかかる

フルオート射撃はこの大きさでは取り回しの面でやりづらい

少なくとも個人で任務に当たる場合には不向きだろう

扱うアークスが少ないのにも納得がいく

これなら取り回しがしやすいアサルトライフルの方がずっと楽だ

私はライフルを持ち替え、残ったダーカーへ接近する

ダーカーとの距離100mほどの場所で私は岩場の陰に隠れ、様子を窺う

まだこちらには気付いていないようだ

私はスタングレネードを取り出し、投げる

上に投げたグレネードは放物線を描き、ダーカー達の足元へ落ちた

次の瞬間爆発が発生、モロに受けたダーカーはスタン状態になり動けなくなっている

この隙を逃す手はない

私は岩場から飛び出して一気に接近、残ったダーカー達へ撃ちまくった

忽ち辺りには静寂が訪れる

やはりこの方が手っ取り早い

しかし接近しすぎた感じはする

普通アサルトライフルを扱うならそれなりに離れたところで撃つものだが、今私は最終的に10mほどの所まで接近してしまっている

例え銃を持っても接近したがる私にはレンジャーは向かないだろうか

ま、いいか

数日後にはガンナーを試験的に使用する機会もあるし、まだ始まったばかりだ

私はユカミに通信を入れ、任務を続行した

 

しかし私はこの後に最悪の出会いをすることになる

なぜ試験的に設定したクラスで試している時に出会うのやら…

前方に捉えたソレを見て私は溜息をつく

しかし文句も言ってられない、やらなければやられるのだ

私はライフルを構える

ソレの咆哮と私の銃撃が同時になされ、戦いの火蓋は切って落とされた

 



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大型ダーカー

私は行き止まりへと辿り着いた

そこは円形をしており、外側に岩が多少あるくらいでその他には何も無い

私は任務を切り上げようとユカミに通信しようとした

だが通信はユカミの方から入った

 

『マスター、地中にダーカーの反応があります!しかもこれは…』

 

ユカミが言い終えるより私の足裏が地面の鳴動を感じるのが先だった

地面の中を移動している、それも早い

そして私の真下にまで来たのを感じた

ー危険だ

私は直感的に危機を感じ取り、後ろへ跳んだ

次の瞬間、先程私がいた場所に何かが地面より飛び出した

その体躯は地上に出ている分だけでも大きく、地中にある部分も含めればどれほどの大きさになるのか想像もつかない

何よりの特徴は鍬形虫のような巨大な顎を持っていることだろうか

 

『そいつはグワナーダと呼称される、ダーカーの大型種です!』

 

遂に現れたか

いつ来るのかと思っていたが、まさかこんな時に来るとは

今日初めて実戦で扱うクラスと武器で戦うしかないので、苦戦しそうだ

 

「こいつの主な攻撃方法は?」

『見ての通りあの大きな顎で斬り裂いてきます。さらに地面へと潜り、奇襲をしかけてくる上に触手を地面から出して攻撃や拘束も行ってきます!』

「なるほど…地面に潜られてはこちらから攻撃も出来ませんし、中々に厄介な相手ですね」

『ええ、しかし隙がないわけではありません。奴の触手を地上に出ている間に破壊できれば奴は怯み、地上に柔らかい部位が出てきます。それを狙うのが一般的な倒し方です』

 

見たところ硬い外皮に覆われているように見えるが、それは普段から地上に出す部位だけだと言うことか

 

「分かりました、やってみます。ユカミは周囲の警戒をお願いします、何かに突然乱入されては困りますからね」

『分かりました、ご武運を!』

 

私は周囲の警戒をユカミに完全に任せ、意識の全てをグワナーダとの戦闘に集中させる

初めての大型ダーカーとの戦闘だ

その上こいつは地中に潜るという厄介な行動をしてくる

例えるなら蟻地獄の究極進化系といったところか

ここが円形で邪魔になる岩などがないところを見ると、こいつが破壊し餌場となるこの場所を整えたのかもしれない

つまりここは奴の独壇場、更に私の武装は慣れきっていないライフル

普通に不利だ

まずは相手の動きを見極めなければならない

私は観察を初めた

グワナーダが突進してきた

その大顎をこちらに向け、挟みこもうとしているようだ

当然挟まれてやる義理もない

私はそれを避け、尚も直進し続けるグワナーダに向けて発砲した

しかし、あまり効果はないように見える

やはりあの外皮に攻撃してダメージを通すのに、今の武装では力不足なのか

私が今持っているアサルトライフルは初期武装のようなものだ

小型ダーカーには十分だったが大型には効かないのか

大きい方のライフルであればダメージも通るかもしれないが奴の攻撃を避けながら扱うには少し大きすぎる

やはりユカミの言う通り地面から出てくる触手を破壊するしかないのか

しかし今のところそれらしいものは出ていない

奴にとって触手は攻撃手段であると同時に攻撃される部位でもあるのでそう気軽に出してはこないのだろう

しばらくの間グワナーダは突進や地面に潜って下から突き上げたりしてきたがその全てを躱し、少しだけ撃ち込んでいた

やがてこのままでは少しずつとは言え、自分の方が削られる一方だと悟ったのだろうか

私の近くに触手が出てきた

そのまま私へ向けて殴打をしてくる

当然私はそれを避けるのだが、そしたらその着地点にまた別の触手が攻撃をしかけてくる

…複数を同時に扱えるのか

そうして私の意識を本体から少しでも離してから本命の攻撃をしかけるつもりだろう

案の定、私が本体から目を離した瞬間奴はこちらに突進してきた

しかし私は地面の振動や音などで相手の位置を把握しているのでそれも躱すのに難はない

 

ーだが

私が着地した時足に何かが絡みついた

奴の触手だ

脚にぐるぐると巻き付けるのではなく、まるでクレーンゲームのように爪で私の足をがっちりと掴んでいる

拘束とはこういうやり方だったのか

てっきり巻き付けてくると思っていた私はその油断を突かれ、動きを封じられてしまった

全力で足を剥がそうとしてもびくともしない

ここでもたついていればすぐにグワナーダがあの大顎で挟みに来るだろう

私は自分も負傷する覚悟で足の触手に向けて銃を放つ

身体への負担はかかるが、奴の攻撃を受けるよりマシなのでライフルへ直接フォトンを補充し、撃ち続けた

それが功を奏したのか、拘束が剥がれる

私は急いでその場を離脱、間一髪で奴の大顎の攻撃を免れた

これは早急に触手の破壊を試みなければなるまい

私は攻撃対象を完全に触手へと定め、破壊していく

本体や他の触手からの攻撃を避けながらであるため、順調にはいかない

だが少しずつ削れてゆき、1本、また1本と破壊を完了していく

そして4本目を破壊した時、遂にグワナーダは怯み地中に潜んでいた柔らかい部位をさらけ出す

またとないこの好機を逃すわけにはいかない

私は大きいライフルへと持ち替え、フルオート射撃をする

5秒ほど撃ち続けていたが、奴は怯みから復活したようでまた潜ってしまった

あの1回のダウンで倒し切るつもりだったが、やはり出力が足りないか

グワナーダは私から離れた位置に出てきた

動きが鈍い

どうやら倒せはしなかったが、かなりのダメージは与えたようだ

それならもう一度同じことをすれば倒せるだろう

しかしそう上手くいくとも限らない、警戒は怠らないでおく

私はアサルトライフルに持ち替え、奴に少しずつ接近していく

奴には最早触手を自在に操る力も残っていないように見えた

それは私の見誤りだったのか、それとも最後の力を振り絞ったのか

グワナーダは大技をしかけてきた

顔がギリギリ出るくらいまで地面に潜り、待機する

その様は本当に蟻地獄のようだ

そして信じられないことが起こった

私の身体が、グワナーダに引っ張られている

足を踏ん張ってみてもダメだ

おそらくこのまま引っ張られれば、奴に挟み殺される

逆方向に走ることでなんとかその吸引効果に抗うことが出来た

しかし、それで終わりではなかった

今度は触手が地面から出てきて私へ攻撃をしかけてくるのだ

普段なら容易に避けられる攻撃も、こうも強烈に引っ張られている中では難しい

しかしこの触手を再び破壊できれば…私が触手を破壊するが早いかグワナーダが私を捕らえるが早いか

決死の勝負だ

私は外側に走りつつ触手目掛けて撃つ

しかし引っ張られている上に触手からの攻撃も避けなければならない

暫くはそうしていたがこれでは埒が明かない

そこで私は触手の攻撃に合わせて射撃することにした

そして一撃で破壊するため大きいライフルへ持ち替える

触手が私に伸びて来る度に特大の弾を放った

 

そうして暫くすると残り1本となった

ここで決めれば私の勝ちだ

私は最後の1本を撃ち抜き曝け出された弱点へ狙いを定める

銃を前方に突き出すように構え、フォトンを込めまくる

これはエンドアトラクトと呼ばれるライフルのPAだ

高出力の大きなフォトンの弾が貫通するので、連続でダメージが入りかなり強い

それを瀕死のグワナーダの弱点に撃ち込んだ

甲高い悲鳴を上げたグワナーダはそのまま動かなくなり、暫くすると霧散した

 

勝った…のか

一応警戒は解かずにユカミへ通信を入れる

 

「ユカミ、グワナーダの討伐に成功したようです。ここら一帯にダーカーの反応などはありますか?」

『いいえ、反応は完全に消失しました!お疲れ様です、マスター。周囲にも生物反応はありませんし、帰還をおすすめします』

「そうですね、流石に疲れましたし帰って休むことにしましょう」

 

私は迎えに来たキャンプシップへと乗り込み、帰路につく

 

それから数日はガンナーやファイター、ハンターといった別のクラスを試験的に使用して様々なクラスに触れていった

中でも扱いやすいかったのはブレイバーを除くと、ハンターとファイターだった

ハンターはソードが扱いやすかったしファイターはナックルが私の地球での戦闘スタイルに近かったのでしっくりきた

あとはバウンサーのジェットブーツだろうか

これは蹴りで戦うのでこれはこれで馴染んだ

しかしどれもカタナほどではないし、そのカタナにしてもまだ完全に私に合っている訳でもない感じがする

それをユカミやシャオに話すとどうしても違和感が消えないなら独自にクラスを開発するしかないとのこと

つまりは自分の戦闘スタイルをクラスにして他のアークスも使えるようにしなければならない

あまり私の技術を伝えるようなことはしたくないのだが…これから先どんな強敵が現れるかも分からない

その時に備えて作っておいた方がいいのかもしれないな

この時から私はクラス新設を考えるようになっていた

 



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思わぬ再会

新たなクラスを作ることを考えてから1週間ほどが過ぎた

私は武装をどうするのか、どのようにしてPAを発動させるのかなどをマイルームで考えていた

ユカミは鼻歌を歌いながら料理をしている

そのまま普通の、楽しい食事をするはずであった

しかしそれは唐突な来訪者により中断させられた

 

「緊急事態につき、失礼するよ」

「シャオ?いきなりどうしたのですか?」

「今言った通り緊急事態だ。このアークスシップに敵襲、アークスが対応しようとしたがアークスシップ内ではリミッターのせいで満足に戦えない」

「しかし緊急事態に於いてはそのリミッターを解除して戦うのでは」

「確かにそうだ。けど管制を乗っ取られているようでね、こちらからシステムにアクセス出来なくなってるんだ」

「…それってかなりやばいのでは?」

「その通り、そこでフォトンに頼らず戦える君に頼みたいんだ。僕はこれからなんとかしてシステムにアクセスして管制を取り戻す作業に入る。出来れば撃退して欲しいけど無理なら時間稼ぎでもいい、奴らと戦ってくれないだろうか」

「なるほど、分かりました。場所と敵の戦力を教えて貰えますか?」

「恩に着るよ。ショップエリアに2名だ、その内1人は大槌を持っている。あれにマトモに当たればタダでは済まないだろう、気を付けて」

「了解。ユカミ、留守を頼みましたよ」

「分かりました、お気をつけて!」

 

私はショップエリアへと急行した

するとそこにはアークスに囲まれた人物が2名

周りを取り囲んでいるアークス達は肩で息をしており、どうやら敵に傷一つ付けることは出来ていないようだ

しかし2人とも見覚えがある、特に大槌を持っている方は…過去に共に戦った覚えがあるような

まぁいい、私はやることをやるだけだ

ショップエリアは吹き抜けの3階構造をしている

私はその3階から2人を見下ろしている

そこから飛び降り、落下に合わせて身体を回転させて踵落としを放つ

 

「むっ!?」

 

直前で気付かれ、大槌で防がれてしまった

私は空中で背転して距離を離して着地する

 

「主は…まさか」

「お久しぶりですね、アラトロン殿」

「ほっほっほ…斯様な場所でお主と会うとは夢にも思ってなかったぞ、アウルよ。しかし懐かしいのぉ…お主と共に戦ったのは、はて何年前であったか」

「何年前でも良いでしょう、私は貴方を止めに来たのですから。今は敵同士、かつて共同戦線を張ったからといって懐かしんだり手心を加えたりすれば」

「死ぬ、と言いたいんじゃろう。全く、相変わらずおっかない奴じゃ」

「翁、この者は何者ですか。どうやらよく知っているようですが」

 

アラトロンの隣にいる人物が声を上げる

彼とは会ったことこそないが、知ってはいる

オフィエル=ハーバード、高名な医者だ

彼もアラトロンと同じ組織にいたのか

 

「オフィエルよ、この娘はアウルと言って儂の知己じゃ。かつては共に戦ったこともあるが今は敵対することになってしまったようじゃがの。」

「なればさっさと倒してしまえば良いでしょう。我らには会話を楽しんでいるような時間はないのですから」

「ほっほ、出来ればとっくにやっておるわい。しかしなオフィエルよ…この娘はあの魔人と真っ向から死合って引き分けに持ち込む実力者じゃぞ」

「…冗談でしょう?」

「紛れもない事実じゃよ、故に我ら2人が本気でかかっても勝てるかどうか分からん。正直退くのが正解じゃろうて」

「素直に退いて下されば何もしません、しかしあくまでも戦うと言うのなら…容赦はしません」

「これは困ったのぉ…はてさて、どうしたものか」

 

膠着状態が続く

私としてはシャオが管制を取り戻すまで時間を稼ぎ、これ以上の被害が出ないようにすれば十分だ

だからこのままお互い動かない時間をなるべく長く引き伸ばし、何もないまま撤退させられれば勝利である

しかしそれは向こうも分かっているだろう

私ではなく周囲のアークスへ攻撃をしかけて守ろうとする私に隙を作る、といった戦法を取られても面倒だ

アラトロンは正面からやり合うのが好きなためそんなことはしないだろうが、オフィエルに関してはよく知らないので警戒しておくべきだ

私は周囲にいるもの全員へ聞こえるよう大声で呼びかける

 

「ここは私に任せて皆さんは一般市民の避難誘導に当たって下さい!!」

 

私の言葉に1人、また1人と移動を開始した

これで周囲に被害が及ぶことはないだろう

 

「真っ向から勝負しても勝てないのなら、数で押し切りましょう」

「そんな単純な相手ではないんじゃがな…まぁ、それしかあるまいて」

 

2人は瞬間移動して、宙に浮いた

その足元には魔法陣のようなものがある

マザークラスタはあんな技術まで開発してたのか

そして私の周囲に…青い人型の化け物が現れた

これはエーテルによる具現術か

地球にはフォトンに良く似たエーテルというエネルギーがある

これは主に通信技術に使われているが、1番の特徴は本来この世にないものを具現することが可能なことだ

今私の周囲に出現したのもエーテルにより具現させたものだろう

召喚術紛いのことまで出来るとは思っていなかったが

観察した限りでは動きは遅く、これなら苦戦などしないだろう

しかし…数が多すぎる

この数に一気に来られてはこちらが不利だ

あちらもそのことが分かっているのだろう

こうして一対圧倒的多数の消耗戦が始まってしまった

 

斬撃や射撃が飛び交う中、私はその全てを避けつつ各個撃破していく

倒し続ければいつかはいなくなるが…流石に骨が折れるな、これは

 

「ぬあぁぁぁ!!」

 

上から雄叫びが聞こえると同時に闘気を感じた

私は後ろ回し蹴りで周りにいるものをなぎ倒し、出来たスペースに逃げる

次の瞬間私がいたところにアラトロンの大槌が振り下ろされていた

 

「お主の戦っておるところを見ておったら身体が疼いてのぉ…どうにも我慢できずに降りてきてしまったわい!」

 

この大軍に加えてアラトロンを相手にしなくてはいけないのか…

 

「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!マザークラスタ土の使徒、アラトロン=トルストイ。いざお相手仕る!!」

 

厄介なことになった

どうしようか悩んでいたその時

 

「アークスの皆、管制を取り戻したよ。さぁ、侵入者を追い返すんだ!」

 

アークスシップ全体にシャオからの放送が入った

こうなれば皆ここに戻ってきて一斉に加勢してくれるだろう

もっと早くにアラトロンが動いていれば危なかったかもしれないが、なんにせよ耐えきることが出来た

私の勝ちだ

 

「馬鹿な、マザーから管制を奪い返しただと!?」

「やれやれ、ここからが良いところじゃと言うのに…今度こそ本当に退くぞ、オフィエルよ。アウルや、お主とはちゃんとした形で死合ってみたくなった。また相見えようぞ!」

 

そう言って彼らは消えた、エーテルによって具現された化け物共を残したまま

どうせなら消して行ってくれれば良いものを…面倒な

しかし数多のアークスが押し寄せ、一気に排除に加担したことによりすぐに全て片付けることが出来た

 

その後私に感謝の言葉が沢山来たのは良いのだが、フォトンを扱えない状態での戦闘も出来るようにしなければならないという考えが広まった

勿論私に教えてくれという声がとても多く、毎日のように人が来るので心休まる日がない

そんなに沢山の人に私1人で教えるのはそもそも無理がある

それに…私の持つ技術は正直あまり伝えたくはない

だからこれまで弟子を取ったこともないし、取る予定もない

私の力は犯罪組織に属していた武術家と殺し屋の両親から教わり、その後別の犯罪組織で研鑽されていったものだ

正しき心を強靭な精神力で保たなければすぐに病んでしまう

何しろ…人を壊す技しかないのだ

殺す殺さないは関係ない

身体を再生不可能なほど壊してしまえば…ソレを生かす場合かなりの金がかかる

死なせる場合は批評を買う

どちらにせよ殺す以上の成果が得られる

勿論依頼が殺害であれば殺すが

要するに私の力はそういう類のものだ

そうほいほいと教えられるものでないことは理解できると思う

ちなみに私が制御出来ているのは心が強いとか正しいとかではない

単に最初からそれしか知らなかったから平気なだけだ

もし私が弟子を取るとなればその者は武の才能が秀でてるのではなく、心の強さが尋常ではない者しか有り得ない

 

しかしフォトンがない状況下での戦闘技術が必要という理屈は分かるし私もアークスを利用して己の目的を達しようとしている

ただ拒否するだけで終わらすわけにもいくまい

そこでシャオからこんな提案があった

それは

 

 

私のみフォトンを扱わず三英雄と同時に戦い、戦い方、力を示す

 

 

というものだった

三英雄…守護輝士と並び伝説と言われる3人のアークス

そんな者達と生身で戦うのか

まぁいい、それで少しは私の元へ来る者が減るならばやろう

こうして新たな伝説として語り継がれることになる模擬戦が始まろうとしていた

 



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三英雄VSアウル

マザークラスタ襲撃から1週間が過ぎた

私は今模擬戦用の特別な空間にいる

シャオの提案通り三英雄と戦うことになったのだ

私が先に待機しており、後から三英雄が来た

 

「君が件のアウルか。まずは先のアークスシップへの襲撃より皆を守ってくれたこと、礼を言わせて欲しい」

「そうですね。我々アークスはフォトンを扱えないと何も出来ませんから、あの場に貴方が居て下さらなければどうなっていたことか」

「何でも大量の幻創種を相手に1人で戦ったそうだな!その強さ、素直に賞賛に値するぞ!」

 

白い装甲が栄えるキャスト、レギアス

高身長で細身のニューマン、カスラ

しかしもう1人は…筋骨逞しい漢?

三英雄のクラリスクレイスはまだ年端もいかない少女だと聞いていたのだが

 

「ん?どうした、俺の顔に何かついているか」

「大方貴方が誰か分からないのでしょう。すみません、本来ならクラリスクレイスが来るはずだったのですが、今彼女は任務で遠征していましてね。今日ここに来ることは出来なかったので代わりに彼に、ヒューイに来ていただきました」

「なるほど、そういうことでしたか」

「疑問は晴れたかね。では―」

 

レギアスは何やら小さな端末のようなものを取り出す

そしてその中に手を入れたかと思うと…なんとそこからカタナが出てきた

その刀身はまるで銀河のように美しい

カスラも宙空からオウム貝のような武装を取り出す

ヒューイはその両手に燃え盛るナックルを装着した

 

…終刀・創世、燐具フローレンベルク、破拳ワルフラーン

六芒の持つ特殊な武装、創世器か

詳しくは知らないが、これを出すということは本気ということか

それに対し私は生身

フォトンもなければ武器の1つもない

誰もが圧倒的不利…だと思うだろう

しかし私に取ってはそれこそが最も得意とするスタイルなのだ

拳銃とナイフを使うのも良いが、やはり私は徒手空拳が合う

それに私はここオラクルのアークスが取る戦い方を知っている

だが彼らは地球の、何より私の本来の戦い方は何一つ知らないはずだ

そこに勝機はある

そこにシャオの放送が入る

 

『双方、準備は良いかな。この模擬戦は全アークスシップへ生中継されている。アークスの皆はアウルの動きを良く見て、生身での戦い方の参考にしてくれ。そして君達は…相手が死なない範囲でなら何をしても良いよ。それじゃあ、そろそろ始めようか。アウル、頼んだよ』

 

私はポケットからコインを取り出し、指で弾いた

戦闘開始の合図はこの地球式ですることになっていたのだ

私はシラットの構えを取る

これなら絶対に見たことはないだろうから不意を突けるだろう

コインがゆっくりと落ちていき、段々と地面へ迫っている

彼らも構えており、開始と同時に攻撃する意思が感じられた

そしてコインが、地面に触れた

その瞬間私はレギアスの眼前に移動し、関節を取って破壊を試みる

レギアスは当然逃れようとするが、アークスは関節技などほとんど使わないので対処の仕方が分からないのだろう

逃げるどころか余計に極めやすくなった

そしてレギアスの右腕の破壊に成功した

一瞬の出来事であったのと私の技法、力量を彼らが測りかねている初撃だからこそ出来ることだ

そのまま左腕も破壊したかったのだが、流石にそこまで甘くはないようだ

ヒューイが突進しながら拳を突き出してきた

かなりのスピードだ

ギリギリで躱したが、拳圧により発生した風で切り裂かれるかと思うほど鋭い

 

「大丈夫か、レギアス!?」

「問題ない、とは言えぬな。少なくとも右腕はもう使えないだろう」

「これは回復テクニックでも直せそうにないですね…あの一瞬でここまで破壊するとは、恐ろしいですね」

「そんな会話する余裕があるのですか?」

「なっ!?」

 

私は話しているカスラの後ろに周り込んでいた

そのまま後ろから心臓の位置目掛けて貫手を放つ

カスラはフォトンを利用してミラージュステップと言われる回避行動をとった

1秒ほど姿が完全に消え、離れた位置にまた現れる

避けられた…が、完璧ではなかったようだ

 

「ぐっ…」

 

カスラの背中から血が流れる

私の左手の指にも血が付着している

 

「素手でフォトンの壁を突き破り、肉を抉ったですって?何をどうしたらその様なことが…」

「皆よ、バラバラに戦ってもまず勝てないであろう。力を合わせるぞ」

 

レギアスがそう言うと3人が固まる

カスラは回復テクニックを使い、もう傷を治してしまっている

どうやら一定以上のダメージを与えないと容易く回復されてしまうようだ

ならば蓄積させるのではなく一撃で大きなダメージを与えれば良いか

 

「しかしさっきカスラに傷を負わせた時、確かにアウルは俺達の正面にいたよな。それが何故後ろにいたんだ?」

「分かりません、まるで分身したように感じました。フォトンを使ってもあんなことは出来ないはず…」

「恐らくは地球に伝わる秘技であろう。今ここで詮議しても無意味だ。今はただ、彼女を倒すのみ」

 

レギアスが左腕で創世を構える

ヒューイとカスラもそれに倣う

暫くお互いに静止した

このままでは勝負は決さない

…動くしかないか

私はわざと大袈裟に真っ直ぐ突っ込んだ

当然それを見逃す彼らではない

レギアスがカタナを振り、ヒューイが拳を撃ち込む

そしてカスラもテクニックを放ってきた

誰の目にも明らかに当たると思われた

しかし、彼らの攻撃は空を切る

私は途中から突っ込むように見せかけて全力で後ろに下がる、という体捌きをしていたのだ

その結果私の目の前にそれぞれの攻撃が放たれ、一瞬だが彼らに隙が出来る

まずはダメージを与えているレギアスを行動不能に追い込むのが先決だろう

数を減らせばそれだけでかなり楽になる

私はレギアスのカタナを右足で踏み、そのまま勢いをつけて顔面に回し蹴りを放った

だが直前で脱力し、姿勢を崩すことでレギアスはそれを避けた

こうなるとむしろ私に隙が出来てしまう

その隙を突いてヒューイが攻撃を仕掛けてきた

裂帛の気合と共に放たれた拳が唸りをあげて迫ってくる

この体勢からでは避けるのは不可能だ

私は全身を勢いのついた独楽のように回転させる

この回転力で衝撃を弾いたり、力の方向をずらしてダメージを緩和するのだ

ヒューイの攻撃の威力は凄まじく、弾くことは出来なかったが、それ故に力の流れをずらすのは容易である

更に私はその拳を脱力したレギアスの方へ向けた

ヒューイが私を一撃で仕留めようとした攻撃が、負傷した上に力を抜いたレギアスの身体にマトモに当たれば…行動不能に出来るだろう

しかしそれはカスラによって邪魔された

炎テクニックの小さな爆発を起こしてヒューイの拳の向かう先をずらしたのだ

威力だけでなくこの様な繊細な技術も使える、だからこその三英雄なのか

ともかくこのまま接近したままでは私が危ない

安全を確保するためには離れなくてはならないが、それはあちらも分かっているだろう

だから私は敢えてそのまま攻撃に転じた

今体勢が1番崩れているのはヒューイだ

私に力の流れを変えられた上にカスラのテクニックで更にずらされている

その隙を逃す手はない

私はヒューイに向けて貫手を連続で放つ

ヒューイはその連撃を防ぐので手一杯になっている

一切の加減なく放っているのだが、これを受けきれるのか

どうやら思っていたよりも素の身体能力にも秀でているようだ

そんな私のガラ空きの背中へレギアスがカタナを振り下ろそうとした

かかった

私はヒューイの方を向いたまま半歩下がり両腕を真後ろに向けて突き出し、レギアスへ手首の裏を当てた

私の攻撃をマトモに受けたレギアスは後ろへ吹っ飛び、場外へと落ちた

そのままではヒューイから反撃をされかねないのでまた連撃を叩き込む

カスラも攻撃をしようとしてはいるのだが、私とヒューイの距離が近いために下手にテクニックを使えないでいる

例え座標系のテクニックであっても物凄く近くにいるものには当たってしまう

今の私とヒューイの距離はほぼゼロである

私の腕の半分より短い距離しか空いていない

こうしてテクニックを使えなくしてやればカスラは封じたも同然…だと思っていたのだが

視界の端でカスラが武装を変えるのが見えた

次の瞬間私へ射撃が飛んでくる

予期せぬ攻撃に体勢を崩しかけたが、なんとか回避して距離をとった

躱しきることが出来ず、腕にかすってしまった

 

「確かにそこまで接近されていれば私はテクニックを使えません、それで私の行動を防ごうとしたのはお見事です。中々目の付け所が良い。しかし残念ながら私はテクター/レンジャーなんですよ。サブクラスとしてレンジャーを設定している、つまりはこういうことも出来るということです」

 

カスラの手にあるのはテクニック用のタリスではない、ガンスラッシュと呼ばれる斬撃と射撃が両方可能な特殊な武装だ

カスラはどちらかと言うと事務方であまり表に出てこないので情報があまり入らない上にフローレンベルクのせいで完全にテクニック一曲型だと思っていた

私もまだ油断することがあるのか…精進しなければ

 

そこからは激戦となった

どうやら彼らも私のスピードに慣れてきたようだし、技法も少し分かってきたみたいだ

だからこそ慣れていないうちにレギアスを退場させられたのは大きい

彼も健在で慣れられていてはかなり厄介であったろう

やはり最初に1番厄介な者を狙って良かった

ヒューイと直接撃ち合っていればカスラの邪魔が飛んでくるしカスラを狙えばヒューイが間に入ってくる

ヒューイに超接近した場合はガンスラッシュの射撃が、少し離れればテクニックが飛んでくるしでやりづらくてかなわない

…そろそろだろうか

私はここまで敢えてシラットというトリッキーな動きをする武術を使ってきた

これは目が慣れていないうちに1人を倒す以外にも目的がある

私は地球の古今東西、様々な武を教わっている

そのことを利用し、彼らがある程度慣れたところでいきなり全く違う動きをするものへ切り替えれば新たな隙を作ることが出来るだろう

私はヒューイへ急接近し、また貫手の連打を放つ

 

「またそれか、いい加減慣れてしまったぞ!」

 

本人の言う通り完璧に防御されてるし反撃までしてきた

だがそれでいい、慣れてもらわなくては困るのだ

カスラが銃を放つ姿勢を取る

ここだ!

私は唐突に動きを変えてヒューイの腕を掴んで私の方へ引っ張り、同時に足を引っ掛けて身体を反転させる

私の狙い通りヒューイは体勢を崩した上にカスラの銃撃を喰ら…うことはなくワルフラーンで防いだ

この瞬時の対応力は流石だ

しかし体勢を崩していることに変わりはないし、私は腕を掴んでいる

となればすることは1つ

私はそのままヒューイの身体を持ち上げ床に何度も叩きつける

毎回力の方向や投げ方を変えているので対応することが出来ず連続で投げることに成功した

カスラが射撃をしてきたがそれを逆に利用し、ヒューイの身体で防ぐと同時にダメージを与えさせた

テクニックを使っても同じようにしてヒューイにのみダメージを蓄積させるつもりだ

それを察したのかカスラは攻撃をやめ、ヒューイに回復テクニックを使用してなるべくダメージが蓄積しないようにしている

私も何度か使ったことがあるので分かるが、テクニックの使用にはかなりの集中力が必要だ

そのためどうしても隙が生じる

その隙を突き、私はヒューイを遠心力で放り投げてカスラへと当てた

2人は吹っ飛び、壁へと激突する

カスラは割とすぐに立ち上がったが、ヒューイは立てないでいる

いくら回復テクニックで傷を癒していたとは言え、何度も投げられ叩きつけられたことによる身体内部へのダメージは回復しきれなかったのだろう

それに加えて私が蹴りなどによって脳を揺らしていたのでそのダメージが非常に大きい

立ち上がろうとするも、途中で倒れてしまうのを繰り返している

カスラはヒューイのことが気になるようだが私から目を離せば一瞬の内に接近されてやられると予想したからか私の方しか見ていない

 

「ヒューイ、大丈夫ですか!?」

「ぅ…ぐ、お…ぉぉ………」

 

ヒューイはマトモに喋ることも出来ないほどのダメージを負っている

流石に少しやりすぎただろうか?

あれでも加減はしたのだが、加減をし過ぎても今度はダメージが通らなくなるので調整が難しい

特にヒューイはかなり頑丈な肉体を持っていたし、フォトンによる防御も厚かった

だからそれなりに手加減を弱めたのだが…まぁ立ち上がろうとすることは出来ているし、大丈夫だろう

 

これでヒューイも戦闘不能、残るはカスラだけだ

私は彼に問いかける

 

「まだ戦いますか?正直これ以上傷つけたくはないのですが」

「これだけやっておいて良く言えますね、随分と残酷な手段を取っているように思えますが」

「それが本来の私のやり方ですからね。殺さず、後遺症も残らないように手加減するのも難しいんです。今までは上手く行きましたが次も上手くいくとは限りませんよ。殺しはしないでしょうが、後遺症が残るかもしれません」

「くっ…」

「どうしますか?」

「…分かりました、降参しましょう。私は2人のように白兵戦をすることは出来ませんし、貴女が相手では不利です。おまけに最近事務作業ばかりしていたせいか鈍ってしまったようです。たまには運動もしないといけませんね」

「ありがとうございます。シャオ、聞いての通りです」

『そうだね、これ以上続けてもあまり意味はなさそうだしここらで終わりにしようか。勝者はアウルだ、これにて三英雄対地球人の模擬戦を終了する』

 

私はヒューイの元へ駆け付け、様子を見る

呼吸、脈拍ともに異常はない

瞳孔の拡大は見られるが、これはじきに治まるだろう

しかし万が一がないとは言えない

私はヒューイの身体を抱え、カスラに頼む

 

「すみませんが、医務室への案内と取り計らいをお願いできませんか?」

「お安い御用ですよ、こちらです。それにこの模擬戦では怪我人が出ると予想されていましたから既に準備は整っているはずです。手配しておきましたからね」

 

流石だ

事務作業では彼の足元にも及ばないだろうな、私は

レギアスの機体は場外へ吹っ飛んだあとすぐに待機していた技術スタッフが運んでいる

これもカスラの手配によるものだ

 

ヒューイを医務室へと運んだので帰ろうとしたら呼び止められた

 

「貴女も一応検査だけでもしていかれては?ヒューイの拳が何発か入っていたでしょう」

「見えていたんですか…本当に鈍っているか、怪しいですね」

 

カスラの言う通り、実はヒューイと白兵戦を行っている時に数発受けているのだ

全て軸をズラしたのでほとんどダメージは残っていないが、マトモに当たっていれば一撃で私は沈んでいただろう

見抜かれてしまったし、私も万が一があるかもしれないので今日は世話になることにした

異常がないか完璧に調べ上げるのでここで泊まっていかなければならないらしい

今日はユカミの料理を食べることは出来ないのか、残念だ…

そんなことを考えながらベッドに横になると、流石に疲れたのかすぐに眠気がきた

明日はヒューイとレギアスの様子を見に行かないといけないだろう

それに新しいクラスをどうするかも考えなければ…ダメだ、眠い

色々と考えなければならないことはあるが、取り敢えず今は寝よう

明日のことは明日になってからやればいい

そう決めて私は意識を眠の中へと落としていった

 



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束の間の平和 前

模擬戦を行った翌日、私はまずヒューイの元を訪れていた

同じ医務室に居て近かったためだ

 

「失礼します。ヒューイさん、大丈夫ですか?」

「おお、アウルか。先日の模擬戦はお疲れ様だ!」

「お疲れ様です。しかし少しやり過ぎてしまったと思いますし、謝罪させて下さい」

「はっはっは、気にするな!俺はお前の強さに感激すると同時に感謝しているのだ。俺もまだまだ強くなれるし、一から鍛え直したいと思えたからな!」

「…強いですね、貴方は」

「まぁなんだかんだ言って俺もアークスの代表のようなものだからな。皆の前に立ち、導いてゆかねばならん。なればこそ、強くあらねばな!しかし本当に強いな、流石に手も足も出ないとは思わなかったぞ」

「それはアークスがダーカーを相手にすることを前提に研鑽を積んできたからです。それに対して私は人間を相手にすることを前提として学んできました。その違いによるところが大きいでしょう」

「なるほどな…言われてみれば最初にレギアスの右腕を破壊した技や俺を床に叩きつけた技なんかは見たことも聞いたこともないものだった、あれは何なんだ?」

「あれは関節技と投げ技ですね。詳しくは言えませんが、どちらも地球に伝わる技です」

「なるほどな…俺の知らない技も沢山ありそうだ、もし良ければ教えてくれないか!」

「ごめんなさい、私の技は全て人体破壊に特化したものですのであまり教えたくはないのです。こんなものを伝え、広めてもろくなことがありません」

「そうか、それは残念だ。それで、レギアスのところにもいくのか?」

「ええ、彼にも謝らなければなりませんしね」

「あいつもそんなこと気にしていないと思うぞ。むしろ教導部司令として示しがつかない姿を見せた、とか言うだろうさ。」

「そうだと良いのですが」

 

私はヒューイに別れを告げ、レギアスのいる技術治療室にいった

技術治療室は言ってしまえばキャストの病院のようなものである

そこでレギアスは修理を終えて右腕の稼働チェックをしていた

 

「おはようございます、レギアスさん」

「…ん?あぁ、君か。先日の模擬戦では世話になった」

「こちらこそ。それよりごめんなさい、その右腕やり過ぎてしまいました」

「そのことか。気にすることは無い。ある意味未知なる者との戦いだったのだ、我らも傷を負うことは覚悟していたさ。それに教導部司令として、此度の模擬戦は非常に参考になるものだった。むしろ感謝しているよ」

「そう言って頂けると助かります。それで、右腕の動作は問題ありませんか?」

「あぁ、これといって支障はない。君こそ、あの後怪我などしなかったかね?」

「問題ありません。一撃たりとも急所に貰う訳にはいかなかったのでかなり本気で躱してましたしね」

 

そう、あの時一撃でも急所に喰らっていれば私の負けだった

いくら身体が頑丈でもフォトンによって強化された攻撃を受ければ只ではすまないし、更に創世器だ。アークスの使う武装の中でも特に強力なものだったので、たった一撃でも急所に入れば私は戦闘不能に陥る

ヒューイの拳打も軸をずらして急所から外し、更に勢いを削いでいなければ危なかった

それでもあの時私は一瞬倒れそうになるほど強力だった

 

「なるほど…いくら君が身体能力に優れていると言っても限界はあるということか。しかしそれでも…私は恐ろしいと感じたよ。最初に接近してきた時、私は油断などしていなかっと思うがそれでも君の動きが見えなかった。更に私を吹っ飛ばしたあの攻撃…真後ろに向かってどのようにすればあれ程の威力が出るのか、私には理解出来なかった」

「フォトンがなかった分私は身体の動かし方や力の出し方、伝え方についてかなり詳しく学んだだけですよ。それらを駆使しなければ貴方達を相手にするなど到底出来ませんでしたし…」

 

実を言うと私は割と本気だった

普段は相手を壊してしまわないよう結構手加減するのだが、今回はそんな余裕がなかった

…流石にヒューイを投げ飛ばし続けた時は本気でするわけにはいかなかったが

奥の手を使うことはなかったものの久しぶりに本気で戦った気がする

 

「そうか、君も全力だったのだな」

「勿論です。今回私が勝てたのは単に相性が良かっただけです。私がオラクルで生まれ育っていれば負けていたかもしれません」

「君はアークスの戦い方を知っているが我らは君の戦い方を知らない…ということか」

「更にダーカーを相手にするか人間を相手にするか、という前提の違いですね」

「なるほど、合点がいった。だが君の実力がなければ無理であったことも確か。その強さ、そしてそこに至るまでの努力は素直に賞賛したい」

「ありがとうございます。しかしそれはお互い様ですよ。相性が良かったにも関わらず私は本気を出さなければなりませんでした。それは貴方達の強さが本物であったが故です」

「そう言って貰えると助かるよ」

 

私はレギアスと握手をして技術治療室を後にした

さて、どうしようか

傷は癒えたとはいえまだ戦闘行為を行うのは危険だろう

となれば任務に行くことも出来ない

…ユカミを誘ってショッピングにでも行こう

これまでそこそこ任務をこなしてきたし、今回の模擬戦のように特別に何かを頼まれることも何度かあった

それに対する報酬も貰っているのでそれなりにメセタに余裕はある

私好みの家具や服を揃えるのも良いだろうし、任務の助けとなるようなものがあれば欲しい

そう思った私はユカミの待つマイルームへと歩を進めた

 



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束の間の平和 後

私はユカミと市街地を歩いている

市街地の中でも繁華街にあたる地域である

今日は少し女の子らしくお洒落をしてみた

レースが可愛らしいノースリーブの白シャツに黒のリボンタイを付け、ボトムスには少し暗い緑色のガウチョパンツを持ってくる

足元にはシンブルにブラウンのミュールを合わせる

後は同じくブラウンのショルダーバックを斜めにかけて、細身の赤縁メガネで完成だ

私は別に視力が悪いわけではない、というかかなり良いので度は入っていない

所謂伊達眼鏡だ

 

「マスター…とっても可愛らしいのです!」

 

…とユカミは言ってくれた

私も結構冒険した方だと思う

普段こんな風にお洒落、というか女の子らしい格好をしないのでなんだか落ち着かない

対してユカミはブラウンととても薄い黄色のボーダーカットソーに少し薄めの青いデニムジャケット、そして白のショートパンツを着ている

靴はブラウンのブーツだ

 

2人してお洒落をして街をぶらつく

まるで普通の女の子になったような気分でテンションが上がっている

まずは服屋さんに行って服を見る

私とユカミはお互いを着せ替え人形にして楽しんだ

やはりユカミには可愛らしい服が良く似合う

特にワンピースが1番だ

私はどちらかと言うと格好良い系や大人っぽいものの方が合う

対極な私達は傍から見たら仲のいい姉妹のように見えただろう

私は黒のテーラードジャケットを、ユカミは赤のフレアスカートを買った

 

そして少し早いがランチにすることにした

落ち着いた雰囲気の喫茶店へと入る

私は茸のリゾットを頼み、ユカミはサンドイッチを頼んだ

ハイキャストであるユカミは普段燃料オイルを補給することが多いが、時にはこうして人間と変わらない食事をすることもある

珈琲を一口飲む

程よい苦味と深い味わいが口中に広がり、気分が落ち着く

ユカミはメロンソーダフロートを美味しそうに飲んでいる

 

食事を終えた私達はその後家具を見に行った

私が欲しいのはベッド、椅子、机の3つ

それから出来れば武器を簡単に取り出せる、いわば刀掛けのようなものがあれば欲しい

色々見て回ると良い感じのものがあったので買うことにした

しかし武器に関するものはやはりアークス向けの店でなければ置いてないようで手に入れることは出来なかった

その後もアクセサリーや置物などの店を見て周り、良い時間になったので切り上げて帰ることにした

 

帰ってきた私達はまずは買った家具を設置することにした

テラスに当たる場所に椅子と机を配置し、リラックス出来るデッキチェアーも単体で2個置いた

またベッドもユカミと私の部屋それぞれに設置した

因みに部屋を追加したり、広くしたりなどは既に行っている

2人で使うには初期状態のマイルームでは流石に狭すぎたのだ

ひとまずはこれで良いだろう

他の細かい家具などはまた余裕の出来た時に追加していけば良い

夜ご飯はフランカカフェで食べることにし、少し休憩していた

その時シャオからメールが届いた

シャオは日常的なことで連絡は寄越さないので何かがあったのだろう

メールを開いてみると明日昼過ぎに会議室に来て欲しいとのことだ

とは言え任務の依頼ではないし、そこまで緊急を要するものではないと思われる

 

この時はそう捉えていたが…実際は私が思っていたより余程重要で、アークスが新たに抱えた問題の最終局面へと深く関わることになるのだった

そうとは知らずシャオに返信をした後、ユカミとカフェへ行った

ここから私はアークスになって以来、下手をすればこれから先もここまで大きな戦いはないのではないかと言うほどの戦いへと巻き込まれていく―

 



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激戦の始まり

翌朝、私はユカミと共に特別会議室へと赴いた

中にはレギアス、マリア、カスラ、ゼノ、クラリスクレイス、ヒューイという創世器を持つかつて六芒均衡と呼ばれていた者達に加え、シャオがいた

 

「やぁ、アウル。そこに座って少し待っていてくれ。あと3人来たら全員集まるから、そしたら話を始めるよ」

「分かりました。しかし随分と大人数なんですね」

「それだけ此度の作戦は重大だと言うことだ」

 

レギアスが答えてくれる

何があるのか気にはなるが残りの到着を待つしかあるまい

 

「おい貴様!貴様がアウルなのか。ヒューイから聞いたんだが貴様、物凄く強いらしいな。その内私とも模擬戦をしてくれ!」

「機会があれば」

「ん?なんだかやりたくなさそうだな」

「戦うのは好きではないので…可能なら戦わずに済ませたいというのが本音です」

「なるほどな、そういうことか。それなら無理強いはせん。しかし気が向いたならいつでも言ってくれ!」

 

クラリスクレイスは言葉遣いこそ乱暴だが、相手を気遣う気持ちがないわけではないようだ

むしろとても優しい心の持ち主ではないのか…と直感した

 

「皆さんお待たせしてすいません。守護輝士のお2人をお連れしました!」

 

その時扉が開いて誰かが来た

 

「待ってたよ、シエラ。それに守護輝士の2人」

 

守護輝士…あれがそうなのか

そしてシエラと呼ばれた女性は、おそらく1機目のハイキャストだろう

 

「シエラさん、お久しぶりなのです!」

「ユカミさん!お久しぶりです。元気にしてましたか?」

「はい、とっても元気なのです!」

「それは良かったです」

「再会を懐かしむのも良いけど、話を始めても良いかな?」

「あぁ、そうでした!ごめんなさい」

 

シエラが謝り、守護輝士達も席に着く

ユカミも申し訳なさそうに頭を下げた

 

「さて、揃ったことだし話をさせてもらうよ。今回集まってもらったのは他でもない、少し前に襲撃をかけてきたマザークラスタのことだ。アウル、君は確か彼らと面識があったね」

「えぇ。とは言っても1部の人だけなので内部構成までは知りません」

「なるほどね。ではそのリーダー的な存在である『マザー』と呼ばれる者については?」

「彼女ですか…えぇ、知っています」

「彼女の目的については…知っているかい?」

「いいえ。ただ酷く悲しくて苦しい、そして…とても激しい怒りを抱いているように見えました」

「それは概ね当たっているね。マザーは自らを生み出し、そして失敗作として廃棄したフォトナーへの復讐をしたがっている」

 

フォトナー…確かアークスを生み出した人種で今は絶滅していると聞いているが

話によるとフォトナーは全知全能の存在を自分達の手で作り出そうとしていたらしい

そしてその試作型がマザーだという

しかしそれはフォトナー達が夢見たものとは違ったため、別宇宙に遺棄されたようだ

その身勝手なフォトナーに復讐心を抱き、それを為すための手足としてマザークラスタという組織を作ったのだという

 

「なるほど…そういう経緯があったのですか」

「そうらしい。これは君とはまた別の地球人から得た情報なんだ」

「しかしそのフォトナーはもう絶滅していると聞いています。まさかマザーは復讐の対象を変えて…いえ、フォトナーに関するもの全てを消そうとしているのでしょうか」

「そういうことだね。マザーの怒りは当然のものだし、全面的にフォトナーが悪い。復讐されても文句は言えないだろう。でも…」

「アークスの責任ではないし、攻撃されて黙っている訳にもいかない、ですか」

「その通りだ。そして君には守護輝士の2人と件の地球人と共にマザークラスタの本拠地へ行き、対処して欲しい」

「…わざわざ本拠地に乗り込む必要があるのですか?それではまるで戦争でも始めようとしているように見えますが」

「正直なところ、単にマザーが攻撃してくるだけなら身を守るだけでも良いんだけどね…そういうわけにもいかないんだ。仲間を救出しなければいけないこと、このままマザーを放置しておくと地球が危ないことなどが主な理由だ」

「なるほど、そういうことですか。それで、具体的にはどのように?」

「いくら戦闘能力が高いと言っても君はまだ新人アークスだ。難しいことは守護輝士の2人に任せて君はただ戦ってくれれば良いよ。現場の指揮も守護輝士に一任する」

「分っかりましたぁ!お任せ下さい!」

 

とても元気の良い返事だ

ショートヘアーの蒼い髪、翠の瞳が印象的な少女

彼女は守護輝士の1人でアークス内では生ける伝説として祭り上げられている存在だ

パッと見た感じではアークスでトップクラスに強く、更に特別な力を有しているようには見えない

だが…部屋に入ってきた時から感じていたがその身に纏っている気は只者ではないし、足の運びを見ても普通の人ではないのは確かだ

 

「貴女がアウルさんだよね。私はマトイ、よろしくね」

 

白い髪に紅い瞳の少女が声をかけてくれる

とても穏やかでゆったりした印象を受ける

彼女も守護輝士で、創世器『明錫 クラリッサⅢ』の持ち主だ

アークスにとって最大の敵である深遠なる闇の宿主となりかけたこともあるらしい

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

再びシャオが話し出す

 

「守護輝士とアウル、ユカミがマザークラスタ本拠地へと行っている間六坊はアークスシップに待機して襲撃に備えて欲しい。こちらの切り札の不在を狙って大襲撃をかけてくる可能性もあるし、他惑星のダーカーへの対処もあるからね」

「了解した。市民達には指一本触れさせはせん」

「なんだい、今回あたし達は留守番かい?興が削がれるねぇ」

「妥当なところでしょう。我々はやるべきことをやるだけです」

「ま、守護輝士が2人とも出撃するんだ。俺らが心配することもないだろう。それにアークスシップで待機しておけばいざというとき転送してもらって救援に行くことも出来るしな」

「私も行きたいが、仕方ない。今回は貴様らに譲ってやるから、しっかりやってくるのだぞ。無事に帰って来なければ許さないからな!」

「俺から言うことは…特にない!各々、役目をまっとうしようではないか!」

「…と言うことだ。アウルは守護輝士から君がアークスになってから地球で起きていたこと、これからすることの説明を受けてくれ。六坊は休憩の後、アークスシップ防衛の作戦会議を行う。以上だ」

 

私は守護輝士の2人に連れられ、そのうちの1人のマイルームへと通された

そこでこれまで地球で起こってきたことを簡単に説明して貰った

どうやら地球ではマザークラスタとアースガイドの衝突が本格化しているらしい

アースガイドは地球全土に渡り、一般人の保護や発展の道標となることを目的とした組織だ

かなり巨大で太古の昔より存在していたと聞く

彼等とは殺し屋として活動している時には対立していたが、護り屋として動くようになってからは協力したことも何度かある

マザークラスタと敵対する以上、アースガイドと協力することになりそうだ

殺し屋時代に彼等の仲間を何人も殺したり寝たきり、植物人間にしてきたことから私を恨んでいるメンバーも多い

果たして素直に協力を得られるだろうか…

しかしそれ以上に気になることがある

どうやら今回の地球での騒動の中心にはある地球人がいるらしい

名は八坂火継

元マザークラスタでエーテルの扱いに才があり、1連の事件に巻き込まれる内に開花したようだ

火継の兄、八坂炎雅と親友、鷲宮氷莉とも共に出撃することになる

 

かなり端折ったがこんな感じらしい

そして私達はお互いのことを知るために世間話などをした

守護輝士のもう片方の人の名前はミシャーと言うらしい

主にファイタークラスを使い、ダブルセイバーで舞うように戦う

それ以外にも全てのクラス、全ての武装を使いこなすオールラウンダーでもあるようだ

 

取り敢えず今日のところはこれでお終いだ

その後は絆を築く意味も含めて食事などを共にして、その日は寝ることにした

決戦の日は近い

刻一刻と近づくその時に備えて深い眠りにつくべきだろう

私は意識を海の中へ沈めるようにして手放した

 



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突入

2日後、私は艦橋にいた

ここは普通のアークスは入れないが、今日は入室を許可されている

私の他にはユカミ、守護輝士の2人、そして地球人の八坂火継、八坂炎雅、鷲宮氷莉、シエラがいる

これからマザークラスタの本拠地へと突入するのだ

私は1つ不安に思っていることを聞いた

 

「ところでマザークラスタの拠点は月にありますが…重力は問題ないのでしょうか?」

「それは問題ないぜ、アウルさんよ。何しろ奴らは月に地球と変わらない重力を生み出してやがるんだからな」

 

炎雅が答える

アークス並の技術力を有する、ということか

 

「そうでしたか。とんでもない技術力ですが…まぁ好都合ですね」

「あの〜」

氷莉が声をあげる

 

「アウルさんって地球の方なんですよね?どうしてアークスになったんですか?」

「そうですね…それは生きて帰って来れたらにしましょうか」

「ちょっと、それって死亡フラグってやつじゃないの?不吉だからやめてよ」

 

火継に批難されてしまった

確かにこういうのを死亡フラグと言うのは聞いたことあるが…あまり馴染みがない

 

「さぁ、皆さん。そろそろ行きますよ!準備は良いですか?」

 

皆大丈夫だと伝えると、シエラは何やら端末を操作した

 

「では、行ってらっしゃいませ!ご武運を!!」

 

私達はまずキャンプシップへと転送された

そこからまずは地球のある宇宙へとワープする

まさかこのような形で地球を外から見ることになるとは思わなかった

こんなに美しい惑星だったのか

そして月に近づいていく

かなりの速さだ

それでもやはり月までの距離は遠く、中々着かない

その間私達は各々武装のチェックをしたり談笑などで時間を潰した

私もこの日の為に選りすぐった刀を握る

ジグに頼み、地球のものとほぼ同じ質量と形のものを作ってもらった

それでいてフォトンを流しても安定するという高性能なものだ

かなり扱い安く、助かっている

私が作ろうとしている新クラスはもう殆ど完成しているがなるべく使わないようにしたい

いわば奥の手だ

ミシャーはダブルセイバーを軽く振って動作を確認している

燃え盛る炎の意匠が目を引く

クヴェレスカーレットと呼ばれるかなり、いや最強と言っても過言ではないほど強力なダブルセイバーのようだ

炎雅は銃器を弄り、火継と氷莉は互いに身を寄せ合っている

マトイは目を閉じ、瞑想しているかのように見える

暫くすると

 

『皆さん、もうすぐ到着しますよ。準備をお願いします』

 

シエラからの通信が入った

皆それぞれ降りる準備を整え、その時を待つ

そして遂に月へ降り立つ時が来た

 

本拠地へ入ってみると…形容し難い空間が広がっていた

守護輝士によるとここは旧マザーシップと呼ばれる場所に酷似しているらしい

しかしゆっくり話をしている暇もないようだ

前方にいきなりダーカーのようなものが出現する

ダーカーと形は同じなんだが、色がまるで違う

ダーカーは黒、赤、黄色で構成されている

だが今出てきた奴らは基本的に水色だ

どうやらこいつらはエスカダーカーと言い、性質はダーカーと異なるが動きはほぼ同じだという

つまりダーカーを相手にするのと同じようにして良いと言うことか

各々武装を構える

火継と氷莉は武器を構えると同時に衣装までもが変わっていた

これがエーテルによる具現武装か

火継は神々しい刀を、氷莉は禍々しい大剣をその手に握る

炎雅はサブマシンガンを両手に持ち、トリガーに指をかけている

いつの間にか周囲を囲まれてしまっている

かなりの数だが7人もいればそこまで苦ではないだろう

自然と円を描くように集まり、外側を向く

そして合図をしたわけでもないのに一斉に駆け出した

 

 

 

 

「こいつで全部か?」

「そうみたい…流石に数が多いよ」

「そうだね、私ちょっと疲れちゃった」

 

地球人メンバーが息をつく

確かに多かった

倒しても次々現れる

それでも倒すしかなかった私達はひたすらに倒し続けた

そしてやっと落ち着いたのだ

 

「邪魔な奴らもいなくなったしさっさと行きましょ」

「そうだね、行こうか。あ、皆は大丈夫?」

 

守護輝士達は息も切らさず先へ行こうとする

なるほど、流石は歴戦の勇士だ

元々戦いに身を置いているわけではない火継と氷莉は少し辛そうだ

炎雅は多少の慣れはあるようだがあの数は少々キツかったようだ

私はと言うと地球にいた頃から戦うことしか知らなかったし、アークスになってからも戦い続けてきた

更にフォトンも完全に馴染み、無意識に扱うことも出来るようになった

初めの頃に感じていたフォトンに不慣れなことによる疲れももうない

要するに守護輝士達と同じくこの程度では疲れていない

火継と氷莉を少し休ませて息を整えてから私達は先に進んだ

 

暫く進み続けると広場のような場所に着いた

道中にもエスカダーカーは出てきたので撃破しながらの行軍だ

そして…ここにはそんなものより遥かに厄介な者が立ちはだかっていた

 

「ほっほっほ、良くぞここまで来た。久しい顔も初めての顔もおるのぉ」

「アラトロンさん…」

「そちらについたか、娘っ子よ」

「ごめんなさい、私はもうマザーとは歩めません」

「良い良い、謝ることはない。主にとってそちらの方が本当の居場所であったというだけのこと」

「アラトロン殿、そこを通してはいただけませんか?私達はその先に用があるのです」

 

私は彼に問う

 

「ほっほ、面白い冗談じゃなアウルよ。この頑固爺が素直に通すと思うてか?」

「ま、そうですよね…では、容赦はしませんよ」

 

私は刀を霞に構える

そして小声で他の人達に囁く

 

「彼は私が相手をします。その隙に先へ行って下さい」

「本当に良いの?あのお爺さん、結構強そうだよ」

「彼の目的はおそらく時間稼ぎです。ここで私達を足止めしている内にマザーが何かを成すのでしょう。」

「なるほどね…じゃあ仕方ない、か。悪いけどあのお爺さんのこと頼んだよ!」

 

話を終えた私達を見てアラトロンが切り出す

 

「話は終わったかね、ではゆくぞ!」

 

彼は大槌を振りながら叫ぶ

 

「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!マザークラスタ土の使徒、アラトロン=トルストイ。いざお相手仕る!!」

 

突然雷のようなものが落ち、轟音が鳴る

辺りには煙が立ち込め、アラトロンの姿が見えなくなる

暫くして晴れてくると

 

「おい、なんだよあれ…」

 

炎雅が驚きの声をあげる

無理もない

そこに居たのは明らかに人間ではなかったのだ

丸みを帯びたかなりの巨体がその身丈を超える大槌を持っている

 

「悪いが本気で行かせてもらうぞ、若者達よ!」

 

どうやらエーテルによる具現を利用して自らの姿を変えたようだ

雷神トールでも模したのだろうか

 

「では、さっき言った通りにお願いしますね」

 

私は皆に言うと、一呼吸置いてから突進した

同時に他の皆がアラトロンの横を抜けようとする

 

「行かせはせぬぞ!」

 

アラトロンが大槌を振るい、進撃を防ごうとする

 

「貴方の相手は私です!」

 

私はアラトロンへ向かって跳躍し、顔面へ向けて刀を振り下ろす

流石にそのまま喰らうわけにはいかないのか、防御された

更に私は猛攻を続け、皆が先へ行くための時間を稼いだ

やがてこの場には私とアラトロンだけになる

 

「ぬぅ、やりおるな」

「申し訳ありませんが、一対一(サシ)でいかせていただきますよ」

「仕方あるまい…では主を倒してから向かうとするかのぉ!」

 

アラトロンは大槌を私へ振り下ろす

私はそれを刀で去なし、返す刃で斬り付ける

アラトロンは見た目より軽やかな動きでそれを避ける

私達はそのまま激戦を繰り広げた

 

守護輝士達がマザーを止めてくれることを願いながら

 



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終わりと始まり

あれから40分程が経った

私は未だにアラトロンと対峙している

具現によって強化されているのか私の知っているアラトロンとは比べ物にならないほど強い

だが私もフォトンを身に付け、かなり強化されている

守護輝士達を待たせているので、これ以上長引かせるわけにもいかない

私は勝負に出ることにした

1度距離を離し、呼吸を整える

 

「なんじゃ、疲れたのか?」

「多少は。それは貴方も同じなのでは?」

「まぁの…お互いそろそろ決着を付けたいといったところか。儂もマザーのところへ援護に行きたいのでな」

 

どうやらアラトロンも同じ腹づもりのようだ

これは都合が良い、わざわざ誘う手間が省けた

 

「では…勝負といきますか」

「望むところよ!」

 

私達は武器を構える

そのままじりじりと近づいていく

互いが互いの間合いに入った時、私達は同時に動いた

私が突進するのに対してアラトロンは大槌で薙ぎ払う

私はそれを跳躍で避けるとアラトロンへ刀を振り下ろそうとした

しかしアラトロンは手首を上手く使い、薙ぎ払った勢いそのままに私の方へ大槌を返してきた

これを受ければ私の負けだし、これを躱せば彼に大きな隙が出来る

まさに一か八かの勝負だ

私も跳躍したばかりのためここから位置を大きく変えることは難しい

更に彼の大槌はかなりの速度でこちらに迫っている

一瞬の判断ミスが命取りだ

ここは私も一か八かの勝負に出なければなるまい

私は左手に全身のフォトンを集中させ、それをすぐさま解放して軽い爆発を起こす

その爆風と反作用の力を用いて身体を急速に下へ落とした

その場で考えた即興の技だ

上手くいく保証などなかったが、どうにか出来たようだ

そのまま私は生身で床に強く打ち付けられる

一応受け身はとったが、衝撃を完全に吸収することは出来なかった

 

「くっ…」

 

一瞬息が詰まる

アラトロンは大槌で自らの巨体を強く叩いてしまい、かなりのダメージを受けた

 

「ぬぅ…」

 

お互いに傷を負ったが、私の方が遥かに軽傷だ

当然次の動きを取るのも私が先だった

私は再びフォトンをその身に取り込むとその全てを刀に流し、怯んでいるアラトロンの真芯へと突き立てた

 

「ぐおおおぉぉぉぉ!」

 

コアを砕かれたアラトロンは雄叫びをあげ苦しむ

その時適当に振り回された彼の腕が私に当たり、後ろへ大きく吹き飛ばされた

直前で気づいてガードはしたのでそれほどのダメージはない

アラトロンの方を見るとその巨体は白く輝き、本来の彼の形へと戻った

輝きが消えて彼の姿が見える

アラトロンは肩で息をしており、苦しそうに胸を抑えていた

 

「がはっぁ…よもやあれを躱すとはの、やりおるわぃ」

「かなり、ギリギリでしたけどね…」

「儂の負けじゃ、アウルよ。主はこの先へ行くが良い…儂は、少しばかり休ませてもらうぞ」

 

そう言ってアラトロンは床に崩れ落ちた

意識は失っていないが、もう戦う力は残されていないのだろう

 

「では失礼します、アラトロン殿」

「あぁ、行くが良い」

 

ここに放置したままだとエスカダーカーに襲われるかもしれない

本当なら助けたいが、これ以上守護輝士達を待たせる訳にはいかない

私は皆が待つ場所へと急ぐ

 

私が着くと、そこには床に座りこむマザーと息も絶え絶えな皆の姿があった

1人見覚えのない少年がいるが、それは帰還してから聞こう

どうやらマザーを撃破することに成功はしたらしい

しかし、様子がおかしい

口論しているのか?

マトイがこちらに気付いた

 

「あ、アウルさん。無事だったんだね…良かった」

「ええ、私は大丈夫です。それより遅くなってすいません。皆さんは大丈夫ですか?」

「大丈夫、とも言い難いかな…流石に私もかなり疲れたし、火継ちゃん達も」

 

彼女の示す先には火継と氷莉が座り込み、肩で息をしていた

話をすることも出来ないほど疲労しているようだ

炎雅も座り込んでいるが、まだ話をする力は残っているようである

 

「いやぁただでさえマザー強いのにさ、そこから色々あってダークファルスにまでなっちゃってね…本当に大変だったよぉ」

 

ミシャーが教えてくれる

ダークファルスとは簡単に言うと、深遠なる闇が生み出す超強力なダーカーのことだ

今回は深遠なる闇関係なく生まれたというかなり特殊なケースのようだが

しかしその場に間に合わなかったのが悔しい

そしたら少しは彼女達の負担も軽かったろうに…

だがそんなことを気にしている場合ではない

どうやらマザーとユカミが口論しているようだ

 

「復讐なんてやめましょうよ!」

「うるさい!貴様に何が分かる、失敗作としてゴミのように捨てられた私の気持ちが分かるとでも言うのか!」

「それでも…それでも復讐なんてダメです!」

「ええい、黙れ!」

 

なるほど…素直なユカミらしい

だがあれでは火に油を注ぐだけで逆効果だ

守護輝士達はどうすれば丸く収まるかを考えてはいるものの戦いで疲弊したのもあって、いい考えが浮かばないのだろう

ならせめてここでマザーを宥め、遅れた分を取り戻さねばなるまい

幸い…なのか分からないが私には彼女の気持ちが少し分かる

私は前へと出た

 

「久しぶりですね、マザー」

「アウル?久しぶりだな、何をしに来た?」

「勿論、貴女の蛮行を止めにです」

「…貴様も復讐など下らないことはやめろと言うつもりか」

「いいえ。復讐したければすればいい、それは誰かに許可を貰わなければならないことではないのですから」

「なに?」

「しかし復讐される側から抵抗されるのは当然です。そして今は私もアークス、貴女を止めにくるのは当然のこと。ですが…」

 

一呼吸置いて私は続ける

 

「例えアークスでなくとも貴女の復讐は止めに来たでしょうけどね」

「なぜだ」

「復讐したって、どうにもならないからですよ。貴女の気持ちが晴れることもなく、ただただ孤独が残るだけ…」

「知ったような口を聞くな!」

「知っているから言ってるんです!」

「!?」

 

一瞬辺りに静寂が訪れる

普段大声など上げることがない私がしたのだ

穏やかに振る舞う私しか知らない者にとってそれは衝撃的であろう

 

「知っている、だと?」

 

マザーが問う

 

「ええ、私は復讐を成し遂げた後に何があるのかを知っています」

「まさか…」

「そう…私は復讐の名の元に、ただの怒りと恨みで人を殺したことがあります。だからこそ、声を大にして言います。復讐はするなと」

「…」

「貴女は復讐すれば気が晴れると思っているでしょう?復讐すれば楽になれると…そんなことは決してありません。復讐した先にあるのは」

「あるのは、なんだ?」

「絶望です」

「なっ…」

「意外、ですよね。私もまさかそうなるとは思っていませんでしたから。でもこれは事実なんですよ。復讐を成し遂げると、復讐する前よりもより深い絶望が待ち受けています」

「なぜそうなる?」

「復讐心は、いわば自己防衛本能なんですよ。心が壊れないための。苦しくて悲しくて寂しくて辛くて恨めしくて憎くて…そうした感情が自分を殺してしまうのを防ぐ為に『復讐』という目的を掲げ、それらの向かう矛先を変える、もしくはそれらから逃れようとするのです。復讐の為に動いていれば一時的に心を守ることが出来ますからね。しかし次第にそれだけの為に生きるようになってしまいます。心を守る為の手段がそのまま目的になってしまうのです。そして目的を達成してしまうと…全てがなくなります。今更違う目的なんて出来ない。その先にあるのはただの空虚。何も無い。光もなければ闇もない、そんな空虚の中に突然放り込まれることになります。復讐を成し遂げた達成感すらも皆無です。そしてそんな空っぽになった自分に今まで忘れていた負の感情が一気に押し寄せ、止めどなく溢れてくるんです。涙も枯れて自分を慰める術を全て無くし、ただただ言い様のない苦しみだけが永遠に続く。記憶を全て失うか、死ぬ以外に解放される手段はありません。絶望に打ちひしがれ、何を呪うことも出来ずに時間だけを消費していくだけのあんな思いを貴女に味合わせたくありません」

「…そう、なのか。しかしそれが本当だとしても今更どうにも」

「どうにもならないなんてこと、ないよマザー」

 

息を整えることが出来たのか、火継が話に入ってきた

 

「マザーはさ、ただ寂しかっただけなんだ。誰かと繋がりたかったんだよ」

「いきなりなんだ?そんな世迷言を」

「世迷言なんじゃないよ、ちゃんとした根拠があるんだから」

「なに」

「エーテルはマザーから発生した。話を聞けば、元々はアークスの人達が使ってるフォトンと同じものらしいじゃない。それなのにエーテルは通信技術に、繋がることに特化した。それはその発生源であるマザーが、誰よりも繋がりを求めたから!違う?」

「酷い論理だな、もはや邪推だぞ」

 

そう言いつつもマザーの顔はかなり穏やかになってきている

 

「まぁ私も根拠があるとは言ったけど、正直穴だらけだなって思うよ。でもさ、マザークラスタにいたから分かることもある。マザークラスタにいる人は皆独りぼっちで誰かとの繋がりを求めている人だった。あたしも…そうだったしね。それもマザーが自分と同じような人を放っておけなかったのが理由なんじゃないかなって思うよ」

「それもまた邪推だ…と言いたいところだが、よく分からない。君達の話を聞いている内に何をしたいのかも分からなくなってしまった」

「それなら1度心をリセットして、ゆっくり考えましょう?それでもやっぱり復讐したいのならして良いと思います。もっとも、何度だって止めに来ますけどね」

「そうよ、何度だってぶん殴ってやるんだから!」

 

これでもうマザーは大丈夫だろう

戦闘には間に合わなかったが、やれることはやれた

私は置き去りにしてしまったアラトロンの無事を確かめるためにマザーを彼女らに任せ、1度戻ることにした

 

アラトロンと戦った場所まで戻ってみるとアラトロンは疲れからか眠っていた

発生源であるマザーを撃破したことでエスカダーカーの出現がほとんどなくなったのだろうか

ともかく無事で良かった

このまま放置しておくのも忍びないのでアークスシップに連れていこう

私は彼の身体を抱え、また彼女達のいる場所へと戻った

 

戻ってみると状況が一変していた

アースガイド最高責任者のアーデムが突如現れ、マザーを殺してその力を奪ったらしい

疲弊し切った彼女達ではアーデムに勝つことは不可能だったのだが、マザークラスタのファレグが加勢したおかげでアーデムは撤退

皆が深刻な面持ちをしている

私はまたもや大切な場面に居合わせることが出来なかったのか…だが今考えていても仕方がない

考え事をするには疲れすぎている

私達は1度帰還することにした

 



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待ち望んだ再会

アークスシップに戻ってきた私達はシャオに報告を済ませた

その後ミシャーのマイルームで今後どうしていくかを相談しようと思った…のだが

 

「何故貴女までいるのですか?」

「あら、危ないところを助けてさしあげましたのにつれないんですね」

「それはそうですが…」

 

そう、何故かファレグまで付いてきたのだ

 

「ねえねえ、アウルとファレグって知り合いなの?」

「ええ、一応古い仲ではありますね」

「じゃあさ、アウルに聞きたいことがあるの。ファレグって何者なの?全力で挑んでも攻撃を凌ぐのがやっとってくらい強いのにエーテルもフォトンも使ってないなんて」

「…正直、私にも分かりません」

「え?」

 

そう、私にも分からないのだ

彼女とは私がまだ小さい頃からの知り合いなのだが何年経っても彼女の見た目は変わらない

永年益寿と言うのも無理がある

その強さも10年やそこらで得られるものではない

あの地獄の修行に耐え、幼い頃から実戦で練磨された私を圧倒するのだ

只者でないこと以外は分からない

 

「そっか…ほんと、何者なんだろう」

「なんかアーデムさんがファレグさんのことをアイブズって呼んでたけど何か関係あるのかな?」

 

マトイが何気なしに言った

アイブズ?

まさか…いや、そんなわけないか

 

「それよりも、これからどうするのか話すのでしょう?」

「そうだね、次の行動を決めてなるべく早く動こう」

「その前に1つ宜しいでしょうか?アウルさんにお話があります」

 

ファレグが制止する

私に話とはなんだろうか

 

「なんでしょう、ファレグ」

「トゥリーのことです」

「!?」

 

私は目を見開いてファレグに詰め寄った

 

「何か知っているのですか!?」

「まぁまぁ、少し落ち着いて下さい。折角のお綺麗な顔が台無しですよ」

「これが落ち着いてなどいられるものですか!しかし何故その話を私にしてくれるのです?」

「貴女はあの時わざわざアラトロンを助けに戻って下さいましたでしょう?一時的なものとはいえ彼は仲間でしたから。仲間を助けて頂いたお礼と思っておいてください」

「なるほど、そういうことですか」

「さて、早速お話したいところですが…ここで話しては彼女達の邪魔になりますし場所を変えましょうか」

 

その通りではあるが…これからアーデムをどうするかを話すのに別の話の為に抜けなければならないのは心苦しい

たがそれでもこの情報だけは欲しい

私にとっては何よりも優先すべきものだ

申し訳ないが後のことは任せよう

私とファレグは私のマイルームへと移動した

 

「それでファレグ、トゥリーは今どこに」

「順を追ってお話しますわ。私が東京を散歩していたら突然強烈な殺気を感じたのです。振り向いてみたら日本の甲冑を着込んだ少女が私へ刀を向けて突進して来ました。そのまま戦って話を聞いてみるとどうやらアークスが私を敵視したようでして。そして独断で私を殺しに来たようです」

「ちょっと待って下さい、まさかその少女が…」

「ええ、そうですよ。その少女こそトゥリー、貴女の妹君です」

 

なんてことだ、彼女もアークスになっていたのか…通りで見つからないわけだ

地球ばかり探していたのが裏目に出たようだ

 

「しかしなぜトゥリーが…」

「それは分かりません。ご自身でお確かめなさいな」

「それで、トゥリーは今どこに?」

「ラグズにいると言ってました。後は貴女の意思に任せますので、では」

 

ファレグは優雅に礼をして去った

後に残された私は色々と考える

私の今の目的は妹を探すことであり、彼女の居場所を掴んだのだから真っ先に向かうべきだ

しかし…私の知っているトゥリーはかなり殺意が強く危険な人物だ

あれから十数年経った今はどうなのか知らないがファレグの話を聞く限りではあまり変わっていないだろう

となれば会いに行った私にも襲いかかってくる可能性がある

それに私のことを覚えていなかったり恨んでいることもあるかもしれない

だからいざ会えるとなると…少し怖い

更にアーデムのこともある

まぁ彼女に協力を要請するのもありだが、素直に応じてくれるだろうか

…悩んでいても仕方ない、か

会ってみなければ分からないのだから会うしかあるまい

覚悟を決めた私はラグズへと向かう許可をとるためシャオに会いに行った

 

「なるほどね、灯台元暗しとはこのことか」

 

シャオは少し呆れた感じに言った

 

「今は地球の方が大変ではあるけれど…でも君がどうしても果たしたい目的だし、今までも君には色々と助けてもらったからね。いいよ、取り計らっておくから行っておいで」

「ありがとうございます、シャオ。なるべく早く戻ってきますね」

 

許可を貰った私は早速船に乗り込んだ

程なくして宇宙空間へ出てラグズへと向かう

ラグズに着いた私はそのまま会議室のような場所へ通される

そこに…彼女はいた

任務帰りらしく、甲冑を着込んだままだ

彼女はこちらを見て、頬当てを外した

 

「貴様は、誰だ?」

 

予想はしていたが分からないのか…結構なショックだ

 

「久しぶりですね、トゥリー」

「何故その名前を…まさか、貴様は!」

「そのまさかですよ」

「ドゥヴァ、なのか」

「はい」

「そうか、そうなのか…」

 

トゥリーは暫く考える素振りを見せた

 

「そのオッドアイも紫の髪も…記憶にある姿と同じ…そうか、ようやくなのか……」

 

その後彼女はゆっくりと近づいてきた

殴られるだろうか

それも仕方ない、あの時私はトゥリーを守りきることが出来なかったのだ

恨まれていて当然…

その時彼女が突然抱きついてきた

 

「やっと…やっと会えたな、姉上」

「トゥリー…私を恨んでいないのですか?」

「なぜ恨む必要がある?あの時姉上は私を逃がそうと必死だったではないか。感謝こそすれ、恨むことなどない」

「そう、ですか」

「あぁ。それと一つ気になるのだが、いつからそんな敬語で話すようになったんだ?なんだか別人と話しているようで落ち着かないぞ」

「あぁ、そう言えばそうですね…ごめんなさい。ちょっと待ってて下さいね」

 

私は1度目を閉じ、深く深呼吸をする

そして目を開く

 

「すまない、すっかりあの話し方が癖になってしまっていたようだ。これでいいか?」

「それでこそ姉上だ」

 

トゥリーは満足そうに言って離れた

 

「それで、姉上の名前は?」

「名前?今更なぜ」

「今の名前だよ。今もドゥヴァって名乗ってるのか?」

「そういう事か。その名前はもう捨てた、今はアウルと名乗っている」

「アウル…いい響きだな。まぁ私は姉上と呼ぶからあまり口にすることはないかもしれないが」

「なんならお姉ちゃんと呼んでくれても良いんだぞ?」

「…そんな気恥しい呼び方出来るか」

「ふふ、そうむくれるな。それで、トゥリーの今の名は?」

「樒だ。私は日本に暫く居たからそこで貰った」

「お前にぴったりな名だ、樒」

「そうだろうそうだろう」

 

私達は久し振りに会話をした

あれから十年以上経っていると言うのにお互い変わってないようだ

その事に安心すると共に今更ながら再会出来た喜びが込み上げてくる

とめどなく溢れるその想いを止めず、そのまま身を委ねることにした

私は樒を抱き締めた

私より小柄なその身体を包み込む

樒は最初こそ驚いたが、拒否することはなく彼女も私の背中へ手を回した

 

「会えて良かった、本当に…諦めることなく探し続けた甲斐があった」

「心配かけてすまない。私も姉上と会えて嬉しいぞ。これからは共に戦えるのだな」

「ああ、思えば長かったな…今まで1度も共闘も敵対もしなかったからな」

「早く姉上と任務へ行きたいぞ」

「そう焦る必要もない、とびっきりのものがある」

「お、それはなんだ?まさか今騒がれてる地球での騒動か?」

「その通り、ではあるのだが結構厄介なことになりそうなんだ。アーデムを知っているか?」

「アースガイドの最高責任者アーデム=セイクリッドのことか?あれほどでかい組織だ、知らないわけあるまい」

「敵はそのアーデムだ」

「…アースガイドが敵ということか?」

「いや、アーデムだけだ。今ある情報を元に推理すると…どうやら奴は神を具現しようとしているらしい」

「馬鹿げた話だが、アーデムならやりかねない辺り恐ろしいな」

「まったくだ」

「それで、その決戦に私も参加して欲しいと?」

「あぁ。一緒に来てくれるか?」

「愚問だな」

「恩に着るよ」

 

その後私は樒を連れてギョーフへと戻った

ミシャーの元を訪れると大方の作戦は決まったようで、私達も敵の本陣へ突入するメンバーに入れてもらえた

今度こそ間に合ってみせる

必ずアーデムを止め、地球を護る

そう心に決めた私は準備を整え、決戦の日を待つ

 



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顔合わせ

タイトル変えました()


私は樒やユカミ、守護輝士と一緒に私のマイルームで羽を伸ばしていた

突入が決まったとはいえ準備もあるしアースガイドへの接触の試みなどあるので急に行くことは出来ない

それに先の戦闘で皆少し疲れている

そんなわけで今は休んでいるのだ

 

「いや〜まさかこんなことになるとはね。流石に想像してなかったよ」

「そうだね。ある意味最強のダークファルスの力を得たアーデムさんと戦わなきゃいけないんだもんね…深遠なる闇と同じかそれ以上に強いつもりでやらなきゃ」

「しっかしマザー強すぎじゃなかった?潜在的な能力は深遠なる闇より低いはずなのに初めて闇を相手にした時より余程苦戦したんだけど」

「それは私も感じたよ。なんでだろうね?」

「おそらくは貴女達がマザーの復讐の対象であったことが原因でしょう。彼女はフォトナーを、そしてアークスに復讐心を抱いていましたから、それによって能力が最大限に発揮された。更には貴女達へ積年の怨みによるプレッシャーをも与えていたと思われます」

「なるほどね〜。流石に復讐心を向けられたことはないから慣れてないしね」

「慣れるものではありませんよ…あんなもの」

 

それより少し気になることがある

 

「しかしマザーが最強のダークファルスとはどういうことです?」

「えっとね、マザーは全てのダークファルスの力を使ってきたんだ。つまりはダークファルスの集合体と戦ってたようなものなの」

「流石に個々の力を完全に使いこなしてたわけじゃないけど…それでもかなり強かったのは確かだよ」

「なるほど、そういうことですか」

「んで今度はその力を奪った奴が神を降ろそうとしてる。最悪宇宙の創造神と戦う覚悟を決めとかないといけないのよね。あ〜厄介なのもここまでいくと感心するよ」

「とんでもないことになってるな。私がいない間にそんなに地球は変わってしまったのか」

「そう言えば樒ちゃんは地球の人なんだっけ?」

「…私にちゃん付けはやめてくれ、マトイ。むず痒くて仕方ない」

「あぁそっか、ごめんね」

「それにしてもアウルに妹がいたとは思わなかったよ。しかも妹までアークスになってるとはね〜」

「正規のアークスではないがな」

 

そう、樒は一応アークスではあるのだが普通のアークスではない

3年ほど前に謎の空間転移に巻き込まれ、オラクルにやってきたらしい

アークスの転移が影響したと思われるが真相は分かっていない

何しろ当時は地球の存在が知られていなかったのだ

勿論アークスが地球へ訪れているわけがない…少なくとも今ある情報では

帰るに帰れなくなった樒はそのままオラクルで過ごすしかなかった

そして戦うことに優れていた樒はアークスとして登録することになったのだが、元々殺し屋であった為に適性を見出され始末屋になった

それからは不安分子や規則に反した者を始末する日々を送っていたようだ

今は情報部次席のクーナの元についており、重罪を犯したアークスの断罪を担当しているらしい

ただその仕事が発生するのは極めて稀だし、これらのことは公表されていないのでその存在、実態を知る者はかなり限られている

シャオでさえ始末屋として活動していること以外はほとんど知らなかったほどに

樒がオラクルに来たのはシャオが生まれるより前のことであったし当時はルーサーという者の存在があった為仕方がないことだと聞いたがその頃のことを知らないので良くは分からなかった

 

「皆さん、お茶が出来ましたよ〜」

 

私達の為にお茶を入れてくれていたユカミがやってきた

 

「ありがと〜ユカミちゃん!…はぁ〜落ち着くなぁ」

「これ、初めて飲む味だ。何のお茶なのかな?」

「これは…日本茶か?」

「えぇ、玉露が好きなので地球に寄った時に買ってるんですよ」

「懐かしい味だ。まさかオラクルで日本茶を飲む日が来るとは思わなんだぞ」

 

ユカミも輪に入り、暫くの間なんてことはない談笑に華を咲かせていた

すると突然ミシャーが予想だにしないことを言い出した

 

「ねえねえ、樒ちゃん」

「だからちゃん付けはやめてくれと…なんだ?」

「好きな人とかいる?」

 

次の瞬間樒が咳き込んだ

お茶を吹き出さなかったのは流石というべきだろうか

 

「い、いきなり何を」

「だって樒ちゃんずっと険しい顔してるけどさ、よく見ると可愛いんだもん。それに女の子でしょ、そういうのに興味あるかな〜って」

「ない…と言いたいが正直分からん。そのような気持ちを自覚したことがないだけかもしれん」

「ふ〜ん、なるほどね…じゃあさ、付き合うとしたらどんな人が良い?」

「なぜそんなことを…そうだな、強いて言うなら姉上のような人だろうか」

「わ、私ですか?」

「アウルみたいな人?具体的にはどんな感じなのかな」

 

マトイが重ねて聞く

 

「何故そんなに知りたがるんだ…私の知る姉上は容赦のない殺戮者だが、私を守るために己より格上の相手にも果敢に戦ってくれた。そんな風に何を敵に回してでも必死になって守ってくれようとする人だろうか」

「なるほどね〜。樒ちゃんも結構乙女だね」

「…そういうわけでは」

「それより、マスターが殺戮者ってどういうことなのです?マスターは穏やかでとっても優しい方なのです!」

「そうだよね、まだ付き合いは短いけど優しいなって私も思うよ」

 

ユカミとマトイが疑問を示す

ユカミは少し怒りすら感じているようだ

それもそうだろう

何せ彼女等は落ち着いた私しか知らないのだから

 

「言っていないのか、姉上?」

「えぇ、言うほどのことでもありませんし…それどころでもなかったので」

「なるほどな。なら良い機会だし、ここで本当の姉上の姿を見せておいた方がいいんじゃないのか?」

「ふむ…それもそうかもしれませんね」

 

今度の決戦では私もこの『穏やかで物腰柔らかなアウル』の皮を被ったままでは勝てないかもしれない

その時は迷いなく皮など脱ぎ捨てて戦うが…その様子をその場で初めて見たら守護輝士達が戸惑うかもしれない

なら今ここで少しでも慣れさせておいて、いざという時に動揺させない方が良いのは確かだ

 

「驚くかもしれませんが、今から素の私を見せますね」

「素のアウルかぁ、どんな感じなのかめっちゃ気になるね」

「なんだかちょっと怖いけど」

 

私は目を閉じ、深く呼吸する

そして目を開けた

その瞬間私の纏っている空気が変わる

普段は殺気を殆ど出さないように気を付けているがそれをやめたため、辺りに殺気が漂い始めたのだ

 

「…やっぱり、ちょっと怖いね」

「うん…流石にここまでの殺気は初めてかも」

「マスター…」

「私はこの方が落ち着くがな」

 

皆それぞれ違った反応を示す

ユカミが結構なショックを受けているように見受けた

 

「大丈夫だ、ユカミ。今まで君に接してきた私が作り物であったわけではない。あれも私の1面であることに変わりはないからな」

「…そうなのですか?」

「あぁ、だから安心しろ。私は私だ」

「分かりました、マスター!」

 

ユカミが笑顔を取り戻してくれた

一安心といったところか

 

「それで、アウルは?」

「は?」

「いやさ、好きな人とかいるのかなって」

「私にも聞くのか…」

「あったりまえじゃん!アウルだって凄い美人さんなんだしさ、恋愛経験あるんじゃないの?」

「残念ながらない。地球にいた頃の私は殺し屋稼業が長かった。その後護り屋になったが特にそういうことにはならなかったからな。だが、経験してみたいとは思う」

「お、いいねいいね〜。じゃあさ、付き合うとしたらどんな人?」

「そうだな…やはり甘えさせてくれる人だろうか。私は頼られたり甘えられたりが多いからな、偶には甘えたい時もある。そういう時に何も聞かずに甘えさせてくれると良い」

「ほわぁ〜、思ってた以上に乙女だぁ…」

「べ、別に良いだろう。私とて女なのだから」

「うんうん、いいよいいよ〜」

「姉上もそう思う時があるのか、意外だな」

「まぁそうだよな…私も初めて自覚した時は自分に驚いた」

 

そうして話に夢中になっていると結構な時間が経っていたので、私達は食事を摂ることにした

定番のフランカカフェで談笑しながらの食事を楽しむ

その後帰ることになったのだが、折角姉妹が再会したのだからと皆が気を利かせて2人にしてくれた

ユカミも今日はミシャーの部屋へ泊まるようだ

 

部屋に戻ってきた私は樒に珈琲を入れて渡した

 

「ありがとう。皆には感謝しなければならないな」

「そうだな。こうして2人で過ごすのは何年振りだろうか」

「確か…15年ほどか。あの時はお互い小さな子供だった」

「そんな前になるか」

「あぁ」

 

それから暫く無言が続く

話したいことは山ほどあったのだが、何を話せば良いのか分からない

いや、話す必要はないといった方が正確か

こうして同じ時を過ごせているだけで十分なのだ

その後も時折話しながら時が過ぎていく

そろそろ寝た方が良いか

 

「樒、そろそろ寝ようか」

「ん…そうだな。もういい時間だ」

 

樒には普段ユカミが使っているベッドを使わせようとした、が

 

「なぁ姉上、再会記念ということで久し振りに一緒に寝ないか?」

「構わないぞ。甘えたがりなところは変わらないか」

「う、うるさい」

 

そう言って樒はそっぽを向いてしまった

その頬は僅かに朱に染まっている

子供の頃から変わっていないな

私は先にベッドへ入り、樒を迎えた

 

「こうして寝るのも15年振りか…変わらず姉上は私を安心させてくれるな」

「それはお互い様だ」

「そうだな」

 

私と樒は同時に目を閉じる

多くを語る必要などない

共にあれればそれで良いのだ

そうして夜は更け、明け方はやってくる

 



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緊急事態

翌日、私達は緊急招集を受けて会議室に集まった

シエラや六芒均衡の面々までいるが何があったのだろうか

シャオが室内を見渡し、話し始めた

 

「集まったね、じゃあ早速本題に入らせてもらうよ。アースガイド本拠地への突入を控えているけど、タイミングの悪いことに深遠なる闇が復活する兆しを観測した。奴を倒さなければこちらの宇宙が終わる、後回しにすることは出来ない」

「うっわぁ…最悪じゃん」

 

ミシャーが不平を漏らす

それもそうだろう、深遠なる闇ともなればまず間違いなく守護輝士であるミシャーとマトイは出撃しなければならない

六芒からもヒューイとレギアスが出撃し、残りは他惑星や万が一アークスシップ襲撃に備えて予備部隊として待機することになる

つまりアーデムとの決戦に守護輝士抜きで挑まなければならない

中々きついことになった

 

「現状を考えるとアースガイド本拠地への突入の日を遅らせることもまた出来ない。そんなことをすれば最悪地球側の宇宙が終わってしまうかもしれないからね。よって不本意ではあるけれどこの2つの事態へ同時に対応することになる。ミシャーはオラクル、アウルには地球での現場指揮を任せたい。良いかな?」

「は〜い」

「ええ、構いません」

「ありがとう、恩に着るよ。僕は地球側、シエラがオラクル側の問題へ対応する。報告や要請、指令等は別々に行うから間違えないようにして欲しい。僕からは以上だ。何か質問はあるかい?」

「一つだけ良いですか、シャオ?」

 

私はシャオに聞く

許可を取りたいことがあるのだ

 

「なんだい、アウル」

「実は私が作ろうとしている新クラスはもう運用が可能なレベルに来ています。ですが認可されていませんし、認可されていないものを使うのは規則に反します。しかし此度の決戦ではそんなこと言っていられないかもしれません。なるべく使わないようにはしますがもし使わざるを得ない状況になったとき、使っても良いかどうかを聞いておきたいと思いまして」

「なるほどね。確かに通常であればそれは許可出来ないし、規則を破れば罰も下る。だけど今回は状況が状況だ、許可するよ。皆の命には変えられないからね」

「分かりました、ありがとうございます」

 

許可は取った

もしもの場合は迷うことなく使おう

 

「他にはないかな。それならこの場は終了とする。この後それぞれで当日のことを話し合おう」

 

その言葉を最後に解散となった

1時間後にまた集まって話をすることになる

退室し、一旦帰ろうとしているとミシャーが話しかけてきた

 

「ねぇアウル、貴女新クラス作ろうとしてたの?」

「ええ、まぁ。色々なクラスに触れてみましたがどうにもしっくり来なくて。その事を相談したら私の戦い方に合うクラスを作ってはどうかと言われたので」

「なるほどねぇ…認可されたらさ、私にも教えてよ」

「う〜ん…おそらく認可されないと思いますけど」

「え、なんで?」

「アークスの戦い方とは全然違うからです。これは地球に伝わる様々な武術と呼ばれるものを解体、混合させたもので最早私の我流になってすらいるんですよ。そこにただフォトンを組み合わせただけのものでして…認可されたとして、使いこなせるアークスは流石にあと何十年か経たないと現れないと思います」

「そっかぁ、残念。じゃあ皆が使えるように簡略化するとかしないと無理なんだ」

「そういうことです。それにそもそも誰かが使えるようにするつもりもありませんしね」

「それは…あの殺気と関係あるのかな?」

「えぇ。私のこれはただ人を壊すだけのものですから。そんなものを誰彼構わず扱えるようになどするわけにいきません」

「それもそうだよね〜。あれ、じゃあなんで新クラスとして…」

「あくまでも体裁です。そうしないと本当にただの規則違反にしかなりませんから」

「そっか」

 

その後私達は別れ、私はマイルームへ戻った

留守番を頼んでいたユカミに事情を話し、私は着替えた

スニーキングスーツのようなもので、オラクルの技術を以て作られているため地球のものよりフォトンに関する性能がずば抜けて高い

更に衝撃を吸収する機能や体温調節機能などがある

勿論身体の動きを阻害することは一切ない

右脚にホルスターを取り付け、銃を装備する

左脚にはナイフを

創造神には効かないだろうが、道中で邪魔をしてくると思われるオフィエルやその他のエネミーには有効だろう

なにも今すぐ決戦へ向かうわけではない

しかし少しでもこの格好に慣れるためと他のメンバーに見せて把握してもらう目的で着た

まぁスニーキングスーツ自体は着慣れているし着心地が地球のものより良いので慣れる方は問題ない

ただ身体のラインは綺麗に出てしまうので地球組が気にしてしまう可能性はある

炎雅は男だから特にだ

戦場では少しの余所見が命取りになる

 

こうして準備を終えた私はユカミと共に会議室へ戻った

皆最初こそ驚いたが理由を説明すると納得してくれたようだ

だがやはり気になるのか炎雅は気まずそうにしていた

意識してこちらに目を向けないようにしているのが丸わかりである

普段ならそれで構わないし紳士だと思うが今はそれでは困る

慣れて気にならなくなって貰わなければならない

先に見せておいて正解だったようだ

その後、作戦会議をして突入の段取りを決めた

変わらず現場指揮は私で、細かなことは私がその場で判断する

樒は副官のようなポジションで、私の補佐役に任命された

ユカミはハイキャストであることを利用し、通信とモニターをより高精度で行う為に彼女を媒介して行うことになる

シャオが常に現場の映像と音声を把握し、急な事態でも説明することなく判断を下せるようにするためだ

その分戦闘能力は落ちるが、万が一のことを考えるとその方が良いだろう

そうして話を進めていると樒が口を開いた

 

「一つ提案があるのだが、いいだろうか」

「大丈夫だ、なんだい樒」

「突入の日まではまだ時間がある。その間私達は互いの技術向上、何よりお互いの実力を知る為に模擬戦を行うのはどうだろうか」

「ふむ…それは良いかもしれないね。アウル、君はどう思う?」

「とても良いと思いますよ。指示するのにも各々の力量を知っていた方が都合が良いですし、ついでに私の戦い方を見せることも出来るでしょうから」

「よし、では許可しよう。後で場所の手配をしておくよ。火継と氷莉は戦い始めてまだ日も浅い、炎雅だって2人よりは長いくらいだろう。この姉妹から教われることは多いはずだ」

「それはそうだけどよ…なんかかなりスパルタな気がするんだよなぁ」

「まぁ状況が状況ですしね。時間があると言っても豊富にあるわけではありませんし、多少厳しくしないと短時間での向上は図れませんから」

「なんか、ちょっと怖いかも」

「ヒツギちゃん、私達大丈夫かな?」

「心配するな。突入を前にして怪我をされても困るからな、そこら辺はちゃんと調整する」

「ううぅ…目が怖いよぉ……」

「…すまない、怖がらせる気はなかったんだ」

 

そんなこんなで模擬戦及び特訓をすることが決まった

樒は銃の扱いを知らないので必然的に炎雅への指導は私が行うことになる

火継と氷莉には樒が教え、ユカミは剣速や着弾の散布具合を計測する形で協力してくれる

取り敢えず指導内容を考える為にも今の実力を知りたい

早速模擬戦用の場所へ向かうことにした

 



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特訓

目的地へ到着した私は早速炎雅に言った

 

「では、銃を取り出して下さい」

「おう」

 

炎雅が腕を軽く振るとその手に小振りな銃が二挺現れた

形状からするにサブマシンガンか

今度の戦いでは動き回ることになるだろうし軽量なこの銃は合っている

 

「まずはAIM力を見ます。あちらの的に撃ってみて下さい」

「了解」

 

炎雅は射撃を開始した

ふむ…悪くはない

体勢も安定しているし、狙いも大きく外すことも無い

後は動き回りながらだとどうなのか

誤射をしないよう徹底しなければならない

 

「悪くないですね。サブマシンガンのフルオート射撃でこれ程の精度ならまずまずです」

「あ〜…アウルさんよ、俺の具現武装は銃じゃないんだ。本体は弾なんだよ。銃はそれを撃ち出す分かりやすい外観ってとこだ」

「なるほど、そうでしたか。では銃の種類は適当に?」

「いや、そうでもねえんだ。確かに本体は弾なんだが目的に応じて弾の威力や種類を変えなきゃなんねえ。その時その弾を撃つのに最適な銃が自動的に選ばれるらしい」

「ふむ…普段は素早く撃てて取り回しの良い軽い弾を連射する、その為にサブマシンガンが選ばれているということですか」

「そういうことだ。だからアサルトライフルだとかスナイパーライフルだとかいうのも出せるぜ。そっちも見るか?」

「そうですね、今度の戦いではアサルトライフルの方が良いでしょう。弾の威力、精度共にサブマシンガンより上です。その分取り回しは劣りますが、そこは今から徹底的に叩き込んであげるので問題ありません」

「怖い女だぜ」

 

炎雅はアサルトライフルへ銃を変形させた

そのまま何度かAIM力を見るために射撃を続ける

悪くはない、悪くはないのだが…普通だ

普段ならそれで良いのだが、今回ばかりはそうもいかない

撃つ姿勢、銃の持ち方、何処に力を入れるのか、フルオート時の反動の抑え方などを徹底的に指導する

立った状態、座った状態、伏せた状態での射撃もやらせた

 

1時間程特訓を続けた結果、精度は大幅に向上した

射撃のみであれば傭兵として活躍も出来るレベルだ

後は前衛が肉弾戦を行っている後ろから撃つ練習も必要だ

動き回る敵と味方がいる中敵のみに弾を当てなければならない

 

「さぁ、次は誤射を無くす特訓を始めたいと思います。疲れなどはありませんか?」

「当然疲れちゃいるけどよ…休む暇も惜しい。それにあんたのつけてくれる修行は短時間で向上を実感出来る、こんな良い機会逃せるかってんだ」

「良い目です。では、始めましょうか。今から私が練習用のエネミーと白兵戦を行います。その間敢えて貴方の存在を意識することなくかなり身勝手な戦い方をします。その状況で私へは当てずにエネミーにのみ当てて下さい」

「…いきなりハードル高くねえか?」

「大丈夫です、最初は私へ当てても良いですからね。大事なのはどういう時にどこへ撃てば味方に当たり、敵に当たるのかを知ることです。その為には実際に味方へ当てることも重要なんですから」

「まったく、大した師匠だぜあんたは」

「感謝や感想は全ての修行を終えた後に聞きましょう。さ、始めますよ」

 

ユカミに練習用エネミーの中で最も強いものを用意してもらう

私はそのエネミーへ接近し、肉薄した状態で戦闘を続けた

後は炎雅がひたすらに何度も撃って感覚を掴むだけである

 

 

-一方その頃-

 

樒は火継と氷莉の2人を相手に刃を交わしていた

最初に力量を測る為にそれぞれと剣を交えようとしていたのだが時間もないし面倒なので纏めて相手することにしたのだ

いくら数で勝っていようとも、不思議な能力を発現していようとも彼女等は少し前まで日本で争いとは無縁の生活を送ってきた少女だ

生まれた時から殺し屋として育てられ、生きてきた樒には叶うはずもなく…

 

「なんで、この姉妹は揃いも揃ってこんなに強いのよ!」

「火継ちゃん、来るよ!」

 

樒は火継に狙いを定めて両手の刀をクロスさせる

そのまま鋏で切るように首を狩り取ろうとした

火継はそれを真正面から刃を当てることで止める

 

「その上、妹の方は一々致命傷を狙ってくるし!」

「喋る余裕があるのか、ならもっと激しくいくぞ」

「いっ!?」

「やあぁぁぁ!!」

 

左側から氷莉が大剣を樒に向かって振り下ろす

樒は左手の刀を返し大剣の側面に当てて剣筋を狂わせた

それと同時に右手の握る力を少しだけ緩め、左側に腕を振る

すると刃が来ないよう全力で押し返していた火継の刀は樒のそれを滑り、前のめりになって体勢を崩した

そこを左手の刀で首を斬りつけようとするが、火継が半ば無理矢理身体を捻って躱す

そのまま床を転がり距離を取ろうとするが、樒が突進してきてクロスさせた刀を今度は一気に外側へ向けて振り抜いてく

それを再び刀で防ぐ火継

しかし衝撃を緩和することは出来ずそのまま後ろへ大きく吹き飛ばされた

壁に背中を強打し、息が詰まる

その間に樒は氷莉と剣を交わしていた

刀を握る力を極限まで緩めることで剣筋を不安定にし、威力を犠牲に予測が困難な斬撃を行う

樒の得意技であり両手にそれぞれ刀を握っていること、技の練度が高くまるで幻のような刀捌きを見せることから地球では「幻惑の両刀」と呼ばれ恐れられていた

当然氷莉にその剣筋が見えるはずもなく、膾斬りにされる

殺す訳にはいかないので薄皮一枚のみを斬っているのだが、自分の身体が連続で斬られているという事実は氷莉に恐怖を与えるのに十分すぎるだろう

しかし…

 

「やあぁぁぁぁぁ!!」

 

氷莉が大剣を振り回す

なんとこの恐怖の中氷莉は防御ではなく攻撃に出た

防ごうと思っても見えないから防ぐことは出来ない、だったら思いっきり攻撃して自分から遠ざけようとしたのだ

 

「っ!?」

 

これには樒も驚いた

あの状況下、通常であれば人は正常な判断が出来なくなり、無駄な防御を続けることしかしなくなる

普通の学園生活を送ってきた少女なら思考が停止しても何らおかしくない

それなのに非常に正しい判断をし、あまつさえそれを実行に移すことが出来たのだ

素質がある…樒は思った

それは火継にも感じていたことだった

彼女の反射神経には目を見張るものがある

いくら手加減しているとはいえ、樒の動きを何とか捉えて、攻撃を防いできたのだ

しかし斬られることは防いでも衝撃は防げていない

刀同士がぶつかる際に発生する力はそのまま火継の腕に伝わり、肩まで抜けていく

跳躍からの振り下ろしを防御すれば足にまで負荷はかかるのだ

火継はもう立っているのもやっとの状態であったし、氷莉も全身を薄皮一枚とはいえ膾斬りにされている

極少量のぷっくりとした血が全身に現れているのだ、戦意は完全に失われただろう

 

「氷莉、その血の出ているところがお前の斬られた場所だ。これが実戦なら、その全てが深い傷となりお前を死に至らしめている」

「そう、だよね」

「だが先程の判断は見事だった。中々出来るものでは無い。私も驚かされたぞ。そして火継、お前の反射神経はとても優れている。私の動きを捉えられるのだからな」

「そっか、あたしも捨てたもんじゃないってことね」

「だが両者共に課題はある。まず氷莉は速さが足りない。そのスピードでは戦場で生き残ることは難しいだろう。そして火継、お前は逆にスピードに頼りすぎている。殆ど何も考えずに動いているだろう、戦闘中の思考力が足りていない」

「うっ…言い返せない」

「速さ…運動は苦手だよぉ」

「あんたはその胸のせいで動き辛いんじゃない?」

「もぉ、火継ちゃんってば!」

「胸の大きさは関係ない、姉上がいい証拠だ」

「「確かに…」」

「まぁ姉上を比較の対象にするのは酷な話だが…」

「それより樒、欠点が見つかったならそれを克服しないとだよね。早速修行をつけてよ」

「そのやる気は評価するが早まるな。お前は立ってるのもやっとだろう、その状態でやっても効果はない。氷莉も今の状態でスピードを鍛える特訓などやれば辺りに点々とした血が飛び散るだろう」

「うぅ…あんまり想像したくないかも」

「だから明日からだ。ひとまず姉上達の方を見に行くぞ」

「「はーい」」

 

そうして樒達はアウルと炎雅がいる部屋へと移動した

 

「入るぞ、姉上」

「もう入ってるじゃん…って、お兄ちゃん!?」

 

部屋へ入ると炎雅は床に仰向けになっていた

近くにはアウルが立っている

その手にはナイフが握られていた

 

「心配要りません、ただ疲れているだけですよ」

「それにしたって倒れてるなんて…相当なんじゃないの?」

「そのお陰で彼の戦闘能力、長所と短所は把握しました。これでどのような稽古をつければいいかも分かりましたよ」

「いっちょまえに心配なんかしてんじゃねえよ、バカ妹。んなことよりお前の方は大丈夫だったのか?」

「まったくこの兄貴は…大丈夫、樒がちゃんとやってくれたわ」

「そちらも終わったみたいですし、私達の方もこれで終わりとしましょう。後は疲れが残らないようきちんとアフターケアをしておきましょうか」

 

その後アウルと樒は火継達のツボを指圧することで筋肉の緊張を取ったり疲労回復に効果のある食事の用意、そしてしっかりとお風呂で身体を暖めるなどのことをした

 

「しっかしすげえなぁ、あれだけ疲れ切ってたのに修行する前より元気になった気がするぜ」

「ほ〜んと、なんか活力湧いて来るよね」

「それは今のところ脳の勘違いも含まれている。それを本物にするにはこの後しっかりと寝ることだ。夜更かしなぞすれば痛い目を見るぞ」

「そうなんだ〜。夜更かしはお肌にも良くないもんね、うん」

「氷莉、あんた言ってることちょっとズレてない?」

「えぇ〜、そんなことないよ火継ちゃん」

 

和気藹々としているようで何よりだ

さて、私も明日炎雅に課す特訓の内容を考えないと

のんびりしているように見えるが決戦の日は近い、残された時間は僅かなのだ

成果を出し、意義のあるものにしなければ

 

「さ、少し早いですがそろそろ寝ましょう。こういう時こそゆっくりと眠ることが大事です」

「そうだな、そうするか」

「早めに寝とかないと明日の修行で死にそうだしね」

「本当に死ぬほどやってやろうか?」

「…勘弁してください」

 

そうして私達はそれぞれの部屋に戻り寝ることにした

樒はこちらに部屋を持っていないので私の部屋で寝る

この決戦が終わるまではこうして同じ時間を長く過ごしていられそうだ

だが喜んでばかりもいられない、彼らにしっかりとした特訓をさせる為にも寝なければ

私は目を閉じ、意識を眠の中へと手放した

 



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姉妹対決

あれから数日、私達はひたすらに火継達を鍛え続けた

勿論いつでも出撃出来るように身体を壊すようなことはさせないし疲れを一切残さないようアフターケアも行い続けた

 

「しっかしあんたら姉妹は凄えなぁ、自分でも分かるくらい目に見えて上達してるぜ」

「確かに、私も戦いながら少しは先のことを読めるようになったし」

「私も大分早く動けるようになったんじゃないかな?あと…痩せたのも嬉しいかも♪」

「氷莉、あんたねぇ…」

「だってぇ」

 

彼女達の成長は私達も感じている

炎雅も精度、射程が向上したし身体操法を叩き込んだお陰で動きそのものも良くなった

 

「で、だ…俺達にこうして教えてくれるのはありがたいんだが、あんたら自身の修行は良いのかよ」

「言われてみればそうね。私達に教えてばかりじゃ貴女達は訓練出来ないじゃない」

「教えることもまた修行になる。己が己をどれほど理論で理解出来ているかの確認も出来るしな」

「そういうことです。心配なさらなくても大丈夫ですよ」

「でも貴女達は実戦に近い形のものをしてないせいで勘が鈍るとかはないわけ?」

「甘く見るな、と言いたいところだが可能性はあるな」

「常に磨き続けないと実力はすぐ鈍ってしまいますからね…」

「かと言って俺達じゃこの2人と対等に戦えねえぞ」

「束になっても相手になるか分からないし…う〜ん」

「それならいっそのこと姉妹で模擬戦やったらどうかな」

「私と樒で?」

「模擬戦か…」

「それもいいかもしれませんね」

「言われてみれば姉上との決着はついていなかったしな」

「そうか、あの時からもう15年ですか…早いものですね」

 

アウルと樒は互いに距離を取る

火継達は巻き込まれないよう部屋の隅へ移動した

 

「本気でいくぞ、姉上」

「望むところです、樒」

 

2人から闘気が迸る

双方産まれた時から殺し屋、そこにははっきりとした殺意が含まれておりアウルもそれを隠そうとはしなかった

暗い殺意がぶつかり合い辺りの空気が重くなる

組手のようなものだと言うのに死人が出そうだ

 

「ねえ…氷莉あんたとんでもないこと提案しちゃったんじゃないの?」

「えぇっとぉ…まぁ本人達も乗り気だしいいんじゃないかな?」

「んなこと気にする暇があったらあいつらの動きを見て少しでも盗むことを考えろ。こんなチャンス二度とないかもしれねえぞ」

 

火継達は2人に注目する

アウルはナイフと銃を手に、樒は打刀を両手に構えていた

2人は暫く膠着する

その後何の合図もないのに同時に動いた

樒は両手の握りを緩め、初手で「幻惑の両刀」を放つ

アウルを相手に探り合いなど不要であるしそんなことをしていればすぐにやられてしまう

最初から本気で、技を隠すことなく全力でいくことにしたのだ

だがそれはアウルも同じこと

アウルは感覚を鋭敏に研ぎ澄ますことで予測不可能と言われる樒の剣筋を見切って捌いていく

アウルのこれは「超感覚(ハイパーセンス)」と呼ばれこの状態のアウルへは何人も攻撃を当てること、そして彼女の攻撃を避けることは不可能と言われていた

かなり強力だがとてつもない集中力が必要なため、長時間の維持は出来ない

僅かな隙を突いてアウルが銃を樒の顔目がけて撃つ

だが直前でそれに気付いた樒は上半身を大きく逸らして躱す

更にそのままの姿勢で攻撃により防御の緩んだアウルへ斬りつけようとした

それを予期していたアウルはこれを捌こうとする

しかし樒は今までの緩んだ剣筋から一転、急に握りを固めて鋭い剣戟を放った

そこまで予測しきれていなかったアウルはそれを完璧に捌くことは出来ず、ナイフでなんとか受け止めるので精一杯だった

樒はそのまま刀を振り抜いてアウルを後方へ飛ばす

飛ばされたアウルは空中で体勢を整えて飛びながら樒へと連射する

樒はその全てを刀で弾き落としてみせた

この間、僅か10数秒ほど

 

「ねぇ…今の見えた?」

「なんとか見えはする、んだが…」

「何してるかさっぱり分かんないよぉ」

 

火継達は本気のアウルと樒の動きを盗もうと目を凝らして見ていたが、次元の違いに最早諦めムードである

分かることといえば

 

「刀で銃弾弾くってどうなのよ…」

「樒ちゃんのあの技全く見えないのに…」

「今の早撃ちもえぐいな…」

 

このくらいだ

 

火継達の使う具現武装はとても軽く、振るうのにさほど力を必要としない

しかし樒の扱う刀は地球の物と比べれば軽いとはいえしっかりと重量がある

その上両手に持っているため片手で振らなければならない

それでいて常人には視界に映りすらしない速さの銃弾を弾いてみせたのだ

樒は細身の身体だが、見た目以上の膂力があることが伺える

アウルもアウルで樒の幻惑の両刀を全て防いでいる

その使い手である樒でさえ予測のつかないことがあるほどの攻撃を、ほぼ全て見切り躱す

一時的なブーストであってもとんでもないものがある

更に後方へ飛ばされる最中に体制を整えつつ拳銃を連射し、その全てをきっちり樒の位置へ放っている

マズルジャンプまで計算に入れて利用しなければ到底出来ない芸当だ

数日特訓を詰んだだけの火継達が理解出来ず、諦めるのも無理はない

 

「やはりその技は中々に厄介ですね」

「全て躱しておいてよく言う。これは一応私の奥義なんだがな」

「私も必死なんですよ」

「必死になった程度で躱される…か。相変わらず恐ろしい姉だ」

「それはお互い様でしょう」

「それもそうだ…な!」

 

短い会話を挟んだのち、アウルと樒はまた撃ち合う

実力は拮抗していたし互いに油断も隙もないため暫く膠着状態が続いた

-しかし

 

「ぐっ…!」

 

樒が押され始めていた

元々樒は暗殺者向きであり、真正面からの戦闘を最も得意とするアウルが相手では今回のような場合は分が悪い

だからこそ初っ端から奥義まで使って仕留めようとしていたのだ

出方を伺う可能性の高い初撃に全力を込めれば勝てる可能性はあると

しかし同じく全力を出したアウルに防がれてしまったし、その後も何度か切り傷を与えてはいるが自分の方がダメージが大きい

体格もアウルの方があり、おまけに扱う武器も樒のそれより余程短く軽い

パワー、スピード、タフネスにおいて樒はアウルに負けていたのだ

だが諦めはしない

これまでも自分より強い相手と戦い、不利な状況の中でも相手を殺して生き延びてきたのだ

その為にはたった1度の反撃で急所を貫くのがもっとも良い

樒は反撃のチャンスをアウルの猛攻に耐えながらじっと待つ

その時だった

 

「なっ!」

 

樒の両腕が何故か真上に跳ね上げられていた

樒は完全に防御に徹している

いくらアウルでもこれを破るのは困難だ

だが樒が下から振りあげられるナイフを防ごうと刀で受け止めると刀を持った腕が一瞬で上に跳ね飛ばされ身体がガラ空きになったのだ

アウルといえど本気で防ぎにきてる樒の刀を腕ごと弾くことは不可能なはず

樒の筋力はアウルに劣るとしても相当なものだし技量面に於いてはむしろアウル以上だ

にも関わらず今こうして防御を弾かれ、両腕とも頭の上にある

樒はあまりの衝撃に何が起こったか一瞬分からなかった

しかしすぐに思い当たるものを思い出した

 

(そうか、太極拳か。まさかナイフであの複雑怪奇な力の流れを作るとは…しかも私に気づかせることなく)

 

長らく地球を離れ、オラクルにいたことも災いしたのだろう

流石に3年近くも地球の武を一切見ていなければいくつか忘れてしまうのも無理はない

そのせいもあり、樒は対処が僅かながら遅れた

その一瞬の間で完璧に懐に入られ、アウルの掌打を胸にまともに喰らう

樒は後ろに大きく吹っ飛び、壁に叩きつけられる

 

「がはっ!」

 

そのまま壁を背にして寄りかかるような姿勢で床に尻餅をつく

掌打の衝撃で横隔膜が激しく痙攣している

意識こそ失わなかったもののこれ以上の戦闘行為は不可能だろう

こんな状態でも決して刀を手放さないのは流石である

 

「やはり…正面か、らでは……姉上に勝てない、か…」

「それはどうでしょうね…少なくとも私はかなりギリギリでしたよ。あそこで私の狙いに気付かれていたら負けていたのは私の方かもしれません」

「ふっ…そ、うか」

 

樒はそのまま目を閉じる

意識を失ったわけではなく、自身の再生に努める為余分な力を使わないようにしたのだ

 

その後樒は自分の足で立ち、メディカルセンターへと向かった

アウルはトレーニングルームに残り火継達への稽古を再開する

樒のことは良いのかと聞かれたが、彼女のあの様子なら心配は要らない

きっと数時間後にはケロッとした顔でここに来るだろうと言うとそれ以上は何も言われなかった

その言葉通り3時間後に樒は戻ってきた

勿論特訓をつけにきたのではなく、安否の報告だ

今日は休むと言って先に帰った

 

その後も特訓はしたが、あの会議から日数も少し重ねてきている

突入の日は近い、そう予感していたアウルは早めに切り上げて体力の回復へ努めさせることにした

…単純に妹を心配する姉心も含まれていたが

 

翌朝

アウルの読み通りアースガイド本部への突入の手筈が整い、日程も決まった

突入は2日後

アウルと樒は相談してその日を最後の特訓にし、突入の前日は火継達に自由に過ごさせることにした

事態が事態だけに生きて戻ってこれる保証はない

…色々と精算しておいた方がいい

勿論心身を休ませ、生存の可能性を少しでも上げる目的もある

こうしてその日は過ぎていき、突入前日

皆思い思いに過ごしていた

 

後悔をしないために



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突入開始

遂にこの日が来た

アースガイド本部への突入の日だ

私達は各々準備を終えて艦橋に集合していた

 

「集まったね。今からアースガイドへの突入を開始するよ、皆覚悟は良いかな?」

「大丈夫ですよ、シャオ。とっくの昔に出来ています」

「愚問だな」

「出来てるわ」

「ちょっと怖いけど…やります!」

「あの野郎をこの手でぶっ飛ばすまでは止まらねえよ」

 

皆がそれぞれ返すとシャオは満足したように頷き、言った

 

「よし、それじゃあ突入開始だ。健闘を祈る」

 

 

 

かつてアーデムが座り、全てを執り仕切っていた場所まで来た

ここに来るまでに何かしら障害があると思っていたが、何があったのか中は蛻の殻だった

 

「ねぇ…ここまで人がいないと逆に不気味なんだけど」

 

火継がそう言った

そう、普通の職員すら1人もいなかったのだ

これはおそらく…

 

「アーデムが何かをしたに違いないな」

 

 

樒が応える

 

「何かって、何よ」

「人間が1人もいなくなるような…何か、だ」

「あんまり考えたくないかも…」

「アーデムの野郎…一体何をしてやがる」

「しかしここにもいないとなると何処に…」

 

沈黙が続く

それを破ったのは炎雅だった

 

「あそこしかねえな…」

「知っているのですか?」

「あぁ、アースガイドの中でも1部の人間しか知らない場所があるんだよ。前に1度だけアーデムから話に聞いたことがある」

「場所は?」

「分かるぜ」

「ではそこに向かいましょう。どのみちここでじっとしていても埒が明きません」

 

私達は炎雅先導の元隠し通路へと向かった

そしてそこを抜けると…………なんだ、これは

そこは少し薄暗く、そしてかなり広い空間だった

何処か神聖なものを感じさせる雰囲気が漂っており、幾何学模様にヒカリゴケが生えたかのような石(?)造りの大掛かりな階段がある

ここまで摩訶不思議な光景は中々見れるものでは無い

 

「ここがアースガイドの最重要機密なんだとよ。話には聞いてたが実際に来てみると…なんつーか奇妙な場所だな」

「そうですね…私も流石にここまで不思議な場所を見たのは初めてです」

 

炎雅と話していると樒が口を開いた

 

「階段があって下に降りていくようだが、この先には何があるんだ?」

 

最もな疑問だ

ここまでして隠したい何かがあるのだろうか

 

「さあな…そこまでは俺も知らねぇ。ま、行ってみるしかないだろ」

 

そう言って炎雅は虚空から銃を取り出す

火継と氷莉も剣を取り出し、戦闘準備を整える

 

「では、行きましょうか」

 

私が先頭に立ち、階段を降り始めた

 

 

 

 

 

暫く階段を降りていたが特に何も起こらなかった

このまま何事もなくアーデムの元へ辿り着ければ良いのだが、そういうわけにもいかないのだろう

斯くして、そいつ等は現れた

 

「な、何よあれ!」

 

火継が刀を構えつつ言う

西洋のプレートメイルのような身体で、頭には勿論兜がある

この場と似たような神聖さを感じさせるこいつも幻創種なのだろうか

しかし、他のものと比べて何処か違和感があるな…

そう考えながら私は奴らに向かって踏み込み、手に持った刀で抜くと同時に斬り付ける

同じように樒も2体の奴らに刀を突き立てていた

 

「こいつらか何かなんてどうでも良いことだ。敵であると分かれば良い、殺すだけだ」

 

突き刺した刀を抜きながら樒が言う

確かにその通りなのだが些か極端だ

しかし今はそれを議論している時間はない、どこからともなく奴らが大挙してやってきたからだ

 

「いくらなんでも多すぎるだろ!」

 

炎雅が文句を言いながら銃を放ち、撃ち落としていく

 

「炎雅はそのままこちらに着く前の敵を撃ち落として下さい!ユカミは炎雅に近づく奴らの排除、樒は最後列で後方の警戒と対処を!」

「分かった!」

「分かりました!」

「了解」

 

3人がそれぞれ返答をし、指示通りに動いてくれる

正直指揮を執るのは得意ではないのだが、この際四の五の言っていられない

 

「アウル、私達は!」

 

火継が聞いてくる

 

「貴女達は私と共に最前線で道を切り開いて貰います。遅れないように着いてきて下さい!」

「了解!」

「分かりました!」

 

2人が返事をし、武器を構えるのと同時に私は駆け出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前に立つ敵を斬り伏せ、後に続く者達の無事を確認しながらの行軍を続けること5分ほど

速さを落とすことなく進行し続けたおかげでかなり奥まで進むことが出来たようだ

おそらく最深部までそう遠くはないはず

何故なら…今私達の前にはマザークラスタを裏切り、アースガイドとなった人物がいるからだ

 

「久しいな、1人見ない顔がいるが歓迎しよう」

「オフィエル…貴方がいると言うことはアーデムの所までもう少しということですか」

「それに答える義理などない。私はアーデム卿より何人も通すなと仰せつかっている、それだけだ」

 

私がオフィエルと話していると火継が怒りの籠った声を上げた

 

「オフィエル…私はあんたを許さない!あんたのせいで分かり合えたマザーは死んだし、何より私の1番大切な友達を傷付けた!!」

「火継ちゃん…」

「落ち着きなさい、火継」

 

私は彼女を宥める

 

「でも…!」

「いいから落ち着きなさい、火継。怒りのままに刃を振るえば必ず後悔しますよ…私のように」

「…っ」

 

少し強めに言ったことが奏を功したのか、火継は一旦クールダウンしてくれたようだ

 

「オフィエル、貴方に1つ聞きたいことがあります」

「…何かね」

「貴方は、何がしたいのですか?」

「質問の意図が分かりかねるな」

「そのままの意味ですよ。子供を洗脳し、かつての同胞や標を裏切ってまで叶えたい…貴方の望みはなんなんです?」

 

オフィエルは氷莉を洗脳し操ったり裏切りなど悪逆な行為を躊躇いもなく行っていた

それはそんなことをしてでも実現したいことがあるからに違いない

万が一にもその行為をやりたいがためにやっただけであるならば…その時は有無を言わさず地獄に招待する

だがもしも目的があり、その目的が彼なりの正義によるものであった場合…やり方を間違えただけだ、殺すこともないだろう

それをはっきりさせるために聞いておきたい

外道は殺すべきだが…出来ることならもうこれ以上人を殺したくないのだ

その問いに対して彼が出した答えは…

 

 

 

「…人類は行き詰まっている」

 



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決戦:前編

「そもそも私はマザーを裏切ったつもりもなければアーデム卿に与したつもりもない。行き詰まった地球を導く存在を支え、新たなる世界再編(パラダイムシフト)をこの目で見届ける…私の目的はそれだけだ」

 

オフィエルがその想いを告げ始めた

なるほど…つまりは

 

「その導き手としての可能性を以前はマザーに、そして今はアーデムに感じている…ということですか」

 

「その通りだ。君達がそれ以上の可能性を見せるのならば、君達と肩を並べることもあるだろう」

 

「ふん、願い下げだな」

 

樒が吐き捨てるように言った

それを意に介した風もなくオフィエルは続ける

 

「まぁ最も、その可能性は限りなく低いとは思うが。誰もがそうだ、誰しもがそうなのだ。現状を見ず、未来を見ようとしない。今この星がどれだけ窮地に立たされているのか考えもせず、日々腐敗した権力闘争を繰り返す。それで犠牲になる者を、振り返ることなく」

 

冷静に、淡々とした口調で言っているが、その声からは溢れんばかりの絶望と怒りが滲み出ていた

 

「この手を以て、この技術を用いて人一人救おうとも、それと同等の時間で数万の命が芥と消えていく………人は同じ過ちを繰り返す。それは決して治ることの無い病巣、世界を蝕む根源の病巣だ」

 

これは…私にも責任がある

私は彼が必死に救ってきた命の少なくとも10倍、多くて100倍を超える命を奪ってきたのだ

 

「最早処置なし、手遅れだ。故にその病巣、取り除くしかあるまい」

 

腐敗した人類に絶望した彼は、この世界を善くするには更なる進化を、そしてその手段となる世界再編(パラダイムシフト)をするしかないと考えた

しかし自分には世界を作り替えるほどの力はない

そこでマザーやアーデムに協力し、その力を以て…ある意味では世界を、人類を救おうと考えたのか

オフィエルの独白が終わると少しの間を置いて炎雅が口を開いた

 

「…いい歳して自分の絶望を他人に押し付けてんじゃねえよ、おっさん」

 

「なんだと…」

 

「てめえの言い分はな、上手くいかなかったから全部なかったことにする、っていう子供の駄々となんら変わりねえんだよ」

 

そこまで言ってから銃を構える

 

「ごたくは良いからそこどけよ。俺はお前よりも子供な神様気取りをぶん殴りに行かなきゃいけねえんだよ」

 

炎雅の言っていることは間違っていない、間違ってはいないが…

 

「やれやれ…命の現場に1度だけ、それも子供の頃に立ち会っただけではやはり分からんか。アウルよ、貴殿なら私の言うことが分かるのではないか?」

 

「ええ…私は貴方の言うことには一種の正しさがあると思います」

 

「なっ!?アウル、あんた…」

 

炎雅達は驚いたようだ

 

「貴方やアーデムの目指すものの後には、平和でとても善い世界があるかもしれませんね」

 

「そうか、やはり貴殿には分かるか。ならばそんな子供とではなく私と共に来ないか?正直なところ、貴殿が味方についてくれるのであればとても心強い」

 

「お断りします」

 

「なっ、に…?」

 

今度はオフィエルが驚いた

 

「何故だ…さっきと言っていることが違うではないか!」

 

「確かに私は『貴方の言うことには一種の正しさがある』とは言いました。が、それだけです。貴方に協力するつもりはありません」

 

「…理由を聞いても?」

 

凄みのある声でオフィエルが問う

その迫力は耐性のない者が聞けば足が竦んで動けなくなるほどのものだった

しかしアウルと樒にとってはこの程度大したものではなく、火継達はここ数日間の特訓でアウル達の闘気を間近で浴びていたため耐性が出来ている

ユカミはハイキャストであるが故に恐怖を感じようともそれによって動けなくなる、なんてことにはならない

 

「単純な話です、ただ単に貴方達のやろうとしていることが気に入らない。だから止める、それだけです」

 

それに無理な進化を強いられ、存在を歪まされ、無理矢理作り替えた世界なんて…あの人は望まないだろう

そこに平和や正しさはあっても幸せがあるとは思えないからだ

だからこそ、そんな巫山戯た真似は絶対にさせない

 

「愚かな…!もういい、君に期待した私が馬鹿だったようだ」

 

オフィエルはそう言って腕を翳した

一瞬で周囲が青色の薄い膜のようなもので四角く囲まれる

一辺が約20mといったところか…そこそこの大きさの箱庭の中に捕えられてしまった

 

「領域展開……!オフィエルさんの、能力…!」

 

「その通りだ鷲宮氷莉、君は体験したことがあったな。我が領域は、我が意のままに繋がる!」

 

瞬間、氷莉の背後に中空から無数の手術用メスが現れた

それはそのまま氷莉を背後から突き刺そうと襲ってくる…が一本たりとも氷莉に刺さることはなかった

樒が両手に持った刀で全て弾いたのだ

オフィエルは一瞬悔しそうな顔を見せたがすぐに引っ込めると名乗りを上げた

 

「オフィエル=ハーバード。マザークラスタ水の使徒、そしてアースガイド北米支部長。進化の先にある未来を見るため…術式を開始する」

 

最早話をするつもりはなく、この場で私達を世界から取り除くつもりなのだろう

皆もそれが分かったのかそれぞれの武器を構えている

斯くして、オフィエルとの戦闘が始まった



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決戦:中編

私達はオフィエルに対して優勢を保っていた

それもそのはず、まず人数差が酷いことになっている

こちらはアウル、樒、ユカミ、火継、氷莉、炎雅の6人でオフィエル一人に襲いかかっているのだ

オフィエルは領域展開の能力をフル活用し、なんとか凌いではいる

火継達の3人だけなら或いは勝てたかもしれないが…私と樒がいることでバランスが崩れたようだ

基本的には私と氷莉が突撃してオフィエルの意識を集め、樒と火継が不意打ちをする

炎雅とユカミが銃撃でオフィエルの動きの阻害、牽制を行う形で戦闘を有利に運んでいた

それでもオフィエルの能力は厄介なもので…

 

「きゃっ!?」

 

「ヒツギちゃん!大丈夫?」

 

「意識を敵から離すな、氷莉!」

 

「え?ってきゃああぁぁ!」

 

氷莉の意識が逸れた一瞬を狙ってオフィエルが隔離領域を展開して氷莉を捕らえる

そのまま領域内で何かしらの施術を施すつもりのようだ

 

「コオリ!!このっ」

 

「取り乱すな、火継」

 

「でも!」

 

「既に手は打った、私に合わせろ」

 

「わ、わかった」

 

火継はそのまま突進していく樒に付いて行き、オフィエルに真正面から接近戦をする

先程まで不意打ちに徹していたのにいきなり180度違うことをすることに火継は違和感を感じた

それはオフィエルも同じようでしきりに周囲を警戒…しようとしているが樒が裂帛の気合いと共に全力で攻撃を仕掛けているので出来ていないようだ

 

「あ、あああぁァァァ!?」

 

隔離領域内に捕えられた氷莉が叫ぶ

早く助け出さないとどうなるか分からない

それなのにアウルの姿は見えないし、何処で何を…

そこまで考えて火継は気が付いた

アウルが、何処にも見当たらない

ここはちょっとした広場のようになってるとはいえそこまで広くはない

隠れられるような場所もないのに…いったいどこに行ったというのか

その時だった

 

「なっ…が、あぁ………」

 

オフィエルが苦しみだした

それと同時に氷莉を捕らえていた領域が霧散する

 

「コオリ、大丈夫!?」

 

「うっ…うん、大丈夫だよヒツギちゃん」

 

「でもなんで突然…あ」

 

見ると、オフィエルの身体が地面から少し浮いている

彼の能力で浮いている訳では無いようだ

苦しそうに首を押さえて…いや、何かを取り払おうとしているように見える

やがてオフィエルの後ろに、誰もいなかったはずのその空間に

 

 

アウルが現れた

 

 

まるで透明化の術を解除するかのように少しずつその姿が見えてくる

どうやらオフィエルの首を後ろから片手で締め上げ、身体を持ち上げているようだ

それによってオフィエルは氷莉を捕らえていた領域を展開し続けるだけの負担に耐えられなくなっているのだ

そのままアウルは後ろに振り返ると同時にオフィエルをこの場に展開していた領域に向けて投げ飛ばし、叩きつけた

 

「がはっ、あ…」

 

オフィエルはなんとか立ち上がった

それだけの力は残っている…いや、残されたと言う方が正しいのだろうか

 

「オフィエル、それだけはさせませんよ。人の存在を歪ませることだけは、絶対に」

 

珍しくアウルが怒りを顕にしている

オフィエルのやろうとしたことは外道の行いで、アウルが最も嫌う行為であった

 

「くそ…最早領域を出す力もないか。だが、君達をこの場に捕らえることが出来た時点で私の目的は達されている」

 

「やはりこの領域だけは元より準備していたものか」

 

「どういうことだよ、樒さん」

 

炎雅が樒の呟きに反応して聞く

 

「先の戦闘中で具現していた領域はやつがその場で能力を発動して作っていたものだ。しかし私達を捕らえているこの大きな領域だけは、やつが前々から準備をして…分かりやすく言うなら儀式を行って展開したもの。故に最早やつの管理下にはなく、例えやつを殺したとしてもこの領域だけは残り続ける可能性すらある」

 

「おいおい、どうすりゃ良いんだよ…!」

 

「やつに儀式をやり直させて解除するしかあるまい。それこそ…拷問をしてでもな」

 

「拷問……」

 

火継が難色を示す

しかしそれ以外に出来ることもない

だからこそアウルもオフィエルの意識を残したし、立てるだけの力も残したのだ

アウルとてもうやりたくないことだが…ここで躊躇えば地球が、宇宙が無くなる

 

その時だった

派手な音を立てて隔離領域が、割れた

 

「なっ!?馬鹿な…私の領域が……!」

 

全員が驚く中領域を割った主が優雅に歩いてきた

 

「存外脆いものですね、ノックしただけで割れてしまうだなんて」

 

「魔人…!」

 

オフィエルが怒りとも悔しさとも恐怖とも付かない声と表情をして招かれざる来訪者を睨む

ファレグだった

ファレグはそのまま領域を手で撫でる

 

「ふむ…エーテルを薄く展開し、空間を具現しているといったところですか。面白い手品ですね。しかし脆い、まるで術者のよう」

 

そう言ってファレグはオフィエルを睨んだ

 

「くっ…」

 

「何をしているのです?こんなものとっとと壊して先に進んでしまいなさいな」

 

「…良いのかよ、あんた」

 

「ええ、アーデムを殺すのはあなた方が失敗した後でも可能ですからね。それに私には丁度今やりたいことが出来てしまいましたので」

 

ファレグはオフィエルの方を見ると僅かに目を開く

 

「この勝手に人類に絶望している痴れ者に人類の素晴らしさを教え込む…再教育というやつですね」

 

「…わかった、行こうアウルさん!」

 

「そうですね…感謝しますよ、ファレグ」

 

「おや、ではこれは貸しと言うことで…そのうち私と闘って下さいね?」

 

「…良いでしょう。考えておきます」

 

「あらあら…楽しみにしておきますわ。では、道をお開けしますね」

 

「や、やめっ…!」

 

オフィエルの嘆願虚しくオフィエルの領域は割られた

闘気で空間そのものを歪めてエーテルを叩き割ったのか

やはりファレグは私よりも相当戦闘経験が長い

本当に何者なのだ…

 

ファレグのおかげで隔離領域から脱出出来た私達は更に下層へと進んでいた

しかし本当に助かった

領域からの脱出もそうだが、それ以上に…昔のようなことをしなくて済んだのが1番ありがたい

だから彼女の望む通りきちんと闘うつもりだ

フォトンも使って、それ以外の…まだ隠してる力も……

 

「おい、アウルさんよ!聞いてるのか?」

 

「っ!! すいません、少し考え事をしていました」

 

「…あんだけのスピードで走りながら考え事出来んのかよ」

 

「それで、どうしました?」

 

「いや、流石に早いからもう少しゆっくりして欲しいってのと…もう一つは、オフィエルの野郎を吹っ飛ばした時あんたは何も無い空間から現れたように見えた。ありゃなんだ?」

 

「あぁ、あれですか…あれはアークスの技術と私の技術を統合したものですね。フォトンによる空間認識疎外領域を私の今着ているスニーキングスーツから発生させて私の身体を包みます。それと同時に私が気配を完全に殺し、更に周囲の人間の死角を取り続けることで完璧に姿を眩ました…ということなんですが、分かりました?」

 

「あ〜まぁ…なんとなくは」

 

「取り敢えずアウルさんが化物だってことは分かったわ…」

 

「常に相手の死角に入り続ける…か。流石姉上だな、勉強になる」

 

「技を盗むのは勝手ですが…それはアーデムを止めてからですし、そう悠長に話してる場合でもなさそうです」

 

辺りを見渡すとあの新型幻創種が大挙して押し寄せようとしていた

 

「わわわ、あんなに沢山…流石にしんどいよぉ」

 

氷莉が弱音を吐いた

しっかりしろと言いたいが、確かにあの量はきつい

さて…どうするか

その時であった

 

「ぬりゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

雄叫びと共に凄まじい衝撃が辺りに迸る

それによって接近してきていた幻創種達が散っていく

舞った土煙が消えたそこにいたのは

 

「アラトロンさん!」

 

氷莉がその姿を認めて声を掛けた

 

「ほほっ久しぶりじゃのう、娘っ子よ」

 

「アラトロン殿…何故ここに?」

 

私は問うた

 

「なあに、決まっておろう。お主に助けられた礼をしに来たのよ。ここは儂に任せて主らは先へと往くが良い」

 

「じいさん一人でやるなんて無茶だ!」

 

「そうなのです、私達もやるのです!」

 

炎雅とユカミが反対する

しかし

 

「誰が一人じゃと言った?」

 

「え?」

 

「ラプラス、マクスウェル!」

 

新たな幻創種が現れたかと思うとその幻創種は敵を砕いていく

 

「遅刻じゃよ、オークゥ」

 

「うっさい、たったの数秒くらいでしょうが!そんなので非難されるの100%納得出来ない」

 

「落ち着いて、オークゥ。その数秒で地球が終わるのかもしれないんだし、仕方ないよ」

 

「それは…そうだけど!」

 

あれは、世界的な数学者のオークゥ=ミラーと世界的な言語学者のフル=ジャニース=ラスヴィッツ…?

マザークラスタの使徒達がなぜここに

 

「生きてたのか、お前達!」

 

炎雅が驚きの声を上げる

 

「当ったり前でしょ!あたしとフルが、あんな無様な死に方してたまるもんですか」

 

「ファレグが来てくれなかったら確実に死んでたけどね」

 

「そういうことじゃ。義により助太刀させてもらうぞ」

 

「あたしは別に助太刀しに来たわけじゃないし、マザーの仇を取りに来ただけだし!」

 

「でも私達はまだ怪我治ってないし、本調子とはいかない。クゥっぽく言うなら50%がいいとこ?」

 

「ぐっ…あたしは身体関係ないし、戦うのはラプラスとマクスウェルだし」

 

「無意味に強がるでない、オークゥよ。誰が為そうと結果は変わらぬ、過程よりも結果を重んじよ」

 

「わーかってるわよ、もう!」

 

オークゥが炎雅に向き直る

 

「そういうことだから、10%色男!あんたたちは先に進みなさい!」

 

「…何事も適材適所。私の能力は時間稼ぎにうってつけ」

 

話に聞いた限りではフルの能力は時間遡行する空間を具現すること

確かに時間稼ぎするのにピッタリだ

 

「マザーの仇に目にもの見せてやれぬのはちと癪じゃが…なに、こうして協力に現れただけでも十分に想定外であろう?」

 

話を聞いた炎雅は

 

「…死ぬなよ」

 

その一言だけを言った

それで十分だった

 

「はん、そっくりそのまま言葉を返すわよ!10%色男」

 

その言葉を最後に私達は下層へと走り出した

アーデムを止めて、地球を救うために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最下層に位置する祭壇、そこでアーデムは儀式を行っていた

その様子はとても美しく、厳かで…まるで一枚の絵画のようだった

その場に通じる唯一の扉

その扉が開かれた

それが意味することはただ一つ

彼女らが、来たのだ

 

「来られましたか、オフィエルも存外役に立たないなぁ」

 



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決戦:後編

最後の扉を開けた先にアーデムはいた

魔法陣のようなものが光を放ち、その中心で彼は片膝を付いて祈りを捧げているように見える

 

「アーデム!!」

 

その姿を認めた瞬間、炎雅が発砲した

しかしその銃弾はアーデムに届くことは無く、何かの力によって弾かれる

 

「来られましたか。存外オフィエルも役に立たないなぁ」

 

アーデムは普段と何一つ変わらない調子でそう言った

 

「てめぇには聞きたいことが山ほどある…けどな、まずは1発ぶん殴ってからだ!!」

 

「わぁ、凄い剣幕だね炎雅。君とは長いこと一緒にいるけど、そんな顔初めて見るよ」

 

「落ち着きなさい、炎雅」

 

私は彼を宥めて前に進み出た

そして少しだけ怒気を孕んだ声で問う

 

「アーデム、一つだけ質問があります。答えてくれますね?」

 

「えぇ、良いですよ。なんです?」

 

「ここに来るまでに見たことも聞いたこともない幻創種が何体も居ました。それと同時にここに居たはずの職員が一人残らず消えていた…貴方はまさか……」

 

「あぁ、そうですよ。私がやりました。新たなる世界に耐え得る身体へと進化させたのです。最初は器が持たずにすぐに瓦解してしまいましたが、実験を繰り返す内に―っ!」

 

アーデムは最後まで言葉を続けることが出来なかった

アウルの姿が一瞬消えたかと思うと次の瞬間にはアーデムの目の前へと迫っており、頭の上まで上げた脚を振り下ろそうとしていたのだ

アーデムは後ろに跳ぶことで何とか回避に成功する

振り下ろされた脚が放つ風圧で倒れそうになるのをなんとか踏ん張って耐えた後に目にしたのは…

 

「なっ…」

 

先程までアーデムが立っていた場所は大きくヒビ割れ、アウルの踵の直下には窪みが出来ていた

アーデムに取ってこの場所は最重要だ

故に例え大型地震が発生しても絶対に壊れないほどの強度を持たせている、はずだ

そんな場所を踵落としで叩き割り、剰え陥没させるとなると…つまりはそういうことだ

直接当たればどうなるかは明白、エーテル等による防御で防ぎ切れる保証はない

 

「い、いきなり殺そうとするなんて意外と乱暴なんですね。貴女はもっと落ち着いた女性かと思っていましたよ」

 

「黙れこの外道が、五体満足で死ねると思うなよ」

 

恐ろしく低い声でアウルが言った

その言葉にその場にいた全員が、樒でさえも恐怖に僅かに震えた

殺意を隠すことをやめ、完全に殺す気になっている

その殺気は周辺の気温を下げているのではないかと思うほど研ぎ澄まされていた

足元からじわじわと這いよって脚に絡みつくような殺気

 

火継達は武器を落としてしまった

平和な日本で育った彼女達は物を掴む力すら保てなくなっている

産まれた頃から20年以上人を殺し続けてきた本物の殺し屋の殺気を浴びたのだ、仕方がなかった

 

「問答無用ということですか…覚悟を決めないとあっさり殺されてしまいそうだ」

 

アーデムはそう言って中空より華美な装飾が施されたレイピアを取り出した

その顔からは普段の飄々とした感じは一切なく、油断など微塵もないことが窺える

 

程なくして、戦いの火蓋は切って落とされた

 

 

 

 

 

 

 

 

アーデムは防戦を強いられていた

彼はアークスのことを調べ尽くしており、現在の全てのクラス、スキル、PAのことを知り尽くしている

故にアウルがどんな攻撃をしてきても予め知っているため、防いで反撃をすることは十分可能なはずだった…のだが

アウルの戦い方はアークスのものとは全く違ったものであったのだ

新たなクラスの開発をしていると噂に聞いてはいたが、これがそうだと言うのか

 

「くっ…!」

 

アウルの放ってきた蹴りをレイピアで去なすが、その威力は凄まじく腕を通り越して足の先まで全身に痺れが走る

その隙を逃さず去なされた蹴りの威力を利用して身体を回転させそのまま肘を繰り出してくる

何とか腕をクロスさせて防御するが後ろに大きく吹き飛ばされる

エーテルのみならず魔法まで使って身体を守っているにも関わらず、腕がへし折れそうなその威力にアーデムは疑問を持った

単なる身体能力だけでは決してない

如何にアウルが身体を鍛え、技を磨いているとはいえここまでの威力を出すことは物理的に不可能だ

今では失われたとされる武術の数々まで知っているアーデムだからこそ分かる事だった

フォトンによる強化を行っているにしてもそれだけでは説明が付かない

 

アウルが使っているのは地球に太古より伝わる武術である

それにアークスから学んだフォトンを加え、スキルやPAの要領でそれらの速度と威力を極限まで高めたもの

そしてそこにアウルが、アウル以外にはあと1人しか使えない力を用いている

アウルがこの力を用いるのは完全に本気の時だけだ

つまりアウルはアーデムを完璧にこの世から消し去ろうとしている

 

しかしアーデムもやられてばかりではない

 

「いい加減こちらからいかせて貰いますよ!」

 

そう言ってアーデムはアウルが接近してくるより前に魔法を用いて5人に分身した

これより繰り出すのはアーデムの最終奥義

アウルを相手に小技など出しても無意味、一番強力な技をぶつけるしかない

これが効かないのなら最早打つ手は、ない

 

アーデムが何か大技を仕掛けてくることを察知したアウルはそれを阻止しようとしたが、不思議な力によってアーデムに近づくことが出来ない

バリアのようなものでも張ってるのかと思い、それを打ち砕こうとしても手足は空を切るばかりだ

この部屋はある程度の広さはあるがかなり広いと言うほどではない

もしも広範囲攻撃でもされれば避ける道がないかもしれない

後ろにいる皆のことも守らなければならないし避けるという選択肢は端からないも同然だった

 

5人のアーデムは1人を中心として東西南北に位置取る

そして中心のアーデムがレイピアを指揮者のように振りながら宙へ浮かぶ

四方のアーデムも同じように浮き、詠唱を行う

 

「かつて賢き女ども座せり。此は万象を砕く力なり!」

 

中心のアーデムが一際高く浮かんだ

 

「テトラグラマトン!!」

 

強烈な光が辺りを埋めつくし、誰にも、何も見えなくなった

 



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最悪の決着

アーデムの放った大技により辺りが光で包まれる

何も見えない中、アウルはキャストの駆動音と何かが展開するような音を聞いた

そして光が消えた後、そこにいたのは

 

「ユカミ!」

 

「なんとか、間に合いました…」

 

アウルの前でタワーシールドを展開しているユカミがこちらを振り返らずにそう言った

今回ユカミには新たな兵装として防御用のタワーシールドを搭載させていた

敵がどんな攻撃をしてくるか分からない以上、防備を固めるのは当然のことだった

そしてそれが役に立ったようだ

だが…

 

「うっ…」

 

呻き声を上げるとユカミはその場に倒れた

いくらシールドで防いでもあの技の威力は凄まじく、ダメージを受けてしまったようだ

アウルは急いで駆け寄り、抱き上げると樒の元へ走ってユカミを託した

 

「彼女を頼む、私はアーデムを殺る」

 

「分かった、そちらは任せたぞ」

 

アーデムに向き直ったアウルは彼が肩で息をしているのを認めた

 

「まさか…あれでも貴女を倒せないとは思いませんでしたよ」

 

「彼女が護ってくれなければ危なかったかもな…さて、死ぬ覚悟は出来たか?」

 

そう言ってアウルは構える

それに対しアーデムもレイピアを構えた

 

「正直なところこれ以上はきついのですが…そうも言っていられないようですね」

 

言い終わると同時にアーデムが一気に踏み込んで連続で突きを放つ

その速さはかなりのものでとても体力の切れそうな人間の動きとは思えない

だがアウルはそれ以上の速さでその突きを捌いていく

刃の側面に手の甲を当てて手首を回すことにより少しの力で相手の攻撃を去なす

その攻防が続くと思われたが

 

「が、は…」

 

アーデムの口から血が零れた

見れば腹からも大量の血液が出ている

当然そんな傷を受けて平気なはずはなく、アーデムに一瞬の隙が出来る

その隙を見逃すアウルではない

身体を横に倒しながらアーデムの鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ

アーデムの身体はそのまま地面に叩き付けられる

息が詰まって悲鳴も上げられないようだ

 

「いったい、なにが…っ!」

 

アーデムはそう呟いた後に何が起こったのか理解したようだ

その視線はアウルの左手に注がれている

その手には拳銃が握られていた

 

「素手だけだと思って油断したな。これで終わりだ」

 

「ふ、ふふふ…そのようですね、だがこれで良い」

 

「…なに?」

 

腹と口から血を流しながらアーデムは不敵に笑っていた

この状態で何か出来るとも思えないが…

 

「これで良いんだ…これで神降ろしは為される!」

 

「神降ろし…っ!まさか!?」

 

神を呼び出すのではなく、降臨させるとなると…この状況だと

 

「如何に具現、想像の産物とは言え神が無償で顕現する訳がない!その降臨には、それに相応しい供物が必要。神が入るための器が必要だ」

 

「くっ…させるか!」

 

アウルが器としてすら機能しないほどに潰そうと拳を打ち下ろす

だが

 

「ぐぅっ…」

 

見えない力によってアウルは弾かれ、大きく吹き飛ばされた

 

「おい、大丈夫かよアウルさん!」

 

それまではアウルの放つ余りにも凄惨な空気によって身動き出来ていなかった炎雅も、ようやく動けるようになったのかアウルに駆け寄りその身体を起こした

 

「私の事はいい、早くアーデムを殺せ!そうしなければ…」

 

「しなくちゃ、どうなるんだよ!?」

 

「破壊と創造の神が降ろされ、地球が終わる…!」

 

「なん…だと」

 

炎雅がアーデムの方を見やると、なんとか立ち上がったアーデムが儀式の最後の仕上げを行うところだった

足元の陣が輝き出す

 

「神が降りるくらいだから器にも相応のものが求められる…生半可な器では為し得ないんだ」

 

「なんだ…何を言ってやがる、アーデム!」

 

炎雅が叫ぶが、最早こちらの言葉など耳に入ってはいないようだ

 

「例えば、人の範疇を越え、神の呪いを受け…長い長い時を生きてきたものの、身体とかね!」

 

直後、地面と中空からかなり細い木が複数絡まったようなものが現れてアーデムの両手両足を拘束した

 

「ぐ、うぅ…」

 

アーデムから呻き声が溢れる

 

「…そう、それで良い。器たるべきは、この僕の身体だ。創造の神よ、我らが父よ!これは、貴方の創った器です」

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ユカミを火継と氷莉に預けた樒と吹き飛ばされたアウルが同時にアーデムに襲いかかる、が

やはり何かに弾かれてしまい、儀式を妨害することが出来なかった

 

「降りるに厭とは、言わせませんよ?」

 

アーデムがそう言った直後

辺りが眩い光に包まれて再び何も見えなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まると、そこは先程までいた場所とはかなり違った場所になっていた

立っている場所は…自然なままの木で作られた平らな場所

その周りを太い木の幹が覆っている

また枝がいくつも周囲に見える

それに何よりも…

 

「…ここ、どこ?」

 

「気持ちの良い風に、心地よい光……こんな環境、現実味がない」

 

氷莉と火継がそう言って辺りを見回した

彼女達の言う通り、ここは心地良すぎて現実のものとは思えないのだ

 

『そうであろう。ここは我が庭、人の身には過ぎたる場よ』

 

どこからともなく声が聞こえた

 

「!? だ、誰っ!」

 

火継がその声に対して叫ぶ

 

『不遜な言葉だな、人の子よ。読んでおきながら、なお我を何と問うか』

 

いつの間にか中空に光の輪が現れていた

どうやら声はあそこから聞こえるらしい

 

「…まさか、てめぇが」

 

炎雅の問いかけに応えるかのように「それ」は姿を完全に現した

形は人間のそれと同じだが、明らかに人間ではない

身体が白い鎧のようなものや木やら何なのか分からない水色の物体によって構成されているのだ

 

「いかにも。我はこの星を、宇宙を創りし存在であり、この宇宙そのものである」

 

「アーデムの身体を器に神を降ろすってのはこういうことかよ……!しかし、宇宙の創造神のご登場とはいきなりぶっ飛んできやがったな」

 

『不意不足の形ではあるが、こうして形取ったのであればこの身の役目、果たさねばなるまい。この地、この星を糧としていざ新たなる宇宙の創造を行わん』

 

「星を糧にって…地球を壊す気!?」

 

『今の人類、この星この宇宙にとっては、な。だが案ずるな、生まれ変わった宇宙は新たなる人類が引き継ぐだろう。終えた世界は、糧としての価値しかなくそれを人が望むのであれば…我はそれを為すのみだ』

 

「そんなこと…させない!」

 

そう言って火継達は各々武装を構える

 

『ふむ、刃を向けるか。創造の神に』

 

奴の目が光ったかと思うと火継達の武装が解除され、服も普通の物に戻ってしまった

 

「天叢雲が…消えた…!?どうして……!」

 

『其は我が一部を用いて具現したもの。我に通じる由もなく、我の意に従い霧散する。それが道理であろう』

 

そう言った奴の手には何処から取り出したのか剣が握られていた

しかしそれも普通の剣ではなく、木を複雑に編み込んで作られたような歪な形をしていた

それを火継に向かって振り下ろそうとする

しかしそれは間に入った樒によって妨害された

奴の剣に対して樒は両手に持った刀を振り上げ、弾く

 

「樒さん!」

 

「油断をするな。武器がなくなったのなら下がっていろ」

 

「う、うん!」

 

樒の言葉に従い火継達は下がった

 

機械仕掛けの神(デウス·エクス·マキナ)…いや、エーテルによる具現ですからデウス・エスカといった所ですか」

 

アウルも前に進み出てくる

どうやら口調も普段のものに戻ったようだ

 

『…?何故、力が霧散していない?』

 

デウスはこちらを訝しむように見る

 

『…成程。貴殿等はこの宇宙の者であるが使う力は別の次元のもの、ということか。ならば我に通じるのも道理。しかしそちらの娘は別宇宙で暮らして長いようだ。最早我の宇宙の住人ではなかろう。後ろにいる機械の娘も、お帰り願おうか』

 

そう言ってデウスが手を翳すと樒とユカミの身体が光に包まれて消えた

そのまま宇宙に待機しているアークスシップの方を見ると

 

『あれも…我が世界のものにあらず。共々、お帰り願うとしよう』

 

地球に残されたアウル達には分からないが、樒とユカミはアークスシップ諸共オラクルへと転送された

座標も撹乱されており、こちらに飛び直すことが出来ないようだ

 

「…彼女達を何処へやったのです?」

 

『あるべき場所へと、オラクルへと帰って貰っただけだ』

 

「そうですか、それなら良いでしょう」

 

「おいおい、冷静にもほどがあるぞアウルさん!明らかにヤバいだろこの状況!」

 

「そ、そうよ!何か手はないの!?」

 

「先程のことを鑑みるに、フォトンは奴に通じるようです。しかしフォトンを使えるアークス達は全員オラクルへと転送されました。増援も望めないでしょう。となれば」

 

「あんたに任せるしか、ないのか…?」

 

「そうなりますね。貴方達は下がっていて下さい」

 

「ねぇ、アウルさん…落ち着きすぎじゃないですか?ほぼ詰んでるような状況なのに」

 

氷莉が聞いてくる

まぁ普通はそうだろう

こんな状況で落ち着けなどしない

だけど私は…

 

「初めてではないので」

 

「は?」

 

「こういう存在を相手に戦うのは今回が初めてではないんですよ」

 

「「「……はぁ!?」」」

 

3人が素っ頓狂な叫び声を上げた

 

『…ほう、我の他に我のようなものと相見えたと言うか。その者のことを聞いても?』

 

「…下生仏、弥勒菩薩」

 

『成程、光言宗か。得心した』

 

「さて、出来れば貴方には諦めて欲しいのですが…」

 

『戯言を』

 

「ですよね、では…」

 

アウルが構えを取る

 

「抵抗させて頂きますよ」

 




分からない人もいるかと思うので少しばかり解説を
機械仕掛けの神(デウス·エクス·マキナ)は「行き詰まった物語に神格を登場させることで前触れもなく突然解決に導いてしまう手法」のことです
PSO2のEP4に於いての行き詰まった物語は地球、神格はアーデムにより降ろされた神ですね


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終結

アウルはデウスエスカに対して抵抗はしてみせるものの、苦戦を強いられていた

いくらアウルが強かろうとも相手は神

存在としての次元が違うのだ

アウルが抵抗出来ているのは単にこの神がエーテルによる具現の賜物であり、本物の神ではないからである

 

デウスエスカの振るう剣をナイフで弾き、反撃をしようとするものの地面から茨が飛び出て来て阻害される

後ろに回避しながら銃を撃っても剣で弾かれる

肉弾戦なら通じるかもしれないが茨が地面から生えたり雷が落ちてくるせいでそもそも近寄れない

言うなれば詰みである

せめて複数人で戦えれば勝機はあるかもしれないが、アウル以外の者は戦う力を奪われてしまっているためどうすることも出来ない

 

『貴殿は確かに強いが、我の前では無意味だ。大人しく降伏するが良い』

 

「お断りですよ…ここで諦めるなんて選択肢はありませんのでね」

 

『ならば致し方ない、死ぬが良い』

 

より一層激しさを増す攻撃にアウルは防戦一方となる

火継達はそんなアウルの姿に驚きつつ何も出来ない自分が歯痒くて仕方がなかった

 

「あの人があんなに頑張ってるのに、苦しんでるのに…私は何も出来ないの?」

 

「諦めるな!アウルさんだって諦めちゃいねえんだ、俺達が諦めてどうする。何か、何かあるはずだ…このクソッタレな状況をどうにかする何かが…」

 

「でも…具現武装は使えないし、どうすれば…」

 

その時だった

突然デウスエスカの動きが止まった

身体の中心から青い光が漏れ出ている

これを好機と捉えたアウルが攻勢に転じようとするが、それは青い光から発せられる声によって阻まれた

 

⦅待つのだ、アウル!…聞こえているだろうか、地球の子らよ⦆

 

『我の中に、異物…?いつの間に』

 

⦅貴様の具現には私より生じたエーテルが用いられている。私は貴様だ、創造の神が自己否定は出来まい?貴様がどれほど願おうと私は消せぬよ、地球意思⦆

 

『砕けた星の欠片か…まぁ良い、この身体の主導権は我にある。雑音などゆくゆく取り除けば良い。まずは些事より片付ける』

 

⦅させんよ。私の大切な子らを傷付けることなど⦆

 

この声、話し方、内容は…まさか

 

「マザー、なの…?」

 

火継の問いかけに声は答える

 

⦅その通りだ、八坂火継。私がこやつを縛れる時間も残り少ない、説明は省くぞ⦆

 

マザーがそう言うと青い光が火継、氷莉、炎雅の元へと分かれて放たれた

すると次の瞬間には彼女等の手にそれぞれの具現武装が現れる

 

「これは、天叢雲?どうして、消されたはずなのに」

 

「俺の具現武装まで…どういうことだ?」

 

⦅エーテルは私より生じたもの、その扱いは私に一日の長があるだけのこと。それよりもだ⦆

 

そこで一呼吸置くとマザーはアウルに向けて話し始めた

 

⦅君に頼みがある…彼女等と協力して我が子らを、この星を護ってくれないだろうか⦆

 

「…言われるまでもありません。後は任せて、安心していきなさい」

 

⦅あぁ…感謝するぞ⦆

 

そう言い残すと青い光は消え、デウスエスカが再び動けるようになった

 

『想定外のことだが、まぁ良い。貴殿らを消して新たなる創造を行うことに変わりはない』

 

「させるかってんだよ!」

 

炎雅はそう言うと同時に発砲

剣で防がれるがその剣を狙って氷莉が大剣を振り下ろす

そのまま片手を塞いでいる間に火継が刀をデウスエスカの顔目がけて突き込んだ

 

「やあぁぁぁぁ!!」

 

だがこの決死の攻撃すらもデウスエスカは空いている手で刀を掴んで防いで見せた

だがまだ終わりではない

下から炎雅が無防備な腹部にフルオートで弾をばら撒く

 

『無駄なことを』

 

そう言うと抑え込んでいた氷莉ごと剣を振り回し、3人を弾き飛ばす

 

「きゃあっ!」

 

『終わりだ』

 

デウスエスカが剣を振り上げて斬り下ろそうとした

だが

 

「ぐっ…今だ!」

 

『…ぐっ!?』

 

炎雅の声に答えるようにして空から降ってきたアウルが踵落としをデウスエスカの脳天に決めた

全身のフォトンを踵に集め、当たる瞬間に大爆発を起こしたアウルの全力の蹴りだ

流石に効いたようである

先程の火継達の攻撃は陽動、本命のアウルから意識を逸らし、必殺の一撃を叩き込むのが目的であったのだ

 

『ぐっ、う…この程度では倒れん』

 

そうは言うがさっきまでより明らかに動きが鈍っている

やるなら今しかない

皆同じことを考えているのは顔を見れば分かった

まずは炎雅の射撃で視界を奪いつつ動きを牽制する

そして生まれた隙に氷莉が大剣を振るって強力な一撃を叩き込む

姿勢の崩れたデウスエスカにアウルは己の全てを振り絞って連撃を放った

飛び膝蹴りで接敵と同時に蹴り、そのまま落下を利用して右肘鉄、着地したら脚を踏ん張り左掌打、最後に右回し蹴りを放つ

両膝を付き、致命的な隙が生まれたデウスエスカにトドメを刺すべく火継が動いた

刀を大上段に構えて跳躍する

 

「はあぁぁぁ!!」

 

デウスエスカが抵抗しようとするがアウルと炎雅と氷莉に抑えつけられる

 

そして火継の刀がデウスエスカの脳天に当たり、そのまま下まで斬り裂いた

 

『ぐ、おおおおぉぉぉぉぉ!馬鹿な、創造神たる我が、人の子にぃ……!』

 

斬り裂かれたデウスエスカは光を放ちながら苦しみもがいている

その光は段々と大きくなり、そして辺りを包んで何も見えなくなった

 

 

 

 

 

 

 

光が晴れるとそこはアーデムと戦った場所だった

どうやらあの空間も具現されただけのものらしく、デウスエスカが消滅したことで同時に消えたらしい

 

「戻って、これた…?」

 

「んなことより、あいつはどうなった!それにアーデムは!?」

 

「え、炎雅さん、あれ!」

 

氷莉が指し示した先には空中にアーデムが横たわった姿勢で浮いており、ゆっくりと下降してきている

地面に降りてきたアーデムに炎雅が近寄って片膝を着きながら話しかけた

 

「アーデム、お前にしか見えない世界も確かにあったんだろう。だけどな…そう簡単に滅んだりしねえよ、地球は。俺達は確かに愚かかもしれねえけど、度が過ぎるとは思ってない」

 

一息付き、微笑みながら続きを言う

 

「まぁ、取り敢えず俺らに任せとけ。なんとかなるんだよ、こういうのは」

 

炎雅の言葉に何を思ったのか、アーデムは目を閉じ静かに口を開いた

 

「…僕の残したエーテルの残滓は神を型取り、迫り来るだろう。それと幾度戦うことになるか……それこそ、想像もつかない」

 

目を開き、炎雅の方を見て続ける

 

「…いや、それだけではない。僕の数万年に及ぶ絶望を受け取りより強く、より凶悪に具現するはずだ。創造よりも、破壊の意志を具現した強力で無慈悲な神の……」

 

アーデムの言葉を炎雅は止めるように言葉を紡いだ

 

「気にすんな。そのぐらい織り込み済みだ。お前を打ち破った俺らを信じろ」

 

その言葉にアーデムは軽く笑みを浮かべると

 

「そうさせてもらうよ。手間をかけるね、炎雅」

 

満足したようにそう言った

 

「全くたぜ、アーデム」

 

そしてアーデムはアウルを呼ぶ

 

「アウルさん…義務も義理もないでしょうが、一つ頼まれてはくれませんか?」

 

「…聞くだけ聞きましょう」

 

「原初のヒトである僕を倒した貴女の力を見込んで…地球の未来を、託したいのです。アースガイド筆頭として、導いて行ってはくれませんか」

 

「…過去の事とはいえ、アースガイドの人達を何十人と殺して来た私がトップに立つことは出来ません。それに私がすべき事は導くことではなく護ることです。この先地球に何が起ころうとも私の全力を以て護ります。それだけは約束しましょう」

 

「それで十分です…よろしく、頼みましたよ」

 

言い終えると同時にアーデムの身体が光に包まれ、消えていく

光が晴れる頃にはアーデムの姿はどこにもなかった

そのまま皆が立ち尽くした

これで全てが終わったのだ

マザーを倒し、その力を奪ったアーデムが成った神をも砕いて…これからも脅威は訪れるが、一旦はこれで終わりだ

長くて、短い戦いだった

暫くした後アウルが皆を促すように言った

 

「さて…帰りましょうか。流石に疲れました」

 

「…そうだな、そうするか」

 

アウル達はデウスエスカを消したことで来れるようになったアークスシップへと戻り、休息を取った

こうして地球の騒動は終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(残るは彼女との決戦だけですか…)



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最終決戦

今回最後の方結構グロ注意かもです


デウスエスカを倒し、地球の問題を解決した私達に待っていたのはいつ終わるとも知れないメディカルチェックと詳細な説明の要求だった

地球の神という未知の敵を相手にしたためどのような影響が身体に及ぶか分からないし、デウスエスカによって地球とオラクルの連携が絶たれたことによってモニターが出来なかった為に説明をしなければならなくなってしまったのだ

その上アークスの正式な作戦だったので報告書の提出などの事務処理、一応許可はされていたが規則に反した私に罰を与える体裁を取る必要があったため形だけの謹慎処分を受けたりなどもしていた

そのせいで自由に動けるようになったのは2週間も経ってからである

過度な運動が禁止されていたのでそこから1週間ほどかけて鈍った身体(周りの者からは鈍ってるとは思えないと言われた)を鍛え直したりなどもしていたので完全な調子を取り戻すのに約1ヶ月もかかってしまった

彼女から連絡を受けたのは丁度その時だった

 

 

 

 

 

 

連絡を受けた私はロンドンへと赴いた

そこに以前はなかった巨大な塔が建っていて、どうやら彼処に呼び出されたらしい

下から見ると最上階辺りが広場のようになっていて戦うのに十分なスペースがある

私はその塔に入り、エーテルを利用したワープ式のエレベーターを用いて最上階へと登った

そこにはこちらに背を向け、優雅に佇む1人の女性がいた

 

「貴女なら来てくれると思っていました。ようこそ、エスカタワーへ」

 

「一応、約束でしたからね…それにしてもエスカタワー、ですか。これだけ頑丈なら戦うのに不足はなさそうですね」

 

「勿論です。なんせ私達の闘争の為だけに用意させたのですから。どれだけ暴れても平気ですよ」

 

ファレグから僅かに闘気が漏れでる

どうやらすぐに戦うつもりではないらしい

その証拠にファレグは昔の話をしだした

 

「初めて会った時、貴女はまだほんの子供でしたね。ですが貴女はその時から既に強かった。まだまだ粗削りではありましたけど、磨けばきっと輝く…そんな可能性を見せてくれました」

 

「随分と懐かしいですね。もう十年以上も前になりますか」

 

「えぇ。そして今、こうしてとても強くなった貴女が私の前にいることがとても嬉しいのです。私の全力を受け止められるかもしれない、それだけで心が踊って仕方ないんです」

 

「私は出来れば戦いたくなんてないんですけどね…」

 

私がそう言うとファレグは僅かに目を開き

 

「嘘を仰い、貴女には闘争好きの血が流れています。あの親達の子ですもの、間違いありません」

 

「両親のことを、知っているのですか?」

 

「当然です、特に父親の方は私が鍛えたんですもの」

 

「なっ……」

 

衝撃的すぎるカミングアウトだった

私の父親はファレグの弟子だった…つまりは私が教わったものは元を辿ればファレグに行き着くと言うのか

驚きすぎて目を見開いてしまった

 

「おや、そこまで驚くとは思っていませんでした」

 

「…一つだけ教えて下さい、ファレグ。私達の両親は、最期はどうなったのです?」

 

「ある程度分かっているでしょうに。彼等は貴女達を逃がした後追手との戦闘で命を落としました。彼等はとても強かった、けれど流石に3桁の敵を相手に勝つことは出来なかった」

 

「…2人を消すのに数を投入しすぎでしょう。正気とは思えません」

 

「たった1人で敵国の兵士を皆殺しにした人の台詞とは思えませんね?」

 

「国そのものを消せる人に言われても皮肉にしか思えません」

 

ファレグがその気になれば街一つ落とすのに1日あれば可能だろう

そんな相手とこれから全力で正面衝突するわけだが果たして勝てる、いや生き残れるのか…死ぬつもりはないが正直自身は無い

そんなことを考えているとファレグの纏う空気が変わってきた

そろそろ、か

 

「さぁ、そろそろ始めましょう。貴女も仮面を外しなさい、枷をかけたままで私を倒せはしませんよ?」

 

「………そうだな。望み通り本気で殺ってやる」

 

「えぇ、楽しく殺り合いましょう」

 

お互いから隠すことをやめた殺気が奔流となって辺りに溢れる

ひたすらに相手を圧倒する気と暗く淀んでドロドロとした気がぶつかる

その気の衝突は第三者が見れば空間が歪んで見えるほどだろう

先に動いたのはファレグだった

 

凄まじい勢いの踏み込みから恐ろしい速度の回し蹴りを放ってくる

アウルはそれをファレグの後ろに回り込むことで回避する

直接受けて防ぐことは考えていない

そんなことをすれば一撃でアウルは負ける、死ぬかもしれないのだ

後ろに回ったアウルに対してファレグは蹴りの勢いを殺さずそのまま振り抜くようにして身体を反転させて蹴ってくる

アウルは蹴りが飛んでくる方向に向かって側転をすることでそれを避ける

ファレグは回していた方の脚で強く踏み込み、それを軸足として逆の脚で前蹴りを放つ

アウルは身体を半身にしつつ床を蹴って距離を離すことで回避、すぐさま追ってきたファレグの手刀を床を転がって無理矢理避ける

身体能力のみで圧倒され、避けることしか出来ない

攻撃する余地などない

その途端ファレグの攻撃を避けられなくなってアウルは負ける

ここまで一方的に防戦を強いられたのは初めてである

 

「避けてばかりでは私に勝つことは出来ませんよ。一方的では面白くありません」

 

「これでも本気なんだがな…ファレグ、お前は本当に何者なんだ」

 

「もう分かっているのではないですか?」

 

確かに予測はついている

しかし流石にぶっ飛びすぎていて信じきれないのだ

その真偽を確かめるには、もう本人に直接言って答え合わせするしかないだろう

 

「まさかとは思うが…原初のヒト『イブ』か?」

 

「その通りです、よく出来ました」

 

ファレグは大袈裟に拍手をして私の考えを肯定した

正直鼻で笑い飛ばしたいがファレグの強さや昔から見た目が変わらないことがそれを本当のことだと証明してしまっている

しかしそうだとするのならファレグは途方もない時を生きており、その間自身を鍛え続けていることになる

伝承の通りであれば6000年ほどだが、アダムと思われるアーデムが『数万年に及ぶ絶望』と言っていたので最低でもそれと同じくらいの時間と見るべきだろう

僅か20数年の時間の修行では勝つこと以前にその動きを捉えることすら出来ないだろう

アウルが避けることが出来ていること自体異常である

だが攻撃に出なければ勝つことは出来ず、それは死を意味する

だが攻撃に出ることは出来ない…少なくともこのままでは

これは本当に本気であの力を使うしかないかもしれない

出来ることなら使いたくはないし、実際アーデムに対してすらその全てを使うことはなかった

だが使わなければ死ぬ、となれば……

 

「そろそろ再開しましょう」

 

「待て、このままやってもさっきと同じことの繰り返しだ。それはお前の望むところではあるまい?」

 

「…ほぅ、やっと隠している力を使う気になりましたか」

 

「気付いてたんだな」

 

「勿論です。とは言えそれが何なのかまでは分かりませんが」

 

「なら、見せてやる…人の範疇を超えているのはお前やアーデムだけではないということをな」

 

「………なんですって?」

 

アウルの言葉にファレグは訝しむように細めた目を僅かに開く

瞬間、アウルの身体に異変が起きた

 

「これは…?」

 

アウルの身体から黒い靄のようなものが溢れ、髪の色が段々と白く変化していく

顔や僅かに露出した肌には禍々しい赤黒い紋様が現れる

そして目は血走り、白目の部分が完全に赤に染まった

 

「貴女、その姿はいったい…何をしたんです」

 

「お前も知っているだろう。屍を」

 

屍…それはとても強い未練のある死体が死後、動き出したもの

人間を見境なく殺すようになり、身体能力は訓練した兵士が束になっても普通の屍1人に惨殺されるほど強化される

何より厄介なのはどれだけ傷を与えても、例え身体の一部を粉々にしようとも未練を生み出している箇所を潰さない限り無限に再生する点にある

それを同じ未練ある死体から作った『屍姫』と呼ばれる少女達を扱い、衆生を守るのが光言宗

アウルは彼らと共に屍と人間を取り巻く一連の騒動に巻き込まれたことがある

そしてそこで目覚め、熟達した1つの力があった

 

「屍が何の関係があるのです?貴女は屍姫でもないし…」

 

「屍の中には『呪い憑き』と呼ばれるものがある」

 

「それがどうし…まさか!?」

 

呪い憑き…それは強大な妄執で物理にまで影響を及ぼすほどの力を持った屍達

その力は絶大で既存の法則が一切通用しない、まるで黒魔術のようにすら見える

呪い憑きとの戦闘は特に被害が出やすく、対屍用の訓練を受けた僧兵数百人を一体の屍に短時間で殺されることすらある

そのため呪い憑きは屍の中でも最も強く、厄介なカテゴリとされる

時として理性ある屍姫の中でも呪いを使える特異な個体はいるが、基本的には屍しか使えずましてや人間に使うことは絶対に不可能……と考えられていた

しかしそれを扱うことの出来る人間が2人だけいる

1人は屍から産まれた子である花神旺里、そしてもう1人が…

 

「呪いの力を使える人間…ということですか。しかし貴女は屍から産まれた訳でも屍に憑かれた訳でも……」

 

「死に近付きすぎた、それだけだ」

 

アウルは20数年の人生の中で万単位で人を殺してきた

おそらくはファレグよりも多いだろう

更に腕などの身体の一部が千切れたり吹き飛ばされたり、心臓が止まったりなど一歩間違えたら死ぬような状況を多く経験してきた

この世の誰よりも殺し、誰よりも死にかける

余りにも死に近付きすぎたアウルは屍に近しい存在となってしまった

こうして呪いを発現し、とある「物」の助言によってその呪いを育てて制御出来るようにしたのだ

 

そして今のアウルの状態はこの呪いの力を際限なく発揮したもの

身体に変調が顕著に現れるほどに力を解放している

普段はその力の一端を使うだけでもかなり珍しいことだが、今回ばかりはそうも言っていられない

デウスエスカに対して使わなかったのは万が一にも火継達を巻き込むわけにはいかなかったのと、そもそも神や仏に連なる神性を持つものに対しては相克が生じて力の半分も通用しないからだ

今この場にいるのは自分とファレグだけであるし、相克もない

存分にその力を使える

 

「流石に呪い憑きの人間と戦うのは初めてですね…これは良い経験になるでしょう。私を更なる高みへとエスコートして下さいますか?」

 

「エスコートするのは構わん。だがお前が行くのは地獄だ」

 

言い終えると同時にアウルはファレグの背後を取る

ファレグの目が驚愕に見開かれた

その速度はファレグですら視認出来るものではなかった

繰り出される拳をなんとか回避して距離を取ったファレグは額に汗を浮かべた

間違いなく今まで戦った誰よりも強い

普段は戦うときですら目を閉じ、僅かに開くことすら珍しいファレグの目が完全に開いたままになる

更にどこまでも優雅に振る舞い、それでいて相手を圧倒してきたが今は腰をしっかり落として構えを取っている

なりふり構っていれば瞬殺される…本気で殺らなければならない

そう感じたのだ

 

「私が本気を出すことになるとは…本当に久しぶりです」

 

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

短い会話の後2人は殺し合いを再開する

それからはエスカタワーが倒壊しかねないほどの激戦だった

アウルが蹴りを放てば真空波が生じて辺りを空気ごと斬り裂き、ファレグが腕を振るえば火炎が生じて辺りを燃やし尽くす

屍に片足を突っ込んだ呪い憑きと数万年を生きたただの人間

正しく魔人達の闘争である

ファレグの渾身の突きをアウルは片手で受け止め、空いた手でファレグの顔面へ貫手を放つ

ファレグは顔を傾けて避けると同時にアウルの腕を掴み、そのまま鳩尾へ向けて膝蹴りを繰り出す

アウルはファレグと両腕が繋がったまま跳躍し、身体を回転させてファレグの後ろに着地する

そのまま背中合わせの状態で関節を極めようとするがファレグが関節を自ら外したことで逃れられる

外した関節を腕を振りながら一瞬で嵌め直すとファレグは両腕を伸ばし、身体を独楽のように超速で回転させ始めた

そのままアウルに向けて回転したま接近してくる

その腕は鋭利な刃のようにあらゆるものを斬り裂きながら進むため防御など出来ない

普通ならば、だが

 

「舐めるなぁ!!」

 

アウルは回転するファレグの腕を上下から挟み込むようにして掴み、脚を思い切り踏ん張った

そのまま共に回転しだす

靴と床が擦れて火花が散るほどの速度だったが、暫くすると回転の速度が落ちてきた

止まり切るよりも先にアウルがそのまま握撃で腕を潰そうとするが、その腕を狙ってファレグの手刀が飛んできたために離さざるを得なかった

体勢を崩すことなく次の行動に移るべくファレグが貫手を連続で放ってくる

アウルが得意とする技をそのまま模倣している

教えたつもりはないのでおそらくは目で盗んだのだろう

この技はその気になれば相手の身体に無数の穴を穿つことすら可能だ

距離を離すために後ろに跳ぶとそれを予期していたのかファレグも一切遅れず追従してくる

そこでアウルは跳んでいる最中に片脚を床に付けて踏ん張り、もう片方の脚をファレグに突き出した

 

「ぐぅ…!」

 

モロに腹に喰らったファレグは苦悶の表情を浮かべ、後ろに吹き飛ぶ

壁に打ち付けられたファレグの口からは血が零れており、誰の目にも傷を負っていることが分かる

対するアウルも無傷ではない

ファレグを蹴飛ばす際に貫手が数発入って右肩と左脇腹から血が滴っている

それまでの攻防でも互いにちょっとしたダメージは与えていたが、多大なダメージを与えれたのはこれが最初になる

 

「本当に強く、なりましたね。ここまで傷を負わされたのは…初めてかもしれません」

 

「そいつはどうも…私もここまでやって殺せ、ないのは最初で最後だろうな」

 

流石にお互い疲労しているようで言葉に僅かなつまりが生じる

これ以上長引かせても引き分けになるだけだろう

それは望むところではない彼女達は決着をつけにかかる

 

「これで終わりにしてやる、覚悟しろ」

 

アウルは右脚を後ろに引いて半身になり、重心を後ろにして呼吸を整える

腰の位置に右手を置き、左手を前方で構えている

 

「それはこちらの台詞です。全身全霊を以て貴女を倒します」

 

ファレグは上半身を軽く前屈させ、右手を大きく後ろに引いている

 

「…行くぞ」

 

先に動いたのはアウルだった

凄まじい速度でファレグに向かって突進する

それに対してファレグは後ろに引いていた右腕を前方に向かって振り抜いた

その瞬間強大な熱量を持った火炎がファレグの腕から放たれ、アウルに襲いかかる

その火力は鉄すら一瞬でドロドロに溶かすほどのものがある

そんなものを浴びれば身体はその場にあったという痕跡すら残さず蒸発するため、避けなければならない

しかし、アウルは避けなかった

真正面から拳を突き出して炎を吹き飛ばす

 

「なっ!? くっ…!」

 

ほんの一瞬驚愕の表情を浮かべたがファレグはすぐに迫り来るアウルに向かって手刀を放つ

まだ距離があり当たる訳はないのだが、その手刀によって生じた真空波がアウルの首の横側を少し斬り裂く

辺りに血が飛び散るがアウルは全く気にすることなくそのまま突っ込む

ファレグはアウルの首から上を斬り飛ばすつもりだったが失敗に終わった

その結果接近を許してしまい、拳が打ち込まれる

アウルの習得している古今東西全ての武術を集約させた最強の必殺技

これをマトモに受ければ当たった箇所の肉が吹き飛び、場合によっては上半身と下半身が泣き別れする

ファレグはこれを身体を無理矢理拗じることでなんとな回避に成功、しかし強化されたアウルのこの必殺技は当たらなくても脅威となる

 

「―――――!!!!!」

 

脇腹の肉を抉られたファレグは声にならない悲鳴を上げながら迎撃に移る

身体を捻った姿勢からその捻れを戻すようにして貫手をアウルの腹目掛けて放つ

避けられ、剰え反撃してくると思っていなかったアウルはこの貫手を喰らってしまった

 

「あ、が……はっ」

 

腹を貫かれ背中からファレグの腕が突き抜ける

口からは多量の血が溢れ出る

アウルの上半身が崩れる

勝利を確信したファレグだったが悪寒を感じ、離れようとした

しかしそれよりも先にアウルの腕がファレグの脇に両側から突き刺さる

 

「あ、ぐ…ァ……!」

 

「私、の呪いを、甘く、見たな…」

 

息も絶え絶えといった感じでアウルが言う

 

「私の呪いは…縁で結ん、だ相手を、必ず殺し尽くすとい、うものだ。ただの身体強化じゃ、ないんだよ……」

 

「ゆ…だんしま、した………あそこから、うご、けるなんて……これも…呪い、の……力…………」

 

そのままファレグの身体は仰向けに倒れた

 

「ふ、ふふふ……人類の極致とおも、ていましたが…なん、たっ、る驕り………まだまだ道半ば、でした…」

 

そう言ってファレグは目を閉じた

アウルは立ってはいるもののこれは呪いの副作用によって屍ほどではないが高い再生力を得ており、それを利用して命を繋いでいるからにすぎない

少しでも気を抜けば倒れ伏してしまうだろう

 

「さて…最後にやら、ないといけっないことが……あります、ね………」

 

アウルはテクニックを唱えた




屍とか呪いとか相克とかに詳しく知りたい人は「屍姫」という漫画を買って読みましょう!
とっても面白いよ!


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全ての終焉、そして…【最終話】

今回で「新人アークス、アウル」最終話となります
ここまでのお付き合いありがとうございました!
アウル先生の次回作にご期待下さい(˘ω˘)


白い天井、身体にかかる白い布団

目を覚ましたとある女性に見えた最初の光景だった

 

「これは…私は確かにあの時彼女に殺されたはず」

 

とある女性―ファレグは身体を起こして疑問を口にした

その声に答える者はおらず、これがあの世の光景なのかとすら思った

しかしそれはどうやら違うようである

部屋の扉が開き、1人の女性が入ってきた

俗に言うナース服を着ており、ここが病院であることを想起させる

 

「おや、起きられたんですね。具合は如何ですか?」

 

「少し気分が優れませんね。ところで、私はどうして生きているのです?確実に死んだと思ったのですが…」

 

「私も正直、どうして貴女が生きているのか分かりません…分かるのは貴女が生きているのはアウルさんのお陰だと言うことです。テクニックと法術を併用して命を繋いだとかなんとか…」

 

「なるほど、そういう事ですか……無理矢理にも程がありますね」

 

アウルの本質は殺し屋であり残虐極まりないものだが、同時に護り屋としての矜恃や慈しみを持っている

故に法術、仏の力を借りて奇跡を起こす術、を扱うことが出来る

とは言え本質が本質だけにその威力は低いのだが…

どうやらどうにか命を繋ぐことには成功したらしい

 

「しかしどんな戦いをしたらあんな傷だらけになるんですか…あそこまで血だらけで損傷した身体は初めて見ましたよ、肉が丸ごと抉られるなんて…」

 

そう言って看護師、フィリアは軽く身震いをした

ファレグの負った怪我を思い出したのだろう

 

「まぁ…本気で殺し合いましたので。そう言えば、アウルさんは生きているのですか?」

 

「はい、生きています。彼女も相当の怪我でしたが…」

 

それはそうだろう

ファレグの腕が貫通したのだ、身体に風穴が空いていることになる

アウルが生きているのは呪いの副作用に加えて内蔵に傷を一切負っていないことによる

ファレグの貫手を喰らう直前に特殊な呼吸法で全ての内蔵を肋の中に押し込めたのだ

内蔵を破壊した感触がしなかったから間違いない

 

「私の怪我はもう殆ど治っていますよね?退院はいつになるのでしょう」

 

「確かに怪我は治っていますし、すぐに退院しても問題はないですが…あれだけの怪我だったんです、暫くは様子を見た方が良いと思います」

 

「そうですね…では、アウルさんの所に行くのは良いでしょうか?彼女には命を救われた恩があるので」

 

「…貴女を殺しかけたのも彼女なんですが。暴れたりしないのなら行っても大丈夫です」

 

「分かりました、では行ってきます」

 

ファレグは病室を出てアウルの元へと向かった

部屋に入ると目の色は戻ったものの、未だ白い髪のアウルがベッドに腰掛けて煙草を吹かしていた

普通こういったものは禁止されているはずだが…いや、何か違う

微かに漂う香りが従来の煙草のものではない

むしろ薬草に近い香りだ

 

「ご機嫌よう、アウルさん。お怪我は大丈夫ですか?」

 

「あぁ、もう殆ど完治したようなものだ。医者には大事を取って暫くは入院していろと言われたがな。…そんなにこの煙草が気になるか?」

 

「えぇ、気になりますわ。どうやら普通のものではないようですが」

 

「流石に分かるか。これは私が調合したハーブ煙草だ。身体に悪影響が出るどころか内蔵を鍛えて怪我の治りを早くしたりなど、良い効果を及ぼす。暫く食事は取るなと言われたからこういったもので治りを早くしなければな。お前もどうだ?」

 

「あら、よろしいので?」

 

「勿論だ。ここの医者にも渡して分析してもらった、これなら吸って良いし寧ろ吸って早く治せと言われた」

 

「ではお言葉に甘えまして…これ、どうやって吸ったら良いのでしょう?」

 

「そうか、吸ったことないんだな。まずはこっち側を咥えて火を……」

 

アウルの隣に座ったファレグに吸い方を説明して暫くは無言でいた

程なくして徐にファレグが口を開いた

 

「爽やかでとても良い風味がしますね。これならずっと吸っていたいくらいです」

 

「流石に吸いすぎると毒だぞ。こいつは速攻性ですぐに血中に吸収されるからな」

 

「そのようですね…しかしこんなものをどうやって作ったんです?」

 

「暗殺者として名を馳せた母親から毒物に関する教育も受けている。後はそれを応用して逆の効果を持たせれば良い」

 

「あらあら、口で言うほど簡単ではないでしょうに」

 

その後もなんて事ない話を続け、時間が過ぎていく

時間も時間なのでそれぞれの部屋へと戻り、寝ることにした

 

彼女達が退院したのはそれから一週間後のことだった

ファレグはすぐさまどこかへ姿を消してしまった

一方髪の色も戻ったアウルはと言うと…

 

「…酷く叱られたみたいだな。自業自得と言えばそれまでだが」

 

「全くだ…何もあんなに寄ってたかって叱らなくても……」

 

妹の樒に慰められているような感じになっていた

何故こんなことになっているかと言うと、無茶をして大怪我を負ったアウルに対してアークスの者達が総出で叱りつけたのである

それも心配心から叱る者ばかりで中には涙を流しながら最後には嗚咽になる者さえいる始末

そして先程地球組が来てたっぷりと叱られたのだ

 

「まぁ確かにあの塔で倒れ伏す姉上達を見た時は死んでいると思ったしな。ここの者達はああした怪我に慣れていない」

 

「それはそうなんだが…ファレグのお陰で今回の騒動は無事に解決したようなものだし全力で殺り合うのがあいつの望みだったし仕方がないと思うんだが…」

 

珍しく少し拗ねているようである

何十人もの人に何時間も続けて説教を喰らったのだから無理もない

謝罪を含めた報告をシャオにしに行った時には既にアウルは疲れきっており、その姿を見たシャオが苦笑をするほどであった

 

こうして地球の騒動は完全に解決し、アウル達は平穏な日々を過ごしていた

しかし、何も無い訳では無い

火継の持つ具現武装の能力の解析を行い、それを利用して深淵なる闇を完全に消し去る作戦が立てられている

その作戦では守護輝士の2人とアウルが実行部隊として深淵なる闇との決戦を行うことになっている

小難しいことは守護輝士に任せ、アウルは純粋にその戦闘力で相手を打ち砕くのが役目だ

刻一刻とその時は近付いており、アウルもその日に向けて鍛錬を重ねてコンディションを整えている

 

この時のアウルは、いや誰しもが予想だにしていなかった

よもやあんなことになるとは……

 

 

 

 

 

 

 

新人アークス、アウル【完】




活動報告は見てね(・ω・)
見てなくてなんでだと言われても知らないです


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