双嵐 (文月りんと)
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1.赤龍/2.遭遇

???/高知龍馬空港


「はぁ…。また、おまえなのか…」

溜息混じりの男の前には、雄々しい声を轟かせ、赤く輝く龍がいた。

今は夢の中。男自身も目の前の光景が夢の中だという事を把握している。その赤龍を何度見たのか、もう数え切れない。

でも、決まってこの赤龍を見ると、起きることが一つある。

「…そう。おまえを見る次の日には、俺が人助けをする予兆なんだよな」

男は知人の男性に、いつもお人好しだと呼ばれながら、持ち前の明るさを武器に十年以上もの間、OREジャーナルというニュース配信会社で一人の記者として働いてきた。男の名は、城戸真司。

「あー、わかった!わかったから! おい! ドラゴン野郎! 毎度毎度、おまえもしつこいよな!」

いつも一方的な予告ではあったが、なぜか憎めなかった。赤龍が夢の中に現れた次の日には自分も怪我をしたり、危険が及ぶ事があった。でも、彼は彼自身の持つ運の良さにも助けられながら、苦難を乗り越えてきた。

「…だけどよ! おまえってカッコいいんだよな。名前があるなら、教えて欲しいもんだよ、まったく!」

 笑いながら、赤龍に対して真司が叫ぶと龍の身体に異変が生じた。赤龍の身体から炎が出たのだ。それは紅蓮に燃えさかる炎そのものだった。

「お、おい! ドラゴン野郎!! おまえの身体、燃えてるぞ!」

赤龍は動じない。むしろ心地良いように口を開け、身体に炎をまとって、こちらに吐いてきそうな、そんな印象を受ける。

「…そっか、おまえは火の龍でもあるんだな。だけど、あんまし火遊びは程々にしとけよ!」

夢の中の相方に対して、アドバイスを告げると、真司の身体が徐々に透けてきた。これは、夢が終わる合図だ。

「さぁて、明日会う助けを呼ぶ人は、誰なんだろうなぁ…」

そんな想いを馳せて、真司は目覚めていくのだった。

 

-------------------------------------------

「ねむ…」

真司は移動用のバックを片手に持ち、高知空港の玄関ロビーにいた。

「ふわぁぁああっ…」

真司は大きいあくびをしながら伸びをし、移動していた。すると…。

「っ!? おい…おまえ」

今回は運が悪かったのか、誰かとぶつかった。不機嫌そうな声をかけられる。

「…へ? あ! す、すみません!」

「………」

男性とぶつかったことを認識すると、男からは真司を睨み殺すかのような鋭い目線が注がれていた。

男性は五十代後半といったところだろうか、黒い革ジャンパーに赤いシャツ、首に白いマフラー、頭には黒いシルクハット。そして、ギターケースを持っていた。まるで渡り鳥のようなイメージだ。

「おい…、寝不足なのは構わんが、少しは周りを注意したらどうだ?」

「なっ! 人が下手に出てれば、なんなんだよ、アンタ!」

「…ほう。オレをアンタ呼ばわりとは、な。面白いじゃないか、ひよっこ」

真司も男もお互いを挑発し合っていく。

(なんだよ、このオッサン! まるで蓮みたいに絡んできやがって!)

真司は内心で、親友の秋山蓮のことを思い出していた。

「聞いているのか? 仕方ない、もう一度言うぞ? くれぐれも周りには気をつけろよ? ひよっこ」

男は睨みを更にきかせ、真司をまたあおってきた。

「へっ! あぁ、次は気をつけるよ!」

「ちょっと待て! 両者そこまでだ!!」

その時、すぐ近くで別の男性が一喝した。

「風見、それくらいにしたらどうだ?」

「む。結城か? オレは別に…」

「そこの君もほどほどにな。コイツを怒らせると、これくらいじゃすまないぞ?」

風見と呼ばれた男性を止めに入った結城という男性の眼差しも風見と同様に鋭かった。でも、どことなく優しさを帯びていた。

「あー、いや、俺も大人気なかったです…。すんません。あ、俺こういうもんです」

 真司はポケットからOREジャーナルの名刺を差し出した。

「OREジャーナル? すると、まさかキミは…」

「あれ? OREジャーナルをご存知なんですか!?」

「あ、あぁ。ちょっと気になる記事があってね…」

結城の目線が泳いでいる。

「…結城、そろそろ行くぞ」

「おい、風見! ええっと、城戸君だったか、それじゃあ!」

風見はすぐにその場から離れていった。そして、結城も風見を追いかけて出てってしまった。

「結城さんか…。あ! いけねぇ! 約束の時間に遅れちゃうよ!」

これが風見こと風見志郎。結城こと結城丈二との遭遇になったことを真司が気づくのは、もう少し先の話である。

 



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3.鏡中

高知市 郊外


「やっぱりさっきのヤツ、なんだか腹が立つな!」

真司はまだ先程の風見とのやりとりが頭から離れなかった。真司の年齢も現在は三十代半ばとはいえ、二十代の頃に比べ無鉄砲さは多少残っていた。

「…でも、まぁ。これ以上、怒っていてもしょうがないか」

以前の自分では、ズルズルと気持ちの整理が長引いていたが、これまでの経験からか、怒った後で冷静な気持ちへの切り替えがすぐにできるようになっていた。

「よし、んじゃ、改めて状況整理だ」

今回の事件の情報提供者は、女子高生。彼女とはこの場所で落ち合う事になっていた。

真司は自分の仕事であるニュース記事の調査として、高知市にやってきたのだった。事件の詳細は、この地域に住む人々が集団で神隠しにあっているというのだ。

噂では、人々が消える前に必ず目撃される鏡があり、その鏡に吸い込まれるようにして、消えていく者がいるという事件が多発していた。

あくまでも噂だったが、日に日に行方不明の人数が増えていた。

「なんせ、ここ三日で八人だもんなぁ…」

 事件の発生時刻はバラバラだったが、行方不明になった彼らが共通して口にしていた事があった。それは、【鏡の中から自分を呼ぶ声がする】のと、【鏡の中に光の玉が見える】ことだった。

「しっかし、光の玉ねぇ~?」

にわかに信じがたいものではあったが、今は真相を探るべく動くしかない。こういうとき、データではなく、足で調べるのが一番なのを自分の経験から導き出していた。

「にしても、遅いな…」

情報提供者との約束の時間を過ぎたのだが、一向に現れない。

「ちょっと連絡してみるか。なんか嫌な気分するし…」

スマートフォンを取りだした次の瞬間。昔聞いたような耳鳴りが真司の脳内に木霊した。

「っつ! なんだ、これ!!!」

頭を抑えながら、辺りをキョロキョロと見渡すが何もない。

「キャーッ!!」

「!? 今のって…」

情報提供者の女子高生の声が確かにした。

「耳鳴りなんて知るかッ!」

自分が助けるべきは彼女なのか、まだそれはわからない。でも、自分の身体は留まることなく、声のした方向へ動き出す。

耳鳴りが大きくなる方向があった。真司は耳鳴りを頼りに移動を開始した。

 

「ここか…」

そこは見るからに閉店しているブティックだった。店内もがら空きになっている状態で、玄関のドアも開きっぱなしだ。室内へと進んだ真司はそこで不思議な鏡を発見した。

「これって、例の鏡ってやつか?」

鏡をまじまじと見ていると、鏡の近くにストラップ付きのカバンを見つけた。

「…まさかこの鏡の中に?」

鏡を凝視していると、鏡の中に光り輝く玉を見つけた。

「あっ! 光の玉!!」

件の光の玉なのだろうか。でも、現実には見えなくて、鏡の中には光の玉がある。おかしな状態だった。

「…オカルトじみてきたけど、これどーすりゃあいいんだ?」

 すると、急に鏡が光り出した。

「うわっ、まぶしっ…!!」

真司を光が包んでいく。真司は目蓋を閉じると、周りが真っ白に染まっていく。次の瞬間、真司は鏡の中に吸い込まれてしまった。

真司が目を開くと、そこはさっきまでいたブティックだった。

「…おいおい、マジかよ」

でも、文字や看板が反転していた。

「ん? なんなんだこりゃ?」

真司は自分の足下に転がっていた不思議な顔が描かれた指輪を拾う。

「ヘンな形の指輪だな…」

そう言いながらも、真司は指輪をポケットに入れた。ふと自分の手を見ると、さらさらと手の細胞が蒸発するかのように消えていく。その様子を見た真司の脳内に、不思議な光景がフラッシュバックした。

「っ!!」

それは自分が何者かに変身し、化物達と戦う光景。次に見えたのは危険にさらされた女の子をかばい、自分自身が死んでしまう光景だった。

「………なんだよ、今の。…でも、とりあえずは!」

そう、真司は自分が今起きている状況を判断するよりも、人助けを優先する事に決めた。

「やめて! こないで!!」

先程の女子高生の声が店の外で聞こえた。真司は、勢いよく店を飛び出した。

 



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4.鏡獣

ミラーワールド


「おい!! 大丈夫か!?」

見ると女子高生はバケモノの集団に囲まれており、尻もちをついて動けない状態だった。

「なんで、さっき見た【ミラーモンスター】がいるんだよ…」

真司は自分の口から【ミラーモンスター】という単語を口走った事に気がついていない。

「…あぁっ! お願い! 助けて!」

女子高生の悲痛な叫びに真司は、足下に転がっていた木材を手にして、バケモノの集団へ突撃していく。

「このぉ! おまえらどっか行けよ!!」

ブンブンと木材を振りかぶる真司。しかし、バキィ!っという木材がへし折れる音が木霊し、真司は思考が停止するのだった。

「え? おっ、折れたー!!!」

バケモノ達は女子高生から威勢の良い真司へターゲットをうつしていく。

「へっ、そうだこっちについてこい! モンスターども!」

 勢いよく移動したのは良かったが、そこは袋小路だった。瞬く間にバケモノ達からの攻撃を浴び、真司は傷らだけになってしまった。

「……はははっ。これで俺の人生も終わりかなぁ…」

 満身創痍となり、地面に座り込んでしまった。さっき見た変身した自分を思い出す。あんな風に自分の姿が変わるなんて事はなかったけれど、女子高生から怪物を遠ざける事はできた。

「あとはあの子が、無事に生きて帰れるといいけどなー」

それだけが心残りだった。

真司は、目の前のバケモノを一体でも道連れにすべく、周辺にある武器はないか確認する。

「…やっぱ、こんな場所じゃ、なにもないか」

『キシャァーッ!!』

奇声を上げながら、バケモノが突撃してきた。真司は目を閉じ、自分の最後を覚悟していた。

(俺の人生、悔いはありまくりだけど、またやり直せるなら、やり直したいなぁ…)

 

『はっはっは!』

「今の笑い声って…」

笑い声のした方向を見上げると、向かいのビルの屋上に小さく見える人影がいた。

『どうしたそこのひよっこ! 俺とにらみ合ってた時の方がもっと張り合いがあったぞ!』

人影はこちらに対して励ましの声をかけているようだ。しかし、ひよっこ、そしてあの声に聞き覚えがあった。先程空港前でケンカしたあの男性によく似ていた。

『さぁ怪人ども、ここからはオレが相手だ! トォーッ!!』

人影がジャンプをすると、ビルの外壁を足場にして、赤い円状にくるくると、回転し始めた。

『レッドボォォォンリングッ!!』

掛け声と共に真っ赤なタイヤのように目まぐるしい勢いで、こちらに迫ってきた。そして、ビルの外壁には巨大なトラックが通り過ぎた後に出来るタイヤ痕のようなモノを作っていく。その様子を見たバケモノ達が逃げようとするも、道の狭い袋小路に阻まれ身動きが取れなくなっていた。

『グワァァアッ!』

『ギャーッ!!』

数秒後、バケモノ達は謎の男から繰り出された技で葬り去られていった。

バケモノ達は倒されると、爆発を起こした。

「………」

その光景を見て、真司はまた何かがフラッシュバックする。今度は夢の中で見た相棒こと、赤龍が自分と一緒に戦っている。戦いが終わった赤龍と自分が見つめ合う。

(こりゃ一体なんなんだ? 俺にどうしろっていうんだよ?)

 

「…お…おい、気絶しているのか? しっかりしろ、城戸」

「……ッ! あれ? 俺は…」

聞き覚えのある男の声がした。

「ひよっこ、おまえ、悪運だけは強いようだな」

「…え? アンタは…」

やはり聞き間違えではなかったが、鏡の世界になぜ先程までケンカしていた男がいるのか、真司は困惑した。

「フン、仕方ないな。改めて自己紹介だ。俺は風見、風見志郎だ」

 



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5.調査/6.把握

高知市 郊外/ミラーワールド?


5 調査 高知市 郊外

 

風見と真司が再会をする数分前、風見もまた、結城と共に真司が調べていた同じ事件の調査に来ていた。町外れのブティック店に辿り着いた二人は、鏡の前に立っている。

「ここが本郷先輩や、一文字先輩の言っていた場所だな…。しかし、財団Xのヤツらが回収した例の光の玉ってのいうのと、どう関係している?」

「風見! これを見てくれ!」

それは鏡の前に落ちていた一枚の名刺だった。

「…OREジャーナル? まさかさっき俺に絡んできたアイツが…」

「彼もまた事件に巻き込まれているのかもしれないな」

結城は頷きながら、鏡を見つめる。

「…にしても、アイツはトラブルメーカーなのか?」

もし巻き込まれていたのだとしたら、おそらく一刻を争うだろう。だが、手がかりがこの鏡のみでは対処が難しい。

「どうだろうな。僕は念のため、周辺の調査をしてこよう。おそらくこの状況を財団Xもモニタリングしているはずだ。風見、くれぐれも注意してくれ」

「そういうおまえもな、結城」

 にやりと微笑みで返事した結城は、その場から去っていた。結城と別れた風見は、名刺が落ちていた鏡をジッとにらみつけていた。

(少しばかり見直す必要があるみたいだな。あの真司ってヤツを。この場所に辿り着くにもある程度の情報を掴んでいなければ、辿り着けなかったはず。それに…)

鏡の横には、キーホルダー付きのカバンが落ちているのを見つけた。

「これは、まだ真新しいモノだ…。だとすると…」

その時、鏡の中に光の玉が出現し、風見もまた真司のように鏡の中へ吸われてしまうのだった。

 

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「なんだよ、風見さん! そういう事だったのか!」

風見から手当を受けながら、事の顛末を聞いた真司は風見に感動し、いつの間にか風見の事を、さん付けで呼んでいた。

真司が風見から怪我の手当を行ってもらった後、アンタは命の恩人だ!と、言わんばかりに感謝を述べ、それからというもの、妙に馴れ馴れしくもなっていた。

そんな真司の様子を見て、溜息をつきながらも風見は安堵した。

「その様子なら、もう大丈夫そうだな」

「あぁ、おかげさまで動ける程度には回復したぜ! さぁ、次はあの女子高生の子を探さないとな!」

自分の怪我よりも、他人を心配する心に少し感心しつつも、風見は表情を変えて、忠告を促す。

「城戸、おまえは元のブティック店の鏡まで戻れ。ここから先はオレに任せろ」

真剣な眼差しで見つめられた真司だったが、風見には真司の目の中に炎が一瞬見えた。

「ごめん。こればかりは助けてくれた風見さんでもはい、わかりました、なんて言えない」

「オマエ、どうなっても知らんぞ?」

「望むところだ!」

にらみ合う二人だったが、風見は真司を認めることにした。

「…わかった。ならついてこい。だが、今後は自分の身は自分で守れよ」

 

『…仲良しな所、すまないが、邪魔をさせてもらうでおじゃる!』

風見や真司でもない、背後から第三者の声がした。

「おい! あれって!」

声の主は謎の男だった。男の横にはミラーモンスター達。そしてミラーモンスターに抱えられた女子高生がいた。男の様子を見ると、不思議な装束に身をまとい、例の【光の玉】まで所持していた。

『ホホホ…。まさか予定になかったイレギュラーがお前達じゃったとは、大きな収穫でおじゃる』

謎の男は笑っていた。喋り方が聞き慣れない感じだ。

『そこの貴様は【仮面ライダー】のようでおじゃるしな』

「!」

「仮面ライダー?」

頭に疑問符が浮かび上がるような真司に対し、風見はハッとした表情で、謎の男を睨みつける。

「…フッ、貴様らに名乗る名などないと思っていたが、こちらの正体を知っているのなら、もう隠す必要はなさそうだな!」

そう言いながら、風見の周りにそよ風が吹き始める。

「さぁ、その子を返して貰おうか、アマダム!」

「変ンンン身ッ!」

風見は真司の横で、呼吸を整え両手で真一文字を描くポーズをした。

そして…。

「ブイスリャァ!! トォォーッ!!!」

瞬く間に変身した風見の腰に二つの風車を装備したベルトが出現し、天高く飛び上がった。ベルトから赤い光が出ると、風見の姿が変わっていく。緑色のスーツ、両肩に白いマフラー、バッタのようにもトンボのようにも見えるその姿。

変身した風見が着地すると、白い手袋をキュッと下げ、アマダムと呼んだ謎の男を睨んだ。

『おまえは、仮面ライダーV3じゃな?』

アマダムはV3に向かって、先程と同じように笑った顔だ。

『いかにも、私が仮面ライダーV3だ!』

「……やっぱさっき、俺を助けてくれたのって、風見さんだったんですね」

唖然としながらも、真司は先程自分を助けてくれたのが、風見だったことを認識した。

『我が輩が辛酸をなめてまで作り上げたこの【ニューミラーワールド】を貴様なんぞに邪魔されては困るのでおじゃる!』

そう言うと、アマダムは両手を合わせ、呪文を唱えはじめた。

『…はんにゃーはーらーみーたー! フンッ!!』

ぐらぐらとした地響きと共に、真司の足下が崩れていく。

「ちょ! マジかよ!!」

ちょうど一人分の穴が空き、真司は穴から落ちてしまった。

『城戸ーッ!』

V3の声も虚しく、真司は目の前から消えた。

『…すまない、城戸。先にあの子を助けないと、オマエに顔向けできんからな』

城戸を助けたい想いを振り切り、V3はアマダムに目を向けた。

(それに、オマエはこの程度じゃくたばらないって、信じているぞ)

V3は不思議とそんな気がした。

『ほっほっほ。弱いモノは我が輩のごちそうになるのじゃ。もちろん、この女子も同様に。じゃが、おまえは邪魔者! 消し去ってくれるぞ!』

『やはりあの鏡を使って人々を誘い出し、先ほどの怪人達を操って、人々の命を奪い、貴様の力として蓄えていたか!』

『いかにも! ふーいーくーくーふーいーしきしきそく…』

アマダムが先程とは異なる呪文を唱えはじめる。すると、ミラーモンスターの数も増えていく。

『さぁ、行くぞ!』

V3は単身、ミラーモンスターの大集団に向けて駆け抜けていった。

 



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7.想起

ニューミラーワールド 地下世界


「…っててて。ここは…」

雫のしたたる音で起きた真司だったが、身体の自由が利かない。落下の衝撃に身体が耐えられなかったのか、暗がりの中では、右手一本しか動かせられない。

「ははは…やっぱ俺、ここでリタイヤなのかな…?」

諦めかけていたその時、ポケットが光り出した。

「これって、さっきの指輪か?」

ゆっくりと右手で指輪を取り出すと、なぜか指輪がカードへと切り替わった。

カードは何も描かれていない。ブランクカードのようだった。すると、自分のいる世界が暗闇から、鏡の世界へと変わっていく。

『城戸、大丈夫か』

「蓮!? どうしてここに!? それにおまえどうしたんだ、その格好!

懐かしいじゃないか!」

黒いロングコートを着た親友の秋山蓮がそこにいた。よく見ると、自分が知っている姿ではなく、出会った時の頃まで若返っているように見えた。

『俺の事はいい。それよりも一つ質問がある。そんな身体になっても、おまえは人助けしたいのか?』

普段の蓮なら言わないようなそんな質問を投げてきた。真司は即答した。

「へへっ…。あぁ! 人助けするよ! 夢の中で赤龍を見る時はよ、決まって人助けをしなきゃいけないんだ。目の前で苦しんでいる人を見過ごすのは、俺自身を否定しちまう気がしてさ…。出来るなら足掻きたい。必死に足掻いて助けを呼ぶ人を助けたい。大事な人が死ぬのを見るのは、もう沢山なんだ!」

自分が今言った大事な人は誰だったのか、またフラッシュバックが発生し、頭を抱える真司。

「くっ…【優衣ちゃん】のような悲劇は繰り返させちゃいけない! だから、だから力を貸してくれ!」

優衣ちゃんとは、誰だったのか。苦しみながらも蓮に向けられた熱い視線。その視線が力を持っていたのか、蓮自身に亀裂が生じていく。さながら鏡が割れたそんな風にも見えた。

『…よかろう。ならば力をくれてやる』

目の前の秋山蓮だった人は、別の誰かに変わった。

「あんたは………神崎士郎!?」

『先程の優衣といい、記憶を取り戻してきたのか。一度リセットされた世界でも、おまえは戦い続ける運命にあるのか、はたまた、そういう天命なのか…』

確かになんで目の前の相手が蓮ではなく、神崎士郎だと言ったのか、まだ記憶が曖昧だ。

「それでも…俺は戦わなきゃいけない!」

『この世界では、既にオレが作り上げたシステムはないが、おまえが望むなら力を貸そう』

ずっと持っていたカードが熱を帯びていき、龍のマークが描かれたカードデッキへと変化する。

「………思い出した。俺、何度もあの世界で死んでいたんだな」

真司はリセットされる前の世界を思い出した。それも一度だけじゃない。何度も破れるたびに抗い、結果的に世界そのものをリセットされるに至ったという事を。

「後悔なんてもうくそ食らえだ。今はあの子を、そして、俺を助けてくれた風見さんを助ける番だ!」

真司はゆっくりと立ち上がる。

『…そうだ、戦え! おまえは優衣が選んだ男なのだから』

「わかったよ! 神崎、おまえそっちでも優衣ちゃんと幸せにしてるんだよな?」

『………あぁ、無論だ』

神崎士郎は消えた。彼の顔が消える間際、笑顔だったようにも見えた。真相は、わからない。

「それじゃあな、神崎!」

天井に見える穴へ移動するには、やはりアレしかなかった。

「いくぜ、相棒…」

真司は呼吸を整え、持っていたカードデッキを見つめ、そして、叫んだ。

「変身ッ!」

 



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8.王蛇/9.激昂

ニューミラーワールド


『はぁはぁ…』

V3はアマダムが率いたミラーモンスター軍団に苦戦していた。無尽蔵に出現するミラーモンスターに比べ、明らかな消耗戦を強いられたからだ。

『だが、諦めるわけにはいかないな』

アマダムの近くに居る女子高生の様子を見るに、彼女も苦しみ出しているように見えた。

『仕方ない、この技を使うのは賭けだったが…』

V3は覚悟を決めた。

『フン、何をする気でおじゃるか、仮面ライダー!』

『とっておきの秘密兵器ってヤツだ。いくぞ!!』

V3は逆ダブルタイフーンを行うべく、準備を整えた。その時…。

『ウワワァァァァーッ!』

真司が落ちた穴から赤龍と共に一人の戦士が、赤龍の胴体にしがみつきながら、出現した。

『まさか、アレは…』

『そんなバカな! どうしておまえがその姿になっておる!』

アマダムもV3も戦闘行動を止め、赤龍と戦士を見ていた。

『風見さん! 俺です! 城戸、真司!! おい! 相棒、いい加減、言うこと聞けってば!』

赤龍ことドラグレッダーを一発ぶん殴ると、ようやくコントロールを取り戻したのか、龍の上に立ち上がる事ができた。真司は仮面ライダー龍騎となったのだ。

龍騎はすぐにベルトのカードデッキから、カードを一枚引き抜く。左腕に装着したバイザーと呼ばれる召喚器にカードをセットする。

【アドベント】

電子音と共に、カードと同じ音声がバイザーから鳴り響く。

ドラグレッダーの目が光り、V3の援護をすべく、火球を何発も吐き始めた。

『ギャァアアア!』

ミラーモンスターが一気に駆逐されていく。

『我が輩の家来達がぁ! よくもやってくれたでおじゃるな! かくなる上は我が輩も変身するでおじゃる!』

またアマダムの腰にあった指輪が多数、周囲を回り出した。

『へぇんしぃん!』

アマダムが目にも留まらぬ速さで変身し、爆発した。爆風と共に、徐々に姿を現していく。

『…ここかぁ。祭りの場所はぁ』

首を鳴らし、紫色の蛇のような出で立ちをした仮面ライダー王蛇が出現した。

『アイツは…浅倉威!?』

 

 

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アマダムだった人物は、王蛇へと変身し、戦いを挑んできた。龍騎のように腰のカードデッキから、カードを引き抜く。

『浅倉ぁ? 違う、俺はアマダムだ! …この姿になると、元の人格が色濃くなるのが難点だなぁ、なぁおい!』

確かに口調の雰囲気が先程のアマダムとは異なっている。王蛇は錫杖のような蛇の形をしたバイザーに、カードをセットする。

【ファイナルベント】

どこからか召喚されたサイのミラーモンスター、ヘビのミラーモンスター、巨大なエイのミラーモンスターが合体していく。

『さぁ、目障りな龍から、消し去ってやるよ!』

そう言うと、合体したモンスターの腹からブラックホールが発生する。王蛇の周りにいたミラーモンスター達も堪えきれなかった者から吸われていっているようだ。

『アハハハッ!! 良い気分だ!』

先程まで家来達に激昂していたアマダムとは思えぬ程、性格も変化していた。

『…くっ、なんという力だ!』

V3は周囲の建物にしがみつき、なんとか耐えている。

『ちくしょう、引き寄せられる! あっ!』

龍騎は女子高生がブラックホールに引き寄せられているのを確認した。

『このままじゃヤバイ! こうなりゃ、相棒! 久しぶりにやるぞ!』

『ガァァァァッ!!』

龍騎はカードデッキから一枚カードを引き抜き、バイザーに差し込んだ。

【ファイナルベント】

龍騎が更にジャンプをし、それを守るようにドラグレッダーもまた龍騎についていく。そして、龍騎目がけて特大の火球を吐いた。

『ドォォォォリャアア!!』

空中でドラゴンライダーキックが完成し、王蛇目がけて必殺キックをお見舞いする。

『なんだとぉ!!!』

龍騎のキックは王蛇に直撃し、爆発した。

『オオオオオオッ!!』

王蛇は爆発し、合体ミラーモンスターも分離すると、ブラックホールが停止した。

『やったか!?』

安堵したV3が口走る。

『ホホホ…ダメでおじゃる。そのセリフを言うと、相手は死亡フラグをキャンセルする事が出来るのでおじゃるよ!』

『…チッ、しぶといな』

王蛇はアマダムへと元に戻っていた。それだけではない、アマダムは怪人体へと変貌を遂げていた。

『さぁ、ここからが、本当の戦いでおじゃるよ!!』

アマダムはV3の元へ駆け出した。

『風見さん! 大丈夫ですか!』

ライダーキックを浴びせた龍騎はV3のすぐ近くに降り立つ。

『あぁ、問題無い。城戸、おまえも仮面ライダーだったんだな…』

『えぇっと、俺の知っている仮面ライダーと、風見さんとは違うみたいですけどね』

『違うだと? 細かい話はこの戦いが終わった後に聞こう。まずは…』

『えぇ、まずは…』

『『アイツを倒す!』』



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10.双嵐

『ふははは! 様々なライダーの力を身につけた我が輩の力にひれ伏すがいいで

おじゃる!』

『トォーッ!』

V3はアマダムにめがけパンチを繰りだした。

『お、おい! そこのミドリ! 人が話しているのに、攻撃してくるなんてあんまりでおじゃるぞ!?』

『うるさい! 知るか! 第一おまえは、人じゃないだろ!』

龍騎もV3に負けじとパンチやキックを繰りだす。ダブルライダーの猛攻をアマダムは捌ききれない。

『ぐぬぬぬ。…あっ、そうでおじゃる!』

何かを思いついたアマダムは、手下を呼ぼうと呪文を唱えはじめた。

『そうはさせない!』

龍騎はカードデッキから一枚カードを引き抜くと、カードそのものが炎を纏いはじめた。バイザーに差し込み、電子音と音声が鳴り響く。

 

【サバイブ】

カードを覆っていた炎が龍騎の身体に、そして、空中のドラグレッダーもまた、炎を覆っていく。龍騎は龍騎サバイブへ、ドラグレッダーはドラグランザーへと進化した。

『さぁ、いくぜぇぇ!!』

龍騎が持っていたバイザーも龍騎同様に銃型のバイザーへと変化している。

再び龍騎はカードデッキから一枚カードを引き抜くと、バイザーに差し込んだ。

【ソードベント】

『ドォリャァァァ!!』

龍騎は目にも留まらぬ速さでアマダムを斬りつけた。斬りつけた箇所から虹色の球が飛び出した。

『ガアァァッ!! せっかく集めたイノチが!!』

虹色の球はアマダムから離れると、人の形を形成していく。どうやらこの世界に連れて来られた人間のようだった。

『グゥゥゥッ!! こしゃくな真似を!!』

アマダムが怯んだ隙を龍騎サバイブは見逃さなかった。

『風見さん、今だ!』

 後ろで待機していたV3はジャンプし、アマダム目がけて必殺キックをお見舞いする。

『よし! V3ィィィドリルキィィィック!!』

『まだだ! まだ我が輩は負けんッ!!!』

強固なアマダムの装甲だったが、V3の攻撃で亀裂が入った。

『何度でもお見舞いしてやる。城戸、今度は二人でアイツに引導を渡してやるぞ!』

『元よりそのつもりだ、風見さん!!』

V3と龍騎サバイブはお互いに頷く。龍騎サバイブはまたもカードデッキから、カードを引き抜き、持っていたバイザーに差し込んだ。

【ファイナルベント】

『トォーッ!!』

龍騎サバイブ、V3がそれぞれジャンプし、ドラグレッダーが二人を追うように追随していく。そして、ドラグレッダーの口から、二発の火球が二人を後押しするかのように発射された。

 

『ドオオオオリャァァァァ!!』

『スクリューキィィック!』

 

それはまるで二つの赤い光線のようにも見えた。

『バカナァァァァァァァッ!!!!』

ダブルライダーキックの直撃を食らったアマダムの身体が崩壊していく。

『そ、んな。我が輩が負け…』

それがアマダムの最後のセリフだった。巨大な爆発と共に、アマダムの身体から、多数の虹色の球が解放されていく。

『良かった。みんな無事みたいだ…』

『城戸! 休むのはもう少し後だ』

空を見上げると、自分達のいるニューミラーワールドにも亀裂が入っていく。

『そうか、この世界も保たないのか!』

『あぁ、一刻も早く脱出するぞ!』

『とはいうけどさ、俺は何とかなるけど、風見さんや捕まっていたみんなをどうやって連れてったらいいんだ?』

『…それはきっとアイツが知っているさ。城戸、みんなを集めて待っていてくれ』

V3は龍騎サバイブにこの場を任せ、先程のブティックがあった場所へ駆け出した。



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11.脱出/12.決意

ニューミラーワールド/高知龍馬空港前


『…やはり!』

ブティックに辿り着いたV3は自分や真司が入ってきた鏡を発見した。鏡の中からはロープとフックが飛び出ていた。

『結城、成功したんだな!!』

そう、今回の事件で必要になると、認識していた結城丈二はミラーワールドとの干渉が行える装置の開発に成功していた。

『これならば!』

すぐにV3は龍騎サバイブ達が居る場所へ戻る。

『城戸! 朗報だ。これで脱出できるぞ!』

『はい!』

V3と龍騎サバイブは気絶していた人々を抱え、駆け出した。

一方その頃、現実世界では結城丈二はライダーマンと変身し、ロープアームを改良した特別なカセットアームを装備していた。

『…ムッ! トアァァァッ!』

仕掛けたロープを引く感覚に気がついたライダーマンはロープアームを引っ張り上げた。すると、V3やライダーマンが見たことのない仮面ライダー、そして行方不明だった人々の救出に成功した。

『結城! やったな!』

『風見、無事だったようだな! それにアレは…』

ライダーマンは、もう一人の仮面ライダーを見つめていた。視線に気がついた龍騎サバイブは変身を解除する。

「あ、どうも。俺です! 城戸です!」

『結城! 話はこの後だ、まずは助け出した人々を病院へ!』

『あぁ、わかった!!』

 

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事件解決から数日が経過し、病院に運び込まれた人々はミラーモンスターやアマダムに襲われた事を忘れており、それぞれ回復に向かっている。

真司が一番心配していた女子高生の子も無事だった。腕にギプスを巻いた真司は、風見と結城の見送りに高知龍馬空港へ来ていた。

「ようやく退院許可がおりました。やっぱ外の空気はうまいですね!」

「あぁ、キミの回復も早くて安心したよ」

「それにしても、結城さん、OREジャーナルの読者だったとはビックリです!」

「あぁ、内容が面白くてね、熱い記事やオカルトめいた記事に最近はまっていてそれでね。今は、スマホのアプリでも、見られるのが重宝していたんだ」

「そうだったんですね。あ、ちなみにオカルトめいた、って誰の記事ですか?」

「そうだねぇ、大抵の場合はキミのだったよ」

「えぇっ、俺の記事っすか…」

ガックリとしながらも、読者を目の前にする事などあまりない真司は内心嬉しかった。

「そうだ、ミラーワールドの事まで知っているなんて、俺の記事を読んでいてくれたことよりビックリしましたよ」

「城戸、それなんだが、俺達も半信半疑だった。【風来坊のとあるヤツ】がその事を教えてくれる機会があってな。そこで知ったんだよ」

「今回、彼からの情報提供がなければ、おそらく全滅という事もありえたんだな。風見、アイツは今頃、どうしているのかな?」

風見も結城もしみじみとしている。

「さぁな、あの生意気なヤツなら元気やっていると思うぞ? またひょっこりと現れるさ」

結城もミラーワールドへ向かう方法を、その風来坊から教わったという。

一体、風来坊のとあるヤツとは誰なのか。

わからぬままだが、悪いヤツじゃないことは確かだった。

 

しかし、ミラーワールド自体、どうやって知りえたのだろう?

この世界では一度リセットされた事実を知っていないとわからないハズだ…。

リセットされる世界の前で自分が体験したことは、入院している間に風見達には聞いてもらっていたとはいえ、それが真司は疑問に思っていた。

「そう考え込むな。オレ達自身驚いている事があるんだから、たとえばおまえが仮面ライダーになった事とかな」

「そうですね…」

風見や結城いわく、今回の事件は、財団Xなる秘密組織が企てた実験で、擬似的なミラーワールドを発生させ、そこを継続する為に人々の命を集めていたという。

その事件を阻止すべく、風見と結城が二人でやってきた。そこに居合わせたのが自分という状況だった。

「それじゃあ、そろそろ僕達は行くよ」

「城戸、おまえ無鉄砲なところがあるから、くれぐれも気をつけろよ?」

「はい! 風見さんに言われなくてもわかってますって!」

苦笑いをしながら、真司は答える。

「それじゃあ、また! あ! 結城さん! また俺の記事見て下さいね!!」

「あぁ、楽しみにしてるよ!」

二人が見えなくなるまで、真司は手を振っていた。

飛行機の機内でまた、真司は夢を見ていた。真司は目の前に現れた鏡を見つめた。鏡の中には、夢の中で出てきた赤龍がいた。

「なんだかんだで、再会しちまったな俺達。でも、後悔はしてないんだ。この力を有効に使えるなら、それで救える命があるのなら、俺はそれで構わない。未来なんてさ、いくらでも無限に変えられるって、そう信じてる!」

その長い独白は、自分に言い聞かせるつもりでいったのか、はたまたドラグレッダーに対して言ったのかわからない。でも、それはれっきとした彼なりの決意表明だった。

「さぁ、この夢を見たって事は明日も人助けすんのかな…、ウッシャッ! 望むところだ!!」

 



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