双札 (文月りんと)
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1.前兆

中東 某国 難民キャンプ


「おい、お前達! そんなにはしゃいだら、また転ぶぞ!」

 自分の目の前を駆けていった子に対して、青年は声をかけた。

「カジュマ! コッチー!!」

「判ったよ、すぐ行くから待ってろよ!」

 今、青年がいるのは、中東にある国だ。この国では内戦が続いていた。三ヶ月ほど前、青年はふらりとこの地へやってきた。

青年曰く、雑用でもなんでもいいので手伝いたいと希望してきたため、人手不足だった難民救済のボランティアメンバーは二つ返事で了承した。

「でもなー。オレの名前、カジュマじゃなくて、カズマなんだけどな。ま、いいか。何度言ってもわかってもらえないみたいだし」

 昔から、滑舌についてツッコまれる事には慣れていた。少しだけ溜息をついて、青年は周囲を見渡す。先程まで見ていた小さな希望とは裏腹に、ここが紛争地域だという事をイヤと思い知らされる光景が待っていた。目線の向こうに村の建物があったが所々、銃撃や爆撃などで壁や屋根も破壊され、痛々しい傷痕が目につく。

(いつになったらこの内戦は終わるんだ。確か、オレがこの国に来る前から続いてるって話だろ…)

「カジュマー! ハヤクー!!」

「わかった、判ったから!」

 切ない気持ちを抑え、青年は子供達の元へ駆け出した。

「カジュマー。指に緑のペンキがついてるよ?」

「!?」

 子供から指摘された指をズボンにこすりつけ、ごまかす。

「あぁ、ごめん。ありがとう!」

 これは決してペンキではない。青年の指から流れたソレは紛れもなく自分自身の血だった。どこかで指を切ったのか気がつかなかったけれど、一瞬でも正体がばれていないか焦ってしまった。

(危なかった…。今の反応を見る限り、気づかれてないみたいだな…)

 青年は人ではない。青年の名は剣崎一真。

 十年ほど前、日本で復活したアンデットと呼ばれる不死の生命体。そのアンデットとの戦いの中で親友や、人類を助ける為に彼は人であることを捨て、自らがアンデットとなる事を選んだ。以来、死ねない身体となった彼は世界中を旅しながら、時には人ならざる者を倒しながら、時には今のように困っている人々を助けながら日々を過ごしてきた。

(そういえば、何度か日本にも帰ったけど、結局、橘さんや睦月達には会わないままだったな…。今頃、みんなどうしてるんだろう? オレの事なんて忘れちまったかな?)

 どうして今になって、仲間達のことを思い出したのか、剣崎にはわからなかった。でも、何か前兆のような気もした。

 



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2.賭事/3.猛撃

中東 某国 キャンプ近くの村/中東 某国 難民キャンプ


灯りのついた小屋に、テーブルを囲み二人組の青年がトランプゲームをしている。

「なぁお前、聞いたか、美味しい話」

「あぁ、聞いた。聞いた。なんでも、良い金になるって話だろ?」

 テーブルに置いてあったトランプの束から一枚引き、手札のカードと見比べる。同じ数字のカードを手札に確認すると、引いたカードと一緒にテーブルに放り投げた。

「それがよー。そうでもねぇんだよ」

「あん? どういうこった?」

「なんでもな、仕事を紹介してくれる人間についていくとな、そのまま帰ってこなくなるって話だぜ」

「ホラ、美味しい話にはやっぱ裏があるじゃねぇか」

「じゃあよ、俺がその仕事を紹介してくれる人間と知り合いだって言ったらどうする?」

「マジか? よし、この勝負でお前が勝ったら乗ってやるよ」

「よっし、ぜってぇ勝つからな」

 結局、美味しい話を提案してきた青年が勝ち、問題の仕事紹介を受ける事になった。だが、彼らにとっては、それが自分達の身を滅ぼす原因になってしまう事はこの時、知る由も無かった。

 

-------------------------------------------

 

青年達が失踪した次の日の夜。すやすやと眠る子供達を見届けると、キャンプ近くに停めておいた自分のバイクにまたがり、剣崎は夜の見回りに出かけることにした。

 難民キャンプ内でも、人が失踪しているという噂が囁かれていた。それが本当なのかを確認するためでもあった。向かった先は失踪したとされる青年達がいた村だった。

(多い時は村の人達全員が、なんて話も聞いたけど、ご飯や生活をしていた形跡からそんな短時間でやるには個人じゃ厳しい。もし、これが組織的な犯行だったら、オレもあの姿になる準備をしとかないと…)

 そんな事を思いながらバイクを走らせていると突如、目の前に黒い影が横切った。

「危ない!!」

 間一髪、影とぶつかりそうになったのを回避し、停車する。ぼんやりとした影がバイクのヘッドランプに照らされて姿を現していく。そこには頭から血を流し、今にも倒れそうな青年が立っていた。

「た、助けて……」

 どこかから命からがら逃げてきたのか、服装もボロボロだ。剣崎を確認すると、その場に崩れ落ちてしまった。よく見ると失踪したと聞いていた青年だった。剣崎はバイクを降りて、すぐに青年へ駆け寄る。

「しっかりしろ! もう大丈夫だからな!」

「あ、ありがとう。でも、ダメだ。あ、アイツも、【石】になっ、ちゃった。お、俺も、たぶ……ん……」

「おい! しっかりしろって! おい!」

「………」

 剣崎に抱きかかえられて安堵したのか、笑顔のまま青年は事切れていた。

「………ちくしょう!」

 自分の拳を地面に叩きつけ、剣崎は怒った。また救えなかった。腕の中で冷たくなっていく人を見送るのは何度目だろうか。この時だけはいつも慣れない。

「なんなんだよ、【石】になるっていうのは…」

 青年の亡骸と共に難民キャンプまで戻ってきた剣崎だったが、彼の目に映ったのはキャンプが見るも無惨な姿に変わり果てた姿だった。

「なんだ、これ…」

 剣崎がこの地を離れたのは、僅かな時間だったハズだ。なのに、どこを見渡しても、人が見当たらない。

「一体、誰がこんな事を…」

「その答えには私が答えましょう」

「!?」

 背後に気配なんてなかった。でも、背中から声が聞こえてきた。それは以前、耳にしたある人物の声だった。

「久しぶりだな、剣崎君。あぁ、今はこう呼ぶべきか、もう一人のジョーカー君」

「どうしてオレが、ジョーカーだと知っている? アンタはオレが…オレ達が倒した後で、アンデットに殺されたはずだ! そうだろ、天王路博史!!」

 剣崎の後ろに立っていたのは、アンデット復活の原因を生み出した黒幕、天王路博史その人だった。彼は剣崎達との闘いに敗れた直後、逃げた先でギラファアンデットの手によって殺されたはずだった。

 でも、今の目の前にいるのは紛れもない彼自身だった。

「君がそこまで驚くのは無理もない。私自身、こうやって五体満足で復活するとは思ってもみなかったのだから。つい先日、とある組織に甦らせてもらったばかりでね」

「組織だと? 天王路、アンタこのキャンプ場にいた人たちをどこへやった!」

「まぁまぁ、そう焦らなくてもいいだろう。剣崎君も耳にしたことはないかね、財団Xという名を…」

「財団X?」

「おや、その顔は知らないようだね。ならば、教えよう。君が私との闘いに勝てたらの話ではあるがね」

 天王路が顔を覆うように自分の手を重ねていく。その手には不思議な指輪がはめられていた。みるみると姿が変わっていく。それは以前、天王路が変身した人造アンデット、ケルベロスのような姿に酷似していた。だが、所々強化改造されているのか、バズーカやマシンガンなど歪な装備が目につく。

『フフフ…これが今の私のもう一つの姿。私が以前産み出した人造アンデットを財団Xのデータベースにあった知識と融合し、パワーアップした姿だ。正にケルベロスの進化形とでもいうべきだ。そうだな、あえて言うならケルベロスカノーネとでも名付けようか』

(どうする? みんなと別れる時にカードやバックルは橘さんの元へ預けてきた。だから、オレが今なれるのは!!)

 対する剣崎も姿を変えるべく両腕をクロスして構える。

「変身ッ!」

 身体が一瞬にして変貌し、緑色の怪人へとなった。だが、目の色は青色で不思議と落ち着いているようにも見える。

『ほう、それが君の本当の姿か。実に興味深い』

『御託は後にしてくれ、今はオマエを倒して、いなくなった人々の行方を教えてもらうぞ!』

 ケルベロスカノーネを一瞥し、その場から消えるジョーカー。

『速いな。でも…まだまだだ』

 ケルベロスカノーネもまたその場から消え、空中で何度か激突音が木霊した。次の瞬間、ジョーカーが地面へと叩きつけられる。

『ぐはっ!!』

『おや、いくらなんでも遅すぎないかね? 君の本気をもっと見たいのだが…』

 やれやれといったモーションをして、ジョーカーを挑発するケルベロスカノーネ。ジョーカーは頭に血が上っているのか、また突撃をしようとしている。

『私も少しばかり本気を出してみるとしよう。さぁ、これが避けられるかな?』

 ケルベロスカノーネの右肩に装備されたバズーカから光り出す。なにかをチャージしているようだった。その様子を見ていたジョーカーは直感で、あの攻撃を食らったらいけないことを理解した。しかし………。

『そら、時間切れだ』

 その言葉を最後に目の前が光に包まれ、ジョーカーの意識は途切れる。

 ジョーカーとして不死身となった剣崎だったが、ケルベロスカノーネが放った一撃で腕や足が千切れてしまった。その攻撃は直線的な砲撃というより散弾銃のようにも思えた。

「次はもう少し愉しませてくれるかな、剣崎君。フフフ…ハハハハッ」

 変身を解き、ケルベロスカノーネから天王路へ戻った彼はそうつぶやいた。

 



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4.二人

中東 某国 空港


 一人の老人と青年が空港に降り立った。空港の周囲は何もない荒野だった。

 老人の手には見るからに頑丈なジュラルミンケースが携えられていた。

「本郷先輩達からの情報では、この国で以前、私と風見が遭遇した【石】の精製がされているという話だったが…」

 青年は一人でブツブツと自問自答しながら、考え事をしているように見えた。

 先に歩いていってしまい、老人は急いで後を追いかける。

「ゆ、結城君、待ってくれ。如何せん、私も歳なのだ。もう少しだけ、ゆっくり行かないか?」

 老人から声をかけられ、青年は立ち止まった。

「あぁ、申し訳ありません、烏丸所長。こんな場所までご足労頂いているのに…」

「いいんだ。それに、今の私は所長ではないのさ。BOARDでの所長職は橘君に譲ったからね」

 老人の名は烏丸啓。対アンデッド用にライダーシステムを開発し、剣崎達に協力してきた人物だ。話しかけている相手は結城丈二。彼は日本の四国で発生した事件で遭遇した【石】を調査するために同行していた。

「しかし、君の言いつけ通りコレを持ってきたはいいが、本当に彼はいるのかね?」

 烏丸はジュラルミンケースを指さし、そう言った。

「えぇ。【風来坊】の話では剣崎一真はこの近くにある難民キャンプで発生した事件で財団Xによって捕まっているという話でした。おそらく彼と再会した後には、ソレが絶対に必要になると思いますので…。

「そうか…。そういえば、君と一緒に日本で研究していたあのアタッチメントは、なんだったかな、アンデットの力を一時的に封じるよう調整したはずだったが…」

「あぁ、先日調整をお願いしたアタッチメントですね。きっとアレも役に立つと思いますよ。あまりそういう事態にはなって欲しくは無いのですがね…」

結城は最悪の状況を想定し、普段のアタッチメント以外にもいくつか種類を多めに持ってきていた。

「しかし、よかったのですか? もしかすると、戦闘地域の真っ只中に行くことになりますが…」

「なぁに構わないさ。これぐらい剣崎達と過ごした過去の戦いに比べたらね。あの頃は死と隣り合わせではあったが、それはそれで充実した日々を過ごしていたと思うよ。剣崎も元気だといいんだが…」

 烏丸はそう言いながら、曇り空を見上げ、今にも泣きそうな顔をしていた。その様子を見て、結城は告げる。

「彼の身体が不死身とはいえ、苦痛は消えないでしょうね。だから、今は一刻も早く…」

「あぁ、行こう。剣崎がいる場所へ」

 



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5.暗闇/6.救援

中東 某国 敵アジト/中東 某国 敵アジト


「…ううっ」

 剣崎は、暗闇の中で目を覚ました。

「ここは一体…。オレはどうしてこんなトコに?」

 ぼんやりとだが、自らの身に何が起きたかを思い出していく。

(オレは難民キャンプで天王路に遭遇して、怪人となったヤツと戦った。でも、

あっさりと負けちまった。…そうだ! あの時千切れたオレの腕と足は!?)

 徐々に暗闇になれてきたのか、自分の周囲だけは見えるようになってきた。手足をよく見ると、問題の腕と足は見事に元通りになっていた。両手足ともに手錠のようなもので固定されているが、身動きが取れない。何度か掌を握ったり少し動かしてもみた。感覚はちゃんとあった。

(良かった。でも、あれから、どれだけの時間が経過したんだ? キャンプのみんなはどうなった?)

 剣崎はキャンプで出会ったボランティアの人々や子供達の事を思い出していた。

(天王路が甦った事、日本のみんなは知らないだろうな…。このままオレがこの場所から出られないままとは思えないが、その間に始や橘さん、睦月達の元にヤツが行ったとしたら…。いや、そんな事は絶対にさせちゃダメだ、なんとしても食い止めないと)

 

------------------------------------------- 

 今が朝なのか、夜なのか判らない。囚われてからどれだけ時間が経過しただろう。

 剣崎は暗闇の中で身動きが取れない自分がもどかしかった。それに暗闇の中だからか、時間感覚がおかしい気がした。永遠の命を手に入れた今の剣崎にとっても、それは長く辛い時間だった。

 何度か、手錠を破る為に変身しようと試みたが、なぜか変身できなかった。おそらくこの手錠には、ジョーカーとしての能力を封印する処置でもされているのだろう。無理に外してみようとも試みたが、手首の皮膚が裂けるだけで手錠の破壊は出来なかった。

(…なぁ、始。こんな時オレはどうしたらいいんだ?)

 今はもう二度と会う事が許されない友の顔を思い出す。思い出の中の友はいつの時も自分に対して厳しい顔をしていた。ジョーカーとして生きてきて、無性に寂しさが募った時はそんな友の顔を思い出し、自分を鼓舞してきた。

(やっぱり怒った顔してるよな、アイツ)

 そんな折り、けたたましいサイレンが聞こえてきた。

「な、なんだ!?」

 暗闇でキョロキョロと見回したが、状況が判らない。そうしている間に、天井に亀裂のような音が聞こえてくる。

(誰か、助けに来てくれた? でも、今のオレは携帯とかなんて持ち合わせてないぞ? 一体、誰が…)

 突然の爆発。土煙にむせながら、光の差す天井を見上げるとそこには銀色の手が一本突き出されていた。それは、自分の知る相川始でも橘朔也でも上城睦月でもなかった。口だけはっきりとわかる見たことがないバトルスーツをまとった男がそこにいた。

『爆発に巻き込まれてはいないようだな。ようやく見つけたぞ、もう一人のジョーカー。私はライダーマン。…いや、君にはこう呼ぶべきだな、仮面ライダーブレイド。私も君と同じ仮面ライダーだ』

 



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7.双札

中東 某国 敵アジト


ライダーマンによって助け出された剣崎は、周りを見渡す。

 自分が捕らえられていた場所は研究所のようだった。辺りを見渡すとそこかしこで戦闘が繰り広げられた後がある。どうやら怪人達とも戦闘したような形跡があった。おそらく目の前のライダーマンとの戦闘で発生したものだろう。

「剣崎! 無事か!」

 聞き覚えのある声がライダーマンの後ろから聞こえる。

「か、烏丸所長! どうして此所に?」

「今は所長じゃないさ。君を捜していたんだ。君を捜す時に役に立つと思って、新たに開発した君限定のアンデットサーチャーを持ってきていてね。試作段階だから、まだ範囲は制限されるんだが、無事見つかって本当によかった」

 烏丸は小型端末のような形の装置を見せびらかす。どうやらこの装置によって、自分を見つけることが出来たようだ。

『その手錠は、すぐに破壊してしまおう。ちょっとじっとしていてくれ。

メカニカルアーム!』

 ライダーマンはそう告げると、右手の肘に何かカードリッジを突き刺し、腕の形状を変化させた。

『すぐに終わらせる。ジッとしててくれ』

 メカニカルアームの先端に小さな機器が装備されており、その機器が剣崎の手足にある手錠へ伸びていく。すると、ものの数秒で壊れてしまった。

「すげぇ…」

『さぁ、急ごう。此所に長居していると…』

 ギチギチと虫の口をこすり合わせた音が聞こえてきた。

『いかん、ヤツラだ!』

 剣崎や烏丸には見覚えのあるダークローチがそこにいた。相変わらず何体も同時に出現しており、嫌でも昔の出来事を思い出す。

「今度はダークローチ!?」

「剣崎、コレを使ってくれ!」

 烏丸が持っていたジュラルミンケースを剣崎へ放り投げる。剣崎はケースを受け取ると、その場で開いた。

「これはブレイバックルにスペードのラウズカード、ラウズアブソーバーまである! すげぇ、一式揃ってるじゃないですか!」

『今の君にはそれが必要だろうと思ってね。準備をしておいた』

「よおしっ、これなら!」

 剣崎は腰にブレイバックルを置くと赤いベルトが出現し、腰に巻き付けられていく。

「変身ッ!」

【Turn Up】

 ブレイバックルの中央が回転し、スペードのマークが出現した。またバックルから出現した青色のスペードマークに向かって、剣崎が飛び込む。次の瞬間、剣崎の姿は仮面ライダーブレイドへと変身した。

『ライダーマン、ここはオレに任せて下さい!』

『了解だ。さぁ、烏丸さんこちらへ』

 ブレイドはすぐさま、手に持っていたブレイラウザーから二枚のカードを取り出すと、カードリーダーに連続で滑らせていく。

【SLASH】

【THUNDER】

 ブレイラウザーに雷鳴が走る。

【ライトニングスラッシュ】

『ウェェェェェェイ!!』

 自身も電流を帯びながら、ブレイドはダークローチに斬りかかっていく。

『ギャアアアアアッッツ!!』

 ブレイドは、目にも留まらぬ速さで全てのダークローチを葬っていった。

『さぁ、急ぎましょう!』

『剣崎君、いけませんよ。その牢から出ては…』

 また背後から天王路の声が聞こえた。振り返ると、天王路は既にケルベロスカノーネとなっていた。

『しかも、忌々しいライダーシステムまで身にまとっているとはね』

『天王路!』

 ブレイドはケルベロスカノーネを睨みつける。

「天王路だと? 彼は君達に敗れ、いなくなったはずじゃなかったのか?」

『ええ、そうなんですが…』

 ブレイドの言葉に、烏丸も驚きを隠せない。

『今、剣崎君に逃げられては計画が水の泡になってしまうのだよ。不死の存在アンデット、その力を利用して我々は次のステージへ登る準備をしているのだから』

『我々? やはりお前達のバックにいるのは財団Xのようだな』

 そう言いながら、ライダーマンもメカニカルアームを解除している。

『天王路、難民キャンプのみんなをどうしたんだ!』

『あぁ、彼らならもうすぐ消える。今まさにこの施設で【石】の素材になっている途中なのだよ。あと、何人残っているかな? 君の知っている人間は…』

 ケルベロスカノーネが手を掲げると先日、天王路が身につけていた指輪よりも、大きな結晶の指輪が身につけられていた。

『ふざけるな、そんなことはさせない!!』

 ブレイドはブレイラウザーにラウズカードをスラッシュする。

【TACKLE】

 ブレイドの身体が赤くなって、ケルベロスカノーネに突撃していく。

『ウェェェェイ!!!』

 しかし、ケルベロスカノーネに裏拳を放たれ、ブレイドは近くの壁へ激突した。

『ちくしょう…』

『やれやれ。剣崎君。その程度で私を止める気なのかね? 笑わせないでくれ』

『剣崎君、焦ってはダメだ』

 ライダーマンがブレイドの肩を掴むと耳元で告げた。

『君は今、キングフォームになれるか?』

『!? は、はい。多分なれると思います』

『よし。なら、私が時間を稼ぐから、その間にキングフォームへ』

『了解!』

 こそこそと相談している二人を確認したケルベロスカノーネは、砲撃態勢へ移行するべく、チャージを始めた。

『君たち、そういう相談はもっと隠れてするものではないのかね? まる聞こえというのも芸が無いではないか』

『剣崎君、頼んだぞ! 烏丸さんは私の後ろへ! アレを使います!』

「アレか! わ、わかった!」

 ライダーマンがそう叫ぶと烏丸は急いで、ライダーマンの後ろへ向かった。

『遅い、時間切れだ』

 発射のチャージが溜まったのか、ケルベロスカノーネはあの攻撃を発射する。

その時……。

『シールドアームッ!!!』

 ライダーマンの叫びと共に変形した右手が輝き出す。

『何ッ!?』

 次の瞬間、ケルベロスカノーネは光の鎖によって、縛られていた。砲撃も不発に終わっていた。

『馬鹿な! 一体、何が起きた!?』

無理に動こうとすると身体が締めつけられ、身動きが取れない。正にシールドという名のごとく、ケルベロスを封印しているようにもみえた。

『今、私が装備しているのは対アンデット用に開発された特殊兵装だ。試験無しの一発勝負だったが、成功したようだな!』

『ぐっ! この鎖は封印用のカードと同じ効果だとでもいうのか!?』

『さぁ、剣崎君、今度は君の番だ!』

『応ッ!! キング、また力を貸してもらうぞ!!』

 そう告げると、ブレイドの左腕に装備したラウズアブソーバーには既にスペードのQのカードが装填されていた。続けて、ブレイドはブレイラウザ―にKのカードを読み取らせた。

【EVOLUTION KING】

 ブレイドの身体をスペードのカードが包んでいく。金色の身体となった仮面ライダーブレイドキングフォームがそこに立っていた。

『力が…力がみなぎる!! いくぞ! ケルベロスカノーネ!』

 ブレイドキングフォームは、五枚のカードをキングラウザーのカードリーダーへと滑らせていく。

【SPADE TEN】

【SPADE JACK】

【SPADE QWEEN】

【SPADE KING】

【SPADE ACE】

【ロイヤルストレートフラッシュ】

 ブレイドは目にも止まらぬ速さでケルベロスカノーネに向かって突撃していった。

『ハァァァァッ! ウェェェェイ!!!!』

 光の一閃が見事にケルベロスカノーネに直撃する。

『グゥッ! 馬鹿な…この私が破れるだと…。フフフッ、まだだ、計画は続いている。私はあくまでも駒の一つでしかないのだから…フフフフフ…ハハハハッ!!』

 斬撃をお見舞いされたケルベロスカノーネは、不気味な笑い声を響かせて爆散した。

『…天王路。アンタがまた甦る事があったなら、次もオレが地獄へ送り返してやるぞ』

 



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8.切札/9.影

中東 某国 難民キャンプ地跡/中東 某国 研究所跡地


天王路が装備していた指輪は過去の事件で遭遇した【賢者の石】だった。人々の命を材料に石を精製し、天王路はそれを自らの力として利用していたようだ。

 天王路を倒すと、指輪の石が砕け、石の材料にされていた多数の人々が現れた。衰弱している人ばかりだったが、助け出す事に成功したのだ。また、剣崎達は研究所に捕らえられていた残りの人々も救い出した。ライダーマンは、結城丈二へ姿を戻ると人々へ的確な処置を施していった。

 数日後、キャンプ跡地で助けられなかった人々の墓を作る剣崎がいた。

「ここにいたのか、剣崎君。バイクが消えていたから、またいなくなったのかと思ったぞ?」

「結城さん…。今回はありがとうございました。オレ、不死身になっても、まだまだ未熟ですよね」

悔しがる剣崎の肩にポンと手を置く。

「そんなことはないさ。私だけではあの怪人は倒せなかった。助けられた人々から君は神様のようだったと言われていたんだぞ? 救いの手を差し伸べた切り札は君自身でもあったという事を忘れないでくれ。」

「切り札ですか…」

「あぁ、そうさ。救えなかった命は戻らない。でも、一人でも多くの人を助けるために我々は世界中で財団Xと戦っているんだ」

「我々って事は、他の仮面ライダーの事ですか?」

「そうだ。君も知らない仮面ライダーもいるだろう。でも、みんな志は一緒さ。これは、君がよければなんだが、これから私達と共に戦ってくれないか? 実は今、財団Xが【プロジェクトダークネス】という大規模な計画が進行している噂を、キャッチしてね」

 そう言うと、結城はじっと剣崎を見つめる。今の自分には自分が持つジョーカーの力以外にも、烏丸から託されたラウズカードやラウズバックルが手元にある。

「わかりました。オレでよければ…」

「ありがとう。そう言ってくれると、信じていたよ。それじゃあこれからも宜しく頼むぞ。仮面ライダーブレイド」

 その言葉を聞いた結城は握手を求めてきた。

「はい。宜しくお願いします。結城先輩!」

 

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 完全に破壊された研究所跡地。

 ライダー達とケルベロスカノーネが戦った場所に【影】が存在していた。

 【影】は一撃で辺りの地面を破壊すると、ケルベロスカノーネの破片を見つけ出した。

「…ふむ。【デストロン】の力を与えたのに、この程度で破れるとはケルベロスも所詮は失敗作だったか。それに、仮初めの力だったとはいえ【賢者の石】が無くなったのは痛いな。………まあいいか、所詮は寄せ集めの命。やはり本来の

【サバト】の形式で作らねばいかんか。さぁ、次なる計画ではどうするかな?」

 そう呟くと、【影】は消え、一人の人間が現れた。すると、人間の皮膚がべりべりと破れていく。次に現れたのは緑色の姿をした怪人だった。その姿は昆虫のようでもあり、剣崎のようなジョーカーのような姿にも見えた。

「この姿で世界征服をしてみるのも、また一興か…」

そう呟いた怪人は、再び【影】となって消えていった。

 



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