新タナ私ハ防空棲姫 (深海提督)
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始マリ
深海ノ姫


「……ココハ…」

 

(オカシイナ…私ハ……アレ……声ガ…)

 

目を開けると、私は暗く狭い場所に横たわっていた。

 

…頭が痛い…酷く酔い潰れたようだった…

 

しかし体調はすこぶる良かった。別に記憶がいくつか欠けてる訳でも無さそうだ…

 

…どうしてこんな所にいるのかだけは分からないが…

 

 

 

 

 

 

 

私の名前は海野 姫鬼(うみの ひめき)

 

OLで1人狭いマンションに細々と暮らしていたはずだったのに…

 

…しかしどうしてこんな……

 

…だめだ…本当に思い出せない……まぁ…仕方ない、いずれ思い出すだろう。

 

そう思いながらふと周りを見渡すと、辺りは見えないが何かの中に乗っているようだった。

 

ゆらゆらと揺れており、まるで水の中に居るようだった。

 

そして見えないながらも、自分の体を確かめる。

 

……胸が大きい…今まで小さかった胸がかなり大きくなっている。

 

髪は長く、腰までありそう…

 

足は長く、かなりスレンダーだ…

 

そして、あまりにも自分の声とはかけ離れた声に変わっていた事に驚く。

 

しかし何故か聞いた事のある声だった。

 

 

 

 

 

ザバンッ!!

 

 

 

 

 

すると、辺りから波のような音がする。そしてゆらゆらと海の上を浮き輪で浮いているような感じがした。

 

横になっていた空間に隙間ができたと思うと、隙間から光が差し込んでくる。

 

まるで二枚貝が口を開くようにゆっくりと天井が開いていき、光に照らされながら目を開くとそこは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一面海が広がっていた

 

そして、ハッとしたように自分の姿を確認する。

 

 

 

 

 

 

「………フフ…」

 

私は不思議と微笑み、小さく声を出した…

 

……そうだ…この声は…この体は…

 

そして一言呟いた。

 

 

 

 

 

「フフ……キタンダァ……ヘーエ……キタンダァ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間違いない…正真正銘、本当に防空棲姫だ。

 

そしてこの海は…いやこの世界は…艦隊これくしょん…艦これの世界だ。

 

私があの防空棲姫になっている……信じられない…まるで夢のようだ。

 

私は念の為に頬に引っ張った。

 

…痛い……凄い痛い……

 

どうやら夢ではないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が初めて防空棲姫に出会ったのは、2015年の夏イベントの時だった。

 

美しい白銀の髪、暗く深い赤目、憧れるようなスタイル、圧倒的な強さ…

 

そんな魅力に溢れた彼女に…生まれ変わっていた…

 

さて…そろそろこの貝から降りよう……

 

ゆっくりと貝から顔を出し海面を見ると、揺らめく海面に防空棲姫の顔が…私の顔が…映っていた。

 

そして私は恐る恐る海面に足を近づける…

 

…立てた…海に足が沈むことなく海面に立っていた…

 

歩いてみても沈まない…どうやら大丈夫みたいだ。

 

……防空棲姫になったけど…私はこれからどうすればいいんだろうか…

 

そして私は目的も無く、艤装のタービンを回しながら海を駆けていった……

 



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敵艦見ユ

進水してから10分後、私はふと思った。

 

艤装はどうやって出すかだ。

 

艦娘はアニメのように装着すると思うが、私は深海棲艦だ。艦娘のように艤装が用意されているはずはない。だとすれば…

 

「艤装……装着……」

 

ガコンッ……

 

言葉に反応したのか、背後から一瞬にして艤装が現れ、装着された。

 

その時、私の頭の中にとある宇宙刑事がよぎった。

 

艤装は見た目とは裏腹に、リュックに国語辞典を2冊くらい入れた位の重さだった。

 

主砲は4inch連装両用砲+CICが二門、対空電探が一つ付いている。やはりイベント時に防空棲姫に装備された艤装と全く同じだった

 

ピコンッ……ピコンッ……

 

すると、対空電探に幾つもの赤く光る小さな光点が現れた。どうやら艦娘達の艦載機らしい。

 

耳を澄ますと微かにプロペラ音が聞こえてきた。しかし1つ、また1つと、プロペラ音が増えていき、音だけで確認出来なくなると、電探に表示された光点を確認しながらと、警戒態勢になる。

 

10機…20機…と数が増えていき、そして、ちらりと表示された数を確認すると、約50個ほどの赤い光点が電探に表示されていた。

 

そして、青い空に浮かぶ大きな積乱雲を眺めると、約50機もの艦載機がこちらの方へ向かってきていた。

 

展開した艤装を確認し、主砲に弾を込めると、ゆっくりと砲口を艦載機に向けていく。

 

「…馬鹿ナヤツネ……」

 

砲撃の知識は無いに等しいが、高度を保って接近してくる艦載機にそれとなく狙いを付けると…

 

「4inch連装両用砲…撃テェー!!」

 

二門の主砲から放たれた砲弾が艦載機にめり込むように機体に入ってくると、大きな爆発を上げ、多くの艦載機が巻き込まれていった。

 

そして、空にあれほど飛んでいた艦載機が一機も残らず、虫のように海面に落ちていった。

 

(マァ…コンナモンカネ……)

 

初めての砲撃の余韻に浸っていると、かなり離れた場所に居る艦娘の艦隊がこちらに近づいてくる姿がうっすらと確認できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤城「!?」

 

吹雪「赤城さん…?どうかしましたか?」

 

赤城「…先程発艦した艦載機が全機撃墜されました…」

 

吹雪「え!?全機ですか!?」

 

加賀「……こちらもダメです…」

 

摩耶「なっ…!?加賀さんの方もかよ…っ!!」

 

加賀「…どうやら送られてきた情報だと、一隻の深海棲艦が撃墜したらしいわ…」

 

摩耶「一隻だって!?何かの冗談だろ!?」

 

吹雪「赤城さん…どうしましょう…はぐれた睦月ちゃんと夕立ちゃんを置いて撤退する訳には…」

 

赤城「……敵艦、発見です」

 

赤城の見つめる先には、一隻の深海棲艦がこちらを見つめていた。

 

摩耶「チッ…!!あの深海棲艦か!!」

 

加賀「赤城さん、どうしますか…」

 

赤城「……」

 

吹雪「赤城さん、私があの深海棲艦を引きつけます。赤城さん達はその隙に睦月ちゃんと夕立ちゃんを探してください!!」

 

赤城「吹雪さん!?そんな無茶です…!!」

 

摩耶「待ってくれよ赤城さん、私と吹雪があの深海棲艦を引きつける…」

 

赤城「摩耶さん…!?」

 

加賀「……赤城さん、信じてあげてもいいんじゃないかしら?」

 

赤城「加賀さんまで…」

 

吹雪「お願いします!!」

 

赤城「……分かりました。2人の事は私と加賀さんに任せてください」

 

吹雪「ありがとうございます!!」

 

摩耶「よしっ!!それじゃあ…行くぜ、吹雪!!」

 

吹雪「はい!!」

 

 

 

そして、2隻の艦娘は、未知の深海棲艦に挑みに行った……

 

 



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砲戦開始

(マァ…コンナモンカネ……)

 

暑い日差しの中、額の汗を拭うと艦載機が飛んできた方角を確認する。

 

見つけた。空母二隻に重巡駆逐が一隻が止まっていた。

 

(アレハ…赤城ニ加賀、摩耶と吹雪カ……)

 

提督をやっていた私だ。これ位はすぐに分かった。しかし不思議に思った事がひとつあった。

 

(四隻…?オカシイ…二隻足リナイ……)

 

艦これは普通は六隻、また連合艦隊なら十二隻のはず。

 

しかし、私の視界に捉えている艦娘は四隻。艦これで四隻編成をするなら1-5が定石だ。

 

だが編成が明らかにおかしい。1-5なら軽空母と航戦が一隻、駆逐か軽巡、もしくは海防艦が二隻いるはずだ。

 

どうしてこんな編成をしているんだ、と思考していると…

 

摩耶「行くぜ吹雪!!」

 

吹雪「はい!!」

 

摩耶と吹雪がこちらに向かって前進して来た。

 

私は微笑みながらも身構え、戦闘態勢を取ると

 

摩耶「摩耶様の攻撃、喰らえーっ!!」

 

吹雪「お願い!!当たってください!」

 

摩耶の20.3cm連装砲、吹雪の12.7cm連装砲の砲撃が命中した。

 

摩耶「なっ!?」

 

吹雪「そんな…!?」

 

砲撃を喰らった私の体には傷一つなかった。

 

摩耶「なんて野郎だ……!!」

 

吹雪「かすり傷一つ無いなんて……」

 

やはり装甲も高いようだ。自分の性能を確かめた所で私は摩耶に話かけた。

 

「ゴメンナサイ……私ハアナタ達ト戦ウツモリハナイワ…」

 

吹雪「え!?」

 

摩耶「ふざけるな!!なら艤装を解除しやがれ!!」

 

「ワカッタワ……」

 

摩耶「……は?」

 

摩耶の艤装解除を受け入れると、ゆっくりと艤装を外し、両手を上げた。

 

摩耶「マジか…お前……本当に戦う気は無いのか?」

 

「エエ…アナタ達ノ飛バシタ艦載機ヲ撃墜シテ悪カッタワネ……」

 

吹雪「摩耶さん、どうしますか?」 

 

すると摩耶は、自分はどうするべきなのかと腕を組みながら考えていくと、

 

摩耶「……分かった、信じてやるよ。」

 

どうやら信じてもらえたようだ。

 

「アリガトウ、所デ…アナタ達ハドウシテ四隻デ出撃シテイルノカシラ…?」

 

吹雪「実は……」

 

すると、摩耶の影にひっそりと隠れていた吹雪が説明をしてきた。

 

吹雪に聞いた話によると、他の艦隊の援護に向かった帰りに大型の嵐に遭い、一緒に出撃していた駆逐艦の睦月、夕立とはぐれてしまったそうだ。

 

吹雪「…と言う事なんです。」

 

「ナルホドネ……モシ良カッタラ私ガ探シテオクワヨ、艦載機ノオ詫ビモ込メテネ…」

 

吹雪「えっ…?いいんですか…?」

 

「エエ、アナタ達ハ空母ノ2人ヲ護衛シナガラ帰投シナサイ。」

 

摩耶「悪ぃな…こちらから砲撃したってのに迷子探しまでしてくれてよ…もし睦月達に会ったらこの電探と海図を渡してやってくれ。」

 

「ワカッタワ、後ハ任セナサイ…」

 

吹雪「ありがとうございます!!睦月ちゃんと夕立ちゃんをお願いします!!」

 

摩耶「いつかこの借りを返させてもらうぜ!!」

 

そして2人は空母2人の元へと戻って行った。

 

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

 

「サテ……行キマスカ…」

 

私は摩耶から受け取った電探と海図を艤装の中にしまうと……

 

ポツ…ポツ……

 

かなり大粒の雨が降ってきた。空を見上げると、どうやら先程まで見えていた積乱雲が急接近してきてるようだ。

 

(コレハ急イデ探サナイト……)

 

そして私は遭難した睦月と夕立を探す為、付近の海域探索を開始した。

 

 

 

 



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捜索

摩耶と吹雪の頼みを受け、睦月と夕立の捜索をする事になった私は、預かった電探や無線機を使いながら探しているところだ。

 

「ガッ……ダレカ…イルッポイー……?」

 

すると無線機からノイズ音が混じった声が聞こえてくる。

 

それにこの特徴的な語尾は……

 

(分カリヤスイワネ…夕立ノ語尾ハ……)

 

早速私も無線機を持ち、通信を試みる。

 

嵐の中だが、傍受出来るなら此方からも話す事も出来ると思い、何度か無線機に声を掛け続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦隊とはぐれた睦月と夕立は、洞窟のちょっとした少し広い場所に座っていた。

 

「はっ…はっ…はくしょん!!うう…寒いにゃし~…」

 

「睦月ちゃん!無線機に反応ありっぽい!」

 

「本当!?無線相手は!?」

 

「分からないけど……助けに来てくれるっぽい♪」

 

「コチラザーッ…ザーッ…助ケニキタワ」

 

「こちら睦月、大破して孤島の洞窟の中に避難しています」

 

「ザーッ…了解、ソレマデ待機スルヨウニ」

 

「良かった……一時はどうなるかと思ったにゃし…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

睦月の連絡によればこの小さな孤島らしい。

 

島の近くまで行くと、雨でぐしょぐしょになっているが、砂浜に2つの足跡とそれらしき洞窟があった。

 

「ココネ……」

 

そして、2つの足跡を辿りながら洞窟に向かって歩いていった。

 

洞窟の中は薄暗いが、夜目が利かなくてもなんとか見える位だ。

 

カッ・・・カッ・・・カッ・・・

 

歩く度に足音が小さく反響し、どこからかポツポツと水滴が水面に落ちる音が聞こえてくる。

 

それに混じり、微かに何か声のような音が聞こえてくる。

 

「睦月ちゃん、なんかカツカツ音が聞こえるっぽい!」

 

防空の履いているヒールの足音が反響し、睦月と夕立が居る場所まで響いていた。

 

「本当?もしかしたら誰か来たのかも!」

 

腰を上げ、音のする方に向かっていくと、防空が歩いてくる姿を目撃した。

 

「にゃしい!?」

 

防空の姿を目撃すると、一目散に元来た道を逃げて行った。

 

「…今…何カ視線ヲ感ジタ気ガ……」

 

「睦月ちゃん、どうだった?」

 

「はぁ…はぁ…夕立ちゃん……は…早く逃げないと…」

 

「どういう事っぽい?」

 

「し…深海棲艦が…ここに…来ているの…」

 

「ぽいっ!?」

 

「今まともに戦っても…勝てっこないよ……」

 

「わ…分かったぽい……ぽいーっ!?」

 

夕立が睦月の方に顔を上げると、突然顔が青ざめ、悲鳴混じりの叫び声を上げた。

 

「…ま…まさか……」

 

睦月は夕立の驚いている姿を見て何かを察したように、ゆっくりと後ろを振り向いた。

 

「あっ…あっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフ…ミィツケタァ……♪」

 

 



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仲間ヲ求メテ

「フフ…見ツケタ…」

 

 

 

 

「あっ…あっ…あっ…きゃああああっ!!」

 

「睦月ちゃん!早く逃げるっぽい!!」

 

睦月の腕を掴み走ろうとするが全く動けない。

 

「あっ…足が竦んで……」

 

防空の姿を見た睦月は逃げようとしたが、蛇に睨まれた蛙のように恐怖で足が震えていた。

 

「っ…!!睦月ちゃんから離れるっぽい!!」

 

すると夕立は、防空に12.7cm連装砲を向け、まるで狼のように威嚇してくる。 

 

夕立はまだ改二にはなっていないが、その姿から夕立がソロモンの悪夢と呼ばれた所以が分かった気がした。

 

いくらこの体が駆逐艦の主砲で傷つかないと分かっていても、怖い物は怖いので装備している艤装を降ろした。

 

「ゴメンナサイ、誤解サレルヨウナ事ヲシテ…私ハアナタ達2人ヲ救助スルヨウニ頼マレタ者ヨ…」

 

摩耶から渡された電探と地図を見せ、救助しに来た事を睦月と夕立に話すと、2人は足をぺたりと地面に付けながら座り込んだ。 

 

お互いに落ち着きながら話をすると、どうやら理解してもらえたようだ。

 

「そうだったんですか…良かった…襲われなくて……」

 

「皆は無事っぽい?」

 

「大丈夫ヨ、空母ノ2人ハ摩耶ト吹雪ニ護衛サレテイルワ」

 

「なら安心っぽい♪」

 

すると、雨が弱まり風も穏やかになってきた。

 

「ソレジャア…今ノ内ニ急イデ鎮守府近クマデ行クワヨ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

孤島を離れてから30分後、海水を浴びながらも鎮守府近くの海域までたどり着いた。

 

嵐で分からなかったが、鎮守府付近の海域に着くと、空は夕焼け空になり、日が落ちていた。

 

「やぁーと鎮守府近くまで戻って来れたっぽい…」

 

「防空さん、ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

「イイノヨ、早ク鎮守府ニ戻ッテ入渠シナサイ」

 

「分かりました。お世話になりました」

 

「…ソレジャア、私ハコレデ…」

 

防空はタービンを動かすと、鎮守府付近の海域を離れた。

 

「防空さん、さようなら~」

 

夕立は、防空に向かって手を振ると、防空は夕日の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…サテ、コノ後ハドウスルカネェ……)

 

海域を離れ、嵐が止む頃にはもう夜になっていた。

 

あまりにも色々な事が起きすぎたが、防空棲姫になってからまだ1日も経っていない事に驚きである。

 

今日1日休まずに移動を続けていたが、流石に疲れた。どこかで休みたいものだ。

 

しかし、今の私はただの一匹狼。どこかに深海棲艦の艦隊でも居て欲しいと思いながら移動をしていた。

 

すると、近くの小さな孤島に着いた。此処なら艦娘に見つからないと思い、砂浜に横になり眠りについた。 

 

しかし、一時間もしない内に目が覚めた。その理由は……

 

目を覚ました瞬間、私の側の砂浜は大量の砂を巻き上げ、爆発音が響き渡った。

 

 

 

 



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仲間ト接触 編
夜戦突入


艦娘に見つからない場所を探し、小さな孤島を見つけた私は砂浜で横になり、一眠りするが一時間もせずに目を覚ました。

 

私の目の前には、砲弾が飛び交う戦場が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オノレ…イマイマシイカンムスドモメ…」

 

いったい何時間経っただろう。昼から始まった砲雷戦が終わり、夜戦に突入するやいなや味方が全艦轟沈し、遂に私1人になってしまった。

 

このまま艦娘にこの海域を取られてしまうのだろうか…この美しい海がまた人間の手で汚されてしまうのだろうか…

 

私の前に居る旗艦らしき艦娘が砲を向けると、トリガーを指を掛け、私の人生はここまでかと覚悟した。

 

その時だった。

 

トドメを刺そうとした艦娘が激しく吹き飛ばされていた。

 

艦娘へ飛んで来た方を向くと、見たことのない深海棲艦が砲を艦娘に向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(着弾確認、敵重巡撃沈)

 

まさか夜戦が行われているとは思わなかった。襲われているのは、見る限り服がボロボロになっているのが姫級だろう。

 

今までは艦娘との無駄な争いを避けるつもりで砲撃はして来なかったが、1人沈めてしまえばもうそんな事は関係ない。

 

実際艦娘達は私に向かって砲を向けてきているのだから。

 

1度してしまったのなら、もう後戻り出来ないと思い切ると、私は艦娘に砲を向け砲撃していった。

 

1人、また1人と沈んでいき、最後の1人を沈めるのに5分もかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が少しずつ明るくなっていき、傷だらけになりながら頭を抱えている姫級の側に寄る。

 

顔を確認すると、イベント海域で彼女と数回程戦闘した事がある顔だった。

 

「ハジメマシテ…私ハ防空棲姫、貴女ハ泊地棲姫ネ…」

 

彼女の名を呼びながら手を差し出すと、手を握り立ち上がる。

 

「何故私ノ名前ヲ……ヒトマズ…感謝スル」

 

「イイノヨ、ソレヨリ貴女ハ何故コノ海域デ艦娘ニ襲ワレテイタノカシラ?」

 

「…ソノ話ニツイテハ、私ノ基地ニ着クマデノ間ニ話ソウ」

 

足に怪我を負っていた泊地棲姫をおぶると、私はゆっくりと泊地が配属されている基地へと歩みを進めていった。

 

話によると、5年ほど前にこの海域で重油を運んでいたタンカーが事故で転覆し、重油がこの海域を汚染した結果、生物が殆ど生きていけない環境になってしまった。

 

そして酷い事に、汚染された海域を除染作業をする事なくそのまま放置された。

 

一体この世界の法律や環境問題に対する意識は何処にあるのやら。

 

深海棲艦達は5年の月日を掛け、ようやく元の美しい海に戻した。

 

そんな矢先に艦娘達が泊地達を襲い、今に至るのだと言う。

 

「ナルホド…ソンナ事ガ…」

 

「ココマデ愚カナ行為ヲスル生物ハ珍シイガ…ソンナ人間ノ味方デアル艦娘ハヤハリ珍シク、愚カナ損害ダナ……」

 

こうして話を聞いてる内になんの変哲もない小さな孤島に着いた。

 

泊地の案内によると、基地は島の地下にあり、海中から入るそうだ。

 

そして潜る時に気付いたが、どうやら水中では普通に呼吸が出来るようだ。

 

深くまで潜って行くと、そこには大きな穴が空いており、高速道路のトンネルのようになっていた。

 

私は泊地を背負いながら泳いで行くと、トンネルの中に入っていった。

 



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深海基地

泊地棲姫を背負いながら進んで行くと、出口の光が見えて来る。

 

「ホラ、見エテ来ワタヨ」

 

トンネルのような道を進んで行くと、そこには近代的な建物が建っていた。

 

「ココガ私ノ作戦基地、艦娘達ノ鎮守府トハ比べ物ニナラナイ程素敵ヨ」

 

少し誇らしげに話す泊地に相づちを打つ。

 

艦娘の鎮守府は元々ある鎮守府をそのまま利用しているのが多いので、泊地の基地ように今の時代に合わせて新しく建てたりはしないだろう。

 

すると、何処からかエンジン音のような音が聞こえてきた。

 

どこかで聞いた事のある音だと思い、頭の中を整理すると、睦月達を鎮守府近くまで運ぶ時にタービンをフル回転させていた時の音だと思いだす。

 

すると、前方から2つの人型の影がタービンの回転音を上げながらこちらに向かってくるのが見えた。一人は黒い和服を、もう一人はセーラー服を着ていた。

 

そして2人が私の側に付くと、心配そうに泊地に話しかける。

 

「泊地棲鬼様!大丈夫デスカ!」

 

「今スグドックマデ連レテイキマスカラ!」

 

セーラー服を着ているタ級が泊地を背負うと、黒い和服を着ているル級が私に話しかける。

 

「泊地棲鬼様ヲ助ケテクダサリ、アリガトウゴザイマス。通信ガ途絶エテカラ何時間モ連絡ガデキナクテ心配シテイタ所デス…」

 

ル級が胸を撫で下ろすと、泊地が礼をしたいらしく、応接室に行くことになった。

 

基地の中は黒い床と壁に赤いライン状のライトが入っており、まさに未来の建物という感じになっている。

 

不思議な事に、基地の中には海水が無く、地上に居た時と同じように呼吸ができた。

 

深海棲艦は水中で呼吸が出来る種族なのに海の中で生活しないのかは、元が海に沈んだ人間だったものが生まれ変わったのが原因だと言われているらしく、少しでも人間だった頃のように暮らそう体が反応するのが原因らしい。

 

そんな泊地の基地の今の時間はまだ起きている艦は少なく、チラチラとしか見かけなかった。

 

そして、応接室に案内されると、2つのソファーを挟んでテーブルが置かれている。

 

壁に埋め込まれている水槽には私がまだ人間だった頃にはテレビでしか見たことなかったような鮮やかな熱帯魚が泳いでいる。

 

ソファーに座り込むと、水槽を眺めながら泊地の修復が終わるのを待った。

 

待つこと20分、泊地が応接間に入ってくる。

 

 

「ゴメンナサイ、待タセタワネ」

 

どうやら高速修復材を使ったお陰で早く修復が終わったらしい。

 

泊地がソファーに座り、咳払いをするとこちらに話しかけた。

 

「改メテ自己紹介サセテモラウ。私ハ泊地棲鬼、コノ基地ノ責任者及ビ主力突撃部隊旗艦ヲシテイルワ」

 

私と同じくらい長い白髪を、黒いロンググローブを着けた手で解くと、紅く染まった瞳で微笑んだ。

 

「戦艦タ級デス。普段ハコノ海域ノ警備、主力部隊及ビ主力突撃部隊デハ旗艦ノ護衛ヲシテイマス」

 

私と泊地と同じ白髪で艦娘と同じようなセーラー服を着ている。そして黄色く輝いている瞳は彼女がflagshipであることを示している。

 

「戦艦ル級デス。主力部隊ノ旗艦ト主力突撃部隊ノ護衛ヲシテイマス」

 

艶のある黒髪に黒い和服を着、青い炎のようなオーラはタ級のflagshipを上回る、改flagshipの証である。

 

3人の自己紹介を終え、話を聞いていくと、泊地達はこの島の周辺海域を艦娘達から守る為に活動している。

 

しかしここ最近は遠征に来る艦娘やタンカー、客船までもが周辺海域に現れ、かなり忙しくなっているらしい。

 

「ナルホド…泊地達モ色々ト忙シイノネ…」

 

こうして話し続ける事1時間、ある程度話終えキリが良くなると、泊地が話題を変えた。

 

「…サテ、今回ノ件デ私ニハ借リガデキタ。ソコデ防空ノ願イヲ1ツ聞コウト思ウノダガ、何カアルカ?」

 

唐突に願いはあるかと聞かれて少し驚いたが、今の私にとってはとても好都合だった。

 

人間だった頃なら礼なら別にいいわよと言っていたが、家がない今そんな余裕ぶる事は出来ない…

 

「…実ハ私ニハ家トナル場所ガマダナイノ、私ガ落チ着イテ暮ラセルヨウナ場所ヲ見ツケルマデココニ居サセテモラエルカシラ…?」

 

「ソンナ事デイイナラ喜ンデ向カイ入レヨウ、空キ部屋ナラマダアルカラナ」

 

そうと決まればと泊地が立ち上がると、私の手を引っぱり部屋を出ると、基地の中を案内してくれた。

 

「泊地棲鬼様ノアンナニ楽シソウナ顔、久シブリニ見タワネ…」

 

「アァ…ココシバラクハ色々ト切羽詰マッテタカラナ…」

 

案内が進んで行くと、1つの部屋にたどり着いた。

 

その時だった。

 

「サテ、ココガ防空ノ家トナル部屋ダ。自由ニ使ッテクレ」

 

「フフ…色々トアリガト…ネ…?」

 

お礼を言おうとするが、何故か声が出なかった。視界が急激にぼやけ、意識を保とうとするが頭が回らない。

 

そして足をふらつかせると、その場に倒れてしまった。

 

「防空棲姫様!?シッカリシテクダサイ!!」

 

泊地と戦艦二人が駆け寄り話しかけるが声が聞こえなかった。

 

そしてぼやけた3人を見ながら気を失った。

 

 

 

 

 



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鉛ノ海

「…渡スモノカ…コノ海域ヲ…最後ニ残サレタコノ海域ヲ……!!」

 

月は赤く輝き、空と海がまるで戦場で流れた血のように染まっている。

 

あの二人が沈んだ今、残されたのは私だけ。我々深海棲艦はまた艦娘に負けてしまうのか…

 

ようやく取り戻した自由を…美しい海を…私の妹を…奪われてしまうのか…

 

そんな事を考えていると、1人の艦娘によって放たれた魚雷は私の体に直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…アレ…動カナイ……?

 

海に沈んでいく中、海面にいる艦娘が私の沈んでいく姿を確認している。

 

急いで海面に戻ろうとするが、中に鉛を詰められたらように体が重い。

 

動かそうにも錆びた金属のように体がボロボロと崩れていく。 

 

徐々に体が沈んでいくと、水温が下がり、視界が真っ暗になる。

 

体の体温が奪われていき、太陽すらも見えなくなっていく。

 

そして沈んだ体が底に着くと、周りには岩のような物が幾つも沈んでいた。

 

何とか首を動かし、横に振り返ると、何カゴツゴツした金属や残骸が見えた。

 

戦争中に沈んだ船や艦載機、仲間の深海棲艦や艤装が多く沈んでいた。

 

あの時聞いた戦時中の海に付けられた異名の意味がよく分かった。そんなこの海の異名……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉛ノ海……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ……意識が徐々に薄れていく……私も二人の後に続こうと思う……

 

 

 

さようなら……私の大切な妹…… 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…■■■■……■■■■……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!?ハァ…ハァ…」

 

辺りを見渡すと、見覚えの無い場所のベッドに寝ていた。

 

自分のマンションの部屋ではない事を確認し、体を触って見ると、やはり防空棲姫になっていた。

 

すると、どこからか走っている足音が聞こえてくる。

 

そして近くのドアが勢いよく開くと、泊地が汗を垂らしながらこちらを確認した。

 

「防空!!大丈夫カ!?」

 

そして後に続くようにタ級とル級が入ってきた。

 

二人から話を聞くと、どうやら疲労で倒れたらしい。そういえば防空棲姫になってから一度も食事も睡眠も摂っていなかった。

 

冷静に考えればあんなに激しく動いたらそれは倒れるなと思った。

 

気になるここは私が倒れた時に前にあった私の部屋だった。

 

眠った事で体の疲れが取れ、体に付いていた重りを降ろしたように軽く感じた。

 

看病してくれた泊地達に感謝をし、部屋を見回すと、私が人間だった頃住んでいた部屋より広く、家具もしっかり揃っていた。

 

もしかすると人間だった頃より良い部屋なんじゃないかと思ってしまう自分が居て、ほんのり寂しい気持ちになった。

 

しばらくし、泊地達が部屋から出るとベッドに横になり、さっきまで見ていた夢を思い出していた。

 

あれは一体何だったのか、この体である防空棲姫の記憶なのか、一体何があったのか謎が深まるばかりだった。

 

最初の方に言っていたあの二人……

 

それに大切な妹…妹と言う事は…防空棲姫が艦娘だった頃は秋月か照月だったのだろうか。

 

色々と考察をしていくが、何も分からないので私はそのまま考えるのを止めた。

 

 



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艦娘ダッタ重巡リ級

防空棲姫に転生してから二日目の午後7時、私は泊地の基地にある食堂に居た。

 

深海棲艦の食堂は、鎮守府や基地によって違う。

 

基本のタイプは料理が得意な艦が数人集まって料理を出すタイプと、部屋にあるキッチンを使って同じ部屋の艦と一緒に料理するタイプがある。

 

この基地では前者の方を指す。稀に給糧艦の艦娘が深海棲艦に生まれ変わる事があり、その艦に料理を出してもらう所もあるらしい。

 

今日は金曜日と言う事でカレーが出た。鶏肉と人参、ジャガイモに玉ねぎが入っており、ジャガイモは少し大きめに切ってあった。

 

一体どんな深海棲艦が作っているのかと厨房を覗いて見ると、厨房に立っていたのは、眼鏡を掛けている重巡リ級だった。

 

カレーを受け取り席に着くと、仕事が終わったのか、カレーを持ったリ級が私の前の席に着いた。

 

そして微笑みながら私に話しかけてきた。

 

「コンバンハ、アナタガ泊地棲鬼様ヲ助ケテクレタ艦デスネ?」

 

「エエ、私ハ防空棲姫。アナタハ重巡リ級ネ」

 

「ハイ、私ハ訳アッテ戦闘ニ参加デキナイノデ、コノ基地ノ料理担当ヲサセテモラッテイマス」

 

「戦闘ニ参加デキナイ…?重巡洋艦ナラ艦娘相手ニモ充分戦エルハズナノニ一体ドウシテ?」

 

「ウーン…詳シク説明スルト長クナリマスケド…ソレデモイイデスカ…?」

 

食事をしながら話を聞いていると、リ級は色々な事を教えてくれた。

 

リ級は元々は艦娘で、今から2年前に轟沈し、深海棲艦に改造された事で重巡リ級になった。

 

リ級の戦闘能力は他のリ級と比べて高性能だったが、体の艤装の損傷が激しく、深海棲艦の装備を身に付けられない等、色々問題を抱えていた為、実戦では使えないと言う事で厨房に立ち、料理を作るようになったらしい。

 

「ナルホド…戦闘ガデキナイ理由ハ分カッタケド、元ガ艦娘デアルアナタガ何故私達ニ敵対シナイノカシラ?」

 

「ソウデスネ…敵デアル私ヲ仲間ニシテクレタカラデスカネ…正直私自身モアマリ分カッテマセン」

 

少し苦笑いをすると、リ級はポケットから1枚の写真を取り出した。

 

「コレ、御守リ代ワリニ持ッテイタ写真デス。艦娘ダッタ頃ノ私ト姉サン達ト撮ッタンデス」

 

写真には鎮守府の前に艦娘が2人写っている。2人の内、眼鏡を掛けている艦娘がリ級だと言う。

 

写真自体少し古いのか、少し古ぼけていて、あまり顔等は綺麗に写っていなかった。

 

「アノ時ハ色々ト楽シカッタデス……姉サン…元気ニシテルデショウカ…」

 

リ級から写真を見せてもらい、2人の姿を見てみると、古ぼけているが、リ級ではない方の艦娘は何処かで見た事がある顔だった。

 

そして、2人の服装を見て確信した。

 

「…アナタノオ姉サンノ名前、摩耶ッテ名前デショ」

 

「ッ!?何故ソレヲ…!?」

 

やはりそうだった。写真にちらっと鎮守府の名前が写っており、摩耶から渡された電探に鎮守府名が書いてあった。服装を見てもあの時に出会った摩耶に間違いなかった。

 

「…摩耶ナラ元気ニシテルワヨ。リ級…イヤ…重巡洋艦鳥海」

 

すると、リ級の目から一粒の涙が落ちた。

 

「…随分久シブリニ…ソノ名前ヲ呼ンデ貰エマシタ…2年ブリデス…」

 

ハンカチで涙を拭き取ると、リ級は嬉しそうに感謝の言葉を出した。

 

「防空棲姫様…アリガトウゴザイマス、摩耶ガ無事ダト聞ケテ…トテモ安心シマシタ」

 

「ソウ…ソレハヨカッタワ」

 

話終えると、私は少し冷めたカレーを食べ始めた。

 



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敵偵察部隊

三日目の朝5時、疲労で倒れた際に10時間近く寝ていたからか、いつもよりも体がすっきりした感じがする。

 

人間だった頃は会社に向かう為に朝風呂に入り、着替えをし、朝食を摂り、出勤していた。

 

そんな体内時計は深海棲艦になっても狂うことなく、時を刻んでいた。

 

部屋を出ると、まだ朝早いからか廊下には誰も居なかった。

 

誰か起きていないかと歩くと、タ級が艤装を背負って玄関ロビーを歩いていた。

 

「タ級、ドコカ出掛ケルノカシラ?」

 

「アッ防空棲姫様、オハヨウゴザイマス。コレカラ近クノ海域ノパトロールヲシニ行ク所デス」

 

この基地では決まった艦が交代制で周辺海域をパトロールする制度があり、朝早くからやる必要がある為、あまり進んでやる艦は居ないらしい。

 

「ヨカッタラ着イテイッテモイイカシラ?」

 

「問題ナイデスヨ、ムシロ大歓迎デス」

 

艤装を展開し海上に出ると、タ級はゆっくりとタービンの回転数を上げ、前進し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥ…ソロソロ帰投シマスカ」

 

タ級の頭にはパトロールをするルートが刻まれているのか、地図を確認する事なく進み続けた。

 

二時間近くパトロールした所、特に目立った問題はなく、基地に帰投しようした。

 

その時だった。

 

…ガッ…敵偵察部隊ラシキ艦隊ヲ発見…増援…求ム…

 

タ級の持つ受信機がどこからか発せられた連絡をキャッチし、反応した。

 

「コノ周波数…南方棲戦鬼様ガ担当シテイル海域ノ周波数デスネ、一体何ガ…」

 

無線内容とタ級の話を聞くと、何やら嫌な予感がしてきた。

 

「…タ級、今日ハ南方棲戦鬼ガ近クノ海域デ停泊シテイルカシラ?」

 

「ハイ、ココ最近南方棲戦鬼様ガ南方海域ヲ奪還シタノデ、シバラクノ間滞在シテイルラシイデス」

 

南方棲戦鬼は泊地の基地とは違う基地に所属しており、隣同士なので情報を共有しあっている事があるそうだ。

 

「…タ級、全速力デ南方ガ居ル海域ニ案内シテ。最悪ノ場合、南方棲戦鬼ガ撃沈サレル可能性ガアルワ」

 

「ワッ…分カリマシタ!」

 

いったいどうしたのかと慌てながらも、速度を最大まで上げ、南に進んで行った。

 

「防空棲姫様、ドウシテソンナ急イデイルンデスカ!?偵察部隊グライナラソコマデ問題ナイハズデスヨ!?」

 

「…モシ相手ガ強力ナ兵器ヲ持ッテイルトシテ、ソノ情報ヲタ級達ガ知ッタラ、アナタハドンナ対策ヲトルカシラ?」

 

「ソウデスネ…ソレヨリモ強力ナ兵器ヲ用意スルカ、大量ノ戦力ヲ使ッテ相手ノ兵器ヲ破壊シマスネ」

 

「ソウ、ソレジャア強力ナ兵器ヲ南方棲戦鬼ダトスルワ…ソノ情報ヲ艦娘達ニ知ラレタラドウナル?」

 

「…強力ナ艦娘ガ大量ニ攻メテクル…!?」

 

「ソノ通リ、ダカラ相手ニ南方棲戦鬼ノ存在ヲ知ラレナイ為ニ逃ガス訳ニハイカナイノヨ」

 

そして進むこと10分、南方が停泊している海域に到着する。

 

辺りにはイ級eliteやト級が配備されているが、今の所はまだ艦娘には南方棲戦鬼の存在を知られていないらしい。

 

聞くと南方は、私の後ろ方向にある船の残骸が浮かんでいる場所にいるそうだ。

 

出来れば偵察機を一機でも飛ばしたい所だが、タ級は主砲を二つ、副砲と電探一つを装備している為、偵察機が無い。

 

ト級には偵察機が装備されているが、一機も残ってないらしい。

 

すると、対空電探に二つの点が現れた。味方の艦載機や偵察機は青で表示されるが、二つの点は赤で表示されていた。

 

「タ級、私ガアノ偵察機ヲ撃墜スル。ソノ後スグニ偵察機ガ飛ンデ来タ方向ニ威嚇デイイカラ砲撃シテ」

 

「分カリマシタ、イツデモイイデスヨ」

 

そして電探に現れた偵察機が上空に出現した。南方棲戦鬼よりも恐ろしい怪物が狙いを定めているとも知らずに。

 

 



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出撃準備

時は防空棲姫がカレーを食べていた頃に遡る。

 

横須賀鎮守府では、深海棲艦に奪われた南方海域を取り戻すべく、偵察部隊を編成していた。

 

「…んで、どうしてこんなに知らない奴がいるのだ?」

 

摩耶がそう呟くと、隣にいる吹雪が答えた。

 

「どうやら海軍本部の偉い人が各地の鎮守府から一部隊をここに集めるように昨日命令したそうですよ」

 

「どうしてそんな事知ってるんだ?」

 

「陽炎さんが青葉さんをわらび餅で買収した時に聞いたのをうわさで聞いたからです」

 

「なるほどな...後で陽炎と青葉に拳骨一発入れとくか…」

 

そう話している内に作戦内容を説明された。

 

偵察部隊はいくつか南方海域に出撃し、敵の主力部隊を偵察する。その際遭遇した敵艦隊は可能なら撃破すること。

 

そして今回各地から集まった部隊を引き連れ敵主力部隊を撃破するのが今回の作戦だ。

 

偵察部隊の編成は那智、古鷹、川内、若葉、漣、そして旗艦に摩耶の編成になった。

 

若葉以外は摩耶と同じ横須賀組だ。

 

「明日は朝早いので早く寝た方がいいですよ?」

 

「ああ、今日はもう寝させてもらうぜ」

 

そして布団の中に入ると、摩耶はすぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もう4時かよ」

 

セットした目覚まし時計を止めると着替えを持ち、ドックに向かった。

 

朝のドックはいつも混んでいるのだが、この時間帯だと夜戦好きや遠征帰りの艦娘、酒好きの艦娘ぐらいしか居ない。

 

中に入ると、今日は遠征帰りの艦娘は居なく、居るのは偵察部隊に選ばれた那智と川内しかいなかった。

 

「むっ、摩耶か。お前も朝風呂か?」

 

「ああ、髪を直すついでに温まりたいからな」

 

シャワーで髪を洗い、体を洗い終わると、湯船に浸かっている那智の隣に座った。

 

「所で…何で川内がぐったりした感じになってんだ?」

 

「寝不足らしい。どうやら2日連続で寝ないで夜戦訓練をしていたらしいからな。」

 

「いくら夜戦好きだからってやり過ぎだろ…」

 

「お蔭様でドックで寝始めたぞ。」

 

「( ˘ω˘ ) スヤァ…」

 

「本当に寝てやがる…」

 

すると、少し眠そうに目を擦りながら古鷹がドックに入ってきた。

 

「あっ、皆さんも朝風呂ですか?」 

 

「おう、私は少し前に入ったばかりだがな」

 

「所で加古は起こさなかったのか?」

 

「はい、今日は1日寝ているって言ってたので」

 

「そんなのでいいのか?重巡洋艦の良い所を見せられてないような」

 

「たっ…確かに!!」

 

慌てている古鷹を見て笑っていると、漣もドックに入ってきた。

 

「おっ、漣も朝風呂か」

 

「はいっ…って川内さん大丈夫なんですか!?」

 

「仮眠中らしいですよ」

 

「M J K(マジか)」

 

「しかし、そろそろ起こした方がいいんじゃないか?」

 

「それもそうだな。古鷹、川内を起こしてくれ」

 

「ええ!?私がですか!?」

 

「古鷹さんっていつも加古さんを起こしているくらいだから起きると思いますよ?」

 

「わっ、分かりました」

 

「それじゃあ、あたしは一足先に上がらせてもらうぜ」

 

「ああ、ちゃんと体拭けよ。でないと出撃した時に腹を下すからな」

 

「分かってるって、心配ありがとな〜」

 

ドックを出て着替えると、支給された朝食のおにぎりを持って外に出て、摩耶のお気に入りの場所であるバルコニーでおにぎりを頬張り始めた。

 

すると、隣から何か臭ってきた。

 

「…っ!?なんだ!?ゲホッゲホッ!!」

 

煙草臭だ。隣を向くと、そこには煙草を吸っている若葉の姿があった。

 

「おい!!何吸ってんだよ!!」

 

「…シンセイだが?」

 

「銘柄を聞いてるんじゃねぇよ!!どうして煙草を吸ってるんだ!?」

 

「吸いたいからだ」

 

「…っ!!」

 

どこかイラッとした返事をされたが、なんとか耐えた。

 

すると、若葉から摩耶に話し掛ける。

 

「確かあんたは私の偵察部隊の旗艦だったな…」

 

手持ちの煙草入れとは違う箱から煙草を一本取ると、摩耶のポケットの中に入れた。

 

「…ふぅ……宜しく頼むぞ。旗艦、頼りにしてるぞ」

 

「!?」

 

そういうと、若葉は煙草の火を消し、鎮守府に入っていった。

 

(…いけねぇ…少しかっけぇと思っちまった……)

 

少し恥ずかしながらも摩耶は残っているおにぎりを食べ終わると、鎮守府に戻り、出撃準備を進めた。

 



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絶望ノ再来

「おう、行くぜ!抜錨だ!」

 

摩耶を旗艦にした偵察部隊は、南方海域にいる深海棲艦の主力部隊を偵察するのが目的だ。

 

横須賀鎮守府から南方海域までそう遠くはない為、南方海域を野放しにしておくと、鎮守府に攻めてくる可能性が大きくなる。

 

海軍司令部は最悪の事態になる前に潰そうと考えたのだ。

 

午前7時40分、出撃してから40分が経過した。

 

道中深海棲艦に遭遇するが、駆逐艦や軽巡ばかりだったので、2、3部隊を撃破した。損傷はかすり傷程度で済んでいた。

 

しかし、目標地点の南方向に進むにつれ、霧が出てくる。

 

「那智、電探に反応はあるか?」

 

「今の所は無い。霧が出ているが、そろそろ偵察機を出した方がいいのではないか?」

 

「そうだな。川内、大丈夫か?」

 

「大丈夫大丈夫…ふあ~……こっちは飛ばせるよ」

 

大きなあくびをすると、小さな零式水上偵察機を2機取り出し、カタパルトから発艦した。

 

戦闘前に敵艦隊を発見することで、比較的戦闘がしやすくなる。

 

「行ってらっしゃーい」

 

偵察機を見送ると、川内は耳に着けてある通信機で報告を聞き逃さないように耳を澄ます。

 

「…………っ!?」

 

先程までの眠そうだった川内の目がぱっちりと見開いた。

 

「どうした川内?」

 

摩耶が川内に近づいた。その時、近くから大きな水柱が立った。

 

「なっ…!!」

 

「ちぃっ…!!那智!電探に反応は!!」

 

「…まずいな…イ級eliteにト級、それにタ級のflagshipだ…!」

 

艦娘達にとって厄介な存在は、火力が高く、命中率が高いflagship級の戦艦や空母だ。

 

「川内!偵察機は!?」

 

「2機とも撃墜された!けど四隻いるらしい!」

 

「四隻?タ級と他二隻以外に何かいるのか?」

 

若葉が煙草を咥えながら川内に質問すると、川内は脂汗を垂らしながら答えた。

 

「そう、タ級よりも大きいらしい!」

 

「くっそぉ…!!」

 

若葉がタ級に近づき砲撃するが、あまり効いていない。

 

するとタ級は近づいた若葉に右足を上げ、若葉の体を蹴り飛ばした。

 

「若葉っ!!マジ大丈夫!?」

 

漣が若葉をキャッチする。

 

「くっ…痛いぞ!…だが、悪くない」

 

「何でこんな時に変な性癖を出してんの!?」

 

「漣、若葉、下がってろ!!」

 

漣の前に那智と摩耶が出ると、タ級に向けて砲撃する。

 

「喰らいやがれ!!」

 

するとタ級は後ろに仰け反り、中破になった。いくら戦艦とはいえ、重巡洋艦二隻からの砲撃を喰られば、ダメージを受ける。

 

タ級は被弾すると、後退し、霧の中に隠れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッ…!!」

 

顔を腕で守ったお蔭か、被害は中破で済んだ。

 

「タ級、大丈夫カシラ?」

 

「ハイ、事前ニ構エタノデ中破程度デ済みマシタ」

 

「一旦下ガリナサイ、私ガ相手ヲスルワ」

 

「分カリマシタ、後方支援ニ撤シマス。」

 

タ級が後方に下がると、タ級の前に出る。

 

那智はタ級を撃沈したか確認しようと電探を確認する。

 

「なっ…なんだこの反応…!?」

 

那智は仰天した。タ級が撃沈されていなかったのだ。しかし那智が仰天したのはタ級が撃沈されていなかった事ではない。

 

「何だこの大きな反応は…タ級よりも遥かに大きいぞ…川内の偵察機が報告していた大型艦か…!」

 

戦艦や空母などの大型艦は大きな点で表示されていたが、タ級よりも大きく点が一つ表示されていたのだ。

 

「もしかして、ラスボスって奴!?」

 

「漣、若葉、気を抜かないようにね!!」

 

川内は今までに味わったことのない緊張感を持ちながらも、砲を構える。

 

那智と摩耶も戦艦以上の戦力にプレッシャーを感じ、身構える。

 

そして、霧の中から一つの大きな影が、ゆっくりと近づいて来た。

 



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撤退セヨ

「あ…あいつは……!?」

 

霧から現れたのは、三日前に出会った深海棲艦だった。空母二隻の放った艦載機を一機も残さず撃墜した怪物だ。

 

対空能力以外にも、高い装甲を持っている。吹雪と砲撃した際、傷一つ付けることができなかった。あの時は何故か敵対せずに遭難した睦月と夕立を鎮守府近くまで送ってくれた。

 

しかし、今回は違う。

 

この海域全体が、殺気で満ちている。しかもタ級と戦闘をしていた時とは比べ物にならない程の殺気があの深海棲艦から出ていた。

 

そんな深海棲艦を前に、摩耶は那智達に無線連絡をした。

 

「艦隊に告ぐ、全速力で撤退しろ…!」

 

「なっ…だが…!」

 

「だがじゃねぇ!!旗艦命令だ!!私があの深海棲艦を引きつける、その内に逃げろ!!」

 

摩耶は確信していた、このままでは確実に沈められる。

 

深海棲艦を引きつけてる中、摩耶の頭にはとある疑問がよぎってきた。

 

あの深海棲艦の戦闘能力はル級やタ級を遥かに超えている。あいつが主力部隊の旗艦と言われたら信じるだろう。

 

しかし摩耶が疑問に思っていたのは、あの深海棲艦についてではない。編成についてだ。

 

主力部隊なら空母の一隻や二隻居るはずだが、護衛には駆逐艦、軽巡、戦艦が一隻ずつしか居ないのだ。

 

護衛にしては戦力が少なく、あの深海棲艦を含めも後二隻は入れる事ができるはず。

 

どうして四隻なのか、ひょっとしてあの艦隊は主力部隊ではないのでは、そんな考えが摩耶の頭の中で、疑問という形で回っていた。

 

だが、そんな事を考えている暇は無いと思い知らされる事になる。

 

目の前に大きな水柱が上がった。駆逐艦の砲撃なんて可愛く感じるレベルの大きさ、下手したら戦艦と同じ位の大きさだ。

 

「ソウ簡単ニハ行カセナイワヨ……」

 

背後から聞こえてくる声は、死神が鎌を首に近づけ冥界への片道切符を渡しに来たように感じる。

 

一歩、また一歩と歩いてくる音が聞こえてくる。

 

心の中では逃げようとするが、足が竦んで動けない。

 

あまりの速度の上げすぎで、主機がオーバーヒートを起こして動かなくなっていたのだった。

 

そして近づいてきた足音が真後ろで止まると、あたしは確信した。

 

ここで沈むのだと。

 

提督は私を信頼して旗艦にしたのだろう。私は提督の期待を裏切る事になってしまった。

 

背中に砲口を当てられると、頭の中に艦隊の五隻と鎮守府に居る仲間達との青春が走馬灯のように流れてきた。

 

那智達は逃げ切れているだろうか、姉貴達は今頃どうしているのだろうか。

 

そして最後に流れてきたのは、鳥海との思い出だった。

 

何年も戦いを共にし、どんな時でも側にいた。そして、互いに信頼していた。

 

自分の命を相棒の為に捨てても厭わない程に。

 

鳥海は大破した私を庇い、沈んでいった。

 

それから二年経ったが、私も鳥海の居る天国に行けると思うと、悪くなかった。

 

すると、あの深海棲艦は口を開け、こう言った。

 

「ココデ沈ミタクナケレバ、ココカラ先ニハ進撃シナイコト…撤退スルノナラ見逃シテアゲル…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砲口を摩耶の背中に当て、摩耶に警告した。

 

私の目的は敵を殲滅する事ではない。この先に居る南方棲戦鬼の存在を艦娘達に知られない事だ。

 

別に沈めても構わないが、リ級の事を思うと気が引ける。

 

だが、摩耶の回答によっては沈めなければならない。

 

私はただただ撤退してくれるのを祈るばかりだった。

 

そして摩耶は、答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…分かった、撤退させてもらう」

 

普通ならこんな嘘がバレバレな話に乗るはずが無いが、不思議とこの深海棲艦なら信じられると思った。

 

「アリガトウ、助カルワ」

 

すると摩耶は確認するように話しかけた。

 

「撤退している最中に襲ったりしないだろうな…」

 

「モチロン、約束スルワ」

 

「…どうしてあたし達を見逃してくれるんだ?」

 

「沈メル必要ガナイカラヨ。マァ…コノ先ニ行コウトスルナラ…アナタダロウガ何ダロガ沈メルカラ……」

 

「……最後に、あんたの名前は?」

 

「防空棲姫…防空駆逐艦ヨ」

 

その後、摩耶は艦隊のメンバーと合流し、撤退して行った。

 

するとタ級から連絡が送られて来た。

 

「防空棲姫サン、南方棲戦鬼様ガ防空棲姫様ニ会イタイソウデス」

 

「……分カッタ、今スグ行ク」

 

通信を切ると、私は南方に会う為に南に進撃した。

 



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南方棲戦鬼

南方棲戦鬼に会う為に南に進むこと20分、何やら大きな影が見えてきた。

 

近づいて行くと、大きな影の正体が明らかになってきた。

 

影の正体は巨大な残骸だった。どうやら輸送船などの残骸らしい。

 

すると今度は、バリッ…バリッ…と金属を引きちぎるような音が聞こえてきた。

 

まるで食事をしている時に出る、食べ物を噛みちぎるような音のようだった。

 

前進すればするほど音は大きくなり、残骸には何かが噛みついたような跡が付いている物が多くなってきた。

 

南方がいるであろうポイントに着くと、巨大な残骸の側に一つの人影があった。

 

先ほどから聞こえる音はあの人影の仕業だと分かった。

 

バリッ……バリッ……バリッ………

 

謎の金属音が止むと、残骸の側に居た人影がこちらに向かってきた。

 

そしてお互いの姿が見える位置まで移動すると、南方棲戦鬼の姿が露わになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初メマシテ、私ハ南方棲戦鬼…コノ南方海域ヲ支配スルモノヨ」

 

「私ハ防空棲姫、今ハ泊地棲鬼ノ基地ニ滞在サセテモラッテルワ」

 

南方棲戦鬼、ツインテールになっている白髪に赤い瞳、黒いジャケットの中に水着を着ていた。

 

艤装の一部と思われるユニットの中に足を入れており、腕には鉤爪に砲が付いたアームを装備している。

 

艤装にはいくつも砲が付けられており、タ級とは比べ物にならないほどの大きさだった。

 

「ト級達カラ聞イタワ、敵偵察部隊を撃退シテクレタソウネ、感謝スルワ」

 

南方棲戦鬼が握手を求めようと手を差し出し、それに応じようと手を差し出す。

 

ズシンッ……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬何が起こったのか分からなかった。

 

南方棲戦鬼の差し出した手は、爪を突き出し、私の腹に重い一撃を入れてきた。

 

「ッ!!」

 

重い一撃によって吹き飛ばされた私は、海面に叩きつけられながらも体勢を持ち直した。

運が良かったのか、それとも装甲の高いお陰か、傷付くことはなかった。

 

「ヘェ…私ノ一撃ヲマトモニ喰ラッテモ沈マナイナンテネ…」

 

「アナタ…ナンノツモリ……私ヲ沈メルツモリカシラ……」

 

「イイエ?今カラアナタノ戦力ヲ知ル為ニ、チョットシタ運動相手ニナッテモラオウッテネ…」

 

いくつもの砲をこちらに向け、嘲笑うかのように微笑む。

 

「私ガアナタヲ追イ詰メタラ…私ノ部下ニナッテモラオウカシラネ…」

 

鋭い鉤爪でこちらを煽るかのように人差し指を動かす。

 

「ドウヤラ完全ニナメラレテルミタイネ……後悔サセテアゲルワ…」

 

私は顔を上げ、南方棲戦鬼の顔を見ると、人間だった頃に5-2を攻略中に正規空母を謎のどや顔で狙い撃ちし、毎回ドックを詰まらせていたのを思い出した。

 

その時はまだ五航戦が着任しておらず、一航戦と二航戦をローテーションで運用していたので、ボーキサイトの消費も激しかった。

 

あの時の事を思い出すと、無性に腹が立った。

 

「ワタシノホウゲキハ……ホンモノヨ……」

 

過去の思い出に浸っていると、南方棲戦鬼は16inch三連装砲をこちらに向け、何発も砲撃してきた。

 

今まで戦ってきた艦娘の砲撃と比べると、砲撃音が圧倒的に大きく、特撮作品にある爆発シーンを彷彿とさせる大きさだった。

 

砲弾は私が通るであろう位置を予測し、砲撃していく。

 

一つ、また一つと水柱を上げると、南方棲戦鬼は手の平から深海棲艦爆Mark.IIをこちらに飛ばして来た。

 

「オチナサイ!」

 

艦爆は私の姿を捉えると、機体を傾け、急降下する。

 

「アマイッ…!!」

 

4inch連装両用砲から放たれた砲弾は艦爆に命中し、砲弾の破片が別の艦爆に突き刺さり、撃墜していく。

 

「今度ハ私ノ番ヨ…」

 

私は4inch連装両用砲を南方棲戦鬼に向けて照準を合わせ、砲撃する。

 

すると初弾が艤装に、二発目は南方に命中する。

 

「ッ!!初発カラ命中サセルナンテ…ヤルジャナイ…」

 

通常、初弾は試射を兼ねていて、初弾の命中率は約10%だと言われている。初弾の位置と敵の位置を見て距離を測るので、初弾から当てるのは至難の技だ。

 

「チッ…オロカナ…」

 

防空棲姫の火力の高さもあるが、南方棲戦鬼が柔らかいせいか、既に中破状態になっていた。

 

「私ヲ甘ク見ルナッ…!!」

 

私に砲を向けると、何やら海中から何かが南方棲戦鬼に迫ってくる姿が微かに見えた。

 

いくつもの戦場を乗り越えてきた南方には、一瞬で何なのか悟った。

 

「シマ……ッ!!」

 

すると、南方の艤装から炎が上がった。

 

近づくと、南方はユニットにぐったりしており、大破状態になっていた。

 

すると、悔しげに私に問いかけてきた。

 

「…イツ…魚雷ヲ放ッタ……」

 

南方棲戦鬼が大破したのは、私が放った魚雷が命中したからだった。

 

「アナタニ二発砲撃シテカラスグヨ」 

 

私は砲撃した直後に南方棲戦鬼に向けて魚雷を放った。

 

砲撃した直後は砲弾に注意が逸れるので、魚雷が命中する確率が少しは上がる。

 

正直、砲撃が二発命中するとは思わなかったが、結果オーライだった。

 

初弾が命中し、驚いた事によって、ギリギリまで注意を逸らすことができた。

 

「…ドウシタノ…私ノ事ヲ沈メナイノ……?」

 

「沈メルワケナイデショ…アナタガ沈ンダラ、誰ガコノ海域ヲ担当スルノヨ」

 

「ソレハソウダケド…アナタニイキナリ不意打チヲ食ラワセタ挙ゲ句、沈メヨウトシタノ?」

 

「正直…驚イタケドアマリ痛クナカッタカラネ…」

 

 

「ナッ……アナタ、ヤッパリ強イノネ…」

 

 

「早ク修復シテナサイ…艦娘ガ来テモシラナイワヨ」

 

「ワ…分カッタワ…心配シテクレテルナンテネ…」

 

南方は船の残骸に近づくと、艤装に付いている口が開き、残骸を食い漁っていく。

 

すると大破していた南方棲戦鬼の傷が、少しずつ修復されていく。

 

「…南方、船ノ残骸を食ベルノハ深海棲艦デハ当タリ前ナノカシラ……?」

 

 

「エエ…戦場デ入渠ナンカデキナイケド、コレナラ少シズツダケド治セルカラネ」

 

「ナルホドネ…私ハソロソロ泊地ノ基地ニ帰投スルワネ……」

 

「分カッタワ…イツカ許シテモラッタ恩ハ、必ズ返シスルワネ……」

 

その後、私はタ級と無事合流し、南方海域を後にした。

 

 



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登場人物紹介

今回はサブタイ通り、登場人物の紹介です。
詳細はそのキャラクターについての説明です。
艦娘は今のところ説明しないつもりです。


本作主人公

 

[防空棲姫]

 

 

耐久 255

火力 500

雷装 150

対空 850

装甲 500

搭載 0

速力 最速

射程 超長

 

装備 

 

4inch連装両用砲+CIC

4inch連装両用砲+CIC

深海水上レーダー

 

 

詳細

 

人間の時の名前は海野 姫鬼(うみの ひめき)。マンションで1人暮らしをするOLだったが、気づくと防空棲姫になっていた。基本的には好戦的ではないが、非常時や仲間の危険を感じると、戦闘態勢に入る。ゲームでの防空棲姫よりも性能が遥かに高くなっている。ゲームではできない対潜攻撃もできるようになった。

 

 

[泊地棲鬼]

 

 

耐久 180

火力 105

雷装 60

対空 75

装甲 80

搭載 180

速力 低速

射程 長

 

装備

 

劣化徹甲弾

深海棲艦戦markII

深海棲艦爆markII

 

 

詳細

 

ルンバ沖にて艦娘との戦闘で大破した所を防空棲姫に救助された。基地の責任者であり、主力突撃部隊の旗艦をしている。ル級やタ級達から信頼されている。

 

 

[ル級改flagship]

 

 

耐久 130

火力 150

雷装 0

対空 100

装甲 110

搭載 20

速力 低速

射程 長

 

装備

 

16inch三連装砲

16inch三連装砲

水上レーダーmarkII

飛び魚偵察機

 

 

詳細

 

泊地棲鬼の部下の一隻。主力部隊旗艦、主力突撃部隊の護衛をしている。泊地棲鬼を信頼しており、泊地棲鬼の右腕でもある。

 

 

[タ級flagship]

 

 

耐久 90

火力 125

雷装 0

対空 81

装甲 96

搭載 16

速力 高速

射程 長

 

装備

 

16inch三連装砲

16inch三連装砲

深海棲艦偵察機

水上レーダーmarkII

 

 

詳細

 

泊地棲鬼の部下の一隻。海域周辺の警備、主力部隊及び主力突撃部隊の護衛をしている。ル級と同じく泊地棲鬼を信頼しており、誰とでもフレンドリーだが…

 

 

[重巡リ級]

 

 

耐久 57

火力 78

雷装 69

対空 69

装甲 75

搭載 8

速力 高速

射程 中

 

装備

 

無し

 

詳細

 

泊地棲鬼の基地に所属している重巡洋艦。二年前までは高雄型4番艦鳥海だったが、轟沈し、深海棲艦に改造された。非戦闘員で、食堂で料理を作っている。戦闘能力が低いという理由で食堂に立っているが、艦娘の使う艤装を装備すれば、鳥海改と同じ戦闘能力が出るらしい。

 

 

[南方棲戦鬼]

 

 

耐久 240

火力 140

雷装 90

対空 90

装甲 10

搭載 140

速力 低速

射程 長

 

装備

 

16inch三連装砲

深海棲艦戦markII

深海棲艦爆markII

 

詳細

 

南方海域を支配しており、泊地棲鬼の隣に基地があるため、情報を共有している。挑発的だが仲間思いな性格で、旗艦のワ級を庇い、大破した事があったらしい。

 

 

 

ある程度登場キャラクターが増えたら2を出す予定です。

 

 




10話でタ級は偵察機を装備していなかったのは、単純にflagshipとeliteの装備を間違えていたからです。
泊地棲鬼の鬼と姫が変わっていますが、通常時は鬼で戦闘によってできた損傷具合によっては姫に変化します。


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鎮守府潜入 編
過去ノ記憶


「防空、今マデ何処ニ行ッテタノ!?」

 

「ゴメンナサイ、心配掛ケタワネ…」

 

朝五時に始めたパトロールから七時間経った今、泊地はかなり慌てていた。

 

「怪我ハ無イミタイダケド…大丈夫ダッタノ?」

 

「エエ、特ニ怪我ハシテナイワ。ソレヨリモ、タ級ガ中破シテイルカラ連レテ行クワネ」

 

「分カッタ。ソレト防空、夜ニ私ノ部屋ニ来テクレルカシラ?」

 

「?…分カッタワ」

 

泊地との話を終えると、私は遅れて来たタ級とドックに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥ…ヤッパリオ風呂ハイイデスネー♪」

 

ドックにはスーパー銭湯にあるような風呂に、アニメにもあった修理用の風呂がある。

 

他にはシャワーがあるが、それ以外は特になかった。しかし基地の中にはないが、地上では露天風呂まであるそうだ。

 

タ級が入渠している風呂には薄い紫色…ではなく、透き通った水色の液体が入っている。

 

壁には修復時間が表示されており、3時間と表示されていた。

 

「…タ級ッテ、入渠シテイル時ハ暇ジャナイノ?」

 

「ソウデスネ…イツモ何時間モ入ッテイルノデ慣レチャイマシタ」

 

「…大変ナノネ」

 

「アハハ…ハイ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜0時になり、私は泊地の部屋に向かった。

 

この時間帯になると、起きている艦は酒好きや夜戦好き、遠征からの帰投や出撃からの帰投の艦ぐらいだ。

 

廊下には人影は無く、赤く光っていたライトは山吹色に変わっていた。

 

外の景色はとても暗く、何も持たずに歩けば迷子になるだろう。

 

少しすると、泊地の部屋の前までやってきた。

 

コンッコンッ……

 

しばらくすると、鍵の開く音がなり、中から泊地の声が聞こえてきた。

 

「イイワヨ、入ッテキテ」

 

 

 

 

 

 

部屋では少し広めのテーブルを挟んで椅子が置いてあり、向こう側に泊地は座っていた。

 

「ワザワザコンナ時間ニ来テクレテアリガトウ。実ハ防空ニ頼ミタイ事ガアルノ。」

 

そういうと、泊地はテーブルの上に大きめの地図を広げた。

 

地図にはこの基地からとある鎮守府までの経路が示されていた。

 

「…数週間前カラ行方不明ノ姫級ト鬼級ガ2人イルノダケド、ソノ2人ガ艦娘ノイル鎮守府ニ捕ラエラレテイル情報ガ入ッタノ。アナタニハ鎮守府ニ侵入シテ、2人ヲ救助シテホシイノ」

 

「…ワカッタワ、ソレニシテモ何故コンナ時間ニ呼ンダノ?」

 

「モシ2人ガ捕ラエラレテイル話ヲ昼ニシタラ、他ノ艦ニ聞カレル可能性ガアルカラヨ。他ノ艦ノ士気ヲ下ゲナイタメニモ今ナラソンナニ問題ナイカラネ」

 

「ナルホド…ソノ2人ッテドンナ艦ナノ?」 

 

すると、泊地は2枚の写真を取り出し、手渡した。

 

「コッチハ港湾棲姫、ソッチハ離島棲鬼ヨ。」

 

写真を受け取り、2人の顔を見る。

 

 

 

 

 

ドクンッ……!!

 

 

 

 

「ッ!?ッ・・・!!!」

 

写真に写っている港湾棲姫と離島棲鬼の姿を確認すると、激しい頭痛に襲われ、体が金縛りにあったような反応をする。

 

あまりの痛さに頭を抱えるが、一向に治まらない。

 

「アッ…アアッ……!!」

 

「防空!?ドウシタノ!?」

 

泊地が心配して話しかけるが、泊地の声は防空には届いていなかった。

 

「アッ…ウァアッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は雲一つ無い快晴だ。昨日の夜まで大雨が降っていたとは思えないほど清々しい日になった。

 

そんな中、今日は艦娘達が最後の海域であるこの海域を奪おうと攻めてくるのだ。

 

私達が取り戻した汚れなき海…海を埋め立て汚していく人間や艦娘達に渡すわけにはいかない。

 

すると、後ろから大切な2人の仲間がやってきた。あまりに日差しが強いからか、2人の姿が眩しくてよく見えなかった。

 

「…ソロソロ時間ネ」

 

「防空、準備ハイイカシラ?」

 

「エエ、大丈夫ヨ。ココハ任セタワヨ」

 

「任セナサイ、私ニカカレバ艦娘ナンテ敵デハナイワ」

 

「私モ、ホッポノ世話ヲ任セテオイタカラ全力デイケルワ」

 

「フフ……ソレジャア2人トモ…頼ンダワヨ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ああ…2人とも……

 

 

 

 

あの時…私達3人で…守っていれば……

 

 

 

 

私が…もっと…強ければ……2人を守る事ができる力があったら…

 

 

 

 

…少し…眠たくなってきちゃった……しっかり…しないといけないのに…

 

 

 

 

…ごめんなさい……私も…今からそっちに…行くから……

 

 

 

 

きっと…温かく…迎えてくれるわよね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?ハァ…ハァ…」

 

「防空!!大丈夫!?」

 

汗を吹き出しながら、私の意識がなんとか元に戻ってきた。

 

さっきのはいったい何だったのだろうか…あの2人とは…この悪夢は…前に見たあの夢と同じ……

 

「…泊地…私ハ…イッタイ……」

 

「2人ノ写真ヲ渡シタ途端、急ニ苦シミ始メタノヨ…イッタイ何ガアッタノ?」

 

「…大丈夫…ナンデモナイワ……」

 

「ソウ……ソレデ…コノ任務…頼メルカシラ?」

 

「……ワカッタワ、任セテ」

 

港湾棲姫と離島棲鬼、おそらく私の悪夢に出てきた2人はこの2人だろう。

 

この2人に接触する事ができれば私の記憶について何か掴めるはずだと考えた。

 

 

 

 

 



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敵鎮守府潜入作戦

時刻は19時。防空棲姫になってから5日目になるのだが、未だに夢ではないかと疑う自分がいる。

 

私は港湾棲姫と離島棲鬼が捕らわれている佐世保鎮守府に向かう事になった。

 

作戦は佐世保鎮守府付近の砂浜まで近づき、艦娘に変装した私を遠征から帰投する艦隊に発見してもらい、鎮守府内に潜入する。

 

そして佐世保鎮守府内に捕らわれている2人を見つけ出し、救助する。これが今回の作戦内容だ。

 

 

泊地から、いくつかの潜入任務で必要な道具と、地上での生活には欠かせない物が入ったバッグを渡されたが、道具に関してはどれもどんな仕組みでそんな効果を出しているのか分からないような物ばかりだった。

 

極めつけは私が今着ているこの服である。

 

私が今着ている黒と灰色の柄の迷彩服。泊地はこの迷彩服をスピリッドと名付けているらしい。夜間では周りの景色に溶け込み、姿を隠す事ができる。

 

近接戦で相手を拘束する事によって相手からスタミナを奪う事ができるらしい。そして足音、着水音などを消す事ができるらしい。

 

制作したのは人間の作ったゲームにどハマりした集積地棲姫らしい。

 

次に秋月型の制服。服単体では効果がないが、私が普段付けている艤装と組み合わさる事で、艤装の姿が秋月型の艤装のように見えるようになる。

 

いったいどのような仕組みでスタミナを奪うのか、どうして秋月型の艤装に見えるようになるのかは分からないが、妖精のいる艦これの世界なので不思議ではないと考えた。

 

 

佐世保鎮守府はここから10時間掛かる距離で、6時半に遠征部隊が鎮守府に帰投するので、それまでには砂浜に到着しなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泊地の基地から出撃してから10時間経ち、時刻は5時になると、佐世保鎮守府と隣接している砂浜に到着した。空はまだまだ暗く、人影は一つもない。

 

ここまでは作戦通りだが、次が問題だ。スピリッドの迷彩服から秋月型の制服に着替えなければいけない。

 

 

そう、ここで。

 

 

いくら人が居ないとはいえ、流石に恥ずかしい。これではまるで露出狂だ。

 

人に見られない事を祈りながら、急いで制服に着替える。

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後、なんとか見られる事なく着替え終えた。そしてどこからか流れ着いたように見られるように制服を砲撃によってボロボロになったように炎で制服を焦がし、破いていく。

 

 

6時になり、ボロボロになった制服を身に着け、艦娘がやってくるまで砂浜に倒れていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?ねぇ、砂浜に誰か倒れてない?」

 

「ん…ああ、倒れてるな」

 

「菊月…なんでそんなに冷静なの…?」

 

遠征から帰投した望月、菊月、三日月は、ドラム缶を引き連れながら砂浜に倒れている人に近づく。

 

「この人・・・秋月型の制服を着ているけど、もしかしたら照月の知り合いかも…」

 

「その可能性はあるな。三日月、資材を運ぶのを頼めるか?私と望月はこの人をドックに運ぶ」

 

「分かったわ、頼んだわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……しまった…どうやら寝てしまったようだ。

 

けど…なんだか体が温かい…

 

「……ここは…」

 

目を開くと、アニメで見たことのあるお風呂のような修理ドックに入っていた。どうやらここは佐世保鎮守府のドックらしい。

 

「お、目が覚めたか」

 

すると、隣から声が聞こえてくる。白髪に黒い制服に着ている駆逐艦がこちらにやってきた。

 

「私が菊月だ、共にゆこう。あんたは?」

 

「私…私は秋月。秋月型防空駆逐艦、一番艦、秋月」

 

「秋月か、ここは佐世保鎮守府のドック、砂浜で倒れているところを見つけてな、ここまで運んで来た」

 

「そう…ありがとうございます」

 

「そうだ、司令官が秋月に会ってみたいらしい。ドックの前で待っている。着替え終わったら案内する」

 

そういうと、菊月はドックを後にした。

 

 

 



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防空駆逐艦秋月

「ふぅ…癒される……」

 

佐世保鎮守府に潜入し、ドックに運ばれたが…とても疲れが取れる。

 

今思えば防空棲姫になってから一度も入渠した事がなかった。この前はタ級を連れていっただけで入ってはいなかった。

 

…流石にこのままずっと入っているのはまずい。

 

このまま入っていたら出る事ができなくなりそうだ。

 

何とか頭の中を任務の事に切り替え、急いで風呂から出ると、シャワーを浴び、頭と体を洗う。

 

髪をドライヤーで乾かし、制服に着替えてドックを出る。

 

すると、菊月が入り口にある椅子に座って待っていた。

 

「さっぱりしたか?」

 

「ええ、お陰様で」

 

「それは良かった。それじゃあ司令官の所に案内する」

 

菊月に案内されながら提督の居る執務室へ向かって行くと、新しく着任する艦娘と思ったのか、道中で何人かに視線に向けられる。

 

もしくは赤い瞳と白い髪の組み合わせを見て不気味に思って見ているのか。

 

そして佐世保鎮守府の提督が居る執務室までやってきた。

 

「司令官、例の艦娘を連れてきたぞ」

 

ドアをノックし、開けた先には提督らしき人物が椅子に座っていた。

 

「ありがとう菊月。さて、俺から自己紹介をしよう」

 

というと、顔を上げ自己紹介をしてきた。

 

「私がこの佐世保鎮守府を任されている提督だ、宜しく」

 

「秋月型防空駆逐艦、一番艦、秋月です」

 

「着任して早々で悪いが、いくつか質問をしてもいいか?」

 

「ええ、構いません」

 

「まず、君の元の所属はどこだ?」

 

「…すみません、分かりません」

 

「所属が分からない……?」

 

「はい…実はいくつか記憶が抜けていまして……」

 

「そうか…それじゃあ次だ。防空駆逐艦秋月の髪は黒に近い茶色で、瞳は黒色という情報があるのだが、どうして髪と瞳の色が違うんだ?」

 

「それについては少し覚えています。実は私が艦娘になる前はアルビノのような体質で、その影響か髪が白くなり、瞳が赤くなったと記憶しています」

 

「なるほど…質問は以上だ。しばらくの間はこの鎮守府に居るといい。菊月、秋月をこの鎮守府を案内してやってくれ」

 

「分かった、失礼する」

 

「失礼しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊月の後をついていくと、何人かの艦娘に話しかけられるようになった。

 

好きな食べ物についてだとか、趣味は何かなど、とてもフレンドリーだった。

 

そんな鎮守府内を何分もかけ、最後に案内されたのが駆逐艦の寮だった。

 

そして0061号と書かれた部屋の前までやってきた。

 

ここが私の部屋なのかと思っていると、菊月が小声で話しかけてきた。

 

「秋月、実はちょっとしたサプライズをしたい。呼ぶまで少し待っててくれ」

 

「…?分かったわ」

 

そういうと、菊月は扉を開け、中に居る艦娘と話し始めた。

 

「少しいいか?話がある」

 

「菊月?どうしたの?」

 

「話なんて珍しいな」

 

どうやらこの部屋には2人艦娘が居るらしい。

 

「実は、新たにこの部屋のメンバーが入る事になった」

 

「本当!?遂に新しい子が来たの!?」

 

「僕達以外にもこの部屋に来るのか」

 

「そうだ。それじゃあ、入ってきてもらおう。もう来ても大丈夫だ」

 

菊月が呼ぶと、私は部屋に居る艦娘2人に姿を見せた。

 

 

 

 

 

「秋月型防空駆逐艦、一番艦、秋月。ここに推参するわ」

 

 

 

 

 



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姉妹艦ト演習

「…秋月姉…本当に秋月姉なの…?」

 

部屋の中で私の姿を見て立ち竦んでいる1人の艦娘、照月はそう言った。

 

「ええ、正真正銘、あなた達の姉よ」

 

すると、照月の目が潤み始め、竦んでいた足を動かし、ゆっくりと私に近づいてくると

 

「…秋月姉…秋月姉ーっ!!」

 

私の体を強く抱き締め、胸に顔を埋めながら涙を流し始めた。

 

一体何があったのか、照月を撫でながらこの部屋に居るもう1人の艦娘、初月に声を掛けた。

 

「…初月、私が来る前にはこの鎮守府に秋月は居たのかしら?」

 

「…居なかった。4年間、この鎮守府には秋月型は僕と照月姉さんしか着任する事はなかった…」

 

「そう…」

 

どうやら照月と初月の姉である秋月の存在自体は4年前からあったらしいが、何故か何処の鎮守府にも秋月が着任する事がなく、姉妹艦である2人は寂しい思いをしていたようだ。

 

4年間もどこかに居るはずの姉に会えないで、家族のような人が妹である初月しか居なかったと思うと、少し悲しくなってきた。

 

「…照月、私も会えて嬉しいわ…」

 

「秋月姉ぇ…秋月姉ぇ…」

 

すると、私と私を抱き締めている照月の姿を、初月は見詰めていた。

 

「…初月もおいで?」

 

「っ…姉さん……」

 

1人で少し寂しそうだった初月を来るように誘うと、嬉しそうに背中に抱きついてきた。

 

人間の頃の私は一人っ子だったから分からなかったけど、こんなにも身近に自分を信頼して、必要としてくれる人がいるのは、とても嬉しい事なんだと感じる事ができた。

 

「…よかったな…照月、初月…」

 

そんな私達を見て、空気を読んでくれたのか、菊月は静かに部屋から去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

30分後

 

「秋月姉…むにゃむにゃ……」

 

「秋月姉さん……」

 

気が付くと、照月と初月が私を抱き締めたまま寝てしまった。

 

泣き疲れたのか、それとも姉との再会に安心したのか…

 

「…仕方ない妹ね」

 

私は寝てしまった2人をベッドに寝かせ、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋を離れた私は、鎮守府内にある資料室の中に居た。

 

資料室の中はいくつも本棚と椅子とテーブルが置かれており、市民図書館のような内装をしていた。

 

本棚の中は、艦娘の種類や装備、深海棲艦についてなどの、戦闘についての資料で埋め尽くされている。

 

私は真面目に勉強しに来た訳じゃない、知りたい事があるのだ。

 

知りたい事とは、私が防空棲姫として生まれる前に現れた深海棲艦についてだ。

 

もしも私が提督をしていた時通りなら、防空棲姫の情報やそれ以降に出現した深海棲艦の情報が載っているはずだと考えていた。

 

しかし、私の考えは意外な結果で裏切られる事になった。

 

深海棲艦についての資料を見て回った結果、防空棲姫以降の深海棲艦はゲーム通り現れ、情報が載っているのだが…

 

防空棲姫と防空埋護姫についての情報が何一つ載っていなかった。

 

どうして防空棲姫と防空埋護姫についての情報が無いんだと思いながらも、もう一度全ての資料を確認したが、やはり見つからなかった。

 

一体この世界には何が起きているのかと考えていると、アナウンスから天龍型の二番艦である龍田の声が聞こえてくる。

 

「秋月さん、至急執務室に来てくださ〜い。提督がお呼びですよ〜」

 

私は読み漁っていた資料を急いでしまうと、注意されない程度に執務室に向かって走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

呼び出しから1分掛けないで部屋の前まで行くと、走って荒くなった呼吸を整え、ノックをすると、執務室の中に入っていった。

 

「失礼します。提督、お呼びでしょうか?」

 

「ああ、いきなり呼び出してすまない」

 

提督が何か忙しそうにテーブル上の書類を整理しながら私に返事を返すと、提督は2つの資料を渡してきた。

 

1つは艦娘が行う演習について、詳しくルールが書かれた本、2つ目は海軍大演習と書かれた資料だった。

 

「提督、この資料と本は…」

 

「実は近々大規模な演習があってだな、それに出場する艦娘を決める為に、秋月には今から演習を行ってもらいたい」

 

「え、演習ですか!?一応…私は別に構いませんが…」

 

「すまない、こちらに来て初日にそんな話を始めてしまって」

 

「いえ…いいんですよ。これなら所属の分からない私を保護してくれた恩を返せるので」

 

「ありがとう…さて、早速だが、演習は今から二時間後に行われる。秋月は照月と初月の2人と組んでもらう。相手は空母の飛龍と瑞鳳の2人だ」

 

「分かりました、それでは演習までに準備をしておきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

演習の準備の為に2人を起こそうと部屋の扉を開けると、そこには照ベッドで気持ちよさそうに寝ている照月の姿が。

 

「んー…むにゃむにゃ…もうお腹いっぱい……」

 

一方初月は静かに眠っていた。

 

「すぅ…すぅ……」

 

これは照月を起こすのは少し苦労しそうだなと思うと最初は初月を起こし始めた。

 

「初月、起きなさい。」

 

「ん…秋月姉さん…おはよう……」

 

「二時間後に演習があるから準備しなさい」

 

「分かった…」

 

「照月も起きなさい」

 

「んにゅ…秋月姉…?どうしたの…?」

 

「二時間後に演習があるから、準備しておいて」

 

「えぇ…まだ眠い……」

 

「私も一緒だから…ね?」

 

「本当!?分かった!」

 

急にやる気になったわね…そんなに私と居るのが嬉しいのかしら……

 

 

 

 



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駆逐艦ノ名ヲ借リタ化ケ物

秋月として活動し始めてから数時間、いきなり佐世保鎮守府の提督から演習をするように言われた。

 

相手は正規空母の蒼龍と軽空母の瑞鳳だ。

 

こちらは私と照月、初月の3隻だが正直私1人で充分だけど、そんな事を言って少しでも暴れたら怪しまれてしまう。

 

「秋月姉、そろそろ出撃するよー」

 

「了解、初月は大丈夫?」

 

「ああ、問題ない」

 

「それじゃあ、私が先行するわ。付いてきなさい」

 

ゆっくりとタービンの回転数を上げ、前進する。

 

「防空駆逐艦秋月、出撃します!」

 

「同じく防空駆逐艦照月、抜錨!!」

 

「初月、出撃するぞ!!」

 

 

 

 

ヒトマルマルマル

 

今日は雲一つない晴れ晴れとした空が広がり、海も穏やかで絶好の運動日和になっていた。

 

そんな平和そのものの海の上を三隻の艦娘が海面を走るように進んで行った。

 

そして出撃してから数分が経つと、何処からかプロペラ音が聞こえてくる。

 

普段なら電探を使って何処から艦載機がやって来るのかを調べるのだが、今回はその必要はない。

 

何故なら、空を見上げると九六式艦戦が群れを成して私達に向かって来ていたからだ。

 

「秋月姉!艦載機がやってきたよ!」

 

「対空射撃、よーい!」

 

「待ちなさい」

 

10cm高角砲を艦載機に向けている2人を止める。

 

「今回の対空砲撃、私1人でやらせてくれないかしら?」

 

「え?まぁ…私は構わないけど…」

 

「僕も構わないけど、撃ち漏らしがあったら撃たせてもらうさ」

 

「ありがとう、それじゃあ…少し離れなさい」

 

そう言って2人を少し離れた位置に移動させると、4inch連装両用砲を携えて艦載機の方へと向かって行った。

 

ちなみに私の禍々しい艤装は、秋月型の制服に搭載された特殊な機能のお陰で他人には普通の連装砲ちゃんにしか見えない。

 

2人が離れ、艤装の動作チェックを済ませると、4inch連装両用砲を艦載機の群れに狙いを定めた。

 

「それじゃあ…対空戦闘用意…4inch連装両用砲…薙ギ払エ…!!」

 

大きな砲撃音が響き渡り、砲弾が艦載機に向かっていくと、砲弾は散弾のように一斉に散らばり始めた。

 

一機、また一機と撃墜していき、1つは艦載機の爆発に巻き込まれ、1つは黒煙を出しながら燃えいき、1つはシャボン玉が割れたように空中でバラバラになっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?……蒼龍さん!!」

 

「…もしかして瑞鳳も…!?」

 

「はい…全機…撃墜されました…」

 

「こっちもよ…」

 

「…どうします?」

 

「そうねぇ…」

 

離れた位置で困り果てている空母2人を尻目に妹2人は私の側に戻り、カッコイイものを見た子供のように無邪気にはしゃいでいた。

 

「秋月姉すごーい!」

 

「まさかあの数の艦載機を撃墜するなんて…やはり姉さんは防空駆逐艦の誇りだ」

 

「フフ…それ程でも…」

 

やはり空母二隻程度なら全て撃墜する事ができるようだ。

 

しかし、まだ気になる事が残っている。

 

「…照月、演習だから別に砲撃しても構わないんでしょ?」

 

「え?まぁそうだけど…」

 

「…照月、少し砲撃してくるわね」

 

「え!?ちょっと秋月姉!?」

 

私は自分の性能を確かめる為に、飛龍と瑞鳳に接近していく。

 

 

 

 

ポーン……ポーン……

 

空母の2人がいるであろう方角に進んでいくと、深海水上レーダーに2つの点が現れた。

 

確認の為に提督から支給された双眼鏡を覗くと、演習相手である蒼龍と瑞鳳が居た。どうやらまだ改二にはなってない様子。

 

「さて…」

 

戦闘で重要になってくるのは、自分の攻撃が届くかどうかだ。

 

泊地を救助した時は接近しながら砲撃していたので、自分の攻撃射程などを考えていなかった。

 

そんな不安要素である射程を確かめるなら今だと思うと、照準を飛龍に合わせる。

 

「4inch連装両用砲…撃テッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?い、今の砲撃音は!?」

 

「大和クラスの砲撃音でしたけど…ッ!!蒼龍さん避けて!!」

 

「へ?」

 

次の瞬間、蒼龍は今まで味わった事のない痛みと衝撃に襲われた。

 

「キャーッ!!」

 

「蒼龍さーん!!」

 

「着弾確認……」

 

蒼龍に着弾したのを確認すると、蒼龍の元に寄る。

 

沈んでしまっては困るのでかなり手加減したが、調整が難しく大破まで追い込んでしまった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「秋月…もしかして…今の砲撃……」

 

「ええ、勿論手加減はさせてもらいました」

 

「えぇ…本当に貴女が…ガクッ」

 

すると蒼龍は、あまりの衝撃で気絶してしまった。

 

「あらら…瑞鳳さん、手伝ってください」

 

「はっ、はい!!」

 

1回の砲撃で正規空母を大破まで追い込む実力のせいか、思わず敬語になってしまう瑞鳳。

 

私は通信機を近づけると、照月に連絡する。

 

「照月、先に帰投してドックを空けるように伝えといて。私達は少し遅れるから」

 

「…?分かった、初月と伝えてくるね」

 

「…あっ、あの、貴女…本当に駆逐艦なの…?」

 

通信が切れると、蒼龍の反対側の肩を組んでいる瑞鳳が問い掛けてきた。

 

「ええ、歴とした駆逐艦ですよ?」

 

「それなのにあの火力…」

 

「一撃の威力が高い駆逐艦はソロモンの悪夢以外にもいるじゃないですか。夕立や綾波の砲撃以外は魚雷カットインですけど」

 

(ソロモンの悪夢と比べても圧倒的に貴女の方が高いけど!?)

 

「ふふ…そんな事ないですよ?」

 

「心が読まれてる!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうしてこうなった……」

 

提督が見たのは、演習から帰って来た秋月と瑞鳳、大破した蒼龍だった。

 

「すみません、私がやってしまいました」

 

「秋月が…?瑞鳳、後で照月と戦果報告を頼む」

 

「あっ、はい…」

 

「結果次第では秋月を編成に組み込む事にするかもしれん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、結果はどうだったんだ?」

 

「はい。私と蒼龍さんが放った艦載機が全機撃墜されました」

 

「しかも対空砲火をしたのは秋月1人で…」

 

「1人で…?照月と初月は何もしていないのか?」

 

「はい…その後一人で飛龍さんの所に向かったと思ったら、蒼龍さんを抱えて帰って来たんです」

 

「……これは期待できるぞ…」

 

 

 

 

 

 



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ドンナ手ヲツカオウガ

時刻は夜7時半になり、艦娘達の食事の時間になった。

 

艦娘の食堂は深海棲艦とは違い、専用の料理人がいるそうで、人間のだった頃にもあった食券を渡して料理を貰うタイプらしい。

 

しかし今日は私の着任祝いということで、今回はテーブルの上に大量の料理が設置せれ、バイキング形式になっていた。

 

続々と艦娘が食堂にやってくると、食堂正面に私を連れて提督がやってきた。

 

「ということで、今日からこの鎮守府に着任する事になった艦を紹介する」

 

「秋月型防空駆逐艦、一番艦、秋月です。訳あって白髪赤目ですが、よろしくお願いします」

 

自己紹介を終えると、艦娘達から拍手が送られた。

 

提督がビールの入ったグラスを持つと、艦娘達もジュースやビール、ワインの入ったグラスを持つ。

 

「さて、明日は海軍大演習に出場する艦娘を決める為にテストが行われる。明日に向けて英気を養うように。乾杯!!」

 

「「「乾杯!!」」」

 

自己紹介を終え、料理を取りに行こうとすると、私を囲うように艦娘が集まってきた。

 

なんの食べ物が好きなのか、どこで建造されたのか、夜戦は好きなのかなどの質問がやってきた。

 

私は質問に答えながら料理を皿に盛りつけていき、席に座ると、一瞬のうちに駆逐艦達に囲まれてしまった。

 

そしてまた質問攻めになってしまった。

 

そんな私を少し離れた位置から見ている艦娘の姿が何隻かあった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほぉ…あれが蒼龍を一撃で轟沈寸前まで追い詰めた駆逐艦か」

 

「しかも空母二隻が放った艦載機を全て撃墜したらしいよ?もし敵だったらと思うとたまったもんじゃないね…」

 

「どうやら鎮守府近くの砂浜に倒れていたそうですよ?」

 

「そして、所属不明…記憶も抜けているらしいわ。」

 

「ガツガツガツガツガツガツ……」

 

「赤城さん…少しはこちらの話題に耳を傾けてくれませんか?」

 

「ガツガツガツガツガツガツ……」

 

「無理そうですね…」

 

「ふふふっ…面白そうだな、少し可愛がってやろう」

 

「え!?流石に止めた方が…怪我させちゃいますよ?」

 

「なぁに、心配するな。大和型二番艦として全力で相手してやる」

 

「いや手加減しないかの問題じゃありませんよ!?」

 

そして1人の艦娘が立ち上がると、こちらに向かってきた。

 

「よぉ、あんたが飛龍を一撃で大破させた駆逐艦か」

 

1人の艦娘がやってくると、私の側に集まった駆逐艦達がゆっくりと席から離れていく。

 

「私は大和型戦艦、二番艦の武蔵だ。この鎮守府では新しく着任した艦娘と腕相撲で力比べをする行事があるんだが、今回は私が相手をしてやろう」

 

すると、周りに居た艦娘達が何か小声で話し始めた。

 

「あぁ、今回も怪我人出ちゃうか…」

 

「どうしてこんな行事ができちゃったんだろう…」

 

「捻挫で済めばいいけど…」

 

どうやら悪名高い行事らしい。すると隣にやってきた照月が小声で話しかけてきた。

 

「秋月姉、逃げた方がいいよ…武蔵さんの相手をして、怪我をした艦娘が絶えないから…」

 

「なるほどね…」

 

これが俗に言うパワハラと言うやつか…私の働いていた職場ではそんな事が起きなかったから少し新鮮である。

 

しかし納得はいかない。相手が戦艦や重巡ならまだしも、駆逐艦や海防艦にまで武蔵の相手をさせるのはどうかしている。

 

「…分かった、受けて立つわ」

 

すると、周りに居た艦娘全員がざわめき始めた。

 

「ただし、条件があるわ。私が勝ったら、この行事を止めなさい」

 

「ほぉ…この武蔵が勝ったら?」

 

「私を好きにしていいわよ。パシリでも、サンドバッグでも、何でもね?」

 

「言ったな?言ったからには、恨みっこ無しだぜ」

 

2人はカフェテーブルに移動すると、駆逐艦からの声援が聞こえて来た。

 

「やっちゃえー!!」

 

「武蔵さんを倒せーっ!!」

 

「秋月期待してるぞー!!」

 

テーブルに腕を置き、お互いの手を握る。

 

「さぁ…そろそろ始めようか!!」

 

「…ひとつ言っておくわ、私はまともにやるつもりはないわ」

 

「それなら私が審判をしよう」

 

提督がやってくると、2人の間に入ってくる。

 

「それでは、準備はいいか?」

 

「ええ、いいわよ」

 

「ああ、私もいいぞ」

 

「それでは…始め!!」

 

ズシンッ!!

 

次の瞬間、武蔵の腕は勢いよくテーブルに押し付けられた。

 

武蔵が腕に力を込めようとした瞬間、武蔵の右足に激しい痛みが走ったのだ。

 

この時、武蔵にはこの痛みが何か分からなかった。

 

この隙を逃さんと私は腕に力を込め、武蔵の腕をテーブルに押し付けた。

 

あまりの勢いに床に倒れそうになり、テーブルの下が見えると、痛みの正体が判明した。

 

弁慶の泣き所に秋月の蹴りが当たっていたのだ。

 

「言ったでしょ…私はまともにやるつもりはないって」

 

あまりに一瞬の出来事で、辺りにいる艦娘達は一体何が起きたのかとザワつくと、提督は冷静に私を掴んだ。

 

「勝者、駆逐艦秋月」

 

提督が秋月の腕を上げると、駆逐艦達から歓声が沸き上がった。

 

「秋月……今の蹴りは…」

 

武蔵が脚を押さえながら聞いてくると、提督が秋月の側で話し始めた。

 

「残念ながら、反則ではない。元々この行事にはルールが無いからな」

 

「なっ!?」

 

「さて…約束通り、この行事は止めてもらうわよ。異論はあるかしら?」

 

すると、床に座っていた武蔵が口を開く。

 

「…フッ…ふははははっ!面白いやつだ!秋月だったな」

 

「ええ、悪かったわね…卑怯な真似して」

 

「いいんだ、むしろ気に入った。これからは約束だったこの行事を止めるとしよう」

 

こうして、唐突に始まった腕相撲と私の着任祝いは終わりを迎えた。

 




お気に入り数が106人に、UAが12000を超えました!
初投稿から何年経ったか分かりませんが、消えてしまった前作から見てくれる人、この作品から見てくれている人も、ありがとうございます!これからも「新タナ私ハ防空棲姫」をよろしくお願いします!


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敵地デノ悪戯

「それじゃあ、おやすみなさい。」

 

「おやすみなさーい♪」

 

「すぅ…すぅ…」

 

歓迎会を終えて身支度を済ませると、時刻は23時を迎え、駆逐艦達の消灯時間になる。

 

鎮守府内でのルールは菊月から鎮守府を案内してもらった時に色々教えてもらった。

 

どうやらこの鎮守府は健康上には気をつけているようだ。

 

とても港湾と離島を捕らえているようには見えないが、やはり優しい奴には裏があるのだろうか。

 

さて、照月と初月が寝たことだし…

 

 

 

 

 

 

「サァ……捜索開始ヨ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泊地から渡された道具が入っているバッグを取り出すと、スピリット迷彩とは違う服を取り出す。

 

そして、一瞬顔が固まった。

 

取り出した服をまじまじと見ると、顔が赤くなる。

 

「ドウシテ…コンナ恥ズカシイ服ナンテ持ッテルノヨ…」

 

そこには、アニメでしか見た事ない黒いラバースーツが入っていた。

 

スパイといえばラバースーツだと言って泊地がこっそりが、かなりいやらしい。

 

(泊地…帰ッタラ覚悟シナサイ……)

 

…と心の中で言ってみたのだが

 

「アラ…?意外ト…悪クナイワネ…」

 

体にぴったりとしているお陰か、体を隠しやすく、動きやすくなっていて思いのほか快適だった。

 

しかし欠点があるとすれば…胸が強調される所だ。これは恥ずかしい…

 

まぁ…見つからない限りは誰かに見られるわけでもないから…

 

「見ツカラナキャイイダケヨネ…」

 

自分を無理やり納得させると、バッグから薄い何かを取り出した。

 

取り出した物は仮面だった。持った感じは軽く、仮面に罅の模様が入っており、その上にボタンとそれを繋ぐ紐が飾られている。

 

この仮面を見たとき、何故か定規にコンパスを付けた凶器で人を傷つける自分の姿が頭によぎった。

 

私はこの仮面を人間の時によく見ていた物だった。イベント海域攻略中、入渠を待っている間にやっていたゲームのキャラクターが付けていた仮面だ。

 

記憶が正しければスージーという名前の殺人鬼だった。

 

どうしてこの仮面を泊地が持っているのか分からないが、悩むだけ無駄だった。

 

仮面を装着すると、穴が開いてる訳でもないのに前がよく見える。やはり深海の謎のハイテク技術…

 

仮面を付けたまま鏡を見ると、少し怖くなってきた。こんなのに夜出遭ったらトラウマになるレベルだ。

 

準備を済ませると、照月と初月を起こさないように部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

廊下に出るとやはり誰も居なく、静まり返っている。電気は一切点いてなく、窓から差し込む月の光だけが廊下を照らしていた。

 

コツッ……コツッ……コツッ……

 

駆逐艦寮中に足音が響くが、返ってくるのは静寂ばかりだ。

 

そんな時だった。

 

コツッ…コツッ…コツッ…コツッ…

 

自分以外の足音が聞こえてきたのだ。どうやら2人居るらしい。

 

「暁ちゃん、早く前に進んでほしいのです…」

 

「しっ仕方ないじゃない…何故か足が震えているんだから!」

 

この話し声、どうやら暁型の暁と電らしい。

 

やはりまだ幼い2人にとっては暗い廊下はまだまだ怖いらしい。

 

その時、私の悪戯心に火が付いた。

 



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鎮守府ノ秘密

「あ…暁ちゃん…トイレはそっちじゃないですよ…?」

 

「しっ知ってるわよ!ただ向こうが気になっただけよ!」

 

梁の上に乗り、移動すると、暁と電の姿が確認できた。どうやらトイレらしい。

 

トイレはここから100m離れており、それまでの道に他の艦娘の部屋がないので人気が一切無い。

 

トイレから離れている部屋の艦娘達は基本消灯時間になる前に行くのだが、歓迎会ではしゃいだせいか、消灯時間までの感覚が鈍っていた。

 

 

 

 

 

 

ギィィィィ……

 

 

 

 

 

 

一歩、また一歩と足を踏み出すと床が軋み、ギシギシという音が廊下に響く。

 

佐世保鎮守府が建設されてから130年以上経っており、何度か改装や補修をされているが、ここの床はいつも軋んでしまうらしい。

 

「うぅ…怖いのです…」

 

「だっ、だらしないわね!これくらいで怖がっていたら立派なレディーになれないわよ!」

 

トイレに近づくに連れ窓が少なくなり、いよいよトイレが見えてきたと思ったら、窓がトイレの前にしか無くなっていた。

 

トイレより先は真っ暗になっており、かなり近づかないと奥に見えない程であった。

 

さて、そろそろ脅かしてやろう。

 

トイレの先まで行くと、音を出さないように梁から降り、暁と雷にゆっくりと近づいていく。

 

 

 

 

 

 

「…あれ……暁ちゃん、トイレの奥に誰か居るのです。」

 

「ほっ本当!?よかったぁ…」

 

安心したのか、トイレに向かう足取りが軽くなる。

 

しかしその安心感は、すぐに恐怖に変わることになった。

 

ゆっくりと近づいてくるその人影は、全身が黒く、顔には目や口などのパーツが無かった。

 

その不気味な姿を見た暁は一瞬の内に悟った。

 

殺される

 

「いっ………嫌ーっ!!!!!!!」

 

暁が電の手を引っ張り、走り出すと全速力で部屋に向かっていった。

 

「嫌ーっ!!!!!!!」

 

「フフフ……アハハハハハハッ!!」

 

あまりにもいいリアクションをするので、思わず笑ってしまう。

 

そして、全速力で走って追いかけて行く。

 

「来ないでーっ!!」

 

暁の悲鳴は鎮守府中に響き渡り、眠りについていた艦娘や提督も思わず驚いてしまう程だった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

「いっ…一体何だったのです…?」

 

「私が知りたいくらいよ!」

 

部屋に戻り急いで扉に鍵をかけると、荒くなった息を落ち着かせる。

 

「あんなのが出るなんて聞いてないわよ!?」

 

「あ、あのお化けの事を青葉さんに伝えて新聞特集で採用されれば間宮さんの餡蜜無料券が貰えるのです!」

 

「なんで急にポジティブになるのよ!」

 

「それよりも暁ちゃん…」

 

「何よ!?」

 

「床が濡れてるのです…」

 

部屋の床を見てみると、ポツポツと水滴が暁の走ってきた道筋に落ちており、水滴は暁の下半身から出ていた。

 

「あっ…ああ………」

 

そして暁は、思わず座り込んでしまった。

 

(ヤバイ…凄イ楽シイ…)

 

思わず笑ってしまい、梁の上に登った後もくすくす笑っていた。

 

(オット…イケナイイケナイ…仕事ヲ忘レル所ダッタ…)

 

すぐさま我に返り、気持ちを仕事モードに切り替えると、提督が廊下を歩いている姿を確認する。

 

提督が一人歩いていると、鎮守府の外に出た。

 

何故こんな夜中に外に出るのだろうか、恐らくは何か知っていると考え、後を付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空は曇っており、暗くなっているお陰で姿を隠しやすく、バレる事無く尾行する事が出来た。

 

そしてたどり着いた場所は工廠だった。すると、提督は工廠の扉を軽くノックした。

 

「俺だ」 

 

「提督、お待ちしておりました」

 

扉が開くと、工作艦の明石が迎えていた。私は工廠の屋根に登り、高所窓から覗いた。

 

「どうだ、何か有力な情報は吐いたか?」

 

「いえ、かなり強固で1ヶ月経った今も反抗的な反応をしてきます」

 

工廠の奥に進むと牢屋が現れ、中には傷や火傷痕などでボロボロになった港湾棲姫と離島棲鬼が入っていた。

 

「そうか……姫級と鬼級は貴重な情報源だ。壊すような事はするなよ」

 

「分かっていますよ、私も色々調べてみたいですからね」

 

そう言うと、提督は工廠を後にした。

 

「さて……私も寝ますか…もう眠くて眠くて……」

 

そして明石も工廠から出ると、鎮守府に戻っていった。

 

 



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接触

明石が工廠を離れ、誰も居ない事を確認すると、開いていた高所窓から中に侵入した。

 

そして牢屋に近づくと、港湾棲姫と離島棲鬼の姿を確認する。

 

二人とも服と身体がボロボロになっているが微かに呼吸はしていた。

 

2人の傷を癒やす為に高速修復材(バケツ)を取り出すと、テーブルにある鍵を手に取り牢屋の扉を開ける。

 

(酷イ傷…)

 

特に酷かったのは離島棲鬼の方だった。服も穴だらけになっていて、港湾棲姫以上に傷を負っていた。

 

(マズハ離島棲鬼カラ治サナイト…)

 

バケツを持ち離島棲鬼に近づくと、

 

「離島ニ…近ヅクナ…!」

 

巨大な鉤爪が空気を切り裂くように顔の横を通る。

 

鉤爪の正体は、離島棲鬼の反対側にいた港湾棲姫だった。

 

港湾棲姫も全身傷だらけになっており、立っているのもやっとで足がふらついていた。

 

「……安心シナサイ…アナタ達ヲ助ケニ来タノヨ…」

 

「何…?」

 

「トリアエズ……今ハアナタ達ノ傷ヲ治スノガ先ヨ…」

 

2人の身体に高速修復材をかけていくと、徐々に傷や痣が綺麗に消えていく。

 

すると、今まで微かにしかしていなかった呼吸が普通の状態に戻っていった。

 

「ソレハ……」

 

「高速修復材…艦娘達ハコレヲ使ッテ傷ヲ早ク治シテイタノヨ。」

 

「ナルホド…ソレデ異常ナマデノ速度デ傷ヲ治シ、コチラガ息付ク間モナク進撃シテキタノネ……艦娘…改メテ恐ロシイ敵…」

 

「ソレデ…助ケニ来タワケダケト、1ツチョットシタ大規模ナ作戦ヲ考エテイルノ…」

 

「大規模ナ作戦…?」

 

すると、持ってきていた通信機を出すと、泊地棲鬼に繋いだ。

 

「防空カ、2人ハ見ツカッタカ?」

 

「エエ、傷ハ酷カッタケド命ニ別状ハナイワ。後ハ2人ヲ鎮守府カラ脱出サセルダケダケド…チョットシタ作戦ヲ一ツ思イ付イテネ…」

 

「作戦…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分カッタ、ソノ作戦デイコウ。早速準備スル。」

 

通信を切ると、港湾に問い掛ける。

 

「トイウ事デ…港湾…デキルカシラ…?」

 

「エエ…ソノ為ニモ…拷問ニ耐エテミセルワ…」

 

「ソレジャア…私ハ戻ルワネ…」

 

再び高所窓を通り、屋根に登ると、私は鎮守府に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ……つき姉…秋月姉…起きて…朝だよ!」

 

「んっ……照月…」

 

目を覚ますと、起床時間になっていた。

 

「ほら!初月も起きて!」

 

「うぅ…照月姉さん…後5分だけ…」

 

「いいから早く起きて!今日はテストなんだから!」

 

目を擦りながら制服を用意すると、寝癖や身体を洗う為に3人揃ってドックに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「秋月姉、良かったら髪の毛洗ってくれない?」

 

「あら、そんなにして欲しいの?」

 

「昨日してもらおうと思ってたけど…忘れちゃった!」

 

「仕方ないわね…やってあげる♪」

 

「やったぁ♪」

 

嬉しそうにその場で跳ねると、私の前に座って来た。

 

「ふふ……元気ね……♪」

 

「…秋月姉さん…良かったら…僕も…」

 

「あらあら…いいわよ、やってあげる♪」

 

「本当…!?」

 

すると、普段鉢巻きを付けている部分から出ている髪がぴょこぴょこ動く。

 

どうやら嬉しくなると、何故か動いてしまうらしい。

 

(凄い分かりやすい…)

 

そして二人の髪を洗うと、急いで自分の髪も洗っていった。

 

 

 



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海軍大演習ニ向ケテ

防空棲姫になってから一週間が経った。

 

港湾棲姫と離島棲鬼が捕らわれている佐世保鎮守府に潜入すると、海軍大演習を近々行うらしい。

 

その海軍大演習に出場する艦娘を決める為に今日、テストが行われる。

 

「…………さて…今日は海軍大演習に出場する艦娘達を決める大切なテストだ、持てる力の全てを出し、己の力を見せてほしい。」

 

そして、いよいよテストが開始された。

 

 

 

 

 

 

「4inch連装両用砲、撃てーっ!!」

 

対空テストは正規空母の赤城と加賀が180機の訓練用の艦載機を発艦し、撃墜数を競うという物だが…

 

「命中確認。艦載機撃墜数、180機中180機撃墜です。」

 

「「「おー!」」」

 

対空射撃を見に集まった艦娘達から歓声が上がる。

 

「流石秋月姉♪」

 

やはり正規空母二隻程度なら全機撃墜は容易い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…赤城さん……」

 

「ええ…あの時の深海棲艦…防空棲姫と見比べてしまうわね…」

 

「姫級と同じ対空能力のある駆逐艦…」

 

「秋月型一番艦秋月…一体何者なの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃ち方…始め!」

 

砲撃テストは駆逐イ級のような見た目をした模型を重巡や軽巡が引っ張り、模型に向け砲撃する。

 

そして、命中率、砲撃数、正確さを競う物だが…

 

「なんと!」

 

「初発命中…!利根姉さん、模型は…!?」

 

「…お見事じゃ…」

 

イ級の模型を見ると、中心を貫き、真っ二つになっていた。

 

「あ奴…大和クラスの砲と同じ飛距離から砲撃して…中心をぶち抜きおった…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「最上さん、タイムは!?」

 

速力テストは文字通り速さを競う物だ。1kmの距離を走るのだが、人間と違って艤装の力によって速さが変わる。

 

なので基本的には艦別の速度がある程度分かれていているのだが…

 

「46秒28…42ノット…!?僕が新型缶とタービンを装備してようやく追い付ける速度だよ!?」

 

ゲームでも一部の艦娘だけ新型高温高圧缶とタービンを装備すると速度が最速になるのだが、装備枠を圧迫する。

 

そのせいであまり装備する機会が無い。

 

「千歳さん本当にタービンも缶も装備してないんだよね!?」

 

「ええ…確認したけど主砲一基と水上電探以外何も装備してなかったわ…」

 

「缶もタービンも装備しないであの速度…本当にあの娘…何者なの…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「秋月姉の成績すごいじゃん!」

 

「そうかしら?普通にやっただけよ。」

 

テストを全て終え成績を確認すると、対潜以外の成績が満点になっていた。

 

防空駆逐艦だからか普通の駆逐艦よりも対潜能力が低いようだ。

 

「これなら出場は確実だよ!」

 

「ありがとう、照月と初月はどうかしら?」

 

「対空は問題ないけど砲撃がね…」

 

2人の成績は対空能力は高得点だが、砲撃能力と対潜能力が平均より少しだけ低かった。

 

「そういえば、出場する艦娘は何隻なの?」

 

「確か…第一艦隊から第四艦隊まで出場するみたいだね。」

 

「一艦隊に艦娘は6隻までだから…24隻か…」

 

ゲームと同じように、1つの艦隊に艦娘は6隻までしか編成できないらしい。

 

6隻しか編成できない理由としては、6隻以上編成に組み込むと敵艦隊に索敵されやすくなり、6隻までなら索敵されにくいという理由らしい。

 

例外として7隻編成や連合艦隊は、敵艦隊の規模が大きい、もしくは強力な敵艦がいる時だけ行われるらしい。

 

 

 

 



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編成

「……以上が今回出場する24隻だ。選ばれた24隻は同じ編成の艦と作戦を立て、休むように。その他の艦もゆっくりと休んで欲しい」

 

提督による出場する艦の発表が終わり、各自解散すると、辺りから多くの声が聞こえてきた。

 

選ばれた娘を応援する声、選ばれずに自暴自棄になった声、元々無理だと悟っていた声、様々な声が聞こえた。

 

すると、選ばれた娘を応援する声が近づいてきた。

 

「秋月姉ー!おめでとー!」

 

声の方向に振り向くと、照月が全速力で走ってきた。

 

そして勢いよく顔に飛びついてきた。

 

「!?」

 

あまりの勢いに耐えられず、そのまま倒れてしまった。

 

「あっ、ゴメン…」

 

「大丈夫よ…いてて…」

 

ゆっくりと立ち上がり、服に付いた土などをはらう。

 

「にしておめでとう秋月姉、まさか主力艦隊の第一艦隊に編成されるなんて思わなかったよ」

 

「私も驚きだわ…まさか主力艦隊に編成されるなんてね…」

 

「それほど提督が姉さんの成績を評価してるって事だよ」

 

すると後ろから遅れて初月もやってきた。

 

「僕達も第三艦隊に選ばれたけど、水雷戦隊だから偵察機を撃墜するくらいだろうね…」

 

「まぁまぁ、選ばれただけ良かったじゃん」

 

「そうだな…それじゃあ姉さん、また後で…♪」

 

話を終えると、照月と初月は第三艦隊のメンバーに会いに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、来たか。やはり秋月も第一艦隊に選ばれたな」

 

「ええ、対潜が少し低いくらいで済んだからね」

 

第一艦隊のメンバーが集まる少し狭めな会議室の扉を開けると、一足先に武蔵が座っていた。どうやら他の四隻はまだ来てないらしい。

 

「それにしてもな……砲撃と防空能力が高いが対潜能力が低い…さては艦種誤魔化してるな」

 

「歴とした駆逐艦よ…」(よくネットで誤魔化してるんじゃって言われていたけど…

 

そんなこんな武蔵が防空にジョークを言っていると、部屋のドアを軽くノックする音が。

 

「失礼します。一航戦赤城、参りました」

 

「同じく、一航戦加賀、参りました」

 

対空テストの教官役を終えた2人がやってきた。長い時間艦載機を飛ばしていたせいかかなり顔に疲れが出ている。

 

顔に出ていると言うより……赤疲労のマークと同じような顔になっていた。

 

「流石に空母でも何時間も艦娘達の相手をするのは辛いか」

 

「はい…いくら出撃して鍛えられているとはいえ…体に応えます…」

 

「慢心…駄目…絶対……」

 

すると、赤城と加賀がハニワのような顔をこちらに向けると何か尋ねてきた。

 

「あなた…防空駆逐艦の…秋月さん…ですよね…」

 

「え、ええ…」

 

「実は…聞きたい事があって…」

 

その時、私の頭の中に一つの嫌な予感が過ぎる。

 

私が初めてこの世界に来た時に、摩耶と吹雪達に出会ったが、その時摩耶と同じ艦隊にいた赤城と加賀の艦載機を全機撃墜してしまったのだ。

 

あの時に出会った2人がここの鎮守府の2人と同じという確信はないが、もしそうだとしたらかなり不味い。

 

(ナントカシテ2人ノ話ヲ逸ラセル手ハナイカ…)

 

何かないかと持ち物を探っていると……

 

カサッ…

 

(ッ!!コレナラ…!)

 

そして二枚の紙を取り出し、2人の前に出した。

 

 

 

 

 

 

「赤城さん、加賀さん、良かったらこれを使ってください」

 

2人の前に出したのは、間宮の食事券だった。

 

昨日提督に着任祝いに貰った物だが、海軍大演習が終わる頃には使い道が無くなるので、どうしようかと持っていたのだが、こんな所で役に立つとは思わなかった。

 

「い…いいのですか…?」

 

「ええ、明日に備えてしっかりと休んでほしいですからね…♪」

 

「あ…ありがとうございます…!」

 

すると、2人の顔がハニワのような顔から瞬く間に笑顔に変わっていった。

 

「すみません…入ったばかりの娘にこんな恥ずかしい姿を見せて…」

 

「駆逐艦に食事券を奢ってもらう一航戦……」

 

そんな2人を見て、思わず小さく呟いてしまった武蔵だった。

 

 

 



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編成ヨリ艤装

会議室の中で1人、敵である艦娘に囲まれている中で冷や汗をかきながらも壁を乗り越えたと安心していると…

 

「失礼するぞ!」

 

「利根姉さん、もう少し礼儀正しく入ってください」

 

勢いよく扉を開けやって来たのは、砲撃テストの教官役をしていた利根型の2人だった。しかし一航戦とは違い、あまり疲れている様子ではなかった。

 

「利根さん達は確か交代制でしたね」

 

「そうじゃな、途中軽巡の艦と交代してもらい、しばらくしたらまた吾輩達と交代を繰り返していたからな」

 

「羨ましいですね…」

 

「赤城さん、ハニワ顔に戻りかけてますよ…」

 

と言いながらも、加賀自身も顔が戻りかけていると、扉をノックする音が響く。

 

「失礼するぞ」

 

扉を開けると、脇に資料を入れているケースを挟み、手に名簿帳を持った提督が入ってきた。

 

「おお提督、他の艦隊の編成は終わったのか?」

 

「ああ、思いの外みんなバランスが取れていてな。お陰で第一艦隊の作戦会議にたっぷり時間をかけられる」

 

嬉しそうに荷物を置くと、ケースから幾つもの資料を取り出した。

 

テーブルに資料を広げると、対戦するであろう艦娘6隻、兵装、戦績など様々な情報が記載されている資料が配られた。

 

資料に載っている艦娘達は、やはり提督をやっていたお陰で誰一人知らない艦娘は居なかった。

 

そして、対戦する事になるだろう横須賀鎮守府所属の6隻の艦娘は、ビッグ7の陸奥、高速戦艦の比叡、重巡の摩耶、世界最高水準とも言われた軽巡天龍、正規空母の飛龍と翔鶴の名前が資料に載せられていた。

 

「二航戦に五航戦、そしてあのビッグ7ですか…」

 

「これは…ガチってやつじゃな……」

 

横須賀鎮守府の本気度にかなり怖気付いたのか、利根と筑摩はかなり弱気になっていた。

 

しかし弱気になっていたのは利根だけでは無かった。

 

「飛龍さんに翔鶴さんですか…」

 

「五航戦…最近一航戦以上に力を付けているとも噂されてます……」

 

あの一航戦の2人も弱気な発言をしていた。加賀に至っては五航戦を貶すのかと思えば、寧ろ自分達よりも強いのではないかと不安になっていた。

 

「そして摩耶に天龍か……今回の試合は夜戦まで持ち込まないルールだが、あの機動性の高い2隻を入れてきたのはかなり厄介だな…」

 

提督も苦い顔をしながら資料を読んでいくと、思わずため息が出てしまった。

 

とりあえず、この悪い空気をどうにかしようと、装備について提督に話し掛ける。

 

「提督、武蔵の装備の徹甲弾を三式弾に変更してみるのはどうかしら?」

 

「武蔵には超高火力で即撃沈判定を取らせるつもりだが、火力を減らして対空に回すのには意味があるのかい?」

 

「もちろんです。これから長くなりますが、資料を確認させて貰いました。前回も同じような装備で演習を行った結果、1隻の軽巡洋艦を一撃で撃沈判定にした後、爆撃機による攻撃で大破し、火力が落ちてしまい、結果は1隻で終わってしまってました。確かに軽巡洋艦を一撃で撃沈判定まで持っていくのはかなり強力ですが、せっかくの超高火力を無駄にするのは勿体ないと思います。」

 

「というと…?」

 

「戦艦にとって、最も脅威なのは空からの攻撃です。いくら同じ人型とはいえ、かなりの大きさを持つ武蔵は艦載機達の格好の的です。ここは少し火力を落とし、艦載機に対する守りを上げるべきだと思います。」

 

「なるほど……」

 

私の説明に納得したのか、悩んだ顔をしながら武蔵の装備を確認する。

 

「了解した、秋月の考えに賛同しようじゃないか」

 

「ありがとうございます」

 

しかし、私はただ普通に改善案を出しただけではないのだ。これもとある作戦の過程の一つに過ぎなかった。

 

こうして、横須賀鎮守府との演習に向けての会議は順調に進んでいったのであった。

 

 

 

 



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集ウ深海棲艦ノ鬼ヤ姫達

会議を始めて3時間、顔を出していた太陽が完全に沈み、有明月が顔を出していた。

 

「………zzZ」

 

利根は集中力が切れたのか、腕組みをし、鼻ちょうちんを膨らませながら眠っていた。

 

「やはり対空面を考えて輪形陣にして、一航戦2人と秋月にできるだけ多くの艦載機を撃墜してもらうべきか…バリバリ…」

 

「いえ、そうすると武蔵さんの砲撃が活かせなくなって……ボリボリ…」

 

「ここは秋月さんと赤城さんの対空能力を信じバリボリ…」

 

一航戦と武蔵は真面目な顔をしながら会議を進めているが、真ん中に置かれている煎餅をバリバリと噛じっていた。

 

唯一私と筑摩、提督だけが普通に会議を進めていた。

 

「やはりここは単縦陣でどうでしょうか?」

 

「火力が少しだけ落ちてしまいますが、命中率重視で複縦陣にするべきかと…」

 

「いや、3人の成績を見る限り命中率はかなり高い。自信が無いなら複縦陣でもいいが、自分の命中率に自信が無いのか?」

 

「いえ…そういう訳では…」

 

「筑摩さん、自分の砲撃に自信を持ってください。砲撃の命中率は私と同じくらい良いんですから」

 

「そう…ですか…それなら、秋月さんの単縦陣にしましょう」

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

「さて……これにて、大演習に向けての会議を終了する。大演習は今日から4日後に行われる、それまでの間に各自本番に備えるように」

 

会議がようやく終わり、時計を確認すると21時を回っていた。

 

「利根姉さん、会議終わりましたよ」

 

「んがっ!」

 

「赤城さん、一緒に食堂行きませんか?」

 

「いいですねぇ…今日はカツカレーでしたっけ…?」

 

会議室を出ると、各自部屋や鳳翔の店に向かっていった。

 

(サテ…私モ晩御飯ニ行コウカシラ…)

 

 

 

 

 

 

 

一方、深海の基地にある泊地棲鬼の個室にて……

 

椅子に深く座り込み、仕事用デスクに置かれたモニターを起動すると、画面に数隻の姫級と鬼級が表示された。

 

「アラ……泊地ガコンナニ各地ノ姫ヤ鬼ヲ集メテ通信ダナンテ、珍シイ事モアルモノネ」

 

1隻が少し小馬鹿にした風に泊地に問いかけてくると、真剣な眼差しを返しながら話し始める。

 

「……艦娘トノ戦争ガ忙シイ中、ワザワザ緊急ノ集会ニ集マッテクレテアリガトウ。今回ハ、トアル大型作戦ヲ大至急行ッテモラウ為ニ呼バセテモラッタワ」

 

「大至急トイウト……作戦決行日マデノ猶予ガ少ナイノカシラ?」

 

「アア、先ニ伝エサセテモラウガ、作戦決行日ハ今日カラ4日後ダ」

 

すると、4日後というかなり短い準備期間にモニターの姫級達がざわめき始める。

 

「4日後…カナリ急ネ……何カ大キナメリットデモアルノカシラ?」

 

「艦娘ヲ100隻近ク沈メラレルヨウナ作戦ジャナイト、メリットハ薄イワヨ」

 

「100隻…?イヤ…ソンナ数デ済メバ、艦娘達ハイツモ通リニ攻メテクルワヨ」

 

「ナラ……ドレダケ艦娘達ノ戦力ヲ減ラセルノカシラ…?」

 

1隻が泊地棲鬼に尋ねてくると、泊地棲鬼は悪魔のような笑みを浮かべながら問に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回ノ作戦…モシ成功スレバ…日本ニ居ル艦娘ヲホボ丸ゴト無力化デキルワ」

 

 

 

 



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横須賀ノ摩耶

「赤城さん、もっと艦載機飛ばしてもいいんですよ?」

 

「無茶言いますね…!加賀さん、全機発艦しますよ!」

 

「了解……!」

 

会議を終えた次の日、私は演習相手になるであろう飛龍と翔鶴に備えて訓練していた。

 

訓練の内容は単純で、私1人に対して空母の2人が模擬艦載機を飛ばし、攻撃を仕掛けてくるのを撃墜する。ただそれだけである。

 

俗に言う習うより慣れろってやつだ。根性論は人間の頃から嫌いだが、これに関しては一つ一つ相手の航空戦術を見るより艦載機の動きに慣れていく方が効率的だからだ。

 

 

 

 

「……なんて…言ってみたけど…」

 

手で太陽を隠しながら空を見上げると、視界に入るのは炎を纏いながら流れ星のように海面に向かって落ちていく幾つもの艦載機だった。

 

(……ソウイエバ…私一航戦2人相手ニ全機撃墜シタンダッケ…)

 

一方、艦載機を飛ばしていた一航戦は……

 

「赤城さん…模擬艦載機、全機撃墜確認です…」

 

「……」

 

「赤城さん……?」

 

「……代行…って…まだ間に合いますかね…」

 

「赤城さん!?」

 

自信をなくしていた。

 

 

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

一方、佐世保鎮守府から遠く離れている横須賀鎮守府でも訓練が行われていた。

 

「でえぇぇい!」

 

摩耶が海上を勢いよく駆けていくと、天龍が引き連れている浮きに向けて模擬魚雷を放つ。

 

そして天龍に向けて、魚雷の命中本数を確認しようと大声で叫ぶ。

 

「天龍!どうだ!?」

 

「いや……惜しいんだが、ギリギリで逸れてるな…」

 

ゆっくりと天龍の元に寄っていくと、舌打ちをしながらもため息を吐く。

 

「クソが……相手はあの大和型だからな…1本でも多く当てないといけねぇのによ…!」

 

横須賀鎮守府は何度も演習で大きな成績を残しているが、毎度の如く佐世保が率いる武蔵に壊滅させられそうになっていた。

 

そこで提案されたのが、最優先で武蔵を轟沈判定まで持っていくという作戦である。

 

少しでも火力の出る武装で武蔵の耐久を削り、轟沈判定になった所を一気に攻め落とすというのが詳しい内容であった。

 

「それにしても……どうして妙高さんはあんなに綺麗に当てられるんだ…?」

 

「なんでも、長い間出撃していると自然と命中率が上がっていくから特別な事は別にしていないらしいぜ」

 

摩耶が着任する前に行われた前回の演習では、艦載機による攻撃で武蔵の視線を逸らしている内に魚雷を命中させ、耐久を削った所を爆撃機でトドメを刺したらしい。

 

その時に魚雷を命中させたのも妙高だった。

 

「でもよぉ…ならなんで妙高じゃなくて、着任してから1ヶ月しか経ってないあたしなんだよ…」

 

「提督が言うには、トラック泊地の方から増援要請が来ているらしくて、妙高が向かってるから次に雷撃能力が高いあんたが選ばれたって事だ」

 

説明し終えると、箱からタバコを1本取り出し、咥えると、マッチ棒で火を点ける。

 

「なるほどな……なら、あたしが頑張るしかないのか……」

 

そう言って天龍から1本貰うと、ゆっくり吸い始め、移動しながら再び模擬魚雷を装填した。

 

 

 

 



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記憶ヲ持タヌ重巡

「よし、今日はこれくらいにすっか……」

 

「はぁ…はぁ…了解…」

 

日が沈み月が昇り始めると、指導役の天龍が無線機越しに摩耶に声を掛け、傍に寄っていく。

 

「ふぅ……命中率30%…目が覚めてから1ヶ月の割にはいいんじゃねぇか?」

 

「そうか…?2年前のあたしだったら、50%いかなかったら納得しないぞ?」

 

「そうだよな……お前だったら納得するまでやり続けるだろうな……」

 

鎮守府に戻りながら話していると、ふと思い出したかのように摩耶が天龍に問いかける。

 

「……天龍、2年前のあたしって…どんな感じだったか…教えてくれねぇか…?」

 

「!?ゲホッゲホッ……それ今聞くか…!?」

 

吸ってたタバコの煙を思わず吹き出してしまい、海面に落ちそうになった紙タバコをキャッチする。

 

「ダメなのか?」

 

「いや、そうじゃねぇけど…どうしても聞きたいのか…?」

 

「まぁな……」

 

「…分かった、消灯時間前にお前の部屋に行くからその時にな…」

 

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

「摩耶、来たぞー」

 

ノック音が扉から聞こえ扉を開けると、短パンTシャツの天龍が缶ビールとツマミを持ちながら入って来た。

 

「あのなぁ…晩酌する気じゃねぇか…」

 

「まぁな、思い出話を語るんだから少し位はな」

 

ベッドの側に置かれたちゃぶ台にビールとツマミを置くと、2人は胡座をかきながら座る。

 

「さて……2年前のお前の話だな…」

 

「あぁ、出来る限りでいいから頼むぜ」

 

 

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

これは今から3年前の話だ。3年前、この鎮守府に2隻の重巡洋艦が着任した。

 

それがお前と鳥海だった。2人は性格が正反対だったけど、仲が良くて相性が良かったな。

 

当時重巡洋艦が不足していたが、2人が来てくれたおかげで深海棲艦から海域を奪い返していった。

 

2人は徐々に戦績を上げ、戦艦と同じくらいの強さとも言われていた……2人が着任してから1年経つまではな……

 

ある日、泊地棲鬼と言われる深海棲艦が制圧していた海域を奪い返そうと2人と俺、駆逐艦3隻で出撃した。

 

泊地棲鬼までの道のりに現れた深海棲艦に苦戦する事もなく、泊地棲鬼の元に辿り着いた。

 

だが……泊地棲鬼とその護衛にいたル級とタ級だけは違った……

 

いくら砲撃しても大きなダメージを与えられず、奴らの砲撃を必死に避ける事しか出来なかった…

 

その時、1隻の駆逐艦に泊地棲鬼が放った砲撃が命中しそうになった。

 

俺が躱すように伝えた時にはもう徹甲弾が側まで飛んで来ていた。

 

俺は思わず目を閉じて、駆逐艦の事を諦めそうになった時、1隻の艦がその駆逐艦の前に飛び出して来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び出した艦は鳥海だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が目を開けると、駆逐艦の前に立ち、全身から血を流している鳥海の姿があった。

 

鳥海は私が囮になるから全速力で撤退するように無線機越しの俺と摩耶に伝えた。

 

摩耶は鳥海も一緒に撤退しようとしたが、鳥海からの頼みで、俺が摩耶を押さえつけながら全速力で海域から撤退した。

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

何とか安全な海域まで撤退し、無事鎮守府に帰投出来たが、摩耶は止められながらも再び出撃しようとした。

 

陸奥や飛龍、提督にも押さえつけられ、何とかして止めようとすると、希望を失ったように気絶して、再び出撃しないようにドックに暫くの間、修理と言う名の監禁をされた。

 

それから3週間後、何とか落ち着き、鳥海はまだ何処かで生きていると考えていた摩耶は、鎮守府付近の砂浜を歩いていると、錆び付いた主砲が流れ着いていた。

 

主砲を拾い上げ、何処の鎮守府の艤装か刻印されている識別番号を見ると、そこには……

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府 重巡洋艦鳥海と記されていた

 

 

 

 

 

識別番号が目に入った摩耶は、思わず錆び付いた主砲を手から落としてしまい、その場に膝を突き絶望した。

 

今まで生きていると信じていた摩耶にとって、この錆び付いた主砲は、鳥海が沈んでしまったと思わせるのに十分過ぎる力を持っていた。

 

摩耶は1人泣き叫び、砂浜に拳を叩きつけると、深海棲艦に対しての憎悪が湧き出し、泊地棲鬼に対して復讐を誓った。

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

そして、それから1週間後、摩耶は深夜に無断で缶と艤装を装備して、泊地棲鬼の制圧している海域に1人で出撃しちまった。

 

その時、夜戦の訓練をしていた俺が、摩耶の姿を見つけて、急いで提督に連絡した。

 

提督に摩耶の事を伝えると、6隻編成を4つ、24隻もの艦を使って摩耶の捜索に出た。

 

1日中捜索し、夜中になると、俺が担当した泊地棲鬼の制圧した海域の側で、水上電探に摩耶の反応が出たんだ。

 

俺は提督に連絡して、急いで摩耶の近くまで進んでいくと、6隻の深海棲艦に囲まれて、血塗れになりながら沈んでいく摩耶の姿があった。

 

急いで摩耶を救おうと近づいたが、砲撃が激しく、近づく事も出来なかった俺は、撤退しながら、摩耶の轟沈を確認した連絡を提督に入れた……

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

そして、摩耶が轟沈してから月日が流れ、今日から1ヶ月前に遡る。

 

出撃していた主力艦隊が、海面に浮上してきた謎の紫色の貝を発見した。

 

巨大なシャコ貝のような見た目をした貝が、ゆっくりと口を開くと、中にはお前……摩耶が入っていたんだ。

 

裸のまま眠りに就いていた摩耶が目を覚ますと、自分の名前や鳥海の記憶以外を全て忘れてしまっていたんだ。

 

自分が沈んだ事や、俺達の事も全部な……

 

 

 

「……こんな感じだ…どうだ……聞いて後悔しなかったか……?」

 

「…いや、ありがとな、天龍……大丈夫、何となく分かったさ……」

 

「おう……それならいいんだ…」

 

「……確かに、鳥海に対しての悲しみはあったが…今は…あたしは……今でも鳥海が生きているって信じられるからな…」

 

すると、摩耶は缶ビールを開けると、天龍と共にビールを飲み始めた。

 

 

 



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イザ佐世保鎮守府へ

海面から太陽がゆっくりと顔を出してくると、摩耶の部屋に日差しが入ってくる。

 

カチッ…カチッ…カチッ…カチッ…

 

5時50分にアラームを設定した目覚まし時計の秒針がゆっくりと動いていき、12の文字にぴたりと止まると…

 

ピピピピピピピピピピピピピピピ……

 

ガチャン!!

 

「…朝か…ったく…昨日早く寝て良かったぜ…」

 

目を擦りながら5時50分になっているのを確認すると、2段ベッドの下の段から体を上げ、布団を畳む。

 

顔を洗い髪をとかすと、寝巻きと下着を脱ぎ捨て、新しい下着と赤いリボンの着いた青と白の制服に着替える。

 

「……2年前のあたしも…こんな感じの生活ルーティンだったのかもな…」

 

そして、靴下を履き、下駄箱から靴を取り出すと、

 

鎮守府内に起床ラッパが流れ始め、靴を履き、部屋から出ると、他の部屋からも艦娘が出てきた。

 

「摩耶さん、おはようございます」

 

「およ……祥鳳さんじゃねぇか…どうしたんだ…?」

 

「提督が第一艦隊の艦娘は執務室に集合するようにとの連絡です」

 

「了解…にしても…何で夜遅くまで仕事しているのにハッキリと喋れているんだ……?」

 

「その話…2年前にも同じ事を聞いてきましたけど…やっぱり摩耶さんは摩耶さんですね…」

 

「……それは褒めてんのか…?貶してんのか…?」

 

祥鳳の後ろを歩き、他の艦娘達に挨拶をしながら向かうと、眠たそうな顔をした天龍が先に執務室前で待機していた。

 

「おう天龍……大丈夫か?」

 

「……眠たいのと…少しだけ…酒が残っててな…けど…仕事には支障は出ねぇよ…」

 

大きなあくびをしながら答えると、奥から比叡と陸奥がやって来た。

 

「皆さんおはようございます!」

 

「あらあら、私達は4着かしら?」

 

「いえ、既に執務室に飛龍さんと翔鶴さんが居るので6着です」

 

「ひえー……」

 

執務室の扉を開け中に入ると、提督に世間話をしている飛龍と、それを見て微笑んでいる翔鶴、そして横須賀鎮守府の提督が待っていた。

 

「提督、もし優勝出来たら間宮さんの羊羹、奢ってくださいね!」

 

「分かった分かった…後近いから…」

 

「相変わらずお元気そうですね…♪」

 

「コホン……提督、第一艦隊残りの4隻、集合しました。」

 

「あ…ああ、了解した。」

 

慌ててきっちりと提督らしく姿勢を正すと、資料を片手に持ち、今後の日程の話を始めた

 

「明後日の海軍大演習に参加する為、第一艦隊から第四艦隊はここから佐世保鎮守府までの海路をチャーターした民間用フェリーで移動する事とする。明日の午前2時に鎮守府を出発し、午後0時に佐世保鎮守府に到着予定だ。」

 

「フェリー…?深海棲艦に襲われる心配はないのか?」

 

「勿論襲われる可能性は0ではないが、比較的安全な海路を通るつもりだ。」

 

「なるほど、それなら安心だな。」

 

「出発時間までは各自艤装の点検や持ち物を確認し、演習に備えるように、以上だ。」

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

「……第一艦隊から第四艦隊…全員居るか?」

 

「はい、24隻全員集合しています。」

 

鎮守府に停泊しているフェリーに提督と艦娘達が集まると、荷物などを確認し、船の中へ運んでいく。

 

フェリーと言うが、豪華客船のような船ではなく、どちらかと言えば連絡船に近い物だ。だが、フェリーというだけで艦娘達はちょっとした旅行気分になっていた。

 

佐世保でのお土産はどうするか、どんな料理が出るのか、まだ会ったことのない艦娘に会えるだろうか…

佐世保鎮守府を楽しみにする会話が弾んでいき、ざわめき始めていた。

 

「提督、そろそろ演説の時間ですよ。」

 

「ああ……」

 

「そう嫌がらないでください……私、提督の演説好きなんですから……♪」

 

「…わかった、あまり期待はしないでくれよ…?」

 

ブツブツと呟きながらも、ビシッと軍服を着込むと、艦娘達の前に立ち、海軍大演習に向けての演説を始めた。

 

(……本当は演説苦手なんだよな…)

 

「…さて、いよいよ佐世保鎮守府に向かう時がやって来た。以前の大演習では全体的に良い成績を叩き出せた。だが今回も良い成績を取れるとは限らない。決して油断することなく、どんな時でも全力で挑むように!」

 

「「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」」

 

演説を終えると、やる気と熱気に満ちた艦娘達の声が鎮守府の敷地全体に響き渡った。

 

そして艦娘達も、興奮状態になりながらもしっかりとやる事をこなし、出港するまでの準備に勤しんでいった。

 

 

▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫▫

 

 

艦娘達の荷物を積み終え、後数分で出港する時、提督は秘書艦である祥鳳と話をしていた。

 

「…祥鳳、少しの間離れるが、この鎮守府の事…頼んだぞ。」

 

「お任せ下さい。秘書艦として、しっかり私の鎮守府を守り通してみせます。」

 

「毎年悪いな…鎮守府の管理を任せっきりにして…」

 

「いいんですよ、こうして提督達を見送るのも秘書艦の仕事ですから…」

 

「あぁ……それじゃあ、行ってくる…!」

 

フェリーに乗り込み、祥鳳に一時的な別れの挨拶を告げると、フェリーは汽笛を響かせ、ゆっくりと鎮守府から離れていく。

 

そして離れていく手を振る祥鳳に対して、ゆっくりと手を振り返した。

 

こうして、横須賀鎮守府の艦娘達は、防空棲姫のいる佐世保鎮守府に向かったのであった。

 

 

 



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佐世保ニ集ウ艦娘達

「おい摩耶、そろそろ着きそうだぞ」

 

「おっ…やっとか…着いたら赤城さんと加賀さんに挨拶しねぇとな…あと睦月と夕立も佐世保だったな…」

 

「それって朝食後に話していた、腕慣らしに出撃した時に居た艦娘の事か?」

 

「あぁ、吹雪は確か舞鶴だったけどな…吹雪も佐世保に来てたりするのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「赤城さん、どうですか?」

 

「30機中……25機…上々ね♪」

 

演習前日のこの日、空には青空が広がり、心地よい風が吹き、絶好の訓練日和になっていた。

 

そして照月のお願いにより、赤城が対空砲撃の練習相手をしていた。

 

「秋月姉、私頑張ってるよ〜!」

 

堤防に座りながら照月を見守ると、褒めてほしそうにこちらを向きながらアピールをしてきた。

 

「頑張ってるわね、この感覚を忘れないように続けていきなさい」

 

「はーい!」

 

照れながらも「えっへん」と自慢げな表情をしていると、堤防近くにある野外スピーカーから提督の声が流れてきた。

 

「間もなく他の鎮守府の提督を乗せたフェリーが停泊場に到着する。演習場や海上に出ている艦娘は、速やかに陸に上がるように」

 

「あら…それじゃあ照月さん、続きはまた後でという事で」

 

「あっ、はい、ありがとうございました!」

 

いそいそと模擬艦載機を着艦させると、2人は急いで陸に上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

私と照月の2人で停泊場に行き、降りて来る艦娘を見に行くと、連絡船程の大きさのフェリーが停泊場にやってきた。

 

1隻、また1隻と各鎮守府のフェリーがやってくると、第一艦隊の演習相手である横須賀鎮守府のフェリーが到着した。

 

ぞろぞろと艦娘が降りて来る中、最後の方に相手の第一艦隊の艦娘が降りて来る。

 

すると、軽巡洋艦の天龍と共に、青と白の制服に赤いリボンを付けた重巡洋艦が降りて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、そろそろ降りるぞ」

 

「おう、さっさと降りて、体を動かさねぇとな」

 

艤装を背負い荷物を片手に、スロープから停泊場に降りると、既に他の鎮守府の艦娘で賑わっていた。

 

「あっ!あれ摩耶さんっぽい!」

 

「えっ!本当だ!おーい、摩耶さーん♪」

 

すると、睦月と夕立が摩耶の事を迎えに来ていた。

 

「おっ、2人とも久しぶりだな」

 

「お久しぶりです摩耶さん、やっぱり演習に参加するんですね!」

 

「おう!あたしより勇敢な重巡洋艦は居ねぇからな!」

 

摩耶から見ると、睦月と夕立は舎弟みたいなもので、かなり愛着が湧いていた。

 

「そういえば、なんであたしが参加する事を知ってんだ?」

 

「それなら、秋月さんが教えてくれたっぽい!」

 

「秋月…?第一艦隊の1人っていうあの駆逐艦か?」

 

「はい、最近着任した子で…あっ、あそこに!」

 

睦月の指差す方に目を移すと、白い髪に赤い目をした駆逐艦が目に入った。

 

すると、思わず2人の目が合ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、摩耶は一瞬あの時出会った姫級の深海棲艦の事が脳裏を過ぎった。

 

 

 

(フフ······キタンダァ ······?ヘーエ······キタンダァ······)

 

 

 




2ヶ月近く投稿出来なくて申し訳ございません!途中でふと思い付いたスプラトゥーンの小説を投稿していて時間があまりありませんでした。
6月中に出そうとした結果、かなり短くなってしまい、本当に申し訳ございません。
もし宜しければ、少し前に投稿したスプラトゥーン小説「初代からタコですが何か?」も是非ご覧頂けると幸いです。


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演習前日

この作品では約1年ぶりです…!もう誰もがこの作品の事を覚えてないうえに内容が2500文字程度しかなく申し訳ございません…!


(フフ······キタンダァ ······?ヘーエ······キタンダァ······)

 

「!?い…今のは…!」

 

「…?摩耶さん?どうかしたんですか?」

 

「やばっ……」

 

「秋月姉、どうしたの?」

 

(シマッタ…確実ニ目ガ合ッタ…)

 

「いや…何でもないわ……照月、ドックで汗を洗い流しましょ!」

 

「え?あっ、待ってよ秋月姉ー!」

 

「摩耶さん?摩耶さーん!」

 

「…はっ…!いや、何でもない、気にすんな…」

 

「そうですか?」

 

(……あの駆逐艦…一体なんなんだ……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ…秋月姉…?どうしたの…?そんな顔まで浸かって…」

 

摩耶から逃げるように去った後、私はドックの湯船に浸かりながらブツブツと独り言を言っていた。

 

(神様ガ居ルナラ私ハ恨ムワヨ……ナンデ3回モアノ摩耶ニ出会ウノカシラ……)

 

今までの摩耶との出来事を振り返ると、初めて出会ったのは私が目覚めたあの海域。

 

2回目は南方棲鬼のいる南方海域へと向かっていた途中。

 

そして今回……港湾と離島を救出しに来た佐世保鎮守府で演習相手として…。

 

神のいたずらなのか分からないが、私と摩耶には運命の糸で結ばれているんじゃないかと思う程の遭遇率に、頭を抱えていた。

 

(イッソノコト摩耶ヲ沈メテ鳥海ト一緒ニ深海棲艦ニシヨウカシラ……)

 

「おぉ!佐世保のドックってこんなに広いのか…!」

 

「おいおい、子供みてーな反応するなよ摩耶…」

 

そんな事を考えていたら、横須賀のフェリーから出てきたあの2人がやって来た。

 

どうやらこちらには気付いてないらしく、しばらくすると照月が声を掛けてきた。

 

「あの2人って…確か秋月姉が戦う横須賀鎮守府の人だよね?」

 

「えぇ、世界最高水準と呼ばれた軽巡洋艦の天龍と、大きな戦果をいくつか上げた重巡洋艦の摩耶ね…」

 

「秋月姉はあの2人に勝てそう?」

 

「勿論よ、空母を倒せて重巡と軽巡を倒せなかったらおかしいからね」

 

「話をしている所悪いけどあんた、第一艦隊の秋月とその妹の照月か?」

 

すると、後ろからやって来ていた摩耶が話し掛けてきた。

 

「え…えぇ…そうだけど……貴女は横須賀の第一艦隊の摩耶さんね…?」

 

「おっ、あたしの事を知っているか、そいつは嬉しいねぇ」

 

「おい摩耶、あんまウロウロするなよ、お互いまだこっちの鎮守府の中覚えてねぇんだから」

 

と言って摩耶の後ろからやってきたのは天龍だった。

 

「隣、失礼させてもらうよ」

 

そして、ニカッとした笑顔を摩耶がしていると、2人は私と照月の隣に入ってきた。

 

「所で…私に何の用ですか…?」

 

「あぁ、さっきちょっと目が合ったから気になってきたのと、私の相手がどんな娘なのか気になって来ただけさ」

 

「あぁ…そういう事ですか」

 

「目が合った…?あっ!摩耶さんと天龍さんが降りてきていた時の事ね!」

 

「そっ。そしたらすぐどっかに行っちゃったから気になってさ」

 

(マズイ…モシカシテ感ズカレタカモ…)

 

このままではバレてしまうと思い、頭の回転をフルに考え、必死に言い訳を考えた。

 

「秋月姉、もしかして照れてる〜?」

 

「違うわよ…対戦相手と親しくなったら、やりにくくなるでしょ。ボクシング選手みたいなものよ」

 

「なるほど、そう考えると不思議と納得するな」

 

「そういう事です」

 

「なるほど、確かに親しくなった人とやり合うのはちょっと躊躇するよな…」

 

「ならよ…俺と摩耶がここに居るのは不味いんじゃねーか?」

 

天龍が気を利かせてくれたのか、フォローを入れてくれた。

 

「確かに…ごめんな秋月!話の続きは演習が終わった後な〜!」

 

と言いながら浴槽から上がると、別の浴槽へ移動していった。

 

「…行っちゃったね?」

 

「そうね…何だったのかしら…?」

 

(……危ナカッタ…)

 

「意外と良い奴そうだったな、あの秋月っていう駆逐艦」

 

「まぁな、だけどこのあたしの敵ではないけどな」

 

(…あの感じ…あたしの勘違いのままでいてくれるといいんだけどな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は経ち時刻は深夜2時、多くの艦娘は寝静まっている中、私は工廠の隅で通信機を片手に泊地へと連絡を始めた。

 

「泊地、イヨイヨ明日ハ作戦決行日ネ…救助班ハコチラヘ着イタカシラ?」

 

「エェ、既ニ到着シテイルワ。作戦ガ悟ラレテナイ今ノ内ニ2人ヲ…」

 

「分カッテルワヨ、ソレト…泊地達モソロソロ着ク頃カシラ?」

 

「後30分ッテ所ネ…コノママ到着スレバ翌日ノ夜ニハ各メンバーガ作戦行動ニ移セルワ」

 

「了解、ソレジャア…明日ノ夜ニ合流シマショウ」

 

通信を終え、この前と同じように侵入すると、数日ぶりに港湾棲姫と離島棲鬼に再会した。

 

「…港湾、離島、大丈夫カシラ…?」

 

「ンッ…アナタカ……ナントカ耐エシノンデイル…」

 

所々傷が出来ているけど、初めて会った時よりかはそこまで酷くなってなかった。

 

「…アラ……港湾…ソノ艦娘ハ…」

 

すると、前は眠りに就いていた離島棲鬼が顔を上げ、私の事に気が付いた。

 

「泊地ガ私ト離島ノ為ニ送ッテクレタスパイダ、名前ハ……」

 

「ソウイエバ名乗ッテ無カッタワネ…私ハ防空棲姫、防空駆逐艦ヨ」

 

「防空……覚エタワ。コノ前ハ傷ヲ治シテクレテアリガトウ」

 

「所デ…作戦ハ明日決行サレルハズダケド…ドウシタノカシラ…?」

 

「2人ヲ泊地ノ基地マデ送リ届ケル為ノソ級ガ到着シタノ、ココカラ脱出シテモラウワ」

 

「アァ…ヤットコンナ所カラオサラバデキルノネ…」

 

「ソレジャア……マズハソノ手錠ヲドウニカシナイトネ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「防空棲姫様…デスネ…離島棲鬼様ト港湾棲姫様ノオ迎エニ参リマシタ…ソ級デス…」

 

「……(コクリ)」

 

私が佐世保鎮守府に保護された砂浜までやって来ると、長い髪を垂らし、ヲ級のように触手と砲が付いている帽子を被った深海棲艦、ソ級が2隻待機していた。

 

「ソレニシテモ…姫級ヤ鬼級ヲ背負イナガラ潜水ナンテデキルノカシラ?」

 

「私ハ軽イカラ大丈夫ダトハ思ウケド…港湾ハ胸部装甲ガ大キイカラ重イカモネ」

 

「ソレハ嫌味カ?」

 

「冗談ヨ」

 

「ゴ安心クダサイ、港湾棲姫様ノヨウナ重イ胸部装甲ヲ装備シテイテモ潜水ニハ問題アリマセン」

 

その瞬間、港湾棲姫の鉄拳がソ級に落ちたのは言うまでもない。

 

「冗談ナノニ……」

 

「アハハ…ソレジャア、2人ヲヨロシク頼ムワネ」

 

「オ任セ下サイ、必ズオ二人ヲ基地マデ送リ届ケテミセマス」

 

「……(コクリコクリ)」

 

そして2人を背負ったソ級達はゆっくりと歩いていき、深くなった所で静かに潜水し、基地へと向かって行った。

 

「…サテ、私モ戻ラナイト…私ノ妹達ノ元へ…」

 

 

 

 

 




次回は今までのようにちょくちょく出すのではなく、1話で一気に内容が進むようにしてみたいと思います。いつも通り投稿期間が空くと思いますが、何卒よろしくお願いいたします。


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