艦これ@SS文庫 (ゆめちゃん)
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電の本気を見るのです?

まずは第一話目。
めっちゃ短い&ツマンナイかもしれませんがどうぞよろしく。


 もうすっかり日の暮れた夜。

 資源回収のために遠征へ出していた第六駆逐隊の面々が鎮守府に帰って来た。

 

「艦隊帰投だって。ふぅ……」

 

 艦隊を率いる長女『暁』がそう言って司令室の戸をノックする。

 回収した資材の受け渡しと帰還を知らせるためだった。

 ややあってからドアが開き、提督が直接無事の帰還と報告を確認した。

 無論、いつものスキンシップも忘れない。

 

「頭をナデナデしないでよっ! もう子供じゃないって言ってるでしょっ!」

 

 妙にムスッとした、だけどどこか嬉しそうな顔をして司令室を辞そうとする暁。

 が、その時じっと黙っていた響が提督を呼び止めた。

 

「……待て。提督、電の様子がおかしい」

 

 響の言葉に釣られて電を見ると、なるほどどうにも様子がおかしい。

 目は妙にトロンとして頬は赤く、おまけに体が左右に揺れている。

 

「い、電の本気を見るのです……?」

「電、あまり無理はするな。具合が悪いのか?」

 

 日頃は口数の少ない響も姉である。末っ子である電を気遣うが、

 

「電はらいじょうぶなのれす……」

「……重症だな」

 

 資源回収とは言え長距離の移動だ。疲労がないわけではないのだろう。

 

「元気ないわね。そんなんじゃダメよ。ちょっと見せてみなさい!」

「はわわ!? だ、大丈夫なのです。心配はいらないのです!!」

 

 見かねた雷がフラフラの電に近づいて額に手を当てる。すると――

 

「うわっ!? 全っ然大丈夫じゃないじゃない!! すごい熱よ」

 

 察するに疲労による発熱か。

 すでに呂律も回っていない電を抱きかかえると、雷は入渠ドッグへと急いだ。

 

 

 

 

 

 ――翌日

 

「はーい、電。ちゃんとアーンしなさい。お姉ちゃんが食べさせてあげるわ!」

「じ、自分でできるからいいのです!! 雷ははやく演習に行くのです!!」

 

 鎮守府の入渠ドッグには、水玉模様の布団に包まり額に氷嚢を載せた電の姿があった。

 その横には鳳翔お手製のお粥を食べさせようとする雷もいる。

 

「恥ずかしがるな、電。たまには姉にも世話を焼かせてくれ」

「ふにゃぁぁぁ!? か、体は自分で拭けるのです!!」

「ふふん。暁の出番ね。見てなさい!」

 

 いざ危機が迫れば砲火を撃ちあい敵陣へ突撃する彼女らも、平時は小さな乙女に過ぎない。

 姉妹仲睦まじい看病の様子は、その後しばらく鎮守府の話題となったのだった。

 

 

 

「――ったく、しょうがねぇな。遠征はオレが行って来てやるか……」

 

 そうそう、電の看病でキャンセルになった遠征を天龍が肩代わりしてあげていたというのは、ここだけのナイショである。

 



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Burning Love!

拙いながらも第2話目です。
短編系はネタ切れが怖いですね(汗)

シチュやカップリング等、いろいろ考えなくては・・・
今回は金剛デース。


「Hi! 今日も良い天気ネー!」

 

 最近、鎮守府の司令室が非常に喧しい。

 おまけにいつの間にか内装が変更され、紅茶の茶葉が常備されるようになった。

 それというのも、新たに配属されたある艦娘に原因があるのだが――

 

「英国で産まれた帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」

 

 金剛型Ⅰ番艦『金剛』英国はヴィッカース社生まれの帰国子女。

 強大な火力に重厚な装甲。戦艦としては希にみる高速性能を誇る優秀な戦力――のはずだった。

 

「Tea timeは大事にしないとネー♪」

 

 ところが、である。

 着任早々何を思ったか、持ち込んだ家具で内装を塗り替え、英国から取り寄せた茶葉とティーセットを完備。あまつさえは事あるごとに「紅茶が飲みたいネー」などと言い出す始末である。

 当初の期待はどこへやら、気づけば「妖怪紅茶クレ」なる不名誉極まる渾名を頂戴することになっていたのだった。

 

「私たちの出番ネ!Follow me!皆さん、着いて来て下さいネー!」

 

 しかし、そんな彼女もひとたび戦場に出れば勇壮な戦艦であることに変わりはない。

 陽光に煌めく波を蹴立てて大洋を疾走する彼女は真実美しい。

 重巡や軽巡を率いて敵を蹴散らし意気揚々と帰還してくる。

 無論、出撃のご褒美に紅茶をねだる事も忘れない。

 

「私の活躍見てくれたの?もっと頑張るから目を離しちゃNo!なんだからネ!」

 

 出迎えに来る提督にそう言って笑うと、決まってお気に入りのティーセットでお茶にするのだ。

 そんな彼女がやって来て、どれくらいの月日が経っただろうか?

 

 当初は変人と思われていた金剛も次第に鎮守府に馴染み、いつしか底抜けに明るい彼女の声が当たり前になって来た。

 すっかり見慣れたティータイムは鎮守府の名物となり、緑茶派と煎茶派を巻き込んだ三つ巴の派閥抗争の様相を呈し始めていたりする。

 そんなある日の夜。溜まった書類を黙々と片づける提督に、ふと金剛はこう漏らした。

 

「……提督は、金剛のことLoveデスカー?」

 

 いつになく沈んだ調子で言う金剛にふと顔を上げてみると、金剛はカップの縁をなぞりながら申し訳なさそうに笑っていた。

 

「ときどき、こうして紅茶を飲んでるのが夢じゃないかって思うネー。戦う身である以上、絶対無事に帰ってこられる保証はないデス」

 

 ああ、そういうことなのか――

 それを聞いて、提督はようやく理解した。なぜ彼女がこんなにも眩しく鮮烈なまでに振る舞うのか。

 

「私は提督のことLoveデスネー! 必ずここに戻ってこられる気がシマース!」

 

 焔のように生き、嵐のように駆け抜け、華の如く散り果てた。

 その終わりを識るが故に、彼女は今目の前にある一瞬がどれほど尊いか理解しているのだ。

 

「Oh……あんまり私らしくないデスネー。今のは忘れてくだサーイ」

 

 ――否。それは決して忘れてはいけない大切なことだ。

 金剛から貰った、わざわざ名前を刻印してもらったカップに紅茶を注ぎながら、提督はそっと金剛の頭を撫でた。

 

「て、提督ゥ!? 触ってもいいけどサ、時間と場所を弁えなヨ……///」

 

 いつもとは違う赤面した金剛の顔を見て、自然と提督もほおを緩めたのだった。

 

 

 

 

 ――翌日

 

「Yes! 私の実力、見せてあげるネー! 抜錨デース!」

 

 いつも以上に張りのある声で金剛は艦隊を率いて鎮守府をあとにした。

 戦艦を全て出払わせるわけにもいかないので、重巡と軽巡を中核にした艦隊だ。

 

「フフン♪ 今日の私は一味違うネー!」

 

 海を駆けるその横顔は実に嬉しそうで、さながら恋する乙女のようである。

 今日の朝、金剛と提督が一緒に司令室から出てきた時は皆が何事かと驚いたが、

 

「Sorry.それは2人の秘密ネー!」

 

 といって、金剛は夜の出来事を誰にも教えなかった。

 結局、事態を重く見た比叡や榛名が光の速さで提督を工廠裏に連れて行ったが、まあ無事であることを祈るしかないだろう。ついでに霧島が表情を変えぬままそれについていったが、もはや何も言うまい。

 

「あの、金剛さん。昨晩は提督と何をお話しされたんですか?」

「ノンノン。いくらMs,古鷹でも教えられまセーン。恋の戦いは熾烈デース!」

「え!? こ、恋ですか!?」

 

 仰天して口をポカンと開ける古鷹を置いて、金剛はグイグイ進んでいく。

 

「――I love you, my master. I am deffinitely going to make you mine.」

 

 いつかきっと振り向かせて見せる。

 そのためになら、どんな任務でもこなして見せる。

 帰った時には必ず、待っていてくれる人がいるのだから。

 

「全砲門、Fire! 私に続くネー!」

 

 会敵を告げる声は高らかに。

 恋も戦も、全ては再び始まったばかりなのだった――

 




ロクに英語もできないのに気取った結果がこれだよ!
というワケで第2話でした。

たまに更新状況についても呟いてます↓(※不定期更新なので一応・・・)
https://twitter.com/yumetyann3810


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駆逐艦がウザい

う、ウザくないもん!?


「駆逐艦? あぁ、ウザい」

 

 さもつまらなさ気にそう言ってお下げを揺らすのは、重雷装巡洋艦『北上』である。

 片舷20門、合計40門もの魚雷発射管を有する鎮守府の雷撃番長だ。

 こと雷撃戦において彼女の右に出る者はなく、故に水雷戦隊の切り札的存在なのだが……

 

「出撃ですね! やらなくては……が、頑張ります!!」

「えー、駆逐艦と同じ艦隊? ふーん。ま、いいか」

「あのっ、北上さん、その……」

「あれー、大井っちどこ行ったんだろ」

「……ひえぇぇん!!」

 

 っとまあご覧のとおり駆逐艦との仲が致命的なまでに悪い。

 もとよりやや不愛想なきらいはあったものの、相手が駆逐艦ともなると露骨である。

 気にしないで任務に就く子も多いが、気弱な艦娘――例えば潮などはいつも委縮してばかりだ。

 

「あちゃあ、また北上のヤロー潮を泣かせてやがるな……」

「悪意がなさそうなのが複雑よねぇ~」

「笑いごとじゃねぇだろ龍田‼」

 

 と、そんな日常を影から眺めて歯ぎしりしているのが天龍と龍田である。

 こちらの二人も水雷戦隊を率いる身。あながち他人事というワケでもない。

 

「見ろ、潮のやつ泣いちまって……あぁもうしょうがねぇな、ちょっと行ってくる」

「は~い、天龍ちゃんこういうの得意よねぇ」

「う、うるせぇ!!」

 

 そう言ってさも偶然通りかかった風を装って天龍は潮に近づいていく。

 こうやって、北上との距離感が掴めず落ち込む駆逐艦たちを慰めるのが最近の天龍の日課になっていた。

 

 

 

 

 ――その後

 

「わたし、北上さんと仲良くしたいんですっ!!」

「お、おう。なかなか度胸あるよなお前……」

 

 タイミングよく厨房に詰めていた間宮から差し入れてもらった羊羹を頬張りつつ、潮は天龍と龍田の部屋に来ていた。泣き止んだことでようやく落ち着きを取り戻すと、潮はきっぱりとそう言う。

 

「北上さんって意外と不思議ちゃんよね~大井さんとは仲がイイみたいだけど~」

「あぁ、そういやベッタリだなあの二人は……」

 

 泣き止んだ潮はそのまま気落ちするかと思いきや、意外や意外。北上と仲良くなりたいと言い出した。それを放っておくわけにもいかず今に至るわけだが、そもそも思い付き程度でどうにかなるなら始めからこんなことになっていない。

 

「天龍姉様、どうしたらいいと思いますか?」

「だから姉様はよせって。う~んそうだな……」

「大井さんに訊いてみたらいいんじゃないかしら~? それが一番早いかも~」

「おお、その手があったか!!」

 

 自分で考えてダメなら人に訊く。なるほど実に理にかなったやり方である。

 同じ重雷装艦であっても大井はそれなり以上に話の通じる性格だ。

 

「そうですね。潮、大井姉様に会いに行ってきます!!」

 

 羊羹の最後の一切れを放り込み、鳳翔の淹れてくれた茶を飲み干して潮は部屋を出ていった。

 

「……気弱なようでいてなかなかゴリ押し系だよな、潮は」

「あら~私はそういう娘も好みよ~♪」

 

 妙に色めき立つ妹をジト目で見やりつつ、天龍は潮の出ていった後を見つめていた。

 

 

 

 穏やかな日差しが降り注ぐ午後。潮は運よく出撃から帰ってきた大井を発見した。

 

「え、北上さん? そうね、確かに仲は良いわね。同じ重雷装艦だもの」

「そのっ! 同じ水雷戦隊として、どうしたら北上姉様と仲良くできるでしょうか?」

「そうねぇ……」

 

 自分以外の娘と仲良くされたくないという本音はさておき、このままでは任務に差し障る。

 ここはどうにかせねばなるまいとしばし思案した結果、大井はそっとある事を潮に耳打ちしたのだった。

 

 

 

 

 ――某月某日

 

「北上姉様!」

「あ、駆逐艦……って、なにしてんのさ?」

 

 港に戻った北上を出迎えたのは、潮の大声だった。

 なにごとかと胡乱な瞳を向けてみると、そこには大変発育のよろしい胸を逸らした潮がいる。

 

「……なにさ?」

 

 頭の奥で警報が微かに鳴るのを自覚しつつ、北上は問いかける。

 

「私、北上姉様と仲良くなりにきました」

「あ、そう。私は大井っちがいればそれでいいから……って、ええ!?」

 

 いつも通りの受け答えでその場を去ろうとすると、いきなり潮が背中から抱きついた。

 

「行かないでください北上姉様!」

「ちょ、やめ……発射管はぁっ!!」

 

 そのまま揉みあうこと数十秒。ようやく落ち着いた二人は、黙ったまま向かい合う形になった。

 

「北上姉様は、潮の事が嫌いですか……?」

「うっ……」

 

 分かっている。自分が少々愛想に欠けることくらいわかっている。

 しかしだ。これはあんまりに卑怯である。目を潤ませて上目づかいに見上げてくるなど、これではこちらが完全に悪者だ。

 

「い、いやそんなことないけどさ。あたしは別に嫌いなわけじゃ――」

 

 確かにうっとおしく思う時がないわけではないが、だからと言ってそこまでの事はない……ような気もする。そう言いかけた北上だったが……

 

「よかった! じゃあ北上姉様は潮の事が好きなんですね!?」

「はい……?」

 

 しかし何を勘違いしたのか、北上の真意は伝わらなかったらしい。

 潮はそのまま北上を押し倒すと、そのままニコニコ顔で抱き着いてくる。

 

「大井姉様に聞きました。北上さんは恥ずかしがり屋だけど、体と体のスキンシップで仲良くなれるって!」

「え゛?」

 

 なにか致命的な勘違いをしている潮を引き剥がそうとしているちょうどそこへ、物音を聞きつけた他の艦娘がやって来てしまう。

 

「お、お前ら……」

「あらあら~まだ夜戦には早いわよ~?」

「ち、違う! 違うんだよー!!」

 

 言い訳するも既に遅い。これは間違いなく鎮守府の噂になるだろう。

 

(ああ、やっぱり駆逐艦はウザいなぁ……)

 

 しかしそんなウザさもたまにはいいかな、と思う北上なのであった。

 



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消えたボーキサイトの行方を追え!

妖怪食っちゃ寝? いえ、知らない子ですね・・・(白目)


 事件が発覚したのは、よく晴れたある日の午後の事だった。

 

「司令官さん。その、ボーキサイトの減りが早くないですか?」

 

 今しも遠征から帰って来たばかりの電の言葉に、提督はふと首を傾げた。

 確かに資材は消耗品。燃料弾薬はもとより、入渠すれば鋼材も減る。

 その管理には気を配っていたが、そう言えばボーキサイトはどうだったのか。

 

「遠征で持ち帰った資材があっという間に無くなってしまっているのです」

 

 ボーキサイトの消費は概して艦載機を運用する空母を出撃させた場合だけだ。

 ここ最近は大規模な機動部隊を編成することはなかったはずだが――

 

「……やっぱり、おかしいのです?」

 

 おずおずと電が差し出した管理帖には、恐るべき実態が記載されていた。

 減っている、などというレベルではない。もはや「消えている」と言うべきだ。

 

「はわわ! 司令官さん、どうしたのです!?」

 

 もはや一刻の猶予もならない。

 このままではそう遠くないうちに鎮守府の財政が破綻する。

 何としても異変の正体を突き止めねば。

 提督は机を叩いて立ち上がると、そのまま足早に執務室を出ていったのだった。

 

 

 

 

 ともあれまずは聞き込む以外に他はない。

 ボーキ消費の第一人者(?)である空母娘らに片っ端から声をかけていく。

 

「何か相談? いいけれど」

「えーっとあの、さすがに補給以外でボーキサイトは……」

「ボーキがないんですか? 多聞丸に怒られますよ」

「なんや? ウチはボーキなんて弄ってへんで」

「ボーキサイトって……提督? あんっ♡ 格納庫まさぐるの止めてくれない? 

 んぅっ♡ っていうか邪魔ッ!!」

 

 しかしながら結果は芳しくなく手応えは全くない。

 別な意味での手応えはあったがこれについては言及するべきではないだろう。

 結局、ボーキの行方は判明せず、提督は再び遠征を命じるのだった。

 

 

 

 

 それから数日を経た夜。ついに鎮守府のボーキが危機的なレベルまで減少した。

 このままでは艦隊の運用・維持が困難になってしまう。

 ひとしきり悩んだあげく、提督は一つの策を編み出した――

 

「司令官さん、本当にこんなことしていいのですか?」

「気合が入っていないわね電。そんなんじゃダメよ。今夜のわたし達は名探偵なんだから!」

 

 何を隠そう、提督の用意した作戦とは徹底した張り込みだった。

 遠征から帰って来た第六駆逐隊の面々をそのまま倉庫に張り込ませ、そこに便乗したのである。

 

「もう、狭苦しい場所で困っちゃうわ」

「そう言ってやるな、暁。提督も困っている。……だいぶ深刻なレベルで。」

 

 山と積まれた資材の中に身を隠すこと数時間。

 ついにその時はやって来た。

 

 ――ゴソゴソ……カリカリ……

 

「な、なんの音なの?」

「しーっ! なのです」

 

 果たして暗い倉庫の中に響き始めたのは得体のしれない異音であった。

 これぞ妖怪ボーキ荒らしの犯人に違いあるまい。

 確信を得た提督は意を決し、懐中電灯を突きつけて物陰から飛び出した。

 するとそこには――

 

 

 

 

 

「あ、あはは……見つかってしまいました……」

 

 なんということでしょう。

 其処に居たのは、一心にボーキを捕食する一航戦、赤城の姿ではないか。

 もっきゅもっきゅとボーキサイトを平らげると、さも平静を装って一言。

 

「――ボーキサイト? いえ、知らない資材ですね!!」

 

 そんな白々しい言い訳が通用する筈もなく、阿修羅すら凌駕する憤怒に染まった提督に肩を掴まれた赤城は、そのまま問答無用で執務室へと連れ去られていった。

 道中、何かが爆発したりするような音が聞こえたが、きっと気にしていけないことなのだろう。

 

「そ、そろそろ帰りましょうか」

「電は何も見ていないのです。なにも見ていないのです……」

 

 あまりにショッキングな出来事を頭の隅に追いやりつつ、駆逐艦の面々もその場をあとにした。

 

 

 

 ――数日後

 

「あはは……その、良く似合ってると思いますよ、赤城さん……」

「いいのよ、蒼龍。気を遣ってくれなくても……」

 

 果たしてそこには、生まれ変わった赤城の姿があった。

 箒に塵取りを持ち、せっせと掃除に励む姿が何とも涙ぐましい。

 しかもそれだけではない。今や赤城の首元にはあるプレートが掲げられていた。

 

 

 【無暗に餌を与えないでください】

 

 

「一航戦の誇り、こんなところで失うわけには……!」

 

 悲しいかな、既に失われた誇りに自信を見出そうとする赤城。

 赤城への餌付け禁止令はその後も続き、いつしか「妖怪食っちゃ寝」なる渾名を頂戴するようになりましたとさ――

 



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お人好しな姐御

 

 世の中にはお人好しという物が存在する。

 普段は素っ気ないクセに、なんだかんだで面倒見がいいのである。

 そう、例えば今まさに遠征から帰って来た「彼女」のような――

 

「やっと作戦完了で艦隊帰投かぁ。遅ぇなぁ、ちゃっちゃとやれよ」

「な、なによ! 駆逐艦だからって子供扱いしないでよね!」

「ボーキサイトのバケツが意外と重たいのです……」

 

 資材を満載したバケツをこれでもかと抱えて帰って来たのは第六駆逐隊の面々。

 鎮守府の懐事情を救済すべく、今日も今日とて資材改修に励んでいるのだ。

 それを率いていたのが彼女――『天龍』である。今回の遠征は相方の『龍田』も一緒だった。

 

「ったくしょうがねぇな。ほら、片っぽ持ってやるからついて来い」

「ありがとうなのです!」

 

 いかにも仕方がなく、といった表情を装った天龍が電からバケツを取り上げる。

 かなりの重さがあるであろうバケツを片手で持つと、天龍はそのままズンズン歩いていく。

 遠征から出撃まで、水雷戦隊を束ねる姐御肌な天龍だが、その実かなりのお人好しであることは鎮守府の皆が知るところである。

 

「提督も待ってんだからさっさと行くぞ」

「……了解した。はやく資材を搬入しよう」

 

 口は悪くとも頼れる姐御。こと年下の駆逐艦には天龍を慕うものも多い。

 ある噂によれば、青葉型Ⅰ番艦(匿名希望)によって撮影された秘密写真集まで出回っているらしい。

 

「あらあら~、天龍ちゃんってやっぱり優しいのね~♪」

「なっ!? べ、別にそんなんじゃねぇよ!! 世界水準越えとして当然の事をしたまでだ!!」

「照れてる照れてるぅ~♪」

「うるせえっ!!」

 

 相方である龍田に弄られるのもすでに見慣れた光景だ。

 そのたびに顔を真っ赤にして怒鳴り返すわけだが、疲れて眠ってしまった電を負ぶった彼女が言ったところで説得力など欠片もない。

 その姿はさながら保育園の保母さん――にしてはやや威勢が良すぎるか。

 

「ほら、起きろ電。お風呂に入ったら寝るぞ」

「ん……はいなのです……」

「こらこら、暁もウトウトするな。一人前のレディーなんだろ?」

 

 すでに寝ぼけ半分の駆逐艦ズの世話を甲斐甲斐しく焼く天龍。

 艤装を下ろして服を脱がせると、そのまま両脇に二人を抱えて湯船に入る。

 

「ちゃんと肩まで浸かって100数えるんだぞ」

 

 日々の大変な遠征とキツイ演習。その一日の終わりに訪れる至福の時間。

 頼れる姐御肌たる天龍を慕う艦娘が多いのを、知らぬは本人ばかりなり。

 

「うふふ♪ せっかくならわたしも一緒に抱きつこうかしらぁ♪」

「ちょ、おま! やめ、やめろ! 一体どこ触って……ひゃん!?」

「イイ声で啼くのね、天龍ちゃん♪」

 

 そのあと、妙に悔しそうな顔をした龍田に弄ばれまくったのはナイショである。

 



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目が覚めたら

Google先生の翻訳は信用してもいいのじゃろうか・・・?


 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった、とは彼の文豪が遺した名文だが、たまさか目が覚めてみれば本当に雪国が目の前にあるとは思わなかった。

「えっと、響ちゃんなのです?」

 

 灰色の雲が空を覆う師走の鎮守府。

 炬燵の猫よろしく布団に包まっていた電が目を覚ますと、目の前に雪国が居た。

 

(はわわ、真っ白い響ちゃんなのです!?)

 

 一体どうしたことだろうか、目を覚ました電の前には、冬の白さに全身を染めた響がいた。

 昨日の任務ではいつも通りだったのに、髪の色から装備に至るまで激変しているではないか。

 

「お、おはようなのです。その、本物の響ちゃんですよね……?」

 

 自分が寝ている間に何があったのか、それとも提督のドッキリなのか。

 恐る恐る姉に向けて声をかけた電は――

 

 

「……Доброе утро」

 

 

「響ちゃんが知らない言葉を喋っているですぅ――――!?!?!?」

 

 師走の早朝に、電の叫び声が響き渡ったのだった。

 

 

 

 響の身に起きた異変は瞬く間に鎮守府中に広まった。

 単純に改造を受けたのではないか? と言う者もいたが、噂は尾鰭をつけて一人歩きし、朝食の時間になるころには、地球外からの電波を受信しているに違いない、とまで言う者が現れたほどだった。

 

「響ちゃん、一体どうしちゃったのです!?」

「Хорошо, не волнуйтесь」

「なによ! 心配してるんだから答えてくれたっていいじゃない!」

「Я ответа.」

「長女として見過ごせないわ。そんなんじゃ一人前のレディにはなれないのよ!」

「……Ни для кого не ваше дело.」

 

 おまけに万事この調子で会話が一向に成立しない。

 気だるげに帽子をかぶったままボーっとしているだけなのだ。

 

「おいおい、いったい響の奴はどうしちまったんだ?」

「さぁ、さすがに分からないわねぇ~」

 

 騒ぎを聞きつけた天龍や龍田もお手上げのようで、肝心の提督は生憎の留守と来た。

 秘書艦である赤城に事情を話しても首を振るばかりで埒が明かない。

 

「ごめんなさい、提督からは何も聞いていないの。それにしてもどうしたのかしら……」

 

 外観が変わったのみならず姉妹からの会話に応じようとしないのはどういうことなのか。

 

「Sorry, I don’t have good idea. でも響の言葉はどこかで聞いたことがある気がするデース」

「本当ですか、お姉様!!」

「ウーン、でも思い出せないデース……」

 

 と、これは同じく騒ぎを聞きつけた金剛の弁。

 しかし有効な手立てを思いつく事の出来ぬまま時間が過ぎ、そろそろお昼になろうかという頃。

 

「うわぁぁぁん!! 響ちゃんが……グスン……電とお話してくれないのです……」

 

 ついに電が泣き出してしまった。

 

「ちょ、ちょっと電!? ああもうしっかりしなさいってば!!」

「コラ!! お姉ちゃんが自分の妹を泣かせてどうするんだ響!!」

「これはちょっとイケナイと思いマース!!」

 

 これはちょっとお灸を据えてやらねばなるまい、と天龍が腕まくりをしたその時だった。

 

 

「――その辺でやめてあげたらどうですか、ヴェールヌイさん」

 

 

 全員が驚いて振り返ると、其処に居たのは湯呑の載った盆を持った雪風であった。

 

「もう、せっかく改造されたからって悪戯しちゃダメじゃないですか」

「「「???」」」

 

 何が何だかわからない、と言った表情で固まる全員に、雪風はネタばらしをしてみせる。

 

「実はですね、響さんは昨日提督に改造されて生まれ変わったんですよ! その名も『Верный』ロシア語だそうですよ?」

 

 事の背景はこうだ。

 戦後、生き残った艦の中には他国へと譲渡された艦が存在する。

 そのうちの一隻が響――のちのВерныйである、というわけである。

 余談ではあるが、同様の経緯を雪風も持っている。

 

「ははぁ、つまり改造を受けて生まれ変わって来たって事か。ビビらせんなよなぁ」

「い、雷はとーぜん最初からわかってたわ!! 嘘じゃないんだから!!」

「あらあら、そういう改造もあるのね。だったら教えてくれればよかったのに」

 

 ネタばらしをされた響改めヴェールヌイはというと、気恥ずかしげに頬を搔きながら足をブラブラさせている。

 

「……いや、少しビックリさせてやろうと思っただけなんだ。ただ、気がついたらやめるにやめられなくなっていてな……」

「うわぁぁぁん!! 響ちゃんが元に戻ったです――!!!!」

「その、なんだ。驚かせて済まなかったな、電。あとで間宮のアイスを買ってやるから許してくれ……」

「……羊羹も一緒じゃないと嫌なのです」

「なっ!?」

 

 雪の如きクールさから一転、一気に頬を赤くしたヴェールヌイに笑いが弾けた。

 互いに信の置ける姉妹だからこその悪戯だったのだろう。悪気はないのだ。

 

 

 ――『Верный』

 北の大地で「信頼」の意を持つその言葉は、なるほど響に相応しいのかもしれない。

 



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青葉、見ちゃいました♪

イベントの難度調整を確実にミスったとしか思えなくなった今日この頃。
張りつき前提では社会人は厳しいと思うのですわい・・・

ところで運営はいつ頃人員を増強するのでしょうかね。
夏イベがあったのだから強化してからイベント来ると思ってました。


「ども! 恐縮です、青葉ですぅ! 一言お願いします!」

 

 青葉型Ⅰ番艦『青葉』は、今日も今日とて愛用の手帳を片手に鎮守府を駆けずり回る。

 鎮守府で一番のうわさ好き。誰が呼んだか、ついた渾名が「重巡型パパラッチ」

 フラッシュあるところには青葉在り。ともすれば出撃するよりネタ集めに奔走する時間の方が長いかもしれないほどの記者根性の持ち主だ。

 

「青葉取材……あ、いえ出撃しまーす!」

 

 もはや艦娘ではなく新聞記者と言った方がしっくりきそうな彼女は、今日も一日、あたらしい噂とネタを求めて鎮守府を疾走するのであった。

 

 

「困りましたねぇ、今日はいいネタがなさそうです」

 

 ある日の昼下がり、青葉は椅子の背にもたれ掛りながら呟いた。

 提督の目を盗んでひそかに発行している「青葉通信」の最新号、その執筆にあたってのネタが無くて困っているのだ。

 

「はぁ、なんていうかこう、皆さんの度肝を抜くようなクレイジーでショッキングなネタはないですかねぇ……」

 

 外で行われている演習などには目もくれず、あーでもないこーでもないと唸る青葉。

 ネタだ。ネタが必要だ。それも並大抵のものではない。

 自分も周りも驚き爆笑するような面白おかしい珍事奇譚が必要なのだ。

 

「いつぞやのボーキサイト行方不明事件はそれなりに反響がありましたが、先週の加賀さんの下着特集はまるで手応えがなかったですねぇ。う~ん誰の下着ならいいんでしょうか……」

 

 方向性そのものがもはや致命的なまでにアウトなのだが、青葉は一向に気にしない。

 命より大切なネタ帳をめくりつつぶつぶつと独りごちる。

 

「え~と、『金剛のBurning Love!』も先月で連載終わっちゃいましたし、新任艦娘のインタビューはもうやっちゃいましたねぇ。あ、『夕張の一押し秋アニメ!』のコメントを頂くの忘れてました……」

 

と青葉は言って手帳を閉じる。

 連載コーナーはいいとして、やはりこのままでは一面を飾る記事が無い。

 

「やっぱりお馴染みのネタが多すぎるんですね。鎮守府暮らしの艦娘なら、爆発オチだって日常茶飯事ですし」

 

 ならばここで目新しくインパクトのある記事を書かなくてはなるまい。

 そう決意した青葉はしばし目を閉じて黙考し、ややあってから妙案を閃いた。

 

「そうです! 解決策なんてすぐにできるじゃないですか!」

 

 かの王妃は言った。『――パンがないならケーキを食べればいいじゃない』

 そして青葉は言った。『――ネタがないならネタを作ればいいじゃない』

 

 

 

 

 そうとなれば早速ネタを作るべく奔走するのが青葉である。

 ステマ炎上バッチ来い。すべては面白い記事の為に――とパパラッチ根性丸出しで青葉は自室に隠していた秘中の秘を開封する。

 

「ふふふ……青葉、見ちゃいました♪」

 

 古めかしい木箱に収められていた秘中の秘。そこに収められているのは、日々の任務で得られる俸給をはたいて買った至高の逸品だ。これをつかえばネタの一つや二つすぐだろう。

 

「いつか必要になると思った超高性能望遠レンズ付きカメラ。いやぁ、買ってよかったですよ」

 

 傷一つなくピカピカに輝くフレームを撫でさすりつつ、青葉はほうっとため息を漏らす。

 このカメラを買うのに何度MVP取った事か……その苦労がついに報われるのだ。

 

「問題はこれで〝なにを〟撮影するかですね……」

 

 パッと思い浮かんだのがスッポンポン状態。入浴シーンを激写するのはどうか。

 しかし青葉は冷静に思考を冷ます。

 

「いえ、女所帯ではさしてインパクトがありませんね。いまさら珍しい物でもありませんし……」

 

 さらりと世の男性を憤死させかねない発言を零しつつ、青葉はさらに思考する。

 あらゆる艦娘を虜にして止まないインパクトある写真とは何か。

 青葉は己の脳味噌をフル回転させ、遂にある秘策を思いついた。

 

 

 

 

 ――数日後

 

 

 提督は困惑していた。それというのも、最近一日中誰かに見られているような気配があるのだ。

 朝起きて、艦隊の指揮を執り、書類を片付け、一服して床に就く。

 その一秒一瞬に至るまでの全てを誰かが見ているのではないか。そんな気がしてならない。

 無論、気の所為であればそれに越したことはない。ないのだが……

 

「Hey! 提督ゥ。意外と寝顔がCuteデスネー! ますますLoveになっちゃいマース!」

「司令官さん、枕が変わると寝られない人なのです?」

「提督、そんなに私の中で火遊びしたいの? それはちょっと困るから第三砲塔には……って何してるの?」

「おっそーい! 提督、夜更かしなんかしてると島風に追いつけなくなっちゃうよ?」

 

 とまあこのように、顔を合わせるたびに本来知りえる筈のない自分の行状まで見てきたかのように話すのだ。大体寝顔なぞどうやったら見られるというのか。

 これは何かがおかしい。しかし、その違和感の正体を掴む事ができぬまま、提督は悶々とした日々を過ごすのだった。

 

 

 

 

「ヒャッホウ♪ まさかここまで発行部数が伸びるとは思いませんでした!!」

 

 青葉は歓喜していた。部屋には刷り上がったばかりの最新号が山と積まれ、乾ききっていないインクの匂いが充満している。カーテンを閉め切った自室で青葉は会心の笑みと共にガッツポーズを決めた。

 

「ここまで簡単にスクープをモノにできると拍子抜けしてしまいますねぇ!!」

 

 果たして刷り上がった新聞には、こんなロクでもない見出しが躍っていた。

 

【激撮!! 我らが提督の一日!! 秘められた提督の素顔を今ッ!!】

 

 つまるところ、青葉の見つけたスクープと言うのは提督のプライベート写真大特集だったのである。花も恥じらう乙女たち、その中にあってただ一人のオトナの男。これが気にならないはずはない。

 青葉の計略は功を奏し、表だって話題になることはなくとも着実に発行部数を増やしていたのだ。昨夜、ひそかに顔を赤くした加賀が新聞を買いに来た時など、青葉は笑いを噛み殺すのに必死だった程である。

 と、そこへ――

 

 

「青葉、ちょっといい? なんだかヘンな匂いがするのだけれど……」

「むむ? この声はもしや……」

 

 歓喜に体を震わせる青葉を現実に引き戻したのは、ドアの向こうから聞こえた声だった。

 声色から察するに古鷹だろう。さてはインクの匂いが漏れていたか。青葉にとっては至福の香りでも、慣れぬ者にはただの異臭である。

 いったん出直してもらおうと青葉は考えたが、それよりも早く古鷹が部屋の中まで押し入ってきた。当然部屋の中は写真と新聞の山なワケで、

 

「うわ、すごい匂い……って、え? これは提督の写真じゃない!! 青葉、これはどういうことなの?」

「あ~、これには色々と事情があってですね……」

 

 この通り、あっさりとバレてしまったわけである。

 発行者が自分であることは既に周知の事実だが、姉ともいうべき古鷹に見つかるとどうにも居心地が悪い。微妙に目を逸らしつつ後退するも、古鷹も負けじとにじり寄る。

 

「ダメじゃない青葉。これは立派な盗撮。ばれたらタダじゃ済まないんだよ?」

「盗撮とは人聞きの悪い。〝たまたま〟〝偶然〟そこにカメラと私が居合わせただけなんですよ!」

「青葉、あのね……」

 

 腰に手を当てて諫める古鷹。がしかし、この場に限って言えばそれは逆効果だったようだ。

 窮鼠猫を噛むの言葉のまま、青葉は古鷹を押し倒す。

 

「フフフ……こうなっては仕方ありません。少し大人しくなって貰いましょう……」

「あ、青葉? なんだか目が怖いよ……?」

「さぁさぁ、大人しくしてくださいね?」

「~~~~~っ!?!?!?」

 

 一体どこから取り出したのか、青葉の手には立派な麻縄が一巻。

 パシンと小気味よい音を立てて縄を鳴らすと、青葉は素早く古鷹を縛り上げて部屋の隅に転がしてしまう。もうこうなってくるとただのテロリストと大差ない。

 ついでとばかりに床に転がっていた手拭いで猿轡を噛ませると、

 

「逃げたらダメですよ? 黙って協力するなら良し、もし反抗するなら……」

 

 ぬかりなく青葉は手持ちのカメラであられもない姿を晒す古鷹をパシャリ。

 もうこれで古鷹は青葉に反抗できなくなったわけだ。

 

「この写真が鎮守府中にばら撒かれてしまいますよ?」

「ムムン……」

 

 猿轡を嵌められてまともに喋れる道理もない。そんな古鷹を見下ろしながら、

 

「ふっふっふ。分かればいいのです。さぁて、思わぬ収穫ですねぇ……」

 

 怪しく微笑む青葉の横顔に、古鷹は戦慄しつつ縛られた体を揺らすのだった。

 

 

 

 

 その時、提督は鎮守府のあちこちを歩き回りながら古鷹を探していた。

 というのも、今月の秘書艦担当は古鷹なのだ。彼女無しでは仕事が進まない。

 だというのに、今日は何故か定刻になっても姿が見えない。根が真面目な古鷹に限ってサボりはあるまいと部屋の前まで来た提督は、ふと向かい側――つまりは青葉の部屋から聞こえてきた物音に耳を澄ませた。ドタンバタンという騒々しい物音がドアの向こうから響いてくる。

 はてこんな昼間からいったい何の騒ぎかと、提督は僅かに空いたドアの隙間から中の様子を覗き見る。

 と、そこには――

 

 

「フフフ……古鷹お姉ちゃんはこう言う格好も存外サマになってますねぇ?」

「~~~っ!! ~~~っ!!」

「暴れちゃダメですよ。さて、今度はこういうアングルにして……」

「~~~っ!? ~~~~~~っ!?!?!?」

 

 果たしてこの光景を何と形容すべきか、提督はとっさに思いつかなかった。

 姉妹同士の仲睦まじい交流と取るべきか、姉妹同士の禁断の交流(意味深)と取るべきか――

 そのわずかな思考の堂々巡りが、青葉と古鷹に異変を気付かせる隙を生んだ。

 

「て、提督……いつからそこに……?」

「………………」

 

 扇情的なポーズで縛り上げられた古鷹に馬乗りになったまま、表情を凍りつかせた青葉が訊いた。

 部屋には大量の盗撮写真。刷り上がったばかりの新聞。そして姉を縛り上げ馬乗りになった格好はどう頑張って解釈してもいろんな意味でアウトだった。

 

「こ、これはその……姉妹同士の些細な行き違いと言いますか、いえ決して姉妹仲の果てに新しい世界を開拓しようとかそういうことではなくてですね……」

 

 しどろもどろになって虚しい弁明をする青葉の下では、涙目になって縛られたままの古鷹が、

 

「ムン……ムン……」

 

 と言葉にならない声を洩らしている。

 その様子を見て、これ以上二人を問い詰めるほど提督も野暮な人間ではなかった。

 そのままの姿勢でそっと優しく微笑むと、生暖かい視線を二人に向けつつ部屋をあとにする。

 

「待って! 待って提督! 話せばわかるんです! そんな目で見ないでえぇぇぇ!!」

 

 悲しいかな、青葉渾身の叫びが提督に届く事はなかった。

 己が罪状と醜態を観られた青葉は、そのままガックリと肩を落とすのだった――

 

 

 

 

 

 ――数日後

 

 

「ちょっと!! 親切そうなそこのアナタ!! 助けてくださいよぉ……」

 

 平和を取り戻した鎮守府には、入渠ドックの入り口にある柱に縛り付けられている青葉がいた。彼女の首にはプラカードがかけられており、『私は盗撮をした悪いパパラッチです』と提督直筆で書かれている。

 

「あら、ずいぶん可愛い格好をしているわね」

「加賀さん!! お願いだから解いてくださいよ~!!」

「そうね、貴方が勝手に下着を盗撮しないと誓ってくれるのなら考えてもいいのだけれど……」

 

 と、言いながら加賀は通り過ぎてしまう。この分だと十数時間は入渠だろう。

 他の艦娘たちの反応も似たり寄ったりで、「フフ、恥ずかしいか?」だの、「精々がんばりなさい」というばかりであった。

 

 

「誰か……誰か私を助けてくださいよおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

今日も鎮守府は平和です(ニッコリ)

 



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加賀さん、料理をする

たぶん最初は下手くそな癖にメチャクチャ上手くなる子だと思いマス、はい。


 人は誰しも秘密というものを持っている。

 後ろ暗いものでなくとも、なんとなく他人に知られたくない事というのは誰にでも存在するのだ。

 そしてそれは、日々を闘いの中で過ごす艦娘たちとて例外ではない。

 花も恥じらう乙女な彼女たちも、それぞれがそれぞれに秘密を抱えているのである。

 

 そう、例えば普段はクールな彼女にも――

 

 

 

 

 

「何か相談? いいけれど」

 

 ある日の午後の事である。

 今月の秘書艦を務める加賀は、書類整理に勤しむ提督からある頼まれごとをされた。

 それというのもの他でもない。出来れば今後は夜食を用意してほしいというものだった。

 夜遅くまで書類と格闘する提督である。確かに夜食は必要だろう。だが……

 

(わたしが……料理……)

 

 その名も高き一航戦。容姿端麗、頭脳明晰、文武両道と三拍子そろった加賀である。

 大抵のことは出来てしまうし、やろうと思ってやれぬことなどまずない。

 だがしがし、そんな彼女にもたった一つだけ苦手なことが存在するのだ。

 

 ――料理、である。

 

(これは拙いことになりました)

 

 なにしろ普段は闘いの中に身を置く艦娘である。料理などしたこともないし、する暇もない。

 一応、お湯を沸かしたり卵を溶いたりする程度のことは出来るが、それを料理とはいえまい。

 しかし他ならぬ提督からの頼み事だ。出来れば誠心誠意応えてあげたい。だがどうすれば……

 いくら悩んだところで解決策は出てこない。

 加賀は悶々とした気持ちを抱えつつ、司令室をあとにしたのだった。

 

 

 

 ――次の日

 

 

 

「――というわけで、助けてください間宮さん」

「え、ええっと……どうしたのかしら加賀さん……?」

 

 翌日、加賀の自室には給糧艦『間宮』の姿があった。

 アイスや羊羹を手土産に久しぶりに鎮守府へやって来た彼女は、目にクマを作って待ち構えていた加賀によって拉致され、そのままここへ連れてこられたのである。

 

「間宮さん、料理、上手。助けて」

「そうは言われてもね、わたしにもお仕事があるし……」

 

 目に隈を作って正座した加賀は、元が美人なだけになかなかどうして一種異様な迫力がある。

 会話が単語レベルまで低下している辺りで察してほしいが、加賀は昨日から一睡もしていない。

 

「他の方ではダメなの? ほら、赤城さんとか」

「ダメです。赤城さんは食べる方です」

「あっ……」

 

 加賀が間宮を強引に拉致したのには、実はそれなりの理由があっての事だった。

 昨晩、加賀はなんとか頼みごとを完遂すべくこっそりと厨房へ侵入し、慣れない手つきで包丁を握ったのだ。

 無論、ロクに料理などした事の無い加賀のやる事であるから、出来栄えのほどはお察しの通りである。

 精いっぱい努力した差し入れを食べた提督は、妙に引き攣った笑いを浮かべて、美味しいよ、と言ったが、その時の加賀の心中は察するに余りある。

 そのまま悔しさと悲しさで一睡もできず、さりとて料理下手という女としては致命的な秘密を大っぴらにもできず、一晩泣き明かした末に辿り着いた結論が間宮に教えを乞うという方法だったのだ。

 

「お夜食程度なら簡単なものがいろいろあるけど……」

「ほ、本当ですかっ!?」

「でもごめんなさいね。明日、別の鎮守府の方へ行かないといけないの」

「そんな……」

 

 それでは料理を教えてもらえないではないか……

 目に見えて意気消沈する加賀に、しかし間宮はにっこりと笑って一枚の紙を差し出した。

 

「……?」

「大丈夫。私は教えてあげられないけど、教えてくれる人なら知っているの」

「このお店の名前……もしかして!?」

「ウフフ。たぶん、この鎮守府で一番のお料理上手よ。きっと教えてもらえるわ」

 

 はいお土産、と羊羹を手渡すと、間宮はそのまま提督にあいさつを済ませまたどこかへ行ってしまった。今頃は妖精さんあたりでも労っているのかもしれない。

 一人残された加賀は妙に呆然としつつ、先ほど渡された紙に目を落とす。

 そこには見知った大先輩の名前を冠した、小料理屋の名前が書かれていた――

 

 

 

 

 

 ――夜

 

「ここが、間宮さんから貰った地図にあったお店……」

 

 その日の夜、加賀は秘書艦業務を赤城に代わってもらい、さっそく貰った地図にあった店へとやって来ていた。

 鎮守府前の通りを何度か曲がった路地裏に、果たしてそのお店はあった。

 

――『小料理屋 鳳翔』

小粋な店の暖簾に踊る鳳翔の二文字は、ほかならぬ加賀の大先輩、軽空母『鳳翔』のことである。そう言えばいつだったか自分のお店を持つのが夢だという話を聞いたことがある加賀だったが、まさかこんなところにあるとは……

 どうやら営業中と見えて店の明かりは点いたままだ。一人で入っていくには少々気後れしないでもなかったが、行かないことには始まらない。加賀は深呼吸を一つすると、店の暖簾をくぐった。

 

「いらっしゃい――って、あらあら、珍しいお客さんですね」

「こ、こんばんは……」

「うふふ。そんなに緊張しなくてもいいのよ。空いている席に座ってくださいな」

「お、お言葉に甘えて……」

 

 滅多なことでは表情すら変えない加賀も、鳳翔の前では借りてきた猫も同然である。

 お通しで出された煮物に箸をつけつつ、加賀はこちらに背を向けている鳳翔を見やる。

 さすがに店を出すだけあって、料理の味もさることながら手際に一切の無駄がない。

 

「そんなに見られちゃうと緊張してしまいますね」

「い、いえ!! これはその……実は……」

 

 箸を持ち上げたままボーっとしていた加賀は我に返って顔を赤くするが、鳳翔はさして気を悪くした風もなく穏やかな笑みを絶やさない。このあたりの抱擁感というか安心感はさすがである。

 

「ふふ、間宮さんから聞いていますよ。提督にお料理を作ってあげたいのですよね?」

「………はい」

 

 まさか先方から切り出されるとは思っていなかったが、切り出せずにいたのは加賀だ。

 意を決して顔を上げると、加賀はまだ自分に料理の経験がないこと、それでもなんとか提督に手料理を食べさせてあげたいことをつっかえつっかえになりながら説明した。

 鳳翔は、そんな加賀の様子をじっと見つめながら時折相槌を打って話を聞き、ようやく話が終わって事の次第を把握すると、おもむろに表の戸を開けて暖簾を下ろし始めた。

 

「お話はよくわかりました。では、今日は少し早いですけれど店仕舞いにしましょう」

「え、でもそれでは鳳翔さんのお店が……」

「いいえ。今一番大事なのは加賀さんがキチンとお料理を勉強すること。そうですね?」

 

 穏やかな、しかし有無を言わせぬ口調で言うと、鳳翔はそっと加賀の手を取っていった。

 

「さあ、今夜から厳しくいきますよ。やるときは、やるのです!!」

 

 こうして、加賀と鳳翔の料理修業は人知れずに始まったのである。

 

 

 

 

 

 ――数日後

 

「やりました」

 

 夜もすっかり更けた鎮守府の廊下では、会心のガッツポーズを決める加賀の姿があった。

 それもそのはず。短期間であったとはいえ、鳳翔の優しくも厳しい料理修業は確実に成果を出したのである。

 最初は夜食(仮)であった謎の物体からの進歩は目覚ましく、最初はおにぎりから始まり、簡単な味噌汁から雑炊などもできるようになり、今ではきちんと提督に温かい夜食を出せるようになったのである。

 

「思えば壮絶な道のりでした」

 

 鳳翔の店に通い詰め、包丁の持ち方ひとつから徹底的に叩き込まれ、出汁の取り方、火加減からさじ加減、あらゆる基礎を骨の髄まで染み込むほどに教え込まれた数日。その厳しい修行の甲斐あってか、昨晩作った茶わん蒸しは自分でも納得の出来栄えであった。明日辺りは冷え込むだろうから、小鍋なんかを用意してみるのもいいかもしれない。

 

「さすがに気分が高揚します。提督もきっと喜んでくれたはず……」

 

 とはいえ犠牲がなかったわけではない。指は切り傷だらけだし、鳳翔の店にあった皿も何枚か割ってしまった。鳳翔は決して怒らなかったけれど、そのたびに加賀は鳳翔の言い知れぬ威圧感に満ちた笑顔を向けられて密かに戦慄していたのだった。

 

「次は何を作ってあげようかな。」

 

 ちなみに今夜の夜食は鮭のあら汁だ。鳳翔から伝授された、とっておきの一品である。

 今夜はこれで温まってもらえるといいな、と柄にもなく頬を緩めながら執務室の戸をノックする。

 

(…………?)

 

 反応がない。留守にするとは聞いていないし、まさかサボっているわけでもあるまい。

 訝しんだ加賀がそっと戸を開けて中に入ってみると――

 

「あ――」

 

 そこには、椅子に背を預けたまま眠っている提督の姿があった。

 ふと時計を見ればもう午前零時をとっくに過ぎているではないか。これでは寝てしまうのも仕方ない。

 全く困った人だと思いつつ傍に寄ってみると、机の上になにか小さなメモ紙があることに気がついた。起こさないようにそっとメモ紙だけを抜き取ってみると……

 

「えへへ……ここは譲れません」

 

 そっと提督をベッドまで抱えていくと、加賀は部屋の照明を落としてそのまま司令室を辞した。そのまま誰もいない廊下を歩きながら、加賀は何度も何度もメモ紙を読み返しては頬をゆるめてばかりいた。

 

 

 その夜を境に、加賀の料理修業には一層熱が入るようになった。

 あの日の料理下手はどこへやら、今では鳳翔の店を手伝うほどに上達している。

 これにはさしもの鳳翔や間宮ですらも舌を巻いたほどだった。

 

「鳳翔さん、熱燗には何があうんでしょうか?」

「えっ、熱燗ですか? そうですねぇ……」

 

 

 そうそう、加賀が一層料理修業に励むようになったその理由。

 何度となく鳳翔や間宮に聞かれたのだが、加賀はそれを教えなかった。

 結論から言えばそれは例のメモ紙のメッセージのおかげなのだが、加賀がそれを他人に教えることはないだろう。なぜならそれが、加賀の「秘密」なのだから――

 



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夜の火遊び

ついにエロネタになりました。百合万歳!


「お、おい! やめないか、陸奥!!」

「なによぉ、寒いんだから一緒に寝てくれてもいいでしょぉ。どぉせ長門姉だっていっつも私の布団に入ってくるんだしぃ……」

「いいわけあるか!! こ、この酔っ払いが……!!」

 

 ある寒い日の夜である。

 提督から貰った酒を味わってから、いい具合に酔いが回ってきた陸奥を抱えて布団まで運んできた長門だったのだが、さすがに酔っ払いを抱えて自室まで戻るのは骨が折れ、そのまま布団に倒れ込んでしまった。そこへ酔った陸奥がにじり寄って来たのである。

 

「酔ってなんかないわよぉ!! 一緒に寝てくれてもいいじゃない……」

「お、お前なぁ……」

 

 正直なところ、陸奥を押しのけることくらいは造作もない。

 とはいえ妹をぞんざいに扱うのは躊躇われたし、長門にしたところでだいぶ酒が入っていた。

 ここが陸奥の部屋でさえなければそのまま眠ってしまっていただろう。

 

「ええい、放せ陸奥。あんまり絡みつくな!」

 

 そうは言うものの陸奥は一向に離れようとせず、ますます長門に密着する。

 すっかり崩れてしまった寝間着の胸元からは、艶めかしく火照った肌が覗いている。

 

「やめろ、陸奥……いい加減苦しいぞ……!」

「なによぅ、いいじゃないこれくらい……それとも、一緒に寝るだけじゃイヤなの?」

 

 悪戯な笑みを浮かべて囁いた陸奥の横顔を見て、長門はふと思った。

 ここでいっそ「そうだ」と言ってみてらどうだろう、と。

 いつもはこの手の言い回しで散々からかわれてきた長門である。こういう時くらい仕返しをしても罰は当たらないだろう。肩透かしを食らった陸奥はどんな顔をするのか。

 酒に酔った頭で導き出した回答を、長門は意地の悪い笑みと共に返す。

 

「……そうだな、ただ寝るだけというのも面白くないだろう?」

 

 してやったり、と笑みを浮かべる長門だったが、しかし陸奥の反応は冷静だった。

 その代り、予想もしない行動で長門の口を封じてきた。

 

「へぇ……」

 

 陸奥は短くそう言うと、困惑する長門の唇に吸いついた。

 

「んん……ッ!?」

 

 くぐもった声を陸奥が洩らす。

 予想だにしなかった反撃で、長門の頭は真っ白になっていた。

 たまさか自らの妹に唇を奪われることになるなど、一体誰が想像しよう。

 しかも陸奥のキスは唇を重ねるだけの生易しいものではなかった。舌を滑り込ませ、絡め合い、貪欲に口内を蹂躙する荒々しいものだった。呆然としたままされるがままになっていた長門は、抵抗らしい抵抗もできずに陸奥の舌を受け入れざるを得なかった。

 

「ぷはぁ……」

 

 長い長いキスが終わって、ようやく陸奥が顔を上げた。

 頬が赤いのは決して酒のせいだけではあるまい。その証拠に、長門を見下ろす陸奥の瞳には、

背徳の興奮と嗜虐の喜びが炎のように燃えている。陸奥が「その気」であることは誰の目にも明らかだった。

 

「ま、待ってくれ、陸奥……」

「やぁだ。待ってあげない」

 

 陸奥の手が長門の着る寝間着の帯にかかった。

 震える手で帯を押さえ、潤んだ瞳で懇願するも、どうやら陸奥相手には逆効果だったらしい。

 

「長門姉の指……綺麗……」

 

 ほんの一瞬、小悪魔めいた笑みを浮かべた陸奥は手を止めると、帯を押さえる長門の手を取って撫で擦ると、唐突に白く細い長門の指を口に含んだ。

 

「う、うあ……ッ……や、やめ……!!」

 

 切ない喘ぎ声が長門の口から洩れた。

 だがしかし、陸奥にはやめる気持ちなんて全くない。長門の反応にますます興奮を高めると、これ見よがしに舌を絡め、淫猥な水音を隠そうともせずに舐めまわす。

 

「む、陸奥……お前……」

「大丈夫。私に任せて」

 

 蠱惑的な舌使いの余韻を残す声でそう言うと、陸奥は再び寝間着の帯に手をかけた。

 帯がほどけ、裸に剥かれていくその間、長門は妙にぼうっとした気持ちのまま陸奥を眺めていた。

 

「長門姉、震えてる」

「そ、そんなことは、ない……」

「嘘ばっかり。もしかしてはじめてなの……?」

 

 こんな陸奥、今まで見たことなかった。

 優しくて、気立てがよくて、でもちょっとうっかりしたところのある陸奥しか、長門は今まで知らなかった。こんな、女としての陸奥の姿など――

 

「胸もおっきいし、肌もスベスベだし、髪もきれいだよね」

「陸奥……」

 

 何か言わなければと思うのに、張りついたように言葉が出ない。

 身体は熱く火照っていて、頭は霧がかかったようにぼうっとして。

 もう、すっかり腰砕けになってしまった。

 

「陸奥……陸奥……」

 

 自分の声とは思えないほど情けない声。涙声とも震え声ともつかぬその呼びかけに、

 

「なぁに?」

 

 凄艶な笑みを浮かべた陸奥は、これ以上ないほど艶っぽい声で答えた。

 

「や、やさしくしてくれ……」

「どうしようかしら。長門姉、激しいのも好きそう」

 

 こんな、自分の妹に組み敷かれて体を求める日が来るなんて、思ってもみなかった。

 でも、いまはどうでもいい。ただひたすらに陸奥の温もりが欲しかった。

 

「は、はじめてなんだ。その、やさしくしてくれ……」

「ふぅん……?」

「お願いだから……やさしいのが、いい……」

「……そう、じゃあ仕方がないわね。できるだけ優しく、ね……でも、あんまり長門姉が可愛いと、わからないから」

 

 そう言って、陸奥は長門の体に覆い被さった。互いの温もりを混ぜ合わせるように密着すると、陸奥は秘め事を耳打つように唇を寄せてこう囁いた。

 

 

 

「それじゃあ……一緒に火遊び、しよっか――――?」

 



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