老練少年兵と氷川さん (ちりめ)
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老練少年兵と氷川さん

できる限りバイトくんこと主人公の立場は史実に合わせて行こうと思いますが、そこまで世界大戦を勉強してるわけじゃないから完璧にあってるわけじゃないことを…

8/10 行とプロフィールに少し変更。我ながらしょうもない


あの日、最後の最後までどうしようもなかったクソ野郎がいなくなって、俺は歳には似合わない血と火薬の映画にありそうな表現がぴったりな匂いの中、泥だらけのまま、屍と、そして今にも屍に成り果てんとする、短い付き合いながら気の許せる、言うなら友とすら呼べたかもしれない皆の悲鳴と怒声の中、無謀とも呼べる突撃に乗り出した。

 

 

それから時は経ち、ゆうに70年は経っているだろう。

今、俺はあるライブハウスでバイトとして働いている。

勿論、平凡な大学生だ。特に話すべきことなど絶対にないと断言できてしまうほどに。

それでも、なにか話すとなると、まぁ、所謂自分の前世を知ってるとかいうテレビでやってるやつの類いだ。

ただ、質の悪いことに、その記憶はよくある数年後に取材にまた訪れるとその子は前世を語らなくなり、綺麗さっぱり忘れている。という比較的霊的にも理にかなった結論にはいまだ辿り着けず、幼少期を過ぎて尚も消え去ってはくれず、19の俺の中にまるで最初からいたと言わんばかりに居座ってしまっているのが前世の俺、第二次大戦を生き延びた元米陸軍第1歩兵師団所属、エドワード・バーダー。

 

まぁ、実際には第1歩兵師団ではあるが、一次大戦には参加していない。参加したのは1944年の3月17日。当時19歳。イカれてるとは我ながら?に思ってしまう。

それでも、初陣は第1歩兵師団ではなく、第9歩兵師団として、カセリーヌ峠だった。ドイツが少しでもあそこから侵攻していたら初陣であえなく死ぬ所だった。

意外にもその後からツケはつき始めた。

 

 

 

「おー、相変わらず頑張ってるねー。なんにでも頑張ってできる男の人はポイント高いと思うよ!」

 

従業員専用扉から労ってるのか口説いているのかよくわからない声かけをしながら姿を現したのは、俺を雇ってくれた月島まりなさん。よくわからない人。率直な印象はこんなものだったが、仕事にはしっかりと取り組むタイプの人で、今では尊敬の念すら彼女には抱えている。

 

まりな「あっ、そうそう、そろそろRoseliaのみんながでてくるから、鍵を受け取って、次はいつ来るかの予約確認もお願い。」

 

さらっと次の仕事を俺に与えてくるまりなさん。使われてる感が否めないが、俺はその仕事を受ける意を示す返事を返す。

 

「はい。わかりました。こっちももうじき終わりますんで、すぐに変われます。」

 

そう言うのを狙っていたかの如く、このライブハウスを利用するガールズバンドの一つ、Roseliaの面々がわいわい話しながらでてくる。

 

「ありがとうございました。今日も遅くまですいません。」

 

「あぁ、お疲れ様。気にすることないよ。そんなことより、気を付けて帰りなよ。」

 

こういうと意外にも素直に5人のメンバー全員が返事を返してくれる。

 

「はい、ありがとうございます。」

「うん!大丈夫だよ!」

「いつも…その、ありがとうございます。」

「うん、ありがとねー。」

「わかってるわ。悪いわね、いつも。」

 

丁寧な口調で返事をしながら俺に練習部屋の鍵を渡してきた彼女は、Roseliaでギターを担う氷川紗夜。彼女の名、氷川にはなにかと古い縁のようなものを感じている。

 

「それで、今週末は練習に来れないのね、紗夜?」

 

紗夜が確認をとらねばならない練習不参加をするなど、珍しいこともあるものだ。

 

紗夜「ええ、そうです。すみません、湊さん。」

 

紗夜が確認に頷いた相手は、Roseliaでボーカル担当であり、プロにも認められる本格派バンドを束ねる湊友希那だ。

 

「なんかあんの?」

 

俺も気にならないと言えば嘘になるのだ。

 

紗夜「ええ、週末に祖母のお墓参りに。」

 

なるほど。もうそんな時期だったか。結局一度も大戦の仲間たちに会いに行っていないことをここで突き刺さるほど思い知らされるとは。その時、何気なく思い出した疑問を紗夜にぶつけてみる。

 

「なぁ、紗夜。失礼なのは重々承知な質問なんだけどさ、君のじいさんの歳と名前、教えてもらっていい?」

 

紗夜は少々よくわからないといった顔をしたが、すぐに答えてくれた。

 

紗夜「あっ、ええと、はい。歳は80で、氷川博信といいます。」

 

まさかのビンゴだ。この奇縁には乗っかるべきだろう。

 

「なぁ、紗夜。もう一つ頼まれてくれるか?」

 

紗夜「?なんでしょう?」

 

「俺をさ、その墓参りに同行させてくれないかな?」




プロフィール
名前 鷹住 劉磨 (たかすみ りゅうま)
誕生日 4月23日
血液型 AB
星座 牡牛座
身長 181cm
好きなもの ガム、うどん
嫌いなもの にんじん、ピーマン (エドワードが嫌いだったのを引き継ぐ形で嫌っているが、エドワードが嫌ったものはにんじんのみ。ピーマンは彼自身が嫌っている)
こんな感じの人。


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個人差

後書きに前回出てきたバイト君の初陣ことカセリーヌ峠の戦いをさっぱりまとめました。詳細が気になったらウィキで調べてください。(投げやり)


紗夜視点

 

この人は、唐突に何を言っているんだろう。普段から様々な場面でお世話になっているが、こんな要求はさすがに困る。確かに、彼には幾度となく愚痴をこぼしてしまっていた。

相談したこともあった。日菜とのことも。バンドのことも。そんな時、いつも黙って聞いてくれて、でも、アドバイスには常に中立の意見をくれた。時には解決する気などあるのかというような意見もあった。そんな時に怒鳴ってしまったことも、笑ってしまったことも。でも、彼の今までの恩義には答えるべきだろう。しかし、いくら尊敬するといえど、家族に確認をとらずに了承はできない。

 

 

 

 

 

 

 

「すいません。家族に確認をしてからでも大丈夫ですか?」

 

すると彼は自分から聞いておきながら少々驚いたような顔をして、いつもの自信のなさげな微笑を浮かべながら「悪いね」と軽い口調で返事をした。

 

Roseliaの皆から付いてこれないという戸惑いの空気を感じる。当然だが、私も戸惑っている。寧ろ戸惑いの空気の源泉は私からであるような気もしてしまう。

 

「…もしもし、紗夜、どうかしたの?」

 

電話には母が応じてくれた。安心、とはいかないが、日菜がでていたら、面倒なことになっていたかもしれない。

 

「お母さん?週末の外出に同行したいって人がいるの。」

 

「あら、そうなの。もしかしてバンドの皆?」

 

「いえ、ちが「紗夜さん!あこたちも行きたいです!」宇田川さん?!」

 

友希那「紗夜。私からもお願いするわ。迷惑なのはわかってる。でも、折角のRoseliaなのだから、ね。」

 

「湊さんまで…宇田川さん、何か湊さんに言ったんでしょう?」

 

あこ「えっと…その、Roseliaの皆と一緒でないと出来ないことがたくさんあるって考えちゃって。ほら、タカ兄が行けるなら~って、思っちゃって…その、ごめんなさい!」

 

「…いいのよ、宇田川さん。お母さん、五人なのだけど、大丈夫?」

 

「あら、四人じゃないの?誰か来るの?」

 

「ええと、私たちがいつも練習しているライブハウスの人…なのだけど。」

 

「ふ~ん、わかった。お父さんに相談してみる。」

 

そして通話を終え、とりあえず皆にそのことを伝えた。

 

あこ「本当!?ありがとう紗夜さん!」

 

燐子「あの……ありがとう、ございます。」

 

リサ「ホントにごめんね、紗夜。」

 

友希那「ありがとう、そしてごめんなさい、紗夜。これは私の我儘でもあったの。」

 

「なんか大分でかい話になったね、その、我儘なのはわかってるんだけど、ごめん。最悪、足ならこっちでも手配するからさ。」

 

皆口々に感謝と謝罪を告げ、彼に至っては足の用意までしようとしてくれている。

兎にも角にもその日はここで打ち切りとなり、それぞれが帰路についた。

最近の暑さも夜には引いて、涼しい風が吹いていた。

 

「ただいま。」

 

「あら、おかえり。もう夕飯だからね。」

 

家に帰りつくと意外にも早い夕飯であり、すぐに席に着くようにうながされた。

そして夕飯になると、地雷を踏んでいたのは日菜と自分であることを思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紗夜、どうかしたの?」

 

「日菜…」

 

日菜「ごめんなさい…おねーちゃん…」

 

きっと彼のことは日菜から両親は聞いていたのか、夕飯には赤飯がでていた。

 

「紗夜もそんな相手がいるなんて、もう聞いたときはおどろいたわ」

 

大変な事態になってしまった

 

 

 

日菜視点

 

やっぱりおかしーと思ったのに、なんでタカさんのこと言っちゃったんだろあたし…

お母さんに聞かれて、ついつい仲が良いからって、話しすぎちゃった…おねーちゃん、顔真っ赤だもん。

悪いことしちゃったな。また、変に場を乱しちゃったかな。タカさんは空気を読んで行動することが必ずしも身を助けることはないって言ってたけど、絶対今は違うよね?とりあえずなにかしらおねーちゃんと話さないと…

 

紗夜「日菜?」

 

「わっ、え、お、おねーちゃん、なに、かな?」

 

あからさまに挙動不審だよ!どうしよう!?

 

紗夜「気にすることはないわ。彼、用があるのはおじいさんなの」

 

「え?おじーちゃんなの?」

 

紗夜「そうよ。だから、あまり気にする必要はないわ。」

 

「え、うん、わかった…ありがと」

 

な、なにかな?ここのなんとも言えない雰囲気




カセリーヌ峠の戦い
第二次世界大戦(チュニジア戦線)
1943年2月19日~2月25日
チュニジア、カセリーヌ峠
枢軸国の勝利

この戦線では、アメリカの対戦車戦の経験の少なさ、それに伴った効果の薄い対戦車攻撃が仇となり、初日から撤退を強いられた。また、上層組織に支援を要請したのにも関わらず、防衛線をドイツが突破した後に前進命令が出されたことでの混乱により、さらに打撃を受けた。その後はドイツの進攻に対し勢いを落とせないことにより士気の低下、撤退するものの、残されたアメリカ兵の抵抗により、ドイツの進攻は少しずつ鈍った。2月21日にはテベッサへ繋がる道の近くの町のすぐそばに至っていた。もし町が制圧されていればアメリカ第9歩兵師団は北部との補給線を断たれていた可能性があった。
しかし、フランス、イギリス、アメリカの混合軍の到着、並びに第9歩兵師団所属の重火砲、約48門が配備されたこともあり、翌日には連合軍の防衛力は飛躍的に向上していた。その後は、連合軍の巻き返しもあったものの、最終的に枢軸国の勝利で幕を閉じた。この結果はアメリカの指揮官の戦地における指揮能力の教育の大穴を浮き彫りにすることとなった。


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お客様

投稿はクッソ遅いよ。というよりハーメルンの使い方よくわからん。


こうして俺は週末の予定を入れるという内容によっては学生泣かせの任を果たし、翌日。

今日は各バンドが集まり、ライブハウスの使用に関しての会議をする日だ。会議とはかけはなれてるけどね。毎週やって飽きないのか?俺は3週目には飽きてた。しかし、それでも俺がほぼ外のカフェ要員からライブハウスの本職(バイト)をするためには彼女たちがいなくては始まらない。

………よくよく考えたら俺どうしようもない奴だな

 

「ガキども~。なんか注文ある?」

 

このいつも通りの注文の受け取りには真っ先にAfterglowが反応する。まぁどんな奴かはわかるでしょ(思考破棄)

 

ひまり「はいはい!じゃあパンケーキセット!あっ、紅茶でね!」

 

「りょーかいりょーかい。ええっと、200kcに紅茶ね。はいはい」

 

ひまり「ッく…酷い…そんな風に痛いとこまで刺すからいまだに独り身なんだよ!」

 

「へーへー。これでもモテてます~。教授から依怙贔屓されてます~」

 

ひまり「それ前に推薦留学で指名されただけじゃないですか!優秀な学生なのとモテる気遣いのできる男性は違うんです~!」

 

「んだと、これでも今度の交流試合は副将だぞこちとら」

 

ひまり「いよいよ何の話!?」

 

やはりひまりは弄りたい放題でおもしろい。剣道、弓道と色々やってるが、基本何事もそこまで長くは続いてない

 

蘭「じゃあ、コーヒー」

 

友希那「私も」

 

「はいはい、背伸びしても伸びないよ?」

 

蘭・友希那「……」

 

逃げよう

 

「他は?俺、命乞いは安いプライドが邪魔してできんから逃げ道をくれんか?」

 

あこ「じゃあ、あこはイチゴクレープ!りんりんはチョコケーキとコーヒーで!」

 

「かしこまりました。イチゴクレープ、ケーキセットのチョコとコーヒーをそれぞれおひとつずつですね。」

 

彩「この対応の差…あはは。私は紅茶で」

 

「おっけ。子供には礼節を教えるのが年上の責任だと思うんだよ。というわけで彩、ボストン茶会事件は何年?」

 

彩「え?ボストン茶会…事件?」

 

「ご注文どうぞー。」

 

彩「え?無視?!」

 

千聖「私と花音、麻耶ちゃん、イヴちゃんは紅茶でお願いします」

 

「紅茶4杯ですね、ありがとうございます」

 

たえ「わたしは「昆布茶ですね」うん、そう。凄いね、お兄さんやっぱりわかっちゃうんだ」

 

「お前毎回昆布茶じゃん。えーりみりんはチョココロネとして」

 

りみ「ええ!?なんでわかるんですか?」

 

「素で言ってるならお前も大概だな」

 

モカ「モカちゃんは~、「お前は後でな」とりあえず「後だっつってんだろ」ぶ~。こんな美少女の言葉を遮るなんて…」

 

巴「まあまあ、アタシとつぐはアイスコーヒーで」

 

「おっけおっけ」

 

紗夜「わたしはアイスカフェラテで」

 

「えーと、紗夜と日菜はアイスカフェラテね」

 

日菜「さっすがタカさん!やっぱりるんっ!ってくるよ~!」

 

「日本語でいいぞ」

 

紗夜「……鷹住さんもよくわからないわ」

 

「ハロハピの奴らはケーキセットね」

 

こころ「あら!凄いわね!言いたいことがわかるなんて、どんな魔法使ったの?」

 

「えーとだな、慣れだよ慣れ。花音は紅茶、市ヶ谷と美咲は緑茶な」

 

花音「ふぇ?」

 

有咲「なんで私だけ下の名前じゃないんだ…」

 

「……知らね、まあ細かいことばっか気にしてると人生損だぞ有咲」

 

有咲「きゅ、急に名前呼びすんな!」

 

美咲「なんか色々注文多いですけどメモしないんですか?」

 

「めんどい」

 

美咲「覚える方が面倒じゃ…」

 

「短絡的なんだよ俺は~。沙綾はこの日はここで昼食べるからサンドイッチランチ、香澄はアイスだな。」

 

沙綾「ええ、いつもすみません」

 

「いーのいーの菓子ばっか作ってたら脳が融ける」

 

香澄「そうそう!こないだの新作!」

 

「さーて、リサちー、なんにする?」

 

リサ「たまにその呼び方するよね、好きなの?」

 

「語呂がいい」

 

リサ「そっかー。できれば別の理由が良かったなー。」

 

「?よくわからんからスルーするわ。」

 

リサ「せっこーい。もう、クリームソーダでお願いね♪」

 

モカ「ふっふっふっ~。これでモカちゃんの番なのだ~。というわけ「チョココロネ10個な」え~少ないよ~」

 

とりあえず注文を切り上げ、今更感の凄い営業スマイルで注文を復唱する

 

「それでは、ご注文の方を確認させていただきます。

パンケーキセットに紅茶、クリームソーダ、サンドイッチランチ、ミントアイス、昆布茶、イチゴクレープをそれぞれおひとつずつ、ケーキセット4つ、おひとつはチョコとコーヒー、アイスコーヒー、アイスカフェラテ、緑茶、コーヒーをおふたつずつ、チョココロネを11個でよろしいでしょうか?」

 

美咲「ホントに覚えてるよ…」

 

リサ「えっと、はい」

 

そこまで言い終えると俺は今日一番に明るく、演技に見せかけない自然な笑顔を浮かべて口を開く。

 

「かしこまりました。しばらくお待ちくださいませ」

 

モカ「おおー。いい笑顔~」

 

沙綾「これが営業スマイルかぁ」

 

日菜「すごくるるるんっ!って来たなぁ!」

 

リサ「ホントに男の子なのかな…」

 

嫌味な奴らだ

 

 

 

 

 

 

 

ひまり「やっぱりおいしいね!これだけお菓子作りも上手な人を彼氏にしたいなぁ」

 

「生涯独身宣言とかマジで言ってる?」

 

ひまり「ひっどーい!もしかしたら自分が釣り合うかもーって思ったりしないんですか?!」

 

「自意識過剰な奴は老若男女関係なしで嫌いなんだ」

 

巴「中々ハードな言い返しだな」

 

「ふっかけたの俺だけどね」

 

巴「ハハハ。鷹住サン、やっぱりあんた、おもしろいな」

 

「そりゃどーも」

 

こんな風に会議でもなんでもないな…茶会だ茶会。

会話に混ざりながらクレープを焼こうとすると、店のそばに三人組の客が入ってきた

 

客「失礼、こちら、空いてますかね?」

 

おっ、珍しい客だな。お堅い格好しちゃってさ

 

「ええ、こちらの席にどうぞ」

 

とりあえず客を別の席に移動させ、メニューを渡す。

 

「お決まりになりましたら、お呼びください」

 

客「ああ、ありがとう」

 

「いえ、では」

 

ど真ん中のおっちゃんしか喋ってねぇや。しかも外人…うちのカフェもこんな人気かぁ…俺暇すぎね?

 

あこ「タカ兄!あこのクレープはやく~」

 

「わーってるわーってる。あっ、そうだひまり、沙綾」

 

ひまり・沙綾「はい?」

 

「いやさ、ケーキの新作作ってみたからひまりに感想お願いしたいなーってのと、うちでも少しパン焼こうと思ってるからさ、アドバイス頼める?」

 

ひまり「おっけー、任せて!ひまりちゃん採点は厳しいよー!でも、ダイエット…」

 

沙綾「あはは。まぁ、わかりました。できることならやってみます」

 

「さっすが!そう言ってもらえると思ってた!愛してるぞお前ら!」

 

ひまり「えぇっ!?……ど、どうも…///」

 

沙綾「ま、まぁ…そこまで言われたら…頑張ります…///」

 

顔あっか…俺やらかしたな…今の発言はやりすぎたかな…貞操観念の低い奴に見られたか…?

 

客「注文、大丈夫かね?」

 

「えっ、ああはい!今行きます!あこよ、許せ!」

 

あこ「えっ?えぇ!?えぇ~~!!」

 

下を向きっぱなしの二人と嘆くあこを置いて注文を受けに向かう。ここのカフェテリア俺だけだもんなー。もっとバイトが…足りん…

 

「お待たせいたしました。ご注文をどうぞ」

 

客「元気そうだな…」

 

「あはは。まぁ、それなりの付き合いですので…」

 

客「孫を連想するよ…あの子達のことを言えばな…もっとも、今の言葉は君に言ったのだよ」

 

「は、はぁ…と、言いますと?」

 

客「元気にしてたかね、スコット君」




ちなみに彼はエドワード・バーダーですが、伏せる形で名前はエドワード・S・バーダーだったりします


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お集まり

評価とか、お気に入りとか、まぁようやくページの見方が分かった私。なんかこんなクソみたいなのにありがとうございますね。更新遅いんで、期待はそれなりしてもいいかもしれないけどやっぱしすぎはよくないよ。自意識過剰だね。論外だね、コイツ


死んだ老兵を今更だ。緊急事態時収集特別遊撃隊だなんて体裁の元に召集だと?信じきれない。

 

客「君には、兵士としても、人間としても価値がある。荒狩りの一隊、アルトリウス隊への編入を想定して計画は立っているのだ。相応の報酬や見返り、十分な保証もする」

 

「今時ワイルドハントを信じるガキがどれだけいやがると思ってる?」

 

客「驚いたよ、君は神話にでも興味があるのかね」

 

ワイルドハントは、ヨーロッパ各地にあった伝承の類いで、百鬼夜行のみたいなモノだ。それを率いているのがかのオーディン、アーサー王という説がある。ワイルドハントは夜な夜な空を飛び回り、災厄をバラ撒くって話だ。そしてアーサー王の元になった軍人の名こそがアルトリウスだ。

 

はたから見ればおかしいだろう。バイトが注文も受けず客への態度とは思えぬ口調と目付き、そんな俺を皆が放っておく訳もなく

 

たえ「ねぇ、お兄さん、この人たち知りあい?」

 

「…たえ、相変わらず素なのかは知らんが気配の薄い動きしやがるな」

 

たえ「え?そうかな?でも、なんにでも鋭いお兄さんがそう言うってことは、相当凄いってことだよね?なら今回のお代無料!?」

 

「……ただより高価なもんはないぞ。そして、お前は俺を店主かなにかと勘違いしてるな、たえ」

 

たえ「おたえ!だよ、お兄さん」

 

「…煩いぞ。そういうことにしといてやるから」

 

たえ「お兄さんがおたえと呼ばなきゃそういうことにならないよ?」

 

天然炸裂…この会話の中で…

まぁこんな風に平常運転に安心した他がぞろぞろと俺のところにやってくる

 

友希那「どうかしたの?いつもの変な態度をまたとってたのかしら?」

 

「お前らだけの特別サービスだ、ありゃな。喜べ」

 

友希那「あら?愛されてるのはあの二人だけじゃなかったのね。酷い人」

 

「へーへー」

 

客「おっと、それまでで頼むよ。惚気話を聞きに少尉に会いに来たわけではないのでね。まぁ、これを持ちたまえよ」

 

そういうとスカウトマン(文字通りかつ言葉通り)は、俺の目の前に一丁の拳銃をおく。かなりのカスタムタイプだ。ガバメントを改良しているようだ

 

「…入るとは言っていない」

 

客「では、君は彼女たちの身の安全と引き換えでなら受けてくれるのかね?だとすれば、今すぐ兵を出そう」

 

「Fuck you(死ね)。一応、その腐った交渉、飲んではやる。だが銃は握らん」

 

客「今の君が望む殺さない制圧のためであれば、プライドは捨てた方が良い。それと、君は隊の制服は着たくなかろう?君の自由作成で構わない。部隊用の制服を繕ってくれ。勿論どんなものでも結構だ。しかし、素材やある程度の戦闘における戦術的優位性は確保してもらうがね」

 

「お前らみたいなより良い子に頼むさ。あと、非殺傷とは思えんな」

 

客「君はレーザーサイトと思っているのかね?ここは電撃機構だ。相手に当て失神させるためのな。狙うなら首や急所だとさらに有効だ」

 

「ふ~ん。そういうこったなら。射程は?」

 

客「どんなに高い精度で撃とうとも20mを切る。基本は、あくまで死体を無理に減らす手段だよ」

 

「人様の命と政府存続の為に籍を持った部隊とは思えん扱いだな」

 

首元に的確な角度で刃物を置いてるな。交渉でもなんでもねぇよ、こんなの

 

「燐子、つぐ、というわけで、任せていい?」

 

なるほど…ここ、引き金のロックじゃなくて弾薬の切り替えかグリップも見た感じ、手の細胞呼吸のときにでる運動エネルギーで発電するみたいだ

 

つぐみ「ええっと、決して良い出来になる、とは言えませんが、できることはやってみます」

 

燐子「気に入る…かは、わかりま…せんけど、よ、よろしくお願いします」

 

「泥を被るよりマシだ。気軽にいこうぜ」

 

客「それと、これはスコット君の遺品だ。持っていてはどうかね?」

 

 

 

「よーやく帰った…」

 

面倒くさい。とてつもなく。仕事なんて、政府の機能が死んでからだ。奥の手の更に先だろ

基本的に生涯通して出番ねぇよ、絶対

 

「っと、あこ、ようやくクレープだ」

 

あこ「えっ、あ、うん…」

 

「メリハリねぇなぁ。シャキッとしろ」

 

今日は酷かった。皆の調子が狂う。明後日にはあのガキに会いに行くのに

 

 

 

 

 

 

 

客「しかし本当に成功していた個体がいるとは」

 

男「これは公表を?」

 

客「できんよ。仮にも彼は一人の人間だ。それでも、もうあの瞳の奥に本質的狂喜を孕んでいる。人殺しへの熱い渇望だよ。私にも、彼がああなった責任がある。例え英雄として凱旋した彼を継ぐなど、赦されざる行為ではなかったのだ。人は負けたよ」



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6月6日からの再開

文字通り彼に仕事なんてありませんよ。フラグではないよ?
それとマロク様、ユダキ様、この作品への評価、ありがとうございます!(遅い)

また、お気に入りありがとうございます!こんな内容なのに…お名前の方は敬省略させていただいております、申し訳ありません
takeno、九澄大牙、ヤタガラス、フリーランス、スカイイーグル、ブルーマン、カズーーーー、アイリP、メタナイト、Rw、怪盗N、紅魔、雫、陽奈、フユニャン、Back_ON、ステルス★ちりあん、扇屋、エンジュ、韻雅鷹䨻、N.S.D.Q、はるかずき、ヴェヌス、kokodei、geso、やんとも、マーグナー、ジーク、銅英雄、バーサーカーグーノ、kjunese、ジム009、‪Phalaenopsis‬、Goriyama、ダイスケ37、てぃけし、マロク、ユダキ、天駆けるほっしー、ハヤト.、グレー、シュガーさん、猿もんて 


俺は部屋を見ていた、というよりその中にいた。狭苦しい部屋に4つのベッド、床に散らばるトランプ。無造作に部屋の真ん中におかれたテーブル。蒸し暑さが重くのし掛かってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいおい、勝負に乗ったのも負けたのもお前だろ。自業自得じゃないか、なぁ、そう思うだろ?自分でもよ?」

 

目の前には兵士がもう一人の兵士に胸ぐらを掴まれ、少し引け腰になりながら詭弁の言い訳を並べていた

 

「うっせぇぞ!ウォーレン!てめぇ、小細工なんかしやがって!」

 

見たところ賭けに下手なイカサマをした挙げ句、バレたようだ

 

ウォーレン「いやいや、そこに俺の罪は言うほどないぜ。なぁ、エドもなんか言ってやってくれよ」

 

なぜ俺に振るんだ。いつも尻拭いだ。

 

「細工にでかいもちっこいもねぇだろ。放してやれ、ジョセフ」

 

ジョセフは融通が通る分、まだ問題を起こすなんて真似はしないが、ウォーレンときたら…

 

ウォーレン「おお!屁理屈!」

 

やっぱやめとこう

 

「ジョセフ、いいぞ?好きにして」

 

ジョセフ「ん?そうか、お前がそう言うならな」

 

ウォーレン「え?え?!悪かった!頼む!許してくれ!サムライだろ!?お前!」

 

「うっわ、子供に助けを求めるとか、またかよウォーレン!」

 

声が無駄にでかいアントン。最初は煩かったが今は慣れた

 

後ろから断末魔じみた悲鳴が聞こえる。そのおぞましい被害者に向けて念を押して告げておく

 

「称えるべきは俺じゃないってことさ」

 

俺たちは今、名前なんて知りもしない軽巡洋艦に乗り、ドイツの数年分の侵攻を巻き返さんと意気揚々、とまではいかないが、それなりに高い士気のもと、反撃にうってでようとしている。

そして、俺と同じ部隊に配属されたウォーレン、ジョセフ、アントン。こいつらは少なくともそれなりの「理由あり」の俺を仲間と認識してくれている。それは喜ぶべきだろう。

 

俺は日本人だったから。といっても、日系じゃない。留学に来たはいいが、中華とおっ始めたお陰で帰れなくなった。一緒に来たガキを本国へ送り返す条件として俺という人員が米陸軍に入っている。勿論、犯罪者として裏社会の人間だった俺を持って受け入れた見返りとして奉仕を要求するのは当然の摂理だ。間違っちゃいない

今はエドワード。こちらでいうとこのギャング共とつるんでるときに得た籍だ。手放すつもりはない。というより、俺は初めから日系人のエドワードなのだ

 

ウォーレン「なぁよぉ、ちょいと理不尽すぎるぜお前ら…」

 

こいつはウォーレン。調子の良い大馬鹿者で、正真正銘の阿呆。だが、空気は読めるし、嫌味な役回りにさらっと回って、フォローをしてくれる、なんやかんやでムードメーカーだ。

 

その隣にいる筋肉質な薄い黒肌がジョセフ。冷静沈着でジョークも通じる。礼儀にも精通があって大学に入れるレベルの頭を持ってる。問題があるとすれば眼鏡をかけても優秀そうには見えないことと、イカサマみたいな卑劣な真似を嫌っていて、俺の人参を代わりに食ってくれないことだ。

 

そしてベッドで間抜けぶりを発揮しているこれまた救いようのない無神論者ごっこをしているのがアントン。シスターは神と結婚していると言っているがなぜあいつは神父と握手したがるのかよくわからん。

まぁ強いて言うならこいつは観察眼がどうにかしてる位に広い

 

そんな俺らを率いるのはジャクソン。首根っこを常に掴む役は大変だろう

 

「…そろそろだ。行くぞ」

 

作戦説明、並びに戦闘準備等を行うために召集が入る時間が迫っており、そろそろ移動せねばならない。一言皆に伝え、甲板まであがる

 

移動中に、ヘルメットを着用し、甲板前で立て掛けられたライフルを自分の分だけ取ってから甲板に出る。

これだけなら簡単だが、これがこの船全体の動きである以上、かなりの人数がこの一連の行動を行うとなると、まぁ混雑する。そのため、全員が動き出すより少し早めに俺らは動いた。勿論、そんな考えの奴はそれなりにいる。まぁ長い時間かけての移動になってしまった。

 

それからは全員が集まり、指揮官様から指示、それとまぁ御立派な英雄論と凱旋についてのご講話を頂いた後に、出撃となった。ビーチへは小さなボートに乗っての移動になっていて、意外にも俺らは同じ班でありながら離される結果となった。

 

兵士「ああ、クソ。ライターつかねぇ。エドワード、お前、火あるか?」

 

馬鹿か。吸える年じゃねぇよ

 

「ああ、ほらよ」

 

と言いながらライターを投げ渡す俺も大概だ

こんな風にまぁ緊張感のない中、ボートは進む。そしてビーチが見えてきた時

 

バシャッ

 

え?

 

何が起きたか一瞬理解できずに体が軽く身を引く。

 

「あ……」

 

撃たれた。目の前の奴が。ドイツ兵がビーチのバンカーの向こうからマシンガンをぶっぱなしていて、それが当たったようだ

 

兵士「クソッ!伏せろ伏せろ!いいか!ビーチについたら逃げ場も遮蔽物もなにもない!突っ切れ!」

 

「嘘だろ!?戦車隊は!?なんであんな後方に…清々しいミスだな…クソったれめ」

 

俺たちの乗ったボートはドイツ兵のマシンガンを受けながらビーチへ乗り上げ、ボートの扉を開く。飛び出した所を撃たれる。当たり前だ。がむしゃらだったが、俺は舷側から身を乗り出して降りたお陰で俺は撃たれる奴らを見殺しにしながらとりあえずは生き延びた。

 

そのまま立ちあがり、目の前の早めに到着した戦車隊の放棄された車輌を盾にしながら回りを見渡した

 

 

地獄だ

 

 

 

兵士「おい!しっかりしろ!おい!」

 

なにやってんだ?なにしてんだ?どうしたんだ?死んでるんだぞ?そいつ。下半身、迫撃砲で吹っ飛んでグチャグチャのスクランブルエッグじゃねぇか。なに自分を射線に晒しながら叫んでんだ。でも、どうでもいい。ヤバい、こんなの、どうしろってんだ

 

 

 

 

 

 

そこまで感覚が強い焦りを訴えるなかで俺はいつもの部屋の天井を見上げていた

 

「あ~、クソ。夢…か…」

 

しばらく物思いに耽っていると、布団の上にいたうちの子がもぞもぞと動き出した。

 

「ん?起きたか、リン」

 

リンは俺に返事をするようにミャーミャー鳴きながらすり寄ってくる。このメスの黒猫は、昔、つっても2年くらい前だが、どっかのでかい家のお嬢様が誘拐されたーって騒ぎの時に適当にお嬢様を取り返して逃がした後、弱ってたのを拉致ってきたのが始まりだ。

最初こそ酷かったが、今になっては俺の隣気取りだ。

 

それと、こころみてぇなレベルの金持ちなのかは知らんが、そのお嬢様引っ張り返した時に報酬を要求すれば良かったと思う。でも、あの時は顔を見られないようにパーカーのフードを被ってたし、お嬢様の顔なんてろくに見てないし、どうしようもない

 

まぁ、まずは起きるべきだ。今日はあいつに会いに行く日だ、しっかりせねば

とりあえず準備は昨日したし、顔は洗った。歯も磨いた。着替えた。完璧だ。

ここまで準備万端だと、それなりの余裕が生まれる。ふと、奴らの言う前の俺の遺品と渡された箱を開けてみることにする。

 

「なんだよ、こりゃ」

 

懐中時計だった。

 

「何気ないよ……な…あれ?」

 

誰から貰ったんだ、これ。待て、これをくれたのは、あのビーチで死んだポールの物だった。トランプで勝った俺が貰ったものだ。下半身吹き飛ばされてトールを道連れに死んでったあいつの

 

 

俺が凍ったように動けなくなっていたとき、玄関先のインターフォンが鳴る。一気に引き戻された現実に少々苛立ちを覚えてしまうが、そこは愛嬌だと気付け直し、玄関へ向かう

 

「はいはいっと、お、燐子」

 

そこには、おそらくあこと選んだ、もとい、掴まされたのだろう白いワンピースに身を包んだ燐子の姿があった。




さ~て、バイト君はどの戦線を思い出したのかな?みんなも予想してみよう!(激寒)


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今日は晴れ

待たせたな。はい、ごめんなさい。遅かったです。素直に許して。


今回の氷川一行旅行団は、人数の問題で電車になっているので、駅まで行って合流すれば良いのだが、わざわざ集合時刻の一時間も前に燐子が家に来たのが驚かされる。とりあえず、燐子を中に入れ、荷物確認をすることにした。

 

「わざわざ来たのかよ。準備は万全だから心配いらないって言ったろ」

 

燐子「は、はい…。すみません」

 

「あーすまん。キレてるつもりはないんだが、なにせこういう性分なんだ。そう落ち込むな」

 

燐子「は、はい…」

 

見るからに気落ちしている。悪いことしたなこれ。

しばらく、といっても、ものの数分だが、かなり気不味い。リンがすり寄ってくるのがせめてもの救いだ。

 

「結局、俺が足を用意する必要もなくなったし、いよいよ俺も御荷物だな、こりゃぁ」

 

そんな風に減らない口を利きながらとりあえず茶を二人分用意する。ついでに軽い菓子も持って戻ると、俺の部屋にあるゲームソフトに燐子が目を輝かせていた

 

燐子「これって、初回限定版の…」

 

「あの~、白金さん?」

 

へんじがない。ただのゲーマーのようだ。

マジでゲームの話になると面倒だな燐子。俺は聞こえてるかはともかく、てか、多分聞こえてないけどテーブルに茶と菓子を置いてから接近、肩を叩く

 

燐子「ひゃあ!?」

 

凄い声でたな、今。

 

「…茶、飲んだら行こうか」

 

燐子「はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?俺が悪いのか?

 

まあ特にやらしいこともなく俺らは駅に着いた。

あ?ねぇもんはねぇよ。移動中?服とゲーム積んだバッグ担いでボロアパートから歩く。なにを細かく記す必要があるのかね?

 

 

あこ「あっ、きたきた!りんりん!タカ兄!」

 

日菜「おー!みんな揃ったねー!というわけで、とりゃーーーーー!」

 

いち早く俺らの到着に気付いた二人が駆け寄ってくる。そのままの勢いで俺の腹にクリーンヒットする以外は素直に嬉しい反応だった。二人だ、痛い

 

とりあえず二人を引き剥がし、今回お世話になる氷川さん家の御両親に挨拶をする。

 

「お初にお目にかかります。鷹住といいます。お嬢様方にはいつも要所で助けられて、とても助かっています。」

 

氷川母「ご丁寧にどうも。いつも娘たちから話を聞くんですよ。今回のことも企画してくださって、こちらも感謝しきれません。」

 

「いえ、これは自分の独断です。ましてや人数増しもかなりしていますし」

 

氷川父「いや、そんなに気にしないでください。折角ですから、楽しい方が良いんですし」

 

「そう言ってもらえると、とても嬉しい話です」

 

二人はかなり若く見える。見たところ、かなり健康的だ。まさしく、理想的な平穏といったところか。紗夜と日菜の齢からして、それなりではあろうが、それを認識させないほどに見た目も雰囲気も、揃って若々しい。ベトナムのときに少し老けて見られたのが虚しく思える。だが、氷川夫妻の笑顔は、仲間が多い証拠のそれだ。それも良い仲間だ。

 

挨拶もそこそこに電車に乗り込む。俺と日菜、紗夜で右側を占拠し、その後ろに並ぶ形の席だ。離れないようにしっかり席も確保してある。かなり見通しは悪いが。とりあえず窓際を確保できた俺は、次々と入場と退場を繰り返す景色を、色のない感覚で流し見ていて、氷川夫妻の顔を思い浮かべていた

 

あんな笑顔。できただろうか?60年前に。俺も大人しくあの時、留学せずに家督を継いでいれば、あんな風に本当に芯から心を許せる相手を多く持てたかもしれんが、俺は、そんなことを、いや、自らの祖国を売り、売国奴として勝利の凱旋を果たした。真に俺は敗北していたのに。首を吊るなり、船を焼くなり友軍を道連れなりなんなりしての、戦犯としての死こそが求める凱旋だったのかもしれない。

 

引きずらずにはいられない現実。

消えてしまいそうでけして消えず、突き刺さったままの朧気な血の槍は、今もドス黒いままべちゃべちゃと俺の記憶、心に滴り続けている。消して跳ねない程濃い血は、間違いなく、休まずに俺の精神をも犯していた。でも、知っていて見逃していた。

 

それが罰だと、侵した罪を忘れずに生きることが弔いだと信じていた。

 

だって、本能で生きるにはあまりに不自由で、理性で生きるにはあまりにも残酷で、狂って生きても冷淡なこの世界で、ヒトという生き物の支配する世界で、忘れて生きるなんて。罪を縛る見えない枷、感じることすらない、認知しない枷なんて、あまりに、滑稽で、愉快で、温かくて、そして、優しいままだ。

だから枷を首にかけた。ドッグタグという名で、生涯を嗤われるために。

 

 

 

紗夜「なにか、あったんですか?」

 

「え?なんで?」

 

 

紗夜からの声かけで現実へ引き戻される。なぜ、そんなことを紗夜は聞くのだろうか?

 

日菜「だって、タカさん…」

 

ああ、そうか。窓にうっすらと写る間抜け面をみてわかった。言わないでくれ。頼むから

 

紗夜「なぜ、泣いて?」

 

ああ、言うなよ。情けないだろ、いい歳こいて

 

「ちょっと、やなこと思い出しただけだ。泣かされたやな思い出。良いもの…とは、言いたくないが」

 

紗夜「そうなんですか」

 

 

 

 

 

日菜視点

 

やっぱり、今日のタカさん、おかしい。前から感じてたけど、たまにタカさんなのにタカさんみたいに感じないの。千聖ちゃんの演技とは違うの。全然るんってしない。

 

タカさんは、あたしなんかに頼りたくないのかな?

あたしはタカさんに頼ってほしいし、きっと気の迷いだって言われるのはわかってるけど、そういった気もある。だから、振り向いて貰えなくても、役に立ちたいな。




彼の考え方、多分普通に考えるとヤバイ奴です。こんな内容で学ぶこと絶対にないからな!いいか、絶対だぞ!


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不純な動機による睡眠改善

鷹住君ことスタッフくん、彼の第1歩兵師団の初陣、ノルマンディーのD-Day、これ、内容濃いのよね。短く纏めんの大変


俺の痴態を見られてから、嫌に無言の時間が流れる。この空気にしたのは俺が原因だと思うと胃が痛み、食道が収縮する感覚が酷くなる。この無言という状態も強く関係してるんだろう。つい自分の内側に意識を傾けてしまう。

野郎の涙だけでこれなんて、俺はどこか知らないところで女の人格でも発揮しているのだろうか。冗談抜きで。

 

日菜「ねぇ、タカさん?」

 

「んぁ?」

 

やべぇ。変な声でた

 

日菜「あははっ。なにその声!」

 

乾いた笑いが日菜の口から漏れ出す。場を和ませようと勇気をだしての発言だろう。日菜がここまでしてのっからないのは酷だ

 

「言いやがったな、こんなろ~。覚えてろよ?」

 

日菜「へぇ~。タカさん自分で出した声だよ?覚えてろ~なんて、思い出したとき恥ずかしいよ?」

 

「お前~。屁理屈な」

 

日菜「正論に言い返せない人の言葉だよ、屁理屈って!」

 

リサ「そーそー、もう認めちゃいなよ?」

 

「リサくらいは俺の味方でいてくれると思ってた2日くらい前の俺に言い聞かせてやりたくなった」

 

リサ「昨日は?」

 

「直前までわざと水着持っていくこと黙ってたからちょっとな。俺からすれば水着なんて着て泳ぐなんて足の生皮を炙られる気分だ」

 

リサ「ごめん。その表現、全然ピンとこないのと、怖いんだけど…というか、そんなことする機会なんてないでしょ普通?!」

 

「いやいや、足が膿んだりしたときはその部分をかっさばいてから、少しず「ストップストップストップ!」…………遮るなよ」

 

リサ「あからさまにヤバイじゃん、それ以上は!」

 

「注文の多いやつだな」

 

日菜「タカさんもねー」

 

リサもなにかを察してか、積極的に話に乗ってくれるようになってきた。

 

リサ「いやいや、病院行くべきでしょ?普通なら!」

 

「高いだろ、病院。ありえん」

 

リサ「そっちこそありえないでしょ!」

 

紗夜「多分、今井さんが言いたいことは、衛生面に関してでは?」

 

日菜「タカさん、やっぱり話の内容わかってないでしょー?」

 

「失礼だな、お前」

 

リサ「十分タカさんの方がヒナに対して失礼だよ」

 

「いいか、金属は錆びる。錆は酸で落ちる。すなわち管理には酸が必須。だが火なら必要ない。It's no probrem. Are you OK?」

 

リサ・紗夜 「問題しかありません!(ないでしょ!)」

 

シンクロ率高っ

 

「お前ら仲良しだな」

 

日菜「でもさ~。タカさんのそれにも必要でしょ、金属?」

 

「あっ、そうだったな」

 

ここまで間抜けな阿呆という矛盾している人間を、俺は自分以外には知らない

 

「寝ていい?寝るわ、おやすみ」

 

逃げることにする。そして本当に寝る。自分でもどうかと思うが、寝たいのは寝たい

 

 

 

リサ視点

 

本当に寝た……寝顔、かわいい……

 

「いやいや、さすがに…」

 

日菜「どうしたの、リサちー?」

 

「えっ、えーっと、なんでも…ないかな?」

 

日菜「そっかー。ねぇねぇ、タカさんって、体細いよねー。お姉ちゃんもそう思うでしょ?」

 

紗夜「ええ、確かに、それはわかるわ」

 

日菜「だよねだよねー!リサちーもそう思うでしょ?」

 

「え?うん。そうだね…」

 

ヒナから話を振られて、思わず返事をしてしまう。正直、この話題はかなり恥ずかしい。それでも、つい彼の体つきを見定めでもするかのように視線で撫でてしまう自分がいる。

弓道に剣道、そして、本人は嫌がっているのに、なぜかやってる水泳。

それでも語学や古典文学なんかの、文系にとても強い。ただ、教師専攻では担当に物理と化学と、かわいくないことが多い。それを差し引いても、よくこんなに細いなと、感心を通り越して心配ですらある。男の人って、こう、なんていうのかな、言葉にしにくいけれど、もっと体が大きいものだって、ずっと思ってたし。

 

それに、覚えてなかったみたいだけど、恩がある。

中学生の時に、地元の高校生に友希那の口が災いして、庇い立てしたアタシも巻き込まれた。別に、友希那を恨んでるってわけじゃないし、それが友希那だったから。それに、アタシもカッとなって、それを助長させてしまった。

アタシ達は路地裏に連れてかれて、せめて友希那だけでもって思ってたときに、彼は騒ぎを起こしたんだ

 

「お、お願い……この娘だけには…手を、出さ、ないで…」

 

高校生「なんだよお前、お友達との友情ごっこで俺らにお涙頂戴ってか?馬鹿にしてんだろ?」

 

この言葉さえもが彼らには反抗だったようだ

 

友希那「なんのために、わざわざこんな所で話してるの?そんな自分に都合の良い話をするためなのかしら?」

 

「友、友希那…まずいって……!」

 

高校生「馬鹿にしてんのはマジだったみてぇだな。そんな立場も分かってないガキにゃ大人ってのを教えてやる必要があるみたいだな。喜べよ、特別に教えてやるよ、特別にな」

 

こいつらの目つきが何をどういう風に見ているのか、この一言で確信に変わってしまい、友希那を逃がさねばならないという義務感、そして恐怖が同時に襲ってきて、一言話すのも怖い。そんな時だった

 

「てめぇ、本当に嘗めてんのか!」

 

突然の怒声に全員がびくっと反応してしまい、その声の先へ目を向ける。逃げれば良かったかもしれない。でも、怖かった、動けなかった。その先の光景も怖かったから

 

「鷹住、いつになったら立場を理解すんだよ、あぁ?!」

 

高校生「あー、あー、あの鷹住か。使いもんにすらならねぇパシり以下のクソ野郎か」

 

その彼は胸ぐらを掴まれ、三人の高校生に睨まれながら、涼しい顔をして、

 

「ないものはないんです。先輩方に貢ぐ物、貢ぐ金なんて、自分のものでいっぱいいっぱいで」

 

「ふっざけやがって……!」

 

そう言うと、彼は高校生に思い切り殴られた。倒れたところをさらに蹴られている。散々罵られた末、ようやく満足した高校生は、悪態をつきながら去っていった。

彼への暴行の終わりは、当然、標的をアタシ達に戻す悪夢の再来を意味するわけで、気付くにはあまりにも遅かった。でも、その時、いつ立ち上がったのか、その蹴られていた彼が、とんでもない発言をした

 

「中学生は、こんなとこいないで帰れよ」

 



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昔の話

では、始めましょうか(フリーザ並感)


正直、びっくりした。殴られ蹴られで倒れていた人が、何事もなかったように立って、こっちにスタスタ歩いて来てる、こんな状況に

 

高校生「おい、鷹住、ふざけてんのか、あ?」

 

すかさず、アタシ達を囲んでいた高校生のうちの一人が、彼の胸ぐらを掴みにかかる

 

「先輩、胸ぐらって、ワンパターンですよね。そうだ、カミソリ仕込んだら掴まれずに済みますかね?」

 

高校生「はぁ?格好つけてんのかよ、お前」

 

「そう見えます?あー、いや、つけてるか。実際にこんな奴と対面したら多分引きますもん、自分」

 

話が噛み合ってない、というよりは、相手にする気すらないような、なんていうか、異様な雰囲気?

 

「でも、カミソリって効果的だと思いません?漫画ではそれで相手の意識を乱してましたし」

 

彼の態度への苛立ちがこっちに向くんじゃないかと思って、泣きそうになるが、それを必死に堪える

 

高校生「わかった。お前にも一発させてやるからよ、次から態度に気を付けな。餞別だよ、特別にな」

 

突然、自分たちの未来の恐怖を掻き立てられ、悪寒が走る。奴らの嗤う口元と目線が、とことん歪んで見えてくる

 

「そうですか?すいません、じゃあ一発」

 

彼は言い終わるのと同時に、躊躇う様子もなく、とてつもない速さで相手を殴り付けた。アタシみたいな殴り合いの喧嘩なんてのと無縁でもわかってしまうくらい、痛い音だった

 

高校生「あっ……つぅ…てぇ」

 

倒れた高校生があげる呻き声が先程までのとは違い、弱々しくなっている

 

高校生「てめぇ、殺されてぇのか?!」

 

すぐに別の一人が囲うように動きながら怒鳴り付ける。ビクッと震えたアタシ達を差し置いて、彼は

 

「だって、先輩が一発いいって言ってましたよ?」

 

高校生「はぁ?」

 

彼はちらっとアタシ達を見て

 

「ああ……そういう、日本語って難しいですね、なるほどなるほど…良い趣味してますね、とことんカスな考えですね」

 

高校生「お前、殺す」

 

「あの娘ら、可哀想ですよ?」

 

高校生「てめぇの腐れ脳みそも可哀想だよ。殺されて当然の真似するような体たらくじゃあな」

 

「先輩先輩、さっきからね…………黙って聞いてりゃ、口先だけで殺すぞ殺すぞだと?やってみろよ、頚筋の裂き方も知らんクソガキが」

 

唐突に、口調が変わり、目付きや気配、立ち方なんかまでが変貌した

____________

 

いかん。やらかした。おとなしくあそこにお巡りさん戦法であの二人担いで逃げたがよかったやもしれん

 

か弱い俺を助けてくれるやつはおらんのか?おらんか。自問自答とか昔流行った、中二病?だったっけ?とりあえず、どこまでしていいのかよくわからんが、とりあえず、自衛は大事

 

「野郎ぉ!」

 

長期的な軍役を積むと、やはり情報が最低限の認識にしかならない。実際は、視界正面右から左腕、殴りかかってきてる、と解釈すべきだが、来てる、程度にしか思わなくなった。

体重を軽く左半身にかけ、転けるような姿勢をとる。当然、避けるけど、倒れる。その衝撃を和らげる為、さっと相手の脚に左の足首をかけながら、左手を路地を形成する雑貨ビルの壁に置き、そして右踵を膝裏に落とす。

そのまま左足を引いて、固まっている阿呆どもの方に押しやりながら左手の5本の指をフル動員させ貼り付く。

 

阿呆どもにストライク……ならず…やっぱボウリングの才能ないな、俺

なんとなくだが市原悦子を思い出した…

あらやだ(激寒)

 

「ぷっ……」

 

いかん。やらかした(二回目)

 

高校生「なに笑ってやがる?!」

 

「すみませんね!(半ギレ)」

 

ギャクセンスが古いと一原に言われたのを思いだし、少しイラッと来た

あんなろ、実年齢は年下の上に若作りしやがって…五十路め

 

突然かもしれないが、頭お花畑はまぁ結構言われて長い。お花畑…頭は花園王国…悪くないな

 

高校生「本格的にやってやるからな」

 

複数だと…卑怯だぞ。卑弥呼って卑が入ってて色々可哀想なイメージがある

 

今度は、殴りかかってきたバイト経験ありの先輩の右腕を力を込めて掴み、横にふってあら危ない

 

高校生「あだだだだだ!」

 

高校生「ぶっ!」

 

頭を下げればぶつかりませんってね。用無しになった先輩の腹に膝蹴り、ついでに肩に手を失礼して、後ろに回りながら腰を落とし、一番後ろの腰ぬけに踵で蹴りあげる

どうやら、これで終わりみたいだ。あっけない

 

アドレナリンで、むちゃくちゃな思考回路をいつも通りの平常運転に戻して、二人組の中学生、ぐらいだろうか?に振り向く

 

「世の中物騒だし、まぁ、気を付けな」

___________

 

「世の中物騒だし、まぁ、気を付けな」

 

彼がそう言ってくれて、ようやくほっとした。その安心感からか、止めどなく涙が溢れだしてきた

 

「ぐっ……えっ……えぐっ…」

 

「え?ええ?え?お、俺、なんかやった?え?え?ご、ごめん!なんか気に障ったりしてたら悪かった、謝る!だからさ、泣くなよ、な?」

 

友希那「あなたって、自分を見直した方が良いと思うわ」

 

友希那がアタシの代わりに返事をしてくれた。少し、いや、かなりアバウトだったけど

 

「ご、ごめん……な…さい」

 

ようやく平静を取り戻しつつあった口から出た言葉は、言うつもりなんてなかった、全く場に合わない一言だった

 

その後は、どうしてそう思ったのかはわからないけれど、喫茶店でケーキを食べてる友希那と、水をひたすら飲んでる彼を、よく覚えてる

 

___________

 

「色々、濃かったなぁ…」

 

「リサちー、おばあちゃんみたいなコメントだね」



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D-day

遅い。まぁ、投稿しても…ばれへんやろ
まぁこんなんで、しばらくはこういうやつもあるんで、勘弁してください


「殺されるぞ!撃ち返せ!」

 

「何言ってる!届くわけねぇだろ!頭ぶち抜かれて脳みそ飛んでったのか?!」

 

「うっせぇ!爆破担当はどいつだ!」

 

俺の普段上げない怒鳴り声に驚いた二人が、バンカーを爆破するはずだったなにかを指差す。肩を撃ち抜かれ、右肩を脱臼し、止血も虚しく失血で死んだ青い顔のそれ、その横腹のそばに転がっているバンカー破壊用の爆薬筒が転がっていた。

 

「クソが!やることやってから死ねよ!」

 

車輌の裏からそのまま飛び出し、ドイツが設置した、ある意味で失敗とも言える鉄柵に転がり込む。

 

「クソ!クソクソ!生き残るんだ、俺は!殺してやる殺してやる殺してやる、生き残ってやるぞ、クソッタレどもめが!」

 

最後の方には涙目になりながらもベルトの間に爆薬筒を挟む。そのまま意を決し、マシンガンの掃射を行い続ける銃口、というより、弾丸の雨が向こうに向くと同時に走りだし、目の前の爆発により抉れた穴ぼこに体を投げ込む。砂が少し口に入り、何度が吐き出そうとするが、うまくいかず、手も使うには少々遠慮したいので、仕方なしに口の中の嫌な感触を堪えることにする

 

「いける…いけるさ…バンカー吹っ飛ばしてドイツ野郎を殺るだけだ。生き残れる。何人このビーチにいる?いける」

 

自分への言い訳を必死に口にだし、震える手でスモークを掴み、ピンを外して穴ぼこの少し前に向けて投げる。ものの数秒で煙が立ち込め、濃い色は俺の位置を曖昧にしていく。それでも、やはり目立つ。マシンガンが一門、スモークへ向けて掃射をし始めたが、すぐに別の方向を向いたのだろう。弾丸も音も近くに届く様子はなかった

 

「今しかないんだ。殺れる、生き残れるさ」

 

弾丸が当たらないように腹這いになっていた姿勢から、一気にスモークを全身で受けながら突っ込む。少し煙たいが、この程度に嘆いていては死ぬしかない状況下で、いやに真剣になれない自分に、改めて嫌気が差し始める

 

「…!」

 

あとわずかの距離に達する、その瞬間に目線を上げた俺に向けられた一門の銃口。銃口と目を合わせる、とは中々の表現だが、その通りなのだ。思わず足の運びが緩んだが、その迷いを射手は逃した。きっと俺の顔をまじまじと、確実に見てしまったのだろう

一瞬遅れた発砲に対して、身を前方に投げ出すことでどうにか風穴を開けられずにすんだ

 

「生きてる…ははっ…これから助かるわけでもないのに…」

 

哀れにも先程、あれほどに渇望した生への邪な貪欲さが塗りつぶされていく。それでも、心臓は高鳴り、肺はいつも以上に酸素を求め、脳は興奮を露にする。

 

同じ船から降りた奴、肌の色が違う奴、小言なんか言わない奴、そいつらが、今、必死になりながらたどり着こうとしているこの場所、着いたらわかる。俺もそうだった。報われると思ってた

 

「さみぃ…六月だろ、今?」

 

失望から起きる芯から凍るような錯覚。きっと、ここに着いた俺みたいな頭の奴らは、死体よりも冷たいんだろうな

 

「なんだ、これ」

 

ベルトに挟まった、血と砂にまみれた役目を果たしていない爆薬筒。すっかり忘れていた

 

あいつらに、見えているだろうか?どうしようもない、今の姿を

 

「楽には…逝けんな…故郷の敵に、味方してんだぜ、俺。ここでなにもしないでくたばるのが国民としての定石、でも、目の前をここまでめちゃくちゃにされてまで、黙って死ねんな」

 

独り言をぼやき、うつぶせの姿勢に直り、爆薬筒を連結させ、一番下の栓を抜き、前に突き出しながら受け身をとり、叫ぶ

 

「吹っ飛ぶぞ!!」

 

近距離なこともあってか、中々派手な爆発に思えたが、休む暇などないあたり、しょぼかったかもしれん

だが、この爆発は、見事に鉄条網を吹き飛ばした

 

「攻撃開始!突っ込め!」

 

爆発と共に後方へ吹っ飛んだ俺をよそに、次々と生き残りが攻撃をかける。しかし、相手は人類の最先端を行くドイツ軍の兵器、突っ込むぶんだけマシンガンにやられる。

それでも、鉄条網まで到達する奴は着実に増えてきている。その時、一人がグレネードを柵の向こうへ投擲し、仲間の死体を盾に突っ込んでいく姿が目に映る

 

「天才だな……俺の杞憂だったよ…はは」

 

ああ、地獄だ。文字通りに

 

「エドワード!」

 

「ウォーレンか…死に損ねてるな、俺たち?」

 

「お前にしちゃ、上出来だなこの野郎!」

 

「ほざけ」

 

「立てるか?」

 

「理不尽だな。ライフル拾ってくれ」

 

ウォーレンが俺のライフルを拾って目の前に突き出してきたのを受け取りながら立ちあがり、内側へ入り始めた部隊に続きながら俺たちも攻撃に参加する

 

「ああっ、くそ!バンカーを片付けろ!」

 

「了解!エドワード、行くぞ」

 

「勝手にメンバーに入れるな」

 

「口では否定しても俺より前を走ってんじゃねぇかよ」

 

「たわけ」

 

現実逃避に小競合いをしながら、バンカーへの掘りを駆け抜ける。途中、気配を感じ、ウォーレンを手話で止め、グレネードのピンを抜き、一秒。そして投擲。それは見事に狙った位置に飛びこみ、相手の一瞬の驚愕とともに消えた。勿論どちらも派手に

 

「俺ら、地獄行き決定だな」

 

「そうか?俺たちには加護があるとしたらこの苦労は救いの証拠じゃないか?」

 

「そんなもんかねぇ?」

 

そんな話をしているうちに、予定より二秒オーバーの十五秒間の移動を終え、マシンガンを置いているバンカーの扉に到着した。ウォーレンは音をたてないように軽く扉を開き、俺はグレネードを準備する。俺が時刻あわせのタイマー代りに指を折り、それが拳を握った瞬間、ウォーレンは扉を押し開き、俺は、右足に体重を込めて上半身を右回しにしながら、横凪ぎの投擲をする

 

「ぶっぱなせ!」

 

俺の掛声の直後にウォーレンが発砲を始め、俺も素早く一発目を敵にむけて放つ。奴らが振り向いた時には、二人のドイツ兵が地面に倒れていた

それと同時に地面が抉れ、何人かが爆発に巻き込まれる

 

「全部か?」

 

「みたいだな」

 

その確認を終えた時だった。一発の引き金の音、俺の顔半分が血に染まった。反射的にその方向を撃っていた。倒れるドイツ兵、転んだにしてはいやにとてつもない速さのウォーレン。顔半分を覆う血液

 

「ウォーレン!」

 

体は動かず、叫びだけが空しく響く

その日、俺達は勝った。大きな勝利を、終戦への大いなる一歩を、第一歩兵師団の「犠牲を恐れない」様を見た




No mission dificullt. No sacrifice too great. Duty first!
(不可能な任務はない。大きすぎる犠牲はない。任務第一)
米国、第一歩兵師団 標語


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起床

クソ遅更新くんはマジでやめて、どうぞ


ビーチを制圧して、はや四日が過ぎた。俺達が最後にバンカーを奪ったのとほぼ同時に、敵の対空砲が設置されている市街に攻撃を開始し、連合軍の意地を見せたかいあって、ドイツはほぼ完全に撤退し、残党は虚しい抵抗を繰り返しながら後退の一途を辿った

 

犠牲はつくものだ。ただ、本当に実感できるのは自分がその礎になる時か、目の前で知らない誰かがそれになることか、バカが吹っ飛ばされるときかだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからよ、なんで会ったこともない神が凄いってわかるんだよってことだ!」

 

「……なら、お前は童貞がセックスが快感をもたらすことを知ってる理由がわかるか?」

 

「…わかんねぇ」

 

「だろうな、俺もわからん。それと同じだろ。というか、この話、全く筋が通ってないんだがな」

 

「屁理屈を正当化するのはお前の十八番だな」

 

「誉めるなよ、殺すぞ」

 

「どっちだよ」

 

ノルマンディー作戦と名付けられた大規模上陸進攻作戦の終了からはや四日目にして、俺達はフランスの端で、根城と侵略者の準備に、そうそうに勤しんで、もとい、急かされていた

 

「死者を嘆く暇も与えないなんて、最高だな」

 

「まだ気にしてんのか、ウォーレンのこと」

 

「ふん」

 

「話振ったのお前だろ」

 

「その通りだ」

 

指示された木箱を運搬車輌のそばに置き、その上に体を放って話し込む俺たちを、時折通るお偉方が、睨み付けて行くが、既に二ヶ所の戦術的要所の突破口として、それなりの実績がある相手を咎めるのは士気に関わるということで、ある程度は黙認されているが、やはりいい扱いはされない

 

「腰抜けどもめ、そんな安い士気で勝とうなどというのがな」

 

「おいおい、落ち着けよ、カセリーヌ野郎」

 

「黙れよ、無心論者もどき」

 

「そういうなよ、テキサスにキレイゴトは通じねぇんだから」

 

「エドワード上等兵はテキサス出身だ」

 

「…悪かったって」

 

「屁理屈な俺にどーも」

 

その時、アントンが気になる人影を見つけたのか、視線と姿勢が前に寄る

 

「?なんだ、あいつら、こっちに仲良く歩いてきてやがるぞ」

 

「お前あれが仲良しに見えんのか」

 

そうこう話すうちにその二人組が俺たちの前に止まる

 

「第一歩兵師団、次の任務を与える。ついてこい」

 

苛立ちが少し表情に出始めた俺に対して、指揮官の二人(正しくは作戦司令部のお使い野郎ども)が、呼び出しをしにご足労くださったようだ

 

四人一列で会話もなく、周りの喧騒を無視して歩く

そんな沈黙の中、一人のお使いが口を開く

 

「寝ぼけているのか、お前?」

 

「どういう了見でそんな

 

 

 

「鷹さーん!」

 

「ぶっ!」

 

ひどい夢にひどい現実、やってらんないな。頭からのタックル、いかん、スポーツなら大怪我に繋がりかねん。だが、不幸中の幸いだろう、日菜は大分軽いのだ

 

「あっ、起きたー?」

 

「おかげさまで、お嬢様」

 

「そっかー、ありがとー!」

 

俺の嫌味を華麗にスルーして、日菜がそのままの礼を述べる。そうじゃねぇよ

 

「……ついたの?」

 

「いんやー、お姉ちゃん、今リサちーと一緒にRoseliaのほうに行っちゃったの」

 

「ああ、そう」

 

「反応、悪いね?」

 

「寝起きだし」

 

「だよねー」

 

「頭回んねーわ」

 

「目の焦点あってないねー」

 

「あわせてねーんだよ、OK?」

 

「ノー!ねぇねぇねぇ、話そうよ~、ねぇってば」

 

そう言いながら、ぐいぐい来る日菜

現役JKかつアイドルだろ、お前は

 

「わかったわかった、俺の負けだ、負け」

 

「え?ほんと?やったー!じゃあさじゃあさ、好みのタイプ教えて!」

 

「ませガキだな、お前」

 

「いーじゃん、減るもんじゃないしさ!」

 

「……社交的な人かな」

 

それなりに無難な返事ではあると思う。個人的には

 

「好き」の定義にもよるが、多分この返事に当てはまる人は俺の中でもかなり多い。つまり日菜もそういう風になる。それなら、表面的な部分で言えば、香澄にたえ、沙綾に…有咲?うん、まぁな。それに、巴、つぐみ、モカ、ひまり、彩、千聖、勿論日菜、イヴ、リサ、あこと、かなり好きな人が多いことになる

 

今度は意外と幸せかもな

 

「アタシはねー、鷹さんみたいな人!」

 

「…聞いてない」

 

「えー、なんか反応しようよー!」

 

「してるだろ、聞いてないって」

 

「そーいうのじゃないってばー、アタシ、鷹さんみたいな人って言ったんだよ?」

 

「うん」

 

「ねー、それ本気?」

 

「ヤな趣味だとは思うけどね」

 

日菜は将来、結婚できるか心配だ

個人的な憂いではあるが

 

「……バカ…」

 

「あっ、紗夜戻ってきた」

 

「……ほんとに、バカ…」

 

「起きてたんで…どうしたんですか?」

 

戻ってくるなり、日菜の不機嫌振りに気付いたようで、少し不思議そうにしながら事情を聞いてくる

 

「お姉ちゃんにも言えないからいーの」

 

「…本当になにがあったんですか、というより、日菜になにかしたんですか?」

 

「なんにもしてないよ」

 

ここまで追求されるとつらい。………なにもしてないよ



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目的とは

おっそいね、なんだよこいつ


ふと、ある日、自身の無力感を突然覚えることなどないだろうか

 

格好つけだと思われるかもしれないが、意外とあるはずだ。勿論、今、この瞬間、俺はそれを感じている

 

「……」

 

携帯についている着信の相手だ、電話するというときには大抵文句があるし、それをここにいるやつらに聞かれたくはない、事情が事情なのだ

 

「いーのー、タカさん、でなくて?」

 

日菜の訝しげな視線とやけに冷たい言葉

なにかしら気分を害してるのは間違いないが、なぜなのかわからない

言ってくれない分にはどうしようもないので、コールを続ける携帯の受話ボタンをスライドし、電話にでる

 

「もしもし?」

 

「…やっとでた、兄さん。遅すぎ」

 

「そう生き急ぐなよ」

 

「急いでない、あんたがのろまなの」

 

「ごもっとも」

 

画面越しにはぁとため息をつくのがわかる

呆れられるのはわからんでもないが、酷く傷つくので優しくしてほしいのはある

 

「なにか用か?」

 

「生存確認。父さんが煩いから」

 

「世知辛い世の中だな」

 

「うっさい、大学はどうなの?」

 

「もう二年だ、一年のときに聞けよな」

 

「いっつも聞いてるじゃない、卒業するまでしか言ってもらえない言葉でしょ?」

 

最初と比べたら少しは穏やかになった口調で話を続けてくれているあたり、いつも通りだ、そう、いつも通り

 

「そう言われると勝てないな」

 

「…なにがしたいの、卒業してから」

 

「これから考える。じゃな」

 

「あっ、ちょっと」

 

義妹が全てを言い終わる前に切ってしまった。今度帰るのが怖いよ

 

「終わった?」

 

この時を待っていたと言わんばかりに日菜がいつのまにやら目の前に寄ってきていた

 

「…日菜」

 

「ぐえっ」

 

紗夜が日菜の頭を軽く押さえて律すると、日菜が変な声をあげて沈む

 

「やれやれ…」

 

結構焦ったぞ、内容あんま聞かれたくなかったし

別になにも悪いことなどはしていないのだが、なんとなくばつが悪いんだ。続かない話を切って外に視線を送る。元から移動するときは、近場だろうと遠かろうと外はあまり見ない

 

戦場へ移動するとき、トラックの荷台に満ちる緊張感、恐怖に耐えようとする者の必死な荒い深呼吸、なんとなく落ち着かずそわそわしてるやつ、あとはまぁ…気になる分には気になるが、それは俺も緊張していた証拠だし、かといって変わったやつもいた分にはいたが

とにかく、そいつらと一緒が嫌で、ずっと助手席を希望して外を眺めてたのもあるのかもしれない

 

勿論、車輌移動で危険なのは地雷や爆破物による奇襲や頭数減らしだ。次点に運転席への攻撃がある。そう、意外と誰も乗りたがらないのだ、だから都合が良かった

 

まぁ、でもこんな風に外を見れるなんて、長生きはするもんだね」

 

「タカさん、まだ未成年じゃん」

 

なんと空気の読めない

 

「そのとおり」

 

「あれ?一人言だったんでしょ?れーせーだね」

 

俺は組んでいた右足を降ろして、今度は左足を右足にのせて組み直すと、足癖の悪さを蚊帳の外に何気もなしに返す

 

「聞かれて困るもんじゃないし、もう着くぞ」

 

逃げるような返しだったが、ここは日菜。なんとも云わんばかりのどや顔で

 

「そんなこと知ってるよー」

 

ガキだな

 

「それでねー、タカさん、今回くっついてきたのって、あれだよね?」

 

「?」

 

「前言ったじゃん!俺がなにか我が儘を言ったとき、味方についてくれたらなにか奢るってみんなに」

 

は?言った…のか?だとしたら、あいつらがずかずか俺の味方をしてくれたのも、この夏遊ぶとかいって全員でいるのも、それなのか?!

 

「え、は、マジ?」

 

「うんうん、マジだよー」

 

日菜は変わらずキラキラとした目でこっちまで体を突き出しながらに頷く。その目の輝きに太陽以外のまばゆさで気が滅入ることを俺は今日学んだ

 

それからしばらく電車に揺られていると、今回の目標地に到着するとアナウンスが流れてきた

 

「さぁ、もうつくよー」

 

ここでもリサの世話焼きは止まらない。流石だ

 

 

 

 

 

 

「あっつ…」

 

窓を開ければ吹きこむ風は海沿いともあり涼しかったが、いざ駅を抜ければ暑いことといったら

違う車列にいたメンバーも集まり、これからというときに限って面倒ごとは起こる。ちょいと都合よすぎやしないかね?

 

「お勤め様です」

 

「…いや、誰だお前」

 

そう、ほんの少しだ、トイレに用を足しにいきゃこの様よ。なんで男子トイレに女が堂々と居座ってんだ、女子トイレ混んでないだろ、背ひっく、150前半?

 

「いえいえ、貴方は知ってるはずです、隊員番号16」

 

「……働きたくねぇなぁ」

 

「そう仰らずに、あのオモチャはどうでしたか?」

 

「マジもんをオモチャとか湧いてんのか」

 

「貴方の欲しくてたまらない、殺さない武器などオモチャです」

 

「ありゃ弾撃ちしかしねぇよ、ゴム弾なんてでやしねぇ、電流もな、つか何様だ、誰だよお前」

 

「おお、知識は現役ですかぁ?」

 

「お前むかつくなぁ」

 

「そうカッカするもんじゃないですよ、16番。私は14番、志藤三門です」

 

志藤、そう名乗った女は、今までの下手な冷徹かぶりの口調と文体の決まった聞くには疲れる日本語をやめ、短いショートの茶髪を揺らしながらブイサインでポーズをきめている。

 

 

え、こいつ14番?マジ?上司?つか先輩?嫌なんだけど



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ようこそ

すいませんでした


「あっ、なんですかー、その顔」

「あーうん」

「嫌な顔ですか!?そんな露骨に!?」

「うん、するよ。男子トイレに変態と思ったらも 同業者だなんて」

「印象最悪ですか私!?」

 

なんだろうか、この場違いなコントは。やるんなら広場だろ、嫌だけど、絶対

 

「まぁそんなことはいいんですよ、はい」

 

よくねぇよバカ

 

「重要なのは私はあなたの仲間だということですよ16番!」

 

この女、またもやドヤ顔をキメながらこちらに指を差す。なんともダサいポーズで

 

「うん、わかったから、もう帰れよお前」

「きついですねー、当たりが。まぁいいです、今日お渡しに来たのはこれなんで」

 

そういって14番がショルダーバッグからごそごそと取り出したものは拳銃の入ったホルダー。映画みたいだ、こういう銃の受け取り方って

 

「……?かなり重いな」

 

仮にも拳銃、携帯用にしてはいやに重いしでかい

 

「?どうしました?」

「いや、重いなと思って、何入ってんの?」

 

するとこの女、なんとも形容のしがたい悪そうな笑みを浮かべて一言

 

「見ればわかりますって」

 

多分俺より歳上、多分いい歳

 

「きしょ」

「え」

 

本来銃の扱いなんて知らないはずの俺がこんなことをしなければならない理由が思い付かない。でもそんなことを考えていたって

 

「………Mk.23?」

「ぴんぽんでーす!」

 

まぁ古くもなければ新しくもない印象を勝手に持ってるやつだ。性能面では高い評価を得たが、かなり取り回しが悪いということで軍への採用が見送られた、という中々拍子抜けするような経歴がある

 

なんでこれなのか

 

「他に無いのかよ?俺訓練なんて受けてないし体も鍛えてないぞ、撃ったら肩が外れるわ」

「いやでも個人で制圧しないといけない場面多々ですよ」

「つぅかこれであいつらんとこ戻ったら怪しいだろ、というか捕まるわアホ」

「えー、少しはテンションあげてくださいよマジでー。銃ですよ銃。不健全極まりない今の若者らしく喜びましょうよ」

「お前闇深そう」

「こんな仕事に就く?というか与えられる時点でまぁアレですよね」

「左遷?」

「半分正解ですかねー。まぁ勿体ぶらずに言うなら、実質人質ですね、全世界共同運営組織とかいう体裁で組まれた緊急時の対応組織ですし。闇どころか底なしですよ」

「えーじゃあ、今の段階でお前がヤバイと思ったやつらとかいる?」

「ええいますいます!SASの!めちゃくちゃクズ野郎なんです!私あんなのに口説かれたくない!」

 

願望というかなんというか、ためにもならなければ聞きたくもなかった衝撃のディスり。ただ、ホルダーはきれいに体にフィットしてることだけは素直に称賛したい。フリーサイズ?

 

「んで?こんなのを支給されるってことは仕事?」

 

これだけ言うと目付きがぎらっと変わる。仕事人とは厄介な

 

「いーえ、慣れておけってのと、やっぱりあなたを正式に迎え入れるためですね、私たちワイルドハントは対テロ組織という性質上、警察組織の裏の裏あたりに付くバックアップがメインになります。あぁ、この場合、バックアップというのは情報提供に狙撃、時に尋問も含まれます、かなり忙しいですよ」

「ふーん、殺しとかやべぇことはする機会無さそうで安心したわ」

「うーん、基本はどこでもそうですよ。でもでも、最悪なパターンだと私たちが一番動き回ることになりますね」

「最悪なパターン?」

「バイオテロですね」

「バイオテロとかもうどうしようもねぇだろみんな死ぬしかないじゃない」

「他人事ですねー。日本で起きる確率が今大なんですよ大」

「…なんでまた?」

「おっ、目が変わりましたねー。心配なのは、お友達ですか?ご家族ですか?」

「言ったら教えてくれんのかよ」

「まぁまぁ、ちゃんと教えますから」

「言ったかんな」

「ええ、わかってますとも。先日起きたロシアの化学繊維工場への爆破テロ事件、覚えてます?」

 

そういえば研究室のマウスの世話ついでに聞いていたラジオニュースでそんなのを聞いた気がする。機械に関してはレトロ趣味な教授なので、音質も既に十余年高音質に晒されていた俺の耳にはいまいちだったことを含めて覚えている

 

「あれ、半分本命、半分陽動なんですよね」

「化学物質狙いなのは別段珍しくはないだろ、IED製造が目的なんじゃないか?」

「ええ、そうですよ。ただ、そこにプラスアルファって感じです。ロシア政府は今、どうしてもアメリカを出し抜きたいのはわかりますよね?」

「あぁ、経済活動、あまり良い状態じゃないしな。今ってことは、スパイ容疑で四人が逮捕されたやつも絡んでる?」

「そうですね、この件でアメリカは糾弾してますし、中国もほぼ確定とはいえスパイ疑惑が強くなってますから、いわば磔なんですよ」

「スパイなんてどこでもやってるだろ」

「そうなんですけどねー、証拠がないと、ほら?というより、どこも一応はやってないことになってるんですよ」

「はぁ…」

 

ある意味冷戦時代より質が悪くなってる上に、より深層部分に突き込んでるのが今の諜報、冷戦が残したのは負の産物ばかりだというのはこれだけでも十二分に伝わる

 

「おっと、話が逸れましたね。で、その件で起きた汚点を挽回するために炭疽菌の特効薬開発をしようとしている、という流れですね」

「なんで炭疽菌?」

「ソ連時代には生物兵器開発に勤しんでたんですから、経験と研究してたっていう都合のよさじゃないですかね?だってかつて研究開発していたことがあるっていうのは、ある意味特効薬開発の先陣に立った時はかつてしていたことへの贖罪とも言えてしまう訳ですよ、それで簡単に手に入って簡単にバラ撒けて深い傷を負わせられる、現代脅威でも大きい炭疽菌を選んだんでしょう」

 

世論がそれだけで優しく抱きしめてくれるわけはないだろうが、なにもしないリスクよりはマシと思ったのか

 

「成る程ね。で、事件の時にそれを盗まれたと?」

「はい、丁度護送している時に。ロシア政府は内部にいると思われる内通者の炙り出しの最中ですからね、公表はせずにロシアの特殊部隊を中心に捜索を行い、必要とあらば私たちを動員する腹づもりのようです」

 

功を急いた、というわけではないが、読まれやすい動きになったのは間違いないだろう。にしても内通者か、皮肉な話だ

 

「わかった。まぁ当分は暇なことを祈るよ」

「ええ、それが最善策ですね。ところで~」

「ん?」

「で、どの娘がお好みなんですか~?」

「は?」

「嫌ですね~、あんなモテモテなくせして~」

「くっ、死ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、ものの数分ながら俺はとうとう帰りたくなかった職場への帰還を果たし、胸の内を晴らしに行くという二大イベントの片方を片付け、ようやく本命のもう片方に向かうことができるようになった

 

「あっ、タカさーん!遅いよもう!」

「はいはい、悪かったよ」

「大丈夫ですか?」

「全然大丈夫だよ、気にしないでくれ。吐いてないから」

 

皆の所に戻るなり話しかけてきたのは今俺が迷惑をかけてるとこの双子。今更だけどすごい悪いことをしてる気分になってきた。すごいものを押し付けられて、ようやくわかった人の苦労。後悔しても遅いのはそうだが、戒める心と思えばまぁ、というところ。でもまぁ、なんでだろうか

 

「?」

 

紗夜と目を合わせるのを避けてしまうのは




許してクレメンス


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