インフィニット・オルフェンズ! (札切 龍哦)
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クラスメイトは全員女+オルガ

オルシャルを目指して初投稿です


「なぁ、どうしてこんなところにいるんだろうな」

 

 

電車・・・モノレールとかいうスムーズに動く乗り物の座席にどっかりと座る、銀髪褐色の男・・・いや、『IS学園一年生』オルガ・イツカは、今まで幾度となく漏らした所感を、溜め息と共に・・・隣にいる分厚い参考書を黙々と読んでいる大切な相棒、三日月・オーガスにぼやきながら呟き、広がる青空、白い雲を、身体を傾け逆さまに眺める

 

「此処も俺達の辿り着く場所だったんでしょ。止まらないで行こうよ、オルガ」

 

駅前の売店でチョコレートを買い占め、火星ヤシを黙々と食べながら、俺達が向かう学園・・・『IS学園』より渡された分厚い参考書、必読と書かれたその資料を黙々と読み進め、口数少なくも真摯に真面目に読み解いている

 

「ミカお前・・・順応も適応も早いんだな。すげぇよ、ミカは」

 

「そう?別に普通でしょ。立ち止まらない限り道は続くし、オルガは何処にだって連れてってくれるんだから、俺は俺の出来ることをやるよ」

 

ミカは特に驚異も不安も持っていないらしい。俺がいるなら大丈夫だ、俺がいるなら心配ない。そんな、当たり前の絶大な信頼を寄せている

 

・・・自分達は正確にはこの国の・・・日本の住人、いやもっと言えばこの世界の人間ですらねぇ。ミカも俺も元の世界から・・・ギャラルホルンもヒューマンデブリ、んで勿論、俺達鉄華団の存在もない

この世界へとどういう訳か迷い込んだらしい

 

「俺達が止まんねぇ限り道は続くとは言ったがよ・・・こういう裸一貫で放り出されるとは流石に予想外だったな。いや、止まらなきゃいいわけだが」

 

「辿り着いた場所があるんだから、もう俺達は何処へだって行ける・・・もしかしたら、そう言うことなのかもね、オルガ」

 

「いや、辿り着く場所なんていらねぇって」

 

「俺達は、もう辿り着いてたんだ」

 

「「・・・・・・」」

 

ま、まぁ・・・俺達がこうしていることが大切なんだ。俺とミカは相棒同士。そいつが分かってるなら、構いやしねぇ。何だって出来る

 

・・・もっと言えば、どっちの世界でも俺達はくたばっちまってる。ヒットマンに打たれ、ダインスレイヴ・・・禁止兵器を打ち込まれ・・・俺達は、その命を元の世界で落としてる繋がりって訳だ

 

「異世界転生って言うらしいよ。俺達みたいなの」

 

駅前で参考書を片っ端から買っていたミカはやけに理解が早い。読み書きは大丈夫なのか?という問いにはどういう訳か読めるらしいという答えが帰ってくる

 

「この国では学ぶことが大切なんだって。遠出や出張だと思って、色々やってみようと思う」

 

座席に身を預け、懸命に参考書を読み耽るミカのポジティブさに・・・自分も細かいことを考えるのを止め、現状を把握することに努める事とする

 

この世界では・・・徹底的な女性優位の社会基盤が敷かれてる。女子が、女がひたすらに強く、様々な事を主導し、様々な事を優先し、率先して事を運んで行く。男はどういう訳か、その立場が徹底的に弱い。社会的にも、権利的にもだ。情けねぇ・・・そう思いもしたが、そうならざるを得ない武器、得物ってやつが、女には与えられていたんだ

 

IS・・・インフィニット・ストラトスとかいう、なんか女しか付けられねぇ鎧だかなんだかが、女しか付けられない、だか・・・女しか起動できないだかで、肉体的な強さの優位はあっという間に覆されたらしい。その武装はISコアを主軸としてだのなんだのって・・・

 

「正直ピンと来ねぇ」

 

「オルガ何言ってんの」

 

そんな中、俺達は気が付いたらそのISの試験会場に突っ立ってた。訳も分からずに試験に巻き込まれた俺ら。其処で、有り得ない事が──世界的に有り得ない事が起こったのだ

 

『女しか起動できないISを、男が動かした』・・・そんな有り得ない、不可解な事象が巻き起こり。無一文な俺達はあれよあれよという間に試験を受けさせられた。俺とミカはISによる模擬戦を申し付けられ・・・

 

「手加減してくれよミカ・・・」

 

「殺さないようにって、難しいね」

 

・・・其処での結果と事例にて、そんな特殊な事例を見逃される筈もなく。俺達は身柄と身元をIS学園にて保護、入学を決められることとなった。ガンダム・バルバトス・・・MSを動かせるミカはともかく、その格落ち以下の自分が上手くやっていけるのかどうか・・・正直不安な所もある・・・が

 

「だがな!ミカ、すげぇぞ!俺達の学園には、俺達を除いて女しかいねぇみてぇだ!名瀬の兄貴なんて目じゃねぇ!何て言うんだっけか、こういうの・・・」

 

「ハーレム」

 

「それだ!あぁそうだ、学園生活で・・・薔薇色の生活も毎日も、決まったようなもんじゃねぇか!」

 

そうだ、ドブネズミみたいに這いずり回る必要もねぇ、誰かの顔色を伺って怯えることもねぇ、シノギも、取り分もケジメも落とし前も考えることはねぇ!最高だろ!上手く行きゃあ・・・彼女や、一生もんの嫁さんだって手に入る!どうやら神様ってのは俺達を見捨てた訳じゃねぇようだ!

 

「薔薇色の生活!地位も名誉も、全部手に入る!見ろよミカ、実は前々から考えてた、学生になったら何をするかっていう企画書を──」

 

取り出した、『オルガ・イツカ学園エンジョイ計画』のメモ帳を・・・ミカは無言でひったくり、ビリビリに破り捨てる

 

「な──何やってんだミピギュッ!?」

 

俺が抗議をするより早く、ミカは俺の胸ぐらを掴み上げ。悪魔のような瞳と能面のような表情で俺を真っ直ぐに見詰めてくる

 

「それを決めるのはオルガじゃないんだよ。IS学園に入学してからの、俺達の頑張り次第なんだ」

 

「ミカ・・・」

 

「公共の場で騒いじゃダメだよ。そのゴミ、きちんと片付けよう。一緒に」

 

・・・正論と諫言を共に俺に突き刺し、いそいそとミカは破り捨てた紙を拾い始める

 

「・・・勘弁してくれよミカ・・・」

 

とことんまで正論を叩きつけやがって・・・これじゃあ、俺が浮かれに浮かれた馬鹿みたいじゃねぇか・・・アホみたいな行動の落とし前は、きっちり付けるからよ・・・

 

IS学園に辿り着く迄のモノレールで、白い目線に晒されながら俺達はひたすらに紙屑を拾い上げ続けた。・・・すまねぇ、ミカ・・・

 

 

──────

 

IS学園に着いた俺達は、そのままクラスに押し込められた。クラスナンバーは見てねぇが・・・まぁ、一年生だって事が分かってるなら大した問題にはならねぇだろう。ミカも俺も、用意された座席に座って、クラスを見渡す。俺は大分後ろの席で・・・ミカはその真後ろの席だ。しかし、こいつぁ・・・

 

(夢かなんかとも疑ったが・・・マジに女しかいないんだな。ISを学ぶ学園なんだから、当たり前っちゃ当たり前だが)

 

右を見ても左を見ても女、女、女・・・泥臭い臭いなんて何処にもねぇ、鼻に効くような香水やらなんやらの香りがツンツンと臭ってくる、中々に刺激的な場所だ。・・・まぁ、いいんじゃねぇの?

 

(・・・いや、そうでもねぇか)

 

前の座席。そう、教壇の真ん前にいる、『俺ら以外の男性IS操縦者』・・・名前は確か、オリムライチカ・・・だったか。アイツは中々にキツそうだ。まぁ無理もねぇか。性別違いで、まともに話も合うかも解らねぇ場所に放り込まれちゃ・・・不安も募るってもんだ

 

(その内、声でも掛けてやるか。同じ男同士、話し相手くらいにはなってやれるだろ)

 

そんなお節介を考えていると、クラスの扉が開き、眼鏡を掛けた女の先生・・・先生だよな。黄色い服にピンクのインナーを着けた眼鏡の女が現れる。あれは・・・

 

「皆さん、入学おめでとう!私は副担任の『山田真耶』です!」

 

・・・・・・喋る度に揺れやがる・・・すげぇよ、あのデカさは・・・何を食べりゃああなるんだろうな。やっぱ豊かな国は違うんだな・・・

 

そんな中、その自己紹介に拍手一つ起こさない空気にいたたまれなくなったのか、山田先生は生徒の自己紹介に移る事にしたらしい。あ、から始まる女生徒連中から、一人ずつ教壇に登り自己紹介を果たしていく

 

(・・・しかし、こんなしっかりとした学習、こんなしっかりとした設備で。俺らがまともな勉強を出来る日が来るとはな)

 

 

 

 

ねぇ、オルガ。次はどうすればいい?

 

 

生きるために、盗み、逃げ回り、時には殺さなければいけなかった、ゴミ屑みたいなあの頃から、ちっとは前に進めてる・・・のかは正直解らねぇ。しかし、こうやって落とした命を拾えたなら、まごついたり止まったりしてる場合じゃねぇ

 

「──くん!イツカくん!」

 

そうだ、止まんねぇ限り、道は続く。今度こそ、今度こそ俺達は、進み続け・・・ん?

 

「・・・?」

 

「もう、やっと返事してくれた!大声出しちゃってごめんね?」

 

幼少の思い出に浸っていて、山田先生に呼ばれていた事に気付かなかったらしい。周りの女連中に笑われていることに気付き、照れ混じりに頭を掻く。いけねぇ、嘗められちまったか・・・クソ、これからに響かなきゃいいんだがな・・・

 

「でも、あ、から始まって今、お、なんだよね。オリムラ君はやってくれたから、イツカくんの番なんだけど・・・自己紹介してくれるかな?ダメかな?」

 

そうか、自分も自己紹介か。・・・ついうっかり礼儀を欠かすとこだった。一年付き合う仲間なんだ、きっちり身元を証明しとかねぇと

 

「おぉ、忘れてた」

 

てなわけで、俺も壇上に上がり、背筋を伸ばしてきっちりと挨拶をビシッとかます。ハキハキと、壁の向こうに聞こえる声でな

 

「オルガ・イツカ。鉄華団の団長だ」

 

そう告げた。告げたんだが・・・どうもクラスの連中の視線がおかしい。期待していたものとは違うような、なんか・・・芸人に求められたものを出してもらえてない、みたいな、そんな感じの・・・

 

「は?・・・は?」

 

「模範的な挨拶だったが・・・このバカどもの期待していているモノとは違ったようだ」

 

そう俺に告げてくるのは、黒いスーツに身を包んだ、パリッとした感じの女・・・確か担任の、オリムラ・チフユとかいったか。となると、この目の前にいるオリムラ・イチカの・・・姉弟なのか?

 

「お前はIS操縦試験において抜群の『生存性』と『不滅性』を示している」

 

──げっ

 

「期待しているのはそれなようだ。・・・すまないが、見せてやってくれ。世界唯一の『希望の華(ワンオフアビリティ)』をな」

 

・・・それを聞いて理解する。あぁそうかよ、そういう事かよ。コイツらが求めてるのは、『元気溌剌』な俺じゃねぇって事が、よーく解ったよ!

 

いいぜ、やってやろうじゃねぇか!俺が身体を張るくらいで空気を和ませられるってんなら、いくらだって身体を張ってやるよ!お前らの学園生活のスタートに、景気よく華を添えてやるよ!

 

「あぁ解ったよ!!──ミカァ!やってくれるかぁ!?」

 

その言葉を聞いたミカ、参考書を読み終わりかけているミカが──ノールックで拳銃を取り出し、ノールックで俺の身体を正確に撃ち抜いてくれる

 

「ぐぅうぅっ!!」

 

一発。確かにぶちこまれた俺の身体からとめどなく血が流れ出す。あまりの虚脱感と、失血から来る目眩と疲労で両ひざをついちまったが・・・こんくらい、こんくらいなんてこたぁねぇんだ。心配ねぇ、俺は止まらねぇ。止まるわけがねぇ

 

「俺はァッ・・・鉄華団団長ォッ・・・オルガ・イツカだぞぉッ・・・こんくらい、なんてこたぁねぇ・・・!」

 

満足・・・っつうか満身創痍な挨拶だか、必死に言葉を紡いでいく。死ななきゃ満足に自己紹介も出来ねぇ野郎だがよ、皆、気楽に話しかけてくれて構わねぇ

 

感じる視線が、期待通りのモノに高まる。コレコレ、これが見たかったのと言わんばかりのキラキラとした目線。──目論みは当たったらしい。向こう一週間は、話のネタには困らねぇだろう

 

「あぁ・・・分かってる」

 

お前らの学園生活を、面白いもんにしてやる。これから過ごす何年間を、最高に楽しいもんにしてやる。──あぁ、ひょっとしたらこの為なのかも知れねぇ。不安ばかりのこいつらを、笑顔にしてやるために、俺は・・・

 

もう三発。俺の身体に、相棒のミカが全てを理解した様子で、答えを聞かずに撃ち込んでくれる。吹き飛ぶ血肉、倒れる俺。同時に此処にいる全員の頭の中に、希望の華が咲き、荘厳な、魂を癒す曲が流れ出す

 

「だからよ──」

 

左手を伸ばし、俺の魂を乗せた血液の一筋が真っ直ぐと伸び、止まらない俺の意志を乗せ、何処までも流れ、落ちていく

 

辛いことも、苦しいことも、沢山あるかも知れねぇ。だが、挫けんな、足を止めんな。その先に──俺はいる。そんな思いを込めて・・・

 

「止まるんじゃねぇぞ──」

 

魂を込めた自己紹介を終え、どうにかこうにか生き延びた俺を待っていたのは・・・

 

「「「「「キャアァアァアァーッ!」」」」」

 

悲鳴・・・ではなく、莫大な歓声だった。・・・おい、大丈夫かコイツら。一応、目の前で人が死んだんだぞ

 

「本物よ!本物の『希望の華』だわ!私の頭の中に響いてきたわ!団長命令!」

 

「私、あなたに憧れて来たんです!北九州から!けして散らない鉄の華!鉄血のオルフェンズ!凄いわ!本物よーっ!」

 

・・・いや、あの。反響は嬉しいんだがよ、こいつは文字通り死ぬ気で身体を張らないと出来ねぇっつうか、なんつうか・・・心待ちにされると、心苦しいっつうか・・・死ぬっつうか・・・

 

「・・・勘弁してくれよ・・・」

 

そんなもみくちゃな雰囲気のなか、チフユ先生が割りに入るまで喧騒は続き・・・俺は一躍『不死身のオルガ』として名を馳せる事になっちまった

 

・・・なぁ、ミカ。これで良かったのかよ。自己紹介・・・

 




授業、一息付いた一幕にて

オルガ「あくてぃぶなんちゃら・・・広域・・・広域・・・?」

ミカ「・・・」

「・・・正直ピンと来ませんね・・・覚えんのかよ、これ全部・・・」

「当たり前じゃん」

「マジかよそいつぁ・・・」

真耶「えぇっ!?オリムラくん、ほとんど全部分からないんですか!?」

「お・・・」

「仲間がいたよ、オルガ」

「・・・イチカじゃねぇか・・・」

「い、今の段階で分からない人は、どれくらいいますか?」

無言。誰もが、これに理解を示している。・・・マジかよ、皆頭いいのかよ・・・

「別に、これくらいの把握は学生なら普通でしょ」

「・・・すげぇよ・・・ミカは・・・」

オリムラのヤツは、チフユ先生に入学前の参考書は読んだかと問い詰められている。ミカが読んだヤツか。あれは必読なんだっけか・・・

「いや、間違えて捨てました・・・」

ガツン、と出席簿で音を立ててイチカのヤツが殴られた。後で再発行してやるから一週間後に覚えろ、ときた。・・・端から見ても無茶な話だ

「いや、一週間であの厚さは」

「やれといっている。いいな」

有無を言わさず、視線で黙らせる。・・・気に食わねぇな。教師の立場からしては正しいんだろうが、それにしたって横暴が過ぎるんじゃねぇのかよ?

「ホント、上から目線だよな・・・」

つい、口にしてしまった言葉。それが切っ掛けで

「おばさん」

俺の頭に、雷みてーな拳骨が落ち、意識が遠退き、何故か全身出血を行い・・・

「だからよ・・・止まるんじゃねぇぞ・・・」

俺の意志を乗せた、最期の団長命令が、一同の頭に響き渡った・・・


「うぅ、どうすりゃいいんだ・・・」

頭を抱えるイチカに、三日月が歩み寄る。チョコレートを食べながら、それを渡す

「あげる。もういらない。覚えたから」

「え、これ・・・参考書!?覚えたって・・・」

「参考書は見付けたって言えばいい。じゃ、代わりに再発行してもらってくる」

すたすたと歩き、オルガを蹴り飛ばして起こしながら、教室を出ていく三日月

「あ、ありがとう!えっと、三日月!」

「ん?」

「休み時間になったら、ジュース奢るからな!帰ってこいよ!オルガも、頼むな!」

「解った」

それだけを告げ、クラスを出ていく二人 

「オルガ・イツカに・・・三日月・オーガスか・・・いい奴等なんだな・・・」

イチカは、学園生活がそう苦難まみれではないことを、ぼんやりと感じるのだった


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アンタ何言ってんの?

楽しんで貰えているようなので初投稿です


「再発行。イチカのヤツは見つけたと言うことか?」

「うん」

「そうか・・・。・・・お前は、全てを覚えたと言うのは本当か?」

「うん。だって、学生の本分なんでしょ」

「・・・真面目だな。あのバカな弟にも見習ってほしいものだ。だが、いらないと譲ってしまうのは感心せんな」

「?」

「読み返し、復習するのも大事な勉学だ。・・・記憶は劣化していくものだ。若さにかまけてはいられんぞ。お前に別途に再発行してやるから、しっかり日頃から学べ、いいな」

「解った」

「それと・・・ならお前に、とある事をやってもらう」

「?」

廊下

「おぉ、なんとか死なずにすんだみて」

『風紀委員ワッペン』

「・・・なんだそれ」

「任された」


「ごめんな、二人とも!助かった、っていうか命の恩人ってくらい世話になった!」

 

チフユ先生との問答を終え、休み時間に突入しクラスに戻ってきた俺達にジュースを振る舞い笑顔で頭を下げてきた、俺ら以外の男性IS操縦者『オリムラ・イチカ』がいの一番で声をかけてきた。その様子だと、よっぽど心配してくれてたみたいだな。なんだよ、結構いいやつじゃねぇか。新しい参考書を発行して貰い、もう一度最初から黙々と読み進めているミカも、ありがとと御礼を告げてごくごくと飲んでいる。好印象みてぇだな。何よりだ。コイツは敵と見たやつにはえげつねぇからな・・・

 

「自己紹介の通りだけど、改めて。俺はオリムラ・イチカ。ちょっと色々あって間違えてIS学園に転入しちゃった、千冬姉の弟だよ。さっきみたいに抜けてばっかりだし、周りが女の子ばっかりで・・・正直不安だったけど、二人がいるならなんとか上手くやれそうだ。仲良くしてくれるか?」

 

「いいよ。それ、ひょんなことって言うんでしょ。俺は三日月・オーガス。こっちはオルガ・イツカ。よろしく。勉強、頑張ろう」

 

トントン拍子だな・・・ミカにしちゃ随分スムーズに会話を進めるじゃねぇか。こういうの、鉄華団の皆以外にはやらねぇと思って正直ハラハラしてたんだが

 

「だって、クラスメイトの皆は家族みたいなものなんでしょ。じゃあ、大切にしなきゃ」

 

・・・成る程。そういうことか。お前は・・・何処に言っても変わらない、ミカのままって事かよ。そりゃあ、俺にとっても朗報だ!

 

「よぉし!ミカ、イチカ!このIS学園でたった三人の男、だが尻込みする必要はねぇ、男三人集まりゃ、決して散らない鉄の華だ!これから始まる学園生活、景気良く前を向こうじゃねぇか!これから一年!皆で気ぃ引き締めて行くぞぉ!!」

 

俺がイチカとミカ、そして男所帯で浮かないようにクラスメイトの皆にも声をかけ発破をかける。ちょいと馴れ馴れしいかもだが、誰かがムードメーカーにならなきゃいけないなら、それは団長である俺の仕事だ!

 

「「「「「おーっ!!」」」」」

 

男も女も関係ねぇ。垣根を壊そうとした俺の目論みは、それなりに上手くいったようだ。女の子連中もノリ良くついてきてくれる。いい奴等だな。いい滑り出しだ!悪くねぇぞお前ら!

 

「ははっ、なんだよ鉄華団って!部活か?まぁいいや、なら、平団員からやらせてもらうか!よろしくな、ミカ、オルガ!」

 

「いいよ。じゃ、イチカ。早速飛行からね」

 

「えっ!?」

 

「ISで飛べなくちゃどうしようもないじゃん。飛行の時は、目の前に角錐を展開するイメージで・・・」

 

笑顔が満ちる教室、イチカに参考書の基礎を教えていくミカ。俺はそんな上手く回り始めた上々な学園生活、第一歩の手応えを感じた俺は更に──

 

「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、少しお時間よろしくて?」

 

そんな俺達の門出に水を注すように、言葉を投げ掛けてくる女が俺達に歩み寄る。綺麗な金髪、青い瞳。・・・いいんじゃねぇの?普通に別嬪さんになるんじゃねぇのか

 

「・・・クーデリア?」

 

「?誰ですの、それは?」

 

ミカは同じく転生の可能性を持ちかけ声をかけたみたいだな。だが・・・そう簡単にあの立場は死んじゃいけねぇ立場だ。俺らみたいな連中とは違うと思うぞ

 

「私が声をかけたというのに、あまつさえ誰かと間違えるだなんて!私に声をかけられただけでも光栄だというのですから、それ相応の態度を取っていただけませんと!」

 

・・・随分と高圧的な嬢ちゃんだ。見たところ、よっぽど腕に自信があるか、セブンスターズみてぇに立場が高いエリート様ってところか?で、そんなエリート様が・・・

 

「アンタ何言ってんの?」

 

待て待てミカ、クラスメイトだ、クラスメイト。ちょっと距離感が掴めてねぇだけなんだろうさ。話せばちょっとは砕けて・・・

 

「ごめんな、俺もミカも、オルガも。君が誰だか知らないし」

 

待て待て、エリート意識持ってるヤツに知らないは不味いだろ。そこはやっぱり穏便にだな・・・

 

「私を知らない!?セシリア・オルコットを!?」

 

「おぉ・・・」

 

言わんこっちゃねぇ、拗れやがった・・・無駄に刺激をしちゃいけねぇ、喋らせるだけ喋らせて、通りすぎて貰えばいいんだ。この手の輩は、立場を誇示したいだけなんだからよ。相手にするこたねぇんだよ

 

「イギリスの代表候補生にして、入試首席の私を!?」

 

「そっか、そっかぁ・・・」

 

そりゃあすげぇ。入試首席とはマジなエリートだ。だがな・・・そんな肩書きは学園の仲間とやっていくには割と足枷に

 

「あ、質問いいか?」

 

イチカが会話を遮り、セシリアに疑問をぶつけるみてぇだ。おぉいいぞ。何の関わりがあるのかとか、それは大事な事なのかとか、言いたいことを言ってやれ!

 

「・・・代表候補生って、何?」

 

ミカを除いた全員が盛大にずっこける。イチカお前・・・ものを知らないにも程があるだろ・・・いや、無理矢理転入だ、イチカを責めるのは酷ってもんか・・・

 

「し、信じられませんわ!日本の男性と言うのは、これ程知識に乏しいものなのかしら!常識でしてよ!?」

 

・・・そいつは聞き捨てならねぇな。アンタが何をどう思おうと勝手だが、目の前で日本の男、俺らのダチを虚仮にするとは穏やかじゃねぇ

 

「ホンッと上から目線だよな、エリート様は・・・」

 

「当たり前ではないかしら?生まれながらに高貴な私は、そう振る舞うのは当然でしてよ?」

 

「まぁまぁ。で、代表候補生って?」

 

イチカは特に気にしてねぇみてぇだ。中々に懐が深いヤツだ。こりゃ、IS鉄華団幹部の器が・・・

 

そう考える俺を他所に、きらりと目を光らせ、嬉しそうに語り出すセシリア。・・・話したいだけだったんじゃねぇのか。目立ちたがり屋か?

 

「国家代表IS操縦者、その候補生として認められたエリートの事ですわ。単語から想像すれば解るでしょう?」

 

・・・それはすげぇんだろうが、わざわざクラスの雰囲気を悪くしてまで言うような事か?そのままじゃ、肩書きに大事な日常を潰されちまうぞ

 

「正直ピンと来ませんね。たったそれだけの立場自慢の為に、俺らのダチを虚仮にしたってのか?エリートさんよ」

 

「そう、エリートのなのですわ!本来なら、私のような選ばれた人間をクラスを同じくするだけでも奇跡!幸運なのよ!」

 

「・・・喋らねぇな、ミカ」

 

「興味ないし」

 

無言で火星ヤシ、そしてチョコレートをモグモグと食べながら、無言でエリート様の演説を聞いているミカ。クラスメイトも、面白がってミカにチョコレートを渡し、それを黙々と受け取って食べている

 

「この現実を、もう少し理解していただける?」

 

「あ、その、だな・・・」

 

チラチラと俺に助けを求める目線を、イチカが送ってくる。・・・変な女によく絡まれるな、お前は

 

(うまい言い返しが思い浮かばねぇ、頼むオルガ!)

 

(しょうがねぇな、団長の俺に任せとけ)

 

耳打ちをし、俺にタッチする。とりあえず、立場を振りかざすんなら・・どっちが上かを解らせてやるよ

 

「エリートさんよ、お前状況解ってんのか?」

 

「え・・・?」

 

「選ばれた人間、奇跡。大層な御題目じゃねぇか。だがな、その台詞を言えんのは。『ただの候補生』のお前か、『男性操縦者』の俺らか。どっちだ」

 

ぐ、と言葉に詰まるセシリア。そっちはまだ候補生。こっちはISを動かせる実績がある。たかが一国の代表のタマゴが、世界でレアな俺らに立場を傘に喧嘩を売るなんざ筋が通ってねぇんじゃねえのか。言葉に詰まるセシリア。其処に、ミカが畳み掛ける

 

「男性操縦者に接触したいから、アンタの国はアンタを送ったんじゃないの?知らないけど」

 

専用機持ちを放り込む理由を、なんとなくで告げたミカ。道理の通ったその正論と理論武装の畳み掛けにぐぬぬぬ・・・と歯軋りし、やがて背を見せる

 

「お、お口が達者ですのね・・・?ですが、私は口だけではありませんわ。入試で唯一、教官を倒したエリート中のエリートでしてよ」

 

「別に、普通でしょ?」

 

「ええっ!?」

 

ミカの逃げ場を無くす追求に、目をひんむくセシリア。イチカも俺も俺もと手を上げ、教官を倒した事を告げる。・・・俺?俺はまぁ、いい勝負だったな。間違いねぇ

 

「すげぇよ、ミカにイチカ・・・」

 

「俺は倒したっていうか、突っ込んできたのを避けたら、壁にぶつかって動かなくなったんだけど・・・」

 

「俺は、気付いたら動かなくなってた」

 

「な、そんな・・・私だけと、聞きましたが・・・」

 

そいつはもしかして、女性限定ではってオチなんじゃねぇのか?男性なんて、生徒比率で考えたら一部も一部。耳に入らないのは仕方ねぇんじゃねぇか

 

「勘違いしてたの?うっかり屋なんだね、エリートって」

 

「な、なっ・・・!」

 

「女性限定で胸張ってたのか?面白いな、君」

 

イチカとミカの追撃に、セシリアの顔はタコみてぇに真っ赤になる。やべぇ、火に油だったかも知れねぇな・・・

 

「あ、貴方たちも教官を倒したって言うの!?エリートの証である!?つまり、貴方たちもエリートですの!?」

 

「いや、落ち着けって。別に君みたいにエリートを威張りたい訳じゃ」

 

「どういう意味ですの!?こ、こ、これが落ち着いて──!!」

 

更にヒートアップしていくセシリアの嬢ちゃん。そろそろ仲裁してやんなきゃ、血を見るかも知れねぇ。俺のだがよ。そんな俺の想いを汲むように

 

「はっ、チャイム・・・!」

 

でかした!これをダシに畳み掛けるぞ!

 

「まぁ、積もる話は後にしようぜ。エリート自慢なら、またゆっくり聞いてやるからよ」

 

「はい!話の続きは、また改めて!よろしいですわね!」

 

あぁ、鉄華団は逃げも隠れもしねぇ。次はもうちょい、穏やかな感じでお願いしたいもんだな、エリートさんよ

 

肩を怒らせ、歩き去っていくセシリア。その背後を無言で見送り・・・ミカが残念そうに肩を落とす

 

「勉強する時間が無駄になっちゃった・・・ごめん、イチカ」

 

「あ、あぁ。いや、いいんだよ。庇ってくれてありがとな、二人とも」

 

イチカは災難だったが、少なくとも俺らに対する印象は上がったようだ。・・・こんないざこざは、これっきりにしてもらいたいもんだが・・・

 

「ねぇ、オルガ」

 

「ん?」

 

「あのセシリアって子、死んでいい子なの?」

 

「・・・──い、いや。クラスメイトだ。そこは抑えろ。いいな、ミカ。いきなり殴りかかるなよ」

 

「ん。・・・風紀委員だし」

 

「えっ」

 

・・・風紀委員は、そういうもんじゃねぇぞミカ・・・

 

 

 

 




そして、一日が終わり。俺ら三人の男連中は宿舎・・・個室番号1025室に、地図を便りに辿り着いた 

ミカ「此処が俺達の場所なの?」

オルガ「此処もその一つだ」

「そっか、綺麗だね」

「じゃ、開けるからな。どんな場所なんだろうな」

イチカが扉を開け、その部屋に入ると・・・

「おぉお~!!」

喜びの声を上げやがる。まぁ同感だ。デカイベットが二つ、パソコンが二つら、広々としたスイートホテルみてーな部屋が、俺達の前に広がってんだ。三人詰め込まれても問題ねぇくらいの、いい部屋だ

「いいんじゃねぇの?男所帯で不自由は無さそうじゃねぇか。なぁ?ミカ、イチカ」

「うん。お腹空いたから俺、購買行ってくる。ベッドは二人で使っていいよ」

それを告げ、さっさと部屋を出ていくミカ。おいおい、迷っちまうかもしれねぇ。ただでさえだだっ広い学園、一人は危険だ。俺も一緒に・・・

「誰かいるのか?」

「ええっ!?」
「エッ・・・!?」

俺とイチカが、顔を見合せる。女だ、女の声だ!どうなってやがる、俺達は男だけの部屋割りじゃなかったのかよ、筋が通らねぇ!!

いや待て、落ち着け、そんな事より。女の声はシャワー室から響いてきやがった。シャワー浴びんのに、部屋着で挑むバカはいねぇ。いるはずがねぇ。つまり・・・!

「ハアッ・・・ハアッ・・・ハアッ・・・ハアッ・・・ハアッ・・・」

これはあれじゃねぇのか。クラスメイトの皆が読ませてくれたラノベやらラブコメやらの主人公が体験してナニがナニをあれする、主役だけの特権・・・つまり、火星の王の俺が味わえる眼福とかそういうアレがそうなる、けして散らない鉄の華、鉄血のオルフェンズ・・・!つまりイチカと俺が味わう最初のラブコメディ・・・!

「あぁ、同室になったのか。これから一年よろしく頼む」

開いた、来た!来たぞ!俺の勘が当たってるなら・・・団長としての俺が予測するなら・・・!

「こんな格好ですまないな、シャワーを使っていた」

バスタオル一枚・・・ボンキュッボーン・・・ヒロイン、トラブル、ラブコメディ・・・!!

「ハアッ・・・!ハアッ・・・!!ハアッ・・・!!!」

バスタオルを取って、キレーな黒髪が・・・

「私はシノノノ・ホウキ。よろしくたの──」

其処には、空白の時間があった。目の前に美女・・・そんで、後から聞いたら幼なじみのバスタオル裸体を垣間見たイチカ

女子と相席だと思ったら、目の前にいたのは二人の男で、硬直するホウキ。・・・だが、そんな事は関係ねぇ!!

「いやったぁあぁあぁあぁあぁあーーーーーーッッッ!!!!!!」

俺は叫んだ。マジだ!これが転生!生きるだけでいい思いができる!!最高じゃねぇか!!止まらねえ限り道は続くんだな!!最高じゃねぇか!!!

・・・そんな歓喜の時間は、長くは続かなかった。自分で裸体を見られ危機を感じたホウキは、素早く木刀を手に取り──

「はあっ!!!」

真っ先に飛び掛かって来やがる!いやまて、確かに眼福ではあったがよ、わざとじゃねぇ、誤解なんだ、話せば解る!

「待て、待て、待て、待ってくれ!」

見るとイチカは速攻で部屋を出ていきやがる。待てイチカそいつぁまずい!やましいことがねぇのに逃げるのは筋が合わねぇ!ここは逃げずに誤解を解いて──

「待てって言ってるだろうが──ぐぅうぅっ!!」

俺の願いもむなしく、ホウキは俺をものすげぇ力で扉に叩きつけ、扉の向こうにいるイチカもろとも木刀で突き刺してきやがった。あっさり貫通する俺の身体

「ぐぅうぅっぐぅうぅっぐぅうぅっぐぅうぅっ!ぐぅうぅっ!!」

五発か。それぐらいぶち抜かれ、俺の身体は風穴だらけになる。扉の向こうに、のイチカは、どうやら無事みてぇだ。それなら・・・かまいやしねぇ・・・

「・・・・・・ラブコメのお約束とはいえ、女に恥をかかせる男は最低だからよ・・・」

滴り、流れ落ちる血。ブラックアウトする意識。やがて、俺は最後に、網膜に焼き付いたホウキの裸を噛み締め・・・

「理性を、止めるんじゃねぇぞ──」

最期の団長命令が、響き渡った──


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確実に殺されるぞ!

本家を楽しんでもらいたいから初投稿です


オルガ「おはよぉございます」

「あははっ、挨拶当番?随分オラついてるね!」

「あ、わりぃ。そう見えたか。おはようございます・・・」

「ううん!オルガらしい!」

「言えてるー!」


「なんだよ、そりゃ・・・」

キーンコーンカーンコーン

「そらチャイムだ!気ぃ引き締めて走れ走れぇ!遅刻したヤツは、確実に殺されるぞ!チフユ先生にな!」

「「「きゃー!こわーい!」」」

「そらそら走れ走れぇ!」

「誰に殺される、だと?」

「エッ──」

キボーノハナー♪


「これより、再来週に行われるクラス対抗戦の代表者を決める」

 

朝のチャイムが鳴り終わり、ホームルームに突入した直後。チフユ先生がそんな話題を、よく通る声で教室全体に響き渡らせやがった。朝で寝惚けた頭にスッと通るピシッとした、前に立って話すのにピッタリな声じゃねぇか。団長として、俺もきっちり見習わねぇとな

 

「・・・何をする役目なの、代表戦って」

 

参考書と教科書を一心不乱に読みながら、真後ろの席からミカが俺に囁いてくる。学園に入学してからミカはいつもこんな調子だ。暇さえあれば勉強、勉強・・・よっぽど文字が読み書きできることが嬉しいってのがビシビシ伝わってきやがる。学生の本分は勉強。きっちり、学園ルールを守ってやがるんだな。すげぇよミカは

 

「そりゃあお前・・・代表戦ってのは・・・」

 

「読んで字の如く、クラスの代表として他のクラスと戦う選ばれたクラスのトップですよ。言うなれば、クラスの顔ですね」

 

山田先生が、こっそりひそひそと耳打ちしてくれる。・・・距離が近いんじゃねぇか。当たる、当たるじゃねぇか。待ってくれよ・・・

 

「三日月、オルガ。分からないことがあれば挙手して聞くように」

 

バレバレじゃねぇか・・・俺達は余計な気を遣わせちまった山田先生とチフユ先生に詫びをいれ、真面目に話を聞く姿勢に戻る。ピシッと背筋を伸ばして・・・

 

「オルガ、見えない」

 

・・・ちょっと体を斜めにずらして座ることにする。俺、無駄に図体がでかいからな・・・入れ替わった方がいいんじゃねぇか?

 

「クラス代表とは、対抗戦だけでなく生徒会の会議や委員会への出席など。・・・まぁ」

 

「火星の王・・・!」

 

皆の矢面に立って、皆のために懸命にしのぎを削る・・・そいつはまさに王!火星の王なんじゃねぇのか!?そいつぁつまり──

 

「ここは地球で、日本。火星じゃないし、一番偉いのは総理大臣か天皇って言うんだよ、オルガ」

 

・・・おぉ・・・ミカ、めちゃくちゃ知識を詰め込んでるじゃねぇか・・・俺も下手すりゃ、あっさり抜かれちまう・・・いや、抜かれてるんじゃねぇのか・・・?

 

「自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

 

自薦他薦は問わない、と聞いてクラスがざわついてきやがる。こいつぁ中々に骨太な選択を迫ってきやがった。クラスの顔を自負するなら、此処にいる誰よりも強いって事を告げるってことだ。粋がるだけじゃ自薦は無理だ。他薦も、自分の命やメンツを預ける相手を推し進めるんだ。生半可な覚悟や絆じゃできやしねぇ。ここは、どうしたもんか・・・

 

「はい!私はオリムラ君、ミカくん、オルガを推薦します!」

 

そんな中、クラスメイトの一人が声を上げ、俺達男組の三人を指名してくれた。・・・いいのか?男が代表だと、なんというか・・・

 

「いいよー」

 

ミカはそんな事を気にせず気負わず、のんびりと手を上げる。見栄や体面はどうでもいいが、薦められた、認められてるってことが嬉しいのかも知れねぇな、ミカは

 

「私もそれがいいと思います!ミカくんは真面目で、いつも自分がやるべき事をやってくれる誠実な男子だと思うからです」

 

「ミカくんがいるなら、当然オルガも外せないよね!団長だし、ミカくんの保護者みたいなものだしね!」

 

「オリムラ君、平団員なんだからきっちり支えてあげなくちゃね?さんせー!」

 

次々とクラス代表の支持が集まっていく。・・・なんだよ、皆男とかの偏見を持たないでちゃんと接してくれるんじゃねぇか!どうやら物怖じしてたのは俺だけみてえだな!

 

「ありがとうございます!・・・やれるよな!イチカ!」

 

「ん、ぁ・・・まぁ、二人がいるならいいか!解った、チフユ姉、俺やるよ!」

 

手を上げ、ハキハキと意志を示す弟に満足げな笑みを浮かべてやがるチフユ先生の顔は、中々に新鮮な表情じゃねぇか。ツンツンしてるが、弟が可愛くて仕方ねぇタイプなのかぁ?

 

「三人か・・・よし、良いだろう。全員専用機持ち、男性操縦者。代表には申し分ない。ならこれで・・・」

 

チフユ先生が決まりと太鼓判を押そうとした時──それにまたまた、水を注しやがるエリート様が現れやがった

 

「納得が行きませんわ!そのような選出は認められません!」

 

バン、と机を叩き、声を張り上げるのはあの件のエリート様、セシリア・オルコットじゃねぇか。なんだよ・・・選出が認められねぇならなんでギリギリまで黙ってやがった。他薦待ちか?自分の立ち振舞い分かってんのか?人望集める努力はしたのかよ?

 

 

「男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットに、1年間そのような屈辱を味わえと言うの?」

 

「はあぁあぁ・・・」

 

やべぇ、溜め息が漏れちまった。おまけに目もいてぇ。指で目を抑えながら、エリート様の意識の高さにほとほとうんざりさせられる

 

なんで率先してクラスの輪を乱したがるんだ。1年間暮らしていく仲間に、そんなに孤立して浮きたいのかよ。エリートの肩書きは、辛いときになにもしてくれねぇ。一緒に飯も食えねぇし手も差しのべてもくれねぇんだ。人間は一人じゃなんもできねぇってこと、ISとかいうオモチャにかまけて忘れてんじゃねぇのか?

 

「大体!文化も何もかも後進的な国で暮らさなくてはいけない事が、私にとっては堪え難い苦痛で・・・!」

 

「それはダメだ」

 

セシリアの聴くに堪えない国辱を聞きかね、三日月が風紀委員のワッペンを綺麗に磨きながら、エリート様の声を遮った

 

「チフユも、イチカも日本で過ごしてる。此処にいる皆も、日本で過ごして暮らしてる人は沢山いる。IS学園も、日本にある学校なんだ」

 

「・・・か、庇いだてしますの?私は、ただ事実を・・・」

 

「俺もオルガも、此処で頑張ってくって決めたんだ。俺達の居場所を──馬鹿にしないで」

 

それは、ミカのはっきりとした意思表示だった。辿り着く場所の一つを虚仮にされるのは我慢ならねぇ。そういうことなんだな。そんで・・・ダチを虚仮にされて黙ってはいられねぇ。そういうことなんだろ、ミカ。なら・・・

 

「・・・そういや、俺な。アンタの国を勉強してみたんだよエリート様」

 

憎まれ役や嫌われ役を買うのは、団長の俺の仕事だ。どのみちつまんねぇいさかいを残しちゃいじめに繋がるかも知れねぇ。そんなチンケな真似、俺が許さねぇ。ぶつかるなら、派手にやろうじゃねぇか

 

「世界で一番マズい飯が御自慢みてぇだな。イギリスって国はよ。寿司に天ぷら・・・食大国日本サマに喧嘩売るには、ちっと身の程があってねぇんじゃねぇの?」

 

バカにしやがった事を直接返してやる。御国柄としてこの手の侮辱は堪えらんねぇだろ。お前が先に手を出したんだ。文句は言わねぇよな

 

「なっ──!!!美味しい料理は沢山ありますわ!!」

 

「ウナギパイ・・・マーマイト・・・スターゲイジーパイ・・・美味しい料理?アンタ何いってんの?」

 

・・・グルメかよ、ミカ・・・

 

「あなた、私の祖国を侮辱しますの?」

 

「解らねぇか?侮辱して差し上げたんだよ。日本で日本をバカにするイギリスのエリート様に分かるようにな」

 

視線が交錯する。噛み殺すような視線が俺とミカを射抜くが・・・舐めんじゃねぇよ。ミカは潜り抜けた修羅場が、俺は死んだ回数がまるでちげぇんだ。嬢ちゃんのカワイイにらめっこなんかにビビるかよ。さて──

 

「──決闘ですわ!!」

 

食いついて来やがった。この手のタイプはすぐに頭に血が上りやがる。四の五の言うより、シンプルにケリをつけた方が分かりやすい

 

「おぉ、上等だ。ビビって逃げるんじゃねぇぞ。よぉしお前ら!気ぃ引き締めて」

 

「それはダメだ」

 

えっ!?俺もかよミカ!何がダメなんだ?まさか戦うななんて言うんじゃねぇだろうな。此処はスカッと発散させねぇと、後々いじめやリンチに繋がっちまってアイツ自身の為にも・・・

 

「オルガを出すくらいなら、俺が出る」

 

は?・・・お前、ミカ・・・

 

「風紀委員だし、皆とのいさかいを何とかするのは俺の役目だから。アイツを、皆と仲良く出来るようにすればいいんでしょ」

 

・・・そっか。お前、風紀委員のワッペン大事にしてたもんな。その肩書きは、学園の勲章でもあるって訳だな。なら・・・

 

「──そっか。ミカ・・・やってくれるか?」

 

「勿論。いいよ」

 

ミカの名乗りに、エリート様は鼻をならす。誰でもかかってこいと言わんばかりだ。後悔すんなよ・・・と言いたい所だが・・・

 

「ハンデはどのくらいつけんだ?リクエストを聞いてやるよ」

 

俺は欠かさず、エリート様に告げてやった。大事な事だ。下手すりゃ生死に関わることだからな

 

「あら、早速お願いかしら?威勢がいいのに慎重ですわね?」

 

「あ?何言ってやがる。ミカにつけるハンデに決まってんだろ。骨だけバルバトスからルプスレクスまで、どの形態でやるか選ばせてやるっていってんだよ」

 

ミカのバルバトスは、形態がそりゃあ多い。進化が進めば進むほど手がつけらんねぇ強さになる。絶対防御だのフィールドだの。無事でいられる保証はどこにもねぇぞ。何せ俺らは、文字通り生きるのに必死で手加減や手心なんざまるで縁がなかったんだからな

 

「む、むしろ。私がハンデをつけなくていいか迷うくらいですわ?」

 

「は?・・・あんた正気か?」

 

待て、これは予想外の展開だぞ。無くていい?お前状況を・・・ってかミカの実力分かってんのか?ハンデに甘んじるべきなのはお前かミカか、どっちだ

 

「おいセシリア、嘗めすぎなんじゃないか?」

 

「日本男児は引っ込んでいてくださいまし!」

 

「確実に殺されるぞ!!」

 

ミカは目の前に立った敵には容赦しねぇ、俺が一番分かってる。グチャグチャになっちまうぞ!それはなんでも・・・

 

「オルガ、こいつがいいと言っているんだ。自由にやらせてやれ。責任は全て私が取る」

 

チフユ先生・・・だがよ。エリート様も一応クラスメイトで、殺していいって訳じゃ・・・

 

「話は纏まったな。では、対決は次の月曜、第三アリーナで行う。オリムラ、オルガ、三日月、そしてオルコットはそれぞれ準備をしておくように」

 

・・・引き立てた俺が言うのもなんだがよ。こういう場合、先生は真っ先に止めるもんじゃあねぇか・・・?万が一にも人死になんて起こっちまったら学校生活どころじゃねぇぞ・・・

 

「吠え面をかいて逃げるなら今の内でしてよ?獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くしますわ!」

 

「ふーん」

 

 

とりあえずミカには・・・殺さないようにする方法を教えなくちゃな・・・

 

 

エリート様・・・いや、セシリア・・・死ぬんじゃねぇぞ。死んでもなんとかなるのは俺だけなんだ。大事な未来を溝に捨てんのだけは、はやまんじゃねぇぞ・・・




イチカ「スゴいことになっちまったな・・・」

ミカ「まぁ、風紀委員の仕事だよ」

「気を付けろよ、ミカ。鼻につくけど専用機持ちだ。間違いなく強い」

「うん。なんとかする。・・・で、頼みがあるんだけど」

「?」

「もし俺が、やりすぎそうになったら・・・オルガや皆と一緒に、止めてほしい」

「止める・・・」

「多分、皆の声が聞こえたら・・・止まるから。じゃ」

「あ、おいミカ!」

「見回り、行ってくる」

「・・・やりすぎ・・・手加減か・・・」

(・・・つまり、特訓場所が必要って事だな。なら・・・)

オルガ「なんだ、当てがあんのか?」

「あぁ。幼馴染みが剣道やっててさ」

「・・・まさか・・・『シノ』か?」

「・・・シノぉ?」


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シノ!恩に着る!

アグニカポイントが大量に進呈されたので初投稿です。この小説が面白いのは本家が面白いからです。皆!!ニコニコの本家へ集え!!

感想にはきちんと目を通しています。アグニカポイントがモリモリ貯まっていきます。きっちり目を通しているからよ・・・遠慮するんじゃねぇぞ・・・


教室

マヤ「IS。インフィニット・ストラトスは、操縦者の全身を、特殊なエネルギーバリアで包んでいます」

イチカ「・・・?」

『LINE ミカ 防御の壁』

「成る程・・・」

「ISには、意識に似たようなものがあって、お互いの対話、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

オルガ「・・・正直ピンと」

ミカ「玉座に座れば座るほど、椅子がお尻に馴染む」

「火星の王の風格ってことか!」


「ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください。ここまでで質問のある人は?」

クラスメイト「しつもーん!パートナーって、彼氏彼女のような感じですか?」

「そ、それはその・・・ど、どうでしょう?三日月くん・・・」

「自分が出来ないことを、一緒にやってくれる。自分が行けないところに、連れてってくれる。自分の欲しいものを、進むべき道を切り拓く為のもの。それが・・・多分、ISだったり、バルバトスだったりするんだと思う」

「「「「おぉ・・・」」」」

「だから、大切にした方がいいと思う。動かなくなったら、死ぬときだから」

パチパチパチパチ!

「三日月くんすごーい!ポエミー!」

「でも解った!ISいなくちゃ、飛んだりできないもんねー!」

「よーし、もっともっと大事にしなきゃ!三日月くんも頑張ってるし、私も頑張らないと!」

「ヤマダ先生、もういい?」

「は、はい!ありがとうございました!」


「「・・・・・・すげぇよ・・・ミカは・・・」」


「うまい。うまい。うまい。うまい。うまい。」

 

 

昼飯時の食堂で、腹拵えの正午。鉄華団の団長ことオルガ・イツカは、壊れたラジカセみてーに繰り返し同じ単語、バカみてーに何度も言葉を繰り返してメシ、鉄火丼をかっこんでいた。席にいるのは俺、そんでミカ。洋食ランチ定食のチャーハンを無言でかっこんでやがる。表情や態度はそんなに変わっちゃいねぇが俺には分かる。喋る暇も惜しいくらいかっこんでやがるってことはな。いや、マジでうめぇ。旨すぎて、ロボットみてーになっちまう、いや今なってるんだがよ

 

「オルガ、さっきからそればっかりだね。ボキャブラリ、他に何か無いの?」

 

「ボキャブラリぃ?なんだそりゃ、食いもんか、調味料か、どっちだ?」

 

「レパートリーってこと」

 

「レパートリー・・・旨そうだがピンとこねぇな。定食のメニューにあるか?紹介してくれよ、ミカ」

 

・・・ミカがまた食うのに戻っちまった。おいおいつれねぇな。美味しいメシに無粋は無しだぜミカ。腹割って行こうじゃねぇか。・・・お。腹割ってといやぁ・・・

 

「なぁミカ。今俺が食ってんのはなんだか解るか」

 

「鉄火丼」

 

「そうだ。鉄華団団長の俺が鉄火丼を食ってる。鉄火丼、鉄華団、鉄火丼・・・鉄血のオルフェンズ!じゃねぇか・・・フヘッ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

・・・どうやら、ミカにはこれっぽっちも面白くなかったみてぇだな・・・即興だからな、仕方ねぇよな・・・邪魔すんなと言わんばかりに飯にありつくミカが、ふと思い出したように顔を上げる

 

「ねぇ、オルガ」

 

「鉄血のオルフェンズ!」

 

「それはもういいよ。・・・なんでイチカと食べなかったの?ホウキと、あと一人くらいは座れるじゃん」

 

指差すミカの向こう、要するに俺の後ろの座席・・・花壇をまたいだ向こうの席にはイチカとホウキ・・・シノが座っていた。なんでシノと呼んでいるかは、アレだ。いいもん見せてもらったからだ。あの裸体の眩しさで、俺は進み続けられる。足を止めねぇで、進み続けられるんだ。シノ呼びは、恩義を忘れねぇケジメみてぇなもんだ

 

ミカの指摘はもっともだ。一人どころか、二人くらい・・・それこそ俺達は普通に座れるだろうさ。だが俺は、あえて距離を離して座って飯を食っている。それは何故か?その理由の一つはな・・おれなりの気づかいってヤツだ。解るか?

 

「あいつらは久し振りにあった幼なじみ同士なんだとよ。それなら、積もる話や二人だけの時間ってのは必要だろうがよ」

 

部外者がいたら話せないような思い出話もあるかもしれねぇ。それをするってのに俺達がでかい顔して座ってちゃやりづれぇと思うからよ。ここはイチカに華を譲ってやるって寸法だ。団長は団員を護るのが仕事だ。命だろうとプライバシーだろうとな

 

「そっか。オルガは優しいんだね」

 

優しいってお前・・・そう言うのは女が男に言う台詞だぜ?いや、俺も女を護るなんて口にしたことはねぇが・・・いつか、言ってみてぇな。団長とか、立場とか関係無く。一人の『俺』としてビシッと、女の子に決めてやりてぇもんだ。いまんとこ、そんな浮いた話は見当たらねぇがよ

 

「ねぇ、君達って噂の子達でしょ?」

 

キット・イツカ・・・イツカ・ドコカ・・・ぁ?不意に声をかけられた俺は、その女に目線をやる。・・・そのリボン・・・

 

「あんた、何?」

 

ミカ、口がわりぃぞ。いや、そうじゃねぇ。首にかけられたリボンから見て二学年上・・・つまり・・・

 

「三年生じゃねぇか!」

 

「当たり。君達、噂の子でしょ?センス抜群な三日月くん、それと、ガッツと気合いがピカイチなイツカくん。代表戦の子と勝負するって聞いたけど・・・」

 

やっぱり噂になるのははえぇんだな。学園の一大行事だからか、当たり前っちゃ当たり前だ。それよりなんだって三年生が、一年の俺らにわざわざ声をかけるってんだ?ピンとこねぇな。カツアゲって雰囲気でもねぇし・・・

 

「でも、君達・・・素人だよね?良かったら、私が色々教えてあげようか?」

 

「・・・おぉ!」

 

まさかの親切心からの協力かよ!三年生だから、歳が上だからって威張り散らしたりしねぇで進んで教えてくれる先輩方・・・その心意気、あったけぃ!

 

「なんだ、そういう事なんだ。ありがとう、先輩」

 

ミカも真意を計り警戒を解く。そいつぁ願ったり叶ったりだ。経験豊富な人に教えを越えるのはこれ以上ないチャンスじゃねぇのか!盃はあったっけか・・・?

 

「じゃ、じゃあ早速ミカにISの・・・」

 

「結構です。私が教える事になっていますので」

 

返事をする瞬間、先輩の隣に立っていたのは・・・イチカの幼なじみ、シノだった。教える?シノがか・・・?見ると、イチカがサムズアップして笑ってやがる。もしかして・・・

 

「あんた、俺達の為に・・・?」

 

「勘違いするな。特訓場所を貸すのと、基本を教えるのと、心構えを教えるのと、それからイチカを鍛え直すために剣を振るうだけだ」

 

そいつぁ全部面倒を見るって事じゃねぇのか!?なんだよ、メチャクチャいい女じゃねぇかシノ!でっけぇおっぱいは伊達じゃあねぇな!!・・・あ、いや、だが・・・

 

「待って。モップは一年生だけど、こっちは三年生。教え方が上手いのは、先輩の方じゃないかと俺は思うんだけど」

 

ミカが冷静に中立で意見を申し立てやがる。いや、こりゃあ三年生の先輩の面子を潰さねぇように配慮したって事なのかもしれねぇな。確かに正論、最もな話だ。それを言われてシノは・・・

 

「私は、シノノノ・タバネの妹ですから」

 

「俺はぁッ・・・鉄華団団長ォッ・・・オルガ・イツカだぞォッ・・・!」

 

挨拶は大事だ。嘗められねぇように顔と名前は売っておくに越したことはねぇ。それはいいんだがよ、なんで挨拶する度に俺はこんなくたばりかけなきゃならねぇんだろうな。・・・いや、今はそんなことよりだ

 

「シノノノ・タバネ。誰なんだよそいつぁ・・・」

 

「えっと・・・確か、ISの開発者とか、発展させて普及させたとか・・・そんな人」

 

ISの開発者・・・つまりそいつは、一番偉い奴であり・・・火星の王であり・・・世界の王ってことじゃねぇか!そりゃあすげぇ・・・!

 

「う・・・そ、そう。それなら、仕方ないわね。お姉さんがそんな凄い方なら、色々解ってるわよねうん」

 

先輩もそれを聞いてビビりながらも納得したようだ。・・・正直、善意で声をかけてきてくれた人だ。罪悪感がない訳じゃねぇが・・・

 

「ありがとう。気を遣ってくれて。何かあったら、またよろしく」

 

「ん、うん。頑張ってね。先輩として、君達を応援してるから」

 

「あ・・・ありがとうございます!!」

 

ミカがさらりと御礼を言って穏便に済ませてくれやがったじゃねぇか・・・どうだいこいつぁ。ミカがしっかり自分の意思を伝えてやがる。すげぇことだぞこいつぁ・・・!

 

「IS学園の皆は家族だから。大切にするのは当たり前じゃん」

 

・・・すげぇよ、ミカは・・・すげぇ順応速度だ・・・いや、負けてられねぇ・・・!俺も筋と、仁義は通すぜ!

 

「シノぉ!すまねぇ、恩に着る!」

 

「・・・ただし、条件がある」

 

条件?なんだってんだ・・・命か!?頼む、俺ならどうにでも殺してくれ、何度でも殺してくれ!だがミカの命だけは・・・!

 

「必ず、三人で来い。必ずだ。道場で待っている。いいな」

 

・・・三人・・・

 

「・・・え、俺もかよ!?」

 

・・・成る程な。あんたの腹が読めてきたぜ大将!そういう事なら・・・

 

 

 

「うわぁあぁああぁっ!!」

 

剣道道場・・・道場でいいんだよな。其処にやってきたイチカは速攻で着替えさせられ、シノのヤツに徹底的にボコボコにされて竹刀とかでひっぱたかれ、叩きのめされて正座させられちまってる。情けねぇな。まぁ俺は・・・

 

「・・・木刀だろうと打ち所が悪けりゃいてぇし死ぬからよ・・・」

 

ミカの腕力任せの打ち込みで首がへし折れちまい、ワンオフアビリティの世話になっちまってるんだがな・・・手加減つぅか加減をしてくれよミカ・・・

 

「・・・刀なんて久し振りだから、感覚忘れちゃった。殺さないようにって、本当に難しいな・・・」

 

そんな風に、握りや力の込めかた、素振りをクソ真面目に繰り返すミカを見て、必死こいて身体を動かす俺。見るとシノはイチカにかかりきりで、こっちに意識をやるような余裕はなさそうだ。・・・そりゃあ、そうだろうな。ようやく巡り会えた『イチカさま』なんだからよ。ヘッポコなのは許せねぇだろうさ

 

「・・・よし、ミカ。とことん付き合ってやる。その木刀、つうか刀の勘を取り戻せ。んで・・・『俺を殺さない腕前』になってみろ」

 

ミカに注文をつけ、必死に身体を持ち上げる。キョトンとするミカに、俺は俺なりの理屈をミカにぶつけてやる

 

「殺すだけなら天下一品のお前だ。今のバルバトスの武装に不足は何一つねぇ。だからよ・・・『刀を振るうときは護るときか、なんかを助けたいときの為』に振るってみろ。人を助ける為の武器を身に付けてみろって話だ」

 

そう。学園の皆は家族なんだ。そうミカは考えてる。そんなお前が乗る度乗る度家族をぶっ壊してちゃ笑い話にもならねぇ。頭を捻って考えて、『殺さねぇ戦い』ってやつを身に付けてみろ。そいつがお前の、学園での課題ってやつじゃねぇかと俺は思う。血生臭いヒューマンデブリから、ピカピカした学生になるための、でっけぇテストなんじゃねぇのかな。俺はそう考えることにしたぜ

 

「・・・凄く難しい、と思う。・・・難しいけど・・・出来ないことを出来ないままにするのは、学生としてダメだってことは解る」

 

そう言うミカの顔は、しっかりとした決意が宿ってやがった。きっちりと、ケジメと自分のやるべきことはやる。難しい事でも、挑戦してやってみる。農業、読み書き。んで・・・人を助ける戦い。課題は山積みだが、ミカの顔には不安や不満は見あたらねぇ。いつものミカだ

 

「じゃあ、とことんまで付き合ってよオルガ。やってみる。付き合ってくれるんだろ?」

 

笑顔で俺に拳を突きだしてくるミカ。──へっ、今更言われるまでもねぇ

 

「あぁ、解ってるよんなこたぁ。付き合ってやるよ。どんだけしんどい特訓だろうと・・・俺が死んでも付き合ってやるよ!」

 

拳に拳をぶつけ、ミカと笑い合いながら距離を取り木刀を構え、気合いを込めてぶつかり合う。

 

ミカ・・・お前がこんなにヤル気に、自分からのめり込みたいと意思を見せてきやがるなんてよ。ずっと見てきた俺からしてみりゃあ・・・感無量ってヤツだ!

 

「よぉしミカ、行くぞぉ!!」

 

「オルガ・・・じゃあ、行くかぁ!!」

 

忘れんなよ。何かをやりたいって気持ち。何かをしたいって気持ちを。その先に、最高のアガリ・・・俺達の進むべき道、辿り着く場所がきっとある!意欲がとまんねぇ限り、道は続く!

 

「油断してんなミカ、遠距離からこうやって・・・ヴぅアァアァアァ!!」

 

だからよ、やりたいってこと、したいってこと・・・その情熱を・・・──絶対止めるんじゃねぇぞ!

 

「よっと(カキン)」

 

「──は?」

 

「いきなり銃とか、ズルいよオルガ──」

 

「──あぁ・・・洒落のつも、ぐぅうぅうっぐぅうぅうっぐぅうぅうっ!!!」

 

「あ──」

 

木刀の三連突きが俺の身体をぶち抜き、大量出血、目眩、立ち眩みが一斉に俺を襲い・・・

 

 

「だからよ──」

 

・・・活人剣の境地にはまだまだ程遠いだろうがよ、ミカ・・・だが、その努力と気合いが身を結ぶときが必ず来る。止まらない限り、その先に俺はいるぞ・・・だからよ・・・

 

「学ぶのを・・・止めるんじゃねぇぞ・・・───」

 

ミカの剣術・・・活かすための剣術は・・・始まったばかりだったって訳だ・・・先が、思いやられるぜ・・・

 




更衣室

ホウキ「少し・・・キツく言い過ぎただろうか・・・い、いや、アレくらいでいいのだ!あきらかに一年近く剣を握っていない。でなければあんな風に──」

「それを決めるのはあんたじゃない・・・ミカならそう言うぜ」

「!」

「出逢ってばかりで混乱するのは分かるがよ。イチカの奴も姉ちゃんに迷惑かけまいと生活費を自力で稼いでたりしてたって話だ。強さにかまけてられなかったそういう事情も、汲んでやってもいいんじゃねぇか」

「・・・オルガ・・・」

「大体、お前の事は理解したつもりだぜ。シノ、本気だってんなら背中を押してやる。もうちょい素直になってやっても、バチはあたんねぇんじゃねぇか?」

「・・・そう、だな。・・・よく見ているな、オルガ」

「当たり前だろ。団長だからな」

「そうか。私の裸もよく見ているな?」

「アアッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・」

「────ふんっ!!!(手裏剣投擲)」

「ぐうぅっ!!!」

「忠告はありがたいがそれはそれだ!馬に蹴られて死ね!!」

「だからよ──イチカにキツくなりすぎんじゃねぇぞ───」



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殺さないようにって、難しいね

聞け!ハーメルンの諸君!数多のアグニカポイントの進呈により!バエル(最新話)は此処に投稿された!

支援小説は此処だ・・・!皆!本家の下へ集え!!

頭マクギリスになりかけているので初投稿です。戦闘描写は三人視点。日常はオルガ視点で基本やっていきます。楽しんでいただけたなら幸いです


観客席

イチカ「じゃあ、俺はもしもの時の為に!」

オルガ「頼んだぜぇ、イチカ!」

「あぁ、そっちもな!」


のほほんさん「あれー?オリムラくん、どうしたのー?」

「あぁ・・・皆も、聞いてくれ。今回の戦い、もしかしたら、最悪の事態になるかもしれねぇ。俺もミカも、まだまだぺーぺーだ。力加減や、細かい動作がまるでダメな新米だ。そんなミカが戦うんだ。もしかしたら、取り返しのつかないことになっちまうかもしれねぇ」

「え・・・?」

「そ、そんなに・・・?」

「お、おどかさないでよ、オルガ~」

「マジな話だ。ミカは手加減がまるで下手くそだ。その癖、アイツは本気であのセシリアを仲間にしてぇと考えてやがる。・・・いくらいけすかねぇやつでもクラスメイトだ。殺していいはずがねぇんだ。・・・だから、頼む。あぶねぇことになりかけちまったら、俺の相棒に皆の声を届けてやっちゃくれねぇか!頼む!俺はミカに殺しをさせたくねぇし、セシリアの嬢ちゃんも除け者にしたくねぇんだ!円満に、誰一人欠けねぇで、この一年を過ごしてぇ!」

「・・・」

「この通りだ!皆の力を・・・貸してくれ!」

「・・・どうすればいい?」

「?」

「皆で、何をすればいいのかな~?ミカくんに、何をしてあげられるかな~?みんな~、いいよね~?」

「当たり前じゃん!」

「心配性な団長に、付き合ってあげるよ」

「クラスメイトだしね!オリムラくんもその為なんでしょ?」

「なになに?取り抑えればいいの?いや、自分でいっておいてなんだけど無理・・・」

「皆・・・」

「団長も、団員も、一つになって頑張るのが団だよね~。気負わないで、みんなで頑張ろー。で、何をすればいいのかな~」

「・・・すまねぇ!恩に着る!簡単だ、始まったら、俺の言う通りに・・・──」


月曜日、第三アリーナ。クラス代表を決める戦い、決闘の当日を迎えたその運命の日。セシリア・オルコットは自らの専用機、第三世代機『ブルー・ティアーズ』に身を包み、アリーナの上空にて浮遊待機を行っていた。行われる、威信と誇りを懸けた正々堂々の決闘を。クラス代表という誉れある立場を懸けて。風紀委員であり、抜群の操縦センスを持つ三日月・オーガスのIS『ガンダム・バルバトス』と対戦を行うが故に、セシリアは先んじて待機を行っているのである

 

(解らせて差し上げますわ。男子は勿論の事、その男子と仲良しこよしを甘んじるクラスの皆様に、真に頼られ頂点に立つべきは誰なのかを。きっちりと、衆目に、公平に。誰が見ても目の当たりにしていても。言い訳のつかない程の勝利を掴むことによって)

 

クラス代表、そして専用機持ち、エリート。自分は一人でやっていける。きっちりと自己を確立していける逸材であり強い女である事を示す。この武装、蒼い涙はその為にこそあるのだ。その為に、自らの護りたいものを護るために。強くあるために。そのためにこそ、私は負けるわけには──

 

『準備いい?』

 

ふと、耳に通信が響いてくる。幼くとも芯の通った声音。忘れる筈もない。これより戦う、ISのパイロット、三日月・オーガス。これより戦う相手に何を話すのかと疑問を浮かべたが、その疑問を攻撃性に変え、セシリアは尊大に三日月に言葉を返す

 

「命乞い、赦しを乞うなら今の内でしてよ?私は鬼ではありません。きっちりと身の程を弁えた方には相応の態度で接させていただきますわ」

 

『それは出来ないよ。俺は風紀委員だから。・・・努力はするから、あんたも気を付けて』

 

?気を付ける?これから戦う事の、何を気を付けると言うのだろうか?他者を気遣うほどの余裕を見せ、格の違いを見せつける、とでも言うつもりだろうか?

 

「ッ──貴方に心配される謂れはありませんわっ!これより戦うのですから、口を動かす暇があるならさっさと姿を現しなさい!それに、何を気を付ければいいのか皆目検討もつきませんわ!」

 

三日月は真摯に身を案じたつもりではあったのだが、その不器用な物言いを、セシリアは傲慢と受け取った。力を誇示し、女を虐げる野蛮な獣。仲良くしようと口でいってはいるものの、蓋をあければケダモノと同じ。最早語ることすら不愉快とばかりに、戦いをセシリアは急かす

 

『じゃあ始めるよ。──準備はいい?』

 

「勿論ですわ!早くカタパルトから現れ、私と戦い!格の違いを見せ付けて差し上げましてよ!」

 

『解った。じゃあ──』

 

その、最後の言葉を皮切りに、猛烈なスラスターバーニアの爆音が鳴り渡り、三日月が全身に纏うIS、ガンダム・バルバトスが、猛烈にして激烈な加速を以てカタパルトから真っ直ぐにセシリアの眼前に現れ、右手に握りしめた巨大メイスを振りかぶり────

 

「なっ──!?」

 

『殺さないように努力はする』

 

優しげな声音、そして労るような気遣いすら感じられる音声とはまるで真反対。骨が砕け肉が潰れ、骨格が軋むような凄まじい衝撃が目の前の悪魔のごとき二本角を冠するIS・・・バルバトスにより与えられし先制にして渾身の一撃が、ブルー・ティアーズを木っ端のように天空から地上へと叩き落とす。心の準備も回避行動も取る暇も与えられなかったセシリアは、歯を食い縛り本能的に受け身を取ることが精一杯であった。アリーナに小さいクレーターが出来、その衝撃の凄まじさを・・・視覚的にもありありと見せつける

 

(今のは、私を、本気で・・・──!?)

 

油断させるつもりだったのか。言葉遊びであったのか。いや、そもそも何故話し掛けてきたのか。敵視なのか、友好的なのか。全く読めない、解らない彼の思考パターン。困惑と衝撃の中、身体が衝撃で上手く動かせない中、バルバトスは情け容赦なく次の行動に移る

 

手にしていた巨大なメイスを振りかぶり、倒れ伏しているセシリアに向け渾身の力で頭部に目掛け投げ付ける。人間一人など容易くミンチに出来るほどの大質量の鉄塊を、運動エネルギーの全力を乗せて真下にいるセシリアに放り投げたのだ。風を切り、凄まじい勢いで風を切り叩き放られる悪魔の鉄槌。セシリアに寸分違わず投げ付けられたそれは──過たず、セシリアの顔面があった箇所に砂埃を上げ地面を抉り突き刺さる

 

「くっ!!」

 

首を動かさねばその時点で全てが終わっていた。ISが張っているバリアは衝撃は殺せない。単純な大質量の物体を叩き付けられれば、それは即座に生命維持に支障を来す

 

(躊躇いなく頭部を・・・気絶が目的・・・!?いえ、まさか・・・そんな、そのような野蛮な・・・!)

 

それを狙っての手段であるのかどうかすら、セシリアに考える時間は与えられなかった。バルバトスは『相手がまだ動ける』事実を確認した際、即座に次の行動に移る

 

バルバトスの左腕部分にスライドマウントされている60㎜砲がアクティブとなり、真下にいるセシリアを滅多撃ちにせんと射撃を放ち続ける。グラウンドに無差別に叩き付けられる砲弾、舞い飛ぶ砂塵が辺りを埋め尽くし煙が巻き起こり大規模な爆発が連鎖してセシリアを包み込まんと猛り狂う

 

「っう、くっ・・・!!」

 

その大雑把でありながら豪快、野蛮にして最適な戦術に歯噛みをしながら、ブルー・ティアーズをフル稼働して放たれる射撃よりなんとか逃れんと出力を最大限に展開し、スライドバックにて後退し己の距離を取らんとする

 

「む、無茶苦茶しますわね・・・!」

 

目の前に広がる景色、惨状を見てそう形容せざるを得なかった。整頓されていたグラウンドは無惨にも射撃により穿たれたクレーターが乱立し、凄惨なる戦場を思わせる有り様へとものの数瞬で様変わりさせられたのだ。あの、悪魔の様なISに

 

素早くバルバトスが距離を詰め、鋭利に尖った爪を振りかざしブルー・ティアーズを追い回す。生来の勘にて間一髪にかわし続けるセシリア。接近戦を執拗に行ってくるその猛進ぶりと狂犬のような苛烈さに背筋が凍るような感覚を覚えながらも隙を突き、空中に逃れたセシリアは決意する

 

「ですが、無駄な足掻きでしてよ!」

 

言葉と共に、秘蔵の兵器たる自律機動ユニット『ブルー・ティアーズ』を四基、同時展開し、オールレンジの多方面攻撃にてガンダム・バルバトスを追いたてんと画策する。このユニットは機動はすれど、無人機ではなく。セシリアのコントロールを要するためその操作の為に彼女は無防備となる。それをカバーするための距離、近付かせない為の弾幕を張り圧倒する。その彼女の目論みと運用、戦術は即座に覆されることになる

 

バルバトスが即座にバック転、側転と華麗に縦横無尽なる回避行動をとり、更に60㎜砲をマウントスライドにてアクティブとし、砲身を展開し狙いを定める。──否、それは三日月にとって狙いを定める等というほど大層なものですら無かった。

 

何となく、臭いのするビュンビュン飛ぶやつが増えた。なら、その臭いの元を狙って撃てばいい。単純な理屈に従い、感覚と本能にて『次はここに来るだろう』といった気楽さと楽観の上で、砲身より火を放ち弾丸を撃ち放つ。砲撃は、四発。そして飛来する弾丸も、四発。そして飛び回るブルー・ティアーズもまた──四発

 

「なっ、そんな──・・・!?」

 

『おぉ、当たった』

 

一発の狂いもなく直撃を食らったブルー・ティアーズ全てが花火と化し、粉々に爆発四散し沈黙する。セシリアにとっては虎の子の新兵器の陥落。三日月にとってはダメ元のめくら撃ち。それが最大の戦果を上げたことに声を漏らし、そして──

 

『──もらった』

 

己の切り札を打ち破られたショックにて茫然と停滞するセシリアに向けて、バルバトスは何の躊躇いもなくメイスを渾身の力で振るう。

 

 

──其処から先は、戦いとも呼べぬ一方的な物であった。中距離、遠距離にて真価を発揮するブルー・ティアーズ。そのアドバンテージは重装甲、高機動、白兵戦特化のバルバトスを懐に招いたことにより完全に潰され・・・

 

「きゃあっ!ああっ!っあぁっ──!!」

 

メイスの乱打、破壊と暴虐の滅多打ちにより、その蒼い装甲が見る間に砕け散っていく。一発一発が渾身の力で振るわれるその全力の殴打。装甲を狙い、人体を破壊しないように『辛うじて』考慮された一撃一撃が、セシリアの身体を折り、叩き付け、重く衝撃を響かせる

 

三日月の思考は『殺さないように』と考えてはいる。絶命させることがないように意識をしている。そしてその終わりは──『意識を失う』事がそうなんだろうと考え、無心に武器を振るっている

 

『大丈夫。殺さないように、殺さないように。殺さないように、殺さないように、殺さないように』

 

メイスを叩き付け、脚にて蹴り飛ばし、ひたすらに蒼い装甲を蹂躙していく三日月。大丈夫。悲鳴は聞こえる。まだ死んでない。ISは生きてる、まだ死んでない。大丈夫だ。殺さないようにする

 

「くぅ、あっ──・・・く、あ・・・」

 

猛烈な乱打、絶え間無く与えられる衝撃にて、意識が遠退き、言葉も発せられなくなってゆくセシリア。薄れ行く意識の中、──セシリアは、その姿を網膜に焼き付けてしまう

 

「あ、ぁ・・・」

 

瞳から真紅の光を漏らしながら、狂気を撒き散らしながら破壊を行う【悪魔】。恐ろしいまでに醜悪で、狂暴で、おぞましく歪んだ形相の、白き悪魔の偉容。自らに純然たる致死の一撃を叩き込み続ける、死を告げ、運び、物言わぬ死体にしようと猛る恐ろしき存在。角を怒らせ、牙を剥き出し、眼を爛々と輝かせしその姿は──セシリアの深層心理に達する傷跡を遺すには充分すぎる程の鮮烈な姿であった

 

『大丈夫?今楽にするから。もういいよ、喋らなくて』

 

バルバトスの左手が猛然と満身創痍のセシリアの首に伸び、ミシミシと渾身の力で締め上げ締め付け、彼女の体がバルバトスの腕一本の力で持ち上げられ、強く強く締め上げられる

 

「あ、ぁ・・・かひゅっ・・・か、っ・・・」

 

口から泡を吹くほどに力を込められ締め上げられるセシリア。緊急アラート、生命維持が困難なほどの危険ダメージが蓄積された事を示す表示がなされる

 

『大丈夫?苦しくない?終わりにするならそう言って。──大丈夫?』

 

純粋に心配する三日月。純粋に破壊と粉砕を行うバルバトス。三日月自身がそのズレに気付いていない。操縦席ではなく、纏うものとしての存在としてのバルバトスを制御できていないのだ。軽く首を掴んでいるつもりなのだが、バルバトスの左腕は強く強く、セシリアの首に食い込み続けている

 

「か──ぁ・・・」

 

『あれ、そろそろ消えるよ?その、えっと・・・緊急・・・』

 

意識と共に、生命維持に危険が伴い始めたその瞬間──

 

「ストーップ!!ミカ、落ち着けーっ!!」

 

二人の間に割って入る影が、流星の如くに現れる。女性ばかりの中には少ない男の声

 

「──イチカ?」

 

そう認識した瞬間──

 

「今だお前らァ!!腹から声出せよぉ!!」

 

オルガの怒号に合わせ、クラスメイト達が立ち上がり、顔を見合わせタイミングを合わせ、一斉に──

 

 

「「「「「「何やってんだミカーーーーーッ!!!!」」」」」」

 

 

力の限りに叫ぶ、女子のクラスメイト達。オルガの団長命令を、激励を、全員で三日月に届ける。──バルバトスがその声を、オルガを初めとした声を聞いた時。三日月が、大切な仲間を認識したその瞬間──

 

「・・・──皆の声だ。あぁ、終わったんだ」

 

身を纏っていたバルバトスが、収束、収納され三日月の姿を露にする。締め付けていた左手の力が僅に緩み、セシリアの身柄を確かに解放する。力なく倒れ、ぐったりと弛緩するセシリア。同時に、試合の終了を確信し──

 

「はぁ・・・もう終わったんだ、ミカ。殺してない、けど・・・やりすぎだって!もうちょっと加減してもいい!切実に!」

 

「ん、ごめん。殺さないようにって、難しいね。・・・でも」

 

「?」

 

「約束だった。ありがとう。止めてくれて」

割り入って、認識できたからこそ止められた。自分は、助けられた。大切な家族を殺さずに済んだ

 

「へっ、当たり前だろ?『筋を通す』。団長命令だ!──あ、おい・・・」

 

セシリアを、米俵のように担ぎ上げスタスタと歩き出す三日月。その背中を見つめ、イチカが声をかける

 

「傷付けたのは俺だから、きちんと看病してくる。・・・クラスの皆に言っておいて」

 

「・・・何をだ?」

 

「『皆の声が、聞こえたよ』って」

 

それだけを告げ、三日月はセシリアを担ぎ上げアリーナを後にする

 

 

「ハラハラさせやがって、バカ野郎が・・・へへっ」

 

脱力し、胸を撫で下ろすクラスメイト一同の様子と、三日月、イチカの様子を目の当たりにし・・・オルガは、ひと安心とばかりに笑みを溢すのだった・・・

 




医務室

セシリア「ん、ん・・・はっ!?」

ミカ「あ、起きた?」

「あ、あなたは・・・!?」

「ん、命に別状はないって。打撲が酷いから、すぐには動かない方がいいよ。はい、火星ヤシ」

「・・・・・・」

「・・・?」

(・・・三日月、オーガスさん・・・何故、なのでしょう。こんな気持ちになるのは・・・)



大丈夫?苦しくない?



殺さないように、殺さないように、殺さないように、殺さないように、殺さないように



──あの、情け容赦なく叩き潰す、豪快にして悪魔の様な立ち振舞い・・・なんと、なんと・・・




「あわわわわわわわわわわわ・・・・・・!!」

「?」

「み、三日月さんっ!数々の無礼、御許しくださいませ!なんでも、なんでも致しますわ!ですからあの、だからどうか、お怒りを、お怒りをお沈めになって・・・!」

「・・・別に怒ってないよ」

「本当、かしら・・・?」

「うん。・・・だから・・・仲良くしよう。クラス、皆と」

「三日月さん・・・」

(・・・こ、これは・・・!(風紀委員として一度は容認するが次はない)という寛容と処断のお心・・・!!一度はあれど二度は無いという器の広さと容赦の無さ・・・!次に粗相をすれば、私はあの、メイスで・・・!!)

「わわ、分かりましたわ!誠心誠意、クラスの皆様と仲良くさせていただきます!!三日月さんもどうかご随意に、よしなに!お願いいたします!」

「?勿論。良かった・・・風紀委員の仕事はちゃんと、出来たみたいだ。・・・で」

「?」

「──クラス代表の話なんだけど」


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結構カッコいいじゃねぇか・・・!!

不定期更新?

アグニカポイントを大量進呈された私は、そのような世迷い言に惑わされる存在ではない

オルシャルを心が強く望んでいるので初投稿です


職員室

「代表を辞退する?」

「私は敗北者で未熟者な事を痛感いたしましたから、自主的な辞退を!」

「俺は・・・やり過ぎたから」

「ふむ・・・となると、後続は・・・」

「はい!」

「あぁ」

「・・・いいんだな?」

「未熟ですが、きっとやってくれますわ!」

「オルガを、信じてるから」

「・・・そうか。では、そのように要望を通す。授業が始まる。グラウンドに行け。・・・あぁ、それと」

「?」

「オルガは特例として、オリムラとペアで戦うことを許可する。ヤツのワンオフアビリティでは戦闘にて特性を活かしにくい。一度発動したなら、オリムラに戦闘権を譲渡する形で戦うような形だ。異論はないか」

「オルガが死んでも、イチカが戦えるなら大丈夫ってことだね。ありがとう。そうしてもらうと助かる」

「よし。・・・それと」

「?」

「夕方、食堂は貸しきっておく。・・・以上だ。行け」

「・・・ありがとう」


「では、これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう」

 

アリーナ、まぁグラウンドに並ばされた俺達一年一組。インナー一枚のきわどい格好で、クラスの皆は授業に望む。俺ら男子も、おんなじように並んでるわけだ。で、先生の指示を待ってる。どこも上下社会。かわんねぇな、こういうのはよ

 

クラス連中の全員がピシッと整列して気を付けして並ぶ中、白いジャージを着こなして出来る女っぷりをまざまざと見せてきやがるチフユ先生の言葉に、俺は気を引き締めて言葉に耳を傾ける。授業の実践訓練、そんでこれから学んでいく基礎中の基礎。飛行の訓練をやって見せろ、って事らしいな。そいつぁ心が踊るってもんだ。──声をかけられる相手は、大抵察しがつくからよ

 

「オリムラ、オルガ。ミカ、オルコット。試しに飛んでみろ」

 

おいでなすった。やっぱりここは専用機持ち、んでもって男連中が率先するってのが筋ってもんだ。女子が怪我をする、下手こいて巻き込まれ事故なんて笑えねぇ結果は防がなきゃなんねぇ。頑丈な男が、先陣を切ってやんねぇとな

 

「・・・ミカ。授業の最中に参考書を読み耽るな」

 

「ぁ、ごめん」

 

ミカのヤツは先生の指示が出るまでずっと本を読んでやがった。そのページは『基本飛行動作』って項目で、色々難しいことが書いてやがる。・・・お前、本当に真面目だな。気が付いたら勉強をしてやがる・・・自前でやると決めたらとことんまで極めんのがお前って事なんだな・・・

 

「ミカくん、一番真面目なのに怒られてる~」

 

「しっかりー!風紀委員!クラスのエースなんだからねー!」

 

ポリポリと頭をかくミカに、クラスの皆は茶化しながら気安く接してくれる。どうやら前の戦いの禍根は無さそうだな。日頃の行いだ、やったなミカ!

 

「解りましたわ!では、衣装替えを!」

 

セシリアがハキハキと前に進み、左耳のイヤーカフスを輝かせて全身に鎧みてーな蒼い装甲を一瞬で纏う。ISってのは普段は待機状態で体のどっか・・・アクセサリーにして持ち運ぶのが通例なんだとよ。ミカに丁寧に教えてもらったぜ。サンキューなミカ!

 

「さて・・・」

 

となると、次は俺な訳だ。いよいよ俺のIS・・・長い間見せれなかった秘蔵っ子、『王の玉座』の御目見えってヤツだ。展開の仕方は頭に叩き込んである。期待の目線がビンビン俺に突き刺さるのを感じるぜ・・・待ってろよ・・・!今すぐ、ここで!見せてやるよ!

 

「──rideon!」

 

俺の言葉に反応して、ジャキンと尖ったナイフみてーにセットされた俺の『前髪』がキラリと光って、俺の身体に鎧、ISがガキンガキンと装着されていく。白いボディに、イカした一本の角。火星の王が腰掛ける玉座、んでもって俺の唯一の専用機にしてIS・・・

 

「名付けて、『獅電』だ!なんだよ・・・結構カッコいいじゃねぇか・・・フヘッ・・・」

 

「「「「おぉ~!!」」」」

 

歓声に機嫌を良くする俺。あぁそうだ、解ってる。このいぶし銀な感じ、男も女もバッチリ惹き付けるシンプルイズベストなフォルム。見とれちまうのも無理はね・・・ん?

 

「行くぞ。──バルバトス」

 

見ると、クラス連中の視線は俺じゃなく隣の──アトラから貰ったミサンガに念じ、バルバトスを纏ったミカに集中している事に気付く。筋骨粒々に二本の角。禍々しいフォルムの癖に三日月の体格に合わせてちんまいバルバトスが、女子の関心を独り占めしてやがる

 

「可愛い!カッコいい!」

 

「見た目は怖いのに、なんか惹き付けられるよね~!ミカくんもクールだから、マッチしてるって言うか!」

 

「あのメイスにロマンを感じる・・・おっきくてぶっとい・・・」

 

「あわわわわわわわわわわ・・・・・・・・・」

 

思い思いの感想と関心がバルバトスに向けられてやがる。セシリアのやつは妙にビビってるが・・・どうかしたのか?ミカのヤツはそんなクラス連中に手を振ったり愛想よく付き合いやがる。ヘッ・・・社交性が身に付いてきたじゃねぇの。なら、俺から視線をかっさらった事は責めねぇでやるよってな

 

「よし、できた!さあ、行こうぜ、皆!」

 

見るとイチカの奴もIS、『白式(びゃくしき)』を上手く纏ったみてぇだ。・・・あのフォルム、マクギリスの野郎のガンダムを思い出して穏やかじゃねぇが・・・イチカには関係ねぇ話だな

 

「よし、飛べ!」

 

チフユ先生の号令に、セシリアのブルー・ティアーズは素早く上昇し青い空を威勢よく駆け抜けて飛んでいきやがる。エリートの肩書きは決してフカシってわけじゃぁねぇみてぇだな。やるじゃねぇか!

 

「じゃ、二人とも先に。ガンダムバルバトス、出るよ」

 

それに続くように、バルバトスを纏ったミカが力の限り地面を蹴って空を飛び、背中んとこのバーニアを吹かして勢いよくかっとんで行く。跳躍と飛行をうまいこと組み合わせた移動の仕方に、連中の目は釘付けだ。俺らも負けちゃいられねぇ・・・ミカばっかにいいカッコはさせねぇぞ!

 

「イチカァ!気ぃ引き締めて──ヴァアァアァッ!?」

 

「うぉおぉおぉおぉお!?」

 

白式の飛行を試みやがったイチカは、何故かへなへなした軌道でハエみてーにうぉんうぉん飛び回りながら上昇していく。──あぶねぇ!俺にぶつかるとこだったぞ!イチカァ!

 

「なんだよ・・・」

 

だが、ぶつかってみるのも悪くはなかったかもな。ISを纏った俺の耐久性はどんなもんか、試してみたい気持ちはあるっちゃあった。まぁ、ここは怪我が無くて良かった・・・ってことにしとくか!

 

なんとか空に飛び立った俺ら四人は、飛行と操縦センスがバッチリと目に見える形で姿勢と速度に現れてやがった。ミカの奴がフルスロットル、フルスピードで誰よりも速く先頭をかっとんでいく。そいつは何度も何度もシミュレーションと練習、んでもって経験と感覚で掴んだ努力とセンスの現れだ。鉄華団のエースのセンスは伊達じゃねえって訳だな。急停止や旋回までこなしてやがる。何度言わせるんだっての。すげぇよ、ミカは・・・

 

セシリアも、ミカ程じゃねぇが高速で、上品に風を切って飛んでやがる。ミカが荒々しく空を蹂躙する飛び方なら、セシリアのヤツは舞うように、って感じだな。制動じゃぁ、ミカよりうまいかもだ。

 

で・・・イチカのヤツと、偉そうに解説してる俺らはというと、だ

 

『速度が遅い!スペック上の出力では、ブルー・ティアーズより白式の方が上だぞ!オリムラ、気合いを入れろ!』

 

ケツを叩かれながらのさのさと飛んでるイチカの隣で、俺は落ちねぇようにするのが精一杯だった。いや、結構ムズいぞこれ。独特のふわふわっていうか、足につかねぇ頼りなさって言うか・・・

 

「ヴァアァアァッ!──ハラハラさせやがって・・・」

 

うっかり落ちそうになっちまった俺はあわてて体勢を立て直してなんとか飛行の体面を保つ。ミカやセシリアはホイホイやるなか、自分のイマイチさには情けねぇ気もするが・・・まぁ、俺の操縦技術としてはこんなもんなのかもな

 

「そう言われても・・・自分の前方に角錐を展開するイメージだっけ?んん・・・よくわかんねぇ・・・」

 

「──セシリア。イチカにコツを教えてあげて。俺より、セシリアの方が細やかさでは上手いから」

 

「は、はい!光栄ですわ!三日月さんもお気をつけくださいな!」

 

頭を唸らせてるイチカ、それに俺らを見かねたのか。前にいた二人が速度を落とし、ミカは俺に、セシリアはイチカの傍にアドバイスをするために寄ってくれやがった。ありがてぇ!

 

「イメージは所詮イメージ。自分にあったやり方を模索するほうが建設的でしてよ?」

 

「イチイチ細かく考えないでいいよ、オルガ。空にも、俺達の道は続くって考えて、進み続けるだけでいい。止まらない限り、道は続くんだ」

 

ミカの言葉に、俺も気合いと勇気が沸いてくるのをハッキリと感じ取れる。へヘッ、最初からそう言ってくれりゃあ、バカな俺でもわかるってもんだ!

 

『オルコット。急降下と完全停止をやってみせろ』

 

「了解です!では、三日月さん!お先に!」

 

「気を付けてね」

 

先生の指示に従い、セシリアのブルー・ティアーズは地面に向かって思いっきり加速し、んでもってぶつかる寸前スレスレってとこで速度と勢いを殺し、ピタッと止まって着地する。拍手が巻き起こるのがこっからも聞こえてくるぜ。やりやがるじゃねぇか!流石鉄華団だ!

 

「上手いもんだな・・・」

 

イチカのポカンとした声を背中に、俺も負けてはいらんねぇと思いっきり加速をつける!セシリアとミカにも負けねぇってとこ、クラスの皆にも見せねぇとな!操縦技術で負けてんなら、気合いだ気合い!!

 

「よぉし行くぞぉ!!──うっ!?」

 

意気込んでみたはいいが、思いっきりかっ飛ばしたISの最高速度は半端ねぇ速度だ!気合いと比例して速度が出やがる!ブレーキどころか止まれねぇ!やべぇ・・・!地面がみるみるうちに迫ってきやがった!

 

「しくじっ──ヴァアァアァッ!!」

 

ヤバい!ぶつかる!ぶつかる!!そう感じ、ワンオフアビリティの世話、つまり死ぬんだなと直感的に理解した──そんときだった

 

「オルガ──!!!」

 

さっきまでへろへろ動いてた白式がものすげぇスピードと速度で俺に近付いて、衝撃を殺すように俺を庇いやがった!な、何やってんだイチカお前!!

 

「とりあえず舌噛むなよ!うわぁあぁあぁ落ちるー!!!」

 

俺とイチカは抱き合い、もんどりうつようにすげぇ加速で──グラウンドに叩き付けられる。最高速度で二つのISだ。グラウンドに地面に穴の一つや二つは空くもんだと思ったが──そいつぁ、防がれてたんだ

 

「・・・二人とも、大丈夫?」

 

ミカだ。あの一瞬で、俺ら二人より速くブーストを吹かして着地地点に先回り。装甲を頼りに俺ら二人を纏めて護り受け止めたって事になる。グラウンドも、俺らも、全部まとめて護りやがった。ったく・・・

 

「あ、あぁ・・・何とか無事だよ。ありがとな、ミカ」

 

「気にしないで。風紀委員だから」

 

「イチカお前・・・何を無茶してやがる。いや、やればできんじゃねぇか」

 

「ん?・・・あぁ、そう言えばそうだな。オルガが危ないって考えてたら、なんか飛べてた。ISが応えてくれたってことかな」

 

「・・・ISが、応える、か・・・うん、いいね、それ」

 

バルバトスが俺ら二人をゆっくりと下ろす。すげぇ衝撃だってのに、ミカはまるで気にしてねぇ。んでもって、イチカのヤツには借りが出来ちまったな。でけぇ借りがよ

 

「すまねぇ、イチカ。恩に着る」

 

「気にするなって。ダチを助けるのは男として当たり前だ」

 

「三日月さん無事でして!?お怪我は!?御体に異常はありませんか!?」

 

「大丈夫。・・・皆も無事?」

 

一同は顔を見合わせる。どこも怪我はしてねぇ。心配ねぇよ。──頼りになるダチ公どもだぜ、全くよ

 

「オリムラくん!三日月くん、イツカくん!大丈夫ですか!?」

 

ヤマダ先生、チフユ先生も心配そうに歩み寄ってくれるとはよ。気を遣われるって結構嬉しいじゃねぇか・・・ヘヘッ

 

「・・・オリムラ。いい速度だったぞ。その感覚を忘れるな」

 

「は、はい。いやあの、助けるために咄嗟だから・・・」

 

「それを忘れるなと言っている。よし、四人とも、すぐにまた飛んでもらう!準備しろ!」

 

その厳しいスケジュールの授業に、俺らは必死に飛んだり旋回したり、たまに団長命令が鳴り響いたり、必死こいて食らい付いた

 

やること為すことが初めてばっかりで、もどかしく感じることもあるがよ・・・

 

「三日月さん!加速、展開、そして攻撃の回避!その、宜しいでしょうか!」

 

「うん。遠慮しないでいいよ」

 

「それでは・・・!はぁっ!!」

 

「ヴァアァアァッ!!!!」

 

「あ・・・」

 

「・・・流れ弾は大抵俺に当たるからよ・・・だからよ・・・無駄撃ちすんじゃねぇぞ・・・」

 

「ナノラミネートアーマーが有る筈だから、ビームは大丈夫な筈なのに・・・ワンオフアビリティの副作用かな?」

 

「おーいオルガー!!しっかりしろー!!」

 

 

でも、すげぇ楽しくて、笑いが止まらねぇ場所で、こうやって騒げんのは、すげぇ良いことだと俺は思う

 

「もももももも申し訳ありませんわ三日月さん!!かくなる上は、私、セプク、ハラキリをもってお詫びを・・・!!」

 

「しなくていいよ。オルガは、死んでも大丈夫なオルガだから」

 

 

──良かったな、ミカ。これからも、上手くやっていこうぜ

 

 

だからよ・・・・・・日々の生活を、止めるんじゃねぇぞ・・・──

 

 

 

 




夕方、食堂にて

オルガ「よぉしお前ら!今日は遠慮しねぇで思いっきり楽しめよ!!──クラス代表就任に、乾杯!!」

『オリムライチカ オルガ・イツカクラス代表就任おめでとう!』

「「「「「かんぱーい!!!」」」」」

イチカ「オルガはともかく、何で俺がクラス代表なんだよ?」

セシリア「それは、私と三日月さんが辞退したからですわ。三日月さんに身の程を弁えずに挑み無様に敗北した愚かな私と・・・」

三日月「試合内容に問題あり・・・だから、自主的に俺は落選で辞退。その代わり、オルガとイチカを推薦で選出したんだ。先生にもそう話をつけてる」

「そう言うわけで・・・私と三日月さんは、それぞれ二人にクラス代表を譲ることにしましたの!どうか、これより先も懸命に頑張ってくださいませ?」

オルガ「ミカお前・・・」

「頼んだよ。オルガとイチカなら、任せられる」

「・・・いや。解った。任せとけ、ミカ」

ホウキ「責任重大だぞ。やれるのか、イチカ」

「ん・・・そうだな。二人が推薦っていうなら、やってみるか。なんとかなるよう、気合い入れてやってみるよ。団員として」

「・・・そうか。なら、いいんだ」

「ありがとうな、ホウキ」

「モップはイチカが心配なんだよ」

「な!三日月、余計な事を言わなくていい!」

「言わなきゃ、伝わらない」

「う・・・そ、それは・・・」

パシャ!

「ヴァアァアァッ!!!!」

「はいはーい、新聞部でーす!悪魔の風紀委員三日月・オーガス君!クラス代表の一人、オリムライチカくん!写真、いいかな?」

「ん?いいよー」

「か、構わないけど・・・」

「はーい!じゃあ立って立ってー!じゃあ男と男で、握手してもらおうかなー!」

「これからも、よろしくな。ミカ」

「うん。頑張って、イチカも。・・・皆も、一緒に写ろう。仲間で、家族だから」


のほほんさん「わーい。皆で撮ろうよー」

「男同士の友情なら、争いは起こらないしね~!」

「オルガ?オルガー!どこ行ったのさオルガー!」

「おー!いいよー!じゃあ笑顔で笑顔でー!三日月くん緊張しないでー!オリムラくん笑顔かたいよー!はーい、皆とるよー!はーい!」


「「「「「「ちー、ず!!!」」」」」」

パシャッ──


「・・・あれ?オルガ?」

キボーノーハナー

「・・・明治時代では、写真を撮ると魂を抜かれるって信じられていたからよ・・・」

「・・・なんで死んでるの?」

「迂闊に・・・フラッシュ炊くんじゃねぇぞ──」


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俺の仕事だ・・・!

そろそろ、本家の動画に興味を持ってもらえましたか?え?まだ見てない?


・・・バエル(支援小説)を持つ私の言葉に背くとは・・・

オルシャルもミカラウもミカセシもオルホウも好きなので初投稿です

革命のポイントであるアグニカポイントを、無駄にしてはいけないよ(念)






クラス 教室にて

クラスメイト「もうすぐクラス対抗戦だねー!」

「そうだ!二組のクラス代表が変更になったって知ってる?」

オルガ「何っ!?誰なんだよそいつは!?」

「あははっ、オルガビックリしすぎー!」

「ミカくんもオリムラくんもいるから大丈夫大丈夫!転校生みたいだけどね?」

「そうは言うがよ・・・」

イチカ「転校生?今の時期に?」

ミカ「ふーん・・・また何処かの国の代表かな」

「うん。中国から来た子だって」

オルガ「何処なんだよそいつぁ!」

ミカ「日本の隣ぐらいの場所。キムチとか青椒肉絲、回鍋肉とかが凄く美味しい」

オルガ「マジかよそいつぁ!」

セシリア「ふふん!私や三日月さんの存在を今更危ぶんでの転入かしら?」

イチカ「どんなやつなんだろ?強いのかな?」

三日月「強いのは普通でしょ。代表だから」

オルガ「お前・・・戦うのは俺らなんだぜ。ビビらせねぇでくれよ・・・」

「大丈夫大丈夫。今のところ専用機持ちは一組と四組だけだから余裕だよ!」

?「その情報古いよ!」

「「「「「ん?」」」」」

鈴「二組の専用機持ちのクラス代表になったの!そう簡単には優勝できないから!あと三日月って子!キムチが美味しいのは中国じゃなくて、韓国だからね!」

ミカ「あ、そうなんだ。ありがとう、キムチの子」

「キムチの子!?」

オルガ「そっかぁ・・・」

イチカ「・・・お前、鈴か!?」

「そうよ!中国代表候補生!凰鈴音(ファン・リンイン)!」

オルガ「俺はぁ!鉄華団団長・・・ォ!オルガ・イツカだぞぉ!」

ミカ「誰も聞いてないよ」

イチカ「リン・・・!なにかっこつけてるんだ!?全然にあわないぞ!」

リン「な、なんてこと言うのよあんたは!!」

ミカ「知り合い?」

「幼馴染みなんだ。小さい頃、よく絡んでたんだよ。まさかアイツが代表候補生だなんて・・・」

ゴンッ!!

「あうっ!!──な、何すんの!?」

ゴンッ!!

「あうっ!!」

キボーノハ

「じゃなくてぇ!!」

オルガ「俺のワンオフアビリティリスペクトかぁ?いいんじゃねぇの?なぁ?」

リン「ごめん、やってみただけで興味ないから」

オルガ「何ッ──!?」

ミカ「当たり前じゃん。フラれたね、オルガ」

「・・・なんだよ・・・」

(・・・しかし、代表戦か・・・油断は出来ねぇな・・・なら・・・)

「──よぉし皆!聞いてくれ!放課後に・・・」

チフユ「席につけ」

ゴンッ!

キボーノハナー♪


「よぉし、お前ら、準備はいいな!1カ、3カ、んで5カってんで!対抗戦に備えて特訓すんぞぉ!」

 

時間は放課後、空が夕暮れてすっげぇ綺麗な下で、グラウンドに集まった俺達一年一組の専用機持ちのメンツ・・・俺、イチカ、ミカ、んでセシリアの四人。俺が声を掛けて呼び出した、一組のメイン戦力。そんでクラス代表としてのメンバーだ。改めて集まったのはなんでかっつーと、そりゃあ勿論互いの力を高める特訓のためだ

 

「二組の・・・ファン、なんとか言うヤツが現れたってことは、専用機持ちのアドバンテージが薄れたってことだ。俺とイチカが代表だからごり押しは叶わねぇ。地力を上げるしかねぇんだ。クラスの皆に泥を塗らねぇよう、日頃からコツコツ積み上げるしかねぇ。その為には、地道な特訓しかねぇ。強くなるための近道なんて何処にもねぇんだ。毎日の積み重ねが道になる。その為にも、俺達は立ち止まっちゃいけねぇ。だからこうして、秘密の特訓と行こうじゃねぇか!なぁ!」

 

三人が頷く。それぞれ自分の中に解決しなきゃいけねぇ問題を抱えてるってのが把握できてるのか、特訓にはキチンと意欲を見せてくれやがる。その調子だ。本気でやりゃ、なんだって結果はついてくる。努力は必ず応えてくれる。その為にもやるんだ。止まんねぇ限り、道は続くんだからよ

 

「俺はとりあえず、ISに慣れないとな・・・ちゃんと動かせるようにならなきゃ。ミカやオルガも頑張ってるし、俺も頑張らないと・・・」

 

「私は後方からの援護、三日月さんやイチカさん、オルガさんとの連携、それと自衛が課題ですわね。接近戦担当の援護、離れてしまった際の凌ぎ方。エリートと鼻持ちする前に、弱点は克服しておきませんと・・・」

 

「俺は、殺さないように・・・やり過ぎないように。あと『ズレ』を直さないと」

 

思い思いの課題を提案し、反芻して考えて。それぞれのやるべきことを見つけ出していく。俺の見立てじゃ、そんなに心配はねぇんじゃねぇかと思う。自分の何処が悪いのか、自分の何が劣ってんのか。見えてるんなら後は進みゃあいい。『なにをすりゃいいのかわかんねぇ』ってなってないのなら、止まらなきゃあいい。そうすりゃあ『出来ないこと』なんて、あっという間に通りすぎてるってもんだ。だから・・・足を止めるなってこったな!

 

「よぉし、覚悟は決まったな!よぉし、じゃあ始めっぞぉ!!」

 

全員がISを纏って、俺とイチカ、ミカとセシリアが睨みあって特訓をおっ始めようとしたその瞬間──

 

「やはり特訓か。その研鑽、私も参加させてもらおう」

 

何っ!?俺達に待ったを掛けやがる、このピシッとした声。こいつは、これは──!

 

「シノじゃねぇか!どうした、お前・・・!」

 

「なんだ、そのIS・・・?」

 

「日本の量産型、『ウチガネ』だっけ」

 

俺が驚き、イチカがポカンと口を開け、ミカが当たり前のようにその正体と実態を言い当てる。そいつを聞いて気をよくしたのかシノが得意気に胸を張る。なんだよ・・・たぷんと揺れてエッチじゃねぇか・・・フヘッ・・・

 

「その通りだ!イチカ、皆。私もお前達の力になるために使用許可を取ってきたのだ。接近戦の手解き、きっと何か教えてやれると思う。どうか、仲間にいれてはもらえないだろうか!」

 

頼む!と頭を下げるホウキ。あんた・・・イチカやミカの為に・・・なんて一本筋が通った女だよ・・・ますます好みじゃねぇか・・・!こっちとしても、拒む理由は何処にもねぇ!特訓のパターンや戦法は、多いに越したことはねぇ!

 

「いいんじゃないか?ホウキは強いし、刀の扱いはミカも上手くなりたいっていつも言ってるしな。なぁ、ミカ?」

 

「うん。モップ、よろしく頼むよ。セシリアも、いい?」

 

「私は三日月さんがよろしいなら異論を挟むなどと言う無様で愚かで馬鹿な真似は一切いたしませんわ!」

 

三人も乗り気みてぇだ。ヘヘッ、こうしてクラスの絆ってのは紡がれてくんだな。悪くねぇ。こいつが、青春・・・ってやつか。結構楽しいってか・・・胸がワクワクするよなぁ!

 

「頼む、オルガ。足は引っ張らん、全力を尽くすことを約束する」

 

「願ったりだぜ、シノ!よぉし!陽が暮れるまで特訓と行くぞ!団長命令だ、音を上げんじゃねぇぞぉ!!」

 

「あ、じゃあ提案があるんだけど」

 

ミカが手を挙げて、自分の意見を告げる気合いと気概を見せつけてきやがった。おぉミカ!なんだってんだ、なんでもいいぜ、キチッと言いたいことを言えよぉ!

 

「イチカはまだ下手だから、セシリアとモップの二人をコーチで。俺は殺さないようにするためだから、オルガとトコトンやる、って言うのはどうかな」

 

・・・は?まさかミカ、俺を刀で殺さないように滅多打ち、滅多斬りにするってのか!?

 

「ほら、女の子に肌の斬り傷とか良くないし。イチカは死んだら終わりだし。此処はやっぱり・・・オルガがいいと思うんだ」

 

・・・いや、筋は通ってんだ。俺はワンオフアビリティあっから死んでも復帰できる。筋は通ってんだがよ。そいつは裏を返しゃ『死ぬくらいやるけどいい』って意味なんじゃねぇのかミカ!俺は確実に殺されるぞ!!つうか死ぬぞ!確実にな!

 

「付き合ってくれるんだろ?」

 

う・・・

 

「ねぇ、付き合ってくれるんだろ。オルガ」

 

・・・・・・あぁ、くそっ。遊びやおふざけじゃねぇ。マジだ、マジの目だ。こいつは悪ふざけで口にしてるんでも、お遊びでおままごとをしたいんじゃねぇ。本気も本気で、クラスの皆を護るため、殺さないために・・・全力で出来ることをしたいって考えてる目だ

 

「・・・──あぁ分かったよ!付き合ってやるよ!付き合えばいいんだろ!!」

 

なら──その期待を、その目を、俺が上回らない訳にはいかねぇ!!やってやるよ、俺くらいの命、いくらだってチップにしてやるよ!!覚悟しろよ、その代わり──

 

「途中でできねぇとか無理とかいいやがったら、ぶっ飛ばすぞ!汗水垂らしてでも、血マメ潰してでも!這ってでも!モノにしやがれよ!ミカァ!!」

 

「──あぁ、勿論だよ。ありがとう。オルガなら、そう言ってくれると思った」

 

へっ、調子の良いこといいやがって・・・!なら構わねぇ、絶対にやりきれよぉ!ミカ!

 

「──ホウキ、セシリア。俺にも本気で頼む」

 

イチカの野郎も、何か触れるもんがありやがったのかキリッとした顔で刀を構えやがる。その気迫に、二人を呑み込もうとしてやがるみてぇだ

 

「二人が死ぬ思いでやるんだ。俺もいい加減な気持ちでやりたくない。今までのブランクを鍛え直して・・・オルガの期待に応えたいし、ミカにいつか追い付きたい」

 

「イチカ・・・」

 

「だから、頼む。俺は──男として、強くなりたいんだ」

 

・・・ヘッ。カッコいいじゃねぇかよ色男。それでこそ、鉄華団の男ってもんだ!解ってきたじゃねぇか!

 

「・・・二言は認めんぞ。徹底的に行く。いいな」

 

「三日月さんに追い付きたいなどとは不遜にして無礼!畏れ多いにも程がありますわ!なら──容赦はしませんわよ!」

 

女連中もヤル気に火が付いたみてぇだな。バリバリ火花が散ってるのがここでも解るぜ。高め合うライバルって言うんだろ、こう言うのはよ。いいぜぇ!今の俺らなら、なんだって出来る!そんな確信が確かにあるぜ!だからよ──

 

「よぉし、行くぞぉお前ら!!見せ付けてやろうじゃねぇか・・・俺達『鉄華団』の気合いと根性ってヤツをなぁ!!」

 

「行くぞ、ホウキ、セシリア!」

 

「来い!イチカ!!」

 

「お相手致しますわ、イチカさん!」

 

「じゃあ──行くかぁあぁっ!!」

 

「かかってきやがれ、ミカァアァアァ!!!」

 

 

この気合いと意地、情熱を絶対止めんな!──絶やすんじゃねぇぞ!この向こう見ずで馬鹿正直な向こう見ずってヤツをよぉ!!

 

「──ヴゥウゥアァアァァ!!!!」

 

 

~~~そんで、陽が暮れるまで俺達の特訓は続き・・・──完全に暗くなって、空に星屑が見え始めた時間に、俺達の特訓はしっかりと終わり・・・

 

「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・」

 

片膝をつき、荒い息をついて呼吸を整えるイチカ。まぁ無理もねぇ。セシリアの精確な射撃、ホウキの間合いを詰める刀を捌き・・・考えることとやることが沢山あんだ。何倍も疲れたんだろうよ。俺よりな。俺はどうかっていうと・・・

 

「・・・うぅん、殺したらダメなんだ。殺さないように戦うのは、ただ潰したり壊したりするのとは、まるで違う・・・」

 

・・・木刀にボッコボコにされ、貫通したり首を折られたり。そりゃあヒデェ有り様にされちまって、脇らへんでくたばって希望の華を咲かせちまってるからよ・・・

 

「斬れねぇ刀は先の尖った鉄パイプとそう変わんねぇからよ・・・おまけに日本刀はすげぇ繊細だから、受け止めたり叩き付けたりするんじゃねぇぞ・・・」

 

団長命令ついでに、気付いたことも言ってみる。何か掴めるきっかけにでもなってくれりゃあいいんだがな・・・ミカの顔も、何処か浮かないみてぇだ。殺しちまったら、俺以外はおしまいだからな・・・だからといって刀以外に、殺すか生かすかを決められる武器はバルバトスにはねぇ。嫌でも身に付けなきゃいけないって訳だ。こいつぁ一筋縄じゃあいかねぇな・・・ミカ・・・

 

「三日月さん、そんな顔をなさらないでくださいな。私を凄惨に打ち倒した貴方ですもの。きっと、必ず望んだ力を掴めると信じていますわ」

 

「セシリア・・・」

 

「真面目に頑張っているものは、報われるのが当然ですもの。誰よりも懸命な三日月さんが、報われない筈がありませんわ」

 

・・・セシリアのミカの付き合い方、どっかで見たことがあるような気が、ちょくちょくしてたんだがよ・・・アイツはまるで・・・

 

「・・・ミカは新しい舎弟を持ったみてぇだぜ、なぁ、ハッシュ」

 

全く、次から次へと順応しやがって。どんだけ俺を太鼓持ちにしたいんだっての。なぁ・・・すげぇよ、ミカは・・・

 

「ありがとう、セシリア。・・・夜になったから、先に帰るよ。セシリア、部屋まで送るね」

 

「へぇっ!?」

 

「危ないし。風紀委員だから。ジュースも奢ろうか?」

 

「ここここ光栄ですわ!そそ、それでは、皆様また後程!!」

 

「皆、──またね。じゃ」

 

それだけを告げ、ミカとセシリアは宿舎に戻っていく。・・・何でだろうな。男と女だってのに、アイツらからまるで甘い臭いがしねぇのは。いや、俺の気のせいか?

 

「さて、オルガ、イチカ。我々も戻るか」

 

おぉ、そうだな。夜も深まってきやがった。きっちり休んで、きっちり寝て、また明日気張る。そいつが・・・俺達学生の戦いってヤツなんだろうさ

 

「二人とも、先に行っててくれ。俺は、まだ動けないからさ」

 

「まったく、気合いは買うが・・・無茶をしては意味がないぞ。では、シャワーを先に使わせてもらうぞ」

 

何っ!シャワーだと!!・・・そいつぁまさか、新たなるラッキースケベの始まりじゃねぇのか!

 

「────ヘッ・・・・・・」

 

「?どうした、オルガ」

 

「いや、何でもねぇ。・・・さて、先に行くぜ。帰るか、シノ」

 

楽しくなってきやがったじゃねぇか・・・!学園生活、こいつぁ・・・いいシノギの場だぜ、まったくよ!

 

「ところで、オルガ。聞きたいのだが」

 

「あぁ?」

 

「・・・シノであったり、モップであったり。私はこれは・・・親しみを持たれていると言うことで、良いのだな?」

 

「・・・おぉ・・・」

 

俺は筋を通す為だが・・・ミカは・・・どうなんだろうな?

 

「・・・多分な」

 

意外とそういうの、気にするタイプか?お前・・・可愛いとこあるじゃねぇか・・・やっぱり、いい女だぜ・・・ヘッ・・・

 

 

 




部屋割りにて

鈴「と言うわけで、部屋代わって?」

ホウキ「ふざけるな!何故私が!」

「いやぁー。シノノノさんも男三人、うちの一人が御風呂や着替えを覗く変態なんて嫌でしょー?」

オルガ「魅力的な女にゃセクハラは礼儀だからよ・・・(キボーノハナー)」

ミカ「それはダメだ」

「年頃の男にはそういう衝動があり、そういったトラブルは覚悟の上だ!ケジメと落とし前はつけている!これは私達は問題だ、とやかく言われる筋合いはない!」

「大丈夫!私も気にしないし、幼馴染みだから!ね?」

イチカ「俺に振るなよって。先生に話を通すか、じゃんけんかなんかで決めてくれよ」

「とにかく部屋は変わらない!自分の部屋に戻れ!」

「・・・・・・ところでイチカ!約束覚えてる?」

「は?」

「約束?」

「そう!小学生の時に!」

「無視するな!!──こうなったら・・・!!」

三日月「木刀・・・。待った、暴力は」

オルガ「ミカ!いい、俺の仕事だ!」

「オルガ・・・」

「はあぁぁあぁ!!」

「待ってくれ!待て、待て!待てっていってるだろうが!!」

鈴「!」

オルガ「ぐぅうぅうぅっ!!!」

ホウキ「な、オルガ・・・!」

「ケジメと、俺の仕事だ・・・!」

イチカ「・・・部分展開・・・」

ミカ「速いね」

「・・・オルガでわかったでしょ。今の、生身の人間なら本気で危ないよ」

キボーノハナー

「モップ。すぐに暴力を振るうのはダメだ。伝えたいことは、何も伝わらない。傷付くだけだ」

「・・・そう、だな。・・・すまなかった・・・」

「ホウキ・・・」

「ふーん。まあいいや。じゃあ、また今度ね!イチカ、代表戦でね!」

「あぁ、またな」

「・・・大丈夫か?オルガ?すまない・・・」

「俺は・・・鉄華団団長ォ・・・オルガ・イツカだぞォ・・・!こんくらいなんてこたぁ・・・」

ミカ「寝ようか、イチカ」

イチカ「あ、あぁ・・・」

「頑張ってね」

「──あぁ!」


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やっちまえ!!

ソシャゲの戦闘描写と違い、映像化されているものを文字に起こすのはそれはそれは楽なので初投稿です

300年だ・・・オルシャル回にまで300年・・・もう休暇(不定期更新)は十分に取っただろう・・・

この札切龍哦の支援小説を受けろ!!


クラス代表戦・当日


オリムラ・イチカ&オルガ・イツカVSファン・リンイン

イチカ「一回戦からリンが相手か・・・」

オルガ「そっかぁ。悪いが幼馴染みだろうが、遠慮はしねぇでいくぞ」

ヤマダ『あちらのISは甲龍。オリムラ君の白式と同じ、近接格闘型です!』

セシリア「三日月さん程では無いでしょうが、くれぐれも油断は禁物ですわ」

ホウキ「オルガ。イチカを頼むぞ。固くなるな。練習の時と同じようにやれば、勝てる」

オルガ「サンキュな、シノ」

三日月「全力で、悔いの無いようにね」

イチカ「ありがとな。特訓を無駄にしないように、頑張るから!しかし・・・三日月のメイス程じゃなくても、あれで殴られたらすげぇ痛そうだなぁ」

オルガ「まぁ、俺は死ぬな」

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

「始まりだぜイチカ!よぉし行くぞぉ!!」

「あぁ──!!」



アリーナ

「今謝るなら、痛め付けるレベルを少し下げてあげるわよ」

イチカ「そんなのいらねぇ。鉄華団の一員として、筋が通らない真似は出来るかよ」

オルガ「全力で来やがれ。そっちこそ、俺が辞退してやってもいいんだぜ?」

「一応言っておくけど、絶対防御も完璧じゃないのよ?」

「解ってるよんなこたぁ!!何べん死んだと思ってやがる!!」

「シールドを突破する攻撃力があれば、殺さないようにいたぶることは可能なの」


三日月『耳が痛いや・・・』

セシリア『お、落ち込まないでくださいまし!あのときは、私が愚かだったのです!』

『それでは両者──試合を開始してください!』




三日月「・・・ん?」

セシリア「?どうなさいましたの?」

「ごめん、すぐ戻る。気にしないで。ちょっと行ってくるね」

「・・・三日月、さん・・・?」


「よぉしイチカァ!!行くぞぉ!!」

 

「おうっ!!うぉおぉおーっ!!」

 

 

遂に幕を切って落とされたクラス対抗戦。戦うクラスは一回戦より存在をアピールしていた中国代表候補生にしてイチカの幼馴染み、リン。それに対し変則的に、イチカ、そしてオルガのタッグにて果敢に勝負に挑むこととなる。極めて耐久力とスペックの低い獅電のカバー案として、イチカとタッグを組むことを許可され戦う。オルガはワンオフアビリティが発動した際に即事戦闘不能となる代わりに、イチカが敗けを認めるか戦闘不能になるまで敗北が確定しないと言う取り決めとなっている。二対一のハンディマッチとなるのだが・・・

 

「ふふっ・・・」

 

自らが纏うIS『甲龍(シェンロン)』の特性への自信か、リンは笑みすら浮かべる余裕を以て二人の突撃と相対する。一直線に突っ込んできたイチカの剣を、なんなく右手の中国武器、牙月にて受け止め、弾き返す。距離を離されてはイチカには打つ手がない。クロスレンジにこそ活路があると信じ、がむしゃらに徹底的に接近し、武器を振るい、リンの間合いでもある接近戦を仕掛けていく

 

「勢いだけは立派ね!男の子はそうでなくちゃ!」

 

「まだまだ、こんなもんじゃない・・・!勢いだけじゃ、終われない!!」

 

かつてのイチカとはまるで違うギラついた気迫と闘志に、リンは密かに舌を巻く。こんなに燃える、熱い男の子だったっけ?そんな所感を胸に抱きながらも右手の得物にかかる重圧を押し返していく──が、その均衡は果敢にして怒濤の横槍に崩されることになる

 

「さぁて、オルガ・イツカの門出だ!景気良く前を向こうじゃねぇか!!」

 

実弾の乱射を放ち、突貫を行いながらイチカを援護するのはオルガ・イツカの獅電である。白のボディ、そして携行した銃火器を放ち、イチカの体勢の立て直しのカバー、そしてリンへのダメージを与えるための突撃を勇敢に行っていく

 

「サンキュー!オルガ!」

 

「腹を括れよ!俺とお前で合わせて一人前なんだからよ!」

 

その息の合ったコンビネーションは、リンをして中々のものだと称賛するものだった。どうやらイチカはいい友達を見つけ、男気に火がついたらしい

 

「ふーん。やるじゃない?けど──」

 

だが、それとこれとは話が別である。負けてあげるつもりも手加減するつもりもない。立ちはだかるなら、格の違いを見せ付けるのみだ。そう決意しリンの甲龍の空いていた左手に、右手の牙月と全く同じ武器が装着される。──それは連結可能な二つで一組の武器『双天牙月』。それを縦横無尽に振り回し威嚇しながら、一直線にオルガに突進する。この選択に、そんな貧相なISでどう出るのか?期待をかけながらオルガに接近し──

 

「ぁあぁあぁあぁーーッッッ!!!」

 

オルガもまた、全く退かずにリンの得物とぶつかり合い、徹底的に退かない意志を見せる。不退転の意志。それだけではない。これは、確かに知っているのだ。『自分より強力な接近戦を得意とする』者の戦法を、重量を、突撃を・・・──

 

「──あんたもやるのね。正直、イチカの金魚の糞かと思ってたわ」

 

「ヘッ、他人におんぶにだっこじゃ、団長として示しがつかねぇんでな」

 

善戦にして接戦を見せ付けるオルガに、クラスの仲間達が沸き上がる。一撃当たればほぼ即死だからこそ、その戦いは胸を打ち、他者を心踊らせる。寿命短き華が、見るものの心を打つように

 

「俺も続くぞ、オルガ!」

 

そして即座に転身し、オルガをカバーするイチカ。二人での綿密なコンビネーション、そして気迫と気合い・・・

 

生半可ではない。リンは楽しげに笑みを溢しながら、二人と空中でぶつかり合い、激しい火花を散らす──

 

 

三人の戦い。それをモニター、管制室で心配げに見守る者達がいる。シノノノ・ホウキ、そしてセシリア・オルコット。オリムラ・チフユ。そして管制を担当するヤマダ・マヤだ

 

「イチカ・・・オルガ・・・」

 

共にクラスの仲間であり、初の実戦である事が不安と懸念の材料となり。揺れる瞳で二人を見守るホウキ。特訓を積み重ねはしたが、番狂わせに不調、予期せぬトラブルが起きるのが実戦だ。力を出しきれればいいのだが・・・そんな物言わぬ不安が、彼女に胸の上で拳を握らせる

 

「あぁ、もう!何をしていますの!特訓に付き合った三日月さんに恥じる戦いをして顔に泥を塗るなんて承知しませんわよ!」

 

モニターにかじりついて激励を飛ばすのはセシリアだ。あれほど特訓したのだから、やらなければ嘘だ、出来る筈だと・・・セシリアなりの期待が、存分に現れている。ただそれは、届いているかは微妙なところではあるが・・・

 

「・・・セシリア。三日月の姿が見えんが」

 

そんな中、チフユがセシリアに違和感を提示する。いてしかるべき相手がいないこと。それが気になったのだ。誰よりも仲間想いで、心優しい彼が友を見守らないとは考えにくいが・・・

 

「三日月さんなら、先程席を外すと仰っていましたわ。やることができた、と」

 

「やること・・・?そうか・・・」

 

あの三日月が、素行不良に走るなど有り得ない。八百長などもっての他だ。ならば彼は・・・為すべき事を見つけたのだろう

 

「警戒レベルを少し引き上げておけ」

 

「は、はい!」

 

せめて、何が起きてもいいように。念を入れ、アリーナの防御を高める指示を出し。試合の経過を見守るチフユであった──

 

 

「結構あたんねぇじゃねぇか・・・!」

 

地表を疾走、銃を乱射しリンを撃ち据えるオルガではあるが、その弾幕はリンを捉えられずに無駄弾をふやしていく結果となる。操縦するのと、自らが纏うのではまるで違う。その齟齬・・・三日月が言っていた『ズレ』を、ここで痛感し理解する。しかし、止めるわけにはいかない。どのみち進むことしかできないなら、撃って撃って撃ちまくるだけだと自分を強く激励し、奮い立つ

 

「なら、ここで一気に落とす!!」

 

エネルギーの残量を気にせず撃ち放つオルガ。そしてオルガを見て、イチカは即座に自らの役割を理解し、制動を行う

 

(このままじゃオルガが消耗して的になる。前衛の俺が、一気に突撃して・・・オルガの援護と一緒にリンを落とす!)

 

剣しか無いのだ。ならば突進あるのみ。オルガの奮闘と健闘を無為にするな。自分は特訓してきた。ミカに、ホウキに、セシリアに。そしてオルガに。ならば、それを信じて恐れず突き進め!

 

「うぉおぉおぉおっ!!」

 

「──甘いっ!!」

 

それを見透かしたかのように、リンが叫ぶのと──突進していた筈のイチカが遥か後方に吹き飛んだのは同時であった。そこには何もない。何もない筈なのに。まるで『圧縮された空気に直撃したかのように』

 

「イチカァ!!」

 

「余所見は厳禁!!」

 

オルガにもまた、その不可視の銃弾が向けられ、また爆炎を上げ直撃を示す。当たったのだ、当てられたのだ。見えず、軌道が解らぬ、しかし確かなリンの攻勢に呑まれたのだ

 

「グゥァアァ!!!」

 

直撃し、両ひざをついてしまうオルガ。甚大な被害を受け、ISが停止寸前までに追い込まれ、またイチカも叩き付けられた身体を必死に起こす

 

「大丈夫か、オルガ!」

 

「こんくらいなんてこたぁねぇ──今の、見えたか!?」

 

「いや、全く──うおっ!?」

 

そのまま立て続けに放たれる、不可視の弾丸。イチカを狙ったそれがひたすらに、ただ連射され撃ち放たれる。まるで姿と実体が見えない謎の砲撃。特訓にて培われた危機回避能力をフルに駆使し、放たれる攻撃をひたすらに回避していく

 

「あれは・・・どうなってんだ・・・見えない、見えない弾か・・・!?見えない何かを放つ・・・」

 

そこでオルガは思い至る。死地にて培われ、死に続け身につけた、逆説的な『死因に繋がる物の断定』今まで死に続けてきたオルガの第六感。それが、答えを導いたのだ、声を張り上げ、オルガが告げる

 

「空気だ!イチカ、そいつは空気を圧縮してぶっぱなしてやがる!見えねぇのはそいつが理由だ!」

 

「空気だって!?」

 

「そうよ、御明察!私の『龍咆』は、見えない砲撃が自慢なのよ!その厄介さ、今味わっている通りよ!さぁ、容赦はしないわ!」

 

引き続き放たれる龍咆、見えぬ空気圧縮砲。今度は撃ち放たれるのはイチカの方であり、追い立てられ狩られる獲物のようになぶられる。このままでは圧倒的にリンのペースであり、どちらも押し込まれて敗北が確定してしまう

 

「考えろ、考えろ・・・どうすりゃあいい、俺らのアガリは、どこにあんだ・・・!!」

 

イチカがヤられてしまえば、残るのは紙っくずみてぇな耐久力な自分のみだ。それで勝利をもぎ取れるなど都合のいい事は考えねぇ。イチカと自分、どちらも生かした突破口を考えねば未来はない。頭をかき、必死に思案を巡らし──

 

「──そういや、あいつ・・・」

 

あの砲弾を撃ちまくっている間、リンはその場から一歩も動けていない。おそらく射撃と格闘は同時には出来ないんだろう。これから出来るようになるのかは分からないが、少なくともイチカをなぶっている事からそれは明白だ。──それならば、やれることはある。自らの命をチップにした賭けだが、乗る価値は十分にある!

 

「──飛べぇ!!イチカァ!!!」

 

「──オルガ!・・・よし!!」

 

力の限りに叫ぶオルガ。団長命令としてそれを受け取ったイチカ。頷き合い、力の限りに天空に飛翔する、イチカの白式。逃げ回るだけであったイチカが、指示一つで鮮やかな転身を遂げたその様にリンの動きは僅かに鈍る

 

「忘れんなよ──!ここには、俺もいるぞぉ!!」

 

見上げるリンに目掛け、実弾を乱射していくオルガ。それは当たりにくいとは言えど、けして無視は出来ない。直撃さえしてしまえば、当たり処が悪ければ装甲を貫く事は十分に可能な『実弾』なのだから

 

「っつ、ウザいわね!死に損ないの癖に!」

 

ムキになって打ち返してくるリンに、オルガは獅電の仮面の下でほくそ笑む。自分は確かに弱く、へなちょこであり体力も耐久もまるでない。だが、だからこそ『そんな自分にコケにされる』事など、黙ってはいられまい。おまけにリンは見た限り──どうみても御子様であることは明白だとオルガは確信したのだ。故にこそ──

 

「グアァアァアァッ!!!」

 

直撃。今度こそ首の皮一枚繋がっていた体力とガードがゼロとなる。ISが解除され、吹き飛んでいくオルガ。だが──それでいい。これでいいのだ。自分に気を取られ、自分に時間をかけ、とあるものを見失ったのが運の尽きだ。何故ならば──

 

「やっちまぇえ!!イチカァァアァァッッ!!」

 

鉄華団は一人じゃない・・・!団長の身を呈した囮、そして斬り込み隊長、ミカの手解きを受けた、白きISの使い手が──天空より舞い降りる!

 

「うぉおぉおぉおぉお!!!これが、俺達の──けして散らない、鉄の華だ──!!!」

 

「な、何よそれ──!!くっ──!!」

 

オルガを撃墜した同じタイミングで迫り来るイチカ。その接近を阻むための龍咆を展開するか、それとも武器で阻むべきか。その判断を展開する時間すらも与えぬ程の全身全霊の加速にして急降下。それは、世界最強とされし女IS使いの武器に、団長命令と皆の期待。そして──自らの意地を込めて叩き付ける必殺の一撃。それを防御することも、回避することも叶わずに──

 

 

──その日、アリーナに激震が走った。それはイチカの刃がリンを下したものでも、オルガの歓喜の咆哮でもなく。それは、遥か上空、アリーナに張り巡らされた──防護壁を叩き壊してやって来た、誰も予想せぬ青天の霹靂にして、鈍き破壊音・・・──

 

 




リン「!?」

イチカ「!?」

遥か上空から飛来せし、謎の質量物体。それが、三人の戦うフィールドに叩きつけられ、グラウンドに巨大なクレーターを作る

「何!?」

「攻撃が逸れたの!?」

「地震!?」

クラスメイト、観客達も状況の急転直下にざわつきが広まっていく。砂煙が巻き起こり、何者にも、状況の把握が行えない



セシリア「何!?何が起きましたの!?」

ホウキ「イチカ!オルガ!」

ヤマダ「システム破損!何かがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです!!」

火急を要する侵入者。本来ならば、対応せねばならぬ非常事態。だが・・・

「──あの馬鹿者・・・」

チフユは、それがなんなのか即座に理解できた。学園の生活を脅かすトラブル。そして──不在の風紀委員。それらの符号が合致する。晴れていく煙。其処にいたのは──白き、そして優しき悪魔・・・

「──三日月さん!?」



三日月「・・・あれ?なんか、ごめん」

漆黒の無人機をいち早く発見し、呼び掛け、無反応であったものを排除対象と認定し、外で鎮圧に向かっていた三日月。多少抵抗はされたものの、高々無人機になど遅れは取らない。皆の邪魔にならないよう、気を遣って先んじて始末しようと戦っていたのだが・・・

「思いきりバリアに叩きつけたら、割れちゃった」

結果的に乱入をしてしまった事を、静かに詫びながら頭を下げる三日月。粉々に粉砕された黒き無人機の凄惨な様子に一同は戦慄する。足はつぶれ、腕はひしゃげ、頭は胴体にめり込んでいる

「三日月くん!三日月くんだわ!」

「おーいミカくーん!乱入はダメだよー!」

「トラブルー!?ありがとねー!」

新たな乱入に、図らずとも盛り上がる観客に、三日月はとりあえずメイスをあげて応え、観客に振る舞う

「・・・うやむやに、なっちゃったわね・・・」

「・・・あぁ・・・」

「止まるんじゃねぇぞ・・・」

三人の戦いは、一先ず中止となり。三日月には危機対応の功績を称え、風紀行使権が与えられたのだった・・・


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シャルル・デュノアです

支援は終わっていない!

本家へのリスペクトは、決して絶やしてはならない!団長の桃色の青春は、常に我々と共にある!オルシャルの真理はあちら(ニコニコ本家)と此処(ハーメルン)だ・・・!


皆!インフィニットオルフェンズの元へ集え!!!!

アッーーーー!!!!!!!(感無量の叫び)

待ちわびていたオルシャルなので初投稿です!聞け!!ハーメルンの諸君!!オルシャルの下に、札切の筆は追い付いた!!

見せてやろう!純粋な童貞ムーブが織り成す、甘酸っぱい青春を!

あ、イチカの友達のところはカットします。ゲームがハブられているので、あとオルガの発情が生々しいので

ベリアル台詞はISコアですね解ります


部屋にて

ヤマダ「お引っ越しです!」

「「「は?」」」

三日月「ん?」

「部屋の調整が付いたんです。シノノノさんは、別の部屋に移動です!」

三日月「そうなんだ。モップ、バイバイ」

ホウキ「即答か!?待ってください、それは今すぐでなくてはいけませんか!?」

イチカ「?」

「それはまぁ、そうです。いつまでも年頃の男女が同室で生活と言うのは、シノノノさんも寛げないでしょう?」

「いや、それは・・・」

オルガ「頼む!!!」

「!?」

「俺ならどうにでも殺してくれ!!何度でも殺してくれ!!首を跳ねて其処らに晒してくれてもいい!!シノとイチカだけは・・・!!」

「オルガ・・・。・・・先生、今すぐ部屋を移動します」

「エッ!?」

(すまないな。ありがとう。だが・・・心配するな。私は正々堂々、イチカを振り向かせて見せるさ)

(シノ・・・!待て、待て!待て、待ってくれ!)

「頼む!頼む!頼む!頼む!」

「では、世話になった。また明日、よろしく頼む」

バタン

「うぅおぉおぉおあぁあぁあぁああぁあ!!!」

「・・・どうしたんだ?オルガ・・・」

「間男になって自己嫌悪中」


「・・・・・・・・・・・・・・・何やってんだ・・・俺ぁ・・・・・・」

三日月「泣かないで」

イチカ「・・・寝るか」

三日月「うん」


「今日はなんと!転校生を紹介します!」

 

 

ホームルーム。・・・色々学校外で、マジで色々あって若干凹み気味だった俺達、一年一組鉄華団に、新しい風と勢いを吹き込む報せがヤマダ先生の口から聞かされる。転入生か・・・なんか前にもこんなイベント無かったか?あっちやこっちで転入されまくってんな。四月や五月でキチッと整備して整理しとかないとクラスとかも混乱すんだろ。人付き合いが苦手な奴だとか、友人付き合いとかに苦労すんじゃねぇのか?・・・さて、どんな女なんだか。あんまり暴力的でヤンチャな女は勘弁してもらいたいもんだがよ・・・

 

「ふーん。オルガは物静かなタイプが好きなんだ」

 

・・・・・・当たり前のように人の心を見透かすんじゃねぇよ、ミカ・・・

 

そんな俺らのコントを他所に、扉が開き件の転入生が現れ──クラスの感心と視線、そんで俺ら男組も二の句を奪われ、呆然とそいつに見惚れちまう

 

「・・・おぉ・・・」

 

「は・・・?」

 

そいつは、とにかくキラキラしてた。小柄で華奢、んでもって綺麗な金髪。キリッと喋るくせにどっか、ぽわぽわっとしてて不思議な雰囲気を醸し出してやがる。廻りに光を振り撒く、イイトコの王子様な・・・なんていうか、俺らみたいな宇宙ゴミとは、根本から遺伝子が違うってか、火星の王の座を、譲っても良いっていうか・・・

 

「・・・チョコレートの人?」

 

「マクギリスは関係ねぇぞ!確実にな!!」

 

「・・・そっか」

 

三日月が鼻をクンクンしてるなか、その王子様が口を開き、自分の身分をクラス全員に伝える。甘ったるい、まるで女みてぇな声で・・・

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします」

 

・・・おっ、あっ、お、おぅ・・・

 

「・・・よ、よろしく・・・」

 

なんだ、なんでいつもみてぇに粋がった事が言えねぇんだ。なんなんだよ俺ぁ・・・ホモじゃねぇ、断じてホモじゃねぇからよ、誤解すんじゃねぇぞ・・・なんであの笑顔から目が離せねぇんだ・・・!

 

「まさかフランスからも代表候補生、それに男子だなんて・・・!いよいよ世界に三日月さんの勇名と名声があまねく広まり始まりましたのね!喜ばしいことですわね三日月さん!犠牲者第一号として、鼻が高いですわ!」

 

「いや、違うよセシリア。あれは・・・」

 

「?違う・・・とは?どう言うことですの?」

 

「・・・いや、いいか。色々事情があるんだと思うし。男なら、男でいいや」

 

「???」

 

ミカとセシリア(セシリアはミカの隣の女子に頼み込んで隣に来てた。すげぇよ・・・)の言葉が耳から素通りするなか、シャルルって奴は言葉を続ける。・・・綺麗な声じゃねぇか・・・

 

「此処には、僕と同じ境遇の方々がいると聞いて、本国から転入を・・・」

 

「うぅおぁあぁあぁあぁぁ!!!!」

 

んな俺の気の迷いは、その転入動機を聞いてぶっ飛ばされる。同じ男を求めて、つまりそいつぁ、鉄華団の入団希望ってことじゃねぇか!!そいつぁめでてぇ、歓迎すんぜぇシャルル君よぉ!!祝砲だぁ!!

 

「オルガ凄く嬉しそー!」

 

「分かる分かる!男が増えると会話の幅が増えるもんねー!」

 

「しかも美形!頼りたくなる系のオルガ、可愛い系のミカくん、イケメンのオリムラくんとも違う、護ってあげたくなる系の!」

 

そうだ!レパートリーと見てくれがいい奴は大歓迎だ!どんどん騒げ!ますますクラスの青春が彩られるってもんだ!!思いっきり──

 

「騒ぐな!静かにしろ!」

 

「すみませんでした」

 

・・・先生の言うことは聞かなくちゃな、学生だしよ。あぁ、逆らったら確実に殺されるしな・・・静かにするか・・・

 

「今日は二組と合同で実習を行う。各自、スーツに着替えて第二グラウンドに集合。それから・・・──丁度いい。オルガ」

 

「!?あっ、はい・・・」

 

先生にびしりと指名され体がビクッと跳ねる。おっかねぇよ・・・騒いだことは勘弁してくれませんかね。落とし前は勘弁して──

 

「丁度いい。男組のリーダー、鉄華団とやらの団長としてデュノアの面倒を見てやれ。クラスの輪を取り持つのはお前の得意技だろう?」

 

・・・なんだよ。そう言うことか。言われるまでもねぇな。クラスは皆鉄華団。団員の青春を護ってやんのは俺の仕事だ。今更言われるまでもねぇ!

 

「君がイツカくん?はじめまして。僕は・・・」

 

「おっと、あんまりゆっくりしてる時間はねぇ。こっから着替えだ。俺についてこい。場所を移そうぜ」

 

時間に厳しい先生だ、遅れたらどうなるか分かったもんじゃねぇ。時間は大事だ。一刻も早く着替えねぇと!

 

「ミカ!イチカァ!さっさと行くぞぉ!」

 

「あ、俺とイチカは後で行くよ。二人で、先に行ってて」

 

「?ミカ、なんか仕事あるのか?」

 

「まぁね。付き合ってよ、イチカ」

 

「付き合うぅ!?ミカさんとイチカさんが!?」

 

「そう言う意味じゃないって!」

 

・・・?良くわかんねぇが、先に行けってんならその通りにさせてもらうか。辿り着く場所は一緒なんだからよ

 

「俺にしっかり付いてこいよ。差別や区別はしねぇ。お前も仲間でクラスだ。遠慮なんかすんな。ガンガン頼れ、なんたって俺ぁ・・・団長だからな!」

 

「・・・うん!ありがとう、団長!」

 

へへっ、いい顔で笑うじゃねぇかよ。そんじゃ、行くとするかぁ!俺達は、意気揚々とアリーナへと向かっていく。辿り着く場所・・・着替えへな!

 

「・・・面白いから、いいか」

 

「?どうした?ミカ、さっきから変だぞ?」

 

「ううん、何も。──頑張ってね、オルガ」

 

「二人が、お付き合い・・・!なんと畏れ多い・・・!」

 

「・・・イチカは好色の気など無いぞ、セシリア」

 

 

「俺達は、アリーナの更衣室にたどり着かなきゃ着替えられねぇ。男が全くいねぇ学園だからよ、多少の不便はさっさと慣れねぇとやりにくいからな。だが心配すんな。俺らがきっちり面倒みてやっからよ」

 

「うん、分かったよ、イツカくん。親切にありがとね」

 

廊下を歩きながら、俺はシャルルに男の不便を教えていく。まぁ本来なら女しかいない場所に紛れ込んだってのが俺らな訳だから、不便なのは仕方がねぇ。愚痴を溢すような真似は男らしくねぇからな。さっさと慣れるのが一番って訳だ

 

「固く考えることはねぇ、遠慮なく頼って・・・ん?」

 

「あ!噂の転校生発見!しかもオルガと一緒!者共出逢え出逢え!」

 

そんときだった。シャルルの美形っぷりと転入生のネームバリューがあっという間に知れ渡ってたのか、他のクラスの奴等が前から後ろから押し寄せてあっという間に俺達を取り囲みやがる。こんだけ囲まれちまったらアリーナへ辿り着けねぇ。遅刻したらチフユ先生にケジメと落とし前を付けられちまう!

 

「オルガの銀髪に、デュノアくんの金髪!美男子と野獣って感じー!」

 

 

「あ、その、えっと・・・」

 

シャルルも困ってるみてぇだ・・・いや、気圧されてやがるな。無理もねぇ。戸惑いばっかの学園生活、こうも質問責めにしてあっちゃあ・・・

 

「い、イツカくん・・・」

 

・・・何て声、出してやがる・・・!鉄華団フランス支部出身のお前が、そんな声を出してんじゃねぇ!心配すんな・・・こんな所じゃ、終わらねぇ!

 

「──皆!聞いてくれ!」

 

俺は怯まず、集まる女子に向けてまっすぐケジメと筋を通すことにした!モビルアーマーや無人機じゃねぇんだ、腹割って行きゃあ、必ず仁義は通るはずだ、俺は怯まねぇからよ!

 

「シャルルはここに来たばっかでわかんねぇことだらけだ、こうもこんなに囲んじまったらびびり上がって喋れるもんも喋れねぇし、これからやる授業にも遅れて先生に悪印象を持たれちまう。団長として、そいつぁ見過ごせねぇ。──質問の時間はきっちり取る!団長として約束する!だから今は、道を開けてくれ!この通りだ!頼む!!」

 

頭を下げ、誠心誠意で皆に誠実に筋を通す。恥なんぞねぇ、団員の青春を護んのは俺の仕事だ!シャルルも例外じゃねぇ、だから──

 

「約束だよー?ちゃんと付き合ってもらうからねー!」

 

「オルガが言うなら、まぁいいかぁ・・・正論だしね!チフユ先生怖いし!」

 

「デュノアくん、ごめんね!また今度!」

 

言葉が通じた・・・!皆が引き下がり、道を開けてくれる!ありがてぇ・・・俺達の積み上げたもんは、全部無駄じゃなかった!

 

「恩に着る!シャルル、行くぞ!しっかり付いてこいよ!」

 

「あっ──うん!」

 

時間がねぇ、仕方ねぇからシャルルの手を掴んで引っ張り走り出す!遅刻はいけねぇ、殺されちまうからよ!

 

「スゴいね、イツカくん・・・!女尊男卑が当たり前な社会なのに、こんなにあっさり・・・!」

 

「あぁ?立場とか社会とか関係ねぇよ。仲間が困ってんなら体張んのは当たり前だろうが、違うか?」

 

「イツカくん・・・」

 

「こんな風に、困ってんなら頼ることを忘れんな。いじめや孤立、リンチなんぞ筋のとおらねぇ真似は許さねぇ。ガンガン頼れよ、男と男だ、遠慮はいらねぇ」

 

「──うん!ありがとう、イツカくん!」

 

へへっ、なんだよ。やっぱりお前は・・・いい顔で笑うじゃねぇか!

 

シャルルが手を握り返す手応えを感じながら、俺らは一目散にアリーナへと向かった──

 

 

「おぉ、オルガにデュノア。遅かったね」

 

「なんで先に行ったのに俺達より遅いんだ?しっかりしてくれよな、団長」

 

辿り着いたその先にこいつらはいやがった。なんだよ・・・手際が良いじゃねぇか。だがこっちにも、色々試練やトラブルがあってな・・・まぁ、乗り越えたがよ・・・

 

「色々あってな・・・だが、団員の青春を護んのは俺の仕事だ!」

 

「ははっ、相変わらず頼もしいな。じゃあ改めて。俺はオリムラ・イチカ。鉄華団の平団員で、カッコいい男を目指して特訓中だ」

 

「三日月・オーガス。風紀委員。よろしくね、大事な家族が増えて、嬉しいよ」

 

「俺はぁッ・・・!鉄華団団長ォッ!オルガ・イツカだぞぉ!!」

 

俺を含めて、三人がそれぞれ挨拶を交わす。これからやってく男四人だ。きっちり顔合わせと名前合わせはしとかねぇとな。マメだが大事だぜ?こう言うのはよ・・・あと俺の挨拶は半死半生だからよ・・・

 

「ありがとう。イチカ、ミカ、イツカくん。僕の事も、シャルルでいいよっ。よろしくね。さっきはありがとう、イツカくん」

 

「おぉ・・・お、俺の事も、オルガで構わねぇ・・・」

 

・・・調子狂うな。何でなんだろうな・・・いい顔で笑いやがって・・・

 

「いいけど、時間ないよ。オルガ、イチカ」

 

「うぉ本当だ!さっさと着替えちまおうぜ!」

 

「分かってるよそんなこたぁ!!」

 

ここまで来て遅刻しましたなんて話にならねぇ!やべぇぞ、状況は好転してねぇじゃねぇか!

 

「お前ら準備しろぉ!!・・・ん?どした、シャルル」

 

見ると、シャルルは背中を向けて大人しくしてやがる。遅刻するぞ!

 

「早く着替えないと、遅刻するぞ?ウチの担任はそりゃあ時間にうるさい人で・・・」

 

「そうだ、殺されるぞ!俺は殺されたぞ!」

 

「う、うん。着替えるよ、着替えるけど・・・」

 

?どうしたってんだ?随分とまごつくじゃねぇか・・・

 

「シャルル、あっちに俺の上着があるんだ。取りに行くついでに、着替えちゃいなよ。すぐ終わるでしょ?」

 

「!三日月くん・・・!」

 

「ほら、早くしなきゃ。遅刻したら、怒られるよ」

 

「──ありがとう!じゃあ、すぐ取ってくるから!」

 

三日月の指示に、助かったとばかりに駆けていくシャルル。なんだあ?貧相な身体が恥ずかしいってか?学生なんだから気にすることもねぇだろ。シャイで繊細なやつなんだなオイ・・・

 

「お待たせ~!」

 

なにッ!?向こう行って五秒くらいしか立ってねぇじゃねぇか!もう着替えたのか!?なんて早さだ・・・!

 

「き、着替えるの超早いな!なんかコツでもあんのか?」

 

「すげぇよ・・・フランスはすげぇ・・・イギリスとはちげぇな・・・」

 

「い、いやぁ・・・!別に・・・ハハ、ハハハ・・・」

 

「大変だね」

 

・・・そんなこんなで、俺らはやっとこさ着替えを終え・・・グラウンドへギリギリ間に合わせる事に成功した・・・ハラハラさせやがって・・・

 

「オルガ」

 

「あ?」

 

「頑張れ」

 

・・・何を頑張るんだよ、ミカ・・・




第二グラウンドにて

チフユ「本日から実習を開始する!」

「「「「「はい!!」」」」」
オルガ「よぉし!!」

「戦闘を実演してもらおう。ファン!オルコット!」

「はい!」

「はい?」

「専用機なら、すぐに始められるだろう。前に出ろ」

リン「めんどいなぁ・・・なんで私が」

セシリア「はぁ・・・こう言うのは見世物みたいで気が進みませんわね・・・」

チフユ「・・・お前ら少しはやる気を出せ。ファン、あいつに良いところを見せられるぞ」

イチカ「?」

リン「はっ──!」

「オルコット。そのような不真面目な態度でいいのか?悪魔の風紀委員の不興を買うとは、中々に豪胆だな」

三日月「~?」

「ひっ!?──やはり此処はイギリス代表候補生にして風紀委員見習い!!セシリア・オルコットの出番ですわね!!」

「ふーん。セシリア、やる気だね。いいと思うな」

リン「実力の違いを見せるいい機会ね!専用機持ちの!!」

シャルル「・・・いま、先生何て言ったの?」

イチカ「俺が知るかよ・・・」

オルガ「さぁな。だが、やる気は出たみてぇだ」

三日月「頑張れ、二人とも」

「それで、お相手は?リンさんが相手でも構いませんが・・・」

「こっちの台詞ぅ♪」

「慌てるなバカども。対戦相手は──」

キィイィイィイィイ──!!

「ひゃあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!どいてくださぁあぁあぁあぁあぁい!!!」

オルガ「ヤマダ先生!?ミカ──!!」

ミカ「大丈夫だよ。先生なんだから」

「そうは言うが──ヴァアァアァアァ!!!!!」

キボーノーハナー

「・・・あ、あの・・・」

「だからよ・・・グ、ぅ・・・あっ──」

フニッ、ムニュッ

「エッ──!?」

「そ・・・そのですね・・・困ります、こんな・・・」

オルガ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

・・・むにゅっと沈む指、ふにゅっと形を変えるプリンみてーな柔らかさ、押せば押すほどどんどん沈み込んでくふわっふわな感触。あったかくて、やわやわで、ふにふにしてて、きちんと弾力もあって・・・固いコクピットや、操縦レバーなんかとはまるで違うやわっこさ・・・今なら解る、あいつの言ってた事が・・・あいつの夢が、死に様の想いが・・・

「ダンジ・・・ビスケット・・・──ッ・・・!やっ────」

俺は、俺も・・・俺だって──!!


「やったぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあーーーーー!!!!!!」

死ぬときは!でっけぇおっぱいに包まれて死にて

「ダメだよオルガ。先生が困ってる」

パン!パン!パン!!

「風紀委員として・・・女の人に恥をかかせるのは、ダメだ、ラッキースケベはいいけど」

「いいのかよ・・・だからよ・・・性の欲求は生物として止まるんじゃねぇぞ──」



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ミトメル・モノカ

オルシャルに突入した私は、睡眠など摂取している身ではない


ガンガンオルシャルしていきたいので初投稿です。だがしかし──他のカップリングと青春も忘れずにね

彼等は学生だ。学生には学生の過ごし方がある


ラブコメダインスレイヴ隊──放て!!


「さぁて、いただきますするかぁ!」

 

 

「「「「「「「いただきます!」」」」」」」

 

俺達鉄華団、そんで隣のクラスのリンも連れて、親睦を深めるって名目で屋上で弁当を広げて顔を合わせてかっ食らうことにした。大勢で食った方が旨いし、会話も弾むってんで良いことづくめだからな。やらない手はねぇ。座り方は、シノにイチカ、向かいにリン。セシリアとミカ。んで・・・

 

「い、いいのかな。僕が本当に、同席しても・・・」

 

転入してきたばかりのシャルルが、俺の傍にちょこんと座ってやがる。なんだよ奥ゆかしいじゃねぇか。ガンガン行っていいんだぜ?ま、そういう繊細な男ってのは中々珍しいからよ。無理に俺らのスタンスを押し付けるのも良かねぇな。俺ら鉄華団は一枚岩を目指してるんであって、体育会系や上下社会を作りたい訳じゃねぇ。対等に、仲間として。きっちりと過ごしていきてぇだけなんだからよ

 

「いいか、シャルル。この学園に来て、俺らと同じクラスになった以上は・・・お前は同じ鉄華団。家族みてぇなもんなんだ。だから、離れちゃいけねぇんだ」

 

「でも、ほら・・・団員として考えると、僕、初日から迷惑かけてばっかりだし・・・見棄てられちゃってもおかしくないかなって・・・」

 

あぁ?ったく、繊細なヤツだなシャルルはよ。んなもん気にする必要なんざねぇ。生きて一緒に暮らすってんなら、迷惑掛け合うのは当たり前だろうが。言ってやるか。団長としてメンタルケアは大事だからな

 

「バーカ。見捨てるとか見捨てないとかじゃねぇよ。一度仲間になったんなら、仲間にするって決めたんなら絶対に筋は通す。お前の不安もなんもかんも、俺らが一緒に背負ってやる。だから遠慮すんな。男が無理すんのは当たり前だ」

 

・・・それに、気持ちが分かるのかもしれねぇな。シャルルは転入生、慣れ親んだ場所から無理矢理引っ張り出されて、誰も知り合いのいない世界に放り込まれて。一人で戦っていかなきゃなんねぇ筈だったんだ。そいつぁ、此処じゃねぇ世界からやってきた俺やミカと、似たようなもんだ。違うのは──シャルルにはミカがいねぇ。支えてくれるような相棒なんて贅沢なもんは、持ち合わせちゃいねぇんだ。ISはあるんだろうが、そいつはケツを叩いたり、辛いときに踏ん張ったりはしてくれねぇ

 

だから・・・こいつぁ俺自身のお節介なんだろうさ。お前は一人じゃねぇ。鉄華団なら、俺は絶対に見捨てねぇ。連れてってやりてぇ。一生の想い出になるような学園生活を、味わわせてやりてぇんだ

 

何処だろうと、俺は俺だ。団員の笑顔を護るのは、俺の仕事なんだからよ。ってな訳で──シャルルの笑った顔が見たいってのはそういう訳で、ホモな訳じゃねぇんだからな!

 

「・・・ありがとう・・・こんなに気を遣ってもらえて、本当に嬉しいよ。オルガって、本当に優しいね・・・」

 

「お・・・おぉ・・・」

 

・・・ったく、そんな可愛く笑うなっての。ホモだとマジで勘違いされるだろうが。俺は、団長として、やるべき事を・・・

 

「なーに照れてんのよ。男の顔見てニヤニヤして、気持ち悪いわね」

 

「お、俺は別に・・・」

 

ニヤニヤなんかしてねぇよ!これは、あれだ。表情筋のトレーニングだ、表情筋のトレーニング!

 

「ふふっ・・・」

 

「なーににやついてやがんだミカ」

 

「ううん、別に」

 

ミカのヤツまでおかしくなりやがった・・・引き続き茶化しやがるリンに、俺は上手く言い返せないもどかしさにまごつく中、リンのヤツの弁当が開かれ、そん中には・・・

 

「おおっ・・・!酢豚だ!」

 

「いいんじゃねぇの?」

 

みっちりと酢豚が詰められてやがった。きっちりと作られ、美味そうに光ってやがるそいつぁ、傍目からしても美味そうだ。こりゃあいい、食欲が湧くってもんだぜ

 

「そ。今朝作ったのよ。食べたいって言ってたでしょ?イチカ」

 

「む・・・」

 

そのリンの攻勢に片眉を上げるシノ。ライバルが強く出たぜ。胃袋を抑えた方が勝つって言うし、まごまごしてたらイチカが取られちまうぞ?

 

「いいだろう、ならイチカが食べる前に私が毒味してやろう」

 

「なんであんたに食べさせなきゃなんないのよ。というか毒味ってなによ毒味って!!」

 

「酢豚しか弁当に詰めてこない輩の舌など信用できるか!」

 

言い争いになる幼馴染み二人。そいつを見て、イチカはキッパリと言い切る

 

「団欒の場で喧嘩はするな。そう言うのは空気が悪くなるし、メシも不味くなる。筋が通らない真似は嫌いだって、俺達はいつも言ってるだろ」

 

「イチカ・・・」

 

「だって・・・」

 

「一緒に食おう。そうすれば解決だ。喧嘩をするくらいなら、俺が一人で全部食べるぞ」

 

ナイスな選択じゃねぇかイチカ!そいつなら、面倒な喧嘩も無しで一緒に飯が食えるってもんだ!

 

「わ、解った。・・・命拾いしたな」

 

「こっちの台詞だから!」

 

何だかんだで、イチカがオカズを交換したり、酢豚を口にして無邪気にはしゃぎながら感想を言ってるのを見て、二人も落ち着いたみてぇだ。へへっ、たく。日に日に立派になりやがって・・・

 

「こほん、三日月さん。いつも頑張っている三日月さんの為に、こう言うものを用意してみましたの!」

 

そういってセシリアはミカに、バスケットを見せパカッと蓋を開ける。其処には・・・大量の・・・

 

「・・・サンドイッチ?」

 

三日月にそう告げられたセシリアは顔を輝かせ、自慢げに胸を張る。・・・なんか生のニンジンとか挟まってねぇか?ミニトマトとか切れてねぇぞ・・・?大丈夫なのかよソレ・・・

 

「イギリスにも、美味しいものがあると納得していただけませんとね?私から頑張っていらっしゃる三日月さんへの、細やかな気持ちですわ!」

 

「・・・美味そう」

 

良かったな、ミカ。きっちりしっかりファンが出来てるじゃねぇか。・・・こう言うの、名瀬の兄貴は何て言ってたか・・・現地妻、だったか?やったなミカ。アトラのヤツも喜ぶんじゃねぇのかぁ?赤ちゃん作ろうなんていうかもな?

 

「ありがとう、セシリア。いただきます」

 

「はいっ!三日月さん、どうぞ召し上がりくださいませ!」

 

三日月は一つ受け取り、黙々と口に運んでいく。その顔に、あんまり変化は見られねぇな。ただ無言で黙々と、口にサンドイッチを放り込んでいく。・・・なんだよ、何か言えよミカ。旨いか不味いか、どうなんだよ・・・?

 

「旨いかぁ?それ」

 

「・・・・・・・・・」

 

ミカのヤツが無言でサンドイッチを渡してくる。おぉ、なんかわりぃな。催促するつもりは無かったんだがよ。どれ、幸せ料理のおこぼれに──

 

「──ヴっ!!!」

 

口にした瞬間、俺の内臓やら、色々臓器器官とかがブッ飛んでぶっ壊れて、口ん中にダインスレイヴをブチ込まれたような衝撃が広がり、ケツまで貫通したような悪寒が駆け巡る。目眩や動悸が酷くなり、血へどと一緒にサンドイッチをぶちまけ、そして──

 

「・・・食べ物は命を頂くってことだからよ・・・粗末にすんじゃねぇぞ・・・」

 

俺は屋上の中心で・・・団長命令を発信してワンオフアビリティの厄介になっちまった・・・イギリスはこれだからメシマズ大国だなんて言われんだよ・・・

 

「・・・これ、味見した?」

 

「へっ?い、いえ。真っ先に食べていただきたくて・・・」

 

「ありがとう。気持ちは嬉しいしありがたいけど・・・不味いよ、これ」

 

「えぇっ!?そ、そんな!?」

 

バッサリと切り捨てるミカに、衝撃を受けるセシリア。・・・味見をしてもねぇもんを他人に食わせるんじゃねぇぞ・・・テロみてーなもんじゃねぇか・・・

 

「気持ちだけでご飯は美味しくならない。基本を抑えて、味見をして、美味しいと自分で納得してからだれかに渡さないと、喧嘩になる」

 

「は・・・、はい・・・その通り、ですわ・・・」

 

「・・・次は頑張って。俺、必ず食べるから」

 

「!三日月さん・・・!!」

 

「次不味かったら許さない」

 

「ひぃっ!?は、はい!味見、基本!さしすせそ!完璧にマスターしてみせますわ!!」

 

割りと真面目に不味かったみてぇだな・・・黙々と食ってる手が震えてやがるぞミカ・・・だが、差し出されたもんは全部食う。お前は間違いなく、男だぜ、ミカ・・・!

 

「オルガ!オルガ!大丈夫!?しっかり、しっかりしてよ!」

 

ん?何を焦ってやがんだ、シャルル。俺なら問題ねぇよ。一回死んだだけじゃねぇか。そんなに切羽詰まった声出さなくてもよ・・・

 

「良かった・・・死んで大丈夫とか、言わないでよ。・・・心配になるじゃないか・・・」

 

・・・・・・

 

「もっと自分を大切にして?僕、もっともっとオルガに頼りたいんだ。死んだりして、何かの間違いでいなくなったりしないでね?約束だよ・・・?」

 

・・・へへっ。心配される日が来るとはよ。だが、そいつはいらねぇ心配ってもんだぜ?

 

「・・・何て声、出してやがる。シャルル。俺は鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ?俺が俺である限り・・・」

 

一度決めた事は曲げねぇし、裏切らねぇし、仲間は売らねぇ。マクギリスの野郎の時にやらかした我が身可愛さの馬鹿げた事は、もうしねぇと決めてんだ

 

「お前の笑顔は裏切らねぇよ。心配すんな。どっしり構えとけ。お前の団長を、信じやがれ!」

 

「──うん!オルガ!ほら、止血しなきゃ。服にもかかって、ほら・・・」

 

へへっ、どうやら緊張はすっかり解れたみてぇだな。何よりだぜ。身体を張った甲斐があったってもんだ!

 

「イチカ、こちらのお握りもうまいぞ!」

 

「イチカ!酢豚が一番よね!」

 

「酢豚お握りでどうだ!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「み、三日月さん・・・お顔が、真っ青ですわ・・・む、無理をなさらずに・・・」

 

「作ってくれたものを、残したくない」

 

「はい、これでよし。これからも頑張ってね、オルガ団長」

 

「サンキュな、シャルル」

 

こうして──穏やかな昼の時間は、仲良く穏やかに、時たまくそ不味く過ぎていった。・・・だが、それはいつまでもは続かねぇ。幸せと同じくらいの大きさで、更に──波乱が、俺達鉄華団を巻き込んでいくことになる訳だ──

 




翌日、クラスにて

ヤマダ「え、えっとぉ・・・今日も嬉しい御知らせがあります・・・また一人、クラスにお友達が増えました」

オルガ「・・・は?」

「ドイツから来た、ラウラ・ボーデヴィッヒさんです・・・」

三日月「・・・ガリガリ?」

セシリア「ガリガリくんですの?美味しいですわよね、あのアイス!」

シャルル「・・・オルガ、おかしくない?僕に続いて、立て続けに・・・」

「あぁ。二日連続で転入だぁ?筋が合わなくねぇか?」

ホウキ「こんな事が有り得るのか・・・?」

イチカ「・・・なんか作為的なものを感じないでもないな・・・?」

「皆さんお静かに!自己紹介が終わってませんから!」

チフユ「・・・挨拶をしろ、ラウラ」

ラウラ「はい、教官」

イチカ(教官?てことは、チフユねぇがドイツにいた頃の・・・)

ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

三日月「ガリガリ?」

「ミカン味がお勧めですわ!」

オルガ「俺はぁ!鉄華団団長ォ・・・オルガ・イツカだぞぉ・・・!」
「ぼ、僕は・・・しゃ、シャルル・デュノアだぞぉ・・・!」

チフユ「静かにしろ!」

「「すみませんでした」」 

ラウラ「・・・貴様が・・・」

イチカ「ん?」

オルガ「あぁ・・・?」

三日月「・・・!」

ラウラと呼ばれる少女は、イチカにまっすぐ歩み寄り、真っ直ぐに手を振り上げ、憎しみのままにイチカの頬を──

ラウラ「・・・!!」

三日月「これは・・・何?」

はたくことは出来なかった。三日月が割って入り、その理不尽な暴力を妨げ、止め、阻んだのだ。風紀委員としての使命の下に。そして・・・

「俺の家族を、仲間を、友達を理由もなく叩かないで」

「っ──っ・・・。・・・今日の所は引いてやろう」

手を離され、万力のような力で捻られた手を抑えながら、憎々しげに三日月を、そして・・・イチカを睨み付ける

「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど・・・認めるものか!」

三日月「それを決めるのは、ガリガリじゃない。チフユと、イチカの二人だ」

「・・・なんなのだ、貴様は」

「三日月・オーガス。風紀委員」

ラウラの冷酷な目線。三日月の親愛に溢れた目線。それらが静かに、火花を散らしていた──


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アァアァアァアァアァアァーッッ!!!!

初めてオルシャルを見てから、私は心奪われた!!この気持ち、まさしく愛だ!!!

人呼んで、オルシャルスペシャル!!今の私は、天災すら凌駕する存在だっ!!!!


オルシャル最高に楽しいのとグラハムポイントを進呈されたので初投稿です

madの不足分はブレイドラから補充!


シャルル「部屋割で、一緒になることになりました。シャルル・デュノアです。よろしくね、オルガ!」

オルガ「ん、おう。二人一組とは中々・・・」

「あ、もしかしてもっと迫真にした方がいいかな?よい、しょ・・・」

「?」

「僕はッ・・・フランス代表候補生・・・シャルル・デュノアだよぉ・・・!こんくらい、どうってことないから・・・!」

「いや、真似はしないで構わねぇ・・・それ、瀕死だからよ・・・」

「止まるんじゃ・・・」

「・・・」

(ワクワク)

「・・・」

「「止まるんじゃねぇぞ・・・」」


イチカ「ミカと一緒か!嬉しいよ!よろしくな!」

「こちらこそ。じゃ、やろうか」

「?」

『ガンダムVS』

「うぇえ!?」


「た、確かに俺にもっとISを教えてくれとは言った。言った、けど・・・」

 

 

授業、学科はIS。クラスの皆はウチガネに身を包んで特訓したり、馴染ませたり、必死こいて訓練をしてISをモノにしようと奮闘してる。いつか自分の力になるもんだ。態度は真面目で当たり前なんだが・・・士気は十分に高い。いい傾向だ。ガンガン行こうぜ、その調子だ!んで、こっちもそのやる気は伝播していた。イチカのヤツが自分から専用機持ちの胸を借りようと頭を下げて特訓に呼び込んだんだ。その誘いを断る理由はねぇってんで、専用機持ちの皆で集まって練習してる。そんでイチカにモノを教えてんのはホウキ、セシリア、リンなんだがよ・・・その、教え方がどうにも・・・

 

「こうっ、ズバーっとして!ガギッ、ドガーンといった感じだ!」

 

「お、おぅ・・・?おぉ・・・」

 

「なんとなく分かるでしょ~?感覚よ、感覚!」

 

「アラヤシキと同じってことか・・・?正直ピンと来ねぇな・・・」

 

「はぁ~!?なんで分かんないのよばかぁ!」

 

「防御の時は、右半身を斜め上、前方へ5度!回避の時は、後方へ二十度ですわ!」

 

「それ、セシリアの調整じゃないの?」

 

各自に講師がついて、レクチャーを受けてるって感じなんだが・・・ホウキがイチカに、俺がリンに、ミカがセシリアに。・・・教えてもらう立場で、こう言うことを言うのはちっと思い上がってる感じがするし推奨はされないんだろうが・・・

 

「・・・オルガ、俺が言うよ・・・率直に言わせてもらうからな・・・」

 

イチカお前・・・ミカのやつも早々に実入りのあるレクチャーは諦めたのか、座り込んで参考書を読みながら火星ヤシを食べてやがる。すまねぇ、気持ちは一つだ。ガツンと言ってやってくれ・・・!

 

「全然解らん!!」

 

「そうだそうだ!お前ら教え方がフワッとしすぎなんだよ!もっとなんていうか・・・ピンと来る感じで頼めねぇか!?」

 

先生になるってのは、自分が分かるだけじゃあなくてきっちり教えられる側に分かるようにするってのが大事だってんのがよくわかるってもんだ。ほわっとしてるヤマダ先生も、厳しいチフユ先生もしっかりとしたその道のプロだってことだな。生半可に真似は出来ねぇか。すげぇよ・・・先生は・・・

 

「何故解らん・・・!?こう、ガキンとした感じだぞ!?」

 

「ちゃんと聞きなさいよちゃんとー!」

 

「もう一回説明して差し上げますわ!」

 

また始まりやがった・・・勘弁してくれよ。ミカはともかく、俺らは天才系じゃねぇんだ。もっと噛み砕いてっつーか、感覚によらねぇインテリみてぇな教え方でよ・・・

 

「イチカ、オルガー。どっちか、ちょっと相手してくれる?」

 

「おぉ、シャルルじゃねぇか!」

 

オレンジ色のISをガッチリ装備したシャルルが、怪電波をぶつけられて困惑してる俺らに助け船を出してくれるみてぇに話を切り出してくれやがった。こいつはいぃ、いいんだが・・・特訓に二人がかりじゃ、得られるもんも少なくなっちまうかもしれねぇな。

 

「白式か、獅電と戦ってみたいんだ。どっちにもいいところがあって、どっちとも戦ってみたいから・・・いいかな?」

 

そりゃあいい!早速・・・と、言いたいとこだが、団長が背を向けてこの三人から逃げてシャルルに助けてもらうってのも、筋が通らねぇか。団長の辛いところだぜ・・・っつー訳で

 

「イチカ、相手してやってくれ。接近戦で、要なお前だ。色々教えてもらえよ」

 

「い、いいのか?だって、その・・・」

 

「気にすんな。遠慮すんじゃねぇよ。強くなる機会とチャンスは、逃すんじゃねぇって」

 

そう言って俺は、イチカの背中を押してシャルルにイチカを任せることにした。頼むぜシャルル。メインはそいつだ、きっちり鍛えてやってくれよな

 

「オルガ・・・ありがとな。今度学食奢るから」

 

「鉄火丼で頼むぜ。任せたぜぇシャルル。分かりやすく、分かりやすくな」

 

「うん、やってみるよ!」

 

そんですぐにISでシノギを削り合う二人。オレンジと白、カラフルじゃねぇか。きっとシャルルなら殺したりはしねぇだろ。・・・さて・・・

 

「・・・んで、そう言うわけだ。だから・・・」

 

「「「・・・む~っ・・・!!」」」

 

ますますムキになって、徹底的に教えてやるって面構えの三人に、俺はワンオフアビリティの厄介になるであろうことをぼんやりと確信しながら、項垂れつつ、いつもの台詞を吐いちまう

 

「・・・勘弁してくれよ、お手柔らかに頼むぜ・・・」

 

・・・んでその後、三人に物理的にもボッコボコにされ、実入りの多い、そんで何回かくたばった実習を俺はなんとか乗り越えていった──頼むからお前ら、殺すのは俺だけにしとけよ・・・

 

 

「つまりね?イチカが勝てないのは、単純に射撃武器の特性を理解してないからだよ」

 

「一応分かってるつもりなんだけどな・・・」

 

戦いを一先ず終え、イチカとシャルルのヤツは自分らの特性や機会について話し合ってる。戦った後で実入りがあるってのは良いもんだよな。あぁ、全くそう思うぜ

 

「──俺はワンオフアビリティにガン振りで、スペックそのものは平均以下だからよ・・・リンチするんじゃねぇぞ・・・」

 

・・・二人の専用機持ちと一人の原石にボコられて、シャルルに気付かれねぇように死んでる俺は気にしない方向で頼む・・・心配かけたくねぇからよ・・・

 

「この白式って、後付武装(イコライザ)は付いてないんだよね?」

 

「あぁ、拡張領域(バススロット)が空いてないらしい」

 

「多分だけど、それってワンオフアビリティに容量を使っているからだよ」

 

「ワンオフ・・・?あぁ、オルガが使ってるアレ、希望の華ってやつか。キボーノーハナー♪ってやつな」

 

「ツーナーイダーキズナーハー♪そうそう、それそれ。ISが操縦者と最高状態になった時に、自然発生する能力だよ」

 

おぉ、ワンオフアビリティってそんなすげぇもんだったのか。当たり前のように使ってたから有り難みが無かったぜ。なんだよ、獅電はいまいちな性能かと思ってたが・・・どんなもんにも良いところはある、って事だな!

 

「ワンオフアビリティ・・・」

 

「?どした?ミカ」

 

「ううん。いつか俺も、使えるのかなって」

 

・・・そういや使ってねぇな、ミカ。あんまりにつぇえから気付かなかったぜ。お前がいつか見付けられたら、鬼に金棒、まさに敵無しだな!

 

「それより、分かりやすくていいね。シャルル。三人も見習った方がいいと思う」

 

ミカの言葉に、まとめて言葉に詰まる感覚三人組。ミカには三人がかりでも勝てなかったもんだから、肩見が狭いってヤツか?

 

「とりあえず、モップは他人の気持ちになって一から噛み砕くとかの努力を怠らないこと。キムチは、自分が分かりやすいことが相手にも分かりやすいとは限らないことを忘れないこと。セシリアは自分のISの調整なんだから、分からないのは当たり前じゃん」

 

「「「・・・はい・・・」」」

 

三人組がこれから暴走しないように、左手に『レクチャー参考書』を持ちながらキチッと悪い点を指摘してくれるミカ。ありがてぇな、何にも物怖じしないヤツってのはよ。力尽くでゴネるような真似も出来ねぇから、きっちり話ができてる。わかんねぇままをわかんねぇままにしない、ミカらしいな、相変わらずすげぇよ、ミカは・・・

 

「じゃあ、ちょっと練習してみよう。オルガも良かったら・・・ん?」

 

「ねぇ、ちょっとアレ・・・」

 

射撃訓練に移ろうとした俺らを、不穏な影が遮りやがる。漆黒のボディ、鋭利なフォルム。んで、中心には華奢な女の身体・・・

 

「嘘、ドイツの第三世代じゃない?」

 

「まだ、本国のトライアル段階だって聞いたけど・・・」

 

ドイツの・・・つまり、そいつは一人しかいねぇ。銀髪の問題児、転入してやってきた・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ。間違いねぇ、そいつだ

 

「皆、下がって。多分騒がしくなる。落ち着いて」

 

ミカがクラスメイトを下がらせ、避難させる。直感と、肌で感じたみてぇだな。あの雰囲気・・・ドンパチやらかすつもりに間違いないだろうぜ

 

「どしたぁ!ンな高いとこで、混ざりてぇならそう言ってくれれば、ちゃんと入れてやるぞぉ!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・!」

 

「何!?アイツなの!?イチカをひっぱたいたドイツの代表候補生って!」

 

「あ、いや・・・」

 

そいつぁ間違いだ。ミカがさっさと阻んで、叩かれてねぇ。穏やかじゃねぇが誰も傷付いてはいねぇぞ。そこは心配すんな。まさかソイツのお礼参りって訳じゃあねぇよな。その視線の先には・・・

 

「オリムラ・イチカ・・・」

 

「何だよ。まだ言いたいことがあるのか」

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話は早い。私と戦え」

 

「断る」

 

即答でその誘いをはね除けるイチカ。銃をシャルルに渡し、目を逸らさずに一歩も退かねぇでラウラのヤツにキッパリと告げる

 

「俺はオルガやミカみたいなカッコいい男になりたくてISを学んでるんだ。そっちが何を考えてるかは知らないけど、駄々や思い込みに付き合うような力は持ってないし、戦う理由もない。周りに皆もいる。憂さ晴らししたいなら他を当たってくれ」

 

「──ならば」

 

瞬間、ラウラは問答無用とばかりに巨大な右肩のキャノンを展開し、狙いを定め真っ直ぐイチカにぶっぱなして来やがった!何考えてやがる、問答無用かよ・・・!あぶねぇ、イチカァ!!

 

「シャルル、ちょっと離れろ」

 

「え?ぁ」

 

「はっ!!」

 

すると──イチカのヤツが素早く抜刀し、放たれたキャノンの砲弾を素早く切り払い空にぶっ飛ばしやがった!お前・・・すげぇじゃねぇかイチカ!特訓の成果ってや──

 

「あぁ・・・?」

 

──見ると、俺の方に弾け飛んだ砲弾が、まっすぐにこっちに飛んできやがる。多分あいつぁ、俺に当たっちまうんだろうなとぼんやり考える

 

「少しはやるな。専用機持ちは伊達ではないようだ」

 

「悪いな、悪魔と団長にしっかり仕込まれてるもんでさ。そんなことより、余裕をかましてていいのか?」

 

「何・・・?」

 

「オルガ!危ないよ!」

 

こっちを慌ててカバーしてくれるシャルル。サンキュな。だがま、今に限っては別に心配するもんでもねぇぜ。何せ此処には今──

 

「『風紀を乱すと、こわーい悪魔が来るんだぜ』。──頼む!」

 

アイツが、此処にいるんだからよ!

 

 

「「ミカァ!!」」

 

「任された」

 

シャルルと俺の前に、バルバトスを纏ったミカが素早く躍りで、飛んできたラウラの砲弾を野球のフルスィングみてぇにメイスをブン回して打ち返す。誰も傷付けず、そしてそのまま砲弾は、ラウラに熨斗と利子を付けて──

 

「なっ!くっ──!!」

 

大爆発。んで、ダメージ。ラウラの身体にぶちこまれた砲弾が連鎖爆発して、爆風に飲み込まれる。モクモクと煙を上げ、んでそれが収まった頃には・・・

 

「く、くそっ・・・きょ、今日のところは退いてやる・・・!」

 

「前も聞いた。・・・痛かった?」

 

「痛くない!」

 

「泣いてる」

 

「泣いてない!!三日月・オーガス・・・一度ならず二度までも・・・!覚えていろ・・・!この屈辱、決して忘れないからな!」

 

涙目を隠すように、すたたたと走っていくラウラのヤツ。ちっとは反省してくれりゃあいいんだがな・・・一々ぶっぱなされちゃ、こっちの身がもたないぜ・・・

 

「オルガ、怪我はない?大丈夫?」

 

「シャルル・・・心配ねぇ。見ての通りだ」

 

「ん、良かった。出すぎた真似して、ごめんね。でも・・・身体が勝手に動いちゃったから」

 

・・・可愛いとこあんじゃねぇか。ま、今回はレアケースだ。次があったら・・・

 

「そんときは、頼むぜ」

 

「うん!」

 

この可愛い舎弟に、頼らせてもらうとすっか!

 

「イチカ、今の・・・上手かったね」

 

「!」

 

「特訓の成果が、ちゃんと出てる。嬉しいよ、俺も」

 

「──あぁ!ミカや皆のお陰だ!」

 

ミカとイチカも、肩を並べて拳をぶつけ合い。男の友情ってヤツを再確認してるみてぇだ

 

──いいもんだな。学園生活ってのはよ

 

 

 




更衣室にて

シャルル「じゃあオルガ、僕は先に部屋に戻ってるね?」

「え?」
「は?」

三日月「ん。気を付けて」

イチカ「ここでシャワー、浴びていかないのか?お前いつもそうだよな?」

オルガ「そうだそうだ。身体が貧相とか気にしなくていいんだぞ?俺は、身体鍛えねぇと生きていけなくてな・・・」

「なんで俺らと着替えるの嫌がるんだよ~」

「いいんじゃねぇの?裸の付き合いくらい、なぁ?」

三日月「・・・」

シャルル「そ、そんなことないと思うけど・・・」

「・・・イチカ、オルガ。フランスにはシャワーは神聖な儀式で、必ず着替えも一人じゃなきゃダメって決まりがある」

シャルル「へっ?」

イチカ「あ・・・なんだ、そうだったのか?それならそうと言ってくれよな。無理強いしてごめんな」

オルガ「わりぃな、気を回してやれなくてよ」

「あ、その・・・えっと・・・」

三日月「ほら、早く。フランスの儀式だから」

「!・・・ありがとう、三日月くん!じゃ、オルガ!部屋でまたね!」

「おぉ。じゃあな」

三日月「・・・」

オルガ「さて、じゃあ俺もシャワー浴びて部屋に行くか」

「うん。出来るだけ時間をかけてね」

「ミカ?・・・お、おぉ・・・」

イチカ「フランスってシャワーな国なんだな~」

ミカ(頑張れ、二人とも)

~オルガ・シャルル 自室

オルガ「ただいま・・・っと」

~♪

「・・・シャルルはシャワーか。ふぅ・・・」

・・・そういや、ボディーソープが切れかけてたな。俺の時にギリギリ無くなった・・・って感じだったな。交換しねぇと

「忘れてた。邪魔するぜぇ」

ボディーソープを持って、シャルルの浴びてるシャワー室へ向かう。まぁ男同士だし問題はねぇだろ。さっさと渡して、退出すりゃ、ぁ・・・────

「・・・・・・・・・ぁ・・・・・・」

「──────────────は?」

・・・シャワーを浴び終えたシャルルと、バッタリ俺は面会する。其処にいたのはシャルルだ、あの金髪、間違いねぇ。間違いねぇのに・・・

「・・・・・・うわぁっ!?ぁ・・・!?」

慌てて前を隠すシャルル。其処には、胸があった。形がよくて、んでスベスベそうな肌で、身体がきゅっとくいっと丸みを帯びてて、シャワーを浴びてテカテカ光ってて・・・

「・・・・・・お邪魔しまし──」

とりあえず、俺は外に出る。ボディーソープ置いて、シャワー室から部屋に出て・・・

「・・・・・・っっう・・・」

・・・あの柔らかそうな胸。ヤマダ先生ほど大きくはねぇが、きっちりと掌におさまっちまいそうで、雪みてぇに白くて、やっぱり柔らかそうで・・・

「くぅうっ──」

一枚の服もねぇ、真っ白な肌。スベスベそうで、やわやわしてそうで、ぎゅって抱きしめたら、折れちまいそうなくらい華奢で、んでもって柔らかそうで・・・水が滴ってて、そんで、アレが、アレで、そんで・・・ああなってシャルルが男で女でアレがそれでどうなって

「あぁああぁあぁあぁーーーーーッッッッッッッッッッ!!!!!!!」

もう叫ぶっきゃね──ピギュッ!?

三日月「・・・」

「み、ミカ・・・!?なんでお前・・・あと、そのナイトキャップ・・・」

「此処が踏ん張りどころだよ、オルガ・イツカ」

「えっ・・・」

「頑張れ、オルガ」

「・・・お、おぉ・・・」

「あと、うるさい」

パンパンパン!!

キボーノーハナー♪

「近隣住民の皆様に迷惑だからよ・・・トツゼン叫ぶんじゃねぇぞ・・・」

バタン!!


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俺が護ってやるよ!!

あんまりペースが早く空き缶さんにプレッシャーがかかってしまうといかんので毎日一回を目指し初投稿です。オルシャルは適量、容量を護り、清く正しく服用ください。鉄血球の深刻な不足には御注意ください

三日月の強さはアレですね。殺すつもり×バルバトス・ルプスレクスが千冬先生を上回って、殺さないようにだと千冬先生に一歩譲るみたいな感じですかね

殺すつもりだと誰にでも圧勝ですが、殺さないようにだと試合で圧勝くらいな強さだと思います。オルガは第二世代か第一世代です多分

皆!インフィニットオルフェンズ最新話の下へ集え!!!!


売店

ラウラ「む」

三日月「あ」

「「・・・・・・」」

「・・・ガリガリ」

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「・・・皆と仲良くできない?」

「する気はない」

「どうして?」

「必要がないからだ」

「・・・それは、寂しい」

「寂しいだと?」

「皆と食べるご飯は、美味しいんだ。──ガリガリにも、解って欲しい」

「・・・ふん。悪魔とまで謳われた者にしては随分と甘いな」

「はい。あんぱん」

「・・・甘いな」

「でしょ」

アリガトウゴザイマシター

「何度も言う、私の邪魔をするな」

「風紀を乱さないなら、別に」

「フン!!」

「おぉ・・・」

『500円』

「・・・金銭感覚、ずれてるんだね」


「とりあえず、落ち着いたか?深呼吸して、しっかり正気を保てよ。慌ててちゃ、言いたいことも言えねぇし、伝えたいことも伝えらんねぇぞ」

 

「うん・・・ありがとう・・・」

 

さっき見たこと、今向かい合ってること。シャルルの正体、女や男。聞きたいことは山ほどあって、どうなってるか訳が解らねぇ事ばかりだが・・・とりあえず俺は、シャルルをしっかり落ち着けてから、向こうが会話を切り出すの待つことにした。混乱してんのは、きっと俺以上だと思うからよ

 

性別を隠して、わざわざフランスからやってくる。俺達に接触して、立場と身分をひた隠す。・・・其処には、半端じゃねぇ気苦労や悩み、不便や不都合があるはずだ。例えそいつが、シャルル自身が選んだことだとしても・・・

 

「シャルル。気付いてやれなくて、悪かった」

 

俺は頭を下げる。あのでっけぇ胸をむりくり潰してまで男として振る舞ってたんだ。絶対にシャルルの趣味や意志じゃねぇだろう。国柄か、上の指示か・・・ともかく、精神的に辛かったろうな。まずは、そいつの苦労と不便を共有してやれなかった事に、詫びを入れた。本当なら、真っ先に相談に乗ってやるべきだってのによ・・・

 

「お、オルガは悪くないよ。顔を上げて?ね?オルガに謝らせるなんて、ますます、僕・・・」

 

シャルルの顔が、悲痛に雲っちまう。そんな顔をさせちまう自分のもどかしさを、歯噛みしながら顔を上げる。・・・どのみち、このままじゃいられねぇ。俺は何も見なかった・・・なんて、賢く立ち回れるほど頭は良くねぇ。見ちまった以上、確りと事情を知っとく必要がある。野次馬としてじゃなく、出歯亀でもなく・・・大事な仲間として、俺はシャルルの事を知っておきてぇ

 

「・・・話してくれるか、シャルル。お前の身の上を」

 

「・・・うん。・・・良かったのかもしれない。オルガに、最初に知ってもらえたのは。・・・オルガなら、何の不安もなく、伝えられるから」

 

そうして、シャルル・・・フランスの代表候補生の彼女は、俺に伝えてくれた。自分の身の上を。自分が何で身分を隠して、此処にやって来たのかを

 

フランス・・・要するにシャルルの国のIS技術は、少しばかり遅れてるらしい。そこのISを取り仕切ってるのがシャルルの親父さんで、その世界情勢に乗り遅れないよう、シャルルを・・・自分の娘をこの学園に送り込んで来たってのが大まかな筋書きみてぇだ

 

目当ては・・・俺ら男連中のIS情報の収集、もしくは手荒な真似をしてでの強奪。その為に、近付き安いように身分を偽らせ、男として俺らに接触をさせたって寸法のようだ。・・・なるほど、合点がいったぜ

 

「シャルルが使ってるIS、どうして第二世代なのか疑問だったが・・・技術遅れだったわけだな。シャルルの技量と器用さで、カバーしてたって訳か」

 

「うん。なんとかね・・・それと、三日月君っていうとても強い存在がいたから、強さで僕は目立たなかった。そこも幸運だったかも」

 

・・・事情は把握した。男のフリして、男と上手く接触して、隙あらばISのデータをかっさらってきやがれ、ってことかよ。その為に三年間自分を偽らせて過ごさせることに何とも思わねぇ親ってことは、まぁロクなもんじゃねぇっとことは読み取れたぜ。シャルルは・・・翻弄されてたってことだ

 

「・・・今まで、嘘をついていて、ごめん。でも・・・これだけは信じてほしいんだ。僕は、オルガや皆を騙していること・・・嘘をついていることを忘れるくらい、本当に毎日が楽しくて、素敵な日々を過ごせていたってことを・・・」

 

「そんなもん、お前の顔を見りゃ解るっての。騙したなんて言い方をするもんじゃねぇよ。それがお前の使命で、仕事だったんだろ。気にするこたぁねぇ。俺は気にしねぇからよ」

 

「・・・うん、本当に・・・本当に。ありがとう」

 

気持ちは楽になった、って感じだな。そう肩肘を張るこたぁねぇ。騙す騙される、切った張ったは腐るほどやってきた。こんくらいの騙しあいなんぞ、可愛いもんだぜ。だから、そんな顔をしねぇでもいいんだ。・・・それよりも、大事なのはこれからの事、これから、どういう風に進んでいくのかだ

 

「これからどうする?シャルル。女だってことがバレちまったら、お前の身柄はどうなんだ。こっちにとっちゃ、そいつが気掛かりでよ」

 

これから・・・それを聞いたシャルルの顔が、悲しげに俯く。・・・解ってるんだろう。分かりきってるんだろう。それでもだ。目を逸らす訳にはいかねぇ。きっちり、どうなるか、どうするかを知っておかねぇと・・・気持ちの奮い甲斐がねぇからな

 

「どう、って・・・女だってことがバレたから、きっと本国に呼び戻されるだろうね。後の事は分からない。良くて牢屋行きかな」

 

そう、諦めきった顔と声音で語るシャルルの言葉を、俺は静かに聞いていた。・・・任務失敗で会社の経営を傾けたバカ娘はいらねぇ、牢屋で生かしておけばいい方、ってか。情があるとは思えねぇな。──だが、俺が聞きてぇのはそんな下らねぇ処遇やお偉いさんの経営方針じゃねぇ

 

「ちげぇよ。俺が聞きてぇのは、『お前がこれからどうするか』って話だ」

 

「え・・・?」

 

「まだまだ短い時間だが、お前はクラスメイトとして・・・鉄華団として俺らと日々を過ごしてきた筈だ。短い間でも、笑ったり、色々してきたはずだ。そいつは・・・ヘマ一つで、諦めきれるようなチンケなもんだってのか?」

 

「・・・それは・・・」

 

そうだ。大事なのはこれからだ。自分がどうなるかじゃねぇ。自分の運命を他人に預けて何処に行くかじゃねぇ。『自分がどうしたいか』って事だ。これから自分が何処にいたいか。何処に行きたいかって事だ

 

「お前が今、いたい場所は何処なんだ。鉄華団としての此処か、殺処分待ちの薄汚ぇ牢屋か。どっちだ。──今まで抑えてきたもんみてぇに抑えねぇでいい。俺以外に聞いているヤツはいねぇ」

 

そうだ、俺は立場を聞いてるんじゃねぇ。フランス代表候補生なんて肩書きに話し掛けてるんじゃねぇ。今目の前にいるお前に話し掛けてるんだ。腹を割って、俺に話してくれ。

 

「今此処にいるお前は・・・どうしたいんだ。シャルル。ちゃんと俺の目を見て、顔を見て。言ってみろ」

 

肩を掴んで、逃げられねぇように告げる。お前の本心が聞きてぇんだ。シャルル。逃げるのも誤魔化すのも無しだ。──だから、教えてくれ

 

この学園で、お前の目に映った俺は。そんな脅しの一つや二つで吹っ飛んだりケツを捲るほど、頼りない男に見えてたってのか?

 

「・・・僕は、僕は。・・・私は・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・妾の子で、家庭の何処にも、居場所がなくて・・・せめて、任務をこなして、そうすれば、ちょっとでも自分の存在した意味が残せるかもって・・・」

 

シャルルの言葉を、俺は一字一句逃さずしっかりと聞き届ける。・・・大丈夫だ、きっちり吐き出せ。俺がいる。俺が受け止めてやる

 

「此処に来て、転入して・・・皆が歓迎してくれて・・・一緒にいる時間が出来て・・・初めて、楽しいと思えて、皆と笑ったり、一緒に身体を動かしたりして・・・」

 

「あぁ・・・鉄華団の皆は、どうだったよ?過ごしてきた皆は、お前の目にどう映った?」

 

「・・・イチカは、真っ直ぐがむしゃらで。三日月くんは色んなところで気を遣ってくれて。シノノノさんは、真面目で一生懸命で。セシリアは料理が下手で、けど・・・沢山話し掛けてくれて。リンは、いつも元気で・・・」

 

あぁ。俺もそう思う。俺もミカも、此処に来れて良かったと思ってる。どいつもこいつも、いいやつらばっかだ。だからこそ・・・

 

「そんな奴等と、お前はあっさり離れられんのか。任務の失敗くらいで、出来た居場所を・・・ようやくたどり着けた場所を。誰かに言われたくらいで諦めきれんのかよ!」

 

「オルガ・・・っ」

 

「俺は・・・!お前にフランスになんか行ってほしくねぇぞ!俺らはこれからだ!まだ何もやっちゃいねぇ!これから学ぶことも、身に付けることも、何もやっちゃいねぇ!そうだろ!」

 

お前が来たとき、俺ぁ嬉しかったんだ。フランスなんて遥々、俺らに会いに来たなんて言ったお前が、話しかけてきた事がよ!後ろからひょこひょこ付いてくるお前に、頼られる俺が・・・悪くねぇと思えてきた所なんだよ!

 

そんな今が、そんなこれからが・・・こんな場所で終わっちまうなんて認めねぇ!諦めれねぇ!お前はどうなんだ!声に出して言ってみろ!シャルル!

 

「このままで・・・こんなところで!終わらせねぇ!だから、お前はどうなんだ!言ってみろ!立場じゃねぇ、お前の気持ちを俺に言ってみやがれ!シャルル!」

 

「オルガ・・・っ・・・僕は・・・、僕は・・・!」

 

そこまで言ったら、シャルルが俺に涙を浮かべながら抱きついてきやがった。呻きながら、泣きじゃくりながら、声を圧し殺しながら。身体を震わせて啜り泣きやがる。だが・・・その涙の最中で、きっちりと聞こえる。本心と、その言葉がよ

 

「此処にいたい・・・!僕は・・・此処にいたいよ・・・!鉄華団として、皆と一緒に・・・っ・・・!オルガと一緒にいたいよぉ・・・っ!」

 

涙を流して、すがり付くシャルルの肩を、強く抱く俺。・・・ようやく言いやがったな。世話をやかせやがって!なら・・・そいつがお前の、ホントの気持ちだってんなら・・・!

 

「──あぁ、解ったよ!そいつが本心の言葉だってことは!よぉく解ったよ!なら──護ってやるよ!」

 

シャルルの身体を、強く抱きしめながら、俺は自分の意地を言葉に乗っけてシャルルにぶつける。そうだ!それでいい。言いたいことは言ってやれ、未来の一つも勝ち取れねぇ弱いままで、終わるなんて俺はぜってぇ認めねぇ!

 

「え──っ?」

 

「そいつがお前の本心だってんなら、俺が護ってやるよ!──これからの人生、例え途中に、どんな地獄が待っていようと・・・!」

 

こっからの未来で、お前を一人になんかしねぇ!利用されて、追い回されて、なんの張りもねぇ人生なんて俺は絶対に認めねぇ・・・!お前に、そんな人生は絶対に似合わねぇ!

 

「お前を──!」

 

お前の全部を。こんなちいせぇ身体にのし掛かる重圧とか、責任とか、利権とか、暴力とかから、全部・・・!俺の全部をチップにして・・・!流した血と、これから流す血を、鉄みてぇに固めて・・・!お前のあの、キレーな華みてぇな笑顔を──!

 

「俺が!!護ってやるよおッ!!!」

 

ぜってぇ護り抜いてやる!絶対に止まらないで護ってやる!だから足を止めるな、諦めんな!自分の人生と、自分の願いを諦めんな!

 

その道に、その先に行くまで俺が傍にいるからよ!だから、絶対──止まるんじゃねぇぞ!!

 

「オルガ・・・」

 

・・・どれくらい経ったのかは解らねぇ。だが、いつの間にかシャルルは泣き止んで、俺もそいつを理解してそっとシャルルを離す。・・・勢いしかねぇ俺だがよ。さっきのは紛れもなく・・・

 

・・・そういや、『団長』じゃなく・・・『俺』っていったのは・・・我ながら、カッコつけて粋がったもんだな。──だが、構わねぇ。泣いてる女の前で、意地も通せずやせ我慢も出来ねぇ男なんぞ、団長なんかやってられっかよ

 

「・・・オルガは本当に優しいね。転入して初めての頃から、なんにも変わってない。女だって解っても。こんなに真っ直ぐ庇ってくれる」

 

そいつぁ当たり前だ。立場や性別で、付き合い方を変えたりすっかよ。オルガ・イツカを舐めんじゃねぇって

 

「ヘッ──・・・ぁ・・・」

 

そんな風に熱くかましてた俺の視線は、シャルルの顔から下の・・・ジャージから見える、胸の谷間に目が・・・なんだよ、結構でけぇじゃね、いや!いけねぇ!シャルルにそういうのは、いけねぇんだ!

 

「ああっ・・・そ、そんなに気になる・・・?」

 

「お、おぉ・・・」

 

いや、そのだな。つきあい方が違うっていうか、戸惑うっていうか・・・整理があれっつぅか、なんつうか・・・

 

「・・・ひょっとして、見たいの?」

 

「そりゃあも──あぁいや・・・」

 

いけねぇ、俺はシャルルの何を見てぇんだ・・・笑顔か胸かカラダか、それとも、あっと・・・えっと・・・あぁ、なんだ、その・・・

 

「──オルガのえっち・・・」

 

・・・まったくその通りだよ。締まらねぇな・・・これじゃあ下心丸出しのスケベ野郎じゃねぇか・・・何が護ってやるよ、だっての・・・幻滅されちまったかもな・・・詫びがわりに希望の華、咲かせっか・・・

 

「オルガ」

 

「?」

 

「──庇ってくれて、ありがとう。・・・これからも、連れていってね。僕が見たことの無い場所、辿り着く場所に」

 

・・・そんとき見た笑顔は、俺の心に、一番深いところに焼き付いた。安心しきった、秘密を全部吐き出したシャルルの、初めて見たときとおんなじ、とびっきりのキラキラした笑顔だ

 

「・・・あぁ」

 

この笑顔の前で、俺は絶対にヘマは出来ねぇ。この笑顔は、この目は裏切れねぇ。この笑顔の前では、こいつの前では。いつだって、最高に粋がって、カッコいいオルガ・イツカでいてぇと、心からそう感じる

 

「・・・寝るか、シャルル」

 

「うんっ。・・・あ、オルガ」

 

「・・・ぁ?」

 

「・・・二人きりの時は。シャルって呼んで。ね?・・・お願い」

 

「──あぁ。明日もはぇえぞ。シャル」

 

「うんっ。お休み、オルガ。・・・本当に、ありがとう・・・」

 

・・・背負ったもんは軽くはねぇが、自分が背負うと決めた荷物だ

 

ぜってぇ、下ろさねぇし・・・捨てたりしねぇからな

 

お休み。──いい夢見ろよ、シャル。とびっきりの、いい夢をな。俺も、付いててやっからよ──




早朝

シャル「すぅ・・・オルガ・・・むにゅ・・・」

オルガ「ったく、すやすや眠りやがって」 

コンコン

「・・・?」

三日月「おはよう」

「ミカ!おまっ、いや、今はな!違う、違わねぇ!いや、違う・・・」

「知ってるから。シャルルの事」

「・・・気付いてたのか?」

「うん」

「すげぇよ・・・」

「これ」

『ディスク』

「?なんだこれ」

「バルバトスのデータ。持ち帰れば、シャルルは牢屋には行かなくて済むと思う」

「き、聞いてたのか?」

「なんとなくそんなのかなって。第二世代だったし。遅れてるから送られたんでしょ」

「・・・あぁ。だがよ、ミカ。こいつぁ・・・」

「オルガが信じたなら、俺も信じる。それは、シャルルを護るためのデータだ」

「・・・ミカ・・・」

「治外法権」

「?」

「学園にいる間、どんな者でも生徒の身柄に介入できない。・・・要するに、今すぐシャルルをどうこうは出来ないんだ」

「・・・そこまで考えてたのかよ・・・お前」

「当たり前じゃん。家族だから。だから・・・行こう。卒業までに、自分達の身をきっちり護れるようになろう」

「・・・あぁ、そうだな」

「シャルルの事、任せたよ。──頑張れ、オルガ」

「──当たり前だ!任せとけ!俺は──」

「鉄華団団長、オルガ・イツカ。こんくらいなんてこたぁねぇ。・・・でしょ?」

「──あぁ!!」

「むにゅむにゅ・・・とまるんじゃ・・・ねぇぞ・・・」

「さて・・・起こすか!」

「あぁ。──行こう。俺達、皆で・・・──」



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あの目は裏切れねぇ

バエル!!(いよいよ最初の山場が近いので初投稿です)


バエル・・・!(止まり戻りはしないよう、身体に気を付けて投稿しております)

バエルゥ・・・(ミカラウもしっかり書けたらな、と心から思います)

バエル!!(だけど小説で夫婦の営みはR18だぞミカァ!!)

バエルの下へ集え!!(最後に、原作者様!拝見していただき本当にありがとうございました!心から応援しております!!)

皆!!インフィニットオルフェンズの下へ集え!!


「おぉ、リンじゃねぇか」

 

「随分と早いですわね?」

 

 

朝になって、まだ登校している連中がちらほらいるような早い頃。俺は偶然道でバッタリと出会ったセシリアとなんやかんやで連れ合い、第三アリーナ、まぁ要するに空きのグラウンドに足を運んだわけだが。其処に一番乗りって訳にゃいかなかった。其処には鉄華団一年二組所属、中国代表候補生のリンが先にいやがった。パイロットスーツのマゼンタが眩しいじゃねぇか。ヘッ、まぁ体つきで言やぁセシリアの圧勝だがよ。そこは言わねぇのが華ってやつだな。確実に殺されるからな

 

「私はこれから、学年別トーナメント優勝に向けて、特訓するんだけど」

 

「私も全く同じですわ。オルガさんとは、偶然会っただけですが・・・貴方も同じですの?」

 

「あぁ?俺は・・・」

 

俺は、ただシャルを護んのにてめぇを磨こうと思って自主練に来たってだけの話なんだが・・・いや、まぁ・・・トーナメントか・・・

 

俺は考える。トーナメントで、勝ち抜いて勝ち抜いて勝ち抜いて・・・天辺に辿り着けたんなら。少しはシャルのヤツにカッコいい所を、オルガ・イツカとしてのカッコいい姿を見せ付けてやれんじゃねぇかと。死んでばっかで、不安や心配ばっかりかけてるからな。たまには、いいニュースで喜ばせてやりてぇじゃねぇか。・・・まぁ、そんな俺の気概は一先ず置いといて、だ

 

「・・・!!」

「むむむ・・・!」

 

・・・下手すりゃ殺し合いになりかねねぇな、コイツら。鬱憤や鬱屈を押し込めさせんのも良くねぇし、何より会話で引き下がったりはしねぇよな。・・・仕方ねぇ、ストレス発散も兼ねて、俺も含めた・・・朝練と行くか!

 

「なぁ、ハッキリさせようじゃねぇか。誰が此処の一番かって事を。代表候補生の力、バッチリ見せてもらおうじゃねぇの?お二人さん?」

 

その言葉を待っていた。俺の安い挑発にサクッと乗ってくれる女二人。血の気が多いよな、こいつら。日頃ちゃんとカルシウム摂ってるか?好き嫌いは良くねぇぞ?

 

「よろしくてよ?誰が一番強く優雅であるか、風紀見習いの私が、この場で決着を付けて差し上げますわ」

 

「勿論♪私が上なのは分かりきってることだけど!なんならハンデでオルガをそっちにあげるわ」

 

・・・ハンデ扱いかよ・・・いや、あながち間違ってねぇがな。俺の獅電はとにかくスペックが低い。第二世代の初期型か量産型か・・・ワンオフアビリティ頼りのピーキー仕様なもんだから、試合には一人じゃ不利すぎんだよな・・・

 

「あぁ?言うじゃねぇかリン」

 

「ふふっ、弱い犬ほどよく吠えると言うけれど、本当ですわね?」

 

「どういう意味よ?」

 

「自分が上だって、わざわざ大きく見せようとしているところなんか、典型的ですものっ」

 

・・・それ、お前が言えたことかぁ?入学してのホームルームで俺らに真っ先に代表候補生の肩書き振りかざしてきたお前に言われちゃ、リンも可哀想ってなもんじゃねぇのかよ?いや、これは成長してるんだよな?自分の事を棚に上げてる訳じゃあねぇよな?挑発なんだよな?

 

「・・・その言葉ァ・・・そっくりそのまま返してあげるッ!!」

 

「ふふっ・・・試合開始、ですわね!」

 

二人がセーフラインをぶっちぎってISを纏い、展開し、装着する。やる気がみなぎってんのは良いことだ。ガツンと来やがれ、遠慮はいらねぇ!

 

「rideon──!」

 

セシリアのイヤーカフス、リンの腕輪、んで、俺の前髪。それらがキラッと光って身体にISを展開し終え、アリーナに三体のISが現れる。遠距離型、セシリアの『ブルー・ティアーズ』。近距離格闘型『甲龍』。んでバランス型、俺の『獅電』。なんだよ・・・相変わらず結構カッコいいじゃねぇか・・・フルアーマー型だから俺は見えなくなるがよ・・・

 

「行くわよメシマズ女!!酢豚の材料にしてあげるッ!!」

 

「よろしくてよ?イギリス料理の礎となりなさいな!」

 

「どっちもISバトルとは関係ねぇからよ・・・!」

 

セシリアが銃を構え、牙月を振り回し突撃する。朝から少し過激な朝練になるなと、タカと腹を同時に括ってライフルを構えて俺も突撃しようとしたとき──

 

「何ッ!?ヴゥアァアァアァアァ!!」

 

突然──セシリアもリンもいねぇ方角から、俺目掛けてバカでけぇ砲弾が一直線に俺目掛けて飛んできやがった。完全に二人に気を取られていた俺は、防ぐことも避ける事も出来ずに直撃し吹き飛ばされ、壁に叩き付けられ──

 

「・・・鳴り物入りなのは構わねぇがよ・・・長距離狙撃でガンメタすんじゃねぇぞ・・・」

 

成す術なく・・・ワンオフアビリティの世話になっちまった。本来の試合じゃ間違いなく負け確定じゃねぇか・・・瞬殺かよ・・・

 

「オルガ!大丈夫!?」

 

「オルガさん!くっ・・・!何者!?」

 

こんくれぇなんてこたぁねぇ・・・!死ぬのが怖くてIS乗れっかよ!俺にとって生きることは死と隣り合わせ、死を想わねぇ日はねぇ!

 

「──フッ。三日月を誘き寄せる撒き餌には丁度いい」

 

其処にいたのは、漆黒の機体。遠距離と近距離を器用にどちらもこなす万能型。ドイツの第三世代にして問題児・・・

 

「シュヴァルツェア・レーゲン・・・!ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・!」

 

「どういうつもり!?いきなりブッ放すなんて、いい度胸してるじゃない!」

 

二人が新たな乱入者に食って掛かる。そいつぁそうだ。打ち所が悪けりゃ、あるいは廻りに人がいたら大惨事もいいとこだった。ヤンチャにしても度が過ぎるってもんだぜ

 

「俺だったから良かったものの・・・この落とし前、アンタどう付けるつもりだ」

 

悪いことは悪いと言ってやんなきゃなんねぇ。力だとかなんだとかは関係ねぇ。団体行動や組織の輪を乱すような真似は、誰かがきっちり叱ってやんなきゃなんねぇんだ

 

「フッ、誰でも構わん。纏めてでも良い。──とっとと来い。鉄華団とやらの力、見せてみろ」

 

挑発的にクイクイと右手を振るラウラ。その態度に、まずはリンがブチキレちまう。・・・止めるつもりはねぇな。売られた喧嘩を流すほど俺は賢くねぇもんでよ!

 

「むっかぁー!新入りが調子に乗っちゃって!!行くわよセシリア、オルガ!アイツをシメる!」

 

「今回ばかりは一時休戦ですわ!団長!やりますわよ!」

 

「上等だ・・・!よぉし行くぞぉ!!」

 

俺らは調子に乗ってやがるドイツのラウラ・ボーデヴィッヒに向けて、一目散に突撃する。人を見境なく攻撃した落とし前、きっちり着けさせてやる。暴れたいってんなら、俺らが相手をしてやるよ──!!

 

 

 

「~♪」

 

「どうした、シャルル。随分と上機嫌だな?」

 

場所を変え、こちらは廊下。シャルル、三日月、そしてイチカは三人で登校を行っていた。朝練に参加していない面子が、シャルルと合流し共に学園へと足を運んでいるのである。昨日とは明らかに違うシャルルの態度に、イチカは不思議そうに訪ねる。鼻唄まで歌い、楽しくてたまらないと言った様子だ。なんならスキップも始めそうな雰囲気すらある

 

「そりゃあそうだよぉ。だって僕、昨日・・・」

 

「昨日?」

 

「あっ・・・う、ううん!何でもない!・・・オルガは朝練かぁ・・・僕も頑張らないと・・・!」

 

「・・・?ミカ、昨日なんかあったか、解るか?」

 

「裸の付き合い」

 

イチカの問い掛けに、歩きながらミカは右手の小銭をじっと見つめながら、静かに歩いている。それは、昨日の売店にて・・・

 

「どうした?そのお金。400円・・・?」

 

「お釣りだよ。受け取らないで帰っちゃったから。いつか、返さないと」

 

「お釣りぃ・・・?」

 

なんだか昨日に妙な事ばかり起こっているな、とイチカがぽりぽり頭をかいていながら、それでも三人で歩いていると・・・

 

「第三アリーナで模擬戦やってるって!」

 

「戦ってるの、オルガもいるみたいだよ!」

 

生徒たちが、その騒動を聞きつけ走っていく。この時間に戦っているもの。訓練ではなく、模擬戦。──一同に嫌な予感がよぎる。そして何より

・・・

 

「オルガが!?」

 

その名前を聞いた瞬間、シャルは走り出す。自らを庇い、護ると告げた男の下へ。顔を見合わせるイチカとミカ。共に、その原因に思い至り顔色を変える

 

「・・・もしかして、あのドイツの・・・!」

 

「行ってみよう」

 

最悪の事態への憂慮、そして乱れし風紀の気配。二人は先頭を走るシャルの背中に続き、共に渦中の第三アリーナの下へと向かう──

 

 

「リン!セシリア!!」

 

たどり着いた第三アリーナの様相は凄惨たる有り様、荒れ果てた戦場の大地の如くに様変わりしていた。あらゆる場所にクレーターが生まれ、そして観客席を別け隔てる仕切りが粉々に破壊されている

 

イチカの叫びは、二人のIS使いの惨状に向けてのものだった。徹底的に叩きのめされ、仰向けとうつ伏せにて非武装状態にて乱雑に野晒しにされている。止めはささぬ、無造作な獄門のように

 

「来たか、三日月・オーガス。風紀の乱れには流石に敏感だな」

 

「・・・」

 

ラウラの言葉に、静かに見返し見つめる三日月。彼は静かに察する。この大騒ぎは、自分を狙い定めた囮にして撒き餌に他ならない。そうでなくてはここまで騒ぎを大きくする理由がない。目論み通りに事を進ませた事にほくそ笑みながら、ラウラは三日月に手招きを行う

 

「私に二度も屈辱を味わわせた実力は認めてやろう。オリムラ・イチカなどいつでも潰すことができる。──光栄に思え。お前は私の最優先目標となった」

 

「ふーん・・・戦いたいの?」

 

「そうだ。私と戦え。聞けば貴様はこの学園最強の存在と聞く。相手にとって不足は──」

 

「オルガッ!」

 

シャルの悲痛な悲鳴が、二人の言葉を遮る。収まる砂埃の中に、彼はいた。セシリア、リンと同じように・・・徹底的に、叩き伏せられ這いつくばらされたのである

 

「よくもオルガをっ──許さない!」

 

「鉄華団の仲間を傷付けるヤツは許さねぇ!!」

 

怒りのままにISを纏い、ラウラに報復を行おうとするイチカ、シャルル。その激情に冷然とした態度にて返すラウラ。あわや大乱戦・・・その混沌の様相を阻んだのは、他でもない──

 

「待った」

 

「・・・何?」

 

三日月自身が仲間の逸る気持ちを手で制し、オルガを指差す。身体中から血を流しながらも・・・

 

「まだ終わってない。オルガの終わる場所は此処じゃない」

 

折れてはいない、けして立ち止まろうとしない・・・団長の姿を見つめ、立ち上がろうとするオルガの魂を見つめる。戦う意志は消えていない。萎えていない。戦う気力がある限り、それは敗けじゃない。だからこそ、まだ自分達の出る幕じゃない。そう三日月は決断した。己の意志で

 

「・・・解ってるじゃねぇか、ミカ・・・余計な手出しをしやがってたら、ぶん殴ってやるつもりだったぞ・・・そうだ・・・立ち止まらない限り、道は続くって言ってるだろうが・・・!」

 

気合いを込めて言葉と気迫を吐き出す。ISとの同調を高め、傷だらけの身体に鞭を打つ。その必死と全霊の痩せ我慢に、理解できぬとばかりにラウラは吐き捨てる

 

「何故そこまでする。第二世代以下の欠陥品ISに加え、三日月・オーガスより遥かに実力の劣るお前が。大人しく地に伏せ、這いつくばっていればいいものを」

 

「・・・そうかもな。確かに俺ァ、ミカに比べりゃミソッカスもいいところのポンコツだ。だがよ・・・俺は一度も、てめぇの境遇や実力に不満を懐いた事はねぇ・・・!」

 

そうだ。与えられた力を鼻にかけて暴れまわり、強い力を恵んでもらって粋がる事などするつもりはない。与えられた環境で、必死こいて足掻くだけの力と体があれば十分だ。其処から先は自分の仕事だ。自分の人生を、借り物の力で着飾るつもりなんてこれっぽっちもない。それに──

 

「このままじゃ・・・」

 

ダサいままじゃ終われない、無様なままじゃいられない。今までもそうだ。これからもそうなんだ。自分の肩には、ミカの新しい人生が、鉄華団の期待が・・・そして・・・──

 

「オルガ・・・また、そんなにボロボロになって・・・!」

 

(──なんて顔して、なんて声出してやがる。シャル。・・・心配すんな・・・俺を、誰だと思ってやがる・・・!)

 

目に映る、自らを見つめる女の顔。その顔が、不安に曇っていることが許せない。曇らせている自分が許せない。その感情に、その想いに──王の玉座が、奮い起つ

 

「こんな所じゃぁ──!」

 

高まる同調率。高まる出力。ISとの相性が、最高に粋がって、カッコいい姿を見せつけてやりたいと言うオルガの純粋な願いに応え──限界を突破し、その機能を全開とする・・・!

 

「終われねぇ──!!」

 

──ワンオフアビリティ、『希望の華』。オルガの気力と体力が保つ限り、傷を癒し完全回復し戦線復帰を可能とする、団長としての魂と力を昇華した、オルガにのみ赦された技巧にして奥義・・・!

 

「何、ッ──!?」

 

完全に仕留めた筈と油断していたラウラ。最早眼中にないとすら定義していた獅電。その不死身の如き蘇生に、完全に虚を突かれた形になる

 

「無い物ねだりしてるほど暇じゃねぇんだよ・・・!よぉし行くぞぉっ!!」

 

復活を果たし、獅電が唸りをあげてライフルをラウラに目掛けて乱射し突撃し距離を詰める。一発一発は気にも留める必要は無いほどに弱いもの、しかし──其処には、圧倒されるほどの気迫と気合いが存分に込められており、当たっては唯ではすまないとラウラの直感に訴えかけ、否応なく回避を優先させられてしまう

 

「チッ、雑魚が──!」

 

「嘗めない方がいいよ、ガリガリ」

 

「何ッ・・・!!」

 

「オルガがこのまま、何もしないわけない。・・・だろ?オルガ」

 

その言葉に、自らを見つめる視線と期待に応えるように──オルガの行動は、冴え渡る最適解を取ることとなる

 

「なっ!?」

 

力の限りに、ラウラに向けて近接のパルチザンを投げ付けたのだ。それは三日月が得意とするメイス投げ。戦術と戦法を把握し熟知した相棒の十八番。銃撃を回避していたラウラには、それを回避する手立てはなく──

 

「──このような雑魚に使わされるとは・・・!ふっ!!」

 

苛立ちに歯噛みしながら、飛来するパルチザンに向けて右手をかざし、秘蔵の装置にしてアビリティ・・・『AIC』、アクティブ・イナーシャル・キャンセラーを発動させる。空間干渉にて、あらゆる物体のベクトル操作を停止させるラウラの奥の手。それを、オルガの気迫に圧され『使わされた』のだ。その不快感を、そのまま返却せんがためパルチザンを叩き付けようとしたその刹那──

 

「あぁあぁあぁあぁぁーッ!!!!」

 

力の限りに飛翔し、視界外からのライフル殴打。尋常でない集中力を要するAICに集中していたラウラは、回避も叶わずにしたたかに直撃し、壁へと叩き付けられる。それは、白式が得意とする近接格闘攻撃。団長としての、団員の特性を把握したがゆえの、気合いの反撃にして報いた一矢・・・──

 

「くっう・・・!このぉ──死に損ないがぁあっ!!!」

 

三日月・オーガスと尋常に勝負を付けるはずが、添え物としてしか見ていなかった存在に土を付けられた。遥かに実力の劣る存在に、こうも屈辱を味わわされる。その事実がラウラの思考を煮立たせる。力の限りに転身し、怒りのままにオルガの獅電を──グラウンドに叩きつける

 

 

「ヴゥアァアァアァアァ!!!」

 

解除されるIS。巻き起こる砂埃。瀕死に喘ぐオルガ。だが・・・──その目は、確かにラウラを睨んでいる。けして退かず・・・──けして、折れぬと空を睨む

 

(──あの目は、裏切れねぇ)

 

瀕死の身体で、ワンオフアビリティが発動する寸前で。朦朧とする意識の中で心に浮かぶのは──あの時に見た、彼女の笑顔

 

 

庇ってくれて、ありがとう。・・・これからも、連れていってね。僕が見たことの無い場所、辿り着く場所に

 

 

 

(あの目に映る俺は、いつだって最高に粋がって・・・カッコいいオルガ・イツカじゃなくちゃいけねぇんだ・・・!)

 

あの顔。安心しきって、キラキラと煌めいて、自分を護ってくれると信じきった、あのキレーな笑顔。あの笑顔だけは、絶対に裏切れない。裏切るわけにはいかない

 

そうだ。その為なら何度だって立ち上がって見せる。弱かろうと、なんだろうと、痩せ我慢だろうと、何度だろうと立ち上がってみせる。例え死のうと──あの期待や信頼を、裏切るわけにはいかないのだから・・・!

 

「死ねぇえぇえぇぇっ!!」

 

迫り来るラウラに、視線を返すことしか出来ないオルガ。その剣が、彼の体を貫く刹那・・・

 

「──よく頑張ったね、オルガ」

 

ラウラの突進を、メイスを盾に阻む姿。白き装甲、禍々しくも勇壮なガンダムフェイス。穏やかに声をかける、優しくも強き風紀委員・・・

 

「──三日月・オーガス・・・!」

 

「勝負はついた。此処までだ。これ以上は──ダメだ」

 

鍔競り合う白と黒のIS。向かい合い交錯する視線。拮抗する中・・・ラウラの方が、勢いを緩め踵を返す

 

「・・・ふん。其処の雑魚の奮闘に免じ、此処は退いてやる。クラス別トーナメントで、決着を着けてやろう」

 

「いいよ。あと・・・」

 

「・・・?」

 

「お釣り」

 

「──いらんっ!!」

 

それだけを告げ、踵を返し、飛翔していくラウラ。その後ろ姿を、無言で見つめる三日月

 

「オルガ!オルガ!しっかり!ねぇ、返事してよ・・・!」

 

「・・・心配すんな・・・慣れてるからよ・・・」

 

「箒!保健室に連絡だ!セシリアとリンは俺が運ぶ!」

 

「一人でか!?」

 

「何のために鍛えてると思ってるんだ!急いでくれ!お前が頼りなんだ!早く!」 

 

「わ、解った!すぐに行く!」

 

シャルルの腕の中で、ワンオフアビリティの世話になるオルガ。イチカに運ばれるリンとセシリア。混乱と動乱の模擬戦は、幕を下ろす

 

──後に、チフユの一存にて。一切の私闘が禁じられたのは言うまでもない──




夜・部屋にて

シャル「もう、オルガってば無茶しちゃって・・・」

オルガ「そんなつもりはねぇよ。俺は、やるべき事をやっただけだ」

気絶したまま、俺は部屋に運ばれたらしい。・・・粋がって結局これか。情けねぇ話だぜ、まったくよ・・・イチカやミカにも礼を言わなきゃな。・・・それに、無茶だなんて欠片も思っちゃいねぇ。ただ・・・

「ふふっ、好きな人にカッコ悪いとこ見せちゃったから、恥ずかしいんだよね~?」

「お・・・お前・・・」

・・・そりゃあ、お前から見ちゃカッコ悪かったかもしれねぇがよ・・・俺は俺なりに、お前に筋を通そうって必死にだな。その、なんだ・・・カッコ悪くても、精一杯足掻いてやろうってだな・・・

「ふふっ。・・・オルガが好きな人が、僕だったら嬉しいな・・・なんて、ね」

「・・・ヘッ・・・」

・・・なんだよ。ちゃんと・・・分かってくれてるんじゃねぇか・・・たぶん、それは当たりだぜ。・・・付き合った事なんてねぇから・・・好きってどんなもんか、わかんねぇがよ・・・

「・・・さてと・・・着替えるか、シャル」

「うん。もう、オルガに見られても恥ずかしくないから・・・ね?」

「ん、おぉ・・・そ、そうだな・・・」

・・・俺は恥ずかしいっつうか、照れるからよ、向こう、向いてっから・・・

「わわぁっ!?」

「!?どうした!?どっか痛むのか──」

慌てて振り替えると、其処には──白いパンツと、やわっこそうなお尻をこっちにむけて、もぞもぞしてるシャルの姿が・・・──いや、これは、なん、なんつ、なんつーんだ・・・

「いたた・・・足引っ掛かっちゃった・・・わぁっ!?」

「・・・・・・・・・・・・────」

「お、オルガ・・・?」

「・・・・・・」

「・・・見ちまって、ごめんな、シャル。ちょっと行ってくる」

バタン

「あっ、オルガ・・・!?・・・・・・もう。ちゃんと言ってくれたなら・・・僕は、オルガになら、別に・・・」


三日月の部屋

オルガ「シャルを邪な目で見たくねぇ。ミカ、頼む」

「はい。バルバトスの太刀。一極式限定展開」

「サンキュな。──ぐぅうっ!!!」

キボーノーハナー

「シャル・・・俺はお前の貞操も絶対大切にすっからよ・・・身売りすんじゃねぇぞ・・・」


──学年別トーナメント、当日

イチカ「へぇ、しかしスゴいなこりゃ」

オルガ「見るからにお偉いさん、って感じだな」

シャルル「三年にはスカウト。二年には一年間の成果の確認に来ているからね」

イチカ「ふーん。鉄華団の俺らの事も、気にかけてくれてりゃいいんだけどな」

オルガ「そいつは、俺らのこれから次第だな。頑張ろうぜ、イチカ」

「勿論だ、団長。・・・しかし、ホウキは誰と組むんだ?ペアが決まらないなら抽選とか言ってたが・・・」

三日月「あ、対戦相手、出たよ」

シャルル「・・・えっ!?」

イチカ「な・・・!」

オルガ「これは・・・!?」


女子更衣室

ホウキ「・・・なんと言う組み合わせだ。・・・最悪だ・・・」


シノノノ・ホウキ&ラウラ・ボーデヴィッヒVSオリムラ・イチカ&三日月・オーガスVSオルガ・イツカ&シャルル・デュノア


「勘弁してくれよ・・・ミカと一回戦じゃねぇか・・・」

「頑張ろうね。いい試合にしよう」

「勘弁してくれって言ってるだろうが!!バランス考えやがれ!一人でいいだろミカァ!!」

「逃げないで」

「離しやがれぇ!!」

イチカ「・・・どうなるんだ・・・」

シャル(・・・オルガと同じチームだ・・・!やった!嬉しいな・・・!)

「頑張ろうね、オル」

キボーノーハナー

「オルガ──!?」


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皆の声が、聴こえたよ

オリジナル多めなので初投稿です。戦闘描写はもりもりに盛りました。メチャクチャ文が増えました


オルシャルとは言ったが、どんなカップリングにも等しくアグニカ・カイエルの魂は宿る。忘れないことだ

長めになりましたが、楽しんでくださいな

原作者や一次創作へのリスペクトは、けして絶やしてはならない──!!

ラウラ「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたと言うものだ」

三日月「うん。俺も待ってた」

「──殊勝な心掛けだ。今度こそ蹂躙してやろう」

「あ。・・・渡したいものがあるんだけど」

「なんだ。命乞いか?」

「お釣り」

「──何の、話だ・・・!!」

「あんパン」

「私をバカにするのも大概にしろ──!!」

オルガ「よし・・・俺らはまずはシノを倒すぞ!」

シャルル「うん!チームワークを乱そう!」

「な、何ッ・・・!?」


「うぉおぉおぉっ!!!!」

 

GOシグナルと共に、イチカのISである白式の性能と特性を活かした突撃――剣を水平に向けた突貫――にてラウラ・ボーデヴィッヒへと真っ直ぐに突撃を行う。自らの不利な要素を展開される前にペースを掌握、打破、そして勝利するための直感的な動きに所作。ラウラは近遠対応型ではあるが、傾向として遠距離攻撃を好む傾向にある。いくら万能型と言えどまだ候補生。完璧にどちらもこなせるという事は有り得ないはずだ。選択肢のひとつを潰す。近距離にて、遠距離攻撃の蹂躙を防ぐ。その目論みは、正しく叶えられることとなる

 

「っっ、ぐぅうっ──!!」

 

イチカの剣は、ラウラを切り裂く事なく空中に貼り付けられたように完全に制止する。剣だけではない。身体中の運動エネルギーが、たちどころに殺されてしまったのだ

 

「やっぱりね・・・」

 

「AIC・・・解っていた筈ですのに・・・っ」

 

アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。あらゆる運動ベクトルを制止させる停止結界。莫大な集中力を要するものの、発動さえしてしまえばあらゆる存在を無力化、無防備とされてしまうラウラの必殺技にして奥の手。このアビリティの前にリン、セシリア・・・そしてオルガは敗れ去った。運動エネルギーを主軸に発生させる生物には絶対的な力を発揮する暴君が如き力。その脅威を肌で知っているリンとセシリアは、分かりきっていた結果に息を吐く。何故、理解や予測が出来た悪手を自ら進んで取ってしまったのか。その、真意が図れずにいたのだ

 

「開幕直後の先制攻撃とはな。分かりやすいな」

 

「そりゃあどうも。以心伝心で何よりだ」

 

動きを完全に停止させられながら、イチカの崩れぬ余裕、不敵な対応。その癪に障る物言いにラウラは少なからず苛立ちを覚える。教官の輝かしき経歴に傷を付け泥を塗った忌み子が何を・・・その顔、消し飛ばしてくれる!

 

「忘れているのか?」

 

ラウラが怒りと共に右部ランチャーを展開し、イチカを吹き飛ばさんとエネルギーをチャージする・・・前に。あえて余裕を殺ぐために。イチカは不敵に笑い、挑発と──当然の事実をラウラに告げる。それを忘れ、一人で孤立する彼女を戒めるように

 

「俺達は、二人なんだぜ?」

 

「ッ──!!?」

 

イナーシャル・キャンセラーを展開していたラウラには対応が許されなかった。イチカの背後より迫り来るもう一体の白きIS。一年生でありながら、早くも学園最強と名高き風紀委員。そして、優しくも恐ろしき『悪魔』の名を冠する者。その真名を正しく示す果敢さと悪辣さを、今此処に示すは──ラウラが最優先目標と定めた・・・

 

「三日月・オーガ──」

 

「貰った」

 

渾身のメイスの一撃が、ラウラの華奢な身体を痛烈に叩き付ける。殺しきれぬ衝撃、単純な質量を乗せた鈍器による会心の一撃。イチカにキャンセラーを展開していたラウラに、直撃するより他はなく、目にも止まらぬ程のスピードで、アリーナの仕切りの壁に叩き込まれ、肺の中の空気を全て絞り出される

 

「ぐはぁっ──!!!」

 

「大丈夫。分かってるから」

 

ラウラの呻きに応えるように、バルバトスは猛然とラウラに接近を果たす。成すべき事をなす。未だ感じる『ズレ』を是正するよう、忘れぬよう。一言一言を自らに言い聞かせるように呟きながら、両手にメイスを展開し握りしめ──

 

「殺さないように、殺さないように、殺さないように、殺さないように、殺さないように──」

 

力の限りにメイスを叩き付けていく。両手で持ったメイスを交互に叩き付け、何度も何度も急所を外し殺さないように。風紀委員としての役目を、懸命に全うする三日月。ラウラの生命維持レベルが、瞬く間に減っていく。一撃一撃が、想像を絶する重さ故ISが衝撃を殺しきれないのだ。小細工を様さない単純にして純粋な力。──暴虐と蹂躙が、ラウラを襲い続ける

 

「がはっ!あぐぁっ!ぐはっ──ああっ──!!」

 

「殺さないように、殺さないように、殺さないように、殺さないように・・・──」

 

思い上がっていた。たった数撃で格の違いを見せ付けられた。壁に磔にされ、為す術なく叩き込まれる風紀の一撃。結果は誰の目にも明白だった。勝敗は決したと誰もが確信した──ただ一人を除いて

 

(私は──!負けられない!負けるわけにはいかない──!)

 

あれほどまで切望した戦闘の機会。今まで望んできた報復の機会。教官への感情、弟と呼ばれる男への憎しみ、そして──目の前にいる男、最優先目標と定めた、三日月・オーガス。それらに成すべき事を、何も成し得ないまま終わってしまう・・・そんな無様は、そんな結末は・・・断じて認めるわけにはいかない・・・!

 

「三日、月・・・オーガス・・・ッ・・・!!」

 

「?なに?」

 

「私は・・・私は・・・ッ──!!」

 

 

『願うか、汝、より強き力を欲するか』

 

突如ラウラに語りかける、何者かの声。聞いたこともなき、しかし・・・ラウラの最も欲するものを提示する、謎の音声

 

・・・何者なのかなどどうでもいい。此処に来た理由を、此処に来た使命を、決意を。果たすことが出来るのなら。力の出自など些末な問題だ

 

「──寄越せ、力を」

 

そして、その力を以て──

 

「比類なき最強を・・・!!」

 

この学園にて生まれた、生涯唯一の『最優先目標』の排除と撃退を──!

 

 

「くうぅっ・・・!!あぁあぁあぁあぁーーーーッッッ!!!!」

 

バルバトスに蹂躙され、停止を待つのみであったラウラのISが、青白いスパークを放ち輝き出す。突如として始まった反撃?三日月はそれを警戒し即座に距離を取り、メイスを握り直し警戒する──が。様子がおかしい。明らかに・・・

 

「ガリガリ、聴こえる?ガリガリ・・・!」

 

肉声にて呼び掛けど、返ってくるのは耳をつんざく悲痛な絶叫のみ。ただならぬ状況の変化に、三日月を含めた全ての存在は困惑と戦慄を露とする

 

「ぅあぁあぁあぁあぁ!!あぁあぁあぁあぁ──っ!!ぐぅうっ、あぁあぁ・・・っ!!」

 

悲鳴と共に、絶叫と共に・・・ラウラのISが変化を、変貌を遂げる。鋭角的で漆黒のフォルムであった専用機が、泥のように形を崩し中心のラウラを取り込むように変容していく。絶叫と蠢く不穏な音を響き渡らせながら、禍々しくもおぞましく不気味に胎動し、生物の生理的嫌悪を煽るような音を漏らしながら、ラウラを取り込み、先程のISとはまるで違う形態へと姿を変えていく

 

「何・・・!?」

 

「っ・・・!?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・!?」

 

「何なんだよありゃあ・・・!」

 

二人でホウキを無力化していたオルガとシャル、そしてイチカにホウキすらも目を奪われる状況、ただならぬ凄まじい混乱と昏倒。誰もが動けず、その顛末を見守るより他なく・・・

 

 

「・・・レベルDの警戒態勢を」

 

「は、はい!」

 

モニタールームにてチフユの指示が飛ぶ。その懸念と指示は、最悪の形で成就する事となる。ラウラを完全に取り込んだ泥のようなものが、五体に相当する部位を生成し、先程の姿とはまるで異なるフォルムを形作る。それは、オルガや三日月のISと同じ、フルアーマー型のIS。紅き単眼、両手にパイルバンカー、脚部にドリルを装着した──かつて三日月が死闘を繰り広げた存在に酷似せし、漆黒のIS・・・モビルスーツの形態を持ちし──ラウラをも把握せぬ装置にて作られた、最強の力──

 

「──!!」

 

かつて、自らが討ち果たした筈のモビルスーツ・・・この世界には有り得ない存在を認識した三日月が、即座に誰よりも速く──その正体不明の存在に肉薄する

 

「オルガ!皆を下げてくれ!俺はガリガリを!」

 

「ミカ・・・!──解った!」

 

ミカが声を張り上げるほどに脅威的な相手。それほど切迫した状況だと相棒の剣幕で理解したオルガは即座に行動に移る

 

「シャルル!シノ!客を避難させるぞ!アイツはミカに任せろ!俺達は、被害が出ないように立ち回るんだ!急げ!!」

 

「うん!解ったよオルガ!」

 

「承知した!イチカ、此処は頼んだぞ!」

 

「あぁ!そっちは頼む!!」

 

三日月、オルガの指示伝達が滞りなく行われる。観客、皆の避難と待避を円滑に行うために四方に飛び去る三人。目の前の正体不明の存在に──いや、ラウラに向けて、一直線に向けて突進する三日月が纏うガンダム・バルバトス。メイスを投げ捨て、太刀を展開する。それは圧殺ではなく活人の剣。取り込まれたラウラを、助けると決意した故の換装

 

 

「ガリガリ──」

 

あの様子から、彼女が望んだものではなく、今の彼女は助けを求めている筈だと三日月は理解し直感し。なら、自分が助けにいかなくちゃ。問題ばかり起こしているけど、ガリガリだって大切な家族の──

 

「──!!」

 

振り上げた太刀を、黒きISは握り締めたハンドアックスにて受け止める。──其処にかかる負荷は尋常でないほどに強い。人間を越えたと言っていいほどのおぞましいまでの剛力。やはりと、瞬時に確信する。これは──ガリガリではない。ガリガリの力ではない・・・!

 

【またお前か──!】

 

「・・・!」

 

すると驚くべき事に、目の前の漆黒のISが此方に語りかけてきたのだ。凄まじいまでの力に脚をアリーナにめり込ませながら、互角の拮抗を保ちつつ三日月はオープンチャネルにてラウラに語りかけんと口を開く

 

【ボーデヴィッヒ少佐を阻み続ける風紀の奴隷・・・!!】

 

「──あんた、ガリガリの何?」

 

【貴様あぁあぁッ!!!】

 

その気迫と暴虐に取り合うつもりなど三日月にはない。こいつが誰なのかなんてどうでもいい。大事なのは、その中にいるガリガリの無事と安全のみ。空いていた左手をがっちりと腕相撲の要領で組み合い、力尽くを以て抑え込む

 

「ちょっと・・・じっとしてろ・・・!」

 

オープンチャネルにて呼び掛けんと語りかけようとし──取り込まれているのなら。ガリガリを助けようと太刀を振り上げ、中身を取り出さんと振り下ろす。──が、漆黒のISは、それすらも対応してのける

 

【同じ手を何度も・・・ッ!!】

 

「!?」

 

太刀の扱い、その要訣を掴みきれぬ鈍器めいた振り下ろしが裏目に出た。掌で漆黒のISはそれを確かに受け止め、腕部にて搭載されし激突衝撃伝達武装──パイルバンカーにて、太刀の刀身に真っ向から衝撃を叩き込む。・・・それは繊細な芸術ですらある日本刀に、致命的な損害を与えることとなってしまう。ひび割れる太刀、活かす可能性──だが

 

「──それでも・・・!」

 

諦めることはしない。ゼロ距離にて、ラウラに手を伸ばすように懸命に腕を振るう。ただ、純粋に助けんとする戦い方。しかし──それが、今までとはまるで違う未知の振る舞い故に。合理的とはかけ離れた行い故に。三日月に生まれし、付け入る隙となってしまう

 

【清廉なる少佐の真名を、理解しようとしない!下浅な獣ッ!!】

 

想像を絶する程の剛力。腕一本で、三日月の身体、バルバトスを纏い重量を増した彼を軽々と放り投げる。ラウラと突き放される三日月。態勢を立て直さんと、迫り来る漆黒のISを迎撃せんと──

 

【最優先目標──!此処で滅するッ!!】

 

呪詛を放ちながら左足を伸ばし飛び掛かる漆黒のIS。その勢いを、得物にて受け止めんとする。ひび割れた太刀は、その最後の役目。直撃を防ぐと言う大役を遂行、全うした。脚部に装着されし、回転式螺旋機構ドリルキック。削岩と掘削を是とする破壊力の具現に晒されし繊細な武装は──

 

「しまった──!」

 

粉々に砕け散ってしまう。内部よりべきりと折れ、もう二度と何かを切り裂く事はない鉄屑となり果ててしまう。少なくない衝撃が三日月を襲う。これを破壊されてしまっては、自分の武装は、敵を殺すものしか残っていない。──それでは、ダメなのだ・・・!

 

【今こそ!!ボーデヴィッヒ少佐の本懐を!死ね、白き悪魔──!!】

 

「くっ・・・!!」

 

あわや、三日月が敗北する・・・?目の当たりにしていた存在の大半がそう予感する。放たれる追撃、体勢を崩す三日月。そのパイルバンカーが、三日月の身体を貫き──

 

「──させませんわよ!!三日月さんに勝とうなど、恥を知りなさいな!!」

 

放たれる、遠距離攻撃にオールレンジ射撃。無防備となった三日月を確かにフォローする、泪の如き蒼。紺碧たる援軍──セシリア・オルコットが、三日月を救う

 

【ちいっ──!!】

 

「正当防衛ってヤツよね!文句は言わせないんだから!!」

 

それに続く、マゼンタの近接格闘IS甲龍。丸腰となった三日月をカバーするように、武器を振り回し漆黒のISを食い止め三日月を庇うように奮い起つ

 

【悪魔の、崇拝者共があっ・・・!!】

 

「はぁ?誰が崇拝者よ!私はただ、落とし前を着けに来ただけだってのッ!!」

 

熾烈な格闘戦が、リンとISにて行われる。その様子を呑み込むのに時間がかかっている三日月の傍に、セシリアが降り立ち寄り添う

 

「二人とも・・・」

 

「勝手な行動を御許しくださいな。リンさんはともかく、三日月さんの危機にいても立ってもいられなくなってしまいまして・・・」

 

「セシリア・・・」

 

「か、勘違いしないでくださいまし。私は、敗北する三日月さんなど見たくないだけですわ」

 

「ありがとう。・・・──」

 

へし折れた太刀を、忸怩たる思いで見る三日月。これは確かに、敗北と言われても仕方ない。人を救うと決めた武装が、こうなってしまっては。自分に出来ることは潰すことと、殺すこと・・・

 

「諦めるな!ミカ!!」

 

その鎮痛を打ち払うのは、新たな仲間にして平団員──オリムラ・イチカであった。三日月に声をかけ、激励と共に突破口を提示する

 

「『俺の武器を貸す!』こっちに来てくれ!まだお前の戦いは終わっちゃいない!風紀委員はこっからだろ!」

 

「イチカ──解った」

 

「時間稼ぎは、私とリンさんにお任せを!さ、行ってくださいませ!三日月さん!」

 

「セシリア」

 

「は、はい?」

 

「──任せるね。助けてくれて、ありがとう」

 

「──は、はいっ!!お任せくださいませッ!」

 

三日月の優しい声音と御礼に、やる気と根気が全開となるセシリア。その問い掛けと激励、期待に応えんと奮い立ち──

 

【何、ッ!ビームが、曲がった・・・!?】

 

リンをかわし、ISにのみビームを叩き付ける程の器用な戦法を展開するセシリア。たった一言で、セシリアの意識改革は更なる高みへと自らを導いたのだ。期待に応えんとする一心にて、ただそれにて。リンも同じくそれに舌を巻く

 

「やるじゃないセシリア!このまま行くわよ!」

 

「はいっ!今の私は、とてもお強いセシリア・オルコットでしてよ!!」

 

【崇拝者共!!清廉なる人道に背く、背徳の女共!容赦せんっ!!】

 

二対一。図らずとも先のリベンジとなった三つの機体が、空を縦横無尽に舞い飛ぶ──!

 

 

「頼んだよ、二人とも。──イチカ!」

 

「あぁ!ミカ、お前に俺の力を託す!」

 

「・・・いいの?それ、チフユの・・・」

 

大切な形見にして、イチカの唯一の武装。それを託されることの意味。三日月は問い掛ける。それでいいのかと。──イチカは笑って告げた。笑顔にて、何でもないと告げるように

 

「困ったときには助け合うのが、友達だ!」

 

「友達・・・」

 

「俺はミカとオルガの事、友達だと思ってるから。──だから、託せるんだ。ミカなら、絶対やってくれる」

 

その期待と共に、イチカは自らのISを、一極限定モードにて再起動する。いつものように纏うのではなく、その心と信念を表す、真っ直ぐな刃として。それを、躊躇いなく三日月へと託す

 

「悔しいけど、今の俺じゃミカの足許にも及ばない。だから──持っていってくれ。俺の力を、俺の願いと一緒に」

 

「イチカ・・・」

 

「やってみせてくれよ、風紀委員。学園の・・・鉄華団最強の力を見せてくれ!」

 

・・・三日月は、心が熱くなる感覚を味わう。心だけではない。身体が、魂が熱い。その感覚がなんなのか、どんなものかは分からない。だけど──今やるべきことは解る。それを、成し遂げる為に

 

「──あぁ!借りるよ、イチカ!」

 

「任せた!」

 

それだけを告げ、セシリアとリンが維持する戦線へと突撃しようとしたその時──

 

『三日月くん。聴こえる?』

 

オープンチャネル、通信回線にて届く、柔らかな声。それはクラスメイトの一人にして、家族にして仲間・・・

 

「シャルル?」

 

『うん!避難は僕たちに任せて、思いきり戦って。僕とオルガも頑張るから。だから──約束して。絶対に負けないって!』

 

その言葉は、激励。確かに届く、信頼と期待の証

 

「頼むぜ、ミカ!此処まで言われてやれなくちゃ、男じゃねぇよ!」

 

自らの翼、刀、ISを託して。ミカを、鉄華団を信じるイチカの言葉も、其処に続く

 

『三日月!人を活かすためには、まずは自分が生きなくては意味がない!人を活かすなら、まずは生き抜け!』

 

 

モップ。太刀の師匠たる彼女もまた、三日月の心と腕、何より『家族を護りたい』という信念を信じるものの一人。故にこそ、声援を送る

 

『死ぬな!絶対に死ぬな!』

 

「モップ・・・」

 

『──皆がお前に期待してるぜ、ミカ!』

 

そして最後は、最高の親友。其処に、無粋な問答など──何も必要ない

 

『そっちは任せたぞ!』

 

その、新たな生にて得た仲間達。共にある家族達。その暖かく強い激励が──三日月に更なる力を与える

 

「あぁ──任され、た!!」

 

バルバトスの装甲とフォルムに、変化が訪れる。ISなる存在に生まれ変わったガンダム。数多の形態を取り続けてきた悪魔。そのバルバトスが・・・三日月の想いに応え、自らを進化させる

 

「俺は応えたい、皆の期待に──お前はどうだ、バルバトス!」

 

その言葉に報いるように。バルバトスのフォルムはより禍々しく、より強く、より雄々しく

 

「皆が見てる──やるぞ、俺とお前で!」

 

ブースターが更に追加され、流星の如くに漆黒のISに突撃を行う。リンとセシリアは、二人がかりでなんとか戦線を維持していた。ボロボロになりながらも、状況の打開を信じて

 

「セシリア!リン!ありがとう!此処からは、俺の役目だから!」

 

「し、仕方ないわね・・・ゆ、譲ってあげるわ・・・!」

 

「どうか、お気をつけ、くださいまし・・・!」

 

【来たか、悪魔め──!!何ッ!?】

 

先程とは、先程のバルバトスとは違う。それは三日月の想いに応えし、風紀を執行する悪魔──否。孤高にして、心優しき『狼』・・・

 

「ガンダム・バルバトス・ルプス・・・ガリガリは返してもらう・・・!」

 

その姿を取り戻し、『ズレ』を是正した三日月が・・・漆黒のISに挑む──!

 

【こいつ、急に動きが・・・!!】

 

「ガリガリ、ちょっと待ってて。渡したいものが──あるんだ・・・!」

 

 

「オルガ!避難、終わったよ!」

 

アリーナにて、ISを使い避難活動を続けるシャルル、オルガ。一通りの活動を終え、シャルルがオルガと合流する。オルガも丁度、完遂を果たしたところだったのだ。無事を確認し、アリーナを睨む

 

「・・・三日月くん、大丈夫かな・・・」

 

「心配ねぇ」

 

断言する。そう、心配することなど何もない。俺達はいつも本気だと。全力だと。そうシャルに告げる。そして──

 

「俺達が本気なら、ミカはそれに応えてくれる。確実にな」

 

「・・・信じてるんだね。三日月くんのこと」

 

「アイツを信じてない日なんて、一日だってねぇよ。──ん?」

 

物音、そして人の気配。其処に、振り返るオルガ

 

「私たちにも、出来ること・・・ないかな~?」

 

其処にいたのは・・・オルガが纏め、率いてきた──

 

「・・・みんな!?」

 

「お前ら──!?」

 

 

【嘗めるなぁあぁあぁ!!】

 

バルバトス・ルプスとなった三日月とすら、漆黒のISは互角以上に戦う。ISは言うならばシステムと合理性の権化。其処に迷いと狂いはなく、ただひたすらに、三日月を殺そうと揺るぎなくその全てを振るう。人間ではあり得ぬ最適解を取る、マシーンのような振る舞い。それが、ズレと戦法の異なる三日月の隙と空白を衝き続け、戦闘を有利に運び続けているのだ

 

「ぐぅう!がぁあっ──!!」

 

顔面に渾身のパイルバンカーを受け、バルバトスの頭部の一部が損壊し、目から血を流す三日月。続いてのドリルキックが、バルバトスの胸部を抉り蹴る。たたらを踏む三日月を逃がさぬと、脚部を力の限りに踏みつけ──

 

【ネズミの悪足掻きも──これで終わりだァアァアッ!!!】

 

動きを封じ、頭部を叩き潰さんと。ISは、ハンドアックスを振るい上げ止めを、決着を付けんと──

 

『ミカくん!聴こえる!?』

 

「──!」

 

瞬間、時の止まったような一瞬に・・・飛び込んでくるのは。オルガの通信回線から聞こえてくるのは──

 

『頑張れ!ミカくーん!』

 

『男の子だからって無茶ばっかりしてるけど!君だってクラスメイトなんだから!』

 

『私たち、君のことだって仲間だと思ってるんだからね!』

 

「──皆・・・」

 

クラスメイトの仲間達。避難勧告を無視してまで、戦い続ける三日月に何かをしてあげたいと、集った仲間達

 

『負けないで!ミカくん!』

 

『いつもみたいにやっちゃえー!』

 

『あの子も、助けてあげて!』

 

『ファイトだよ~。ミカくん~。みんな応援してるから~』

 

「──」

 

『・・・聴こえるよな!解るよな!皆待ってるぞ!何を、何をモタモタしてやがる・・・!そんなもんじゃねぇだろ・・・!何やってんだ──』

 

最後に聞こえたのは──ずっと自分を、引っ張ってくれた──

 

『何やってんだ!ミカァアァアァァア──ッ!!!!』

 

かけがえのない、親友の声──!

 

【ッ!何ッ!?】

 

止めを刺した。そう確信した。その手応えを掴む筈だった。だが、その斧が──狼の首を獲る事はなかった

 

空を弾かれたように見上げる。青空を、流星のように。強靭に、縦横無尽に駆け回るその気配を、その正体を。先程まで、圧倒していた筈の存在を

 

「──聴こえたよ。皆の声が」

 

それは、クラスメイト・・・鉄華団が起こした奇跡。三日月とバルバトスが、完全に一体化し、その本懐と本領を発揮するために『ズレ』を完全に無くした姿

 

肥大した腕部──皆の手を、離さないように。強靭な脚部──自分の意志で、歩んでいくために。設置された、テイルブレード。──誰も、殺さないために

 

産み出され、新生し、確かにその姿を顕した本懐、バルバトス・ルプス。──いや。学園という『群れ』を護る彼等には、『狼』の名前は相応しくはない

 

【あれは──!?】

 

全てを護り、守護するもの。全てを救う、護るために生まれ変わりしもの。呼称するのならば。相応しき名は既に──冠されている

 

「ガンダム・バルバトス──」

 

そう、称えるならばこう称えるのだ。彼は『狼の王』──

 

狼の王(ルプス・レクス)──!!」

 

先程の機動とは比較にならないほどの圧倒的出力、そして機動力と推進力が。遥か上空から黒きISに一直線に叩き付けられる。──そして、バルバトスの右手に握られた白式の太刀。それを、一直線に──

 

【なっ──】

 

左肩ごと、一直線に断ち切る。もうバルバトスに、三日月に『ズレ』はない。耳に届く、皆の声が聴こえる。だから、自分はもう大丈夫。だから──

 

【──ISの装甲とフレームを、一太刀で・・・!】

 

「──良かった。今なら・・・出来る」

 

【化け物がァアァアッ!!】

 

その規格外の戦闘力に、右手のパイルバンカーで抵抗を行う。だが、──その言葉が三日月の不興を買った

 

テイルブレードが閃き、右肩から先を速やかに切断する。もう無くさない、自らの剣。救うための、大事な力

 

「風紀委員。それと、お前にだけは言われたくないよ」

 

そのままテイルブレードをISに巻き付け、動きを完全に拘束し、張り付ける。今こそ、自分のやるべきことを成すべきだと。三日月は突進し、白式の太刀を水平線に一直線に向け──

 

【ラ──ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐!】

 

「──!!」

 

【私の──私のたたか──】

 

・・・それ以上、そのISが話すことも、駆動することも。再起動する事も無かった

 

「──うるさいな」

 

太刀の、切っ先のみを。胸の部分に僅かに突き刺し。そのまま、傷付けないように下に浅く切り裂く

 

「──皆の声が・・・ガリガリの声が・・・」

 

引き裂かれた装甲から、姿を現す銀髪にして小柄の少女。──ラウラ・ボーデヴィッヒ。取り込まれていた、大切な学園の家族

 

「──聞こえないだろ・・・」

 

ISに止めを刺し満身創痍になりながら、ミカは力を振り絞り。優しく、解き放たれた彼女を抱き止める──

 

・・・ようやく、ちゃんと出来た。傷の痛みも、疲労も意に介さず。三日月が考えたこと、感じたものは──

 

「っ・・・う・・・」

 

腕の中で目を覚ますラウラへの安心と、達成感。そして──皆への感謝のみだった──




ラウラ「・・・っ、あ」

「生きてる?」

「・・・何故、私をたすけた・・・私は、お前を何度も・・・」

「別に、普通でしょ。家族なんだから」

「──私が、家族・・・?」

「うん。IS学園の・・・家族だよ。ガリガリも」

「・・・ラウラ」

「?」

「ラウラだ・・・家族だというなら、ちゃんと名前で呼べ・・・ばかもの」

「・・・うん、ラウラ。・・・あ、左目──」

「・・・あ・・・こ、これは・・・み、見るな・・・」

「眼帯、これ?」

「あ、か、かえせ・・・!見るな、見ないでくれ・・・」

「なんで?綺麗だよ」

「──」

「綺麗だよ。綺麗な眼だと・・・俺は思う」

「──お前、は・・・ばか・・・」

「・・・あ、そうだ。渡したいもの」

「・・・?」

「手、出して。はい」

『400円』

「・・・これは・・・」

「お釣り。400円。良かった、やっと渡せた」

「・・・これの、為に・・・これを、渡すためにか・・・?」

「あんパンは100円だから。今度、また食べに行こう」

「・・・わかった・・・一緒に、だな・・・三日月」

「?」

「・・・私も・・・ミカと・・・呼んで、いいか?」

「──いいよ。ラウラ」

「・・・・・・・・・そう、か・・・」

「・・・お休み。また、明日──」


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ハイ

オルシャルクライマックスなので初投稿です。地の文は手抜きではありません。仕様です


追い付いてしまえば自分もワクワクしながら待てるのか。それとも書き溜めすればいいのか・・・二時間か三時間あれば携帯で一話が投稿できるので正直ピンと来ませんね(頭鉄華団)

インフィニットオルフェンズは皆に愛されていますよね。走るオルガにミカ、ノンクレジットエンディング。そして、このノベライズもその一つです

どうか空き缶氏が、インフィニットオルフェンズの完結まで俺達を連れていってくれると信じて!


止まるんじゃねぇぞ・・・──


「結局、トーナメントは中止だって。まぁ仕方ないよね、あんなに大騒ぎになっちゃったら競技どころじゃないもんね」

 

大騒ぎになった、学年別トーナメント。ミカの命を懸けた大奮闘のお陰でラウラのヤツも含めた全員を救出、被害と避難をなんとか完遂できて怪我人はゼロだ。ハチャメチャになっちまったそのトーナメントは、あえなく取り潰しになっちまった旨をシャル、イチカと飯を取り囲みながら三人で話し合う。俺は・・・美味そうに飯を食うシャルの顔見てたら、腹が一杯になっちまった。だからいらねぇ。お前らの無事な姿を見れりゃ腹一杯胸いっぱいってな。へっ、ちっとキザだったか?

 

ミカのヤツはラウラのヤツに付きっきりだ。後遺症やら外傷が残ってるかどうかが不安なんだと。ラウラのヤツも知らねぇ装置で大暴れしてたってんで、精密検査中だ。一人じゃ心細い女の傍にいてやるとはよ。あいつも立派に、成長してるって事だな。強さや殺しの技術だけじゃねぇ、人間的なところや男としての筋や義理の通し方、ってのか?ま、なんにせよいい傾向にゃ違いねぇな。後で差し入れでも持ってってやるとするか!

 

「でも、個人データは取りたいから、一回戦は全部やるそうだよ?」

 

「ふーん。ま、無事ならそれにこした事は無いよな。リンとセシリアも命に別状はないって、元気そうだったしな」

 

「そっかぁ・・・そうだな。誰も欠けねぇ、いなくならねぇってのはそれだけで最高の上がりだ。全員の踏ん張りがあってこそだな。イチカ、シャルル。よくやってくれたな」

 

俺は頭を下げる。俺一人じゃどうしようもできなかった。あの黒いISを止めることも、円滑に避難を進めることも出来なかったろうな。皆が力を貸して、力を合わせたから出来た最高の結果って訳だ

 

・・・案外、俺に必要だったのはこういうことなのかもしれねぇな。無理に背負わねぇで誰かを頼る。なんでも一人でやるんじゃなく、きっちりと誰かに背中を預けたり、頭を下げて頼み込んだり──なんだよ。学園で生きていくのには必須なもんじゃねぇか。・・・まだまだ、俺もガキってこったな。肩肘張ってあれもこれも、なんざやる必要も無かったって訳か・・・

 

「俺は鉄華団の団員として、やるべき事をやっただけだよ。礼なら、ミカに言ってやってくれ」

 

「えへへ、もっと褒めてくれても・・・いいよ?」

 

二人の照れ臭そうな、嬉しそうな笑顔を見ると実感ってヤツが込み上げてきやがる。あぁ・・・此処に来れたことは、俺やミカにとって・・・辿り着く場所だったからかもしれねぇ、って。お前らの笑顔に思わされちまうじゃねぇか。へへっ、照れくせぇから言わねぇけどよ

 

「お前ら残すんじゃねぇぞ?動いた後はしっかり食べて、ちゃんと寝ろ。平和な生活ってのは大事な──ぁ?」

 

ふと、イチカのヤツを見つめる視線を感じ取り視線をそっちに飛ばしてみると。席の離れた場所でなんか言いたげにモジモジしてやがる黒髪の美人がいやがるじゃねぇか。ほー、スラッとしてて良い身体してやがる。リボンは一年生で・・・

 

「シノじゃねぇか・・・ヘッ」

 

なんだよ、席変わってほしいのか?シャルルと離れんのはちっと寂しいが、幼馴染み組の邪魔をするつもりはねぇ。ちょっと待ってろ、今退くから・・・そう考えて立ち上がろうとした俺より先に──

 

「ホウキ、そう言えば言いたいことがあったんだった」

 

イチカのヤツが席を立ちシノに歩み寄る。俺とシャルルは何をするつもりなのかと顔を見合わせ、その顛末を見ることにする。おいおいシャルル、余所見しながらスパゲッティ食うなって。喉に詰まんぞ?

 

「な、何だろうか?イチカ」

 

「ありがとな。ミカに太刀の手解きを教えてくれて。ホウキが真面目に教えて鍛えてくれたから、誰も死なないで・・・ミカはラウラを助けられたんだ。友達として、礼を言わせてくれ」

 

頭を下げるイチカ。・・・なるほど、そう言うことかよ。確かにミカに太刀の動きやコツを粘り強く教えてくれたのはシノだ。今此処にいないミカの代わりに頭を下げてくれたのか。お前・・・メキメキと男を上げていきやがるな・・・!

 

「か、顔を上げろイチカ。私はあくまで教えただけで、身に付けたのは三日月だ。お礼など・・・」

 

「それでもだ。俺はお礼を言いたい。ちょっと強引だが、受け取ってくれ。悪いけど、返品は受け付けてないからな」

 

「・・・そ、そうか・・・な、なら・・・受け取るしかあるまい・・・」

 

シノのやつ照れてやがんぞ。珍しいじゃねぇかしおらしいアイツなんてよ。もしかしてアイツ、意外と押しに弱いタイプかぁ?突き出た胸してるくせに奥手かよ。やっぱ可愛いじゃねぇか。フヘッ・・・

 

「そこで、俺なりの筋の通し方を考えてみたんだけど・・・これから、臨海学校があるだろ?」

 

「あ、あるな。確かに。水着とかを選んだり、するな」

 

「それ、一緒に行動しないか?二人で色んな事してさ。エスコート・・・はまだレベル高いけど、一緒に綺麗な景色を見ていくくらいはできるだろ?どうだ?」

 

「ほ──本当か!?二人きりで行動!?本当に本当なのだな!?」

 

「男に二言はねぇよ。勿論、お前がいいなら、だけど・・・」

 

「いい!勿論だとも!二人か、そうか、そうかぁ・・・!」

 

へっ、はしゃぎやがってよ。ピョンピョン跳ねやがってスカートがふわっふわ浮いて・・・下着が・・・下着が見えて・・・

 

「・・・!!」

 

「わぁ・・・イチカと一緒に行動できるって解ったらスッゴく嬉しそう・・・ツンツンしてるけどあからさまだね~、ふふっ」

 

・・・俺は手にしたカメラに目を落とす。何をやってやがる俺ぁ・・・シャルの人生を背負うって決めたんだ。他の女にスケベ心抱いたり、ラッキースケベを期待してる場合かよ・・・!シャルは俺を信頼してくれてんだ。こんなみみっちい下心を見られたら、シャルの心の安心や笑顔は確実に殺されるぞ!・・・確実にな・・・!

 

「シャル」

 

「?」

 

「すみませんでした」

 

「?な、何が?あ、カメラ・・・えへへ、ぴーす、ぴーす」

 

「・・・」

 

俺は無言でシャッターを押しまくった。

 

 

「勿論いい!いいとも!よしイチカ、早速何処を回るか、どんな水着を着るか何処で選ぶか!作戦会議と行こうではないか!」

 

「え、今からか!?もう夜も遅いし・・・!」

 

「心配するな!兵は拙速を尊ぶ!私がお前の部屋に行くから問題ない!さぁ行くぞ!いま行くぞすぐ行くぞ!二人とも、イチカは預からせてもらう!」

 

「シャルル、オルガ!ま、また明日なー!」

 

笑顔で背中を押されながら、シノとイチカは寮に戻っていく。なんだよ甘酸っぱいじゃねぇか。こいつが桃色の青春ってやつなのか。良かったじゃねぇか、生活に張りがあんのはいいことだぜ?

 

「ちゅるる、んくっ。ご馳走さまでした!」

 

「よし、俺らも部屋に戻るか」

 

食器をイチカの分も片付け、部屋で疲れを取ろうと連れ添って帰ろうとした時、俺らを呼び止める声が響く。そいつぁ先生で、間延びしてるってことは・・・

 

「イツカくんデュノアくん!朗報ですよ!」

 

「ヤマダ先生?」

 

「は・・・?」

 

ヤマダ先生じゃねぇか。まさか説教って訳でもねぇし・・・随分と上機嫌だな?なんかあったのか?

 

「今日は避難活動、本当にお疲れ様でした!そんな二人を労う場所が、今日から解禁となったのです!」

 

「労を」

 

「労う場所?」

 

二人ですっとぼけた声をあげる俺らの顔を見て、喜んでくれ驚いてくれと言うような感じで、ヤマダ先生は両手を広げて笑顔を見せる。・・・なんかこの人、年齢と振る舞いが合わなくねぇか?

 

「はい!それは──男子の、大浴場なのです!」

 

 

「はぁ~・・・」

 

身体を湯船に浸からせ、俺は息を吐く。用意されたでっけぇ風呂。其処に一人でいる占領感。まさかこんなところでワンオフアビリティの世話になるこたぁあるめぇと気を抜きに抜きまくる俺は、生前でも考えられねぇくれぇにリラックスしながら天井を眺める

 

「あったけぇ」

 

ミカのヤツはラウラと、セシリアにリンに付きっきり、イチカはシノにしっかりロックされて動けねぇってんで。俺は一人で風呂に浸かってるわけだ。誰もいねぇ。頭を打ったりでもしねぇ限り危険はない。・・・しかし、シャルは男扱いだったか。となると、もしかしたら二人で風呂に入るのも違反になる訳じゃないって──

 

「お、お邪魔します・・・」

 

「あぁ?」

 

ミカにイチカのどっちかがこっちに来たのか?なんだよよそよそしいじゃねぇか。遠慮なんかいらねぇよ。ガツンと湯船に飛び込むくらいの・・・

 

「────────、は?」

 

・・・其処にいたのは、シャル、だった。バスタオル一枚で、前屈みで、大切なとこ、見えないように・・・

 

「あ、あんまり見ないで・・・?オルガのエッチ・・・」

 

・・・・・・あの、ここは男子の、お風呂、なんですけど・・・

 

「・・・すんません・・・」

 

「謝らないで?誰かに言われたからじゃなくて、僕が入りたいと思ったから此処にいるんだから。・・・僕が一緒だと・・・いや?」

 

「えっ?あぁいや・・・」

 

違うんです。いやじゃないんです。いや、いやじゃないんですよ。はい、すごく、はい・・・

 

「話が、あるんだ。大事な事だから、オルガにも聞いてほしい・・・いい、かな?」

 

「・・・ハイ」

 

ハイ

 

「じゃあ、こうして背中合わせで・・・うん。オルガの背中、おっきくて、こうしてると安心する・・・」

 

・・・ハイ

 

「ハイ」

 

「・・・前に言ってた事なんだけど・・・僕ね?此処にいようと思う」

 

ハイ

 

「オルガが言ってくれた。僕を護るって言ってくれた。そんな事、生まれて初めて言って貰えたんだ。本当に、本当に・・・嬉しかったんだ」

 

「ハイ」

 

・・・ハイ

 

「オルガが僕を護ってくれる。見たことのない場所に連れていってくれる。そう信じられるから、そう信じているから・・・僕は此処にいたいと思えた。自分の気持ちを、正直に。しっかりと伝えることが出来るんだよ?」

 

「──ハイ」

 

ハイ

 

「僕から、目を離さないで。僕を連れていって。僕が見たことのない場所に。オルガが連れていってくれる場所に、僕は行きたいと思うんだ」

 

「ハイ」

 

 

「それで、それでね?もう一つ決めたんだ。・・・──僕の、在り方を」

 

「・・・ハイ」

 

シャルは、自分の身体を、柔らかな女体をオルガの背中に押し付ける。背中で潰れる確かな膨らみ、柔肉の中に確かに感じる、二つの胸とは異なる突起のような感触。肩に手を置き、そっとオルガの耳に。甘い吐息と共に・・・

 

「・・・一緒に行くなら・・・僕の居場所は──オルガの、隣が・・・いいな・・・」

 

その甘く優しく、それでいて暖かく温かいその言葉に、女性的免疫皆無であるオルガ・イツカの思考と脳の回路はアラヤシキを五つほど手術で取り付けガンダムフレームを同時稼働するような状態を遥かに超越し──

 

「──だめ?」

 

「ヴゥウゥウアァアァアァアァアアァアァアァア!!!!!!!!」

 

鼻血を噴水のように撒き散らし、逆上せあがった精神と身体が崩壊を起こし、それでも勢いに任せシャルを傷付けないように生命活動の全てを力尽くで停止させ──

 

「お、オルガ・・・!?」

 

ワンオフアビリティを発動する為に死ぬと言う逆現象を引き起こす。シャルを傷付けるくらいなら死ぬ。けして散らない鉄の理性がシャルの圧倒的攻勢に打ち勝った瞬間であった。エッチさには完敗したのだが

 

「・・・オルガの、エッチ・・・」

 

「・・・シャル・・・」

 

「?」

 

「・・・だめなんかじゃ、ねぇぞ・・・」

 

「・・・うんっ!」

 

オルガはそれだけを告げ、湯船を真紅に染め上げ・・・シャルに笑顔で介抱、救出されるのであった──




翌日 クラスにて

ヤマダ「・・・・・・・・・・・・きょ、今日は皆さんに、転校生を紹介します・・・」

シャル「シャルロット・デュノアです!皆さん、改めてよろしくお願いいたします!」

「えっとぉ、デュノアくんはデュノアさんと言うことでした・・・」

ホウキ「・・・は?」

イチカ「はぁ・・・・・・──はぁっ!?」

三日月(やったね、シャル)

クラスメイト「つまりデュノアくんって女!?」

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわけね!」

「ちょっと待って!?昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」

オルガ「・・・・・・」



僕ね、女の子としてやってみようとおもうんだ。学園の家族で、仲間な皆に嘘ついて過ごすのは、筋が通らないと思うから

オルガみたいに自分を偽らないで、精一杯やってみようと思うよ。・・・もし、辛かったり、怖かったりした事があったら・・・

いっぱい頼らせてね、オルガ!



「こんくらいなんてこたぁねぇ!!」

三日月「鼻血出てるよ」

オルガ「希望の鼻血だぞぉ!!」

ヤマダ「きゃあぁぁっ!?だ、誰ですか壁を壊して!?直すの大変なんですよ!?」

イチカ「り、リン!?」

リン「女の子とお風呂とか──!!イチカァアァーーーッ!!!」

イチカ「待て待て待て待て!!俺じゃない!入ったのは俺じゃない!!」

三日月「良かった、元気そうだ」

「そうじゃないだろぉ!?死ぬ死ぬ!!龍砲とか俺絶対死ぬぅうぅう!!!」

オルガ「団員をまもんのは俺の──ヴゥウゥウアァアァアァアァアア!!」

「・・・・・・あれ、死んでない?」

「は?」

ラウラ「・・・──」

三日月「生きてる?」

オルガ「ミカ!それに、ラウラ・・・!」

ラウラ「・・・・・・」

三日月「よかった。動けるようになっ──」

ラウラ「──んっ!」
三日月「ん──・・・」

瞬間・・・ラウラが三日月の唇を、自らの唇で塞ぐ。世間一般ではその行為を接吻・・・──洋風的に言えば──

オォオルフェエェンズナミダァアァアァ♪

オルガ「は──」

ホウキ「な・・・!?」

セシリア「なななななななななな──!!」

リン「ー!!?」

ヤマダ「わぉ・・・」

シャル「へぇえっ──!?」

クラスメイト「「「「「「あ、悪魔がキス魔に襲われたーっ!?」」」」」」

ラウラ「み、三日月・オーガス!いや、ミカ!私はお前に、全てを奪われた!色々だ!色々!」

「うん」

「せ、責任は取ってもらうぞ!今からお前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

「うん、解った。よろしく、ラウラ」

ラウラ「──あぁ!ミカ、一生幸せにしてもらうぞ!」

「じゃあ、行こうか」

「あぁ!あんパンだな!私がお前を抱えよう!さぁ、私の腕の中に来い!」

「ん」

「私達は早退する。邪魔をしたな。では、行くぞ!」

「よろしく、ラウラ」

ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン

「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」


オルガ「なにやってんだミカァアァアァアァアァアァアァアァアァアッ!!!!!!」


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可愛いと思ったから

追い付いたので初投稿です

この小説の正しい味わいかた

原作見る→寂しいのでこっちで慰める→また原作を見たくなる→原作を見る→寂しいのでこっちで慰める

なんてことだ・・・インフィニットオルフェンズは止まらない・・・加速する・・・!!


空き缶氏のペースを省みない・・・!

+罪深き投稿+

清廉なる原作ペースを、理解しようとしない・・・!

+野蛮な投稿+

稚拙な連続投稿も!これで終わりだァアァア!!

空き缶氏!素材提供の皆様!

私の──私のノベライs(串刺し)

ホウキ「むにゃむにゃ・・・イチカぁ・・・」

イチカ「かー・・・」

三日月(イチカ、モップをベッドで寝かせたんだ。自分は机で・・・)

ラウラ「う、うぅん・・・もう朝か・・・」

三日月「おはよ。ラウラ、身体は大丈夫?」

「んぅ・・・?心配ないぞ・・・大丈夫だ・・・」

「詳しく見たいから、ちょっと立って。しっかり、怪我がないか確認したい」

「んふふ・・・心配性な嫁だな・・・そこまで言うなら・・・いいぞ・・・」

「ありがとう」


ゴン,ゴン!

オルガ「イチカぁ!ミカぁ!起こしにきたぜぇ!お前らも水着選ばねぇと海で遊べ──」

「はい、うつぶせになって」

ラウラ「ひゃんっ!?ミカ・・・!くすぐったい・・・!」

「よかった、背中とかもぶつけてたから・・・あ、オルガ。おはよう」

「・・・おまえ・・・」

「む・・・?なんだ、団長か。無作法なヤツだな、夫婦の寝室に」

「ふう──っ──何やってんだミカァアァアァアァアァアァアァア!!!

イチカ「ん・・・んぅ・・・?オルガ・・・?」

ホウキ「いーちかぁ・・・んふふ・・・ふふ~・・・♪」



「待ってくれ!シャル、頼む!」

 

学校の一大行事、臨海学校。皆が水着を着て、泳いだりはしゃいだりする学校のすげぇイベントだってんで鉄華団の皆は思い思いの水着を用意するために日曜日を使って買い物に勤しんでやがる。年相応ってやつだな。いつもなら微笑ましいって思いながらキザに構えるもんだが・・・今はそんな余裕もねぇ。目の前にいる大事なヤツに、俺は悪い意味で付きっきりなわけなんだからよ

 

一緒に水着を選びに行こうと決めた日曜日。だがシャルの様子がどうにもおかしい。口を閉じて頬を膨らませて、ハムスターみてぇにむくれてやがる。電車から降りた後もずっとそんな調子だ。俺がなんか気に食わねぇ事をしちまったか・・・?時間もきっちり守ったし、身嗜みもこれ以上ないくらいきっちりした筈だ。何が気に入らねぇんだ、シャル!言ってくれ、どんな事だろうと直してみせる!ケジメだってんなら、いくらでもつけてやるからよ!

 

「・・・」

 

「シャル!頼む、待ってくれ!」

 

──オルガの反応と予想とは裏腹に、シャルの心は全く別の様相にて荒れていた。いや、危機感といった方が正しいかもしれない。朝のオルガの一幕・・・其処にて繰り広げられていた事象に、シャルは危機感を覚えていたのだ

 

(三日月くんとラウラちゃんのボディチェック・・・イチカとホウキさんも一緒に寝て・・・うぅ、皆凄い関係が進んでる・・・!)

 

一緒にいる男女の関係の進展、しっかりと絆を育んでいる事への焦燥。それに比べた自らの現状そのもの。その自らの不甲斐なさに、シャルは忸怩たる想いを感じていたのだ。オルガへのアタックがまだまだ足りない、自分の筋をきっちりと通せていない。そんな不甲斐なさを自覚して焦っていたのだ。──誤解も多分に含まれているが

 

(オルガの優しさに甘えてばかりじゃダメだ、僕ももっともっと、オルガにアピールしなきゃ・・・!オルガが誰かに取られるなんて、嫌だから・・・!)

 

自分を護ってくれると言ってくれた、世界で唯一の大切な人。そんな彼が、誰かに目移りして自分から離れてしまう。そんな未来を考えただけでシャルの視界は真っ暗になってしまう。待っているだけじゃダメだ。僕だってオルガにもっともっとアピールしたい。そんな無自覚にしてオルガにとって凶悪な攻勢が、前世を含めて全く浮いた話のない彼に幸福の甘い牙を剥く──

 

「ねぇ、オルガ!──はい!」

 

 

「は、はい?」

 

な、なんだ?どうしたシャル?そんな、気合い入りまくった顔しやがって。お、俺に不満があるんなら遠慮しねぇでいってくれ、いくらでも直すし、気合いいれてお前に相応しい男になれるように・・・

 

「て、手を繋ごう?二人なんだから、しっかり僕を離さないで!」

 

「は、お・・・」

 

て、手か?そ、それくらいなら、ま、まぁ・・・で、出来ないことは無いがよ。俺の手はごつくて、デカくて、お前の白い綺麗な手には似合わねっつか、なんつーか

 

「僕は、オルガと手を繋ぎたい!だから・・・僕のお願い、オルガに聞いてほしい・・・!」

 

・・・そ、其処まで言うんなら・・・お、俺はオルガ・イツカ。鉄華団の団長だぞ?そ、そんくらいなんて、なん、なんてこたぁ・・・ねぇよ・・・

 

「じゃ、じゃあ・・・おう、行くぞ・・・」

 

俺は摩擦でズボンが破けるくらいに手を拭いて、差し出されたシャルの綺麗で柔らかい、白い手をそっと握る。潰さないように、壊さないように・・・こ、こんな感じでいいのかよ?わからねぇよ・・・?握ったこと、ねぇからよ・・・

 

「ふふっ、ありがとう。やったぁ!」

 

「い、いいんじゃねぇの・・・?」

 

握った手を、シャルが優しく握り返してくる。・・・こ、こんくらいで女の子は喜んでくれるのか?そ、そりゃあ何よりだ。見てるかお前ら。お、俺だってな・・・

 

「じゃ、行こ?僕を離さないで、僕を連れていって?僕の大切な、団長さんっ」

 

「ま、任せとけよ・・・俺は、オルガ・イツカだからよ・・・」

 

シャルは軽快に、俺はロボットみてぇにギクシャクしながら歩き出す。シャルの歩幅に合わせて、きっちり転ばねぇように、シャルが歩きやすいように・・・

 

俺達はそんな感じで、水着の店に向かった。・・・こいつはひょっとして、デート・・・って言うやつじゃ、ねぇのか・・・?

 

 

そんなオルガとシャルの、甘酸っぱい一時を物陰で見つめる影が二つある。一人は金髪縦ロールのイギリス人、もう一人は酢豚の香りが香ばしい中国人・・・

 

「ねぇ」

 

「何ですの~?」

 

「あれ、手ぇ繋いでるわよね」

 

「それ以外に何が見えますの~?」

 

驚愕にて見つめるはリン。あのオルガが女子と親しくしているという事実が信じられないとばかりにその顛末を見守っている。対するセシリアはそんなことは見れば分かるだろうとばかりに、化粧をしながらリンの背後にて立っている

 

「幻でも白昼夢でもない・・・あのオルガに春が!?死ぬくらいしか取り柄がないオルガがどうやったって訳!?」

 

「男女ですもの、きっかけがあれば変わるものですわ。全く浮いた話のない貴女には分からないかもしれませんけれど?」

 

「うっさいセシリア!ていうかアンタはなんでそんなに余裕なのよ!?あんただって浮いた話なんか無いでしょうが!」

 

「私は貴女のような野蛮な酢豚と違いまして、三日月さんから直々にミッションを受け持っておりますもの。器物損壊、無断のIS行使、丸腰の男性に発砲する危険人物を監視しろと!三日月さんに!直々に!」

 

「それ私の事!?何よ!三日月三日月って!忠犬か何かなの!?ボロ負けした負け犬の癖に!」

 

「ま、負け犬ぅ!?三日月さん以外が私を侮辱するのは許しませんわ!取り消していただけませんの!?今の言葉!」

 

「負け犬負け犬敗北者!負け犬なんかに生きる価値なし!IS使いに生きる価値なし!」

 

「わ──私に風紀を教えてくれた方を馬鹿にしないでくださいまし!?せめて舎弟!舎弟と仰ってくださいな!!」

 

「セシリアセシリア敗北者!負け犬負け犬敗北者!」

 

「ゆ──許しませんわぁっ!!」

 

怒濤の口論になり、彼女らは気付かなかった。シャルがその喧騒を微かに聞き取り、鋭い感覚で何処かにこの二人がいた事を感じ取ったのだ。この忠犬舎弟と敗北者は、その状況の変化には気付けていないのが悲壮感を更に誘う。そんな二人に──

 

「元気な事だ。あまり他人に迷惑はかけるなよ」

 

「おはよう、セシリア、リン」

 

あんパンをもぐもぐと食べながら、風紀委員三日月・オーガスが二人に声をかける。そこにぴったりと寄り添い、三日月にあんパンをあーんされながら現れる銀髪の少女ラウラ・ボーデヴィッヒだ。風紀の夫婦の登場に、セシリアは襟を正し三日月に挨拶を返す

 

「おはようございます三日月さん!聞いてくださいな!このリンさんが私を敗北者と」

 

「喧嘩か?俺は嫌だな」

 

「敗北者でよろしくてよ!一理ありますわねリンさん!あなた、実はとても優秀ではなくて?」

 

「何よぉ、あんた」

 

掌の圧倒的な大回転により、セシリアは三日月に忠誠を誓いながら怒りを即座に納める。何よこいつとドン引きものの警戒を示しつつ、リンは何度も苦汁を嘗めさせられたラウラに警戒心を剥き出しにする

 

「そう警戒するな。嫁たるミカの前で、粗相をする気はない。危害は加えん」

 

「うん。ラウラは大丈夫」

 

「三日月さんが言うなら万事OKだと確信が持てますわ!えぇ、心配ありません!」

 

「あんたホントなんなの!?」

 

「ふむ、賢明だ。よしミカ、行くとしよう」

 

「ん、解った。じゃ、とっとと行こう」

 

二人は歩き出し、オルガとシャルの下へと歩み寄ろうとする。二人に混ざり、共に水着を選ぼうと言う極めて合理的な判断を下したが故の行動とラウラは仮定し、手を繋ぐ三日月を引っ張る

 

「ま、待ちなさいよ!オルガたちのあまあま度合いは未知数!そんな相手と戦うなら、情報収集が先決でしょ!」

 

その謎の戦法と兵法に聞くべきものがある。ラウラはそう感じ、足を止める。視線でセシリアはどう思う?と聞き及び、セシリアもまた意見を提示する

 

「そうですわね。此処は追跡ののち、二人が風紀を乱すようなふしだらな関係がどうかを見極めるべきですわ!三日月さん!」

 

「ふーん。そっか。わかった、いい?」

 

「そうだな、ミカ。──一理あるな」

 

結託する三人+一人の追跡同盟。三日月の風紀制裁基準は女子に恥をかかせること、危害を加えることなので、尾行や追跡は風紀を乱す事にはならない。ラウラがそう決めたのだ。なら嫁の自分も、しっかり従い付き合うべきだろう

 

・・・オルガも気になるし。

 

「じゃあ皆──行くかぁ・・・!!」

 

「やる気だな、ミカ・・・!頼もしく誇らしいぞ、夫として!」

 

「ま、待ちなさいよー!」

 

「三日月さ~ん!」

 

ラウラの手を引き、ダッシュで走る三日月。その後ろを走る二人。その行動は尾行。その始動を、間一髪二人の口論で感知したシャル

 

「オルガ、ちょっと来て!」

 

「どうした!?」

 

オルガの繋いだ手を引き、シャルは追手から逃げるために即座に駆け出し、最寄りの水着店へと逃げ込むのであった──

 

 

「イチカ、どちらの水着が似合うと思う?こちらか?こちらか?」

 

「ん~・・・デザインはこっちだけど、色的にはこっちの方が似合うな・・・」

 

「そうか!むむむ、悩ましいな・・・!」

 

「あ、じゃあ俺が両方買ってやるよ。一日ごとに着直せばいいだろ?」

 

「いいのか!?」

 

「任せとけって。女のワガママを聞くのも、カッコいい男の条件だ!」

 

「そうかぁ!」

 

水着店にて、誰にも邪魔されずに水着を二人で選んでいるイチカにホウキ。ニコニコと笑いながら鼻唄混じりに水着を選び、それに笑顔で付き合うイチカ。平穏な時間を過ごす二人に・・・

 

「?あれは・・・?」

 

手を繋いだオルガ、そしてシャルがあわてて更衣室に二人で入った事を目撃するイチカ。何か、物凄く慌てているような。何かから逃げているような剣幕に、何事かと首を捻る

 

「イチカ、どうかしたのか?」

 

「ん?──いや、なんでもないぞ。・・・多分。ほら、あっちにもいい水着があるぞ」

 

「そうか!イチカが言うのだ、間違いないだろうなぁ!うむ、うむ!」

 

剣幕からして空気を読み、追求はしないでおくことにしたイチカ。ばれないように隠れたのだから、空気を読まずに台無しにすることは無いだろう。そう感じ、ホウキを遠ざけ別の店へと入店する

 

(頑張れよ、団長)

 

静かに、心のエールを残して。・・・そして、場面を変え、なし崩し的に密室へ二人となったオルガに場面を移す。その心は、決して穏やかではなく──

 

「これは・・・!?」

 

男と女、密室で二人きり・・・!ま、待て!そいつぁ、そいつぁはぇえんじゃねぇのかシャル!色々準備や、貞操の大事さとかがあってだな!女の子が自分を安売りしちゃいけねぇんだぞ!俺でもわかる!いけねぇんだ!

 

「こ、これはその・・・!ぼ、僕にどんな水着が似合うか、身体をしっかり見てもらいたくて!」

 

「身体を・・・!?け、けどな・・・!」

 

「しぃい・・・!」

 

シャルの静止に答え、俺は黙り口をつぐむ。い、いや、嬉しいけどよ、そういうのはだな、きちっと段階を踏んでだな、手を繋いでいきなりそういうのは、飛びすぎっつーか・・・なんつぅか・・・

 

(・・・・・・)

 

(シャル?)

 

(ひっ!?み、三日月くん!?)

 

あれだ、俺はシャルを護ってやりたくて、居場所になってやりたくて言ったのであって、そういうのは学生には、早いと思う。早い筈だ。早いだろ・・・!

 

(黙ってた方がいい?)

 

(えっ──!?う、うん!お願い!オルガとの時間、邪魔されたくないんだ、だから・・・!)

 

(解った。頑張れ。それと、オルガをよろしく)

 

(──うん!)

 

だから、だからよ・・・そこは止まれよ・・・って、ん?

 

「どした?だれかいんのか?」

 

カーテンの向こうとボソボソ話してるシャルに、俺は声をかけてみる。そ、そのやっぱり不味いんじゃねぇか?着替えをしないで此処にいるのは・・・い、いや、着替えて欲しい訳じゃ・・・

 

「だ、誰もいないよ?いいから、とにかく此処にいて!すぐに着替えるから!」

 

(ヴウゥウゥウァアァアァア!!?)

 

上着を脱いでワンピースを見せつけるシャルに鼻血と銃撃を抑えながら慌てて後ろを向く・・・!なんてこった、今すぐ出てぇ!シャルの着替えを、邪魔したくねぇ・・・!出してくれ!頼む!身がもたねぇ!!

 

(うぅっ・・・勢いでこんな事して、オルガにエッチな女の子だって思われたら、どうしよう・・・!でも、オルガとの時間を邪魔されるくらいなら・・・!)

 

待ってくれ!頼む!頼む!これ以上はマジでヤバい・・・ヤバいんだって・・・!

 

「あぁぁもう!止まるもんか、やっちゃえ!」

 

・・・・・・やっ・・・ちゃえ・・・?

 

 

 

──オルガ、いいよ。オルガのやりたいこと、いっぱいいっぱい僕にして?全部、受け止めるから

 

あ、でも・・・

 

・・・優しく、して・・・?

 

 

 

────────────・・・・・・・・・・・・

 

「お、オルガ?オルガ!?」

 

・・・それより先の記憶は、オルガには与えられなかった。安らかな顔で、天井を仰ぎ、もたれかかり、静かに目を閉じ・・・

 

「だからよ・・・理性を止めるんじゃねぇぞ・・・」

 

「オルガ──!?」

 

オルガは静かに、シャルの腕の中で希望の華を咲かせたのだった。その顔は──これ以上なく安らかだったと言う・・・

 

「また、もう・・・オルガのえっち・・・」

 

 

「どうだ、ミカ」

 

更衣室より戻ってきた三日月にあんパンを渡しながら、その成果を聞き出すラウラ。その答えに、三日月は首を振る

 

「いなかった。此処にはいないみたいだ。セシリア、リンを連れて別の場所に」

 

「分かりましたわ!お任せくださいまし!ささ、行きますわよリンさん!」

 

「あ、ちょ、引っ張るなばかぁ!」

 

三日月の言葉に頷き、リンを引きずって退室する二人。あんパンを食べながら、その様子を静かに観察し・・・ラウラと共に水着が飾られている店内を見回す

 

「これが全て水着か・・・」

 

「うん。綺麗で、凄いよね」

 

「この世には、こんなに様々な水着があったのか・・・」

 

「そうだね。俺も知らないことばっかりだ。でも、だから・・・毎日が楽しいよ」

 

戦いではない、平和な日常。その大切さを誰よりも三日月は噛み締めている。だからこそ、誰よりも仲間を大切にする。この瞬間が、何より大切だから

 

「ふふ、そうか。夫婦揃って知らないことばかりなら、しっかりと寄り添って・・・」

 

「しっかり水着は選ばないとね~?」

 

「ん・・・?」

 

ふと、水着を選んでいる二人組の言葉が耳に入り──ラウラの胸を、鋭く貫いた

 

「似合わない水着着てったら、彼氏に一発で嫌われちゃうもん」

 

「他の事全部百点でも、水着がカッコ悪かったら致命的だもんね~」

 

「──────────」

 

「ふーん。・・・どうしたの、ラウラ」

 

よろめくラウラを、三日月は優しく抱き留める。その事実に、ラウラはよろよろと立ち上がり、最愛の嫁に宣誓する

 

「──ミカ、見ていろ・・・見せてやる・・・」

 

「?何を?」

 

「水着だ・・・!お前をガッカリさせるものか・・・必ず、必ず・・・満足させてやる!夫の私を信じろ、ミカ・・・!」

 

「解った。信じてる」

 

そんな、ちょっとズレた水着の聖戦が、勝手にラウラの中で幕を開ける。

 

 

・・・そんなこんなで、時間は飛び、臨海学校当日──

 

 




海にて

オルガ「沖合いには行くんじゃねぇぞ!溺れそうになったら顔出せよぉ!」


「「「「はーい!」」」」

「無理しねぇで自分のペースで泳げ!日焼け止め塗ったかぁ!?」

「「「「塗りました~!!」」」」

「なら構わねぇ!臨海学校の幕開けだ!景気よく前を向こうじゃねぇか!よぉし行くぞぉ!

「「「「わぁーーい!!」」」」

山田「今十一時でーす!夕方までは自由行動!夕食に遅れないように旅館に戻ること!いいですねー!?」

「「「「「はぁーい!!」」」」」

ホウキ「イチカ!イチカ!スイカ割りだ!スイカ割りをやろう!私のカッコいいところを見せてやるぞ!」

イチカ「そだな、見せてくれよ!カッコいいところをさ!」

「任せろ!よし、ハチマキと竹刀を持ってくる!待っていてくれ!絶対だぞ!」

「転ぶなよなー!」

三日月「元気だね、モップ」

「まさかこういうイベントにはしゃぐタイプだったとはなぁ。可愛いとこあるよなぁ」

オルガ「いや、あれはイベントっつーか・・・」

シャル「あ、皆此処にいたんだ~!」

「おぉ、シャ──ヴウゥウゥウァアァアァアア!?」

ミイラウラ『・・・・・・』

三日月「何これ」

オルガ「ハァッ・・・ハァッ・・・」


イチカ「なんだ、そのバスタオルオバケ!?そんでオルガは後ろ向いてどうした!?」

「シャルを・・・直視できねぇからよ・・・!」

シャル「水着、選んでくれてありがとね。オルガ!ほら、ラウラちゃんも見せたら?大丈夫だよ!」

ラウラ『そ、それを決めるのはお前ではない・・・大丈夫かどうかは・・・私が決める・・・!』

「!その声、ラウラか!?」

「当たり前じゃん」

(せっかく水着に着替えたんだから、見てもらわないと!)

「ラウラ、水着?ふーん・・・」

(ま、待て!私にも心の準備と言うものがあって・・・)

(ふぅう~ん?だったら、僕だけオルガや皆と海で遊んじゃうけど、いいのかなぁ~?)

(そ、それはダメだ!だが、ミカに嫌われるなんて考えたら・・・た、堪えられなくて・・・ 

「ラウラ。見せてくれるんだろ」

「!?み、ミカ・・・」

「満足させてくれるんだろ?・・・嘘つき?」

『う、嘘なものかぁっ!!──えぇいっ!!』

ファサァ

「うぅ・・・わ、笑いたければ、笑うがいい・・・」

オルガ「いいんじゃねぇのぉ?色もしっかり、イメージに合ってるしよ」

シャル「ねー?オルガもそう思うよねー?」

「ヴウゥウゥウァアァアァアア!!!」


イチカ「あぁ。スッゴく──」

三日月「──」

チュッ♥

ラウラ「──!!!!!!?」

オォルフェエェンズナミダァアァアァ♪

三日月「ラウラ、可愛いと思ったから。ごめん、嫌だった?」

バタッ

ラウラ「か、かわいい・・・くちびるまでかさねて、かわいい・・・そんなこといわれると、されると・・・わたしは・・・」

ホウキ「イチカー!ビーチボールもあったぞー!ウニもだー!・・・ん?なんだ?何事だ?」

シャル「わ・・・わぁお・・・!」

「風紀はどうしたミカァアァアァアァアァアァアァアァアァアーーーーーっ!!!!!」


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バエル!!

新作が投稿されたので初投稿です

ガンガンBB素材が提供されてるので俺も頑張らないと!してニコニコ大百科のインフィニットオルフェンズの記事書いたら初挑戦だったことも相まって5000文字×二回の記事データが消し飛んだ時は泣きそうになりました。

本家はガンガン面白さが加速しているから、必ず見てね!止まらない・・・加速する・・・!!



『マッキー!げんきー!タバネンシャカリキー!』

「ごきげんよう、束殿。態々連絡とは・・・もしや」

『うん!明日『バエル』届けにいくよー!皆によろしくよろしく言っといてほしいなー!』

「あなたは言葉を尽くすより、一目見た方が早いでしょう」

『確かに一理ありありー!!じゃあ早速準備するよー、素敵な温泉沸かして待っててー!バイビー☆!』

「・・・ふぅ。まさに天災。世界を巻き込む災厄そのものだな」

『あの、お疲れ様です・・・准将』

「ヤマト少尉、君もいたのか。どうせなら此方にもきたまえ。存分に休暇を楽しむといい」

『は、はい。その・・・ISと共に向かいます・・・』

「・・・苦労が堪えんな、お互いに」

『い、いいんです。イージスの爆発に巻き込まれた自分を救ってくれたのは、彼女ですから』

「・・・スーパーコーディネイター。遺伝子の奇跡に目をつけたか、シノノノ・タバネ・・・」


臨海学校、陽もすっかり暮れた夜。俺達は水着から着替えて飯を食うために俺らが寝泊まる旅館ってとこにやってきた。遊びに遊んで、寝る場所や飯も用意してもらえるとはよ。豊かで裕福な国ってのは、俺らみてぇなガキにもきっちり気配りしてくれるもんなんだな。ちっと・・・いや、かなり感動もんだ。正直言って泣けてくるくらいのいいもんだ。・・・何度思ったかわかんねぇが・・・

 

「此処に来れて良かったと思うぜ。お前はどうだ?ミカ」

 

「勿論、俺もだよ」

 

その言葉と笑顔は、俺の心をあったけぇもんにしてくれる。仏頂面から、ミカはすっかり色んな顔を見せてくれるようになった。環境一つ違えば、こんなにも俺達は変われる。道がこんなにキラキラしてる。あぁ・・・ひょっとしたら、俺らが足掻きに足掻いてきたのは・・・

 

「此処だね。・・・ん?」

 

ひょっとしたら、此処がアガリの場所。王なんかじゃねぇ、俺らの大切な居場所なのかも・・・ん?どした、ミカ?なんか気になるもんでもあるのか?

 

「・・・ば、あ、りゅう?オルガ、これなんて読むの?」

 

宿前の書かれていた表札に書かれていた漢字を指差し、頭を捻るミカ。読み書きも出来るようになって文武両道な風紀委員サマが不覚じゃねぇか?よし、任せとけ。ちっとは俺だってな・・・

 

『温泉宿 場亜流』

 

「・・・わかんねぇや」

 

「だよね。当て字?日本語は読み書きは解るんだけど文法が凄い難しくて大変なんだ。ばありゅう・・・ばある・・・」

 

・・・なんだろうな、ミカ。その「ばある」って単語を聞くと、すっげぇアイツを思い出すんだよ。ほらアイツだよアイツ。その、やたらなんかMSに乗ってはしゃいでた・・・

 

「──・・・・・・」

 

ばある、ばある・・・ばえる・・・バエル・・・なんだよ・・・結構似てんじゃねぇか・・・嫌な予感しかしねぇぞ、大丈夫かよ・・・こんなとこまでまさか腐れ縁は繋がったりしねぇよな、大丈夫だよな・・・

 

「・・・どした?ミカ」

 

「何、アレ」

 

そんな最悪な予感を考えていた俺は、ミカの視線、指先を見つめ・・・頭を抱えたくなるくらいな衝撃に襲われる。その先にあったのは大量の石造。アートやら芸術で作られる威信のカタチを作ったもんだ。そんだけなら珍しいもんでもねぇが・・・そいつは、この世界ではあまりにも有り得ない形をしてたんだ。よぉく知ってる、ある意味鉄華団の疫病神って言ってもいいかもしれねぇ、二本のアンテナに二本の剣・・・──

 

「バエルじゃねぇか!!ちょっと待て!それじゃ──」

 

ガンダムバエルを石造に表してまで有り難がるなんぞ俺が知りうる限り一人しかいねぇ、有り得ねぇ!なんてこった、嘘だろ・・・!最悪の予想じゃねぇか!この宿は鉄華団が泊まるにゃ縁起が悪すぎるじゃねぇか!!

 

「あ、オルガ・・・!?」

 

俺は走り出した!考える前に体が動いたってヤツだ!間違いねぇ、こいつは間違いねぇ!アイツしか、あの野郎しかいねぇ!

 

「あ、オルガ?」

「ど、どうしたのだ!?そんなに血相を変えて・・・!」

 

ぴったりくっついてるシノとイチカの脇をすり抜け、俺は走りに走った。俺の生きざま、そんで掴みとった、その為に死ねるもん。下手をしたらまたソイツが台無しになっちまうのかもしれねぇ・・・!ソイツだけは・・・!

 

「き、君!旅館で走るのは危ないぞ!」

 

「退きやがれ!!」

 

従業員をはね飛ばし、俺は『責任者』と書かれた浴衣を着てる、女がすれ違う度に振り替えるくれーの、シャルと同じ金髪の男に、俺がこの世界で培った思いを拳に乗せて、叩き付ける──!

 

もしかして?とは思った。いや、まさかな、とも思った。だが、此処まで同じなら認めるしかねぇ!お前は、お前は間違いなく──!!

 

「マクギリスじゃねぇかァ!!」

「ぐうっ!!」

 

「館長ぉおぉぉおぉお!!!」

 

俺の拳が、責任経営者になってやがるマクギリスの顔面をぶん殴り、従業員に受け止められる。俺は息を切らしながら、なんでこんなところにいやがるかを聞き出そうとした瞬間──

 

「オルガ、旅館で走るのはダメだ。危ないよ」

 

「ぐぅぅうぅっ!!!」

 

風紀委員のワッペンを着け、独立風紀委員の権限を行使したミカの銃撃をまともに直撃し──

 

「・・・押さず、走らず・・・静かにしなきゃいけねぇからよ・・・駆け回るんじゃねぇぞ──」

 

俺は敢えなく、ワンオフアビリティの世話になっちまった・・・だが旅館で殺人はサスペンスだぞミカァ・・・

 

 

「というか、なんでチョコの人がいるの?もしかして、アンタも転生したの?」

 

「相も変わらず本質を見抜くか。凄まじいな、その感覚・・・いや、この世界に共に現れた以上、この出逢いは必然なのかもしれないな」

 

落ち着いた俺たちは、一旦館長室に呼ばれて挨拶することになった。ミカは単純に疑問に思ってることをぶつけマクギリスはそれに答える。そこに、今んところあぶねぇ雰囲気はねぇ。・・・まぁ、ここでやらかそうなんて思っちゃいねぇがよ・・・

 

「そちらにも、会えて嬉しいよ。オルガ団長」

 

簡単に説明しとくと、こいつはマクギリス・ファリド。鉄華団と同盟を組んでガンダム・バエルにお熱を上げる最高のアグニカ馬鹿だ。そんだけ知ってりゃこいつは理解できる。今更説明なんてこんなもんでいいだろ

 

「おう・・・つぅか、アンタはこんなとこで、旅館を経営して何やってんだ?」

 

其処だ。革命の貴公子、ガンダムバエルのパイロット様がこんな場所で宿を切り盛りたァ随分とイメージってのが合わねぇ。転生したってのは察しが着くがよ。どういう筋書きだ?キチッと説明が欲しいもんだな

 

「私は君達のように学生という年齢ではなくてね。こうして転生した以上、色々と先立つものが必要だったのだよ。この経営はそれの調達と・・・『テスト』のようなものだ」

 

「『テスト』ぉ?」

 

「今はこれだけしか伝えられないが、嘘ではないと誓おう。新たな世界に、我等のいさかいは不要なものだ。君達も来客ならば、私達は全霊でおもてなしをさせてもらう。今はそれで、妥協策といかないかな?団長」

 

「・・・けどな・・・」

 

・・・納得できねぇ事はある。そのテストがなんなのかってのは気になるし、また腹んなかで考えてるのかよ、って疑う気持ちも無いわけじゃねぇ

 

「もういいよ。それは、過ぎたことだ」

 

そんな中、言葉を発したのミカだった。コイツはもういいと言った。そんなことは、気にするものじゃない、と自分の意志を告げたんだ。

 

「ここは、俺達じゃない皆がいる。俺達の新しい人生は、もう始まってる。チョコの人もそうなんでしょ?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

「ならいいんだ。過去のわだかまりで、今の進む道を、これからの進む道を止めちゃいけない。俺達は、進むべきなんだ。今度こそ、流されたり誰かに言われるんじゃなくて、自分が選んだ、自分の道を」

 

マクギリスの野郎も目を見張ってやがる。ちっと見ねぇ内に・・・って顔だな。今のミカは今までのミカじゃねぇ。何処に出しても恥ずかしくねぇ『風紀委員』なんだからよ

 

「だから、もういいよ。これまでの事より、大事なのはこれから、そして今だ。・・・ん」

 

そう言って、マクギリスの野郎にミカは渡す。火星ヤシ・・・今までの自分。そんで──いつも食ってる、購買のあんパン・・・

 

「宿、頑張って。応援するよ」

 

「フッ──ありがとう。今度こそ、良き関係を築こう。三日月くん」

 

握手をする二人を見て。俺は──胸んとこが、無性に熱くなる感覚を味わってた。感無量ってヤツだ。なんなら、男泣きもしてたかもしれねぇな

 

「ん。はい、オルガも」

 

・・・見てるか、アトラ。クーデリア。お前らが選んだ男は、こんなに立派になって、しっかり自分の足で、自分の意志で歩いて、生きてるぜ。とっくに『次はどうすればいい』なんて言葉から、生き方を卒業してんだ

 

「・・・そうやってお前は・・・」

 

火星ヤシを見つめながら、俺は思う。そうやってお前は──律儀に守ってるんだな。俺が言って、俺が命令した・・・『止まるんじゃねぇぞ』って生き方をな・・・

 

「・・・サンキュな」

 

そうだ、俺達は始めるんだ、新しい生き方を。学園の生徒として、生きていくために進み続けるんだ。それに、アイツに乗ってやるのを決めたのは俺だし、褒められねぇ真似もした。こいつぁ御互い様で、過去を流せるってんならそれに乗らないって手は──

 

「ぐぅぅうぅっ!?」

 

瞬間、口んなかにヘドロみてぇな感触と、ざらざらの粉薬を噛み砕いて口んなかに染み込ませたような感覚が俺を襲い・・・

 

「あれ?外れ?」

 

俺は倒れ──あえなく臓器が痙攣を起こし・・・ワンオフアビリティの世話になっちまった──

 

「ッ、フフフ、はははははははははは!はははははははははは!君の生きざまを現した実に素晴らしい力だなそれは!失礼、すまな、はははははははははは!」

 

「オルガ、大丈夫?こんなところで寝てたら風邪引くよ」

 

・・・お前ら、仲良しなのはいいがよ・・・ノリで俺を殺すんじゃねぇぞ・・・

 

 

「・・・そうだ!お前ら、過去を水に流すってんなら・・・」

 

死んだなか、俺はとある事を思い付く!こいつなら、しっかり落とし前がつけられるかもしれねぇ!なら、やるしかねぇな!俺らの、共同の初仕事をよ!

 

 

「よぉしお前ら!!旨い飯、んであったけぇ風呂!そんで俺らの出し物!最後まで思いっきり楽しめよぉ!!」

 

「「「「「「おおーっ!!」」」」」」

 

料理、晩飯の時間。全員で食う飯の広場のステージに上がり、俺はボーカルギター、ミカはドラム、マクギリスはDJ、イチカはベースになって登壇して新生鉄華団の皆に声をかける。そう、こいつぁ・・・皆の親睦を深める即興ライブだ!

 

「オルガ!すっごく似合ってるよ!うん!カッコいい!」

 

シャル、見とけよ!お前の男の晴れ姿をよ!

 

「流石、私の嫁だ・・・皆見ろ!あのドラムが私の嫁だ!!」

 

ミカもラウラに手を振ってやがる。お似合いじゃねぇか!

 

「あの館長さん、凄いイケメン・・・!」

 

マクギリスは黄色い声を独り占めかよ・・・ま、俺にはシャルがいてくれりゃ充分だ!

 

「イチカー!素敵だぞー!男らしいぞー!」

 

シノのヤツはイチカに首ったけじゃねぇか、カッコ悪いとこは見せらんねぇな!

 

 

 

此処にいる奴等全員、食べて、浸かって、んで聞いて楽しめ!俺の歌声、聞かせてやるよ!たっぷり楽しんでけよぉ!!

 

「準備はいいな!ミカ!マッキー!イチカァ!!」

 

「いいよー」

 

「崇高な催しだ・・・私はこのバンドステージに、アグニカ・カイエルの魂を見た・・・!」 

 

「お、おう!任せとけ!!平団員でも楽器くらい!」

 

イケメンバンド、鉄華団の結成だ・・・!一切合切、興奮の渦を巻き起こして血を熱くさせてやろうじゃねぇか!!

 

「よぉしお前らァ!今日はとことんまで行くぞぉ!!!」

 

「「「「「「いぇーい!!止まるんじゃねぇぞーっ!!」」」」」」

 

即興で始まった俺達のライブが幕を開けた!マクギリスの御機嫌なDJがアゲアゲに気分を盛り上げ、ミカのバンドがバリバリ体を振るわせて、イチカがベースを上手く弾きやがる!やるじゃねぇか、お前ら!俺も負けてらんねぇ!腹から声だしてやるぞぉ!

 

「まわりまわってー、ふーんふふーん♪かさなりあってー、ふーんふふーん♪オルガー!いけいけー!」

 

「ミカ・・・夫としてお前を誇りに思う!」

 

「「「バエル!バエル!アグニカ・カイエル!♪」」」

 

「聞け!!新生鉄華団の諸君!!今此処に、アグニカ・カイエルの魂は蘇った!」

 

「バエルよ!!温泉旅館の魂!」

 

「そう!かけがえのない青春は私達にあるっ!!」

 

「「「「「きゃあぁあぁ~っっ!!!」」」」」

 

「いいぞイチカー!もっと、もっとだー!!」

 

「もっとぉ!?あ、あぁ分かったよ!やってやるよ!やればいいんだろっ!?」

 

大盛況で皆大盛り上がりじゃねぇか!シャルもラウラもシノもはしゃぎやがって、鉄華団の皆もノリノリでよ!こいつぁ、最高の一日の上がりってやつだ!だからよ──

 

「止まるんじゃねぇぞ──!!!」

 

「オルガが進み続けるその隣に、ずっと僕はいるぞ~っ!」

 

「バエル!!」

 

「「「「「温泉旅館の魂!!!臨海学校の正義は我々にある──!!!」」」」」

 

(ラウラ、楽しい?)

 

(勿論、最高に楽しいとも!)

 

「イーチーカー!いいぞー!いいぞー!!」

 

「サンキュ、ホウキ!じゃあもっかい行くかぁ!」

 

アンコールにもノリノリに応え、俺達の本気のライブは晩飯が食い終わるまで続いた

 

人生に、次があるかは解らねぇ・・・だからお前ら、今この瞬間を思いっきり楽しめよ。悩んだり、苦しいときは一緒に背負ってやる。楽しいときは、一緒に思いっきり楽しんでやる。だから、その大事な人生の道の途中で──

 

「止まるんじゃねぇぞ──」

 

俺達の夜は、更けていく。鉄華団の、新しい門出を祝って──

 

(騒いでたけど、チフユ、来なかったね)

 

(完全に防音したのだ。当然だとも)

 

(チョコの人)

 

(?)

 

(これからよろしくね)

 

(・・・こちらこそだ。三日月くん。君に──)

 

(・・・?)

 

(1000アグニカポイントを、進呈しよう──)

 

 

 




晩御飯後、自由時間

セシリア「あら、リンさんにシノノノさんじゃありませんの。どうなさいましたの?イチカさんと先生の扉にへばりついて」

ホウキ「しーっ、静かにしないか!今・・・」

リン「いいところなんだから・・・!」

「いいところ・・・?」

イチカの声『チフユ姉、久し振りだから緊張してない?』

チフユの声『そんなわけあるか馬鹿者・・・あっ、ん・・・少しは加減をしろ・・・』

『はいはい、じゃあここは?』

『なっ・・・そ、そこは、やめ・・・』

『遠慮すんなって、大分溜まってたみたいだしね』

セシリア「こ、ここ、これは・・・風紀の乱れっ・・・!?教師生徒の、禁断の恋!?み、三日月さんに報告を──!?」

「し、しーっ!?しーっ!!」

ホウキ「これは・・・先生公認ではないのか!?」

「えぇっ!?私も!私も混ぜてくださいまし!風紀を、風紀を確かめますわ!!」

「あ、馬鹿!おさないで敗北者!!」

「止せ、止めろ!!あ、あ、あ──!!」

ガシャーン!!

イチカ「?」

チフユ「・・・何の用だ?」

「「「ま、マッサージ・・・」」」


露天風呂

ラウラ「汗をかいただろう、ミカ。夫の私が、背中を流してやる」

ミカ「ありがと、ラウラ」

「うむ、任せておけ。・・・それにしても凄い盛り上がりだったな。私も、嫁の晴れ姿が見れて鼻が高い。私の嫁は、学園一だと証明されたようなものだな、うむ!」

「じゃ、ラウラも一緒にやろう。色々、教えてあげるから。知らないこと、もっともっと一緒に分かるようになろうよ」

「あぁ、その通りだ。寄り添い、成長する。それが、夫婦なのだからな」

「うん。・・・でも」

「?」

「ワサビは嫌いだ」
「・・・私もだ。なんだあの、つーんとくるのは。理解できん・・・」

「上がったら、あんパン食べよう。二人の分、買っておいたからさ」

「!でかした!あ、料金は・・・」

「奢りだよ」

「ミカぁ・・・!」

オルガ・シャル寝室

「なんか、布団の数・・・合わなくねぇか・・・」

「ご、ごめんね・・・!?その、飲み物溢しちゃって・・・マクギリスさんが・・・『一つ布団で過ごすのは、神聖な儀式だよ』って・・・」

「あの野郎・・・」

「ぼ、僕はいいんだ!一つでも・・・!む、むしろ・・・近くに入れて、良かった・・・う、ううん!何でもない!と、とにかく眠ろう?い、今寝巻きに着替えるから!」

「ヴァアァアァアァアァアァ!!!?」

~布団

「今日は、楽しかったね。皆、とっても幸せそうだったよ。オルガや皆のお陰だね」

「・・・ハィ」

「ふふっ、まだまだ学園生活が始まったばかりだなんて夢みたい・・・毎日、こんな楽しいことが一杯なんだね・・・凄く、幸せだよ。僕」

「・・・アァ」

「オルガ、本当にありがとう。僕の初めてを知ってくれたのが・・・オルガで良かった・・・」

「は、はじめっ・・・」

「ねぇ、オルガ」

「・・・ハ,ハイ・・・」

「──これからも、ずっと一緒にいてね。離れたり・・・いなくなったりしたら・・・許してあげないから」

「──ハィ」

「ふふっ、御休みなさい。また明日も・・・一緒にいてね・・・」

「────────」

・・・キボーノハナー・・・♪



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バエルは蘇った!!

新作嬉しいので初投稿です

エボルトみてーな戦兎はデザインは素敵だと思います。性格?ま、まぁ・・・エボルトだから

また最新話まで見返していかなきゃ・・・!

よければ、お楽しみください!

朝にて

『引っ張ってください』


イチカ「ふぁーあ、おはよう、ミカ」

「おはよう・・・ん?」

ホウキ「・・・」

「モップ。おはよう」

「あ、あぁ・・・おはよう」 

「何これ?」

イチカ「なぁ、これってもしかして・・・」

「知らん。私に聞くな」

「・・・ふーん」

「お、おい。ほっといていいのか?」

セシリア「三日月さんおはようございます!何してらっしゃいますの?」

三日月「地面に耳が生えてる」

「・・・二人とも、離れてろ。──えいっ!!」

スポンッ

「うおっ!?」

「大丈夫?」

オルガ「どした!どっか痛めたのか!?」

ヒュウゥウゥウゥゥゥ

三日月「・・・!」

空から飛来する物体。オルガに迫るそのニンジンロケットを・・・三日月はバルバトスを纏い、力づくで叩き返す

『ぎゃわんっ!!もー、ひっどいことするなぁ!』

「あ・・・あぶねぇ・・・」

「生きてる?」

そして、ロケットが割れ現れたのは・・・

「まぁそれはともかく!お久しぶりだねいっきゅん!ところで、ホウキちゃんはどこかな?」

イチカ「・・・あっちです」

「ありがとー!じゃあまたね!いっきゅん!またあとでねー!」

スタタタタタ

「イチカ、なにこれ」

「い、イチカさん・・・今のは一体・・・」

オルガ「こんくれぇ何てことはねぇ・・・!!」


イチカ「・・・シノノノ・タバネ。ホウキの姉さんだ」

セシリア「・・・はえっ!?」

三日月「ふーん・・・」

・・・その時、三日月の持つ端末に、一件のメッセージが届く。

其処には・・・

『調子乗んな タバネ』

三日月「・・・なにこれ?」

先程の女性からの、不可解なメッセージが届いていた──


激動と波乱を感じさせる邂逅より数刻後、各専用機持ちの代表候補生、鉄華団のメインメンバーは担任のチフユに呼び出され、岩肌が露出した人気のない川辺へと呼び出されていた。これから行われることがなんなのか、詳しくどころか何故集められたのかすらも解らないため、一同は顔を見合わせる

 

「オルガ、招集ご苦労だった。よし、専用機持ちは全員揃ったな」

 

専用機持ち、という言葉を聞き、ホウキの顔が曇るのをイチカは見逃さなかった。その矛盾を素早く彼が指摘する

 

「何言ってるんだよチフユねぇ、ホウキは専用機持ちじゃないだろ?」

 

「そうよ、ウチガネでひーこら戦ってただけじゃない」

 

「それは・・・」

 

そう、ホウキはピカ一なセンスを持っていながら、それを活かせる専用機、ISを所持していない。それなのに、この面子と肩を並べている違和感と気後れが、ホウキの顔を曇らせる。そのいたたまれない姿を見て、イチカはキッパリと告げる

 

「何で集まらせたのか、理由を教えてくれ。筋が通らない真似じゃないなら納得する。でも──」

 

「それはぁ!お待ちかねのホウキちゃんのパワーアップイベントだからでーす!!」

 

やーっほー!と叫びながら岩肌を生身で滑り降りてくるそのでたらめな身体能力を発揮しながら、こちらに向かってくるキテレツにしてこの世界の台風の目。大幅に全力ジャンプし、一同の視線を集め、一直線にこちらにやってくるその人物の狙いは──

 

「ちーーーーいちゃーーーん!!」

 

「ヴァアァアァアァアァアァ!!?」

 

そのあまりの加速に、様々な事象が一瞬にて巻き起こる。華麗に向かってきたウサミミの女性──シノノノ・タバネの突撃。それを華麗に捌きアイアンクローで制することにより処理するチフユ。突進はなんとか捌けたものの足を滑らせ転倒し、河に直接ダイブインするオルガ。一同はその状況に、ただただ硬直し──

 

「やぁやぁ会いたかったよちーちゃん!さぁイチャイチャしよう!愛を確かめ合おう!」

 

「五月蝿いぞタバネ」

 

「相変わらず容赦のないアイアンクローだねー!」

 

「オルガ!オルガ!しっかりー!!」

 

「止まるんじゃねぇぞ・・・・・・」

 

そしてそのハイテンションの矛先は即座に変えられ、岩場に隠れるホウキへと向けられる。オルガはワンオフアビリティを発動したものの、シャルの懸命な蘇生措置で無事に復活を果たし起き上がる

 

「・・・ラウラ、何これ」

 

「わ、解らん・・・全くもって理解不能だ、なんなんだ、あの妙な女は・・・」

 

「オルガ、大丈夫・・・!?」

 

「こんくれぇなんてこたぁねぇ!」

 

「じゃじゃーん!ホウキちゃん、久し振り~!元気そうだね~!」

 

「・・・どうも・・・」

 

親しげなタバネに対し、ホウキの態度は浮かないものだった。バツが悪そうに視線を合わせず、奇怪なものに、腫れ物に触るような煮え切らない態度。そんな彼女に構わず、タバネはひたすらにまくしたてる。自らのテンションで辺りを台風のように巻き込んでいく

 

「こうしてあうのは何年ぶりかな~?大きくなったねーホウキちゃーん!特に、おっぱいが・・・!」

 

「同感だ」

 

「えぇっ!?お、オルガのエッチ!」

 

「ぐぅぅうぅっ!!」

 

瞬間、ホウキの木刀が、シャルの言葉がそれぞれを打ち据え、心を貫く。吹き飛ばされるタバネ、安らかに逝くオルガ。カオスな空間に全くついていけない三日月は、無言でラウラに背中を擦られている

 

「殴りますよ」

 

「殴ってから言った~!ねー、いっくん酷いよね~!?」

 

「タバネさん。自分の世界を展開するのはそれくらいにして、状況説明と本題に入ってくれませんか。皆が困ってる。筋の通らない暴走は、貴女でも認めるわけにはいかない」

 

ピシャリとタバネを諌めるイチカ。皆の前に一歩、特にラウラを庇うように油断なくタバネを見つめる三日月。やや不穏な雰囲気、イチカを微笑ましげに見つめる視線、そして三日月には──

 

「ねぇイチカ。なにこれ」

 

「ごめんな、ミカ。・・・まずは自己紹介からお願いします。する気がないのなら、ロケットに乗っけて返品しますよ」

 

「ん~、めんどくさいけどいっくんがそう言うなら・・・私が天才の!タバネさんだよ!ハローォ♪」

 

(!オルガ!)

 

「解ってる!・・・俺はぁ、鉄華団団長ォ・・・!オルガ・イツカだぞぉ・・・!!」

 

自己紹介には自己紹介。隙あらば名乗り存在をアピールする。ぶれないオルガに拍手を送るシャル。イチカに好影響を与えた団長には、キラリと光る目線を送り返しサムズアップを送り──

 

「さぁ!大空を御覧あれー!!」

 

「・・・?」

 

タバネに指されながら、大空を見上げる一同。遥か突き抜ける青空から、白く銀色に煌めく菱形のクリスタルのような塊が空を切り裂き一直線に一同の目の前に──

 

「ヴァアァアァアァアァアァ・・・!ぁ?」

 

「咲くと思ったー?残念咲きませーん!ビックリドッキリだいせいこー!ぶいぶーい!!」

 

「なんだよ・・・」

 

ハラハラさせやがっ──そう感じたオルガに襲い掛かる遥か強烈な加速と衝撃と質量。油断していた、気が緩んでいたその瞬間に、もう一つのクリスタルがオルガに突き刺さり──

 

「ぐぅぅうぅっ!!!!」

 

「はい、隙を生じぬ二段構えでしたー☆タバネさんは芸風改良にも余念がないんだよー☆」

 

「オルガーっ!」

 

「だからよ・・・ふざけんじゃねぇぞ・・・」

 

挨拶がわりに抹殺されたオルガの何度目かの最期の言葉を華麗にスルーし、タバネはその飛来した鈍色のクリスタルをリモコン操作にて開封する。其処に納められ、現れたのは──真紅の、そして日本風のIS。ブレードを装備し、イチカの白式と対を為すカラーリングの、待機状態の甲冑とも言うべきフォルムを持つ・・・

 

「じゃじゃーん!これこそホウキちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが、現行ISを上回るお手製だよー!・・・勿論、君のIS『ガンダム・バルバトス』もね?」

 

「・・・貴様。何故そこでミカが出てくる。なんの当て付けだ」

 

「うっさい失敗作。どう?どう?ビックリした?驚いた?ガックリきた?」

 

「良かったね、モップ。やっとこれで、皆と一緒に戦える」

 

「あ、あぁ・・・そうだ、そうだな・・・」

 

「無視されたぁ・・・!タバネちゃんショックでしょぼぼーん・・・」

 

一瞬だけ、その冷淡な一面を垣間見せるもスルーを行われたタバネはガックリとオーバーリアクションを行う。だが、それはそれ、これはこれとばかりに立ち直り即座に自慢げに胸を張り、高らかに自らが手掛けた傑作をアピールし、その腕前を誇示し声を上げる

 

「なんたって紅椿は、この天才タバネさんが作った第四世代型ISなんだよぉ?・・・あ!」

 

「此処にいたのか、タバネ殿」

 

そんな中、タバネに、歩み寄る優雅な影が一つある。場亜流と書かれた法被を着、その存在感を誇示する長身の男性・・・

 

「マクギリスじゃねぇか・・・」

 

「やっほーマッキー!お仕事ご苦労様ー!ご褒美はちゃんと、用意してあるよーん!」

 

「チョコレートの人・・・?もしかして・・・」

 

「あぁ・・・私も欲しくなったのだよ。象徴の枠を越え、新たに息吹を上げるアグニカ・カイエルの魂がね」

 

その言葉に応えるように、じゃじゃーん!とオルガに突き刺さったクリスタルをリモコン展開する。そして現れしは──

 

「フッ、フフッ──」

 

マクギリスが転生した際に選んだ剣。ギャラルホルンの正義にして、アグニカ・カイエルの魂

 

「ククッ──ははははははははっ・・・!ははははははははっ・・・!!」

 

最古にして原初のガンダムフレーム。けして折れぬ剣と魂、革命の象徴となりし、誇り高きガンダム。白きフレーム、ブルーカラー。紅き双眼を光らせる、人類の希望を背負って戦い抜いた誇り高き魂の具現

 

ガンダム・バエル──タバネの回収を受け、最新技術によって生まれ変わった、最古にして最新のガンダムフレーム・ISである──

 

「さぁマッキー!ゴーゴー!」

 

「ありがとう・・・さぁ、目覚めの時だ・・・!!」

 

颯爽と法被を脱ぎ捨て上半身の裸体を晒し、ISバエルに乗り込み起動を行う。目に映らぬ程の速さにて空中に飛翔し、両手を広げ粒子を散らし、両手を広げスピーカーをMAXにし、島に響き渡るような声音でバエルの健在を高らかに叫ぶ

 

「マクギリス・ファリドの下に!バエルは蘇った!!」

 

「上機嫌だな・・・しかし、俺らのISはちっと規格が違うもんなのにあっさりと変えちまうとはよ」

 

「そこはほら、天才のタバネちゃんだから!」

 

「すげぇよ・・・」

 

あっさりと世界の壁を乗り越える目の前の人間の存在に、オルガは驚嘆を隠せない。そしてバエルに続く新たなるISのフィッティングの為に、紅椿を展開する

 

「さぁホウキちゃん!パーソナライズを始めよっか!バエルに負けるな負けるな頑張れ~!」

 

「ホウキ・・・」

 

「・・・心配するな、イチカ。彼女は腕『だけ』は確かだ」

 

「だけ!?」

 

タバネの抗議を無視し、そして感謝の一礼を送り、ゆっくりと紅椿を纏うホウキ。一同が見守るなか、タバネがさらに右指を鳴らし・・・

 

「では、パーソナライズの助手カモーン!お願いね~!キラきゅーん!」

 

移動式ラボにて、とある人物が転送されてくる。それはかつて、タバネが行き倒れていたものを気紛れで拾い、試しに遺伝子パターンを見た瞬間にいい拾い物をしたと歓喜した、助手と呼ぶ少年・・・

 

「は、はい。分かりました。皆さん、キラ・ヤマトと言います。どうか、よろしくお願いいたします」

 

丁寧に挨拶を返すキラと名乗る少年に、自分達と同じ匂いを感じた三日月は、静かに告げる

 

「・・・あんたも?」

 

「・・・うん。君の思っている通りだよ。でも、その話は、またいつか」

 

「俺はぁ・・・鉄華団団長・・・!オルガ・イツカだぞぉ・・・!」

 

「よろしくお願いいたします、オルガ団長。では、失礼して・・・」

 

「ホウキちゃんのデータは予めある程度入れてあるから、後は更新よろしく、キラきゅん!」

 

「は、はい!・・・では」

 

そう言って行われた彼のタイピング速度、そしてアジャストの速さは目を見張るものであった。忙しなく指と視線が動き、そして一寸のミスもなく、ISを、紅椿をホウキへフィッティングさせていく。

 

「キャリブレーション取りつつ、ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定…、チッ!なら疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結!ニュートラルリンケージ・ネットワーク、再構築!メタ運動野パラメータ更新!フィードフォワード制御再起動、伝達関数!コリオリ偏差修正!運動ルーチン接続!システム、オンライン!ブートストラップ起動!IS紅椿、作動!行けます!」

 

「すごぉい・・・信じられないスピードだわ・・・」

 

「ふふん、彼はスペシャル、タバネさんの一の助手なのだ!ねー、キラきゅーん!」

 

「は、はい。自分にできること、望むことをするだけです。・・・どうぞ、シノノノさん!」

 

「はい!」

 

「はーい!」

 

「・・・ホウキさん!お願いいたします!」

 

悪乗りするタバネをなんとかスルーし、ホウキの紅椿は操縦者のホウキの意志を受け、飛翔し飛び立つ。

 

「なにこれ、速い!」

 

「これが、第四世代の加速・・・!凄い・・・!」

 

何者の追従を許さぬ、徹底したチューン。瞬きすれば、消え去ってしまいそうな。その速さ。圧倒的な性能、そして機動性に。一同は目を奪われてしまう

 

その速度はまさに尋常ではなく、地上にいるオルガたちが点に見えるほどの高度に即座に到達する。──ガンダム・バエルも、一切譲ることなく高速にてピッタリと追従を行い、その性能をまざまざと見せ付ける。第三世代すらも寄せ付けぬ高機動にして──運動性

 

「よぉし、チャンバラいってみよー!二人とも刀でガキンガキンやっちゃってー!」

 

「りょ、了解!」

 

「ははははははははっ!ははははははははっ!!」

 

狂喜と緊張のまま、紅と白のISがぶつかり合い、そして火花を散らす。すれ違い、斬り合うその姿は・・・空に浮かぶ灯火、閃光のごとくに目まぐるしく交差するばかりで、目に追うことすらも困難である

 

「どうどう?バエルも紅椿も、ホウキちゃんやマッキーが思った以上に動くでしょ!?」

 

「上機嫌だな・・・」

 

「嬉しいんでしょ。バエル大好きだし」

 

「じゃ、刀使ってみてよ!右側が「バエル!」左側が「バエル!」だから!」

 

「は、はい!?」

 

狂喜乱舞するマクギリスが、右手左手を交互に上げる奇怪かつ変態的な機動を執り行い通信を遮るほどに騒ぐので聞き取れなかったホウキ。慌てて助手のキラがフォローし通信を送る

 

「すみません、右が『雨月(あまづき)』で、左が『空裂(からわれ)』ね!データを送ります。コード・・・『アーマーシュナイダー』!』

 

「バエル!バエル!バエル!バエル!バエル!」

 

「うるさいなぁマッキー・・・さぁ、行くよー!」

 

「はい。・・・『雨月』、行くぞ!」

 

右手の刀を、水平に前方へ指し示す。瞬間、紅椿の右腕部分より一直線に四束の紅き光線が怒濤の勢いで放たれ、真っ直ぐ駆け抜ける。そのエネルギー収束量は尋常ではなく、白き雲が吹き張らされ吹き飛ばされていく程の威力を、視覚的に示す

 

「おぉ・・・!」

 

「いいねいいね~。つぎはこれ打ち落として見てねー!はーいっと!」

 

機動性に満足した後、タバネは即座に次なる兵器を転送し、ホウキに向ける。それは軍用追尾ミサイルランチャー。追尾を行うそれが、複雑な機動を描き紅椿に襲い来る

 

「──はぁっ!!」

 

その複雑奇怪にして多様なミサイルを、ホウキは左手の刀、『空裂』の一閃より放たれしエネルギー刃にて切り払う。遥か上空にて爆発し、空を彩る大輪の華

 

「はははっ、見事なものだ。タバネ殿の強化は素晴らしいもの、凄まじいものと断言できよう」

 

「マクギリスさん・・・」

 

「いいだろう。次は私の番だ。受けて立つ」

 

自信と自負のまま、バエルソードを高々と掲げ誇示するマクギリス。それを見ていたタバネは、待っていたとばかりに・・・

 

「じゃあマッキー行くよー!ガンダムフレーム対抗兵器・・・」

 

「これは・・・!!」

 

息を呑むオルガに三日月。それは・・・前世にて条約にて禁じられ、鉄華団を、そして三日月の息の根を止めたに等しい禁止兵器。この世界に、あの世界にあってはならない──

 

「『ダインスレイヴ』!!いっけーっ!!」

 

『今すぐ中断してほし──』

 

「はーいっと!☆」

 

──漂う空の、何処か遠く

 

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」

 

空を彩る、星のような光。それは朝に輝くには、眩しすぎるほどに鮮烈な輝き。

 

「チョコレートの人・・・」

 

「禁止なのがよーく解るな・・・」

 

革命の象徴となり、正義を示す最古にして最新のガンダムフレーム・ISバエルは、禁止されし兵器。蘇りしダインスレイヴに、打ち貫かれ爆散する。それは、儚き打ち上げ花火にも似て、人の心を打つ。全ての視線を、集める中・・・

 

「・・・あんまり調子に乗ってるとぉ、君もマッキーみたいになっちゃうかもだからぁ」

 

「・・・?」

 

「気を付けてね!☆『三日月』くん!」

 

タバネだけが、三日月に笑顔を向ける。──その目に、無機質な敵意と、冷徹な殺意を乗せて・・・

 

・・・マクギリス・ファリドは・・・バエルと運命を共にしたのだった──

 

 

 




クラス別対抗戦、開催日・・・


タバネ「・・・なにあれ。天才のタバネさんが、かっこよく白式に倒してもらう筈だった敵を、気付かれるまえに・・・」

(・・・・・・三日月・オーガス・・・大体、なんでいっきゅん以外にIS動かせてるの・・・?タバネさんが知らないこと、イレギュラーが起こるとか・・・何アレ・・・何アレ・・・何アレ)

「・・・?」

『通信』

「・・・タバネさんに、直接・・・?」

『不躾な通信、申し訳無い。君がこの世界のISを製作した張本人だね』

「・・・誰」

『私は・・・この世界を変える力を持つものだ。彼等・・・三日月・オーガス、オルガ・イツカの同類だよ』

「・・・!」



「・・・大量の無人機で出迎えとは。礼儀を弁えた方のようだ」

「用があるのはその胸のエンブレムだけ。身ぐるみ剥がしてやるから。ISだけ、置いていって」

「おやおや。それは手厳しい。ならば──手荒になろうとも文句は無かろうな」

「・・・!」

その男は、あらゆる無人機、最低でも第三世代クラスにチューンされたものを、半壊したIS、折れた双剣にて蹂躙した。タバネの予想を、二重に裏切り、優雅に火の粉を振り払う

「私の要望は単純だ。この世界にて私は身寄りがいない。戸籍もなくてはまともに過ごせなくてね。身柄を保証してほしいのだ」

「──はぁ?どこから来たっていうの・・・?」

「遠い場所。混乱と混迷が絶えぬ混沌だよ。私の力、いや、バエルの力は理解できただろう?天災、シノノノ・タバネ」

「・・・嫌だといったら?」

「ふむ、そうだな。IS・・・君の発明の優位性を世界から消し去る。この世界に、私の持つIS・・・いや、『モビルスーツ』の技術を配布、公表しよう。女性優位の社会に警鐘と新風を吹き込む革命を、即座に巻き起こしてみせよう」

「──・・・・・・」

「女性に虐げられた男性の無念と義憤は、このバエルを火種として燃え上がる。君が目論む、都合のよい世界を私は変えてしまうことになる。・・・構わないかね」

「何が目的なの・・・」

「言っただろう。私はこの世界にて成すべき事を成す。その為に、君を利用したいんだ」

「・・・名前は?」

「マクギリス・ファリド。アグニカ・カイエルの魂、その理念を追い続けるものだ」

・・・半信半疑であったタバネの予測を、マクギリスは次々と打ち貫き覆す

『第一世代に乗って第四世代のテストプレイに付き合って』と言えば、易々とそれをこなし

悪ふざけに『臨海学校に使う宿』を売り上げ一位にしてと言えば、『場亜流』として生まれ変わらせ有数の旅館とする。実力、人柄ともにまさに非凡、天才的だった

何より──

「アグニカ・カイエルとは。誇り高き意志と、決意をもって、人間達を守護し立ち上がった者であり、私の世界において──」

24時間のバエル教育を否応なしに受け、またそれを弁舌にて表したマクギリスの評価は、タバネの中で遥かに振り切れた

「あはははははははは!!面白い面白すぎー!あなたバエルを手にいれてから何も考えてなかったんじゃん!」

「そうだ。バエルを手にするものこそが総てを手にするがゆえに」

その狂信、その清らかな狂気に、鮮烈に彼女は魅せられた。信仰者のような清廉さ、狂信者のような支離滅裂さ。それでいて──バエルを語るときの、彼の子供のような顔

(あぁ、解った。やべーやつで馬鹿なんだ)

なんと、なんと面白い逸材なのか。これを逃してはいけない。極めて、極めて興味深い観察対象だ。それに何より──

「法被が似合いすぎて笑えるー!あははっ、いいよ!面倒見てあげる!タバネさんに任せなさい!」

「ありがとう、感謝しよう」

彼が持つデータを使えば、あの風紀委員に釘を刺せるだろうと彼女は直感した。彼こそが、異物を排除する鍵であると

ならば・・・ここは飼い慣らしておくのが正解だ

「じゃあ、よろしくね!・・・んーと・・・」

まだ、ここは仲良くしておこう

「マッキー!よろしくねー!じゃ、助手のキラきゅんを紹介するよー!」

余計な事をされるより、手に届く場所で管理しておくのが一番なのだから。そう・・・狡猾な羊は笑うのだった・・・


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風紀委員として

それでも読みたいと言ってくださった方の為に初投稿です




チフユ「おまえたちにやってもらいたいことがある。シルヴァリオ・ゴスペル・・・通称『福音』が、制御下を離れて暴走。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。この機体は、超音速飛行を続けている。アプローチは、一回が限界だ」

ヤマダ「一回きりのチャンス。ということはやはり・・・一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

オルガ「なるほど・・・イチカァ!」

イチカ「おう!」

「ミカァ!」

「うん」

「やってくれるか!」

「いいよー」

「あぁ!・・・やります!俺達が!鉄華団がやってみせます!」

チフユ「よし。それでは・・・」

タバネ「待った待った──!その作戦は、ちょっと待ったなんだよー!」

「む・・・」

オルガ「勘弁してくれよ・・・」

シャル「オルガ!変なのが来る、気を付け──」

「とぉう!!」

「ぐぅうぅうっ!!」

キボーノーハナー♪

「オルガーっ!!」

「だからよ・・・ふざけんじゃねぇぞ・・・」

チフユ「出ていけ」

「聞いて聞いてー!此処はだーんぜん!紅椿の出番なんだよー!!」

三日月「・・・」

「ねーミカくん!ミカくんもそう思うよね~!」

「・・・あんたじゃないの?」

「?」

「これ、あんたの仕業じゃないの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・なんのこと~?うさぎさんわかんなーい!」

「ふーん。ならいいや」

ラウラ「ミカ、何処に?」

「準備。ラウラは、待ってて」

ラウラ「う、うむ。・・・では、『また後で』な」

「うん」

「・・・ねーミカくーん」

「?」

「耳かして耳かしてー」

「・・・」

(──そろそろ死んでいいよ、君)

「・・・」

「ばいばーい・頑張ってねー!」



キラ「無茶苦茶だ!紅椿のデモンストレーションの為に、福音をハッキングさせて暴走させるなんて!」

マクギリス「全く、困った女だ・・・」

(私を殺せば、バエルのブラックボックスからモビルスーツの情報が世界中に散布されると釘を刺し、命を拾いはしたが・・・天災の頭は、やはり常人では読めない、か)

「あの、大丈夫ですか?」

「バエルを手に入れた私は、ダインスレイブに撃ち落とされる存在ではない」




午前十一時三十分、暴走と飛行を続けるIS『銀の福音』──そう呼称されし対象の静止に選抜されし三人の作戦実行担当者が顔を合わせる

 

「・・・時間だな」

 

決意と揺らぎなき真っ直ぐな視線を送り、海を睨むはオリムラ・イチカ。突撃と攻撃を担当し、『銀の福音』に止めを刺す役割を請け負った彼は、傍にいる──頼もしい仲間であり、誰よりも強く優しい悪魔に声をかける

 

「ん。モップももうすぐ来ると思うよ」

 

風紀委員、三日月・オーガス。作戦成功祈願たるラウラの差し入れあんパンを食べながら、ぼんやりと波のさざめきを聞き、イチカに相槌を打つ

 

今回の作戦は、高速で移動を続ける『銀の福音』に、第4世代であるホウキの『紅椿』の先導、誘導にてイチカが高速接近。バルバトスの遊撃、援護を受けながら太刀の一撃にて止めを刺す電撃作戦が考案されたのだ。タバネという天才の入れ知恵はあったものの、作戦は理に叶っており・・・機動力と攻撃力に優れているイチカ・ミカ・そしてホウキが選抜されることとなったのだ

 

「よく食うなぁ、あんパン。腹下すなよ?」

 

「ラウラが用意してくれた。腹ごしらえして必ず帰ってこいって。──大袈裟だね」

 

そう言いながら、静かに微笑む三日月。純粋な心配と配慮であることを、彼はしっかり受け止めている。解っている。その気持ちを裏切ることはしないし、したくない。だからこそのあんパン消化であり、実食に勤しんでいるのである。流石に7個めは胸焼けしそうだけど、と漏らしながらも手は止まっていない。そんな仲良しぶりに、イチカも笑みをこぼしてしまう

 

「──必ず成功させような、ミカ」

 

「当たり前じゃん。風紀委員の活動は始まったばかりだから。帰って掃除しなきゃ」

 

変わらぬ会話。変わらぬ気概。それでも──大丈夫だと確信させてくれるその小さなやりとり。無言で拳を合わせ、やってきたホウキと頷き合う

 

「──二人とも、よろしく頼む。戦闘経験は少ないが、必ずやってみせる。水先案内人は、この私が引き受けた」

 

ホウキも決意を露に、三日月とイチカに声をかける。その触れれば切れるがごとき臨戦の気迫に頼もしさを覚えるイチカ、そして三日月は・・・

 

「ん、二人とも。あんパン」

 

戦友の証、仲間の証であるあんパンを二人に渡す。彼なりの気遣いであり、また、言葉少ない彼の誓いの合図でもあるのだ

 

「い、いいのか?」

 

「緊張しないで。俺達なら出来るよ。モップも、ちゃんとフォローするから」

 

「──すまない、助かる。三日月がいるならば百人力だ。イチカと共に、必ず作戦を成功させよう!」

 

 

『必ず帰ってこよう』そういった──言葉なき号令。激励でもあるその振る舞いに、僅かな不安も吹き飛ばされる

 

「──よし!来い、白式!」

 

腕輪に待機されていたイチカのIS、純白の近接格闘型たる『白式』が展開される。その闘志を形とし、鉄華団としての意地と面子、自らの為すべき事を為すための力を、此処に示す

 

「行くぞ、『紅椿』」

 

静かに、左手に待機させていた鈴付きの腕輪を展開する。姉より押し付けられた、或いは託された第4世代なるIS。・・・身内人事で手に入れた最強の力に、思うところが無いわけではない。だがこの力が、たった今必要とされている。ならばこそ、躊躇ってはいられない。仲間を、命を、イチカを助けられるなら。──今がその時なのだ

 

「──バルバトス」

 

必ず皆の、オルガの、ラウラの下へと帰る。それのみを考え、任務とやるべき事を終わらせる。風紀委員としての決意、そして学園生活を護りたいと願う一人の人間としての意志。──悪魔は、ISはその願いに応え、バルバトスのフォルムを、かつて学年別トーナメントにて現出させた『バルバトス・ルプス』として展開させた。それは、想いと願いを懐いた三日月が、新たなステージに立った事に他ならない

 

『聴こえるか』

 

空中へと飛び立った三人に、鋭い音声が飛ぶ。オペレーターたるオリムラ・チフユのナビゲーションだ。彼女もまた、監督と指揮を担当しているのである

 

「はい」

 

「ん」

 

「はい。よく聞こえています」

 

『良し。──今回の作戦の要は、一撃必殺だ。短時間での決着を心掛けろ。討つべきは、シルヴァリオ・ゴスペル。以降『福音』と呼称する』

 

「「了解」」

 

「解った」

 

『心配すんな。鉄華団のお前らならやれる。俺らは皆信じてるからよ。・・・派手に前を向いて、暴走してるISに一発かましてやれ!』

 

オルガの激励に、一層気を引き閉める三人。団長として奮戦してきた彼に、無様な真似は見せられない。彼は死んでも死んでも立ち上がった。弱小なるISだろうと奮闘してきた。死地においても足掻くことを示してきた。なればこそ──足を止めず、困難にも立ち向かなくては

 

『ミカ』

 

そんな中、三日月に秘匿回線を送るものがある。彼と、『彼女』のみが知る回線。それを利用するものなど、一人しかいない

 

『ラウラ、どしたの?』

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。死地に赴く彼に、嫁たる三日月に。こっそりと通信を繋げたのだ

 

『・・・心配するな。私は心配していない。お前は私の嫁だ。いつものように、必ず凱旋し勝つと信じている』

 

『うん。俺も帰るよ。ラウラの隣に。嫁ってそういうんでしょ?』

 

『あぁ、その通りだ。──ミカ』

 

『ん?』

 

『武運を祈る。──信じているぞ』

 

『ん。ありがとね』

 

言葉数は少なくとも、心は確かに繋がっている。その事実に──三日月は、素直な笑顔を浮かべる

 

「じゃあ、行こっか。三人とも。──バルバトス。三日月・オーガス。出るよ」

 

「掴まれ、イチカ。──私がお前を導こう」

 

「おう!帰ろうぜ、皆で!」

 

起動する、第4世代。──刹那の内に空中へと飛来し、遥か青い空の彼方へ駆け抜ける紅白の三機体。期待を背負い、不安を切り裂く飛翔が執り行われ、現場へ急行、作戦開始の合図となる

 

「くぅうぅうっ──!!」

 

第4世代である紅椿の加速は尋常でないものだ。目すら開けられず、肩にかけた手を離さぬようにするのに精一杯な有り様であるイチカが、なんとか片目を開け飛来し続ける紅椿を、心から称賛する

 

「すげぇよ・・・紅椿・・・!」

 

「オルガの真似?凄いね、モップ」

 

「姉の腕前は確かだ。腕前は、な・・・舌を噛むなよ、二人とも!」

 

言葉少なく、猛進を続ける紅椿。単純な速度ではやや勝るバルバトスだが、高速の切り替えによる、瞬発力を活かした跳躍飛行、つまり技術にて最新のISを擁する紅椿に追従を果たす。センスと腕前は、ISの世代差すら覆している。イチカはその姿にも、心から感嘆を表す

 

 

「すげぇよ、ミカも・・・!」

 

「別に、普通でしょ」

 

「無駄話は終わりだ。暫時衛生リンク確立。情報照合完了。目標の現在位置、確認」

 

『福音』の飛来速度、移動位置、距離を算出し、その機体を制止させる準備に入る。更に加速を進めるホウキ、射撃武器を展開し、迎撃を行う三日月、そして──

 

「──行くぞ、二人とも」

 

「解った」

 

「頼む、ホウキ!」

 

猛烈に加速を行い、福音を目視の距離にまでとらえ込む三人。──目の当たりにする、銀色にて高速飛行を行うターゲット。見間違うはずもない。あれが──

 

「あれが、『シルヴァリオ・ゴスペル』か・・・!」

 

「ふーん・・・無人かな、あれ」

 

殺気のようなものは感じない。どうやら本当に暴走しているだけのようだ。ならばこそ、容赦も加減も必要はないと三日月は判断する。やり易くていい、と

 

「更に加速するぞ、接触は十秒後だ!」

 

いよいよ以て最高速に達する赤椿。体を起こし、自らの武器たる光剣を展開し一撃の下切り捨てんと決意するイチカ。白銀の機体に肉薄、必殺の一撃を叩き込む。作戦の本懐を果たさんがため、彼は気迫の咆哮と共に構えを取る

 

「うぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!!」

 

あと一息にて、一刀両断──なれど、福音の対処、行動もまた凄まじいものであり、一筋縄では行かぬ対抗と機動手段を執り行う

 

身体全体で振り返り、猛烈な加速にて太刀の間合いから離脱。激烈な加速にて、戦闘危険領域より離脱する

 

「逃げたよ、どうする?」

 

「勿論、止まらないで押しきる!ホウキ!!」

 

「任された!」

 

紅椿ならば追い縋れる。一度は気付かれ逃げられようと次はない。最大出力、白式、紅椿が共に白銀を落とさんと翻り二の太刀を叩き込む

 

「はぁあぁあぁあぁぁあぁ!!!!」

 

[──]

 

そのIS──福音はその行動を予測し、把握し、計算し、理解した。機動を読み、出力を上げ、再び危険な間合いから離脱し反転飛行し距離を離す

 

「またかわした!?」

 

「任された」

 

三日月のバルバトス・ルプスが逃がさず、すれ違い様に一撃を与える。初のクリーンヒット、だが浅い。身を捻り、致命傷を避けたのだ。だが──態勢は、確実に崩れた。瞬間の空白を、三日月がマッチメイクにてお膳立てを行う

 

「イチカ!今だ!!」

 

「おう!!──ッ!?」

 

止めを刺さんとしたイチカの目に──海に浮かぶ物体が映り込む。それは船──この場にいるべきではない筈の、しかし人が必ず乗っている・・・

 

銀の福音が反転し、無数の青き弾幕にて攻撃に転ずる。それらは問題なく弾き落とせるモノだが・・・イチカは、そこから動く訳にはいかぬ理由が出来てしまった

 

「はっ!ふっ!!」

 

太刀にて、流れ弾と危うい機動の弾幕を叩き落とし受け流す。なぜ此処にあるか、封鎖した海域に何故船が進んでいるのか──そんな事は、イチカにはどうでもいいことだった

 

「何をしている!?折角のチャンスを!?」

 

「密漁船がある!海域封鎖した場所に船なんてそれくらいしか考えられない!」

 

「──死んでいい奴等なの?」

 

猛烈に攻勢に転じる福音。今度はこちらが足並みを崩される事となる。無数に放たれる青い弾幕を三日月が射撃にて叩き落とし、福音に追従し二人を護り抜きながら状況を好転させる為に奮闘を行う

 

「奴等は犯罪者だ!構うなイチカ!!」

 

「いや!!どんな奴だろうと、命を見殺しにするのは筋が通らない!」

 

放たれる福音の弾幕。それらを直撃コースから護り続ける白式。その行為は断じて効率的に非ず、その行為は犯罪を幇助する事にすらなりかねない行為だ。それでも──

 

「筋と義理だけは、鉄華団に恥じない筋は通さなきゃ・・・!命を見捨てて作戦を優先だなんて、オルガは絶対にしないはずだ!」

 

その気高くも愚直、そして無鉄砲な振る舞いは──生命の無事と共に、残酷な現実を突きつける

 

「ッッ!エネルギーが・・・!」

 

太刀の光が消えていく。むやみやたらと振り回した英雄的自己犠牲のツケが此処に払われる。丸腰となり、福音の攻撃に対応できぬ致命的な隙をイチカは晒してしまう

 

[──]

 

その隙を見逃す存在では無かった。更に放たれる弾幕。冷静に残酷に、勇敢なる愚者を海の藻屑にせんと放たれ撃ち込まれる無数の弾幕

 

「イチカ──!!!」

 

福音に吹き飛ばされていた紅椿は、フォローが叶わない。明確にやってくる死の予感。イチカの身に、一秒先に振りかかる非情なる結末。ホウキを絶望が、イチカに真っ白な光景が飛び込んでくる。──それは全ての終幕。致命的な終焉。訪れし、生命の断絶。誰も、それを覆すことは出来ない。人間の手では、定まった運命は覆せない

 

──そう。人間の手では

 

 

「イチカ!!」

 

その結末を良しとせぬ者が一人いた。その未来を許せぬと叫んだ者がいた。誰よりも強く、誰よりも優しき一人の──悪魔がいた

 

「なっ──!!」

 

突き飛ばされる白式。イチカの視点が反転する。直撃コースから弾き飛ばされる。目の前が明滅する。乱回転しながら、それでも眼に映った、イチカの眼に焼き付いた光景

 

「──オルガに言っといて。ごめんって」

 

「ミ──」

 

瞬間、巻き起こる大爆発。直撃を示す衝撃。空に浮かび上がる大輪の華、生命を散らす、目映き花火

 

「三日月ッッ!!!」

 

ホウキの加速も届かない。爆散し、装甲を弾き飛ばしフレームを剥き出しにしながら、落下していく悪魔

 

──悪魔は、人の運命を左右する。契約にしたがい、良き方にも、悪い方にも

 

「・・・うそだ、そんな──」

 

悪魔は──三日月は契約した。IS学園の皆を必ず護ると。その契約に従い──

 

上がる水飛沫、沈んでいくバルバトス。そして、悪魔と命運を共にする──心優しき風紀委員

 

「──なに、やってんだよ!!ミカァアァアァアァーーーッッッッ!!!!!」

 

慟哭と、絶望に絶叫するイチカ。放心し、愕然とするホウキ。そんな中──

 

 

 

『・・・・・・良かった。イチカもモップも、無事みたいだ』

 

激痛も虚無感も脇にやり、無事であった二人を最期まで案じながら──悪魔は己の身を引き換えに・・・友の運命をねじ曲げたのだ

 

『・・・──風紀委員として、少しは役に立てたかな・・・』

 

運命を覆した代償を、余さず肩代わりし、背負いながら──三日月は、水に漂うな浮遊感と虚脱感に身を委ねた──




ラウラ「そんな、嘘だ・・・!!三日月が、ミカが、そんな──!」

チフユ「すぐに回収だ!急げ!何をしている!三日月を救助しろ!説教も後だ!!」

オルガ「──・・・ミカ、お前・・・!!」

ラウラ「ミカ!!ミカ!!返事をしろ!返事をしてくれ!!」

チフユ「ボーデヴィッヒ・・・」

「何をしている!大丈夫だと、問題ないと言ってみろ!いつもみたいに、私を安心させてくれ!頼む、頼む・・・!お願いだ、返事をしてくれ!」

シャル「ラウラちゃん、落ち着いて・・・!」

ヤマダ「三日月の生体反応、微弱で掴めません!周辺地域を探索してください二人とも!予想地点を送ります!」

「何をしている・・・!最強だろう、無敵の風紀委員だろう・・・!私の嫁だろう・・・!夫を残して先立つ嫁など、何処にいる・・・!」

オルガ「・・・・・・」

「返事をしろ・・・!私の!夫の言うことが聞けないのかぁっ!!ミカあぁあぁあぁっ!!」

『・・・・・・・・・』

「うぅ、っ、うぅ・・・嫌だ、嫌だ・・・頼む・・・返事を・・・声を、聞かせてくれ・・・」

『・・・・・・──それ・・・』

「!!」

『・・・どめすてぃっく、ばいおれんすって・・・言うんだよ、ラウラ・・・・・・』

「!!ミカ!!」

「通信、生体反応掴めました!!二人とも!急行してください!!」

『・・・・・・──────』

「ミカ!ミカ!!しっかりしろ!今、今救う!死ぬな、死ぬな、死ぬな・・・!!」

「・・・・・・すまねぇ、ミカ。・・・おんぶにだっこのツケを・・・お前に・・・背負わせちまった・・・」


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止まるんじゃねぇぞ

最終回も近いので初投稿です


ヤマダ「・・・停止していますね。本部はまだ、私達に作戦の継続を?」


チフユ「解除命令が出ていない以上、継続だ」

ヤマダ「ですが、これからどのような手を・・・」

イチカ「──────」

チフユ「・・・・・・」

シャル「・・・失礼します」

「デュノアか・・・待機と言った筈だ!入室は許可できない!」

「・・・!」

ラウラ「・・・──教官の言う通りにするべきだ」

「・・・でも!」

セシリア「三日月さんも、イチカさんも・・・ずっと目覚めていませんのに・・・」

ラウラ「・・・哀しんでいたところで、状況は好転しない。私達が、次に何をすべきかを考えろ。哀しむなど、時間の無駄だ」

リン「あんたね!そんな言い方!あんなに喚いてた癖に──」

ラウラ「・・・・・・・・・・・・・・・──────っ・・・」

リン「・・・ぁ」

「・・・教官も、オリムライチカの放心に立ち合っている。誰が一番嘆きたいか、考えてみることだ」

「・・・ごめん」

セシリア「悪い夢でも見ているようですわ・・・三日月さんが、あんな、あんな・・・」

シャル「・・・オルガ・・・」

(・・・大丈夫、だよね。オルガなら・・・必ず、走り出して、くれるよね。・・・必ず僕を、皆を・・・連れていって、くれるよね・・・)

「・・・何考えてるの、僕は・・・」

(一番辛いのは・・・オルガじゃないか・・・!)

「でゅ、デュノアさん!」

「どこ行くのよ!?」

「オルガのとこ!きっと、一番辛いから──!」

ラウラ「・・・・・・ミカ・・・」







「・・・よぉ。調子良さそうじゃねぇか、ミカ」

 

夕陽が差し込むその部屋に。俺は、そう言って横たわる相棒に声をかける。点滴の音、そんで・・・無機質な心電図の音しかしねぇ、静かな場所で。俺とミカ、二人っきりの部屋で、俺はミカの──布団に寝かされてるミカの傍であぐらをかいて座ってる

 

「最後の最期まで、とことんまで真面目に筋を通しやがって。お前は、こっちに来てすげぇ変わったよな。・・・いや、なんも変わってねぇのかもな」

 

ミカは俺の言葉に、なんの言葉も返してきやがらねぇ。ただぼんやりと、生きてるのか死んでるのかわかんねぇくらいにうすぼんやりしてる、ミカの姿を見下ろしてる

 

「自分で沢山話すようになったし、誰かの事を一生懸命考えるようにもなった。風紀委員だって張り切って、自分から、なんでもするようになったよな」

 

ミカはめっきり、次はどうすればいい・・・なんて台詞を言わなくなった。キチンと自分で考えて、自分の護りたいもんを決めて、護って、体張って頑張ってきやがった。表情も、自分じゃ気づいてねぇかもしれねぇけどよ、すっげぇ豊かにコロコロ変わるようになってたんだぜ。気づいてたか?

 

「皆がお前をすげぇって言ってる。そんで俺も、すげぇとお前を思って疑わなかった。誰も彼もが、お前がこんな事になっちまうなんて考えもしなかった。──誰もだぜ?やっぱすげぇよ、ミカ、お前は」

 

俺はそういって・・・あんパンを、こっちに来てから何度もミカとラウラが食べてた、お前が気に入ってる食べ物を食べてみる。火星ヤシと同じくらい気に入ってた気もする、お前が毎日食べてたヤツだ。・・・ったくよ、勝手に食べるな・・・くらい言ってみやがれ。いつものお前なら出来んだろ?

 

「・・・なんだよ。結構うめぇじゃねぇか」

 

口んなかに広がるアンコの甘味が、今日はなんだか染みやがる。お前がそんな辛気くせぇ顔してっからじゃねぇか。今更だね、くらい言ってみろって

 

「ミカ、覚悟しとけよな。ラウラの奴、カンカンに怒ってたぜ。なんとかキリッとしてやがるが、押したら折れちまうような頼りねぇかんじで、皆の事を叱ってやがったぜ」

 

一番先に泣きわめいた後は、一番真っ先に立ち直って皆を激励してやがった。『嫁は生きている。無用な感傷は嫁と私の侮辱になると思え。反論は許さん』・・・ってな。いい夫じゃねぇの。目の下隈作って、震え声でキリッとしてるのは・・・まぁ、言わねぇ約束だわな

 

「・・・あんないい婿さん、泣かせんじゃねぇぞ。何やってんだ、ミカ」

 

そんな俺の語りかけに、答える声はねぇ。夕陽が差し込んで、無機質な機械音が響いて、いつ起きるかもわからねぇ真っ白な顔のお前が其処にいるだけだ

 

・・・俺は、数えきれねぇくらいにミカやイチカに助けられてきた。皆に支えられてきた。なんとかやって来て・・・引っ張ってきて。やっていけてると思ってた。何処かで、俺はしっかり頭張れてると、自惚れてたのかもしれねぇ

 

「・・・団員を護んのは俺の仕事の筈だった」

 

そうだ。そいつが、団長である俺の勤めの筈だった。そいつだけを目指して、やっていって、この世界にお前と一緒に来て、そいつだけが俺の進むべき道で、通すべき筋の筈だった。団長としてやっていってる俺は、皆の目に最高にカッコよくて、最高に粋がってるオルガ・イツカである筈だった。──筈だったんだ

 

「・・・だが」

 

今は・・・どうだ。こいつは、そんな上等なアガリなのか。団員のお前を・・・ミカを、こんなボロボロにさせちまって。生死の境をさ迷わせちまって。そんなお前の痛みや苦しみを背負ってもやれずにのうのうと、俺は無事なままお前を見下ろしてる

 

何やってんだ?俺は、団長って肩書きを背負ってる俺ぁ、一体何をやってんだ?その答えを、このバカな俺はどうやって見つければいい?どんな風にケジメを、落とし前をつけりゃあいい?

 

「──ミカ。次は、何をやればいい?」

 

俺は、この先何処を、何を目指して進みゃあいい?俺は何を、何処をどう乗り越えて行きゃあいいんだ?辿り着いた場所で、転生したこの場所で。立ち止まっちまいそうな俺は、・・・お前を護れなかった俺は・・・一体何をすりゃあ、アガリにたどり着けるってんだ?

 

ミカはうんともすんとも言わねぇ。何も言わねぇ、何も語らねぇ。ただ、死んでんだか生きてんだかわかんねぇ姿で、機械に生かされてる。目を開かねぇで、ただ寝てるだけだ

 

「・・・・・・ケジメをつけるってんなら、いくらでもつける。首を刎ねてそこらに曝してくれたっていい。だけど・・・」

 

かつて言った、みっともねぇ命乞いの言葉。そんな言葉を言ったってミカは困るだけだ。俺なんぞの命なんかじゃ、ミカの命には釣り合わねぇ

 

これからだ。これからだって時に・・・俺はお前に、下らねぇアガリを押し付けちまった。当たり前のようにいつもは生き返れるくせに、こんな時はてんで役に立たねぇ。──全くよ。俺は何をしてんだよ?・・・何をしてぇんだよ

 

「・・・ミカ。・・・俺はお前に・・・」

 

詫びなきゃならねぇ。ケジメを、落とし前をつけなきゃなんねぇ。それがどんだけかかろうとも、お前にやんなきゃいけねぇことだと・・・頭を下げようと、詫びを入れようとした・・・そんときだった

 

 

──謝ったら許さない

 

 

「・・・!」

 

いつか、どっかで俺がミカに言われた言葉。謝るな、進み続けろ。連れていってくれ、此処じゃない何処かへ

 

そのために、ミカは命を張ってきた。俺なんかの連れていく、見せてくれる景色が見たいだなんて理由で、最後まで、死ぬまで、・・・死んでも、俺に付いてきてくれた。その言葉が──頭によぎったんだ

 

「ミカ、お前・・・」

 

勿論、今のミカがそう言ったんじゃねぇだろう。寝たきりのミカが、死にかけのミカがそう言ったんじゃねぇだろう。・・・だが、聞こえた。たしかにミカは、俺にそう言った。そう告げたんだ

 

「──あぁ、分かってる」

 

分かってるよ。お前は、そういうヤツだよな。どんなことになろうと、どんなピンチだろうと、自分が寝ていようと、俺に止まること、戻ることは許さねぇ。絶対に認めねぇ。俺が、お前が望む場所へ・・・ここじゃねぇどっかへ連れていくまで、簡単に、絶対に終わらせてくれる筈がねぇ。たとえてめぇが死にかけていようが、這ってでも、地獄から出てきて俺をぶん殴る。胸ぐら掴んで前を向かせる。そういうヤツだよな。お前は

 

「・・・──団長命令でも、言ったもんな。絶対に死ぬな。こっから死んだヤツは、命令違反で俺がもっぺん殺す、ってよ」

 

そんな命令を、今もお前は律儀に護ってる。新しい団員の皆を護って、殺さねぇで、自分も死にそうな目に逢っても意地でも死なねぇ。だから、今もお前は踏ん張ってる。──俺なんかの命令を、律儀にしっかり、護ってるんだよな。そうだろ、ミカ

 

「・・・あぁ、分かったよ。連れてってやるよ。・・・連れてきゃいいんだろ」

 

俺達の終わりは、俺達の上がりはここじゃねぇ。始まった学園生活が、第二の人生が、風紀委員に鉄華団が。こんな所で終わっていいはずがねぇ

 

「そのために──やれることをやれ、出来ることをやれ。その為に・・・なんだってやれってんだろ。ミカ。──俺達が、辿り着く場所に行くためによ」

 

ミカは、何も言わねぇ。ミカは何も語らねぇ。・・・語る必要もねぇからだ。伝えたいことは、全部伝わってる。言いたいことは全部言ってる。俺の胸ん中に、ミカの全部は受け取ってる

 

『今更だね、オルガ』なんて・・・お前は言うんだろうけどよ。本当なら、言わなきゃわかんねぇからよ。以心伝心に、甘えすぎてんじゃねぇぞ、ってんだよ

 

「・・・・・・さてと。そんじゃ、行ってくるわ」

 

ちっとお前は働きすぎってヤツだ。有給休暇だと思って、其処でゆっくり寝とけ。丁度いい息抜きってヤツだ。ただし・・・

 

「甲斐甲斐しいナースや、目覚めのキスは期待すんなよ。俺らはやるべき事をやる。此処で止まってる暇はねぇんだ。──起きてから、ブーたれるんじゃねぇぞ?」

 

俺は、もう此処に用はねぇ。話すべきことは、もう何にもねぇ。やるべき事、やらなくちゃならねぇことがある。──とまんねぇかぎり、道は、続く

 

「──オルガ?」

 

立ち上がった俺の後ろから、俺の名前を呼ぶ声が響く。俺が護るって言った女。これからどうすればいいか、俺がふがいねぇばかりに、止まっちまってる皆がいる

 

なら、俺は立たなきゃならねぇ。どんだけ辛かろうと、どん詰まりだろうと、行き止まりだろうと。俺は足を止めちゃいけねぇ。──鉄華団は、離れちゃいけねぇんだ

 

(見とけよ、ミカ。こっからは俺の番だ。美味しいところを食われたくなかったら、さっさと起きてきやがれってんだ)

 

狸寝入りこいてやがったら、いつの間にか終わってるぞと。それだけを告げて、俺は制服に袖を通す

 

──作戦中止の命令は出ちゃいねぇ。上は、まだ俺らを使うつもりでいやがる

 

・・・いいぜ、やってやろうじゃねぇか。決して散らない鉄の華は、まだなんにも見せちゃいねぇ。天国に鳴り響く福音なんぞに、これっぽっちも興味はねぇ

 

「シャル。──皆を、集めてくれ」

 

俺が、俺達が目指すのはいつだって──自分達が目指す居場所だけだ

 

「オルガ・・・!──うん!今すぐ!」

 

さぁ、ちっとまごついちまったが・・・諦めやしねぇ、鉄華団の再スタートだ

 

「景気よく・・・前を向こうじゃねえか。なぁ、ミカ」

 

ちっと疲れて眠りこけてやがる相棒を背に──俺は前を向いて、止まることなく行きだす

 

──とまんねぇかぎり、道は続く。ミカ、お前がとまんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!

 

「だからよ・・・」

 

お前も──いつまでも止まってんじゃねぇぞ、ミカ!




オルガ「皆、聞いてくれ」

シャル「うんっ」

セシリア「えぇ、勿論ですわ」

リン「遅いのよ、バカ」

ラウラ「・・・お互い、いつまでも下を向いてはいられまい」

ホウキ「あぁ、分かっている」

「──二人がやられちまった。だが、此処で脚を止める訳にはいかねぇ。俺達の仕事はまだ終わってねぇからな。二人が安心できるように、この仕事はきっちり終わらせる」

「「「「「・・・」」」」」

「福音サマは分かってねぇ。鉄華団は、ただのガキの集まりじゃねぇってことを。こっから先はそうじゃねぇ。今から俺達の前に立ち塞がるヤツは、誰であろうとぶっ潰す。そうだろ、シャル」

シャル「うんっ。皆気持ちは一つってこと!スジと、オトシマエはきっちりつけなきゃね!」

セシリア「三日月さんが・・・風紀委員が、鉄華団が。負けたまま終わっていい筈ないでしょう?三日月さんに、恥ずかしい真似はできませんわ!」

リン「決まりね!」

ホウキ「戦って勝つ。ミカの・・・イチカの為にも。今度こそ、負けはしない!!」




ラウラ(ミカ・・・取り乱してすまない。お前に、最後まで迷惑をかけてばっかりだ。でも──)

福音[]

(私らしくないなど、言わないでくれ。私はお前を必要としている。この世界の誰よりも、だ)

「──左舷、命中!」

(だからこそ──今は涙ではなく、勇気をお前に手向けとする。必ず、お前に恥ずかしくない私を、お前が目覚めた時に見せつけてみせる!)

ホウキ「・・・イチカ。ゆっくり休んでいてくれ。今度こそ、必ず・・・!」


オルガ「──辿り着くぞ!!」

(それが、鉄華団だ。そうだろ──ミカ!イチカ!!)



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反撃開始と行こうか!

仕事の深夜帯が終わったので初投稿です


旅館

ミカ「・・・・・・」

イチカ「・・・・・・ミカ。──俺は・・・」

「・・・」

「・・・俺は、どうすればいい。今まであんだけかっこつけてたくせに、招いた結果がこれだ。こんなザマで・・・俺に何ができるんだ・・・」

「・・・・・・──」

「俺は・・・次は、何をすればいいのか・・・わからなくなっちまった・・・・・・」

「────決まってるでしょ」

「!?ミカ!?」

「──大事な、この世界の仲間を・・・護る。友達を・・・護る。そのために、止まれない・・・止まっちゃいけない」

「ミカ!動くな、傷が──ピギュッ!?」

「──・・・・・・」

「・・・ねぇ、イチカ。此処が、イチカの場所なの?」

「・・・ミカ・・・」

「──ここが、オリムラ・イチカの場所なの」

「──・・・・・・いや」

「・・・・・・」

「・・・違う。きっと・・・いや、絶対に違う!」

「・・・そっか。なら・・・行かなくちゃ。先に行ってていいよ」

「!」

「すぐに・・・追い付く」

「──あぁ・・・!じゃあ・・・先に行く!必ず来いよ!待ってるからな!」

「うん・・・」




マクギリス「さて、禁忌の力、どう使うのやら。見せてみろ、君達の可能性を」

タバネ「ミッキーはくたばってるし、マッキーも負傷してるし、イチカの活躍は決まったようなもの!フフー、気分イー!」

マクギリス「さて、そう上手くいくかな?」

キラ「・・・マクギリスさん?」

「悪魔は義理堅いものだ。一度交わした契約を、途中で投げ出したりなどすまい、という事だよ──」

「何それ、ポエミー!」


暴走し、何者の制止も意に介さず単独行動を続け飛来し飛行する無人IS『銀の福音』。その脅威と圧倒的性能の前に、三日月・オーガス、そして精神に強烈なショックを受けたオリムラ・イチカが戦線離脱を余儀無くされ、大幅な戦力ダウンと共に、任命された討伐、破壊指令は失敗した。だが、討伐の命令はまだ取り下げられてはいない。必ず、断固とした作戦の完遂を上層部は求めている。それ故に──

 

いや、それは最早彼等にはどうでも良かったのだ。そもそもの話、それはあくまで他人のものであり、命令であり、そして伝えられたものだ。それを遂行する事に異論は無くとも、遵守するつもりも、素直に従う賢さも。──仲間の受けた借りを叩きつけ返すという理屈の前に、全ては二の次となっているのだ

 

(当然、防がれるか・・・!)

 

ラウラ・ボーデヴィッヒの放った遠距離射撃の一撃を難なくフィールド、絶対防御で防ぎきり、同時に外敵、脅威を認識した『福音』は、その銀のフォルムを展開し迎撃、そして殲滅の構えを取る

 

臨むところだ。ラウラは決意と使命に燃え、続けて砲撃を行う。その胸の感情を、弾丸に乗せるが如く連続にて間断無く

 

(何としてでも、貴様を倒す・・・!)

 

あの時、自分は致命的な失策を犯した。命令に、そして作戦という規律に阻まれ、嫁を単独で死地に送り込ませるという愚策を取ってしまった。あまつさえ、夫である自分はあろうことか殊勝にも『無事を祈る』等という甘ったれた女々しい手段にて夫の本懐を果たしたと思い上がっていた

 

償えぬ失態だ。愚かにも程がある選択だ。あの時自分は決定的に間違えた。何を差し置いてでも、何を犠牲にしてでも『共に往く』事を選ぶべきだったというのに。──夫の不甲斐なさの報いを、嫁たる三日月に押し付けた。それは決して、赦されざる失態である。何より自分が、自分自信を許せない

 

自らの怒りが、福音の機動性が射撃を無効化させていく。回避を繰り返し、猛烈に接近する福音を前に──ラウラは、その禁忌の封印を解く

 

(排除する──。私の生命に懸けて、貴様を討つ)

 

左目の眼帯を解き、秘められたISの力と真価を完全に解放する。ヴァルキリー・トレース・システム。過去のとある操縦者のデータを完全再現する条約にて禁止されている切り札にして奥の手。それを、躊躇いなく使用する。今度こそ、今度こそ──

 

「どんな手を、使ってでも・・・!貴様が──」

 

フォルムすらも変化し、紅き単眼、漆黒の人型、装着式フルアーマーモードとなったラウラのIS。それは三日月達の世界、モビルスーツとされるフォルムであり──とある悪辣な存在が得たデータを適当な失敗作を捨て駒に試してみようという目論みにて変化した『グレイズアイン』と呼ばれる形態に変化する

 

「貴様がぁあぁあぁ!!」

 

其処からのラウラの動きは目を見張る──いや、目で追うことすら困難な程の駆動と機動性を誇り、福音と熾烈極まりない激突による空中戦を演出する。操縦者の限界を越えた機動にて、無人たる福音に追い縋る。人間の意地と気迫が、今こそ虚ろな福音を遮断せんと奮い起つ

 

「おおぉおっ!!」

 

左肩を福音に貫かせ、自らの肉体を囮に渾身の一撃を、ハンドアックスの一撃を顔面に叩き込み、頭突きにて距離を離し、空中回転カカト落としにて福音を墜落落下させる。黒き執念が、白き福音を放つ存在を地へと落としたのだ

 

「ナイス!かかった──行くよ、オルコットさん!」

 

「えぇ、三日月さんにイチカさんの無念を返してやりますわ!風紀委員──侮らないことですわね!」

 

オレンジと蒼のIS、セシリアとシャルロットの無数の弾幕が体勢を崩した福音に叩き込まれていく。効果は薄くとも、直撃をすればそれなりのダメージとなると判断した福音は即座に転身し、その場からの離脱を図り飛翔せんとする

 

「そう来ると思った!──オルガ!」

 

『おう。──ぶっ潰す!』

 

その行動は、シャルとオルガの事前の戦術、行動予測のパターンの一つに含まれたもの。数多ある行動予測から導きだしたもの。予測に予想を積み重ねた無人機の無味乾燥な機動は、血の通った人間の予測を上回れない

 

獅電のレールガンが、一直線に駆け抜けていく。皆が作ったチャンスに畳み掛けるための一撃を、勢いを止まらせぬ為の一発を。福音の身体に狙いをつけて叩き込んだのだ。それは──今まで辛酸を舐め続けたオルガの反撃。けして止まらない男の、気合いの一撃だった

 

大きく体勢を崩す福音、海上をスレスレに飛行していく。ダメージは確かに受けたと視認できる。致命的な損害を叩き込むことは出来たのかと固唾を飲みながらも連携を崩さない

 

「まだよ!でも、ここがチャンス!」

 

「うぅぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!!」

 

龍咆にて回避に専念させ、その隙をラウラが追従し押し込む。援護射撃の最中、福音に真っ向から格闘を仕掛け、戦況を確定させていく

 

(無理はするんじゃねぇぞ、お前ら!俺達は負けちゃいけねぇし、死んじゃいけねぇんだ!)

 

オルガの願いが戦場に解けていく。閃光と軌跡が、絶え間無く夜空を彩っていく中──

 

その戦場に馳せ参じようとする、駆け抜ける一人の男が懸命に走っていた。先程まで、廃人寸前までに塞ぎ込んでいた者。しかして、今までの研鑽と奮闘、そして激励にて奮起し、折れようと、それでも──と立ち上がったもの

 

 

(そうだ、そうだよな。友達を・・・)

 

いや。そうじゃない。友達だから助けるとか助けないじゃない。友達だからとか、友達じゃないからとか、そんな取り決めや枠組みは関係ない

 

(いや、この世界で一緒に戦う・・・仲間を護るため。その為に、辿り着くまで止まれない、止まっちゃいけない。そうだよな、それが・・・)

 

鉄華団。それが、けして散らない鉄の華。自分が信じ、自分が憧れ、自分が目指した生き方。ならばこそ、立ち止まってはいられない。迷ってはいられない

 

『止まるんじゃねぇぞ・・・』

 

そうだ、醜態がなんだ。無様がなんだ。まだ死んだ訳じゃない、動けなくなった訳じゃない。このくらいの負傷、なんてことはない

 

自分は知っているはずだ。何度瀕死になろうと、死亡しようと、文句一つ言わずに戦い、皆を引っ張ってきたカッコいい男を。そんなアイツに憧れて、自分は立派な男になろうと決めたんだ

 

(悪い、ミカ!後で死ぬほど謝るし、撃ち殺してくれても構わない。だけど、今は・・・!)

 

そうだ、止まってはいられない。男がやることは、挫けて立ち止まることじゃない。皆が戦っている今、自分が成すべき事を成すんだ

 

己の、翼はまだ──折れていないのだから

 

「──白式!今までヘタレて悪かった!」

 

左手の腕輪に語りかけ、そして告げる。もう一度──

 

「もう一度──俺に力を貸せ!」

 

輝く翼が、今、再び光を取り戻し飛翔する・・・

 

 

──・・・・・・そして同時に。部屋の一室にて、蠢くものがある

 

「・・・・・・まだ」

 

這いずりながら、よろめきながら、自らの肉体を、心を、懸命に前に進ませる者がある

 

「まだ──生きてる。オルガの、命令・・・皆が、待ってる・・・」

 

火傷、脱臼、筋肉の損傷に骨折。瀕死の重症を負い絶対安静でありながら、それでも尚足掻く者がいる。這い上がり、懸命に這いずり続け、ミサンガに──自らの誓いの存在に、手を伸ばす

 

「──オルガ。俺達の、本当の居場所は、きっと・・・」

 

その消え入るような声音と、正反対の眼の輝き。同じ時刻にて、全く同じ様に。二人の少年は手を伸ばす

 

「・・・風紀、委員と・・・して。やること、がある。・・・ラウラ。今、行くから──」

 

翼が羽ばたく。悪魔が目覚める。戦慄の福音が鳴り響く中に、最後の決着を付けるために──

 

 




ホウキ「うぉおぉおぉぉおッ!!!」

福音[──]

斬りかかった刀を難なく掴まれ、そのまま高所へと離脱に巻き込まれんとするホウキ

ラウラ「ホウキ!武器を捨てて離脱しろ!」

「ちいっ──!」

光弾の追撃が目前に迫っている。撃墜と負傷は避けられない。──だが

オルガ「離しやがれ!!」

ラウラとオルガの援護、射撃と格闘の同時攻撃。渾身のハンドアックスの振り下ろしを受けた福音は、今度こそ撃墜、墜落する

オルガ「シノ!」

「・・・無事か?」

ホウキ「・・・私は、大丈夫だ」

オルガ「そうか。──此処までは順調ってこった」

・・・だが、その束の間の安堵は即座に覆される。水色の光球が、海の最中に生まれ出ずる。翼を展開し、極大のエネルギーを光線として放つ

オルガ「出てきたぞ!なんなんだありゃぁ!」

「まずい、セカンドシフトだ!!」

ホウキ「ッッ、ラウラ、オルガ!退けっ!」

咄嗟に突き飛ばし、オルガらを庇うホウキ。その極大の光線の直撃を受け、強烈に吹き飛ばされる

「シノォオぉお────ッ!!!!!」

セシリア「ホウキさん!!」

シャル「オルガ!足を止めちゃダメ!!」

追撃に走る福音。超高威力の光線に晒されんとするオルガの前に割って入り、その身をもって受け止める

シャル「くっ、うぅうっ──!!」

光線を放ちながら急速接近する福音。近接の構えにて、翼を展開しシャルを包まんと襲い来る

「あっ──!」

「──俺の仕事だ!!」

光線を受け止めたシャルを後ろに放り投げ、シャルが食らう翼の抱擁に、オルガが呑み込まれる。

「オルガっ!!」

「ヴうぅうぁああぁあぁあぁあ!!!」

その強烈な衝撃と猛烈なエネルギーに飲み込まれたオルガは、断末魔と共に希望の華を咲かせ墜落していく。ISを解除した、丸腰なままで

「このぉおぉっ!!」

シャルが捨て身の突撃で距離を離させ、素早くオルガを回収しホウキの下へと安否を確認しに飛翔する。とにかく下ろしてあげなければ、負担は尋常じゃない

「オルガ!しっかり、オルガ!」

「こんくれぇ・・・なんてこたぁねぇ・・・」


そして・・・ホウキもまた、朦朧とした意識にて、男の名前を呼ぶ

「・・・イチ、カ・・・」

イチカ「あぁ。悪い、ちょっとへたれてた。──待たせたな」

「・・・!?イチカ!?大丈夫なのか!?」

「おう!くよくよするなって、ケツを叩かれたからな!」

オルガ「──イチカァ!やれんだな!」

折れていた男、見習いのひよっこに発破をかける。その問いに、無言で頷くイチカを見て、一皮剥けたイチカを目の当たりにして──

「フッ──よぉしお前ら!!」

高らかに叫ぶオルガ。この場にて──最後の号令を告げる

「反撃開始と行こうかぁ!!」


「「「「了解!!」」」」


「よぉし、行くぞォ!!」

夜明けを間近にした戦い。最後の決戦。鉄華団の、最後の大一番が幕を開ける──!

イチカ「じゃ、行ってくる」

「イチカ・・・」

「もう大丈夫だ。俺を・・・鉄華団の平団員を信じろ!」

その白き翼も、獅電と共に飛翔していく。男のけじめを、つける為に──!


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俺達の、本当の居場所

完結なので初投稿です

空き缶氏、大変お疲れさまでした

そして、それでも読みたい、待っていると言ってくださった皆様、本当にありがとうございました。

ケジメの為に小説を削除するか悩んでいますが、もう少しだけ、そう言って下さった方達の為に残しておくのかを考え中です

どうか、空き缶氏の作品を愛していただけたなら、幸いです

重ね重ね、本当にお疲れさまでした。オルシャルもミカラウもイチホウも皆好きです

キット・イツカ。空き缶氏の作品の発展を、応援しております


「はぁあぁあぁあぁっ!!」

 

全力をもって抵抗する福音。その速度に全身全霊を以て食らいつくホウキの紅椿。銀と真紅の軌跡が、山脈の上空を縦横無尽に飛び回る。接近し、つばぜり合い、迎撃し力を振るい、共にしのぎを削り合う

 

 

[──!!]

 

福音もまた、全力を以て撃退せんと最大稼働を維持している。離脱は不可能、目の前の敵対者はそれほどの性能を持っている特注品であり最大警戒対象と認識しており、撃破しなくてはこちらがやられてしまうという防衛本能を全開にし戦いを繰り広げているのだ

 

光を弾き、距離を取り、一気に踏み込みもつれ込む。二振りの刀を以た乱舞に体勢を崩し押し込まれた福音は動きを封じ込められた形になり、力付くで抑えられ隙を晒す

 

「イチカ!今だッ!」

 

先程の作戦を今果たす。紅椿が抑える間、機動性に優れた白式が、一直線に剣を突き立てんと加速し奮い起ち、気合いの雄叫びと共に剣を振るう

 

「うぉおぉおぉおぉおぉお!!」

 

[──!!]

 

その目論み、成功した際の被害を計算した福音の動作は鮮やかだった。零距離における射撃による掃射にて力尽くにホウキを吹き飛ばし、蹴り上げ加速し離脱する

 

「諦めるかぁあぁあぁ!!」

 

イチカの気合いに答え、更に翼が加速する。離脱せんとした福音と火花を散らし、必死に、泥臭くも懸命に食らい付いていく

 

「何度も無様は晒せない!男には、意地があるんだ──!!」

 

何度も反撃を受け、装甲を砕かれながらも、砕けぬ魂を奮い起たせ突進する。鉄華団の団員として、一人の男として。ただひたすらに前を向き、どんな障害にも今度こそ、挫けない

 

[──!!]

 

劣勢が覆らない。状況打開がままならない。その事実を表すように耐久が削られ、自らの限界が少しずつ迫ってくる。莫大なスペックが、連携と気合いに押し込まれていき、そして状況を確定させられていくのだ

 

[!]

 

自らの背後から、光線が叩き込まれる。注意を反らすそれを目の当たりにした福音の視界には、蒼きISを纏いし少女に射撃ユニットが追従している姿が飛び込んでくる

 

「私が此処におりましてよ!」

 

同時に、不可視の衝撃もまた自らに撃ち込まれる。センサーに反応した瞬間には着弾していた。マゼンタの近接型、鈴が放った必殺の空気圧縮砲、龍咆が吼えたのだ

 

「イチカ!もう一回よ!」

 

「おうッ!!」

 

加速度的に連携を行う一同を、今度こそ一掃せんと空中へと舞い上がりながら羽ばたき、エネルギーの光球を辺り一帯に掃射し殲滅を行う。一斉に回避行動を執り行う一同に、シャルロットが鈴のフォローを行い離脱し回避する

 

「ラウラ!こっちからも打ち返ヴぅうぁあぁあぁあぁ!!!」

 

ラウラと共に援護射撃を行っていたオルガはその光弾に直撃し、ワンオフアビリティにて希望の華が咲く。だが、その身はラウラのダメージを肩代わりし光明となる反撃を、確かに繋げる

 

「任せろッ!!」

 

超速の弾丸が、銀色の福音をその場に釘付けにする。回避行動を予測され、完璧に退路を断たれた形となるその攻勢に、完全に制動を停止させられる

 

 

「ここまで来たんだ、しくじるんじゃねぇぞぉ!!」

 

此処までやってのけた。人事は全て尽くした。天命に委ねるつもりはない。自らの上がりは、自らの手で掴みとる。だからこそ──

 

「やっちまぇ!!イチカァアァアァアァア!!」

 

「今度は逃がさねぇぇえぇえぇえ!!!!」

 

全力にて突進、全ての力を込めて福音を掴み、フルブーストにて海面を引き摺りながら海岸へと一直線に駆け抜ける。もう逃がしはしない。此処で仕留めて終わらせると気迫を込めた全身が、叫びを上げて無人の狂った福音を抑え込む

 

爆風を上げて海岸に叩き付けられる。その勢いを込め、利用した一撃を以て刀を、渾身の力を以て福音へと突き立てる

 

「ぬっ、ぐぅうぅうぅうぅうぅう!!!!」

 

[──!!!!]

 

絶対防御フィールドに阻まれ、あと一手が決まらない。押し阻まれ、押し込み、閃光がスパークし、それでもなお致命傷には至らない

 

「この野郎ぉおぉおッ!!」

 

全霊の腕力と力で捩じ伏せんと叫ぶイチカ。福音の右腕が反撃の為にイチカに伸びていく。それを阻む力はない、手を離せば逃げられる。此処で仕留めねば全てが水の泡になってしまう

 

「止まれぇえぇえぇえぇえぇえ!!!!」

 

どちらが倒れるか、どちらが死ぬか。今度こそ、決着の時。突き抜けるより、首に手が回る方が早い。この勝負にして討伐の行く末は、最早互いにのみの力では引き分けにしかなり得ぬ程に拮抗していた。停止と共にイチカは首を折られる。最後の瀬戸際の結末は・・・──

 

「──うん。これなら、殺しきれる」

 

「!?」

 

瞬間、鈍く潰れるような破壊音が、しかして渾身にて澄み渡る快音が響き渡った。グシャリ、という頭部が砕ける音。エネルギーが底を突き、コントロールと活動を喪い、消え去る光。亡骸となる福音。その狂った音はかき消された。

 

「──これだけしか出来なかったけど、イチカがやってくれたから。なんとかなった」

 

最強の風紀を司る悪魔。フレームは剥き出しで、普段とは見る影もないみすぼらしい形態、ガンダム・バルバトス。動くだけしか出来ず、武器も振り下ろすだけしか出来ないほどの満身創痍

 

だが、それでも。自らを無理矢理駆動させ、せめて手助けが出来る様にと、懸命に身体を動かして馳せ参じた。まともに飛ぶことも今はできないが、三日月には確信があった

 

「これで──終わりだ。やっとまた・・・皆で・・・」

 

それは、皆が必ず活路を開くと。イチカが止めを刺すところまでたどり着き、そして必ず此処に来るはずだと。太刀の使い方は、かつて自分が行っていた・・・コクピットを貫くやり方を行うには、ちゃんとした地面がいるはずだと考えたからだ

 

「ミカ!」

 

作戦の終了を確認したミカは、再び意識を手放しISを解除し倒れ込む。オルガがそれをすんでで受け止め、確かに息をしていることを確認する

 

「ミカ・・・お前ってヤツは・・・」

 

「・・・・・・」

 

半死半生でありながら、それでも仲間のために出来ることを見つけて全力で行う。こうやって最後には、俺達の頑張りを繋げてくれる。いつだって、俺達が本気なら、俺達に応えてくれる大切な相棒

 

「──カッコいいな、お前は」

 

心からの称賛を送り。団長の言葉を以て。──銀の福音の討伐は完遂する

 

「ミカ!!なんという無茶を!馬鹿者!絶対安静だと言っただろう!」

 

「三日月さんの勇姿、確かに胸に焼き付けましたわ・・・!私、風紀の真髄を確かに目の当たりにいたしました!感動に、胸がうち震えていますの・・・!」

 

「最後に美味しいとこ、持ってっちゃって!まぁいいか、あー・・・疲れたぁ・・・!」

 

「うん。でも本当に良かった。オルガも、皆も・・・ちゃんと無事で」

 

「イチカ、オルガ。・・・ミカ。──本当に、よくやった」

 

「皆の力だよ。俺はただ、勝ち馬にのっただけだ。さっきまでへたれてただけだしな」

 

「ヘッ──さてと!さっさと帰って、先生にたっぷり絞られるとしようぜ!」

 

命令違反の出撃なのだ。叱責と拳骨は避けられないだろう。だが──それでも

 

「帰るか、シャル!」

 

「うん!オルガ!──カッコ良かったよ!」

 

「イチカ。・・・色々と、すまなかったな」

 

「なんで謝るんだよ。MVPはお前だろ」

 

「ラウラ・・・?」

 

「!ミカ!大丈夫か!?」

 

「・・・良かった。ちゃんと・・・無事みたいだね」

 

「──それはこちらの台詞だ、馬鹿者・・・!いい、たっぷり看病してやる!覚悟しておけ!」

 

「あんた今一ぱっとしなかったわねー。チマチマ撃ってただけじゃない」

 

「なっ!?的確な援護と言ってくださりませんこと!?私のアシストは無くてはならない大事な縁の下の──!」

 

騒がしい、新生鉄華団のエース達が、笑いながら。朝日に照らされ帰還していく

 

「──やはり彼等は持っているのだ。世界を変える真実を。純粋な力を」

 

「・・・だねー」

 

「彼等の戦いを美しいと思った。だから私は行くとしよう。・・・今まで世話になった」

 

「──世界を変える為に?」

 

「いや。──私が変えるまでもなく、世界は彼等が変えていく。天災も、バエルも。不要となる未来が来る日は近いのかもしれない。その為に──手に職はつけておかなければならないからね」

 

「・・・──そうなんだ。そんな世界が、ね・・・」

 

月を見る兎、歩き出す館長。──その道は、僅かな交錯をもって違える

 

この世界に現れた、微かなれど確かな希望を見出だして──

 

 

 

 

 




旅館

チフユ「作戦完了!と言いたいところだが、お前たちは重大な違反を犯した」

一同「はい・・・」

「帰ったらすぐ、反省文の提出だ。懲罰用の特別トレーニングも用意しているから、そのつもりでいろ」

ヤマダ「あの、オリムラ先生。もうそろそろこの辺で・・・皆、疲れている筈ですし・・・」

「・・・、・・・・・・しかしまぁ・・・よくやった」

一同「!」

「・・・全員、よく帰ってきたな。今日はゆっくり休め」



ホウキ「全く、良いところで颯爽と現れるとは・・・まさか、狙っていたのか、イチカ」

イチカ「そんな分けないだろ。ヘタレてて、ミカに言われて立ち上がっただけだよ。負けていられないってさ」

「・・・まぁ、その・・・」

「?」

「・・・少し、カッコ良かったのは・・・認める・・・」

「へへ、そっか!そりゃあ良かった!」


セシリア「髪を下ろしていると誰だか分かりませんわね?まぁ仲良くなさいましょう?あなたはほら、フリーでしょう?」

リン「だれがフリーよ!あんただって同じでしょうが!」

「私は風紀委員見習いにして三日月さんの忠実な下僕ですもの?未来は約束されていますわ~♪」

「うっざぁ!!・・・待った待った、落ち着いて~、暴力よくない、暴力よくない・・・」

マクギリス「成長の兆しだな、いいことだ」


三日月「うまいね、これ」

ラウラ「待っていろ、今切り分ける・・・よ、よし。慣れてきたぞ。夫の勤めだ大丈夫・・・」

「ねぇラウラ、食べさせてくれるんだろ?」

「!」

「食べさせてくれるんだろ?」

「・・・わ、解った!勿論だ!く、口移しか?口移しがいいのだな!?」

「任せるよ」

「女体盛りだな!!任せておけ、嫁のために一肌脱ぐぞ──!!」

シャル「わさびの魅力がわからないよ・・・鼻にくるだけで辛いだけじゃないのかな・・・」

オルガ「ははっ、無茶すんなよシャル。醤油に溶かして、程ほどにな」

シャル「うぅ・・・、・・・ね、オルガ」

「あん?」

「頑張った御褒美に・・・あーん、してあげよっか?」

「なっ、ばか、お前・・・!」

「ふふっ、はい、あーん♪」

「おまこれ、わさび漬けのヴぅうぁあぁあぁあぁ!!」

「ありがと、オルガ。カッコ良かったよ、本当に──」

~────そして

「はーい!バスに乗り遅れないようにしてくださーい!落ち着いて、走らないでー!」


オルガ「・・・終わったな」

ミカ「うん」

「・・・・・・なぁ、ミカ。次は何をすればいい?」

「そんなの、決まってるでしょ」


シャル「オルガーっ!早く早く、席は取ってあるからー!」

「ミカ!まだ身体が辛いならいつでも言え!私が背中をさすり、肩を貸してやる!何度でもな!」


オルガ「・・・あぁ、そうだな。──帰ろう」

ミカ「うん」 






────俺達の、本当の居場所(インフィニット・オルフェンズ)────


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番外編

御待たせしたので初投稿です



「イチカの家を、張ったからよ・・・」

 

暑い夏、地球っつか、日本特有の暑い夏。でっけぇお日様が照らしてくるこの暑い中、俺・・・オルガ・イツカは鉄華団の見習い・・・いや、もう立派な男になってやがるオリムラ・イチカの家の前で、『オリムラ』と書かれた表札とメンチ切って睨み合ってた

 

「だ、大丈夫かな?約束や連絡もなく来るのって、迷惑じゃないかな・・・?大丈夫だよね?イチカ忙しくないよね・・・?」

 

んで、インターホンの前で指を指したり引っ込めたりしてる、金髪で・・・まぁ、その・・・可愛い女の子はシャルロット・デュノア。フランスから色々としがらみを押し付けられて学園にやってきた、男のふりした女の子だったっつー変な経歴を持ってる鉄華団の一員だ。・・・まぁ、なんつーかその。俺が護ってやりたい女の子、ってやつだな

 

シャルロットと夏休みだからってんで、麦わら帽子やワンピースでも買ってやるかと顔を合わせて歩いてる手前、ふと気がついた表札に『オリムラ』って書いてあったもんだからよ。オリムラっつったらイチカで、オリムラっつったら鉄華団だろってんで。こうして家の前に足を運んで張り込んでたって訳だ。別に不審者って訳じゃあねぇからよ。誤解しねぇでもらいてぇ・・・

 

「お、押すよ。オルガ・・・」

 

「お、おう・・・」

 

軽く顔を見ようと足を運んでインターホンを押そうと思ったんだが、俺もシャルもアポも無しで家に邪魔するなんてマジで邪魔なんじゃねぇのか。こいつぁかなり筋が通らねぇ事をやらかしてるのかもしれねぇ。授業でやってた『親しき仲にも礼儀在り』っつー仁義に反してるのかも知れねぇじゃねぇか。こいつぁかなり、鉄華団の絆に響く一大事なのかもしれねぇと考え、俺もシャルも、インターホンを押せねぇでいる

 

「お、おいシャル。やっぱり俺が押すからよ。ほら、お前は俺が無理矢理連れてきたってんで・・・」

 

「それはダメだよ・・・!団長が冷やかしなんて良くない、ここは、鉄華団フランス代表の僕が、きっちり筋を通さなきゃ・・・!最悪無礼だったら首を跳ねて、イチカの家の前にさらしてくれたっていいから・・・!」

 

全然よくねぇ・・・!待ってくれ、そんな軽い気持ちでこんな事になるとは思わなかったんだ。勘弁してくれよ、なんだよ・・・日本の文化結構シビアじゃねぇか・・・。まさか遊びに来るにも礼儀が必要だなんて正直ピンと来て無かったからよ・・・!

 

「よぉし!お、押すよ!押すからね!オルガ見てて、押すからね!!」

 

「待てって言ってるだろうが!団員を護るのはオレの仕事だ!だからよ、そこは止まれよ・・・!」

 

「やだー!僕が勝手にやったことだから!オルガは悪くないからー!」

 

「ま、待て!慌てるな!待てって言ってるだろうが!」

 

そんなこんなで、家の前で押し合い抑え合いをくそ暑い中で繰り広げてる俺達に──

 

「?なんだお前ら。何家の前でいちゃついてるんだ?暑くないのか?」

 

「へっ!?うぇえぇえぇえっ!?」

 

「は!?ヴゥウァアァアァアァ!?」

 

後ろからの不意討ちで、件のイチカが声をかけてきやがった・・・!こいつはイチカ、日頃カッコいい男を目指して自分を磨き続ける鉄華団期待の新入りで、オレらのマブダチでもある。手にスーパー袋を持ってるってこたぁ、買い物帰りか・・・!?自炊かよ、しっかりしてるじゃねぇか・・・俺はシャルに任せきりだからよ・・・

 

「い、イチカぁ!?こ、これはその、筋が通らない来訪なのは認めるよ!?でもこれはね!?別に冷やかしとかそんなんじゃなくて!」

 

「おはようございます・・・!鉄華団団長ッ・・・!オルガ・イツカだからよ・・・!止まるんじゃねぇぞ・・・」

 

そのまま家に入ってくれりゃ俺達も助かるからよ・・・!そんな風に考えていたら・・・

 

「ははっ。相変わらず仲良しだなぁ。せっかくデートしてるんだ。家で一休みしていけよ。オルガもシャルもさ」

 

「ふぁっ・・・い、いいの?」

 

「断る理由は無いだろ。友達が遊びに来たのに追い返すほど、俺は人間腐ってねぇよ。な、オルガもシャルを休ませてやりたいよな?」

 

「お、あ・・・そうだな・・・!」

 

「決まりだ。じゃあ上がっていけよ。あ、この袋頼む。お前らの分のジュース、一走り買ってくる!」

 

「えぇっ!?お、お気遣いなく・・・!?」

 

「気にすんな、特訓みたいなもんだ!ソファーに座っててくれ!すぐ戻るからさー!」

 

そんな事を言って、さっさと走っていっちまったイチカの後ろ姿を見たあと、シャルと俺は顔を見合わせる。・・・気を遣わせちまったみてぇだな・・・

 

「じゃ、じゃあ・・・オルガ。入ろっか?」

 

「お、おぅ。・・・じゃ、邪魔するぜぇ」

 

家の持ち主が走り去っちまったけど、俺たちは家に入るからよ・・・あんまり待たせるんじゃねぇぞ、イチカ・・・

 

 

~~~

 

「ここがイチカの家かぁ・・・広いね、オルガ」

 

「いいんじゃねぇの?不自由しなさそうでよ」

 

招かれた家のソファーで、シャルの隣に座った俺はイチカのマイホームを見渡してそんな感想を漏らす。なんだよ、めちゃくちゃいい家じゃねぇか。キッチンもあるし広いし、団長の部屋より上等なんじゃねぇか?シャルも興味深そうに見渡してやがる。やっぱり日本建築はフランスとは違うもんなのか?

 

「ねぇイチカ。家のことはイチカがやってるんだっけ?」

 

「あぁ。チフユねぇは忙しいし、中々帰ってこなかったからな。ま、自炊だ自炊。独り身だしな!ははは!」

 

「すげぇよ・・・イチカは」

 

独り立ちや自炊なんて、中々出来ることじゃねぇ。俺はしょっちゅうシャルやミカにやってもらって頼ってばっかだ。出来ることっつったら花咲かせることと、先頭に立って粋がることしかできねぇ。戦争だの命張ってる時はそれでいいのかもしれねぇが、平和な生活でやれることがなんもねぇってのは割りと致命的なんじゃねぇのか・・・?

 

「イチカっていい旦那さんになりそうだよね~・・・はっ!?だ、旦那さんかぁ・・・!」

 

・・・?なんだかシャルがこっちを睨んできやがる。顔も赤いように見えるぞ。どうしたおい、熱中症か!?

 

「大丈夫かよ、暑さでやられたりしてないよな!?大丈夫だよな!?」

 

「だっ、だだだ大丈夫!ただ、ちょっと・・・」

 

?ちょっと・・・どうしたってんだ?

 

「・・・オルガのお嫁さんになるのは、誰かなって・・・考えちゃった、だけだから・・・」

 

「えっ、・・・そ、そりゃお前・・・」

 

「ははっ。目の前にいるんじゃないか?なぁ団長。夏の暑い日に一緒にいても辛くないなら、もう決まったようなもんじゃないか。ほら、麦茶とジュースだ」

 

ばっ、お前なぁ・・・!俺は別に、シャルを護りたいってだけで、結婚とか付き合うとか・・・シャルの隣にいるだけで満足って言うか・・・

 

「・・・僕がオルガのお嫁さんかぁ・・・ふふっ・・・」

 

シャルだって、生き返るしか能がねぇ男は不服っつーか不満だろっていうか・・・ん?今度は何をニヤニヤしてやがんだ、シャル?

 

「ううん。なんでもないよ、オルガ。でも・・・」

 

「あぁん・・・?」

 

「・・・ちょっとだけ、期待しちゃうからね?オルガの隣・・・ね?」

 

・・・隣ってお前、いつでもお前がそこにいるだろうよ・・・熱中症でやっぱりおかしくなってんじゃねぇのか・・・?大丈夫か・・・?

 

いつもよりニヤニヤしながらジュースと麦茶を飲むシャルを不思議に思いながら、俺はイチカが出してくれた麦茶を暖まった身体に染み渡らせるように飲み干しまくった。なんだよ、結構うめぇじゃねぇか・・・──

 




ピンポーン

イチカ「?誰だ?」

シャル「?誰だろ?約束もしてないって随分不躾だね?」

オルガ「お前・・・」

イチカ「セールスか?ちょっと見てくる。ゆっくりしててくれ」

「はーい。ねぇオルガ。そっちのジュース美味しい?」

「ん、おぉ。なんか冷たくて、すげーつめてぇ」


玄関

セシリア「おはようございますわ、イチカさん?たまたま通り掛かったので、飲み物でもご馳走になろうかと思いまして!」

イチカ「悪びれないな・・・まぁセシリアならそうだよな。よし、上がっていけよ。ジュースと麦茶、御馳走するぜ」

「ありがとうございますわ!では早速・・・」

ピンポーン

「「?」」


ホウキ「い、い、イチカ!たまたま通り掛かったので、顔をだしに来たぞ!!元気か!!」

ミカ「おはよ。オルガの匂いがしたから」

ラウラ「夫婦の営み、出掛けの際に貴様に声をかけようと思い至ったミカの優しさを在りがたく思うがいい。まぁ有り体に言えば、あそびに来たわけだが」

リン「・・・なんであんたたちまでここにいるのよ・・・暇なの?」

ミカ「鏡、見れば?」

イチカ「あははははっ!まぁ良いじゃないか。よし!全員上がれ!仲間外れは無しだ!」



シャル「──結局、皆集まっちゃったね。これはやっぱり・・・」

オルガ「俺達は、鉄華団だからな」

ミカ「ただの偶然でしょ」

「ミカお前・・・勘弁してくれよ・・・」


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