前線日記 (へか帝)
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一冊目

世界観ガバってるのゆるして
ご都合主義もゆるして


〇月〇日

 今日でクルーガーのクソ野郎ともおさらばだぜ。シーユー筋肉ゴリラ。あんな職場二度と戻るか。悪いなカリーナ、俺は先に抜ける。

 この清々しい気持ちを記録するため、今日から日記をつづることにする。

 これで俺は完全に根無し草となったわけだが、まあなんとかなるだろ。

 

〇月×日

 

 丸一日彷徨った結果無人となった工場を発見した。持ち逃げした四丁の銃器は人形との戦闘で使い物にならなくなってしまった。これ以上の戦闘できないところまできていたのでギリギリセーフってところだな。でも風穴とか空いちゃってどうすんのよコレ。

 肝心の工場だが、当然ながら廃墟ではあるものの崩壊の規模も小さい。そして機材は意外なことに状態が良かった。それなりの期間放置されたせいかなかなか酷い有り様だが、致命的な欠損はなさそうだった。電源さえどうにかなれば動くんじゃないだろうか。

 どういういきさつでここが廃棄されたかはわからんが、この町工場はあの紫色のぶっ壊れた人形どもも近寄ってこないしいい拠点が手に入ってよかった。雨も凌げるし、暇つぶしの道具にも困らなさそうだ。

 

 

〇月□日

 

 倉庫に大量の保存水と乾パン等の非常食を見つけた。俺一人なら当分は困らないだろう。おあつらえ向きに予備バッテリーも少量ながら発見できた。更に工場内を漁ってみたところ、素晴らしいものを見つけた。

 コンデンサだ。これさえあれば電力が蓄えられる。使い捨てのバッテリーくらいは作れるだろう。予備バッテリーが全滅する前にはどうにかしないとな。

 それとこの工場だが、どうやら銃の工場だったらしい。前時代的な古めかしい設計図が、なんと紙媒体で残されていた。よくもまあこんなご時勢に紙文書を採用したものだ。この日記も同様に、端末なしに自由に閲覧・記入できるのは電子データよりも優れた点だな。こうして何もかもが機能停止しても紙は紙のままだからな、お陰様でしっかり閲覧できる。埃まみれだったり黄ばんでいるのはこの際我慢しよう。そこまで贅沢は言えん。

 しかしこの工場は異様にマニュアルが多い。そこらじゅうに張り出されているのを確認できた。普通はもっと標語とか注意喚起が多くを占めているものだろう。恐らくだが、ここは工場が稼働し始めてから日も浅いまま廃棄されてしまったのではないか。だとすれば機材の状態が良かったのも頷ける。機材表面の油膜がなく、ダメージは錆びによる経年劣化がほとんどで摩耗や破損が少ないわけだ。

 

〇月△日

 

 結論から言うと、銃ができた。無事バッテリーは役目を果たし、機械は動いた。マニュアルに沿って図面を読み込ませ基本的な入力さえすれば、機械がテンプレート化された手順に沿って動く。全ての工程が一つの機械に結集されているのには驚いたが、数世紀前の骨董品を現在の科学力で量産しようとすればこうもなるのか。

 面白がって俺の愛銃と同じもの製造してみたが、いつのまにか使用した図面が跡形もなく消滅していた。まさか設計図が消耗品などと誰が予想できようか。

 製造した銃の名は順にUMP45、UMP9、HK416、G11というらしい。そんな名前だったのか、散々酷使しておきながら知らなかったぜ。ちなみに名前は設計図に書いてあった。多分明日には忘れてる。

 軍人の癖に銃に疎いのをどうにかしろとクソゴリラによく説教されたもんだが、引き金引いて鉛玉でるんならどれも一緒だろガハハハ!

 と、そう言った直後にぶん殴られたのは記憶に新しい。

 

〇月§日

 

 この工場のもう半分を見つけた。人形工場だ。もっともこちら側の工場よりも損壊が酷く、ほとんどが倒壊していた。瓦礫だらけで住居としても使えそうにない様子だったぞ。それも自然倒壊ではなく、何者かが明確な意思を持って破壊した様子だった。やっぱ紫色の人形作ってた工場だからだろうか。

 それと昨日できた銃だが、改めて見ると酷い出来だった。機械はともかく、材料が良くなかった。元から機械に突っ込みっぱなしの材料じゃあまあそうなるわな。動かんこともないんだが、要所が歪んだり曲がったりでちょっとよろしくない。仕方がないので俺の持ち逃げした方の生きているパーツを交換してやってなんとかした。とりあえずこれで弾がまっすぐ飛ぶようにはなった。ますます不格好になってしまったが、弾が出るならそれで人形が襲ってきても対処できるだろう。

 

 

Φ月Ж日

 

 前回の日記から随分日が空いた。途端にこれほど立て込むとは思っていなかったぞ。

 あの後、どこぞの人形が転がり込んできた。問答無用で銃口を向けてくるファッキン紫ではなく、我らがグリフィンの人形だ。中々に損傷が激しかったので有り合わせの材料で応急修理をしてやった。昔取った杵柄ってやつでな、I.O.P製の人形なら多少は整備の心得がある。まあ人形といえど同じ戦場を駆けた戦友だからな、情も湧くってもんよ。当時直してやるための修復技能を修めたのは間違いじゃなかったってことだな。そんなこんなで話を聞いてみると、なんと俺を連れ戻しに来たという。だが幸いなことに背後にいるのはクルーガーやヘリアンではなく、ペルシカだった。

 奴は俺の所在をクルーガーにチクらない代わりに、俺の銃を寄越せと主張してきた。たぶん人形と物質を結び付けてうんたらかんたら実験に使うんだろう。

 仕方がないので定期的に水と食料、バッテリーを寄越すことを条件に加えて了承してやった。

 

 

◎月●日

 

 俺の銃を持った人形が工場に住み着いた。どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 




続けるかどうか決めてない


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二冊目



未実装のG11を登場させる罪をお許しください




◎月●日

 

 しんどいです。

 やってきた人形が俺に懐きすぎてて非常に疲れる。とりあえず一日一人ずつ名前を覚えることを目標とする。

 まず出会い頭に全身で抱きつきダイブしてきたヤツな、UMP9。栗色の髪をしたツインテール。一番最初に名前覚えたわ。そのまま押し倒されて後ろの弾薬箱ぶちまけてそらもう大惨事よ。でもすぐに謝ってたから不問とする。

 とりあえず話を聞いてみると、やつらは指揮官がいなくてもある程度の活動ができる特殊な自立人形だそうだ。銃器と人形をリンク?させるナントカ技術を高度に成立させる為には通常の銃器ではダメということで俺が酷使していた銃に白羽の矢が立った。極秘作戦での運用を前提しているらしく、諸々が通常の規格を逸脱した性能であるそうだ。え、それって違法なのでは──?

 俺は何にも気づかなかった。いいね。

 で、先日引き渡した銃がこうして戦術人形になって帰ったきたってことらしい。帰ってきたっていうと語弊があるな。まだ戦闘のせの字も知らんヒヨっ子戦術人形が俺の所に師事しにきたんだってよ。いや君ら戦術人形でしょ?手に負えないんですけど。

 

 

◎月□日

 

 寝て起きたらUMP9が俺の上で寝ておった。上ってお前。そりゃ寝苦しいわけだよ。あれだな、甘えたがりの猫だ。でも寝ぼけてサブミッション極めてくるのは本当やめろ。骨のきしむ音で目が覚めるなんて本当に勘弁だからな。

 今日は覚えたのはUMP45。UMP9の姉らしい。外見も結構似ていて茶鼠色の髪を横に纏めた髪型をしている。なんとこの人形たちの小隊長を務めているそうだ。

 正直苦手。まず距離が近い。廃品とか漁ってると隣で物言わずじっと見てるんだよな。廃品じゃなくて俺の方を。あといつも影の差した表情で微笑んでるのが怖い。何考えてるのか全然わかんない。ずーっと俺のあとをついてくるし。

 でも人手が足りなくて困っているときには率先して手伝ってくれる気立てのいいやつ。

 ただ隙を見て俺がふらっと離れた場所に足を運ぼうとすると「指揮官、どこにいくの?」って言ったり既に先回りしてて「待ってたよ、指揮官」とか言うのやめてほしい。呼び止めるのはまだしも先回りしているのはどういうことなんだ。

 あのしきかぁーんっていう間延びした呼び声がトラウマになりそうだよ俺は。

 

 

◎月Ξ日

 

 とりあえず戦術人形が何故俺なんぞの所に学びにきたのか聞いてみた。

 彼女らは404小隊という特殊な作戦を行わせるための戦術人形であり、高い戦闘能力を必要とする存在であるそうだ。無論もとから高いカタログスペックはあるものの、ぶっつけ本番で極秘作戦に投入するのは躊躇われるということで、彼女たちの強い希望により銃の元の持ち主である俺のところに教えを請いに来たとかそういう流れらしい。正直当面は俺一人の生活だけで手いっぱいなのでもう少し待ってもらうことになった。クライアントがどこの誰かは知らんがいい迷惑だぞまったく。ペルシカはあくまで製造元ってだけだしなぁ、つついても特に情報は期待できないだろう。

 今日はHK416。まだ覚えていないのがばれてちゃんと覚えてくださいね(威圧)って言われた。笑顔が怖い。

 完璧主義で俺が適当に放っておいた諸々を整頓してくれたので大変ありがたい。でも使ったら元の場所に戻さないとぷんすか怒るのでちょっと肩身が狭い。なんかものすごく俺の世話を焼きたがっているが、俺は自分のことは自分でできる人なのでやんわりお断りしている。

 

 

◎月◇日

 

 朝からUMP9に殺されるかと思った。あいつサブミッションが日に日に上達してやがる。違法パーツのポテンシャルを全力で発揮し尋常ならざる力で締めてくるから全然抜け出せなかった。マジで早めになんとかしないと俺の命が危ない。

 今日覚えたのはG11。ひとことで言うと癒し。この俺を遥かに越えるレベルで無気力な奴だ。基本的にずっと寝てる。俺の寝床をずっと占拠してるのは困りものだが特に何もやらかさない。毎朝寝ぼけて俺を絞め殺そうとしてきたり何時いかなる時も俺の側にいたりしないので本当に癒し。

 ほっとくと永遠に寝てるが、一応UMP45の言うことだけは聞く。HK416の言うことは聞かない。なのでよく担ぎ出されている。なんだかんだで仲は良いようだ。

 俺の言うことは聞いたり聞かなかったりする。まあそんなもんだな。

 

 

◎月ι日

 

 今日はついに教育(仮)に踏み切った。余裕のあった工場内の食糧と水の備蓄なんだが、急に同居人が4人も増えたため事情が変わったのだ。

 破壊された人形工場からもうひとブロック向こうに行けばちょろちょろと鉄血人形がいるので、強襲して物資を頂こうという算段だ。もちろん俺も同行した。武器もないのに一体何をするというのかという話だが、404小隊も指揮官が無くても活動できるとは言っても、いるに越したことはないらしい。

 とりあえず今日は3小隊ほどにちょっかいをかけて物資をちょろまかしてきたが、こいつらやっぱ強いわ。俺はちょい離れたところから無線で適時指示を飛ばしていたんだが、終始危なげなく終わった。陣形の組み方と変形のパターン仕込んだらあっという間に理解してモノにしていたしやっぱ素材が違うと出来が違うのかね。もう既に俺が教えることなんてないと思うんですが。

 

 

◎月δ日

 

 とうとう朝のデスマッチにUMP45が参加した。一体いつの間に転がり込んだのかUMP姉妹にサンドイッチされてしまった。字面からはとても幸せそうで夢のあるものを想像するかもしれないが、あれは生命を脅かすとても危険なものだ。

 いうなれば万力。上からも下からも凄まじい圧力で抱きしめられ、俺は危うく爆発四散するところだった。いや比喩ではなく。久々にマジで死を覚悟したぞ。結局G11のおかげで九死に一生を得た。ほんと愛してる。

 昼過ぎに昨日の戦闘について簡単に反省会を行った。といっても特にそれらしい指導はできなかったが。

 G11はいざ戦闘となれば普段の無気力が嘘のように活躍する。オンオフの切り替えはしっかりしているようだ。いつもそうだったらいいのにとHK416がよくボヤいたのが印象的だったな。

 あとは銃器のメンテナンスもしてやった。体の一部のように一体化しているお前らの方が勝手が聞くんじゃないかとも思ったのだが、しつこくせがまれたので根負けして結局やってやることになった。

 肝心の人形の方は別に修復するアテがあるそうだ。とはいえ、人格のバックアップもとっていないようだし、慎重を期するに越したことはないだろう。人形は消耗品ではないのだ。

 

 ところで今朝確信したんだが、UMP45よりも妹のUMP9の方が胸が大き

 (日記はここで途切れている)

 

 

 





妹が寝ぼけた振りをしながら過激なスキンシップを図っていることに気づいた45姉、とうとう自身も同じ方法でスキンシップを図る。

指揮官は死ぬ。


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三冊目

ライフルレシピ回してるのにUMP姉妹がなだれ込んでくるの誰かとめて。あふれる


◎月Δ日

 

 いやあ、昨日はひやりとした。この日記は日が暮れたあと人形の皆が工場の戸締りやら設置した罠のチェックなどをしているうちに隅の小屋でさくっと書いているのだが、昨日は途中でUMP45が訪問してきた。なんとなくで唯一の出入り口である扉を施錠しているのだが、それがいけなかった。 

 はじめはノックしながらいつものようにしきかぁーんと呼び掛けてきていたのだが、ん、ええ、あれ? そういえばどうして俺があの小屋にいると知っていたのだろう。おかしくないか? いや考えても分からん。

 とにかくUMP45が呼び掛けてきていたのだが、丁度その時UMP45に関する内容を日記に書いている最中で、しかもそれがUMP45に負い目のある内容だったので俺は適当に煮え切らない返事をしてしまったんだな。それを不審に思ったUMP45が扉を開けようとして鍵が掛かっていることに気づき、「指揮官わたしに隠れて何してるのー?」と言いながらドアノブをガチャガチャさせてきたのだ。その時のシチュエーションがなんか死ぬほど怖かった。あまりの怖さに昨日そういう悪夢にうなされたからな。 

 最終的にはUMP45はドアノブを握った状態のままゴリっと扉を破壊して侵入してきたぞ。ある程度腐食して脆い木造の扉だったとはいえ、絵面が凶悪すぎてもうダメ。

 とりあえず正直に一日の記録を残していたと白状した。やっていることはとくにやましいことではないからな。いや、やましいことを書きかけてはいたけれど。

 結局この日記をみせなくてはならなくなってしまったが、大丈夫。こんなこともあろうかとこの日記は母国語で書いてあるのだ。こちとら亡国ジャパニーズやぞ、とうの昔に失われた言語じゃ読めるものなら読んでみいHAHAHA!

 ただひとつ気がかりなのはUMP45が俺の日記を網膜と記憶中枢に焼き付けるように隅々まで目を通していたことかな。ひょっとして読めないなりに内容を全部暗記してたりして。

 いや流石にないな。まさか視界を映像として保存する機能でもあっていつの日か解読を試みようとしている訳でもあるまいし。

 

 

◎月Γ日

 

 ちょっと昨日の日記読み返したらUMP45のことしか書いてないじゃねーか。これはいかん。どうせ書くならG11にするべきだ。

 まあそれはさておき、今日も鉄血のところへ襲撃だ。今回は現役さながら俺が小隊長として人形を率いての戦闘だった。うーん懐かしい。あの頃とはだいぶ勝手が違うが、404小隊は有能なので特に指示系統にトラブルなし。最高かー?

 銃は昨日作ったUMP40を持って行った。これは昨日の日記に書き忘れていた部分だな。昨夜の日記を書いているときはもうUMP45のことで頭がいっぱいだったから……。設計図はUMP40で最後だった。もっとあるかと思ったんだが、破れたり何かの染みが広がっていたりで使い物にならなかった。コレ紙媒体の悪いところ。

 もちろんこの銃もご多分に漏れず酷い出来栄えだった。まあ同じ機械で作ったんだから当然だな。流石にスペアパーツの持ち合わせは無いのでこれを持って行った。正直ないよりマシってレベル。そもそも銃弾が真っすぐ飛ばないし。まあ銃口が正面向いてないのに弾が前に飛ぶわけがないよね。

 ちょっといい所見せようとして部隊の最前線を買って出た俺ってほんとバカ。

 

 

Φ月α日

 

 UMPサンドで俺が潰れる(物理)未来が現実的になってきたので、ついに今日G11以外の者が俺の寝床に近づくことを禁止した。

 これに一番反応したのはUMP9。もしゃもしゃ食ってた配給(チョコ味の一番おいしいやつ。物欲しそうに見てたからちょっと多めに分けてやった)をぽろっと落としてこの世の終わりみたいな顔してた。ちょっと罪悪感。

 ちなみにHK416の要望によりG11を連れ出すときに限り例外的に許可することとなった。良かったなG11、お前には外に連れ出してくれる素敵な仲間がいるぞ。G11から裏切り者って言われた。一体いつから俺がお前の安眠を支援すると錯覚していた?

 あと昨日もってったUMP40な。マジでこのポンコツどうしようかと思ったが、俺が持ち逃げした銃が全て新たな持ち主のもとに渡ってしまった以上、このUMP40が最後のよすがとなる。もしなにかあってこの工場を離れなければいけなくなった時の為にこの銃は大切にすると決めた。

 というわけで、どうにかしてもうちょいマシにできないものかと今日は一日UMP40を叩いたり削ったり伸ばしたりしてた。

 そして誕生したのがどこに弾が飛ぶのか俺すら予想できないデンジャラスウェポン。ナックルボールかよ。

 

 

Φ月Й日

 

 「え?一人じゃ怖くて夜ぐっすり眠れないって!? 仕方ないなあG11は! 私が一緒に寝てあげよう!」昨日の晩にやってきたUMP9の第一声がこれである。せめてG11の方向いて言うくらいしろよ。そしてそのまま俺の寝床に来るな、吐いた言葉通りG11の方へ行け。何が指揮官の側で眠らないと死んじゃう病だばかたれ。俺の布団(ダンボールと梱包紙に緩衝材を組み合わせた最高級のロイヤル寝具)からしがみ付いたまま離れず、無理に引きはがすとロイヤル寝具が破損する恐れがあったので結局一緒に寝ることになった。

 なお恐怖の目覚ましサブミッションは俺がG11を抱えて寝ることで回避。G11からは指揮官の為にもやめたほうがいいと思うと進言があったが、強行施策した。完璧な作戦だとそのときは思ってたから。

 なお実際は9にむき出しの頭部をふともも締めされて窒息死間際までいった模様。確実に殺意が込められている。なんか悪いことしたかな。

 命からがら朝を迎えたあと、9を追い出して一日寝床からほとんど出ずに空き缶をやぶったものを研いで簡易ナイフを作る内職をした。たまには部屋でひっそりと一人の時間を過ごしたかったのだ。G11はあれだ、人数にはカウントしない。分類はインテリア。だがG11を連れ出すことを口実に何度もUMP姉妹が突撃してきた。お前ら普段は好きなだけ寝させてあげてるだろうが。そして珍しく自主的に起きてきたG11を寝室に押し込んでまた部屋に来る口実を作るのやめてあげろ可愛そうだと思わんのか。

 

 

Φ月¶日

 

 「え?お姉ちゃんがいないと怖くてぐっすり眠れないって!? 仕方ないなぁ9は! 私が一緒に寝てあげよう!」 

 

Φ月Ж日

 

 HK416が全員ひきずり出していった。惚れそう。

 

 

 

 

 






このままでは45姉が残念系おもしろヤンデレお姉ちゃんになってしまう


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四冊目


 これ書き始めてから露骨にUMP姉が出る。代用コア使わずにx5にしても余るくらい。引き取り先募集(ただし残念系ヤンデレお姉ちゃん仕様とする)



±月●日

 

 UMP姉妹対策にG11を用いての護身を考えるも、指揮官を死なせないためにも協力できないと言いG11はこれを断固拒否。まるで俺がG11を抱いて寝ることがUMPコンプレッサーの出力を上げるかのような物言いだった。それとこれに一体何の関係があるのか、俺にはさっぱりだったが仕方がないので昨夜はそのままUMPコンプレッサーに無抵抗で飲み込まれた。限界は近い。おそらく来週には俺の全肋骨が粉砕されることだろう。

 さて連日行っている物資補給を兼ねた戦闘訓練だが、これはもうほとんど意味が無い。物資が潤って助かるのはあるが、手慣れすぎてもはや作業だ。周辺の鉄血人形ではもう相手にならんらしい。戦闘に慣れるという意味では悪くないのかもしれないが、優先度は低い。だが、だからといって生死をかけて修羅場をくぐらせるような訓練はできない。そんな環境もないし、そういうのは実戦で培ってこそだ。とりあえず今日は工場内をパルクールさながら縦横無尽に駆け回った。運動神経というか、体の使い方も覚えてもらいたい。特に室内戦での移動能力は重要だ。

 やはりというべきか、イメージ通りUMP9は抜群の運動神経を発揮してぴったりと俺の背後についてきていた。流石だな。ぶっちゃけ凄いことなのでご褒美に頭をなでてやった。うーん丁度いい高さ。UMP45も案の定そつなくこなしていた。何やら『私にはご褒美ないの?』的な視線を背中に注がれたような気がしないでもないが、努めて無視した。

 HK416はちょいと難アリだな。一度足を滑らせて落ちてた。幸い大きな怪我はなかったのだが、結構派手に服が破れてしまい大きなたわわが露わになってしまった。

 でかい。

 白状すると一瞬いや嘘は良くないながっつり視線を奪われたのだが、背後のUMP姉妹がいる方向からセーフティを外しコッキングレバーを引く音が聞こえたことに危機感を覚え即座に視線を切った。引き金に指をかけていたの見たからな俺は。薬室に実包が入る音がやけに耳に残った。

 流石に一旦中止し、有り合わせの布(またの名を俺の服という)で修繕してやった。最後にG11。問題児である。へばるのがあまりにも早い。運動能力は意外に悪くないんだがなあ。他より銃が重いのもあるかもしれないがあれはまずいだろう。

 

 

±月ц日

 

 毎朝俺が死にかけているのはそもそも『寝床への侵入はG11を連れ出す場合は例外的に許可する』というルールが悪用されているのが元凶なのかもしれない。

 ここは断腸の思いでG11と別室で眠るしかないのか。だがこの娯楽のない廃工場生活においてG11からもたらされるアロマセラピー効果は決して軽視できるものではない。どうにかG11と共に快適な夜を過ごしつつもUMP姉妹から逃れる術はないものか。ルールの破棄も少し考えてみたが、快適な生活に多大な貢献をしてくれているHK416たっての望みを無碍にするのも忍びない。何かいい落としどころはないものか。

 それはさておき、404小隊の研修も新しいステップに進むことにした。ハッキリいってこいつらの戦闘力は既に申し分ないレベルまで達しているので、もっと別の方面を伸ばしてやる方がいいと思ったのだ。

 行ったのはかくれんぼ兼鬼ごっこである。とどのつまり昨日のパルクールの延長だな。

 たかがごっこ遊びと侮るなかれ、こいつらがどんな任務に従事するかは知らんが隠密能力と追跡能力はどんな状況でも応用が利く。どうやら404小隊が配属されるのは尋常な任務ではないようなので、まあ役に立つだろう。

 差し当たり今日はこの工場を使ってのかくれんぼだ。今日は俺が鬼。ルールはシンプルに鬼に確保されたら負け。無論俺のロイヤル寝具で惰眠をむさぼっていたG11も心まで鬼にして布団から追い立て参加させた。

 工場もまあまあ広いんだが、昼前には全員捕獲できてしまった。戦闘のエキスパートといえど、こういう面ではまだヒヨっこらしい。これは教えがいがありそうだ。ちなみに今日時点で一番粘ったのはHK416だった。昨日の失態にも思うところがあったんだろう。痕跡を残さずに行動するのが上手かった。

 それを昼過ぎまで繰り返した後は、反省会を開いたり逃走のいろはについて講義した。まあこいつらならすぐに覚えるだろう。

 

 

±月Ы日

 

 朝、UMP9とUMP45に挟まれながら臓物が圧し潰される痛みと戦っていたら妙案を思いついたぞ。そもそも全員の寝床を同じ部屋にしておけば済む話じゃないか。G11と同室で寝ることができるしUMP姉妹も自分の布団があれば俺のところへ侵入してくることもないだろう。明日から解放されると思うと心が救われる。無論体の方もな。今まで朝が近づくにつれて抱き着く力が強くなっていくので外が明るくなるにつれ絶望してたからな。

 さて、今日は鬼を交代だ。404小隊全員から俺一人で逃げた。範囲は昨日同様に工場内に限り逃走。

 昨日の惨敗を反省したのか、部隊で連携を取ってやる気マンマンだったぞ。視野の広いG11が高所に陣取り索敵を担当し、HK416がルートを組み立てつつ先回りすることで逃走ルートを限定し機動力のあるUMP姉妹が追う。

 各々の得意を活かした素晴らしい連携だった。何度かヒヤリとする場面もあったし、大したもんだ。

 でも言いたいことはたくさんある。まずUMP45は俺が物陰でやり過ごそうとしている俺を探すとき「指揮官のにおいがする………ふふ」っていいながら着実にこっちにくるのやめろ。俺の居場所を確信したとき「あは。指揮官、今そっちにいくね……?」っていうのはもっとやめろ。恐怖でしかないわ。クローゼットに隠れる女子供に迫る殺人鬼かよ。

 そしてUMP9。逃走する俺を追いかけながら「本当の家族になろう!」ってどういう意味だ。あまりにも理解が及ばない。意味不明な理論を並べながら殺害を繰り返すサイコキラーみたいだからやめてほしい。あとなんで俺を袋小路まで追い詰めたときよだれ垂らしてた? 思わず冷や汗がでたわ。あれは完全に捕食者の目だった。

 

 この訓練はあまりやらないほうがいいな。具体的には奴らが俺を捕まえられるくらい上達する前にやめよう。うん、その方がいい。




 妹の方はまともでいる予定だったのにどうしてこうなった。


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五冊目

夜戦1-4初クリアで春田さん専用弾ドロップしておったまげました。



Ψ月З日

 

 全員で同じ部屋で寝ようという提案を話してみると、非常にすんなりと受け入れられた。相談してすぐに「じゃあベッド移そっか」とそのまま家具の運び出しを始めたので流石に面食らった。なんだその行動力。

 次々とソファや大柄な座椅子、ハンモックなどが運び込まれあっという間に広々としていた俺の寝室が手狭になってしまった。

 というか君たちそんな贅沢な環境で今まで寝てたんだね。俺が紙やダンボールで作った粗末な布団を最高級呼ばわりしてのはなんだったんだよチクショウ。恨むぞ、おい。

 でもどうしてソファのような充実した就寝環境を捨ててまで毎晩俺の所に来るんだろうか。あれかな、衝撃緩衝材のぷちぷちが出荷前を思い出してノスタルジーな気分に浸れるとかかもしれない。実家の布団だといつもより安眠できる的な。今や俺の実家は放射能に埋もれた焦土だけどな! ギブミー帰る家。

 でも常連のUMP45は「こっちの布団で寝よー?」などと手招きしてきたからやっぱり違うかもしれない。ちなみにその誘いは蹴った。だって編みこまれたハンモックが獲物を待ち受ける蜘蛛の巣に見えたんだもん。絶対に一度絡まったらもがけばもがくほど深みにハマる類のアレ。

 あと許せないことになんとG11が寝袋を持ちだした。本当に許さない。あまりに許せなかったので復讐としてG11の入った寝袋に俺も入って寝ることにした。どう見ても二人も入れる設計ではなかったが強引に押し入った。凄まじく窮屈だったがG11のぬくもりでとても安らかに眠ることができたし、何より寝袋のおかげでUMPサンドを恐れずに済んだというのも大きい。G11の抗議の声は聞こえないふりをした。

 訓練は昨日と同じ鬼ごっこだ。鬼は俺と404小隊で日替わりにしようと思っていたのだが、今日はUMP姉妹の強い希望で連日俺が逃げる側となった。有無を言わさぬ勢いだったので思わず頷いてしまったのが運の尽き。

 たった一日で恐ろしく上達したUMP姉妹に日が暮れるまで追い回された。ほんとにギリギリ。一応日没をタイムリミットに設定しておいてマジで良かった。一体何が彼女らをそれほど駆り立てたのか。

 今日はG11の調子がいつもより悪かったのだが、それが無かったら本当にヤバかったかもしれない。HK416はUMP姉妹のガッツに少し引いてた。

 今夜ももちろんG11と一緒の寝袋で寝る。速攻でG11を抱えたまま寝袋に滑り込んでファスナーを閉め一瞬で眠りにつく作戦だ。

 

 

Ψ月Л日

 

 朝、目を開けたら視界に山吹色が広がっていた。寝袋を完全に閉め切っていても、前面に開けられた無数ののぞき穴から外を確認できるのだ。綺麗だなぁとのんきにしばらく眺めたあと、それがUMP45の瞳の色によく似ていることに気づいて俺は寝袋ごと転がってから寝袋から脱出し、その場を離れた。

 真相はわからない。単純に何かオレンジ色の布が覗き穴に被さっていただけかもしれないし、朝日がこう、上手く屈折して俺の目に入りそういう風に見えただけかもしれない。

 ……なお、一番有力な説はUMP45が至近距離でじっとのぞき穴からこちら側をおっと怖いのでこれ以上考えないことにする。

 今日の鬼ごっこは俺が鬼だ。連中もさすがに工場を走り慣れてきたようで、前回のようにひょいひょい捕まえられなかった。結局午前中には全員を捕まえきることができなかったな。密かな目標だったのに。

 マジで飲み込みが早い。やっぱそこらの民生品上がりとは格が違うんだな。

 思っていたよりも研修がすぐ終わりそうだ。ていうか今更だけどこれ報酬とかあんの? 現状完全なるボランティアやないか。とはいえこいつらの依頼主がどこの誰かもわからんし、一通り教え終えたらこいつらを通してなんか請求してみるしかないわな。

 そもそもこいつらなんなん? グリフィンに伝手があるのはわかるんだが、違法パーツといい民生品上がりとは思えない超性能といい、なんかヤバそうだよな。念のためトンズラする算段くらいはつけておくか。

 

 

Ψ月ヾ日

 

 奇妙な揺れを感じて朝目が覚めた。なんとなく嫌な予感を感じて身をよじると、何か高いところから落ちた。G11よ下敷きにしてしまってすまん。

 寝袋から這い出てみると、どうやらUMP姉妹が二人で俺とG11の入った寝袋を担ぎだしてどこかへ運搬していたようだ。理由と目的を訪ねてもばつが悪そうに目をそらすだけで、結局何もわからなかった。

 寝袋が運ばれた先には食料と水を貯蓄している地下室くらいしかないんだけどな。

 あそこの重厚な鉄扉は外からしか鍵を開けられないから、うっかり誰かを閉じ込めてしまわないように厳重注意したばかりなんだが、一体俺をあそこに連れて行って何をするつもりだったのだろうか。

 UMP9が「縄を探してからやればよかった」と言い残していたのが気がかりだ。ちなみその縄だが、昨夜HK416がかき集めてどこかに隠していた。理由は分からないが俺はHK416に救われた気がする。拝んでおこう。

 鬼ごっこは404小隊が鬼。鬼をやらせるのは今日が最後にした。

 それを伝えるとはちゃめちゃにやる気を出した。最後だから全力を出す為に気張っているのだろう。HK416は指示がいつもより冴えていたし、G11もセントリーガンもかくやという索敵能力を発揮した。UMP姉妹は鬼気迫るレベルで追いすがってきたので、なんだかんだ言いつつも手加減していた一昨日と違い俺も久々にマジになって走った。

 危ない場面もかなりあったが、幸運と偶然が重なりないなんとか逃げ延びた。次まともにやったら絶対に捕まる。そう確信できた。まあ次なんてないんだけどな!

 ふと思い立ち、地下室の鍵をHK416に預けた。なんとなくそうした方がいい気がしたのだ。野生の勘ってやつだな。寝袋も使うのはやめた。今晩はひさびさの高級ロイヤル寝具の出番だ。全然暖かくない。泣きそう。

 

 




いつのまにかヤンデレの人形との駆け引きを綴る日記になってしまったぞ


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六冊目

ネタバレをどうするか悩んだ結果内容をぼかしてCUBEまで明記しないことにした。
ところで少しでも油断すると内容がシリアスに引っ張られるので油断ならない。


Ψ月∮日

 

 昨夜、どういう風の吹き回しかG11が広くなった寝袋を独り占めすることなく俺のスーパーハイグレード寝具で寝ることを所望したので歓迎して布団に入れてやった。G11のぬくもり好き。安眠のお供。

 朝になると昨日まで使っていた寝袋からご満悦の表情をしたUMP9がホクホクしながら出てきた。寝る前に随分と白熱したじゃんけん勝負をしているなとは思ったが、寝袋の使用権を賭けて争っていたらしい。

 一方のUMP45は俺の上着にくるまってソファでしぶしぶと夜を過ごしたようだ。あの上着はHK416の服の修繕に使ったやつだな。大胆に引き裂いて材料にしてしまったのでもう服としては使えないが、貴重な上質の布なのでとっておいたのだ。いつの間に45は確保していたのだろう。

 なんかもう教えることないし訓練考えるのもだるいので実戦することにした。食糧も減ってきたことだし渡りに船ってことよ。

 しかし本当に戦闘マシーンと化したG11は凄まじいな。今のところ敵に回したくない度No.1だ。ちなみに二番はHK416。丁寧かつ徹底的で容赦がない。UMP姉妹はもとから実質敵みたいなもんなのでランキング外です。

 手ごたえのない戦場を散歩していてもしょうがないのでちょいと深入りしてみた。全員かすり傷程度にはダメージを負っていた。ちなみに俺が一番傷だらけなのは最前線で弾避けしていたからね、仕方ないね。

 丁度いいので404小隊は全員一度依頼主の元に帰るそうだ。たぶん定期メンテとかそういうんだろう。明日の朝には合流ポイントへの移動を始めるそうだ。この工場も静かになるな。

 実をいうと都合がいい。実は今日、腑に落ちないことがあったのだ。それを確かめに、明日はもう一つの廃工場を漁ってみようと思う。

 さて今夜は一人で寝袋で寝ることにした。愛しのG11離れをするためのリハビリである。早く慣れなくては。

 

 

Ψ月Ι日

 

 とてつもなく窮屈に感じる寝袋の中で目が覚めた。G11はいないから窮屈に感じるはずはないのに、どうしてこんなに俺の臓腑と骨々が悲鳴を上げているのだろう。そう、身に覚えのある感触だった。

 嫌な予感をひしひしと感じながらも目を開けると、UMP45と目が合った。寝袋の中で。耳元からはおはようと囁くUMP9の声が聞こえた。

 ありえないと思った。入りきるはずがない。小柄なG11でさえギリギリだったのに。あとで聞いてみると、俺が寝ている最中に寝袋を裁断し、内側に入り込んだうえでHK416に外から縫ってもらったらしい。そこまでするか普通。

 その時の俺の絶望感は筆舌に尽くしがたい。なにせ通常ですらまず脱出できないUMPサンドだというのに、今回は寝袋という閉鎖空間。圧迫力もマシマシだった。脳裏をよぎったのは脱出不可能と絶体絶命という二つの言葉。

 三途の河が見えてきたあたりで俺もいよいよここまでか感もあったのだが、なんとここでG11が寝袋の酷使に立腹し救助してくれた。あのG11が自発的に、だ。信じられん。でもこの寝袋もってきたのG11だからな、そう考えると納得できる。寝袋がはちきれるのも時間の問題だったからな、よく一晩持ったものだ。もし45のバストサイズがこれより僅かでも大きく設計されていたらぜった(インクが滲んていてこれ以上読めない)

 

 

δ月Л日

 

 俺はとうとう学習した。奴があずかり知らぬ場所であろうとなかろうと、絶対に胸の話はタブーだ。殺意が形を伴って飛んでくる。

 そんなことより、今日は404小隊出立の日だ。途中までは同伴してやった。これだけ一緒に暮らしたりあれこれ教えてれば流石に情も湧くってもんよ。機密漏洩的問題で合流地点までは一緒に行けなかったが、まあ十分だな。別にこれが最後の別れってわけでもなし。俺が命を預けた愛銃を引っ提げてるので、大切にするように言い含めておいた。まあ粗末にするわけないか。よもや手のひらに銃を立てて倒さないように遊んだりせんだろう。俺はよくやるけど。

 奴らを見送ったあとは例の倒壊した鉄血人形工場に足を運んだ。予想通り、目的のものは見つかった。

 万が一を考えて日記に詳細は残さないが、完全にクロだな。どいつもこいつも腹に一物抱えてて嫌になっちゃうわ。

 

 

δ月ц日

 

 404小隊が帰ってきた。はえぇよ。一泊しかしてないじゃん。俺はてっきり一週間強はあると思ってたよ。最低でも三日くらい。

 しかも編成拡大まで済ませちゃって。どうすんだよこんな大所帯。

 だが連中にとっても予想外だったらしく、なにか突発的な問題が発生して急遽送り返されたらしい。それにしては外装まできっちり新品同然じゃん。416の服装も俺の上着の布をあてがった不格好な奴じゃなくて新調済み。と、思いきや前のはまだとっておいてあるらしい。あれは勝負に出る時の一張羅だそうだ。しかしあんなボロくなったのでいいのか? 完璧を好む416らしくもないが、まあ本人なりのこだわりがなんかあるのかもしれないので余計な口は挟まなかった。

 しっかしどいつもこいつも装備まで質のいいやつ揃えちゃってまあ。雇用主の期待の反映ってことかい? でもさっそくグダグダに着崩してるG11には安心した。やっぱお前はぶれないよ。

 あと、依頼主から研修の報酬として荷物が一緒に運ばれてきた。中身はようわからん機材。ごちゃごちゃコイルが巻かれててアンテナが伸びてる。これ開封してから人形たちの様子がおかしいんだが毒電波とか出てない? 大丈夫?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

у月π日

 

 マジ404小隊のバックについてる奴の性格悪すぎでしょほんまぶっころ。 あの毒電波装置はたぶん人形のAIに干渉して親愛度だか好感度だかの値を逆転させる装置だ。

 愛を謳いながら発砲してくる404小隊から死に物狂いで逃げてきたわ。あいつら頭の中で何がどうなってんの? 反転どころじゃなくない?

 あの装置だが十中八九死んだ方の天才の遺物だろう。I.O.PのAIにちょっかい掛けられるようなやつがゴロゴロいてたまるか。妙に作りがずさんだったのは蝶事件でまともな状態の残ってなかったから突貫工事の修理品ってとこか。

 俺が廃工場でヤバ目の証拠掴んだのが向こうにバレて、慌てて何も知らない404小隊を武装させて俺を始末させる気だったようだ。

 でもお前そのやり口ほんま。良心のブレーキついてる? 記憶処理とかもっと穏便に済ませる選択肢なかったの?

 とはいっても、そもそも大層な機密部隊の教育に俺のような根無し草を選択してる時点で最初から処分する気マンマンだったんだろうな。

 それが分かっていたから俺もトンズラこく準備をせっせとしてたわけだしな。 

 しかし完全に追跡の教育を施したのが裏目に出たぞ。何発かおいしい鉛玉をもらってしまった。おじさん久々に流血しちゃったぞ。

 しかしそれなりの生活基盤が整ってたあの廃工場ともおさらばかぁ。

 

 

 はー、明日からどうしよ。

 

 

 

 




逃げきれなかったシリアス(バニラ味)

一度はやってみたかったヤンデレ加速装置こと好感度反転(一日で効果が切れる上に記憶は残る)。
404小隊の心情やいかに。
その筋の者にとってはおなじみの劇薬ですね

ちなみに雇用主側の考えは
 「あかん! あいつやばい情報掴みよった! どうにかせんとあかん!」
 「でも戦闘能力の高さは404小隊の成長ぶりが証明していて迂闊に手をだせんな……」
 「いくらなんでも殺すのは忍びないし……。せや! 404小隊を使って油断させて拘束したろ!おあつらえ向きに丁度いいガラクタもあったやろ!」

 なお実際は好感度が振り切りすぎてて逆転のはずが3週くらい行き過ぎて憎しみの向こう側の殺し愛に達してしてしまった模様。あるいはACVの主任みたいになってるとおもう



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七冊目

今回から残酷な描写タグつけなきゃ


у月у日

 

 一日経ったが特に追手は来ない。なんとか撒けたようだ。身代わり人形の被弾と同時に血糊をばら撒きながら川に落ちたのが良かったのだろう。この時の為にせっせと鉄血人形の血液を集めておいたのだ。他の指とか骨とかの生体部品もぶちまけたので相手方は死を確信したはず。

 弾がまっすぐ飛ばないUMP40だけを頼りに街をさまよい、かろうじて見つけたのが崩れかけた高架下。前とは比べ物にならないくらい酷い環境だが雨をしのげるだけマシと考えよう。上手いこと瓦礫と風向きがかみ合えば風だって凌げるしいけるいける。

 

 

γ月Π日

 

 いやあ、状況が悪いぞ。持ちだした食料や弾薬もそう多くないし、鉄血から奪おうにも工場近辺よりも数が多いんで迂闊にちょっかい出したら余所からもわらわらと呼び寄せてしまうおそれがある。隠密に戦闘をしようにも武器がこれじゃあなあどうにもならん。空き缶で作った即席ナイフで一小隊相手に無双できるほど強くないし。

 とはいいつつも、何か対策を立てないと状況は悪化するばかり。とりあえずこそこそ廃屋になった民家でも漁ってみるか? だとしてもまず民家を探すところからして難易度高いんだよなぁ。

 とにかく明日は周辺をほっつき歩くところから始めるか。

 

 

γ月Σ日

 

 物資的な収穫は無かったが、情報的な収穫はあった。

 どうやらこの辺りは鉄血側とグリフィン側で小さな戦闘がちょいちょいあるらしい。なにやらどちらにとっても主導権のある地域ではないようで、だからといってさほど重要でもないので維持するほどでもないとみた。

 ただ万が一に備えて占拠だけはされないようにパトロール走らせては小規模な遭遇戦が勃発してる感じだな。

 これはひょっとしてもっと強気に外を歩いてみてもいいかもしれんぞ。

しかし、あれだな。404小隊と離れてからは日記に書くことが減った。前までは収まりきらないくらいだったというのに。いやあ、あの賑やかさも短いながらに悪くなかったが、楽しい時間は儚いものだ。まあ、あの生活が二度と帰ってくることもないだろうし割り切るしかないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭に靄がかかったように感じる。うまく思考が働かない。

 ただ、どうしようもなく──この人を殺したい。

 そして、この耐え難い衝動を抱えているのは私だけではないらしい。404小隊の皆が一様に彼に銃口を向けている。無論セーフティを外し、リロードを済ませ引き金に指を掛けた状態で。

 

「オイオイオイ、マジかお前ら」

 

 私たちの届けた荷物をごちゃごちゃといじっていた彼が、ぎょっとした表情で振り返った。殺気を隠すような真似はしていなかったけれど、それを差し引いても凄まじい反応速度。流石という他ない。

 だがこれほどの人数から純粋な殺意をぶつけられてなお、彼は自身のペースを崩さない。

 

「うわぁロジックボム的なやつ? なんかへんなスイッチ入れちゃったかな。おーい聞こえるかー? 銃は人に向けて撃っちゃいけないんだぞー」

「ねえ、指揮官」

「おおナイン。突然だが二階のロッカーの中にチョコレート味のレーションを隠してあるんだ。さてここで物は相談なんだがそれと引き換えに「指揮官」

「な、なんでございましょうか」

「今から指揮官のことぐちゃぐちゃにしてあげるから、頑張って抵抗してね……?」

「ちょっと何言ってるかわからないですね」

 

 彼はどうにかこの場を穏便に済ませたがっているようだけど、もはや誰も取り合わないだろう。だって、彼が愛おしくてたまらないから。この愛を伝える為に彼を殺す。

 しかし、事前に示し合わせたかのように誰も発砲しない。ただ彼を殺すだけでは、意味が無い。それではまるで飽き足りない。一方的では、一方通行では意味が無い。

 私は、私たちは私たちを殺そうとする彼を殺したくてたまらない。なぜとかどうしてとかそういう次元の話ではないのだ。

 ただ、この溢れんばかりの想いをぶつけるにはそれが一番だと。他の方法ではダメ。これしかないと、なんの根拠もなくそういう確信があった。

 

「指揮官、銃を取って。私たちはあなたを殺したいの」 

「わかったわかった観念しよう。弟子が狂えば、始末は師の役目ってな。いいぜ、相手になってやる」

 

 彼が肩に下げたUMP40をそっと手に取った。彼がやる気になったのだ。途端に空間に緊張が走る。いや、それは私たちだけだ。彼は未だにいつもと変わらぬ調子を貫いている。

 さあ、彼はこの絶対絶命の状況でどう動く? どう切り抜ける?

 どう足掻こうともここで殺す。一挙手一投足を見逃すまいとじっと見つめて──

 

「ちょいと見過ぎたな」

 

 瞬間、彼の背後の機械群が眩い閃光を放った。

 

「フラッシュ!?」

「誰がマジメに戦うってんだバーカバーカ!うははは! あぶなっ! 撃った! 今殺す気で撃ったね!?」

 

 視界を塞がれつつ咄嗟に発砲するも、既に荷物を引き倒して射線を遮っている。恐らく、彼が荷物を弄り始めたころには私たちの殺意の萌芽に気づいていたのだろう。いや、もっと前にこのような事態を想定していた? 何にせよ取り逃がすわけにはいかない。視界が回復し次第すぐさま彼の痕跡を見つけて後を追わないと。

 

「今度は煙幕……!」

 

 閃光に目が慣れ始めた頃には、一面が白煙で包まれていた。発生源は運んできた荷物。彼がバッテリーの代わりに欲しいと要望していたものだ。あまりにも周到すぎる。やはり彼はもっと前からこういう脱出せざるを得ない状況に備えていたんだ。連続の攪乱だ、こうなってしまうと単純な指令でしか動かせないダミーはもう使い物にならない。

 

「あ、見っけた。上の窓だよ」

 

 G11が眠そうな声と共にそっと指をさす。見れば先ほどまで閉まっていた窓が開いている。この煙幕の中にありながら驚異的な観察力。やる気さえあれば、本当に頼りになる。

 

「訓練と一緒よ、9と45は真っすぐ追いかけて! G11は高いところへ、私は迂回してルートを限定するわ!」

 

 416の指示が飛んでくるのとほぼ同時に全員が駆ける。セオリーは全員頭に入っていた。彼の訓練の賜物だ。

 窓を抜け工場の屋上まで出ると、やや遠巻きながら彼の姿が目に入った。

 

「ゲェーッもう見つかった! くっそーあらかじめG11だけでも寝袋の中に封印しときゃよかった!」

 

 全力で追いかけるも中々距離が縮まらない。訓練の時にはただ走るだけだったが、今日の彼は工場の資材をばら撒きながら建造物の隙間を縫って走る。ひとたび障害物に足を取られれば、次の瞬間にはもう違う高さの場所にいる。走る速さは訓練の時と変わらないが小手先の技術が盛り込まれていた。今日の彼はやはり本気だ。きっとこれが彼の戦い方。彼の命のやりとりなんだ。だったら本気で逃げる彼を、追い詰めて追い詰めて追い詰めて殺そう。それが私たちの愛の証明。

 愛に、愛に応えなければ。

 

「はーいこちらのパイプはおひとり様までとなっております!」

 

 屋上から隣の建築物へ続くパイプを渡った彼が、渡りきると同時に足場を破壊した。跳んで届く距離でもない。このままでは確実に見失う。そうなったらもう私たちで見つけ出すのは不可能だ。

 

「416!」

『左側から回り込んで! 右側の出口は瓦礫で塞いだから間に合うはずよ!』

『正面玄関は大丈夫なの!?』

『私が見てるよー。まあ向こうも分かってるから顔は出さないと思うけど……やば、ねむ』

『ちょっと! 寝ぼけて見逃すとかシャレにならないわよ!』

『だいじょぶだって、一瞬でも視界に入ったら覚醒するから。たぶん』

 

 通信の内容に一抹の不安がよぎったが、彼女らの言葉を信用して迂回する。彼の渡った建物は三階建てだ。下から登っていけば途中で遭遇するはず。416の指示に従い迂回し階段を駆け上がると、二階の渡り廊下で無事に彼の姿を確認できた。 

 

「キャーッ! 柱ぶっ壊してまで道塞ぐことなくないですか!? 建物は大切にしろォ! 健全な状態で残ってる建物は珍しいんだぞ!」

「指揮官」

「ひっ」

 

 愛しい彼を甘く呼びかけながら引き金を引く。彼は咄嗟に積まれたボックスの裏に転がり込んで身を隠した。弾幕を展開しながらじっと距離を詰める。背後は行き止まり、顔出せば即被弾。彼にできる行動はない。

 

「リロード!」

「任せて姉さん!」

 

 私が弾切れになったと同時に9が発砲を開始する。こういう一方的な状況で制圧射撃を行う場合は、弾幕が途切れないようにリロードのタイミングは私と9で僅かにずらす。セオリーは頭に入っていたが、実戦での活用方法は彼に教わった。そしてそれを、他でもない彼を追い詰めるために使う。

 

「えへへ、えへ、指揮官……好き、好き、好き、好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ好きっ」

 

 半ばトリップしているナインを横目にじりじりと間合いを詰め、もうすぐ──

 

「よいしょぉっ!」

「わぁっ!?」

 

 威勢のいい掛け声とともに、彼の隠れていたボックスが飛んで来る。

 

「いたずらに声を出して距離を教えたのが仇となったな! 銃声よりよっぽど恐怖を煽られたわ馬鹿もんがぁ!」

 

 大きなダメージにはならないが、ナインは体勢を崩し、私はまだリロードが完了していない。制圧射撃が途切れてしまった。だが、これで彼には遮蔽物がなくなった。不安定な体勢ながらも、すかさず缶で作ったインスタントナイフを投擲する。この即席ナイフを彼に教えてもらった時は実用面において懐疑的だったが、なるほどこれは悪くない。

 

「甘いわ! 秘儀畳返し!」

「うそ!?」

 

 直撃の確信があったが、彼は足先だけで床に敷き詰めらた木板を翻して立て、ナイフはカカカカッという小気味のいい音と共に防がれた。

  

「アディオス!」

 

 面食らった一瞬の隙を突き、彼は窓を突き破りこの袋小路を脱出した。私たちもすぐさま彼の姿を追い、窓から飛び降りる。

 だが二階からの着地で、僅かに足がしびれる。彼との距離が離れる。リロードはまだ行っていない。このままでは、彼に逃げられる。

 彼がいるのはこの工場と市街地を繋ぐ鉄橋だ。あの橋を渡って市街地まで抜けられたら、もう追うことはできない。今回だって走り慣れたこの工場内だったからこれほど上手くできた。この工場より複雑で、土地勘のない市街地まで逃がしたら、おしまい。

 ダメ、それは絶対にダメだ。ここで逃がすわけにはいかない。急いでリロードを済ませないと。まだ全然愛し足りない。もっと愛さなきゃ、もっともっと……!

 

 

 ──バスッ

 

 前触れのない、重い銃声。突如彼の右足から鮮血が滲み始め、彼は勢いのまま派手にこけた。

 

「指揮官、私指示するだけが能じゃないのよ。忘れてたでしょ?」

「っ! 一本取られたね。あー……やば」

 

 416の声だ。確かに、訓練中に彼の追跡に彼女が加わったことはなかった。常に先回りや破壊工作がメインで、指揮官も彼女の存在が頭から抜けていたのだろう。

 苦痛に呻く彼の表情が見えた。被弾した足を引きずりながら、どうにか物陰に身を隠そうとしている。とても苦しそう。かわいそうに。楽にしてあげなきゃ。

 もうあの傷では走ることはできない。彼の負け。あとは、私たちの愛を受け取ってもらうだけだ。ゆっくりとリロードしながら彼の下へ近づく。もう416もG11も集合していた。

 

 途端、無防備のまま物陰から彼が飛び出してきた。

 やっと観念したんだ。私たちの愛に身を委ねる気になったんだ。彼の期待に応えよう。容赦はない。私とナインで両足を銃撃し、416が心の臓目がけて発砲し、そしてG11が彼の頭を吹き飛ばした。

 

 痛快なまでに鮮血が舞う。ついにやった。彼を、指揮官をこの手で殺した。彼から教わった技術を駆使して、彼を、私たちの指揮官を殺したんだ。

 

 でも、おかしいな。

 ──全然、嬉しくない。

 ぼんやりと、人間を殺すと鉄血人形より血がいっぱい出るんだなぁ、ってくらい。まるで感動しない。なんでだろう。あんなに殺したかったのに。やってはいけないことをしてしまったような。一番やりたくないことをしてしまったような。

 

 ……。

 

 そっか。そうだよね。

 私は指揮官を殺したかっただけで、死んでほしかったわけじゃないんだ。

 だから、いま私はこんなに空虚なんだ。

 

 まあ、そんなことより!

 ついに指揮官に黒星をつけることができたんだ。いままで惜しいところまで行っていたのにあと少しで届かなかったからすごく嬉しい。

 

 そういえば任務を達成したからだろうか、だんだんと靄の掛かっていた思考が晴れていく。

 ああ、いつもの反省会が楽しみだ。何度か出し抜かれちゃったけど、最終的には私たちが上回った。きっと褒めてくれるに違いない。

 そうだ、今日こそは指揮官に頭をなでてもらおう。前は視線で訴えるだけで済ませたら、結局ナインだけで私にはしてくれなかった。もう、意外と恥ずかしがり屋さんなんだから。

 あと教えてもらいたいことや聞きたいこともたくさんある。一番最初の閃光は一体どうやったんだろう。あの煙幕は何を使ったの? いつから襲撃を察知していたんだろう。なんであれだけ殺気をぶつけられても動じなかったのかとか。そうそう、あの畳返しと呼んでいた奥義も練習したい。

 

 そんなことを考えながら指揮官の側まで駆け寄ろうとして

──おかしなものが視界に映った。

 

 散乱した肉片に頭蓋骨の破片。それから人の皮。地面に広がった血の池。

 その中心に横たわるのは、見覚えのある服を着た肉の塊。

 

 あれは、何だ?

 

 

 

──私たちは今、いったい誰を殺した?

 

 

 

 




指揮官「残念だったな、トリックだよ」

だいたい日記通りの人格なので命懸けなのに楽しそうな感じになったった。


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八冊目

M249ドロップするまで更新しないつもりでいたらすぐ出ちゃった更新です。
ところでみんなワクワクしすぎ。



ζ月Ю日

 

 足りないものが多すぎる。というか一番最初の生活レベルが高すぎた。いきなりあれに慣れてしまったのは本当に良くない。ここは屋根はあっても壁がないからなぁ。瓦礫は壁に含みません。

 何はともあれ布団が欲しい。贅沢を言えばふかふかしてもふもふしたやつ。寝袋とかソファとかあったから勘違いしそうになるが、俺のスーパーハイグレード寝具は負け惜しみなどではなく本当にロイヤルだったんだ。くそう、ダンボールの一枚でもあれば違うんだけどな。着替えはダミー人形に着せてしまったので手元にないし、もし回収できたとしても破裂した生体部品でぐっちょぐちょだろうしな。

 とりあえずは水と飯だ。俺の韋駄天の足が健在であれば鉄血かグリフィンの飛行場からちょろまかしてやるところなんだが、傷口が開いたら困るしなぁ。

 

 

ζ月¨日

 

 このままでは野垂れ死んでしまうぞ。非常に癪に障るがグリフィンに回収してもらう選択肢も視野に入ってくる。脱走しておきながらどのツラ下げてって話だが、流石に命には代えられないからな。

 でもそれは本当に最後の選択肢だ。あそこに戻ったらまた地獄のローテーションが組まされるに違いない。もっとも今はカリーナ一人で回してるんだろうけどなHAHAHA! 戻ったら恨みから刺されるような気がしてきた。マジでこれは最後の手段になるな。

 

 

ζ月ヾ日

 さて肝心の食糧問題だが、なんとかなった。名付けて『今の人お前の知り合いじゃないの』作戦。鉄血と交戦しているグリフィン部隊に飛び入りで参加してそれっぽく指揮して戦利品の回収中にすーっとフェードアウトする作戦だ。グリフィンに所属してる人形なら誰だって俺を知っている……とはいかないまでも、なんとなーく見たような顔だよなぁくらいの知名度なので他の作戦中のついでにちょっとお手伝い的な雰囲気を醸し出しつつ助太刀してきた。

 404小隊に命狙われたばかりなのに迂闊すぎるかもと考えもしたが、たぶんへーき。まあどこかで見たような顔がいるって都市伝説になってるかもしれん。

 

 

ζ月α日

 

 なんでここに404小隊がいるんですかね(震え声)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……え……?」

 

 これは、何。

 ……人だ。指揮官の服を着た、人間だ。

 死んでいる。

 

「指揮官……?」

 

 自分の口から、信じられない言葉が飛び出た。指揮官? 私は今、指揮官と言ったか? どうして今指揮官を呼んだ? 指揮官なんてどこにいる。

 それともまさか、このみすぼらしい肉塊が指揮官とでも? そんな。ありえない。

 

 視界が揺れる。違う、私の体が震えている。何が起きている? 私はさっきまで何をしていた? 誰を追っていた?

 

 記憶がはっきりしないのはあの奇妙なアンテナを開封してからだ。気づけば一晩中彼の寝顔を見つめ続けることで抑えていた想いが止められなくなってしまった。秘めていた想いを殺意に乗せてぶつけたくなった。

 それで無我夢中になって、じゃあ。

 この返り血は、血だまりは、死体は。

 

 指揮官の、もの?

 

 

「ぁ……ぅ……」

 

 嘘だ。ありえない。何かの間違いだ。

 殺しても次の瞬間息を吹き返して気色悪いダンスをしながらその場から走り出しそうな彼が、死ぬわけがない。

 そもそも一体誰が彼ほどの実力者を殺せる。彼の逃走術は目を見張るものがあった。

 そこらの有象無象に彼が殺されるものか。

 でも、あるいは。ずっと彼を側で見て来て、彼の癖を知り尽くして、彼の考え方を直々に指導もらった私たちなら。

 殺せるかもしれない。

 違う。

 殺せた。

 

 ──そうだ。私が殺した。

 私たちが殺した。

 

「指揮官。私ね、とっても素敵なことを思いついたの……」

 

 ナインの声だ。

 

「指揮官。ねえ指揮官。家族って、同じ血が流れてるんでしょ? 血がつながってるんだよね? じゃあ、これで、本当の家族だよね? ずっと一緒になれるんだよね?」

 

 ナインが足元に広がる血溜まりを懸命に手で掬って啜り始めた。何度も、何度も。この血の池を飲み干すように。

 

「指揮官、私ね、お裁縫を練習しているの」

 

 HK416の声だ。

 

「お裁縫だけじゃないわ。お料理に、掃除に簿記の管理だって。こういうの、昔は花嫁修業って言ったんでしょう? 私が全部管理してあげるから、私ひとりでなんでもやってあげるから、私だけを見ていればいいの。もう何も考えなくてもいいのよ?」

 

 飛び出した目玉を、愛おしそうに熱のこもった視線で見つめている。艶のない眼球に、色のない瞳が映っていた。

 

「指揮官、なんで。冷たいよ? 今夜はどうしたの?」

 

 G11の声だ。

 

「こんなんじゃあったかくないよ……指揮官。あ、また。もう、指揮官ってばどこいくの? 一緒にねようよ……」

 

 あたりに飛散するピンク色の肉片をかき集めて抱きかかえ、語りかけている。やがて抱えた肉片をぼとぼとと取り落とし、またかき集めては抱きかかえ、言い聞かせるように語りかけている。まるで赤子でも抱くかのように。

 

 何もわからない。

 何が起きている? みんなどうしてしまったの? 

 体の震えが止まらない。視界が突然低くなった。足に力が入らない。膝が崩れたんだ。 

 視界の焦点が合わない。

 指揮官はどこ?

 

 ──指揮官の服が見える。

 あれは指揮官の服だ。

 じゃあ、あれは指揮官だ。

 なんだ。指揮官は生きてるじゃないか。

 きっと疲れて、横になっているだけ。

 

 そうだ、指揮官の顔が見たい。

 きっとあの緊張感のない顔が見れる。

 そんな指揮官の顔を見たら、きっと安心する。

 

「し、きかん……」

 

 力の抜けていく体で、それでも這いずって近づく。

 きっとこの震えも指揮官の顔を一目見たら収まる。

 

 腑抜けてだらしのない、あの人の顔を。

 優しくて面倒見の良い、あの人の顔を。

 どうか、一目だけでも。

 

 

「指揮官……指揮官……おねがい……顔を見せて……!」 

 

 彼の体にしがみ付いて、すがるように掴みながら、服が血に汚れるのも厭わずに顔を覗き込む。

 

 けれど。指揮官に──もう頭は無かった。

 

 

 待って。

 違う。

 おかしい。

 

 

 これは、()()()()()()()

 

 

 

 

 ……本当に、やってくれるわ。私たち、またあの人に出し抜かれたのね。

 

 

「起きろ!」

 

 声を張り上げ、皆の意識を叩き起こす。

 

「さっさと目を覚ましてもう一度よく見なさい。全部作りもの。あの人はまだ生きている」

 

 私の喝で、冷静さを取り戻させる。指揮官をこの手で殺めたという動揺があったから、こんなチープな舞台道具に騙された。いつもの私たちなら、彼と過ごし続けた私たちなら、すぐその綻びに気づける。

 しばらく、静寂が続く。

 

 

 やがて、ナインは口に含んだ血液を吐き捨てて言った。

 

「やっぱり? どうりでまずいと思ったんだよね」

 

 HK416は人形の眼球を片手で握りつぶして言った。

 

「彼の瞳がこんな薄汚いわけないわよね」

 

 G11は肉片を踏み躙って言った。

 

「やっぱり私が抱くんじゃなくって、指揮官に抱きしめてもらわないと」

 

 皆の瞳に光が戻った。

 今度は、その内側に滾るような情念を蓄えて。

 

 もう、大丈夫ね。じゃあ。

 私たちがやるべきことはひとつ。

 

「──指揮官を、探しに行くわよ」

 

 

 

 次は絶対に逃がさないから。

 

 




強い女UMP45。

名誉ある肉片かき集め大臣にはG11が選任されました。

この鬱展開をもっと引っ張ってもよかったんですけど私のメンタルが耐えきれなかった
もっと鬱々しいのが欲しいひとは各自で妄想して文章にしてハーメルンに投稿してください読みに行くので


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九冊目

次に更新するときはG11を建造できたときと決めていました。
だというのに私はアプデ前に九冊目を更新している。
なぜか? 答えはとってもシンプル。


先に前線日記を更新することで、G11を出したという前提を確定させる……!
これこそ、因果逆転の秘儀!

いやあこれでアプデ明けの建造連打も安泰ですね(慢心)


ζ月Θ日

 

 焦るわ本当に。404小隊が俺の過ごす高架の上を歩いていた。なんでバレなかったのかわからんぞ。奇跡だ奇跡。

 なんか誰か橋の上歩いてるなぁーと思いながら息を潜めていると、聞き覚えのある声がしたのだ。まあずばりナインの声だった。

 一瞬身構えたが、時間や距離的にあの電波の効果も切れているのかもしれないと思い、会話から情報を集めようと耳を澄ましてみると、聞こえてきたのは「はやく指揮官と本当の家族になりたいなぁ」という言葉。

 俺の生存を確信していないと出てこない言葉である。やはりあの偽装は多少の時間稼ぎくらいにしかならなかったのだろう。まあ、あれは単に注意をそらしてあの場を脱出するためのものだしそんなもんだよな。しかしこの段階ではまだ洗脳が解けているかどうかわからなかったので、彼女たちが雑談しているのをいいことに俺は更なる情報を求めてみた。

そして聞こえたセリフがこちら。

 

「やっぱり血が欲しいなー」

 

 不穏だった。

 移動中の雑談でどうして血が欲しいという言葉が。なんかそういうのに目覚めてしまったのか。お父さんそんな風に育てた覚えはありませんよ。それとも俺の似姿を殺したことで何か新しい世界への扉を開いてしまったのか。じゃあ俺のせいじゃん。

 しばらく聞き続けてみると、他のメンツから「手錠これだけで足りるかしら」とか「絶対に脱走できない場所に監禁すべき」やら「薬を盛れば一日中一緒に寝れるのでは」etcetc...

 

 これは正気に戻ってませんね(確信)

 

 

×月^日

 

 参ったことに404小隊は俺が近くにいることを察しているらしく、この市街地で本格的に捜索を始めるつもりのようだ。

 見つかったら何されるか分かったものではないので、急いで荷物をまとめ高架下から離れた。きっと次からはUMPサンド程度では済まされないだろう。もっと、こう、俺の想像力では思いもよらないようなすごくてえぐいやつが待ち受けているに違いない。

 せっかくこの高架下ぐらしにも慣れ始めてきたのになぁ。痕跡は消したつもり。 しかし、これは予感なんだが俺がここに居たことはバレる気がしてきた。臭いとかで。不安になったので水とか撒いておいた。貴重な水だが、背に腹は代えられまい。

 次の拠点はボロ家。前にグリフィンとしれっと共闘したときに見つけたのだ。状態もなかなか悪くはない。良いとも言えないけど。

 ただ、困ったことに先客がいた。はぐれ人形ってやつだ。名前はM249。メモしておいたから覚えていたぞ。

 指揮官がいなくて戦闘行動ができないというのに、ほぼ弾切れ同然だそうだ。世間一般ではそういう状況を詰みっていうんですよ? 当人はフーセンガム膨らませながらソファで横になってたけどそんな場合じゃないと思いました。

 いや、むしろそこまで何もできないとそうするのが正解なのか?

 ちなみに俺が来たところで状況はなんら好転しないことは伝えておいた。弾がないんなら俺が指揮したところで意味ないし。

 その日はとりあえずシェアハウスして夜を過ごした。

 

 

×月´日

 

 俺は感動した。昨日の晩、俺の寝具・オブ・エレガンスを目ざとく見つけたM249の私も布団に入らせろという主張が激しかったのでしぶしぶ入れてやったのだが、奴と一緒の夜はそれはもうふかふかのもふもふであった。寝ぼけてサブミッションしてこないし、UMP姉妹よりも柔らかいので(どこが、とか何が、については明記しないことにする)至福のひとときであった。流石にぐでぐで感はG11に劣るものの、申し分ないレベル。

 我が理想郷はここにあったのだ。

 当人の性格もぐんにゃりした無気力っぷりで、付かず離れずの距離感が心地いい。こういうのでいいんだよこういうので。

 俺の大切な寝具・オブ・チェリーブロッサムのありがたみを理解しているというのも加点ポイント。以来しきりに一緒に寝たがっていたからな、話の分かる奴だ。

 気分がよかったので貴重な食糧もふんだんにわけてやった。なによりかけがえのないルームメイトでもあるからな。円滑な関係を築きたい。

 ただよろしくないのはこいつと一緒にいるとなんだか俺までぐでぐでしてくることか。今日は何もせずM249と一日ごろごろして終わってしまった。なんて贅沢な時間の使い道。ぶっちゃけよろしくない。あいつ何かついぐだぐだしてしまう特殊な力場とか発生させてるんじゃなかろうか。

 そんなことをしていたのでM249とは昨日の今日で猛スピードで親密になった。ただ、懐き方が404小隊を彷彿とさせるのだけが気になる。たぶん気のせい。

 

 

 

 

 

 

追跡ログ{筆記者:UMP45}

 

 彼を追うにあたって、まずは記録をつけることにした。彼が日記をつけるのに習ってみた。その日に得た情報をこうして媒体に出力することで、何か見落としていたものに気づけるのではないかという試みでもある。

 私たちはまず、彼の持つUMP40が見つからないことに気づいた。彼は自分の持ち物は大切にする人だ。それは私たちに託されたこの銃が物語っている。

 同時に私のコードネームであるこのUMP45というサブマシンガンのかつての持ち主は、他でもない彼だ。この銃もボロボロのゴツゴツで、傷だらけ。『汚い』というより、『酷い』という表現が ふさわしい域まできている。けれど、手に取ってみればよく手入れされ、使い込まれているのがわかる。新しいものを用意せずに最低限の範囲でパーツを交換しつつ使い続けているのもそうだ。

 

 ……彼はUMP45を大切にしていた──と書くとちょっと口元がにやける。でもこれは事実だから。何もおかしなことはない。ないったら。

 

 閑話休題。

 自分の死を偽装するための人形にUMP40を持たせなかったのはすぐにバレるとわかっていたからだろう。死の説得力を増すことをせずUMP40をどこかいい加減な場所に捨てたというのは考えにくい。恐らくまだ自身で持っているはず。ということは、彼は武器が必要な場所ないしなければ危険な場所に向かったと思われる。

 彼も何か蓄えのある様子ではなかったから、一度にそれほど遠くまではいけないはず。

 やはりというべきか、通りがかった高架下から指揮官の痕跡は見つかった。

 とはいえ、ただ指揮官の匂いがするというだけなんだけれど。最初に気づいたのはナインだった。普段から指揮官に飛び込んでいたので、嗅ぎなれていたのかもしれない。

 そして指揮官の匂いで間違いないと証言したのは416だった。

 一部とはいえ常日頃から指揮官の衣服を着用している416の言葉だから、信頼に足る。

 そうだ、ダミーに着せられていた指揮官の服も早く洗いたいわね。あんなに血塗れじゃあ使用できないし。

 

 そういえば、指揮官の捜索は順調に進んでいるけれど、G11は胸騒ぎがする、今だけは寝ている場合ではないと言って奮起していた。とても珍しい。

 ひょっとしたらG11にとって何か良くないことがあるかもしれない。

 

 例えば──指揮官がお気に入りの抱き枕を見つけた……とか?

 




突然のM249。作者の趣味です。
M249を登場させられて私は幸せになれるし添い寝ポジを取られたG11が嫉妬に燃えるしでいいことずくめですね(白目)





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十冊目

因果逆転の秘儀の甲斐あってたった500連でG11が来てくれました。
おわかりだとは思いますが儀式素材はダイヤです。





×月Π日

 

 決めた、俺は秘密基地を作る(ドン!)

 これは別に突飛な決定という訳でもないのだ。おそらく、今後404小隊から逃げるようにあちこちを転々としていたら水と食料の方が持たん。

 肝心の場所だが、住宅街にある地下室のある一軒家を見つけたのでそこを利用する。

 地下への入り口は巧妙に隠した(つもり)。地下へ続くハッチの上に底をくりぬいた冷蔵庫を乗せてカモフラージュという寸法よ。まさか冷蔵庫の下にハシゴが続いているとは思うまい。いやーやっぱこういうの憧れるよねぇ。

 地下室以外には可能な限り生活感を排除し、この家もありふれた廃屋の一つという体を保つ。

 さっそく基地を豊かにするために色々運び込もうとしたのだが、肝心の入り口が狭いので持ち込めるものに制限が掛かるのが悩みどころ。M249も通るときに体のあちこちがひっかかると文句を垂れていた。いや、それは知らんがな。

 

 

×月仝

 

 街をこそこそと歩いていたら、懐かしい連中と会った。現役時代に引き連れてた人形たちだ。抜ける直前の時期は同じグリフィンに所属していても顔を合わせる機会が滅多になかったから本当に久しぶりだ。などと気楽に考えて声を掛けたら、血相を変えて追いかけてきたのではちゃめちゃにビックリした。体が反射的に逃走してくれたので捕縛されなかったものの、油断していたので本当に危なかった。

 そうだよな、そういえば俺グリフィンから勝手に逃亡した身の上だったわ。別に重要なデータを持ち出したりはしてないけど、捜索されていてもおかしくない。

 だが404小隊との鬼ごっこ続きで研ぎ澄まされた俺なら逃走の一つや二つ楽勝ですよ。嘘です傷口開いてつらいです。

 しっかり撒いたのを確認してから秘密基地に帰り、M249にくるまって寝た。前までは同じ布団で寝ているだけだったのが、足を絡ませ腕を回しと日に日に拘束してくるようになっているのに不安を覚えないでもないが、この方が暖かいので気にしないことにした。

 しかし、AR小隊っていうんだっけ? 今はあのM4が隊長かぁ。立派になったもんだ。

 俺の事追いかけてこなければもっと立派だったのに。

 

 

 

 

 

 

「もー歩くのつかれたー……足が棒になっちゃう……」

 

 倒壊した住宅街の一角。足を引きずるようにのたのたと歩いていたG11が、指揮官を探し始めてからもう何度目かもわからない弱音を吐く。

 

「いいから歩く」

「うぅ……指揮官のとこにかえるぅ……」

 

 とうとう歩くのをやめたG11に対し、416が慣れた様子で引っ張り無理やり歩かせる。これもまた、もう何度も交わされたやりとりだった。

 だが、今回は一味違う。

 ふにゃふにゃになりながらなおも自分で歩こうとしないG11にとうとうHK416も呆れ返った様子で、繋いでいた手をぱっと放した。

 前に進む力を全て416に任せていたG11は、引いてもらっていた手を突然離されてこけそうになる。

 

「いきなり離さないでよ、こけちゃうじゃん」

 

 非難の声を上げるG11に対して、HK416は無慈悲に告げた。

 

「そんなに歩きたくないなら、そこで寝てなさい」

「え、いいの? やったぁ。じゃあ指揮官見つけたら起こして……」

「何言ってるの、あなたはここに置いていくのよ。私たちも指揮官も、誰も起こしにこないわよ」

「またまたぁ~、そんなこと言っちゃって」  

「あ、そういうことならその寝袋は私がもってくから」

「ナインまで!? あれぇこれ本気のやつ!? っていうか何で寝袋まで!」

 

 世話焼きの416が本当に置いていくわけないとどこか軽く受け止めていたG11だったが、UMP9の要求を聞き、冗談ではないと慌て始める。

 

「なんでって、その寝袋に染み込んだ指揮官の色々を貴女が堪能しているのは周知の事実よ」

「ぎくっ」

「確かにG11の寝袋の独占は目に余るものがあるわね」

「え、ちょ、45まで」

「……ころしてでもうばいとる」

 

 目の据わったUMP9の言葉を号令に、UMP9と45がG11の寝袋に飛びつく。

 

「! やめろぉ、ひっぱるなぁ! うぐぐ、これはわたしのたからものなんだ、ぜ、ぜったいに渡してなるものか……!」

 

 突如始まった綱引き。UMP9も45も先ほどまでの冗談めいた口調に反して、寝袋を掴む手は爪を立て手首をひねり全身全霊で寝袋をひったくろうとしていた。対するG11も先ほどまでのくたびれっぷりが嘘のように寝袋にしがみつき、地に足をつけて踏みとどまる。

 今までにない気合を見せるG11は、驚くべきことに2対1という数の不利を覆し、綱引きの戦況を拮抗状態にまで抑え込んでいた。

 

「二人とも。ほどほどにしないとそれ破れるわよ」

「……くっ、仕方ないわね」

「た、たすかった……もうやだ……早く指揮官を見つけて一緒にさなぎになりたい……」

 

 輪をかけてへとへとになったG11がぶつくさ泣き言を零す。が、何かに気づき、呟いた。

 

「誰か来る」

 

 先ほどまで騒いでいたせいで聞き取れなかったが、確かに慌ただしい足音が近づいてくる。

 現れたのは、焦燥しきった表情の女性。黒い髪と眼帯が象徴的だった。

 

「くそっ、せっかくあと一歩というところまで来たのに……!」

「ってM16じゃない。なにそんなに慌ててんのよ」

 

 警戒して損した、とでも言いたげな表情で416が構えを解いた。

 

「……HK416か? 悪いが今は構っている場合じゃないんだ」

「ふーん。ずいぶんと余裕がないのね」

「そうだ。頼むから邪魔をしてくれるなよ、今は手加減はできない」

「それ、今じゃなかったら手加減する気だったってワケ? ほんっといちいちムカつくわね……!」

「……」

 

 声を荒げる416に対し、M16もまた剣呑な表情で様子をうかがう。

 

「……別に邪魔なんてしないわよ。私たちだって暇じゃないんだから」

 

 張り詰めていた空気がふっと元に戻る。M16もまた、事を穏便に済ますことができて安堵していた。 

 

「助かる。人を追っているんだ。情報を提供してくれないか」

「面白そうな話してるじゃない。私も混ぜてよ」

 

 傍観に徹していたUMP45が会話に参加してくる。こういった実務的な交渉事では、必ずUMP45が先頭に立つようになっていた。

 

「で、追ってる奴は人間と人形どっち? 性別は? 」

「人間の男性だ。丁度416の羽織っているのと同じ──っ!」

 

 416の服装に気づいたM16が途中まで言いかけて言葉を止めた。

 その視線は、416が着ている上着に向けられていた。

 

「? なによ」

「なあ、一つ聞かせてくれ。416の上着。前は着ていなかったよな?」

「まあ、そうだけど」

 

 M16の震えるような声で投げ掛けられた問いに、416は困惑しつつも応える。

 

「……それは元はお前の物じゃない。合ってるか」

「そうね。これ死体からはぎ取ったやつだし」

 

 M16が息を呑んだ。何を察したか、UMP45はにやにや笑っている。

 

「次の質問だ。あちこちに血の染みが広がってる理由は?」

「あ、これねぇ。やっぱり着てる奴の心臓吹き飛ばしちゃったから。やっぱり気になるわよね……」

 

 HK416の気楽な返事とは対照的に、M16の顔色は悪い。

 

「最後に一つ。その服の持ち主と、お前たちの任務に関係は……あるか?」

 

 HK416よりも先に、UMP45が笑みを浮かべて答えた。

 

「YESと言ったら?」

 

 

 

 




時系列こわれる
AR小隊がヤンデレじゃないわけないだろいい加減にしろ!
ちなみにこの話ピックアップ最終日の夜にきてから書き始めました


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十一冊目

ギリギリ毎週更新できてない


 前に彼に見せてもらった日記を解読した時から懸念していたことがある。

 まだ彼がグリフィンに所属していた頃、あるいはそれよりもっと前か。彼には他の戦術人形を連れて前線に立っていた時期があるようだ。詳しい時期までは日記の文章から読み取ることはできなかったのが悔やまれる。翻訳で精一杯だった。

 彼が元グリフィンであることを鑑みるに、率いていたのは無骨な軍用ではなく私たち同様の人を模した女性型であるはず。私たちよりも付き合いが長く、戦場を通して育まれた絆もあるだろう。私たちとて彼と同じ屋根の下で寝た関係だけど、彼の中で大きな存在になるにはまだまだ共に過ごした時間が足りない。きっと彼の部下であった人形たちは、いつか必ず私たちにとって大きな障害になる。警戒が必要だった。

 ましてや私たちは曲がりなりにも彼を手にかけてしまった状況であり、是が非でも関係がこじれてしまうだろう。穏便に済む可能性は低い。

 でも、彼を殺そうとしたという事実が、今は都合がいい。

 彼が率いていた人形というのは、M16の焦りようからして現AR小隊のメンバーの可能性が高い。彼の失踪に対して彼女たちが捜索に充てられたのも、恐らくは前々から縁があったから。そして任務という大義名分の下活動している。任務に縛られるのは私たち404小隊も同じだけれど、いかんせん表のAR小隊よりは裏の私たちの方が活動に融通が利く。

 ここで彼の当初の目論見通りに死を偽装できたなら、AR小隊は捜索を打ち切らざるを得なくなる。彼女たちの特殊な立場から、彼女たちを破壊するような強硬手段は取れない。最も有力な方法が、AR小隊に彼を諦めさせること。それを、今やる。

 

 ──決着はここで着ける。全力で始末する。

 

 私たちが殺した。そう思わせる。

 HK416は私が会話に割り込んだ時点で目論見を察している。大丈夫、連携は取れる。

 M16は聡い。だから明言は避ける。迂遠な表現で、ほのめかすに留める。焦燥して鈍ったM16の判断力を利用する。早とちりを誘う。情報を絞り、限られた知識から真相を探らせる。血に濡れた彼の服がある。私たちの服装もまた、血で濡れている。そういうヒントで、誤った正解に導く。自力で考えを巡らせて得た答えをもう一度疑うことは難しい。それが賢しい者であれば尚更に。

 

「……」

 

 M16は沈黙を貫く。知性の灯った瞳だ。得られた判断材料が私たちの言葉を本当に裏付けるものなのか、思考を巡らせているのだろう。

 これは『試練』だ。乗り越えなければ、彼との蜜月が曇る。だが、慌てる必要はない。M16には、じっと不敵な笑みを向ける。

 私と彼は出会うべくして出会い、結ばれるべくして結ばれる。物事がそういうふう出来ている。『運命』が味方をしている。 

 因縁は持ち込ませない。運命は変えられない。

 お前たちの彼との縁は、ここで終わらせる。

 

「……いや、もういい。全て把握した」

 

 息の詰まるような、絞り出すような声。まるで覇気のない声。

 それでいい。

 枯れた諦観を抱いたまま、指揮官との別れを惜しめ。

 お前たちが指揮官に会うことは、もうないでしょうから。

 

「あっそう。じゃ、私たちはもう行くから」

「え、もう休憩おわりなのー?」

 

 

 G11の抗議は無視して軽くHK416に目配せをする。HK416が、羽織った指揮官の服に僅かにこびりついていた肉片──生体パーツをこれみよがしに払う。

 ──これで、とどめ。

 

 

 

 

 

 

『あ、やっと繋がった……。姉さん、一体今までどうしていたの?』

「悪い、404小隊と遭遇していてな。指揮官の事を何か知らないか聞いていた」

『404小隊と? それで何かわかったの?』

「それを今から調べるのさ。一緒にSOPMODⅡはいるか」

『いるよー!』

 

 音割れしそうなほどの天真爛漫な声。M4のマイクに強引に割り込んで話しているらしい。

 

「今から画像データを送る。見てくれ」

『お、なになに? 指揮官の寝顔とか?』

「残念ながら違うな。どうだ、届いたか?」

『とどいたー!』

「単刀直入に聞こう。……それは何だ?」

 

『え、なにって鉄血人形の生体パーツでしょ? これがどうかしたの?』

「そうか。いや安心した」

『そうなの? よくわかんないけど』

 

 いやはや、我が小隊に鉄血人形の分解が趣味の奴がいて助かった。私に違いは分からないからな。本当、何が役に立つかわからんものだ。

 

「さて、皆に伝えなくてはいけないことが二つある」

『それっていいニュース? それとも悪いニュースかしら?』

「AR15もいるのか。じゃあ良いニュースだ。指揮官の生存がほぼ確定した。この市街地に潜んでいるとみて間違いないだろうさ」

『本当!?』

『良かった……。でも、そうですよね。あの人が死ぬとは到底思えませんし……』

『まあ、でしょうね』

 

 なんだ、AR15だけ冷静ぶって。声が安堵で弾んでいるのが隠せてないぞ。本人は隠せているつもりなのだろう。面白いから言わないが。

 

「動かぬ証拠を残してくれたHK416に感謝しないとな」

『……どうしてHK416の名が?』

「それが悪いニュースに繋がるのさ。ずばり、404小隊が指揮官の身柄を狙っている」

『404小隊が!? なんの目的で?』

「さぁな。だが随分執着している様子だった。先を越されるとまずいかもしれない」

「ああ、それと最後に一つ、笑い話だ」

『どうせ趣味の悪い話でしょ』

「404小隊の連中、指揮官の十八番の死体人形に一度まんまと騙されたらしい。

 連中、私が嘘に気づいたと知らずに大真面目にペテンを続けるものだから、笑いをこらえるのが本当に大変だったよ」

 

 いやあ。傑作傑作。

 

 




翌日の仕事を思いながら睡眠時間削って書いているときが一番捗る
作者は死ぬ


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十二冊目


ドルフロの二次って日記形式多いですね(すっとぼけ)
密度よりも更新を優先してみるの巻。


Ν日θ日

 

 どうしよう。外に出られない。

 404小隊とAR小隊がずっと街を探索しているらしい。秘密基地は見つけられていないのに、俺がいることだけは確信しているらしい。ナンデ。

 AR小隊が俺を探しているということは、グリフィンの人形も情報を提供していると思っていいだろう。今までのようにしれっと参戦とかやってたら情報共有されたのち現場確保されそうで怖いんだよな。単純に姿をさらすのも大事をとって控えている。

 仕方がないので代わりにM249に街に出てもらっているのが現状だ。M249なら発見されても通報されないからな。弾薬がない人形を送り出す鬼畜行為には心が痛むが、奴らに見つかったあとの自分の姿を想像すればそんな甘ったれた考えは吹き飛んだ。

 

 

Ν月ь日

 

 このままでは堕落する。俺はそう結論付けた。

 日がなM249とふかふかの夜を過ごし、戦う術を持たないM249を危険な屋外に送り出し、俺はだらだらしながら食料類を待つだけ。

 これはイカン。だめすぎる。

 人と人形の関係としては本来これくらいが適当なのかもしれないが、俺の良心がずたずたに引き裂かれるのでダメ。

 M249も自分が必要とされているのを感じているのかまんざらでもない雰囲気だったので、自分の意志で抜け出さないとずぶずぶ深みにハマる。

 許されないことだ。何とかしなくては。

 そう思いながらM249と一緒に飯を食って一緒に寝た。何とかなってない。

 そういえば飯は少し変な味がしたな。やはりそう状態のいいものは見つからなかったのかもしれない。

 

 

Ν月´日

 

 体の調子が悪いぞ。とてもよろしくない。

 それほど深刻な症状という訳ではないが、体がだるい。せっかく足の傷が治りつつあったのに、これではまだまだ外に出られないぞ。

 M249は呆れた顔をして、それでも食料を探しにまた街に出て行ってくれた。何もしないことを至上主義にしている奴にこれほど甲斐甲斐しく世話を焼かせる俺のなんと情けない事か。

 養生しよう。そして復活した暁には恩に報いよう。一体何をしてやれるだろうか。本人に聞くのが一番かもしれないが、それは最終手段にしよう。古い伝手でも辿って安全で快適な仕事と住居を紹介してやるのが現実的かもしれない。少し考えておこう。

 

 

追跡ログ02{筆記者HK416}

 

 これは彼の追跡・捜索において、なんらかの進展があったときに書き残す追跡ログ……らしい。当番制にするらしく、二番手は私になった。

 とりあえず目新しい進展といえば、やはり彼が一時的に身を潜めていたと思われる家屋を発見したことね。彼の愛用していたあの粗末な布団の切れ端を発見できたわ。それと同時に、ひとつ絶対に見逃せない疑惑も浮上した。

 彼が、誰か人形を一体側に置いている可能性がある。

 決定的証拠を目撃したG11は、その人形が彼の抱き枕としての立ち位置にいる可能性を危惧して取り乱していた。やがてストレスが最高潮に達したのか昔の性格が出てきてしまった。

 最初こそ放っておけばそのうち元に戻るだろうと静観していたけれど『ごしゅじんさまはわたしたちに飽きたんですか』だの『もういらない子なのですか』だの、縁起でもないうわごとを繰り返し始めたので黙らせた。

 よりにもよって最後に『どんなことでもいたします、せいいっぱいごほうしします、だからすてないでください、おねがいします、おねがいします、すてないで……』などと言い残したせいで気分は最悪。

 指揮官に飽きられて捨てられるなんて、想像すらしたくないわ。

 

 





M249に直接何をしてほしいかを聞くとゲームオーバーとなります。
理由は察してください。


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十三冊目


 ずっとほしかったウェルロッドがきてくれたから更新しました
 ウェルロッドは登場しません。作者の我慢が続く限り

 実をいうと書き始めた時期より面白いドルフロ二次がいっぱいあるので別に自分で書かなくてもよいではと思い始めてます。うそです。ずっと思ってました。 
 更新ペースは今まで通りきまぐれ


Л月у日

 

 何をするにも気力が湧かなくて参っている。日記だけは習慣で続いているが、一度途切れたらもう続けられないかもしれしれない。

 近頃は閉じこもりすぎて時間間隔がおかしくなりそうだったので、軽く外に出て見ようと思ったのだが冷蔵庫の底に繋がるハッチが開かなかった。

 ここを知っているのはM249だけなので、彼女が帰ってきてくれないと出れない……わけではない。実はこんなこともあろうかとバールのようなものを用意してあるのだ。強引にこじ開けるとハッチがダメになるので最終手段だが、どうしても腹が減った。我慢にも限界がある。というか生命維持的に限界。明日になっても帰ってこないようなら自分の足で外に出て食料を探す。

 

 

Л月¶日

 

 寝て起きたら知らない天井。混乱しつつも辺りを見回してみたらすぐにG&Kのレリーフを発見してしまった。早いよ情報の提供が。

 【悲報】-俺、再びグリフィンに捕らわれる。

 昨日は秘密基地から出たあと空腹に苛まれながらふらふら散策していたのだが、うっかり気絶してしまったようだ。そしてそのままお持ち帰りと。

 まあ保護されておいて何を偉そうにという話でもある。今回は運よく助かったが、そのまま野垂れ死ぬのが普通だ。あるいは鉄血人形に見つかって人質か拷問か。

 自分で組織を抜け出しておいて組織に命を救われていては世話がない。

 明日クルーガーと面会することになっているが、一体どの面下げていけというのか。とりあえず仕事の過密スケジュールの文句だけは言おうと心に決めた。

 

 

∵月£日

 

 予想外なことに、クルーガーは謝罪から話を始めた。

 俺の脱走からしばらくして、カリーナを筆頭とした職員数名が過労で倒れたらしく、調査して始めて知った現場の凄惨っぷりにたまげたらしい。それと、俺を襲撃してきた404小隊についても。本来はもっと穏便に事を進めるはずが、手違いがあって殺意のようなもの100%になってしまったらしい。なにそれこわい。でも生きてるからノーカン。

 あと、俺を運んできたのは他でもないM249であったそうだ。俺を担いで近くにいたグリフィンの小隊に救助を要求したらしい。うーん、感謝。

 でも無事だったならなんで戻ってこなかったのだろう。機会があるなら問いただしておきたいところだ。

 そして俺の処遇だが、やはり前と同じようにとはいかないらしい。というかクルーガーは前の職場を安全かつ確実に前線に貢献できる、エリートのための職場だと思っていたらしい。実態は毎日がデスマーチでしたけどね。 

 ともあれやんちゃをしでかした俺をしれっと元のさやに収めるわけにはいかないわけで。

 普段は地味な仕事をこなしつつ、たまーに大きな仕事として昔みたいに雇われの人形を率いて前線を闊歩することになった。安全とは程遠い業務となってしまったわけだが、まあ結局こういうのが性に合っているのだろうな。

 そういえば、グリフィンが雇った人形ってなんだ。グリフィンそのものが傭兵組織じゃないか。そう思って質問してみると資料を渡された。

 404小隊のプロファイルだった。

 AR小隊のプロファイルも渡された。

 とりあえず飯がうまい。

 

 

∵月¢日

 

 とはいいつつ毎日出撃というわけでもないので、普段は用務員のおじさんAとしてグリフィンにちゃっかりと馴染ませてもらうことになった。食堂の会計からトイレ掃除まで色々だな。あれ、やること多くね。こっちだけでよくね? ダメかな? 

 住居は寮を新しく借りることになった。新設してまだ住人がいないやつ。記念すべき最初の入居者に俺が選ばれた。あと隣の部屋にM249。隣の部屋に居るはずなのにその日の晩には俺の部屋で寝ていた。お前というやつは。聞きたいことがあったはずだけど寝て起きたら忘れた。まあきっとそんな重要なことじゃないさ。

 それと、404小隊と再会した。いやこの書き方では少し語弊があるか。確かに再会ではあった。昨日、建物の外から窓を拭いていたら、中にいるUMP45と目が合ったんだ。404小隊もその場に全員いた。俺はその窓の掃除を途中で切り上げすぐに別の場所に移動した。

 

 ところで明日、この寮に入居する人形が4人いるらしい。

 俺は引っ越し手続きを始めることにした。

 





(急展開で)すまんな。
 日常ゴロゴロ路線に変えるつもりだコイツ!
 指揮官はこれで平和な毎日を過ごせるのだ!(ただし周りの人形関係は考えないものとする)

 


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十四冊目


我慢できなかった


 

Ю月*日

 

 引っ越しの申請をしようと朝早くに起きた。しかし寝る前に書いたはずの書類がどこにも見当たらないというトラブルが発生。当然のように同室で惰眠を貪っていたM249を起こして聞いてみるも知らないと一蹴して二度寝しやがった。おかしいなあ、机の上に置きっぱなしだったからなくなるはずないのに。

 まあないものは仕方がないので大人しく出勤。今日もまた窓拭きだ。

 先日の反省を生かし、事前に室内を確認してから作業を始めることにした。45の時のような恐ろしい体験はもうしたくないからな。脳裏に浮かべるだけで息が詰まる。あまり思い出したくないので日記にも詳細は記さないことにした。

 キーワードは満開と笑顔とラフレシア。

 

 

Ю月%日

 

 また書類がどこかに消えた。俺は幻覚でもみているのだろうか。何か謎の力で俺の引っ越しが阻止されている気がしてきた。まあ、正直ここの居心地はかなりいい。もう少しここに住んでいてもいいか。引っ越しはまた今度で。

 そういえば遂に404小隊が入居してしまった。とりあえず鍵はできるだけ良い奴を用意してある。たぶん大丈夫。

 そう思って仕事から帰宅するとクローゼットからナインがでてきたので、冷静に奥に押し戻して取っ手にかんぬきを刺し内側から開かないようにした。つい先ほどのことだ。

 今もベットの横でM249とG11が殴り合い宇宙をしているが知らん。後回しだ。

 今日はもう寝る。

 

 

Ю月〆日

 

 起きたら俺とM249と404小隊で知恵の輪みたいになっていた。骨が折れなかったのが奇跡。なお仕事には遅刻した模様。他の連中が起きる前に脱出できたのは不幸中の幸いだったな。もっと大惨事になるところだった。

 今日は食堂で会計のおっちゃんをした。SPP-1とウェルロッドが挨拶に来てくれたのが嬉しかった。二人は俺が泥臭い戦場ではなく、上品な屋敷に無断で遊びに行って大事そうなディスクをちょろまかしたりしていた頃の馴染みだな。

 特にウェルロッドとは再会の挨拶そこそこに昼飯の注文の中に暗号を混ぜながらの会話になった。正直他愛もない会話なんだから普通に話せばいいじゃんと思った。あれ頭も神経も使うから嫌い。

 ちなみに内容は専属の逃がし屋としての熱烈なスカウトが9割だった。逃がし屋稼業はとっくに引退したつもりなので丁重かつ迂遠な言い回しでしかしハッキリとお断りした。あの喧しい人形が来なかったらずっと居座っていたと思う。

 たぶん毎日通い詰めてくるんだろうなぁ。

 

 

 

 

「お湯の水割りください」

 

 カウンターの向こうで、金髪の少女が無表情のまま言い放った。

 

「……各テーブルに備え付けのピッチャーをご利用ください」

「冗談です。ここを利用するのは初めてでして。緊張のあまりつい」

 

 へたくそな嘘だった。そんな不動の姿勢でキリっと立ちながら何を言い出すんだ。だいたい開口一番の冗談にしてはタチが悪すぎる。相手が命乞いをしていても躊躇いなく引き金を引くのが似合いそうな冷徹な表情でしていい発言ではない。いくら俺と相手──ウェルロッドが初対面ではないとしてももっと加減を覚えてほしい。

 だが、応対する俺もまた冷静だった。こう見えて俺は職務に忠実なことに定評があるんだ。だから今日もこうして似合わない敬語を真面目に使ってる。

 

「落ち着いて。注文は?」

「今日はパンの気分です。あなたをオススメです」

 

 フルスロットルだった。どこをどうみても見ても分からないが、ウェルロッドは確実に気分が高揚していた。言葉の中に別の意味を持たせる会話をしているはずが、ダイレクトな直球デッドボール炸裂させてきたぞこいつ。

 

「消費期限ぎれですね。またの機会に」

 

 だが、俺はこれを難なくいなす。こういう手合いには慣れている。特に話の通じない相手。大丈夫、悲しくない。

 

「あまり揮発性が高すぎるのも考え物ですね。流行りのテラスに不在通知ありですよ」

「泡立ちの良さが売りでもありますから。廉価版で勘弁してください」

 

 猛烈なアプローチをさらりと流されたことに立腹したのか、ウェルロッドは眉をひそめて非難の声を上げた。だが俺はめげずのらりくらりと流す。

 

「水かさの足りないこのご時勢ですよ。水平線を照らす水先案内人が必要なのです」

「箱舟ならもう座礁して長いでしょう。さ、きなこパンです。本日のおすすめですよ」

 

 話を締めに掛かる。店員と客という関係を活かす。長話はできないからな。

 

「む、話はまだ――」

「たい焼きを所望するにゃぁぁぁぁぁ!」

 

 後ろから別の客が突入してきた。素晴らしいタイミングだ。その強引さもグッド。

 

「はい、たい焼きですね。では後にお客様がつかえていますのでこの辺りで」

「……ええ」

 

 いかにも不満そうな声を上げ、ウェルロッドはカウンターから離れて手ごろな席に向かっていった。いやあウェルロッドは強敵でしたね。

 

 なおウェルロッドは営業時間が終わって俺がシャッターを閉めるまでパンをほおばりながらずっとこっちを見ていた。

 目を合わせないように気を付けないとな。

 






ウェルロッドは分かりにくい全力デレ。(わかりにくいとは言ってない)
暗号の意味をルビ振るか迷ったんですけど、やめておきました。予想してみたら面白いかもしれない

実をいうとSPP-1がいちばんすき。天使枠
あまりにも天使なので登場させるのが怖い
登場させるのが怖いという意味では45が一番です(震え声)


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十五冊目


ほうら新鮮な日記よ、おたべ


Н日\日 

 

 ヒャァ、新鮮な休日だぁ! 今までも毎日が休日みたいな状況だったが、休日というものは働いてこそ輝くのだ。そして素晴らしいことに今日は何の予定も入っていない。そして素晴らしいニュースがもう一つ。404小隊が出撃です。そして今回は俺にお呼びがかからなかった。M249も今後の扱いがどうとかで呼び出されたので今日は俺一人。すなわち我自由なり。絶好の機会なので室内のセキュリュティチェックをした。ずばりクローゼットの調査。試しに奥を覗いてみるとあら不思議、壁をぶち抜いて隣の部屋とつながっているではありませんか。いやこれはダメですわ。クローゼットを封印するしか手がない。俺はそっと諦めた。せっかくなので鎖や南京錠でがんじがらめにしてデコレーションした。外観がヤバい。仕方がないのでそういうインテリアとして扱うことにした。名実ともに封印の様相を呈している。

 そんな下らないことをしながら午前中を過ごしていると、お客さんがやってきた。というか、いた。ベットの下からM4A1が出てきた。

 お前いつからそこにいた。詳しく聞き出すと404小隊の出発と入れ違いで来たらしい。嘘つけ。

 詳しく聞き出すと引っ越しの挨拶に来たという。ならまずは玄関から来い。でも引っ越し蕎麦をくれたので多めに見ることした。許す。でもベッドの下から取り出すのはいかがなものか。その後、一緒に昼飯として蕎麦を食べたらしずしずと帰っていった。律儀なようでフリーダムなやつだ。

 とりあえずベッド下にこれ以上は入れないように使ってない毛布を敷き詰めた。我ながら完璧なセキュリティだ……。

 

 

Н日∋日

 

 俺の部屋を中心として、周囲の部屋を404小隊とAR小隊に取り囲まれてしまった。どうして。珍しく俺とM249しかいないベッドで清々しい朝を迎えられたなぁなどと思っていたら、朝出かけるときに部屋の前でにらみ合っていた。お互いに無言で向かい合って立ち尽くすのはやめてほしい(震え)その間のドアから出てくるぼくはどうなるんですか。

 お仕事はいつも通り。せっせと食堂で職務を果たしたり、居座ろうとするウェルロッドをIDWが押し流したりなどした。食事中ずっと俺の方を恨めしい視線で見つめてくるのもいつも通り。

 それと、建屋内の廊下を掃除していると数日ぶりにSPP-1と再会した。時間があったのでまあまあ込み入った話をしたが、SPP-1も結構上手いことやっているらしい。まあ能力はある奴だったから、それもそうか。

 あーだーこーだ言いながらも俺とウェルロッドのドキッ☆命知らずの戦慄地獄行脚を何度も生還しているわけだし、不幸な巻き込まれ体質ではあっても世渡り上手なのかもしれない。最近通勤に不便を感じているらしいので、グリフィンに新築の寮があることを教えておいた。結構好意的に検討してくれていたので、手応えありだな。

 お前も不幸になぁれ。

 

 

Н日;日

 

 SPP-1という巻き込み役を手に入れたことで、間接的に俺のストレスを軽減してくれるのではと期待している。早く越してきてくれ。昨日のにらみ合いの後にどういうやりとりがAR小隊と404小隊で交わされたかは知らないが、結果的に俺と404小隊とM249、更にM4が加わることでデスクトップPCの後ろでごちゃごちゃに絡まった配線みたいな姿で目が覚めた。今までで一番脱出に時間がかかったぞ。というか人数に対して明らかにベッドの広さが足りない。山盛りで積むような状態なんだよなぁ。でもそのために買い替えるのは嫌すぎる。いっそ片づけて床で雑魚寝するか? いやどうせ朝ぐちゃぐちゃになるのは変わらないよな。朝ぐちゃぐちゃにならない生活を送りたい今日この頃。

 だが、今日は良い出会いがあったので大丈夫。雲一つない晴天だったので気分も良かった。

 というのも、実は前々から敷地内の庭園で園芸おじさんをしているとずっとこちらの様子をうかがっている人形がいたのだが、その人形に今日ついに直接声を掛けられた。聞いてみると俺から懐かしい香りを感じていてずっと気になっていたらしい。

 せっかくなのでそのまま水やりをしつつ話を聞いてみると、なんと我が祖国の出身であるという。よく見れば衣服や桜のモチーフなどそれらしい意匠がちらほらと目に入るではないか。なんというかもうそれだけでこみあげるものがあるよね。

 当人は一〇〇式と名乗っていたが、俺は郷愁の念を込めて祖国ちゃんと呼ぶことにした。彼女に俺の素性を簡単に説明すると、それはもう感極まった様子だった。彼女にとって、日本とは名を知るばかりの遠い故郷。俺という存在は彼女にとって憧憬そのものであると、そんな感じのことを長時間に渡って熱弁された。俺はその熱意に引いた。めっちゃがっついてくるので怖かった。

 この庭園にはよく来るそうなので、また縁があるだろう。

 次はもっと落ち着いているといいな、祖国ちゃん

  





SPP-1はこのまま天使になれそうで安心です
祖国ちゃんはダメかもしれない


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十六冊目


最近、うちの指揮官でクロスオーバーさせたいというありがたい相談をちょくちょく頂きますが、うちの指揮官はフリー素材みたいなものなので良識の範囲内であればご自由に使っていただいて結構です
あ、でも簡単な報告みたいなものを頂ければ作者が喜びます


 

т月〆日

 朝を迎えてもベッドの上が狭くない。というか寝起きが苦しくない。これは素晴らしいことだ。それも404小隊とAR小隊が玄関先で無言のにらみ合いをしていてくれるおかげである。

 なので朝起きたときにいるのはM249だけというわけだ。その影響かG11のM249を見る目がヤバい。頼むから穏便に事を済ませてくれよ。というか何事もない方向で頼む。

 寮からグリフィンに向かうとすると、通り道で明らかに待ち構えている祖国ちゃんの姿が目に入った。不穏な空気を感じたので彼女には悪いが遠回りした。

 さて今日は食堂担当。ウェルロッドはいつも通りIDW他数名が流してくれるので一番安全な日なのかもしれない。ただ、RO635が仕事帰りの時間になるとどこからともなくやってきたと思えば、『私とあなたが結ばれるべき635の理由』と題された分厚~いレポートを取り出し始めたのたので、俺は努めて冷静に受け取りをお断りした。RO635はハっとしたような表情をしたあと、手書きで作り直してきますと言い残すとピューっと去っていった。そういうことじゃないんだよなぁ。

 

т月┗日

 なんということでしょう。404小隊が出撃してしまわれた。ので、AR小隊が突入してきてしまった。一番乗りはやはりというべきかSOPMOD2だった。俺を視認するや否や加速して突貫してきたからな。お前は昔から加減という言葉を知らないやつだった。昔から頭ぐりぐりこすりつけてマーキング的なことをするのもよしなさい。

 それとAR15、お前絶対俺の枕盗んだだろ。ちらちらと視線奪われてたの俺知っているからな、挙動不審すぎてわかりやすいんじゃ。

 あとM16は部屋の隅々まで調査して俺がエロ本を隠し持っていないか気にしていたな。俺の性癖でも究明する気なのかもしれないが、生憎どこにもヒントは残してないぞ。だって万が一どっからか情報がもれたら、十中八九どえらいことになる予感があるから。

 あと問題児のM4な。予想外なことに突撃みたいな真似はせず、AR小隊の中でも消極的だった。玄関より先に入らずに立っていただけだからな、慎ましい。大変よろしい。

 ただうっすらと笑みを湛えながら、瞬きもせずにやたらと熱っぽい視線でこちらを見つめていたのがこう、不安を煽る。でも無害だからいいや。ところでM249はどこいった?

 ちなみにRO635はいなかった。どうやら何かを書き込むのに夢中で呼んでも気づかなかったそうだ。俺は何も知らない。心当たりなんて一切ないです。

 

т月π日

 404小隊が帰還しました。わぁい。AR小隊が出撃になりました。そんなぁ。404小隊がなだれ込んでくるんじゃぁ~。懐かしきUMPコンプレス。できれば二度と体験したくなった。知恵の輪系列とはまた違った苦しみがある。というか明らかに前より引き締まりがよくなっている。何か心境の変化があったのだろうか。そういうアップグレードは求めていません。

 ただありがたいことに416がいてくれるので、俺が三途の河を渡り切る前にUMP姉妹をアンロックしてくれる。俺の命は守られた。ただその流れで朝メシを作ったり着替え持って来たり甲斐甲斐しく世話をし始めるので困る。特に今日は拒む素振りを見せるとわなわなと震え出して穏やかではない雰囲気になったので、大人しくされるがままにしておいた。416の機嫌はよさそうだったが、なんだかなぁ。

 

т月々日

 AR小隊と404小隊が両方ともいるので、今日はM249と健やかな朝を迎えられた。尊い朝だ。

 グリフィンに向かう道すがら、出待ちに祖国ちゃんともう一人RO635が追加されていた。はいもちろん別の道を通りましたとも。遠回りになるけど絶対こっちの方がマシ。やつらに捕まったら確実半日ぐらい祖国トークをさせられた挙句、更にRO635のクッソ分厚い手書きレポートをプレゼンさせられてもう半日潰れるパターン。万が一にも捕まるわけにはいかない。

 いつも通りの仕事をしつつ、合間の昼休みでこれまた懐かしい昔馴染みと顔を合わせた。

 名をAEK-999といい、これがまた付きやすい気のいいやつである。いわゆる悪友のようなものだ。互いに近況を話したりと団欒のひとときをすごさせてもらった。こいつとはまた一度なにか悪さをしたいものだ。ところでしきりに俺の交友関係を気にしていたが、何か気がかりなことがあったのかもしれない。積もる話もあるので、次の休日に一緒の買い物に行くことになった。いわゆるデート的なやつだろう。相手はそうは思っていないだろうけどな。




AEK-999がドストライクなので脈絡もなく登場させてしまった
彼女は何の変哲もない恋する乙女なのでご安心ください
よって次回も何の変哲もないデート回なのでご安心ください^^


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閑話


ドルフロリリース直後に書いた没原稿を発掘したのでちょっとだけ手直しして投げちゃう
デート回はお預けです




「聞いてくれM4! 今日はなんと22秒も指揮官と話せたんだ!」

「やりましたね姉さん! 最高記録更新じゃないですか!!」

 

 グリフィンの基地の庭園、ピロティと呼ばれる軒下の空間で二人の戦術人形が話しこんでいた。

 上気した表情で嬉々とした表情で語っている方がM16、それを自分の事のように喜んでいるのがM4である。

 

「いやあ至福の時間だった。一瞬のようにも、永遠のようにも感じられる18.37秒だった」

「ずいぶん正確ですね!」

「録音したからな! 前回の会話から実に16時間28分48秒ぶりの会話だ!」

「ちなみにどんなお話をされたんですか?」

「え、M4の話とか……。あと、M4の話と……あっ、M4のこととかも話したぞ!」

「うーんまるで成長してないですね!」

「うっ……」

「……ち、ちなみに指揮官はそれを聞いてどんなことを仰っていましたか?」

 

 M16が無言で録音デバイスを再生する。淀みない手つきだった。

 

『そうだなあ、M4は健気で良い子だか「う゛っ!」

 

 録音された音声を認識したのと同時に胸を抑えてえづくM4。そして険しい顔のまま一言。

 

「ま"っぅぇっ……。ま、待って……無理……しんどい……」

「え、M4?」

「ね、姉さん……そういう事前に心構えが必要な刺激物は予め相手の合意を確認してからでお願い……」

 

 それからしばらく大丈夫、大丈夫としばらくぶつぶつ呟いたあと、元の調子を取り戻した。

 

「なら話を戻すが……浮かれてばかりもいられない状況になったんだ」

「え? これ以上状況が悪化するようなことがありえるんですか?」

「お? さては私たちの中で既に見解の相違が起きているな?」

「今はようやく最底辺から数ミリ浮上できたくらいですね」

「うーん我が妹ながら辛辣」

 

 どうやらM16と違ってM4は現実をよく見えているらしい。戦闘では、いや戦闘以外でも自慢の姉なのだが、いまこの瞬間はあまりにも頼りない。ことあの指揮官が関わってしまうともう本当にどうしようもない。特に直接顔を合わしてしまうとこうだ。

 そうして呆れつつも、話の続きを促す。

 

「そんなことよりなにがあったんですか」

「ああ、うん。AK-47っているだろ?」

「ああ、あの豪気な」

 

 AK-47といえば、いかにも歴戦の傭兵のような風体のワイルドな戦術人形だ。その外見に相応しい戦闘のスペシャリストである。グリフィン内においても確かな地位を築いており、銃そのものの知名度も相まって彼女を知る人は多い。

  

「それが、そのAK-47が近頃指揮官に対してよそよそしくてな。これは、非常に由々しき事態だといえる」

「え、それのどこがいけないんですか? むしろ距離を置いているというのであれば一種のチャンスなのでは」

「今までは任務から帰投したら指揮官の肩に腕を回して軽口を言い合っていたのだが」

 

 あの指揮官は意外とグリフィンの人形たちとの距離が近い。このグリフィンに用務員として転属してまだ日が浅いが、出撃から帰投した人形をねぎらいがてらよく世間話をしている。時期的にはもう彼との会話を楽しみにしている者がいてもおかしくない時期だった。

 

「ああ、しょっちゅうやってますよね」

「それが、なんと最近は話すにも遠い距離からひらひらと手を振るに留めている」

「へぇ」

 

 なるほど、確かに一気に距離が離れている。確かにそんな日もあるだろう。

 

「しかも指揮官に会う前に髪を梳いたり身だしなみを整えたりなどしていた!」

「はぁ」

 

 AK-47といえば、あの長い金髪も印象的だ。特に手入れしていないようであちこちの跳ねっ毛が目立っていたが、何か要因があって最近は気にし始めているらしい。 

 

「あまつさえいつもより服装の露出を抑えるようになった! もうわかっただろう、AK-47は誰がどう見ても指揮官を意識している──!!」

「ほぉ」

 

 AK-47の服装は、深緑の切れ布で雑に作られたビキニとホットパンツのみで、かなり露出の高い部類に入る。本人がいかに他人の視線に頓着の無いかよくわかる格好ではあるが、それを改めるということは、やはりそういうことだろうか。

 

 

「すなわち、今や私は予断を許さない状況に置かれているということだ。彼女は図らずしも『恋愛四十八手裏奥義最終項【─押してダメなら引いてみな─】を実現している!!」

「まぁ」

 

 初めて聞いた、何だそれは──などと幼稚な質問をM4はするつもりはない。暴走した姉のあしらい方などはとっくに心得ている。迂闊に藪をつつくべきではない。ただでさえ何かよくわからないものが飛び出している現状でおなかいっぱいなのに、それの全貌など知りたくはない。

 

「指揮官は突然AK-47と精神的・身体的ともに距離が離れたことにより、自然とAK-47を目で追ってしまうのだ。そして目にするのはいつもより女性らしくなったAK-47……! そして指揮官はこう思うのだ。

『あれ、AK-47ってあんなに色っぽかったっけ……?』と! こうして指揮官もまたAK-47を意識し始める!」

「むぅ」

 

 意外にもそれらしいことを言い始めたので、M4は思わず聞き入ってしまった。確かに一理あるかもしれない。あの自由人がそれほど相手を意識しているとは思えないが。

 

「互いが互いを意識し始め、いつもと違う距離感に戸惑いつつも心の距離は静かに近づき、やがて二人は二人は……ならーーーーーーーん!!!!」

「わぁ」

 

 いよいよ佳境に入った妄想の結末が気にくわなかったのか、目を見開いてM16が現実に戻ってくる。暴走した姉はだいたいこんな感じだ。

 

「認めん、そんなことは断じて認めんぞ私はぁぁー!!!」

「あ、いっちゃった……」

 

 雄たけびを上げながら駆けだすM16と、それを見送るM4。

 つかの間の、平和な日常の一幕であった。

 

 





恋愛クソ雑魚お姉さん爆誕


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十七冊目


クールでエレガントな乙女、略してCEO



 

▲月●日

 

 AEKと出掛ける日。待ち合わせの時間になってもAEKは現れなかった。約束の時間から20分は過ぎていた。AEKはそれほど時間にルーズなヤツではない。ひょっとして何か彼女の身に起きたんじゃないだろうか。変化が起きたのはそういう心配が浮かび始めたころだ。それは唐突だった。

 

 「ごっめーん指揮官、待たせ「ウワァーーッ!? マンホールからナンデ!?」」

 

 当時の俺は心底驚いた。足元のマンホールからAEKがひょっこりと顔を出してきたのだ。お前はいつからそんな非常識な奴になってしまったんだ。もう一度いうが俺は心底驚いた。誰でも驚く。

 AEKも申し訳なさそうにしていたが、それは自分のダイナミックに余りある登場方法というよりも遅刻に対する比重が多いようだった。ひょっとしてこの子は常識が僅かにズレているのでは。いやよそう勝手な予想は彼女に悪い。

 

 さて、どうしてこんな意味不明な行動をした事情を聞いてみると、なにやら諸々の野暮用によってこのルートでしか待ち合わせ場所にアクセスできなかったと、そういうことらしい。

 ……諸々の野暮用とは、待ち合わせ場所に向かうのに地下水道を辿らなくてはいけない事は。うーんミステリー。

 だが、触らぬ神にたたりなしという言葉もある。俺は深く追求することをしなかった。これ以上新しい爆弾が飛び出て来ても俺は処理できないからな。

 

 そのあとは匂いは問題ないというAEKの謎主張を聞き流しつつ、ゲーセンで軽く時間を潰した。どうしてオフの日まで銃を撃たなきゃならんのかという話だが、弾薬を気にしなくていいのが心地よいそうだ。マシンガン特有の悩みというやつらしい。

 とまあ、そんな感じだった。買い物でも特に何もなかったし、事件性があったのは最初の集合のときだけだったな。そう頻繁に事件が起きてたまるかという話でもある。

 

 そのまま終われば良かったんだが、AEKは最後に見せたいものがあると言い出したので俺は誘われるままAEKの住居に足を踏み入れてしまった。やめとけばいいのにな。

 

 そこで見たものはつまり、俺の部屋だった。

 AEKの家に俺の部屋が用意されていた──などというチャチな話ではない。

 見知った間取に見知った家具。いくつか型が違ったり、小物がやや安いものに置き換えられてはいるが、それでも一目でわかった。

 

 あれは"俺の部屋"だ。真っ当にグリフィンに勤めていた数年のあいだ、過ごしていた場所。

 だが、その場所は俺が脱走したとき、纏めて失踪したということで処分されたはずの場所でもある。その一室が、AEKの家の中に再現されていた。だが、俺は一度もAEKを家に呼んだ覚えはない。

 AEKはとても嬉し気にその部屋を紹介していたが、俺はもう全身の血の気が引いてしまって曖昧な笑みを返すことしかできなかった。とりあえずその日はそのままそそくさと帰った。

 俺は無事だ。

 

 

▲月〇日

 

 今日は仕事中にいろんな客が現れた。客と言ってもほとんど見知った顔なんだがな。404とかARとか。しかも意味深な言葉を好き放題言い残して帰っていくので意味不明。ただ何となくだがよろしくない感覚だけが残って気持ち悪い。

 

「しきかぁ~ん昨日はだぁれと出掛けていたのかな、かな?」

 

 いつものように仕事をしている最中、廊下でばったりと出会ったUMP45の第一声がこれである。突然物陰からぬるっと現れたので驚いた。目元には影が差し、ただその瞳だけが深海に浮かぶチョウチンアンコウの灯りの如き仄暗い光を発していた。どういう仕組みなんだそれ。探照灯? 機嫌が悪そうではあるのだが、言動はいつも通りなのが不気味でもある。

 そして俺の経験が言っている。これは良くない兆候であると。背筋につららを差し込まれたような感覚だ。自然と背筋が伸びてしまうのも仕方がないと思う。

 

「じゃあ女と行ったんだね!」と、45は至極楽しそうな、抑揚のついた声でそう言った。俺はおなかの調子が悪くなり始めていた。

 俺は必死にグリフィン自体の女性の割合の方が高いがゆえにそういった一面が否定しきれない部分を認めざるを得ない可能性について説明をしたが、「で、楽しかったの?」とばっさり断ち切られた。その後もしばらくそのような問答を続け、最終的には「そっかそっかそれは良かったね!」と大変満足そうな笑顔を浮かべて去っていった。こわい。もう45とは顔を合わせたくない。

 そのあとも"家族の定義"について俺の考えを聞き出してくる9と他2名や、やたらの身の心配をしてくるAR小隊などとも遭遇した。

 大丈夫だ。俺はまだ何ともないぞ。

 

 





クレイジーでエキセントリックな乙女になってしまった。



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十九冊目


何事もない日常を綴るような日記にしたい(願望)


∴月〓日

 先日のお出かけ以来、AEKがしきりに俺に構いに来るようになった。その表情はこう、きらきらと輝いて見えるしわくわくしたオーラをひしひしと感じる。その容姿には何も不穏な印象はないのだが、どうしてもAEKの部屋の俺の部屋が脳裏をよぎる。こんなに良い子なのに負のオーラを幻視してしまうのは何故なのか。無垢ゆえの邪悪的な。聞けば週末はリサイクルショップ巡りが趣味だという。彼女としては例のあの部屋の完成度はまだ満足のいくものではないそうで、一層の再現に励んでいるそうだ。正直俺はもう見分けが付かないと思う。

 

 朝目覚めてあの部屋にいたら、そのまま安心して二度寝するんじゃないかな俺。どうしよう、そういえばAEKが何の目的であの部屋を作っているのか知らない。どうしよう、きっと聞いてみたら嬉々として語ってくれるんだろうけど、俺はそれをどんな顔をして受け止めればいいのかわからない。うん、聞くのはよそう。

 

 

∴月〒日

 最近ずっと意識的に遠ざけていたRO635と祖国ちゃんに罪悪感が芽生えてきたので、今日は時間を作って会いに行ってみた。流石に朝から遭遇してしまうと遅刻確定だからな。

 まあ案の定というか、手書きでレポートを俺に手渡してきた。しかも前回と内容が違う。今回のテーマは『誓約のメリットと相手の選び方 ~オッドアイのSMG以外ありえない~』だ。六法全書よりあつーい。しかも手書きなのに本として装丁されている。革のハードカバーだ。気合が入りすぎているのではないだろうか。これなんて魔導書? と思わず聞いてしまった俺は悪くない。

 

 さて、まだ終わりではない。次は祖国ちゃんだ。

 と仰々しく書いたものの、実際そんな圧迫感のある会話ではなく団欒した時間ではあった。いつまで経っても終わらないという点に目をつむればな。

 俺がそれとなーく話を切り上げたそうな雰囲気を出しても、それに気づきつつも絶対に話を終わらせまいという立ち回りをしてくるのでつらい。俺が強引に話を終えようとしたあたりから段々と息を荒げ、目もギラつきはじめてくる。そうなると俺と祖国ちゃんの間にちょっとした駆け引きのようなものが生まれてくるので、俺の帰りたい気分がピークに達する。

 総評:やめときゃよかった。

 

 

∴月ω日

 前々から思っていたんだが、AR小隊の挙動が不気味。特にM16を筆頭して一連のアクションが謎なので困惑を隠せない。一番最近の例としては、現れたと同時に好きな天気の話題を振るだけ振って颯爽と去っていたM16。会話が成立する前にどこかに行ってしまうので俺としてもどうしようもない。なんなんだいったい。

 

 あとはM4の姿も近頃よく見る。ただ、会話とかはあまりなくて、20~30mくらい距離を離した状態からこっちをじっと見ている。こいつが一番不気味なんだよなぁ……。突然部屋に押し掛けてきたと思ったらM249の使っている枕(俺のもの)を強奪して抱きかかえたりとアクションが図々しいわりに距離感の取り方が独特で得体の知れなさがある。何をしだすかわからないのは本当に勘弁。

 

 逆にSOPMOD2は一貫している。俺を視認したら猪突猛進で突撃してくるだけだからな。精神的な負荷がほとんどないのは素晴らしい。ただ受け止めるたびに結構腰に来るのだけがいただけない。腰の調子が悪い日なんかは遮蔽物を利用するなどしてやりすごしている。でないと腰にとどめを刺される。

 RO635は割愛するにしても、他の三人に言及した以上AR15にも触れておきたいところだが、最近はとんとその姿を見かけない。どこで何しているん

 

 この日記を書いている最中、天井からAR15が落ちてきた。突然背後から物音がしたので振り向いてみると、頭からどしゃっと落下して痛みでうずくまっているところだった。

 天井で何をしていたのかと聞いてみると、「不審者がいないか確認していた」だそうだ。残念ながらこの場で不審者の名が最もふさわしいのはお前だAR15よ。本人にそう伝えたところ、頭の上に?マークを浮かべて首をかしげていた。この娘は自覚がないのがやべぇ。

 

 





別に面白い展開とかなくてもいいからだらだら更新していこうと思った今日この頃。


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