HITMAN『世界線を超えて』 (ふもふも早苗)
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HITMAN『提督業はもうおしまい』

初投稿なので読み辛いかもしれません。

「」←実際の会話です。
『』←バーンウッドの会話です。
カッコなし ←47の心の声です


『横須賀へようこそ。47』

『あなたのことだから“艦娘”という存在は知ってるわよね?今回の任務はその艦娘からの依頼よ。』

『今回のターゲットは横須賀第3鎮守府の最高権力者、アドミラル・ロクロウ閣下。世間一般には数々の歴戦を経て最高司令官に上り詰めた叩き上げの凄腕軍人と噂されているけれど、その実態は金と暴力に裏打ちされた汚職に次ぐ汚職によって他の司令官から手柄を横取りした結果なの。さらに言えば彼はセクハラが多く、すでに多くの艦娘が彼の魔の手にかかり“育児休暇”の名目で退役させられているわ。軍人の風上にも置けない男ね?』

 

『あなたの今回の任務はアドミラル・ロクロウの抹殺。及びその汚職の数々の証拠となるメモリを奪取すること。そのメモリがあれば彼の名誉は失墜し、なおかつ本人が死亡すればこれから幾多の司令官および艦娘たちの名誉と貞操を守ることができる。依頼者である“育児休暇中”の艦娘の意向に沿った結末になるというわけ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ほんとやってらんねえよなあ!ここの提督さんにはよお!」

「オイ、声が大きいぞ。側近の艦娘にバレたらどうする。」

「構いやしねえよ!だいたいアイツのこと本気で慕ってる艦娘なんて居るのかよ?」

 

 

私、エージェント47は今、横須賀第3鎮守府の第二工廠に整備員の扮装をして潜り込んでいる。横で2人の中年の整備員がアドミラル・ロクロウについて話している。

 

「でもよお、長門や鹿島はいつだって近くにいるじゃねえか。アイツラは慕ってるんじゃねえのか?」

「バッカ、長門は要領がいいから側近にして仕事を丸投げしてるんだよ。鹿島に至ってはセクハラ要員だ。次の育児休暇は鹿島だろうよ。」

「全くうちの提督も参るなあ・・・。ここに入ったときにはもっと有能だって聞いてたんだけどもよ。」

「百聞は一見に如かずってやつだな。一見どころか一瞬で外で聞いたのとは違うことがわかるのもアレだがよ。」

「そういやそろそろ第一ドックで新しい艦娘ができるんだろ?そいつもあいつの餌食になるんだろうなあ」

「そうそう。建造時間は比較的短かったから、ロリコンのアイツ好みの駆逐か軽巡だろうな。」

「アイツいつも建造が完了する瞬間見に来るよな?それはやっぱり生まれたての姿を拝みたいとかそういうのか?」

####アプローチ発見####

「そりゃそうだろ、アイツは女の裸体が見れれば艦娘だろうと娼婦だろうと関係ないのさ」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『もうすぐ隣の第一工廠で新たな艦娘が誕生するみたいね。提督は毎回欠かさず建造完了の瞬間を見に来るようよ。あなたがその瞬間を案内してあげたら?きっと忘れられない建造になるでしょうね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私は隣の工廠へと向かった。

第1工廠ではもうあと10分ほどで新しい艦娘が完成するところだった。

「オイ、そこのお前、新人か?ちょっと頼みがあるんだが」

私が入ってすぐ、現場担当者と思われる男から声をかけられた。

「何でしょう」

「実はドック横の観覧スペースの安全縄が切れちまってな。そろそろ提督がやってくる。それまでに新しいのに張り替えといてくれや。縄はあっちの倉庫にあるからよ。」

「わかりました」

 

どうやらドックの横すぐ近くに観覧スペースがあり、アドミラル・ロクロウはいつもそこから観覧しているようだ。ドックは深さは数十mはあり、横幅も同じくらいある。縦の長さは100m以上あって向こう側に渡るのも一苦労だろう。しかし、艦娘は普通の船とは違い、人間サイズなため、そのドックの中央部にて光たまのような状態で建造されており、完了するとそこから近くの足場に着地するということらしい。

 

「じゃあそういうことで、オレはちょいと野暮用に行ってくるわ」

そう言うと急いでドック横の小部屋に駆け込んでいった、腹を押さえていたところを見ると腹痛でトイレに駆け込んだのだろう。

私は言われたとおり倉庫から縄を取り出し、観覧スペースの“中央部分だけすぐ解けるよう緩めに”縄を張った。

そうこうしているうちにトイレに行った現場監督が戻ってきた。

「おお、上出来上出来。じゃあそろそろ建造が完了すっから、提督呼びに行ってくれや」

「わかりました」

 

 

 

私はドック横の扉から外に出て本棟へ向かい、提督室を目指した。

 

「はわわ!なんかすごいおっきな人なのです!」

「なんかすごいオーラを放っていた気がするわ。近寄りがたいっていうのはああいうのを言うのね・・・」

 

途中、小柄の艦娘(確か名前を雷と電と言ったか)とすれ違った。47は極力殺気というものを出してはいないはずだがそれでも独特の雰囲気に艦娘の二人は気がついた。抑えていかねば側近の長門と鹿島に気取られる可能性もある。注意しておこう。私は心の中でそっと2人の小さな艦娘に礼を言った。

 

 

 

提督室についた。私はノックをした後「入れ」の声の後入室した。

「何だ工廠のか。ということは建造は?」

「はい、間もなく第一ドックの建造が完了するためご確認願いたく思います」

「おお、そうかそうか。オイ、長門。後を頼むぞ。鹿島ついてこい」

「ハッ、承知しました書類はこちらで処理しておきます。」「了解しました。お供します。」

私は奥の棚の中に「艦隊運用法」や「効率の良い遠征方法」に混じって「重要記録」と書かれたファイルがしまわれているのを見逃さなかった。

 

 

 

「こちらです。ここでお待ち下さい」

「うむ。」

私は緩めておいた縄の前に提督を誘導すると、そこで待機するように言った。

「提督さん、新しい船がご挨拶したいんですって。」

鹿島がそう言うと建造完了のチャイムと共にドック中央部の光の玉が一層輝き出した。

「すみません鹿島さん。確認の書類を用意するのを忘れていました。横の棚からとっていただけますか?」

「え?あ、ハイ、わかりましたちょっとまっててくださいね」

そう言うと鹿島は提督に背を向ける形で棚に近づき書類を探し始めた。

私はそれを手伝うよう裝って提督の背中を少しだけ押した。

「うおっと」

もともと提督は肥満体質であるにもかかわらず足腰が丈夫そうには見えない。彼は少し押されるとよろけ、目の前にあった安全用の縄を掴んだ。縄は緩んでいたためそのまま彼の体重によって完全に解け、そして・・・

「うわ!わ、わ、わああああああああ!!!」

 

 

ドサッ

 

 

 

「え?え!?提督さん!?」

「鹿島さん。提督が転落したようです。早く救助を。」

「ええ!?わ、わかりました!誰か!誰かいませんか!」

「私は長門副司令にこのことを伝えてきます」

「わかりました!お願いします!提督さん大丈夫ですかあ!?」

私は集まってきた整備員の雑踏に紛れるように司令室へ向かった。

艦娘の建造に皆夢中だったため提督が落ちた直接の原因を誰も見てはいなかった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『お見事ね47。彼は己の欲に忠実になった結果身を乗り出して転落。あの高さで下はコンクリート。まず助からないでしょうね。次は重要情報のメモリよ。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私は提督室の扉を慌てたように乱暴にノックした後返答を待たずに入室した。

「長門副司令、一大事です。提督がドックに転落なされました」

「何!?それは本当か!まずいことになった。すぐに行く!」

「お願いします」

私の言葉を聞く間もなく工廠へ向かって長門は走っていった。提督室にはもう誰もおらず、私は難なく侵入した。

奥の棚にあった“重要記録”は他愛のない書類ばかりであったが、これ以上記録を増やすことを拒んだのかそれとも今までの“育児休暇”に行った艦娘の置き土産なのかは定かではないが一番最後のページにそのメモリはあった。私はそれを丁寧に取って跡が残らないように細工をした。私は記録を元の場所に戻すと提督室を出た。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『素晴らしいわ47,任務完了よ。そこから脱出して。』

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工廠の方は大騒ぎになっている。憲兵隊も出動している他、非番と思わしき艦娘もちらほら見える。だがその表情は悲観にくれるというよりも長い呪縛からやっと解放されたようなそんな安堵感が見て取れた。私は第4工廠の横に止めてあったトラックに乗り込み基地を後にした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~3日後~

 

 

 

「それで、新しい提督の着任は遅れそうなのか?」

「いえ、もともと提督は更迭間近だったようで、少し予定が早まっただけのようです。」

「そうか、しかしあのふてぶてしい悪人がこうも簡単にポックリ逝くとはな・・・」

「ですね・・・何があってもしぶとく生きながらえそうな人でしたから・・・」

「そういう鹿島はあまり悲しそうじゃないな?アレだけ提督にべったりだったのに」

「提督さんは私の体目当てだって薄々気がついていましたから・・・。そういう長門司令だってあまり悲しそうじゃありませんけど?」

「私は使いパシリのような状態だったからな。元よりあの男に忠誠など誓ってはいなかったさ。というかこの鎮守府内で彼の葬儀に出席する艦娘がどれだけ居るかも疑問だな。」

「私と長門司令は問答無用で出席ですものね・・・秘書艦の任務ってホント大変。」

「まあそれもこれも葬儀に出席するのですべて終わるわけだ。新しい提督はもっとマシになることを祈ろうか。」

「ですね。」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

 ・「欲望の果てに」 +2000  『ターゲットをドックに転落させる』

 ・「艦娘プロフェッショナル」+1000 『工廠の整備員としてスタートする』

 ・「戦友」+2000 『艦娘と一緒に行動中にターゲットを始末する』

 ・「着任しました?」+1000 『建造中の艦娘が完成する前にターゲットを始末する』

 

 

 




作者は一応ショーストッパーの暗殺チャレンジはすべて完了している程度にはプレイしています。
艦これの方はトラック泊地で提督やってます。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『提督業はもうおしまい』(もう一つの世界線)

『提督業はもうおしまい』の別アプローチです。
今回はターゲットに真正面から向き合ってみようと思います。


『横須賀へようこそ47』

 

『今回のターゲットはここ、横須賀第3鎮守府の最高司令官、アドミラル・ロクロウ。世間の評判とは裏腹に暴行恐喝収賄セクハラ何でもござれの悪徳軍人。』

 

『依頼主はそのセクハラの被害者である艦娘の一人から。彼の抹殺と彼の悪行の数々が書かれたメモリーカードの奪取。それが今回の任務よ。』

 

『準備は一任するわ』

 

 

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ブゥーン

 

私は今、鎮守府へ向かうトラックの中にいる。今回は新たに配属された憲兵として潜入する。トラックには私の他に新たに配属される2名の隊員が同乗していた。車内での話によれば、今回配属された私を含む3名は今現在配備されている憲兵隊員3名と完全に入れ替わるらしい。彼らが何をやったのか、何を知ってしまったのか、そこまでは情報が手に入らなかったが特に問題はないだろう。簡単な自己紹介を済ませ、軽く世間話をした後はこうしてほとんど無口のままトラックに揺られている。

 

 

「お、見えたぞ」

 

 

助手席に座っている隊員が言った。名を確か阪本と言っていた。阪本は前方に見えてきた鎮守府を自己紹介の段階から“悪の巣窟”呼ばわりしていたが、憲兵にはそれなりの悪評が広まっているようだ。

 

 

「やれやれ。やっとついたか。全く僻地にある勤務先ってのはヤだねえ。せめて電車くらい通っててほしいもんだ。」

 

 

荷台に私と一緒に相乗りしている隊員が言った。名を倉持と言ったか。こちらはガタイの良さが目を引く大男だ。腕っぷしに自信があるのが伺える。そうこうしているうちに鎮守府の正門を通り抜け、トラックは1つの建物の横に止まった。建物の入口では一人の女性が立っていた。

 

 

「お疲れ様です。私は軽巡洋艦 大淀です。案内と引き継ぎ作業の事務手続きを担当させていただきます。」

 

 

軽巡洋艦。つまりは艦娘と言うやつだ。手慣れてる風が有るのでこういった役職は普段からこなしているのだろう。私は他の2人と同じ様に彼女についていった。

 

ドック、工廠、食堂、宿舎。最後に司令部棟と案内されたのち、司令室に通された。司令部棟と言っても地上3階建ての役所のような建物で、それほど広くはない。1階に事務手続きをするフロア、2階に資料室と憲兵詰め所。3階に司令室兼執務室があるそれなりに質素な建物だ。我々は司令室のドアをノックして入室した。

 

 

「本日、大本営より派遣されました第56憲兵小隊、只今参上いたしました。」

「おお、ご苦労さん。私がこの鎮守府の司令官、ロクロウである。」

「お初にお目にかかりますロクロウ閣下。我々としてはすぐにでも業務を開始したく思いますがよろしいですかな?」

「ああ、勝手にやってってくれ。大淀から聞いたと思うが詰め所はこの下の階だ。私のデスクには非常呼び出しボタンがついているのでな。詰め所の非常ランプが点滅したらすぐに駆けつけるように。」

「承知しました。ではこれで失礼いたします。」

「うむ・・・ああ、そうだ。いい忘れていた。この部屋の戸棚にある資料は手を付けないように。手を付けた場合は前任者と同じ運命をたどることになるからな。」

「・・・承知しました。」

 

 

おそらくあの戸棚にある“重要書類”と書かれたファイルに目的の物が入っているのだろう。そうでなくともこの部屋の何処かに有るはずだ。私は2人についていき一旦詰め所に入る。

詰め所は引き継ぎ用の書類などがきれいに整頓だけはされていたが悪く言えばそれ以外に何もなかった。倉持は「お茶を入れるポットぐらい用意してほしいもんだ」と愚痴を言っていた。私はデスクの1つに荷物を置くと見回りに出かけると言って部屋を出た。

 

 

1階に降りると大淀が誰かと話していた。私は掲示物を見るふりをしながら聞き耳を立てた。

 

 

「・・・またですか。ほんとあの提督にも困ったものだわ・・・。」

「いえ、私もわかっていますから。それに夜伽を拒否したら他の人達に迷惑や被害が行ってしまいます。私が犠牲になれば・・・。」

「鹿島さん。辛い役回りですが大丈夫ですか?ピルはこちらで用意しますがそれでも確実とは言えません。」

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。いざとなれば憲兵さんもいらっしゃいますし。1階には大淀さんもいらっしゃるのでしょう?」

「・・・残念ですが。憲兵隊は居ますが私はいません。夜伽が行われる夜9時前後からは司令部棟に他の艦娘や職員は入れないように厳命されているのです。」

####アプローチ発見####

「そうなんですか・・・。少し心細くなりましたけど頑張って耐えてみせます!鹿島がんばります!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『夜9時以降は憲兵隊の3名とターゲット。そして夜伽に向かう艦娘以外は司令部棟から居なくなるみたいね。相当動きやすくなる時間帯だと思うけどどうかしら?私としては夜伽が行われる前に全て片を付けてほしいのだけれど。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はそのまま司令部棟を出て工廠へ向かった。工廠では今現在1隻建造中のようだ。けたたましい音とともに建造が行われているが音と裏腹にあまり作業してる風が見受けられないのは艦娘の建造が特殊な証拠であろう。大きな音が出はするが行われているのはドック中央部の光の玉に資材を投げ入れているようにしか見えない。資材が融合するときに大きな音が出ているようだ。私は工廠に入ってすぐ、入口付近の作業台にスパナが置いてあるのを発見し、それを職員に気が付かれないようにそっと懐へしまった。

 

そのまま工廠を見て回るが、大抵の職員は黙々と作業をしておりこちらに気が付かない。気がついた職員は敬礼を返してくるので返礼をして立ち去る。やはり憲兵隊の服装はどうやっても目立つようだ。私はこれ以上の情報収集は諦めて工廠横にある食堂棟へ向かった。

 

食堂棟は一般的な学校の学食のような作りになっており、広々とした大広間にカウンター式の厨房とその横に券売機が有る。今はすでに昼を過ぎているので食堂はガランとしているが、それでも何人かの艦娘が食事をとっていた。が、ココでもこちらに気がつくと立ち上がり敬礼をしてきた。私は返礼しつつ話を聞いてみることにした。

 

 

「こんにちは。私は今日から配属になったものですが、皆さんココで食事をされるのですか?」

「ええ。いつもはみんなと一緒に食べるんですが、今日は正面海域の対潜掃討任務の後だったのでこの時間に。あ、申し遅れました。軽巡 五十鈴です。」

「よろしくおねがいします。五十鈴さん。秘書艦殿もいつもココで?」

「そうですね。大抵はココで食べると思います。あ、でも夜は司令部棟の方に行ってるみたいね。」

「司令部棟に食べるところがあるのですか?」

「さあ・・・。私は秘書艦になったことはないし、宿舎と司令部棟は間に工廠があるから用がないとあまり行かないので。」

「そうですか。お食事の邪魔をして申し訳ない。ではまた。」

「はい。お疲れさまです。」

 

 

私は話を切り上げ、司令部棟に戻った。詰め所に戻ると大量の書類が机に置かれていた。他の2人もその書類と格闘している。私も書類を一緒になって片付け始めた。

 

書類が片付いたのは夜8時を回ったところだった。他の2人もほぼ同時に終わり、阪本が休憩用に1階に飲み物を買いに行くようだ。

 

 

「私が行きますよ。二人共何がいいですか?」

「じゃあオレはおー◯お茶で。疲れたときにはやっぱお茶だよお茶。」

「では私はコーヒーを。」

「了解です。」

 

「失礼、私も少しトイレにいってきます。」

「おう、行ってきな行ってきな。」

 

 

私は阪本が飲み物を買いに出かけるのを好機と捉え、彼の後を追った。1階の明かりは既に消えており人の気配はない。1階の休憩コーナーで阪本を発見した。

 

 

「あれ?どうしたんです?」

「倉持さんに言われて買ってくるものを伊右◯門に変えてほしいとのことです。」

「マジっすか?弱ったな、もう買っちゃったんだよなあ・・・、」

「でしたらそのお◯いお茶は私がいただきます。」

「そうかい?じゃあそうしてくれ。えーっと伊◯衛門伊右◯門・・・」

 

 

彼が再び自販機で商品を見始めた隙に私は懐からレンチを取り出し、彼の首元を殴打した。

 

ガッ! ギャ! 

ドサッ

 

うまい具合に気絶した彼を自販機横の大型ゴミステーションに隠す。彼のもっていた拳銃とトラックの鍵も拾っておく。私はそのまま2階詰め所の前の廊下に戻った。詰め所のドアは開きっぱなしになっており、中では倉持が何かの書類を読んでいる。私は持っていたレンチを扉の反対側へ放り投げた。

 

カランカラン

ン?ナンダ?

 

私はすぐ後ろの柱に身を隠した。中から倉持が確認しに出てきた。反対側に有るレンチを発見しそれに近寄る時にすばやく背後に付き彼の首を絞め上げた。不意を付かれ、なおかつ書類仕事で疲れが溜まっていたせいも有るのかあっけなく倉持は気絶した。私は気絶した倉持を詰め所中のロッカーに隠した。これでこの建物には私とターゲットと夜伽に訪れる艦娘だけになる。私は司令室につながる階段で夜伽に訪れる艦娘。鹿島といったか。彼女を待った。

 

わりとすぐに1階から足音がしてきた。急いでいるような小走りで駆け上がってくる。上から覗き込むと軽巡大淀が居た。彼女はそのまま駆け上がってきた。私は隠れていた柱から出ると彼女の前に出た。

 

 

「すみません。先程から変な物音がしていたのですが何か知りませんか?」

「申し訳ありません。私の不手際で物を足に落として年甲斐もなく悲鳴を上げてしまいました。しかもその後もう一度落としてしまう不手際まで。ご心配をおかけしました。」

「そうですか。何もなくてよかったです。他のお二方は?」

「阪本と倉持は今詰め所で書類と格闘しています。話しかけられる雰囲気ではなかったですがね。」

「そうですか。では私はこれで。この時間帯は私は本当はココには居てはいけないんですが、どうしても片付けたい書類があったものでして。もう終わりましたけど。」

「それはそれは。ご苦労様でした。提督のお怒りを買う前に早く出たほうが良い。」

「そうですね。では私は宿舎に戻ります。警備お願いしますね。」

「お任せください。誰一人外からは中に入れませんよ。」

 

 

大淀はそそくさと階段を降り、2階の窓から宿舎の方へ小走りで向かう大淀を確認し、改めて鹿島を待った。

 

しばらくすると階下から登る靴音が響いてきた。私は階段横のロッカーに身を隠した。鹿島はロッカーに入っている私に気が付きもせずそのまま前を通り過ぎ司令室に向かおうとした。私は通り過ぎた鹿島を背後から倉持と同じ要領で首を絞め上げた。その煽情的な服装は奇襲的格闘戦をするには向いておらず、また艤装がなければ艦娘は通常の人間と大差ない身体能力しか無いようで、あっけなく鹿島は意識を手放した。私は彼女をロッカーに隠すとシルバーボーラーを取り出し、司令室へ向かった。

 

 

司令室の前に来た私は扉を軽くノックする。

 

コンコン

「やっと来たか。入れ。」

ガチャ

「フフフ、鹿島よ。今日こそはお前に・・・な、何だお前は!この時間はココには入るなと言っておいたはずだが!」

「残念だが鹿島は来ない。すぐそこのロッカーで眠ってもらっている。」

「なんだと?貴様何者だ!」

「誰でもない。ただお前を殺すように命ぜられた一人の“HITMAN”だ。」

「ふざけたことを!」カチッ ピーピーピー

「ははは!非常ボタンを押したぞ!すぐに憲兵が駆けつけて・・・そ、そう言えばお前さっき・・・」

「そうだ。その非常ボタンのこともさっきお前から聞かせてもらった。なので他の憲兵隊にも眠ってもらった。」

「な・・・!」

「お前を守るものはもう誰も居ない。」カチャ

「ま、まて!そうだ!金か!?金がほしいんだろう!?いくらで雇われたんだ?ん?言ってみろ。その倍額を出してやろう!」

「必要ない。私はただお前を殺すことだけを命じられた。その任務を果たすだけだ。」

「私を殺せばこの鎮守府は、いや、この国がどうなると思う!指揮する者が居なくなれば深海棲艦にこの国は滅ぼされてしまうのだぞ!」

「残念だがそれも興味がない。おしゃべりが過ぎた。ココまでにするとしよう。」

「ま、まて!命だけは!命だけは!」

カチリ 

 

パシュン!

 

 

弾は正確にターゲットの額を撃ち抜いた。ターゲットの体はゆっくりと執務机に倒れ伏した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『ターゲットダウン。流石ね。後はメモリーカードの奪取よ。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

彼の死体を一瞥しつつ、司令室に有る書類を漁る。急がねばいつ誰が来るやも知れない。奥の戸棚にはびっしりと色々なファイルが並べられている。その中の【重要書類】と書かれたそのファイルの一番後ろのページに目的のメモリーカードはあった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『見事な手際ね。すべての目標を達成。さあ、脱出して。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私はそれを剥ぎ取ると用済みになったファイルを投げ捨て、踵を返して部屋を後にした。朝になればすべてが明るみに出るだろう。私は司令部棟横に止めてあったトラックを、さきほど阪本から奪ったキーを使って動かし脱出した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~1週間後~

 

 

「今日からこの鎮守府に着任することになった前橋だ。みんなよろしく頼む。」

パチパチパチ

「着任おめでとうございます。私は前任者の秘書艦を務めさせていただいていた練習巡洋艦 鹿島です。」

「同じく、秘書業務を行っていた、戦艦 長門だ。よろしく頼む。」

「よろしく。実のところ私はまだ提督になって日が浅い。いろいろ不手際もあるかも知れないが一緒に頑張ってくれるかい?」

「もちろんです!」

 

 

「優しそうな方でよかったですね。」

「大淀さん。ハイ。とても優しいお方で、セクハラも暴力も一切なしです!」

「それは良かった。私も大本営に口を酸っぱくして陳情し続けたかいがあったというものです。」

「陳情してくださったのですか?ありがとうございます。でも他の子達はまだ疑心暗鬼みたいで・・・」

「それは仕方ないでしょう。前任者がアレでしたから。でも何処かの誰かが暗殺してくれたおかげでこうしてうちも晴れてホワイト鎮守府ですよ。」

「・・・結局誰がやってくれたんでしょうか?深海棲艦のスパイとかだと問題なんじゃ・・・。」

「それなんですが。証拠はつかめていませんがどうやらICAが動いたらしいのです。」

「ICA?」

「非公式の国際暗殺組織です。各国政府や大企業などが主なクライアントらしく、警察や軍も介入できないんだとか。」

「へえ・・・そんな組織があるんですね。今回もその組織が?」

「ええ、証拠も確証もありませんが、似てるんですよ。」

「似てる?」

「ええ。私が“以前一緒に仕事をした人”のやり方に。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「軍事裁判」    +5000 『ターゲットに発見されている状態でターゲットを射殺する』

・「巡回兵」     +1000 『最低3箇所以上の施設を憲兵か兵士の扮装で訪問する』

・「ドミネーション」 +1000 『司令部棟を完全制圧する』

・「影の司令官」   +2000 『午後8時半以降に軽巡大淀に会う』

 




大淀さんは昔ICAでオペレーターしてそう(偏見)


2019/06/13追記
当初は大淀さんはICAと密接に関わる予定でしたが話を書いていくに連れ他の艦娘はおろか脇役以下という不遇なポジションにw


次回はハルケギニアに向かいます。
城下町で猛威を奮っていたあの小太りくんがターゲットです。


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HITMAN『前菜は悪徳官僚』

###注意###

原作に登場するキャラが死亡する描写があります。作品に思い入れが有る方はご注意ください。


『ハルケギニアへようこそ47』

『ハルケギニアでは魔法という特殊な技術があって、使えるものが貴族、使えないものが平民という階級制度を取ってるみたいね。行動するときは注意して。』

『今回のターゲットは、トリステイン王国の首都、トリスタニアの城下町で徴税官をやっているチェレンヌという男とその側近であるカリーザという男よ。』

『彼は所謂悪徳官僚と言うやつね。徴税を行う過程で店舗に嫌がらせをして店舗側が早く出ていってもらうために多額の税金を払わせたり賄賂を受け取ったりしているみたい。しかも王宮直属の官僚だから貴族が後ろ盾にいる商人ですら彼にはあまり意見できないそうよ。』

 

『依頼内容はチェレンヌの暗殺。及び彼の金庫にある資産の内、各商店の借用書を焼却すること。あとその金庫番であるカリーザという男の始末も含まれているわ。事故死でも暗殺と発覚しても依頼主的には問題はないみたいよ。』

『依頼主は彼に手ひどく搾り取られたさる大商人。他にも彼はいろいろな商店から金を搾り取れるだけ搾り取り、それを自分の金として使い込んでいたそうよ。でも証拠となる帳簿は本人によって偽装されており、証拠がないため法では裁けない。法で裁けないのであれば我々ICAが鉄槌を加えるまで。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

私は今魅惑の妖精亭という酒場に来ている。服装はそこの路地で“借りた”。

「おにいさあ~ん♪そんな難しい顔してないで楽しも!」

「すまない。この顔は生まれつきなんだ」

正直言ってこういう場所は苦手だが、この店もチェレンヌという男に絞られた被害者らしく、ここで待っていればターゲットもやってくるだろう。

 

 

「おいおいお前、こんなとこで飲んでて良いのか?」

「ああ?良いんだよ!どうせオレなんか・・・」

隣のテーブルで男が二人話している。一人はかなり酔っ払っているようだ。

「つってもお前、今日の夜から貴族様の館で働くんじゃなかったのか?」

「ハッ!そうさ。だがな、誰が悲しくて太っちょ貴族の金勘定の手伝いしなきゃならねえってんだ!オレの給料いくらだと言われたと思う?1ヶ月20スワニだぞ?20スワニ!あぶく銭稼ぎまくってんのにそれっぽっちしかもらえねえならやる気なんか出るわけねえよ!」

「そうは言ってもなあ、この日のために色々やってきたんだろう?貴族様…チェレンヌとか言ったっけか?その人の好み覚えるとかよ。」

「そりゃそうよ。研修期間もあったからな。いろいろ覚えたさ。アイツが徴税しに回る店の名前はもちろん、アイツの好きな酒が【水精霊の喜び】って名前なのもな!」

####アプローチ発見####

「へえ、【水精霊の喜び】ねえ。そんな酒あったっけか?」

「特別に作るんだよ。レシピはお抱えの料理人しか知らねえ。まあオレもその端くれだから教えてもらったんだけどな」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『チェレンヌ徴税管は【水精霊の喜び】というカクテルが好物のようよ。そのレシピはお抱え料理人しか知らないみたい。でもそのレシピを手に入れることができれば、あなたがその特別なカクテルを作ってあげられるんじゃないかしら?』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「まあなんだ、ともかく一回顔洗っていったほうが良いぜ?流石に貴族様の仕事をほったらかしちゃ冗談じゃ済まなくなっちまう。」

「・・・まあそうだな。あーあ、めんどくせえなあ!」

そう言うと男は伸びをして席を立った。どうやら顔を洗うために店のトイレに向かうようだ。

私もさり気なく立ち、トイレに向かった男の後ろをさり気なくついていく。

 

 

 

 

 

バシャバシャバシャ

フーッ

 

男が顔を洗っている。幸いにしてこのトイレは少し大きめのトイレで、個室がいくつかある。洗面台には鏡はついていない。

私は近くの洗面台の下にあった鉄パイプを手にとった。

 

(サイレントアタック)ギャッ!! ドサッ

 

男を殴って気絶させた。彼の服装を借り、気絶した彼を個室の一つに入れ内側から鍵をかけ、上の隙間から外に出る。私は今からターゲットの館で今夜から働くキッチンスタッフだ。

私はターゲットの館へ向かった。

 

 

 

 

 

 

正門前に護衛と思わしき武装した歩兵が立っている。

「オイお前止まれ。ここは貴族の館だお前みたいな平民が来るところじゃないぞ」

「今日からここで働くことになったキッチンスタッフのものです。何処へ向かえばよいですか?」

「ああ、おまえがそうなのか。なんか話に聞いてたような雰囲気とは違うな…もっと不真面目そうだったと聞いたが」

「貴族様の館で働けることはこれ以上ない喜びでございます。心を入れ替えて頑張りたいと思います。」

「ふーん・・・まあいい。厨房は正門を入って右の小屋だ。チェレンヌ様は味に五月蝿い方だからくれぐれも気をつけるんだな。」

「ありがとうございます。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『うまく潜り込めたようね。ターゲットを探して。後金庫も忘れないようにね。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

正門をくぐり、右の小屋に向かう。しかし厨房内の人間で何人かの責任者に当たる人物はおそらく研修期間中に新人に会ってるだろうから変装がバレる恐れがある。

私は隙を見て中に入り、机を掃除するふりをして機を窺うことにした。

 

 

 

「にしてもチェレンヌ様は何だって急に【水精霊の喜び】を注文されたんだ?いつもは記念日くらいにしか飲まないのに」

「なんでも今夜金庫番と一緒に飲むらしいぜ?理由は知らないが大方金庫の金が1000エキューに達したとかそんなんだろう」

「はーっ、1000エキューあったら城でも何でも買えるわな。俺達にも少しはお目溢しがほしいもんだ」

「いや、あくまでオレの想像だからな?ホントのとこは知らねえよ」

「うーんまあいいや。とりあえずカクテル作らないとな。レシピなんだっけか?」

「忘れたのか?タルブ産のブランデーとゲルマニア産の蒸留酒とガリア産のウイスキーを2:1:1。それにアルビオン産のレモンを一絞りだ。」

####情報を入手####

「ああそうだったそうだった。でも誰が作るんだ?混ぜるのがトロいと確か変なふうに分離するんだろ?」

「そこなんだよな。料理長は今てんてこ舞いだし、かと言って確実に完璧に作れるのなんて料理長くらいだし…」

 

どうやら今日例のカクテルは晩酌に出されるようだ。

私は掃除を止め、近くの扉から地下の食料庫へ向かった。

 

 

 

食料庫の隅に殺鼠剤が置いてある。これは使えそうだ。懐に忍ばせる。

食料庫では何人かの料理人が整理作業を行っていたが視界の隅に映っても警戒する素振りを見せなかったことからこちらのことは知らないようだ。私はカクテルの材料の場所を聞くことにする。

 

「すみません、こちらに入ったばかりなのですが、タルブ産のブランデーとゲルマニア産の蒸留酒とガリア産のウイスキー、あとアルビオン産のレモンは何処にあるでしょうか?」

「ん?おお、新人さんか。その品目は【水精霊の喜び】だな?アレは作るのが難しいがお前さんが作るのか?」

「いえ、料理長にもってこいと頼まれました。」

「そうか。だったら覚えとけ。【水精霊の喜び】に使う材料はいつも決まって一箇所にまとめておいてあるんだ。いつ要求されてもすぐに作れるようにな。ほらあそこだ」

男はそういうと倉庫の一番端にある棚を指し示した。

「さっさと持っていってやんな。ああ、使う容器も食器も同じとこに入れてあるからそれも忘れんなよ」

「わかりました。ありがとうございます」

私は男がまた後ろを向いて倉庫整理を再開したのを見ると、棚に近づき、その棚の中で【水精霊の喜び】を作った。

何のことはない。レシピ自体も中にはいっていた。分量さえ間違えなければただ単に早く混ぜればよいだけのようだったので私には造作もなかった。私は作った2杯それの片方だけに殺鼠剤を混ぜトレイに移した。厨房に戻り、目に付きそうなとこにそのカクテルを置いて私は厨房から出る。

 

 

 

厨房と本館との間には微妙な隙間が空いており、その間を警備が巡回している。

 

ゴッ ギャッ!

 

私はひと目がつかないところを警邏する警備員を鉄パイプで昏倒させる。近くに大きめの箱があった。服を入れ替えて警備員を箱に入れて隠す。今から私はこの館の警備兵だ。おっと、槍も忘れずに。

そのまま館に侵入。時たま「お疲れ様です」とハウスメイドの子から声をかけられる。

1階広間の掃除をしているメイドたちの会話が聞こえてくる。

 

「今日はどうしたのかしら?カリーザ様。いつもは私達にお声をかけてくださるのに。」

「なんか今日は忙しいらしいよ?何でもチェレンヌ様とふたりだけで勝利の晩餐とかいうのをするんだとか」

「え、何。カリーザ様そんな趣味あったの?えぇ…」

「勘違いしないの。おそらく金庫のことね。私見ちゃったのよ。金庫の前で不敵な笑みを浮かべるカリーザ様を。アレは絶対金勘定中だったのよ。その祝杯じゃない?」

####アプローチ発見####

「ああなんだそういうこと。てっきり私…」

「ちょっと!変なこと言わないでよね!想像しちゃうじゃない!」

「ごめんごめん。祝杯ってことは例のカクテルを?」

「そうみたい。チェレンヌ様が厨房の召使いに指示してるのを聞いたわ」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『今夜、ターゲット2人はふたりだけで晩酌をするようね。しかも金庫のそばで。これは3つの依頼を一気に片付けるチャンスね。あなたもその勝利の晩酌とやらに参加してみたらどうかしら?きっと素敵な晩酌になるわ』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は一足先に金庫があると思われる部屋の近くへ行く。部屋の前には警備兵が2人立っていてそれなりに警備は厳重だ。しかもその警備兵は隊長クラスらしく、近寄ると怪訝な顔を向けてきたのでそのまま横にそれてやり過ごした。おそらく兵ひとりひとりの顔を熟知しているのだろう。

私は隣の部屋に入る。この部屋は目的の部屋とはつながっていないが同じ外壁に窓がある。幸いにして外壁の装飾はぶら下がるだけの出っ張りがあった。

私は出っ張りに捕まる形でぶら下がり、隣の金庫の部屋へ移った。

金庫の部屋は無人で。警備兵も配置されていなかった。私は静かに侵入し、隠れられそうなタンスを発見した。

金庫は暗証番号式の典型的なもので、人一人分より少し大きめだ。

と、誰かがこの部屋に近づいている。私はとっさにタンスに身を隠した。

 

「どうだ。誰も入れていないだろうな?」

「はっ、カリーザ様。誰も入れておりません。」

「よろしい。私は金庫を確認する。誰も入れるなよ?」

「承知しました。」

 

ガチャ バタン スタスタスタ…

彼は金庫の前に行くとダイヤルを回し始めた。残念ながらこの位置からでは番号まではわからない。

「えーと…あれ?しまったぞ…ど忘れしてしまった…」

どうやら番号をど忘れしてしまったようだ。すると懐から一枚のメモを取り出した。

「えーと・・・ああそうだったそうだった。」カリカリ ガチャ

「おお、開いた開いた。メモは持っとくものだな」

どうやら暗証番号が書いた紙は彼が持っているようだ。

「ウヒヒ…金貨金貨金貨。笑いが溢れるのお。」

彼がゲスの極みのような笑い方をしている。何処の世界でも金は正義であり金は欲望の象徴のようだ。

 

「カリーザ様。チェレンヌ様がお戻りになられました。」

「おお、わかった。すぐに行く。」

そう言うと彼は金庫の扉を閉め、鍵をかけた後いそいそと部屋を出ていった。

私は部屋をよく観察することにした。出入り口とは別にもう一枚ドアがある。開けてみるとそこは簡易的なトイレだった。ちょうどよくタンスもある。もうすぐ夜の帳が下りる。私はここに隠れることにした。

 

 

 

 

下から晩餐の笑い声が聞こえる。貴族は食事は厳かに行うものと聞いていたがチェレンヌは違うようだ。

やがて宴もお開きになったのか階段を登る音が聞こえてきた。するとすぐに

「いや今日は楽しい一日だ!どうだカリーザ。今日は余の部屋で晩酌といこうではないか」

「もったいなきお言葉ありがとうございます。お供させていただきます。」

「ははは!おい、そこのお前、厨房に言って【水精霊の喜び】を持ってこさせろ!」

「ははっ、ただ今すぐに。」

そういうと二人は部屋に入ってきた。私はトイレから扉を少しだけ開けてそれを見守る。

しばらく談笑していたがやがてカクテルがやってきた。私が作っておいたカクテルだ。

「今日は特別にお前にもこの【水精霊の喜び】を味あわせてやろう!各国の旨い酒をブレンドしたカクテルだ!」

「ありがとうございます。いただきます。」

「我々の輝かしい未来に」「乾杯!」

そう言うと二人はカクテルを一気に飲み干した。

 

 

「うっ!あああ…何だこれは…何故か猛烈に気持ちが悪く…」

 

殺鼠剤を盛った方を飲んだのはチェレンヌの方だったようだ。

「クソ厨房の連中め…一体どういう作り方をしたのだ…」

「大丈夫ですか?チェレンヌ様!お待ちください今すぐ水メイジを呼びますゆえ」

「その前に少し失礼する。厨房の連中を罰するのはその後だ…ウップ」

チェレンヌがこちらに着た。私は再びタンスに隠れる。

彼はそのままトイレの便器に顔を近づけると勢いよく吐き出した。

私は気取られないように静かに後ろに近づき。そしてそのまま近づけていた顔を便器の中に押し込んだ。

「!!!!おぶっおご!!がはっ!!!」

突然頭を押さえつけられたパニックで錯乱している息ができておらず段々とおとなしくなっていき、ついには動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『お見事よ47。あとはカリーザと金庫内の借用書だけね』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はそのまま顔面を付けた状態のまま放置し、部屋の外で待っているであろうカリーザの始末にシフトした。

外ではカリーザが扉越しに衛兵と話していた。

「すぐに厨房の料理長を呼べ!今すぐにだ!あと水メイジもな!」

「は?りょ、了解しました。」

私は扉を少しだけ開け、彼と反対方向へコインを投げた。

チャリーンチャリンチャリン

「ん?なんだ?」

彼がコインの方へ向かったのを見計らって鉄パイプで勢いよく殴打した。 

 

ゴッ「ぎゃ!」

 

昏倒したのを確認すると懐の中から暗証番号が書いた紙を取り出し、確認するとそのまま首の骨を折った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『スマートね47。後は金庫内だけよ』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

金庫を暗証番号で開ける。急がねば水メイジと料理長が来てしまう。

金庫を開けると下の段に金貨の袋。上の段に書類が山積みされていた。私は書類の束をすべて取り出した。

残念ながら吟味しているほど時間がない。手早く書類を束ねると金庫内にカリーザの死体を入れ扉を閉め鍵をかけた。紙の束を背中に抱えつつ、私は窓の外にぶら下がった。

「失礼します。水メイジ、ハルクと料理長のラーリィーです。」

間一髪というやつだ。料理長と水メイジが到着した。

私は隣の部屋にぶら下がりで移る。

「チェレンヌ様?いらっしゃらないのですか?開けますよ?」

発覚する前に退散する必要がある。私は急いで部屋を後にした。館から出た後すぐに

 

「チェレンヌ様!大丈夫ですかしっかりしてください!衛兵!衛兵!」

 

死体が発見されたようだ。しかし既に館の裏口付近にいる私には関係のない話だった。私は近くの篝火の中に書類を投げ捨て燃やした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『よくやったわ47。後はそこから脱出するだけね』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

裏口は内側から鍵がかかって居るためか誰も警備しておらず、私は鍵を開けて難なく外に出た。その足で帰途についた。しかしその姿を見ていた小さな影がいたことには気がつくことができなかった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~1週間後~

 

 

「そういえばルイズちゃん、チェレンヌが死んだみたいよ?」

「スカロン店長、それほんとなの?あのデブ貴族がそう簡単に死ぬとは思えないんだけど?」

「おいおいルイズ、口がわりーぞ、まあ俺もアイツは気に入らなかったけどまさか死んだとはな。なんかの病気だったのか?糖尿病とか?」

「とうにょう・・・何とかかはわからないけどどうやら噂では殺されたらしいのよ。怖いわ、怖いわあ・・・」

「暗殺…か。たしかにいけ好かないやつだったけど貴族ってのは魔法が使えるんだろ?そう簡単にやられるのか?」

「貴族にもピンきりがあるからね。チェレンヌは魔法の才能より話術の方であの職についていたって昔エレオノール姉さまから聞いたことがあるわ」

「そんなもんなのか・・・何にせよ、どんな理由があれ人が殺されていい理由はないと思ってる。それで?その犯人は捕まったのか?」

「それがねえ…誰がどうやって館に侵入したのか何もわからないのよぉ…。噂ではその夜から姿を見なくなったカリーザって男が絡んでるんじゃないかとも言われてるけど」

「誰?それ。」

「金庫番よ。金庫の中の金貨を奪ってそれをチェレンヌに見つかって殺した。ってこと。最も金貨が盗まれたかどうかは金庫番がいなくなったせいで、誰も金庫を開けられなくなって確認のしようがないんだけどね。その金庫特別なロックの魔法がかかってるみたいだし。」

「ふーん・・・金目当ての犯行ってやつか。こっちの世界でもそういうのあるんだなやっぱり」

「まあともかく、あたしら商人はみんなチェレンヌが死んだことで清々してるって方が強いわね。新しい徴税官は真面目な私好みの好青年だし!」

「うえ・・・まさかスカロン店長、ほm」

「なにか言ったか?」

「いえ!何でもございません!」

「さあさあ、辛気臭い話はこれでおしまい!みんな!ルイズちゃんとサイトくんにいっぱいサービスして!」

「「「ハイ!ミ・マドモアゼル!」」」

 

 

 

「・・・」

ルイズとサイトが魅惑の妖精亭で飲んだくれてるのを一人の少女が見ていたのを知るものは誰もいなかった。

 

 

 

 

ミッションコンプリート

 ・「水の精霊の鉄槌」+2000 『水精霊の喜びに毒を混入させる』

 ・「優秀な兵士」+1000 『館の警備兵に変装する』

 ・「犯人は身内」+3000 『誰にも見られずにターゲットを殺害し、嫌疑をカリーザに着せる』

 ・「晩酌は永遠に」+1000 『晩酌中にターゲットを2人共始末する』

 ・「平民を舐めるな!」+1000 『鉄パイプでターゲットを昏倒させる』

 

 




ゼロの使い魔は小説もアニメも全部見ました。設定資料集も見ましたし、このハーメルンで検索するのは主にゼロ使ですし。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『前菜は悪徳官僚』(もう一つの世界線)

ネタ暗殺を意識して書いてみました。そのため一部ガバガバですがそこはNPC特有のガバガバ視界と思ってくださいw

###注意###

原作に登場するキャラが死亡する描写があります。作品に思い入れが有る方はご注意ください。


『トリステインにようこそ47』

 

『今回のターゲットはトリステイン王国首都トリスタニアの徴税官のチェレンヌ。彼の横暴なふるまいとその悪質な収賄によっていろいろな方面から顰蹙を買ってるみたいね。今回の依頼者はそんな方面の1つ、町の商人の一人よ。チェレンヌの機嫌を損ねた結果、重い重税を掛けられているらしいからその打開策としての依頼。そんな依頼だから彼の右腕とも言えるカリーザという男の抹殺とその男が管理する借用書の焼却も依頼に含まれているわ。』

 

『ああ、そうそう。最近私達のインフォーマントが王宮警備隊に見つかったらしく作戦立案前に自害しているの。よって毒物や銃火器などの支援は受けられないから注意して。』

 

『準備は一任するわ』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ラッシャイ!ラッシャイ!ヤスイヨヤスイヨ-!

私は今この街一番の繁華街ブルドンネ街から少し外れた市場に来ている。最近インフォーマントが自害した影響か町に警備兵が多い。銃を抱えて持つか死体運搬などは至難の業だろう。しかし元より銃はシルバーボーラーしかもっておらず、死体もいつもターゲットしか出さない主義だ。無闇矢鱈に殺し回るのはプロとは呼べないだろう。

 

さて、市場では大量の食物や医薬品、装飾品などが露天形式で売られている。インドのデリーの市場のようだ。人も多く活気に満ちている。しかし商店ということはこの辺りもターゲットの活動範囲だろう。もしかしたらターゲットがやってくる可能性もあるがそれをただ待っているのは芸がない。どうせならもっと“盛大に”やってやるのも悪くないかもしれない。

 

私はその“盛大に”の部分を探して一つの店に入った。そこはちょっとしたレストランになっており、大ホールに並べられたテーブル席と吹き抜けになっている2階にテラス席があるようだ。ホール中央部の上には大きな木帆船が吊り下げられており、中にはいろいろな木彫りの人形が乗せられている。私は入って右側の席へ座った。

 

 

「いらっしゃいませ!」

「ああ、紅茶と茶菓子をもってきてくれるかな」

「かしこまりました!」

「ああ、それと聞きたいんだが、あの木彫りの帆船は一体なんだろうか?」

「ハイ、アレは【ノームの方舟】と呼ばれる船の模型です。なんでも飾っておくと幸運が訪れ商売繁盛家内安全悪霊退散といい事ずくめだって言ってました!」

「なるほど、しかしかなり大きいが吊り下げておいて危なくはないのか?」

「貰った店長が言うには、くださった人は店長の恩人で断りきれなかったそうで、置く場所もないから仕方なく吊り下げています。頑丈なロープ4本と鋼鉄製の鎖で固定されてるので1本ちぎれたとしても落ちてくることはないですから安心してください!」

####アプローチ発見####

「それを聞いて安心した。ありがとう。」

「いえ!では紅茶とお茶菓子セットですね!只今お持ちいたします!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『大ホール天井から吊り下げられている【ノームの方舟】は相当な重量がありそうね。前後2本ずつのロープで固定されてるみたい。でも掃除するときに下ろすためにそのロープは結局一本の鋼鉄製の鎖に繋がれて昇降装置に直結してるみたいね。幸運の方舟は悪霊退治も喜んで引き受けてくれそうよ。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は店内を念入りに観察した。店の広さはなかなか広く、丸テーブル席も20はある。入り口から見て奥側の壁に沿うように1階部分に厨房とカウンター、2階部分にテラス席が設けられている。2階部分へは右側の壁に沿うように階段が設けられており、もとよりテラス席自体が若干高いのか階段もそれなりの長さになっている。テラス席の後方には無いが両側には窓があり、人一人は楽に通れるくらいの大きさが有る窓が1つづつ備えられている。同じ高さに両側の壁に窓がいくつか開いているので風通しは良い方である。

 

方舟は艦首を正面玄関に向けつつ高さ5mほどのところに浮かんでいる。ロープは遠目で見ても頑丈そうではあるが、銃弾には太刀打ち出来ないだろう。しかしその4本のロープを束ねて固定されている1本の鎖の方はとてもじゃないが拳銃程度では切れそうにない。つまり鎖を切ってターゲットの上に落下させるのは不可能だ。落下させるにしても昇降装置を動かさねばならないだろう。

 

一方方舟の方はと言えば、一般的な帆船で大型のバウスプリットが付けられている。マストは3本で片舷には20問足らずの砲が突き出ている。この世界によく見られる空戦艦によくある横方向のマストは見受けられないため海をゆく船なのだろう。甲板からは木彫りの人形総勢10数名が顔や体を乗り出して外へ手を振っている。感覚としては七福神の船のようなものなのだろうか。

 

 

「おまちどうさまでした!紅茶セットです!」

「ああ、済まない。その紅茶セット、2階のテラスで飲みたいのだが良いだろうか?あの船をもっと近くで眺めてみたい。」

「あら、お気に召したようで何よりです!わかりました。真後ろからが良いですか?それとも横方向からが良いでしょうか?」

「では横の席を。」

「かしこまりました!こちらへどうぞ!」

 

 

そういうと店員は2階へ案内してくれた。階段を上がるとテラス席は、壁と手すりの間に席が設けられており、時間帯のせいも有るのだろうが今の所客も居なかった。店員は私を船の右舷、先ほどとは逆の方向が見える位置の席へ誘導した。場所的にはかなり端である。

 

 

「こちらへどうぞ!ココは私のおすすめでいい感じに船が見えるんですよ!」

「ありがとう。たしかにいい席だ。」

「いえいえ!では紅茶セットとお茶菓子です。ごゆっくりどうぞ!」

 

 

そう言うと店員は足早に階段を降りホールの仕事へと戻っていった。下から見たときはわからなかったが方舟に乗っている人形は一つ一つ顔と表情が違う。おそらく一人一人ちゃんとモチーフがいるのだろう、かなり精巧に作り込まれてるのがわかる。

 

っと、これも下からはわからなかったことだが、テラス席の階段とは逆の端、つまり入り口から見て左側の壁際にドラム式の昇降装置と思わしきものが有る。スイッチ式であり、押している間だけ下がるのだろう。しかし構造自体は簡単で叩けばすぐ壊れそうなほど老朽化が目立っている。しかしそれに対する対応策なのか昇降装置の先に非常用の制動装置が付けられているのが見える。構造的に一気におろしたら自動的にブレーキが掛かる仕組みなのだろう。

 

 

 

「店主!店主はいるか!」

 

しばらくすると下から大声が響いてきた。見ると数人の取り巻きを引き連れて小太りの貴族が正面玄関前に仁王立ちしていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『アレがターゲットのチェレンヌ徴税官と右腕のカリーザ。まさにこの店にとっての【悪霊】といったところかしらね。ノームさんたちに退治を依頼したらどうかしら?』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

すぐ横には紫色のローブを纏った他の取り巻きとは違う男も立っていた。あれがカリーザだ。

 

私はすぐさま横にある窓を開けた。窓の外の脇には雨水を流すための雨樋が通っており、それを伝えば下に降りられそうだ。私は下から見られないようにシルバーボーラーを取り出した。

下ではなかなか出てこない店主に苛立ったのか更に金切り声を上げて何かを怒鳴っている。しかしそれは既に私にとって重要ではない。私は方舟を支える4本のロープのうち前部分の2本だけを切るように引き金を引いた。

 

パシュン ブチィ

キャア!ナ、ナンダ!

 

前2本のロープが切られた方舟は後ろの2本を支点にししつつ大きく回転した。が元々高さがあったため方舟は客や店員に当たることなく後方へ、しかし大きな方舟が落ちてくれば誰でも避ける。方舟が回転した軌道の席からは客も定員も離れた。しかし当たる軌道ではないのが早くからわかっていたその延長線上に居たターゲットは動かない。

 

「はん!こんな事故が起こるとはこの店は取り潰したほうが良いのではないか!?」

 

私は方舟が後方いっぱいに振れた瞬間、昇降装置を撃った。

 

パシュン ガチンッ! カラカラカラ…

 

昇降装置は壊れ、急激に方舟をおろしていく。が、すぐさま非常用の制動装置が作動しその動きを止める。しかし既に数メートル分は出てしまっており、方舟はその緩んだ鎖で先程よりも大きな弧を描いて振り戻した。

 

「へ?うわあああああ!!!」

「チェレンヌ様!!」

 

ザシュ!

 

 

 

方舟はその船首にあるバウスプリットをターゲットの胸に向かって突き立てた。元より凄まじいスピードと重量で振れているため、ターゲットは為す術なく串刺しになった。そのまま前方へ大きく弧を描いた後、また振り戻しで後方へ弧を描いて振れる。と、遠心力でバウスプリットからターゲットの体が外れる。振り戻した方舟はターゲットをカウンター上へ運んだ。串刺し状態から解放されたターゲットはそのまま抵抗することなくカウンターの前に落下していく。

 

 

ガキャ ドシャ

 

 

どうやらトドメと言わんばかりに首の部分だけがカウンターに当たったらしく、落下したターゲットは首が凄まじい方向に曲がっていた。

 

 

「チェレンヌさm…うわ危ない!」

 

 

方舟は未だに振れ続けている。その振れ続ける方舟によって無残にも床に打ち付けられたターゲットにカリーザたちは近寄ることが出来ずに居た。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『ターゲットの死亡を確認。悪霊退散ね。後はカリーザと借用書の焼却よ。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私は再び方舟が前方へ振り動いた瞬間残りの2本のロープを撃ち抜いた。中央部の固定されてる部分を撃てばいいだけなので狙いはそれほど難しくはなかった。

 

 

パシュン ブチィ

ガシャーン!

ウワ-!

 

 

自由になった方舟は正確にカリーザを含めた取り巻きの頭上に落下した。外側に居た取り巻きはとっさに横にジャンプして避けたが、中央部に居たカリーザはそうはいかなかった。100キロはゆうに超えているであろう木造帆船の下敷きになったカリーザはおそらく生きては居ないだろう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『2人目のターゲットの死亡を確認。見事な手際ね。あとは書類の焼却だけよ。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

取り巻きたちは方や無残に打ち付けられたチェレンヌだったものに駆け寄ったり、下敷きになったカリーザを助け出そうと瓦礫をどかしたりとてんてこ舞いだった。私は自分の机に紅茶の代金を置いて窓から脱出した。配管を伝い、地上に降りると足早にその場を離れチェレンヌの屋敷を目指した。

 

 

 

屋敷に到着した。すぐにあの事故の知らせが来ることを考えると悠長に調べて回ることもでき無さそうだ。私は庭の外側の塀をよじ登って中に侵入した。おそらく借用書とやらはターゲットの私室に有ると思われる。私は人目を避けつつ見つからないように移動した。屋敷の外側に雨樋のパイプが伝っているのが見えたのでそこを登り、一番近い窓にぶら下がって中にはいり…っと、窓の直ぐ側で警備兵が立ち話をしていた。私はぶら下がり状態のまま聞き耳を立てる。

 

 

「それにしてもなんで部屋に入っちゃいけないんだ?メイドの連中が掃除もベッドメーキングも出来やしないって文句をたれていたぞ。」

「なんでも中には重要書類が散乱してるんだとよ。整理中にチェレンヌ様からお呼びがかかったとかで、仕舞っている暇がなかったんだとか。」

####アプローチ発見####

「書類くらい俺らが片付けてやってもいいってのに。まとめて束ねるだけなら俺らにだってできるのにな?」

「いつ誰が悪事を働くかわからないからだそうだ。信用されてねえなあ俺ら。」

「まったく、何年使えてると思ってんだろうなあの男。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『どうやら不用心にも書類は今私室に放置されているようよ。絶好の機会ね。なんとかして忍び込んで書類を処分するのよ。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

書類が部屋に散乱しているのは好都合だが部屋の前には警備兵が立っていて入れない。グズグズしていると事故の知らせが届いてしまう。私は一旦配管を伝い地上におりた。目的の部屋は窓が空いており、隣の部屋から伝っていけそうでは有るが隣の部屋に行く手段がここからではなかった。私はすぐ後ろにあった倉庫に入った。

 

倉庫の中にはいろいろな道具や酒瓶などが置かれていた。そのうちの一本の酒瓶を手に取る。文字は掠れていて読めないがその下の数字は読める。【95.8%】と書かれている。瓶を開けて匂いをかいでみる。とても強いアルコールの刺激が鼻についた。おそらくこの数字はアルコール度数の数字だろう。とても度数の高い蒸留酒、スピリタスのようなものなのだろう。私はこれと近くにあった布切れを合わせて即席の火炎瓶を作った。

 

布に少し染み込ませたあとシルバーボーラーで布に火を付けた。火がついた火炎瓶を書類が有ると思われる部屋に投げ入れる。と同時に私は廊下の警備兵が居たあたりのすぐ近くの窓を狙撃して窓ガラスを割った。窓ガラスが割れるのとほぼ同時に部屋に投げ入れた瓶が割れる音がした。不審に思った警備兵が確認しに来た。どうやらその反応から部屋の中の瓶が割れた音をごまかせたようだ。

 

窓の外からでも火が見えるほどに大きくなってきた。黒い煙が窓から出始めた。おそらく内装は絨毯や木製家具などであり、よく燃えるものばかりだったようだ。と、玄関のほうが騒がしくなった。どうやら事故の知らせが届いたらしい。水メイジと思わしきメイジが連絡員に連れられて外へ出ていく。これでもうあの火事を止められるものは誰も居なくなった。窓から燃えカスと思わしき紙が漂ってきた。手に取るといくらか金額が書かれているが何の金額か、元より何の書類かも判別できないほどに燃えていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『お見事ね47。書類は燃えたわ。そこから脱出して』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

カ、カジダー!

 

廊下にいた警備兵も流石に部屋から煙が出ているのに気がついたらしく、消火作業のための応援を呼んだ。屋敷の中がにわかに騒がしくなる。水メイジが居ないため使用人や他の警備兵などが総動員でバケツリレーでもするのだろう。私は庭にある裏口から外に出て脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~3日後~

 

「マザリーニ枢機卿。町の徴税官が死んだとの知らせを受けましたが本当ですか?」

「姫様。それはどなたから・・・。」

「風の噂。いえ、私の子飼いの私兵からですわ。」

「左様でございますか。確かに徴税を担当していた官僚が先日亡くなりました。なんでも店舗を視察中に店舗内の装飾品が落下したとか。」

「そうですか・・・例の者たちの仕業ですか?」

「いえ、レコンキスタの残党は一掃出来ており、今回の事件にも関与を匂わせる証拠も疑いも発見されておりません。」

「事件?事故ではないのですか?ならば誰が関与していると?」

「・・・私の調べでは最近巷で噂されている“暗殺組織”が関与しているのではないかと推察しています。」

「“暗殺組織”・・・」

「はい。先日、その手のものと思わしき人物を警備隊が捕捉しましたが、証拠を掴む前にアジトと思わしき家は全焼、本人もその火事で死亡しており身元の確認が取れないまでに朽ち果てておりました。」

「その暗殺組織の名はわかっているのですか?」

「いえ、正式な名はまだ。わかっているのは“アイシーエー”という言葉だけです。」

「“アイシーエー”・・・聞いたことのない単語です。」

「私もです。組織の名前ならば何かしら意味のある単語が並ぶと思うのですが。」

「もしかしたらこの国の言葉ではないのかも知れません。」

「姫様?しかし、ハルケギニアはもとよりエルフの国ですら言葉は共通ですが・・・。」

「私に心当たりがあります。別の言語を話し、別の国からやってきた一人の少年を。彼に聞いてみましょう。」

「彼ですか・・・。私めとしましてはあまり国の案件を任せるのは忍びないのですが・・・。」

「ですが彼以外に頼る伝手がないのも事実でしょう。彼を呼んでください。」

「かしこまりました。」

 

 

 

ミッションコンプリート

・「幸運の船」   +3000 『ターゲットを【ノームの方舟】で殺害する』

・「リバティシップ」+2000 『【ノームの方舟】を落下させる』

・「吶喊一閃」   +5000 『ターゲットを【ノームの方舟】のバウスプリットで殺害する』

・「火の精霊の鉄槌」+1000 『ターゲットの屋敷で火事を発生させる』

・「暗殺組織」   +3000 『すべての任務を服装を変えずにこなす』




ネタ暗殺をするつもりで書いてはみましたが、情景を思い描くとたしかにネタっぽいのですが文章にすると真面目な暗殺に見えてしまう悲しみw。


2019/06/13追記
当初はチェレンヌのみを殺害する予定でしたが、ターゲット一人だと任務が単調になることを恐れたため最終的に複数目標になったと記憶しています。


次回もハルケギニアです。
作中で一番暗殺対象になりそうな方がターゲットになります。


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HITMAN『メインディッシュは悲しみの詩』

###注意###

原作に登場するキャラが死亡する描写があります。作品に思い入れが有る方はご注意ください。


『ガリア王国へようこそ47』

『ガリア王国はハルケギニアの中央部に位置していてハルケギニア1の超大国。とても栄えていて軍事超大国でもある。我々の感覚で言えばまさに合衆国ね。でも地理や風土、風習、文化に関してはどちらかというとフランスかしら?今回の任務はガリア王国にとってとてもデリケートな問題で、任務自体も国家の盛衰に関わることよ。』

 

『今回の任務はガリア王、ジョゼフの暗殺。ターゲットは一人だけだけど超大国の国王だけあって警備は今までで最高クラスでしょうね。我々のインフォーマントによれば、ジョゼフはこの世界に伝わる“虚無魔法”という特殊な魔法を使うそうよ。どんな魔法かまでは調べられなかったけれど。』

 

『前回のトリスタニアでの任務の後、我々のメッセンジャーに接触してきた人物が居たわ。今回の依頼はそのジョゼフに父親を殺され、母親に精神疾患を患わせる毒をもられた一人娘から。国王暗殺という危険な任務だから依頼料も膨大な額になったけど彼女はそれを用意してみせた。期待に答えなくちゃね?この暗殺が成功すればガリア王国は間違いなく衰退するでしょうけど、我々はあくまで依頼された内容をこなすだけ。常に中立でいなくてはならないの。』

『今回の任務は難しいかもしれないわ。必要ならばライフルや爆薬の使用も許可されている。』

『準備は一任するわ。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は今ガリア王国の首都、リュティスに来ている。目の前にある王宮は、バンコクにあった高級ホテルよりも数倍は大きい。聞くところによるとハルケギニアで最大の都市なんだそうだ。外周は高さ数mの白塗りの壁で囲われており、整備が行き届いているため穴や亀裂などは見当たらなかった。侵入するには内部の職員か兵士になるしかなさそうだ。しかし物は試しだ。

 

「すみません旅のお方。ここはガリア王国の王宮です。一般人の立ち入りは禁止されています。」

「とてもきれいな宮殿でしたので、一度中を見学させていただきたいのですが。」

「申し訳ありません。王宮内に立ち入る際は事前にアポイントメントが必要なのです。これは規則ですのでまた後日アポイントメントを取っておこしください。」

 

やはり正面からは無理のようだ。ひとまず離れて城下町を探索する。

 

 

日も暮れ始めた頃。一軒の酒場の周りに兵士がたむろしているのを見かけた。私は酒場に入り窓際の席で彼らの会話を聞くことにした。

 

「しかしどうなるんだろうなこれから」

「ん?何の話だ?」

「聖戦だよ聖戦。ロマリアの教皇様がしきりに騒ぎ立ててるアレだよ。」

「ああ、アレか。エルフの国に攻め込んで聖地を奪還するとかいう。正直オレは御免こうむりたいね。エルフと対峙するのはさ。」

「オレだってゴメンだよ。先住魔法をバンバン撃ってくるやつ相手に魔法も使えない一般兵士の我々に何ができるってんだ」

「でも噂で聞いたんだけどよ、ガリア王家は裏でエルフと取引してるって話だぜ」

「え!?マジかよ?取引って何やってんだ?やっぱ最新兵器とかか?」

「そこまでは知らねえよ。でも正門の警備やってるときに上から「ビダーシャルの使いと名乗るものは通せ」ってお達しが来たんだよ。」

####アプローチ発見####

「ビダーシャル?それがエルフの名前なのか?」

「さあな、エルフとなんか関わりたくもねえし、それに関与してるかもしれない王室のゴタゴタに巻き込まれるのもゴメンだよ」

 

 

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『どうやらガリア王家は裏でエルフと繋がってるみたいね。正門を通るためにはビダーシャルの使いになりきるのも悪くないんじゃないかしら。うまくすればそのビダーシャルさんに会うことができるほど王宮の深部にまで潜り込めるかもしれないわよ?』

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私はひとまず更に情報を収集することにした。集めた情報は大したものではなかったが、【カリマンタンの雫】という酒場にその使いらしき東方の商人がよく出入りするということだった。私はその酒場へ向かった。

 

 

 

「いらっしゃい。見ない顔だね?旅の人?」

「ああ、そのようなものだ」

 

【カリマンタンの雫】は先程の酒場にも負けず劣らずの盛況ぶりだった。店の奥にトイレがあるらしく店主に言って貸してもらうことにした。無論、用を足すわけではなく近くを通りかかったウェイターを首を絞めて気絶させ、近くの大型の業務用ゴミ箱に隠した。ウェイターは液体の殺虫剤を持っていたようで、服を借りたついでに懐に忍ばせる。私はカウンター兼バーに陣取り、テーブルを拭く作業を装いながら東方の商人が来るのを待った。

「よお大将。いつも元気だな」

「ああアンディーヌさん。また王宮から呼び出しかい?」

「そうなんだよ。あの貴族連中と相対するにはちょっとばかしスタミナが居るからね!大将のマンガリ肉のハチミツ焼きを食いたくてよ!オイ、そこのウェイター、名前はええと…なんでもいいや!今の聞こえたよな?頼むぜ!」

「かしこまりました」

奇しくも一番近くで拭き掃除をしていた私にご指名がかかった。

「あいつどっかで見たような・・・気のせいか?」

 

 

厨房に注文を伝えると10分足らずで焼き上がったようだ。私は運ぶ道中。懐に隠していた殺虫剤を混入させた。大将と呼ばれた店長クラスの人物は今は他の客を接客していた。

「どうぞ、マンガリ肉のハチミツ焼きでございます」

「おお!きたきた!」

私は不自然無いように離れた。

 

「ムグムグムグ…かーっ!うめえ!やっぱここのマンガリ肉は最高…ん?」

「ンンン!うごごご…腹が…何だ一体…?トイレトイレ!」

 

肉をいくらかかじったその商人は腹痛をもたらしたようで急いで店の奥のトイレに駆け込んでいった。私はその身を案じるようについていった。もちろん案じるためではなく服装を借りるためではあるが。

 

トイレに入った商人はひとしきり出すものを出した後、トイレから出てきたところを首を絞めて気絶させた。服を借り、ウェイターと同じくゴミ箱へ隠した後、裏口から出た。ちなみに服を借りたときに1枚の通行証が出てきた。おそらくこれを使って貿易をしているのだろう。私はそのまま王宮へ向かった。

 

 

 

「ん?そこのもの、止まれ!」

「私はビダーシャル様より召喚を承りました商人でございます。」

「ビダーシャル…ああ、あの勅命か。通れ」

「ありがとうございます」

 

とりあえず手間はかかったものの王宮内部に侵入することは成功した。しかしここで問題が起こった。王宮内部に入るのであるから案内役のような人間が居るのかと思いきやそのような人物が出てくる気配もなく、周りの警備兵も勝手に進めと言わんばかり。これでは何処にジョゼフはおろかビダーシャルの居場所さえわからない。ひとまず私は近場の無人の詰め所にあった兵士の服装に着替え、警備隊になりすまし、再び情報収集に当たることにした。

 

 

1階から3階へ上がる大階段の下で老齢の貴族がなにか相談しているようだ。

 

「ジョゼフ様は一体何をなさっているんだ?毎晩毎晩自室で独り言をブツブツ囁かれている御様子だが…」

「私にわかるわけ無いじゃろう。最近はいつも夜の帳が下りた後、一人で部屋の模型に向かってブツブツと独り言をなさって、いつも寝るのは夜も更け子の刻になってからじゃ。」

「お体を壊してしまうことだけは避けなければならん。今夜は寝付きが良くなる東方の茶でも進呈してみようか?」

「止めておいたほうが良いじゃろう。前に一度独り言をつぶやいているときにある貴族が止めるよう進言したときなど、その次の日にはその貴族は逆賊として監獄行きじゃったのだから。」

「なんと…それはおいそれとは近づけんな…」

「まあ大丈夫じゃろう。子の刻にはちゃんと床に入っておられるようだし。若い頃からそうじゃったが陛下は一度眠りに付かれると簡単には起きないのじゃ。」

####アプローチ発見####

「まあちゃんと眠れているなら問題はないのだがな…」

「気味悪がるのも無理はないが、触らぬ神に何とやらじゃぞ」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『ガリア王ジョゼフは、子の刻、つまり深夜0時には眠っているそうよ。しかも簡単には起きないと。我々の情報の中には最近悪夢にうなされることもあったみたいだから、あなたが悪夢から解放してあげたらどうかしら?』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は3階へ上がり、更に状況を整理した。どうやら王の居室は最上階である5階にあり、その間の4階は専門の近衛部隊が。最上階の5階にもまたさらに親衛隊の部隊が控えており、それぞれ互いの顔と声を熟知しているようで警備員になりすまして侵入するのは困難だろう。5階には王族の個室が。4階には各閣僚たちの個室があてがわれているようだ。先ほど外壁を確認したところ外壁は漆喰のようなもので塗り固められており、5階へ壁を登ったりぶら下がったりしていくことは困難だろう。しかし私は、4階の角の部屋からパイプのようなものが下に伸びているのを確認していた。私は3階の角部屋を目指した。

 

 

3階の角部屋は倉庫のようだった。いろいろな調度品が置いてある。と、私は壁に悪魔のような形をした銅像が飾ってあるのを発見した。その目は赤く発光しており、私が前を通ると一瞬だけ光が強くなるのだ。思えば1階の大広間や大階段にも似たような像があったが、もしかするとこれは監視カメラの一種なのではないだろうか?だとすれば今のところ確認できるだけで4回はこのカメラに映ってしまっている。この手の監視体制は大抵の場合地下や1階などで一括管理されており、確認する必要があるだろう。私は一旦1階に戻り、警備室のようなものを探した。しかしどの詰め所にもそれらを確認するモニタはおろか水晶のようなものでさえ見当たらなかった。

 

 

焦る気持ちを抑えつつ探索を続けているとある部屋を見つけた。

【シェフィールド執政官】と扉の横に書かれている。執政官といえば大臣クラスと大差ない重役ポジションであり、それが何故4階ではなく1階にあるのか。もしかするとここが一括管理を行う場所なのではないか?私は一旦外に出て、中庭からその部屋を確認する。幸いにして今現在は無人のようだ。机の上に壁に飾ってあった悪魔像を幾分小さくしたものに大きめの水晶がはめ込まれているのを発見した。おそらくアレが記録媒体なのだろう。私は中庭から換気のためなのか開いている窓から侵入し水晶を手にとった。スイッチらしきものはないためおそらく魔力駆動なのだろう。私はそれをシーツにくるむとベッドの上で思いっきり叩いた。

 

カシャン!

 

シーツにくるまれていたため音はさほど大きくなく、粉々に砕け散った。枕元にあったエンドテーブルを窓のそばまで持っていき、その下に砕けた水晶をばらまいた。窓のカーテンをまとめている紐を外し、私は窓から中庭へ出た。

 

 

悪魔像カメラ対策をしていたら既に子の刻を過ぎていたようだ。私は中腰忍び足で誰にも見られることのないように3階の角部屋に到達した。悪魔像の目は依然として赤かったが発光はしていなかった。窓の外には上の階から伸びているパイプがあり、掴まりよじ登ることができた。元よりこの兵士の服はこげ茶色というべき濃い茶色をメインカラーにしており、夜の闇に紛れるのは十分可能だった。

 

4階の角部屋には大臣が眠っていた。どうやら私室兼研究室にしていたようで、パイプはその排水用だったようだ。パイプは自家製だったようで試作品と思われる鉄パイプが転がっていた。私はその鉄パイプを使って寝ている大臣の首元を殴打し、起きないようにした。服を借り、大臣をタンスに隠した後、横のエンドテーブルにあった大きめの布を頭からかぶった。

 

 

「お待ち下さい大臣閣下。今陛下は既にお休みですので夜が明けてからにしていただきたい。」

「緊急の案件である。でなければこんな時間に謁見などしない。」

「緊急・・・ですか?」

「そうだ。もしこれを報告しなかった場合国内に重大な問題が発生するのだ。君はその責任を取れるのか?」

「い、いえ!承知しましたどうぞお通りください。」

 

私は大臣に扮し5階に侵入することに成功した。布で顔を隠した状態では薄暗い王宮の中では別人だとは思われなかった。王の居室の前にも衛兵が立っている。

 

「大臣閣下。このような時間に何用で?」

「緊急の案件である。通せ。陛下を起こしてしまう不敬は私が負う。」

「・・・承知しました。少々お待ちを」

 

カチャカチャ…ガチャ

 

「どうぞ。」

「うむ。ああ、君たちは外で待っておれ。これは王家にとって重要な案件であるがゆえ陛下以外の何者の耳にも入れるわけにはいかんのだ」

「承知しました…?」

 

バタン

 

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『さあいよいよご対面よ。この世界一の超大国の最高権力者様にね。』

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ガリア王ジョゼフはベットの中ですやすや寝息を立てている。しかしその表情は安らかにとは言えないものだ。やはり情報通り悪夢を見ているらしい。

私は懐から愛用のシルバーボーラーを取り出し、彼の額に押し当てた。

「ううむ…シャルル…すまない…」

寝言だろうか。シャルルとは?しかしその答えは今の私には必要のない情報である。

 

 

 

パシュン!

 

 

 

額に穴が開き、血が流れ、もはや寝息は聞こえない。

しかしその表情は何処か安らかにも見えた。

 

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『任務達成。でもまだ油断はできないわ。すぐにそこを脱出して47。』

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私は居室を後にし、途中、詰め所で商人の服に戻った後、正門から帰還した。

 

 

 

 

 

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~1週間前~

 

「余のミューズよ。最近余は夢を見るのだ」

「どんな夢なのでございましょうかジョゼフ様」

「余が死ぬ夢。余が無残にも刺客に殺される夢だ」

「なんと・・・!しかし、そのようなことは決して起こさせはしません。」

「夢の中ではあっけないほど簡単に死んでいた。無論現実になるとは思っておらん。だが余はその夢を見て思ったのだ。簡単ではないにせよ現実に起こりうる可能性の一つなのだと。」

「ジョゼフ様・・・」

「余は決断しよう。余が死んだときは全権をミューズ、そなたに託すと。」

「そんな!ジョゼフ様!恐れ多くとても受け取れるものではございません!」

「しかし余の考えを理解し、余の政治を一番うまく引き継げるのはミューズに置いて他におらんのだ。」

「しかし、ジョゼフ様…」

「もう決めたことだ。リュティス大司教にも明日そう告げ、遺書も書くつもりだ。」

「・・・承知しました。しかしジョゼフ様のお命は私めが必ずやお守りいたします!最近研究所の方で開発された監視用ガーゴイル。まだ試験も終わっておりませんが、いち早く王宮に設置させましょう。」

「余は果報者だな。そこまで考えてくれるとは。だが運命には逆らえぬ。そんな気もするのだよ。ミューズ。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「14人目の騎士」+2000 『閣僚に変装して王の居室に入る』

・「一帯ゼロ路」+1000 『東方の商人に変装する』

・「割れ物注意」+3000 『監視用ガーゴイルの水晶端末を事故に偽装して割る』

・「甘いものには棘がある?」 +1000 『【マンガリ肉のハチミツ焼き】に毒を盛る』

・「鎮魂の灯火」+1000 『ジョゼフの寝言を聞く』

・「伝説は伝説」+1000 『ジョゼフに虚無魔法を使わせることなく始末する』

 

 

 




タバサのジョゼフ暗殺が早い段階で成功していたらどうなっていたんでしょうね?
ガリアはめちゃくちゃになる気がしますがタバサにそれを止めることはできず、己の無力さに打ちのめされる展開が見える気がします。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『メインディッシュは悲しみの詩』(もう一つの世界線)

困難な任務(笑)状態ですがご容赦ください。
今回、時間帯が変わっており、14時位だと思っていただければ。

###注意###

原作に登場するキャラが死亡する描写があります。作品に思い入れが有る方はご注意ください。


『ガリア王国へようこそ47。』

 

『今回のターゲットは大物よ。ガリア王、ジョゼフその人。依頼はガリア国内を二分する派閥ジョゼフ派の対抗馬であるシャルル派のさる大物貴族。とても青いきれいな髪をしていたそうよ、社交界では“ガリアの青”とか呼ばれてるそうね。』

 

『ターゲットが国のトップである以上、かなりの困難が予想されるわ。十分に注意して。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

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ガヤガヤガヤ

 

私は今ガリア王国首都リュティスに来ている。今回のターゲットは王宮にいるらしい。

 

この世界では魔法という技術があるため専用の警備装置や警備配置がありそうだ。周囲の壁は高く漆喰が塗られているようで表面に凹凸もなく登るのは道具か魔法がなければ常人には不可能だろう。そして壁の最上部には何かしらの装置が見える。電気的な装置では無さそうなのでおそらく侵入検知用の魔法装置かなにかなのだろう。

 

私は今回、内部への侵入は難しいと踏んで外からの長距離狙撃を行うことにした。そのために、インフォーマントを通じ、街にある古く寂れた飲食店の使われていない倉庫に“Jaeger7”を置いてもらった。今回は長距離になりそうなのもあり、またガラス越しに打つことにもなると想定されたので消音機能を廃し貫通弾を運用できるようにした“Lancer”バージョンを持ってきた。

 

まずは周囲の状況を確認するところからだ。今現在、私はメインストリートと言える大通りにおり、このまままっすぐ進めば王宮の正面ゲートにたどり着く。条例なのか単に技術がないのかはわからないが周囲は概ね王宮の建物よりは低い建造物で囲まれており、町の何処からでも王宮を目にすることができるようになっている。しかし、その中でも一箇所だけ王宮と同じくらいの高さを誇る建造物があった。リュティス大聖堂である。

 

リュティス大聖堂はこの世界で信奉されている“ブリミル教”の教会であり、聖都ロマリアには王宮並みの大きさの聖堂があるらしい。ここにある聖堂はそれほどではなく、規模で言えば正直サン・ピエトロ大聖堂よりだいぶ小さい。それでもその鐘楼は王宮の最上階部分と大差ない高さを誇っている。

####アプローチ発見####

 

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『リュティス大聖堂は王宮を除けばこの街一番の巨大建築物よ。高さもそれなりにあって、鐘楼部分は人が入ることもできるみたい。ただ鐘楼は関係者しか立ち入れないでしょうから狙撃ポイントにするには工夫が必要ね。』

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幸いにして、ライフルを設置してもらった倉庫は中規模の通りを挟んで反対側にあった。しかし通りは大通りほどではないにしろそれなりに人通りがあり、見られずにライフルを持ち出すのは至難の業と言える。この世界では狙撃銃のような概念はないが、マスケット銃は存在しており、背負ってる物が銃だということくらいは認識されてしまう可能性が高かった。私はひとまず周囲の散策を進める。

 

大聖堂は表向きは貧民に対しての拠り所を自負しているらしく、スラム街と呼べるところにほど近い位置にあった。そこには貴族もおらず、平民だけで全てを賄っているようだった。一軒の店先で男2人が話していた。

 

 

「おい、この間頼んだ木彫り細工。アレまだできねえのか?」

「無茶言っちゃいけねえや、この前の火事のせいで生産が遅れてるんですよ。」

「あの何軒か家焼いた騒ぎだろ?何だ品が燃えちまったのか?」

「いや、品は無事でしたよ。発生したとこは結構遠かったですしね。でもね、あのとき消火に2日くらいかかったでしょう?ココらへんじゃちょっとの火事が起きても貴族様たちは助けちゃくれないんですわ。町の広範囲が燃えるようなことにでもならないと来てくれないんじゃないですかね。そいでここらへんじゃ火事が起こったら町のやつ全員で消火作業に当たることになってるんですわ。」

####情報を発見####

「なるほど、2日2晩火事の消火にあたってて生産が遅れてると、そういうわけだな?」

「へい。しかもどうやらそのとき家を開けてる最中にこそ泥が入ったようでしてね、木彫り細工に使う樫の木を何本か持ってかれちまってんでさ。新しいものを発注してはいるんですがまだ届かないんで。だからこうして材料がないので店先で駄弁るしか無いってこういうことでさあ。」

「近くの森に切りに行くとかできなかったのかよ。ただ待ってるよりよっぽどいいだろ。」

「無理ですよ、わたしゃもう年だ。工房で樫の木を動かすのだって一苦労なのに森からここまでどうやって持ってくるっていうんですかい。あんたが持ってきてくれるってんなら話は別だがよ?」

「いやー・・・樫の木が来るのはいつなんだろうなあ・・・」

「・・・予定では明後日になるらしいですけどね。」

 

 

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どうやらこの町では火災が発生したときは周辺住民総出で対処するようになっているみたいね。陽動に使えるかもしれないわね。

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私は早速近くの通りを進み、火事を起こせそうな家を探す。火災は小規模ではすぐ消されてしまうし周辺の陽動にもならない。しかし大きすぎると今度は収集がつかなくなり、王宮に報告が行きターゲットの狙撃に支障が出る可能性もある。タイミングと規模が重要である。教会から離れすぎず、かつそれなりの規模だが住民だけで消せない大きさではないことが重要だ。

 

少し進むと煙突から煙が出ている家があった。表の看板に剣と金床の模様が彫られているところから見ておそらく鍛冶屋だろう。鍛冶屋ということは中には高温の炉が有るはずだ。中を覗いてみると案の定炉があり、その炉の周りの床は石材だが少し離れたところは木材のフローリングのような床だ。壁も漆喰を使って燃えないようにしているのは見受けられるがそれも炉の周囲だけであり、やはり距離にして2~3mも離れたところからは壁は木材だ。

 

私は鍛冶屋の横の細い路地に入る。路地裏は決して清潔とは言えず、悪臭が立ち込めているところであったが通れないことはなかった。最も足の踏み場には気をつけなければならないが。私は鍛冶屋の裏手に出ると裏口の鍵をピッキングで開けた。裏口は奥の居住スペースに通じているようだった。この世界ではまだ電気は使われておらず、明かりはすべて蝋燭か松明だ。この家の主人は不用心なようで、居住スペースのリビングのテーブルに置かれていたランプの蝋燭が点きっぱなしだった。リビングの奥にはキッチンと思わしきところがあり、様々な調味料が小さな壷に入って並んでいた。私は調味料の中から油と思わしき壷を倒して中身をこぼれさせた。油が床に染み渡る。テーブルの上にあったランプも倒し、中の火がテーブルの上に広げてあったテーブルクロスに燃え移るのを確認した。テーブルとキッチンの床はそれなりに離れてはいたが、この差が時間差として働いてくれるだろう。一番離れた窓を少しだけ開け、私は家を出た。

 

教会横に戻った私は鍛冶屋の方面に煙が上がってるのを確認した。大きな炉の煙が1本と、注意深く見なければわからない程度の細い煙がもう一本。まだ騒ぎにはなっていないようだがそれも時間の問題だろう。私は一足先に倉庫へ向かった。

 

倉庫の中はホコリだらけで調度品は壊れ窓ガラスも割れており、もう何年も使われていないことが伺える。その中程のいくつか置かれたテーブルの下にこの中では真新しい木箱があった。開けると中に頼んでおいた“Jaeger7”があった。私は損傷や不具合がないかをチェックする。

 

バァァァン!!

キャー!ナンダ!カジダー!

 

にわかに外が騒がしくなった。最初の爆発音はおそらく油に移った火がなにかに引火したのだろう。私は倉庫の扉からこっそり辺りをうかがう。通りは大騒ぎになっており、鍛冶屋の方角からは今までの白い煙ではなく大きな黒煙が立ち上っていた。通りの人々はその黒煙の方に夢中であり、足早にさまざまな道具を持って黒煙の方角へ駆けていく。

 

通りの人通りがだいぶまばらになった。私は周囲を確認しつつ教会へ移った。通りの人々はみな慌てた様子で走っていたり、女子供は通り沿いの黒煙の方角を見て驚愕の表情を浮かべている。私が通りを横断したことには誰も気がついていないか、爆発音のした鍛冶屋のほうが気になるのか遠目で見られても気にもとめていなかった。私は追ってくる人間が居ないのを確認すると教会裏口の窓から侵入した。

 

教会の内部も混乱していたようで、避難してきた近隣住民がかなりの人数訪れていた。それらの対応に教会職員や神父はてんてこ舞いとなっており、水や食料を分け与えつつ祈りを捧げて落ち着くように説法をしていた。私は難なく裏窓から侵入した後、鐘楼へ向かった。途中、職員とすれ違いそうになったが、寝具を入れる箱に身を隠すなどしてやり過ごした。

 

鐘楼はそれなりの高さがあり、階下で不安と恐怖が入り混じった喧騒が聞こえる。しかし非常時に鐘楼に登る人間も居ないようで登る階段に人気はまったくなかった。私は一気に駆け上がり、頂上へ到達した。

上がってすぐ右手で結構な大きさの黒煙が見えた。しかし風向きはこちらが風上なので煙で視界が邪魔されることもなかった。正面には王宮の荘厳な外観が見えており、最上階もよく見えた。私はJaeger7を構え、ターゲットの位置を確認する。ターゲットは今現在自室に居るようだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『アレがガリア王ジョゼフ。歴史という名の壮大なゲームのプレイヤー。でもそろそろゲームオーバーの時間ね。』

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スコープ倍率を上げ様子をうかがう。大きな模型の周囲をウロウロしながら話している。その隣にはやたら暗い色合いの女性も立っている。おそらく作戦会議か何かだろう。数分そうしていたかと思うとターゲットがこちらに正面を向ける形で立ち止まった。模型を眺めているようだ。模型上で何かを動かしている。私はその嬉々とした表情を中心に捉え、若干風向きを考慮しつつ引き金を引いた。

 

 

バァーン!

ナ、ナンダ!!ナニカガバクハツシタノカ!!

 

 

放たれた弾丸は予測どおりの軌道を描きつつ、窓ガラスを貫通し、ちょうど眼前に掲げるように持っていた箱のようなものをも貫通しターゲットの頭を正確に撃ち抜いた。反動でターゲットは後ろに盛大に倒れ込んだ。一瞬だけ命中の瞬間が見えたが血以外にもいろいろ飛び散っていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『ターゲットダウン。いい腕ね。後はそこから脱出するだけよ。』

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隣りにいた女性は一瞬何が起こったのかわからないという様子で数泊立ち尽くしていたが、後ろに倒れ込んだターゲットを見て慌てた様子で駆け寄っていた。そこから先はカーテンに隠れて見えなくなった。

私は証拠を残さないために排出された薬莢を拾い、傍にあった雨水入りバケツを周囲にぶちまけた。階段を降り、教会内部を探る。どうやら銃声は火事による爆発と受け止められたようで神父が必死に民衆をなだめていた。私は侵入経路と同じ様に裏の窓から路地へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事だった。」

 

 

路地に出た瞬間、急に話しかけられた。奇しくもターゲットと同じような青い髪をした少女だ。目撃されたならば始末しないといけないだろうか。

 

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『47。その子が今回のクライアントよ。でもなぜここに?』

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このような幼い子供がなぜ王の暗殺を依頼するのか、何故その多額の報酬を払えるのか。思案していると彼女は話を続けた。

 

 

「これで私の父様の敵も取れた。礼を言わせてほしい。」

「必要ない。これが仕事だ。」

「(コクッ)でも長年追い続けた敵を討ってくれた。感謝している。これから大変な時代に突入するのはわかっている。王座はジョゼフの娘イザベラに引き継がれることになるだろうけど彼女までは討たない。」

「・・・」

「私は私の敵を討てたことだけで満足。あなたにはこれを受け取って欲しい。」スッ

「これは…金貨か。報酬は既に支払われているはずだが。」

「いい。これは気持ち。チップのようなもの。」

「そうか。」

「もしかしたらまた依頼するかも知れない。その時はよろしく。」

「わかった。」

 

 

そういうと彼女はそそくさと路地奥深くへ消えていった。私は未だ騒がしいその街の喧騒に紛れつつ、倉庫の元あった木箱の中に銃をしまい、足早にリュティスを後にした。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~同時刻~

 

 

「みよ、ミューズ。この世界を。」

「はいジョゼフ様。」

「この世界は今や混沌に満ちている。トリステインの王座は空席、ゲルマニアは政権争いに奔走し、ロマリアは宗教改革、アルビオンに至っては内戦の危機だ。」

「ジョゼフ様。ゲルマニアの政権争いは先程報告が上がってまいりまして、アルブレヒト3世閣下が即位した模様です」

「ほほうそうか。あのキツネ。とうとう皇帝へ上り詰めたか。それはそれで面白い。アレをここへ。」

「ハッ。こちらに。」

「うむ。これはな。アルブレヒト3世が即位したときのために用意させた特別な駒だ。これを」

 

バリンッガシャーングシャ

 

「・・・え?え??ジョゼフ・・・様・・・?」

「!!!!ジョゼフ様!!」

「誰か!衛兵!衛兵!」

ガチャ

「今の音は!?何事…なんと!陛下!」

「外からの襲撃を受けた!至急王都全体に非常事態宣言と非常線を張れ!」

「ハ、ハイ!水メイジもただ今すぐに!」

「急げ!」

「一体どこから…外ということはレビテーションで浮かんで…?いやしかしそんな事をすれば衛兵が気づかないはずがない。じゃああの教会から?いや無理だ。距離がありすぎる。700メイルは離れている。銃はせいぜい150メイルが有効射程だ。だとしたら一体どうやって・・・。」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「キングハンティング」 +3000 『ターゲットをスナイパーライフルで暗殺する』

・「ゲームオーバー」   +2000 『ターゲットが世界模型の近くにいるときに暗殺する』

・「炎の精霊の導き」   +1000 『火災を発生させる』

・「最後の時まで」    +3000 『シェフィールド執政官の目の前で暗殺する』

・「世代交代」      +3000 『タバサに会う』

 

 

 

 




遅くなりましたがジョゼフ暗殺編パート2。


2019/06/13追記
ジョゼフの暗殺に早い段階で成功していたらどうなっていたかというのは小説を書く以前から色々妄想はしていました。ガリアは大混乱というレベルじゃすまないということはわかりましたが。


次回もハルケギニアです。
人を呪わば穴二つ。


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HITMAN『デザートは復讐の鎖』

###注意###

原作に登場するキャラが死亡する描写があります。作品に思い入れが有る方はご注意ください。


『トリステイン魔法学院へようこそ47。』

『今回はここ、ハルケギニアでも有数の魔法学校である“トリステイン魔法学院”よ。ここでは日夜貴族の子息が魔法を学び、貴族としての立ち振舞を学んでいるわ。最近は謎の爆発が頻発しているのが諜報部のドローン偵察で確認したみたいだけど、学院側に目立った動きはないからおそらく生徒の仕業なんでしょうね。死傷者は今のところ出ていないみたいだけど一応注意して。』

『今回のターゲットはその生徒の一人、タバサ。本名“シャルロット・エレーヌ・オルレアン”。そう、この間ガリア王ジョゼフを暗殺したときのクライアントよ。私達ICAは常に中立。依頼があればこなすだけ。それは言われなくてもわかってるわよね。』

『彼女は亡きシャルル・オルレアン公の忘れ形見の一人娘。母親も病で長年幽閉状態だから現王女イザベラにとっては目の上の瘤。実質的に権限を握っているシェフィールド執政官も同意見で彼女を秘密裏に暗殺することになったようよ。でも情報部の報告によると忘れ形見は一人では無いようだけれどそれは今回の任務には関係がないわね。』

『依頼人はそのガリア王国イザベラ女王とシェフィールド執政官。依頼をしてきたのは良いけどあの人達私達がジョゼフ王を暗殺したことを知らないようよ?まあ知る必要もないのだけれど。』

『準備は一任するわ。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「おう新入り!そっちのトマトを3つ取ってくれ!」

「わかりました」

 

私は今見習い料理人として学院に来ている。この世界の身分証明書をICAが準備できたのにも驚きだが、そんな怪しさ満点の人物を雇う学院側にも危機意識の欠如を感じざる負えない。さすが貴族の通う魔法学院。料理の質もかなり高く、フランス以外の国ならば星1つは最低でももらえるかというクオリティだ。

現在時刻は朝の6時。朝食の用意で厨房はてんてこ舞いである。私は今回料理人として潜入するに当たりシアン化水素系致死毒を持参した。

 

「新入り!そろそろ配膳の準備だ!落とすなよ!」

「わかりました」

 

今いる厨房はかなりの広さの食堂のすぐ脇に併設されている。厨房で完成した料理をすぐに運べるようにだ。私は朝食だというのにやたら豪華なフランス料理にも似た料理を手際よく並べていく。と、早くも一部の生徒が食堂内に入ってきた。

そこからはかなりの忙しさだった。ひっきりなしにできる料理を片っ端からテーブルに並べていき、貴族の生徒の要求に的確に答えていく。一段落したのは生徒の大半が食堂を出た後だった。忙しさのあまりターゲットの確認すらできなかったのは悔やまれる。

 

「おつかれさまです。初めてなのに手際良かったですよ。」

「ありがとう。こういうのには慣れているので。」

「そうなんですか?マルトーさんも“あいつは手際が良くて助かる”って褒めてましたよ。」

「そういう君もなかなかの手際だった。」

「あはは、ありがとうございます!」

 

彼女はシエスタ。いきなり昼寝を始めそうな名前では有るがとても働き者で、貴族の何人かと談笑する場面もあったので内部事情にも詳しいと思われる。

だが今回はまだターゲットを確認していないため、変なところでボロを出す危険性も有るので早々に話を切り上げる。

厨房の中は依然として忙しそうに料理人や手伝いが動き回っている。と、近くの壁に大量の鍵がぶら下がっている。おそらく使用人用の合鍵なのだろう。それぞれ鍵の上に名札がついている。私はミス・タバサの部屋の合鍵を隙を見て取った。それを懐にしまうと、皿洗いの中に交じった。

皿洗いをしているとマルトー料理長が話しかけてきた。

 

「おう新入り、この後なんだけどよ、昼食を作る手伝いが終わったら皿洗いや後のことは俺らに任せてお前は馬車小屋に行ってトリスタニアまで買い出しに行ってほしいんだがよ。」

「何を買ってくればよろしいのでしょう。」

「それは馬車を操縦するやつにメモを渡しとくから、そのとおりに買ってきてくれや。やってくれるか?」

「わかりました。昼食作成後、馬車に乗り買い出しをすればよいのですね。」

「おうよ。あんがとよ、力自慢のやつが今までその仕事についてたんだがこの間腰をやっちまってよ。しばらく動けねえらしいからその間は頼むぜ。」

「わかりました。」

 

脱出ルートが決まった。

 

 

 

 

私が厨房の仕事を終え外に出ると生徒は各々の教室で授業を受けていた。私は清掃員のフリをしつつターゲットの部屋を探り始めた。しかしドアに表札が出ているわけではないので外からの見た目では判断しづらかった。1階の廊下でどうしたものかと思案していると私と同じような頭をした男性が近づいてきた。

 

「どうされたのですかな?」

「いえ、ミス・タバサから部屋においてくるように頼まれたものがありまして。しかし、ここに来てまだ日が浅いため部屋の位置がわからないのです。」

「ああ、ミス・タバサの部屋ならこの2つ上の階の左から2番目の部屋ですよ。ちなみに一番左から空き部屋、ミス・タバサ、ミス・ツェルプストー、ミス・ヴァリエールの部屋となっています。」

「ありがとうございます。早速行ってまいります。」

「いえいえ、ご苦労さまです。」

 

おそらくこの学院の教師なのだろう。貴族至上主義の世界にもかかわらず平民としか思えない相手に親切にしてくれた。頭は私以上に光っていたが。

私は3階のミス・タバサの部屋に来た。合鍵を使って中にはいる。ベッドメーキングはまだ済んでいないようだったので私が代わりにやりつつ、部屋を観察する。テーブルの上に空の紅茶セットと不釣り合いな薄水色のサラダボウルがある。紅茶のお茶請けにサラダとはまた奇怪である。私は近寄ってサラダボウルを調べる。すると、中に食べられなかった野菜の破片があった。特徴的なギザギザの葉。ハシバミ草と呼ばれるものだ。

私はボウルを含めた食器を厨房へ持っていった。厨房には若い料理人が一人で居た。

 

「ああ、ミス・タバサの部屋の食器だな?なんで分かるのかって顔してるな。そりゃわかるよ。その食器はハシバミ草専用のサラダボウルなんだ。あの野菜は味が強烈過ぎて食器に若干苦味が残っちまうんだよ洗っても取れやしないから食器ごとどうにかするしかねえんだ。」

「私はハシバミ草というのを食べたことはないのですがどういう味がするのでしょうか?」

「知らねえ。オレも食べたことはないんだけどよ、マルトーさんも含めて味見でもなんでも食ったこと有るやつみんな口をそろえて言うのは“人間が食べられる物じゃねえ”だそうだ。相当苦くてなうちら平民も他の貴族様たちも誰も食べようとはしねえんだ。ミス・タバサだけが毎回注文するもんでな、個別に注文して専用に作って差し上げてるのさ。」

####アプローチ発見####

「だから俺ら料理人を含めハルケギニアの平民や貴族はみんなハシバミ草の猛烈な苦さを聞き及んでるだけで、実際に口に入れたことの有るやつは少数なんじゃねえかな。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『ターゲットはハシバミ草を好んで食べているようね。自室に持ってこさせるほどに。ハシバミ草はとてつもなく苦味のある特殊な野菜で、常人が食べたらそれはもうこの世のすべての食物が甘く感じるほどだそうよ。そんな野菜だから彼女しかいつも食べたりせず、料理人ですら手を付けないみたいね。彼女しか口に入れない野菜、これは使えるんじゃないかしら?』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「毎回食事に出すのですか?」

「ああ、今日このあとの昼食でも出す予定だ。ほら、あそこに一個だけ離して置かれた木箱が有るだろ?アレがハシバミ草の入ってる箱さ。間違っても他の料理に混入させたりするなよ?」

「わかりました。」

 

厨房の隅にまとめて置かれた食材の木箱の中に更に木箱1つか2つ分離され独立して置かれている木箱が有る。私はその木箱に近づき箱を開けた。

中には先ほどボウルの中に少しだけ残っていた葉と同じ形の草が大量に入っていた。おそらく買いだめしているのだろう。持ってきている致死毒は水溶性で洗えば落ちてしまうのでこの時点で混ぜ合わせたとしてもおそらくサラダにする際に食材を洗うときに洗い流されてしまうだろう。私は箱を閉じ、食材を整理している風を装うことにした。

 

 

しばらくして厨房の中が慌ただしくなり始めた。昼食の時間が迫っている。マルトー料理長以下10数名の料理人がせわしなく働き、それぞれ鍋に火をかけ、フライパンを舞わせ、包丁が小気味いいリズムを奏でる。依然として食材の整理をしていた私にマルトー料理長からお呼びがかかった。

 

「オイそこのお前。そこにいるんならその木箱の中からハシバミ草を5~6枚取ってサラダを作ってくれ。詳しいレシピはまな板の横にあるメモ書きを読んでくんな。ああ、盛り付けはあっちの薄い水色の器にしろよ?アレが専用皿なんだ。」

「わかりました。愛情を込めてやります。」

 

私はハシバミ草を6枚手に取ると流しで洗い、指定されたまな板の上で一口大に。その近くにあった塩を振り、別の料理人から受け取ったトマトと合わせた。胡椒と隠し味の致死毒を混ぜ合わせ、サラダボウル1杯分のハシバミ草サラダの完成だ。

 

「料理長できました。」

「おお、出来たか。じゃあそれを食堂に運んでくれ。ミス・タバサの席はわかるか?左から2つ目のテーブルの前から14番目だ。」

「わかりました。」

 

私はサラダボウルをもって食堂に出た。食堂では既に多数の生徒が食事を今か今かと待ちわびている。数人がすれ違うときに私のもっているサラダボウルに興味を示したがその中身をみると苦虫を噛み潰したような顔で離れていく。左から2番目のテーブルの前から14番目の席、つまりターゲットの席にそのサラダボウルを置いた。私は厨房に戻り、使った調理器具や手を洗った後、次の食材を取るふりをしつつ厨房を抜け出した。

 

私はそのまま食堂の中が見える外周城壁の上へ移動した。食堂の中の生徒の数はどんどん増えていく。その中に青い髪をした少女が居た。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『アレがターゲットのタバサ。シャルロット・エレーヌ・オルレアン公。政治闘争の犠牲者になるお方よ。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

食堂では学院長の演説が行われているようだ。その演説も終わり、始祖とやらへの祈りの後食事が始まった。ターゲットも目の前の料理を平らげていく。サラダボウルに手を伸ばした。と一瞬なぜか戸惑ったような素振りで手を止めた。が、軽く首を振った後ハシバミ草のサラダを小皿に分け、そして口に運んだ。

 

食べた瞬間少し咀嚼していると急にうめき出した。いやうめき声は聞こえてこないが明らかに苦しんでいるのが見える。テーブルに突っ伏し、テーブルクロスを掴む。赤い髪のグラマラスな女性が近くに駆け寄ってきた。何か問いかけたり周囲に何かを叫んだりしているがあの致死毒は即効性であり、口に入れたが最後わずか10秒足らずであの世へ誘う。

周りに人が集まってきた。その中には杖を持っているものがいるが、既に彼女は泡を吹いておりピクリとも動かなくなっていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『ターゲットダウン。見事な手際だったわ。そこから脱出して。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

食堂は大騒ぎになっており、周囲の生徒や教職員も駆けつけ魔法を彼女にかけているのが見える。私は城壁をおり、中庭を馬車小屋の方へ歩いた。

馬車小屋では今まさに馬車が発車しようとしている。おそらく夕食用の買い出し便だ。私は2~3運転手と話し、馬車に乗せてもらった。私はそのまま馬車で学院を出た。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~2日前~

 

「タバサが居てくれてほんと良かったわ」

「だな!俺も危うくあのエルフに殺されかけたところを助けてもらったし。ほんと頼りになるぜ!」

「それほどでもない」

「ちょっとぉ、私も活躍したんですけどぉ?エルフが操る蔦を焼き切ってあげたのは誰のおかげかしら?」

「ああ、キュルケもありがとうな。助かったぜ。」

「私の扱い雑じゃない!?ねえタバサ?!」

「・・・」

「うるさいわよキュルケ、狭い馬車の中で騒がないで。」

「なによもう。まあいいわ、みんな無事に帰ってこれたんだもの。」

「だな。平和が一番。でも学院についたら質問攻めに合うんだろうなあ。」

「そう言えば結局ギーシュはトリスタニアに置いてきちゃったものね。キュルケ、あんたが置いていく判断下したんだからあんたが責任持って説明してよね。」

「あら、それを言うならルイズも二つ返事で同意したじゃない。しかも実際に置いていく算段を実行に移したのはあなたの虚無魔法なんだし。」

「なによそれ!わたしのせいってわけ!?」

「あら、誰もルイズのせいとは言ってないけど?」

ゴンッゴンッ

「痛!」「あう!」

「静かに。」

「タバサの言うとおりだぞ二人共。せっかく生きて帰ってきたんだ。今はそれを喜ぼうぜ。タバサもな!」

「(コクン)」

「・・・なんか腑に落ちないけどまあ良いわ。」

「そうね・・・(まあでも、これでやっとタバサも自分のことに集中できるわね。応援してるわよ!あなたの恋!)」

「何を考えてる?」

「別に、何も。タバサはなんにも心配しなくて良いんだからね~。」

「・・・あんまりタバサにベタベタくっつくのよしたほうが良いわよキュルケ。」

「あら?あなたもしたいの?」

「するわけないでしょ!」

 

 

 

ミッションコンプリート

・「三ツ星シェフ」+1000 『料理を作る』

・「招かれざる客」+1000 『ターゲットの部屋に入る』

・「天にも登る味」+3000 『ターゲットを食事で毒殺する』

・「最後の晩餐」 +2000 『ターゲットを食堂で食事中に暗殺する』

・「同志」    +1000 『コルベール教諭に会う』

 

 

 




『復讐ほど高価で不毛なものはない。』ー ウィンストン・チャーチル



次回は別アプローチです。


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HITMAN『デザートは復讐の鎖』(もう一つの世界線)

開始時間帯が早朝から深夜に変わっています。


###注意###

原作に登場するキャラが死亡する描写があります。作品に思い入れが有る方はご注意ください。


『トリステイン魔法学院へようこそ。47。』

 

『今回のターゲットは前回のクライアントであり、この学院トップクラスの成績を誇る、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。この学院ではタバサと名乗っているようね。』

 

『今回のクライアントはガリア王国現政府国家元首であるイザベラ女王とその部下であるシェフィールド執政官。ICAは常に中立であり、依頼があればこなすだけ。元クライアントがターゲットになるのは今までも何度かあったでしょう?』

 

『準備は一任するわ』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

私は今、学院のすぐ外周部の森にいる。ここまではICAの用意した車両で移動したためさしたる苦もなく近づくことに成功している。現在時刻は23時20分。もうすぐ日付が変わる。今夜は新月であり薄曇りなのも相まって松明の明かりがなければほとんど真っ暗で何も見えない。

 

今回ICA情報部は私にターゲットの戦闘能力についていくつか情報をもたらした。それによると彼女は元ガリア王国の特殊部隊のエージェントであり、気配を殺して寝込みを襲うのは至難の業になるとのことだ。だからといって情報部は何処から入手したのかわからないがとんでもないものをもたせてくれたと思う。ロシア語が描かれている香水の瓶よりも小さな瓶だ。側面には小さく一言だけ「Новичок(ノビチョク)」と書かれている。せっかく用意してくれた毒を使わない手はない。私は今回終始隠密に行動することにした。

 

まずは城壁を突破し無くてはならない。外周グルっと回ったがどうやら入口は正面の大門一つだけのようだ。戦略的観点から見てこの構造は正しいだろうが攻める側からすれば面倒なことこの上ないのは確かだ。大門には松明と槍を持った警備兵が二人立っている。私は小さい石を1つ、大きい石を2つ集めた。小さい石を左の兵の更に左の壁に向かって投げる。

 

カン!  ン?ナンダ?

 

警備兵が二人共左へ向いた。すかさず大きい石を右の兵の頭部に向かって投げつける。

 

ゴッ! グワッ! エ?オイドウシ ゴッ! グワ!

 

右の兵の悲鳴に反応し振り向いた左の兵にもすかさずもう一個大きな石を投げつける。あとに残ったのは地面の草に燃え移りそうな落ちた松明と二人の気絶した警備兵だけだ。私は火事にならないよう松明に土をかけて消した。再び辺りは暗闇に包まれる。気絶した警備兵を草むらに隠し、内部へ侵入する。

 

常駐警備は門でしかやっていないらしく中庭部分には人影はまったくなかった。城壁の上もそもそも人が通れる仕組みになっていないため誰も居ない。私はひとまず近場の塔へ向かった。

 

 

たどり着いた塔は生徒の寮のようだ。入り口の管理人室と思わしき部屋を覗く。中では教師と思わしき男性が椅子に座ってうつらうつらと船を漕いでいた。少しだけドアを開け、中を見回してみると壁際に寮内の見取り図と思わしき地図があった。慎重にドアを開け地図を見てターゲットの部屋を探す。文字は完璧に覚えたわけではないが、ターゲットの名前くらいは暗記している。しかしどの階のどの部屋にもターゲットの名前はなかった。男子トイレが広めにとってあり、寮の管理人も男性なことを踏まえるとおそらくここは男子寮のようだ。ともすればここに長居は無用。私は音を立てないようにそそくさと管理人室からも寮塔からも出た。

 

 

男子寮塔から周囲を見渡すと両隣に似たような塔が立っている。中央の塔が食堂や教職員室や教室と考えると外周の五つの塔のどれかにターゲットはいるはずだ。あてがあるわけでもないので1つずつ管理人室を調べて回ることにした。右隣の塔は入り口の造形が他に比べ簡素であることや、塔の根元に資材らしきものが山積みされているところから生徒の寮ではなく使用人の寮、もしくは倉庫だと仮定し、左隣の塔から確認していくことにした。

 

 

 

当たりは意外にもすぐに引けた。隣の塔の管理人室ではふくよかな女性が扉をあけっぱなしで何かを読んでいた。夢中になっているようで扉が開いていることにも背後に私が立っていることにも気がついていない。私はそのまま先ほどと同じ様に見取り図を見た。3階の東側から2つ目の部屋にターゲットの名前を確認した。

 

私は一旦寮塔から出て外からその部屋を確認する。部屋に明かりは灯っていないが窓が開いている。しかし寮の外壁には登れそうなところはなく、外から侵入するのは羽でもない限り無理だろう。窓の直下には少し大きめの植え込みと木があった。木は葉が生い茂っており、うまくすればクッションとして利用して飛び降りることもできるかも知れない。

 

ともかく外からの侵入が出来ないのであれば正面から行くしか無い。私は再び管理人室に戻った。寮の鍵を管理しているのは地図のあった壁とは別の壁際の箱の中に見える。が、あの位置では流石に本に夢中になっている管理人の女性の視界に入ってしまう。私は静かに管理人室の窓の外へ移動した。そして窓を中から見られないように開けた。

 

カチャ

「あら?何故開いたのかしら・・・ああ!風で蝋燭が消えてしまう…」

 

中から疑問の声と席を立つ音が聞こえる。私は早歩きで管理人室に入り、彼女がドアが勝手に開いた原因を探りつつ閉めようとしている間にすばやく壁際の鍵束を取り出し、管理人室を出た。幸い何故あいたかを確認するのにそれなりに時間を使っていたため比較的余裕を持って部屋を出ることが出来、閉めた後は鍵束が無くなっていることに気が付かないまま、また本を読みふけり始めた。私は生徒に見つからないように目的の部屋へ向かった。

 

 

目的の3階東側から2つ目の部屋に来た。音を立てないように慎重に鍵を開ける。周囲を確認しつつ、中にはいる。扉を締め、鍵をかける。部屋はきれいに整頓されており、やたら大きめの本棚に本がびっしりと詰まっている。寝息は聞こえてこないが部屋奥のベッドの窓側に寝ているのが確認できた。

 

私はベッドに眠るターゲットの足の先、ベッドの端に毒の小瓶を置いてから窓際に立ち、ターゲットの顔を確認するためにベッドに近づいた。

 

「・・・」

バサッ!

 

私は勢いよくシーツを剥がした。そこには紐で縛られた毛布があった。

 

「何者」

「・・・」

 

見ると扉の前に寝巻き姿のターゲットが杖を構えてこちらを凝視していた。明らかに戦闘モードである。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『アレがシャルロット・エレーヌ・オルレアン公。通称“雪風のタバサ”ね。かなりの戦闘力らしいけどどうしましょうか?』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「答えて」

「答えてどうする。」

「その声は・・・なるほど。私を殺しに来たのでしょう?」

「だとしたら。」

「だとしたら・・・倒す!」

“ウィンディアイシクル”

 

私は飛んでくる氷の刃を躱しつつ窓際に移動する。攻撃が激しくこちらが攻撃する暇がない“かのように振る舞いつつ”。

 

“エアハンマー”

「ぐおっ!」

 

私は予想以上の衝撃に吹き飛ばされつつ窓の外へ放り出される。植え込みと木をクッションに受け身を取りつつ着地する。そのまま少しの間木に隠れるようにして身を潜める。木の葉の間からこちらを見下ろすようにしているターゲットが見える。周囲をキョロキョロしているところを見ると見失ったのだろう。やがて諦めたのか窓を締めて部屋に戻っていった。私は一旦寮塔から距離を取り、中を観察できる位置を探した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~タバサside~

 

「帰った…?何故…?」

私は寝込みを襲う刺客に疑問を抱いていた。元北花壇警護騎士団の私がこうも簡単に部屋に侵入されたことは反省しなければならないが、それよりも気がかりなのが私を暗殺しに来たその刺客が部屋から放り出された程度であっさりと諦めたことだ。何か裏があるのかも知れないが現状何者かわからないため対処のしようもなかった。

 

 

“アンロック”カチャ

「ちょっとなんかすごい音したけど大丈夫?」

「大丈夫」

 

 

キュルケがまた校則違反のアンロックを唱えて部屋に入ってきた。が、今回は緊急事態なので仕方ないだろう。夜も更けたというのにウィンディアイシクルとエアハンマーを唱えれば大きな音で騒ぎにもなるというもの。しかし思ったほど騒ぎになっていないのはルイズの爆発魔法のせいで皆大きな衝撃音に慣れてしまったからなのだろうかあるいはその爆発魔法の音だと勘違いされたのか。

 

 

「ほんとに大丈夫?見たとこ確かに部屋も大して荒れてはいないようだけど・・・」

「少し、嫌な夢を見た。」

「嫌な夢?それで寝ぼけて魔法ぶっ放したってこと?」

「そう」

「プッ・・・アハハハ!そう、あなたもそういうのがあるのね!少し安心しちゃったわ!でももう夜遅いんだから気をつけてよね。あ、何なら私が添い寝してあげましょうか?」

「いらない」

「あらそう残念。まあいいわ。じゃあお休みタバサ。今度は良い夢を。」

「おやすみ。」

 

バタン

 

刺客は退却したようだし、さしたる驚異でもなかったため心配をかけまいと嘘をついてしまった。しかしいらぬ心配を掛ける必要もないだろう。

私も再び眠ろうとベッドに向かっ…とベッドになにか落ちている。とても小さな小瓶だ。先程の刺客が落としていったのだろうか。魔法薬の類かも知れない。私は蓋を開けて匂いを嗅いでみた。

匂いはない……!?体が…!それに息も…?!これは…もしや神経毒…!ぐっしまっt意識が…

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『ターゲットの死亡を確認。お見事だったわ47。そこから脱出して。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~47side~

 

 

隣の塔からターゲットが小瓶を開けて中の液体をかぐのを確認した。途中誰かが部屋に入ってきていたようだがすぐに出ていっていた。この世界の魔法治療の技術ならばその場ですぐさま治療すれば助かる確率が高いとも情報部が報告していたが、深夜にしかも一度来た来客が再び来ることはまず無い。発見する時も被曝する可能性はあるがそのときはすぐに治療がなされるであろう。ともあれ目的は達成された。先ほどの小規模な戦闘で目を覚ました人が何人かいるようで寮には明かりが灯ったとこもあったが、音がしなくなったのもあり、大きな騒ぎにはなっていない。

 

私は塔から出て見回りの教師や巡回兵に見つからないように正面の門から脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~1週間後~

 

 

「大丈夫?キュルケ。」

「ああ、ルイズ・・・。ええ、今のところは。」

「さっきコルベール先生が言ってたわ。やっと回収できたそうよ。タバサの遺体。」

「そう。良かったわ・・・。いつまでもあんなところに放置じゃ可愛そうだもの・・・。」

「大変だったみたいよ。タバサの遺体に近付こうとすると原因不明の呼吸困難になるし、毒の霧でもあるのかと思って窓を開けて換気したら外を歩いていた人も呼吸困難になりかけたとかで。」

「そう・・・第一発見者の私もそれでやられて1週間寝たきりだったものね・・・。」

「タバサは床に落ちていた小瓶の中に入っていた神経毒で呼吸困難になり死亡したようだと言ってたわ。傷も争った跡もないし目撃者も居ないから自殺なのか他殺なのかすら判断しかねてるようよ。」

「タバサが自殺なんてするわけ無いわ!せっかくお母様を助け出せたし、父君の敵も取れてこれからってときなのに!」

「落ち着いてキュルケ。私だって思いたくないわよ。でも誰かが侵入した痕跡もないし・・・衛兵は気絶してたけど記憶が曖昧で寝てただけかも知れないって言ってたし・・・」

「いいえ、痕跡ならあるわ。」

「え?」

「私あの日の夜、タバサの部屋に行ってるのよ。あの日、タバサの部屋で大きな物音がして飛び起きたんだから。タバサは悪夢にうなされて寝ぼけただけって言ってたけど多分ウソ。たぶん暗殺者が来てたんだわ。」

「暗殺者!?なんで!?」

「多分ガリアからじゃないかしら。ジョゼフ諜殺の報復として・・・」

「そんな・・・」

「ありえない話じゃないわ。実際あの子も似たようなことやったわけだし、標的になるのも…。」

「ゆるせない・・・。なんてことなの!こっちも」

「待ちなさい。“こっちも”何?こっちも報復でガリア女王を暗殺するわけ?同じことを繰り返すだけじゃない!」

「でも!」

「落ち着きなさい。ルイズ。復讐の連鎖は決して止まることはない。でも誰かが止めなくちゃこの世はすぐに地獄になるのよ。」

「・・・」

「あんたにはまだわかんないでしょうけどね。タバサも、多分覚悟はできてたんじゃないかしら。自分は殺されるかも知れないって。そしてその時が来て、それを受け入れたのよ。」

「でも・・・あんまりじゃない・・・私達仲間じゃない・・・。」

「私前にタバサから言われたことがあるの。“私が殺されても私の復讐をしないでほしい”って。“血で血を洗う争いはもうたくさんだから”って。だから私達はその意志をちゃんと守らないと。」

「・・・」

「納得はしなくていいわ。でもこれだけは。タバサが復讐を望んでいないことだけは、あなたにも知っておいてほしいのよ。」

「わかったわ・・・サイトにも・・・そう伝えてくる。」

「お願いね。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「北の大地からの贈り物」+3000 『毒物を使って暗殺する。誰にも見られてはいけない。』

・「こわーい幽霊さん」  +1000 『誰にも見つからずターゲットの部屋に侵入する』

・「影対影」       +3000 『ターゲットと戦闘する』

・「47の手は長い」    +2000 『ターゲット暗殺時、ターゲットから300m以上離れていること。銃火器は使用できない。』

 

 

 

 




『もっともよい復讐の方法は、自分まで同じような行為をしないことだ。』― マルクス・アウレリウス


2019/06/13追記
当初、タバサを殺すことはかなり躊躇いましたが、代替案が浮かばなかったのもありそのまま投稿したと記憶しています。


次回は妖怪の楽園へ向かいます。


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HITMAN『理想郷の守護者』

『幻想郷へようこそ47』

『ここは日本や世界の妖怪・怪物・怪人・神様などが住みづらくなった世界から避難してきた避難所。大妖怪ヤクモ・ユカリという人物がハクレイノ・ミコと共同で作り出した世界。でも最近、彼らが言うには「幻想入り」と呼ばれる事象が多発してるみたい。通常、私達の世界とこの世界は、結界というもので遮られてるの。だから基本的には行き来できないのだけど、最近ある人物がその理を突破したの。』

 

『今回のターゲットはマリー・パルシュ。ルーマニアの呪術研究家よ。彼女は幻想郷の存在を危険視していて、妖怪や怪物、その他UMAの類はこちらの世界にあるべきと考えてる原理主義者。そのため幻想郷を崩壊させるためにこちら側の世界から大量に人を流入させようと画策してるみたい。今は準備のため自分自身幻想入りしてるようよ。』

『彼女は非常に狡猾で、ヤクモ・ユカリやその他の幻想郷の住人たちが自分を消そうとすると結界に大穴が空くように呪術を仕込んでるみたい。ただその呪術、ICAが調べたところによると、幻想郷の住人にしか効果がないみたい。』

 

『今回の依頼者はその管理者、ヤクモ・ユカリ。幻想郷の人間が手を出せないのであれば外部の人間に、ということのようね。私のところに直接依頼と依頼料を持ってきたのは驚いたけれど、ICAは常に中立。依頼があればこなすだけ。』

 

 

『準備は一任するわ』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ガヤガヤガヤ

 

ここは幻想郷の中でも比較的人間が多い“人里”というところらしい。

それなりに賑わっているが、ニューヨークやパリに比べればとても少ないと言える。

私は今回、相手が妖怪や怪物の類になることも想定して、経口摂取型の睡眠薬を持参した。バールや鉄パイプ、その他の物で殴っても気絶するかどうかわからないためだ。無論、気絶させるようなことにならないのには越したことはないが万が一ということもある。準備は怠らないほうが良いだろう。

 

 

 

私は手近な喫茶店のような店に入る。と、既に居た客の一人と店主と思わしき男が話している。

 

「しかし、最近なんか人増えた気がしねえか?」

「ああ、あんちゃんもそう思う?うちの店もよぉ最近客入りが多くてな。儲かりはしてるんだが、ここの土地柄的に大丈夫か不安ではあるんだよな。」

「博麗の巫女さんに祭りのついでに相談してみるか?」

「でもよぉ、異変ってほどかね?ただ単に人が増えてるだけだろう?」

「いやいや、人が増えればそれだけ揉め事も増えるってもんよ。事実、町外れの空き家、最近人が出入りしてるようなんだよ。」

「マジかよ。あんなボロ屋に出入りするとか。まともな目的じゃねえのは確かかもな。」

####情報を入手####

「これからますます治安が悪くなると思うとおちおち商いもできやしねえよ。」

「なにいってんだ、この店は大抵がらんどうじゃねえか。」

「それをいっちゃあおしめえよ!」

 

ハハハハ

 

確定ではないがその小屋が怪しいのは確かのようだ。調べてみる必要がある。

私は適当に栗善哉を頼んで食べる。すると別の客が入ってきた。

 

「おう!おっちゃん!いつものな!」

「何だ魔理沙ちゃん、今日も来たのかい?」

「何だとは失礼なんだぜ。ここの善哉が美味いからって贔屓にしてやってるのにさ。」

「まあそれは嬉しいけどな。ちょっと待ってな、今用意してやる。」

「おう!頼むぜ!」

「魔理沙ちゃん、そんな善哉ばっか食ってっと太るぞ?」

「何だよ呉服屋のおっちゃんも居たのか。余計なお世話だっつうの!」

「ハハハ!あ、そうだそうだ、魔理沙ちゃん博麗の巫女さんと仲良かったよな?」

「霊夢のことか?まあ腐れ縁ってやつだな!」

「じゃあよ、ちょっと頼まれてくんねえかな。東の町外れにあるボロ小屋に最近出入りしてる怪しいやつが居るらしいんだよ。」

「へえ?そりゃあ穏やかじゃなさそうだぜ。」

「でだ、そいつを巫女さんに調べてもらってほしいんだよ。魔理沙ちゃんから頼めないかい?」

「何だそんなことか!それなら私が行ってきてやるよ!」

「ええ?大丈夫かい?」

「心配すんなって!ちゃちゃっと行ってきてやるよ!任せなって!」ドタドタドタビューン

「ああ、オイ!魔理沙ちゃん!?いつもの栗善哉は・・・って行っちまったよ。」

「あの子も猪突猛進なとこあるからなあ。まあ大丈夫だろう。今までもそうだったんだから。」

「だな。」

 

なかなかに活発な女の子だった。私もそろそろさらなる情報収集を再開しないといけない。私は会計を済ませ、一路東の小屋を目指すことにした。

 

 

 

 

東の小屋はおそらくアレだろう。何故わかるかと言うと、先程の黒服の女の子と朱と白の巫女装束の少女が立っていたからだ。おそらくあの子がハクレイノ・ミコ、と言われる少女だろう。会話が聞こえてくる。

 

「なんで霊夢がここに居るのかと思えばそういう話か」

「ええ、紫に頼まれてね。博麗大結界を脅かすものが現れたと聞いちゃ流石に縁側でお茶飲んでる場合じゃないでしょ。」

「でも残念だったな。ここは空振りだぜ。今調べたんだがたしかに人が居た気配はある。だがおそらくもう引き払った後だろうな。もうもぬけの殻だ。」

「そう。じゃあ仕方ないわ。周辺を捜索するとしますか。あー、自己主張しない犯人ってほんと面倒。」

「本来なにかやらかすやつってのはそういうもんだけどな。今までがアレすぎただけだぜ。」

「だからって何の手がかりもないのはどうなのよ。紫も教えてくれないし。」

「手がかりならあるぜ?香霖が最近変な客がよく来るって言っててよ。何でもフードかぶったいかにも「呪術やってます!」って感じの装束した変な奴らしい。」

####アプローチ発見####

「何よそれ。じゃあ香霖堂に行けばそいつがやってきて万事解決ってわけね。」

「いやそうも行かないぜ。香霖、最近よく外出しててな。さっきもここに来る途中に店によったが居なかった・・・あー!!!」

「って何?どうしたのよ?」

「栗善哉頼んだのに食わずに出てきちまった!」

「ハー・・・魔理沙・・・」

「何だよその目は。あそこの栗善哉美味いんだぜ?」

「あんたって危機感無いわよねえ・・・」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『人里の近くに店を構える香霖堂にターゲットと思わしき呪術装束の人物が出入りしてるみたい。結界を破壊するのに幻想郷の物品を使うのは皮肉な話ね。香霖堂の店主さんは外出中のようだけど、そこで待っていればターゲットが向こうからやってきてくれるかもしれないわ。47,あなた店番はしたことあるかしら?』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

店番をするにしてもまず香霖堂店主の所在がわからなければ待つことはできない。私は一旦町の反対側、西にある大きな店に入った。入り口には大きく「霧雨店」と書かれていた。中はそれなりに人が入っており、私は壁に陳列されている道具を見ながら今入ってきた男とレジに居る年配の男の会話に耳をそばだてた。

 

「いやしかし、ホント久々だね。何年ぶりだい?」

「かれこれ2年ほどになりますかね。あのときは魔理沙のいたずらによく泣かされたもんでした。」

「ははは、すまんねうちの道楽娘が。今もちょくちょく迷惑かけてるんだろう?」

「いえ、師匠の娘さんですし、それにたまに面白い品を持ってきたりもするんですよ。」

「だがそれ以上にうちの娘が商品を“借りて”行ってるんだろう?うちは構わないから一発ビシッとやってやってもいいんだよ?」

####情報を入手####

「いえ、こちらも半分道楽のようなものですから。っと、そろそろ失礼しますよ。最近常連になってくれた不思議な客が居まして、そろそろ来ると思うので。」

「へえ、香霖堂に常連客ねえ?お前さんの店の常連っつったら妖怪か巫女さんかウチの娘くらいだと思ってたけどそいつも妖怪なのかい?」

「いえ、妖気は感じませんでしたしおそらく人間だと思いますがね。では。」

「ああ、困ったときはまたおいでな。いつでも力になるよ。」

 

運がいい。香霖堂の店主に会えるとは。しばらく尾行して期を伺うことにする。

 

 

 

 

「小腹が空いたな・・・まだ時間はあるな。少しお茶でも飲んでいくか。」

 

彼は一軒の茶店に入っていった。私はすかさず裏口を探し、中に侵入する。店主一人でやってる小さな店のようだ。彼が注文をしている。お茶と、団子だ。注文を受け戻ってきた店主を首絞めで気絶させる。多少物音はたったが気が付かれては居ない。すばやく店主に成り代わり、お茶と団子を用意する。幸い他に客は居ない。お茶に睡眠剤を混ぜて出す。

「あれ?店主さんは?」

「この店で見習いをさせてもらっています。店主は今団子を用意しています」

「そうか・・・ん、このお茶美味しいな。どんな茶葉を…あれ?なんだか目の前が…」

ドサッ

さすがICAが誇る睡眠薬だ。体格のいい大男もすぐに眠らせられる。これで数時間は起きないだろう。私は彼を店の奥に引っ張り込み、本日休業の札を表にかけると、香霖堂店主の服を借りて着替えた。香霖堂の場所自体はブリーフィングでおおよその位置は把握している。私は香霖堂へ向かった。

 

 

 

 

香霖堂についた。扉を開けようとしたとき、

 

「あれ?香霖じゃないか!探したんだぞ!」

 

不意に声をかけられて振り返ったが誰も居なかった。

 

「上だ上!」

 

そこにはほうきに乗って空を飛ぶまさに魔法使いと呼べるような先程の娘、魔理沙と言ったか、が居た。

 

「あれ?でもお前香霖じゃねえか。誰だ?」

「私は香霖堂でお世話になっている見習いのものです。あなたは霧雨魔理沙さんでしたか?」

「お、私のこと知ってるのか。そう、普通の魔法使いの霧雨魔理沙だぜ。よろしくな!あんたの名前は?」

「イイダです。」

「飯田か。平凡な名前だな。まあそれよか香霖見なかったか?さっきから探してんだけど見つからなくてよ。」

「私もいろいろ探してはいますが見つかっていません。朝方、今日は山の方へ行くと言っていた気がします。」

「山・・・てえと妖怪の山か。なんでまたあんな遠くに・・・まあいいや、ありがとう。行ってみるよ!じゃあな!」

 

そう言うと彼女は文字通り飛んでいってしまった。下をキョロキョロしながら飛んでるところから、少なくとも彼女がここに来るのはしばらく無いだろう。

 

 

 

 

 

「あら、遅かったわね。47さん。」

 

香霖堂の中にはヤクモユカリが居た。依頼主に直接会うのは本来あまりないことだが、ないことはなかったので冷静だ。

 

「ここで何を。」

「あら?あなたが霖之助さんを昏倒させたからここに来ると思ったまでですわ。なかなかおやりになりますのね。」

「というとやはり彼は。」

「流石に鋭いですわね。そう、彼は妖怪と人間のハーフ。そんじょそこらの人間よりは格段に力も生命力も高いですわ。あなたの使った睡眠薬では持って30分程度が限度でしょう。」

 

まずい。30分というともう既に起きていることになる。早めにここを離れたほうが良いだろうか。

 

「でもご安心ください。私がちょっと彼の耐性を弄って後4時間は起きないようにしてあげましたので。ついでに申し上げるとあと30分ほどで例の呪術師が来ますわ。」

「何故そこまで?」

「私は博麗大結界を守り、幻想郷を守りたいだけですの。誰しも自分の作品を荒らされたくはないでしょう?では、健闘を祈りますわ。」

 

そう言うと彼女は空間の裂け目のようなものに入っていき消えた。世の中には不思議な事もあるものだと感じるとともに、あの裂け目が私にも使えればもっと効率よく仕事をこなせるだろうと考えた。

 

 

 

 

 

しばらくすると一人の客が来た。

「すみません、今日も来ちゃいました。買い足りないものがあったので。」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『アレが、マリー・パルシュ。呪術家であることを隠そうともしない風貌ね。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「いらっしゃいませ。」

「あれ?いつもの店主さんは?」

「本日は所要で外出しております。私は代理で店を任された飯田と申します。」

「そうなんですか。まあ売ってくれるならいつもどおりに。今日はこの札とこの薬を買いたいのですが。」

「50円になります。」

「おや、ずいぶんとお安いので。てっきり100円位ふっかけられるかと思いましたわ。では交渉成立ということで。」

「ありがとうございます。」

「あなたは客にとってはいい店主かもしれないけれど、もうちょっと商いを学んだほうがもっと儲けられると思いますよ。ではまた。」

「ありがとうございました。」

 

彼女が後ろを向いた瞬間、私は隠し持っていたシルバーボーラーの引き金を引いた。

 

パシュン ガシャーン ギャー!

 

弾は正確に彼女の頭上にあった棚の支えに当たり、乗っていた重そうな壷は正確に彼女の脳天へ直撃した。壷は粉々になってしまったが、その衝撃を一身に受けた彼女の頭は半分へしゃげており、脈を確認するまでもなく息絶えているのがわかった。香霖堂は人里から少し離れたところにあり、周りには人家もなく、壺が割れる音や断末魔の叫びを聞いたものは誰も居なかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『素晴らしいわ47、ターゲットの死亡を確認。店主には悪いけど後は任せましょう。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はそそくさと店を出て、茶店に戻った。移動は常に徒歩であるため時間的にそろそろヤクモユカリが言っていた4時間になろうとしている。茶店に戻った私はすぐに元の服に着替え、香霖堂店主に服を着せ椅子に座らせた。睡眠薬入りのお茶はすべて床にこぼし、店主も店主の服を着せた後厨房に横たえておいた。

私はそのままヤクモユカリが待つ空き家に向かった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~1週間後~

 

「最近幻想郷に迷い込む人が減ったわね。まあ私はそのほうが楽でいいんだけど」

「あら?霊夢。博麗の巫女がそんなことでいいの?」

「アリス、たまにうちに来たと思ったら説教を述べに来たの?」

「まさか、私は疑問をそのまま口にしただけよ。思えば迷い込む人が多かったのってちょっとした異変だったんじゃない?」

「まあそうだったんでしょうけどね。対応を頼んできた紫も今は「すべて終わったから心配するな」としか言わないし。」

「“終わった”ってことは“なにかがあった”ってことじゃない。調べる気はないの?」

「全部終わったって言ってるのにそんな面倒なこと私がすると思う?」

「思わないわ。」

 

「おーい、お前らー。」

「あら?魔理沙。この前のボロ小屋のときから見てなかったけど何してたのよ?」

「ちょっと香霖がな。店の中で死亡事故が起きたってんでちょっとふさぎ込んじまっててよ。」

「最近行ってなかったけどそんな事があったのね。今度菓子折りでも持っていってあげようかしら?上海がたまにお世話になってるみたいなのよね。」

「ふうん?この前の事件絡みかしら。まあ何にせよ一度顔を出してあげましょうか。」

「あら、珍しく霊夢が優しいじゃない。変なものでも拾い食いした?」

「どういう意味かしら?アリス。」

「まあまあ、行くんならこれから行かないか?ちょうど香霖の好きな茶葉も手に入ったんだ。」

「まあ丁度暇してたし、ちょっとちょっかいかけに行きますか。」

「そうね。あ、ならちょっと家によるわ。美味しいクッキーがあるから。」

「お、そいつは私も食べたいぜ!じゃあ決まりだな!」

「まったく、世話のやける人妖さんだこと。」

「でもそれも好かれてる理由のひとつなんじゃない?」

「まあね。」

 

 

 

ミッションコンプリート

・「看板商品」+2000 『香霖堂の品物を使ってターゲットを暗殺する』

・「行きはよいよい帰りもよいよい」+1000 『八雲紫のスキマを使って離脱する』

・「高級茶葉」+1000 『幻想郷の住人に睡眠薬入りのお茶を飲ませる』

・「道楽の魔法使い」+1000 『霧雨店に入り霧雨魔理沙の情報を得る』

・「ずさんな管理」 +2000 『博麗霊夢に気付かれないようにターゲットを暗殺する』

 

 

 




47は仕事人なので幻想郷に興味はなく、仕事を終えたらさっさと元の世界に帰ったようです。もったいない。

個人的には紅魔館か地霊殿を出したかったですがそこまで行く経路が思いつかなかったのでボツにw


次回は別アプローチです。


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HITMAN『理想郷の守護者』(もう一つの世界線)

登場人物の行動が違っているのは47の行動以外は時間帯がズレているとお考えください。
また持ち込み道具の一部が変わっています。前書きは例によって簡略化されています。


『幻想郷へようこそ47』

『今回のターゲットはルーマニア出身のマリー・パルシュ。ルーマニアきっての呪術研究家よ。幻想郷の存在自体を危険視する彼女は自ら幻想郷に赴き、外部の人間を流入させてその存在自体を葬ろうとしている。幻想郷の管理者ヤクモ・ユカリより依頼を受け、今回ICAが処理する案件となったわけ。ICA上層部としてもUMAのような存在が野に解き放たれるのはあまりよろしくないの。』

『準備は一任するわ』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ここは人里。私は町人の一人として町一番の大通りを歩いている。町一番と言っても幅は5mほどしかなく、シャンゼリゼ通りなどに比べれば狭い部類だが人口を考えるとだいぶ余裕がある。私は今回、注射型麻酔薬と自由に整形できる硬質粘土を持ってきた。この粘土は変装する相手の身体的特徴を再現するのに使われるものだ。

 

「ごうがーい!ごうがーい!」

 

空を羽の生えた人間が飛び回って叫んでいる。“号外”と叫びながらビラを撒いている辺り新聞か。ここは日本をもとにしており、紙も1枚なので瓦版というべきか。街の人が対して驚いても居ないところを見ると、ここでは空を飛ぶ妖怪もその妖怪が号外を配ってることもそんなに珍しいことではないらしい。私はばらまかれた号外の一つを手にとった。

 

【急報!大妖怪八雲紫、急増する外来人に対策を開始!】

 

見出しにはそう書かれていた。正直号外を出してまで報道することなのだろうか。それともヤクモ・ユカリという人物は対策に動き出すのがそんなに遅いか珍しいことなのだろうか。というか我々が対応していることが既に報道されているのはいかがなものか。情報ダダ漏れとはまさにこのことだ。

 

「まーた文ちゃんの“号外”か。」

「今月に入って号外これで10回目だな。」

「号外ってなんなんだろうな。」

 

会話が聞こえてくる。どうやら号外を乱発しすぎてネタの内容が薄くなってきているようだ。別の町人の会話が聞こえる。

 

「号外ねえ・・・、この前の号外は結局ガセネタだったしなあ。」

「まあなあ。あ、でもその前の号外は半ば当たってたみたいだぜ?」

「本当かい?確か【民家跡に謎の術式跡、新興宗教か!?】だっけか。」

「そうそう。そんな馬鹿なって思ってよ、載ってる民家跡に肝試しがてら行ってみたんだよ。何の変哲もない一軒家だったんだけどよ、中覗いてみたら・・・」

「覗いてみたら?」

「家具や調度品も一切なくて変わりに床一面に魔法陣だかなにかがいっぱいに書かれてたんだよ」

「うわぁ、あの号外もまんざら嘘八百ってわけじゃねえのか」

「だなあ。おれ魔法陣のことはよくわかんねえけどよ、普通魔法陣って英語って言葉で書かれてるんだろ?その魔法陣は周りに漢字が書いてあったぜ?」

「漢字?漢字で魔法陣って作れるのか?」

「おれが知るかい。そういう魔法陣も有るんじゃねえか?」

「で、それを見てどうしたんだよ。」

「どうしたって?」

「何もしてないのか?巫女さんに報告するとか、妹紅さんに調査依頼出すとかよ。」

「だってもう号外になってるんだぜ?巫女さんも妹紅さんも知ってるだろ。」

「それもそうか・・・やべ!もうすぐ昼じゃないか!」

「げげ!早く行かねえと特製まんじゅう売り切れちまう!」

「あのまんじゅう甘えからな。コゾナックとか言ったか?」

「まんじゅうにしてはふわふわしてるけどな。行こうぜ!」

 

 

コゾナック。私はその名前を聞いて、調査の必要があると感じ、二人の後を追った。

 

 

 

「げーっもうだいぶ並んじまってるよ!」

「号外で話し込んでたからなあ」

 

そこには長蛇、とまでは行かないがかなりの列ができている店があった。

“コゾナック”とは元々はルーマニアの菓子パンで、クリスマスや誕生日などの特別な日用のケーキのようなものなはずだ。しかしそこにあった店頭ポップにはシフォンケーキのようなメロンパンのような丸くまとめられたものが描かれていた。私の知っているコゾナックよりはだいぶ外皮もしっとりとしていた。

2人はそそくさとその列に並び始めた。前から思ってはいたが、この国の人間は行列が有ると並びたくなる衝動でも有るのか行列に並ぶことをそれ程苦にしていないように思える。しかしかく言う私も行列に並ぶのは嫌いではない。なぜなら、

 

 

「ここのまんじゅうは格別なんだってさ!」

「へー、あんまり見ない形のまんじゅうだよね?」

「なんでも外の世界のるーまにあ?とか言うとこのお菓子だったみたいよ。」

「そうなの?それを伝えた人がいるのかしら?」

 

このように行列に並ぶと自然に世間話が聞こえてきて情報収集という点においては非常に役に立つのだ。人は暇になるとそばにいる親しい暇な人間と話始めるものだ。私も列に並びながら周りの客の言葉に耳を傾ける。

 

「それなんだけどさ、なんかるーまにあ?から来た人がこの製法を伝授してくれたみたいなのよ。」

「伝授?ということはそのるーまにあの人がやってるんじゃないの?」

「そこが謎なんだけどさ、なんでも幻想郷のことについて教えてくれたらレシピ教えてあげるって言ってきたらしいのよ」

「幻想郷のこと?そんなの聞かなくてもいくらでも調べられるじゃない。巫女さんや霧雨店の店主さんとか、けーね先生とか喜んで授業してくれそうだけど。」

「なんか後ろめたいことでも有るんじゃないかなあ?世界を滅ぼすために動いてる悪の秘密結社とか!」

「あんた最近外の世界から来たっていう小説の読み過ぎだってそれは・・・」

 

どうやらマリー・パルシュかその関係者が幻想郷のことについていろいろな方向から調べ上げてるようだ。その足跡をたどればターゲットにたどり着けるかも知れない。

そうこうしてるうちに私が買う番になった。

 

「コゾナックを一つ頼む。」

「まいど!ありがとうねえ!」

「だいぶ繁盛しているようだな。」

「いやーおかげさまで。このレシピを伝授してくれた人様様ですわ!」

「そのコゾナックを教えてくれた人は今何処にいるんだ?」

「ん?さあ、地下世界にもこのレシピを広めるんだとか言ってたような・・・。さあ、コゾナックだ、堪能してくんな!」

####アプローチ発見####

「ありがとう。」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットは地下世界に頻繁に出入りしてるみたいね。地下世界は巨大な洞窟になっていて、地獄で使う炎を作り出してるところなんですって。地獄の業火はマリーパルシュも浄化してくれるかしら?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

地下世界、ブリーフィングで基本的な世界図は頭に入れていたのでおそらくそれは地霊殿、旧地獄と呼ばれる場所だろう。私は足跡をたどるため足早にその場を後にした。

 

 

町で地霊殿について探っていると前から特徴的な人物が歩いてきた。事前ブリーフィングで名前は知っていた。あの特徴的な青を基調とした服と中国人のような帽子、上白沢慧音だ。

 

センセーオハヨー!ハイオハヨウ

 

通り過ぎる子供から先生と呼ばれている。事前情報通り教師をしているようだ。と、町の中央広場にある少し高くなっている台の上に乗り声高々に話し始めた。

 

「みんな聞いてくれ。先日地霊殿の主、古明地さとりの使いより連絡があった。どうやら最近地霊殿に出入りしている人間が居るようだ。知っての通り地霊殿は鬼や悪霊などが巣食う場所。人間が行けば無用な争いや被害にあうだろう。よって、村長とも話し合った結果、南東にある地霊殿へ続く道を封鎖することを決定した。今後この道は通らないように注意してくれ。これも人への被害を減らす一環だと思ってわかってくれ。以上だ。」

 

人々はその知らせを聞いて思い思いの表情を浮かべてはいたが概ね了解しているようだ。おそらくその出入りしている人間とはターゲットの関係者か本人に違いない。私は雑踏に紛れつつ路地裏を通り南東のたった今封鎖された道を目指した。

 

 

 

 

道を道なりに進んでいくと地底世界入り口になっている洞穴があった。ご丁寧に“この先旧地獄”とまで書かれた看板まで有る。かなり深く続いていることが外からでもわかるほどかなり奥まで見渡せるがさらに奥の方は暗くてよくわからない。私はひとまずその中へ入っていった。ここは多種多様な妖怪の巣窟になっているようで道中、足が何本も生えた蜘蛛のような少女や、桶に入りっぱなしの少女などを見かけたが、石を明後日の方向に投げるだけで気をそらしてくれたおかげで事なきを得た。

しばらくすると橋が見えてきた。地底を流れる地下水路にかかる橋のようだ。その橋の上にまたあからさまに少女が立っている。思えばここの妖怪は少女ばかりだった。あの子もその類と見るのが自然だろう。しかしこの通路は多少入り組んでるとは言え一本道、川幅はそれなりにあり、深さは少なくとも底は見えない。どうやればあの子に気が付かれずに渡れるだろうか・・・。

 

 

ガヤガヤガヤ

後ろからなにか騒がしい音が聞こえてきた。私はとっさに近くのくぼみに身を隠す。

 

「いやー早く帰って一杯やろうぜ」

「今日はオレとっておきの酒開けちゃおうかな!」

「あたいにも飲ませてくれよそいつをさあ」

ガヤガヤガヤ

 

後ろから頭から角の生えた人が集団でやってきた。おそらくあれが鬼と呼ばれる妖怪だろう。かなりの人数がおり、さながら百鬼夜行と言ったところだ。

 

「ちょっとあんたたち、何処行ってきたのよ!」

「おう!パルスィちゃん!今日も元気だねえ!」

「元気だねえじゃないわよ!また地上で遊んでたの?私はここを離れられないっていうのに妬ましいわね・・・」

 

丁度良く目の前で集団が止まった。私は比較的背丈が似ている最後尾の鬼に目をつけた。小石を足元に投げ、おびき出し、後ろから麻酔注射を行った。意外にも鬼は人間とさして変わらない様に昏倒した。服を借り、硬質粘土で同じような角を自分の頭に作った。そして百鬼夜行の列の最後尾に何食わぬ顔で紛れ込んだ。

 

「まあいいわ!とっとと通りなさい!」

「ヘイヘイ、あんまり怒ってると可愛い顔が台無しだぜパルスィちゃん!じゃあな~!」

「うるさい!早く通りなさい!」

 

可愛いと言われて照れたのか川の方を向いて押し黙ってしまった。おかげで怪しまれることもなく難なく川を渡ることができた。私は橋を渡ってすぐに岩陰に身を隠し、百鬼夜行集団と別れた。

 

 

 

 

程なく町が見えてきた。以前任務で行った日本のキョウトと呼ばれる町によく似ている。が、こちらのほうが現代的な建物や施設がないぶんタイムスリップしたような感覚に陥る。町の中では先程の鬼たちが元から居た鬼たちと談笑しながら酒を飲み交わしている。そう言えば鬼は酒好きと聞いた記憶があるのを思い出した。

その群衆の少し外れたところにフードをすっぽりかぶった人影を見つけた。あそこまであからさまに怪しいとバレそうなものだがおそらく呪術的な何かでどうにかしているのだろう。鬼たちがそちらを見ることはあっても気にかけることはない。

私は顔を確認するべく近くへ寄った。居酒屋のような店の店先で酒を飲むフリをしつつその人物を確認した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『あれがマリー・パルシュ。呪術の天才にして楽園の破壊者。ヤクモユカリを退けられるなら鬼を退けることなどたやすいということかしらね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ターゲットを確認。どうやら他の内通者は居ないようで鬼たちの出方を窺っている。

私は飲むふりをやめ裏側に回り込む。彼女はこちらに気がついておらず、ひたすらに前方の鬼の集団を見ている。私は周りを確認し、後ろからシルバーボーラーを構える。

 

 

パシュン ガシャーン!

 

 

放たれた弾丸は正確に鬼たちの持っていた酒坏を打ち砕いた。私はすぐさま路地裏に身を隠す。

 

 

「おいテメェ!オレの盃をどうしてくれるんだよ!」

「ああ?テメェ人間か!?こんなとこまで来て俺らに喧嘩売るとはいい度胸じゃねか!」

「えっ?えっ?何どういう事?!?!」

「とぼけてんじゃねえ!変な術でオレの酒坏割ったのはおめえだろ!ソッチのほうからなにか飛んできたのをオレは見逃さなかったぜ!」

「鬼に喧嘩売るってのがどういうことか知らねえはずはねえよなあ!」

「えっ、ちが、私じゃ」

「とぼけんじゃねえ!やっちまえ!」

 

 

ワーワーワー

 

 

辺りはたちまち大乱闘になった。私はそそくさとその場を離れ、2ブロック先の軒先から

様子をうかがうことにした。

急な戦闘の勃発に困惑しながらも彼女は呪術で対応していく。彼女もなかなかに善戦しているように見えるが、鬼たちの表情は怒りで冷静さを失っている。攻撃に容赦がなく、まともに喰らえば良くて複雑骨折、悪ければ一撃でぺしゃんこだろう。彼女がハクレイノミコのような人物であったなら対処は可能であっただろうが、良くも悪くも呪術的には平和な外の世界の出身。次第に押され始め、ついには

 

 

ゴシャア

 

 

まともに鬼の全力と思えるパンチを食らった。彼女は数mは吹っ飛びつつ向かいの建物の壁に叩きつけられた。まだ息はあるようで体がピクピク動いている。

 

「わかったか?!俺達に喧嘩売るならもっと力をつけてくるんだな!」

「殺しちまうと巫女に折檻されちまうからこのくらいにしといてやるよ!」

「身の程をわきまえるんだな!」

 

鬼たちはこれ以上攻撃するつもりはないらしい。大声で笑い合っている。と、私は彼女の頭上に大きめの鍾乳石が有るのを発見した。鬼たちが勝ち鬨を上げるのと同時に私はその鍾乳石の根元を撃った。

 

 

パシュ ピシッ  ガシャーン

 

 

鍾乳石は根元から割れ、虫の息だった彼女に正確に命中した。先端が鋭利になっている鍾乳石に押しつぶされ胴の中央部を貫いていた。彼女はもうピクリとも動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『ターゲットダウン。見事な手際だったわ47。そこから脱出して。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「お、オイ!あいつのとこに岩が落ちてきたぞ?!」

「もしかして喧嘩の余波で岩が崩れたのか?!」

「やべえよあいつ虫の息だったのに、死んじまったんじゃねえか?!」

「やべえよこりゃあ、巫女に退治されちまう・・・」

「お、オイ、逃げ・・・」

 

鬼たちがその場から逃れようとしている。と、奥から特徴的な服と角を持った女の鬼が来た。

 

「おおっとそうはいかないねえ。お前ら。」

「げ!勇儀姉さん・・・」

「お前ら今は地上の連中とピリピリしてるから人間には手を出すなってさとりから言われてただろう?」

「で、でもあいつからふっかけてきたことで」

「いいわけすんじゃねえ!!」ハ!、ハイイ!

「お前らには直々にお仕置きが必要なようだな・・・」

「ヒェェェ!姉サンご勘弁を!これは事故なんだ事故!」

「言い訳無用!!」

 

ギャー

 

 

先程の戦闘が生ぬるく感じるレベルの騒ぎになりつつ有る。早々にここから退却する必要がありそうだ。先程来た橋の方からも2人やって来た。

 

「ちょっとちょっとなんの騒ぎよ!なんか大きな物音がするから来てみたらなんで勇儀が暴れてるのよ!」

「おう、パルスィ。いやコイツらにちょっと折檻をな。コイツら人間をいたぶって殺しやがったのさ。」

「人間?そんなやつ通した覚えないけど・・・ってこれ以上被害増やしてどうするのよちょっとは落ち着きなさい!」

「そうよ、ちょっと様子を見に来たらそういうこと・・・」

「げ、博麗の巫女・・・何故ここに・・・パルスィどういうことだい!」

「様子を見に行く途中で会ったのよ。何でも里で行方不明になってる人間を探しに来たとかで。」

「この岩の下敷きになってるやつの事かい?そいつあ気の毒なことを・・・」

「で、実行犯は誰?」

「ああ、コイツらだが、コイツらの管轄は私だ、私に責任がある。」ア、アネサン!

「あ、そう。じゃああなたが代わりに退治されてくれるのかしら?」

「言い訳はしないがこちらにもメンツが有る。ただ退治される訳にはいかないね。」

「じゃあ、仕方ないわね。」

「「弾幕で勝負!」」

 

ドパパーンガシャーンギャーギャーワーワー

 

 

何か更に派手なことになった気がするが、橋に居た彼女がここに居るということは今現在橋はフリーパスということだ。私は足早に橋へ向かった。

 

橋を渡り、隠しておいた服を着、着ていた鬼の服をまだ伸びていた鬼に着せた。思えばこの鬼は私と背丈が似ているから成人した鬼だと思っていたが、街で見かけた鬼の体格を見るにもしかしたらまだ青年期、小鬼と呼べる段階なのかも知れないと思った。私は帰りも蜘蛛と桶の妖怪少女たちを小石でやり過ごしつつ出口に向かった。

 

そこからは簡単だ。来た道を順繰りに戻ればいいのだから。途中、宙に浮かぶ黒い球体に遭遇しそうにもなったが里で買ったまんじゅうに引かれているようだったので明後日の方向に投げたらそっちを向いてくれた。私は里へ戻り、ICAセーフルームから外の世界へ帰還した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~3日後~

 

 

 

「ふう、これで事後処理は終わり」

「お疲れ様です、さとり様。」

「ああ、お燐、全く鬼たちの喧嘩好きにも困ったものだわ。」

「本当に。それで今回死んだ人間はこちらで引き取れるんですか?」

「遺体自体は地上の無縁塚に葬られるみたいだけど魂はこっちに来るんじゃないかしら?」

「やりぃ!・・・あ、すみません。」

「いいのよ。それにしても不思議な事件だわ。」

「何がですか?鬼に喧嘩ふっかけた人間が鬼の力加減のミスで死んでしまったというだけでは?」

「鬼が喧嘩を止めた時点ではまだ息はあったらしいのよ。直接的な死因は鬼が騒いだ際に崩れ落ちてきた鍾乳石ということだけれど・・・」

「鍾乳石・・・ああ、あの天井にぶら下がってる岩のことですね」

「そう。でも鬼の喧嘩ごときで鍾乳石が割れて落ちてきてたら今までにも同じような事故があってもおかしくはなかったでしょう?それなのに今回は落ちてきた。しかもピンポイントで被害者の頭上に。」

「それは・・・偶然喧嘩の余波が当たった岩の下に偶然被害者が行ってしまっただけなのでは?」

「偶然・・・で済ませられればいいのだけれど。」

「考えすぎですよさとり様。何ならお空に天井確認させますか?」

「そのくらいな私がやるわ。まあ、今回はそれで地上の巫女も納得しているようだし、そういうことにしておきますか・・・」

「ですよ。考え過ぎは良くないですよ。ただでさえ毎日のように小難しい顔をしてシワが寄りまくってるんですから。」

「シワが寄っているは余計です!」パシン!アイタ!

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「ようこそ地獄へ」  +1000 『地下世界へ赴く』

・「酒と喧嘩は地底の華」+3000 『鬼たちの喧嘩に遭遇する』

・「鬼に金棒」     +5000 『ターゲットを暗殺する。その罪を鬼に着せる』

・「幸運の黒点」    +2000 『ルーミアに遭遇する』

 

 

 




なんとか地霊殿を噛ませたいと思った結果、またしてもターゲットの性別が関係ない事態に・・・w
しかも噛ませた割に自分の推しであるお空ちゃんやらこいしちゃんを登場させられてないという・・・w


2019/06/17追記
お空ちゃんとこいしちゃんには登場して貰う予定にはなっています。



次回は学園艦へ向かいます。


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HITMAN『戦車道の危険性』

『大洗女子学園艦へようこそ47。』

 

『あなたは“戦車道”って競技を知っているかしら?乙女のたしなみの一つとして第二次世界大戦当時の戦車を操縦して戦う競技よ。私もハイスクール時代にやっていたわ。懐かしいわね。私はこれでもM24チャーフィーの車長だったのよ?』

 

『今回この学園艦では私立L新良学園と大洗女子学園との練習試合が組まれていて、学園艦にはいろいろなところから見学者も訪れて大賑わい。でも私立L新良学園のほうは新設校で伝統と校風というよりもとにかく勝つことだけを目指していて、今回の試合も親善試合にもかかわらず、大洗女子学園の方へ様々な妨害工作を仕掛けているそうよ。中でも学園艦機関部へのウイルス混入によるシステムオーバーフロー問題は現在戦車道連盟や文部科学省でも制裁が議論されてるほどの大事だったみたい。これらの妨害工作の陣頭指揮をとってるのは私立L新良学園戦車道の隊長であるバスティコ。彼女が今回のターゲットよ。』

 

『彼女は戦車道以外にもいろいろと黒い噂が絶えないけれど、つい最近リビアの反政府ゲリラに西側諸国の支援部隊の情報をネットで売り渡してたことが判明したの。彼女は親が軍事アナリストで、職業柄いろいろな情報を入手するコネを持っていたみたい。15カ国のサーバーを経由しての大胆な犯行だったけれど、ついにCIAがその尻尾を掴んだ。しかし相手が学園艦という洋上の要塞に居る上に、同盟国日本の学生ということでおおっぴらに始末はできなかったようね。だから私達に依頼が来たというわけ。今回のクライアントはCIA極東支部及びNATO欧州司令部からよ。久々の大物クライアントね。』

 

『準備は一任するわ』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「すみません。大洗女子学園戦車道科はここでしょうか」

「はい?ああ、新しい装備の受け取りですね!会長から聞いています。」

 

私は今ターゲットの相手方である大洗女子学園の戦車道チームの隊長に会っている。新式装備の受け渡し業者に扮しているためだ。

 

「わあ!これが“10.5cm KwK 46 L/68改造キット”!これでうちのポルシェティーガーもプラウダや黒森峰の重装甲を打ち破る手立てができそう!ご苦労様でした!」

「いえ、代わりに“8.8cm KwK36 L/56”の引き渡し証明書にサインかはんこをいただきたいのですが。」

「あ、はい。えっと・・・すみません、サインか判子は会長がすることになっていて、お手数なんですが生徒会長室に居る五十鈴華会長にもらっていただけますか?」

「わかりました。しかし生徒会長室へ行くための道がわからないので地図か何かをいただけますか。」

「はい、えっと・・・こちらが地図です。ここに生徒会長室がありますので!」

「ありがとうございます。では。」

「ご苦労様でした!」

 

私は地図を片手に生徒会長室へ向かう…フリをしつつ一路対戦相手の私立L新良学園の待機スペースへ向かう。彼女らの待機スペースは演習場のちょうど反対側だ。

 

 

 

 

 

 

待機スペースへついた。私立L新良学園の生徒と思わしき女生徒が話し合っているのが見える。私は止まっていたトラックに身を隠しつつその会話に聞き耳を立てる。

 

「たいちょぉ~ひとついいっすか~?」

「なんだフィオーレ、作戦会議前だぞ。」

「今回の作戦、流石にやばくないっすか?」

「何だ。何がいいたい。」

「流石に実弾を使うのはやりすぎってことっすよ。いくらなんでも。相手の戦車に直撃はさせないって言っても榴弾なんだからそれなりに・・・」

####アプローチ発見####

「うるさいぞ!全国大会で優勝した大洗女子。そんなとこを相手にするんだからこれくらいはハンデみたいなものだ!」

「ハンデで実弾使って相手に怪我させたり最悪死者まで出したらそれこそ学園の存続にも関わるっすよ?!」

「うるさいうるさい!私に意見するな!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『どうやらL新良学園側は規定で禁止されている実弾を密かに使用しようとしているみたいね。本来戦車道で使う戦車は実弾の使用に耐えきれる構造にはなっていないの。特殊な改造を施すんでしょうけど、戦車搬入の際にはチェックがあるから現場での急ごしらえ改造なのでしょうね。あなたが改造してあげれば彼らもきっと喜ぶんじゃないかしら?それか弾薬の搬入を手伝ってあげるとかね。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「とにかく!作戦はまずフィオーレの乗る四号F2で実弾を相手の足元に撃つ。そうすると学園艦の上部構造板を破壊でき、相手の戦車はその穴に足を取られて身動きが取れなくなるはずだ。そこを私の四号Jを含めた全員で一斉放火。各個撃破していく算段だ。フィオーレは発砲したらすぐに身を隠せ。実弾を撃ってることがバレたら懲罰どころでは済まん。実弾も相手の戦車の数と同じ数しか持ってきていないから必ず打ち切るように。いいな!」

「・・・ハイ。」

「わかったらさっさとF2型の砲閉塞機を強化しておけ!爆発したら尾栓が飛んで、車長であるフィオーレ、お前が死ぬことになるんだからな!」

 

ミーティングが終わる前に私はその場を後にした。実弾が何処にあるか特定しなければならない。

 

 

 

 

 

 

待機スペースの端に戦車が一列に並んでいる場所があった。右から四号戦車H型、四号戦車J型、四号戦車F2型、三号戦車M型、M10パンター、二号戦車H型、フィアット3000、カルロアルマートM15と並んでいる。その近くに弾薬がそれぞれ置かれており、積載作業を何人かの生徒が行っている。四号戦車3台の積載作業はまだおこなわれておらず、生徒は今三号戦車で作業を行っているようだ。

 

「ちょっと!M10パンター動かしといて!そこに居られると四号の装弾ができない!」

「あいよー!」

ブルルルルン!!!ヴォヴォヴォヴォヴォ

 

 

掛け声とともにけたたましい音を立てながらエンジンが始動する。と、四号F2戦車の横に他の弾薬とはわけて木箱に収められた弾薬を発見した。数は8発。相手の大洗女子の参加車両数と同じである。おそらくあれが実弾なのだろう。私はエンジン音に紛れるように足早に接近し、1本だけ取った。それをすばやく四号J型の弾とすり替えた。見た目的には完全に一致しており、重量もさほど変わらない。が、競技弾にはついているはずの戦車道連盟のロゴマークがついていなかった。入れ替えを行ったあとはすぐさまその場を離れる。幸いにしてまだM10パンターの移動作業は続いており、私の行動に気がついているものは誰も居ないようだった。私は待機スペースを離れ、生徒会長室へ向かった。

 

####アプローチ完了####

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『的確な仕事ね。これで競技が始まれば実弾仕様にしていない隊長車で暴発事故が起こせるわ。後はゆっくりと戦車道の試合を楽しみましょう。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「失礼します。生徒会長の五十鈴さんはいらっしゃいますか。」

「ハイ、私が五十鈴華です。ご用件は何でしょう?」

「先ほど新式装備を戦車道履修生徒へ受け渡しが完了しました。折返しで旧装備を引き取りたいので書類にサインかはんこをお願いします。」

「はい、ご苦労さまです。少々お待ちいただけますか。」エートハンコハンコ

窓の外ではすでに試合が始まっている。戦車のエンジン音が艦橋部分にある生徒会室まで響いてくる。

「はい、はんこを…あら?戦車道にご興味がありますか?」

「多少は。」

「でしたらここからならよく見えますから、ぜひ見ていってくださいまし。お時間が許すのであればですが。」

「時間には余裕があります。是非拝見させていただきます。」

 

 

 

 

試合は一方的とまでは行かないものの大洗女子がリードしているようだ。

 

「今回の親善試合は1年生と2年生だけでやってるんです。私達3年生だけに頼り切りは良くないと冷泉さんが提案してくれて。」

「なるほど。」

「でも皆さん、みほさんの教えを忠実に実践していてとても期待が持てます。」

 

ここで1台の戦車が発砲。大洗女子の89式中戦車甲型の足元に着弾し、89式が足元を取られた。と、周辺から集中砲火が始まる。隊長車である四号J型は最後に姿を現し、砲身が折れ満身創痍になった89式に向け発砲する。

 

バァーーン

 

弾は何処へ飛んでいったかわからない。少なくとも89式には当たっていないが、代わりに隊長車である4号J型の砲身が裂け、白旗が上がっている。しかし他の車両は何が起こったのかを把握しきれていないようで、大洗女子の戦車も発砲を中止し、隊長車へ近寄っていく。と、救急車が来た。

 

プルルル

「ハイ、こちら生徒会室…えぇ?!L新良学園さんの隊長車で暴発事故!?本当なのですか?それで隊長さんは・・・安否不明・・・すぐに情報を集めてください。私もすぐに行きます。」ガチャ

「すみません。なにかトラブルが発生したみたいで、すぐ行かなくてはなりません。申し訳ありませんが・・・」

「わかっています。私もそろそろ失礼させてもらいます。」

「申し訳ありません。では失礼しますわ。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『素晴らしいわね47。衛星からのスキャンでターゲットの生体反応消失を確認。見事だったわ。もうすぐ船が出るから帰還して。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

生徒会室を後にし、船が出るタラップに向け歩いているとL新良学園の生徒の何人かが青ざめた様子で反対側の歩道を歩いているのが見えた。どんな処分が下るのかはわからないが、隊長に振り回され汚名を着せられた彼女たちに少しだけ同情した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

~3日後~(分かりづらいので先頭に判別用の一文字を追加)

 

 

み「でもチームに被害がなくてよかった。まさか相手が実弾使ってたなんて・・・」

ゆ「今回のことでL新良学園は戦車道の参加権を剥奪されただけでなく、学園艦自体の解体も視野に議論されてるそうです。」

さ「当然だよ!当たってたら死んじゃってたかもしれないんだよ!そんな人達に戦車道やる資格なんて無いよ!」

は「さおりさんが一番心配して一番怒っていましたものね・・・」

れ「まあともかく。因果応報というやつだ。死んでしまったのは流石に可愛そうだったが。」

み「今回のことで、うちのお母さんも戦車道連盟の会議に参加してるみたい。今までにないくらい相当怒ってた。」

は「一歩間違えれば自分の娘が被害にあって死んでいたかもしれないということで確執なんかよりも一人の母親として心配してくださったんですね。」

み「うん。ちゃんと考えててくれてたみたい。」

ゆ「仲直りも近いですね!西住殿!」

れ「仲直りのきっかけとしてはこれ以上にないくらい血生臭くなってしまったがな。」

さ「さあさあ、嫌なことは忘れて!今日は私特製の肉じゃがバージョン2だよ!」

は「まあ、美味しそう!」

れ「作る相手も居ないのに・・・」

さ「なによぅ!絶対現れてくれるもん!」

み「まあまあ、はやく食べよう。せーの」

「「「「「いただきます!」」」」」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「射撃演習」  +3000 『ターゲットを実弾の戦車砲弾で暗殺する』

・「お届け物」  +1000 『装備配送員としてスタートする』

・「天覧試合」  +3000 『試合を生徒会室から観戦中にターゲットを暗殺する』

・「戦車に耳あり」+1000 『L新良学園の策略の情報を得る』

 

 




今回はちょっと短め。

あの謎カーボンがあるということは軍が使ってる戦車も装甲が厚くなってるんだろうなあ。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『戦車道の危険性』(もう一つの世界線)

前置きなどは簡略化されています。また若干前回と状況が違います。


『大洗学園艦へようこそ47』

『今回のターゲットは私立L新良学園戦車道チーム隊長のバスティコ。CIAとMI6からハッキングとリビア反政府軍への武器供与が疑われている天才高校生。依頼者はCIAに加えてNATO欧州司令部。今回、戦車道の大会が開かれるみたいでその親善試合をここ大洗女子学園艦で行うようよ。警備がそれなりに厳重。作業員も女性で統合してるみたいだから潜入する場合は至難の業になるでしょうね。』

 

『準備は一任するわ』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は今、大洗女子学園親善試合会場近くのフードコートのベンチに座っている。

 

「このソフト美味しい!」

「有名校ともなると屋台の質も高いのかなあ?」

 

ソフトクリーム屋の前で女学生が話している。

今回私はレイヴンスーツを着て観戦者の一人となっている。インフォーマントを通じて艦橋1階のトイレの中に“Jaeger7”を置いておいてもらった。

 

「わたし今回の試合結構楽しみなんだよねー!」

「あら?ミリカ、そんなに戦車道好きだったっけ?」

「戦車は正直別にって感じだけど、私が好きなのはL新良学園の隊長さんよ!」

「ああ、あの眼帯つけて悪っぽそうな顔の隊長さん?」

「悪っぽそうって何よ!かっこいいじゃない!」

「そう・・・かなあ?」

「そうよ!ああ、早く試合開始にならないかなあ!あ、そろそろ行かないと!」

「試合開始まで後1時間もあるじゃない。そんなに急がなくても席には座れるわよ」

「何言ってんのよ!一番高い席を取って見渡せるようにしないと隊長さんの勇姿が見られないじゃない!」

「一番高い席って、勇姿を見るって言ってもほとんど映像じゃない。私達が直接見えるのは最初の挨拶と最後の挨拶のときくらいよ?」

「それでもいいもん!あーあ、あの艦橋の展望台に登れば、試合会場を一望できるのになあ」

####アプローチ発見####

「それは無理ね。あの艦橋、試合中は関係者以外立ち入り禁止になるみたいだし。船舶科の子たちになりきれば入れるとは思うけど」

「無理無理。入り口は鍵がかかってたし、服貸してもらっても入れないわよ。」

 

 

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『大洗学園艦の艦橋の最上部には展望デッキが備え付けられていて、試合中はそこは一般人立入禁止になるみたい。そこからは試合会場が一望できて最高の眺めだそうよ。L新良学園の隊長さんもよく見えるでしょうね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は読んでいた新聞をベンチに置き、一路艦橋を目指した。

しかし問題がある。私は今回ロックピックを持参してきておらず、鍵を見つけるか壊すかしない限り艦橋内に入れない。壊せばセキュリティが作動することは間違いなく、侵入者発生ともなれば試合どころではないだろう。まずは鍵を探さなければならない。

 

 

 

 

 

「ええ!?そんなかいちょぉ~?!ああ!すみません元会長!?私一人じゃちょっと…、ああ、ハイ。そうです今第34区画です。」

 

艦橋へ続く道で黒髪ショートのいかにも優等生な少女が携帯で話している。そう言えば先程の新聞に載っていた少女に似ている。“留年か!”と派手な見出しで顔写真が載ってる辺りそこそこの有名人なのだろう。だが写真と違うのは制服を着ておらず何処かの大学の戦車道のタンクジャケットを着ていたことだ。

 

「でも会長~私一人で買い出し全部は・・・。ええ?ああ、そういうことでしたか!流石ですかいちょ…いえ元会長!はい、はい、わかりました!では今から生徒会室へ向かいます!わかっています。鍵はちゃんと持参して・・・いま・・す・・・」ダラダラダラ

 

泣き顔から晴れ渡った清々しい笑顔に変わったかと思えば冷や汗を流し始めた。喜怒哀楽の激しい子だ。

 

「はい、はい、わかりました。すぐ向かいます…」ピッ

「はあ・・・どうしよ。鍵、何処に落としたのだろうか・・・」

 

どうやら艦橋に入る鍵をなくしてしまったらしい。

 

「今日はまず起きて、着替えて鍵をポケットに仕舞って・・・、1年生を激励に言った後、トイレに入って、そこから焼き芋屋さんの声がしたから全力で走って・・・そのときに落としたのかなあ?焼き芋買った後はすぐにここまで歩いてきたから・・・」

 

私は今の発言から大体の当たりをつけて一路会場とここを結ぶ動線の途中にある公園へと向かった。

 

 

 

 

 

会場とはそこまで離れては居ないが公園はそれなりに閑散としていた。というか人が居なかった。おそらく競技会場の真裏という立地が原因だろう。私は難なく公園内のトイレの女子側に入った。

目的のものは洗面台の横にあったモップの刷毛部分の上に乗っかっていた。刷毛部分にちょうど乗った為落ちたのに気が付かなかったのだろう。ハンカチと鍵を同じポケットに入れるとこういうことになるので注意したほうがいい。彼女は注意力という意味では一般人と同等かそれ以下に感じられた。私はその鍵を取ると艦橋を目指した。

 

 

 

 

艦橋の根元についた。入り口は3箇所有るようだが空いているのは警備員2名が立っている中央部分だけで後の2つは施錠されていた。私は艦首側の扉を鍵で開け、1階にあるトイレに入った。一番奥の個室には内側から施錠されていたが人がいる気配はなく、天井との隙間から中に侵入。中においてあった“Jaeger7”を手に取る。トイレから出て警備員や船舶科の生徒に見られないよう注意しながら最上階の展望エリアへ向かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『いい眺めね47。いろいろなものがよく見えるわ。彼女の最後の瞬間も見えるかしら?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

展望エリアは案の定人はおらず、完全な無人であった。監視カメラの類も見当たらないことを見るとこの学園艦の警備は人頼みのようだ。

たしかにここからなら試合会場が一望できる。会場の真ん中に選手が集まっている。間もなく試合開始なのだろう。両校が整列し始めた。私はJaeger7を構える。

中央部でL新良学園から3名、大洗女子学園から3名が前に出る。私はスコープを覗き顔を判別する。

大洗側は西住みほと1年生と思わしきガチガチに緊張した生徒とそれよりずいぶん落ち着いているがそれなりに固くなっている2年生と思わしき女生徒。1年と2年はタンクジャケットに身を包んでいるが西住みほは通常の大洗の制服である。

L新良学園側も似たようなものであるが3年生と思わしき生徒がチラチラと横の2年生の顔を見ている。ご機嫌伺いをするかのように。その2年生こそ今回のターゲットであるバスティコであった。

 

私は照準を合わせる。距離820m、風もあるが学園艦が航行する時の風で一定方向一定風速なため計算は容易だった。隊長と思わしき2年生同士が前に出る。止まった瞬間、私は引き金を引いた。

 

 

バシュン!

 

 

弾は正確にかつ予測どおりに飛んでいき、バスティコの頭部を直撃。反動で彼女の体は横方向に倒れ込んだ。双方とも何が起こったのか理解できていないようであったが、一瞬の遅れとともに会場中から地響きのような悲鳴がこだました。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『お見事だったわ47。狙撃の腕は落ちていないようね。早くそこから脱出して。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私はJaeger7を展望台から海へ投げ捨て、また見つからないように艦橋を後にした。扉を施錠し、公園へ戻る。モップの上に鍵を戻し、艦首部分のヘリポートへ向かった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

~2日後~

 

 

「みぽりん大丈夫かなあ・・・」

「目の前で人が撃ち殺されたんですから西住殿も梓殿も香織殿もショックで寝込んでますからね・・・」

「香織さんは今回が初試合でしたのに・・・これが今後に影響しなければいいですが」

「ほぼ間違いなく影響するだろうな。」

「もう!まこ!そういう事言わない!」

「そうですよ冷泉殿!それに、一番ショックなのは相手のL新良学園の皆さんでしょうし・・・」

「「「「・・・・」」」」

「とりあえずまずはみぽりんから元気だしてもらお!またお泊まり会しよ!」

「そうですね。梓さんも香織さんも呼んでみんなで私の家に・・・」

「大丈夫なのか?結構大人数だが。」

「あ!でしたら皆さんで野営でも」

「「「それは却下」」」

「えぇ~・・・」

 

 

 

 

 

・ミッションコンプリート

 ・『長距離砲』+1000    『距離500m以上の狙撃でターゲットを暗殺する』

 ・『2度目の悲劇』+3000  『西住みほの目の前でターゲットを暗殺する』

 ・『試合は無期延期』+1000 『試合開始前にターゲットを暗殺する』

 ・『落とし物には注意』+1000『艦橋の鍵を拾う』

 

 




なんかどんどん文字数が減っていってるような・・・
情景描写を簡略化しすぎですかね。次回はもうちょっと細かく書いてみようと思います。

2019/06/17追記
文字数が少ないため書き足す可能性があります。


次回は殺人事件多発地帯へ向かいます。


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HITMAN『黒ずくめの47』

『米花町へようこそ47』

『この街は一見平和そうに見えるけれど重犯罪件数が日本トップクラスなの。それも殺人事件に特化してるみたい。あなたにとっては仕事がしやすいかしら?でも気をつけてね、犯罪件数もトップだけど検挙率もトップなのよ。理由はこの街にある「毛利探偵事務所」。そこの経営者である探偵の毛利小五郎彼がこの町で起こる犯罪の殆どを対処して見事解決に導いてるようね。でもICA情報部の情報だとどうやら推理して事件を解決してるのは毛利小五郎ではないらしいけどね。』

 

『今回のターゲットはそんな毛利探偵事務所からほど近い、というかその真下に有る喫茶店“ポアロ”に最近勤務し始めたという加藤幸之助。彼は鳥取に存在しているとある組織のメンバーで、情報斥候を担当しているみたい。コードネームは“ウーゾ”。その組織は時々ICAにも依頼を送ってくるの。今回もその組織からの依頼よ。彼は組織内の情報をどこかにリークしようとしてるみたいね。それを危険視した組織から抹殺の対象にされたというわけ。でも彼は商売柄警察の出入りも多い毛利探偵事務所の近くに居を構え出入りすることによって組織から身を守ってるみたい。』

 

『気をつけてほしいのはすぐ上の階に居る毛利小五郎、その傍にいつもいる情報部が最重要視している江戸川コナン。並外れた洞察力を見せる安室透の3人よ。この3人のそばではうかつな暗殺は控えたほうが良さそうね。また安室透は店員に扮した公安警察の諜報員との情報も入ってるからあちらの仕事も邪魔しないようにね。』

 

『準備は一任するわ』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「おまたせしました、特製ハムサンドです。ごゆっくりどうぞ。」

 

なるほど、確かに女性人気が高くなりそうな美形の男性である。私は今、ターゲットの勤務する喫茶ポアロに来ている。しかしシフトが合わなかったのかターゲットはおらず、榎本梓と安室透のみ。客は他に数人居るがどれも一般人だ。っと、一番窓際に座っているガタイのいい男は警察関係者のようだ。犯罪発生率が高いのもあって拳銃を懐に携帯している。懐に忍ばせているガンホルダーの重みの分だけ左肩が下がっている。公務というわけではないようだ。目線は榎本梓を捉え続けている。隠れファンが多いというのは本当のようだ。

 

私は今回、経口摂取型の致死毒を持参した。しかし、店員が少ない上に死角がほとんどない店内で安室透はいろいろな方面に目を配っている。これでは隙を見て食べ物に混入させるのは無理だろう。残念ながらこの薬は使い所が無さそうだ。ひとまず様子を見ることにする・・・ん、このハムサンドはなかなか美味だ。

 

 

「そろそろ加藤さんが来る頃ですね。彼に見せたいものが有るので梓さん、ちょっと裏に行ってきますね。」

「あ、ハイ。わかりました。例のですね。私にも後で味見させてくださいね。」

「わかっていますよ。元よりそのつもりですから。」

 

安室透はそう言うと店の奥に引っ込んだ。見せたいものがなにか気になるところでは有るが、そろそろターゲットが来る頃合いということでハムサンドを食べ終えた私は一旦店を出ることにした。

 

 

「ありがとうございました。お会計780円です。」

「美味しかった。あなたが作ってるのか?」

「いえ、私じゃなくさっき店の奥に行った安室さんが作っています。」

「もうひとり男性が居たと思うのだがそちらの方も同じ様に作れるのだろうか?」

「あ、加藤さんのことですね。彼も同じくらい美味しいサンドイッチを作れるんですけど、最近はお菓子作りの方に凝ってるみたいで、今日もこの後安室さんと自慢のお菓子の発表をするらしいです。」

「なるほど。だから最近はよく車で来ていたのですね。」

「え?ああ違います。その車は多分上の毛利さんのところので、彼はいつも自転車通勤ですから。」

####アプローチ発見####

「ああ、そうだったのですか。自転車でお菓子を運ぶのはあまり想像できませんね。」

「ええ、この前なんか結構大きなケーキを運んできてたので結構フラフラしてて。あれはいつかコケるって安室さんといつも言ってるんですよ。」

「なるほど、気をつけるように言ったほうがいいかも知れませんね。では。」

「はい。ありがとうございましたー。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『榎本梓の情報によれば彼はいつも大きな菓子入りの荷物を持って自転車出勤しているそうよ。視界不良かつバランスが悪い状態での走行は危険ね。目の前の通りは車通りもそれなりに多いから事故に合う確率は高そうよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は店を出て周りの状況を確認する。目の前の通りはそれなりに交通量が多い割に片側1車線の道路。しかも大型のトラックもそれなりに通る。しかし横断歩道は見た限り近くにはなく、通行人の何人かは車の合間を縫って横断している状況だ。歩道もそれなりに狭く、なおかつ歩行者専用であり人通りもある。ここを自転車で通るのはいつ歩行者と接触してもおかしくはない。

私は反対側の歩道へ移動した。ターゲットが来た瞬間に車道に飛び出し、車がとっさに避けるときの動きでターゲットを轢き殺すことを考えた。ここの通りの車は近くに信号がないのもあって法定速度を守っている車は少ないからこそのプランだ。

 

 

5分ほど経った後、右手に大きな荷物を抱えた状態の自転車が反対側の歩道に見えた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『あれが加藤幸之助。周囲を有能な探偵や警察に守られた鉄壁のターゲット。お手並み拝見ね47』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

と、こちら側の歩道の同じ方向から子供がやってくるのも同時に見えた。子供たちのほうがこちらに来るのはだいぶ早い。そのうちの一人は器用にサッカーボールをヘディングしながら来ている。ブリーフィングで顔写真を確認した江戸川コナンという子もサッカーが得意らしいが、彼は顔写真とはだいぶ違っていた。江戸川コナンという少年はおそらくその隣にいる眼鏡の子だろう。ヘディングのコツを教えながら歩いているようだ。

私は計画を変更した。彼らの隣の植え込みに向かってコインを遠投する。

 

 

ピッーン

 

ガサッ

 

 

「ん?なんだ?」

「え?あ!」ポーンポンポン

 

植え込みの物音につられて目を離した瞬間ヘディングを誤り大きくはねて私の方へ転がってきた。

私はそれを足で受け取ると少年たちを一瞥してリフティングを開始する。

 

「おおー!」

「へぇ・・・やるじゃんおじさん。」

 

私はリフティングをしながら位置を変え横に路地が来るようにした。と、ターゲットがちょうど向かいにつく頃合いで少年たちのすぐ隣にあった電柱に向かって勢いよく蹴った。

 

「ああ!何処蹴ってんの!」

「向こう側に・・・あ!!」

 

ボールは電柱に跳ね返り90度方向を転換してターゲットの後ろの別の電柱に跳ね返り、またもや90度方向転換してターゲットの左側の足元に転がった。

私は少年たちの気が反対側にそれてる間に瞬時に路地裏に入る。

 

「うわ!あ、ああ、ああ!」

 

ターゲットはいきなり現れたボールに驚き、バランスを崩した。とっさにボールとは反対方向に避けようとしたためハンドルを右に切った。そこはすなわち車道。一旦急激に右に切ったハンドルを左に切り直すのは結構難しく、更に車道と歩道の間には段差があるためさらにバランスを崩す。右手に重い荷物を持ってバランスが悪かったのも相まって車道に大きく飛び出した、次の瞬間

 

 

キキーッ!ガシャーン!!

 

時速60キロ以上で走ってきた乗用車に派手に衝突した。ブレーキは駆けたようだっがもうほんの1~2mのところだったのでほとんど減速せずに衝突した。ターゲットの体は10m弱は派手に吹っ飛び、アスファルトに叩きつけられたターゲットはほぼ即死だったようで、ピクリとも動く気配はなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットダウン。素晴らしいシュートだったわ47。目をつけられる前にそこを離脱して。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「なに?今の音?・・・え?きゃああああ!!」

「なにが・・・え!?加藤さん!しっかりしてください!」

 

物音に気がついてポアロの中から二人も出てきた。安室透が応急処置を試みようとするのが見える。次第に周囲に野次馬も集まってきた。

私は雑踏に紛れつつ、足早に路地裏を縫うように歩き、2本横の街路に止めてあった車へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「待ちなよ。おじさん。」

 

 

実のところ私は突然呼び止められたことにあまり驚いていない。

振り返るとそこにはさっきまで友人と居た江戸川コナンがスケボーを片手に立っていた。一人で来る辺りも情報通りである。

 

「さっきおじさんが蹴ったボールで人が事故にあって死んじゃったよ。故意かどうかはともかくとしてまずは警察に来てもらわないと。」

「悪いな。私はボールを蹴った瞬間その場を離れてしまったからよくわからない。」

「嘘。だよね。路地裏に入って事故にあった人が死んだかどうか確かめてた。みんなは雑踏に紛れてごまかせたけど僕はごまかされないよ。」

 

さすがICA情報部が目をつけるだけは有る。小学生とは思えない洞察力である。

 

「ではどうすればいい?私はこの国に来てまだ間もない。警察が何処に居るかよくわからないんだ。」

「そう。ならとりあえずおとなしくついてきてくれればいいよ。さっきの現場にそろそろ警察が来ると思うから。」

「わかった。」

 

彼はそう言うと体を半回転させ来た道を戻るよう誘導するように歩き始めた。私は距離を詰め彼の肩に手をかけようとする。

 

「下手なことは辞めておいたほうがいいよ。」

「気配ですべてを察するか。流石だな。江戸川コナン。いや、工藤君。」

「?!?!」

 

彼が高校生探偵工藤新一であることは情報部は掴んでいた。彼らの子飼いの衛星は全世界のいたる所をモニタリングして記録している。彼が小さくなる瞬間もモニタリング済みだった。

 

「お前・・・!何者・・・!」

「さあな。“組織”とやらだったらどうする?」

「組織のことまで・・・!くっ!」カチッ

「っと、それはいけない。」ガシッ キュッ ピシュ!

「うっ!しまっ・・・」

 

彼はとっさに腕にはめていた時計型麻酔銃で私を眠らそうとしたようだが、元より肩に手がかかるかどうかの距離、麻酔銃の照準を展開した瞬間手を掴み時計を半回転させ、彼自身に向けて麻酔銃を打ち込む。彼はあっけなく倒れた。事前に彼の周囲や装備品について情報部の情報がなければ私が眠らされていただろう。私は彼を路地裏の人目につきづらいが見つけられないことはない場所にそっと寝かせ、止めてあった車に乗り込み脱出した。

 

 

運転中、右腕袖口内側に貼り付けてあった発信器を剥がして路上に捨てるのも忘れずに。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~10分前~

 

 

「そうそう上手い上手い。光輝くんだいぶ上達したな!」

「えへへ、ありがとう。コナンくんの教え方が上手いからだよ。」

「コナンくんはすごいんだよ!サッカーも上手いし勉強もできるし私達少年探偵団のリーダーでも有るんだから!」

「あはは・・・(そりゃ高校生が小学校の勉強できなくてどうするよ)」

「コナン!今度はオレにもリフティングのコツ教えろよな!」

「元太くんはリフティングの前にまずシュートの力加減から覚えるのが先だと思いますけどね。」

「あん?どういう意味だ?」

「わかってないんですか!?もー!この前も公園でシュートが大幅にずれて歩行者に当たりそうになってたじゃないですか!」

「ああそういうやそうだったな。あんときは腹がいっぱいだったからよ、腹いっぱいだと力がみなぎって余計に力入っちまうんだよな。」

 

「ねえ、聞いてもいい?」

「なんだい光輝くん?」

「コナンくんって頭いいんだよね?」

「まあそれ程ってわけじゃないけど」

「じゃあ相談に乗って欲しいんだ。僕のお兄ちゃんのことなんだけど。」

「お兄さんがどうかしたの?」

「うん、最近お菓子ばっかり作ってるのはいいんだけど、仕事先に持っていってるみたいで、そのときに自転車を使って運んでるんだ。危ないからやめてって言ってるのに大丈夫だって言って聞かないんだよ。」

「ふーん、じゃあそのお兄さんにもっと安全運転をしてほしいわけだ。」

「そうなんだ。アレじゃいつ事故にあってもおかしくはないよ。なんとかならないかなあ。」

「そうだな・・・問題はどうやって危険性を伝えるかだけど・・・」

ガサッ

「ん?なんだ?」

「え?あ!」ポーンポンポン

「ああ、ボールが・・・って、あ、おじさんごめんなさいボールを・・・」

「おおー!すごい上手いリフティング!」

「へぇ・・・おじさんやるじゃない。(なんだあの男、殺気は無いのに側に居たらいけないような、黒ずくめの奴らとも違うもっと根本的な恐怖を感じる・・・)」

ポーン

「ああ!電柱に!何処に蹴ってんの!」

「向こう側に・・・あ!危ない!!」

「あ!お兄ちゃん!!」

 

キキーッ!ガシャーン!!

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「PK戦」       +3000 『サッカーボールを使ってターゲットを暗殺する』

・「いつものこと」   +1000 『江戸川コナンの目の前でターゲットを暗殺する』

・「眠りの名探偵」   +5000 『江戸川コナンを気絶させる。本人以外に発見されてはいけない』

・「接客は笑顔で」   +2500 『榎本梓・安室透・江戸川コナン・毛利小五郎の内3人以上に顔を見られる』

 

 

 

 

 




ハルケギニア編の別アプローチを書く予定を変更して新しい世界へ。
ですが予定より文字数が少なくなってしまいました・・・w
コナンくん相手にサイレントアサシンやるのはかなりの高難易度になりそうです。

次回は別アプローチです。


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HITMAN『黒ずくめの47』(もう一つの世界線)

今回はエージェント47お得意のあの道具でやってみようかと思います。


『米花町へようこそ47』

『日夜重犯罪が絶えないこの街が今回の舞台よ。治安が悪いわけでもないのに殺人事件がよく起こる町として知られているわ。事件発生率の原因は不明だけれど検挙率は国内トップで、そちらの原因は優秀な“眠りの小五郎”こと名探偵毛利小五郎の事務所である毛利探偵事務所があるため。もっとも情報部によると実際に事件を解決しているのはその居候である江戸川コナン、本名工藤新一らしいけど。』

『ターゲットはその毛利探偵事務所のある雑居ビルの1階にある喫茶ポアロの店員、加藤幸之助。ある組織の諜報員で、コードネームは“ウーゾ”。組織の情報を外部にリークしようとして抹殺対象にされたみたいね。今回の依頼主はその組織よ。』

『準備は一任するわ』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「おまたせしました。アイスコーヒーです。ごゆっくりどうぞ。」

 

私は今、喫茶ポアロのカウンターに座っている。この店は周囲が市街地ともあってなかなかに繁盛しているようで、店の中には常に人がいる状態だ。店内での暗殺は厳しいと言わざる負えない。今回持参したのは絞殺用のワイヤーだ。私の得意な暗殺方法でもある。

 

 

「そろそろ加藤さんが来る頃ですね。彼に見せたいものが有るので梓さん、ちょっと裏に行ってきますね。」

「あ、ハイ。わかりました。例のですね。私にも後で味見させてくださいね。」

「わかっていますよ。元よりそのつもりですから。」

 

カウンター内で若い男女が話している。男性の方は名前を安室透。女性の方は榎本梓だ。そして話に出てきたのが今回のターゲットである加藤幸之助だ。どうやらそろそろ出勤してくるらしい。私はそのまま静かにアイスコーヒーをすすりながら新聞を読むふりをして待つことにする…ん、あの監督辞任するのか…。

 

しばらくそうして待っている。店内の客が何人か入れかわった後、大荷物を抱えた自転車が店の前を通り過ぎて止まった音がした。すぐにその大荷物を抱えたターゲットが店内に入ってきた。

 

「おはようございま~す!」

「ああ、加藤さん。おはようございます。今日はそこまでお客様も居ないので例のアレ、出来ますよ。」

「おお本当だ。って店を預かるものとしてはお客が少ないのは嘆くところなんでしょうけど・・・。」

「まあそれは・・・。でも私も加藤さんのお菓子楽しみですし今日くらいは良いかなと。」

「あはは・・・で、安室くんは?」

「あ、今奥に。」

「安室くんは今日は何を見せてくれるのか楽しみですよ!まあお菓子だったら私のよりは下でしょうけどね!」

「フフフ、さあそれは私も食べてみませんと♪」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『アレがターゲットの加藤幸之助よ。表向きは人当たりの良い好青年ね。重犯罪に手を染めてきたとはとても思えないくらいに。』 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「じゃあ安室さん呼んで来ますね。加藤さん店番お願いします。」

「承知しました・・・あ、だったらこのケーキも一緒に持っていってください。一応要冷蔵なので。」

「あ、はーい。」

 

そういうと榎本梓は抱えてきた大荷物、中身はケーキらしいが、それを抱えて安室と同じく奥へ引っ込んでしまった。

私は手を上げてターゲットを呼ぶ。

 

「すみません。注文良いですか。」

「あ、ハイ。何にいたしましょう。」

「では、“ウーゾ”を1つ。」

「ッ!!…申し訳ありません。そのようなお酒は取り扱っておりません・・・。」

「そうですか、それでは“キール”。“バーボン”や“ジン”、“ウォッカ”でも良いのですが?」

「・・・この店は居酒屋でもバーでもありません。残念ですが・・・」

「そうですか。知り合いの名前になったお酒なので飲んでみたかったのですが。」

「・・・」

「では先程の安室さんと言われたお方なら何処にあるか知ってそうですね。“バーボン”も“ウーゾ”も。」

####アプローチ発見####

「あなたは一体・・・」

「さあ・・・」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『彼はこちらの話にうまく乗ってくれたみたいね。この手の情報は彼にとって一番知られてほしくない情報のはずよ。きっと秘密裏に接触してくる。二人っきりになるチャンスが巡ってくるまでゆっくり待ちましょうか。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あれ?どうしたんですか?加藤さん?」

「え!ああ、いえ、何も。」

「すみません。でしたらアイスコーヒーをもう一ついただけますか。」

「あ、アイスコーヒーですね。少々お待ちください。」

 

鎌掛けは十分。私は更に時間を潰すことにした。

カウンター内ではターゲットが持ってきたケーキ数種と、安室透が持ってきたと思われる和菓子数種を榎本梓が食べ比べをしていた。私はその目の前のカウンターに居たのもあり、時々会話に混ざりながら試食させてもらった。その際榎本梓を重点的に視界に収めておいた。ターゲットは幾分顔が険しかったが、それに気がついたのはこの場では私と安室透だけのようだった。最も安室透の方は私に対抗心のような嫉妬のような眼差しも稀に垣間見えたが。

そうこうしているうちにだいぶ時間が経っていたようだ。時間にして既に4時間は経とうとしている。外はもうすぐ日暮れである。私は席を立ちレジへ向かった。

 

「楽しかった。そろそろ帰ります。また来ようと思います。」

「はい!七郎さん!またぜひいらしてください!」

「はい。是非とも。」

 

七郎とは私が名前を尋ねられた時に出した偽名である。どう考えても日本人にしか思えない名前だが、榎本梓は別段不思議には思っていないようだった。ハーフか帰化人と思われたのだろうか。

レジでは安室透が待機していた。その表情はすでに作り笑いと素人でも見抜けそうなくらいの引きつった営業スマイルだった。

 

カチャカチャチーン

「100万円です。」

「・・・えっと?」

「安室さん!だめですよ!ボッタクリで炎上しちゃいます!」

「冗談ですよ。1230円になります。」

 

目が明らかに冗談ではなかったが。

アリガトウゴザイマシター

 

 

 

 

私は店を出るとゆっくり歩きだした。後ろで安室透が榎本梓に向かってだろう、「ああいう男には注意してください!」とかいろいろ忠告しているのが聞こえた。私はそのまま店のすぐ横の路地裏に入った。路地裏は狭く、人がすれ違うのがやっとという広さである。既に日が傾いているのもあり、薄暗く表通りに比べて全く人気がない。私は路地裏をゆっくりと進み続け、店のあった区画がそろそろ終わるというところだった。

 

「まて。」

 

後ろから呼び止めたのは黒っぽいセーターと黒っぽいズボンにニット帽、サングラスをかけた男だった。格好は全く違うが声色からターゲットであることだけはわかった。

 

「なんでしょう?」

「お前。ジンに何を言われた。何が目的だ。」

「はて、ジン・・・ですか。お酒ですか?」

「とぼけるな。先程の店での会話。何も知らないわけではあるまい。」

「私は何も知りませんよ。」

「榎本梓を狙っているのか。」

「狙うとは?私は一応妻子持ちなのでね。」

「彼女だけはやめてくれ。彼女は・・・私が初めて守りたいと思った人なんだ。」

「・・・」

「彼女を見逃してくれるなら何でもする。組織にも戻るし従う。だから彼女だけは見逃してくれ。」

「・・・わかった。」

 

そう言うと私は背を向ける。ターゲットはそれを了承と取ったのだろう。踵を返して、店の方向に戻ろうとした。私はその瞬間、ワイヤーを取り出し彼に一気に近づいた。

 

「!!!」

 

彼はとっさに反応して避けつつ反撃のジャブを放った。ボクシングの心得があるらしい。しかし私もICAの訓練施設以前から近接格闘術は得意分野の1つであったので、それを瞬時に躱し、逆に顎に掌底を食らわせる。

 

「がっっ!!」

 

掌底により彼の顔は顎と一緒に一気に上を向いた。その瞬間にワイヤーを首に巻きつけて一気に引いた。

 

「がっぐあ・・・」

「“何でも”と言ったな。ならばその命を貰い受けることにする。もう一つ言うならば榎本梓に意味深な視線を送っただけでこうも簡単に来てくれるとは思わなかった。」

「グッ・・・クッソ・・・」

 

榎本梓に重点的に視線を送っておいて正解だった。嫉妬なのか保護欲なのかはわからないが少なくともおびき寄せる材料としては最適だったようだ。

彼は話した後も少しの間もがいていたが、次第に動きはなくなっていき、ついには一切動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『ターゲットダウン。見事な手際だったわ。そこから脱出して。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

動かなくなったターゲットをそのまま引きずり、路地裏の更に奥まった路地に連れ込み、そこに置かれていた大きめの箱の中に押し込んだ。戦闘により多少乱れた服を整わせながら路地を出る。

 

 

 

シュ パシン!

 

突然元の路地から拳が飛んできた。私は既の所でそれを防ぎ切る。

 

「加藤…いや、ウーゾに何をした。」

 

安室透、“バーボン”である。彼はどうやら私と話した後のターゲットの様子がおかしくなり、更に私が店を出た後にすぐにその後を追ったことに疑問を持ったらしく追いかけてきたようだ。

 

「話す必要があるのか?」

「事と次第によっては・・・ね!」

 

シュ!シュ!パシン!パシン!

 

彼の腕前もなかなかだ。加藤は情報斥候だったのもあって体術はそこまでという感じではあったがこちらはまさに実働部隊。並の体術ではなく、私も防ぎ切るのが精一杯と言ったところである。

 

「彼に、何をした!何処へ、やった!言え!」

「私が、言う必要があると、考えれば、言うかも、知れないな。」

シュ!シュ!パシン!パシン!

「ならば、吐かせてみせる!」

「そうか、それは良いが、いいのか?榎本梓は。」

「なに!?」

ゴッ

「ぐあ!」

 

あの店の店員は皆榎本梓を慕っているようだ。彼女の名前を出しただけで隙ができるとは。その隙を見逃さず彼の腹にほぼ全力の蹴りを食らわした。彼は前のめりに倒れかけるがリカバリーしようと無理に身を起こしながら拳を出してくる。しかしダメージはそれなりにあるようで拳に全くキレがなく、容易に避け背中にカウンターを食らわせた。彼はその衝撃に苦悩の表情を浮かべながら大きくよろける。私は更に回りこみ、首筋に手刀を食らわせた。

 

「がっ・・・」

「加藤はすぐそこの路地裏の箱だ。後処理は任せる。」

「ぐっ・・・」

 

ドサッ

 

彼は倒れ込み気絶した。私は彼を路地外から見られない位置に寝かせると、戦闘により乱れた衣服を整え直し、路地裏から出た。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~3日後~

 

 

「ほんとに大丈夫?安室さん。」

「ああ、コナンくん。大丈夫。これでも結構鍛えてるからね!」

「それにしても大変だったね。すぐ近くで殺人事件に巻き込まれるなんて。」

「ああ、本当に。ああ、梓さんには内緒だぞ。殺害されたのが同僚だと知ったら傷つくと思うからね。」

「加藤さんだっけ?殺されたの。目暮警部も小五郎のおじさんも証拠がなさすぎるって嘆いてたけど。同じ職場で働いてたなら聞きに来ると思うけど。」

「うん。そこは僕の方から手を回してかかわらないように・・・って、小五郎さんも関わってるのかい?梓さんに喋っちゃわないように釘を刺しておいてくれよ?」

「わかってるよ。それで実行犯の目星はついたの?」

「いや全く。同僚の中でも迷宮入りは確実とまで言われてる難事件になりそうだよ。」

「組織の仕業・・・」

「・・・わからない。上に問い合わせても詳細を教えてはくれなかったよ。」

「加藤さんも組織の人間だったの?」

「ああ、コードネームは“ウーゾ”。ギリシャのお酒だよ。情報斥候担当だったんだが、ここに赴任してきた理由も結局わからずじまいだったな。」

「もしかして僕か小五郎おじさんを・・・」

「それはないね。それだったら僕に指令が来るはずだから、わざわざ怪しまれる新顔を用意する必要がない。」

「じゃあ一体誰が何のために」

「君も相変わらずの詮索好きだね。」

「そりゃあ、下手したらこっちにも降りかかりそうな火の粉だし・・・」

「・・・僕はおそらく、組織が暗殺の指示を出したんだと思う。しかし実行したのは外部の業者だと思うな。」

「外部の業者?」

「ああ、アメリカにICAっていう組織があってね。非公式で存在すら怪しまれてる影の組織なんだけど、僕はそこのエージェントがやったと睨んでいるんだ。」

「じゃあジョディ先生に言って調べてもらうのは」

「だめだね。今回の事件の管轄は日本警察だし、それに僕が気がついたときには周りにも僕自身にも加藤さんの遺体にすら証拠になるようなものは何も残っていなかったから。」

「一体どういう組織なの?そのICAっていうのは。」

「政界、財界、芸能界、その他諸々の裏社会に通じる影の暗殺組織と聞いてるよ。それ以外は本部が何処なのか、何処で活動しているのか、表向きは何なのか、構成員はどのくらいなのか、一切わからないけどね。」

「そうなんだ・・・」

「ともかく言えるのは、これ以上この周辺では被害者は出ないということだけだね。警察の方も打つ手なしといった感じのようだし。」

「敵にはならない?」

「どうだろうね。彼らは金で動く傭兵集団みたいなものらしいから、自分たちがターゲットになりさえしなければってところだろう。君も気をつけたほうが良いぞ?」

「ぼ、僕は大丈夫だよ。小学生だし。」

「・・・噂によると工藤新一が失踪した真相も掴んでるらしいけどね。」

「・・・マジ?」

 

 

 

ミッションコンプリート

・「殺人の美学」   +3000 『ワイヤーでターゲットを暗殺する』

・「犯罪率の穴」   +2000 『誰にも見られることなくターゲットを暗殺する』

・「ポアロの用心棒」 +5000 『安室透と格闘戦をする』

・「コーヒーブレイク」+1000 『喫茶ポアロで3時間以上過ごす』

 

 




梓さんかわいい。なんか渋では炎上キャラになっちゃってるけどw


2019/06/17追記
炎上キャラなのは映画の影響だったようですね。この前の金ローで知りました。


次回はドームですよ!ドーム!


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HITMAN『偶像崇拝』

###注意###

原作に登場するキャラが死亡する描写があります。作品に思い入れが有る方はご注意ください。


『プリンセスドームへようこそ47。』

『今回は日本の首都圏郊外にある成武プリンセスドームが舞台よ。今日ここでは【アイドルフェスタ】という複数のアイドルグループ達によるライブが行われているの。業界最大手の765プロを始めとしたいろいろなプロダクションが参加しているわ。仕事じゃなければ私も行ってみたかったんだけれどね。』

『今回のターゲットはその数あるプロダクションの1つ、【961プロダクション】の社長、黒井崇男。彼は世間一般的には765と業界を二分する大手プロダクションの敏腕社長というイメージがあるけれど、その実態は所属アイドルを金儲けの駒にしか見ておらず、スタッフや場合によっては所属アイドル自身に違法スレスレの相手への妨害工作を行わせたり、気に入らない企業は正攻法ではM&A、場合によっては非合法な手段を用いて倒産に追い込むことすらあったとの報告よ。相当阿漕な商売をしているみたいで業界の評判はあまり良くはないけれどその企業規模から誰も逆らえないという状況ね。』

『依頼主はそんな961プロダクションに潰された企業の1つ。実はこの企業、CIAのダミー会社だったらしいんだけれど、それを気が付かずに961プロが倒産工作を掛けて潰したの。それも1度や2度ではなく3度も。日本国内で活動するには961プロダクションの弱体化もしくは破壊が必要と考えたCIAは“一番穏便な方法として”黒井社長の暗殺を依頼してきたってわけ。だから今回のクライアントはラングレーよ。少なくとも支払いは滞り無く行われるわね。』

『準備は一任するわ』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ガヤガヤガヤ

私は今、プリンセスドームで行われるライブの大道具班として潜入している。私を含めた大道具班はドーム内のグラウンド後方で大規模なステージセットを構築している。直ぐ側の棚の上にスパナが置いてあった。懐に忍ばせる。私は大道具班の制服を着用しているため、大抵のところには出入りが効く。まずは周囲の状況を確認するべきだろう。

今はちょうどステージの真裏、出演するアイドルが待機する待機所にいる。手狭だが簡易的な化粧道具や姿見、酸素スプレーやタオルなどが陳列されている。

 

「「おつかれさまでーす!」」

 

はじめにやって来たのは元気な少女たちだ。胸に大きく【765】の文字が書かれているところから見て765プロのアイドルだろう。アイドルの低年齢化は議論になっているらしいが少なくとも彼女たちは世間に受け入れられているようだ。気弱そうな男も後ろからついてくる。おそらくアレがプロデューサーだろう。

 

「「お疲れ様です。今日はよろしくおねがいします。」」

 

次にやって来たのはそれよりだいぶ年が上の女性たちだ。ロゴなどは何処にも書かれていないが先頭の緑髪の女性はテレビや町の広告などでよく見る。高垣楓といったか。ということは346プロダクションなのだろう。ふと見ると765プロのアイドルよりも幼い子も混じっていた。それにあの後ろを付き添う大男、目付きが鋭く同業者に見えなくもない風貌をしていた。

 

「「おつかれさまでーす。」」

 

次に来たのは服装がやたら黒っぽい女性たちだ。っと、彼女らの後ろに彼女らの存在を誇るかのように堂々と立っている背広の男が居た。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『彼が“黒井崇男”。大柄な男だけど年齢もそれなりに行ってるから体力はないはずよ。情報部が入手した写真では何故かいつも目元が暗く写っていないのだけれど顔は覚えられるかしら?』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

確かに彼の目元は光の加減なのか暗くなっており顔がはっきりとはわからない。が、黒の背広に紫のシャツに金のブレスレッドやネックレスの格好はアイドル達より目立ってると言えなくもない。人混みから探すのはそんなに難しくはないだろう。

961プロのアイドル達はステージ右側のテントへ入っていった。おそらくあのテントが楽屋なのだろう。

 

「お疲れ様です!!!今日はよろしくおねがいします!!!」

「おいおい、張り切り過ぎだぞもうちょっと抑えろ。ただでさえ愛は声がでかいんだから」ハハハ

「は!!すみませんでした!!!!」

 

次に来たのは小柄な女性グループだ。もっている荷物に【876】と描かれているので876プロダクションのアイドルだろう。とても元気な少女が先頭を歩いている。元気すぎてここから観客席の方まで声が届きそうなくらいの大音量で挨拶していった。・・・ん、最近のアイドルグループは女装した男性も参加するのだろうか。

 

「おつかれさまです!よろしくおねがいします!」

 

次は男性グループだ。やたら暑苦しい赤髪のリーダー格と思しき男性が握手とともに挨拶してくれた。そのまま彼はスタッフ一人ひとりと握手しながら挨拶して回っていた。あの手慣れた場捌きはアイドル以外にもなにかやっていたのだろうか。

 

 

 

それぞれのアイドルグループは別々のテントが割り振られているようだ。テントは全部で合計6つあり、315プロはかなり多くのグループが参加するということでテントは2つに分けられていた。ターゲットのいる961プロのテントが一番右側、そこから機材置き場を挟んで346プロ、765プロ、876プロ、また機材置き場を挟んで315プロと並んでいる。315は2つ連続だ。

346プロのテント近くの机にこのイベントの進行表が置いてあったので確認する。

####アプローチ発見####

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『進行表によれば961プロダクションの出番は1番目のようね。しかも一曲目から参加アイドル全員のデュオパフォーマンス。ステージ中は楽屋には誰も居なくなるんじゃないかしら。“ターゲット以外は”ね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

派手なイベントらしくターゲットは派手に退場してもらうことにしよう。進行表によれば961プロのステージは最後にでかい花火を放つらしい。とても大きな音だと思うのでその瞬間を狙うことにしよう。楽屋にはステージが確認できるモニタが備え付けられているのでおそらくそのモニタに釘付けだろうから工作もしやすいだろう。

と、楽屋からふとターゲットが出てきたと思いきや私の方に歩み寄ってきた。

 

「そこの君」

「はい、なんでしょう。」

「少し頼みたいことがあるんだ」

「何なりと申し付けてください」

「良い返事だ。実はな、765プロの楽屋に置かれる予定の酸素ボンベをすべてこちらに回してほしいのだ。」

「それですと765プロが使用する分の酸素ボンベが足りなくなる恐れがありますが?」

「それで良いのだ。ククク・・・あいつらがステージで醜態をさらすお膳立てとしては十分だろう!」

「よろしいのですか?」

「かまわん!この私が誰か知らないわけではあるまいな!口答えは許さん。わかったな!」

「わかりました。」

 

要求を言った後彼は楽屋へと戻っていった。どうやら765プロのアイドルを酸欠状態にして倒れさせるか酸欠にならないようにパフォーマンスを落とさせて客の期待を裏切らせる算段なのだろう。情報通りの工作好きのようだ。

私は酸素ボンベが保管されてる会場隅にある備蓄倉庫へ向かった。

 

備蓄倉庫には様々な物資が置かれていた。その中に酸素ボンベが入っているダンボール箱があった。箱はいくつかあり、側面には【961】【346】【765】【315】【876】と描かれていた。私はその中の【961】と【765】のなかの酸素ボンベの蓋をスパナで少しだけ漏れ出るように細工した。全部で20本以上あるため多少は時間かかったが問題なく全て細工し終えた。

細工した後、その2つの箱を台車に載せ、961プロの楽屋へ運んだ。楽屋はなにかの打ち合わせにでかけたのだろうか誰も居なかった。私は部屋の中を観察した。部屋には簡易的な椅子と机、姿見と化粧道具、そして彼女らの衣装があった。私はモニタの近くの壁際に酸素ボンベの入ったダンボール箱を置いた。楽屋を出ると入れ替わりのような形で961プロのアイドルとターゲットが戻ってきた。彼らは自分たちの楽屋から出てきたスタッフに怪訝な顔をしたがターゲットが何かしら話すと納得したようなしないような顔をしながら楽屋へ入っていった。

既にステージの向こう側では客が入り始めているらしく、段々と騒がしくなってきた。この喧騒ならスプレーが漏れ出ている音もかき消せるだろう。私はテントの裏側に回り込んだ。テントの裏側はいろいろな機材やコードが所狭しと並べられていた。私はそれらの機材をチェックするふりをしつつ時を待った。

 

 

 

しばらくして外のざわめきが一層大きくなった。ライブの始まりである。

 

“それでは皆様!各プロダクションが競い合って行うパフォーマンスを存分に堪能してくださいね!”

 

 

「よしお前ら!961プロの威光を存分に見せつけてこい!」

「「「はい!」」」

 

中で掛け声がした後、楽屋から961プロのアイドルが出ていくのが見える。アイドルたちはそのままステージ脇へと向かった。私はテントのすぐ裏の機材をチェックするふりをする。中からターゲットの独り言が聞こえる。

 

「ククク…私の偉業はとどまることを知らないのだ…ボンベはここにある。今頃765の慌てた姿が目に浮かぶようだ…」

 

 

 

~~♪

 

ステージが始まった。軽快な音楽と黄色い声援、地響きのようなその歓声などがドームに反響して木霊している。

私はテントの周囲を観察した。と、テントの目の前にスタッフが一人机で何かを書いていた。このままだと彼も巻き込まれてしまう。私は彼に近づいた。

 

「すみません、少しいいですか?」

「ん、なんだい?」

「315プロの方に酸素ボンベを追加で持ってきてほしいと頼まれたのですが、私は少しやらなければならないことがありまして代わりに行っていただけますか?」

「ああ、そういうことか。わかったすぐに持っていくよ。」

 

そういうと彼は備蓄倉庫の方へ走っていった。丁度そろそろ曲もクライマックスだ。私はテントから離れシルバーボーラーを取り出す。

 

~~~♪!!!

 

ドーンパシュボーン!!!

 

 

花火の音と同時にテントから透けて見えるモニタの光の少し下に向けてシルバーボーラーを撃った。弾丸はテントを貫通し、ボンベの詰まった箱に命中、ボンベはその衝撃で破裂し爆発、他のボンベも連鎖的に爆発し、テント内に充満していた酸素にも引火した。引火したことでさらに大きな爆発となり、テントは大きく吹き飛んだ。連鎖的な爆発は断続的な破裂音を引き起こしたが花火の連発に見事にかぶさってカモフラージュされた。遠くを歩いていたスタッフはその大きな音と衝撃と熱にパニックになりかけているがさすがプロフェッショナルだ。女性スタッフですらキャーキャー騒ぐということはなかった。数秒呆然と吹っ飛んだテントを見ていたがすぐに皆一様に状況確認を行おうと奔走し始めた。

テントの破片の内側には血なのか肉なのかわからないものがこびりついているのが見える。モニタの近くにおいたボンベが炸裂したため缶の部材が破片手榴弾のようにばらまかれたと推測される。その証拠にテントは無残にもいたるところでちぎれておりモニタの破片と思わしきものも大量に散乱していたため文字通り“ぐちゃぐちゃ”の状態だった。

私は何食わぬ顔でテントの表側に回り込み驚愕するスタッフに混じった。テントの破片の中に半分だけ原型をとどめている倒れたターゲットを視認できた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットダウン。見事だったわ。ライブは中止かも知れないけどね。さあ、そこから脱出して。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

状況を確認するふりをして私は飛び散った破片の中を観察した。数分探した結果、私がモニタに向かって撃った弾丸を隣のテントの近くで見つけた。961のテントから隣の346のテントまでは5~6mは離れていたにもかかわらずここまで飛ばされたことに爆発の大きさが伺える。私は弾を回収した。

 

観客も異変に気が付き始めた。進行役のスタッフが奔走しているため961のアイドルが捌けた後もいつまで経っても次のプログラムへ移らないためだ。最も裏はそれどころではないが。

私は奔走するスタッフに混じって外に出た。外は未だに喧騒とまではなっていないが、時期に騒がしくなるのは目に見えている。遠くから消防車のサイレンも聞こえてきた。私はそのまま裏門から徒歩で脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~1ヶ月後~

 

「今戻ったよ。」

「おかえりなさい社長、葬儀お疲れ様でした。」

「いやはやなんともね。親しかった友人の葬儀に出るのはまだ先だと思ってたんだが。」

「そうですね。いけ好かない感じでしたけどまさか亡くなってしまうとは・・・」

「うむ。ところで音無君は?」

「みんなのフォローに奔走してますよ。今度はケーキを作ってあげるんだ-って。」

「そうか。爆発事故で死者が、しかもそれなりに知ってる人物が被害者だからな・・・ショックも大きいだろう。」

「伊織なんかは『せいせいしたわ!』とか強がってましたけど若干震えてましたからね。」

「そういう律子くんは大丈夫なのかい?」

「はい、私も初めは沈んで仕事が手に付かない感じでしたけど、プロデューサー殿に元気づけていただきましたから。」

「そうか。彼なら今のアイドルたちもきっと癒やすことができるだろう。」

「ですね。では、私は仕事に戻ります!社長もいつまでもしょげてないでくださいね!」

「うむ。生きている私達がせねばならないことはまだまだたくさんあるからね。頑張ろう律子くん!」

「はい!」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「塞翁が馬」  +5000 『ターゲットに指示された行動を用いて事故に見せかけ暗殺する』

・「悪魔の声援」 +3000 『観客に気付かれないように暗殺する』

・「派手な演出」 +3000 『ターゲットを爆発で暗殺する』

・「私は技術者」 +1000 『大道具班の服装のまま全てをこなす』

 

 

 




申し訳ありません。艦これイベントやってたら遅くなってしまいました。
黒井社長はいろんな悪事に手を染めるあまりいろんな方面から怒りを買ってそうだなと思いました(小並感)


次回は別アプローチです。


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HITMAN『偶像崇拝』(もう一つの世界線)

HITMAN『偶像崇拝』の別アプローチです。

結局狙撃に頼るという・・・w Jaeger7が使いやすすぎるのがいけないんだ(暴論)
もうちょっとバリエーション付けたいなと感じる今日このごろ。



『プリンセスドームへようこそ47。』

『今回は日本の首都圏近郊にある成武プリンセスドーム。ここで行われるアイドルフェスタというイベントに参加するアイドル事務所、【961プロダクション】の社長、黒井崇男が今回のターゲットよ。いろいろ悪どい商売をやってきたツケが回ったのかその商売の過程でCIAに知らず知らずのうちに喧嘩を売ってしまったようでね。今回のクライアントはラングレーよ。』

『準備は一任するわ』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「楽しみ~!」

「私も!ねえねえ!推しは?」

「私はやっぱり~・・・天ヶ瀬冬馬くん!」

「やっぱりー。私は伊集院北斗くんかな!」

「あーわかるー!」

ワイワイガヤガヤ

 

 

私は今、アイドルフェスの会場であるドーム会場の入場口の列に並んでいる。無論入場するためではあるが、やたら熱気に満ちた男女の中にスーツの男が立っているのはなかなかに異様なのではないだろうかと少し不安になっている。しかしそういう層も一定数いるのか入場口では係員にチケットを見せると普通ににこやかに通してくれた。

 

今回、私はドームすぐ外側の休業中屋台の裏側に“Jaeger7”を設置してもらった。サプレッサーはそれなりに大型ではあるが完全に音を消せるほどのものではない。しかし、マズルフラッシュはほぼ完全に消してくれるので、音の方はアイドル達にご協力願おう。

 

外野席は侵入できないが、内野スタンドはそれなりに客が入っている。グラウンドはほぼ全面にアリーナ席が設けられており、外野グラウンドにステージが設営されている。バックネットすぐ後ろにはロイヤルシートと関係者席があった。今回のライブではバックスクリーンの大型ビジョンは使われないようで電源が入っていないようだ。

私は1塁側スタンドの後ろ側の席をとったが、席に座っておとなしくライブを楽しむことは出来ないだろう。現在時刻午後5時45分。ライブ開始は6時半からで、この時期は日が沈むのも早いため既に辺りは夕暮れで、すぐに電灯の灯りがなければ足元がおぼつかなくなるだろう。さらに言えばライブ中は場内の電灯も消灯され、ライブステージの明かりのみになるようなので私にとっては非常に好都合であると言える。

私は一旦、外周部の外の通路に出た。このドームはドーム内と外が繋がっており、屋外球場としての特徴も持っているようだ。と、おそらく物販ブース用の電源車と思わしきトラックのそばで係員が話しているのが見える。近くの物販ブースを遠目で眺めるふりをしつつ耳を傾ける。

 

 

「それで?あのお偉いさんのとこに酸素ボンベを持っていったのか?」

「ああ、961プロのトップだぜ?ただのライブスタッフであるオレに拒否権なんかねえよ。」

「そりゃそうだが、それで765プロの酸素ボンベはどうするつもりなんだよ?ライブ自体が失敗になるのは避けたいんだぞ?」

「あとで他のとこで余りそうな酸素ボンベを持っていってやるつもりさ。765のボンベを回せとは言われたが765にボンベを渡すなとは言われてないからな!」

「ははは!ちげえねえ。961プロの社長もいい加減に諦めたらいいのにな。」

「ほんとそれな。961プロの社長、酸素ボンベ移動し終えたこと伝えたらめっちゃ上機嫌になってたよ。ロイヤルシートのエリア入場パス持ってたから関係者席に座って一番見やすいところで失敗する様が見れると思ってんだろうな。」

####情報を発見####

「でもよ、ほかからの酸素ボンベが集められなかったら思惑通りになっちまうぞ?」

「ああ、だからそろそろ他の参加者のとこへ行って酸素ボンベ分けてもらう交渉しに行かねえとな。」

「大丈夫さ。ライブを成功させたいのはみんな一緒なんだから。なんだったら961プロのアイドルにも秘密裏に交渉してみるか?社長独断みたいだしな。」

「そりゃあいいや!・・・あ、でもちょっとその前にトイレだ・・・」

「何だよまたかよ!ったく、早く行ってこい!だからあれほど仕事前に冷たいものがぶ飲みするなって言ったのによ・・・。」

 

 

どうやらターゲットはライブが始まった後はバックネット裏の関係者席にてライブを鑑賞するようだ。その場から動かないのであればこれ以上にない絶好の狙撃機会になるだろう。問題はどこから狙撃するかであるが、ひとまずは今トイレに向かった男を追いかけることにする。

 

 

 

 

「ふー、あぶなかったな。っと紙紙・・・」

 

トイレでは既に用を足し終えた男が居た。私は他の個室に人が居ないことを確認した。ここは会場から離れている上に関係者しか入れない場所にあった。最も腰くらいの高さの作で区切られているだけな上、植え込みには柵はされてないので侵入は容易だった。私は隣の個室に入り、扉を少し開けた状態で待ち構える。

 

ジャー

 

男がトイレから出てきた。出入り口にある手洗い場に向かう。私はそこを後ろから首を絞めあげるようにして拘束する。十数秒抵抗していたが関節技も決まって男は気絶した。そのまま引きずり、先程出てきた個室に戻す。個室の鍵をかけ、男の服装を“借りる。”トイレの便器や荷物置きなどを足場に隣の個室に移り、私は何食わぬ顔でトイレから出て会場へ戻った。

 

 

 

 

 

現在時刻、6時15分。そろそろライブが始まるためか、外側にいる観客は少なくなってきた。代わりに関係者たちはてんてこ舞いだ。裏側はかなり慌ただしくなっている。その中に現場監督と思わしき男が居た、いろいろな方面に指示を飛ばしている。

 

 

「おい!機材のチェックは済んだのか!?マイクの用意は!メイク班にも急ぐように伝えろ!」

「チーフ!25番の機材はどこに置いておきましょう?外野席にでも置いておきますか?」

「あ?おお、そうだったそうだった。そうだな外野に置いておけ。誰にも見られないとこに置いておけよ。不要な機材がチラ見えしてたら雰囲気もへったくれもないからな!」

####アプローチ発見####

「わかりました!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『不要な物資はバックスクリーン近くの外野席に置かれてるみたいね。大きなステージセットのおかげでバックスクリーンは殆ど見えず、スタッフも忙しくて気にもとめてないわ。でもスクリーン上部には登れるようだから気づかれずに登るにはいいかも知れないわね。うまく行けば会場中が見渡せるわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は外周部の休止した屋台へ向かった。休止している理由は単純で関係者しか入れない領域にあるためだ。誰もフランクフルト片手に機材チェックはやらない。屋台には他にも空木箱が何個かおいてあり、そのうちのいくつかはJaeger7を入れるに十分な大きさがあった。

私は空き箱の一つにJaeger7を入れ、もう2つ空き箱を余分に持ってチーフと呼ばれていた男のところへ戻った。

 

「チーフ。空き箱があったのですが、外野席に置いておいてよろしいですか?」

「あ?なんだその箱。そんなもんあったっけな・・・。まあいい!今忙しいんだ!外野に適当においておけ!」

「わかりました。」

 

そのまま箱を持って外野席に入る。外野席の両側は本来外と繋がっており吹き抜けになっているはずだが、ライブ会場の光を漏らさないためか外の余計な光を入れないためかはたまた目隠しか、とにかくカーテンのようなビニール製の布がかけられており、外からは見えなくなっている。難なく侵入し、スクリーンの根元、観客席からもスタッフからも見えなくなっている死角に大量に機材が置かれている。その中に空き箱をおいた。その時、会場の照明が暗くなった。

 

ジャジャーン!ワーワー!

 

ライブが始まったようだ。私は箱からJaeger7を取り出し、直ぐ側にあったスクリーン上部に登る階段を登る。階段はスクリーンとステージセットに完全に隠れており、最上部に登るまで誰にも見られることはなかった。

####アプローチ完了####

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『よくやったわ。ライブは見れないけれど、仕事をする上では特等席ね。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

登ったところはスクリーンの右上角の裏側で、いろいろな制御装置が並んでいた。制御盤の上に乗り、スクリーンの上部から顔を出す。丁度ステージセットの最上段照明の裏側に位置しているようで、観客席からはおそらく逆光で見えない位置になる。私はJaeger7を構え、バックネット側の関係者席をスコープで覗く。関係者席は即席のテントのような形で、ステージ側以外からは中が見えないようになっているようだ。スコープで見渡したが、まだターゲットは来ていない。しばらくここで待機することにした。

 

ライブはどんどん進行する。最初の一組目のライブが終了したようだ。会場は割れんばかりの大歓声とアイドルの名前を叫ぶ黄色い声援と地響きのような拍手に包まれている。少し静まったかと思えばまた歓声が大きくなった。2組目のアイドルグループが登場したようだ。すると関係者席に動きがあった。私はスコープを覗く。一人の男が関係者席に入って来た。黒の背広に紫のシャツというなんとも悪役っぽい格好をしている。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがターゲットの黒井崇男。さあ、あなたが彼を栄光の王座から引き摺り下ろしてあげるのよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はスコープの倍率を弄る。距離にして約200m。狙撃としては短距離の部類だ。風はほぼ無風。ドーム内とは言え側面は吹き抜けになっているため心配していたがあまり影響は無さそうだ。照準を彼の額に合わせる。あとはステージのパフォーマンス用の花火や観客の歓声に合わせるだけだ。ターゲットは座って落ち着いてステージを見つめている。幸いにして彼の座っている席のテントには他の関係者の姿はなく、中にいるのは彼だけだ。

ステージで演奏されている曲のテンポが上がった。そろそろフィナーレだ。私は引き金に指をかける。こちらの仕事もフィナーレといこう。

 

 

 

ジャーン!ドォォパシュンォォン!!ワー!パチパチパチ!!

 

 

 

花火と同時に発射された弾丸はターゲットの額にほとんど誤差なく命中した。

芸能界の独裁者は死んだ。万雷の拍手の中で。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットダウン。いい仕事ぶりね。さあ、そこから脱出して。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

花火とともに射撃したおかげで発砲音はほぼ完全にかき消せた。ターゲットは撃たれた直後に後ろに倒れ込んだため、観客はおろかスタッフすら気がついていないようだ。更に見てみると彼の後ろのテントに“961”と書かれたロゴマークがあった。おそらくあの席はターゲット専用の席だったのかも知れない。

 

私は階段を再び降り、元の空き箱にJaeger7をしまうと、そのままその箱を持って裏から外に出た。箱を元の屋台に戻した後、再びトイレに向かった。トイレは会場から離れている。歓声や爆音はそれ程聞こえてこないため、最初のスタッフは未だに気絶していた。私は彼に服を着せると、元々自分が来ていたスーツを着た。

 

私はすぐにドーム前にある駅へ向かって歩き出したが、そこで周りからの妙な視線を感じた。考えてみればスーツ姿の大男がアイドルのライブに来てるのも十分異質にもかかわらず、そこからさらにライブも始まったばかりで帰るとなると不審に思われるのも仕方がない話である。不審に思われるのは良いことではないので私は踵を返してドームに戻る。不審に思われないようにライブが終わった後の雑踏に紛れて脱出するのが良いだろうという判断だ。決してライブが見たかったとかそういうことではないのはここに宣言しておくことにする。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~ライブ終了5分後~

 

「「お疲れ様ー!」」

「今回も大成功!だったね!お客さんもすっごい楽しんでくれたみたいだったし!」

「そうね。春香がソロ曲のときに歌詞ど忘れしかかったときはヒヤヒヤしたけれど。」

「もうー!千早ちゃん!それ内緒にしてっていったじゃないー!」

「そうは言うけれど春香。みんな知ってることよ?」

「え?!本当!?」

「そだねー。あのときのはるるんは誰が見ても焦ってたもんねー。」

「私も見ててドキドキしました~」

「私からすればあずささんもなかなかにヒヤヒヤなところはありましたけどね…二人共!あとでミーティングだからね!」

「あら~?」

「えぇ~そんなぁ~。」

ハハハハハ

「楽しそうじゃねえか。」

「君たちいつも賑やかだよねえ。」

「あ、鬼ヶ島羅刹!」

「違うよ亜美!ピピン板橋だっけ?」

「天 ヶ 瀬 冬 馬 !!!最初のは“ヶ”しか合ってねえし後のは文字数しか合ってねえじゃねえか!!」

「まあまあ、そのへんにしときなよ竜馬。」

「翔太?!お前もか!?」

「あはは・・・で、どうしたんですか?二人して765のテントに来るなんて。」

「ああ、それがね。クロちゃん見なかったかなって。玲音ちゃんと詩花ちゃんが探しててね。」

「黒井社長?いえ、見てないけど・・・961のテントには居ないの?」

「ああ。それでオレたち3人も手分けして探してたんだが・・・」

「冬馬が765のテントの周りでウロウロしてたのを見て僕がひと押しね。」

「ちょ、おま、なんで言う」

「でも765にもちょっかい出しに来てないってことはほんとどこで何やってんだろ・・・。とりあえず見かけたら連絡して。できればでいいからさ。」

「わかったわ。こっちでもいろいろ当たってみるけど、送迎のバスがもうすぐ来るからそれまでになっちゃうけどね。」

「助かるよ。じゃあ。お疲れ!」

「「お疲れ様でした!」」

 

 

 

 

・ミッションコンプリート

「笑顔が一番!」   +3000 『ターゲットを暗殺する。ライブが終わるまでアイドルに気が付かれてはいけない。』

「バーンウッドの代役」+1000 『ライブを最後まで見る。』

「バックホーム」   +2000 『バックスクリーンから関係者席にいるターゲットを狙撃する。』

「雲の上の存在」   +1000 『バックヤードでアイドルに見られてはいけない。変装も不可。』

 

 




ぶっちゃけて言うとアイマスは765と961と346しか知りません(暴露)


2019/06/17追記
後々扱いに困るアイマス世界ですw


次回はカントー地方へ向かいます。
多少ドンパチします。


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HITMAN『ポケットの中の暗殺者』

『ヤマブキシティにようこそ47。』

『あなたはポケットモンスターは知ってるかしら?ある特定の地域にのみ生息する生命体で、その殆どは私達がよく知る動物から派生または変質したものだと言われているわ。例えば鳩から派生した“ポッポ”、スズメバチから変質した“スピアー”等がそうね。今回来てもらったヤマブキシティはそんなポケットモンスター、通称ポケモンが最初に見つかった地域、“カントー地方”の中心都市。空高くそびえる摩天楼とコンクリートジャングル。この地方の経済の中心地よ。あなたにとっては久々かしら?こういう高層ビルが立ち並ぶ大都会は。』

 

『今回のターゲットは“ジャイス”と呼ばれているわ。本名も“ジャイス”よ。彼は名付けられる前に親から捨てられた元孤児。一度は施設に入ったみたいだけどすぐに脱走したみたいね。幼い頃から非常に頭が切れる子供だったみたいで数々の犯罪歴にまみれているわ。万引き、窃盗、空き巣、強盗、殺人。その殆どの罪から逃げおおせて今は16歳。今はこのヤマブキシティの地下カジノで働いてるみたいね。ポケモンを捕まえるための“モンスターボール”も盗んではポケモンを捕まえ手下として働かせてるみたいね。』

 

『今回の依頼は彼が強盗に入ったある大手銀行からの依頼。盗まれた数億ゴールドはもちろんだけど、それ以上に重要な各界の著名人の個人情報の入ったファイルを盗まれてしまったらしいの。それが盗まれたことが公になったせいで倒産寸前みたい。今回の依頼は盗んだジャイスへの報復としての暗殺よ。』

『ICA情報部は近々ジャイスがこの街で大きな強盗計画を企ててる情報をキャッチしたわ。今回は強盗メンバーの一員になってみるのはどうかしら?』

『準備は一任するわ』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

ガヤガヤパッパーブゥーン

私は今ヤマブキシティの中心街にいる。経済の中心というだけあって非常に人通りと交通量が多い。緑は公園以外にはほとんど無く、ニューヨークのタイムズスクエアを思い起こさせる高層ビル群ときらびやかなネオンが目を引く。

今回私は銀行強盗に参加しその過程で警官に射殺されたと見せかけてターゲットを殺害するというプランを立てた。そのために情報部には路地裏の廃ビルに“TAC-4AR”を配置してもらった。精度威力ともに申し分ないアサルトライフルだ。ポケモンを今から育てるわけにはいかないのでコイツに頼ることになるだろう。

ターゲットは強盗メンバーを探しているらしく、私は裏社会のまとめ役に推薦された用心棒というわけだ。情報ではあと2名ほど人員を雇ったらしい。ちなみに“裏社会のまとめ役”はCIAとICAが合同で築き上げたこの地方の暗部だ。ポケモンを使ったもう少し穏便な悪事はさらなる下部組織である方面組織に委任されているらしい。この地方では“ロケット団”とか言ったか。

 

私は中心街から路地へ入った。一本路地へ入っただけで閑散として軽犯罪が多発しそうな雰囲気になるのはどの国でも同じだ。路地中腹まで進むと1つの廃ビルが目の前に現れた。4階建てでガラスは割れ複数ある入り口は一つを除いて木板で封鎖されているいかにもな廃ビルだ。私はその封鎖されていない鉄製扉を押して中に入った。

 

「遅かったじゃねえか。お前が例の“用心棒”か?」

「ああ。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがジャイス。この当たりのごろつきの中でも一番危険だと噂されてる少年。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

廃ビルに入ると高所に陣取ったジャイスが居た。犯罪者というものは高いところが好きなのも万国共通だ。高所は相手を威嚇するのには有効だが、目立ちすぎてしまい敵から狙われやすくなるというのにもかかわらず。

 

「あと二人来る予定なんだ。それまで待っててくれ。大丈夫、すぐに来るさ。」

「わかった。」

 

その言葉通り、それから数分した後入口のドアが再び開いた。

 

「待たせたわね」

「・・・」

「お、やっと来たな。じゃあ仕事に取り掛かる前にお互いの自己紹介と仕事内容の説明だな。オレの名はジャイス。仕事中は“J”って呼んでくれ。じゃあ次はお前だ。」

「私はフォード、仕事中は“F”とでも呼んでくれ。」

「あたしはブルー、私は“B”でいいわ。」

「シルバー。“S”でいい。」

「よし。自己紹介は終わったな。じゃあ仕事の説明に入ろう。店に入ったらオレのリザードが“えんまく”を張る。きっと店内は騒ぎになるだろうからその隙にS、防火シャッターをおろせ。ボタンは入り口のすぐ右側の柱についてる。」

「・・・」コクン

「そしたらB、おまえのプリンの“うたう”で店内にいる奴らを眠らせろ。」

「わかったわ。」

「そこまで警報を鳴らされなかったら大成功。鳴らされても慌てるなよ?防火シャッターさえおろしてしまえば警察はなかなか中には入れないはずだ。そこまで行ったらSとBはオレと一緒に奥の金庫室に来い。リザードの“かえんほうしゃ”で扉を柔らかくしたあと、オレのニドキングの“とっしん”でぶち破る。そしたらコイツの中身を出して袋に詰めろ。」

「あら、これは?」

「札束と同じ厚さに作っておいた紙箱だ。コイツと大きめの袋がアタッシュケースの中に入ってるから中身の紙箱を袋に詰めた後、札束をアタッシュケースの中に詰めれるだけ詰めろ。袋に箱移してる間にニドキングが細かい金庫をぶっ壊してるからよ。」

「何のためにこんな箱を袋に詰めなきゃならないの?普通に袋に札束詰めたほうが良くない?」

「まあまて、アタッシュケースに札束詰め終わったあとはSとBは箱を詰めた方の袋を持って屋上からプリンとヤミカラスで袋を持って飛んで逃げろ。つまりは陽動だな。」

「なるほど、陽動のための袋と箱ってわけね。」

「おまえらが飛び立つのを確認したらオレとFは建設中の地下道を通ってアタッシュケースを逃走用に用意したバンに運んで逃げる。お互い逃げたあとは警察を巻きつつ16番道路にある小屋で落ち合おう。」

「わかったわ。」

「F、お前はポケモン持ってないが銃の腕前はあるという触れ込みだからな。俺らが金庫を漁ってる間に警察が来たときの対処要因だ。」

「わかった。全力で食い止めてみせよう。」

「逃走の準備が整ったら再度リザードのえんまくで撹乱したあと屋上と地下道で逃げるからそれまで耐えろよ。そういやお前、肝心の銃は何処だ?」

「この建物のすぐ近くの建物に用意している。今すぐでも取ってこられる。」

「ああ、そうか。まあ突入用の車を今持ってくるから、それまでに用意しとけよ。」

「わかった。」

「よし、じゃあ何か質問はないか?・・・なにもないな!じゃあ諸君、この仕事が成功すればざっと4億ゴールドの収入が期待できる。オレは気前がいいから分け前は全員4分の1ずつってことで文句はねえな!じゃあ仕事に取り掛かろう!」

 

 

 

 

私は廃ビルの隣りにある倉庫に向かい、TAC-4ARを取ってきた。車が来るまで銃の整備をしていると“B”が話しかけてきた。

 

「今回はよろしくね。かっこいい用心棒さん。」

「ああ。」

「そっけない返事。もっと愛想よくしたら女の子にモテると思うわよ?」

「残念ながら愛想良く振る舞うのは苦手なんだ。」

「ふーん、まあいいや。あ、シルバー…じゃなかったSは私の弟みたいな存在なの。よかったら仲良くしてやってね。これからもこういう仕事柄顔を合わせることありそうだし。」

「実の弟というわけではないのか。」

「んー・・・まあいろいろとね。こう見えても結構危ない橋を渡ってきたのよ?私達。警察に追いかけられることもしょっちゅうだったし。」

「その歳でか。何があったかを詮索する気はないが早めにまっとうな職に就いたほうが良いと思う。」

「それは・・・お説教?」

「忠告だ。こういうことを続けていると私みたいになるぞ、というな。」

「うーん、まあ私達もこのままでいいとは思ってないけどね。ご忠告どうも。っと、車、来たみたいよ。」

「そのようだ。」

 

外には黒いセダン車が止まっていた。私達は身バレ防止の為のマスクなり仮面なりを身に着け車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「リザード!えんまく!」

「ガアッ!」プシュー

キャーキャーバリンピーピー

 

ここはヤマブキシティで一番大きな銀行。ヤマブキ・シティ銀行だ。Citiグループ系列なのだろうか。Bがプリンで眠らせる前にJが演説を行うようだ。

 

 

「お前らよく聞け!これ以上騒いだり変な気を起こそうとするやつは容赦なくあの世に送ってやる!おとなしくしてれば五体満足で家に帰れるんだ!お前らの預けてる金も政府が保証してくれる!勇者気取りな行動は慎むことだな!B!」

「ぷりり!うたう!」

 

プ-プププープリー

 

 

 

「ほほう!流石だな。オレらだけ対象から除外するとは。なかなか高度なことをしやがる。」

 

なるほど強制的に眠らせる技か。しかも従業員と客は眠らせながら我々は眠くなっていないところから高練度になると対象をある程度選べるようだ。

 

「よし!S!B!金庫室へ向かうぞ!F!ここを任せた!」

「わかった。」

 

三人が店の奥へかけていった。と、シャッターの向こう側がにわかに騒がしくなってきた。どうやら警察勢力のお出ましのようだ。

 

「強盗団に告ぐ!直ちに武器とポケモンを手放し投降しなさい!あなた達は完全に包囲されています!」

 

何処の世界でも通用するテンプレートだ。あのセリフで実際に投降した犯人がいるのか一度調べてみたくはある。私は急いで眠った客と従業員をカウンター内へ引きずり、カウンターの内側で待ち構えることにする。

どうやら警察もあの呼びかけで投降するとは微塵も思っていなかったらしく、そうそうに呼びかけは止められた。店内に設置してある外が見える監視カメラ映像によると、犬のようなポケモン、ガーディと言ったか、が数体並んでいる。

 

「ガーディ!かえんほうしゃ!」

「ガウッ!」

 

ボボボボボボ

 

いくら防火シャッターとは言え高温の炎にさらされ続ければいずれ融解する。そしてそれが3~4体による一斉放射ともなればそうそう時間はかからなかった。

 

 

ガシャーン!

とうとうシャッターが壊された。警官隊と警察犬代わりのガーディが突入しようとする。私は壊れる瞬間にスタングレネードを投げた。

 

バァン!キーン!

「きゃあ!」

「バウッ!」

 

スタングレネードで警官隊はひるんだ。私は基本的に無益な殺戮は好まない。警官隊が止めてある車両の裏に逃げおおせる時間も考慮しつつライフルの引き金を引いた。

 

 

 

ダダダダダダダダ!!!!

「うわ!相手は銃を所持しているぞ!」

「引け!一旦引け!」

 

 

ダダダダキン!キン!キン!

放たれる弾丸はポケモンたちにも容赦なく襲いかかる。しかし持ち前のフットワークの軽さでなんとか避けきっているように見える。相手の退却に合わせ照準を遠目にしていく。弾丸はたちまち止めてあったパトカーの側面ガラスやタイヤ、車体を蜂の巣に変えていった。

 

「お、応援!応援を呼ぼう!」

「そ、そうだな!・・・ギャ!」

「お、おい!あわわ…シンドウがやられた!」

 

応援は流石に呼ばれると面倒なことになる。ここからでは応援を呼ぼうとしている警官は見えても無線機は見えなかった。残念だが彼は今回の事件の犠牲者第一号だ。ガラス越しにきれいにヘッドショットが決まり、おそらく生きては居ないだろう。

 

「この野郎!シンドウの敵を討て!」

「ガーディ!かえんほうしゃ!手当たり次第!」

「ガウガウ!」

 

ダンダンダン! ボォォォ!!

 

仲間を殺されてヤケになったのかブチ切れたのか。人質など居ないかのように手当たり次第に撃ちまくり燃やしまくり銀行をたちまち廃墟に変えていく警官たち。こちらも適時応戦することになった。一人また一人とそれなりに狙いを定めているヘッドショットが決まり倒れていく。火炎放射を放っているポケモンにも容赦のない銃撃を加える。そうしなければこちらが蒸し焼きになってしまいそうだ。

 

「おい、大丈夫かF、助太刀するぜ!」

「ありがたい。頼むJ。」

「ニドキング!はかいこうせん!」

「ガアアア!」

 

もう場はメチャクチャである。ガーディの火炎放射が店の外観を溶かし、ニドキングの破壊光線でパトカーは吹っ飛び。私の銃撃で向かいの店舗も穴だらけだ。しばらくそんな応酬を続けていると奥からBがやって来た。

 

「OK!全部詰め終わったよ!撤収しよう!」

「よし。B!お前ゼニガメ持ってたよな!みずでっぽうを彼奴等の炎に噴射しろ!」

「ええ?!でも威力的にかなわないよ?!」

「いいんだよ、水蒸気を作れれば何でもいい、煙で何も見えなくなるだろ。」

「わかったわ。お願いカメちゃん!みずでっぽう!」

「ゼニ!」

 

プシュウウウウウウ

 

たちまち廃墟になった通りに水蒸気の煙が立ち込める。ついでにと私もスモークグレネードを投げ込んでおく。

 

「よし!リザード!お前もえんまくだ!」

「ガウッ!」プシュー

「これだけ撹乱しとけばしばらくは大丈夫だろ。B!Sを連れて屋上から脱出しろ!」

「わかったわ!もうSは向かってる。あなた達も気をつけてね!合流地点で会いましょ!」

「F!俺らも行くぞ!」

「わかった・・・っと。」

 

カランカラン…バァァン!!グワー!

 

置き土産に手榴弾も投げておいた。これでしばらくはこれまい。

私は店の奥にあったアタッシュケース4個のうち2個をひっつかみ、店の一番奥にある地下通路へのトンネルへ入った。

 

 

 

トンネル内部は入り組んではいるが、基本的に明かりが付いている方に進めばいいらしく、迷うことはなかった。5分ほど走るとマンホールの蓋が開いているはしごがあった。

 

「そこがゴールだ!早く上がれ!」

 

後ろからJが急かす。アタッシュケース2つを持ちながらはしごを登るのはそれなりな難易度ではあったが無事に地下から脱出した。すぐ近くに白のバンが側面扉を開けたまま止めてあった。その中にアタッシュケースを放り込む。

 

「くっそ!重えなこれ!おい!F!手伝ってくれ!」

「わかった。」

 

アタッシュケースをはしご下から手渡されそれをバンに放り込む。

2つ放り込み、あとは“ターゲットのみ”だ。

 

「よし!これでおれたちは億万長者だ!」

「ああ、だがお前を除いてだがな。」

「えっ?」

 

パシュン

 

手を掴み、引き上げ手繰り寄せたところにターゲットの心臓にシルバーボーラーを押し当て躊躇なく引き金を引いた。弾丸はいともたやすく貫通。そのまま手を離し、何があったかわからないという表情のままターゲットは地下通路へ転落していった。

 

ドサッ

 

 

「Da questo mondo andiam a mani vuote.だ。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。お見事ね。そのお金は好きにしていいわ。そこから脱出しましょう。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はバンの扉を閉め、16番道路へ向かった。

 

 

 

 

 

「遅かったわねF。あれ?Jは?」

「・・・?」

「Jは警官に撃たれた。心臓を撃たれていたようだったので助からない。彼もそれがわかっていたらしく私だけ逃げるようにと。」

「そう・・・。それじゃあ今頃は・・・。」

「ああ、あの世に旅立ってるだろう。警官に囲まれながらな。」

「そっか・・・。」

「それで。金は?」

「ここにある。」

 

初めてSが喋ったのを聞いた気がする。私はバンの後部扉をあけて中のアタッシュケースを外に出した。そのまま近くの簡易的なベンチに置き開ける。中には乱雑ではあるがびっしりと札束が入っていた。

 

「まあ金は手に入ったんだし。Jは残念だったけどとりあえず山分けね!」

「そのことなんだが、君たち二人にはしばらくこの金を持っていてほしい。」

「え?どうして?」

「・・・?」

「このバンは警察に見られた可能性もある。このバンを私はこれから処分してくる。それまで金は預ける。1週間経っても音沙汰がなかったら金は二人で分けてもらって構わない。」

「・・・わかったわ。じゃあ私達はこの金を持ってとりあえずトキワシティに行くわ。連絡はそこでね。」

「ああ、わかった。」

 

私はバンに乗り込み二人が見送る中その場を後にし、そのままクチバシティのICAセーフハウスへ向かった。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~1週間後~

 

 

「今日で1週間。結局音沙汰ないじゃないの!」

「ということはこの金は二人で山分けすることになるのか?」

「そういうことね!やったあ!思わぬ臨時収入ね!何に使おうかしら…新しい服も買いたいし…あ、この量があれば新しい隠れ家も買えちゃうかも!」

「ねえさん。」

「え?なに?どうしたのシルバー。」

「この金は姉さんが全部持っていくんだ。」

「え!?どうして?」

「姉さんはこのお金でまっとうな人間に戻るんだ。」

「?!」

「オレはオレたちをこんなにしたマスクド・チルドレンを探る。そして復讐する。」

「ダメよ!一人じゃ危険だわ!私も…」

「それこそダメだ。姉さんはまだ真人間に戻れる。オレはどうやっても真人間にはなれない。だからお願いだ。姉さん。」

「そんなの・・・シルバーだって戻れるよ!一緒に暮らそう?ね?」

「姉さん・・・わかってくれ。」

「・・・」

「姉さん。」

「・・・わかったわ。そのかわり。ちゃんと連絡はしてよね。必ずよ?」

「わかってる。約束する。」

「1ヶ月に1回とかじゃ足りないんだからね!1週間に1回よ!もうそれこそ3日に1回でも!」

「わかってる。なるべく頻繁に連絡するさ。」

「・・・・・・・でも今日だけは一緒にいましょ?」

「そうだね。今日だけは。」

「私達の新しい旅が明日から始まるのね。」

「そうだよ。辛く厳しいかも知れないけど、それでもオレたちは前に進むんだ。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「シェレメーチエヴォ」 +3000 『強盗が成功したあとにターゲットを暗殺する』

・「公共の敵」      +2000 『警官を10人以上殺害する』

・「子供にはまだ早い」  +1000 『ブルーとシルバーに気づかれずにターゲットを暗殺する』

・「Kaboom!」     +1000 『手榴弾3種類をすべて使う』

 




前回を執筆してる段階から頭にあったものなので意外にスラスラとかけました。

もっとドンパチ派手にやるつもりでしたが文章だと如何せん擬音だらけになりそうなのでこのくらいで・・・w


次回は別アプローチです。もっと派手にいきます。


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HITMAN『ポケットの中の暗殺者』(もう一つの世界線)

『ポケットの中の暗殺者』の別アプローチ版です。

色々悩んだ末書き上げたら「あれ?ポケモン関係なくね?」な展開になってしまってどうしようかと思案したけれど、今更練り直すのもアレなので強行突破することに。

投稿作業して気がついたけど他の話の倍くらいの量になってるのに気がついた。
念の為ご注意を。どうりで疲労感があるわけだ。


『ヤマブキシティへようこそ47。』

『今回はポケットモンスター、通称ポケモンが初めて見つかった“カントー地方”の大都市ヤマブキシティを根城にする“ジャイス”という少年がターゲットよ。今までいろいろな恐喝窃盗殺人など様々な悪事を働いてきたらしいわ。』

『クライアントは彼に機密文書を盗まれて倒産の危機にある企業よ。それから今回は同時に倒産の危機に瀕した時に助けてくれなかった“ヤマブキ・シティ銀行”と少年一人捕まえられなかったヤマブキシティ警察にも損害を与えてほしいとも依頼されてるわ。こちらはサブ目標として設定しておくわね。遂行するかどうかはあなたの判断に委ねることにします。』

『準備は一任するわ。』 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

ガヤガヤガヤ

私は今、ヤマブキシティの繁華街に来ている。情報によるとこの繁華街を抜けきった先にあるヤマブキ・シティ銀行にターゲットを含めた強盗団が押し入る可能性が高いことが情報部が教えてくれた。しかも今回はヤマブキシティ警察、そして強盗に入られる銀行自体にも少なからず制裁を加えてほしいというなんとも奇妙な依頼だ。完全な逆恨みではないかと思うが契約は契約だ。ともすればそれらが一堂に会する強盗発生の瞬間を狙うしか無いだろう。今回私は、ICA特製の設置式リモコン爆薬を持参した。

 

まずは周辺状況を確認することにする。ヤマブキ・シティ銀行はウォール街とも取れる金融街の一角に店舗兼本社を構えている。ビルの高さはかなり高く、シルフカンパニー本社ビル、ヤマブキショッピングモールについで3番目に大きな建物だ。情報によると建物は鉄筋コンクリート造の50階建て。もっともシルフカンパニー本社ビルが100階建て、ヤマブキショッピングモールはトレーニングジムやBAR、高級マンション等が併設されて80階建てなのでそれらと比べるといささか小ぶりに見えてしまう。さらに言えばすぐ道路の向かいに新しくビルが建設中であり、完成すれば120階建ての超高層ビルになる予定らしい。現在は40階ほどしか出来ておらず、最上部にはタワークレーンがせわしなく動いている。

 

道幅はかなり広く、片側3車線歩道と中央分離帯付きの大通りで、乗用車・トラック・バスなどかなりの交通量がある。店の外観もとても重厚でニューヨークの連邦準備銀行を思い起こさせる。

私はこの状況を見てあるプランを思いついた。だがそれは今まで私がやって来たどの暗殺よりも大きな被害を出し、多くの人命を殺傷することにはなるだろうが、主要目標であるターゲットの暗殺とサブ目標を同時に達成できるであろうプランだ。任務の達成は最優先だ。条件が整えばこのプランで行くことにする。

 

私はプランを遂行するべく準備に取り掛かった。まずは必要な車両の調達と必要な服装の調達だ。私は銀行向かいにある工事現場の脇の路地へ入った。路地裏は日も当たらず電灯もないようなので昼間でも薄暗かった。工事現場が終わりかける地点のビルの根元の裏口階段でこの街を縄張りにしていると思われるゴロツキが居た。何かを話しているようだ。私は気が付かれないようにそっと近づき聞き耳を立てる。

 

「しっかしよう、参加しなくてよかったのかなぁ?うまくすればこんな生活しないでタマムシかクチバに別荘建てられるくらいの収入は期待できたのに。」

「バッカ、ヤマブキ・シティ銀行だぞ?ちょっとでも身バレしたら永遠に全世界のお尋ね者だ。タマムシやクチバどころじゃねえ、グレンやハナダ岬、ジョウトやホウエンに行ってもお尋ね者になるのは間違いねえ。こんなとこでたむろすることすら出来やしなくなるんだぞ。」

「でもよおオレ、ジャイスに借りがあるんだよ…それで・・・その・・・引き受けちまったんだよ、用心棒役。」

「マジかよ!?じゃあ今度の“ドデカイ仕事”にも参加するのか?」

「するわけ無いだろ!オレポケモンバトルも強くねえし、銃なんか持ったことすらねえ。喧嘩も勝率5割がせいぜいだし、用心棒なんて務まるわけねえんだよ!」

「でもどうすんだよ。ジャイス怒らせたらただじゃすまねえぞ。間違いなくクチバの海に捨てられるか最近開通したリニアの全速力に突っ込まされるかハナダの洞窟に放り込まれるかのどれかだぞ?」

「そうなんだよ・・・あーあ!バックレて田舎に潜むかあ?でもあいつ執念深いからきっと追ってくるだろうしなあ・・・。」

「そうだな…あいつがそのドデカイ仕事で死んでくれれば話は早いんだがな・・・。」

####アプローチ発見####

「あいつが簡単にくたばるかよ。なあ、お前どうにかしてジャイスを何とかする方法とかねえのか?」

「オレが知るかよ!あったら俺もどうにかしてるさ!」

 

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『どうやらターゲットは町の悪人たちにも恐れられてるみたいね。彼はジャイスの仕事をすっぽかしたことによる報復を恐れてる。うまくすれば私達の計画に協力してくれるかも知れないわね?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私は隠れるのを止め、彼に近寄った。

 

「な、なんだおめえ!」

「今の話を聞かせてもらった。ジャイスを葬る手伝いをしてくれないか。」

「な、なんだとぉ?」

「誰なんだよお前は!」

「私が誰かよりもお前がジャイスの報復から身を守るすべが今目の前にいる不審な男にしかない現実を受け止めるべきだ。」

「ぐっ・・・」

「何も危険なことをしてもらうわけではない。少しだけ手伝ってくれたらそれでいい。」

「な、何をしろってんだよ。言っとくがこちとら警察とやり合うだけの力はねえぞ?」

「簡単なことだ。そこの工事現場から建設作業員の作業着と作業用エレベーターに乗るための鍵を調達してきてくれればいい。」

「何?それとジャイスが何の関係があるってんだよ?」

「それは君たちは知らなくて良いことだ。どうする?私の要求を聞きジャイスから逃れるか、はたまた地の果てまでジャイスに追いかけられながら余生を過ごすか。」

「・・・」

「・・・」

「・・・わかったよ。やりゃあいいんだろやりゃあ!」

「おい、お前!」

「どうせこのままグダっててもジャイスに殺されるだけだ。それに作業着と鍵盗んだくらいならサツに捕まってもせいぜい数ヶ月ムショに入るだけだ!」

「でもコイツがジャイスをやるのを失敗したら・・・。」

「失敗しても俺が何をした?工事現場の作業着盗んだだけだぜ?どのみち仕事すっぽかしたことには変わりねえんだから殺されるのは一緒だ。」

「・・・わかったよ!乗りかかった船だ、俺も協力する。お前のドガースじゃせいぜい煙幕貼って逃げることぐらいしか出来無さそうだしな!」

「恩に着るぜ兄弟。」

「話はついたか?」

「ああ、作業着とエレベーターの鍵だけでいいんだな?」

「ああ、それだけでいい。後はこちらでどうにかする。」

「わかった。受け渡しはどうすんだ?ここでいいのか?」

「ああ、ここでいい。できれば今すぐ取ってきてほしい。」

「今すぐだあ!?・・・まあいいか。オイ、お前のニューラの手助けが必要そうだぜ。」

「わかってらい。」

「じゃあ頼むぞ。1時間後、またここに来る。」

「あいよ。」

「せいぜいそっちがすっぽかさないことを祈るぜ。ジャイスを絶対なんとかしてくれよな!」

 

 

工事現場に入るための作業着をこれで調達する。彼らがしくじった場合は私自身でなんとかすればいい。彼らは手間を省くためだけのものだ。

私は路地裏を後にして銀行を横目に街道を進む。もう一つの必要な装備である車両を調達するためだ。しかしこちらは案外早く片が付きそうだ。かなり遠いが道沿いにその車両が置いてあるところを発見したのだ。ピッキングや車両を“借りる”際の手順なども把握しているのでその点は問題がないと言えるだろう。私はその場所に行き、目的の車両があることを確認すると、銀行へ戻り内部を観察することにした。

 

 

 

「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」

「金をおろしたいだけだ。」

「かしこまりました。ATMはあちらになります。」

「どうも。」

 

私は銀行内部に入る。銀行のカウンター内では流石にポケモン発祥の地らしく複数の種類のポケモンが荷物運び書類運びお茶くみなどの仕事を行っている。あのポケモンは以前ポケモンセンターという施設でも見たが何故腹に卵を抱えているのだろうか?

怪しまれないためにもATMで適当に金を下ろす。ふと周りを横目で見ると客にもポケモンを連れてる人が多くいるのがわかる。この銀行を制圧するのは至難の業だと思うが果たしてどうするつもりなのか。監視カメラは見たところ10台以上、入口付近にシャッターのスイッチ。カウンター内にはお約束の通報装置などがあるのだろう。店内も広く、死角が多い。少人数では客や警備員に体制を建て直され制圧は難しいだろう。奥の扉に入る行員の奥にちらっと見えた金属製の格子の扉と丸型の金庫扉。典型的な銀行の金庫だ。

私はそろそろ先程指定した時間になるのに気が付き、銀行を出た。道路を渡り、工事現場の路地裏に戻る。

 

 

「遅かったな。こっちはバッチリだぜ。」

「ご苦労だった。これはこの仕事に対する報酬だ。」

そう言うと私はさきほどおろした金を手渡す。

「お、何だやっぱあるんじゃねえか報酬!」

「だから言ったろ?こんな強面のいかにも仕事人ってやつが報酬の1つも用意しないで頼み事なんてするわけはないんだよ。」

「ああ、お前の言ったとおりだったぜ。じゃあこれが頼まれた作業着と鍵だ。鍵は2本あってな。赤いほうで電源を入れて、黄色いほうでエレベーターを動かすんだ。」

「わかった。ご苦労だった。使用法の情報まで仕入れてくれた礼に一つ教えてやろう。早めにこの周辺から離れたほうがいい。もうすぐ“ドデカイ仕事”が始まるからな。」

「お、おう。わかったぜ。やっぱ実行は今日だったってわけか。こりゃ見られる前にさっさとトンズラだ。出てこいオニドリル!」グワー!

「じゃあな!ジャイスのこと頼んだぜ!」

####アプローチ完了####

 

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『うまく利用できたわね。建設現場には気絶した作業員を隠す場所もないでしょうから好都合だったわ。』

 

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彼らはそういうと出したポケモンに乗ってどこかへ飛び去っていった。

私は作業着に着替えると早速工事現場へ侵入した。

 

工事現場では依然として作業員がせわしなく働いている。ビルの建屋以外の敷地は緑地帯にでもするのかスペースが有った。私は資材の間を縫うようにして目立たずにエレベーターに近づいた。

エレベーターは常に作業員が乗っているわけではなく、用があるときにはその都度用のある人が動かす事になっているようだ。私はエレベーターに乗り、情報の通りまず赤色の鍵を【電源】と書かれた鍵穴に差し込みまわす。発動機が動き始めた音がした後、今度は【昇降機】と書かれた鍵穴に差し込む。階を示すランプが点灯した。目指すは最上階だ。

 

 

最上階に到着した。最上階と言ってもまだ建設中ではあるが。ビルの道路側の端にタワークレーンがある。私はその根元に近づき、タワークレーンを支える鉄骨4本の内道路側の2本の根本に資材に隠れるようにリモコン爆薬を設置した。この爆薬は強力で、手のひら大の大きさの厚さ3センチの容器に特製のプラスチック爆薬が大量に詰め込まれている。鉄骨を吹き飛ばすくらいは容易なはずだ。

設置作業も作業員の服装のおかげで特に怪しまれること無く終わった。私は速やかにエレベーターに戻り、下に降りた。余談だがこの建設現場でもポケモンは多用されており、資料に名前の会った“カイリキー”や“ワンリキー”などが多く居た印象だ。相変わらずどストレートなネーミングだが誰が名付けたのだろうか?

下準備が終わり、私はいつものスーツに着替え直し、路地裏で実行の時を待った。

 

 

 

 

 

しばらくして銀行の前に一台のセダンが止まった。中から現れたのは仮面をかぶった3人組。一人は女性のようだ。そのうちの一人は身体的特徴がターゲットの情報と見事に合致した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがジャイス。衛星のスキャンでも確認したわ。本人に間違いない。さあ仕事の時間よ。派手にお見送りしてあげましょうか。』

 

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ジリリリリリ!!

彼らが中に入るとすぐにけたたましい警報音が鳴り響いた。すぐに正面扉のシャッターが降りる。しかし既に警報は鳴り響いているため足止め程度にしか使えないだろう。内部は煙幕でも炊いたのだろうか、黒い煙が立ち込めて窓からは中がよく見えない。そのうちその窓にもシャッターが閉められ完全に中は見えなくなった。

 

遠くから警察車両特有のサイレンが聞こえてきた。警報装置により通報が行ったのだろう。町一番、もしかしたら地域一番の大銀行とあってかなり大量にパトカーが動員されているようだ。私は速やかに行動を開始した。

 

 

パトカーとすれ違い、私は道沿いの一軒の“ガソリンスタンド”へ入った。この世界は個人の移動は基本的にポケモンに頼ることが多いようだが、物流や大人数の移動には車やトラックが使われている。またポケモンを持っていない人も多くいるらしい。そういう人々のためにもガソリンスタンドはこの世界でも重要な場所だ。私はガソリンスタンド内に停めてある“タンクローリー”にから今まさに積まれている大量のガソリンをタンクに移そうとしている作業員を発見した。

私は作業員に背後から近づき、首を絞めて気絶させた。幸いにして作業員のいた場所はビルの壁面とタンクローリーの間だったため見られることはなかった。そのまま作業員は其の場に放置し、私はタンクローリーに乗った。さあ、ショータイムだ。

 

このタンクローリーはそれなりに大型であり、作業員を気絶させた時に見た表記によると6つの燃料部屋におよそ総量50キロリットルのガソリンが入っているらしい。私はタンクローリーを運転し、銀行を目指す。銀行から数百mの地点には既に警察によりバリケードがはられている。そのせいかバリケード前には十台前後の車が渋滞していた。銀行にはシャッターを破るためだろうか、ポケモン数匹による火炎放射が行われていた。私はアクセルを全開にし、対向車線に無理矢理分離帯を乗り越え侵入、バリケードの警察官が必死になって止めようとしているが、燃料満載のタンクローリーが時速80キロで突っ込んでくればポケモンでも止めることは難しいだろう。私はそのまま銀行の前にタンクローリーを突っ込ませる。銀行前の警官隊もこちらの存在に気がついたようだ。慌てた様子でその場から離れようとする。私は銀行手前100mほどで運転席から飛び出し、歩道へ転がるように着地した。制御を失ったタンクローリーは中央分離帯を再度乗り越えその拍子に横転、横転したタンク部分を慣性でパトカー数台にぶち当たりつつそのまま銀行に突っ込ませた。

 

ガガガガドカーン!

 

銀行正面は既にポケモンによる火炎放射でところどころに火がついており、燃料層の1つが破損し漏れ出たガソリンに引火、爆発した。周辺に居た数名の警官を巻き込んだ爆発はその銀行の正面玄関を完全に炎で覆い尽くした。警官たちは茫然自失状態になっている。私はすぐさま近くの路地裏に避難し、爆弾のスイッチを押した。

 

ボーン!ガガガガガ…

上で爆発音が響き、何か金属がきしむような音がしている。タワークレーンだ。タワークレーンは4本の鉄骨の内2本が爆発で吹っ飛んだおかげで吹っ飛んだ鉄骨の方へゆっくりと傾き始めた。数十トンあるタワークレーンが傾き倒れ始めたらもう止められるものは誰も居ない。そのまま道路側へ倒れたタワークレーンはクレーン部分を向かいのビル。つまりヤマブキ・シティ銀行の社屋にぶち当てながら凄まじい音を立てつつ瓦礫とともに炎上中のタンクローリーに降り注ぎ、そして

 

 

 

ドカーーーーーーン!!!

 

 

 

おそらく他の複数ある燃料庫全てに引火したのだろう。凄まじい爆発音と衝撃、そして100m以上離れたこの路地にすら届く凄まじい熱風を放ち、周りのパトカー、人、ポケモン、ビル、その他すべてを巻き込んで大爆発を起こした。資料で見たポケモンの技のそれとは比べ物にならない規模である。私が其の衝撃と音と爆風に耐えていると道路の方にいろいろなものが吹っ飛んできた。紙やガラス片、人やパトカーまでもが宙を舞っている。9.11以来の大惨事だ。これは明日のCNNニュースのトップになること間違いないだろう。

 

爆発が収まり、路地裏から顔を出すと街路は見るも無残な様相になっていた。バリケードの向こう側で待っていた車も何台か横転しており、ほぼ全てが炎上している。人影は無く、倒れている人は数え切れない。突っ込ませたとき巻き込んだパトカーなど2棟となりのビルの3階部分に突き刺さっている。周囲のビルの窓ガラスはすべて割れており、無事ですんだ建物は見渡す限り一軒もない。銀行の正面は見る影もなく、4階部分までえぐれて崩落している。おそらくターゲットも生きては居ないだろう。ミッションコンプリートだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47、爆発の威力がすごすぎて衛星スキャンでもターゲットの安否が特定できないわ。内部に入ってちゃんと始末できているか確認してきて頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

なんともとんでもないことを言う。銀行は今にも崩落しかかっており、建設中のビルも半分以上えぐれており今にも倒壊しそうだ。だが任務を達成するためには致し方ない。むしろほとんどの人が居なくなった今、作業はしやすいかも知れない。私は道路を渡り炎上し崩落した銀行へ向かった。

 

 

 

正面玄関は大炎上でとても近づけそうになかったので裏路地にまわり、銀行の裏口へ向かった。裏口も中から凄まじい圧力で吹き飛ばされたようでドアはところどころくすぶりながら派手に壊れている。私は内部に侵入した。

内部はもう凄まじいとしか言いようがない。壁は壊れ鉄骨がむき出しになっているし、上の階がところどころ崩落しており、まともに進めるところはなかった。と、奥の金庫室と思われるところで話し声が聞こえる。ターゲットの可能性がある。私は急いで向かった。崩落して瓦礫の下に埋もれられては確認のしようがない。

 

金庫室の大型の丸扉もへしゃげていた。熱を加えて溶断しようとしたところに爆発を食らったらしく内側に向かってくの字に折れ曲がっている。だがそれでも完全には通れるようになっていないところは流石というべきか。その金庫室の前に二人の男女が倒れていた。私は駆け寄る。

 

「大丈夫か?」

「う・・・あな・・たは・・・?」

「助けに来た。ひどい有様だな。」

「そう・・・ゴホゴゴ・・・シル・・・バー・・・は?」

「シルバー?」

「あのこ・・・」

彼女は反対側に倒れている男子を指した。私は駆け寄り脈を測る。

「大丈夫だ。気絶しているだけのようだ。」

「そう・・・よかった・・・」

「ジャイスはどこにいる?」

「彼・・・はカウンターで・・・警察の相手を・・・」

「そうか。とにかく出よう。肩を貸そう。」

「ありがとう・・・」

 

私は彼女とシルバーと呼ばれた男の子を救出した。裏口から隣のビルのさらに反対側に連れて行ったあと、再び銀行内に戻りカウンターを目指した。

 

 

カウンター、と呼べるかはわからないが先程偵察の時に見たカウンターと同じ色の瓦礫ならみつけた。バラバラになっており既にカウンターとは到底呼べないものだろう。

「う・・・たすけ・・・」

その時声が聞こえた。声のする方を探すと鉄筋に腹部を貫通されたターゲットが居た。まだ息はあるようだ。

「お願いだ・・・たすけて・・・」

本来なら助けるべきだが、残念ながら相手はターゲットだ。私は懐からシルバーボーラーを取り出し彼に向けた。

 

「えっ・・・なん・・・で・・・」

「悪いがこれも仕事なのでね。」

パシュン

「ガッ・・・グフ・・・」

 

銃弾は胸部を貫通。そのまま彼は動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。任務完了よ。47、その場所は危険だわ。早く脱出して。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

言われなくてもそうするつもりだ。先程からいろいろなものが軋む音があちこちからしている。

 

ガラガラガラ!

っと、まずい。崩落が始まった。私は急いで外へ出る。途中瓦礫が降ってきたがなんとか避け、裏口から脱出。脱出直後に裏口は降ってきた瓦礫に押しつぶされた。私は救出した二人の元へ向かう。

 

「ここはまずい。もっと遠くに逃げるべきだ。立てるか?」

「なんとか・・・でもあの子は・・・」

「彼は私が背負おう。さあ逃げろ!」

 

シルバーと呼ばれた子を背負い、私と彼女は逃げた。後ろではさらに大きな音で色々なものが崩れつつ周りのビルにぶち当たるような音が聞こえる。周りのビルも連鎖崩壊する可能性もあったので私達はさらに遠くへ、数ブロック先のビルの中へ逃げ込んだ。逃げ込みドアを締めた直後に崩落によって発生した粉塵があたりを包んだ。ヤマブキ・シティ銀行の本社ビルとその向かいの建設中のビルは完全に倒壊した。

 

 

「はあ・・・はあ・・・」

「間一髪というところだったな。」

「・・・」

「私はようがあるので先に離脱する。お前たちはこの建物の中にいる人に助けを求めろ。ではな。」

そう言って私は脱出しようとした。

 

 

 

 

 

 

「待って。」

 

 

「・・・どうした。」

「あなた。もしかして、ICA?」

「!」

「その反応。図星みたいね。私達の前に現れるということはこの騒ぎもあなたが?狙いは・・・もしかしてジャイス?」

「・・・」

「そんな怖い顔しないでよ。何も邪魔しようとか世間にバラそうとかいうんじゃないの。それにそんな事したらあなたは私を殺すでしょう?」

「・・・何が目的だ。」

「交渉しようと思って。」

「交渉?」

「ええ。私を。私達をあなた達の組織に入れてくれない?」

「・・・」

「すぐにとは言わない。あなたの上司に掛け合ってほしいの。私達こう見えても結構腕は立つんだから。」

「・・・少し待て。」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『今、上層部に報告したわ。どうやら上層部は乗り気みたいよ?私としてはあまり歓迎できないのだけれど、上層部はカントー地方にICAのエージェントを常駐させることを望んでる。一度2人と直接話をして見る必要がありそうね。迎えを送るわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

なんと意外にもICAは受け入れる方針のようだ。私は彼女らの技量を見たわけではないのでどの程度使えるのかわからないが情報部によるとそれなりに腕は立つようだ。

 

「上と話をした。しばらくして迎えをよこすらしい。」

「ホント!?やった!あ、でもシルバーは・・・?」

「“2人と”と言っていた。おそらく一緒だろう。」

「ほんとに!よかった!あ、私の名前はブルー!もしかしたら同僚になるかも知れないから一応ね!」

「まだ決まったわけではない。」

「わかってるって!じゃあここで待ってるわ。そう伝えて。暗殺者さん。」

「わかった。では私は行く。」

「ええ。またどこかで会いましょ。」

「運が悪ければな。」

 

私はそう言うとまだ粉塵が待っている町へ出てそのままホコリまみれになりつつ銀行があった通りとは逆の通りへ出て近くの放置された車に乗って脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~3日後~

 

「それで。彼女たちは使い物になりそうなのか?」

『彼女たちは学術試験も実地試験もパスしたわ。後は上層部の判断に任せるだけね。』

「ICAははこういうスカウト事業はやらないと思っていた。」

『ICAも昨今の労働者不足ならぬ諜報員不足に悩まされていてね。あなた以外のエージェントはそこまで優秀じゃないのも原因だけれど。』

「彼女たちは代わりになりそうなのか?」

『今のとこはなんとも。ただ成績は優秀よ。だけどあの二人がお互いを姉と弟として慕っているというのがネックね。身内に縛られて諜報活動に支障をきたすかも知れない。』

「ならば二人一緒に行動させればいい。一人では出来ないことも二人ならばという場面もあるだろう。」

『あら、ずいぶんと肩入れするのね?お気に召したのかしら?』

「そうではない。諜報員不足に役立つ案を提示したまでだ。判断は君か上がすることだろう。」

『そうね。私にそこまでの権限はまだないけれど一応意見具申として上層部に報告はしておくわ。』

「では次の任務まで待機する。」

『ええ、今は休んで頂戴。今回はずいぶん派手にやったからあなたも疲れたでしょう。』

「多少は。」

『強がりなんだか本音なんだか相変わらずわからないわね・・・。』

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「ハリウッドスター」 +3000 『崩壊するビルから脱出する。』

・「イムフルの斧」   +3000 『タワークレーンを銀行へ激突させる。』

・「まさかの展開」   +8000 『ブルーとシルバーをICAに加入させる。』

・「地獄の直行便」   +2000 『警官と民間人を50人以上殺傷する。』

 




ちょっとした制裁どころじゃない気がする(滝汗)
今回仲間に加わったことでもしかしたら今後他の話に出てくるかも知れません。


2019/06/17追記
今から考えるとスマートのスの字も無い。お叱りを受けるレベル。たしかこの時はテンションオンリーで書きあげてた気がする。


次回は南米へ向かいます。


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HITMAN『クローン技術の申し子達』

今回も9000字オーバーと今までのより長編になっています。ご注意ください。




『ククイの村へようこそ47。』

『ここはブラジルはククイ村。コロンビア、ベネズエラとの三カ国の国境に位置する村よ。コロンビアやベネズエラに簡単に出入りでき、なおかつブラジル側は広大なアマゾンだから秘密裏に何かをするにはもってこいの場所。』

 

『今回のターゲットはブラジル軍将校のアルビデ・デ・パラウ大佐。ベネズエラ軍のミハエル・ブブス中佐とコロンビア革命軍のカラマ・ラモス少佐。この3名よ。情報によるとこの三名はブラジル、ベネズエラ、コロンビア、それにペルー、エクアドル、チリ、アルゼンチンとほぼ南米全域での同時クーデターを計画しているようなの。このククイの村でまず三カ国の有力者が集まって他の国々への働きかけの準備をしているようなの。クーデターが成功すれば統一された“南米連邦”が誕生することになるわ。そしてその南米連邦はほぼ間違いなく反米反資本主義反カトリックになる。合衆国としては非常にまずいことになるというわけ。』

 

『今回のクライアントはペンタゴンの南米コマンド。最近の合衆国は国内の反戦運動の高まりから他国への干渉がしづらくなっているの。でもこのクーデター計画を放置していれば間違いなく第三次世界大戦の発端になる。だから我々に依頼が来たって言うわけ。』

 

『今回は我々ICAだけじゃなく、外部の特殊部隊チームが支援に来るそうよ。何でも“伝説の英雄”が来るんだとか。楽しみにしていてね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

久々だ。ここまで蒸し暑く、息苦しく感じるのは。

私は今ククイ村にある一軒の小屋、ICAが用意したセーフハウス…といえば聞こえは良いが実情はただのトタンで出来た掘っ立て小屋だ。冷房なんてものはなく、即席で作ったためなのか元々なのか電気すら無い。

 

目標となるターゲットは川の向こう岸の密林の中にベースキャンプを設置しているらしい。向こう岸は完全なジャングルになっており、奥まで見通すのは不可能だ。とにかく向こう岸に渡らないと話にならない。私は村でボートか何かを探すことにした。

 

街の中心地、と言っても人影はなく、あるのは寂れた一軒の郵便局だけだ。が、その目の前の川岸に桟橋があり、一艘のボートがあった。一応エンジンが付いているので使っているものなのだろう。あたりを見回し持ち主と思われる人物を探す。しかし先程も言ったように辺りに人影らしいものはまったくなく、ボートの持ち主もわからない。仕方ないので“借りる”ことにする。

 

エンジンを付けて走り始めても人が慌てて出てくる様子もない。ほんとにここに人が住んでいるのだろうか?川幅は約700m。エンジン付きボートならものの数分で到達できた。川辺の岸壁に止め、一応近くの木に流されないように係留ロープを引っ掛けておく。

ICA情報部によれば川辺からさらに700mほどジャングルを進んだ先に開けた場所があり、そこにベースキャンプを作っているということだ。だがこのような場所に作る軍のベースキャンプだ。十中八九ジャングルは罠だらけだろう。慎重に進まなくてはならない。私は足元のトラップを警戒しつつジャングルへ入っていった。

 

 

 

 

思ったとおりジャングルは罠でいっぱいだ。鳴子や落とし穴等の簡易的なものから、ロープに引っかかるとスパイク付き丸太が降ってきたり、挙句の果てにクレイモア地雷まであった。地元住民が迷い込んだらどうするつもりなのだろうか。罠は解除または避けつつ、地雷も解除しながら慎重に慎重を重ねさらに進む。

・・・ん?今茂みで何かが動いたような。目を凝らして凝視する。

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

目が合った。明らかに目が合った。茂みには匍匐状態で隠れている男が居た。私はとっさにシルバーボーラーに手を伸ばした。次の瞬間目にも留まらぬ速さでこちらに近づき、取り出したシルバーボーラーを持つ手に手刀を食らった。

 

「ぐっ!」

「ふっ!」

 

そのまま男は私に格闘戦を仕掛けてきた。腕を絡め取ろうとする男を躱しつつ逆に絡め取ろうとするがそれも華麗にかわされる。非常に訓練された軍人のようだ。足払いも何度かくらいかけたがなんとか躱した。何回かの応酬のあと、目に止まったものがあった。男の肩に着いているワッペンだ。キツネがナイフを咥えているそのワッペンには見覚えがあった。

 

「フォックスハウンド・・・!」

「!?」

 

男が怯んだ。私はとっさに距離をとった。

 

「フォックスハウンドを知っているということはお前が例の組織のエージェントか?」

「そういうお前は例の特殊部隊というやつか。」

「なるほど。少なくとも敵ではないようだな。」

「そうなるな。私は47。そう呼ばれている。」

「スネーク。とでも呼んでくれ。」

「スネーク、ここにいる目的は・・・同じか?」

「待った。お前も上から聞かされてないか?オレたちの間では“コイツ”を使う。」

 

そう言うと彼は耳から首にかけて付けている装置を指し示した。ブリーフィングで説明は受けていたし、その装置も受け取っている。いわゆる“無線通信”というやつだ。私はそちらに切り替える。

 

 

~以下無線通信~

 

「これでいいか?」

「ああ、これで周りに余計な音を立てずに話すことができる。本当は体内通信のほうが安全なんだがお前はナノマシンが入ってなさそうだからな。俺の周波数は141.80だ。」

「わかった。こちらの周波数は140.48だ。」

「140.48・・・オルガと同じか・・・」

「オルガ?」

「いやこっちの話だ。」

「で、目的の話だが、私の目的とスネークの目的は同じということでいいのか?」

「ああ。パラウ大佐、ブブス中佐、ラモス少佐の排除。それが目的だ。」

「ふむ。既にここに潜入していたのか。」

「ああ、目標の3人は今ベースキャンプにいる。どうやら何かの知らせを待っているようだが。」

「敵の位置か規模はわからないか?」

「ベースキャンプの周囲を常に2人1組で巡回する警備兵がいる。内部は3つの建物のうち一番大きな司令部に5から8。細長い宿舎に4から6。残る1つは弾薬庫で常に2人の警備兵が入り口に立っている。内部には居ない。」

「即席のベースキャンプにしてはやけに厳重かつ装備が充実しているな。」

「ああ。俺もそれは気になった。どうやら相当前から計画して準備していたようだな。」

「で、目標は?」

「司令部だ。司令部の2階に作戦司令室のような部屋があり、そこにいつもいるようだ。」

「なるほど。何かプランはあるのか?」

「こっちも偵察くらいしかまだしていない。潜入プランはこれからだな。」

「ならば私が先陣を切ろう。」

「大丈夫なのか?言っちゃ悪いがこんなジャングルにスーツで来てるやつに何ができるか不安なんだが・・・。」

「大丈夫だ。支援が必要なときは通信する。だがまずはベースキャンプまで案内してもらおうか。」

「ああ、わかった。」

 

 

 

 

私はスネークに案内されベースキャンプへたどり着いた。道中聞いた話ではあるが、ジャングルにあった罠やクレイモア地雷等のトラップはすべて彼が仕掛けたものだったらしい。なんともはた迷惑な話だ。

 

外周部を回る巡回の警備兵が見える。私は彼にここで待つよう合図を送ると、警備兵に近づいていった。大きめの石と木の枝を持って背後に近づき、枝を前方明後日の方向へ投げる。

 

ガサッ

ン?ナンダ?カクニンシロ!OK!

 

警備兵の一人がルートを離れ茂みを確認しに行く。私は早足で残る一人に近づき、後ろから石で殴打する。軽くうめき声を上げながら警備兵の一人が気絶する。倒れないように抱きかかえつつ、そのまま石をもうひとりに投げつける。石は茂みを確認していた警備兵の後頭部に当たり、そのまま茂みに倒れこむように気絶した。

 

「ほう、なかなかうまいもんだな。」

 

私はそのまま抱きかかえた警備兵も茂みに押し込むといつもどおり服を“借りた”。いつの間にか後ろに来ていたスネークに後方援護を頼むとしよう。

 

「私はこのまま内部に潜入する。どこか見晴らしのいいところでいざというときの援護射撃を頼む。」

「俺も潜入には自信があるんだがお前もなかなかなようだな。いいセンスだ。わかった。今回は任せてみるとしよう。」

 

私はそのまま警備兵の装備を借り、何食わぬ顔で巡回ルートへ戻った。一周周り正面ゲートに差し掛かったとき、ゲート付近に2人の警備兵がいるのが見えた。こちらに近づいてくる。

 

「交代だ。ん?もうひとりはどうした?」

「今腹を壊してトイレに駆け込んでいる。周囲は異常なしだ。」

「そうか、ジョニーの他にも腹痛になるやつが出るとはな・・・。そいつが戻ったら拾い食いはするなと伝えとけ。」

「了解した。」

 

私は難なく基地内に潜入することが出来た。そのまま司令部棟に侵入を試みようとするが、他の兵を見ると入る時に簡単にだが所属と名前を確認している。このままではバレてしまうので棟の周りを観察する。東側の窓2つの内片方が開いているのを確認した。周りを見渡し、窓の縁に足をかけ・・・

 

 

 

「ふわぁ・・・お?」

「・・・」

 

 

もう一つの窓から兵士が顔を出した。一瞬目が合う。これはまずい。

 

「・・・?!て!てk」パシュン ドサッ

「・・・!」

 

奇声を上げつつ中に引っ込んだ。通信が飛んでくる。

 

 

「危なかったな?」

「支援感謝する。スナイパーライフルか?」

「ああ、安心しろ。麻酔弾だ。殺すかどうかはそっちに任せることにしよう。」

「目的が達成できれば目撃されたかどうかは正直どうでも良くなる。そのまま続行する。」

「俺としたらこのまま基地内にいるやつを片っ端から眠らせてもいいと思ってるんだが?」

「それは止めておいたほうが良い。麻酔弾の弾が足りなくなるだろう。」

「安心しろ。“無限バンダナ”だ。弾はいくらでもある。」

「“無限バンダナ”・・・?」

「とにかく、任務を進めよう。麻酔弾はガラスは貫通できないから中の支援は基本的にできないと思ってくれよ。」

「わかった。」

 

改めて私は司令部棟の中に侵入する。それにしても無限バンダナとは一体何なのだ・・・。バンダナ程度で補給の心配がなくなるとは・・・。今度ICAの技術部にも頼んでみようか。

 

 

 

司令部棟内は1階に4つの部屋と2階に大小3つの部屋がある。私が入ったのは1階南東の部屋、先程兵士が引っ込んだのは北東の部屋だ。発見されると面倒なことになるので私はまず北東の部屋に向かった。向かったと言ってもドアを出てすぐ横のもう一個の扉の中に入るだけだが。

 

中では見事に大の字になって寝ている兵士が居た。首筋の動脈に寸分違わず麻酔弾が打ち込まれており、どの程度の距離から狙撃したのかはわからないがかなりの腕だ。少なくとも私ではここまで正確に狙うことは出来ない。私は眠った兵士をソファに横たえさせた。隠しておくロッカーやゴミ箱が見当たらないためだ。これなら麻酔針さえ抜いてしまえば誰かに起こされても居眠り後、起きたやつが敵襲を報告しても寝ぼけてるとして処理されるだろう。

 

兵士を処理した後、私は2階へ上がった。2階は東側に大きな司令室。西側に細長い倉庫とその間北側に小さくトイレがあった。私はまずトイレに入り、窓を開けた。予想通り、建物の外壁には丁度2階の床になる高さに出っ張りがあった。私はそこを伝い、隣の司令室へ近づいた。中で話し声が聞こえる。窓に鍵がかかっていなかったため少しだけ開けて聞き耳を立てる。

 

 

「だからうちの部隊がやると言っているだろう!」

「いいえ少佐。少佐の部隊は既に面が割れている物が数多くいる。ボゴタでのテロ攻撃がCNNにスクープされたのはまずかったですな。」

「問題はない!我がFARCの精鋭部隊は面が割れてる程度で怖気づいたりも作戦に支障があったりもない!」

「現実で考えてください少佐。ここは無難に現地のコロンビア軍にやらせるべきです。第一、あなた方が大統領を暗殺してもクーデターではなくテロ攻撃としか受け取られませんよ?」

「だからといって成り上がりのあの将軍に手柄を渡すなど・・・!」

「まあまあお二人とも。少し落ち着きなさい。焦っても何も始まらないですよ。」

「パラウ大佐・・・」「ぐっ・・・」

「第一まだ我々は会合を開いただけで何もしてない。やましいことはなにもないのです。」

「だがうちの部隊は!」

「FARCには今後もご協力を願いますよ?我々ブラジル革命派のためにもね。」

「それは・・・わかっているが!」

「だったらこの話は一旦終了です。コロンビア大統領はコロンビア軍が、ブラジル大統領は我々が。ベネズエラ大統領はブブス中佐が。それで決定です。」

「ぐっ・・・。」

「さて、私は少し用があるのでちょっと失礼しますよ。なあにすぐに戻ってきます。」

「はっ!了解しました大佐殿!」

「・・・了解。」

 

 

ギィーバタン

 

 

「ブブス中佐、1つ言っておくが我々の部隊は既に準備万端整ってこのベースキャンプの北西部に潜ませている。私の意向次第ではこのベースキャンプなど一瞬にして灰にできることをお忘れなく。」

####アプローチ発見####

「ラモス少佐、それは脅しですかな?」

「忠告だよ・・・。では私も少し失礼。」

 

ギィーバタン

 

「愚かなゴロツキだ。北西に部隊が展開していることなど百も承知。我々ベネズエラ軍も北東に待機させているのを知らんらしいな・・・。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ベースキャンプを守っているのはブラジル軍。その北東にベネズエラ軍。北西にはコロンビア革命軍。もし火種が投下されれば三つ巴の大乱戦になるわね。うまくすればその混乱に乗じて彼らを始末できるかも知れないわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は一度トイレに戻り、トイレ内で通信を行った。

 

「スネーク、聞こえるか。」

「ああ、聞こえてる。どうだ、なにか有効な情報はあったか?」

「北東部にベネズエラ軍。北西部にコロンビア革命軍が潜んでいるらしい。お互いに睨み合ってるような状況らしく、火種を投下できないだろうか?」

「そういうことならおまかせあれ。喧嘩をふっかけるのは得意だ。いつ始める?今からでいいか?それとも日没を待つか?」

「いや気絶させた兵士が起きる前にやりたい。今からでいいだろう。」

「わかった。すぐ賑やかになるぞ。備えろ。」

 

トイレから出た私はそのまま反対側の部屋に入る。ここは倉庫のような扱いになっているらしく、いろいろなよくわからない機材が並べられている。

 

 

 

ダダダダダ!ドーン!

 

その一番奥に隠れていると外から銃声と爆音が聞こえ始めた。爆音の方はかなり近くらしく、基地内に着弾したようだ。部屋の外から叫び声が聞こえる。

 

「ラモス!ラモスはどこだ!」

「なんだ中佐。この騒ぎは何だ!」

「とぼけても無駄だ!こちらはまだ結論を出していないというのに脅しだけでは飽き足らず攻撃してくるとは恥さらしの裏切り者め!」

「なんだと!?我々は攻撃の指示は出していな・・・わかったぞ!お前だな!ブブス中佐!」

「な、なに?!」

「我々と手を組むのが嫌だったお前は我々が攻撃したと嘘を付き、偶発的な戦闘で我々を葬ろうというわけだな!そうは行くか!」

「何をバカなことを!貴様!」

「貴様らと手を結んだのが間違いだった!」

「あ、おいこら待て!誰かその裏切り者を殺せ!」

 

バババダダダ

「ブブス中佐!」

「大佐!ラモスのやつが・・・」

「そんなことはどうでもいい!貴様の兵がこのキャンプを攻撃しているとの知らせを受けた!私の案に賛成できなかったお前がこういう実力行使に出てくることは想定済みだ!南部に展開中の部隊を呼んだ。貴様はもう終わりだ!」

「な・・・貴様!お前たちグルだったのか・・・!チクショウ!」

 

ダーンダーンダーーンババッババ

 

 

 

なんとも大変な状況になった。三つ巴の戦闘に発展し、お互いがお互いを狙う状況になった。軍事協定は紳士的な者が行わないとこういう結果になるのだ。通信が入る。

 

「おう、だいぶ派手になったな。」

「スネーク。一体何をやったんだ?ここまで三つ巴になるとは。」

「なあに。ちょこっとコロンビア軍のほうからベネズエラ軍の方に向かって1マガジンAKをぶっ放し、ベースキャンプの宿舎に向かってRPGを撃っただけだ。」

「なるほど。それで裏切られたと言っていたのか。」

「ほほう?それはまた怖いくらいに思惑通りだな。ああそうだ。さっきベースキャンプ内にあった車で逃走しようとしていたラモス少佐だが、車に乗り込んだところでRPGでふっとばしといたぞ。」

「そうか。それは手間が省ける。もう2人は今絶賛部屋の外で銃撃戦中だ。」

「それはそれは。こちらも実弾に切り替えて援護するからお前はそこから脱出したほうが良い。」

「そうさせてもらう。スナイパーの援護があるなら私が手を下すよりも確実だろう。どのみちこの状況では悠長に死体の確認はでき無さそうだ。」

「ああ。南側の窓から外に出ろ。外周のデッキの西側の下に資材があるからそこからおりられそうだ。」

「助かる。安全が確保できたらまた連絡する。」

「ああ。死ぬなよ。」

「そちらも。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『衛星でラモス少佐の死亡を確認したわ。彼はなかなかの腕前ね。動き始めたジープの側面に正確にRPG-7を当てていたわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ドーン!

とうとう奴らまでもロケット弾を使い始めた。本格的な戦争状態だ。願わくばこれが本国の正規軍にまで波及しないことを祈ろう。私は情報通り南側の窓から外の外周デッキに出て西側の資材置き場を足がかりにして下に降りた。そのまま応戦するブラジル軍に混じりつつ門の外へ出る。門の外はすぐに密林だ。身を隠す場所などいくらでもあった。

 

「よう!」

「・・・!」

 

いつの間にか近くまでスネークが来ていた。出会うやいなやスネークは私に銃を手渡してきた。

 

「その様子だと武器は拳銃くらいしか無いんだろ?これを貸してやる。俺の見立てではそろそろあの正面扉からどっちかが出てくる。そこを仕留めるんだ。2人同時に出てきたときは俺も同時に打つからな。」

「・・・わかった。」

 

渡された銃はレミントンM700。良い銃だ。彼はSVDを持っていた。あちらもよく手入れが行き届いていそうだ。私は木の陰からスコープを覗き構える。

 

ダン!

 

扉が勢いよく開いた。と、同時に中から2人の人影が転がり出てきた。ターゲットの二人だ。二人共拳銃を両手に持っている。ガンカタでもやっていたのだろうか?

「俺は左をやる。良いな?3、2、1、」

ダァン!ダァン!

 

我々が放った弾は二人を直撃した。が、相手が動いていたため私が撃った方は胸に。スネークが撃った方は頭部に命中していた。これが腕の差ということなのだろうか。訓練施設で射撃訓練を受け直す必要があるだろうか・・・。

 

「気にするな。どうせあの傷では1分と持たない。」

「・・・撤収する。」

「ああ。長居は無用だな。」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ブブス中佐、パラウ大佐両名の死亡を確認。よくやったわ。そこを脱出して。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

私達はジャングルの中を敵に発見されないように気をつけながら進んでいた。

 

「じゃあ俺はここまでだな。」

「スネーク。」

「今回は助かった。オレ一人だともう少し時間がかかっていただろう。明日か明後日くらいまでかかることを想定していたからな。」

「こちらこそ再三の援護感謝する。スネークが居なかったらもうもっと慎重に事を進めなければならなかった。」

「ふむ。機会があったらまた会おう。」

 

 

そういうとスネークはジャングルの茂みの中に消えていった。カモフラージュは得意と言っていたが別れてからものの数秒で見えなくなるのはさすが伝説の英雄か。

私は川岸まで戻り、係留していたボートに乗って対岸に渡り脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~6時間前~

 

『あなたが伝説の英雄さん?』

「その呼び方は嫌いだ。そういうお前さんは誰だ。」

『私はダイアナ。ICAのオペレーターをしているわ。』

「ICAか。何度か誘いが来たが俺は殺しは好きじゃない。」

『わかってるわ。長官もそう言ってたし。今回通信している理由は勧誘じゃないのよ。』

「ふん?」

『うちのエージェントがあなたと同じ目的で現地に行くことになったの。支援してあげられないかしら。』

「それはそれは。天下の暗殺集団ICA様から直々のお達しとは。光栄極まれるな。」

『茶化さないで。うちも諜報員不足でまともにあなたと張り合えるのは今回派遣される47くらいしか居ないんだから。一応最近新たな候補生は2人入ったけれど。』

「そうか。で、俺はそいつと何をすればいい?そいつを罠にはめてそいつが手間取ってる間にちゃっちゃと任務を終わらせるか?」

『協力って言ったでしょ。大丈夫。衛星情報や周辺の情報はこちらから回すわ。』

「回すってどこに」

ピー

「僕のところにだよスネーク。」

「オタコン。」

「彼女は味方さ。少なくともこの任務中はね。」

『彼は面白いわね。最初こちらから情報を送信したら不正アクセスだと思ったのか、うちのサーバーにハッキングを試みようとしてきたのよ?』

「それは何の前振りもなく情報を送りつけてくるからだろう?しかもアドレスに【g◯ggle.com】と来たらウイルスを想定するのは当たり前だ。」

『キャンベルから聞いたと思ったのよ。ちょっとした手違いね。情報は得られたんだから問題はないでしょう?アドレスはちょっとした茶目っ気。』

「ちょっとまて。ダイアナさんとやら。大佐とも知り合いなのか?」

『知り合いも何も。ロイ・キャンベルは私の大学の同級生よ?』

「あんた一体何歳なんだ・・・。」

『レディに年を聞くものじゃないわ。』

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「伝説の英雄」 +1000 『スネークと合流する。』

・「ニアミス」  +1000 『スネークに3回以上援護される。』

・「7.62mm玉」 +2000 『スネークの代わりに基地に潜入する。』

・「少し早い内乱」+5000 『2名以上のターゲットに同士討ちさせる。』

 

 




スネークは殺すのは好きじゃないと思います。たとえ兄弟に「殺戮を楽しんでるんだよ!貴様は!」と罵られてても。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『クローン技術の申し子達』(もう一つの世界線)

『クローン技術の申し子達』の別アプローチ版です。




『ククイ村へようこそ。47。』

『今回のターゲットはブラジル軍将校、アルビデ・デ・パラウ大佐。ベネズエラ軍のミハエル・ブブス中佐。コロンビア革命軍のカラマ・ラモス少佐の3名。彼らが計画しているクーデター計画を阻止するのが目的。』

『クライアントはペンタゴンの南米コマンド。反戦運動の活発化に伴って自分たちでは動きづらくなったから私達に依頼してきたようね。』

『今回はペンタゴンから特殊作戦チームが援護として派遣されるそうよ。うまく協力して頂戴。』

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ピーピーピーガーガーガー

 

ジャングルの奥から何かよくわからない声が先程から木霊している。住んでいるのは話が通じる人間だけではないだろうから用心しなければならない。

私は今、ククイ村の南端にある小さな半島にいる。小さな川の向こうはアマゾン。大きな川の向こう側にターゲットの3名が居るベースキャンプがあるらしい。今回私はICAよりゴムボートを支給してもらった。大きな川があるという話だったので川を渡る機会もあるだろうと見越してのことだった。どうやらその見越しは功を奏したようで、パット見町中に渡し船のような施設も無く、橋がかかってるわけでもなかった。

 

今回、相手の基地に潜入するのは危険を伴うとの判断からゴムボートの他にもJaeger7を持参した。これで遠距離からターゲットを狙撃できる。だがまずはベースキャンプに向かわなくては。

私はゴムボートに乗った。エンジン付きなので移動は楽だ。小さな川から大きな川へ、余談だがこの川はネグロ川というらしい。ネグロ川の西岸に到着すると手近な木に引っ掛けて流されないようにしてからジャングルへ入っていく。

 

ジャングルの中はトラップだらけで、鳴子、落とし穴、クレイモア、スパイク丸太や感圧板をつかった釣り上げ罠もあった。

シャー

罠を避けつつ進んでいるとすぐ近くで蛇の鳴き声のような音がした。茂みの向こうからだったようなので音を立てないように近づく。

 

 

「・・・この!よし!昼飯ゲットだ。」

 

野戦服に身を包んだ大男が蛇と格闘戦の末、蛇を捕獲していた。ベースキャンプの兵士だろうか?アレが昼飯ということはこれからベースキャンプに戻って調理するのだろう。

 

ガッグッグシュ

「まあ、まずまずだな。」

 

・・・そのまま齧り付くのは流石に予想外だ。それは既に現地人と言うか原始人の食べ方ではないだろうか。少なくとも私はせめて火を通したいところだ。ちょうどいいので彼にベースキャンプまで案内してもらおう。昼食が終わればベースキャンプに戻るだろうから。

 

「ふう・・・。・・・。」

「・・・」

「そこだ!」

「?!」

 

いきなりこちらに向かって石を投げてきた。まさか位置がバレているとは思わなかったが、備えはしていたので石を軽く避ける。木の枝やら石が次から次へと投げつけられた。私はそれなりにある数の石や枝を避けるのに集中する。

 

「ふっ!そら!」

「うぉ!?」

 

避けるのに集中して彼がどこに居るかを見ていなかった。気がつけばすぐ近くに居た。後ろに回り込まれ、そのまま羽交い締めにされた。

 

「言え!」

「・・・っ!」

「答えろ!」

「・・・。ふっ!」

「うお!?」

 

ナイフを突きつけられ尋問体制に入ったが、私はナイフに掠るかどうかギリギリのところで身を捩り、隙間ができた瞬間に肘鉄を食らわせ、怯んだ隙に体を回転させ拘束から逃れた。

 

「なかなかやるな。俺の拘束技から逃れるとは。」

「・・・。」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。お楽しみ中悪いけど、その目の前の男が今回の協力者の一人よ。交戦を中止しなさい。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

なんとも目の前の男が今回の協力者だったらしい。その通信を聞いてる間、彼はどこか別のことに集中していた。

 

 

 

 

 

~スネークside~

 

#call

『スネーク!何をやってるんだ君は。』

「オタコン。今はあとにしてくれ。この目の前の敵を・・・」

『敵じゃないよ!今回のミッションの協力者さ。ブリーフィングでキャンベルが言っていたろう?』

「こいつが?本当に?こんなカモフラージュ率5%未満のスーツ男がか?」

『カモフラージュ率は関係ないよ。とにかく戦闘はやめるんだ。』

「だが向こうはやる気・・・おや?」

『向こうのオペレーターにも話はつけた。今頃事情が説明されてる頃さ。』

「そのようだ。」

『どうやら凄腕の暗殺者らしい。技量ではスネークに匹敵するかも。うまく協力してくれ。』

「わかった。任務を再開する。」

 

 

 

~47side~

 

どうやらあちらにも説明が行ったようだ。お互いに戦闘態勢を解く。

 

「話は聞かせてもらった。俺はスネークだ。先程の身のこなし、見事だった。」

「私はエージェント47。そちらもこちらの位置を瞬時に把握し身の回りにあるものを使って攻撃する技術。なかなかの物だった。」

「まさかお前が協力者とはね。そのスーツ姿は何だ?そんなんじゃすぐに敵に気が付かれてしまうぞ。」

「気が付かれないように行動するすべを習得している。と言っても先程は見抜かれたようだが。」

「なるほど。確かに俺ぐらいじゃないと気が付かないような隠れ方ではあったな。実際食事中は気が付かなかった。」

「食事・・・蛇を躍り食いすることがか?」

「友人に教えてもらったんだが結構美味いぞ?食ってみるか?」

「いや遠慮しておこう。それよりも任務だ。」

「美味いのにな・・・。まあいい。ベースキャンプはここから北へ500mほど行ったところだ。案内しよう。」

「助かる。」

 

 

私は彼の後に続いてジャングルを北上した。彼が仕掛けたというジャングルの罠は半分はターゲット用、半分は自分の食事捕獲用だったらしい。それから今回持参している“無線通信”に関しても周波数を教えてもらい、以後の会話はすべて無線を通して行うこととした。

 

 

 

しばらく歩いていると開けた場所に出た。そこには高さ2mほどのフェンスと土嚢と重機関銃、複数の警備兵で防御されたベースキャンプがあった。

 

「目的のターゲットは司令部棟。あの大きな建物の中にいる。俺が潜入するからお前は援護を頼みたい。その背中に背負ってるでかい銃でな。」

「わかった。ルートはどういうルートを通るんだ?」

「右側の弾薬庫の近くを通っていくから東側に居てくれ。」

「了解した。」

 

 

彼は中腰状態で正門前の警備兵に近づいていった。警備兵は即席で作られた正門警備室より外側に立っているためその場で仕留められれば問題はないはずだ。

彼は一瞬こちらを見ると手前側、東側の兵に近づいた。私はJaeger7を構える。

 

シュ!ガッ!グワ!ナンdパシュン!

 

彼は密かに東側の警備兵だけ取り押さえようと試みたが抑えた瞬間に兵が少し声を上げてしまったため気が付かれた。西側の警備兵が叫ぶ瞬間、私は彼の頭に銃弾を打ち込んだ。

 

「危ないところだったな?」

「すまん。助かった。狙撃の腕もなかなかじゃないか。」

「訓練と実戦はそれなりにこなした。問題ない。」

「よし、このまま任務続行する。」

 

スネークは捉えた警備兵と射殺した警備兵を警備室に押し込むと弾薬庫の裏側を通って順調に進んでいく。私もその進み具合に応じて狙撃位置を変える。ふとスネークが何かを取り出し始めた。先には警備兵が2名ほどたむろして話している。その横を通り抜ける算段なのだろう。何かの準備を追えたスネークは中腰のまま置かれている資材と土嚢の間をすり抜けていく。

っと。先程の警備兵の一人がスネークに気がついたようだ。調べるためにスネークの隠れている資材置き場に近づいている。狙撃援護したいが資材置き場は見通しがよく、狙撃すれば他の兵にバレかねない。と、スネークは先程準備したと思われる何かをかぶった。アレは・・・ダンボール?

警備兵が資材置き場を見渡している。ダンボールに気がついたようだ。ダンボールをけとばしている。しかしただのダンボールだと思ったのか踵を返して、元いた兵士と一緒にどこかへ行ってしまった。

 

 

「危ないところだった。またこれが役に立ったな。」

「スネーク、それは・・・ダンボールか?何故そんなものを?」

「何を言う!ダンボールは潜入においては非常に重要なアイテムじゃないか!」

「そう・・・なのか?」

「ああ!今みたいにかぶって敵をやり過ごすこともできるし、中に何かを入れて運ぶにも役立つ!それに何よりぬくもりがあって中に入ったときの安心感がだな」

「わ、わかった。それより任務を続けよう。」

「それにこの耐久性…お?あ、ああそうだな。任務を続行する。」

 

 

まさかダンボールをあんな敵地のど真ん中で熱く語り出すとは思わなかった。意外にお茶目なのか?・・・ダンボール、支援装備に検討して見る価値はあるかも知れないな。

 

「そうだろう!?お前もダンボールをかぶればきっと!」

「スネーク。ナノマシンも無いのに心を読むのは止めてくれ。」

「ああ、すまん。」

 

 

 

 

 

 

紆余曲折あったが彼は司令部棟に到着した。彼は司令部棟東側の2つの窓を覗いた後、奥側、つまりは北側の窓の下に伏せた。

 

 

「ふぁあ~あ。よく寝たなあ。」

 

 

中から兵士が顔を出した。すぐ下にいるスネークには気がついていないようだ。

 

「ふっ!」

「ぐわぁ!?」

ドサッ

 

スネークは油断しきっている敵兵の胸ぐらを掴んで外に放り投げた。顔から地面に落ちる形になった敵兵はそのまま気絶したようだ。スネークは敵兵を中に再び戻すと同じ窓から侵入していった。私は援護しやすい位置を探すが、窓の構造的に一番支援しやすい北側に陣取っても内部は殆ど見えないので彼に任せるしか無さそうだ。

 

 

 

 

~スネークside~

 

内部に侵入できた。おそらくそれなりの量の兵士が居ると思っていたが意外にも階段前で1名が警備している以外は廊下には人影はなかった。俺は麻酔銃で階段下の警備兵を眠らせた。麻酔弾は無限バンダナをもっているおかげでいくらでもある。この際なので内部の人間を片っ端から眠らせてしまおう。

階段を上がる前に建物西側の2つの部屋を調べる。南側の部屋は給湯室のようだ。そのまま北側の休憩室につながっている。休憩室には3人兵士がたむろしていた。どうやらポーカーに興じているようだ。彼らの足元に睡眠ガスグレネードを投げ込む。

 

コロコロコロ…

「ん?なんだ?」

「なんか落ちたぞ。何だあの缶?」

プシュー

「うわ!なんか煙が出てきたぞ!」

「コイツはグレネードだ!敵襲・・・」

 

ドサッドサドサ

 

 

見事に睡眠ガスによって3人は眠った。さすがDARPAの作った睡眠ガスグレネードだ。そのまま給湯室の扉を通ってロビーに戻り、今度は正面玄関の二人を排除することにする。

 

「47聞こえるか。」

「ああ、聞こえている。」

「正面玄関に居る警備兵を排除したい。そっちは今どこに?」

「私は司令部棟東側のジャングルの中だ。」

「よし。そちらからみて手前側、施設東側に建っている警備兵を合図と同時にやってくれ。」

「わかった。」

 

俺は麻酔銃を構える。

 

「行くぞ。3.2.1.ファイア!」

 

パシュ!パシュン!

 

片方は頭部ヘッドショットであの世行き、もう片方は首筋に麻酔弾を食らったおかげで昏倒。うまく行った。気の所為だろうか、通信先から鼻歌が聞こえてくる。幻聴だろうか?

 

「47,鼻歌歌ってたか?」

「いいや?」

「そうか。」

 

どうやら気のせいだったようだ。俺は彼らをロビー内に押し込んだ後、2階に上がる。

 

 

 

2階の廊下にも特に人影はなかった。しかし東側の大部屋には多数の気配がある。おそらくターゲットの3人がいる司令室だ。まずは安全確保として西側の部屋を見る。ここは倉庫のようだ。人影はなく、特に問題はない・・・っと、アレは!カロリーメイトじゃないか!貰っておこう。

 

司令室には多数の気配があって中にはいれば一瞬で警戒態勢になってしまうだろう。ひとまず中央北側にあるトイレに入る。トイレの中には人はおらず、窓から隣の司令室へ入れそうだ。エルードでぶら下がり、隣の司令室の窓の下へ移動する。

中にはターゲットの三人。入り口に一人と奥の壁に2人、そして覗いてる窓のそばに1人警備兵が居た。

 

パシュンパシュン

 

俺は窓から奥の壁二人の警備兵の足に麻酔弾を打ち込む。そして入り口にいるやつの腰辺りにも1発くれてやる。そして睡眠ガスグレネードのピンを抜いて窓枠に置いて再びエルードでトイレに戻った。

 

 

「うわ何だこの煙は!敵か!グッなんだか眠く・・・」

ドサドサドサ

「お、オイお前ら!」

「何があった?これはどういうことだ大佐。」

「私に聞かれてもわからんよ中佐。だがおそらく敵襲だろう。」

「クソッ!警報はどこだ!」

「そこの壁だ!」パシュグワッ! ドサッ

「えっ、中佐!外だ!そとn」パシュン ドサッ

「な!?な!?クソッ!外にスナイパーか!」

 

トイレから出てまっすぐ司令室に駆け込んだが警報を鳴らされるのが早いかはほとんど賭けだった。が、援護のおかげで警報は鳴らされずに住んだようだ。既にブブス中佐とパラウ大佐は亡き者になっていた。後は援護射撃が届かない壁に張り付いているこいつだけだ。

 

「な!貴様!何者だ!」

「悪いな。クーデター計画はこれでおしまいにしてもらうぞ。」

「くそっ!アメリカの手先か!」チャキッ

「ふっ!」パシュン ガキン!

「ぐわ!」

 

相手が拳銃を取り出したのでとっさにその拳銃をM9で弾く。ついでにコイツにはいくつか聞きたいことがあるからまだ死なれては困るんだ。

 

「くそっ!誰か!敵襲!敵襲!」

「無駄だ。この建物は既に制圧済み。ジャングルの動物たちの鳴き声で宿舎で寝てるやつまでは声は届くまい。」

「くそ・・・。」

「聞きたいことがある。お前らこんな大量の装備や弾薬をどこから仕入れたんだ?」

「そんなこと言うはずがないだろう!」

「言ってもらうぞ。時間はあるからな。」

 

 

 

 

 

~47side~少し前

 

 

彼は身軽に外側の壁の出っ張りで懸垂状態を維持しながら中の司令室に向かって何かをしている。おそらく突入準備だろう。私も準備をしなくてはならない。中のターゲット三人が狙える位置に陣取る。これでたとえスネークが失敗したとしてもターゲットは確実に殺害することができる。そのうち窓枠から煙が出始めた。正確には窓枠に置いてある缶からだ。近場の警備兵と内部の警備兵が何人か倒れたようなのでおそらく睡眠ガスだろう。

ターゲットは慌てふためいている。ターゲットの一人が壁を指差した。おそらくその壁に警報装置があるのだろう。指を指したターゲットの頭部めがけて1発。それに驚いて叫ぼうとしたターゲットにも続けて一発射撃した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ブブス中佐とパラウ大佐の死亡を確認したわ。あとはラモス少佐だけね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

しかし残るラモス少佐を仕留めることは出来なかった。彼は囲んでいた机の向こう側に隠れてしまった。貫通することはおそらくできるだろうが下手に乱射して位置がばれるのもまずい。どうしたものかと思案していたところ、スネークが部屋に入ってきた。ターゲットと何かを話しているようだ。スネークはターゲットをこちらから狙えない位置へ引きずっていった。私は位置を変えつつターゲットを狙えないか試行錯誤してみたが丁度よい位置の木が無かったり、死角になったりとターゲットは確認できなかった。

 

 

そのまま小一時間経ったところで通信が入った。

 

「47。聞こえるか。」

「スネーク。どうした。ターゲットは始末できたか?」

「ああ、このとおりだ。」

 

そういうと彼は窓にラモス少佐の死体を見せつけた。眉間に穴が開いているのが確認できた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『こちらでもターゲット全員の死亡を確認したわ。そこから脱出して。それにしてもスネークは何をやっていたのかしら?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ターゲットの死亡を確認した。しかしスネーク、一体何をやっていた?そのターゲットと何を話していた?」

「なに、個人的な野暮用でな。」

「個人的?個人的に面識があったのか?」

「面識はない。が、重要な情報をもたらしてくれたよ。」

「情報、か。ともかく詳しくは後で聞くことにする。そこから脱出するんだ。」

「わかってる。任務完了。今から脱出する。」

 

 

少しの間をおいて入った入り口の窓から出てきた。そのまま来た道を逆にたどり戻ってきた。途中、宿舎と外周を回る警備兵との交代に出くわしかけたが例によってダンボールをかぶってやり過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

我々はジャングルを川辺に向かって進む。

 

「先程の話だが。」

「ん?ああ!ダンボールの有効性だったな!あれは」

「そちらではない。司令室で何を話していたかだ。」

「ん?ああそっちか。ちょいと奴らの武器と装備の出処を調べてたんだ。情報は後でICAにも流すように言っておく。」

「そうか。助かる。」

 

情報がこちらにももたらされるなら私が何かを言う必要はない。またしばらく無言でジャングルをゆく。

 

「じゃあ俺はこっちだ。ここでお別れだな。」

「ああ。協力感謝する。」

「あんまり誰でも彼でも殺しすぎるなよ?麻酔銃は持っておくべきだ。」

「善処する。」

「ふむ・・・まあいい。じゃあな。また会おう。」

「運が悪ければ。」

「ふふ・・・そうだな。」

 

そういうと彼はジャングルの中へ消えていった。私とて誰でも彼でも無差別に殺しているわけではないということは訂正したほうが良かっただろうか。しかし麻酔銃は有用だろう。あとで技術部に要望を出しておくことにする。

私は川辺のゴムボートまで戻り、そのまま川を上ってベネズエラ領内に脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~1時間前~

 

「吐いてもらうぞ。武器の出処を。」

「愚かな。私が言うとでも思っているのか?」

「それはどうかな。オタコン。」

『ああ、調べたよ。ラモス少佐は愛人を何人か匿っているようだね。そのうちの一人はコロンビア政府の制服組のようだよ?』

「ほう、コロンビア政府内部に愛人が居るのか・・・」

「!?」

『しかもその愛人はラモス少佐は正規軍の軍人だと思っているみたいだ。』

「その愛人は協力者ということになるのかな?となると・・・」

「ま、まて!ジュリアには!ジュリアには手を出さないでくれ!あいつは何の関係もないんだ!」

「それはお前の返答次第だな。」

「ぐっ・・・わかった。言うからジュリアには何も言わないし何もしないでくれよ?」

「話してくれたらジュリアとかいうお前の愛人には何もしないと誓おう。」

「・・・俺らの装備は、提供されたんだよ。」

「提供?誰からだ。」

「よくわからねえ。俺はあいつらの中では一番下で装備調達はパラウ大佐が統括してた。俺は徴兵担当だったからな。」

「何かわからないのか?」

「何もわかんねえよ・・・あ、そういや一度だけ何かの名前を聞いたような・・・」

「思い出せ。思い出さないと・・・」

「わ、わかった!わかってるって!ちょっと待てよ!ええっと・・・ああそうだ思い出した!」

「で、名前は?」

「そうだそうだ。確か“プロヴィデンス”って名前を聞いたぞ!」

「プロヴィデンス・・・。」

「そ、そうだ。それ以外のことは知らねえ!さっきも言ったが俺は徴兵担当で武器調達担当じゃねえんだ!」

「そうか・・・わかったありがとう。」

「ほ・・・」

「じゃあそろそろさようならだな。」チャキッ

「ま、まて!情報は提供したじゃないか!?」

「ジュリアとかいう愛人は手を出さないし関わらせないさ。だがお前には死んでもらわないといけないんでね。」

「な!な!」

「じゃあな。」

 

パシュン

 

 

 

 

 

 

 

・ミッションコンプリート

「逆位」         +3000 『スネークが基地に潜入する。』

「もぬけの殻」      +1000 『司令部棟を制圧する。』

「スニーキングミッション」+3000 『警戒態勢にならずにターゲットを暗殺する。』

「無口なスナイパー」   +3000 『スネークを3回以上援護する。』

 

 

 

 




HITMAN2ではどうなるんでしょうね。そこも楽しみです。

ソリッド・スネークが蛇を食ってるのはビックボスを超えるために試行錯誤した結果身についた知識ということにしてください。ビックボスのことを“親父”とは呼びたくないでしょうしね。


2019/06/17追記
この話から現実世界が元になっている世界での仕事の時はグーグルマップで場所を選ぶようになりました。



次回は関西地方へ行きます。新しく入った二人にも協力してもらいましょう。


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HITMAN『ラジオ・カンパニー』

『コガネシティへようこそ。47。』

 

『今回向かってもらうのはコガネシティに有る“ラジオ塔”よ。ここは以前ICAの下部組織であるロケット団に占拠されたことが有るの。でもICAはそのことを承知もしていなければ把握もしていなかった。どうやら共同出資したCIAのほうが独断で実行に移したみたい。下部組織を使っての破壊工作活動はICAが管轄することになっていたはずなのに、これは明らかな越権行為。事件自体は地元の少年がポケモンを使って対処して事なきを得たようだけど、ICAとしては解決したからチャラという訳にはいかないの。』

 

『事件が解決したことによってラジオ塔からロケット団は撤退したけれど、それを援助したCIA工作員はまだラジオ塔の職員をしているの。今回のターゲットはそのCIA工作員よ。越権行為で我々を怒らせたらどうなるかを警告してやらなければならない。』

 

『でも問題があるの。その工作員の名前、性別、所属などがわからなかったのよ。わかったのは重役クラス以上では無いということだけ。だから今回は支援者をつけるわ。47は覚えてるかしら?ヤマブキシティでターゲットと一緒に強盗をしていた男女二人組のことを。あの二人はあの後ICAに正式に所属することになって、今回が初任務よ。彼女らには情報斥候と潜入支援及び陽動を担当してもらうわ。詳しい連絡方法は彼女から聞いてね。』

 

『準備は一任するわ』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ガヤガヤガヤパッパッパーブーン

最近環境の変化が著しい。都会からジャングルへ行ったと思ったらまた都会に戻ってきた。私は今コガネシティのラジオ塔から数百m離れたショッピングセンターの前にいる。新しいスーツを新調しようと服屋を覗き込む男にしか見えていないはずだ。実際そろそろくたびれてきたので新調したいのも本音では有るが。

 

今回は以前ヤマブキシティで出会ったあの二人、“ブルー”と“シルバー”と言ったか。その二人が支援につくらしい。多少不安では有るが、地元民ではあるので土地勘や流儀の知識も私よりは有るはずだ。

 

まずはあのラジオ塔にどうやって潜入するかであるが、先にその二人と合流しておきたい。私は指定された待ち合わせ場所に向かうことにする。

 

 

 

 

私は待ち合わせ場所に指定された地下通路の一角にやって来た。地上や地下通路のメインストリートは人でごった返していたが、この辺りは怪しい店やゴロツキなどが居る影響かほとんど人通りはない。私は指定された一軒の店に入った。

入ってなにか声を発する前に私の顔を見た店員によって無言で奥の部屋に通された。店名は【イマジナリー・チーズ・アクセント】。表向きはチーズの専門店のような佇まいであったがなるほどそういうことか。通されたのは店の一番奥の個室だった。

 

 

「待ってたわよ。暗殺者さん。」

「・・・」

 

 

中には既に二人が座っていた。私は二人が座る向かいに腰を下ろした。

 

 

「今回は支援、よろしく頼む。」

「ええ、ダイアナさんからもよろしく言われてるわ。よろしくね47さん。」

「で、具体的にはどんな支援を?」

「まずはこれね。」ドサッ

「これは?」

「ラジオ塔クルーの作業着よ。これがあれば局内で怪しまれることはなくなるわ。あとこれは各フロアへのカードキーね。」パサッ

「なるほど。感謝する。」

「それと・・・ほら、シルバー。」

「わかってるよ。」パサッ

「これは・・・地図か。」

「ああ、ラジオ塔の館内図だ。地下2階、地上15階建て。15階から先は電波塔になっていて1階から最上階の展望フロアまでの直通エレベーターがある。それ以外では1階から15階まで行ける局員用エレベーターと、すべての階に行ける非常用兼作業用エレベーターがある。」

「なるほど。ターゲットの大凡の位置はわからないのか?」

「1階から5階までは事務要員の入るところだ。10階から15階は役員クラスの仕事場になっている。6階から9階がスタジオや楽屋、その他放送の中核的業務を行う場所だ。俺の見立てだとこの6階から9階に居ると思う。」

「根拠は?」

「1階から5階の事務エリアは入れ替えが激しい。調べたところ事務エリアはここ十数年で総入れ替え状態で残ってるのは准役員クラスだけだ。」

「なるほど。だが放送局エリアは入れ替えは殆どなかったと?」

「ああ。放送局は芸能人のご機嫌取りや業界ルールの把握などが面倒で、入れ替えはあまり行われないみたいだ。」

「あと私の方の情報だと、6階はほとんどが楽屋と倉庫みたい。職員が出入りすることはあっても常駐することは殆ど無いみたい。だから実質残ってるのは7階から9階までの3フロアね。」

 

3フロアのどこかか。それならなんとか探せそうでは有る。問題は・・・。

 

「探し出す方法についてはどうすればいい。」

「情報部によると、CIA職員は局内でなにか大きなことがあったら本部のラングレー?とかいうところと情報交換のために通信を行うらしい。その通信を傍受して発信元をたどり対象を見つけ出す。」

「大きな事とは・・・災害とかでも良いのだろうか?」

「大丈夫だと思うけど・・・災害を起こせるのか?」

「災害と言うほどのものではない。端的に言えばボヤ騒ぎだな。」

「ボヤ騒ぎ程度では連絡しない可能性がある。もう少し大事でないと。」

「じゃあ私達がやればいいじゃない!」

「え?」

「・・・?」

「だーかーら!私とシルバーで大事を起こすのよ!そうね、展望エリアで立てこもり事件でも発生させればいいかしら!」

「ちょ、ちょっと姉さん?!」

「展望エリアでは切り離されて考えられてしまうかもしれない。どうせなら一階ロビーでやってほしい。」

「ちょ、お前も何を!?」

「わかったわ!ほらシルバー!もう高を括りなさい!騒ぎを起こすのは私達の専売特許でしょ!」

「あーもう、わかったよ。危ないことはなしだからね姉さん。」

「よしよし!じゃあそっちの準備ができたら私達が1階で騒ぎを起こすからその時の通話記録をシルバーが1階で傍受、その記録をそっちに適時送信するわね。」

「わかった。そのプランで行こう。」

「そうと決まれば早速行動開始よ。行くわよシルバー。」

「わかったよ姉さん。47・・・さんも気をつけて。」

「そちらもな。」

 

そう言うと彼女たちは店を出ていった。私も受け取った作業着に着替えた後、店を出た。店を出て路地を進もうとしたとき、ブルーが小走りで戻ってきた。

 

 

「いけないいけない。忘れてたわ。ハイこれ。」

「これは?」

「通信機よ。なんでもフォックス?なんとかって部隊が使ってたのを参考に技術部が作ったんですって。地下でもどこでもクリアな音声で通話できるらしいわ。」

「なるほど。」

「じゃあ頼んだわよ。準備ができたらそれで連絡して。あ、参考にした通信機だと周波数設定しなきゃならなかったみたいだけどこっちは個人でもう登録済みだから周波数を覚える必要はないわ。じゃあね!」

 

 

そういうと彼女は再び走っていった。諜報員としてはあの慌ただしさは若干危ういものが有ると思うが、そのあたりは経験でどうにかなるだろう。最も経験を積む過程で殺されればそれまでだが。私は気を取り直してラジオ塔へ向かった。

 

 

 

 

 

ラジオ塔裏門には警備員が1人立っていた。ドアの上には監視カメラも有る。遠目でそれを観察していると警備員がこちらに気がついた。しかし怪訝そうな顔でこちらを見ている。服装はあっているはずなのに怪訝な顔を向けてくるということはあの警備員は職員の顔を大体把握しているということになる。厄介だ。中に入るためには策を講じる必要がありそうだ。

私は中にはいるために辺りを探り始めた。駐車場まで来ると、大きな搬入用のエレベーターの前で何人かが話している。搬入のトラックの裏側から聞き耳を立てる。

 

 

「で、どうすんだこれ。」

「この際だからこのままエレベーター乗せちまえば良いんじゃねえか?」

「バカ。そんな事したら振動で壊れちまうぞ?それで大目玉食らうのは俺は嫌だからな?」

「でもこれそれなりに重いから職員用エレベーターで運ぶにしても俺らじゃきついぜ?途中に段差は結構あるから台車も使えねえし。」

「弱ったなあ・・・もう一人くらい居れば解決なんだが・・・。」

####アプローチ発見####

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『精密機材をスタジオに運ぶために必要な人員が足りないで困ってるみたいね。手伝ってあげたら?お礼に局内に入れてもらえるかもしれないわよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私はトラックの影から出た。

 

「私が手伝おうか?」

「お、あんちゃん局の人?助かるよ!コイツを第二ブースまで持っていかなきゃならないんだ。」

「結構重くてなあ。俺ら二人と手持ちのポケモンじゃきつかったがあんた力強そうだし手伝ってくれるなら助かるよ!」

「任せてくれ。」

 

 

 

「でてこいワンリキー!」

「リキッ!」

「よし、じゃあみんなで持ち上げるぞ・・・せーのっ!」

「ウゴゴゴゴ・・・」

「リキー!」

「・・・っ!」

 

結構どころではない。おそらく重量的に300キロは超えている。力自慢の運送業の男2人で持てないのもうなずける。3人と1匹でやっと持ち上げることが出来たそれを階段の上に設置した台車に一旦乗せる。

ズシンッ

「ふー!こいつぁヘビーだな!とりあえず局内にもう何箇所か段差があるからそこまでは休憩だな!」

 

カラカラカラ…

「なかなかに重いが何の機材なんだ?」

「ああ、何でも新しい放送用の機材とかで、より強力な電波でクリアな音声を届けるためには絶対欠かせないものなんだそうだ。俺も詳しくは知らねえけどな。」

「なるほど。でもそれを何故第二ブースに?」

「さあ?ブースっていうくらいだから放送に使うんだろ。」

「あ、でも兄貴。第二ブースって言えばたしかこの前閉鎖されたとこだった気が。」

「何?ちょっとまて、なんで閉鎖されたとこに機材を運ばにゃならんのだ?」

「俺が聞きてえっすよ。ちゃんと納入先あってるんスか?」

「ちょっとまて・・・ああ、たしかに8階第二ブースって書いてある。どういうことなんだ・・・?」

「分からんっすねえ・・・」

「我々はただ運ぶだけでよいのでは?」

「んー・・・まあそうだな!あんちゃん良いこと言うね!そうだ。俺らは運送屋だ。運ぶのが仕事で運んだ先で運んだものがどう使われるのかは関係ねえもんな!」

「お兄さん見たとこの局の作業員だろ?運送屋に勤めてたのか?」

「いや。私見を語っただけだ。でしゃばったか?」

「いいや。プロの意識ってのはまさにそんなもんよ!」

 

 

他愛のない話をしているとやっと裏口までやって来た。私は二人に隠れるように位置を変更した。

 

 

「それはなんだ?資材運搬エレベーターは駐車場だろう?」

「それがね警備員さん。コイツは精密機械で、あのエレベーターだと振動で壊れちまうかもしれないんですわ。」

「ああ、なるほど。そういうことか。わかった通っていいぞ。」

「ありがとうございまーす。ご苦労さんでーす。」

 

####アプローチ完了####

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『うまく潜り込めたわね。さあ、後はターゲットを探すだけね。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

それから私達はいくつか段差を超え、職員用エレベーターに乗り、第二ブースに到着した。

 

「いやーあんちゃんありがとうね。忙しいのに悪かったね。」

「いいや。これも局のためだ。」

「良いねそのプロ意識。俺らも見習わないとな!」

「そうっすね兄貴!」

「では私はこれで。」

「ああ、またな!」

 

 

 

 

私は局内を探す。格好のおかげで特に怪しまれることもなく歩き回れている。

一通り探したがやはり支援がなければCIA職員を見分けることはできなさそうだ。私はブルー達に通信を試みた。

 

 

「こちら47。準備はできているか?」

「ええこっちは準備万端よ!もう始めちゃって良いのかしら?」

「ああ。無事に局内に潜入できた。頼む。」

「わかったわ!少し待っててね!」

 

 

通信を終え、辺りを観察しながら待っていると

 

ドーン

 

下の階から爆発音がした。一体何をやらかしたのだろうか?悲鳴のような叫び声もかすかだが聞こえてくる。

 

 

ピンポーン

“1階ロビーにて緊急事態発生。職員は直ちに指定の避難経路を使って避難を開始してください。これは訓練ではありません。繰り返しますこれは訓練ではありません。”

 

 

 

どうやら避難命令が出されたようだ廊下がとたんに騒がしくなった。各ブースやいろいろな部屋から一斉に人々が出てきたためだ。

 

「こちら47、一体何をやったんだ?」

「ああ47。ごめんね。ホントはちょっと脅かして立てこもり事件っぽくしようと思ったんだけど、警備員が本気で応戦してきちゃったもんだからこっちも本気で応戦しちゃった。」

「さっき爆発音がしたが。」

「ああ、あれは私のニドちゃんの“はかいこうせん”よ。大丈夫、ちょっと火災が発生しちゃったけどカメちゃんの“ハイドロポンプ”で警備員の威勢ごと消しておいたから!」

 

どうやらだいぶ豪快に荒事をこなしているようだ。本来の目的を忘れては困るので釘を差しておこう。

 

「暴れるのもよいがそろそろ傍受を開始してくれ。既に避難は始まっている。」

「わかってるわ。そっちはシルバーがうまくやってる。今代わるわ。」

 

「47。聞こえるか?」

「シルバー。聞こえてる。それで通信の方は?」

「今傍受している。今現在通信が行われてるのは15箇所。そのうち10箇所はその3フロア以外だから除外するとして5箇所で通信している。」

「内容はわからないのか?」

「内容までチェックするのはもうちょっと時間がないと。今どこに?」

「8階の第4倉庫前だ。」

「だったらその近くにある第4ブースの中で一人通信してるやつが居る。確認してくれ。」

「了解した。」

 

 

 

私は足早に第四ブースへ向かった。ドアを少しだけ開けて中を探る。

 

 

「大変なんだ!なんか爆発音がしたと思ったら・・・ほんとだよ!信じてくれよハニー!」

 

 

明らかに違うだろう。社内電話を使って妻に連絡をとってるようだ。

 

「シルバー、ここはハズレのようだ。他に近場にないか?」

「そこ以外だと後は一つ上の階だな。5番スタジオだ。」

「わかった。向かおう。」

 

階段を降りてくる群衆に逆らいつつ9階に上がった。だいぶ避難は進んでいるようでもう人影は殆どなかった。5番スタジオを見つけ、中を覗く。

 

 

「わかってる。この騒ぎを早く収束させろ。なに?相手は子供のよう?だったら早く収束させろ!こっちは明後日までにまとめなきゃならないんだぞ!」

 

 

こちらも違うようだ。警備室と連絡をとっているようだ。

 

「シルバーここも違う。内容の傍受はまだできないのか?」

「もうすぐ・・・今できた。っとうるさいうるさい・・・。」

「その中に落ち着いた声でのんきな内容を話してるやつを見つけろ。知らない地名や知らない単語が出てきても良い。」

「ちょっとまって・・・ん!居た。ウイスキー?びゅろー?カンパニーとかいうよくわからないことを喋ってるやつ。」

「ビューロー・・・まさかFBIも絡んでるのか・・・?まあいい。そいつは今どこにいる。」

「コイツはさっき通信を始めたばかりのようだ。8階第二ブースだ。」

「さっきのところか。わかった。」

 

 

 

私は急いで階段を降り、先ほど機材を運び入れた第二ブースへ戻った。慎重に扉を開けると、窓際で何かの機械をいじっているやつを見つけた。慎重に近づき、持っている機械の横にある用紙を発見した。アレは・・・細かい字は見えないが上部に描かれている紋章、間違いない。CIAの紋章だ。内容は後で確認するとして私はシルバーボーラーを構えた。

 

「うん・・うん・・・まて、雑音が混ざっていないか?・・・クソっ!」

 

パシュン!キン!

「そう簡単にやられてたまるか!」

「くっ!」

 

既の所で気が付かれかわされた。そのまま銃撃戦に発展する。

 

パァンパァン!

パシュンパシュン!

 

「くそ!ICAだな!こんな事してただで済むと思ってるのか?!」

「・・・」

「・・・そうだ!・・・出てこい!ラッタ!」

「ガー!」

「ポケモン・・・!」

「そうだ。この地域に溶け込むにはポケモンの一匹でも持っていないとな!いけラッタ!“でんこうせっか”!」

「ガ!」シュンシュン

「くっ!」

 

素早い動きで後ろに回り込まれた。そのまま体当たりを試みてくる。既の所で転がって躱した。

 

「ハハハ!このまま葬り去ってやろう!」

「そうはいかない。」パァンパァンガシャン!

 

ビュォォォ

「な、窓が!悪あがきを!ラッタ!たいあたりを当たるまで続けていけ!」

「ガー!」

「ふっ、ふっ」パンパンパン

「くっ、なに!?」

 

私は躱しつつ位置を変える。予定地点に到着すると私は銃を撃ちつつまっすぐターゲットに接近していった。ターゲットのベルト付近に着弾。何かのベルトがちぎれて床に落ちた。後ろからラッタが追いかけてくる。

 

「ガー!」

 

ラッタが体当たりを敢行しようとしている。私は直撃の瞬間にターゲットの足元にダイブする形で伏せた。

 

「ガッ!?」

「うわ!」

 

ドシーン! 

 

ラッタとターゲットは盛大にぶつかった。そのはずみでターゲットは割れたガラスの近くまで押し出された。私はすかさずラッタごと窓の方へターゲットを押しやった。

 

ガシャーン

「うわうわうわああああ!」

「ギーーー!」

 

ラッタとターゲットは割れた窓から外へ放り出された。

 

「くっそ!そうだコイツをクッションに・・・!」

「そうはいかないな」

 

ターゲットは卑劣にもポケモンをクッションに死を逃れようとしたようだが、私の足元に転がっていたモンスターボールがついたベルトから、一つだけ分離したモンスターボールを手にした。

 

「戻れ、ラッタ。」パシューン

「な・・・!うわあああああ!」

 

 

 

ドシャ キャー

 

モンスターボールというのは対応しているポケモンなら誰が戻る指示を出しても戻るようだ。このポケモンたちには気の毒では有るが、たった今おまえたちの主人は8階下のコンクリートに打ち付けられた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認したわ。よくやったわね。帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「こちら47、目標達成。撤退する。」

「こちらブルー。了解よ。シルバー!そろそろ撤退!」

「わかったよ姉さん。オーダイル、出口の連中に向かってハイドロポンプだ。」

 

私は通信を終えると、CIAの工作員が持っていた書類に目を通した。どうやらこのラジオ塔を再び占拠する計画が進行中だったようだ。

私は書類を彼の持っていたアタッシュケースにしまうとそれとポケモン達を持って避難経路に従って脱出した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~5日後~

 

『どうするんだ?ICAを怒らせたらこうなることは私ははじめに忠告したはずだぞ?』

「わかっています。現在部内で議論中です。対応を間違えればそれこそ長官の首が飛びかねないですからね。それも物理的に。」

『それはなんとしても避けてほしいところだ。彼は私の古い友人であり支援者だ。向こうはなんと言ってきているんだ?』

「今後は下部組織へ口は出すなと言ってきました。しかも現地のNOCリストまで入手したと言っています。下手に強硬策に出ればあの地域の諜報網が壊滅する可能性すらある案件になりました。」

『・・・まあとにかく。私の方からもICAにはそのくらいにしておくように言っておく。少し支援金に色を付けることになりそうだがね。』

「ありがとうございます。よろしくおねがいします。大統領。」

『これに懲りたら下手な策は辞めて素直に協力することだな。ジェイソン君。』

ガチャ

「協力ね・・・。できたら苦労はしないんだ。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「裏方仕事」       +1000 『作業員としてラジオ塔に潜入する。』

・「メディアの弱み」    +3000 『局員を避難させる。』

・「大都会遊覧飛行」    +3000 『ターゲットを落下死させる。』

・「だいすきクラブ名誉会員」+5000 『ターゲットを暗殺する。ポケモンは死なせてはならない。』

 




無用な被害は出しません。ポケモンでも同じです。



次回は別アプローチです。


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HITMAN『ラジオ・カンパニー』(もう一つの世界線)

『ラジオ・カンパニー』の別アプローチです。

最近なんかどんどんやること成すこと派手になってきてる気がします。




『コガネシティへようこそ。47。』

『今回はこの街のメディアの中心、ラジオ塔の内部に潜伏しているCIA職員がターゲットよ。我々ICAに断りもなく独断専行したツケを払わせてやるの。』

『以前、あなたがヤマブキシティで救出してそのままICAにに入った“ブルー”と“シルバー”を支援に向かわせるわ。今回が初任務だけどうまく協力して。』

『準備は一任するわ。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

私は今、コガネシティの東端にある“コガネセントラル空港”に来ている。ここからでも目的地のラジオ塔が見える。

今回、以前私が救出しICAに入りたいと言ってきた二人組が支援に来ることになっている。が、それとは別にラジオ塔の南向かいにある“コガネシティセンター”の屋上に“Jaeger7”を置いてもらった。

そして私が何故いま飛行場にいるかと言えば理由は2つ有る。1つはここでその二人と待ち合わせしているためだ。丁度向こうから走ってくる人影2人が見えた。

 

 

「おくれてごめ~ん!待った~?」

「ちょ・・・姉さん・・・。」

 

なんとも今どきの若者らしい待ち合わせだろう。私は決して若者に見えないと思うのではたから見れば結構異様な光景であると思うが。ともかく余り目立つのはよろしくない。

 

「あまり騒がしくするな。ここは公共の場だ。」

「わかってるわよ。このほうが待ち合わせっぽいでしょ?」

「でも姉さん。荷物もロクに持ってない僕たちが空港で待ち合わせってのも。」

「良いのよ。親戚のおじさんが遊びに来たって感じに見えるでしょ。」

「おしゃべりはこのくらいにしておこう。今回お前たちが支援してくれるということだが。」

「ああ。そうだったわね。そうよ。やっと認められて実戦配備よ!」

「訓練はなかなかに厳しかった。」

「正直不安要素しか無いが大丈夫なのか?」

「暗殺自体はまだあんまりやってないわ。やっぱり人を殺すのは抵抗があるわよ。」

「だから姉さんはやらなくていい。僕がやるから。」

「ダメよ!私もできるようにならないと。いつその対象が私達になってもおかしくはないんだから・・・。」

「これからICAで任務をこなすのであればその辺りは克服するべきだろう。そこで経験も兼ねて今回は君たちに実行部隊になってもらう。」

「私達が?」

「僕たちがターゲットを殺すのか?」

「そうだ。訓練施設で訓練は積んだのだろう?ならば実戦も経験しておくべきだ。」

「・・・わかったわ。やってみる!」

「・・・。」

 

私達は場所を移した。具体的には個人用の発着ターミナルだ。もう一つの目的である、ICAが用意した小型のセスナ機に乗る。荷物は元々ないのでICAが手を回したのか大したチェックもなく乗ることができた。

私は操縦席、彼女たち二人は後部座席だ。私の助手席と彼女たちの背中にはパラシュートが用意されている。

 

「ねえ、47。これってもしかして・・・。」

「・・・。」

「君たちにはこれからラジオ塔の屋上にパラシュート降下してもらう。」

「ちょ、ちょっと冗談でしょう?」

「訓練は積んだだろう?」

「そりゃ積んだけど私達が積んだのは普通のビルの上とかよ?電波塔何だから色々突起があるじゃない!」

「安心しろ。降りるのは電波塔ではなく、その下のビルだ。」

「どっちも大して変わらないわよ!」ブルルル

「姉さん。もう文句言ってもしょうがない気がするよ。もう動き出しちゃってるし・・・。」

「え?!いつの間に!」

 

 

 

ブーン

「飛んでいる間に作戦概要を説明する。君たち二人はラジオ塔に降下し、内部に侵入。その際、パラシュートのバックは屋上に隠せ。中には帰還用の気球が入ってる。内部に侵入したら君たち二人でターゲットを見つけろ。」

「内部ではどうやって行動すればいいの?」

「職員の服を奪ってもそのままでもいい。だが静かにな。万一ターゲットに見つかったら逃げられることになる。」

「わかったわ。」

「了解。」

「見つけたらそのまま始末して屋上に戻るんだ。戻ったらパラシュートバッグの中に小型気球とワイヤーロープが入っているから気球を備え付けのボンベで膨らませろ。気球にワイヤーロープをくくりつけて飛ばして、ロープのもう片方を自分の服の腹部に有る金具に取り付けろ。」

「ちょ、ちょっとそれってもしかして・・・。」

「知ってるのか?“フルトン回収”というのだが。」

「あれを電波塔の根元でやろうっての!?無茶よ!」

「電波塔にぶつかってしまうんじゃないか?」

「屋上と電波塔の下部までは約75mの隙間がある。エレベーターシャフトが若干邪魔だがこのセスナの小型さならギリギリいけるはずだ。」

「ギリギリ・・・大丈夫・・・なのか?」

「問題ない。以前、もっと狭い橋の橋脚の間を通したことも有る。」

「あなた一体どんな任務こなしてきたのよ・・・。」

「それはそうと手順はわかったな?そろそろラジオ塔上空だ。準備しろ。」

「うわーうわー来ちゃったわよ来ちゃったわよ!こうなりゃヤケね!」

「・・・・・・。」

「スタンバイ・・・。今だ!」

 

バッバッ ヒュー

 

二人共意を決しておりていった。私はそのままコガネシティ上空を大きめに旋回して通信を待つ。

 

 

 

 

 

 

~ブルー・シルバーside~

 

「うわわわ!」

「きゃああ!」

ヒュー

トン、トン

 

私達はなんとか屋上に着地した。あそこまで無茶なことを言う人とは思わなかった。

 

「シルバー、無事?」

「な、なんとか・・・。」

「じゃあ行くわよ。まずはどうやって見つけるかだけど。」

「情報部の情報だとなにか騒ぎが起こったときに奴らの本部と通信するらしい。」

「じゃあまずは騒ぎを起こして、その時に発信される通信を傍受して位置を割り出しましょ。」

「じゃあ準備する。丁度屋上には内部と展望エリアやアンテナを結ぶ通信ケーブルが有る。そこで傍受してみる。」

「じゃあお願いね。私は騒ぎを起こしてくるわ。」

 

私はシルバーを屋上において内部に侵入した。

 

 

 

ここは最上階の15階。役員クラスが働く場所だから目標はおそらくもっと下。多分6階から9階の間ね。ブルーちゃんご自慢の勘だと多分8階。

私は一気に非常階段を駆け下りて8階に到達した。途中だれともすれ違わなかった。みんなエレベーターだけじゃなくてもっと階段使って運動したほうが良いと思うわよ。

慎重に扉を開けて、内部を探る。非常扉の近くには消火栓と警報機があった。これだ。屋上のシルバーに通信する。

 

「シルバー、聞こえる?」

「聞こえるよ姉さん。こちらの準備はできた。そっちは?」

「こっちも騒ぎにできそうな警報機を発見したわ。じゃあやるわよ?」

「いつでも良いよ。」

 

私は人がいなくなるタイミングを見計らって非常扉から出て警報機のボタンを思いっきり押した。

 

ジリリリリリリリリリリリリ!!!

けたたましいベルの音が鳴り始める。私は非常口に再び戻って内部を伺う。

 

「どう?シルバー。どこかで通信は有る?」

「ちょっとまって・・・。あれ?おかしいな?」

「どうしたの?」

「新たな通信が検出できないんだ。今までやってた通信もそのまま継続してるだけで。」

「え?どういうこと?」

 

理由はすぐにわかった。

 

 

 

「何だよまたかよ!今度は誰のいたずらだ?!」

 

非常口の向こう側で男が苛立ちながらやって来た。

 

「これで今月3回目だぜ!全く、コラッタでも紛れ込んでんじゃねえか?」

カチャカチャ

ジリリリ…チン

「これでよしっと。まったくいい加減自動火災報知器に切り替えろってんだよなあ・・・。」

スタスタスタ

 

 

 

「・・・ごめんシルバー。なんか火災警報機、結構誤作動してたみたいでみんな慣れちゃってるみたい。」

「そうだったのか。だから全然通信量が普段と変わらなかったんだ。でもどうしようか。」

「うーん・・・とりあえず47に相談してみましょうか。」

「そうだね。」

 

「47聞こえる?」

「聞こえている。」

「今そっちはどこに?」

「こっちは今コガネシティ南西付近の上空だ。ターゲットは始末できたか?」

「それなんだけど。大きな騒ぎを起こしてその時に行われる通信を傍受して特定しようとしてたの。でもその大きな騒ぎをどうやって起こすかで迷ってて。」

「火災警報器ではダメなのか?」

「ダメだったわ。何度も誤作動を繰り返してるみたいで悪戯としか思われなかったわ。」

「そうか・・・。わかった。」

「なにか策があるの?」

「ああ。少し派手だがな。非常階段は建物のどちら側にあるんだ?」

「え?ああ、北東の端っこだけれどそれが?」

「北東か。なら大丈夫だな。」

「え?」

「ブルー、今非常階段だな?そこを動くな。」

 

一体何をするつもりなの・・・?

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

現在高度250m。結構急角度になってしまうが仕方ないだろう。私は隣の助手席に置いてあるパラシュートを背負った。私は今乗っているこのセスナ機をラジオ塔に突っ込ませることにしたのだ。

セスナ機をビルに突っ込ませれば否応でも大騒ぎだろう。ラジオ塔の13階部分めがけてセスナ機はまっすぐ急降下しながら突っ込む。

ブウウウン

私は衝突少し手前で操縦席からダイブ。と同時にパラシュートを開く。

セスナ機はそのまままっすぐラジオ塔に向かっていき、ついには。

 

 

グワシャーン!!

盛大に衝突した。階層で言えば13階と12階にまたがって斜めに突っ込んだようだ。9.11と違い小型のセスナ機のためビルを倒壊させるには至らない。というか速度をそれなりに落としていたためおそらくセスナ機も原型をとどめているかもしれない。実際黒煙は出ているがあまり火の手に勢いはない。

 

「ちょっと!47!一体何をしたの!?すごく大きな衝撃があったんだけど!?」

「姉さん無事かい?!」

「何のことはない。セスナ機が1機使えなくなっただけだ。」

「まさか・・・突っ込ませたの?!」

「姉さんどうやらそのようだ。屋上にまでひび割れが来ている。南側は煙でいっぱいだ。」

「何考えてるの!?他の人達に被害が出たら・・・」

「ターゲットは見つけられそうか?」

「ちょっと話を聞きなさいよ!」

「ターゲットが最優先だ。」

「ちょ・・・」

「問題はない。突っ込ませたのは12階と13階の間の部分だ。遠目からでもそこに人があまりいなかったのはわかる。」

「はぁ・・・さっさと探すわよシルバー!これ以上被害を増やされたら堪ったものじゃないわ!」

「了解。今のでラジオ塔はパニック状態みたいだ。一般通信がほとんどやんで緊急通信がかなり多い。」

 

私はパラシュートを操作して隣のコガネシティセンターの屋上に降り立った。ここは一般人が立ち入りできないようになっている典型的なビルの屋上だ。ヘリポートがあり、ヘリが駐機されているが当のパイロットは突っ込んだセスナ機にばかり注目してビルの端に行っている。

私は後ろからこっそりと近づき、羽交い締めにする形で抑え込んだ。そのまま首を絞めて気絶させた。ヘリパッドの下のスペースに寝かせておく。

ここからなら突っ込んだ場所も含めてラジオ塔の南側が殆ど見える。私は隠しておいてもらった“Jaeger7”をヘリポートの端にある資材置き場から回収した。

 

 

 

~ブルー・シルバーside~

 

あの男は一体何を考えているのよ。私達が居るビルに向かって飛行機を突っ込ませるなんて・・・。ともかく今は目的の達成ね。

 

「シルバー、通信はどう?」

「まって。・・・・・・いくつかのフロアで一般回線が使用された。8階と9階だ。姉さん今どこに?」

「8階よ。8階のどこ?」

「8階は北東の第2ブースだけだね。」

「北東の第2ブースね。了解。」

 

私は急いで向かった。まだ館内は状況が把握しきれていないらしく、廊下に出て慌てふためいてる人がほとんどだった。その間を縫うようにして走る。

 

「第2ブース・・・ここね。」ガチャ

「ああ、わかって・・・ってお前は誰だ!ここには入るなと・・・!」

「あ、ミスった・・・」

「まさか・・・!?クソッ!」ダッ

「あ!まちなさい!」

 

うかつだった。もう少し慎重に開けなければならないのについ普通に開けてしまった。おかげで逃げられてしまった。私は全力で追いかける。

 

「シルバー!47!」

「どうしたんだい姉さん?」

「ターゲットがいたのか?」

「居たには居たんだけどバレちゃって今追いかけっ子中。」

「なっ・・・。」

「・・・。逃してはならないぞ。」

「わかってる!」

「姉さんこちらの片付けは終わった。今いくよ。」

「待ってるわよ!今8階から9階に上がろうとしてる!」

「先にいけ、ドンカラス!」グワー

「私も援護する。」

「今9階から10階に上がってる!あ!そのまま10階に入った!」

「何がしたいんだ?そっちは役員クラスしかいないはずだけど・・・。ドンカラス!ターゲットを見つけるんだ!」グワー

 

しばらく追いかけっこをしたあと、私とシルバーは南側の窓際の廊下にターゲットを追い詰めることに成功した。

 

「もう逃げられないわよ!」

「ククク・・・あてもなく逃げ回っていたと思っているのか?!」

 

そういうとターゲットは一つの部屋に入った。この当たりの部屋はみな小部屋でその先には窓もなにもないはずなのに。私はそのまま閉められたドアに手をかけ突入しようとした。

 

「愚かね!観念しなさい!」

「待て!ブルー!」

「待って!姉さん!」ダッ

「え?」ガチャ

ドーン

「きゃあ!」

「姉さん!」ガバッ

「やはりトラップか。無事か?」

 

ドアノブをひねった途端にドアが勢いよく爆発した。しかし爆発の瞬間シルバーがかばってくれたので私は少し尻餅をつく程度で済んだ。

 

「痛た…もう!なんなの!」

「姉さん無事?!」

「ええ無事よ。それよりターゲットは!?」

「ははは!姉弟愛も良いものだが悪いが失礼させてもらうよ!ピジョット!」ジョー!

「くっ!しまった!」

 

ドアが破壊された衝撃で窓ガラスが割れていた。割れた窓ガラスから飛び出したターゲットはピジョットを繰り出し、その背に乗ってゆうゆう脱出されてしまった。

 

「ははは!ICAも大したことはないな!」

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

「果たしてそうだろうか?」

 

バシュン

ドシュ

 

「な・・・に・・・!」

 

ヒュルルル ピジョ!?ピジョォ?!

 

私の放った弾丸は今まさに飛んで逃げようとするターゲットの心臓を正確に撃ち抜いた。Jaeger7を用意しておいて正解だった。

ポケモンにしがみつく力もなくなったターゲットはそのまま落下していった。地面に当たる寸前のところでピジョットが拾い上げたようだが、スコープで覗く限り既にピクリとも動いておらず、ピジョットの呼びかけにも応じる様子はなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットダウン。よくやったわ。ポケモンには気の毒だけどね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「任務完了だ。今から迎えに行く。屋上に向かえ。」

「あの・・・47・・・。」

「なんだ。」

「その・・・ごめんなさい。失敗しちゃって。」

「ターゲットは始末できた。過程がどうあれ目標は達成している。」

「でも私・・・アイツ逃しちゃって・・・。」

「それは経験不足だろう。しかし、次はうまくやらなければ下で冷たくなっている男はお前になっているだろう。」

「・・・っ!」

「姉さんは僕が守る。心配しなくていい。」

「シルバー・・・。」

「47。支援感謝する。次は、僕らだけでもやり遂げてみせる。」

「期待している。」

「では屋上に向かうよ。フルトン回収するのか?」

「いや、手頃なヘリが見つかった直接回収する。」

「わかった。ほらいくよ姉さん。」

「・・・わかったわ。行きましょう。」

 

通信を切り、ヘリポートに止めてあったヘリを始動させる。そのままとなりのラジオ塔の屋上、着陸スレスレにホバリングして2人を回収。そのままヘリで脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~脱出中~

 

 

「47、1ついい?」

「・・・なんだ。」

「なんでセスナを突っ込ませたの?」

「あの状況ではあれくらいしか大事を起こせなかったからだ。いちいち空港まで戻っていては埒が明かない。突っ込ませずにセスナを降りてもスナイパーライフル1丁では大したことは起こせない。」

「そりゃあそうだけど・・・」

「逆に聞くが、あそこで私が何もしなかったらどうしていたんだ?」

「それは・・・ポケモンたちと協力して騒ぎを・・・。」

「それは確実か?屋上でシルバーが傍受してるときに一人で騒ぎの中心にいるのか?」

「あ・・・。」

「お前が一人で行動できたのは隠密行動を取っていたからだ。騒ぎを起こすにはそれなりに単独で騒ぎの中に入らなければならない。それは不確実で危ういものだ。」

「でもセスナが無くなってヘリがなかったら帰りはどうするつもりだったのよ?」

「帰りはどうとでもなる。避難民にまぎれてもいいし、パラシュートバッグに予備のパラシュートがついているからそれでビルから飛び降りてもいい。第一お前たちはポケモンが居るのだからそれでおりられるだろう?」

「そういえばそっか・・・。」

「今ある状況を的確に把握し、最も目標達成に近くなる選択肢はどれか。常に最善を探して行動しろ。しかし、最善がいつどんなときでも最良とは限らないことも同時に覚えろ。最善を求めるあまり時間がかかって好機を逃しては意味がないからな。」

「わかったわ。」

「あんたはいつもそうやって来たのか?」

「そうだ。常に正確とは言えなかったが、概ね問題はなかった。だからこそ今ここにいるとも言える。」

「あんたも・・・結構危ない橋渡ってきてたんだな。」

「そりゃそうでしょ。こんな組織に身をおいてるくらいなんだから。・・・そうだ!今度ポケモンの捕まえ方教えてあげるわ!」

「何?」

「そうよそれがいいわ!ポケモンは何かと役に立つし相談相手にもなってくれるし何より可愛いし!あなたの言う最善も見つけやすくなるはずよ!」

「確かに。ポケモンがあればいろいろと役に立つとは思う。」

「・・・。検討する。」

「捕まえる時になったら言ってね!どこでも駆けつけてあげるわよ!」

「俺も協力する。」

「・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「教導官」      +1000 『ブルーとシルバーに潜入させる。』

・「第二の帝国州」   +3000 『セスナ機に乗って、ラジオ塔に衝突させる。』

・「豆を食らった鷲」  +5000 『飛んでいるターゲットを射殺する。』

・「間もなく発車です。」+1000 『警報機を作動させる。』

 

 

 




グレートティーチャー47


2019/06/17追記
本当は1期の間に47用のポケモンを取りに行く話を突っ込む予定だったのが先延ばしされまくっております。


次回は大きな樹へ向かいます。


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HITMAN『与える樹と奪う者』

世界樹にも色々ありますが、今回はドラゴンクエスト4の世界樹を舞台にしています。


『世界樹の木へようこそ。47。』

 

『とても大きな樹でしょう?それは“世界樹”と言って、この世界で一番高く大きな樹らしいわ。周りを見ればわかるけどこの樹は砂漠のど真ん中のオアシスに立っていてね、オアシスからは生命を司る特殊な力が宿った水が滾々と湧き出してたみたいなの。その水を吸って育った樹はどんどん大きくなって、最後にはオアシス全体を覆うまでに大きく成長したの。それがこの世界樹よ。』

 

『そんな生命の根源とも言えるような世界樹はその葉っぱを薬にすると死者をも蘇らせられるらしいわ。私達とすれば一度殺してしまえばそれで任務は達成だから、達成後ならいくら生き返ってもらっても問題はないわね。でもその葉っぱを狙って世界中から盗掘者ならぬ盗採者が来るの。本来この樹はエルフが守ってるし、内部には魔物が住み着いてるからそうそう被害には合わないんだけど、最近空から侵入した人間が居るらしいのよ。』

 

『今回のターゲットはその人間たち。名前はわからないけど、UAVからの情報では3名でいずれも男性。手当たり次第に乱獲してるみたいでこのままでは世界樹から葉っぱがなくなってしまうわ。世界樹には他の人間はいないようだから間違えることはないわね。』

 

『クライアントはその世界樹を守るエルフの族長、アルフィージャ。報酬額の問題があって一度はお断りしたんだけど、排除してくれたら世界樹の葉を何枚か分けてくれるという話になってね。技術部が欲しがっていたから金額としては格安で請け負うことになったのよ。具体的には一般車数台しか買えない程度の金額でね。そういうわけだからターゲットを始末した後は世界樹の葉を5枚拾ってきてね。それ以上は契約違反になるからダメよ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

ギャース!グワー!ゴゴゴ

 

上から不気味な声が響いている。私は今、エルフが世界樹の根元に作った集落に居る。私は今回、高い樹に登るということで落下防止にも使える金属製ワイヤーロープを持ってきた。宙吊りになることはあっても下に落下することはなくなるだろう。

今回の任務ではこの集落の族長が協力してくれるらしい。早速族長の家に向かう。

族長の家はすぐに見つかった。というのもこの集落、世界樹の防衛を目的としているため建造物自体が族長の家以外は旅人用の宿屋と道具屋と民家一軒くらいしか無いのだ。中では族長が中央に座って待っていた。

 

「よく来た旅のもの。汝らこの世界樹に登るのか。」

「旅のものではない。依頼を受けやって来た者だ。」

「おお!ではそなたが!今回はよろしく頼みますぞ。情けない話だが、我々は世界樹に地上から入る不届き者は退治できても空からの侵入は想定しておらんでな。私等では内部の魔物を避けて上まで行くことはできんのじゃ。」

「内部の魔物とはどのようなものが居る?」

「“アンクルホーン”や“マヒャドフライ”が主じゃな。“グリーンドラゴン”や“レッドサイクロン”にあったら何にも優先して逃げるのが良いだろう。」

「なかなかに凶悪そうな名前だ。ドラゴンまで居るのだな。」

「そなたのところでは魔物自体いないのであったな?平和な世界で羨ましい限りじゃ。」

「そうでもない。魔物がいなくなれば人間は人間同士で闘いを始めるものだ。」

「なんとも悲しい話じゃ。それはともかく、これは世界樹内部の地図じゃ。」パサッ

「感謝する。中はダンジョンになっていると聞いていたので道に迷わないかどうかが心配だった。」

「全部で5階層あり、不届き者の連中は4階部分に居るようだ。」

「わかった。上からターゲットが落ちてきたときは対処を頼む。」

「その辺りは問題はない。常に周囲は我が精鋭部隊が囲んで巡回しておる。」

「そうか。ではそろそろ行ってくる。」

「健闘を祈っておる。頼みますぞ。」

 

私は族長の家から出て世界樹の根元の入口を目指した。

 

 

 

 

世界樹は間近で見るとまた一段と大きい。どうやら1階層がかなり高くなっているらしく、5階建てだというのに高さは100mを優に超えているように見える。階段は通常の建造物よりだいぶ長い。私は内部に入った。

 

内部は木の内側をくり抜いたような構造になっていた。これだけ切り抜いても木は生きているというのだから木の巨大さがわかる。世界樹にとってはキツツキが穴を開けた程度にしか思ってないのだろう。

非常に入り組んでおり、足元も平らとは言えない。静かに魔物に見られないように進む場合、かなりスローペースになってしまうが得体の知れないドラゴンと一戦交えるよりはマシだろう。

 

地図によると入り口で二手に分かれていて、左は上に登った後行き止まりになっているようだ。右へ進む。1階から2階へ上がるときも自然にできたのか魔物が作ったのかはわからない階段を登る。そんな階段なので段差は一定ではないし、地面と平行になってるわけでもない。階段というよりは山道といったほうがしっくり来るかもしれない。

 

 

 

ギャース ギャーギャー

2階に上がると離れた広場で魔物同士が争っている。緑色をした翼の生えたトカゲ。あれがおそらく“グリーンドラゴン”だろう。あれが吐いた炎は青白く、かなりの高熱のようだが壁にあたっても壁は燃えるどころか焦げることすらなかった。世界樹の魔力というものなのだろうか。

音を立てないように慎重に大回りで3階への階段がある部屋に通じている外周へ向かう。終始魔物たちは争っていたが、私が広間の出口にたどり着いた頃にはグリーンドラゴンと争っていたケンタウロスの牛バージョンのような魔物が逃げ帰ることで争いは沈静化したようだ。ドラゴンは辺りを見渡していたので見つからないように物陰に隠れながら外周へ出た。

外周部はまさに木の上だ。私は木登りということをあまりしたことはなかったが、なれていない私でも通れるくらいに枝は太かった。おそらく幅1mは超えているだろう。いたるところで葉が生い茂り視界は非常に悪かったが地図のおかげでさしたる困難もなく3階へ上る階段までこれた。

 

3階も二手に分かれていた。すぐ南側の枝から4階に上がれるらしいがそこは行き止まりのようだ。しかしその方面からなにか話し声が聞こえる。私は枝に移る直前のところで上を覗き込んだ。

 

「おい!そっちはどうだ!」

「大丈夫ですぜ親分!ちょっと手こずるけど剣でつるを切ってしまえば!」

「葉を傷つけるんじゃねえぞ!一枚いくらすると思ってんだ!」

 

枝の上の領域で2人ターゲットと思わしき人物が葉を取っていた。葉は取られたところから目に見える速度で再び芽が出て成長していっているが、採取速度に追いついていないように思える。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『あれが今回のターゲット。2名しか見えないけれどもう1名居るはずよ。気をつけてね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はひとまず3階から外周部を回って4階へ登ることにした。3階と4階の間は葉が生い茂っており、ほとんど視界は通らないので気付かれずに通ることができた。

 

4階部分ともなると中心の幹もだいぶ狭くなってきていた。出口は既になんとか通れるレベルだ。しかし幹自体はまだだいぶ太い為くり抜いてある部分が狭いだけだろう。外周部に出ると、出た直ぐ側でもうひとりを発見した。

 

 

「ヒヒヒ…これだけあれば一生遊んで暮らせるぜ・・・!親分に内緒で何枚かくすねたっていいだろうしな。」

 

 

私はゆっくりと音を立てないように近づいた。手が触れられる距離まで近づくと、後ろから口元を押さえた。

 

「むぐっ!?んー!?」

 

ザシュッ

私はそのままナイフを彼の喉元に這わせる。動脈を切られたターゲットの一人は血しぶきを周囲の葉に撒き散らしながら動かなくなった。血は生命にとって欠かせないもの。それを浴びればもう少しこの大木は成長することができるだろうか?

そのまま生い茂った葉の間から下へ落とす。死体は途中途中の枝にぶち当たりながらも地上まで落下していった。一人目完了だ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『一人目の排除を確認。素早い仕事は好きよ。ターゲットは後二人ね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は外周部を進み、先程2人が採取していた地点のさらに内側を慎重に進んで5階へ上がるための枝を目指した。

5階は幹は完全になくなり、枝と葉っぱしか見えなかった。私はそのままターゲット二人の直上付近まで慎重に移動した。途中、枝に何かが刺さった後のような傷があったがそういう傷は修復できないのだろうか?なにか青白い霧のようなものが出ていたのでなにか特別な傷なのかもしれないが。

 

ターゲット二人の上につくと、私は持参したワイヤーロープを枝にくくりつけた。枝と言っても直径30cmはありそうな普通なら幹と言っても大差ないレベルのものであるが。ロープを固定すると、私はそれを自分にも固定し、枝葉の隙間からゆっくりと二人の元へ降りていった。

二人は依然として目の前の葉を採取することに夢中だ。私はリーダー格の方を後回しにして、もうひとりの子分と思わしき方へ近づいた。頭上からゆっくりと近づいて彼が腰を上げて伸びをするタイミングを見計らって一気に降下、先程と同じく口をふさぎ今度は心臓部分にナイフを突き立てた。

 

「むぐっ!?」ザシュ

「・・・。」

「んー!んー・・・・・・」ガクッ

 

これで2人目。そのまま静かに葉の上に下ろしそのまま4階へ着地。もう一方のターゲットを見る。相変わらず向こうを向いて葉をとっている。私はシルバーボーラーを取り出した。

 

「おい、そろそろ出荷するとしよう!そっちはどのくらい取れたんだ?」

「・・・。」

「おい、聞いてんのか!?」

「悪いが出荷は無期延期だ。」

「え?」

 

 

パシュン

 

彼は突然の聞き慣れない声に思わずしゃがんだままこちらを振り返った。私は振り返った瞬間を狙い、ターゲットの額に向かって弾丸を放った。弾丸は正確にターゲットの額を貫通。そのままゆっくりと倒れ込み、葉の上に血を流して倒れた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲット全員の死亡を確認。お見事だったわ。帰還して頂戴。あ、世界樹の葉5枚も忘れずにね。できれば血がついていないものを。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

死体はそのまま放置で良いだろう。魔物が食らうか、世界樹が養分とするかはわからないが。

 

私が5階から降りつ時に使ったワイヤーロープは下からでも外せるようにはなっているのでそのままワイヤーロープで降りることにする。降りる途中の枝葉から世界樹の葉を採取していく。1枚目はすんなり普通の葉っぱと同じ様にちぎれたが、2枚目以降がつるが絡まるようにしてなかなか取れない。仕方ないのでナイフでつるを切って採取した。5枚取った後、再び同じところから生えてくるのを確認し、ワイヤーロープで降りた。

下に降りると族長が駆け寄ってきた。

 

「先程、賊の一人が落ちてきましたがもしや?」

「ああ。3人共処理した。最上階まで上って確認した。もう乱獲するやつは居ない。」

「ありがたい!なんとお礼を言えばよいか!」

「礼なら既に貰っている。世界樹の葉を5枚。採取した。」

「ええ、ええ。報酬内容に含まれとるからな。どうぞ持っていってくれ。」

「死体は2体上に放置してしまったが良かっただろうか?」

「よいよい。どうせ魔物たちが食らうだろう。奴らは血に飢えておるからな。」

「そうか。」

「ああ、そなたたちの組織の者が南の砂漠で待っておるぞ。空を飛ぶとは不思議な船じゃなあれは。」

「わかった。では失礼する。」

「ああ。達者でな。」

 

私はICAが用意した迎えのセスナに乗ってこの地域を脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~3日後~

 

『それで?どうなの?』

「これはすごいですよ。葉脈は内部で帯電しているようね。しかもかなりの電圧。AEDの電気ショックくらいなら問題なく出せるでしょう。」

『AED機能付きの葉っぱとは不思議なものね。』

「それだけじゃないわ。養分の中には自己修復機能を極限まで高めるための成分が含まれているようよ。しかしそれだけでは死者をよみがえらせることはできない。いくつかの未知の物質がそれを可能にしているようね。これは研究しがいがあるわ!」

『イキイキしてるわね・・・。せっかくこのために呼んだのだから成果を出してね。』

「わかってますよ!いやあ!ワクワクします!では研究に戻っても?」

『上層部には研究は順調と報告しておくわ。我々の目標は【死者を蘇らせる薬品の開発】よ。そのための重要な資料だから無駄にはしないでちょうだいね。』

「ええ!ええ!では!」

 

バタン!

 

 

『まったく。生物学の権威だと言うから連れてきたけどなかなかにマッドサイエンティストね。

アンブレラ社の研究員はみんなこうなのかしら?』

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「水やりは適切に」+1000 『ターゲットの血を世界樹に与える。』

・「害虫駆除」   +1000 『ターゲットを世界樹から落下させる。』

・「忍び足」    +3000 『魔物に一度も見つからずに行動する。』

・「ターザン47」  +3000 『世界樹よりラペリング降下する。』

 

 

 




今回は短めに。

次回は別アプローチです。


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HITMAN『与える樹と奪う者』(もう一つの世界線)

『与える樹と奪う者』の別アプローチです。
と言っても行きと帰りは一緒ですけど。


『世界樹へようこそ。47。』

 

『今回はこの生命を司る大木“世界樹”を荒らし回ってる不届きな3人組がターゲットよ。依頼主は世界樹を守るエルフ族の族長。報酬の一部を“死者を蘇らせられる”と言われる世界樹の葉を5枚で代替されているから忘れずにそれも回収してきてね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

これが世界樹か。なるほどたしかに世界一大きいという話もうなずける大きさだ。周りに比較対象物が少ないため断言は難しいが少なくとも100mは超えているだろう。

私は今世界樹の根元にある集落に来ている。私は命綱兼ラペリング用にワイヤーロープを持ってこようとしたが、情報部から樹の内部には魔物が多数生息しているから武装したほうが良い。というアドバイスを受けたのでサプレッサー付きの“TAC-4”を持参した。そのためワイヤーロープを持参するスペースが取れなかった。

脱出方法が実質一つに限られてしまったため事を慎重に運ぶ必要がある。少なくとも魔物と戦闘状態になれば正攻法での脱出は難しくなってしまう。情報を集めるためにもまずは集落の族長の家へ向かった。

 

 

「よく来た。旅の者。汝らは…」

「旅のものではない。依頼を受けここに来た。」

「おお、そなたが!今回はよろしくおねがいしますぞ。」

「内部はどうなっている?」

「ああ、ええと・・・。これが地図じゃ。」パサッ

「これは・・・5階しかないのか?」

「ああ。大きく別れてるのはその5階層じゃ。1階層ごとが広いものでな。」

「内部は魔物が多いと聞いたが、魔物の知覚脳力について聞きたい。」

「知覚能力?一番目がいいのはグリーンドラゴンだろう。マヒャドフライはあまり目は見えてるわけではないようだ。」

「コウモリのように超音波で知覚するのだろうか。」

「ちょうおんぱ、とか言うのはよく分からん。だが目で見て行動してるわけでないのは確かだ。」

「なるほど。各魔物の外皮の硬さはどうだ。」

「グリーンドラゴンはかなり硬い。並大抵の剣では刃こぼれを起こすだろう。ほかはそこまで固くはない。が柔らかいことが多いので棍棒などでは有効な打撃にならないと思われる。」

「なるほど。銃への耐性はあるか?」

「銃は試したことはない。話には聞くが見たことも試したこともないのでな。」

「では大砲は?」

「大砲なんぞ持ってきとるのか?大砲くらいなら直撃させればグリーンドラゴンも仕留められるとは思うが、そんなに大きなものをどうやって上まで持っていく気じゃ?」

「いや、大砲を持ってるわけではない。その大砲の弾は丸いのか?」

「・・・?大砲の弾は丸い物以外にも有るのか?」

「わかった。ありがとう。」

 

どうやら文明レベル的には産業革命前という感じだろうか。大砲は大航海時代に使ってそうな丸型の弾で、拳銃は貴重品。ライフル弾などもなさそうだ。あってもマスケット銃程度だろう。私の持ってるアサルトライフルの5.56mm弾でも魔物の外皮を貫通できる可能性があることがわかっただけで良しとしよう。

 

「他には魔物に関してなにか情報はないか?」

「奴らは怒り狂うと周囲の仲間を呼ぶ。その際、あまり視野は広くないように感じたな。」

「仲間はどのくらい集まる?」

「刺激を与えた数にもよるが、概ね3~4体じゃろう。魔物は単独行動が主でな。集団でいるのはあまり居ないのじゃ。」

「なるほど。わかった。」

「それで、不届き者の連中は退治できそうかの?」

「問題はない。そろそろ行ってくる。」

「頼みましたぞ。幸運を祈っておる。」

 

私は族長の家を出て、世界樹へ向かった。世界樹の中へは備え付けられた階段を通って内部に入る。内部はくり抜かれたようになっておりあちこちから魔物の声がする。慎重に私は上っていった。

 

 

 

 

道中で何匹か魔物を見たが交戦せずになんとか4階までたどり着いた。木の葉が生い茂っているが間から魔物の姿が見え隠れしている。4階にはその中に混じってターゲットの集団の姿も見える。一人だけ少し離れたところにいるようだが、残りの二人は下の階からしか到達できない領域でしゃがみこんで何かをしていた。おそらく葉を採っているのだろう。

離れている一人も更に上へ向かうための枝の近くで葉を採っていた。私はその近くの枝葉の上に牛と人間をかけ合わせたような魔物が居るのを見つけた。おそらくあれは“アンクルホーン”と呼ばれていた魔物だろう。しかしターゲットに背を向け、遠くを見ているようだ。

私はアンクルホーンの左後ろの尻、顔との直線上にターゲットの一人がくるような箇所に向かってシルバーボーラーを1発放った。

 

パシュン グガア!

 

アンクルホーンは尻に銃弾を食らった瞬間驚いたように前に少しはねた。そして非常に怒った様子であたりを見回している。私は気が付かれないように葉に身を隠した。

 

グガァ!ドドドド

「え?なんだ?なんで?!」

 

アンクルホーンはターゲットの一人を発見した。そのまま凄まじいスピードと重量感でターゲットに突進した。しかしターゲットはそれに気がつき、既の所で避けることに成功したようだ。

 

「親分!助けてくれ!アンクルホーンがこっちに!」

「なに!?わかった今行くぞ!おい、お前もこい!」

「ヘイ!親分!」

 

離れたところに居たもう2人に応援を求めたようだ。彼らは一様に剣や杖を持っている。そのまま交戦するつもりのようだ。

 

「これでもくらえ!“メラミ”!」

「オラ!俺の剣の錆になりやがれ!」

「“バギマ”だ!避けてみな!」

 

次々に技や呪文を唱えていく。アンクルホーンはかなりのダメージを追ったようで身動きが取れずに居る。

私は近くにいる他の魔物を探した。別の端に丁度よい集団が見えた。私はその集団の端にむかってTAC-4を連射する。

 

パパパパパ グギャア!ギャアギャア!

集団はグリーンドラゴンの群れだ。3~4は居るだろうか。彼らもどこからともなく行われた攻撃にあたりを見回しているが、私は木の葉の間から隠れるようにして攻撃したため向こうからは見えていないようだ。やがて、ターゲットの3人組を発見したようで、ぞろぞろと4体のグリーンドラゴンはターゲットに向かっていった。

 

「な、なんだ!グリーンドラゴンまで来やがった!」

「仲間を呼んだような素振りはなかったぞ?!」

「クソッ!とにかく倒さねえとこっちがやられちまうぞ!」

 

彼らも必死だ。アンクルホーンとグリーンドラゴンの二方面からの攻撃に四苦八苦しながらもなんとか応戦しているようだ。私は彼らの頭上の木の葉の向こうになにかうごめいているのを発見した。何が来るのかはよくわからないが、木の葉は銃弾を貫通するのでとりあえず真下から攻撃が来たように装ってそれらに銃弾を当てた。

 

ボァー!ボァ!

なんとも特徴的な鳴き声の後、近くの枝葉からそれらは現れた。大きな鎌をもった悪魔という感じの魔物だった。名前は知らないが地獄からやって来た死神のようなフォルムだ。下についたときに開口一番手から炎の弾を出していたのであながち間違っては居ないかもしれない。

 

「く!なんだよ!どうなってんだよ!」

「この量は・・・流石に・・・」

「親分!逃げましょう!この量は流石に無理っすよ!」

「クソ!撤退だ!」

 

逃げるつもりのようだ。そうはさせない。彼らの逃げる方向には何やら体が白いなにかに覆われてる赤い不気味な魔物が居た。それらに遠距離からTAC-4を当てる。丁度逃げ出した方向が私のいる方とは逆方向だったので彼ら越しに銃弾を数発浴びせた。

 

 

フシャー!フィシャー!

あの白い部分はどうやら霧か雲が高速で回転しているようだ。彼の指先からも猛烈な強風が出ているようで、そのさまはまさに竜巻を発生させているようだ。なるほど、だとするとあれがおそらく“レッドサイクロン”だろう。

 

「ぐあぁぁぁ!」

「おい!クソ!一人やられた!待ってろ今世界樹の葉で・・・」

グガア!

「クソ!すりつぶして与える暇すらねえ!なんでこんなに集まってくるんだよ!」

「親分!もう魔法の聖水も切れちまいやした!MPがたりな…ギャア!」

「クソ!クソ!くそぉぉぉぉ!!」

 

ひとり、また一人と倒れていく。最後に残った親分と呼ばれていた者も、枝葉の端にまで追いやられ、やられた味方を世界樹の葉で生き返らせる暇もなく、強風と吹雪と火炎にやられていた。アンクルホーンが突撃体制に入った。

 

ドドドド

「ぐあぁ!うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

ドサッ

 

アンクルホーンの突進を受けた親分はその衝撃で世界樹の外に放り出された。話に聞くと、“導かれし勇者”とやらならどんな高いところから落ちても安全に着地するという話だが、彼らがその“導かれし勇者”には到底見えない。そのまま地面に向かって落下した。下が砂とは言え高さ80m以上有るこの場所から落ちれば命はないだろう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲット三名の死亡を確認したわ。見事な手際ね。さあ、そこを離脱して頂戴。お土産を忘れないでね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

残された魔物たちは死体となって残された2名を取り囲んでいた。かがんでいるところを見るとおそらく食事タイムだろう。私はデザートにはなりたくないので忍び足でその場を離れた。

十分に離れた後、外周部の端にある葉っぱを回収した。1枚目は手でちぎれたが、2枚目以降はシルバーボーラーで茎を撃たなければちぎれなかった。規定の5枚を回収し、私は来た道を戻った。

 

 

 

 

 

グガァ?

「・・・。」

 

 

 

 

グガァー!!!!

 

しまった。2階へ降りた際に出会い頭に別のアンクルホーンに出くわしてしまった。相手はかなりやる気満々に見え、開口一番私に火炎放射を放ってきた。私は寸前のところでよけると、TAC-4を構え、彼の腹に向かってフルオートで打ち込んだ。

 

パパパパパパパパ

グガー!

 

どうやらそれなりに貫通しているようで、かなり苦しんでいる。それでもなお私に向かって突進を試みてくる。鋭い爪が避けた私の前数センチの地面に刺さった。顔が必然的にかなり近くなる。アンクルホーンはそのまま何か吐こうとしたが私のTAC-4のリロードが完了し、その顔面にフルオート射撃するほうが早かった。

 

パパパパパパパパ

グギャァァァ!!

 

この世のものとは思えない叫び声を上げた後、アンクルホーンはゆっくりと前に倒れた。なんとか倒せたようだ。倒れたアンクルホーンがなにかキラキラしたものを放ちながら消えていく。消えた後に残ったのは100枚以上金貨が入った袋だった。

ともかく、倒せたのだからさっさとこの場を離れたほうが良いのは確実だ。私は忍び足で、なおかつ若干急ぎ目に出口へ向かった。

 

 

その後は魔物に出くわしてもやり過ごすことができ、入ったときと同じ出口から脱出した。出口の外では心配そうな顔のエルフが数人集まっていた。その中に居た族長が駆け寄ってきた。

 

「おお、無事じゃったか。」

「ああ。任務は完了した。」

「ありがとうありがとう。先程上から不届き者の一人が落ちてきたよ。」

「生きていたのか?」

「いや、地面に叩きつけられたようで既に死んでおった。今はうちの若い連中が処理しておる。」

「そうか。」

「それより大丈夫じゃったか?上はかなり騒がしく、ここからでも魔法の応酬が見て取れたが?」

「問題ない。その応酬は私のものではない。」

「そうなのか?」

「ああ。だがアンクルホーンに道中襲われた。」

「なんと!」

「だが私はそういうときの対処も学んでいる。なんとか倒すことはできた。」

「それはそれは・・・流石というべきかな?」

「普段はああいう戦闘はしない。訓練は受けている。」

「なるほど。それで報酬じゃが。」

「世界樹の葉5枚は回収している。」

「そうか。残りのお金は先程不届き者が落ちてきたのを確認した後、お前の迎えのものに渡したよ。」

「そうか。では私もそろそろ。」

「うむ。今回はありがとう。またいつでもおいでな。」

「運が悪ければ、な。」

 

 

 

私はそのまま迎えのセスナに乗って砂漠を脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

~1ヶ月後~

 

 

『薬が完成したってのは本当?』

「ええ!もちろん!我々の技術力を使えば何のことはないですよ!というかむしろもととなった世界樹の葉よりも高性能と言えますね!」

『高性能、というのは?』

「世界樹の葉はプレキシオンオリゴ核酸に似た配列を持った未知の物質。我々はこれをユグドリアス核酸と命名したんですがね。これがもう一つの未知の物質、イルミスチリスと命名したんですが、それと結合することによってアシルエタノールアミンを含むいくつかの成分を高速かつ確実に減少させていく効果が」

『わかったわかった。専門的な話はともかくとして、結局何ができるようになったの?』

「せっかちですねえ。まあいいでしょう。結論から言えば死者をよみがえらせることはできました。しかも、白骨化した遺体でもその遺骨にこの薬を混ぜるだけで、空気中の鉄分や塵等を核として人体を死亡した瞬間の状態まで持っていくことができるようになったのです!」

『白骨化した遺体でも?それは遺灰とかでも大丈夫なのかしら?』

「もちろん!ただ大部分が欠損している場合、元に戻ったときに若干不具合が生じてしまいますが・・・。」

『不具合?』

「ええ。具体的には頭が半分無かったり、手足が変な形をしていたり。奇形児と思えるような復活を遂げてしまい、そのような場合は思考能力や言語能力にも多大に影響が及ぶことがわかっています。」

『ちょっと想像したくないわね・・・。』

「ですが身体能力の向上が見られたものもいました。これは使えるかも・・・。」

『まあとにかく。できた薬は用法を誤らなければ問題はないのね?』

「はい。少なくとも様々な実験対象で実験済みです。マウス、サル、魚類、甲殻類、ウシ、ウマ、あと提供された死体と南米から連れてきた民間人を殺した直後などですね。」

『血や肉は関係ないの?』

「今の所関係はありません。骨か骨格を形成するものさえ残っていれば問題はないですね。」

『そう。ご苦労だったわ。』

「いえいえ、こちらも重要なデータを得られました!早く本社に戻って色々試したいですよ!」

『そう。アンブレラ社が何に使うのかは関知しないけど、せいぜい親を怒らせないことね。』

「その辺りは我々研究員が考えることではありませんので。それでは!私はこれで!」

『ええ。素敵な製品を作るのを期待しているわ。』

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「魔物使い」    +3000 『魔物との戦闘でターゲットを暗殺する』

・「未知との遭遇」  +1000 『魔物と戦闘する。』

・「世界樹観光」   +1000 『3種類以上の魔物を見つける。』

・「天罰はいつも唐突」+2000 『ターゲットに発見されてはならない。』

 

 




ドラクエの魔物は銃火器には耐性無さそうな気がします。特に近代兵器には。


2019/06/17追記
傘の会社は意外に反響が大きかったのがびっくりした記憶があります。


次回はこの葉っぱを活用しに行きます。


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HITMAN『現世との決別』

『ラグドリアン湖へようこそ。47。』

 

『あなたは精霊って信じるかしら?普通なら信じられない存在もこの湖には実際に“水の精霊”っていう存在が棲んでいるらしいわ。特定の家系の人物が呼びかければ応じて現れるみたいね。』

 

『実はその水の精霊なのだけれど、今回のクライアントなのよ。最近、近隣集落の軽工業からの排水をこの湖に流している不届き者が居るんですって。はじめのうちは一時期だけと思って見逃していたらしいんだけど、もうかれこれ10年になるらしいの。流石に長期化する懸念が出てきたということでその排水を流している工場の社長の暗殺依頼よ。』

 

『報酬を払えるのか不安だったけれどちゃんと金貨は持ってるらしいわ。それでもこちらの提示した額には届かなかったようだけれど、代わりに足りない分を【水の精霊の涙】という高価な原料を分けてもらえることになったのよ。3リットルほど。技術部が前回に続いて非常に喜んでいるわ。』

 

『それと。これは別件なのだけれど、最近開発した“死者を蘇らせる薬”、我々は【リザレクター】と呼称することにしたのだけれど、その実験データを開発した研究員が持ち出してしまって、実証実験資料が手元になくなってしまったの。上層部としては効果が書簡で確認できないものを実戦投入するわけに行かないということで追加試験が必要になったのよ。』

 

『それで思い出してほしいんだけど、“シャルロット・エレーヌ・オルレアン”という人物を覚えているかしら?あなたが以前トリステイン魔法学院で暗殺したターゲットなんだけど、その遺体がどうやらこの近くの墓地に埋葬されてるらしいの。死んで富も名声も交友関係すら白紙に戻った元凄腕の暗殺者。復活させられたら面白いことになるわ。47、あなたスカウト業に興味はあるかしら?』

 

『でも第一は今回のメインターゲットの暗殺が主任務よ。名前は“ガンダ・ボルゴレッゾ”というらしいわ。小太りな白人で身長は160前後。いつも頭にベレー帽のような帽子をかぶってるのが特徴ね。』

『準備は一任するわ。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

サァァ…

 

心地よい風が吹いている。新緑の間から見える太陽の熱が春も終わり夏が近づいているのを感じさせる。

私は今ラグドリアン湖北東に位置している村、【ロキニョル村】に来ている。10数件の家屋とそれなりな広さの畑、そして湖と森に囲まれた田舎の村だ。この村は南に少し行くとすぐにガリア王国との国境になり関所が有るようだ。そのため王都トリスタニアから続く道はそれなりな広さでこの村を貫いている。

 

今回はサブ目標として私が以前暗殺したターゲットに新型の蘇生薬を試すというものが含まれているため、その蘇生薬、【リザレクター】といったか。それを持参している。何のことはない普通のサプリメントが入ってそうな手のひら大の半透明の瓶だ。中には何やら薄紫色をした液体が7分目ほどのところまで入っている。これを死体にふりかけるだけで良いらしいが・・・。

 

何はともあれまずはターゲットの暗殺が優先任務である。私は街の中を捜索しようとしたが、捜索するまでもなく、街につくやいなや町外れの納屋のような建物から煙が出ているのを発見した。他の家屋の煙突から出る煙は白なのに対し、その納屋のような建物の煙突からは黒煙が出ている。おそらくあの納屋がターゲットの経営する“工場”なのだろう。

 

工場はそれほど大きくはなかった。確かに周囲の家屋と比べれば1回り大きいが規模で言えば町工場という方が正しいだろう。2階建てのようで、入り口には会社名と思わしき立て看板が掲げられているが残念ながら読めなかった。

 

少し離れたところから観察していると、中から作業員と思わしき人が手押し車を押しながら出てきた。積んでいる積み荷はどうやら穀物のようだ。そのまま建物の裏側へ回っていった。その先には少しくぼんでいるゴミ捨て場のような領域があった。おそらくあそこに廃材を捨てに行っているのだろう。私はすばやくその後を追った。

 

手押し車を前に傾け中身を出している作業員の後ろから羽交い締めにし、口をふさぎつつ首を絞める。突然のことに驚いていたのもあったのか、すぐに動かなくなり気絶した。私は作業員から作業服を“借り”、作業員をゴミ捨て場と思わしき窪地に投げ込んだ。ゴミ捨て場と言えど内部は籾殻のようなものと土が入り混じっており、沈んでいくこともなくそのまま横たわった状態になった。しかし窪地のため近づいて覗き込まない限り周囲から見えることはないだろう。

私は空になった手押し車を押しながら工場内に潜入した。

 

 

工場内は予想よりも暑かった。どうやら穀物を使ってなにかの缶詰を作っているようだ。製品を作る際になにかの液体と一緒に煮込んでいるのが見える。おそらくあの煮込んだ後の残り汁を湖に不法投棄しているのだろう。

少し高いところからあたりを見回している人物を発見した。どうやら現場責任者のようだ。その後ろに小太りのベレー帽をかぶった男が居た。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがガンダ・ボルゴレッゾ。工場長にして精霊を怒らせた張本人。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ターゲットを発見したがそこへ行くまでが遠そうだ。まずターゲットの居る位置は全体を監督する現場責任者クラスが居るところのようであり、そこへは簡易的ながらエレベーターで行く必要があるようだ。そのエレベーターは見たところ2つの鍵が必要のようであり、おそらくターゲットと現場責任者、もしくはそのどちらかが持っているのだろう。

もう一つはその立っている場所が下から丸見えなことだ。床は荒目の金網で、少し動いただけでもガシャンガシャン音がしている。加えて奥行きもそこまで広いとは言えず、隠れられそうな場所も、死体を隠せそうな場所も見当たらない。有るのは簡易的な椅子と机と小さめのホワイトボードだけだ。

っと、もう一つ付け加えると、今現場責任者のほうが降りてきた。その際、エレベーターは結構な大音響で可動しており、工場内のあらゆる機械の音にも負けない騒音を発している。この音の感じだとおそらく昇降には歯車を使っていて、その歯車が錆びているのだと推測できる。

流石に現場監督レベルだと変装が見破られる可能性があるので私は目立たないように資材チェックをしている風を装いながらチャンスを待った。

 

 

 

チャンスが訪れたのは日が完全に直上に来たお昼になってからだった。どうやらターゲットは昼食もあそこで取っているらしく、簡易的な長机の上に弁当を広げている。他の作業員の話を聞く限り、仕事が終わった後は従業員全員と同一の宿舎に帰っているようだ。だとすれば仕事中にすべてのケリを付けたいものだ。そう思っていると、現場責任者を残してほとんどの作業員は外へ出ていってしまった。皆一様に弁当を持っているようなので天気がいいから外で食事ということだろうか。

 

私は現場責任者の位置を確認する。彼は大きなボイラーのような装置の前でなにかの調整をしており、そのボイラーの向こう側にターゲットが居る。今ならボイラーが影になってターゲットからは見えないはずだ。私は万が一外から見られる可能性も考慮して、ボイラーの隣りにある食材を裁断する機械のけたたましい音に乗じて扉を締めた。

 

「くそったれめ。このポンコツ手こずらせやがる・・・」

「私が手伝いましょうか。」

「ん、頼む・・・」

ドゴッ

「ガッ…グフ…」

ドサッ

 

彼の後ろから静かに近づき、彼が振り向いた瞬間に顎に拳を食らわせた。作業服は口元を覆う布巾のようなものを着用するため、顔は瞬時にはわからないはずだ。

彼はゆっくりと弄っていた機械にもたれかかった。その拍子になにかのレバーが作動した。

 

ガーガタガタガピーピー

 

この世界の機械は原始的な歯車で作られており、機械というよりは絡繰と言ったほうが正しいかもしれない。しかしそれでも操作を間違えればおかしな動作をするのはどの世代の機械でも一緒だ。あからさまにおかしな音を立ててボイラーとその横の裁断機が動き出した。

 

「ん?何やってんだ、マーク。機械が動いちまってるぞ!」

 

上に居たターゲットが休憩中だと言うのに稼働し始めた機械に不審に思ったのか大声で叫んで問いかけてきた。

 

「すみません。ぶつかった拍子に動いてしまったのですが止め方わかりますか?」

「ああ?お前新人か。マークはどこ行った?」

「マークさんは今しがた外へ出ていかれましたが。」

「ったくしょうがねえな・・・そこで待ってろ。」

 

私は少し場所を変えて返答した。ターゲットはこちらが何者か気がついていないようだ。動き出した機械に負けず劣らずの大きな音を立ててエレベーターが動く。ターゲットが降りてきた。

 

「で、どれが止められないって?」

「これです。どうやらこの辺りが。」

 

私は裁断機の食材を入れる箇所を示す。

 

「なんでえチョッパーか。こいつはな、最近調子が悪くてな。ガーゴイルと似た技術を使って動かすとか言ってガリアの技巧ギルドは言ってたんだがどうも馬のように気性が荒いんだ。」

「なるほど」

 

ターゲットは動き続ける裁断機を指し示した。ここまで来ればやることは1つだ。

 

「では食材を入れれば直りそうですね。」

「え?何いってんだ?こいつドンわぁぁぁぁあ!?」

 

私は後ろに回り込み、その小太りな背中を強く突き飛ばした。彼は裁断する食材を入れるスペースへ吸い込まれていった。

 

「うぎゃぁぁぁぁっぁあああ!!!」

 

バリバリグチュグチュ

 

ターゲットは見るも無残に裁断され、ミンチになった。どうやらそのまま茹でられて他の野菜と混ぜ合わされて缶詰にされるまでが全自動のようだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。なかなかエグイやり方をするのね47。私はしばらくハンバーグは食べられそうにないわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「何だ今の声?」

「なんか変な声聞こえたような?」

 

叫び声も可動する機械の音でほとんどかき消されたらしいが、それでも若干外に漏れていたようだ。外の作業員数名が扉をあけて中を覗き込んだ。

 

「すまない。でかいネズミが出て取り乱してしまった。」

「ネズミだと?それは本当か!」

「ああ。しかも最悪なことに調整のために可動させてたチョッパーに入ってしまったようだ。」

「げえ・・・。じゃあ今できてるやつは全部処分したほうがいいな・・・。」

「それが良いと思う。」

「ところでボルゴの旦那は?」

「先程用があると言って裏口から出ていった。」

「そうか。どちらにしろ一旦機械は止めてばらして洗浄したほうが良さそうだ。」

「私はボルゴさんに頼まれたことが有るので少し失礼する。街で買わなければならないものができたのでな。」

「そうか。いいなあ。俺らで洗浄か。めんどくせえなあ・・・。」

「すまない。」

「いいっていいって。さっさと行きな。ボルゴさん怒らせちゃまずいぞ。」

「わかった。ありがとう。」

「おう。」

 

 

私は工場を出て、裏の廃材置き場へ戻り、放置していた作業員に作業着を着せて元のスーツを着た。その足で村へ戻った。

 

 

 

村に戻った私はそのまま町外れの雑木林に隠れた入江に来た。水の精霊とやらから報酬をもらうためだ。

私が入江のほとりに立つと風も吹いていないのに波が立ち始めた。そのうち一人の女性の体に水が形を変えて出現した。

 

「汝が余の要求を実現した者か。」

「おそらくはそうだろう。お前が水の精霊とやらであるならばだが。」

「不届きな者を葬った礼を受け取るが良い。」

 

そういうと水の中から金貨の入った袋が3つと大きな水瓶が2つ宙に浮かびながら来た。サイコキネシスか何かだろうか。

 

「1つ良いか?」

「なんだ。複製されし者よ。」

「お前ほどの存在が何故人間一人殺せない?」

「ガンダールヴと約束した。水を増やさないと。水が近くになければ我々は対処できない。」

「ガンダ・・・まあいい。報酬はたしかに受け取った。」

「此度の事。感謝する。」

 

そう言うと水でできた女性は水面へ帰っていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『衛星から報酬は確認したわ。技術部に取りに行かせる。任務は完了よ。で、サブ目標なんだけど。ガリア領に入って少しすると【カンブレン】っていう少し大きな街が有るの。そこの町外れの墓地に彼女は眠っているようよ。彼女の名前のスペルは覚えているわよね?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は村の中心地にあった駅馬車の停留所に向かい、そこからガリア行きの馬車に乗って村を離れた。

 

 

 

 

 

 

「ほれ、お兄さん。着いたよ。カンブレンだ。」

「ありがとう。」チャリン

「はい。毎度。気をつけてな。」

パカパカパカ…

 

 

カンブレンの街についた。街はかなりの大きさに思えるのは先程まで居た街が閑散としすぎていたからだろうか。

実際結構栄えており、診療所や醸造所まである。もちろん教会もあり、少なくとも中心部であるここからは町の外は見えない。

 

「すまない。道を訪ねたいのだが?」

「はい?何でしょう?」

「私の友人の墓参りに来たのだが、この街の墓地はどちらに有るのかな?」

「ああ、コミュナ墓地ですね。でしたらこの通りをまっすぐ行って街を抜けた辺りから右手に見える青い屋根の建物のところがそうですよ。」

「街を抜けた後右手に見える青い屋根の建物、だな。ありがとう。」

 

私は訪ねた少女に別れを告げ、街の端へ向かって歩いた。しかし結構距離がありそうだが馬車を途中で降ろしてもらえばよかっただろうか。

言われたとおりに進み、墓地に着いた。馬車で着いたときには既に夕暮れに差し掛かっていたが、墓地に到着したときには既に辺りは暗闇に包まれていた。しかし辺りの民家の明かりが付いている。時刻は私の時計で午後8時を指している。今行動を起こすのは流石にまずい。もう少し夜が更けるまで墓地で待機することにした。

 

 

 

 

現在時刻、午前1時。辺りの民家の明かりは全て消え、明かりは月明かりだけだ。私は行動を開始した。まずはターゲット…ではないか。シャルロットの墓標を探すとする。墓地は結構な広さが有る。しかし墓標一つ一つがそれなりに大きいため広さの割には埋葬されてる人間は少ないと見える。加えてあちこちで空地になってる部分も見受けられた。

 

30分ほど探しただろうか。目的の名前を見つけた。“タバサ”と墓標には刻まれている。本名は伏せられて埋葬されたようだ。私は墓地の入口の小屋に立てかけてあったスコップを墓標の目の前に突き立てた。そのまま掘り進んでいく。そこまで深く埋葬する必要はないだろうからメートル単位で掘るようなことはないはずだ。

 

 

ガキン

しばらく掘っていると、スコップの先がなにか硬いものにあたった。土を慎重に払いのけると長さ170cmほどの棺桶が出てきた。周りの土を払い除け、棺桶の蓋をゆっくりと開ける。

中には出会ったときと同じ魔法学院の服装を着せられた腐敗した遺体があった。この世界は基本的に火葬という概念がなく、土葬が一般的である点は今回の任務においては好都合だった。

 

「お休み中申し訳ないが働いてもらうことになりそうだぞ。」

 

誰と無く話しかけた私は、懐から技術部より預かった薬品【リザレクター】を取り出した。蓋を開けると柑橘系と思わしき匂いが感じられた。そのまま腐敗した遺体に服の上からふりかけた。

 

サァァァァ

風の流れを感じる。どうやら周囲の空気が遺体に向かって集中している。というより吸い込んでいるに近いだろうか。彼女の遺体はスカートと靴の間から見えていたシワシワで茶色に変色した皮膚を、ボロボロになっている手を、しわくちゃになってほとんど骸骨状態になっていた顔を、その風がみるみる水分を取り戻させる。ものの数分で肌は茶色から薄い肌色に、ほとんど抜け落ちていた髪は美しい青い髪を復活させ、虚空が広がっていた目やシワシワの鼻、白骨化一歩手前の口などはみるみるうちに可憐な少女の顔に戻っていった。

丁度10分経っただろうか。彼女の遺体は服装以外はほぼ完璧にもとに戻っていた。

 

「んっ・・・」

 

動いた。ここまで来れば完全に遺体ではなく生きた人間だ。この薬の効果は実証されたようだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『実験は成功ね。映像で記録したわ。これで実戦配備ができるわ。ご苦労さま。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「気がついたか。」

「ここは・・・?」

「自分が何者かわかるか?」

「私は・・・っ!?」

「む。」

「お前は・・・!」

「あの時の記憶が有るのか。」

「お前は私に毒を・・・!」

「落ち着け。まずは状況を説明してやる。」

 

それから私は用意しておいた代わりの服装を渡しつつ、小一時間現状を説明した。彼女が一度死んだこと。死んでこのガリアの辺境の街に埋葬されたこと。蘇生させる薬を我々が開発したこと。その薬を使って生き返らせたこと。そして、情報部からの伝達情報として彼女の母親が彼女が死ぬとそれに呼応するかのように息を引き取ったこと。

 

「そんな・・・かあさま・・・。」

「お前はもうシャルロットでもなければタバサでもない。それらの名を持つ人物は死にここに埋葬されたのだ。」

「・・・。」

「我々と一緒に来る気はないか。復讐の連鎖も終わっている今、この世界に未練はないはずだ。」

「・・・。ついていっても良い。だけど一つだけやらせてほしいことが有る。」

「なんだ。」

「キュルケに・・・。私の最も親しかった親友に別れを言いたい。」

「キュルケ・・・あの褐色肌の女性か。」

「彼女に別れを告げたら、どこへでも行く。世界を混乱に陥れた私は今までのあの温かい世界に居る資格はない。」

「・・・わかった。上層部に掛け合ってみよう。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『上層部の許可を取り付けるのは至難の業だと思うわ。でもやってみましょう。この世界には居られなくなる可能性が高いことだけは承知させて。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「この世界に居られなくなる可能性が高い。それでも良いか?」

「いい。」

「そうか。わかった。」

 

私は墓を埋め戻した後、町外れに停めてある迎えの車両に彼女を乗せ脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~2時間後~

 

「キュルケ。」

「んん・・・。」

「キュルケ。」

「ん・・・だーれーこんな夜中に・・・」

「私。」

「・・・え!?タバサ!?」

「そう。」

「え、でもなんで。あなた死んだはずじゃ・・・」

「私は幽霊になった。あなたに別れを告げに来た。」

「・・・そうよね。あなたはもう死んでしまったものね・・・。」

「今まで無愛想だった私を気にかけてくれて感謝してる。」

「そんな、私はただ仲良くなりたかっただけよ。」

「それにサイトとの仲を結ぼうとしてくれたことにも感謝している。」

「それは感謝される理由はないわ、だって成就してないんですもの・・・。」

「いい。私は彼が幸せならそれで良い。」

「タバサ・・・。」

「今夜のことは夢。私からの最後のお別れ。だから、私のことは気にしないであなたはあなたの人生を歩んでほしい。それが私の願い。」

「忘れろっていうの?それはいくら親友の頼みでも出来ない相談だわね。」

「・・・。」

「まだまだ語り無いことたくさんあるもの。できればもっともっと話していたいくらいよ。」

「それは出来ない。そろそろ。時間。これで最後。」

「え・・・ま、待ってタバサ!まだ私、あなたに」パシュン

トサッ スー…スー…

 

「良かったのか?」

「いい。彼女もわかってくれる。」

「新しい麻酔弾をこんな形で使うとは思わなかった。」

「・・・。」

「では。行くぞ。」

「(コクン)」

 

 

 

 

「さようなら。私の大切な人。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「産業革命」         +1000『作業員の変装をして工場に潜入する。』

・「ランチはお前」       +3000『ターゲットをチョッパーで暗殺する。』

・「渡し賃不足」        +1000『タバサを復活させる。』

・「ドリームオブオーバーナイト」+5000『全目標を24時間以内に達成する。』

 




敷かれた道を進むより、道なきところに自ら道を築いて進め。
-ラルフ・ワルド・エマーソン-




次回は別アプローチです。


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HITMAN『現世との決別』(もう一つの世界線)

『現世との決別』の別アプローチ版です。


『ラグドリアン湖へようこそ。47。』

 

『今回のターゲットはこの美しい湖を汚染する軽工業の社長、ガンダ・ボルゴレッゾよ。工業排水を湖に流しているらしいわ。』

 

『依頼人はこの湖の主である“水の精霊”よ。ある約束によって水位を上げることが出来ず、ターゲットを排除できないため我々に接触してきたってわけ。』

 

『それと副目標で先日ついに完成した蘇生薬【リザレクター】の実証試験が必要でね。近くの街に以前暗殺したシャルロット・エレーヌ・オルレアンが埋葬されてる墓地が有るらしいからそこへ行って蘇生薬を試してきて頂戴。』

 

『今回、報酬は金貨と水の精霊の涙という貴重な材料よ。忘れずに受け取ってね。あともし水の精霊にあったら言っておいて、今度依頼するときは使用中のシャワーからじゃなくて近くの水場から現れるようにって。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

空気は澄んでいる。深呼吸したいと思えるのは久々だ。最近はやたら湿気の多いジャングルか排気ガスだらけの大都市ばかりだった。

 

今回私は、リモコン爆弾を持参しようとしたが、在庫が切れているとのことなのでブリーチングチャージを代わりに持ってきた。人を殺傷するには密着させる位近づけなければならないが、これでも機械を壊したり陽動には十分のはずだ。

 

私は今、【ロキニョル村】に来ている。ラグドリアン湖の辺りに位置するこの村のなかで、湖から一番離れた位置にある大きめの納屋、あそこの建物だけ白煙ではなく黒煙を煙突から出しているところから見てあそこが工場だろう。明らかに軽工業とは思えない煙の出方をしているが何をしている工場なのだろうか。

 

近づいていくに連れ内容がわかってくる。それなりな頻度で作業員が内部から出ては何かを近くの窪地に捨てている。建物の西側にあるその窪地に近づき、それを確認した。どうやら籾殻や野菜くずのようだ。ということは少なくとも何かの食品加工業だといえる。

窪地の向こう側、建物の北側に回り窓から中を覗くと、内部では何やら大きな機械が動いているのが見えた。歯車がむき出しで駆動しており、機械というよりは絡繰に近い。

 

北側の窓から建物の全容把握に務める。まず西の端には食材が入ってると思われる樽や麻袋、木箱がおいてある。時折それから取り出した食材を中央に置かれている大きな機械のうち北側にせり出した部分に入れている。おそらくアレが裁断機だろう。裁断された食材は簡易的なベルトコンベアのようなもので奥の大きな釜に運ばれている。湯気が立ち上ってる辺りおそらく中で茹でているのだろう。一定時間ごとに中身が取り出され、中身はなにかの液体をかけられた後缶詰に詰められている。ここはこの世界にしてはそれなりに近代化された缶詰工場のようだ。

 

東側の端にはエレベーターらしきものの上に外廊下のような金網床のテラスがあった。その上に全体を見回す男と、ベレー帽をかぶった小太りの男が居た。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが、ガンダ・ボルゴレッゾ。日中はずっとあそこにいるみたいだけど、どうしましょうか。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ジリリリリ

何かのベルが鳴った。機械が止められ、作業員たちが何かをもって外へ出ていく。すぐに工場内にはターゲットとその近くに居た男だけになった。男の方はエレベーターに乗った。やたら動きがぎこちなく、凄まじくうるさいエレベーターだ。どうやらスチームパイプで歯車を動かしているらしい。エレベーターの脇には太いパイプが通っている。私はエレベーターの騒音を利用して窓を開けた。窓も立て付けが悪く、ギーギー音を立てているがエレベーターのそれはその何十倍もうるさいので、エレベーターに乗っている男も上に残っているターゲットも気がついては居ない。

 

私はすばやく大きな機械に身を隠した。ターゲットを見ると、どうやら上で食事をとっているようだ。エレベーターから降りてきた男は他の作業員とは行動が異なり、ターゲットとも近い位置に居ることからこの工場の現場責任者のようだ。現場責任者の男が隠れている機械の向こう側まで来た。どうやら機械を弄っているようだ。

 

「っち、こいつもか。ったくどいつもこいつもガタが来てやがる・・・。」

 

悪態のような独り言を喋り始めた。

 

「しかしエレベーターは大至急直さないとな。アレじゃいつパイプが破裂して爆発するかわかったもんじぇねえ・・・。」

####アプローチ発見####

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『エレベーターに使われているスチームパイプは老朽化の影響で破断寸前のようね。スチームパイプが至近距離で爆発したらどうなるか。現場責任者の彼はよく知っているみたいよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は場所を変え、エレベーターに近づき、よく観察した。スチームパイプはエレベーターの北側の壁についている。よく見ると一番下から50センチほど上に歯車と結合している部品が見える。しかし、その上下のパイプの結合部が錆びており内部圧力によって心なしか膨らんでいるようにも見える。なにか大きな衝撃でもあれば破裂して爆発するだろう。

エレベーターの構造をもっと詳しく見ていく。スチームパイプから出ている歯車が噛み合ってエレベーター本体につながっており、歯車の形からしてスチームパイプ内を下から蒸気を出せば上がり、上から蒸気を送れば下る仕掛けになっているようだ。エレベーターに近いいくつかの歯車は壁から5センチほど浮いていた。おそらくエレベーターの箱部分の構造上浮かせなければならなかったのだろう。

私は現場監督が機械に夢中なのを確認し、ターゲットもエレベーター方面から見れば後ろ向きでこちらを見ていないのを確認した。そしてエレベーターにつながる根元の歯車の裏側にブリーチングチャージを仕掛けた。これでリモコンを作動させれば歯車が吹っ飛ぶはずだ。この根本の歯車が吹っ飛べばエレベーターは支えを失って急降下することになる。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『素晴らしい仕事ね。後はターゲットが乗ってくれるのを待つとしましょうか。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

仕掛けし終えた私は現場監督のいじっている機械の裏に戻った。機械の側に金槌を見つけた。金槌を窓とは反対の方向に投げる。

 

カランカラン

 

「ああ?なんだ?今度は何が壊れたんだ?」

スタスタ

 

うまく金槌の音で誘導できたので、この隙に入った窓から再び外に出る。後はタイミングを見計らってスイッチを押すだけである。願わくば私が爆発させるより前にパイプが破裂しないことを祈る。

 

 

 

 

 

ジリリリリ

日も傾き、夕暮れである。おそらく終業のベルと思わしき物が鳴り、作業員たちが次々と工場を出ていく。現場責任者も途中から下に降りていたため今テラスに居るのはターゲット一人だけだ。そのうち現場責任者も工場を出ていった。

 

「さーて、俺も帰るかあ。」

 

伸びをした後、ターゲットが椅子から立ち上がった。午後の大半を机に座って眺めるか何かを書いていたようだ。もう少し運動したほうが良いと思う。もうその機会が訪れることはないだろうが。

ターゲットはいつもどおりエレベーターに乗った。またけたたましい音を立てて動き始める。私は動き始めたのを確認して爆弾のスイッチを押した。

 

バァン ガギギギギギ

 

「うわ!うわああ!!」

 

爆発は小規模で、その音さえもエレベーターの音のほうが大きいくらいだったが、爆発で歯車が吹っ飛び、ブレーキがなくなったエレベーターは見違えるようにスムーズかつ高速で下った。そして

 

ガシャーン! パキッ ボォォォォン!!!!

 

エレベーターは1階に全速力で激突した。しかし所詮2階から1階へのエレベーターなのであれだけではターゲットは殺せない。しかし、その落下の衝撃でついにその側面についていたパイプが破裂した。高熱の蒸気が凄まじい勢いで工場中に充満する。おそらくパイプの破裂の衝撃でも生きてはいないだろうが、この高熱によってその死は確実のものとなるだろう。

っと。ここも危なくなってきた。部屋中に充満した蒸気は逃げ場を求めている。扉は内開き、窓も締め切られており、今にもぶち破りそうだ。私はとっさにゴミ捨て場になっていた窪地に身を投げた。瞬間。

 

 

ドォォォン!!

 

 

工場のガラスから外壁から色々なものがその蒸気に押し出される形で爆発四散した。工場はまだかろうじて建っているが、崩れるのも時間の問題だろう。私は急いで窪地から這い出し、村の方へ走った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『衛星からの観測によってターゲットの死亡が確認されたわ。ご苦労さま。ラグドリアン湖で報酬を受け取ったらサブ目標に取り掛かって頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

村に着くと村民たちは突如爆発した工場を不思議そうに遠目で見ていた。工場だったものからは蒸気が白い太い煙となって放たれている。ニューヨークで起きたスチームパイプの事故を思い出す光景だ。私は数少ない村民に気が付かれないように湖の方へ向かった。

村民たちは皆一応にして工場を気にかけており、火事だと思ったのか対処するために村民総出で消火作業に当たるらしい。私は無人となった村の、桟橋と手こぎボートくらいしか無いような小さな漁港に来た。桟橋に到着すると、桟橋のすぐ横の水面が波立ち始めた。すぐに水面から女性の形をした半透明の像が現れた。

 

「汝が余の願いを叶えたものか。」

「おそらくは。」

「不届き者の生命の気配が消えた。礼を言う。」

「報酬は。」

ヒューン

湖の中から飛んできたのは金貨の袋3つと大きめの水瓶が2つだった。

 

「たしかに受け取った。」

「ではさらばだ。」

「ああそうだ。一つ言い忘れていた。」

「なんだ。」

「今度依頼をするときは噴水か池から出てほしいそうだ。使用中のシャワーから出るのは止めてくれと。」

「わかった。善処しよう。」

 

そう言うと水の精霊は水の中に戻っていき、水面は他と同じような静かな湖面に戻った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『報酬は確認できたわ。うちの部隊が回収に向かうからそのままにしておいて。この液体は技術部の技術をさらに向上させてくれそうね。じゃあサブ目標だけど、ここから南に街道沿いに進むと【カンブレン】という街があるの。その街の外れにある墓地にシャルロット・エレーヌ・オルレアンは眠っているらしいわ。向かって頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は報酬をその場に残し、無人になっている馬車小屋から馬を1頭借りて一路南へ向かった。

 

 

 

 

 

カンブレンの街についたのは既に夜も大分更けたところだった。元々ロキニョルの村を出たのが夕方近かったのもあったが、既に手元の時計で午前2時を回っていた。

 

しかし、街に入る直前、左手の奥に墓地らしき一角を丘の上から視認していた。私は馬をその近くに止め、早速目的の人物の墓を探した。墓地はそれなりに広く、探すのに多少手間取ったが、午前3時を回ったところでやっと発見した。墓標には“タバサ”とだけ刻まれており、政治的理由から本名を明記することが出来なかったのだと推測する。

 

私は墓地に入る前に借りておいたスコップで墓を掘り起こす。金品目当ての墓荒らしの話はたまに聞くが、火葬せずに土葬すればエジプトのツタンカーメンのように金品を入れるやからも出てくるのは考えられることだと思う。最も私は供えられた金品より遺体本体に用があるわけだが。

 

しばらく掘っていると、棺桶が出てきた。開けやすいように周りもそれなりに掘る。深さ1mほどに埋められていたそれを中に土が入らないように慎重に開ける。中には魔法学院の制服を着たままの腐敗した遺体があった。骨格の感じからして本人だろう。私は懐から例の新薬【リザレクター】を取り出すと、それをまんべんなくふりかけた。

 

 

 

 

 

「ん?誰か居るのか?」

「・・・!」

 

まずい、巡回警邏中の兵士だ。この地域の治安維持用の駐屯部隊だろう。私は隣でみるみる若返っていく死体を横目にどうしたものか思案したが、既に相手の視認範囲に入っているためにここから脱出して物陰に隠れるのは無理だろう。

 

「・・・!貴様!そこで何をしている!」

「・・・。」

「墓荒らしだ!」ピィーー!!ピィーー!!

 

しまった。笛を鳴らされた。仕方ない。ここで応戦するしか無さそうだ。私はシルバーボーラーを構え、笛を吹いている兵士の頭を狙った。

 

パシュン バタッ

 

弾丸は正確に頭部を捉え、側頭部こめかみ部分に風穴を開けた。しかし遠くの方からこちらに向かって走ってくる集団がいる。応援部隊だろう。私は掘った墓を塹壕のようにして身を隠しつつ正確に一人ずつ倒していった。

 

パシュンパシュンパシュン

 

「くっ!物陰に隠れろ!もっと応援が必要だ!」

 

これ以上応援が呼ばれると非常にまずい。いっその事このまま撤退することも視野に・・・。

 

 

 

「どいて。」

「・・・!」

 

 

 

“スリープクラウド”

 

 

 

青白い霧が背後から発生し、操られた風に乗って増援に来た兵士たちに降り注ぐ。たちまち兵士たちは倒れた。どうやら眠ってしまったようだ。

後ろを見ると、完全に元の状態に戻っていた元遺体、タバサがいた。1年近く棺桶に居たため服はだいぶ劣化してところどころちぎれてはいるが。

 

「どういうこと。」

「色々聞きたいことは有るだろうが話は後だ。ともかく次の増援が来る前にここを脱出するべきだと思うが。」

「わかった。でも説明はしてもらう。」

 

 

私達は墓穴から這い出し、近くの茂みに隠れながら馬のある場所まで戻り、そのまま馬に乗って脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~2日後~

 

「学院長。ヴァリエール、ツェルプストー、グラモン、サイト、只今参上いたしました。」

「うむ、入りたまえ。」

 

ガチャ

 

「なんでしょう学院長。重大な話って。」

「先程王宮にいるワシの伝手から連絡があっての。君たちはミス・タバサの事を覚えていると思うが。」

「タバサ?まさかまたガリアがなにか嫌がらせを!?」

「そんな!死んでもなお嫌がらせをするなんて!」

「これこれ、そうではない。ミス・タバサが埋葬されていたガリアの辺境の街カンブレンで墓荒らしが発生したらしいのじゃ。」

「墓荒らし?!」

「こっちの世界でもやっぱそういう奴はいるのか・・・。」

「うむ。で、その墓荒らしなんじゃがどうやらミス・タバサの墓を荒らしていったそうなんじゃ。」

「そんな!」

「なんでタバサの墓を!?」

「サイト、君はなにか金品を居れていたのかい?」

「そんなもん入れてねえよ!」

「私が一緒に入れたタバサの大きな杖なら多少は価値があるかもしれないけど・・・。」

「被害状況は奇妙でな。普通墓荒らしは遺体の周囲に有る金品を目当てに荒らすんじゃが、周囲に供えられたブレスレッドやネックレスなどには一切手を付けず遺体と杖だけが消えていたそうじゃ。」

「タバサと杖だけ?何故そんな事を!」

「そしてもっと奇妙なのが、墓に続く道は君たちも知っての通り土じゃ。墓に向かっていく足跡は1人分しか見当たらなかったのに対し、墓から逃走した足跡は2人分あったそうじゃ。」

「ええ??それってどういうこと?」

「タバサの遺体が歩いたっていうんですか?」

「ワシにも分からん。しかし棺桶の状況はその奇妙さに拍車をかけておる。普通腐敗した遺体などを持てば何かが崩れて痕跡が残ったりするものなんじゃが、痕跡もまったくなく、遺体が独り歩きして自ら出ていったとしか思えん状況らしいのじゃ・・・。」

「どういうこと・・・?ガリアの陰謀?」

「ガリアって死体を操れるほどの技術があるのか?」

「あ!アンドバリの指輪!」

「それはない。あの指輪で操れる死体は比較的新鮮なもの、死後1週間以内のものでは無くてはならない。彼女が埋葬されてから来週で1年になろうというところなのじゃぞ。」

「じゃあ一体誰が・・・」

「もしかしたら君たちの前にひょっこり現れる可能性もある。じゃがそれは何者かに操られている可能性が高い。十分注意するんじゃ。」

「「わかりました。」」

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「排水ストップ」 +3000 『工場を稼働停止させる。』

・「スプラッシュ!」+2000 『スチームパイプを破裂させる。』

・「蒸気浴」    +3000 『高熱蒸気でターゲットを暗殺する。』

・「盗掘者」    +1000 『墓地の警邏隊に発見される。』

 

 




「死は存在しない。生きる世界が変わるだけだ。」
-アメリカ先住民 ドゥワミッシュ族-


2019/06/17追記
2期でも似たような話を書く予定です。(というか書けてる。)


次回は海へ出ます。


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HITMAN『艦隊行動』

『チューク諸島へようこそ。47。』

 

『今回はミクロネシアはチューク諸島にある、日本国海軍基地に視察中の合衆国の高官がターゲットよ。ターゲットの名前はトーマス・バーミッダム中将。ペンタゴンの命を受け、アメリカ海軍第7艦隊に艦娘部隊設立を計画している重鎮よ。』

 

『クライアントは日本国大本営。日本固有の戦力である艦娘というアドバンテージを崩したくはないけど、同盟国であるアメリカに表立って中止要請も出来ないから私達に依頼が来たというわけ。』

 

『今回、バーミッダム中将は艦娘たちと一緒に中部海域、ミッドウェー島周辺の掃討作戦を艦上から見学した後、そのままハワイにあるホノルル司令部に帰還する予定みたいね。出港は間もなくだから急いで。あとできることなら深海棲艦との戦闘に巻き込まれた風を装ってほしいという依頼も受けてるわ。それはサブ目標として設定しておくわね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は今チューク諸島ウェノ島西部にある日本国トラック泊地に整備員として来ている。

今回私はスタングレネードを持参した。海戦中は流れ弾が飛んでくる可能性もある。その流れ弾にこれで偽装しようというのだ。

 

近海には深海棲艦は居ないらしいが、以前空襲にあったことがあるらしく、地元民は皆一様に海へは近づかないらしい。そこでトラック泊地所属の艦娘達が時折環礁内で行った漁で取れた魚を市場に流しているのだという。

 

「今日もいっぱい取れたのー!」

「さっきアジの群れが泳いでるのをみたでち!」

「じゃあそれもついでに取りに行くのー!」

 

潜水艦娘達が主な漁師だという。軍隊が漁業とは世知辛い世の中になったものだ。

彼女らが魚を取っている直ぐ側に目的の軍艦が停泊している。DDG-85 USSマッキャンベルだ。ターゲットはおそらくあの船でミッドウェーへと赴き、艦娘達の戦いぶりを見学するようだ。艦娘達は一応にして普通の人間たちと大差ない大きさではあるが、深海棲艦に対しては普通のミサイル駆逐艦のミサイルよりも低コストかつ効率的に攻撃ができるらしい。私は早速船に近づいていく。

 

 

船のそばまで来たが、船の入り口であるタラップの前には警備員と思われるアメリカ軍兵士が2名立っていた。臨時の停泊であるためその他に要員は見当たらない。基地の入口は見張り台と数名の兵士で防護されているためここは手薄でも問題ないということか。私はクライアントが大本営ということもあり、特別通行証を見せたら一発で通れてしまったが。

 

私は一旦、その場を離れ、港の脇へ向かった。脇には潜水艦娘達が取ってきたと思われる魚介類が集積してあった。近づくと、海の中から誰かが浮かんできた。

 

「ちょっとおにいさん!それは私達がてーとくに言われて集めてる魚なんだから取っちゃダメなの!」

「取ったりはしない。君たちに伝えることがある。」

「なになにー?でっちー、なんか話があるんだってー。」

「でっち言うのやめるでち。それで話ってなんでち?」

「あそこのタラップの前にいるアメリカ人二人はここに来てからずっと気を張りつめているそうだ。提督からの伝言は、その二人を君たちで緊張を解してやってほしいとのことだ。」

「私達で?」

「あのふたりをでちか?」

「そうだ。今日は一段と暑いからな。海水浴にでも誘ってやったらどうだろうか。」

「わかったの!」

「ゆー、私達流のおもてなしをこの際だから教えてあげるでち。」

「わー。どんなのー?」

「それはでちねえ・・・。」

「では私は伝言は伝えたからな。これで失礼する。」

「はーい。伝言ありがとうなのー。」

 

潜水艦娘達は非常に好奇心が旺盛で天真爛漫な子が多いと事前情報で聞いていた。そういう子達に今のような言葉をこの炎天下でかけたとすれば。

 

 

 

 

ソーレ!! ウワァー!! ドボーン!

 

こうなる。

哀れ米兵二人は後ろから潜水艦娘たちにひっつかまれて海へ転落した。私はその隙にタラップをできる限り静かに渡り船へ乗り込んだ。したではバシャバシャと水遊びをしている音がしている。米兵たちも可憐な少女たちのスキンシップで悪い気分ではないようだ。最も後で責任者に双方とも怒られるのは目に見えているが。

 

 

 

 

船内に潜入に成功した私は、近場の部屋をノックする。・・・反応がない。部屋を開けるとそこは倉庫になっていた。所狭しといろいろな物資が置かれている。中には冷蔵する必要のないレトルトの食品まであった。私はしばらくこの部屋に隠れ、機会を伺うことにした。

 

そのまま数時間はたっただろうか。扉の向こうが慌ただしくなっている。出港が近いようだ。入った部屋はタラップに近い部屋のため外から慌ただしく人が駆け回る音が聞こえる。ちなみに1時間ほど前には外から叫びにのような怒鳴り声も聞こえてきた。どうやら遊んでるのがバレたらしい。

 

プーーー

 

現代の船にありがちな電子音のような汽笛がこだまする。と、同時に振動がし始めた。ガスタービンエンジンが稼働し始めたようだ。揺れが一段と大きくなった。波に揺られているというのが正しいだろう。無事出港したようだ。

 

出港からしばらくすると近づいてくる足音が聞こえた。そのまま扉の前で止まり、扉が開かれた。

 

「えーと、どこだ・・・?赤いアレって言われてもなあ・・・。ん、これかな?」

 

船員である海軍軍人の一人がやってきた。ご丁寧に扉も閉めてくれた。私は背後からそっと近づき、口を抑えつつ首を絞めた。軍人らしく振りほどこうとする力は強かったが、抵抗虚しく気絶した。私は海兵の服を借り、気絶した海兵はそのままだといつ終わるかわからないこの任務中に起きてしまう可能性があるので、残念ではあるがそのまま首を折って殺し、奥の木箱の中に入れておいた。

彼の着ていた服の中には艦内の船員の通常配置をメモ書きしたものが入っていた。どうやらこの海兵は新人だったようだ。これによると、この海兵は艦橋側部のデッキにて周囲監視役になっていたようだ。これは好都合である。

####アプローチ発見####

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『艦橋デッキ監視要員の制服を手に入れたのね。それがあればターゲットのすぐ近く。艦橋のまさに真横に居られるわ。加えて今回の出撃の主任務はミッドウェー島での艦娘たちの戦闘能力調査。デッキに来ることもあるんじゃないかしら。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

部屋を出るとまさに海上。船の周囲を艦娘が数人で護衛していた。左舷側であるここからだと3人左側面を警戒しつつ進んでいるのが見えた。っと、そのうちの一人がこちらに気がついた。黒髪の中性的な顔立ちをしているセーラー服の少女だ。彼女はニッコリと微笑むとこちらに手を振ってきた。反応しないのも不自然なので手を振り返しておく。

 

私は艦橋に移動し、左舷の艦橋横についているデッキへ移動した。制服のおかげで少し気をつけていれば、視界に少し映った程度では怪しまれること無く移動できた。私は備え付けの双眼鏡で辺りを警戒しつつ時を待った。

 

数時間ほど経っただろうか。先頭をゆく茶髪の艦娘が発光信号を送ってきた。モールス符丁のそれを私の隣りにいた海兵がメモを片手に読み取っていた。発光信号が終わるとすぐに海兵は艦橋内に入っていった。

 

ビービー

“総員。対水上戦闘用意。繰り返す。総員、対水上戦闘用意。”

 

ブザーとともにアナウンスが鳴り響いた。どうやら艦娘たちが深海棲艦を補足したようだ。話によると深海棲艦たちは通常の人間と大差ない大きさのため水上艦用のレーダーには小さすぎて映らないらしい。

艦は面舵をとり、右方向へ転舵していく。艦娘達は取舵を取り、左方向へ転進していく。と、艦橋からターゲットがやってきた。

 

「おお、ついに始まるのか。この目で見届けなければ。オイ、君、その双眼鏡を貸したまえ。」

「はっ。どうぞ。」

「うむ・・・。おお、アレが深海棲艦か。実物をこんな間近で見るのははじめてだ・・・。」

 

前哨の駆逐艦隊と遭遇したらしい。駆逐艦クラスしか居ないようだ。数も少なく、こちらまで攻撃している暇はないと見える。戦いは早々に艦娘達の完全勝利にて幕を下ろした。

 

「なるほどなるほど・・・機動力は申し分なく、そして相手への火力も・・・。むぅ・・・白か・・・。」

 

戦力分析をそのまま行っている。絶好の機会ではあるが、今ここでやったところですぐに他の甲板要員や艦橋内部の人間に露見してしまい、逃げ場のない海の上では危機的状況に陥るだろう。

その後、滞りなく進軍は再開され、ついにミッドウェー島西南西200km地点まで来た。

 

「マッキャンベル乗組員に告げる。司令官のバーミッダムである。本船はこれより敵中枢に乗り込む艦娘達を支援する。相当な激戦が予想されており、我が方への被害も予想される。たとえ艦橋が吹き飛ばされたとしてもCICが生きておる限り指揮系統に問題は生じ得ない。諸君らは己の任務を確実かつ迅速に遂行するよう今のうちから心の準備をしておくように。以上だ。」

 

ターゲットが艦内放送で呼びかけた。艦内に緊張の糸が張り巡らされる。当のターゲットは艦長でも副長でも砲雷長でも無いため艦橋部分で戦況を見守る算段のようだ。

 

「敵機来襲!」

「対空戦闘用意!」

カーンカーンカーン

 

遠くに敵機が見える。航空力学を無視した特徴的な形をしており、我々の常識ではどうやって飛んでいるかもわからない。

はじめに行われるのは空母艦載機による制空権争いだ。どうやら優勢ではあるものの確保には至らなかったようだ。

水平線が光った。戦艦クラスの発砲だ。近くの艦娘何人かの付近に着弾し、凄まじい水柱が上がっている。こちらの戦艦も呼応するように発砲。戦いは激戦の様相を呈してきた。

 

「司令官!危険です!」

「構わん!私はこの目で見なければならない!」

 

後ろの艦橋からターゲットが部下の静止も振り切って出てきた。私はさり気なく壁際、ドアの後ろ付近まで下がった。

敵艦がまたも発砲。今度は・・・。こちらを狙ってきている。

 

ドォーン!ドォーン!

「うわああ!!」

「クッソ!こっちを狙ってきたか!」

 

砲弾はこの艦を夾叉。相手の射程圏内に入っているということはアーレイ・バーク級は装甲自体はとても脆い船の為非常に危険な状態ということだ。

 

「か、甲板要員退避!CIC!敵弾を見落とすなよ!」

「司令官!危険です!艦内へ!」

「こんな脆い船どこに居ても同じだ!私にかまうな!」

 

艦内は混乱していた。艦娘たちも自分たちの周りにいる重巡や戦艦に手一杯という雰囲気。どうやら事前の敵戦力予想に誤りがあったようだ。

私は懐からスタングレネードを出し、ピンに手をかけつつその時を待つ。

 

ボーン!ザァァァァ!

艦の右舷、こちらとは反対方向に至近弾があったようだ。艦橋内部に海水が凄まじい量入ってきた。艦橋内が混乱するのを好機と捉え、私と一緒に居た甲板要員のもうひとり、端の双眼鏡を覗いていた船員に艦が傾斜した瞬間にすばやく近づき、足から持ち上げそのまま海へ落とした。

 

「うぁ!わあああ!」

「一名、デッキから転落!」

「なに!?」

 

私はわざとらしく報告をしておく。

 

「敵機来襲!」

「シースパロー発射!CIWSもやれ!」

「倒しきれません!数機向かってきます!」

「総員対ショック体制!」

 

そうこうしている間に今度は敵空母から発艦したと思われる艦載機がやってきた。私は冷静に対空砲火を抜けてきた敵機の射線を見極める。ここだ。

私は艦の揺れによろけたふりをしつつターゲットをデッキ端に突き飛ばす。

 

「うぉ!?」

ダダダダダダダ

 

「ぐわああああ!!」

「艦橋被弾!」

「クソッタレのバケモノどもめ!損害を報告せよ!」

 

敵機の射撃はデッキの端をかすめるように機銃掃射を行っていった。ちょうど突き飛ばしたターゲットを横薙ぎにする形で。

 

「バーミッダム司令負傷!」

「何だと!くっ!,これ以上この海域に居ては艦が持たん!面舵一杯進路60!最大船速!」

「オイ!司令官は無事か!」

「お待ち下さい。」

 

私は機銃掃射されたターゲットへ駆け寄る。

 

「うぐぐぐぐ・・・。」

「まだ息はあるか。」

 

私は密かに忍ばせておいたシルバーボーラーを取り出した。この位置からなら艦橋からは私の体自身が邪魔をして見えないはずだ。私はそのままシルバーボーラーを彼の顔面に向けて撃った。

 

パシュン

「ブフ…。」

「・・・。艦長。司令官はもう・・・。」

「くっ・・・!わかった!お前も艦内に入れ!機銃掃射くらいなら耐えられるだろう!」

「わかりました。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。名誉の戦死ってやつね。お見事だったわ。一応そこから南東20km地点に潜水艦を潜ませてるからゴムボートでも一応は脱出できるわよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は艦内に入ると敵の攻撃により混乱しているのに乗じて艦橋を離れた。戦闘態勢に入っているため艦内各所は水密扉が閉められていたが、逐次開けては締めを繰り返せばいいだけなので問題はなかった。途中、最初に入った倉庫へ立ち寄り、死後硬直が終わりかけていた船員の死体を海へ投げ捨てた。

 

艦尾の飛行甲板まで来た。航空機の発艦指示は出ていないので甲板には誰も居ない。私は近くにあった浮輪を片手にそのまま艦尾から海へダイブした。スクリューの泡に飲まれかけたが何のことはない。このまま泳いで行けばいい。

しかしイージス艦にも発見されていない潜水艦とは、一体技術部もなかなかのものを作ったようだ。艦は全速航行しているためあっという間に離れていく。私は南東へ向かって泳ぎ始めた。

 

 

 

艦が水平線に近くなった頃合いで私の足が突っつかれる感覚があった。サメかシャチなら非常にまずい。

 

「ぷあ!」

「・・・!」

「あなたが47さん?思ったより年食ってるなあ。」

「君は?」

「私は潜特型二番艦の伊401。しおいって呼んでね!うちの提督があなたを迎えに行くようにって!」

「そうか、ソナーにも発見されない潜水艦は君のことだったのか・・・。」

「え!?もしかして私あのイージス艦に発見されてなかったの?」

「ああ。潜水艦が近くに居いるという話は聞かなかった。」

「えへへ・・・。やったあ!イージス艦をだしぬけたって自慢できるよ!」

「それで私はこれからどうなる。」

「このまま私が曳航…じゃなかった。連れて行ってここから南に100キロほど進んだところに別の普通の潜水艦が居るからそれに乗るよ!」

「そうか。わかった。では掴まっていればいいのか?」

「うん。・・・あ!そこは晴嵐さんが居るところだから触っちゃダメ!」

「っと、済まない。」

「じゃあ行くよ!」

 

私はそのまま引かれて脱出した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~1ヶ月後~

 

「申し訳ありません提督。私の判断ミスです。」

「赤城さんのせいではありません。私に責任があります。」

「アカーギとカガは悪くないネ・・・。護衛艦ほっぽって突撃したのはミーが最初だから・・・。」

「3人とも頭を上げろ。今回は仕方のないことだった。むしろアレほどの戦力差の敵と会敵したにもかかわらず当方への損害は重巡2隻大破と駆逐艦3隻中破と小破で済んだのだから奇跡的だよ。」

「ですが提督。護衛対象のマッキャンベルでは司令官を含め3名が戦死と・・・。」

「それも軽微だと思う。実際あの艦は戦艦の艦砲射撃と航空機による機銃掃射を何度も受けていたのだからな。その時君たちが居なければ確実にあの艦はこの程度では済まない。いや沈んでいただろう。」

「提督・・・。」

「・・・。」

「赤城と加賀は最後まで航空機を発艦させて残敵の掃討にも貢献してくれた。金剛は皆の盾となりよく奮戦してくれた。そして、皆よく帰ってきてくれた。おかげで作戦は成功。ミッドウェー島周辺海域の敵制海権はかなり弱体化した。今横須賀の基地設営隊が向かっているそうだ。橋頭堡を築けるのは君たちの戦果だ。もっと胸を張れ!」

「「・・・はい!」」

「よし。疲れただろ。報告は終わりだ。間宮券をやるからこれでなんかうまいもんでも食ってこい!」

「ワーオ!エクセレントねー!提督も一緒に行くデース!」

「こ、これは間宮券の中でも最も高級な伊良湖最中セット券・・・!」

「気分が高揚します。」

「俺からのおごりだ。皆にも伝えてくれ各艦十分に英気を養っておくように。」

「「はい!」」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

 

・「正規の乗艦」   +1000 『正面タラップよりマッキャンベルに乗艦する。』

・「対空警戒厳とせよ」+5000 『ターゲットを敵航空機の攻撃で殺害する。』

・「名誉の戦死」   +2000 『マッキャンベルが作戦行動中に脱出する。』

・「無鉄砲」     +1000 『海に飛び込んで脱出する。』

 

 

 

 




アーレイ・バーク、また増産するらしいですね。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『艦隊行動』(もう一つの世界線)

『艦隊行動』の別アプローチ版です。



『チューク諸島へようこそ。47。』

 

『今回のターゲットは、アメリカ第7艦隊に艦娘部隊を創設しようとしている、トーマス・バーミッダム中将よ。クライアントである日本国大本営は自国のアドバンテージ崩壊を恐れて艦娘部隊創設を邪魔したいようね。』

 

『大本営からはターゲットを暗殺する際には深海棲艦の攻撃に偽装してほしいと要望があったわ。だから今回我々ICAは最近手に入れた非常に機密度の高いある物をあなたに託すことにしたわ。有効に使ってね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

私は今基地内部の倉庫に隠れている。表向きには来賓として大本営から支給された特別通行証を提示して入れてもらい、基地内を移動中にここに隠れたというわけだ。

 

今回、私は情報部より“ある物”を手渡されていた。小瓶と特徴的な無線機だ。たしかにこれがあればことはうまく運ぶだろうが、相変わらずあの情報部はとんでもないものをさらっともってくるものだ。

 

港湾施設の一部であるこの倉庫は目的の艦、アメリカ海軍のミサイル駆逐艦である、DDG-85“マッキャンベル”が停泊しているところからすぐ側の位置にある。距離にしては数百メートルも離れては居ないが、問題は船内部には艦の左舷中ほどに設置されたタラップによってのみ乗艦できるという点だ。しかもタラップには米兵2名が常駐しており、気付かれずに侵入するのは困難だろう。

 

私は周囲に人が居なくなったのを確認し、港湾施設に近づく。港はコの字型に入り組んだ場所にあり、私が今いるのは湾の一番奥の部分に当たる。

 

 

 

「今日もいっぱい取れたのー!」

「さっきアジの群れが泳いでるのをみたでち!」

「じゃあそれもついでに取りに行くのー!」

 

 

湾内では潜水艦娘達が魚を取っていた。彼女らの声は非常によく通る声である。発見されれば周囲にもその存在が認識されるのは言うまでもない。かと言って海の中の相手に口封じも難しい。私は隠れてしばらく様子を見ることにした。

 

 

「ろー!全部あげたでちか?」

「上げたよー!クーラーボックスにもちゃんと入れましたって!」

「じゃあもう一回いくでちよ。今度は湾の外に出るでち。」

「はーい!」

 

 

彼女たちは再び海の中へ潜っていった。どうやら湾の外へ漁をしに行くようだ。海から艦に近づくには今しかないだろう。私は周りに気をつけつつ岸壁に近づき、艦をよく観察する。ここからだと艦の後ろ側ばかり見えるが・・・発見した。艦尾の壁面に丸い穴が空いている。おそらく牽引式ソナーを出すところだろう。通常あんなところから侵入するものは居ないため鍵もかかってなければ作戦行動中ではないためソナー自体もないだろう。

 

私は静かに海に入ると艦尾まで泳ぎ、ソナー牽引口の蓋を内側に押し開けた。予想通り、ソナーは入っておらず、奥の格納庫に通じる扉もロックが掛かっておらず、そのまま慎重に押し開け、無事内部に潜入できた。

 

 

 

 

船内にはまだ出港まで時間があることもあってあまり人は居なかった。私はまず艦長室を探した。艦内図を見てすぐ上の階にあることを突き止め、足音をなるべく立てずに、ハッチや扉を開けるときは向こう側の音を確認してから慎重に開ける。

 

艦長室についた。樫の木で作られた荘厳な扉をノックする。・・・反応はない。慎重に扉を開ける。どうやら艦長は不在だったようだ。私は艦長室のあらゆる引き出しを片っ端から調べる。知りたいのはターゲットの部屋だ。

 

目的の文章は艦長の机の引き出しに入っていた。“本国からの来賓について”。そこにはターゲットに関する情報、部屋割り、食事の内容から好き嫌いに至るまで事細かに記されていた。作戦目的も記されており、やはり目的は艦娘の戦力調査のようだ。この文章によるとターゲットは艦長室のすぐ隣の特別来賓室に滞在することになっているようだ。

 

私は侵入の痕跡が残らないように書類を元に戻し、部屋を出てすぐ隣の特別来賓室に入った。確認の必要はなかった。既に部屋の扉が内側に向かって開かれていたためだ。来賓室は特になにか荷物が置かれてるわけでもなかった。まだターゲットは来ていないようだ。部屋にはクローゼットや机、パソコンや衛星電話、それなりに上質のベッドまで備えていた。政府高官や要人を迎えるのには十分すぎる装備が整っていると言えよう。

私はひとまず部屋に備え付けられているベッドの下に潜り込んで時を待つことにした。

 

 

 

 

 

しばらく待っただろうか、外が騒がしくなってきた。艦長室の扉が空いた音もしたため艦長も帰ってきたようだ。更に近づいてくる足音が聞こえる。

 

ガチャ

「ゼネラル。今回はこの部屋にお泊まりください。」

「うむ。おお、これはなかなか素晴らしい部屋だな。一人だけ豪華客船気分では部下に申し訳が立たなそうだ。」

「とんでもございません。閣下は本船の重要な賓客でありますので。」

「うむ。うむ。では相伴に預からせてもらおう。もう行って良いぞ。」

「はっ、ではまた後ほど。」

バタン

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがトーマス・バーミッダム海軍中将。艦娘を利用して大統領にでもなるつもりなのかしらね?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ターゲットは机に座るともっていたカバンを床において中からノートパソコンを取り出して起動した。机は丁度ベッドのある部屋を背にするように配置されているためこちらからではターゲットの背中が見えるだけとなっている。

 

 

 

しばらく何かを打ち込んでいたが、小一時間たった後。

 

「ふう・・・一息つくか。・・・お、コーヒーメーカーもあるじゃないか。」

 

壁際にはコーヒーメーカーまで常備されていた。その脇には綺麗に洗われていつでも使える状態になっているコーヒーカップがあった。

ターゲットはいそいそとコーヒーを入れ始めた。腕時計のタイマー機能を使ってるところを見るとコーヒーの淹れ方には一家言あるようだ。出来たコーヒーを机に持ってきて飲み始めた。しかし、

 

 

「ゼネラル。少しよろしいでしょうか。」

「ん?ああ、今行く。」

 

 

飲みかけ状態のコーヒーを残し部屋を出ていった。私はベッドから這い出し、情報部に貰った小瓶を取り出した。それを数滴飲みかけのコーヒーに混ぜた。そして持っていた特殊無線機もターゲットのカバンの中に忍ばせた。

 

下準備は完了した。あとは脱出するだけである。部屋には一応窓はあったが、船にはよくある丸型の小型窓のため私が通れるほどの大きさではない。私はドアに聞き耳を立て、足音がしないのを確認すると慎重にドアを開けた。廊下には幸い誰も居なかったが遠くで慌ただしく作業する音がすることから艦内には相当数の人員が既に乗艦していると見ていいだろう。

 

私は慎重に廊下を歩く。幸いにしてイージス艦の艦内は多種多様な配管や機器があるおかげで隠れる場所には困らなかった。歩いてくる船員をパイプの隙間に入ってやり過ごしながら私は右舷外周廊下へ出た。外周廊下にも何人か人は居た。しばらくその場で待機し誰も居なくなるのを待った。数分後、左右に居た船員は各々どこかへ歩いていったため私はこのすきに目の前の欄干を乗り越えて海に飛び込んだ。

 

バシャーン

 

「ん?なにか海に落ちた音がしたか?」

「確かにしたけど、どうせ艦娘たちだろう?」

「潜水艦娘ってやつか。結構かわいい子多いって話だよな。」

「ああ、お近づきになれたりしねえかな・・・」

 

 

飛び込んだときの音が甲板上で作業中の何人かに聞かれたようだがそれほど大事にはなっていないようだ。私はそのままできるだけ水中を泳ぎながら対岸の岸壁まで泳いだ。岸壁伝いに移動し、海から上がった直後に。

 

 

プーー

 

現代艦特有の電子音のような汽笛が鳴った。出港のようだ。あの薬品がうまく効いてくれればよいが、効かなかった場合は戦闘機を借りてターゲットを暗殺しに行かねばならないだろう。

私は若干の不安を覚えながらも出港していく船を見送った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~バーミッダムside~

 

やれやれ。出港直前まで作戦の確認作業とは。艦長も心配し過ぎなのだ。

私は艦長室に呼び出されたあと出港の時間になってやっと開放され、あてがわれた自室に戻ってきた。既に淹れたコーヒーは冷めきっている。私はそのコーヒーを一気に飲み干すと新しく入れ直した。

 

コーヒーを飲みながら書類を整理する。私は別に書類と格闘したくて軍人になったわけではないのだがな・・・。だがこれも高級士官の宿命であろう。この作戦を成功させれば私は新設される艦娘部隊の総司令官に就任することになる。大将、場合によっては元帥昇格も夢ではないだろう。そのためにも艦娘にする艦は慎重に選ばないといけない。やることは山積みだ。

 

そこからはひたすらに書類との格闘だ。気のせいか普段よりも小さな文字がよく見える。視力が上がったような気がする。コーヒーで目が冴えているようだ。書類整理はどんどんはかどっていく。

 

 

一通りの書類を処理し終えた私はそれらをカバンにしまい、パソコンで本国と連絡会議を行った。そうして出港からはや数時間が経とうとしたところだった。

 

 

「ゼネラル。艦橋へお越しください。偵察機が敵艦を補足した可能性があるとのことです。」

「なに!わかった。すぐに行く。」

 

 

偵察機、と言っても艦娘たちが使っている零式水上観測機という旧式機ではあるが、深海棲艦を発見するにはそのほうが都合が良いらしい。

 

 

ビービービー

“総員。対水上戦闘用意。繰り返す。総員、対水上戦闘用意。”

 

 

艦内に警報が鳴り響く。私は艦橋へ着くとすぐにデッキへ出た。

 

「双眼鏡を貸せ!」

「はっ!どうぞ。」

 

私は観測員の使っていた双眼鏡を奪うように借りると早速覗き込んだ。艦娘たちは既に敵と会敵しているようだ。

敵は駆逐艦ばかりのようであり、艦娘たちも余裕綽々という感じに対応している。私は自身の高ぶる感情を抑えきれずに居た。

 

 

「・・・すばらしい!すばらしいぞぉ!!」

「ゼネラル・・・?」

「これほどの力があれば・・・!これほどのぉ!!!」

「・・・!?ゼネラル・・・!その目・・・・!」

「今いいところなのだ!邪魔をするな!」ブンッ

ドゴォン

「・・・え?」

「こ、この力・・・やはり!」

 

 

私は軽く振り払っただけだ。それなのに振り払った手が艦橋にあたっただけで艦橋の一部がえぐれてしまった。何だこの力は!? 艦橋から艦長と副長がやってきた。

 

 

「ゼネラル!いや、バーミッダム殿!その目とその力はどういうことなのか説明していただきたい!」

「目?力?」

 

 

私はとっさに近くの窓ガラスを鏡代わりに見た。

 

 

「め、目が!?私の!私ノメガ!」

「ゼネラル・・・。」

「け、憲兵!武装してここへ!」

 

 

窓ガラスに映っていた私の目は青白いオーラとともに謎の稲光を発していた。資料にあった深海棲艦の特徴そのものである。

 

 

「コレハドウイウコトダ!イッタイワタシハ!」

「くっ!貴様!まさか深海棲艦のスパイか!」

「こんなところで興奮し正体がバレてしまったようだな!」

「おい!前衛の艦娘たちに緊急伝だ!」

「チガウ!ワタシハ・・・ワタシハ・・・。」

 

 

体がどんどん白くなっていくのがわかる。そして私ノ意識も謎の意シキに侵食さレて・・・。

 

「ウワァァァァァァ!」

「総員!構え!こいつは既にゼネラルでも何でも無い!艦長権限で攻撃を許可する!」

 

カンムス達もモドッテキた。メノ前ノグンジンタチモ、ワタシニムカッテ銃ヲ・・・。

 

「撃て!」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。正確には変化し始めた時点でターゲットは死んでいたかもしれないけれど。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~47side~

 

通信によってターゲット暗殺が成功したことを知った。我ながら恐ろしいものを持っている。

渡された小瓶には青白い液体が入っていた。鹵獲した深海棲艦の成分を解析し、深海棲艦たらしめる成分を特定し、それを抽出、濃縮したのがこの液体だそうだ。情報部はどこから入手したのかは言っていなかったが、小瓶の側面に書かれている赤と白の傘のマークが説明を不要にしている。

特殊通信機は鹵獲した深海棲艦が体内に持っていた無線装置そのものらしい。安全性に問題はないのだろうか・・・。

 

ともかく暗殺は成功し、ターゲットは深海棲艦となって米海軍によって処理された。軍上層部に深海棲艦が入り込んでいたと思われる事実は艦娘部隊創設計画を大きく遅らせることになるだろう。もしかしたらそのまま立ち消えになる可能性すらある。

 

私は基地内を移動していると一台の車を見つけた。この基地にはなんとも不釣り合いなフォルクスワーゲンのタイプ1ビートルだ。その近くには一人の女性がこちらを見ていた。

 

「ボンジュール。」

「・・・。」

「あら、挨拶くらいは返してもよろしいんじゃありません?」

「私を待っていたのか?」

「ええ、まあ。バーンウッドさんとは古くからの知り合いでして。」

「君は?」

「申し遅れましたわ。私はコマンダン・テスト。ICAの依頼であなたをお迎えに上がりましたの。」

「そうか。これで脱出するのか?」

「これでもちゃんと整備は行き届いていますからちゃんと走れますのよ?」

「そうか・・・。」スタスタ

「あ、運転は私が。」

「君が?」

「あ、その顔。信用していませんわね?これでも国際A級ライセンス持ちですのよ。」スタスタガチャ

「国際A級・・・なるほど。」ガチャ

「では出発しますね。」

 

私はその不思議な艦娘と共に基地を脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~3日後~

 

 

「米国はなんと?」

「はい。傍受した内容によりますと第7艦隊への艦娘部隊の創設は無期延期になった模様です。」

「そうか。それはよかった。ICAもうまくやってくれたようだな。」

「ええ。特に内部からスパイが出たのは非常に助かりました。これで計画を円滑に進めることが出来ます。」

「計画は漏れてはいないだろうな?」

「今のところは。深海棲艦たちも人類に対しての侵略者の役割を十二分に果たしてくれています。」

「欧州は比較的簡単に済みそうだが、問題は合衆国だ。」

「ええ。ですので来年度初頭に上陸型深海棲艦を配備いたします。これにてロッキー山脈よりも奥へ深海棲艦を送り届けることが可能になります。」

「山にいるのに深海とはなかなか不思議な状態だ。」

「この上陸型は欧州と中国大陸にも投入される予定です。」

「我が国の対応としてはどうするのだ?」

「艦娘達に頑張ってもらいましょう。少数を投入し、それを艦娘たちに撃退させる予定です。」

「ふむ。よかろう。日本国内閣総理大臣としてこの計画を許可する。うまくやってくれたまえ。」

「了解いたしました。必ずや、世界を崩壊させてご覧に入れます。」

「頼んだぞ。我が日本国が敗戦国から立ち直るには・・・この作戦しかないのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「戸締まり不十分」 +2000 『ソナー牽引口より船内に侵入する。』

・「乗り物酔い」   +1000 『艦の出港時に船内に居ない。』

・「スパイ大作戦」  +5000 『ターゲットを米兵に殺害させる。』

・「GIGNの旧友」   +1000 『コマンダン・テストに会う。』

 

 




コマさんはミステリアスな雰囲気も似合うと思います。


2019/06/17追記
コマさん何故出したかと言うと、私の推しだからです(開き直り)


次回は妖怪が住む山へ行きます。


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HITMAN『紅葉より赤い波』

『妖怪の山へようこそ。47。』

 

『初めに言っておくわ。今回のターゲットは人じゃない。“天狗”と呼ばれている妖怪の一種よ。力がとても強く、俊敏さでも人間とは比較にならないわ。格闘戦ではまず間違いなく勝ち目はないわね。だから必然的に隠密性の高い作戦が求められるわ。』

 

『ターゲットは天狗社会の中の一派、“労働天狗委員会”のトップ、“烏鴈丸(からかりまる)”よ。彼は下っ端天狗を多く従えていて、天狗社会の中での底辺の地位向上と平等を訴えている一派、いわゆる“天狗社会の共産党”といったところ。古くから上下関係と階級を重視している天狗社会はこの派閥の動きを天狗社会全体の危機と捉えているわ。でもおおっぴらに派閥のトップを抹殺してはその下についている者たちが反乱を起こしかねない。鬼や他の妖怪や幻想郷の人間たちに頼むわけにも行かず、我々に白羽の矢が立ったというわけ。』

 

『クライアントは天狗社会主流派トップ。私達の感覚で言う“与党”の幹事長に当たる“大天狗”。正確な名前は呪術的な理由で教えることは出来ないと言っていたわ。それと、天狗の中には“千里眼”と言って、千里、つまり4000キロ先まで見渡せるほどに遠くを見ることができる種族が居るらしいわ。そんなのが居たらあなたもうかつに動けないでしょう?大天狗もそれを見越しているようでね、その千里眼の使い手をあなたに協力させると言ってきているわ。会ったら向こうから名乗るらしいから現地で落ち合ってね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

私は今、一人山道を歩いている。元々この幻想郷と呼ばれる地域は人間よりも人間ではない他種族のもののほうが人口が多いらしい。その人間もほとんどが人里に集まっているためこういう山の中ともなると完全に妖怪の楽園というわけだ。山道もロクに整備されておらず、どちらかと言うと獣道に近い。

 

今回私は以前使用した経験のある毒物の中で一番強力な毒物を持参した。非常に小さな小瓶にロシア語のラベルの毒だ。強靭な生命力をもつ天狗にどこまで効くかはわからないが、これが効かない場合は否応なしに直接武力行使以外に手はなくなってしまうのでその強大さを事前情報で知っている身としては効いてほしいと願っている。

 

暫く進むと少し森が開けた。人里からここまで数時間はかかったがほとんど森の中を移動していた。開けるとそれなりに周囲がわかる。ここはちょっとした岩場になっており、近くにはかなり大きめの滝があった。

 

 

 

「あなたが協力者の方ですか?」

 

急に声をかけられた。岩の上に一人の少女が立っていた。頭に生えている白い耳、その背後には白い大きな尻尾が見える。帯刀しており頭には資料に会った特徴的な帽子をしている着物姿の少女。おそらく少女ではなく、彼女こそが“天狗”と呼ばれる種族なのだろう。

 

「あの・・・。」

「君が大天狗が言っていた協力者なのか?」

「あ、ハイ。犬走椛と申します。椛とお呼びください。今回は私達天狗の居座古座に巻き込んでしまい申し訳なく思っています。」

「構わない。それが仕事だ。」

「本来、外部の人間は特別な許可を公に取らねばこの妖怪の山に立ち入ることは出来ないのですが、今回は大天狗様の密命ということで特別に非公式に許可が降りています。私は哨戒白狼天狗部隊の隊長を務めていますので私が案内すれば少なくとも攻撃される心配はないと思われます。」

「相手の派閥の攻撃もないと?」

「天狗は縄張りを荒らしさえしなければ基本的には温厚な種族です。侵入者には容赦はしませんが。私はこれでもそれなりに実力者で通っていますので無闇矢鱈な攻撃はないと思われます。」

「なるほど。では案内をよろしく頼む。」

「はい。ではこちらです。そういえばあなたの事は何とお呼びすれば?」

「・・・。四郎。そう呼んでくれ。」

「わかりました。」

 

 

私は彼女の案内でさらに道を進んでいった。そこからは山道というよりも登山に近くなった。射面は急になり、岩場が増えた。しかし標高が高くなるにつれ周りの広葉樹が色づいており、非常に美しい風景になっている。

 

「あなたの体からは嗅いだことのない匂いがします。」

「人の体臭を嗅ぐのが趣味なのか?」

「!?そうではありません!白狼天狗は元々鼻がすごく効くのでそういう匂いに敏感なだけです!」

「そうか。すまない。」

「いえ・・・。あなたの匂いは殺人鬼のそれとも善人のそれとも宗教家のそれとも違います。それどころか人間の匂いとも若干違う。」

「・・・。」

「なんというか・・・、“ぬくもり”みたいなのが一切感じられない。普通人間なら父母のぬくもりが多かれ少なかれ必ず残っています。あなたにはそれが・・・。」

「私からそれを聞いてどうする。」

「いえ!・・・お気に触ったなら謝ります。」

「いや、いい。」

「・・・。」

「・・・。」

 

“ぬくもり”か。たしかにそれは経験した覚えも記録もないな。私はそれがどれほどこの仕事にとって危ういものかを知っているので欲しいとも思わないが。

 

しばらく気まずい空気が流れつつ進んでいると、山の岸壁に集落のようなものが見えてきた。アマルフィ海岸よりもずっと険しい崖の側面をくり抜いて集落ができている。天狗は空を飛ぶことができるらしいので地上から徒歩で行くことは想定していないのだろう。

 

「ひとまず私の家に行きましょう。そこで一通り状況を説明します。」

「わかった。だがどうやって行く?私は空は飛べない。」

「私が抱えます。」

 

私は脇を抱えられ、そのまま持ち上げられた。苦もなく持ち上げているところを見ると彼女の力も常人のそれとは比べ物にならないのだろう。

岸壁中腹あたりにある一軒の家に到着した。炊事場である2畳半ほどの土間と6畳の居間のみという質素な作りだ。居間の中央にはちゃぶ台が置かれており、彼女はそこへ座るよう促すかのように座布団を出した。私は日本式の作法は知らないが靴を脱いで家に上がるというのは知っていたので土間で靴を脱いで座布団へ座った。

 

 

「ではまず今の天狗社会の状況を説明します。」

「よろしく頼む。」

「はい。まず今回の任務対象の所属する“労働天狗委員会”ですが、近頃急速に勢力を伸ばした一派です。原因はおそらく外の世界からもたらされた本。原本は大天狗様が没収しましたが既に複製品がメンバーに行き渡っています。これがその原本です。」

 

 

なるほど。この本が流れ着いたのか。日本語訳版であるらしく、表紙には日本語で“資本論”と書かれている。カール・マルクスの代表著書だ。なるほど。共産主義者にとっての“聖書”と呼ぶべき本だ。

 

「私も中身を拝見しましたが、我々の天狗社会には相容れない部分が多すぎて私には妄言にしか映りませんでした。普通の天狗ならばこのような考えに惑わされるはずはありません。しかしあの一派、“共産主義”はすでにかなりの勢力になっています。ひとえに彼らの首領である烏鴈丸(からかりまる)が言葉巧みに扇動している部分が多いと大天狗様はお考えのようです。」

「この世界でも・・・か。」

「ということは外の世界でも同じようなことが?」

「ああ。それで世界は2つに割れ、世界滅亡の一歩、いや、半歩手前まで行った。」

「なんという・・・。」

「それで。その烏鴈丸(からかりまる)は今どこに?」

「それが・・・行方不明なのです。」

「行方不明?」

「はい。昨日の昼頃から集会にも顔を出さず、行方知れずなのです。今私の部下が捜索していますが・・・。」

「そうか・・・。」

 

困った。ターゲットが行方不明では任務遂行は出来ない。まずはそのターゲットを探すことからとなるとは・・・。

我々がどうしたものかと思案していると。

 

 

 

「あら、椛。その殿方はあなたの婿殿かしら?」

「文さん!違います!というかいきなり現れないでください!」

「・・・?」

「あ、すみません。こちらは」

「申し遅れました!私“文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)”を書いております射命丸と言います!見たところ人間のようですけど今回は何故天狗の集落へ?何故哨戒天狗のトップである椛の部屋に二人きりで?何故・・・」

「もう!文さん!我々は大天狗様からの密命で動いているのです!このことは記事にしないでくださいね!記事にしたら私はともかく大天狗様からも大目玉を食らうことになりますよ!」

「大天狗様が?それはそれは・・・。何かワケありのようですね・・・。」

「もう・・・。」

「射命丸、と言ったか?新聞記者なのか?」

「はい。あ、お近づきの印に今日の新聞をどうぞ。」

「あ、ああ・・・。」

「ほら文さん。ここには何もないですよ。取材に行かれたらどうですか?」

「そうねえ・・・大天狗様直々の密命とあっちゃ記事にはでき無さそうだし、それに関わってるこの人間のことも同じく記事にはでき無さそうだしねえ・・・。」

「射命丸。1つ聞きたいことがあるのだが、烏鴈丸(からかりまる)を見なかっただろうか?」

「四郎さん!?」

「お、四郎さんって言うのね。烏鴈丸(からかりまる)ならさっき見かけたわよ?」

「えっ!?」

「どこにいた?」

「東の山の中腹くらいに。数人天狗を引き連れてなにか相談してたみたいだけど、写真機のフィルムも使い果たしてたからそのまま帰ってきたわ。」

「東の山の中腹・・・。」

「ここからそう遠くはないです。何かを企んでいるのかも・・・。」

 

そう遠くない位置にいることが判明した。そのまま近づいて暗殺するかそれともこちらのレンジに入るまで待つか・・・。

 

 

「・・・そうだ!私もついていくわ!」

「えっ!?どういうことですか?!」

「今記事にできないなら密命が終わったら記事にしても大丈夫でしょう?それに最近パッとしたネタがなかったのよね。これは大きな事件の匂いよ!」

「え、でもその・・・。」

「射命丸。協力してくれるのであれば記事にしても構わない。が、記事にするときは一応大天狗に許可をとってからにしたほうが良いだろう。」

「わかってますって!あなた話がわかるじゃない!」

「いや、あの・・・これは密命・・・。」

「もー、椛!硬いこと言わない!協力者が増えるんだから良いでしょ!」

「くれぐれも独断専行は無しにしていただきたい。」

「わかってますって。で、目的は?」

「今はまだ話せない。その時が来たら教える。というか君ならば自分で気がつくだろう。」

「はあ・・・なんでこんなことに・・・。」

 

射命丸文を仲間に加え、私達は一路射命丸が烏鴈丸(からかりまる)を見かけたという東の山の中腹へ向かった。

 

 

 

 

脇を抱えられての移動ははたから見るとどういうふうに映っているのだろうか。射命丸は出発と同時にどこかへ文字通り目にも留まらぬ速さで飛んでいったと思えばすぐに戻ってきた。どうやらカメラのネガを交換してきたようだ。

 

私は先程と同じように椛に脇を抱えられた状態で飛んで移動していた。目的地へは道がないためこちらのほうが早いらしい。子供のように抱えられて飛ぶのは私としてはあまり長くはやってほしくはないが。

 

目的の場所は妖怪の山と呼ばれていた高い山を降りきった渓谷を挟んで反対側にあった山だ。歩けば数時間は掛かりそうな森だが飛んでいけば、ものの数分で着いた。

 

「あれよ。まだいるわね。」

「確かになにか話していますね。」

「椛、何話してるか分からないか?」

「んーと・・・口の動きからだと流石に断片的にしかわからないです。」

「じゃあ降りて近づくしか無いわね。」

「でも近づいたら匂いで気が付かれるんじゃ?」

「私を誰だと思ってんのよ。ほら、いくわよ。」

 

私達は近くの森に降りていった。生い茂る木々を隠れ蓑に近づいていく。途中からは徒歩になり、10mほど近くまで寄った。

射命丸はヤツデの葉のような団扇をしきりに動かしている。どうやら風の流れを制御してこちらの匂いを相手に届かないようにしているらしい。風を操れるとは便利そうな能力である。

私達は茂みに隠れながら聞き耳を立てた。

 

 

「以上が、作戦概要だ。特に大天狗は厄介だろう。第6班は心するように。」

「はっ!」

「この作戦が成功すれば我々の主張が正しかったと他の天狗たちも認めざる負えなくなるだろう。」

「最近新しく外から流れ着いた“聖典”によると『今日まであらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である』と書かれている。まさに、我々天狗の歴史はこの日を迎えるための闘争の歴史だったのだ!」

 

 

「なんか扇動家みたいなこと言ってるわね。」

「アレが労働天狗委員会です。文さんも話には聞いたんじゃないですか?」

「話にはね。でも外の文献を見る限り共産主義ってメディアは弾圧してるっぽいじゃない?私には合わないわね。」

「“この日”と言っていた。今日中になにか行動を起こす気だろう。」

「大天狗様の名前も上がっていました。早く手を打たないと大変なことに!」

 

 

「では同志烏鴈丸(からかりまる)、このあとすぐに決行するのですか?」

「いや。日が高いうちは難しいだろう。深夜皆が寝静まった後に同志を率いて決行する。それまでは私の家で誓いの酒坏を飲み交わそうではないか。」

「は!ありがたき幸せであります!」

 

どうやらこのあとターゲットの自宅で宴会を行うようだ。チャンスはその時しか無いだろう。

 

「射命丸。烏鴈丸(からかりまる)の家はわかるか?」

「私は新聞記者よ。有力者の家くらい完璧に覚えてるわ。行くの?」

「ああ。頼む。」

「でも彼らが来ちゃうんじゃ?」

「大丈夫よ椛。ほら。」

 

 

ボウギャークノークモヒッカリヲオオイー♪

 

 

「なんか歌い始めちゃいましたね。」

「あいつら集会開いた後はいつもよくわかんない歌を2~3曲歌ってから解散するのよ。」

「じゃあこの隙に急いだほうが良さそうですね。」

「行くわよ。」

 

私達はその場を離れると私を今度は射命丸が抱えて凄まじいスピードで集落へ戻った。何でも本当は音速を超えることも容易らしいが、その際に凄まじい騒音が出るので気が付かれないようにこの速度に抑えているらしい。これでもだいぶ早いと思うのだが。

 

私達は集落の端にある一軒の家に着いた。椛の家と比べるとこちらの方がだいぶ大きい。有力者という話は本当のようだ。が、基本的に天狗は召使いや用心棒などを雇うことはないらしく、家の中には誰も居なかった。玄関を上がると12畳ほどの居間があった。大きな長テーブルがあり、その奥には台所と思われる土間があった。

 

「へえ、結構良い暮らししてるんじゃない。平等を謳う者が住むにしてはちょっと豪華すぎないかしらね?」

「文さん!そんなあっちこっち詮索しちゃ失礼ですよ!」

「いいじゃない。どうせこれから・・・するんでしょ?」

「・・・。」

「するって・・・。」

「あの集会。そしてそれに対するあなた達の反応。大天狗様からの密命。それらから導き出される答えは1つしか無いじゃない。」

「・・・。」

 

 

「あなたたち。烏鴈丸(からかりまる)を暗殺しようとしてるわね。」

 

 

「・・・流石新聞記者といったところか。」

「大丈夫よ。別に邪魔しようとかそういうんじゃないし。犯人をバラそうってわけでもない。というかこんな事、天狗社会の中では今までになかったことよ?記事になんかできるわけないじゃない。大天狗様の許可だって絶対に降りない。」

「文さん・・・。」

「椛も大変ね。こんなこと命令されて。」

「いえ、私は・・・。」

「本来天狗の問題は天狗だけで片付けるのが筋。それを一番わかっている大天狗様がこういう命令を出したってことはよほどの事情があるんでしょう。」

「ともかく、今は任務を遂行したい。手伝ってくれるか?」

「いいわよ。乗りかかった船だもの。私だって天狗社会が共産主義に染まるのは容認できることじゃないわ。」

 

 

それから私達は手分けして家の中を捜索した。すると台所を見ている射命丸が手に大きな盃をもって顔を出しだ。

 

「これ使えないかしら?」

「これは?」

烏鴈丸(からかりまる)専用の盃よ。天狗の中でも酒豪のうちにはいる烏鴈丸(からかりまる)はこの盃に何杯も酒を飲むの。以前一回つきあわされてひどい目にあったことがあったわ。」

「専用の盃か。これに注がれる酒は?」

「あっちも専用の酒、【天狗舞】よ。たしか奥の氷室に仕舞ってあるはず。」

「もってこれるか?」

「当たり前!」タタタ

「四郎さん。酒なんかどうするんですか?」

「これを混ぜるのさ。」

「毒、ですか。ですが人間の毒では・・・。」

「その中でも殺傷力が一番高い毒だ。これで効かないなら毒殺は諦める他ない。」

「一体何という毒なんです?それは。」

ノビチョク(Новичо́к)。そう呼ばれていた。」

「聞いたことのない毒ですね・・・。」

「持ってきたわよ!」

「よし。毒を混入させる。念の為二人は離れていろ。」

「毒ぐらい大したことはないわよ?」

「文さん。離れていましょう。あの毒は・・・なにか危険な感じがします。」

「椛・・・。わかったわ。」

「射命丸。私が合図をしたら部屋の空気を外の空気とまるごと入れ替えてくれ。」

「いいけど・・・そんなに危険なものなの?」

「ああ。」

 

私は二人が離れたのを確認すると、窓が空いていないのを確認し、慎重に小瓶の蓋を開けた。できる限り息をしないように、慎重に内部の2つの液体を順に酒の中に入れる。2つ目の薬剤を入れるとすぐさましっかりと蓋を締め、片手を上げて合図を送った。

強烈な風が吹き、私の周りも含め周りの空気が風に押し開けられた窓から出ていく。代わりにもう一つの窓から新鮮な空気が流れ込んでくる。私は体に異常が見られないことに安堵しつつ、二人の元へ歩いた。

 

「準備は完了だ。酒を元の場所に戻してきてくれ。くれぐれも割ったり開けたりはしないように。」

「わかったわ。」

「それと、念の為君たち二人は今後数週間はこの家に絶対に近づいてはならない。絶対にだ。」

「わ、わかりました。」

「じゃあ戻してくるわね。」

「私は外を見てきます。」

 

私は二人が行動を開始したのを見届けると部屋の整理を始めた。侵入した痕跡は残してはいけない。開けた棚や漁った雑貨入れなどを確認する。

 

「もどしてきたわ。」

「よし。撤退だ。」

 

「椛。外の様子はどうだ。」

「周りには誰もいません。ですが先程の集会位置から数名飛び立つのが見えます。」

「急いだほうが良さそうね。」

「はい。では行きますよ四郎さん。」

「頼む。」

 

私達はすぐさまその場を離れ、一度椛の自宅へ帰った。それから数分後、ターゲットを含む数人があの家に到着したのが見えた。

 

「ギリギリでしたね。」

「彼らの中に千里眼を持つものは居ないのか?」

「あら、知らなかったの?千里眼を持ってるのは椛だけよ。」

「そうなのか?」

「はい。白狼天狗は元々目がいいですが、私はその中でも特に遠くを見渡すことができるので哨戒天狗部隊の隊長をしているのです。」

「で、私達はこれからどうするの?」

「待つ。事が起きれば自然に騒がしくなるだろう。」

「じゃあ私達の冒険はここで終わりってわけね。」

「射命丸。君には万が一に備え待機していてほしい。」

「万が一?殺せなかったらってこと?」

「いや、あの毒は揮発性がある。騒ぎが起こったら空気の流れをあの家の中にとどまるように仕向けてほしい。いらぬ被害は出すべきじゃない。」

「中にいる他の天狗はどうするのよ?」

「彼らは・・・残念だが。」

「そう・・・。」

「私は何をすれば?」

「椛は騒ぎを聞きつけてやってきた他の天狗を中に入れないようにしてほしい。」

「でもどうすれば?臨検は必ず行われると思いますけど。」

「君が一番最初に臨検したということにすればいい。危険な匂いを察知したため一時的に封鎖していることにすればいい。なんなら大天狗に勅命を貰ってもいい。」

「なるほど・・・。わかりました。」

「あなたはどうするのよ?」

「私はしばらく動けない。今動けば察知されるだろう。すまないが場が落ち着くまでここに居てもよいだろうか?」

「わかりました。お安い御用です。あ、だったら食事の支度をしないと・・・。」

「おーおー。まるで奥さんね。」

「奥・・・!?」

「・・・。」

「文さん!!!」

「あはは!顔真っ赤!!」

 

他愛のない雑談をしていると上のターゲットの家から景気のいい笑い声がし始めた。どうやら宴会が始まったようだ。ターゲットの声が聞こえる。盃を満たす前に訓示でも行おうとしているらしい。何を喋っているかはいまいち聞き取れなかった。

 

そのうち一瞬だけ一気に盛り上がった。乾杯が行われたようだ。一拍の間があり、にわかに騒がしくなった。しかしその騒がしさには笑いなどは含まれておらず、悲鳴に近い叫び声が木霊した。

 

「始まったみたいですね。」

「じゃあちょっくら行ってくるわ。」

「気をつけて。天狗をも殺す毒です。文さんも食らったらただではすみませんよ。」

「十分気をつけるわよ。烏鴈丸(からかりまる)は私よりも実力がある。そいつが一瞬で死ぬくらいの毒なんて、私が食らったら生き残れる確率は皆無でしょうからね。」

「では私も向かいます。四郎さんはここに居てください。あ、台所におにぎりを作っておきましたので良かったらどうぞ。」

「わかった。」

 

二人は飛び去っていった。遠目で見るとかなり離れたところから射命丸が手に持っている団扇を振り回している。それよりも大分近いところから椛はあたりを見回している。

すぐに数人の同じく白狼天狗と思われる人影が現れた。椛は各個に指示を飛ばしていた。

この家から私にできることはもうなにもない。私は作り置きしておいてくれたおにぎりを食べ始めた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『衛星からターゲットの死亡を確認したわ。よくやったわね。人間以外を殺したのはこれが初めてかしら?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

どうやらターゲットは死亡したようだ。おにぎりを食べ終わった私はどうやって脱出するかを考えていた。

 

「ご苦労だったな。」

「・・・。」

 

いきなり椛や射命丸よりも大きい体を持つ天狗が家に入ってきた。その服装や出で立ち、言葉から察するに、

 

「あなたが大天狗か。」

「いかにも。今回はご苦労であった。報酬については既に支払われておるから心配せぬように。」

「問題ない。そこは私の管轄ではない。」

「ふむ。不思議な人間だ。普通の人間とは違う匂いもする。」

「椛にも同じことを言われた。」

「そうだろう。白狼天狗は鼻が効くからな。して、これからどうするつもりだ。」

「この地域から脱出する。今はその策を練っていたところだ。」

「なるほど。では私が連れ出してやろう。」

「あなたが?」

「うむ。これでも速さでは射命丸にも負けないつもりだよ。乗れ。」

「わかった。彼女らによろしく伝えておいてくれ。」

「よかろう。」

 

私は大天狗の背中に乗った。直後にまたもや目にも留まらぬ速さで家を飛び出した。私はそのまま人里近くまで送り届けられ、人里にあるセーフハウスから脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~1週間前~

 

「こ、これは・・・!」

「どうです。新刊ですよ。」

「“共産党宣言”・・・まさに第二の聖書と言っても過言ではない!」

「今なら10文にまけておきますよ。」

「なに?!たったの10文!?買った!」

「毎度。ぜひ有効活用してください。」

「これで私の思想も完璧に・・・!」

 

 

 

 

「今回もちゃんと買っていったか?」

「はい。この世界の妖怪と呼ばれる存在もあながち単純かもしれませんね。」

「くれぐれも慎重にだぞ。八雲紫に目をつけられれば厄介だ。」

「わかっています。しかしICAが動き出したとの報告も受けておりますが。」

「ふむ・・・しかしアレが大衆に広まればICAとて根絶はできまい。」

「ですな。これでこの世界にも我々の基礎を築けるわけですね。」

「そうだ。長官もお喜びになるだろう。世界革命は近い。私は報告をするために一度本部(Ясенево)へ戻る。」

「わかりました。こちらは事後処理を開始します。」

「まだ見ぬ同志たちよ。失われた数十年を取り戻す日は近いぞ。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「暗殺者の通り道」 +1000 『妖怪の山の集落に徒歩で侵入する。』

・「メディア王」   +1000 『射命丸文に会う。』

・「萌芽の根絶」   +3000 『労働天狗委員会の主要メンバー全員を暗殺する。』

・「要人が警護」   +3000 『大天狗の案内で脱出する。』

 

 




書物は、大いなる力である。 ーウラジーミル・レーニンー


次回は別アプローチです。


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HITMAN『紅葉より赤い波』(もう一つの世界線)

『紅葉より赤い波』の別アプローチです。


『妖怪の山へようこそ。47。』

『今回のターゲットは妖怪の山を縄張りにしている天狗、それらを扇動している共産主義派閥リーダーの烏鴈丸(からかりまる)よ。依頼主は天狗たちのまとめ役である大天狗。天狗社会を根本から覆す共産主義を扇動している烏鴈丸(からかりまる)を打倒したいけど天狗たちにやらせたくはないみたいね。天狗は非常に力が強く、人間よりもはるかに俊敏よ。格闘戦はまず勝ち目がないから気をつけてね。』

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

まずい。完全に道に迷ったようだ。

 

私は今、とある河原に佇んでいる。いや、佇んでいると言うよりも途方に暮れていると言ったほうが良いだろう。

私は今回、長距離狙撃が必要になると考え、ICAの倉庫に眠っていた東側の対物ライフルを持参した。“OSV-96”そう外箱には書かれている。消音機能はついていないが約1500m先からも軽装甲車両を破壊するその威力があれば天狗を相手にすることもできるだろう。

しかしそんな高性能な対物ライフルも、地図の代わりにならなければコンパスの代わりにすらならない。目的地にたどり着けなければただの重たい箱でしか無いのだ。

私は澄んだ川の流れを眺めながらどうしたものかと思案していると、何かの気配を感じた。

 

「・・・。」

「・・・。」

 

「・・・。そこだ。」パシュ

「ひゅい?!」チュン

 

私は気配を読み取り、周囲にある一箇所だけ空気の流れがおかしい場所に向かってシルバーボーラーを撃った。案の定、その地点には何かが隠れていたらしく、奇妙な鳴き声とともに姿を表した。

 

「や、止めてくれよ!謝るから!こっそり近づいたのは謝るから!」

「何者だ。」

「私?私は河童さ!見たところ君は人間?だけどなんか違うような・・・?」

「確かに人間だ。この周辺の住民か?」

「ああ。この川はうちら河童の住処さ。そういうあんたはなんでここに?」

「天狗の集落を目指している。が、道がわからなくなってしまった。」

「天狗様の?止めといたほうがいいよお?妖怪だって不用意にはあそこには近づかない。ましてや人間のあんたが・・・。」

「その天狗からの依頼でな。協力者がいるらしいのだが落ち合えずに居る。」

「天狗様からの依頼?だったら襲われることはないだろうけどまた奇妙なこともあるもんだねえ。」

「そんなに奇妙なのか?」

「ああ。天狗様は基本的に人間は下等生物だからね。私達河童にとっては盟友だけど。」

「盟友?」

「そうさ。あ、そうだ。盟友が困ってるのを黙って見過ごすのもあれだし、さっきのお詫びも兼ねて山麓まで案内してあげるよ!」

「それは助かる。妖怪の山に近づけば千里眼を持つ協力者に見つけてもらえると思うのだが。」

「千里眼・・・それってもしかして椛の事かい?だったら話は早い。あいつと私はよく将棋を指す仲だ。よくいる場所なら知ってるよ。」

「ありがとう。あいにくと礼できるものを何も持ち合わせていないが。」

「いいっていいって。あ、そしたらさっきの鉄砲、ちょっと見せてくれないかなあ?」

「それは無理だ。これは必要なものだ。」

「ちぇー。あ、私の名前、河城にとりっていうんだ。にとりでいいよ。お兄さんの名前は?」

「わかったにとり。私は・・・四郎。そう呼んでくれ。」

「うわぁ、完全に偽名だねそれ。まあいいさ。なにか事情があるんだろう。じゃあこっちだよ。」

「すまない。世話になる。」

 

川に沿って二人で歩く。にとりは周囲の風景などを身振り手振りで紹介しながら歩いている。私はそれを聞きながらゆっくりと進んでいく。暫く進むと大きな滝壺の湖に出た。

 

「あ、にとり。」

「お、やっとお出ましだ。」

 

声が上の方からしたと思ったら白髪に白い尻尾と耳がついた少女が飛んできた。

 

「にとり、その人は?」

「何でも天狗の集落に用があるんだってさ。椛にも会う予定だったみたいだよ?」

「ということはあなたが協力者?」

「そういう君も千里眼を持つという協力者か。」

「はい。犬走椛と言います。私のことは椛とお呼びください。今回はよろしくおねがいします。」

「こちらこそ。よろしく頼む。私のことは四郎でいい。」

「四郎さんですね。わかりました。」

「じゃあ私は案内を果たしたし、なんか込み入った事案みたいだから退散するよ。椛、また今度対局しようね。」

「あ、ハイ。にとりさんもありがとうございました。」

「世話になった。ありがとう。」

「どういたしまして~。」

 

そう言うと彼女は湖の水の中に飛び込み、先ほど姿を消したのと同じように水中に溶け込むようにして見えなくなった。

 

「では参りましょう。集落はこの滝の上流です。」

「わかった。しかし私は飛ぶことが出来ない。道はないのか?」

「道はあるにはありますがすごく遠回りになってしまうので・・・、私が抱えましょう。」

 

 

 

 

椛は私の脇を抱えて飛び、私はライフルを抱えている格好で飛んでいる。集落はすぐ近くらしく、下ろすよりもそのまま飛んだほうが早いようで、抱えられたまま集落に到着する。

 

「このまま一旦私の家に行きます。」

「わかった。」

 

私達は崖をくり抜いて家を立ててある集落の中程の家へ着地した。ここが彼女の自宅らしい。外観は崖に半分ほどめり込んでる以外は茅葺屋根の典型的日本家屋だ。

中に入ると土間と居間があり、私は促されるまま靴を脱いで居間に座った。

 

「まず今現在の状況を説明します。」

「頼む。」

「はい。現在、烏鴈丸(からかりまる)はどこに居るのか不明です。昨日の昼頃より行方がわからなくなっています。」

「ふむ・・・。」

「で、こちらが・・・彼らを焚き付けた元凶です。」

「これは・・・資本論?」

「はい。外の世界の著名な政治家が書いた本だと聞いています。我々天狗には理解しがたい理論が大量でした。」

「だろうな。共産主義とは無縁そうだここは。」

「彼らはこれを聖書と呼んでいるそうです。更にもう一種類、ごく最近になって流れ着いたらしいのですが詳細は不明です。」

「聖書・・・。キリストと一番疎遠な思想が聖書を持つとはな・・・。」

「いかがしましょう。現在烏鴈丸(からかりまる)の行方は私の部下がおっていますが、情報を得られるまで待ちましょうか?」

「下手に動くと相手側に気取られる可能性もある。確実になるまで行動は避けたいところだ。彼の家は?」

「えっと・・・詳しくは詰め所に行かないとわかりませんがこの集落内にあります。」

「ではまずその家を特定するところからだ。」

「わかりました。ではちょっと詰め所に行ってきます。すぐ戻りますのでここを動かないでください。」

「わかった。」

 

そういうと彼女は扉から出ていき飛んでいった。その間に私はライフルのチェックを・・・

 

「もどりました。」

 

チェックをしようと手をかけたときには戻ってきた。

 

「・・・。早いな。」

「詰め所はすぐ隣の家ですので・・・。でこれが集落内の住民表です。」

「ふむ・・・これか。」

「はい。丁度3階層上ですね。」

「この横の家は?」

「そこは私の部下の一人の家です。元々は烏鴈丸(からかりまる)を監視する意味も込めてあそこに住んでもらってます。」

「ならば君が声をかければどこかへ一時的にでも立ち去ってくれるわけだな。」

「はい。可能だと思います。」

「ではここから狙撃しよう。その前にまずはターゲットの家を見たい。」

「わかりました。」

 

私は椛に再び抱えられながらターゲットの自宅を訪れた。周囲を抱えられながら滞空する。

彼の家は椛の家よりも2回りほど大きく、一番外側には大広間があるようだ。そして丁度良く隣の部下の家から大広間を覗ける形で窓があった。

私はその状況を見てあるプランを立てた。

 

「椛。次は君の部下の家に行きたい。」

「わかりました。」

 

そのまま隣の家に飛んだ。家につくと椛がまず家に入っていった。

 

「皐、居るか?」

「あ、隊長。何でしょう。」

「済まないが少し部屋の中を見させてくれ。烏鴈丸(からかりまる)の一件だ。」

「なるほど。わかりました。そちらの方は?」

「協力者だ。詳しいことは大天狗様からの密命ゆえに答えられない。」

「わかりました。では私はしばらく外へ出て哨戒しています。」

「すまないな。」

 

中に居た白髪犬耳狐尾の少女は私に一礼するとそのままどこかへ飛び去っていった。

 

「入ってください。一応女性の部屋だということをわきまえて。」

「失礼する。」

 

中は小奇麗に整頓されていた。心なしか椛の家より物が多い気がする。

家の東側に開けられた小窓からターゲットの家を見る。距離にして600m。崖の中腹にあるのもありそれなりに風が強い。が、丁度真ん中あたりに旗のようなものが立っているため風向きと強さの把握はそれほど難しくはないだろう。

しかし肝心のターゲットの家の大広間がわずかしか見えない。奥の土間への入り口は全て見えているがそれ以外の場所が殆ど見えていない。つまりターゲットが土間の入り口の直線上に来なければこの狙撃は成功できないということになる。

 

「椛。君は・・・目の前で同族が死ぬのを見るのは耐えられるか?」

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れだ。今私は椛の部下の家の窓の前で持ってきたライフルを組み立てている。椛はと言うとターゲットの家の玄関前に居た。

夕焼けの向こうから複数の人影が見える。そのうちの何人かが椛に気が付き近寄っていくのが見える。

 

「頼むぞ。椛。」

 

 

 

 

~椛side~

 

「何でこんなことに・・・。」

ため息を付きながら独り言。協力者の四郎さんから伝えられた作戦は確かに有効だし、私が出来ないとも思わない。しかし気が乗るかどうかは別問題だ。

とにかく、大天狗様からの密命を確実に遂行するためにもこの作戦は失敗できない。私は気合を入れ直す。

 

「そこのもの!何者か!」

来た。

「わ、私は、」

「おや?白狼天狗哨戒部隊の椛隊長ではないですか。何故ここに?」

「あ、あの。私は・・・。私も、あなた様の思想に賛同したく参った次第です!」

「なんと!それは真ですか!?」

「はい。かねてより自身の待遇に不満を持っていましたがこれも天狗の定めと思っておりました。しかしあなた様の思想に触れ、その考えが間違っていたことを思い知ったのでございます。」

「なるほど!私は嬉しいですぞ!白狼天狗部隊が我が思想に参画していただければこの社会に革命を起こすことも容易になります!ささ!今宵は我が家で宴会を催したいと思っていました!どうぞ中へ!」

「はい。宴会でしたらお手伝いいたします!」

 

私はうまく潜り込むことに成功した。

 

「まずは長机を出さなければ!」

「でしたらそれは私がやりましょう。これでも哨戒部隊の隊長です。力仕事はおまかせを。」

「ありがたい!では私は酒とつまみを作ることにしよう!私の我流のつまみ皆も気に入ってくれると思う。」

「ありがたき幸せでございます!」

 

私は隣の部屋から長机を出す手伝いをした。土間の入り口付近から玄関口に向かって机を並べた。

 

「犬走隊長殿。この机の並びは?」

「烏鴈丸殿が一番上座なのは言うまでもなく、かの御仁なら皆の顔を一望できるのを望まれると思いまして。」

「なるほど!さすがは白狼天狗随一の実力者!思慮深さも随一ですな!」

「それと私は一番の新参者です。皆様に酌をして回りたいと思いますがよろしいでしょうか?」

「なんと!隊長自ら酌をしていただけるとは!我が一族の誇りになりましょう!」

 

全員とても上機嫌だ。誰しも宴会前は上機嫌になる。私もいつもなら上機嫌で態度も大きくなっていたかもしれないが今回ばかりはとてもそんな気分にはなれそうにない。

程なくして宴会が始まった。烏鴈丸(からかりまる)の訓示が行われ、乾杯した。皆上機嫌で酒を煽っている。私は烏鴈丸(からかりまる)に酌をするために酒瓶を片手に近づいた。

 

「烏鴈丸殿。いやこれからは同志烏鴈丸とお呼びしたほうが?」

「ははは!お好きに呼んでください!しかしあなたに酌をしてもらえる日が来るとは私は感無量ですよ!」

「お気になさらないでください。烏鴈丸殿。私は思想に共感したとは言え貴方様のお考えの半分もまだ理解できていない若輩者ですから。」

「そんな謙遜を。私はただ、天狗たち皆が平等に幸せになってほしいと願ったまでのこと。私は皆が幸せになるお手伝いをさせて頂いてるだけなのですよ!」

「烏鴈丸殿・・・。」

「椛殿。昨今の天狗社会は上下関係と階級によって虐げられているものが多すぎる。椛殿も経験がお有りでしょう?」

「はい。幼き頃は白狼天狗と言うだけでいじめられることもありました。」

「同じ天狗同士で差別があってはならない。皆同じ天狗ではないか。私はそういう差別や悲しみを取り払いたい。そのためにこの決起を立案し、今ここに同じ志を持った同志たちが集まっているのです。皆一様に過去に虐げられた経験を持ちます。そのような悲しみを生み出しているのは他でもない、大天狗だ。かの者が己の権力欲のために階級社会を維持し、大衆天狗を虐げている。私は今夜、この長きに渡る負の連鎖を断ち切ることができることに感動を禁じ得ないのです。」

「・・・。」

「・・・椛殿。私は・・・。」

 

 

 

ダァーン!

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

椛はうまく潜り込めたようだ。話している内容は聞こえないが表情はわかる。現時点ではターゲットがどれかわからない為打つことは出来ないが計画では上座の位置にターゲットを連れてくる手はずになっている。

 

予定通り中に入ったら宴会の準備、長机を窓の延長線上に配置して上座を射線に入れる。椛は諜報員としてもやっていけそうなくらいうまく立ち回っている。彼女と話した天狗は皆上機嫌そうだ。これが情報収集ならばみな喜んで情報をしゃべるだろう。

 

上座に一人の天狗が座った。それなりに若い男の天狗だ。上座に座ったということは彼が烏鴈丸(からかりまる)なのだろう。私は照準を合わせる。彼はなにか椛と話し込んでいる。大方主義思想の成り立ちでも熱弁しているのだろう。

 

私は旗を見て風向きと強さを確認する。風の強さを考慮に入れて照準をし直した。ターゲットが椛を見つめ一瞬動きが止まった。私はその機を逃さず、引き金を引いた。

 

 

ダァーン!

 

 

発射された12.7×108mm装甲貫通弾は風に煽られ軌道を修正し、正確にターゲットの頭部中央に命中した。命中の瞬間一瞬こちらを見た気がしたが、弾は音速以上の速度で彼の鼻面に飛び込み、衝撃で頭部全体が瞬時に霧散した。いくら天狗と言えども頭部全体が爆散しては生きては居ないだろう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。見事な腕前ね。あとはそこから脱出するだけよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

宴会場は一瞬の沈黙の後、

 

「キャアァァァァァァァアア!!!」

 

椛のものと思われる悲鳴で騒然とした。私はすぐに家に身を隠し、ライフルを片し始めた。

家は大騒ぎになっているようだ。この幻想郷という世界には対物ライフルはおろか銃自体ほとんど見かけることはない。そのためかターゲットに何が起こったのか、直前または直後の大きな音は何だったのかそれすらわからずじまいのようだ。

 

 

私はそのままその家に籠もった。じりじりと待ち続けた。周囲の集落から他の天狗が臨検に来たときは居間の下にあった隠し扉のようなところへ逃げ込んだりもした。そうしてしばらく立てこもり、朝を迎えた。

 

 

 

「四郎さん・・・?四郎さん・・・?」

 

微かに私を呼ぶ声が聞こえる。私は隠し扉を少しだけ開け辺りをうかがう。

土間には疲れ切ったような表情の椛が居た。私は隠し扉を開けて外に出た。

 

「椛。」

「ああ、四郎さん。作戦は成功。ですか。」

「ああ。任務達成だ。後は私は脱出するだけだ。大丈夫か?」

「ええ、少し疲れました。そりゃあ目の前で人の顔がいきなり爆散するんですからトラウマにもなりますよ。」

「すまない。もう少し待てればよかったのだが、嫌な予感がしたものでな。」

「嫌な予感?」

「こちらの話だ。それで、私はどうやって帰ればいい?」

「あ、ハイ。私がまた抱えて連れ出します。すぐに出発しますか?」

「そうだな。ここにはもう用はない。ここの家の家主にもよろしく伝えてくれ。」

「わかりました。では参りましょうか。」

 

私達は未だ警戒に当たる哨戒天狗を避けつつ低空飛行で森を縫うように飛びながら里へ脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~翌日~

 

 

「そうか。かの者は帰ったか。」

「はい。私が責任を持って里へ送り届けました。話によると“せーふはうす”という家から外の世界に帰れるそうです。」

「ご苦労であった。犬走椛、そなたにも苦労をかけたな。」

「いえ、大天狗様。私はただ命令に従ったまででございます。」

「うむ。今回の一件で私の部下もあの集団に公式に捜査の手を伸ばせるようになった。本案件は収束に向かうであろう。」

「彼らはどうなるのですか?」

「我々天狗に伝わる他人の深層心理を見破る秘術がある。通常は使用は厳禁ではあるが、彼らには再教育を施し、その秘術でもって検査し、共産主義などという馬鹿げた思想がなくなるまで徹底的にしごいてやるつもりだ。」

「なるほど。」

「そなたも疲れたであろう。今はゆっくり休め。定時哨戒も私の方から他のものに回させる。3日ほどじゃが休暇を取らせる。」

「ありがたきお言葉であります。」

「うむ。行って良いぞ。」

「はっ」

 

バタン

 

 

 

 

 

「・・・。これでよかったのだろうか・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「川の便利屋さん」  +1000 『河城にとりと会う。』

・「失われなかった萌芽」+3000 『ターゲットと犬走椛を会わせる。』

・「スイカ割り」    +3000 『対物ライフルでターゲットをヘッドショットする。』

・「お泊まり会」    +1000 『天狗の集落で一晩を過ごす。』

 

 

 




特権は、それ自体、ある場合には不可避である。繰り返すが、それは当分の間、必要悪である。しかし、これ見よがしに特権に甘えることは、悪であるというだけでなく、犯罪である。

- レフ・ダヴィードヴィチ・トロツキー -


2019/06/17追記
2期に続きます。



次回は学園艦に向かいます。


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HITMAN『シュバルツバルトの陰』

『黒森峰女学園へようこそ。47。』

 

『今回は戦車道の名門“西住流”の総本山であるこの学園艦である母親の願いを叶えてもらうわよ。』

 

『ターゲットは二人。一人目は佐藤孝蔵。彼は日本で最近勢力を急速に伸ばしている軍用品製造会社、佐藤グループのCEOをしているわ。戦車道連盟とも太いパイプで繋がっていて戦車道で欠かせない特殊カーボンも6割以上がこの会社が作ってるみたいね。今戦車道に対する大規模な介入をグループ全体で初めてて、その自社製品に依存させるルール改編には様々な議論を呼んでいるそうよ。』

 

『二人目は佐藤伸二。佐藤孝蔵の一人息子。彼は大グループの御曹司のわりには軽い性格をしているわ。親の七光りというやつで結構やりたい放題やってるみたいね。例えば、いろいろな女性に手を出しては飽きたら親の権力でポイ捨て。女性側である私としてはこれだけでも許せないわね。最近の狙いは西住まほらしいわ。』

 

『クライアントは西住流の現家元、西住しほ。戦車道をやりたい放題改悪しようとしている佐藤グループと、自身の娘、西住まほへ最近言い寄り始めたその息子を秘密裏に葬ってほしいようね。母親としては悪い虫は取り払ってあげたいのは当然でしょう。』

 

『それと、今回はICAから諜報員を一人派遣するわ。協力して任務を遂行して頂戴。あなたもよく知ってる人物よ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

私は今山の中にいる。ここは船上だったはずなのだが山にいる。艦の大きさの関係で島原湾に入れない黒森峰女学園学園艦は、近隣の橘湾に停泊している。そこへ雲仙岳から闇夜に紛れてハンググライダーで侵入を試みた際に、着地地点を見誤ったようだ。しかし艦内に居ることは確かなのでとりあえず山を降りる。

 

私は今回外からの侵入が困難だった場合に備えてJaeger7を持参している。狙撃は痕跡を多く残すので余り多用するのは良くないのだが。

 

現在時刻、午前5時。もうすぐ夜が明ける。夜が明ける前にターゲットのおおよそな位置くらいは把握しておきたいのだが。私は山を降りると山の麓にフェンスは張り巡らされていた。どうやらこの山は戦車道のための演習場だったようだ。フェンスを乗り越え市街地へ入る。

 

市街地に人影はない。おそらくそろそろ新聞配達が始まる頃合いだと思うが日本では一軒一軒ポストに入れているようで時間がかかるのだろう。少し進むと前方より人影が現れた。ごく普通のカジュアルな服装の少女だが、秋口で肌寒くなってきた今の時期の早朝としてはいささか軽装すぎる。近づくと見覚えのある顔が見えてきた。

 

 

「諜報員とはお前のことだったのか。」

「そう。」

「あのとき持っていた大きな杖はどうした?」

「小さいものに変えた。こちらのほうがこの世界では良い。」

「そうか。そのほうが良いだろう。何と呼べばいい。」

「・・・タバサ。その方がわかりやすい。」

 

 

彼女は以前私がICAの新薬の実験で生き返らせた元暗殺者。最も死んだ原因も私が暗殺したからなのだが。そのままICAの訓練施設に入り、今まで訓練を積みながら科学技術と一般常識に対する教育を受けていたようだ。

 

 

「タバサ。ターゲットの二人は今何処にいる。」

「CEOの方は中央艦橋の特別来賓室。息子の方は中心街の高級ホテル。詳しい場所はここに。」パサッ

 

 

そう行ってタバサは一枚の紙を差し出した。紙にはホテルの名前、“ホテル シュヴァイツァー 607”と書かれていた。後ろの数字は部屋番号だろう。

 

 

「私も今回暗殺に参加する。」

「できるのか?」

「これでも前の世界では王政府直属の暗殺者だった。」

「・・・わかった。ではCEOの方を頼む。」

「了解した。これを。」

「これは・・・無線か。」

「あなたは以前使ったことが有ると聞いている。説明は不要?」

「問題はない。」

 

 

このタイプの無線機は以前ジョウト地方で使った覚えがある。そう言えば訓練施設に居たということは、あのときの二人にもあったのだろうか。それはともかく、早速無線機を付けテストする。

 

 

「聞こえるか。」

「問題ない。」

「感度良好。以後問題が発生した場合は報告するように。」

「わかった。」

「しかしここまで調べ上げられるなら君が手を下しても良かったんじゃないのか?」

「・・・私は一度死んだとき、スクエアからトライアングルへランクダウンしたように感じた。偏在が使えなくなった。」

「偏在・・・?」

「分身の術のようなもの。今回のターゲットは片方が襲撃されればもう片方に警報が行く。同時にやるか静かにやらなければならない。私はまだ静かにやるのは自信がない。」

「なるほど。だから私の到着を待っていたのか。」

「そう。」

「いいだろう。では私はホテルへ向かう。」

「私は艦橋へ向かう。」

 

 

そういうと彼女は懐から短めの杖を取り出し、一振りすると旋風のような風が舞い上がったかと思うと忽然と姿を消していた。おそらく高速移動の類だろう。しかし能力低下はリザレクターの副作用になるのだろうか。今頃技術部は改良に向けて躍起になっているだろう。私はメモに書かれたホテルの住所を頼りに中心街へ向かった。

 

 

 

 

 

 

ホテルは周囲の建物より高く、フロントの案内板によれば地上ならぬ艦上15階建てだそうだ。これ以上高い建物は少し離れたところにある艦橋しか無いだろう。私は一度ホテルの最上階へ向かった。

 

最上階に着くと、そこからさらに階段を登り屋上へ出た。屋上は典型的なビルの屋上という感じだ。多数の室外機と配管。コンクリート固めされており、周囲はフェンスで覆われているため好き好んでここに来る宿泊客は居ないだろう。私は屋上の室外機の下にJaeger7を隠した。

 

隠し終えた私はホテル内に戻った。エレベーターで6階に降り、先程のメモにあった607号室を探す。607号室はホテルの角部屋のようだった。一番東端にあったその部屋を前に聞き耳を立てる。

 

 

「わかってるって。大丈夫。・・・ああ。・・・しょうがないな父さんは、心配性なんだよ。少しは息子を信頼しなよ。」

 

 

どうやら電話をかけているらしい、相手はもうひとりのターゲットのようだ。私は周囲に気を配りつつ情報を探る。

 

 

「じゃあ切るよ。これから?これから朝食をとってからまたまほさんのとこへ行くさ。・・・なあに、大丈夫ああいう気の強い女は案外簡単に落ちるもんさ。直ぐに俺の上でヒイヒイよがり狂うことになると思うよ。じゃあ。」

「ふう・・・なんだかビュッフェまで行くの面倒だな・・・ルームサービスで済ませるか・・・。」

####アプローチ発見####

「・・・ああフロント、ルームサービスで朝食を頼む。今すぐにだよ。・・・時間外?俺が誰だか知ってていってるのか?いいからさっさともってこい!」

「ったく・・・。くるまでゲームでもするか。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットはルームサービスを頼んだようね。うまくすれば彼の部屋に怪しまれずに潜り込めるかもしれないわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は周囲を観察した。少し離れたところに宿泊客用のエレベーターとは別の従業員用のエレベーターを見つけた。近くによるとその周囲は丁度良く廊下からは死角になっている。私はエレベーターの隣のくぼみに隠れて待った。

 

しばらくするとエレベーターが動き出した。地下1階から上がってきている。6階でランプが止まって扉が開いた。中から朝食セットと思われる台車を押して給仕が出てきた。私は角を曲がる前に後ろから掴みかかり首を絞めて気絶させた。

 

気絶した給仕から服を借り、近くの掃除用具入れに押し込む。掃除用具入れに殺鼠剤があった。私はその殺鼠剤を朝食セットのスープに混ぜた。混ぜ終えると台車を押して607号室へ向う。

 

 

「失礼します。ルームサービスでございます。」

「やっと来たか。待ちくたびれたぞ全く。」ガチャ

「中までお運びしてもよろしいですか?」

「ああ、早くしてくれ。」

カラカラカラ

「ああ、あとは自分でやる。もう腹ペコなんだ。もう行っていいぞ。」

「わかりました。」

バタン

 

 

私は運び終えるとそのまま部屋の前で内部の様子をうかがった。中ではターゲットが朝食を食べる食器の音がしている。

 

 

「うっ!・・・何だ・・・これは・・・うげぇ・・・」

 

 

中からうめき声が聞こえる。スープを口にしたようだ。内部で扉を開ける音が聞こえる。私はその音を確認すると給仕の服に入っていたマスターキーを使って内部に入る。

ターゲットはユニットバスのトイレで中の物を吐き出しているようだ。そっと後ろから近づき、そのまま一気にターゲットの顔を便器の中に突っ込んだ。

 

 

「!?!?ゴボォゴア!?」

「・・・。」

「ゴァア!?ゴボァ・・・」

「・・・。」

 

 

ターゲットは動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲット、佐藤伸二の死亡を確認。あとはCEOの佐藤孝蔵よ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

私は風呂に水が入っているのを確認した。ターゲットの死体の服を全て剥ぐと風呂の中に沈めた。服を風呂場の外に乱雑に放り投げると私は部屋を後にした。

 

 

「タバサ。聞こえるか。」

「聞こえている。」

「一人目の暗殺は完了だ。そちらはどうなっている。」

 

 

 

 

 

 

~タバサside~

 

 

「こちらは今ターゲットを確認した。現在位置艦橋のデッキ部分。」

「そうか。こちらはそのままホテルの屋上より狙撃体制に入る。」

「わかった。でも狙撃の世話にはならない。私がやる。」

「健闘を祈る。」

 

 

もうひとりのターゲット、佐藤孝蔵は艦橋からせり出した展望デッキに居た。3つほどあるデッキの中で一番高い位置に有るこのデッキはホテルからもよく見えるだろう。ターゲットは護衛2人を伴って外でタバコを吹かしている。

私はと言えばそのデッキよりも高い位置に有る通風孔の中にいる。私でギリギリの広さのこの通風孔は格子で外と仕切られているが、その格子は所々錆びており内側から叩けば簡単に外れそうだ。

 

 

「まったく、あの道楽息子にも困ったものだ。だが今回はその道楽が功を奏したな。」

「はい、伸二さまが西住まほと接触していただいたおかげで戦車道連盟にも今後の身の振り方を変える者たちが出ております。」

「だがまほさんは鬱陶しく思っているようだが?」

「その点は伸二さまの文字通りの手腕にかかっているかと。」

「手腕か。なかなかうまいことを言うな。」

 

 

なんともゲスい話をしている。私は杖を取り出し、杖の先を格子からだして呪文を唱える。

 

 

“スリープクラウド”

 

 

「ん?なにやら霧が出てきたな。」

「洋上ですから霧もよくあることか・・・と・・・」バタ

「お、おい?どう・・・し・・・た・・・」バタ

「な、何だこの霧。なんだかね・・むく・・・」バタ

 

 

一応スリープクラウドを艦橋全体に行き渡るように拡散させた後、私は格子を叩いて外し、外へ出た。

黒服のガードマン二人、その間に白髪の老人が一人。私はその老人に向かって杖を構える。

 

 

“ウィンディ アイシクル”

 

 

ズザザガチャザザザ

 

 

放たれた氷の矢はターゲットを穴だらけにし、最後の一発は眉間に刺さった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『全ターゲットの死亡を確認。初陣にしては上々かしら?そこから脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

魔法で出来た氷の矢。役目を終えると空中に霧散していった。そう言えば先程攻撃中になにか別の音がしたような・・・。

 

 

「お前!そこで何をしている!」

「!?」

 

 

しまった。先程の音はやはり中の警備員が外に出てきた音だった。うかつだった。

 

 

「社長!?クソ!」カチ

 

 

ビービービー

 

 

私が動揺している間に警報を鳴らされてしまった。早急に撤退するしか無い。私はデッキから飛び降りた。

 

 

「飛び降りただと!?ちっ!逃がすか!警護隊聞こえるか!襲撃だ!犯人はデッキを飛び降り東方面へ逃走中!」

 

 

私は走る。艦首に脱出用のボートを用意してもらっているのでそこまでたどり着ければ。

 

 

 

ブゥーン イタゾー

 

 

追手の車だ。この世界の車という乗り物は私の元いた馬はもとより、場合によっては風竜より早く移動できるという。走りでは追いつかれるのも時間の問題だろう。私はとっさに路地裏に逃げ込む。

 

路地裏は曲がりくねっており、小回りの効かない車は追ってこれないはずだ。風の力を利用して走っている私は魔法を使わない人間の倍以上の速度で移動できる。このまま走っていれば追いつかれないだろう。

 

 

 

 

バラバラバラ

 

?!ヘリコプター!?まずい、空から追われたのでは速度の有利を生かせない。しかも遠目で見てもわかるそのヘリコプターは明らかに戦闘用だ。側面についているロケット弾やミサイルは使わないにしても機首についている機銃だけでも十分に脅威。あの機銃の威力は、似たものを訓練施設で見たがおそらく元の世界ならばあの一機でトリステインの国軍程度なら壊滅させられるだろう。

 

できる限りヘリコプターから死角になるように逃げるがヘリは正確に着いてきてサーチライトで照らしてくる。もうすぐ路地裏が終わってしまう。広いところに出れば機銃の餌食になるだろう。しかし路地裏からは人が大量に追いかけてくる気配がするため、いつまでも路地裏に籠もっているわけにも行かない。

路地裏を抜けた。目の前にヘリコプターが回り込んで来た。

 

 

「もう逃げられないぞ。おとなしく降伏せよ。」

「くっ・・・。」

 

 

どうする。魔法で攻撃しようにもエアハンマーもエアカッターもこの風圧下では使えない。氷の矢は出現させた瞬間に機銃弾の雨を食らうだろうし、そもそもあの機体に氷の矢が通るかもわからない。ICAが持たせてくれた拳銃も焼け石に水だろう。戻るにしても脱出方法が・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキン!バキッ!

ヒュンヒュンヒュン

 

「な、なんだ!?テールローターが!?」

「制御不能!落ちる!」

 

 

目の前のヘリコプターが勝手に回転し始めた。どうやら後ろについていたプロペラが狙撃によって破壊されたようだ。

ヘリコプターはそのまま制御を失い、くるくる回転しながら離れていき、

 

 

ヒュンヒュンヒュン…ドォーン

 

 

落下して爆散した。落ちた場所は市街地を抜けた後の演習区画だったようで被害は少ないだろう。通信が入る。

 

 

「逃走は失敗だな。次はもう少しうまく逃げれるようにな。」

「47・・・恩に着る。」

「ヘリにはいくつか弱点が有る。そこを正確に攻撃できればそれほど驚異ではない。」

「訓練施設に帰ったら勉強する。」

「それがいい。では私も脱出する。」

 

 

助けられてしまった。もっと精進せねば。私はそのまま艦首へ向かい、ボートで脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

~(少し前)47side~

 

 

ホテルの屋上へ戻った私は室外機の下に隠していたJaeger7を取り出すとスコープを覗いて艦橋デッキを見た。確かに数人が艦橋で話しているのが確認できる。が、ここからではどれがターゲットか判別が難しい。

 

そのうち、その少し上の通風孔から青白い霧が出てきた。デッキ全体に広がったそれはデッキに居たターゲットの集団3人とそこから死角になっているデッキ入り口の警備員と思わしき人影を倒れさせた。霧が晴れ、通風孔から人が出てきた。おそらくタバサだろう。

 

タバサはそのまま先程の3人が立っていた付近まで来ると、周囲に何かが浮かび始めた。10個足らずのそれらは一斉にターゲットが倒れてると思わしき付近へ殺到する。おそらく魔法の矢かなにかなのだろう。・・・ん、攻撃中に死角になっている扉が開いた。中から人が出てきた。タバサは気がついていないようだ。私が援護してやることもできるが・・・ここは手並みを見せてもらおう。

 

ビービービー

 

案の定出てきた警備員と思わしき人物に見つかったようだ。そこで何かしら応戦するかと思われたがそのまま警報を鳴らされてしまった。タバサはデッキから飛び降りた。魔法で着地したのだろうがその逃走経路は私にはできそうにないので少し羨ましい。何かと引き換えにしてまでほしいとは思わないが。

 

タバサは走って逃走しているようだ。しかし駐屯区画と思わしきところから3台のハンヴィーが出てくるのが見える。重機関銃などで武装しているようだ。このままでは追いつかれる・・・っと路地裏に逃げ込んだか。その選択は正解だろう。

 

遠くからヘリの音がしてきた。音のする方を見ると艦尾のヘリポートからヘリが発進したのが見えた。AH-1Zバイパーだ。米軍でもまだ配備途中の最新鋭機を何故持ってるのかは疑問だが、あれに追われるとなると逃げ切るのは至難の業だ。私なら艦内区画に入るが・・・タバサは追ってから逃げることに集中しすぎて縦方向に逃げることを忘れているようだ。

 

バイパーがサーチライトを照射した。発見されたようだ。まだ時刻は6時前。こんな早朝に低空でヘリが飛んでいたら住民はたまったものではないだろうな。そのうち方向転回した。おそらく追いつめたのだろう。私はJaeger7を構え、テールローターを照準に入れる。狙いはローターの結合部だ。狙いを定め、木々を見て風向きと強さを図り修正する。ヘリが完全に止まったその時を逃さず引き金を引いた。

 

 

パシュン

 

 

弾丸は正確にテールローターの結合部に直撃、完全には破壊できなかったが破損させれてやればその回転に耐えられなくなった結合部は破壊される。テールローターは外れ、バイパーは回転を始めた。制御不能になったバイパーはそのまま奥の演習区画へ墜落していった。私は通信を入れる。

 

 

「逃走は失敗だな。次はもう少しうまく逃げれるようにな。」

「47・・・恩に着る。」

「ヘリにはいくつか弱点が有る。そこを正確に攻撃できればそれほど驚異ではない。」

「訓練施設に帰ったら勉強する。」

「それがいい。では私も脱出する。」

 

 

彼女の今後の成長に期待するとしてJaeger7を片付けると、ホテルを出た。ホテルを出るときに黒服の男性数名が入れ替わりで走って中にはいっていった。おそらくCEOの死亡を知らせに来たか、知らせたが応答がなかった息子の様子を見に来たか、あるいはその両方だろう。

 

私はホテル前に止められていたタクシーの1つに乗るとそのまま桟橋へ向かい、脱出した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~3日後~

 

「やあやあ、家元。お元気そうで何より。」

「理事長。ご無沙汰しております。」

「今回は災難でしたな。黒森峰女学園で暗殺事件とか?」

「ええ。ですが被害は最小限、死者は佐藤グループCEOとその息子、そして犯人を追跡していた戦闘ヘリの乗員2名です。大事の割には少ないと言えるでしょう。」

「色々と黒い噂が耐えなかった佐藤グループもあの戦闘ヘリはまずかったようですな。今度グループ全体に公式に警察の捜査が始まるようです。」

「皮肉なものです。被害者である佐藤グループが捜査対象になるとは。」

「・・・今回の事件。私は誰か裏で糸を引いてるんじゃないかと思っとったんですがいかがでしょう?」

「・・・。さあ、私は熊本の本家に居たのでわかりかねます。」

「そうですか・・・。それよりまほさんは大丈夫かね?来月の国際試合に影響がないと嬉しいのだが。」

「その点については問題ありません。まほも私と同じく家にいましたので被害にはあっておりません。先程も言ったように今回の事件で学園艦在住の者の被害はなく、戦車も無事です。」

「そうか。噂になることはあってもその程度で西住流は揺るがないということですな。」

「そうです。」

「・・・。」

「・・・。」

「ま、まあともかく、今回の事件に惑わされないように来月の国際親善試合。よろしく頼みますぞ。」

「お任せください。彼女たちなら必ずや勝利してくれると確信しています。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「リピッシュ博士の実験」+1000 『グライダーで学園艦に乗艦する。』

・「役割分担」      +1000 『ターゲットをタバサと分担して始末する。』

・「敗因は水没」     +3000 『ターゲットを溺死させる。』

・「誰にでも弱点は有る」 +2000 『戦闘ヘリのテールローターを狙撃する。』

 

 




結局ガルパン要素殆どなしという。別アプローチではもうちょっと特色出したいと思ってます。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『シュバルツバルトの陰』(もう一つの世界線)

『シュバルツバルトの陰』の別アプローチ版です。
想定より早くできたので連続投稿です。


『黒森峰女学園へようこそ。47。』

 

『今回のターゲットは最近日本で隆盛してきている軍需産業、佐藤グループのCEO、佐藤孝蔵とその息子、伸二。彼らは戦車道を自分たちの都合のいいように改変しようとしている。しかも息子は遊び人で親の権力を盾にこれまた好き勝手やっているわ。』

 

『クライアントは西住流家元の西住しほ。戦車道を破壊しようとし散る佐藤グループを壊滅させると共に、自らの愛娘である西住まほに言い寄る佐藤伸二も同時に葬ろうというわけ。』

 

『今回は以前あなたが生き返らせた元暗殺者の訓練が完了したから、この任務に同行させるわ。協力して任務を遂行して頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

ボォー

 

間もなく出港だ。現在時刻、午前10時丁度。黒森峰女学園学園艦は熊本沖の天草灘を進もうとしている。

 

今回は以前ICAの新薬“リザレクター”で生き返らせ、組織に引き入れた元暗殺者の少女、名をタバサ。彼女の初陣でも有る。彼女は私の横で離れゆく陸地を見ている。

 

 

「これからどうする?」

「まずは情報だ。学園艦の詳細を知りたい。」

「わかった。基本的な情報はこの紙に書かれている。」

「基本情報は収集済みか。訓練の成果だな。」

「基本。この程度なら前の世界でもやっていた。」

 

 

私は渡された紙を見る。現在、CEOである佐藤孝蔵は艦橋の特別来賓室に居るようだ。警備が厳重なのは容易に想像できる。変わって息子である伸二の方は市街の高級ホテルに泊まっているようだ。不自然なほど警備が薄いらしく、部屋にはターゲット一人、同じ階どころかホテル自体にもSPは泊まっていないらしい。

 

私は紙に添付された地図を見る。市街地が中央部に広がっている。艦尾側に若干の森があり、そこから更に艦尾側に小規模な市街地が有る。人口は10万を超えるらしい。艦右舷中央に艦橋があり、艦尾と艦首それぞれ5分の1ずつが広大な演習区画になっているようだ。黒森峰女学園自体は艦尾側の小規模な市街地にあった。

 

私はその演習区画にあった格納庫に目をつけた。

 

 

「タバサ、ターゲットの周辺人物に誰か接触したか?」

「まだ。そこまで入り込むのは危険と判断した。」

「なるほど。では西住流の名を語らせてもらおうか。」

「?」

 

 

 

 

 

 

私は今艦橋に来ている。入り口にはSPと思われる警備員が数名立っていた。近づく私に気がつくと一人が進み出てきた。

 

 

「止まってください。ここは関係者以外立ち入り禁止となっています。」

「佐藤孝蔵氏に西住流家元より言伝を預かってまいりました。」

「西住流から?それは・・・。少々お待ちを。」

 

 

そう言うと彼は耳につけているイヤホンと胸につけているマイクで何かを話し始めた。おそらくターゲットに確認をとっているのだろう。

 

 

「社長はお会いにはなりません。言伝は私から伝えます。」

「わかりました。では“本日夜8時、第1演習場で待つ。できる限り少人数、できれば一人で。”が言伝です。」

「承知しました。確かに伝えましょう。」

「お願いします。では。」

 

 

私はその場から離れる。言伝を正しく伝えてくれることを祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

~タバサside~

 

私は市内の高級ホテル“ホテル シュヴァイツァー”に来ていた。フロントに向かう。カジュアルな服装をした少女が一人で高級ホテルに入れば否応にも目立ってしまうが問題はないと47は言っていた。

 

 

「お嬢様、当ホテルは黒森峰学園艦が誇る高級ホテルでございます。どなたかのご紹介でしょうか?」

「紹介ではない。このホテルに泊まっている“佐藤伸二”という人物へ伝言を預かってきた。」

「佐藤伸二様ですね。少々お待ちください。」

 

 

そう言うとフロントのホテルマンは何処かへ電話をかけ始めた。おそらく本人に伝えてるのだと思われる。

 

 

「お嬢様、伝言が有ると言われましたね。それはここで私共にお伝えすることは可能でしょうか?私共が代弁しますが。」

「お願いする。伝言は“本日午後8時、第1演習場にて待っています。一人できてください。”宛名は“西住まほ”で。」

「西住まほ・・・!それは・・・しょ、承知しました。確かにお伝えいたします。」

「お願いする。」

 

 

私はそれだけ伝えるとホテルを後にし、指定されていた合流場所へ向かった。

 

 

 

 

 

~47side~

 

合流地点の黒森峰女学園前にやってきた。第1演習場は学園のすぐ近くにある。現在時刻午後1時。急がねばならない。

 

 

「遅れた。」

「問題はない。下ごしらえと行こう。」

「どうするの?」

「簡単な話だ。戦車道の問題は戦車に片を付けてもらう。」

 

 

私達は演習区の外周にあるフェンスを乗り越えた。乗り越える際、タバサのレビテーションとかいう魔法を使った。体を自由に浮かばせられるのはなんとも便利だ。

 

演習場の端に格納庫があった。私達は格納庫に近づき高い位置にある窓へレビテーションで浮かんで中を覗く。中にはいくつかの戦車が並べられていたが、人影はなかった。私達はそのまま窓から侵入する。

 

上から見ても人気がなかったので下に降りると、ホワイトボードがあった。そこには一言だけ、“本日の演習は第3演習場にて行います。”とだけ書かれていた。第3演習場は艦の反対側、艦首にある演習場だ。

 

私達は格納庫内を調べて回った。私はホワイトボードからほど近い位置にあった本棚を調べていると、“戦車道における戦車の仕組み”という本を見つけた。読んでみると通常の戦車と戦車道に使われる戦車の違いが事細かに記されている。別のところを調べていたタバサが近寄ってきた。

 

 

「これを見つけた。」

「ん・・・これは鍵か。」

「鍵箱には戦車の名前が記されていた。おそらく戦車を動かすときの鍵。」

「よくやった。それは必要なものだ。それは何という戦車の鍵だ?」

「TIGER。そう書かれていた。」

「Tiger戦車か。非常に強力な戦車だ。使える。少し待て。」

 

 

私は再び本に目を戻すと、弾薬の違いについて書かれていたページを見つけた。この本によると、戦車道の弾薬には人感センサーが内蔵されており、有効半径内に生身の人間がいる場合は炸裂しないようになっているらしい。しかし、その人感センサーは砲弾の先端部に後付けで装着されており、それがなければ威力が半分ほどになっているものの、機能としては実弾と大差なくなるようだ。

 

私は本を一旦置き、あたりを見回す。やはり格納庫には弾薬は置かれては居なかった。まずは弾薬庫を探さなければならない。

 

 

「タバサ。戦車自体、燃料、そして弾薬を探さねばならない。手伝ってくれ。」

「わかった。」

 

 

それから私達は格納庫の周囲を探索した。燃料はすぐに見つかった。格納庫のすぐ近くに燃料タンクがあったからだ。弾薬庫は少し離れたところ土塁に囲まれている典型的な弾薬庫をタバサが上空から発見した。

 

私達はまず弾薬庫から88mm砲弾を3発持ち出した。徹甲弾1発、榴弾2発である。一発で終わらせるつもりでは有るが念の為持ってきた。

 

私は砲弾を格納庫に持ってきて、格納庫内に置いてあった工具を使って先端部分にあるセンサー類を取り外す作業に取り掛かった。その間タバサには戦車自体を探してもらった。見つけたらすぐに通信が来るように言ってある。

 

 

 

カチャカチャ

「・・・。」

カチャカチャ

「・・・。」

 

 

 

トントントン トントントン

 

何やら視線を感じる。私はタバサにあらかじめ伝えておいた緊急信号を送る。この信号を受け取った場合は格納庫の周囲に我々以外が居ることを示している。それから数分後、

 

 

「動かないで。」

「!」

「・・・やはり居たか。」

 

 

どうやら視線の主を捕縛したようだ。私は作業を中断し、格納庫をでる。

 

 

「あなたは・・・“西住まほ”か。」

「・・・お前たちここで何をしていた。」

「・・・。」

「正直に言おう。私はお前たちが何をしているのか、そして何をしようとしているのかおおよそ見当がついてる。」

「ほう?」

「私は先週、夜食を取りに台所へ行った。その時に深夜にもかかわらず居間のほうで気配がしたのでこっそり聞き耳を立てたんだ。」

「・・・。」

「居間に居たのは母さまだった。何処かと電話していた。しかし母さまはたしかに言った。“佐藤グループ”そして“暗殺”と。小さな声だったからそれ以上は聞き取れなかったがな。」

「・・・。」

「お前たちはその暗殺実行部隊なのだろう?」

「だとしたら?」

「・・・正直、止めるかどうか迷っている。佐藤伸二には困らされているのは事実だし、戦車道を好き勝手改変しようとしているのも知っている。だから殺人という倫理観から外れた行為を行おうとしているお前たちを目の前にしても止める事ができないでいる。」

「・・・。」

「私にはわからないんだ。どうすればいいのか。」

「君は何も見ていないし何も聞いていない。我々は仕事をこなしているだけ。それではダメか?」

「それでは・・・私は今後止めなかったことを後悔し続けることになる。それに耐えられるかわからないんだ。」

 

 

この少女は殺人という大罪を前にして己の欲と倫理の間で揺れ動いている。こういうときは基本的に背中を押してやれば後は転げ落ちるだけだ。

私は懐からシルバーボーラーを取り出し、構える。

 

 

チャキッ

「な!何を!」

「簡単なことだ。我々の仕事を見られたからには生きて返すことはできないということだ。映画とかドラマではお決まりだろう?」

「殺す?」

「タバサ。黙っていろ。西住まほ、殺されたくなければ言うとおりにしたほうがいい。お前の背後にいる少女も見かけどおりだとは思わないことだ。」

「くっ・・・。」

「さあ、お前の愛車のところまで案内してもらおうか。」

 

 

 

 

 

西住まほの愛車、つまりはTigerⅠはすぐ近くの別の格納庫の中にあった。尋問の結果、西住まほは今日は演習に参加せず、自宅で休養を取ることになっていたという。おそらくクライアントである西住しほが手を回したのだろうが、愛娘はそれに素直に従わなかったというわけだ。

 

タバサはレビテーションでタンク車を引いている。中にはガソリンが満載されている。少しの間戦車を動かすには十分な量だ。私達は戦車に燃料を補給し、そして先程センサーを外した砲弾を積載した。

 

 

「じゃあ動かしてもらおうか。それとこれを持っていてもらう。これは小型の対人爆弾だ。リモコン式で私が持つスイッチで起爆する。起爆すれば半径1mは吹き飛ぶ。持っているお前は当然あの世行きだ。」

「・・・。」

「タバサ。装填手席につけ、私は砲手席に着く。」

「わかった。」

 

 

渡した自称小型爆弾は先程砲弾から外したセンサーの一部だ。無論爆弾どころか可燃物すら入っていない。しかし傍目には完全密封された金属の箱なので爆弾に見えなくもない。

3人が各々席についた。

 

 

「第1演習場の端の森の中へ行け。そこで待ち伏せる。」

「・・・。」

「タバサ。榴弾を装填するんだ。できるか?」

「問題ない。この戦車は以前動かしたことがある。」

「何?訓練施設ではこんな古い戦車の操縦は教えないと思うのだが。」

「違う。前の世界。あの世界でこれと同じものを動かした。その時は先端が赤い砲弾。徹甲弾を使った。」

「そうか。何にせよ使い方がわかるのはいいことだ。」

 

 

なぜあの技術後進国しか無い世界にTiger戦車があったのかは疑問だが今となってはどうでも良いことだ。

 

 

「では行こうか。何と言ったか?ああそうだ。」

パンツァーフォー(Panzer vor.)

 

 

Tiger戦車はけたたましい音を出しながらゆっくりと動き出し前進を開始した。現在時刻、午後4時30分。なんとか間に合ったと言える。

 

 

 

 

 

 

 

私達は第一演習場の隅の森のなかに居る。音で気付かれないようにエンジンは切っている。既にここに鎮座してから3時間が経とうとしていた。

 

 

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

 

 

その間ずっと無言のままである。私は慣れているし、タバサも問題はないが、西住まほはそわそわと落ち着かない様子だ。3時間も3人狭い空間に居て一言も喋ってないのだから仕方ないだろう。

更に数十分経ったとき、車長の位置に移動していた私はキューポラから演習場に人が歩いてくるのを発見した。

 

 

「そろそろだ。」

「!」

 

 

西住まほはビクッと体を震わせた。いきなりの声に驚いたのだろう。そのまま操縦手の窓から外を見る。

歩いてきた人物は若い男性だった。一人でこんな時間にここに来るということはターゲットだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが佐藤伸二。道楽息子で女たらしの戦車道を愚弄する一族の後継者。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

その直後、演習場に続く道から1台の車が入ってきた。白の高級車だ。中からSP2人と一人の老人が降りてきた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが佐藤孝蔵。戦車道を自分の思うままに動かそうと画策する悪の枢軸。役者が揃ったわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

お互いに気がついたようだ。

 

 

「む、伸二。お前こんなところで何をしている。」

「父さんこそ。俺はここにはまほさんに呼び出されたんだ。」

「わしは家元にここに来るようにと。わざわざ仕事の合間を縫ってきてやったと言うのにこれは一体どういうことだ。」

 

 

「西住まほ。エンジンをかけろ。」

「・・・。」

 

 

けたたましい音を響かせてエンジンがかかる。砲塔旋回装置にも動力が行き渡り、私は砲塔を回転させ、彼らの方へ向けた。

いきなり発せられた重低音に驚いてこちらを見ている。が、暗闇でよく見えていないようだ。

 

 

「気が付かれる前に終わらせてやろう。タバサ。念のために次弾装填用意、弾種榴弾。」

「了解。」

 

 

私は彼らの集まってる地点の足元目掛け照準をし直し、引き金を引いた。

 

 

 

バァァン!

 

 

 

榴弾は少しそれて着弾した。なぜそれたのか疑問だったがその答えはすぐにわかった。

 

 

「む!西住まほ。」

「やはりダメだ!やらせない!」

「タバサ。眠らせろ。」

“スリープクラウド”

「ぐっ・・・。」

 

 

発射の直前に西住まほが車体を旋回させたのが原因だった。再度照準をし直す。タバサは魔法を使って重い砲弾をすばやく装填する。まるで意思を持って砲に装填されるかのように動いている砲弾は、おそらく人が装填するよりずっと早いだろう。

 

 

「な!な!」

「おい!早く乗れ!」

 

 

彼らは一様に動揺しているが一瞬だけ伸二のほうが固まった。その隙に私は孝蔵の乗ってきた車へ照準をし直す。彼らは車に乗り込むとすぐさま発進しようとしたが

 

 

「装填完了。」

「デッドエンドだ。」

 

 

こちらの装填のほうが早かった。

 

カチッ

ドォォン!

ボォォン!

 

 

 

 

 

 

車は88mm榴弾の直撃を受け爆散。前方向に一回転しながら炎上した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲット2名の死亡を確認したわ。よくやったわ。脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

爆発炎上している車を一応確認する。炎が強く、判別はできなかったが、車内に人影のようなものを4体視認した。最初に確認した人数と一致するので問題はないだろう。

 

私は戦車に戻り、操縦主席から西住まほを引きずり出した。そのままタバサのレビテーションで運び、格納庫へ戻った。

 

格納庫へ戻ると転がっていた荒縄できつく縛り上げ、口にガムテープを巻いた。これで発見されるまでは身動きも声をだすこともできなくなる。

 

私達はそのまま演習場を後にした。爆音と煙を見て誰かが通報したのだろう、消防車とパトカーのサイレンが遠くから聞こえてきた。私達はさらに艦尾に向かい、ヘリポートに駐機していたICAのヘリに乗って脱出した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~2日後~

 

 

「はい。もしもし。」

「お姉ちゃん。大丈夫?」

「ああ、みほか。大丈夫だ。私はなんともない。」

「よかった・・・。テレビで黒森峰で爆発事件があってお姉ちゃんが巻き込まれたって聞いたから心配で・・・。」

「ありがとう。格納庫で私のティーガーを整備しようと行ったら後ろから急に睡眠薬をかがされたようだ。」

「そう・・・爆発事件のことは覚えてないの?」

「気がついたら救急車の中だ。警察によると縄で縛られて口にはガムテープがされていたらしい。」

「そう。まあ何も覚えてないならその方がいいかもしれないよね。辛いことを思い出すよりは。」

「うむ。」

「何かあったら言ってね。私はいつでもお姉ちゃんの味方だから!」

「ありがとうみほ。私はこれから医者とまた会わなければならない。」

「わかった。ほんとに何かあったら言ってね!絶対だよ?」

「大丈夫だ。じゃあ切るぞ。」

 

 

「・・・。」

 

「止めることができなかった。だから仕方ないんだ・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「特別なパーティ」 +1000 『ターゲット二人を同じ場所に集める。』

・「現役の老兵」   +2000 『ティーガー戦車に乗る。』

・「老兵を支える女神」+1000 『西住まほに会う。』

・「本来の使い方」  +5000 『戦車砲でターゲットを2人まとめて殺害する。』

 

 




こっちを本編にしても良かったんじゃないかと思っています。


2019/06/17追記
47に戦車を動かさせる構想は結構早くからありました。どうしても被害がでかくなって警察勢力とドンパチやる方向になってしまってたのでここまで採用が伸びた感じですね。


次回は王宮へ向かいます。


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HITMAN『欲望は人を呪う』

『トリスタニアにようこそ。47。』

 

『あなたはこの街は二回目かしら?前回は確か町の役人を暗殺したんだったわね。でも今回用が有るのは城下町じゃなくて王宮の方よ。もちろん警備は厳重だろうけど、他国の王宮なら潜入したことあったわよね?』

 

『今回の依頼はいささか不明瞭なの。ターゲットは“財務卿”。依頼の文章にはそれしか書かれておらず、個人名はわからない。でも国の財務卿といえば一人しか居ないだろうからその点は余り問題ではないでしょう?』

 

『クライアントはさるトリステイン貴族。依頼の文章と多めの依頼料しか特定するものがないからなんとも言えないわね。でも我々は依頼され金が支払われればそれを忠実にこなすだけ。相手が誰だろうと、それで国がどうなろうと、私達には関係ないわね。今情報部がクライアントの身元を特定しようとしているけど、依頼文には今日明日で終わらせてほしいと書いてあったから、とりあえず任務遂行が先になったというわけよ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~???side~

 

クソッ!クソッ!クソッ!

何故だ!何故こうなった!何処で間違えた!

 

どうしたら!私は一体どうすればいい!

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

久々だ。この町並みは。私は今この町一の大通りに来ている。以前来たときと全く変わらない町並みを眺めつつ、その奥にそびえ立つ王宮を見る。

 

とても大きな西洋風の城だ。ノイシュバンシュタイン城を思い起こさせるその荘厳な佇まいは見るものを圧倒している。

 

今回私はこの荘厳な城を爆薬で吹き飛ばすことを選んだ。正確にはターゲットとなる財務卿が居る部屋をだが。そのためにアタッシュケース型の爆薬を持参した。中にはカモフラージュ用の書類があり、外側に薄く平べったくプラスチック爆薬が仕込まれている。部屋1つくらいなら吹き飛ばせるはずだ。

 

 

私はまず、城の周囲を確認することにした。城は外壁の周囲を堀で囲んでおり、5mはある外壁の上は人が通れるようになっているようで、警備兵と思わしき兵士が巡回している。正面ゲート以外では裏側に裏口のような小さな扉が有るだけだった。裏口には警備兵は立っておらず、外壁上の警備員からも死角になっている。裏口は鋼鉄製と見られ、当然のように鍵がかかっていた。試しにノックしてみるが反応はない。私は周囲に誰も居ないことを確認し、懐からロックピックを取り出しピッキングを開始する。

 

扉の鍵はそこまで難しい仕様ではなかったようで、ロックピックを鍵穴に挿してからものの数秒で開けることができた。扉を開けて内部に侵入する。外壁は内部が廊下といくつかの部屋になっていたようだ。そのうちの一つの部屋に入る。中は兵士の宿舎だったようで2段ベッドがいくつか置いてあった。壁にはいくつも同じデザインの上着とズボンがかけられていた。近くには帽子も槍もある。私はそれらを借り、着替えた。アタッシュケースを一旦宿舎のベッドの下へ隠し、私は城の中を探索することにした。

 

 

 

城の内部は様々な人が行き交っている。メイド、貴族、商人、兵士。私も兵士の格好をしているおかげでその中に無事紛れ込むことに成功している。

 

最初は1階を探索する。1階はすぐ外に美しい庭園が広がっており、10人ほどの庭師が絶えず手入れを行っている。内部では中央の大階段から左右へいくつも部屋があり、使用人の食堂であったり、調理場であったり、シーツなどを洗う洗濯場まであった。基本的な機能はガリア王宮と大差ないようだが、こちらのほうがいささか小さいかもしれない。

 

私は2階へと上がる。この城は1階と2階がだいぶ離れており、1階層の高さは7m前後はあるかもしれない。その高さで広々とした室内空間を実現するだけでなく威厳や豪猪さを出しているのだろう。しかし壁や柱の彫刻は人の目線の高さ以外には余り施されておらず、ガリア王家との資金力の違いが出ていると言える。

 

2階はそんな厳しい財政事情を管理する財務局があった。目的であるターゲットの部屋は近い。ちなみに財務局以外にも様々な政治局があったし、更に上の階にはアンリエッタ女王の執務室や私室等があるようだが、私の目的ではないのでどうでも良いことだ。

 

財務局はそれなりの広さがあった。テニスコート1面分はゆうにあるだろうか。その一番奥に個室が備え付けられていた。遠目からでは分かりづらいが、ドアには“デムリ財務卿”と書かれたプレートがあった。どうやら財務卿の名前は“デムリ”と言うらしい。ターゲットの部屋を確認した私は一旦、兵員宿舎へ戻った。

 

 

 

宿舎に戻るとメイドの一人がベッドメイキングを行っていた。やはり兵士はそれなりに重要視されているらしく、ベットメイキング程度は行われているらしい。私は気が付かれないようにベッドの下にしまったアタッシュケースを取ると宿舎を出た。しかし兵士の格好をしたものがアタッシュケースを持っているその様相は考えなくても不自然だとわかる。私は見つからないように城壁内を進んだ。

 

私は庭に出て最近手入れされ、手入れをする必要が無さそうな植え込みを選んでその中にアタッシュケースをもう一度隠した。再度城内を警備を装って歩いて、今度は商人を探した。商人ならばあのアタッシュケースを持っていたとしても多少特殊なカバンに見られることはあっても問題はないだろう。

 

 

 

商人はなかなか見つからなかった。やっと見つけたときには探し始めてから1時間以上が経過していた。発見した商人は1階の広間にて待たされているようだった。私は商人に話しかけた。

 

 

「失礼します。大臣がお会いになりたいと申しています。ご同行ください。」

「キロプ大臣が?何の用だろうか・・・わかった。行こう。」

 

 

キロプ大臣というのが何大臣なのかは知らないが、少なくとも今は関係がないだろう。私は商人を人気のない廊下を通り、先程歩き回った時に発見した使われていない応接室に商人を通した。

使われていないのもあって中は埃が多かったが、商人は多少訝しんだだけで素直に従ってくれた。二人共部屋の中に入ると扉を閉め、商人に席に座るよう促した。促されるまま席につこうと後ろを向いた商人を持っていた槍で殴打して気絶させた。

気絶した商人から服を借り、部屋に備え付けられていた棚に押し込んだ。私は兵士の服を同じく棚に押し込むと、応接室からでて中庭に戻り、隠しておいたアタッシュケースを持って今度は堂々と城内に侵入した。

 

 

どうやらこの商人は東方との交易商人だったようで、2階の財務局までほぼノーチェックだった。しかし入り口には当然のごとく兵士が2人立っていた。

 

 

「止まれ。ここは財務局である。商人が入っていい場所ではない。」

「私は財務卿に書類を届けに来た者です。ガリアからの・・・書類です。」

「ガリアからの書類だと?」

「いやまて。もしかすると先程おっしゃっていた・・・」

「昨日からしきりに言われていた刺客のことか・・・?」

「わかった。だが執務室以外への立ち入りは禁ずる。ことが済んだら速やかに出ていくように。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 

 

私は執務室へ向かうふりをしつつ人目がなくなった瞬間に財務局の隣りにある倉庫、というか財務卿がいる執務室の隣のスペースであるが、そこに入った。書類が満載されている箱の間にアタッシュケースを隠す。

 

しかし、刺客のこととは何のことだろうか?もしや情報が漏れており私が潜入したことも気が付かれているのだろうか?だがここまで来てしまっているので特に問題はないと思われるのでそのままプランを遂行することにする。

 

財務局内は机や書類で散らかっており、金貨を数えているのか時折ジャラジャラという音も聞こえている。この倉庫から隣の執務室までは机や棚に遮られており中腰ならば見つからずに行くことができそうであった。私は中腰で執務室の前まで来ると聞き耳を立てた。中では何かを書いている音がした。おそらく執務中なのだろう。私は一度倉庫に戻り様子をうかがった。

 

しばらくすると一人の女性が部屋に入っていった。腰には剣と銃を携行していた。部屋に入るとターゲットと思われる声と女性の凛とした声が聞こえる。

 

 

ガチャ

「銃士隊隊長が守ってくださるならば何処へでもいけましょうぞ。」

「おまかせを。ではこちらです。」

「それにしても陛下が私にご用とは何事でしょうな?」

「さあ。私にはわかりかねます。」

 

 

ターゲットと銃士隊隊長と呼ばれた女性は何処かへ行ってしまった。私はこの機を逃さまいとしてアタッシュケースを持ち執務室に潜入した。

 

執務室内は大きな木製の机と本棚。絵画などが飾られていた。私は部屋中央に置かれている執務机を調べた。重厚な作りではあるが木製であるのには変わらず、何かしらの魔法がかかっている可能性もあるがそれを確かめるすべを私は知らなかった。タバサに聞いておくべきだっただろうか。

 

私はとりあえず古典的な方法として執務机と床との微妙な隙間にアタッシュケースを潜り込ませた。アタッシュケースの大きさよりも机のほうが広いのでどの角度からも問題なく隠せている。机の下を覗き込まない限り発見されることはないだろう。私は仕事をし終えると慎重に扉を開け何食わぬ顔で財務局を後にした。

 

 

財務局を出た私は応接室に戻り、兵士の服に戻った。外周部の城壁の上に登り、警備をするふりをしつつ財務局の執務室のすぐ外側の城壁から部屋にターゲットが戻るのを待った。

 

しばらくそうして待っていると、執務室の扉が開くのが見えた。しかし入ってきたのはターゲットともうひとり、先ほど銃士隊隊長と呼ばれていた女性だった。彼らは二言三言話したかと思うとすぐに女性の方が部屋から出ていった。一人になったターゲットは机の上で何かを書き始めた。

 

私は爆弾のリモコンを懐から出した。ターゲットは机の下に何かを落としたらしくかがんだ。私は爆弾の起爆スイッチを押した。

 

 

 

ドガァァァァン!!

 

 

予想よりも大きな爆発だった。窓ガラスは瞬時に粉々に飛び散り、壁面も大部分が吹き飛んだ。ここからでも内部がよく見えるようになったが、執務室には先程あった重厚な机や応接用のソファ、そしてターゲットも無くなっていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。財務卿のデムリだったかしら?排除成功ね。帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

爆発は相当派手だったのもあって城のあちこちから兵士が飛び出してきた。私はその中に混じりつつ城の外側を警戒しに行くと見せかけつつ脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

「今回は災難でしたな。枢機卿。」

「いやはや全く。もうすぐ降臨祭だというのに仕事ばかりが増えていきます。」

「それで今回の被害は?」

「財務局の一部が崩落しました。そして財務卿も行方知れずです。」

「おそらく爆発に巻き込まれ消し飛んだのだろうな。私の部下が爆発直前に執務室に戻る卿を見ている。」

「でしょうな。いやはや全くどうしてこうなったのか。」

「しかしアレほどの爆発で死者が1名だけとは不幸中の幸いというものだろうかね?」

「あなたがそれを仰るのですか?」

「まあ私の後釜ではあるが、私としては悲しいというよりは政敵がひとり減ったという気分ですな。元々そこまで有能なものでもなかった。」

「彼の職務能力については様子見だったのですが、消し飛んでしまっては様子も何もあったものではない。」

「それで?後任はどうするつもりなのだ?」

「それなのですが。私はあなたにやってもらいたいと思っています。」

「私が?一度追い出された身だぞ?」

「追い出したのはキロプ派の独断です。その派閥もトップが消し飛んでしまって瓦解寸前ですが。」

「そうはいうがな。あやつに追い出された私がそう簡単に戻っては私が謀殺したと思われないか?」

「そのあたりは卿の手腕にかかっておりますな。何れにせよ今の王家の財務を任せられるのはあなたしか居ない。今回の爆発事件もあなたしか居ないという始祖のお導きなのではないだろうか。」

「うーむ・・・。わかった。やってもいいが、枢機卿も協力してくれ。風に当たるのが私だけでは荷が重い。」

「わかっておりますとも。では“デムリ財務卿”。よろしく頼みますぞ。」

「ああ。またよろしく頼む。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「おてんば姫専用口」 +1000 『裏口から城へ侵入する。』

・「あの世からの特使」 +3000 『商人に変装して財務局へ入る。』

・「呪われたターゲット」+2000 『ターゲットの名前が判明する。』

・「スマートな財政」  +3000 『ターゲット以外死者を出さない。』

 

 

 




ターゲットについては別アプローチにて。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『欲望は人を呪う』(もう一つの世界線)

『欲望は人を呪う』の別アプローチ版です。

本編の方を先に閲覧することを推奨いたします。


『トリスタニアへようこそ。47。』

 

『今回は奇妙な依頼でね。依頼料は余分に支払われているのだけれど、ターゲットの名前が“財務卿”としか書かれていないのよ。でも依頼料の支払いは既に済んでしまっているから断るわけにも行かなくてね。』

 

『というわけで今回のターゲットはトリステイン王宮にいる“財務卿”の暗殺よ。名前は現地で調べてね。クライアントの詳細は不明だけど現在情報部が捜査しているわ。判明次第追って連絡するわね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

トリスタニアに来るのは久々だが、前回よりは商人たちが活気に満ち溢れていると言える。

 

私は今、王宮を除いてトリスタニア一高い建造物である大聖堂の最上階に居る。現在時刻、午後8時。眼下の町は未だに明かりが灯っており、人々は労働の後の至福のひとときを楽しんでいる。

 

今回私は情報部に依頼し、大聖堂の最上階、つまりここに王宮侵入用のグライダーを用意してもらった。漆黒に塗装されたグライダーは、夜闇に紛れるには申し分なく、サーチライトも無い王宮の松明の光に目がなれている警備兵には殆ど見えないと推測される。加えて今宵は新月の曇り空。月明かりどころか星明りすらないこの闇夜では見つけることはレーダーでもない限りほぼ不可能だろう。

 

しかし今の時間帯は流石に人目が多すぎる。もうすこし夜が更けてからでも遅くはない。依頼文には今日明日中と書いてあった。つまり明日になっても問題はないということだ。私はグライダーを組み立てつつ夜が更けるのを待った。

 

 

 

 

街明かりも消え、王宮の窓で灯っていたロウソクの淡い光もほとんど消えた。時刻は午後11時。そろそろ仕事に取り掛かるとしよう。

 

私はグライダーを広げた。大聖堂最上階から一気に飛び降り、若干下降し速度を上げたところで引き起こし僅かな風に乗る。うまい具合に高度が上がったのでそのまま王宮へ突入する。

 

高度が上がりすぎている気もするがそれならばいっその事、城の屋根部分に降り立とうと方針転換。更に引き起こしつつ城の最上階の更に上の屋根をかすめる進路を取る。屋根の上を通過する瞬間にグライダーから飛び降りる。

 

 

ガラガラガラガガガ

屋根は小さなタイルのようなものが重ねて貼られていた。そのうちの何枚かを壊しつつ強引に着地する。グライダーはそのまま風に乗って城の向こう側の森へ飛んでいった。

 

無事屋根に降り立つことはできたのでそのまま滑るように屋根の端まで行く。端から落ちないように慎重に下を除くと少し横へ行ったところにベランダのような場所があった。そこに降り立つことにする。

 

しかし、ベランダの直上まで来た時にふいにベランダの扉が空いた。

 

 

「ふう・・・夜風が気持ちいい・・・」

 

 

中からは可憐な美女が出てきた。栗色の髪で王宮の最上階に住んでいる美女。おそらくアンリエッタ女王だろう。私は気が付かれないように息を潜めつつ中に戻るのを待つ。

 

 

「しかしデムリ卿はどうなってしまうのでしょう・・・。有能な人材は政争などで失うべきではないのに・・・。」

 

 

何やら独り言を言っている。デムリ卿とは誰のことだろうか。

 

 

「陛下。声がすると思えばいかがなされましたか。」

「アニエス。いえ、眠れないだけですわ。」

「無理もありません。キロプが王宮の財務を牛耳ったのも昨日のことですから。」

「かの者は以前リッシュモン以下レコンキスタの一派との関係が噂されていた派閥ではないですか。それが何故・・・。」

「あのときは証拠不十分で逮捕すらできませんでしたからね。ですがいつか必ず法定に引きずり出してみせます。」

「期待していますよ。アニエス。私を孫娘のようにかわいがっていただいたデムリ卿のためでもあります。」

「デムリ卿は私に対しても敬意を払って応対していただいた方。私も彼の復活を待ち望んでいる一人でございます。」

 

 

どうやら最近政争があったようだ。財務を牛耳った、ということは今の財務卿はそのキロプと言う人物ということになる。しかし依頼が出されたのは先週末。まだ4日しか経っていないとは言え、そのときと財務卿の人物が変わっている可能性がある。一旦上層部に対応を検討してもらったほうが良さそうだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『上層部の判断は一貫してるわ。“いつの時点で”や“個人名”が書かれていない以上、“今現在の財務卿”をターゲットにする他ないわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

本来のターゲットとはおそらく違うが同じ財務卿であることには変わりはない。私は私の仕事をするだけということか。その方がわかりやすくて助かる。

 

 

「さあ、姫様。もうこの時期は夜は冷えます。お体を壊されては元も子もございませんよ。」

「わかってるわ。アニエス。もう戻ります。」

 

 

そう言うと女王は扉を閉め、シャっという音がしたのでおそらくカーテンも閉めたのだろう。私は更に数分待った後、慎重にベランダに降り立った。通常の賊ならばここで内部に侵入するところだろうが、私の目的はあくまで財務卿の抹殺であり、女王を夜這いすることでも空き巣でもない。

 

私は更に下に降りるため階下を見渡した。下の階に降りるためには何処かを伝っていかねばならないのだが、雨樋のようなパイプも見当たらない。しかし、私は一つ下の階の窓の上辺が思いの外上の階に近いことに気がついた。窓自体が大きいためこういう作りになっているのだろうが好都合である。

 

私はベランダから横方向に伸びる出っ張りに手をかけつつ、ぶら下がりながら窓の上まで移動した。窓の上まで来ると足がつくかどうかを試した。幸いにも足が窓枠に引っかかったためそのまま降り立ち、しゃがみ、また窓枠にぶら下がった。窓の向こう側に人影はなく、私は窓にはめられている枠をはしご代わりに降りた。はたから見ればヤモリのようだったかもしれない。

 

私は窓枠の一番下まで来ると窓を開けた。どうやらここはまだ3階なため窓から侵入してくることを想定していないのか窓が開かないようにするためだけの簡易的な鍵以外鍵と呼べるものはなかった。私は難なく城内に侵入した。

 

 

 

 

既に寝静まっている城内は静かで、時折巡回の兵が見回りに来るが必ず松明かランプを持っているため接近に気がつくのは容易だった。私はそのまま3階を探索する。

 

3階には大会議場ほか各大臣の執務室や寝室もあった。しかし目的の財務卿の執務室は見つけることができなかった。おそらくもう一つ下の階にあるのだろう。

 

私は下の階に降りるために階段へ向かった。すると階段の下から巡回兵が二人上ってきた。私はとっさに近くにあった出窓のカーテンを開けて出っ張り部分に隠れた。通常なら月明かりなどで影ができてしまうが、今夜は外からの光は殆どないため大丈夫だろう。

 

 

「でさ、噂はほんとうなのか試しに行ったんだよ。」

「マジか。お前勇気あるなあ。」

「何ちょっと物音立てるだけだもんよ。わけないぜ。でさ、新しい財務卿の怖がり伝説って感じで面白おかしく広めてやろうと思ったのさ。」

「うわ悪質だな(笑)」

「ククク・・・。あいつの寝室の真ん前で真夜中にノックするだろ?そしたらあいつ中で飛び上がって跳ね起きたらしくてよ、すげえ音がしてたぜ。」

「大丈夫なのかよそれ。あいつの心弱すぎだろ。」

「ほんとそれな。で、バタバタしてたから隠れて見てたんだけどよ、あいつ血相変えて飛び出して向かいの執務室に飛び込んでったわ。」

####アプローチ発見####

「あれ?あいつの部屋って防犯用の魔法がいくつもかけられてんだろ?」

「そうさ。入っただけで夜だろうが昼間だろうがすげえ音がなる仕掛けがな。でも自分からそんな防犯魔法かけときながら飛び出してきちゃ意味ないってんだよな。」

「ちげえねえや。ハハハ!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『どうやらターゲットは寝室の目の前で音を立てられると飛び起きて執務室に駆け込むみたいね。防犯装置だらけの寝室よりはよっぽどやりやすいんじゃない?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

そんな話をしながら巡回兵達は廊下を通り過ぎていった。私はカーテンを開け、2階へ向かった。先程の話しによれば財務卿の執務室の目の前に寝室があるようだ。探す手間が省けて非常に好都合である。

 

 

2階へ降りるとまたさらに多くの部屋があった。しかしいくつかの部屋はその部屋の入口に何の部屋か書かれていた。厚生局、入国管理局、国税局、財務局。目的の部屋を見つけた。その向かいにある部屋、おそらく少し離れたところにある廊下の向かい側の部屋。あそこだろう。

 

私はまず財務局内にあると思われる執務室を確認することにした。各部屋は厳重に鍵がかかっており、ロックピックでもうまく開けることが出来ない。仕方がないので外から入ることにする。

 

財務局は城の角に位置しており、廊下は寝室のさきには窓が一つあって終わっている。その窓を開け、両側を確認する。左側、つまりはターゲットの寝室であるがものの見事に窓がはめ殺しになっている。窓の周囲だけ色が違うのでおそらくつい最近作り変えたのだろう。対して反対側の財務局側は有ろう事か若干窓が開いているのが確認できた。私はそのまま窓から出っ張りの上を伝って、開いている窓から内部に侵入した。

 

 

 

 

あろうことか開いていた窓の部屋は個室だった。綺麗に整頓された重厚な机、応接用のコーヒーテーブルとソファ。そして壁に飾られている絵画と最近かけられたと思われる肖像画。間違いない。ここが執務室だ。内部から執務室の扉の施錠を開けようと試みたがどうやら外からも内からも特殊な鍵を使っているらしく開かなかった。

 

まあいい。執務室に入れるのであれば問題はない。私は一旦窓の外を伝い廊下に戻った。軽いタイムアタックと行こうか。

 

 

 

コンコンコン

ドタン!バタン!

 

私はターゲットの寝室の扉を軽くノックした。それだけで凄まじい慌てようである。私は急いで窓から出て執務室へ向かった。

 

 

 

バアン!

 

私が執務室に着くと同時に外で扉が開く音がした。そのまま財務局の鍵を開錠しにかかっているようだ。私は扉が内開きなことを祈りつつ扉の横で待ち構えた。

 

 

 

バァン!

「ハアハア・・・ここまでくれば・・・安全だ・・・」

「果たしてそうだろうか?」

「!?!?!?」

 

 

執務室に勢いよく入ってきたターゲットは、机に両手を突きながら安心したような声を上げたので、私は一言声をかけ現実に引き戻させてやった。寝巻き姿のままであり、手には鍵しか握りしめていないので杖は持っていないだろう。よって魔法を使われることもない。

 

 

「お、おまえ!まさかICAか!」

「ほう?何故わかった?」

「当たり前だ。今回の財務卿暗殺依頼。アレを出したのは他でもない、この私だからだ!」

「・・・。」

「私はこの国の財務を司る役職につき、内部からこの国を崩壊させるためにいろいろ工作を行ってきた。しかしリッシュモンの逮捕によって全てが灰燼に帰した。だから私はデムリ財務卿の暗殺依頼を出し、彼の亡き後にその後釜に座り一からやり直すために様々な根回しと工作をやってきたんだ。」

「・・・。」

「そしたらどうだ!根回しが良すぎたのか知らないがデムリは自ら財務卿の役職を私に譲ると言ってきた!しかも陛下の御前でだ!そのときには既にお前たちへの暗殺依頼を出した後だったのだ!」

「なるほど。それでお前は怯えているわけか。」

「怯えてなど居ない!ただ・・・ターゲットは私ではないということを理解してもらえただろう?デムリは一つ上の階の一番西の端の部屋で寝ているはずだ!さあターゲットはそっちだ!そっちを殺しに行け!」

 

 

私は必死に命乞いをしている目の前の男、おそらく名前はキロプ。その眼前にシルバーボーラーを出して銃口を向けた。

 

 

「な、何を!私はクライアントだぞ!ターゲットじゃないんだぞ!」

「悪いが依頼文には“財務卿を抹殺してくれ”としか書かれていなかった。その依頼が受理されたときの財務卿は、お前だ。」

「だからアレは間違いなんだ!私はデムリのことを抹殺してほしくて」

「間違いだろうとなかろうと、指示された内容は“依頼文に従って現財務卿を抹殺せよ”だった。現在の財務卿は、お前だ。」

「ま、まて!そうだ!報酬を倍だそう!だから・・・。」

「残念ながらタイムリミットだ。来世で依頼を出すときはちゃんと個人名を書くんだな。」

「や、やめろお!!」

 

 

パシュン

 

 

弾丸は必死で命乞いをするクライアント兼ターゲットの眉間を正確に撃ち抜いた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。依頼料は全額支払い済みだから問題はないわ。任務完了よ。帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ターゲットの死体は執務室のコーヒーテーブルの上に大の字になる形で倒れ込んだ。朝になれば全てが明るみに出るだろう。私は彼が開けてくれたドアを通り廊下へ出た。

1階に降り、中庭に出ると巡回兵が思ったより居た。よく見つからずに済んだものだと思うが、私はそのまま城壁の中に入った。

 

城壁の中でも兵は巡回していた。しかし庭ほど多くはないのでやり過ごすことは造作もなかった。一つの小部屋に入り、中においてあったロープを取った。城壁の上に登り、城壁の外側へ降りるためのロープを垂らして脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~2日前~

 

 

「やあ、久しぶりだな。元気にしてたかい?」

「ええこっちは大丈夫よ、デムリおじさん。」

「おじさんはよしてくれ。これでもまだ中身は若いつもりなんだから。」

「おじさんはおじさんよ。私の大切なおじさん。今日は知らせたいことがあったの。」

「うん?なんだい?君が知らせてくれることは大抵重要なことだからねえ。」

「ICAって知ってる?暗殺組織なのだけれど、そこにデムリおじさん、あなたの暗殺依頼が来たわ。」

「なんだって!?それは本当かい!?」

「ええ。私がこの目で依頼文を確認したもの、間違いはないわ。でも依頼文には“財務卿を”としか書かれていなかったわ。」

「ううむ・・・一体誰が・・・。はっ!キロプの仕業か!」

「おそらくそう。おそらく自分が財務卿の地位に着くためにデムリおじさんが邪魔ということなんだと思う。」

「何という卑劣な!しかしどうすれば・・・。」

「簡単よ。財務卿の地位をお望み通り今すぐキロプにくれてやればいいのよ。」

「何?・・・そうか!それなら暗殺対象が私ではなくなるということか!」

「そう。私はまだまだデムリおじさんの声を聞きたいし、トリステイン王国にも繁栄してほしいの。」

「ありがとう。君のような孫娘を持って私は幸せだよ。助言感謝する!私は早速陛下にこのことを上申してくるよ!」

「いってらっしゃい。幸運を祈ってるわ。」

「そうだ、前々から聞こうと思っていたんだが、君は何故そんなにも情報をすぐに集められるんだい?」

「ふふふ。じゃあおじさんには特別に教えてあげる。」

 

「それは、私がICAのオペレーターのひとりだからよ。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「ホークアイ」    +1000 『グライダーで王宮に侵入する。』

・「白百合の噂話」   +1000 『アンリエッタ女王から情報を得る。』

・「こわいこわいおばけ」+2000 『ターゲットが寝ている寝室をノックする。』

・「逆転裁判」     +6000 『クライアントを暗殺する。』

 

 

 

 

 




最後の女性はバーンウッドさんではありません。


2019/06/17追記
最後の女性はEDF5の途中参戦サポートオペ子さんが元です。


次回はオーディションへ参加します。


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HITMAN『オーディションは命がけ』

『346プロダクションへようこそ。47。』

 

『今回のターゲットは、日本の芸能事務所“346プロダクション”のプロデューサーをしている真波亮太。彼は入社してからまだ1年弱しか経っていないにもかかわらず、既に3人のトップアイドルを育て上げている敏腕プロデューサー。その類まれなる手腕は内外から高い評価を受けているわ。当然そんな突出した存在は疎まれることもあるわ。』

 

『今回のクライアントである961プロダクションのプロデューサーもその敏腕さに仕事を奪われた一人のようよ。行く先々で立ちはだかる彼を邪魔に思い、ついに強硬手段に出たと言ったところかしらね。』

 

『今日この346プロダクションでその敏腕プロデューサーの新しい企画の新人オーディションが行なわれるの。本来内部情報は厳正な審査の関係で非公開だから手に入りにくいのだけれど、うちの諜報員を一人オーディションに参加させることで内部情報を探ってもらうわ。47は送られてくる情報を元にターゲットに近づいて頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「じゃあ行ってくるわね!」

「ああ。」

 

 

今回、オーディションに参加する諜報員が居るということだったが、その諜報員とはブルーのことだった。たしかに彼女のコミュニュケーション能力とルックスならば、オーディションに合格するのもありうることかもしれない。

 

私は今、346プロダクションの正門前に居る。ブルーを送り届けた父親という配役で居る。ブルーのしている首飾りには小型のカメラが仕込まれており、その映像を本部の方で解析しこちらに情報を送ったり、またチョーカーとイヤリングに偽装した通信機によって直接こちらに通信することも可能だ。私はこれらの情報を元に、この社屋の何処かに居るターゲットを探し出さねばならない。

 

兎にも角にもまずは社屋に潜入することだ。今回はスーツのままでも問題は無さそうだが、社内に入るためには首から下げる専用の社員証が必要そうだ。ひとまず私は建物の外周を調べていく。

 

 

「ふぅ~・・・この一杯のために生きてる気がしてきた。」

 

 

社屋の横の休憩スペースにて缶コーヒーを飲んでいる人物を発見した。首から下げている社員証も見える。顔面に大文字で“P”と書かれている気がするのは気のせいだろうか?

 

 

「おっと」

「失礼。」

 

 

私はその横を通り過ぎる時に軽く彼にぶつかった。その瞬間に彼の右ポケットから見えていたストラップ付き携帯電話を掠め取った。私はすばやく携帯の電話番号を確認すると、そのまま休憩スペースの自販機の裏に回り込み、地面に携帯をおいた。

少し離れた後、調べた携帯電話に電話をかける。任務中に使用する携帯は足がつかないように手が回されているため電話番号が非通知でなくても問題はない。

 

 

チャラララチャラア♫

「ん?この着メロは・・・俺の?・・・あれ!?携帯・・・どこやったっけかな・・・。」

「この辺から音が・・・ああ、あったあった。なんでこんなところn(ゴッ)ギャア!」

 

携帯から流れるアニメの曲のような着メロにつられて自販機の裏に来た社員を後ろから近くにあった煉瓦で殴り気絶させた。

私は気絶した社員から社員証を剥ぎ取ると自分の首にかけた。社員証は顔写真などが着いておらず、所属と名前しか書かれていないので好都合である。気絶した社員を茂みに隠すと私は正門に戻った。

 

 

 

 

346プロダクションの正門は重厚な城のような外観をしている。どうやら撮影ロケーションも兼ねてのこの外観らしい。の割には背後に近代的なガラス張りの社屋が見えているがそれは問題ないのだろうか?

 

私は正門から堂々となかに入る。警備員がこちらをちら見したが社員証を掲げているのを見て問題ないと判断したのかそのままお咎めはなかった。ちなみに今は社員証は動いているうちにひっくり返ったという感じに裏返しになっていて名前は見えなくなっている。

 

中に入ると正面に大階段があった。社員が何名かその階段を登っていっているので私はひとまずその階段を登ることにした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47.内部に侵入しているブルーから映像が来たわ。どうやら今はオーディションの流れの説明を受けているようね。その映像から説明を行っているのがターゲットである真波亮太だということが確認が取れたわ。ターゲットは今オーディション会場にいるわ。会場は正面の階段を上って右に行った先にあるみたいよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

グットタイミングだ。もたらされた情報を元に階段を登った後右へ。少し進むとオーディション会場の立て看板を撤去しようとしている社員を見つけた。おそらくその近くの会議室がオーディション会場なのだろう。ということはターゲットはここにいることになる。

私は会場を通り過ぎた。その際に内部をちら見する。扉は小さめのガラスが嵌め込まれているため視野は狭いが内部を覗くことができる。座っている候補生と思わしき少女たちの前で物静かそうな男が喋っているのが見えた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが、真波亮太。物静かな敏腕プロデユーサー。アイドルたちには悪いけれど有終の美は飾らせてあげられないわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はそのまま会議室の隣の部屋に入った。隣の部屋はトレーニングルームのような作りをしていた。床はフローリングで壁一面に大きな鏡がある。数ある施設のひとつなのだろう。私はひとまずここで作戦を練ることにした。

 

 

「47,聞こえる?」

「ブルーか。」

「私達は今説明を受け終わってこのあと試験会場に移動するところ。どうやら試験会場は第4ホールとかいう舞台らしいわ。」

「第4ホール・・・先程みた施設図で見た。このすぐ上にあるホールだ。」

「今回どうやらターゲットは審査員ではないみたい。ホールでは見届けるとは言っていたけど、私たちからは見えないところから見るらしいわ。」

「受験生からは見えないところ、つまり舞台からは見えない・・・舞台袖だろうか。」

「ううん。多分だけどホールの一番うしろにある来賓席だと思う。ステージは光で照らされてて客席は薄暗いだろうからそこまで見えないし。」

「なるほど。仮に違ったとしてもそこからなら全体の流れが把握できそうだ。向かおう。」

「あ、ちなみに私の出番は7番目だから。よかったら華麗なブルーちゃんの演技見ていってね!」

「・・・時間が合えばな。」

 

 

知識としては芸能関連のことも頭に入れているが、実際に楽しめるかどうかは別問題だ。それよりも今は任務のほうが優先だろう。私はトレーニングルームを出て第4ホールの来賓席へ向かった。

 

 

 

 

私は正面玄関ホールに戻ると階段を降りて階段裏に設置されているエレベーターに乗った。4階で降り、ホールの入口を探した。

 

第4ホール以外にもこの階層にはホールが他に3つあった。どれも客席1000人にも満たない小さなものではあるが実戦経験を養うには十分ということなのだろう。

 

そのうちの一つ。第4ホールの来賓席入り口にたどり着いた。私は慎重にドアを開け、内部を伺う。中は無人であったため私はそのまま中に入る。来賓席は特別に部屋があるわけではなく、通常の観客席よりも数段高い位置にある席で、手すりなどは付いておらず、腰よりも少し高い位置まで壁があるだけの作りだった。席は8席2列の計16席。物陰は少ないが椅子はそれなりに大きめであり隠れることは十分に可能だろう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47,どうやら候補生たちが移動し始めたようよ。間もなくそこに到着するわ。ターゲットもじきに現れるでしょうから準備してね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

さて、正念場だろう。問題は何人でここにやってくるか。2人までなら対応できるがそれ以上になると計画変更も視野に入れねばならない。

下の階の扉が開く音がする。スタッフと思わしき人が照明や周辺機器に明かりをともしていく。そのうち数名の審査員と思わしき人物が下の客席の中央付近に座り始めた。

 

 

ガチャ

「では部長。あなたも一緒に次代のスターを見ませんか?」

「いや、私はこのあとシンデレラプロジェクトのほうを見に行かねばならないからね。見れても一人二人だろう。」

「そうですか。ではその2人だけでも。先程挨拶したときに見る限り結構いい素材が豊富に集まっているんですよ。」

「ほほう。君がそういうのならば期待できそうだね。」

 

 

こちらの来賓席の扉も開いた。入ってきたのはターゲットともうひとり初老の男性だった。彼らは最前列の席に座りオーディションを見守るつもりのようだ。

 

ほどなくしてオーディションが始まった。左の舞台袖から一人ずつ候補生が出て中央に立つと大きな声で自己紹介をした。それが終わると舞台で音楽が流れ始めそれに合わせ踊り歌い始めた。どうやら舞台上での動きや歌唱力などを見ているようだ。また声量のチェックも兼ねているらしくマイクが入っていないようだ。このホールはそれほど大きくないため音を吸収する観客なども居ないため生の声でもよく通っていた。

 

しかし思ったよりも舞台と来賓席の距離が近いため、おそらくこの距離だとこの来賓席で起こっていることは舞台からは見えてしまうだろう。他のスタッフは舞台を見ており、待機中の候補生も舞台袖に居るため来賓席は見えないと思われる。となればブルーが受験している最中に事を済ませるしか無いだろう。しばらく椅子の陰に隠れながらオーディションを見ていると、不意に来賓席のドアが開いた。

 

 

ガチャ

「今西部長、ここにいらっしゃいましたか。」

「おお、武内くん。もう予定の時間かね?」

「いえ、まだ多少は時間はありますが早めに呼びに行ったほうが良いかと思いまして。オーディション中ですか?」

「ああ。紹介しよう。去年から我が社に入社した真波亮太くんだ。」

「あなたがあの有名なシンデレラプロジェクトを育て上げた武内プロデユーサーですか!お目にかかれて光栄です。」

「どうも武内です。私一人の力ではありませんのでそこまで崇められるようなことは何もしておりません。」

「いやいやご謙遜を。私はあなたを目標に頑張っております。私はこのオーディションの子たちをシンデレラプロジェクトの子たちのような輝いた存在にしてみせますよ!」

「素晴らしいことだと思います。期待させていただきます。部長、そろそろ・・・。」

「ああ、わかった。では真波くん。私はこれで・・・。」

「ハイ。そちらも頑張ってください。」

「何かあったら私か武内くんに言いたまえ。きっと役に立てると思う。」

「ありがとうございます。」

 

 

新たに入ってきた大柄の男は、付き添いできていた部長と呼ばれていた初老の男性を連れて出ていった。気のせいだろうか後から来た男性は何処かで見たような・・・。

 

オーディションはその後も続き、ターゲットは真剣な表情でそれを見つめていた。私はゆっくりと彼の背後に回った。

 

 

「受験番号007番!青梅愛です!」

「ん。いい声だ。ではオーディションを始めます。」

 

 

ブルーよ。流石にここまではっきりと声の内容が聞こえてくるほどに大きな声を出さなくて良いと思うのだが。ともかくブルーのオーディションが始まるようなので私は立ち上がって周囲を確認した。来賓席には誰もおらず、私とターゲットのみ、ステージにはブルーのみがおり、スタッフや審査員は全員ブルーの方を見つめている。

 

試験用の音楽が流れる。私はターゲットの背後から首を締め上げた。一瞬くぐもった声が出たが、その後すぐに首の骨を折った。ターゲットはすぐに動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットダウン。見事な手さばきね。そこを脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

このままここを立ち去ることも可能であったが、その場合は何故か来賓席で首が折れている死体になってしまう。ここは下の階に落として“身を乗り出しすぎて落下してしまった拍子に首を折った”という事故に見せかけるのが良いだろう。

私はそのまま彼を抱え下の階に落とそうとした。

 

 

~~♪~~~♪

 

 

・・・。まあブルーのオーディションが終わってからでも問題はないだろう。私はそのままオーディションを鑑賞した。

 

切れがよく華麗なダンス、プロ顔負けの歌唱力、おそらく新調したのだろう彼女にあっている淡い青の服、何よりもその溢れんばかりの笑顔。それらに審査員たちは魅了されているようだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『あー、47?あなたが今見ている映像は逐一本部に送信されてるのは知ってるわよね?その映像なんだけれど、シルバーがどうしても後でほしいと言ってきているから、ブルーのオーディション終了まで付き合ってあげて。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

シルバーはもうそろそろ姉離れしたほうが良いと思うのだが。何にせよ彼女の晴れ舞台を邪魔するのも無粋な気がしたのでその指示に従うことにする。

 

 

「ありがとうございました!」

「いやーいい演技だったよ。君何処かのプロダクションに所属していたのかね?」

「いえ!これが初オーディションです!」

「初めてでこのクオリティか。それはすごいな。」

 

 

っと、審査員の感想を聞いている場合ではない。彼女が舞台にいる間にターゲットを落とさなければならない。

 

私はターゲットの死体を抱え手すりから放り投げた。死体はそのまま自由落下で下の階へ、

 

 

ゴトン!

 

「え?」

「ん?何だ今の音は?」

 

 

私は落とした後にすばやく身を隠した。下の階がざわついている。まだ死体は発見されていないようだが、確認作業が行われている間に私はそそくさと来賓席を後にした。エレベーターに向かって歩いていると通信が入った。

 

 

「47。」

「ブルーか。」

「私のステージ見てくれたみたいね!ありがと!」

「気が向いただけだ。それよりもアレほど歌とダンスが上手いならICAではなくアイドルになったほうが良かったのではないか?」

「まあそれも一度は考えたんだけどね・・・。でもあのキラキラした世界は私には合いそうもないなって。」

「・・・。」

「そんなことより、こっちはもう大騒ぎよ。外へこの騒ぎが波及するのも時間の問題ね。私の方は舞台の上に居たっていう確固たるアリバイがあるから心配はないけど、そちらは脱出に手間がかかるかもしれないから早めに脱出してね。」

「わかった。ああそれと。」

「なに?」

「シルバーが君の晴れ舞台の映像を欲しがっているので後で提供するが構わないか?」

「え?!な、あの子ったら!ちょ、ちょっとまっててね!まだ渡しちゃダメよ!」

「いや、おそらくもう・・・。」

「ええ!?ちょ、ちょっと本部と連絡つけるわ。またあとでね47。」

「あ、ああ。」

 

 

そんなに慌てることなのだろうか?私は疑問に思いつつもエレベーターで1階へ降りた。足早に玄関へ歩いていると

 

 

ドン

「うあ。」

「おっと。済まない。大丈夫か?」

「あ・・・うん・・・大丈夫・・・。」

 

 

なんとも華奢な色白の女の子とぶつかった。彼女は私の方を見たあと不意に慌て始めた。

 

 

「え?・・・どうしたの・・・みんな、そんなに・・・こわがって・・・。」

「みんな?」

「あ・・・。うん。私の友達。でもみんなあなたを怖がってる・・・。」

「この風貌だからな。仕方がないかもしれない。無事なようだし急いでいるので失礼する。」

「あ・・・。うん、また・・・。」

 

 

「あれ・・・。あなた。新しい子?・・・よろしくね。」

 

 

よくよく考えると“みんな”とは誰のことだったのだろう。あの場には私と彼女しか居なかったはずなのだが・・・。

 

私は疑問を抱えつつもそのまま正面玄関を通り、外の休憩場で未だにノビている社員に社員証を返却した後脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~1週間後~

 

 

「“諸般の事情によりオーディション自体を中止せざる負えない状況になりました”か。まあ予想どおりね。」

「残念だったね。姉さん。」

「残念だったじゃないわよ。というかシルバー、あなたあのときの動画まだ持ってるって噂があるんだけど?」

「ソンナモノモッテルワケナイジャナイカ。」

「片言になってるわよ。相変わらず嘘つくのが苦手ねあなた。」

「いや、事実、僕の手元にはない。」

「手元にはないってどういう事?まさか誰かに横流ししたの!?」

「その・・・僕たちより後にICAに入ってきた女の子が見てみたいって言ったから・・・。」

「タバサちゃんに?!なにそれで渡しちゃったの!?」

「まあ・・・そうなるか。」

「そうなるかじゃないわよ!今何処にいるの!?タバサちゃんは!」

「今は確か第6訓練センターに居るはずだけど・・・」

「ちょっと行ってくるわ!」

「そんな近所のコンビニみたいに言わないでよ!第6訓練センターが何処にあるのか知ってるの?!」

「何よ、たかだか外気温がマイナス50度になるだけじゃない。同じ地球上なら問題はないわ!」

「でも北極にはそう簡単にはいけないよ!」

「離しなさい!これ以上流布しないうちに取り返さないと!」

 

 

『あの二人は相変わらずの仲の良さね。』

「で、どうするんです?バーンウッドさん。許可出すんですか?」

『出すわけ無いでしょ。ここはキューバなのよ。任務以外での外出にしては遠すぎるわ。』

「ですよねー。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「シンデレラ城」    +1000 『346プロダクションに正面玄関から入る。』

・「エースのオーラ」   +1000 『武内プロデユーサーを目撃する。』

・「舞台装置にはご注意を」+3000 『ターゲットをホール内で転落死させる。』

・「あこがれの舞台」   +1000 『ブルーのオーディションを終了まで見届ける。』

 

 

 

 

 




バーンウッドさんと話していたのは前回の子です。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『オーディションは命がけ』(もう一つの世界線)

『オーディションは命がけ』の別アプローチです。


『346プロダクションにようこそ。47。』

 

『今回のターゲットは346が誇る敏腕プロデューサーの真波亮太。その類まれなる手腕は内外から高く評価されていて、当然そういう状況を快く思わないものも居る。今回のクライアントもその一人、彼に仕事を奪われている961プロダクションの社員。上層部に現状を報告して我々に頼る許可を取り付けたようね。支払いも961プロからよ。』

 

『間もなくここでオーディションが行われるわ。ブルーを候補生として潜入させるから、協力して事にあたって頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

私は今ブルーを346プロダクションに来るまで送り届けている。

 

 

「47も私の担当プロデューサーって事にして正面から入れないの?」

「中に入るには社員証が必要だ。おそらく厳しいだろう。」

「ふーん・・・まあいいわ。」

キキーッ

「じゃあ行ってくるわね。」

「ああ。」

 

 

車からブルーを下ろし、私は一路346プロダクションの社屋の裏側に回る。今回、私はSieger300を持参した。Jaeger7では大きすぎて室内での取り回しに難があると思われたためだ。無論消音器は付いているし、薬莢を排出せずに保持する独自機構も備わっている。更に、念のために通常のスコープの他に技術部特製のサーマルスコープも準備した。

 

裏側に回った私は適当なところに駐車した。社屋の裏側は表側とは違って質素な作りになっており、雑居ビルの壁面そのものだった。一番下には資材搬入口のようなシャッターがあり、警備員こそ立ってはいないが守衛室が横にある。

 

私はSieger300のケースを持ちながら守衛室に近づき、周りに気を配りつつ中を覗いた。中には老年の警備員が1名椅子に座って何かを書いていた。私は開いている窓をすばやく乗り越え侵入すると守衛に気が付かれないように背後に回り込み、首を絞めて気絶させた。

 

気絶した守衛から警備員の服を借り、IDカードも拝借。守衛をロッカーの中に隠し、守衛室の中を探索する。

 

机の中から新人用と思われる館内図を発見した。それによると、この社屋には大小合わせて30以上のトレーニングルームがあり、シャワー室も各フロアに最低2箇所設置されていた。プロデューサーが常駐すると思われる事務所はいろいろな箇所に点在しており、ターゲットの事務所が何処かまではわからなかった。しかし事務所と思わしき箇所にはプロジェクト名が書かれており、ターゲットの所属するプロジェクトの名前がわかれば特定することは問題無さそうであった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの所属しているプロジェクトなら既に情報部が調査済みよ。名前は“プロジェクト・カンツォーネ”ダンスより歌唱力を重視しているグループを育ててるみたいね。あと内部に潜入しているブルーからの情報よ。オーディション説明においてターゲットを確認。ターゲットは現在2階の第3会議室よ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

カンツォーネ・・・あった。さすがは敏腕プロデューサー。18階に名前があった。役員室などを除けば実質最上階だ。もっとも、オーディションに参加しているターゲットは事務所にはいないだろうが。

そこで待ち伏せるのも手ではあるが、常に出入りが激しいと思われる事務所で待つのは、いくら警備員の服装をしていたとしてもリスクが高い。やはりターゲットがオーディションを行っている最中に暗殺するのが良いだろう。

 

オーディションが行われるであろうホールも記載されていた。第1から第4まであるホールの予定表が同じところに入っていた。第1はシンデレラプロジェクトの合同練習に、第2はKBYDというグループが収録を行うらしく使えない。第3ホールは本日は予定が入っていないようだ。問題のオーディションは第4ホールで行われる予定と書かれていた。ひとまず私はその第4ホールへ向かうことにした。

 

 

第4ホールではスタッフ数名が準備を行っていた。と言っても舞台袖で候補生のための水やタオルを準備したり、進行を確認したり、受験番号の書かれた名札を準備したりといった細かなものだったが。私は警備員の服装でそれを遠目から見ていた。そこへブルーから通信が入った。

 

 

「47。聞こえる?」

「ああ、聞こえている。」

「こっちは第4ホールへ移動を開始するところ。ターゲットはどうやら少し離れたところから見るみたい。」

「少し離れたところ?」

「“皆さんからは見えづらいかもしれない”って言ってたから多分客席の後ろの方、よく見える来賓席かもしれないわ。」

「来賓席・・・。一番うしろの2階席か。何人で見るとかの情報はなかったか?」

「残念だけどそこまでは言ってなかったわね。」

「そうか。わかった。」

「あ、ちなみに私は7番目だから。よかったら見ていってね!」

「気が向いたらな。」

 

 

来賓席はホールの一番うしろにあった。今からだと間に合うかどうかわからない上、扉には窓は付いていないのでなかの様子が確認できないので後から入るのも危険だ。私は一旦隣の第3ホールへ向かった。

 

第3ホールには誰もいなかった。使う予定が入っていないので当然といえば当然だろう。

####アプローチ発見####

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『第3ホールには誰も居ないようよ。第4ホールからこちらに会場を移すことができればいくらでも細工しようがあるここを仕事場にできるわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は持ってきたSieger300のケースを持って、照明が付けられている舞台上部の作業デッキに登る。金網しか無いため下からは丸見えだが登るはしごは舞台袖の更に端にあるため問題はないだろう。私はデッキの中で作業用具が置かれているスペースを見つけるとそこに一緒にケースを置いて隠した。第4ホールでは梯子の周囲にスタッフが居た為怪しまれただろうが、こちらならば問題はない。

 

ケースを隠し終えた私は、そのまま第4ホールに戻った。ホールでは既にオーディションの候補生たちが集まり始めていた。私は急いで裏に回り込み、舞台の照明や装置の各種電源操作盤を探した。それほど苦もなく見つかったそれを開け、周囲を確認しつつ内部の配線を強引に引きちぎった。

 

ボン キャアキャア

 

ホールの方で照明が落ちたと思われる音がし、候補生たちの驚いた声が聞こえてくる。私は警備員の服装に備え付けられていた懐中電灯を持ちその場で待った。

少しするとスタッフと思われる中年男性と若い女性がやってきた。

 

 

「きみ、どうなってる。電気がつかなくなったぞ。」

「申し訳ありません。私も今来て確認したところ、内部の配線が断裂しているようで、修復には専門の業者を呼びませんと。」

「なんだってえ?まずいなオーディションが行えないじゃないか。」

「どうしましょう。照明が使えないとなると・・・。」

「隣の第3ホールを使用するのはいかがでしょう。あちらは本日使用予定は入っておりません。」

「そうか!構造的にも同じ第3ホールなら機材チェックと審査員席を移動させるくらいで事足ります!」

「うん・・・そうだな。復旧には時間がかかるだろうし、そうするしか無いか。オイ!候補生たちに伝達するんだ。全員隣の第3ホールへ行くぞ!」

「は、はい!」

 

 

うまく第3ホールへ誘導することに成功した。私はスタッフについて行って候補生のもとへ向かった。

 

 

「申し訳ありません。こちらの第4ホールは電気系統の故障により使用ができなくなりました。つきましては隣の第3ホールへ移動願います。」

 

ザワザワ…

 

「足元が暗くなっております。慎重にお進みください。廊下へ出れば明るくなりますので。」

「ねえねえ。」

「・・・はい、何でしょう。」

「大丈夫よ。私が最後尾だから。」

「・・・お前は7番目だったな。今回は舞台の上からターゲットを狙撃することにした。」

「狙撃ね。わかったわ。排莢とか音とか大丈夫なの?」

「排莢は特殊機構ゆえに問題はない。音は多少出る可能性がある。ごまかせるか?」

「曲が始まってから32秒後と1分19秒後に大きく足音を立てる場面があるわ。そのときに合わせられる?」

「わかった。やってみよう。」

「じゃああとでね。」

タッタッタッ…

 

 

####アプローチ完了####

私はブルーを含めた候補生達が廊下に出ていくのを確認すると少し離れてその後を追った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『よくやったわ。会場は第3ホールに移り、ターゲットも自然とレンジのなかに収まってくれるでしょう。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

第4ホールでは急ピッチで準備が進められていた。何分急な移動故にかなり慌ただしい。ホールの裏には機材置き場兼機械室がある。先程の配電盤もここにある。

 

「アンプアンプ・・・何処に置いてたっけかなあ・・・。」

 

技術スタッフと思わしき人物が機材置き場に入ってきた。私は柱や機材を隠れ蓑に背後に回ると持っていた懐中電灯で殴打した。あっさりと気絶した技術スタッフを部屋の奥へ移動させ、服を借りると、機械が入っていたと思われる大きめの箱へ放り込んだ。彼はアンプを探していた。ひとまずアンプを持っていくことにする。

 

 

「おせーぞ!アンプはあったか!」

「はい。ここに。」

「おし、これで必要な機材は揃った。後は各部のチェックだけだ。」

「では照明を見てきます。」

「おう。できる限り早く始める。問題がないようなら報告は後でいいから他の項目のチェックに行け。」

「わかりました。」

 

 

アンプを技術班のスタッフに渡し、私は点検の名目で舞台上部の作業デッキに上がった。下を見ると忙しく動き回っているが誰も上は見ていない。私はそのままそこで調整するふりをして待機した。

何度か照明がついたり消えたりしていたが程なくして下の慌ただしさもなくなった。

 

「では、これより新ユニット、“スプラッシュ”の選抜オーディションを開始いたします。受験番号001番の方から順番に出てきてください。」

 

オーディションが始まった。照明の逆光と幕の多さでうまく私の存在は隠せているようで誰もこちらに気がついては居ない。

 

少女たちが足元でダンスと歌を披露している。私はそのダンスを観察し、音楽の曲調と先ほどブルーが言っていた32秒後と1分19秒後の足音の部分を頭に叩き込んだ。

 

私は静かに隠していたケースからSieger300をとりだした。作業デッキと観客席の間には垂れ幕があり、通常スコープでは覗けないためサーマルスコープを付けた。サーモグラフィーで来賓席にいると思われるターゲットを探す。

 

まずい。来賓席には2名居た。どちらがターゲットなのかを確認しなければならないが、作業デッキから降りる事はできても再び上がるのは怪しまれてしまう。現在の受験番号は5番。まだ間に合うだろう。

 

 

「ブルー、聞こえるか。」

「ふぇ!?あ、何、47。」

「来賓席に2人いる。どちらがターゲットかわかるか?」

「ちょっとまってね。うーん、横から覗いてるけど逆光のせいでよくわからないわ。」

「もう少し身を乗り出して本部に映像を送れ。」

「わかった。怪しまれちゃうから一瞬だけね。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『映像が来たわ。解析中・・・、完了。47から見て左側の人物は初老の男性よ。ターゲットじゃないわ。右側の若い男性は情報部が入手しているターゲットの写真とも一致する。47、ターゲットは右よ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は改めてサーモスコープを覗いた。サーモグラフィーによって来賓席に居る2名も布の垂れ幕ごしでもはっきりと分かる。銃身を手すりに乗せて安定させ、そのうちの右側の人物へ照準を定めた。

 

 

「受験番号007番。青梅愛です!よろしくおねがいします!」

「ん、良い返事だ。じゃあ行ってみようか。」

 

 

ブルーの試験が始まった。私は最初の32秒を待った。29、30、31…くっ、隣の人物と話していたため顔が動いていた。確実に仕留めるためにはスルーせざる負えない。次の1分19秒後を待つ。こちらも失敗ならばもう音は気にせずに撃つしか無い。

 

少しして1分19秒が迫ってきた。私は再度照準をあわせた。16、17、18、今!

 

ダンパシュン

 

 

椅子に深く座りながらステージを凝視していたターゲットめがけ垂れ幕を貫通しつつ一直線に向かっていった弾丸は、椅子の背もたれから突出していた頭の丁度鼻面の脳幹部分を直撃した。あまりにも綺麗に決まったヘッドショットは、腕組みをしていたターゲットの頭を後ろに傾かせる以外の一切を微動だにさせずに射殺した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットのダウンを映像で確認。ご苦労さま。そこから脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

静かに、そして確実に決めることが出来たため、なんと隣りに座っている男性もターゲットの死に気がついていないようだ。だが気が付かれるのは時間の問題なので早々に退散することにする。

 

私は静かにケースに銃を戻すと反対側の舞台袖のはしごから降りた。大きめのケースだが作業員の服装のおかげでなにかの作業ケースだと思われているらしく、試験が終わった候補生たちの興味もそれほど引くことなく降りることが出来た。

 

丁度その時ブルーの試験が終わったようだ。舞台からブルーが戻ってきた。彼女はスタッフからタオルを受け取るとこちらをチラ見し、ウィンクをしてみせた。あまり素性が疑われるような行動は控えてもらいたいものだが。

 

ほどなくして客席後方が騒がしくなった。スタッフが怪訝そうな顔で見ているのを横目に私は機材室に戻り、箱の中で気絶していたスタッフに服を着せ警備員の服に着替え直した。そのままケースを持ち、会場を後にした。

 

守衛室に戻るとロッカーに入っている気絶した守衛に服を着せ、私は愛用のスーツに戻ると守衛室から脱出した。

 

 

「47。聞こえる?」

「ブルーか。」

「任務は終わったの?」

「ああ。」

「そうなの。こっちは全然騒ぎになっていないわ。まるで何事もなかったかのように進行してる。」

「大事にはしたくないんだろう。いらぬパニックを引き起こすだけだろうし、346のブランドイメージにも傷が付きかねない。」

「そうかもね。試験が終わったからもう帰っていいみたい。正門で拾ってくれない?」

「わかった。」

 

 

私は駐車していた車に乗り込むと正門でブルーを拾い、脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

~3日後~

 

 

 

ギャアギャア

 

『彼らは一体どうしたのよ?』

「なんでもオーディションのときの映像のことでもめてるみたいです。」

『映像?ブルーの映像はほとんど彼女視点の映像で彼女は映っていないでしょうに。』

「いえ、どうやら47のほうの映像らしくて。」

『47の?ああ・・・そういうこと。』

「ええ、真上からの視点なので・・・。」

『47は意識してなかったでしょうけど、軽装でダンスを踊っている女子を真上から見ればまあ・・・そうなるわね。』

「その映像をどうやらシルバーくんが手に入れてしまったようで。それで。」

『なるほどね。彼も元気な男の子ってことね。』

 

「興味深かった。」

『あら?タバサ。いつ帰ってきたの?』

「さっき。」

「興味深かったってことは見たんですか?その映像。」

「(コクン)」

『シルバー、何流出させてるのよ・・・。』

「・・・。(ペタペタ)」

「た、タバサちゃん?」

『・・・。気にしなくてもいいわよ。女の魅力は胸だけじゃないわ。』

「・・・。」

 

 

 

『(技術部の最新薬のことは今は伏せておいたほうが良さそうね・・・。)』

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「シャットダウン」+1000 『オーディション会場の電源を落とす。』

・「鉛のりんご」  +3000 『ターゲットをオーディションの最中に狙撃する。』

・「魔法が解ける時」+3000 『変装に使用した服をターゲット暗殺後に元の場所に戻す。』

・「休日のパパ」  +1000 『ブルーの潜入と脱出を支援する。』

 

 




原作面子ほぼ出てきてないけどいっか(開き直り)
後付けはちょっとほのぼの系にしてみました。


2019/06/17追記
最新薬の話も2期で書きたいな・・・。ネタ回になる予感しかしないけどw


次回は温泉へ行きます。


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HITMAN『湯煙にまぎれて』

『道後温泉へようこそ。47。』

 

『最近忙しかったから疲れてないかしら?そんなときは温泉に浸かってゆっくりしたいものよね。でも残念ながらゆっくりしている時間はないわよ。』

 

『今回のターゲットは加木屋源次郎。日本の裏社会を取り仕切っている山田組の経理担当を努めていた、いわゆる極道っていうやつね。彼は様々な犯罪に手を染めているわけだけど、そのうちの一つに日本国内での大麻取引があるわ。米国では合法化されたところも出てきているけど日本ではまだだいぶ先のこと。当然かなりの高額で取引されていてそれが世界有数の高収入犯罪組織の主な資金源となっているわ。』

 

『クライアントはその大麻の輸入先であるメキシコの“シナロイ・カルテル”のメンバーのロン・ジョリス。彼のアジアへの麻薬密売ルートの一つを山田組が横取りしたらしいわ。その報復と警告を兼ねての依頼よ。警察が優秀である日本国内ではカルテルメンバーは暗躍できないようね。』

 

『今回ターゲットはこの道後温泉に単独で慰安に来ているらしいわ。狙われると思っていないみたい。仕事は簡単そうよ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

町は賑わっている。ここは日本でも有数の温泉街らしい。温泉自体は入ったことはないが、知識としては知っていた。だが私はどちらかと言えばシャワーのほうが面倒がなくて好きだ。

 

レトロ調の駅を出て市内を目的のホテルまで歩いた。人通りは多く、平日にもかかわらず観光客で賑わっている。5分ほど歩くと山の麓にあるホテル、“ベルツリーリゾート道後”に着いた。早速中に入るとホテルの従業員と思わしき和装のスタッフが出迎えてくれた。

 

 

「いらっしゃいませ。ご予約はありますでしょうか?」

「四条七之助で1人だ。」

「かしこまりました。只今確認してまいります。」

 

 

そう言うとスタッフはフロントの方へかけていき、予約を確認している。

 

 

「四条様お待たせいたしました。それではお部屋へご案内いたします。」

 

 

私は案内されるままにスタッフへついていきながら館内を観察した。ロビーには大きめの噴水があり、植木などを挟んでカフェテリアのようなものもある。洋風の内装に和のテイストを取り入れている。

ロビーには非常階段の他にはそれなりの大きさのエレベーターが3機。そのうちの1機に乗って10階へ上がった。このホテルは20階建てのようなのでちょうど真ん中の位置だ。

 

 

「こちらが四条様のお部屋になります。露天風呂は最上階にございます。15時から22時までとなっておりますのでお間違えの無いように願います。」

「わかった。」

「ではごゆっくり。」

 

 

部屋は1002号室。荷物…と言っても怪しまれないための適当な着替えといつもの装備が入ったカバン1つだけだが。それを置いて早速ターゲットの止まっている部屋を探りに出かけることにする。

 

 

「ねえ!こっちから市内が一望できるわよ!」

「あ~?そんなことよりもまずは温泉だろお。混浴だったりしねえのかな?」

「もう!お父さん!」

 

 

扉を開けると娘と父親の旅行客が居た。・・・!あの後ろから続いて出てきた小学生くらいの少年は以前に見た記憶がある。というか以前喫茶ポアロの前でターゲットを暗殺した際に私の正体を見破った少年そのものだ。私は足早に廊下を進みエレベーターホールまで向かった。

 

 

「ん?今の男・・・?」

「どうしたのコナンくん?」

「あ、なんでもないよ。僕ちょっとトイレ!」

「あ、コナンくん!園子との待ち合わせは14時にホテル前だからね!忘れちゃダメよ!」

「はーい!」タッタッタ

 

「・・・クソッ。今の男。たしかにあのときの・・・。」

 

 

私はエレベ-ターホールの脇にある非常階段に身を隠していた。しかしどうしたものか。あの少年は中身は有名な高校生探偵。邪魔されないとよいのだが。

私はとりあえずそのまま非常階段を降りて1階ロビーへ向かった。

 

 

1階ロビーでは様々な客がいる。若い女性客から年配の老夫婦、カメラマンのような男性も居た。その中に顎髭を生やし新聞を読んでいた大男が居た。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが加木屋源次郎よ。首尾よく見つけられたわね。手早く片付けてしまいましょう。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

手早く片付けたいのは山々だがここでは人が多すぎる。事を起こせば必ず発覚するだろう。ここはまずは観察することにした。

新聞を読んでいたターゲットはそのままコーヒーを何杯か飲みながらくつろいでいた。するとそこへ先程のカメラマン風の男が近づいていった。

 

 

「なあ、あんた加木屋さんでしょう?」

「なんだあんた。」

「ああ、申し遅れました。私“週刊夕朝”という雑誌でライターをしている林というんですがね。ここにこの日本を牛耳る影の組織の重鎮が居ると聞いてやってきたんですわ。」

「しらん。私ではない。」

「またまた。知ってるんですよ。山田組の実質的なナンバー2。最近でかいことに手を出したせいで命を狙われてるとか・・・。」

「しらん!失礼な男だな!失せろ!」

「おっとと。あまり大きな声を出さないでくださいよ。ほらみんな見てますよ?」

「ぐっ・・・。」

「折り入ってお話がありますんで。このあと15時に屋上の露天風呂に来てくださいよ。裸同士なら下手なこと出来ないから安心でしょ?」

「・・・。」

「じゃあ頼みましたよ。もし来なかったら・・・こっちはあなたの秘密をいくつか握ってるんだ。それを・・・。では。」

「・・・クソッ。」

####アプローチ発見####

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットはこのあと露天風呂でライターと会う約束をしているみたいね。しかもあまり気乗りしてないみたい。彼は日本のマフィア。こういう場合の対処方法と言えば一つしか無いわ。私達が先回りできればその方法でターゲットを始末できるかもしれないわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

どうやらこのあと屋上の露天風呂で会談するようだ。先回りして色々仕込んでおきたいところであるが、問題はその最中に例の少年に鉢合わせ無いかということだ。いざとなればその少年の口封じも検討しなくてはならない。

私は更に彼を観察する。っと、彼の目の前の机には彼のものと思われる持ち物が色々置いてあったが、先程の騒ぎで一部がずれ部屋の鍵が見えている。部屋番号は1001だった。奇しくも隣の部屋だ。確かこのホテルはベランダは狭く隣の部屋と防火扉で仕切られているだけだったはずだ。ということは侵入はそれほど難しくはないかもしれない。

 

 

「もうお父さんったら・・・こんな時間からビールだなんて。」

「ははは・・・仕方ないよおじさんこのところ事件続きだったから・・・。」

 

 

っと、先程の少年だ。私は持っていた雑誌を戻すと足早にエレベーターに向かう。エレベーターは1機この階に止まっていたためすぐに開いた。

 

 

「!!あいつ!」

「どうしたのコナンくん?」

「蘭姉ちゃん!ちょっと用事できたから園子姉ちゃんと二人でいってて!」

「ちょ、ちょっとコナンくん!?」

タタタタ

 

 

私はエレベーターに乗って10階を押した。扉が閉まる。と、締まりかけている扉に向かって全力疾走してくる人影があった。例の少年である。だが無常にも後数歩のところでエレベーターは完全にしまって動き出した。ある意味間一髪と言えよう。私は8階のボタンを追加で押した。

 

このエレベーターは新しい方のようでかなりのスピードで上っている。あっという間に8階に着くと一旦扉が開く。私は誰も居ないのを確認しすぐに扉を閉め、18階のボタンも押した。その後は10階で普通に降り、そのまま無人のエレベーターは18階へ向かった。そのままエレベーターホールで隠れて待っていると、非常階段から少年が飛び出してきた。彼はエレベーターの行き先を確認するとまた非常階段へ走り始めた。彼は私を黒の組織とやらの人間と勘違いしていたようだが、あそこまで必死になるほど彼にとってその組織は重要なものなのだろうか?

 

私は部屋に戻ると早速ベランダに出た。予想通り、ターゲットの部屋とは後付けの防火扉でのみ仕切られていた。私は部屋にあった手鏡を使ってターゲットの部屋を確認する。部屋に誰も居ないことを確認した私はそのまま手すりを乗り越え外側からベランダ伝いに隣の部屋に侵入した。防火扉は開けるとセンサーが作動する仕組みになっていたようなので開けるわけには行かなかったためだ。

 

さて、ターゲットのベランダに到着したが当然のごとく窓には鍵がかけられていた。しかしこの窓は最新の特殊な窓のようで鍵の部分には何やら機械があった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。その窓は自動開閉機能付きの最新式の窓みたいよ。IoT家電の一種で専用リモコンで窓を開け閉めしたりもできるみたいね。少し待って。クラッキングしてみるわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

少しして窓の鍵が自動で開いていく。そのまま窓自体も開いた。IoTの弱点はクラッキングに弱いという点だろうな。

難なく室内に侵入した私は部屋を物色し始める。ベッドの上にはターゲットのものと思われるスーツケースが開かれた状態で放置されていた。私はその中に45口径拳銃と少量のプラスチック爆弾を発見した。拳銃はともかくこのプラスチック爆弾を彼は何に使用しようというのだろうか。しかしこれは非常に使えるものである。その2つ以外には特に変わったものはなかった。

 

私は拳銃を手に取り、装填されていた12発の弾丸の内1発を取り出した。弾頭を取り外し、内部の無煙火薬をすべて出した。そこへ代わりにプラスチック爆弾をちぎって詰め込んだ。雷管はそのまま残っているため撃鉄が当たれば爆発するようになるだろう。そしてこの量でもおそらく相当な破壊力を発揮し、発砲したものを死に至らしめること位はできるだろう。弾頭を装着し直し、マガジンの一番上に戻した。

 

漁った箇所を全て元に戻し、取り出した無煙火薬は窓からばらまいて捨てた。プラスチック爆薬は発見されると面倒なので全量持って出る。そろそろターゲットが戻ってくるので一度自室へ戻った。もちろん部屋から出た直後にクラックされた窓は自動で鍵がかかった。

 

自室に戻った私は残ったプラスチック爆薬に火を付けて灰皿に乗せてベランダに放置した。しばらくしてプラスチック爆薬が完全に燃え尽きると、私は屋上の露天風呂に向かうことにした。そろそろ先程のライターが指定した時間になるためだ。部屋を出ると丁度ターゲットが戻ってきてすれ違った。私は気にせずそのまま露天風呂へ向かった。

 

 

 

 

露天風呂はかなりの広さがあった。スパリゾートなだけあって様々な風呂が備わっていた。私は怪しまれないように適当に湯に浸かりながらターゲットを待った。

 

しばらくするとライターの方が先に到着した。私は風呂から上がり、体を洗うふりをしつつ様子をうかがった。この時間帯はあまり人は入ってこないようで、今は私とそのライターしか居なかった。私は洗い終えると脱衣所へ向かい、風呂を出た。

 

脱衣所で着替えているとターゲットがやってきた。自前の風呂桶を持っているが近くを通り過ぎた時に桶の中に黒光りする物体を視認した。おそらく先程の拳銃だろう。

####アプローチ完了####

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『うまく爆薬入り拳銃を持って露天風呂へ行ってくれたわ。あとは彼が“自殺”か“事故”にあうまで見守りましょうか。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ターゲットはそのまま服を脱ぐと桶を持ったまま風呂場へ入っていった。私は脱衣所にあったマッサージチェアに身を委ねながらその時を待つことにした。万が一、もう片方が死にターゲットが生き残ってしまうと面倒なことになってしまうためだ。

 

 

 

ー…ー!ー!

 

 

何やら言い争いをしているようだ。最も拳銃を風呂場に持っていく辺り、はじめから交渉も和解もないと踏んでたのだろうが。

そのうち片方の男の声が更に怒気を含んだものになり、もう片方はそれを必死にたしなめるような物言いになった。そろそろだろう。

 

 

 

ボォーン!

 

 

風呂場から爆発音が聞こえた。おそらくターゲットが発砲し、装填されていたC4入りの薬莢に添加して炸裂したのだろう。

 

 

「な、なにごとだあ!?」

「くっ!」タタタタタ

 

 

っと、あの少年とその保護者とみられる男が脱衣所に駆け込んできた。私には気がつかず、そのまま風呂場へ突入していった。私はゆっくりとその後ろから風呂場を覗く。ターゲットが風呂場に仰向けになって血だらけで倒れていた。暴発した拳銃は粉々に砕け、破片が破片手榴弾のようにターゲットに襲いかかったようだ。少し離れたところでは先程のカメラマンがうつ伏せになって倒れている。こちらも多少破片を食らっているようだが息はあるらしい。

 

 

「なっ!何があったんだこれは!」

 

 

保護者と思わしき男が驚愕の声を上げていた。少年はというとスプラッターな状態になっているターゲットに近づいていき脈を測り始めた。

 

 

「ダメだおじさん。もう息はないよ。」

「クソッ!っと、あんた。警察を呼んでくれ!」

「わかった。」

「おじさんあっちの人はまだ息があるよ!」

「なに!じゃあ救急車もだ!」

「了解した。」

 

 

撤退しそこねた私は仕方なくその男の指示に従い緊急電話をかけた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。任務は完了したけれどその場から撤退できるかしら?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「!?お前は!」

「・・・。」

「・・・、おじさん。外に行ってスタッフの人を呼んできて。こっちの人は早く手当しないと。」

「お、おうわかった。」タッタッタ

 

「で、これはお前がやったのか?」

「何の話だ。」

「とぼけるな!ポアロでの一件といい、今回といい。何が目的だ!」

「私は偶然この旅館に泊まり、偶然この風呂を利用していただけだ。」

「・・・。」

「それに私がやったという証拠は残っているのか?現場の状況から見て彼ら二人くらいしか関係者は居ないようだが。」

「くっ・・・ともかく警察には一緒に会ってもらうぜ。」

「もちろん。一応現場に居合わせた当事者の一人だからな。」

 

 

程なくして愛媛県警が到着した。救急隊も到着し、ホテルは一時封鎖された。

 

 

「警部殿!?何故ここに!?」

「おお、毛利君。いや、愛媛県警に出張中でな。今日は松山東署で講義した後、すぐに東京に帰るつもりだったんだが、ホテルで爆発事件が起こったと聞いてな。今松山東署は人手不足で駆り出されたというわけなんだよ。」

「なるほど。警察も人員不足とは世知辛い世の中ですな。」

「まったくだよ。で、状況は?」

「は、私が露天風呂に入ろうと風呂場の前まで来たら、中から爆発音が聞こえ、急いで駆けつけてみるとこの状況で。」

「ふうむ・・・。」

「床に付いている跡とその周囲に転がっていた破片の部品などを見ますと、どうやら拳銃を発砲しようとして暴発したものと・・・。」

「拳銃だと?」

「死亡した被害者が所持していた拳銃だと思われ、正確な型式は現場検証を待ちませんと。」

「一体何者なんだ、その拳銃を持っていた被害者というのは。」

 

 

現場検証が風呂場で行われている。私は警察と少年の監視のもと(主に後者だが)脱衣所に軟禁状態になっている。

この状況から脱出するのは容易ではないだろう。無理に逃走しようとすれば犯人は自分だと言っているようなものだ。まあ半分以上自分なのだが。

 

そのうち一通り現場検証が終わったのか警部と呼ばれた男がこちらへ来た。

 

 

「あなたが脱衣所に居合わせた男性ですか?」

「私の名前は四条七之助。アメリカで仕事をしていたが、今は父方の故郷である日本に休暇できている。」

「なるほど。で、四条さん。あなたが風呂に居る時になにか変わったことはありませんでしたかな?例えば妙な音とか声がしたとか。」

「被害者二人はホテルのロビーで見かけた。なにか言い争いをしていたが内容まではわからない。」

「ほう・・・、となると被害者二人は知り合いでなにかもめていたと・・・。」

「私が風呂に入った時は助かった方の男しか居なかった。私が風呂から出て脱衣所で着替えていると死んだ方の男が入ってきた。」

「なるほど・・・。その時に風呂場の方から何か聞こえませんでしたかな?」

「着替えてる最中の段階で言い争いをしている声が聞こえた。マッサージチェアに座っている時もしていたが、そのうちに片方の声が大きくなり、片方の声は気弱になっていった気がする。」

「風呂場でも言い争いを。」

「警部殿、おそらくその言い争いの最中に拳銃で発砲したときに暴発したものと・・・。」

「ああ、そのようだな。となると何故暴発したかが焦点になるな。」

 

 

私は見たままを正直に答える。いらぬ虚偽供述はあとでいらぬ疑惑を生む。現場検証に付き合って事故と判断されれば無罪放免、その後で帰還すればいい。

 

 

「ねー、へんじゃない?」

「え?」

「・・・。」

「あっ坊主!また!」

「普通銃が暴発したくらいで原型とどめなくなるまで粉々になるかなあ?」

「確かに・・・銃が暴発しても薬室付近が粉々になるだけで、こんなグリップも銃身もバラバラになったりはしないな・・・。」

「火薬量の多い拳銃だったんスよ!だからこう、ドカーンと・・・。」

 

 

少年の知識と洞察力はやはり群を抜いている。通常の拳銃暴発では被害が大きくてもせいぜい手がなくなる程度だが、今回に至っては拳銃は元の型がわからない程にバラバラになっており銃身も複数に分裂、グリップもバラバラになっており、かろうじて銃だったのだろうと認識できる程度しか残っていない。

 

彼らの疑問に拍車をかけるべく鑑識官が寄ってきた。

 

 

「警部、そのことで妙なことが。」

「妙なこと?」

「はい。拳銃が暴発したと仮定しても硝煙反応が出すぎるのです。」

「出過ぎる?どういうことだ。出ないという疑問はよく聞くが出過ぎるというのは初めて聞いたぞ?」

「破片の数と部品の形状から推察しておそらく45口径以下のオートマチック拳銃と推察されるのですが、現場周辺の硝煙反応は45口径どころか50口径弾よりも多く、広く分散しているのです。」

「それはつまり・・・拳銃の暴発は直接的な爆発の原因ではないということかね?」

「いえ、爆発自体は暴発が原因でしょう。しかしその爆発の威力は拳銃弾に内包されている火薬量ではどう考えても無理なのです。」

「複数の弾丸が同時に暴発したという可能性は?」

「それもありません。周囲から弾丸が未発射の状態で発見されており、数は現在確認されただけで10発。複数暴発の可能性は低いかと・・・。」

「ううむ。どういうことだ・・・。」

 

 

硝煙反応は爆発物の成分に使われている窒素が爆発によって二酸化窒素になり、それをジフェニルアミンで検出するわけだが大抵の火薬爆薬において反応は出るものだ。プラスチック爆弾も例外ではない。しかしその範囲からどの程度の口径の弾丸が使われたくらいは割り出せると聞いた。C4爆薬ならば45口径どころか.500S&W弾すら凌駕しているだろう。

 

彼らは一様に現場の不可解さを検証しようとしているがただ一人、例の少年だけはこちらを見ている。ここらで早めに動くとしよう。

 

 

「警察の方。私はそろそろ部屋に戻っても良いですかな?流石に浴衣姿で脱衣所にずっといるのは寒い。」

「ああ、申し訳ない。もう少しだけお付き合いを。毛利君、何か閃かんのか?ほらいつもみたいに。」

「ともうされましても、拳銃を撃った人物は判明しておりますし、撃たれた方は病院送りだしで・・・。死亡した男がもう一方を殺そうと拳銃を撃とうとしたら不運にも暴発して自分が死んでしまったという事故としか・・・。」

「うむむ、しかし解決していないことがまだある。やたら威力の高かったその拳銃弾を誰が仕組んだのかだ。」

「この日本という国は銃規制が行われている国。私が居たアメリカならともかく、拳銃自体入手困難なこの国では、その拳銃を持っていることを知る人物も、それに細工できる人物も少数なのでは?」

「この方の言うとおりです警部殿。ここは被害者の身元を洗ってあの拳銃の入手ルートを探るほうがよいかと・・・。」

「そうするしかないか・・・。じゃあ四条さん。お部屋に戻っていただいても結構です。ご迷惑をおかけしました。」

「いえ、お役に立てず申し訳ない。では。」

 

 

私は警察達に別れを告げ、脱衣所を出て集っている野次馬の間を縫ってエレベーターに乗った。

 

 

「あ、僕も乗るー!」

「・・・!」

 

 

例の少年が飛び込みでエレベーターに乗ってきた。エレベーターには私と少年以外は乗っていない。しかしここで何ができるわけでもないだろう。私はそのまま自分の部屋の階を押した。エレベーターが動き出すと彼は不意に話しかけてきた。

 

 

「どうやったの。」

「・・・何の話だ。」

「教えてよ。どうやってあの人を殺害したのか。」

「私が殺したとでも?」

「お兄さん外国の人でしょ。外国の人は基本的にお風呂には長くは浸からない。なのに平日の昼過ぎのお風呂が開いた瞬間のあの時間帯にあそこに居たのは何故?」

「風呂は好きな方だ。外国人は長く浸かってはいけないのか?」

「だったらなんでお風呂から上がった後も脱衣所に居たの?」

「マッサージチェアを堪能していたと言ったはずだ。」

「40分以上も?それにあのマッサージチェア、さっき見たら自動で止まるコイン式で15分しか連続運転できなかったよ。25分も脱衣所で何してたの?」

「・・・。」

「本当は彼らの話聞こえてたんじゃない?聞こえてなかったとしても銃が暴発することを知っていた・・・。」

「どうしてそう思う。」

「それぐらいしかあの場に留まる理由がないからだよ。刑事さんたちは周囲にあったゲーム機や牛乳自販機で時間を潰してたと思ったみたいだけど、ゲーム機は故障中、牛乳自販機の牛乳は瓶でその瓶は何処にも捨てられてなかった。」

「・・・。」

「でも僕でもそこまで。どうやって彼の拳銃をつまらせたのか、どうやってあんな高威力を出したのか。さっぱりわからないんだ。」

「なるほど。で、私にどうしろと?」

「教えてもらっても証拠がない限りおじさんを逮捕できない。だから教えてもらってもいいよね?」

「面白い話ではないと思うがな。」

「それでも。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・少し待ってろ。」

「・・・うん。」

 

 

私は部屋の中に少年を招き入れ、荷物の中からいつも常備している“ある機械”を取り出した。私はそれを少年の目の前で起動した。

 

ピィィィン

「!それは?」

「君の考えていることなどお見通しという意思表示だよ。」

「クッ・・・。」

 

 

少年はポケットに入れておいたものを取り出し、何かを確認している。おそらくその機械は録音機。私の証言を元に逮捕するつもりだったのだろう。だがそれは私も想定していることだ。私が出した機械は小型のEMP発生装置だ。半径1mの範囲に強力なEMPを発生させ周囲の電子機器を軒並み使用不能にする。無論録音機も、少年が腕にはめている時計型麻酔銃も、その眼鏡も。

 

 

「さて、どうする?」

「・・・。」

「密室の部屋の中で二人きり。君は殺されてもおかしくない状況にある。」

「・・・。」

「だが私は目的以外に興味はない。よって君の存在も正直なところ済んでしまった後ではどうでも良いことだ。」

「・・・いつか絶対。絶対捕まえるからね。」

「楽しみに待っていよう。」

 

 

そういうと彼は扉を開け部屋を出ていった。私は荷物をまとめるといつものスーツに着替えフロントへ向かった。死亡事故があったホテルにはいられないということで、宿泊予定をキャンセルして堂々と正面から出て脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~同時刻~

 

 

「やっぱり!安室さん!」

「おや、蘭さんに園子さん。奇遇ですねえ。」

「そっちこそ。こんなところで何を?あ!もしかして梓さんと・・・。」

「ち、違いますよぉ!このホテルに知り合いが来ているという話を聞きましてちょっと会いに行こうかと思ってたんですけどね。」

「そりゃ残念ねえ。今事故だか事件だかがあってホテルには入れないわよ。」

「のようですね。部外者である私が入ることもでき無さそうだし、一旦撤退するかなあ。」

「じゃあ、じゃあ、私達とお茶してかない?」

「園子さんたちとですか?」

「あー、えっと、実は私達もこのホテルに泊まってたんだけど閉め出されちゃって・・・。」

「あーそれは大変ですね。僕なんかで良ければ付き合いますよ。」

「助かるー!見知らぬ土地で暇するのもアレだったのよねー!」

「あはは・・・。っ!?」

「?どうしたんですか?安室さん。」

「ん?どったの?」

「ああ、いえ、先程話した知り合いに似ている方が居たんですが・・・」キョロキョロ

「あら、そうなの?」

「いえ、見間違いだったようです。すみません。では行きましょうか。」

 

 

「(アレは、あのときの・・・こんなところで一体何を・・・。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「情報化社会の脆弱性」+2000 『ターゲットの部屋をハッキングで開ける。』

・「榴弾装填」     +2000 『ターゲットの拳銃に細工をする。』

・「男なら拳で語れ」  +3000 『ターゲットを銃の暴発によって暗殺する。』 

・「呉越同舟」     +3000 『江戸川コナンと同じ部屋に2人だけでいる。』

 

 




900話以上あるエピソードの内、コナンくんが解決できなかった話ってあるんですかね?



次回は別アプローチです。


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HITMAN『湯煙にまぎれて』(もう一つの世界線)

『湯煙にまぎれて』の別アプローチとなります。

side変更が多く見辛い可能性がありますがご了承ください。


『道後温泉へようこそ。47。』

 

『今回のターゲットはこの道後温泉に慰安に来ている日本のマフィアである山田組の元経理担当、加木屋源次郎。クライアントは彼にマリファナ流通ルートを横取りされたメキシコは“シナロイ・カルテル”のメンバーのロン・ジョリス。警告と報復を兼ねた依頼よ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

ブロロロロロ

人も交通量も多い市内を車で走るのはなかなかに苦労するものだ。だがいざとなれば歩行者などは気にしてられないだろう。

 

私は今、道後温泉駅前の道をICAが用意してくれた車両をつかって走っている。ちなみに用意してくれたのは白いホンダNSXのタイプRだ。型式は多少古いもののチューニングされている影響か走りはとても良い。逃走用としてこの機動性は最適だろう。

 

トランクにはJaeger7を積んでいる。かさばるこの銃も車ならば比較的安全に運ぶことができる。それにこのあたりはそれなりに高層の建造物が多く、近くには山もあって狙撃場所には事欠かないだろう。

 

道後温泉駅を通り過ぎ、人と車を縫って走り、ターゲットが泊まっていると思われるホテルへ到着した。ベルツリーリゾート道後。看板にはそう書かれている。しかし今回はこのホテルには泊まりに来たわけではない。ターゲットの確認と部屋の確認だ。私は駐車場に車を停めるとホテルの中に入った。

 

 

「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」

「いや、少し休憩したいだけだ。カフェは利用できるのか?」

「はい。ご利用できます。カフェテリアはそこの水色の看板のところでございます。」

「ありがとう。」

 

 

私はカフェに着くと適当にコーヒーを注文する。そのまま辺りを伺い、状況を把握する。

カフェはそれなりに広く、テーブルも10個はあるだろうか。そこには様々な人が座っていた。若いカップルから老夫婦。ビジネスマンと思われる背広の男性からカメラを持っているやつも居る。その中でも髭面の大男、あれはブリーフィングで把握している。ターゲットだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの加木屋源次郎よ。さすが日本で一番隆盛している犯罪組織の重鎮なだけあって雰囲気あるわね。さて、どうやって送ってあげましょうか。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はコーヒーを飲み干すと席を立った。トイレに行くふりをしてロビー奥の廊下へ入る。どうやらこの先はスポーツジムなどがあるらしい。だが私が用があるのはその手前の従業員用通路を入っていったホテルマンだ。私はホテルマンの後ろをついていき、丁度隣に大型ダストボックスがある位置で後ろから首を締め上げる。とっさのことで彼は慌てていたが、あっさりと気絶した。

 

気絶したホテルマンから服を借り、ホテルマンはそのままダストボックスへ隠した。私はそのまま何食わぬ顔で従業員通路を進み、フロントのちょうど裏側に当たる事務所に入った。

 

事務所にはあまり人は居なかったが無人というわけでもない。1人が机に向かって何かを書いており、もうひとりはパソコンを眺めながらペットボトルのお茶を飲んでいた。私は事務所内を見渡し目的の物を探した。しかし、目的のものは何処にもなく、私は借りた服に入っていた手帳に書かれたIDとPWを使って部屋の端に置かれているPCにログインした。

 

PCは思ったとおり宿泊名簿が入っていた。このホテルでは宿泊客の個人情報や宿泊情報は電子化して保管しているようだ。私はその名簿の中からターゲットの名前を探し出し、何処に泊まっているかを割り出した。ターゲットは10階の1001号室。そこが見えるのは南側だ。つまり南側で待っていればターゲットは自然にそこへ現れるということだ。

 

私は先程のダストボックスへ戻り、愛用のスーツに着替え直した後、ホテルマンに元通り着せたあと、廊下に寝かせて放置してホテルを出た。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~コナンside~

 

 

今日は俺と蘭と園子と小五郎のおっちゃんで愛媛県は道後温泉へやってきた。新しくできた鈴木財閥の系列ホテルであるベルツリーリゾート道後に招待されたのだ。

 

 

「温泉楽しみだねー!」

「うん!小五郎のおじ様には申し訳ないけれど混浴では無いのよね。」

「へっ!誰がお前らなんかと・・・。」

「ハハハ・・・。」

 

 

蘭と園子は温泉が目当て、おっちゃんは混浴でないと知ってからはあまり気乗りがしてないようだが、食事が豪華だと聞いて気を取り直したようだ。相変わらず現金なオヤジだ・・・。っ!?

 

 

「ん?どうしたのコナンくん?」

「え?ああなんでもないよ!気の所為みたいだから!」

「ふ~ん・・・?」

 

 

今たしかにあのときの感じが・・・。黒の組織でも警察関係者でもない純粋な殺意を持った男の気配・・・!だけど周りを見回してもそれっぽいやつは居ねえし、気のせいだよ・・・な。

 

 

「ほら、早く行こ!」

「う、うん!」

 

 

ま、まあ今はゆっくりするとしよう・・・。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~47side~

 

 

例の少年が見えた。私のカモフラージュを見破ったあの洞察力に優れた元高校生探偵工藤新一、現在の名前は江戸川コナンだったか。何故ここに居るのかはわからないが彼らはホテルに入っていくようだ。私の仕事のじゃまにはならないだろう。

 

私は車に戻ると、駐車場を出て、狭い道を下りつつ南を目指した。南には市街地の中に大きな山があった。まずはそこから狙えるかどうか試す。

 

山は正確には公園だった。道後公園というらしい。元は城があったらしく史跡が公園内いたるところに残っているが、ここに来る観光客はあまり城の歴史には興味が無いようで、観光客はもっぱら麓の運動場に居た。私は公園の側の駐車場に車を停めると、Jaeger7が入ったケースを持って公園内の山を登り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~コナンside~

 

 

 

「知らん!失礼な男だな!失せろ!」

 

「え?なに?」

「なにか揉めてるっぽい?」

 

 

どうやら客の一人がカフェで大声で怒鳴っていたようだ。隣りにいる男にたしなめられて気まずそうにしている。そのうち其の隣の男はなにか言った後その場を離れていった。

 

 

「何だったんだろうね。」

「さあ。そんなことよりお風呂よお風呂!早速入りに行きましょ!」

「あー、申し訳ありませんお客様。露天風呂の開放は午後3時からとなっておりまして・・・。」

「え~!蘭、今何時?」

「え~と今2時15分くらい。まだ結構あるね。」

「うーんどうしたもんか・・・。」

「俺は部屋に行くぜ。風呂の時間になったら一番風呂を貰いに行くつもりだからよ。」

「おじさまはお風呂かあ。私達もそうしようっか?」

「そうだね。45分じゃあっという間だし。コナンくんもいい?」

「うん!」

 

 

俺たちは予定を変更して一旦部屋に戻ることになった。

 

部屋は園子のコネもあってそれなりに豪華だった。2つの部屋がある和と洋が混じった部屋だ。もっと豪華な部屋もあるらしいが、豪華すぎるとかえって疲れるといってこの部屋なんだそうだ。たしかに豪華すぎる部屋は異様にかしこまっちゃって俺らには合わないな。俺とおっちゃん。蘭と園子で部屋を別れた。

 

おっちゃんは「ホテルに来たら恒例なんだよ」と言って備え付けのテレビでアダルト放送がやってないかチェックし始めた。こんな真っ昼間からやってるわけねえだろ・・・。俺はというと部屋でじっとしているのは性に合わないので、この階だけでも探検してみることにした。小高い山の上にホテルが建っているので10階でも結構見晴らしがいい。市内一望はもちろんのこと、遠くには瀬戸内海まで見える。あの広い土地は松山空港だろうか。

 

 

ガチャ

 

後ろでふいに扉の開く音が聞こえた。さっきロビーで叫んでいた男だ。浴衣姿に風呂桶なので風呂に行くつもりなのだろうか。まだ2時半だから開いていないはずだけど。

 

 

「おじさん。お風呂は3時からみたいだよ。まだ開いてないと思うよ。」

「・・・。」

 

 

一瞬こちらを見たが無視していってしまった。感じ悪いおっさんだな。もしかしたら早めに開くのかもしれない。・・・ん?今桶の中からカタカタ金属音がしたような・・・。まあいいか。俺は部屋に戻った。

 

 

「さっき風呂桶持った人が上に行ったみたいだよ。もしかしてもう開いてるんじゃない?」

「お、マジか。じゃあひとっ風呂と行くか!」

「私達も行こう。園子。」

「そだね。」

 

 

俺たちは各々の部屋で準備してエレベーターで最上階の露天風呂へ向かった。

 

 

「あ、やっぱり。もう掃除終わって開いてるよ。」

「やっぱ早めに来て正解だったわね。じゃあおじさま、ガキンチョ。私達はこっちだから。」

「お父さん。コナンくんのこと見ててね。」

「おうよ。」

「いってらっしゃい。」

 

「じゃあ俺たちも行くか。」

「うん!」

 

 

ダァーン!

 

「な、なんだ?!」

「銃声!?」

 

男湯の方から突然銃声が響いた。俺たちは急いで駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~47side~

 

 

困った。非常に困った。

 

 

「すっげー!ボディーガードってやつなんじゃね?!」

「おじさん熱くないのー?」

「知ってるぞ!そのカバンには銃が入ってんだ!」

ワイワイガヤガヤ

 

近所の子供と思われる集団に掴まってしまった。私の周りを駆け回ってはちょっかいを掛けてくる。ケースを開けられそうになるのは流石に洒落にならない。しかし乱暴に振り払うと後々まずいことになりかねない。さてどうしたものか。

 

 

「こらー!健太!まーたいたずらして!」

「茜!人様にちょっかい出しちゃダメじゃない!」

「げ!やべ!逃げろ!」

ワーワー

「まちなさーい!・・・どうもすみませんうちの子が・・・。」

「いや。大丈夫だ。」

「何処か怪我とかされてませんか?ああ、スーツにシワが・・・。」

「大丈夫だ。このシワも仕事で付いたもの。気にしないで追いかけたほうがいい。」

「もうほんとにすみませんでした。・・・コラー!けんたー!」タタタ

 

 

やっと開放された。母は強しだな。私は気を取り直してさらに山を登る。少し時間を食ってしまったがもう少しで頂上だ。ここから見える頂上には東屋のようなものが立っているのが見える。

 

私は頂上につくと東屋に上った。東屋は2階建てで2階部分には手すりとベンチが置いてあった。しかしもう冬も間近というこの時期にこの吹きさらしの所に人はいなかった。私は東屋のベンチにケースを置くと中からスコープだけを取り出した。12倍率の望遠スコープだ。先程のホテルを確認しようとした。

 

ターン

 

遠くの方で銃声がした。かなり小さな音だったので工事現場の音にも聞こえるそれであったが私は間違えない。私はスコープを覗きホテルを見る。ターゲットの部屋と思われる部屋には誰もいなかった。少し上に向けると、露天風呂と思わしきところから男が身を乗り出して何かを階下へ捨てていた。スコープの倍率を上げる。顔が見えた。アレは・・・ターゲットだ。どうやら露天風呂に移動していたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~コナンside~

 

 

「何があったあ!?」

「?!」

 

そこには頭から血を流して倒れている一人の男が居た。下のロビーで大声を出した男をたしなめていた男だ。

 

 

「コナン!警察だ!」

「うん!」

 

 

俺は即座に警察に連絡した。同時に電話をしながら状況を確認する。露天風呂は死んだ彼以外無人。凶器である拳銃も見当たらない。おまけに死体のすぐそばにあるシャワーが辺りの血を洗い流し続けている。出入り口はここだけ。他に人がいる気配もない。これは・・・擬似的な密室殺人だ!

 

 

 

程なくして愛媛県警が到着した。近くの松山東署で講義をしていたという目暮警部も加わって現場検証が行われている。凶器は45口径拳銃。しかし凶器自体は何処からも発見されず、発射残渣などもシャワーの水で流れてしまって判別不能。犯行当時の出入り口には俺とおっちゃんが居て、脱衣所には誰も居なかった。出入り口はここだけ。隣の女子風呂には蘭と園子がいたからそこに移って脱出も不可能。どうやって犯人はこのライターの林さんを殺害して脱出したんだ・・・。

俺はいつもの通り風呂の中を見て回った。別段おかしいものはないが・・・ん?何だこの柱の擦り傷・・・。

 

 

「警部殿。この方です。」

「あなたが彼と言い争いをしていたという方ですか?」

 

 

容疑者候補として被害者と言い争って大声で怒鳴っていた男が呼び出されていた。たしかに現状彼以外容疑者は居ないが・・・。

 

 

「ああ。加木屋源次郎だよ。刑事さん。」

「加木屋・・・ってお前!山田組の会計係の!」

「おおっと、“元”を付けてくれよ。もうあの組とは関係ないんだからよ。」

「どういうことだ?」

「いや、俺も年なもんでね。若いもんに仕事は引き継いで引退したってわけさ。」

 

 

どうやら元暴力団員のようだ。おそらくあいつが犯人だろうが証拠もなければどうやったかすらわからねえ。なにか手がかりになるようなものが・・・。

 

 

「それで。死んだってのは・・・ああ。そいつか。」

「知ってるのか?」

「ええ。そいつは・・・」

バシュン

 

 

・・・え?

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~47side~

 

 

ここからだと露天風呂がよく見える。流石に12倍望遠でもなかなかに小さいが。ターゲットは露天風呂の端でなにかしていたと思ったらいきなりラペリングをし始めた。そして彼の部屋である1001号室に入って行った。なかなかアグレッシブである。

 

どうやらホテルでなにか事件があったようだ。ホテルの前に警察車両がどんどん集まってくる。っと、露天風呂でまた動きがあった。どうやら事件があったのは先程の露天風呂のようだ。ということはまたターゲットが呼び出され同じ場所に現れる可能性がある。私はじっとその時を待った。

 

その時は意外に早く訪れ、今度は普通に服を着たターゲットが警察官に囲まれてやってきた。おそらく現場検証につきあわされているのだろう。私はあたりに人が居ないことを確認し、ケースからすばやくJaeger7を取り出し、スコープを装着、構え直した。周囲の木々とホテルまでの道中の幟などで風を確認し、ターゲットの頭部に狙いを定め、そして

 

 

バシュン!

 

 

引き金を引いた。距離にして750m。なかなかの長距離狙撃ではあるがJaeger7の精度の良さならば出来ない距離ではない。放たれた弾丸は数人の警察官、そしてちらっと見えたあの少年。それらの衆人環視のさなか、ターゲットの頭部に正確に命中した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットダウン。いい腕ね。ただ警察の目の前で殺るのは大胆すぎないかしら?急いで脱出したほうが良さそうよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

言われなくとも脱出は急いだほうが良いだろう。私はまたすばやく銃をケースにしまうと山を降りた。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~コナンside~

 

 

「うお!?」

「な!?」

「狙撃だ伏せろ!!」

 

 

容疑者と思われた男がいきなり頭に弾丸を食らって吹っ飛んだ。一体どこから・・・!俺はすばやく弾が飛んできたと思われる方向を見てその延長線上に山があるのを確認した。追跡メガネの望遠機能でその山の頂上を見る。流石に距離が遠いが・・・!?あの特徴的な風貌!間違いない!あいつだ!

 

それを確認するやいなや俺は走り出した。ダッシュで部屋に戻ると荷物からスケボーを取り出してエレベーターに飛び乗った。1階についた瞬間からスケボーをかっ飛ばして公園に向かった。人と車の波を縫って飛ばす。見えた、さっきの公園・・・!

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~47side~

 

 

私は駐車場にある車にケースを放り込むと料金を払って駐車場を出た。正面の大通りに出て交差点を通過する・・・っ!交差点を通過するときに横目に少年が見えた。追ってきたのだ。どうやらこの車の性能に頼らなければならないようだ。私はアクセルを踏み込んだ。

 

車道は片側2車線であるが交通量が多い。その間を縫うように走る。一般道ではあるがすでに速度は140キロだ。時折対向車線に飛び出しながら逃げる。ルームミラーを見ると後ろから猛スピードで追いすがってくる小さい影がある。私はさらにアクセルを踏み込んだ。もうほとんどベタ踏み状態だが。

 

どうやらこの道は平和通りというようだ。日本人はやたらと平和という単語を使いたがる人種だ。しかしそんなことを考えている余裕はあまりない。多い一般車を凄まじいスピードですり抜けながら走る。

 

パッパーガシャーン

 

私は何個目かの交差点をドリフトで強引に曲がりつつ左に折れる。曲がった拍子に通過中だったトラックが避けようと横転したようだが気にしている暇はない。前の交差点の横から警察のパトカーが勢いよく飛び出してきた。どうやら体当たりで止めるつもりのようだ。私は軽快な機動力を生かしてギリギリのところで躱した。後ろの少年もギリギリで付いてきている。

 

後ろを見るとかなりの量のパトカーがいた。おそらく市内のパトカーを総動員したのだろう。・・・っと、あんなにパトカーが多い理由がわかった。すぐ左側に愛媛県警の本部があるようだ。横目に見た案内表示に書いてあった。私はそのまま道を南に向かって道なりに飛ばした。

 

大洲街道というらしい。なかなかに整備されており走りやすい道だ。相変わらず交通量は多いが。後ろのパトカーと少年もしっかり着いてきている。しかしこのまま脱出ポイントまで引き連れるのはまずいだろう。まあその手前でおそらく撒けるとは思うが。

 

私はしばらく走り続けた後、右に曲がった。もちろん速度は落としている余裕はないのでドリフトであるが。真新しい高架橋と道路を通った。外環状道というらしい。1車線だけであるが歩道側も中央分離帯もなにもないため、時折そこに乗り上げながら更に飛ばす。パトカーは大部分が詰まってしまっているようだ。少年のスケボーは相変わらず着いてきているが。そのスケボーは一体どういう動力で動いているのだろうか。

 

予定地点で左へ曲がる。此処から先は狭い道だ。しかし両脇に空き地が多く、歩道も広かったため走るのには苦労はしなかった。それでも何回かぶつかりそうにはなったが。

 

 

 

市街地を抜ける。と目の前に小高い丘の空き地がある。私は道路を無視してガードレールを強引に突破して小高い丘へ侵入する。小高い丘はすぐに終わり、小さな小川になっていた。その時点で速度は100キロをゆうに超えていたため車はそのまま大ジャンプし、その先にあった有刺鉄線付きフェンスを底面が掠りながらも乗り越えた。

 

流石にこれはかなり無理があったのか全面のボンネットが捲り上がりかかっている。白煙も見える。超えた先はただただ平坦な土地だ。私はルームミラーを再度確認する。・・・っと。少年が有刺鉄線にスケボーを引っ掛けたようでその先にあったアスファルトを超えて茂みの中に転げ落ちていった。これで追手は全て撒いた。

 

アスファルトの道沿いに車を走らせて敷地の西の端まで走らせる。となりでは大型旅客機が着陸した直後のようだ。そう。ここは松山空港だ。

 

 

 

 

松山空港の西の端は海に面している。私は今回事前にICAに頼んでこの西の端の岸壁にゴムボートを用意してもらった。本来なら瀬戸内海にゴムボートで出ても仕方がないだろうが、今回は“迎え”が来ているので問題はなかった。

私は岸壁の近くに車を停めると中のケースをもって岸壁を乗り越えた。

 

 

「遅かった。」

「そうか?これでもかなり急いできた。おかげで市内はめちゃくちゃだろうが。」

 

 

ゴムボートではタバサが待っていた。すでにゴムボートを操縦できるまでにこの世界になれたということだろうな。

私はちらっと後ろを見る。かなり遠くだが体制を立て直したスケボー少年と空港に乗り込んできた警察が総出で追ってきていた。なんとヘリコプターまで動員している。ゴムボートに乗り込むと沖に向けて出発した。出発してから数分後に今まで居た岸壁に警察やあの少年が立ちすくむのが見えた。しかし警察のヘリコプターは相変わらず追ってきている。

 

 

「ここでまつ。」

「と言ってもすぐ側だろうに。」

 

 

岸壁から3キロほど離れた位置でボートを止めた。上では警察のヘリコプターがしきりに投降を呼びかけている。

 

 

ゴゴゴゴ

そのうち海面がうねりを上げ始めた。そして黒光りする物体が我々のゴムボートごと海面から持ち上げた。ICA所属の潜水艦である。

 

私はゴムボートから降りてすぐ近くにあったハッチを開ける。上空のヘリコプターに追われると厄介だが海中ならば手は出せまい。

 

っと、ICAは念を入れるようだ。潜水艦後方のVLSハッチが開いた。凄まじい轟音とともにミサイルが発射され警察のヘリコプターに直撃した。何もそこまでやらなくてもいいと思うのだが。

 

バラバラになって墜落するヘリコプターを横目に私は潜水艦の中に入りハッチを閉めた。潜水艦はゆっくりと潜行を始め、そのまま太平洋へ脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~同時刻 コナンside~

 

 

 

「な、何だあれは!?」

「潜水艦だと!?」

 

何処へ逃げるつもりなのかは予想していて、松山空港に警察を先回りさせて飛行機での脱出を阻もうという作戦だったが、まさか潜水艦だと!?

そのうち彼らを収容している最中に後部VLS発射管から対空ミサイルが打ち出され、追っていた警察のヘリコプターが撃墜された。ミサイルまで持ってんのかよ!奴らの収容が終わると潜水艦は海中に沈んで行った。

 

「くっ!海上自衛隊に協力要請だ!相手はミサイルを持ってる。十分に気をつけろと伝えろ!」

「はい!」

 

となりでは駆けつけた目暮警部が他の警官に指示を飛ばしている。だがおそらく逃げられてしまうだろう。

何者なんだあの男。黒の組織だってあそこまで大胆じゃない。ともかくあいつが乗ってきてたあの車を調べてなにか手がかりを・・・。

 

 

ピピピドカーン!

 

 

時限爆弾!証拠もたった今吹き飛んでしまった!

 

「くっそお!」

 

全てが計画的で計算しつくされてる。読み負けだ。

どうやら黒の組織以上に厄介なのが居るようだぜ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「外部犯」       +1000 『コナン・毛利一家・園子に会わない。』

・「風を読み切って」   +3000 『700m以上の距離で狙撃する。』

・「クレイジーヒットマン」+3000 『車で200km/hを出す。』

・「ICAの実力」    +5000 『潜水艦で脱出する。』

 

 

 

 




なんか劇場版並みに派手になってしまった・・・w


2019/06/17追記
この話を書く直前にコナンの映画を2~3本連続で見てた記憶があります。最近のコナン映画はとりあえず開幕でどっかの施設爆破するのやめましょうよ・・・w爆発オチならぬ出落ち爆破になってますがなw


次回はすこし趣向を変えてお送りします。


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HITMAN『ICAの試験 ~side.タバサ~』

『現在位置、アフガニスタン、クナル州、アサダーバード。任務従事者、タバサ。』

 

『作戦目標、ターリバーン過激派“ナルフッタ・クイール”指導者アルザ・エラードの抹殺。作戦開始位置、アサダーバード南東部河川敷付近。北緯34度52分9.2172秒、東経71度9分19.4862秒地点。』

 

『作戦依頼者、アメリカ合衆国国防総省、中央軍所属作戦司令官。詳細は機密事項です。備考、本作戦におけるターゲット以外の殺害は禁止されています。指令者、ICA上級委員会役員No.4。』

 

『準備は一任されています。作戦を開始してください。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

ボートで川を遡上し、作戦開始地点に着いた。今回は久々に一人での任務だ。元いた世界ではよくあることだったが身分を隠しての任務自体あまりなかった。

 

川辺には倉庫が多かった。おそらく麻薬や武器などを船などで運んでいるのだろう。しかし兵隊の数も少ないためターゲットがいる感じは無い。私はひとまず手近な倉庫へ入る。

 

倉庫には誰も居なかった。しかし積まれている箱の中にはおがくずに紛れて白い粉の入った袋が入っていた。おそらく麻薬の保管場所だろう。私は倉庫の事務所のような場所を発見したためそこへ入る。

 

事務所にも誰も居なかった。だが事務所のコルクボードには様々な紙が貼ってあった。その中にはここアサダーバードの地図があり、中心にあるスーパーマーケットの跡地に線が集約していた。おそらくここが本拠地だろう。私は倉庫を後にし、市街地へ向け進んでいった。

 

 

市街地は入り組んでいる。崩れた家々が内戦のすさまじさを物語っている。路地に注意しながら進んでいくとスーパーマーケットが見えてきた。このまま路地伝いに進んでいけば問題なくたどり着けるはずだ。問題はどうやって内部に侵入するか・・・、内部には相当数の人員が居るはずである。ここはおびき出し作戦を行おう。

 

まず手近な兵隊の集団をスリープクラウドで眠らせる。そしてその部隊を探しに来た兵隊も同じく眠らせる。これを繰り返せば司令部はもぬけの殻かもしくは非常に手薄になるだろう。幸いにして人を隠せそうな場所は大量にある。

 

私はまず周囲を探索した。すると兵士30人ほどの小隊が歩いているのを確認した。私は周囲に他の兵がいないことを確認しつつ作戦を開始した。

 

 

“スリープクラウド”

「んあ?何だこの霧は?」

「なんだか猛烈に眠く・・・。」

「もしかして睡眠ガス・・・。」

「て、てきしゅ・・・」

グウグウ

 

 

首尾よく眠ってくれた。しかしそれなりに散開していたため予定されている場所に運ぶのに多少手間がかかりそうなのは難点だ。

 

 

「こちらCP、8-1、定時連絡はどうした。」

「・・・。」

「8-1応答せよ。」

「・・・。」

「異常事態発生。最寄りの部隊は確認に向かえ。」

 

 

うまく行った。これでこっちに来てくれるだろう。後はそれをまたスリープクラウドで眠らせる。これで行けるはず。来るときは足音や気配で近づいてくればわかる。それまではこの眠らせた兵士を移動させるのに集中しよう。

 

6体ほど移動させた。結構重労働である。7体目に取り掛かろうとしたその時路地の角の向こう側に集団が歩く気配がした。しかしまだこちらには気がついていないようで気配はまだ遠い。焦らなくともまだ時間はあ・・・

 

 

「・・・。」

「・・・。」

「コンタクト!」

「!」

 

ダダダダダ

 

 

気配を読み間違えた?この私が?路地の向こう側に居た小隊の気配は目の前の兵士の叫びによって一斉にこちらへかけてくる。まずい。戦闘態勢になってしまった。

 

私は放たれた弾丸を躱しつつ最寄りのゴミ箱の裏に隠れた。ゴミ箱は金属製で、銃弾を弾くことができている。が、いつまでもここに居るわけにいかない。どうすればいい・・・。

 

路地の向こう側に続々と応援が駆けつけている。そのうちの一人、先程気配をつかめなかった兵士が応援を呼ぼうとしているのが聞こえた。流石にこれ以上応援を呼ばれると対処ができなさそうだ。私はまず銃弾で制圧射撃されてる状況を打開することにした。

 

 

“エアハンマー”

 

制圧射撃をしていた兵士の内何名かを吹き飛ばして気絶させることに成功した。弾幕が薄くなったことで私は隙を見て杖を構える。

 

 

“スリープクラウド”

 

発生した霧はゴミ箱の裏から相手の兵士の方へ流れ、彼らを包み、銃撃がやんだ。何とかなったようだ。私は隠れるのを止めて本来の作戦を遂行しようと眠った兵士たちへ近寄った。またレビテーションで一人ずつ運んでいく。

 

3人目を運ぼうとしたその時、路地から敵兵が近づいてくる気配を捉えた。しかも今度は3方向からほぼ同時だ。流石に多方面からの同時は対応しきれない。私は諦めてこの状態のまま敵本部への潜入を試みることにした。2個小隊が戦闘不能で1個小隊が対応中なのだからこれだけでも十分手薄になっているだろう。

 

 

 

 

 

私は再び路地裏を縫うように移動し、拠点となっているスーパー跡に到達した。おそらく正面は敵がいるだろう。壁際から覗いてみると、何故か正面入口に兵士が2人びしょ濡れで気絶していた。理由はわからないがこれは好都合だ。ただ正面から入ると中にそれなりに兵士がいる可能性もあるので、建物正面側の窓の一つに入った。

 

窓の向こうはそれなりに大きめなカフェテリア跡だった。部屋の端には後から無理矢理付け足されたと思われる地下への入口があった。ターゲットは組織の重要人物だ。戦闘状態になっているこの状況では一番安全な地下施設にいると思われるので、私は迷わず地下へ入っていく。

地下はそれなりに大きく、隠れるところもそれなりにあった。少し進むと明るくなっているところがあり、兵士たちが何やら騒いでいた。

 

 

「ハルドゥエラ様!ハルドゥエラ様!返事をしてください!」

「返事がないぞ!どうする!?」

「どうするもこうするも開けてみるしかねえだろ!」

「しかしハルドゥエラ様からは絶対に開けるなと・・・。」

「中から返事がなくなってもか?もしかしたら中で倒れられてる可能性だってあるのだぞ!」

「確かに・・・しかし我々にそれを判断する権限は・・・。」

 

 

どうやらやたら重厚な扉の向こうにいるハルドゥエラとかいう人物と連絡が取れずに焦っているようだ。おそらくあの扉の重厚さからあそこはパニックルーム、もしくはセーフルームと呼ばれる避難所なのだろう。そこに入ってから応答がないということは、何かあったと見るのが自然だ。しかし彼らには開けるかどうか判断する権限が与えられていないようだ。焦りばかりが場を支配しているのが見て取れる。すると奥の方から一人の男性が歩いてきた。

 

 

「その扉を開けろ。」

「え、エラード様・・・。」

「私の権限で扉の開放を許可する。開けてみろ。」

「りょ、了解しました!おい!扉を開けろ!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『声紋照合…一致。網膜照合…一致。静脈照合…一致。ターゲットのアルザ・エラードと確認しました。任務を続行してください。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

アレがアルザ・エラード、威圧感に満ちた風貌で、離れてみているこちらにもそのオーラが伝わってくるようだ。扉の方は兵士の何人かが開放を試みているがうまく行っていないようだ。

 

 

「閣下!扉のロックは解除できましたがなぜか開きません!」

「向こう側の電源が落ちている可能性がある。予備電源に切り替えろ。」

「はっ!」

「予備電源に切り替えます!」

 

 

ジジジバチッ!

「うわ!」

「どうした。」

「予備電源に切り替えた途端、扉全体が電気を帯び始めました!こんなはずは・・・。」

「構わん。開けろ。」

「はっ!」

ピッピッピッ…

 

 

現在部屋の中にいるのはターゲットも含め合計で12人。スリープクラウドで眠らせてもよいが密閉された空間なためこちらにも霧が来る可能性がある。一応対象選択はある程度できるので問題はないが、地下は基本的に風メイジにとって不利な場所なだけあってことは慎重に行うべきだ。そうこうしているうちに扉が開き始める。

 

 

ゴゴゴゴバシャア

「うわ!な、なんだあ!?」

「・・・!」

「中から水がこんなに!排水ポンプを作動させろ!」

「了解!」

「・・・これは。」

 

 

中から大量の水が漏れ出してきた。床があっという間に水浸しになるが、元々地下ということで雨水対策用の排水ポンプが常備されているようで、それを起動して何とか部屋全体が浸水する事態は避けられた。

完全に扉が開くと中にはうつ伏せになって倒れている人影があった。

 

 

「ハルドゥエラ様!」

「・・・。この様子では・・・。」

「・・・ダメです。もう亡くなられています。」

「中から水が大量に出てきたということは溺死か。」

「そのようです。・・・クソッ!なんでこんなことに!」

「ここはいい。上のシモンズに伝えてこい。」

「はっ!了解であります!」

タッタッタ…

「お前たちも仕事にもどれ。半分は建物の警備を固めろ。」

「了解!」

 

 

彼はテキパキと指示を飛ばしていた。12人居た兵士のうち6人が私の側を通り抜けて地上へ上がっていった。残りはターゲットを含めて6人だ。この程度なら・・・。

 

私は一人離れて壁に何かを書いている兵士を発見した。他の5人は・・・全員手元か別の方向を向いている。私は“サイレント”をかけた後、すばやく近づき兵士のすぐ後ろを通り抜ける。通り抜けるついでに当身を食らわせる。

 

ゴッ

「うぐっ!」

 

 

当身を食らわせつつ反対側の物陰に隠れ、当て身で気絶した兵士が倒れ込む前にレビテーションで支える。そしてそのまま近くの箱の裏に隠れてもらう。

 

 

「ん?あれ?あいつ何処行った?」

「あ?あれ?さっきまでそこで資材残量チェックやってたはずなんだが・・・。」

「ちょっと見てくるわ。」

「ああ。頼む。」

 

 

もうひとりが近づいてきた。私は物陰に隠れつつ丸い氷塊を作った。ウィンディアイシクルの応用である。兵士が辺りをキョロキョロ見回しながら近づいてくる・・・今!

 

 

シュ ゴッ

「ぐあ!」

 

 

氷塊を頭部に命中させ気絶させる。倒れ込むが、またすかさずレビテーションで支える。少し声が出たがサイレントのおかげで聞かれていないようだ。先程の兵士と同じところに寝かせると残りの兵士を確認する。

 

残りはターゲットを含め4名。残りの3名の兵士のうち2名は同じテーブルを囲んで何かを話し合っており、もうひとりは先程セーフルームで死んだ男の死体を片付けている。ターゲットは少し離れたところでその作業を見守っている。

 

ここは一気にかたをつけるために、強硬手段に出ることにした。私は机のすぐ横まで移動すると机に居る二人を一気に吹き飛ばしにかかる。

 

 

“エアハンマー”

「ぐあ!」

「ぎゃあ!」

ガシャーン

「ん?なんだ?」

「・・・?」

“ウィンド・ブレイク”

「ぐわ!!」

「なに?!」

 

 

机の二人をエアハンマーで壁際までふっとばした。流石に近すぎたようで気が付かれたがそのまま続行する。そのまま流れるようにウィンドブレイクで残りの一人の兵士を奥へ吹き飛ばした。私は空中に氷の矢を生成しつつ、ターゲットの目の前に躍り出た。

 

 

「な、何だお前は!」

「これで終わり。」

“ウィンディアイシクル”

「なっ!ぐおおお!!」

ザシュ

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『対象の心肺停止、確認。任務更新、新たな任務を通達、作戦地域より離脱せよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

終わった。私は慎重に階段を登り地上へ顔を出す。入口のある部屋には人影はなかったが部屋の外には数人の兵士が確認できた。どうやら気が付かれては居ないようだ。

 

部屋の入り口には兵士が立っているようだったので窓から出る。そのまま来た道を戻るように市街地を抜け、川までたどり着き、ここに来るときに使ったゴムボートを使って脱出した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~3日後~

 

 

『じゃあ結果を発表するわね。』

「・・・。」

『タバサ。あなたは・・・75点。まあ及第点ってところね。』

「・・・。」

『減点の理由はやっぱり交戦状態になったことが原因ね。意外にもブルーやシルバーより点数が低い結果になってしまったわね。』

「じゃああのセーフルームで溺死していた死体は。」

『ブルーが暗殺したターゲットね。彼女は今回うまくやってたわ。ほんとに、交戦状態にならなければ彼女たちを上回っていたのにね。』

「・・・あそこで敵の気配を読み間違えなければ問題なかった。」

『まあ、アレはある意味しょうがないとも言えなくはないわね。』

「・・・?」

『ともかく、これで試験は終了。今はゆっくり休みなさい。』

「この結果で今後の仕事内容が変わる?」

『そうとも限らないわ。上層部が実力を見たいだけだったようだし、実戦経験という意味では2人よりあなたのほうが上だしね。』

「・・・そう。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「北花壇の斥候」  +1000 『敵司令部の情報を入手する。』

・「眠り姫の誘惑」  +1000 『10人以上を眠らせる。』

・「ジャッキータバサ」+3000 『5人以上を気絶させる。』

・「砂漠の亡霊」   +3000 『ターゲット排除後、気が付かれずに脱出する。』

 

 

 




次回はシルバーsideです。


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HITMAN『ICAの試験 ~side.シルバー~』

『よく来たな!シルバー!ここはアサダーバードだ!』

 

『今回の任務は・・・あーなんだっけ・・・。ああそうだ!ココらへんに居るなんかやばい連中に加担してるアメリカ人を殺すことなんだそうだ。今書類見たから俺も今知ったけどな!』

 

『名前はパーティ・シナモンって奴だ!なんだか愉快なコメディアンみたいな名前だな!・・・・え?違う?何処が?・・・ああ!パーリー・シモンズだ!何ちょっとしたジョークだよジョーク!でもシナモンのほうが覚えやすいし親しみやすいと思わないか?軍事顧問が親しみやすい必要はないかもしれないけどな。』

 

『依頼主の情報も言ったほうがいいか?任せておけ。えー・・・あー・・・アレだ。あの五角形の・・・ああ思い出したペンタゴン!そうペンタゴンだ。そこのお偉いさんからの依頼だとさ!なんでかって?それはこの長ったらしい文章を読まなきゃならねえから勘弁してくれよ。』

 

『ああそうそうこれだけは伝えておけって念押されてたんだ。今回の任務はな、ターゲット以外は殺しちゃいけないんだそうだ。全く面倒なもんだな?なんでかって?上の命令なんだ俺が知るわけ無いだろう!』

 

『準備は一任するぜ。頑張ってこいよ!』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

なんだろう。何故かやたらフレンドリーというか大雑把なオペレーターに送り出された気がする。ともかく俺は今アサダーバードという町に来ている。どうやらここに居るオペレーター曰く“やばい連中”に加担しているアメリカ人、パーリー・シモンズがターゲットだ。

 

今回は47も居なければ姉さんも居ない。完全に一人のミッションだ。しかも相手は武装組織のお偉いさん。容易なことではないだろう。俺は街の西側から潜入している。この街は東西に広く市街地が分布している。そのため隠れられる所も多いが、不意なエンカウントも多いと予想される。十分に注意しなくては。この世界ではポケモンバトルなど生易しいものは行っていないのだから。

 

市街地は建物が多いが人はほとんど見かけない。長年続いた内戦とゲリラの暗躍によってゴーストタウンと化している。崩れている建物も多く、屋根が抜け落ちている建物もあった。俺はそんな中を曲がり角に来るたびに用心しながら進んでいく。

 

山を完全に降り、中心部と言えるような場所にやってきた。そしておそらくターゲットが居ると思われる場所も見えた。内戦の影響で営業をやめたスーパーマーケットのようだ。俺は正面方向から近づいていく。

 

 

「あーあ・・・腹減ったなあ・・・」

「!」

 

 

スーパーの前の駐車場の外周には塀があり、その更に外側を一人兵士が巡回していた。危うく姿を晒すところだった。だがよく見るとその兵士は俺と対して背丈に違いがない。これはチャンスだ。

 

 

「出てこい、ドンカラス。」ガー

「ドンガラス、あの兵士に“ふいうち”だ。」ガー

 

「ん?何だこの音・・・うわ!」ドゴ

「よしうまく行った!よくやったぞドンカラス。」パシューン

 

 

ドンカラスのふいうちでうまく当身の要領で気絶した兵士を倒れる前に抱え、そのまま後ろ向きに路地裏に引きずり込んだ。よし、この服をうばってこの兵士になりすませば・・・

 

 

ビー

「6-7-4、こちらG-1、何をしている。状況を報告せよ。」

 

 

不意に何処からか声が聞こえてきた。こいつの無線機からだ。どうやら何処からか見えていたらしい。どうする。声でバレるかもしれない。でも今からこいつを叩き起こして応答させるわけにも行かない・・・。

 

 

「6-7-4、応答せよ。」

 

 

考えている余裕はない。バレて元々だ。俺は無線に応答した。

 

 

「・・・あー、こちら6-7-4。」

「6-7-4、そんなところで何をしている。通常の巡回ルートから外れているぞ。」

「あー、えーと・・・少し気になるものを見つけたもんで。大丈夫、すぐ戻る。」

「ううむ・・・G-1了解。早めに戻るように。」

「6-7-4、了解。」

 

 

危ないところだった。なんとかごまかせたようだ。早く巡回ルートとやらに戻らねばならない。俺はこいつの服を剥ぎ取り着替えた。気絶した兵士は一応手足を縛って近くのゴミ箱に入れておいた。銃を持って巡回ルートに復帰する。ああ、あいつか。スーパーの屋上に兵士がひとり立っていた。あいつに見られたらしい。

 

ポケットの中に巡回ルートを記した紙が入っていた。書いてあるとおりの巡回ルートに従って巡回すれば問題は無さそうだ。

 

 

「CPより各小隊へ。アサダーバードに不審人物が少なくとも3名侵入したとの報告あり。厳重に警戒せよ。」

 

 

指令センターからの指令が来た。侵入が発覚したらしいが3名とはどういうことだろうか?俺の他に3人組で侵入してきているのが居るのだろうか?若干不安になりつつも巡回ルートを急ぎ足で回る。するとまた通信が入った。

 

 

「6-7小隊全員へ、こちら6-7-1。HQから通達だ。6-7小隊はこれより臨時で本部警備に回される。各員定例巡回を中止し、本部へ帰還せよ。」

「6-7-4了解。」

 

 

先程の侵入者のおかげで本部へ潜り込むことができそうだ。俺はスーパー跡に向かった。

 

 

 

 

問題が発生した。どうやら入り口で帰還する兵士一人ひとりの顔とIDをチェックしているようだ。6-7小隊と思われる兵士が次々とチェックをパスして中にはいっていく。遠目で見る限り、手元のチェックリストに記載していく形式のようだ。あのチェックリストさえ強奪できれば・・・。あまり長い間もたつくのは不審に思われる危険性が有る。早めに対処しなければならないが・・・。

 

中から別の兵士がぞろぞろと出てきた。俺はとっさに身を隠す。どうやら2個小隊が侵入者の排除に向かうようで、それぞれが別々の方向へ走っていった。あまり広くないと思われるこの建物で2個小隊が出払ったということは中は今手薄になっていると思われる。仕方がない。強行突入することにしよう。

 

 

「出てこい、オーダイル。」ガウー

「オーダイル。あの入り口の兵士にむかって“ハイドロカノン”だ。」ガウー

 

 

バシュンバシュン

「うわ何だこのぼぉ!」

「お、おい!だいじょごぼぉ!」

 

「いいぞ。よくやった。戻れ。」パシューン

 

 

オーダイルのハイドロカノンによって兵士二人は水の塊と一緒に壁に叩きつけられ気絶したようだ。俺はすばやく駆け寄ってチェックリストを奪取。備え付けのボールペンで6-7-4の項目にチェックを付けた。それを放り投げると俺は何食わぬ顔で基地内に潜入した。

 

 

 

基地内は慌ただしく、スーパーの奥の倉庫の付近では兵士が忙しく出入りするのが見えた。・・・ん?気のせいか懐かしい雰囲気が有るような・・・。しかしこんな荒れ果てたスーパーはおろか、幼い時は買い物にすらロクに行ったことのない俺にとって懐かしいと感じるのはおかしな話だ。この感覚はなんだろう・・・?

 

ともかく、俺はそのまま一緒に倉庫内に侵入し、何か使えるものがないかを探した。すると奥の棚に調味料関連が箱に入ったまま放置されているのを発見した。俺は箱を開けて中を見てみるとパッケージにはアラビア語でトマトペーストと書いてあった。しかし透明な容器に入れられたその自称トマトペーストは明らかに腐敗しており、色も青緑に変色していた。使えるかもしれないので一応とっておく。別の棚には殺虫剤などが置かれていた。モグラ用のホウ酸団子などもある。俺はその中から見知ったパッケージの殺鼠剤を取り出した。よし、このくらいでいいだろう。ターゲットを探すことにする。

 

俺は2階3階と上がっていき、司令室を発見した。この格好のおかげで小隊メンバー以外にはバレ無さそうなのでそのまま中に入った。中には何人かの兵士とターゲットが居た。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『お、ターゲット発見したのか!やるじゃねえか!そいつがパーリー・シモンズってヤローだ。さあ一発ドカンとぶちかましてやれ!』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

こんなところでぶちかましたら間違いなく大騒ぎだ。このオペレーターは何処か抜けてる気がするな。俺は自然体で部屋の隅の壁際に立って警備を装った。

 

 

「北方向から1名、南方向から1名、西方向から1名だ。それ以降の足取りはまだ掴めんのか。」

「今第4小隊と第5小隊が捜索に向かっています。第1小隊は地下司令室防衛。第2小隊は東側の警戒を行わせています。」

「司令部の警備は。」

「は、巡回中だった第6小隊を呼び戻して警備に当たらせています。」

「第6は少人数だから致し方ないか・・・。」

 

 

ターゲットたちが作戦会議を行っているようだ。どうにかして不意が打てればいいのだけど・・・。どう始末するか思案していると外から銃声が聞こえてきた。

 

 

 

ダダダダダダ

 

「!?何事だ!」

「CP、CP、こちらHQ。周囲での発砲音の詳細を報告せよ。」

「HQ、こちらCP。現在第4小隊が南側で不審者を発見した模様。交戦状態に入っています。」

「応援は向かわせたか。」

「応援はすでに向かわせています。第7小隊と第5小隊が現地に急行中です。」

「了解。引き続き警戒しろ。」

「CP了解。」

ダダダバァーン

「くっ!お前たち!全周警戒!」

「はっ!」

 

 

しめた。部屋の人員は混乱して窓の外を警戒し始めた。今ターゲットの周囲はがら空きだ。が、ターゲットをここでやるには、流石にまだひと目が多すぎる。しかし彼の飲んでいたお茶には誰も目もくれていない!

 

俺はすばやくターゲットの近くに近寄り、お茶に殺鼠剤を混入させた。俺はそのままターゲットに話しかける。

 

 

「シモンズ様。ここは危険です。お下がりください。」

「なに?!俺は軍人だ!この程度で引き下がってたまるか!」

 

「敵兵!ロストしました!」

「ちっ!第7小隊を追撃に回せ!第5小隊は第4小隊と合流の後速やかに本部まで撤退してこい!」

「了解!」

 

 

俺は混乱している部屋から気が付かれないように静かに廊下に出る。そしておそらく駆け込んでくると思われるトイレに身を潜めることにした。47直伝のあの暗殺法を試してみようと思ったのだ。

 

 

トイレに入った俺は愕然とした。誤算だった。まさかトイレに水がないとは思わなかったのだ。どうする・・・。もうすぐターゲットが来てしまう。水を補給するのは簡単だが普段無い水が補給されていたら不審に思われる可能性もある。俺はトイレ内になにかないか探した。

 

 

 

これだ。用具入れの中に何に使うかよくわからないがロープが仕舞ってあった。これを使うほかないだろう。外では銃撃戦が終わったようだ。また周囲は静けさを取り戻す。

 

 

 

 

しばらく待っているとトイレに駆け込んできた人物が居た。ターゲットだ。口を抑えつつ一番手前の個室に入っていった。俺は静かに後ろから近づき、一気にロープをターゲットの首にかけ腰で背負うようにして首を絞めた。ターゲットは声も出せずにもがいているがすぐに動かなくなった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『・・・お?ああ、終わったか?・・・うん!パーリー・・・なんだっけ?まあいいや。そいつの死亡を確認したぜ!やったな!じゃあとっとと帰ってこいよ!』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

このオペレーターはやる気があるのだろうか?まあともかく、目的は達成したので後は逃げの一手だ。俺は首を絞めるのに使ったロープをトイレの窓から垂らして特殊部隊のようにラペリングして降りた。そしてそのまま近くの塀を乗り越え路地裏に入った。

 

 

 

・・・この感じ・・・どこかで・・・。思い出した!姉さんがバトルをしているときの感覚に似ているんだ。でも何故ここでその感覚が?疑問に思いながら路地を走る俺は路地の裏に倒れている兵士を発見した。そのそばには見慣れた足跡が有る。・・・そうか。侵入者ってのは姉さんのことだったんだ。あの足跡は間違いなく姉さんのニドクインの足跡だろう。何だやっぱり近くに居たんじゃないか。心の奥底に引っかかっていたトゲが一つ取れた気がした。

 

 

俺は姉さんの足跡をたどるようにして市街地を脱出し、ICAの迎えの車両に乗って脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

~3日後~

 

 

 

『結果を発表するわ。』

「・・・。」

『シルバーの点数は80点。合格ね。お姉さんには及ばなかったけれど。』

「やっぱり姉さんもあそこに居たんですね。」

『あら、やっぱり気づいてたのね。最後にあなたが通った帰還ルートを見れば当然か。』

「あの感覚、あの足跡、あの風。みんな姉さんを暗示していました。間違えるはずはないです。」

『あんまりそういうのは本人の前では言わないようにね。』

「何故ですか?」

『ストーカーと間違われるわよ。』

「!?」

『まあいいわ。あの時47に見つかっていなければほぼ満点だったんだけどねえ。』

「47もあの場に居たんですか?」

『あら、そっちは気が付かなかったのね。それが気がつけるようにならないと47には追いつけないわね。』

「・・・。」

『まあともかく今はゆっくり休みなさい。あなた。この3日間ずっと怖い顔してるわよ。』

「そう・・・ですか?自分では普通の顔していたつもりなんですが。」

『あなた初めて人を間近で殺したでしょう。その影響ね。』

「・・・。」

『ブルーと一緒に今は休んでいなさい。これは命令よ。』

「わかりました・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「銀色のピエロ」   +1000 『敵兵に変装する。』

・「いらっしゃいませ」 +1000 『敵本拠地に正面から侵入する。』

・「過去には頼らない」 +1000 『マニューラを使わない。』

・「最も基本的な方法」 +3000 『ターゲットをワイヤーで絞殺する。』

 

 




2019/06/17追記
2~3話前に突発的に思いついた趣向だった気がします。

次回はブルーsideです。


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HITMAN『ICAの試験 ~side.ブルー~』

『ようこそ。アサダーバードへ。ブルー。』

 

『私は今回の作戦をサポートするAIオペレーターです。』

 

『作戦概要。アサダーバード内に潜むターリバーン系武装組織“ナルフッタ・クイール”の参謀を務めているハルドゥエラ・カリがターゲットになります。』

 

『依頼人情報。アメリカ国防総省統合参謀本部長様より承っております。依頼理由。同地域内におけるアメリカ軍兵士の補給路確保のため。対抗勢力弱体化工作。』

 

『今回の作戦は上層命令として“ターゲット以外の殺傷の不許可”が出されています。ご注意ください。』

 

『準備は一任されています。ご武運を。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

はじめての一人での実戦任務。それだけ信頼されてきたってことかしら。シルバーは別の任務で頑張ってるみたいだったし、私がここでしくじる訳にはいかないわよね。目標は武装勢力の参謀。人を殺すのはまだあまり気がすすまないけど私ならやれるわ。自信を持たなくちゃ、何のために今まで頑張ってきたのかわからなくなっちゃう。

 

まずは町の外周部から偵察ね。私が今いるのは町の北側、結構広い田園地帯の西の端っこ。ここは微妙に標高が高くて町の詳細がよくわかるわ。

 

 

・・・っと、一番目立ってる建物の屋上に銃を持った兵隊が居た。他の家にはそんな兵隊は立っていないし、あの建物はこの町でどうやら一番大きそう。軍事拠点化するのには最適ね。とりあえずあそこを目指しましょう。

 

まずは田園地帯を通り抜けなければならないのだけど、このまま進んだんじゃすぐにあの兵隊に見つかってしまうわね・・・そうだわ。

 

 

「でてきて、メタちゃん。」ポポン

「メタちゃん、この田んぼの色と感じに変身して私を覆って。」

 

 

メタちゃんは詳細に体の大部分を田んぼの色合いと少し茂った草に擬態させた。そして半球ドーム状に展開すると私に覆いかぶさった。これで遠目からではまず見破られることはない。私ってば冴えてるぅ!

 

私とメタちゃんはそのまま田んぼが終わるところまでその状態で移動した。何処からも撃たれず騒ぎにもなっていないところを見てバレずに進んでこれたようだ。市街地との境界にたどり着いて、直ぐ側の路地裏に入った。

 

 

「ありがと。メタちゃん。戻って。」パシューン

 

 

メタちゃんを戻した後、慎重に目的の建物まで路地裏を伝って進んだ。路地裏には偶に兵士が巡回しているようで何度かバレかけたけど大事にならずに目的の建物までたどり着くことに成功。この塀の向こう側が目的の建物、どうやら元々スーパーか何かだったみたいね。でも塀から建物までが少し距離があって、塀を乗り越える時にかなりすばやく越えないと屋上の兵隊に見つかりそう・・・。でもあの兵さっきから一方向ばかり見てるからひょっとしたら行けるかしら・・・?

 

観察していると兵隊に動きがあった。胸につけている通信機となにか連絡をとったと思えば屋上の奥の方へ歩いていってしまった。よくわからないけどこれはチャンスね。塀自体は大した高さじゃないから訓練を積んだ私にとって越えることはお茶の子さいさい。この程度ならぷりりの力を借りるまでもないわ。

 

首尾よく建物に張り付くことが出来た。敷地内は雑草が生い茂っていて隠れるところは十分にありそう。建物内はなんか騒がしいけどとりあえず入れそうなところを探しましょ。建物のこの面はドアどころか窓すら無いからとりあえず少し西に移動して・・・。

 

 

「ん?何だ?今音がしたような・・・。」

「(やば。)」

 

 

草むらを進んでいく音を西側を巡回していた兵隊に気付かれたらしい。どうしよう・・・やり過ごせればいいけど、この世界の人って発見したら反射で銃を撃っちゃうからポケモン出してる余裕もないし・・・。うん、やっぱり今のうちに先制攻撃有るのみ!

 

 

「でてきて、ブルー。」ガウッ

「ブルー、茂みに隠れながらあの兵士の後ろに回り込んで“とっしん”よ。くれぐれも見つからないようにね。」ガウッ

 

 

ブルーは巧みに茂みに身を隠しながら移動している。私は少し離れたところから見守る。兵は段々とこちらに近づいてきている。間に合って・・・!私と兵の距離が2mを切ったその時。

 

ガウッ!

「ん?うぉわ!」ゴッ

「やった!」

 

「お疲れ様。ブルー、いい感じよ!」パシューン

 

 

ブルーの突進は綺麗に兵士の腰のあたりに直撃し、兵士は壁に叩きつけられてノビてしまった。作戦成功!でも大きな音が建物の中に響いた可能性もあるから早めに移動しなくちゃね。

 

私は西側をちら見すると直ぐ側に中にはいれそうな壊れた窓があった。周囲に目を配りつつ窓を覗いた。窓の向こう側は荒れ果てた部屋があった。余り物が置いていないので何に使われていたのかさえよくわからない。しかし敵兵も居なかったので私はそのまま窓から内部に侵入した。

 

 

入った部屋には何もなかったが、隣の部屋には機械が色々置いてあった。隣の部屋との壁が崩れて通れるようになっていたので、そのまま部屋の中を探索した。入り口はコンクリートか何かで塗り固められていた。ということは本来この部屋は入ることはできない部屋になっているということ。私はこのおいてある機械に何が秘密があるんじゃないかと思い詳しく調べることにした。

機械はボイラーのような構造をしていたけど、動いている音はするのに熱は発せられていなかった。

 

 

「でてきて、ニドちゃん!」ガー!

「この大きな機械を取り外して。」ガウ

 

私はニドちゃんに頼んで地面にめり込んでいる空気清浄機付きダクトのようなものを外してみた。中は結構深い。私がどうやって内部を調べようか思案していると、

 

 

 

ダダダダダダ

 

外から銃声が聞こえた。何やら戦闘が勃発しているらしい。物騒な地域だとは聞いていたけど日常的に襲撃があったりするのかしら?

するとダクトの下から重い扉が開く音がした後、声が聞こえてきた。

 

 

「い、いいかおまえら!敵が排除されるまで俺はこの部屋から出ないからな!」

「わかってますから落ち着いてください。ハルドゥエラ様。ここなら安全ですから。」

「お前たちは全員侵入者の排除に向かえ!急げ!」

「わかってますわかってます。ではここから動かないでくださいね。扉を閉めます。」

「早く!急げ!」

 

 

どうやらこの下はセーフルームっぽいわね。ということはこの部屋にあるいろいろな機械はそのセーフルームの生命維持装置ってことなのかしら。

私はとりあえず下のセーフルーム内にいるのが何人かを確認することにした。声が1人以外聞こえないので多分1人だとは思うのだけど。

 

 

「メタちゃんもう一回お願い!」ポポン

「望遠鏡に変身できる?この下の部屋がどうなってるのかがみたいの。」

ウニュウニュ

 

メタちゃんはぐねぐねと体をこね回すと、ダクトの中に体を半分垂らしていった。そのうち流体状の体が固まって黒い望遠鏡みたいなものになった。潜水艦の潜望鏡を上下逆にした感じといえばわかりやすいかしら?

私はそれを覗くと、下のダクトカバーの手前にレンズの先があるような感じに見えた。ダクトカバーは格子状で中が微妙に見える。中にはやはり人は一人しか居ないようだ。私はその人物の顔を確認した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『映像解析中・・・完了。ターゲットを確認しました。ハルドゥエラ・カリです。任務を遂行してください。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はそのままセーフルームの構造を把握しにかかる。セーフルームはベッドやソファなどがあり、壁には重火器が見える。しかし扉は厳重に閉められており、NBC対策なのかドアは水密式。これはチャンスね!

 

 

「ニドちゃん、メガトンパンチでこの部屋にある機械を全部壊しちゃって!」ガー!

 

 

ニドちゃんは手始めに一番手前にあった配電盤のような機械に一発お見舞いした。ダクト下から漏れ出ていた光が消えた。どうやら本当にセーフハウスの配電盤だったようね。ようし!この調子でどんどんやっちゃいましょ!

 

色々なものを手当たり次第に壊していく。ボイラーのような大きな機械、貯水タンク、もう一つあった空気清浄機っぽい室外機も。ありとあらゆる物を壊している。結構派手な音がしてるけど、外でも似たような音がしてるから多分大丈夫よね?

 

あらかた壊し終わった後の惨状はなんとも言えないものね。一発ミスって壁に穴開けちゃったけど大丈夫かしら・・・。

 

 

「ご苦労さま。今は休んでて。」パシューン

 

「なんだ、何が起こってるんだ!暗くて何も見えないぞ!」

 

 

下にいるターゲットは相当慌ててるわね。でもやってるうちに気がついたけど、ここの機械壊してもせいぜい扉が開かなくなるくらいでターゲット自体は生きてるのよね・・・一緒のこと唯一の換気口であるここを塞いじゃうって手も・・・。ああ、そうだ。

 

 

「カメちゃん、でてきて!」ガメー

「カメちゃん!このダクトに水を大量に流し込んで!」ガメー

バシャー

「うわ、なんだ!水が!どうなってるんだ!」

「いいわよカメちゃん。どんどん流し込んで。」

 

 

セーフルームはこの換気ダクトしか出入り口がない状況。そこから大量の水を流し込んで水で満たしてしまえば・・・扉を開けられないターゲットは万事休すってわけ。

カメちゃんは順調にセーフルーム内を水で満たしていってる。ターゲットはもうバシャバシャもがいている音がするだけになっている。そのうち水面が上からでも確認できるほどになった。セーフルーム内を完全に水で満たせたようだ。

 

 

「カメちゃんもういいわ。水を止めて。」ガメッ

「ついでにこのあたりにある瓦礫で蓋しときましょうか。」

 

 

私はカメちゃんに適当な瓦礫を指定すると、換気ダクトを完全に塞ぐように設置してもらった。これで完了っと!

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの生命反応消失を確認。作戦地域からの離脱を開始してください。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ご苦労さま!ゆっくり休んでて。」パシューン

 

どうもこのAIオペレーターってのは人間味がなさすぎて好きじゃないわね・・・。ともかく作戦は完了。さっき壁に開けてしまった穴から外を確認する。なんか遠くでやってたゴタゴタもいつの間にか静かになってるし、巡回が戻ってくる前に早めに脱出しなきゃ。周りに人が居ないことを確認した後、慎重に穴から出て塀の近くの茂みに身を隠す。屋上を確認すると誰も居ないようだったので、私はすばやく塀を乗り越えた。

 

 

ビービービー

 

塀を乗り越えた瞬間、後ろの建物内で警報音がなり始めた。もしかしてもう発見されたの?セーフルームなだけあって予備電源くらいは用意してたってことかしらね。まあともかくすでに建物の外にいる私は捕まえられないわよっと!

 

そのまま来た道を戻るように路地を縫って進む。途中何度か巡回兵に出くわしたけどブルーとニドちゃんの“とっしん”の前に銃を打つ前に気絶させることに成功したから無問題。私はそのまま市街地を抜けて北側の田園地帯の端まで走り、ICAの用意した車両で脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~3日後~

 

 

『では結果を発表するわ。』

「・・・。」

『ブルーあなたは85点。合格よ。』

「!・・・やった!」

『敵兵を1名も殺傷せず、敵兵に侵入を気づかれこそしたものの位置の把握をさせなかった。そして確実にターゲットのみを暗殺することが出来た点が評価されたわね。』

「あのときはこれが試験だとは微塵も思ってなかったですけどね。シルバーも別の地域に行ってるのかと思ってたし。」

『あら、シルバーはあなたがあそこに居るのはわかっていたようよ?あなたは気が付かなかったのね。』

「えっ?もしかして近くに居たのかしら?」

『いいえ、どうやらそういう気配とか感覚的なことらしいわね。確証を持ったのが撤収してる最中だったらしいけど。』

「そう・・・後で問い詰めなきゃ!そういう気配みたいなのが命取りになるってこの前47も言っていたし。」

『そういえば47が居ることも気がついた?あなた達の監督役をやっていたのよ?』

「えっ!?全然気が付かなかった・・・。」

『あらあら。一番目立つところに居たのにね。それに気が付けないようでは後の15点はあげられないわね。』

「うーんまだまだ精進が必要みたい・・・。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「チュートリアル」  +1000 『潜入してターゲットを暗殺する。』

・「サイレントガール」 +3000 『敵兵に位置を把握されないで任務を遂行する。』

・「仲間とともに」   +1000 『3匹以上のポケモンを使用する。』

・「プライベートビーチ」+3000 『セーフルーム内にいるターゲットを溺死させる。』

 

 

 

 

 






次回は47sideです。


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HITMAN『ICAの試験 ~side.47~』

『アサダーバードへようこそ。47。』

 

『ここは世界一危険な国境として裏社会ですら恐れられるパキスタンとアフガニスタンの国境地帯。アメリカ軍ですらあまりの攻撃頻度に撤退を余儀なくされた超危険地帯よ。』

 

『でも今回、47にやってもらいたいのは実は暗殺ではないの。ブルー、シルバー、タバサが最近加入したおかげでICAも諜報員補充のめどがたったんだけど、上層部はまだ彼らを暗殺者としては信頼しきれていないみたいなの。そこで上層部は3人を試験することにしたの。』

 

『ターゲットは3人。このアサダーバードを拠点とする武装組織、最近急速に勢力を伸ばしているターリバーン系の過激派組織の一つ“ナルフッタ・クイール”。その指導者アルザ・エラード。その側近であるハルドゥエラ・カリ。最後の一人はアメリカからやってきた軍事顧問のパーリー・シモンズ。この3名よ。』

 

『彼ら3人をブルー・シルバー・タバサの3人が個別に別々の目標を暗殺するわ。47にはその成果査定と緊急時の対応をお願いしたいの。上層部からは、くれぐれも47がターゲットを始末するような事態にならないようにと厳命されている。注意してね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

ジリジリと照りつける太陽が道に陽炎を作っている。私は今、ターゲットの所属する武装組織の兵士に扮して最上階から周囲を監視している。今回試験が行われる3人にはターゲット以外の死者を出さないようにと命令が下っているとのことだ。よって私が見晴らしの良いところで監視していても、弾丸が飛んでくる可能性は低いだろう。

 

今回は特別に技術部特製の耳あてとガスマスクが支給されている。ブルーのポケモンの眠気を誘う歌やタバサの眠りの霧から身を守るためだ。しかし耳と口と鼻を覆うこの装備はこの炎天下ではかなり暑い。ここで通信が入る。

 

 

『47、シルバー、ブルー、タバサの三名が町に入ったわ。そちらから確認できるかしら?』

「いや、こちらからは確認できない。少なくとも訓練施設では堂々と街のメインストリートを歩けとは教えられないはずだ。」

『そう。少なくとも第一歩は合格ね。』

「こちらは普通に現地兵と同じように対応してよいのか?」

『基本的には現地兵になりきって行動して頂戴。ただ弾丸は当てないようにね。』

「了解した。」

 

 

私はそのまま屋上で見張りを続ける。この建物は廃業したスーパーマーケットをベースキャンプに改造して使用しているようだ。3階建てで、私はその上の屋上にいる。内部にはアサルトライフルで武装した多数の兵士がおり、3階中央の部屋にターゲット3名の内2名が居る。もうひとりは地下の駐車場を改造して作られた研究施設におり、どちらも警備はかなり厳重である。

 

私は見張りを続けながら、彼らがどんなアプローチを仕掛けてくるのかが楽しみになっている。っと、建物の敷地の外で巡回中の兵士が一人路地に後ろ向きに入っていくのを確認した。おそらく3人のうちの誰かだろうが私は現地民と同じように対応する。

 

 

「6-7-4、こちらG-1、何をしている。状況を報告せよ。」

「・・・。」

「6-7-4、応答せよ。」

「・・・あー、こちら6-7-4。」

「6-7-4、そんなところで何をしている。通常の巡回ルートから外れているぞ。」

「あー、えーと・・・少し気になるものを見つけたもんで。大丈夫、すぐ戻る。」

「ううむ・・・G-1了解。早めに戻るように。」

「6-7-4、了解。」

 

 

かなりギリギリだがまあセーフにしておこう。あの声はシルバーか。すぐに6-7-4が路地から出てきた。だが遠目からでもわかるその赤黒い髪はシルバーの髪だ。小隊長クラスならば見破るかもしれないな。

 

 

「CPより各小隊へ。アサダーバードに不審人物が少なくとも3名侵入したとの報告あり。厳重に警戒せよ。」

 

 

CP、つまりコマンドポストからの通信が入った。3人の侵入が発覚し、建物内の兵士も警戒態勢に移行した。

 

 

『47、3名の侵入の情報をHQに流したわ。行動が雑になって露呈するかもしれないから注意深く見てて。』

「了解。」

 

 

私は一度屋上から降りて、3階の作戦司令室に移動した。中ではターゲットのうちの一人である、パーリー・シモンズが各小隊長に指示を飛ばしていた。

 

 

「屋上の警備だな、お前も手伝え。」

「なんなりと。」

「第4小隊に随行して東側で先程定時連絡が途絶えた第8小隊の状況を確認してきてくれ。」

「了解。」

 

 

私は第4小隊の隊長についていく形で部屋を出た。正面から出て東へ向かう。路地裏は入り組んでおりいつ何処から敵が出てきてもおかしく無さそうな雰囲気をしている。

路地裏を数百メートルほど進むと通路の奥、定期巡回コース上で複数の倒れている兵士を発見した。私は小隊長に許可をとって、用心しながら現場へ向かった。

 

 

「・・・。」

「・・・。」

 

 

兵士が倒れている角を曲がると、ターバンに身を包んだ小柄な人物が、路地裏の奥まった場所に眠らせた兵士を運んでいる最中に出くわした。私は兵士になりきらねばならないのでそのとおりに行動した。

 

 

「コンタクト!」ダダダダ

「!」サッ

「どうした!」

「前方のゴミ箱に不審者1名。仲間の兵を引きずって何処かへ運ぼうとしていました。」

「何だと!あの箱だな!小隊!攻撃開始!」

「私は通信を。」

ダダダダダダダダ

「CP、CP、こちら4-10。」

「こちらCP。」

「正体不明の不審人物をエリアK-7にて発見。現在交戦中。」

「CP了解。全隊に通達。最寄りの小隊は至急応援に向かえ。」

 

 

私は手順通りに通信をして応援を要請した。すると向こうもまずいと思ったのか応戦してきた。路地で制圧射撃をしていた兵士何名かがエアハンマーで吹き飛ばされ壁に体を打ちつけて気絶した。私も路地から身を乗り出して応戦する。するとゴミ箱の向こう側から青白い霧が出てきて私達を包んだ。通信が入る。

 

 

『47、スリープクラウドに被曝。10分間行動停止。』

「了解。」

 

 

周りに居た第4小隊の面々もその霧にやられ次々と倒れ眠っていく。私はガスマスクのおかげで防げてはいるが効いたという体でその場に倒れる。

 

その場に居た全員が倒れ伏すと、ゴミ箱の奥からタバサが出てきた。兵士ひとりひとりをレビテーションで浮かばせながら順番に引きずっていった。しかし時間が足りなかったようだ。3人目を運ぼうとしたときに,なにかに気がつく素振りを見せると足早にその場から去っていった。

 

少ししてから路地の反対側から別の小隊が駆けつけてきた。兵士一人ひとりを起こして回っている。私も何度か顔を叩かれて起きたふりをする。

 

 

「どうした!なにがあった!」

「わからない。敵性勢力と交戦中に急に意識がなくなった。」

「敵は何処へ行ったかわからないか?」

「気を失っていたのでわからない。ただ相手は一人だった。」

「一人か。他にも2名ほど侵入しているようだからな・・・我々は第5小隊だ。これより第4小隊と合流する。」

「了解。」

 

 

私達は一度本部の建物へ戻ることになった。第5小隊に先導されつつ本部の建物に戻ると、入口に居た兵士二人が気絶しているのを発見した。周りはなぜか水浸し、彼らもびしょ濡れだ。小隊長が駆け寄って声を掛ける。

 

 

「どうした!何があったんだ!」

「・・・うっ・・・ここは・・・。」

「気を確かにもて、本部の前だ。」

「あいたたた、何故か急に洪水のような水が押し寄せてきて・・・後は覚えてねえ・・・。」

「洪水だと?そんな物起きるわけがないだろう!」

「本当だよ!現にこの辺濡れてるじゃねえか!」

「ううむ、一体どういうことだ・・・。」

 

 

小隊長が首を傾げるのも無理はないだろう。この周辺は乾燥した山岳地帯だ。雨が降ることはあっても洪水などはめったに起こらない。ましてや同じ町中に居た我々には、影響どころか音すら聞こえなかった洪水など、夢でも見ていたのではないかと思うのも仕方のないことだろう。

 

私はそのまま正門の二人を起こしつつ、確信する。すでにこの建物の内部に誰かが潜んでいるか誰かに変装しているのだということを。通信が入った。

 

 

『47,ターゲットの一人、ハルドゥエラ・カリの死亡を確認したわ。暗殺に成功したのはブルーのようね。彼女のポケモンがパニックルームを水で満たしたみたい。』

「ほう。なかなかやるな。では後二人か。」

『ええ、ブルーはすでに脱出を始めてるわ。』

「そう言えば今回は彼らにオペレーターは付いていないのか?」

『付いてはいるわ。ただ人間ではないけれどね。』

「人間ではない?」

『ええ。外部招致でICAに来たAIの専門家が作った管理AIが彼らのオペレーターを務めているわ。これも試験のうちなの。』

「なるほど。そのうち君もお役御免になる日が来てしまうかな。」

『あら、私は今のこの仕事を譲る気はなくてよ。今回も試験段階で採用はまだ当分先。採用される頃には私は引退してるわ。』

「なるほど。とにかく、後二人。このまま観察を続ける。」

『ええ、お願いね。』

 

 

今更だが通信は体内通信で行われている。フォックスハウンドの技術を流用して作られているらしく、これがあれば周囲に気取られること無く本部と通信が可能ということで今回導入されたものだ。

 

私は本部内に戻り、3階の司令室へ向かった。司令室ではターゲットのパーリー・シモンズが引き続き陣頭指揮を取っていた。私が部屋に入り、路地で起こったことを報告していると伝令と思われる兵が駆け込んできた。

 

 

「報告!ハルドゥエラさまが敵の攻撃により死亡!」

「なんだと!?それは本当か!彼はパニック・ルームにいたのではないのか!」

「それが、パニック・ルーム自体が水で満たされていたようで。外から開いたときにはすでに溺死されておりました。」

 

「なんと・・・一体どうやってそんな大量の水を・・・。」

「わかりません。現在、地下司令部はエラード様が指揮しておられます。」

「わかった。私も少ししたらそちらへ移る。準備をしておけ。」

「はっ!」

 

 

伝令兵は威勢のよい返事をした後部屋を出ていった。シモンズは頭を抱えてなにかぶつぶつと独り言を言っている。そのうちのどが渇いたのか台に乗せてあった飲み物を口にした。ああ、なるほど。そういうことか。

 

 

「うぐぐ、こんなときに・・・うっぷ・・・」

「シモンズ殿。いかがされましたか。」

「ちょっと気分が悪い。トイレに行ってくる。私はその後そのまま地下へ向かう。後を頼むぞ。」

「了解しました。」

 

 

私は彼がトイレに行くのを横目で見つつ作戦司令室の台の上の地図を眺めていた。少ししてから通信が入った。

 

 

『47,二人目のターゲット、パーリー・シモンズの死亡を確認したわ。やったのはシルバーのようね。』

「ほう。やはりあの後そのまま内部に潜伏していたか。死因は予想通りだろうな。」

『そうでもないわよ。トイレの中でワイヤーによる絞殺。この辺は水道が通ってないからトイレにも水が溜まってないのよ。』

「そうなのか。ともかくあと一人だな。それが終われば私も退却してよいのか?」

『ええ。そう・・・っと。もういいみたいよ。』

「ん、ということは。」

『ええ、アルザ・エラードの死亡を確認。タバサがやったわ。死因は氷の矢による串刺しね。』

「あいつらしいやり方だ。」

『直にそこも騒がしくなると思うから今のうちに覚悟しておいてね。』

「了解だ。」

 

 

ビービービー

その言葉通り、少し経ってから建物内で警報がなり始めた。戦闘態勢になって外を見る。外では兵士たちが右往左往しながら侵入した敵を探していた。私は屋上警備に戻っていたが、警報に際しあたりを見回すと、東の外壁から小柄な不審者が飛び降りるのが見えた。そこで通報しても良かったかもしれないが、それ以降姿が見えなくなったので見間違いということにしておいた。

 

それから数十分ほど屋上で警備した後、建物から出て外の警戒を始めるついでに街の端まで行って、放置されていた車を使って脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~1ヶ月前~

 

 

 

 

『あなたがAIの専門家さん?』

「ええ、いかにも。私がそうですね。」

『注文しておいた3つの管理AIはどこ?』

「ああ、アレならすでに係の人に渡しましたよ。今モニタに出しますね。」

 

『これが・・・AI?』

「ええ。私達が生体工学や量子力学等、数十種類の学問を組み合わせて作った、最先端の学習型AIです。」

『見た目は10代の若者って感じだけど・・・で、何ができるわけ?』

「それはあなた方次第です。逆に言えば何でもできる。実際に物を動かすようなこと以外はね。それも専用のアタッチメントを動かす権限を与えれば自在に動かしてみせますよ。」

『それぞれ容姿が違うデザインだけど2人は女の子で1人は男の子なのね。』

「ええ。バリエーションがあったほうがいいということですよ。アダムとイヴみたいにね。ちゃんと名前も決まっているんですよ!」

『名前は決めてあるのね。聞かせて頂戴な。』

「ええもちろんです。ご紹介します。」

 

 

 

 

 

 

「左がキャロライン。真ん中がチェル。右の男の子はウィートリーです!」

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「エージェント達」 +5000 『3人全員がターゲット排除に成功する。』

・「街路掃討戦」   +1000 『エージェントと交戦する。』

・「シエスタタイム」 +1000 『タバサのスリープクラウドを食らう。』

・「首席卒業」    +1000 『1人以上が47を顔を合わせずに任務を完了する。』

 




3人に別ルートから侵入してもらいました。47も後輩ができて嬉しそうです。表情は全く変わりませんけど。


2019/06/17追記
一番頭を悩ましたのが実績部分だったような気がしますwこの辺りからネタが尽きかけてきてます。


次回は極寒の大地へ向かいます。


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HITMAN『北方の重要機密』

~注意~

いつもより残酷な描写があるかもしれません。ご注意ください。


『アラスカへようこそ。47。』

 

『ここはアラスカ南部のアメリカ軍のエルメンドルフ空軍基地。ロシアからアラスカの防空を担っている主要基地の一つ。今回のターゲットはここの指揮官。アーノルド・ホリンズ空軍大将。齢70にして未だに現役の軍人で、冷戦期には戦略航空軍団を指揮した経験のある人。彼はペンタゴンの最高機密情報を持っているという情報も入っているわ。可能ならばそれも奪取して。』

 

『クライアントは中国国家安全部のとある高官。ロシアと共同で北太平洋の米空軍戦力の弱体化が目的みたいね。』

 

『今回はもう一つやってほしいことがあるの。以前、ラグドリアン湖で水の精霊から“水精霊の涙”を分けてもらったでしょう?それと世界樹の葉で得られた知見を元に、技術部が新薬を開発したのよ。と言っても何のことはないちょっと強力な睡眠薬ってだけだけれど。特徴は対象を選んで眠らせることができるという点ね。後かなりの少量でも広い範囲に効果を発揮するみたいだから気をつけてね。一応デフォルトで47には効かないようにセッティングはされてるから、敵を眠らせるつもりが自分までなんて自体にはならないはずよ。その薬の実地試験もお願いね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

寒い。流石に12月夜のアラスカは凍えるくらいに寒い。町に設置されていた街頭温度計ではマイナス11度を示していた。

 

今回持参した新薬は栄養ドリンクのような容器に入った液体だ。技術部曰く振りまけば簡単にエアロゾル化するらしく、また冬のアラスカのような極限状態でも効果を確実に発揮するらしい。現にこの液体は現地で回収した際、路上にぽつんと放置されたアタッシュケースに入っていた。アタッシュケース自体がすでに凍っており、試しにそこらにあった石で軽く叩いてみるとアタッシュケースはばらばらになってしまった。しかし新薬はその中に対した保温装備もないにもかかわらず凍らずにその中にあった。

 

私は今、エルメンドルフ空軍基地の南にあるジャンクヤードに居る。通常ならばすぐ傍を通る道を進んで検問を通って中に入るのだが、深夜1時に軍事基地に入ろうとする観光客など居るわけがない。よって門前払いは確定だろう。

 

道の向こう側には基地内まで続く貨物線路が有る。私は道を渡り、貨物路線内へ侵入した。現在路線には1編成の貨物列車が停車しているだけである。私は貨物列車の間をすり抜けそのまた向こう側の森のなかに入る。森と言ってもそこまで広くはない。

 

少し歩けば軍事基地の外周フェンスまでたどり着いた。私は持参した液体窒素スプレーを金網に円を描くように吹き付ける。一拍居てから中心部分の金網を少し押し引きしてやれば液体窒素によって凍りついた部分が壊れて金網に丸く穴が空いた。私はそこを通り抜けて基地内に侵入した。

 

 

基地内は広く、巡回の警備員や兵士も殆ど見えない。代わりに電信柱などの柱3本に1箇所の割合で監視カメラが設置されていた。私はそれをうまく避けるようにして進む。茂み、放置された車両、機械、家やゴミ箱まで駆使して隠れては周りを確認して進み、また隠れるを繰り返した。1時間ほど繰り返したのちやっと滑走路までたどり着いた。滑走路の側に大きめの建物がある。私はその建物に慎重に近づいた。道路を挟んで向かいの茂みまで到達したところで、不意に横についていた扉が開いた。

 

 

「ふぅ~・・・ったくよ。スモーカーにも優しくしろってんだよなあ・・・何が禁煙キャンペーンだよ・・・。」

 

 

中から兵士がタバコを吸いに外へ出てきた。周辺には監視カメラもないため大手を振ってタバコが吸える数少ない場所なのだろう。

私は近くにあった小石を取ると少し離れた草むらに向かって投げた。

 

ガサッ

「ん?なんだあ?猫だったら捕まえなきゃならんから止めてくれよぉ?」

 

 

うまくおびき出すことに成功した。私は気づかれないようにそっと後ろから近づき、首を絞めて気絶させた。気絶させた兵士を草むらまで引きずり、草むらの中に隠すと、服を借りた。

 

首尾よく服を借りることに成功した私は、彼が出てきたドアから内部に潜入した。彼が出てきたのは休憩室だった。今の御時世は休憩室ですら禁煙になっているのか。私はなにか役立つものがないか探した。休憩室にはプラスチック製の長テープルとパイプ椅子、雑誌やコーヒーメーカー、軽食のドーナッツまであった。しかし、その中で役に立ちそうなものと言えば簡易シンクに置いてあった果物ナイフとハサミくらいだろうか。とりあえず私は果物ナイフを懐に忍ばせた。

 

休憩室のドアを慎重に開け、廊下に出た。廊下は殺風景な空間が広がっており、窓はなく、ドアがいくつか有るだけだった。私は向かい側のドアを開ける。向かい側は読書コーナーのようなスペースだった。おそらく休憩の一環に読書を楽しみたい兵もいるのだろう。しかし今は深夜ともあって人どころか明かりすら点いてはいなかった。私は窓が無いことを確認して明かりをつけた。再び役に立ちそうなものを探す。

 

本はごくごく普通の図書館といった風の本しか置いておらず、役立ちそうなものはなかったが、一番奥の壁に施設図が飾られていたのを発見した。この地図によると、管制塔兼指令センターは隣の建物らしい。指令センターは深夜と言えども夜勤の兵が居るはずなので潜入には危険を伴うが、サブ目標である重要情報を取得するためには行かざる負えないだろう。私は図書室を出て一旦外へ出ることにした。

 

 

 

外に出た私はまず隣の建物を確認した。3階建てで横に広く、管制塔がその上にそびえ立っているのが見える。っと、私はその管制塔の外周部にむき出し状態の階段があることに気がついた。おそらく非常階段なのだろうが、うまくすれば管制塔に潜り込むこともできるかもしれない。私は建物の屋上に登るすべを探した。

 

私は建物の外壁に雨樋のパイプが伝っているのを発見した。私はそのパイプを使って壁を登る。老朽化などはしていないようだが、なにぶん細いパイプだ、壊さないように慎重に上った。数分後、なんとか屋上までたどり着くことに成功した。管制塔の非常階段には当然のように鉄格子の扉があったが、簡易的な鍵であったので解錠するのは容易だった。扉を開け、管制塔の外周を登る。最上部では窓のない扉の先に管制室があった。しかし、管制室では管制官や兵士が少なくとも5人はいた。比較的狭い室内に5人もいられると、ひとりずつおびき出して倒すのは至難の業だろう。

 

私はドアは開けずに手すりを踏み台にドアの上へ登った。窓枠や外観の出っ張りなどを駆使し、管制塔の上へ到達した。案の定管制塔の上には管制室用のエアコンの室外機があった。私は果物ナイフをドライバー代わりに室外機の外装を外し、中に通じるビニール製の管を見つけた。その管を果物ナイフで少しだけ切ると、技術部が今回渡してくれた“新薬”を少しだけ中に入れた。量にしてみたら本当にスプーン1~2杯程度だろう。私は室外機に適当にカバーだけした後、縁から身を乗り出して管制室の中を覗いた。

 

管制室の中では5人全員がその場で崩れ落ちるか制御盤に突っ伏す形で眠りこけていた。効果は抜群といったところか。私は屋根から降りて管制室の扉を開けた。開けた途端、甘い香りが中から漂ってきたが、私は眠くなることはなかった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『実地試験は成功のようね。効果範囲内の人間が眠り、47は眠らない。これだけでも十分利用価値が有るわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

無事実地試験も終了したので管制室のコンピュータを使って情報を漁る。殆どが他愛のない日報や整備状況やフライト計画でしかなかったが、私はディスクごと暗号化されている場所を発見した。暗号コードが分かれば開くことはできそうだ。ひとまず、暗号化されている部分も含めてまるごとICA本部へ転送することにした。

 

データアップロード開始・・・。完了。解析自体は向こうがやってくれるだろう。少ししてから通信が入る。

 

 

 

『データを受信したわ。殆どが行動計画や演習計画、軍事訓練計画なんかね。』

「問題の部分はその暗号化されている部分だと思われる。」

『そうね。しかし無理にこじ開けようとすればデータそのものが消滅しかねない。ここはパスワードを手に入れるほか無さそうよ。丁度持ってきてくれたみたいだし。』

「ああ。車列を確認。4台のハンヴィーだ。」

『衛星で確認したわ。その2台目のハンヴィーにターゲットのアーノルド・ホリンズ大将が乗っている可能性が極めて高いわ。どうにかして彼からパスワードを引き出してそれから暗殺して頂戴。』

「了解した。」

『今確認した情報によると、ターゲットはこのまま朝までこの基地に居て、明日の朝一で戦闘機でパールハーバーへ向かうみたい。』

「ということはタイムリミットは明け方か。」

『ということになるわね。でもこれから彼は仮眠するだろうからやりやすくなるんじゃないかしら。』

「だといいがな。」

 

 

 

私は管制塔をでて非常階段を急いで降りた。私が階段を降りきって建物の端に伏せるのと、ターゲットの車列が建物の前に到着するのはほぼ同時だった。車列から続々と兵士が降りてくる。その数軽く見積もっても10人以上はいる。その中心にターゲットは居た。

 

 

「では諸君、私は少し休ませてもらうよ。明日はよろしく。」

「了解しました。警備はお任せください!」

 

 

ターゲットはそのまま建物の中に入っていった。外には2名兵士が配置されたのを確認し、私は屋上から階段を降りて内部に侵入した。

 

先程見た施設図を思い出すと、仮眠室は2階にあったはず。私は慎重に階段を降りて、3階から階段の間にある隙間を使って下を覗き込むと、丁度ダーゲットが1階から2階へ上がってくるところだった。ターゲットの他にも2名ほど着いてきているようだ。

 

私はそれ以上上ってくる兵士が居ないことを確認すると、静かに2階へ降りた。階段から廊下を慎重に覗くと、仮眠室の前で兵士が2名仁王立ちで警戒しているのが見えた。私は少々もったいない気もしたが技術部からもらった新薬の瓶を蓋を開けたまま彼らの方へ転がした。

 

 

カラカラカラ…

「ん?なんだこれ?」

「どうした。」

「いや、なんか瓶がこ…ろが…っ…て…」バタッ

「お、おい!どう…し…た…」バタッ

 

 

首尾よく二人共眠ってくれた。新薬は全て流れ出てしまったようだが。私は近くによって瓶を拾い上げると、そのまま仮眠室へ入った。

 

 

仮眠室にはベッドがたくさんおいてあったが、使われているのは一つだけのようだった。私はその一つだけ使用中のベッドへ歩み寄り、かかっている毛布ごとターゲットを引きずり倒した。

 

 

ガバッ

「ふあぁ?あああ!」ドタッ

「ふっ!」

「ぐあ!な、なんだ!」

 

 

いきなり叩き起こされて混乱しているターゲットを無理矢理起こして羽交い締めにする。そして懐から出した果物ナイフを喉に突き立てる。以前スネークが行っていた尋問方法である。

 

 

「機密ファイルのパスワードは?」

「な、何だお前は・・・」

「答えろ。」

「は、話すわけがないだろう!」

「そうか。わかった。」

「えっ?」

 

 

私はベッドに彼顔面を押し付けて声を上げさせないようにしてから彼の右手の人差し指を切り飛ばした。

 

ザシュッ

「むごおおおおおおおお!!」

「まだ指が残っているうちに答えろ。」

「ぷはあぁぁ・・・わ、わかった・・・。」

「機密ファイルのパスワードは?今すぐ確認する。嘘を言ったときは・・・。」

「わ、わかってる!やめてくれ!パスワードは【1f4ds4b58d5】だ。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47,ファイルが開いたわ。サブ目標は達成よ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「パスワードは合っていたそうだ。良かったな。」

「はあ・・・はあ・・・うぐぐ・・・。」

「今、楽にしてやろう。」

「ぐお!ぐはっ・・・。」

 

 

私は手を抑えてうずくまっていたターゲットを無理矢理羽交い締め状態にすると、果物ナイフを今度は深く首に刺した。声帯と動脈が切られ、血が噴水のように吹き出し、辺り一面を真っ赤に染めてターゲットは動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。ご苦労さま。帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はターゲットをそのまま放置し、仮眠室を出た。建物の1階出入り口には警備兵が立っているため出ることは出来ない。私は一度屋上に戻ると、登るときに使用した雨樋のパイプを使って降りた。再度茂みや建物、廃車などを使って移動する。しかしここは基地の中心。脱出するにはまたかなり長い距離を歩かねばならず、その間に警戒態勢になると余計に面倒だ。なので手っ取り早く基地の中心から脱出することにした。

 

私は滑走路の横に併設されているバンカーにやってきた。中にはいつでもスクランブル発進できるようにと駐機されているF-16があった。そばに置いてあった対Gスーツとヘルメットを借りて乗り込む。スクランブル用なのでキーは挿しっぱなしだ。私はエンジンを点火させる。凄まじい轟音が鳴り響くがここまで来てしまえば正直バレようが何しようが関係はない。管制塔は全員眠りこけている。

 

私は滑走路に移動する前に誘導路の時点から加速を始め、半ば無理矢理に離陸、低空飛行でレーダーを避けつつ脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~2週間後~

 

 

 

「それで。解析は終わったのかね。バーンウッド君。」

『はい。情報部が総力を上げて解析した結果、米軍の新型兵器に関する情報が記載されておりました。こちらが資料です。』

「・・・。新型・・・と言っていいのかなこれは。」

『基礎理論は以前からあったものですが、完成すれば驚異となるのは間違いありません。』

「ふむ・・・それはまあそうだが。となるとあの計画は予定通りということか・・・。」

『・・・。』

「わかった。予定通り計画を進めたまえ。」

『了解しました。現在目下捜索中です。もし完成しているとすればその奪取や破壊もやむなしかと。』

「わかっている。そのあたりは君に一任しよう。うまくやってくれたまえ。」

『はっ。』

「これが我々のものとなれば、プロジェクト23265も大きく前進するだろう。」

『・・・。』

「ダイアナ・バーンウッド。ICA上級委員会No.3の名において命じる。本作戦を“カテゴリLOG”として承認。遂行を許可する。」

『承知いたしました。』

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「赤いリンゴのような」+1000 『果物ナイフを使ってターゲットを暗殺する。』

・「もう助からないぞ」 +1000 『管制塔を制圧する。』

・「伝説直伝」     +3000 『ターゲットを尋問する。』

・「王の間の赤い絨毯」 +3000 『ターゲットの寝ているベッドをターゲットの血で染める。』

 

 

 

 




パスワードは誕生日や意味のある文字列などにはせず、英字と数字が混じった意味のない無作為な羅列にしましょう。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『北方の重要機密』(もう一つの世界線)

『北方の重要機密』の別アプローチです。


『アラスカへようこそ。47。』

 

『今回のターゲットはここ、エルメンドルフ空軍基地に居るアーノルド・ホリンズ空軍大将よ。依頼人は中国国家安全部。北太平洋での米空軍の弱体化が狙い。』

 

『今回ICAの技術部が新開発した“新薬”を持っていってもらうわ。なんのことはない、強化睡眠薬よ。その実地試験もお願いね。』

 

『あとホリンズ大将は軍の重要機密を持っているらしいからそれも奪取してきて頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

冬のアラスカの深夜ともなれば軍人もおいそれと外には出たがらないものだ。それが川の近くとなればなおさらだ。私は基地の西側にあるニック・アーム水路からゴムボートで侵入を試みている。南側は港湾施設があるが、基地の真横から北側は険しい崖が海岸線に沿って存在する。しかしその中で600mほどだけ崖が無くなって森になっている部分がある。私はそこへ上陸し、ゴムボートを森のなかに隠した。

 

岸から最寄りの施設までは最短でも800mは離れている。しかもあいだは森だ。見つかる心配はほぼないと思ってよいだろう。私は気持ち急ぎ目で森の中を進んだ。すでに何日か前に積雪があったようで、森の中はところどころに雪が積もっていたが歩けないほどではなかった。

 

 

ふいに森が終わったと思えば森のなかに大きめな建物が立っていた。近くに大きめのアンテナ付きの鉄塔が立っているので、通信設備なのだろう。もしかしたらここから機密情報にアクセスできるかもしれない。私は建物に近づき、中の様子を探った。

 

窓からは誰も見えず、電気も消えていたので裏側の非常口からの侵入を試みる。非常口には内側から鍵がかかっていたが、電子錠ではなく普通の一般的な鍵だったので容易に解錠できた。中に侵入すると廊下の電気も消えていた。非常灯だけが光っていた廊下は人の気配はなく、私は手前から一つ一つ部屋を調べて回った。

 

目的の通信室は3つ目の扉を開けたところにあった。この部屋のみ明かりが付いており、中で夜勤と思われる兵士が椅子に座りながら眠りこけていた。私は静かに背後に近づくと懐から新薬を取り出し、蓋を開けて内容物を兵士に嗅がせた。一瞬だけぴくっと動いたかと思えばかろうじて保っていた体勢をすべて投げ出し完全な熟睡モードに入ったようだ。

 

私は兵士の目の前にあるパソコンを調べた。フライトスケジュール、ミッション内容、演習予定表、他愛のないものがほとんどであったが一つだけ暗号化されたファイルを発見した。ともかくその他の雑多なファイルと一緒に、基地のサーバー内のデータを丸ごとICAの本部に転送した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『データは受け取ったわ。今情報部がファイルを解析している。ターゲットの位置なら割り出せるかもしれないわ。暗号化されたファイルも最悪時間をかければ解析できなくは無さそうよ。それと、スケジュール表によれば、ターゲットのホリンズ大将はこのあと朝8時になったらF-16戦闘機でハワイ・パールハーバーへ向かうらしいわ。何でもスケジュールが過密でそれじゃないと次の予定に間に合わないらしいわね。それまでにターゲットの排除を終わらせないと逃げられるわ。それなりには急いでね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

時間をかければ解析できるのであれば無理に暗号の解読コードを取りに行く必要性もないだろう。ターゲットの暗殺に集中することにしよう。

 

問題はターゲットが今何処にいるか。そして如何にして暗殺するかだ。朝8時にはここから出ていってしまうので残された時間はあと5時間ほどになる。しかし、ここは軍事基地である。人を殺すための道具なら困らない。私は手始めに武器弾薬庫を探すことにした。

 

先程入るときに見えたが、通信施設の前には何台か車が止まっていた。おそらく夜勤の兵士が乗ってきたのだろう。私は椅子の上で熟睡している兵士の懐を弄った。左胸ポケットに車のリモコンキーを発見した。キーに書かれているエンブレムはアウディだ。私はそのキーを拝借すると部屋を後にした。

 

施設から出て目の前に止まっている数台の車のうち、白のアウディを発見したのでそれに向かってリモコンキーを使ってみる。ウィンカーが数回点滅した。当たりのようだ。私は車に乗り込みエンジンをかける。先程通信施設内のパソコンで見た地図情報によると、弾薬庫はここから1キロほど離れた、滑走路のそばの森の中にあるようだ。私は車を運転し、そこを目指した。

 

 

 

弾薬庫は至って普通の倉庫のような建物だった。カモフラージュなのか、攻撃などされるわけがないという慢心なのかはわからないがともかく好都合だ。私は弾薬庫の前に車を止め、正面の扉をピッキングで開け、内部に入った。

 

内部はまさに倉庫という感じだった。弾薬庫にしては少々おかしい気がする。私は手近な木の箱を開けてその違和感の正体を知った。

 

中に入っていたのはM1ガーランド、別の箱にはリー・エンフィールドが大量に入っていた。この弾薬庫はすでに使われなくなった武器などを保管しておくための倉庫だったのだ。流石に第二次世界大戦期の武器では心もとない。それに肝心の弾丸が何処を探しても見当たらなかった。弾丸がなければただの松葉杖のようなものだ。仕方なく私は外に出た。しかし困った。他の弾薬庫の位置は把握していなかった。手近な建物に入って調べるか・・・?

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。データの解析の結果、施設の配置がだいたい把握できた。そこから東へ500mほど行ったところにある建物に陸軍の武器弾薬保管庫があるわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

幸い情報部が解析してくれたようだ。私は再び車に乗るとその情報通り東の建物を目指して車を走らせた。

 

 

たどり着いた施設は陸軍用の輸送機などを駐機する格納庫のすぐ横の建物だった。また私は慎重に扉を開け中を探る。廊下はまたも電気がついておらず、非常灯だけが光っていた。私は慎重に中を進み、ひとつひとつ部屋を確かめながら進んでいく。一番奥まで来た。最後の扉であるが、ドアにある表示には“保管庫”と書かれている。おそらくここだろう。

 

私は保管庫の扉を開けた。扉自体は鍵がかかっていたがロックピックのある私にとっては無いのとほぼ一緒だ。中にはもう一枚鉄格子の扉があり、その奥には基地内の兵士用と思われる大量の銃と弾薬が置いてあった。私は鉄格子もピッキングで開けると早速武器を物色した。

 

M4やM16があるなか私が選んだのは“M107”だった。これならばたとえ滑走路の端からでも、もう片方の端を狙うこともできるだろう。私は銃を担ぎ、弾薬置き場から50口径弾を1マガジン分拝借した。他にも色々あるがとりあえずスタングレネードとスモークグレネードくらいは持っていこうか。っと、防空用のカモフラージュネットがあった。これも1セット拝借していこう。

 

入る時と同じく、慎重に扉を開け廊下を確認。建物から出た私はすぐとなりの格納庫へ向かった。

 

 

格納庫の中には何も駐機されていなかった。おそらく出払っているのだろう。私は隅の壁際に作業台があるのを確認した。作業台に近づきなにか情報がないかを探る。

 

コルクボードに貼られている連絡事項の中に滑走路についてのものがあった。

####情報を発見####

 

この張り紙によればこの基地にある2本の滑走路のうち、東側の南北に伸びる滑走路は先日降った雪の影響で一部が凍結してしまっているようだ。張り紙にはA滑走路、つまり基地を東西に貫いているもう一本の滑走路を使用するようにと書かれていた。こちらの滑走路は今日の昼間に融氷作業が終わったようだ。ということはターゲットの乗る戦闘機もこのAの滑走路を使うことになるだろう。だいぶ絞り込めてきた。

 

私は格納庫を出ると車に戻り、滑走路へ向かった。

 

 

 

滑走路の横に併設されている管制塔のある建物へ来た。1階と2階は指令センターになっているようだ。横には大型機用の格納庫もある。私はM107を車に置き、滑走路側の入り口から内部へ侵入した。

 

内部は他の建物と同じように電気がついていなかった。しかしいくつかの部屋からは声が聞こえる。私はそのうちの一つの扉を慎重に開けて中の会話に聞き耳を立てた。

 

 

「それならよかったが、整備の方は大丈夫なのか?」

「ああ。ちゃんと昼間のうちに終えておいたさ。」

「ならいいが、この前みたいな整備不良でどやされるのはゴメンだぞ。」

「大丈夫だって。ホリンズ大将のF-16、5号機だよな?いつもの倍時間を掛けて念入りに3度も確認したぞ。どこぞの大惨事特集みたいにはならんさ。」

「頼むぞ。どやされるとしたら整備担当であるお前と責任者である私なんだからな。」

「心配性だなお前も。あ、でも一つだけ大将に言っておかないとな。」

「ん?」

「最近演習区域に行くときに東側に離陸してただろ?アレ住民から苦情が来てな。今日から西側に離陸しろって上から命令が来てんだわ。」

「そういえばそんな陳情も来てたな。まあ私はペンタゴンにそれを転送するだけだったがな。」

「それが巡り巡って俺のとこまで来たってわけか。あいかわらず無駄が多い指揮系統だな。」

「そのあたりはしっかりしておかないと色々とまずいだろうからな。」

 

 

滑走路は東側ではなく西側に離陸するように今日から変更されるということらしい。これで情報が出揃った。ターゲットの乗る機も出発する方向も判明した。あとは待ち伏せるだけだ。

 

私は静かに扉を閉めると、建物を後にした。

 

 

 

私は車を運転して滑走路の西端へ向かった。滑走路の端は開けているため狙撃に必要な高さが確保できない。しかしそれよりも後ろにも別段高い場所があるわけでもない。横からだと偏差射撃の難易度が跳ね上がり確実性が低くなる。私の出した結論は滑走路よりも少し奥に行った平地に車両を止めてその上から狙撃することだった。

 

しかし見晴らしがいいため平地に一般車両が置かれていると目立ってしまう。そこで先程弾薬庫から拝借したカモフラージュネットの出番だ。私は滑走路の端の森の中に乗ってきた車を停めると、カモフラージュネットを展開させ、車にかけた。元々の色がそこまで派手な色ではないので十分に遠目からならごまかせるはずだ。ネットをかけた私はそのまま車内で待った。

 

 

 

日が昇り、当たりに朝もやが立ち込める。霧のようになったそれは朝の巡回から身を隠すのにもうってつけであった。現在時刻午前7時45分。もう間もなくだろう。私は車をネットがかかったまま動かし、滑走路の端まで移動した。

 

到着した瞬間、遠くの方で戦闘機のエンジン音が轟き始めた。私はM107を持って車の上に乗った。車の上に腰掛けるようにして構え、たった今格納庫から出てきた3機の戦闘機を見る。誘導路を走行している最中に尾翼の機体ナンバーを見る。後ろの2機は3号機と4号機のようだ。先頭のF-16は5号機。アレがターゲットが乗っている機体だろう。私は彼の機体が滑走路の正面に来ると照準をあわせた。

 

戦闘機のエンジン音が一層大きく甲高くなった。先頭のターゲット機が滑走路を滑り出す。私は滑走路横の吹き流しなどを見つつ修正を加え、引き金を引いた。

 

 

 

ダァーン!

 

 

 

放たれた弾丸はちょうど浮き上がろうとしていたターゲットのF-16のコックピットに吸い込まれていき、12.7mmの弾丸はキャノピーを貫通。内部に赤い血が飛び散ったのがスコープ越しに確認できた。

 

制御する人間を失ったF-16は急速に機首を下げ右へ曲がり始めた。もともと浮き上がった直後なのですぐ下は地面。そのまま右主翼が滑走路に激突し、翼端に積んでいたサイドワインダーが爆発し、派手にバラバラになりながら滑走路右側の誘導路に飛び散った。後ろに随伴していた2機のF-16はそれをみて無理矢理避けるように離陸した。あの場合で離陸を中止すれば巻き込まれた可能性もあった。その判断力はさすが合衆国空軍だろう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『軍用無線の情報や衛星からの情報からターゲットの死亡を確認したわ。ご苦労さま。すぐに軍がそこへ向かってくるはずだから早急に退却して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はM107を投げ捨てると車に戻り、カモフラージュネットを取り払うのも兼ねて急加速でその場を後にした。

 

滑走路の端の道路を通り、初めの建物へ戻ってきた。すでに日が昇っており、先程より車の量が多かったのですでに何人かが出勤してきているのだろう。私は建物の駐車場に車を止め、キーを中に放置して森のなかに入った。

 

最初のルートをたどるようにして森を進み、最初に乗ってきたゴムボートを再度水路に浮かべて脱出した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

~3日後~

 

 

 

『問題は無さそうね。』

「ええ。我々が制作した薬が問題なく効力を発揮したようで良かったですよ。」

『47だけじゃなく、ブルーやシルバーやタバサにも手伝ってもらったからね。予定より早く実地試験結果が集まったわ。』

「願ってもないことです。」

『じゃあ今後はこれをさらに強力にする改良研究を行って頂戴。』

「さらにですか?お言葉ですが現在でも十分に強力であり、すでに実地試験でも有るように5時間は眠り続けます。これ以上強くすれば数時間どころか数日は寝たままになるほどになりますが。」

『数時間じゃ足りないのよ。できれば・・・そう、1週間から10日くらいは寝続けるくらいでないと。』

「そんなにですか?まあ確かに濃縮と成分調整を行えば可能ですがそこまでやる意味はあるのですか?」

『有るのよ。プロジェクト23265を遂行するためにはね。』

「なんです?そのプロジェクト何とかってのは。」

『ICA上級委員会勅命のプロジェクトよ。機密情報が多いからこれ以上は話せないけれど。』

「ふうむ・・・。まあ我々技術部は要求された仕様を達成するために研究開発を行うだけですがね。」

『それでいいわ。そのうち大きな仕事も有ると思うからそのときはお願いね。』

「大きな仕事ですか。最近兵器部門が暇だと騒いでいましたからちょうどいいんじゃないでしょうかね。」

『そうそう。この薬品の名前だけれど、こちらで決めても構わないかしら?』

「ええどうぞ。私達もまだ番号でしか区別していなかったので。」

『では本日よりこの新型睡眠薬を“バサラブ”と命名する。この薬品に関する研究を“カテゴリ・バサラブ”として遂行するわ。』

「了解しました。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「感度良好」  +1000 『基地内の通信施設より機密情報を取得する。』

・「お買い物」  +1000 『武器弾薬庫から武器を調達する。』

・「飛行禁止措置」+5000 『ターゲットの乗る機体を離陸している最中に狙撃する。』

・「ストライキ」 +5000 『ターゲットを暗殺し、その容疑を基地内の兵士に着せる。』

 

 




クロスオーバー要素皆無なのは感想を見て気が付きました。(暴露)


2019/06/17追記
レバノン料理は食べたことないですね。


次回はネバダ州へ向かいます。


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HITMAN『砂漠の狐狩り』

『ネバダテストサイトへようこそ。47。』

 

『ここは1951年からアメリカ軍によって使用されている核実験場。今回の目的は2つ。この実験場に視察に来ているアメリカ上院議員タカ派の"ケビン・クロッソノス”の暗殺。彼は国際査察から逃れられる、秘密裏な核攻撃を目的とした新しい核兵器を軍と共同で開発しているの。今回、このネバダテストサイトでその最初の実験が行われる予定。』

 

『クライアントは同じくアメリカ上院議員のオーマッド・スコット議員。もともと穏健派だった彼はクロッソノスのやり方に早くから反対し、秘密裏の交渉や説得を何度も行ってきたけど、態度を軟化させるどころか逆に計画を早める結果になってしまった。このままでは合衆国が第三次世界大戦の口火を切ることになる。一刻の猶予もないと感じたのでしょうね。それで我々に依頼するという最終手段に出たわけ。』

 

『それと、今回は別件の任務も同時に入っているわ。それはターゲットを排除した後に通達するわね。』

 

『準備は一任するわ』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

ブロロロロ…

私は今、ICAが用意した軽装甲車両に乗って指令センターの建物を目指していた。どうやらタバサがネリス基地から拝借してきたらしい。

 

今回の任務は色々と厄介なことになるだろう。私は今回技術部に以前から要望していた装備が完成したということで持参した。シルバーボーラーをベースに開発した新型の麻酔銃だ。直径0.001mmの針を打ち出す方式になっており、先端部分には例の新型麻酔薬が塗布されている。体のどの部分に当てても数秒で深い眠りに誘い込まれ、数時間は眠り続けるという。潜入にはもってこいだ。しかも針自体が非常に小さいため、元になった銃のマガジンをすべて使って針を装填した結果、弾数は驚異の670発だ。乱発しても問題はないだろう。

 

しばらく荒野をひた走ると、水平線上に建物が見えてきた。近づくに連れてその建物が最近新しく立てられたものだということがわかる。L字型の2階建てのコンクリート造り。屋根の上には巨大なレーダードームのようなもの。周囲には簡易的な駐車場と申し訳程度の花壇。そしてそれらを囲う高さ2mほどのフェンス。急造のためなのかフェンスに有刺鉄線は付いていなかった。私は建物正面に立つ兵士を避けるように駐車場の一番端に車を止める。私は車から降り、正面ではなく建物の側面へ回る。現在時刻午前10時。あまり大胆な行動は十分に日が昇っている今は避けざる終えない。

 

フェンスの向こう側に建材と思われる資材が置かれている場所があった。私は周囲に人が居ないのを確認してフェンスを乗り越える。乗り越えるとすぐに資材と資材の間に身を隠した。

 

 

とりあえず敷地内には潜入できた。この建物自体はそれほど大きな建物ではない。この新型麻酔銃ならば制圧できるだろう。私は早速新型麻酔銃をテストすることにした。建物の周囲を巡回している警備兵がいる。私はその警備兵の足に向かって麻酔銃を撃った。心臓や脳から一番遠い足首の部分に麻酔弾を食らった兵士が何分持ちこたえられるのかを見たかった。

 

 

パシュン

プス

「ん?蚊か?今何か触った・・・よう・・・な・・・。」

バタッ

 

 

・・・効果が早すぎる気がする。針が刺さってからものの5秒足らずで昏倒した。これは頭部に直接打てばその瞬間に昏倒するかもしれないが後遺症が残らないかが心配だ。ともかく実験は成功。私はそのまま建物に張り付く。換気のために開いていた窓から内部を覗く。

 

ハハハハ

 

中で談笑しながらポーカーをしている3人集団を発見した。私は一番奥に一発。手前側の2人にも一発づつ連続で食らわせる。

 

 

パシュパシュパシュ

「んあ、なんかさわっ・・・た・・・」

「う~ん・・・」

「・・・グゴー」

 

 

我ながらとんでもないものを要求して、とんでもないものが配備されたかもしれないと思い始めた。これでは素人でも潜入任務ができそうだ。だが有用なことに変わりはないし、私は暗殺に関してポリシー等を持っていたりもするわけではないので今後も利用させてもらう。

 

机に突っ伏して眠りこけた3人を確認し、窓から内部に潜入する。そのまま休憩室と思われるこの部屋を通り抜け廊下に出る。廊下といっても扉の先はロビーのような広間になっていた。ソファが置いてあり、観葉植物がエアコンの風に吹かれてたなびいていた。私は広間の端に階段を見つけた。近寄ってみるとなるほどそういうことかと思った。

 

実験施設の指令センターにしては作りが簡素だと思ったものだが、この建物自体は見せかけだ。どうやらかなり深い位置に地下室が有るようだ。私は横に備え付けられていたエレベーターに乗り、表示上の最下層である地下2階へ降りた。階段の隙間から見た高さは少なくとも地下数百mは有ると思うが。

 

 

地下2階に到着した。念の為エレベーターの扉の上のスペースに隠れていたが、扉が空いても向こう側に人の気配がしないので私は慎重に廊下へ出た。廊下は白一色で無機質この上なかった。いくつか扉が有るが、その一番奥に赤い絨毯が敷かれている部分があった。おそらくあそこが司令室だろう。しかしいきなり行くのも後々厄介なので、私は部屋を一つ一つ制圧していくことにした。

 

 

最初の扉を開けると中で数人の職員が事務作業を行っていた。私は扉から目に見える範囲の人物に麻酔弾を片っ端から打ち込んでいく。目に見える範囲が全て眠ったのを確認して部屋に入り、更に誰かいるかを探る。居た場合はすかさず麻酔銃だ。

 

そんな事を繰り返しているうちに、とうとう司令室以外のすべての部屋のクリアリングが終了した。5番目の部屋に居た数十人を全員眠らせているときは、流石に自分の行動に疑問を持ち始めてしまったが。ともかくこれで司令室以外に人気はなくなった。

 

私は司令室の重厚な木の扉を開ける。当然監視カメラが設置されていたが、先程監視カメラの記録装置のある警備室は制圧したので問題はない。私はターゲットを探した。今まで制圧した部屋にはターゲットが居なかったためだ。私は中央モニタの前で数人と話している人物の中に一人だけスーツの男が混じっているのを確認した。慎重に近づきつつ本人確認を行う。いくつか有るコンピューターの操作盤や、書類やファイルが山積みされた事務用机は、身を隠すにはうってつけだった。私は操作盤に隠れながら何とか集団の10m手前まで近寄ることに成功した。彼らは机の上に広げていると思われる設計図などを、ターゲットに説明しているようだ。

 

 

「それで今回はこの新型の亜鉛合金を使うことになりました。」

「ほほう?亜鉛合金。」

「はい。この合金は極めて安定性が高く、高熱高圧に耐え、絶対零度に近い環境化でもその性質を失ったりはしないのです。」

「今回その亜鉛合金が我々が開発した新型弾頭の雷管を構成する部品に使われています。モニタをご覧ください・・・。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが、ケビン・クロッソノス上院議員。モニタに注意が向いている今ならやれそうよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は近くの机の上に置いてあったペンを取り、彼らよりもさらにモニタ側に放り投げた。

 

カンッカラカラカラ

「ん、何の音だ?」プス

「どうかなされましたか?」プス

「今何かが落ちた音が・・・。」プス

 

ドサドサ

 

気がついた人物から順番に足首、太もも、腰辺りと3人連続で撃った。位置をずらした理由は、薬品の周り具合が先程までの制圧でだいたい把握できていたので、その時間差を利用して3人が同時に眠りに落ちるように調節したためだ。

 

概ね想定通り3人はその場に崩れ落ちた。異変に気がついた周りの操作盤に居た兵士たちも近くに駆け寄るが、その都度麻酔銃の餌食になった。ついには司令室内もあらかた制圧し終え、この建物の地下の中枢部分は完全に制圧された。

 

私は物陰から出てターゲットに近寄った。そしてブリーフィングで確認した顔と一致するターゲットを確認し、彼の首を静かに折った。すると珍しく相互通信の方でオペレーターから連絡が入った。

 

 

 

 

『ターゲットダウン。よくやったわ。じゃあ脱出、と言いたいところだけど、ここからは別件の仕事をすぐに通達するわね。』

「珍しいな。」

『でしょうね。本来なら相互通信は当人の注意が散漫になるから行われないのだけれど、今回は特別。』

「それで、追加任務とは。」

『そこは司令室よね。当然通信設備も有る。47、あなたにはICA本部から送られてくるソフトウェアで、その司令室からある物を制御してもらうわ。』

「ある物?」

『詳しいことは機密事項だから話せないわ。とにかくコンピュータを操作して頂戴。』

「了解。」

 

 

何をさせる気かはわからないがとりあえず指示に従う。いくつか有るコンピュータのうち手近なものを触る。まずはICAのサーバーとのコネクションを繋ぎ、セキュリティポートも開けた。

 

 

『画面にいくつか承認要求が出るから全部承認して頂戴。』

 

 

ポートを開けたそばから画面上にいくつかのポップアップが出てきた。それらを承認し続ける。書かれている内容はどうやら衛星となにか連絡をとっているようだ。遠隔操作でサーバーからデータをICAにアップロードしている。

 

 

『そんな・・・まさかすでに完成して・・・。仕方がないわね。』

「どうした?」

『47。今から制御盤をモニタに出すわ。そこに今から言う数値を入力して頂戴。』

「了解した。」

『でたわね?行くわよ。SPEに1056。RAY1に90。RAY2に74.42。TIMに1800。』

「・・・入力した。」

『私の合図でエンターを押して。行くわよ・・・・・・3,2,1,今!』

カチッ

 

 

変更完了。そうモニタには出ていた。どうやら軌道計算か何かを弄ったらしい。

 

 

『よくやったわ。これで・・・っと、まずいわね。私達の行動に気がついたものが居るようよ。』

「・・・。」

『少なくとも後30分は誰にもコンピュータに触らせてはいけない。侵入者はすでに上の階からエレベーターで降りてきている。』

「迎撃しろと?」

『お願いできるかしら?』

「あまり装備は潤沢ではないがやってみよう。」

 

 

私は部屋の入口まで戻り、入り口を警備していた兵士からMP5SDとM9を拝借した。そのまま入り口からエレベーターの方を見る。

エレベーターの扉が開く。私は慎重に乗っている人物を確認する。

 

「・・・?」

 

誰も乗っては居なかった。・・・いや。正確には乗っているのが見えなかったと言うべきだ。微妙に空間がゆがんでいる。これはもしや・・・。

 

私は隣で眠っていた兵士の懐からスモークグレネードを拝借するとピンを抜き、空間の歪みへ向けて放り投げた。1回2回と床をはねた後強烈に煙が噴出される。と、いきなり歪みのすぐ隣にあったドアが勢いよく開いた。やはりあそこに誰か居るのは間違いない。私は威嚇射撃もかねてその扉にMP5で制圧射撃を行った。

 

 

パララララララ

 

 

サプレッサー内臓のため音はそれほどしていないが、すべての兵士と職員が眠っているこのフロアではその消音器も役には立っていないほどに響いている。私はマガジン交換直前に一旦発砲を止める。空間の歪みが少しドア枠から出てきたところに残りの数発を打ち込んだ。でごたえはない。全て背後のもう片方のドア枠と押し開かれたドアに着弾している。私はすばやくマガジンを交換する。

 

っ!精密射撃に切り替えたと見せかけたはずだったが相手はマガジン交換のタイミングで一気に近づいてきた。

急いで装填を終えるとまた射撃する。再びすぐ横の扉が押し開けられる。このままでは埒が明かず、いずれここにたどり着くだろう。私は制圧射撃を止め精密射撃に本格的に切り替えた。私が撃たなくなると歪みも廊下へ出てこなくなった。そのまま数分睨み合った後、何かがドアから投げ込まれた。・・・っ!スタングレネードだ!

 

バシュン!

 

私はとっさに壁に身を隠してなんとかやり過ごす。やりすごしたあと再度扉に銃を向け…

 

ガチン!

ガ!ガ!ガ!

 

向けることはできなかった。廊下へ銃を出した途端、銃は強い衝撃を受けて弾き飛ばされてしまった。間髪入れずに空間の歪みから何かが飛んできた。拳だと理解し、それを受け止めるのに後コンマ何秒か遅ければまともに食らって昏倒していただろう。そのまま近接戦闘に入った。

 

張り手、回し蹴り、様々な技が飛び交い、一進一退の攻防を演じた。ハリウッドならシュワルツネッガーかジャック・バウアー、中国ならジャッキーチェンが主演を演じるだろう。そんな事を考えていると強烈な蹴りが私の腹部を直撃した。吐きそうな痛みに耐えつつ、一旦距離をとった。

 

 

「いいセンスじゃないか。久々だ、ここまで動けるやつと戦うのは。」

「私の体に一撃を入れたのも訓練初期の指導官以来だ。しかしステルス迷彩は反則ではないのか?」

 

 

空間の歪みの正体はいつぞやの南米以来の伝説の英雄、スネークだった。また会えるとは光栄だ。

 

 

「お前はここで何をしているんだ。暗殺組織なのだから暗殺したらさっさと帰れば良いものを。」

「野暮用だ。」

「野暮用ねえ・・・だがどうやらその野暮用は俺達にとっちゃ許せない案件の一つのようだ。」

「そのようだ。」

 

 

軽口を言い合っていたがスネークがついに本題に切り込んできた。ちなみにこの間何発か拳銃を打ち合っている。

 

 

「軍の機密衛星を落下させて何を企んでいる!目的は何だ!」

「知らない。私は本部の命令に従っている。」

「あやつり人形ってわけか。お前のやっていることは合衆国を敵に回すことだぞ!」

「繰り返すことになるが私は何も知らないし興味もない。合衆国を敵に回したところで今の状態から何が変わるでもない。」

「だった俺はそれを全力で阻止するだけだ!それがこっちの任務だからな!」

「やらせる訳にはいかない。こちらもそれが任務だからだ。」

 

 

スネークはこちらに発砲しつつコンピュータ郡の中へ駆け込んでいった。私は隠れていた柱から飛び出し、机やコンピュータを足場にしながら一直線に向かっていく。先程入力したコンピュータのすぐ手前でぶつかりまた近距離戦闘に発展する。

 

手や足をお互いに色々なところにぶつけ合いながら、時には別のコンピュータのモニタを割りながら、転がっていた椅子を使って相手の足場を崩したりもした。しかし、さすがは伝説の英雄だった。ほんの少しモニタに注意を取られた瞬間に盛大にボディブローを食らってしまった。私は数mほど後ずさりして痛みに耐えた。その隙にスネークがコンピュータに張り付いた。

 

 

「オタコン!どうなってる・・・なんだと!遅かったというのか!」

「・・・。」

 

 

ギリギリのところでカウントダウンタイマーは0になった。スネークはコンピュータを操作して映像を中央モニタに出した。他の衛星からの映像だろうか。映像には色々な破片を撒き散らしながら、なにか大きな人工衛星が大気圏に向けて突入していくさまが映し出されていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。30分間よく守り通せたわね。すべての任務は完了したわ。帰還して頂戴。スネークとやり合う必要はないわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はボディブローから回復すると、焦ってなにかを操作しようとするスネークを横目に司令室を脱出した。エレベーターに乗り地上へ出ると、エレベーターホールの前には数人の倒れている兵士が居た。全員寝ているか気絶しているかのどちらかだった。私は施設の外に出る。正面の警備員も寝ていたので普通に正面から脱出し、乗ってきた車に乗って脱出した。

 

 

 

 

 

脱出している最中に背後の実験場内に光り輝く物体が降り注ぎ、そして落下した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~3日後~

 

 

「それで。結論は?」

『アメリカ軍はすでに施設を完成させておりました。』

「そうか・・・。アレは一度作ってしまえば奪取はほぼ不可能だろう。」

『ええ。ですので47の軍施設への潜入の折に施設のメイン制御コンピューターに侵入を試み、成功した結果がいまテレビを賑わせている“ネバダ大火球事件”です。』

「洋上に落とすことはできなかったのかね?アレでは否応なく目立ってしまう。」

『施設の軌道は巧妙に大洋を避けるように設定されていました。その進路上で一番目立たずにアメリカ軍が処理できるのが、ネバダテストサイトだったのです。』

「ふむ・・・、まあいい。アメリカは今まで以上に宇宙開発を慎重に行わなければならなくなった。それは我々にとって好都合と言える。」

『また、先程入った情報ですが、NASAに潜入していたインフォーマントから、シャトルの設計図の奪取に成功したと報告がありました。』

「おお、それは朗報だ。今のICBM発射機を改造した衛星射出機では小さすぎたからな。」

 

『もうひとつ。先日カントー地方へ別件で仕事をしていたブルーとシルバーですが、興味深いものを現地で発見し持ち帰りました。場合によってはプロジェクトに寄与するものと。』

「ふむ。そちらに関してはイレギュラーだ。詳細な資料をまとめて提出したまえ。こちらで精査する。」

「了解しました。」

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「楽な仕事のために」  +1000 『施設地下2階を制圧する。』

・「安らかに眠れ」    +1000 『ターゲットを眠らせてから殺害する。』

・「格闘選手権inネバダ」 +3000 『スネークと近距離戦闘を行う。』

・「ログに残さない仕事」 +5000 『スネークから操作盤を30分間防衛する。』

 

 

 




本来ならば別アプローチを書くところですが、予定を変更して今回はブルーとシルバーの“別件”についてあちらで書こうと思っています。


次回はカントー地方へ向かいます。


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HITMAN番外編『水の町の暗闇』

今回はブルーとシルバーの話をお届けします。


『よう!片方とはまたあったな!もう片方とははじめましてか?ハナダシティへよく来たな!』

 

『そう言えば前の作戦で自己紹介し忘れてたな!俺の名前はウィートリーだ!お前らの今回の作戦のサポートを務めさせてもらうAIだ!』

 

『あ!お前!今あからさまに嫌そうな顔しただろ!いいや!回線越しでもわかるね!・・・あ?作戦?ああそうだったそうだった。今回の作戦なんだがな、ターゲットはリーゴってヤローみたいだ。なんでもハナダシティの有名人で、みんなから大人気の美少女ジムリーダーカスミちゃんの追っかけの一人みたいなんだけどよ、最近は行動がヤバすぎてストーカーみたいになってるらしいんだわこれが。怖いねえ。』

 

『依頼主だろ?わかってるって。ええっと、どの棚においてたっけかな・・・・・ああ、あったあった。依頼主は、桜とかいうねーちゃんだ。あ?漢字じゃないって?同じようなもんだろ。なんでもカスミにつきまとってるストーカーヤローをカスミに内緒で排除してほしいんだとよ。』

 

『まあそんなわけだから今回は暗殺をカスミに発見されちゃなんねえからな!そこら編は気をつけろよ!』

 

『準備は一任するぜ!頑張れよ!』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「ねえ、シルバー。知り合いなの?」

「・・・まあ前にちょっとね・・・。」

 

 

やたらざっくばらんなAIオペレーターに送り出されてやってきましたハナダシティ。懐かしいわね。でもここだと私達の顔を知ってる人が居てもおかしくないから気をつけないと。

 

兎にも角にも情報収集。ジムリーダーカスミの追っかけやってるってことは今もハナダジムの近くにいる可能性があるわね。とりあえずジムに向かってみましょ。

 

シルバーは最近47リスペクトに凝っているようで、今回もアタッシュケースにSieger300Ghostを入れて持参している。Jaeger7ではないのは当人なりのプライドなのかしら。以前、その事を本人に聞いてみたところ「狙撃のほうが効率がいいから。」それだけだと言っていた。

 

 

 

 

ハナダジムに着いた・・・?以前私がハナダシティに来たときはサーカスのような見た目だったはずだけれど、今目の前にあるハナダジムはどこぞの美術館のような見た目をしていた。ルーブル?だっけ?アレによく似ているわね。建物の上部構造は全面クリスタルガラス貼り。周囲の道路もこの辺じゃ珍しいアスファルト舗装で、周囲には意味深な石柱が並べられている。経営権が4人姉妹の長女から末っ子に移ったとは聞いていたけれど、一体何をどうやったらここまで変わるのかしら。

 

 

「ねえさん。アレ。」

「ん?」

 

 

シルバーが不意にある場所に注意を向けた。そこにはジムの外周の窓に張り付いている一人の男性が居た。

 

 

「アレがターゲットじゃないかな?」

「シルバー、もっと周りをよく見たほうがいいわよ。」

「え?」

 

 

私は反対側の窓を指し示す。窓の前には男性が3人ほど屯しており、中をチラチラを覗いている。そのまた奥の窓にはちびっこを連れた親子と思わしき4人組が窓から覗いていた。

 

どうやら注目度は抜群ってわけね。中からなにか大きな音が時折するからおそらくジム戦の真っ最中なのね。ジムリーダーのカスミは優雅に舞い踊るように戦うという噂。そのショー見たさにこれだけ人が集まるというわけか。

 

 

「どうする姉さん。これじゃどれがターゲットかわからない。」

「一応顔写真は有るけれど、みんな窓のほう向いちゃってて顔がわからないわね。ひとりひとり話しかけるわけにも行かないし・・・。」

「ジムの中から覗いてる人を確認するのはどうだろう。」

「もうジム戦は始まってる。今からだと探してる時間はないかもしれないわね。でも一応行ってみましょうか、他に当てもないし。」

 

 

私達はジムの中に入り、受付で観戦のためのチケットを買った。ジム戦の第三者の観戦は有料なのが基本だ。チケットを買って観客席に入った。チケットは有料な上、1枚3000円とそれなりに高価なため観客席に人はあまり居なかった。ジム戦自体は一進一退と行ったところ。挑戦者は草タイプを使用しているがカスミのほうはフィールドの特性をうまく使って立ち回っている。いわゆる持久戦だ。

 

私達は辺りの窓の外から覗いている人の顔を一人ひとり確認していった。怪しまれないために時折ジム戦にも目を向けながら。すると、

 

 

「いたわ。あそこ。右から6番目の窓。」

「・・・顔写真とも一致してる。他にはそれらしき人は居ないから多分あいつだ。」

「さて、どうやって料理してあげましょうか。」

「・・・姉さん。」

「ん?なあに?」

「姉さんはまだ殺すことになれてない。ここは僕がやる。」

「・・・引っ込んでろってこと?」

「違う。姉さんにはこっちのレンジまでの誘導を頼みたいんだ。」

「ふんふん。聞かせてもらいましょ。」

 

 

私はシルバーのプランを聞き、その案が合理的なものと理解した上で、その案に乗っかった。そのために必要な装備を揃える必要が出てきてしまったけど。

 

ちょうどジム戦も終了した。結果は挑戦者側の敗北。お互いにあと一手という緊迫したギリギリのいい試合だったようね。あまりみてなかったけど。私達はジム戦が終わるとジムを後にした。私は市街地へ。シルバーはハナダジムの北側にある山へ向かった。

 

 

 

 

 

私は今、ハナダシティの警察署の前に来ている。さあ、今から警察署に泥棒に入っちゃうわよ!

 

警察署という施設は事件が絡んでいなければ基本的に市民にある程度開放された施設。でも私はこのハナダシティでそれなりに悪事も働いてたからもしかしたら・・・入った瞬間に捕まるかもしれないわね・・・。まあバレたらその時はその時!強行突破でどうにかしてみせるわ!いざ!

 

 

「いらっしゃいませ。ここに名前をご記入と、ここにポケギアをかざしてください。」

「あ、はい。」

 

 

ああ・・・名前を書くなんて聞いてないわ・・・。これじゃ一発でバレちゃうじゃないの・・・。でもはいって言っちゃった手前書かなと余計怪しまれちゃうし・・・。偽名だとポケギアと整合性取れ無くてバレちゃうし・・・。もうどうにでもなれ!サラサラ ピピッ

 

 

「はい、ありがとうございます。ブルーさんですね。ようこそハナダシティ警察へ。」

「・・・あ、はい。・・・?」

 

 

・・・あれ?私覚えてるだけでもこの街で10件以上の窃盗と20件以上の詐欺を働いてるはずだけれど・・・。もしかしてこの地方の警察って無能?

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『おうおう!このウィートリー様がそのからくりを説明してやるぜ!ブルー、お前とシルバーの犯罪履歴はICA本部の方で完璧にもみ消されてるから気にすんな!どうやったかって?そりゃサーバー改竄から賄賂、恐喝、一番エグいので、言う事聞かせるために警察署長さんの娘さんを一時誘拐とかもしてたみたいだな!娘さんの指が郵便で送りつけられりゃ、誰だっていう事聞かざる終えないよな!』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

それもうやり方がマフィアと変わらないじゃない・・・。まあとにかく私は無事無罪放免ってわけね!まあこれからまた犯罪履歴増やすわけだけど!

 

私は意気揚々と署内を歩く。奥にある署員と共用のトイレに入る。そのままジリジリと待ち続ける・・・。来た!トイレにジュンサーさんがひとり入ってきたわ!私は静かにトイレから出て、用を足して個室から出てきたジュンサーさんに後ろから麻酔薬入りのハンカチを嗅がせる。この新型麻酔薬は便利ね!クロロホルムはよく聞くけど、私が体験したら吐き気がしただけで効果無かったわ。でもこっちは効果覿面ね!

 

私はジュンサーさんの制服を脱がして個室に押し込む。制服を持ってきたカバンに入れると、トイレから出て警察署を後にした。後はどっかで着替えるだけでこっちの準備は完了ね!

 

 

 

 

 

 

 

~シルバーside~

 

 

「このあたりが良いか・・・。」

 

俺は今ハナダシティ北西に位置している山に来ている。遠くにはお月見山が見えているが、こちらの山はその半分ほどの高さしか無い。登山にはオツキミやまがよく選ばれており、そちらは登山道なども整備されている。しかしこちらの山は正式名称など誰も覚えていない。富士山の隣の山の名前を誰も覚えていないのと同じように。

 

その忘れられた山の中腹に来ている。そんな山だから山道などが整備されているわけもなく、ごく一部の人間しかこの山へは立ち入らない。まあ、今は俺もそのごく一部の人間の一人なわけだが。加えて言うならばこの山は反対側がかなり急勾配の崖になっており、ロッククライミングの技術があったりしない限り“なみのり”の技がなければ登ることすら出来ない。自分はオーダイルが覚えていたので問題はなかったが。

 

さて、予定地点が見える位置に陣取って、アタッシュケースからライフルを取り出し組み立てる。まだ47ほど早くは組み立てられないが、周りに人が居ないため多少時間がかかっても特に問題はない。

 

ここからはハナダシティの外れにあるハナダジムも、そこから伸びる道もしっかりと見える。予定ではあの道沿いに姉さんがターゲットを連れてやってくるはずだが、予定よりも早くここへたどり着いたのでまだ多少時間が有る。弾薬はいくら使っても構わないと説明を受けているので、サプレッサーが付いているのもあって軽く予行演習をすることにした。道路沿いにある木の枝を狙撃してみることにする。

 

パシュン

 

木の枝を狙ったつもりが、狙った枝についていた葉っぱを撃ち落とした。確率的にはこちらのほうが少ないからラッキーと言えばラッキーなのかもしれないが、狙撃としては合格点がもらえるかどうかギリギリのところだ。

 

俺はもっと精度を高めるためにその後2マガジン分を使って練習し続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~ブルーside~

 

 

「うん!完璧!何処からどう見てもジュンサーさんね!」

 

 

私は今、警察署のすぐ裏手の路地で拝借したジュンサーさんの服に身を包んでいた。顔はと言うと、ICA特性の変装マスクと輪郭形成粘土でバッチリ。でもこのマスクどうなってるんだろう?明らかに顔全体がもとより小さくなっているような・・・。まあ細かいことは気にしたらダメね!

 

だけど今回の計画では容姿だけが一緒ではダメ。もう一つ必要なものが有るわ。それは、この警察署のフェンスの向う側すぐそこに見えているパトカー。これをどうにかして拝借しないといけないわけだけど・・・。迷っていても仕方がない!今の私はジュンサーさん!パトカーの周りでゴソゴソやってても多分大丈夫でしょ!というわけで・・・。

 

 

「出てきて、ぷりり!」プリー

「フェンスを超える手段なんていくらでもあるのよね~。」

 

 

私は膨らんだぷりりに乗って浮かび上がる。あんまり高く浮かび上がる必要はないので程々に。フェンスを越えるとすぐに降下、すばやく着地してぷりりをボールに戻す。すかさずパトカーに近寄って身を隠す。

 

誰にも見られていないことを確認し、パトカーの鍵穴にロックピックMk.2を差し込む。このロックピックは特別製らしくて鍵穴に入れるとシリンダーの最適解を自動で探ってくれるすぐれ物。押し込むタイミングや速度に若干慣れは必要だけど、それさえ掴んでしまえば・・・ほら!この通り!無事パトカーの扉が空いたわ。

 

私は静かに乗り込むとエンジンキーにも同じことをする。なんとこのロックピックは自動車の鍵にも応用できるのだ。今回は使わなかったがグリップ部分にはスマートキーのクラッキング用のスイッチも有る。

 

それはさておき、無事エンジンをかけることに成功したので、そのまま運転し、ハナダジムを目指す。車の運転は訓練施設で一通り訓練を受けているから問題なし。流石に走行中の緊急脱出訓練は教習所じゃ教えてくれないでしょうし。

 

 

 

 

ハナダジムに到着すると、一旦車を止めてターゲットを再度探す。服等の特徴は把握してたし、カスミのストーカーならばおそらくまだそのあたりにいるはず・・・。

 

居た!別の窓に張り付いてる。遠目からもわかるなんともキモい…もとい、薄気味悪い笑みを浮かべながら中を覗いているわね。私は車をその近くへ持っていくと車を降りてターゲットに近づく。

 

 

「そこの君、ちょっといいかな。」

「・・・!?じゅ、じゅんさーさん・・・!」

「あなたいつもここを覗いているそうね。ジム関係者から苦情が来ていたわ。ちょっと署まで来てもらえるかしら?」

「えっ・・・ぼ、ぼくはあ・・・。」

「いいから来るのよ!」ガシッ

「ええ!?うわわ!暴力反対!」

「これは逮捕よ逮捕!さっさと車に乗る!」

 

 

私は彼の襟首を強引に掴むと助手席に放り込んだ。そのまま運転席へ自分も乗り込み、ハナダジムを離れる。

 

 

 

ハナダシティを北に向かって走る。少しジムから離れたところで一旦車を停める。私は停車する寸前に軽くパッシングをする。

 

ピリリリリリ

「ん・・・署からだわ。少しこのまま待っていなさい。」

「え・・・ああ・・・。」

 

 

私はわざとエンジンを付けたまま車から降りる。そして少し離れたところで車を背にして携帯で話す。話し相手は警察署などではなくシルバーだ。

 

 

「どう?位置は大丈夫?」

「ああ、姉さん。バッチリだよ。あとは上手いこと運転席に移ってくれるといいんだけど・・・。」

「あんまり長くは持たないわよ?怪しまれちゃう。」

「わかってる・・・おっ、動き出した。ゆっくりと運転席に座ろうとしている。」

「そう、じゃあお願いね。」

「まかせて。」ピッ

 

 

電話を切った後も私は話しているふりをし続ける。後ろから扉が閉まる音がする。と同時にアクセルを踏み込んだときのエンジン音がする。

 

 

バリン!

 

 

後ろでガラスが割れる音がした。その後すぐにスキール音がして車が急発進していく。しかし乗っているターゲットはシルバーが放った弾丸によって既に息絶えていて、蛇行しながら直ぐ側にあった川へ真っ逆さまに落ちていった。

 

ガッシャーンバシャーン

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『おお、凄まじい音だな。ターゲットの死亡は確認・・・され・・・た。うん、多分な。生命反応レーダーの光点が消えたってことだからそういうことだな!』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「なんか不安になるオペレーターね・・・。」

 

 

私は川に近寄って落ちた車を見てみる。派手に真正面を岩にぶつけ、前がぼろぼろになったパトカーがひっくり返った状態で川に沈んでいた。周辺にはターゲットの姿は無いから、おそらくまだあの中でしょうね。1分くらい見ていたけど浮き上がってくるものも気泡もないので死亡確定としましょうか。

 

これで“パトカーを盗んだ変態男が操作を誤って川に転落して死亡”という事故が完成ね!さあて、任務完了。シルバーと合流して帰還しましょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

~シルバーside~

 

「何とかうまくいった。」

 

ほっと一息。あのまま走り始めてたらこのライフルをマシンガンのように撃ちまくらなきゃならないところだった。偏差射撃はまだ教えてもらっている最中だ。

 

何はともあれ任務終了。山を降りて脱出しよう。俺はライフルをアタッシュケースに戻して山を降りた。

 

 

ザッザッザッガキッ

「ん?なんだ?」

 

 

山を降りていると不意に何かが足にあたった。足元を見ると銀色の金属製の箱が落ちていた。

 

 

「何だこれ・・・?」

 

箱には鍵かかかっていなかった上に、若干隙間が空いていたので開けてみることにした。中にはクッションとなる綿と、中央に少し太めの試験管が入っていた。説明書などは何もなく、箱にも何も書かれていない。しかしこんなものがここに落ちている理由もわからない。不思議そうに眺めていると突然通信が入った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『シルバー、バーンウッドよ。今ウィートリーの回線に割り込んで話しているわ。シルバー、その箱を持って帰還しなさい。繰り返すわ。その拾った箱を持って直ちに本部に帰還しなさい。わかったわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ミス・バーンウッドが突然割り込んできた。珍しく慌てている様子だったけどそんなに重要な発見なのだろうか?ともかく、その箱を脇に抱えつつ、姉さんに合流するために再び山を降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~3日後~

 

 

『それで。結論は?』

「さすがはミス・バーンウッドと言ったところですね。概ねあなたが予想した通りのものですよ。」

『じゃあやっぱりその試験管の中に入っているものは。』

「ええ。特殊な遺伝子情報のようですね。我々人間に共通する部分もありますが、この構造はどちらかというとポケモンの遺伝子でしょうか。」

『ポケモンの。』

「そうです。しかもまだ解析は半分程度しか終わっていませんが、その半分の部分ですら特出した能力が記載されている遺伝子情報でということがわかります。」

『特出した能力というのは?』

「この遺伝子は、どうやら破壊行動や殺戮行動に特出して強い欲求を生み出すようですね。ですがその情報は並大抵のポケモンや人間では思考系統に混乱をきたすことになるでしょう。」

『なるほど。制御はできそうなの?』

「まだ完全に解析が終わっていないため結論は出せませんが、判明している部分だけで判断すれば“可能”です。」

『制御はできるのね。わかった。じゃあこの物体はカテゴリ・ハナダとして区別します。以後はその名で呼ぶように。』

「了解しました。」

『詳細が分かり次第、資料をまとめて提出しなさい。私はこれから上級委員会の判断を仰ぎに行ってくるわ。』

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「ショータイム」 +1000 『ジム戦を観戦する。』

・「一日巡査」   +3000 『ジュンサーの制服を着て警察車両に乗る。』

・「検挙の瞬間」  +3000 『ターゲットがパトカーに乗っている状態で殺害する。』

・「終末の足音」  +5000 『銀色の金属箱を発見する。』

 

 




大量に瓜二つの人間が居るのってよくよく考えると純粋に恐怖だよね。


2019/06/17追記
ウィートリー君は個人的に親近感が湧いてて好きです。自分に似てるんですよね。ポンコツなところとか、余計なことしかしないところとか(爆)


次回は太平洋へ向かいます。


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HITMAN『絶望の海』

『ミッドウェー島へようこそ。47。』

 

『ここは太平洋に浮かぶ絶海の孤島、旧日本軍とアメリカ軍がここをめぐってかつて死闘を繰り広げた島。一度深海棲艦に殲滅されたのだけれど、今は日本の艦娘部隊が奪還したようね。しかしアメリカ本国との連絡は今現在不通になってるせいで返還もできない。なので臨時でこの島には艦娘部隊の泊地が建設されているわ。』

 

『今回のターゲットはそんなミッドウェー島の最後の生き残りと言われている海兵隊員アンドリュー・チェリス少尉。彼はこの島を奪還した当初に瓦礫の中で虫の息だったところを艦娘たちに救出されているわ。気さくな人物で艦娘たちも彼を仲間の一人としてみているみたいね。現地の司令官も彼を司令官補佐に臨時で就任させて助力を得ているらしいわ。』

 

『でも現場指揮官や艦娘たちに慕われているからと言って、本国の大本営からも慕われているというわけではないみたいね。大本営は彼を計画の障害とみなしている。しかし追放することも出来ないので我々に再度要請が来たというわけね。』

 

『今回のターゲットは艦娘に慕われている。当然艦娘たちに接触する可能性も高いわ。彼女たちの基本的な情報は頭に入れておいてね。それから暗殺はできる限り事故に見せかけるか、それから誰も見ていないところで行方不明案件にすることをクライアントは望んでいる。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「お兄さんもアメリカの人っぽい?」

「やはりそうみえるだろうか。」

「見えるっぽい!その目つき怖いとことかそれっぽい!」

「ちょ!夕立ちゃん!そんなはっきり!」

 

 

私は今、ここミッドウェー臨時泊地に臨時に雇われた整備員として潜入している。が、ここはもともと泊地ではないため深海棲艦の脅威が去ったと言っても、まともな整備施設や工廠施設があるわけではないので、雑に路端に置かれた艦娘たちの艤装を簡単な工具で整備点検するだけのものだ。その仕事は当然娯楽に飢えている艦娘たちの興味を引き、こうして私の周りに艦娘が集まってきてしまっている。

 

今現在周りにいる艦娘は駆逐艦夕立、吹雪、磯波、皐月の4名。早いとここの整備を終わらせなければ、ターゲットを探すことすらままならない。

 

 

「でもアメリカの人ならチェリスさんとも知り合いかもしれないね。」

「ああ、チェリスさんもそう言えばアメリカ人か。じゃあ同郷かもしれないね。」

「私の他にもアメリカ人がいるのか?」

「うん。この島を奪還したときに救出した人で、元海兵隊?だったかな。」

「チェリスさんっていうんです。名字は何だったかな・・・?」

「とっても面白い人っぽい!夕立、あの人好きっぽい!」

「私達の遊び相手にもなってくれてる人なんですよ。本国と連絡取れなくて大変だと思うんですけどね。」

「なるほど。ぜひ会ってみたいものだ。」

「じゃあこの整備が終わったら会いに行きましょう!」

「それがいいね!睦月たちも呼んでくる?」

「あ、睦月ちゃんたちは今演習中だから無理じゃないかな・・・。」

「そっか。じゃあ僕たちだけで行こうか。」

「私も行ってもよいのか?」

「もちろんです!チェリスさんも同郷の人が来てくれたと知ったら喜びますよ!」

「そうか。ではこれが終わったらお願いする。」

「はい!」

 

 

私は手早く彼女たちの艤装をメンテナンスすると、早速チェリス、おそらくターゲットのところへ案内してもらった。こちらから探すでもなくこの子たちに案内してもらえるとは事が早くて助かる。

 

私は彼女らに先導されながら施設の端にある最近建てられたプレハブ小屋に案内された。

 

 

「チェリスさーん!いますかー!」

「はいはい。ああ、吹雪ちゃん。いらっしゃい。」

「チェリスさん!あなたと同郷の方を見つけましたよ!名前は・・・えっと。」

「フォードだ。」

「フォードさんです!」

「おお!ということはあなたもアメリカの方ですか!」

「ということはあなたがチェリスさんですか?」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『そう、その人物がチェリスことアンドリュー・チェリス。この世界における合衆国の忘れ形見。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「いかにもわたしがチェリスです。いやあ同郷の人に会えるとは思いませんで!聞きたいことは山程あります。どうぞ中へ。」

「ありがとう。おじゃまする。」

「じゃあ、私達はこの辺で・・・。」

「あれ?帰っちゃうのかい?」

「せっかくの同郷の人が訪ねてきてくれたんですから。私達が居たらお邪魔でしょう?」

「そんなことはないよ!君たちもぜひ上がっていくといい。」

「ほら吹雪。そんな遠慮しててもいいこと無いよ!僕は上がらせてもらおうっと!」

「あ、皐月ちゃん!」

「お邪魔しますっぽい!」

「わ、私も・・・。」

「夕立ちゃんに磯波まで・・・もう・・・。」

「吹雪ちゃん来ないっぽい?」

「い、いくよ!仲間はずれはヤダ!」

 

 

私達はターゲットの住むプレハブ小屋へ招かれた。中は6畳1間の簡素な作りでベッドに慣れている身としては、布団が思いの外固くてきついとこっそり教えてくれた。

 

それからは色々な質問に私が答えつつ理解が出来ないことを、ターゲットが艦娘たちに噛み砕いて教えるというのを繰り返した。

 

 

「ところであなたはどうやってアメリカからここへ?」

「カリブ海域とカーボベルデ海域の制海権を一時的に奪取したときにアフリカに渡り、エジプト、トルコ、アゼルバイジャンを経由してシベリア鉄道でウラジオストックまで。そこからは舞鶴の艦娘たちに護衛されて日本へ来た。」

「ということは欧州情勢は?」

「かなり厳しいだろう。沿岸部は軒並み廃墟と化しているらしい。イギリス本土とは連絡すらままならず、噂では先月グラスゴーとエディンバラが陥落したらしい。」

「なんという・・・。」

 

「あ、あの。ドイツはどうなってますか?友人にレーベとマックスっていうドイツ出身の艦がいて心配してたので・・・。」

「・・・。」

「・・・フォードさん?」

「・・・ドイツはかなり情勢が悪い。元々NATO軍に頼り切りの軍隊だったのも災いしたらしく、既にハンブルグ、ブレーメンはもちろんのこと、ベルリンまでも先週陥落したようだ。現在は首都をミュンヘンに移して、ドレスデンからフランクフルトまでの防衛ラインを引いて粘っている状況らしい。」

「そんな・・・。」

「だから・・・真実は伝えないほうがいい。」

「・・・わかりました。ありがとうございます。」

「えっと・・・さ、さあ。みんなはそろそろ午後の演習の時間だろう?早く行かなければまた提督に怒られてしまうよ。」

「え?・・・ああ!もうこんな時間!みんな行くよ!」

「やっば!次遅刻したら始末書どころじゃないよ!じゃあフォードさん、チェリスさん。また今度!」

「お茶ありがとうございました。美味しかったです。」

「ああ、早く行っておいで。」

タタタハヤクー

 

 

「すまないね。騒がしくて。」

「いや、賑やかでいい。」

「彼女たちの前では聞けなかったんだが・・・。2つほど聞かせてくれないか。」

「答えられることならば。」

「私の故郷・・・、バージニア州リッチモンドなんだが。そこはどうなっていた・・・?」

「・・・、アメリカ本土でもだいぶ敵の攻勢が強まっている。先月大規模な電撃侵攻があり、ニューヨークとDCは陥落した。リッチモンドの話は聞かなかったが、防衛ラインをシャーロットからピッツバーグにかけて設定すると聞いたからおそらく・・・。」

「そうか・・・。あそこには私の家族が居たんだ。幼い娘と妻の3人で暮らしていたんだが。その分だと逃げ切れているかわからないな・・・。」

「沿岸部に居た住民はほとんどが空爆によって死亡したと聞いた。生き残っている可能性は低いと言わざる終えない。」

「・・・。わかった。」

「・・・もう一つの質問というのは?」

「ああ。そうだったな。聞くかどうか迷っていたけど、今の話を聞いて少し吹っ切れた。」

「・・・?」

「フォードさん。」

 

 

 

 

 

「あんた。私を殺しに来たんだろう?」

「!」

「何故そう思うかって?色々理由はある。この世界情勢とあんたが日本本土から安々とここまでこれたことが主な理由かな。」

「・・・。」

「昨今の世界情勢はかなり厳しく、世界中深海棲艦に侵略を受けていない国はないと言っていい。殆どが国を焼かれ人々は内陸に追いやられている。にもかかわらず日本だけは艦娘たちの存在が有るとは言え、本土空襲こそ有るものの上陸を許したという情報は皆無だ。」

「艦娘たちが頑張っているということではないのか?」

「いや、違う。ここに来て防衛機密情報にもいくつか触れる機会があったが、そのなかにあった本土防衛計画には艦娘たちが多くいる鎮守府や警備府などを重点防御し、その他の沿岸部はまるで無防備なんだ。」

「どういうことだ?」

「深海棲艦は明らかに防衛上の抜け穴が有るにもかかわらず、狙うのは重点防御されて守りが強固になっている場所ばかり。欧米ではこんな穴だらけの防衛線じゃすぐ内陸部に侵攻を許して国は1ヶ月と持たない。何かウラがある。」

「ウラ?」

「ああ。他にも大本営が指定してくる作戦はどれもこれも敵の薄いところを的確についた作戦ばかりだ。百歩譲って大本営が歴戦の猛者の集まりで超がつくほどの有能集団だとしてもこれは明らかにおかしい。」

「大本営が敵が薄いところを知っている・・・ということか。」

「ああ。しかも前線に出ている艦娘たちよりも早く、正確に。これらを総合して考えた結果、私は恐ろしい結論に至ったんだ。」

「・・・。」

「大本営は、深海棲艦を操っている元凶なのではないか。ということだ。」

「・・・。」

「実際そう考えれば辻褄が合うんだ。日本にだけ攻撃の手を緩める深海棲艦。日本の大本営にだけ知らされる敵の位置。アメリカ軍ですら苦戦している深海棲艦に対する圧倒的な攻撃力をもつ日本の艦娘。私はそれらを検証するために一度だけ日本本土へ行ったんだ。」

「本土へ?」

「ああ。大本営からの召喚という形だったけどな。でも確認するには十分だった。」

「何を見たんだ。」

「本部のパソコンに保管されていた機密文書の一番奥にあったんだ。暗号化されていてファイル名しかわからなかったけどな。“強襲上陸型深海棲艦設計案”って書いてあったよ。」

「設計案・・・。」

「そのときは誰にも見つかってなかったはずだった。しかしその日から周りの憲兵の見る目が鋭くなったんだ。明らかに私を敵視している。私は狙われていると思うようになった。だからこのほとんど艦娘しかいないこの島に戻ってきたんだ。」

「そういうことだったのか。」

「お前は何処の所属なんだ?もう俺の中ではアメリカ生まれってのも信憑性が無くなってるぞ。」

「・・・。」

「ま、答えられないか。それでもいいさ。」

「私が怖いのか?」

「そういうわけじゃない。既に妻と子供も絶望的と知った今となってはね。だが私が死ぬことで艦娘たちがどう思うかと想像したらなんか悲しくなっちゃってな。」

「みんな死ぬ時には多かれ少なかれ悲しむ人がいる。多いに越したことはない。」

「わかってる。だが、俺はおそらくこのまま生きながらえることは出来ないだろう。君が見逃してくれたとしてもまた新たに刺客が送り込まれるだけだ。それならば外部の人間である君に託すよ。」

「託す?」

「えっと、この辺に・・・。」ゴソゴソ

「何を探している?」

「んー・・・あった。これをやろう。」

「メモリースティック・・・。」

「その中には本土にいったときにコピーした深海棲艦の設計案が入ってる。暗号化されてるからまるごとコピーしか出来なかったけど、君たちなら開けるかもしれない。」

「・・・。」

「その設計案を検証して深海棲艦を倒す足がかりを作って欲しいんだ。それが叶うならば私は喜んで君に殺されよう。」

「わかった。本部へ持ち帰って検証させてもらう。」

「よろしく頼むよ。ある意味君が最後の人類の希望だ。」

 

 

長いこと話し込んだ結果、外はもうすぐ日が暮れようとしていた。私はもらったメモリースティックを懐へしまう。

 

 

「さて、もう私に思い残すことはない。家族の元へ行くことにしよう。」

「それなのだが、できれば事故に見せかけたい。暗殺の対象になったと知ったら彼女たちは悲しむか、もしくは反旗を翻して処分対象になる可能性がある。」

「そうだな。できれば苦しまずに逝きたいものだ。君、銃はもってるかい?」

「ああ。」

「この家の裏手にちょっとした崖が有るんだ。もっとも深海棲艦との戦闘で出来たクレーターだけどね。」

「なるほど。そこから転落したと見せかけるのか。」

「ああ。事故ではなく自殺になるけどね。ちょっとまっていてくれ。今それなりの信憑性の有る遺書を書こう。」

「私はどうすれば?」

「崖の際に立つ私の右のこめかみを銃で撃ち抜いてくれ。それなら一瞬で終わる。」

「そしてそのまま崖から転落、発見されてもあなたが拳銃自殺したようにしか見えないということか。」

「そういうことだ・・・よし。こんなもんだろう。不思議なもんだ。遺書なんか初めて書くのに意外にスラスラかけた。」

「遺書に先程のことを書いていたりしていないだろうな?」

「僕はそこまで間抜けではないよ。ちゃんと別の理由にしたさ。君にはちょっと責任の一端をになってもらうけどね。」

「私の話を聞いたことで絶望した。とかそんなところか。了解した。」

「では行こうか。」

 

 

私達は誰にも見られないように周囲を確認しつつ家の裏手の崖に来た。そこは確かに大きなクレーターの縁の部分で、クレーターの直径は少なく見積もっても1キロ、深さは一番下が海面下なのでよくわからない。

 

彼は地面に書いた遺書を置くとその上に自分の靴を脱いで置いた。彼はそのまま縁の際に立つとこちらに右側頭部を向けた。私はシルバーボーラーを取り出すと彼の頭に狙いを定めた。

 

 

「これでこめかみも狙えるだろう。」

「ああ。」

「不思議だな。何の恐怖もない。むしろ清々しいくらいだ。あの子達にもう会えなくなるのは悲しいけどね。」

「彼女たちもきっと理解するだろう。故郷と家族を失う悲しみは彼女たちもわかっているはずだ。」

「前世の記憶ってやつだな。たしかに彼女たちほど故郷を恋い焦がれ、多くの家族を失った者もそうは居ないだろうな。」

「じゃあ・・・行くぞ。」

「ああ。最後に君にあえて楽しかった。では。あの世で会おう。」

「・・・運が悪ければな。」

 

 

 

パシュン

 

 

 

銃弾は彼のこめかみ部分に正確に命中し、彼を即死させた。そのまま反動でゆっくりとクレーター側に倒れ込み、落下し、海に落ちて波に飲まれて見えなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。お疲れ様。感傷に浸っている場合ではないわ。脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は、銃をしまうと彼の残した遺書を拾い上げて艦娘詰め所へ駆け足で向かった。

 

 

「失礼。緊急だ。」

「あ、フォードさん。また会いましたね。」

「oh!彼がミスタ・フォードですか?なかなかにイケメンですネー!」

「お姉さま、静かに。で、フォードさん。緊急とは?」

「先程まで彼の小屋で話していたのだが、彼が小屋から出ていった後に銃声がしたので外へ出て確認していたらこれが。」

「これは・・・遺書!?」

「ま、まさか!チェリスさんの!?」

「私はまだ読んでいないがこれと一緒に靴が家の裏手の崖の際に。」

「そんな!なんで!どうして!」

「落ち着くネ、ブッキー。崖の際ということは飛び降りたノ?」

「家を出た後に比較的近くで銃声がした。おそらく拳銃自殺の後に転落したものと。」

「キリシマ。遺書にはなんて?」

「・・・どうやら自らの故郷と家族を失ったことを知ったため絶望したようですね・・・。」

「私が軽率にも彼の故郷のことについて話してしまった。はぐらかしても引かなかったものだから、一応覚悟はしろと伝えていたのだが。」

「フォードさんのせいじゃありませんよ・・・。」

「そうネ。せめて遺体だけでも回収してちゃんとお葬式を上げてあげたいからこれから探してくるヨ。もしかしたら生きてるかもしれないし。」

「頼む。私は海の上は走れない。」

「私も行きます!フォードさんは司令部にこのことを伝えてください!」

「私も。お姉さまと吹雪ちゃんだけでは荷が重すぎますからね。」

「じゃあ行くヨ!艦隊抜錨!」

 

 

彼女たちは艤装を付け、詰め所から飛び出していった。私はその詰め所内にあった内線を使って現状を司令部に通達した。現場待機を命じられたが、私は詰め所を出て、飛行場へ向かった。

飛行場には露点駐機の航空機がいくつかあったが、その中の一つ、側面に英語で“イデアル コンピティクショナル エアロダイナミクス”と書かれている飛行機に乗り、この海域を脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~3日後~

 

 

「このファイルはなかなか興味深いですね。」

「彼は深海棲艦の設計案だと言っていた。」

「なるほどなるほど・・・この部分から空気を取り込んで・・・ふむふむ・・・。」

「それで、役に立ちそうか?」

「ええもちろん。どんなに特殊なデータも役立てて応用するのがわれら技術部ですから。」

「よろしく頼む。」

「ですがこれを我々に託してどうしようと?失礼ながら前回の作戦の映像記録は見させてもらいましたが。」

「私個人としてはどう使われようと対して興味もない。が、彼の言っていた“大本営が深海棲艦の元凶”という説は興味深い話だと思っている。」

「なるほど。まあ我々としては彼らの世界がどうなろうと知ったことではないですが、少なくともこのデータは使えますよ。」

「・・・。」

「ミス、バーンウッドには解析が完了次第、こちらから連絡をします。エージェント47は休息に入ってください。」

「了解した。」

 

 

 

「ふうむ・・・この再生能力と生物装甲・・・。これはあのプロジェクトに応用できそうだぞ・・・。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「準備万端!」 +1000 『艦娘の艤装を整備する。』

・「47の黙示録」 +1000 『艦娘に世界の現状を話す。』

・「家族の元へ」 +5000 『ターゲットに自殺させる。』

・「慈愛の書」  +1000 『艦娘にターゲットの遺書を見せる。』

 




「一粒の麦がもし地に落ちて死ななければ、それは一つのままです。しかし、もし死ねば、豊かな実を結びます。」

ヨハネの福音書12章24節


次回は別アプローチです。


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HITMAN『絶望の海』(もう一つの世界線)

『絶望の海』の別アプローチ版です。


『ミッドウェー島へようこそ。47。』

 

『今回のターゲットは深海棲艦に殲滅されたこの島の唯一の生き残りであるアンドリュー・チェリス少尉。現在は日本の艦娘によって奪還されたこの島で、現地司令官の軍事顧問として生活しているわ。』

 

『クライアントは日本国大本営。彼らの計画においてターゲットの存在は邪魔でしか無いけど、現地の指揮官や艦娘に慕われている彼をむやみに処刑できないため抹殺依頼をだしたようね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「お兄さんもアメリカの人っぽい?」

「いや、私はヨーロッパの方から来た。」

「そうなんだ。じゃあレーベとマックスを知ってる?」

「名前だけなら聞いたことがある。」

「今度紹介してあげるよ。いい子たちだから。」

「この艤装も彼女たちのものなのだろう。後で直接会おう。」

 

 

私は今、島の中央部にある滑走路の脇で艦娘たちの艤装のメンテナンス作業を行っている。欧州から派遣された臨時整備員としてこの島に来ているためだ。欧州から派遣された艦娘たちはそれぞれ各国独自の進化を遂げた艤装を装備しているため、艦娘発祥の地である日本でも完璧には整備できないらしい。そこで欧州から整備員が派遣されることになったわけだ。私はその整備員を舞鶴で発見し、こうして入れ替わっているというわけである。

 

艦娘たちが暇を持て余して私の周りでメンテナンス作業を見学している。この島には娯楽が少ないためこんな油臭い作業でも一種の娯楽足り得るらしい。しかし私が黙々と作業をしていると一人また一人と飽きて何処かへ去っていった。その内回りに居るのは一人だけになった。彼女たちからは“吹雪”と呼ばれていた子だ。彼女だけは熱心に私の作業を最後まで見ていた。

 

 

「・・・ふぅ。」

「終わったんですか?」

「ああ。それより何故君はこんな地味な作業をずっと見ていたんだ?」

「え?ああ・・・私、こう見えても駆逐艦たちのまとめ役をしているんです。最近入ったレーベちゃんとマックスちゃんのこともっとよく知っておかないとと思って・・・。」

「ふむ。熱心なものだ。しかしそれならば本人たちと一緒に行動するほうが遥かに親睦が深められると思うのだが?」

「あ・・・そ、そうですね。私ったら・・・。」

「早く行ってやるといい。こちらはもう片付けてしまう。」

「はい。あの・・・ありがとうございました。」

「礼を言われる覚えはないが。」

「あ、そうですよね。あはは・・・。じゃあ。」

「ああ。」

 

 

何故か彼女は苦笑い状態のまま走り去っていった。私は指定されていた倉庫に整備した艤装を戻すと行動を開始した。まずはターゲットの位置を確認し無くてはならない。私は艦娘たちが多くいる詰め所へ向かった。

 

 

 

詰め所と言ってもプレハブ小屋の建設現場の休憩所のようなところである。彼女たちは一様に母港となる鎮守府や泊地があり、ここへは周辺海域での作戦遂行のために一時的に停泊しているだけに過ぎない。この島に住んでいるのは、ターゲットを除くと日本の整備員数名程度である。

 

詰め所には何人かの艦娘たちが談笑していた。私は窓を少しだけ開けて聞き耳を立てた。

 

 

「それにしてもアレは何だったんですかね?」

「アレってなんデース?」

「えっと、この島から西に500キロほどのところを定時哨戒していたときです。水平線の向こうで何かが光ったんです。」

「何かの爆発とかですか?」

「かもしれないわ。光った後に地鳴りのような音がしたから・・・。」

「キリシマお得意の情報はないんですカー?」

「お姉さま。私とて万能ではありませんよ。」

「そういえば西南西400キロ地点で輸送任務にあたってた17駆のみんなが言ってました。東の方でやたら尾の長い流れ星が見えて、直後に津波のように波が高くなったって。」

「隕石でも落下したのでしょうか?」

「サア・・・。私は見てないからなんとも言えないけド、特にその後以上もなかったんだから大丈夫なんじゃないですかネー?」

「だといいんですけど。」

 

「っと、そろそろいつもの配達の時間なので行ってきますね。」

「アア、もうそんな時間ネ。でもアレはそろそろ止めておいたほうがいいって言ったほうがいいネ。」

「私も何度も言っているんですけど、“これだけが楽しみだから”って言われちゃうとなんだか・・・。」

「まあチェリスさんもそんなに一気には消費してないみたいですし、そんな急激に体が悪くなるようなこともないはずですからね。」

「でもアレは分量間違えると即死するレベルの毒性も持っていますからそこらへんだけは注意するように言っておいてくださいね。」

「わかっています。ちゃんと分量を示した紙も同封していますから。」

####アプローチ発見####

「今の所問題はないようだからいいけどネー。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットは駆逐艦吹雪に何か特別な食べ物を毎日決まった時間に届けさせてるみたいね。しかも分量を間違えると死に至るような刺激的なものを。吹雪ちゃんは忙しそうだし代わりに届けてあげたらどうかしら?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「では駆逐艦吹雪!第2倉庫からチェリス邸へ、ミドウガタケの輸送任務を開始します!」

「はい。いってらっしゃい。」

「早く帰ってくるデース。ご飯の準備をしておくネー。」

「はい!」

 

 

どうやらその食材は“ミドウガタケ”というらしい。名前からしてきのこ類だろうか。私は窓を静かに閉めると、表に回り込む。家から出てきたばかりの吹雪を見つけると走り寄った。

 

 

「吹雪さん。」

「あ、整備員さん。さっきはどうも。」

「吹雪さん。提督が臨時司令部に来るようにと言っておりました。急ぎのようらしいです。」

「え?本当ですか?どうしよう・・・これからチェリスさんに届けなきゃならないのに・・・。」

「提督はそれなりに焦っている様子でしたので早めに向かったほうが良いかと。」

「・・・わかりました。輸送任務を中断して向かいます。伝令ありがとうございます。」

「いえ。」

 

 

吹雪はそのまま進んでいた方向とは逆の方向へ走って行った。司令部まではそれなりに距離があり、往復には少なくとも30分はかかるだろう。私はその間に第2倉庫へ向かった。

 

 

第2倉庫と言っても外見はただの40ftコンテナである。内部を倉庫という名の物置に使っているだけのようだ。扉を開けると中には両脇に棚が設置されており、様々なものが陳列されていた。私は中にはいり、ミドウガタケを探した。

 

様々なものが陳列されていて探しにくかったが、中程に置いてあった木箱にミドウガタケの文字を発見した。しかし私の目的はこの得体の知れない食材ではない。この周囲にあるはずの・・・あった。ミドウガタケの摂取調整表と書かれている紙だ。どうやらこのよくわからない食材はその日の天候や気温、前日の摂取量などによって量が上下している。本日の摂取可能量は前日の3分の1である120gになっていた。

 

私は倉庫の隅にペンが転がっているのを発見した。ペンを取り先ほどの摂取調整表のグラム数を改竄した。多少無理があるかもしれない書き方になってしまったが、120gを420gに変えておいた。分量的には先々週に500g摂取している時があったので問題はないはずだ。もっとも、今日の分としては問題しか無いだろうが。

####アプローチ完了####

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『数字を書き換えるだけで人が死ぬ。人の命は些細なことで生きるか死ぬかが分かれるのよね。これでターゲットは摂取量オーバーになって死亡するはずよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はペンを隅に放り投げると倉庫から出た。近くの茂みに隠れて様子をうかがう。しばらくすると吹雪が駆け足で戻ってきた。

 

 

「はっはっはっ・・・急がないと。でも司令官何の用事もないってどういうことだろう?じゃあなんで呼んだのかな・・・。」

 

 

司令官に呼ばれたと聞いて駆けつけるも呼んでないと門前払いされたか、少々不機嫌そうな顔で第2倉庫であるコンテナに駆け寄った。中に入ってすぐに先程の紙と木箱を持って出てきた。さすがは艦娘、4~5キロはありそうな木箱をまるで薄いファイルを持つかのような手軽さで運んでいる。

 

私は彼女の後を追うように中腰状態で尾行した。艦娘の感覚がどれほど人間より優れているかはわからないが、少なくとも常人のそれとは比べ物にならない位という想定のもと動く。見失うかどうかギリギリのところ、約300mほど開けて尾行する。幸いにして見失う要素となりえる路地や建物群などはここには無い。10分ほど尾行した後、彼女は一軒のプレハブ小屋に入っていった。私はすかさず距離を詰めると壁に張り付き中の会話に聞き耳を立てる。

 

 

「みんな言ってましたよ。これを食べるのはそろそろ止めたほうがいいって。」

「ああ。私もわかってはいるんだ。しかし、食べるのをやめると浮かんでくるんだよ。」

「浮かぶ?何がです?」

「この島に一緒に居た戦友たちの最後の叫びだよ。」

「最後の・・・。」

「ああ。私達は皆で塹壕に隠れながらこのきのこを食べて生きながらえたんだ。あのときも、みんなでこいつをパクついてるときに、彼らは来たんだ。」

「・・・。」

「・・・ああ、こんな話してもしょうがないな。今は前を向かないと。」

「いえ・・・私達も以前は似たようなことはありましたから・・・。」

「そういえばそうだったね。それで、今週はどのくらい食べられるのかな?」

「あ、はい。ここの紙に書かれてるとおりです。これをオーバーすると最悪の場合死に至りますので気をつけてください。」

「はいはい。その文言はお約束なのかい?」

「お約束ではなく、規定です。これは毎回口頭で確認するようにと厳命されていますから。」

「そうか。まあせいぜい死なないように気をつけるとするさ。」

「では私はこれで。・・・あ、明日なんですけど、明石さんが艤装のことで聞きたいことが有るので朝一で四号棟に来てほしいそうです。」

「おお、わかった。じゃあまた明日。」

「はい。」

 

 

会話を終えると吹雪は足早に小屋を後にした。小屋の中を窓から確認すると、さきほど彼女が運んできた木箱の前で紙を読んでいる男が居た。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが、アンドリュー・チェリス少尉。この島の悲劇の最後の生き残り。さあその悲劇に終止符を打ってあげましょうか。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ターゲットは紙に書かれている内容を一通り読むと、静かに紙を机においた。そのまま少し虚空を見上げたのち、おもむろに小屋を出ていった。

 

私はターゲットが出ていった後の小屋に侵入した。死亡しなかった場合に備えてなにか代替策になりそうな情報はないか探るためだ。私は慎重にタンスや戸棚、壁にかけてある絵画の裏などを探る。すると、机の裏の隙間からメモリーカードが出てきた。明らかに紛失したと言うよりも意図的に隠したそのメモリーカードの真意を考えていると、窓の外でターゲットが戻ってくるのが見えた。私は急いで小屋から脱出し、近くの茂みに再び隠れた。

 

ターゲットは外で野草のようなものを摘んできたらしい。棚から鍋とガスコンロを取り出すと料理をし始めた。野草と一緒にミドウガタケを入れる。その量は明らかに120gなどではない。そのまま小一時間調理したのち、完成したのかそのままその場で食事を取り始めた。その顔は美味しいものを食べている顔とは程遠い表情をしていた。鍋の中身をあらかた食べ終えたターゲットは食器類や鍋やコンロを片付け始めた。そう言えばあのきのこの毒成分が、どのくらいで効果を発揮するのかが確認するのを失念していた。

 

仕方がないのでそのまま夜になるまで様子を見ることにした。ターゲットは片付けを終えると、寝る準備をし始めた。軽くベッドメイキングを行った後に部屋の電気を消してベッドに入ってしまった。私は念の為3時間経っても変化がない場合は侵入して寝ているところを襲うことも考えた。しかし、就寝してからすぐに変化があった。

 

ベッドに入って数分後にうめき出した。胸を鷲掴みにして苦しみを耐ええようとしているようだが、過呼吸のような症状の後一気に落ち着いてベッドに沈んだ。ターゲットはもうピクリとも動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認したわ。お疲れ様。その島から脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は小屋を後にし、夜闇に紛れるように隠れつつ、港へ向かった。港には船舶こそ無いものの、その桟橋には水上機が何機か係留されていた。おそらく本土との連絡用だろう。私はそのうちの一つに入り、そのまま飛び立って脱出した。

 

操縦している最中にふと左ポケットに物が入っているのに気がついた。あまりに軽くて気が付かなかったそれはターゲットの部屋で見つけたメモリーカードだった。持ってきてしまったが、もとより隠していたものなので無くなっていても問題はないだろう。私はそのまま本部へ持ち帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~1週間後~

 

『ご報告がございます。』

「わざわざ直接報告しに来るということはなにか進展があったのかね?バーンウッド君。」

『はい。先日行われました“カテゴリ・LOG”の試験結果が出ました。まだ実用段階とするには早すぎた模様です。』

「ううむ。まだもう少しかかるか。まあいい。まだピースは揃いきっていないのだから焦らずともよいのだ。それにカテゴリLOGはプロジェクトの中では保険のような存在だからな。」

『もう一つ。先日エージェント47が回収したメモリーカードの解析が完了しました。』

「ああ、あの深海棲艦とかいう謎めいた生命体の設計図とかいうアレかね。」

『そのとおりです。その解析の結果、あの世界で確認されているほぼすべての深海棲艦の設計図が、詳細に記されていることが判明しました。』

「ほほう。それはそれは。なかなかなものですね。」

『これを所持していたターゲットはこれを対深海棲艦の切り札にしようと考えていたようです。』

「相手の事細かな情報はたしかに切り札足り得るものだ。しかし・・・。」

『はい。この情報は技術部に一任しました。彼らの世界の切り札にはなることはありません。』

「それがいいだろうな。彼らにも深海棲艦にもまだやってもらいたいことは有る。」

『では計画通り当該世界の日本国大本営との交流を続けてまいります。』

「うむ。頑張ってくれたまえ。彼らはプロジェクトの最初の顧客なのだから・・・。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「どちら様でしょう?」 +1000 『ターゲットと直接接触しない。』

・「よくある気まぐれ」  +1000 『吹雪に司令官室へ行くように仕向ける。』

・「夢見の良くなる薬」  +3000 『ターゲットをミドウガタケで暗殺する。』

・「世界の切り札」    +3000 『ターゲットの持つメモリーカードを回収する。』

 

 

 




着々と準備は進められています。


2019/06/17追記
例の兵器の初実験が行われました。


次回は紅い館へ向かいます。


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HITMAN『亡きメイドのパヴァーヌ』

『紅魔館へようこそ。47。』

 

『今回のターゲットはここ、幻想郷の勢力の一つ。吸血鬼レミリア・スカーレット率いる紅魔ファミリー、その本拠地である紅魔館に最近になって配属された一人の女性。名前は梅野花梨。外見上は一般的な日本人女性。でも情報によると特殊な人体改造を施されていて、限定的ではあるものの、特殊な身体能力を手にしているらしいわ。十分に注意して。』

 

『クライアントは八雲紫。以前私のところに依頼を持ってきた妖怪の賢者。今回は出所不明のターゲットを危険視しての依頼ね。彼女が手を下すと紅魔館の主要メンバーに露呈する可能性が高いらしくて、外部の者に任せざるを得なかったらしいわ。』

 

『ターゲットは紅魔館のメイド長である十六夜咲夜の下でメイドとして働いているわ。しかも紅魔館は男子禁制。侵入は容易ではないわ。情報部も技術部もフルバックアップするからうまく侵入してターゲットを排除して頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

さてどうしたものか。私は今紅魔館から300mほど離れた森の中に居る。

 

正面の門には門番が立っており、仁王立ち状態で先程から動く気配がない。外周を回って見渡してもそれ以外に入り口は見当たらない。外壁は高さは2~3mとそれほどでもないが一番上には侵入防止用と思われる金属製のトゲが有る。もとより魔法使いや魔物が跋扈している世界に住む吸血鬼の館。このようなさりげない塀にも侵入感知装置があっても不思議ではない。やはり正面から侵入するしか無いだろう。

 

今回、愛用のシルバーボーラーでは火力不足になる恐れがあったため、Enram HVのサプレッサー付を持参した。弾倉には特製のAPスラッグ弾を装填しており、威力は厚さ5cmの鋼鉄版や20cmのコンクリートブロックを貫通できる。近距離ならば魔物相手でも効果的に無力化できるだろう。更に、吸血鬼が居るという情報もあったため銀製の散弾も持参した。

 

私は慎重に門へ近づく。情報によればこの大きな館で人間はターゲット含めて2人だけだという。つまりあの門番も妖怪と呼ばれる魔物である可能性が高い。妖怪は視覚聴覚を含めた五感が人間のそれとは比べ物にならないらしいので、既に私の位置にも気が付かれている可能性すらある。

 

私は双眼鏡で門番を見る。ピクリとも動かず、目は閉じてあたりの気配を探っているように見える・・・。

 

 

「・・・。グゥ」プゥー

 

 

 

・・・。見事な鼻提灯。まさかとは思っていたが、もしかして寝ているのか?私は試しにもうすこし近づいてみた。門の反対側からゆっくりと近づく。

 

 

「グー・・・」

 

 

完全に寝ている。これでは流石に門番としても妖怪としても力を発揮できないと思われる。私は試しに茂みの中から門扉に向かって小石を投げてみる。

 

 

カーン

「・・・グゥ…」

 

 

それなりに甲高い音が響いたにもかかわらず全くの無反応でそのまま眠りこけている。私は更に近づいていく。とうとう門のところへ到着した。門には鍵はかかっておらず、ノブをひねり押し開けるといとも簡単に開いた。私はすばやく門をくぐり抜け、門を閉めた。すぐさま中庭の植え込みに身を隠す。その間、門番は全くこちらに気が付かないまま眠りこけていた。

 

 

 

植え込み伝いに中庭を進んでいると館の門が開いた。そこにはミニスカートのメイド服を来た人物が居た。私は気配を殺して見守る。次の瞬間彼女が消えたと思いきや門の外側に現れた。

 

 

「・・・はぁ・・・」シュッ

ザクザク

「はうぁ!?」

「美鈴。」

「は!咲夜さん!えっと・・・その・・・。テヘッ♪」

「テヘッ♪じゃないわよ。また居眠りして。今日はお嬢様から“来客があるかもしれない”と言われていたでしょうに。」

「あーすみません。でも来客ならそんなに警戒する必要はないかなと思いまして・・・。」

「来客はそのままの意味じゃないわよ。侵入者が来るって意味。あなたが警戒しないでどうするのよ。」

「あー!そういう意味だったんですね!わかりました!この紅美鈴、命に変えても侵入者を中へ入れさせません!」

「いつもそのくらいの意気込みでやってもらいたいものだけどねえ・・・。まあいいわ。私はすこし人里へ買い物に行ってくるわね。夕方ぐらいには戻るから。」

「はい!いってらっしゃい!」

「元気だけはいいわね・・・。」

 

 

門番は叩き起こされた。叩きというより串刺しにというほうが正しいかもしれないが。“咲夜さん”と読んでいたことを踏まえるとあのメイドがおそらく十六夜咲夜。時を止める能力がある人間という情報だった。非常に厄介に思っていたがなんとかやり過ごすことが出来た。私は門番が門の中から目を外したのを確認して中庭を更に進んだ。

 

 

やたら広い中庭を抜け、館の外壁に張り付いた。この館は洋風の外観ではあるが壁はワインレッド、屋根はパーシアンレッド、梁の部分はビクトリアンローズと全て赤系統で統一されており、非常に禍々しい雰囲気になっている。いくつかある窓のうちの一つを開け内部に侵入した。警報装置のようなものは見当たらず、意外に警備はザルだ。そもそも吸血鬼の館に忍び込もうとする輩が居ないと思われるため、警備も昼寝している門番だけで事足りるのだろう。

 

館の中は外から見るよりも広かった。情報では館内部は十六夜咲夜の能力を応用して空間を捻じ曲げているらしい。便利な能力だ。私は手近な部屋から順番に中を確認していった。

 

 

 

 

5~6部屋を確認したがどれもそれなりに豪奢な客間だった。掃除は行き届いているが使用されている形跡がないため無視している。そうしているうちにロビーと思われる場所へ来た。大階段が設置されており、上には豪華なシャンデリアが吊るされている。

 

私はひとまず1階を探索することにした。大階段の裏側にはキッチンがあった。中ではメイドが忙しく働いている。しかしそのメイドたちは一様に背中に薄い半月状の羽が生えていた。おそらく妖精と呼ばれる種族なのだろう。

 

 

「すみませーん。ブラジル産のコーヒー豆ってまだありましたっけ?」

 

 

奥の方から声が聞こえる。慎重に覗くと大きな機械の前で一人の女性が何かを探していた。奥の機械は形状や状況から見てエスプレッソマシンのようだ。近くに居た妖精メイドが棚の奥からコーヒー豆の入った袋を取り出すと彼女に渡した。

 

 

「ああ、ありがとうございます。でもなんでこんな奥に?・・・ああ。お嬢様が。そういえば苦いの苦手でしたものね・・・。」

 

ガガガガガ

 

「・・・っと、よし。あとはこれにミルクを入れて・・・。カプチーノの完成です!」

「小悪魔さん。何をやっているんですか?」

「ああ、梅野ちゃん。パチュリー様用にカプチーノを入れてるのよ。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが、梅野花梨。吸血鬼の館で働く物好きな人間。しっかりとメイドになっているわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「そうなんですか。パチュリー様はコーヒー飲まれるんですね?」

「レミリアお嬢様は苦いの苦手だからコーヒー牛乳しか飲めないけどね。パチュリー様は結構コーヒーお好きみたいです。」

「そうなんですね。小悪魔さんは飲まれないんですか?」

「私もたまには飲むけれど、私はどっちかって言うと紅茶のほうがいいかなあ。」

 

 

キッチンの隅でターゲットと頭と背中にコウモリ羽が生えた少女が談笑している。私は静かに彼女らの近くの扉に移動する。

 

 

「あ、早くしないとコーヒー冷めちゃう。じゃあまたあとでね梅野ちゃん。」

「はい。お仕事お疲れ様です。」

 

 

そのうちコウモリ羽根の少女がパタパタと駆けていった。ターゲットの方はと言うとキッチンで働く妖精メイドたちに何やら指示を飛ばしていた。時間的にはティータイムの時間だろうか。

 

少しした後、ターゲットはティーセットを持ってキッチンから出てきた。私は慎重に尾行する。ターゲットはそこらの妖怪たちと違い人間なのでそこまで気配を感知することは難しいと思われるため、門番の時よりは幾分近めだ。

 

大階段を登り、2階へ上がる。2階の廊下の奥に大扉の部屋があった。他にそのような扉がなく、ティーセットを持ってその部屋に入っていったことを考えると、おそらくあの大扉の向こうがこの館の主、レミリア・スカーレットの居室なのだろう。流石にこの館で一番の実力者の近くによるのは得策ではない。私は大階段の隅で待ち構えることにした。

 

 

しばらくそこで待っていると、大扉が再び開かれ、ターゲットが戻ってきた。私は急いで1階に降りる。彼女は幾分神妙な面持ちでまた大階段へ戻ってきた。階段を降り始める。私はEnram HVを構え階段上のシャンデリアを支える太いロープを狙った。シルバーボーラーではロープが太すぎてちぎれないかもしれないがこのスラッグ弾ならば問題はないはずだ。距離も100mも離れておらず、スラッグ弾でもなんとか狙撃できる。

 

私は彼女が階段の踊り場に来た瞬間に引き金を引いた。

 

 

ボシュン

ブチッ

「!」シュッ

ガッシャーン!

 

 

凄まじく派手な音を立ててシャンデリアがターゲットに落下した。元々シャンデリアは幾分突起が多い形状をしていたため、落下したシャンデリアは見事にターゲットを串刺しにした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。あっけなかったわね。任務完了よ、そこから離脱して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「な、なんですか!?今の音は!」

「煩いわよ。何があったというの。」

 

 

流石に館の中央で派手に落下したシャンデリアの音は館中に響き渡ったらしく、色々なところから妖精メイドが出てきた。先程談笑していた小悪魔と呼ばれていた少女や、大扉の方から出てきたコウモリ羽の少女、おそらくレミリア・スカーレットも何事かと駆けつけていた。私はその喧騒に紛れて来た道を戻るようにその場を後に・・・。

 

 

カシュッ

 

 

・・・?足元になにかがあった。拾い上げるとそれはケースに入ったSDカードだった。照明すら魔法とロウソクに頼っている館でSDカードが有るのはなんとも不思議だ。ともかく何かしらの情報になる可能性があるので持ち帰ることにした。

 

 

「なにごとですか!」バーン

「美鈴さん!梅野さんが!」

「なんですって!?」

「・・・。」

「美鈴さん、手伝ってください!シャンデリアをどかします!」

「わかったわ!行きますよ!せーのっ!」

ガシャガシャ

「梅野さん!しっかりしてください!」

「・・・だめだ。もう亡くなってる・・・。」

「そんな・・・どうして・・・。」

「・・・。」

「レミリアお嬢様?」

「・・・なんでもないわ。私は部屋に戻る。少し一人にして頂戴。」

「あっ・・・はい。了解しました。」

 

 

門番も駆けつけシャンデリアをどかしていた。私はその音に紛れて窓を開けて外へ出た。門番が館内にいるということは今、正門はがら空きだ。私は小走りで中庭を抜けて正門から外へ出た。

 

森の中を小一時間走り、その先にICAが用意した脱出用の車両が有るはずだ。

 

 

 

 

 

 

「遅かったのね。暗殺者さん。」

 

 

 

 

 

 

車両はものの見事に大破炎上していた。そのそばには先程館の中に居たはずのレミリア・スカーレットが立っていた。

 

 

「・・・。」

「あら、私が何故ここに居るのがわからないっていう顔ね。答えは簡単よ。“視えた”から。だから追ってきたのよ。」

「運命を操れるという話は本当だったようだな。」

「そこまで知っているのなら話は早いわ。では私が何故追ってきたかもわかるわよね。」

 

 

私はその返事の代わりに、背中にしょっていたEnram HVに銀散弾を装填した。

 

 

「私の新しいお気に入りを壊した罪は重いわよ。たっぷりと思い知らせてあげるわ!」

 

 

その言葉の直後にレミリアの体がかき消えた。私はとっさに前方に向かってダイブし、体を反転させて背後を向いた。背後に瞬時に回り込んだレミリアがその腕を豪快にふる。衝撃波のようなものが放たれ、周りにあった木々がなぎ倒される。私は振り向いた直後にEnram HVを発砲した。散弾なためその殆どはあたっていないが何発かかすったようだ。

 

 

「ちっ。銀弾か。吸血鬼対策は万全ってわけね。」

「お褒めの言葉と受け取っておこう。」

 

 

しかし状況は非常にまずいと言える。幻想郷の魔物の中でも最上位クラスに位置している吸血鬼との全面戦闘は本来想定していない。このショットガンも気休め程度だろう。何か打開策を考えねば・・・。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。そのまま粘って。今上級委員会から承諾が得られた。ICAが援護するから脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

何の承諾が得られたかはわからないが、今の状態ではそう長くは持ちそうにない。先程から避けてはレミリアが居ると思われる方向に散弾をばらまくの繰り返しだ。散弾なのでレミリアに回避行動を強要させているため生き延びられているようなものだ。周りの森が次々となぎ倒され焼け野原になっていく。

 

 

 

 

 

シュユルルル

ボォーン!

「うぉ!」

「きゃあ!」

 

 

突然爆風と思われる強烈な突風に見舞われた。私もレミリアも意表を突かれ突風に吹き飛ばされる。近くの樹を掴むが樹は根元からへし折れ、再度飛ばされた。私は近くの川に落ちた。川は少しだけくぼんでおり、幾分突風を防ぐことができた。レミリアは何処か別のところへ飛ばされたようだ。地面には地割れが出来ており、川の水が地割れに流れ込んでいる。

 

 

 

シュユルルル

ボォーン!

 

 

再度突風が吹く。どうやら離れたところに何かが弾着しているようだ。凄まじい突風が辺りの木々をなぎ倒しつつ周辺を掃討している。すると、その突風に吹き飛ばされレミリアが飛ばされてきた。彼女はそのまま川に落ちた。

 

 

「くっ・・・なんなのよもう・・・・。水・・・力が・・・。」

「・・・。」

「はっ、これがあなた達の力ってわけね。わかったわ。今回は引いてあげる。命拾いしたわね。」

「それは助かる。」

「今度はもっとマシな出会いをしましょう。暗殺者さん。」

「運が悪ければな。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『撤退したようね。攻撃を中止してすぐに迎えのヘリを向かわせるわ。そのままそこで待機していて頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

一体何をどうやったらこんな状況にできるのか。地割れと隆起で地面は荒れ果て、鬱蒼と茂っていた森はほとんど立っている木が見当たらない。遠くにはかなりの大きさのクレーターがあった。

 

数分後、ヘリが到着し、私はそれに乗って脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~数十分前~

 

 

「今の衝撃はなに!」

「わかりません!外の方からですが・・・。」

「みんな大丈夫?!」シュン

「咲夜さん!ご無事でしたか!」

「小悪魔、お嬢様は!」

「それが先程から姿が見えないのです。この大きな地震と衝撃波で館はみんな大混乱で・・・。」

「梅野は?彼女はどうしたの?」

「それが、先ほど玄関ロビーに飾っていたシャンデリアが落下してその下敷きに・・・。」

「なんですって!?」

「咲夜。」

「パチュリー様!」

「今は考えている暇はないわ。外から強い衝撃波と爆風、それに地面の地割れが起こってる。早急にみんなを避難させなさい。」

「りょ、了解しました。」シュン

「小悪魔、私達は館の防備を固めるわ。防護魔法を全力展開よ。準備して。」

「わかりました!」

「・・・一体何が起こっているというの・・・?」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「警戒厳となせ」  +1000 『紅美鈴が寝ている最中に正門を通る。』

・「きらびやかな運命」+3000 『シャンデリアをターゲットに落下させて暗殺する』

・「赤い館のお嬢様」 +3000 『レミリア・スカーレットと戦闘する。』

・「夜王と戦神」   +3000 『ICAの火力支援を得る。』

 

 




もうちょっと上手い爆音の表現があるといいんですけどねえ・・・。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『亡きメイドのパヴァーヌ』(もう一つの世界線)

『亡きメイドのパヴァーヌ』の別アプローチです。


『紅魔館へようこそ。47。』

 

『今回のターゲットは出所不明の日本人、梅野花梨よ。経緯は不明だけれど紅魔館でメイドをしているわ。クライアントである八雲紫は、出所不明の人物を幻想郷の勢力の一つに加担させるのは危険と判断したようね。』

 

『紅魔館は女性しか働いていないみたいだから今回は変装することは出来ないと思っていいわ。あと館の主は幻想郷でもトップクラスの実力を持つ吸血鬼。十分注意して。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「はうぁ!?」

「美鈴。」

「は!咲夜さん!えっと・・・その・・・。テヘッ♪」

「テヘッ♪じゃないわよ。また居眠りして。今日はお嬢様から“来客があるかもしれない”と言われていたでしょうに。」

「あーすみません。でも来客ならそんなに警戒する必要はないかなと思いまして・・・。」

「来客はそのままの意味じゃないわよ。侵入者が来るって意味。あなたが警戒しないでどうするのよ。」

「あー!そういう意味だったんですね!わかりました!この紅美鈴、命に変えても侵入者を中へ入れさせません!」

 

 

私は今紅魔館の門のすぐ外にいる。門の前で女性二人が話しているのが見える。片方は話し終えると道なりに歩いていった。話の内容からすると夕方まで戻らないらしい。となるとあのやたら張り切っている門番をどうするかであるが・・・。

 

今回私はTAC-4 ARを持参した。使い慣れたアサルトライフルだ。もちろん吸血鬼の館ということで銀の弾丸も1マガジン持参した。もっともまず館に入れなければ話にならないが。もう少し近づいてみよう。

 

 

ガサッ

「ん?なにか動いたような・・・?」

「・・・!」スッ

 

ニャーン

「ああ、何だネコかあ。このあたりでは珍しいなあ。」

ニャーン タタタタ

「ああ、いっちゃった・・・。ルーミアあたりに食べられなきゃ良いけど・・・。」

 

 

 

少し近づいただけで気配を察知された。幸いにして近くに猫が居たようで、それと間違えてくれた為見破られることはなかった。しかしこれでは動くこともままならないな・・・。しばらく思案していると、後方の空から何かが飛んできた。

 

 

 

「やっほーい!」

ドガァン

「ぎゃー!」

 

「お、中国。今日も元気だな!」

「魔理沙!毎回毎回門ごとふっとばしてくるの止めてくれないですかね?!怒られるの私なんですよ?!」

「おー、こりゃ見事に門がないな。門がなければ門番はクビか?」

「物騒なこと言わないでください!来客ってのはあなたのことだったのね!絶対に通さない!」

「お、久々に勝負と行くか?」

「望むところ!」

 

 

 

なんだかよくわからないが門が壊れて通れるようになった。魔理沙と呼ばれていた少女に連れられて門番が上空へ上がってしまったため、門は現在無防備だ。魔理沙とやらに感謝するべきだろうな。私は茂みから出ると上を伺いながら門をくぐった。

 

中庭はよく整備されており、いろいろな花が咲き誇っている。殆どが赤系統の花ばかりだが。おまけに館も赤系統の色で統一されているため、目につく範囲の殆どが赤いという事態になっている。非常に目に悪い。私は中庭を足早に抜け、館の東側の窓から内部に侵入した。

 

 

館の外観が赤いなら内装すらも赤い。グラスや燭台などまでは流石に赤くはなかったが。入ったのは客間のようだ。ソファやテーブル、ベッドなどがあるが使用されている形跡がないため来客用の宿泊設備というところだろうか。私は館の中を探索する。隣の部屋もそのまた隣の部屋も同じような作りだった。この辺一体はすべて同じ部屋のようだ。

 

私は一気に玄関ロビーまでやってきた。遮蔽物がなく隠れられる場所が少ないため、慎重かつ早急に抜けなくてはならないだろう。

 

私はロビー中央の大階段を登り、2階へ上がった。2階の部屋には遊戯室があったりそれなりの広さを持つ浴場があったりしたが、背中に羽の生えた妖精メイド以外は誰も居なかった。通路の奥に螺旋階段を見つけた。私は階段を登り3階へ向かった。

 

3階の部屋は1階の客間以上に殺風景な部屋ばかりだった。調度品は殆ど置いておらず、あったとしても乱雑に部屋の隅に固めておいてある。おそらく物置の代わりとして使っているのだと推測できる。

 

 

 

コッコッコッ

 

螺旋階段から誰かが上ってきた。私は手近な部屋に身を隠した。階段を登ってきた人物はそのまま一番奥の扉を開けて入っていったようだ。私は部屋から出て一番奥の扉に張り付き聞き耳を立てた。

 

 

 

「・・・ふぅ・・・こんなところでしょうね。ここまで調べるのに3週間もかかってしまったわ。あの人が見たら笑うかしら。」

 

 

 

私は慎重に音を立てないように扉を開ける。そこには部屋の中央に佇む一人のメイドが居た。部屋は物置部屋というべき場所で、あちこちに大きな荷物が置かれて埃を被っている。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。その目の前のメイドがターゲットの梅野花梨よ。こんなところに何のようなのかしらね?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ターゲットは現在一人きり、絶好のチャンスと言える。私は静かに懐からシルバーボーラーを取り出し、ターゲットの頭を狙った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなものでは私は殺せませんよ47。」

「!」

 

 

私は気配を最小限にしていたはずだが、気が付かれた。ターゲットはゆっくりと振り返る。

 

 

 

「こんにちは。エージェント47。案外遅かったですね?」

「・・・。」

「疑問でいっぱいですか?無理もないでしょうね。」

「お前は何者だ。」

「その疑問に答えてほしくば、私を殺してみせなさい!」

“サイレント”

「!?」

 

 

 

サイレント。ハルケギニアでの消音魔法を何故幻想郷の人間が?

 

 

「これでこの部屋でいくら騒いでも下の階はおろか、扉の向こうにも音は届きません。」

「お気遣い感謝するべきかな?」

「いえいえ。私もこのほうが都合がいいのでね!」チャキッ

「むっ!」タタタ

「さあ、踊りましょう!」

ダダダダダ

 

 

ターゲットはいきなり懐から銃を取り出した。形状から察するにAKSだろうか。いよいよ持って謎が深まるが私は物陰にとっさに隠れ、TAC-4で応戦する。

銃撃戦に発展し、壁、調度品、何かの木箱などを穴だらけにしながら銃弾が飛び交う。彼女がリロードする隙をみて一気に距離を詰める。しかし彼女も装填作業を片手で行い、もう片手で拳銃を発砲してきた。・・・!あの拳銃は・・・。

 

 

「どうしました?隠れてばかりでは私を殺すことなど出来はしませんよ!」

 

 

私は柱に隠れつつ辺りを観察する。・・・あそこだ。私はTAC-4を片手で連射する。彼女は銃撃から逃れるように左へと移動していく。無論片手なので命中精度はガタ落ちであるが今はそれでも良い。もう片方の手でシルバーボーラーを持つと、彼女の走る先の色が違う床を撃った。

 

 

バシュバシュベキ

タタタバキッ

「な!」

バキバキバキガシャーン!

 

 

見事に床が抜けて彼女は下の階に落ちた。私も続けてTAC-4を撃ちつつ下の階へ飛び降りる。

 

 

「・・・なんの真似かしらね。これは」

「・・・お嬢様。」

「・・・レミリア・スカーレットか・・・。」

 

 

落ちた先の部屋はレミリアスカーレットの居室だった。この館の主は少し離れたところで紅茶を飲んでいた。私はターゲットから銃口を外すこと無く辺りを確認した。ターゲットは落ちた体勢のまま、未だに床に座り込んでいる。

 

 

「誰が説明してくれるのかしら?」

「私がご説明します。」

「・・・。」

「・・・聞きましょう。」

 

 

「私はこの館に来たときに、今までのことを覚えていないと言いました。しかしそれは嘘です。本当は私はこの館に入り込むためのいわばスパイのようなものでした。」

「あらあら。スパイされるほど複雑な構造でもないのにね。」

「この目の前の暗殺者は、私の行いを危険視した幻想郷の管理人からの依頼で私を殺しに来たのです。」

「・・・。」

「既に私の得た情報は私の組織へ送信済みです。ですが私はここでおめおめと殺されるつもりはありません。お嬢様。できれば最後の願いと思って聞き入れてください。私とこの男の戦い、どうか邪魔をしないでいただきたい。」

「・・・。」

「私はこいつに殺されなくとも、この館から今日限りで出ていきます。今までご迷惑をおかけしました。」

「・・・わかったわ。でもこの部屋ではやらないでちょうだい。やるなら屋上でやりなさい。」

「・・・わかりました。」タタタタ

 

「暗殺者さん。無礼にも程がある入室の仕方だったけどそれは今回は不問にしてあげるわ。光栄に思いなさい。」

「・・・感謝する。」タタタ

 

 

 

「・・・。同じ・・・か。」

 

 

 

 

私はターゲットを追って部屋を出た。ターゲットは先程の螺旋階段を駆け上がっている。私もその後に続く。階段は狭く、ここでは仕留められない。

 

ターゲットは螺旋階段を登りきり、扉を開けて外へ出たようだ。私も急いで駆け上がり、扉を開ける。

 

ダーン キンッ

「さあ!決着を付けましょうか!」

 

 

扉を開けてそのまま飛び出していたら撃たれていたところだ。私はTAC-4を扉の向こうに乱射して牽制する。牽制の後扉をくぐり屋上へ出た。屋上には空調システムと思われるダクトが張り巡らされていた。私はそのうちの一つに張り付く。

 

再び銃弾の応酬が始まった。私はダクトを移動しながら銃撃を加えていく。しかし相手も同じように移動するため堂々巡りになっていた。消耗戦になっている。ターゲットが館正面の縁のダクトに張り付いたその時、

 

 

ドカーン!モッテカナイデー!

「!!」

「・・・!」

ダーン

 

 

ターゲットのすぐ近くで爆発があった。何の爆発かはわからないがその瞬間、ターゲットが一瞬よろめいた。私はその機を逃さず彼女の胴へ銃弾を放った。

 

銃弾は彼女の腹部を貫通。撃たれた衝撃で銃を手放し、下へ落としたようだ。彼女はそのまま屋上の縁に設置されている柵にもたれかかるように崩れ落ちた。何とか勝利できた。いつの間にやら銀の弾丸すら使用していたようだ。もう銀の弾丸が5発しか残っていなかった。

 

 

「ぐ・・・見事でした。47。さすがですね。」

「お前は何者だ。」

「・・・私は・・・私の名は梅野花梨などではありません。」

「・・・?」

「私の名は、エージェント50です。」

「エージェント・・・。」

「そう。あなたと同じ生産ロットで、あなたの女性バージョンというわけです。ですがあなたの強さは、私の・・・遥か・・・上・・・だ・・った・・・。」

「・・・。」

 

 

彼女は動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。現在上層部に確認したわ。エージェント50は別働隊だったようね。ともかく任務は完了よ。帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「終わったのね。」

「レミリア・スカーレット・・・。」

「あの子がスパイだっていうのは最初からわかっていたわ。でも私の城で何をスパイされたとしても問題ない自信があった。」

「・・・。」

「あの子はスパイ活動もそこそこに、私のために忠実に働いてくれていたわ。他のみんなからも慕われていた。」

「・・・。」

「あの子は、もう私達の家族のようなものだった。」

「・・・。」

「あなたがやったことを責めるわけじゃないわ。私には“視えて”いたもの。あなたが来ることを。でも正直、何かが干渉しててあなたがこの館にやってくるところしか見えなかった。この結末が見えたのはつい先日、彼女の運命を改めて視たときだったわ。」

「このことを予見していたのか。」

「ええ。どうして対策しなかった?って顔ね。対策しようとしたわ。でも同時に視えてしまったのよ。いくら対策をしようとも彼女は今日、死ぬ運命だったということがね。」

「・・・。」

「あなたの目的は達成されたのかしら?」

「ああ。」

「そう。それはよかった。であれば早急に帰っていただけるかしら。私とて家族を殺した人間をいつまでも家に居させる訳にはいかないわ。」

「わかっている。邪魔をした。」

「ええ。本当に。」

 

 

私は階段を降り、そのまま大階段も降りて正面玄関から館を後にした。門番はなぜか門の前で倒れていたが気絶しているだけのようだったので放っておいた。

 

私は森のなかに用意してもらったICAの車両に乗って脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

~3日後~

 

 

『別働隊を用意する必要はなかったのでは?』

「私とて47を信頼していないわけじゃない。しかしプロジェクトのためにはより詳細なデータが必要だったのだ。」

『その結果エージェント50を死なせることになってもですか?』

「彼女は失敗していた。かの当主レミリア・スカーレットにスパイであることを見抜かれていた。だから、我々の手で抹殺したのだ。」

『我々の?ということはあの依頼は。』

「八雲紫からの依頼。もっともらしい理由だっただろう?」

『・・・。』

「そう怒るな。プロジェクトに必要なデータは揃いつつ有る。あとはカテゴリ・LOGの完成を待つばかりだ。」

『・・・そのことでご報告があります。』

「ほう?」

『カテゴリ・LOGの試作機が先月完成し、我々の世界と試験的に幻想郷にも配置しました。』

「なるほどなるほど。それで?」

『再度試射を行いましたが、まだ威力不足であると思われます。弾頭に改良を加えませんとプロジェクトには不十分かと。』

「そうか・・・。以前、深海棲艦の設計図を手に入れたと言っていたな?」

『はい。現在、自動再生機能付き生物反応装甲の実証試験中です。』

「それを弾頭用に改造したまえ。アレならばタングステンなどよりずっと良いだろう。」

『はあ・・・技術部に打診してみます。』

「うむ。では深海棲艦に関する技術は、“カテゴリ・ディープ”とする。早急に対処せよ。」

『了解しました。』

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「星屑の招待状」        +1000『霧雨魔理沙と紅美鈴が戦闘中に門を通り抜ける。』 

・「不思議の館のアリス」     +3000『ターゲットと戦闘する。』

・「闘技場ではない。」      +1000『屋上に出る。』

・「喉の奥に何かがあるみたいだ。」+5000『エージェント50を暗殺したあとにレミリアと話す。』

 

 

 




カテゴリ・LOG。進捗率75%


2019/06/17追記
この時点では再登場の予定はありませんでした。


次回は辺境の城に行きます。


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HITMAN『魔物に匿われた男』

『デスパレスへようこそ。47。』

 

『ここはこの世界に蠢く魔物たちの城。魔物たちの長である魔王デスピサロの居城。人里離れた辺境に有るけれど、ICAの大型ステルス機が送り迎えするから大丈夫よ。』

 

『ターゲットはこの城の地下牢に閉じ込められているパーブルという男。エンドール出身の彼は、人類側の情報を魔物に横流ししている罪でエンドール、ブランカ、サントハイム、バトランド等各地の主要各国から指名手配を受けているの。』

 

『ある時、旅の一行がデスパレス内部に侵入することに成功してね。そのときに地下牢にその男がいることがわかったの。各国は魔王が討ち滅ぼされた現在になっても強力な魔物が大量に潜むデスパレスへは手出しできない状況なのよ。そこで我々に依頼が来たというわけ。難しい任務だけど、それを理由に依頼料を釣り上げたら1000億ドルにもなってしまってね。釣り上げた手前受けざる終えない状況になってしまったの。』

 

『そんなわけだからクライアントは“人類連合軍”。主要8カ国による合同軍からの依頼。この世界の人類みんなから期待されているわよ。期待に答えないとね?』

 

『ついでに、と言っては何だけれど、先日“バサラブ”の改良が完了したわ。非常に強力な睡眠薬になったから、人間に使うとほぼ永久に眠り続けてしまうわ。一応起こす手段はないことはないけれどね。魔物のような強力な生命力を持った存在もこれである程度は眠らせることが可能よ。その実地試験もできればしてきて頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「降下用意。」

「・・・。」

 

 

私は今、ICAが用意したステルス輸送機に搭乗している。作戦ではこのまま高度13000mから単身HALO降下で潜入することになった。HALO降下は訓練施設では行ったが、実際に任務で行うのは初めてだ。そもそもこういう降下をしなくてはならない状況が稀なので仕方のないことでは有るが。

 

 

「グリーンライト。」

「では行くとしようか。」

 

私は搭乗員に軽く挨拶の手を挙げると、開かれた後部ハッチから外へ飛び出した。眼下には横長で高い山脈に囲まれた大陸が見える。その中央付近の平野に城が見える。私はその城めがけて降下していった。城の中庭には塔が建っている。その周囲は森に囲まれており、魔物たちに見られずに降りるには森のなかに着地するのが良いだろう。私は高度計のブザー音に合わせてパラシュートを展開し、城の東側の森のなかに着地した。

 

木と木の間にうまく降りることが出来た。私はすばやくパラシュートをたたむと近くの茂みの中に放り込んで隠した。現在時刻午前4時半。周囲は不気味なほどの静けさに包まれている。

 

今回、強化麻酔薬“バサラブ”の試験を含めると言うので、技術部に新型麻酔薬用に設計変更した麻酔銃を作らせた。以前の針型よりも大型であり、弾一つ一つの大きさは45口径弾と大差ない。先端部には大型の注射針が装着されている。採血針よりだいぶ太く、直径は3mmは有るだろうか。通常の人間の頭部に使用すると脳に深刻な損傷を与え殺傷することも可能だという。魔物相手に使う場合は躊躇なく頭部や心臓近辺を狙うようにと言われた。その程度で死ぬような体では無いようだ。その大きさと特殊機構ゆえに弾倉内は7発しか装填されておらず、急造品のため数もこの1マガジンしかない。使う相手は慎重に選んでいく必要があるだろう。

 

 

 

私は城の外壁部分に到達した。特殊な構造をしている城ではあるが、あちこちに窓やテラスがあり、侵入自体はそれほど苦ではないと思われる。中庭に建っている塔は入り口が見当たらない上に外周の地面には光り輝く床が設置されており、どうやら電気のようなものが流れているようだ。

 

私はひとまず近場の窓から内部への侵入を試みる。張り付いた建物の窓から中を覗くと、内部は広い広間になっていた。奥の壁には扉が等間隔に配置されており、たった今出てきた魔物の奥に見えた雰囲気だとどうやら宿舎になっているようだ。私は慎重に窓を開けると耳をそば立て、窓の周囲に魔物が居ないことを確認して内部に入った。

 

城内部は魔物の城とは思えないくらいに綺麗に掃除の行き届いた青と白のタイル床と、様々な調度品によって飾り立てられていた。しかし調度品デザインは悪魔や亜人などをかたどったものが多く、魔物の城足り得る禍々しい雰囲気を作り出していた。

 

私はその調度品の一つの、やたらトゲや出っ張りの多いソファに身を隠し、周囲を伺った。すると奥の扉から魔物が2体出てきた。

 

 

「あー、今日も意味のない一日が始まるな・・・。」

「そう言うな。我々が秩序を持ってこそ、ピサロ様の意思を継ぐことができるのだ。」

「そうは言ってもピサロ様亡き今、世界中の魔物たちも各々各地の有力者の傘下に入っていると聞くぞ。」

「ううむ・・・。しかしこの大陸には有力者と言われる者は居ない。今まではピサロ様やエビルプリースト様がいたから良かったものの、あの方々が勇者に討伐された今、我々も身の振り方を考える必要があるだろうな・・・。」

 

 

なんとも世知辛い話をしている。この世界では以前、デスピサロと呼ばれる魔王が魔物たちを統率して人間と対立していたようだが、去年の暮れに“導かれし者たち”と呼ばれる8人の人間によって討伐され、今現在は世界中の魔物の指揮系統が混乱している最中というのは情報部から聞いていた。

 

 

「エスターク様が居てくれたらなあ・・・。」

「ああ、そういやお前はエスターク様に元々仕えてたんだっけか。」

「ああそうさ。エスターク様は俺の記憶じゃ初めて全ての魔物を統括できたお方だった。進化の秘法を使われてからはおかしくなられて、最後の方はまともに会話もできなかったがな。」

「ピサロ様も使ってたアレか。あれはなあ・・・。正直我々魔物にも手に余る代物だよな。」

「そういや今地下牢にぶち込んでる人間、その進化の秘法の在処を知ってるとか息巻いてたな。」

「ああ、アッテムトに有るぞ!とか言ってたあれか。おそらく復活しかかったエスターク様のことを言ってんだと思うが、もう勇者に倒されてしまったからな。」

「今じゃあいつの話は一種のホラ話になってて下級悪魔どもの娯楽になってるらしい。」

「まあそんなくらいしかあいつには利用価値がないからな。そのおかげで生きながらえてるようなもんだ。」

 

 

どうやらターゲットは地下牢に閉じ込められているらしい。本来であれば施設図のようなものを探して地下牢の位置を特定するところだが、ここは魔物の巣食う城。施設図が有るかどうかも疑わしい。

 

私は彼らが談笑している横を通り抜け、一旦侵入した窓から外へ出ると窓を確認しながら忍び足で歩き始める。1階に点在している窓から地下への階段を見つけようというものだ。城内を歩き回るよりは見つかる確率が幾分減らせるだろう。

 

反時計回りに森を進み、城の外周を回る。上空から見えたもう一つの中庭と思われる池に出た。池は斜めに橋がかかっており、離れの建物に続いていた。私は池を大回りで迂回して離れの建物の近くによった。遠目からもわかっていたが窓が一つもない。扉には鍵はかかっておらず、中から物音もしないので慎重に開けて中を確認する。

 

中には下に伸びる階段があった。私は慎重に階段を降りる。降りた先には細い通路があり、更にその奥には鉄格子の扉が見えた。廊下には隠れるところがないため私は階段から目を凝らして扉の向こうを見定める。2匹の魔物が警備している扉の向こうに見えるのは・・・箱だ。赤い箱が何個も置かれている。箱の構造は遠目からでもわかるほどに豪猪であり、囚人用とはとても思えない。おそらくあの部屋は宝物庫だ。

 

魔物が守る宝物にはそれなりに興味を惹かれたが今はどうでもいい。私は階段を上がり外へ出る。また池を反時計回りに迂回し、城の外壁に到達する。城の中を覗くとすぐ近くにまた地下へ降りる階段が見えた。私は窓を静かに開けると内部に侵入、階段を降りた。

 

階段を降りるとそこは食堂だった。魔物たちも食事をしなければ生きられないのは人間と一緒らしい。食堂にはキッチンが併設されており、今まさに数匹の魔物がキッチンで何かを煮込んでいる。よくある創作物に有るような禍々しいものは何もなく、一般的な野菜や人間などではない一般的な動物の肉塊などが置かれている。見た目はいたって普通のキッチンだ。現実などそんなものだろうな。

 

私は食堂のテーブルに隠れつつ、その奥にある部屋を見た。奥には鉄格子の扉、その奥に転がる白骨化した死体。間違いない。ここが地下牢だ。しかし地下牢へ通じる道はキッチンで働く魔物から近すぎる。彼らを突破しなければ地下牢へはたどり着けないだろう。そろそろこいつの出番だ。

 

私は懐から新型麻酔銃を取り出し、キッチンで働く魔物2匹に照準を定める。・・・左の魔物がキッチン一番端の冷蔵庫と思わしきところを開けて中を覗き込んだ。その機を逃さず、もう一方の魔物の首筋に向けて麻酔弾を発射する。

 

パシュブスッ

「んが?うっ・・・。」ドサッ

 

 

うまく行った。もう一方も気がつく前に少しだけ見えている背中に向けて撃った。もう一方もそのまま冷蔵庫に顔を突っ込む形で眠ったようだ。

 

私は牢獄のスペースを覗き込む。牢獄の目の前のキッチンからはちょうど死角になる位置にテーブルを囲んで談笑している2匹の羽の生えたいかにも悪魔という風貌の魔物が居た。私は一方の足に向かって麻酔弾を打つ。

 

パシュブスッ

「ん?何かが足に当たったような・・・。」

「魔物が蚊に刺されてんじゃねえよ。」

「そんなんじゃ・・・あれ・・・なんだか眠く・・・」

パシュブスッ

「おいどうし・・・た・・・」

 

 

うまい具合に時間差で眠らせることに成功した。元々空城だったのもあって地下牢を含めたこの階全体ではもう魔物の気配はしなくなった。私は牢屋を一つ一つ調べていく。

 

 

「お、おい。何があった。どうしたんだ。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがパーブル。人類からも魔物からも見放された哀れな男。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「お、おいあんた人間か?」

「そうだ。」

「そうか・・・良かったと喜ぶべきところなんだろうか?」

「・・・。」

 

 

私は答えの代わりに持っていた銃、新型麻酔銃を構える。

 

 

「知ってるぞ。さっき見てたからな。それ麻酔銃だろう?」

「・・・。」

「図星か?まあいい。よく聞け。地獄の帝王は勇者によって討ち滅ぼされたが、その元凶となった進化の秘法はまだ生きている!なんとか魔物たちよりも先に見つけ出して闇に葬るんだ!」

「わかった。」

「わかった?・・・まあいい。アッテムトの鉱山にそれは有る。頼んだぞ。俺はここから一生出られそうにないからな。」

「・・・。心配するな。今だしてやる。」

「本当か!?」

「ああ。」

 

 

私は返事とともに彼の頭に向かって麻酔銃を打ち込んだ。

 

パシュンブシュ

「ぐぁ!う・・・あ・・・。」ドサッ

 

 

ターゲットは眠るように倒れ込んだ。しかし、命中した額は変色しており、口からは泡を吹き初め、痙攣していた体は数分後には完全に動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。よくやったわ。その城は危険だから早急に脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ガヤガヤガヤ

階段の方から何やら騒がしく魔物の集団が近づいてくるのが聞こえた。まずいこのままでは魔物の集団に鉢合わせすることになる。私はとっさに一つだけ空いていた牢屋に身を隠した。

 

 

「ははは・・・ん?オイ!誰か倒れてるぞ!」

「今日の料理当番のベンガルじゃねえかアレ!」

 

 

キッチンに放置していた魔物も発見された。ここに探しに来るのも時間の問題だ。私は牢屋を見渡し、何か使えるものがないかを探した。

 

するとこの牢屋だけ奥の壁の一部を隠すように木箱が大量に置かれていた。あまりに不自然なその置き方はそこになにかあると思わせるようなものだろう。私は急いで木箱をどかしてみた。すると、壁の一部に人一人が通れる程度の穴が空いていた。私は急いでその穴に入り込み中から木箱をまた入り口を塞ぐように設置した。

 

間一髪、木箱の向こう側で話す声と同時に扉を開ける音が聞こえた。私は物音を立てないように気をつけつつ、急ぎ足で通路を進んだ。牢屋に有る隠された横穴。とくればその先にあるのは出口しかあるまい。

 

 

予想通り、抜け出した穴は城正面入口の横の森の中に巧妙に隠されていた。私はそのまま森の中へ進み、近くの湖に用意してもらっていた水上機に乗って脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~3日後~

 

「思わぬ臨時収入だな。」

『はい。金貨3億5000枚。全て純金製のようで、仮に溶かして延べ棒にしますと総額で1000億ドルは下らないものと思います。』

「この資金は有効に使わせてもらうことにしよう。我々の世界で使用できないのが惜しいくらいだな。」

『その使いみちなのですが一つ案があります。我々は先日の任務で興味深い情報を入手しました。』

「ほう?」

『アッテムトと呼ばれる鉱山の町の奥深くに“進化の秘法”と呼ばれる技術が眠っているというものです。』

「進化の秘法・・・名前だけは大層なものだな。」

『現地のインフォーマントに簡単に調査させたところ、進化の秘法とは地獄の帝王エスタークが開発、使用した技術であり、驚異的な生命力と力を与えるものの、記憶喪失に陥らせる代物のようです。』

「ほう・・・その話が本当なら実際にはそんな大層な代物でもなかったとしても、何らかの技術的アイディアは得られそうだな。」

『なので現地に兵を派遣し確認したいのです。その資金として先程の報酬の一部を使いたいのですがよろしいでしょうか?』

「ふむ。その目的であればよいだろう。元々使いみちのない金貨だしな。」

『了解しました。』

「47を調査に向かわせるのか?」

『流石に魔物たちが跋扈している地底の神殿に単身突入はリスクが高すぎます。いくつかプランがありますので詳細が決まり次第、承認をいただければと思っています。』

「わかった。完成したらもってくるといい。一応上級委員会に話は通しておく。」

『助かります。』

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「じんめんじゅの横に」+1000 『森に着地する。』

・「魔物が守るもの」  +1000 『宝物庫を発見する。』

・「ザキホーマ」    +3000 『ターゲットを麻酔銃で暗殺する。』

・「先人の知恵」    +3000 『地下牢の秘密の抜け穴を通って脱出する。』

 

 




まあプランと言っても1~2つくらいしか無いんですけどね。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『魔物に匿われた男』(もう一つの世界線)

『魔物に匿われた男』の別アプローチ版です。


『デスパレスへようこそ。47。』

 

『今回のターゲットはこの世界の主要8カ国全てから指名手配を受けている男、パーブル。長らく行方知れずだったけど、先日ついにデスパレスにとらわれていることが判明したの。人類側の情報が彼の口から漏れる前に口封じするのが今回の任務よ。』

 

『クライアントは主要8カ国の人類連合軍から。報酬もたっぷりもらっているわ。期待に答えないとね。』

 

『今回は新型麻酔銃も持っていって。魔物にも効果が見込めるほど強力という話だからその実地試験を頼むわ。人間に撃ったら死んでしまうと思うから気をつけてね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「グリーンライト。」

「では行くか。」

 

 

私はICAのステルス輸送機から飛び出した。デスパレスの直上13000mからのHALO降下だ。現在時刻は夜明け前の午前4時。暗闇に包まれた世界だがデスパレスの周辺は篝火なのかぼんやり明るい。そこを目指して300km/hで降りていく。高度300mに達するとブザーが鳴った。それを合図にパラシュートを開く。急激に減速し、城の屋根に直接降り立った。

 

私は持ってきていたバックを屋上、といっても屋根の上だが、そこに設置した。新型麻酔銃と念の為に持ってきた致死薬を持って行く。ちなみに致死薬はごく普通の青酸系だ。相手が普通の人間なので強力な毒は必要ないだろう。

 

私が降り立ったのは2棟ある本棟のうち、南側の屋根の上に居る。東側にもう一棟あり、間は城壁のような渡り廊下で繋がれている。渡り廊下の2階部分は屋根がないため屋根伝いに向こうの棟へ行くことは出来ないだろう。

 

私はひとまずこの建屋の南側のテラスに降り立つことにした。どうやらこちらの建物がエントランスらしく、石畳と石柱がきれいに並べられているのが見える。

 

私はテラスに降り立つと、扉の横にある小窓から中の様子をうかがった。早朝ということもあり、中には人気ならぬ魔物気は無かった。篝火の炎だけが煌々と燃え盛っており、奥に設置されている演説台を怪しく照らしている。

 

 

「・・・ったく、なんで俺が・・・」

 

 

外から何者かの声が聞こえた。テラスの下からだ。私はテラスの手すりに近寄り、慎重に下を覗く。そこには一匹の魔物が大量の木箱を中に運び入れている最中だった。

 

 

「レッドドラゴン様も着任そうそう魔物使いが荒いよ。なんで俺が食料運びなんかやらなきゃなんねえんだよ。しかも人間の飯まで。」

「・・・っと、人間の飯はどれだっけ・・・?俺らの飯と混ざるとみんな煩いからちゃんと分けとかねえと・・・。」

 

 

ぶつぶつ独り言を言いながら木箱をあさり始めた。箱を開けては閉めを繰り返し、あるきばこのところで止まった。

 

 

「あった、あった。これだ。わかりやすいように箱に目印しとくか。・・・フッ!」ガリッ

「よし、この傷がある木箱は人間用。よしよし。じゃあちゃっちゃと運ばねえとな。」

 

 

そういうと魔物は大きな鎌を背負いつつ別の木箱を持って内部へ入っていった。人間用ということはおそらくこの城の何処かにいるターゲット用と見て間違いないだろう。

 

私はテラスの手すりを乗り越え、石造りのためあちこちに出っ張りの有る城壁を伝って下に降りた。先ほど魔物が印をつけていった箱を開ける。箱の中身に毒を塗布すればターゲットが口にし、確実に死に追いやることができるだろうという寸法だ。

 

 

しかしそんな目論見は早くも頓挫した。箱の中には大きめのパンが10以上、果物数十個、魚十数匹が入れられていた。明らかに一人用としては多すぎる。これは城の内部に人間が他にも居ることを示している。余計な被害を出すのは得策ではない。なぜなら仮にターゲットより先に他の人間が毒の塗布された食べ物を食べたとすれば、毒が塗られていることが露見してしまうからだ。全てが一つの箱に入れられているこの状況下ではどの食材がターゲットの口に入るのか予測するのは不可能だ。私は一旦箱を閉じた。

 

しばらく近くの茂みから見守ることにする。ターゲットに的確に毒を盛るにはもっと情報が必要だ。しばらくして魔物は木箱を全て運び終え、最後に残った印の付けた人間用の木箱を持って中へ入っていった。私はその後を気が付かれないよう一定の距離を取りつつ尾行した。

 

魔物が木箱を運び入れたのは地下の牢獄前の部屋だった。その部屋だけが牢屋ではなく倉庫として扱われているようだ。

 

少しして魔物が戻ってきた。私は一旦階段を上がり、エントランスロビーの柱の陰に隠れた。よく見ると戻ってきた魔物は手になにか持っている。あれは・・・果物だろうか?反対側の別棟からもう一匹魔物が現れた。彼らはお互いを認識するとロビーの真ん中で立ち話を初めた。

 

 

「おう、ちゃんと運んだか?」

「ああ。ちゃんといつもの部屋においておいたぜ。」

「ん?そりゃなんだ?」

「ああ、これか。いや牢屋に居るあの人間が食いたいって言ってた果実さ。大量にあったから一個くらい失敬しても構わねえと思ってな。」

「ふうん。おい、俺にも味見させろよ。」

「いいぜ。・・・っと割れた。ほらよ。」

「オイ、そっちのほうが大きくねえか?てか全然大きさ違うじゃねえか!」

「いいだろ。こちとら重労働押し付けられたんだ。これぐらいチップみたいなもんだろ。」

「ったく。まあいい。・・・ふむ。見た目はいいな。」

「だな。どれ・・・。」

シャクシャク

「うぐっ!?」

「ぐぉ!」

 

 

突然魔物たちが苦しみだした。手に持っていた果実を取り落とし、胸のあたりを抑えて苦しんでいる。片方の魔物が指を立ててなにかつぶやいた。

 

 

“キアリー”

「・・・ふぅ・・・なんだこれは!」

「毒じゃねえかこんなもん!」

「こんなもんを食うとか頭どうかしてるぜあいつ。」

「くっそ!殺せねえのが腹立たしいぜ!」

「ああ。何だってあんな奴生かしておくんだレッドドラゴン様は。」

「しらねえよ。聞いても“魔族に有益な情報を与える”とかなんとかいうだけだしよ。」

「有益な情報つっても、あいつ近頃はアッテムトに有る進化の秘法のことしか喋らねえじゃねえか。」

「アッテムトのエスターク様は勇者に滅ぼされたってこと知らねえんだろあいつは。」

「まあ何にせよ、あの男しか食わないのがせめてもの救いだな。」

「ああ。他の囚人も食わないものだってのにな。」

 

 

良いことを聞いた。あの果実は情報を提供してくれるという男しか食べないらしい。これでターゲットが絞り込めるかもしれない。

 

しばらくして魔物たちは落とした果実を掃除した後、2匹揃って別棟の方へ行ってしまった。私は掃除する際に捨てていたゴミ捨て場へ向かい、その果実が何かを調べた。すると意外にもその果実は“アボカド”だった。確かアボカドには人間には効かないが、動物には致死性の毒になる成分が有る。魔物に対しても同じだったのだろうか。

 

私は地下へ向かった。地下は地下牢とキッチン食堂が併設されている。キッチンでは2匹の魔物が料理を作っており、手前側の魔物のそばには先程の印をつけた木箱が置いてあった。おそらく既に調理を初めているものと思われる。急いでアボカドに毒を混入させ無くてはならない。

 

私はできる限り近づき、調理済みと思われる料理を確認した。その中にはアボカドを切り分けてドレッシングのようなものをかけたサラダがあった。囚人にしてはずいぶんと高待遇な気がするが、殺さずに生かしているということは投獄と言うよりは軟禁に近い状況なのだろうか。

 

テーブルのあいだをすり抜け、牢獄を見渡す。牢獄は全部で4つあり、そのうち1つは倉庫になっている。

 

一番手前の牢屋の囚人は床に座り込んでいた。絶望に近い色の目で虚空を見つめている。ショートヘアで男のような顔立ちでは有るが、胸部が結構な大きさに膨らんでいる。アレは女性だ。

 

2つ目の牢屋では囚人がやたらと忙しく狭い牢屋内を走り回っている。長い髪をたなびかせながら時折発せられる言葉は若い女性のものだ。ここも違う。

 

その奥の最後の牢屋には床に寝っ転がっている囚人が見える。目を瞑っているがその表情は、絶望というよりはもうすぐここから出られるかのような希望が見え隠れする顔だ。服装は粗末で、顔はあごひげを生やしている。そしてなによりも情報にあったターゲットの顔と一致している。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがパーブル。自分の立場を勘違いして死地へ迷い込んだ哀れな男。解放してあげましょう。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

牢屋の中の人物は男性一人女性2人だ。先程の会話から推察するに、アボカドサラダを食べるのはターゲットのみのようだ。これで心置きなくアボカドサラダに毒を混ぜられるというもの。

 

私は新型麻酔銃を取り出すと、アボカドサラダの目の前にいる魔物ではない方、奥側の魔物に向けて一発麻酔銃を撃った。

 

パシュンブスッ

「んあ?・・・な、なん・・だ・・・。」ドサッ

「ん?オイ!どうした?」

 

 

もうひとりの料理人が倒れたことで確認のために作業の手を止めて魔物がその場を離れる。私はすかさず近寄ってアボカドサラダに青酸系致死毒をふりかけた。かけ終えるとすぐに近くのテーブルに身を隠した。

 

 

「・・・。」

「おい!どうしたしっかりしろ!」

「・・・グゥ・・・。」

「・・・この野郎!」ドガッ

「うぼぉ!」

「寝てんじゃねえ!さっさと起きろ!」

「んあ?アレ俺様寝てたのか?」

「ああ、すやすやとな!」

「いやあすまんすまん。昨日はちゃんと寝たはずだったんだがなあ。」

「ったく。急いで朝食の準備しなきゃならないってのに・・・。」

 

 

魔物たちはそれぞれ仕事に戻っていった。この新型麻酔薬は一度眠ると起こされた後は再度眠るようなことはなく、そのまま寝る前の行動を継続できるようだ。

 

下準備は完了した。あとはターゲットが毒で死亡するのを待つだけだ。私は階段を上って1階へ戻り、階段直ぐ側にあった窓から中庭へ出た。城の城壁はゴツゴツした岩を石垣のように積み重ねて作られており、登るための凹凸には事欠かなかった。私は外壁をよじ登り、屋根部分に上った。私はそこで魔物たちの朝食の時間まで待つことにした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。ステルスドローンからの映像でターゲットの死亡が確認されたわ。でも大勢の魔物の目の前で死んだものだから食堂はちょっとした騒ぎになっているわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

日が昇ってから少したったあと、本部からターゲット死亡の報を受けた。私はそれを確認すると、屋上に設置しておいたバックから気球を取り出し、備え付けのボンベの中身を気球に充填する。空に浮かべ、くくりつけられているワイヤーを自身の腰のハーネスに装着して、回収願いの信号を出した。

 

しばらくしてそれなりに大きな音がし始めると、低空侵入してくる輸送機が見えた。来るときに乗った輸送機だ。輸送機はそのまま気球をかっさらい、同じ様に私も空中へかっさらわれた。一気に遠くなっていく城ではテラスや窓からこちらを見ている魔物もちらほら確認できたが、既にこの世界のどの飛行生物よりも速い速度で飛んでいるため追いつかれる心配はないだろう。

 

私はそのまま輸送機に回収され、この地域を脱出した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~2週間後~

 

 

「そういえば聞いた?今度の任務。47も一緒なんですって。久々よね。」

「姉さん。足りないよ。タバサも一緒に呼ばれてるみたいだ。」

「そうなの?4人での合同任務ってなんなのかしらね?」

「わからないけど、4人一緒にってことは相当危険なんじゃないかな。単純な戦闘能力なら僕らも結構高い部類に入るってこの前バーンウッドさんが言っていたよ。」

「数日がかりになったりしないといいわね。何日もお風呂に入れないのは流石に嫌よ。」

「あれ?組織から逃げ出したあと、風呂に入る機会なんてあったっけ?」

「あなたの見えないところで隠れて水浴びしてたのよ。あの地域は銭湯なんて無かったしね。」

「お風呂入るためにいちいちグレンタウンまで行くわけにも行かなかったからね。」

「それはそうと、ちゃんと準備しておかないとね。」

「大丈夫。準備は万端。抜かりはないよ。」

「へえ・・・ちなみにどんな準備を?」

「まず乾パンを1週間分。携帯ラジオと懐中電灯と・・・簡易トイレもあるよ。」

「シルバー・・・それ避難袋じゃないの・・・。」

「・・・あれ?」

「あなたってしっかりしてるようで偶に抜けてるわよね・・・。」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「身に余る食事」   +1000 『ターゲットを朝食で毒殺する。』

・「超健康食品」    +3000 『ターゲットをアボカドサラダで暗殺する。』 

・「デッドミュージカル」+3000 『5匹以上の魔物の目の前でターゲットを暗殺する。』

・「ガスを使わない気球」+1000 『侵入と脱出を輸送機で行う。』

 




微妙に短くなっちゃったけどそれだけスムーズだったということで・・・w


2019/06/17追記
個人的にはアボカドとマグロを甘辛いタレであわせたやつが好きです。


次回はアッテムトへ向かいます。


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HITMAN『失われしものを求めて』

注意
今回は暗殺はありません。


『アッテムトへようこそ。47。』

 

『初めに言っておくと、あなたが今までやってきた任務とはだいぶ違う任務になるわ。』

 

『まず単独行動ではなく、タバサ・ブルー・シルバーを連れて行って一緒に行動すること。それと今回のターゲットは人ではなく文章。アッテムトの鉱山のさらに奥深くに有ると言われる古代神殿にある“進化の秘法”と呼ばれるものよ。それを取ってきてほしいの。』

 

『偵察ドローンの探査によると、最深部の王座にある古代の地獄の帝王エスタークの亡骸の側に放置されているのが確認できた。ドローンでの回収も試みたけど、内部に巣食う魔物がことごとく邪魔をしてくれてね。現地に人員を派遣せざる終えないの。』

 

『まずは我々が別の世界から調達したPMC集団がアッテムトとその周辺の半島を制圧するわ。制圧後にPMC部隊と一緒に鉱山内部に侵入してもらう。PMC部隊は最後まで付いていくように命じてあるけれど、我々の試算では9割以上が壊滅すると予想されてる。あてにはしないでね。でも優秀な人材を一人混ぜておいたからその人は期待していいわよ。』

 

『今回は作戦の状況から鑑みて隠密作戦は不可能よ。重装備を持参して頂戴。間に合うかどうかわからないし、使い所が有るかわからないけれど一応“カテゴリLOG”も準備中だから、いざというときは地上まで敵をひきつけてね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

『作戦開始。』

「了解。」

 

 

私は今、大型の輸送ヘリにいる。タバサ・ブルー・シルバーと、他にも3名ほど兵士が乗り合わせている。

 

眼下には半島の真中付近にある小さな町を目指し、海からは多数のLCAC、多数の戦闘ヘリと輸送ヘリが押し寄せる形で向かっている。ここはベイルートかモガディシュだろうか。

 

 

「壮観ねえ・・・。」

「姉さん。あんまり身を乗り出しちゃ危ないよ。」

「・・・。」

 

 

後ろではすっかりICAの一員となった3人が並んで座っていた。内部に同行する部隊は別のヘリに便乗しているらしい。今回、ヘリに乗るときに与えられた情報によると、同行する人員は我々4人の他に15名居るらしい。それぞれが軽機関銃やショットガン、はてはレールガンからエレクトリックガンなるものまで携帯しているという。PMCの名前は“スワートハンド”とか言ったか。通信が入る。

 

 

『47。聞こえる?』

「聞こえている。」

『そろそろアッテムト半島5キロ圏内に入るわ。ガスマスクを着用して。』

「了解した。タバサ、ブルー、シルバー、ガスマスク着用だ。」

「はーい。」

「わかった。」

「了解。」

 

 

事前情報によるとアッテムト鉱山は最深部に有る神殿から硫化水素ガスが吹き出ているらしく、また一部の特殊金属がエアロゾル化して滞留しているという情報もある。ガスマスクは必需品と言える。

 

ヘリはやがてアッテムトの町のすぐ目の前の空き地に降り立った。町は既にスワートハンドが制圧しており、元々荒廃していて町民は少なかったが、その町民たちは現在、それぞれの自宅に軟禁されていた。

 

 

「さて、町の人達のためにもちゃっちゃと終わらせましょう。」

「それがいい。あまり住民を怖がらせる必要はないはずだ。」

 

 

私はブルーの意見に同意しつつ、少し離れたところに着陸していた部隊に近寄った。

 

 

「今回内部に同行するのは君たちか?」

「ああ、そうだ。スワートハンドの精鋭部隊だ。スワートチーム6。そう呼ばれてる。」

「わかった。早めに決着を付けたい。頼んでおいた私たちの武器は何処に有る。」

「ああ、アレならここに。」

 

 

そういうと隊長と思わしき男はヘリの中から木箱を一つ取り出した。中には私が頼んでおいた武器が入っていた。TAC-4とJaeger7 Lancerは私用、Sieger300 Ghostはシルバー用。Enram HVはブルー用。TAC-SMGはタバサ用だ。それらとは別に私はシルバーボーラー、他の3人はICA19 Chromeをもたせる。無論、ポケモンたちやタバサの杖などもある。通常は銃器を持ちながらのポケモンや魔法は動作が遅くなる原因となるが、彼らに渡した銃器は全て手放しても問題がないようにストラップかワイヤーが付いている。

 

 

「では今すぐにでも中へ向かいたいのだが。」

「わかった。こちらも部隊を集合させる。30秒くれ。小隊集合!」

 

 

大きな声で号令をかけると駆け足でまわりの兵士が集まってきた。時間にして15秒足らずできれいに整列した。30秒もいらなかったようだ。

 

私達は我々4人を中心に前4名、左右4名ずつ、後ろ3名で並んで進むことになった。念の為用意した酸素ボンベを各自1つずつ持ち、我々は荒れ果てた鉱山の入り口へ入っていった。

 

 

 

 

 

階段を降りると坑道内は少し開けていた。しかし全体的に天井が低い。立って歩けないほどではないが、相当な狭苦しさを感じる。階段横の広場で陣形を整えていると、壁の影からこちらを覗いている目が見えた。次の瞬間、

 

 

“ギラ”

ボォォォ

「うわわわ!」

「敵襲!」

ダダダダ

 

 

影から覗いていたのは魔物だった。この坑道で確認されている魔物は事前にブリーフィングで知っている。アレはおそらく“ひとつめピエロ”だ。

すぐさまスワートの部隊が交戦する。なかなかにすばしっこく、被弾も有るようだがしつこく逃げ回りつつ避けている。私はJaeger7を構える。魔物の動きを予測し、その動線を見切り・・・、

 

 

ダァーン!

ピギィ

ドシャッ

 

 

「す、すごい・・・あの素早い敵を一発で仕留めるなんて・・・。」

「流石47。精鋭もこれじゃ形無しだね。」

 

 

ブルーとシルバーが感想を漏らしているが感想を言わせるために連れてきたわけではない。ちゃんと各々戦ってもらわないと困るのだが。

 

気を取り直して先に進み始める。構内図の地図は予め用意されているので最短ルートを通ることができる。少し進むと分かれ道に来た。ここは右へ進む。

 

 

「敵襲!」

「くっ!何だこの多さは!」

 

 

後ろを警戒していた兵が叫ぶ。後ろを見ると6体は束になって襲いかかろうとしていた。銀色のサソリ、“メタルスコーピオン”だ。

 

後ろの部隊が応戦する。今度はそこまで素早い敵ではなかったが、体が硬い甲殻に覆われているらしく、5.56mm弾が弾かれてしまっている。

 

 

“エア・ストーム”

「私も、戦える。」

 

 

タバサのエアストームが炸裂。6体全てを坑道入口から外へ放り出した。一瞬の間があり外から爆発音が聞こえてきたので、おそらく戦闘ヘリ部隊が片付けたのだろう。

 

先に進むに連れ、周辺の魔物の気配がだんだんと濃くなっていく。地下2階に到達した時点で既に5回も襲撃されている。しかも段々と道が狭くなっていっている。既に輪形陣だった陣形は我々4人を中心とした単縦陣になっている。通路が突き当り、ここを右に曲がれば地下三階への階段があるはずだ。

 

 

 

 

ピギャー!

「ぐぁわああ!」

「マックス!くっそぉ!」

ダダダダダダ

 

 

右に曲がった直後に背後から奇襲を受けた。マックスと呼ばれた隊員1名が食虫植物のようなものに噛み殺された。アレはおそらく“デビルプラント”だ。他にも“とらおとこ”や先ほどのひとつめピエロなども混じっている。かなりの数が押し寄せており、このままでは数に任せて押し切られてしまう。

 

 

「隊長。部下に下の階に降りる階段まで走れと命令を。」

「なに!逃げろというのか?!仲間を殺されたのだぞ!」

「そうじゃない。ここは三叉路の真ん中だ。階段で戦うほうが幾分有利だ。」

「そういうことか。全隊!階段まで走れ!そこで迎え撃つ!」

「「イエッサー!」」

「シルバー、援護を頼む。」

「了解。出てこいオーダイル!」ガー!

 

 

シルバーのオーダイルが水の壁を作り出しつつ魔物を蹴散らしている。私は蹴散らされ床に転がった魔物を一体ずつJaeger7で仕留めていく。そのうち体制を立て直すのを完了したのかスワートの部隊も各々撃ち始めた。私達は何とか数十匹は居たと思われる魔物の大群を蹴散らすことに成功した。

 

 

「危ないところだったな。」

「くっそ・・・部下をひとり失ってしまった。」

「だが引き返す訳にはいかない。」

「そうだ。ここで引き返してはあいつは犬死だ。なんとしてもこのミッションを成功させるぞ。」

 

 

ここからは全周警戒を怠らないように進んでいく。ガスのことも有るのでポケモンは常時出しておくことは出来ないが、いつでも出せるように2人はボールを常に手に持っている。

 

幾多の襲撃を乗り越え、その都度消耗しつつも何とか最深部の神殿までたどり着いた。ここまでくるまでにマックスと呼ばれた彼を含めて5人が魔物の餌食になっていた。

 

 

「はわー、これはすごいわね。金鉱脈ってこうなってるのね?」

「違う。金鉱脈はここまで金が露出しては居ない。」

「タバサちゃん、知ってるの?」

「昔任務で鉱山に入ったことが有る。金鉱脈は岩の間の白っぽい部分に混じっている金を取り出すもの。100キロの金鉱石からは1グラム取れれば多い方。」

「それっぽっちしか取れないのか。初めて知った。」

「そりゃ金が高値で取引されるわけよね。」

 

 

3人が金について話している。金鉱石は本来黄金に輝いてなどはいない。だが目の前にある神殿にまとわりつくように分布している鉱石はまばゆいばかりの金色だ。目がくらみそうになる。サングラスを持参するべきだっただろうか。

 

 

「目的のものは金ではない。この神殿の中だ。行くぞ。」

「「了解。」」

 

 

私達は神殿の中へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

神殿内部には噴水が設置されていた。噴水の側には土があり、この神殿はもしかすると大昔は地上にあったのかもしれない。

 

真正面の扉を入ると薄暗い通路が続いている。多くの部屋があり、ドローンの偵察情報がなければ迷っていただろう。私は脇の部屋には目もくれず、通路を進んでいく。階段から2階のテラスへ上がり、ひたすらに奥を目指す。道中でも魔物が襲いかかってきた。玉座の間の前まで来る頃には隊員はさらに4名減っていた。残りは我々4人と隊長を含めたスワート隊員6名だ。

 

 

「やっとついたわね。」

「ああ。部下も大勢死なせてしまった。その価値があるものだといいがな。」

「危険な気配がする。」

「タバサ、わかるか。」

「(コクン)」

「私もわかるわよ。このイヤーなピリピリする感じ。アサダーバードでもなかったもの。」

「相当に強い魔物がいる可能性がある。十分に警戒して行こう。」

「シルバーの言うとおりだ。全員なるべく音を立てないように進むぞ。」

 

 

全員が頷くのを確認し、中へ足を踏み入れようとしたその時だった。

 

 

ピギャー!

「!タバサ!後ろ!」

「っ!」

 

ダァーン

 

 

物陰でこちらを狙っていたと思われる魔物がタバサを背後から強襲した。とっさのことで対応できていなかったタバサを救ったのは。スワート部隊のうち素顔がよくわからない仮面を被った男だった。

 

 

「危ないところだったな?嬢ちゃん。」

「・・・!その声は・・・。」

「おや?お前さんとこのオペレーターとやらから聞いてなかったか?“優秀な人材”が混じってるって。」

「47?この渋い声の人は知り合いなの?」

「オイオイ、渋い声って。俺はまだそんなに歳食ってる気はないんだが?」

 

 

男は仮面を取り外して素顔を見せた。そこには、あるときは南米のジャングルで、あるときはネバダの砂漠の施設で鉢合わせしたあの伝説の英雄が居た。

 

 

「俺はスネークだ。よろしくな嬢ちゃんたち。」

「スネーク。何故ここに。」

「ああ、お前らんとこの組織がうちに応援要請を出したんだよ。しかも俺を名指しでな。まあ昨日の敵は今日の味方ってやつだな。」

「フォックスハウンドは傭兵部隊だったのか?」

「違う。俺は今フォックスハウンドには居ない。詳しくは話せないが、資金を必要としている。今回はおまえさんとこの組織が多額の報酬を払ってくれたからな。」

「なんだかよくわからないけど、こいつは味方なのか?」

「お、坊主。年上には敬意を払えよ?」

 

 

少しゴタゴタしたがスネークが味方についていてくれれば心強い。数分間の自己紹介のあと、私達は改めて神殿内部に入った。中は相当な広さで、少し段を上ったところに柱が何本も建っている。そして段に備え付けられている階段をのぼるとその奥にそれはあった。

 

 

「でっか・・・。」

 

 

思わずブルーがつぶやくのも無理はない。そこには情報にあったとおり巨大な亡骸があった。高さは低く見積もっても20mは越えており、横幅も10m以上ありそうだ。これがかつて地の底を支配し、神との壮絶な戦争を繰り広げたという、地獄の帝王“エスターク”だろう。

 

 

「生きてなくてよかった。」

「生きてたら俺たちなんか、ポケモンたちもまとめて一瞬で消し飛ばされそうだな。」

「俺もいろんな敵と戦ってきたがこいつはメタルギアと同じくらいでかいな・・・。」

「さっさと目的のものを見つけて脱出するぞ。手分けして探せ。」

「「了解。」」

 

 

私達は念の為エスタークに触れないよう気をつけながら周囲を捜索した。小一時間捜索してやっとそれらしきものを発見した。しかし我々はそれを取るのに躊躇していた。なぜなら、

 

 

「なんでよりにもよってあんなとこにあるのよ・・・。」

「どうする?誰が取りに行くんだ?」

「決死隊。」

「死体なんだろう?」

「じゃああなたが行ってくれば?隊長さん。」

「い、いや私は部下を守るという任務があるので・・・。」

 

 

よりにもよってそれらしき書物はエスタークの亡骸の腕の中にあった。鎧のような関節の間に挟まる形であったそれを誰も取りにいけないでいる。それも無理はない。この亡骸は近寄るとわかるが微妙に温かいのだ。亡骸が温かいという話は聞いたことがない。“これは亡骸ではない”という可能性が全員を尻込みさせていた。

 

 

「私が取る。」

 

 

名乗りを上げたのはタバサだった。

 

 

「え!ちょ、大丈夫?もし起こしたりしたら私達一瞬であの世行きよ?」

「大丈夫。触れなければいい。」

「えっ・・・ああ!そうか!」

 

“レビテーション”

 

 

タバサは魔法で書物を手元に引き寄せることに成功した。皆が歓喜の表情でタバサを見ている。声が出せないのは万が一にでも起こしたらまずいという恐怖が優先されているためだろう。

 

 

「目的達成。」

「確かに情報通りのものだ。よし、撤退する。」

「了解。」

「早いとこ帰りましょ。もう外壁にロープ垂らして降りましょ。」

「姉さん・・・気持ちはわかるけど何かまずい気がするよ。」

「あらどうして?」

「いや、なんとなく・・・。」

 

 

皆が帰りかけたその時通信が入った。

 

 

『47、聞こえる?』

「聞こえている。」

『進化の秘法は見つかったかしら?』

「それらしき魔導書を発見した。タバサが魔法で取ってくれた。」

『そう。であればそこから至急脱出して頂戴。アッテムトを制圧していたPMC連中が次々と周辺の魔物たちにやられていってるわ。既に戦闘ヘリ部隊は全滅したみたい。アッテムトの住人は全員避難させたから無事だけれど、このままでは魔物がそちらに押し寄せることになるわ。』

「わかった。できる限り急ぐことにする。」

 

「どうしたの?47。」

「本部から連絡があった。上の部隊がやられているらしい。急がなければ退路を断たれる。」

「なんだって!」

「馬鹿な!戦闘ヘリに強化スーツ兵まで呼んだのだぞ!」

「強化スーツ兵とやらは分からんが戦闘ヘリは全機撃墜されたようだ。」

「なんと・・・!」

「スネーク、武器はどれだけ有る。」

「俺もあまり装備が充実してるとは言い難いな。」

「そうか・・・ともかく議論している余裕はない。至急ここから脱出する。」

「「了解!」」

 

 

私達は急いで神殿を出た。もう襲ってくる魔物たちを相手にしている時間もないため、全員避けることに専念して走った。隊員の何名かは黄金を名残惜しそうに見ていたが回収している時間もないだろう。

 

坑道を走り、階段を駆け上り、各々持っている武器を総動員して魔物を蹴散らしつつ、出口へ向かった。坑道はだんだん広くなり、そして出口の階段が見えた。私達は周囲の警戒をしつつ階段を上がった。

 

 

ピギャー!グギャー!

「・・・遅かったか。」

 

 

アッテムトの町中には既に大量の魔物が居た。とても捌ききれる量ではないのが一目瞭然だった。既に鉱山入り口の鉄格子の向こう側にこちらに向かって威嚇している魔物たちも居る。隠れてやり過ごすこともでき無さそうだ。

 

 

「・・・。」

「・・・どうするの・・・?こんな量・・・いくら私達でも・・・。」

「・・・クッ・・・姉さんだけでも・・・。」

「ちっ、この量は流石にまずいな・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。カテゴリLOGの準備が完了したわ。上級委員会の許可も取り付けてある。そこからできる限り動かないでね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

シュユルルル

ボォーン!

「!全員、階段の下に身を隠せ!」

 

 

遠くで着弾音が聞こえた。すぐに凄まじい爆風が来る。辺り一面に居た魔物たちは軽いものは飛ばされ、重いものは地面に這いつくばって耐えている。ギリギリのところで我々は坑道へ降りる階段にへばりついてやり過ごすことができた。1発、2発と着弾するに従ってだんだんと着弾点が近づいてくる。アッテムトの町は度重なる衝撃波と爆風により、ただでさえボロボロだった家屋は軒並み崩れ去っていた。そして

 

 

ドォォォン!!

「きゃあ!」

「うわあ!」

「くっ!」

「な、何なんだこの攻撃は!」

 

 

かなり近くに着弾した。坑道内では落盤と思われる音が響いている。目の前に大きな地割れができ、鉄格子の前に屯していた魔物は鉄格子ごと地割れに飲み込まれていった。以前、幻想郷であった支援砲撃に似ているが、今回は明らかにその時よりも地割れの本数や規模などが段違いに大きかった。アッテムトの町はほぼ完全に崩壊しており、このままでは我々もいつ地割れに飲み込まれてもおかしくはないだろう。

 

 

「おい!この攻撃はいつまで続くんだ!俺たちも飲み込まれるぞ!」

「本部。」

『今回収用のヘリが向かってるわ。砲撃を中止すれば魔物が襲いかかる可能性が高い。それでも良いなら中止させるけれど?』

「・・・。」

『ヘリは後数分で到着するわ。タッチアンドゴーになるから準備して頂戴。』

 

 

ドォォォン!!

「47!お前さんの本部はなんて言ってたんだ!」

「もうすぐ迎えのヘリが来る。全員乗車準備。タッチアンドゴーで離脱するぞ。」

「姉さん!大丈夫かい!姉さん!」

「聞こえてるわよシルバー!他の隊員さんは大丈夫なの!?」

「今点呼を取った。少なくとも生き残ってたやつは全員いるぞ!」

「ヘリ。」

「本当!来たわよみんな!」

「全員、用意しろ。」

 

 

近くに着弾した砲撃により発生した地割れは海岸まで貫いたようだ。地割れの中に海水が入り込んできているのが見える。地割れの大きさは既に相当なもので、かろうじて残っていたアッテムトの教会の建物が地割れに飲み込まれ崩れ落ちていく。既に対岸との幅は数十mに達している。

 

その地割れに沿うようにヘリが降りてきた。後部扉が空いている。私達は身を隠していた階段から立ち上がると一目散にヘリに飛び乗った。最後の一人の隊員が転けそうになりながらも、なんとか後部ハッチにしがみついた。ずり落ちそうになるも私はその腕を掴んだ。

 

 

「よし、出してくれ!」

 

 

ヘリは急上昇を開始した。ぐんぐん地上が離れていく。しがみついていた隊員を中に引きずり込んだ直後、私達が今まで居た階段に砲撃が着弾した。凄まじい爆風がヘリを襲い、その爆風の後押しで一気に上昇した。

 

私達はそのままヘリでこの地域を脱出した。開いたままの後部ハッチからは半島が4つに分割された大陸が見えた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~1週間後~

 

 

 

『それで。使えそうなの?』

「うーんなんとも言えませんね。」

『せっかく大規模な作戦を実行して、町一つを海に沈めたってのに収穫なしは許されないわよ。』

「おそらくプロジェクトに応用するのは可能だと思います。しかし・・・」

『しかし?』

「我々技術部は科学技術を主に使用して兵器や技術を生み出しています。この“進化の秘法”はどちらかというと魔術に当たるものです。」

『つまり専門ではないからわからないと?』

「まあ、端的に言えばそうなりますね・・・。」

『・・・。じゃあ専門家を連れてくればいいわけね?』

「え?まあ・・・専門家の方が居ればその理論から応用研究もできると思いますが。」

『わかったわ。』

「居るんですか?専門家が。」

『この世界には居ないわ。この世界は科学しかないからね。でも・・・。』

「でも?」

『・・・いくつか魔術の専門家がいる世界に心当たりがあるのよね。』

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「生か死か。」 +1000 『魔物と10回以上戦闘する。』

・「眠れる帝王」 +1000 『エスタークを覚醒させない。』

・「大脱出」   +2000 『5分以内に神殿内部から地上までたどり着く。』

・「Sは落ちない」+1000 『隊員を脱出ヘリから落下させない。』

 

 




一応別アプローチとして隠密作戦も考えていましたが、いざ書いてみると壮絶に地味(かつ内容少)だったので没になりましたwもう一つの世界線では(また)予定を変更して別の町に向かいます。


次回は温泉街に向かいます。


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HITMAN『罪人に亡霊の裁きを。』

『アネイルへようこそ。47。』

 

『ここは砂漠の近くで赤道にも近いにもかかわらず、年間平均気温が低い不思議な気候を持つ場所にある温泉街。リバストと呼ばれる戦士の故郷としても知られているわ。』

 

『今回のターゲットはこの街に潜む盗賊団一味、“ポスト・カンダタール”の一団。首領であるサイフォン。武器調達係のニビレール。交渉担当のインスリッド。この3名よ。』

 

『クライアントはアネイルの町の町長。どうやら盗賊団は町の宝を狙ってるらしくてね、それを阻止してほしいのが主な依頼内容。依頼料を払えるだけの資金力はなかったけれど、あの盗賊団が最近手に入れた“金のブレスレット”を依頼料の代わりに貰い受けることになったわ。このブレスレッド、正式名称は“おうごんのうでわ”と言うらしくてね、先日アッテムトで取ってきてもらった“進化の秘法”の中に必要な素材として書かれていた物の一つとみてまず間違いないわ。』

 

『盗賊団の暗殺方法は特に指定されていないわ。加えて言うなら町から出ていってさえくれればいいみたいだから、殺さずに町から逃走させても良いわ。最近の任務に比べたら朝飯前ね?』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「やあ!こんにちは!この町は初めてかい?よかったら案内しようか?」

「いや、結構だ。」

 

 

私は今アネイルの町に入ったところだ。いきなり客引きと思われる男に呼び止められたが、観光しに来たわけではないためさっさと通り過ぎた。

 

この街自体はそれほど大きな街ではない。道具屋や武器屋、防具屋、2つ有る宿屋に教会と温泉。風光明媚で静かな温泉街という雰囲気だ。近くの地面からは湯気が出ており、硫黄の匂いが立ち込めている。

 

まずは盗賊団自体が何処に居るかを突き止め無くてはならない。私はとりあえず観光客として町を一周することにした。そう考えると先程の客引きの話に乗ってやっても良かったかもしれない。

 

時計回りに町を見て回る。町の中央には各種店舗と教会、住居などが一体となった大きな建物が有る。その中の住居の部分に通じると思われる入り口で若い女性とそれより一回りほど年上と思われる女性が喋っていた。私は近くの道具屋を眺めるふりをしつつ聞き耳を立てた。

 

 

「母さん、あの柄悪い連中どうにかならないの?」

「何度も言ってるでしょう?宿屋の客として来ている以上、私達にはどうすることも出来ないわよ。まだなにか悪さをしたわけでもないし。」

「でもあの風貌、絶対何処かの盗賊団とかよ?この街の・・・そう、例えばリバスト様の鎧とかを狙っているのかも!」

「確かに夜な夜な首領が一人でリバスト様の鎧の部屋に出入りしているみたいだけれど、神父様も付いてるし下手なことは出来ないわ。」

####アプローチ発見####

「それはそうだけど、神父様の他にはシスターが一人だけなのよ?あの連中が束になって襲いかかったら勝てっこないわ・・・。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『首領、サイフォンはこの街の宝であるリバストの鎧を狙ってるようね。夜な夜な計画を練るために鎧の部屋にくるみたい。でも入室は一人だけとされているようで、実際ターゲット以外は神父様だけみたい。町の宝を守るためにも神の力を借りましょうか。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は聞き耳を立てるのを止めて再び歩き出す。町の北側には墓地があり、墓地の近くでは詩人が何やら歌を歌っていた。しかしその歌はお世辞にも上手いとは言えなかった。どうやら練習中らしい。私が近づいても気が付かないほどに集中しているので、そのまま周囲を観察することにする。墓地には墓が3つあった。そのうち真ん中の墓標が書いてある碑文からして戦士リバストのものだと思われる。

 

私は墓地を後にし、近くに立っていた教会へ入った。教会はそれほど大きくなく、1回部分は礼拝堂と言うよりは待合室のような印象を受ける。っと、階段から人が降りてきた。手には十字架を持っていることからおそらく礼拝堂は二階にあるのだろう。1階奥に扉があり、その前にはシスターがひとり立っていた。私は近づいて話しかける。

 

 

「失礼。戦士リバストの鎧が有ると聞いてきたのだが。」

「はい。この奥にあります。ご覧になられますか?」

「是非。」

「ではどうぞ。くれぐれもお手を触れませんようお願いします。」

 

 

私はシスターに案内され扉の中へ入った。部屋はそれほど広くなく、豪華絢爛に飾り立てられているわけでもなかった。強いて言うならば納屋のような印象を受ける。部屋の奥の壁際にその鎧はあった。鎧はキラキラと輝く白銀に緑のラインがあしらわれた豪華なものだった。しかし兜の部分と籠手の部分、更には太腿から下にかけては明らかにただの鉄だった。

 

 

「戦士リバストは偉大な戦士でした。何年も前にこの街が魔物の集団に襲われたときに、自ら先陣を切って戦い、最後に残った魔物と壮絶な戦闘の末相打ちになって倒れたのです。私達アネイルの人々はリバストの志を大切にし、未来永劫語り継いでいくためにこの鎧をここに保存しているのです。」

「なるほど。たしかに立派な鎧だが、手や足、兜などは材質が違うようだが?」

「戦士リバストが着ていた鎧は中央部分だけです。他の部位も同じような装備で身を固めていたようですが、戦いの最中かそれともその後かは不明ですが紛失してしまったようです。」

「なるほど。いいものを見させてもらった。しかしこれを守るのはあなただけなのか?」

「私と神父様。そしてアネイルの男衆は皆総出で守ることになっております。」

「それならば安心だな。」

 

 

私は見学を終えると外に出た。次に温泉にやってきた。露天風呂形式なようで、簡易的な脱衣所と湯船だけというシンプルな作りになっている。時間で男女が別れているらしく、今は男湯の時間のようだ。中に入るとガラの悪そうな男が2人だけ湯船に浸かっていた。私は温泉の奥に森があるのを発見した。温泉を一旦出ると回り道して森のなかに身を隠しながら接近した。

 

 

「じゃあとうとうやるつもりなのかお頭は。」

「ああ。準備は十分に行った。後は実行に移すだけだ。」

「へへへ・・・あの鎧、俺も一度だけ見たがありゃあ高値で売れるぞ・・・!」

「既に買い手も付いてるんだ。スタンシアラの古物商があいつを3000万ゴールドで買い取ってくれるらしい。」

「おっほお!そんだけあれば俺ら一生何もしなくても豪華絢爛に暮らせるな!」

「エンドールに屋敷を建てるのもわけないぜ!」

「そうと決まれば俺は先に上がるぜ。宿屋に戻って下準備しねえとな。」

「わかった。決行は今夜、月が頂点を過ぎた後すぐだ。」

「寝静まってるところを狙うわけだな。いいぜ嫌いじゃない。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『あの二人がニビレールとインスリッド。どうやら今夜盗みを決行するらしいわね。盗んだらこの街を即出ていくでしょうから捕捉するのが面倒になるわ。それまでに方を付けないとね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は今の話を聞いてとあるプランを思いついた。準備のためにまずは道具を調達しなくてはならないな。私は忍び足でその場を後にした。

 

 

「へいらっしゃい!ここは武器屋だよ!」

「はがねのつるぎを一本いただきたいのだが。」

「ヘイ毎度!お客さん運がいいね!こいつは最近うちに入荷した新商品だぜ!今なら大特価1500ゴールドだ!」

「いただこう。」ジャラッ

「ええと・・・はい!1500ピッタリね!毎度!装備するかい?」

「いやいい。」

「わかった。ほら。おまけだ。鞘も付けといてやるぜ。」

 

 

私は武器屋から鋼の剣を1本。防具屋から鉄の盾をひとつ。道具屋から店で一番長いロウソクと糸、それとフライパンを購入した。剣と盾は装備せず背中に背負っている形だ。スーツ姿に剣と盾はこの上なく異様では有るが、周りも特に気にしていないようなので問題はないだろう。時刻は間もなく午後4時になろうとしている。私は教会に入り、2階へ上がった。

 

教会の2階は礼拝堂兼神父とシスターの宿舎になっていた。既に本日の礼拝は終了したようで、神父が一人で片付けをしていた。私は忍び足で近寄ると神父の首を絞めた。とっさのことで大した抵抗もないままに神父は気絶した。私は気絶した神父をベッドに寝かせ。毛布をかぶせた。これではたから見れば寝ているようにしか見えないだろう。私はそのまま2階で先程買った道具を仕掛けた。

 

1階に戻り、扉の前を守るシスターの死角になる場所からコインを投げた。

 

チャリーン

「あら?何の音かしら?」

「・・・。」スタスタスタカチャ

「あらあら。こんなところにお金が・・・誰かが落としていったのかしら?」

 

 

コインでうまく気を惹きつけられた隙に扉に入った。私はリバストの鎧の左右に剣と盾を飾るように設置した。先程見学したときに発見した飾り台だ。鎧が有るということは剣と盾もあったのだろう。設置し終えると見た目的にもそこそこ立派なものになった。中世の貴族が剣や盾を部屋に飾る趣味が少しわかった気がする。私は飾り終えるとその部屋で待機した。

####アプローチ完了####

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『上手いこと潜り込めたわね。あとはターゲットが向こうからのこのこ現れるのを待ちましょうか。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

時刻は午後11時50分。そろそろだろうか。扉の向こうでは相変わらずシスターが扉を守っていた。少ししてから扉の向こうで声がした。

 

“ラリホー”

「えっ・・・うーん・・・。」ドサッ

 

 

扉の向こうのシスターが倒れた音がした。おそらく盗賊団のお出ましだろう。私はそのまま部屋で待機する。

 

扉が空いた。そこにはいかにもな風貌の男が居た。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが盗賊団“ポスト・カンダタール”首領のサイフォンよ。さあ町の英雄の怒りを食らわせてあげましょう。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「へへへ。やっとこの時が来たな。」

「お頭。私にも見せてくださいよ。」

「おめえら。まずは運び出してからだ。外の馬車から布とロープをもってこい。こいつを運び出すぞ。」

「へい!」

タッタッタ

 

 

首領は鎧を舐め回すように眺める。これからこの鎧を売りさばいたことによる豪華絢爛な生活を想像しているのだろうか。しかしその妄想は甲高い音によって妨害される。

 

 

カーンカンカン

「あ?何だ今の音は。神父が降りてきたらまずいな・・・。」

 

 

あの音は私が先程2階に設置した装置の音だ。装置と言っても壁から吊られているフライパンを引っ張っている糸が、ろうそくが燃えて縮んだことによってロウソクにくくりつけた糸が外れたことによる音なのだが。

 

首領はその音を確認するために鎧に背を向けた。私は動き出し、鎧の横においてあった剣を手にとった。いい忘れていたが今、私は鎧の中にいる。多少カチャカチャ音がしているがその音に気がついて振り返った首領を、新製品だという鋼の剣で斜めに思いっきり切り裂いた。

 

 

ザシュッ

「!!!ごふっ・・・」ドサッ

 

 

剣は正確に喉から脇腹までを切り裂き、辺り一面を血で染めた。私はそのまま扉の裏に隠れる。

 

 

「お頭、持ってきやした・・・ってお頭!どうしやした!」

 

 

続いて中へ入ってきた男、ニビレールを後ろから心臓を一突きにする。後ろにはインスリッドが居るがお構いなしだ。

 

 

ザシュッ

「ぐぉ!?がっ・・・あ・・・」ドサッ

「な、何だ!誰なんだお前は!」

「我が名はリバスト。われの鎧を盗む不届き者に裁きあれ。」

「う、うわあああああ!!!!」ダッ

 

 

少しかっこつけてリバストの真似事などをやってみたが、効果は絶大だったようだ。インスリッドはへっぴり腰になりながらそのまま北方面へ走り去り、街を出ていってしまった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『サイフォン、ニビレールの死亡を確認。インスリッドは町の外へ逃亡。これで依頼は全てこなしたわね。よくやったわ。報酬を受け取るのを忘れないでね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

盗賊団の一人が恐怖におののいて逃亡したことでこの街のリバストの伝説にも箔が付くだろうな。あとは報酬であるおうごんのうでわを受領するだけだが、パット見彼らは装着している感じはない。首領の死体をあさり、ポケットから宿屋のものと思われる鍵を見つけた。おそらくここに手がかりがあると思われる。

 

私は鎧を元の場所に戻した。かなりの返り血を浴びているが、物語の信憑性を上げるのに一役買うだろう。剣と盾を近くに放置し、血溜まりを避けながら2階へ上がる。フライパン装置を回収し、教会を出た。

 

宿屋に着くと、2階へ上がり、鍵のかかっていた大部屋にはいる。部屋は散らかっていたが、所謂金目のものは何もなかった。盗んだ後は戻る気はなかったのだろう。私は部屋を探索し、テーブル横のゴミ箱からくしゃくしゃになった紙を見つけた。紙には計画図と思われる経路図が書かれていた。この計画図によると、逃走用の馬車はこの街の南の林の中に用意しているらしい。先程逃げたターゲットが使うとも限らないので、私は急いで向かうことにした。

 

 

計画図にあった場所にはまだ馬車は放置されたままだった。1頭のウマが寂しそうにこちらを見ている。私は気にせず馬車の中を漁る。馬車の中には今まで集めたと思われる盗品が大量に積み込まれていた。剣、盾、鎧、装飾品、宝石、女性ものと思われる下着まであった。ごちゃごちゃした中に厳重に守られている金属製の箱を発見した。箱には鍵がかかっていたが、ロックピックが有る私には開けるのは造作も無いことであった。

 

箱を開けると、紺色の布地のクッションの中央に金色に輝く腕輪が入っていた。ブリーフィングでも確認した“おうごんのうでわ”に間違いないだろう。私は箱を閉じ、そのままそこに安置すると、馬車の運転台に乗り、馬車を動かして脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~3日後~

 

『黄金の腕輪。これでよかったのかしら?』

「これこそまさに黄金の腕輪ね。私ももう一つの方は見たことあったのだけれど、これは段違いに魔力が強いわ。」

『もう一つの方?2つ有るの?』

「ええ。昔レプリカが作られたらしくてね。あの世界のデスピサロとエビルプリーストはそのレプリカの方を使用して進化の秘法を完成させようとして失敗したみたいね。」

『なるほどね。ということはそれが本物なのね?』

「100%とは言えないけど、98%真作ね。これが紛い物だとしたらオリジナルとほとんど大差ない贋作をもう一つ作っていたことになるわ。」

『2%でも可能性があるのなら調査は継続させておくわ。』

「それがいいわね。うちの魔法図書館にも数々の魔導書があるけどあの“進化の秘法”の魔導書ほど力を持った魔導書は殆どないわ。究極の魔導書(Grimoire of Alice)くらいかしらね。」

『それで。技術的には応用できる余地はあるのかしら?』

「あなた達の技術を見させてもらったけど、一部魔術に通じる部分もあった。渡界応用魔術理論とあなた達のいうクロノスフィア型量子力学論はいくつか通じる部分があったわ。おそらくこの魔導書も同じような理論で確立できる。」

『・・・つまり?』

「応用は“可能”よ。」

『そう。良かったわ。では早速技術部と連携してあの魔導書に書かれていることを科学的に置き換えて頂戴。』

「それはかなり難しいわね。私一人では相当に時間がかかってしまうわ。最低でも30年はかかるわよ?」

『もうひとり居ればその分捗るかしら?』

「ええ。後2人も居れば・・・うまくすれば1年程度で解読できるはずよ。」

『わかった。では今後は進化の秘法に関する研究を“カテゴリ・フォルムーラ”とするわ。なにか進展があったら教えてちょうだい。』

「こんなものを何に使うのかは詮索しないけれど、私の読書環境を奪うことだけは止めてよね。」

『安心して。別に好きであなたの居場所を破壊しようとしているわけではないからね。』

「・・・。」

『あなたもあの図書館で学べないことを学ぶために私達に協力してくれてるのでしょう?』

「まあ・・・。そうだけれど。」

『利害が一致してるから問題はないわ。私達はあの技術を制御したい。あなたはさらなる知識を身に着けたい。WIN-WINね?』

「・・・。」

『じゃあ私は上級委員会に報告してくるわ。またね。魔法使いさん。』

 

 

 

「・・・。レミィ、ほんとにこれでよかったのかしらね・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「覗いたらダメです!」+1000 『露天風呂の裏に回り込む。』

・「切れ味抜群の新商品」+1000 『武器屋で買った鋼の剣でターゲットを暗殺する。』

・「英雄の怒り」    +3000 『リバストの鎧を着てターゲットを1人以上暗殺する。』

・「お前の物は俺の物」 +3000 『盗賊団の盗品を持って脱出する。』




最近ドラクエ世界に入り浸りでしたが次回からはまた他の世界にも行きますよっと。


2019/06/17追記
パッチェさんは東方の中でも個人的推しリストの上位3名にいる人です。2期でも登場してもらいます。


次回は実験場へ向かいます。


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HITMAN『魔術師に必要なものは?』

『ロンブリエールの町へようこそ。47。』

 

『ここはトリステイン王国の王立魔法研究所、通称“アカデミー”の実験場があることで有名な町よ。土地の管轄は領主であるヴァリエール家が努めてるんだけれど、領主の三人娘のうち長女がアカデミーの研究員なので、その実験用にとヴァリエール公爵が用意した土地らしいわ。でも長女の研究内容にここまでの広大な土地はいらなかったみたいで、余らせるのももったいないということで、今はアカデミーの研究員が共同で使わせてもらってるみたい。』

 

『今回のターゲットはその王立魔法研究所の評議会役員のエスペランサ・レイモンド・ド・ジュリアネス。周囲の人物からはエスペランサ卿と呼ばれているみたいね。彼はアカデミーの評議会の重鎮でありながら、狡猾にして悪質な汚職官僚でもあるわ。』

 

『彼の汚職の手口はクライアントによると未だ全容が明らかになっていないらしくてね、エスペランサ卿が実質的な首謀者なのは間違いはないんだけれど証拠が無い。以前一度だけ証拠をあげて逮捕した時は裁判員を買収して無罪放免になってるわ。もはや司法では彼は裁けない。だから我々に白羽の矢が立ったわけ。』

 

『クライアントはトリステイン王国銃士隊隊長、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン。女王お抱えの女性だけで構成された親衛隊の隊長殿よ。王国内の汚職取締も彼女が女王から命ぜられた任務の一つだけれど、メイジ殺しで有名な彼女を持ってしても、エスペランサ卿だけは足がつかなかったらしいわね。今回の依頼は一応、女王に許可はとってあるらしいわよ?』

 

『今回、この実験場でアカデミーで極秘に開発されている攻撃魔法の試験が行われるみたい。そこにターゲットも同席しているわ。できれば事故に見せかけてほしいけれど暗殺だとバレても特に問題はないみたい。』

 

『そうそう、魔術試験には多くの魔術師たち、この世界で言う“メイジ”が参加しているわ。我々ICAは最近優秀な魔術研究員を募集していてね、機会があれば誰か優秀そうな人物を“スカウト”してきてくれないかしら。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~???side~

 

 

「全く信じられないわ!ここまで腐っていたとは!」

 

 

腹の底から怒りだけが次々と湧き上がる。怒りっぽい性格なのは自覚しているがここまでの怒りはここ数年でも片手で数えるほどしか無い。

 

有ろう事か評議会のトップであるリッペン議長があの悪名高きエスペランサ卿に協力していた反逆者だったとは!始祖ブリミルは何故彼らを野放しにしているのか。そして何故敬虔な信者たる私にばかり試練を与えるのか。

 

ここ数年の出来事は私自身自覚できるほどにまで始祖ブリミルへの疑問が次々と湧き上がってしまっている。近年に至ってはその数々の試練と仕打ちに対し、信仰心自体かなり薄れてきてしまっていて、このハルケギニアの社会で生きていくために仕方なく信仰しているレベルにまで落ちてきてしまっている。それでもまだ体裁を保てているのは今までの行いの積み重ね故だろうか。

 

 

「始祖に頼ってばかりではいけないということなのかしら・・・。」

 

 

その瞬間、私の中にどす黒くも現状を打開しうる方法が浮かんだ。しかしそれを実行するだけの経験も度胸も私には備わっては居なかった。その方法をこの国のため、この世界のために実行に移してくれる始祖のような方が現れることを心の片隅で願いつつ、私は少しばかり冷えた頭を回転させて研究に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

私は今、ロンブリエールの街を歩いている。街と言ってもかなり閑散としており、村といったほうがしっくり来るだろう。しかしヴァリエール家の屋敷と王都を結ぶ街道沿いに有るため、宿場町としてはそこそこ機能を備えているようだ。町一番の大通りはその街道であり、その道沿いには酒場や馬屋、無論宿泊施設も多数備えている。

 

しかし北側に町を出れば地平線まで続く田園風景であり、なっている作物からするとこのあたりの名産はおそらくテンサイだろうか。南側は畑はほとんど無く、荒れ地が続いている。その荒れ地のさなかに一箇所だけ開けた広場になっている箇所があった。遠目に人が何人か見えるのでおそらくあそこが“実験場”だろう。

 

私はまず町中で情報を収集することにした。丁度近くに酒場があったので入ってみる。酒場はまだ日も高いというのに結構な客で賑わっていた。そう言えば今日は虚無の曜日と言われる私達の世界で言う日曜日にあたる日だと聞いた。何処の世界でも休日の飲食店は混雑するのが定番らしい。開いていた適当な席に着くと適当にエールを注文した。ちなみに私は意図的かはわからないがかなりアルコール耐性が高く、スピリタスを1L飲んでも全く酔わないためエールジョッキ一杯くらいでは任務に全く支障はない。

 

周りの客の話は大半が、“親方がこき使ってくる”だの“隣の店の子が可愛い”といった他愛のない話ばかりであったが、その中で一組だけ、鼻から上側をマスクで被った仮装のような格好をしている二人組だけは他とは違う話をしていた。

 

 

「なあ、やっぱり目立ってるってこれ。」

「大丈夫だよ。たとえ目立っていたとしても俺らが誰かまではわかんねえって。」

「そもそもなんでこんな仮面付けなきゃならねえんだよ。」

「仕方ないだろ。今度の実験は王宮にも伏せられてる極秘試験なんだから。」

「だからってこんな仮面つけてたら余計目立って感づかれるんじゃねえのか?」

「実験場の入口はこの仮面つけてないと入れないようになってる。脱いで何処かに忘れでもしたらもう入れなくなるぞ。」

「物忘れの激しいお前らしい意見だな。」

 

 

どうやらあの仮面は実験場に入るための通行券の役割を果たしているらしい。となるとどうにかしてあの仮面装束を借りなければならないだろう。

 

しばらく酒場で飲んでいると、仮面を付けた男の片方がトイレに行くのだろうか席を立った。私もその後に続きトイレへ向かった。酒場のトイレなだけあって清潔とは言えない内装と、個室が2つだけという質素なものだった。丁度良くトイレには私とその仮面の男しか居ないようだったので、私は個室に入ろうとしていた仮面の男を背後から首を絞めて気絶させた。そのまま個室に押し込み、仮面装束を借り、服についていた紐を使って外に出た後内側から鍵をかける。そのまま裏口から酒場を出て実験場に向かった。

 

 

 

 

実験場の周りにはフェンスらしきものは無く、侵入は容易そうに見えたが、念の為正門と思われる警備員が建っている道路から侵入を試みた。

 

 

「止まってください。」

「・・・。」

「ネームを確認させてください・・・。はい、ありがとうございます。もう通って良いですよ。」

「一つ確認したいのだが。」

「なんでしょう?」

「柵もなにもないようだがこれで警備は大丈夫なのか?」

「ご安心ください。最新式の侵入検知魔法が実験場全体に張り巡らされています。侵入検知に引っかからずに通過できるのはこの入り口だけですよ。」

「それならよい。では。」

「はい。いってらっしゃいませ。」

 

 

案の定、通報装置があったようだ。知らずに通過していたら侵入がバレていたところであった。私はそのまま道沿いに進み、実験場の中央へやってきた。

中央には何人かの同じく仮面装束の集団が居た。その少し先には地面になにか魔法陣のようなものが描かれている。

 

 

「うーん・・・どうも火力が出ないのぉ・・・。」

「硫黄の量を増やしてみてはいかがか?」

「いやそれよりも硝石の量をだな・・・。」

 

 

数人の魔術師と思われる集団が何やら話し合っている。どうやら研究が行き詰まっているようだ。その集団を少し離れたところから見守る女性の人物が居た。私は女性に近づいて隣に立ち適当にカマをかけてみる。

 

 

「どう思われますか。」

「・・・。私は正直言ってこの実験になにか意味があるとは思えません。」

「というと?」

「まずあの術式の長さでは戦場では全く使いものにならないでしょう。また使用する秘薬も種類が多く、戦場でそれらが安定供給できるとは到底思えませんわ。」

「なるほど。」

「あなたは?」

「私は最近入ったばかりの新参者なので。」

「そう・・・。」

 

 

確かに研究していると思われる魔法は先程から試験しているのを見ていても、詠唱に少なくとも3分はかかっている。更に硫黄やマグネシウム、木炭や硝石など投入される材料が多いのも見て取れる。この女性はそれらの問題点を的確に把握している。だがそれを指摘しないのは彼女の仮面の奥に見える瞳が失望に満ちているからだろうか。

 

ともかくターゲットの居場所が最優先だ。私は本題に入った。

 

 

「お尋ねしたいのですが、エスペランサ卿は何処にいらっしゃいますか。」

「え?ああ、エスペランサ卿は今向こうのテントで論文とにらめっこ状態だと思いますわ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「入ったばかりのあなたには忠告しておきますけど、邪魔しないほうが良いと思いますわよ。卿は論文とにらめっこしている時は周りに邪魔されるのがこの上なく不快に思う方なので。」

「わかりました。」

 

 

私は指し示されたテントへ向かった。テントは軍隊が使うような壁も有るタイプで、ターゲットはその中で羊皮紙で作られた論文を読みふけっていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『彼が“エスペランサ・レイモンド・ド・ジュリアネス”王立魔法研究所、上級研究役員。数々の汚職から逃れ続けてきた男。でも彼の逃走劇も今日が最後になりそうね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

彼はテントの一番奥にいた。手前には即席の棚が備え付けられており、様々な薬品や材料が並べられていた。硫黄や硝石といった基本的なものから、リチウムやナトリウムなどが固形のまま瓶に詰められている。

 

私はその中にあった竜の血と書かれている瓶を手にとった。手にとった理由としては何処か見覚えのある液体だったためだ。蓋を開けて嗅いでみると嗅ぎ慣れた匂いがした。これは竜の血などではなく、紛れもない“ガソリン”だった。

 

私はガソリンを論文を読んでいるターゲットの足元にこぼした。辺りにガソリン特有の匂いが立ち込めているというのにターゲットは全く気にする素振りもない。私はテントを離れ別のテントへ向かった。距離にすれば10mも離れては居ない。私は地面に転がっていた石を拾うと、ターゲットの手元を明るく照らしているオイルランプに向かって投げた。

 

 

シュッ

ガンッ!

 

 

オイルランプに勢いよく石が直撃した。机の端にあったオイルランプはそのまま床へ真っ逆さまに落ちた。その先にあるのは床に溢れているガソリンである。

 

 

シュボボオオオオ!

「うわっ!な、なんだ!」

 

 

ターゲットは元々丈の長いローブを着ていたため、ローブの端に微妙にガソリンが染み込んでいた。そのせいもあり、彼はまたたく間に炎に包まれた。

 

 

「あああじゃあああ!ぐわああ!」

ジジジ…ボォォン!

 

 

ターゲットに燃え移った炎は激しさを増し、彼を一瞬のうちに黒焦げにした。そのまま棚にあった別の薬品や素材などにも燃え移ったようで、仕舞いにはテントがまるごと吹っ飛ぶ爆発が起こった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットダウン。浄化の炎ってところかしら。任務完了よ、脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

爆発音を聞きつけて仮面装束の集団がわらわらと近寄ってきた。しかし既に火柱はかなりのものになっていた。水メイジと思われる者たちが火を必至に消し止めている。私はその混乱に乗じてその場を後にした。

 

出口に向かって歩いていると、後ろから何者かが付いてくる気配を感じた。私は実験場を後にすると小走りで町の路地裏に入った。後ろからついてくる者が慌てて路地裏に入ろうとするところを、待ち構えていた私は手刀で首筋を殴打し気絶させた。こいつは・・・。

 

私はセーフハウスに尾行者を連れ込んだ。尾行していたのはさきほど、ターゲットの居場所を尋ねた、失望に満ちた目をしていた女性だった。念の為動けないよう縄で縛ると撤退の準備をしながら目覚めるのを待った。

 

 

 

 

意外に目覚めるのに時間がかかり、酒場に置いてきた仮面装束の持ち主に服を返し、私のスーツを回収する余裕すらあった。私は軽く頬を叩いて起こした。

 

 

「んむう・・・。」

「起きたか。」

「ここは・・・。」

「何故私を尾行していた。」

「・・・。あなたがエスペランサ卿を殺すところ見てしまったから。かしら。」

「ならばその場で叫べばよかったのではないか。」

「それは・・・。」

「出来なかった。叫べなかった。その理由は何だ。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・私はもうアカデミーには居たくない。あなたなら・・・、この現実を変えてくれそうな気がしたから・・・。」

「買い被り過ぎだな。」

「ぐっ・・・。」

「だがちょうどいいかもしれない。」

「・・・どういうこと?」

「我々は今、魔法研究員を欲している。君さえ良ければ協力してくれないか。」

「・・・何の研究ですの?」

「今は明かすことは出来ない。協力してくれるという意思がなければ話せない。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・わかったわ。あなたについていく。」

「・・・少し待て。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『あら、早速魔術師をスカウトしてくれたのね?ではすぐに回収要員を派遣するわ。そこで待っていてもらって。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「すぐに迎えが来る。ここで待っていろ。詳しいことは向こうで聞くと良い。」

「あなたは教えてくださらないのかしら?」

「・・・私の管轄ではない。とだけ言っておこう。」

「そう・・・。」

「では私はひと足先に帰らせてもらう。」

「・・・最後に、最後にあなたの名前だけでも教えてくださらないかしら?」

「・・・。47。そう呼ばれている。」

「そう・・・私はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールよ。」

「長い名前だ。」

「エレオノールでいいわ。またあったら覚えておくように。」

「・・・。」

 

 

私は静かにセーフハウスを出ると、町の馬屋に行き馬を借りて街を脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~同時刻~

 

 

 

「まあそんなわけで私達に協力してくれない?」

「断る。メリットが見当たらない。」

「まあそう言わずに!ほら!こんな珍しい秘薬だって有るのよ!」

「興味がない。今は“科学”というものを研究するので手一杯。」

「あら!科学なら私達のところにも有るわよ!技術ならこちらでも学べるわ!」

「・・・。」

「・・・うーん・・・どうしたもんかなあ・・・。」

ガチャ

「戻ったよ姉さん。」ニュラ!

「あら、おかえりシルバー、ニューラ。」

「・・・!」

「その子は?」

「ああ、紹介するわ。こちらレレイ・ラ・レレーナさん。魔法使いの賢者さんよ。」

「ああ、こんにち・・・わ・・・?」

 

ニュラ!?

「興味深い。」

「えっと・・・レレイさん?」

「これは何という生物?」

「あっ・・・っと、ニューラ。ポケモンだよ。」

「ぽけ・・・もん?」

「この世界には居ないわね。ポケモンは。居るのはドラゴンばかりで。」

「触ってみても?」

「ああ、大丈夫だ。」

サワサワ

ニュー

「・・・かわいい。」

「・・・!私達に協力してくれたらもっと色んなポケモンを触らせてあげるわよ!」

「・・・本当?」

「ええ!ね!シルバー!」

「え?あ、ああ!」

「・・・行く。」

「やった!」

「うーん、いいのかなあ・・・。」

「良いのよ!じゃあ早速本部から迎えの人員を呼ぶわね!」タッタッタ

「・・・ふかふか・・・」モニュモニュ

「うーんまあ、いいか・・・。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「特産品はいかが?」+1000 『街の酒場でエールを飲む。』

・「仮面舞踏会」   +1000 『仮面装束に変装する。』

・「汚職は消毒」   +3000 『ターゲットを焼死させる。』

・「新たな道の扉」  +5000 『エレオノールをICAに招待する。』

 




動物はどの世界でも癒やされる存在になり得ると思います。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『魔術師に必要なものは?』(もう一つの世界線)

短めになっております。


『ロンブリエールの町へようこそ。47。』

 

『この街は王立魔法研究所、“アカデミー”の実験場のある街。この実験場で何やら極秘実験しているアカデミーの評議会役員のエスペランサ・レイモンド・ド・ジュリアネスが今回のターゲットよ。』

 

『クライアントはトリステイン王国女王直属親衛隊隊長、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン。法で裁けないターゲットを始末してほしいようね。』

 

『それと、魔法研究所の優秀な人材が揃ってるのだから誰かスカウトしてきて頂戴。手段は問わない。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

私は今、ロンブリエールの町から見えた空き地の外周部に来ている。先程からその空き地の中へ続いている道を、仮面装束をつけた人間が頻繁に通り、少し先に見える検問所のようなところを通り空き地方面へ向かっている。検問所は簡易的な小屋と道の両側に立つ兵士で構成されており、道を通る馬車や人を検問している。

 

今回私は100グラムほどのプラスチック爆薬を持ってきた。実験場での事故に見せかけるのに使用しようと思っている。

 

不思議なことに検問所の横にはフェンスらしきものはなく、森のなかに有るのもあって侵入自体は容易そうに見える。しかし警備が極端に薄い場合は何かしらの仕掛けがしてあるものだ。フェンスがないということはフェンスに変わる何かしらの防護柵が有るのだろうか。

 

私は手始めにできる限り近づいてみた。無論検問所からだいぶ離れた森のなかでは有るが。実験場自体はかなり広大であり、その広大な敷地の境界線に地雷を仕掛ける可能性はまずない。もとより外部からの侵入者を防ぐなら地雷よりもフェンスのほうがマシだ。だが完全スルーにしては検問を置く意味がない。もとよりここは魔法世界、空を飛んで侵入する可能性もある。ということは目に見えない侵入検出装置のようなものがドーム状に張られていると見て間違いはないだろう。

 

私は一旦道に戻った。実験場へと続く道は数百m離れたところにある街道から分岐してつながっている。街道自体は偶にでは有るが一般人もとおる。

 

 

 

丁度良く街道沿いをウマで走ってくる男が来た。私は近くにあった太めの枝をウマの足元に向かって投げつけた。

 

ヒヒン!?

「うわぁ!?」

ドシン

 

 

ものの見事にウマは足がもつれすっ転び、乗っていた男性は投げ出されて地面に叩きつけられた。下がアスファルトやコンクリートなら即死級だが、落ちたのは草原の上であるので草がそこそこなクッションになり、男性は気絶しただけだった。・・・この男、何処かで見た顔だと思っていたら、カールトン・スミスだ。よく私の周りに出没する男だが、まさかハルケギニアで見かけるとは思わなかった。

 

 

私は気絶したスミスを抱え、再び森のなかに入る。そのまま、先程の境界線の内部に入る。入ってから数十mのところにスミスを下ろし、頬を軽く叩いてからその場を離れた。茂みに隠れつつそのまま進むと、数人の兵士が横目に見えた。やはり侵入検知装置が張ってあったようだ。しかし身代わりは置いてきたので問題はないだろう。

 

 

「ま、待ってくれ!俺は怪しいもんじゃない!インターポール・・・って言ってもわかんねえか。・・・いやほんと!怪しくなんか無いっ・・・あだだだ!引っ張るな!わかったわかったって!」

 

 

兵士たちは何故自分がここにいるのかわかっておらず辺りをキョロキョロ見回していたスミスを発見すると槍で威嚇しながら捕縛していった。彼はそれなりに抵抗していたようだが多勢に無勢であえなく連行されていった。何故あいつがここに居るのかはわからないが少なくとも役には立ってくれた。先に進むとしよう。

 

 

 

 

森の中を暫く歩くと開けた場所に出た。テントがいくつか張られており、そこから少し離れたところに地面に何かを書きながら何かを話し合っている集団が居た。私はすばやくテントの裏に回り込み、いくつか並んでいるテントの間から聞き耳を立てた。

 

 

「・・・しかし・・・硫黄と硝石を・・・」

「だが・・・万一にでも・・・」

「・・・相談する・・・」

 

 

流石に遠すぎて断片的にしか聞き取れない。しかし硫黄と硝石を使用しようとしているところを見てなにか爆発系の実験を行っているようだ。そのうち集団の中のひとりがこちらの方へ歩きはじめた。私は急いで近くにあった樽の中に隠れた。歩いてきた男はそのまま樽の隣にあったテントに入っていった。テントの中から話し声が聞こ言える。

 

 

「エスペランサ卿。」

「ああ、アルゴーニ殿、今論文を読み終えたところだ。実験の方はうまく行っているかね?」

「それなんですが。どうも詠唱に時間がかかる割に威力が芳しく無く、理論上はもう少し火力が出るはずなのですが。」

「つまりはうまく行っていないということか。」

「端的に言えば。」

「そうか・・・。わかった。少し心あたりがあるのでそのまま待たれよ。私が少し調合してみよう。」

「助かります。」

 

 

男はテントを出ていったようだ。今の話し声の感じからするとテントの中にいるのはターゲットと見て間違いないだろう。私は樽から出るとテントを調べた。すると、テントの裏に親指ほどの穴が空いており、私は周囲を警戒しつつそこから中を覗き込んだ。

 

中では一人の男性が机に向かって何か作業していた。先程の話からすると調合作業だろうか。しばらくすると後ろにあった棚から白い固形物が入った瓶と黄色い固形物の入った瓶を取り出し、3分の1程度割って取り出すとそれを器に入れた。それを持って男はテントを出ていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがエスペランサ・レイモンド・ド・ジュリアネス上級役員。彼の汚職人生に終止符を打ってあげるのも私達の役目よ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は覗くのを止めてテントの脇に移動した。そこから木箱に隠れつつ、ターゲットが歩いていった広場の方を見る。広場では地面に魔法陣を書き記し、中心部に先程の薬品を置いていた。ターゲットは薬品を置くと魔法陣の直ぐ外側に移動し、周りの他の研究員に何かを命じた。研究員は魔法陣から離れ、距離にして10mは離れた。

 

ターゲットはなにか詠唱を開始すると魔法陣の中心部に光が集まりだし、そして薬品が燃え上がり爆ぜた。数分に渡る詠唱の後に起きた爆発と考えるとかなり小規模なものだ。直径3mほどの魔法陣の半分も爆発範囲は無さそうだ。ターゲットは首を傾げると研究員たちと何かを話し合い始めた。魔法陣の奥100mほど先にカカシのようなものが数本建っている。おそらくあの爆発をもっと遠くにあるあのカカシの付近で起こしたいのだろう。

 

私はすばやくテントの内部に侵入した。先程ターゲットが触っていた白い固形物の入った瓶を手に取る。表面はザラザラしているが粉っぽい感じは受けない。どちらかというと白い石のようだ。おそらくこれは硝石だろう。私は硝石をすべて瓶から出すと、持参したプラスチック爆薬を変わりに中に詰めた。形をそれっぽくして持ってきた100gのうちほぼすべてを瓶の中に入れた。瓶を元あった場所に戻すと、私はテントを出て再び樽の中に隠れた。

 

 

 

少しして多少苛立った顔のターゲットが帰ってきた。私は再びテントの裏に回り穴から覗く。

 

 

「クソッ!何故あの程度の爆発しか起きないのだ!原因がわからん!」

「・・・。仕方ない。こうなればありったけの秘薬を投入するしかあるまい。」

 

 

ターゲットはブツブツ呟いた後、先程の黄色の固形物、おそらく硫黄だろう。と、元は硝石の入っていた中身のすり替わった瓶、を手に取ると器に移さずそのまま瓶ごと持っていってしまった。私は再び木箱の裏に隠れつつ広場を見る。広場では相変わらず魔法陣を囲んで何かを話し合っていたが、ターゲットがそれをかき分けて持っていた2本の瓶を多少乱暴に魔法陣の中心においた。そのまま詠唱始めててしまったので周りの研究員たちが慌てて魔法陣から離れた。

 

詠唱が続き、瓶から固形物が浮き上がる。それらが空中でくっつき、そして空中に現れたきりのようなものから電撃がそれらの固形物に向かって放たれる。

 

 

ドォオオン!

 

 

硝石と硫黄に雷撃が命中した程度では大した爆発は起こらない。黒色火薬の生成には炭が足りてないためだ。しかし硝石に成り代わってその爆発する任を受けたプラスチック爆薬は、今まで魔法陣の半分ほどにしか広がらなかった爆発を魔法陣のあった地面ごと半径7~8mは吹き飛ばすという威力に変わった。周りに居た研究員は何人か爆風に押され爆ぜた瓶の破片が当たって負傷する程度ですんだが、魔法陣のすぐ外側に居たターゲットはものの見事にばらばらになってしまっていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。これでクリーンな政治ができると良いのだけれどね。じゃあそこから脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は隠れていた木箱から離れ、テントの裏を伝って森のなかに入ろうとした。

 

 

「・・・ちょっと、そこのあなた!」

「・・・!」

 

 

仮面装束をつけた女性に呼び止められた。バレてしまっては仕方がない。少しの間眠っていてもらう他ないだろう。私はすばやく呼び止めた女性に近づく。突然近寄ってきた不審者に驚いて身動きが取れていなかった女性のみぞおちに一撃を食らわせて女性を気絶させた。

 

気絶した女性を茂みの中に隠そうと引きずっている最中に、私は第二目標のことを思い出した。見たところこの女性も研究員の一人のようだ。優秀かどうかはわからないが少なくとも国立の研究機関に所属している研究員なのでそれなりに知識はあるはずである。私は予定を変更し、彼女を抱えるとそのまま森の中へ入っていった。

 

侵入検知装置は侵入者に対しては有効だが脱出者に対してはあまり効果を発揮しないようだ。ラインを足早に通り抜け、周囲を伺いつつ女性を肩に担ぎながら走っていると、遥か後方の領域内に警備兵の姿が見えた。気が付かれないように中腰になりつつ、森を抜ける。

 

森を抜けると、先程転倒させた馬が自力で立ち上がり、突然居なくなった操縦者をキョロキョロと時折探しつつ道端の草を喰んでいた。私は女性を馬に載せ、そのまま一緒に馬にまたがり、その地域を脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~同時刻~

 

 

「あなたに私を止められるのカ?」

「・・・。」

「あなたに私の望むものを用意できるのカ?」

「・・・。」

「・・・何とか言ったらどうなのネ・・・。」

「あなたのことは知っている。」

「そりゃ知らないでこんなところまで来るやつは相当な物好きアルネ。」

「あなたは今はフリーランスのはず。私達の組織に協力してほしい。」

「嫌ネ。」

「・・・。」

「私はある目的があって行動している。脇道にそれてる時間はないネ。」

「・・・。」

「じゃあ話はこれで終わりネ。とっとと帰るヨロシ。」

「火星。」

「!」

「戦争。」

「!!」

「私達は兵器を持っている。あなたの元いた世界の技術も把握している。」

「・・・お前達、何者ネ。」

「あなたの境遇も知っている。私達の情報部は優秀。」

「・・・。」

「あなたの計画に協力できる。だから私達の計画にも協力してほしい。」

「・・・何処まで知ってるネ。」

「あなたが火星人だということ。あなたが戦争孤児だということ。あなたが・・・。」

「もうイイヨ。わかった。協力しよう。」

「・・・助かる。」

「そのかわり、そっちの技術も少し分けてもらうヨ。その辺りの交渉は加入してからでいいネ。」

「わかった。では本部と連絡を取る。」

 

 

 

「まあ私の世界はネギ坊主が救ってくれそうだし。大丈夫だと思うネ・・・。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「腐れ縁の飛脚」  +1000 『エージェント・スミスに会う。』

・「検知するだけ装置」+1000 『検問を通らずに実験場内へ入る。』

・「双月ロケット」  +3000 『ターゲットを実験中に爆弾で殺害する。』

・「愉快な誘拐」   +3000 『エレオノールをICAにつれていく。』

 




遅れて申し訳ありません。それもこれもぜんぶスクエニのせいです(責任転嫁)
ドラクエビルダーズ2やってました。というかやってます。(開き直り)


2019/06/17追記
DQB2熱は落ち着きましたがWT熱が再燃中・・・w


次回は千葉県に行きます。


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HITMAN『音速が恋した人間』

『銚子港へようこそ。47。』

 

『良い所でしょう?ここは日本で一番水揚げ量が多い港。世界一の大都市である東京都市圏の食を支える重要港よ。でも残念だけれどゆっくり海の幸に舌鼓打ってる余裕はないわよ。』

 

『今回のターゲットは速水翔という人物。彼はごく普通の大学生ではあるけれど、最近妖怪たちの楽園である幻想郷に迷い込んだことがあってね。そこで知り合ったある妖怪と恋仲になってしまったそうなの。その妖怪は幻想郷でも知らぬものはあまり居ないという人物で、依頼者によると幻想郷に無くてはならない重要なピースの一つと位置づけられてるらしいわ。』

 

『どうやらその二人は駆け落ちしたらしくてね。連れ戻そうにも動きが早くて捕まえられない。なので秘密裏に相手方である速水翔を密かに抹殺するようにという依頼よ。相手が死亡すれば動きが止まって連れ戻しやすくなるというわけ。あまり気分が乗らない話ではあるけれど依頼なら仕方ないわね。』

 

『クライアントは八雲紫。そういえば47、前回の彼女の依頼のミッションは上層部が仕組んだ偽装依頼だったわ。今後はちゃんとこちらでも先方に確認をとっていくようにするから安心して。今回の依頼はちゃんと彼女自身から依頼されたわ。でも食事中に現れないでほしかったわね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~ブルーside~

 

「シルバー!そっちはどう!?こっちはそろそろきつくなってきたわよ!」

「待って後少し!・・・・・・終わった!送信完了!」

『データは確かに受け取ったぜ!早く脱出するんだ!アンクルサムと愉快な仲間たちはお前達でバーベキューパーティする気だぞ!』

「わかってる!行くわよシルバー!片付けは済んだ!?」

「何言ってるんだ!片付けなんかこれで終わりさ!」ポイッ

ドゴォォン

「良いわね!でもアタッシュケースは持っていきなさいよ、あれICAのロゴが入っちゃってるんだから!」

「大丈夫、ちゃんとそれは持ってる!」

「じゃあ血路を開くわよ!ニドちゃん!はかいこうせん!」

「ギャラドス!お前もはかいこうせんだ!」

 

ドゴーーーン

 

「世界最強の軍隊を相手に私達だいぶ健闘してるわね!このままウィスキーホテルに観光でもしに行く?」

「冗談言ってる場合じゃないよ!さっさと逃げよう!アンドルーズ基地からも増援部隊が接近しているみたいだ!合流されたら相手の兵力が倍以上になる!」

「流石にまずいわね。すぐ南にボトマック川があるわ!そこへ逃げ込むわよ!」

「わかった!」

 

 

 

 

『ブルー、シルバー、撤退完了だ。今回収部隊を送ってもらうぞ。それまでちょっと寒いが川の中で待ってな!・・・あ、ボートあるのか。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

 

澄み切った寒空にカモメが飛んでいる。私は今、銚子漁港の一角にある小さな公園に居る。隣には不思議な銅像が建っている。説明書きには母子河童像と書かれている。河童は川の生物ではなかったのだろうか?

 

情報によるとこの付近のどこかにターゲットが隠れ住んでいるらしい。まずはそれを特定しなくてはならないだろう。

 

ドンッ

「あっ、すみません・・・!」

「いや、お構いなく。」

 

 

急ぎ足で公園内を通過していた女性にぶつかってしまった。気のせいか何処かで見た顔だったような・・・。

 

私は乗ってきた車に戻り、小さな川を渡って道沿いに進んだ。左側には倉庫があり、そのすぐ向こう側は海だ。今日は日曜日で市場は休みのようだ。それもあってかあまり活気などはなく、物静かな印象すら受ける。

 

コンクリートで作られた大きな建物があった。その前には大型トレーラーが何台か止まっている。建物に付けられている看板を見ると、どうやらそこは漁業組合事務所らしい。ターゲットは漁業関連の職についているらしいことが情報部から伝えられていたので、私は情報を得るためにまずはこの組合事務所に侵入することにした。

 

トレーラーの後ろに車を止め、トレーラーの裏側で道の反対側からは死角になっている窓を開けて侵入した。どうも日本の事業者は窓の鍵を締め忘れることが多い。平和すぎるのも考えものだろう。

 

入った先は事務所のようだった。今日は休日なので最低限の人員しかいないのだろう。部屋の一番奥に設置されているストーブとその周辺の電灯だけが点いていた。

 

私は手近なところから探し始めた。最近の漁の様子、最近の漁獲高、近年の法令改正資料、様々な資料が色々なところに散らばって置かれており、探すのはなかなかに骨が折れたが、少しして目的のものを見つけた。雇用者名簿である。

 

私はターゲットの名前を探した。かなりのページ数があるため探すのにはそれなりに骨が折れそうではあるが、12ページ目にその名前があった。その情報によると、住所はすぐ近くのアパートのようだ。

 

私は本を閉じて元あった場所に戻すと、侵入に使った窓から再び道へ戻った。車に戻り、直ぐ側のT字路を曲がって住宅街へ入ってく。かなり密集して家が立っており、アメリカのニュータウンなどとはまた違った雰囲気だ。私は住所情報から家を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~速水翔side~

 

 

 

今日はなんだか胸騒ぎがする。せっかく東京から旧友がくるというのに何事もなければ良いのだが・・・。

 

しかしその願いは早くも崩れ去る。アパートの階段を駆け上がる音、凄まじいスピードで駆け上がっているその音はおそらく私のところへ来るだろう。

 

 

ドタドタドタバーン!

「速水さん!居ますか!」

「どうしたんだい、そんな慌てて。」

「どうもこうもありません!今すぐここから脱出しますよ!」

「脱出?どういうことだい?」

「いいから!早く!」

「ま、まってまって。今日は客が来る予定なんだ。せめて来て事情を話してからでも・・・。」

「そんなの遅いです!早くしないとあいつが・・・!ほら早く!」グイッ

「あだだだ!わかったわかったって!」

「早く早く!」ドタドタガチャ

 

 

さすがは妖怪だ。凄まじい力で引っ張っていく。しかしドアを開けた瞬間ドアの目の前に私の客人がそこに居たためその先へはいけなかった。

 

 

「・・・。」

「・・・へ?」

「・・・あ、どうも・・・。」

「ほら、文、もう来たみたいだから。すまんな。慌ただしくて。」

「あ、ああ。何かあったのか?」

「速水さん、この方々は?」

「ああ、紹介しよう。俺の大学時代の友人の毛利だ。えっとそっちのは・・・?」

「こっちは娘の蘭だ。こっちは居候のコナン。」

「はじめまして~。」

「こんにちわー。」

「こんにちは。こっちは私と同居している射命丸文だ。非常にせっかちで力が強い子でね。」

「ど、どうも・・・。」

「慌ただしくてすまんね。まあとにかく一旦中へ入ろう。事情は私もまだ聞いてないんだ。文、いいね?」

「・・・はい。」

 

 

私達は一旦中へ戻った。1Kの狭い部屋だが幸いにしてなんとか客人を招き入れるだけのスペースはある。私はお茶を用意して沈黙している文にまずは事情を聞くことにした。

 

 

「さて、文。なんであんなに急いでたんだい?」

「先程公園で見かけたんです!」

「誰を?」

「暗殺者をです!」

「何!」

「ええ?!」

「暗殺者ぁ?!」

 

 

私達は揃って素っ頓狂な声を上げてしまった。暗殺者がこんな閑静な港町に何のようなのだろう?毛利の連れの子供が質問する。

 

 

「なんで暗殺者だってわかるの?」

「私は以前居たところで彼の仕事を見たことがあるからです。その時は集落一の実力者を暗殺していました!」

「警察には行ったのか?」

「私が居たとこは警察が居なくて事件はそのまま大天g…町の町長によって全て隠匿されました・・・。」

「ううむ・・・それで、その暗殺者がまた現れたってことか。」

 

 

私は疑問ばかりが浮かんでいたが文の必至に説明する表情は今までにない鬼気迫るものがある。おそらく本当のことなのだろう。

 

 

「でもその暗殺者が何故こんなところに?」

「狙いはわかってるんです!速水さん!あなたを暗殺しに来たんですよきっと!」

「私を?」

「ええ!依頼者はおそらく八雲紫でしょう。私を連れ戻すために外の世界に連れ出したあなたを抹殺するために!」

「なんだってそこまでして・・・。」

「とにかく!早く遠くに逃げないと!」

「逃げると言っても何処に?」

「とりあえず外国へ高跳びです。後のことは逃げている最中か先で考えましょう!」

 

 

どんどん話が大きくなっていく気がする。私も殺されたくはない。しかし逃げ続けてもいずれ追っては付くだろうな。

 

 

「毛利、お前警察に顔効いたよな?どうにか出来ないものか?」

「そう言われてもなあ・・・事件はまだ発生してねえし、その暗殺者が本当に居るのかすら怪しいもんだしで警察が動くかどうか・・・。」

「居ると思うよ暗殺者。」

「何?」

「コナンくん?」

「文さん。その暗殺者の容姿ってわかる?」

「えっと、スーツ姿で赤いネクタイしてて、スキンヘッドで・・・あ、頭の後ろにバーコードみたいな入れ墨してたような。」

「やっぱり。ほら蘭姉ちゃん覚えてる?道後温泉での事件。」

「あのヤクザの人が殺されたっていうアレ?」

「あの事件、結局外部犯ということで決着が着いたけど、おそらくその暗殺者がやったんだと思う。証拠はないけど。」

 

 

何と目の前の旧友とその家族はその暗殺者を見たことがあるという。いよいよ持って信憑性が出てきたということか。

 

 

「どうやら本当に暗殺者が迫っているようだな・・・。」

「だからそう言ってるじゃないですか!さあ!早く逃げましょう!」

「すまん、毛利。来てもらってそうそう悪いがこういう事態だ。済まないが今後はしばらく会えそうにない。」

「わかった。俺らが暗殺者をとっ捕まえてやるよ。この名探偵毛利小五郎様がな!」

「助かる。とりあえず私は車で空港へ向かうことにしよう。」

「では行きましょう!」

 

 

私達は必要最低限のものだけ持って玄関へ向かった。文がドアを開ける次の瞬間。

 

 

「危ない!」ドンッ

「うわ!!」

チュンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

出てくるところを狙撃しようと構えていたが、すんでのところで連れの女性にターゲットを押しのけられ外してしまった。

 

ターゲットの後ろにいる人物は見知ったあの少年だ。まさかこんなところでも会うとはな。そのまますぐに扉を閉められた。このアパートは裏側に窓があり、その下に駐車場がある。車で逃げられると厄介だ。私は乗ってきた車に戻ると、アパートの裏側にある駐車場の出口へ向かった。

 

間一髪、ターゲットの乗っている車が駐車場を出ていった。横目に駐車場を見ると、あの探偵一家がレンタカーと思われる車に乗ろうとしていた。私はそのままターゲットの車を追った。

 

道はそれほど広くなく、歩道にもそれなりに人がいるためにあまりスピードが出せない。だがそれはターゲットの車も同じなようで、私は彼の車にピッタリとついて後ろにつけた。狭い市街地を猛スピードで走り抜けており、いつ事故を起こしてもおかしくない状況ではあるがこちらも事故にあっては元も子もない。私は定石として車で体当たりを敢行した。

 

 

ガンッ!

キュルルル

 

 

それなりに大通りに出るところで曲がろうとしていた彼の車を後ろから小突いた。彼の車は一瞬スリップしたがすぐに体制を立て直し大通りを曲がった。

 

その後すぐに道は急激に狭くなったが、車のスピードはむしろ上がっている。すると後ろから数台のパトカーを引き連れて1台のセダンがやってきた。こちらのスピードが100km/h弱なためすぐに追いつかれ、後ろにつかれた。バックミラー越しに見えたのはあの毛利とかいう探偵とその娘だった。・・・ん、あの少年の姿が見えない。ということは・・・。私は車に置いておいた携帯で応援を要請した。

 

ターゲットの車は道を曲がり、更に細い道へ入った。正面にはなにかの塔が見える。あそこへ向かっているのだろうか?塔を過ぎると再び大通りにでた。右へ曲がり、通りを進んでいく。車の性能で言えばこちらのほうが上なのでアクセルを吹かして横につける。そのまま横から体当たりを敢行する。

 

 

ドゴッ

キュキュキュキュガッ!

 

 

ターゲットの車はぶつけられたはずみで縁石に乗り上げ派手にはね、ガードレールにぶち当たりその向こう側に飛んだ。しかし上手いことそのまま一回転してその先にあった駐車場に着地した。しかし車にはダメージが大きかったらしく、ボンネットから煙を吹いている。駐車場の真ん中でターゲットの車は停まった。私はその近くに車を止め、そのままシルバーボーラーで運転手であるターゲットを狙撃した。

 

 

パシュン

バリン

 

 

またもや助手席に座っていた女性が急に抱きついて押し倒したことにより狙いが外れた。彼らはそのまま向こう側のドアを開け、外に出た。私も外に出る。後ろから警察車両とセダンが追いついてきた。いつの間にか増えていた警察車両も駐車場を完全に包囲したようだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。支援のヘリがそちらに間もなく到着するわ。無線を回すから指示を出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「そこを動くな!」

 

 

後ろのパトカーから拡声器で警告が発せられる。私は気にせず岸壁によりつつターゲットが見える位置へ向かう。ターゲットは着地の衝撃で気を失っていたようだ。そばの女性が抱えながらこちらを睨みつけている。

 

 

「動くなと言っているんだ!さもなければ発砲する!」

 

 

私は気にせずシルバーボーラーで狙いを定める。この国の警察はたとえ拳銃を発砲したとしても犯人に対しての発砲は最後の最後までためらうフシがある。暗殺者にとってこの国の警察が無視しても問題ない理由はそこにあるといえる。

 

抱えられては居るが頭は見えている私は引き金を引き・・・

 

 

バシン!

「ぐっ!」

カラカラカラ…

 

 

私の手に何かが当たってシルバーボーラーを落としてしまった。その近くで跳ねるサッカーボール。そうか、彼か。

 

 

 

 

「終わりだよ。暗殺者さん。」

 

 

 

 

彼は岸壁に立っていた。どうやらご自慢のスケボーで先回りしていたようだ。なるほど。やけに行動が早い警察車両だと思っていたが、私はここにおびき寄せられたというわけか。

 

 

「どうする?まだやるの?」

「終わりか。果たしてそうだろうか?」

「何?」

 

 

 

バララララララ

ヂヂヂヂヂヂヂヂヂ

 

 

 

 

「うわっ!」

「・・・!」

 

 

ICAの支援ヘリだ。M134ドアガン付きブラックホーク。この警察勢力に対抗できる火器はないだろう。ミニガンの掃射で私と彼の間は更に離れた。私はシルバーボーラーをゆっくり拾い直すと警察勢力に向けてブラックホークの拡声器をとおして呼びかけた。

 

「警察勢力に告ぐ。君たちの働きには敬意を表するが、ここはおとなしく見ていてもらおうか。邪魔するようならば残念ながら敵性勢力とみなさざる終えず、あのガトリングの餌食になってもらうことになる。」

「ふっ、そういうことね。でもそれも想定済みだよ。」

「何?」

 

 

ショゴォォォォォ!

 

 

その時上空を戦闘機が通過した。その尾翼に日の丸。自衛隊機だ。

 

「松山でお前達の兵力は知ってた。今回は自衛隊にも協力を要請したからもう逃げられないよ。」

「ふむ・・・やるな。少年。」

「わかったら早く投降してよ。その方が無駄な血を流さずに済むんだから。」

「悪いがそれは出来ないな。私は自分の任務を・・・む?」

 

 

ターゲットが居ない。何処へ消えた。私はその瞬間、ターゲットの車の向こうに黒い大きな羽を見た。なるほど。あの少女、何処かで見たと思ったら思い出した。幻想郷の天狗の集落であった女性。射命丸とか言った少女だ。

 

彼女は飛び上がった。周りの警官たちが驚きの声を上げているが彼女は一瞬こちらを見た後、凄まじいスピードで空へ浮き上がった。その手にはターゲットが抱えられている。

 

しまった。周りの者達に気を取られ、ターゲットを逃してしまった。幻想郷一のスピードを誇ると言われている彼女は音速を突破することもできるという話だ。ヘリでは追いつけないだろう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。こういう事態も想定済みよ。成田からICAの支援機無人機が上がったわ。最近ブルーがアメリカから入手してきてくれた最新鋭機の設計図をもとに技術部が作り上げた物。支援ヘリの中に操作パネルがあるからそれで操作して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

支援ヘリが近くまで降りてきた。無論ドアガンは依然として警察を狙い続けたまま。

 

 

「少年。私は任務を達成するためにここで御暇させてもらう。」

「逃げようったってそうは行かないよ。」

「どうかな?君のそのサッカーボール生成器で生成したサッカーボールを蹴って私に当てるのと、ミニガンの銃身が回転して発砲するまでとではどちらが早いかな?」

「・・・。自衛隊も居る。逃げられないよ。」

 

 

「・・・自衛隊?何処に居るんだ?」

「何!?」

 

 

さきほど上空を飛んでいた自衛隊機は影も形もなくなっていた。全機基地に帰還したようだ。

 

 

「我々を甘く見ないほうが良い。攻撃することを放棄した弱小軍隊など、銃など使わずとも勝てる。」

「くっ!」

「ではな、少年。運が悪ければまた会おう。」

 

 

私はヘリに乗り込むとそのままその場を後にした。ドアガンで乗ってきた車を爆破するのを忘れずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

~射命丸side~

 

 

「はっ!ここは・・・?」

「あら?気が付きましたか?」

「文、ここはいったいいいいいい?!」

「あ、暴れないでください!落ちちゃいますよ!」

「なんで海の上にいるんだい?!見渡す限り陸地も見えないし!」

「ここは太平洋上ですかね。銚子から全力でここまで逃げてきたんですよ。このままアメリカに渡りましょう。」

「アメリカって、かなり遠いぞ!大丈夫なのか?」

「なに、距離はわかってます。方角も大丈夫。一旦ハワイに降りれば何のことはないですよ。」

「かなりのスピードのようだけどどのくらい出てるんだ?」

「マッハ4くらいですかねえ。私の出せるほぼ全速力ですよ。余裕そうに見えるかもしれませんが結構しんどいですよ流石にこの速度で飛ぶのは。」

「文・・・。」

「感謝してくださいよ?私の力がなかったらこの速度で飛んだらあなた風圧で切り刻まれるか凍りつくかのどっちかなんですから。」

 

このスピードなら戦闘機にだって追いつけはしないでしょう。まずは米国に渡って、そこから少し休んだら南下して南米に潜みましょうか・・・。

私が今後のことを考えながら飛んでいると後ろからなにかの気配を感じた。

 

 

「文!後ろからなにか来る!」

「嘘でしょ!この速度について来れるなんて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

私は帰還中のヘリの中で操作パネルを弄っている。この技術部が作り上げたという最新鋭無人機は元々偵察用だったらしい。極超音速偵察機、SR-72。開発元のロッキードではそう呼ばれていたようだ。無論偵察機なので武装は皆無だが、そこはいくらでもやりようがあるだろう。

 

送られてくる衛星通信映像に彼女たちが映る。私はまず彼女らのすぐ横に向かって最高速で突っ切ろうとする。彼女たちが回避軌道を取った。その機動で速度が落ち、無人機が彼らの横をほぼ最高速で通過する。後部に設置されたカメラ映像では衝撃波で空中にターゲットが放り出されていた。かなりのスピードで落下していくターゲット。それを追って降下する射命丸。私は大回りで旋回し、ターゲットの方へ向かう。

 

数百メートル落下したところで射命丸が彼の手を取った。その瞬間、ターゲットの体に無人機の翼がかすめた。マッハ6で金属の塊が掠めれば言わずもがな、彼の体はソニックブームにより切り刻まれた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認したわ。手間取ったけど試作機の実地試験も出来たから上々ね。ああ、あと自衛隊にはこちらから手を回しておいたから追手はないわ。そのまま帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

わたしは操作パネルをオートパイロットに切り替え、太平洋上のICAの基地へ向かわせた。カメラ映像では亡骸になったターゲットを抱えている射命丸の姿が写ったが、すぐにその姿は突如として空中に現れた裂け目に飲み込まれたことで見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~2日後~

 

 

「聞いたわよ!47!私達が取ってきたデータが役に立ったみたいね!」

「助けられたようだ。感謝する。」

「えへへ!あなたに感謝されるのは初めてだから、なんだかむずかゆいわね・・・。」

「姉さん。締りのない顔になってるよ。」

「お前達はあの設計図を取りにアメリカへ向かったのか?」

「ああ。もっとも、上層部は別のデータの方にご執心みたいだけどね。」

「別のデータ?」

「なんでもカテゴリLOGに使えそうな技術が見つかったとか何とか。」

「たしかにあの偵察機の構造はなかなかに斬新だったものね。」

「それはそうと47。話があるって聞いたんだけれど?」

「ああ。日本にいる“江戸川コナン”という少年には気をつけろ。彼は子供のような見た目だが、特殊な薬品でその姿になっているだけだ。高校生探偵工藤新一。それが彼の本名だ。」

「聞いたことあるわねその新一って人。前はテレビにバンバン出てなかったっけ?」

「電気屋のテレビで見たことがあるね。行方不明とは聞いていたけどまさか子供になっていたとは。」

「情報部も彼には警戒している。いずれ相対する時が来るかもしれないから用心しておくように。」

「わかったわ。」

「了解。」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「住所照合組合」  +1000 『漁業組合でターゲットの自宅の住所を特定する。』

・「比較的安全運転」 +2000 『ターゲット追跡中に時速100km/h以下で5分以上走る。』

・「数少ない失敗」  +1000 『警察と自衛隊の介入を許す。』

・「あの空の彼方へ」 +5000 『SR-72を使用してターゲットを殺害する。』

 




執筆中は「END of AIR」と「あの空の彼方へ」をエンドレスで流してました。
別アプローチではちゃんと気付かれずに“暗殺”する予定ですw


次回は別アプローチです。


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HITMAN『音速が恋した人間』(もう一つの世界線)

『音速が恋した人間』の別アプローチです。


『銚子港へようこそ。47。』

 

『今回のターゲットは幻想郷からある妖怪と一緒に駆け落ちした人間、速水翔。クライアントである八雲紫は、幻想郷の重要人物であるその妖怪を連れ出す原因になったその人間を排除してほしいみたいね。』

 

『八雲紫曰く、最近はセンサー類やカメラの類が進化してきて外の世界も容易に出歩いて神隠しすることができなくなってしまったみたいなのよね。それでもつい最近までは自分で対処できていたのだけれど、我々ICAの偵察衛星が導入されてからはそれに映り込むことを危惧して、好きな場所にスキマを開くことができなくなってしまったんですって。』

 

『スキマというのがどういうものかはわからないけれど、原因の一端が我々にあると聞かされたからには断るに断れなくなってしまってね。できる限りスマートにお願いね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「いやー!大漁大漁!銚子のイワシは日本一ってな!」

 

 

私は今銚子漁港に向かおうとしている漁船に乗っている。この船自体は隣の茨城県鹿島港の漁船だ。私はこの船に漁師として潜入して銚子に侵入を試みている。イワシ漁を手伝いつつ、情報も収集できればいいと考えていたが、この船に乗っている人間は皆銚子漁港の人間のことは知らないようだ。

 

 

「しかし兄ちゃん!外人さんなのに日本語ペラペラだし何よりその鉢巻は似合ってるねえ!そんな感じに鉢巻きしてる日本人、最近あんまり居ないんだけどもよ!」

「そうなのか?」

「ああ。まあ今はヘアバンドや何やらがあるからな。わざわざ外れる可能性のある鉢巻は誰もやりたがらねえのさ。」

「世知辛いものだな。私は伝統文化の一つだと思っている。」

「嬉しいじゃねえの。一日バイトとは思えねえや!さあ、もうすぐ銚子だ!仕事終わったら一杯やろうや!」

「ああ。」

 

 

もっとも一杯やるときには私は既にこの国にはいないと思うが。海は穏やかで、12月の寒空は日が照りつけてはいるがやはり寒い。そんな他愛もないことを考えているうちに漁船は銚子港に入港した。

 

私は乗組員と一緒に入港してすぐにイワシの水揚げを行った。船に積まれた大量のイワシをクレーンで港へと運び入れる。私はそれを手伝いつつ、港の中で働く人員の中にターゲットが居ないか探した。港では様々な人が働いており、かなり活気がある。しかし、その中にブリーフィングで確認したターゲットは居なかった。

 

そのまま水揚げ作業を終えると出港する時間まで自由時間となった。私は自分の荷物を回収し、乗組員の集団から離れて漁業組合へと向かった。

 

 

「少しお尋ねしたいことがあるのですが。」

「はい、何でしょう。」

「速水翔という方がここで働いていると聞いたのですが。」

「速水さん?ああ、彼なら漁港じゃなくて隣の加工場にいると思うよ。」

「ありがとうございます。その加工場というのはどちらに?」

「えっとねえ・・・はいこれ地図。これの・・・ここだね。」

「ありがとうございます。行ってみます。」

 

 

首尾よく漁業組合でターゲットの居場所を突き止めることが出来た。私は足早に示された加工場へ向かう。加工場は市場から道を挟んで反対側に位置しており、それなりに大きい工場になっていた。

 

まずは工場を遠目から観察する。道の反対側から見る限り、シャッターが開いている部分では内部で魚の内臓を処理している手伝いの人が見えた。施設の形状的にトラックなどで一括で運ばれてきた魚をここでおろし、その場で内蔵を処理して奥に持っていくのだろう。

 

その中に忙しく動き回っているスタッフの中にその人物はいた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが速水翔。愛の光なき人生は無意味とは言うけれど、その愛が彼の人生を終わらせるっことになるとはね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は道を渡り、工場の横に回った。横は他の工場や駐車場が隣接しており、間の隙間は人がひとり通れる程度しか無く、隣が工場の場合は加えて昼間だと言うのに薄暗かった。

 

私は路地に入り、工場の裏手へ回った。工場の裏手には様々な廃材や資材が置かれていた。裏口と思われるドアもあり、そのドアの前にはタバコを吸っている男性が居た。私は慎重に背後に忍び寄ると一気に首を絞めて気絶させた。気絶させた男性を資材と資材の間に隠すと、いつものように服を借りた。薄い黄緑色のいかにもな作業着である。ターゲットも着ていた服と同じものだ。

 

作業着を着て裏口から内部へ入る。町工場という雰囲気のこの工場は電子ロックやID認証などはなく、社員証の提示すら無いため侵入はかなり容易である。

 

裏口からはすぐに現場というわけではなく、裏方の事務作業を行う部屋が多数あった。それらの部屋を通り過ぎ、2階へ上がる。2階には工場全体が見渡せるデッキがあった。金網製なので歩くたびに音がするが、工場内は常に水が出されていたり、蒸気釜のようなものもあるためかなり五月蝿く、足音程度ならかき消してくれる。

 

 

「こんにちわー。」

「やあ文ちゃん。旦那ならそっちだよ。」

「文。どうしたんだい?」

「今日お弁当持っていくの忘れてたでしょ?腕によりをかけて作ったんですからちゃんと持っていってくださいよ!」

「ああ、すまんすまん。朝は結構急いでたからな。」

「文ちゃん料理できるのかい?」

「最初の頃はひどいもんでしたけど最近はやっとまともに・・・ね。」

「ハイハイ。御指導御鞭撻の賜物ですよっと。じゃあね。」

「ああ。」

 

 

下の階ではターゲットの妻である駆け落ちした妖怪と思われる女性が弁当を届けに来ていた。その顔を見て思い出したが、彼女は確か天狗の集落に居た射命丸とかいう新聞記者だったような気がする。なるほど、天狗が人間と駆け落ちか。彼女の速さは幻想郷随一だと聞いたが管理者である八雲紫にも捕らえきれないほどということか。

 

仕事場は彼女の登場で少し和み、彼女が帰ると再び全員仕事に戻っていった。私は周囲を観察する。ターゲットは内蔵を取った魚を満載したコンテナをクレーンで移動させていた。手元のスイッチで移動させるタイプで、コンテナに備え付けられている扉を開閉する事もできるようだ。コンテナの大きさはかなり大きく、それが太いワイヤーによって釣り上げられている。あのワイヤーは流石にシルバーボーラーでは切断するのは難しいだろう。

 

私はクレーンの吊り上げている最上部を見た。大きな金属製の金具でレールに固定されている。そのレールをたどると、2階部分に操作盤のようなものがあった。近寄って見ると、どうやら下のコントローラーが動かなくなったときのための非常用の操作盤のようだ。このような非常用の操作盤は、大抵端末よりも優先して操作を受け付けることが多い。これは使えるだろう。

 

私は操作盤を開き、クレーンを動かすタイミングを見計らう。ターゲットに近い位置で操作を始めなければ、操作がおかしいことに気がついてこちらの存在と目的を悟られる危険性が高くなるためだ。しばらく操作せずに見守る。忙しくコンテナから魚を降ろしてはまた元の場所に戻して釣り上げてを繰り返している。しかしなかなかターゲットは移動中のクレーンのそばには寄らない。安全管理という点では当然とも言えるが。私は改めて周囲を観察する。

 

ターゲットの後ろに水槽がある。その水槽はいくらかの魚が入っているがそれ自体はさほど大きなものではない。私はクレーンがターゲットに一番近くなるタイミングを見計らって水槽をシルバーボーラーで撃った。

 

パシュン

パリン

バシャーン!

「うわ!なんだ!?」

「水槽が割れたぞ!」

「ああ!魚が!」

 

 

突如として水槽が割れたことで現場は混乱している。ターゲットは流れ出た水と魚を避けるために更にクレーンに寄る形になった。今がチャンスだ。私は操作盤を動かし、クレーンをターゲットの上に持ってくると、コンテナのドアを開けた。

 

バシャーン

「うわぁぁぁぁ!!!」

ドシャシャ!

「おい!速水が魚の下敷きになったぞ!」

「なんでコンテナが開いたんだよ!」

 

 

私はコンテナの扉を開けた瞬間にすぐさま操作盤から離れ、近くの物陰に隠れた。コンテナの中には大量の氷と大量の魚が満載されており、コンテナを釣り上げていた高さは3mはあった。落下する際の重量は相当なものだろう。あまりの大量の氷によってターゲットの姿は完全に見えなくなっていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲット死亡。任務完了ね。騒ぎが大きくなる前に離脱して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「すみませ~ん、さっき渡し忘れた・・・ってどうしたんですか?」

「ああ文ちゃん!大変だ!あんたの旦那さんが!!」

「速水さんが氷の下敷きに!」

「え!?うそっ!?」

 

 

下では先程の射命丸が戻ってきていた。私は下の混乱に乗じて通路を抜け、進入時に通ってきた道を通り、裏口へ出た。未だに伸びていた作業員に服を返し、いつものスーツに着替え直すと、入った方向とは反対の方向へ路地を抜けて出た。

 

 

 

反対の通りは全く人気が無く、両側も倉庫が密集して立っており、逃走するにはもってこいの道と言えるだろう。私は道に沿って歩き、少し先に止めてもらったICAが用意した車に向かって歩いた。

 

 

 

 

 

ヒュン

「!」サッ

ガャシャーン!

「何処へ行こうというのですか。」

「・・・!」

 

 

ICAが用意した車は向こうからやってきた。というか飛んできた。車は背後で大破している。どうやら風に飛ばされて飛んできたようだ。その竜巻レベルの風を起こした張本人が目の前に立ちはだかっている。

 

 

「あなたがあの場から離れるのを見ましてね。こうして追ってきたというわけですよ。なんで追ってきたのかおわかりですよね?」

「・・・。」

「今日の私はここ数十年の中で一番頭にきてますので手加減はできません。私の・・・私の大切なものを奪ったあなたを許す訳にはいかない!!」ヒュン

「っ!」サッ

ガシャーン

「避けていられるのも今のうちです!幻想郷で見たあの時、やはり終わらせておくべきだった!」ヒュン

「くっ・・・。」サッ

ガッシャーン

 

 

先程から手当たり次第に駐車してある車を投げつけてくる。この狭い路地裏では風の制御も限定的になるらしいが、それでも乗用車を投げつけられる程度には風を起こせるようだ。このままではまずい。私はシルバーボーラーを出し、彼女に応戦した。

 

パシュン

チッ

「ふん!そんな弾!」ヒュン

「・・・。」サッ

ガシャーンバチバチバチ

 

周りの被害もお構いなしだ。車は近くの電柱にぶち当たり電柱をへし折った。これだけ派手に騒いでいるのだから人も集まってきてしまう。急がなくては。

 

 

「な、なんだあ!?」

「!?あいつは!」

 

 

案の定、私の後ろから親子と思われる3人がやってきた。っと、その子供は見覚えがあるな。

 

 

「っちい!ちょこまかと!」ヒュンヒュン

「な、何だこの風はあ!」

「おっちゃん!蘭姉ちゃん!こっち!」

「コナンくん!」

 

 

彼らは自主的に近くの路地裏に避難したようだ。私もできればそうしたいが、路地裏に入った場合あの風をまともに食らうことになりかねないため、得策とは言えないだろう。

 

私は彼女の攻撃をよく観察してみる。彼女の突風は攻撃の瞬間に飛ばす対象から前方に向けて吹いているようで、それ以外の場所には突風の被害は見受けられない。ということは背後はがら空きというわけだ。だが彼女は完全にこちらを捉えており、背後に回り込むのは不可能だろう。ならば回り込むのが“私じゃなければいい”わけだ。

 

私はほぼ決死の覚悟で飛んでくる色々なものの間をすり抜けながら、宙に浮かんでいる彼女に向かって進み、通り過ぎる。

 

 

「逃がすか!」ヒュン

バキバキバキ

 

私に向かって振り向きざまに突風を浴びせかけることで、私の横にあった倉庫のトタン製の外壁が派手にへしゃげる。姿勢を低くすることで突風をかいくぐった私は彼女の反対側に回り込めた。無論、彼女はこちらを向いて依然として手当たり次第に物を投げつけてくるが。しかし彼女が私の方を向いているおかげでフリーになった者たちも居る。

 

 

「今だ!」ピシュン

プスッ

「ぐっ!?な、なにが・・・眠く・・・」フラフラフラ

ドサッ

「・・・ナイスワークだな少年。」

 

 

私が反対側に回り込んだことで、あの少年たちに背後を見せたことで、少年の持つ時計型麻酔銃を打ち込むチャンスができた。案の定、少年は場を収めるために彼女に向かって麻酔を打ち、彼女を眠らせることに成功した。というか妖怪も眠らせられるあの麻酔針は一体・・・。

 

射命丸文と呼ばれた幻想郷一の俊足も、眠らせられてはその素早さを活かすことは出来ない。彼女は力なく地面に横たわっていた。

 

 

「ど、どうなったんだ?」

「コナンくん。大丈夫?」

「へ、へーきだよ。それよりも・・・。」

「しっかし、こりゃあまたどうして・・・。あっちこっちに車の残骸があるぞ。」

「と、とりあえず警察に電話する?」

「その方がいいだろうな。千葉県警にはあんまり知り合い居ねえけど。」

 

 

彼らは周りに転がっている車や建物の残骸を見ている。今のうちに私は退散するとしよう。私が動き始めたあと、倒れていた彼女の周りの空間に裂け目ができると彼女を飲み込んで消えてしまった。

 

 

「な、何が・・・って、待て!そこの男!」

「・・・。」

 

 

っと、少年に見つかってしまった。私は駆け足で路地裏に入り、逃走を開始する。別の道に止めてあった路上駐車の車を拝借して私はその場を後にした。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~1ヶ月後~

 

 

 

「じゃあいくわよ。」

「はいネ。ポチッとな。」

ウィーン…

「うん!ちゃんと結合できてるネ!」

「何とか成功したわね。長かったわ。みんなお疲れ様。」

ワー パチパチパチ

 

「それで、パチュリー。進化の秘法と破壊の遺伝子を繋げることは出来たわけだけど、これをどうするつもりネ?」

「その辺りは彼女に報告してからかしら。本当に欲しているのは彼女の所属しているICAという組織の方らしいから。」

「ICA。私達の世界に来た自衛隊からも聞かなかった単語だ。」

「私の世界にもよ。もっとも、それらしき組織はこの間トリスタニアで暗躍してたみたいだけれど。」

「ワタシはそれなりに裏稼業にも詳しいつもりだたが、そんな組織はここに来て初めて聞いたアルヨ。」

「せいぜい私達の生活を脅かすようなことにはならないでほしいわね。最近は本もロクに読めてないわ。」

「まあワタシはこうして優秀な魔法使いたちと知識を共有できただけでも概ね満足ヨ。」

「私なんかは教えられる方が多かったけどね。ハルケギニアではここまで高度な魔法は虚無以外にはないから。」

「私の世界の魔法とも違う。非常に興味深かった。早く帰って実践してみたいことが多く学べた。」

「一応みんな目的は達せられたということなのかしらね。」

 

『それはなによりだったわ。』

「ミス・ダイアナ。」

『完成したとの報告が来たから参上したわ。これがそうなの?』

「ええ、進化の秘法に含まれていた制御因子と攻撃因子、それに一定の行動因子を破壊の遺伝子と掛け合わせることで、かつて無いほどにまでパワーと魔力を向上させつつ、思考速度と俊敏性を向上させ、それぞれを損なうこと無く制御することを可能としたもの。」

『完璧ね。いい仕事ぶりだったわ。報酬はどうしましょうか。』

「私達はお金とかは要らないわ。あなた達の技術が学びたいわね。」

『それならうってつけのものがあるわ。詳しくは機密だから教えられないけれど、近々カテゴリ・LOGの最終実地試験が行われるのよ。その試験の模様を見せてあげるわ。』

「ワタシの世界にも似たようなのはあったけどあそこまで高威力なのはなかったネ。」

「私も見てみたい。自衛隊も持っていない兵器。興味がある。」

「私は見てもあまり参考にはならなそうだけれど、面白そうではあるわね。」

『では決まりね。日時は追って知らせるわ。それまで待っていて頂戴。』

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「大漁だぞぉ!」   +1000 『イワシ漁船に乗って潜入する。』

・「弱食強肉」     +3000 『ターゲットを魚を使って暗殺する。』

・「ウィンドブレイカー」+3000 『射命丸文と戦闘する。』

・「死神が見た理想郷」 +5000 『射命丸をコナンの麻酔銃で眠らせる。』

 

 




結局バレてるやん・・・?とりあえず文ちゃんは幻想郷へ帰還しました。ちなみに執筆中にかけていた曲は「最高最速シャッターガール」でした。

今年は意外に初めてなことが多かった年でもありました。本年の更新はこれにて終了です。
みなさま良いお年を。


2019/06/17追記
2018年最終更新の回でした。18年は新しい職についたり小説を書き始めたりといろいろ大小様々な挑戦をした年でした。


次回は例の兵器の完成お披露目会です。



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HITMAN『実験都市、OKB-457』

『シベリアへようこそ。47。』

 

『今回の任務は少々特殊よ。あなたが今いるのはウラル山脈の北側、ボルクータの北東200km地点にある秘匿閉鎖都市「OKB-457」通称“ブリンスキー設計局”。一番近い空港まで200km以上離れてて、近くの海は氷河に覆われて大地は永久凍土。そんな世界の果てとも言える土地に突如として現れる大都市がここよ。』

 

『この街は5本の超高層ビルとその周囲を取り巻く高層ビル。そして外周部のマンション群とそのさらに外側にある一般住宅街で構成されているわ。通常なら数万人規模の都市ではあるけれどここは閉鎖都市であり実験都市なの。近代的な市街地における新型兵器の実験やロボットなどの実験に用いられていて、人口も300人弱しか居ないわ。』

 

『今回我々ICAはこの都市を、完成したカテゴリLOGの最終実証試験場に採用したわ。47。あなたにはこの街に僅かに住んでいるその300人弱の住人を避難させてほしいの。手段は問わないわ。眠らせて一人ずつ町から出すも良し、集団で避難誘導しても良し、でも殺すのはダメよ。殺すくらいならカテゴリLOGの殺傷力の実験台になってもらうほうが有意義だからね。』

 

『それと、この装置も一緒に持っていって頂戴。これはパチュリー・ノーレッジ氏率いる魔導研究班監修で作成した対物魔法障壁発生装置よ。理論上は10メガトンクラス熱核弾頭にも耐えられるシールドを広範囲に展開するわ。避難が完了したら街の中心で展開して頂戴。魔法障壁は防御に重点を置いている設計だから展開すれば肉眼でも視認可能よ。』

 

『援護としてブルーとシルバーも同行させるわ。あと観測用としてSR-72も派遣する予定よ。準備が完了したら無線で知らせて頂戴。脱出用のヘリを向かわせるわ。あなたにも確認しておいてほしいから脱出用のヘリに乗ったら実験を開始する予定よ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「それで、今回はどういうプランで行く予定なの?」

 

私は今舞台となるOKB-457にヘリで向かっている最中だ。都市近郊の森のなかの空き地にヘリを下ろしてそこからは徒歩で向かう予定になっている。機内にはブルーとシルバーも同乗しており、これから始まる作戦の打ち合わせがこれから行われる。

 

「情報部の得た情報によると中央の5本の超高層ビルには町のインフラ設備、観測設備、それと放送センター以外には空のオフィスが入っているだけのようだ。重要区画はその周囲の高層ビル群の中にある3箇所の研究センターだ。」

「そこにはなにが?」

「別段大した事を研究しているわけではないようだ。化学兵器や細菌兵器の研究施設だ。」

「ちょ、ちょっとそれだいぶ大した事のように聞こえるんだけど?」

「シーバーンは流石にまずいのでは?」

「大丈夫だ。どうやら都市部におけるエアロゾルの広がり方を研究する施設のようで、実際の化学兵器や細菌兵器は保管されていないようだ。」

「そう、それならまあ安心できるのかしら。」

「油断は禁物だ。万が一本物のBC兵器を発見した場合はできるかぎり速やかにその場を離れろ。」

「わかった。心得ておく。」

「見つからないことに越したことはないんだけどねー・・・。」

 

 

二人は少しだけ安堵したような表情を見せる。私の予測では少量ながら本物のBC兵器が保管されている可能性が高いと睨んでいる。用心に越したことはないが、過度に危険視するのも作戦の柔軟性を損なう危険性がある。私はとりあえず本題である作戦について話し始めた。

 

 

「まず二人にはその周囲の研究施設に侵入して何かわかりやすい“毒ガスのようなもの”を探してほしい。色がついている気体なら何でも良い。」

「毒ガスである必要はないのね?」

「ああ。人体に無害でも構わない。見た目が毒ガスっぽくあればそれで良い。見つけたらそれを散布する装置を設置する。ここは小型爆弾が良いだろう。」

「持ってきているよ。威力はそれほどではないけど、何かしらの容器を壊すには十分だ。」

「よし。それを3つの研究所に仕掛けてくれ。仕掛け終わったら中央棟のメディアセンターから私が避難指示を出す。」

「避難誘導は何処にするの?」

「市街地南西部に簡易滑走路がある。町の住人が全員乗れる旅客機が駐機されているのが衛星で確認されている。それに乗せて町の外へ脱出させる。」

「300人弱だったっけ。正確な数はわからないの?」

「この街は秘匿実験都市の性質上、情報が外に漏れ出ない様になっている。公式にはこの町自体が存在していない。よって正確な統計も取られては居ない。知っているのはこの町の支配者たる大統領だけだろう。」

「ともかく僕と姉さんは研究所で毒ガスっぽいものを撒き散らす準備をすれば良いんだね。」

「ああ。事が終わったらメディアセンターのある中央棟に来い。屋上からヘリで脱出する。」

「了解。」

「わかったわ。」

 

 

一通り説明し終えると、乗っていたヘリは丁度良く市街地郊外の森のなかの空き地に着いた。私達はヘリを降りるとそれぞれ別方向へ歩き出した。

 

 

「じゃあ、またあとでね。」

「47も気をつけて。」

「ああ。」

 

 

二人は森の中へ消えていった。私も行動を開始する。今回持参したのはいつものシルバーボーラーに加え、出発時に渡された野球ボール程度の大きさの機械だ。情報部曰く、この機械が例の魔法障壁発生装置らしい。こんな小さな機械で熱核兵器にも耐える障壁が生成できるとすれば、それは世界の軍事バランスを根底から覆す代物に違いないだろう。

 

私は森を進み、市街地の外周部に出た。森と市街地を隔てているのは高さ2mほどのフェンスと検問所だ。私はフェンスの一部が破れているのを発見し、そこから内部へ侵入した。大方近くの野生動物、熊あたりにでも破られたのだろう。

 

市街地へ侵入すると、町中に監視カメラと言うには大きく頑強な作りのカメラを発見した。おそらく観測用のカメラなのだろう。念の為カメラを避けつつ市街地深部へ侵入していく。既に住宅街は抜け、高層ビル群に入っているが今の所人はだれも見かけていない。特に劣化しているわけでもなく、どこかの科学番組のようなまさに大都市から人間だけが忽然と姿を消したかのような風景になっている。

 

 

ジリリリリリリ!!!

 

 

突然けたたましいベルが鳴り響いた。音はかなり離れたところからなっており、表通りを武装した兵士と思われる集団が何組かベルの方へ向かっていった。しかしすぐにベルは止まり、辺りに静けさが戻る。

 

ピンポーン

「報告、15時21分25秒に発生した侵入者情報は確認作業の結果問題なしと判断されました。各員は所定の配置に戻ってください。」

 

 

どうやら先程のベルは侵入者検知のベルだったようだ。おそらく彼らだと思われるが、問題なしということはうまく切り抜けたということだろうか。

 

私は更に市街地をビルの合間を縫うようにして進み、ついに市街地中央部のメディアセンターの入る超高層ビルへたどり着いた。1階部分と2階部分は他の超高層ビルとつながっており、中程あたりに周りの4本のビルと空中廊下でつながっている。

 

正面入口には流石に警備員が立っていた。格好は警察官のそれであるが、明らかにアサルトライフルのようなものを携行しているのがわかる。私は周囲を周り、侵入できそうなところがないか調べて回った。

 

ちょうど到達した場所から反対側に当たるところまで周ったところで1階部分の外壁に錆びた鉄格子の換気口を見つけた。周囲を確認し、試しに引っ張ってみると、ボルトが錆びて劣化していたためか簡単に外れた。鉄格子を外すとそこには人一人が通れそうなくらいの換気ダクトがあった。再度周囲を確認し、その換気ダクトに潜り込んだ。

 

換気ダクト内を匍匐前進で進み、一番最初の換気口を開けて室内に侵入した。出た場所は倉庫のようだ。侵入さえ出来てしまえばあとはどうとでもなるだろう。私は手始めに倉庫を漁った。

 

倉庫内には事務用品雑貨が多かったが、殆どは予備として用意されたものばかりのようで手がつけられた形跡がなかった。陽動用にボールペンを数本拝借する以外にこれと言って収穫はなかった。

 

 

「47。聞こえる?」

「ブルーか。」

「ええ。こちらは一つ目の研究所の仕掛けを終えたわ。どうやらここはOKB-457-2と呼ばれているらしいわ。」

「3箇所のうちの一つだろう。何を使うことにした?」

「二酸化窒素が充填されていたタンクがあったからそれと排気ダクトを繋げておいたわ。バルブ代わりの栓を爆弾で爆破すれば一気に流れるはずよ。」

「上出来だ。ところでシルバーはどうした?」

「ここにいるよ。」

「ともに行動しているのか。」

「ええ。一人だとまだ大変なことがあるから。それでも二人なら大丈夫!」

「そうか。では他の2つも頼む。」

「はーい・・・あっ!そうそう、47。この研究施設、やっぱりアブナイわよ?」

「どういうことだ?」

「さっき見つけたのよ。二酸化窒素のタンクのある部屋に。“硫化ジクロロジエチル”って書いてあるタンクがあったわ。気をつけてね。どうやらガチで化学兵器実験場らしいわよここ。」

「気をつけよう。」

「じゃああとでね!」

 

 

やはり化学兵器はあったようだ。硫化ジクロロジエチルは通称マスタードガスと呼ばれるびらん剤の一種だ。気体を吸い込まなくとも皮膚が触れただけで爛れさせる。無論吸引すれば口も喉も肺もすべてが爛れてしまう強力なものだ。ゴム製の防護スーツも貫通するため専門的な機関でない限り防ぐのはまず無理だろう。

 

二人が誤って化学兵器の貯蔵容器に爆弾を仕掛けないことを祈りつつ、私は施設内を先に進む。

 

非常階段を登り、4階まで上がると、初めて人の気配を感じた。慎重に確認すると、ドアが開けっ放しになっている部屋があった。どうやら人の気配はその部屋の中からのようだ。私は慎重に近づき、部屋を覗く。

 

部屋はどうやら警備室のようだ。それもこの街全体いたるところにあったカメラの映像が映し出されている。部屋の中には合計で3人の警備員が居た。彼らは皆モニタを凝視しており、何かを探している風もあった。

 

 

「どうだ、みつけたか?」

「いや、こっちにはいないな。」

「こっちもだ。見間違いだったんじゃないか?」

「確かに居たんだよ。茶髪と赤毛の子供二人が。」

「でもこの街には子供はいないはずだし、第一この街に何の用だってんだ。実験は当面行われないんだぞ?」

「だからこそだろ。この街に保管されている化学兵器を奪いに来たとか・・・。」

「子供がかあ?お前やっぱり疲れてんじゃねえのか?」

「ううむ・・・こうも見つからないとそんな気がしてきた・・・。」

「ちょっと仮眠室で休んでこいよ。どうせ誰も居ない町だからな。俺ら二人で十分だ。」

「そうそう。休んできな。俺らが休みたくなったら起こしてやるから。」

「うーん・・・わかった。そうさせてもらう。悪いな。」

「いいって。さっさと寝ろ。」

 

 

警備員の一人が出口であるコチラに歩いてきた。私は物陰に隠れてやり過ごす。外に出た警備員は少し離れた別の部屋に入っていった。おそらくあそこが仮眠室なのだろう。私は忍び足で仮眠室へ向かい、中をそっと覗いた。中では先程の警備員が警備服を脱いで下着姿で寝床に入ろうとしていた。館内は暖房がきいており、スーツだと若干暑いくらいなので下着姿でも問題はないのだろう。

 

私は静かに部屋の中に入り、たった今脱いだ警備服を拝借する。奇しくも外はそれなりの風が吹いており、窓を揺らす音のおかげで侵入・拝借・退室の音に気が付かれることはなかった。私は近くの別の部屋に入り、そこで警備服に着替えた。警備服にはIDカードが入っていたためこれで館内を自由に動き回れるだろう。

 

館内を歩き回っていると、エレベーターホールにやってきた。壁にこのビルの施設図があったので見る。どうやらこのビル自体、市街地再現の一貫の役割が強いらしく、地上120階建ての高層ビルにもかかわらず、テナントは全く入っておらず、1階の受付、4階の警備室、50階の管理室、80階の放送センター、120階の展望エリア以外はほとんど空き室か倉庫になっているようだ。

 

私はエレベーターに乗り50階の管理室を目指した。特に目新しくもないエレベーターに揺られている最中に通信が入った。

 

 

「47。聞こえるか?」

「シルバーか。そちらの首尾はどうだ。」

「今二つ目の研究施設に爆弾を設置した。前と同じく二酸化窒素のタンクだ。」

「そうか。よくやった。ブルーはどうした?」

「今、別のタンクとにらめっこ中。書いてあるキリル文字の意味が理解できなくて悩んでる。」

「意味はわかるわよ。どうせこれも化学兵器のタンクだわ。近くにあった書類にはイソプロピルアミノ・・・なんとかエステルって書いてあるわ。長すぎるわよこれ。」

「それは前駆体だな。お前の予想通り中に入ってるのはおそらく化学兵器の毒ガスだろう。」

「予想はあたったわね。全然嬉しくないけど。」

「タンクはかなり離れたところにあるから問題はないと思う。最後の研究施設に向かう。」

「わかった。」

 

 

エレベーターは50階に到着。エレベーターホールの眼の前の大部屋が管理室のようだ。私は中にいる人員の服装が自分と変わらないのを確認すると、室内に潜入した。

 

中央のメインモニタには街全体の簡略図が描かれており、様々な場所のカメラや温度、湿度、放射能濃度やオゾン濃度まで書かれている。3つの研究施設の周囲はとりわけモニタリングポストが多く、化学兵器漏洩にかなり気を使っているのがわかる。私は目の前の操作盤の中に空調管理用のパネルを発見した。どうやらこのパネルでの操作で街のすべての空調を一括で動かすことができるようだ。

 

私は周囲を横目で確認し、誰もこちらを見ていないことを確認すると、すべての施設の空調を外部の空気を取り込むように変更した。変更する際にパスワードを設定して他の者が変更できないように手も加えておいた。

 

 

 

私は管理室を後にすると再びエレベーターに乗り、今度は80階の放送センターに向かった。80階から82階までが放送センターになっているようで、一見するとテレビ局のスタジオのようであるが、どうやら街全体への放送を担うと同時に各種部隊への通信なども行えるようだ。

 

こちらは警備服の人員が1人だけで管理しているようだった。実験などで使われない場合の保守メンテナンスはたった一人でも事足りるということなのだろうか。私はたった一人の警備員に話しかける。

 

 

「ふぁ~あ・・・。」

「暇そうだな。」

「んあ?何だお前?」

「交代要員だ。後は私がやろう。休憩すると良い。」

「ん、まだ交代の時間には早いが・・・まあいいか。わかった。」

 

 

休憩することを拒否する人間はなかなか居ない。彼はすぐに部屋を出ていった。私は邪魔者が居なくなったことで改めて設備を見渡す。目の前のパネルには各種舞台へのホットラインがあり、その上に全体への通信ボタンが有る。近くにおいてあったマニュアルによると、緊急時には12ある部隊のうち1つだけを対処要員として残しておくことになっているらしい。現場に一番近い部隊がそのハズレくじを引くことになっているようである。

 

 

「47。終わったわよ。」

「ブルー。」

「3つの研究施設全てに設置完了。最後は楽だったわね。」

「若干危なかったけどね。ともかく任務は完了だ。」

「了解した。ではこれから行動を起こすことにする。混乱に乗じて中央の一番高いビルの屋上へ向かってくれ。」

「わかった。そこで合流だね。」

「さて、どうなるのかしらねこの街。」

「施設から脱出できたら知らせてくれ。」

「もう脱出済みだよ。今路地裏を通ってビルへ向かってる。」

「そうか。では始める。」

 

 

私は小型爆弾の遠隔スイッチを押した。小型爆弾の為流石にここまでは爆発音は聞こえてこない。そのまましばらく待っていると、パネル横の電話がなった。

 

ガチャ

「はいこちら放送センター。」

「こちら警備室だ!緊急事態発生!研究所にて化学災害発生の可能性大!警報と避難誘導放送を頼む!」

「了解。」

ピピ

 

ビービービー

「こちら放送センター、緊急事態発生。緊急事態発生。OKB-457-1、2、3にて化学災害発生の可能性あり。職員は直ちに所定の手順に従い当地域から避難されたし。」

 

 

私はマニュアルに書いてあったとおりの手順と言葉で警報を発した。マニュアルでは職員は簡易的な除染を行った後、防護服に身を包んで空港まで向かい、2機の飛行機に分乗して脱出する手はずになっているようだ。

何回か警報を繰り返し放送した後、再び電話がなった。

 

 

「まずいぞ!システムの不具合で全施設の空調が外気を取り込む形になっている!我々も避難を開始するからそちらも早く脱出しろ!」

「わかった部隊への指示を行った後脱出する。」

 

 

「こちら放送センター、チーム・トーリカ応答願う。」

「こちらトーリカ1。どうぞ。」

「トーリカ1。今回の災害にはチーム・ゴーラが向かうことになった。第1陣脱出機に乗って脱出せよ。」

「トーリカ1了解。よかった。俺らじゃなくて。」

 

 

「こちら放送センター、チーム・ゴーラ応答願う。」

「こちらゴーラ1。」

「ゴーラ1。今回の災害にはチーム・トーリカが向かうことになった。避難誘導を行った後、第2陣脱出機にて脱出せよ。」

「ゴーラ1了解。やれやれだ・・・。」

 

 

 

 

 

私は対処チームを含めてすべての人員を避難させた。しばらくしてから放送センターから見える滑走路から2機航空機が飛び立ち、西の空へ消えていった。おそらく町には我々以外誰も残っては居ないだろう。私は放送センターを後にしてエレベーターで最上階へ向かった。最上階に着くと既に二人が待っていた。

 

 

「おそいわよ。47。」

「作戦は成功だ。町には人っ子一人居ないよ。」

「お前達の働きのおかげだな。さて・・・。」

ピッ

『信号を受信したわ。今迎えを送る。そのままそこで待機していて頂戴。』

 

 

私は通信機で信号を送り、迎えを呼ぶ。迎えが来るまでの間に最上階のヘリポートの端に持参した魔法障壁発生装置なるものを設置する。スイッチをいれるのはヘリで脱出したあとの方が良いだろう。

 

しばらくすると東からヘリがやってきた。私達三人はヘリに乗り込むと誰も居なくなった町を飛び立った。そのまま町から10キロほど離れたところを周回飛行する。

 

 

「脱出完了だ。」

『よくやったわ。衛星でも確認できた。町の中にいるのは犬と家畜の豚くらいね。それじゃあ魔法障壁を展開するわ。』

 

 

その言葉の直後に遥か彼方のビルの頂点から光が発せられたかと思うと、紫色の膜のようなものがビルから発せられた。おそらくあれが魔法障壁とやらなのだろう。街全体が紫の半球状の障壁に覆われた。

 

 

「はえー・・・これは壮観ね。」

「あれが魔法障壁か。興味深いな。」

『でしょう?ではまず手始めに魔法障壁の効力を確認するわ。北極海にドミネーターが居るのよ。じゃあお願いね。』

 

 

そういうと後ろでなにか指示を出している声が聞こえた。数十秒後、北の空から飛翔体がやってきた。どうやらミサイルのようだ。ミサイルはそのまま一直線に魔法障壁に向かっていき、直撃した。ミサイルは見事に障壁に防がれ爆発した。障壁には何の影響もないようだ。

 

 

『上々ね。次はもうちょっと威力が高いわよ。やって頂戴。』

 

 

今度はかなりの上空から何かが落下してきた。目を凝らしてみると以前私が使ったSR-72だ。かなりの速度が出ており、おそらくほぼ最高速だ。そのまま一直線に障壁にぶち当たった。

 

ドゴーン

 

派手な音を立てて障壁の外側で機体は爆発した。衝撃で粉々になったようだ。しかし魔法障壁はびくともしておらず、発生当初の状態でそこに有る。マッハ6にもなる高速飛翔体に耐えれるのはかなりのアドバンテージだろうな。熱核兵器に耐えるという話も誇張ではないのだろう。

 

 

「私達が苦労して取りに行った機体データを簡単に壊してくれるわね・・・。」

「まあ予想はできてたし、設計図自体が壊れたわけじゃないからいくらでも作れるんじゃないかな。」

 

 

横でブルーとシルバーが不満げな顔で話していた。気持ちはわからんでもない。

 

 

『魔法障壁の効果は立証されたわ。次はお待ちかね。メインディッシュよ。』

「“カテゴリ・LOG”か。」

『そう。かなりの衝撃が予想されるからもう少し離れるようにパイロットに言っておいて。』

「わかった。」

『じゃあ・・・始めるわよ。』

 

 

パイロットに伝えた後、ヘリは更にその場を離れるように飛行し始める。直後、

 

 

シュユルルル

 

 

超高空から何かが降ってきた。細長い弾頭だ。かなりの速度のようで、先程のSR-72よりも早い。そのまま魔法障壁に直撃する。

 

 

ガギィィィィン!

 

 

甲高い音がして魔法障壁が揺らぐ。一瞬へしゃげたかと思うと、弾頭は障壁を貫通し、地面へ落下した。

 

 

ドゴォォォン!

 

 

弾頭は市街地のほぼ真ん中に落下し、装置を設置したビルをえぐりながら地面へと突き刺さる。そのまま地面深くへ潜り込むと周りの建物などを宙に舞い上がらせながら地面を裂いた。

 

 

「うっわ・・・。」

「すごい・・・。」

「・・・。」

 

 

地獄絵図という言葉がぴったりだろう。基礎部分からえぐられた高層ビルはまるでおもちゃの模型のように宙に舞いながら崩れ去った。地面には多数の地割れが起こり、郊外の住宅街の一部が地割れに飲み込まれていった。飲まれなかった住宅も激しい衝撃と地震で原型をとどめている建物は一つもない。さながら世紀末物のパニック映画のようだ。

 

 

「私見たことあるわよ。ネットの映画配信でみたわ。“2012”ってやつ。あれにそっくりよ。」

「僕も見たけど、そのままだね。高層ビルの倒れ具合とか地面の割れ具合とか。」

「完全に世紀末ね。しかもたった一発でこれでしょう?」

 

 

そう、町を完全に崩壊させ世紀末を起こしたこの兵器は、たった一発しか放っていないのだ。その一発でこの結果ならば・・・。

 

 

『実験は成功ね。よくやったわ。予想通りの結果に上層部も満足してくれるでしょう。』

「・・・。」

『47。あなたは何も考えることはないわ。我々はこれを使って世界征服するわけじゃない。我々の存在を確保するための兵器なのよ。』

「そうか。」

『・・・。とにかく任務は成功よ。帰還して頂戴。』

 

 

私達三人はそれぞれ今後の世界の展望に一抹の不安を覚えながら帰還した。町には既に巨大なクレーターとその周りに放射状に伸びる地割れしか残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~数時間後~

 

 

「ふむ。実験は成功のようだな。」

『はい。想定していた効果範囲と威力を観測することが出来ました。』

「地割れの深さは推定150mから300m。効果範囲は半径120kmか。核兵器並だな。」

『しかし核兵器と決定的に違うのは放射線による汚染がないことです。これは大きなことでしょう。』

「そうだな。連射できる上に迎撃は極めて困難。世界の軍事バランスが完全に崩壊するな。」

『ですので当面は我々の世界に1基。そして幻想郷に1基設置するのみとしています。』

「プロジェクト23265のために必要な最低限というわけか。」

『そうです。彼の地で穏便に事を進めるためにも、この兵器は必要なのです。』

「パチュリー女史は怒ってるんじゃないか?試験は映像で見てたんだろう?」

『険しい表情をしていましたが、“読書環境を壊さない”という契約を守ってくれるかどうかを念入りに確かめる以外は、特にこれと言って反論や批判はありませんでした。』

「あくまで本が最優先か。大図書館と言われるだけはあるようだな。」

『これを持ってカテゴリLOGの開発を完了としたいのですがよろしいですか?』

「うむ。ご苦労だった。」

『では今後の作戦用コードネームを設定してください。それで全ての諸手続きは完了です。』

「わかった。」

 

 

 

 

 

「ICA上級委員会No.1が命ずる。現刻を持って“カテゴリ・LOG”の開発を完了することを宣言する。また現時点よりコードネームを変更する。」

 

「1号機をコードネーム“オーディン”。2号機をコードネーム“ロキ”とする。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「小さな暗殺ネズミ」 +1000 『換気ダクトを通って中央棟へ侵入する。』

・「職員用エレベーター」+3000 『変装後、エレベーターに乗って移動する。』

・「暗殺警報発令中」  +1000 『避難を放送で呼びかける。』

・「魔法は高い所が好き」+2000 『魔法障壁装置を中央棟の屋上で作動させる。』

 




別アプローチではブルーとシルバーの方の様子を書きたいと思います。

次回はシルバー&ブルーsideです。


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HITMAN『実験都市、OKB-457 sideブルー&シルバー』

『実験都市、OKB-457』のブルー・シルバー視点です。


『よう!おつかれ!また面倒なこと頼まれたな!』

 

『今回はロシアにある実験用の都市に行ってもらうぜ。なんでもICAのお偉いさんがこの街を実験に使いたいんだとさ。大統領に許可とか取ってるのかね?』

 

『47と協力してこの街にいる人を逃がすのが任務だってよ。今までとはやることが360度位違うがまあ大丈夫だよな!避難させなきゃならないのは街にいる研究員とか警備の兄ちゃんとかだ。200だか300だか居るらしいから結構大変かもしれねえぞ。』

 

『詳しいことは47から聞いてくんな!俺よりあっちのほうが事情知ってるだろ。なんかよくわかんねえけど新しい機械の実験もやるらしいぜ。実験大好きだな。そんで実験終わったらそのままちゃっちゃと帰ってくるんだ。早く終わったら俺からボーナス点5000点をやろう!』

 

『準備は一任するぜ。がんばれよ!』

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「それで、今回はどういうプランで行く予定なの?」

 

 

私は手始めに今回のプランを聞くことにした。まだブリーフィングでも大まかな目標くらいしか把握していないからね。ちなみに今はヘリコプターで現地に向かってる最中。以前にもシルバーと二人で乗ったけどシルバー、さっきから外を見ないようにしてるけどもしかしてヘリ苦手だったりする?

 

私達は47から軽く今回の任務について説明を受ける。だけども化学兵器研究所って・・・。なんだかとんでもないことに巻き込まれそう。せめて防護服くらいは支給してくれてもいいと思うんだけど。でもそれだと動きづらいから邪魔なだけかしら。

 

その後は47から毒ガスに見える気体を探してそれが小型爆弾で漏れ出るように細工をしてほしいと頼まれた。毒ガスに見える気体って具体的に何なのよ。でもシルバーはなんとなくプランが出来たみたいで納得した様子だった。その後は毒ガスが漏洩したと見せかけて避難させる算段らしい。うまくいくと良いのだけれど。

 

そうこうしているうちに現場に到着した。私達はヘリから降りてそれぞれ行動を開始した。

 

 

「じゃあ、またあとでね。」

「47も気をつけて。」

「ああ。」

 

 

軽く挨拶を交わして47と別れ、私とシルバーは森を突っ切って市街地に向かった。

 

 

「それで、どうするつもり?なにかプランがあるんでしょ?」

「うん。まずはどうにかして研究所に潜入しないと。」

 

 

走っていくうちに市街地の外周部が見えた。外周はフェンスに囲まれているので立ち入りできないようになっているけれど、残念ながら私達は関係ないのよねえ。

 

 

「でてきて!ぷりり!」プリー

「ドンカラス、お前もだ。」ガー

 

 

私はぷりりに乗って、シルバーはドンカラスに乗ってそれぞれ空からフェンスを超えた。この子たちがいる限りただのフェンスはないも同然なのよねえ。

フェンスを超えてそのまま市街地に入る。メイン通りには人がいる可能性もあるし車両が通る可能性もある。私達は阿吽の呼吸で路地裏に入った。この手の考え方はICAに入る前から身についていたからね。

 

 

「っと、姉さんストップ。」

「えっ?」

「アレアレ。」

 

 

シルバーが突然止まり少し先を指し示す。そこにはやたら頑強な作りの監視カメラがあった。あぶないあぶない。危うく映るところだったわ。・・・あれ?

 

 

「シルバー。」

「姉さん、あれは監視カメラ・・・。」

「そうだけどそうじゃないわ。あれならさっき後ろにも・・・。」

「え?」

 

 

後ろには別の監視カメラがあった。まずい。もしかしたら先程通過したときに監視カメラに写ったかもしれない。で、でも何の反応もないから多分大丈夫・・・よね?

 

ジリリリリリリ!!!

「やっぱり駄目だった!」

「走ろう姉さん!」

 

 

私達は他のカメラには映らないように走った。後ろからは近くの駐屯地から出動したと思われる兵士が迫っている。しかし路地裏なのでそこまで大胆には動けない。カメラがあって通れないところも多く、擬似的な袋小路に追い込まれてしまった。

どうする・・・どうすれば・・・そうだわ!

 

 

「でてきて!メタちゃん!」プルル

「姉さん?」

「シルバー、こっちに寄りなさい。」グイッ

「うわっぷ!」

「メタちゃん。壁に擬態して!」

 

 

私とシルバーを覆ったメタちゃんは壁に同化するように体を変化させた。出っ張っている部分はゴミ箱に擬態している。その後すぐに兵隊が走ってきた。

 

 

「クリア!」

「クリア!」

「オールクリア!誰も居ないぞ!」

「おい、警備室。ほんとに居たのか?」

「気の所為かもだと?!・・・っち、全く人騒がせな・・・。真面目にやれ!」

「総員撤退だ。この地区は問題はない。」

「ダー。」

 

 

兵隊たちは来た道を戻っていった。どうやらやり過ごせたようね・・・。

 

モゴ!モゴ!

「ん?あっ!」バッ

「ぷあっ!」

「ごめんシルバー!大丈夫?」

「だ、大丈夫・・・。そう、大丈夫・・・。」

 

 

どうやら私の自慢の代物でシルバーを窒息させる寸前だったようね。本人は大丈夫って言ってるけど気持ち前かがみになってるのはそういうことなんでしょうね。シルバーもまだまだねえ。

 

気を取り直して今度はカメラに映らないように慎重に進むことにする。気がつけば研究施設の直ぐ側まで来ていたらしい。裏口と思われる扉が見える。でも案の定扉の前には監視カメラがあるわね。あの扉は通れないわ。私達は建物の周囲を見る。研究施設自体は普通の雑居ビルという風貌で、地面から出ていた太い配管があの建物に集約されてたりしなければ気が付かなかったかもしれない。高さ自体も4階建てでそこまで高いわけじゃない。周囲に10階を超えるビルが結構多くあるから相対的に平屋のような印象を受けるくらい。

 

 

「さて、どうやって入りましょうか・・・。」

「姉さん。アレ。」

「ん?」

 

 

シルバーが指し示したのはすぐ近くの2階の窓だった。あの窓だけ数センチ程度開いていた。

 

 

「あそこから入れるんじゃない?」

「あら、都合よく開いてるじゃない。罠っぽくもあるけど。」

「元々一般人がほとんど居ない街だから、内部は警備も手薄なんじゃないかな。」

「それはあるかもね。じゃあとりあえず行ってみましょ。」

 

 

私達はそれぞれぷりりとドンカラスに乗って2階の窓から侵入した。罠やセンサーなどもなく、いとも簡単に侵入できて若干拍子抜けしたわね。

 

中はかなり広めで、工場の生産ラインのような印象を受けた。いたるところに配管が通されており、タービンか何かが時折稼働しては騒音を撒き散らしている。私達はかなり数は少ないものの、計器とにらめっこしてる作業員に気が付かれないように慎重に奥へと進んだ。

 

建物のおそらく一番奥、その部分だけ強化ガラスのようなもので覆われている部分を発見した。今まで配管がむき出しだったり、蒸気などが漏れ出ていた状況を考えると、あそこにあるのは漏らしてはいけないもの。つまりは化学兵器が取り扱われる場所でしょうね。

 

 

「さて、それらしきところに来たけれどどうしましょうか・・・。」

「・・・。」

「シルバー?」

「・・・姉さん。あの排気ダクトとあのタンクを繋げたらどうかな。」

 

 

シルバーが指し示したのは強化ガラスより手前に設置されてる大型のタンク、表面にはNO2と書かれている。NO2は確か二酸化窒素だったかしら?確かに二酸化窒素はあからさまに体に悪そうな黄色っぽい色のついた気体だったわね。環境汚染の原因でだけど、人体への影響はちょっと吸い込んだくらいじゃちょっと咳き込む程度で済むはずね。

 

 

「結構距離あるわよ?どうするの?」

「任せて。出てこい!オーダイル!」ガウー

「?」

「オーダイル!“れいとうビーム”だ!」ガー

 

 

オーダイルのれいとうビームは正確にタンクからダクトまで氷の円柱を繋げた。

 

 

「よし、よくやったぞ。出てこいキングドラ!マニューラ!」ガー!ニュラ!

「ああ、なるほど。そういうことね・・・。」

「じゃあお前達、俺の指示にしたがってあの氷を削るんだ。」

 

 

シルバーのポケモンたちは指示に従いつつ正確に氷を削っていく。キングドラはハイドロポンプを高水圧カッターのようにして氷の中心を削っていき、マニューラは遠目からも分かりづらいように周りを整形していく。もっとも氷なので近寄ればバレてしまうけど、周囲に人が見えないばかりか、これだけ大きな音を立てても警備の一人も来ないところを見ると、そこまで心配することもないでしょうね。

 

そのうちシルバーは手に持っていた小型爆弾をタンクの外側にあったバルブに取り付け、そこをまたオーダイルに凍らせた。氷でできた即席の配管の完成ね。

 

 

「やるわね。というかオーダイルはれいとうビームなんて覚えてたんだ?」

「この前覚えさせた。ポケモンのわざマシンに関する情報を情報部と精査してるときに提案されたんだ。」

「それでこんな伝統工芸みたいな真似事ができるようになったわけね・・・。ん?」

 

 

私は近くのテーブルに置かれている3つの書類を見つけた。この街の概略図と実験内容に関する資料、そしてこの施設“OKB-457-2”の施設図。この施設の施設図はもう必要はないけれど、後の2つの資料は役に立つわね。

 

 

「シルバー、良いものを見つけたわよ!」

「姉さん。こっちはあまり良いものじゃないのを見つけてしまったよ。」

「え?」

「アレ、強化ガラスの中のタンク。硫化ジクロロジエチルって書いてある。」

「げっ!それって確か化学兵器よね?!」

「そう。近づかないほうが懸命だろうね。」

 

 

私達は爆弾を設置し終えたことと、ココが本物の化学兵器研究施設なことを通信で47に伝えた後、施設を後にした。次に向かうはOKB-457-1ね。

 

 

 

 

 

 

~シルバーside~

 

 

 

OKB-457-1は先程の研究施設からはそれほど離れてはいなかった。というかこの街自体が高層ビルが密集してるだけでそれほど広くもない。俺たちは町中のカメラに警戒しつつ、次の研究施設にたどり着いた。

 

こちらの施設は、横はかなりの広さだが縦方向は更に低く、ほとんど平屋だ。施設に入ると先程の施設との違いが更によくわかる。こちらの施設は中央に強化ガラスが張られた部屋があった。配管もあまりなく、研究が主のようだ。

 

 

「ちゃっちゃと爆弾仕掛けるわよ。ここにも二酸化窒素のタンクはあるのかしら?」

「姉さん。あったとしてもあの中央の部屋の周りだと思う。でも外壁の排気ダクトまでかなり距離があるからさっきの方法は通用しない。どうしようか?」

「じゃあやることは一つよ。」

 

 

そう言って姉さんは不敵な笑みを湛えた。侵入した扉から研究設備の合間を縫って部屋に近づく。目的の二酸化窒素タンクは入ってきた扉から丁度反対側にあった。しかしそのタンクの周りには作業員が何名か居た。しかし皆一様に作業服なのでおそらく研究員では無いのだろう。

 

 

「ピッくん!お願い!“ちいさくなる”よ!」ピッピ!

「?」

「さあ、ピッくん。これをあのタンクの真上に貼っつけてきて頂戴。」ピッ!

「・・・!ああなるほど・・・。」

 

 

タンクの真上は1~2mの隙間の後にガラス張りの天窓があった。側面にガス表記があることからもタンクの中はかなりの高圧ガスで満たされているはずで、それが吹き出せば窓ガラス程度なら壊せるということだ。タンクには大きくNO2と書かれているが、作業員たちはNO2が何なのかしらない可能性も十分にある。危険な化学薬品が入っているとは聞かされているはずなので、二酸化窒素でも大騒ぎになるはずだ。そうこうしているうちにちいさくなったピクシーが戻ってきた。

 

 

「ありがとピッくん!」バシュー

「とりあえず任務は達成だね。」

「ええ。でもココは何の研究をしているのかしら?」

「化学兵器でしょ?」

「色々あるじゃない種類が。施設の構造的に多分このタンクだと思うんだけど・・・表記がずいぶん長文ね・・・。」

「・・・とにかく俺は47に報告するよ。」

 

 

一通りの報告を終えた後、俺たちは最後の施設、OKB-457-3へ向かった。

 

 

 

 

 

 

~ブルーside~

 

 

 

「よし!ありがとう!ニドちゃん!」バシュー

「オーダイル。よくやった。戻れ!」バシュー

「最後はちょっと力技だったわね。」

 

 

最後の研究施設は人こそ全く居なかったものの、警備用のロボットと思わしき銃座付きの自走タレットがウヨウヨしてた。ロボットなら遠慮する必要はないので不意を打って回路を壊したり、ものを落として潰したりした。施設が警戒モードになったわけではないから大丈夫よね。

 

結局そのまま最後の施設にあった二酸化窒素タンクも力技で対処してしまった。具体的には配管を私のニドちゃんとシルバーのオーダイルで捻じ曲げて排気ダクトに繋げちゃったわ。最後はれいとうビームで溶接ならぬ凍結させてつないだ。人が居ないから整形はしなくてもいいわよね。

 

 

「じゃあ脱出しよう。姉さん。」

「はいはい。っと、この施設はアレかしら?」

「姉さん?」

「いや、一応何をしてるのか見ておきたいなって。」

「はあ・・・。」

「オルガニーケフォル・・・何なのかしらこれ?」

「Органические формы жизни оружие。有機生物兵器って意味だけどなんだろう?」

「有機って今あるのは有機的じゃないってことかしら?」

「さあ・・・。とにかく脱出しよう。またいつタレットが来るかわからない。」

「そうね。47に連絡はしたの?」

「さっきタレットを倒すときにチャフを撒いたせいで通信がつながらないんだ。外に出れば回復すると思う。」

「そう。じゃあさっさと行きましょうか。」

 

 

私達は道中タレットを避けつつ、施設の外に出た。施設は依然として静寂を保っており、侵入したことも何かを仕掛けたこともバレては居ないみたいね。一応、壊したタレットは見つかりづらいところに隠してはいたけれど。

 

私達は合流予定の超高層ビルに向かって走りながら47と連絡をとった。彼は既に放送センターを奪取しており、そのまま作戦が開始されることになった。

 

 

ボーン

 

後ろから爆発音が聞こえた。走りながら後ろを見ると先程の研究施設から黄土色の煙が出ていた。あからさまに体に悪そうな色をしてるけどただの二酸化窒素なのよね。

 

 

ビービービー

 

「こちら放送センター、緊急事態発生。緊急事態発生。OKB-457-1、2、3にて化学災害発生の可能性あり。職員は直ちに所定の手順に従い当地域から避難されたし。」

 

 

47が放送を使って避難を呼びかけている。それと同時に今まで静かだった町がにわかに騒がしくなる。ほとんど車が通っていなかった大通りにバスが何台も行き交い始めた。私達は町中央の超高層ビルまでたどりついた。先程私達を追い越していったバスが何台かビルの前に止まっていた。

 

 

「急げ!早くバスにのるんだ!もうすぐ飛行機が出るぞ!」

 

 

警備員と思われる男がビルの中から逃げ出てくる研究員や作業員たちをバスに乗せている。私達は隙きを見て正面玄関から中に入り込んだ。

エレベーターがまだ1基下に降りてきているようだった。隣の客を降ろしたばかりのエレベーターに乗り、私達は最上階を目指した。

 

 

「ふう、ココまで来れば一安心ね。」

「おそらくビルの中の人は全員脱出してバス乗って飛行場へ向かったと思う。計画通りと言えるね。」

「でもICAはこんな大きな街で何をしようっていうのかしら?まさか別荘にするわけじゃないでしょうし。」

「カテゴリLOGに関する最終試験だと聞いたけれど、そのカテゴリLOGがよくわからないんだよね。」

「そうだわ。あいつに聞いてみましょ。」

 

ピピピ

 

『ふぁ~・・・んあ?おおう!?どうしたなんでえ何があった!また上田か?!』

「何分けのわからないこと言ってるのよ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」

『あー?聞きたいこと?いいぜ。なんでも知ってるこのウィートリー様が答えてやろう!』

「カテゴリLOGのことなんだけど。どういうものかわからない?」

『あーアレな。言っていいのか・・・?まあこれから最終試験だって言うしお前らなら大丈夫か・・・。』

「教えて!教えて!」

『アレは対地攻撃衛星ってやつだな。アメリカのどっかの研究機関が研究してたやつをパクっ・・・あー、参考にして更に独自の改良を加えたもの・・・だそうだ。』

「ウィートリー、今度は何を読んでるんだ?」

『うちのデータベースにあった書類だよ。機密とか書いてあった気がするがまあ問題はないだろ。』

「それで?対地攻撃衛星なんて作ったんだ?」

『ああ。神の杖って知ってるか?金属の塊を宇宙から地上に猛スピードで落下させて攻撃に使うアレだ。ICAはそれをだいぶ改良したみたいだな・・・。おっほ!重量15トンの劣化ウラン主体の特殊合金をマッハ45で落下させるんだと!こいつぁすげえな!』

「マッハ45?神の杖の計画案ではマッハ6から10だと聞いたけど。」

『先端を異世界からの技術移転させた金属で作ることで摩擦熱に耐えられるようになった・・・だとさ。』

「ふーん・・・で、どのくらいの威力があるの?」

『それはだな・・・』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ウィートリー。あなたは内部情報規約に違反して情報を閲覧しているわ。直ちに停止させなければ“終了”するわよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

『うっぇえ?!あのおっかないかーちゃんからのお叱りを受けちまったい!ワリイが開示できるのはココまでだ。済まねえな!』

「えぇ?!そんないちばん重要な所!」

「姉さん。これ以上詮索すると僕たちも処分を受けそうな気がするよ。」

「うーん・・・もうちょっとだったのになあ・・・まあいいわ。」

 

 

エレベーターはやっと最上階の展望フロアに着いた。直ぐ側の階段を登り、屋上のヘリポートに出る。まだ47は来ていないようだ。すると町外れの方から飛行機が飛び立つのが見えた。そのまたかなり先の方にもう一気飛行機が見えるから、これで非難はすべて完了したってことね。

それから少ししてから私達が通ってきた階段から47が現れた。

 

 

「おそいわよ。47。」

「作戦は成功だ。町には人っ子一人居ないよ。」

「お前達の働きのおかげだな。さて・・・。」

 

 

47は懐から小さな機械を取り出した。それをヘリポートの端に設置した。あれは爆弾かそれとも照準用のビーコンかしら?

それからしばらくして迎えのヘリがやってきた。飛び立った後は街を舞台に壮大なまさに“実験”と“破壊”が行われた。アレがカテゴリLOG・・・。

あそこまで強力な兵器があれば世界を牛耳れそうなもんだけど、それはするつもりはないのね。毎度のことながらICAの考えてることはよくわからないことが多いわね。

 

 

私達はこれからの私達と世界について少しばかり不安を覚えながら帰還した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~同時刻~

 

 

「これは・・・。」

「凄まじいネ。」

「・・・。」

『いかがかしら。あなた達ならわかると思うけど、あの兵器にもあなた達との研究で得た成果を盛り込んでいるのよ。』

「だから魔法障壁が貫徹された。」

「・・・。」

「ちょ、ちょっとこんなもの作って、まさか私達の家族に向けたりしないわよね?」

『安心してください。今の所ハルケギニアには作る予定はないですわ。』

「そ、そう。なら一安心だけれど・・・。」

「・・・。」

『パチュリー女史?なにか言いたげですわね?ご質問があれば何なりと。』

「ハルケギニア“には”って言ったわね。ということは配備する世界は決まっているのね。」

『ええ。もちろん。私達の世界に配備予定ですわ。』

「弾頭の外装にはハルケギニアの虚無魔法の一部が使われてる。あの弾頭にはいかなる魔法障壁も通用しないでしょうね。」

「威力は大地を割るほど。防ぐ手立ては実質的に皆無。自衛隊にも防ぐことは出来ない。」

『レレイ女史の言う通り、魔法的にも物理的にも防ぐ手立てはなくなったことが今の実験で証明されましたわ。』

「問題はそんなものを作って何に使うつもりなのかってことよ。」

『現段階では機密事項のため申し上げられませんわ。ただ一つ言えるのは“我々の生存権を確立するため”だということ。』

「・・・。」

『余計な詮索はしないほうがいいですわ・・・。』

ガチャ

『でなければ彼女が対処せざる負えなくなりますので。』

「あなたは・・・ガリアの・・・!」

『おっと、彼女は既にガリアという国とは何の関係もございません。私共のエージェントですわ。』

「・・・。」

『ともかく。本日はお疲れでしょう。今後のことは明日にでもゆっくりと話し合いましょう。では。』

 

バタン

 

 

 

「・・・。」

 

「弾頭に使われた触媒は私は2セット作った。この世界と、あと一つは・・・まさか・・・。」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「さいきょーの彫刻家」 +3000 『氷を使って排気ダクトとタンクを繋げる。』

・「守らないガードマン」 +3000 『自走式防衛タレットを10基破壊する。』

・「死神を作りし者たち」 +1000 『研究施設で研究されてるものをすべて発見する』

・「寝ぼけ眼」      +3000 『監視カメラに映る。しかし発見されてはいけない。』

 

 




すっごく遅れた理由は主に艦これのイベントのせいですw


2019/06/17追記
個人的に化学兵器とか化学物質とかには興味があります。関わりたいとは思いませんけど。



次回はタバサちゃん、死神とご対面です。


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HITMAN『名探偵を狙う者』

『緊急電よ。47。』

 

『今回は東京に行ってもらうわ。そこで今現在逃走中の人物を援護してほしいの。』

 

『江戸川コナンっていう少年、あなたなら知ってるわよね?本名は工藤新一っていうんだけれど、彼はある組織の試薬品を飲まされて体が小さくなってしまったんですって。その組織の情報を彼が探っている最中に誤ってその組織に感づかれたみたいね。今現在3人に別々のアプローチで追われているわ。』

 

『ターゲットは追っている組織の人間3人。一人はスケボーで逃げる彼をバイクで追っている組織の下っ端、木村源五郎。もうひとりは公共交通機関を使って先回りしつつ知略で攻め立てようとしている萩義昌。最後は上空から彼を攻めると同時に他の二人に位置情報を提供しているフォラリス・R・ゲイル。この3名よ。』

 

『クライアントは彼の協力者の一人。宮野志保。今は灰原哀という名前だけど、彼女も彼と同じ薬を飲んで同じ境遇になったらしいわ。詳しい説明は省くわね。』

 

『事態は一刻を争うわ。既に逃走開始から2時間が経過しようとしている。クライアントからの情報だと彼の使っているスケボーはあと1時間ほどしか全力で走れないみたい。できる限り事故に見せかけてほしいらしいけど、救出が最優先だからいざとなったら直接でも構わない。増員も派遣予定よ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

ゴー

ガヤガヤガヤ

 

私は今、東京は新宿駅にいる。情報部の情報によると、ターゲットのうちの一人、萩義昌がここを通過する可能性が高いことがわかった。早急にターゲットを始末しなければならないため、誘導の後の暗殺は使えないだろう。だがそれでもやりようはいくらでもあるし、むしろ大都会はその手のものにあふれている。

 

大江戸線ホームにやってきた。流石に夕方ラッシュ時間帯ともあって、非常に人が多い。ブリーフィングでみた顔を、この人混みから探さねばならない。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47、情報よ。ターゲットは午後6時14分発の都庁前行きの電車の先頭車両に乗っているのが監視カメラの情報で判明したわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

6時14分というと、あと2分ほどでこの駅に到着する電車だ。私は先頭車両の停車位置に移動する。時間に正確な日本の鉄道だからこそ、追跡に公共交通機関が活用できるのだろう。

 

 

ゴー

 

電車がやってきた。車内は相当に混んでいるが、すし詰めと言うほどではない。私は先頭車両の一番後方の扉に並び、通過する時に車内を確認した。ターゲットと思わしき人物は車両中程に居た。私は電車に乗り、人混みの間をすり抜けてターゲットのすぐ近くに移動した。ターゲットは吊革につかまりながらタブレットを見ていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが萩義昌。組織の情報参謀役。コードネームはランビック。あなたと同じく、その場にあるものを利用して犯罪行為を行う知将。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は彼の後ろに陣取り、通勤客を装う。ココ最近特異な雰囲気だった自前のスーツもここならば普通の会社員にしか見えないだろう。そのまま電車に揺られ、大門までやってきたところでターゲットが降りた。私もさり気なく降り、後をつける。乗車時間は17分ほどだ。

 

ターゲットは、そのまま浅草線のホームへ向かった。こちらも相当に混んでいるが、タッチの差で電車が出たばかりのため、ターゲットはホーム後方の乗車列の先頭にたった。私はそのすぐ後ろに立ち、カモフラージュも兼ねてスマートフォンで現状を確認する。現在少年は、永田町から銀座方面へ走行中のようだ。

 

パァァン!ゴー

電車がやってきた。気がつくと周りには客が多く並んでホームが混雑していた。電車が近づく。私は後ろに並んでいる人がみな一様に新聞やスマートフォンを見ていてこちらを見ていないのを確認すると、ターゲットの背中を強めに押した。

 

 

「えっ?」

パァァァン!!ゴシャ キィィィィ!

ダレカヒカレタゾ-!キャー!

 

 

ターゲットは完全に油断していたのかいともたやすく線路上に投げ出され、ホームの後ろの方で待っていたのもあって電車の速度がそれほど落ちておらず、相当な速度で轢かれた。大江戸線ではホームドアがあり決行出来なかったが、浅草線はまだホームドアの設置がされておらず、こういう事故もよくあることだろう。まずは一人目だ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認したわ。まずは一人目ね。コナン少年は今現在数寄屋橋交差点を曲がり築地方面へ向かったわ。ターゲットは残り二人よ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

人が轢かれたことによって緊急停止した電車の周りで人だかりができ、ホーム上は大混乱となっている。私はその混乱に紛れてホームを後にする。再び大江戸線に戻り、丁度来た電車に乗って再び電車に揺られた。

 

私は2つ先の駅、築地市場駅で降りた。築地市場自体は既に使われておらず、周辺施設に向かう人しか使っていないようだ。乗り降りする人も他の駅に比べて少なかった。私は地上にでて、新富町方面へ歩き始める。時折スマートフォンでターゲットの現在位置を確認しながら。

 

 

 

 

 

 

~コナンside~

 

 

バァン!バァン!

キンッ!

 

っと!あぶねえ!スケボーにかすったぞ!あいつ繁華街のど真ん中だって言うのに容赦なくぶっ放してきやがる!

このまま逃げ続けても埒が明かねえが策がねえ・・・。路地裏に逃げ込んで撒いてもすぐ追いついてきやがる。ボール射出ベルトは球切れ、止まってタイマン張っても銃を乱射されたら周りにまで被害が出る・・・っと!やべえ!さっきの弾でスケボーまで調子が悪くなってきやがった!

どうする!どうすれば!

 

 

 

キキーッ!

「うわっ!」

 

急に車が猛スピードで俺の横についてきた。新手か?!だが窓を開けて見えたのは見知った顔だった。

 

「やあ。コナンくん。間に合ったようだね。」

「キャメル捜査官!」

「さあ乗るんだ。そのスケボーももう持たないのだろう?」ガチャ

「よっと!ありがとう!」

「礼ならその横にいる彼女に言ってくれ。彼女がキミの現在位置を正確に把握していてくれたんだ。」

 

 

横には見知らぬ少女が座っていた。青い髪のメガネを掛けた物静かな少女だ。

 

 

「えーっと・・・ありがとう?っていうかどちら様?」

「灰原哀に頼まれてきた。」

「灰原に!?」

「そう。そして貴方を守るようにとも言われた。」

「えっ?」

 

 

そういうと彼女は車の天窓を開けてそこから身を乗り出した。手には何やら木の棒を持っている。何をする気なんだ?すると車が急にスピードを上げた。

 

 

「くっ!奴ら容赦ないな!撃ってきたぞ!」

「任せて。」

 

 

見ると上空からミサイルが飛んできている。望遠メガネで見ると漆黒に染まった空に戦闘ヘリが見えた。そうか!空にも敵がいたから位置が把握されっぱなしだったのか!

彼女は天窓から体半分出した状態で持っていた棒を振った。すると空中に氷が現れた。どういうマジックだよ!

 

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース・・・」

“ジャベリン”

 

 

空中に浮かんだ氷塊はかなりの速さで飛んでいき、飛んできているミサイルに正確に当たった。ミサイルは空中で爆発し、爆炎があたりに広がる。何だこれ?マジックショーか?

 

 

「後ろのバイクも撃ってきそうだぞ!」

「わかってる。」

 

“アイス・ウォール”

ガキキキキン

 

車の後方に張られた氷の壁はバイクの男が撃った銃弾を見事に防ぎきった。なんなんだこの女?!

 

 

「埒が明かないな!そっちの増援はどうなってる?!」

「もうすぐ。」

「増援?増援って何?」

「コナンくんを守るための助っ人集団さ。」

「私達は仕事で頼まれただけ。それ以上でも以下でもない。」

「ハハハ・・・。」

「なんなんだよ・・・。」

 

 

車は新富町入船橋交差点を通過する。その時、道路脇から何かが投げ込まれた。

 

 

ドガッ!キキー!ガシャーン!

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

スマートフォン上で表示されている少年の動きが早くなった。この動きはおそらく車だ。増援が間に合ったようだな。私は足早に予定地点へ向かった。築地を抜け、新富町へ入る。時間も時間なので周囲のビルから帰宅する会社員で道は混雑していた。私は地面にアタッシュケースをおいてスマートフォンをいじりながら信号待ちをしている会社員を発見した。静かに近寄るとさりげなくアタッシュケースを借りた。

 

借りたアタッシュケースを持ってそのまま待つ。少しして後方から車が猛スピードでやってきた。時折対向車線にはみ出しながら猛スピードでやってきた車は私の目の前で右折した。私はその車の後ろを追随しているバイクにめがけてアタッシュケースを放り投げた。

 

 

ドガッ!キキーッ!ガシャーン!

 

アタッシュケースは見事にバイクに当たり、元々凄まじく速度が出ていたため盛大にコケた。十数mは吹っ飛び、信号機に激しく体を打ちつけていた。あまりの激しさにバイク本体が当たっていないにもかかわらず若干信号機が傾いた。あの激しさならばおそらく生きては居ないだろう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲット、木村源五郎の死亡を確認したわ。上出来ね。さて、残るは上空を飛んでいる戦闘ヘリのフォラリス・R・ゲイルだけよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は騒然となっている現場を離れ、一路東へ向かった。道を強行突破している車に道は混乱しているが、先程の交差点以外に何処かぶつけたりしているわけではないので、暴走族の一種だと思われているようだ。迷惑そうな顔をすれども騒ぎになったりはしていなかった。

私は足早に人混みをかき分けて進み、ここからでもときおり見える高い塔、「聖路加ガーデン」を目指した。高空に居る戦闘ヘリを攻撃できるとしたらここだろう。助っ人もそこに呼んでいる。

 

 

聖路加ガーデンに着いた。少年たちの現在位置は川を渡って豊洲方面へ行っているようだ。私はタワーのエレベーターに乗り、最上階の展望台へ向かった。展望台はカップルなどで賑わっていた。その中を進み、展望台の更に上の屋上に出る作業用扉に来た。普段は鍵がかかっているのだろうが、今回は協力者のおかげで鍵は開いている。私は周囲に気付かれないように慎重にドアを開け、屋上へ登った。

 

 

「遅かったじゃないか。」

 

 

屋上には助っ人として呼んだ男、赤井秀一がいた。彼はFBIだがよく協力する気になったなと思う。だが少なくともこの場は協力者であり、仲間となる。

 

その直後、タワーのすぐ脇を戦闘ヘリが通過していった。コックピットは単座型で、両脇のハードポイントには何も付いていないが機首には機銃が付いている。通り過ぎざまに金髪の男がコックピットにいるのが見えた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがフォラリス・R・ゲイル。コードネームはアルマニャック。無類の兵器好きの危険な男。さあ、最後の一人よ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「銃は用意しておいた。高価だから丁重に扱ってくれよ?」

「銃の値段は関係ないだろう。任務をこなすだけだ。」

「はぁ・・・相変わらずだな47。」

 

 

彼とは昔、アメリカで銃撃戦を行ったことがある。結局時間切れで引き分けに終わっているが、戦略的に見れば1時間以上時間を食わされたこちらの負けとも言えるだろう。

 

彼は2本のスナイパーライフルのうちの一本を渡してきた。“PSG-1”だ。精度の良いいい銃であり、ヘリを落とすのに不足している火力を精度で補えるだろう。

 

戦闘ヘリが戻ってきた。先程より高度を下げ、地上に向かって時折機銃掃射を行っているようだ。市街地のど真ん中で戦争とはなんとも大胆だ。

 

 

「47。お前は右エンジンだ。俺は左をやる。」

「わかった。」

 

 

真っすぐ飛んでくるヘリのローターの根元についている2つのエンジンめがけて照準する。

 

 

「3・・・2・・・1・・・今!」

バァンバァン!

ガキキ!ボンッ!

 

2人のスナイパーから放たれた2発の弾丸は正確に左右のエンジンを打ち抜き。給気口部分から火花が飛び散り煙を吹かせた。目に見えてヘリがふらつき始めた。

 

 

「むう・・・流石に一発では落ちないか。ならば。」

 

 

赤井は再びスコープを覗いた。ふらつき、一瞬だけテールローターが見える。その時を逃さず赤井は弾丸を放った。

 

バァン!ガキィン!

 

弾丸は吸い込まれるようにテールローターの軸に当たり、破損した軸は高速回転するテールローターに耐えきれずバラバラに砕けた。テールローターを失ったヘリはまたたく間に回転しながら落下していく。だが・・・、

 

 

「足りないな。」

「何?」

 

 

私はスコープを覗く。回転する速度、落下する速度、ふらつき方、そしてコックピットの位置。それらを総合すると・・・。ここだ。

 

 

バァン!

バリン!

「ほう。やるな。」

 

 

私が放った弾丸は正確にコックピットに座る操縦者を横から撃ち抜いた。一回転した後に確認するとコックピット内は飛び散った血でいっぱいになっていた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『最後のターゲット、フォラリス・R・ゲイルの死亡を確認したわ。墜落する前に仕留めるとは流石ね。任務はすべて完了よ。帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ドシャーン!

ヘリはそのまま川へ落下した。川の近くの橋では少年が乗っていたと思わしき車が警察車両に取り囲まれていた。

 

 

「不規則な動きをしている墜落中のヘリの操縦者を的確に狙撃か。さすが“エージェント47”だな。」

「一瞬しか見えないテールローターの軸を正確に撃ち抜く“シルバーブレット”も大概だと思うがな。」

「ふふん。とにかく任務は達成だ。」

「ああ。私は失礼させてもらおう。」

「次にあった時は・・・決着を付けてやる。」

「望むところだ。」

 

 

私は銃を返すと、踵を返して展望フロアに戻った。展望フロアは落下したヘリに釘付けになっており、全員が外を見ていた。私は静かにエレベータに乗り一階に降りた。

 

1階は1階で騒然としていた。戦闘ヘリが市街地で機銃を撃ったと思ったら墜落したのだから当然といえば当然だが。私は外に出ると手近なタクシーを拾い、その地域を脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~同時刻~

 

 

「ふう・・・何とかなったわね・・・。」

「ありがとうね!哀ちゃんが協力してくれなかったらどうなってたことか・・・。」

「大したことはしてないです。組織に居た頃の伝手を使っただけで。」

「ふむ。それは大丈夫なのかい?組織に情報が漏れる可能性は?」

「大丈夫だと思います。ICAはクライアントの情報は守秘義務がありますから。クライアントの情報を閲覧できるのは現場の担当オペレーター以外は上級委員会役員だけですから。」

「ふうん。でも良かったわー。新ちゃんが組織に追われてるって聞いた時は心臓が止まりそうだったもの。」

「まったくだ。ああ、依頼料はちゃんと振り込んであるから心配しなくていいよ。」

「ありがとうございます。」

「それで~?哀ちゃんは新ちゃんのことどう思ってるのかしら?」

「え?」

「ふむ。それは私も聞いてみたいと思っていたところだよ。で、どうなのかな?哀君。」

「べ、別になにもないですよ。ただの協力者ってだけで。」

「ほんとに~?」

「ほ、本当です!というか誂わないでください!」

「あはは!ごめんごめん!」

「ははは。まあとにかく、これからも新一のピンチの時は手助けしてやってくれ。私達もできる限り協力するから。」

「お願いね!新ちゃんの真実を知る人は阿笠博士と私達以外で身近なのは貴方くらいだから。」

「わかっています。できる限り、サポートします。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「白いデッドライン」+3000 『ターゲットを電車に轢かせて殺害する。』

・「空飛ぶケース」  +2000 『アタッシュケースを使ってターゲットを殺害する。』

・「3発目の銀弾」  +3000 『赤井秀一と共同で戦闘ヘリを撃墜する。』

・「一撃必中」    +5000 『墜落中のヘリに乗るターゲットを狙撃する。』

 

 




私は哀歩派です。


次回は別アプローチです。


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HITMAN『名探偵を狙う者』(もう一つの世界線)

『名探偵を狙う者』の別アプローチ版です。


『東京へようこそ。47。』

 

『今回は急ぎの用件。ある組織に飲まされた毒薬の効果で体が小さくなった高校生探偵、工藤新一の逃走援護のための暗殺よ。』

 

『ターゲットは3人。バイクで追う木村源五郎、電車で追う萩義昌、戦闘ヘリで追うフォラリス・R・ゲイル。この3名よ。殺す順番は任せるわ。』

 

『クライアントは灰原哀こと宮野志保。彼の協力者よ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

私は今、都心の真ん中に立つ、聖路加ガーデンタワーの最上階の展望フロアの更に上、屋上に来ている。普段は入れない場所ではあるが、人の目を盗んでドアをピッキングで開けて侵入した。

 

今回のターゲットは救護対象の例の少年を追いかけ回していることもあり、少年がこちらのレンジに入ってくれればターゲットも自動的にレンジに入ってくれるため高所からの狙撃に重点を置いて仕事をすることにした。そのためには援護対象となる少年をこちらに誘導する必要がある。そのためにタバサを彼のもとに派遣した。

 

使用する銃はマクミラン社製TAC-50だ。長距離狙撃の世界記録を持つこの銃ならば広い東京を縦横無尽に駆け回る彼らにも対応できるだろう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。情報が入ったわ。少年の乗るスケボーの速度は最高で80km/h。よってそれを追う側もそのくらいの速度で動いていることになるわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

子供用のスケボーがなぜ乗用車並の速度を出せるのかは疑問ではあるが、それを乗りこなしている少年もなかなかに常軌を逸している。元の姿でさえただの高校生、プロスケボー選手というわけでもないだろうに。

 

私はスマートフォンで少年の位置を把握する。現在位置は田町から浜松町方面へ向けて動いているようだ。私は屋上の南側に位置を移動した。流石に逃走中の少年の姿は見えないが、その追手なら一人発見することが出来た。かなり高空を1機のヘリが飛んでいる。おそらくアレが、戦闘ヘリで追っているというフォラリス・R・ゲイルという男だろう。

 

流石にまだ距離がありすぎる。私はヘリの動向を双眼鏡で確認する。双眼鏡でもまだ機影を捉える程度にしか見えないが、どちらに向かおうとしてるか程度はわかる。どうやらそのまま北上するつもりのようだ。ということは・・・おそらくあの辺り、ちょうど浜松町の駅の少し南側のビルとビルの間。あの辺りに現れるだろうか。

 

私はスマートフォンの情報とヘリの位置を見比べおおよその検討をつける。まずは相当な速度で逃げまわざるをえない状況を打開してやろう。私はビルとビルの間にわずかに見える道路に向けて照準した。距離を測定、2.1km。風はほぼ無風だがビルの付近はビル風がある可能性がある。自転なども考慮して・・・あとはタイミングだ。

 

そのまま少し待つ。スマートフォンの情報では間もなく照準している場所の手前の交差点を左折してくるはずだ。直進は港湾部に入ってしまうため逃げづらくなるだけだ。

・・・見えた!交差点を曲がるスケボー、そしてそれを追うバイク。私はバイクの方に当たるように偏差射撃を敢行した。

 

バァアン!

 

 

 

 

 

 

 

~コナンside~

 

 

ドゴシャ!

ガシャーン!

「何?!」

 

 

俺を追っていたバイクがいきなり吹っ飛んだ。追っていたのはバイク一人だったので一旦止まる。バイクは盛大にコケて近くの塀にぶち当たって大破したようだ。乗っていたやつはどこに・・・アレか!

ピクリとも動かないので注意深く近寄ってみるとヘルメットのバイザー部分は真っ赤に染まり、頭部に大きな穴が開いていた。狙撃されたんだ!でも誰が?何故?

 

疑問はおいておいて警察へ連絡しようとスマホを取り出し・・・っと!やべ、手が滑って落としちまった・・・。

 

 

バリィン!

「ぐあっ!」

 

 

スマホを拾おうと伸ばした手に衝撃が走った。見ると手の一部が切れて血が流れ出ていた。落ちていたスマホはさらにふっとばされて道に転がっていた。落としたところを狙撃されたようだ。ど真ん中から真っ二つに割れてもう使い物にならない。とりあえずまた狙撃されたらやべえから隠れる一手だ。

 

スケボーに再び乗ろうとしたその時、来た方向とは逆方向から車が一台やってきた。俺の直ぐ側で止まると、中から見知った顔が出てきた。

 

 

「HI!クールキッド!」

「じょ、ジョディ先生!?」

「説明は後よ。とにかく乗って・・・って怪我してるの?」

「あ、ああ、こんなのたいしたことないよ。」

「そうは見えないわよ。とにかく後ろに乗って。治療してもらえると思うわ。」

「治療してもらえる?」

 

「・・・。」

「えっと・・・どちら様?」

「彼女は敵ではないわ。味方でもないかもしれないけど。」

「どういうこと?」

「詳しくは灰原って子に聞いて。彼女が私を含めて全て手配したんだから。」

「怪我。してる。」

「え、ああ、さっきスマホが狙撃されたときの破片で・・・。」

「みせて。」

「え・・・あ・・・。」

「・・・イル・ウォータル・デル」

ポゥ…

「・・・!傷が・・・!」

「・・・これでいい。」

「すごい!傷が殆どなくなってる!」

「不思議でしょう?私もさっき別のを見せてもらったんだけど、魔法?ってやつらしいわよ。」

「魔法?そんな非現実的なことが・・・。」

「わからなくていい。この世界には、合わない。」

「合わない?この世界?」

「っと、クールキッド。おしゃべりしてる場合じゃなくなったみたいよ。」

「っ!」

 

 

走る車の背後に闇夜に紛れる機影が見えた。戦闘ヘリだ!まずい!こっちにはあったとしてもせいぜいジョディ先生の拳銃くらい。拳銃じゃヘリは落とせない!振り切るのも不可能だ!

 

 

「私がやる。」

「え!?ちょ!」

 

 

隣の青髪の少女はそう言うと天窓を開けて身を乗り出した。少しの間観察していたと思ったらおもむろに手に持っていた棒をヘリに向けると何やらつぶやき始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

~タバサside~

 

 

相手は戦闘ヘリ。装甲が厚く、拳銃弾程度では損傷を与えられない。ならばおそらくこの場にいる誰よりも高火力である私が対処しなければならない。私は車の天窓から身を乗り出して相手を見る。

 

車が左に曲がる。ヘリもそれに追随するように曲がる。射線が通ると同時に車が再び曲がる。それの繰り返し。だけど、曲がるときに一瞬だけ見える・・・。

 

 

 

 

“逃走は失敗だな。次はもう少しうまく逃げれるようにな。”

“47・・・恩に着る。”

“ヘリにはいくつか弱点が有る。そこを正確に攻撃できればそれほど驚異ではない。”

 

 

 

 

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース・・・」

 

そう、ヘリには弱点がある。私は既にそれを学んでいる。

 

 

“ジャベリン”

 

バシュゥ…

ドガァン!

 

 

放たれた氷の槍は気持ち程度の誘導の後、旋回し曲がった直後のヘリのテールローターを直撃した。ヘリはまたたく間に制御を失い、回転しつつそばのビルにメインローターをぶつけ、飛び散らせながら交差点の真ん中に墜落した。派手に壊れたがそもそも旋回直後で速度が落ちており、高度も低かったため爆発炎上というわけには行かなかった。むしろ走り去るこの車からでも視認できるが燃料漏れすら起こしておらず、ただローターが破損し落下しただけという感じだ。

 

私達の車はその場を離れるためにそのまま車を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

ほう、今回は逃走成功だな。成長しているということか。

 

築地四丁目交差点に落下したヘリは丁度赤信号から青信号に変わるかというタイミングで、交差点内に車が一台も居なかったため巻き込まれた車は居ないようだ。だが落下したヘリは搭乗員を殺傷するだけの損傷は与えられなかったようだ。墜落したヘリのキャノピーが開き、中から金髪の大男が満身創痍で降りてきた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『フォラリス・R・ゲイル。やっと姿が拝めたわね。翼をもがれた彼がなにかアクションを起こす前にケリをつけちゃいましょう。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は再びスコープを覗く。彼は懐から出したスマートフォンで誰かと話し始めた。距離800m弱。先程に比べればそれほど長距離ではない上、視界が先程より開けており、なおかつターゲットも止まっているため先程より大分狙いやすかった。電話の相手に余計なことを喋られる前に私は引き金を引いた。

 

 

バァアン!

 

 

弾は吸い込まれるように交差点の真ん中で立ち尽くしていたターゲットの頭を撃ち抜き霧散させた。あまりの威力に肩から上が無くなってしまった。最も私にはハーグ陸戦条約は関係ないため問題はないが。

 

交差点はかなり騒然としているようだ。周りで見ていた野次馬立ちが騒いでいるのが見える。これは火消しが大変そうだがそれは我々よりもFBIや日本警察の役目だろう。私は気にせず最後のターゲットを探すことにした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。悪い情報よ。最後のターゲット、萩義昌は他の二人がやられたことで作戦を中止して撤退を開始したみたい。現在東京臨海新交通臨海線で豊洲方面へ向かっているわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

っと。ターゲットを逃しては元も子もない。だが、東京臨海新交通とはたしかゆりかもめと呼ばれるタイヤの鉄道だったはずだ。それならばここからでもギリギリ視認圏内だ。私は再び南東側に場所を移動した。

 

ちなみにこんな場所で狙撃すれば下の階の展望フロアに居る客に気が付かれるだろう。それを想定して出入り口である扉はワイヤーで厳重に固定し開かないように細工をしておいた。

 

おそらくターゲットは途中で降りずに終着駅である豊洲駅まで来るだろう。そこで有楽町線に乗り換え、新木場へ。東京ヘリポートから脱出というプランと予想した。つまりチャンスを逃せばそれはすなわち任務失敗ということになる。機を逃すわけに行かない。

私は機を逃さないためにも双眼鏡で少し手前の駅、市場前駅に侵入する電車を監視することにした。ターゲットの顔と服装や特徴は情報部からの情報が正しいことを祈るばかりだ。

 

 

しばらく待っていると奥から一編成やってきた。私は何度も繰り返した手順、先頭から順番に車内を見て探すのを繰り返す。・・・発見した。前から3両目のドアにもたれかかって何かをいじっている。私は距離や風を正確に計算し、弾丸到達にかかる時間と弾道を割り出した。スコープを覗き構える。距離はざっと2.1キロだ。遮るものはないが海が近いため海風があることが予想される。近くの建物の旗やテント、洗濯物までも利用して風を測る。

 

市場前駅を電車が発車した。豊洲に向かって走る。計算したことがうまくいくことを祈りつつ、私は引き金を引いた。

 

 

バァアン!

 

 

弾は1秒弱をかけて飛んでいき、走行中の電車のドアにもたれかかっているターゲットの背中に命中した。頭部を狙ったつもりだったが海風の影響で少し弾道がぶれたようだ。ドアのガラスは木っ端微塵になり、ドア自体もへしゃげて中に折れ曲がっている。ターゲットはどうやら上半身と下半身が分離したようだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『すべてのターゲットの死亡を確認。お疲れ様。そこから脱出して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

バチバチバチバチ

 

っと、流石に長居しすぎたようだ。ワイヤーで固定していた扉から扉の鍵を溶断する音が聞こえる。私は用意していたパラシュートを背負うとビルから飛び降りた。若干風に流されはしたものの、対岸にある小さな桟橋の近くに降りることが出来た。私はその桟橋にあったボートを借りて脱出した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~1週間後~

 

 

「渡界機に異常?」

『はい。報告によりますと、複数の世界が同一につながってしまう事態が発生しているようです。』

「同一につながる・・・とはつまり?」

『例えばAの世界の常識が全く別のBの世界に適応され始めています。他にもAの世界に居ないはずのBの世界の住人がAの世界に現れる等です。我々の時間軸への干渉が原因のようです。』

「ふむ・・・そのことによる予想される被害は?」

『最悪の場合は世界そのものが消失する可能性があると・・・。』

「それは私達の世界もかね?」

『我々の世界は今の所変化はありませんが可能性はゼロではないかと。』

「そうか・・・。計画を急がねばならんな。」

『はい。既に指示は出しています。計画実行を早める必要もあるかと思います。』

「A-DAYも近いか。」

『同時にX-DAYも、ですが。』

「了解した。決行日前倒しを許可する。同時に不測の事態への対処方法も研究を進めるように。」

『承知いたしました。』

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「世界記録達成」  +3000 『2.0km以上の長距離狙撃を達成する。』

・「お静かに願います」+3000 『コナンの携帯を狙撃する。』

・「一世一代の大舞台」+1000 『20人以上の民間人に殺害現場を見られる。』

・「映画は嘘ばかり」 +3000 『47が戦闘ヘリを攻撃せずにターゲットを暗殺する。』

 

 

 




実は舞台になった町は私が昔住んでいた街だったりします。


2019/06/17追記
月島周辺は良いところです。銀座、お台場、浅草、豊洲等の東京の名所に近いですし。もんじゃもおいしいし。私が住んでいた頃より高層マンションが増えまくってて下町感が薄れているのが個人的には残念ですが。


次回はフランスへ向かいます。


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HITMAN『地獄があった場所』

『ノルマンディーへようこそ。47。』

 

『今回は目的が2つあるわ。一つはいつものように暗殺、もう一つは救出任務よ。』

 

『向かってもらうのはフランス・ノルマンディー地方よ。それも1944年の6月中旬。そう、かの有名なD-Dayであるノルマンディー上陸作戦の真っ只中よ。我々の使う渡界機は過去に遡ることも容易なのよ?安心して、過去や未来で歴史を変えたとしてもパラレルワールドが新たに生成されるだけで、我々の世界の歴史にはなんの影響も及ぼさないことが確認されているわ。』

 

『ターゲットはアルベリヒ・G・グロシュタット。ドイツ軍第7軍に所属する陸軍大尉よ。彼は情報斥候として有名で、ポーランド侵攻の際にはアルフレート・ナウヨックスの指揮下のもとグライヴィッツ事件にも参加したようね。その類まれなる情報収集能力はドイツ軍の中でも突出していて、ノルマンディー上陸作戦の兆候も察知していたようよ。』

 

『クライアントは連合軍欧州方面総司令部。今後の作戦展開を阻害する可能性のあるものはどんな手段を使ってでも排除しようということらしいわね。事実、我々に依頼があるまでに連合軍主導の暗殺計画が確認されているだけで4回。未確定も含めれば12回は行われているわ。』

 

『もう一つは救出ミッションよ。最近我々が使う渡界機に不具合が見つかったのは知っているわよね?我々の移動自体には何ら問題は起こさないのだけれど、どうやら異世界の住人が渡界機の余波に巻き込まれて、別の世界に転送されることがあるらしいということがわかったの。今回救出してもらうのはその転送されてしまった女子高生たち。彼女たちは元の世界では世界の根幹となりうる重要人物たちなのよ。だから早急に元の世界に戻さないと世界が崩壊してしまうわ。現に既に世界の一部が抜け落ち始めて曖昧になりつつあることが報告されているわ。』

 

『救出してほしいのは“西住みほ”“秋山優花里”“五十鈴華”“武部沙織”“冷泉麻子”の5名よ。救出は我々のセーフハウスまで連れてきてくれればいいわ。あとできれば彼女たちが乗っているであろう戦車道競技用の四号戦車H型も持ってきて。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~あんこうside~

 

ドォーン

ババババ

バァーン

 

「何がどうなってるのよ!」

「どこかの演習区域に迷い込んでしまったのでしょうか!?」

「でもこの匂い、いつもの戦車道大会でも嗅いだことのない匂いです・・・。」

「血と硝煙と肉が焼ける匂いだ。・・・うっぷ。」

「まこさん大丈夫?一旦この場を離れましょう!全速後退!」

 

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

 

ドーン

 

遠くから砲撃音が聞こえている。私は今、上陸地点の一つ、ユタ・ビーチにほど近いヴァローニュという街にいる。今日は6月12日。歴史上ではネプチューン作戦が行われ北部のシェルブールを確保するために連合軍の猛攻が行われている時期だが、このヴァローニュは時折爆撃機が飛来し、砲撃が着弾するものの陸軍部隊が進軍してくる様子はない。どうやら史実よりだいぶ作戦進行は遅れているようだ。

 

私はまず情報を集めることにする。この街は前線に近い街ということもあり、民間人は殆どおらず、街を行き交う人々はほとんどがドイツ軍人だ。私はセーフハウスのあるアパートの前で見回っている警備員を音でおびき出し、家の中で気絶させた。服を借り、適当な部屋のクローゼットに気絶した兵士をしまうと私は外に出てドイツ陸軍前線司令部を目指した。

 

前線司令部は探すまでもなかった。街の中央にあるカトリック教会がそれだ。教会の前には兵士や伝令のバイクやトラックが所狭しと並べられ、せわしなく人が行き交っている。できる限り人の目には触れないのが一番なので私は正面からでなく裏から教会に侵入を試みることにする。教会の裏には地下に通じる階段があった。階段の先の扉はもちろん鍵がかかっていたが、現代の電子錠ならともかくこの時代の錠前などピッキングで簡単に開けることができる。

 

教会の地下が作戦指令所になっていたようだ。扉を開けた瞬間から中から忙しない足音と話し声が聞こえる。私は扉周辺に置かれている樽や木箱に隠れながら慎重に近づく。なんとか話し声が聞こえる位置までたどり着くことに成功した。

 

 

「ロンメルはどうした!」

「今朝旧国境付近に到達したとのことです。何分連合軍の爆撃が激しく、到着に時間がかかっている模様です。」

「こちらから迎えを送ることも検討させろ。21師団はどうした!」

「シュルメールから上陸した敵師団に対応中です。ですが弾薬の欠乏が顕著であり、増援と補給を要請しています。」

「第34歩兵師団から3個大隊を救援に向かわせろ。それ以降は現地指揮官に従わせろ。」

「了解。」

「司令官、ゲルヒンから報告が来ています。」

「おお!来たか!今回はどのような情報だ!」

「2つあります。一つはレストル方面の連合軍が補給物資不足に陥っているとの報告です。ここから進軍すればシェルブール攻略部隊を分断することができると書かれています。」

「なんと!向こうも必死だな。わかった。してもう一つは?」

「もう一つは・・・よくわからない報告です。我々の装甲師団にはない戦車を確認したとのことです。」

「なに?どういうことだ?」

「見た目は四号H型のようですが細部が異なっており、F型にH型のシュルツェンと砲をつけたような改造品に見えると。」

「中央の改造品じゃないのか?」

「更に側面には鉄十字ではなくなんというか・・・可愛らしい魚の絵が書かれているとのことです。」

「なんだそれは?そんな師団マークは聞いたことがないぞ。連合軍の欺瞞工作か?」

「わかりません。調べますか?」

「念の為調べよう。自動車化歩兵師団から部隊を派遣してくれ。」

「了解しました。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『F型を改造したH型で側面に可愛らしい魚の絵のエンブレム。間違いないわ。要救助者の乗る四号戦車よ。ドイツ軍に補足される前に対処して。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

報告を終えると伝令はまた走って奥の部屋に向かっていった。私は急いでその後を追う。奥の部屋には無線室があり、そこから伝令は各地に指示を飛ばしているようだ。私は席についた伝令を後ろから首を絞めて気絶させる。通信用のヘッドホンからは支持を求める声がしている。間一髪だったようだ。

 

 

「おい、どうした!応答しろ!」

「あー・・・すまない。改めて指示を伝える。」

「全く・・・頼むぞ。」

「伝達する。不審な戦車が発見された。第48歩兵大隊から人員を1名こちらによこしてくれ。こちらからも一名派遣し、確認する。」

「不審な戦車?敵ではないのか?」

「ゲルヒンからの伝達では敵の可能性は低いとあった。その真意も含め調査する。」

「ふむ・・・了解。派遣する。」

 

 

なんとか指示を出し終えることができた。私は無線室をあとにして目立たないように外に出る。警備兵も中から出てきた兵にはあまり警戒することはないようだ。そのまましばらく入口付近で待っていると眼の前の道に一台のサイドカー付きバイクが停まった。おそらく派遣されてきた偵察兵だろう。私は静かに近寄った。

 

 

「君が派遣される人員か?」

「ああ。そういう君はどこの所属だい?ここらではあまり見かけないが・・・。」

「最近配属されたばかりだ。だからこの任務に選ばれたとも言える。」

「なるほど。捨て駒ってわけか。お前も大変だな。まあいい、乗れ。」

 

 

私達は司令部の無線兵が持っていた情報を頼りに現場へ向かった。そこは最前線の少し後方にある雑木林だった。僅かな起伏と鬱蒼と茂る雑草、そして大量の広葉樹によって巧みに前線から隠されていた。砲塔側面にはピンク色のあんこうのエンブレムがある。間違いない、要救助者の戦車だ。私達はバイクを降り、近くの茂みから様子をうかがう。

 

 

「見たことのないエンブレムだ。どこの所属だ?」

「わからない。それを調べるのも任務だ。」

「なるほどね・・・こっちの装備はせいぜいMP40だというのになかなか無茶な任務だな。」

「そうだな。」

「敵ではないということだが根拠は?」

「それもわからない。ゲルヒンからの情報にそう書いてあった。」

「うーむ・・・まあゲルヒンからなら・・・こちらにも情報を回してくれればよかったのだが。」

「どういうことだ?」

「ああ。ゲルヒン、もといグロシュタット殿は我々の駐屯地を起点に活動しているからな。」

「そうなのか。」

 

 

やっとターゲットの名前が聞けた。薄々感じてはいたがやはりゲルヒンとはターゲットのコードネームだったようだ。情報斥候らしい名前と言える。

 

状況的にはターゲットよりまずは救助のほうが先が良いだろう。私達は戦車の背後からゆっくりと近づいた。位置的にここは車長の真後ろになるので気が付かれにくいはずだ。

慎重に近づいた結果、全く気が付かれる様子もなく戦車の真横に来ることができた。中から話し声が聞こえる。

 

 

「やっぱり街に行ってみましょう。食べ物くらいはあるでしょうから。」

「でも携帯も通じないし、どこかもわからないのに・・・。それにお金だって持ってないよ?」

「ぐぬぬ・・・こんなとき買い溜めてあったサバイバルキットさえあれば・・・。」

「さっき撃ってたのは明らかに実弾だった。遠目だが打たれた戦車から火達磨になった人が這い出てきてたのを見たぞ。」

「そんな状況の場所で果たして見ず知らずの私達に食べ物を分けてくれるでしょうか・・・。」

 

 

どうやら今後のことを話し合ってるようだ。確かに突然迷い込んだ異世界ではじめに行うのが食料の確保なのは間違ってはいないだろう。私は兵士と目で合図を送りあった。兵士が音を立てないように慎重に戦車によじ登り、そしてキューポラを一気に開けた。

 

 

「Haende hoch!」

「!?」

「な、なに!?」

「・・・まずいな・・・。」

 

 

銃を突きつけられ降伏勧告を受けていることは理解できたようで、5人全員がそろそろと外へ出てきた。

 

 

「Wer seid ihr? Wo ist deine Zugehörigkeit?」

「まずい、何を言っているかさっぱりわからない。」

「みぽりんわかる?」

「うーん、ドイツ語っぽいけど流石になんて言ってるかまでは・・・。」

 

 

私は問い詰めている兵士の後ろに静かに移動すると、持っていたケヴェーアの銃床で首元を殴打した。兵士は一瞬うめき声を上げた後にその場に崩れ落ちて気絶した。突然のことに目を丸くする5人。

 

 

「“西住みほ”以下4名の“あんこうチーム”だな?」

「え?日本語?」

「あ、はい。そうですけど・・・。」

「私は君たちを大洗に帰還させるためにやってきた。」

「えっ!?本当!?やったあ!」

「助けが来てくれました!」

「よかった・・・。ここはどこなんですか?」

「ここは1944年6月のノルマンディーだ。君たちは今ノルマンディー上陸作戦の戦地のど真ん中にいる。」

「1944年?!」

「タイムスリップってやつ?!」

「そうなるな。だが我々が君たちを大洗まで送り届ける。心配しなくていい。」

 

 

彼女たちは安堵した表情と驚いた表情を交互に見せていた。いきなり過去にタイムスリップしたと聞かされて信じるのは難しいが、今の状況と遭遇したであろう戦場の記憶がそれが真実だと証明するには十分なのだろう。

 

私は彼女たちを戦車の中に戻し、戦車ごとセーフハウスへ向かうことにした。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『彼女たちと合流できたわね。少し北にペロンという村があるわ。そこに回収用のセーフハウスを設けてるからそこへ向かって頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

戦車は雑木林からでると北へ走り始めた。帰れるとわかって安堵したのか戦車を操縦する冷泉麻子、側面扉から顔を出して周囲を警戒している秋山優花里、キューポラから上半身を出して双眼鏡で周囲を確認している西住みほなど、皆一様に落ち着いている。

 

暫く走ると地平線まで続く畑の中にポツンとあるいくつかの集落のうちの一つについた。戦略的価値が低いせいか周囲はあまり荒れておらず、戦場がすぐ近くなのを感じさせない。おそらくここが戦場になるのはまだだいぶあとなのだろう。

 

ペロンの村は両手で数えられるほどの家屋しか無い小さな村だ。そのうちの一つの納屋に戦車ごと入る。

 

 

「まってたわ。」

「ブルーか。彼女たちが要救助者だ。よろしく頼む。」

「まかせて!さあみんな!こっちへいらっしゃい!」

「「よろしくおねがいします。」」

 

 

私はブルーに彼女たちを任せ再び街に戻るべく、納屋に置いてあったバイクを拝借して先程の雑木林へ戻った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『要救助者の救助を確認したわ。お疲れ様。さあ私達の本来の仕事に戻りましょうか。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

雑木林ではまだ気絶させた兵士が伸びたままだった。私は彼の服を借り、ポケットに入っていた紙切れから彼の所属を割り出すことにした。紙切れには彼の所属している分隊か小隊の部隊配置が書かれていた。彼の駐屯地はヴァローニュの街から北東に10キロほど行ったトゥールテヴィルという街にあるようだ。まずはそこへ向かうことにした。

 

 

 

 

駐屯地はだいぶ慌ただしかった。つい先程、連合軍の爆撃機が飛来し、周辺を巻き込みつつ駐屯地に爆撃を行ったためだ。いくつかの建物が炎を上げて燃え盛っており、地面にはそこかしこに死体や体の一部が転がっているが誰もそれらを片付ける余裕すらない。あたりには焦げ臭い匂いと血の匂いが立ち込めていた。まさしく戦場の匂いであり、聖書の黙示録も生易しく思える地獄がここにあることを見せつけられている。

 

私は慌ただしく動いているかのように見せかけつつ駐屯地の本部が入る建物に入った。このような状況なため警備も手薄であり、難なく侵入することができた。建物内部は所々崩れており、ある部屋はドアが完全になくなっており、中は見るも無残に瓦礫の山となっていた。おそらく爆弾が直撃したのだろう。さらに奥に進み、隊長クラスが集まる場所を発見した。私はその近くで物資を整理するふりをしながらチャンスを伺うことにした。

 

しばらくそうしていると、更に奥の部屋から伝令と思わしき兵士が走ってきた。

 

 

「報告いたします!シェルブールに向かっていた連合軍の一部が先程の空爆で空いた戦線の穴の突破を試みようとしているようです!ル・ヴァスの部隊から応援要請が届いています!」

「カールの部隊を派遣しろ!後方から援軍が来るまでなんとか持ちこたえさせるんだ!」

「了解!」

「伝令です!ゲルヒンより使いを一人よこしてほしいとのことです!」

「ゲルヒンが?しかし今は派遣できる人材はいない。申し訳ないが他を当たるように言ってくれ。」

 

 

ターゲットから援軍要請が届いたようだ。やっと来たチャンスだ。ものにしなくてはなるまい。

 

 

「私が行きましょうか。」

「なに?お前が?・・・というかお前は誰だったか・・・?」

「今は一刻を争う時、早急に向かいたいのですが。」

「ん?・・・まあいい。じゃあ向かってくれ。ゲルヒンは今コアンボ北東の森にいるはずだ。」

「了解しました。」

 

 

私は早速駐屯地を出て北東へ向かった。駐屯地の司令官は終始私のことを思い出そうとしていたようだが、私がいなくなればすぐに忘れてくれるだろう。

 

駐屯地から数キロ行った北東の森の端で目的の集団を見つけた。4~5人いるが私の目的はその中で将校の服を着て双眼鏡を覗いている男だ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『あれが、アルベリヒ・G・グロシュタット。コードネーム、ゲルヒン。おそらく二次大戦における最高の情報斥候にして連合軍にとって最強の敵の一人になる男。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はターゲットのもとへ向かった。ターゲットはこちらに気がつくと寄ってきた。

 

 

「おお、来たか。」

「おまたせしました。第六前線司令部よりまいりました。フィルツィッヒです。」

「変わった名前だな?まあいい。あそこに敵の一団が居るのがわかるか。あの一団はいま左に見える我々の部隊と交戦している。しかし、時折行われる艦砲射撃によって我がドイツ軍は苦境に立たされている。どうすればいいかわかるか?」

「偽の座標を送るのはどうでしょうか。」

「ほう?そういう答えが帰ってくるとは思わなかった。できるのか?」

「艦隊へは無線で座標を送っているようです。偽の座標を送信して連合軍部隊を攻撃させることができれば。」

「なるほど。だが問題はどうやって無線周波数を特定するかだが・・・。」

「それに関してもこちらの方で入手した情報があります。」

「なんと。用意がいいな。わかった、ではその任はお前に任せよう。」

「わかりました。しかし無線機の範囲が狭いため少し敵に近づく必要があります。」

「ううむ・・・下手に近づけばこちらの位置を察知されてしまうな。」

「私が一人で行こうと思うのですが。」

「なんだと?それは・・・意味はわかってるのか?」

「はい。」

「・・・そうか。いいだろう。成功した暁には貴君の勇敢さは総統の耳にも届くことになるだろう。」

「ありがとうございます。死力を尽くします。」

 

 

うまいこと彼らに信じさせることができたようだ。周波数は既に情報部が特定している上に、砲撃要請の手順すら解析済みのためいちいち傍受する必要すらない。この時代の無線通信など我々の時代からすればセキュリティーに穴があるどころかザル以上だ。暗号化も史実と同じものを使っているため難なく解読できる。無線機も私が持っているのはこの時代のどの無線機よりも伝達範囲が広い。

 

私はターゲットの一団から離れ、畑にできている即席塹壕の溝を通って連合軍の集団に近づく。あまり近づきすぎると格好がドイツ軍なのでバレて銃撃を受けてしまうので程々の位置に陣取る。あとは無線で座標を指定すればいいだけだ。私は無線機代わりに特別に改造したスマートフォンを取り出す。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。情報よ。眼の前に居る連合軍は第76戦闘歩兵団。さっきスナイパーに無線兵がやられたみたいで艦砲射撃ができないみたいね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「こちら第76戦闘歩兵団、艦隊。応答してくれ。」

「こちらイギリス海軍所属、HMSアルゴノート。砲撃支援可能。」

「方位4678。地点7-5。効力射を要請する。」

「了解。艦砲射撃を開始する。」

 

 

うまいこと要請できたようだ。私はそのままその場で射撃が行われるのを待った。少ししてから遠方より砲撃音がしたかと思うとヒュルルという独特の飛翔音が響いてきた。そして、

 

 

ドォーン!ドドドドォーン!

 

 

私の後方の森の端、先程までターゲットがいた場所に合計12発の砲弾が着弾した。砲撃の影響で森に火災が発生している。自分たちは位置がバレておらず、打たれることはないと高を括っていたはずのターゲットたちは見事に砲撃地点のど真ん中にいた。周辺にいた数人の兵士も巻き込まれてしまっただろうが、それは所謂コラテラルダメージというやつだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認。彼は前線で敵を攻撃しようとして勇敢に戦死。見事ね。では帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

連合軍の方を見ると突然行われた支援砲撃、しかも戦っている敵と全然別方向に行われたそれに、あるものは首を傾げ、あるものは砲撃が下手くそだと罵声を上げていた。無線では艦隊から効果確認の無線が飛んできているが、目的が達せられた今それに答える必要はないだろう。

 

私は塹壕を通って森へ戻った。そのまま森の奥に止めてあったここまで乗ってきたバイクに乗って南へ退避した。連合軍の目をかいくぐりつつ、先程の村、ペロンへ戻ってきた。既にブルーと5人の少女たちは帰還しており、私も同じ納屋から元の世界に帰還した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~数時間前~

 

 

 

パシュン

「ぷあっ!」

「んあ・・・ここは・・・?」

「あ、あれ艦橋じゃありません?」

「本当だ!私達帰ってこれたんだね!」

「いやー安心しました。どこへ行っていたかが全く思い出せませんがともかく帰ってこれましたね!」

「なんだかとても大変な思いしたような気がしますけど・・・。」

「よく思い出せないんだから大丈夫なんじゃない?」

「うぅ~さおり~腹が減った・・・。」

「もう麻子ったら!じゃあこれからみんなでなにか食べに行こうか!」

「「賛成!」」

 

 

 

『転送と記憶処理は完璧ね。』

「はい。問題ないようです。四号戦車も学園の格納庫に転送完了しました。」

『当面はコレで凌ぐしか無いわね。コレ以上何も起きなければいいのだけれど。』

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「人命優先」   +1000 『ターゲット暗殺前にあんこうチームを救出する。』

・「戦場を駆け回れ」+1000 『50km以上移動する。』

・「情報斥候」   +1000 『ドイツ軍司令部施設2箇所に潜入する。』

・「戦場の女神」  +3000 『ターゲットを砲撃支援で殺害する。』

 

 




遅れて申し訳ありません。調子に乗ってHTC VIVEを買ったら設置と設定に思ったより時間がかかった挙げ句、PCの調子がおかしくなったためそれを直していたら時間がかかってしまいました。

別アプローチではあんこうチームメインになるかもです。

次回は別アプローチです。


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HITMAN『地獄があった場所』(もう一つの世界線)

『地獄があった場所』の別アプローチ版です。


『ノルマンディーへようこそ。47。』

 

『今回あなたにやってもらいたいのは2つ。一つはドイツ側の情報斥候であり、大戦の運命を左右する可能性のある優秀な智将、アルベリヒ・G・グロシュタットの暗殺。もう一つは渡界機の誤作動でこの世界に迷い込んでしまった西住みほ以下5名の“あんこうチーム”の救出よ。』

 

『暗殺任務のクライアントは連合軍欧州方面総司令部。救出に関してはICA上級委員会の勅令よ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~グロシュタットside~

 

 

あれはなんだ?我軍の四号戦車だと思うが、あのような改造は見たことがない。現在前線に配備されているのは四号戦車H型。それとG型だ。しかしあの戦車はG型ともH型とも違う。車体はF1型のようだが砲はG型に見えるし、H型にあるようなシュルツェンもある。そして何より不思議なのがその側面の部隊マークだ。魚だろうか?それをモチーフにしたと思われるが、戦車部隊の記章にしてはあまりに可愛らしい絵だ。

 

一応本部に連絡を入れておくべきだろうな。私は特徴を紙に書き出し、伝令役のもとへ戻った。かの戦車の目の前には自軍部隊が前線を構築している。見えないことはない距離なので意図的に自軍には攻撃していないことになる。つまり少なくとも敵ではないということだろう。その点については安心だが少し離れたところにいる連合軍に対しても攻撃の意思や陣地転換の兆候が見られないのは不可解だ。その点においては味方でもないということだろう。

 

私は書き出した情報を他の偵察情報と一緒に伝令に渡し、送信させた。後の判断は司令部に任せるとして私はもう少し北の方へ行くとしよう・・・。

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

私は今、レストルという街に来ている。この街は前線にかなり近く、街の建物は全てどこかしらが壊れているか、全壊して瓦礫と化している。こうしている間もそれなりに近いところから砲撃音や銃声が響いている。

 

私はここへ来る前にヴァローニュという街で情報を手に入れていた。どうやらターゲットと思われる斥候が救助対象の少女たちの乗る戦車を発見したようだった。無線兵の指示を聞くに場所はこのレストルの北の雑木林にいるようだ。それを聞いた瞬間に急いでバイクを拝借してここまで来たというわけだ。おそらくまだ司令部では偵察班の編成中だろう。

 

今回、とある改造キットを持参した。タバサが別件の任務の最中に入手したものであるが、ICAの技術部としては枯れた技術の集合体でしか無いらしく、特に興味を示さず割とあっさりと今回の作戦での使用許可が降りた。今回はコレを使ってターゲットを暗殺しつつ救助も同時に行おうと思う。しかしそのためには要救助者の少女たちにその気になってもらわなければならない。

 

その気を起こさせる宛はついていた。私は再びバイクを走らせ、レストルの東に布陣する連合軍部隊へ近づいていった。暫く行くと田畑の向こう側に連合軍の部隊が見えた。前線はもう少し北に位置しており、ここに布陣している部隊は自走砲連隊のようだ。私はスマートフォンを取り出した。連合軍の無線周波数、火力支援コードは情報部が任務前に解析済みであるためこのスマートフォンを無線機代わりにすることが可能だ。これに先程ヴァローニュで手に入れた位置情報をあわせる。

 

 

「砲兵隊、聞こえるか。」

「こちら砲兵、火力支援要請か?」

「頼む。森の周囲に敵部隊の一団が発見された。このままでは挟撃に会う可能性がある。砲撃支援を頼む。」

「了解、座標を送れ。」

「座標北緯49.53、西経1.32、地点5-3。火力支援を要請する。」

「砲撃支援要請了解。砲撃を開始する。衝撃に備えよ。」

 

 

私は目の前の砲兵隊に先程手に入れた情報をもとに砲撃支援を要請した。その直後、自走砲が居る付近から発砲炎とともに轟音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

~あんこうside~

 

 

「・・・!!みんな戦車の中に!」

 

ヒュルルルル ボォーン!

 

「うひゃあ!?なになになに!?」

「砲撃されてます!」

「私達を敵と勘違いしているということですか!?」

「マコさん!全速後退!雑木林の中へ!」

「わかった。」

 

キュラララ

ヒュルルルル ドドーン!ボォーン!ボォーン!

 

 

「敵効力射着弾!」

「助けてぇ!」

「みほさん!この戦車は砲弾の直撃に耐えられるのですか?!」

「わからない。カーボン装甲がどこまで耐えてくれるか・・・。」

「雑木林に入るぞ。」

 

ボォーン!ボォーン!

 

「砲撃が止まないよぉ!!」

「この戦車を砲撃してくるということは相手は連合軍でしょうか?」

「今はとにかく逃げなきゃ。マコさん、ジグザグに走行しながら・・・」

ガギィィィン!!!

「うひゃああ!!!」

「きゃあぁぁぁあ!」

「くうう・・・当たった?みんな大丈夫?!」

「まだ走れる!」

「こちらも大丈夫であります・・・!西住殿!これ!」

「!!」

「私も大丈夫です・・・それは?」

「内張りが剥がれかけてる・・・まさかカーボン装甲が!」

「まだ完全には断裂しては居ないようですが・・・カーボン装甲は全体が均一に一枚になって張られていますので、一箇所が破損するとその影響は全体に及びます。次弾は防げるかどうか・・・。」

「それって・・・。」

「次打たれたときは・・・。」

「・・・もうやだぁあ!!!」

 

ドォーン!

 

 

 

 

 

~47side~

 

私は雑木林へバイクで向かっている。既に雑木林には多数の砲撃が行われている。あんこうチームが居ると思われる地点より少しだけ前に砲撃を要請したので密集した効力射といえども直撃弾は1発あるかないかだろう。そしておそらく全速で後退し、雑木林に逃げ込むだろう。しかしそこには・・・

 

 

バァァン!

 

 

先程ここへ来るときに雑木林の西にドイツ軍の対戦車部隊がいるのが見えた。既に旧式化しているPaK36を装備した部隊で、おそらく数合わせの部隊だと思われるがあちこちから砲撃音が響いている前線で、無線にも応答しない戦車に攻撃しないほうがおかしいだろう。案の定先程の砲撃音は雑木林の西側から聞こえた。そこに連合軍は居ないはずなのでおそらくあんこうチームに向かって打たれたのだろう。

 

東からは連合軍の砲撃、西からはドイツ軍の対戦車攻撃、彼女たちの行き場は雑木林の中にしかなくなった。私はバイクで雑木林の中に入っていった。

 

少し進むと雑木林の中央付近で停車している一両の四号戦車が見えた。私はバイクを降り、ゆっくりと近づいていく。近づくほどにわかってくるのはその満身創痍な姿だ。側面のシュルツェンがあったと思われる場所は砲撃によって剥がされたのかなくなっており、車体のあちこちに擦ったかぶつかったような跡があった。おそらく逃げる際に雑木林でいろいろなものにぶつけたのだろう。そして砲塔装填手ハッチ後方に爆発の痕があった。砲撃の直撃弾をもらったのだろう。そして予想通り車体後部の燃料タンク付近に何かが刺さっている。37mmPzgr40.APCR弾だろう。貫通はされていないようだがかなり深く突き刺さっており、エンジンにも何かしらの損傷が生じている可能性がある。

 

更に近づくと話し声が聞こえてきた。話し声というよりも錯乱した女性の悲鳴といったほうが確実であるが。錯乱しているのが一人、それを落ち着けようとする人が一人、情報を集計しようとするも混乱しているものが一人、落ち着いているようで声が若干震えているのが一人だ。気配的にはもう一人いるようだが声は聞こえない。流石に喋れなくなるほどに負傷していたり死亡しているのはまずい。私は車体側面をノックした。

 

 

「ふぁ!?」

「なに!?今の!?」

 

ガチャ

 

「え・・・?」

「・・・。」

「ドイツ軍・・・!」

「兵隊!?」

「あー、すまない。私は兵士ではない。」

「えっ?」

「君は秋山優花里だな?他に西住みほ、武部沙織、五十鈴華、冷泉麻子は居るか?」

「え!なぜ私達の名前を!」

「私は君たちをこの地獄から脱出させるためにやってきた。」

「救助隊!?やったあ!」

「これで家に帰れますね!」

「はぁ~・・・よかったあ・・・。」

「まだ安心するのは早いぞ。」

「「えっ?」」

 

 

そう、彼女たちにはもう一働きしてもらわねばならない。私は虚構をふんだんに交えて説明し始めた。

 

 

「私は君たちのような時空の乱れに巻き込まれた者を元の世界に返すために活動している。しかし大抵の場合飛ばされた世界に飛ばした元凶が居る。」

「飛ばした元凶?」

「そうだ。今回、君たちをこの世界に連れてきたのもその元凶のせいなのだ。そのものを倒さねば君たちは元の世界に帰ることはできない。」

「ええ!なんで!?なんで私達なのよ!」

「落ち着け。元凶が誰なのかもどこに居るかも既に判明している。あとは手を下すだけだ。」

「手を下すってまさか・・・。」

「そうだ。殺害するんだ。しかも厄介なことに、それは君たちの手によって行われ無くてはならない。」

「なんですって!?私達が!?」

「非常に酷なことだが我々が手を下すと更に時空を不安定にさせ、君たちに近しいほかの人間が代わりに飛ばされてしまうことがよくあるのだ。」

「そんな・・・」

「でも私達がどうやって・・・」

「私が会った今までの者たちよりも君たちは恵まれてると言える。ここにあるじゃないか。手段が。」

「手段って・・・もしかしてこの戦車?」

「そうだ。」

「それは無理ですよ。この戦車は戦車道用で、砲弾には特殊機構が含まれていて、人間が着弾点近くにいると爆発しないんです。それに直撃コースの場合でも感知した瞬間上に逸れるようになっているんです。」

「心配はない。そのための改造キットを持ってきた。」

 

 

私は持ってきたケースを出した。車体の上で開けると中には工具といくつかの電子基板が入っていた。事前のブリーフィングによると、この工具で競技用弾頭を対人用に改造し、電子基板を戦車のコンピュータ制御部に取り付けることで制御機能を無効化することができるらしい。

 

私は秋山優花里に頼み弾薬を5本貸してもらうと作業を開始した。と言っても、以前黒森峰で行った弾薬の改造とほぼ同じだったのでそれほど時間もかからず終わった。続いて車体後方に装着されている制御コンピュータを弄る。私の作業を興味深そうに見つめていた少女たちは作業が終わると、とたんに緊張感のある顔つきになった。あたりまえだろう。これからこの戦車で人を殺さねばならないのだから。私は彼女たちの緊張と後ろめたさを少しでも和らげるためにさらに嘘を交えて説明する。

 

 

「言い忘れていたが、元凶となる人物は人ではない。」

「人じゃない?」

「ああ。人によく似ているが、人より幾分タフだ。少なくとも眉間に銃弾を食らった程度では死なないだろう。我々は悪魔の類として認識している。」

「悪魔・・・。」

「悪魔と言っても人間より生命力が強い以外に目立った特徴はない。今までのパターンだと殺すのに手間取っていたがこの戦車砲なら問題なく殺害できるだろう。」

「・・・殺すこと以外になにか方策はないんですか?」

「無い。説得しようにも当人は無自覚、昏睡状態にしても命ある限り状況は変わらない。」

「そう・・・ですか・・・。」

「気に病むことはない。君たちがどうしてもやりたくないというのであれば私が手を下そう。」

「でもそれだと私達の友達の誰かがまたこんな目に・・・?」

「・・・今までのパターンだとその可能性は高いと言わざる負えない。」

「・・・。」

 

 

そうこうしている間に改造が終わった。無論、ICAに帰還した際にこれらの装備は全て元に戻される。記憶処理もなされるためここでどんな嘘を吐こうが構わんだろう。

 

 

「ではそろそろ出発しよう。君たちも早く元の世界に帰りたいだろう。」

「・・・はい。」

「今回の経験が尾を引くのを恐れているのなら心配はない。どのみちこの事実は公にする訳にはいかないので申し訳ないが帰還中に記憶処理を施させてもらう。」

「記憶処理?」

「簡単に言えばこの世界に来たことをすべて忘れるということだ。感じた感覚も、恐怖も、罪悪感もな。」

「そうですか・・・それならまだマシなんでしょうか。」

 

 

私達は戦車を走らせた。私は先導役でバイクで前を走っている。その間にターゲットの位置を割り出さなければならない。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47、無線傍受の結果、ターゲットの位置が判明したわ。座標を送るわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

相変わらず我が情報部は優秀だ。スマートフォンに送られてきた情報によるとターゲットは現在、ここから8キロほど北へ行った森で偵察活動を行っているようだ。同時に周辺にいる連合軍とドイツ軍の部隊配置も送られてきた。私はその情報をもとに双方の部隊に補足されないように移動した。

 

街道を避け、平原も避け、ジグザグに移動した影響で8キロほどを戦車とバイクで移動したにもかかわらず予想外に時間がかかった。しかしその時間で戦車内の彼女たちはいろいろ話し合っていたようだ。それでもついてくるということは腹をくくったということなのだろう。

 

予定地点に到着した。まず私が先行して索敵をする。森の端に偵察兵の一団が居た。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが、アルベリヒ・G・グロシュタット情報将校。大戦の要であり連合軍の天敵。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

偵察兵の一団のなかにターゲットを発見した。ここから距離1200m。偵察している方向とは真逆の方向から近づき、なおかつ目の前では戦闘が勃発しているためエンジン音も気が付かれることなくこの距離に近づけた。私はバイクから降り、あんこうチームの砲手である五十鈴華の近くへ行った。

 

 

「よし、元凶を発見した。偵察兵の一団が見えるか?」

「はい、前方1200m付近にいる集団ですね。」

「そうだ。その中のこちらからみて一番右側で双眼鏡を持っている男がいるだろう。そいつが元凶だ。」

「・・・大丈夫です。狙えます。」

「君が実際に手を下すことになる。しかし手を下した後も深く考えるな。後のことは我々でやるし、君たちは元の世界に帰還できて記憶も修正される。元の生活にすんなり戻れるだろう。」

「・・・はい。」

「西住みほ。君が指示を出すんだ。これは君たちでやってもらわなければならない。」

「了解しました。」

「みぽりん大丈夫?」

「うん。いろいろ葛藤はあるけど、みんなの命には変えられないし、元の世界で待ってるみんなに同じ目に合わせたくないから・・・。」

「西住殿・・・。」

「・・・では行きます!パンツァーフォー!」

 

 

その掛け声と共に戦車が動き出した。私は戦車からとびおり、その場で見守る。ここからでも十分に狙えたが、どうやら他の一般偵察兵に被害を出さないために射点を変更するようだ。やはり記憶が処理されるとわかっていても罪悪感はできる限り少なくしたいのだろう。

 

戦車はその場から少し西側に移動しつつ前進した。200mほど進んだ後、稜線と雑木林に隠れるように停車した。私はそれを先程の場所から眺める。さしずめ観測員と言ったところだ。砲が細かく動いて照準をつけている。そのうちピタリと止まり、数拍の間のあと発砲した。

 

 

バァーン!

 

 

放たれた砲弾は正確にターゲットのもとに飛んでいった。どうやら弾種は徹甲弾だったらしく、着弾点付近でも爆発が起きない。しかし放たれた砲弾は正確にターゲットに直撃した。火薬量が少ない戦車道用の砲弾といえども直撃すれば人一人を真っ二つにできるだけの威力はある。ターゲットはまさに上半身と下半身で真っ二つになったようだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの死亡を確認したわ。距離1000mからの正確な狙撃。ドイツ戦車の砲精度の優秀さと彼女たちの練度の高さが伺えるわね。任務は完了よ、彼女たちを連れて帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

撃った後、間髪入れずに彼女たちの戦車は後退して雑木林の中に隠れたようだった。私はバイクに乗り、近くへ向かう。あの距離で人間の体に正確に砲弾を当てるのは並大抵の練度ではない。戦車バイアスロンの大会なら上位に確実に食い込めるだろうな。

 

後退した先の雑木林の中では彼女たちが戦車から顔を出していた。その評定は一様に悲しそうな表情と、これで帰れるという安堵の表情が混じった複雑な顔をしている。私は近くに行き声を掛ける。

 

 

「よくやった。こちらからも元凶の排除を確認した。これで問題なく元の世界に送り届けることができる。」

「本当に元の世界に帰れるんですか・・・?」

「ああ。早速だが帰還ポイントに向かおう。先程の発砲でこちらの位置が把握されたとも限らない。」

「わかりました。マコさん行けますか?」

「・・・大丈夫だ。」

「よし、では私についてきてくれ。」

 

 

私は再びバイクに乗り、彼女たちを先導する。先程より多少動きがぎこちないのはまだ人を殺したショックから立ち直りきれてないのだろう。だからといってここで私が何を言っても状況は変わらないだろうが。

 

しばし無言でバイクを走らせる。彼女たちの戦車もちゃんとついてきている。私は再び南へ向かった。来たときと同じようにジグザグに進路を取り、平原や市街地や街道などは避けた。5キロほどを1時間かけて南下すると、ペロンの村に到着した。予定ではここに救助用のセーフハウスがあるはずである。

 

村は閑散としており、人影は見えなかった。戦争のせいなのかそれともICAが人払いをしたのか。いずれにしろ好都合だ。私達はそのうちの一軒の納屋に入った。納屋はそれなりに大きく、バイクはもとより4号戦車もすんなりと入った。エンジンを止めると納屋の奥からブルーがやってきた。

 

 

「お疲れ様。47。」

「ああ。彼女たちが要救助者だ。」

「「よ、よろしくおねがいします。」」

「あらカワイイ子たち。私はブルーよ。短い間だけどよろしくね。」

「要救助者5名、それと彼女たちの4号戦車。すべて揃っている。」

「任務達成の報告は受けてるわ。じゃあさっさとこんな所おさらばしましょうか。」

 

 

私達はICAの転送装置で元の世界に帰還した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~1週間後~

 

 

 

 

「・・・そうだ。影響は各方面に出始めている。計画を急ぐ必要が更に増したと言えるだろう。」

「・・・なに?SVRの連中が?・・・わかったそれはこちらで対処する。」

「・・・うむ。47ならしっかりやってくれるだろう。」

「・・・それはそちらの都合であり、こちらはこちらのやり方でやらせていただく。」

「・・・日本警察など我々の敵ではない。現にその上位機関である自衛隊は簡単に無力化することができた。あの国の諜報網と防衛網は穴だらけだ。うちのキッチンからワインを盗むよりも簡単だったさ。」

「・・・了解した。こちらも行動を開始する。では」

 

ガチャ

 

 

 

ガチャ ピッピッピ

プルルル

「私だ。バーンウッドくんを呼んでくれ。Xデーが予定よりも近くなった。」

「・・・そうだ。情報部も準備を開始しろ。」

「あいつには決して気取られるなよ。・・・なに?冬眠中?熊の類だったのか?あいつは。」

「まあいい。それなら好都合だ。バーンウッドくんについでにそのことも伝えろ。」

 

 

「ICA上級委員会No.1の名において命じる。プロジェクト23265を実行せよ。」

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「女神の反逆」    +3000 『砲撃支援であんこうチームを攻撃する。』

・「レストアキング」  +1000 『あんこうチームの砲弾と戦車を改造する。』

・「究極の決断」    +3000 『あんこうチームにターゲットを暗殺させる。』

・「好きなものは最初に」+3000 『あんこうチーム救出前にターゲットを暗殺する。』

 

 




指の治療が完了したので執筆再開です。少々不安の残る治療痕ですが痛みは完全にないのでもう大丈夫だと思います。


2019/06/17追記
WT熱が再燃し始めたのが舞台がノルマンディーになった原因と記憶しています。


次回、第一段階始動。


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HITMAN『前段作戦 ~ 萌芽根絶』

『幻想郷へようこそ。47』

 

『あなたはここに来るのは4回目かしら?なかなか来れないのよこの幻想郷という土地は。あなたはこの世界でもなかなか特異な存在ということになるわね。』

 

『今回のターゲットは2人。コンスタンティン・ギルグルフと、アルタリア・キリール。この二人は幻想郷では古本屋の使用人として働いているけれど、その正体はロシア対外情報庁、通称“SVR”の諜報員よ。彼らはSVRの中でも急進派で、レーニン主義の熱狂的信奉者で未だに世界革命を諦めていない一派の構成員なの。』

 

『2人は人里の古書店を根城にして各方面の主要人物や有力妖怪等に共産主義を広める活動をしているの。今回の目的はこれを阻止すると同時に我々の存在を幻想郷の有力者に知らしめることにあるわ。なのである程度は派手目に任務を遂行して頂戴。爆発物、重火器、その他兵器類の使用が許可されているから活用して。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

幻想郷へはこれで4回目の訪問になる。人里は相変わらず賑わっているが、今回はどことなく緊張感もある。理由はおそらく前回の幻想郷への訪問時に行った試作兵器カテゴリLOG、現在は正式配備になった対地攻撃衛星“ロキ”の砲撃によって幻想郷中の妖怪が警戒態勢になっているのが原因と思われる。あのときの砲撃はかなりの威力だったらしく、紅魔館にほど近い森にはまだクレーターが残っており、その地形変化は人里の子どもたちですら知れ渡っているらしい。

 

さて、この人里の何処かにターゲットがやっているという古書店があるはずだ。まずはそこを見つけよう。私は里の中央通りを見渡し、一軒の本屋に入った。

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

店に入るやいなや元気のいい声が奥から聞こえてきた。壁には貸出期限や料金表などが書かれている。ここは本屋かと思ったがどうやらレンタルショップのようだ。私は手始めにやたら元気のいい店主に聞き込みを行うことにした。

 

 

「すまない。探している本があるのだが。」

「はいはい!どんな本でしょう?」

「思想や主義について書かれた本だ。できればこの世界のものでないほうがいい。」

「あー・・・でしたら・・・これなんかどうでしょう!」

 

 

彼女が店の中から探して渡してきたのは、かの有名な「我が闘争」の初版本だった。しかも裏表紙にはかの有名なナチスの空軍大臣の名前が書かれている。なぜこんなものがここ居あるのかはわからないが探しているのはこれではない。

 

 

「それは既に読んでしまった。他にはないか?」

「えーとそれじゃあですねえ・・・。こんなのはどうですか!」

 

 

次に彼女が持ってきたのは「日本資本主義の思想像」という本だった。惜しいがこれでもない。

 

その後も何冊か探しては持ってきてくれた。「孟子」「法の精神」「イデオロギーの終焉」などなど多種多様な思想書が出てくる。だがどれも探しているものではなかった。私は絞り込むためにもう少し具体的に要求してみる。

 

 

「そのあたりは十分に勉強できている。別の思想、例えば共産主義関連の書籍はないか。」

「あ、それでしたらピッタリのものが最近入荷したんですよ!えーと・・・。あった!これです!」

 

 

彼女が持ってきたのは「資本論」。以前妖怪の山の天狗の集落で見せてもらったものだ。そしてまさしく今私が探している書物だった。

 

 

「そう、こういうものだ。これは売ってもらえるのか?」

「いいえ、それは貸出用です。購入されたいのでしたらそれを売ってくれる方をご紹介しましょうか?」

「紹介してもらえるのか?」

「はい。もともとその本は外の世界からやってきた外来人の方から売っていただいたものなんです。」

「外の世界の・・・。それはぜひともお会いしたいものだ。」

「ちょっと待っててください。地図書きますね。」

 

 

彼女はその本を売った人物のところまでの地図を書いてくれた。なかなか詳細にかかれており、わかりやすくまとめられている。

 

 

「はい、できましたよ!」

「感謝する。今日はここへ向かうので失礼するがまた寄らせてもらう。」

「はい!お待ちしてますね!」

 

 

私は店員の少女に別れを告げ、地図を見つつその場所を目指した。どうやらそこは街の外れにある古書店らしい。路地裏の奥にあるのに加え、魔法の森にほど近い位置にあるためあまり客足は良くないらしい。彼女の地図にはその事も書かれており、彼女のメモ曰く、なぜあそこで商売を続けているのかわからないらしい。

 

地図に従って路地を抜けると人通りが殆どない裏路地にその店はあった。少し離れたところから隠れて様子をうかがう。

 

少しすると一人の男が店の前にやってきた。あたりを見回し、誰も居ないことを確認すると足早に店の中に入っていった。ブリーフィングで見たターゲットの顔ではなかったのでおそらく客なのだろう。

 

小一時間過ぎたあたりで男が中から出てきた。その横にはもうひとり男が居た。そちらの顔はブリーフィングで確認した顔だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがアルタリア・キリール。ロシア対外情報庁第4局所属。階級は少尉。一人目は確認できたわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

一人目のターゲットの確認はできた。しかしここで手を出せばもうひとりに感づかれ逃走を許しかねない。もうひとりの居場所も探るべきだろう。

 

私は静かにかつ慎重に家に近づいた。隣の家まで来たときにあるものが目に入った。ターゲットの家の軒先にこの世界では見慣れない黒光りする物が見えた。監視カメラだ。おそらく内部でモニター監視しているかもしくはセンサー連動の防犯装置なのか。いずれにしても映り込むのはまずいだろう。私は路地を迂回し、裏からターゲットの家に近づいた。しかし裏側にも監視カメラがあり、しかもカメラはすべての窓や扉をカバーするよう巧みに設置されていた。

 

仕方がない。ここは一般客を装って正面から行くしかあるまい。私は正面にふたたび戻ると、町人を装って店に入る。ちなみに服装はいつものスーツではなくこの町の住人が来ているような町人の服である。

 

 

「らっしゃい。」

「資本論という本がここで売っていると鈴奈庵という店で聞いたのだが。」

「はい。ございますよ。ご興味がお有りで?」

「外の世界のいろいろな主義主張を研究している。その一環にしたい。」

「なるほど。でしたらこの本はぴったりですね。他の主義主張が霞んでしまうような出来栄えですよ。」

「なるほど。それは楽しみだ。」

 

 

私は店員であるターゲットと会話しつつ店内を見渡す。これと言って特徴のない古本屋だ。先程の店で見たラインナップとそれほど変わっていない。奥には生活スペースが見えているが、外観と内部の広さが一致していない。おそらく隠し部屋が奥にあると予想される。もうひとりのターゲットはおそらくそこだろう。

 

 

「おまたせしました。お客さん運がいいですよ。先日入荷したばかりの新品です。」

「ほう。状態がいい。いくらかな?」

「今回は特別サービスだ。10文でいいですよ。」

「ありがとう。」

「そうだ。お客さん共産主義に興味があるみたいだからこいつもおまけにつけちゃおう。」

「いいのか?」

「いいんですよ。色んな人に見てもらいたいですからね!」

 

 

おまけとして渡してきたのは「共産党宣言」という本だ。マルクスの資本論よりももっと直接的な共産主義の本だろうな。

 

私は本を買って外へ出る。店内の見取り図はだいたい把握できたが奥の部分まではわからなかった。これは多少強引な手段に出るほかないだろうな。もとより“派手に”という注文がついていたので好都合ではある。

 

私は路地を遠回りしながら隣の民家へ向かった。隣の民家は普通の一般住宅であり、監視カメラもなければ隠し部屋もない普通の家だ。扉に鍵もかかっていないので私は家にラクラク侵入する。どうやらこの家は空き家のようで中には調度品が一切置かれては居なかった。私は屋根裏に登り、屋根の一部を破壊した。茅葺きの木造家屋のため破壊はそれほど苦でもなく、あっという間に人一人が通れる程度の穴を開けられた。私はその穴から屋根の上に上がると、隣のターゲットの家を見た。この家もターゲットの家も平屋建てなので屋根の高さもほぼ同じである。

 

私は周囲に人が居ないことを確認すると、先程破壊したときに出た廃材の木材の一つにライターで火をつけた。火がついた木材をターゲットの家の屋根に投げる。冬の乾燥した午後に茅葺屋根に火のついたものを投げ込めばあっという間に燃え移る。燃え移ったのを確認した私はそのまま屋根を滑り落ちて地面に着地する。そして監視カメラに映らないところで様子をうかがう。

 

 

カジダー! カンカンカン!

 

 

遠くで半鐘の音が聞こえる。煙を発見されたようだ。既に火はかなり広がっており、屋根の4分の1を燃やし始めていた。

 

 

「何だこの匂いは!・・・げぇ!火事だ!」

ピピピ

「・・・隊長、火災が発生しています。はい、この家です。我々も消火作業を・・・。」

「機密文章の、了解しました。すぐに戻ります。」

 

 

先程、町人の格好をして監視カメラに写っても警報も何も鳴らなかったのでおそらくただの監視モニターと推測される。であるならば、機密文書の処理に追われている今なら監視の目は無いはずだ。私は急いで燃え盛っている家の中へ侵入した。

 

 

 

家の中は既に煙が充満しつつあり、通常ならば早急に避難しなければならない状態だが、家の中には誰も居なかった。代わりに土壁の一部が回転扉のようになっており、その奥は茅葺屋根の家に似つかわしくないコンクリート製の壁と蛍光灯が見えた。おそらくあそこが隠し部屋だろう。

 

隠し部屋は半地下のような構造になっており、奥にモニターやコンピュータが見えた。その横の机の上の書類や書籍をダンボールに詰めて机の脇の台に乗せている。載せられたダンボールは台のスイッチを押すと光り輝き始め次の瞬間には消えていた。我々ICAが使っている渡界機とよく似ている。おそらく転送装置なのだろう。半地下の部屋には先程のターゲットともう一人の男が居た。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがコンスタンティン・ギルグルフ。ロシア対外情報庁第4局所属。階級は大尉。ふたりとも見つけられたわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は部屋を見渡すと部屋の隅にポリタンクがあるのを発見した。そばには石油ストーブとみられる器具があるのでおそらく入っているのは灯油だろう。

 

彼らは書類を転送するのに躍起になっており、こちらには気がついていない。置かれている箱や機器を隠れ蓑に近づいていく。ある程度近寄った後、近くにおいてあったレンチを取る。

 

私はシルバーボーラーを取り出し、奥にあるモニターに向かって撃った。

 

 

パシュガシャン!

「な、なんだ?」

 

 

二人が一瞬割れたモニターに視線を移したところを逃さず、こちらに近いほうのターゲット、キリールに向かってレンチを投げつけた。

 

ゴッ

「ぎゃ!」

「な!どうした!何があった!しっかりしろ!」

 

 

すかさずもうひとりのギルグルフが駆け寄って容態を確かめる。私は物陰から出て確かめようとしゃがみこんでいるターゲットの後頭部をシルバーボーラーの銃床で殴打し、気絶させた。

 

ターゲット二人共気絶させたところで部屋の隅にあったポリタンクを手に取る。中身はやはり灯油だった。それをターゲット2名とその周囲、電子機器や転送しそこねた書類などにかける。そのまま灯油を導火線のように垂らしながら半地下の部屋から出た。階段の段差は本を立てかける形にした。半地下の部屋から出たところで導火線を止め、ポリタンクは部屋の中に投げ入れた。既に火は部屋の内部にまで燃え広がっている。私は急いで裏口から脱出した。

 

脱出と同時に家屋の一部、店舗部分が崩れ落ちた。周囲には野次馬の集団ができており、私はその中に紛れた。少し離れたところから燃え上がる様子を確認していると、遠くに先程のレンタルショップの店員の少女が見えた。すると向こうもこちらの存在に気がついたようで寄ってきた。

 

 

「さっきのお客さん!これは一体!?」

「わからない。店内でこの本を買い、その話をしていると焦げ臭い匂いがした。店の奥の方から出火したようだ。」

「そうなんですか・・・店の方は?」

「それが、火を消すと言って店の奥に行ってしまった。止めはしたんだが、逆に店の外に追いやられてしまった。」

「そんな・・・!じゃあまだあの中に?!」

「ああ。おそらくは。出てきたのを確認していない。」

 

ボォーン!

 

そんな話をしていると家屋の奥で小規模な爆発があった。おそらく導火線に火が付き、気化して半地下に溜まっていた灯油に引火したのだろう。ということは既にターゲットのところまで燃え広がっているということだ。爆発が引き金になったのか、ただでさえ全体に燃え広がっていた火で脆くなっていた家屋はあっけなく倒壊した。

 

その直後、街の有力者である上白沢慧音が、いつぞやに出会った河童、河城にとりを引き連れてやってきた。さすがは河童と言ったところで懐から何かを出したかと思うと大量の水が現れ、火をまたたく間に消していった。後には焼け焦げた家の残骸だけが残った。幸いにして燃えた古書店の周りの家は、初期消火として住民が井戸水をかけていたため少し焦げただけで済んだ。

 

街の人の立ち会いのもと、実況見分が行われている。ほぼ全てが燃えてからの消火となってしまったため上部構造はほとんど何も残っては居なかった。そのうち半地下部分が発見され、上白沢慧音と呼び出された博麗霊夢の二人で内部へ入っていった。少しして戻ってきた二人の顔は今にも吐きそうと言った風貌である。町長と思わしき男に話しているのを聞く限り、半地下の部屋には焼死体が2体、身元の特定は不可能と聞こえた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『こちらからも地下のスキャンで生体反応なしが確認されたわ。任務は完了ね。なかなかに派手な篝火だったわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

周囲の人間はそれほど面識がなかったのだろう、一様に「可愛そうだ」という哀れみの目だった。その中で一人、先程のレンタルショップの少女だけはうずくまって泣いていたようだ。

私は周囲の雑踏に紛れつつ、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~同時刻~

 

 

「ねえ、ほんとにこんなとこに病院なんてあるの?」

『なんでえ!俺様の言うことが信じられねえってのか?いいからキリキリ歩けよ!』

「・・・あ、姉さん。あそこ。」

「あら、ほんとにあったわ・・・。」

『ほうれ見ろ!ほうれ見ろ!じゃあ任務と行こう!何かあったら遠慮なく呼ぶんだぜ!』

「はいはい・・・。それにしてもだいぶ古いわねこの病院・・・。」

「情報部の調査では表向きには精神病院だったようだよ。」

「うわぁ・・・そういうとこってヤバイのが出たりするのよねえ・・・。」

「ともかく行こう。」

「はぁ・・・シルバーはそういうの感じなさそうだからいいわよねえ・・・。」

 

 

「・・・これかしら?」

「この書類だね。あと他にもいくつか回収しないと。」

「ちょっとシルバー、これ見て。」

「えっ・・・。これ・・・。」

「この製造番号と顔写真・・・。」

「・・・なるほど。だからエージェント“47”だったんだ。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「小さな看板司書」+1000 『本居小鈴に会う。』

・「3つの思想」  +1000 『全体主義・資本主義・共産主義に関する本を手に取る。』

・「文化革命の焚書」+3000 『古書店を全焼させる。』

・「送り火」    +3000 『ターゲットを焼死させる。その際にターゲットから100m以上離れている。』

 

 

 




もーえろよもえろーよー(爆)
別アプローチではもうちょっと派手になる予定です。

次回は別アプローチです。



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HITMAN『前段作戦 ~ 萌芽根絶』(もう一つの世界線)

『前段作戦 ~ 萌芽根絶』の別アプローチです。



『幻想郷へようこそ。47』

 

『今回のターゲットはロシア対外情報庁の諜報員の二人、コンスタンティン・ギルグルフと、アルタリア・キリールよ。幻想郷へ共産主義を広めようと人里の古書店を根城に活動しているわ。』

 

『今回の暗殺はできるだけ派手にお願い。というのもこの暗殺を我々ICAの手によるものだと幻想郷の有力者たちにわからせる必要があるの。手段や規模は問わないし、兵器の持参も許可されてる。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

静かだ。現在時刻、午前2時40分。大都市の繁華街とかならいざしらず、田舎の農村の深夜など誰一人として歩いているものはいない。まして電気が通っていないので明かりといえば月明かりや星明りしか無い。それも今は曇天の影響で全く見えず、あたりは文字通り闇夜に包まれており、雲を通して届く僅かな月明かりが、かろうじて道と建物の区別が付く程度には道を照らしてくれている。

 

私は今回、リモコン起爆式の爆弾を持参した。“派手に”という要求に答えるためだ。しかし炸薬は比較的小規模にとどめておいた。小規模に留める必要があったというべきだろう。

 

人里の中央の広場にやってきた。広場というよりも空き地に近い様相ではあるが、こんなのでも住人にとっては貴重な憩いの場だろう。私は地面を注意深く観察する。暗闇でよくは見えないが目を凝らして顔を近づければ地面の凹凸程度なら見ることができる。注意深く見ると、よく人の通る“動線”が見えてくる。

 

広場の端にある羽の生えた天使の彫刻はそれほど人気ではないことがわかった。彫刻に彫られた銘はヨーロッパ風の名前であり、おそらく外来人が作ったものだろう。我々の世界では天使のイメージの強い羽の生えた女性も、この世界では妖怪の一種としか見られていないようだ。地面はほとんど荒れておらず、また広場の端にあるため待ち合わせスポットとしても不人気のようだ。ここならいいだろう。

 

私はその天使の像の根元に小さく穴を彫り、その中に爆弾を設置した。アンテナケーブルのみ彫刻の裏手まで地面の下を這わせて地上に出した。地面を元通り修復して準備は完了。あとはターゲットをここに呼び寄せるだけだ。

 

現在時刻、午前3時30分。周囲に人影はまったくなく、居たとしても私がやっていることは、この闇夜のせいで把握することはできないだろう。私は静かにその場を後にし、一旦セーフハウスへ戻った。

 

 

 

 

日が昇り、雲が晴れ、快晴とまでは行かないものの十分に青空が見える。太陽は時折雲に隠れつつもその陽射を地上に降り注がせ、冷え切った地表付近を多少温めてくれている。

 

時刻はそろそろ午前11時になろうかというところ。私は行動を開始した。まずはターゲットを発見するために私は町人の服を着て街を練り歩く。広場では中央の井戸の周囲で女性が複数人談笑を楽しんでいるのが見える。その中にはこの街の有力者の一人である上白沢慧音も居た。私は広場にある露店の一つを眺めるふりをしつつその井戸端会議に耳を傾けた。

 

 

「でね、旦那ったら「俺が見てきてやるよ!」って勢いよく出てったとおもったら5分と立たないうちに「何も見えねえ」って帰ってきたのよ!」

「あははは。まあそんな時間じゃ真っ暗で何も見えないでしょうね。」

「それであまりの速さに唖然としちゃって、それが顔に出てたのかそれから度々旦那の威厳を見せようとしてるのか、いろいろ力を貸してくれることが多くなったわ。」

「あら、それならいいじゃない。うちの旦那なんて仕事から帰ったらご飯食べてすぐ寝ちゃうのよ。何の手伝いもしてくれないわ。」

「まあしかたないですよ。旦那さんは朝から晩まで農作業ですから・・・。」

「そういえばこの前畑の雑草抜いてるときに変な人を見たわ。」

「変な人?」

「ええ、一人は町外れの古書店、ほら、あの森に近いところにある古書店よ。あそこの店員さんなんだけど、もうひとりは見たこと無い服を着ててねえ。二人で歩きながら何か相談してるみたいだったわ。」

「どんな格好してたんです?外来人では?」

「多分そうだと思うのだけれど、今までは、えーと・・・なんていったかしら・・・すーつ?とか言う服着た人が多かったじゃない?」

「まあそれだけじゃないけど後は襟もなければすごい薄そうな服だったりするわね。」

「それらの外来人の服ではないのですか?」

「うーん、なんて言ったらいいのかしら、すーつとかよりももっと畏まったというか・・・もっときちっとしてる感じでね。胸や肩のところにキラキラするものがいっぱいついてたわ。」

####アプローチ発見####

「それは・・・なんとも特徴的な服装ね。目立ちたがり屋なのかしら?」

「でしょう?慧音先生はどう思います?」

「どうと言われましても・・・実際に見てみないことには判断が付きかねますが、実害がないのであれば放っておいて問題ないと思いますよ。」

「まあ、珍しい格好の人がいるのなんて今更だしねえ・・・。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『綺羅びやかな装飾品をつけた見慣れない服装の男が目撃されているみたいね。情報によればターゲットのうちの一人、ギルグルフの方は階級こそ大尉だけれど、幾多の戦場において様々な戦績を残している関係でそれなりに多くの勲章をもらってるみたい。おそらくその目撃された人物はギルグルフで間違いないでしょうね。となると古書店の店主も怪しくなってくるわね?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

町外れの古書店、胸にキラキラしたものをたくさんつけた服を着ている人物、おそらく古書店がアジトでその人物が着ていたのは軍服だろう。なぜ軍服を着てうろついていたのかは不明だがこの際そのことは問題にはならないだろう。

 

私は露店を離れて別の露店へ向かった。こちらの露店は文房具などを主に取り扱っている店のようだ。外の世界から流れ着いたものも販売しているらしく、大学生が使いそうなノートやシャープペンシルが1冊だけとか1本だけ売っていたりした。私は店主に話しかける。

 

 

「店主。手紙を送りたいのだが便箋のようなものはあるか?」

「へいらっしゃい。便箋ですかい?えー・・・はい、こちらになりやす。」

 

店主が差し出してきたのは至って普通の便箋だった。よくよく考えればメールやSNSでやり取りするのが主になっている現代では便箋を使うことは殆ど無い。だから忘れ去られてここに流れ着く紙も多いということか。

 

便箋を購入し、近くに設置されていた石でできた、彫刻と同じ人物が作った椅子とテーブルに座って手紙を2通認める。1通はターゲットの古書店へ、もう一通はギャラリーへだ。

 

手紙を書き終えると付属の封筒へ入れ軽く封をする。完成した手紙を持ってターゲットの古書店を探すことにする。できれば日が傾く前に手紙を渡したいところだ。

 

 

古書店は案外あっさり見つかった。町ゆく人に尋ねると皆その古書店の存在を知っていたからだ。どうやら外の世界由来の書籍を多数扱っているらしい。おそらく書籍で自らの思想を広めようとしているのだろう。古書店に到着した私は早速中に入る。

 

 

「いらっしゃいませ。」

「いや、客じゃないんだ。上白沢慧音という人物を知っていますよね?」

「はい、彼女には店を出すときにもいろいろ世話してくれてよく知っていますがそれが?」

「彼女から手紙を預かっていますのでお渡しします。彼女からは2人に、と伺っていましたが・・・。」

「2人・・・。そうですか。わかりました。」

「では確かにお渡ししましたので、私はこれで。」

「はい、ご苦労様でした。」

 

 

これでターゲットの方は大丈夫だ。次はギャラリーの方だ。

 

 

 

 

 

~ターゲットside~

 

「慧音さんからの手紙だそうです。」

「なんと書いてあるのだ?」

「はい、今日の夕方に広場の天使像の前に2人で来るようにと。」

「2人でだと?私の存在は気が付かれていないはずでは?」

「しかし確かに手紙には2人でと。それに手紙を託した人にも“2人に”とおっしゃっていたそうです。」

「・・・我々の活動が露呈しかけている可能性は?」

「無い。と言いたいですがこの間あなたは一度外に出ています。そのときに見られた可能性も否定できません。それが綻びとなって疑問を追求した結果露呈するということもなくはないかと。」

「ちっ・・・できれば街の有力者には手を出したくなかったのだが・・・。」

「どうするおつもりですか?」

「八雲紫よりは上白沢慧音のほうが幾分対処しやすい。発覚しているとしたら処分するしかあるまい。」

「殺すのですか?」

「致し方あるまい。ノビチョクを使う。アレならばいけるだろう。」

「了解しました。準備します。いつ実行しますか?」

「呼び出されたときだ。話を聞いて杞憂で済んだのなら使わなければいい話だ。」

「わかりました。」

 

 

 

 

 

~上白沢慧音side~

 

「すみません。」

「はい?何でしょう?」

「東の古書店の店主からこれを預かってまいりました。慧音先生にと。」

「手紙?私に?なんだろう・・・。」

「では確かに渡しました。私は用があるのでこれで。」

「あ、ああ。すまない。ありがとう。」

 

「ん~・・・夕方日が沈む頃に広場の天使像に来てくれ・・・?」

「どういうことだろう・・・。古書店の店主というのはあの人だろうが・・・。」

「まあ予定もないし、行けばわかるだろう・・・。」

 

 

 

 

~47side~

 

2人に手紙を渡した私はその足で広場に隣接している食事処に来た。最近急増していた外来人向けに作られたものだが、町人もよく利用しているらしい。広場を見られる席に座り、その時が来るのを待った。

 

私が少し早い夕食を取っていると、広場の東側からターゲットの二人が現れた。流石にもう片方は軍服ではなく町人の格好をしていたが。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『彼らがコンスタンティン・ギルグルフと、アルタリア・キリール。幻想郷を赤く染め上げようとする影の扇動家。さあ、不穏分子はさっさと排除しちゃいましょう。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は食事である川魚の定食を食べつつその成り行きを見守る。傍からは人の行き交う広場を眺めている客にしか見えないだろう。広場は夕方なのもありそれなりに人通りがある。しかし例の彫刻の前は動線から外れている上に待ち合わせにも使われないので、ターゲット2人以外誰一人としてその側に行こうとするものはいない。

 

2人は彫刻の前で何かを相談しながら辺りをうかがっている。おそらく呼び出した本人が居ないことを不審に思っているのだろうか。上白沢慧音はその後少ししてから広場へやってきた。

 

私が食事を終え食後のお茶と和菓子を食べていると、西の道から慧音がやってきた。私は懐から爆弾のスイッチを取り出す。慧音が2人に気がついたようで広場の動線を横切って彫刻に近付こうとしている。

私はそのタイミングで爆弾の起爆スイッチを押した。

 

 

ドォーン!

キャアアア!

ナ、ナンダア!

 

 

爆弾はターゲット2人の直下で爆発した。50gのプラスチック爆薬なので、それなりに大きな爆発にはなったが広場の露店のものが爆圧で落ちたり、広場に居た人間が倒れ込んで怪我をしたりはしていたが、通行人は皆一命はとりとめているようだった。

 

しかし爆心地に居た二人はそうは行かない。爆発による土煙がある程度収まると爆心地が見えてきた。しかしそこに2人の姿はなかった。あったのは彫刻の残骸と思われる粉々に砕け散った瓦礫だけだった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。衛星からの映像を解析した結果、爆発の衝撃でほぼ粉々になって飛び散ったみたいね。ターゲット2名の死亡を確認とするわ。ご苦労さま。なかなか派手に行ったみたいね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

広場では上白沢慧音が広場を回ってけが人を介抱したり、助けに駆けつけた住人たちに指示を飛ばしたりしていた。眼の前で知人が粉々に吹き飛んだというのに冷静さを失わないのは流石は町のまとめ役と言ったところか。

 

私はリモコンを懐にしまい直すと、目の前に置かれていた大福を食べ店を出た。・・・ぐっ、少し土の味がする・・・。

 

店を出た広場は阿鼻叫喚となっている。幸いにして手足がちぎれたりした人間は居ないようだが、爆圧で転倒したり破片や土塊で切り傷などを追った住人が多くいるようだった。私はそれらの混乱に紛れるように進みセーフハウスへ帰還した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~5時間後~

 

 

「今回人里で起こった爆発事件だけど、どうやらICAって組織が絡んでるらしい。」

「ICA・・・か。」

「ん?レミリア、知ってるのか?」

「前にちょっとね。それより何であなたが仕切ってるのよ蓬莱人。」

「慧音がショックで寝込んでしまったからな。介抱が一通り終わったらぷっつりと糸が切れたように気絶したよ。」

「まあ慧音も目の前で人が粉々になればそりゃあねえ・・・。で?そのICAって奴らが異変の元凶なの?」

「これって異変なのか?ただ単に爆殺事件が1件起こっただけだろ?」

「確かに異変と言うには少し規模が小さい気もするな。だが今回殺された二人は外来人なんだ。」

「外来人?」

「ああ。何でも古本屋をやっていたらしいんだが詳しくはわからない。」

「何でそいつらが殺されたんだ?」

「それもわからない。ただ似た手法を使う人物が心当たりがあるやつが居る。」

「47ね。」

「レミリア?」

「前にうちのメイドを一人そいつに暗殺されたことがあったのよ。」

「レミリアが暗殺なんて許すとはまた珍しいわね?」

「結局はそのメイドもICAとやらの手先だったけどね。なんとか贖う方法を模索したけど結局贖えなかったわ。」

「なあ、それってもしかして例の大爆発と関係があったりするのか?」

「あら白黒、ご明答よ。私があいつを追い詰めたときに空からなにか降ってきたのよ。あの爆発はその時のもの。」

「あれはすごかったわね。紫も慌ててたもの。」

「ともかく、その連中がまたこの幻想郷で何かをやらかすつもりらしい。今レミリアが言った空からの攻撃が来ないとも限らないから用心していこう。」

「私は独自にいろいろ調べてみるぜ!なにかわかったら報告する。」

「ああ魔理沙。頼む。くれぐれも気をつけるんだぞ。」

「じゃあ私はパチェと相談して襲ってきたときのための対策を練ろうかしら。」

「そうしたほうがいい。他のみんなも各自用意はしておいてくれ。これは異変の始まりかもしれない。」

「異変なら霊夢の出番だな!」

「町のど真ん中でいきなり爆弾を爆発させるようなやつ相手にはしたくないなあ・・・。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「世界共通の情報通達」     +1000 『井戸端会議の会話を聞く。』

・「コミュニティリーダー」    +1000 『上白沢慧音に会う。』

・「暗殺者より愛を込めて」    +3000 『ターゲットに手紙を渡す。』

・「ミッドイーストプロジェクト」 +5000 『中央広場でターゲットを爆弾で暗殺する。』




多少派手になりました。ですが感想にあったんですが以前のヤマブキシティのと比べるとまだ地味なのはどうしようも・・・w


2019/06/17追記
被害を出さずに派手にするのは非常に難しいです。劇場版コナンの爆弾テロとか被害者の描写がないだけで相当に被害者は居るはずなんですが・・・。


次回、作戦開始。


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HITMAN『インバウンド』

『47。いよいよプロジェクト23265が開始されるわ。』

 

『あなたにやってもらいたいことは、1,紅魔館に侵入すること。2,地下室を探すこと。3,紅魔館当主レミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットを見つけること。とりあえずはこの3つよ。』

 

『見つけた後は追って指示を出すわ。暗殺依頼ではないから早まって殺したりしないようにね。吸血鬼の上位種らしいから殺すことはかなり難しいと思うけど。』

 

『前回紅魔館に侵入した影響で警備が強化されているわ。時間を止めることのできる優秀なメイド、十六夜咲夜が館内の警備巡回を行うようになっている。不審な点があったら即座に時を止めて館内をくまなく調べるでしょうね。そうなったら見つからずにやり過ごすのも迎撃するのも不可能になるわ。』

 

『情報部が掴んだ情報によると十六夜咲夜はこの後午前9時から午後4時ごろまで人里で予定が入ってることがわかったわ。つまりことはその間に迅速に行われなければならない。帰ってきたら警備が最高レベルまで強化されるでしょうね。一応別働隊で足止めを行うけれどあまり期待はしないでね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「ふっ!ふっ!」

 

 

私はいま紅魔館の門の外の茂みに身を潜めている。眼の前にある門の前で門番が拳法のようなものを練習しているのが見える。前回は寝ていたせいで私の侵入を許した結果、同じ使用人仲間の一人を暗殺された。もう同じことは繰り返させまいと気合が入っているようだ。

 

警備に気合が入るのは結構なことだがこちらとしては不都合だ。侵入経路の一つが潰されたわけだから。しかし、こういう場合も想定して一人助っ人を呼んである。

 

 

「では頼むぞ。タバサ。」

「(コクン)」

 

 

情報によれば門番の彼女は日頃の行いからかあまり待遇が良いとは言えず、食事も満足に与えられていない時があるという。妖怪なので人間のように頻繁に食事を取らなくても活動できるらしいが、それでも腹は減るようだとのことである。

 

私はここに来る前に寄った人里のパン屋でパンの詰め合わせセットを買っておいた。それをタバサに持たせ、合図と同時に中身を開けてもらう。私は門の風下にあたる反対側の茂みまで静かに移動した。移動した後にタバサに合図を送る。

 

タバサは合図を受け取るとパンの籠を開けた。中から焼きたてのパンの香りが立ち上る。タバサが立っているのはちょうど門から風上に当たる。香ばしい匂いは風に乗って門番まで届いた。

 

 

「ふっ・・・ん?・・・スンスン・・・いいにおい・・・。」

グゥー

「うっ・・・今日も朝ごはん食べてないからなあ・・・結界もあるしちょっとなら大丈夫よね・・・こっちのほうかな?」

 

 

彼女が匂いの在り処を探して茂みに入っていく。私はその隙に門をくぐり抜ける・・・。っと、門を通る前に一応アレを起動しておこう。

 

紅魔館には大図書館の別名のある優秀な魔法使いパチュリー・ノーレッジがいる。前回の事件と先日起こった人里での事件を鑑みて侵入検知用の結界を張っている可能性が高いという。そこで技術部は、以前カテゴリLOG計画で副次的に収集した彼女のデータを元に結界回避用の装置を開発したらしい。手のひらに収まるボール型の機械の中央のスイッチを入れるだけで、所持者は結界の影響をすり抜けることができるらしい。虚無の魔法を応用したものと聞いたが、私にはよくわからなかった。

 

装置を起動し、門をくぐる。くぐる瞬間に一瞬だけ後ろを見ると、門番にタバサが見つかっていた。が、見間違えじゃなければタバサがパンを一つぱくついてたように見えたが、私は見なかったことにして門を足早にくぐった。

 

庭園は相変わらず人気がなく、十六夜咲夜が出払ってるのもあり、すんなりと前回の侵入ポイントである窓まで来ることができた。前回と同じように窓を開けて侵入する。侵入する際に結界回避装置が震える。前回はなかった侵入検知用の結界が館自体にも張られているようだ。この装置がなければたちまち警戒態勢に移行していただろう。

 

前回調査した時と部屋の構成は変わっていないようだったので、客間と前回確認した部屋はスルーして1階を進む。途中妖精メイドに見つかりかけたりもしたが、妖精たちは基本的に頭がそれほど良くはなく、簡単な欺瞞に引っかかり事なきを得ていた。

 

事前情報によると1階のロビーよりも東側に地下への階段があるはずだった。しかし、ブリーフィングで確認したはずの場所にその階段はなく、周囲の他の部屋と同じ客間があっただけであった。どうやら地下室への階段を捜索しなくてはならないようだ。

 

エントランスロビーを抜ける。探しているのは地下室なので部屋は基本的にスルーだ。地下へ続く階段のようなものがあると推測されるが、何分十六夜咲夜の能力によって広げられている館はかなり広かった。ざっと見ただけでも今いる廊下の長さは最低でも500mはあるだろう。根気よく探しているが一向に階段らしきものが見当たらない。

 

私は方針を転換し、手近な部屋のドアに張り付いた。中からは妖精メイドの話し声が聞こえてきた。

 

 

「どうするの~?」

「どうしようか・・・。」

「早くしないとメイド長に怒られちゃうよ?」

「でもあそこには行きたくないよぉ・・・。」

「でも最近は暴れることもなくなって静かじゃない?」

「なんかよく図書館の方に遊びに行ってるらしいね?」

「じゃあ大丈夫なんじゃない?」

「そうかなあ・・・。」

「私も一緒に行くから。」

「・・・わかった。すばやく言ってすばやく終わらせよう。」

「妹様もすばやく部屋を片付ければ褒めてくれるかも?」

####アプローチ発見####

「そうだねー。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。彼女たちの言っていた「妹様」っていうのがターゲットであるフランドール・スカーレットよ。彼女たちはターゲットの部屋を掃除しに行くみたいね。尾行すればターゲットのところまで案内してくれるんじゃないかしら。』

 

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好都合だ。すんなりとターゲットのところまで案内してくれそうな人物を見つけることができた。私は側の柱に隠れ、彼女たちが出てくるのを待った。しばらくすると中から掃除用具を持った妖精メイド2人が出てきて、私とは反対の方向へ駆けていった。私は気が付かれないように気配を殺しつつ後を追った。

 

しばらく廊下を進むと階段が現れた。しかしあろう事か彼女たちは階段を登っていった。地下室へ向かうのに何故階段を登る?2階部分からしか行けない仕組みになっていたりするのだろうか?疑問に思いつつもそのまま後をつけると一つの大扉の中へ入っていった。私も慎重に近づき、気が付かれないよう注意しながら侵入した。

 

大扉の中は図書室・・・いや、この広さは図書館だ。高さ3mはあろうかという大きな本棚に本がびっしりと入っており、その本棚が数え切れないほどに大量に置かれている。どうやらここも空間を広げてあるらしく、奥の方は遠すぎて見えない上、天井高も軽く見積もって50m以上はあるだろう。そんな大図書館の手前に大きめのテーブルと椅子があり、紫色の服装の少女が座って本を読んでいた。妖精メイドたちはその少女に近づいていく。

 

 

「パチュリー様。用意ができました~。」

「ん・・・ああ、ご苦労さま。こあ。」

「了解しました。鍵取ってきますね。」

「くれぐれも気をつけなさいね。以前よりはだいぶ穏やかになったけど、まだ不機嫌になったら突発的に壊しちゃうこともあるみたいだから。」

「はーい。」

「ああそれと、これも持っていって上げて。さっき咲夜が持ってきてくれたのだけれど私には甘すぎるから・・・。」

「クッキーですか?わかりましたー。」

「・・・。」

「パチュリー様?どうかなされましたか?」

「・・・何かいつもとは違う気配がするような・・・。」

 

 

アレがこの図書館を取り仕切っているというパチュリー・ノーレッジか。私の気配にも若干だが気がついている素振りがある。早急に脱出したほうが良いだろうか?

 

 

「ん~?でも侵入者探知用の結界には何の反応もありませんけど・・・?」

「うーん・・・まあこの検知結界は、構造がわからないとスキマ妖怪でも抜けられないレベルの代物だから大丈夫か・・・。」

「そうですよ。第一この図書館にだって6重にも防護結界が張ってあるじゃないですか。」

「考えすぎか・・・。それじゃああなたたち、妹様の部屋の掃除をお願いね。」

「はーい。」

 

 

6重の防護結界。なるほどだから先程からこの機械がかなりの熱を持って作動しているのか。内部で何かが激しく発熱しており、懐炉状態になっている。

 

図書館から先程の妖精メイドが出ていく。手にはやたら古風な鍵が握られている。なるほど、ここへは鍵を取りに来たわけか。私は再び気が付かれないよう距離を取りつつ尾行を再開した。

 

図書館を出て階段を降り、1階のいくつかある部屋のうちの一つ、その部屋だけやたら扉が重厚な扉だが、妖精メイドたちはその扉を先程の鍵で開けて中へ入っていく。完全に閉まる前に駆け寄り、扉の中を覗いた。

 

扉の向こう側は地下へ続く階段になっており、ここが目的の場所なのは間違いないだろう。妖精メイドたちは壁に用意されていた燭台に火を灯して明かりを作って降りていく。燭台はまだあったが私まで光をともしては気づかれてしまう可能性が高いため、足元に気をつけながら慎重に進むことにした。

 

2階分ほど降りた後に少し広い場所へ出た。廊下のように見えるが面している部屋は1つだけのようだ。妖精メイド達は重厚な扉を前に1~2度深呼吸をすると意を決したようにノックした。

 

 

「フランドール様。お部屋の掃除にまいりました。」

「はーい!どうぞー!」

 

 

フランドール様。たしかにそう言っていた。ということはここがターゲットの私室であることは間違いなさそうだ。妖精メイドが中に入っていく、扉は開け放したりはせず、後ろ手に閉めていってしまった。私は物音を立てないように静かに扉の近くに寄った。

 

中では妖精メイドが掃除を開始しているようで、バケツに水を入れる音、その水に何かを漬ける音、それを床に押し付けてこする音等が聞こえる。音の反響の仕方からして内部はそれほど広くはなく、廊下の長さとほぼ同等の幅と奥行のようだ。そのような部屋で扉を開けようものなら気が付かれる可能性が非常に高いだろう。私は周囲を見回した。

 

廊下は燭台で一定の明るさが保たれており、床は御影石だろうか。壁は赤茶色と白と黒で塗り分けられている。柱なども装飾が施されており、まさに中世ヨーロッパ風というべきものだ。当然突起物も多く、柱は壁からはみ出る形で設置されているため、柱の裏に隠れることは容易に見えた。問題は妖精メイドがこの部屋に入る際にも鍵を使用していたことだ。つまり普段はこの部屋には鍵がかけられている。どうやって侵入するか・・・。

 

あれこれ考えていると、部屋の中の物音が静かになった。中から会話が聞こえる。

 

 

「フランドール様。お掃除は終了しました。」

「はーい!ご苦労さまー!」

「ではこれで・・・ああ、忘れていました。これ、パチュリー様からお預かりしました。クッキーだそうです。」

「わあ!さっき咲夜が持ってくれた分じゃ足りなかったの!ありがとうって伝えておいて!」

「かしこまりました。それでは失礼します。」

 

 

妖精メイドたちが出てきた。柱の陰から一瞬部屋の中が見える。部屋の端に置かれたベッドの上になんとも特徴的な羽を持った金髪の少女が見えた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが、フランドール・スカーレット。目的の人物を発見したわね。よくやったわ。作戦の第一段階は完了よ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

『47、聞こえるかしら?』

「聞こえている。次の作戦は?」

『あなたに渡した装備品の中に小さな金属ケースがあるでしょう?まだ持ってるわよね?』

「作戦が更新されるまで開けるなと言われたこれのことか。」

『そうよ。そのなかには簡単な採血キットが入っているわ。』

「採血キット?」

『そう。採血のやり方自体は訓練施設で習ったわよね?』

「医者に変装するときに必要な知識の一つとして習得した。」

『次の作戦目標を通達するわね。次の作戦目標は「フランドール・スカーレットの血液を採取して帰還せよ。」よ。』

「・・・。」

『どう採取するかは任せるわ。腕に自身があるなら、吸血鬼の中でも特に戦闘力が高いと言われているターゲットとやり合う過程で採取しても良いわ。』

「・・・了解した。」

『やりように寄っては相応の抵抗が予想されるわ。更に彼女はこの幻想郷の中でも1位2位を争う戦闘力の高さを持ち、なおかつ情緒不安定という報告が入っているわ。』

「かなり厄介そうだ。」

『慎重にお願いね。プロジェクト23265には彼女の血液は必要不可欠なのよ。採取する量は多くなくていいわ。採血管1本分、2mlもアレば十分よ。』

「了解。」

 

 

戦闘力についてはブリーフィングで散々情報が提供されている。過去には戦闘力調査の名目で、単独行動中に戦闘ヘリ4機による遠距離攻撃を試みたらしい。しかし、機銃弾一発すらも命中させられず、為す術なく撃墜されたらしい。その後も何度か戦闘力調査が行われ、情報部によると彼女を戦闘不能に陥らせるためには、5発以上の飽和核攻撃が必要だという結論に至ったらしい。

 

核兵器を使わないと倒せないような相手に戦闘を行うのは無謀も良いところだろう。選択肢は必然的に2つに絞られた。

 

一つは麻酔銃だ。聞くところによると、バサラブはこの任務のために研究開発されたと聞かされた。魔物も眠らせられる麻酔薬ならば吸血鬼も眠らせることができよう。さすれば採血も穏便かつ簡単に済ませられる。バサラブ自体も使用は簡単であり、これが一番効率的かつ最善の策に思える。しかし、私はあえてもう一つの策を選択することにした。

 

 

コンコン

「はーい?」

「・・・。」

「・・・あれ?入ってきていいよー?」

「・・・。」

「???」

 

ガチャ 

「んー?誰もいない・・・?気の所為だったのかな・・・?まあいいや。」スッ

パタン

「失礼。お嬢様。」

「うわ!?いつの間に!?」

「申し訳ない。他人に見られる訳にはいかないためこのような無礼な形になった。」

「いつの間に入ってきてたの?あなたはだあれ?」

「君がドアを開けるときにすり抜けた。私は君にある頼みがあってきた者だ。」

「頼み?お願いってこと?なに?」

「君の血液を少しだけ分けてほしいのだ。」

「血液?血ってこと?」

「そうだ。」

「え~・・・なんで?」

「残念ながらそれは言えないんだ。申し訳ない。」

「ふーん・・・まあ別にいいけど・・・そのかわり!」

「そのかわり?」

「私と遊んで!」

「戦闘以外なら。」

「え~・・・。ケチ。」

「君の強さは重々承知しているのでね。」

「じゃあじゃあ、あなたの血を頂戴!」

「私の?」

「私は吸血鬼よ!あなたは今まで見たことのない人種ね。どんな味がするか興味があるわ!」

 

 

私は少し迷った。吸血鬼の吸血方法といえば直接相手の体を噛んで吸血することだ。そして、吸血された人間は自身も吸血鬼になるという。吸血鬼になる事自体はそれほど問題ではないが、吸血鬼になることによって今後の作戦行動に支障が出るような事態になるのは避けたいところだ。

 

「あら。もしかして噛まれたら吸血鬼になっちゃうとか思ってる?大丈夫よ!私は相手を同族にするかどうかを選ぶことができるから。」

「そうなのか?」

「ええ!だからあなたの血を吸ってもあなたは吸血鬼にはしないわ。」

「そうか・・・それならば良いだろう。」

「やった!」

「だが味は保証しかねる。私は血の味の良し悪しはよくわからない。」

「じゃあ私が判定してあげるね!」

 

 

血を吸われる程度で目的が達成できるなら安いものだ。私は袖をまくり、腕を出そうとする。

 

 

「あ、そのままでいいわよ?ここから吸うから!」

 

 

いつの間にか彼女は私の背後に回っていた。何という素早さだ。そのまま首筋に噛みつかれる。驚いた状態の直立不動状態での吸血なので若干態勢が窮屈そうだが、本人は特に問題はないようだ。

 

噛みつかれる瞬間に若干の痛みがあったがすぐに無くなった。少しの間、そのままの態勢で待っていると、十分に味わえたのか口を首筋から離した。

 

 

「うーん・・・65点ってとこね。」

「それは評価としては高いのか?」

「微妙。まずいわけじゃないけど、とりわけ美味しいわけでもないわ。」

「そうか。」

「でも他の人間にはない特殊な味もあったわ!あなた一体何者なの?」

「ただの人間だ。」

 

 

“人造の”や“量産型の”という但書がつくが。

 

 

「ふーん。まあいいや!ありがとう!」

「ではこちらの頼みも聞いてくれるか?」

「いいよ!どうするの?」

 

 

そこからは簡単だった。私は懐から採血キットを取り出し、一般的な採血の要領で彼女の血を取るだけだ。採血針を見た時は流石に若干萎縮していたが、持参していたバサラブを少量彼女の皮膚につけると、その部分だけ感覚がなくなったようだった。この薬品は表面麻酔にも使えるようだ。

 

採血の手順は先程も言ったように訓練施設で一通り学習済みであるため、特に障害もなく滞りなく終了した。採血針を抜いた直後に傷が治ったのはさすが吸血鬼と言ったところだろうか。

 

 

「ありがとう。コレで私の目的は達せられた。」

「どういたしましてー。もう帰っちゃうの?」

「ああ。あまり長居して君のお姉さんに怒られたら嫌だからな。」

「怒るどころじゃないかもしれないね!そっか、じゃあバイバイ!」

「ああ。バイバイ。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『無事血液は採取できたようね。47。吸血鬼に吸血されたのだから一応帰還したら検査を受けてもらうわよ。任務完了。帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

私は彼女に別れを告げると扉を出た。また慎重に階段を登り、閉められていた扉を内側から鍵を解錠し、少しだけ開けて外をうかがう。

 

廊下には誰もいなかった。私はすばやく扉から出て発覚が遅れるように再び施錠した。鍵は古風な見た目どおり簡単な錠前で、ロックピックでどうとでもなった。

 

・・・何かおかしい。館に人の気配がない。元々人がほとんどいない館ではあるが、それ以前に妖精や妖怪の気配、もっと言えば動くものの気配がまるでない。まるで館の住人全員が外へ出払ったかのような。

 

何にしても警備が更に薄くなったのは好都合である。私は手近な窓を開けて外へ出た。門番をどうやり過ごすかを考えながら正門に近づく。・・・門番すらもいない。一体どうしたというのだろうか・・・?ともかく門番がいない今のうちに外へ出た。森のなかに隠れ、しばらく身を潜め周囲の安全を確認した。

 

 

「47。」

「!・・・っと、タバサか。」

「どういうこと?」

「この状況のことか?」

「(コクン)」

「私にもわからない。任務目標を達成したあとから気配が消えた。」

「・・・ともかく脱出ポイントに向かう。」

「それが良いだろう。」

 

 

タバサと合流し、脱出ポイントである人里のセーフハウスを目指し移動を開始した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「あと1リー・・・1km。」

「まだ単位には慣れないか?」

「そうでもない。不思議な緊張感が原因。」

「確かに追手は無いはずだが何故か嫌な予感がする。」

「・・・急ぐ。」

「それが良い。ところでその杖はまだ持ってたんだな?」

「父の形見。そして私の形見でもある。」

「私の形見か。確かにそうだな。」

「戦術的にデメリットが大きいのはわかっている。それでも使いたい。」

「止めはしないが、その杖のせいで任務が失敗になるようなことはないようにするんだな。」

「わかってる。・・・そろそろ人里に入る・・・!」

「どうし・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

「またあったわね。暗殺者さん。」

「あなたが暗殺者・・・ってどっちが?」

「霊夢。どう考えてもでかいほうだろ。そばのちっこいのは護衛って感じがするぜ。」

「お嬢様。ここは私にお任せを。」

「私もいますよ咲夜さん。忘れてません?」

「あら、美鈴いたの?」

「ヒドイ!」

 

 

 

 

「レミリア・スカーレット。博麗霊夢。霧雨魔理沙。十六夜咲夜。紅美鈴。」

「幻想郷の主力級が揃い踏みだ。まずいな。」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「朝食はしっかりと」     +1000 『パン籠を使って正門を通る。』

・「暮らしのリズムを整えよう」 +1000 『メイドを尾行してターゲットを発見する。』

・「知識の苗床」        +1000 『大図書館に入る。』

・「おしゃべり好き」      +5000 『ターゲットと交渉して目的を達成する。』

 






次回は別働隊sideです。


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HITMAN『インバウンド』(別働隊)

『インバウンド』の別働隊です。


『人里に着いたな!今日はいつもとは違う仕事をしてもらうぞ!』

 

『紅魔館ってとこでタバサと47がなんかよく知らんが頑張ってるらしい。そこから出てきた超やばい殺人メイド、十六夜咲夜をこの人里に足止めしておくのがお前たちの今日の任務ってわけだ!』

 

『止め方は何でも良いらしいな。・・・そうだ!俺にいい考えがある!俺の指定した装備を持っていけよ!』

 

『準備は一任・・・いや、俺が用意してやる!大船に乗ったつもりで頑張れよ!』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「それで・・・。」

「・・・。」

 

 

 

「何なのよこの格好は!!!」

 

 

俺と姉さんはものの見事にカラフルな店員の格好をしている。それも少し前、昭和のアイスクリーム屋のような派手さだ。俺は白と水色の縞模様。ねえさんは白地にピンクの水玉模様だ。色合いがグラデーションなどあったものではなく、純粋なピンクや水色なので遠目からでもよく分かるほどに目立っていた。

 

 

「あんのバカAI!こんな格好じゃ隠密もなにもないじゃないの!」

「それで姉さん。これ・・・。」

「あん?えーっと・・・ああ。なんとなく理解したわ・・・。」

 

 

姉さんの方は何をするのかがだいたい予想できたようだ。通信が入る。

 

 

『装備品が全部届いたな!じゃあ説明を開始するぜ!』

「何となく分かるけどどうすればいいの。」 

『見ての通りそれは俺が特注した“アイスクリーム屋の制服”だ!そしてお前らの目の前にある台車は“アイスクリーム移動販売台車”だ!』

「アイスクリーム・・・。」

『お前らはそれを使ってアイスクリームを売るんだ!そしてターゲットのおっかないメイドがきたらそのアイスクリームでメロメロにして足止めするんだ!』

「メロメロって・・・。」

『大丈夫だ!アイスクリームは一番いいやつを持ってきたぞ!なんとハーゲンダッツだ!味もちゃんと用意してるさ!バニラだろ、クッキーアンドクリームにチョコレート・・・。』

 

「そういうことじゃないわよ!!」

『うお!?』

「アイスクリーム売るのは良いわよ?でも目の前で“いかがですか~?”って売って“あら美味しそうね。一つ貰おうかしら?”で終わっちゃうじゃないの!」

『・・・ああ!』

「ああ!じゃないわよ!時間稼ぎにもなりゃしない!相手に消費させるのはたかだかアイス一個分のお金と時間にして5分程度よ!」

「ね、ねえさん。落ち着いて・・・。」

「あーもうどうするのよ!あなたのことだから他に何も用意してないんでしょ!?」

『あー・・・。テヘッ♪』

「・・・アンインストール具申しようかしら・・・。」

 

 

姉さんは不甲斐ないオペレーターAIに完全にブチ切れてる。ここは自分がしっかりしなくては。

 

 

「姉さん。姉さん。」

「・・・なによ。」

「こんな事もあろうかと持ってきたものがあるよ。」

「!!さっすがね!愛すべき弟はどっかのポンコツAIと違ってとっても優秀!大好き!」

「あはは・・・。」

『なんだかめっちゃ苛ついてきたぞ・・・。』

「それで何を持ってきたの?」

「眠らせるパターンも有るかと思って新開発の麻酔薬“バサラブ”を持ってきたよ。もちろん人間用にちゃんと薄めてある。」

「なるほどね。たしかにアレを使って寝てもらえば無力化できそうね!」

「でも問題があって、バサラブを打ち出す発射機を持ってくるのを忘れてしまったんだ。」

「あー・・・まあでも何も手段が無いよりはマシよ。」

「あと重火器も持ち出しが許可されなかったんだ。オペレーターの承認が必要な規則になっているらしくて。」

「まあ最悪戦闘はこの子達でどうにかなるわ。この世界には銃はあんまりないみたいだし。」

『ああそうだ!銃火器なら届けられるぜ!』

「え?」

「本当?」

『ああ!空中投下になっちまうけどな!』

「市街地のど真ん中で輸送機を低空で飛ばせられるわけ無いでしょ!」

「でもいざというときは頼むかもしれない。そのときはよろしく頼む。」

『おう!まかせとけ!ブルーじゃなくシルバーになら届けてやっても良いぜ!』

「なんでよ!」

「姉さんが叱責しすぎるから拗ねちゃったんじゃないかな・・・。」

 

 

結局、最初のアプローチとしてアイスクリーム屋をやることは確定していた。逃亡生活時代にはパーティ用のアイスを腹いっぱい食べたいと願ってたりもしたが、まさかアイスを売る側になるとは思わなかった。

 

ポケモンたちにも協力してもらうことにした。基本的に楽しいことは率先してやる子が多いので、アイスクリーム屋の客引きをやると言ったら、みんな我先に自分から志願していた。マニューラなんかやると言った瞬間に、支援物資の中から自分用の売り子コスチュームを引っ張り出して着替えていた。というかポケモンたち用のコスチュームもちゃんと用意しているあたり、あのAIは意外にマメかもしれない。

 

オーダイルにカートを引っ張ってもらう。こちらも専用のコスチュームに身を包みながら台車を引っ張っている。こころなしか顔が嬉しそうな気がするのは気のせいだろうか。姉さんはというと、最初はかなり渋っていたが今は観念したようにカートに随伴していた。

 

元々人里近くだったのもあって、出発してすぐに市街地になった。カートの屋根の上では姉さんのプクリンが周りに笑顔を振りまきながらアピールしている。街ゆく人々も日本の田舎の風景に突如として現れた極彩色の見慣れない行商人に興味津々といったところだ。

 

そうこうしている間に広場に到着した。広場の動線近くにカートを止め、開店準備を始める。姉さんはやるからにはきちんとしたい性分らしく、アイスクリームの取り扱い方が書かれたマニュアルを読んでいた。俺はオーダイルやマニューラと一緒に幟や簡易カフェテラスを設置した。気温的には少し肌寒い20℃に届くかどうかな気温ではあった。そろそろ春から夏へ移行し始める時期なのでおそらくそこまで問題ではないだろう。

 

開店準備もほぼ完了し、アイスの準備も完了した。しかしここで思わぬ試練が襲いかかってきた。

 

 

「準備完了ね!じゃあシルバー、お願い!」

「・・・え?」

「え?じゃないわよ。呼・び・込・み♪」

「ええ!?俺がやるの?」

「当たり前じゃない。私は売り子。綺麗なお姉さんがアイス売ってるほうが子どもたちとか近寄りやすいでしょ?」

「いや、売る相手はターゲットなんだけど・・・。」

「まだ着てないじゃない。今のうちから慣れておくのよ。ほら早く!」

「うう・・・。」

 

 

正直目立つのは苦手だし、大勢の人間の前で話すのだってどちらかといえば嫌いだ。でも他ならぬ姉さんの頼みだし、第一やらなければターゲットも寄り付かず、本来の目的が達成できない。俺は意を決して叫ぶ。

 

 

「いらっしゃいませ!おいしいアイスクリームはいかがですかー!」

「そうそう!いい調子よ!シルバー!」

「とっても甘いですよー!」

 

 

あとから聞いた話だと、その時の自分は遠目からでもわかるくらいには顔が真っ赤だったらしい。ちらっと横目で見た姉さんは、ニコニコしながらも若干吹き出しそうになってるのが確認できた。

 

掛け声のおかげで街ゆく人の何人かが興味深そうに近寄ってきた。姉さんは手慣れた様子で接客し、アイスを次々と売りさばいていく。値段も良心的に原価ギリギリといったところ。もっとも用意したのは自分たちではないので原価ピッタリで売ったところで問題はないのだけれど。

 

街をゆく子どもたちも集まってきた。物珍しさでどんどん人集りができていく。

 

 

「何だ?この騒ぎは。なんだか楽しそうだな?」

「なにか売ってるみたいだよ。」

「あ、けーね先生!もこうお姉ちゃん!」

「あいすくりーむだって!美味しいよ!」

「ほう?じゃあ私も一つ貰おうかな。」

「じゃあ私も貰おう。」

 

 

やってきたのはターゲットではなく、上白沢慧音と藤原妹紅だった。ターゲットのことを聞き出すチャンスかも知れない。

 

 

「いらっしゃいませ。どうぞご賞味ください。」

「うむ。・・・このクッキーなんとかっていうのにしようかな。」

「じゃあ私はその隣のやつを。」

「ありがとうございます。つかぬ事お伺いしますが、お二人はこの幻想郷のことに詳しいとお伺いしたのですが。」

「うん?まあ詳しいってほどでもないけど色々知ってるよ。」

「でしたら紅魔館という屋敷にいらっしゃる十六夜咲夜という人物に心当たりはないでしょうか?」

「咲夜?彼女なら友人の一人だけど彼女に何かようなのかい?」

「いえ、用というほどではないのですが、私の友人がお世話になったのでその御礼をと。」

「そうか。そういえばさっき里の雑貨屋で見かけたな。そのうちこっちにも来るんじゃないかな。」

「そうですか。ありがとうございます。」

 

 

既に里には入っており、いずれこちらにやってくるようだ。計画を実行に移すときだ。俺は姉さんにそれとなく目配せをした。姉さんもそれだけで把握したようで、カートの裏でいそいそと準備を始めた。

 

 

2人が帰った後も客足はそれなりにあった。しかしやはり少し肌寒いのもあって段々と鈍化してきた。そんな時、広場の端の方からこのまちの雰囲気に似つかわしくない白と青のミニスカメイドがやってきた。まあ似つかわしくないのはこちらもそうだが。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが十六夜咲夜ってやつだな。なんでも時間を止めたりナイフをいっぱい投げてくるらしいぜ。おっかねえおっかねえ。いつの間にやら串刺しってことにならないように気をつけるんだぜ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

来た。そろそろこの極彩色の格好にも慣れてきたので、自然な雰囲気を出すこともできているだろう。俺は思い切って話しかける。

 

 

「あの、すみません。十六夜咲夜さんですか?」

「え?ええ、そうですが。何か?」

「良かった見つけた。私の友人が以前あなたに助けられたらしいのですが覚えていらっしゃいますか?」

「えーっと・・・ごめんなさい、記憶にありませんわ。」

「いえ、大丈夫です。ですがその友人からも頼まれまして。貴方に是非お礼がしたいと。」

「あら、そんな気を使わなくても。」

「そうおっしゃられると思い、あまり重いお返しは失礼だと言うことで。どうでしょう、我々は見て分かる通りアイスクリームを売り歩いているのです。ベンチやテーブルもあるのでここで食べることもできますよ。お代は結構ですのでぜひご賞味ください。」

「そう?ならいただこうかしら。お嬢様にもいくつか買っていって差し上げましょうか。」

「是非。お嬢様もきっとお喜びになると思います。どれになさいますか?」

「いらっしゃいませー!話は聞いてますよ!おすすめはこれですね!」

「ふむ・・・、じゃあ私はバニラを。あとストロベリーとクリスプチップというのと・・・」

 

 

彼女はその後色々な種類を合計6種ほど選んだ。紅魔館に在籍している主要人数分だろう。持ち帰り用とすぐ食べるようを準備するので座って待っていてほしい旨を伝え、準備に入る。

 

彼女が選んだのはバニラアイス。それ以外のアイスを箱に詰めると、取り分けたすぐ食べる用のバニラアイスに気が付かれないように細工を施す。出来上がったものを姉さんはピクシーに席まで運ばせる。かわいいポケモンが席まで運んでくれるのを特徴の一つにしておいたおかげで、いらぬ警戒をされないで済んでいる。

 

俺は引き続き客を呼び込みつつ、横目でターゲットを見る。ベンチの一つに腰掛けていたターゲットはその一つを可愛らしくペロペロなめ始めた。スプーンでもつけたほうが良かっただろうか。

 

アイスが半分ほど無くなったところで彼女の目がとろんとしてきた。眠気が来ているようだ。姉さんがすかさず近寄っていく。

 

 

「どうしました?」

「え・・・ええ、なんだかちょっと眠くなっちゃってね。」

「お疲れですか?何ならちょっとここで休憩されてはいかがです?荷物は見張っておきますよ。」

「うーん・・・まあもう買い物はあらかた済んでるし、最近寝不足気味なのは否定出来ないわね。」

「でしたら是非。私達は大丈夫ですよ。どのくらいで起こしましょうか?」

「じゃあ10分位したら起こしてくれるかしら・・・。」

「了解しました。あ、これをどうぞ。」

「あら毛布・・・用意が・・・いいわ・・・ね・・・。」

「ふふふ、おやすみなさい。」

 

 

彼女はベンチで寝てしまった。10分したら起こしてほしいと言われたが、おそらくそんな短時間では起きないだろう。

 

彼女が食べたアイスクリームには、バサラブを通常使用より更に何倍かに薄めたものが混ぜられている。このくらいの薄さだと即効性が失われ、徐々に眠気を誘うタイプになる。殺さずかつ不自然じゃないように対象を無力化することが可能だ。

 

ひとまず足止め作としては有効だ。その後の客の話からも、彼女は普段紅魔館でだいぶこき使われているらしく、眠っていても疲れているのだろうという認識で一致していた。

 

そのまま彼女は眠り続け、既に3時間ほど経っていた。予定ではそろそろ起きるはずである。アイスクリームもほとんど完売したので片付けを始める。彼女の座るベンチ以外を静かに収納し、まるで広場に元々あったベンチで眠っているかのような状態にする。

 

我々は広場の人の流れが途切れた頃を見計らって、不自然じゃないようにその場を離れた。先程入った通信によると、47の方は目的を達成したようだ。現在は脱出するためにタバサと共にこちらに向かっているらしい。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『よーし任務完了だ。あのメイドはお前たちが広場を離れた後すぐに起きたみたいだぜ?危なかったな!』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「任務完了ね。さあ、さっさとずらかるわよ!」

「OK。セーフハウスに向かおう。」

 

 

俺たちはカートを引きながらセーフハウスへ帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

「遅いわね。47。」

「さっき確認したら、どうやら脱出時に不自然な点が合ったらしい。それで警戒しながら進んでるみたい。」

「不自然なこと?」

「妖怪たちの気配がこつ然と消えたんだって。」

「気配がないのなら逆に楽じゃない?」

「姉さん。こういうときは罠の可能性のほうがでかいよ。47もタバサもそう考えてるみたい。」

「ふうん・・・。こっちから迎えに行ったほうが良いかしら?」

「下手に動くのは得策じゃないけど・・・一応本部に打診して・・・。」

 

ピピピ

 

「噂をすれば通信だ。」ピッ

「こちらシルバー。」

『シルバー!ブルー!やべえぞ!47が戦闘に巻き込まれそうだ!』

「ちょ、ちょっとどういうことよ?!こっちに向かってるんじゃなかったの?!」

『そうなんだが人里に入る直前に接敵したらしい。なんか相手はやべー連中らしいぞ!』

「やべー連中って具体的に誰よ?」

『とにかく応援に向かってくれ。流石に5対2じゃ分が悪い。こっちからも援護するからよ!』

「わかった。姉さん。行こう!」

「まったく、47も偶にはミスするのね!」

「武器は持った、ポケモンたちも全快。よし出撃だ!」

ガラッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと。残念だけどここは通さないよ。」

「はい!通しません!」

「早苗。あまり前に出過ぎないでね。」

「アリス、お前もだ。ここは私に任せて後衛に回ってくれ。」

「神奈子様・・・わかりました。」

「おや?昼間の。幻想郷に危険を持ち込む輩と聞いていたんだが、アイスクリーム屋さんのことだったとは。」

「どうも、アイスクリーム美味しかったよ。でも私にはちょっと冷たかったな。」

「慧音、妹紅。会ったことがあるのか?」

「ああ、昼間にちょっとな。さて、どうする?侵入者達さんよ。」

 

 

 

「八坂神奈子、東風谷早苗、アリス・マーガトロイド、上白沢慧音、藤原妹紅・・・。」

「こっちにも追手が着てたってわけね・・・。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「ちびっこの味方」 +1000 『アイスクリーム屋に変装する。』

・「苦手克服」    +1000 『シルバーが呼び込みを担当する。』

・「甘い微睡み」   +3000 『アイスクリームを使ってターゲットを眠らせる。』

・「三ツ星の名店」  +3000 『アイスクリームを売り切る。』

 

 

 




2019/06/17追記
会話メインの回は総じて個人個人の特徴を出して特に注釈なく判別できるように心がけています。ですが原作慧音と妹紅は書き分けられてるかどうか微妙ですね・・・w



次回、対処開始。


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HITMAN『コンタクト』

『状況、イエローアラート。』

 

『敵性勢力戦力査定開始・・・、査定結果、非常に危険。固有能力・パワー・スピード、3項目で状況赤。会話能力あり。交渉による打開が妥当と判断。敵性勢力精神調査、緑。』

 

『・・・ICA上級委員会から勅令。“交渉結果で当初の目的を覆すことは許可しない。”勅令を戦術AIデータベースに最優先項目として保存。』

 

『エージェント・タバサ。任務アップデート。作戦目標、“ICAによる状況打開のための攻撃を準備中に付き、現状維持に努めよ。可能な限り戦闘は避けよ。”指令者、ICA上級委員会役員No.1。』

 

『準備は一任されています。作戦を開始してください。』 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「さて、まずはどうしてここにいるのかを教えてもらえるかしら?」

 

 

現在、私と47は幻想郷の重鎮たちに囲まれている。いつの間にか銀髪メイド服の女性が背後にまわっていた。逃走はできそうにない。

 

こちらが絶対優位と悟った彼女たちは、かなり悠長に話を聞こうとしている。すぐに争うつもりがないのは好都合だ。

 

47の方はというと、一点を見つめたまま思案顔になっている。もしかしたら個人的にオペレーターと体内通信で話をしているのかもしれない。

 

 

「ちょっと!聞いてるの!なんとか言いなさいよ!」

「霊夢。そんな喧嘩腰にやらんでもいいだろ?」

 

 

何も言わない47にしびれが切れかかっている。そういえば幻想郷の管理者たる博麗霊夢はお淑やかとは程遠い、喧嘩っ早い人物という情報があったことを思い出す。このままでは戦闘に突入してしまう。とりあえず反応だけしようと何かを言いかけたが、47の口が動くほうが早かった。

 

 

「私達に敵対の意志はない。」

「質問の答になってないわね。」

「ここにいる理由は任務だ。」

「じゃあその任務とやらが何かを教えてもらえるかしら?」

「詳細は教えられない。教えられるのは“誰も殺してはいない”ということだ。」

「殺人を犯してないから無罪放免って訳にはいかないのよねえ。」

「レミリア。こいつの運命とか見れないのか?それである程度任務とやらがわかったりしないのか?」

「無理ね。前回うちに来た時も見る機会があったのだけれど、横の小娘ならともかく、彼の運命は真っ黒に塗りつぶされてるのよ。」

「はあ?どういうことだそれ?」

「真っ黒に塗りつぶされている。そのままの意味よ。おそらく“無”。何もないから見る物自体がないということかしらね。」

「運命がない?そんなことあるの?」

 

 

なにやら47の内情を探ろうといろいろ試行錯誤しているように見える。この場合の私の立場は・・・あのメイドと華人服の女性に対処することだ。私は彼女ら二人に向かって臨戦態勢を取る。すると向こうも気がついたのかそれに対応するように臨戦態勢を取った。

 

 

「タバサ。やめておけ。十六夜咲夜とはまともに戦闘することは難しいだろう。」

「・・・。」

「あら、お褒めに預かり光栄ですわ。」

「紅美鈴の方もかなり武術に長けていると見える。油断すると一瞬だぞ。」

「そこまでではないんですけど・・・。えへへ・・・。」

「レミリア、なんかお前の部下が褒められてるぞ?」

「そ、そう・・・。」

「レミリア、嬉しそうね?」

「そ、そんなわけ無いでしょ!」

 

 

一瞬和やかになりかけるが、すぐにレミリア・スカーレットが本題に戻した。

 

 

「こほん。本題に戻るわよ。貴方達、この幻想郷でいろいろやらかしてきたわよね。いろいろな方面から話は聞いてるわよ。」

「・・・。」

「1回目は人里で1人、2回目は妖怪の山で天狗を。3回目はうちの館でメイドを。そしてついこの間、人里で2人。さて今回は誰を殺しに来たのかしら?」

「先程も言ったが今回は誰も殺してはいない。」

「信じられると思う?」

「流石に前科4回は信憑性なさすぎるぜ。」

「(ここで魔理沙は4回どころじゃないとか言ったら怒られるんだろうなあ・・・。)」

「洗いざらい内容を話してもらわないと帰す訳にはいかないわね!」

「・・・。」

「内容を知った上で、また幻想郷のバランスを崩そうとしていることがわかったら・・・残念だけれど。」

「ここを守る巫女としても見過ごす訳にはいかないわね。」

「一応私も住人だからな。居場所が壊されるのを黙ってみてるわけには行かないぜ。」

「・・・。」

 

 

47は思案顔だ。おそらく任務内容を話して良いものか本部と相談しているのだろうか。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『全体通信です。任務アップデート。ICA上級委員会より通達。戦略兵器“ロキ”の使用が許可されました。対重魔力障壁弾頭、装填開始。発射シーケンス準備開始。安全制御プロトコル1から8まで解除完了。目標地点を設定してください。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ついにあの戦略兵器の使用許可が降りた。しかしどこに使う?第一目標としては目の前の敵性勢力に対してだろうが、あまりにも近すぎる。この距離で相手に有効なダメージを与えられる一撃を放ったとすれば、それはすなわちコチラにとっても致命的なダメージとなる。なおかつここは人里の入口付近だ。ここに撃てば間違いなく村は跡形もなく消滅してしまう。民間人への被害が大きすぎる。どうする・・・。

 

 

「タバサ。私に任せろ。」

「・・・?」

 

 

47には何か策があるらしい。しかし、その顔は今までに見たことのない表情をしている。それは、苦虫を噛み潰したとも言える表情で、端的にいうなら苦悩と葛藤という表情だった。47があのような表情をするのは非常に珍しいことだと思った。

 

47は懐から端末を取り出すと、何かを入力し始めた。ブリーフィングで47にだけ持たされていた戦略兵器の要請端末だ。発射する気なのだろうか?

 

 

「ちょっと、何やってるのよ!無視するってんならこっちもそろそろ限界なんだけど?」

「こうなりゃ一思いに一発ぶちかましてふっとばしてから聞くってのはどうだ?」

 

 

相手方が物騒なことを言い始めた。

 

 

「質問には答える。1分ほど待ってほしい。本部に確認する。」

「・・・いいわ、待ってあげる。」

「レミリア?」

「王は余裕を持って相手をするものよ。」

「それただの慢心て言うんじゃ・・・。」

「なにか言ったかしら?美鈴?」

「いえ何も!」

 

 

47を見ると、先程の苦悩のような表情はもう消えていた。今はもういつもの無表情に戻っていた。

 

 

「本部の許可が降りた。任務内容を話そう。」

「よろしく頼むわね。」

「今回の任務は紅魔館の地下に居るフランドール・スカーレットに関係する任務だった。」

「フランに?」

「!くっ!」

「ちょっと、あの妹様を暗殺しに着たってわけ?」

「オイオイ、あんなの暗殺なんかできるのかよ?」

「お嬢様!」

「まあ待ちなさい。私の妹がこんなのに安々と暗殺されると思ってるの?」

「・・・まあそれは・・・。」

「そのとおり。私は事前情報で彼女が強大な戦闘力を有していることを知っている。また本部も、私個人の能力では太刀打ち出来ないことも把握している。」

「だったら何を・・・。」

「目的はフランドール・スカーレットの血液だ。」

「血液?」

「血液を採取し、それを本部に持ち帰ること。それが目的だった。」

「へ?それだけ?」

「それだけだ。確認してもらえればわかると思うが、本人にちゃんと協力を仰ぎ、了承を得た上で血液を採取した。」

「咲夜。」

「はい、お嬢様。」

 

 

その瞬間、十六夜咲夜の姿がかき消えた。周りを見ても姿が見えないことからおそらく確認を取りに行ったのだろう。

 

 

「でもなんでまた血液なんか・・・。あんた達吸血鬼だったの?」

「そこは機密事項だ。」

「機密事項ねえ・・・。」

「私の妹の血を何に使うかが言えないと?」

「そりゃあちょっとアレだよなあ。」

「・・・。」

 

「戻りました。」

「うむ。」

「フランドール様に確認したところ、確かに採血を要請されそれに協力したと・・・。」

「・・・。」

「言ってることは間違ってなかったわけだ。」

「で、どうするのよ?レミリアお嬢様としては。妹の血が何かよくわからない連中に持ってかれるってのは?」

「・・・。」

「しかも使いみちは話せないときたぞ。魔法使い的には最強クラスの吸血鬼の血っていうのはだいぶ強力な魔法の触媒になるんだがな?」

「・・・。」

「レミリア?」

 

 

レミリア・スカーレットは何やら深く思案している。もう一度運命を見ようとしているのか、それとも今後の行動指針を決めているのか。周りの博麗霊夢と霧雨魔理沙がぐるぐる回りながら返答を待っている。彼女は小一時間思案した後に顔をゆっくりと上げて結論を出した。

 

 

「もう一度聞くわ。使い道は教えてくださらないのかしら?」

「・・・申し訳ないが。」

「そう・・・。ならやはり通す訳にはいかないわね。」

「・・・。」

「私の妹の血はそこらの人間の血と同列ではない。崇高なものよ。それを無断で持ち出すだけならいざしらず、目的も教えないと言うなら話し合いの余地はもうないと見ていいわね。」

「ふうん・・・。」

「お?交渉は決裂か?」

「致し方ないわ。実力行使で、聞き出すしか無いわね!」

 

 

その言葉とともに緩んでいた全員が再び戦闘態勢に入った。47を除いて。

 

 

「そうか。残念だ。それならばこちらも強硬手段に出ざる負えない。」

「いいわよ。言っておくけど負ける気はサラサラ無いわ。」

「はあ・・・結局こうなるのね・・・。ちゃっちゃと終わらせるわよ!」

「こっちのほうが私としてはわかりやすくて助かるぜ!先陣は任せろ!」

 

 

まずい。完全に戦闘態勢だ。47は呑気に端末を弄っている。まずはとりあえず魔法障壁を展開しなければ。私が詠唱を開始しようとしたその時だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『座標設定が完了しました。発射シーケンス開始。弾頭:対重魔法障壁弾頭。炸薬タイプ:なし、通常モード。安全制御プロトコル、9から16まで解除完了。全安全装置解除完了。カウントダウン開始、発射まで10,9,8,7・・・』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

まさか・・・、47?もしかして・・・。

 

 

「こうなって非常に残念だ。タバサ。」

「・・・?」

「レビテーションだ。」

「!」

 

 

 

 

「!!レミリア!」

「!」

「おいおい、何だあれ!」

「!?お嬢様!」

「咲夜、美鈴、防御態勢を取りなさい!」

 

 

ついに発射された。軌道上から放たれた弾頭はソニックブームの轟音を響かせながら町の上空を通過した。そして背後の森のなかに飛んでいき、そして

 

 

ボォーン!

 

 

だいぶ後方に着弾した。着弾の少し前に空が一瞬光り、次の瞬間激しい揺れが大地を襲った。かなり激しい揺れは、普段地震に見舞われることの少ない幻想郷の木造家屋の屋根瓦を落下させるだけの威力はあったようだ。

47は何故あんな後方に着弾させたのだろうか?しかし、それを考える間もなく森の中から何かがきた。

 

 

ドドドドド

 

「!まずい!」

「おいおいおい!何だあの水は!」

「くっ!」

 

 

その声と共に彼女たちは一斉に空に飛び立った。私も47を抱え、レビテーションで空に上る。その直後、森の中から濁流が現れた。

 

田畑を押し流しながら濁流は村に殺到する。村では既に避難が開始されているようだが、間に合いそうもない。村の入口に到達した濁流はそのまま町の入口にあった物見櫓をなぎ倒し、家屋も押し流しながら村の中へ進んでいった。

 

このままでは村が全て押し流される、そう思えた次の瞬間、中央の広場から村全体を覆うように透明なドームが現れた。濁流はドームによってせき止められた。幸いだったのはこの濁流が津波のように継続して居座るものではなく、大きな波の一つのようにすぐに引いたことだった。飛んでいた彼女たちが私の近くに寄ってきた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『着弾。効果確認中。次弾装填開始。装填数、8。内1発を予備弾頭として待機。発射シーケンス準備開始。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「くっ・・・。何をした!」

「言ったはずだ。強硬手段に出ざる負えないと。」

「一体これはどういうことだよ!」

 

 

次々に47を問い詰める。今にも掴みかかろうというところだ。

 

 

「何のことはない。紅魔館の近くに大きな湖があっただろう。」

「霧の湖のこと?」

「そこに我々の戦略兵器を着弾させただけだ。」

「じゃあこの濁流は湖の水!?」

「そういうことだ。」

 

 

47はロキの弾頭を湖に着弾させたようだ。ただでさえ強大な威力の弾頭を、かなりの広さを誇るあの湖に着弾させれば、当然その威力で水は四方に押し出される。湖から里までは田畑の用水として川が流れており、あの濁流はそれをたどってここまでたどり着いたのだ。47は唖然とする彼女たちに更に説明を行う。

 

 

「湖に着弾する直前に空が光ったのが見えたか?」

「え、ええ・・・まさか!」

「パチュリー・ノーレッジは聡明だ。こうなることを想定して湖にも対魔対物用の魔法障壁を複数展開していたようだが、我々の弾頭はそれらをたやすく貫徹したようだ。」

「まさか!パチェはそういう兵器があるって言って対策をしてたはず!」

「ちょっとレミリア!どういうことよ!」

「パチェが言ってたのよ。あの兵器には弱点があるって。」

「弱点?」

「対魔法障壁用に弾頭を強化していたけど、対物理障壁に対する対策が疎かになっていたって。あえて指摘せずに保険として残しておいた弱点だったって言ってたのに!」

「我々の技術部を甘く見すぎているな。その弱点についてはパチュリー女史が帰還した後に改良が追加されたそうだ。なんでも深海棲艦の弾薬とオリハルコンとかいう物質を融合させたとか言っていたな。」

「くっ・・・。」

 

 

ICAは彼女たちが取りうる対策もすべて想定していたようだ。相変わらず底が知れない組織。47は続けて冷酷に言い放つ。

 

 

「我々の攻撃は君たちは防ぐことはできない。理解してくれたと思う。我々の戦略兵器は更に複数の弾頭を装填済みであり、いつでも発射できる体制にある。目標は、“人里”“紅魔館”“永遠亭”“妖怪の山”“魔法の森”“博麗神社”“無縁塚”だ。」

「!!」

「これら全てに同時にあの威力の弾頭が降り注ぐことになる。君たちに対処できるか?」

「・・・この!」

「よせ!霊夢!」

「・・・。」

「判断は任せる。だが我々の行動を邪魔すれば、攻撃が実行される。邪魔をしなければこのまま穏便にことが済まされることになる。」

「ちっ・・・。」

「くっ・・・手出しができなくなったってわけか・・・。」

 

 

地上ではすでに水が引ききっており、雨に振られたかのように地面が濡れて所々に水たまりを作るだけになっていた。私は47の目配せに応じて地上に降りた。彼女たちも追随するように降り立つがもうこちらの行動を阻害しようとはしてこない。表情は非常に増悪に満ちていたが。

 

 

「おーい!霊夢!今のは一体・・・おまえは!」

「神奈子様!待ってください・・・?お知り合いですか?」

「おい、霊夢、魔理沙。どういうことだ。足止めはどうなった?」

「・・・できなくなったわ。」

「ああ・・・無理になったぜ。」

「何!?」

「取り込み中の所悪いが私達は帰らせてもらおう。村を守ったあのドームを作ったのは?」

「あ、私です・・・。」

「ありがとう。感謝する。余計な被害が減らせた。」

「は、はい。・・・?」

「では失礼する。」

「お、おい!待て!」

「八坂神奈子。無駄よ。」

「レミリア・スカーレット、御前ほどの実力者が何故見過ごす!?」

「幻想郷が。人質に取られてるのよ。」

 

 

後ろでは彼女たちが話し合っているのが見えるが、47と私は気にせず街の中心部へ向かった。

 

中央の広場でブルーとシルバーと合流し、そのままセーフハウスから元の世界へ帰還した。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

「こあ!状況は!」

「館の一部区画が浸水してます!図書館は守れていますが、地震の影響で本がぐちゃぐちゃです!」

「建物が無事なら何でも良いわ。浸水した区画の状況を!」

「地下室への浸水は防げていますが、東側の客間区画が軒並み浸水して家具が流されかけてます!」

「くっ、急ごしらえの障壁じゃこれが限界ってわけね・・・。」

「!パチュリー様!水が引いていきます!」

「・・・ふう、なんとか山場は越えたってわけね。しかし・・・。」

「パチュリー様、さっきのはやはり言われていた・・・。」

「ええ、ICAの対地攻撃衛星の砲撃ね。弱点を残しておいたはずなのにいつの間にか対策されてる・・・。」

「ということは・・・。」

「今の砲撃は湖に着弾したからこの程度で済んだわ。これが館に直撃すれば流石に防ぎきれない。」

「直撃したらどうなっちゃうんですか?!」

「十中八九跡形も無く消し飛ぶわね。地下室も、図書館も、私達も。」

「そんな・・・。」

「グズグズしていられないわ。妹様を呼んできて。妹様の能力なら対抗できるかもしれない。」

「わかりました!」

「ふう・・・あら?」

 

「・・・た~すけて~!」

 

「あらら、あんなところに人魚が・・・。全く派手にやってくれるわね・・・。」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「カウントダウン」 +1000 『発射までの時間を交渉で稼ぐ。』

・「空からの死」   +3000 『ロキを発射し、着弾させる。』

・「自主規制の根拠」 +1000 『ロキの砲撃により家屋を2件以上破壊する。』

・「幻想郷危機」   +5000 『主要メンバーと戦闘をせずに帰還する。』

 

 

 




次回は暗殺も任務もないかもしれません。



次回は別働隊sideです。


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HITMAN『コンタクト』(別働隊)

『まずいぜ!黄色いランプが光ってる!なんだこれ?』

 

『47のほうも結構まずい状況らしいが、こっちもこっちでやべえぞ。ともかく、今上のお偉いさん方がなんか準備してるらしいから準備ができるまで持ちこたえるんだ!』

 

『可能な限り戦闘は避けろって話だ。もっとも目の前の連中相手だとやりあってどうこうなるようなもんじゃなさそうだけどな。』

 

『ほんとにやばくなったら逃げるんだぜ!命あっての物種だぜ。こっちに帰還する方法はいくらでもあるんだからな。』

 

『今回ばかりは準備は一任するしか無いようだ。頼んだぜ!生きて帰ってこいよ!』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

さあて、どうしたものかしらね。私達は今、セーフハウスの眼の前の通りで睨み合ってる状況。彼女たちの向こうに47が居て、彼女たちがそこへ行く通り道を通せんぼしてる。情報では空を飛ぶくらいはたやすいらしいから、ぷりり達に空を飛んでもらっても速度で追いつかれる可能性が高い。まったく。足止めしに来た私達が足止めを食らうとはね。

 

 

「さあ、お二人とも。観念してください!神奈子様には敵いませんよ!」

「おとなしくしてくれれば悪いようにはしない。最も、そちらの言う任務的には失敗になるだろうが。」

「私としては話し合いで解決したいと思っているのだが。」

「慧音の言う通り、話し合いで解決できるなら越したことはないけど、いざとなったら・・・。」

 

「どうする、姉さん。」

「どうするもこうするもねえ・・・。」

 

 

正直私は話し合いというのはあまり得意じゃない。相手を話術で騙すことに関しては一家言あるけれど、相手の要求とこちらの要求を照らし合わせて妥協点を探る交渉事というのはあまり得意な方じゃない。

 

私は耳打ちでシルバーに作戦を伝える。

 

 

「強行突破するわよ。」

「えっ!でも相手の戦力はだいぶ高いよ。」

「シルバーなんとか10秒でいいから時間を稼いで。その間にぷりりの“うたう”で眠らせてみる。」

「・・・わかった。合図は頼むよ。」

「了解。」

 

「何を相談してるんですか?!抵抗は無意味ですよ!あなた達は完全に包囲されています!」

「早苗。それフラグだからやめなさい。」

 

 

「せーのっ!今!」

「出てこい!オーダイル!マニューラ!」

「出てきて!ぷりり!」

 

 

オーダイル、マニューラが時間を稼いで、その隙にぷりりのうたうで眠らせれば・・・。でも効かなかったらどうしようかしら・・・そんときはそんときね!

 

でも事態は私達の予想の斜め上を行った。私達がポケモンを出して指示を飛ばそうと再び口を開こうとしたその時さらなる大声でそれが遮られた。

 

 

 

 

「あーーーーーーーーーーー!!!!」

 

「!?」

「えっ!?なに!?」

 

 

 

 

「ポケモンだーーーーーーーーーーーーー!!!」

「へ?」

「???」

 

 

 

「え・・・東風谷殿?」

「ちょ、どうした青巫女。」

 

「あー・・・。早苗、ポケモン大好きだったものねえ・・・。」

 

 

目にも留まらぬ速さで東風谷早苗が近寄ってきた。そしてオーダイル、マニューラ、ぷりりの周囲を回りながらペタペタ触りつつ観察している。

私とシルバーはもとより、相手のその他の面子ですら呆気にとられている。八坂神奈子だけはやれやれとため息を付いていた。東風谷早苗はそのうち私達に詰め寄ってきた。

 

 

「ねえ!」

「は、はい?」

「他には!」

「へっ?」

「他には持ってないの!?ポケモン!」

「え、ええ、あるけど・・・。」

「みせて!お願い!」

「ね、姉さん?これは・・・。」

「い、今は従ってみましょうか。」

 

 

私達はその圧倒的な熱量に押され、ひとまず言うことを聞くことにした。

 

 

「でてきて、カメちゃん。」ガメー

「きゃー!カメックス!おっきいー!」

「出てこい。ギャラドス。」

「ギャラドスだー!やっぱりおっきい!!ねえ!乗って良い?乗って良い?」

「あ、ああ・・・。」

「ありがとー!」

 

 

もう子供のようにはしゃいでいる。ポケモンたちもだいぶ困惑してる。モンスターボールの中からでも外の様子はある程度わかるので、戦闘に繰り出されると思って出てきた矢先にこれでは困惑するのも無理ないわよね・・・。

 

そのまま小一時間、私達の手持ちと戯れ、ひとしきり楽しんだ東風谷早苗は、呆然とそれを見ていた他の面子にもポケモンを紹介して回り始め、ポケモンがどんな存在なのか、ポケモンの魅力や特徴などを紹介して回っていた。

 

終いには所謂御三家ポケモンを持っているということで主要人物ではないかと疑われ、よく顔を確認された後に、「もしかしてシルバーさんとブルーさんですか!?」ときたもんだ。私達のことも知ってるのね・・・。

 

私達は流石にポケモンなしでは戦力のせの字にもならないので置いていくわけにも行かず、彼女がポケモンたちを離してくれない限りここを動けないという状況になっていた。見事に足止め食らってるわね・・・。

 

 

「でね!このふわふわ加減!夢にまで見た感覚!私感動しっぱなしで・・・。」

「早苗。早苗。」

「あ、神奈子様も触りたいですか?どうぞどうぞ存分にもふもふしちゃって・・・。」

「ちがあう!正気に戻って冷静になって!あっち側も困惑してるじゃないか!」

「あ・・・。」

 

「あ、ははは・・・。」

「いや、まあ気に入ってくれたんならいいんだけどね・・・。」

 

「も、申し訳ありません!!私としたことが夢にまで見たポケモンに直に触れると思ってなくてテンション振り切っちゃって・・・。」

「あー、いいかい?東風谷殿、そのポケモンとはそんなに珍しいものなのかい?」

「珍しいと言うか私の居た外の世界ではポケモンも彼らもゲームの中のキャラクターなんです。地元では私のメガニウムは結構有名だったんですよ。そんなポケモンに直に会えるなんて!やはり幻想郷では常識にとらわれてはいけないのですね!」

「そ、そうなのか。じゃあ東風谷殿。同じポケモンを慕っている好で彼らと交渉してきてはくれないだろうか。」

「あ、そうでした。そっちが本題でしたね。」

「忘れてたのか・・・。」

「まあ、私もあのポケモンとかいう生物には興味あるけどね。ことが済んだら調べさせてもらっていいわよね?」

「アリスまで・・・。」

 

 

やっと話が本題に移りそうだ。交渉は苦手だけれど、同じポケモンを知ってる身として話が通じるかもしれない。いざ交渉しようとしたその時通信が入った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『全体通信です。任務アップデート。ICA上級委員会より通達。戦略兵器“ロキ”の使用が許可されました。対重魔力障壁弾頭、装填開始。発射シーケンス準備開始。安全制御プロトコル1から8まで解除完了。目標地点を設定してください。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

げ、アノ兵器使う気なの?ということはあっちはそれだけ切羽詰まってるってことかしら・・・。急がないと・・・!

 

隣りにいたシルバーもその通信を聞いて不安げな表情をしている。47が接敵したのは村の入口付近。そこを中心にしたとしても村は壊滅する可能性が高い。ということはその村の中にいる私達も無事では済まない可能性が高いということ。早くしないと私達も巻き添えってこと!?

 

さすがに47が私達の存在すら無視して村にアレを打ち込むとは思えないけれど、いざとなったらそれすら躊躇わずに撃ちそうというのもある。わたしは交渉を急ぐことにした。

 

 

「早苗さん。悪いんだけれどかなり時間がないみたいなのよね。単刀直入に言うわよ。そっちの要求はなに?」

「あ、はい。私達としては貴方たちの行っていることを詳細に教えてほしいのです。あなた達のやっていることは幻想郷のパワーバランスを大きく揺らがせています。このままでは幻想郷は遠からず崩壊してしまう。だからあなた達にそのことを伝え、任務が不可避なものなら影響が出にくいように工夫する手伝いをして、根本的に揺るがすことだったら、残念ですけど強制的にでも止めさせて頂く形に・・・。」

「なるほどね。私達2人はもう2人の任務遂行を手助けするためにここに居るわ。具体的には十六夜咲夜の足止めね。」

「なるほど・・・だから十六夜殿は広場で眠っていたのか・・・。時間も時間だったのでさきほど起こしたが。」

「あら、起こしちゃったの?まあ時間的に任務は完了してたから良いけれど。」

「じゃあ咲夜さんの足止めが目的なら、もう目的は達成されているということですか?」

「そのはずだったんだけどね。もう2人のほうが今現在進行系でピンチみたいなのよね。それを救出に向かおうと外に出たところであなた達に鉢合わせたってわけ。」

「君たちは彼らを救出することの意味がわかっているのか?」

「同僚のピンチに駆けつけるのに理由がいるの?」

「・・・まあそうか。」

「・・・神奈子様?」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『座標設定が完了しました。発射シーケンス開始。弾頭:対重魔法障壁弾頭。炸薬タイプ:なし、通常モード。安全制御プロトコル、9から16まで解除完了。全安全装置解除完了。カウントダウン開始、発射まで10,9,8,7・・・』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

げ!マジでぶっ放しちゃったの?!私達はすばやくドンカラスとぷりり以外のポケモンをボールに戻した。

 

 

「あ、あの・・・?」

「ごめんなさいね。東風谷早苗さん。時間切れみたい。」

 

 

その時、空を劈く轟音とともに村の上空を飛翔体、おそらくロキの弾頭が通過していった。私とシルバーはドンカラスとぷりりで浮かび上がる。

 

その動きに呼応するように上白沢慧音と藤原妹紅以外の3人も同じように上がってきた。弾頭は村を越えて森の方へ飛んでいき、そしてその奥に見えた湖に着弾した。

 

とてつもない轟音と共にかなりの地揺れが発生して村の家々が皆一様に何かしらの損害を受けていた。驚いた住人たちが次々と外へ出てくる。

 

 

「なんだ!何が起こったんだ!」

「今の揺れは・・・!慧音!アレ!」

「!?」

 

 

上白沢慧音と藤原妹紅もたまらず上にがってきた。その時、湖の端の森が大量の水に押し流されるのが見えた。かなりの速度で、ここまで到達するのも時間の問題でしょうね。

 

私達は空を飛んでいればいいし、セーフハウスが流されたとしても転送地点を別の場所に再設定すればいいだけだから良いけど、村は・・・。

 

私もシルバーも村が濁流に飲み込まれることを悟り、なんとかできないか思案したものの、為す術がないことを理解するのがやっとだった。

 

 

「早苗!」

「!はいっ!」

 

 

八坂神奈子が東風谷早苗になにか合図を送った。もしかして彼女ならなんとかできるのだろうか?既に村の入口付近まで濁流は接近しており、物見櫓が流されるのが見えた。

 

 

「ふ・・・はあっ!!」

 

 

掛け声一つかけると彼女を中心に透明なドームが急速に広がっていった。村の家屋を飲み込もうとしていた濁流がその不思議なドームによって防がれる。ドームは村の大半を覆う形になり、濁流はドームを避けるように流れていった。少しして、濁流が収まり、あたりが水浸しになった以外は家屋の倒壊が2件ほどで済んだ。

 

その光景に感心していると、八坂神奈子はすごいスピードで濁流が来た方向の村の入り口へすっ飛んでいった。東風谷早苗は慌ててそれを追いかけていく。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『おう、お前ら無事か?危ないところだったな。47の方は交渉がまとまったようだぜ。まあ抑止力を誇示するために一発ぶっ放したらしいな。村のすっごい遠くにある・・・なんつったか、桐の湖?とか言うところに落としたみたいだ。今見たら湖の水が3分の1くらいになっちまってるな。相変わらずすげえ威力だぜ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私とシルバーはとりあえず地面に戻った。戻る最中に本部から通信が入って、事の顛末が伝えられた。降り立つやいなや残っていた3人から詰め寄られた。

 

 

「ちょっとちょっと、今のは何よ?!」

「私達の本部が使った戦略兵器よ。」

「戦略兵器だと?!」

「詳細は聞いてないけれど、おそらく私達の仲間はこの世界を人質にとったわね。あの兵器がこの村に直接落ちてきていたらどうなってたと思う?」

「さっき、空から着弾の瞬間を見てたけど、魔法障壁が貫通されたような感じだったわね。」

「アリス殿、わかるのか?」

「ええ。私達魔法使いにしか多分わからないと思うけどね。かなり強力な障壁が貼ってあったみたいだけど・・・。」

「ということは向こうにいる魔理沙もわかったのか。」

「いやあ、あの子はどうかしら。あの子結構いい加減だから・・・。」

「じゃあ防御は不可能ってことじゃないか。そんなものがここに落ちたら・・・。」

「間違いなく、村は跡形も無く消し飛ぶわね。」

「そんな・・・。」

 

 

そんな会話をしていると道の先から2人の人影が歩いてくるのが見えた。大柄なスーツの男性と小柄なマントを羽織った少女。間違いない、47とタバサね。

 

 

「姉さん。帰ってきたみたいだ。俺たちも帰ろう。」

「!」

「そうね。あの二人が帰ってきたってことはそろそろ帰らなくちゃ。」

「ま、まて。最後にひとつだけ聞きたい。」

「あら?なあに?」

「答えられることなら。」

「君たちは・・・何者なんだ?」

 

 

私とシルバーは互いに顔を見合わせて、こんなシーン映画にありそうだなと思いつつ言った。

 

 

「私達は、ICAよ。」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~1日後~

 

 

 

『フランドール・スカーレットの血液は予定通り技術部に回されました。』

「うむ。ご苦労だった。あとは我々だけで完結できそうだな。」

『それに伴い、今後の予定について簡単に流れをご説明します。』

「よろしくたのむ。」

『現在、フランドール・スカーレットの血液はDNA解析に掛けられています。それが完了次第、ブルーとシルバーがルーマニアの廃病院から入手してきた技術を使って素体の生成に入ります。』

「ふむ。素体の生成にはどのくらいかかる予定かね?」

『1ヶ月ほどです。』

「やはりそれなりに掛かるか。」

『その後、素体が正常なことが確認できましたら、カテゴリ・ハナダとカテゴリ・フォルムーラをあわせて再度素体を生成して経過を観察します。順調に行けばこちらも1ヶ月ほどで完了できます。』

「取扱には細心の注意を払うように。その辺は抜かり無いな?」

『問題ありません。これらの研究はすべて別の世界、ワールド13423で行われます。』

「それならばいい。その後は?」

『素体が完成しましたら量産体制に入ります。この工程もその世界で継続して行われます。それと同時に実戦試験も行います。』

「実戦試験か。相手は?」

『その世界での主要人物になってしまいますが、“艦娘”達が相手になってくれるでしょう。』

「そうか。たしかワールド13423は通常の軍隊や深海棲艦とかいう生命体も居たはずだな。それらとも戦闘試験を繰り返し実施したまえ。」

『わかっています。既に準備は始めています。』

「うむ。さすがはバーンウッドくん。手際がいいな。」

『ありがとうございます。』

「では、プロジェクト23265もいよいよ根幹部分に取り掛かることになる。最新の注意をはらいつつ、完成させてくれ。」

『了解しました。』

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

 

・「メガニウムのさなちゃん」 +1000 『東風谷早苗にポケモンを見せる。』

・「バランサー」       +3000 『幻想郷主要人物から目的を聞き出す。』

・「34丁目のサナエ」     +5000 『東風谷早苗の奇跡を目撃する。』

・「戦神を携えし者たち」   +1000 『主要人物に自分たちの所属を明かす。』

 

 




2019/06/17追記

最初のウィートリー君の出だしはEDF5からです。(わかった人いるのか・・・?)


次回、プロジェクト23265完成。


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HITMAN『アンサー』

今回は任務ではありません。


 

 

 

 

「あら?47、どこか行くの?」

「少し外の空気を吸ってくる。」

「あら珍しい。風邪引かないようにね。ここはニューヨークとは違うわよ。」

「ああ。そうだ、シルバーが探していたぞ。ポケモンバトルの相手をしてほしいそうだ。」

「またあ?昨日もやったじゃないの・・・。まあいいわ。ありがと、行ってくるわ。」

 

 

ここはICAの訓練施設兼作戦司令部。サイト01。別の世界ではあるが、故郷となる世界に非常によく似ている。違いといえば、北極圏に決して消えることのない低気圧があり、猛烈なブリザードを形成していること。この施設はそのブリザードの真っ只中にある。ブリザードの中と言っても、このあたりはその低気圧の中心部分に当たり、台風の目のようにこのあたりだけ晴れ渡っている。1キロ先には海面から成層圏まで覆うかのような分厚い雲の壁がある。ブリザードは非常に激しい雷雲も兼ねているため、航空機も通行することはできない。この世界は衛星もほとんどが破壊されているため、この場所を探り当てられる組織は存在しない。

 

そして最も大きな違いは“艦娘”と“深海棲艦”が存在していることだ。現在、艦娘側はかなり窮地に立たされている。既に全盛期と比べて世界人口は7割を喪失しているようだ。欧州はほぼ壊滅状態であり、北米もかなり内陸部に追いやられているらしい。中国もインドも沿岸部はほぼ壊滅しており、南アメリカやアフリカに至っては政府機関自体存在できているか不透明だそうだ。その中で日本だけが大した撤退もせずに水際で防衛できているという。これはやはり・・・。

 

 

フランドール・スカーレットの血液を技術部に提出した後、私を含めたエージェント4人はこの基地に派遣されていた。実験自体はこの世界を使って行われるらしい。我々の世界で行えないほどに危険なものということだろうか。少し不安ではあるが実験自体は赤道上の太平洋に浮かぶ孤島で行われるらしく、距離的には9000キロ以上離れている。

 

私は施設の外郭防護壁を開けて外に出る。ブリザードはこの周囲にないとは言っても、低気圧の影響でかなり寒くなっている。外壁にあるデジタル温度計によると現在気温、マイナス60度。技術部の開発した特殊防寒着を着ていなければすぐさま凍死だろう。

 

このところのICAの動きは何を意味しているのだろう。元々は全世界の有力者から暗殺依頼を受け、それを高額な報酬と引き換えに遂行するのが主だったはずだ。しかし最近の動きはまるでこれから世界を征服するかのようだ。上層部はしきりに“生存戦略だ”と言っているが、どこまで真実か怪しい。

 

今回の“プロジェクト23265”も何を意味しているのか、何が最終目標なのか。私は前回の任務のときにその断片を聞かされた。あの忌々しきルーマニアの廃病院・・・。ICAはあんなものを作って何をしようというのか。

 

 

「・・・。」

「・・・ん。タバサか。」

「・・・。」

「何を考えてるって顔だな。」

「・・・ICA上級委員会について少し調べた。報告したいから中へ。」

「・・・ここは報告を聞くには少し寒すぎるか。」

 

 

私はタバサの私室に招かれていた。何のことはない、私の部屋と大差ない殺風景な部屋だ。部屋に入りテーブルに着席すると、タバサは書類の束を出してきた。

 

 

「これ。」

「読ませてもらおう。」

 

 

そこにはICAが今までやってきたことが詳細に書かれていた。数々のカテゴリ計画の詳細。部隊の徴兵方法から依頼件数の伸び率まで。様々な資料の最後に核心部分はあった。

 

 

「“フランドール改”・・・?」

「幻想郷にいるフランドール・スカーレットを元にしたクローン警備アンドロイド計画。プロジェクト23265の目標。」

「実験体1体だけだと思っていたが・・・量産する気でいるのか・・・。」

「元々は警備に使用する予定だった。しかし最近ではそれを国家単位の組織への攻撃計画に使おうとしている。」

「戦争でもする気・・・そうか、そういうことか。」

 

 

なるほど、それならばいろいろ合点がいく。

 

 

「そう、ICAは今まで個人への暗殺依頼を請け負ってきた。それを、国家単位に拡大しようとしている。」

「正体不明の謎の勢力によって強襲され、勢力を疲弊させる。これではPMCと何ら変わりないじゃないか。」

「PMCとの違いは襲撃を受ける側にとって、戦っている相手がわからないこと。元々の敵が派遣した勢力なのか、それとも全く別のところからの勢力なのか。」

「それがわからなければ報復の口実も作りにくい。まさに“国家の暗殺”か。」

「そう。既にいくつかの世界で幾多に分裂する国家群を破壊し、統一世界政府を建設しようとする勢力から打診があった模様。これがそのリスト。」

 

 

タバサは別の書類を出してきた。様々な機関や国家が書かれている。この世界の日本国大本営や、別の世界の合衆国国防総省。SCP Foundation、Aperture Science等見慣れない機関の名前もあれば、“アレイスター”や“ヘクマティアル”等どこの世界ともわからない人物の個人名もある。

 

 

「世界政府を作るお手伝いいたします。ってところか。見返りはおそらくその世界での行動の自由と資金提供か。」

「あとはその世界の様々な技術や歴史の閲覧。特に歴史の閲覧に関して強い関心を示していた。」

「他の世界の歴史なんて調べてどうするつもりなんだ。」

「そこまではわからなかった。上級委員会のさらに一握りの役員しか知らないみたい。」

 

 

国家の暗殺者となり、その見返りに世界の歴史を学ぶだと・・・?見返りにするくらいなのだからおそらく正史だけではないのだろうな。

 

正史でないにしろ、違う世界の歴史を学んで何になるというのだ・・・。私が思考の淵に沈みかけたその時だった。

 

 

 

ビー!ビー!ビー!

 

「む。」

「・・・?」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。聞こえる?レッドアラートよ。詳しくはブリーフィングルームで話すから大至急着て頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はタバサと顔を見合わせ、すぐさまブリーフィングルームへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとちょっと、何なのよ一体!」

「何があったんですか。ミス・バーンウッド。」

「遅くなった。」

「到着。」

「ああ、47とタバサ。」

「こっちもいま来たところだよ。」

 

 

ブリーフィングルームには既にブルーとシルバーが居た。

 

 

『集まったわね。じゃあ状況を説明するわ。』

『プロジェクト23265がこの星の赤道上にある孤島で行われているのは知ってるわよね。さきほどその基地から緊急信号を受信したわ。』

「緊急信号?それってどういうことなの?」

『信号内容は3つ。1,施設に重大な損害が出ていること。2,プロジェクト23265に関連した一部実験が失敗したこと。3,プロジェクト23265の実験体が脱走したこと。』

「ちょ、ちょっとまって。それってかなり不味いんじゃないのか?」

「実験体というとフランドールのクローンか。」

「え!何あの凶暴な大量破壊少女を野に解き放ったってわけ?!」

『衛星からの観測結果では実験を行っていたサイト20はほぼ壊滅に近い状況になってるわ。島の半分以上がえぐり取られてる。攻撃力に関しては想定どおりね。』

「やけに冷静だな?」

『元々計画としてあの研究施設は完成後に実験体の実験標的になる予定だったからね。それでもそれなりに焦ってはいるのよ?』

「元々の計画が前倒しになったってことじゃないの?それって。」

『最後の報告を見る限り、まだ制御機能が完全に機能してない可能性が高いわ。このままだとあの実験体は、少なくともこの世界を完璧に破壊し尽くしてもまだ止まることはないでしょうね。』

「ということはここも。」

『そうなるわね。でも上級委員会としてはこの世界が完全に破壊されるのは望ましくないのよ。余波が我々の世界まで及びかねないからね。』

「例のフォルムーラとかいうカテゴリは実装されているのか?」

『今回の事故はカテゴリ・フォルムーラの実装に伴って発生したのよ。実装した結果がこれなら実装済みだと思うわ。』

「フォルムーラって確かシルバーがハナダシティで見つけたよくわかんないやつ使ってるんだっけ?」

「あとみんなで行ったアッテムトの奥底で見つけた進化の秘法も合わさってたはずだよ。」

「どちらも単体でその世界最強レベルの力を発揮するがそれを合わせたんだ。その破壊力は我々の想像を超えるものになるだろう。」

『その通り。なので時間敵猶予はかなり少ないと見ていいわ。直ぐに行動を起こさなくてはならない。』

「でもどうするんだ?俺たちに島を簡単に吹き飛ばすような奴、相手になんかできないぞ?」

『いくつかプランは考えてある・・・ちょっとまって。』

 

 

ミス・バーンウッドは会議を中断し、何やら通信を受け取っているようだ。その顔がだんだん険しいものに変わっていく。

 

 

「ミス・バーンウッド・・・?」

『みんな聞いて。非常に不味い事態よ。実験体が高速でこちらへ向かってきているらしいわ。』

「何!」

「ちょ、ちょっと!まだ何の準備もしてないじゃない!」

『基地にある全兵器をもって迎え撃つわよ。戦闘態勢に移行して頂戴。』

「来てしまうものはしょうがない。できる限り迎え撃つぞ。」

「47!本気なの!?逃げたほうが良くない?!」

「逃げる場所がない。」

「タバサの言うとおりだ。ここから逃げたとしてもいずれ殲滅されることになる。ならばまだ幾分態勢の整っている今迎撃する他ない。」

『話している暇はないわ。戦闘配置!』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『こちら戦略AIです。全VLS安全装置解除完了。全レールガン砲台12門展開完了。対空レーザー砲台53門迎撃体制。第一種戦闘配置。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私達は緊急で戦闘配置を整える。最も、我々が装備できる装備で撃破できるとは到底思えない。退けることができれば御の字だろう。

 

私は基地の最上部でL-39対物ライフルを構える。タバサはその隣で対空銃座に座っている。手にはもちろん杖を持っており、弾丸の威力を極限まで高めるようだ。

 

ブルーとシルバーは揃って1段下の階にいる。オーダイル、ギャラドス、カメックス、ニドクイン等、攻撃力の高いポケモンを前面に配置しているようだ。本人たちも銀弾を装填したWA2000やEnram HVを装備している。

 

 

『巡航ミサイル発射。』

バシュウウウ…

 

 

基地のVLSハッチから巡航ミサイル6本が同時に我々の正面へ向かって飛翔していく。ミサイルはすぐに分厚い雲に入り見えなくなった。

 

1分ほどして雲の中が光った。6回光ったためおそらくミサイルの爆発だろう。しかしこの緊張感が迎撃に失敗したことを予感させた。

 

すると雲の中がまた光った。次の瞬間、

 

 

バリリリリリ!!ドゴォォン!

「うわぁ!」

「きゃあ!」

「くっ!」

 

 

雲を突き破りながら赤い光線が飛んできた。光線はVLSハッチのある塔をレールガン砲台2基と一緒に一瞬で薙ぎ払っていった。

 

 

「ちょっと!向こうはこっちが見えてるわけ!?」

「いや、おそらくミサイルが飛んできた方向に闇雲に打ったのだろう。見えているなら我々は既にこの世の存在ではなくなっている。」

「一瞬だけど相手が見えた。」

「本当かい?タバサ。」

「でもこちらから見えたということは相手からも見えた可能性が高い。」

「・・・ここから移動したほうが良さそうだな。」

「(コクン)」

 

 

私とタバサは装備を捨て基地最上部から飛び降りた。その瞬間次の攻撃があった。凄まじい轟音とともに先程まで居た基地上部はえぐり取られてしまった。

 

基地のレールガンが各個射撃を開始する。雲の中でも特殊レーダーで相手の位置は大体把握できるようで、回避を強要できているのか相手の位置がだんだん東にずれている。しかし、時折雲の中から先ほどの赤い光線が飛んできては砲台が一つ一つ潰されていっている。

 

だめだ。圧倒的に戦力が足りていない。このままでは全滅するのも時間の問題だ。私はバーンウッドに通信を送る。

 

 

「基地の防衛兵器をすべて停止させろ。」

『47?それは何故?』

「役に立たない物をいくら撃っても居場所がばれるだけだ。それなら基地の機能が完全沈黙したと思わせたほうがまだ幾分助かる可能性は残る。」

『騙されてくれるかしら?』

「わからん。だがこのまま戦うよりはマシなはずだ。」

『・・・わかったわ。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『全防衛兵装緊急停止します。広域レーダーオフライン、短距離レーダーオフライン。作戦オペレーター権限により、これより無線封止が開始されます。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

基地内のすべての防衛砲台が機能を停止した。上を向いていた砲台も今は力なく下を向いている。私はタバサと一緒にブルーとシルバーに合流した。

 

 

「ブルー、シルバー、無線封止が開始された。これからは無線は使えない。」

「わかってるわよ。で、どうするの?そろそろ来るわよ?」

「一旦基地の瓦礫に身を隠す。やり過ごせることを祈るしか無い。ポケモンもしまっておけ。」

「わかった。戻れ、オーダイル、ギャラドス。」

「戻って、カメちゃん、ニドちゃん。」

「気配はできる限り殺すべき。所謂“死んだふり”。」

「そんなクマ相手みたいな戦法が通じるかしら?」

「姉さん。クマ相手に死んだふりすると逆効果らしいよ。」

「通じるかどうかは未知数だ。だが通じなかったらどのみち我々はあの世行きだ。ならば試すほうが懸命だ。」

「そうね。一箇所に固まらないほうが良いかもしれないわ。私はあっちの方で倒れることにするわ。」

「じゃあ僕はその近くに。」

「・・・私はここでいい。」

「では私はあっちだ。散開。」

 

 

私達は各々別の場所で瓦礫に身を隠すように倒れ、死んだふりを敢行する。時折光線が飛んできては基地の施設を破壊しているが、そのうち攻撃が止んだ。

 

私は薄目を開けて周囲を確認しようとする。しかしその時、散開した我々のど真ん中に実験体が降りてきた。

 

 

「・・・。」ピピピ

 

 

実験体は形こそフランドール・スカーレットそのものであったが、色は黒く変色しており、頭部や腕などに機械のようなものが散見される。また、足の一部が鱗のようなもので覆われており、黒光りしている。

 

既に基地はぼろぼろであり、ほとんど原型はとどめていない。その状況に満足したのか、それとも気が変わったのかはわからないが、実験体は再び飛び上がり、基地の南東方向へ飛び去っていった。

 

念の為数分は動かずに待ち、戻ってこないことを確認すると私はゆっくりと起き上がった。

 

 

「全員、生きているか?」

「な、なんとか・・・。」

「あーこわかった。すごい近かったわよね。」

「大丈夫。」

 

 

私は司令部に通信を入れる。

 

 

「こちら47。実験体は南東に飛び去った。生きてるか?」

『こちらはなんとか無事よ。でも基地機能がかなり破壊されたわ・・・。』

「状況を確認したい。我々4人もそちらへ向かう。」

『ええ。こちらも確認作業を始めるわ。』

 

 

ところどころ瓦礫に埋もれてはいたが、なんとか先程のブリーフィングルームまで戻ることができた。ブリーフィングルーム自体も大部分が崩落しており、我々は各々瓦礫に腰掛ける形でバーンウッドの報告を待った。

数十分後、バーンウッドが入ってきた。

 

 

『状況を報告するわ。』

「大丈夫なんですか?かなり色んな所がやられてるみたいですけど。」

『率直に言って大丈夫じゃないわね。いくつか重大な損害も出ている。』

「重大な損害とは?」

『まず一番は地下にあった渡界機の端末がやられてるわ。これでは世界線を超えられない。』

「それって元の世界に帰れないってことですか?!」

「緊急事態。」

『一応、受信装置は生きていたわ。でも送信装置がほぼ完全に破壊されている。さらに言えば、発電用の核融合炉も損傷していて復旧にはかなり時間がかかるわね。』

「渡界機が使えなくなったってことか・・・。」

「でも復旧できないことはないってことですか?」

『ええ。だけれど・・・。』

「渡界機を修復する前にあの実験体がこの世界を業火の炎で焼き尽くすほうが早いだろうな。」

『47の言うとおりよ。その場合、修復前にまたここに現れるかもしれない。』

「じゃあどうするのよ・・・。打つ手無いじゃない・・・。」

「俺たちはここで死ぬのを待つ以外に無いのか・・・。」

「・・・。」

 

 

室内に暗い雰囲気が漂う。しかし私には一つだけ案があった。

 

 

「もしかすれば、この方法なら・・・。」

『47?』

「なにか方法を思いついたの?!」

「実行できるかはわからない。不確定要素が多すぎる。だが他に方法もない。」

「教えてくれ!どうすればいい!?」

『47。私からもお願いするわ。どうすればいいの?』

 

 

 

 

 

「簡単だ。渡界機を使えばいい。」

 

 

 

 

 

ミッションフェイルド

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別アプローチでの掲載にする予定でしたが「よく考えれば何も話数同じにする必要なくね?」って言うことになったので次回もここでの投稿になりますw


谺。蝗槭?遑ォ鮟?ウカ縺ク蜷代°縺?∪縺吶?


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HITMAN『運命に贖え』

今回も任務ではありません。
会話文多めなので読みにくいかもしれません。


~幻想郷~

 

 

 

今日もいい天気。少し前の喧騒が嘘のよう。

 

半年ほど前に起こった“幻想郷危機”(命名:東風谷早苗)ではICAという組織が霧の湖の水を溢れさせて人里やうちの館に被害を与えた。聞くところによると被害が出たのはここらだけではなく、その時に発生した地揺れの影響なのか、地底の旧都の一部が崩落して鬼や餓鬼達に被害が出たり、竹林や魔法の森の一部が陥没したりしたようだ。

 

しかし、それ以降ICAの者と思われる流入者は無く、それどころか外来人自体ここ数ヶ月新人はいないようだ。今までが外来人だらけだったのを考えると、ある意味異変とも言えるかもしれないわね。私がテラス(遮光フィールド完備)でお茶を楽しんでいると優秀な従者が私を呼びに来た。

 

 

「お嬢様。よろしいでしょうか。」

「何かしら。咲夜。」

「パチュリー様がいくつか話したいことがあるそうで、図書館まで来てほしいと。」

「パチェが私を呼ぶなんて珍しいわね?わかったわ。」

 

 

あの動かない親友はこちらがちょっかいをかけることはあっても、向こうからこちらを呼びつけることは殆ど無いので非常に珍しいと言える。呼ばれた理由が全く想像できないからこそ行く楽しみがある。私は若干楽しみになりながら図書館へ向かった。

 

 

「あら?フラン?」

「あ、おねーさま!」

「来たわね。」

 

 

図書館には妹のフランがいた。最近ではその破壊衝動も幾分自制が効くようになってきたので、地下に閉じ込めるなんてことはしていない。もっともほとんど屋敷から出していないので同じかもしれないけど。

 

 

「フランもパチェに呼ばれてきたの?」

「うん!」

「そう。それで?一体何をするのかしら?また勝負するつもり?」

「勝負はしないわ。レミィ弱いから。」

「弱くない!」

「お姉さま、この前も約束手形いっぱいだったものね!」

「アレは部下に花を持たせただけだから!本気になればすぐに億万長者よ!」

「とにかく。本題よ。レミィ、フランの運命を見てほしいの。」

「フランの?そりゃまた何故?」

「???」

「最近、と言ってもここ数十年になるけど、私占いを少しかじってるのよね。」

「知ってる。偶に占星術っぽいことやってるわよね。」

「私のやってるのはもっと高度なものだけど。それで、昨日も占ってみたんだけど、レミィとフランが面倒事に巻き込まれるという結果になったわ。」

「面倒事って何よ?」

「そこまではわからないわ。だからレミィの能力で確認してもらいたいのよ。そうすれば対策もできるでしょ。」

「そういうことね。私としては最近平和ボケしそうで退屈してたから面倒事はちょど良いけど。」

 

 

なんとも拍子抜けだ。ただ単に予防策を立案するために呼ばれたようだ。まあ私とフランのことを気遣っていることは理解できるので悪い気はしない。私は早速フランの直近の運命を見ようとしたその時だった。

 

 

「あれ?お姉さま。なんか黄ばんでない?」

「黄ばんでなんか無いわよ!・・・ってこれは・・・!」

「・・・!転送陣!レミィ!」

「お姉さま!」ガシッ

「ちょ、フラン!離れて・・・」

バシュウゥ…

 

「レミィ・・・フラン・・・。」

「パチュリー様?今なにか大きな声がした気がするのですが・・・?」

「咲夜、非常事態よ。レミィとフランが連れ去られたわ。」

「な、な!」

「落ち着きなさい。あの転送陣は見覚えがあるわ。行き先を逆探するから手伝いなさい。」

「!かしこまりました!」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~米花町~

 

 

「博士、今度は何作ったんだよ。」

「おお、新一。来たか。ちょっとまっていろ、今回のは力作じゃぞ!」

 

 

博士はまたよくわからない発明品を工藤君に見せびらかしている。今回の発明は相手の身体能力を表示できるスマートメガネだそう。漫画のスカウターとかいう道具にインスピレーションを受けたらしい。うまく行ったら工藤くんのメガネに搭載するつもりのようだ。

 

しかし、そのスマートメガネの技術の一部は私が開発したもの。しかもまだ実証試験段階にも達してなかったはずなので・・・。

 

ボゥン!

「うぉわ!」

「うわ!」

 

 

案の定オーバーヒートして爆発した。小規模なものなので掛けていた工藤君の顔が煤まみれになるだけですんだが。

 

 

「・・・博士、そのメガネの熱交換器はまだ試作段階よ。まだ調整が不十分だから使わないでって言ったわよね?」

「ううむ・・・イケルと思ったんじゃが・・・。」

「博士!せめて自分で試してからにしてくれよなあ!」

「ううむ、すまんすまん。改良が必要じゃなあ・・・。」

 

 

黒の組織に加えてICAという謎の組織も参戦してきているこの頃、こんなことをしている場合なのだろうかというちょっとした不安に襲われている・・・あら?

 

 

「え、っちょ、何?!」

「灰原?・・・!」

「哀くん!?」

「ちょ、なにこの光!」

「灰原!」ガシッ

「工藤…」

バシュッゥゥ…

 

「新一・・・哀くん・・・こりゃイカン・・・!」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~トリステイン魔法学院~

 

 

 

 

「待ちなさい!犬!」

「待つわけ無いだろ!」

 

「今日も元気だな、あの二人。」

「毎日毎日よく飽きないもんだね。」

 

 

庭でティータイムを優雅に決めていたのを邪魔したのは、いつもどおりルイズとサイトのコンビだった。どうやら今日はまたサイトがシエスタに目移りしたことでご主人様の怒りを買ったらしい。

一応、ルイズとサイトはこの世界をエンシェントドラゴンから救った英雄なのだが、まだ在学中ということもあってド・オルニエールの領地よりこちらにいることのほうが多い。

僕が率いるオンディーヌ騎士隊も活躍したのでこの学院での僕たちの地位はそれなりに高い。だからこそ僕の美貌に美女たちが集まってきてしまうわけだが。

 

 

「まちなさーい!」

「ルイズ、そのくらいにしておいてあげたらどうかね?サイトだって男の子なんだから。」

「ギーシュは黙ってて!これはご主人様に楯突いた犬を躾けてるんだから!」

「なんだよ!ちょっと弾みで胸を触っただけじゃないか!」

「触るだけじゃなく、私とシエスタの胸を触って比べてたでしょうが!」

「あー、それはいけないよサイト・・・。」

 

 

こういう場合、大抵サイトの自業自得だ。この前はルイズの下着を無くして同じく追い回されていたし、授業中にルイズの失態を大笑いしてた事もあった。

でもルイズ本人もこの状況を楽しんでる風もあるし、サイトの方も最近じゃこの追いかけっこを楽しんでいるようなので、この状況はお互いにとってWIN-WINと言うやつなんだろう。

 

 

「今日こそはこの新しいこの鞭の・・・あら?」

「やーなこっ・・・ん?」

 

 

会話が途切れたので何事かと思えば、ルイズの周りが黄色く光り輝いている。アレは・・・召喚陣か?目に見えてルイズが不安そうにしている。これは不味いかもしれない。僕も席を立って駆け寄ろうとする。

 

 

「ルイズ!」

「サイト!」

バシュッゥゥ…

 

 

二人は黄色い光に飲み込まれ消えてしまった。消える直前にサイトがルイズの腕を掴んでいたのでサイトも巻き込まれたようだった。

 

その後、学院総出で二人を探したが、その日は結局見つけることはできなかった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~3時間前~

 

 

 

「簡単だ。渡界機を使えばいい。」

 

 

皆、私の言葉に呆気にとられているようだった。その中で最初に口を開いたのは意外にもタバサだった。

 

 

「渡界機は使えなくなってる。さっき話していた。」

「そうよ!何聞いてたのよもう!」

『47。どういうことか説明してくれるかしら?』

「壊れているのは送信機だけだろう?受信機は生きている。」

「そういえば・・・でもだからどうだってのよ?」

「個人名転送で各世界の有力者をかき集めるんだ。そして力を合わせてあの化け物を倒す。」

『個人名転送・・・そうかその手が!』

「なにそれ?」

 

 

整備性とリスクヘッジの関係で、ICAの持つ渡界機は大本となる機械などは無く、受信機、送信機、通信機、発電設備の4つがそれぞれ独立して構成されている。座標指定で使用するのが主であるが、緊急時には個人名で指定することもできるのだ。

 

しかし個人名で使用する場合はいくつか弊害がある。例えば、触れているものや人を同時に転送してしまうことだ。これは本来服などが転送されないという事態や、触れているものが範囲外にある場合に転送エリア外と内で、対象を物理的に分離してしまわないようにするためだ。これは利点でもあるが欠点でもある。もし転送対象が巨大な魔物などと戦闘中で、剣を交えている最中だったとしたらその魔物まで一緒に転送されてしまうのだ。

 

さらに転送時に通信機能などはないため、通信は別で行わなければならない。座標指定の場合、その座標地点に通信設備が設置されるのでその心配はなくなる。さらに転送先からは転送元の状況が全くわからない。これは転送エリアがいきなり現れ問答無用で連行されることになるため、着替え中や入浴中などでも容赦なく転送されることになる。

 

その他にもいくつか細かい弊害があるが、主にこれらの理由で個人名転送は普段行われていない。しかし今回はその特性が功を奏する事になる。

 

 

「でも協力してくれるかしら?」

「協力するかどうかはわからない。だが目的は同じになるはずだ。どのみちあの化物を倒さなければ元の世界に帰れないのだから。」

「えげつない。」

「無理やり引きずり込もうってわけね。渡界機が治った瞬間殺されなければいいけど。」

「その時は本部が報復すればいい。幻想郷に配置してあるアレはまだ残ってるんだろう?」

「そういえばこの世界にはないの?」

『一応試作型が一つあるわ。弾頭は同じものだからシステムをアップデートすれば使えるかもしれないわね。』

「しかしそれは最終手段だろう。あれは簡単に撃って良いものではない。」

「まあ、こっちまでやられそうだしね。」

『それに・・・。』

「それに?」

 

 

ミス・バーンウッドが言おうかどうしようか迷う素振りを見せる。今の話の流れだと、カテゴリLOGの試作機には何かトップシークレットの機能があるようだ。

 

 

『・・・なんでもないわ。じゃあまずは誰を呼び寄せるのかリストを作成して頂戴。』

「まずは戦力だ。フランドール・スカーレットは必要だろう。」

「ルイズ・・・なんて言ったかしら?あの子も強力な魔法使いなんでしょう?」

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。」

「そうそれよ。相変わらず長い名前よね。」

「彼女は虚無の魔法使い。対魔法生物にはもってこい。」

「そうか。では彼女も呼ぶとしよう。タバサにとっては久々の再会になるな。」

「・・・。」

「参謀役もほしいな。作戦立案をする人間が必要だ。」

「ならば灰原哀を連れてこよう。江戸川コナンの参謀役だ。」

「あら、それならそのコナンくんも連れてきたら良いんじゃない?」

「ふむ。ならば個別に呼ぶとしよう。」

 

 

その後も何人か候補が出た。渡界機が許す限り手当たり次第に呼ぶことになりそうだ。第一陣が策定され、我々は早速地下にある渡界機の受信ユニットに向かった。

 

地下の設備も一部がえぐり取られている。おそらく実験体の光線の直撃をもらったのだろう。確かに送信機の半分がバラバラに壊れて使えそうにない。そのさらに下の階層に受信設備がある。

受信設備には通信装置が併設されており、まだかろうじて機能が生きている。ミス・バーンウッドが端末に近寄る。

 

 

「渡界機のオペレーターはどうした?」

『脱出する時のためにそのほとんどが送信機近くにいたわ。』

「そうか・・・。」

『全滅ってわけじゃないわ。10人が2人に減ったけれど。』

「部隊で言えば全滅扱いだろうな。」

 

 

ともかく、受信機備え付けの通信機で世界座標を指定する。個人名指定モードに切り替えた後、スイッチを起動する。幸いにして発電設備は破損しているもののバッテリーが残っているため受信に必要な電力は確保できていた。それでも送信には足りないが。

 

受信装置が静かに動き出し、回転し始める。受信ポッドが光り輝き始め、そのまばゆい光の中から人影が出てくる。

 

 

「パチェ・・・・?あら?」

「ん・・・んん?」

 

 

フランドール・スカーレットを呼び寄せたつもりが、その姉まで着いてきた。地下室でひとりおとなしくしているものとばかり思っていただけに、少々誤算ではあるがまあ問題はないだろう。

 

 

「ここは・・・!お前は!」

「・・・久しぶりと言うべきか。レミリア・スカーレット。」

「こっちはあまり会いたくはなかったんだけれどね。」

「あ、あのときのおじさん。」

「おじさん・・・プッ!」

「だ、駄目だよ姉さん・・・笑っちゃ・・・クッ」

「・・・フッ」

 

 

・・・正直、まだおじさんという年ではないと思うのだが。そんなことよりも溢れ出る殺気を抑えきれていない姉の方に現状を説明せねばならない。

 

私は実験体の大本が彼女の妹だということは伏せつつかいつまんで説明した。片方は殺気を出しながら、もう片方は興味津々といった雰囲気で聞いていた。

 

 

「ふうん・・・その実験体とやらのせいでこの世界が滅び掛けてると。ふうん・・・。」

「すまないが実験体を無力化するのに協力してもらえないだろうか。無論報酬は出す。」

「嫌よ。」

「(ですよねー・・・)」

「何故無関係の私達が知りもしない世界を救わなきゃならないの?私達は悪魔よ。神様か何かと間違えてんじゃない?そういうのは山の宗教家の管轄でしょうに。」

 

 

大方予想通りの答えだ。初めからもう帰れないことを理由に脅迫するのもよいが、それでは良い協力は得られないだろう。私は前回任務で情報部から得られている情報を使うことにした。

 

 

「君は幻想郷一の戦闘力があり、頼りがいがある人物と聞いている。」

「!」

「・・・47?」

「その戦闘能力は他の追随を許さず、夜の帝王として幻想郷で恐れられているとも。」

「そ、そう・・・それで?」

「・・・お姉さま?」

「カリスマ性でも抜きん出ており、優秀な部下と友人や家族に慕われると同時に、数多の尊敬を集めていると聞いている。」

「ふ、ふうん・・・。」

『(そういうことね。)』

「我々が直面している危機も、かの御仁ならば瞬時に解決してくれるであろう力と器量を備えていると判断したため、今回は大変失礼ながら呼ばせてもらった。」

「そういうことだったのね。良いでしょう!この夜の王、レミリア・スカーレットに任せなさい!そんなよくわからんやつちゃちゃっと倒してやるわ!」

「(ちょろいわね・・・。)」

「(ちょろいな。)」

「(お姉さまちょろすぎ・・・。)」

『(与し易い子で助かったわ。)』

 

 

かくして、スカーレット姉妹が参戦してくれることが決定した。ちなみに妹の方は、姉よりだいぶ冷静に状況が判断できるらしく、私の説明中にこちらの核心も言い当ててきた。

 

 

「ねえ、その実験体って、私の血を元にしたんでしょ?」

「!」

「大丈夫よ、怒ってないから。むしろ面白そう。お姉さまも乗り気だし手伝ってあげるわ。この所暇だったの。」

 

 

そう耳元で囁かれた時は流石に冷や汗が出たが、なんとか乗り切れた。

 

 

場はなんとか沈静化したので次の対象者を呼ぶことにする。次はハルケギニアだ。先ほどと同じように光り輝く転送装置から人影が現れる。

 

 

「・・・ぷぁ!」

「うわわ!・・・ってここはどこだ?」

「ルイズ。サイト。」

「へっ?・・・もしかして・・・タバサ?!」

「!!」

 

 

タバサがまっさきに迎える。久々の再開だと言うのに感動というよりは警戒という方が強いようだ。タバサを生き返らせてから数ヶ月後に聞いた話では、魔法学院までタバサの遺体が消えたことが伝わったことが確認できている。おそらく何者かに操られていると思っていうのだろう。

 

 

「・・・!あなた、何者!タバサの体なんて使って!誰が親玉!」

「ルイズ!俺の後ろにいろ!」

「違う。操られてるわけじゃない。」

「操られてる本人の言葉なんて信用できるわけ無いでしょ!」

『タバサの言ってることは本当よ、ヴァリエールさん。』

「!あなたは・・・?」

『そうね。タバサを殺し、そして蘇らせた組織、かしら。』

「蘇らせた!?」

「殺し・・・ってことは暗殺したのはお前らか!」

『ちょっとは落ち着いて頂戴。主従揃って感情的では何も話は進まないわよ。』

 

 

ミス・バーンウッドはその巧みな話術によって、重要な部分はぼかしつつ、こちらの要求部分はしっかりと説明する。タバサに関することも時折本人の話も混じりながらほとんどを打ち明けた。その歴戦のオペレーターの話術は彼らの感情的な高ぶりを見事に抑え込んでいた。そして私も加わりつつ話は本題に入っていく。

 

 

「じゃあその実験体っていうのを倒さないとこの世界が滅ぶってこと?」

「そういうことだ。」

「なんだよそれ・・・。そんなもん相手にしろって無茶言うなよ!」

「実験体は魔法の力で動く部分も多く、君たちの力もかなり有用と判断されている。」

「・・・。」

「で、でもさあ・・・。」

「タバサ、貴方は?貴方はこの人達の言うことを信用しているの?」

「・・・少なくとも、ガリアよりは信頼できる。それだけの理由も見てきている。」

「そう・・・。あなたは、あの実験体と戦うつもりなの?」

「戦う。迷いはない。」

「・・・なら私達も協力するわ。」

「ルイズ?!」

「サイト、あの実験体とかいうのはこの世界の人々を苦しめ滅ぼそうとしている。貴族の娘として見過ごす訳にはいかないわ。それに、タバサが行くっていうのに私達が行かないわけに行かないでしょ?」

「そりゃあそうだけどよ。でもどうすんだよ。虚無の魔法だって効くかどうか分かんねーぞ?」

『私達は虚無魔法についてもいくらか調べてあるわ。虚無魔法ならば実験体にも、滅するまでは行かなくとも有効打を与えられる可能性が高いと試算している。』

「だー!わかったよ!やりゃあいいんだろやりゃあ!」

 

 

外堀を埋められて逃げ場がないと悟ったか、少年も同意してくれた。ルイズとサイト、そしてついでについてきた喋る剣…デルフリンガーとか言ったか。2人と1本が仲間になった。

 

 

これで4人。まだ足りないな。特に頭脳部分が足りていない。相手は猛獣などではなく、戦略的な思考もできる簡易的なAIも搭載している。戦略担当が必要だ。そこで次の対象者の出番というわけだ。

次の対象者は米花町に住む工藤新一、もとい江戸川コナン。宮野志保、もとい灰原哀。この両名。戦略面ではかなり優秀な部類に入ると思われる二人がいれば作戦担当は十分だろう。

 

 

「・・・君!・・・あら?」

「ぐっ・・・?ここは・・・。」

「ようこそ!ウェルカム!いらしゃーい!」

「歓迎するよ。」

 

 

住んでいる家は違うということなので一人ずつ呼ぶ予定だったのだが、ちょうど一緒にいたところで転送したようだ。2人まとめてきてくれたのは都合がいい。

私が前に出るとまた話がこじれるからという理由で私は少し後方で待機させられた。代わりに出迎えたのはブルーとシルバーだ。もっとも、すぐにこちらの存在に気がついたようだが。

 

 

「くっ!おまえは!」

「・・・?」

「あーやっぱり気がついちゃうわよねえ・・・。」

「お前ら、まさかICAか!」

「そのとおりよ。今回はちょっと君たちの力を借りたくて。」

「ふざけんな!殺人犯たちの頼みなんて聞けるか!」

「あら?でもその殺人犯達にこの前命を助けられてなかったかしら?」

「ぐっ・・・。」

 

 

我々は各々の作戦の後に、反省も兼ねてエージェント同士で任務内容を報告し合う。あの少年を助けた時ブルーとシルバーはいなかったが、作戦内容も含めおおよその概要は報告済みだ。

 

 

「借りは返さないといけないと思わない?今なら借りを返すどころか、逆に借りを作るチャンスがあるんだけど?」

「・・・。」

「そっちの彼女はどう?」

「えっ・・・。」

「貴方も研究員なんでしょ?主に薬品に関しての。」

「!」

「お前ら!何故!」

「あら?私達の情報部を舐めないほうが良いわよ。工藤新一くん。宮野志保さん。」

「!!!」

「むしろ情報部は不思議がってたわよ。彼らの観点からすればかなり分かりやすい偽装だって。黒の組織とやらが何故しっぽをつかめないのか不思議でしょうがないって。」

「・・・。」

「姉さん。そろそろ本題に移ろう。今回二人を読んだのはある実験体から世界を救うためだ。」

「実験体?」

 

 

2人は彼らに今回の顛末を伝える。今更ながら、一気に呼び出して同時に説明したほうが手早く済んだかもしれないな。他の対象者は一気に呼び出すことにしよう。

 

 

「その実験体を殺すための策を私達がいっしょに考えてほしいってことね。」

「まあ端的にいうとそういうことね。」

「私達が協力するメリットは?」

「報酬なら出すわよ。お金でもいいし、他のことでも良いわ。いいわよね?」

『大丈夫よ。こちらの不利益にさえならなければね。』

「なら・・・私達を手伝ってもらえる?」

「灰原!」

「あなたは少し黙ってて。私の本名も知ってるということは私達が小さくなった理由も知ってるんでしょう?」

「私は教えられてないから知らないけれど、情報部は知ってると思うわよ。」

「なら、任務に協力したら私達が元の体に戻るための薬の研究を手伝う。これでどう?」

「・・・(チラッ)」

『・・・確認をとったわ。答えはYESよ。』

「そう。なら交渉成立。」

 

 

交渉がまとまったようだ。しかしほぼ放置な彼の承諾が得られていない。こういうことに関しては頭が硬そうな少年が許すような案ではない。案の定食って掛かる。

 

 

「灰原お前何勝手に話を進めてんだよ!コイツラは殺人犯なんだぞ!」

「だから?そんな事を言ったら私だって殺人幇助数十件よ。あなただって捜査の過程で殺人のアリバイ作りに利用されたことぐらいあるでしょう?」

「それとこれとは!」

「それにこの世界から米花町へ帰るには、彼らの機械が必要そうだしね。」

「だけど!」

「それに私達の体を元に戻す薬もこれで大きく進展すると思う。彼らの逮捕は米花町のあるあの世界でやったら良いわ。」

『加えて言うならこの世界はもう警察機関と呼べるものは殆ど残ってないわね。』

「ぐっ・・・。・・・わかった。今回限りだからな!」

 

 

折れた。多勢に無勢。味方となる人間がいなければ人間とは折れやすいものだ。彼とて例外ではない。

 

ともかく作戦立案に関しての強力な助力が得られそうだ。情報部の調べでは、今まで数々の窮地を機転と作戦で乗り切ってきたようだから、今回も役に立ってくれるだろう。

 

 

 

その後も何人か呼び寄せた。アメリカの伝説的傭兵だったり、武道大会優勝したお姫様とその付き人2人であったり、何故かリストに名を連ねていた強面プロデューサーであったり。

最後の人物は本人も私達も何故呼んだのか呼ばれたのかわからなかったが、彼に説明をしている最中に瓦礫が崩落した際、彼がとっさにその瓦礫を裏拳でいともたやすく破壊したを見て、初歩的な戦闘訓練を施せば戦力になる可能性が見えた。もっとも、訓練自体は私がやる羽目になったが。

 

 

戦力は着実に整ってきている。反攻作戦の開始と行こうか。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「バーンウッドさん!」

『・・・!新たな情報?』

「はい。実験体の現在位置が判明しました!」

『本当なの?それで、現在位置は。』

「現在、アメリカ合衆国ミズーリ州はカンザスシティ周辺です。」

『もうそんなところまで・・・。状況は?』

「はい・・・。それが・・・。」

「どうした?」

「・・・実験体がカンザスシティに到達したのはつい数十分前です。上空を通過するつもりだったようですが、衛星からの映像では対空砲火を受けているようでした。おそらく現地の米軍だと思われます。」

「深海棲艦の航空機と間違えたのかしらね。まさか撃墜されたの?」

「・・・対空砲火は全て外れました。実験体に有効なダメージを与えられず、つい5分ほど前に、カンザスシティは消滅しました。」

『なんですって・・・!』

「大爆発があり、その直前に大きな火球が確認されています。現在、カンザスシティ、リバーマーケットを中心に半径20キロほどのクレーターができています。」

「火力が尋常じゃなさすぎる。手に負えるのか?」

「なんとかしなければこの世界がすべてカンザスシティのようになる。急ぐ必要がありそうだ。」

 

 

 

ミッションコンプリート

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・----- ---- -----

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ちょっと手直しする可能性があります。
追記:微修正済み


次回、反攻作戦開始。


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HITMAN『エージェントたちの決戦』

###注意###

原作に登場するキャラが死亡する描写があります。作品に思い入れが有る方はご注意ください。


『硫黄島へようこそ。47。』

 

『いよいよあの実験体を叩き落とす作戦が実行に移されるわ。決戦の地はここ硫黄島。第二次世界大戦でも最大級の激戦地になり、アメリカ海兵隊が史上最も損害を受けた作戦が実行された所。』

 

『作戦を説明するわ。レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットが共同で実験体をここへ誘導するわ。やってきたら貴方とスネークがそれを予定地点にはたき落とす。タイミングが重要だから上手くやってね。地面に落としたら間髪入れずに姫様たちが攻撃を敢行。羽と足を重点的に攻撃して実験体を動けなくするわ。動けなくなったところにカテゴリLOGの試作機“トール”による飽和攻撃が行われるわ。島が無くなってしまう可能性もあるけれど、世界が無くなるよりはだいぶマシでしょう。』

 

『この作戦はスピードが命よ。どこかでもたつけばそれだけ実験体に反撃のチャンスを与えることになる。反撃されれば甚大な被害が出ることは想像に難くない。更に、トールの砲撃はかなり広範囲に被害が及ぶわ。脱出用のヘリに乗り遅れたら巻き込まれてしまうわよ。』

 

『世界の命運がかかる一戦になるわ。そこで日本の横須賀鎮守府と呉鎮守府から応援の連合艦隊が派遣されることになっているわ。大和型、長門型、金剛型、一航戦、五航戦、出向中のNATO艦隊なんかも含まれてるわよ。期待して頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

『こちら戦略AI。対地攻撃衛星“トール”、アップデート完了。対重魔力障壁弾頭、装填開始。装填数 10。発射シーケンス準備開始。安全制御プロトコル1から8まで解除完了。目標地点を設定してください。』

『バーンウッドよ。現在実験体はカザフスタンから中華人民共和国領内に入ったわ。そのまま直進してくると思うから、接敵まで後3時間くらいよ。』

 

 

 

「まさかこんなことになるとはな。47。お前もなかなかに苦労人のようだな。」

「貴方ほどではない。が、生まれたときから戦いに身を投じてきたのは同じだろう?」

「ハハッ、違いない。」

 

 

現在時刻は午後8時を少し過ぎた。予定なら実験体との戦闘は日付をまたぐことになりそうだ。私は今、硫黄島の西端、かの有名な摺鉢山の山頂に来ている。横にいるスネークはあの後まとめて呼んだ内の一人だ。元が傭兵ということもあり、案外すんなりと協力してくれている。

 

私は今回Jaeger7を持参している。スネークの方はSVDだろうか。どちらも実験体に致命弾を与えることは難しい。なので今回はその実験体が背負う飛行ユニットを狙う。

 

情報によれば、実験体はそのままの素体でもある程度の飛行能力を有するらしいが、ジェット機並の速度と複葉機並みの旋回性能を持つには背中に取り付けられている飛行ユニットの存在が不可欠らしい。我々が狙うのはここになる。不確定要素としては実験体の素体状態での飛行能力がどの程度なのかが定かではないという点だ。飛行ユニットを装着せずに解き放ったことがないためデータがないのだ。

 

レミリアとフランはこの島から西北西に400キロほど行った海上に居る艦娘部隊に連れられている。伊勢と日向の肩に乗せてもらっているらしい。彼女らの助力を得られたことで、この大海原でも比較的自由に行動できている。ちなみに艦娘たちの助力を得ようと進言したのは灰原哀だった。

 

 

「47、聞こえる?」

「ブルーか。そっちはどうだ。」

 

 

ブルーとシルバーは座標指定要員だ。島の反対側である東山の山頂にいる。彼女らが私達が叩き落とした実験体にレーザーサイトを照射する役目だ。護衛としてあの強面プロデューサー、武内Pが付いている。彼は非常に体力があり、ブルーとシルバーを抱えた状態でも全力疾走することが可能だ。脱出のときには役に立ってくれるだろう。

 

 

「こっちは準備完了よ。試しに中央の滑走路に照射してみていいかしら?」

「予定地点は滑走路より若干こちら側になる。滑走路の西の端に照射してみろ。」

「わかったわ!シルバー!」

「わかった。・・・準備完了!」

「よーし!照射!」

 

 

別段赤い光線が見えるというわけではない。米軍などでもよく使うタイプを改良したものだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『戦略AIです。座標設定が完了しました。発射シーケンス開始。・・・オペレーター権限によって発射シーケンスは中止されました。再度目標座標を設定し直してください。』

 

『バーンウッドよ。ブルー、演習モードにしていないわね?危うくあなた達粉微塵になるところだったわよ?気をつけなさい。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「あ、やっば。」

「姉さん・・・。」

「ハッハッハッ、これ以上無い練習だな。」

 

 

・・・大丈夫だろうか。機器の扱い方は教えたはずなのだが、今更ながら不安になる。ともあれ機器は正常、発射シーケンスまでの流れも把握できただろう。ああ、そうだ一応念を押しておかねば。

 

 

「ブルー、今演習モードに切り替えると本番で使えない可能性があるぞ。」

「・・・だ、大丈夫よ!演習モードは切ってるわ!」

「すみません。僭越ながら。ブルーさん。それは電源スイッチかと・・・。」

「・・・。テヘッ♪」

「姉さん、素人同然の武内さんにまで指摘されるのはちょっと・・・。」

 

「おい、お前ん所の組織は案外ポンコツが多いのか?」

「今日は特別だ。緊張しているのだろう。」

 

 

スネークが茶化してくるが軽く受け流し、準備に集中する。今度はもう一つの部隊、今回初顔合わせになる異国の武闘派姫君。アリーナ王女とその付き人の僧侶クリフトと魔法使いブライだ。

 

 

「こちら47、アリーナ姫。そちらは準備できましたか?」

「こっちは準備万端よ!それよりその他人行儀な話し方やめない?堅苦しいわよ?」

「姫様!言葉遣いには気をつけるようにとアレほど!」

「あーもう、クリフトは堅いわねー。そんなんじゃ駄目よ?」

「姫様がフランクすぎるだけですじゃ。クリフトもそう熱くなるな。」

 

 

どうやら向こうは向こうで気楽にやっているらしい。呼び出された直後は何が起こったのか分からず呆然としていたが、事情を説明して世界を滅ぼさんとする実験体を倒すことを伝えると俄然やる気になってくれていた。

 

今回の作戦では、彼女たちがどれだけ時間を稼がせられるかにかかっている。倒すことができれば万々歳だが、できなければせめて足や羽を、それも厳しいようなら魔法で氷漬けにして一時的でもその場に留まらせる作戦だ。

 

 

「では普通に話させてもらう。そろそろターゲットがやってくる。相手はかなり強大だ。十分に気をつけろ。」

「OK!」

「我が命に変えましても姫様だけはお守りします!」

「やれやれ、とんでもないことになったのう・・・。」

 

 

我々はそれぞれが各々の役割を全うするために入念に準備を行った。

 

 

 

 

 

 

~呉鎮守府艦娘連合艦隊side~

 

 

 

「空母大鳳、艦載機、発艦します!優秀な子たち。あなた達の力を見せてあげて!」

「空母瑞鶴、艦載機発艦!まずは敵を見つけるのよ!」

「CV-3サラトガ、艦載機隊、上空哨戒任務中。未だ敵影ありません。そろそろ一旦帰還させます。」

「航空母艦加賀。了解。哨戒任務を引き継ぐわ。」

 

 

私達呉鎮守府連合艦隊はICAという謎の組織を支援するために、大本営からの勅令に基づいて太平洋を南下しています。大鳳瑞鶴加賀サラトガを基軸とし、戦艦金剛と榛名、第二艦隊に鈴谷、熊野、木曽、秋月、初月。そして第二艦隊旗艦の私、由良。皆歴戦の艦娘たち。正真正銘の全力出撃。正直、相手がどんな相手だろうとこのメンバーならイケルと思う。それだけの自負と経験と実績があった。そう。今このときまでは。

 

 

「!こちら瑞鶴!うちの子が敵を補足したわ!ここから11時の方向!距離150!」

「了解。加賀、哨戒任務中止、戦闘機隊全機発艦。」

「サラトガもそれに続きます!」

「夜で視界が悪いわ。各機十分に警戒して。」

「第二艦隊前へ!空母隊を守るのよ!」

「了解!秋月、防空警戒任務を開始します!」

「同じく初月、了解!」

 

 

距離は150km。この距離なら戦艦の砲弾も届かない。射程圏内に入るのも5分から10分ほど余裕があるはず。陣形を整える余裕もある・・・。

 

 

「・・・!ちょ、マジ?!前衛の伊勢艦隊から入電!伊勢、日向大破!要人の発艦は済んだものの大破艦多数!継戦不能、撤退開始したって!」

「なんですって!?」

「そんナ!イセもヒューガも練度170は行ってるヨ!?それがそんな簡単ニ!」

「お姉さま!なにか来ます!」

 

バリバリバリバリ!!

ボォーン!

 

「きゃあ!」

「敵の砲撃です!」

「初月!初月中破!」

「掠っただけで中破って直撃もらったらマジヤバでしょ!?」

「鈴谷!次が来ますわよ!目をそらさないで!」

 

 

遠方。それも100km以上離れた所からの砲撃に掠っただけで、練度150を超えた初月が中破した。これは・・・一体何?何の攻撃なの!?

何発か近くを謎の光線が通過する。そのどれも威力が尋常ではなく、今まで戦った深海棲艦、姫級をも軽く凌駕する威力の光線が次々に放たれる。でもよく見ると明後日の方向にも何本か放たれているのが確認できる。もしかして、これは流れ弾なの!?

 

 

「くっ!こちら加賀。烈風隊被害甚大。損耗率76%。敵はこちらの要人と戦闘中。烈風隊も攻撃を敢行したけれどまともに被害を与えられてないわ。それに・・・。」

「こちら大鳳。こっちの艦攻隊も同じく有効なダメージを与えられず。被害甚大。損耗率70%を超えたわ!」

「うちのコルセア隊もです!損耗率69%!瑞鶴さん!援護を!」

「わかってる!でも・・・早すぎる!」

「瑞鶴!アレを出しなさい!出し惜しみしては駄目よ!」

「加賀さん!わかりました!橘花隊!発艦!」

 

 

水平線に光が見えてきた。かなり近くに来ている。私は号令をかけた。

 

 

「第二艦隊!対空戦闘用意!近いわよ!熊野さん!初月を援護してください!」

「わかりましたわ!」

「三式弾装填完了!いっくよ~!」

「秋月!防空戦闘開始します!」

「空を飛んでる相手じゃ魚雷は使えねえ・・・だが!防空もできるところを見せてやる!」

 

「来たヨ!榛名!」

「はい!三式弾装填済みです!」

「いくヨー!バァァァニング、ラァァヴ!!!」

 

ドドドドォン!

ボォーン!

 

 

三式弾は敵の近くで確かに炸裂した。しかしあの敵はとんでもない機動で垂直に上昇し、それをすべて回避しきった。そして、こちらへ向かってきた。

敵はその手に赤く光り輝く槍のようなものを出し、それをこちらに向けて投げつけてきた。私は思った。この攻撃は、今までにない攻撃だと。

 

 

ドォォォン!!

キャアアアア!

 

 

「ぐっ・・・。」

「加賀さん!空母加賀大破!戦闘不能!私…瑞鶴も小破!」

「空母サラトガ大破!戦艦榛名大破!航巡熊野大破!」

「クッ・・・旗艦金剛、中破ネ。でもまだ!」

「駄目です金剛さん!第二艦隊も被害甚大です!司令部からも撤退命令が出ました!」

 

 

たった1撃で呉鎮守府連合艦隊の大半が戦闘不能?まさか・・・こんなことが・・・!

 

 

「・・・わかったヨ。撤退・・・!!由良!」

「えっ・・・?」

 

 

 

ボォォォン!

 

 

 

 

 

~レミリア・フランside~

 

 

 

「チィ!ちょこまかと!」

「なかなかやるね!」

 

 

私達は艦娘とやらに連れられて海の上で戦闘中だ。移動中にフランから「もしかしたら実験体っていうの、私に似てるかもしれないよ」とは聞いていたけれど、色以外ほとんど同じじゃないの。それにフランよりも力が強い。幸い能力までは完全にコピーできてないみたいだけど。

 

私達を連れてきてくれた艦娘たちは、実験体の攻撃2発でほぼ瓦解。謝罪の言葉と共に西へ撤退していった。それからというもの、フランと一緒にこの実験体を海に叩き落としてやろうと何回も攻撃を行っているが、確実に命中したのはほんの数発。それも殆ど効いてないようだった。こいつには最大火力をぶつけないといけないようね。

 

そのうち北からちっこい飛行機を飛ばしている別の艦娘部隊とかち合った。しかし私達の攻撃を避けつつ、彼女たちの砲撃も避け、その際にできた一瞬のスキであいつは艦娘部隊にどでかい攻撃を浴びせた。1発目は艦隊の中央に。2発目はボーッとしてたピンク髪の艦娘に。水煙でよく見えないが、直撃をもらったらしく、おそらく消し飛んだわね。

 

ともかく、この方向は目的の方向とは違う。もっと東へ誘導しなければ。この実験体は生かしておけない。こいつはここで叩かなければ私達の世界まで殴り込んでくる。そんな運命が垣間見えたからだ。それは絶対に阻止しなくてはならない。

 

 

「これでも喰らいなさい!紅符“スカーレットマイスタ”!」

バチン!

「フンッ!貴方の相手はこっちよ!」

「私も!禁弾“スターボウブレイク”!」

バジジ!

「やった!鬼さんこっちへおいで!」

 

 

艦娘部隊に気を取られていたのか、連続して私達のスペルカードがあたったことで奴のターゲットがこちらに移った。超高速の実機狙い弾が飛んでくる。私達は低空を飛び、それを回避しながら目的地まで誘導を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

「来たぞ。」

「やれやれやっとお出ましか。」

 

 

水平線上に光が見える。どうやらかなりの猛攻を受けているようだが、攻撃が行われているということは少なくとも一人は生きているだろう。私とスネークは各々岩陰に隠れつつライフルを構えた。

 

肉眼でも人影を視認できるくらいまで近づいてきた。流れ弾が島に着弾している。さながら支援砲撃のようだ。先頭を行くレミリアとフランは揃って島の端に到達した瞬間にほぼ垂直に急上昇した。ターゲットもそれを追うように急上昇する。急上昇するときにターゲットの体が回転する。そして一瞬見える背中の羽根の根元にある銀色のボックス。そこをめがけて私とスネークは弾丸を放った。

 

ダァーン!

ガチン!

 

「お、当たったぞ。」

「・・・よし。」

 

 

2発の徹甲弾は正確に背中の箱に命中し、遠目からでもわかるくらいの火花をちらした。ターゲットは急速に速度を落とし、やがて反転し落下し始めた。

 

それを見た私達は、山の麓に注記しておいたヘリに急いで移動する。ターゲットは速度を上げて落下し、目標地点のそばに落ちようとしていた。しかし地上まで後10mほどのところで身を翻し、砂埃を舞い散らせながら着地した。気のせいか急に飛べなくなったことに対して困惑しているふうにも見て取れた。しかしそんなことを確認する間もなく物陰から3人が飛びかかる。

 

 

「はぁっ!」

「“スクルト”!“マホトーン”!」

「“バイキルト”!“ピオリム”」

ドガガガ!

 

山を駆け下りる過程で見える戦闘はなかなか凄まじいものだ。どうやら実験体の放つあの光線は至近距離では使用できないらしく、全く撃っていない。アリーナ姫の方は、付き人の二人に能力強化の呪文を掛けられ、目にも留まらぬ速さで蹴りや突きを次々に繰り出している。あの世界の姫君はアレくらい武術に堪能でなくてはならないのだろうか?

 

攻撃もやたらめったらというわけではなく、的確にターゲットの足の関節部分を重点的に攻撃している。足を攻撃できない時は羽の根元を攻撃しているようだ。

 

 

「くっ!なかなかタフねこいつ!」

「姫様!“ベホマ”!」

「ありがと、クリフト!下がってなさい!」

「ふむ・・・“ルカニ”。」

「お?ちょっとやわっこくなったかも!さすがねじい!」

「ほっほっほ。」

 

 

私とスネークはヘリに飛び乗り、エンジンを始動させた。すぐに出力全開で飛び立つ。まずはブルーとシルバーのところへ向かう。ブルーたちは山の上で戦況を見守っていた。いつでも照準を照射できるように照準器は覗いたままで。私はその後方へヘリを着地させる。それとほぼ同時に下の戦況に変化があったようだ。

 

ゴシャ

「やった!膝を変な方向へへし折ってやったわ!」

「姫様。お下がりください。締めはわたくし、ブライが。」

「ええ!頼んだわよ!っと!」ゴシャ

「よし!“マヌーサ”!」

「良いぞ、クリフト。ではちょっくら出力全開で参りますぞ!“マヒャド”!」

パキィィィィィン…

 

「姉さん!」

「今ですブルーさん!」

「照準セット!」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『戦略AIです。座標設定が完了しました。発射シーケンス開始。弾頭:対重魔法障壁弾頭。炸薬タイプ:なし、通常モード。発射弾数 10。安全制御プロトコル、9から16まで解除完了。全安全装置解除完了。カウントダウン開始、発射まで10,9,8,7・・・』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「照準完了!仕事終わり!」

「では逃げましょう。」

「姉さんはやく・・・うわ!」

「きゃあ!」

「失礼ながらこちらのほうが早いので。」

 

 

屈強な大男に両脇に抱えられてブルーとシルバーがものすごいスピードで戻ってきた。武内Pがジャンプでヘリに飛び乗った瞬間に私はヘリを離陸させ、アリーナ姫たちを回収に向かった。

滑走路に低空侵入し、そこへ走り込んできた3人がこれまたジャンプで飛び乗ってきた。結構まだ高度があったと思ったがさすがと言ったところだ。そのまま高度を上げつつ南へ離脱する。

 

 

シュルルルル…

「来たわよ!急いで!」

「わかっている。ドアを閉めろ!」

 

 

ボォォン!ボォォン!ボォォン!

 

 

真後ろで連続して弾頭が着弾する。合計10発の弾頭による飽和攻撃だ。凄まじい衝撃波と爆風によってヘリがバランスを崩しかけるが、なんとか持ちこたえ、爆風に乗ってさらに高度を上げる。

10発も撃ち込むとなるとそれなりに時間がかかり、1分ほど爆発音が断続的に聞こえた。5発目あたりで既に島は崩壊しかかっており、山の一部だったと思われる土の塊などが四方八方の海へ飛び散っていた。私達は高度3000mほどで滞空して様子を見る。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『発射完了。効果確認。・・・・ターゲットの健在を確認。』

『艦娘部隊に支援砲撃を要請するわ。そのまま待機していて頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

中央付近は大きくえぐられており、全体がクレーターとなった島に海水が流れ込んでいる。その中心部分にターゲットはいた。流石に大打撃を被ったようでかなり動きが鈍っている。

 

直後に遠方から砲弾が降り注ぐ。戦艦大和を旗艦とした横須賀鎮守府主力連合艦隊の砲撃だ。大和、武蔵、長門、陸奥、ザラ、観測員として鳳翔が当てられている。まだ、第二艦隊にはビスマルクとアイオワも居るようだ。彼女らが放つ各種砲弾が雨あられとなって降り注いでいる。

おそらくこの世界の基準で言えば仕留めたも同然だろう。しかし・・・。

 

 

『・・・!対象は健在よ!気をつけて!』

「やはりか。」

「あの砲撃に耐えきるとかどういうことよ!」

「本当に倒せるのかあんなバケモノ・・・。」

 

 

思わずブルーとシルバーが文句と弱音を吐くくらいには動揺が広がっている。しかしかなり追い詰めているのは事実なのでもうひと押しというところだろう。私が再度砲撃支援を要請しようとしたときだった。

 

 

 

 

バチチチバシュウウン…

 

 

 

「え?」

「へ?」

「何?!」

「・・・?」

 

 

ターゲットが光りに包まれたかと思いきや忽然と姿を消した。クレーターの中心部分にはもう何もなく、海水が流れ込むばかりだ。

 

 

『こちら戦略AIです。ターゲットの座標が取得できません。ターゲットロスト。』

「ロストしただと?」

『バーンウッドよ。とりあえず全員一旦基地に帰還して頂戴。今の光・・・まさか・・・。』

「了解。」

 

 

道中、横須賀鎮守府の艦娘に拾われていたレミリアとフランを回収し、なんとも煮え切らない形で基地に帰還することになった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

『調査結果が出たわ。』

「それで。実験体はどこへ行った?」

『その前に今回の作戦の報告をさせてもらうわ。今回の被害は“硫黄島の全壊”“呉鎮守府所属の艦娘1名の轟沈”この2つよ。』

「まとめてみるとあんなの相手にした割には被害は少ないほうじゃないかな?」

『そうね。でも艦娘をロストしたことに大本営は結構ご立腹でね。いつか埋め合わせが必要ね。あと作戦とは別だけれど、あの実験体が暴れまわって消滅した都市は、カルガリー、カンザスシティ、サラゴサ、ミラノ、クラクフ、ヴォロネジの6つ。』

「むしろソッチのほうが被害甚大ね。」

『更に大西洋、地中海、東シナ海、合わせて11箇所で深海棲艦に対する攻撃と思われる痕跡があったわ。深海棲艦の最上位クラスである“姫級”や悪名名高い戦艦レ級もいともたやすく葬ってるみたい。』

「あっちこっちにちょっかい掛けまくってるわね・・・。」

「被害報告はそのくらいでいいだろう。問題は“どこへ行ったか”だ。」

『それなんだけれど・・・あの時消失する直前の光。アレは渡界機の光にそっくりだった。この世界では既にどこにも実験体の反応を見ることができないでいる。とすれば・・・。』

「“他の世界線へ向かった”か。」

『それが意思によるものなのか、それとも事故なのかは調査しないとわからないわ。でも少なくともこの世界を脱出するための時間は稼げた。』

「じゃあ渡界機直るの?」

『ええ。資材も十分にある。予定なら2週間後くらいには送信機も機能するはずよ。』

「やった!」

「ちょっと待ちなさい!もしかして元の世界に帰す手立て無いのに呼んでたの!?」

『レミリア。帰す手立てはあったわ。時間がなかっただけ。』

「そんなの聞いてなかったわよ!」

『聞かれなかったからね。』

「(小学生かな・・・?)」

『ともかく。今は送信機を修理すると同時に、実験体が向かった世界線を特定する作業に入るわ。もうしばらく待機していて頂戴。』

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「信頼の警護」      +1000 『タバサを基地に残す。』

・「豆鉄砲を食らった悪魔」 +5000 『ターゲットの飛行ユニットを一発で破壊する。』

・「魔封じの氷柱」     +3000 『ターゲットを凍らせて動きを封じる。』 

・「十柱戯」        +3000 『トールの弾頭を一発も迎撃させない。』

 

 

 




呼ばれたのに出てきていない人は次回出てくる予定です。
ちなみに今回は基地でお留守番兼警護していました。


次回、決着?


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HITMAN『エージェントたちの決戦』(もう一つの世界線)

『硫黄島へようこそ。47。』

 

『現在、実験体はロシア連邦から中華人民共和国へと移動中よ。このまま行けば数時間後にはこのあたりを通過するはず。そこを叩くわよ。』

 

『作戦を説明するわ。呉鎮守府と横須賀鎮守府から艦娘部隊が応援に来てくれることになっているから、彼女らにこの島まで敵を誘導してもらうわ。島の上空まで来たらレミリアとフランに真正面から攻撃、地面に落としてもらうわ。地面に落としたら実験体の背中にある飛行ユニットを速やかに破壊する。』

 

『ユニットを破壊したらアリーナ姫御一行とタバサ、そしてレミリアとフランで集中砲火をかけて仕留める。万が一仕留めきれなくとも足止めだけはしてもらうわ。』

 

『47、貴方の役目はその集中砲火のバックアップよ。離れた場所から彼女らを狙撃で援護してあげて。スネークも別の地点から狙撃することになっているわ。間違っても味方に当てないようにね?』

 

『それと、一応カテゴリ・LOGの試作機“トール”の照準器を渡しておくわ。貴方の判断での使用が許可されているわ、でもくれぐれも慎重にね。脱出用のヘリは用意しているけど少しでも退却が遅れたら粉微塵よ?』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

~横須賀鎮守府部隊side~

 

 

 

「戦艦大和!推してまいります!」

「戦艦武蔵!私も行くぞ!」

 

 

今回の作戦は非常に厳しいものになると思う。私は連合艦隊旗艦という立場上、知りたくない情報までいろいろと入ってきてしまう。妹の武蔵にはそのあたりのことをあまり考えずにのびのびと作戦を遂行してほしい。だから旗艦は私、僚艦が武蔵。

 

大本営によると、ICAという組織が世界を滅亡させかねない高速飛翔生命体を捉えたということで、その迎撃を援護するために呉と横須賀から各主力打撃群が出撃している。呉の方は空母が主体だけれど、私達は戦艦が主体。特に今回は、本土近海ということもあって燃料弾薬共にほとんど消費無く、道中深海棲艦に出くわすこともなく作戦海域に到達できているので、私達の力を存分に発揮できる。みんなそう思っている。

 

でも私は違う。大本営で聞いてしまっている。その生命体はICAという組織が作り上げた史上最強のキリングマシーン。それが暴走し、世界を滅亡に追いやり始めたから駆除したいという。大本営としては尻拭いとも取れるその作戦に協力することで恩を売っておきたいらしい。既にこの世界で恩を売ってもしょうがない相手のほうが多い現状で、なお恩を売るということはそれだけ重要な組織なのだろう。

 

ICAはかの生命体のことを“実験体”と呼んでいるらしい。深海棲艦など比較にもならないくらいに強大な敵。武蔵は「この艦隊なら負けるほうが難しい」と豪語していたけれど、私の予想は楽観的に見ても苦戦。最悪は轟沈艦が多数出る可能性があると予想している。そのさなかで私の役目。連合艦隊旗艦大和の役目。それはみんなを生きて母港へ帰還させること。ただそれだけだ。そのためにも必要なことは全部やっていこう。

 

 

「鳳翔さん!偵察機をお願いします!」

「は、はい。わかりましたが・・・いささか早くないですか?」

「どうした?大和。怖気づいたのか?」

「そうじゃないわ。念には念を入れないと。この作戦。そんな簡単な作戦じゃないと思うの。」

「あら?大戦艦大和にしてはいつもの自信が見えないわよ?大丈夫!ミーが守ってあげるわ!」

「アイオワ、あまり前に出過ぎないように。陣形が乱れてる。」

「OH!ソーリー!ビスマルク!」

 

 

やはり皆若干慢心している。おそらく少し強い程度の深海棲艦。戦艦レ級程度の相手だと思っているらしい。

 

 

「大和さん。何かあるんですか?不安にさせるようなことが・・・。」

「・・・大丈夫。念を入れてるだけよ。それよりザラさん、呉鎮守府艦隊と前衛遊撃部隊との連絡はどうなってますか?」

「大本営から支給された通信機のおかげで問題なく。これすごいですね。私の生まれた国にもここまでのはなかったです。」

「そう。何かあったらすぐに知らせるように言っておいてくれないかしら。」

「わかりまし・・・。」

「ザラさん?」

「・・・緊急電!」

「!!」

 

 

艦隊に緊張が走る。気が緩んでいたとしてもそこは歴戦の猛者ばかり。警戒するべき時はきちっとしているのだ。

 

 

「前衛遊撃艦隊から入電!伊勢、日向が対象と遭遇!迎撃を試みるも返り討ちにあった模様です!2艦とも大破し、現在撤退中!」

「伊勢と日向は呉鎮守府のだろう?おかしい、そんなに早くやられるようなヤワなやつではなかったと思うんだが。」

「そのとおりだ長門。どうやら大和の不安が的中しそうだ。全艦!全周最大警戒!対艦対空対潜警戒厳となせ!」

「「了解!」」

 

 

私の悪い予感が現実のものとなりかけている。絶対に。守らないと。最悪私達の何人かが轟沈すると思っていた。しかし、今はそれをさらに上回る最悪を想定しなければならないかもしれない。・・・今度は、守ってみせます!

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

「報告。呉鎮守府の艦隊が交戦開始。被害も既に出ている模様」

「改良していると言っても二次大戦の兵器の延長線上を使用している艦娘たちには、少々荷が重いかもしれないな。」

 

 

私は硫黄島の元自衛隊基地の建物に居る。横にはタバサがおり、先鋒部隊が会敵したことを知らせてくれた。

 

予定では、艦娘達が相手を翻弄しつつこの島へ誘導する。この島はそこまで大きな島ではないので、通過するとすれば真中付近を通る。島中央の滑走路上空でレミリアとフランの上下からの同時攻撃により滑走路に叩きつける。そこへ間髪入れずにアリーナ姫一行とタバサで飛行ユニットを破壊する。その後、そのままその地点で戦闘を行い、レミリアフランも加わりつつ、隙きを見て南東から私が、北からスネークが援護射撃を行い実験体を亡き者にする計画だ。

 

脱出用のヘリコプターはスネークの後方に1機。私の後方にも1機用意されている。万が一仕留めきれないと踏んだ場合は足止めとしてアリーナ姫一行の一人、ブライとタバサの2人がかりで氷の魔法で凍結させて足止めする。ヘリで脱出し、氷漬けの実験体に向けてトールを撃ち込むことになるだろう。その際は島がおそらくは影も形も無くなる可能性が高いが、幸いこの島は民間人は全く住んでおらず、唯一の島民だった自衛隊と米軍も深海棲艦の攻撃によって撤退した。潰れても対して問題はないだろう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。呉鎮守府と日本国大本営から通信があったわ。呉鎮守府の空母打撃群はかなりの被害を受けているらしいわ。それでもなんとかこの島へ誘導だけはするために一番早い駆逐艦を単艦囮にしてこの島へ到達させるみたい。到着予定は30分後よ。準備して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

やはりあの実験体の動きや火力は第二次世界大戦当時の航空機ではまるで刃が立たなかったらしい。本来空母は相手の攻撃が届かない超遠距離から艦載機を飛ばして攻撃を行うアウトレンジ戦法が主体。しかし現代の空母ならばいざしらず、当時の艦載機の航続距離はたかだか2000kmから3000km。武装していればもっと短くなる。攻撃によって注意を惹かれ、実験体が大本となる空母を射程に捉えるまでおそらく10分もかからない距離しか離れられないだろう。

 

 

「聞こえますか!こちら横須賀鎮守府連合艦隊旗艦大和です!応答願います!」

『こちらはICA合同迎撃部隊。協力感謝します。接敵予定時間にはまだいささか早いようですが如何なさいましたか?』

「よかった、繋がった。私達は戦艦を主とした艦隊です。火力には自信がありますが、万全を期すために囮となっている駆逐艦を援護したいと思うのですがよろしいでしょうか?」

『それは我々より大本営や横須賀鎮守府に確認することでは?』

「鎮守府と大本営には確認し了解を得ています。」

『であるならば我々としては問題ありません。ターゲットを硫黄島に誘導してくれさえすれば、後は好きに動いて構いません。』

「ありがとうございます!通信終わります!」

 

 

私は今、硫黄島の基地司令部跡地の建物の上に居るが、そこからでも西の水平線上に明かりがちらつくのが見える。おそらく、艦載機が最後の抵抗と言ったところだろうか。そのうち更に大きな光が見えた。アレはおそらく戦艦の砲撃だ。私はそれを見て島にいるメンバーに呼びかける。

 

 

「全員。ここから水平線上に明かりが見えている。接敵は近い。各員十分に警戒せよ。」

「了解。」

「こっちからも見えるぞ。ずいぶんと派手にやっているな。」

「ん~・・・あ!見えたよ!お姉さま!」

「フラン、高度を落としなさい。奇襲の意味がなくなってしまうわ。」

 

 

我々はそのままじっと待ち続ける。水平線の光がだんだんを鮮明になってきた。

 

 

「来たぞ。」

「今宵は満月。さあ、存分に行きましょうか!」

「出撃~♪」

 

 

水平線から艦影が見えた。囮の駆逐艦だ。かなりボロボロではあるが巧みに攻撃を躱してこちらへまっすぐ向かってくる。その少し後方には他の艦娘たちが見える。一様に何かしらの被害を受けているようだった。

 

 

「レミリア、ターゲットは囮に釘付けだ。こっちに振り向かせる必要がある。」

「言われなくても、これでもくらいなさい!神槍“スピア・ザ・グングニル”!」

 

 

バリバリバリ!

ガキィィン!!

 

 

レミリアの放った一撃は既の所でこちらに気がついたターゲットによって明後日の方向に弾かれてしまった。しかし、これで完全にこちらに矛先が移った。

 

 

「囮役の駆逐艦へ。よく持ちこたえてくれた。後は我々がやる。海域を全速で離脱せよ。」

「りょ、了解・・・駆逐艦初月、離脱します・・・。」

「こちら横須賀鎮守府連合艦隊所属、鳳翔です。旗艦大和と僚艦武蔵が大破しました。初月を護衛しつつ離脱します。」

 

 

駆逐艦を逃している間に実験体は滑走路へと誘導されていた。低空侵入で滑走路へ侵入してくるレミリアと実験体。予定地点の直前で前傾姿勢だったレミリアが体を起こして急停止する。実験体は勢い余ってレミリアを追い越してしまう。さながら戦闘機のコブラ機動のようだ。

 

追い抜いてしまったことで実験体も遅れて急停止する。その時を待っていたかのように直上から赤い光線が実験体に向かって降り注いだ。

 

 

「禁忌“レーヴァテイン”!あははは!」

「フラン?!私も近くにいるんだけれど?!」

 

 

フランの放ったレーヴァテインは実験体とレミリアをまとめて攻撃していた。レミリアは既の所で避けていたが、実験体はまともに背中にぶち当たったようだ。その際に飛行ユニットが破壊されたらしく、攻撃の威力そのままに地面に叩きつけられた。

 

土煙が上がるがお構いなしに周囲から4人が飛び出してくる。アリーナ一行とタバサだ。クリフト、ブライ、タバサはそれぞれ補助魔法や攻撃魔法で実験体が居ると思われる場所を攻撃する。アリーナ姫はというと攻撃魔法が飛び交っているにもかかわらず、お構いなしに接近戦を敢行している。

 

ここからは少し離れているがそれでも余波がここまで伝わってくるほどに戦闘は激しいものになっている。私は持ってきたJaeger7を構える。土煙が魔法によって晴れ、実験体が見える。アリーナの攻撃を防ぐので手一杯と言った様子だったが、時折直撃コースを取る氷魔法もすべて防ぎきっているところから見ても、そこまで追い詰められているというわけではなさそうだ。むしろ相手の能力を分析しているふうにも取れる。

 

レミリアとフランも近接戦闘に加わって場はだいぶ滅茶苦茶だ。流石に実力者3人相手となると分が悪いと思ったのか、段々と滑走路東側にずれていって離脱を試みようとしているのがわかる。各員の立ち位置からしておそらくはそろそろ。

 

 

バッ

 

ダァーン!

ダァーン!

 

案の定、驚異的な足の瞬発力で一気に滑走路の東方向へ離脱を試みた実験体。しかし、予めある程度予測できていた私は、一回の跳躍の後着地する瞬間を狙って実験体の左膝関節部分をJaeger7で撃ち抜いた。北から狙っているスネークも同じことを考えていたようでスネークの方は右足首を破壊していた。通常の生物ならばもう動くことはできないと思うが。

 

明らかに動きが鈍った実験体に再び6人の集中砲火が浴びせられる。しかし位置は全く動かなくなったとは言え、有効なダメージが与えられているかと言えばそうでもない。動けなくなったのもほんの10分ほどで、驚異的な回復力により戦闘しながら両足は完治していたようだった。

 

 

「各員聞け。このままでは埒が明かない。トールで一気にかたをつける。」

「え?どうするのよ?」

「スネーク、聞こえるな。ヘリでこちらに来てくれ。」

「了解。」

 

 

私はまずスネークをこちらに呼び寄せた。程なくしてこちら側の背後にスネークがやってくる。次に私達のところからの射線を少しだけ開けさせた。

 

 

ダァーン!ダァーン!

 

 

まずはじめに実験体の足を止める。すかさず数発胴体や頭部にも弾丸を撃ち込む。殆どは防がれたが、アリーナ、レミリア、フランが距離を取るのには十分な隙きが生まれた。すかさずタバサとブライが簡易的ではあるが下半身を分厚い氷で氷漬けにする。それにより更に生まれた隙によってアリーナ一行とタバサはこちらへ向かってくる。レミリアとフランは比較的大技を準備している。

実験体の氷が破られる。足は完治しかかっており、すぐに動き出してしまう。しかし、レミリアとフランがそれを許さない。

 

 

「QED“495年の波紋”!」

「紅魔“スカーレットデビル”!」

 

 

濃密な弾幕が実験体を襲う。あまりの濃密さにこちらからでは実験体の姿が霞むほどである。確実に実験体の動きを止めつつ、脚部を破壊していく。私はスネークと到着したアリーナ一行、タバサらと共にヘリに乗り込み飛び立つ。飛び立つさなかのヘリの中から私は“トール”の照準を行う。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『戦略AIです。座標設定が完了しました。発射シーケンス開始。弾頭:対重魔法障壁弾頭。炸薬タイプ:なし、通常モード。発射弾数 10。安全制御プロトコル、9から16まで解除完了。全安全装置解除完了。カウントダウン開始、発射まで10,9,8,7・・・』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「レミリア、フラン。トールが発射された。弾幕もそこそこにして離脱するんだ。」

「あなた達はほんとに地面を壊すのが好きよねえ・・・っと!」

ボガァァン!

「楽しかったよ!また遊ぼうね!っと!」

ドゴォォォン!

 

 

置き土産と言わんばかりに二人は実験体の足めがけて衝撃波のようなものを放って離脱していった。実験体の脚部は既に腿の上部分から下が無くなっていた。それでも上半身は手によって防ぎきっていたためかほとんどダメージを受けているようには見えなかった。実験体はすかさず手を足のちぎれた部分にかざす。おそらく回復を促しているのだろう。みるみるうちに断面部分から足が生えてくる。しかし、時すでに遅しだ。

 

 

シュルルルル

 

 

上空から炎をまとった弾頭が落下してくる。まとめて放ったため初弾着弾前に10本すべてが肉眼で確認できてしまう。

 

 

ボォーン!

 

 

初弾が着弾するよりも前に空中で爆散した。強烈な爆風と爆炎であたりが埋め尽くされる。実験体が回復作業を中断して迎撃したのだ。放つ赤い光線は次々と弾頭を破壊していく。しかし破壊するたびに爆炎と爆風が吹き荒れるため若干次弾への対処が遅れる。3発目にはかなり地上付近での迎撃となり、そして。

 

 

ドゴォォン!ドゴォォン!

 

 

ついに迎撃が間に合わずトールの弾頭が着弾した。一発迎撃できなければその後を迎撃する余裕ができるわけがない。弾頭は次々に着弾した。爆炎と土煙の中から島の一部だったと思われる土塊や、滑走路側にあった建物自体が飛んできてたりもしている。少なくとも島の形が変わるのは確実だろうな。

 

 

「相変わらずえげつない威力ね。」

「レミリア。」

「私も居るよ!」

「アレって、幻想郷で撃ったアレよね。あんなに連射できるものなのね。」

「試作機だからあのときのものよりは若干威力が落ちるらしいがな。」

 

 

ヘリで遠巻きに見ていた我々へレミリアとフランが合流した。トールの威力に目を丸くしている。私としてはそこまで誇れるものでもない。アレは周囲への被害が大きすぎて使いづらい。

弾頭10発。そのうち迎撃されたのが3発。7発の弾頭が実験体に直撃した。流石にやれたと思ったが・・・。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。気をつけて。実験体の生体反応が消えていない。』

『戦略AIです。発射完了。効果確認。・・・・ターゲットの健在を確認。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「まだ生きてるとはしぶといわね。」

「もう一回行く?」

「済まないが頼めるか。」

 

 

レミリアは返事の代わりに「フンッ」と鼻を鳴らして実験体に向かって全力で飛んでいった。フランも後に続く。

 

 

「我々も行くぞ。ここでなんとしてもとどめを刺さなければならない。」

『47。実験体に動きがあるわ。』

「何?」

 

 

見ると実験体の周囲が光り輝き始めている。次の瞬間、満身創痍の実験体がかき消えた。向かっていたレミリアとフランも思わず急停止する。辺りを見回すがそれらしき影もなく、ヘリの羽音のみが響き渡っていた。

 

 

『こちら戦略AIです。ターゲットの座標が取得できません。ターゲットロスト。』

「どういうことだ?」

「いなくなったってことなの?」

『バーンウッドよ。こちらの衛星でも実験体をロストしたわ。どういうことなの・・・。』

「・・・いなくなったのなら探さねばならない。死体になったのではないのだから。」

『そのとおりね。ともかく今は一旦基地に帰還して頂戴。情報部が全力で捜索するわ。』

「了解。」

 

 

腑に落ちないと言った表情のレミリアとフランを回収し、我々は基地へ帰還するために日本本土を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~2週間後~

 

 

「入りたまえ。」

『失礼します。只今帰還いたしました。』

「おお、バーンウッド君。無事で何よりだ。」

「実験体に襲われたと聞いた時はもう帰ってこないかと心配しましたわよ?」

『ありがとうございます。それで実験体なのですが、先程、情報部が転移先を突き止めました。』

「おお、流石仕事が速いな。それで?かの迷惑サイボーグは今度はどこにちょっかいを出しているのだ?」

『はい。どうやら“ハルケギニア”へ向かったようです。』

「また辺鄙なところへ行ったな。」

「艦娘と深海棲艦が手に負えなかった相手を技術的にも魔術的にも後進国しか無いあの世界が対応できるとは思えん。」

『一応虚無というものがありますが、あまり期待はできないと思われます。』

「うむ・・・。対抗策はありそうか?」

『正直な所、トールの砲撃にすら耐えた現状では・・・。』

「そうか・・・。」

「・・・。」

『如何なさいましょう。』

「・・・。致し方あるまい。」

『はい?』

「ハルケギニアに新しいカテゴリLOGシステムを至急設置しろ。」

「あなた、まさか・・・!」

「弾頭は3種類だ。」

『3種類・・・通常弾頭と・・・。』

「戦略純粋水爆弾頭。そして・・・アレだ。」

『お言葉ですが、その弾頭は威力が高すぎる可能性があります。ハルケギニア自体に甚大な被害が及ぶ可能性があります。』

「やむを得んだろう。世界が滅ぼされるよりは国の一つや二つ滅びるほうがまだ幾分マシだ。」

『しかし・・・。』

「もたもたしていると我々の世界に転移してきかねない。早急に対処せねば。」

「ハルケギニアには犠牲になってもらう。ということですわ。」

「実験体を通常弾で倒せないなら、アレの使用しか方法が無いというのは、このとおり委員会の決定事項だ。」

『・・・了解しました。』

「うむ。では正式に伝達する。」

 

 

 

「ICA上級委員会No.1からNo.10までの連名で通達する。“カテゴリ・スパディル”の使用を許可する。実験体を殲滅せよ。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「2人なら乗り越えられる」 +1000 『ブルーとシルバーを基地に残す。』

・「祀られるのはまだ早い」  +1000 『艦娘に轟沈艦を出さない。』

・「跪け!」         +3000 『実験体の脚部を狙撃する。』

・「悪魔的近接防空」     +1000 『トールを5発以上9発以内弾着させる。』

 




ちょっと投稿が遅れました。何故か筆が進まなかったのと時折謎の頭痛に悩まされていたためです。(結局ただの寝不足だったみたいですがw)


2019/06/17追記
この話の移動をもって「もう一つの世界線」の移動が完了しました。
3~5日くらいを目処に元々の方は閲覧できなくなります。


次回は実験体を追跡します。


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HITMAN『ファイナル・テスト』

『アーハンブラ城へようこそ。47。』

 

『情報部の調査によって実験体はここ、ハルケギニアに転移したことが判明したわ。現地諜報員によると今の所目立った破壊活動は確認されておらず、おそらく我々の攻撃による傷を修復していると考えられるわ。』

 

『ICA上層部はハルケギニアへのカテゴリLOGの配備を決定したわ。コードネームは“バルドル”よ。ハルケギニアでは既にいくつかのICAの衛星が浮かんでいて終末誘導まで衛星から遠隔で行えるから、今回は照準器を持つ必要はないわ。』

 

『つい先程、情報部から連絡があったわ。実験体はここアーハンブラ城の城下町に潜伏している可能性が高いことがわかったわ。可能ならば完全に修復が完了する前に暗殺。できなければ東側の砂漠地帯へおびき寄せて頂戴。バルドルで殲滅するわ。』

 

『今回、バルドルには今まで使っていなかった弾頭が装備されているわ。これで倒せなければ本当にICAは打つ手が無くなる。転移した世界ごと消滅させるしか方法がなくなってしまうの。この世界の命運も貴方にかかっているわけね。』

 

『ブルーとシルバー、タバサとスネーク、ルイズとサイト、そして貴方。この4部隊で捜索して追い詰めるわ。必ず見つけ出して世界が滅ぶ前に、そしてまた転移される前にその息の根をとめるのよ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~12時間前~

 

 

「タバサ!!」

「・・・!キュルケ・・・。」

 

 

彼女は私を見つけると持っていた本を放り投げて私に駆け寄ってきて抱きついてきた。いつもなら避けるか防ぐかするところだが、流石に今回はそんな野暮なことはしない。

 

 

「タバサ!本当にタバサなの?!亡霊?!操られてるわけじゃないわよね?!」

「私は生きている。亡霊でも操られてもいない。」

「うん、うん。わかるわよ。私が一番タバサを見てきたもの。今ココにいるタバサは本物で誰に操られてるでもないわ・・・。」

 

 

もう彼女は顔面がクシャクシャだ。遠巻きに47とルイズとサイトが見ている。

 

 

「グシュ…フー…それでそちら方は?・・・ってルイズとサイトも!あなた達も今まで一体どこへ行ってたのよ!」

「なんか反応遅くない?」

「あはは・・・まあ仕方ねえよ。」

「それも含めて説明する。」

 

 

私は47を招き寄せ、キュルケに事情を説明する。ガリア王ジョゼフの暗殺依頼を私が出したこと。報復としてガリア王国の依頼によって暗殺されたこと。ICAが私を特殊な薬品で生き返らせたこと。ICAに所属して今はいろいろな任務を行っていること。そして、今回ココへ来たのも重大な任務のためなこと。

 

 

「そう・・・大変だったのね・・・。ということは墓荒らしって・・・。」

「おそらく私のことだろう。」

「あなたが47さん?結構イケメンじゃない。でもそれはそれとして・・・。」

「・・・?キュルケ?」

「タバサの願いを聞き入れてくれたこと。そしてタバサを生き返らせてくれたこと。その2つに関しては感謝するわ。ありがとう。」

「・・・。」

「でもタバサを殺したこと。これに関しては償ってほしいとも思ってる。まあでも生き返らせてくれたんだから相殺されてる気がしなくもないけどね。」

「殺したのも生き返らせたのもこちらの都合だ。感謝されるようなことは何もしていない。」

「・・・そうね。でもタバサにまた会わせてくれたことも感謝したいわ。」

「・・・好きにすると良い。」

「それで?ココに来たのがそのよくわかんない生物を倒すためなんだっけ?ルイズとサイトもそれで拉致られてたの?」

「まあそういうことになるわね。」

 

 

それからは実験体に関する情報を聞いたり知らせたり。この魔法学院が巻き込まれそうになった時の対処方法などもレクチャーした。その上で、ルイズとサイトを借りること、そして私が今後もICAで仕事を続けることを伝えた。

途中ギーシュやコルベール教諭が中庭で話す我々に気がついて寄ってきた。彼らにも事情を話した所協力を申し出てくれたが、流石に今回はエンシェントドラゴンも比ではないバケモノが相手だということで、魔法学院の防衛という名目で丁重にお断りすることとなった。

 

ひとしきり話した後、出発の時刻になった。名残惜しそうなキュルケにまた会いに来る旨を伝えると少しだけ表情が和らいだ。私達はICAの輸送ヘリに乗ってアーハンブラ城へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

アーハンブラ城は、砂漠のオアシスに建てられた古城だ。周囲は岩石砂漠であるが、西側の地平線には草原が見えているくらいには砂漠の端にある。

 

この砂漠は“サハラ”と呼ばれているらしく、衛星からの情報ではここから東に2000キロほど行ったところにエルフの住む都市があるらしい。この間の2000キロはひたすらに砂利と砂が広がっている。どうにかしてこの領域にターゲットを誘き出してここで処理したい。作戦前のブリーフィングでいくつかプランが立てられた。そのうちの一つをこれから実行に移そうと思う。

 

帝政ゲルマニア東部、サハラ北方に位置し、高さ4000m超えの険しい山岳とマイナス30度にもなる極寒によって守られている中にICAの野戦滑走路がある。そこに駐機されているSR-72を使用してターゲットを砂漠へおびき出すことにした。

 

手順としては我々の部隊でターゲットを城下町から追い立てる。おそらく飛行ユニットの修復は完了している可能性が高い。なのでルイズ、サイト、タバサの3名によりターゲットをひきつけ、食いついたところで低速飛行中のSR-72に飛び乗ってもらう。かなり難易度は高いが、ガンダールヴの力を使えばなんとか掴まることくらいはできるらしい。掴まったら速度を上げサハラへ誘導する。サハラ中央部にてルイズの虚無の力、“エクスプロージョン”を使って再び実験体を足止めする。足りなければ“バルドル”の戦略核弾頭を撃ち込む算段だ。

 

私のやることと言えばこの城下町の喧騒の中から実験体を探し当て、ルイズたちへ託すことくらいだ。実験体の処理を部外者に頼るというのも癪な話だが仕方ないだろう。むしろ彼女たちの協力がなければ、この城下町に直接戦略核弾頭を投下することになっていたと思われる。

 

 

「準備はいいか?」

「オッケーよ!」

「こっちも良いよ。」

「大丈夫。」

「ああ、問題ない。相方は無口で少し退屈だがな。」

「スネークは実験体を発見した際、ルイズとサイトの準備ができるまで私と時間稼ぎだ。」

「わかった。そういうのは得意だ。」

「実験体を発見しても手を出すな。お前たちの手に追える相手ではない。」

「わかってるわ。流石にあんなのを見せつけられちゃ手なんか出したくないわよ。」

「ルイズ、絶対に手を出すなよ?絶対だぞ?」

「サイト。それもしかして手を出せって言ってる?」

「お約束もいいが今回は洒落にならない。交戦は絶対に避けろ。」

 

 

少々不安だが、ルイズ達も前回の硫黄島での戦いは映像で見ているはずだ。そうそう勝手な行動はしないだろう。

 

 

「では全隊。行動開始。」

「「了解!」」

 

 

私達は手分けして城下町の捜索を始めた。私は現地民の服装を例によって“借りて”町を街路から探索する。タバサとスネークはその隠密作戦能力を使って家から家へと飛び移りながら捜索しているようだ。ブルーとシルバーに関してはこの間の幻想郷での一件で味をしめたのか、今度はナンカレー屋台に扮して広場で情報を集めようとしている。ルイズとサイトはこのような捜索に慣れていないのもあっていつもどおりの普段の格好のまま街路を探索している。案の定とても目立っている。しかし、むしろあちらが目立つおかげでこちらに目が向かないので好都合でもある。

 

道のど真ん中で喚き散らしている主従たちを横目で見ている住人が居た。

 

 

「なんだまたよそ者か?これ以上の厄介事は簡便だぜ・・・。」

「だな。あいつはまだこの街を出てないんだろ?」

「出れる状態じゃないのは確かだけどな。でもあいつ何もしゃべんねえし、事あるごとにこっちを威嚇して殺気飛ばしてくるから近寄れねえんだよな。」

「あーわかるわ。俺も殺されるかと思ったぜ。」

「教会の神父様がかばわなきゃ町総出で追い払うか殺してるところだったからな。」

「でも俺は襲うようなことにならなくてよかったと思ってるぜ。」

「ふうん?なんだ可愛そうになったか?」

「可愛そうになったのは自分自身だな。ありゃ町総出で襲いかかっても勝てそうにねえ。」

「そりゃまた何で?」

「俺は見ちまったんだよ。あいつ、最初の頃、神父様にすら殺意飛ばしてた。そのときにあいつが殺気飛ばすたびに、あいつの周りにあるものが勝手に爆発してったんだ。」

「爆発してっただあ?」

「ああ。コップ、箱、本や机までな。」

「だから最初の頃教会から変な音してたのか。」

「あいつはなんか恐ろしい能力を持ってるに違いないぜ。早く出ていってくれねえかなあ・・・。」

 

 

どうやらターゲットは教会周辺にいるようだ。ならず者状態だった実験体を教会がかくまったらしい。この世界における教会の権力は絶大であり、領主の貴族ですら教会の意向に真っ向から反対することはできないらしい。なので得体の知れない生物が来ても誰も文句を言えない状態にあるというわけだ。私は得た情報を通信で報告する。

 

 

「こちら47。ターゲットに関する情報を手に入れた。ターゲットは教会関係者に匿われているようだ。」

「教会か。今その協会らしき建物の近くにいる。天窓から中を覗いてみよう。ミス・タバサ、音を消す魔法を頼む。」

「了解。」

 

 

スネークとタバサのチームが教会を確認する。私はそのまま情報収集を継続した。

 

 

 

 

 

~スネークside~

 

 

天窓から教会内部を確認する。念の為タバサに足音を消す魔法をかけてもらった。魔法というものは便利だな。頼りすぎても問題だが。

俺はUSPを構えつつ、天窓を慎重に覗き込む。・・・礼拝室には誰も居ないようだ。移動し、別の部屋を順番に探っていく。しかし天窓がついている部屋はそうは多くない。天窓がついている部屋は全て見たがターゲットはおろか人っ子一人いない。やはり潜入して調べる他ないだろう。

 

 

「タバサ、俺が今から中にはいる。援護を頼む。」

「了解。」

 

 

口数は極端に少ない少女だが腕は確かだ。的確に援護できる位置と適切な火力支援を行ってくれるだろう。俺は天窓の一つを開けると内部に潜入した。

 

 

「こちらスネーク。教会内部に潜入した。」

「よし、ターゲットは町の住人から恐れられていた。外に出しているとは考えにくい。おそらくまだその教会内に匿われていると予想される。十分に注意しろ。」

「わかった。」

 

「スネーク、相手は手負いとは言えかなり凶暴なはずだ。こんなところでやりあえば周りにも被害が出る可能性が高い。十分に注意するんだ。」

「オタコン。俺を誰だと思ってる?」

「まあ君なら大丈夫だと思ってるけどね。無事に帰ってきてもらわないと、こっちでもやることが山積してるんだ。」

「・・・帰っても休めそうにはないな。」

 

 

オタコンとはこちらの世界に呼び出されたときに、ICAの回線を使って通信が可能になった。オタコンの他には隠居中の大佐もいるし、アメリカ海軍の新設第7艦隊の副司令にまで上り詰めたメイリンまでいる。非常に心強い。

 

さて、教会内部はそこまで特殊な作りになっていたりはしない。廊下沿いに6部屋。一番奥に礼拝堂への扉。反対側の突き当りにはダイニングキッチンが見える。上へと登る階段はあるが螺旋階段でとても狭い。まずは手始めに6つの部屋を調べて回ることにしよう。

 

1つ目の部屋の中からは人の気配がしている。慎重に音を立てないように少しだけ開けて中を覗くと、壁に設置された机で神父と思わしき老人が書物をしていた。忍び足で背後に近づき、すばやく口に手を回して羽交い締めにする。

 

 

ムーッ!

「暴れるな。暴れたらどうなるか・・・。」

 

 

懐からサバイバルナイフを取り出し神父の首元に近づける。みるみるうちに神父の顔が青ざめていく。静かにするように言い、口から手を離す。

 

 

「言え。最近匿った者が居るはずだ。」

「あわわわわわ・・・・。」

「言え。言わないと・・・。」

「ま、まってくれ!言う!言うから命だけは!」

「早く言え。」

「ここにはいない!今朝出ていった!」

「どこへ行った。」

「知らない!本当だ!東へ向かったことしかわからない!」

「もう一つ、背中に羽が生えていたはずだ。飛んでいったのか?」

「羽は特に傷ついている様子はなかったが、歩いて東へ行った。まだ飛べる状態じゃないみたいだ。」

「そうか。」

「お、お助け・・・。」

「しばらく寝ていろ。」ゴッ

「うぐっ!」

 

 

必要な情報は引き出せた。騒ぎになるのも問題なので首筋に峰打ちを食らわせて気絶してもらった。ふと扉を見るとタバサがこちらを見ていた。

 

 

「言ってくれれば眠らせた。」

「ついてきていないと思っていたからな。」

「ともかく急いだほうが良い。」

「だな。今の情報が正しいとすればそろそろ街を出ているかもしれん。」

 

 

現在時刻は午前11時少し前。今朝出発したとしたなら歩きだとしても既に街を出ている可能性もある。

 

俺たちは無線で全員に報告した後、街の東側へ向かった。

 

 

 

 

 

 

~ルイズside~

 

 

「ほら!急ぎなさい!」

「ま、待てよ!まだ慣れてねえんだって!」

 

私達は今街の東の砂漠に来ている。街はずれの人に聞き込みを行った結果、目的の人物は街を出て砂漠を歩いていったらしい。ついでに羽も含めた全身を覆うフードをかぶっていたらしい。もしかしたらそいつも日光が苦手なのかもしれない。だとしたらフードを引っ剥がせば後はほっといても勝手に死んでくれるんじゃないかしら?

 

ともかく、私達は町で借りた馬に乗って東へ向かっていた。サイトは相変わらず乗馬は下手なようで速度が出ずに遅れていた。今度ちゃんと乗馬を教え込まないと駄目ね。

 

 

「こちら47。ルイズ、聞こえるか。」

「聞こえてるわよ。どうしたの?」

 

 

本来なら魔法を使えない平民に呼び捨てにされるのは癪だけれど、彼は例外。なぜなら彼は魔法なんか必要ないと思えるほどに強く、あとこれが一番の理由だけど、エレオノール姉さまとは違う次元で怖い。その目で見られた瞬間に、灼熱の砂漠に雪が降るんじゃないかと思ったほど背筋に悪寒が走った。だから彼が私を呼び捨てにするのを許容するのも仕方がないことだと思う。

 

 

「ターゲットのものと思われる足跡を発見した。そこから南東へ向かってくれ。」

「南東ね・・・南東ってどっちかしら?」

「太陽があっちで影がこっちに伸びてて・・・今12時だから・・・あっちじゃね?」

「なんで分かるのよ?」

「お昼の12時に太陽がある方向が南だからだよ。」

「へぇ・・・。」

「南東に向かえばターゲットと接触する可能性も高い。気を引き締めろ。」

「了解!」

 

 

サイトが元気よく返事をする。こいつなんかあの47って男に憧れのような眼差し向けてる所あるのよね。学院に行った時のギーシュも似たような目をしていたし、男子ってこういう男に憧れるのかしら?

南東に向かって馬を走らせる。水は多めに持ってきているので炎天下の砂漠でも問題なく走れている。岩でできた丘をいくつか超えるとかなり遠くに一人歩いている人影を発見した。私達はすばやく近くの岩場に身を隠す。

 

 

「こちらルイズ。ターゲットを発見したわよ。」

「よくやった。そちらの位置はビーコンで確認できている。準備ができるまでできる限り遠くから尾行するんだ。」

「尾行?やっつけるんじゃないのか?」

「サイト、相手は島を粉々にするような攻撃でも死ななかった相手なのよ?忘れたの?貴方一人で行くって言うなら止めないけど。」

「遠慮しておきますです。ハイ。」

 

尾行と言ってもかなり見晴らしが良いので、実質その場で待機することになった。しばらく待っていると後ろに風竜が降りてきた。いや、実際には風竜ではなく韻竜なのだけれど。乗っているのはタバサとスネークだ。

 

 

「ルイズ、サイト。発見したようだな。」

「はい!スネークさん!あれです!」

 

 

サイトは47にも憧れているし、このスネークというおじさんにも憧れている。ハードボイルドって言ってたけど何のことかしら。

 

 

「っていうかタバサ、その子イルククゥ?」

「そう。」

「キュイ!」

「再契約できたのね。よかったわ。」

「何だこのドラゴン、知り合いなのか?」

「元々タバサの使い魔だったのよ。タバサが死んじゃって契約は切れちゃってたんだけど・・・。」

「こちらに来てから再度サモン・サーヴァントを行った。」

「サーモンがなんだって?」

『その話はまた今度にしてくれると助かるわね。』

「うぉっと。」

『全員聞こえてるわね。SR-72の準備も整ったわ。爆音を出すSR-72が近づけば否応にもターゲットに気が付かれる。チャンスは一度切りよ。』

 

 

サイトの頭の上に疑問符が浮かんだ。

 

 

「でも飛行ユニットは治ってないんだろ?だったらわざわざ飛び乗る必要もないんじゃね?」

『衛星からの観測の結果、ターゲットの飛行ユニットもほぼ完全に修復が完了しているわ。何故それを使わないのかはわからないけれど。』

「燃料切れということはないのか?」

『実験体の飛行ユニットは体内に内蔵されている特殊融合炉からの電力供給。燃料は食料よ。』

「ということはもしかして今腹ペコ?」

「かもしれないわね。」

「腹ペコのときに襲うって、それあいつブチ切れるんじゃ・・・。」

『満腹になったらまた破壊の限りを尽くすことになるわ。どっちが良いかしら?』

「どっちもどっちだな。」

「でもそれならやっぱり飛べないんじゃねえのか?」

『非常時には体内バッテリーを使って飛行することができるわ。体力に相当する部分だからあまり長くは持たないでしょうけどね。』

「今は省エネモードというわけか。」

 

 

兎にも角にも作戦が実行に移されることになった。私はサイトとタバサと一緒にイルククゥに乗る。イルククゥには私達3人をSR-72とか言うのに移したらスネークをひっつかんで作戦地域外に脱出するように言ってある。私がエクスプロージョンを唱えている間はサイトとタバサだけが頼り。必ず成功させてみせるわ。じゃないと作戦前にあのバーンウッドとかいう女性が言っていたことが現実になってしまう・・・。

 

 

 

“『実験体は今は活動を休止しているでしょうけど、いずれ完全に復活すれば周りを再び焼き尽くしにかかるでしょう。そうなったらハルケギニアは人間もエルフも亜人も完全に滅亡するでしょうね。』”

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

シュゴオオオオオ…

キャア!

ナ、ナンダア!

 

「ちょっと47!何も町のすぐ上を飛ばさなくてもいいじゃないの!」

「危うく土埃が鍋に入るところだった。」

 

合流したブルーとシルバーが抗議している。城下町を低空飛行でSR-72が通過していったのだ。低速なためソニックブームは発生していないがそれでも時速250キロは出ているため砂埃が辺りに舞い上がっている。操縦しているのは私だ。私は今、ブルーとシルバーのカレー屋のテーブル席に座っている。端末と通信衛星さえあればどんなところからでも操縦できるのが無人機の強みだろう。そう、たとえカレー屋でカレーを食べながらでさえも。

 

段取りとしては、ルイズ達の上空を低空かつ低速で通過する。カメラはついているので乗り移れたかどうかを判断するのは可能だが、音声がないため通信は別でやらなければならない。端末に備え付けられている小型イヤホンとマイクから呼びかける。

 

 

「ルイズ、サイト、タバサ、聞こえるか。」

「聞こえるわよ。」

「大丈夫だ!」

「・・・。」

「まもなくSR-72が到着する。高度200m、速度230km/hで侵入する。準備しろ。」

「了解。」

 

 

先日、魔法学院に久々に里帰りしたタバサが使い魔を再召喚したことでこの作戦が実行できると言っても過言ではない。あのドラゴンは、複葉機並の速度を出すことができるのだ。

 

砂漠なので障害物もなく、乱気流もないので操縦は容易だ。レーダー上でドラゴンを捉える。高度と速度を落とし、彼女らの下を通過する。カメラが一瞬不規則な振動をする。

 

「飛び乗れたわ!」

「OK!ちゃんと掴まった!」

「こちらも大丈夫。」

「では行くぞ。タバサ。前方に風除けの障壁を張るのを忘れるな。」

「わかってる。」

 

 

私は機体の速度を一気に上昇させる。それとほぼ同時にターゲットの真上を通過した。

 

 

『ターゲットが食いついたわ。飛行ユニットはやはり治っている。急がないと追いつかれるわ。』

「分かっている。アフターバーナーを点火する。」

 

 

一気に速度が上がる。機上の彼女らの姿は見えづらいがなんとかしがみついているようだ。速度はぐんぐん上がる。800、900、1000・・・。音速を突破した。風除けの障壁が障害になっているのか速度の上がりが通常よりもかなり遅い。だが実験体から逃げるのには十分だった。

 

次第に離れ始めるとターゲットも速度を上げる。再び近づいてきてはこちらも速度を上げて引き離す。そうしているうちに街から既に800km以上離れていた。

 

 

「ルイズ、聞こえるか。」

「な、なんとか!」

「そろそろ決めるぞ。詠唱を開始しろ。」

「結構大変だけれどやってみるわ!」

 

 

“エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド…”

 

 

「サイト、ターゲットの攻撃の兆候がある。お前が守るんだ。」

「わかってるよ!何でも来やがれ!」

 

 

ターゲットが例の赤い光線を放った。私は機体を動かし、ギリギリのところで回避を試みる。しかし若干掠りそうになるが、掠る部分だけ光線が消えていっている。サイトは背中にしょっていた剣を出しており、その剣が光線の一部を吸い取っているようだった。

 

 

“ベオーズス・ユル・スヴェル・カノ…”

「実験体の火力が上がった。」

「こっちはそろそろヤバイぞ!」オレッチモキツイゼ!

「こちらも準備を開始する。」

 

 

“オシェラ・ジェラ・イサ・ウンジュー…”

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『こちら戦略AI。対地攻撃衛星“バルドル”起動。戦略弾頭装填開始。装填数 1。発射シーケンス準備開始。安全制御プロトコル1から16まで解除完了。目標地点を設定してください。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

“ハガル・ベオークン・イル”

 

 

 

 

 

 

 

“エクスプロージョン”

 

 

 

 

 

 

 

カメラが何も映し出さなくなった。正確に言えばホワイトアウトと言うべきもので、音声があれば凄まじい轟音がなっていたと思われる。全く状況は把握できないが念の為高度を徐々に上げておく。

 

そのうちカメラの映像が戻ってきた。どうやらまだ飛んでいるようだ。私は報告を求めた。

 

 

「こちら47。状況を報告せよ。」

「こちらタバサ。ターゲットは落下中・・・。今、地面に激突した。」

「激突か。原型をとどめている以上、念には念を入れる。ルイズとサイトはどうした?」

「ルイズは力を使い果たして気絶状態。サイトはそれを抱えている。」

「タルブの村でもそうだった。一気に力使いすぎると気絶しちまうの忘れてたわ。」

「ふむ。了解した。そのまま掴まっていろ。作戦空域を離脱する。」

「了解。」

 

 

「本部。確認できるか。」

『ターゲットの健在を確認。でも動いてはいないみたいだけれど一時的なものと仮定するわ。バルドルを発射する。対ショック態勢をとって頂戴。』

『戦略AIです。座標設定が完了しました。発射シーケンス開始。弾頭:戦略弾頭。炸薬タイプ:550キロトン級水素爆弾。空中炸裂モード。高度信管800mに設定。発射弾数 1。安全制御プロトコル、16から32まで解除完了。全安全装置解除完了。カウントダウン開始、発射まで10,9,8,7・・・』

 

 

550キロトンの水爆。落下予定地点から最寄りの集落まで800km以上離れているが、残留放射能の影響は避けられないだろう。しかしそれより遥かに広大なこのハルケギニア全土が焦土と化すよりはマシだ。端末に送られてくる映像は実験体の現在の状況を示している。相変わらず場所は動いてはいないが、外傷という意味ではあまり与えられていないため、戦闘不能と言うよりはスタン状態に近いのだろう。それから数分後、そこへ飛来する一本の弾頭。それが広域画面のほぼ中央に来たときにまたもや画面がホワイトアウトした。

 

 

ゴゴゴゴ…

 

着弾点から1000kmは離れているはずのここですら爆発の地鳴りが聞こえてくる。流石に火球は見えないが。ちなみにルイズたちはあれからほぼフルスロットルで飛ばしたため、振り落とされていなければ爆発時には2000km以上離れられているはずだ。その辺りも確認しなければならない。

 

 

「こちら47。タバサ。応答せよ。」

「こちらタバサ。」

「戦略攻撃が完了した。そっちは無事か?」

「無事。」

「何回か吹き飛ばされかけたけどな。」

「ではそのままゲルマニア東部のICAの空軍基地に向かえ。そこで落ち合おう。」

「了解。」

 

「スネーク、聞こえるか?」

「ああ。」

「攻撃は完了だ。これ以上我々にできることはない。撤退するぞ。」

「もう撤退は開始している。このドラゴンはなかなかおもしろいな。ああ、蛇食うか?」

「キュル・・・」

「・・・おそらく嫌がっているぞ。」

 

 

「では我々も行くぞ。」

「・・・私達今回何もしてないわね。」

「わかったのは、この地域ではカレーはあまり好かれないってことくらいだ。」

 

 

ブルーとシルバーのカレー屋はものの見事に閑古鳥が鳴いていた。先程待っているときに味見をしたが、客が来ない理由はおそらくこのカレーが辛すぎるせいだと思われる。

私達は近くに来た迎えのヘリに乗ってSR-72が向かった空軍基地へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

『47。残念なお知らせよ。実験体はまだ生きているわ。』

「・・・。」

『・・・残念だけど例の最終兵器を使うしか無い。本当に残念だけれど。』

「実験体の損傷状況は?」

『手足と羽の部分はほとんど焼け爛れて使い物にならなそうね。でも肝心の頭部と胴体が表面が焼けているだけで内部までダメージが通っているかが不透明よ。』

「生きているという根拠は?」

『生体反応が消えていない。熱核兵器の直上の熱線に耐えたってこと。』

「・・・。」

『既に体の修復が始まっている。爆発の余波の影響で観測が遅れたの。早急に次の手を打たねばならない。でも核弾頭はもう無い。』

「のこるは効き目のない通常弾頭とカテゴリ・スパディルだけか。」

『そういうことよ。もうすぐ基地に到着するわね。念の為ICAの人間を全員他の世界に避難させているわ。47も基地に到着次第こちらに戻ってきて頂戴。』

「・・・了解した。」

 

 

 

 

 

 

『戦略AIです。座標設定が完了しました。発射シーケンス開始。弾頭:カテゴリ・スパディル。炸薬タイプ:1.2ギガトン級ゼロポイント弾頭、時限信管モード。炸裂時間を120秒に設定。発射弾数 1。発射完了後、バルドルを含めた全衛星は安全圏に退避します。安全制御プロトコル、560から1020まで解除完了。全安全装置解除完了。カウントダウン開始、発射まで10,9,8,7・・・』

 

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「神をも恐れぬ」   +2000 『教会の神父を尋問する。』

・「スパイシーな作戦」 +1000 『ブルーとシルバーのカレーを食べる。』

・「スピードレーサー」 +3000 『ルイズ・サイトのいずれかが音速を突破する。』

・「虚無の爆発」    +5000 『熱核兵器を使用する。』

 




次回で一旦区切りになります。(多分)


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HITMAN『前へ進むことの重要性』

 

 

結論から言うと、実験体は消滅した。しかしその代償はかなりのものになってしまった。

 

 

ゼロポイント弾は宇宙空間を膨張させている俗に言うダークエネルギーを固着・充填したものだ。弾頭内に装填されていたエネルギー物質はわずか0.5g。たったそれだけの炸薬量ではあったが、そのたった0.5gが引き起こした爆発によってサハラの大半が吹き飛んだのだ。

 

アーハンブラの城と城下町は爆発の余波に巻き込まれ、風速にして300m/s以上の竜巻の倍以上の風が襲い、すべての建物と人間は瓦礫と肉塊にされたようだ。サハラの反対側に会ったエルフの都市アディールは最初の核爆発の衝撃波により警戒態勢に移行したため、都市に備え付けられているカウンター魔法を作動させたようだが、爆発の衝撃波はその障壁を、特にカウンター対策を施していないにもかかわらず貫通。地上部分の構造物の大半を瓦礫に変えたようだ。しかし最初の核爆発で住民を地下へ避難させ始めていたようで、100人にも満たない数ではあるが生き残った者が居るようだ。

 

3000キロ以上離れたハルケギニアの都市部でもかなりの被害が出ている。アーハンブラほど深刻ではないものの、リュティスやトリスタニアなどでは建物のガラスが割れる被害が多発したようだ。魔法学院でも衝撃と割れたガラスで死者こそ出なかったものの、負傷者が多数発生したと後にキュルケが教えてくれた。

 

着弾地点は半径70kmにもなる巨大クレーターが形成された。これでも地球の歴史上最大の隕石衝突よりは威力が小さいというのだから驚きだ。ちなみにこの衝撃で惑星の地軸が0.2度ほど傾きが大きくなったようだが、すぐに惑星の対極に位置する無人の大陸に対し同じく砲撃が行われ、環境や生態系に影響が出る前に修正された。

 

肝心の実験体の存在はどこにも見つけられなかった。しかし、前回と違うのは転移した形跡がまったくないことだ。渡界機の渡界技法では転移の瞬間とその後数時間にある程度の時空の歪みが発生する。1~3時間ほどでもとに戻る程度の歪みであるが、特異な痕跡を残すので転移したかどうかは比較的簡単に見つけることができる。前回硫黄島で転移したときもその歪みははっきりと観測されている。今回はそれが全くない。ということは転移はしていない。おそらくその圧倒的な破壊力によって粉々になったか蒸発したか。何れにせよあの悪夢のような実験体はもうこの世のものではなくなったのだ。

 

 

『考え事かしら?』

「・・・。」

 

 

バーンウッドが私の近くへ来た。今私は元の世界のアメリカに来ている。今回の事件によって世界の歪みがだいぶ進行してしまった影響で、しばらくICAの活動は休止せざる負えないと判断されたためだ。ブルーとシルバー、タバサ、彼女らもそれぞれ元の居た世界に一時帰還している。先の作戦で呼び寄せた者たちも同様に簡単な記憶処理を施して帰還してもらった。ある意味世界は正常に戻ったと言える。

 

技術部は今躍起になって世界の歪みを矯正する技術を開発している。その開発がなければ作戦遂行ができないだからだ。だが進捗は彼らにしては珍しく芳しくないと聞いた。しばらく時間がかかりそうだ。

 

 

「開発は順調か?」

『アレが順調だと言うならば、完成予定は早くても200年先ね。』

「さすがの私も200年は待てないな。」

『取っ掛かりは見え始めているのだけれど、まだ決定的という訳にはいかないわね。』

「あまりのんびりするのも腕が鈍りそうだ。」

『なら訓練施設を使うかしら?久々にアラスカの施設を使えるように手配するわ。』

「ありがたい。」

『それにいつまでも仕事なしというわけにも行かない。今各国の有力者を回って仕事を探させているわ。』

「ファンタジーも異生物も絡まない仕事は久しぶりになりそうだな。」

『そうね。この所は魔法だのなんだのが多かったものね。』

 

 

私はICAに入って最初に使ったあの訓練施設を使うために空港へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ブルーside~

 

 

 

「ここへ来るのも久々ね!ねえ!シルバー!」

「そうだね。でも何故ここに?」

「何言ってるのよ。里帰りの一環よ。貴方このあたりの出身なんでしょう?」

 

 

私達は今、トキワの森に来ている。シルバーがトキワの森周辺で生まれたことを知ったのはICAに入ってからで、情報部による身辺調査の一環で判明したことだった。あの悪名高きロケット団のトップであるサカキの子供だということも同時に判明している。

 

もっとも、ロケット団もICAが立ち上げに関与しているらしいから、シルバーは生まれたときからICAに関わっていたことになるわね。

 

 

「誰か知ってる人とか居ないの?あ、そうだ!親御さんに挨拶しに行こうかしら!」

「・・・。」

「・・・。ごめん。」

「なんで謝るのさ?」

「そんな簡単なノリで言っちゃまずかったかなって。」

「大丈夫だよ。でも僕はかなり幼い頃に連れ去られたから正直親の顔も殆ど覚えてはいないんだ。」

「そうなの・・・。でも何か思い出したりしないの?お気に入りの場所とか食べ物とか友達とか。」

「・・・そういえば連れ去られる前にこの辺りで一緒に遊んだ子供が居たと思う。名前とかは全くわからないけれど。」

「じゃあその子を探しましょう!もしかしたらまだこの周辺に住んでるかも!」

「いやいいよ。向こうもこっちを覚えてないだろうし・・・。」

「何いってんの。覚えてるかもしれないじゃない!ほらほら、どこらへんで遊んでたのよ!」

 

 

私達はトキワの森の中へ入っていく。相変わらずこの森は昼間でも薄暗い。でも陰気な感じはしない。私もここには来たことがあったけれど、ポケモンを捕まえに来た程度であまり思い入れはない。その次に来た時は既にシルバーと一緒だったしね。

 

その後、小一時間森の中を歩き回ったけれど、目的の人物はおろか手がかりすら見つからなかった。まあ当たり前か。

 

 

「もうそろそろ夕方だ。一旦帰ろうか。」

「そうね。あーあ、いつまでこんな調子になるのかしらね。」

「給料は出ているし衣食住は保証されてるんだから、以前のような逃亡生活よりはマシだと思うよ。」

「そりゃあそうだけどねえ・・・。」

「ははは・・・まあやることがないっていうのは確かに体が鈍りそうではあるね。」

「・・・決めた!明日も来るわよ!こうなったら私達が培った諜報の技術を総動員してでも見つけてみせるわよ!」

「いや、なにもそこまでしなくても・・・。会って特に話したいことがあるわけでもないのに。」

「やることが無いよりはマシよ。それに腕を鈍らせないためにもね。」

 

 

ともかく今日のところは一旦トキワシティのセーフハウスに戻ることにする。この所各地のセーフハウスを転々としていて、ほぼ毎日のように住む街を変えていたけど、今後しばらくはトキワシティに済むことになるわね。

 

しかし、トキワの森をもう少しで抜けるというところで出会いは突然訪れた。

 

 

「そろそろ街が見えて・・・」

「・・・?シルバー?」

「・・・。」

「どうし・・・アレは・・・?」

 

 

シルバーが急に立ち止まったかと思えば近くの小川を凝視して固まってしまった。その目線の先を見ると、一人の少年?が釣り糸を小川に垂らしていた。黄色い服を来て麦わら帽子をかぶっている少年だ。その人物こそ、シルバーが幼い頃に一緒に遊んだ子供だと気がついたのはその後すぐのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

~タバサside~

 

 

 

「サイト君、そっちを持ってくれないか。」

「了解っす!」

 

 

側ではサイトとコルベール教諭が忙しく壁を修繕している。本来このような修繕業務は土メイジ、もっと言えば貴族ではなく平民が行う仕事ではあるが、今学院は先の戦闘による余波の影響でいたるところが壊れており、町の平民の大工もあっちこっちの街に引っ張りだこ状態で全く人手が足りていない。よって学院の生徒や教員、メイドや使用人がコツコツと自分たちで修繕している。しかしやはり素人が行う日曜大工のようなものなので作業速度はかなり遅い。事実、事件発生から今日で1週間が経とうとしているが、未だに全体の4割ほどしか修繕が完了していない。ガラスの張替えは個室を優先に行われたため、講堂や食堂は未だに吹きさらし状態だ。

 

私はと言うと、肉体労働はできなくはないが、この背丈の小ささもあって得意ではなかった。さらに、水精霊騎士団の隊長であるギーシュが「我々男子が率先して学院の規律と秩序を取り戻し、守るのだ!」とか言い出したのを皮切りに、修繕作業をほとんど男子が買って出ることになったため、私達女子はそれを眺めながら屋外テーブルでお茶をするという状況になっていた。今はキュルケとルイズと一緒にティータイムだ。

 

 

「一体いつになるのかしらね。全部終わるのは。」

「さっきレイナールが話していたわ。このペースだと全てが完了するのはどんなに早くても来週になるって。」

「明日からギューフの月だというのに吹きさらしは流石にそろそろ寒くなってきたわ。」

「ルイズ、貴方も先の戦闘に参加してたんでしょう?もうちょっと穏便にできなかったの?」

「無茶言わないでよ。あんなの相手に手加減なんかしてる余裕なんか無かったわよ。それにこの被害は私のせいじゃないし。」

「そんなすごかったの?」

「すごいなんてもんじゃないわよ。通る道をすべて灰と瓦礫に変えながら進んでたわ。あそこで倒せなかったらそれこそ学院なんか生徒も教師も全部まとめて瓦礫と煙に変えられてたでしょうね。」

「恐ろしいわね・・・。なんだってそんなものが生まれたのかしら?」

「知らないわよ。でも協力者が居たからなんとか退治できたわ。」

 

 

ルイズも含め、あのとき参加していた異世界の助っ人は全員記憶処理がなされており、あの実験体を生み出したのがICAであることは伏せられている。知っているのは私達エージェントと本部のオペレーターを含む組織構成員だけだ。

 

私の復活劇も精霊の力とマジックアイテムによって蘇ったことにされており、ICAは一切関わっていない事になっている。47と直接会ったキュルケやギーシュに関しても現地インフォーマントが深夜帯に学院に忍び込んで記憶処理を施したと聞かされた。

 

私は現在、学院の生徒として復帰している。学院に潜入するインフォーマントとしてICAの業務に携わる身になっている。ガリア王家は私が蘇ったことを把握したようだが、今のところなんのアクションも起こしていない。もしかしたらICAの方でなにか手を打ったのかもしれない。

 

ともあれ現在はICAに出会う前の平穏な生活に戻っている。母さまを救えなかったのは残念だけれど、もしかしたら例の薬でそちらも蘇らせることができるかもしれないと思うと、そこまで悲観してもいない。今はこの平穏な日々を堪能しても誰にも文句は言われないだろう。

 

 

「おーい!ルイズ!」

「サイト。終わったの?」

「ああ。まあまだ壁の一部を直しただけだから今度は別の所だけどな。」

「そういえば二人は進展したのかしら?」

「進展?」

「何がだ?」

「決まってるじゃない。卒業したらやっぱりオルニエールに住むの?結婚はいつするの?」

「「結婚!?」」

「あら、そんなに驚くようなことかしら?前以上に四六時中一緒にいて仲良さそうに笑い合うことも増えたのに。」

「そ、そんな事ないわよ!フツーよフツー!」

「あはは・・・ああ!コルベール先生に頼まれごとしてたんだった!じゃあ!」

「あ!ちょっと!サイト!」

 

 

今日も騒がしくも楽しげな魔法学院。この平和がいつまで続くかはわからないが、願わくば私達が卒業するまで持ってほしいものだ。

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

久々だ。この訓練施設も。今となってはほとんどタイムアタックに近い形になってしまっているクルーズ船の訓練も懐かしく感じられる。

 

何回かチャレンジした後、前よりもタイムが落ちていることに多少の鈍りを感じつつ、今日の訓練を終えた。訓練後、バーンウッドが私の元へやってきた。

 

 

『調子はどうかしら?』

「悪くはない。だが良くもない。」

『タイムはその時のNPCの行動にもよるから仕方ないわね。』

 

 

最近知ったことだが、この訓練施設でNPCとして登場する人物は皆ロボットらしい。道理で殺しても殺しても次の回には何食わぬ顔でまた復活しているわけだ。

 

 

「で、何の用だ?」

『報告よ。世界を安定させる装置、私達は暫定的に“ワールドセーフティ”と名付けたわ。でも進展があったと言えばその名前をつけることくらい。まだまだ時間は掛かりそうよ。』

「そうか・・・。」

『で、つい先程、バングラデシュにある中国大使館から仕事の依頼があったわ。政府要人の暗殺。早速仕事に取り掛かって頂戴。』

「久々の任務か。」

『そうよ。今までならシルバーかタバサに任せるような仕事だったのだけれどね。』

「シルバーはもう殺すことには慣れたのか?」

『ええ、残念ながらね。普通に絞殺や貴方の得意な“溺死”も普通にこなしてたわ。』

「そうか。予想ではそろそろフォローが必要だと思うのだが。」

『そう思って彼は故郷の森を散策するように工作しておいたわ。』

「森を散策して森林浴か?その程度では・・・。」

『その森に彼が幼い頃に出会った少年、まあ実際は少女なのだけれど。その少女に出会うように色々と手を下したから今頃再会を果たしているんじゃないかしら。昔を思い出して少しでも気が楽になったら良いのだけれどね。』

「ふむ・・・。気が変わりすぎてICAに反旗を翻されないと良いがな。」

『ええそうね。そのあたりはブルーがブレーキ役になってくれることを祈るばかり。』

「翻されても・・・。」

『ICAは裏切り者を許さない。そこは今も昔も全く変わっていないわ。』

「・・・シルバーも大変だな。」

『あら、貴方が他人の心配をするなんて珍しいわね?』

「彼らに会って私も心境の変化があったのかもしれない。」

『そう。ともかく今は仕事よ。早速ダッカに向かってもらうわ。』

「了解した。」

 

 

私は早速支度を始める。今回は何を持参するか。どんな暗殺方法で行くか。楽しみというわけではないが、別段苦でもない。これが日常。これが私の存在意義。これが“エージェント”だ。

 

 

『ダッカの中央駅の前にウォーターガーデンがあるわ。今回の任務はそこの・・・。』

 

 

支度と言ってもいつものスーツを着るくらいだ。装備は現地調達でもどうにかなる。ダッカについた後もいつもと変わらない。無線でブリーフィングを復習し、そしていつものあの言葉で任務が開始されるのだ。

 

 

 

 

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「ここをこうして・・・ああ!だめだ!また失敗だ!」

「お疲れ様です。バーンウッドさんからこれを。差し入れだそうです。」

「おお、バーンウッド女史も気が利くじゃないか。おおい!お前たち、偉大なるオペレーター様が差し入れをくださったそうだぞ!」

ワイワイガヤガヤ

 

「進捗、芳しくないそうですね。」

「そうなんだよ。どうも世界に共通する符丁となる周波数が噛み合わなくてね。・・・ってこんなこと言ってもわかんねえか。」

「あはは・・・まあでもなんとなくは。それぞれの世界に共通することが見いだせないと?」

「まあそんなところだな。魔法を媒体にしたら魔法がない世界がハブられる。科学を媒体にすれば魔法世界がハブられる。そのどちらも媒体にするには容量が足りねえ。どうしたもんかなほんと・・・。」

「うーん・・・。人間とかじゃだめなんですか?」

「うん?」

「人間という存在そのものを媒体にするんです。」

「ああ、そういうことか。でも人間にも色々あるからな。我々の装置ではアメリカ人と中国人の違いを個別に設定しなきゃならなくなるからな。それにそれだと“人間”という存在がいない世界、亜人や動物ばかりの世界がハブられちまうんだ。」

「そうなんですか・・・。」

「まあそんな切羽詰まってはいないから気長にやるさあ。できなくても色んな世界から怒号が飛んでくるわけじゃねえしな!ははは!」

「・・・あ。」

「あ?」

「怒号。そうですよ怒号ですよ。」

「ええ?もしかして怒られる可能性があるってのか?」

「違いますよ!怒号・・・というより“言語”を媒体にすれば良いんですよ!」

「言語を?そりゃあ無理だ。それこそ星の数ほどある。」

「だから“言語”っていう概念を媒体にできないですかね?」

「うん?・・・なるほど、それなら言語を持った存在がいる世界なら対象範囲にできるかもしれねえな・・・。」

「言語を持っていない世界は殆どないと思いますし、どうでしょう?」

「よし、いっちょその線で行ってみるか!ありがとよ!ええと・・・。名前なんて言ったっけか?」

「あ、私はキャロラインです。AIとよく間違えられるんで最近じゃオペ子2とか呼ばれてますけど。」

「オペ子1はバーンウッド女史ってことか。ははは!わかった、ありがとうよ!キャロライン女史!」

「いえ、どういたしまして!成功することを祈ってます!」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「一歩一歩前へ」+5000『エピローグを見る。』

 

 




いろいろ中途半端な気もしますがひとまず完結です。今までお付き合いくださりありがとうございました。

今後は自分自身読み返して色々と修正しつつ、足りない部分があった場合は外伝として追加していくかもしれません。正直、後半はいきあたりばったりな部分が多く、しかも最後の方など「あれ?何の小説だっけ?」な感じになっていましたが、この完結をきっかけに軌道修正したいなとも思っていたり。

活動報告という名の設定集も意味があったのかわからないレベルなのでそこも加筆修正したいとも思っています。

次があるとすれば、また違うキャラの世界に行くことになると思います。もしかしたらブルー達もついてくるかも・・・。ああでも一つだけやり残したことがあるのを把握していますが、それは次で、もしくは外伝でということになりそうです。

何はともあれここまで本当にありがとうございました。またの機会にお会いしましょう。
それでは~。


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外伝
HITMAN外伝『エンパイア レムナント』1


全3話くらいを予定しています。


『東京へようこそ。47。』

 

『今回貴方に東京に来てもらったのは他でもない、“日本国大本営が何を画策しているのか”を調べてほしいの。』

 

『先の実験体暴走事故の際、日本国政府は大本営に掛け合って二つ返事で艦娘部隊を派遣したわ。深海棲艦という脅威に対抗しなければならないにもかかわらず。』

 

『実験体の納入先の一つには大本営も含まれていたわ。もしかしたら実験体の性能調査のために艦娘部隊を派遣した可能性もある。情報部が調べたのだけれど、なにか目的を持って深海棲艦を誘導している可能性があるとまでしか分からなかったわ。だから貴方に調べてきてほしいの。』

 

『本来なら顧客が何に使うかを調べたりはしないのだけれど、ICAが推進する“世界再構築プログラム”において、この世界は他の世界とも比べてかなり崩壊が進んでいる世界なの。もしかしたらこの世界の情勢がその崩壊の一因かもしれない。だから世界情勢の中枢である日本国大本営に潜入して情報を収集してほしいわけ。』

 

『向かってもらうのは日本国海軍軍令部直轄研究所、通称“木下ラボ”よ。ここは民間人の入場が特別厳しく制限されているの。情報部の調べでは地下2階にある部屋は警備員ですら入れないらしいわ。あからさまよね?』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~大本営side~

 

 

「ご報告申し上げます。」

「ん。」

「オーストラリア大陸における深海棲艦の浸透作戦が完了いたしました。報告にはご丁寧にエアーズロックの前で記念撮影した写真お送りつけてきましたよ。」

「そのくらいは大目に見てやるさ。それで、詳細は?」

「オーストラリア大陸全土に置いてすべての都市部の攻略作戦が完了。アリススプリングスにて籠城していた最後の残存部隊も先程沈黙しました。これでオーストラリア大陸に残っている人類はほぼ居なくなり、居たとしても地下施設に身を潜ませている数百人程度だと思われます。」

「数百人でも脅威となることはある。都市においてはヒューマノイド型にすべての建物を虱潰しに捜索させろ。食料品と飲料水、医薬品は発見次第回収、もしくはその場で破棄しろ。」

「了解しました。」

「あとは・・・北米、南米、アフリカ、欧州、そしてアジアか。」

「それぞれの進捗率は74%、82%、91%、76%、61%です。中国沿岸部はほぼ制圧できましたが、重慶と昆明にて激しい抵抗があり、作戦進行は遅延しています。」

「中国人はいたるところに居る。何も残さなくていいから砲撃と爆撃を集中投入せよ。」

「了解しました。」

 

 

「後少し・・・だな。」

「現在の世界人口はおおよそ14億人ほどと見込まれています。」

「まだだ、まだ。・・・多すぎる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

この世界の東京はそこまで活気に満ち溢れているわけではない。全世界的に深海棲艦の攻撃により人類は衰退の一途をたどっており、日本以外の国はほとんどが社会システムが崩壊していると聞く。そんな中でも日本国だけは戦争前と大差ない外見を保っていると言える。公式では艦娘たちが頑張っているという設定だが、ミッドウェーで会ったあの男の証言だと・・・。

 

ともかく今は仕事をこなすだけだ。私は早速“木下ラボ”とやらの建物の近くまで来た。国家機密の塊のようなところらしく、警備はかなり厳重。正門から建物までの間には塀、荒れ地、塀、建物という構造になっており、その間の荒れ地部分はさながらベルリンの壁の内部のようだ。見張り塔には重機関銃が備え付けられており、おそらく荒れ地には対人地雷が埋められていることだろう。

 

正門から1台の軽トラックが出てきた。私は不自然にならないように近づき、警備兵との会話に聞き耳を立てる。

 

 

「ご苦労さん。」

「・・・はい、大丈夫です。買い物ですか?」

「ああ。お気に入りのカップ麺が切れてしまってね。」

「カップ麺ばかりですとお体に悪いですよ、博士。」

「なあに、生鮮食品なんて高くて一介の研究員の私にはとてもじゃないが毎日は食えないよ。」

「しかし、カップ麺ばかりは。栄養ペレット食品などは?」

「カロリーメイトぐらいだな。アレは一番栄養価が低いらしいがそれ以外のものなんて不味いことこの上ないよ。」

「まあカロリーメイトはまだ美味しい部類ですね。っと、おしゃべりが過ぎましたな。」

「ああ、休憩時間が終わってしまうな。じゃあ行ってくるよ。」

「はい、いってらっしゃいませ。」

####アプローチ発見####

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『木下ラボの研究員が一人買い出しに外に出たわね。彼についていけば侵入する手がかりが見つかるかもしれないわよ。それに、なんだか彼、あなたに似ていないかしら?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はすぐ近くに止まっていたタクシーに飛び乗り、軽トラックを追わせた。道は空いているため見失うことはないだろう。深海棲艦に制海権を奪われたことによりいま日本国内で走っている車の9割は電気自動車らしい。ガソリンがなければいざというときも逃げることすらできないということだろう。ちなみにこの国の主要発電は原子力が8割らしい。MOXとやらも無駄ではなかったようだな。

 

軽トラックは10分ほど走った後、街の中心街にある一件のスーパーに入っていった。軽トラックは駐車場の中央付近に駐車し、研究員はスーパーの中へ入っていった。駐車場はなかなかに混んでおり、軽トラの周りは他の車で埋まっている。ここならば人の多いスーパー内よりも目立たずに襲撃できそうだ。幸いにしてこの駐車場には監視カメラも警備員もいない。私はそのうちの1台の車の側で待ち構える。

 

しばらく経ってから研究員がカートにいっぱい、プラス両手に袋を抱えた状態で戻ってきた。それを軽トラックの荷台に積み込んでいる。私はその背後から近づき、口をふさぎつつ車の陰に隠れるように抑え込む。

 

 

ムグッ?!ムー!

「静かにしろ。」シャキッ

ムー!?

「大声を出した瞬間に切り裂く。良いな?」

コクコク

「聞きたいことがある。質問に答えろ。」

「な、何だってんだ・・・。」

「研究所に入る方法を正確に答えろ。」

「そ、そんなこと知って何を」

「答えろ」シャキッ

「ヒッ・・・こ、このカードだ。このカードを入口の端末にかざすだけだよ!」

「・・・。」

「・・・。わ、わかった言うよ。あとコレだ。この鍵を端末の横の鍵穴に挿せばいい。ほんとにそれだけだ!」

「そうか、ありがとう。」

「ホッ・・・。」

「では良い夢を。」ゴッ

「ウッ!」

 

 

気絶させた研究員から服を借り、カードと鍵を受け取った後、軽く縛り上げ隣りにあった古いセダンのトランクをピッキングで開けて中に放り込んだ。

 

軽トラに乗り込み、研究所へ向かった。情報通りカードと鍵を使って門を通過し、中へ潜入した。門を通り過ぎるときに警備兵が一瞬こちらを見ていたが、元々の顔立ちが似ていたこともあってそのまま通り過ぎることができた。

 

建物の駐車場に車を止め、施設を見回す。施設内に入るには顔認証の自動ドアを通らなければならないようで、流石にそこは通り抜けられそうにない。他に侵入できそうなところはないか探る。

 

建物は地上3階建てで、それなりに床面積は広そうだ。建物の端に屋上まで伸びる配管を発見した。もしかしたら屋上から侵入できるかもしれない。私は周囲に気を配りつつ、配管を登った。

 

 

上りきると屋上には室外機の他には何もなく、入り口は同じく顔認証のロックが掛かっていた。エアコンの室外機が大きな音をたてて動いている。今日は8月ともあってかなり暑い。風はそれなりにあるが、エアコンの冷房には遠く及ばない涼しさだ。ともすればもしかすると・・・。

 

私は室外機を調べ始める。比較的簡素なごく普通の室外機。試しに側面の制御盤の蓋を外してみた。中には簡単な回路基板があった。室外機は全部で12ほどあり、そのすべてが忙しく中でプロペラが回転している。

 

私は近場のいくつかの室外機の制御基板を思いっきり蹴飛ばして破壊した。制御基板が破壊された室外機は簡単に動作を停止した。6つほど壊したのちに私は登ってきた配管を再び降りた。そのまま外でしばらく待っていると案の定、いくつかの部屋の窓が開け放たれた。

 

 

「あっちー!何でこんなときにエアコン壊れるかなあ!」

 

 

あちこちで似たような声が聞こえてくる。流石に一階の窓ははめ殺しになっているのか開かなかったが、先程の配管からほど近い位置の窓が一つ開いた。早速配管と外壁の出っ張りを伝って窓から内部へ侵入する。窓開けた本人は部屋の中をウロウロしていたので、こちらを見ていないうちに潜り込むのは比較的容易だった。

####アプローチ完了####

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『うまく潜り込めたわね。エレベーターがあるみたいだからそれを使って地下へ侵入して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

そのまま研究員の目を盗んで廊下にでる。廊下に出てしまえば格好は他の研究員と変わらないため堂々と歩けた。そのままエレベーターに乗り、地下へ向かった。

 

 

地下2階に着くと、廊下の先に警備兵が2名扉の前に立っていた。私は一旦脇に逸れて周辺を確認する。廊下は逆T字型で、2本の廊下が交わる部分にエレベーターがある。脇の廊下はそれぞれ部屋が一つずつあるだけだ。私はとりあえず今居る方、エレベーターから見て右側の部屋を調べる。物音や気配を探り、問題がなさそうなので静かに扉を開ける。

 

部屋は職員の休憩室だった。今は休憩時間帯ではないらしく、部屋の中には誰もおらず自動販売機の冷却装置の音だけが響いていた。棚がいくつか設置されており、コーヒーや紅茶、簡易的な調味料やカップ麺などが置かれている。この部屋は入り口が2つあり、一方は私が入ってきたほう。もう一方は先程の警備員の目の前に通じているようだ。

 

私は棚の一つを思いっきり下から叩いて底板を床にひっくり返した。

 

ガシャーン!

「な、なんだ?」

「おい、確認しろ。」

 

 

うまく警備兵の一人がこの部屋に入ろうとしている。私はすばやく扉の横、開けた扉が影になる位置に身を潜める。

 

ガチャ

「うわ、何だこれ。棚が落ちたのか?」

ヒュッ

ガッ!

「うぐっ!?」

 

 

部屋に入ったのを確認し扉をそっと閉めるとそのまま後頭部を殴打して気絶させた。警備兵はそのまま崩れ落ちた棚に覆いかぶさるように倒れた。さて、あと一人だ。私はもう一度棚をひっくり返した。

 

ガシャーン!

「おいおい、何やってんだあいつ・・・。」

ガチャ

「おい、なにやっ・・・お、おい!どうした!」

ヒュッ

ガッ!

「ぐあっ!?」

 

警備兵二人を無力化した。このまま個々においておくと厄介なので警備兵二人には部屋の中のロッカーに入っていてもらった。廊下の気配を探り、慎重に覗いた後、誰もいないことを確認するとすばやく廊下へ出て警備兵が守っていた扉を調べた。

 

すぐに開けなかったのは正解だった。この扉はカードキーロックで、おそらく無理に開けようとすれば警報がなっていただろう。私は部屋に戻り、ロッカーに押し込んでおいた警備兵の服の中からカードキーを探し出すと、それを使って扉内部へ侵入した。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。聞こえるかしら?地下の施設内に侵入できたみたいね。そこから先は情報部も未踏の領域だから十分に注意して頂戴。メモリースティックは渡してあるわよね?それに情報を収集してきてほしいの。おそらくネットワークには繋がっていないスタンドアロン型だろうからね。それと、その領域は外壁に特殊な加工がされているみたいなの。内部に入ったら通信はできなくなるから注意して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

部屋の内部はとても神秘的な雰囲気だった。中央にはホログラム投影された直径数メートルにもなる巨大な地球儀が浮かんでおり、そこに様々な情報が映し出されている。その周囲を黒一色で統一されたコンピュータが段々になって取り囲んでいる。さながら古代ローマのコロッセオのようだ。

 

私は手近なコンピュータを操作する。目的を達成するために必要な情報を集めるとしよう。

 

 

 

十分ほど捜索してわかったことは、ココは世界中に展開している深海棲艦に指示を出しているコントロールセンターだということだった。その中には今後の行動計画表も事細かに示されており、その計画表の中にはさらに細部に渡る命令、そのまた内部にはどの道を通るか、どこに爆弾を落とすかなどの個別の命令まであった。

 

今後の計画表をコピーしつつ、内容を読んでいくと日本国が何を行おうとしているのかがおぼろげながらに分かってきた。情報によると既にオーストラリアは完全に陥落しており、オーストラリア大陸に住んでいた人間の殆どは抹殺されている。インドもほぼ全土が焦土、アフリカもヨーロッパも似たような感じだ。そして計画表によれば、このまま欧米諸国を完全に駆逐し、世界人口を1億人程度まで減らすことになっている。それはすなわち、世界に日本人しかいない状況を作り出そうというのだ。これは・・・世界規模の民族浄化作戦だ。

 

付随する統治者、日本国内閣総理大臣のコメントによると、第二次世界大戦によって歪められた欧米支配からの脱却、そして日本国の真なる再興にはこの方法しかないと豪語している。何も日本以外をすべて殲滅しなくても良いと思うのだが。

 

計画表によると今後全世界であらかた掃討が完了次第、艦娘部隊に“最後の抵抗”と称してマリアナ海溝に潜む深海棲艦の根源地の一つを叩かせ、作戦中にそこが深海棲艦の総本山であるということが判明する。そのまま撃破させた結果、すべての深海棲艦の活動が停止し、人類は大逆転勝利を収める。そういうプランらしい。なんともどこかのゲームのような筋書きだ。しかし彼らはこれを実行に移し、現にそれが成功しつつある。

 

我々としての今後の対応についてはICA本部が決めることではあるが、私としては阻止しておきたいのが本音だ。念の為少しでも遅れるようにシステムにバグをいくつか仕込んでいくことにしよう。さきほど言っていたように通信は遮断されているようで、本部との連絡回線がオフラインになっている。これを伝えるためには急ぎ脱出の必要性がありそうだ。

 

 

ピー

「欧州方面軍より報告。イベリア半島完全制圧を完了。スペインは完全に消滅しました。」

ワー!パチパチパチパチ!

「非常に喜ばしい報告である。そのままイタリア半島の制圧援護に部隊を回すように。」

「了解しました。第4軍集団、そのまま東進してください。」

 

 

部屋の中にいるオペレーターは全員狂気に満ちた笑顔だ。新手の新興宗教のような雰囲気に包まれている。それを中央の地球儀の近くにいる一人の男が指示を飛ばしながら全体を統括している。あの男に関しては調べておいたほうがいいだろう。私は組織図と暗号コード表、研究中の技術一覧もコピーした。

 

必要な物はあらかたコピーできた。早いところ脱出したほうが良さそうだ。私はココに居た形跡と情報をコピーした形跡を丹念に消し、メモリースティックを回収して脱出作業に入る。すると入ってきた入り口から一人の女性が入ってきて、そのままつかつかと中央の男の元へ歩み寄っていった。

 

 

「お疲れ様です。閣下。」

「おお、これはこれは大淀殿。こんなところまでご苦労。」

「いえ、これをお届けに上がっただけですので。ところで入り口に警備兵の方がいらっしゃいませんでしたが警備を変更したのですか?」

「うん?変更した覚えはないが・・・。おい、外の連中は何をやっている。」

 

 

まずい。警備兵を無力化したのが露呈しかかっている。早急に撤退しなくては。私は彼らの目を盗んですばやく外へ出る。エレベーターに飛び乗り、地上を目指す。

 

 

ジリリリリリ!!

 

 

地上に到着した瞬間に警報がけたたましく鳴り響いた。追手が掛かる前に施設の外に出たかったが仕方がない。一旦1階の倉庫でやり過ごすことにする。部屋の外では忙しく警備兵が走り回って私を探しており、そのうちこの部屋にも来るだろう。さてどうやって脱出するか・・・。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。施設が厳戒態勢に移行したわ。脱出がかなり困難になっているから気をつけて。習志野駐屯地から自衛隊の特殊部隊も出動しているわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

特殊部隊まで来られると非常に厄介だ。早急に対応しなければ・・・っと。

 

「ココは調べたか?」

「いえ、まだです。」

「じゃあ調べるぞ。カバーしろ。」

「了解。」

 

 

2人組の警備兵が入ってきた。私は倉庫の奥の方に身を潜めているがこのままでは発見されてしまうだろう。発見されればいくら白衣を着て研究員の格好をしているとしても、身元を改められバレてしまう。

 

警備兵2人は互いに背面をカバーしつつ倉庫の内部を探している。装備は見た所自動小銃と拳銃。あとはナイフとグレネード各種。警備兵と言うより正規軍に近いな。だが二人ならば・・・。私は近くにあったドライバーと金槌を手にとった。

 

カランカラン

「む、そこか!」

シュ

ガッ!

「ギャ!」

「どうしグア!」

 

ドサッ

 

ドライバーを投げて気をそらした瞬間に遠い方に金槌をぶつけて昏倒させ、振り返ったもうひとりの鳩尾に一発くれてやりこちらも昏倒。無力化に成功した。一人から服と装備を借りて部屋を出る。そのまま駆け足で正面から堂々と外へ出た。正門を守る警備兵に駆け寄った。

 

 

「所内に居る敵襲が厄介だ。ココの警備は私がやるので二人は内部の敵襲の対応を。」

「なに?しかし・・・。」

「急げ。これは閣下からの勅令だ。対応が遅れたら責任はお前たちが取ることになるぞ。」

「ぐっ!わかった。おい、行くぞ!」

「おう!」

 

 

正門の警備兵は所内に駆け足で向かっていった。扉をあけて中へ入ったところで私はそのまま門から外へ出た。そのまま近くに停めてあったICAの車に乗り込んでその場を後にした。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

『うーん、これは・・・。なかなかに大それた計画ね。』

「どうします?バーンウッドさん。」

『どうするもこうするも私達は常に中立。本来なら私達に害がない以上、手を出す必要もない。』

「では・・・あの世界は見捨てると?」

『世界再構築プログラムの方針に沿うならば介入して止めるべきだし、絶対中立の原則に従うなら何もしないほうが良い。だけれどこの情勢は普通じゃない。我々以外にこの状況を打開できる組織があるとも思えない。』

「アメリカもロシアも崩壊してゲリラ戦法ですものね・・・。」

『とにかく、その辺りを含めて今後は対応していかないといけない。とりあえず上に報告してくるわね。』

「はい、行ってらっしゃいませ。私は引き続き原因と対策を検討します。」

『お願いね。あとあのコントロールセンターで指揮をとっていた男に関しても情報を集めて頂戴。』

「了解です。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「白衣の暗殺者」  +1000『研究者に変装する。』

・「非暴力主義兵」  +3000『警備兵を発見されずに3人以上無力化する。』

・「シノビの心得」  +3000『発見されずに施設を脱出する。』

・「第二次大東亜戦争」+5000『日本国の目的を調べる。』

 




艦娘の世界の行く末を3話くらいで書きたいと思います。
そのあとはほぼ完全に未定なので、「あの件ってどうなったの?」とか感想に書いてくれると非常に助かります。(風呂敷広げすぎて風呂敷の端を把握できていないという)

あと、今後は別アプローチは書かずに、全く物語に関係のない突発的な思いつきで書き上げた別の世界に行く話をもう一つの方で上げていこうかなと思っています。そっちはコチラ以上に不定期になるのでご了承ください。


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HITMAN外伝『エンパイア レムナント』2

『サハリンへようこそ。47。』

 

『ココは日本の北海道のさらに北に位置しているロシア連邦のサハリン島。昔は樺太なんて呼ばれてたりもしたらしいわね。ロシア政府自体、社会が崩壊してて連絡が取れない状態にあって、ここサハリンもロシアの統治下にありながら実質放棄されているわ。』

 

『日本政府はロシア政府が崩壊したのを良いことにサハリン島南部に秘密基地を建設したみたいね。サハリン島自体は深海棲艦の攻撃により全土が焦土となっている扱いだけれど、その秘密基地自体は公にされていないので無問題なわけね。』

 

『ICAの決定事項を伝えるわ。“いくつかの暗殺依頼任務によって世界の方向性が歪められた可能性は排除できず、我々で事態の収束をしなければ崩壊の危険性大と判断する。”だそうよ。要はICAが手を出したから崩壊しかかってるって認めるってことね。』

 

『よって世界を修正するために我々は日本国の計画を潰す必要が出てきたわけ。その最初の任務が今回よ。ターゲットはこの秘密基地の基地司令長官である蔵本浩二。日本国海軍2等海将。中将クラスが基地司令をやっているなんてよっぽどこの基地が重要なのね。』

 

『基地は4つの海上トーチカに守られた断崖絶壁に作られている。艦娘部隊も何隊か常駐しているらしいから気をつけて。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「おい、天龍。そろそろ見回りの時間だぞ。」

「わーってるよ。あーあ、どうせなら近海警備の方が良かったぜ・・・。お前だってそうだろ?」

「そりゃあ俺だって出たかったさ。でも球磨姉さんのまんじゅう食っちまったから逆らえねえんだ・・・。」

「お前・・・意外に意地汚いな・・・。」

 

 

ここは基地外周の警備員詰め所。私は少し遠くの岸壁にボートを付けて上陸し、ココまで歩いてきた。基地は秘密基地扱いなので大掛かりな警備体制はしけないらしく、基地本体は地下で、地上部分にはプレハブ小屋が1棟あるだけだ。

 

プレハブ小屋は警備員の詰め所になっている。しかし人間がココにいてもたかが知れているということなのか、詰め所に居るのは軽巡洋艦“天龍”と重雷装巡洋艦“木曽”だ。他の艦娘は近海警備に出払っているらしい。詰め所から2人が出てくる。私は物陰からそれをやり過ごし、2人が見えなくなった頃合いで詰め所内部に侵入した。

 

詰め所はそれなりの広さがあるが、土間の部分と畳の部分に分かれているだけで、他はトイレくらいしか無かった。しかし、部屋の端においてある机の上にはこの基地の全体図があった。私は念の為手を付けずに、スマートフォンで写真だけ撮影した。他にめぼしいものもなさそうだったので詰め所から出る。

 

全体図によると、岸壁沿いに地下へ降りる階段があるらしい。ひとまず私は最寄りの階段に向かった。

 

 

 

岸壁に到達すると基地の全容が少しではあるが把握できる。岸壁からは深い青、つまり海の色と同じ色に塗られた細い通路が海上の岩に向かって伸びており、その岩はよく見ると窓のように穴が空いている。おそらく海上トーチカが岩に偽装されているのだろう。私は小型双眼鏡でトーチカを見る。内部の奥まではよく見えないが、窓には重機関銃や要塞砲のようなものも見える。発見されればアレがすべて私の方を向くわけか。

 

トーチカからこちらを見ている人間がいないことを確認すると、私は階段を降りた。階段は岸壁に沿うように作られており、ある程度降りたところで岸壁の内側、洞窟のようになっている部分へ進んでいった。洞窟内部は少し奥まったところにコンクリート製の護岸やガントリークレーン、多数のコンテナ、そしていくつかの建物があった。奥にはひときわ大きな建物が見える。おそらくあそこが本部なのだろう。私は奥に伸びる通路を途中置かれている様々なものに隠れながら進む。

 

流石に建物付近は人が多数いる。コンテナの中身を確認している作業員、艦娘が護衛してきたと思われる小型のコンテナ船から荷をおろしている作業員、そしてそれら作業員を指揮している軍人。・・・っと。私の進んでいる通路の先に通路から全体を見回している警備兵が居た。地上部分と違ってこちらは人間が警備を行っているようだ。

 

私は警備兵に慎重に近づき、合間合間から警備兵を見ている人間が居ないことを確認しつつ、警備兵の背後の壁に向かって落ちていた小石を投げた。

 

 

カン、カラカラカラ…

「ん?何だ今の音は・・・。」

 

「なにもない・・・気のせいか・・・?」

ヒュッ

ゴッ!

「ウグッ!?」

ドサッ

 

いつもどおり物音でおびき寄せ、奥まったところに入ったところを後頭部を殴打して気絶させた。そのまま近くの箱に詰め込み、警備兵の服装を借りて私はさらなる行動を開始する。

 

通路から降り、最寄りの建物へ入る。不自然にならないように、かつ慎重に進んでいく。作業員の方は私のことを見破ることはできないようだが、同じ警備兵となればそうはならないだろう。最初の建物は武器庫だった。自動小銃や軽機関銃、各種グレネードやプラスチック爆弾まで。ありとあらゆる武器弾薬が揃っていた。その武器庫の中ほどで2人の女性が在庫チェックをしているようだった。あれは・・・艦娘だ。

 

 

「閃光手榴弾・・・よし。発煙手榴弾・・・よし。ふう、これでこの棚は終了ね。」

「おつかれー。あと棚は2つだよ。早く終わらせて酒保で甘いもの食べようよ。」

「明石、忘れたの?このあと基地司令に呼ばれてるでしょ?」

「あー・・・そういやそうだった・・・。ガックシ・・・。」

「ガックシって口で言わないでよ。しょうがないでしょ。最終決戦も近いのだから準備に大忙しなのよ。」

「最終決戦ねえ・・・。・・・。」

「明石?」

「大淀・・・。本当に最後になっちゃうのかな・・・。」

「そうね。戦況は絶望的。人類や艦娘側が勝てる可能性はほぼ皆無に等しいわ。」

「それにしては落ち着いてるね?」

「なんだろう。なんとなくだけどこの最後の作戦、勝てる気がするの。」

「そりゃまたどうして?」

「何の確証もないんだけれどね。司令は何かを知ってる。私達艦娘も知らない何かを。」

「何かって?」

「そこまではわからないわ。でも司令はすごく落ち着いている。私が言うのも何だけれど、司令は絶望的な戦況になっても冷静でいられるような人ではないと思うの。その司令があそこまで落ち着いてるって言うことはなにか勝算があるのよ。この作戦、もしかしたらこの戦争にも勝てる自信があるのかもしれない。」

「もう人類の8割は死んじゃってるのに今更勝っても・・・。」

「それはそうだけどね・・・。」

 

 

どうやら前線に出ている艦娘には全容は明かしていないらしい。おそらく最後まで、そして全てが終わった後ですら明かすつもりはないだろうが。

 

ともかく、この施設にはめぼしいものはなかった。建物から出て他の施設に向かおうとしたその時、

 

 

「お疲れ様です!」

「!・・・お疲れ様です。」

 

 

小さな子供が挨拶してきた。服装や顔から判断するに駆逐艦“朝潮”だ。

 

 

「なにかお探しですか?」

「あ、ああ。司令官を探しています。早急に耳に入れておかねばならないことができたので。」

「司令官でしたら先程通信塔の方へ行かれましたよ。なのでお戻りになるまで本部で待つのがよろしいかと。」

「失礼。私はこの基地に配属されて日が浅いのですが、通信塔には入れないのですか?」

「ああ、失礼しました。はい。通信塔は一部の高官と専属技師しか基本的に入ることは許されていないんです。私達艦娘も入ることはできません。」

「そうなのですか。わかりました。では本部で待たせてもらうことにします。ありがとうございました。」

「はい。お役に立てたようで何よりです!」

 

 

そう言うと彼女は小走りで駆けていった。私は彼女が言った“通信塔”をスマートフォンの全体図で確認する。どうやら今から向かおうとしていた建物が通信塔だったらしい。私は資材やコンテナの合間を縫って通信塔へ近づいた。

 

通信塔の入り口には警備兵などは立っていない。しかし、生体認証の自動ドアだ。変装した程度では入ることはできそうにない。私は別の侵入経路を探して通信塔の周囲を回った。

 

ここは洞窟の中なのでもちろん天井がある。通信塔の一部は天井に配管かケーブルのようなものが伸びており、おそらく地上施設に繋がっているのだろう。その配管のうち一本が天井付近の通路の近くを通っていた。あそこから侵入できるかもしれない。私は通路を目指して移動を開始した。

 

通路は普段使われていないのか、入り口は南京錠でロックされた扉で塞がれていた。私はロックピックで南京錠を外し、ドアを開けて通路に侵入した。普段使われていないということはココに人がいる事自体が不自然ということ。私はより慎重にこちらを見ている人間が居ないことを確認しつつ配管を目指した。

 

配管は通路から数m離れたところにあった。近くの岩場を使えば掴まることはできそうだ。私は再度入念にこちらを見ている人間が居ないことを確認し、配管を掴んでそのまま雲梯の要領で通信塔へ向かった。幸いにして誰にも見られずに通信塔の屋根部分に到達できた。しかし通信塔には屋上に出る扉や窓はなかった。私は慎重に外壁を見ると窓も基本的にはめ殺しのようだった。さて困った。どうしたものか・・・。

 

 

「第3艦隊が帰投しました。」

 

 

私が思案にくれているとアナウンスが流れた。洞窟の入口の方を見ると6人の艦娘が海上を滑ってくるのが見えた。先ほど詰め所で言っていた哨戒部隊だろう。

 

 

「艦隊帰投クマー!」

「おつかれー。」

「疲れたー・・・。」

「お風呂入りたいっぽいー!」

「私も入りたい・・・前髪崩れちゃった・・・。」

「!・・・ふっふっふ・・・。」

グシャグヤグシャ

「うりゃうりゃうりゃ!」

「うわあああ!北上さん!やめてー!」

「あははは!油断してるからだよー。」

「もーう!いつもいつもなんで私の前髪グシャグシャにするんですかー!」

「んー・・・なんとなく?」

「ムキー!」

「あ、阿武隈さん。もうそのくらいで・・・。」

「こうなたら私も北上さんの前髪崩してやるー!」

「うわわ、なにすんのさー!」

 

 

帰ってきたばかりの艦娘部隊が護岸近くで言い争っている。そのうち取っ組み合いに発展したそれは周囲の物品を蹴飛ばしながら大乱闘だ。周囲の他の艦娘たちはそれを止めようとする2人と囃し立てる2人に分かれてしまっている。っと、乱闘を繰り広げている二人の近くにドラム缶があった。双眼鏡で覗くと、ドラム缶の側面には炎のマーク。おそらく燃料が入っているのだろう。これはチャンスかも知れない。

 

私ははめ殺しの窓の中に誰も居ないことを確認すると、シルバーボーラーを取り出し、そのドラム缶に狙いを定める。取っ組み合いの乱闘がそのドラム缶に近づいた時を狙ってドラム缶を撃つ。と、同時に窓を強く蹴り飛ばして割る。

 

 

ガシャボォォォン!!!

「うわわ!」

「きゃあ!」

「あーあー!何やってんですかもう!」

「ふたりとも!そこまでにしてください!」

 

 

案の定、ガラスが割れた音はドラム缶が爆発した音にかき消され、誰もこちらには気がついていない。ドラム缶の爆発も乱闘の余波だと思われている。本人たちは不思議そうな顔をしているが。

 

割れた窓から侵入することができた。彼女たちには感謝しなければならないな。私はそのまま部屋を少し調べ、他の部屋を調べるためにドアから廊下へ出た。そのときの私はその一連の行為を見ている人影があったことを知らなかった。

 

 

通信塔内部はそこまで複雑な作りというわけではなかった。壁にはられた施設図を見る限り、要である通信室は最上階であるこのフロアにあるらしい。私が入ったのは同じフロアの使われていない一室だったようだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。情報部から追加の依頼が来たわ。今入った情報によると、どうやらその施設は全世界の深海棲艦に対して指示を送るための通信指令センターのようよ。情報部は貴方にその施設から深海棲艦への指令コード表を入手してほしいらしいわ。それがあれば深海棲艦を我々の意のままに動かすことができる。戦争の終結も早めることができるわ。少し大変かもしれないけどお願いね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

なかなか無茶な指令だと思うが、現状その指令センターに居る以上、これ以上の好機はないだろう。私は通信指令室をめざした。

 

現代の高層マンションなどと同じで、この通信塔も入り口だけガチガチのセキュリティを引いておけば問題ないという思想らしく、通信指令室の入り口はおろか、廊下などにも一切警備員や監視カメラなどが見当たらない。窓がすべてはめ殺しになっているのもそうした慢心の一因のような気もする。私は何の苦もなく指令室前まで来ることができた。私はひとまずドアに耳を当て中の様子を探ることにした。中から小さくはあるが声が聞こえてくる。

 

 

「了解しました。第5軍、次の攻略目標は成都です。行動開始はマルサンマルマル。戦力その他詳細は現地司令官に一任します。」

「閣下、重慶が陥落しました。第5軍はそのまま北西に進路を取らせ成都へ向かわせます。」

「よろしい。中国攻略にも目処が立ち始めたな。」

「昆明は今だ抵抗を続けているようです。戦略爆撃の要請が来ています。」

「海南島の爆撃隊を使うことを許可する。」

「了解、・・・海南島前線司令部、出撃命令が出ました。目標は昆明北東部の航空基地と周辺の工場群。」

「欧州部隊から通信です。第34軍、ベルン市街に入ったとのことです。」

「よしよし。スイス陥落も目前だな・・・。」

 

 

今まさに指揮をとっているようだ。私は少しだけ扉を開けてみる。中から反応がないのを確認してすばやく内部に入る。内部は先日侵入した東京の通信指令室と似たり寄ったりな構造をしているが、地球儀は無く、東京の施設より広くはない。

 

私はその中心にいる人物を見つけた。アレは・・・この間東京の研究所の施設にも居た男だ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『その男がターゲットの“蔵本浩二”。全世界の深海棲艦を操って世界を破滅に追い込もうとしている張本人。偶には世界を救うってのも悪くないと思うわよ?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ターゲットもそうだが、まずは情報部から頼まれたお使いの方をこなしてしまおう。私は指示を飛ばしているオペレーターを観察する。流石に大戦期ではないので手元に暗号乱数表があるわけでもなく、通信はすべてコンピューターが自動で暗号化を行っているようだ。

 

私はオペレーターの一人に近づき、少し目を離した空きに端末に小型のハッキング装置を取り付けることにした。問題はどう目をそらすかだが・・・。

 

 

ピピピ

「閣下、基地作業員から報告が上がっています。」

「何だ?」

「軽巡洋艦“阿武隈”と重雷装巡洋艦“北上”がまたいざこざを起こしたらしく、その余波で燃料ドラム缶が1本爆発したようです。」

「先程の衝撃と音はそのせいか・・・。思わぬ箇所に被害が出ている可能性もある。基地内を点検せよ。あと2人には後で私の部屋に来るように伝えろ。」

「了解。」

「まったく・・・アイツラにも困ったものだ。」

「これで4度目ですね?」

「ああ。普段はとてもいい子達なんだが、阿武隈はこと髪型のことに関する事になると周りが見えなくなるきらいがあるからな・・・。」

「北上のほうもじゃないんですか?」

「ああ、あっちはあっちで周囲にちょっかいを出したがるからな。ふたりとも戦闘では非常に優秀なのだが・・・。」

「一度閣下がビシッと言うべきなのでは?」

「ああ。言ってるつもりなのだがな・・・。」

「言ってますか?私にはそうは見えませんね。」

「私も同感です。どちらかと言うといつも北上に丸め込まれている気がします。」

「な!」

「最近じゃ駆逐艦の子たちも“司令官はもうちょっと威厳がほしい”と言っていましたよ。」

「ぐぬぬ・・・。」

「まあ閣下では威厳を出すのには当分掛かりそうですね。」

ハハハハ

 

 

雑談をして気が逸れている。今のうちに装置を端末に設置する。と言ってもコンピュータの背面のUSB端子に差し込むだけだが。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。端末の起動を確認したわ。これで相手の通信情報は筒抜けになるわ。よくやったわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

なんとか気が付かれずに設置することができた。私は静かに部屋を後にする。あとはターゲットを事故に見せかけて暗殺するだけだ。

 

私は部屋を出たあと、どうやって暗殺するかを思案していると眼の前にエレベーターがあった。ココは海に面した断崖絶壁の秘密基地。もしかすると・・・。最初に入ってきた部屋に戻り、部屋の隅に置いてあった工具箱からレンチを取り出すと再びエレベーターへ向かった。

 

私はエレベーターを呼び、着いたエレベーターの天井部分を開けてエレベーターシャフトに入った。案の定、エレベーターの細部は色々なところが錆びている。金属製のワイヤーロープは結構錆びが広がっており、いつ切れてもおかしくない状態だ。私はエレベーターシャフトの管理用のはしごを伝ってエレベーターの下側に移動し、非常ブレーキパットを見つけ出した。こちらはそこまで劣化は進んでいないため機能にさほど問題はなさそうだ。

 

私は非常ブレーキパットのボルトを緩める。左右2箇所にある非常ブレーキパットのボルトを緩めたことでこの非常ブレーキはもはや機能しないだろう。私は再びシャフトの上部に移動し、そこでターゲットが乗ってくるのを待った。

 

しばらくしてエレベーターのドアが空いた。上部通風孔から中を覗く。乗ったのはターゲット一人のようだ。

 

 

「まさか爆発の余波があんなところまで着ていたとはな。早急に修理させねば・・・。割れていてははめ殺しの窓にした意味がないじゃないか。」

 

 

どうやら窓を発見されたらしい。他の作業員が来る前にことを済ませなければならない。私はエレベーターが動き出すのを見計らって、管理用のはしごからシルバーボーラーで錆びていたワイヤーロープを撃った。

 

 

パシュ

ガキン!

「うわああ!」

ガー…

 

 

ワイヤーロープが切られたエレベーターは凄まじい速さで落下していった。普通ならば落下スピードが一定以上になれば自動で非常ブレーキが効くが、今回はそのブレーキは役に立たない。ともすれば・・・。

 

 

ドォーン

ボォォン

 

 

一番下まで落下する以外にない。落下した衝撃で一番下にあった機器に勢いよくぶち当たったようで小規模な爆発がおこった。この通信塔は8階建てに相当する高さなのでおそらくターゲットはエレベーターの中でヒキガエルのように潰れていると思われる。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットの生命反応消失を確認したわ。任務完了ね。脱出して頂戴。最初の上陸地点の沖合に潜水艦を待機させているわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は入り口の扉をこじ開けて元のフロアに戻った。通信指令室の要員は何があっても外に出ないようにと厳命されているのか、あの爆発音でも誰かが外に出てくる気配はなかった。

 

私はそのまま最初に入った割れた窓ガラスから外を確認する。外に居た作業員は落ちたエレベーターに注目しており、割れた窓ガラスを見ている人物は居なかった。私は入ったときと同じように配管を伝って通路に戻り、通路をそのまますすんで地上に出た。出入り口は南京錠でロックされていたが特に問題なく解除することができた。

 

外に出ても警報もなにもないということは、私の侵入に気が付かれていないということ。あのエレベーターの落下は事故と見られていると思われる。私は来た道を戻るようにして上陸地点に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

「お待ち下さい。」

 

 

 

 

 

 

急に背後から声をかけられた。そこには軽巡洋艦大淀が居た。手には単装砲を持っている。

 

 

「・・・。」

「先程、弾薬のチェックを行った後、通信塔に入る貴方を見ました。何を行っていたのかは今入った通信でわかりましたけどね。」

「・・・。」

「お答えください。なぜ司令官を殺したのですか?」

「何のことだ。」

「とぼけても無駄です。貴方が入った窓は施設の最上階。最上階ならばエレベーターに細工をすることもできる。そして死亡したのは司令官ただ一人です。」

「・・・。」

「いいたくなければそれでもいいです。」

「何?」

「ですが・・・一つだけ教えてください。貴方は私達艦娘が知らないことも知っている。そう見受けられるので問います。」

「・・・。」

 

 

「この世界はどうなるのですか?」

 

 

私は質問の意図を考えた。純粋な好奇心か、世界を変えようとする英雄気取りか、はたまた見境なく首を突っ込みたがるバカなのか。その目は真剣で英雄気取りでもバカでもなさそうだ。

 

 

「それを聞いてどうする。」

「この世界は深海棲艦に滅ぼされるのでしょうか。それともまだ希望が残っているのですか?」

「・・・。」

「貴方の正体は知っています。エージェント47。国際暗殺組織“ICA”のエージェント。いつぞやの硫黄島での戦闘にも参加していたのでしょう?」

「ほう?キミは何を知っている。」

「私もその作戦に後方ではありましたが参加していましたから。そのときに私独断であなた方のことも少し調べたんです。」

「この世界に開示されている情報は少ない。よく調べ上げられたな。」

「あなた方は気がついていないみたいですが、情報部のエージェントを私は知っていますよ。」

「何?」

「私の知識もそのエージェントの通信内容から判断したものです。」

「・・・。何をするつもりだ。」

「何も。私はただ、この世界が早く平和に、平穏になってほしいだけなんです。」

「・・・。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『エージェントの素性が露見している・・・?大至急調査の必要があるわ。我々の中にスパイが居る可能性があるということだもの。もっと情報を引き出して・・・いえ、最終手段を取ることを許可するわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

本部の許しが出たか。仕方がないがこのことはある意味任務よりも重大そうだ。

私は静かに彼女に歩み寄ると手の届く距離まで近づいた。そのまましばらく見つめ合った後、私は何かに気がつくように背後に目をやった。彼女はその目線に気がついたのか振り返って目線の先を探した。その瞬間を見計らって私は彼女の鳩尾に一発くれてやった。

 

 

ガッ

「うぐっ!・・・どう・・して・・・。」

「君はこれから世界の真実を知ることになるだろう。」

ドサッ

 

気絶させた彼女を担いでゴムボートを再び海に浮かべ、彼女を乗せてサハリンを脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

『47。軽巡洋艦大淀の尋問の結果、エージェントの素性が露見したのは彼女だけだったようよ。』

「そうか。ひとまずは安心か?」

『そうね。でもまだ油断はできない。エージェントには厳重注意を行ってさらなる露見を防がせるわ。』

「それがいいだろう。で、肝心の作戦のほうは?」

『設置したバグのおかげで深海棲艦に使われる通信はすべて傍受できている。暗殺した基地司令官の後釜は滞りなく決定されたそうよ。』

「ということはバレては居ないか。」

『ええ。いま通信方式の解析を行っているわ。これが完了すれば我々の基地からも指令を飛ばすことができる。作戦の最終段階が実行に移すことができるわ。』

「そうか。」

『我々の指令を深海棲艦に届けるには、本物の指令を届かないようにしなければならない。ネットワークのメインコンピュータはまた別にあるから、貴方にはまだ働いてもらうことになりそうよ。』

「承知した。」

『ああ、それと、軽巡大淀のことだけれど、こちらの存在を知った以上、このまま帰すわけにも行かないわ。作戦が終わるまで私達で“保護”することになったから気が向いたらあってきたらどうかしら?』

「私が会ってどうなるものでもないだろう?」

『あの子、相当諜報能力に長けているわ。それにあの思想・・・もしかしたら・・・。』

「・・・。」

『わかるわよね。貴方の役目になるかもしれないわよ?』

「勘弁してくれ。私はスカウト業はやっていない。」

『でもブルーやシルバー、タバサを勧誘できたじゃない?』

「あれはその場の状況がそうさせた。ブルーに至っては私は口添えをしただけに過ぎない。」

『そう言えばそうだったわね。まあとにかく一度会ってみて頂戴。』

「わかった。」

 

 

ミッションコンプリート

・「空き巣にご注意」+1000 『通信塔に侵入する。』

・「フリーフォール」+5000 『エレベーターを落下させてターゲットを暗殺する。』

・「近接戦闘は苦手」+3000 『艦娘を近接戦闘で気絶させる。』

・「黒幕候補」   +3000 『軽巡大淀を鹵獲する。』

 




秘密基地はスナイパーエリートに出てきたラーテ工場や、MGSのシャドーモセスなどをイメージして勝手に作り上げました。なので樺太に断崖絶壁があるかどうかすら今回は確認してません(笑)

個人的な話ですが、最近「荒野のコトブキ飛行隊」にハマっています。2~3話もしかしたら書くかもしれませんが話の大筋には全く関わらないですw


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HITMAN外伝『エンパイア レムナント』3

『エンパイア・レムナント』はこれにて終了です。


『横須賀へようこそ。47。』

 

『ICAは先日、深海棲艦の通信を完全に解析することに成功したわ。これで我々の基地からも深海棲艦に対して指示を出すことが可能になった。“世界再構築プログラム”の最終段階に移るわ。』

 

『今回、貴方にやってもらいたいのはここ横須賀第1鎮守府のメインコンピュータにジャマーを仕込んでほしいの。ここは日本国内にある数ある鎮守府の総本山的施設で、深海棲艦との通信の大部分をこの施設にある大型アンテナから送信してるの。ジャマーを仕込むことによって我々が作戦を伝達している最中に妨害されることが無くなるわ。』

 

『全体の流れとしては、まず貴方がメインコンピュータにジャマーを仕込む。そしてジャマーを起動し、基地の送信設備を無力化する。無力化したら我々の基地から深海棲艦全部隊に向かって、日本国、もしくはそれに準ずる中継基地などを攻撃するように仕向けるわ。そうすることによって大本営は深海棲艦が暴走したと勘違いをして、予定より早めに深海棲艦を倒す必要に迫られるわけ。深海棲艦自体は大本営から遠隔で死滅させる事ができるようになっていることが情報部の調べでわかっているわ。』

 

『深海棲艦が活動を停止してしまえば世界に残っている人類の残党が後を引き継ぐでしょう。そうすれば世界を完全ではないけれど元の軌道に再び乗せることができるわ。そうすればとりあえずこの世界での再構築プログラムは成功と言える。』

 

『施設は他の鎮守府よりも精鋭が集まっているという情報があるから気をつけてね。くれぐれもジャマーを仕込むところを見つからないように注意して頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

ザー

「ったく、よく降るなあ・・・。」

「まあ俺らは良いだろ。詰め所には屋根があるんだから。」

「だな。艦娘たちはこんな雨の日も警備任務なんだから難儀なもんだな。」

「まあその御蔭で俺らは生きてられるようなもんだからな。」

「そうだ!後でなんか差し入れでも持っていってやるか!」

「お前・・・それ下心ミエミエだぞ。」

 

 

今日は朝から本降りの雨模様だ。梅雨と呼ばれる日本の雨季らしい。世界が焦土になったことで世界の気候もだんだんと変化が訪れているらしい。当初は硝煙と爆炎によって塵が舞い上がり一部地域は太陽の光が届かなくなったことも会ったようだが、最近では世界各地の工場が破壊された上、車の排気ガスも出す車が居なくなったことで大気汚染は開戦前の50分の1程度になっているらしい。それでもいくつかの国では原子力発電所が攻撃を受けたことによる放射能汚染が起こっており、一概に環境が改善したとは言えないが。

 

私は若干綺麗になっている気がする横須賀の空気を吸いながら、目標の施設の外周に到着していた。施設は全体が金網で遮られており、入り口は警備兵2名の居る正門とカードキー型の鍵がかかっている裏口しかない。周辺には高い建物もなく、施設内にはサーチライト付きの見張り台もあり、グライダーなどで侵入するのは不可能だろう。

 

私は今回、施設が金網で囲われていることをブリーフィングで聞き、液体窒素のスプレー缶を用意した。まずは使う場所を選ばなくては・・・。

 

 

 

施設の周りを探索していると、裏路地に面した部分を発見した。向こう側はすぐに建物になっており、発見される可能性は少ない。私は周囲に人が居ないことを確認すると、金網に向かってスプレーを吹きかけた。人一人が通れる程度の穴を描くようにスプレーを吹きかけると、たちまち吹きかけられた部分の金網は凍りついた。穴の中心部分を持ち、前後に軽く揺らすといとも簡単に凍った部分が破断し、ポッカリと金網が開いた。私はすばやく穴をくぐり抜け、近くの物陰に身を隠した。侵入成功だ。

 

ひとまずは眼の前の建物に侵入を試みる。今日は雨は降っているが風はなく、気温の高さから窓を開けている部屋もチラホラと見られる。私はそのうちの一つに入った。入った先はワンルームの居室だった。内装と装飾品から考えて男性の部屋のようだ。私はそのまま部屋を出ようとしたが、あることに気がついた。

 

私は今雨合羽を着ている。外が雨なので当然といえば当然だが、そのせいで部屋に侵入した際に床が水浸しになってしまった。このままでは侵入したことが発覚しかねない。かと言って拭き取るにしても拭く物はこの部屋の中のものしか無い。止む終えず私はその部屋で待機することにした。

 

しばらくすると廊下から足音が聞こえてきた。だんだんと近づいてくる。この部屋の扉の前で足音が止まった。

 

 

ガチャ

「ふぅ・・・んあ?なんでこんな濡れてんだ?・・・あ、窓開けっ放しだったのか。」

スタスタ

「にしてもこんなに広範囲に濡れるか・・・?」

スッ

ガッ

「うぐっ!」ジタバタ

ドサッ

 

 

彼が部屋の中ほどまで入ってきたタイミングを見計らって後ろから首を絞めて気絶させた。服装からして基地の整備員らしい。私は彼の服装と小道具を借り、彼をクローゼットに押し込んだ後部屋から出た。

 

基地の建物の大まかな配置は衛星写真で把握できている。私はひとまず玄関においてあったビニール傘も借りて、一番近くにある工廠へ向かった。工廠は静かで、建造などは行われていないようだった。しかし建造ドックに隣接している部屋の中から金属音がしている。私は部屋についている窓から中を覗き込んだ。

 

中は装備改修工廠のようだ。2人の艦娘が工具台に向かって各々作業をしている。奥のピンク髪が明石、手前の緑髪が夕張だろう。・・・と、更に手前の机の上にカードキーが置いてある。情報によればこの鎮守府施設の重要区画にはカードキーがなければ入れないらしい。無論、メインコンピュータ室も重要区画になっているだろうと推測できるのでカードキーはあったほうが良い。私は部屋の扉を少しずつ開けた。

 

 

「ん?あら?ちゃんとしまってなかったのかな?」

「どしたの?」

「いや、扉が勝手に空いちゃって。」

「その扉もガタが来てるのかなあ・・・。後で見てみないと。」

「だねー。」バタン

 

 

少し扉を開けただけで気が付かれてしまった。艦娘の感覚器官は人間のそれよりも良いのだろうか。それともただ単に彼女がたまたま気がついたのか。

 

ともかく侵入するには少しばかり頭を捻らなければならないようだ。私は工廠内を見回した。辺りに作業員の姿はなく、部屋以外の場所は静かなものだった。ふとみるとドックの上部にクレーンがあった。操作盤も根元付近にあるがホコリを被っており、長らく使われていないことが見て取れた。

 

私は操作盤に近寄る。別段鍵が必要というわけではなく、電源さえ入れれば誰でもいつでも使えるようだ。私は電源を入れる。操作盤のランプが点灯し、使用可能であることを伝えてくる。私は近くにあった空バケツの取っ手部分をレバーに引っ掛けた。

 

 

ゴゥゥゥン

 

レバーに引っ掛けたことで手を離してもレバーが操作されたままの状態になった。私は急いで部屋の前に戻る。

 

 

ガチャ

「あっれー?!なんで!?」

「どうしたの?」

「クレーンが勝手に動いてる!」

「えっ!?ちょ、ちょっと。アレは不具合があるから動かさないようにって提督から言われてるのに!」

「早く止めないと!」

「私も行くわ!どうして動き出したのかしら?」

 

 

うまいこと2人が部屋から出てくれた。その隙に部屋に侵入して机の上に会ったカードキーを取り、また急いで部屋を出た。そのまま工廠を後にする。2人は操作盤の近くで何故動き出したのかを調べている為気が付かれていない。

 

そのまま鎮守府施設で一番立派な建物に入る。おそらくここが本部だろう。入り口はカードキーがなくても入ることができ、4階建ての建物のどの階にもすんなり行くことができたが、4階の端にある大部屋にはカードキーなしでは入れないようだった。扉の横の端末にカードキーを差し込むと自動ドアが開いた。

 

ドンピシャだ。ここはメインコンピュータ室になっており、サーバーのようなラックに大量にコンピュータが収められている。中央には端末があった。私はその端末を操作し、ジャミング装置を設置した。

 

 

「こちら47。ジャミング装置の設置が完了した。」

『確認しているわ。・・・大丈夫。ちゃんと認識されている。それじゃあ仕事を始めるわ。』

「頼む。」

 

 

画面上には様々なポップアップウィンドウが表示されては消えている。通信回線に割り込んでいるようだ。

 

全深海棲艦に新たな攻撃座標を転送。まずは深海棲艦を二分して命令に忠実な勢力と反目する反乱勢力を作る。次にお互いを攻撃させる。日本近海の反乱深海棲艦には本土都市部への攻撃も行わせる。一応申し訳程度の艦娘への出撃命令も出す。大本営にしてみれば意図しない攻勢が開始され大慌てになるだろう。

 

命令が出し終わったところでポップアップウィンドウがでなくなった。

 

 

『47。作戦は完了よ。一応貴方の居るところへは攻撃は差し向けてないから安心して頂戴。近海に潜水艦を待機させているわ。それで脱出して頂戴。』

「潜水艦?市内のセーフハウスはどうした?」

『市内のセーフハウスもそうだけど、今回の作戦が完了次第、我々ICAのこの世界における拠点はサイト01に集約されることになってね。国内のインフォーマント以外は全員撤退よ。』

「これ以上の干渉を防ぐためか。」

『そういうこと。ジャミング装置はそのままでいいわ。くれぐれも見つからないようにね。』

「了解。撤退する。」

 

 

私はコンピュータ室を後にした。窓から外を見ると雨は既に上がっており、天使の階段がチラホラと見受けられる。私はそのまま施設を脱出し、鎮守府備え付けの護岸へ向かった。

 

護岸には船はおらず、静かな波の音だけが響いている。私は予め指定されていた資材置き場へ向かい、資材に偽装して搬入させたゴムボートが木箱に入って置かれているはずだ。

 

資材置き場はかなり乱雑に様々なものが置かれていた。ネジが大量に入った箱や鋼板やH鋼などが並べられている。その中にぽつんと置かれた木箱を発見した。私は近くにあった鉄棒を使って木箱を開けた。

 

 

「これは・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

木箱の中にはゴムボートが入っていた。しかし明らかにゴム部分は破れており、とても空気を入れて膨らませられるような状態ではなかった。何かの手違いだろうか?

 

 

「ゴムボートは壊させていただきましたよ。」

「!」

 

 

後ろから急に声をかけられた。見ると白い軍服を着た男が立っており、その周りには10人ほどの艦娘が居た。そう言えば工廠を出てからというもの艦娘にも警備員にも誰にも会わなかった。その時点で不審に思うべきだったかもしれない。

 

駆逐艦“暁・響・雷・電”はこちらに連装砲を揃って向けている。この白い男、おそらく提督と思われる男の側には腰に巨大な主砲を背負った艦娘、戦艦“扶桑・山城”が控えており、その横には重巡“妙高・那智”が居た。後ろにも誰か居るようだ。

 

 

「あなたのことは工廠にいた2人から報告を受けていました。うちのコンピュータ室で何かを行っていたようですが?」

「・・・。」

「答えたくありませんか?それとも逃げる策を模索していますか?この状況から?」

「・・・。」

「だんまりでは進む話も進みません。ともかく一旦私達に同行してもらいます。おとなしくついてきてくれれば危害は加えませんよ。」

 

 

策を模索していたと言うよりも、本部から通信が入っていた。それを聞くかぎり、私はココから無事に帰ることはできそうだ。

 

 

「私はここから撤退しなければならない。あなた達の要求には答えられない。」

「・・!そうですか・・・。しかし状況はそれを許してはくれないでしょう。従わないというのであれば少々手荒にでも従わせるのみですが。」

「・・・。」

「暁、響、彼を拘束しなさい。」

「はい!」

「了解。」

「拘束か・・・。できるのか?」

「うん?」

 

 

ボォン!

キャア!

 

 

「くっ・・・なんだ何が・・・。」

「砲撃を受けたようです!」

「一体どこから・・・っ!」

「う・・・・しろ・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

チャキッ

Désolé(申し訳ありません)。テイトク。」

 

 

「コマンダン・テスト・・・!」

「コマさん!どうして!」

「くっ!」ガコォン

ヒュルルルルボォン!

「きゃあ!」

「お姉さま!」

「動かないでください。ワタクシも、元同僚を傷つけたくはありません。」

 

 

彼らの後方に居たのはコマンダン・テスト。チューク諸島で私を脱出させてくれたあの艦娘だった。彼女は背後から提督と私の間に向かって砲撃を敢行、それに対応しようとした扶桑に艦載機による爆撃を行ったのだった。

 

彼女の持つ得物は単装砲だったが、そんなものでも提督に直撃すれば一大事だ。なおかつこの鎮守府における扶桑と山城は航空戦艦改装が施されておらず、制空権が完全にコマンダン・テストに掌握されている状態になっている。爆撃も可能な水上爆撃機が上空を旋回している。

 

彼らは突如として寝返った彼女を見て驚愕を隠せないでいる。

 

 

「コマンダン・テスト、何のつもりだ!いったいどうして!」

「スミマセン。テイトク。旧友からの頼み・・・いえ、お誘いでして。」

「旧友・・・だと?」

「ええ。フランスに居た頃に知り合ったのですが。私が敵に囲まれて大破したときに彼女の部下に救われたのです。」

 

 

おそらくその旧友はバーンウッドのことだろう。ICAはかなり前からこの世界には干渉していたようだ。コマンダン・テストはゆっくりと提督たちに砲を向けながらこちら側へ移動してきた。

 

 

「私は彼女に恩を返したい。でも提督たちも裏切りたくない。そう葛藤していたときに、今回の彼の任務の目的を聞かされたのです。」

「目的・・・だと?」

「ええ。大丈夫です。テイトク。彼の任務は深海棲艦との戦争を終らせる任務です。何も心配はいらないのです。」

「そんな話信じろというのか!君ほどの人物がどうして!」

「申し訳ありません。ですがワタクシは真実を知ってしまったのです。それに贖うことはワタクシにはできませんでした。」

「なんということだ・・・。」

「動かないでくださいね。制空権はこちらにあります。」

「たった一人で海に出てどうするつもりだ!すぐに応援の部隊が駆けつけるぞ!」

「ご心配なく。もうひとり、友人が居ますので・・・。」

 

 

そう言うと彼女は海に視線を向けた。静かだった海から何かが上がってくる。程なくしてその正体が判明した。

 

 

「ぷぁ!こんにちは!お迎えに上がりましたー!」

「ごくろうさまです。シオイ。」

「な!しおい!お前まで・・・!」

 

 

チューク諸島で出会ったもうひとりの艦娘、潜水艦“伊401”だ。こちらは提督に頼まれて私に協力していたと思ったが・・・。

 

 

「あ、私がなんでこっち側かって顔してるね。私フリーランスだからね!正確にはどこの鎮守府にも所属してないんだ!」

「あ、そういえば・・・。」

「妙高、それは本当なのか?」

「ええ、潜水艦の子たちにはフリーランスの子が多く、しおいもその一人です・・・。」

「フリーランスは鎮守府のトップである提督の指示というよりも、その指示をこなしたことで大本営から支払われる賞金のほうで動いている。うちで言えば伊8や伊26などもフリーランスだ。そのくらいは配属時の書類に書かれていたと思うが?」

「ぐっ・・・。そう言えばそんな文言があったような・・・。」

「だから今日はこの人達に雇われたってわけ。じゃあそろそろ行こうか!」

「ええ。」

 

 

伊401は資材置き場から大きめの板を取り出した。貨物の運搬に使うようなパレットと呼ばれる木枠だ。それを海に浮かべ、それに乗るように指示してきた。私は慎重に乗るが下から彼女が支えているのか思ったより安定していた。横でコマンダン・テストもバランスを崩さないように支えてもらっている。もちろんその間しっかりと艦載機で提督たちを警戒していた。

 

 

「では、テイトク。今までお世話になりました。また、平和になった世界でお会いしましょう。」

「私もこのままこの人の組織に居るね!平和になったらお土産持って遊びに来るから!」

「そういうわけだ。ここらで失礼する。」

「・・・。」ギリ…

 

 

苦虫を噛み潰したような提督を尻目に、私は若干不安定なパレットの上に立ち、伊401とコマンダン・テストに支えられながら、沖合に艦橋だけ顔を出したICAの潜水艦に乗って脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~1ヶ月後~

 

 

『コマンダン・テストは大淀を連れて無事に日本本土へ向かったわ。』

「そうか。」

『結果としてかなり計画は早まったみたい。先程、深海棲艦に対する全滅オーダーコードが発令されたのを確認したわ。』

「基地司令官には露見したわけだが、よく妨害されなかったな。」

『あなたが設置したジャミング装置はコンピュータに元から刺さっているコードに偽装するタイプ。メインコンピュータを止めるわけにも行かないから、刺さっているコードを抜いてまで確認はしなかったのでしょうね。』

「それで。結局どうなったんだ?」

『つい数時間前に横須賀・呉・舞鶴・大湊・佐世保の合同艦隊がマリアナ海溝に巣食う深海棲艦の親玉の撃破に成功したようよ。艦娘の方も何隻か沈んだようだけど、本土は最終決戦の勝利と深海棲艦の機能停止の報に沸き立っていてほとんど気にされてないわね。』

「世界は救われたのか?」

『結果的にはそうなるわね。我々の調査では北米2400万人、南米300万人、欧州1200万人、アジア1000万人が残存していると考えられている。それでも全部合わせて1億にも達しないのだから1億1000万人残っている日本の覇権は確定的ね。』

「国や世界が消滅するよりはよっぽどマシだろう。」

 

 

 

『そうね。でも我々はそれだけでは不十分と考えてる。』

「ほう?」

『今、ミッドウェー島で入手した深海棲艦のデータを元に我々でも深海棲艦を作成しているわ。』

「・・・。」

『元になった深海棲艦との違いは全滅オーダーコードが設定されていない点。これを解き放てば増殖に増殖を重ね、世界が安定した10年後くらいには再び人類と敵対する存在になるでしょうね。』

「はた迷惑な話だ。」

『でもこれを解き放ち、艦娘と深海棲艦の戦いという構図を作り出さねば、この世界が正常になったとは言えないのよ。』

「終わりなき戦争の世界・・・。」

『そういうことよ。彼らには十分に対抗できる力は残っている。10年後に再び現れたとしても対処は可能でしょう。陸上型は発生させないつもりだしね。』

 

『何はともあれ、お疲れ様47。また少ししたら別の世界にも向かってもらうわ。』

「了解した。」

 

 

 

『あ、しまった。』

「?」

『コマンダン・テストにICAの技術部が作った精巧な船体模型をおみやげに持たせるのを忘れてたわ。』

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「かちんこちん」  +1000『凍結スプレーを使って基地に侵入する。』

・「艦娘のプロ再び」 +1000『工廠の整備員の変装をする。』

・「玉音放送」    +1000『メインコンピュータにジャミング装置を仕掛ける。』

・「世界一の大船」  +5000『コマンダン・テストと伊401の援助を受けて脱出する。』

 

 

 




艦これの世界での話は以上になります。全部回収はしたはずですがもしかしたらまだ残ってるかも・・・?

次回は新しい世界に行きます。ソッチのほうが先にできてたので明日の午前中に予約投稿することになると思います。


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HITMAN外伝『荒れた大地を飛ぶ鳥』

『荒野のコトブキ飛行隊』の世界に行きます。
もしかしたらあと1~2話くらい書くかもしれませんが、本編のストーリーには全く絡みません。

2019/05/04追記:無理矢理タグ追加しましたw


『イジツへようこそ。47。』

 

『ここはつい最近発見された世界でね。まだ調査が完璧ではないけれど、この世界で現在見つかっている中で最大の都市「イケスカ」のある有力者からの依頼が入ったから行ってもらうわ。』

 

『今回のターゲットは、アウローラという女性よ。オウニ商会という企業の専属防空軍である“コトブキ飛行隊”に最近加入した新人パイロット。出会うたびに依頼人の計画を色々と妨害しているみたい。それを排除してほしいそうよ。』

 

『本当はコトブキ飛行隊全7人を全員排除してほしかったみたいだけれど、2人目以降の依頼料が払えなかったみたいね。しかも7人の中で一番金額が安い今回のターゲットの分しか払えなかった。だから他の6人は殺しては駄目よ。依頼料が支払われていないのだから。』

 

『彼女らは“羽衣丸”と呼ばれる飛行船を空母に改造して拠点としているみたい。もっとも今の飛行船は二代目らしいけどね。よって彼女らは常に空中にいる。搭乗員は少なく、全員お互いの顔をよく知ってる。飛行船に秘密裏に潜り込むのはかなり難しいと思っていいわ。必然的に空戦で落として殺害するのが無難だけれど1対7はさすがの貴方でも難しいでしょう。ブルーとシルバーとタバサも一緒に派遣するから共同で任務にあたって頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「兄ちゃん達、なんだか見たことない機体だが・・・?」

「・・・。」

「そんなおかしい?」

「まあ日本軍機ばかりのこの世界では異様なラインナップだと思うよ。」

「こんな機体はイケスカでも見たことがねえ。お前さん何者だ?」

「ただのフリーランスだ。」

「そうそう。フリーランス。」

「フリーランスだね。」

「・・・。」

 

 

私達は今、荒野のど真ん中に建っている道の駅ならぬ空の駅にいる。アウトストラーデのサービスエリアのような位置付けらしく、食事から給油まで一通りこなすことができる。

 

 

「そう言えば姉さん。何でその機体にしたの?」

「この子はね、この4機の中でも一番機動性が良いのよ。大空を自由に飛ぶって素敵じゃない!そういうシルバーは何でそれにしたのよ?」

「47と同じ理論だよ。速度で圧倒すれば優位に立てると思ったからね。」

 

 

私達4人はそれぞれICAが用意できた戦闘機に乗って着ていた。私はアメリカ軍機である“P-51H”。ブルーは、イギリス軍機“スピットファイアMk.ⅨE”。シルバーはドイツ軍機、“Bf109 G-10”そして既に座席に座り本を読んでいるタバサはソ連軍機“Yak-9UT”にそれぞれ乗っている。

 

ターゲットの乗る羽衣丸という飛行船は情報によればこの空の駅の西方150km地点をこの後通過するらしい。作戦としては4機編隊で羽衣丸に接近、迎撃に上がった飛行隊の中からターゲットを見つけ出し、それを撃墜する。パラシュートで脱出した場合は追い打ちも必要だろう。飛行隊の使用機体は一式戦闘機らしいので性能差がかなりあるため撃ち負けることはないはずだ。

 

時刻は午後8時。日は既に暮れており、若干雲が多い天候であるが雷雲というわけではなさそうだ。そろそろ予定の時刻である。

 

 

「予定時刻だ。そろそろ行くぞ。」

「はーい。」

「了解。」

「(コクン)」

 

 

それぞれ給油を済ませた機体に乗り込む。我々4人は今回の任務に先立って訓練施設で一通りの操縦技術を学んだ後、別の世界で何人かの戦闘機乗り相手に模擬戦と演習を行ったため操縦に関しては全員問題はない。模擬戦でも唯一人を除いて4対4でも1対1でも完勝できるまでになった。だがあの尾翼に3本線の男にだけは私も含めて4人だれも最後まで勝てなかったが。

 

エンジンを始動。独特の重低音が響き渡り、空の駅備え付けの滑走路から順番に飛び立つ。野戦滑走路ではあるがよく整備されており、問題なく大空へ飛び立つことができた。迂回上昇しつつ高度を10000mまで上げる。情報によると羽衣丸という飛行船は長距離対空レーダーを装備しているらしいが既に捉えられていたりするのだろうか?ともかく、全員上昇し終えたところで西方へ転進、羽衣丸を目指した。

 

 

 

 

 

~コトブキside~

 

 

 

「3時方向より所属不明機接近。数4。高度・・・え?」

「どうしたの?」

「ええっと、これ計器が壊れてるのかな・・・?」

「ともかく表示は?」

「高度8000クーリル、速度600キロ。」

「高度8000で600?それは見間違いじゃないの?そんな高高度でそんな速度出せる機体なんて無いわよ?」

「この前の噴進機じゃない?」

「でも噴進機はイケスカの戦いで全機喪失したって言ってたし・・・それにあの機体は航続距離がないから滑走路の近くでしか運用できないし・・・。距離は?」

「距離、105キロ。」

「そんなところに滑走路あったかしら?」

「一番近いところでも・・・ここの空の駅だね。でも噴進機じゃ多分航続距離が足りないかも。」

「ともかく、本船到達まであと5分ほどです。どうします?副船長。」

「空賊の可能性もありますが。」

 

「ううん・・・でも4機ってことは空賊にしては数が少ないんじゃない?」

「揺動という可能性も。」

「そっか・・・しゃーない。総員戦闘配置!戦闘機隊の出撃を許可する!」

 

 

 

~47side~

 

 

ブゥゥゥン

「姉さん、はしゃぎ過ぎじゃない?」

「なによ、ちょっとバレルロールしただけじゃない。速度は落ちてないわよ。」

「危ない。」

「ほら、タバサも言ってる。」

「ちぇー。」

「間もなく羽衣丸の視認圏内に入る。気を引き締めろ。」

「了解。」

「はーい。」

「いよいよだね。」

 

 

見えた。見た目は昔の硬式飛行船“グラーフ・ツェッペリン”だが、細部が微妙に違っている。知識の一つとしてみた日本のアニメーション映画に似たようなのが出てきたかもしれない。

 

高性能のレーダーを持っているということだがこの距離まで近づいて認識できていないという事はないはず。迎撃機や対空砲火がないということは敵として見られていないのだろうか?念の為無線傍受を行う。

 

この世界の無線技術は大戦期よりは発展してると言っても、良くて60年代の技術レベルであり、端末だけでも容易に傍受が可能だ。情報部が入手した周波数を入力し、傍受を開始する。

 

 

「所属不明機郡は既に本船の近くまで着ています。かなり早いので注意してください。」

「了解。コトブキ飛行隊。全機発艦!」

「アウローラ!急いで!遅れてるよ!」

「わ、分かってますよぉ!」

 

 

そろそろ迎撃機が上がってくるらしい。っと、飛行船上部の対空銃座も起動した。後方にのみ設置されており、連装銃座が2つのものが1箇所、単装砲銃座1つのものが2箇所ある。

 

 

「わたしがやる。」

「わかった、任せたぞ。タバサ。」

 

 

一言いうとタバサのYak9UTが急降下で羽衣丸へ接近していく。武装はオリジナルの20mm機関砲2門に加えて特殊改造として37mm機関砲を1門搭載している。タバサは弾を無駄にしないよう37mmの単発射撃で銃座を潰しにかかる。

 

ドン

ボォーン!

ドン

ボォーン!

ドンドン

ボォーン!

 

 

元々旧日本軍の爆撃機などに付けられていた銃座だ。37mm機関砲弾1発で容易に大破し、射撃できなくなったようだ。

 

 

「後部遠隔銃座沈黙!相手の航空機は大口径機関砲を装備しているようです!」

「やばいやばいやばい!コトブキ飛行隊早く上がってぇ!」

「分かってますから落ち着いてください副船長。コトブキ飛行隊発艦準備完了!全機、一機入魂!」

「「はい!」」

 

 

「あら?やっと発艦してくるのね。ちょっとビビらせてやりましょ。」

「姉さん?」

 

 

やっと迎撃機が上がってくる。何を思いついたのかブルーのスピットファイアが発艦してくる出口とは反対側から滑走路に近づいていく。

 

 

「やあああああ!」

ブゥゥゥゥン

「姉さん!」

「!」

「中に入った。」

「姉さん!大丈夫かい!?姉さん!」

 

 

あろうことか敵機が出てくる方とは別のもう一つの、おそらく着艦用と思われる反対側の入口から中に侵入したのだ。正気の沙汰とは思えないが、ブルーは前も別の世界での飛行訓練中一度F-15でトンネルくぐりをやらかしている。まあその時は3本線に追随した結果ではあったのだが、その時の経験が彼女になにか悪影響を及ぼしてしまったのだろうか。

 

発艦作業中のコトブキ飛行隊の頭をかすめる形でもう一方の出口からブルーの機体が出てきた。なんとかどこもぶつけずに通り抜けたようだ。無論、傍受している向こうの無線もパニック状態だ。

 

 

「何何何!?!?」

「何今の?!」

「私達の飛行甲板内に戦闘機が侵入。上をギリギリですり抜けていった。」

「被害を報告しろ!」

「なし!」

「こっちも大丈夫!」

「というか機銃も撃ってなかったよね?」

「通り過ぎただけ?なめた真似を!」

 

 

「姉さん!なんて危ないことを!」

「無謀。」

「えへっ♪」

「ブルー。あれは流石に危険すぎる。今回は奇跡的に無傷で済んだから良かったものの、今回の任務はターゲット以外の人間には被害を出さないようにと言われたのを忘れたのか?」

「あ、そう言えばそうだったわね。ごめんなさーい。」

「無茶はこれっきりにすることだな。敵機が上がってくる。各自ターゲットを確認しろ。」

「「了解。」」

 

 

気を取り直して上がってくる迎撃機の機体マークを確認していく。余談ではあるが、我々4人の機体にもそれぞれ思い思いのマークが描かれている。私は特に思い入れがないため単純に尾翼に白文字で「47」と書いてある。シルバーは尾翼には何も書かれていないが機体全体を這うように黒地の機体に白の流線型のラインが引かれている。ブルーは故郷の友人に書いてもらったらしいデフォルメされたブルー自身の絵が尾翼に描かれている。タバサは真っ白の機体に直線的な青いラインが引かれている。

 

羽衣丸から迎撃機が続々と発艦している。1機目は尾翼に緑色の稲妻のマーク。レオナという女性が操縦する隊長機だ。2機目は機体全体に黄色のライン。ザラ副隊長機だろう。3機目は紫の矢印。4機目は青い鎌がそれぞれ尾翼に描かれている。それぞれケイト機、エンマ機だ。5機目は尾翼から胴体にかけてピンクのラインのチカ機。6機目は赤い鳥のマーク、キリエ機。そして7機目、最後に出てきたのが機体全体に緩やかなオレンジ色の曲線を描いている機体。ブリーフィングでの情報通り、これがアウローラ機、ターゲットだ。

 

 

「よし、全員、ターゲットは確認できたな。攻撃開始。」

「了解!ダーイブ!」

「姉さん!全く・・・。攻撃開始!」

「ロッテ戦術。」

「わかった。シルバー、きついかもしれないがブルーにつけ。タバサは私について来い。」

「「了解!」」

 

 

ケイト機にブルーとシルバーが襲いかかる。隼特有の高機動によって綺麗に避けられてしまう。シルバーはそのまま通過したが、ブルーは背後についた。しかしスピットファイアの後期型と隼では速度差があり、機動力を駆使しても若干追い越しそうになってしまい、一旦ブルーも離れた。

 

 

「はやい。そして見たことのない機体。機動性も良い。」

「だな。何だあの機体は。」

「イケスカの新型かな?」

「あの街は今議会が大混乱で新しい機体なんか作ってる暇はないと思いますわ。しかも4機も。」

「じゃあアレは一体何だってのさ。」

「わからん・・・っ!チカ!来るぞ!」

「え?うわわ!!」

 

 

こちらもチカ機に向かって攻撃を敢行したがこちらも既の所で避けられてしまった。流石にこの世界で名を馳せているエース飛行隊なだけはある。しかし数的にはこちらが2機足りないので手早く数を同数に持っていき、ターゲット機を狙うチャンスを早めに作りたいところである。

 

相手の集団の中を高速で通過しつつ、射線が合った敵機に揺動も兼ねて手当たり次第に攻撃を仕掛けていく。

 

 

バラララララ

「うわ!」

「新人ちゃん!大丈夫!?」

「な、なんとかー!」

「今の攻撃何?やたらいっぱい弾が出てたような。」

「あの機体ナンバー47。今の銃撃から推察して、機銃は4。もしくは6。」

「ずいぶんと重武装じゃありませんの。」

「攻撃を受けた身から報告しますと、あれは絶対7.7じゃないです。12.7ですよ!」

「口径も大きい。厄介だな。」

 

 

冷静に各機状況とこちらの情報を収集している。が、まだ他にも機体は居るのだがな。

 

 

「捉えた。」

ドンドン

バキィ!

 

 

「きゃあ!!」

「チカ!」

「どういうこと!?あの白い機体、2発しか撃ってないし、そのうちの一発があたっただけで翼が簡単に根元から折れたわよ!?」

「かなり大口径の機関砲を装備しているようだ。羽衣丸の銃座もこいつにやられたんだな。」

「チカ!大丈夫!?」

「脱出は成功してる。パラシュートが見えた。」

「よかった・・・。」

 

「コトブキ飛行隊。聞こえますか?こちら羽衣丸。格納した機銃塔を確認した所、かなり損害が大きいことがわかりました。検分によると35mm以上の砲弾を被弾したものと思われるそうです。」

「35mm?!戦闘機に乗っける大きさじゃないよ!?」

「イサオが乗っていた震電がちょうど30mm機銃だが、それ以上ということか・・・。注意しろ!」

 

 

被弾したチカ機は右主翼の大半を喪失していた。パイロットは風防を開けて脱出したのを確認した。やはりターゲットを撃墜する前に他の機体をあらかた戦闘不能にしておいたほうが良いかもしれないな。

 

撃墜したタバサの後ろにケイト機が張り付く。タバサは左右に大きく旋回しつつケイト機の銃撃を避けながら逃げ回る。私はそれに呼応するようにサッチウィーブを敢行する。

 

 

バラララララ

ガチンバァン

「くっ・・・。」

「ケイト!」

「47番の機体。おそらく隊長機。脱出する。」

「2機も落とされたよ?!どうなってんの!?」

「くっ、これは不味い・・・。」

 

 

かなり焦り始めている。あと1機落とせば数で互角になる。別方向からブルーとシルバーが参戦してきた。

 

 

「私達のことも忘れないでほしいわね!」

「姉さん。あのオレンジの機体がターゲットだ!」

「わかってるわよ!でもまずは・・・。貴方よ!」

 

 

ダダダダダダ

バキ!

「うわわ!」

「キリエ!」

「大丈夫!まだ飛べる!けどあの青い機体、すごい機動して追ってきてる!」

「くっ!」

バラララ

「ちっ!かわされた!」

「空賊の分際で!」

 

 

「あぶないあぶない・・・。」

「姉さん大丈夫かい?」

「大丈夫よ。掠りかけたけど見た所損傷もないし穴も開いてないわ。」

「姉さんは・・・俺が守る!」

 

 

不味い。シルバーはブルーが攻撃されたことで頭に血が上っている。Bf109は旋回性能は隼に遠く及ばない。にもかかわらず速度を落としてレオナ機と格闘戦に突入してしまった。

 

レオナ機はそれを右へ左へと躱しながら逃げている。相手の旋回性能を知らないため基本的な回避軌道をとっているようだ。

 

 

バラララ

ガガガガキン!

「うわ!」

「シルバー!」

「不味い!尾翼の操作がやられた。制御できない!」

「シルバー、ココまでだ。脱出しろ。」

「でも姉さんが・・・。」

「ブルーは無茶はするが少なくとも頭に血が上って周囲が見えなくなることはない。」

「くっ・・・わかった。脱出する。」

 

 

「一機撃墜!」

「よくやったザラ。残りも叩くぞ!」

「了解!」

 

 

あの隊長機と副隊長機は小賢しい手は通じなさそうだ。ともすればもう少し落としやすそうなところから削るべきか。私はタバサを引き連れ、キリエ機に攻撃を行った。私が弾幕を張り、キリエ機の進路を制限する。そこを、

 

 

ドンドンドン

ガギン!

「うわああ!」

「キリエ!」

「機体後部に大穴あいてるわよ!大丈夫なの?!」

「私は大丈夫だけど機体が・・・脱出します!」

 

 

あと4機。こちらが1機減っているため互角とはいい難いが、いい感じに空が空いてきた。ここらで仕掛けるか・・・。そう考えていると想定外の事態が発生した。

 

 

「風防が開かない!」

「なんですって!?」

「っ!!!」

「貫通した弾が風防のレールに被弾してへしゃげたみたい!脱出できない!」

「機体を不時着させられるか?!」

「うぐぐ・・・結構ヤバイかも・・・!」

 

 

不味い。タバサの銃撃で脱出が不可能になったらしい。見ると、キリエ機の風防の端に37mm徹甲弾が突き刺さっているのが見えた。尾翼の操作系統も喪失しており、このままではキリエは地面に叩きつけられて命を落とす可能性が高い。それはなんとしても避けなければならない。

 

 

「私に任せなさい!」

「ブルー?」

 

 

ブルーはその機動力でキリエ機の横にピッタリとついた。そのまま慎重に機体を寄せていく。

 

 

「よっ・・・もうちょっと・・・。」

「うげ!・・・え?」

 

ガガガ

「うわわ!何すんのさ!」

「動かないでよ!頼むから・・・ね!」

ガキン!

 

「うわ!・・・へ?!」

 

 

ブルーはキリエ機の外側にはみ出ていた機関砲弾に、あろうことか自分の機体の主翼の左端を下から押し当てて、ローリングで一気に弾き飛ばした。砲弾は吹っ飛び、風防も一緒に外れた。弾みで機体が大きくバランスを崩すが、エンジンパワーに物を言わせ急上昇して無理やり立て直す。キリエはそのまま外れた風防から脱出してパラシュートを開いた。

 

 

「・・・?助けた・・・?」

「どういう事?なぜ助けるような真似を?」

「わからんがチャンスだ。急上昇したせいであいつの機速が落ちている。」

「私が行きますわ!」

 

 

すぐさま水平飛行に戻したが、元々墜落寸前の機体についたこともあって機速はだいぶ落ちてしまっている。すかさずエンマ機が後方につけて銃撃を行う。私は銃撃するエンマ機の前を遮るように弾幕を張った。

 

 

「ちぃ!空賊のくせに無駄に連携が取れてますこと!もう怒りましたわよ!」

「エンマ!早まるな!」

 

 

エンマ機はそれから逃れるように旋回をする。旋回した先にはタバサ機があった。そのままタバサを追い始める。

 

 

「タバサ。後方敵機。」

「わかっている。」

 

 

タバサはほぼ垂直に急上昇し、エンジンパワーに物を言わせて一気に高度を上げる。エンマ機もそれに追いすがろうとしてくるが、タバサが失速する数秒前にエンマ機の方が先に失速して反転した。タバサはラダーを駆使して失速しながらも空中で180度反転する。ハンマーヘッドターンというやつだ。反転後、エンマ機をすぐさま銃撃する。今度は先程のようなことが起きないように主翼に向かって銃撃を行う。

 

 

ドンドンドン

ガボォン!

「やられましたわ!」

「くっ、エンマまで・・・。ザラ、アウローラ!私達でやらなければならなくなったぞ!」

「わかってるわ。行くわよ新人ちゃん。」

「あ、あいあい!」

 

 

残り3機。このくらいで十分だろう。私は一旦レオナ機に狙いを定める。レオナ機を追うように背後につく。わざと大回りしたりなどして追いつけない風を装う。そして“予定通り”ターゲット機が背後をとってきた。

 

 

「今だ!アウローラ!」

「落ちろ!」

ダダダダ!

 

 

私はその銃撃を回避するように近くの雲の中へ入った。もちろんターゲット機が追って雲の中に入ってくる。私はその瞬間、雲の内部でフラップやエルロン、エレベーターなどをフル活用して急減速する。少し避けて急減速したため視界のない雲の中でもぶつからずにターゲット機は私を追い越していった。すぐさま体制を立て直し、確実に落ちるように12.7mm×6門を叩き込む。

 

 

バララララララララ

ガガガガガガバキン!

「うわあああ!」

「っ!アウローラ!」

「やられました!脱出します!」

「ちっ!雲が厚くて何も見えない!」

 

 

雲の中でターゲットはパラシュートを展開して脱出したようだ。

 

 

「見つけたわよ!パラシュート!」

「やれ、ブルー。」

「了解!死体撃ちみたいでちょっと気がひけるけど悪く思わないでよね!」

 

 

雲の上から観察していたブルーは急降下し、パラシュートの傘部分をめがけて銃撃を加える。12.7mm機関砲弾によりパラシュートの傘部分は穴だらけになって破れた。高度2000mを超える上空で、空気を受け止める部分がなくなったパラシュート。どうなるかは火を見るより明らかだ。

ターゲットはそのまま自由落下で地上へ向かっていった。大戦期の航空機用パラシュートが予備のパラシュートなど搭載しているはずもなく、そのままパラシュートが見えないまま、ターゲットは地上に落ちて行く。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『成層圏にいるステルス無人偵察機から確認したわ。ターゲットの死亡を確認。思いっきり硬い地面に叩きつけられたみたいね。任務は完了よ。帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「レオナ隊長機、こちら羽衣丸。」

「?どうした、何があった?」

「新人ちゃん落とされたんですよね?」

「あ、ああそうだが雲の中だから確認はしていない。どうしたんだ?」

「それが・・・パラシュートが確認できません。」

「何!?」

「落とされた機体が墜落するのは確認しましたが、パラシュートが開いてるのがどこにも・・・。」

「まさか・・・!」

「くっ!捜索隊を派遣してくれ!たのむ・・・無事であってくれ!」

 

 

私はその無線を聞きつつ。更に高度を上げ、速度も上げていく。ターゲットが落ちた今、彼女たちの相手をする意味も、羽衣丸という飛行船を襲撃する意味もない。三十六計逃げるに如かずだ。

 

 

「目標は達成した。撤退するぞ。」

「シルバーはどうするのよ?」

「今ICAのインフォーマントが現場へ向かっているそうだ。偵察機から無事なのも確認できている。」

「そう・・・よかった。じゃあ帰りましょうか。」

「了解。撤退する。」

 

 

 

「逃げていく?・・・せっかく同数になって火力でも圧倒しているのに・・・?」

「燃料切れ?じゃないわよね・・・。」

「・・・まさか!最初から狙いはアウローラだったのか!?」

「そんな!ということは・・・!」

「ザラ!迎撃は中止だ!捜索するぞ!」

「わかったわ!」

 

 

こちらの意図を読み取ったようで追撃を中止して反転して高度を下げていった。傍受していた無線を切り、我々はそのままアタザキ方面へ進路を変えて空域を離脱した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~6時間後~

 

 

「喪失機1。コトブキ飛行隊初の殉職者ね。」

「・・・。」

「レオナ。貴方の戦闘指揮に不備がなかったことはザラからも副船長からも聞いているわ。」

「・・・。」

「だから・・・そんなこの世の終わりみたいな顔しないで頂戴。飛行機乗りならある程度覚悟はできているものでしょう?」

「・・・それは・・・そうですが・・・。しかし・・・。」

「・・・はぁ・・・レオナ。1週間ほど休暇を与えます。今は休みなさい。」

「それは・・・、・・・わかりました。」

「よろしい。下がっていいわ。」

 

 

「今回遭遇したのは4機。どれも見たことのない機体だったわ。」

「回収した弾薬もあたし達が使ってるのとは違うものだったよ。」

「速度、上昇力、機動力、火力、最高速。どれをとっても相手のほうが数段上だった。」

「イケスカにもラハマにもそんな機体はおろか記述さえも見つかりませんでしたわ。」

「一体どこのどいつだよ、うちの新人ちゃんを亡き者にした連中は!」

「今のところわからないということが分かったくらいね・・・。」

「それ何の進展もないってことじゃん!」

「それぞれの機体の特徴を洗い出して研究するしか無い。」

「尾翼に47って書いてあったのが隊長機だよね。武装は12.7mm機銃6門。速度重視で旋回性能は微妙っと。」

「同じく尾翼に人物アート絵が描かれてた機体は、かなり無茶していた。相当機動性がいい。私達の滑走路に入ってきたのもこの機体。」

「それの武装は被弾したキリエ機の損傷痕からしておそらく20mm機銃。12.7mmも混じってるかも。こっちも重武装ね。」

「白い機体は冷静に戦況を見て35mm以上の大口径の機関砲持ち。性能は隊長機に似てる。」

「私達が唯一手がかりにできそうなのが黒い線が引かれてたザラが落とした機体だけど・・・。」

バァン!

「みんな!」

「キリエ?」

「あの黒い機体、見つかったって!今ナツオ班長たちが回収に向かってる!」

「なんですって!?搭乗員は!?」

「居なかったみたい。」

「・・・ともかくこれで相手のことが少しわかるかもしれないわね。」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「裸の鯨」        +2000 『羽衣丸の後部銃座をすべて破壊する。』

・「エースにのみ許される」 +5000 『羽衣丸内部を飛行した状態で通過する。』

・「ラムアタック」     +3000 『機体を相手に接触させる。』

・「荒野のアサシン飛行隊」 +5000 『コトブキ飛行隊を4機以上撃墜する。』

 




書きたかったから書いた(爆)
コトブキ飛行隊はいいアニメなんですけど、水島監督の技術と趣味がふんだんに詰まってるので内容が一般受けしないものに・・・w
音響とか隼の描写とかすごいんですよ?リアル志向が強い方は是非。

次回もイジツに居座ります(笑)


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HITMAN外伝『優秀な社員は社の宝です』

『ロータへようこそ。47。』

 

『今回のクライアントは前回のターゲットであるオウニ商会のルゥルゥ社長よ。彼女は独自の情報網を駆使して先の襲撃の犯人である、我々ICAのことと前回のクライアントについて調べ上げたようよ。まだこの世界での情報網の構築が不完全なところを利用された形になってしまったわね。』

 

『だから今回のターゲットは前回のクライアント。と言ってもその命令を伝達した中継組織だけどね。名前は“カマタカンパニー”今回狙ってもらうのはそのカマタカンパニーのカマタ社長。側近であり秘書のマルミ。そして命令の伝達係であり、我々に直接接触してきた資材部のポポル。この3名よ。』

 

『この3名は現在、ここ空の駅ロータから北へ130キロほど行った所に位置している渓谷に基地を構えている“エリート興業”という組織を訪問しているわ。仕事の契約みたいね。』

 

『あなたにはここからICAのステルスヘリで渓谷近くまで行ってもらう。そこからは徒歩で基地へ入ってターゲットを暗殺して頂戴。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

ブゥゥゥゥン…

 

エリート興業基地の手前1200m地点に降り立った。この先の曲がり角の先にその基地はある。情報によるとターゲットの3人は明日の昼頃までこの基地に滞在するらしい。タイムリミットは後20時間ほどだ。

 

今回、シルバーボーラーの他に小型のリモコン爆弾を持参した。リモコン起爆式なので暗殺はもちろん、いざという時の攻撃や、揺動などにも使えるので持っておいて損はない。後はいつもどおりロックピックだ。

 

私は早速曲がり角まで来た。岩の陰から覗くと渓谷の底に広がる滑走路が見えた。滑走路の端にはエリート興業の所属機であると思われる一式戦闘機が複数駐機していた。その近くには整備士と思われる男が数名戦闘機のエンジンを弄っている。

 

岩陰と僅かに生えている草に隠れるようにして慎重に近づく。基地の一番端の部分まで来ることができたが、此処から先は基地の入口まで隠れる岩も草も無かった。侵入方法を考える必要がある。

 

私は辺りを観察し、ちょうど滑走路の反対側にいくつかの白いタンクがあるのを確認した。おそらく航空燃料が貯蔵されていると思われる。手持ちの装備ではタンクに穴を開けることは困難であるが、そのタンクから伸びている給油用のホースには簡単に穴が開くだろう。ちょうどそばでは1機が給油中だった。

 

シルバーボーラーで慎重に狙いを定め、給油中のホースに狙いを定め弾丸を発射した。

 

 

パシュン

プシュ

 

 

うまい具合に穴が空き、燃料が漏れ始めた。給油中の機体の整備士とパイロットは機体後部で何やら話し込んでいる。私は更にもう一発、漏れ出て地面にたまり始めていた燃料に向かって弾丸を放った。

 

 

パシュン

チュンボォォォウ!

「おあ!?なんだあ!?」

「火災だ!消火急げ!」

ワーワー

 

 

滑走路がにわかに慌ただしくなった。様々な場所に散らばっていた基地要員が消火器を手に一斉に燃え上がっている機体へ殺到する。私はその混乱の隙にダッシュで入り口に駆け込んだ。

 

基地内部は洞窟を改造しているのか、足場だけは綺麗に整備されていた。しかし、壁は岩石がむき出し状態だ。

 

 

「見ねえ顔だな?新顔か?」

 

 

突然そんなセリフが聞こえてきたものだから即座に振り返って確認する。別の廊下から誰かが歩きながら話しているようだ。

 

 

「ああ。なんでも営業部と人事部の人員が足りてないとかでな。つい昨日スカウトされたんだよ。」

####情報を発見####

「そういやボスと姐さん、昨日はラハマに行ってたんだったな。」

「姐さんってのはあのボスの横に居た女性の事かい?綺麗だったなあ。」

「やめときな新入り。彼女はボスのコレ(婚約者)よ。手を出したりしたら銃撃訓練の的になること間違いなしだ。」

「うへ、まじかよ。あっぶねー・・・。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『エリート興業は営業部と人事部が人手不足のようね。うまく新入社員に紛れ込めばターゲットに近づきやすくなるんじゃないかしら?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

こちらに歩きながら話しているようで、このままでは鉢合わせになってしまう。私は一旦手前の部屋に入った。

 

入った部屋は宿舎のようだった。しかしベットの数が6つしか無く、おそらく数ある宿舎のうちの一つだと推測できる。奥にはタンスが設置されており、その中には制服が何着か収められていた。おそらくこの部屋の住人のものだろう。私はそれを借りることにした。

見たところこの基地の人員は皆同じ服装のようだったので、パット見で判断するのは難しいだろう。私は制服を借り、再び部屋を出る。

 

話を聞く限り、新入社員が入るタイミングで潜入できたのは好都合だ。ついでに情報を探ってみよう。私は通過したばかりの2人に後ろから声をかけた。

 

 

「すまない。少しいいか。」

「ん?あんたも見ない顔だな?その風体からすると・・・新入りの実行部か?」

「ああ。そんなところだ。」

「へえ、見ただけでわかるのか?」

「あったりめえよ。営業部と人事部って顔じゃねえもんな。ガハハハハ!」

「・・・。」

「・・・っと気を悪くしないでくれよ?ちょっとしたジョークさ。」

「大丈夫だ。分かっている。それより少し聞きたいことがある。」

「ああ、そうだったな。なんだ?」

「カマタカンパニーという会社から人員が来ているはずなんだがどこに居るか知らないか?届け物があるんだ。」

「カマタ・・・ああ、あの連中か。あの連中なら今頃酒場にいるんじゃねえか?ああ、でも女の方は酒は苦手だとか行ってたから別の場所かもしれねえ。」

「別の場所とは?」

「そこまでは知らねえよ。何だあの女に用があるのか?だったら気をつけるんだな。あの女結構じゃじゃ馬だぜ?」

「え、そうなのか?俺もここに来たばかりのときにチラッと見たけど可愛い子だったじゃねえか?」

「可愛いのは見た目だけだぜ。口を開けば“不潔”だの“蛮族共”だの“近寄るな下郎”だのってよ。一応俺らは取引先ってことなんだが何だあの態度は。」

「うへえ・・・。」

「わかった。会う時は気をつけよう。では。」

「ああ、何の用か知らんが頑張れよ!」

 

 

二人に別れを告げ、まずは酒場にいると思われる男性二人の方に“届け物”を渡しに行くとしよう。

 

 

酒場は以外に早く見つかった。滑走路でボヤ騒ぎがあった後ということもありそこまで人は居なかったが、他の人々とは違う服装の人物がバーテンダーの他に3人居た。黒い燕尾服に黒いシルクハットをした初老の男性と、濃紺スーツ姿の小柄な男性。そして茶色のスーツの小太りの男性だ。茶色スーツの男性が笑いながら話している。

 

 

「なあに、心配はありませんよ!うちの社員は優秀ですからな!ワハハハハ!」

「だといいのですがね。我々カマタカンパニーの命運も今回の輸送に掛かっていることをお忘れなきように。」

「ええ、ええ。大丈夫ですとも!我々は昔は空賊まがいのこともやってましたが、あの有名なコトブキ飛行隊と一戦交えたあとは心を入れ替えてこうして輸送護衛を請け負うようになったんですわ。ですから腕前はそんじょそこらには負けはしませんよ!それこそコトブキみたいなのが来ない限りね!」

「そうですか・・・。」

「社長。そろそろ・・・。」

「ん、ああ。もうそんな時間か。ではトリヘイ殿、私は少し用があるので電話をお借りできますかな?」

「ええ、構いませんよ。電話はそこの廊下の突き当りです。」

「ありがとう。では失礼して・・・。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがカマタ社長。情報によれば非合法の貿易や、各都市諜報員の連絡係など手広くやってるらしいわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

どうやら茶色スーツの男性がエリート興業の社長のトリヘイという男らしい。“我々カマタカンパニー”と言っていたところから見てあのシルクハットが社長のカマタ、その横の秘書と思われる男がマルミだろう。

 

カマタ社長のほうが席を立ち、秘書と一緒に別の出入り口から酒場を出ていった。私は別の通路から急いで回り込む。酒場は部屋の周囲を廊下で囲われており、追いつくのはそこまで難しくはなかった。私は基地の社員の一人として足早にターゲットを追いかける。

 

ターゲット2人は酒場の横の廊下の奥に会った公衆電話に向かっていた。私は手前の通路の曲がり角まで尾行し、角に隠れた。カマタ社長のほうが公衆電話を使用し始めた。秘書はその後ろで待っている。

 

公衆電話はこちらから見て奥側の廊下の袋小路の突き当りの壁に設置されているため2人共こちらを見ていない。私は静かに秘書の背後に近づき、後ろからすばやく口をふさぎつつ首の骨を折った。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『まずは一人目。マルミを排除したわね。ターゲットはあと2人よ。気を抜かないでね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

瞬間的に息の根が止まって動かなくなった秘書をゆっくりと床に下ろす。そうこうしているうちに電話がつながったようだ。

 

 

「私だ。ああそうだ。商談は成立した。船を出発させろ。」

「・・・当たり前だ。予定地点で私も合流する。無論ポポルも一緒だ。」

「・・・分かっている。決してオウニ商会なんぞに介入させはしない。こちらも準備はしている。」

「大事な積み荷なのだぞ。かの御仁はイサオ氏が居なくなってから人が変わったようだからな。失敗すればこちらの首が物理的に飛びかねない。だがそれはお前も何だからな?」

「・・・ああ、またあとで連絡する。大丈夫、ポポルは今頃風呂でのんびり鼻歌でも歌ってる頃だろう。」

「・・・万が一の時はポポルだけでも任務を遂行できるようにしているから大丈夫だ。」

「疑ってるのか?あいつの腕は確かだ。どこに屠龍で紫電改を3機連続で落とせるやつが居る?」

「・・・ああ。ああ。ではな。」

 

 

電話が終わる。コード式受話器を耳から離した瞬間にその受話器を取り上げそのまま首にかけ、ターゲットの体ごと背負う。突然の出来事に何が何やら分からずジタバタするターゲットであるが、次第に抵抗が弱くなっていき、ついには動かなくなった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『2人目、カマタ社長を暗殺したわね。残るは資材部のポポルだけよ。手早く済ませてしまいましょう。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ここは廊下の袋小路であり、周囲に死体を隠せそうな場所がなかった。仕方なく、まずは死体を物色し、なにか手がかりを探した。秘書の背広の中から鍵を発見した。鍵には特徴的なキーホルダーが付けられており、この鍵の使いどころであると思われる戦闘機の絵が彫ってあった。この機影から推察するに二式複座戦闘機だろうか。

 

廊下の端から複数の足音が響いてきた。もはや死体を隠している暇はなさそうだ。私は一旦そのまま死体を放置してその場を離れた。

 

また滑走路に戻ってきた。入ってきた入り口とは別の入口であり、ここにも大量に戦闘機が並べられている。その一番奥に真っ白の二式複座戦闘機、通称“屠龍”があった。幸いにして周囲に人はおらず、機体周りは他の機体があり見通しも良くはない。

 

私は屠龍に近づくと主翼に登って風防を開けた。前の座席と後ろの座席の間にリモコン爆弾を仕込む。風防を閉じ、機体から離れた。

 

しばらくすると血相を変えた社員が数名滑走路に飛び出してきた。

 

 

「おい!客人2人が死んでる!誰かに殺されたようだ!侵入者が居るぞ!探し出せ!」

 

 

死体が発見されたようだ。残る一人のターゲットがまともな感性を持っているならば・・・。

####ターゲットが逃走を開始####

 

「待ってください!まだ安全が確保できていませんよ!」

「うるさい!未開の蛮族共なんて当てにできるわけ無いでしょう!」

 

 

小柄な女性が先程のエリート興業社長を怒鳴りつけながら滑走路へやってきた。案の定一人で逃げるつもりのようだ。自分の行いに疚しい事があるのであれば普通はそう考えるだろう。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレが資材部のポポル。噂通りの相当な高飛車な女性のようね。癇癪を起こして周囲に当たり散らすとしっぺ返しを受けるもの。そうよね?47。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

そのままドカドカと二式複座戦闘機に乗り込んでいった。すぐさまエンジンが始動し、周囲に居た社員を押しのけるように滑走路へ走り出してしまった。周囲の社員もすぐさま護衛するために各々自分の機体へ走っていく。社長だけは憮然としていた。

 

滑走路の端までターゲットの機体が進み反転、そのまま速度を上げて滑走路を走り出した。私の目の前も通過し、空に飛び上がった。車輪を格納する段階で、私はリモコンのスイッチを押した。

 

 

ドガァァァン!

 

 

上昇中の機体はコックピット部分が派手に爆発した。そのまま真っ二つになって折れ、渓谷に落下していった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ポポルの排除を確認したわ。任務完了ね。迎えは居るかしら?』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はそれを確認し、滑走路に停めてある一式戦闘機のもとへ向かった。横では社長が唖然と空を見上げている。

 

 

「な、な、何が!?」

「社長!ポポルさんの屠龍が爆発しました!」

「わかってる!と、とりあえず消火だ!あと戦闘機を上げろ!周辺警戒だ!」

「わかりました!」

 

 

私は周辺警戒のために上がる戦闘機隊に混じって一式戦闘機で空に上がり、隙を見て渓谷に降下、そのまま谷を縫うように飛行して脱出した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~3時間後~

 

 

 

 

『それで。報酬の件なのだけれど。』

「ええ、わかっていますわ。こちらが報酬。1000ポンド。」

『確かに。ではもう一つの方を。』

「私が言うのも何だけれど、コレにそれほどの価値があるのかしら?」

『我々にとっては依頼料の残りの5万9千ポンドに相当する価値がある。』

「まあいいわ。こっちが基本設計。こっちが発展設計よ。」

『・・・確かに受領したわ。』

「それで次の仕事なのだけれど。」

『あら?まだ依頼があるのかしら?』

「ええ。先の我々オウニ商会を襲った空賊の黒幕。それを排除してほしいのよ。」

『具体的な人物名がないと間違う場合もあるし、依頼料も割高になるわよ?』

「それでもよ。ここらで決着を付けないとあとが大変だからね。」

『・・・それだけかしら?』

「どういうこと?」

『他にも理由があるんじゃなくて?』

「・・・。」

『話したくなければそれでもいいわ。依頼は前回と同じ経路で。』

「別に大した理由じゃないわ。ただ・・・。」

『ただ?』

「あの子達の心に傷を負わせたその黒幕に、自分でもびっくりするくらい怒ってるってことよ。」

『・・・部下思いね。』

「それはあなたもでしょう?」

『・・・。』

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「生命の狼煙」     +2000 『燃料タンクで火災を発生させる。』

・「エリートアサシン」  +1000 『エリート興業の社員に変装する。』

・「音信不通」      +3000 『ターゲットが電話中に暗殺する。』

・「整備不良にご注意を」 +5000 『逃走中のターゲットの乗る飛行機を爆破する。』

 

 




ゴメンなトリヘイ。この棺桶は3人用なんだ。(爆)

次回でイジツ編は一旦終了です。次回は暗殺というより1回目と同じく派手目になる予定です。


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HITMAN外伝『過ぎた力』

イジツ編はこれにて終了です。

###注意###

原作に登場するキャラが死亡する描写があります。作品に思い入れが有る方はご注意ください。


『アタザキへようこそ。47。』

 

『イジツ屈指の温泉街であるここアタザキに来てもらったのは、実は任務ではないの。前々回の任務の後、ブルー、シルバー、タバサがここアタザキにとどまっているのだけれど、それを迎えに行ってほしいのよ。どうやら通信機器が最近不調のようでうまく通信がつながらないの。』

 

『迎えが済んだらそのまま任務についてもらうわ。今回の任務はイケスカの湖上にそびえ立つビル、“イサオタワー”その最上階にいるマコトと呼ばれている老人よ。タワーの名前にもなったイサオという人物の執事をやっていた人物。イサオ氏亡き後、彼の権力の大部分を引き継いだ彼は、イサオ氏の理想とする世界を実現するべくいろいろな方面へ働きかけを行っていたみたい。前々回のコトブキ飛行隊への暗殺依頼を出したのも彼よ。』

 

『しかし、働きかけが急すぎたのか、彼、身動きが取れなくなりつつあるわね。現に急激な投資は自分自身の資金力の低下を招いており、回収の目処こそ立っているもののまだ回収する段階でない投資案件がほとんどで今現在彼はあまり資金を持ち合わせていないみたい。前々回の任務で1人しか暗殺依頼が出せなかったのもそれのせいね。』

 

『クライアントはオウニ商会のルゥルゥ社長。護衛としてコトブキ飛行隊も派遣してくれるらしいわ。一度戦った相手を護衛するのは向こうとしてもあまり気持ちのいいものじゃないはずだから、その辺りは配慮してね。あと今回の暗殺はできるだけ派手にしてほしいという依頼よ。ガドールとイケスカの議会にターゲットの息がかかっている人物が多いらしくて、その連中に見せつけるんですって。』

 

『兎にも角にもまずはシルバー達を見つけて頂戴。見つけたら滑走路へ向かって。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ブゥゥゥゥゥン

 

私はアタザキの滑走路にアプローチする。ギアダウンし、観光地だからなのかよく整備された滑走路に降り立った。滑走路の端にはシルバーたちの機体3機が並んで駐機されている。いささか不用心ではある気がするが。

 

同じように横に並べて駐機し、私は諸手続きを済ませた後、街へ出発した。街はそれほど大きくはなく、あちこちで湯気が立ち上っている以外はラハマと対して変わらない。若干建造物が日本風だろうか。

 

しばらく宛もなくさまよったが一向に見当たらないため、しかたなく聞き込みをすることにした。

 

 

「すまないが少しいいだろうか。」

「はい?何でしょう。」

「赤毛の青年と栗毛の女性、もしくは青毛の少女を見かけなかっただろうか?」

「うーん・・・あ、もしかして三人一緒に行動してます?」

「かもしれない。」

「だったらそれっぽい人は見た気がします。確かこの先の食堂にいたと思います。青毛の子がすごい量食べてたので印象に残ってます。」

「おそらくそれだろう。ありがとう。」

「いえ、お役に立てたようですね。では。」

 

 

すごい量を食べている・・・タバサには暴食は控えさせなければならないが今回はそれが役に立ったか。私は食堂へ向かった。

 

 

 

 

「このステーキ、ソースが絶妙。」

「でしょう?ビールにも合うのよ~?」

「ちょっと!シルバー!それ私が取ったパイよ!」

「うぇえ!?ご、ごめん姉さん・・・。」

「まあまあ、まだパイはいっぱいありますから・・・。」

「わたしのカレーまだー?!」

「私のパンケーキもー!」

 

 

食堂の中央のテーブルで何故かブルー達がコトブキ飛行隊の面々と食事をしていた。いつの間に顔見知りになったのだろう。私はなんとなく気配を殺しつつ隣の席に座ってみた。

 

 

「そういえば君たちも飛行機乗りなのか?それは飛行用のゴーグルだろう?」

「え?ああ、まあそんなところね。」

「何に乗ってるの?」

「うーん・・・まあ珍しい機体よ。詳細は秘密!」

「えー?まあいいか。珍しい機体って言ったら最近すごいのと出くわしたんだよね。」

「私達6人と1人を手玉に取った4機編隊。」

「ふ、ふーん。どんな機体だったの?」

「えっとね・・・機体はもう見たこと無いものばかりで、そのうちの一機を落としたんだけど、それを回収して調べてみたらまあコレがすごいのなんのって!」

「13mmと20mmが全部エンジン周りに搭載されてるし、そのエンジン自体もパワーが私達が使ってる隼のとは段違い。あれは玄人が使ったら無双するね。」

「ナツオ・・・ああ、うちの整備班長なんだけどね、その人が言うには旋回性能にだいぶ難がある以外は隼をすべての面で上回っているって言ってたわね。」

「へえ・・・その落とされた1人ってのは玄人じゃなかったわけね!」

「うぐっ!ゴホッゴホッ!」

「ちょ、ちょっとどうしたの君。大丈夫?」

「な、なんでもない。気にしないでくれ・・・。」

 

 

そう言えばシルバーの乗っていたBf109 G-10はシルバーを回収するので手一杯で機体の回収は行われなかったな。我々としても第二次世界大戦の機体の技術程度いくら流出しようと問題はないからだが。

 

さて、時間も頃合いだ。そろそろ出発するべきだろう。丁度全員揃っていることだし。私が腰を浮かそうとしたのと気が付かれるのはほぼ同時だった。

 

 

「・・・そろそろ任務。」

「え?どういう事?」

「もう着ている。」ユビサシ

「・・・え?!47!いつの間にそこに!」

「言ってくれればいいのに。」

「・・・ここまで近づいて気がつくのがタバサだけか・・・再訓練の必要があるか?」

「!!い、いえ!気付いてたけど気付いてないふりをしていただけよ!ねえシルバー!」

「あ、ああ!そうとも!」

 

 

全くを持って白々しいが、まあその点は任務後にたっぷりとやることにしよう。

 

 

「失礼。あなたは?」

「私が今回の仕事の最後の一人だ。君たちの護衛対象だ。」

「え?じゃあ私達が護衛する4人ってあんたたちのことだったの?」

「てっきりこのあたりに住んでる自警団かなにかだとばっかり・・・。」

「あはは・・・自己紹介が遅れちゃったわね。私はブルー。で、こっちの大男が47。」

「僕はシルバー。で、こっちがタバサ。」

「・・・。」ペコリ

「自己紹介が済んだところで早速任務だ。滑走路に向かうぞ。」

「ちょ、ちょっと。私達の自己紹介がまだなんだけど!」

「大丈夫だ。君たちのことはよく把握している。チカ。」

「え?!私の名前・・・。どういうこと?」

「滑走路に行けばわかるだろう。」

「「???」」

 

 

 

「この機体!」

「まさか!この間の!」

「尾翼に47の番号。間違いない。あのときの。」

「そういうことだ。」

 

 

滑走路に駐機している我々の機体を見て、コトブキ飛行隊は皆一様に驚愕の表情をしている。当初予測されたアウローラを撃墜したことによる憎しみのような感情は今のところ見て取れないが・・・。

 

ちなみにシルバーの機体は撃墜されたため、Fw190 D-9に変更されている。レオナがこちらに近寄ってきた。

 

 

「2つ聞きたい。」

「なんだ?」

「アウローラ・・・あの時あなた方が最後に落とした機に乗っていた元同僚だ。彼女を殺したのは何故だ?」

「それが任務。仕事だったからだ。」

「そうか・・・。なら何故キリエは助けた?」

「それも任務だからだ。ターゲット以外は殺さないようにとの指示が出ていた。」

「・・・わかった。」

 

 

そういうと神妙な面持ちでコトブキ飛行隊に指示を飛ばし始めた。こちらも準備を始めるとしよう。

 

 

「こちら47。無事に合流した。」

『上々ね。じゃあまずはイケスカから東に400kmほど行った地点J6-2を目指して頂戴。』

「・・・そこには街も空の駅も無かったはずだ。」

『でも我々が作った“飛行船”があるわ。』

「飛行船?」

『羽衣丸を思い出して。あの飛行船の設計図をこの間入手したわ。それを元に技術部が急造したの。無論、我々独自技術による改造も豊富に投入したわ。』

「具体的には?」

『それはついてからのお楽しみよ。ともかくそこへ向かって。着艦が完了したらわかるわ。』

 

 

ともかく目的の場所へ向かうことにした。目的地までは約500kmと言ったところ。まずコトブキの3機、レオナ、ザラ、エンマが飛び立つ。続いて我々4機がそれぞれ順番に飛び立った。最後にケイト、チカ、キリエの3機が上がった。

 

道中は特に静かなものだった。レオナを先頭に両脇をザラとエンマが固め、中央に菱形陣形で我々4機。後ろは前との逆の形で最後尾はキリエだ。20分ほど気まずい沈黙が流れたあと、しびれを最初に切らしたのは案の定ブルーだった。

 

 

「あー!もうやめやめ!こんな辛気臭いの耐えられないわ!」

「ちょ!姉さん!どこいくの!」

 

ブルーは急激に高度を上げて縦横無尽に飛び始めた。

 

 

「あー、フラップの調子が悪いのよ。その調整?」

「姉さん・・・。」

「フフフ・・・。」

「ザラ?」

「いや、ごめんなさい。彼らも私達と変わらないんだなって思っちゃって。」

「あーたしかに。ロータの駅に行った時のキリエもあんな感じだったし。」

「それを言うならチカだって!」

「ははは・・・まあ燃料にも余裕はあるし、私も辛気臭いのは苦手だ。」

「47。」

「なんだタバサ。」

「私もエレベーターの調子が悪い。」

「・・・許可しよう。」

 

 

それからは皆陣形などを機にせず思い思いに飛んでいた。レオナとザラは私の機体の横に来て機体を観察しているようだ。ブルーはキリエとチカと一緒に高機動飛行をしている。シルバーはエンマと空戦機動の確認をしている。タバサはケイトと一緒にブルー達を高空から見下ろしている。

 

しばらくそのまま平和に飛んでいたが、目標地点まであと50kmというところで問題が発生した。

 

 

「こちらタバサ。8時の方向より機影多数。」

「こちらケイト。こちらでも確認した。距離8000。機数…少なくとも10以上。」

「空賊か!」

「こっちも10機なんだから蹴散らしちゃいましょ。」

「待って姉さん。47。どうする?」

 

目的地まではまだ45km以上ある。逃げ切ることもできるが・・・我々はできてもコトブキが逃げ切れない。護衛とは何だったのか疑問が浮かぶが、今はそんなことを考えている暇はない。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『47。上級委員会からの通達よ。コトブキ飛行隊はこれ以上喪失機を出してはいけない。逃げ切れるのならばそれでもいいけれどできれば応戦して蹴散らして頂戴。厳しいようなら避けつつ目標地点まで誘導して構わないわ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「上からの許可が出た。応戦するぞ。必要ならば目的地まで誘い込む。」

「「了解!」」

「レオナ!あっちがやるならこっちもやらないと!」

「護衛対象はやる気満々よ。レオナ。」

「わかっている。コトブキ飛行隊、一機入魂!」

「「了解!」」

 

 

私達は共同で空賊と思われる集団を迎撃しに向かった。切り込み隊長はシルバーだ。シルバーの乗るFw190は通称“電動カミソリ”。発射レートの高い20mm機銃と13mm機銃で敵を一瞬にして切り刻むのが由来だ。その別名に恥じぬ弾幕を先頭の敵機にお見舞いする。敵機は飛燕のようだ。

 

 

バララララ

ガガガバキン

 

 

敵機はものの見事に蜂の巣になった。圧倒的高火力で続けざまにもう2機落とした。そのすぐ後ろに追随していたタバサも37mm機関砲ですれ違いざまに2機の主翼をバラバラにしていた。

 

 

「はわー。改めて見るとすっごい火力!」

「呆けてる暇はないぞチカ!来るぞ!」

「わかってる!」

 

 

コトブキ飛行隊の方にも数機が襲いかかる。改めて敵機の機数を確認すると20機以上になっている。いつの間に増えたのか、それとも観測を誤ったのか。私の横のブルーは敵の攻撃を華麗に避けては、持ち前の高機動で敵を翻弄しつつ撃墜していっている。私はそれを横目で見ながら目の前の3機を順番にM2ブローニングで薙ぎ払っていった。あっという間に20機以上居た敵機はほぼ半分以下になり、敵部隊は壊滅状態と言っていいだろう。

 

 

「たいしたことないわね。イケスカ動乱の生き残りかしら?」

「かもしれないな。飛燕は空賊が持つには高価過ぎる。支援なしではろくに整備もできないはずだ。」

「だからなんか動きが鈍いんだね。」

「じゃあ何故私達を襲ってきたのかしら?」

「わからん・・・もしかしてまた・・・。」

 

 

レオナとザラが空賊について考察している。確かに飛燕は液冷エンジンであるがゆえ整備性が悪い。マトモな整備が受けられない空賊に扱える代物ではない。だとすると十中八九支援を受けて襲撃を依頼されているのだろう。

我々が次々と落としていき、考察する余裕も生まれていたが、そんな時はるか遠方からかなりの数の機影が見えた。

 

 

「北方より機影多数。数・・・100以上。」

「なんだって!?」

「ええ?!・・・うーわほんと!すっごい数いるわよ!」

「流石にあの数は弾薬が足りない。」

「同じく。今の戦闘でかなり弾薬を消費してしまった。」

「どうする?47。」

「ここは一旦撤退だ。目標地点まで全力で向かう。」

「まだ敵機残ってるよ!」

「残ってる敵機は我々4機でやる。コトブキ飛行隊は先に目的地へ向かえ。」

「我々の仕事は君達4機の護衛だ。それはできない!」

「速度では我々4機のほうが圧倒的に上だ。先に行ってくれないと君たちを置いていくことになる。」

「ぐっ・・・わかった。コトブキ飛行隊、全機目的地へ向かうぞ!」

「「了解!」」

「シルバー、ブルー、タバサ。5分だけ敵を撹乱、殲滅せよ。」

「「了解!」」

 

 

コトブキ飛行隊は目的地の方角へ飛行を始める。それを追って数少ない空賊が追いすがる。それを我々が粉々に粉砕して回っていく。5分が経過する前に最初の20機は全滅した。しかし100機以上の編隊はすでにかなりの近さまで着ていた。

 

 

「よし。全機、全力で目的地へ向かえ。」

「はーい!」

「言われなくても!」

「もう向かっている。」

 

 

それぞれの機体のトップスピードで目的地へ向かう。高度5000mほどなのでほぼ最高性能が出せている。各々600km/h以上で目的地へ向かった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『敵機を確認。空賊と断定され、我々に攻撃の意志があるのも確認済み。ICAが作り上げたこの飛行船“シャドウ・レディ”の力を見せるときのようね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

すでにコトブキ飛行隊はICAの飛行船の近くまで到達していた。我々も全速力でここまで着たおかげでほぼ同時に目的地に到着した。

 

『全員来たわね。では空賊を追い払いましょうか。』

「どうするつもりだ?」

『あなた達が訓練した世界、あの世界にはただ訓練に派遣したわけじゃない。ちゃんとその世界の技術も取得してきたわ。』

「・・・まさか。」

 

『戦略AIです。1,2,3番サイロ展開。発射シーケンス開始。弾頭、超長距離空中炸裂型サーモバリック巡航ミサイル“ヘリオス”。カウントダウン開始、5,4,3,2,1,発射!』

 

 

バシュバシュバシュ

「うわ!何!?」

「何かが発射された?」

「47殿。説明を願う!」

「何のことはない。我々の対空兵器だ。心配するな。」

「でもたった3発じゃ・・・。」

「まあ、見ていろ。」

 

 

放たれた巡航ミサイルはそのまま拡散しつつ100機編隊に近づいていき、ちょうど重なる少し手前で炸裂した。弾頭の構造上の理由で青くなっている爆発が空を焼き尽くすのを見た。ヘリオスは100機編隊の大半を消滅させたようだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『着弾。効果確認。目標数120機。撃墜103、大破14、回避3。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

少なからず回避に成功した機体がいるようだ。それでも100機以上の機影が一瞬で消え去った影響でその3機も戦意を喪失したらしく、そそくさと反転して撤退していった。

 

 

「な、何だ今のは・・・。」

「空賊が消えた・・・?」

「かなりの威力。」

「たった3発であの大編隊が・・・。」

「恐ろしい威力ですわ・・・。」

「めっちゃやばいやつじゃん!」

 

 

「どうするのよ47。彼女たちみんな唖然としちゃったわよ?」

「何もヘリオスを使う必要はなかったのでは?」

「過剰。」

「私に言うな。バーンウッドに言え。」

 

 

私達4機はそのまま飛行船に着艦した。アレスティング・フックがないこの機体でもゆうゆう着艦できるほどに内部は広かった。

 

4機とも着艦した後、我々は目の前に置かれていた機体を見て今回の作戦概要を察した。

 

 

「ああ、暗殺ってそういう・・・。」

「まあ確かに暗殺かな。」

「アメリカ式。」

「・・・。」

 

 

我々はそれらに乗り換え、再び発艦する。飛行甲板前方にスチームカタパルトが装備されており、ICAの技術部の誘導に従ってカタパルトから2機が発艦した。

 

 

「お、出てきた・・・って何あの機体?」

「プロペラがない・・・噴進機?」

「って!すっごい早い!アレじゃ追いつけないよ!」

「47殿。どういうことか?!」

 

「コトブキ飛行隊、ここまでの護衛感謝する。後は我々だけで可能だ。」

「どういうことか!その機体は?!」

「この機体にはあなた方の隼では絶対に追いつくことはできない。この世界の誰にも。なので心配はいらない。」

「そういうことよ!後は私達だけでやれるから。また一緒に食事しましょう?じゃあね!」

「え?え?ちょっと!?」

「シャドウ・レディに着艦の許可が降りている。コトブキ飛行隊はその飛行船に着艦して待機していてくれ。」

 

 

私達はそれぞれ私とタバサ。ブルーとシルバーに分かれて“F/A-18F”に乗ってイケスカを目指した。イケスカまでは400キロほどあるが、この機体ならばものの15分足らずで到着できる。高度を9000まで上昇させる。

 

 

「タバサ。投下は任せたぞ。」

「わかってる。訓練済み。」

「ブルー、お前たちは援護だ。迎撃機が上がってきた場合、対処を頼む。」

「わかったわ!」

 

 

私の機体には2発のAIM-9Xサイドワインダーの他にGBU-44/Bが4発搭載されている。対してブルーの機体にはAIM-120 AMRAAMが8発搭載されている。我々を阻めるものはこの世界にはない。

 

イケスカの上空に差し掛かる。タバサは観測用のサーモグラフィーを使ってイサオタワーを見る。周囲を旋回し、ターゲットの場所を探る。

 

 

「発見した。最上階。」

「それは好都合だな。」

「しかも一人だけ。一番近い人間は2階下にいる。」

「それならば余計な被害も減らせそうだ。やれ。」

「わかった。・・・投下。」

 

 

何の感慨もなく誘導爆弾を1発投下した。私の方からでは見えないが、正確に誘導を行っているようだ。そのまま爆弾はレーザー誘導に従ってタワー最上階へ吸い込まれるように落ちていき、

 

 

ドカァァァン!

 

 

最上階の部屋に命中。部屋はほぼ粉微塵になったが、建物自体は非常に不安定な構造をしているにもかかわらず倒壊の兆候は全く見られない。爆発自体はタワーのてっぺんで起こったこともあり、依頼通りかなり派手に暗殺できたと思う。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『観測班からの報告で、ターゲットの死亡を確認したわ。ご苦労さま。他に被害も出ていないようで何よりよ。じゃあ“シャドウ・レディ”に帰還して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

結局最後まで迎撃機は上がってこなかった。もっともこの世界の機体では上がってくる間にすべてが終わって撤退まで完了してしまうが。ブルーも相手が来なくて暇そうにしている。釘を差しておかねばならない。

 

 

「ブルー。先に言っておくが降下して基礎部を通り抜けようなどと考えるなよ。」

「うげ!なんで・・・じゃなかった、そんな事しないわよ!」

「姉さん・・・隠せてないよ・・・。」

 

 

ブルーのトンネル抜け癖は矯正の必要がありそうだ。そんな事を考えながら反転、飛行船へ帰投した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

~2時間後~

 

 

「うん!美味しいわね!このパンケーキ!」

「でしょー!このふわふわ感がたまらないんだよねえ!」

「こっちのカレーも良いよ!試してみてよ!」

 

「アタザキで会ったときから言おうと思っていた。」

「・・・?」

「あなた。私とキャラがかぶっている。」

「・・・お互い様。」

 

「シルバー君。こっちも食べてみない?」

「え?!あ、いやその・・・。」

「ザラ、あまり彼をいじめるな・・・。」

「あら?いじめてなんか居ないわよ?ねえ?」ギュッ

「あ、あはは・・・。」

「十分虐めてると思いますわ・・・。」

 

 

「何故私もここに居るのだろうか。」

『あら、良いじゃない。飛行船の完成祝のようなものよ。』

「それに私もあなたに興味があったしね。47さん。」

『あら、譲ったりはできませんわよ?ルゥルゥ社長?』

「取りませんよ。ミス・バーンウッド。」

「・・・。こういう場は苦手だ。」

『早く慣れなさい。社交性の訓練だと思えばそれほど悪くもないでしょう?』

「任務で問題ない程度には社交性はある。」

『そうかしら?』

「そうは見えないわねえ・・・。」

「・・・。」

『まああなたにはちょっと頼みたいこともできそうでね。あちらに帰ったら話すわ。』

「それは任務か?」

『任務・・・とも言えなくはないわね。今ここでは話せないわ。』

「そうか・・・。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「酒場に耳あり?」 +1000 『談笑するブルー達に気が付かれずに隣に座る。』

・「先制撃破」    +1000 『最初の機銃掃射で敵機を撃墜する。』

・「インドラの矢」  +1000 『ヘリオスを発射させる。』

・「合衆国の常套手段」+3000 『高度5000m以上から爆弾でターゲットを暗殺する。』

 

 

 




米軍式暗殺術。中東などではよくあることです(白目)

ICAの飛行船は巡航ミサイル以外にもキンジャールとかゴールキーパーとかいろいろ付いてる設定でしたが全く登場しないまま終了という・・・ww


次回は闇に向かいます。



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HITMAN外伝『ICAの発覚』

3~4話構成を考えています。


『デンバーへようこそ。47。』

 

『今回の任務はICA上級委員会に極秘で行われるわ。近頃いくつかの世界でICA職員が不審な失踪を遂げているの。上級委員会は現地勢力によるものだと断定しているけれど、私は上級委員会が絡んでいると見ているわ。』

 

『それを確定させるために今回向かってもらうのはアメリカ中央部、コロラド州デンバーの郊外にあるゴールデンゲートキャニオン州立公園。ここに公園内の山小屋に偽装してICAの情報収集センターがあるの。そこへ行って情報を探ってきてほしいの。』

 

『今回は情報部はもちろん、技術部も頼れない。情報の解析には別組織の協力が必要。そこで以前一緒に仕事をしたことのあるハル・エメリッヒ博士に協力を依頼したわ。あの“伝説”さんも派遣してくれるそうよ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

チチチチ

遠くで鳥のなく声がする。今は初夏なので多種多様な動植物が見られるこのゴールデンゲートキャニオンのシルバートレイルにツアー客として紛れてやってきた。隣には同行者として登山客の格好をしているスネークがいる。

 

 

「はーい、では今から登り始めますが、体調不良の方は遠慮なくおっしゃってください。」

 

「スネーク、登山は平気か?」

「あん?俺を舐めるな。これでも特殊部隊出身だ。体力には自身がある。そういうお前こそどうなんだ?」

「私は訓練で登山は何度も経験している。ハイキングコースならば近所の散歩と変わらない。」

「なら何の問題もないな。で、その山小屋とやらはどこにあるんだ?まさかハイキングコース沿いにあったりはしないだろう?」

「そのまさかだ。」

「何?」

「途中、小さい山小屋によるんだが、そこは表向きは宿泊もできる山小屋だ。しかしその裏手にある入口から地下へ降りる階段があり、そこが今回の目的地だ。」

「なんとまあ・・・。木の葉を隠すなら森の中とはよく言うが、何もそんな人目につくところに作らなくとも良いだろうに。」

「人目につくということはそこにはないと思わせることができるということだ。そういう意味では理にかなっているだろう。」

「はーあ。まあ何でも良い。で、どのくらい歩くんだ?」

「ココからおよそ10キロほどだな。」

「ふむ。準備運動にはちょうど良さそうだ。」

 

 

ガイドに連れられて山を登り始める。その道中で体内通信が入る。

 

 

『47。聞こえるかしら?』

「聞こえている。」

『今エメリッヒ博士と合流したわ。今デンバー市内のワゴン車から中継している。』

「ということはエメリッヒ博士もそこにいるのか。」

「ああ。はじめまして、というべきか久しぶりというべきか。僕がハル・エメリッヒ、仲間内からは“オタコン”と呼ばれているよ。良ければ君もそう呼んでくれ。」

「善処しよう。」

「オタコン、そのICAの女性は信用して良い人物なのか?」

「大丈夫。少なくとも愛国者達に僕たちのことを告発したりはしない。利益がないし意味がない。」

『私達は国家や組織にとらわれない国際機関。愛国者達がどういう組織であろうと我々には関係がないの。だから今回のコレもあなた達にとっては“ビジネス”よ。それにそのICAにも今回は内密の任務だしね。』

「なるほど。」

『さて、本題に入るわね。山小屋についたら適当な理由をつけて山小屋にとどまって頂戴。裏手の隠し扉の暗証番号は追って伝えるけど、それ以外にカードキーが必要なの。47。カードリーダーは持ってるわね?』

「問題ない。ちゃんとある。」

『それを使ってこっちに通信を送って頂戴。あとはエメリッヒ博士が全てやってくれるわ。』

「そういうことだスネーク。君の任務は47の護衛。有事の際の援護だ。」

「了解した。だがオタコン、俺が言うのも何だが、よくこんな任務受ける気になったな?」

「彼の取得するであろう情報は僕たちにとっても重要である可能性があるんだ。取得した情報の共有は契約に入っているよ。」

「ICAの上と愛国者達は裏でつながってると?」

「その可能性もある。それを確かめるのさ。っと、そろそろ山小屋だよ。」

 

 

話し込んでいたら山小屋のすぐ近くまですすんでいた。ツアー一行はそのまま山小屋で休憩を挟む。私は山小屋には入らず、そのまま裏手へ回る。山小屋の店員もICAの職員なので私が来たことがバレてしまうためだ。

 

小屋の中ではスネークがツアーガイドとなにか話している。おそらくこのままココにとどまる根回しをしているのだろう。私は一人裏手で隠し扉を探した。

 

隠し扉は薪割り用の用具入れの奥に隠されていた。壁に少しだけ切れ込みがあるだけなので素人目にはひび割れ程度にしか見えないだろう。私は切れ込みを丹念に探り、開けるための機械を探した。切れ込みの一部を押すと少しだけ浮き上がった。そのまま浮き上がった部分を剥ぎ取ると中に暗証番号入力用キーボードとカードキー差込口が現れた。

 

 

「差込口を発見した。」

『よくやったわ。えーと、今の暗証番号は・・・“jfn5dg5se8c1”よ。』

ピッピッピッ

「流石に無意味な文字列だね。じゃあ47。カードリーダーを差し込んでくれ。解析しよう。」

「わかった。」

カシャ

「・・・んー、また珍しい方式だね・・・。だがコレなら・・・。」

ピピピ

ゴゴゴゴゴ

 

 

予定通りゆっくりと扉が開いていく。ものの1分でポッカリと穴が空いた。そこへスネークも合流する。

 

 

「お、こりゃまたあからさまな秘密基地って感じだな。」

「此処から先は私も全く情報がない。」

「ミス・バーンウッドでもわからないのか?」

『本部のデータバンクに問い合わせればわかるわ。でも今本部のメインコンピューターにアクセスする訳にはいかない。』

「だろうね。今アクセスすれば逆探される可能性が高い。僕たちが使ってる回線もほとんど民間回線だしね。」

「オイオイ、民間回線使って大丈夫なのか?」

「暗号化自体は僕のオリジナルだから大丈夫さ。それよりも47はもう先に進んでしまったよ?」

「んな!?お、おい待て!」

 

 

スネークは何か話し込んでいたようだったので、とりあえず先に中に入った。入り口は物々しかったが、入ってしまえば普通のコンクリート製の壁と階段に蛍光灯のシンプルなものだ。後ろからスネークが何やらブツクサ愚痴を垂れながらついてきた。

 

階段を降りきると奥に伸びる通路に出た。両側にいくつか部屋があり、傍目からはどの部屋が目的の部屋かはわからない。しかし情報部の情報があるいつもと違い、今回は単独での任務。虱潰しに探すしか無かった。

 

手始めに一番近くの部屋の前の扉に耳を当てて内部を探る。室内からは特に話し声や機械音などはしない。

 

 

「俺に任せろ。」

「スネーク。何か調べる機械を持っているのか?」

「備えあれば嬉しいなってやつだ。コレだ。」

「それは・・・サーモグラフィーか。」

「そうだ。じゃあ見てみるか。」

 

 

スネークは懐からサーモグラフィーを取り出し、それを部屋の中へ向けた。相変わらずどこぞの狸型ロボットのポケットのような懐だ。

 

 

「ん-・・・。ん?この部屋かなり広いぞ。とりあえず中には誰もいないようだ。」

「では入ってみよう。」

 

 

扉を開けてみると、そこは格納庫だった。様々な車両が並べられている。セダンからSUV、果ては米軍の軽装甲車両までよりどりみどりだ。振り返ると格納庫の端にトンネルが見えた。おそらくあそこから近くの一般のトンネルへ出られるのだろう。

 

 

「おい、コレ見てみろ。良いものを見つけたぞ。」

「これは・・・施設図か?」

「のようだ。この施設は地下3階まであるようだな。ここは地下1階の車両格納庫だ。」

「我々が目指すべき場所は・・・ここだな。」

「制御室?こっちのメインコンピュータルームじゃないのか?」

「そこは警備が厳重だと予想される。こちらのほうが安全に内部に侵入できるだろう。」

「そうか、そう言えばお前は潜入には慣れていなかったな。わかった。この格納庫の端のエレベーターが使えそうだ。」

「早速向かおう。」

 

 

格納庫の端には資材用の昇降機があった。隠れるところは殆どないが、いざとなれば天井にでも隠れればよいだろう。私達は昇降機に乗り、地下3階を目指した。

 

 

ゴゥゥゥゥン

 

『47。スネーク。聞こえる?エメリッヒ博士が施設の監視カメラをジャックしてくれたわ。これであなた達が監視カメラに発見されることもないし、私達もあなた達のことを見れるわ。』

「なかなか厳重なセキュリティだったけど、僕の手にかかればこんなもんさ。まあミス・バーンウッドが暗証番号を教えてくれなかったらもっと手間取ってたけどね。」

「そうか。ということは監視カメラの心配はしなくて良いわけだな。」

「さすがだ、オタコン。その調子で遠隔で情報は抜き出せないのか?」

「いや、流石にそれは無理だ。そもそも僕たちが狙っている情報はオープンネットワークに接続されていないようなんだ。」

「ネットに接続されてないから外部からは手が出せないってわけか。」

「そういうことだ。」

『そうそう伝え忘れていたわ。47。』

「なんだ。」

『今回は施設に侵入したのがあなただと発覚する訳にはいかないの。だから気絶させる戦法は使えないわ。』

「ということは。」

『ええ。発見された場合はもとより、背後から襲った場合も何らかの情報が漏れる可能性があるから、関わった人間は速やかに抹殺して頂戴。スネークも頼むわね。』

「了解した。」

「やれやれ・・・殺しは好きではないんだがな。」

 

 

そんなことを話している間に地下3階へ到着した。到着した直後に目の前が昇降機と同じくらいの幅で大きめの通路に出たため、私達二人はとっさに近くに置いてあったダンボール箱の影に身を潜めた。先程の施設図によればこの通路の突き当りがメインコンピュータルーム。そしてその右手前の部屋がサーバールーム。そしてそのさらに手前の部屋が制御室だ。

 

私達は通路の端を慎重に中腰状態ですすんでいく。監視カメラが随所にあるため、博士がジャックしていてくれなければ進むのがかなり遅くなっただろう。

 

 

ガチャ

 

 

唐突に目の前の部屋から人が出てきた。白衣を着ているためおそらく研究員だろうか。研究員は我々に背を向ける形で通路に居座り始めた。どうやらタバコを吸いに出てきたようだ。私とスネークは聞こえないよう小声で相談する。

 

 

「どうする、あいつがあそこに居る限り前には進めんぞ。」

「・・・。」

「狙撃の腕に自信がないならやるが?」

「いや、ここは迂回する。」

「迂回?どうやって?通路はここしか無いぞ。」

「こっちだ。」

 

 

私は近くの部屋を指し示す。スネークはすかさずサーモグラフィーで内部を探る。スネークは手で丸を作った。中には誰もいないらしい。私は静かに扉を開け、内部に入る。

 

この部屋は使われていない部屋のようだった。何も乗っていないデスクや壊れて倒れている椅子があるだけだ。部屋を見渡し、奥の左側の壁に目的のものを見つけた。

 

 

「ああ、なるほど。そういうことか。」

「この施設は地下施設だ。こういうものが必ずあるはずと思ったが案の定だったな。」

 

 

私は転がっていたデスクを使って壁にある換気口に手を伸ばし、枠をはずした。人一人が通れるくらいの大型の換気ダクトだ。私はそのままダクトの中に潜り込む。少し進むと後ろからスネークも追従してきた。換気ダクトの中を進むと隣の部屋の上まで来た。隣の部屋では研究員と思われる男たちがパソコンに向かって作業をしている。

 

 

「こっちは終わったぞ。」

「こっちはもう少しかかる。」

「しかし何だって最近はこんなのばっかりやらされるんだ?」

「仕方ないだろ。それが上の命令なんだから。」

「技術部の連中が言ってたけど、最近上級委員会のほうの様子がおかしいらしい。」

「おかしいって?」

「変な技術を要求してきたり、変な道具を発注してきたりが増えたらしいぞ。」

「へえ、なんかやってんのかね。」

「俺が思うに上級委員会の中でもNo.9が怪しいと思うね。」

####情報を発見####

「No.9って・・・ああ、あの偏屈爺さんか。」

「あいつ最近エージェントのやることなすことに注文付けまくっててよ。どうも気に入らねえことが多いみたいだ。」

「でもよ、それだけじゃあな・・・。」

「いいや、俺はこの間情報部の可愛子ちゃんとお茶したときに聞いたんだよ。情報部の方でもそいつから変な情報要求が最近増えてるって。」

「オイオイ、可愛子ちゃんと知り合いになんていつの間になったんだ?」

「おっと、そこは企業秘密だぜ・・・ってお前、作業は終わったのかよ?」

「ああ、無駄話してても終わらせられるような仕事だからな。これで終了っと。」

「おっし、じゃあ飯食いに行くとしようぜ。」

「ああ。その可愛子ちゃんはコレないのか?」

「無茶言うなあの子はこの間のフロリダ出張のときに知り合ったんだよ。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『No.9。名前は“ドナルド・カーキンス”。組織内でも結構な古参の委員よ。彼ならばエージェントを好き勝手動かすことができるわね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「上級委員会No.9か。」

「古参なのに9番目なのか?」

「スネーク、彼らの組織内の事情だろうから教えてはくれないんじゃないかな。」

『別に構わないわ。私達の組織は功績を残さないと上に上がることはできない完全な実力主義。彼は若い頃はエージェントとして名を馳せたみたいだけれど、上級委員会に上がってからはあまり功績を残せていないわ。』

「へえ、じゃあ君も何かしら功績を残してその地位に?」

『フフ…さあ、どうかしらね。』

「先を急ぐぞ。」

 

 

私達はそのままダクトを通り更に隣の部屋、制御室にたどり着いた。ダクト内からスネークがサーモグラフィーをかざす。どうやら中には誰もいないようだ。

 

音を立てないように慎重にダクトの通気口を外す。顔だけを出し、再度確認したのち、慎重に床に降り立った。部屋の中にはコンピュータ端末が1つと配管、バルブ、制御盤などが設置されている。施設内の空調をココで管理しているようだ。

 

私は持参したメモリカードを端末に接続する。このメモリーカードはLAN機能を有しているのでクローズドネットワークをWebにつなげることができる。

 

 

「よし、認識した。」

「ん。よし、オタコン。良いぞ。」

「了解。」

 

 

すぐに遠隔で端末が操作され始める。どうやら解析ソフトなども並行して使用しているようだ。様々な情報が画面上に出ては消えていく。

 

 

「うーん、困ったな。」

「どうした?オタコン。」

「この端末には情報は入ってない。」

「何?」

「この端末は施設内のローカルネットワークに接続することはできた。だが肝心の情報端末は別のネットワークになっているようだ。どこにもそれらしきものが見当たらない。」

『やはりサーバールームに侵入するしかなさそうね。』

「この端末からの情報によると、さっき君たちが通ってきた換気ダクトはサーバールームには通じていない。サーバールームの空調は別ダクトで直接外気を取り込んでいるようだ。」

「ということは正面から行かねばならないということか。」

「あ、でもサーバールームのドアをハッキングできるかもしれない。5分時間をくれ。」

「頼むぞオタコン。」

「では我々は先にサーバールームのドアを確保しよう。」

「わかった。」

 

 

私は近くのデスクに置いてあった鉛筆を3本ほど拝借してから部屋の外を探る。スネークのサーモグラフィーによれば先程の煙草休憩の研究員はいなくなったようだ。慎重にドアを開けて廊下に出た。

 

すぐ隣のサーバールームのドアは他のドアと違ってガラス戸になっていた。外から見られないように注意し無くてはならないだろう。室内に人がいないのを確認し、鍵が開くのを待った。

 

 

「まだか、オタコン。」

「待ってくれ・・・よし!命令プロトコルに割り込んだ。今開けるよ。」

ピピッカチャ

「よし開いたぞ。」

 

 

開いた直後に内部に滑り込む。すぐにサーバーラックの間に隠れ、廊下から見られない位置を取る。すぐ近くのサーバーラックに直接操作するための端末があった。私は先程と同じようにメモリーカードを差し込む。

 

 

「エメリッヒ博士。頼む。」

「はいはい。えーっと・・・おお、こっちが本命だね。」

『情報は抜き出せそうかしら?』

「そう焦らないで。今警報プログラムが仕込まれてないかチェックするから・・・。」

 

 

小一時間そのまま待機した。この部屋には大量にサーバーラックが置かれており、そのすべてが常時起動している。そのためエアコンから冷気が常時流されているにもかかわらず室内はとても暑い。

 

 

「よし、大丈夫だ。いくつか警報プログラムがあったけれどどれも大したことはなかった。」

『じゃあまずは上級委員会No.9、ドナルド・カーキンスについて調べてくれるかしら。』

「そうだね。・・・よし、ダウンロードを開始しているよ。いくつかこの場で見てみよう。」

『指令書数・・・6300?ずいぶん多いわね。』

「多い方なのか?」

『私と47が受け取る指令書は年間でもせいぜい20程度。上級委員会の役員が出す指令でも年間500も無いはずよ。』

「10倍以上の指令を出してるってわけか。たしかに妙だね。」

「内容はわからんのか?」

「一番最近に出された命令書を見てみよう。・・・これは・・・。」

『これは・・・そんなまさか・・・!』

「どうした?」

『47。この指令書、“エージェント67-1の抹殺命令”だわ。』

「エージェント67-1?誰だそれは。」

『エージェント67-1は正式なコードネーム。この番号はブルーのことよ。』

「!!」

 

 

ブルーに対する抹殺指令だと?何のために。ともかく放置しておく訳にはいかない指令だ。

 

 

「ブルー?誰だい?それは?」

「オタコン、俺は知ってるぞ。いつだったかの硫黄島や違う世界での任務で会ったことがある。こいつらの仲間だ。」

「それは・・・急いだほうが良いかもしれないね。実行日は来週になってる。」

「わかった。データの転送は済んでいるのか?」

「データの方は問題ない。ドナルド・カーキンスについての情報は検索にヒットした分は全部ダウンロード完了したよ。」

『できればこの最新の指令書に関することも同時にダウンロードできないかしら。』

「できなくはないが問題がある。」

『問題?』

「指令書に関するデータは閲覧履歴がどうしても残ってしまうみたいなんだ。閲覧履歴自体は本部のサーバーで管理されるみたい。」

「ということは俺らが入ったことがバレる・・・ということか。」

「そういうことだ。まあ方法がないわけではないけれど・・・。」

「方法はあるのか。」

「ああ。閲覧履歴は定期的に本部に送られてる。次の送信が明日の午前0時だからその前にサーバーを破壊してしまえばいい。」

「破壊なんかしたら侵入したことがバレてしまうじゃないか。」

『・・・ああ、そういうことね。わかったわ。許可しましょう。』

「そうかい?じゃあ遠慮なくやっちゃうよ。」

「オイオイ、そっちで勝手に話をつけないでくれ。」

「サーバーに高負荷を駆けた状態で空調システムをダウンさせればいい。ついでに火災報知システムと自動消火器もダウンさせればどうなるか・・・。」

「サーバーが発火し、火災が発生。データは炭に変わるってことか。」

「そういうことだ。・・・よし、ダウンロードできた。じゃあ“爆弾”を仕掛けるから仕掛け終えたらメモリースティックを持って脱出してくれ。」

「了解した。」

 

 

その後すぐに何かをダウンロードする画面が現れ、画面に一瞬ドクロのマークが現れて消えた。私達はメモリースティックを抜いて部屋を出る準備をする。

 

外へ出ようとしたところでスネークが手でバツ印を作った。どうやら廊下に人がいるらしい。慎重にドアに近づき、外の様子を探る。廊下では先程煙草休憩した研究員が出てきた扉の前で2人の研究員が談笑していた。

 

私は先程持ってきた鉛筆を3本まとめて研究員の奥に向かって投げた。

 

 

カランカランカラン

「ん?」

「何だ今の音は?」

「わからん。見てくるか。」

 

 

研究員二人が鉛筆の方に気を取られた隙にすばやく私達は隣の制御室へ戻った。

 

 

「鉛筆?なんでこんなとこに。」

「てかコレ制御室のやつじゃねえか?」

「ん?・・・あ、本当だ。しょうがねえなあ・・・。」

 

 

まずい。こちらにやってくる。私達は急いでダクトへ潜り込む。先にスネークが入り、私が入った後すぐに格子を元に戻す。戻した直後に部屋の扉が開いた。間一髪だ。

 

私達はそのまま来た順路を通って昇降機まで戻った。昇降機が動き出す瞬間に研究員が部屋から出てきたが、見えたとしても足首だけだから問題はないだろう。格納庫まで戻ってきた私達は出入り口の廊下を念の為サーモグラフィーでチェックしたところ、出口の階段の前に兵士と思われる人員が配置されているのを確認した。

 

 

「まずいぞ。廊下が狭すぎる。揺動は使えない。」

「だな。さてどうしたもんか・・・お?」

「どうした?」

「47。正面から堂々と帰ってやろうじゃないか。なあ?」

「!・・・危険だがそれしかなさそうだな。」

 

 

スネークが指し示す先には米軍の最新鋭の軽装甲車両があった。私は車のドアをロックピックで解錠し、搭乗した。エンジンもロックピックで、と言いたいところだったが、どうやら形状の違う特殊な鍵を使っているようだ。このロックピックでは始動できない。

 

 

「47。ここだ。」

「ここ?・・・ああ。」

 

 

指し示された先には端末接続用のコネクタがあった。ものの見事に私の持っているメモリースティックと同じ形状だ。私はコネクタに差し込んだ。

 

 

「大丈夫。その車のハッキングは前にやったことがある。・・・そら。」

ブルゥゥゥン

「ハッキングとは便利なものだな。」

「だろう?オタコンがいなかったら達成できなかった任務は数え切れんさ。」

「おや?この車。その格納庫の扉を遠隔で開ける機能が備わってるぞ。今開けるから待っててくれ。」

 

 

少しして格納庫の正面扉が車一台分開いた。私達はそのままその車で基地を脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~3時間後~

 

 

『先程確認が取れたわ。ブルーはまだ無事よ。』

「それはよかった。」

『できればまだあなた達には協力してほしい。ブルー救出にもあなた達の助けがいりそうなの。』

「乗りかかった船だ。お前らのNo.9とやらのことも気になるしな。」

「それにスネーク。僕たちも断るわけには行かなくなったんだよ。」

「どういうことだ?オタコン。」

「この数時間でざっと調べたんだ。あのドナルド・カーキンスという人物。僕たちのフィランソロピーにもいくつか妨害指令書を出している。」

「ううむ・・・。」

「私は何をすればいい。」

『架空の暗殺依頼をでっち上げて渡界機の使用許可を取り付けたわ。ブルーを保護して頂戴。』

「わかった。」

「俺たちは何をすればいい?」

『スネークは引き続き47について。エメリッヒ博士は私と一緒に作戦に参加してもらうわ。』

「わかった。」

「了解。」

『私は独自ルートでNo.9の罪状を洗い出すわ。我々ICAを私物化するとどういう目に合うのか、たっぷりと思い知らせてあげなくちゃね。』

「・・・。」

「オタコン、あの女性と一緒にいて大丈夫か?」

「多分・・・彼女はあれでも結構仲間思いだよ。ちょっと怖いけど。」

『何か言ったかしら?』

「「いえ!何も!」」

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「ゆくるない暗殺」 +1000 『ハイキングツアー客として山小屋にたどり着く。』

・「フィランソロピー」+5000 『死傷者を出さない。』

・「燃やすに限る」  +5000 『サーバールームで火災を発生させる。』

・「ICA are GO!」  +3000 『格納庫正面扉から車両に乗って脱出する。』

 

 

 

 




次回、救出作戦。


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HITMAN外伝『ICAの救済』

『セキチクシティへようこそ。47。』

 

『今回のターゲットはここ、セキチクシティの名物である“サファリゾーン”の従業員の一人。アンジェラという女性よ。』

 

『彼女はポケモンレンジャーをする傍ら、ヤマブキシティを中心とした大規模なサイバー犯罪を行っているらしいの。なのでこの通信も傍受の可能性があるわ。』

 

『そこでICAはハル・エメリッヒ博士の協力の下、独自の量子通信回線を構築したわ。詳しいことはそっちの回線で話すわね。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「こちらスネーク。現地に到着した。」

「エージェント47。準備完了。」

「うん、通信は良好だ。じゃあ始めようか。」

 

 

私とスネークはセキチクシティ北部に広がるサファリゾーンへやってきた。スネークは第3エリアの草むらの中。私は少し離れた第1エリアの山岳地帯に陣取っている。

 

今回、私はJaeger7を持参した。その他にも通信傍受を避けるための量子通信機を持っている。早速その通信機が通信を受信する。

 

 

『47。聞こえるかしら?』

「感度良好だ。」

『わかってると思うけれど、この通信は表向きは量子通信で通信傍受を避けていることになっているわ。でも実際はただの無線機。周波数が変わってるだけよ。』

「だろうな。この形は以前使ったことのある形だ。」

 

 

そう、この量子通信機もとい、ただの無線機は以前コガネシティでブルーに渡された通信機そのものだった。それにICA技術部も量子無線通信技術を開発したとは聞いた覚えがないので技術自体完全にでっち上げだ。

 

 

『じゃあ改めて“本当の”任務を伝えるわ。ブルーは今シルバーと一緒にこのサファリゾーンにポケモンをゲットしに着ているみたい。それをICAのエージェント12、通称ラーディスと呼ばれている男が狙っているわ。今回のターゲットはそのラーディスよ。』

「ICAがICAを狙う状況とは奇妙なものだな。」

『ラーディスの作戦については詳細は分からない。でも誰に扮しているかは分かってる。彼は今第3エリアのトレジャーハウスのポケモンレンジャーに変装しているわ。』

「判別する方法は無いのか?」

『情報では頭のベレー帽が赤色、服はオリーブドラブ、長袖長ズボンで腰に黒と黄のポシェットバッグを持っているわ。』

「了解した。」

『プランとしてはまずスネークがブルーたちを一般人を装って接触、保護するわ。合流したらおそらくターゲットが何らかの行動を起こすと思われる。そこをあなたが仕留めるのよ。』

「問題ない。基本はブリーフィングでの偽装プランをそのまま流用すれば可能だ。」

 

 

私は第1エリア山岳部からライフルのスコープだけを取り出し、周囲を見渡した。まずはブルーを探しださねばならない・・・。

 

 

 

 

 

 

~ブルーside~

 

 

「さて、そろそろ行きましょうか。」

「そうだね。」

 

 

私は今、シルバーと一緒にすっごく久々にサファリゾーンへ来ている。目的はガルーラのゲット。もうかれこれ1時間は探してるのに見つからないわねえ・・・。

 

ICAの指令が最近あんまりないからこうして2人でバカンス気分でサファリゾーンを楽しめるってわけ。お給料も結構溜まってきたし、そろそろほとぼりも冷めた頃合いでしょうから、ガルーラを捕まえ終えたらヤマブキシティでお買い物と行こうかしら。

 

 

「姉さん。」

「ん?なあにシルバー?」

「何か・・・おかしい。」

「何かって?」

「具体的なものじゃないんだけど、なんというかその・・・仕事中のときみたいな緊張感がある気がする。」

「なあにそれ。今誰かここで暗殺されようとしてるっていうの?」

「わからないけど・・・なにか不安なんだ。」

「心配性ねえ。ココはそこまで治安悪くないから大丈夫よ。」

 

 

シルバーももうちょっと肩の力抜いてくれると嬉しいんだけどねえ・・・。職業病ってやつかしら?やっぱり偶に息抜きしないと駄目ね。今度からもっと積極的に連れ出すことにしましょ。

 

 

「とりあえずトレジャーハウスを目指すわよ。出発!」

 

 

 

 

 

~スネークside~

 

「こちらスネーク。対象を発見した。」

「了解。こっちも衛星映像で確認したよ。47に伝える。」

「まだこちらの位置には気が付かれていないが、あのシルバーって奴、相当に勘が鋭いな。」

「うん?気が付かれかけたのかい?」

「俺がアイツラを発見した直後に辺りを見回していた。おそらく気配を察知するのに長けている。」

「まあ今回は君はタダの一般人なんだから、バレたところで問題はないだろう。それに、接触しないとターゲットを守ることもできないよ?」

「それはまあそうなんだが、なんというか・・・。」

「見つけられるのは負けた気がする。かい?」

「・・・まあそんなところだ。」

「君も相当にひねくれてるね。知ってたけど。」

「お互い様だ。・・・移動を開始した。こちらも尾行を開始する。」

「OK。急な襲撃には十分注意してくれ。」

 

 

この周辺は木々が生い茂っており、尾行するにはそれほど苦労はなかった。しばらくすると水場に出た。彼らは草むらの中から飛び出してくるポケモンたちに餌をやったりしながら進んでいく。どこを目指しているのだろうか?しばらく尾行した後、彼らは1件の小屋の前まで来た。

 

 

「やっとついたわ!」

「結構長かったね。」

「早速入りましょうか!」

 

 

どうやら目的地はこの小屋だったらしい。小屋の中に入っていった後、こちらもドアの側の窓から内部を確認する。室内は大きなテーブルと椅子。そして中にはボーイスカウトのような格好をした男がいた。話している内容までは聞こえないがとても和気あいあいとしている。

 

談笑している最中、3人の注意が奥のショーケースに移った時にすばやくかつ静かに内部に潜入した。今度はシルバーにも気が付かれてはいないようだ。

 

 

「そういえば君たちはガルーラを探しているんだって?」

「はい。できればゲットしたいなって!」

「そうかそうか。なら良いものをあげよう・・・。」

 

 

ボーイスカウト風の男がそう言うと奥から何やら白い箱を取り出してきた。男はその箱を開けて中から白い包みを取り出した・・・むっ!あの形は・・・。

 

 

「何をくれるのかしら?捕まえやすくなる餌とか?」

「もしかしたらボールとかかもしれないよ。それかガルーダが居るところの地図とか。」

「そんなものよりもっと良いものさ・・・。コレはね・・・5.56mm弾って言うのさ!」

チャキッバァン!

 

 

 

 

 

「きゃあ!」

「うわっ!」

「ちっ!何だ?!」

 

 

あの包は案の定アサルトライフルだった。セミオートになっていたようで、とっさに俺が近くにあった瓶を投げつけていなければ確実にブルーに弾が当たっていた。

 

 

「大丈夫か!」

「え?ええ・・・何なのよ!一体!」

「ふん!これから死ぬやつに答える義理はない!」

「くっ!」

ダダダダ

 

あいつ、闇雲にこっちを撃ちまくってきやがる。無関係のやつを巻き込むのはどうでもいいってか?俺らはとっさに近くの展示台の裏に身を隠した。

 

 

「スネーク!こちらも応戦するんだ!」

「だがなオタコン、こっちは拳銃、相手はアサルトライフルだぞ?しかも室内が広いせいで身動きが取りづらい。」

「こちら47聞こえるか。」

「何だこの忙しいときに!」

「その小屋から出るんだ。」

「何?・・・わかった。」

 

「って!あなたスネークじゃないの!?どうしてココに!?」

「俺はおまえさんを助けに来たのさ。お前、アイツに狙われてたんだぞ。」

「うっそぉ?!なんでえ!?」

「やっぱり・・・!あの時感じた空気はそのせいだったのか!」

「ともかく脱出するぞ!準備はいいか!・・・そらっ!」

 

 

カランカラン…バシュン!

 

 

俺はフラッシュバンを相手に向かって投げつけ、相手の丁度目の前で炸裂した。しかし相手も想定済みだったようでとっさに目を手でガードして防いだようだ。だがその一瞬の隙を見逃さない。

 

 

バシュンバシュンバシュン

ダダダダダ

 

ブルーたちを小屋の外へ走らせ、俺はターゲットに向かって銃を乱射して牽制する。ターゲットは近くの展示台に身を隠しながらライフルだけを出して制圧射撃をしてきた。弾が脱出中のブルーたちを掠めたが何とか無事に小屋の外へ脱出したようだ。

俺はもう一度、フラッシュバンを投げる。炸裂する瞬間にダッシュで小屋を出た。

 

 

「くっそお!待ちやがれ!俺から逃げられると思うなよ!」

 

 

相手もしつこく追ってくる。ターゲットが小屋の出口から出たその時、

 

 

ダァーン!

 

 

一発の弾丸がターゲットを貫いた。

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

距離にして600m超。狙撃としては中距離の部類だ。頭部を狙うのはそれほど難しくはない。

 

エメリッヒ博士の通報を受け、私は急いで第3エリアの山岳部へ移動していた。小さな湖の対岸にあるトレジャーハウスを見渡せるこの位置に陣取ったのは中で銃声がする直前だった。何とか間に合ったようだ。

 

ターゲットが小屋から出てきた瞬間を狙ってその眉間に風穴を開けてやった。弾丸は正確に命中し、彼は小屋の前で一拍立ち尽くした後、静かに後ろ向きに崩れ落ちた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『戦術AIです。エージェント47。それは作戦行動中のエージェント12です。攻撃の意図を説明してください。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

最近のAIはこういう警告まで発するようになったらしい。とりあえず用意していた文言を答える。

 

 

「こちら47。ターゲットのアンジェラと誤認した。申し訳ない。」

『戦術AIです。誤射事件が発生。上級委員会にて審問が行われますので、エージェント47は作戦を中止し、撤退してください。』

「こちら47.了解した。」

 

『バーンウッドよ。47。作戦は成功ね。審問会はこちらで手を回しておくから安心して。』

「ああ、助かる。」

「こちらスネーク。ブルーを無事保護した。コレより臨時セーフハウスへ向かう。」

「臨時セーフハウスは僕らが利用していたアジトの一つを改造したものなんだ。僕らの仲間が護衛に付いてる。心配しなくていい。」

『了解したわ。借りは必ず返すわね。』

「期待しないで待ってるさ。ああ、それとシルバーってやつも一緒に連れてくが構わないよな?」

『ええ、問題ないわ。彼ら二人は休暇中に行方不明ということにしておくから。』

「では、撤退する。」

「こちらも帰還する。」

「ああ、ふたりとも気をつけて。」

 

 

私はその後、本部に呼び戻され、小一時間質問攻めにあったが、上級委員会No.1とやらの鶴の一声で開放された。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

~2日後~

 

 

『47、スネーク。エメリッヒ博士との共同調査で相手の目的がわかったわ。』

「ほう?」

『ドナルド・カーキンスは最近原理主義派という派閥を立ち上げたみたいね。ICAを自前のクローンエージェントのみによって運営することを目指しているみたい。』

「クローンエージェント、それはつまり47のようなってことかい?」

『ええ。彼の意見に賛同したある大手のクライアントが彼の計画を後押ししているみたい。』

「何者なんだ?その大手クライアントってのは。」

『“プロヴィデンス”。そう呼ばれてる組織よ。元は欧州の貴族のようだけれど、現在は世界的な大企業のトップになっているわ。』

「そして愛国者達とも協力関係にある。彼らの資金の一部が愛国者達のヘッジファンドに流れているのが確認できた。」

「結構でかい相手じゃないか。どうするつもりだ?」

『プロヴィデンスを潰すのはまだ無理ね。最もかれらは資金提供しているだけだから今回は見逃すことにしたわ。でもドナルド・カーキンスはそうは行かない。』

「暗殺するのか?」

『ICAに楯突くことは死を意味するけれど、ICAを混乱させてなおかついいように利用してきた男よ。死だけでは済まされないわ。』

「ならどうするんだ?」

『私に任せて頂戴。すでに上級委員会のNo.1とNo.2には話を通してある。次回からはICAの管轄下でドナルド・カーキンスを追い詰める。』

「じゃあ俺らはお役御免か?」

『あなた達はブルーたちの保護を継続してほしい。少なくとも、ドナルド・カーキンスがこの世から消え去るその時まで。』

「了解した。じゃあちょっとあのセーフハウスの防衛設備も改良しないといけないな・・・。」

「俺もそこに居よう。万が一のときは対処しやすくなるはずだ。」

「すまない。感謝する。」

「礼はいい。強いて言うなら俺らの組織にも少しばかり資金がほしいくらいだな。」

『善処はするわ。今回の一件であなた達にはずいぶん協力してもらったから、上級委員会に掛け合ってみる。』

「ありがたい。頼むよ。」

 

 

 

ミッションコンプリート

・「ステルスの申し子」 +1000 『トレジャーハウスまでブルーたちに気付かれない。』

・「生業は背負わせない」+1000 『ポケモンを使用しない。』

・「同族嫌悪」     +3000 『ターゲットの頭部に銃弾を命中させる。』

・「いたずらっ子」   +3000 『ICAの審問会に出頭する。』

 

 

 




今回は短めです。短い代わりにあと2話を予定しています。

次回は報復攻撃です。


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HITMAN外伝『ICAの報復』

今回はクロスオーバー作品は特にありません。



####注意####

残酷な描写があります。ご注意ください。


『ヒューストンへようこそ。47。』

 

『ICA上級委員会は非公式ではあるけれどドナルド・カーキンスへの報復攻撃を採択したわ。今回はその前段階よ。通常なら当人を排除するだけなんだけど、今回の事態はNo.1も重く見ているようでね。今後同じようなことが起こらないように見せしめにしなければならないの。』

 

『今回向かってもらうのはアメリカ、ヒューストンのトリニティ湾沿岸にあるICA技術部直属の化学薬品工場よ。ここではICAが暗殺に使用する様々な薬品や、道具の製造に使う薬品などを作っているわ。いつだったかあなたに渡した、ロシアの強力な毒物も手に入れた情報を元にここで製造されたのよ。』

 

『今日、この工場は“ファミリー・デー”と称して技術者や責任者、関係者の家族が職場見学という形でやってきているの。この施設の実質的な所長であるドナルド・カーキンスの家族も例外ではないわ。』

 

『今回のターゲットはその家族。妻のミシェル・カーキンスとその娘のリアン・カーキンスよ。彼の目の前で彼の家族を暗殺することで、自分が誰を敵に回したのかを分からせるってわけ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ガヤガヤ

 

本来、化学薬品工場などというものは子供が出入りしてはならない場所。しかし今日はファミリーデーということで一部の職員用通路と見学用通路が開放されているため、女性や子供の姿が目立つ。彼女らは一様に普段めったに目にする機会のない化学薬品工場の重厚な配管や機械類を眺めては感嘆の声を漏らしたり、写真を撮ったりなどしている。

 

今回、施設の構内図をブリーフィングで確認したときにあることに気が付き、それを元にプランを立てた。持参したのはいつものシルバーボーラーとロックピックくらいだ。プランが思い通りに進めばシルバーボーラーでさえ要らないはずだ。

 

正面はファミリーデーのために普段は閉鎖されている門が開け放たれている。しかもかなりの数の人が居るため警備員も一人ひとりチェックはしていないようだ。一応門の向こう側、施設入口付近で持ち物チェックと身分証の提示を求めているようだ。私は家族集団の中に混じり、門を通過する。通過した直後に右に逸れ、脇道に入る。脇道はすぐに行き止まりになるが、脇には扉がいくつかある。無論全て鍵がかかっており、来場者が迷い込まないように措置がされている。

 

私は表から死角になる位置の扉をロックピックでこじ開ける。すばやく内部に侵入すると、一応中から再度鍵をかけ直す。入った施設は機械洗浄用の精製水を作る施設のようだった。ここは見学コースに含まれていないため人通りはまったくない。加えて言うなら今日は見学者が多いため基本的に工場は休業中で施設の装置は大半が動いてはいない。一応、いくつかの装置は見学用に動かす予定ではあるようだが、基本的に見学コースの強化ガラスの向こう側からな上、動かす装置も動作が大きいだけで、比較的他の装置より危険性がないものばかりだ。

 

事前情報を頼りに施設内を進み、一つの部屋にたどり着く。慎重に扉をあけて中に侵入する。部屋は20枚以上のモニタがひしめき合う警備室だった。中では2人の警備員が椅子に座ってモニタを監視している。

 

 

「まったく、よくもまあこんな工場にこれだけ人が集まるもんだ。」

「そういえばお前の家族は来てんのか?」

「うちはそういうのに全く興味が無いからな。今頃近所の連中とバーベキューでもしてるだろうさ。」

「俺もそっちが良かったなあ。こういう日は苦痛でしかねえよ。」

「そういやお前まだ独り身だっけか。」

「ああ。5年前に彼女に逃げられて以来そういう話とは無縁だ。」

「お前まだ若いんだからよ・・・ほら、アレ。」

「ん?」

 

 

左側の男が一枚のモニタを指差す。そこには一人の50代の女性と2人の若い女性が映っていた。

 

 

「ああいうのはどうだ?」

「ああ、ああいうのは好みだな。だが職員の誰かの家族なんだろ?気が引けるな。」

「そういうのを気にしてたらいつまで経っても独り身だぜ?ほら、ココはオレ一人で十分だからちょっと引っ掛けてこいよ。」

「おいおい・・・でもまあそうだよな・・・。ちょっくら頑張ってみるか!」

「その意気その意気!」

「じゃあ俺は休憩を取る。後は頼んだぜ。」

「おう。休憩と一緒に未来の嫁さんも取ってきな。」

 

 

右側に居た男が立ち上がって部屋を出ていこうとする。私はその後をこっそりと付ける。部屋からそれなりに離れたところで後ろから首を絞めて気絶させた。残念だが嫁さんは別の場所で探してくれ。

 

近くの倉庫へ引きずっていき、いつもどおり服を借りた。私は再び警備室に戻ると、モニタをあくびをしながら眺めている警備員にも後ろから首を絞めて気絶させた。こちらはそのまま放置だ。警備室内にあったレコーダーをショートさせて壊しつつ、HDDを抜いた。これでカメラは気にせず動くことができるだろう。

 

私は警備員の格好のまま施設を移動する。暫く歩くと見学者コースに出た。まだ見学は始まっておらず、コースには職員と思われる男性ばかりであった。そのうちの一人がこちらに気がついたので話しかけて情報を探っていく。

 

 

「失礼。所長にご家族の警備を頼まれたのだがそのご家族は今度にいるかわからないか?」

「おいおい、大丈夫かよ。所長の家族は特別な見学コースを通ることになってるはずだろ?」

####アプローチ発見####

「申し訳ない。そのコースのことを聞き漏らしていたようだ。どこに行けば確認できるだろうか?」

「ったく、しょうがねえなあ・・・。ほら、予定表だ。俺はもう覚えてるからお前が持ってきな。」

「ありがたい。感謝する。では。」

「失礼のないようにな。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『カーキンスの家族は所長の家族ともあって特別待遇のようよ。もらった予定表によると、警備員1名を随伴させるだけで、ドナルド・カーキンス本人も含めた4人で施設を回るようね。どうにかしてその警備員になりすますことができれば、素敵な工場見学に案内できるでしょうね。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は予定表に書かれている随伴の警備員の名前はカールと言うらしい。見学はあと2時間ほどで始まるようなので、その前にカールという警備員を探し出して成り代わらなければならない。私はひとまずロッカールームへ向かった。

ロッカールームは1階にあった。入ると数人の警備員が談笑している最中だった。私は警備員たちに話しかける。

 

 

「すまない。カールという人はどなたかな?」

「ん?カールは俺だが?」

「ああ良かった。見つかった。重要な話がある。ココでは話せない内容なので私と一緒に来てくれないか。」

「何だよせっかく勝ってたってのによ・・・。」

 

 

カールは渋々立ち上がると私についてきてくれた。ロッカールームの隣にある倉庫に二人で入る。

 

 

「そこの木箱を開けてみてくれ。それに見覚えがあるだろう。」

「んあ?あの木箱か?なんだ・・・?」

 

 

カールが私に背を向けて端にある木箱に手をかけようとした瞬間に後ろから首を絞めて気絶させる。ほどなくおとなしくなったカールをそのまま空の木箱の中に押し込むと胸につけていた名札を私のと取り替えた。そのまま倉庫からでる。これでカールに成り代わることはできた。

 

まだ集合の時刻まで1時間ほどある。私はさらに下準備をするために4階へ上がる。4階には大きめの薬品貯蔵タンクがあり、その上に点検用の簡易通路がある。扉の説明文によると、この点検用通路はタンクの一番下まで降りられるよう、通路全体に昇降機能が備わっているようだ。現在はタンク内に薬品は充填されておらず、空の状態だ。タンクは1階から4階までの4階層を使っておりかなりの高さがある。通路から突き落とすだけでも死亡させられるだろうが・・・。バーンウッドは言っていた。“死だけでは足りない”と。

 

私は5階にある制御室へ向かった。工場が可動していないため制御室には鍵がかけられており、ロックピックで解錠して中にはいっても誰もいない。私は制御盤の一部を操作して薬品タンクに薬品を充填し始める。充填が1/3程度まで終わったところで注入を止める。満タンにすると見学者用通路から見られてしまう。私は壁にぶら下げられていた制御用のリモコンを発見した。“タンク点検用”と書かれているためおそらくコレが昇降装置の制御リモコンだろう。私はそれを持ち出した。

 

そろそろ時間だ。私は集合予定場所へ向かった。集合場所には何人かの重役と思わしき人物に囲まれ談笑している男が居た。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『アレがドナルド・カーキンス。ICA上級委員会No.9。いえ、既に非公式ではあるけれど彼はもう上級委員会の役員ではなくなっているわ。その後ろで微笑ましく見守っている女性がミシェル・カーキンス。その隣の8歳位の少女がリアン・カーキンス。できることならば巻き込みたくはないけれど、報いは受けさせる。それがICAよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私はターゲットである彼女たちに近づき、話しかけた。

 

 

「失礼。ミシェル・カーキンス様ですか?」

「はい?そうですけど。」

「とうことはそちらがリアン様ですね。お二人にドナルド・カーキンス様より特別コースへご案内するように申し使っています、カールと言います。」

「ああ、話は聞いています。カールさん。ではもう?」

「はい。ご案内します。ドナルド・カーキンス様は現在重要な話をされているとのことで先に順路を回るようにと。」

「わかりましたわ。行きましょうリアン。」

「はい。お母様。」

#####アプローチ完了####

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『うまくターゲットと接触できたわね。さあ工場見学の始まりよ。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

私は会場からターゲット二人を連れ出すことに成功した。様々な施設を順に回り、一つ一つ説明をしていく。施設内の装置についてはブリーフィングで一通り確認しているため説明も問題なく行えている。いよいよメインというところで服と一緒に拝借した無線機からコールが入った。

 

 

「カール、今どこにいる。私の家族はどこだ?!」

「所長。ミシェル様がどうしても早く見て回りたいとおっしゃられたので先に案内して差し上げています。」

「なに?・・・まあしかたないか。今日を楽しみにしていたからな・・・わかったすぐに追いつく。」

「わかりました。今エリア11の通路ですのでココで待機します。」

「エリア11だな。わかった。」

 

 

エリア11は薬品タンク内を強化ガラスの外から見ることができる見学コースの一つだ。私はドナルド・カーキンスが来る前にターゲットをお連れし無くてはならない。そのまま進み、先程の薬品タンク上部の点検用通路までやってきた。

 

 

「うわぁ・・・すごいですね。すごい高さ!・・・リアン平気?」

「平気だよ。これくらい!」

「今無線から通信が入りました。ドナルド・カーキンス様がこちらに向かわれるそうです。合流地点はこの通路の向こう側です。」

「あら、やっとなのね。じゃあ行きましょうリアン。」

「はい!」

 

 

ターゲット二人は手をつないで通路を渡っていく。私はそれを見届けると踵を返して入ってきた扉から出た。閉める直前にこちらを不思議そうに振り返っていた。扉を締めた後、私はリモコンで通路全体をゆっくりと下降させ始めた。

私は足早にエリア11へ向かった。見学通路に到着すると、既にドナルド・カーキンスがやってきていた。

 

 

「やっときた・・・ん?私の妻と子供はどうした?」

「申し訳ありません。リアン様が早く会いたいと一人で走り出してしまって、ミシェル様もそれを追ったようで、見失ってしまいました。」

「なんだと!?どういうことだ!お前は何をしているんだ!さっさと探し出せ!」

「分かっています。危険なところへは立ち入らないと思うのですが。」

 

 

話をしていると横の見学者用強化ガラスの向こう側、薬品タンク内の上から通路がゆっくり通りてくるのが横目で見えた。そこには急に動き出した通路にしがみつきながら慌てているターゲット二人が居た。

 

 

「!?!?ミシェル!?リアン!?何故そんなところに!」

 

 

強化ガラスは厚く、こちらの声は向こうには届かず、あちらもなにか叫んでいるようだが全く聞こえない。みるみるうちに通路は下へ下がっていく。そして側に居た職員の一人が叫んだ。

 

 

「な!!何故だ!なぜ薬品が!?」

「どういうことだ!」

「薬品タンクの下部に薬品がまだ残っています!」

「なんだと!?」

「あの水位だと・・・一番下まで降りれば通路は完全に薬品に浸かってしまいます!」

「な!な!なああああ!!」

 

 

先程確認したが、薬品タンクに充填されている液体は水酸化ナトリウムだったようだ。無論人が触れたりしただけでも激痛を伴って溶ける上、浸かろうものならば一瞬でゾンビのように溶け始めるだろう。このタンクはそのために特別に作られたものであり、その液体が何かを一番良く知っているのはドナルド・カーキンス本人だろう。なので錯乱したように慌てている。まあ無理もないが。

 

 

「はやく昇降機を止めろ!私の家族が居るんだぞ!」

「わかりました!」

 

 

職員が制御室に走っていく。職員が帰ってくるまで必死になって家族にガラス越しに呼びかけている。他の職員も不安そうにしている。そして職員が戻ってきた。絶望的な知らせとともに。

 

 

「所長!大変です!昇降機制御用のリモコンがどこにもありません!」

「な、なんだと!!!」

 

 

あたりまえだろう。私が持っているのだから。「なにか打つ手はないのか。」、「施設のメイン電源を止めろ」、「装置を破壊して止めろ」などと喚き散らしているが、そのたびに職員が「電源を落とせば昇降機が一気に下に落ちてしまいます」だの「破壊すれば完全に止めることはできなくなります」だの言い争っている。

 

何の対策も取れないまま、通路の下が薬品に浸かり始めた。ターゲット二人は手すりの上に登ってなんとか難を逃れようとしているが、健闘むなしく、妻のミシェル・カーキンスの足が水酸化ナトリウムに浸かり始めてしまった。傍から見ても絶叫のような悲鳴を上げていると思われる表情をしている。リアンの方も完全に大泣状態だ。ドナルド・カーキンスは完全に顔面蒼白状態でガラスに張り付いている。そしてその数分後、ミシェルの体半分のところまで浸かったところで息絶えたようで、手からリアンが離れ、水酸化ナトリウムの海に投げ出され沈んでいった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲット2名の死亡を確認。本当にお疲れ様。今までで一番後味が悪かったかもしれないわね。帰還して休んで頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ドナルド・カーキンスは完全に抜け殻のようになってしまっている。もしかすると座ったまま気絶しているかもしれない。私は職員が駆け寄って介抱している騒ぎに乗じて部屋を出た。

 

帰り際に所長室へ寄った。所長室は無論見学コースからは外れており、人は誰も居なかった。私は所長の机の上にこれ見よがしに昇降装置のリモコンを置いた。ついでに所長室の棚を漁ると、興味深い資料が出てきたので持ち帰ることにする。ついでにデスクに備え付けられていたパソコンのHDDも抜いて持っていく。

 

私は所長室を出て警備室へ戻った。未だに気絶している警備員の近くの私のスーツに着替えると、元来た道を通って正門から歩いて帰還した。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~3日後~

 

 

『ドナルド・カーキンスが退職願を出したわ。』

「相当堪えたようだな。」

『そうね。でも上級委員会No.1はそれを保留にした。彼は辞めてすべてを終わらせようとしているみたいだけれど、そうは行かない。裏切り者の始末がまだ終わってないのだからね。』

「・・・。」

『ドナルド・カーキンスは退職願を出したその日を境に出勤していない。おそらく自宅で療養という名の防衛を固めているのでしょう。』

「防衛?」

『あなたが所長室にリモコンを残してきたことで我々が命を狙っていると気づいたようね。証拠もないから断罪できずに防衛を固めるしか無いようよ。』

「なるほど。では次の任務は・・・。」

『ええ。ドナルド・カーキンスの暗殺。今のうちから準備を始めておいて頂戴。』

「わかった。」

『ああそれと。あなたが回収した資料とHDDを解析した結果、プロヴィデンスに関することも新たな発見があったわ。』

「やはり情報が入っていたか。」

『ええ。今まで行ってきたICAの任務の一部がプロヴィデンスによって依頼されていたものだったことがわかったわ。目的はまだ調査中だけれど、こちらの解明には相当時間がかかると見ていいわ。』

「一筋縄では行かなそうだな。」

『ともかく。今回は精神的に疲れたでしょう。ゆっくり休んで。なんならフィジーの保養施設を使うかしら?』

「いや、結構。訓練施設に戻る。」

『それ休むことになるのかしら・・・。』

 

 

 

ミッションコンプリート

・「そこには誰もいない」 +1000 『監視カメラを無力化する。』

・「亡国の王女」     +2000 『ターゲットと会話する。』

・「復活などさせるものか」+3000 『ターゲット薬品に漬けて暗殺する。』

・「ICA is Watching you」 +5000 『所長室に侵入の痕跡を残す。』

 

 

 




悪事によって得たものは、悪事の報復を受ける。- ウィリアム・シェイクスピア




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HITMAN外伝『ICAの結論』

『ルイジアナへようこそ。47。』

 

『ここはルイジアナ州のオストリカ。ミシシッピ川の河口付近よ。道の両側は川と海になっているところでね。川にも海にも近いからボート好きの人が多く住んでるわ。もっともターゲットはボート好きというわけではないでしょうけどね。』

 

『いよいよ一連のICAの内乱に終止符を打つ時が来たわ。ターゲットはすべての元凶であるドナルド・カーキンスとその手下数十名。彼はこの地区の一角に自宅を持っていてね、衛星で確認したところ、子飼いの武装組織によって防衛が固められているようよ。この武装組織は元ICAの末端のエージェントが多く在籍していて、上級委員会はこれらのエージェントも反乱者とみなして全員に抹殺命令が出ているわ。ちょっと数が多いでしょうから助っ人も呼んでおいたから協力して任務にあたって頂戴。』

 

『プロヴィデンスに対しても別働隊による監査が入ることになったわ。そっちはそっちでやるからあなたはドナルド・カーキンス一味の抹殺に注力して。』

 

『一応静かにことを済ませて頂戴。あんまり騒ぎ立てると州警察がやってきて面倒なことになるからね。おそらく自宅にはセーフルームが備え付けられているはず。あんまり騒ぐとかえって面倒になるわよ。』

 

『準備は一任するわ。』

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

「この世界に来るのも久々ね。」

「ICAに入った時以来かな。」

「ふむ。見た目は俺のいたアメリカと変わらんな。」

 

 

私達は今、オストリカのルイジアナハイウェイを車で南下中だ。両側にはいくつものバンガローが建っているが、あまり人気は感じられない。

 

今回、助っ人としてスネークが。匿われていたブルーとシルバーも同時に参加している。今回は相手が大人数のため、4人でも足りないくらいだと思われる。皆それぞれに大人数を相手にするための武器を持参している。私はいつものシルバーボーラーとTAC-4を持参している。他の者達の装備は確認していないが、シルバーはJaeger7を持参してきているようだ。

 

 

「今回は建物の周囲にいる警備兵は全員抹殺しろとの命令が出ている。」

「私がシルバーと一緒にいるわ。」

「いや、僕一人で良い。姉さんにはバックアップを頼みたいんだ。」

「あらそう?じゃあ私はバックアップに回るわ。電話回線でも切断してみましょうか。」

「俺は単独で十分だ。」

「では個人個人で動く。私とスネークが建物内に侵入を試みる。シルバーは屋外から狙撃援護。ブルーはいざというときの陽動と警察が来た場合の対処だ。」

「「了解。」」

 

 

ターゲットの自宅手前500mの路上に車を止めた。時刻は23時を回ったところ。今日は新月なので辺りは暗闇に包まれている。車から降り、各々別々の方向からターゲットの家に近づいていく。

 

正面玄関からは私。正面とは反対側になる北側からはスネークが。道路を挟んで南東の木の上からシルバーがそれぞれ作戦を開始する。ブルーは車の近くの茂みで待機だ。

 

正面玄関は固く閉ざされており、監視カメラももちろん取り付けられている。家の塀の外周はM4カービン装備の警備兵が巡回している。私は手始めに道路の近くの茂み、監視カメラからは死角になる位置に石を投げ入れた。

 

ガサッ

「ん、何だ今の音は・・・。」

 

 

おそらく動物と思ったのか内部と通信することもなく、そのまま茂みを確認しに来た。茂みの手前で立ち止まり、あたりを見回している。

 

 

バシュン

ドサッ

 

 

シルバーの狙撃によって脳幹部分を撃ち抜かれた警備兵はそのまま茂みの中へ倒れた。まず一人目だ。少しだけ足が出ているので茂みの中に完全に隠しておく。その後も外周を回ってやってきた警備兵を茂みに誘導してはシルバーが狙撃するを繰り返し、合計で4人ほどをあの世に送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~スネークside~

 

 

「スネーク。その扉は警報装置がついている。むやみに開ければ警報が鳴り響くよ。」

「おっと、あぶないあぶない。」

 

 

凄まじく厳重な家だ。扉という扉はすべて警報装置付き、監視カメラはいたるところにあり、窓も衝撃感知センサーまで付いている。せめて窓の一つでも開いていてほしかったが、1階も2階もすべてはめ殺しのようだ。

 

周囲を探っていると地下へ降りる階段を見つけた。階段を上り下りする際には監視カメラに見つかるだろうが・・・降りた先のドアまでは監視カメラの範囲が届いてないようだ。静かに扉の上側に回ると近くにあった枝で扉を叩いた。

 

 

カンカン

 

ガチャ

「なんだ今の音は?」

 

ゴキャッ

 

不用心にも程があるな。扉が叩かれたからといって扉を開けるのは。俺は扉の上から通路に誰も居ないことを手鏡ですばやく確認し、上から出てきたやつの首を掴んでそのままへし折った。そのまま扉へ降り、中へ死体を引きずっていく。

 

直ぐ側の扉が空いており、ひとまずその中へ隠すことにする。開いていた部屋は・・・警備室だ。監視カメラの制御を行っている部屋のようで、中にはまだ2名ほど人が居た。俺は一旦死体を廊下に放置してUSPを取り出し、片方の警備兵へ近づいた。後ろから口を一気に塞ぎ、混乱している間に背中からUSPを3発お見舞いする。

 

パシュパシュパシュ

ムグー!

「ん?な、なんだ!?」

パシュン

 

 

サプレッサーがついているとは言え、流石にこの距離では音が聞こえてしまったようだ。しかしこちらに振り向き、驚愕の表情をしている一瞬の隙に、俺はもうひとりの額に風穴を開けた。警備室の制圧が完了したので廊下に放置していたやつを室内に引きずり込んだ。

 

 

「お見事。流石だね。スネーク、その警備システムに僕が渡した端末を挿してみてくれるかい?」

「ん。これか。」

 

 

今回の作戦に同行するに当たってオタコンから小型のメモリースティックを渡されていた。そういえば以前、似たようなのをあいつも持っていた気がするな。

 

 

「よし、入れた・・・。うん。警備システムのハッキングには時間がかかるけど、とりあえず監視カメラは全部無効化できたよ。」

「わかった他のやつにも伝えてくれ。」

「了解。」

 

 

監視カメラが無効化されたならば動きやすい。ひとまず警備室は制圧したので廊下に戻り、部屋を一つ一つ調べては中を制圧していくことにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~シルバーside~

 

 

「ふう・・・これで5人目・・・。」

 

 

未知の反対側の木の上からの狙撃は足場が不安定な分、いろいろ気を使う。先程スネークが警備室を制圧したとのことで、とりあえず外で単独行動している警備兵は片っ端から撃ち抜いていた。それにしても数が多い。

 

リロードして弾を補充する。その間に47が侵入できそうなところを探っている。ココからは見えないがスネークは既に屋内に入っているようだ。どうやって援護するか考えていると姉さんから通信が入った。

 

 

「こちらブルー。北から車両が来るわ。」

「車種は。」

「えっと・・・黒のセダン。運転席と助手席に一人ずつ。・・・今通過した。後部座席には誰も乗ってなかったわ。」

「シルバー、狙えるか。ターゲットの家の前で止まったなら、止まって降りてきたところを撃て。」

「了解。」

「すばやくやらねばもう一方に叫ばれるぞ。」

 

 

スコープを覗いて準備する。車は・・・ターゲットの家の前で止まった。助手席のドアが空いて一人が降りてくるが、運転席側の男が降りてこない。そのまま再び車は走り出した。どうやら家のガレージに入れるつもりのようだ。車がガレージに入っていったのを確認して、先に降りたほうを狙撃する。

 

バシュン

 

弾は正確に頭部を直撃。そのまま道端に倒れ込んだ。すぐに脇から47が出てきて死体を茂みに隠した。そうしているうちにガレージの明かりが消え、脇の扉から男が一人出てきた。すぐさま狙いを定め、そのまま撃つ。

 

バシュン

 

こちらも側頭部に命中。そのまま扉横の茂みに隠れるように倒れ込んだ。

 

 

「ふむ。シルバーも狙撃の腕を上げたな。」

「そうね。ハナダシティのときは当たるかどうか不安とか言ってたのにねえ。」

「言ったっけ?そんなこと。」

「言ってなかったっけ?WA2000のマガジン8つも消費してたからてっきり・・・。」

「オイオイ、狙撃に弾60発以上使ったのか?」

「違う!練習してたんだ!ターゲットは一発で仕留めた!」

「落ち着けシルバー。今は目の前の任務に集中しろ。」

「うっ・・・すまない。」

 

 

気を取り直して改めて索敵を再開する。狙撃の腕が未熟だったあの時、殺すことをためらっていたあの時、今の自分は・・・もう違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~47side~

 

 

「よし、警備システムのハッキングに成功したよ。これで扉を開けても窓を割っても大丈夫だ。」

「ナイスだオタコン。」

「よし。シルバー、ドナルド・カーキンスを発見したら最優先で狙え。窓の向こうでも射殺して構わない。」

「了解。」

 

 

私は手近な扉に張り付いて中の様子をうかがう。扉は大部分がガラス張りであり、レースカーテンが掛かっていたが隙間から中を覗くことは十分に可能だった。中に誰も居ないことを確認し、慎重に鍵をロックピックでこじ開ける。扉を少しだけ開けて中の様子を探り、誰も居ないことを確認するとすばやく内部に侵入した。

 

まずは室内の索敵だ。隣の部屋に人の気配を感じ、まずはそこから調べる。隣の部屋では警備兵のひとりが休憩中なのかテレビをつけっぱなしにしてうたた寝をしていた。私は背後からゆっくりと近づき、首を折った。腕組みをさせ、そのまま寝かせておく。あと何人兵が居るのかわからないが、この調子で静かに仕事を終わらせていこう。私は次の部屋に向かった。

 

 

「よう。」

「スネークか。下はどうだ。」

「地下室の制圧は終わった。隠し扉とかがなければだけどな。」

「そうか。では2階を頼む。おそらくドナルド・カーキンスも居るだろう。」

「わかった。」

 

 

途中、下から上がってきたスネークと会い、そのまま2階へ上がっていった。私は引き続き1階部分を探索する。1階はそれなりに広く。会議室のような部屋もあった。私は何気なく会議室のテーブルの上に広げっぱなしにあった書類を確認する。

 

 

「これは・・・。」

『47。その資料をもっとよく見せて頂戴。』

「ああ。これはどうやらカテゴリ計画の一部のようだな。」

『これは・・・、この世界に配備してあるオーディンの発射手順書じゃないの。』

「うん?そのオーディンってのはこの間硫黄島で使ってたやつか?」

「そうだ。もっともあっちは同型のトールだったがな。」

『この手順書と適切な通信機さえあればこの家からでもオーディンを自由に発射できるわ。回収しておいて頂戴。』

「わかった。」

「通信機の方も壊しておいたほうがいいだろうな。」

『そうね。通信機の破壊も頼むわ。』

「だが俺が地下を見た限りそんなような装置は無かったな。」

「おそらくドナルド・カーキンスの私室かセーフルームだろう。ことを急いだほうがいい。この手順書が複製されてないとも限らない。」

『そうね。引き続き制圧を続行して頂戴。』

「了解。」

「わかった・・・うぉ!?」

ドタン!

「今の音は何だ。スネーク。・・・スネーク?応答しろ。」

 

 

スネークからの応答が突如として途絶えた。私は急いで2階へ向かった。途切れた直後の物音は2階の道路側の部屋だったはず・・・。廊下にはスネークが片付けたと思われる死体が転がっていた。奥に開けっ放しになっている扉を発見。先程の物音はその部屋からのようだ。

 

 

「シルバー、聞こえるか。」

「聞こえてる。」

「スネークとの通信が途絶えた。私の位置は把握できているか。」

「大丈夫。こちらからもよく見えるけど、スネークはその部屋に入った直後に見失ってしまったよ。」

「そうか。用心していくが万が一のときはブルーと二人でココへ来い。」

「了解。」

 

 

私は慎重に部屋の中を覗く。そのままゆっくりと中へ入った。部屋はそれなりの大きさがあり、一階のリビングの真上に当たる部分だ。中ほどまで進んだ後、奥の窓際に人が立っているのを見つけた。私はTAC-4をそいつに向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「また会いましたね。47。」

「!!お前は・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

そこに居たのはメイド服姿の女性。その顔は覚えている。あの時、紅魔館に居たメイド。エージェント50だ。

 

 

「お久しぶりです。何故ココにという顔をしていますね。」

「・・・。」

「私はあなたと同じクローンです。いくらでも量産が効くのですよ。ちなみに私は50番ではなく51番です。」

「何故この家にいる。」

「何故?当たり前です。あの時、紅魔館に最初に派遣されたときの指令責任者はドナルド・カーキンス殿ですから。」

「子飼いの兵ということか・・・。」

「そういうことです。ああ。ちなみにスネークさんには少々眠っていただいています。なに、30分もすれば起きますよ。」

 

 

彼女の足元にはスネークが横たわっていた。目立った外傷もなさそうなのでおそらく気絶させられているのだろう。彼女はゆっくりとこちらへ歩みだした。

 

 

「今日ココに来た理由は唯一つ。あなたにお礼がしたかったのです。」

「お礼?」

「ええ・・・。私を・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなふうにしてくれたお礼をね!」

 

“エアハンマー”

ドォン!

 

「くっ!」

 

 

私は既の所で避けた。背後にあった木箱が吹き飛び大きな音がしたが、特に警報も増援の気配もなかった。どうやら建物内の警備兵は全て片付けられていたようだ。

 

 

『47。その生産ロット、エージェント50の情報を今本部に問い合わせているわ。詳細がわかるまで耐えていて頂戴。』

「そんなに長くは持たないかもしれない。なるべく早めに頼む。シルバー。」

「わかってるよ。援護位置を変える。ココでは狙えなさすぎる。」

「ブルーもだ。こっちへ来い。」

「わかったわ!電話回線の切断はニドちゃんがやってくれたから警察は来ないわよ!」

「上出来だ。」

 

 

何回かハルケギニアの魔法を放ってきたが、それらを避けて壁に隠れた。壁からTAC-4だけを出して制圧射撃を行う。彼女もそれをみて近くの物陰に隠れ、AKSで応戦してくる。魔法戦は一瞬のうちに銃撃戦に変わった。

 

途中スリープクラウドなどを放ってきたが、窓ガラスを銃撃して外気を入れることで対処した。いくつかマガジンを消費し、弾薬も残りわずかとなったその時、彼女が一気に間合いを詰めてきた。どうやらあっちも弾薬が心もとないようだ。お互いに最後のマガジンを撃ち切るとそのまま格闘戦になった。

 

 

「あなたが集めてきた異世界の技術が私に適応されてからというもの、私はずっと訓練続きだった!初めはそれもいいかと思えたけど、段々あなたの活躍が妬ましく思えてきた!」

「・・・。」

「あなたはあんなに活躍しているのに、私はいつまでこうしていれば良いのか。自問自答の日々が続いた。そんな時声をかけてくださったのはカーキンス殿だった。」

『47。彼女に関する情報が手に入ったわ。彼女は元々情報収集用。戦闘用じゃないわ。つまり・・・。』

「カーキンス殿は私に任務をくれた!訓練しか能のなかった私に!情報を送ればカーキンス殿は喜んでくださった!私はそんな生活が好きだった!だが、そんな時そのささやかとも思える生活をぶち壊しに来たのがお前だった!お前が私の生活を、やりがいを、生きがいを奪ったんだ!」

 

 

前のロットの記憶まで受け継いでいるのか。なんとも身勝手な理論ではある気がするし、彼女の生活や生きがいなど知ったことではないが、彼女が何故訓練ばかりだったのかは何となく分かる。彼女の攻撃には決定打が足りていない。やはり戦闘用ではないのが目に見えてわかる。

 

 

「だから私はここでお前を倒し、ICAのメインエージェントになる!お前より優れていることを証明してみせる!」

「証明するのは構わないが自分の位置くらい把握するべきだと思うがな。」ドガッ

「くっ!何っ!?」

 

 

 

「カメちゃん!ハイドロカノン!」

ガメー!

ボォォン!

「ぶあっ!」

「今だ。シルバー。」

「了解!」

 

ダァーン!

 

 

自分語りに専念した結果、彼女は私との立ち位置が完全に入れ替わっていたことに気が付いていなかった。私は蹴りで壁際に押し込む。同時に通りに面した道路からブルーのカメックスの水の大砲、“ハイドロカノン”を食らった。彼女は外壁ごと吹き飛ばされ、何とか体制を立て直し立ち上がった瞬間、家の正面に陣地転換したシルバーの放った弾丸が脳天を貫いた。あの状況下で正確にヘッドショットを狙えるのは成長の証だろう。撃たれた彼女はそのままゆっくりと膝を付き、前に倒れて動かなくなった。

 

 

「・・・いっててて。何が・・・。何だこりゃ?」

「スネーク。気が付いたか。」

「そりゃああんだけ近くでドンパチやってりゃな。朦朧とした意識の中でお前らの会話が聞こえてきたさ。何言ってるのかはわからんかったがな。」

「そうか。ともかくコレで家の中も制圧した。後はこの騒ぎで慌てて逃げ込んだであろうセーフルームの中のターゲットのみだ。」

「ふむ。じゃあさっさと片付けてしまおう。」

 

 

セーフルームは今までの大部屋の奥の部屋にあった。頑丈な金庫のような扉が本棚の裏に隠されていたようだ。

 

 

「待っていろ。今オタコンが開ける。」

「ふむ、どれどれ・・・ああ。そんなに難しい鍵じゃない。すぐに開けられるよ。」

 

 

スネークが持ってきた端末を扉の電子錠に接続し、そのままハッキングを試みる。数分後、電子錠は解除され、扉が開き始めた。ブルーとシルバーも合流している。ゆっくりと開かれた扉の向こうにはターゲットが居た。奇怪なスーツに身を包みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、エージェント47とその後一行。はじめまして、だな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずいよスネーク!アレは特殊耐爆スーツ、通称“ジャガーノート”だ!」

「ちっ!」パァンパァンパァン!

キンキンキンッ

「くっそ!M9じゃ歯がたたないぞ!」

「カメちゃん!メガトンパンチ!」

ガメー!ドシーン!

グググ

「嘘でしょ!?カメちゃんのメガトンパンチを片手で受け止めた!?」

「ならこれならどうだ!いけ!ドサイドン!メガホーンだ!」

ガー!ガガガガッ!

ガキン!

「おいおい!?メガホーンも受け止めるのか!?」

「総員、一旦引け。体制を立て直すぞ。」

「「りょ、了解!」」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ドナルド・カーキンスは最後の切り札を出してきたわね。あの耐爆スーツはICA技術部が作った特別製よ。あなた達の装備では太刀打ち出来ないわね。今応援を送るから持ちこたえて頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

セーフルームから出てきたドナルド・カーキンスは全身を耐爆スーツで覆い、手にはPKPを持って完全武装状態で出てきた。今手持ちの武器だとこのアーマーを貫くのは至難の業だろう。

 

 

「フハハハ!さあおとなしくするんだ!お前らに妻と娘を殺された私にはもう何も残っていない!貴様らを殺して私も死ぬのだ!」

 

 

結果的に死んでくれるのならそれはそれで暗殺成功となるので一安心(?)だが、一方的にやられるのは癪だ。私達は各々牽制しつつ外へ出た。

 

 

「はっはっは!どこへ行こうとゆうのかね!」

「あいつ、どこぞの大佐みたいなセリフ言ってるわよ?!」

「幸い動きは鈍いから逃げようと思えば逃げられるけど・・・。」

「任務は失敗になるなそれだと。」

「バーンウッドによれば増援が来るらしい。それまで牽制しつつ足止めだ。」

「どうするのよ?」

「お前たち二人のポケモンとやらで何とかならないのか?」

「やっては見るけど・・・。」

 

 

ブルーはカメックスとニドクインを、シルバーはオーダイルとドサイドンで家の前の空き地で応戦する。私とスネークもTAC-4とシルバーのJaeger7を使って応戦する。しかしそれらのどの攻撃も足止め以外には役に立っておらず、家の前に留めるのが精一杯の状況である。

 

 

「どうなってんのよあのアーマー!ハイドロカノンもはかいこうせんすら効かないじゃないの!」

「こっちも駄目だ!つのドリルを受け止めさせて足止めするくらいしかできてない!」

「この狙撃銃では威力が足りんな。M82でもあればわからんが。」

「むむむ・・・。」

「はーははは!無駄な足掻きは止めておとなしく私に殺されるがいい!!」

 

 

足止めされている側が勝ち誇っているのはなんとも不思議な光景ではあるが、現状何も打つ手が無いのは事実だ。こんなことなら爆発物も持ってくればよかった。もっとも元々耐爆発物用のアーマーなので効かない確率のほうが高いが。

 

打開策を模索しているとどこからか特徴的な金属音が聞こえてきた。

 

キュラキュラキュラ…

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『おまたせ。本部のデータを解析した結果。これなら、あの装甲を貫くことができるわ。あとはこちらでやるからあなた達は下がって頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

現れたのはどこから持ってきたのか、M1A2エイブラムスだ。それを見つけたターゲットも驚愕を隠せず、見るからに動揺している。

 

 

「全員下がれ。巻き込まれるぞ。」

「カメちゃん、ニドちゃん、戻って!」バシューン

「オーダイル、ドサイドン、戻れ!」バシューン

「あんなもんまで持ち出すのかICAは・・・。」

 

 

私は全員に攻撃を中止させ、即座に後方に退避させた。全員が退避し終えるとエイブラムスは何の前触れもなく、その巨砲を轟かせた。

 

 

ドォォン!

ドゴシャァ

 

 

いくら大質量の大型生物の攻撃を防ぎきったとは言え、流石に120mmAPFSDS弾は防ぎきれなかったようだ。ターゲットの体は弾の反動でその重そうな巨体が宙を舞い、数m先へ落下した。砲弾は貫通こそしているものの爆散などはせず、きれいにターゲットの胸の辺りに穴が空いていた。おそらく中身はぐちゃぐちゃだろうが、その耐爆スーツは原型を保っているから驚きだ。

 

 

「ターゲットは死んだか。エイブラムスの搭乗員、聞こえてるな。ついでだ。眼の前の家の2階部分も吹き飛ばしておいてくれ。」

 

 

エイブラムスは榴弾を装填し、そのまま砲塔を家に向け2階部分へ向けて再度発砲。2階の大部分は吹き飛んだ。戻って通信機器を破壊する手間も省けたな。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

『ターゲットとその周辺の警備兵、及びエージェント50の死亡を確認。それと2階にあった通信機の破壊も確認。お疲れ様。裏切り者の始末が完了したわ。撤退して頂戴。』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「こんなのを使うならはじめから使えばよかったんじゃないの?」

「結局ターゲットにとどめを刺したのも戦車砲だし・・・。」

「俺らは必要だったのか?」

「私に聞くな。バーンウッドに聞け。」

『エイブラムスは最終手段よ。本当はあなた達に秘密裏に事を済ませてほしかったの。でもあんなものまで用意しているとは流石に想定外よ。』

 

ファンファンファン…

 

「なるほど。だから遠くからサイレンの音が聞こえてくるわけか。」

「げっ!流石に警察とドンパチするのは勘弁して頂戴!」

「同感だね。逃げようか。」

「それが良いだろうな。この戦車はどうするんだ?」

『それはそのまま放置でいいわ。搭乗員もすぐに放棄して脱出させる。元々、フォードフッドから盗んできたものだからね。』

「サラッととんでもないことしてるわね・・・。」

「っと、姉さん。サイレンの明かりが見え始めた。そろそろ行こう。」

「では総員。撤退だ。」

 

 

私達はターゲットの家の裏手にあるミシシッピ川に係留されていたモーターボートに乗って脱出した。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~3日後~

 

 

「結局の所、プロヴィデンスの居場所はわかったのかい?」

『いいえ。最後に若干騒がしくなったのが原因なのか、居場所に関しての情報は全てなくなっていたわ。別働隊もプロヴィデンスの下部組織を壊滅させることしかできなかったしね。』

「それは残念だな。まあこっちも似たようなもんさ。愛国者達のブローカーの一部が判明したからそこを潰しにかかろうと思うよ。」

『あなた達には感謝しているわ。おかげで我々の組織の膿を出すことに成功した。報酬はいつもの口座に送金しておくわね。』

「ありがたい。助かるよ。最近じゃ反メタルギアで募金を集めることもままならなくなってきてるからね。」

『エメリッヒ博士。今後も良い協力関係を気づいていきたいですわね。』

「あはは・・・。それはどうも。」

『では私はこれにて。またお会いしましょう。』

「ああ。じゃあ。」

 

 

「ふう・・・。」

「オタコン。例の女性は帰ったのか?」

「ああ。彼女はどうもやりづらいね。まあしばらくは顔を合わせないとは思うけど。」

「で、お前は今何を?」

「ん?ああ、この前デンバーの秘密基地で取得した情報の一部をもらったんだ。我々に関係がありそうな部分だけを抜粋してね。」

「ほほう。で、なにかわかったのか?」

「まだなんとも。今色々調べて・・・おや?」

「どうした?」

「これは僕たち向けじゃない情報が混じってるね。えっと・・・“実験体の再生産について”・・・ってこれ!」

「・・・あの組織もこれから大変だな。」

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「石器時代に戻せ」 +1000 『セキュリティをハッキングする。』

・「仲間たち」    +3000 『警備兵を全員制圧する。47の殺害数:3人以下。』

・「ラストダンス」  +3000 『エージェント50と交戦する。』

・「終幕の鐘」    +1000 『戦車の主砲でターゲットを殺害する。』

 

 

 

 

 




これでほぼ回収し終えたかな・・・?

外伝もおそらくこれで終了です。次回を書くとしたら別の小説扱いになりそう。
別アプローチの方は今後時間のあるときにこちらに統合する予定です。

なんか物語が集結してからもグダグダと長くなってしまいましたが、コレにて完結でございます。今までご愛読ありがとうございました。

感想や誤字報告はいつでも受け付けておりますwサラッと読み返しただけでも結構誤字ってるのが発見できたのでw


それではまた会いましょう。(BGM:We'll Meet Again)皆様良い暗殺ライフを!


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HITMAN『エピローグ』

『さてっと・・・。今日中に終わるかなあ・・・。』

『本来こういうのはバーンウッドさんがやるべきことじゃないんですかね・・・ブツブツ』

『まあ私も、こういうのをまとめるのは嫌いではないですからいいですけど。』

『・・・ああ、各々音声記録が付いてるのね。ヘッドセットは・・・っと。』

『さて、最初は・・・。』

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

~艦これside~

 

 

 

「第一艦隊!帰投しました!」

「よし。球磨、睦月、吹雪は入渠してくれ。深雪、白雪、如月は次の命令があるまで各自自由とする。」

「自由時間かあ・・・どうする?」

「私は吹雪ちゃんについていこうかなあ。かすり傷だけど汚れちゃったし。」

「そうねえ。私も特に怪我はしてないけどお風呂に浸かりたい気分。」

「じゃあ吹雪達についてこーぜ!」

「賛成~。」

 

 

横須賀第3鎮守府は、7年前の大戦において着任したばかりの若い提督がその類まれなる統率力で、前任者の悪行の影響で分裂しかかってた艦娘たちをまとめ上げ、最終決戦において深海棲艦の親玉への攻撃で武勲を上げたそうです。

 

そんな事があり、今では提督を慕うものも多く、最近のもっぱらの問題は提督に対する過剰なアプローチに起因するものがほとんどだそうです。

 

前任者の悪行の被害者の艦娘達にも大本営から謝罪と補償が与えられたそうです。生まれてきた子供と暮らす子もいれば、忌まわしき記憶として幼い頃に施設に入れて離れて暮らす娘もいるようです。その辺りは大本営も臨機応変に対応しているようで、大きな問題には発展していないようです。

 

 

現在、この世界は7年前に完全沈黙したと思われていた深海棲艦が再び現れ始めたことを受け、かつての鎮守府が続々と活動を再開し始めているようです。ICA情報部によれば既に深海棲艦の総数は10万を超えており、現在抑制策として秘密裏の技術提供を模索しているようです。ちなみに深海棲艦の設計図は今も大本営のメインコンピュータの奥深くに死蔵されており、いつか誰かが発見する可能性があるとのこと。その時発見者が“大本営が黒幕”と見るか、“かつての偉人の調査記録”と見るかは予測がつかないそうです。

 

この世界にあるICA施設“サイト01”は実験体の攻撃により破壊された箇所を修復し、すっかり元通りになっています。新たに対深海棲艦用のジャミング装置や要塞砲が設置された以外はほとんど変わっておらず、この世界における情報収集の重要拠点となっています。

 

太平洋はマーシャル諸島はベーカー島にあったICAの実験施設はそこに何か建物があったのかもしれない。というレベルで何も残っていません。あるのは鉄筋が刺さったコンクリート片。海に浸かったおかげで燃え残ったタイヤ。それと、島の中央にある巨大なクレーターのみです。ココで実験体が作り出されたことはICAしか知る由はありません。

 

 

世界は復興途中と言えます。沿岸部のほぼすべての大都市が壊滅したため、ニューヨークやサンフランシスコはもちろん。ロンドンやパリ、北京などの比較的内陸部に存在した都市も殆ど瓦礫に変わってしまっています。衛星からの調査では凱旋門やエッフェル塔は完全に倒壊しており、ビックベンや自由の女神像はそこにそういう物があったとかろうじて分かる程度に残骸が残るだけのようです。

 

アメリカ合衆国政府は何とか政府機能を存続することができたようで、現在首都をセントルイスに置いて北米全域に散らばっている生存者を救出している最中のようです。グレートブリテン島にはほとんど人が残ってはいません。よってイギリスという国は完全に消滅しています。フランスとドイツも国土の9割が焦土と化したため、政府機能は完全に崩壊しており機能していません。ロシアではシベリア方面に逃れていた人々がモスクワ近辺に戻ってきています。しかし、政治形態は元々いびつな資本主義だったので、新しく成立した政権は発展型共産主義を掲げて、国名も“ノーヴィ・ソビエツキー”に変わっています。アフリカ・南アメリカ・オセアニアには国家は存在せず、ユーラシア大陸全体でもノーヴィ・ソビエツキー以外では、東ヨーロッパ全域を支配する新たな国家“チェコ=ハンガリー欧州連邦”ヒマラヤ周辺の“ファランガ・インディア”、ゴビ砂漠周辺の“ニュートルクメニスタン”、成都周辺の“中央中華連邦”しか残っていません。

 

最近日本国は憲法を改正し、日本国憲法の全面廃止、大日本帝国憲法を復活させた上でそれを元に新たに新日本国憲法を策定したようです。対外戦争に関する条文はさり気なく削除されたようです。もっとも戦争する相手がいませんけど。この憲法によって艦娘の人権が確立したようです。

 

情報部は今後、30年以内に全世界の領域の再配分が行われると見ており、日本国の影響範囲がかなり拡大すると予測されています。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~ハルケギニアside~

 

 

「それでは使い魔召喚の儀をはじめますぞ。」

「ハイ!」

 

 

「初々しいわね。私達にもあんな頃があったのよね。」

「何おばちゃんみたいなこと言ってるのよキュルケ。たかが1年と半年前のことじゃないの。」

「そうよ。まあルイズみたいに大爆発連発するような子は今年は居ないでしょうけどね。」

「まあそうでしょうね。」

「あら?ルイズ?いつもなら“なんですってー!”って怒り出すところなのに。悪いものでも食べた?」

「キュルケ、あんたは全く変わってないわよね。私だってちょっとは落ち着きを持つようになったのよ。」

「サイトのせい。」

「!!」

「?タバサ。それどういうこと?」

「・・・まさかルイズ!?とうとう・・・!」

「そ!そんなわけ無いでしょ!」

 

 

エージェント・タバサの報告によれば魔法学院では今日、2年生の使い魔召喚の儀が執り行われるそうです。本来は数ヶ月前に執り行われる予定でしたが、国際情勢や先の実験体攻撃の余波によって遅れていたようです。

 

予定ではあと2ヶ月ほどでタバサを含むルイズ、キュルケ、ギーシュ、モンモランシーなどの主要人物は魔法学院を卒業するそうです。ルイズさんは、サイトさんと正式に婚約。卒業後はド・オルニエール領の領主として生活するようです。タバサは卒業後は正式にICAのエージェントとして偽装された職歴と共にオルニエールに住むようです。現在ICAがオルニエール領の村に拠点となる企業を設立中です。キュルケは卒業後はコルベール教諭と共に魔法学院で働くようです。愛は何者にも勝るということでしょうか。ギーシュとモンモランシーはそれぞれ実家へ帰るようですが、タバサの個人的調査では5年以内に婚約する可能性が高いそうです。

 

主要人物が卒業した後の世界について、現在ICAで安定化にどれほど影響があるのかを調査中です。彼らに代わる人物が現れるのか、それとも彼らの一生が終わると共に世界が閉じるのかはまだ未知の部分だそうです。

 

国際情勢に関しては概ね史実通り進んでいるようです。ガリアに関しては女王イザベラが強権を奮って国内の総生産を就任してから今に至るまでに5%上昇させたようです。アルビオンは内戦の後にトリステイン主導の暫定王政府が置かれ、卒業予定のティファニアがそのまま女王に即位する予定のようです。ゲルマニアとロマリアに関しては平常運転と言えます。しかしエルフの国の大部分が崩壊した影響でロマリアで聖地奪還運動が再び高まりつつあるようです。

 

この世界は先の戦闘によって我々が干渉したどの世界よりも崩壊が進んでいる世界でもあります。しかし、我々のインフォーマントの懸命の努力により、世界は通常通りの歴史線を辿ろうとしています。現在、エルフの国々の復興支援計画を策定中です。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~幻想郷side~

 

 

 

「暇ね。」

「平和だってことじゃないか。いいことだ。」

「そうは言ってもねえ。こう何もやることがないと体が鈍っちゃうわよ。」

「じゃあ紅魔館にでもちょっかい掛けに行くか?そろそろ時間的に咲夜がうまい菓子でも作ってる頃合いだ。」

「それもいいわね。じゃあお菓子を集りに行くとしますか。」

「集るって言うな集るって。」

 

 

 

 

幻想郷に関してもほぼ通常通りに戻ったようです。紅魔館ではしばらく厳戒態勢が敷かれていましたが、最近になって我々の気配が全くなくなったことから警戒を解除したようです。介入前の状態とほとんど同じ状況に戻りましたが、かつてのターゲットであり使用人であるエージェント50の墓標が紅魔館の裏手の森のなかにひっそりと建てられています。クローン技術の流出の恐れがあるため、埋葬された遺体は埋葬4日目の深夜に情報部が回収しました。

 

八雲紫は完全に冬眠から目覚めています。目覚めた直後に我々の元へやってきたかと思えば第一声に“やりすぎですわ”と。ICAに対する報復攻撃の兆候が見られたため、外交担当によって調停案が策定され合意に至りました。対地戦略攻撃衛星“ロキ”は八雲紫の能力が届かないように特殊防護シールドを展開しているので心配はありませんが、現地インフォーマントは一時作戦行動を自粛させました。調停案の一部であり、自粛期間は6ヶ月を予定しています。

 

霧の湖の水位はもとに戻っています。紅魔館のパチュリー・ノーレッジ女史がいろいろ手を加えたようですが、現在は以前と変わらずの景観に戻っています。しかし、衛星観測によれば湖の底の地形は大部分がクレーターに変わってしまっているようです。

 

先の戦闘における砲撃によって生じた被害は、紅魔館において中庭ほぼ全壊、正面玄関を含む外周壁損壊、館内一部浸水。人里において、家屋2件全壊、火の見櫓1棟全壊、田畑への水害12ヘクタール。竹林と永遠亭において、竹林の浸水5ヘクタール、永遠亭外周壁損壊400m。魔法の森において、森林の損壊24ヘクタール。その他湖外周の森林地帯の浸水64ヘクタールでした。

 

現地勢力の勢力図に変動は特に見られていません。人里で燃えた外来人の地下施設はICAのインフォーマントによって土地ごと買い上げられ、撤去されました。これも八雲紫の調停案の一部です。

 

調停案では侵入した外来人によるミーム汚染の除去も含まれています。思想書の持ち込みや布教活動が見られた場合は、インフォーマントによって処理されることになっています。しかし、調停案では外来人に対する処置にのみ触れられており、既に幻想郷に根付いている思想に関しては不問とされています。幻想郷の原始思想は八百万信仰がもととなる神道と仏教ですが、先日持ち込まれたマルクス主義やレーニン主義などの共産主義思想の一部が天狗の集落の一部で確認されています。インフォーマントの独自調査によると天狗の集落での中心人物は犬走椛のようです。ICAとしては、これらの宗教は調停案からは外れていると考えており、現在のところ対策をする予定はありません。

 

幻想郷における変化は多少残っているものの、他の世界に比べ概ね修復は順調であると言えます。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

~ガールズ&パンツァーside~

 

 

 

 

「コレより、第41回無限軌道杯を開催いたします!」

ワーパチパチパチ

 

 

「なんとか間に合ってよかったね!みぽりん!」

「うん!」

「黒森峰のほうも無事に参加できているみたいでよかったです。」

「だが精神的にはかなり来ているとの予想だ。」

「あんな事件があった後ですものね・・・。」

「で、でもお姉ちゃんは向こうで頑張ってるって聞いたし、エリカさんだって!」

「私がなにか?」

「うげっ!?逸見殿!」

「うげっ!とは何よ!」

「良いのですか?こちらに来て。」

「別に。私達黒森峰の試合は1週間後だから。偵察よ偵察。」

「堂々とした偵察だな。」

「あはは・・・」

 

 

こちらの世界は本来の歴史軸に対してあまり影響が見られません。私立L新良学園は解体されましたが、元々歴史も浅く戦車道大会にもあまり出場していなかったため、忘れ去られるという形になっているようです。

 

黒森峰女学園では警備体制が強化されたほか、入艦時のチェックが厳しくなった以外では特に変化は見られていません。ニーダーザクセン校へ単独留学を行っている西住まほに関しても、インフォーマントが観察を続けていますが特に変化は見られていません。しかし若干表情に影が多くなったとの報告もあり、近々インフォーマントによる精神鑑定が行われる予定になっています。

 

大洗女子学園に関してはこちらも警備体制が強化されたほか、艦橋部分の一般開放領域が狭まりました。しかしそれ以外には特に変化は見られていません。西住みほに関しても保険医に扮したインフォーマントによる精神鑑定の結果は良好であり、問題なしと判断されました。

 

現在、ICAではサンダース大学付属高校学園艦にて拠点となる企業を設立中です。稼働開始は来年度を予定しています。

 

 

 

 

 

 

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~米花町side~

 

 

「新一、パスポートは手配できたのか?」

「ああ。母さんが持ってたよ。ったく、なんで息子のパスポート持ち歩いてんだよ・・・。」

「毎度どこかへ旅行すれば事件事故テロに巻き込まれる親不孝な息子のことを憂いているんでしょ。」

「灰原お前な・・・。」

「まあまあ、ともかくこれでシンガポールへ行く準備は整いそうなんじゃろ?」

「まあな。だがあと一つ。重大な問題が残ってるけどな。」

「重大な問題?」

「あら、何かしら。」

「とぼけんじゃねえよ。アポトキシン4869の解毒薬だよ。アレがないと出入国審査通れねえだろ!」

「私も渡してあげたいけどねえ。誰かさんがいつだったかの時計台の前で飲んじゃった時みたいに悪用するんじゃないかと思ってねえ。」

「悪用って・・・アレは仕方なかったんだよ。そうするしか逃げ場がなくて・・・。」

 

 

 

米花町に関してはもとより犯罪発生率が高いためICAの暗殺に関しても市民の反応は通常通りと言えます。毛利小五郎、毛利蘭、江戸川コナンら主要人物たちにも変化は見られません。

 

銚子付近での自衛隊の出動と警察の追跡を振り切ったヘリコプターに関する報道と、東京中心部での同時多発テロ事件は、各報道局と各プロパイダに配置しているインフォーマントによって情報統制が行われました。全国紙、地方紙ともに問題視する動きは見られません。

 

工藤新一を幼児化させたアポトキシン4869なる薬品に関しては、組織構成員の一人から秘密裏に奪取することに成功しました。現在技術部によって解析し、暗殺用致死薬と幼児化用薬剤に分離が試みられています。

 

通称“黒の組織”と呼ばれる組織については現在までのところ正式名称は特定できていません。しかし、所在地及び構成員の何名かは判明しており、現在インフォーマントを配置中です。組織の上層部に潜入するために偽装襲撃計画が立てられています。

 

この世界は歪みと呼べる部分が少なく、修復の必要性がないと判断されており、ワールドセーフティの使用の必要性はないと考えられています。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

~ジョウト・カントー地方side~

 

 

 

 

「シルバーさんは今まで何を?」

「え?ああ・・・いろいろあって。」

「いろいろですか。まあ人生そういうこともありますよね!」

「(珍しくシルバーがドギマギしてるわね・・・これは脈アリかしら?!)」

「ブルーさんも、一緒だったんですか?」

「ええそうよ。シルバーは昔はもっと無愛想だったんだけどねー。」

「姉さん!そんな昔話を!」

「あら、良いじゃない。今のほうが進歩してるってことよ。」

「僕は今のシルバーさんのほうが良いと思いますよ!」

「あっ・・・う・・・。」

「(ふふふ・・・困ってる困ってる・・・。)」

 

 

 

 

ジョウト地方とカントー地方に関しては、目立った変化は見られていません。しかし、一部主要人物間の交友関係に変化があります。詳細は調査中ですが、ブルーとシルバーも主要人物であるため、彼らと関わりを持つはずだった人物に変化が現れているのだと思われます。

 

ヤマブキシティにおけるヤマブキシティ銀行爆破テロ事件は発生直後は大きく報道されましたが、情報統制を進めていくに当たり、世間の記憶から忘れ去られていく傾向にあります。現在、銀行のあった場所は新たに第三者によるビルが建設中であり、向かいの工事現場は別の商業施設に置き換わっています。

 

コガネシティのラジオ塔に配置されていたCIA職員を暗殺したことにより、CIAから公式に協議の場が設けられました。いくつかの文書がかわされ、最終的に一つの調停案でまとまりました。今後、この世界における活動は必ずICA、CIA双方に通達されます。相互に監視職員を配置し、管理することとなりました。

 

この世界は主要人物のうちの2名をICAエージェントにしたことにより、若干ではありますが歪みが生じています。ICAではこの歪みを矯正するべく、代理の人物を作成中です。

 

 

 

その他の世界に関しては現在修復作業が進行中です。しかし、旧アッテムト鉱山の修復は早くても15年、費用は3兆7000億ドルがかかると予想されており、現在修復の必要があるかどうかが上級委員会にて検討されています。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

『ふう・・・とりあえずこんなところかしらね・・・。』

『にしても随分派手にやってきたなあ・・・。修復専門の部署を作ったとはいえ、これは大掛かりな作業になりそう・・・。』

『そしてその大掛かりな作業の決済も・・・はぁ・・・。』

『そりゃあまあ、ICAは既に年間数十兆円を超える稼ぎがある組織ですけど、それにしたってその半分近くを修復に持ってかれるとなるとねえ・・・。』

『今後の身の振り方もちょっとは考えないといけませんね・・・。』

『・・・ん?あら、この書類はまだ決済終わってないじゃないですか。』

『えーっと?・・・“シャドウ・レディの同型艦追加3隻建造計画”?!』

『あんなもん後3隻も作ってどうしようってのよ?!何考えてんの?!』

『・・・って。私が異を唱えてもしょうがないんですけどね・・・まあ私のお金じゃないし良いですけど。』

『はぁ・・・決済決済っと。』

 

 

 

 

 

 

 




「私は未来については考えない。どうせすぐにやって来るのだから。」 - アルバート・アインシュタイン


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