Persona 4-マニアクス- (ソルニゲル)
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プロローグ
第1話 Prologue 5月7日(土) 天気:雷雨


『誰も「神」に立ち向かうことは出来なかった。
無論、あらゆる祈りの言葉も通じなかった。
「神」は破壊の限りを尽くした
世界は混沌に打ちひしがれていた
復活を望む死者たちの墓は暴かれ、獣たちは互いに牙を剥ぎ、生き残った人間は絶望と不信に重く沈んだ。
野火が消え、無明の夜を迎えた時、一匹の蛇が地に横たわる屍より這い出てきた。
蛇は体をくねらせて丘に登り、焼け焦げたかんの木の脇にとぐろを巻いた
そして、首をもたげて待った。
「神」は蛇に向かって言った。

呪われてあれ

これが「神」の言葉の、その始まりであった
蛇は暗雲に閉ざされた大地に向けて降りていった
蛇は幾多の災い、幾多の試練をもたらすべく、憎悪渦巻く世界へ、進んでいった。 』




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「…宣伝か」
「ん?お前の所にも来たのか?鳴上」
「え?花村も来たの?」
「え?ってことは里中もか?」
「うん。雪子も来た?」
「うん。…でも、なんなんだろうね、この宣伝」
「さぁ?考えるだけ無駄じゃん?」
「消すのが吉だな」


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『その思念の数はいかに多きかな』

 

 

 

幾星霜もの月日が流れたと思う。

俺が『至高の魔弾』を『大いなる意志』最後に放ち、そして、混沌が秩序を呑みこんだと思われた。

 

だが、『大いなる意志』はしぶとかった。

 

再び我々『混沌』の中から何度も何度も『大いなる意志』は復活して現れてくる。

 

何度も何度も、それを繰り返すうちに、俺は『大いなる意志』との戦いに疲れ果て、

いつの間にか懐かしい『アマラ深界』へと漂流していた。

 

「仲魔」は誰も居ない。

「悪魔」の気配もしない。

 

すると、すぐ近くに居た思念体が話し始める。

 

「よぉ、あんた。災難だったな」

「・・・ここはどこだ?」

「どこって、深界だが」と思念体は何を聞いてるんだと言った感じで人修羅に答える。

「アマラ深界か?俺の知っているのとは違うな?」

立ち上がりながら俺は尋ねる。

 

「まぁ、そうだけどよ。ここはちょっとばかし特殊なんだな。これがさ」と得意げに思念体は答える。

 

 

「ここはさ、とある人間が希望を込めて作り出した世界の深界なのさ」

 

「人間?」

「そうなんだなぁ、これがさ。この先の階段を上がればわかるよ」と思念体は暗い道の先を指さす。

人修羅は軽く頭を下げるとその指を指した方へと歩き出した。

 

 

 

「これでいいんですかい?ルイさん」

「ああ」と突然、金髪のスーツを着た男が現れ答える。

「でも、あなたも人が悪い」

「堕天使になにを言っているんだ?」

「それもそうでした」と思念体は笑うとその場からいなくなった。

 

 

「・・・新たな可能性が此処にはある」

 

 

 

人修羅は扉の前に着くと、躊躇せずにドアを開く。

その瞬間、とてつもない光が人修羅を襲う。

 

「クッ・・・」と思わず腕で顔を覆う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は~八十稲羽(やそいなば)八十稲羽(やそいなば)。」

 

気が付くと少し古めかしい電車に乗っていた。

 

 

俺は慌てて立ち上がり周りを見渡す。

(・・・幻覚か何かか?)

服は着なれたパーカーであった。

 

 

 

 

だが、それ自体、有りえない事なのだ。

 

 

俺が居た世界は受胎でなくなったはずなのだから。

 

 

そして、創世したはずだ。

 

 

 

『混沌』を。

 

 

 

 

訳が分からず、キョロキョロしていると、肩を叩かれる。

 

「慌てているようだね」

「・・・ルイか」

 

ルイと言われた男は金髪で黒いスーツを着た男性がそこには居た。

 

「お前のせいか」

「そうだな。」と否定することなく頷く。

 

俺は思わずため息を吐く。

 

「これから、更に苛烈な戦いになるだろう」

「知っている。だからこそ、こんなところに居る場合ではない。」

 

「休息だ。」

 

「休息?」と思わずガクッと肩を落としてしまう。

 

 

「意味は分かるか?心身を休めることだ」

 

 

 

 

「休息・・・」そういうと自分の手を見る。

その手には刺青の様なモノがなかった。

 

「この世界では目立ちすぎる。」

「力は?」

「お前が使おうと思えば使える。だが・・・あまり派手にやらないことだ。

それに、休息(・・)だ面倒事にならないようにしてはいるが・・・」

 

 

「お前から首を突っ込んではこちらも処理できん」

 

 

 

だが、そういうルイだが顔は少し笑っている。

 

 

 

 

「お前の身分は変わっていない」と上着のポケットを指を指すルイ。

 

人修羅はポケットにある財布を取り出し、もう何百年と見ていないバイク免許証を取り出す。

そこには変わらない、そして、昔に見慣れた顔がその免許証にはあった。

 

「・・・高校生ということか」

「ああ、住む場所もある」

「・・・いたれり、つくせりだな」と人修羅は外を見る。

 

「さぁ、次で降りるんだな。」とルイは椅子から立ち上がる。

そして、ハンチング帽子を被る。

 

 

「限りある時間を、再び過ごすといい。・・・また、会おう。」というと、隣の車両へと移動した。

 

 

 

俺は免許証を再び取り出す。

忘れていた。名前だ。

 

「間薙・・・シンか・・・」

 

そして、中身を確認する。

「・・・こんな大金初めてだ」と驚いた。

 

マッカがどういうレートか知らないか、大量の現金に換えられていた。

 

そして、もう片方のポケットには通帳が入っていた。

 

「・・・なるほど。マッカ大量に持っててよかった」

そこには0が無数に連ねられていた。

 

そして、電車が駅へと着くと同時に俺は椅子から立ち上がり、財布の中にあった切符で降りた。

ルイに言われて降り立った駅はとても都会とは言えない田舎駅であった。

酷い雨の中、俺は駅から屋根の付いたバス停へと走った。

 

(住む場所まで位には案内してほしいものだ)

 

そして、走った感じ。やはり、この状態では早くは走れないようだ。しかし、恐らく普通の常人よりは遥かに速いし、体も頑丈なような気がした。

 

そんなことを思いながら、空を見上げバスを待っていた。

 

 

 

「ここが稲羽中央通り商店街か」

シンが思わず口に出してしまうほど、田舎な商店街であった。

 

大雨の中、シンは傘など持っている筈も無い。

だが、シンは少し雨が嬉しく感じていた。

雨と言うモノを忘れるほどの長い月日、最近はただただ、戦っていた。

それ故に、天の恵み、雨を少し喜んでいた。

 

 

バス停からすぐ近くにガソリンスタンドがあり、その奥には寂れた店々がある。

シンは走ってガソリンスタンドへと入った。

 

「・・・見ない顔だね。困ってるのかい?」と店員は微笑み尋ねる。

 

「ええ、まあ」とシンは空を見上げて言う。

 

「傘、貸しましょうか?」と店員が傘を差しだす。

 

シンは田舎だなと思い傘を受け取った。

 

 

「・・・ありがとうございます。今度返しに伺います」とシンは傘を差し、お辞儀する。

「いいよ。」と店員は微笑み奥へと戻って行った。

 

 

 

と、ポケットに入っている携帯が鳴る。

 

「な、なんだこれ・・・」

取り出すと想像していた形態ではなく、大きな画面のある携帯電話であった。

 

シンは興味深そうにそれを眺め、横に付いているボタンを押すと画面が明るくなる。

そして、ガソリンスタンドの屋根の下でぎこちなく操作を慣らす。

 

 

「なるほど・・・こういうモノか」と理解したようにシンはメールを開く。

 

 

『稲羽中央通り商店街の神社裏のアパート1Fの101』と書かれておりそのあとに

『ちなみにだが、学校は5月13日からだ。それまでは街の雰囲気に慣れるといい』とも書かれていた。

 

 

(神社・・・あれか)と商店街の奥にある神社を目指し歩き始めた。

 

 

 

雨の中、傘を差し歩いている人がいる。

人が普通に歩いている風景に酷く驚きを隠せないのが事実だ。

 

一度は願ったこともある。

あんな混沌な世界じゃなくて「前の世界」のままでいいと。

 

でも、先生が殺されて。友人たちが理を開くなか、俺は何もなかった。

 

 

だから、混沌を選んだ。

俺はあの世界の可能性を摘んだ。

 

それが結果だ。

 

その結果があまりにも長い時間の中で永遠と思えるような戦いを繰り返しては、休み繰り返しては休みを続けてきた。

そんなことをやっていれば、創世の頃は今となっては随分と昔の話だ。

 

 

 

ぐぅ~

 

 

気が付くと何百年と感じていなかった「空腹」を感じた。

無尽蔵のマガツヒで空腹など感じることはなかったが、空腹を感じている。

 

と、辺りを見渡すと「愛家」なる食事する場所がある。

 

俺はその店の前まで行くと、張り紙がしてあった。

 

「雨の日限定。スペシャル肉丼」

 

 

 

 

(スペシャル肉丼・・・)

 

 

 

 

 

とてもおいしそうな響きと匂いに引き付けられ、俺は気が付くと席に着き、それを注文していた。

 

 

 

「バイクかぁ、やっぱりバイク乗りてぇよな、相棒」

「そうだな」

 

鳴上悠と花村陽介、そして里中千枝は雨の中、愛屋に寄る為、商店街に来ていた。

 

 

「しっかし、本当に食う気か?」

「あったりまえでしょ!雨の日にしかないんだから」と千枝は当然の様な雰囲気で言う。

 

「本当にお前は肉・肉だな」

「肉はあなたを裏切らない」と鳴上がドヤ顔で言いながら愛屋に入って行った

 

 

 

「まいどー」と同い年くらいの青い髪の少女が俺の目の前にとんでもなくでかい肉丼を置く。

 

食べ始めると、肉・肉・油・肉・油・・・

 

だが、ハラペコの俺には余裕だった。

 

そうしていると、学生が三人程入ってくる。

 

「まいどー」と淡々を少女は言う。

 

 

「「スペシャル肉丼」」と悠と千枝が声を揃えるが。

 

「ごめんねー。そこの人ので終わったアルヨ」と店長がシンを指さす。

 

「ごちそうさまでした」と丁度、シンが箸を置いたところであった。

 

「あいやー。あなたすごい早いネ」と店長らしき人物が空になった丼ぶりを見て言う。

 

「・・・す、すごすぎだろ」と陽介は空になったどんぶりをマジマジと見て言う。

「ちょ、失礼じゃん」と千枝は花村を引っ張る。

「・・・高校生?」とシンは制服を見て言う。

「はい。」と鳴上は頷き答える。

 

「・・・もしかして、八十神高校?」とシンはパーカーのポケットを探りながら、鳴上達に尋ねる。

 

「そうですけど、まさか同い年だったりします?」と千枝が軽い気持ちで尋ねる。

 

 

「たぶん、そうかな。君達の年齢知らないからなんとも言えないけど」

 

そういうと免許証を見せる。

 

 

「同い年なんだ・・・」と鳴上達は驚いた表情でシンを見る。

 

鳴上が驚いた理由は簡単である。同世代とは思えないほど、雰囲気が大人びていたからだ。

 

 

 

四人は同じテーブルに座り、自己紹介を始める。

これも何かの縁だと鳴上が言ったからだ。

 

「俺は鳴上悠。」

「わ、私は里中千枝」

「えーっと、俺は花村陽介だ。よろしくなっ!」

 

「俺は・・・間薙。間薙シン」

シンは噛み締めるように名前を伝える。

 

「間薙さんはどこに住んでいらっしゃったんですか?」と千枝がたどたどしく敬語でシンに尋ねる。

「なんで敬語なんだよ」と花村がツッコミを入れる。

 

「シンでいいよ。俺はトウキョウ。」

 

「すげぇ都会じゃん!ってか、首都じゃん!」と花村は大声で言う。

「東京かあ・・・」と千枝は想像できる限りの都会を想像するが、

「あーダメダメ。沖奈市(おきなし)が限界!」そういうと肉丼を頬張る。

 

「貧相な想像力だな。肉ばっかり食ってるからそうなるんじゃね?」花村がぼそりというと、「なんですって!」と千枝は立ち上がり怒る。

 

 

そして、口論を始める。

 

 

シンは微笑む鳴上を見て言う。

「いつも、あんな感じ?」

「そうだ」と鳴上もすこし笑いながら答える。

「そうなんだ・・・」

 

 

・・・思い出した。

俺もこうやって(いさむ)千晶(ちあき)なんかと笑い合っていた。

 

・・・どこで(たが)えたんだろう。

違う。初めから違ってたのかもしれない。

 

 

鳴上はシンの顔色が変わったのがすぐにわかった。

「どうした?」

「・・・いや、なんでもない」とシンは淡々と答え、氷で冷えた水を一気に飲み干す。

 

 

「・・・そういえば」鳴上は首を傾げたあと思い出したようにシンに尋ねる。

「シンはバイクの免許持ってるんだな」

 

「まぁ、トウキョウだと便利だったから」

 

「そうそう!俺たちも取りたいよな?相棒!」と花村は鳴上にそう言うと

「そうだな」と鳴上は頷く。

 

 

「・・・じゃあ、俺は引っ越してきたばっかりだから、いろいろ片付けなきゃならないから」とシンはイスから立ち上がる。

 

「手伝おうか?」と鳴上が言うが「いや、大丈夫だ」とシンはそれを断り、店を出て行った。

 

 

 

 

そして、鳴上の頭には恒例のあれが流れていた。

 

 

『我は汝・・・ 汝は我・・・

汝、新たなる絆を見出したり・・・

 

絆は即ち、まことを知る一歩なり。

 

汝、"混沌"のペルソナを生み出せし時、

我ら、更なる力の祝福を与えん・・・』

 

 

 

 

鳴上は首を傾げる。

(混沌なんてアルカナがあったかな・・・)と鳴上は内心思う。

 

「ん?どうしたんだ?相棒」

「いや、なんでもない」と鳴上はシンの出て行ったドアを見つめていた。

 

「・・・ちょっと用事が出来たから」と鳴上が立ち上がる。

「ああ・・・ってやべぇよ!俺、バイトだった!!」と花村は飛び上がり、すぐに愛屋から出て行った。

 

「じゃあ、私も帰るね」

「送ってくよ」

「だ、大丈夫だよ」とすこし照れながら千枝は愛屋から出て行った。

 

 

 

「・・・残念ながら、私達では扱えません」

マーガレットは本を閉じ、鳴上の手に持っているカードを見るとそう鳴上に告げた。

イゴールはただ、それを見つめ口を開く。

 

「これは非常に強い力でカードのペルソナが封じられています。

残念ながら、私達では扱えないということです。

しかしながら・・・もう少し"絆"の力を深めて頂くと・・・使えるやもしれませんな」

そういうと、フフフッ・・・と笑う。

 

 

「しかし、どんな人物からこの絆を得たのでしょうかね・・・」とマーガレットは不敵に笑い鳴上を見る。

 

それを見てビックっと鳴上は竦み、ベルベットルームを後にするのであった。

 

 

(シン・・・君は何者なんだろう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(空気が軽いなぁ)と夜になってシンは思う。

そして、部屋に置いてあった、大きなテレビをつける。

 

どうやら、奇怪な殺人事件がこの町では起きているというニュースがやっていた。

なんでも、アンテナに死体がぶら下がっていたとかなんとか。

 

・・・少し気になるが・・・

 

ただ、やはりルイの言葉を思い出し、テレビを消すのと同時に考えるのを止めた。

 

 

・・・明日はこの世界の現状を知る必要がありそうだ。

そう考えてシンはテレビを消し、冷たいベッドで寝る。

 

(思えば・・・ベッド自体も久しぶりか・・・)

そう考えているうちに瞼が重くなり、眠りへとついた。

 




2014 3/17 まえがきを追記。


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残酷な季節を超えた『皐月』
第2話 This World 5月8日(土) 天気:曇り


キャラクター設定

 

 

 

 

 

 

人修羅

 

 

名前:間薙シン(名ばかりで小説版を知らないので)

 

コトワリ:混沌エンディング。閣下END。

 

外見:人修羅になる前のまんま。

 

内面:

冷静沈着。だが、自分の選んだ『コトワリ』に自信と同時に多少の後悔も感じている。

だが、内面を曝け出すようなことは無く、無表情であることが多い。

 

心は微かに持っている程度である。

(完全な悪魔をルシファ―は望んでおらず、『人間的』強さを持った悪魔を生み出すために彼を選んだという設定。

人間は悪魔よりも悪魔らしいという言葉があるようにそういった場面が出てくるかもしれない)

 

重要な選択に躊躇なく犠牲を払う。大の犠牲より小の犠牲を選ぶ。

 

通常の人以上に好奇心旺盛である。

故に知識はけた外れである。

(それに『混沌』の王となっていた間、暇なので様々な悪魔から話を聞いていた)

 

 

「主な設定」

 

2004年に受胎に巻き込まれてから無論、歳などは取っていない。

 

全ての悪魔(LAWも含め)を使役し『ペルソナ』とは違い、外の世界でも召喚が可能である。(いわば、デビルサマナーに近い。)

召喚の仕方はサマナーとは違い。真女神転生3と同じ感じ。

『王』となったため、ストックなどはなく、何でも召喚できる。

 

スキルは全般使える。

(ルシファ―のスキルも使える。無論、至高の魔弾や王の中の王も。)

 

戦闘時に上半身裸になることはなく、服のまま戦える。

(無論、普通の服なので攻撃を受ければ破れる)

 

 

 

 

 

 

 

「・・・」

 

俺はこの携帯電話・・・ではなく、スマートフォンというらしいが、これで東京を調べた。

 

 

 

 

ハッキリ言うと、何一つ変わらない東京である事がわかった。

俺の行っていた高校もある、あの始まりの場所『新宿衛生病院』もある。

 

 

ただ、違うことがあった。

 

 

「ここは俺の居場所じゃない」

 

俺はセトに乗り、東京まで来ていた。

無論、気付かれないように色々と悪魔を使って偽装した。

そして、自分が住んでいた筈の集合住宅へ来た。

ここにはろくな思い出が無いし、正直、来ることを躊躇った。だが、俺は知りたかった。

 

そして、俺の住んでいた筈の部屋を上空から覗くと、そこには少し老けた親が居た。

 

だが・・・俺は居なかった。

俺の居たはずの形跡だけが消えていた。

何一つ。何もない。

 

そのほうがよかった。

もうあの場所が無いのだと言うことが少し安心した。

 

 

 

「気付いたか?」

「まぁ、概ね・・・」とシンはセトに乗り、その後ろに乗るルイと話す。

 

 

「ここは受胎の起きなかった世界。君の選択しなかった世界だ。

そして、君もまた無数にある『アマラ』・・・つまり一つの可能性だったという話だ」とそう言うと、髪をかきあげる。

 

「だが、君は円環から外れた。故に君は"君"しかいない。過去も現在、未来もそれが呪われた者の罰だ。」

 

「・・・そうか」と前を見ながらシンは無表情で応える。

 

「・・・まぁいい。謳歌(おうか)するといい」とルイはセトの背中から飛び降り、小さくなり消えて行った。

 

 

 

人目に付かない川辺でシンはセトから降りる。

シンが手を上げると、まるで何もなかったようにセトは消えた。

 

実際に昔と変わりなく使えるのかと改めて手を見つめて、シンは思う。

 

そして、時間を確認する。

 

まだ、時間は午後になったところであったため、シンはパーカーのポケットに手を突っ込み、商店街の方へと向かった。

 

空はどんより曇っている。

だが、シンの身には特に変化はない。気持ちが落ちこむであるとか、そういったことも、シンが少し驚くほどないのである。

 

忘れてしまったのか・・・或いは、もう『無い』のか

 

確かに蟠りの様なモノを感じてはいる。だが、それ以上のモノはない。

 

 

「・・・ん?」とシンは商店街に一部、変な扉があることに気付く。

そのドアの前で立ち止まり、周りを見る。

だが、周りの人間は見えている様子も無い。

 

(・・・入ってみるか)そう思い、シンはドアに取っ手を引き扉を開いた。

 

 

 

 

「・・・鼻は今はいな・・・誰?君」と青い部屋に白のノースリーブシャツにチェックのスカート、白黒縞々模様のニーソックスといったゴスパンク風味の少女が居た。

 

 

「・・・ここは何?」とシンは辺りを見渡し、椅子に座る。

 

「何?知らないの?・・・ってか、キミ誰?」

 

「名前を聞きたいなら、まずは君から名乗るべきだ」とシンは無表情に答える。

「・・・私はマリー」マリーと言う少女はぶっきらぼうに自分の名前を言う。

同時に少しブスッとした表情に変わる。

 

「俺はシン。間薙シン」

「・・・まなぎ、シン・・・変な名前」とマリーは不思議な表情でシンを見る。

 

 

「ヒホー。人修羅は何をやってるホー」と突然、ジャックフロストが勝手に出てきた。

「・・・勝手に出てきたらだめだろ?」

「ヒホー・・・アマラ深界にはオイラにかなうやつがいないんだホー」

「嘘はよくないぞ」

「う、嘘なんだホー」とシュンとジャックフロストがする。

 

 

「かわいい」とマリーはジャックフロストを見て、ジャックフロストを持ち上げる。

 

「ヒホー!キミは誰ホー」

「私はマリー」とジャックフロストを持ち上げ、フニフ二と触る。

「ヒホー!!」

 

 

と、突然、鼻の長い老人が現れる。

 

 

「これはこれは」

「あ、鼻」とマリーはその老人を見て言う。

 

 

 

「改めて言わせて頂きます。ようこそベルベットルームへ」

「勝手にお邪魔しています」

「ヒホー!鼻が長いんだホー」

 

 

「・・・これはこれは・・・我々と同じような者がここを訪れることになるとは。

フフ・・・久しぶりのことでございます」とその老人はすこし不気味に笑いながら言う。

 

「私の名はイゴール。お初にお目にかかります。ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。本来は何かの形で“契約”を果たされた方のみが訪れる部屋。

ですが、我々と同じ者もまたここを訪れることが出来るということです。」

 

そういうと、イゴールは少し不気味に笑う。

 

「・・・成程。では、おいとましようか、ヒーホー」

「わかったホー」と言うとジャックフロストは消えた。

 

「暇な時に伺います」とシンが言う。

 

「・・・また。ヒーホーを・・・その・・・つ、連れてきて」とマリーは少し恥ずかしそうに言う。

「わかった」とシンは言うと部屋を後にした。

 

ドアが閉じると同時にマーガレットが現れ言う。

 

「・・・これはとてつもないのがこの部屋を訪れましたね」と突然現れた20代後半の青い服を着た女性が言う。

 

それを聞くとイゴールはただ微笑むだけで何も言わなかった。

 

 

 

シンが目を開くと、トビラの目の前であった。

(・・・不思議な空間だった)とシンはぼんやりと思う。

そして、行き慣れた愛屋に足を運ぶ。

 

 

「アイヤー。昨日も来てくれたネ」と愛屋の店主にシンは言われる。

「毎日、来ますよ。恐らく」

「まいどー」と青髪の少女は答える。

 

 

そう、どうも料理というものを忘れている。

これまで人間の食べ物らしい食べ物を食べてもいなかったし、作ってもいなかった。

 

故に昨日・・・

 

「・・・なにか違う」

トウキョウに飛び立つ前にシンはごく普通のハムエッグを作った。

だが、ハムエッグですらなんだが、こんな味だったか・・・という疑問がムクリと出てきたのだ。『悪魔』になってから味覚がおかしくなっていたのだろう。

 

昨日のスペシャル肉丼は気が付くと空になっていたことしか覚えておらず、それがどんな味だったかは不明だ。

それでも、料理を・・・というより、少しは料理をするべきなのだろうか。かつても必要にかられて始めたのだから。

 

だが、始めのうちは面倒だ。そして考え付いた答えは

・・・やはり、外食なら間違いないと考えたのだ。

栄養の偏りは心身に問題だが・・・人間でない俺に、最早関係のない話だった。

そして、やはり料理は面倒だ。

 

故に愛屋。理由は近いから。

コンビニもない。レストランも近くに無い。

あるのは愛屋か惣菜屋・・・

あとは、空から見えた大きなデパート『ジュネス』だ。

 

ジュネスは余りにも遠い。

 

惣菜屋・・・名前は『惣菜大学』・・・あちらも興味をそそる。

 

 

そう考えると、何百年も前に居た世界なのに、酷く新鮮に感じる。

 

『思えば人類の世など、不毛なばかりだった……

(めし)いた文明の無意味な膨張、繰り返される流血と戦争、

数千年を経てなお、脆弱な歴史の重ね塗りだ。

……世界は、やり直されるべきなのだよ。』

 

 

氷川の言葉を思い出す。

 

 

氷川・・・確かにそうだ。

ただ・・・ただ・・・お前の望んだ世界ももう来ない。

 

 

 

 

「おまちー」そういうと、定食を少女が俺の前に置く。

「・・・いただきます」

 

俺は瞬く間に皿を空にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩壊する『カグツチ』が重い声でシンに言う。

 

 

愚かな・・・

闇に染まり我が力を解放したとて何になろうか・・・

・・・心せよかつて人であった悪魔よ。

我が消えてもお前が、安息を迎えることはないのだ。

 

・・・最後の刻は近付いている。

全ての闇が裁かれる決戦の刻が・・・

 

その時には、おまえのその身も

裁きの炎から逃れられる術はないであろう・・・

 

恐れ、慄くが良い、お前は永遠に呪われる道を選んだのだ。

 

 

 

・・・呪われてあれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そう。これが俺の選んだ道。

永遠に呪われて、永遠に終わることのない闘争だ。

 

それが正しかったのか。

 

・・・いや。語弊を生んではダメだ。正しい、正しくないではない。

 

俺がそれを選んだ、正しさや正義、悪も無い。

理想でもない、希望も何も含まずに、俺はその道を選んだ。

 

 

何故なら『ボルテクス界』にそんなものはなかった。

 

 

確かに氷川に始まり、勇、千晶、そして、先生・・・

それぞれがそれぞれの理想の為にあの道を選んだ。

 

だが、俺はどうだ?

興味と好奇心だけで『アマラ深界』の最深部まで行った。

 

何度か警告があった。『大いなる意志』の警告だ。

だが、そんな警告も俺の欲深さには何の意味も持たなかった。

 

だから俺は呪われた。

 

そんな呪われた俺がこうして、白い天井を見上げ暖かくなってきた布団の中で寝ているのだ。

 

 

 

実に不思議な話である。

 

 

 

「・・・もう少しこの町を歩いてみよう」

 

 

 

 

 




2014 4/27
タイムパラドックスを修正しました。
2004年で高校生の勇や千晶が何故に高校にいるんだっていうパラドックスです。


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第3話 Transfer Student 5月13日(金) 天気:曇

「不本意だが、再び都会から転校生だ」

そう前歯のでた教員、通称『モロキン』が嫌そうな顔でその生徒を見る。

 

名前を書こうとシンはチョークを持つ。

 

だが、シンが書いているにも関わらず、シンの方に顔を向けながら、そして、唾が飛ぶほど大声で言う。

 

「鳴上のようにだ!

ただれた都会から、へんぴな地方都市に飛ばされてきた哀れな奴だ。いわば落ち武者だ、分かるな?」

 

「女子は間違っても色目など使わんように!間薙、簡単に自己紹介しなさい」

 

 

「・・・間薙シンです。よろしくお願いします」とシンは淡々と且つ無表情に自己紹介をする。

 

「よろしい」と諸岡は満足そうに言うと、空いている席にシンを座らせる。

 

 

 

休み時間になると花村が話しかけてきた。

「シン・・・大丈夫か?」

「ああ、大丈夫。」

「鳴上が同じ紹介された時にな、確か『誰が落ち武者だ』って言ったせいだと思うんだわ」と花村は鳴上を見る。

「・・・ん?なんだ」

「それで、多分更に高圧的になったんだな」そういうと花村は笑う。

 

シンは鳴上を見る。

(思ったとおり、肝が据わってるんだな・・・)

 

 

 

 

授業が始まると俺はアマラに待機している、オーディンを呼ぶ。

 

 

(・・・なんだ。主)

(あとで授業の内容を教えてくれ)

(・・・ふっ。真面目な主だ)とオーディンは笑うと念話を終える。

 

 

 

俺はこの数日この町の事を知った。

街が一望できる高台や、稲羽市立病院、だいだら.という怪しい店も。

 

そして、奇怪な事件。

 

アンテナに吊るされた死体。

連続して、殺人事件が起きている。

 

・・・実におかしな話だ。

 

理由は吊るす理由。仮に・・・目立ちたいというのならもっとあると思う、だが、それをわざわざ、アンテナにつるす。

 

・・・こんな世界だと知ってルイは俺を送り込んだな。

 

そして、彼ら。

 

鳴上悠。花村陽介。里中千枝。そして、近くに居る長い黒髪の少女。

 

彼らから何か不思議な力を感じる。

悪魔・・・に近い力だ。

 

(・・・探ってみる価値はあるだろう)

 

 

 

そして、噂の『マヨナカテレビ』。

なんでも、

『雨の夜の午前0時に、消えてるテレビを一人で見て、誰か映ったら、それが運命の相手。』という何とも不思議な話。

・・・なんとも、信じがたい話だ。

 

だが、アンテナ・・・テレビ・・・関係性がないとは言い難い。

 

そもそも、こんな摩訶不思議なことが日常的に学生の間で浸透していること自体、実に不思議でならない。

 

・・・いずれにしても、彼らは何かを知ってる。

 

 

 

 

 

昼休み。

屋上に見慣れた三人と紅いカーディガンを着た生徒に連れていかれた。

 

 

「にしてもだ、どんまいだな。相棒と同じ様にしょっぱなからモロキンクラスか・・・」

と花村はシンの肩を叩く。

 

「でも、同じクラスでよかったね」と千枝はフォローするように言う。

 

「これからよろしく頼む」

そういうとシンは軽く頭を下げる。

 

「・・・えーっと、知り合いなの?」と紅いカーディガンを着た生徒は少し戸惑った表情で尋ねる。

 

「まあ・・・そんな感じかな」と千枝は言う。

「彼女は天城雪子」と鳴上が紹介するようにシンに言う。

 

「俺は間薙シン。よろしく」

「う、うん。よろしくね」と少し躊躇しながら返答する。

 

 

 

「・・・そう言えば、俺はここにきて日が短いが、随分と奇怪な事件が起きてるんだな」とシンがそれを言うと、少し驚きながら四人は応える。

 

「そ、そうだな。」

「怖いよねぇ」と花村と千枝は少し動揺しながら言う。

 

 

「君達も気を付けないと。」とシンは淡々と言い、昼ご飯のパンを齧る。

 

 

「・・・何が言いたいんだ?」と鳴上はズバッと斬り込む。

 

 

 

 

 

シンはパンを呑みこみ、シンは少し考え、口を開く。

「・・・俺は君達が何かを知ってると踏んでいるんだ」

 

その言葉に4人は少し動揺する。

 

「な、なんでかな?」と天城はシンに尋ねる。

 

「それは「ヒホー!アマラはつまんないホー!!!」」

 

 

 

「「「「!!!!!」」」」

 

 

四人は突然現れた、ジャックフロストに驚く。

 

 

そして、シンはため息を吐く。

 

 

「な、なんで!?」と千枝は思わず口に出す。

 

「おいおいおい!『ペルソナ』は『テレビ』の外じゃ出せない筈だろ!?ってあー!!!」

花村は驚きのあまり、弁当を落とす。

 

 

シンはジャックフロストを膝に乗せると、口を開く。

 

「『ペルソナ』・・・『テレビ』・・・実に面白そうな話だね」

シンは好奇心が止められず、口を開く。

その眼はまるで子供の様に輝いていた。

 

その目にやられたのか鳴上は「・・・わかった。話すよ」とため息と共に話し始めた。

 

 

マヨナカテレビあれは理想の相手を映すのではなく、『次の被害者を映す』というものだった。

始めはうっすらとシルエットが見える。

だが、その被害者が『テレビの中に入れられている』と鮮明に映るそうだ。

 

それだけしか未だに分からない。

 

そして、天城雪子もまた被害にあったが、彼らによって救出されたということらしい。

前に被害にあった、アナウンサー『山野真由美』。

陽介の想い人でもあり、先の事件の第一発見者でもあった『小西早紀』。

 

小西早紀に関しては前日にマヨナカテレビに映ったらしい。

それは苦しんでいるように見えたそうだ。

 

 

「・・・共通点は『女性』か。」とシンはヒーホーの頭に顎を乗せ唸る。

「あんまりグリグリやらないでほしいホー」

「ん?ああ、悪かった」とヒーホーを地面にヒョコっと降ろす。

 

「そ、それで、そのこれはなんなの?」と千枝が尋ねる。

「これじゃないホー!!ヒーホーだホー!!!」とプンプンしながら屋上を歩き回っていた。

 

「・・・後で話す。恐らく今話すと話がこんがらがる」とシンは言う。

 

 

「共通点はあと『事件関係者』という点だ」と鳴上は言う。

「天城さんは関係者なのかい?」シンは尋ねる。

 

「うん。うちの旅館にね、山野さんが泊まっていたから」

「なるほど・・・」とシンは頷く。

 

「俺たちじゃこの共通点が限界だな。・・・俺の空腹も限界だけど」花村は弁当を拾いながらシンに言う。

 

 

「・・・じゃあ、次。『ペルソナ』ってなんだい?」

 

 

ペルソナは自分自身と向き合える強い心が「力」へと変わる。

それが人格の鎧、ペルソナである。

 

そして、テレビ。

 

 

 

「先ほど『テレビの中に入れられる』と言っていたが・・・君達はテレビの中に入るのか?」とシンは至って真面目にその質問を鳴上達にする。

 

「こればっかりはそうとしか言いようがないよね」と千枝は花村と顔を見合わせる。

「そうなんだ」と鳴上は言う。

 

 

「テレビに入る・・・本当に不思議な事だ」

 

「俺たちも驚いた」と鳴上は手を見て言う。

 

 

 

「・・・でも、これで納得だ。君達に感じていた『力』それが『ペルソナ』というモノだった。

そして、この事件が『非現実的』であることも。」

 

そういうと、ヒーホーを呼ぶ。

 

「こっち来て」

「ヒホー!」

「こいつは「ジャックフロスト」・・・知っているのか?」とシンは驚き鳴上を見る。

 

 

「俺のペルソナにも同じのがいる」

 

「そうなんだ。けど、これはね『悪魔』なんだ」

 

「あ、悪魔ぁ!?」と花村は少し後ずさりしジャックフロストを見る。

 

「こ、こんなに可愛いのが悪魔なの?・・・ブフフッ」と天城は思わず吹き出す。

「ヒホー!オイラは此れでも立派な悪魔ホー!!」と少し怒ったようだ。

「立派・・・あははは!!!」と更にツボに入ったらしく激しく笑い出す。

「なんで普通に喋ってんのよ・・・」と千枝は天城を見て困った表情をする。

 

ヒーホーは怒りながら鳴上に近づくと。

「ヒホー!『魔石』ほしいホー」

「ごめん。今は持ってないんだ」

「ナメてもらっちゃ困るホ」とヒーホーは更に怒った様だ。

 

 

「俺のをやるよ。」そういうと、手品のように『魔石』を何もない空間から取り出し、ヒーホーに投げる。

「ヒホー!!!感激の涙がとめどなくあふれるホ!」とそれを受け取り小さく跳ねる。

 

「か、かわいい・・・」と爆笑する天城の横で千枝はそう呟く。

 

と、学校のチャイムが鳴る。

 

「マジかよ!昼飯食ってねーのに!!」

「あんたが弁当落とすのが悪いんでしょ」

「しょ、しょうがねーだろ。あんなのが突然でてくるんだからさ!!!」

「俺のあげるよ」と鳴上が花村に弁当を渡す。

 

「マジで!?いいの!?ありがとな!相棒!!」といいガツガツと食べ始めた。

 

 

「・・・シンは不思議だ。」と鳴上はシンに向けて言う。

「俺か?」

「ああ、会った時からそう思ってた」

「・・・そうか。・・・さ、『魔石』もやったんだ。かえれ」とヒーホーを帰還させる。

 

「ほ、本当にきえちゃった」と千枝はヒーホーが居たところを眺める。

 

 

 

 

 

 

 

放課後・・・

 

 

 

 

 

「なるほど・・・ここがあのCMの『ジュネス』か」とシンは鳴上と花村に連れられてジュネスへと来ていた。

 

「花村のお父さんが店長なんだ」

「おお。ってことは、お前の名前でツケが出来る訳だな」とシンは花村に向かって言う。

「勘弁してくれ。俺のバイク免許が遠ざかるから・・・」

「冗談だ」とシンは淡々と言う。

 

 

「なんかお前がいうと冗談じゃない気がしてきた・・・」と花村は困惑しながら言う。

 

 

 

「あれ?君達、なにやってるの?」

 

 

 

「足立さん」と鳴上が言うとそこには寝癖と、いつ見ても曲がっているネクタイ等、身なりを気にしないズボラな外見が特徴の男性が鳴上達の方へとくる。

 

 

「どうも、こんにちわ」

 

「君達、またなんか・・・って友達かい?」とシンを見て言う。

「ええ」

 

「間薙シンと言います。」とシンは無感情に自己紹介をする。

 

「へぇ。僕は足立透。刑事をやってるんだ」

「刑事さんでしたか。優秀そうですね」と少し頬を上げる。

「お!わかってくれるの?間薙君」と足立は少し嬉しそうに応える。

 

 

「それでですね、俺は引っ越してきたばっかりなんですけど、なんか怖い事件が起きてますね」

 

「心配しなくても大丈夫だから。・・・って言っても、まだ犯人の目星がついてるわけじゃないし」と足立は困った表情で語る。

 

「元議員秘書の生田目はアリバイがあったとニュースでやっていました。」

 

「そうなんだよねー・・・ってダメダメ!また堂島さんに怒られちゃうから!!じゃあね。君達も早く帰るんだよ」と足立はそそくさと去って行った。

 

 

「あの人が優秀そうに見えるって・・・どんな目なんだよ・・・」と花村はシンを見て言う。

 

 

 

「人ってのは案外、何か隠してるものさ」とシンは足立を見つめて言う。

「シンも何か隠しているのか?」と鳴上は言う。

 

「・・・そうだね、沢山あるよ」とシンは間を開け淡々と言葉を口にする。

 

 

「・・・さ、次はどこに案内してくれるんだい?」

「そうだなあ。とりあえず中に入ろうぜ」と花村は言うとジュネスの中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

シンは防水テレビを手に取り、機能などを確認してそれをレジへと持って行く。

 

「あれ?そういえば、シンって一人暮らし?」

花村は防水テレビを買ったシンを見て言う。

 

「そうだね。親が海外に長期出張だから。ついて行くのは億劫だし、親戚もいないし、どうせなら独り暮らししたいって言ったんだ。」

 

 

「相棒と同じ感じか。って言っても相棒は親戚と同居か・・・」と花村はテレビを見ている鳴上を見て言う。

 

 

この話は無論嘘だ。

俺が『いやぁ違う世界から来たんだ』といったところで彼らを混乱させるだけだ。

 

それにルイは言った。『限りある時間』と。

 

昔、学生の頃はそんなことを考えなかった。

この時間が永遠に続くものだと思っていた。

あのときだってそうだ、先生のお見舞いに『新宿衛生病院』に行ったときだって。

 

 

 

 

「ん?どうしたんだ?」

「そうだな」とシンは花村に声を掛けられ、ハッとしテレビをレジへと持っていった。

 

 

 

 

夜・・・

 

 

 

シンは大きな52インチのテレビでニュースの特集を見ながら先ほど買ったDVDプレイヤーを開封していた。

 

『静かな町を脅かす暴走行為を、誇らしげに見せ付ける少年たち・・・』

少し緊迫感のあるナレーションがテレビから聞こえてくる。

 

(いつの時代も、若者は変わらず暴走するんだな)とシンは思いながらそれを見ていた。

 

『そのリーダー格の一人が、突然、カメラに襲い掛かった!』

『てめーら、何しに来やがった!見世モンじゃねーぞ、コラァ!!!』

 

(モザイク掛かってても迫力・・・ん?)とシンはその恰好を見て気付く。

(うちの学校の生徒なのか・・・学年は一年か)

 

「何をしていらっしゃるのだ。主よ」とバアルが現れる。

 

「バアルか。というか、貴様らなんでかってにホイホイと出てくる。」

 

「それは我が主の身を案じているからでございます」

「心配ない。それに腑抜けた王のつもりはない」と不気味な笑みを浮かべバアルを見る。

 

「フフッ・・・それでこそ主だ。明日の夜は雨にございます」

「『マヨナカテレビ』か」

「ええ、恐らくあのマヨナカ「いや、言わないでくれ。結論までの工程が面白いのだ」」とシンはバアルの言葉を遮り、言う。

 

「・・・左様ですか。では、我は此れにて」とバアルは少し微笑みそのばから消えた。

 

 

 

シンは考えるように腕を組む。

 

 

 

「・・・とりあえず・・・ハラヘッタ」と嘆くシンであった。

そう言い、惣菜をレンジに入れそれをじーっと待っていた。

 

 

 

 

 




悪魔の口調が難しすぎて泣けてきた。

それとバアルはメガテン4のやつですね。
3だと『バアル・アバター』というのが居てしまうので、そことの違いには注意を。


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第4話 Midnight Channel 5月14日(土) ・15日(日)

5月14日(土) 天気:雨


5月15日(日)天気:雨/曇





その日はすぐに放課後になった。

 

 

千枝は教室の窓から外を眺めて言う。

「おっと、降って来てる・・・

天気予報、当たったね。」

「じゃあ、今夜だな、例のテレビ」

 

バアルの言う通り、天気は雨になった。

(さすがは嵐と慈雨の神だ)

 

すると天城は心配そうに「何も見えないといいけど・・・」と口にする。

「それが一番だけど、何か犯人に繋がるヒントでも見えればなあ・・・」

 

「そう、うまくはいかないだろう」とシンは言う。

「その小西さんの時も、天城さんの時もそういったのは見えなかったという話じゃないか。」

 

「そうなんだけどよ・・・」と花村は軽くため息を吐く。

 

「とりあえず、今夜テレビをチェックしよう」と鳴上が言うと皆頷いた。

 

 

 

 

 

 

学校から帰る途中、ビフテキなる肉がある。それを買い自宅へと帰った。

 

「・・・ん。固い」

シンはビフテキなる厳つい名前の肉を食っていた。

『ビフテキ』実に厳つい名前だとシンは思う。

トンテキとはまた違ったものだ。

 

 

「召喚」とシンが言うと、頭がひとつしかない白いライオンが出てきた。

 

 

「ウムム。ウマソウナ匂イダナ。主ヨ」

「食べるでしょ?」と大きなビフテキをケルベロスの前に出す。

「ワオーン。ウレシイゾ」とケルベロスはその肉にかぶりつき食べ始めた。

 

「ワレニモクレ。兄弟。」

「オルトロスカ・・・ムムム、主。モウ一ツナイノカ?」

「有るよ。」とシンはもう一つ同じサイズのビフテキを取り出す。

 

「アオーン。流石ハワガ主」とオルトロスは口にしようとした瞬間、ケルベロスが噛み千切った肉を少し分ける。

 

「兄者!」

「・・・オマエハ頭ガ多イカラナ」

「ワオーン!」と大きな雄たけびを上げ食べ始める。

 

 

 

(まだ引きずってたんだ)とシンは内心笑いながら自分もビフテキを食べる。

 

 

 

 

・・・少し思い出話をしよう

 

それは俺が『ボルテクス界』の『トウキョウ』に居た時だ。

確か『トウキョウ議事堂』に向かうために『ユウラクチョウ坑道』を通ったときだった。

その時、たまたまオルトロスを連れて居た時、このケルベロスと遭遇した。

 

 

そしたら急に会話を始めた。

 

 

「ヒサシブリダナ、ワガ弟ヨ。」

「グゥゥ・・・兄者ヨヒトツ質問ガアル。」とオルトロスが疑問を口にする。

 

「・・・?言ッテミヨ。」

 

「コウシテ 向カイ合ウト 頭ノ数ハ、ワレガ2ツデ兄者ガ1ツダガ、本当ハ兄者ノ方ガ頭ガ多イノデハナカッタカ・・・?」

 

「・・・」茫然とケルベロスはそれを聞いていた。

 

「ドウナノダ 兄者ヨ?」

 

「弟ヨ。・・・疲レテイルヨウダナ。」と心配そうにオルトロスを見る。

 

「ハグラカスナ兄者!」

 

「血族ノ ヨシミダ。コレヲ クレテヤロウ!!」

そう言ってチャクラポットを取り出しどこかへ行ってしまった。

 

 

 

流石の『ライドウ』も『ゴウト』もそれを見て笑っていたようだ。

 

 

 

 

「主。何ヲ考エテ居ルノダ?」

 

「何でもないよ。・・・うん・・・固い」とシンはライドウを思い出しながらビフテキを食べていた。

 

 

 

 

もうそろそろ、午前0時を迎えようとしていた。

 

(さて、映るか映らないか)とシンは大きなテレビを前にどっしりと座り真暗な部屋の中、真っ黒な画面を見つめていた。

外は雨である。

 

 

そして、時計の長針、短針、秒針が天辺に重なった瞬間。

 

 

(!!!)

 

シンは勢いよく立ち上がり画面に齧り付く様にテレビを見る。

 

画像が荒れたテレビに人影が映る。

 

(これがッ!マヨナカテレビ!)

 

 

そこには誰だかは分からないが、黒い影が見える。

 

 

(・・・肩幅や身長から男か・・・そして、高校生か?そして・・・?)

とシンは首を傾げる。

 

 

(何故だか・・・見たことがある気がする・・・わからない)とシンが考えている間にマヨナカテレビは終わってしまった。

 

 

(そして、犯人に繋がる様な情報も無い。黒い影だけが映る)とテレビに手を触れた瞬間。

 

 

「やめたほうがいい」

「!」シンはその声に身構える。

 

「やはり君は首を突っ込んだか。それに今の殺気・・・やはり私を倒しただけはある」

「ルイか」とすぐに構えを解く。

「・・・あれが『マヨナカテレビ』だ。」

 

「・・・知っていて、俺をここに連れてきたな」とシンが言うとルイは否定もせず肯定もせず。

ただ微笑みだけであった。

そして口を開く。

 

 

「でも、お前には面白おかしい話ではないか?」

 

 

「・・・ああ」とシンは笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

次の日・・・

 

シンは早い時間から既にジュネスのフードコートに居た。

幸い、雨も降っておらずシンはテントの下の席ではない席に座る。

 

「シンは早いな」と鳴上が一番に到着し席に着く。

「うむ。このジュネスのフードコートの味を確かめたかった」

「・・・よくこんなに食べられたな」とシンは綺麗に平らげられた皿を見て呆気にとられる。

 

 

「うーっす!ってすごい量だね」と千枝は空になった皿を見て言う。

「シン君は本当に良く食べるんだね。」

「でも、これで普通の体型だから、うらやましい」

 

「"腹が減っては戦は出来ぬ"って言うしな」とシンは言うと皿を返却所へと返しに向かう。

 

 

 

 

 

「えー、それでは稲羽市連続誘拐殺人事件 特別捜査会議を始めます。」と花村は噛まずにそれを言い切る。

 

「ながっ!」と千枝は思わず突っ込む。

「あ!じゃあここは特別捜査本部?」と天城は尋ねる。

「おー、それそれ!天城、上手いこと言うな。」

 

「"トクベツそーさほんぶ"・・・んー、そう聞くと惹かれるものが・・・」

 

「どうせなら、特命係でも良かったけど・・・」と鳴上は言う。

「相棒、言ってるやつもいるし」とシンは花村を見る。

 

「う、うるせぇ・・・つーわけで、昨日の夜だけど・・・」と花村が話を切り出す。

「マヨナカテレビは見た?」と鳴上が言う。

 

 

「見た見た!」と千枝は強調するように言い話を続ける。

「顔は分かんなかったけど、アレ、男だったよね?」

 

「背丈を見る限り男だし。恐らく高校生くらいだと思う」と鳴上は言う。

「そうだな」とシンは頷く。

 

 

「私も、あんな風に映ったんだ・・・」と天城は呟く。

 

 

「あれ、でも待って。」と何かに気付いたように言う。

「被害者の共通点って"一件目の事件に関係する女性"・・・じゃなかったっけ?」

 

「だと思ったんだけどな・・・」と花村は悔しそうに言う。

「でもまだ、映ってたのが誰なのかハッキリしてない。」

 

「確か私の時は、事件に遭った夜から、マヨナカテレビの内容、変わったんだよね?」

 

 

「なに?そうなのか?」とシンは驚きそう言う。

 

 

「言わなかったっけ?

急にハッキリ映って内容もバラエティみたいなものになっていた」と鳴上が補足する。

「今思えば、『クマ』の言った通り、中の天城が"見えちまってた"のかもな。」と花村は言う。

 

 

「待ってくれ。クマとは誰だ?」とシンは話を止める。

 

 

「・・・後日、会わせるよ説明する」と鳴上が言う。

「・・・ん・・・分かった」とシンはムズムズしながら席に着いた。

 

 

「それでね、昨日見えた男の人、はっきり映らなかったでしょ?」と天城は続けるように話を進める。

 

 

 

「もしかしたら・・・今はまだ"あっち"に入ってないんじゃない?」

「それなら、あの男の人・・・」

 

 

 

「まだ、さらわれていないということか」と鳴上は言う。

「うん。可能性高いと思う。」と天城は頷き同意する。

 

「誰なのかわかれば、被害に遭う前に先回り出来るな」とシンは腕を組み目を瞑る。

 

「ああ・・・それに、うまくいけば犯人とか一気にわかるかも知れない。」

花村は納得したように頷く。

 

「ハァ・・・けど、まず誰かわかんない事にはな・・・」

 

 

「・・・」とシンは目を瞑っている。

 

と千枝が咳き込み、口を開く。

「オホンッ・・・えー、ってことはつまり、ワタシの推理が正しければ・・・

映像は荒く、確かな事は言えないが、あれはどうも男子生徒だと思われる。

しかしそれだと、これまでに立てた予測とは食い違う・・・個人の特定がまだ出来ないので、つまりは、もう少し見てみるしかない!」

 

「・・・全部今言ったじゃねーか」

 

「う、うっさいな!」

 

と花村が突っ込みそれに少し顔を紅く染める千枝。

 

 

「んふふ・・・ぷぷ、あは、あーははは!!

おっかしい、千枝!

あははは、どうしよ!ツボ、ツボに・・・」

 

「出たよ……」と千枝は呆れ気味に天城を見て言う。

 

「ごめ、ごめええーんふふふ」とお腹を抱えて抱えて笑っている天城は俯き笑い続ける。

 

 

一方、シンは難しい顔をしたまま目を瞑っている。

 

 

「シン君。どうしたの?」と千枝はシンに尋ねる。

 

 

「・・・いや、まだ憶測の段階を超えてはいないがすこし被害者に関しては名前はわからないが特定はできている。」

「うっそマジで!?」と千枝は驚く。

 

 

 

「あれは恐らく、あの暴走族の少年だ。」とシンは腕を組むのを解く。

 

 

「あ!!そうだ!!私もなんかみたことあると思ってたんだけど・・・そうだ。」と千枝は思い出したように言う。

 

「そうだ!俺もなんか見たことあると思ったらそうだった!!」

 

 

「確か堂島さんが知ってるって言ってたけど・・・確か名前は・・・」と鳴上が思い出そうとするが、思い出せずに「・・・ダメだ」とあきらめる。

 

 

 

「あークソ!モヤモヤすんなあ!!」と花村はテーブルを叩く。

 

 

「で、雪子はいつまで笑ってんさ!この"爆笑大魔王"がっ!!」

「あはははは、千枝うまーい!」とやがて自分の腿を叩き笑い始める。

 

 

 

 

「・・・個人が特定できなければ、意味はない。もう一日待ってみよう。

バアル曰く、今日の夜は雨らしい」とシンは言う。

 

 

「バアル?・・・まあ、とりあえず今日も見てみよう。」と鳴上が言う。

 

 

「そうだな」と花村は言う。

 

そして、天城は笑ったまま千枝に連れられてフードコートを出て行き、花村はバイトへと行った。

 

 

 

 

既に夜になり掛けていた。

 

 

「お前の家はここだったのか。」とシンは一軒家を見上げる。

 

「・・・ウチに寄っていく?」と鳴上はシンを見て言う。

 

「ん?そうだな。少し寄っていくよ」とシンは頷くと堂島家に招きいれられた。

 

 

 

「あ、お兄ちゃん。おか・・・お友達?」とシンを見て恥ずかしそうに隠れ言う。

 

「お邪魔します」とシンは淡々と挨拶する。

 

「よお。・・・友達か?」

「ええ。少し話したらすぐにお暇します」

「彼はトウキョウから引っ越してきたんだ」と鳴上が紹介すると軽く頭を下げる。

 

「・・・そうか。ゆっくりしていくといい」と堂島はシンの目を見て何か思い、すぐに新聞を開いた。

 

 

 

 

そこからは他愛も無い話を鳴上としてシンは帰っていった。

 

 

 

 

「・・・悠。」と鳴上が見送りをした後リビングへ行くと堂島に声を掛けられる。

「なんですか?」

 

「彼は・・・その友達か?」とすこし戸惑いながら堂島は悠に尋ねる。

「そうだ」

 

 

「そうか。」と

 

「どうしたんです?」

 

「いや。あの目は大切なモノを失ってる目だ。」と堂島は新聞を閉じ、それをたたむ。

「・・・そうなんですか?」

 

 

 

 

「俺はあの目を何度も見てきた」と堂島の顔は真剣になる。

「あの歳で、俺も初めて見た。」

 

「・・・」

 

 

 

「お兄ちゃーん。お風呂。」と菜々子の言われるがまま、鳴上は風呂場へと向かった。

 

 

「お兄ちゃん。」とお風呂に入ろうとした鳴上は菜々子に話しかけられる。

「どうしたの?」

「お兄ちゃんの友達・・・少し怖かった」

「・・・そうか。でも、大丈夫だよ。いい人だから」と鳴上は菜々子の頭を撫でる。

「うん!」と安心したように頷き部屋へと戻って行った。

 

 

 

堂島は台所の小さな窓から外を少し眺め、新聞を再び開く。

 

(あの目を俺は知っている。あの目は絶望してる目だ)

 

そうおもいながら堂島は新聞を捲り、軽いため息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

そして、シンの予想通り、マヨナカテレビに映ったのはあの暴走族の少年であった。

シルエットがそうだとそれを証明していたと言える。

 

 

シンにその『マヨナカテレビ』が終わると電話が掛かってくる。

 

「見たか?」

その電話は花村であった。

 

「ほぼ・・・というか確定だな」とシンはテレビの近くのソファに座り、言葉を返す。

「ああ、名前は相棒から聞いたんだけどさ、『巽完二』っていうらしい」

「『巽完二』か・・・」

 

とシンは思い出す。

(商店街の近くの『巽屋』と何か関係がありそうだ)

 

 

「でさ、話変わるけど、相棒にも聞いたしついでにいいか?」

「ん?」とシンは答える。

 

 

「お前さ、ぶっちゃけ天城と里中どっちが好み?」

 

 

「ん?そうだな。それぞれいいところがある。

別にどっちがとかと言うのはない。」とシンは無感情に且つ淡々と答える。

 

「そ、そうか。相変わらずお前は冷静だな」と花村は少し残念そうに返答する。

 

「鳴上はどうせ『両方とも』とか言ったんだろうな」とシンは呆れ声に近い口調で花村に言う。

 

「おお!そうなんだよ!あいつ守備範囲広すぎだろ!」そういうと花村は電話の向こうで笑っていた。

 

「あー心配しなくても、もちろん内緒にしておくからな。じゃあ明日な!」

 

そう言って花村は電話を切った。

 

 

 

 

 

シンは大きなため息を吐く。

 

此処まで女を狙った犯行だったが、次は男・・・。

 

・・・どういうことだろうか。

 

これで犯人がなお一層わからなくなった。

共通点がない。巽屋に何かあるのか?

・・・いや、それも考えにくい。

 

いずれにしても今は解決しないだろう・・・




マヨナカテレビって英語で「Midnight Channel」なんですね。
直訳で「TV Midnight」だと思ってました。

文中の「これがッ!マヨナカテレビ!」はなんか書いてて笑ってしまいました。


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第5話 Investigation 5月16日(月) 天気:曇

戦闘は当分後になりそう・・・


「昨日の彼、やっぱりあのシン君が言ってた彼だよね・・・」と千枝は椅子に座ったまま言う。

 

「"巽完二"か・・・見るからに絡みにくそうだよな。」と花村は少し困った表情で応える。

 

「ってかすっげー怖い人なんじゃないの・・・?」と千枝は言う。

 

 

「あの子、小さいときはあんな風じゃなかったんだけど・・・」

「雪子、彼のこと知ってるの?」

里中の問いに天城は頷く。

 

「今は全然話さなくなっちゃったけどね。

あの子の家、染物屋さんなんだけど、うちで昔からお土産仕入れているの。

だから今も完二くんのお母さんとはたまに話すよ。」

 

「あ、染物屋さん、行ってみる?話くらい聞けると思うけど」と天城は提案する。

 

「よし、思い立ったが吉日。行こう」と鳴上はイスから立ち上がり皆それについて行く。

 

 

 

そして、五人で商店街へと来た。

 

「俺、荷物置いてくる」

「あーそうか。シンの家ってこの辺だっけか?」と花村が思い出したように言う。

「そうなんだ。」

 

 

 

 

 

「で、なんでついて来たの?」とシンは自宅のドアに鍵を刺した状態で皆に言う。

 

「いや、なんでだろうねー」と花村はニヤニヤしながら答える

 

「すごい外観が綺麗だったから」と天城は淡々と言う。

「雪子はそこなんだ」

 

「まぁ、別に何もないし、いいよ」とドアを開く。

 

 

 

四人は茫然とする。

 

 

「ひ、広すぎだろ!!!なんだよ!!テレビでけぇ!!!」と花村は靴を脱ぎドタドタとリビングへとむかった。

 

「ほ、本当にここシン君の家?」と千枝は驚きのあまり口が閉じない。

「うちの旅館の一番大きい部屋より広いかも・・・」

 

「すごいんだな。」と鳴上は部屋を見渡す。

 

 

 

広い部屋は1LDKなのだが、その広さは異常である。

 

 

「ちょっと待ってて着替えてくるよ」というと奥の部屋にシンは入って行った。

 

 

「でも、なんていうか・・・生活感が無いね」と天城は見まわして言う。

「そうだね。キッチンとか、テーブルがあるけど。とてもきれいだし」

 

 

 

「これは主の友人ですか?」

 

 

その声の主に四人が顔を向けると白い鎧を着用した美青年が居た。

 

「クーフーリンか。悪いが冷蔵庫からなんか飲み物をだしてやって」と襖の向こうからシンが言うと「了解したぞ。主よ」と応え、その美青年は冷蔵庫からペットボトルの飲み物を出す。

 

 

「あ、ありがとう」と千枝は顔を紅くしてそれを受け取る。

「ありがとうございます」天城は普通にその飲み物を受け取る。

「あ、え?あ、すみません」

花村はソファに座ったまま、それを受け取る。

 

そして、鳴上は普通に受け取る。

 

「・・・良い目をしている」とクーフーリンは鳴上を見て言う。

「ぜひ、わr「待たせた。行こう」」とシンはクーフーリンの言葉を遮り言う。

シンの恰好はいつものパーカーを着て出てきた。

 

そして、五人は部屋から出て行った。

 

「・・・クッ・・・無念だ」とクーフーリンは無視されたことにショックを受けそのまま『アマラ深界』に帰還した。

 

 

 

 

 

「か、彼は何者?」と千枝はシンに尋ねる。

「あれも『悪魔』だよ」

 

「普通の美青年だよなどう見ても」と花村は言う。

「そうだな」と鳴上は頷く。

「名前はなんていうの?」と千枝は神社の角を曲がり尋ねる。

 

 

「『クーフーリン』」

 

 

 

「見えてきたよ。あれが巽屋」と天城が言うとそこには正面に大きな看板があり、横からでもわかるように"巽屋"と書かれていた。

 

 

 

 

その扉を開くと、小柄な少年が店主らしきお年寄りと話していた。

 

「こんにちは。」と天城はその店主のお年寄りに話しかける。

「あら、雪ちゃん。いらっしゃい」とにっこり笑い応える。

 

彼らは親御さんが良い人そうでよかったと思っただろう。

 

だが、そのお年寄り独特の少し皺を重ねた笑顔にシンは少しイラッとする。

『大いなる意志』を思い出すからだ。

思わず、奥歯に力が入る。

 

 

「それじゃ、僕はこれで」

「あんまりお役に立てなくて、ごめんね」

「いえ、なかなか興味深かったです。ではまた」と小柄の少年はこちらを向くと軽く会釈し店を出て行った。

 

「・・・悪い、俺は外にいる」

「ん?どうしたんだ?」と花村は心配そうにシンを見る。

「いや。ちょっと体調がな・・・」そういうとシンは店を出て行った。

 

「あら。お友達大丈夫?」と店主の人も心配そうに見つめる。

「大丈夫だと思います」と鳴上は答える。

 

 

 

 

シンが外に出ると先ほどの小柄な少年が店の前に居た。

 

 

 

「・・・君は何を聞いていたんだ」とシンは何気なく声を掛ける。

「残念ながらお教えできません」

 

「君はこの町の人じゃないだろ」

「・・・」と沈黙する少年。

 

「・・・ダンマリか・・・まぁいい」とシンは不気味な笑みを浮かべる。

 

「頑張れよ。探偵」とシンは南側に向かい歩き出す。

「!!」と初めて驚いた表情を見せる。

だが、シンは視線は既に自販機に映っていた。

 

自販機で飲み物を買い、惣菜大学で四人が出てくるのを待っていた。

シンは前にある簡易的に作られた椅子に座り目を閉じる。

 

 

『もう、オマエとか・・・祐子先生とか

アテにしねぇし、関係ねぇよ。

こんな世界で・・・助けてくれるヤツなんかいるもんか。

オレは・・・一人で生きるしかないんだ。』

 

 

 

 

勇。今の俺もそう思う。

 

トウキョウ議事堂で死んだ先生・・・その最後に聞いた言葉で俺は独りで生きるしかないと思った。『カグツチ』への道を示してくれた。

それが俺の決意をなお一層、強くしたと思う。

 

そして、俺は『アマラ深界』の五層でライドウを雇った。

 

 

 

 

 

・・・元気にやっているだろうか。

 

 

 

 

 

「・・・し・・・ん・・・シン!!」

「・・・ん?」と声に気が付き、シンはそちらを向く。

 

 

「俺たちがデスレースしてたってのに・・・寝てたのかよ」と花村は息を切らしながら言う。

「悪い」

「でも、あったよ!つながりがさ」と千枝は言う。

 

 

 

「えーっと・・・なんだけ?」と千枝は照れながら言う。

 

 

それにガクッと三人はずっこける。

 

 

「この短時間で忘れるかよ、普通」と花村は膝を払い言う。

「しょ、しょうがないじゃん!あんな怖いのに追われたんだから、忘れちゃうよ!!」と千枝は言う。

 

「・・・あの巽屋で『山野アナ』がスカーフを買っていたんだ。」と鳴上が説明する。

「でもさ、それだけで犯人は狙うかな?」と天城は疑問そうに言う。

 

「そうだよなぁ。だってよ、たかだかスカーフだぜ?」

 

 

「・・・何か理由があるのか。だが、スカーフじゃ巽完二との関係性は薄い」

 

 

「でも、例の共通点は母親なら一致はしている。」と鳴上が口を開く。

「だが、それだと完二の方が映ったことが説明できない。」

「・・・そうだな」と鳴上は腕を組む。

 

 

「・・・じゃあ、結局どっちがさらわれるんだ?」と花村が質問する。

 

「「わからない」」と鳴上とシンは声を揃えて言う。

 

 

「あ、でもこれって私のときに似ているかも」と天城は言う。

「と、いうと?」

 

「よく考えたら、被害者の条件に一番合うのって私より、お母さんの筈でしょ?

山野さんに直接対応してたの、お母さんだし。

・・・でも私が狙われた。」

 

「だから、今度も母親じゃなくて息子ってこと?」と千枝は言う。

「だが、それだと動機が不一致だ。口封じにもならないし、怨恨もない」とシンが目を瞑り言う。

 

「読み違えてるのか・・・?実は最初の事件から、恨みでも復讐でもなかったとか・・・?

それとも染物屋に何か秘密とか?」と花村が目を細くし考える。

 

 

「・・・あーわかんねー!!」と花村は思わず叫ぶ。

 

 

「でも、このまま放ってはおけない」天城は強くそれを口にした。

 

 

「・・・もう、完二君に直接聞いちゃったほうがよくない?ちょっと怖いけど」

「!あ、そういえば完二のやつ変なちびっ子と約束してなかったか?」

花村は思い出したように言う。

 

 

 

動機無き誘拐殺人。これまでに3件起きている。

・・・関連性は第一被害者の関係者で且つ女であること。

 

だが、マヨナカテレビに映ったのは殆ど関係のないしかも男・・・

無差別ということでもない・・・どういう意味がある・・・

何かしらの意味がある筈なんだ。

 

 

 

「聞いてる?シン君」

「?すまない聞いてなかった。」

「・・・明日、完二があのちびっ子と学校の校門でしているから、張り込みをしようという話だ」と鳴上が掻い摘んで話す。

 

「ゾロゾロ皆で行っても仕方ないだろう。明日、俺はあの巽屋について調べてみる」

 

「そうだな。尾行するってのにゾロゾロついていたらばれちまうしな」と花村は納得し、頷く。

 

 

 

 

 

夜・・・

 

シンはテレビをつけ、ソファーに座っていた。

 

「・・・あの少年は何者だ?」とシンは空に言う。

「あの人間は白鐘直斗と言うらしい」とバアルは言うと手に持った杯に入ったワインを飲み干す。

 

 

「なるほど。探偵か・・・まぁいい」

「我に掛かれば他愛も無いが・・・どうする?『人修羅』」とバアルは不敵に笑う。

 

と次の瞬間、バアルの杯が床に落ちていた。

 

シンの腕がバアルが杯を持っていた方の手首を掴む。

シンの腕には青黒く光る『刺青』が発光する。

 

 

 

「その呼び名は止めろと言ったはずだ。俺は『人』なのではない。ただの『修羅だ』」

 

 

 

「フフフッ・・・それでこそ主だ。鈍っていなくて我も嬉しいぞ」と先ほどよりも更に不敵に笑い、そして笑い声を上げ、消えて行った。

 

 

 

 

 

「俺はもう、『人』などではない・・・」とシンは刺青の浮かんだ腕を見てそう少し悔しそうに呟くでのあった。

 

そう言葉に出すと出すだけ、苦しくなる。

 

何故、こうも割り切れないモノが沢山出てくる。

 

 

 

 

 

 

 



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第6話 Information 5月17日(火) 天気:晴/曇/雨

「じゃあそっちは頼んだ。」とシンは授業終了すぐに鳴上達に言う。

「ああ!こっちは任せとけ!」と花村は意気揚々と出て行った。

 

 

 

シンはすぐに稲羽中央通り商店街へと来ていた。

 

 

「・・・さて、悪魔で鍛えた会話術を使う時が来たか」と伸びをして準備する。

 

そして、カバンから一つの帽子を取り出す。

 

それは『ライドウ』から貰ったものだ。

 

 

 

昔の話だ。

帝都に俺は居た。

 

アマラ経絡はどこにでもつながっている。その時、初めて俺は知った。

正直、俺も驚いた。

 

 

 

名も無き神社に四人は居た。

 

 

「・・・」ライドウは無言でシンに帽子を渡す。

 

 

「・・・そういう顔をしていたのだな」

そういうとシンは帽子を被る。

 

「・・・似合うな」とライドウは淡々と言う。

 

「そうか」とシンは少し帽子を手品のように消す。

 

 

 

猫の『ゴウト』は厳かな声で言う。

 

「闇へと落ちた貴様は我々とは対極の者だ。

我々は貴様を倒さねばならんのだろう」

 

だが、とゴウトは続ける。

 

「我々は貴様とは戦友(・・)というべきであろう。

依頼者の依頼は達成された。それで報酬ももらえたそれで我々は満足だ。

それに、ヤタガラスからの依頼がないのでな」そういうとゴウトは笑う。

 

 

話していると、バアルが来る。

「主、そろそろ閉じてしまう」と疑似ターミナルを作り出しているバアルが言う。

 

「わかった」とシンはそれに触れる。

「・・・また、会おう。十四代目葛葉ライドウ・・・いや・・・くずのは」

と何か名前を言いかけてシンとバアルは消えた。

 

 

「・・・その名はもう捨てた」とライドウは跡形も無く居なくなったシンに言う

 

「教えたのか?」とゴウトはライドウに問う。

 

ライドウは横に首を振る。

 

「そうか・・・」

「ライドウ。あやつはやはり侮れんぞ」とゴウトが言うと、ライドウは頷く。

 

 

 

懐かしいな・・・

 

と、そう言っている場合ではない。

 

 

まず、初めに・・・あの親御さんか・・・

まぁ・・・いいか。

 

シンは巽屋に入る。

昨日見たが、綺麗な彩色だと感心するほどのものだろう。

 

 

「こんにちは」

「あら?雪ちゃんのお友達?昨日は大丈夫だった?」と優しく声を掛ける。

 

「・・・ええ、まぁ。」とシンは淡々と答える。

「それで、ですね・・・」

 

 

 

 

 

・・・中略

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」とシンは巽屋の扉を閉めて商店街へと出た。

 

 

やはり俺のイメージ通りだった。

人は外見ばかり見がちだ。故にその観念に捕らわれる。

 

巽完二。

天城の言う通り昔はあれほど荒れてはいなかった。

 

だが、昔、実家近辺を暴れまわっていた暴走族を一人で壊滅させたという伝説を持つ。

 

・・・でもそこには真意があるようだ。

暴走族の件は「族の出す騒音のせいで眠れない母親を救う」ためだったという事だ。

 

 

人は見かけによらないということだ。

 

 

そして、その他の人にも聞いた。

 

だが、出てくるの話は半々だ。

あの外見通り、悪い話。そして、その逆といったものだ。

 

だが、どの話も踏み込みが足らない。

 

 

そして、俺は聞き込みを終え、そして、四六商店前の自販機で『リボンシトロン』を買い、その場で飲んでいた。

 

 

(そういえば、あいつらはどうなんたんだろう)と考えた瞬間、叫び声が聞こえた。

 

 

「にげろー!!シンッ!!!」

「は?」とシンは何が起きたのか分からずぼーっとしていると鳴上に腕を引っ張られる。

 

「な、なんだ?」

「後ろ後ろ」と鳴上は涼しい顔で後ろを指さす。

 

そこには鬼の形相で金髪の悪魔が追って来ていた。

 

「これは・・・ライドウとの追いかけっこ以来だな」

「ライドウって誰だよ!!そんなこと言ってる場合じゃねーッ!!!」の声で皆更に加速する。

 

「ちげぇからな!!ぜってーちげえかんな!!」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ」と全員が息切れしやっとあの金髪の鬼を巻いたことを実感させる。

「はぁ、なんで・・・息切れしてないんだよ・・・はぁ。だって、お前が合流してから5分は走ったぜ・・・はぁ」と花村は地べたに座り言う。

 

鳴上でさえも珍しく表情が疲れ息切れしている。

無論、千枝や天城も激しく呼吸をしている中、シンは何事も無いように屈伸をし、伸びをする。

 

「まだまだ、余裕だ」

「はぁ・・・すごいね。シン君は」と千枝はそう言い両膝に手を付く。

 

 

 

 

「まいどー」とバイクで愛屋の少女が来る。

 

 

「?」とシンは見渡すとシン以外全員が千枝を見る。

「肉!!」と千枝は愛屋の少女から肉丼を奪うように受け取り、食べ始めた。

 

 

「どんぶりは、置いといてー」

「ああ、いいよ。俺が持っていくよ。どうせ、今日も愛屋だろうし」

「まいどー」と少女は軽く頭を下げバイクに乗り颯爽と走り去っていった。

 

 

 

「・・・それでどうだったの?」とシンは言う。

 

「・・・特に変なところはなかったと思うが。

ただ、なんか"変"って言葉にとても反応してた気がする」と鳴上は言う。

 

 

「"変"か・・・」とシンは腕を組み考える。

 

 

「まあ、今日のところは何も起きなかったし、それでいいか・・・」と花村はやっと息が整い安心したようにその言葉を口にする。

 

「けど、あいつがテレビに映ってからもう何日も経ってる。天城の時を考えると、起きるんなら、そろそろだよな」

「気が抜けないね・・・明日もまた、様子見に来た方がいいかも。」

 

「そうだな」

 

 

 

 

そういうことで、今日は解散となった。

 

 

 

「このあと暇?」と鳴上がシンに向けて言う。

「まあ、暇だ」

「じゃあ、愛屋に行こう」

「ああ」

 

 

 

「あいやー。毎日来てくれてありがとうアルヨ」と店主にシンは言われる。

「これ。先ほどのどんぶりを」

「まいどー」と蒼髪少女がそれを受け取り奥へとはけた。

 

「何にしまするネ」

「いつもの」というとシンは席に着く。

「俺は肉丼で」と鳴上も席に着く。

 

 

「それで、話しかい?」

「まあ、そうだな」と鳴上は言う。

「どうだ?ここは」

 

 

「・・・君がそれをいうとは少し驚きだ。」とシンはコップに水を入れると中に入っている水を見る。

 

 

「君こそ、どうなんだ?ここは」

「・・・悪くない。友人も出来たし、信頼できる仲間が出来た。」

「そう・・・よかったね」とシンはコップの水を飲み干す。

 

 

「おまちー」といつもの少女が二人の前に肉丼を置く。

 

鳴上はお腹が空いていたのか、肉丼を物凄い勢いで食べ始める。

 

 

 

(君だったらどうしただろうか)とシンはそんな鳴上を見ながら思う。

(世界が壊れて、変わっていく友人にどんな言葉を掛けただろう)

 

 

 

 

 

 

『ハッハッハ。わざわざ、やられに来るなんてシンは頭が悪いなぁ。

ムスビの世界が出来るまで待てば、もしかしたら、オマエも死にこそすれ

生まれ変われたかもしれないのに。

いくら友達だったからといっても・・・オレの創世を邪魔するヤツは許さないよ。

残念だけどオマエもサヨナラさ。永遠にね・・・』

 

 

「…仕方ないか」とシンは手に力を込める。

 

「…俺、お前の事嫌いだったんだ!」

 

 

そういうとシンは飛び掛かるように戦いを始めた

 

 

 

 

『なんで・・・なんでオマエはいつも、オレの邪魔ばかり・・・なんで・・・あん時みたいに・・・助けてくれない・・・』

そういって勇はシンを見上げる。

勇にはシンがどう見えたのかは分からない。

 

「・・・貰って行くぞ」とシンはヨミノタカラを手に取る。

 

『・・・おまえの勝ちだ・・・好きにするが・・・いいさ・・・』

 

「ああ、俺の勝ちだ」

 

『俺も・・・お前のこと・・・嫌いだった』というと勇の体から『マガツヒ』が漏れ出し、意識を失う。

だが、その顔は笑っていた。

 

 

「・・・あれは嘘だ。好きだったさ、お前のこと。」

シンはそう呟くと扉が開き、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

『よくぞ来た。

汝もまた、戦う運命にある者なれば礼は尽くそうぞ・・・』

 

そういうと間を開けて千晶・・・いやバアル・アバターが口を開く。

 

『・・・わたしたちは、もう友ではない。

コトワリを違え、創世を争う、出会えば戦うしかない敵同士だ。

幸いなるか、互いに涙も流れぬ体になった。』

 

「そうだな」とシンは不敵に笑う。

 

その笑いに答えるように相手も笑みを浮かべる。

 

『戦を交えることなど、何のためらいも無かろう・・・

さあ、真に優れたるは汝か我か。全ての力をもってかかってくるがいい!』

 

 

 

苛烈な戦いをくりひろげた。

流石は力を選んだ『コトワリ』だった。

だが、苦戦したものの俺は勝った。

 

 

 

 

『・・・あなたのほうが・・・優れていたのね・・・

それだけの・・・力を持っていて・・・どうしてヨスガに・・・』

 

 

「戯言をヨスガより・・・混沌の方が興味深いからな」とシンはニヤァと笑う。

 

 

『変わったわ・・・あなた』と千晶はそのままぐったりとし『マガツヒ』が漏れ出す。

 

シンはそれを気にせず、アメノタカラをシンは拾い上げその部屋を後にする。

 

 

トビラが閉まると、高い高い462Fである。

そこからシンは空を見上げる。

 

その空は間近に『カグツチ』が見える。

眩しいほどではないが、確かにこの『ボルテクス界』と照らしていた。

だが、シンの顔は晴れやかではない。

 

「・・・変わったんじゃない・・・初めから俺はこうだった」

「これで、もう・・・誰も居ない」

 

そう思うと、シンは胸が熱くなった。

 

 

 

 

 

世界を変える為に殺し合った。

それに関してはもう何も思わない。

だが、人間の君だったら・・・何を思ったんだろう。

 

 

 

 

 

「ん?どうしたんだ?」と鳴上はぼーっとしているシンに声を掛ける。

「いや、なんでもない」

 

そうシンは言うと、割り箸を割り、肉丼を食べ始めた。

そして、愚問であることに気が付いた。

あの事があったからこそ、今の俺を形作っている。

 

 

「それで、シンはなんで『悪魔』が使えるんだ?」

 

「・・・そういう環境に居たんだ」とシンは答える。

 

「どういう環境なんだろう」

鳴上は怪訝な顔をした後に笑う。

 

「すまないな。詳しくは・・・まだ言えん」とシンは淡々と謝る。

 

「いいんだ。シンが話したくなったら話せばいい」

 

「・・・ああ」とシンは頷く。

 

 

[Rank Up 混沌 1→2]

 

 

 

「・・・まいどー」

 

二人は愛屋を後にした。

「じゃあ、また明日。」と鳴上は手を振り商店街出口に向かって行った。

 

 

 

 

その日の夜は雨だった。

シンは雨だと知り、テレビの前で『マヨナカテレビ』を待ち呆けていた。

まだか、まだかと期待する気持とは裏腹に時間は進まない。

気持ちだけが焦る。

 

(・・・一旦、落ち着こう。)

 

そう思うと、座禅を組む。

すると、チリーンという鈴の音が部屋に響く。

 

「・・・何か用か?だいそうじょ」

シンは目を瞑ったまま、暗闇に居る骸骨の僧侶に向かって言う。

 

「・・・シン殿。汝の心の乱れは衆生の迷い。我に任せよ」

「そうか」とシンはふぅと息を吐き、肩の力を抜く。

 

 

「南無・・・」とだいそうじょは言うと手に持った鈴を鳴らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・すっきりした」とシンは目を開く。

これは毎回止められない。心身ともにリラックスできる。

 

「・・・流石はシン殿。我が死の救済を退けるとは・・・」

「俺にとっては最早、リラックス作用しかないがな」とシンは時計を見る。

 

 

「主よ。そろそろ時間です」とバアルがシンに言う。

「ああ、わかった」とシンはテレビの前に座りマジマジとテレビを見る。

 

 

すると何もついていないテレビに何かが映り始める。

(きたか)とシンはテレビに齧り付く様に凝視体勢に入った。

 

 

 

前のモノとは違い、非常に鮮明に映っている。

 

 

 

 

 

 

すると上半身裸で、ふんどしの巽完二が映る。

 

 

 

 

 

「皆さま・・・こんばんは。"ハッテン、僕の町!"のお時間でえす」

とオカマ口調で完二が話し始める。

 

 

 

 

 

 

「・・・」

「・・・ジャックショップの『マネカタ』を思い出しますな」とバアルは杯を持ち、ワインを飲む。

 

 

 

「今回は性別の壁を越え、崇高な愛を求める人々が集う、ある施設をご紹介しまあす」

 

 

 

「これは上品なブドウの香りがしますな。こちらも悪くない」

「あなたの酒も悪くないですよ」

「へへ、相変わらずわかってるじゃねーか、ディオニュソスさんよ」

とバアルはディオニュソスとマダを勝手に呼び会話を始める。

 

 

「・・・ちょっと静かに頼む」

 

 

「わかりました主」とバアル達は隣の部屋でテイスティングという名の飲み会を始める。

 

 

 

 

「極秘潜入リポートをするのは、このボク・・・巽完二くんどえす!

一体、ボクは。というかボクの体は、どうなっちゃうんでしょうか!?」

そう言いつつも完二はまるで動物の様に息が荒いように見える。

 

「それでは、突・入、してきます!」

 

そういうと画面の奥に入って行って、マヨナカテレビは消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

シンは真っ黒になったテレビ画面を見つめて思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・きっつ)

 

 

 

 

 

 




アマラ経絡の設定は元とかけ離れてるけど、ライドウがどう来たのかっていう疑問もこれで解消したかったのがあります。

そして、ライドウは・・・登場・・・しますん。


完二ですね。ホモォ ┌(┌^o^)┐回に突入ですね。


次は人修羅がIn the TVですね。恐らく。



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第7話 In The TV 5月19日(木) 天気:晴

「また会ったな、・・・少年探偵」とライドウの帽子を被ったシンはジュネスの入り口で完二の店に居た少年に声を掛ける。

 

「・・・何故、僕が探偵だと?」

 

「・・・簡単な話だ。君の背丈、そして、歳で刑事とは考えにくい。

それに万が一君が刑事だとしても・・・」

 

そういうと、シンは少年探偵の靴を指さす。

 

「靴のすり減りが浅い。

つまり、その時点で足を使う刑事であることは考えにくい。

 

それに君は筋肉量が少なすぎる。刑事ではないことは明白だ。」

 

「・・・」と無言で少年探偵はシンの話を聞く。

 

「じゃあ、なんで探偵になるのか。

 

それはたまたま俺が見かけた光景だ。君は巽屋の人に聞き込みをしていた。

前の会話までは分からないが、まぁそうだろう。

それに」とその少年の帽子を取る。

 

 

「この帽子はそれを意識してるとしか言いようがないな」とシンは帽子をパッと取り天に高く上げる。

 

 

「か、返してください」とその少年は帽子に手を伸ばす。

 

 

「返すとも」と腕を降ろし、すぐにそれを返す。

 

それを受け取り、軽く咳払いをし少年は口を開く

 

「・・・それで、僕に何か用ですか?」

 

「巽完二と少し前に話していたな。何かおかしなところはなかったか?」

 

・・・何故、俺がこんなことをしているのか。

それは一昨日映った『マヨナカテレビ』が問題だ。

 

 

 

昨日の放課後まで話は戻る。・・・

 

 

5/18(水) 天気:晴

 

 

 

「ハァ・・・」と花村がため息を吐きその話題は始まった。

「今までのこと考えるとさ。完二はもう、あの中じゃねーかな・・・」

 

そういうと頷き、シン以外は下を向く。

皆、思うことがあったのだろう。とシンは感じていた。

 

 

「"マヨナカテレビ"って結局、何なんだろう」と天城は呟く様に言う。

「んー・・・」と花村は分からずに唸る。

 

「初めは心霊現象みたいなモンかなって噂を試したら、見えたんだよね。

そしたら、"もう一つの世界"なんて大事に関係してて・・・」

「?噂になってるってことは、実際に見てるヤツが結構居るって事だよな」と花村が口を挟む。

 

「このまま増え続けると、それこそ問題になるだろうな」とシンは腕を組む。

 

「・・・あのさ、話が逸れるんだけど・・・あの映像、犯人も見てるんだよね?」

 

「たぶんね、きっとどこかで面白がっ・・・まさか楽しんでる!?人を放り込んで、その"番組"を楽しんでるの!?」

「あーなるほど、確かにその可能性あるな。

うわ、頭ん中の犯人像が一気にヘンタイ属性になったぞ!!」

 

千枝の言葉を聞いて皆、変な方向へと話が逸れる。

 

「"キミの全てが見たいよ、雪子たーん"」

 

「・・・」

 

「うっわ、うわ、うっわー!!」

 

陽介の演技に、千枝はドン引き。

 

「てか、雪子だけじゃなく、一緒にあたしのも見られた可能性アリ?」

「大いにある」と鳴上は上を向く。

 

「わーっ!!犯人・・・絶対に許さん、顔中靴跡だらけにしてやる!!」

と足で何かを踏みつける動作をする千枝。

 

 

「・・・でも今回の件でその可能性は無くなったんじゃないか?」

シンは腕を組んだまま続ける。

 

「確かにこれまで女だったから、そういった可能性はあった。

だが、今回は男だ。しかも・・・あれはきつい。俺は良く知らんが、天城さんや里中さんのやつを見て、喜んでいる人間がだ、次は突然"男"というのは考えにくいだろう。個人的恨みがあるなら別だけども・・・」と冷静にシンは分析する。

 

「・・・そうだな」と鳴上は納得する。

 

「・・・」

「・・・」

再び沈黙が訪れる。

 

シン以外はあの忌まわしき『マヨナカテレビ』思い出しての沈黙である。

シンは犯人を脳内で想像するための、沈黙である。

 

 

そんな中、鳴上が「・・・クマのもとに行こう」と口を開く。

 

「そういえば、そうだった。その『クマ』とやらが、やっとお出ましか」

 

 

そして、鳴上達は『テレビ』に向かう。

 

 

「テレビって・・・ジュネスか」

「ここからでしか、クマの居る所にはいけないんだ。」と鳴上が説明する。

「なるほど」(アマラ経絡と違ってそこはランダムではないのか)と安心するシンである。

 

 

「じゃあ行こ」と千枝に言われて、シンもテレビの中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

シンが着いて初めて目にした景色は、まるでテレビスタジオの様な場所でそれなりに広い場所に出た。

先ほどの世界とは違い空気が重いが、どこか懐かしいような感じがした。

 

そして、気が付く。

 

(『ボルテクス界』に似ている)

 

鳴上たちは何か変な着ぐるみと会話しているが、俺にとってはまずここの世界を知る方が先だと考えていた。

 

それは、『ボルテクス界』でまず身に付けたことだ。

でなければ、迷い死ぬ可能性が充分にあったからだ。

一度、魔人との戦いで一瞬、あの世を見かけた。

それは正に『フランダースの犬』が如くだ。天使が螺旋状にお迎えに上がろうとしてくる。

 

でも、おれはまだやれると思った。

それはまだその時のオレがどこかで先生を期待していたからだと思った。

勇や千晶の事も。それに『仲魔』もいた。

 

だからこそ、力が湧いてきた。

 

今となってはいい思い出だが・・・

 

 

「およよ?君は誰クマ?」とシンに気が付いたのかクマがシンに近づく。

「・・・君がクマか」

「せんせー。この人は誰クマ?」とピョコピョコと音を立てながら鳴上の方へ行く。

 

「彼は間薙シン。」

 

そういうと、クマはシンの匂いを嗅ぎ始めた。

「シンクンはクマと同じ匂いがするクマ」とクマは少し喜んでいるように見える。

 

 

「クマと同じ匂いって・・・獣臭?」と天城はそういうと何かを想像し笑い始める。

 

「あーもう・・・いいよ、雪子は放っておいて」と千枝は呆れてため息を吐く。

 

 

シンはおもむろにクマの頭を持つ。

 

そして、外す。

 

「あー何をするだー」とクマは慌てふためく。

「空っぽなのか・・・」

シンはまるで確認するようにつぶやきクマの頭を戻す。

 

 

すると、一撃の軽い雷音がする。

 

 

「主の危機を察知し、参上し仕りました。」

「あ、クーフーリンさん」と千枝は出てきた悪魔にそういう。

 

「うひょー!!」と慌ててクマは鳴上の後ろに隠れる。

 

「・・・あのモノは何者でしょうか。主」

「知らん」と腕を組み考えながらシンは首を傾げる。

「本人も悩んでるそうだ」と鳴上はクーフーリンに向かって付け加えるように言う。

 

 

「な、なんですか!!チミは」とクーフーリンに鳴上の後ろに隠れながら尋ねる。

だが、興味津々である。

 

「我はクーフーリン。父は太陽神・・・(以下略)」

と会話を始めた。それに安心したのかクマは近付き話を聞いている。

そして、それに混ざるように花村や千枝、そして、ある程度笑い終わった天城が会話を始める。

 

 

 

「・・・それで、なんと?」とシンはそれを見ながら鳴上に尋ねる。

「巽完二に関する。パーソナル的な情報が必要だそうだ。」

「なるほど。それなら、あてがある。」

「わかった。俺たちもそういう情報を集めてみようと思う」と鳴上は頷く。

 

 

 

だが、その日は少年探偵が見つからず翌日、探しているとジュネスに居たという経緯だ。

 

 

そして、先ほどの質問に戻る。

 

 

 

 

 

 

「巽完二と少し前に話していたな。何かおかしなところはなかったか?」

 

それを聞くと何か考えるようにして口を開く。

「・・・ふぅん。まあ、いいですよ。聞かれたことにお答えします。」

 

そういうと思い出す様に腕を組み少年探偵は口を開く。

 

「そうですね・・・最近の事を聞いたら、何か様子が変でした。

だから、感じたままに伝えました。『変な人だね』・・・と」

 

「変な人ねぇ」とシンはライドウから貰った学生帽を脱ぎ、髪の毛を掻く。

 

「・・・随分と顔色を変えてましたよ。こちらがビックリするくらいでした

それを踏まえると、普段の振る舞いも少し不自然だった気がしましたね。

なにかコンプレックスを抱えているのかも・・・確証は有りませんが」

 

そういうと少年探偵は帽子を少し深めに位置を直す。

 

「・・・なるほどな」とシンは帽子を被る。

 

「さすがは探偵だな。」

「そういうあなたは何者ですか?」

 

「俺か?高校生だ。少しばかり、巽完二に用事のある高校生さ。」とシンは不器用に笑みを浮かべる。

 

「・・・気に入りました。僕は白鐘直斗といいます」

「俺は間薙シン。用があるなら、これにメールしてくれ」と紙にメールアドレスをサラサラと書き渡す。

 

 

「じゃあな」とシンはジュネスの外に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

そして、少し離れたあと尾行してきていないか確認した。

 

(問題はなさそうだ。それに俺たちを疑っているような目だ。

だが、それには確証が少なすぎるようだがな)とシンは思いながら鳴上たちに電話をする。

 

 

 

 

 

 

「お、カンジの事、調べてきたクマね!」とクマはシン達を迎えた。

 

「これだけでわかるかわからないが、コンプレックスを抱えていたそうだ」と鳴上はシンの代わりに代弁した。

 

「ふむふむ・・・」

「・・・」

「・・・」

「え、それだけ!?それだけで探すクマ?クマ使いが荒いクマね・・・しょうがないクマね。なら、全力で鼻クンクンするクマよ!・・・むむむむ」

そういうと鼻をぴくぴくと動かし始めた。

 

 

「・・・主。あれは・・・」

「前にも言っていたぞ。俺も知らん」とシンはクーフーリンの疑問を黙らせる。

 

 

 

「おっ、なんか居たクマ!当たりの予感!これか?これですか!?」

そういうとクマは鼻を動かしながら歩き始めた。

 

 

 

 

鳴上たちがその後について行くのでシンとクーフーリンもそのあとについて行った。

 

 

「・・・そういえば、シン君は見えるの?周り」と天城がシンを見て言う。

 

「特に問題はないが。そういえば、君達はメガネを掛けているな。目でも悪かったのか?君達は」

「いや、そういう訳じゃねーんだ。なんか、このメガネを掛けないと霧で良く見えないんだ」と花村はメガネを上げて位置を直す。

 

「・・・俺は特にそういうのがないんだがな」

「どういうことなんだろう」と鳴上たちは疑問を特に考えることなく、クマを追いかけた。

 

 

 

 

 

「ここクマ!」とクマが止まる。

 

そこは湿気がとても多く、汗をかきそうなほどだ。

 

「酷く蒸し暑いな」と鳴上は辺りを見渡す。

 

「?なんかこの霧、今までのと違くない?」と千枝は先にあるドアから漏れ出すモヤのようなものを指して言う。

 

「メガネ曇っちゃった・・・」と天城はメガネを外し拭く。

 

「にしても、アッチーなー。これじゃまるで・・・」と花村が何かを言いかけた瞬間

 

 

 

ムーディーな曲が流れる。

 

 

 

「僕の可愛い仔猫ちゃん・・・」とダンディな男の声が室内に響く。

「ああ、なんて逞しい筋肉なんだ」と優男風の声。

「怖がることはないんだよ・・・」

 

「えっ・・・と・・・」と千枝が明かな困惑の表情を見せる。

 

そして、再び声が聞こえ始める。

「・・・さあ、力を抜いて。」

 

そして、その会話は終わる。

気まずい沈黙だけがその場に取り残された。

 

「ああ、俺、『ペルソナ』使えないから帰る・・・」とシンが回れ右をして帰ろうとするが、「悪魔が居るだろ?」と鳴上に腕を掴まれる。

 

「・・・ちょっと待て!俺もいきたくねぇぞ!!」と花村は焦った表情で大声を上げる。

 

 

「ねえ、本当にここに完二君がいるの?」とクマに天城は淡々と尋ねる。

 

「クマの鼻センサー、ナメたらあかんぜよ。」

クマは自信満々に言う。

 

「えぇ・・・この中に突っ込めっての・・・?

うぁ、汗出てきた」

「いや、それは暑いからでしょ・・・」と千枝が突っ込むが、最早花村には届いていない。

 

「・・・ここにいても埒が明かないし、行こうか」と鳴上はズイズイと中に入ろうとした瞬間

 

「ちょっと待った。シン君どうするの?」と千枝が鳴上に尋ねる。

「・・・そうだった」と鳴上は忘れていたと言わんばかりに言う。

 

「俺か?俺なら大丈夫だよ。それにこの世界について知りたいから、少し一人になるよ」そういうと、シンは濃い霧、いや靄の様なモノが立ち込める中へと入って行った。

 

「あ!ちょっと!危ないよ」と千枝が言うが、シンは既に居なかった。

 

 

 

 

 

シンは小部屋でふぅと息を吐き、力を解放する。

そして、手を見ると、何度も見た刺青が浮かび上がる。

 

「どうですか?主」とクーフーリンはシンの刺青が浮かび上がるのを見て、安心したようにも見えた。

「悪くない」というとシンが言った瞬間、後ろに影が現れる。

 

相手は間違いなく、捉えたと思っただろう。

だが、自分の手が当たる瞬間にシンの姿が消えていて、自分の頭を殴り付けられる感触を感じた。

 

相手は吹き飛び、壁に叩きつけられるとそのまま消えた。

 

 

「準備運動にもならないようです」とクーフーリンはため息を吐く。

「そうだな、」とシンは手を握ったり緩めたりとする。

 

すると、ぞろぞろと『シャドウ』が集まってきた。

 

「集まって来たようです」

 

「・・・それは好都合だ」とシンはニヤリと笑う。

 

 

 

 

 

 

「どこにいっちゃったんだろう」

「そんな遠くには行ってないはずだ」と鳴上が辺りを見渡して歩いているとクマの声が聞こえる。

 

『およよ・・・その先にすごいシャドウみたいのがいるクマ・・・』とクマが怯えている。

 

「おいおい!それはさすがにやばいんじゃねーの!?」

「どうする?鳴上君!」

 

『来るクマ!』とクマが言うと、皆が背筋が凍るほどの殺気を感じた。

初めて感じるその殺気に思わず足が竦む。

 

すると、グシャという何かを引きちぎる音と共に『シャドウの残骸』が飛んできた。

 

「!」と鳴上が武器を構えようとした瞬間には鳴上の目の前に拳があった。

 

 

 

 

 

「なんだ、君達か」

その声は間違いなくシンであった。

だが、彼の体は刺青の様なモノが浮かび上がっていた。

そして、その表情はニヒルな笑みを浮かべていた。

鳴上にはその笑みが脳裏にこびり付いた。

 

 

 




まず、更新が遅れたことをお詫びします。
恐らく、週末になると思います。

ここはホントなんだが書きたくなくて、だってホモォなんですから・・・

でも、重要なシーンなので書きました。

そして、名前も変更させていただきました。
小説版の名前を使わせていただきましたが、小説版を知らないので名前だけ拝借した感じです。


・・・完二だけに・・・。


あと、戦闘描写が本当に苦手なので、あんまり過度の期待はしないように。


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第8話 Demifiend 5月19日(木) 天気:晴

暑い暑い、この『熱気立つ大浴場』で五人は居た。

 

 

 

「そ、それは・・・なに?」と天城はシンに尋ねる。

 

 

シンはため息を吐く。

シンの体は青黒く発光し、この霧と靄の中でもすぐにわかるほどである。

 

「・・・どれを話せばいいかな」とシンは腕を組む。

「全部じゃなくていい、シンが納得する話をしてくれ。」と鳴上は真っ直ぐな目でシンを見つめる。

 

「相棒がそういってるし、俺もそれでいい」

そういう花村は少し笑ってみせる。

 

 

そういわれると、シンはぽつぽつと話し始めた。

 

 

 

「・・・君達はきっと知らない。

2004年に確かにこの世界はその姿、様相を変えた。

 

それは多分、この人類の歴史の中で初めてのことだったろう。

 

『受胎』だ。

 

その時に、俺は『生まれた』

 

『悪魔』として」

 

 

「『受胎』?」と鳴上は言う。

「そう。『東京受胎』」

 

「・・・え?つまり、シン君は『悪魔』ってこと?」と千枝はシンに尋ねる。

「まぁ、『俺は完全な人間だ』とは言えないから、そうなるかも」とシンは淡々と答える。

 

「そうか。」と鳴上は淡々と答える。

 

「・・・驚かないんだな」とシンは少し驚く。

普通の人間なら恐れ慄いていただろう。

 

「驚かないって言うか・・・まあ、『悪魔』連れてきた時点でなんとなくそうなんだろうなって思ったし、俺たちもこんな『力』を持ってるしな。

そんなに変わんねしー!」

そういうと、花村は頭をポリポリ掻き、恥ずかしそうに笑う。

 

「そうだね。それに悪い『人』?・・・『悪魔』?じゃないし」と千枝も納得したように頷く。

「こうやって、私達と一緒に助けようって思ってくれてる訳だし」

 

「シンが誰であっても、俺たちはもう仲間だろ?」と鳴上は真っ直ぐな目で見る。

 

 

 

 

その言葉はシンに突き刺さった。

(仲間か・・・)だが、確かにシンの中にある何かが少し動いた。

「・・・変わっているな君達は」とシンは少し微笑む。

 

 

「それにさ、俺たちにはシンよりもっと変な奴がいるからな」と花村はクマを見る。

『なんですとー!それはクマの事クマか!?』

「そうだよ」と天城は淡々とクマに言い放つ。

「雪ちゃん・・・しどい!!」とクマはショックそうに大声を出す。

 

「暑いから、先に行こう」と鳴上が言うと皆、歩き出す。

 

 

 

 

「素晴らしい友人たちですね。主。」とクーフーリンは周りの『シャドウ』を掃討し終わったのか、シンの元へと戻ってくる。

 

「・・・そうだな」とシンは少し自分の手を見つめる。

ふと、顔を上げ霧を見ていると、昔の自分がいるように見えた。

鏡に映ったように俺に似ている。

 

そして、そいつが口を開く

 

コレハ カワリマスカ(・・・ ・・・・・・)?)

 

 

だが、俺は何も返さない。

 

そうしているうちにそれこそ、霧の様に消えた。

 

 

「・・・何を期待したんだろう」

 

そうポツリとつぶやくと、シンは少しため息を吐き、鳴上たちについて行った。

 

 

 

 

 

 

 

クーフーリンが槍を持ち替え、相手に投げ付けるように槍を投げると、そこから衝撃波が発生し、相手を一撃で消し飛ばす。

 

 

『烈風波』である。

 

 

「・・・強すぎない?クー・フーリンさん」と千枝はそれを見て口に出す。

「そんなことはありません。私はまだまだ修行不足です」とクー・フーリンは槍を手元に戻す。

 

「主のほうが物凄く強いんですよ」とクー・フーリンはシンを見る。

 

「これ不思議な味だ」とシンは鳴上から貰った大量の胡椒博士NEOを飲み干す。

「相棒。流石にSPが」と花村が言うが鳴上は横に首を振る。

 

「あ、俺が飲んだわ」と胡椒博士NEOの空き缶を見せる。

「シン!!てめぇ!」と花村がシンに攻撃しようとするが避ける。

そして、暑いこのダンジョンで二人は走り回る。

 

 

「・・・本当?確かになんか冷静沈着だけど」

千枝はそれを見て、クー・フーリンに尋ねる。

「そうですよ」

「・・・そうなのかな」と天城も首を傾げる。

 

 

そんなクー・フーリンだが、時にはクー・フーリンも何もせずに彼らの戦闘を見ていた。

 

「・・・どうした?」

「いえ。彼らは良い目をしています」

「武人として戦いたくなったか」

「・・・まだ、彼らは未熟です。それが輝いたとき、我が戦ってみたいと思う瞬間です」とクー・フーリンの手に軽く力が入る。

 

それは同時に彼らがうらやましく見えたからである。

成長する彼らが。

 

 

「主はどう思っていらっしゃるのですか?」

「うーん?別に」とシンは彼らの戦闘が終わるのを確認すると、『メディアラハン』で彼らを回復させる。

 

 

「いやぁ、助かるね。ホント」と花村はシンに向かって言う。

「そう言ってもらえるとありがたいね」

 

「あ、階段あったよ」と千枝は靄の中、曲がり角の先を指さし、言う。

「よし行こう」と鳴上が言い皆階段を上がって行った。

 

 

そして、三つ目のフロアーまで来ていた。

 

 

『うっ!このフロアー何か居るクマ。気を付けるクマ!』

クマの声が皆に伝わる。

 

「気合れて行くぞ」

「「「おー!」」」と鳴上の掛け声で皆気合を入れる。

 

そして、鳴上たちは歩き出した。

 

「・・・確かに何か居る様ですが・・・大したことはなさそうですね」とクー・フーリンはシンに耳打ちするように言う。

「そうだな。」とシンも軽く欠伸をして言う。

「・・・私はアマラの方に帰還いたします。師匠が呼んでいますので」

「『スカアハ』か。まあ、こっちは問題ない。あの『酒飲み連中』にも言っておいてくれ『こっちに来なくていい』と。部屋が酒臭くなる」とシンは鳴上たちの後を追いながら言う。

 

「『酒飲み』・・・とはバアル様やマダ様のことですか?」

「そうだ」

「わ、わかりました」と少し恐縮しながらクー・フーリンは帰還した。

 

 

そして、ドアの前でクマが声を発する。

 

『およ、この気配・・・中にカンジクンか・・・?』

「いるね。なんか」というシンだが、緊張感は皆無だ。

 

「入ろう」と鳴上が言い、そしてドアを開けた。

 

 

 

入ると、そこは少し広い空間であった。

その真ん中に人影がある。

走って近付くと、その人物は上半身裸のふんどし一丁でいた。

 

「やっと見つけた!」と千枝はその男性に声をあげる。

「完二!!」花村もまた、大声を出す。

 

それに気が付くと、こちらを向く。

その手にはマイクを持っている。

 

「ウホッホッホ、これはこれは。ご注目ありがとうございまぁす!」

四人と一匹はそれに注目している。

 

「さあ、ついに潜入しちゃった、ボク完二。

あ・や・し・い・熱帯天国からお送りしていまぁす。

まだ、素敵な出会いはありません。

この暑い霧のせいなんでしょうか?

汗から立ち上がる熱気みたいで、ん、ムネがビンビンしちゃいますねぇ。」とまるで盛ったゴリラのような動きをしている。

 

とその途端、その男の頭上にテロップが現れる。

『女人禁制!突☆入!?愛の汗だく熱帯天国!』

 

皆、一斉に一歩引く。

「ヤバい・・・これはいろんな意味でヤバい」と花村は困惑しながら言う。

「女人禁制・・・すでに居るが」とシンは千枝たちを見る。

「お、お前は相変わらず冷静だな」と花村はそれにもため息を吐く。

 

「確か雪子の時もこんなのりだったよね・・・」と千枝は天城を見て言う。

「う、うそ・・・こんなじゃないよ・・・」と言うとまるでアメリカンホームコメディの様な笑い声がその部屋に響く。

 

「"また"この声。てか、前より騒がしくなっていない?」と千枝は不快感を込めて言う。

 

「また?」とシンは髪の毛を掻きながら言う。

「天城の時にもあったんだ。変な笑い声がさ」と花村はシンに言う。

「ふーん」そういうとシンは目を閉じた。

それは余りにもくだらない茶番に感じたからだ。

 

その時、花村がひらめいたように口を開く。

 

「この声ってもしかして・・・被害者しかいないのに、誰の声なのか不思議に思ってたけど・・・これって外で見てる連中ってことか?」

「"番組"で流れてる事の影響って事?」と千枝は感じに目線をスライドさせる。

「うわ・・・今の完二くん見られてんだとしたら、こりゃ余計な伝説が増えそうだね・・・」

「ま、シャドウなんだけどさ、普通のやつには分からないもんな」と花村が付け加えるように言うと、ザワザワとその声が騒ぎ出す。

 

 

「シャドウたちめっさ騒いでるクマ」とクマが警戒しながら言う。

 

 

「ボクが本当に求めるモノ・・・見つかるんでしょうか、んふっ。

それでは、更なる崇高な愛を目指して、もっと奥まで、突・入!

はりきって・・・行くぜコラァアアア!!」と物凄い気合を入れてその裸のシャドウ完二はドタドタと歩き奥へと消えて行ってしまった。

 

「完二くん!!」と天城が止めようとするが

 

するとクマが「あれはもう一人のカンジだクマ・・・自分をさらけ出そうとしているクマ。ユキチャンの時より危険な感じクマ・・・カンジだけに」

 

「"カンジ"と"感じ"・・・」と雪子はつぶやく。

「うお、来るか?」と千枝は天城を見る。

 

 

 

「・・・さむ」と呟く。

 

 

そう言われた瞬間、クマが膝を付いて倒れた。

 

「・・・ん?終わった?茶番」と目を開きシンは言う。

「シ、シン君に至っては聞いてもいなかった・・・」と更にクマはしょんぼりする。

 

「終わったよ」と鳴上は言うと。

「じゃあ、先に行こう」とシンはズシズシと歩き始めた。

 

 

 

 

「なんかシン君ってこういうところって歩き慣れてるの?」と天城はシンに尋ねる。

「どうしてそう思う?」とシンは壁を触りながら何の迷いも無く歩いている。

「なんつーか、すげぇよ。

だって、お前の行くところ殆ど階段だぜ?

まあ・・・収集癖のある相棒のせいで結局、フロアー全体を歩くことになるんだけどな」と花村は宝箱を開けようとする鳴上を見る。

 

だが、肝心の鳴上はしょんぼりとしている

 

「どうしたんだ?相棒」

「・・・鍵がない」と金色の宝箱の前で鳴上はチラチラと宝を見る。

「そればっかりはどうしょうもないでしょ」と千枝は少し呆れ気味に言う。

 

「・・・」と鳴上はその金色の宝箱を背に何度も宝箱の方を向き、トボトボと歩き始めた。

 

(意外な一面だな)とシンは思いながら、そんな鳴上を見ながら鳴上たちについて行くのであった。

 

 

 

 

『プロミネンス』

 

 

シンが手を軽く翳すと、真っ青なシンの身長よりも遥かに大きい青い炎が『闘魂のギガス』を焼き尽くした。相手は一瞬にして灰となった。

 

「すげぇ。」と花村はただ茫然と思ったことを口に出す。

 

「でも、これだと私たちに経験値が入らないんだよね。なぜか」と天城は言う。

「なんでなんだろうね」と千枝も言う。

 

「・・・さあ?」とシンも首を傾げる。

 

「・・・リーダーが違うからだろうか」鳴上は真剣に悩む。

「って、俺が倒してしまったけどいいのか?」とシンは鳴上に尋ねる。

 

「まあ、レベルはこいつのせいで歩きまわされたし。周りも雑魚になってきたしな」と花村は武器をクルクルと回しながら言う。

 

「よーっしこのまま一気に進もう!!」と千枝の掛け声と共に皆叫ぶ。

 

 

 

その言葉通り、案外すんなり進んだ。

敵と遭遇すれば、彼らは連携良く戦い、俺はそれを後ろから見ている。

戦闘が終わると、『メディアラハン』で回復する。

そんな簡単なことなので、まあ・・・退屈な訳だ。

しかし、そんな中でも鳴上の宝箱を発見した時の顔と言ったら、とんでもなく変わる。普段は俺と同じく淡々として、尚且つ淡泊としてるが、宝箱を見つけるとまるで子供の様にはしゃぐ。

 

案外こいつもここを楽しんでいるように見える。

 

途中、完二の声が聞こえたが俺は周りの『シャドウ』を倒すので特に聞いていなかった。

クマ曰く「シンクンが来てから、前よりも『シャドウ』が騒いでるクマ!」と言っていた。恐らく俺の『種族』が『混沌王』だからなのだろうか。

・・・何とも皮肉だ。

 

そんなこんなで、俺たちは階段を上がるとすぐに大きなトビラの前に来た。

 

 

「案外、君達はタフだな」とシンは鳴上たちを見て言う。

「っていうか、SP切れ以外回復はシン君がしてくれたし、それのおかげかな」と天城は言う。

 

「そうか」

「うーっし!この勢いで、とっとと完二助けて、早くこのムシムシした場所から出ようぜ」と花村が言い、その大きな扉を開けた。

 

 

 

その扉を開けると、二人の完二が居た。

だが、片方は制服、もう片方は先ほどと同じふんどしである。

 

 

 

「いた!」

「完二!!」と花村は大きな声で完二を呼ぶ。

 

 

「お・・・オレぁ」と制服の完二は困惑した顔で言う。

すると、ふんどしの完二が言う。

「もうやめようよ、嘘つくの。人を騙すのも、自分を騙すのも、嫌いだろ?

やりたい事、やりたいって、何が悪い?」

 

「それと・・・これとは」と更に困った顔になる。

「僕はキミの"やりたい事"だよ。」

「違う!」と声を荒げて否定する。

 

「女は嫌いだ・・・」

そういうと、ふんどしの完二の顔つきが変わる。

 

「偉そうで、我がまま、怒れば泣く、陰口は言う、チクる、試す、化ける・・・

気持ち悪いモノみたいにボクを見て、変人、変人ってさ・・・

で、笑いながらこういうんだ。

"裁縫好きなんて、気持ち悪い。"

"絵を描くなんて、似合わない。"

 

"男のくせに"・・・

"男のくせに"・・・

"男のくせに"・・・!」

 

そういうと声のトーンが低くなる。

 

「男ってなんだ?男らしいってなんだ?女は、怖いよなぁ・・・」

「こっ、怖くなんかねぇ。」と制服の完二は否定するがその声は少し震えている。

 

「男がいい・・・」と呟く様にふんどしの完二は言う。

「男のくせにって、言わないしな。そうさ、男がいい・・・」

「ざっ・・・けんな!テメェ、ひとと同じ顔してふざけやがって・・・!」

「キミはボク・・・ボクはキミだよ・・・分かってるだろ・・・?」

 

「違う・・・違う、違う!」と少し怯えているように見える。

 

 

「テメェみてぇのが・・・オレなもんかよ!!」

 

 

そう制服の完二が言った瞬間、ふんどしの完二の雰囲気が変わった。

 

 

「来るよ。構えようか」とシンは臨戦態勢に入る。

「結局こうなるのかよ!!」

「そうだな」と鳴上は言うと武器を取り出した。

 

「ふふ・・・ふふうふふ・・・ボクはキミ、キミさァァ!!」

 

そういうと黒い霧に包まれ、その姿を変えた。

制服の完二は思わず倒れ、そのまま気を失った。

 

相手は

白と黒の体。そして、頭部は薔薇に囲まれて中には上半身裸の完二が居る。

 

 

「完二くん!」と天城は制服の完二に駆け寄る。

それを見て感じを守るように鳴上たちは構える。

 

 

 

すると、完二の影は言う

『我は影・・・真なる我・・・

ボクは自分に正直なんだよ・・・だからさ・・・

邪魔なモンには消えてもらうよ!』

 

 

「これ・・・完二君の、本音なの?」と天城は驚いた顔で言う。

「こんなの本音じゃねえ!タチ悪く暴走しちまってるだけだ!」と花村は否定する。

 

『もう君らには関係ない!消えてもらうって言っただろぉ!?』と完二の影は言うと『狂信の雷』を花村に放つ為に構える。

 

 

「やっべ!いきなり、あんなの喰らったら!!」と花村が言うが無情にもそれは放たれる。

 

 

『仁王立ち』

 

 

「え?」と花村は思わず間抜けな声を出す。

 

「なんかしたか?」と花村の前にはシンが何事も無いように立っていた。

「ここにも犯人いなかったな」とシンは冷静に言うと。

そうシンは少し怒っていたのだ。犯人があれを作り出したと踏んでいたからだだが、結果は完二以外誰も居なかった。そのショックさに興ざめしたのだ。

 

 

前かがみになり、力をためる。

すると体が全体から発光し始める。

 

「や、やばそうだね」と千枝は少し慌てる。

「伏せとくといいよ」とシンが言うとその通りにみんなする。

 

 

 

『ゼロス・ビート』

 

 

 

そうシンが言った瞬間、体から無数の光が放出され、それが壁に反射して相手に何度も直撃する。

物理技だが、シンには『貫通』が付いている。無情にも『無効』ではどうすることも出来ずに相手の『ナイスガイ』『タフガイ』は消え去った。

 

その苛烈な攻撃に完二の影は変な声を出し、倒れる。

 

 

 

「す、すげぇ」と花村はそれを見て思わず息を飲む。

そして、千枝と天城はクー・フーリンの言葉が本当だと信じた。

 

いつの間にか相手は先ほどのふんどし姿で倒れていた。

 

 

「ち・・・くしょう・・・」と制服の完二は立ち上がる。

 

「完二くん!!」と天城は心配そうに完二に言う。

「待つんだ。案外しぶとい」とシンは再び構える。

 

そういうと再び立ち上がる完二の影。

 

「ま、まだ向かって来るクマ!よっぽど強く拒絶されてるクマか・・・?」とクマは驚いた表情でふんどしの完二を見る。

 

「そりゃ、こんだけギャラリーが居ちゃ、無理もないな・・・」と花村は軽い同情をこめて完二に言う。

 

「一撃でボクを倒すなんて・・・情熱的なアプローチだなぁ・・・」

「は?」とシンは首を傾げる。

「四人とも・・・素敵なカレになってくれそうだ。特に・・・刺青のキミ」とシンを見て言う。

 

 

シンは口に何かを溜めようとしている。

 

 

「あー!ストップ!すとーっぷ!」と千枝に止められる。

 

「や、やめろってー!そんなんじゃねー!」と花村は一歩後ずさる。

鳴上も、そして、クマも。

 

 

「や・・・めろ・・・何、勝手言ってんだ、テメェ・・・」と制服の完二は辛そうな声でそれを言う。

 

「誰でもいい・・・僕を受け入れて・・・」

「や・・めろ・・・」と制服の完二はふんどしの完二に近づく。

「ボクを受け入れてよおおおお!!」と叫んだ瞬間、

「やめろっつってんだろおおおお!!!」と制服の完二にふんどしの完二は殴られる。

 

 

相手は綺麗に吹っ飛び、壁に叩きつけられる。

 

それを見ていたシンは(いいパンチしてんなあ。と昔の俺とは全然違う。)と人修羅になりたての自分を思い出していた。

人を殴ったことも無いのに、悪魔を殴れと言うのだが、なかなか大変だった。

そんなことを思いだした。

 

 

 




ハッキリ言って、この小説で戦闘はメインには考えていないので、
「あれ?なんか戦闘ショボクネ?」とか「あっけなwww」みないな感想を持つかもれません。

それは人修羅が介入した時点でそうなることは確定していたわけでありまして、実際、人修羅になってすぐなら、苦戦なんてあったかもしれませんが、閣下倒した人修羅なんてもう・・・ね・・・

察してください。


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第9話 Doubt 5月19日(木)・20日(金)

「たく、情けねーぜ・・・

こんなんが、オレんなかに居るとか思うとよ・・・」

悔しそうな表情で完二は完二の影を見つめる。

 

「完二、お前・・・」と花村は先ほどとは打って変わって、完二を見る。

 

「知ってんだよ・・・テメェみてぇのがオレん中に居る事くらいな!

男だ女だってんじゃねえ、拒絶されんのが怖くてビビってよ・・・

自分から嫌われようとしてるチキン野郎だ。」

そういうと、完二は少しうなだれる。

 

「それも含めて完二だ」と鳴上は言う。

 

「フン、なんだよ・・・分かったような事、言いやがる・・・」

完二は口ではそう言っているものの、少し照れがあるようにも見える。

 

そういうと、完二は完二の影に言い放つ。

 

「オラ、立てよ・・・

オレと同じツラ下げてんだ・・・ちっとぼこられたくらいで沈むほど、ヤワじゃねえだろ?

テメェがオレだなんて事ざ、とっくに知ってんだよ・・・

テメェはオレで、オレはテメェだよ・・・クソッタレが!」

 

自分自身と向き合える強い心が、"力"へと変わる・・・

完二はもう一人の自分。

困難に立ち向かうための人格の鎧、ペルソナ"タケミカヅチ"を手に入れた。

 

 

「うっ・・・くそ・・・」というと完二はグロッキーのボクサーの様に倒れ込んだ。

 

「完二君!」と千枝が言うと皆、駆け寄った。

「とにかく、外へ運ぼう!」と花村が言うと鳴上が背負い、皆歩き出した。

 

 

(自分自身と向き合うか・・・)とシンは靄の掛かった部屋でぼんやりと天井を見つめる。

何を俺は後悔しているんだろうか。

自分で決めた道だと言うのに・・・

 

 

「なにやってんだ、シン!早く出ようぜ」と花村の声が聞こえる。

「ああ、今行く」シンは花村達の方を見て、走って駆け寄って行った。

 

 

 

テレビの外へ連れ出すと、花村たちはとりあえず疲れていた完二の事を考えて後日、完二には説明すると言い、今日は解散となった。

 

 

 

 

「・・・すんません、手間ぁ掛けます。」と完二はシンに肩を借り歩いている。

「気にするな。どうせ近くだ」

 

「しかし、さっきオレの前でおきたのぁ・・・本当になんなんすか?」

「・・・さぁ?俺も正確には伝えられん」

「はぁ・・」と話しながら、巽屋の前に着く。

 

「ホント、すんません」

そう言うと完二は巽屋の中へと入って行った。

 

「さて、帰るか」

「あれ?君、確か鳴上君の・・・」

「あぁ、足立さんですか」とシンは相変わらずズボラな外見の足立に声を掛けられる。

 

「ん?ああ、悠の友達か・・・」と隣にいた堂島にもいわれる。

「堂島さん。こんばんは」

 

「こんなところで何やってるの?」

「え?自販機で飲み物を買ってました」とポケットから"盆ジュース"を取り出す。

「ああ、そう。もう、いい時間だから、早く帰りなよ」

「はい」とシンはポケットに手を突っ込み、神社の角を曲がって行った。

 

「いやぁ、彼。僕を頭のいい人だっていうんですよ」と足立は照れながら、堂島にそういう。

「そりゃあれだよ・・・お世辞だよ」と堂島は真剣な目でシンを見ていた。

「ええ!?そうなんですか!?」と大きな声を出した足立の頭を叩き、巽屋に入って行った。

 

 

 

 

堂島家では堂島が買ってきたジュネスの弁当を食べながら、他愛もない話をしていた。

 

ふと、堂島は思い出したように鳴上に言う。

「そうだ、言ってなかったな。巽完二ってヤツ、前に話したろ。」

「ええ、あの特番の」

「そうだ。実は、実家の染物屋から捜索願いが出てたんだが、無事に見つかった。

一応、お前と同じ高校だし、知らせとこうと思ってな。」

「・・・それはよかったです」と鳴上は悟られないように淡々と相槌を打つ。

 

「・・・ああ」と納得しない様子で堂島は箸を進める。

「それとな…

実は最近、お前があの染物屋に来てるのを見たってヤツが居るんだが・・・なにか用事か?

学生が立ち寄る様なみせじゃないからな。」

 

「友達付き合いで」

 

「ああ、あの旅館の子か・・・ふぅ・・・まあ、いい」と少し困った顔で鳴上を見る。

「ただ、危ない事に関わるなよ。いいな?」

 

鳴上は頷く。

 

「あと、お前の友達の・・・なんていったか」

「?」

「ああ、そうだ。間薙とか言ったか。」と堂島は思い出す様に話す。

「ええ、シンがどうかしましたか?」

「間薙だが、今日、巽屋に居たが・・・お前は何か知らないか?」と鳴上に尋ねる。

「・・・わかりません」

「・・・そうか。ぶしつけですまなかったな」

 

 

そんな会話を聞いていた菜々子は箸を止め二人を見る。

 

「・・・またケンカ?」

 

そう言われると二人は慌てて、箸を進め始めた。

 

 

 

 

シンは部屋に入ると、大きく息を吐いた。

 

こういう時にこの謎のシステムは便利だ。

そうシンは思うとふくらみのないパーカーのポケットから"盆ジュース"を取り出す。

 

とっさの機転をシンは利かせた。

 

まさか、タイミング悪く刑事と鉢合わせるとは思わなかった。

鳴上の親戚のおやじさんの職業まで知らないが、足立さんが刑事だと、知っていた。

故に、刑事だとわかった。

 

だが、オレの居た場所が巽屋が目の前だ。

そこで、オレはとっさにあの四次元ポケット的なサムシングからこの盆ジュースを取り出した。

恰も偶々、自販機で買った帰りのように見せる為に。

 

だが、あの顔は少し疑っている顔だった・・・

明日、鳴上に聞いてみた方がいいかもしれん

 

 

次の日の昼休み・・・

 

 

「昨日、堂島さんと偶然に会った」とシンは鳴上たちに言う。

「そういえば、堂島さんもそんなことを言っていた。

シンが巽屋に居たことを堂島さんに尋ねられた。」

「うっそ!タイミング悪かったね」と千枝はシンに言う。

それを聞いたシンはやはりといった顔をする。

(何故だ?暗いから、わからないと油断したが流石は刑事・・・あなどれない)と腕を組む。

 

「しっかし、堂島さんに若干疑われてるってやばくねーか?」と花村は言う。

「まだ、疑ってるって感じではなかった」と鳴上は言う。

「でも、今後気を付けないとね」と天城が言うと丁度鐘が鳴り、午後の授業が始まる。

 

 

 

 

 

「なるほど、あなた様との絆でございましたか」とイゴールは納得したようにシンに言う。

「・・・絆で彼は成長するということですか」

「左様でございます。」とマーガレットは言う。

「それにしても、マリー」とマリーをマーガレットは呆れた顔で見る。

マリーはジャックフロストと戯れている。

 

「いいんですよ。どうせ、暇ですし」

そう暇なのだ。バアルが言うには当分、雨が無い。

つまり、当分『マヨナカテレビ』が映らない。

 

それは困った状況だと言える。ルイが言った"限られた時間"それがいつなのか俺にはさっぱりわからない。故に、焦りを感じている。こんな中途半端な状況で結果も知れずに退場とはモヤモヤとしたものが残る。

まるで、いつ死ぬかわからない余命宣告でもされたようだ。

 

「しかし、実にあなたは強そうに見えます」とマーガレットはシンに向かって言う。

「・・・そういうあなたも」とシンは特に興味なさそうに言う。

「実は私、これほどまでに力量を感じたのは生まれて初めてでございます」

そういうとマーガレットは不敵に笑う。

 

「・・・そうですか・・・まあ、いずれ」とシンは椅子から立ち上がる。

「帰るよ。」

「わかったホー!!」とマリーの膝からピョコっと降り、シンと手をつなぐ。

 

「ま、また来て」とマリーは照れながら、シンを見送った。

 

 

 

ドアから出ると、すぐ近くに鳴上が居た。

俺がドアの目の前で突っ立っていることに驚いたそうだ。

 

「シンにも見えるのか?」と鳴上は不思議そうにシンを見る。

「イゴール曰く『同じ種類』らしいから。それが何を意味するのかは、お察しの通りだと思う。」とシンは淡々と説明する。

 

人間ではない。ということなのか、或いは別に意味があるのか、鳴上にはどちらだか、わからなかった。

 

「・・・にしても、そのエプロンは何だ?」とシンは鳴上の恰好を見て淡々と尋ねる。

 

「アルバイトだ。始めたんだが、ここ最近忙しくてな」そういうと少し恥ずかしそうにエプロンを外す。

 

「成程。君は忙しそうに見える。リーダーという役目もやっているからな」

「じゃあ、また」と鳴上は青いドアを開いて入っていった。

 

既に斜陽してきた影を見て、随分と長くいたと実感する。

そして、相も変わらずその足で愛屋へと向かう。

 

 

 

 

「そういえばさ、相棒」と夜、花村は鳴上と電話で話していた。

「シンのやつって悪魔って言ってたけどさ、あいつの影って出て無くないか?」

 

「・・・確かに」と鳴上は電話越しに納得したような声で言う。

「悪魔って事だから、やっぱりもう自分ってやつを知っているのかもしれない」と鳴上は付け足す様言う。

 

「あーなるほど。でも、あいつって悪魔っぽくないよな。どう見ても・・・人間だし・・・ん?ちょっと待てよ。」と花村は思い出したように話を続ける。

 

「あいつ2004年に世界は様相を変えたって言ってたよな。でも、俺の記憶が正しけりゃさ、別に2004年ってなにも起きてないよな」

「・・・シンは『君達は知らない』って言っていたから、多分シン自身の何かだろう」

 

「でもよ、それが『悪魔』になるキッカケってしたらさ、もっとなんか大事になってそうな気がするんだけど・・・俺の考えすぎか?」

「・・・どうだろう・・・」と鳴上は少し唸り答える。

 

「・・・あーわっかんねー!・・・ってもうこんな時間かよ!じゃあ、明日な!」

そう言って花村は電話を切った。

「ああ」

 

 

確かに、と鳴上は疑問を抱く。

 

『東京受胎』と言っていたが、そもそも受胎とは何だ?

何が起きたのだろうか。

 

 

そう思い、鳴上はネットで検索することにした。

当然、そんなものは出てこなかった。だが、カルトのページを見ると。

「・・・ミロク経典?」

 

だが、それについては詳しくは書かれていなかった。

 

気が付くと、すでに午前2時を回っていた。

 

「・・・寝よう・・・」

鳴上は布団を開き、そのまま眠りへとついた。

 

 

 

 

 

 

シンがベットで寝ていると、ヌルリとどこからともなくケルベロスとジャックフロストが出てくる。

 

「アチラモコチラモ退屈ダナ」

「そうだホー。こっちには悪魔もいないんだホー」

 

そして、同じような感じでピクシーも出てくる。

 

「あんたら静かにね」

「わ、わかってるホー」とジャックフロストはピョコピョコと歩き、リビングへと行く。

 

ピクシーはシンの寝ているベッドに座ると少し微笑む。

「ふふっ、こんなにぐっすり寝てるのを見たの初めてかも」

「我ハモウ何度モ見タゾ」

「うるさい。メギドラオン撃つわよ」

「・・・ソレハコマル」とケルベロスはアマラ経絡へと戻って行った。

 

「あっちは相変わらずよ・・・賑やかで、混沌としてる。馬鹿が多くて困るときもあるけどね」

そういうとシンの髪の毛を触る。

 

「思い出すわ。あなたと初めて会ったときはもっとヒョロっとしてて、情けなかったもの。でも、今や混沌王か・・・」

 

 

 

「随分と遠くに感じるわ」

 

 

 

 

 

「って言っても、私はそれを補佐してる訳だし・・・」

 

そう呟いた瞬間、氷が落ちる音がし、シンが目を開ける。

 

「ん?なんだ、お前か」と眼を擦るシン。

「まったく、あのバカ!」とピクシーはスライドドアを引き、リビングへと行く。

シンも眠そうな目を開け、リビングへと行く。

 

 

「ヒーホー!!この中は快適だホー」

そうヒーホーはいい、冷凍庫の中にすっぽり嵌り顔を出している。

「あのね!シンが寝てるんだから静かにしなさいって言ったでしょ!!」とピクシーは頬を膨らませて怒る。

 

「ヒーホー」

 

「ヒホ?」と首を傾げてシンを見る。

 

「・・・片付けろよ」

そういうとシンはヒーホーを睨みつける。

 

「わ、わかったホー」とヒーホーは冷凍庫から出ると氷を拾い始めた。

 

それを見たシンは再び寝室へと戻って行った。

 

「あれ?シンならもっと怒ると思ったけど」

「・・・眠いんだ。それに連絡なら、テレパシーがあるだろ」そういうとシンは布団に潜り込むように入った。

 

「時には顔を見たくなるのよ。それでね、あっちは相変わらずだから。あの『酒飲み』もしっかりとしてるし、問題ないわ」

「そうか・・・」そういうとシンは目を閉じた。

「でも、あいつら酒臭いのよ。特にマダだとかデュオニソスだとか臭くって。女性連中は切れてるわ。まったく・・・」とピクシーはシンを見ると、既に寝息を立てていた。

 

 

「寝るの早すぎ・・・じゃあね」

そういうとピクシーは消えた。

「オイラも帰るホー」とヒーホーも部屋から消えた。

 

 

少し経つとシンが目を開く。

 

 

「・・・俺は変わったのか・・・」とシンは再び目を閉じた。

 

 




すみません。なんだか、超迷走してます。


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第10話 Dark Blue 5月26日(木) 天気:曇

この状況下で君が何を期待しているか、実は僕にもわからない。

 

 

・・・底から拾い上げてくれ。退屈で死にそう

 

 

残念だけど、そうもいかない・・・だから、少し話そう。

昔話でもさ。僕は案外、君を気に入ってるんだ。

永遠の呪われた者として。

 

・・・世界が焼け落ちるかもしれないって言っていた。

そんな世界でも、希望がなくても、先生に会いに行った。

でも、そんな淡い希望はすぐに打ち砕かれた。

そんな世界だってその時に思った。

 

・・・君はこの状況下で何を期待していたんだ?

だから、すこしでいい。落ち着いてくれ、全ては陰に覆われた。

それは覆すことのできない事実なんだ。

 

・・・箱詰めされた、世界がその様相を変えた。その中身は絶望だろう。

やがては街中がそれに飲み込まれた。でも、俺には何もできなかった。

 

・・・君は何を期待したの?

壊れていく世界を見て、君は何に絶望したの?

 

・・・絶望なんか初めからしてた。

期待・・・か。・・・そうだな、俺は期待していたんだ。

ずっと退屈な毎日が過ぎていくこんな世界に鬱陶しささえ感じていたんだ。

呆れるほど人が居て、自分の生きる意味を自問して、何も知らずに、何も理解しないままに死んでいく。

そういった意味じゃ、少し氷川の気持ちが分からんでもない。実に不毛だった。

 

・・・死人の話はいいよ。

 

・・・お前も案外、酷いやつなんだな。

そんな日常は何の好奇心も刺激しない。

ただただ、世界が愁いて行くのを歳と共に感じていた。

虚しさだけが募っていた。

 

そんな時に先生が入院したって聞いた。

なんだか酷く奇妙な感覚になったのを覚えている。

 

・・・それは恋愛感情?

 

違う。そんなものじゃない。

何というか、胸騒ぎ。そうだ。ザワザワとした。それは何だか針山のように尖ったモノが動いたような気がしたんだ。

 

いつもの先生が居ない。いつもと少しばかり景色が変わって見えてきた。

そんな違和感だけで少しだけで、好奇心が湧いた。

 

それで先生に会いに行ったの?

 

・・・そうだ。何か俺の中で針が回り始めたんだ。時計の針が正常にだ。

確かに、友人との付き合い。それもあっただろう。

でも、もっと腹黒いものだったと今は思う。

 

好奇心?

 

そう。好奇心だ。重度の群発性頭痛患者の様にのたうち回るんだ。

誰もそれを止められない。俺でさえも。

でも、そんな胸騒ぎも別に大したことじゃないと思った。

代々木公園での事件だって、興味深くて俺は代々木公園に行ったんだ。

でも、それ以上のことは何にも考えてなかった。

世界が表情を変えるなんてことは尚更考えてなかったな。

 

それを後悔しているの?

 

・・・どうだろうか。自分の好奇心によって来た責任かもしれないな。

そう考えると、後悔がないといえば嘘になるな。

だが、何れにしてもあの世界の行く先に後悔がないとは思えないしな。

 

・・・だから、君は尋ねるようになったんだね?

 

・・・そうかもしれん。

悪魔になってから、昔の自分に尋ねられるようになった。

 

「コレハカワリマスカ?」って。何度も何度も。

 

・・・でも、『ルイ』を倒してからそれは無くなった。

恐らく、覚悟を決めたんだと俺は思う。

自分じゃよくわからんがな。

唯、云えることはそんな揺らいでるようでは『クソッたれ』には勝てないってわかったんだ。

質で勝てないんじゃ、量だって。

 

・・・でも、それも繰り返し。

何度闘わなくてはいけないのだろうって君は思うはずだ。

これが最後になればといつも願うだろうね。

あの『クソッたれ』にもう二度と会わなくても済むようにね。

 

・・・そうだな。

何度、夢から覚めただろうな。

でも、これが永遠に呪われた者の性さ。

 

・・・分かっていながら

なんで、君はそうなることを選んだの?

 

・・・あの何もない只々老いて、愁いて行く世界は嫌だった。

弱肉強食の世界も、静寂な世界も、干渉されない世界も、どれもこれもなんだが俺の好奇心を満たすような世界じゃなさそうだった。

だったら、この真暗な街灯もない道の先を見てみたかった。

それだけだよ。『クソったれ』

 

・・・愚かだね。惜しいよ、実に。

 

うるさい。またぶっ殺してやる。

クソッたれ

 

 

 

「・・・ん」

 

夢かとシンは思い、ベットから起き上がる。

まだ、意識が朦朧としている中、なんだか酷く懐かしい夢を見たとシンは思う。

ベットの暖かさがなんだか身に染みる。

大きく伸びをして、辺りを見渡す。

そこには、誰もいない。静かな空間が広がっていた。

 

暗い影が胸に突き刺さる。

 

敷衍すれば、それは恐らく・・・孤独かもしれない。

永遠に孤独であることが、永遠に呪われた者の一つの罰なのだろうか。

完璧な悪魔にもなれず、人間でもない。

完璧に悪魔になれないが故に、何かに対して毎度毎度苦悩している。

こんなことはこちらに来てからだ。

昔は有った。そんな苦悩が。だが、混沌王となってからは多忙さ故に考えることをやめていた。

 

・・・俺は思わずそれをすぐに心の外にため息と一緒に押し出した。

俺の中には邪魔だと一蹴する。

 

 

『悪魔』故に孤高であり、『人間』故にそれに苦悩する。

 

 

例えば、俺が自分に分からせるために「もう決して寂しくはない」と口に出して言ったところで、また孤独感に襲われるのだ。

 

俺は思わず再びため息を吐いた。

 

俺は・・・いや、俺という存在はすべてさびしさと悲傷、孤独・・・それらすべてを紙の様に火に焚いて、俺は『修羅』の軌道を進むのだ。

 

だが、悲傷は確かに蓄積されているだろう。

それでも尚、俺は前に進まねばならないのだ。

 

 

窓を見れば、空が碧く流れる雲に鮮明に映る。

残酷な季節は過ぎ、やがて曇った空から降ってきた透き通った水が木や葉を伝う。

 

前と変わらない世界だというのに、これほど空気が違い、俺の好奇心を満たす。

 

俺は一人の修羅なのだ。

永遠に呪われた『混沌王・人修羅』なのだ。

俺が嫌でも、この人修羅という名称は付いて回るのだ。

 

俺がこの名称が嫌いな理由は俺の中ではちゃんとした理由がある。

修羅というのは『醜い争いや果てしのない闘い』。

そんな意味がある。あの『大いなる意志』との戦いを醜いとは俺は思わない。

 

確かに傍から見れば、くだらない争いなのかもしれんが、やってる側は全身全霊を掛けてやらねばならないのだ。果てしないと言う意味ではあっているが。

 

だが、『ボルテクス界』での争いはどうだ?

 

結局、世界を構成しようとしたのは人間だ。

俺も中身は人間だった。

世界を変えるはずの『受胎』だったのに、結局、創造主は人間でしかなかった。

・・・それも一つの理由かもしれない。

人間が想像できない、苛烈な戦いを見たいという好奇心。

俺がこの『コトワリ』を選んだ理由かもしれん。

 

「主・・・どうなされたのですか?」とクー・フーリンは尋ねる。

「・・・いや、少しセンチメンタルになってただけさ」

「お若いですな」

「そうだな・・・今日も学校か」とシンはゆっくりと布団から起き上がる。

 

そうか。所詮は"人"か。

 

人の修羅なのだ。

愚かで、醜い争いを続けていかなければならないのかもしれんな。

 

それが人修羅である所以かもしれない。

 

「・・・笑っていらっしゃる」

「え?」シンは着替えており、何も聞いていなかった。

 

「いえ・・・なんでもありません」とクー・フーリンは微笑み、言う。

「主。何をそれほど悩んでおられるのですか?」とクー・フーリンは尋ねる。

シンは学生服を着ながら答える。

 

「そうだな・・・もう、進むべき道は見えている。

だが、案外・・・くだらない問いなのかもしれないな」

「はあ・・・師匠もそうですが、我には良くわかりません」とクー・フーリンは首を傾げる。

 

「若いな」

シンは靴を履き、ドアノブに手を掛けた。

 

「主ほどではありませんよ」とクー・フーリンはムスッとした顔でシンを見送った

 

 

俺はこの世界について何を知っていたんだろう。

 

 

あの箱詰めされたコンクリートジャングルの中でただ無知なまま、狭い世界の事を語っていたんだと分かる。

だが、それで何かが変わっただろうか。

 

 

「コレハカワリマセン」

 

 

・・・ああ、またお前か。

そう思い、道の角を曲がった瞬間。

 

「ちょ!まじかよ!!」とその声と同時に、シンに腰に物凄い衝撃が来て、そのままゴミ捨て場にゴールした。

 

「いてててっ」とその衝撃を与えた人物は自転車を持ち上げて、シンから離す。

 

シンはゴミ袋に顔を突っ込んだまま動かない。

 

「あー!!すみま・・・ってシン!?大丈夫か!?」

その人物は花村だった。

 

その声に反応もしないシン。

「おーっす。はな・・・」

と千枝がシンを見た瞬間「まさかあんた!?」と花村を見る。

 

「ちげぇから!」

と花村が大声を上げると、シンがムクっと起き上がった。

その表情は花村たちと別の方向を向いている為にわからない。

だが、二人はそのオーラでわかった。

(完全に怒っていると)

 

「じゃ、じゃあね・・・花村・・・」と千枝は逃げるように走って学校の方へと行った。

「・・・覚悟は出来てるんダロウナ」

シンは拳に力を込める。

「い、いえ、出来てませーん!!」と花村は自転車に乗って慌てて逃げ出した。

シンはそれを力を解放して、追いかけた。

 

後日の話だが、刺青の少年が街中を爆走していたという話は完二に追い回された話とごっちゃになり、八十神高校の生徒が金髪の悪魔に追われているという噂が立ったのはまた別の話である。

 

「で、どうなったの?今日の朝のやつは」

「見りゃわかんだろ・・・」と花村はぐったりした顔で教室の机に突っ伏していた。

話の分からない天城と鳴上は顔を見合わせ首を傾げる。

 

そこへ、相変わらずの無表情でシンは教室へと入ってきた。

その顔を見た花村は即座に飛び上がり、「本当にすまん!」と頭を下げる。

 

「別にいいよ。なんか、すっきりした」と珍しくシンの雰囲気がほっこりしていると鳴上は感じた。それと同時に初めて息切れしているのを見た。

雰囲気は今まではまるで人間の形をした、まさに冷酷な悪魔の様な雰囲気を出していた。

実際、周りの生徒もそれほど近づいてくることもないが、逆に社会の教員には「エジプトの王様の風格だ」と言わしめた。

 

「・・・何かあったのか?」と鳴上は小声でシンに言う。

「そうだな・・・強いて言えば、悩む前に全力疾走すべきだと学んだくらいだ。」

「?」

 

 

 

そうだ。俺は生きると言うことを内向して悩むような軽薄さを嫌っていたじゃないか。俺はいつも好奇心に取りつかれたように解決していたんじゃないか。

俺が思うようにやればいい。それでこそ、人修羅だ。

 

 

 

授業中ふと、鳴上が見ると、シンは微笑み真っ青な空を見ていた。

鳴上は首を傾げながらも、少し変わった友人をほほえましく見ていた。

 

 

 

 

混沌 ランク 2→3

 

 

 




閑話みたいな話なので、好き勝手に書きました。
なんというか、苦悩してる人修羅ってのを書いてみたかったと言うのは大きいです。
凄い特殊な人物、(というか悪魔?)なので

評価していただいてありがとうございます。
どんな評価でもしてもらえるだけでなんだが、うれしいですのです。


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深まる闇の『鳴神月』
第11話 Very Mad 6月6日(月) 天気:晴れ


日が暮れはじめた放課後、空は日によって赤く焼け、情緒ある景色である。

シンは屋上へと一人行くために階段を上っていた。

 

無論、待ち合わせである。

普段のシンなら、間違いなく、真っ直ぐ帰りテレビを見ていた。

 

存外、カウチポテトなのだ。

 

テレビを見て、くだらないとわかりながらもバラエティ番組を淡々と眺め、そして、夜になれば、ランニングなどを始める。

夜の方が自分に馴染んでいるとやはり思う。

 

取っ手に手を伸ばし、屋上へのドアを開けると、先客が居た。

それは、時々鳴上と一緒にいる・・・

 

 

「なんていったかな?」とシンは腕を組み首を傾げる。

「一条康だって。」と少し落胆気味に一条はシンを見る。

 

「えーっと、間薙シンっていうんだよな」

「ああ」とシンは頷く。

 

「よく鳴上との会話に出てくるから、どんなやつかなって思ってたけど、周りが言ってるほど、って感じだな」と一条は笑う。

 

それから、少し他愛も無い話をした。

世間話である。最近のニュースに始まり、ゴシップネタまで。

 

「そういや、久慈川りせってアイドル知ってるか?」と一条は言う。

「休業するとかなんとか、噂になっているが」

「そうそう。実は八十稲羽の出身らしいぜ」

「そうなのか」とシンは何となく、それを頭の隅に入れて置いた。

 

「あ!そうだ・・・バスケやらない?」と一条は思いついたように言う。

 

「・・・考えておくよ」とシンは胡坐を掻き地べたに座った。

 

「鳴上も居るしさ、部員も少ないし、頼むよ」

そういうと、一条は立ち上がる。

するとシンが口を開く。

 

「バスケ・・・楽しいか?」

 

「え?」と一条は思わず足を止める。

「いや・・・オレは部活ってやったことないんだ。だからさ」とシンは淡々と一条の方を見ずに言う。

 

一条は少し沈黙し、空を見上げて言う。

「・・・初対面のやつにいうはなしじゃねーかもしれないけど、わかんなくなってんだ。オレのところって、結構名家なんだ。それで、バスケなんかやめろって言われてたんだけど、突然、好きにしろって言われてな。」

 

シンは一条の方を見ずにその話しを聞いていた。

 

「お前が来るまでさ寝っ転がって空を見てたんだけど、したら色んな部活の声が聞こえてきて・・・

なんでみんな、あんなに楽しそうなんだろーなって思ってさ。」

 

それを言うと一条は黙ってしまった。

そして、空からシンの方に目線を戻す。

 

「わりぃ。お前にする話じゃなかったな。」そういって屋上から出て行こうとすると、再びシンの声で止められる。

 

「何故、俺をバスケ部に誘った?」

「・・・なんでだろうな」と弱々しく笑う一条。

その表情のまま一条は屋上から去っていった。

 

その心境はシンには図れなかった。

幾千、幾万もの会話と説得をしてきたシンだが、どうも人間には疎い。

長年、人間のいない世界にいたからだろうかとシンは思う。

そして、なにより、シンはやりたいことをやってきたからだとすぐにわかった。

やりたいことをやりたいようにやってきた。

 

その結果が余りにも残酷でも自分の気持ちが赴くままに何事も決めてきた。

 

それに自分には今は何も縛るモノはない。

一条の立場は彼にしかわからない。

 

余りにも赤い空に一条の心情をシンは見ているように感じるのであった。

 

 

 

「やっときたか」とシンは立ち上がると、屋上のドアがギィーっと開く音がする。

「悪いな。教室の清掃係だったんだ。」

鳴上はそう言うと綺麗な笑顔でそれをシンに言う。

 

「しかし、相棒が居るとそれも手早く終わって助かるぜ」

花村はニコニコしながら、鳴上を見る。

「そうだよね。それに雪子もいるし」

「え?私は別に・・・」

「そうそう。天城と相棒が居ればあのモロキンも納得する教室の綺麗さだよな」

花村は自分の事の様に喜ぶ。

 

「で、肝心の完二は?」

かんじ(・・・)んの完二・・・シン君がダジャレ・・・ブフッ」と天城は何を想像したかはわからないが吹き出し、笑い始めた。

 

 

「う、ういーっす」とそこへ完二が来る。

屋上のちょっとした段差に千枝と花村は座り、天城と鳴上は立ったまま、完二を迎えた

シンは腕を組み、屋上から見える景色を見ていた。

 

「ぶっ・・・意外に敬語じゃん。」

「や、だってその・・・先輩だったんっスね」と完二は照れを隠す様に髪の毛を掻く。

 

そう完二がいうとシン以外は笑う。

 

「えと・・・そのありがとうございました。

あんま、覚えてねえけど・・・」

完二は少し不安そうに言う。

 

そして、ここに完二を呼び出した理由を天城が話し始める。

 

「私たち、教えてほしいことがあるの。」

 

その言葉に完二は首を傾げる。頭にクエスチョンマークが出てきそうな勢いだ。

 

「さっそくだけど、あん時会ってた男の子、誰?」と千枝は完二を見て言う。

男の子という言葉に反応し、一瞬驚いた完二は慌てた様子で語る。

「ア、アイツの事は・・・オレもよくぁ・・・」

「つか、まだ二度しかあってねえし・・・」

 

と完二が言うと、シンが口を開く。

 

「白鐘直斗。私立探偵。162cmくらいだろうが、恐らく靴なんかを外すともう少し低いかもな。

・・・」

続けて、シンは何かを言おうと口を開いた。

「おそらく・・・」

「おそらく?」と花村が言うと全員がずいっと一歩前へと踏み出したが、シンは。

 

 

 

「・・・なんでもない」とシンは言うと、再び景色に目線を戻した。

 

「な、なんだよ期待させといて」

「憶測の話を言っても仕方あるまい」

「そうだけども・・・」と千枝は少し表情を濁らせる。

 

「それで、なんでシン君は彼の事を知っているの?」と天城は尋ねる。

「使えるモノは使う。それ以上の意味はない」

「・・・そうか」と鳴上は頷く。

 

「それでさ、二人で学校から帰ってたんじゃんよ?何話したの?」

「や、えと・・・最近変わった事ねえか、とか・・・ホントその程度で・・・

けど、自分でもよく分かんねんスけど、オレ・・気づいたら、また会いたい、とか口走ってて・・・」

「男相手に。」と千枝はぼそりと言う。

 

そういわれると、完二は頷き言う。

「オ、オレ・・・自分でもよく、分かんねんスよ。

女って、キンキンうるせーし、その・・・すげー・・・苦手で。

男と居た方が楽なんスよ。

だ、だから、その・・・もしかしたら自分が、女に興味持てねえタチなんじゃって・・・

けどゼッテー認めたくねーし、そんなんで、グダグダしてたっつーか・・・」

完二は自分の言葉で話す。

 

「まー確かに、男同士の方が楽ってのはわかるけどな。」

 

「気持ちは落ち着いたか?」と鳴上は完二に言う。

 

「もう大丈夫っスよ。

要は勝手な思い込みだったって事っスよ。

壁作ってたのは、オレだったんだ。」

 

その話に皆首を傾げる。

「あ、ええと・・・ウチ、こー見えても代々"染物屋"なんスよ。

・・・あ、知ってんのか。

親は、染料は宇宙と同じ・・・とか、布は生きてるとか

・・・ま、ちっと変わりモンで。」

 

「んな中で育ったもんで、オレ、ガキの頃から、服縫うとか興味があったんスよ。

けどそういう事言うと、やっぱ微妙に思うヤツも居るみたいで・・・

女にゃイビられる、近所は珍しがるで、一時はもう、なんもかんもウザかったんスよ。

で、気付いてみりゃ、一人で暴れてた・・・ってとこスかね。」

 

「・・・」

 

「んだ、オレ・・・何一人でベラベラ喋ってんだ。

あー、今の無しで。・・・なんかオレ、だいぶカッコ悪りっスね。」

 

「そんなことない」と鳴上は真剣な眼差しで完二に言う。

 

「いや、全然ダメっすよ・・・」

そういうと完二は空を見上げて言う。

「ハハ・・・こんなん、人に初めて話したぜ。

ま、今まで言う相手も居なかったんスけど。

やっぱオレ、男だ女だじゃなくて、人に対してビビってたんスかね。

・・・なんか、すっきりしたぜ」

完二の顔は清々しい。

 

「意外に純情じゃん・・・つーか、いい子じゃん・・・」と千枝は笑顔で完二に言うと

「い、いい子は、やめろよ・・・」と完二は怒りながら照れている。

 

「・・・その様子じゃ、犯人の顔は見てなさそうだな。

鳴上たちを追いかけまわした後だ。」とシンは初めて完二の方を向いた。

 

「えーっと、誰か来たような・・・来てないような」

 

「なんだよ・・・ハッキリしろよ」と花村は困惑している。

 

「あと思い出すことっつや・・・

なんか変な、真っ暗な入り口みてえのとか・・・

気が付いたらもう、あのサウナみてえなトコにブっ倒れてたっス。」

 

「真っ暗な入口・・・」と天城はつぶやく。

「それってもしかして、テレビだったりしない?」

 

「あ・・・?

あー、言われてみりゃ、んな気も・・・」と完二はあいまいな答えをすると、シンが完二の前に来る。

そして、完二の頬を両手で挟む。

 

「な、なにするんふか?」

「俺の目を見ろ。・・・思い出せ」

 

完二はその眼を見た瞬間、背筋が凍った。

その眼は今まで見たこともないほど、鋭く自分の顔に刺さっている。

 

「あ、え、っと・・・」と完二は口ごもる。

 

「ちょ、何暴走族脅してんだよ」と花村はシンに言う。

「・・・すまん」とシンは完二から手を放し、上着のポケットに手を入れる。

 

鳴上は自分の目に映ったように口に出した。

「何を焦っているんだ?」

 

「・・・いや、悪かった。」とシンは呟くと屋上の出口へと向かって行った。

 

「・・・」

「大丈夫か?」と花村は言う。

 

「す、すげーっス」

「「「「は?」」」」と四人は完二の言葉に驚く。

 

「い、いや!そういう意味じゃなくてっすね。なんつーか、あの目力をすげぇっすよ」

「ま、まぁ、あいつのキレた時は本気でヤバいからな」と花村は追って来ているシンの目を思い出し

冷や汗を流す。

 

「・・・何を焦っているんだろう」と天城はシンの出て行ったドアを見て呟く。

「確かに・・・珍しく感情的って言うかね」と千枝は天城に同意する。

 

「・・・そういえば、シンはテレビに入った時、『影』の暴走はなかったよな」と花村は思い出す様に言う。

「『影』の暴走?」と完二は首を傾げる。

「お前がテレビの中で見た、もうひとりの自分の事だ」と鳴上は説明する。

 

「そうだね。確かにシン君だけなかったね」

「やっぱり、『悪魔』だからなのかな?」と千枝は言う。

「あ、『悪魔』?ど、どういうことっすか?」

 

「一通り説明しよう」と鳴上は言う。

 

シンの事に始まり、完二の身に起きた事、マヨナカテレビなど自分たちの知りえることを話した。

そして、完二が特別捜査隊に入ることを祝いにシンを除く全員でジュネスへと向かった。

 

 

 

 

薄暗くなってきた帰り道、シンはポケットに手を突っ込んだまま歩いていた。

焦りたくもなる。中途半端に終わられても困るのだ。

 

「ルイ。見てるんだろ」

「・・・何か用かね」

 

「この休息とやらはいつ終わる」

「クックックッ・・・」とルイは不敵に笑い言う。

 

「・・・まさか、わからない。ということでは、無いだろうな」

「鋭いな混沌王」とルイは笑うのを止める。

 

「この世界にある『アマラ経絡』の穴。それが生じている間、とだけは言っておこう。」

「・・・不安定ということか。」とシンは腕を組み考える様に言う。

「そうだ。現に『仲魔』の召喚が不安定なのが何よりの証左だ。5月には無尽蔵に呼び出せたが、今では、この世界に維持できるのは最大5体。

ストックも含めてな」とルイはハンチング帽子を脱ぎ、髪型を戻し、再び帽子を被る。

 

「・・・お前も楽しんでいるのだな。俺が悩み、もがいているところを見ているのは」

「クックック・・・どうだか。この世界の悪は可能性を探っている。自分が操り人形だと知らずに、神を気どっているのだ。そういう意味では、我々の敵は”善”そのものだ。

だが、どうやらお前はその可能性に荷担しているようだが。正直、彼らがどちらに転ぶか、我は楽しみにしているのだよ?それにそれほど、心配する必要はない。

時間は掛かるが再びこの世界への経絡を開けばよいだけの話だ」

「焦る必要はないと?」

「そうだな」

「だましたな」

「そうだな」とルイは笑いをこらえている。

「私は限りある時間と言ったが、それがいつなのかは明確には言っていない。

しいて言えば、この事件の黒幕を暴くまでいてもらいたいのだよ。」

「…なぜ」

「それが、我々にとって必ずしも力になるからとしか言いようがないがね」

 

シンは一瞬、拳を握ったが、すぐに緩めた。

「…まあ、いい。知らない俺が悪かった」とシンはため息を吐いた。

確かに、何を焦っていたのか、シンは思う。アマラ経絡の形や制限を未だに理解していない自分を呪った。

 

 

そうしているうちに住宅街に差し掛かると、ルイは消えた。

シンには消えた理由がすぐにわかった。

バイクの音が聞こえたからだ。

 

「まいどー」それは愛屋の『中村あいか』であった。

 

「・・・どうも」

 

「今日も来る?」

「ああ」

「まいどー」と言うとバイクで颯爽と走って行った。

 

放課後は愛屋でシンはまったりとしていることが多い。

週五と言わんばかりであり

今日も、それは変わらない。

 

夜になり、いつも通り、愛屋から出ると、完二と出くわした。

「こんちゃーす。・・・じゃなくて、こんばんはーッス。」と完二に言われ、シンは頷き答える。

 

「先輩もここらへんなんすか?」

「神社裏のアパートだ。」

「へぇ、一人暮らし、してるんっスね」

と完二は言うと、夕方のことを思い出し尋ねる。

 

「あーえーっと、天城先輩と鳴上先輩が言ってたんっすけど、何を焦ってるすか?」

「・・・俺は自分に愚直で、気の赴くままやってきた。だが、中途半端というのはあまり好かなくてな。

特に、好奇心に関係したことは特にな」

 

「はぁ・・・でも、なんで好奇心が関係してくるんッスか?」と分からないと言った返事をした後に、完二は質問する。

 

「単純なことだ。

 

 

面白そう。

 

 

それだけだ。」

 

それを聞いた完二は一瞬止まり、そして、笑い始めた。

 

 

「ハハハッ・・・なんすかそれ。なんかもっと大事とか思ってました」と完二は笑いながら言う。

 

「何事も動機は単純な方がいい。

それにどんな結果になっても、俺は変わることはない。気の赴くまま、いくだけだ。」

 

「でも、やっぱり先輩はかっこいいッス。」

 

「・・・そうか」とシンは淡々とそれを受け止める。

 

「じゃ、そろそろ帰ります」

「ん」と手を挙げてシンはそれに答えた。

 

 




主人公のシンについて何となく固まってきそうかな?って、感じてす。
あのセリフのおかげですかね。

漠たる死に安らぎなし
曲折の果てに其は訪れん
人に非ずとも 悪魔に非ずとも
我が意思の逝くまま

DDSのやつですね。

我が意思の逝くまま
ある意味赴くままというイメージが強かったので、中身でも赴くままとしました。

真があるのかないのか。わからない感じにしようかなと。
・・・’シンだけに

あと、個人的にペルソナとかのアニメとか映画、なんかいろいろやってて、最近じゃ、ペルソナ5の発表とかあって、アトラスが凄い盛り上がっててすごく嬉しいのです。

でも、その勢いのまま、空中分解とか洒落にならないので、そういうのも勘弁してください。
僕が死ぬまであるといいなぁ。
勿論。アトラス作品死ぬまで買い続けますとも。




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第12話 Devour Your Shadow 6月8日(水) 天気:雨

英語の近藤が相変わらず、赤いジャージで教壇に立っている。

 

「あ、でな。この前ドラマを見たんだが・・・

役者がハムでなぁ! ああいうのが最近増えたよな、ハハハハ!」

と体育会系らしく大きな声で笑う。

 

すると、天城が鳴上にたずねる。

 

「ねえ、鳴上君。 ハムって言ってるけど、どういう意味なのかな・・・?」

「下手な役者という意味だ。」

 

とその声が聞こえたのか、近藤はその話に割り込む。

「お、鳴上よく知っていたな!

でも聞くなら先生にしろよ~、天城!

ハムってのは、日本語で言うと大根役者だな!

へったくそなヤツ、って事だ!」

 

「ハムレットって知ってるだろ?

先生も名前だけ知ってる!

有名だから、下手なヤツほどやりたがる・・・

あのハム野郎め!ってことらしいな。」

 

「へえ・・・英語って面白いね。

そんな言い回しもあるんだ。」と天城は感心したように言う。

 

シンは天城に向かって言う。

「・・・大根役者を英語では『ham actor』と言う。

hamには『加工肉』としてのハムの訳以外に『道化者』まぁ、つまり『ひょうきんモノ』の意味がある。

ham it up,ham upはともに誇張した演技を指すことから自然な演技ができない素養の役者を指す。

故に、ハムといわれるという説もある。」

 

「シン君ってそんなことまで知ってるんだ」と千枝は感心したように言う。

 

「おお!そうだ。シンがいっていた説もあるぞ。都会のヤツは違うな!」と近藤も感心したようにうなずく。

 

そう話していると、チャイムが鳴りそれと同時に一斉に生徒たちは教科書を閉じ、わずかな安らぎの時間を満喫する。

 

 

「よく、そんなことを知っているな」と鳴上はシンに言う。

「まぁ、長いからな。」

「?」と鳴上は不思議に思ったがそれ以上はその話を突っ込まなかった。

 

 

 

放課後・・・

シンは家の前に差し掛かると、ルイがいた。

そして、その横には雨だというのに・・・

 

「・・・バイク?」

「ああ、そうだ。適当に見繕ってきた。」

「・・・適当の割には悪くない。」

 

それはトウキョウで乗っていたものだ。

CB400SFだ。

 

シンがバイクに跨ると、ルイはどこからともなく黒いヘルメットをシンに渡した。

「懐かしいか?」

「ああ」とシンはヘルメットを被り、鍵を回す。

その音と、感触。どれも懐かしい。

 

「お前はバイクがすきなのか?」

「・・・いや、懐かしいだけだ」とシンは否定するも、誰がどう見てもうれしそうだ。

 

「そうか。昔も居てな。名前は周防と言ったか。

ヤツもまた、あの善に似ていた。」

「・・・少し走ってくる」

「雨の中か?」

「・・・それもまた面白いぞ?」

シンはそういい残すと、バイクのスロットルを回し、走り去っていった。

 

「・・・クックッ、悪くないぞ。徐々に戻り始めた」とルイは言うと、近くの塀の曲がり角を見る。

「貴様、出てきたらどうだ?」

「・・・気づいていましたか」とそこはマーガレットが居た。

 

雨の中、マーガレットとルイはお互いの距離を測るように目線をそらさない。

 

「しかし、この世のものにしては見事なり」

ルイはそういうと、雨にぬれた髪を掻き揚げ、オールバックに戻す。

 

「知っていながら、あなたは彼と接触したのかしら?」とマーガレットは手に持っている本を開こうとするが

「・・・フッフフフ」

「!?」とマーガレットの本が開かない。

 

「ではな。意識と無意識の狭間の住民よ。

人の可能性を見ているといい。

・・・我もまたそれを覗いているのだ。」

 

ルイはまるで霧のようにその場から消えた。

 

「どうやら、とんでもないものがこの世界にあらわれました。

・・・でも、そんなモノでも"彼"なら。」

 

 

 

 

体に当たる雨粒が妙に心地よい。

ずいぶんと前のにおいを思い出す。

都会の排気ガスの匂いだ。人の営みの匂い。

バイクに乗っていると、そんなことを思い出す。

 

その中で俺は何をしていたと思い出そうとした。

だが、すぐにその、思いを消した。

それが酷く虚しく思えたから。現実は残酷だ非情だ。

 

ふと、俺は思う。

 

 

今更何を言っているだ俺は。

退屈だと嘆いていた現実を変えたように。

虚しさなど、人間を止めた時点で置いて来たではないか。

 

 

今更何を思ってるんだ・・・

 

 

本当に軽くこのあたりを走ってきて、すぐに自分の家にある駐輪場に止める。

自分の家の鍵を開け、すぐに室内へと入り、制服を干す。

そして、その干した制服の下で「アギ」というと、人差し指から火が出る。

それで、制服を乾かしながら、シンは事件のことを考えるのであった。

 

 

そこで、インターフォンが鳴る。

シンは誰だろうと思い、機械越しに確認する。

すると、まるでそれに気づいているように、カメラ目線で言う。

 

 

 

「お迎えに上がりました。間薙様」

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」と鳴上は一息つき、学校の門から出てきた。

それは、あのモロキンに半ば強制的に保健委員をやらされることとなったからだ。

だが、その見返りは大きなものであった。

 

(また、顔見知りが増えたなぁ)と鳴上は嬉しそうな顔で坂を下る。

 

「・・・よう少年」と鳴上は声を掛けられ、振り返る。

 

そこには銀髪の20代後半の青年が立っていた。

格好は長いコートを着て、その下は医者の白衣とは違うが、白い召し物。

そして、軍隊の帽子を被っている

 

だが、傘を持っておらず、雨宿りをしているようにも見えた。

 

「すみません。どなたですか?」と鳴上は首をかしげる。

「あたりまえだ、貴様は私を知らん。知らなくて当然だ」と偉そうな口調で鳴上に言う。

「『人修羅』を知らんか」

「人・・・修羅?」と鳴上は首をかしげる。

 

「・・・ああ、そうだった。えーっと」とその白衣のポケットから紙を取り出す。

「間薙シン・・・という名か」

鳴上は怪訝な顔をする。理由は簡単だ。

少しばかり浮世離れしすぎているのだ。白い髪の毛に整った顔立ちに白衣の下の格好と帽子。どれもこれも、怪しすぎるのだ。

 

「怪しいと思ったか貴様」

「!?」と鳴上は心を読まれたと思う。

「まあ、良い。それでシンとやらはどこにいる。」

「・・・すみませんが、どういう関係ですか?」と鳴上はたずねる。

 

「どういう関係だと?そんなもの今のところ何の関係もない」

「・・・すみませんが、お答えできません」

鳴上はきっぱりと言い放った。

 

おそらく、シンの『悪魔』の力と関係があるとすぐに理解した。

明らかにそっちの類の格好だ。

 

なら、何かしらの強制的に吐かせるなどの手段を講じてくると考えて思わず鳴上は拳に力が入った。

 

だが、鳴上が考えることをその青年はしてこなかった。

 

 

「そうか。まぁ、言わぬなら別に構わん。」

「・・・」

「貴様、名前は?」

 

「鳴上悠です」

「鳴上か。・・・雷鳴の意を持つに相応しい、いい目をしている。」と青年は腕を組み鳴上の顔を覗き込む。

 

「・・・だが、気をつけることだ」

「?」

 

 

「隠しているようだが、目がうそをついているぞ。」と青年は鼻で笑う。

鳴上は明らかに不機嫌になった。

 

「もし、ヤツらのような類と一般人、あるいは別の類のものであってもだ」と真剣な顔で鳴上に言う。

 

「『怪物と戦う者は常に自らも怪物にならないと知り、戒めるべきだ。

深淵を深く覗き込むとき、深淵もまた貴様をじっと見つめているのだ』」

 

「・・・」

 

「とある偉人のこの言葉。持っていると良い。

そっと、貴様の糧になるだろう」

 

鳴上は計り兼ねていた。

この青年。実のところ、シンの目とは違う。雰囲気も違う。

だが、どこか普通ではない。なんというか、融和的でありながら見定めるようなその視線はこの八十稲羽に来てからは初めてだった。

 

と、そこへでかい白いセダンの外車が止まる。

 

そこから、女性が一人降りてくる。その顔はまるでお面でもつけているように見えるほど、無機質で無表情。メイド服を着ている。

その手には大きな傘を差し、そして、その青年を為に傘を差す。

まるで自分は関係ないように、その女性は濡れていく。

 

 

「お連れいたしました。中にいらっしゃいます」

「おお。そうかよくやったぞ。メリー」

 

そういうと、颯爽と歩き始めた。

鳴上もそれについていった。

 

そして、車に乗ろうとするその青年は不意に振り返る。

 

「ケヴォーキアンだ。」

「はい?」と鳴上は

 

「私の名はケヴォーキアンだ。また会う機会があったらな、少年」

そういうと、ケヴォーキアンは車に乗り込む。

女性は扉をゆっくりと閉め、傘を閉じ、鳴上に一礼する。

鳴上もそれを見て一礼する。

 

その女性はすぐに、運転席に座り車は走り去っていった。

 

 

鳴上はそれを見送ると憂う。

(間薙シン・・・君はどんな人間なのかな)

そんな鳴上の思いは雨の音と共に空に淡く解けていった。

 

 

 

 

 

「失礼したね。」とケヴォーキアンはリムジンの中で雨の水滴を払う。

「話は聞いたかね?」

車に乗った人物にケヴォーキアンはたずねる。

 

「ええ、『邪教の館』の代わりになってくれるという話ですね」

 

その人物は間薙シン。

 

「そういうことだ。ま、私はその『邪教の館』を間接的にしか知らんのだがな。」と腕を組みため息を吐く。

 

「・・・ケヴォーキアン様」と女性は淡々と運転しながら言う。

「ん?なんだい?メリー」

「・・・付けられています」とサイドミラーを目視するメリー。

その先には二人組みの男が乗っている車であった。

 

「まぁ、いいさ。どうせ、中毒者だ」とケヴォーキアンはつまらなそうに言う。

 

「それで、その装置はどこに?」とシンは言う。

 

「ああ、私の屋敷だ。八十稲羽から少し離れている・・・

メリーに送ら(・・)せようか?」

「?いや、バイクがある」とシンは言葉にひっかかったが、気にせずに答えた。

 

「そうか。それはよかった。」

 

シンは素直に疑問に思ったことを口にする。

 

「なぜ、悪魔合体をできる?」

「・・・まずは私の話をしようではないか。ケヴォーキアン・メンゲレという。

一応。医者だ。だが、ある一方ではこういわれる。」

 

 

「私は通称『死の天使』、『死の医師』」

 

 

「・・・ずいぶんと物騒だな」

そういいつつもシンの目は興味を持った目である。

 

「そうかね?それでも、私の病院には沢山患者が来るがね」と苦笑する。

「皆、死に怯え私を頼る。だから、私は最善の道を常に探しているに過ぎない。」

 

 

「だから、私は悪くないのだよ」と両手を広げて高らかに笑う。

 

 

「この世の善悪に興味はないさ」とシンが言うと、一瞬あっけにとられ再び高らかに笑う。

 

「それでこそ、混沌王だ」

と笑みを浮かべると、車が止まる。

 

「到着いたしました。間薙様」とメリーは言う。

 

「ん。」とシンは扉を開け、傘を差そうとすると、すでにメリーが傘を差していた。そして、大きなカバンを手に持っている。

 

 

「じゃあ、メリー言った通りに」

「はい。了解いたしました」というと服についたほこりなどを払い言う。

 

 

 

 

「人造人間 メリーです。コンゴトモヨロシクお願いいたします」

そして、頭を下げた。

 

 

 

 

「?ああ、ん?」とシンは首をかしげる。

「これが、ルイ様との契約でね。」とケヴォーキアンは笑う。

 

「人間があがいて作り出した、人造人間。それと混沌王がどうするか。それを観察したいそうだ」とケヴォーキアンは車から降りると運転席にすわる。

「まぁ、心配するな。家事は無論できる」

 

そういうと、そのまま走り去ってしまった。

 

「・・・まあ、いいか」とシンは気にすることなく家へとメリーを招き入れた。

 

 

 

 

いつ見ても、人間というやつは面白い。

アダムとイヴ。アダムは私が唆しただけで、りんごを食べた。

 

だが、混沌王よ。貴様は違った。

 

貴様は自らその実を毟り取り、神の顔にたたきつけた。

これで私は確信した。

 

この人間は悪魔よりも悪魔らしい。

この世の・・・否。すべてのありとあらゆるものが、竦む様な冷酷な表情でりんごをたたきつけたのだ。

 

まさに『悪』そのものであった。

 

故に私はここにヤツを呼び出した。

 

 

 

 

(・・・本当に、そんな『悪魔』なのか?)とケヴォーキアンはタバコに火を付け外に息を吐き出した。

 

 

 

 

「あれって・・・間薙君じゃないですか?堂島さん」

「一体どういうことだ?」と堂島は頭を掻く。

「・・・しかし、堂島さん。今回の事件はあの医者は何の関係もありませんよ」と足立はため息をはく。

 

「だって、何の関係もありませんし、それにあの医者の車はここ一ヶ月で買ったくr」といいかけると頭を堂島に叩かれる。

 

「・・・いっつ」と足立は頭を抑える。

「・・・ほら、いくぞ!足立ィ!!」と堂島は助手席どーんと座る。

「は、はい!」

足立はあわてて運転席に座った。

 

 

(クソ・・・)と堂島は苛立ちを誰かに吐き出すこともできずに心の中で吐き出していた。

 

 

 

神は言葉ばかりだ。

幾億もの言葉ばかりで、何もしない。

道は諭すばかりだ。

彼の胸の影を誰が知る。

 

我以上に傲慢である。

 

「間薙さ・・・」

メリーは無表情でソファで寝るシンを見つめる。

メリーは、寝室に行き掛け布団を手に取り、それをシンにかけた。

そして、自分もシンの足元に座り、目を閉じた。

 

 

 

 




あけましておめでとうございます。

更新が遅れたことをお詫びします。
一応、生きてます。原因はパソコンの故障です。はい。
それでも感想とか書いてくださってるかも、と期待したりして、一応携帯で返したりしました。はい・・・

それでやっと復帰しました。はい。
それもこれも、バックアップ様様のおかげです。・・・はい。
皆様もバックアップはしっかり取りましょう。・・・はい。

とりあえず、閑話とフラグたての話になっています。

あとは。バイクとか詳しくないんで、とりあえずかっこいいのと思い、CB400SFにしました。

それで、ひとつ。
第一話で、原付免許と書いていましたが、バイク免許にしました。
理由はかっこいいからです。

はい・・・そういうことです。

今後はとある事情により、更新速度は一気に遅くなりますが、コンゴトモシクヨロ・・・

まぁ、あと、オリジナルキャラですが。
ソウルハッカーズの『業魔殿』的な感じのものです。

ヴィクトルを出そうか迷いましたが、オリジナルのキャラを出したいなって欲があったので、出してみました。

あとはそうですね。オリキャラの名前は実際の人物の名前です。
ケヴォーキン。メンゲレ。はそれぞれ違う人物です。

メリーはなんとなくです。
メアリに似てるのでなんとなくです



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第13話 Clash of The "Okina" 6月15日(水) 天気:曇

人の営みが顕著に出るのは、やはり都会である。

『便利』が人を蝕み、魅せて放さない。

それゆえに、人はこの都会に住みたいと考える人もいるだろう。

 

 

シンはどうだろうか。

間違いなくこういうだろう。

 

「田舎がいい」

 

というだろう。

 

隔離されたというのは大袈裟だが、確かに人が人らしく生活をしている場所というのが、自分には向いているとここ最近感じる。

都会のようにどこに行き着く訳でもない、空虚な事象に興味も失せている。

何より、それを理解しない人が都会には沢山いた。

・・・いつもこうだと思う。人は何も理解しない。

そもそも、人は何も理解しないまま、そのために死んでしまう。

 

人修羅になり、長い間居るが分かったことがある。人生には現在しかない。過去に生きた人も未来に生きる人もいない。

今、あるか、ないか。

 

俺はそれを認識していればいい。

 

 

(・・・って俺は何を考えているんだ)

そう思うと、信号が青になり俺はスロットルを回した。

 

 

 

 

 

 

「遅いな」と沖奈駅前でシンは二人を待っていた。

何でも、作戦があると花村に言われ何をするのか、知らずにシンはこの沖奈市へとバイクで来ていた。

周りを見渡し、ため息をはく。千枝が言っていた、沖奈駅前。

確かに賑わい、本当に都会のイメージに相応しい。

 

だが、東京とは決定的に違うものがある。

 

人の数である。

シンはこの程度なら嫌悪しない程度のものである。

何より、人の数が増えれば増えるほど、自分の選んだ選択は正しかったのか。

それを問いたくなってしまう。

だが、結局は変わらぬ現在。

無意味で何て、無価値なんだ。

そう思うと、シンは少し表情を歪めるが、直ぐに平常の淡々とした顔に戻った。

 

 

そこへ原動付バイクが二台、シンの元へときた。

二人はヘルメットを取り、シンのバイクを見る。

「おお!かっけぇ!」と花村は少し興奮気味にシンのバイクを見た。

 

その後、すぐに遅れてキコキコとこの都会には似つかわしくない音を掻きたてながら、自転車が到着した。

 

「マジでここまで付いてきやがった・・・」と全員がその音のほうを向いた。

 

息を切らしながらヘルメットを被り、すごい形相で完二が自転車で到着する。

「…ら、楽勝っすよ。慣らし中の原チャリなんざ、あいてになんねっス」

「途中でガス欠になんなかったら、完全に振り切ってたっつーの!」

そういうと花村はため息を吐いた。

「…遊び代欲しさに、ガソリンケチるんじゃなかったぜ。」

 

完二は自転車を降り、シンのバイクを見る。

そして、鳴上たちのバイクを見る。

 

「…そのなんっていうんすかね。」

「う、うるせぇ!原チャリだっていいだろ!」

 

「中型というやつか」

「まぁ、そうなる」

「あれ?でも、お前って やそいなばまで電車で来たって言ってなかったっけ」と花村が尋ねる。

 

「買ったんだ。それを店員に届けてもらった。」

 

それを聞いた鳴上と花村は、(ああ、なるほどね)と察した顔をし、完二一人が首をかしげていた。

 

「それにしても」と完二は周りを見渡しいう。

「来るたびに思うっすけど…やっぱり人多いっスね。」

 

「ああ、この辺で張ってりゃそのうち声掛けてくるかもだぜ!?」

 

声をかけてくる(・・・・・・)?なんだ、芸能人にでもなりたいのか?」

シンはため息ともにその言葉を吐き出す。

 

「あ」

「え?」と花村とシンの意志の疎通が図れていない。

 

「ああ!そうだった!シンに言い忘れてた!!」

「そうだぞ。俺はなぜこんなところに呼び出されたのかわかっていないんだからな」

「それは、花村が…」と鳴上が言おうとした瞬間、花村が口をふさいだ。

 

(な、なんだ)と小声で鳴上は花村に尋ねる。

(普通に言ったら、どう考えたってシンはやらねーだろ!!)

「なるほど…」と鳴上が納得した声を上げる。

 

 

 

「どうせ、ナンパだろ?」

 

「「「!?」」」

「な、なんでわかったんだ!?」と花村は驚きシンの方を見る。

 

「いや、お前がさっき声を掛けられる(・・・)かもと言っていた。

受動的な言葉だ。だが、どう考えてもお前は芸能人になりたいって感じでもなさそうだしな。

なにより、普段からの花村の生活を見ていれば、容易に想像はつく」

「ああ~、なるほど。間薙先輩頭いいっスね」と完二は納得したように花村を見る。

 

「俺ってそんな風に見えてるのか・・・」

「とにかく、始めよう」と鳴上は話を進める。

 

「ああ、えーっと、始める前にちょっといいっスか?

せっかく沖奈来たんで、その…し、手芸の…」

 

朱鯉(しゅごい)?…緋鯉(ひごい)のことか?」とシンは首を傾げる。

 

「…な、何でもねーよ!買い物があるっつってんだろ!」

大きな声で完二は叫ぶ。

「とにかくちっとはずすんで、先やっちゃってて下さい!」

そういうとダッシュでどこかに去って行った

 

「何しに来たんだよ、アイツ…」

「渋い趣味だな。それに、緋鯉なんて売ってるのか?」とシンは鳴上に尋ねる。

「たぶん、違うな」

 

 

「よっしゃ!作戦決行だぜ!」

それを聞いた鳴上はうなずく。シンもわからないがとりあえずうなずいた。

 

初夏の日差しが心地良い…

その中、シンはバイクをいじり始める。

 

 

…3時間が経過した!

初夏の日差しが暑苦しい…

 

未だにシンはバイクをいじっている。

 

そこへ、完二が走ってきた。

「遅れました!どれ買うか迷っちまって…」

 

「…」

「…」

「…」

 

カチャカチャというシンがバイクをいじる音だけがその場を支配していた。

 

 

「収穫ゼロっすか。」

 

そういわれると焦る二人。

「おっかしーなあ。どっかから視線は感じるんだけどなあ。」

「まったく感じない」と鳴上は暑そうに制服をはためかせる。

 

「や、待てって!もうちょい粘ればきっと…」

「や、日ぃ暮れちまうだろそれ…やっぱ、どっか問題あんじゃないスか?」

「完二に問題があるのかもな」と鳴上は完二を見る。

 

「オレっスか!?」

「当たり前だろ!お前顔怖えーんだよ!つかチャリだし!」

「顔は関係ねーだろ!つーかオレ、さっきまでいなかったっスよ!?

バイク持ってりゃ女寄ってくるっつったの、あんただろーが!」

 

「大体、バイクは男のアイテムっつー話っスけど、間薙先輩の以外原付っスよ?

マジでバイクなら何でもいーんスか。」

完二の正論に花村はたじろぐ。

 

「まあ・・・確かに雑誌で見たヤツは、でけーバイクだったけどさ。

しょうがねーだろ?夢と現実には開きがあんの!

高いのは買えないのッ!原付で精一杯だっつーの!」

花村の悲痛な叫びがこの暑苦しい空のもとに響く。

 

「先輩、オレに10分くんねーか。」

?とシンも手を止めて、完二の話を聞き始めた。

 

「やられたまんま黙ってらんねっしょ。先輩らの仇、オレがとってやんぜ!」

「ケンカじゃねーっての。仇とるってどーすんだよ。お前、ナンパでもするつもりか?」

 

「ったり前っスよ!この状況で、他に何すんスか。」

とそれに続くようにシンが久しぶりに口を開いた。

「ここでこうしていても仕方ないだろうしな」

 

結局、四人でナンパ勝負をすることになる。

花村は嫌がっていたが、完二に押される形で開き直り参加することとなる。

完二は「負けたら、パンイチで町内マラソン、ついでに鼻メガネかけてやらあ!」と意気込んでいた。

 

「さて、どうするか」とシンは考える。

 

とりあえず、やるだけやってみることにした。

何せ会話スキルを人間に試せるのかそれが気になったからだ。

 

 

 

さて、詳しい内容は多くは明かす必要もないだろう。

 

 

「(^q^)くおえうえーーーるえうおおお!」

 

そういうと、ギャルたちは笑い始めた。

 

「…(何を言っているんだ。『アナライズ』で確かめて、人間だとわかっている。だが、どうだ。何を言っているのかわからない。『ジャイヴトーク』も通用しない…どうしたらいい…どうしたら…。)」

 

といった具合にギャル系女子高生に『ジャイヴトーク』が適用されないことに驚いたり

あまりにも上から目線の女性だったので『死の契約』しようとして、不穏な空気を察した鳴上に止められた。

 

その他

ポケットに入れっぱなしにしていた、『小さなルビー』を財布を探している最中に落とすと、

「おやおや、綺麗な宝石ですね」と老婆が声を掛けてきて、そのまま宝石と何故か老婆が大事に持っていた、『死兆石』と交換した。いわゆる、『物々交換』をしたり、『洗脳』で無理やり携帯番号を聞き出したり、など実験としてありとありとあらゆる会話スキルを試した。

 

だが、やはり効果的だったのは『口説き落とし』であった。

 

シンのダークな雰囲気とその目力に射止められる女性が多かったらしい。

だが、いざ携帯番号となると立ち止まり、その場を去っていく女性が大半であった。

結果的に収穫は3人。

 

だが、本人はスキルの汎用性に納得していたためにどこか顔は嬉しそうである。

そして、映画のDVDをついでに買っていると、すでに皆集まっていると、メールが入っていたため、慌ててシンは戻ることにした。

 

 

シンがバイクを止めていた場所へと戻ると

『二度とかけてくんじゃねー!わかったな!』と大きな怒声が携帯電話から聞こえていた。

慌てる三人。

 

「声の大きな女だな」とシンは三人と合流する。

「いや!女じゃねーだろ!どう聞いても!」と花村は思わず突っ込む。

「マジすか…」と完二は唖然としていた

 

「それでそれで!シンはどうだったんだ!」と花村はテンションを上げてシンに尋ねる。

「3人だ」

 

それでいざかけてみると、洗脳された女性はでた瞬間叫ぶのですぐに切り、残りの二つは偽物であった。

 

「はぁ、まぁそうだよな」と花村がため息を吐く。

「でも、間薙先輩三人もゲットしたんすか」

「そうだな」と間薙が言うと、

 

 

 

「間薙様。」

 

 

 

「「「!?」」」とシン以外はその声の主を見て驚いた。

何せメイド服である。明らかにおかしい。

 

「メリーか。何をしているんだ?」

「買い物でございます。」と背負ったリュックサックを見せる。そして、手には冷凍ものを入れたバックを持っていた。

 

「リュックで買い…」

とシンが言おうとすると、花村と鳴上はガシッとシンの肩を掴みヒソヒソ声で話す。

「ど、どちらさんだよ!超綺麗な人じゃねーか!」

 

 

 

「メイドさんだが」

「メイドさんってそんな…え?やっぱりおまえんちって金持ちジャン!」

「いや、そういうわけでもないんだが」

 

「何をしていらっしゃるのですか?」

 

メリーが言うと、慌てて花村は取り繕う。

 

「…な、な名前はなんて言うんスか?」と完二はすこしテンパりながら名前を尋ねる。

「メリーでございます」と頭を下げる。

 

「それで、メリーはどうやって帰るんだ?」

「電車で帰るつもりです」

 

「乗っていくといい」という座席を開け、白いヘルメットを渡す。

「…そうですか。ではお言葉に甘えて」

 

そういうと、シンもバイクに乗り、ヘルメットをかぶった。

メリーは後ろに座り、シンに抱き着く。

 

それを見た花村はもうここに心非ずであった。

 

 

「冷凍ものがあるから、悪いな。先に帰る」

「ああ、また明日」と鳴上は颯爽と走り去った友人を見送っていった。

 

「ど、どういうことなんだ!!!」と花村は大声を上げた。

 

「ってか、花村先輩が想像してたのってあれっすよね?原チャリじゃできねっすよ」

 

 

 

「ちくしょーぉおおおおおおおお!!!」

 

 

叫んだ花村とは違い、鳴上は冷静に話を戻した。

「それで、花村はどうだったんだ?」

「そ、そうだった。次はラスト!俺の番だな」

「花村先輩も、行けたんスか!?」と完二は驚きを隠せない。

 

「へへっ、ったり前だろ。番号一個ゲットしましたー!

いっや、苦労したわー。すっげーイカした、お姉さんでさ。

ちょっと背伸びしちゃったかな」

そういうと花村は登録した電話に掛けようとした、それがまさか地獄への電話になるとは

このとき誰も思わなかっただろう・・・

 

 

 

「…」夜中。

シンは寝静まった中、ソファーに座ってテレビを見ていた。

 

「やっほー」とその隣にピクシーが現れる。

「…ピクシーか」

「そうよ。私以外誰がいるのよ。」

「それで、なんか用か」

 

「いや、べつになんでもないわよ」とプイッとそっぽを向く。

 

「…そっちはどうだ。」

「そうね。相変わらずって感じ。混沌としてるけど、あなたが作り出した規律の範囲内のことだしね。好き勝手にやってるわ。」

「それで『あいつ』は?」

 

「今の所、動きはないみたい。ただ、やっぱりあなたが居なくなってからは復活の兆しはあるみたい。」

 

「…そしたら、これで何回目だったか」

 

「えーっと…数え切れないね」というと笑みを浮かべる。

 

ピクシーはシンの食べかけのお菓子を小さな体で持ち上げ、かぶりつく。

 

「まあ、おまえに任せる。」

「えー。めんどくさいなあ。私もシンと居たいのに。」

「…一番信頼出来るから、お前を補佐にしてるんだ。頼むよ」

その言葉を聞いたピクシーはシンを見つめたまま、チョコを落とした。

 

 

「…」

「…なんだ。」

「なんというか、丸くなったわ」

そういうと、ピクシーは落としたチョコを拾い再び食べ始めた。

 

「…太ったのか…」とシンは自分の腹を突くが、固く、鋼の如くで相変わらずである。

 

「いやべつにそういう意味じゃないんだけどさ。

…まあ、いいわ。どーせ、あの私はメイレイするだけだし。」

 

 

もっさもっさとピクシーはチョコのお菓子を食べ、シンはテレビを見ている。

 

 

「でも、おかしな話だわ。混沌を選んだあなたが、あの世界で、"秩序"を作ったのだから、それってものすごくおかしな話だと思うの。」

 

「…王だからな。それに、一つの条件以外俺は何も求めない」

 

 

 

「『大いなる意志以外、殺生は避けるように』だったかしら、ずいぶんと曖昧で稚拙だわ…あ、これおいしいかも」とマガデミアンナッツをもう一度持ち、齧る。

 

 

「そうでもない。それに避けるよう(・・・・・)にでしかない。」

「それって、生きるためだったら、最悪殺してもいいってことだよね」

「そうなるな」

 

そう。これは避けるように。

つまり、絶対的規律ではない。

 

だが、事実、相当の因縁がある連中でない限り、あの世界は至って平和である。

それは"明けの明星"と言われたルシファーを倒した、"混沌王"が魅力的であり、カリスマ性があったのは事実である。

 

そっと触れただけで、悪魔でさえもその闇に引きづりこまれてしまうほどの闇。

何よりも圧倒的な力。それがあの混沌とした世界では何よりも悪魔たちを引き付けた。

 

 

だが、すべての悪魔が従属しているわけでもない。

 

一部はやはり、大いなる意志の復活の為、どこかに隠れている。

何れにせよ、それも何度も繰り返している。

 

「…まあ、いいや。とりあえず、なんかあったらまた来るわ」

そういうと、ピクシーは消えた。

 

 

(…そういえば、明後日から林間学校だったな…)

そう思うと、シンはテレビの画面を見ながら準備を始めるのであった。

 

 

 

あるか。ないか。二元論ではないところに、やつはいる。

今はまだ小さな火でも、やがては大きくなる。

それが、意志を持ち、大いなる意志になる。

 

つまり、意識ある所に奴は現れる。

 

 

 

実に憎たらしい。

 

 

 

 

考えたくもないが、可能性を話そう。

おそらく神なんてものは存在しない。だが、存在している。

最強であり、最弱である。

 

そんなやつだ。あのクソッタレは。

 




稚拙な文章で申し訳ないです。
あと、シンの性格がブレッブレなのも勘弁してください。


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第x1話 Do Devils Dream Of God?

気休めに書きました。
この話は本編とは一切関係ありません。
飛ばしてもらっても構いません。


『ぼくは世界の涯てが 自分自身の夢のなかにしかないことを 知っていたのだ』

             寺山修司 「懐かしのわが家」より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、これからカラオケいかねーか?」

「…悪いな。用事がある」

 

そういうと、俺はカバンを机から持ち上げ、教室から出て行った。

上履きから外履きに履き替え、校門から出ると、大きなビルが立ち並ぶ。

最近、それが揺れているような感覚に陥るときがある。

 

 

でも、おそらく気のせいなのだろう。

疲れだ。どうせ、たいしたことはない。

 

 

高校の最寄駅へと向かい、いつもと同じ動作で定期券を改札に入れ、取り出す。

電車が来るまでの時間を確認し、ホームで電車を待つ。

 

 

…実は、特別することはない。

"用事"などない。少し疲れたから、今日は断ったのだ。

 

何も変わりなく、平凡に流れていく時間と人間。

 

辺りを見渡せば、携帯を睨み付けるスーツの男性や、怠そうにガムを噛みヘッドフォンをする青年、化粧を直す女性や、抱き合うカップル。

 

動く長針の針と、少し赤らむ空、遠吠えをする犬、都会特有の空気の不味さと喧騒。

 

何も変わらない光景だ。

 

 

 

だからこそ、退屈だ。

それがここ最近思うことだ。

 

 

 

 

 

反吐が出そうなほど、気が狂いそうなほど、刺激もなく何も起きない。

 

目に見えない事件や何かは恐らく起きているのだろう。

あの抱き合っている二人を見てみろ。

愛だとか恋だとかそんなモノでさえここのホームに溢れている。

 

それを事件と言わずに何という?

 

ここに限らず巷には見えないもので溢れている。

路上で抱き合い愛を確認する。若者に夢を語れと先人は言う。

愛だとか夢、そういったものだ。

 

それを否定するものは(しばしば)、弾圧され糾弾する。とまでは言わないが…寂しい奴だと言われるに違いない。

 

存外、それに異を唱えることさえ許されないのかもしれない。そんな世の中だ。

 

だが、そんなものにどれほどの価値があるのか、今だに分からない。

所詮は短い人生の中での些細なこと。無くて死ぬわけではない。

あるから生きやすくなるわけでもないんだろう。

そんなものがなくても楽しいものは楽しい、辛いものは辛いのだ。

 

愛があれば耐えられるや夢の為だから耐えられるだとか、そういったものは結局辛いことには変わりないのだ。耐えられる耐えられないの問題ではない。

そこは問題点ではない。

 

 

目に見えないものは、手に持ったサハラ砂漠の砂のように零れ落ちて、気が付けば何も残っていない。何度も何度も掴もうが空を切るのだろう。

 

では物理的なものはどうだろうか。

…なんだかそれはそれこそさびしいと思う。

 

 

そうなってくると、本当に俺は何の為にここにいるのか、わからなくなる。

『居させてもらっている』。違う。俺はいつだって家を出ることはできる。

なら、なぜここに居る。

 

 

そこへ、電車が到着する音がする。

俺はふぅと考えるのを止め、電車の中へと乗り込む。

 

電車に乗ると仲良さそうに同い年の学生が話していた。

その顔には笑みが溢れ、楽しそうに口を動かす。

 

 

 

 

ああ、そうか。

俺は気が付いた。

 

 

 

 

 

俺は"オレ"が嫌いなんだ。

 

夢も理想も愛も他人も…

そんなものを持っている人間が羨ましい。だから、嫉妬する。

 

嫉妬しているオレが嫌いなんだ。

何も知らないくせに傲慢な態度でいるオレが嫌いなのだ。

持ってないから渇望する。そして、嫌悪する。

 

思わず俺は自分の顔を両手で覆った。

俺はオレでいることが何よりも苛立たしかった。

 

無知で愚昧で蒙昧…

 

自分の顔の皮を剥ぎたくなるほど俺は自己嫌悪する。

何も知らない。何も考えないでどこか遠くに行ってしまいたかった。

 

と、トンネルに入ったのか車輪音が響く。

 

俺は顔を上げると、客が誰も居なくなっていた。

そして、トンネルを抜ける。

 

 

軽快に鳴り響く汽車の車輪音、深緑に染まった山々が見えた。

固くなったパッチを人差し指と中指で挟み、それを勢いよく持ち上げる。その窓を開けた瞬間に流れ込む風と共に土のにおいが鼻を刺激する。

 

風で髪が靡く、何度もすれ違う細い電柱。

汽笛がなり、煙が濃くなる。

田園が広がり、農夫が身を屈め苗を植える。

 

そこには正に田舎町が広がっていた。

 

終点に付くと、自然と体が動いた。

無人駅で切符を小さな錆びた缶に切符を入れた。

そして、潮のにおいが鼻に刺さる。

 

海が近いのかそれにつられるように歩き出した。

 

ああ、旅は良い。喧騒もなく、人も少ない。

・・・人?

 

 

 

それで気が付いた。

 

 

 

 

 

俺は他人を見て、鏡のようにオレを判断しようとしていた。

決してそれは間違いではないのだろう。

人は他人からでしか自分をしることができない。

 

なら、諦めよう。

 

下らない問だ。

俺の癖だ。何の役にも立たない思考を繰り返す。

どうも、ムカつく。

 

意味なんて初めからない。

 

俺はオレと乖離することも離脱することもない。

ましてやそんな必要もないだろう。

 

そして、俺は崖に囲まれた浜に着いた。

そこからは、世界の果てまで見えるような、地平線の向こうまで一点の曇りもなく見える。

 

「静かだ。」

 

波の音だけが心地よく響く。

 

そこに一匹の蝶が飛んできた。

黒い透明感のある蝶だ。その蝶は俺の手に止まり、すこしはためくと

俺の体に溶けて行った。だが、それに違和感はなく、寧ろ心地が良い。

 

 

眼を閉じ、ため息を吐く。そして、目を開くと木の木目が視界に入った。

はて。あの景色はどこへいってしまったのだろう。

 

妙に手が痺れ、何より当たりが薄暗い。

 

ぐいっと顔を上げると、すぐ近くに問題集を持ち厳しい顔でこちらを見る数学教諭が居た。

 

俺はじーっとそれを見ると、再び机に突っ伏した。

目の前の数学教諭から逃げたいというのもあったのか、夢の中に置いてきたあの景色をもう一度見たい思った。

 

あの世界の果てまで見渡せるような、そんな景色をもう一度見たかった。

 

その後、頭に衝撃が走ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




恐らく意味不明だと思いますので解説をいたします。

話はシンが人修羅になる前の話です。
日常的な雰囲気ですが、ある意味、神からの『啓示』的なストーリーになっています。
つまり、なるべくして人修羅になったという勝手な設定です。
真女神転生3では『あの者が気になるんでございますか?』と老婆が言っていました。ルシファー自身が気になるほどの恩恵をシンは受けていたという将又勝手な設定。



*Do Devils Dream Of God?(悪魔は神の夢を見るのか?)
これはわかる人にはすぐに分かりますが、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』のパロディです。神というのは出てきた蝶のことです。
蝶はこれはペルソナの元の『胡蝶の夢』を少し考えています。

夢の中に出てきた蝶。これは後の人修羅を象徴しています。
そして、神に近い存在になるという暗示。だと思ってもらっていいと思います。
何せ『混沌王』。それが神とほぼ対等だという暗示ですが、所詮は『夢』。それが事実なのか、神の手のひらの上なのか不明。
(個人的には、未来とか夢って自分の体の中にあって欲しいモノだと思う。誰かの思惑で動いてるんじゃなんか、俺いらなくね?みたいになる)

*『ぼくは世界の涯てが 自分自身の夢のなかにしかないことを知っていたのだ』
これも上記に関連しています。混沌王になってから、永遠に戦い続ける。
簡単に言ってしまえば世界の果て=戦いの終わりを意識しました。
だが、それは人修羅にとっては夢の中にしかないということ。
だから、自分自身の夢の中にしかない。
世界の果てと同じように。





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第14話 Preparation 6月17日(金) 天気:曇

破門された際に「破門状」という文が有るそうだ。

破門されたことで有名?なスピノザの際には。

 

『  彼は昼に呪われよ、夜に呪われよ。

 彼は寝る時に呪われよ、起きる時に呪われよ。

 彼は外出する時に呪われよ、帰宅する時に呪われよ。

   神が彼を赦し給わざらんことを。』

一部だが、こんなものらしい。

 

…では、俺はどうだろうか。そもそも信仰はしてなかった。

神の存在は別にそれが生き方だとか、道だとかそういった考えもなった。

でも、『呪われよ』と言う点では似ているな。何より、それが『永遠』ということである。

"昼にも夜にも呪われろ"と書かれている。その狭間がない限り、永遠だ。

寝ている。起きている。この狭間もない。つまり、永遠だ。

 

『カグツチ』に呪われてあれと言われたとき、俺の中で『死』というもの以外で初めて『絶対』が出来た。

 

それが『永遠の闘争』…。

愛でも誰かに託す理想でも、夢でもない。時間でも世界でもない。

永遠の闘争…だが、それを恐ろしいとは思わない。

最近になって、それは思うことだ。

こうして、静かに考えているとそう思うときがある。

 

 

 

…寧ろ、今、この眼前にある物体Xの方がオレにとっては恐ろしかった。

これはなんだろうか。目で見える程の紫色の煙を上げて、見た目はカレーだ。

 

 

 

だが、何故だろう。味が…気になる。

俺の悪い癖だ…。

 

 

こうなった、原因を話しようと思う。

良い意味でも悪い意味でもそれが重要だ。

 

話は前日に戻る…

 

 

『何言ってんだっ!生きて、生きて帰るぞ…』

と映画の最後のセリフを言いかけた瞬間、テレビを消される。

 

 

「…学校の時間ですよ」とメリーにテレビを消された。

 

「…ああ、そうか。もうそんな時間か」

「しかし、私の主の想像とはまったくもって違う生活をしていらっしゃいます」

メリーは不思議そうに首をかしげた。

 

「そうやって、寝ずにDVDを見るなどというのが『混沌王』なのですか?」

 

それを聞いてシンは腕を組み、「さぁ?」とだけ言うと、制服に着替える。

「『混沌王』というのは怠惰ということなでしょうか」

「たぶん違うと思うよ。ある意味、大罪のうちの一つではあるけども。」

 

「…」

「…」

二人に流れる沈黙。

 

「…そうですか。覚えておきます。では、いってらっしゃいませ」

そういうと、メリーは頭を下げシンを送り出した。

 

 

未だに彼女との距離を測りかねている。

『悪魔』も人間もコミュニケーションの意味で考えるなら、感情豊かな点だ。

無論、無感情な人間も悪魔もいるだろうな。

 

だが、一方、彼女はどうだ。

 

笑うところは見たことがない

悲しむところも見たことはない。

嬉しそうな顔も、怒ったところもない。

 

ただ、淡々と物事を済ませていく…

 

…彼女を見ていると、少し息苦しくなる。

…理由は概ね予想はつく。

昔のあの普通に学生をやっていたころの自分に似ているからだ。

ただ淡々と高校に通い、何をするべきなのかわからず、何が正しいのか、何を知らないのか。

只々時間を消費していたあの頃の自分に似ている。

故に少し自己嫌悪する。

 

 

 

 

シンも既に半そでのYシャツを着て登校していた。

既に季節は六月半ば。徐々に夏に向かっている。

シンは帰宅部ではあるものの、通常より早く登校する。

朝の練習をする部活と普通の生徒の間である。

 

本人はそれに関しては深い意味はない。

 

ただ、その時間の静かな河川敷が情緒があり好きであるという理由だ。

真っ暗闇のあの世界。

光も射さないあの世界。

 

それとは対照的な景色であるからだ。

 

話は逸れたが、今日は『普通の生徒』の時間である。

周りには沢山の八十神高校の生徒が沢山居る。

 

シンは少し残念な顔で河川敷を歩いていると、「おはよう」と後ろから声を掛けられた。

それは鳴上であった。

 

「珍しく遅いんだな」

「まあ、そうだな」とシンはうなずき答える。

 

そこに走ってこちらに寄ってくる足音がする。

「おはよう、鳴上君。間薙君」

 

声の主は天城である。その表情はどこか明るい。

 

「林間学校、明日からだね」

「そうだな」

「私たち、同じ班だけど、ご飯はなに作ろうか」

天城は鳴上たちに尋ねる。

「別に俺は特に」とシンが言うと鳴上もそれに同意するようにうなずく。

「あ、じゃあ放課後みんなで買い出しにいかない?」

 

「ぜひ行こう」鳴上は笑顔で言う。

「俺も暇だしいいよ」

 

そういうと天城は嬉しそうにうなずいた。

 

 

 

 

放課後…

 

「なるほど、そういった惨劇があったのか」

「まさか、大谷が出るとは…」と鳴上は苦い顔をする。

大谷。というのは、うちの学生だ。だが、容姿が正直に言うと、ひどいのだ。

 

だが、どうして花村がナンパした相手が大谷の番号を渡したのか…どういった手段を用いたのか…わからない。

 

 

鳴上はひらめいたようにいう。

 

 

「まさになんぱせん(難破船,ナンパ戦)・・・・・だった」

「なるほど。うまいな」とシンは感心したように鳴上に返した。

「…いや、そこは笑うところなんだが…」と鳴上は珍しく突っ込んでしまった。

 

その後、ジュネスへと向かった。

 

 

ジュネスの野菜売り場に来ていた。

「カレーって何入れたっけ?」と千枝は天城に尋ねる。

「にんじん、じゃがいも、たまねぎ…ピーマンまいたけに…ふきのとう?」

 

「…」

「…」

シンと鳴上は妙な胸騒ぎを感じる。

 

「ふきのとう…と"ふき"って一緒かな?」

 

どうやらカレーを作るようだ。

 

千枝はシンたちの方を向き、尋ねた。

「カレーでいいよね?人気ナンバーワンの国民食。」

「ラーメンとカレーで迷ったんだけど、ラーメンじゃちょっと浮くと思って」

「確かに、飯盒炊飯でラーメンというのは聞かないな」とシンはいう。

 

「でしょ?だからカレーにするね」と千枝たちは再び野菜の方へと体を向けた。

 

「んー、花村とか、どんな具が好きかねえ…あいつ、細かく文句言いそうだし。」

「上の階に行ったんだっけ。訊いてくる?」と天城は千枝に尋ねる。

「そこまではいいよ。それに、なんか準備があるって言ってたし。」

 

花村は学校の授業中に魘されていたようだが、それに関しては突っ込まないことにしておこう。

 

それぞれの食品コーナーを回る四人。

 

ふと、天城は粉系コーナーで足を止めて唸っていた。

 

「…うーん」と天城は考えるように食材を見ていた。

そして、千枝に尋ねる。

 

 

「ねえ、千枝。カレーに片栗粉って使うよね?」

「「!?」」と鳴上とシンは眼を見開く。

 

「…?そ、そりゃ、使うんじゃん?」と千枝は慌てた様子でうなずいた。

「「!?!?」」とさらに二人は目を見開いた。

それと同時に、胸騒ぎはさらに加速した。

 

「使わないと、とろみつかないよね。じゃあ片栗粉と…小麦粉もいるかな。」

「こ、小麦粉って、あれでしょ。薄力粉と、強力粉?どっちだろ。」

「強い方がいいよ、男の子いるし。」

そういうと、強力粉を籠に入れた。

 

「じゃあ、それと…あった!」とトウガラシも籠に入れた。

 

二人は盛り上がりたくさんの何に使うのか不明な食品まで入れ始めた。

 

 

「…シン。」

「なんだ、悠」

「俺には言えない。勇気が足りない」

鳴上は盛り上がる二人を止められるほど、勇気が足りなかった。

 

シンは少し黙り、盛り上がる二人を見て口を開いた。

「…悠」

「なんだ。」

「絶対に生きて帰るぞ」とシンは鳴上を見る。

 

「…ああ」と鳴上は遠い目をしながらうなずいた。

 

 

 

結局、二人は籠に何を入れたのか覚えていなかった。

出来上がるカレーがどうなるのかで頭がいっぱいになり、それどころではなかった。

明日、迎えるであろう『カレーという名の何か』がどうなるのか、それをどう攻略するべきなのか、鳴上とシンは自宅でもそれで頭がいっぱいであった。

 

 

 

 

次の日…

 

 

完二が出席日数の関係で林間学校に参加したため、一年は葬式だと完二は言っていた。

そりゃそうだろう、と誰もが思った。

そして、完二と合流しごみひろいをしていた。

 

「ゴミ拾いって…俺たちは、ボーイスカウトかってんだよ。」と花村は文句を垂れながら森林のごみを拾っていた。

「にしても、ゴミ多いねえー」と千枝はため息を吐き、一息ついた。

 

「…すこし、事件について整理しよう」と鳴上は空き缶を大きな袋に入れる。

「そうだね。完二君の事件で被害者が女性って共通点は崩れちゃったね」と天城は思い出すように言う。

 

「何か、見落としているのかもしれない」

「とは、いえほかの共通点っていってもねえ」と千枝は中腰でごみを探す。

 

「なんでもいいから、情報出し合ってみようぜ」

「そういやあ、お袋が言ってたんスけど。生田目議員は辞職したあと、この実家の稼業継いだらしいっスよ」

 

「私も聞いた。配送業者なんでしょ?」と天城は完二の方を見て同意する。

「でね、私。気が付いたことがあるんだけど、山野アナは事件の前に不倫報道でテレビで出てたでしょ?小西先輩も第一発見者でニュースに出てた。」

 

「おい、待てよ、天城も確かテレビでインタビューされたよな?」と花村は天城に確認をする。

「完二君も、たしか特番に出ていたよね?」

「ああ、思い出したくもないっすね」

 

「全員、いなくなる前に『テレビで報道されていた』」

いつの間には全員が集まって、会話をしていた。

そして、全員が考え込む。

「テレビつながりってことっスか」

 

ふと、完二は周りを見渡す。

「あれ?ってか、シン先輩はどこにいるんすか?」

と言われ、全員がキョロキョロする。

 

 

 

 

「…え?まさか、バックレ?」

 

 

 

「るはずがないだろう」

木の陰から、シンが出てきた。

 

「つまりだ、テレビの報道を見ていれば、ある程度犯人の次の行動が予測できるということだ」そういうと、シンはスチール缶を片手で握りつぶした。

 

そして、シンは言葉を続ける。

 

「しかし、それだと犯行の理由が思いつかん。

何のために、どうしてテレビで報道された人を、テレビに入れて『殺す』理由があるのか。」というと、シンはすぐにごみひろいを始めた。

 

「動機はまだ見当もつかないな」と鳴上は軽くため息を吐いた。

それと同時に全員がため息を吐く。

 

 

それと同時にシン以外は鳴上の後ろに立つ人物に気が付いた。

 

「こらぁああ!おまえらグダグダしゃべってないで間薙のようにごみひろいをせんか!!」

そうモロキンが叫び、皆ごみひろいを再開した。

 

 

 

午後になり、それぞれ生徒たちが、飯盒炊飯の準備をしていた。

それが終わり、いよいよ冒頭に戻るわけだ。

 

 

すでに花村と鳴上は噴出して倒れた。

(…『忘れねば思い出さず候』)とシンは両手を合わせて二人に合掌した。

 

「む、無理しなくていいよ」と千枝はシンに言う。

だが、その目はどこか期待をしているように見えてなおさらシンを苦しめた。

それよりも、興味。混沌王たる俺がこの明らかに毒々しいカレーを食べたい。

どんな味をしていて、どんな触感なのだろうか。

 

それだけで、シンはスプーンに一口分の物体Xを口に入れた。

 

(…な、なんだこれ…)

シンはそして、思い出した。マガタマを『マサカドゥス』にしていた。

いつもは、とある場所で頂いた、マガタマを装備していたのだが、今回は偶々、変えてしまっていた。

(『マサカドゥス』を貫通!?万能属性か!?…ああ、この…かんか…くは)

 

シンはいつの間にかうつぶせに倒れていた。

白い空間の中、天使たちが舞い降りてくる。さながら、フランダースの犬だ。

 

 

『死の安らぎは 等しく訪れよう

 人に非ずとも 悪魔…』

 

 

 

「はっ!!!」とシンは『食いしばり』でこの世に生をつなぎとめた。

 

シンはすぐにポケットから、『ソーマ』を取り出し飲み干した。

 

 

夜。

 

 

鳴上と花村のテントがどう考えても狭いので、モロキンに言ってみると、案外すんなり代替えのテントをくれた。

理由は間薙の授業態度など真面目で、屡授業後の質問などをしてくる、浮いた話もなく、モロキンからの評価は高かったためである。

 

鳴上たちのすぐ近くにテントを建てる。

それが終わると、すでに真っ暗になりつつあった。

 

シンは寝っころがると、耳栓をする。

これは一つの合図である。この際には『俺のところにくるな』という手下に対する合図。

 

シンは天井を見上げると、考え始める。

 

それはやはりこの事件とその犯人のことである。

 

 

 

テレビで報道された人間を『テレビに入れて殺す』。

それだと動機が不明だ。テレビに出たから羨ましい…というわけではないだろう。

実際、完二や天城のテレビの内容は良いものではなかった。

 

…そもそも、『入れて殺す』

 

入れて…殺す?

 

仮にだ、今回の犯人が、猟奇殺人者とか快楽殺人者だった場合

 

…そうだ。

 

『殺し方』にこだわるはずだ。それが態々、自分の手を汚さずに『殺す』か?

それに、『殺し』を目的としているものが、天城が助かっている時点でやり方を変えるはずだ。殺すことが目的であるなら、尚更だ。

だとするならば、『テレビに入れる』こちらに焦点を合わせるべきだ。

 

『テレビに入れる』ことに意味があるとするなら、殺しは二の次を意味する。

 

…どんな犯人だと『テレビに入れる』ことを重視するだろうか…

 

テレビに出ていたから、テレビの中に居るはずの人間がテレビの中にいないのはおかしい!だから、テレビに入れるよっ!それで二人くらい死んじゃってるけど、僕は悪くない!

 

…ないな。

 

ふふふっ、私は選ばれた人間だ。

この力があれば…フフフッ…私は新世界の神になるッ!!

 

…相当、イッてる。

でも、まあ、これは可能性はあるな。

盲信的なことから生じた行為だとするなら、『テレビに入れる』ことに宗教的意味や何らかの思想で偶々、『テレビに入る』能力を手に入れたものがそういった思想になった。

…少し、無茶苦茶だな。

 

だが、盲信…

 

……。

 

 

シンは天井を見上げて海に沈む様な感覚。

深く、深く潜る様に思考の海に沈む。

真っ暗闇の中、ゆっくりと海に沈んでいった。

隣の騒ぎに気付くことなく、只々、沈んでいった。

 




読み返していて思いましたが、今回のは本編知らないと分からないことが多すぎだなって思いました。それにいろいろ端折って、なんか支離滅裂。
なので、鳴上視点も作った方がいいのかなとかなんとか考えてます。


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第15話 Deepening Ties 6月18日(土) 天気:曇/晴

何だかんだ、更新が出来てうれしいようなたいへんのような。





午前五時ほどになったとき、シンはむくっと起き上がり、耳栓を外し携帯を確認した。

すると、自宅から連絡が入ってた。

 

留守電を確認するために自宅に電話を掛けた。

 

「…メリーです」

「何か用かい?それも君がかけてくるとは」

 

「…先ほど、20代ほどの女性が『教祖様に上納金だと』家に来ました。」

「…あ、あ」

 

あのしつこく連絡をしてくるやつか。…洗脳なんか、するんじゃなかったな。

それに…自宅を教えた覚えはないんだが…

 

「ですが、バアル様が酔っていらして、シン様に会わせろとヒステリックに叫びましたところ、非常にお怒りになりまして、そのまま『マイムール』で無残にも殺されてしまいました。

その際に電話を差し上げたのですが、お出にならなかったので、とりあえず掃除をしておきました。」

「…はぁ」とシンはため息を吐いた。

 

バアルは酔うと短気になる。

 

「…どうなさいますか」

 

「そうだな…バアルに言っておけ、ミンチにして「間薙様。」…ん?」

メリーに言葉を遮られる。

 

 

「すでにミンチでございます」

 

 

「…そうか。自分で尻拭いもしておけと伝えておいてくれ」

「かしこまりました」

 

後日…

 

この話は後にバラバラ事件として捜査が始まる。

だが、死体はもはや人の形を成しておらず、ひき肉と言われても分からないくらいである。それがなぜ人だとわかったのか。それは彼女が住む部屋にその肉片が無数にあったからだ。事件は難航。だが、一人の男が自分がやったと自首をした。

そして、男の言った場所に行くと、彼女の血痕があった。

つまり、この場所でバラバラにしたのは明白であった。

様々な包丁などがあった。そこにも彼女の血痕が付着。

この男が犯人であることは間違いなかった。

 

だが、自首して二日後その男は突然、心臓麻痺で死亡した。

 

そして、犯人死亡のまま事件は送検された…

 

無論、一人は違和感を持っていたようだが…

 

「どうしたんすか?堂島さん」と足立は警察署でニュースを見ていた。

「いや、どうもおかしくてな」

「この事件ですか?惨いですよねー。

でも、堂島さん。この事件うちの管轄外ですよ。事件は沖奈ですから」

「…」と堂島は納得がいかないものの、どうすることも出来ずに、椅子から立ち上がった。

「いくぞ!足立ぃ!」

「あ、ちょっと!」

 

 

直斗は足を止め、ジュネスの家電売り場で報道されるニュースを見ていた。

そこには『速報!容疑者が心臓麻痺で死亡!』

どこのチャンネルもその沖奈警察署前でその当時の状況などを話す。

 

直斗もどこか疑問に思うところがあった。

だが、容疑者は死亡。どうすることも出来ない。

直斗は帽子を深く被り直すと再び『八十稲羽市怪奇連続殺人事件』の調査に戻っていった。

 

彼女は本望だった。そして、同時に更に彼を崇めた。それはバアルというあの禍々しい存在をみて、彼こそ、私が嫌いだったこの世界を壊してくれる。

そんな気さえ起きた。

 

そして、彼女は思念体となり『アマラ』に居られることとなった。

思念体であるとはいえ『混沌王』に仕えることが出来るのだから、それだけで本望であった。

それこそ、シンの『洗脳』の恐ろしさである。

 

死して尚も崇める。それほど、強力な『洗脳』である。

だが、それはおそらく、彼女の考え方、思想、それらがあの『混沌』と非常にマッチングしてしまったのが大きな要因だといえるだろう。

 

 

さて、話は林間学校二日目に戻ろう。

 

 

シンは電話を切る。だが、その表情に心配はない。

それはある意味信頼である。

 

やはり、あの『大いなる意志』と何度も戦ってきた奴だからこそ、信頼しているといえるだろう。

 

そして、シンはテントから出ると深呼吸をした。

 

と、隣のテントから二人が出てきた。

 

そして、目が合う。

 

「「!?」」

それは千枝と雪子。

 

「…お、おはよう」とシンは流石に一瞬、驚いた顔で二人に挨拶をした。

 

「ち、ちちち違うからね!」

「そ、そうだから!決して」と大声を出す二人に、シンは口をふさぐ。

 

「…大きな声を出すと、皆が起きるぞ?」とだが、その顔は少し笑みを浮かべている。

 

その後、シンも手伝わされ完二を元のテントに連れて行った。

 

 

結局、二人は鳴上と花村を交えてシンに説明をする。

そこは簡単に且つ短絡的に話をしよう。

 

完二にホモ疑惑→それを払拭するために、何故か、完二は女子のテントへ→

完二は偶々、天城と千枝のテントに突入→

入った瞬間、気絶(ここは疑問であったが、シンは特に突っ込んだが、それを貫き通された)

→二人は寝れないため、鳴上と花村のテントに行った。

 

というわけである。

 

ちなみに完二はまだ起きない。

 

「…っていうわけだからね!絶対に言わないでよ!」と千枝は顔を赤くし、シンに言った。

「ん。まぁわかったよ」とシンは冷たい水で顔を洗う。

 

「でさでさ、このあと川行かね?」と花村は少しテンション高めに皆に言った。

 

 

 

 

時同じくして、ここは沖奈駅前『喫茶店シャガール』

そこには二人の男がコーヒーを飲み向き合っていた。

 

「…どうだね。この世界は」

 

そこには嘗て『神取鷹久』と言われた男の顔をした者がいる。

サングラスを掛けている。その顔は『皮肉に満ちた嘲笑を浮かべている』。

 

「面白い。それより貴様はどうなのだ?そんな人間を象るとは」とルイはただ、一言いうと笑みを浮かべる。

 

「私にとって姿など、時の流れと変わらん。

そして、『人修羅』…すばらしい、この私が魅せられるのだ。

あの禍々しさ、何よりあの上っ面に隠された悪意…あまりにも深い闇…」

そういうとコーヒーを飲み干し、嘲笑する。

 

「だが、あの女・から私の存在に気が付くとは…流石だな」

「他愛もない」とルイは淡々と答える。

 

「…あの件。確かに了承した」

 

 

 

五人は川の近くまで来ていた。

 

「おぉおお!」と花村のテンションは最大まで上がりきっている。

「とりあえず!泳ぐか!」

「「はぁ?」」と女子二人は疑問の声を上げる。

そして、「はぁ」と完二はため息を漏らした。

「あー、俺怠いんでパス」と完二は完全にテンションが花村とは真逆で下がっている。

 

「俺だけ…泳いでもつまんねーだろ?」

そういうと花村は千枝と雪子を見た。

二人は驚いた表情で「何見てんの!?あんたらだけで入りゃいいじゃん!」と千枝は腕を組む。

 

「そういやぁ、貸しがあったよな」と花村の目つきが鋭くなる。

「貸し?…てっきり盛りの」と言いかけた時に鳴上ににらまれ口をふさがれる。

 

「ま、まぁ…そうなんだけど…。…そう、そう!水着持ってきてないしね?雪子」と千枝は慌てた様子でいう。

雪子もそれに同意するようにうなずく。

 

「じゃーん!ジュネスオリジナルブランド初夏の新作!だぜ!」

と花村はどこからともなく二着の水着を取り出した。

 

「あーだから居なかったのか。あの食材選びの時に」

シンは納得したように思い出す。

「先輩…まじ引くっす」と完二は引き気味に花村から半歩下がった。

 

 

結局、四人は着替えに向かった。無論、別々に。

そして、シンと完二は川の丁度、飛び込めるような深さのある場所で四人を待っていた。

 

「間薙先輩は良いんスか?」

「俺は水着はないからな」

「あーそうっすよね、普通は持ってこないっスよね」

「荷物が増えるのは面倒だ」

 

そんな話をしていると、鳴上と花村が先に戻ってきた。

それから、5分ほどたっただろうか。

 

「おっせーなぁ」と花村はうろうろと落ち着きなく、歩きまわる。

鳴上はただ、じっとまち、完二は座り込んで待っていた。

シンに至っては石を拾い滝に石を軽く投げていた。

 

「間薙先輩はなにやってんすか」

「いや、あの出っ張っている石を削ろうかと」

「どんだけ暇なんすか…」

 

 

「お、おまたせ…」と千枝の声がすると花村と完二はそちらを見た。

 

 

「「おおおおぉおぉおおおおお!!」」

 

「あ、あんまりじろじろ見ないでくれる…」と千枝は恥ずかしそうに言う。

「だ、黙ってないでなんか…言って」天城も同様恥ずかしそうに言う。

 

「二人とも似合ってる」と鳴上は平然とそれを言った。

 

カーッと二人の顔は赤くなった。

 

「いやぁ、想像以上にいいんじゃね?」と花村は嬉しそうに言う。

「まぁ、中身がちょっとガキっぽいけど…将来いいお姉さんになるんじゃね?な、鳴上?」

「確かに」

花村が言い、同意した瞬間、鳴上と花村は宙を舞った。

そして、滝壺へとダイブすることとなった。

 

「あー大丈夫っすか?先輩?」と完二は落ちた二人の方を見た。

そして、天城はふと、完二を見た瞬間、鼻血を垂れていた完二。完二もまた蹴り落された。

 

「綺麗な蹴りだな」とシンは感心したように天城を見た。

 

 

「なんも!落とすことねーだろ!」と花村は千枝たちに向かって叫んだ。

「いいじゃん。どうせ入ろうとしてたんでしょ?」

 

「ん?何か聞こえないか?」

 

落とされた三人と上の三人に嗚咽のような何かを吐き出すような声が聞こえた。

 

「あの声…」と天城はその声がする上流をみた。

「モロキンだな」とシンも同じように上流を見た。

 

「…」

「…」

「…」

 

鳴上、花村はすぐに察しがついた。

それは昨晩、飲みまくっていたモロキンが上流で吐いている音だった。

三人はまだ、寒い川の中…ただただ、泳ぐことなく、打ちひしがれていた。

 

 

 

 

 

夜…

 

シンはサングラスを掛けた男性と部屋で話していた。

 

「…私は。ニャルラトホテプという。」

「ふーん」とシンは興味ありそうでなさそうな声を出した。

 

「ルイから概ね話は聞いた。私を差し置いて、『混沌王』などというものが現れたからな。」と相変わらず『皮肉に満ちた嘲笑を浮かべている』。

 

「…それで?這い寄る混沌が何の用さ。」

「ああ、やはり貴様の中に渦巻く混沌は私に似ている。…いや、それ以上か…」

 

「用はそれだけか?すこし、疲れているんだ」とシンは欠伸をした。

「しかし、貴様があのような若者の『希望』を傍らでそれを見ているとは、嫌悪しないのかね?」とニャルラトホテプはシンに尋ねる。

 

「…」

「いや、愚問だったな。…貴様は…『すべてを受け入れて尚、永遠に続く闘争を続けている』…だったんだな。だから、そうやって仮面を被り、光も闇も受け入れる。だからこそ、混沌を望んだ…み」と何かを言いかけた時、ニャルラホテプは口を動かすのを止めた。

 

「それ以上の言葉は主は望んでいない。」

「そうなのよね。うん。言葉にしてしまうのは簡単なんだよ?でも、それを口にしてしまうと、きっと、あなたも後悔する…」

 

ニャルラトホテプの周りにはクーフーリン、ピクシー、そして、バアルが囲むように立っていた。

それぞれが睨むようにニャルラトホテプを見る。

 

「フフッ…そうか。真意が読めただけで私は満足だ。無貌の神・ニャルラトホテプ。今後ともよろしくな」

 

そういうと、夜の影に溶けていった。

 

 

「…ルイ様はどういったつもりなのでしょうか。」

「ニャルラトホテプの協力がなければならない理由がある。

恐らく、出せる『悪魔』の数が減ってきていることに関して…ということだろうな」とバアルはふぅと息を吐くとワインを飲む。

 

「そうよね。ふつーに考えて」とピクシーはシンの肩に止まった。

 

「『這い寄る混沌』を仲魔にできたのは大きい。」とシンは淡々という。

「…ま、悪魔の契約ってのは絶対だからね。破ったらどうなるかも、わかってるだろうしね」ピクシーはお菓子を探しにキッチンに飛んで行った。

 

「…しかし、やつは這い寄る混沌。混沌を望む…。しかし、混沌たる混沌の主はそれすらも飲み込まれるのですか?」とクーフーリンはシンに向かって言った。

 

 

 

「…すべては手の上。所詮、あやつは舞台の上の俳優にすぎないのですよ。

やがてはこの話の脚本家も、すべては混沌と帰すだろうな…アドリブ合戦が如く…それぞれが勝手に動き始める…これだから、あなたの下で働くかいがありますよ…」

バアルはにやりと笑うと、アマラに帰って行った。

 

「…相変わらず嫌な言い回し。めんどくさいよねー?ああいうの、なんていうのかな?ヘンタイ?」ピクシーはビスケットを抱えてシンに尋ねる。

「…中二病?」

「あーバカにつける薬はないわよまったく。」ビスケットを一齧りし、アマラに帰って行った。

 

 

 

「…終わりになりましたか?」とメリーはシンに尋ねた。

「ああ、ただの『お話』さ。」

 

「…どうなさいますか?」

「そうだな。…風呂に入る」

「すでに湯は入っています」

「ん、」

 

シンはそういうと、いつもと変わらぬ顔で立ち上がり、風呂場へとむかった。

 

 

「間薙様は何を考えていらっしゃるのでしょうか」とメリーはクーフーリンに尋ねる。

「…私にも計り兼ねます。常にあの方は何かを考えていらっしゃる。

それも遥か先まで見渡しています。…私のような浅慮ではなく…深淵に自ら飛び込んだのですから。」

 

そのクーフーリンの言葉には尊敬の念と同時に、どこか不安を思わせるようなそんな顔であった。

 

「…よくわかりません」

「分からないのは仕方ありません、いずれすべての行為の意味が分かることだと思います。」




『マイムール』
バアルが使う矛のことです。

結局、洗脳された女性にはまぁ、簡単に退場頂いた。
だけんども、これもフラグに使えないかなと思い書いた次第です。
不満不平はあると思いますが、早めに回収したいと思うところです。


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第16話 The Shadow of Bloom 6月20日(月)・21日(火)

6月20日(月) 天気:曇

6月21日(火) 天気:雨







人間というやつは自分の理想と現実の差異に苦しむ。

故に、理想を求めて直走ることが出来るのだろう。

 

"あいつ"。つまり、ニャルラトホテプに言わせると、

『過去と未来とは、現実と理想。

予知できぬが故に、人は未来に希望を抱き、それが過去となった時、儚い現実を知る。』

 

 

彼女はどうだろうか…

 

『…以上、当プロ"久慈川りせ"休業に関します、本人よりのコメントでした。』

テレビの中ではマイクに囲まれたスーツの男性がポツポツとアイドルの休業理由を語り終わった。

 

『えー、時間が押しておりますので、質問などございます方は手短に…』

 

と、一人の記者が声をあげた。

 

『失礼、えー"女性ビュウ"の石岡です。静養ということは、何か体調に問題でも?』

記者が質問を終えると、現役女子高生アイドルこと、久慈川りせにカメラが向いた。

 

『いえ、体を壊してるって訳じゃ…』というものの、目は少しうつろに見える。

 

『と、すると、心の方?休業後は親族の家で静養とのうわさですが、確か稲羽市の方ですよね!連続殺人の!』と語尾を強めて記者は質問する。

 

『え?…』

 

俺はリモコンを手に取り、テレビを消した。

 

彼女にとって、理想がどうなのかを俺は知らないし、過去も興味などない。

つまり、俺にはどうでもいいことだ。どうでもいいことだし、これから先も興味を持たないだろう…

 

そう思っていると、皿の割れる音がした。

 

「大丈夫か?」と俺はソファから起き上がりキッチンを見た。

「…はい。大丈夫でございます」と小さな箒で掃除を始めた。

 

そして、ここ最近、メリーの様子がおかしい。

あれほど、淡々と仕事をこなして彼女が最近、と言ってもここ二日三日の話だが、ミスが目立つ。

だからと言って、いきなりおっとりキャラにキャラチェンジをしている訳ではないらしい。

寧ろ、ミスをする方が、俺としてはそれの方が愛嬌があっていいと思う。

 

「…手伝うよ」

俺は起き上がると、メリーの掃除を手伝いにキッチンへと向かった。

 

 

 

 

 

普通の人間なら、寝ているときの『夢』というものはそれほど、大した意味を持たない。

概ね、記憶の整理とされている。

それが統合されて、混沌と化すことも屡ある。

 

だが、時に夢というのはとてもおかしいことを起こすものだ。

彼にとってはそういった経験は、二回目であった。

 

あの霧に包まれた夢よりも、もっと彼にとってはインパクトに残ることとなる。

 

 

 

 

「…ん、あ」と鳴上は固い地面に突っ伏していることに気が付き起き上がった。

 

(…どこだ、ここは)

まわりを見渡すと、赤い楕円の上下がとがったようなものが無数にあり、常に赤い点状のものがうごめいている。

そして、なにより、雰囲気が禍々しく、それだけで身を削られている気持ちだ。

 

「…あら、あなた、」と声を掛けられた。

「!?」

 

鳴上は驚いた。

透明な女性がこちらに話しかけてくるのだから、それはもう気が気ではない。

思わず、拳に力が入る。

 

「そう気構えないで頂戴?私は何もできないわ」

「…ここはなんですか?」

 

 

 

 

「ここは『アマラ深界』。『第1カルパ』」

「?"アマラ深界"…?」

「そう。マガツヒの流れる道の最深部に存在する世界。そして、治められているのは『あのお方』素晴らしく禍々しいの」

「…」

 

その眼はまるで取り憑かれたように虚ろであった。

 

鳴上は記憶を辿った。

堂島や菜々子と食事をしながら、久慈川りせのインタビュー映像を見た。

そして、お風呂に入り、確かに布団の中に入ったはずである。

 

だが、気が付けば、この禍々しい空間に居た。

 

「…何者ぞ」と丸いドアらしき場所から、黒い馬に乗り、赤い鎧で全身を包み、捻じれた角が二本生えている兜をかぶったモノが現れた。その手には槍を持っている。

 

「…わかりません」と幽霊の女性は首をかしげた。

 

「ふむ、人間か。

…だが、ボルテクス界は暗闇に包まれそして、神不在の今、人間がどこから現れようか。」

「恐らく、『あのお方』のお知り合いかと…でなければこうして、突然は現れませんと考えます」

「…ほう」

 

仮面のようなもので表情は分からないが、確かに自分を見る目が変わったように思えた。

 

「して、どうやってここに来られましたかな?」と突然、言葉が丁寧になった。

「…わかりません」と鳴上は正直に答えた。

「…うむ、困ったものだ。」

 

 

「膨大なマガツヒを感じたから来てみれば、可能性の人間か」

「!?」と鳴上はとっさに後ろに下がった。鳴上の戦い慣れがそれを瞬時に察し、足を動かさせた。

 

重々しい声がした方に鳴上は振り向く。

そこには、杯を片手に持ち、茶色に近い肌で魚のようなものを模した兜を被った男がいた。

 

「…この地は『あのお方』の許可なしに踏み入れることは許されん。

許可されしものは『ライドウ殿』のみ。ライドウ殿の修練の日だとは聞いていない。」

 

 

「は。バアル様。

アカラナ回廊からの接続も確認していません。」

 

「となると、貴様は可能性の世界からか。」

 

そういうと、杯指ではじいた。

 

すると、鳴上は力が抜けていくのを感じる。

「あのお方?…くっ…そ」

「…いずれ、またここを訪れる日が来ようぞ。

今、貴様はここに居るべきではないのだ。」

そういうと、バアルと言われた悪魔、笑みを浮かべた。だが、それはニヒルな、笑いである。

その笑みを見て一人思い当たる人物が居た。

 

「…シ…ン?」

そういうと鳴上の意識は薄れていった。

 

 

 

 

「……ん…ちゃん…お兄ちゃん!」

「!?」と鳴上は飛び起きた。

まだ、それほど暑くもないのに。汗をかいているのは明白であった。

 

「大丈夫?…大きな声…上げてた…」と菜々子が部屋のドアの前で心配そうな声を出していた。

「…大丈夫だよ。菜々子」

 

それは菜々子を心配させないと同時に、跳ねるように動く自分の心臓に言い聞かせるような心境であった。

 

 

 

 

 

その日の朝…

シンが珍しくいない中、それぞれ鳴上達が話していると、教室に完二が来た。

「うーっす」

完二は気怠そうに鳴上達に声を掛けた。

 

「お、来た。最近、マジメに来てんじゃん、どしたの?」

「出席日数って面倒なんがあるもんで。」

というとため息を吐いた。

 

「しかし、お前の顔を見ると、こう…どうにも林間学校思い出すな…」

花村がそういうと、男性陣三人は苦虫をつぶしたような顔をした。

 

「つーかそうだ、先輩ら、ニュース見たッスか?」

「ニュース?…ああ、"久慈川りせ・電撃休業"ってやつ?

まさに今ブレイク中ってとこなのに、なんで休業すんだろーね。」

 

「アイドルってのも大変だよなー、うん。」

「りせってそんなに有名?」と鳴上が花村に尋ねる。

 

「え…知らないの?お前、これは都会とか田舎、カンケーないぞ?

まだデビューして短いけど、このままいきゃ、じきトップアイドルだぜ。」

少し興奮気味に花村は話す。

 

「俺、結構好きなんだよ!なんたってキャワイイ!」

「キャワイイって…オッサンかよ。」

 

「まあでも、確かにここ出身で、小さいことまで住んでたらしいし、ファン多いんじゃん?」

「ニュースだと、彼女"お祖母さんの豆腐屋さん"へ行くんでしょ?それ…もしかして、マル久さんの事かな。」

 

「マルキュー?」天城の言葉に首をかしげた。

 

「"マル久豆腐店"。ちょっと前まで、ウチの旅館でも仕入れてたの」

 

「あー、商店街のあそこか!よく前通るな。

え、じゃあ、あの豆腐屋行ったら、りせに会えんのかな!?」

と花村はガタッと席を立った。

 

「ぜひ今度会いたい。」

 

「ちょっとちょっと、重要な点から逸れていってない?」

と千枝がカツを入れるが、花村は首をかしげる。

 

「事件の話だって!アンタ自分で"テレビ繋がり?"って言ってたでしょーが!

狙われるかもよ、彼女?」

「そんな、りせは別に昨日今日テレビに出たわけじゃないじゃん。」

 

「だが、そうでもないみたいだな」

 

「あ、シンか遅かったな」と全員が声のした方へ向いた。

 

「テレビに出ている時期は関係ない。時の人、が目を付けられる。」

「それに、これでもしりせが狙われたら、犯人の狙いがつけられるな」と鳴上はシンの話に同意するように付け加えた。

 

「テレビで報道された人間が犯人のターゲットということが確定するだろうな。

予想が的中すればな」とシンは腕を組む

「あーはーなるほど」と完二は納得したようにうなずいた。

 

「よし、じゃ早速、りせの動向に注意だな!」

 

「朝の時点では異常はなかったがな」とシンは席に着きカバンを置いた。

 

「うっそ!りせと会ったのか?」

「いや、まだ会ってない」

 

「ってか、間薙君、その帽子は?」と千枝はシンの被る帽子を指差した。

「ああ、これか…」と黒い学生帽を脱ぎ、手に取った。

 

「…プレゼントされたものさ」

「へぇ、でも年季が凄いっスね。でも、どうして被って来たんスか?」と完二はマジマジと帽子を見た。

「まぁ、少し煽ってきた」

 

「煽って?」と天城は尋ねる。

「面白くなるように、煽ってきた」とシンは頬を釣り上げて口をゆがませた。

 

「ま、間薙先輩流石っス。」と完二はあこがれの目でシンを見る。

「いや、多分お前が想像してんのと違うからな」と花村は恒例のツッコミを入れた。

 

 

この会話の約1時間前、一体何があったのか。

朝、午前7時。

 

 

 

「…」とシンは辰姫神社の入口すぐの階段に座り"マル久豆腐店"を気付かれないように見ていた。ズボンのポケットに両手を入れる。学生帽を被り、気配を消す。

恐らく、今のシンは空気である。

 

誰もそちらを見ない。

意識的にみない限り、彼に視線がいくことはないだろう。

 

「…あなたですか」と直斗がいつもと変わらぬ恰好で、シンの前に現れた。

「…なんだ、少年」

「何を言ってるんですか?ほとんど同じ歳ですよ…」と直斗はシンの横に並び立った。

 

 

「…あなた一人で攫う計画でも立てているんですか?」

「さあ?」とシンは表情を変えずに淡々と答える。

 

 

「…正直、あなたという人間がまったくもって情報がなくて、僕も困っているんですよ。」と直斗はシンをじっと見た。

「何故、この町に来たのか。これに関しては本当にわかりません。

ですが、どこから来たのか。これは東京だそうですね。」

「…ストーカーかい?君は」

「いいえ、探偵ですよ」と直斗は少し笑みを浮かべる。

 

「ですが、東京のどこからか…それは全くもってわかりません」と直斗は俯く。

 

「正直、これほど情報の無い人間はいません。そして、何よりあなたの眼が…同じ年の人間だとは思えない。」

「…それは論理的結論?」

 

「いえ」と直斗は顔を上げ、じっと見る。

 

 

「勘です。探偵としての」

 

 

「…残念だけど、俺は彼女を攫う理由もないし、山野アナや小西早紀の事件の時には俺はここにはいなかった。」

 

「いえ、あなただけを疑っているわけではありません。

"あなた達"も一つの可能性だと考えているんです」

 

シンは少し沈黙し、口を開いた。

「…一つ言えることは、君から見える景色と俺から見える景色は違う。

君がそれぞれ単体の"花びら"を見ているのかもしれないが、

俺は『華の影』を見ているのかもしれない。」

そういうと、シンは腰を上げた。

 

「…事件は"恋"するものではないぞ?盲目になっては誤った真実を生み出す。」

そういうと、ニヒルな笑みを浮かべる。

 

「…」と直斗は渋い顔をして俯いた。

 

「じゃあな、少年探偵。」

 

 

 

 

兎に角、彼"間薙シン"という人物は侮れないと感じる。

彼と接触を図ったのはある意味、失敗だったかもしれないと思う。

探偵をやってきて、様々な人と会った。

 

だが、彼のような人間は…初めてだった。

…寧ろ、"人間"なのか疑った方がいいのかもしれない。と思うほどだ。

 

吸い込まれそうな程、真っ黒な瞳は光さえ無い。

例え、どんなに太陽の光が射していても、彼の目には光がない。

 

そして、独特な髪形、私服は服装はフードのパーカーが多い。

 

学校での様子は至って優秀。

交友関係は僕が疑っている彼ら。

 

休日は一日中家から出てこない時もある。

 

何より、メイド。そう。メイドが彼の家に居るのだ。

相当な資産家と思われる。だが、そんな人間の情報がないというのは明らかに不審である。

 

ふと、直斗は思う。

 

…そもそも、彼はここで何をしていたのだろうか。

 

『一つ言えることは、君から見える景色と僕から見える景色は違う。』

 

…!?

そうか。彼らもやはり気づいているのか、彼らが犯人か…

 

 

 

 

21日・夜

 

時計の針はもうそろそろ、一番上で重なりそうな時間であった。

 

間薙は真っ暗な部屋で電源の入っていないテレビの前で寝っころがり、『マヨナカテレビ』を待っていた。

暗闇では青い目、そして、"金色の目"が光っていた。

 

暗闇になると、シンの瞳は"金色"に光る。

その光は禍々しい。暗闇では特に禍々しく、見たものを引き付ける。

 

「主。楽しそうですね」とクーフーリンは立った状態で寝っころがるシンを見た。

「そうだな。テレビというのは子供の頃から好きだったからな。」

「所謂、"テレビっ子"というやつですか?」

「…そうかもしれんな」とシンは思い出すように語る。

 

「そろそろですね」とクーフーリンが言うと、テレビから雑音が流れてきた。

 

ノイズの混じったその画像はどうやら女性のように見える。

水着を着て、様々なポーズをとっている。

 

だが、完二がテレビの中に入った時とは違い、鮮明ではない。

(つまり、まだ外に居るということか)

 

そして、恐らく"久慈川りせ"だろう。ツインテールという特徴が酷似している。

だが、顔までは良く分からない。

 

テレビが徐々に暗くなり、真っ暗になった。

 

「…不思議なものですね。テレビというのは」とクーフーリンはいう。

「これは例外だ。ふぁあああ…クーフーリンよ。俺がテレビが好きな理由がわかるか?」とシンは欠伸をして、起き上がった。

 

「…いえ、存じません」

「あの中には人の感情が渦巻いているからな。

夢、不安、笑い、感動、理想、願望…。

だからこそ、テレビは人を魅せるのだろうな。

今では趣味の多様化でテレビは衰退しているがな。」とシンは再び欠伸をする。

 

「…感情ですか。」

クーフーリンは…少しためらいを見せ、尋ねる。

「…主は…主はテレビの中に何を見たのですか?」

 

シンは少し間を開け、クーフーリンを見て呟くように言う。

「…人の闇だ。"悪魔"よりも残酷で非情な人間の心」

シンは少し溜め息混じりに言いベットのある部屋へと入って行った。

 

 

 

シンはベットに入り、天井を見る。

そして、事件のことを思う。

 

…テレビで報道された人物で、ほぼ確定だろう。

しかし、こうなると、動機が尚一層分からなくなる。

何故?…理由が思い当たらない。

これだけ、パターン化されているのに、動機がないというこは考えにくい。

となると、可能性が多すぎる。

 

…ま、解決できればいい。

人の生き死にはどうでもいい。

そんなものを気にする意味はない。

 

 

俺に人間的倫理も善さなんてものにはもう縛られん。

 

気が赴くまま…自分のやりたいことをやるだけだ。

ここに来たとき、そうやろうと決めたではないか。

 

思わず口元が綻ぶ。

 




どうも、真女神転生ivのサントラが良くて、テンションの、あがっているソルニゲルです。
だって、死ン宿とかbattle -c2-とかiiiのアレンジとかで、もうそれだけで大興奮!
ivはiiiと違って原点回帰というか、そんな雰囲気が有りましたね。
ただ、作品の雰囲気はiiiが一番好きです。
それに、そのivのchaos,lawルートはイザボーをね…結構、好きなキャラだったんで、初回がchaosルートだったので、すごく辛かったです。



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第17話 Scenery on the stage 6月22日(水) 天気:曇

本当の自分か…存外、ないのかもしれん。

所詮、自己なんてものは外界によって形成されたものでしかない。

 

俺は誰によって形成されたんだろうな。

 

親?そうだな、親は確かに好奇心旺盛なほうだった。

知らない食事の店に入り、後悔している親の顔と喜んでいる顔。

どちらも知っている。数少ない両親との記憶だ。

 

で、それで何が変わる?

 

新しい自分に気づかされるか?

そんなものに何の意味がある?

生きやすくなるのか?あの忌まわしいやつに勝てるか?

 

何にもない。

何一つ、無い。

 

何より、理解なんてものは概ね願望に基づくものでしかない。

 

『人は見たいように見て、聞きたいように聞く』

 

 

俺には関係ない話だが…

人ではない俺にはな。

 

 

 

 

「我々はここで、彼らのようなペルソナ使いを見てきました。その誰もが、己について悩んでおられましたな…」

「へぇ…どのくらいだい?」とシンは青いリムジンの中、腕を組み、話を聞いていた。

 

「我々にとって時間は無意味です。」

マーガレットは淡々と答えた。

 

時間の経過は無意味か。

俺にとってもそうだろうな。

永遠の闘争。

 

「…似てるね、俺とあんたたちも」

「私もそう思いますよ。フフフッ」とイゴールは不気味な笑い声をあげた。

 

「ヒホ?これはなんだホー」とライホーは探偵らしく机の下から紙きれを取り出した。

 

ライホー。実は俺もこんな悪魔を見たのは初めてだ。

 

先日、ケヴォーキアンに呼び出され、まさに山奥にあった自宅のような城に呼び出された。

マリーも連れて行った。寧ろ、それが目的だ。

マリーの健康診断らしい。

 

「そしてこれだ」

とヘッドギアのようなものを付けられた。

「なんだ?これ」

「お前のまだ見ぬ、悪魔を作り出そうと考えてな。」

「…原理は?」

「ああ?聞きたいか?」とケヴォーキアンはニヤァと笑みを浮かべる。

 

「…いや、いい」

 

そして、ヘッドギアをつけ目をつぶった。

歯医者の椅子のような席に座らされた。

 

そしたら、こいつが召喚された。

簡単に言えばそうだ。

 

ケヴォーキアンの話では、何かのモノによばれたと考えるべきだというと、そのまま、黙ってしまった。

 

…ライドウの帽子か?

…まあ、いい。

 

そして、今に至る。学校は休んだ…いや、休んではいない。

とある方法で俺が二人いる。

 

「オイラが召喚された経緯がカンケツすぎるホー!!そんなんじゃ、読者さんに伝わらないんだホー!」

「…読者?あの"忌まわしいやつ"のことか?」とシンは首をかしげた。

「Y.H.V.Hじゃないし、大いなる意志でもないホ。…でも、オイラにはどうでもいいことだホ!」と拾った紙に目線を戻した。シンもそれを見るために椅子から立ち、ライホーの紙きれを見た。

 

「なんだホ。『明けないミッドナイ「…だぁああああっ!」」とドアを開けて入ってきたマリーがその紙切れを取り上げた。

 

「なななな、なんで読んでんのよ!?」

「落ちてたんだホ。」とシュンとするライホーを見て、一気に怒りが覚めたようだ。

「…かわいい」

 

「かわいいではないホ!クールなボディにホットなハートを兼ね備えたライホーだホ!」

と地団駄を踏む。

 

それから、ライホーは再び物色を始めマリーは恥ずかしいポエムを読まれることとなった…

 

「さて、そろそろかな」とシンはドアに手を掛ける。

「じゃ、また。行くぞ、ライホー」

「バイバイだホー!!」

 

このライホー。実は、人から見えないのだ。

実体化する悪魔は見えてしまうものである。

実際にケヴォーキアンには普通に見えていたし、死ぬ間際の患者にも連れて行ったヒーホーが見られたことがあった。

だか、こいつは見えないらしい。

実際、こうして連れていても、誰も気が付かない。

 

ライホー曰わく、「ライドウでは、当たり前だ。」と言っていた。

…よくわからない話だ。

 

「ヒホー!帽子がお揃いホー。」とライホーはシンが被った帽子にテンションを上げた。

「とりあえず、あのお店の監視だよ。」

 

神社で腰を降ろし、気配を消す。

ライホーは居合わせた「きつね」と戯れ始めた。きつねには見えているらしい…

どうなっているんだか…

 

時間は午前11時。

 

豆腐屋”マル久”の前にはぞろぞろと記者や、野次馬らしき人物がいる。

 

 

「…」

不審な人間はいない。店の扉は開いていない。

 

シンは表情を変えずにじっと、その店を見ていた。神社の階段に座り微動だにせずに。

ライホーはシンの膝の上で眠りについていた。

 

 

 

「ね、聞いた?久慈川りせ、ホントに来てるらしいよ!」

放課後の教室で女子生徒と男子生徒がたわいもない話をしていた。

「ほら、豆腐屋の"マル久"ってあるじゃん?あれ"久慈川"の"久"なんだって。」

「マジで!?え!?俺、家超近いんだけど!」

 

そんな会話をしながら、教室を出て行った。

 

「マル久さん、すごい人だかりだって。」

「ぽいね」

 

天城の話に同意するように、千枝は答えた。

「けど、昨日のマヨナカテレビ、本当に彼女だった?…なんか雰囲気違くなかった?」

「間違いねえって!

あの胸…あの腰つき…そしてあの無駄のない脚線美!」と花村言い終わると、千枝を見た。

 

「とにかく間違いねんだって!…な!」と完二に同意を求めるように完二を叩いた。

「あー、行くんスか?

オレぁ、芸能人とか興味ねえけど、ヒマだし…ま、付き合いますよ。」

花村とは真逆でまったくテンションの上がらない完二。

 

「間薙先輩とかも興味なさそうっすね」

 

「?」と首をかしげる。

 

「…」「…」と皆が黙ったまま、天城と千枝は行かないということで、教室で別れた。

 

 

帰り道、シン以外が近い距離で小さな声で話をする。

「…なんか、おかしくないっすか?間薙先輩」

「ああ、なんつーかさ、こうバカにしたような雰囲気っつーかさ」と花村は少し怒っているようにも見える。

「…わからない」と鳴上はいう。

 

鳴上はシンが教室に来てから、違和感を感じていた。

いや、形姿はもう完全に間薙シンである。

だが、雰囲気が明らかに違う。

万が一の為に人気の少ない神社へと三人はシンを連れていった。

 

「…」とシンは何も言わずに立ち止まった三人を見る。

 

鳴上は勇気を出して尋ねた。

 

「誰だ?お前は」

 

そう鳴上が言った瞬間、全員が背筋がゾクッとした。

それまでには感じた事の無い、まるで自分が引きはがされるような、ドッペルゲンガーが出されるような、いや、この感覚を完二以外は知っている。

 

ペルソナの召喚と同じ感覚であった。

 

『皮肉に満ちた嘲笑を浮かべている』シンは腕を組んだ。

 

「勘が良いなやはり…」

 

「何もんだァ?てめぇ」と完二はメンチを切る。

 

「そう構えるな、間薙シンに頼まれてこうして姿形を似せているのだからな」

そういう表情は相変わらずである。

 

「…理由は?」

「理由?知らんな。病院に行くと言っていた、それだけだ。」

「そういうことだ」

 

「「「!?」」」

「うそ・・・だろ?間薙が二人??」と花村は開いた口がふさがらない。

 

「すまんな。」

「気にするな、王よ。それに自己の確立が出来ていない連中は見ていて面白いものだ」

「そうか。」

 

そういうと、皮肉に満ちた嘲笑を浮かべていた"間薙シン"は学生帽を被ったシンの影に溶けていった。

 

「…身代わりか」と鳴上は納得したような顔でシンを見た。

「まぁ、簡単に言えばそうだな。用事があった。」

 

「あーえーつまり、あれも悪魔ってことっスか?」と完二は力の抜けた表情で尋ねる。

「そうだな」

「なーんだよ、俺はてっきりシンになんかあったのかと思って心配しちまったぜ」と花村も力が抜けた表情でシンの肩を叩いた。

 

「…変わっているな君たちは」

 

「…?どういういみだ?」と花村は何となく尋ねる。

シンは沈黙し「さあ?」と首をかしげた。

 

 

 

 

 

そして、ちゃんとしたシンを連れて皆で豆腐屋へと向かった。

 

そこでは足立刑事が交通整理をし、その前を運送屋の軽トラックやカメラ機材を積んで帰っていくテレビ局の車などを足立刑事が交通整理をしていた。

 

なんてことはない、すこしばかり騒がしいそんな平和な日である。

 

「足立さん。何かあったんですか?」とシンが足立に尋ねた。

先ほどまで足立はいなかった。それが疑問でシンは尋ねた。

 

「ああ、君らか…」と疲れ気味に足立は言葉を吐いた。

「いやぁ…野次馬が次々車で押しかけて商店街の真ん中で止まろうとするからさぁ。

それに、通報があってね、止まってる車同士でもめ事なんか起きちゃって、それでさっき僕も来たところなんだ」

 

「でも、交通課じゃないですよね?足立さん」とシンは話を進める。

「そうだよな」と完二はドスのきいた声で足立を脅す。

 

「え…あ、いや、えっと…ほら、稻葉署小さいし、人手が足りなくてさ。」と動揺したように足立はいう。

「…じゃ、また仕事あるし、またね。」と慌てるように去って行った。

 

花村は呆れたように「お前…高1で現職の刑事ビビらすとかねーだろ…」

「別に思ったこと言っただけっすよ…ねぇシン先輩」

「…いや、俺は少し気になることがあっただけさ」

 

「にしても、ただ事じゃねーな、これ。警察出てくるって…」

そういうと、花村はあたりを見渡した。

 

そして、気が付いた。

「あ…まさか、警察もリセが狙われるって踏んでんのか?

 

そんなことを言っていると、堂島の声が店内から聞こえてきた。

「はい、失礼、ちょっと道開けて。…おーい足立!」

そして、こちらに気が付いた。

 

「お前たち、こんな所で…」

堂島は店から出てくると、近づいてきた。

 

「ん…?巽完二!…お前ら…仲いいのか?」

「るせぇな、いいだろ…」と嫌そうに完二は言った。

 

「…まあいい。それより何している、こんなとこで。」

「まあ、芸能人がこの町にいるっていうんで、見物に来たんですよ」

 

シンは淡々と答える。だが、その言葉にはどこか違和感を感じさせた。

それは不審という意味ではなく、どこか脅迫染みている様に鳴上には感じ取れた。

まるで、今は関わるなと言っているような、そんな風に鳴上は感じた。

 

「…そうだな。これだけ騒ぎになってんだ、嫌でも気になるか…」と堂島は答えた。

だが、やはり疑っているようなため息を吐き、頭を掻くと

「はぁ…まあいい。いくら芸能人だろうが、ここは自宅だ。迷惑にならないようにしろよ。」

そういうと、堂島は去って行った。

 

「先輩の叔父貴がデカたぁね…てか、今の空気なんスか?…先輩ら、疑われてんスか?」

「ま、俺たち一回引っ張られてるからな…」と花村は苦い顔をした。

 

「…それに、事件の前後に俺たちが毎回毎回現れているしな。」

「確かに」と鳴上はうなずく。「完二の時は特に、俺たちが現れているし、毎度毎度鉢合わせている」

 

「そうっスね…」

「けど、全部話すって訳にもいかないだろ。」と花村が言う。

「"あの世界"の事言ったら、信じないどころか、ますます疑われて、動けなくなっちまう。」

 

「ちげぇねぇ…」

 

そんな会話をしていると、一人の学生がため息を吐き隣の女子生徒に言った。

「"りせちー"居ないみたい…」

「なんだ、いつものおばあさんがいるだだね」

「この町に居るって聞いたけど、ガセネタだったのかな?」

 

それを聞いてどんどん人が減っていった。

「ガセネタ!?え、いねーの!?結局ぅ!?」

「ぷッ、なんだ今のダセー声。」

完二は思わず噴き出した。

 

「う、うるさいよ!」

花村は恥ずかしそうに怒った。

 

「…とりあえず、入ろう…」とシンはズシズシと中に入って行った。

 

 

 

 

中に入ると、店の少し奥で慣れた手つきで豆腐を作っている人がいた。

その恰好は明らかにアイドルといった雰囲気ではなく、寧ろ風景に溶け込んでいた。

 

「えーっと…」

「すまんが、豆腐くれ。"久慈川りせ"さん」とそのおばあさんにシンは声を掛けた

 

「「「え?」」」と思わず三人は間抜けな声を出した。

 

三角頭巾をかぶった女性が振り向くとそこにはテレビに出ている、まさに久慈川りせであった。

 

「はい。どれがいいの?」

「…そうだな。普通に絹ごしと…」とシンが普通に会話をしていると、花村がシンの耳を引っ張った。

 

そして、コソコソと話し始めた

「ちょ!なんで、普通に会話してんだよ」

「いや、相手は人間だから、普通に話して何が悪い?」

「いや、それもそうなんだけどよ…」

 

「…それで、どうするの?」とりせは淡々とシンに尋ねた。

 

「俺は豆腐で良い。花村はどうするんだ?」

「お、おれは…が、がんもでいい」

「俺はいらねっス。」「俺は絹ごしで」と鳴上が言い終わると、それぞれを取りに行った。

 

「なんか…テレビで見んのと全っ然キャラ違うな…たまたま疲れてんのかな…?」

「…OnかOffかの違いだろ?」

「いやーでも本物の"りせちー"だよ…来て良かった…本日のミッション達せ…

じゃなかった、本題がまだじゃん!」と思い出したように花村は声を上げた。

 

「あーえーっと…」と花村が言おうとしたが、緊張してうまく口が回らない。

「何照れてるんっスか。」と完二は笑う。

 

シンがさっと言い始めた。

「最近、変なことなかったか?」とシンがストレートに聞いた。

「変なこと?…ストーカーとかって話?…キミたち、私のファンってこと?」

と少しうつろな目でりせは言った。

 

「いや、オレらってか、ファンっていうか、この人がな」と完二は花村を指察した。

「ばっ…お前、しれっとばらすなよ!」

「あの胸、あの腰つき、ムダの無い脚線美…だかを確かめるんでしたっけ?」

「わーわーわー!!完二てめ、わざと言ってんだろ!!」と花村は大きな声をだし、完二の邪魔をした。

 

「あいつは置いといてだ。この町は物騒だからな。気を付けた方がいいということだ。」

「ふうん?」と訳のわからないといった感じでりせは答えた。

 

「それで、えーっと…"マヨナカに映るテレビ"って知ってる?」と花村が話し始めた。

「つっても深夜番組とかじゃなくて…んーなんて説明したらいいか…」

 

「噂になっているものだ。"マヨナカテレビ"と言って」とシンが言うと

 

「昨日の夜のやつ?」

「君も見たか…」

「噂、知り合いから聞くことあったし。」と少し生気が戻ってきた。

「でも、昨日映ってたの、私じゃないから。あの髪形で水着撮った事ない。」

「それに、胸が。」と言葉を詰まらせる。

 

「は?」と花村が間抜けな声を再びだした。

 

「胸、あんな無いし。」

 

「あー、言われてみれば…」

「…って、あー、何言ってんの俺!あ、その、ごめん…」と一人でツッコミを始めた。

 

「…謝りすぎ。変なの。」

 

そういうと、りせは少し笑った。

 

「あ、笑った。」と花村は嬉しそうに言った。

 

 

「…でだ、スタイルだとか、撮った事ないは置いておいて、君に酷似していることには違いない」

「あれって、何が映ってるの?」

「ハッキリした事はわからない。ただ、君は今は時の人だ。気を付けた方がいいという話だ。」

「あれに映った人…次に誘拐されるかも知れないんだ。」と花村が言った時にシンはため息を吐いた。

 

 

「やぶからぼうじゃ、しんじらんねよな。けど、嘘じゃねえ。」

「だから、知らせなきゃと思って」と花村は軽快に口を動かす。

 

りせが話している間、シンは鳴上に小声で話す。

「…花村がテンションあがってて、口が軽くなってる」

「みたいだ」

「…恐らく、警察もりせが狙われてると考えた場合、恐らくりせに俺たちと同じ質問をぶつけるだろう。」

「…つまり?」

「…お前の叔父さんからの疑いは更に強くなるかもしれないというはなしだ」

 

鳴上はうなずいた。

「なるほど。俺たちがこんな質問をしてるんだ。"何故、俺たちがそんなことを知ってるのか"と疑問に思う」

「そう。つまり、そこから俺たちは更に警戒されるかもしれん。だから、鳴上。お前は特に気を付けろ。」

「わかった」

「それと、嘘は禁物だ。お前の叔父さん良い目をしてるしな。…ここにはりせを見に来たのと豆腐を買いに来たということを叔父さんに言うといい」

「…なるほど。俺は料理しているから、不審ではないな」と鳴上は納得する。

と話していると、りせが鳴上に豆腐を渡した。

 

 

「はい。あなたは絹ごしね」とシンに渡す。

「ああ…」とシンは絹ごし豆腐を受け取る。

 

おまけを貰った花村は「もらったもんは食うと」宣言し、それぞれ帰って行った。

シンは家には帰らずに豆腐を家に置くと、再び神社へと向かい気配を消して、豆腐屋を見ていた。

 

そして、シンの読み通り、堂島と足立は豆腐屋に現れた。

シンはそれを見ると、立ち上がり、豆腐屋に近づいた。

 

 

「えっ…さっきも言われた?」と足立の声が聞こえてきた。

「四人連れで…制服着てたから、たぶん高校生だと思うけど…」

「もしかして、三人のうち一人はこう…何て言うんだ、若干"ヤンキー風"の?」と堂島が身振りを加えて尋ねる。

りせはそれにうなずいて答えた。

「それって…堂島さんちの彼と、あと友達の?」

そういわれると堂島は先ほどと同じように頭を掻いた。

 

足立がお礼を言うとりせは奥にはけていった。

 

「どうも、おかしいな。」

シンは息をひそめて堂島たちの会話を聞いていた。

「このところの失踪事件…2件の殺しと合わせて、俺達でもつかめてない謎ばかりだ。

ここへ来て彼女に警告したのも、言っちまえば俺の刑事としての勘からだ。

それを、事情も知らない高校生が先回りってのはどういうことだ…?

ただ有名人の顔見に来るための口実か…?」

そういうと、堂島は考え込んでいた。

 

「…堂島さん?」

と足立が言うと、堂島は自分の頭に浮かんだ一つの可能性を消した。

「八十神高校、な…2件目のガイシャの小西早紀に、一時行方をくらました学生二名か…」

「学校関係者の捜査の方も、何も出てこないんですよねえ…

このままだと、ウチらマズくないですか?県警もそろそろ…」と足立が心配そうに言うと「要らん心配してるな!捜査続けろ。」

そういうと、堂島たちが出口に向かって歩いてきたので、気配を消した。

まるで暗闇に溶け込む様に、シンの姿が消えている。

 

それに気が付くはずもなく、二人は車で去って行った。

 

シンはそれを確認すると、鳴上に電話を入れた。

「はい、もしもし」

「予想通りだ。」

「…まさか堂島さんもわかってた?」

「いや、堂島さんは勘らしい…」

「…わかった。注意するよ」と鳴上は電話を切った。

 

シンはそのまま家へと帰って行った。

 

 

 

深夜…

 

ニャルラトホテプは神取の姿で居た。

「変わればよいのではないか?我と、そのりせという女が」とニャルラトホテプは陽気にバアルたちと飲んでいた。

「…相手はおそらく人間だ。お前が出しゃばってどうする。」とシンは寝っころがりながら、言った。

「そういうがな…まあ、よい。我としてもこの先が興味深いからな」

「…というと?」

 

「…神を気取った、我と似たモノがいるのだ」

「まさに神取か…」とバアルは笑った。

「だが、やつはうまく隠れていてな。我も見つけられないのだ。」

 

「それはおそらく、そもそも、何故"マヨナカテレビ"があるのか、になるだろう。

だが、それは…あとでいい。可能性が多すぎる。」とシンは言った。

 

「…ほう、つまり。可能性はすでに見つけたと?」とニャルラトホテプは不敵に笑みを浮かべる。

「そうだな…この町のどこかだろうな。」

 

それを聞いたニャルラトホテプは笑い始め、シンに顔を近づけた。

 

「クックククッ…傑作ですよ。片っ端から殺していけばわかりますかね?」

「…それは得策ではないな。でも、まあ、待っていれば…いずれな。」

そういわれると、ニャルラトホテプは椅子に座った。

 

「まあ、いいですよ…私にとって時間は無意味(・・・)ですから」

そういうと、ワインを飲んだ。

 

「…うまい」

「おお!わかるか!流石だ!」と再び騒ぎ始めた。

 

 

 

しかし、こうもテレビに出た人物がこの町に来るとなると、それこそ何かしらの因果を感じる。

仮に、というか、あいつが言っているのだから、恐らくどこかにいるのだろうが。

神気取りな奴がそれを仕組めるとしたら…それは強大な相手だと言えるだろう。

 

 

ふと、開いていた窓から風が入ってくる。

そこに含まれているのは湿気。だが、蒸し暑くは感じなかった。

寧ろ、べっとりとまとわり付くような、嫌な空気が入ってきた。

 

「不快だ…」

 

俺の知らないところで何かをされていると思うと、殺したくなる。

何より、神を気取る…見つけたら八つ裂きだ。

あの忌々しいやつを気取ったことを後悔させてやる…

 

 

月光に伸びた、影はシンの『マガツヒ』を表すが如く、真っ赤に染まっていた。

 

 

 

「…わかったでしょう?あれが"人修羅"です。」

「…魅かれる理由が分かりましたよ」とニャルラトホテプは笑みを浮かべる。

 

「…なんだ?黙って」

 

「いえ、なんでもないですよ。」と二人は再び騒ぎ始めた。

 

 

 

 

その日の夜、マヨナカテレビでは相変わらず"久慈川りせ"が映っていた。

それを決定付けたのは、顔のアップが映った事であった。

 

 

 




彼此、前の投稿から一か月が経っていますね。
随分と時間が経つのが早くて、もう困ったものです。

りせちーがやっと登場してきました。
派手な展開もなく、ただライホーが出てきた位ですね。
ニャルラトホテプは『無貌の神』という面もありますので、それを生かしてみました。

補足といいますか、設定は
普通の人間には本物と偽物の違いが殆どわかりません。
しかし、笑い方に特徴があるため、それを見抜くと見抜ける。
あるいはペルソナ能力を持っている者には違和感として、伝わります。







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第18話 To What Extent Am I “Me”? ( The First Volume ) 6月23日(木) 天気:曇

朝…まだ午前六時。

少し朝霧の立ち込める商店街に相変わらず神社の階段に座り、豆腐屋を眺める人物がいた。

間薙シンである。

 

そこへ、少し小さな影が近づいてきた。

 

「…君は本当にストーカーか、何か?」

シンはその人物に言葉を発する。

 

「…言ったはずですよ、僕は”興味を持った”と。」

「それにしたって、大胆な行動だ。」とシンは腕を組み、直斗を見ずに言った。

「僕はあなたが信頼に当たる人物ではないしても、一目置く人物であることは確かです。そしてあなたは僕に危害をくわえることはない、と思っただけです」

 

シンは何も言わずに、ポケットから『盆ジュース』を渡した。

直斗はとなりに同じように座り、盆ジュースを飲み始めた。

 

「…探偵の君としてはどうだ。この事件は。」

「そうですね。難しい事件です。これまでの二件の殺人と二名の一時的な行方不明。

確かなことは、この二つが繋がっているという事、そして、それにはあなた達が関わっているであろうと、推測されます」

「根拠は?」

「それは、あなた達が都合良く現れ過ぎているからです。

巽完二への接触。

理由は彼に近付く理由があなた達にはあったということ。

そして、久慈川りせに対する警告。

これら二つが主な根拠です。

犯人とまでは言いません、ですが、確実にあなた方は事件に関わっていると言えます。」

 

「…誤解なく人と分かり合う事は難しいな」

シンは何かを含むように直斗に言った。

「ええ、だからこそ、言葉があるんですよ。」

と直斗は真っ直ぐとシンを見据えた。

 

シンは間をあけて、ため息を吐いた。

そして、この会話で初めてシンは直斗の顔を見た。

 

その瞳に直斗は一瞬、ドキッとした。

それはシンの真っ黒な瞳に吸い込まれそうになったこと、まあ、他に理由があることも事実であった。

 

「俺から言えることはない。憶測の域をでない話だ。それに、内容が内容だけにあまり語りたくはないな。」

「…僕は口が固いですよ。探偵ですから。」

 

 

「この事件には裏で糸を引く何かしらがいるということだけ言っておく。」

 

 

 

「…どういうことですか?黒幕が居るとでも?」

「…」

シンは何も言わずに、直斗からマル久へと視線を変えた。

それはもう、お前には話すことはないという意思表示に他ならないと直斗は悟った。

直斗は「ジュース、御馳走様でした」とだけ言うと、その場から去っていった。

 

 

 

 

小さな公園で少年が一人、砂場で遊んでいた。

その顔はつまらなさそうにしていた。

そこへ、パーカーを着た少年が砂場に居た少年に声をかけた。

 

「なにやってんの?」

「…別に」

そういうと、自分で作った砂の城を蹴飛ばし崩した。

 

「一人で遊んでるなら、遊ぼう」

そういうと、サッカーボールを砂場の少年に渡した。

「うん」

そう答えた少年の顔は笑顔に溢れていて。

 

 

「僕は間薙シン。すぐそこの団地に住んでる。」とサッカーボールを渡した少年は言った。

「僕は新田。新田勇」と砂場で遊んでいた少年は答えた。

 

 

 

 

「…おいおい、シン。

オマエがわざわざ何のためにここへ来たんだ?

オレと会うためにはるばる来たのかい?

それとも…アイツを心配して追ってきたのか?」

「…両方かな」とシンは答える。

「…人のいい所だけは変わらないな、シン。

…少しは疑う事も覚えろよ。オレはオマエを、助けてやってるんだぜ。

まぁ、気付かないそのニブさがオマエの長所かもな。

……あるいは、知りながらも来たのか?」

勇の問にシンは答えない

 

「まぁ、いいや。知りたければ、この回廊を抜けた先『アマラの神殿』まで来るんだな。

そうすれば…あの男が何を企んでオマエを利用していたか…教えてやるぜ。」

「…」シンは何も言わずにアマラ経絡を抜けた。

 

 

 

 

(今更、昔を思い出すか…)

 

お前にとって、俺はどうだったんだろうか。

コトワリを違えなければ、あんな世界にならなければ、またお前と笑い合えたのだろうか。

 

やめよう。気が滅入るだけだ。

 

あの”新田勇”はもういないんだ。

 

 

 

「…そろそろ、学校行くか」

そういうと、間薙は自分の部屋に戻り、そのまま学校へと向かった。

 

 

 

 

 

放課後…

 

皆は相変わらずのジュネスのフードコートに集まり、話を始めていた。

 

「昨日のマヨナカテレビだけど、久慈川りせに間違いないな。」

花村はそういった切り口で話を始めた。

「なんつっても顔映ったし」

 

「これで分かった。狙われるのは『テレビに報道された人物』ということ」と鳴上が言うと、皆うなずいた。

「だな!山野アナの事件関係者の線は消えたっぽいな」

 

「りせは店にいた。」とシンが言うと、花村も続ける。

「俺もチラッと覗いたけど、店にいた。」

「マヨナカテレビに、例のバラエティ見たのが映るのは、やっぱり本人が入った後みたいだな。」

 

「あれって、入った被害者自身が生み出してるのかもって、前言ってたよね。

どういうことか最初はイメージつかなかったけど、今は、そうなのかもって思う。」

天城はうなずきながら言った。

「映像に出てくるの"もう一人の自分"な訳だし。

入った人の本音が、無意識に見えちゃうのかも。」

 

「…でも、シンは無かったな」

「あー確かに、なんでだろう」と千枝は腕を組み唸る。

「シン自身はどう思う?」と鳴上が尋ねる。

 

「さあ?」とシンは言うものの何となくわかっている。

 

(…ある意味俺がシャドウ的であるってことが由来しているのかもな。混沌王だし)

 

「まあ、それはいいとしてさ。マヨナカテレビって、居なくなる前から見えるじゃん?

いまいち、ハッキリ見えないやつ。あれは、何なわけ?」

「事前に必ず映るって考えると、まるで"予告"みたいだよな…」

「犯行予告って事…?誰に予告してるわけ?何の為に?」と千枝は思ったことを口にした。

 

「…ただ、恐らくそいつは只者ではないということだけだろうな。マヨナカテレビといった事象でそれを起こしている訳だ。そうなると、非常に厄介だ」

「…なるほど、確かにそうだ。」と鳴上は納得する。

 

「結果的に、予告に見えてる…っていう可能性は無い?」

「え?どういうこと?」と天城の言葉に千枝は首をかしげる。

 

「被害者の心の中が映るなら…犯人も…って思っただけなんだけど。

誰かを狙ってる心の内が、見えちゃうのかなって。」

「そういうこともあるかもな」と花村は納得しながら話を続ける。

「人をテレビに入れられるってことは、犯人も、俺らと同じ力を持ってる訳だし。」

「じゃああれは、犯人の"これから襲うぞ~!"っていう妄想?」

 

「それは、分かんないけど…」と天城は目を伏せた。

 

「…そこまでいくと、あの世界そのものが、そういう風って気もしてくるな。

被害者とか犯人とか、とにかく人の頭の中が入り混じってできてるモン…ってか?」

 

花村がそれを言うと、沈黙が空気を支配した。

 

「…わからないことを考えても仕方ない。とりあえずは、"久慈川りせ"だ。

完二も寝てるしな」

「そうだな。」と鳴上がうなずいた。

 

「はえ?…あー…まーその…」

完二は涎を垂らして寝ていた。

 

 

 

「そもそも犯人は、なんで人をテレビに入れるのかな?」と天城は口に出した。

「それだ。俺の考えを聞いてくれ」とシンは言った。

 

「そもそも、"入れて殺す"というのが間違いということかもしれんぞ?」

「え?どいうこと?」と千枝は首をかしげた。

 

「殺すだけなら、わざわざ入れる必要がないということだ。

それに、俺たちは殺すということに注目しすぎているのかもしれないぞ?」

 

「つまり、"入れる"ってことに意味があるってことか?」と花村は尋ねる。

「考えてみろ。殺すのに、何故"完二"をテレビに入れたんだ?」

「えーっと、それは殺すためだろ?」

「…でも、殺したはずの天城は助かっていた」

 

「…あ…そうか!!」と鳴上が納得する。

 

「え?どういうことっスか?」

 

「つまり、天城で失敗しているのに、完二をテレビに入れるという同じ方法で殺そうとしたというのはおかしくないか?」

「ああ!そうっスね!!」と完二は納得した。

 

「でも、偶々私が助かったのかもって犯人は思うかも」と天城は言った。

「二人死んでいて、突然、偶々助かるってことは可能性は低いと考えるだろう。ましてや、

誰にも見つからずに、犯行を行うほどのヤツだ。となると、殺すということを目的にしているなら、失敗こそすれど、天城さんを必死に殺さない理由が見えてきそうだ。」

 

「なるほど…殺すよりも、入れる事に…か。」と花村はうなずいた。

 

「でも、そうなるとなんで入れるんだろうね?」

「それは犯人に聞けよ」と花村は千枝に言った。

 

「でも、手口がテレビなのは、警察が絶対に証明できないからってことじゃないか?」

「証明のしようがないからな」と花村の言葉にシンはうなずく。

 

「殺しねぇ…恨みつらみか?まぁ、オレを恨んでるヤツなら、掃いて捨てるほど居んな。

けど、天城先輩とか、あるんすか?人に恨まれる覚えとか。」

「無いよ」ときっぱりと天城は言い切った。

「や、雪子…誰でも、知らないうちにって事、少しはあんじゃないかな…はは」と千枝は困ったように笑っていた。

「けど、今までの被害に遭った全員に共通する恨み…ってなると、見当つかないね。」

 

「…動機は考えるだけ無駄だ。これだけ意味の分からない法則で来てるんだ。存外入れるってことに意味を与えた方がいいかもしれんぞ?」とシンは椅子から立ち上がった。

「そうだな。シンの言う通り。動機は後回しだ。幸い先回りできるチャンスだしな」

 

皆立ち上がり、商店街へと向かった。

 

 

 

「張り込みで何故"四六商店"に来る必要があるんだ」

シンは全員に向かって言った。

 

「いや、やっぱり張り込みって言ったらアンパンと牛乳かな…って」

「張り込みつったら、それしかないだろ。」と千枝に同意するように花村は言った。

 

「あとあれな?携帯用オムツ。」

「いらねー!つか、売ってないし。」

「というか、シンの家で借りればいいだろう」と鳴上が突っ込んだ。

 

「買うモン、決まったスか?さっさと行きましょーよ。」と完二が催促する。

 

全員が会計をしており、シンが商品を見ていると、見慣れた人が居た。

その人物は鳴上達を見ると、慌ててよそを見た。

シンはすぐに足立刑事に話しかけた。

 

「堂島さんの差し金ですか?」

「!?な、なんのことかな。僕は聞き込みを」

「目が泳いでいては刑事として問題ありだと思いますよ。」

「な、なんのこと?そ、それより、君たちは…買い食い?」と足立刑事は話を逸らすように皆を見た。

 

「?今から、豆腐屋にりせちゃんの様子見に行くんすよ。」と花村が言うと一瞬困った表情をした足立。

「あ…そうなんだ。」

「ボ、ボクもちょうど、行くところだったんだよ。」

 

「あ、じゃあ、一緒に行きます?現職のデカだもんね。ちょっとは心強いかも?」

 

 

 

 

「…つうことはなかったっスね」と完二はあたりをきょろきょろ見渡し、「犯人め…来るなら来てみろっ。」というがその顔は不安に満ちていた。

「ッバカ!立ち止まんなよ」

「いや、もう何往復もしてっから」と完二と花村、そして鳴上はすでに商店街を歩きまわっており、千枝と天城はその豆腐屋の前で会話をしている。そして、シンに至ってはガチャガチャが回らないのはなぜかを考えて四六商店の前でガチャガチャとにらめっこをしていた。

 

「あ…あれ」と天城が目線を上にやると、電柱に登る男性が居た。

 

「だっだれだ!」と足立は情けない声を上げた。

 

その瞬間、男性は電柱からスルリと降りると、ガソリンスタンドの方へ走って行った。

「あっ、逃げた!」

「待ちやがれ!」と完二が声を上げるのと同時に皆走り出した。

 

一方、シンはいつもと変わらない表情で歩き、逃げて行った方向へと向かった。

 

 

「逃げんなテメ…このッ!」

 

 

やがて、車通りの多い道路に出ると男性は「く、来るな!」と声を上げた。

「るっせ、んな聞く馬鹿が…」

 

「と、飛ぶ込むぞ!僕が車に轢かれても、いーのか!?」

 

「な、なんだそりゃ…!?」と花村は相手の予想外の言葉に驚いた。

 

「だっダメだよ!?被疑者が大けがしたら、警察の責任問われていっぱい怒られ…あ!?」と足立の言葉に反応したのか一歩後ずさり、車通りの多い方へと下がった。

 

「マジで、飛び込んじゃうぞ!ほ、ほら、もう追うなよ、行けよぉ!」

「お、おい、どーする?」

 

 

 

 

「こうするんだよ」

「うお!」と完二が横に押された瞬間にすでに、男の目の前にシンがいた。

 

 

 

「な!「…死ね」」

 

男が何かを言おうとした瞬間、シンは男にだけ聞こえるようにそっと呟いた。

そして男の体を押した。

男が倒れたら確実に車に轢かれることとなることを皆わかっていた、思わず目をつむった。

 

 

「ぷぎゃあ!」

と情けない声が聞こえただけで、皆が想像するひどい音はしなかった。

男は轢かれることなく、ギリギリでシンは相手の手を引っ張りそのまま、歩道側に相手を倒した。

 

男を取り押さえ、パトカーが来るまで待たせていた。

 

「きっ、君らね、善良な一市民にこんな乱暴なマネして…」

「るせえ!ひと様ぶっ殺してといて、テメェはそれか!?あぁ!?」と完二はにらみつけるように相手に言った。

そういわれた瞬間、相手は動揺し始めた。

 

「はぁ!?タンマ!ぶっ殺しって、何のこと!?」

「と、とぼけたって無駄だから!」と千枝は少し動揺しながら言った。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」

「僕ぁただ、りせちーが好きで、部屋とか、ちょっと見てみたくて…

ほら!荷物コレ、全部カメラだよ!」と背負っていたリュックを開けて見せるとそこにはカメラの機材などが入っていた。

 

「はいはい、犯人ってのは、みんな言うんだって、そういう事。」

足立はそういうと、丁度来たパトカーに乗せて連れて行った。

 

 

「これで…終わったって事か?」

「あとの事ぁ、警察っスね…」

「予想通り、犯人若干ヘンタイっぽかったね。」

 

「…しまった」とシンは言った瞬間、すぐに走り出した。

 

「ちょ!?どうしたんだろう?」

「でも、なんかあったんだろう」とそれに続くようにシンを追いかけた。

 

皆がシンを追いかけると、シンは豆腐屋に入って、おばあさんと会話をしていた。

 

「すみません。久慈川りせさんはいますか?」

「ああ、生憎あの子、出かけたみたいだよぉ。たまにあるんだよぉ。だま~って出てっちゃってねぇ。

まあ、色々くたびれてるようだし、許してやっとくれねぇ。」

「…ありがとうございました。」とシンはおばあさんにお礼を言った。

 

そして、シンは豆腐屋の入口にある石の段差に座った。

 

「どうしたの?」と天城が声を掛けた。

 

 

 

「…あいつは犯人じゃない」

 

 

 

「「「「!?」」」」

「なんでそう思うんだ?」と鳴上が尋ねる

 

 

 

「第一に、大胆すぎる。二人の殺害をした人物、そして、二人の誘拐をした人物。

山野真由美、そして、小西早紀を誰にも見つからずに殺した犯人がだ、あれほど大胆に動くか?」

「…確かにそうだ」と鳴上はうなずいた

「それに、何故やつは電柱に登る必要があったんだ?」

 

「そうだな…」と花村は納得したように頷く。

「となると、やつは真実しか言っていない。つまり、犯人はまだいる。」

 

「…じゃあ、まさか…」

「…可能性は高い」とシンはため息を吐いた。

 

「まだ遠くには行ってないだろ!?探そうぜ!」と花村が言うと一斉に皆走り出した。

シンはため息を吐いて空を見上げていた。

 

 

 

 

「居ない!そっちは?」千枝は言う。だが、皆首を横に振る。

「近所の人、誰もりせちゃんを見てないって」と天城は息を切らしながら言った。

 

「あたしらが探せてないだけかもしれないけど…どこにいっちゃったんだろう…」

「くっそ、嫌な予感がするな。当たんなきゃいいけど…」

「ここで唸っててもしゃあねっスよ。…やれる事ぁやったんだ。」と完二は天を仰ぎ見た。

 

シンは何も言わずにただ天を仰いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

夜…

 

シンはソファに寝っころがり、ついていないテレビを見ていた。

そこに暗い闇から、ニャルラトホテプが出てきた。

 

「くやしいのか?」とニャルラトホテプはシンを嘲笑した。

「悔しい?違うね…嬉しいのさ」とシンは微笑んだ。

 

「普通の人間なら、悔しいと感じると思ったんだが…改めてお前が混沌王だと感じた」

「今更だ」とシンは鼻で笑った。

「…そろそろだな、じゃあな」とニャルラトホテプは影に消えていった。

 

そして、すぐにテレビにくっきりと映像が映り始めた。

それは非常に鮮明に映っていた。

 

「"マルキュン! りせチーズ!"みなさーん、こんばんは、久慈川りせです!」

そして、映像が変わる。その映像はりせの腰辺りを映し、パンアップしていく。

「この春からね、私進級して、いよいよ花の"女子高生アイドル"にレベルアップ、やたー!」

「今回はですね、それを記念して、もうスゴい企画に挑戦しちゃいます!

えっとね、この言葉、聞いたことあるかなぁ?スゥ・トォ・リィッ・プゥー。

ん、もう、ほんとうにぃぃ?

きゃあ、恥ずかしー!て言うか女子高生が脱いじゃうのって、世の中的にアリ!?

でもね、やるからには、ど~んと体当たりで、まるっと脱いじゃおっかなって思いますっ!

きゃはっ、おっ楽しみにー!」

そういうと、画面が暗くなっていった。

 

 

「相変わらず、えぐい部分を突いてくる」とシンはつぶやく。

「…彼女はこういう人間なのですか?」とメリーがお茶を出し、シンの言葉に返す。

「ヒホー…過激でしかも、くぎみーはなかなかいいんだほー!」とライホーは小さくジャンプする。

 

「彼女はこういう人間ではないよ?誤解の無い様に言うけど。これはおそらく、裏の顔みたいなものを映すんだろう」

「…私はどう映るんでしょうか?」

「さあ?君は変わらないかもな」

「ライホーはきっと、十五代目葛葉ライホー襲名してる映像だホー!!」と喜び飛び回っていた。

 

 

「ま、いずれにしても、軽く準備運動しておこうかな?」

「いってらっしゃいませ」

シンは玄関の方へ向かい、ランニングをするために重いドアを開けた。




少し暇があったで一気に書き上げました。
なので、誤字脱字があるかもしれません。

そんでもって、真女神転生3では主人公とそれぞれ勇や千晶、そして、先生との関係みたいのが明確に書かれていません。なので、ちょっと書いてみました。

だって、どう考えても普通は先生の見舞いに友達とは行かないと思うんですよね。
だから、すこしそこを膨らませてみようと思いました。
なのでペルソナ4の本編と同時にそれも今後ちょいちょい挟んでいきます。
シンと勇の関係、シンと千晶の関係、先生との関係、氷川は…ないです。


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第19話 To What Extent Am I “Me”? ( The Second Volume ) 6月24日(金)・25日(土)

放課後…

ジュネスから変わらず、テレビの中に入ると、クマが背を向けていた。

 

「おーい、クマクマ?」と千枝はそんなクマに声を掛けた。

「クマ、泣いてないよ。」

「みんな、クマの事忘れて楽しそうに…クマ、見捨てられた…」

 

「そ、そんな事あるわけないじゃん!」

「でもでも!いろんな"アクマ"?が来て楽しかったクマ!」と一転クマは笑顔で答えた。

「ヒホー!ここで最強になるんだホー!!」とクマの周りにはジャックフロストが居た。

ジャックフロストはシンを見ると、飛び跳ねて踊り始めた。

 

「でも、クマは自分が何なのか、わからないクマ。ダメな子クマ…」

「答え見つからないし、みんなは来ないし…」

「お前…情緒不安定すぎるだろ…」と花村がため息を吐いた。

 

「…でも、アクマが帰っちゃうと、独りだしいろいろ考えちゃって、寂しさ増量中クマ…

みんながいないと切なくて、胸がはり避けて綿毛が飛び出しそうクマよ…」

そういうクマを千枝と天城が撫でると、嬉しそうな顔で千枝たちの方を向いた。

 

「いつか逆ナンしてもよい?」

「おー、いいぞぉ!」と千枝は答えた。

「…逆ナンのネタは、もう封印しない?」と天城はばつが悪そうに言った。

 

「それよか、確かめてー事あるんだよ!今、こっちどーなってる?」と花村は話を戻した。

 

そう、ここに来た理由。

それは昨日映ったりせは鮮明に映ってしまった。それが問題なのだ。

鮮明に映ったということは、すでにテレビの中にいるということになっている。

昨日の花村の悪い予感は的中したことになる。

 

「久慈川りせって女の子、来てないか?なんかわかんない?」

「クジカワリセ…?んむ…?」

「わかんないのか…?なんか、お前の鼻、段々鈍ってきてない?」

「クマは何をやってもダメなクマチャンね…みんなの役に立たなくなったら、きっと捨てられるんだクマ…」

 

「そんな事ない」と鳴上がフォローする

「そうなったら、"ウチ"に来るといいんだホー!なんて言ったって、シンはこん…」とヒーホーが何かを言おうとしたが、シンにより強制帰還させられた。

 

「クマー!ホント、クマか?」

「…まあ、別にいいぞ。ウチはお前みたいなやつばっかりだからな」

「ははぁ、シン君は王様クマね!」とクマは飛び跳ねた。

「そうかもな」とシンは表情を変えずに答えた。

 

「じゃあさ、それは置いておいてね、この前みたいに、何か感じつかめそうなもの探してくるよ。」と千枝が言った。

皆が頷き、テレビの外へと向かった。

 

シンはテレビの中に残っていた。

 

「…シン君、どうしたクマ?」

「クマ。君は俺と会った時、"同じ匂いがする"といったな」

「うん、今もするクマ」

「…クマ、悩め。」

 

「?」とクマは体を傾け疑問の意を示した。

「最善な答えなんてないんだ。絶望したって、結果は変わらない。なら、受け入れることだ。」

「な、なんか分からんけど、クマやってみるクマ」

 

 

 

 

 

「…さてさて、どうするかな」とシンは商店街の入り口に立ち、考える。

前回と同じようにパーソナルな情報を集めれば、良いのだろう。

とりあえずは豆腐屋だな。

 

「おや、この前の…」

「こんにちわ。すみませんが、彼女についてなにか教えてもらえますか?」

「そうだねぇ。時々ふらっといなくなることはあったけど…心配だねぇ。

最近はうちの周りにカメラを持った人がうろついてるって、聞くしねぇ。

ぱぱらっち、と言うんだったかのぉ。

商店街の皆さんに追い払ってもらってるが、懲りないねぇ…

今も時々土手にいるそうだよぉ。」

「…なるほど、ありがとうございました」

 

土手か…行ってみるか。

 

 

「ああ、なんか居たんスけど。オレが話を聞こうとしたらなんか逃げやがって…アイツ、どこに逃げてった…」

「まあ、お前の人相で話しかけられたら、そりゃビビるわ」と花村が言った。

「…そうか。」とシンは腕を組んだ。

 

『王よ』

(…なんだ?)

ニャルラトホテプからテレパシーで連絡があった。

 

『校内で良い情報を聞いた。役立つといいが』

(それで?)

『どうやら悩んでいたそうだ。…人間はいつもそうだな。特に思春期特有の苛立ちや悩みを一生抱えて、未成熟なまま人間は死んでいく…愚かだ…実にな』

(…いつの時代も変わらんさ。)

 

「…ってシン聞いているか?」

「一つ、情報が入った。どうやら、悩んでいたそうだ。」

「"悩んでいた"っスか…でもなんでなんスかね?」

「さあ?そこまではわからない。」とシンは首を振った。

 

「悩んでいたか…やっぱ、芸能界ってそうなのかな…」と花村は言う。

「なんだ、やっぱりスカウトされたいのか?」

「バカ!ちげーよ!…ああ、バイクナンパ事件、思い出したら体調悪くなってきた…」と花村は顔を青くした。

「とりあえず、また明日来てみましょうよ。」と完二は言った。

 

 

「そうだな。そのパパラッチなら知ってるかもしれん。もっと詳しい理由を」

 

 

 

次の日は生憎の雨であった。

シンは放課後、傘を差し土手へ向かった。

 

 

「なんだ君?」とマスコミのカメラマンに答える。

「久慈川りせについて教えてほしい」

「君もりせちーについて情報を集めているのかい?」

 

「…よかったら、君の持っている情報と僕の持ってる情報を交換しない?商店街の人たちには警戒されちゃってなかなか情報があつまらないんだよ。」

「わかった」

 

シンは『TVとは別人であった』ということを伝えた。

 

「ふうん、やっぱりか。…実は僕も昔、プライベートのりせちー、目撃したことがあるんだ。

驚いたよ、テレビの印象と全然違っててさ。すぐに本人とは分からなくてね。

でも、アイドルって"キャラ作り"するものだし当然っちゃ、当然なのか。」

 

そして、『悩みを持っていた』ということを伝えた。

 

「…悩んでいた…ね。やっぱりそこになるのかなぁ…

いや、実は先日電撃休業の理由について、取材していたんだけどさ。

"りせちー"って創作されたキャラクターに疲れてしまった、って情報が有力なんだ。

"普段の自分とは違う、アイドルとしての自分…"

それに耐えられなくなった…って線で決まりかな。目新しい情報はなかったけどありがとう」

 

そういうと、カメラマンは去って行った。

 

シンは皆にジュネスに集まるように連絡して、自らもジュネスへと向かった。

 

 

つまり久慈川りせは"本当の自分"について悩んでいたということになる。

(同じ悩みを持った者が二人か…クマと久慈川…同じ穴の狢というわけか)

 

しかし、前回の事を考えると、犯人はテレビの中にいないだろう。

それに『シャドウ』も雑魚に等しい…

 

「また、つまらん探索か。」

そういうとシンはため息を吐いた。

 

 

シン自身、人助けであるとか、そんなことを目的とはしていない。

今回に関しては、マヨナカテレビに入れられてしまった事で、既に8割興味が失せてしまっている。

何故なら、犯人は自らはテレビの中に入らないという確信があったからだ。

 

根拠は、まず死ぬと分かっていて入る馬鹿はいないからだ。そして、”入れる”ということを主に考えている人間がワザワザテレビの中に入る必要がないからだ。

ご存じの通り、あのテレビに入れられた者は死体となって帰ってくる。

まさに、死体生成機と言ったところだ。

…電子レンジ並の手軽さだ。

 

鳴上達の話によれば、自分の影に食われてしまうということらしい。

それと向き合った者が、ペルソナというシャドウに対抗しうる力を手に入れる。

 

自分のシャドウというのは、完二のを見る限り、自分の本音、まさに影の部分をエグいくらいにマヨナカテレビに映し出している。

今回もそうだ。

 

ストリップという形で自分をさらけ出す。

 

そして、それに影響されるが如く、あの世界も姿形を変えの力ということは…

 

ジュネスに着いて、傘を閉じる。

フードコートへ向かい、屋根のついている席に着く。

そして、思わず口に出す。

「…なんだ?」

 

「存外、人々の心かもしれんぞ?」

「ルイか。それに人々の心?」

シンは普通に突然現れた、ルイに話し掛ける。

 

「私はあれを見たとき、大勢の意志を感じた。

大いなる意志とは違い、寧ろ”私達”寄りの意志だ。」

「…欲ということか?」

「…さあな。そこまでは私も分からなかった。

這い寄る混沌も同じことを言っていた。」と黒い傘を丁寧にビニールの袋に入れる。

 

「お前やニャルラトホテプでも、見つけられないのか?」

「そうだな。恐らく、ヤツは種を蒔いたに過ぎないのかもしれんな」

ルイはシンを見た。

 

 

 

 

 

5人は合流し、ジュネスへと向かっていた。

 

「いやぁ、間薙先輩は探偵なんスかね?」と完二は傘を差しながら、鳴上達に言った。

「うーん、確かに凄くテキパキしてるよね?」と天城は言う。

 

「掃除の時なんか、すげぇの何のって、もうどんだけあいつは真面目なんだってくらい真剣にやってるからな。」

「だって、あのモロキンに気に入られてるくらいだから、相当じゃない?」

「でも、なんつーか、オーラがな…。」と花村はため息を吐く。

 

ジュネスに着き、エレベーターに乗った。

 

「やっぱり、あの雰囲気だし、放課後もすぐに家に帰っちゃうしで、みんなも話し掛け辛いみたい」と千枝が言う。

「でも、愛屋に毎日行ってるみたいなんスよ。

近所のババァ達がそんな話をしてたっスから。」

「やっぱり、金持ちなんかな?」

「…そう考えると、凄くミステリアスだ。」と鳴上が言う。

 

エレベーターを降り、シンが居るであろう、場所へ向かおうとしたとき、ふと、一番前を歩いていた千枝が足を止めた。

 

「あれ。隣に誰かいるね」

「何か話してる。」と天城が言う。

 

「…ちょっと、近づいてみようぜ」と花村はテンション上げひっそりと近づいていった。

 

皆が物陰に隠れ話を聞く。

白いスーツを着た金髪の男性が言う。

 

「そうだな。恐らく、ヤツは種を蒔いたに過ぎないのかもしれんな」

ルイはシンを見た。

 

「お前が選ばれたようにな。」

「…」 とシンはため息を吐いた。

 

 

「あの時、一般人と変わらず『受胎』迎えていたら、どれほど幸せだっただろうか。

"選ばれた"んじゃないさ。"選ばれなかった"んだ。」

 

 

「…相変わらず頽廃的思考だ。お前の中には寂寥感しかないのか?」

 

「常に満ち足りている人間なんていないだろうに」とシンは笑った。

 

ルイは椅子から立ち上がった。

そして、鳴上達の方を見て言った。

思わず、全員の心臓がビクンと跳ねた。

 

「またな、可能性ある者達」

そういうと、エレベーターの方へと消えていった。

 

 

「盗み見聞くとは感心しないな」とシンは淡々と言った。

「いや、そういうつもりはなかったっていうか…」と花村は少し慌てた様子で言った。

 

「別にいいさ。大した話でもない。」とシンは飲み物を飲み干した。

 

「あの人も悪魔?」と千枝が訪ねる。

「そう。良い意味でも悪い意味でも目立ちすぎるのが、難だけどな。」

 

「あーその、『受胎』ってなんスか?」と完二は気になったことを口に出した。

 

「それも、大したことではない。」

「…はあ。まあ、間薙先輩がそういうならいいスけど。」と完二は納得出来ない雰囲気であった。

 

 

そして夜12時、シン達は全員でテレビに入った。

 

 

「リセチャンって子の事、調べてきたクマ?」とクマが皆を出迎えた。

鳴上がクマに説明する。

 

シンはその間、辺りを見渡す。

(空気の重さがボルテクス界と酷似しているが、ボルテクス界とは別物…

だが、霧には何の意味がある?…)

 

 

「おっ!?なんか居たクマ!クマ見つけっちゃったクマ??

ついてくるクマ!」

クマは大きな声を上げ、歩き始めた。

 

皆はそれについていった。

 

ついていくと徐々に暗くなり、そして、真っ暗な場所までたどり着いた。

 

「なにここ…真っ暗じゃん」と千枝は足を止め辺りを見渡した。

 

すると、待ってましたと言わんばかりに明るくなった。

そこはまさにストリップ劇場のような紫色の座席やカーテンがそれを醸し出していた。

そして、七色に光り始める光、レーザーのようなものでハートが表現されている。

 

「まさにさらけ出すということか…」

「うまくないよ…」と千枝は驚いた表情でシンを見た。

「お、温泉街につきもののアレ!?」と花村はテンションを上げる。

 

「…あ、そうかも。…え、う、ウチには無いからね?」と天城は自分が何を言ったか理解したようだ。

「ストリップ…てやつスか。」

 

そこでクマが猛烈に反応した。

 

「ストリップ!?はっはーん!読めたクマよ…シマシマのやつクマね!?」

「…」

「ストリップって…シマシマのやつクマね!?」と同意を求めるようにクマは皆を見る。

「…違うよ。ストリップというのは…「だぁあ!言わなくていい!」」とシンが説明しようとしたが、千枝が遮った。

 

「ここ眩しい…メガネしてても目が痛くなりそう。」と天城は我関せずの状態である。

 

「シン君のまさかのボケつぶしクマ…」とクマはショックを受ける。

 

 

 

 

「さて、今回は俺は一人で探索する。」

「だ、大丈夫なの?」と天城は言う。

「大丈夫さ。『仲魔』つれていくから」

シンはそういうと見慣れた三体が雷の音とともに現れた。

 

「我は幻魔・クーフーリン。主のお呼びに参上仕った。」

「ヒホー!アマラで揉まれて、更にサイキョーになったライホーだホー!!」

「私はティターニア。やっとあなたに会えるのね」

 

「…こうしてみると、変なパーティーだ。」とシンは腕を組んだ。

「あら、いいじゃありませんの?それに私はあの酔っ払いどもといるより、こっちの方がいいわ」

「ヒホー!あっちは本当にお酒臭かったんだホー!」

 

「なんか、すげぇ壮観だわ」と花村は感心したように言う。

「鳴上先輩がいいなら、俺たちだけでも行きましょう」と完二は腕を回す。

「…二手に分かれよう」

 

 

 

シンは一人、怪しい雰囲気のストリップ劇場を歩いていた。

 

「しかし、主。どういうつもりですか?」

「というと?」

「そうね。戦力を分ける。いや、寧ろ彼らはまだそれほど強くないと思うわ。そんな彼らと一緒に行動しなくていいの?」とティターニアはシンに尋ねる。

 

「まあ、彼らだって弱くはないしな…

それにオレがいなくなっても乗り越えていかなきゃいけない時がくるかもしれんからな。

俺と関わったからには強くなってほしいものだ。」

 

「それだけじゃ、無いとライホーは推理するホ。」

「…そうだね。今回、正直言って助かろうが助かるまいがどうでもいいんだ。だから、今回はこの世界でも探索しようかなとか思ってる。」

「それはニャルラトホテプ様との契約内容ですか?」

「そうだな。これほどの世界を作り出した奴の顔を拝んでみたいのさ」

「ふーん。まあ、いいわ。主の行くところならどこでもついていきますよ?」とティターニアは微笑んだ。

 

この世界そのものにシンは興味を向けた。

生成される『シャドウ』。

奇形な形をしているため、悪魔とは違った種類のモノだと考察できる。

 

シンはシャドウの攻撃を避け、『アイアンクロウ』で相手の体と腕を分離させた。

すると、まさに光に照らされた影のように消え去った。

 

(主観的に見れば、おどろおどろしさはそれ程ないように思える外見だ。

何パターンかに分類され、強さも若干ながら完二のステージよりも強くなっている。)

 

「何かわかりそうですか?」とティターニアは絶対零度を放ち相手を氷漬けにする。

それを、クーフーリンは容赦なく貫く。

 

「…この世界にいる連中から割り出そうと考えてみたが、ヤツとの関連は薄いかもしれん。」

「といいますと?」

「仮にこの世界が人の意識によって、形成されるとした時、こいつらもそういうモノかもしれない。となった場合、この世界を作り上げた者にはたどり着けないだろうな。」

 

シンはそういうと、まるで怒りをぶつけるように『ジャベリンレイン』を繰り出し、自分に群れるシャドウを消し飛ばす。

 

 

「ヒホー!シンが怒ってるホー!!」

「最高にイラつく」

 

そういうとシン達はシャドウが沢山いるであろう、道の先に走っていった。

 

 

 

クマを通して連絡を取り合い、お互いがお互いの情報を交換しながら、階段や宝箱を取りつつ、上がって行った。

 

三階のクマが"誰かいる"といった部屋の前で鳴上達はシンを待っていた。

 

「…しかし、敵が少なくないか?」と花村が口を開く。

 

「確かに、そうだね」

 

『たぶん、シン君たちにめっさ集まってるクマ』とクマの通信が聞こえる。

 

「なんでなんスか?」

「さあ?私もわかんない」と千枝は首をかしげた。

 

『たぶん、シャドウ達は勘違いしてるクマよ』

「勘違い?」

『そうクマ…クマも…何だかわからないけどシン君を見てるとオウサマって感じがするクマ!』

「王様ねえ…歴史の教師もそんなこと言ってたよな?」

「うん」と天城はうなずく。

 

「実は本当に王様だったりしてね?あるいは悪の帝王的な?」と千枝は笑いながら言う。

「…いや、案外あり得るかもしれねーぞ?」

「え!?いやいや、ギャグだから!なに本気にしてんのよ」と千枝は花村の言葉に慌てる。

 

「だってよ、悪魔を使役してるって、なんかそれっぽい気がしないでもないだろ?」

と花村が言うと、地面が少し揺れた。

 

『ウヒョー!シン君めっちゃ暴れてるクマ!!!』

 

「…それにこんだけの力だぜ?」

「でも、そんな力あるなら世界支配とかしそうなものだけど」と天城は言う。

「そればっかりはわかんねーな。それに、王様ってことが確かならってことだしな」

 

そして、再び大きな揺れが伝わる。

 

「これ、大丈夫なんスかね」

「お、おそらく…」と鳴上も少し不安そうに言った。

 

そこへ四つの影が近づいてきた。

 

「ヒホー!ヘモカワ…じゃなくて、居たんだホー!」とライホーが鳴上達を指差した。

「ヘモカワ?」

「なんでもないホー!!」

「相変わらず意味不明な発言が多いわね」とティターニアはライホーを見て言った。

 

 

「それで、なんかあったのか?」

「そうだな。やはり何もなかった。」とシンは欠伸をした。

 

「やっぱり、この世界を作ったやつってのはそうそう現れないもんスかね?」

「そりゃそうだろうよ、いきなりそんなやつ来たらラスボスだろどう考えても」と花村は笑う。

 

「この後はまた行動を共にするよ」

「じゃあ、私とライホーは帰還致します。」とティターニアはライホーの手を握ると還っていった。

「我は主と共にあります。」

「わかった。」

 

 

そして、クマが何かいると言った部屋に皆で入って行った。

助けたいと思う鳴上達とは違うシンの歩みに力はないが。

 




嫌なほど、時間の経過が早すぎる。
この先どうなっちまうんだ…
この話もどうなっちまうんだ…


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第20話 To What Extent Am I “Me”? ( The Final Volume) 6月25日(土) 天気:雷

霧に包まれたストリップ劇場。

それは普通ならあり得ない光景。

しかし、ここはそれが至極当然。

 

そう。何故なら、霧に包まれた世界なのだから。

 

全員でカーテンを開け、中に入ると、水着を着た久慈川りせがいた。

 

「知ってると思うが、あれは偽物」とシンは相変わらず淡々と興味なさそうに言った。

 

「ファンのみんな~!来てくれて、ありがと~ぉ!」

 

「瞳孔開いていますね」

「うむ。目を見開いている」とクーフーリンとシンは会話を始めた。

 

「今日は、りせの全て見せちゃうよ~!

…えぇ?どうせウソだろって?アハハ、おーけーおーけ!」とりせの影は言う。

 

「自意識過剰だな」「ええ、誰もそんなこと言っていません」

とシンたちが話していると、後ろから千枝のチョップが入った。

「うるさいっつーの」

「これは失礼しました」

「怒られたな」

 

「ならここで…あ、でもここじゃスモーク焚きすぎで見えないカナ?

じゃぁもう少し奥で、ウソじゃないって、ちゃーんと証明してあげるネ!!」

 

そしてりせの頭上にテロップが出現した。

 

『マルキュン真夏の夢特番!丸ごと一本、りせちー特出しSP!』

 

沸き起こる歓声。クマが言うにはシャドウが騒いでいるらしい。

(…ということは、存外ルイの言っていることが当たっているのかもしれん。

シャドウ自体が、人の欲望ということ)

 

「お、オレも、あんな風だったんか…?」

「ああ、そうだ。ふんどしでな」

「マジっスか…こらキツいぜ…」とショックそうにクマから貰った霧の中でも見えるメガネを外し、目頭を押さえた。

 

完二がそういった瞬間、再び歓声が上がった。

 

「うあ、ざわざわ声、今回スゴい…なんか気持ち悪くなってきた…」

「誰かが見てるんだとしたら…早くなんとかしないと、これ…」

 

「じゃあ、ファンのみんな!チャンネルはそのまま!

ホントの私…よ~く見て!マルキュン!」

 

そういうと奥へと消えていった。

 

「い、急ごうぜ!イタい話聞かれるだけとは訳が違うって!」

「そうだな」と鳴上が答える。

 

すると、またざわざわと騒ぐ。

 

「シャドウがめっさ騒いでるクマ!」とクマは眉間にしわを寄せ厳しい顔をした。

「さっきのは、リセって子が抑圧してる思念クマ!

このままじゃ、リセチャン危ないクマよ!?」

「今度は、オレが助ける側ってか。よし…なら急ぐぜ!」

完二の声と共にシン以外は走り出した。

 

「主。皆進んでいますよ。」

「…ああ、そうだな」とシンは考えるのを止め、ゆっくりと歩き始めた。

 

 

階段を上がるたびに聞こえる、りせの苦悩。

りせちーというキャラ、演じる様々なキャラクター達、そして、彼女は見失っていった。

本当の自分。そして、久慈川りせという人物を。

 

「…キミたちはどうだ?…本当の自分とはなんだと思う?」とシンは鳴上達と歩きながら言った。

「たぶんだけど、そんな自分も受け入れるっていうのが自分なのかもしれないね」と天城はすぐに答えた。

「でも、受け入れるだけじゃだめで、そこからどうしたいっつーかそういうのが大事だと思うぜ?」と花村も答えた。

 

「…すこしは参考になったかな?」とシンはクマに言った。

『わからんクマよ…』と弱々しくクマは答えた。

 

 

 

「しっかし、すんげぇ戦い方だと思うわ」と花村はシンの戦い方を見て言う。

正直、この瞬間だけ鳴上はシンを人間だとは思わない。

恐らく鳴上だけではない、千枝や天城、花村も完二も。

 

相手に囲まれようとも、天井や壁やらに飛びつき、相手に近づき相手を引きちぎる。

黒い液体を浴びながら、シンはちぎった相手を更に違う相手に叩きつける。

相手がいくらスキルをシンに当てても効いている様子がない。

寧ろ、素手で弾く始末。何より、それが通常攻撃であること。

それが鳴上達にとっては恐ろしかった。

 

「なに突っ立ってんるんスか!オレ達も負けてらんねぇ!」と完二もペルソナ『タケミカヅチ』を召喚し抗戦する。

「だな!」と花村もヘッドフォンをして臨戦態勢に入った。

 

 

「チカチカする場所だな」と歩きながら鳴上は言った。

「そうだな。こういういかがわしい店というのは基本、こんなものだ」

 

「やっぱり、東京とかってこういう繁華街的な?のって多いか?」と花村は尋ねる。

「歌舞伎町なんかはスゴイらしいな」

「あーやっぱりそうなんスか」と完二は納得するようにうなずいた

「オレも行ったことはないけどな(それにオレが行ったときは監獄だったしな…)」

 

「シン君って服装いつもパーカーだよね?」と千枝は尋ねる。

「…ポケットが多くて便利」とパーカーのポケットから飲み物を取り出す。

 

「ふーん。カバンとかでもいい気がするけど」

「カバンだと動きにくい。恐らく里中さんがいつもジャージなのと一緒だと思う」とシンが言った瞬間天城が笑い出した。

「な!し、失礼な!」

「いつも、ジャージのイメージがある」とシンは率直に感想を言った。

 

 

そして、そんな話をしながら七階へと来ていた。

 

 

再び、りせの声が聞こえてくる。

「うれしい!ホントに来てくれたんだ!

でも、やっぱりちょっと恥ずかしいからぁ…

電気、消すね!」と言われた瞬間、電気が消え、真っ暗になった。

 

『ヌオ!本当に電気が消えたクマ!これはキケン!センセイ、慎重に進むクマ!』

「大丈夫。『ライトマ』」とシンが手のひらを天にかざすと、辺りが先ほどまでではないが、明るくなった。

 

『おお!やっぱり、シン君はすごいクマ!』とクマは興奮気味に言った。

 

『ライトマ』で明るいため、鳴上達は難なくダンジョンを探索した。

そして、カーテンの向こうから声がする。

 

「来てくれたんだね!いいよ。りせ、心の準備はできてるから…」

 

「ゴクリ…センセイ、準備はいいか?」

鳴上は普通にカーテンを開け、中に入って行った。

 

「キャハハハハ!見て!ほら、あたしを見て!」

そこにはりせの影と白い大きな蛇が居た。

 

戦闘が始まる。

 

相手は突然、『淀んだ空気』を放ってきた。鳴上達は戦闘を始めた。

 

危なくなりながらも鳴上達は回復や弱点を突く戦いをし、相手を倒した。

 

『おぉ、さっすがセンセイクマ!』

そして、辺りが明るくなった。

 

「ふぅ…流石に疲れてきたね…」と千枝は息を切らし座り込む。

「そうだな…」と花村も疲れているようだった。

「一旦戻ろう。」と鳴上は『カエレール』を使って一旦帰還した。

 

一階の入り口には丁度、ソファなどがあり、皆はそこに座り休む。

そこへピクシーが現れた。

 

「ティファニアの言うとおり、居たわね。」

「突然だな。どうした?」

 

そういうと、ピクシーはシンの肩に止まりひそひそと話し始めた。

 

「実は、動きがあったの。黙示録の四騎士に警戒させていた『アサクサ』でマネカタが何人か殺されたの。」

「…目星はついているのか?」

「いいえ…言えるのは、私たちの勢力ではないってことくらい。

私たちは基本的に『アマラ深界』だし、シジマ、ムスビも動きはない。」

 

「…フトミミは?」

「そうね。あなたに任せるそうよ。あなたに生まれ変わらせてもらった命だからとか言ってたわ。サカハギはアマラで暴れてから、出てきてないし…」とピクシーは興味なさそうに言った。

 

「…となると、メタトロン勢力か…居場所は分かるか?」

「それが、これって言えるほどの本拠地がないのよ。メタトロンは隠れて出てこないし、有象無象も『ギンザ』とか、シジマだとか、ムスビに隠れて復活の機会を待ってたりするから、攻めるに攻めれないの」

 

「…仕方ない。四騎士に一任させる。」

「そうね。あいつらは意外と役に立つからね。そうしましょうか。…寧ろ、バアルとかより全然役に立つわ」

「頼んだ」とシンに言われるとピクシーは微笑み、帰って行った。

 

「シン君はカッコいいクマ…それに比べて…クマは…クマは役に立たないクマ…」

クマの中の闇を深くした。

 

少し休憩をして再び、皆で登って行った。

道なりはそれほど、難しいことではなかった。シンは手を出さずに傍観し、鳴上達の戦いを見ていた。

 

常に彼らは考え、次の手を考えている。

だからこそ、被害を少なくして、戦えている。

この先の事まで考えてな。

 

(…それは鳴上の指示のおかげか?)

 

「完二!追撃だ!」

「了解っス!」とパイプ椅子で相手を盛大になぐりつけた。

 

(…それも含めての、『チーム』ということか)

 

 

 

「…最上階だな」とシンが階段を一番初めに登りきり、まず目の前に大きな扉があった。

 

「案外、近くて助かったぜ」と花村は笑みを浮かべた。

全員で扉を開け、入る。

 

 

そこには、水着を着て中央にポールに寄り掛かる"りせ"と、豆腐屋の地味な服を着た"りせ"

がいた。

 

「いた!」と千枝は大きな声を上げた。

「見ろ、本物もいるぞ!」

 

全員で近づくと、こちらに気が付いたのか、高笑いをした。

「キャーハハハハハ!!見られてるぅ!見られてるのね、いま、アタシィィ!」

「やめて」と苦痛の表情を浮かべながらりせはいった。

「んっもー!ホントは見て欲しいくせに、ぷんぷん!

こぉんな感じで、どぉ!?」

 

そういうと、ポールを片手でつかみくるりと回った。

 

「もう…やめてぇ…」

「ふふ、おっかしー。やめてだって。」

 

 

「ざぁっけんじゃないわよ!!」と先ほどの表情とは違い怒りに満ちた表情で言い放った。

「アンタはあたし!あたしは、アンタでしょうが!!」

「違う…違うってば…」

 

「キャハハハ!!ほら見なさい、もっと見なさいよ!

これがあたし!これがホントのあたしなのよぉぉ!

ゲーノージンのりせなんかじゃない!ここにいる、このあたしを見るのよ!!

ベッタベタなキャラ作りして、ヘド飲み込んで作り笑顔なんて、まっぴら!

"りせちー"?誰それ!?そんなヤツ、この世に居ない!!

あたしは、あたしよぉぉぉ!ほらぁ、あたしを見なさいよぉぉぉぉ!」

「わ、たし…そんなこと…」

 

「さーて、お待ちかね。今から脱ぐわよぉぉ!

丸裸の私を焼き付けな!」

「やめ、て…やめてぇぇ!」と頭を抱えりせは叫ぶ。

 

「あなたなんて…」

 

鳴上達は慌て始める。

「だめ、言っちゃダメ!!」と千枝が叫ぶが届かなかった。

 

 

 

「あなたなんて…私じゃない!!」

 

 

 

そうりせが言い放った瞬間、りせの影から禍々しい空気が出てくる。

それと同時に本物のりせは気絶する。

 

そして、正体を現す。

そこにはカラフルな姿で、顔には衛星のミラー版のようなものが付いたりせの影が現れた。

 

「チッ…来るぞ!」と完二の声と鳴上達は構える。

 

シンはクマと共にそれを見ていた。

 

 

順調に攻撃を仕掛けていく鳴上達。

疲れもなく、彼らはりせの影を攻撃していた。

 

「なによ…こんんだけぶたれて、まだ不満なワケ?ゼータクなお客…

じゃ…いっそ死になさい!!」

 

『マハアナライズ』

 

緑色のレーダーの様なものが全員を包んだ。

戦っている全員の能力が分析された。

 

「…」

シンは無言でそれを見る。

 

だが、特に状態異常になるわけでもなく、何も変化はない。

「なんだ?」と花村がなんだと言った表情で言葉を吐いた。

 

「わっかんねーけど、ぶん殴ってやるぜ!」と完二が殴りに行くが、当たらない。

「なにやってんだ!下手くそ!」と花村はペルソナを召喚し、『ガルーラ』を唱えるが当たらない。

 

「アンタたちの事はすべてお見通し…キャハハッ!」

 

「何なの、アイツ!?全然、こっちのが当たんないじゃん…」と千枝は厳しい表情で言葉を吐いた。

 

「…俺がやってみる」とシンは前に出てくる。

 

「キャハハハ!あんたもやるの!?」

「ま、そうだな」とシンは構える。

 

 

『悪しき輝き』

 

 

それと同時に、りせの影を霧のように何かが包むが効かない。

 

(だろうな…)とシンは構える。

 

「何をやっても同じよ!」

『マハアナライズ』と同じようにシンをアナライズした。

 

「!?…あんた…何者よ!?」とりせの影が動揺している。

「…さあ?ね」とシンは口をニヤァと釣り上げた。

 

 

そこから、シンは魔法を連発する。

『ラグナロク』、『ニブルヘイム』、『真理の雷』、『万物流転』

だが、どれも当たらない。

 

「キャハハハ!」と高笑いをすると、謎の波動を飛ばすと鳴上達にあたる。

鳴上達は弱点を突かれ倒れこむ。

 

シンはそれを防ぐ。

「なんで!?なんで効かないの!?」

「…面白いね。面白い!」とシンは両手を前に翳した。

 

 

『初めに闇ありき』

 

 

シンがそう唱えた瞬間、轟音と共にシンの体が黒く発光し、何かが砕ける音が部屋に響いた。

鳴上達は思わず、目をつぶった。

 

>シンは闇を呼び、時をゆがめた!

 

「ぐっ」と鳴上達も当たるがそれほど、喰らわない。

 

「!?な、なんで!?わからなくなったの!?」

「…」とシンは何も言わず、追撃をするように、ジャンプしなぐりつける。

 

りせの影はアナライズの効果が消え、避けられることなく、シンの拳はクリティカルで顔にあたる。

りせの影は吹き飛び、ポールから落ちた。

「な、なんで…避けれないの」とりせの影は倒れこんだ。

 

「お前の中のデータを元に戻したに過ぎない。」とシンはそれだけいうとふらっときたため、目頭を抑えた。

 

「だ、大丈夫!?」

「ん。すこしSPを使いすぎた」

 

りせの影は先ほどの姿に戻る。

本物のりせが起き上がるとみな、そちらに向かった。

 

「ん…ここ…って…?」

「ごめん…なさい…私のせいで…」とりせは謝る。

 

「もう無理しなくていい」と鳴上は笑みを浮かべた。

「…え? …うん。」とりせは驚いた表情で鳴上を見た。

「いつ以来だろ…そんな事言ってもらったの…」

 

そういうとりせは立ち上がり、自分の影に声を掛ける。

「起きて…」

 

その声に促されるようにりせの影は起き上がった。

「ごめん・・今まで、ツラかったね。私の一部なのに、ずっと私に否定されて…

私…どの顔が"本当の自分"か、考えてた。

けど…それは違うね。そんな風に探してちゃ…"本当の自分"なんて…どこにも無い。」

 

「本当の自分なんて…無い…?」とクマはその言葉で更に闇に引きずりこまれた。

 

「あなたも…私も…テレビの中の"りせちー"だって…私から生まれた。全部、私」

 

自分自身と向き合える強い心が、"力"へと変わる…

りせは困難に立ち向かうための人格の鎧、ペルソナ"ヒミコ"を手に入れた!

 

するとすぐにりせは膝をついた。

「おわっと、りせちゃん!」と花村は慌ててりせを支える。

「りせ、でいいから…確か、お店に来てくれた人だよね…」とりせは少し微笑む。

 

「あ、うん、こいつらも…」と花村は説明する。それにこたえるように皆、自己紹介をした。

「そっか…先輩になるんだ…みんな…ありがとう。」

「後で全部ゆっくり説明するから、今は…」と千枝が後ろを向くと驚いた表情をする。

 

 

「本当の自分なんて…いない…?」とクマは頭を抱える。

「お、おい、クマ…」と完二は驚いた表情でクマを見た。

 

「ダメ、下がって!」とりせが声を大にして言った。

 

「あの子の中から、何か…!」

 

「"本当"?"自分"?」とクマの声とは思えないほどの低い声が響く。

「ククク…実に愚かだ…」

 

すると、クマの後ろにクマよりも大きな影が現れた。

 

 

 

 




一応、補足といいますか、勝手な設定追加。(というか、言い訳)

『初めに闇ありき』はルシファーの技ですね。
効果としましては、『残りHPをランダムで 1/2 1/4 1/10にする。』というものですが、シンの追加効果で、相手のあらゆる補助効果を消す。というものが追加されています。
ですが、その場に居る全員に喰らうため、鳴上達も喰らったということになる。

そして、なんでクマが影が出てきてんの?という疑問があるかもしれませんが、この技のせいということです。
闇を呼び寄せた為に、クマの中にある闇が増幅された。
ですが、クマ以外の人間は自分と向き合っているために、そんなことはなかったということ。


あと、今更感なんですが、確かバイクの二人乗りって1年経たないといけないんじゃなかったかな…

…でも、免許証の時点で矛盾が発生してるので、そこは目を瞑って下さい。


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第21話 I Can't Reject Me 6月25日(土)・26日(日)

「なんだよ、あいつ」と花村は驚いた顔でクマの後ろのクマを見つめた。

「ま、まさか…"もう一人のクマくん"?クマくんの、内面って事!?」

「多分、そう…でも、何かの…強い干渉を…」とりせは苦しそうに説明した。

 

(…俺のせいか?)とシンは内心思う。

 

初めに闇ありき、あれは特殊なワザであると言える。

俺は見様見真似で、それを取得したため、若干、本来のわざと影響のされ方が違う。

それに、あまり使ったことがなく、どんな効果があるのか、未知数な部分が多かった。

 

(けど、まあ…いいだろう。)

とシンはクマの影を見て特に気にする必要はないと感じた。

 

そんなに強くない。

 

それがシンの見立てであった。

 

「な、何がどーしたクマ!?お、おわあ!?」とクマは自分の後ろに居る、もう一人の自分に驚く。

「真実など、得る事は不可能だ…真実は常に、霧に隠されている。

手を伸ばし、何かを掴んでも、それが真実だと確かめる術は決して無い…

なら…真実を求める事に何の意味がある?

目を閉じ、己を騙し、楽に生きてゆく…その方がずっと賢いじゃないか。」

 

「な…何言ってるクマか!お前の言う事、ぜ~んぜん分からんクマ!

クマがあんまり賢くないからって、わざと難しい事を言ってるクマね!失礼しちゃうクマ!

クマはこれでも一生懸命考えてるの!」とクマは地団駄を踏みながら、反論する。

 

「それが無駄だと言っているのさ…お前は"初めから"カラッポなんだからね。

お前は心の底では気付いてる…でも認められず別の自分を作ろうとしているだけさ…

失われた記憶など、お前には初めから無い。何かを忘れているとすれば、

それは"その事"自体に過ぎない。」

 

「そ…そんなの…ウソクマ…」とクマは頭を抱えてしゃがんだ。

 

「なら、言ってやろうか。お前の正体は、どうせただの…」

「やめろって言ってるクマー!!」

 

クマはもう一人のクマにタックルをするが、弾き飛ばされ壁に叩きつけられた。

 

「クマさん!!」と天城がクマに駆け寄る。

 

クマの影は鳴上達に目線を向けた。

「お前たちも同じだ…真実など探すから、辛い目に遭う…

そもそも、これだけの深い霧に包まれた世界…

正体すら分からないものを、

この中から、どうやって見つけるつもりだ?」

 

「一つ、お前は勘違いをしている。」とシンはクマの影に言う。

「…」

 

「真実を見なければ楽か?目を閉じれば何も感じないか?真実を知らずにいれば幸せか?

 

違うな。所詮はこの世界に絶望に溢れている。

 

例え、目を閉じ耳を塞ごうとも、この肌で、この頭が、それを感じ取る。

痛みを、苦しみを、悲しみを、人の感情をだ」

「…」

「なら、痛みを覚悟してでも、前に進むべきではないか?

真実を真実だと、確かめる術はない。しかし、真実という結果にどんな意味がある?

優越感か?報われた感動か?そんなものは、一時的でしかない。

真実を得たからといって、永遠に幸せには居られない。」

 

「ただな、真実があるかないか…そんなことはお前の決めることではない。

こいつらが決めることだ。」とシンは鳴上達を見ていう。

 

「…」とクマの影は何も言わずシンを見る。

「いいことを一つ言ってやる」。

鳴上にはそれはまるで自分に言い聞かせるようにも見えた。

 

「俺が、"人修羅"をやめられないように、お前がお前であることはやめられない。

その絶望を認めない限り、何も見えはしない。

考えることをやめるな。やめてしまっては何も見えなくなる…」

 

 

「ククク…なら、お前に簡単な真実を教えてやろう…お前たちは、ここで死ぬ。」

シンが構えようとすると、鳴上が肩を掴んだ。

 

「少し、休んでると良い」と鳴上は言った。

「…そうか」とシンは腰を降ろした。

 

そして、鳴上達はクマの影の前に出る。

「そうはいってもよ…クマ抜きで、こんなのと、どうやって戦えば…」

 

「…大丈夫。構えて。」

 

「ちょ…まさか、その体で一緒に戦う気!?」と千枝は立ち上がったりせに言う。

「平気…私はたぶん、倒れてるその子の代わりが出来るから…!」

「今度は、私が助けてあげる!」

りせはそういうと、ペルソナを召喚する。

 

クマの影は肥大化し、真っ黒なそこから這い上がってくるような相手となった。

 

「我は影…真なる我…お前たちの好きな"真実"を与えよう…

ここで死ぬという、逃れ得ぬ定めをな!」

 

「こんな不気味なのが…あのトボけたクマくんの中に?」

「クマのやつ…見かけよりずっと悩んでたみたいだな…俺たちで救ってやろうぜ!」

 

「愚かしい隣人ども!さあ、末期は潔くするものだ!」とクマの影は鳴上達に襲いかかった。

 

 

 

久しぶりに熱くなってしまった。

あのクマの影が言っていることは…恐らく、そうなのだろう。

正しい、正しくないでは到底語りえないようなことだ。

 

俺は…たぶん、俺に言い聞かせたかったんだ。

 

俺がした選択に答えがないって。

視界が霞む…

(少しばかり、無駄打ちし過ぎたかな…)とシンは思うと意識を手放した。

 

久しぶりにSPを多量消費したために、倒れた。

 

 

 

 

シンは気が付くと、フードコートのベンチで寝ていた。

「…ん」

「あ、起きたっスか?」

「大丈夫か!?」と完二と花村がシンを見ていたようだ。

シンは起き上がると、辺りを見渡した。

 

「どうなった?」

「ああ、」と花村が説明を始める。

 

シンは倒れていて、知らなかったが、クマの影を倒し、クマは支え合う仲間へと思いが立ち向かう力へと変わり、ペルソナ"キントキドウジ"を手に入れた。

 

その後はクマはスタジオ内。つまり、入口すぐの広い場所を走り始めたそうだ。

 

 

りせもギリギリの精神でサポートしていたため、疲労していた。

そして、シンが倒れているところを見て、皆慌てたが、寝息を立てて寝ているという、何とも言えない空気が流れた。

 

そして、皆でりせとシンを外へと連れ出した。

 

 

「…情けないな」

「いえ、そんなことないっスよ。」

「そうだぜ。あんなすげぇ、魔法使ってたらそうなるわな。それに、あんな長時間な…」と花村はシンを見て言った。

 

「もっと使って、最盛期くらいまで戻さんと…」とシンは立ち上がった。

その目には、どこか狂気的な眼差しがあった。

 

「…花村先輩…オレすげー怖い言葉が聞こえたっスけど」

「ああ、聞き間違いじゃないぜ…」と二人は想像し、ブルッと背筋が凍った感触がした。

 

 

夜…

 

 

堂島家居間には菜々子と鳴上しかいなかった。

 

そこへ玄関のドアが開く音。

「かえってきた。」と菜々子は走って玄関の方に行くが、

「ああホラ堂島さん、前、危ないですよ。」という足立の声で足を止めた。

ゴン!という音がした後に大きな声が聞こえた。

 

「いって!…ったく、誰だ!こんなとこに段作ったヤツぁ。」

堂島遼太郎である。

「大工ですよ。てか家にツッコんでないで、ほらっ。」

「おーおー、帰ったぞー。菜々子ただいま、ただいまな。」

明らかに酔っている。

 

「お、おかえり…」と菜々子は困った表情で堂島を見ていた。

「ああ菜々子ちゃん、悪いんだけど、布団敷いてきてくれるかな。」

菜々子は布団を敷きに部屋へと向かった。

足立は堂島をソファに預けるように、座らせた。

 

「ふー、やれやれ…いくらなんでも飲みすぎだよ、ハハ。」

「これが…ヒック!飲まないで…やってられるかってんだ!

ったく、あのガキ偉そうに…こっちぁな…こっちぁ、オメーらがランドセル

だった時分から…このショーバイやってんだ!」

 

「実は、県警から“特別捜査協力員”ってのが送り込まれて来たんだよ。

いやほら、4月からの連続殺人に、あんまり進展が無いからさ…はは。

で、その協力員ってのが、名の知れた私立探偵事務所のエースらしんだけどさ。

会ってビックリ、君くらいの子供なんだよ!頭はやたら切れるって話だけど…」

と鳴上に足立は説明する。

 

「ただのガキだろ、あんなの。役に立つワケねーよ、ヒック。

やれ推理、推理、推理…ケッ。エースだかなんだか知らんが、ガキの遊びに

付き合わされる身にも、なりやがれってんだ…バカにしやがって…ヒック。」

 

「…その彼、“難事件を解く力になれれば報酬は要らない”なんて言っちゃっててさ。

おかげで上がすっかり気に入っちゃって、僕らも断れなくて…」と足立は軽快に情報を漏らす。

 

「足立ッ!」と堂島の怒号が足立の耳元で叫ばれる。

「ああスンマセン!また自分、なんか言っちゃいました…?」

「ったく、楽しそうにペラペラ喋りやがって。元はと言や、オメェがあの“のぞき男”を

早合点で引っ張ってきたからだろうが!」

 

「あ、いや、はは…」と足立は困った表情で頭を掻いた。

 

「それと、お前!お前も悪ィんだぞ…何かと現場ぁ

チョロチョロしやがって…ヒック。」と鳴上を見ながら言った。

 

そこへ、菜々子が今に戻ってきた。

「おふとん、しいた。」

 

足立は堂島の腕を自分の肩に回すと立ち上げさせる。

「ほら堂島さん、立ってください。菜々子ちゃん布団敷いてくれましたよ!」

 

「んー…ぷふー…」と気分よく堂島は自分の部屋へと向かった。

 

「…おさけくさいね。」

「うん」と菜々子の言葉に同意するように、鳴上はうなずいた。

 

 

 

 

次の日…

 

 

シンはテレビの中に居た。

入口すぐの広場である。

 

「勝手に来てもいいクマか?」とクマは相変わらず筋トレをしている。

「ん?別にいいんじゃないか?」

「そう言われると、クマクマっちゃう…」

 

シンはそこでバアルを呼び出す。

 

「どうなされた?」

「すこし、『ボルテクス』で"運動する"」とシンは淡々とバアルに言う。

 

「了解しました。擬似ターミナルの生成に入ります。」

 

悪魔の召喚にターミナルは必要がない。

それがどんな世界でもそうらしい。

だか、俺は俺を呼び出すモノがいない為、ターミナルで帰らねばならない。

 

向こうにいるヤツに頼んでも良いのだが、俺の召喚となると、それこそトウキョウ議事堂やアマラ神殿にあったくらいのマガツヒが必要になる。

それほど、俺の力が強大である…らしい。

 

実感はない。

 

そんなこともあって、ターミナルで移動した方が効率的である。

 

テレビに来た理由は、一目につかないことが重要だと考えたからである。

自宅では、メリーに迷惑だ。

故にテレビの中。

 

 

「およよ?どこかに行くクマか?」と興味あり気にバアルを見る。

 

「…もし、誰にも言わないって約束出来るなら、来る?」

「よろしいのですか?このようなものを連れていって…」

「…さあ?大丈夫じゃないか?この世界と似たようなモノだし」とシンは準備運動をしながら答えた。

 

シンにそういわれ、バアルはクマを見る。

そして、何も言わずに擬似ターミナルの生成に入った。

 

「少し馬鹿にされた気分クマ…」

「それで、どうする?行ってみるか?」

「行ってみるクマ!」とクマは嬉しそうに言った。

 

数分でバアルは擬似ターミナルを生成した。

 

「ここに帰られる際は、またお呼びください」

「ん。分かった」とシンはターミナルに触れる。

「出発するクマ!」

 

 

 

 

「…」

「何にもないだろう?」

 

シンはギンザにターミナルで移動し、クマもどこか見慣れない場所に興奮していた。

 

 

そこへエリゴールが現れる。

「うひょー」とクマはシンの後ろに隠れた。

「…何者ですか?その…何かは」

「気にするな。連れだ」とシンは言った。

「はあ…そういえば、前にもアマラに連れの方が来ていました」とエリゴールはシンに言った。

 

「…人間か?」

「ええ。私は見ていないのですが、仲魔がそういっていました」

「…まあ、いいだろう」とシンは特に深く気にすることなく、エリゴールと別れた。

 

「さっきのも"アクマ"?」とクマは去って行ったエリゴールを見て言う。

「そうだな。」とシンは歩き始めた

クマもそれに付いていくように歩き始めた。

 

シンがなぜ、ギンザを選んだか。

それは『シジマ』思想の悪魔が多く、徘徊しているからである。

『エリゴール』でもシジマ派の者も居れば、シンに従う者もいる。

大半がシンに従うものである。

この世界の悪魔の6割は混沌の勢力として、ボルテクス界に居る。

アマラに居るのは遥かに数と力が強く、いわば王の城を守っていると言えるだろう。

 

シンは混沌勢力の悪魔以外を狩りに来たわけである。

 

クマは初めは"バー"にいるニュクスや、じゅえりーラグの店主などと話し、楽しそうにしていた。

そして、自分の知らないものに目を輝かせてテンションを上げていた。

 

 

だが、外に出てそれは一気に急降下した。

 

 

辺りは砂漠。太陽らしきものは黒く光り、

空気もテレビの中より、一段と重い。

 

「…」

「ここが俺の居る世界。何もない。創世されることなく、この未完成が永遠に続く状態。

ここには人間がいない」

 

「…シン君は寂しくないクマか?センセイもヨースケもチエちゃんも、ユキコちゃんも、カンジ、リセちゃんも居ない…」とクマはシンに尋ねる。

 

「…慣れたさ。俺はもう分からない月日、年月、ずっとここに居たんだ。

…気楽な面も多いがな、どうも難しいな。」とシンは頭を掻いた。

 

ギンザは統制されているが、外は別である。

 

外に出ると、無法状態だと言える。

 

まさに世紀末!…と、言えるだろう。

 

シンが決めた事はあくまでもアマラや自分の統治下での話。

ボルテクス界を収めることは不可能であった。

その要因はやはり、あの忌々しいやつのせい。

 

なので、どこにも属さないチンピラみたいな悪魔がシンたちを襲う。

 

だが、そこはシンはフルパワーで相手を捻り潰す。

 

クマもテレビでしか使えないペルソナ能力もここではなぜか使える為、ペルソナを使い、弱い悪魔たちを倒していった。

 

クマも初めのうちはおどおどしていたが、鳴上達の戦い方を見ていたためか、覚えは早かった。

 

それを何時間かやり、再びギンザへと戻ってきた。

 

「うむ…だいぶ、感覚は戻って来たな」

「疲れたクマー!!」とクマは疲れた様子で、椅子に座った。

 

「…シンクンありがとう」とクマは頭を下げた。

「…何が?」

「シンクン…いい人?いい悪魔?」

「?」とシンは何か分からないかとりあえずありがたく言葉を貰っておくことにしておいた。

 

 

シンが立ち上がり、周りの悪魔と話していると、クマに一匹の悪魔が話しかけてきた。

 

「おめぇさん、王の連れかい?」

「およ?そうクマ。天狗さん」

「お?俺が天狗ってよくわかってんじゃねーか」とカラステングは嬉しそうに言った。

 

「オレ様はあいつを見てきたが、そりゃ始めひでぇ顔だったんだ。

まるで、世界の終りみたいな顔を常にしてやがった。

ま、世界は終わっちまってるんだけどよ」

「そうクマか」

 

「けど、あいつの顔つきはここを訪れるたびに変わって来たぜ。」

とクラマテングの隣に、仮面を被った悪魔が座った。

スカアハである。その後ろにはクーフーリンがおり、クマと目を合わせると、頭を下げた。スカアハは軽く水を貰うと、それを飲み口を開いた。

 

「彼の強さは絶望だと知りながら前に進めることだと私は考えています。

でなければ、このような創世は出来なかったでしょう。

そうでなければ…いえ…そうでもしなければ、彼自身は生きていられなかったように思います。

彼は一人になり、世界が壊れて、何一つ希望もなく、常に死に怯え、常に絶望にさらされてきた。心の支えは不確かな恩師の言葉…

 

だからこそ、自己防衛として、救いの無さに"救い"を求めたんだと私は考えていますよ。

言わば、この世界に適合するためには、何か正当な理由が彼の中には必要だったのだと思います。でなければ、今頃死んでいたでしょう。」

 

「救いの無さに救われる…ってか、だからあれだけ強いっていいてぇのか?」

「…それは"そうだ"、とは断定できません。

ですが、私は彼以上に崇高な考え方とそれを実行できている悪魔を知りません。

カリスマ性はそれが要因だと言えるのでないかと、そう思うんですよ。

内に秘めたる闇を悪魔は好みますからね…」

そういうと、スカアハは椅子からふわっと浮かんだ。

 

「お帰りになりますか?」とクーフーリンはスカアハに尋ねると、スカアハはうなずいた。

「小さき人形よ。常に迷い続けるのだ。道は無数にある。肝心なことは、それを自ら絶やさないことですよ。」

「およよ…難しくて分からんクマ…」とクマは頭を抱えた。

 

「そうだな。俺にもわかりゃしねーよ。救いの無さに救われるだぁなんてのはあまりにも現実的じゃねー。おめえさんはおめえさんなりに頑張りな」とクラマテングも若干の千鳥足でふらふらと店を出て行った。

 

クマはシンを見ると、シンは淡々と悪魔たちと会話をしている。

その顔に笑みは無い。真剣な話のようだ。

 

相手は王冠を被り、黒いローブを纏い弓を背負っていた。

 

「アサクサの件は?」

「…やはりヤツの勢力でした。発見したので、その場で殺しました」

「…よくやった」とシンが言うと相手は頭を下げた。

 

クマは帰り、いつものテレビの中で、スカアハの言葉を思い出していた。

 

 

きっと、シンクンは寂しかったクマ。

クマと同じ…一人ぼっちでこの世界に居たクマ。

たぶん、クマなんかより、ずっと、ずっーと…

ひとりぼっち。

 

クマもセンセイ達と会ってから、さみしいってことが分かるようになったから、シンクンの気持ちがわかるクマ…

 

 

けど、シンクンが言ってたクマ。

 

『俺がヒトシュラであることをやめられないように、お前もお前をやめられない』

 

クマはクマ。

自分がなんだか、分からないけど、センセイ達とシンクンとみんなで見つけるクマ。

 

 

 




体調が悪い中、書き上げた割には何とも前向きなものに仕上がったような気がします。
救いの無さに救われるってのは事実、到底難しい話であります。
ある種の開き直りですが、それを持続させることって難しいと思います。


あと、今、すこし真女神転生3の設定なんか調べてたら、
アマラ経"路"ではなく、『経"絡"』だったですね。

過去の感想を読み返して、ずっと前に指摘してくれたひとが居たのに…
それでも、その時に気づかないという…まさに愚か者としかいいようのないものです。
まだ読んでくださってくれているかわかりませんが、指摘してくださった方にここで改めてお礼をいいます。ありがとうございました。

そういった間違いはこの先も先入観で常に起こしていきますので、どうか優しく「ちげぇよクソッタレ」と言ってくださると幸いです。



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問い続ける『文月』
第22話 Unexpected "Death" 7月10日(日) 天気:曇/晴


この話しを含めた、23話、x2話は少し、急いで書いたので、おかしな点があるかもしれません、後程、修正していきますので、ご了承下さい。


6月25日以降、りせの回復が望まれる中、変哲もないただの日常がシンの生活を満たしていた。

 

何故なら…いや…後に語るべきだろう。

 

シンは高校生活も慣れてきた。

だが、未だに人間の接することに違和感を覚える。

(うまくいかないものだ…)とシンは思いながら生活していた。

 

7月9日の夜には濃霧が立ち込めた。

これでまた一人救出できた。鳴上達はそう思い、目を閉じ眠っていった。

 

 

「…」

シンは深夜、自宅の窓から霧を眺めていた。

シンはこの静まりかえった世界に、自分が溶けていくような感覚で満たされていた。

温泉にでも浸かるような、満足感に満たされる。

 

 

メリーはそんな雰囲気を見てぼそりと呟く。

 

「…やはり、間薙様は"王"です。」

「?」とシンはメリーの方を見て首をかしげた。

「私はこれほど夜に溶け込み、幻妖な姿をした方を知りません。」

「…そうか。嬉しいね」とシンは淡々と答えると、ソファに座り軽く目を閉じた。

 

 

 

 

 

…7月10日。

 

町はサイレンに包まれていた。

鳴上はそれを気にし、窓の外を眺めていた。

(…何か、あったのだろうか)と鳴上は思う。

一抹の不安が鳴上の胸中に去来していた。

 

そこに携帯が鳴る。千枝からであった。

「はい。鳴上です」

「た、た、たいへん!商店街の外れで、し、死体が見つかったって!」

「!?本当か!」

「ね、なんで!?だって、あたしたち…とにかく、ジュネスで待ってるから、急いできて!」

 

鳴上は慌てて、携帯を閉じ階段を駆け下り、「行ってきます!」と菜々子に言うと、走って出て行った。

 

 

ジュネスの屋上に行くと、すでに天城と千枝、完二が座っていた。

千枝は鳴上に気が付くと、立ち上がり

「あっ、こっち!今、花村とシン君が現場見に行ってる。たぶん、もうそろそろ…」

そこに花村が走ってくる。

 

「ハァ…やっぱ、殺人だ。死体、アパートの屋上の手摺りに、逆さにぶら下がってたって…」

と花村は息を切らしながら皆に説明する。

「そんな…そんな事って…」

「それよか、大変なんだよ!!殺されたの…“モロキン”だ。」

「モ、モロキン…!?」

花村の思わぬ被害者に皆が驚いた。

 

「モロキンって、あのモロキンか!?先輩らの担任の…」

「な、なんで…!?なにそれ!?」

「知らねーよ!けど、見たヤツが居たんだ!間違い、ねーよ…」

と花村も慌てている様子である。

 

「んだよコレ…狙われんのは、テレビ出た奴じゃねえのかよ。

夜中の番組も、普通のニュースも、モロキン出てるとこなんて見た事ねえぞ!?」

「くそ…どうしてこんな事に…」

 

「…」

「…」

 

千枝は俯き言う。

「色々、分かったような気してたけど…結局、全部ただの偶然だったのかな…」

「マヨナカテレビも、本当は関係無いのかな…」

「ちっくしょ、ここまできて振り出しかよ!!やっぱり…警察も捕まえらんない犯人を俺らで、なんて…無理だったのか?」と花村は机を叩いた。

 

「諦めるのは早い」と鳴上は皆に言った。

 

「ったりめーだぜ、鳴上先輩!」と鳴上の言葉に完二は応える。

「そもそも、警察にゃ無理だろうって始めたんじゃねえスか。

オレらが腰砕けんなったら、犯人は野放しんなっちまう。

泣きゴト言ってる場合じゃねえ…オレらなりのやり方で、前進むしかねんだ。

間薙先輩だって言ってたじゃないっすか!

どんなことがあっても前に進むしかねぇって!」と完二はみんなに言い聞かせるように言った。

 

「完二くん…」

「ふん…完二のクセに、生意気だ。」と花村は完二を叩いた。

「な、何スかソレ!」

 

そこにゆっくりと歩いてくるシンが居た。

その隣にはクマが居た。

 

「お、おまっ…何でココに…!?」と花村は思わない存在に驚いた。

「クマさん、出ちゃっていいの!?」

「つか、出れるんかよ!?」

 

「そりゃ出口あるから出れるクマよ。今までは、出るって発想が無かっただけクマ。

でもみんなと一緒にいたら、こっち側に興味がムックリ出たクマよ。

シンクンのせ…」とクマは何かを言いかけ、シンに後ろから軽くど突かれた。

 

「痛いクマ…」とクマはシンにだけ聞こえるように言った

「秘密」

「…そうだったクマ」とクマは思い出したように言った。

 

「え?なんだって?」と花村が不審がる。

「それで、それで、考えてみたら行くトコ無いし、戻るのも勿体無いし、椅子に座ってて、まってたクマ」とクマは慌てた様子で話をする。

「そこに俺が鉢合わせた。それでここに連れてきた」とシンは言う。

 

シンは続けて、自分が調べてきた情報をみなと共有する。

 

「…俺が聞いた話では、やはり被害者は諸岡金四郎。」

「やっぱり…」と天城はショックそうにため息を吐いた。

 

「もう一回しつこく確かめるけどさ。

あっちの世界の霧が晴れた時まで、中にはお前だけだったんだな?」

「そう言ってるクマ」

「でも、天城先輩の話だとすっと、今度こそしくじらねえように、

いよいよ外で殺りやがったって事か。クソ…もしそうなら、

もう犯人押さえねえと防ぎようねえぞ!?」と完二はため息を吐いた。

 

「手掛かり要るよね…りせちゃん、そろそろ話聞けないかな。」

「そうだな…それに期待するしかねーや。」

 

「ハァ~、それにしても暑っクマー。…取ろ。」とクマは自分の頭に手を付けた。

外そうとしたクマの頭を叩き花村が戻す。

 

「取るって、まさか“頭”か?やめろよ、子供見てんだろ!

ったく…中身カラッポで動いてるとか、トラウマ残るっての…気ィ遣えよ。」

「でも、元気になってよかったね。毛もフサフサ。」と天城はクマの毛を見て言った。

 

「さ、触っていいか…?」と完二は手をわきわき動かしていた。

「ダメックマ。

てゆーか、ふふーん。クマもうカラッポじゃないクマよ。

チエチャンとユキチャン逆ナンせねばって、復活頑張って、中身のあるクマになったクマ!」とクマは両手を上げた大喜び

 

「はいはいエラい、よくやった。」

「もう! 逆ナン、いつまで引っ張る気?」

「だいたい、中カラッポなのに、頭開けたって暑さ関係ねーだろ。」と花村はクマの頭を叩いた。

「だから、カラッポじゃないってーの!

あーっち。

もう、限界クマ…」

 

 

クマが頭を開けた瞬間、皆が口を開いたまま驚いた。

シンだけは特に淡々とステーキを食べていた。

 

 

 

 

商店街近くのアパートに白鐘直斗はいた。

聞き込みである。

(…間薙…あの人の家か)と直斗は思い、インターフォンを押す。

「…はい」と女性の声がした。

「今朝あった、事件について調べています。」

「…少々お待ちください」と女性は言うと、すぐにドアが開いた。

 

直斗はその恰好を見て少し驚いた。メイドの恰好をした顔の整った女性が出てきたからである。

しかし、目が赤く独特の雰囲気を醸し出していた。

 

「ご用でしょうか」

「今朝あった事件について調べています。今朝、何か不審なものなどはみませんでしたか?」

「特には見ておりません。眠っておりました」と女性が話していると、

「…メリーさん。わたし、いまあなたのうしろにいるの」とメイドに金髪の少女が抱き着いた。

「…失礼」とメリーと言われた女性は淡々と、その少女に「お嬢様。今はお話しています」というと、少女は頬を膨らませて部屋の奥に戻って行った。

 

「…そうですか。ありがとうございました」と直斗は頭を下げ、次の家へと向かおうと思うと、シンが来た。

 

「こんにちは」と直斗は帽子を外し挨拶をした。

「ん。こんにちは」とシンは言うと、「今朝の事件か?」とすぐに尋ねた。

「ええ。」

「そうか。…頑張ってくれ」とシンが家に入ろうとしたとき、直斗が口を開いた。

 

「あなたは、あなたはどう考えていますか?」

「…さあな」とシンはそれだけ言うと、家の中へ入って行った。

 

 

 

鳴上達男子は四六商店前にいた。それはりせに会いに行くためである。

 

「ん~。"ホームランバー"の季節っスねー。」と完二はホームランバーを食べながら熱い空を眺めていた。

「さっきから何本食ってんだよ。腹壊すぞ」と花村はため息を吐いた。

 

そこに千枝と天城が合流する。

 

「ハァッ、ごめん、遅くなった…」と千枝は暑そうに顔の汗を拭いた。

「ったく、クマきちの服なんか別に何でもいーだろ?」

 

そこに颯爽と現れる金髪美少年。

彼がクマの中に居た。クマ。

 

つまり、本当に中に人間のクマが生まれたのである。

 

そのクマの恰好は王子様風で金髪美少年。それに全員が驚き、数秒時間が止まったように感じた。

 

「のぁ…!ク…クマか、お前?」

「イッエース、ザッツライト。イカガデスカ?」と外人風にクマは鳴上に尋ねた。

 

「ブリリアントだ」

「や…合わせなくていいって。」と千枝は鳴上に突っ込んだ。

 

「あたしもビックリだけどさー。間違いなくあのクマくんだから。

てか、性格まんまでまいったよ…見るモン全部新鮮らしくて、もう大騒ぎでさ。

女性モノのフロアじゃ、コーフンしてワケ分かんない事叫ぶし…

あんた、以後このカッコん時は、本能のままにはっちゃけたらダメだからね?」

千枝に怒られたクマはショックそうに俯いた。

 

「でも、仕方ないよね。ほんとに初めてなんだもんね?」と天城は励ますようにクマに声を掛けた。

「ハァ…わかったよ、そこまでヘコまなくていいから。別に許さないとか言ってないでしょ。」

 

「よかった! 嫌われたのかと思って、ドキドキしちゃった。」とクマは嬉しそうに千枝をみた。

 

「ふふ、まったく…大人しくしてりゃ、見た目はカワイイのに。」と千枝はクマを見ながら言った。

 

 

「待たせた」とシンはメリーと少女を連れてきていた。

金髪の少女は嬉しそうに四六商店の中へと入って行き、それに淡々とメリーはついていった。

 

「はは…なんつうか、もうなんでもありだな」と花村はもう頭の速度が追い付かないのかため息を再び吐いた。

「悪魔?」と鳴上はシンに尋ねた。

「そう。すこしばかり預かってる」とシンは言った。

 

「クマは何か食べるのか?」とシンは財布を出そうとしたが

「しゃーないな。」と花村は財布から千円札をだし完二に渡した。

「完二、これで好きなだけアイス買って、クマと分けろ。

俺たち、ちょっと豆腐屋行って来るから、ここで大人しくしてろよ。」

 

「ワーオ、リッチマン!」とクマは嬉しそうに飛び跳ねた。

「そんな、イキナリもらえねっスよ!」と完二は花村に千円を返そうとするが

「リニューアルしたクマきちの、歓迎ってとこだ。その代わり騒ぐなよ。」

花村は少しかっこよく言った。

 

「お~、どーしたの花村、急に"先輩"じゃん。

そっか、口じゃ色々言っても、ほんとはクマくんにも優しんだ。

よかった、花村がオトナで。オトナは細かい事気にしないよね。」と千枝は何かを含みながら言った。

 

「何だよ…何かあんな、その言い方?」と花村は千枝に尋ねる。

 

「クマくんの服さ、持ち合わせで足りない分、花村のツケで買ったから。」

「ツケ?はぁ!? ツケ!?何だそれ、聞いてねーぞ!?」と花村は叫んだ。

「お金無いんだからしょーがないじゃん!ジュネスのくせに、服高いし!」と千枝もそれと同じくらいのボリュームで声を出した。

 

「ツケって、マジでツケたの?どどどーしてくれんだ! 俺がバイク

買ったばっかで貯金カスカスって知ってるだろ!?」

「いーじゃん別に。 どっちにしろカスカスなら、大して変わんないって。」

「何いぃ!?」と更に花村は怒り、声が大きくなる。

 

「オーケー、ベイベ。ボクのためにケンカは…「だぁーってろ!

つか、お前のせいだろーが!!」」とクマの言葉は遮られしょんぼりとクマはする。

 

「くっそ~…いいかクマ…

それ、大事に大事に大事に着ろよ。

イタズラして破いたら、次からはお前の脱いだ“クマ皮”で仕立てるからな!」

その言葉に更にクマはしょんぼりしている。

 

「おいクマ、しょげてんな。"ホームランバー"食い行くぞ。」と完二の言葉に表情が一転し、四六商店の中へと入って行った。

 

陽介と千枝は再びケンカしている。

 

「先、行こう。千枝たち…長そうだから。」

「そうしよう」と鳴上が言うと、シンもそれにうなずき豆腐屋へと向かった。

 

 

 

「おや…やっぱり来ましたね。間薙さん」

「君も大変だな」とシンは直斗に言う。

「いえ、そうでもないですよ」と直斗は帽子を深く被り直した。

 

 

 

「今度は、久慈川りせを懐柔・・ですか?」

「懐柔とは…別に俺たちは宗教家じゃないぞ?」とシンは鼻で笑う。

 

「ったく…店員の方もツケで売んなってん…

あれ、こいつ…確か、完二ん時の…」と花村が入ってきて直斗を見るとそういった。

 

「…後ろの人たちはあれ以来ですかね。まだ名乗っていませんでした。

僕は白鐘直斗。

例の連続殺人について調べています。

ひとつ、意見を聞かせてください。

被害者の諸岡金四郎さん…皆さんの通う学校の先生ですよね。」と直斗は鳴上達に尋ねる。

 

「そ、それが何?」と千枝は少し動揺したように言った。

 

「第二の被害者と同じ学校の人間…世間じゃ専らそればかりですが、そこは重要じゃない。

もっと重要な点が、おかしいんですよ…

この人…“テレビ報道された人”じゃないんです。どういう事でしょうね?」と直斗は鳴上達の反応を見る。

 

「しっ…知るかよ、そんな事。」と花村もすこし焦っているようにも見えた。

 

「…」

直斗はじっと鳴上達を見回すと、

「…まあいいです。とにかく…僕は事件を一刻も早く解決したい。

では、また」と直斗はシンにアイコンタクトをすると、でていった。

シンもそれが外に来いということの合図だと分かり、外に出て行った。

 

 

シンは直斗についていき、だいだら。のまえで話を聞く。

「…やはり、あなたより彼らを揺さぶった方がいいみたいですね」

「さあね」

「…あなたは本当にそれが口癖ですか?」

 

「興味ないね」とシンは傑作RPGの主人公風に言った。

完全に煽っている。

 

直斗はふぅと一息吐き、シンに言った。

 

「今回に関しては確実にあなたたちではない。ですが、これ以前のものは…まだ疑問が残っています。」

「そうかね…」

「…では、また」と直斗は頭を下げ、去って行った。

 

そこに、鳴上達が丁度豆腐屋から出てきた。

 

「…なんだ、知り合いだったのか?」と花村は少し驚いた表情でシンを見た。

「…そうだな」とシンはうなずいた。

「どんなやつなんだ?」

 

 

 

「頭の回転は良いが、どうも子供っぽいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

一行は神社の境内に来ていた。それはりせの話を聞くに他ならない。

 

「それで何か覚えてることないか?」と鳴上はりせに尋ねる。

 

「うん、家に居た事は覚えてるんだけど…気が付いたら、もう“向こうの世界”だった。」

「またしても、犯人については手がかり無し、か…」と千枝はため息を吐きながら言った。

 

「さっき、白鐘ってヤツに会ったけど」

「あいつは、探偵だ。警察に協力要請を出されたから、来ているんだろう」とシンは花村の疑問に答えた。

「一応だけど、向こうの話はしてないんだよね?」と天城はシンに尋ねた。

「無論」

 

「あの…その…」

「…ん? どしたん?」

りせの言葉の含みに千枝が反応した。

 

 

「あの…助けてもらっちゃって…

…ありがとね!嬉しかった!」と飛び跳ねて嬉しそうな顔で言った。

 

「えっ…あはは。いーって、そんなの。」

「やば、カワイイ…あー、今やっとホンモンって実感した。確かに“りせちー”だ。」と花村は嬉しそうに言った。

 

「その…最近の私、疲れてて少し暗かったから、嫌かなと思って…

喋り方…へん?あ、でも、世間的には今の感じの方が、私の“普通”なのかな…」

 

そういうと慌てた様子でりせは話を続ける。

 

「ごめんなさい、私…どの辺が“地”だか、自分でもよく分かんなくなってて…」

「はは、そんな、謝る事?いいじゃん、その時々で。」

「無理に決めなくても、誰だって色んな顔があると思う。」と天城が言うと千枝は天城をみて笑った。

「あはは、雪子が言うと説得力あるわ。」

「えっ…そ、そう?」

「……。ありがとう。」そういうとりせは笑った。

「ふふ、よかった。最初に知り合ったのが、先輩たちで。」

 

 

その後、りせにあの世界の事、めがねを渡し協力を要請したところ、協力してくれることになった。

クマはシンが引き取ると言ったが、花村が「ジュネスでこき使う」と言っていたのでクマは花村のところで引き取ることとなった。

 

 

 

これでまた最悪の事態を回避できた。

 

犯人への目星はついていない。

 

だが、確かに我々は一歩前進したといえる。

 

 

 




所謂、ストーリーのセリフにシンを混ぜることをしていたら、とんでもなく文章量が増えてきて、話が進まない。


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第23話 Probatio Diabolica 7月11日(月)  天気:曇

諸岡先生の死体が見つかった翌日。教室は騒然としていた。

 

「な、モロキンの話ってマジ?」

「テレビでやってたし、間違いないっしょ。」

 

そんな話でクラスは持ちきりであった。

 

「よう」と花村が少しテンション低めで教室へと入ってきた。

鳴上も千枝、天城もそれぞれテンションが低いようだ。

 

一方、シンは相変わらずの淡々とした表情でそんな噂話はどこ吹く風。

 

「…実感湧かないぜ…担任が“殺された”なんてさ。」

花村は椅子に着くなりため息とともに言葉を吐き出した。

 

「…間薙君は?」

「…特に何も感じない」とシンは淡々と答える。

「なんつーか、やっぱりシンはシンだな。」

 

そんな花村の言葉に、どこか現実的でない担任の死を少しだけ和らげられたような気がした。

それはやはり、いつもと変わらない間薙シンという"悪魔"のおかげだろう。

 

「けど、てことはつまり、担任が新しくなるのか?

誰だろうな…まあ、モロキンより濃いヤツなんて

そう居るわけないか。」と花村は自分の言葉に笑った。

 

そこにドアが開く音、それと同時に静まる教室。

 

 

「おっはよぉ。今日から貴方たちの担任になった、柏木典子でぇす。」

 

 

((((め、めっちゃ濃いのきたぁああああああ!!!))))

クラス中の人間が、同じことをほぼ同じタイミングで思った。

 

そこには胸元の大きく開いた服を着た、モロキン並に嫌われている柏木典子が来た。

 

「知ってると思うけど、諸岡先生が亡くなられたので…

私が代わりに、あなたたちのお相手をすることになったわけぇ、うふふ…」

 

「はぁい、じゃあ、まず、諸岡センセに黙祷をささげまぁす。」

「はぁい、じゃ目を閉じてぇ…」

 

その言葉に皆、目を閉じた。

 

「はい、もういいわよぉ。」

「「「「!?」」」」

 

皆が目を開くと、教卓に座り足を組んでいた。

 

 

「諸岡先生に恥ずかしくないよう、張り切っていくわ。

来週の定期試験も、ちゃぁんとあります。

"こういう時こそ、スケジュール通りに仕切らないとね、典ちゃん"って、校長がね。

うっふふ。あなたたちも大変よねぇ。でも、オトナになってくって、そういう事よぉ。」

 

(恐らく、違う…そして、ウザい。果てしなくウザい。銀河の果て並にウザい)

シンは心の中で珍しく苛立つ。

 

シンと同じことを思った生徒が居たのだろう、口に出して言っていた。

 

「果てしなくうぜぇ…」

「モロキンから柏木って…どんな濃い味のコンボだよ…」

 

 

「それとぉ、一応、言っとくけどぉ。1年に、例のアイドル…

クジカワさん…だっけ? 入ったけどぉ。

テレビで見るのと、ぜ~んぜん違うから、がっかりしないようにねー…うふ。」

 

そして、表情が変わった。

「な~にがアイドルよ…ねぇ?ただのシリの青いガキじゃないの。」

 

…長い話が続いている。

 

「んだよアイツ…対抗意識ってコト?」と男子学生の声が聞こえる。

「どう考えても、りせちーの勝ちだろ…てか柏木、地味に40過ぎって噂ホントか?」

 

「りせちーの入学、モロキン生きてたらケッコ喜んだかもなぁ。

こないだ本屋で、りせの写真集買ってんの、見たヤツいるって話だし…」

と茶髪の男子学生が後ろの男子学生に話しかける。

 

「微妙にムッツリっぽいなそれ…

けど…ムカツク奴だったけど、殺されたって思うと、けっこ可哀想かもな…」

 

そこで思い出したように、茶髪の男子学生は後ろの男子学生に話し始める

「あ、そういやさ、知ってる?りせちーのストリップ番組の話。」

「はぁ? ストリップ?んなの出たら、マスコミ大騒ぎだろ。」

「マジなんだって! …けど結局、脱ぐ前に電波ヘンになって、見れなくなってさ…

ほら、噂の"マヨナカテレビ"だよ。」

「お前バカじゃね?あんなん信じてんの?

どーせ、寝ぼけてただけだって…」

 

 

「"マヨナカテレビ"広まってきてるね…」

「早いとこ、解決しないとな…

とにかく、今日集まろうぜ。放課後空けとけよ。」

花村の言葉に皆、頷いて了承した。

 

 

 

 

放課後…

 

いつもの席ではなく、人数が増えた為、屋根つきの広い席に皆座った。

 

「あー…来週もう期末かぁ…赤、久々にくるな、コレ…」と千枝の言葉に皆のテンションが下がった。

「しょっちゅうだろ。」と花村のツッコミに千枝は立ち上がり怒る。

「う、うっさいな!花村に見せた事無いっしょ!」

 

「そういや、間薙はなんか中間の後に来たんだっけか。」と花村はシンに尋ねる。

「そうだな。」

その顔に不安は一切ないように見えた。

 

「はは…やっぱり、悪魔の頭脳ってか」と花村はため息を吐いた。

 

「けど千枝は、赤の課目以外はいっつも平均点以上だよね。」

「そ、そこ! フォローになってないから!!メリハリよ、メリハリ!!」

 

 

「あはは。」とりせはそれを見て笑っていた。

 

 

「り、りせちゃんまで…」と千枝はショックそうに言った。

「ふふ、違うの、ごめんなさい。

私…新しい学校でも、どうせ当分は友達うまく出来ないって思ってたから…」

「きっかけが事件なんかじゃなきゃ、もっと良かったんだけどね。」

 

「てかそう、事件の話だけど、今回のモロキンの件…どう思う?

夜中の番組に、全然映んなかっただろ?」と花村の言葉で皆思い出したように話し始めた。

 

「じゃあ、"連続殺人の犯人"と今回の事件の違いを話し合おう」と鳴上は言う。

 

「ハイハイ!クマ知ってるクマ!」とクマは真っ先に手を上げて、言う。

「もしテレビの中に入ったなら、クマが分かるはずだよ。

前より鼻、利かなくなってきてるけど、それくらいは間違えないクマよ。」とクマは自信満々に答える。

 

「けど、死体見つかったの、

また霧の日だったんでしょ?現場の様子も、山野アナや小西先輩と

同じだったって、ニュースで言ってたし。」と千枝は言った。

 

「犯人の動機…ほんと、何なのかな…どうして諸岡先生が狙われたんだろう。」

「恨みってんなら、モロキン恨んでるヤツなんざ、数え切れねえ。」

 

「でも確か、テレビで話題になった人が狙われるんじゃなかった?

テレビ見て狙い決めてるなら、被害者と面識無い犯人ってイメージだけど。

そういうタイプは、動機なんて考えても意味なさそう。

会った事も無いのに意味分かんない理由で恨んでくる人、世の中にはいっぱい居るし。」

とりせの言葉に千枝は

「あ~…りせちゃんが言うと、そういうの、リアルだね…

けどモロキンの場合、マヨナカテレビだけじゃ

なくて、普通のテレビにも出てなかったしな…

んあ~、全っ然分からん!」と髪の毛をぐちゃぐちゃと掻く。

 

 

「…久慈川さんの言うとおり、「りせでいいですよ」」とりせの言葉にシンはうなずき言い直す。

 

「りせの言う通り、事件の内容的に面識のない犯人だろう。

しかし、そんな人物にいとも簡単にテレビの中に入れられている…

これが不思議だ」とシンが言うと、テレビに入れられた三人は少し俯く。

 

「しっかし、ウチの高校から続けて二人か…警察、ウチの人間に目星つけて、

目ぇ光らしてんだろうな…」と花村は言う。

 

そういうと、花村も少し俯いて言う。

それはさながら、懺悔でもするように思えるだろう。

 

「俺、白状するとさ…正直、心のどこかで、モロキンのヤツが

犯人かもって…思ってた事あんだ。

ウチから二人目って言うけど、実際はもっとだろ?

それにあいつ、“死んで当然”とか何度も言ってた事あったしな…

けど…疑って悪かったなって…

ムカつくヤツだったけど、こんな死に方、あり得ないだろ…

モロキンだけじゃねえ…可哀想っつーか…なんつーか…

とにかく犯人、許せねえよ…!」

 

「モロキンのためにも、あたしたちに出来る事、やるしかないよ!

こうなると、ウチの学校になんか関係あるってのが、今んとこ有力でしょ!?

なら、あたし達で手分けして…」

 

「その必要はありません。」と聞き覚えのある声がし、皆がそちらを向いた。

 

 

「オ、オメェ…」と完二は少し慌てた様子でその声の主を見た。

「諸岡さんについての調査は、もう必要ありません。」

 

その声の主は白鐘直斗であった。

 

「な、なんでよ?」

 

「容疑者が固まったようです。ここからは警察に任せるべきでしょう。」

「容疑者固まったって…誰なのッ!?」と千枝は驚いた表情で直斗を見た。

 

「僕も名前は教えてもらっていません。容疑者…高校生の“少年”ですから。

メディアにはまだ伏せられていますが、皆さんの学校の生徒じゃないようです。

ただ、今回の容疑者手配には、よほど確信があるみたいですね…

今までの事件と、問題の少年との関連が、周囲の証言ではっきりしているそうです。」

 

「逮捕は時間の問題かも知れません。

無事解決となれば、またここも、元通り、ひなびた田舎町に戻りますね。」

 

「…それで、お前は何をしに来たんだ?

伏せられてるんだろ?なんでわざわざ知らせに来た?」と花村は言う。

 

「皆さんの“遊び”も、間もなく終わりになるかも知れない…

それだけは、伝えておいた方がいいと思ったので。」

 

「遊びのつもりはない」と鳴上は言う。

 

「関わった事は否定しないんですか?

まあ、いいでしょう。僕もこれ以上、どうこう言う気はありません。」

「遊び…?遊びはそっちじゃないの?」

「!?」

りせは厳しい表情で直斗に言った。

 

 

「探偵だか何だか知らないけど、あなたは、ただ謎を解いてるだけでしょ?

私たちの何を分かってるの?…そっちの方が、全然遊びよ。」

「こっちゃ、大事な人、殺されてんだ…遊びで出来るかよ…

それに…約束もしてるしな…」とクマの頭に手を乗せる。

「ヨヨヨースケ…」

 

「遊び…か。

確かに、そうかも知れませんね…」と直斗は俯き腕を組んだ。

 

「な…なによ、急に物分りいいじゃん…」と千枝は驚いた表情で言う。

 

花村は気づいたようにはっとしてそして、少し嫌な顔をする。

「そっか、容疑者固まったのに、な~んでこんなトコぶらぶらしてんだと思ったら…

容疑者わかったらお払い箱なのか?んで、寂しくて来てみたとか?」

 

「探偵は元々、逮捕には関わりませんよ。それに、事件に対して特別な感情もありません。

ただ…必要な時にしか興味を持たれないというのは…確かに寂しい事ですね。

もう、慣れましたけど…」

 

完二はそれを聞いて少し思うことがあったのだろう。少し、厳しい顔をしていた。

 

「謎の多い事件でしたが、意外とあっけない幕切れでしたね…

…じゃ、もう行きます。」

 

「そんなお前に俺が面白い、仮の話を聞かせてやろう」とシンがそこで口を開いた。

「というと?」と直斗の足が止まった。

 

「存外"模倣犯"かもしれんぞ?」

「…根拠は?」と直斗はシンに尋ねる。

 

「そうだな…"今回の犯人"が"前件の殺人事件の犯人"と同じという証拠はない。故に、同一犯とは言えない。」

「は?」と花村は思わず情けない声を出してしまった。

 

「…"悪魔の証明"ですか…」

「そうだな。事実、これまで捕まる事の無かった犯人が今回の一件で明確に容疑者として固まった…。これほど、おかしな話はない。

相違点を上げれば、恐らく全部違うだろう。」とシンは言う。

 

「たとえば、犯行の方法、前件までに見られた予告なしの殺人、証拠、動機ありの殺人…それらすべてが相違してる。」

 

「…」

 

「警察はこれで幕引きにしたいのだろうが…俺は一点の曇りがある限り、疑い続ける。

そ…」とシンは何かを言いかけ、そして、何か決心をしたように口を開いた。

 

 

 

 

「その結果が、たとえ友人との永別であってもだ」

 

 

 

 

 

そこから皆は解散し、どこか納得のいかないが、どうすることも出来ないため、家へと帰った。

 

 

直斗とシンを除いて。

 

 

 

「…メールを渡したのにこうして呼び出されたのは初めてか」

シンも帰ろうとしたが、すぐに携帯が鳴った。

それは直斗からであった。

 

『先ほどの場所に来てください』

 

そこへ行くと、少し暗めの直斗が椅子に座っていた。

 

「…何故でしょうね。今日、初めてあなたという人間を知れたような気がします。」

「そうか?それは良いことか?」

「ええ。それで、詳しい話を聞きたいと考えて呼びました。」

 

「そうか。じゃあ、説明しよう。

まず、今回の殺人が明らかに殺し方が違うのが分かる。」

「ええ、やはり証拠がすぐに出た点で、そうだと言えるでしょう」

「なぜ、同じ方法で殺さなかった?」とシンは直斗に尋ねる。

「…」

「しかし、仮に模倣犯だと考えれば、辻褄が合う。

高校生、動機、殺人方法の違い…それらすべてが合致する。」とシンは言った。

だが、とシンは続ける。

 

「これが主観的証拠にすぎないということだ。」

「そうですね。ですが、調べる意味はあるように思います…」と直斗は言うと、早速立ち上がった。

 

「じゃあ、俺も質問させてくれ。」

「なんですか?」と直斗は言う。

 

「なぜ、俺に興味を持った。」

 

直斗は少し考え言う。

「…僕はたぶん、嬉しかったんだと思います。

先ほど言いましたが、終わってしまえば探偵というのはお払い箱です。

探偵というのは、いつも先を見なければなりません。

そう簡単に出来るようなことではない。」

 

「ですが、あなたは僕と同じ視点を持っていました。

そして、僕よりも遥か先を見ていた。

だから…僕の見えない景色を見ている人に興味を持った…それだけのことです」と直斗は言った。

 

「…俺の友人に、頭のいいやつが居た。

そいつは俺なんかよりも、ずっと先を見ていた。

まさに、才能だった。

凡人が自分の足元しか見ていない中、アイツはずっと先を見ていた。

俺はそいつと一緒についていこうとした、だが、いくら経っても追いつくことはなかった。」

 

「…でも、そいつは孤独だった。才能のあるやつは孤独だ。いつもいつも。

何故だかわかるか?」

 

シンの言葉に直斗は首をかしげた。

 

 

 

 

 

「それはな、自分が辿り着いたところで、誰も一緒に景色を見てくれないからだ。

何故なら、凡人は自分の足元を見ているので精一杯だからだ。

 

誰も自分の見ている景色を見てはいない。

誰も自分の隣に立ってはくれない。そもそも、誰も立てないからだ。」

 

 

 

友人のこと…と言ったが、恐らく、俺は自分の事を話した。

 

俺は天才なんてものじゃなかったが、

確かに人修羅になる前に不可解な事が多かった。

変な夢に始まりそして…

 

…人修羅となって、やがて友人だった人が変わった。残酷な現実に耐えられなくなっていた。

 

俺はずっと、皆と同じ景色を見ているモノだと思っていた。

ずっと、凡人で居たかった。

 

でも違った。

 

人修羅になって気が付いた。

 

俺の隣には誰も居なかった。

 

俺は…

やめよう。言葉にすればするほど辛くなるだけだ。

 

 

 




二時間ちょっとで三話書き上げたので、矛盾が発生しているかもしれませんが、気付いたらちょびちょび直していきます。

特に一旦、模倣犯の下りを前話の22話から移動させてきたので、そちらに矛盾が発生してるかもしれません。



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第x2話 You Know…Die For Me?

神話で、『パンドラの箱』という話がある。

え?…壺じゃないかって?

…これは別に、壺か箱かって話じゃないんだ。

 

そこは重要じゃない。

重要なのは、箱に残された方さ。

 

…え?壷の方がいいって?

知ったこっちゃないよ。どっちだって変わりゃしないよ。

大体、箱の方が分かりやすいだろ。

壷?壺なんて最近の若いやつ…まあ、俺もそうだけど、実物なんて見たことはないし、あるとすれば、勇者が勝手に人の家に入って、それを割ってるもの程度にしか知らないんだよ。

 

 

…話が逸れたか。

えんふん。まあ、そのパンドラの箱の話で最後の方に『残されたのは希望』って記されている。

「予兆」とも「期待」とも「希望」と訳されているみたいだな。

兎に角、なんか前向きな意味合いのものさ。

 

でも、考えてみろよ。

箱だかツボだかの中にあった希望はさ、箱の中から出てきたって話はないんだ。

 

子供たちに話す時は、箱のそこにあった。

だから、人々はどんなに辛いときでも、希望を持っているのさ(キリッ

 

みたいな、感じで話されるけど、さっきも言ったとおり。そんなことは書かれてない。

大体、なんで体よく、悪意だとか病気ってやつが外に出てきて、悪影響があるのに

希望だけは箱の外に出ないで影響が出てくるわけ?

そんな理屈はおかしい。

 

まあ、つまりさ俺が言いたいのは、

この世界には希望はないってこと。

だって、希望は外に出なかった。

箱の中にたった一つだけ残ってる。

 

 

 

そうなると、この世界ってやつは絶望に溢れてて、どうしようもないことがあまりにも多すぎるってことになってくる。

まさに絶望。

どう足掻いても絶望

 

 

絶望…絶望…

 

 

そんな事が夢で出てくるんだ、最悪な目覚めって言えると思うんだ。

どうしょうない現実が、限りなく広がってて、俺の気分はもうバンジージャンプで突き落とされたくらいの気分さ。

 

最悪なんだ。とにかく。

 

それに、時計見違えて、一時間くらい早く家を出てしまったんだ。

何を血迷ったんだ、俺の目と体内時計は!

 

イカれてる。

 

朝ご飯は食わずにきた。

 

母親はどうせ、男のところだ。

父親の出張中に男連れ込んでくるくらい相当イカれてる。

こっちが怒・りたいくらいだ。

 

…最悪だ。ギャグも親も。

 

そんで、ま、父親も実は出張先で風俗行ってるのを知ってる。

どっちもどっちだ。

 

息子に興味ないのがバレバレだっつーの。

俺は…そんなやつらに嫌気はさしてる。

寧ろ、離婚しない方がおかしいて思う。

 

でも、俺は出て行かないってことは

俺はどっかで、期待しちまってるのかな?

いつか、変わるって…

 

俺はイヤホンをし、河川敷を歩く。

 

だってよ、事実10年以上前に買って貰ったストラップを未だに未練たらしく携帯に付けてんだ。もう、塗装なんか剥げてて、真っ白な『ジャックフロスト人形』。

 

…俺はなんだ?女か?

 

俺は携帯をポケットに入れた。

 

けど、少しくらい変わらないモノがあったっていい気がしてるんだ。

 

 

いつもと変わらない川辺の通学路。ちょっとばかし時間の早いってことだけで、何の変哲もない。

 

高校入ったのだって、深い意味とかない。

何をしたわけでもない、でも何かしなきゃって意味もなく焦って。周りが行くから、俺も行く。

けど、真剣に考えてたんだ、このまま大学にいって、運良く社会人なって…

でも、何故と問いを浮かべたら絶望した。

 

どこに辿り着くわけでもない。

何を成したいわけでもない。

そんな人生ってやつに、価値があるのか。

 

…考えるだけで、嫌になるね。

それこそ、意味のない問いだ。

 

と後ろから肩を叩かれた。

振り向くと、同じ制服を着た見た事のある生徒だ。

俺はイヤホンをはずす。

 

「…落としたぞ」と携帯を俺に渡してきた。

俺は慌てて、ポケットを探ると見事に何の感触もなかった。おそらく、先程ストラップを見たときに携帯を入れ損ねたか。

そんで、イヤホンしてるから落ちた音も気付かなかったのか。

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

俺に携帯を渡すと、何事もなかったように歩き始めた。

 

最悪…傷ついちった…

でも、ぬすまれなくてよかった。

後で御礼言わないとな。

 

名前は…

確か…

そうだ。間薙シン。

 

正直、ヤツは俺はヤバいって踏んでるんだ。

だって、誰も何も知らない。鳴上とか花村とか天城さん、里中さんとかと話してるのはよく見かける。

けど、それ以外ほとんど見ない。

あとは教員は授業後に質問してたりするが、マジメだなっとか思ったのをよく覚えてる。

 

でも、放課後とか何してるか恐らく誰も知らない。

あまりにも謎が多すぎる。感情の起伏も少ないし、感情あんのか?とかホントに疑いたくなるほど、笑ったりしてないし。

 

兎に角、不思議なやつだよ。

 

だけんども、今日の行いで俺の中のお前の評価は右肩上がりだぜ!

 

 

 

放課後…

 

結局、放課後に間薙に何か御礼をと思ったが、帰りの会の時にウトウトしてたら、いつの間に居なくなってた。

 

 

俺は仕方なく、歩いて帰ることにした

 

「ふぁあああぁ。だりぃ。」

バイトも休みの俺はすることなく、商店街を歩く。

友人は皆、バイトか彼女とデートとかさ

 

俺は…まだ、彼女とか作ったことないなぁ。

修学旅行なんか、淡い思い出みたいのをみんなで話してて、友人に「お前のとっておきを聞かせてやれよ」って振られたけど、俺がないって言ったら、みんな大爆笑してた。

そのせいで、教師に怒られたのは良い思い出だ。

 

…にしても、ここだって、大分廃れてきた。

昔はもっと、活気があったし、今のように常にシャッターが降りてるような店が少なかった。

 

ジュネスのせいだとか言ってるのを時々耳にする。

 

どうでも良いことだ。

それに事実、潰れてない店は潰れないモンだ。

だいだら。然り、愛屋然り…

 

ふと神社の前を通ったとき、泣き声が聞こえた。

 

でも、俺には関係ない。きっと、誰かがやってくれる。

そう思って、通り過ぎようと思った。

 

だが、俺はどういうわけだか、朝のパンドラの箱の話を思い出した。

興味。あけるなと言われると開けたくなる。

行くなと言われると行きたくなる。

…いや、行くなとは言われちゃいないんだけど…

 

どう考えても、この先の面倒を考えると行くべきではない。

だが、俺はこうして迷っている。

 

さながら、パンドラの箱を開けるか開けないかで、格闘するが如く。

 

 

結局、数秒足を止め、考え、俺は神社の敷地に入った。

 

今日は携帯を間薙に拾ってもらった。

だから、誰かに返しても損はしないだろって思っただけ。

 

鳥居を潜るとそこには似つかわしくない、長い金色の髪と水色の服を着た少女が居た。

例えるのなら、不思議の国のアリスのアリス。

まさにその主人公のような格好であった。しかし、少しばかり血色が悪い。

だが、確実に可愛いというやつに入るだろう。

 

俺が近付くと潤んだ瞳で俺を見てきた。

「なに泣いてんの?」と何故だか恥ずかしくて、髪の毛を掻いた。

「…ひとをさがしてるの…」というと一体の人形を見せてきた。

 

 

その顔には刺青が入ってるが、どこかで見たことのあるような雰囲気だった。

 

(うわ、微妙な趣味だなぁ。こんな人形買い与えるなよ…)と俺は思いつつ、子供の情報を引き出そうとした。

 

「…その、何処に住んでるとか分からない?」

「ひっく…わからない」

「うーん。困ったなぁ。」

と俺は携帯電話を取り出すと、少女がそれを見つめ始めた。

 

「ん?どうしたんだ?」

「あのひとのにおいがするよ!」と嬉しそうに言った。

「あの人?探してる人?」

「うん!」と笑顔で頷いた。

 

それがまぁ、眩しすぎるほどの笑顔でさ、高校生やってるこっちはそんなのを見てしまうと、俺はどうかな?って思って、濁ったなとか思う。

 

それが大人になるってやつなのか?

 

 

「…?どうしたの?」

「いや、何でもないよ。」と俺は作り笑顔をする。

俺は真っ先に、間薙シンが出てきた。

 

「えーっと、間薙シンって人かな?」

「うーん。わかんない。」と言うと人形を握り締めた。

でも、恐らくそうだと思われる。

朝に拾われた以外、俺の携帯を触るヤツなんていない。

(あー、でも、家わかんねーや)と俺は肩を落とす。

そして、足りない脳みそをフル回転させて、一つ思い出した。

 

「その人を知ってる人に会いに行こう。」と俺がいうと少女は無垢な笑顔で頷いた。

 

ただ、疑問が沸く。

「あのさ、なんで、その人に用事があるのかな?」と俺はその子供に訪ねた。

「うーとね、遊んでて貰ったの」

 

「ふーん…まぁ、いいか。じゃあ、ついてきて」と俺は少女についてくるように指示すると、ついてきた。

 

神社を出ていき、恐らく家を知っているであろう人物がいるであろう、ところへ俺は行くつもりだ。

ってか、これ通報されないかな。

…大丈夫かな?それもあるし、不確定事項が多すぎだろ…と一人で突っ込んだりして…

 

と、すぐに少女が俺のズボンを引っ張った。

 

「あそこ行きたい」

 

そこは『惣菜大学』

 

「なんか食べたいってことか?」

「うん…」とお腹を摩りながら上目使いで俺を見る。

…うん、仕方ないよな。子供だし。

俺は少女を連れていくと、「何が欲しい?」と尋ねた。

 

『特製コロッケ』を指差した。俺はそれを店主に伝えると、店主はすぐにそれを渡してくれた。

「おや!可愛い子だね!値段安くしてあげるよ!」と店主は少しながらも安くしてくれた。

(羨ましいな。やっぱり社会ってやつは格差があるな…あるいは…運か。そうだな、俺は運が悪かった。そんなもんだろうな。)

 

俺は別に顔が悪いとか良いとかでいわれれは普通だ。

バイトで重い荷物運んでるから、細マッチョだ。

でも、外見で何か秀でるものがあるかと言われたら、恐らく何もない。

…いや、もういい。こんな話は俺が辛くなるだけだ。

 

「はい」と少女に渡すと少女は嬉しそうにすぐ目の前にある、簡易的な椅子に座った。

そして、小さな口で特製コロッケを頬張る。その姿は愛らしさがある。

(…俺は別にロリコンじゃないが、妹とかいたらこんな感じか)と俺は思う。

 

俺も自分の分を食べる。

サクサクとした触感、そして、じゃがいものホクホク感。

出来たてはうまい。俺はいつも電子レンジに突っ込んでチンだ。

こうやって食うのは久しぶりだ。

 

そんなことを考えていると、少女は口の周りに衣とソースをつけていた。

俺はティッシュでそれをふき取ると、少女は「ありがと!」と嬉しそうに笑った。

 

そして、再びジュネスへと向かう。

少女は物珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡し、指を刺し、あれはなに?だとか、ガラスに顔をくっつけて、これは何だとかいろいろ尋ねる。

俺は知っている限りのことを教える。

 

まさに子供。好奇心旺盛で、笑顔に溢れている。

でも…自慢じゃないが、俺は結構人の表情っていうか、感情とか空気ってやつに敏感なんだ。それに他の人の違和感みたいな。

原因はおそらく、親のせい。不倫だ浮気だ、してる今だからこそケンカはないが、昔は殴り合いだった。そして、暴言、罵倒し貶める。

…今思えば、よくもまあ、そんなに人を貶せる言葉が出てくるもんだと思う。

 

俺はそんなことを何度も何度も見てるもんだから、ケンカとか不穏な空気ってやつに敏感なんだ。

 

だからこそ、この少女に違和感を覚える。

 

小さな手で俺のズボンを右手でつかみ、もう片方の腕と手で人形を抱いていた。

ただ、なんというか、少女にはない幻妖に思えて仕方ない。

 

「…喉乾いた」と少女は言う。

「そうだな。その服暑そうだ」と俺はすぐ近くにあった、自販機で飲み物を買ってあげた。

少女は嬉しそうに飲み物を飲んだ。俺も飲み物を飲む。

 

「おいしいね!」

「…ああ」

 

…本当に俺は汚れっちまったな。

こんな少女を疑うまで俺は腐ったのか?

 

子供の頃、ドラマなんかに出てくる所謂、敵や政治家ってやつを見ていて、こんな大人にはなりたくない。

そう思ってたけど、気が付けば、高校生でそんなやつらの仲間入りをしてしまいそうなほどな、ところまで来てる。

それが社会ってやつなのか?

だったら、やっぱりこんな世界に希望なんてありゃしない。

 

「大丈夫?」と少女が声を掛けてきた。

「うん?…うん、大丈夫だよ」と俺は少女の頭を撫でてしまった。

だが、少女は嬉しそうに笑った。

 

幸いにして、職質されることなく、ジュネスへ着くと、俺はある人物を探した。

 

「いたいた。」と少女を連れて俺は品物整理をしている人物に声を掛けた。

 

「花村」

「はい、いら…って、お前か!どうした?」

「いや、お前って間薙シンの家、知ってるか?」と俺は尋ねる。

「あー知ってるけど、なんで?」

「いや、この少女がな」と俺はお菓子を見ていた少女を手招きする。

 

花村は口を開けたまま、俺の肩に手を回し、少女に聞こえないように話し始めた。

「おま!ロリコンだったのか!」

「ちげーよ。この少女が間薙シンを探してるんだとさ」

「冗談だっつーの。そしたら、丁度上にいるぜ?たぶん」と花村は安心したように言った。

 

俺はフードコートに行くと、ビフテキを食べる間薙シンを見つけた。

「ヒトシュラ!」

(ヒトシュラ?)

俺は間薙シンの呼び方に違和感を覚えたが、特に気にしなかった。

名称みたいなものだろうなと俺は考えた。

 

少女は走って駆け寄った。

シンはその声に気が付くと、椅子から立ち上がり、腰を下ろし少女を受け止めた。

 

俺はそれに続くように、シンの方へと歩いて行った。

 

 

 

「…えーっと、俺は上峰紘。朝は携帯ありがとう」

「こっちこそ、ありがとう。アリスを連れてきてくれて」と『アリス』という名前の少女はクマの着ぐるみと遊んでいた。

 

「お礼になんか食べるか?」とシンが尋ねる。

「…じゃあ、ちょっともらおうかな」と上峰は笑って答えた。

 

上峰はビフテキを食べながら話を続ける。

「それで?あの子はなんだ?」

「…まあ、俺の親が今いないから偶々預かってるって感じだな」

「ふーん。でも、お前学校行ってんジャン。その間、どうしてんだよ」

 

「ああ、メイドに頼んでる」

「メイド!?」と上峰は思わず吹き出しそうになった。

(完全に金持ちじゃねーか!!)と上峰は内心大慌てであった。

 

すると、クマと遊んでいたアリスがシンたちの方へと戻ってきた。

「ふふ、クマさん、ふさふさしてた」とアリスは嬉しそうにシンに報告した。

「そうか、よかったな」とシンは淡々と頭を撫でる。

アリスは心地良さそうに、目を細めた。

 

すると、6時を知らせる店内放送が流れ始める。

 

「じゃあ、そろそろ、俺は帰るわ」と上峰はビフテキを食べ終え、椅子から立ち上がると、アリスが上峰を見上げていった。

 

「ねえ、最後のお願い聞いて?」

「ん?なに?」と俺は腰を屈めアリスの目線に合わせた。

 

 

 

 

 

「あのねー…しんでくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

エレベータを降りた俺は一息ついた。

 

 

死んでくれるだって…

それを言われた瞬間、俺の心臓が鷲掴みされたような感覚になった。

少女の目が変わったような気がした。そして、呼吸の仕方が分からなくなる。

 

だが、シンがアリスをこつんと叩くと、それはすっと消えた。

「いたいよぉ」とアリスは頭を押さえて蹲る。

「ダメだよ」というと、シンはアリスの耳元で囁くと一転ぱっと表情が明るくなった。

そして、飛び跳ねて、再びクマのところへと行った。

 

「大丈夫か?」

「はぁ…はぁ…ああ、うん」と俺はやっとそこで呼吸ができた。

俺は少し驚き、慌てたがすぐに落ち着きを取り戻した。

 

「…すまないな。」

「いや、もう大丈夫だ。まじでそろそろ帰るわ」と俺は一息ついてエレベーターへと行った。

 

 

俺は家に帰ると、すぐに風呂に入って布団に入った。

 

 

俺は不思議な夢を見た。あのアリスって子が二人のおじさんと食事していた。

俺もそこに居て、一緒に食べていた。

内容は覚えてないが、なんか楽しかった。

 

…いや、ホントにさ親とこういう食事したとか、出掛けたとかね、そういうことをしたことのない人間にとって、ひどく奇妙なことなんだ。

 

でも、確かに楽しかった。

それだけは確かなんだ。

 

目が覚めると、時間は7時だった。

その起き上がって、着替えて、下に降りようとしたら、ドアがノックされた。

 

「…その、紘」それは父親の声だった。

「あ?なんだよ」

「少し話がある降りてきてくれ」というと父親は階段を降りて行った。

 

俺はすぐに察しがついた。

 

離婚だろう。

 

ハハ…笑えねーよ。

 

でも、そのくらいこの家庭はおかしくなっていたのは事実。

俺は覚悟を決めて、階段を降りて行った。

 

そこには母親と父親が机に座って向き合っていた。

 

 

「昨日。二人とも変な夢を見たんだ」と父親が口を開いた。

「その中で、お前が出てきた。なんか、少女とおじさんふたり、そんでお前が楽しそうに食事してた。

…そのあと、起きたらな…お前とそんなことしたことなかったなって思った。」

「…私もそう。」

 

俺はだまって聞いていた。

 

「それで朝早くから話したんだ。なんで俺たちが結婚したのか。

それを思い出して、わかったことがある。」と真剣な表情で俺の目を見て言った。

 

 

「言葉にしにくいが…その、お前のためだったんだって思い出した。

結婚する前から、お前が生まれた。

でも、言い訳じゃないが、二人とも仕事で兎に角、忙しかった。生まれてからすぐくらいに、徐々にすれ違ってきた。

でも、昨日のお前を見ていて、何か違うって思ったんだ。

俺たちが、お前を笑わせてやるべきだって気がついた。」

 

 

「だから、やり直そう。この家族を。」

 

 

 

 

…最悪。ホント、人生は最悪。

朝は最悪だ。…ホント、最悪。

 

こんな、最悪なことはないだろ。

 

 

「…最低だって、知ってるか?あんたら。

俺はずっと、あんたらにもらったストラップつけて、未練たらしくやってるんだぜ?

…気が付く遅すぎだっつーの…」

…俺がそれを言ったら、母親は泣いていた。

 

 

結局、全員ともすれ違ってた。

どこかが掛け違っていた。

それが大きくなりすぎた。

 

だから、"やりなおす”

 

 

でもこの世界、絶望ばかりだ。

どうしようもないほど、どうしようもないことが多い。

 

でも、絶望に溢れていても。

世界は変わっていくんだ。

どれだけの絶望の淵に居ても。

 

知らないところで日は昇る。

知らないところで人が生まれる。

 

 

 

やっぱり、パンドラの箱なんて開けるもんじゃねーな。

ろくな事がない。

 

 

 

 

 

「アリス。昨日はどうだった?」とジャックフロストと戯れるアリスに尋ねる。

「うーんとね…楽しかった!」とアリスは嬉しそうに昨日の事を話し始めた。

 

それを黒いおじさん、赤いおじさんが眺めている。

 

「うむ。オトモダチが増えて私もうれしいです」

「ああ、愛おしいな」とほほ笑むアリスを見て二人は笑みを浮かべた。

 

「また、こうしてアリスと共に平和に居られること…人修羅…いえ、間薙様には、本当に感謝しています。」とアマラへの入り口の前で黒おじさんがあたまをさげる。

 

「特殊な悪魔と契約できたし、こちらにも利益があった。」

「あの情報がお役に立ったようで良かったです。」

 

 

 

 

「ここに初めてきたときの違和感が解消されたからな。」

「違和感…ですか?」と黒おじさんはシンにたずねる。

 

 

「そう。俺の見たことのない、アマラが形成されていた。そこには人の意志よりももっと大きな意志を感じた。」とシンはいうとたとえを自分の思いつく、言葉を言った。

 

「"ユニバース"…そう。宇宙だ。

誰かがよりしろとなり、何かを抑えつけているような。そんな、不思議なアマラだった。

おそらく、最深部にその人物が居た。」

とシンは言った。

 

「成果はありましたかな?」

 

「ああ、"オルフェウス"と契約出来た。条件付だけど…」

とシンの後ろに琴を持った、銀髪の青年が浮いていた。

 

 

 

「幽玄の奏者。オルフェウス也。

コンゴトモヨロシク…」

 

 




一発使用キャラが登場しました。恐らく、今後は出ないでしょう。
それで、察しのいい人はお気づきですしょうか…
まあ、それも後ほどの展開にこうご期待…しないほうがいいかも…

これで、区切りついて、一休みしようかなと。
と、言っても、そんなに休まないので、恐らくすぐになると思います。

この話を含めた22話、23話は若干、変な所があるかもしれませんのでご了承下さい。


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第24話 BORED! 7月23日(土) 天気:曇

退屈…退屈…退屈…

 

シンは肘を突いて、問題を解く。

どれも簡単で仕方ない。怒りのあまり、シャープペンシルを折りそうになる。

 

昔からそうだった。テストというのはそうだ。

周りからは『頭が良い』などという評価をされたが、そんなものは違う。

ただ覚えればいい。教科書の端から端まで。

ただそれを使って応用すればいい。公式、計算式を当てはめる。

突拍子もないことは起きない。回答用紙が燃えたりもしない。

第三者も現れない。問題が一分前に変わったりもしない。

 

映画や小説の様な感動や興奮、怒りや悲しみはない。

いや、問題が解けない場合は葛藤があるのかもしれないが…

 

しかしこうやって、答案用紙を見ていると、感情欠落者にでもなったようだ。

 

俺は思わず、紙を持ち上げた。

 

空欄は無く、綺麗な字で書き上げられた、文字が並ぶ。

俺はそんな紙を睨み付ける。

(お前はどうしてそんなに退屈なんだ。)と俺は心の中で言ってしまう。

 

小説の紙と答案用紙の紙。

同じ紙だと言うのに、これほど違う。

 

…もし、真犯人がいるとしたら、何をやっているんだ。

俺を退屈で、殺す気か?

 

 

退屈…退屈…退屈…

 

 

 

バキッという音と共に、テスト終了のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

「終わったー!くあー、も、ちょー眠ィ…」

「うぁっ、もー!人の顔見てあくびしないでよ。」と千枝は嫌そうに花村の欠伸を跳ね除けた。

 

「ね、英語の問3、熟語に書き換えのやつは?」

「えっと…“used to”にした。」と千枝の質問に天城が答えた。

「また間違った…」とショックそうにうなだれた。

 

「里中、一生日本暮らしだな。和を満喫しろ、和を。」

「かーもう、いちいちムカつく!」

 

「うーっス…」「お疲れさま…じゃないや、こんにちは…」

と一年組が教室へと入ってきた。

 

「うわっ、ここにも負け組が!」と花村は一年組の二人を見て言った。

 

「何よ、英語くらい!いざとなったら、通訳でも何でも付けてもらうもん!」

「先輩は?」とりせが尋ねる。

 

「ペンは止まらなかった」

「さすが、先輩は違うなぁ…」とりせは感心したように言った。

 

「も、いースよ、テストの話は…それより、事件の方どうなってんスか?」

「そうだな。久々に“特捜本部”に行っとくか。」

 

久々にフードコートで集まる事にした。

 

 

 

やはり、疑念が多い。あまりにも多い。

これを排除できない限り、疑う余地はありそうだ。

 

…しかし、本当にこれで収束だとするなら、直斗の言うとおり、本当につまらない幕引きだ。

しかし、ここに残る意味はもう一つある。

 

"マヨナカテレビ"という存在を作り出したやつを殺す。

となればだ、犯人から追跡は無理となる。

 

しかし、焦る必要はないか…

何百年かかるかな。俺としては構わないんだがな。

 

 

そう考えると、少し怒りが収まる。

 

 

犯人なんかに興味はないな。

犯行の方法の思いつき方、手段なんかは面白いね。

それは評価する。

 

寧ろ、俺はそこに興味があるね。

 

動機も興味ある。

マヨナカテレビを使った犯行予告、霧の日に死体が出るなんて、面白いことをしてくれる。

 

 

「ちょっと、先輩聞いてる?」

 

シンが辺りを見渡すと、すでに皆椅子から立っていた。

 

「…すまん。訊いてなかった」とシンはステーキを慌てて食べる。

「…間薙先輩って、オーラと目力あるのに…なんか抜けてるね」

そのりせの言葉に皆が笑った。

 

「それで、何を話していたんだ?」とシンはステーキを綺麗に食べ、話を聞く。

「足立さんが来て、容疑者は確定したんだけど、容疑者が消えたっていう話を言ってたの。」

千枝の説明で、シンは唸る。

 

りせと鳴上は何やら話している。

 

それ以外のメンバーはクマをいじりに来ていた。

クマはジュネス働くことになった。花村が家に住まわせているようだ。

 

「…お?まさか名探偵のアンテナに何か掛かった?」と千枝は少し嬉しそうにシンに尋ねる。

「いや…特に、何も」と首をかしげる。

「何かが起きなければ、何も進まない。」とシンは言い切った。

 

「そういえば、シンって東京じゃ何してたんだ?」と花村が何となく尋ねる。

「それは…気になるかも」と天城は言う。

 

「…そうだな。別に大したことはしてない。

バイトしたりして、友達と遊んでいた。」

シンは遥か昔の事を思い出す。

 

「へぇーやっぱり高校生のやることって変わんないか」と花村は納得したように言う。

そこに鳴上とりせが合流した。

 

 

 

 

 

壊れた世界で俺は生まれた

 

俺は変わらない。悪魔のままずっと行く。

 

俺は悪魔だ。

 

 

 

 

『違う』

 

 

「?」

「どうした?」と帰り道にシンが後ろを向き、足を止めたことに鳴上は気が付いた。

「…いや、なんでもない」とシンは再び歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

「なに?なんかおかしい?」

 

シンは『シンジュク衛生病院』を出れば、きっと変わらない日常があると思っていた。

確かに、平凡な日常は望んではいなかった。

 

だが…それがいざ変わったとき、過去も未来も真っ黒に染め上げられた。

細かい粒子の砂が空を舞っていた。砂漠の砂の様な、細かい粒子が。

 

 

「…」シンは思わずめまいがした。

「ちょ、大丈夫!?」とピクシーは驚いた表情でシンを見た。

 

「…どうなったんだ。世界は…僕の家族は、友人は…」

「何言ってんの?全部なくなったわよ」

ピクシーが軽くそれを言い放った。

 

 

俺は…高い崖から落とされたような気分だった。通常は深淵を覗くだけで、怯み、恐怖する。

だが、俺は覗くまでもなく、突き落とされた。

気が付かないウチに。

そして、気が付くと、底だった。

いや、起きたときは底だって気付かなかった。

 

やっと、光のあるところに出たら、何もなくなっていた。

 

ピクシーはシンの表情を見て慌てた。

 

「で、でも、えーっと…まだ人間が生きてるってフォルネウスが言ってたじゃない」

「…わかってる」とシンは前を見据えた。

「とりあえず!私はヨヨギ公園まで連れてってもらうからね!」とピクシーは言った。

 

 

わかっていたさ、絶望ならすでに何十回としてる。

 

今更、世界崩壊で動じることはない筈だ。

 

それに、もう俺の中には絶望はない。

 

好奇心。それのみ。

 

 

 

 

 

「…ヒホー」とジャックフロストはアリスに相変わらず頬を抓まれ伸ばされる。

「ふにふに」

 

「おかえりなさいませ」とメリーはシンが帰ってくると、すぐに玄関に向かいシンの持っているカバンを受け取った。

 

「変化は?」

「特にございません」

「ん」とシンは着替えに自分の部屋と向かった。

 

「…相変わらず、主は厳しい顔をしていらっしゃる」とクーフーリンは和みながら、お茶をすする。

「そう簡単に変わんないでしょ?」

「そうですね」とクーフーリンはピクシーの言葉に笑った。

 

シンは着替え終わり、新聞と同時に買ってきた映画を入れた。

シンがソファに座るのと同時に、机にお茶が置かれる。

 

「それで?事件はどうなの?」

「…容疑者が挙がったが…どうだろうな?まだ不確定事項が多すぎて予測できん」

「面倒だから、悪魔使ってパッと終わらしたら?」とピクシーは言う。

 

「…相変わらず、めんどくさがりだな」

「知ってるわよ」

「…そうだな。」とシンは言うと、思い出すように言う。

 

 

「『おもしろき こともなき世を おもしろく すみなしものは 心なりけり』」

 

 

「…そうね。それの方が面白いかもしれないわね」とピクシーは微笑んだ。

「というより、面倒だけど、あなたは好きそう。」

「…分かってるじゃないか」

「そりゃね。もう、どれだけ一緒にいると思ってんのよ」とピクシーは微笑んだ。

 

「の割には…退屈そうな顔ね」

「…まあ、呆気なすぎる幕引きというのは、どんなことでも退屈なものだ。」とシンはため息を吐いて、深くソファに座る。

 

 

「…というか、この家も騒がしくなってきたな」

「そうね。ニャルラトホテプのおかげでゲートが安定したからかな?」

「…そうか…それであいつらは?」

「独自に動いてるみたい。」

 

そう言いながら、首をかしげている。

あそこらへんの上位悪魔は自由な奴が多い。

基本、アマラにいることが多いが、ふらっとどこかへ行き、ふらっと帰ってくる。

 

俺はそれを咎めたりはしない。

それを知っているから、ルシファーやニャルラトホテプに始まり、シヴァやオンギョウギなど自由を満喫している。

 

「…にしても、退屈だ」とシンは言う。

「あの、前見てたドラマみたいに銃をお撃ちなればよろしいんでは?」とティターニアは椅子に座ってこたえる。

 

「銃なんてない…それに捕まる」

 

「なんて、退屈なお国でしょう。好きに銃を撃てないなんて…」

「平和…か…あるいは停滞か…それは考え方によって違うだろうな…」

 

争いで種の進化を促す…なんて、設定があったが、事実はどうなのだろう。

淘汰され、優秀な者が残る。

それを差別主義者という人たちがいるだろうし、恐らく考え方は限りなく"ヨスガ"に近いのかもしれん。

 

「ヒホー、おいしいヒホ?」

「うん!おいしい」とヒホーがかき氷をつくりそれをアリスが食べていた。

 

 

この部屋はとんでもなく広いが、とんでもなく物は少ない。

 

ダイニングキッチンにその先に一人では余りにも大きいソファと大きなテレビ。

その後ろには部屋とが二部屋ある。

一人ではあまりにも広いがこうして悪魔が来てもあまりにも広い。

 

 

ふぅとため息を吐く。ゆっくりと、ゆっくりと息を吐く。

 

「Bored…」

 

そんなシンの言葉が部屋にこぼれた。

 

 

「…なら、サツジンゲンバを見に行こ!!」

そのアリスの言葉で皆が、どうしてそれを思いつかなかったのかと思った。

 

 

 

真夜中…

 

「ったく、何で俺がこんなこと…」

「仕方ないだろ。それに警官ってのはこういう地味なもんだ。」

 

警官二人は殺人現場の警備をしていた。

やはり、注目の集まる事件のために長めに警備の時間を取っていた。

 

そこへ暗い影がゆらりと不気味に近付いてきた

 

 

「「!?」」

 

警官たちはその暗い影から手が伸びてきたことに気付いたが何も出来ずに意識を失った。

 

「『ドルミナー』」と現場を見張る警官達にシンは目の前で魔法を唱え、眠らせた。

倒れそうになった二人をクーフーリンが受け止めた。

「大胆ね」とピクシーは笑った。

 

シンはアパートへとジャンプで移動するが、

すでに証拠やどうやって死んでいたかは分からない。

 

それでもシンは貯水タンクの手すりだと気が付いた。

シンはまず、周りの手すりを見て、すぐに死体がどこにあったか理解した。

 

貯水タンクの手すりだと。

シンは梯子を登り、ものすごい近い距離でその死体がぶら下がっていたであろう場所を眺め、においを嗅ぐ。

(…微かな血の匂い。やはり、ここか。)

 

手すりを指でさっと辿り、観察する。

「相変わらず、好きね。そういうの」

「…面白いものだ」とシンは笑みを浮かべ、指を拭く。

そして、両手の指先同士をくっつけ、考える。

 

 

やはり、来るのが少し遅すぎたようだ。

証拠は殆どわからない。

しかし、はっきりしたことがある。

 

 

こいつは真犯人ではない。

 

 

 

 

 

「いませんねぇ…どこに行っちゃったんでしょう」

「ったく、少しお前は黙れねぇのか」と堂島は足立の頭を叩いた。

 

堂島と足立は容疑者を探すため、歩き回っていた。

 

 

「いっ!…そんな、つよく…」

と足立がふと、足を止めた。

 

「何やってんだ!足立ぃ!」

「堂島さん!警官が倒れてますよ!!」と足立が指を指すと、そこには壁に寄りかかるように二人の警官が倒れていた。

 

奇しくも、そこは三件目の殺人現場。

 

二人は駆け寄り、息を確認する。

「本部に連絡しろっ!」と堂島は足立に警察に連絡するように言い、アパートの上へと駆け上がった。

 

 

「誰か来たみたい。」とピクシーはシンに言うと、まるで風のように消えた。

 

シンはぶつぶつと何かを言っていた。

 

「お前…何をやっている。」と堂島にはシンの顔は見えていない。

原因は田舎のせいだ。

あたりには街灯もなく、真っ暗に近い状態である。

 

シンはその声に気が付くと、堂島のほうを向いた。

堂島が一歩、足を出した瞬間

シンはニヤりと笑う。

 

「!?」

 

堂島が驚いたときにはすでにシンは手すりを掴み、飛び降りていた。

 

堂島はすぐにシンの降りたであろう、場所を見たが、そこには何もなかった。

 

 

 

「顔とか、見えなかったんですか?」

「…ああ、暗くてな」と堂島は救急車で運ばれる警官たちを見て、煙草をふかす。

「一体、誰なんでしょう。それに、この高さから飛び降りて、消えるなんて…。」と足立はその人物が飛び降りたであろう、場所を眺めて言った。

「…見回りに戻るぞ。」と堂島は煙草を携帯灰皿にすり付けると歩き始めた。

 

 

 

 

 

「無茶をするな」

ニャルラトホテプとシンが影からヌルッと這い出てきた。

 

「別にこれ以外の方法は13通りはあったが、偶々、お前の気配がしたから、この方法を取った。」

「全く…」とニャルラトホテプはあきれた顔で、影へと消えていった。

 

深夜になりつつある、静寂に包まれた道をシンは自宅方面へと歩いていた。

 

「そんなに少ないの?予想数は」とピクシーは突然現れ、歩いて帰る、シンに言った。

「相手が相手だ。仮にも鳴上の叔父。

魔法なり何なり使って、問題が起きてはな。」

「ふーん。あの鳴上ってニンゲンに肩入れしてるの?」

 

 

 

「…肩入れ…というより、共に居て退屈しないのさ」

「…それを肩入れって言うんじゃないの?」

「…そうかもな」とシンはポケットに手を入れ、近くの自宅へと帰った。

 

 

 

 




何だかんだ、すぐに帰ってきました。

それで、私事ですが、とあるドラマの新しいシーズンが始まりまして、嬉しいかぎりです。

今回の内容にも、「退屈なら銃でも撃てば?」というセリフがありますが、それはそのドラマで主人公が「退屈だ!」と言いながら銃を撃つシーンがありまして、それを入れてみました。

この作品を作るにあたって、その主人公を少し意識したところはあります。
それで、その主人公はその才能と能力で孤独な印象を受けました。(性格もあるかもしれませんが…)
シンも孤独なんじゃないかな?と思い、この作品を書き始めました。

「似てねぇよ」と言われればそれまでですが、今回はそれが少しだせた気がします。
そのうち、「○○、しゃべるなこの町全体のIQが下がる」とか言わせてみたいな…とか思ったりする。



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第25話 Catch Me If You Can 7月26日(火)・27日(水)

 

 

今日は生憎の雨…とテレビでは言う。

雨は気持ちまでどんよりさせるという。

 

(俺には関係ない話だがな)とシンは鼻で笑い、 人のいない教室の窓から外を眺める。

 

心の持ちようだと、言うがそれを実行するのは難しい。退屈であることに変わりはない。

 

しかし、今日は夜まで雨が続く…

マヨナカテレビのチェックが必要だ。

今日の終業式が終われば、夏休み…

どこか遠くへ行こう…退屈しない、たまには都会の場所も悪くないかもしれない…

 

しかし、目的無き旅は嫌いじゃないが、どうせなら決めていこう。

そう思い、シンは携帯を取り出し調べ始めた。

 

それは不思議な事件、噂のある場所、或いは不気味な場所。

調べれば無数に出てくる。その中で一つ気になる言葉を見つけた。

 

『無気力症』

 

『辰巳ポートアイランド』という学園都市で流行った、病だそうだ。

病状自体は10年以上前から報告があったが、それが急速に増減を繰り返したのは、2009年。そして、終結したのは、2010年。恐らく、この一年に何かが起きた…

10年前に起きた何かがこの裏で解決した…

 

…実に面白そうだ。

 

考えてみると、これほど非現実的な現象このド田舎で起きている。

それに似た現象が違う場所で、起こってもおかしな話ではないと考える。

 

しかし、こっちの事件もまだ途中だが…

夏休みに何かあるかと言われれば…起こるのかもしれないが…

今のところは何もない。それに鳴上達も居る。

なら、行っても大丈夫だろう。

 

俺は変なことには弱い。こういった奇妙なことや、幽霊なんかは特に。

そして、悪魔は見たことはあるが、幽霊は…いや、あるか。

思念体を幽霊とするなら、見たことはある。

それに子供の頃はよく見ていた。

だが、こっちに来て見たかと言われれば、無い。

 

思えばそうか。俺は奇妙なことにばかり首を突っ込んでは喜び、苦しむ。

結果的に、悪魔になり、友人を殺し、世界を壊した。

 

 

 

『チガウ』

 

 

 

「!?」とシンは驚き、思わず椅子から立ち上がり、後ろを振り向いた。

だが、無論誰もいない。

しかし、シンはまるで耳元で囁かれたような、それほどの声だったことを感じ、そして、その様な状況は、ボルテクス界では死に直結する。

 

つまり、シンは常に神経を張り巡らせ、自分を防衛する。

それが『心眼』というスキルの強化をしている

 

だが、今、耳元で囁かれた瞬間までは全く気付かない。

尚且つ、すぐに消えた。

 

つまり、どういうことか。

 

 

(…幻聴か)とシンは大きくため息を吐いた。

 

 

 

 

『永遠の哀しみを 悠久の痛みを

 無窮の苦しみを 無限の時を 全て抱いて』

 

 

 

「…長いね…」と千枝は花村に小声で言った。

 

学生時代の式というものは決まって、めんどくさくそして、ひどく長く感じるものだ。

 

「見ろよ…シンなんか目開けたまま寝てるぜ」

「…すごいな…」と鳴上は隣のシンに感心したように言った。

 

 

「…うるさい…」とシンは小さく寝言を呟いた。

 

 

『盲目の世界に 僕は一人 降り立つ

 蝕まれる躰が 笑みを浮かべる』

 

 

 

 

『フラッシュバック』

 

 

 

 

 

 

 

シンは突然、腕を動かした。

あまりにも突然の事で、皆が目を合わせる。

そして、天城はそれを見てツボに入ってしまい、笑いをこらえていた。

「…寝てるよね?」と千枝は面白そうにシンを見る

「寝てるな…なんか戦ってんのか?」と花村も少し笑っている。

 

そう一見、戦っているように見えた。

腕を振り、弾くように。事実、花村達は相手の魔法を弾く動きを知っているため、それだと思った。

 

だが、鳴上には何かを追い出そうとしてるように見えた。

あるいは、誰かに助けを求めているような、そんな風にも鳴上は感じた。

 

 

 

終わっても起きないシンを鳴上が起こし、寝ぼけた姿は何とも珍しく、それが天城は更にツボに入ったらしい。

 

 

放課後、皆バイクの免許を取るということになり、りせは誕生日の関係でとれるらしく、完二は自転車、それ以外はバイクでということで海に行くことなった。

シンはその日以外に学園都市に行くこととした。

 

 

 

夜・・・

 

その日は深夜まで雨が降っていた。

シンはテレビの前で恒例の如く、寝っころがりマヨナカテレビを待っていた。

 

「…終わったと聞きましたが?」

「可能性がある限り、それは真実にはならない」

「…胸にとどめておきます」とメリーは目をつぶりうなずいた。

 

0時になった瞬間、テレビにノイズが走り徐々に鮮明に映像が映る。

 

相手の顔が映った瞬間、シンの瞳がとんでもなく早く、動く。

さながら、精密機械を作るアームの様に。

 

『みんな、僕のこと見てるつもりなんだろ?

 みんな、僕のこと知ってるつもりなんだろ?

それなら、捕まえてごらんよ。』

 

外見から相手を探ろうとする。

(黒目がちで肌は薄白、髪はぼさぼさ。身長は並。髪ぼさぼさから身なりにあまり気を使わない。内向的。目線はこちらを見ているが、これはアテにならない…)

 

 

その画面が消えてから、数秒後。

 

シンはつぶやく。

 

 

 

 

「…違う」

 

 

 

 

 

そこでスマートフォンが鳴る。

「はい」

『シンか?見たか!マヨナカテレビ』

「見た。明日、ジュネス」とまるで単語だけ言うとシンは電話を切った。

 

シンは椅子に深く座ると、肘置きに肘を置き、両手の指をくっつけ目を閉じた。

メリーはそれを察すると、空になったコップを片付け、

さっと頭を下げて自分の部屋へと戻って行った。

 

そのままシンは思考迷路に入ったまま、朝を迎える。

珍しい事ではない。映画を深夜まで見ている理由はそこにもある。映画を見ながら、考え事をする。

何とも器用なことをする。

 

 

 

「間薙様」と午前8時になり、メリーは熱いコーヒーが入ったコップを机に置く。

「…すまんな」とシンは目を開け、それを飲み干した。

「分かりましたか?」

 

 

 

 

 

「…わからん。だが、真犯人ではないという疑念が増幅したのは間違いない。

これまでの犯人の行動と今回の犯人の行動。やり方が不自然。

 

これまでは、"テレビに入れる"ことに重点を置き、犯人は相手に気付かれることなく、相手をテレビに入れていた。

だが、今回の犯人はやけに挑発的だ。"捕まえてごらん"というあまりにもこれまでの犯人と行動の仕方が違う。

今回のはまさに模倣犯的行動にあたる。目立ちたいという欲が前面に出ている。

そして、"見ているつもり"という言葉でわかるように、注目してほしいのだろう。

ただ、"つもり"ということは、本当の自分を知らないということを表している。

知らない自分を知ってほしい。そんな感じに受け取れる。

尚更、模倣犯的な行動だ.

 

一方。これまでの犯人は実に頭の良いやり方だ。

誘拐からテレビに入れるまでの時間が短い。

事実。俺たちがりせが居ることを確認してから、あの盗撮野郎を見つけ、あいつを捕まえ、連行する、30分未満で誘拐し誰にも見つからずに、大きなテレビに入れているんだ。

見事に計画された犯行。そして、証拠も残さない。

 

一方、今回は指紋は残すし、足跡も残している。

この腑抜けっぷりは明らかに不自然だ。

何より見た目からして高校生だ。モロキンは恨みを買いやすい性格をしていた。となると、恐らく、あの無能は怨恨でモロキンを殺したのかもしれないな。

もし、こいつが真犯人なら、俺はとんでもなく失望するし、退屈だ。

こんなやつがこの静かな町を乱しているんだとしたら、俺はこいつをぶち殺したいし、この町のIQが下がるから、とっとと捕まえたい」

 

「で、でも真犯人だったら、それで事件解決だし…それに越したことはないでしょ?」

と千枝は少し焦った表情でシンに言う。

(…それはそれで、退屈になる…)

シンは内心そう思いながら「…まぁ、な」とシンは少し興味なさそうに返事をした。

 

「今言ったのはあくまでも推測だがな…」とシンは再び考えるように腕を組んだ。

 

「zzzZZZ…」

「おい!完二寝るな!」と花村は寝た完二を叩き起こした。

 

「間薙君って事件のことになると、すごいよね」と天城はシンに言う。

「…興味があるからだ。饒舌になるのはそのせい」

 

「そもそも、彼は誰なんだ?」と鳴上はシンに尋ねる。

「恐らく、犯人。容疑者は"高校生の少年"…諸岡先生の件で、足がついて指名手配。

そんなタイミングで、昨日のテレビだ。」

「じゃあさ、仮にだ、シンの考えじゃなくて、アイツがこれまでの事件とモロキンの事件の犯人だとしたら、アイツは態々、テレビの中に逃げたってことだよな?」

「そうなるな」

「?…えーっと…つまり、どういう事っすか?」と完二はまったく理解できていないみたいだ。

 

 

花村が完二に説明する。

「例えば、だ。男子高校生のA君がいます。

A君は、何かの拍子で“あの世界”に入れるようになりました。」

 

「A君は何かの動機から、命を奪う目的で人を次々とテレビに放り込みました。

別の世界なんて警察には証明できない…それは絶対足のつかない最高の手口でした。」

 

「ところがある時から、テレビに入れても人が死ななくなってしまいました。

仕方ないのでモロキンの時だけはテレビを使わず自分で殺しましたが、足がつきました。

指名手配されたA君には、逃げ場がありません…」

 

「あ…もしかして、逃げ込むために自分から"あっち"へ行ったって事スか?

あー…それで"捕まえてごらん"ってか…

あーあー、先輩、意外と頭いっスね!」と納得したように完二がぽんと手を叩いた。

 

「ムカつくなお前。」

 

「ただ、それだとあいつは相当慌ててたってことだな」

「…そうだな」と鳴上は納得する。

「え?どういうことっすか?だって、テレビに入っちまえば、警察につかまらねーっスよ?」

 

「バカだろ。お前」

「あぁ!?」

花村の言葉に完二は椅子から立ち上がって怒った。

 

「つまり、どうやって出るんだって話でしょ?」と千枝は呆れた顔で完二に言った。

「あ…」と完二は理解し、冷静になる。

 

「そう。つまり、態々死ぬってわかってるテレビに自ら入った。

もし、理解してないでテレビの中に入ったんだとするなら、相当な阿呆か、サイコ野郎だ。」

 

シンがそういうと、りせがテレビの中から戻ってきた。

 

「お!どうだった?」と千枝はりせに尋ねる。

「ダメ。情報少なすぎて足取り掴めない。

中に誰か居るのは間違いないんだけど…」

「そうか…って、クマは?」とりせと一緒にテレビの中に行ったクマが見当たらない。

「まだ張り切って捜してる。」

 

「なら、俺たちはアイツが誰なのかを確かめよう。

アイツが何処の誰なのか…警察に追われてる容疑者ってのとホントに同一人物なのか…

それさえ分かれば、後はいつも通りやるだけってこった。」

「そうだね!

もし、あの子が本当に犯人で、あっちの世界に行ってたら、警察もう手出しできないし。」

 

千枝の言葉に皆が気合を入れて、情報を集めに行った。

 

 

これまで通り、あの少年の情報が必要。

だが、これまでと違い、あまりにも情報がない。

どこの誰で、いくつなのか、どこに住んでいるのか。

一切情報がない。

 

 

「さて、どうしたものかな。」とシンは暑い空の下、どうするか考えあぐねていた。

そこに鳴上が来る。

「なんかあったか?」とシンは鳴上に尋ねる。

「まだ、なにも。」

「…とりあえず…いや、危険な賭けだが堂島さんに聞いてみたらどうだ?」

「…見つけたら、聞いてみる」

「俺は足立さんを探す。頭脳派の刑事だからな」とシンは商店街の北側へと向かった。

「…そうか?」とシンの言葉に鳴上は首をかしげた。

 

 

 

(…おい、ライホー)とシンは念通する。

(なんだホー?今、シンの家で"ソウルハッカーズ"やってるホ)

(人を探してる。名前は足立透。ぼさぼさの髪形でスーツを着ている)

(ヒホー!!任せるホ!!)

(…私も探しましょうか?)とティターニアが会話に入ってきた。

(…いや、いい。お前の場合は…いや、とにかくいい)

 

恐らく、血まみれになった足立さんを見ることとなるだろう。

だから、こいつはいい。

 

(そうですか)とティターニアは首をかしげながら念通を切った。

 

「わーい!シン!」と突然、シンの膝後ろにタックルしてくる。

「アリスか…どうした?」

「散歩しよ!」

「…いいぞ」とシンはアリスの手を握り歩き始めた。

 

 

「…指名手配犯の手がかり?

お前…首を突っ込むなと言ったろうが!教えられるわけ無いだろ!

ったく…足立のヤツはどこに行きやがった…」

と鳴上が尋ねるが取り付く島がない。

(やっぱりそうか…)と鳴上は歩きながら携帯を出し、シンに電話した。

 

 

 

「…ん。そうか。…ん。わかった。足立さんを探してみる」とシンは電話を切った。

「だれ?」とアリスはニコニコしながらシンに尋ねる。

「んー…友人だな」と少し迷った様にシンは答えた。

 

シンはジュネスへと向かっていた。

ライホーに頼んでからすぐに連絡が来た。流石はライドウの襲名を狙っているだけはある。

ジュネスでサボっているらしい。

 

シンはアリスを連れ、ジュネスへと向かっていた。

 

 

「何をしてるんですか?」

「君か」とシンは声の主に言った。

 

白鐘直斗であった。いつも通り、ではないが、濃い目の青いワイシャツにネクタイにズボンという夏の恰好だ。

 

直斗は視線を落とし、アリスに目を向けた。

「彼女は?」

「預かってる」

「…そうですか。それで何をしてるんですか?」

「…散歩」

「うん!散歩!」とアリスは無邪気に笑う。

 

 

 

直斗はシン、そして、アリスをみた瞬間、違和感を感じた。

この暑さで、汗ひとつかいていない。少女も尚更おかしい。

シンは制服を崩したような感じで、長袖のワイシャツ。ズボンは制服だろう。

 

だが、直斗と似ている。だが、決定的に違うのは、長袖ということ。

それは些細だが、少女はおかしい。

明らかに暑い。見ているこちらが暑く感じるくらいだろう。

 

 

だが、汗一つかいていない。

減量中のボクサーはそうなる。だが、彼の顔は健康的。

少女は少し、体調が悪そうなほど白い顔である。

 

 

 

「…そうですか。」と直斗が考えていると、アリスがシンの袖をつんつんと引っ張る。

シンはそれに気づくと、アリスの身長まで腰を落とす。

そして、アリスは耳打ちする。

シンはそれを聞くとゆっくりと立ち上がった。

 

「それはね、アリス。知られたくないことなんだよ。だから、隠してるんだ」

「…ふーん、そうなんだ」とアリスは首をかしげた。

 

「じゃあな」

「ええ、また」と直斗は歩き出そうとしたが、アリスの言葉に足が止まった。

 

「…じゃあねー」とアリスの目はどこか不思議そうな目で直斗を見ていた。

 

直斗はそれに違和感を覚えたが、すでに二人は歩き始めており、止めるのも悪いかと思い、直斗は諦め歩き始めた。

 

 

「人間のせかいってタイヘンなの?」

「…ああ、そうなんだ。変なしきたり、風土、習慣、人種、決まり事、そんな柵っていうのがあるからな。悪魔が種族間や立場が真逆なやつら…それと同じさ。」

「うーん…よくわかんない。」とアリスは首を傾げた。

 

 

「だって、シンはみんなとナカヨシ。おじさんともランダとバロンとも、みんな楽しそうだった。

人間はそれ、出来ないのかな?」

「…だから、俺は神が嫌いなんだ」とシンはぽつりと呟いた

「?」

「何でもないよ…何でも」

 

 

 

直斗と別れ、ジュネスに居る足立を脅すと、足立は"独り言"だ。と言い、商店街で働いていたということを言った。

それを皆に伝え、情報を集めた。

 

 

日が落ちてきた頃、

「わかったのか?」と鳴上に電話で尋ねる。

『働いていた所は分かった。

その同級生が今、卒業アルバムを見せて回っているらしい。

だが、今日は見つからなかった』

「…明日か。分かった」とシンは電話を切った。

 

「アイス、おいしい」とアリスは嬉しそうにアイスを食べて歩いていた。

「今日はどうだった?」

「うん、楽しかった!」

「明日はもっと楽しくなるぞ」

「やった!!!うれしい」

 

 

そういうシンとアリスの笑みはどこか不気味であったことは言うまでもない。

 

 

 

 




はい、知ってます。中二病こじらせてます。
でも、言い訳をさせていただければ、どこか抽象的にシンの人間部分を描きたかったので、あんな文章になりました。
中二病患者なのは否定しません。

あと、前に書いていた、「IQが下がる」という言葉使えてよかったです。
そして、少しシンの過激な部分が出せたかな?

題名ですが、この題名の映画がありましたね。
OPが印象的でした。


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第26話 Game Start 7月27日(火) 天気:曇

人生というのがゲームだとするなら、主人公は自分で、周りの人は所謂MOBキャラ。

だが、気付いてしまう。

 

自分は"勇者"ではないと。

自分は"ヒーロー"ではないと。

 

何か特別な才能があるわけでもない、特別な世界でもない。

変哲もない歯車の一部だと気が付いたとき、人は絶望する。

 

夢を持てと、先人は語る。だが、それが叶うのはごく一部なのは明らか。

努力はして当然。しかし、それが報われる確率はあまりにも低い。

それで運が良ければ、成功。運が悪ければ…それは人それぞれか。

 

しかし、それが"良い人生"か"悪い人生"か…

 

そんなものは自分で決めるものだ。

そこに万人の良し悪しはない。

 

 

 

俺はどうだ?

 

ルイは言っていた。

『お前は神に愛されていた。私のように忠実なモノだった。』

と言っている。

 

俺はそんなつもりはない。と言ったが、要は運らしい。

運が良かった。とルイは言って笑った。

それは、ルイにとって良かったのか、それとも俺にとって良かったのか、分からない。

 

人はいつかは終わる。永遠に生き続ける事はない。

俺は終わらない。

これまでも、これからも終わらない。

それは人間にとって絶望か?

それとも…希望か?

 

 

「何コレ…ゲーム?」

 

 

 

あの男は久保美津雄という高校生だった。

今回の事件で追い込まれて、ということで皆は結論付けた。

しかし、シンは少し疑念を持っている。

それは、やはりこのテレビという世界を知っていたのかという疑問。

シンの真犯人別の説が正しければ…それもまた、うまく話が通ってしまうのだ。

 

りせにそれを話し、この場所へと来た。

 

この場所はまさにファミコンのような世界であった。

 

「捕まえてみろ…ってくらいだから、いわゆる“ゲーム感覚”って事か?」

「ムッカつく!顔面クツ跡の刑にしてやる!行こ!」

 

「目指せエンディング!」と鳴上が少しテンション高めに片手を天に上げた。

「男はみんな、ゲーム好き。」と花村も少し楽しそうに言った。

「女はみんな、クマが好き。」

 

 

 

 

『死んでくれる?』

 

 

 

アリスが不気味に笑みを浮かべると敵が内側から爆発するように吹き飛んだ。

黒い液が飛び散り、アリスとシンにかかるが、そんなのどこ吹く風。

 

「わーい!しんだ、しんだ!」とアリスはピョンピョン跳ねながら勝利を喜んだ。

「アリス偉い?偉い?」

「ああ」とシンはアリスの頭を撫でる。

そして、アリスの顔をタオルで拭き取った。

 

「クマも偉い?偉い?」とピョコピョコ足音を立てるクマ。

「…知らん」

「シン君…しどい!」とクマはショックそうにした。

そんなクマを励ますようにアリスはクマと話す。

 

「やっぱ、間薙先輩の仲間は強いっスね」と完二は感心したように言った。

 

人数が増えてきたので別々に行動している。

鳴上チームには、花村、千枝、天城。シンのチームには完二、クマ。

鳴上達が先行し、こちらはゆっくりとアイテム回収をしている。

 

やはり、シンが先行のほうがいいのではないかと皆が思ったが、

シン自体のやる気があまりなく、適当に理由を付けて、アイテム回収班に入った。

 

「しかし、舐めた野郎っス」

「自分を捕まえてみろというやつか…

挑発的ではあるが、あれがシャドウだと言うなら納得だ。

内向的な性格とは違い、それの裏が表に出てきた。」

「まあ、確かにそうっスね。でも、あれが本性ってことになるんスよね?」と完二は言う。

「暴走…ともいえるが。あれが、人間の本性。見たくないものなのかもしれん。」

「オレのもそうです」と完二は思い出して苦い顔をした。

 

「間薙先輩だったら、どんなの出るんスかね?」

「…さあ?たぶん、善人が出てくるかもな」

 

「シン君のはきっと王様クマ!」とクマは自分の事のように偉そうにする。

「なんだそりゃ」と完二は笑った。

 

皆、再び歩き始めた。

 

「そういえば、先輩はなんで、悪魔になったんスか?」

「クマも知りたいクマ!」

 

「完二と同じかもしれん。話したくはないものだ…」とシンは少しため息を吐いた。

「そ、そういうことならいいんスよ」

「いや…俺の事を知っていても、損はないだろうし、そんなやつを信用しろという方が難しいだろう」

 

「俺は先生の見舞いでとある病院に行った。

そこで、俺は巻き込まれたのさ。」

「つまり、なりたくてなったってことじゃないんスか?」

「まあ、そうだな。端的に言えば」とシンは言った。

「でも、それでどうして、そんなに強くなれるんスか?」と完二は珍しく鋭いところを突いてきた。

 

 

「それはな」とシンが言いかけた時、シャドウが角から襲いかかってきた。

相手の手がシンの頭に届きかけた時、その手は自分の方向に折れた。

まるで、壁でもなぐるような感覚である。

相手は自爆し、そして、次にどうするかを思う前に、シンに折れた腕を掴まれ、体を軽く壁に叩きつけられた。

 

「それはな、世界が崩壊してしまったからだよ」とシンは何事もなかったように完二に言った。

 

 

 

 

 

「ねぇ、りせちゃん」

『はい?千枝センパイ』

「間薙君をアナライズって出来るの?」

『…たぶん、出来ると思いますけど…』とりせは何故といった雰囲気だろう。

 

「ばっか。して、どうすんだよ」と花村が突っ込んだ。

「いやぁ、だってどのくらい強いのかなって思って」と千枝は言った。

「だって、この前のそうだけど、シャドウを素手で殴ってたし…」

「そう言われれば気になる」と鳴上も言う。

『センパイがいうならー…やってみます』とりせはシンをアナライズする。

情報が鳴上達に告げられる。

 

 

混沌王 間薙シン

MAX HP ? MAX MP ?

 

物 火氷風雷光闇

反 反反反反反反

力魔耐速運 表示エラー

 

備考 万能属性以外の全ての攻撃を反射

 

通常攻撃 万能属性

マガタマ 八尺瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)

スキル 表示オーバーフロー

 

 

『…』

「…」

「…」

 

「なんつーか…あれだな」

「…見なきゃよかった」と花村の言葉に皆が頷いた。

それと同時に、敵に回さないことを皆が思った。

 

 

 

 

 

「…俺はな、友人を殺したんだ。あの世界で唯一の人間たちを。

恐怖や苦痛、絶望に襲われ、変わっていく友人たちを俺は止めることは出来なかった。

 

「一度、壊れてしまった心は戻ることはなかった。孤独の世界を選択した」

そういいながら、勇を思い出していた。

 

「弱さを悲観し、腕を失い、弱肉強食の世界を選択した。」

千晶のことを思い出す。

 

そう言い終わるとシンは目を閉じた。

「そんな友人を殺して。俺は混沌を選んだ。

長い間、戦い続けて、あの世界の偽神を倒し、俺が王となった。あそこは神に見放された世界。」

 

「そして、真の神をたおすため、俺はその屍の上で永遠に終わらない戦いを続けている。

終わった世界。始まることの無い世界。

永遠の停滞と同時に淘汰と再生が行われる世界。

 

それが、俺の居る世界。

 

東京というのはあっている。

だが、お前たちにウソをついたのは…

いや、これは申し訳ないと思う」

 

完二は少し呆気に取られていたようだが、すぐに口を開いた。

 

「…別にいーんすよ。命救ってくれたァ人のウソなんて軽いもんス。

それより、一ついいスか?」と完二はシンに尋ねる。

「?」

「なんだ?」

「どうして俺にそんなことを話す気になったんスか?」と完二は少し恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

 

「…深い意味はない。お前は信頼のおける人間だ。これでも、勘はさえる方だ。

鳴上達も恐らく、信頼のおける人物だ

だが…そうだな…強いて言えば…」

 

「お前に言っても、お前が理解出来ないだろうから、誰かに話す心配もない

ただ、それだけだ。」

 

「ひどいっス…」と完二はどこか納得できない雰囲気だが、

「でも、オレ嬉しいっス。」と完二は笑った。

「でも、カンジ調子に乗っちゃいけないぜよ!クマの方が、シン君に信頼されてるクマ!」とクマは胸を張る。

「お前はマスコットだ」

シンに言われるとクマはがびーんとショックを受けた。

 

 

階を上がるたびにゲームのバグのように言葉が崩れていく。

それが美津男の本心なのか、それは鳴上たちには分からない。

 

いや、分かりたくもないし、理解する必要もない。

 

ヤバイ。正気の沙汰ではない。

それが、率直な感想である。

 

「鳴上先輩たちはどこら辺までいったんスかね?」

完二は宝箱を蹴飛ばし開け、アイテムを回収する。

 

「さあ?…そもそも、何階まであるのか、それが分からないからなんとも言えない。

しかし、そのうち会えるだろう」

「…そうっスね。」

 

そんな話をしていると、りせから連絡が来る。

『先輩たちはもう7Fまで行ってるよ』

「そうか、まだ俺たちは4Fだ。」

『わかった。センパイたちに伝えとく』

 

「案外、早い」とシンはぽつりと言った。

「ねえ、シン。つまんない」とアリスはつまらなそうに、シンに言った。

「どうしたい?」とシンはアリスに尋ねる。

 

 

「うーん…いっぱいサツリクしたい!」

「…なら、とっておきだ」と不気味な笑みを浮かべる。

 

 

シンは『リベラマ』を唱えた。

 

 

 

 

 

『?』

「どうしたの?りせちゃん」

『シャドウたちが、4Fに集まってる…それも、物凄い勢い…』とりせは驚いた表情で鳴上達に伝えた。

 

「…だから、さっきから、シャドウと遭遇しないのか?」

「そんなことすんのは…まあ、決まってんだろ」と花村は納得したような顔で腕を組んだ。

『大丈夫かな?センパイ?』とりせは鳴上に尋ねる。

 

「…大丈夫だろう。」

「そうだよ。シン君もいるし」と鳴上の言葉に同意する天城。

 

 

 

 

「せ、先輩!聞いてないっスよ!」と完二とクマは慌てて、階段の方へと走っていった。

 

「わーい!!サツリク!サツリク!」とアリスは少女とは思えない身のこなしで相手の攻撃を避け、アギダインを唱える。

「…舌、噛むよ」

 

そういうとシンは抜刀の構えをする。

 

 

 

 

『死亡遊戯』

 

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

今までにも増して、建物が揺れた為、鳴上達は慌てる。

 

「ほ、本当に大丈夫なのかな!?」と千枝は少し怯えた様子で、鳴上に尋ねる。

「たぶん」

 

「大丈夫だよ、千枝。崩れても、間薙君の居る階だけだよ。」

「どんな、ピンポイントな崩れ方だよ…」と天城の言葉に花村がつっこむ。

 

 

そこに、物凄い勢いで走ってくる完二達が来た。

 

「せ、先輩達!後ろ、後ろ!!」と完二に言われ、鳴上は自分の後ろを見る。

「センセー!そんな、ボケをかましてるヨユーは無いクマぁあぁああああ!!」

 

ドサドサと完二達の後ろにシャドウが群れている。

 

 

『…せ、センパイ!敵、30は居るよ!』

 

「力を合わせれば、なんていうことはない!」

鳴上はそういうと、武器を構えた。

「へっ…それでこそ、相棒だ!」

花村はヘッドホンを装着し臨戦態勢に入った。

 

 

 

 

「ふく、よごれちゃった。」とアリスはトボトボと静かなファミコン世界を歩いていた。

その格好はシャドウの血と思われる、黒いドロドロとした液体で染め上げられていた。

 

「メリーにおこられるかな?」

「大丈夫。俺も同じ。」

その言葉にアリスの表情は嬉しそうになった。

 

「あのね、シンといっしょにサツリクした。…楽しかった!」

 

そうアリスが何もない空間に言うと、そこに電撃が走った。

「それは良かった」といつの間にか現れたベリアルはアリスの汚れを綺麗に拭き始めた。

 

ベリアルは頭を下げた。

 

「やはり、あなたにアリスを預けたのは正解かもしれません。

『可愛い子には旅をさせろ』

彼女は自らを守るほどの力を手に入れました。」

「素養があった。それだけの話だ。」

 

 

ベリアルはアリスをつれて、帰って行った。

その代わりにライホーが登場した。

 

「ヒホー!なんで、オイラをつれていかないホ!!作者が忘れてるなんて酷いんだホ!!」と地団駄を踏む。

「作者…?そういう名前のやつか?」

「違うホ。ちょっとばかし、頭のおかしいやつなんだホ!!」

「頭のおかしい…?…会ってみたいモノだな。」とシンは嘲笑した。

 

 

 

 

結局、ゲームと人生は違う。

仮想世界にはこの現実では味わえない緊張感と興奮、 感動…

ありとあらゆる感情がある。

 

だが、ふと現実に帰ってきてしまったとき

俺達は言い難い虚脱感と空虚な現実が襲ってくる。

 

ヒーローでもない、勇者でもない、紛れもない、”自分”に戻される。

 

しかし、もう"俺"は何処にもいない。

俺を迎え入れる人もいない。

 

 

 

もう朝なんか来ない。

 

 

 

 

シンは出てきた『盲愛のクビド』の頭を掴み、無理やり捻り、引っ張り千切る。

その目は金色に怪しく光り、その後ろに居るシャドウを見据える。

 

 

「何を期待したんだ?…笑えるね」

 

 

シャドウたちは相手との力量の差に怯え、逃げ始めた。

 

 

「ライホー。第二ラウンドだ」

「任せるんだホー!!」

 

 

 

 




いろんな用事の移動時間を利用して、ちょびちょびと書きました。

オリジナルのマガタマ出してすみません。
けど、マガタマって言ったら、三種の神器の一つの『八尺瓊勾玉』を出したいなと思っただけです。まあ、普通に『マサカドゥス』でも良いですけどね。

ペルソナQのせいで軽く寝不足です。

話は相変わらず面白いので、『ペルソナ』だなって実感します。
ただ、ちょっと、キャラがおかしなことになっているような気がしないでもない。
真田先輩のアホキャラっぷりが加速してた。でも、この人って一応頭が良いって設定じゃなかったっけか?とかなんとか疑問を思いながらやってます。

言っちゃ悪いけど、ここら辺はあまり内容として面白くないので、とっとと夏休み編に入って、P3キャラを出したいという欲が出てきてます。



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第27話 Fury 7月27日(火) 天気:曇

ここは地球。そこにはあまりにも多くのモノや現象が常に起きている。

人間が生み出した物質であるとか、科学、情報…

それらがこの世界を形作っている。

 

だが、忠告だ。

 

そんな有象無象でこの世界全体を表現できるのだと思っているなら、それは大きな勘違いだ。

 

奢りが過ぎる。

 

でも君は違う。

 

 

間薙シン。

 

 

キミは何を知ってるのかな?

僕は知っている。

 

 

 

 

 

「つかれたー」

花村はそういうと、崩れるように広場に倒れ込んだ。

 

 

今はテレビへの入り口の広間へと来ていた。

とりあえず、一番上まで上り、いったんこの広間で休んでいた。

シンは『リベラマ』の効果が切れるまで戦い続 け、4Fは酷い惨状であったことはいうまでもないだろう。

 

その間に鳴上たちも完二たちが連れてきたシャドウを倒し、LVを上げていった。

 

だが、本当に恐ろしいのはやはり、間薙シン。

100、200のシャドウを相手にしながら、それを2ラウンドもやってみせた。

それだというのに、顔には疲労すらない。

寧ろ、ここに来たときよりも健康そうに見える。

 

「みんな、お疲れさま。」とりせは皆を激励する。

 

「クマはもう、真っ白になったクマ。癒してほしいクマ!」

「はいはい」と千枝は流した。

 

「もう…俺もヘトヘトっス。」と完二は腰を床に降ろした。

「スタミナが足らんな」

「ま、間薙先輩はずるいっスよ、スタミナ切れとかないっスよね?」

「まあ、切れないことはない。前までは鈍ってたからな。今は殆どない」

そういうシンの顔はどこか楽しそうである。

 

 

「やっぱり、シンは戦闘狂だホー。」とライホーは鳴上に言う。

そして、クーフーリンもいつの間にか合流していて、その話しに首を突っ込んできた。

「ええ、彼は殺す、倒すという行為に関しては非常に冷酷なまでに淡々とこなします。」

 

「そうなのか?」と鳴上はクーフーリンに尋ねる。

 

「ええ。悪魔も人間と同じ、怨みがあるから相手を殺すということも勿論あります。」

 

「ですが、主は違います。

まるで機械の様に淡々と相手を殺します。

ですが、どこか楽しそうに見えます」とクーフーリンは完二と話すシンを見て言う。

 

「…矛盾している。」と鳴上が指摘すると、クーフーリンは苦笑する。

 

「私や、ピクシー様、など付き合いの長い方々は主の表情を読みとることが出来ます。

戦っている主は一見、機械の様に排除していきますが、付き合いの長い我々にはそれは主にとって、楽しい事だということを理解しています。ですが、端から見れば、殺戮マシーンの様に見えるのではないでしょうか。」

 

「…何故、そうなった?」

鳴上はクーフーリンに尋ねた。

 

「…この世界には素晴らしい言葉ありますね。

『Mement Mori』

死ぬことを思え。と言った意味。

主はいつか絶対に果てるでしょう。

それは反逆者の末路…いえ、それがどんな世界でも摂理です」

 

「しかし、それがすぐに訪れるのか…或いは、幾星霜も経ったことなのか…

それは分かりません。

しかし、主はそんなことを考えるのを止めたのです。

常に自分の興味の赴くまま、楽しむ。

『Mement Mori』には死ぬことを思えという事と同時に、『死ぬのだから今を楽しめ』といった意味もあります。

まさに、主はそれを実行しているのです。」

 

「…自由人なのだな」と鳴上は少し笑った。

「どこまでも自由人なのです。寧ろ、ピクシー様はめんどくさがりですが、規律を重んじております。故にあの世界は成り立っているのです。

それに、あの方は死にません。」

 

「は?」と鳴上は少し間抜けな声を出した。

 

「…おそらく…ですが」

クーフーリンが笑みを浮かべると、ゴスンとクーフーリンの鎧が少し凹むほどの力で後ろからど突かれた。

 

「…喋りすぎだ。」

振り返ったクーフーリンをシンは睨み付けた。

「し、失礼しました。」

クーフーリンは苦痛に顔を歪め、後ずさりをする。

 

(…やっば、こえー)と花村はそれを見て思ったのであった。

 

 

シンはため息を吐きながら、何もないところから、飲み物を取り出す。

「そういや、シンって毎回それ飲んでるよな。」

「ん?これか?」と透明な瓶に入った、お茶の様なモノを持ち上げて花村に見せた。

「飲むか?」

「あぁ、貰うよ」

 

シンは再び何もない空間から、その飲み物を取り出し、花村に投げた。

花村は何の疑いもなく、その飲み物を口に含んだ。

 

そして、硬直…

 

「…ど、どうなの?」

 

「…なんつーか…予想以上に普通だったわ」

「ああ…そうなんだ」

 

「普通というか、メリーの作った、普通のお茶だからな…」とシンは花村からビンを取り、それを飲み干した。

「なんで、ビンなの?」と天城は尋ねる。

「…知らない。メリーが瓶にいつも入れているから」

 

その言葉にガタッと千枝は大阪のノリで倒れた。

 

 

 

 

 

俺の胸中に不安はない。

鳴上は確かに一年という限られた時間でしかない。

だが、胸中に不安はない。

 

事件が終わってしまったら、この仲間たちとの関係も終わってしまうのか?

 

なら、俺は何故こうして背中を預けられていると思う?

何故、相手は俺を信頼して、俺の指示を聞いてくれる?

 

 

 

仲間だからだ。

絶対の自信を持って俺はそれを言える。

 

 

 

 

『その先!大きなシャドウの反応があるよ!』

「案外近かったっスね」

 

全員が大きな扉を見上げてみていた。

結局、どこまでもつづく8bitの世界。カクカクの世界のまま頂上まで来ていた。

ポリゴンにも3Dにもなることはなく…

 

(ゲームは進化してきたが、こいつの作り出した世界は変わらず…)

 

「みんな、行くぞ!」

「おう!相棒!」

 

その掛け声と共に大きな扉を開いた。

 

「やぁーっと見つけたっ!!あそこ!」と千枝のゆびをさした先に二人の久保が居た。

「テメェが久保か!野郎、歯ぁ食いしばれッ!!」

「待て、完二!…なんか様子がおかしい!」

 

「どいつもこいつも、気に食わないんだよ…

だからやったんだ、このオレが!

どうだ、何とか言えよ!!」

 

と、久保がもう一人の久保に言い放つが、返事がない。

 

「たった二人じゃ誰も俺を見ようとしない。だから三人目をやってやった!

オレが、殺してやったんだっ!!」

 

(…決まりだな)とシンは思うと構えた。

 

「…」

「な、何で黙ってんだよ…」

「何も…感じないから…」

 

「感じないなら、いいよな」

 

「「「!?」」」と皆がその行動に驚いた。

 

奥に立っていた久保を目の前までほぼ見えない速度で近づき、殴り飛ばした。

 

「…」とゆっくりと立ち上がる奥の久保。

「な、なにすんだよ!」と手前に居た恐らく、本物の久保がシンに大きな声を上げた。

「うるさい」とシンは久保を睨みつけた。

その睨み付けで久保は倒れてしまった。

その目は金色に染まり始め、刺青の色が濃くなっていく。

 

『やばい!センパイたち!シン先輩から…兎に角、逃げて!!』

「な、え!?と、とりあえず、久保連れて逃げんぞ!」と花村は完二に言うと、完二は慌てて、倒れた久保を引きずり、皆がドアの方へと走る。

 

閉まったドアを鳴上は見つめていた。

 

「…どうしたんだろうね。間薙君」

「わかんねーよ。でも、とりあえず…こいつは連れてきたんだ。」と久保を花村は見る。

「…おそらく、シンは久保の言葉に引っ掛かったんだ。」と鳴上は言った。

「…なんかおかしなところあった?」と千枝は鳴上尋ねた。

「分からない…」

 

そんなことをはなしていると、りせから通信が入る。

『せ、センパイたち!兎に角、そこから早く出た方がいいよ!間薙センパイがめっちゃくちゃキレてるから!』

 

「と、とりあえず出るクマよ!」

「そうしよう」と鳴上はカエレールを使って入口まで帰った。

 

 

『アイアンクロウ』で相手のボコボコとした鎧を切り裂くと、不気味な赤ん坊が中から出てきた。

シンはそれに近づき、容赦なく頭を潰す。

その力で相手の頭はグチャグチャに飛び散り、地面には大きなひび割れが入った。

だが、その表情はいつもと変わらない無表情。

じっと、その潰れた頭を見る。

 

「…お怒りのようですね」

「…」

クーフーリンの言葉に何かを返す訳でもなく、ただ、残骸を思いっきり蹴飛ばし、それは壁に叩きつけられたら。

 

「主が一番嫌いなタイプですね。」

「…そうだな。」

「”退屈”な人間。私はそう感じました。」

「…」

 

シンは答えることもなく、パーカーのポケットに手を入れ、金色の目を不気味に輝かせながら、大きな扉を蹴り開けた。

 

(…相変わらずの恐ろしさ…

私は未だに主の気迫に負けてしまいます。

あの瞳と濃くなる黥…まだまだ、私も未熟…)

 

クーフーリンはため息を吐くとシンについて行った。

 

 

 

久保を足立に渡すと嬉しそうに足立は久保を連れて行った。

 

「…そのセンパイ、何に対してそんなに怒ったんですか?」とりせはシンに尋ねる。

 

「…退屈。それに…昔を見ているようで嫌になった。」

「昔?」と花村が首を傾げた。

「孤独に飲まれそうになったときの俺に似ていて嫌になった。」

そういうとシンはフードコートの椅子から立ち上がった。

 

「…君達のように、頼れる人間がいないやつは恐ろしいほどに、簡単に闇に飲み込まれる。

興味本位で深淵を覗かない事だ。

足を滑らせて落ちるぞ。

怖くなったら叫べ。隣の友人にな。それが君達には出来るんだ」

 

そういうとシンはフードコートから去っていった。

 

沈黙がその場を支配した。

だが、そこで一人、口を開いた。

「…ねぇ、間薙君のこと私たち知らなさすぎだと思うの」

天城である。

 

「うーん、でも、それってやぼかっておもっちゃったりする」と千枝は少し自信なさそうに頭を掻いた。

「でも、アイツは言わないよなぁ。自分から…そういうことをさ。おれたちはなんつーか、良い意味でも、悪い意味でも自分の嫌いな所って見られてるからな…」

と花村は天を仰ぐ。

 

「…話さなきゃ伝わらないよ。」とりせは少し俯き言う。

「何となくね、間薙センパイの言うこと少し分かるんだ。一人で悩んでると、どんどん深くに落ちていくような感覚。

芸能界を休業する前はそんな感覚だったの。

それに、」とりせは言葉をためた。

 

 

 

「なんだか、センパイの目が悲しそうだったから」

 

 

「…なんつーかさ、アイツ強いし、どっか超人とか思ってたけど、俺…なんか、勘違いしてたのかもな。」と花村はポツポツと語る。

「私も。テストの点数とか、1位だったし、なんか、完璧な人だと思ってた…」と千枝も言う。

 

「天城の言うとおり、ホントに知らなさすぎなのかもしれない…」と鳴上はみんなを見て言う。

 

その会話に入ってこない、くまがプルプルと体を震わせる。

「ってか、お前何ふるえてんだよ」と隣に座る花村はクマに顔を近づけた。

 

 

「あー!!!もう、我慢できないクマ!!」

「うるせー!!耳元で叫ぶなクマ」と花村は耳を塞ぎクマに言う。

 

「クマ知ってるクマ!!」

「バカ!クマ公!先輩に口止めされってんじゃねーのかよ!!」と完二はクマに言う。

「…あ、そうだったクマ…」とクマは思い出したように言った。

「なんか知ってんのか?」と花村はクマに言う。

 

「…お、男の約束クマ!破る訳にはいかないぜよ」とクマは口を塞ぐ。

「クマぁー。なんか知ってるなら話しなさいよ!」とりせはクマの頬をつねった。

 

 

 

きっと君は終わってしまうことを恐れてるんだ。

 

(恐れる?…終わる、恐怖…)

 

そう。君はあの止まってしまった世界で君自身も停滞していた。

始まることもない、終わることもない。

あの停止してしまった世界。だから、苛立つんだ。

 

でも、ここは違う。

 

季節は移ろい、あの世界とは違いにならないくらい退屈しない。

 

(…俺は…長い時間の中であまりにも多くの事を忘れていたようだ。

物事には始まりと終わりがある。それが自然の摂理。)

 

君なら、それを乗り越えられる。

また終わってしまうのは、何かが始まるからなんだ。

 

(…そうか。そうだったか。というか…お前は…誰だ?)

 

僕?…そうか。思い出せないよね。

もう、思い出す必要もないのかもしれないけど、忘れないでくれ。

僕はずっと君のそばにいるんだ。

 

 

あとそうだ。君は奢ってもいい。

摂理なんてクソ喰らえって言うかもね。

でも、いいんだ。君ならいいんだ。

 

 

 

『王様』なんだから。

 

 

 

 

 

「…」

シンは旅行鞄に服を詰めている最中に寝てしまったことを思い出した。

実に奇妙な体勢で若干、骨が軋む。

 

(…それにしても、夢か…奇妙だな。懐かしい声…だが、誰だか思い出せん)

シンが頭を抱えていると、ふすまが開く音がした。

 

「シンよ。」とバアルが声を掛けてきた。

その右肩には人間が抱えられている。

 

「ん?なんだ、居たのか」

「寝ぼけているのか…まったく、人が面倒を請け負ったというのに」とバアルはため息を吐いた。

 

「すまないな。手間をかけた。」とシンは立ち上がった。

「抜け殻だが、用意はできた。それに長くは持たない。」

「…それはどっちの話?メタトロン?それとも、義体の方かな?」

「両方だ。封じているやつの魂をこの義体に降ろしたのだからな…

しかし、ずいぶんと無茶をしたものだ。シンよ」とバアルは笑みを浮かべた。

 

「好都合だった。メタトロンは目の前の悪を逃すほど、軟ではない。

だが、相手は『死』そのもの。俺でも勝てない。それに俺には封印も出来ない。

メタトロンなら…恐らく可能だろう。一時的でしかないが、短い期間でも彼を連れ出す必要があった。」

 

「しかし…」とバアルは言葉をためると笑い始めた。

「ハハハハッ…今思い出しても笑えるぞ。ものの見事に、アイツらはこの坊主の作り出した、アマラに閉じ込められた訳だ。餌に引っ掛かるとは、神の使いは疑うことを知らん。

故に愚かだ。ルイ様が嫌うのもわかる」

「そうだな」とシンも少し馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「ルイ様やあの這い寄る混沌にお礼を言った方がいい。あいつらも苦労していた」

「わかった」

 

バアルは抱えている少年を布団に置くと、それを見て口を開いた。

 

「…しかし、貴様は人の死さえ、お前は無に帰するのか?交換条件であっても」

「違うね。"一時的"にだ。それに魂を降ろしただけ」とシンはカーテンを開ける。

「そこら辺の、イタコさんだってやってる。」

「あれとは別だろう。」

「…まあ、いずれにしてもオルフェウスとの契約を果たせるし、俺の好奇心をも満たすし、観光も出来る。

一石二鳥。いや、三鳥か」

 

 

シンは振り向くと、布団に寝ていた少年が起き上がる。

 

 

「おはよう。結城理。昨日はよく眠れたかい?」

「…どうでもいい」と再び布団に倒れた。

 

 

 

 




はい。登場しました。ペルソナ3の主人公。
正直、読者様にぶっ殺される覚悟で書きました。

出すつもりはなかったんですけど、映画の影響というか、その彼の報われなさが可哀そうな気がして、出してみようと決意しました。
名前は映画版のほうです。漫画版の『有里湊』でもいいかなって思ったんですけど、映画の影響です。

あと、至極どうでもいいことを言わせていただきますと。

先ほど言いましたが、夜に映画を見て帰ってきて、これを書き上げていた時に、「あーペルソナ3の映画よかったな」って思って、誰かに話そう。と思ったけど、誰もいない。っていう少し悲しいことを思ってしまいました。

映画とかゲーム、本でも音楽でもいいんですけど、「これ面白い!」って思った時に伝える相手とか共有する相手がいない時って、とんでもなく『きっついな』って思っちゃいました。
ラーメンズの小林賢太郎さんも同じことを言ってましたね。

…べ、べつにぼっちとかじゃ、ないから。
ぼ、ぼぼぼぼっちちゃうわ!

すみません、次回は恐らくP3の舞台の地に降り立つことになるでしょう…



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忘れねば思い出さず候『永劫』
第28話 There's Not A Thing I Don't Cherish


20140622
すんません。ペルソナ4しか知らない人にとってはここから少し、訳の分からない話になりますので、ご了承下さい。
(一応、タイトルだけで分かるように日付がありません。)



時間は午前9時ぐらいだろうか。

夏もそろそろ本番となり、暑さが増していくなか、少年少女たちはアパートの前に居た。

 

「せ、先輩がおしてくださいよ」

「く、クマ届かないクマ!」

「ば、バッカなんかとんでもねーもんでてきたらどうすんだよ!

あとなんでテメェは着ぐるみ着てんだよ!」と完二と花村はインターフォンを誰が押すかでもめていた。

 

「センパイが押しちゃえば?」とりせは鳴上に言う。

「ああ」と鳴上が押そうとすると、天城が押した。

 

「ああ!」

「だって、なんか出てくるんでしょ?面白そう」と天城は目を輝かせてドアを見つめる。

 

すると、足音が聞こえた。徐々に近づいてくる足音。

皆が唾をのみこんだ。

 

 

 

「はい」とそこには少し顔の白いメイドさんが出てきた。

綺麗に整っている顔だが、表情がないため、少し不気味さを醸し出している。

事情を知らない、りせや千枝、天城は驚いた表情であった。

 

「あーえっと、メリーさんでしたっけ?」と花村はそのメイドさんに尋ねた。

「ええ。そうです。ご用は?」

「間薙シン君はいますか?」と鳴上が尋ねた。

 

「残念ですが、不在でございます」

「ちなみにどっかに行ったとか分かりますか?」と花村が尋ねた。

 

 

「ええ『辰巳ポートアイランド』です」

 

 

 

 

 

辰巳ポートアイランド。

人工島であるポートアイランドは海に囲まれ、モノレールによって人工島にある『私立月光館学園』へと通う学生が多く、にぎやかな街である。

 

時間は既に短針が5を差し、日暮れも近くなっている頃。

ポートアイランド駅へと二人の少年が降り立った。

 

荷物は取り合えずは、ロッカーの中に入れ、町を散策することとなった。

八十稲羽からの電車乗車時間は長く、お互いのことを話している間に、それなりに仲が良くなった。

 

「変わらない?」

「…うん、変わらない」と青い髪の少年は懐かしそうに辺りをかみしめるように見渡す。

 

オルフェウスの願い、いや…契約は一つ。

『あなたの力で、主である結城を少しの時間だけでもいいから、自由にさせてほしい』という願いであった。

悪魔の契約は絶対。

 

そこで、シンは作戦を考えた。

Nyxと言われる、いわゆる『死』自体に悪意はない。

つまり、結城が抑え込む必要もない。

結城である必要はないということだ。

だが、大勢の悪意がそれを呼び寄せてしまう。

ならば、それにも劣らない"穢れを知らない善"をそこまで呼べばいい。

 

そう教えてくれたのは、紛れもない、銀座のニュクスであった。

 

 

「形は所詮はイメージでしかないのよ」と哲学的なことを言いながら、微笑みながら答えた。

 

 

さて、そこで登場するのが、メタトロン。

しかし、偽物の神が不在の中、やつがそうそう姿を現すことはない。

故に、アマラ経絡でその時の狭間にあった、結城の作り出した宇宙に接続した。

無論、そんなことが出来るのはルイ・サイファーである。

渋々、ルイは接続しご丁寧に迷宮まで作り上げた。

 

あとはボルテクス界に情報を流すだけ。

見事にメタトロンは引っかかり、大勢の善と共に、その宇宙へと向かった。

 

その後そこをアマラ経絡から隔離し、見事にメタトロンの軍勢を閉じ込めた。

 

しかし、メタトロンの相手は死そのもの。

この世界の人間の悪意が増幅した場合、危険ではないかと推測されたが、どういう訳だか、違う形でその悪意の向かう方向が変わっている。

 

つまり、悪意がNyxに集まらなくなっている。

 

シンは『マヨナカテレビ』が関係しているのではないかという結論で納得した。

つまり、『シャドウ』という形で悪意が具現化され、悪意というものがそこで消費される形になったのではないか?という推測をした。

 

そして、テレビに入れられた際に発生する、『シャドウ』はテレビ世界への干渉度合が高くなり、その人間に見合った世界を生成し、シャドウはそこに集う。

Nyxに集まるのと同様だと推察される。

 

…それが事実かは分からない。

 

そして、魂だけではどうすることも出来ないため、義体を用意。

作成方法は…シンは知らない。

バアルに丸投げした。

しかし、それをやってのけてしまうのだから、さすがである。

 

この一件後、ルイは疲労し「これは貸だ」と言うと再びどこかへ消えた。

一応、その封印を見張るのはシヴァに任せている。

どうせ、あいつは暇だったのだ。構いやしない。

 

 

「…僕は…死んだんだね。あの日に」と結城は少し悲しそうな顔でシンを見た。

「あの日…というのは知らないが、そうなんだろうな」

「…うん。わかった。」と結城は淡々と答えた。

 

「体に不具合はないか?」とシンは結城の手をみる。

結城は夕日に手を翳し、動かす。

 

「慣れたかな?」

その手の甲には、呪詛の様な細かい文字が見えない位に刻まれている。

 

そんなことをしながら、二人は階段を降りる。

 

「でも、どうやって、彼らを集めるの?

携帯番号も…覚えてない。」と結城は首を傾げた。

「君の話では、シャドウを探知するりせのような能力を持っている人がいるらしいじゃないか。だから、それに似た力を少しだけ解放する。」

「君が言っていた、悪魔の力?」

「そうだ。それにかかってくれれば、」

「横着なんだね。キミは。」と結城は少し笑った。

「王様だからな」とシンは皮肉を言った。

シンの目が金色に光り始めた。

 

「さて、どこにいく?」と結城は微笑みシンに尋ねる。

「キミの行きたい所に行くと良い。」

「うーん。巌戸台分寮に行こ」

「思い出めぐりか。嫌いじゃないし、俺はこの辺は知識ないからね、ついていくよ」とシンはポケットに手を突っ込み答えた。

 

 

既に外は暗くなってきたが、人工の明かりでぼんやりと光が遠くに見える。

 

「不思議な気分だよ…」と結城はモノレールの中で外の景色を眺めながら言った。

「所謂、黄泉がえりだからな。不思議だろう」

 

「キミは本当にすごいんだね。…それに、どこか君とは馬が合う」

「そうか」とシンは外を眺めながら夜の街を眺めていた。

 

 

巌戸台分寮前。すでに誰も使っていない様子で、真っ暗であった。

「…懐かしいな。すべてが」と結城はペタペタと入口のドアを触る。

そして、ドアを引っ張るが無論開くはずもない。

「流石にね。」と結城は少し残念そうにため息を吐いた。

「…ちょっといいか?」とシンは結城をドアの前からどかすと、ポケットからキーケースを取り出した。

そして、そこから、すこし特殊な形をした細い鉄のものを取り出した。

 

「ピッキング…出来るの?」

「混沌王ってのは暇なんだ。色々やっていたような気をしてるんだけど、今思えば実はそんなことないのかなって思った」

 

シンは鍵をいじりながら思う。

(…どうでもいいことを覚えていたのだな。

悪魔は適当な知識を適当に教えてくる。

ピッキングであるとか、足跡の圧力による身長の割り出し方のような探偵的なものから、所謂、自分の神話だとか、自分の指の数だとか、とにかくどうでもいいことを。)

 

 

カチャという音と共に、ドアが開く。

「すごいね。アイギスより早いかも」

「キミの言っていた、対シャドウ特別制圧兵装のこと?」とシンは電気を付けようとするが、つかない。

 

「つかないか…まあ、当然か」

「電気来てないからな。つかないのはわかってた」とポケットから懐中電灯を取り出した。

「ソファとか、椅子とかまだ残ってるんだ…」と結城はほこりにまみれたソファを眺める。

 

「寮にしては…」とシンが感想を言おうと結城を見ると、頬に涙が伝っていた。。

その顔にシンは特に反応することなく、じっとみていた。

 

「ここで、特上寿司を食べたんだ。荒垣さんのおかゆも食べた。おいしかった。洋風で。あと、順平がカップ麺ばっかり食べてて、真田先輩はプロテインを牛丼に、かけて食べてた。

それで…それで…」と結城は思い出すように、そして、どこか悲しそうに泣きながら語る。

 

「でも…でも、それも全部…全部、終わったんだ」

「もっと…もっと、生きたかったな…やっと、この世界の面白さに気がつけたのに…」と結城は暗い天井を見上げた。

その胸中に去来した数々の思い出はシンには分からない。

だが、悔しさや痛みがシンにはヒシヒシと伝わっていた。

シンはただただ、だまる結城を見ていた。

 

 

落ち着きを取り戻した結城は口を開いた。

「…好きだからこそ、守りたかったんだ。」

「大切な仲間を救えた。

大切な人たちを守れた

これで良かった…」

 

 

「…それにしても、食べた思い出ばっかりだな」

「そうかも」と結城は笑った。

 

 

そして、キッチンや二階、三階、四階と結城についていきながら、シンも回った。

「…やっぱり、ないよね」

結城は無くなった機材の辺りを歩き回り、懐かしんでいた。明らかに床には何か大きなものがあった形跡が残っている。

 

シンはふと、窓際へと歩き始めた。

 

「車。二台…キミの言っていた、桐条の人?」と締め切られていたカーテンを少しだけ、開け外を見る。

そこには黒い車、黒いスモークの掛かった窓の二台の車が止まり、黒いスーツを着た人間が降りてきた。

 

「…まさか、間薙君はこれを狙っていたの?」と結城はズボンのポケットに手を入れ、考える。

「…桐条グループは抜け目ないのは分かってた。だから、たぶん君が訪れるであろう思い出の場所もそういった機密が漏れないようにしてると考えた。

だから、君が行く場所には自然と桐条が来る。」

「それも結構、横着だと思う」

「王様だから」とシンは言うと、ドアの方へ向かった。闇の中で、金色の目が怪しく光る。

 

「それで、どうするのかな?これから」

「これを置いて、そして、屋上から隣のビルに飛び移るよ。」とシンは当たり前のように言う。

「僕は?」と結城は首をかしげた。

「キミも飛ぶんだ」

 

黒い人たちが寮の前に立っているのを二人は隣の屋上から眺めていた。

そして、シンは結城を抱えて裏の通りへと飛び降りた。

 

「…大丈夫ってわかっていても怖いからね」

「俺は60階から飛び降りた」

「痛くないの?」

「滅茶苦茶痛かった」

 

それを聞いて結城は声を出して笑った。

 

「…どうしてあれを?」

「みんなに会いたいだろ?だから、まずは一番動けない人を動かせるような動機が必要。」とシンと結城は二人ともポケットに手を入れて月夜を歩いていた。

「泊まってるホテルも桐条グループの関連…。やっぱり、キミ面白い」と結城は笑う。

 

「…明日はどこ行く?」

「月光館学園とか入れないかな?」と結城は無理だよねといったニュアンスを含めて言う。

「…可能だよ。誰だと思ってる?」

「王様…でしょ?」

 

 

「でも、超人ではないからな。」とシンは鼻で笑った。

 

 

 

 

 

「ん?なんだ?」と桐条美鶴は日本のグループから連絡が来たことに驚いた。

相当なことがない限り、緊急であることがうかがえる。

シャドウワーカーの仕事も安定し、やっと桐条グループの仕事に集中できると思っていた矢先の連絡、美鶴は何かシャドウワーカー仕事ではないかと、予想した。

 

『実は、先ほど巌戸台分寮に侵入の警報が鳴りました。』

「なんだ、それだけのことか。どうせ、ネズミの類ではないのか?」と桐条は安心したようなため息を吐いた。

 

『いえ、ですが…』と相手は言葉を詰まらせる。

「…なんだ?」

『作戦室がありました部屋に…召喚機がありました』

「!?なんだと?」と美鶴は思わず椅子から立ち上がった。

『そして…その、あり得ないことなのですが…』と相手は更に言葉を詰まらせる。

 

 

『シリアルナンバーが結城理のモノです。指紋照合も行い、結城理のモノと、もう一名の謎の人の指紋が採取されました』

 

 

「バカな!?」と美鶴は言葉を荒げる。

『いえ、それが…調べさせたところ、研究所から消えていました』

(…どういうことだ?)と美鶴の頭の中は竜巻でも通過したようにゴチャゴチャになっていた。

『一応、黒沢巡査の命で連絡させていただきました。』

「分かった…一応、このことはアイギスや岳羽には伝えないでおいてほしい。私が直接そちらに向かう」

『了解致しました』

というと相手は電話を切った。

 

 

 

 

 

 

「きっと、釣れるよ。その大きな魚がみんな連れてきてくれる。」とシンはホテルのエレベータの中で結城に言った。

「心配してないよ。それに…みんなにはみんなの今があるんだ、期待はしてないよ。」

結城は少し皮肉まじりに笑った。

 

「そうか…俺たちの部屋は最上階…すまん、持っててくれ」とキーを結城に渡すと靴紐を結び直した。

「ロイヤルスイートルーム…初めてだ。それに…偽名使ったのも初めて。」と結城は子供の様に嬉しそうに鍵を受け取った。

 

「…キミは案外、表情豊かだな」

「…そうでもないけど…」と結城は答えた。

「でも、たぶん、…同じような人間が一緒に居ると、気が楽だからかな?」

「『どうでもいい』だったかな。君の口癖は」とシンは言う。

 

「…そう。昔はどうでもよかった。

でも、今はもう…"どうでもいい"ことなんてない。

大切じゃないモノなんて、無かったんだ」とエレベーターのガラス窓から見える町を見下ろして結城は言う。

 

「僕を変えてくれたこの町を、この大好きな世界を僕が守ったんだ」

 

「崇高だな。」

「そう言われると…なんだか、照れる。」と結城は頭をポリポリと掻いた。

 

「キミはどうして、あの世界を望んだの?」

「…色々理由はある。退屈だった、あのクソッタレが嫌い。

混沌というのは、興味深かった。何か退屈しないと思った。

でも、偽神を倒した後はどうもする事がない。

単調で退屈。それでも、続けてこれたのは…恐らく、贖罪。」

 

「…死んでいった友人や先生、仲魔に…許されたいのかもな。」

 

チンという音と共にエレベーターの扉が開いた。

そこの階には5部屋ほどしかない階だ。

降りようとすると、執事のような人物に止められた。

 

「失礼。この階は「宿泊者だ。」」と鍵を見せると一瞬驚いた顔をしたが、すぐにアイコンタクトで、後ろのモノ達にシン達の荷物を運ばせるように命令した。

 

「広いね。」

「…俺もこんなに広いとは思わなかった」

そこは正にスイートルーム。

大きなソファに大きなテレビ。

何の機能性も持ち合わせていない置物。

まさに、金持ちの自己顕示欲のためとしか思えないモノばかり。

シンはこういうところを好かない。

機能性を重視する。

なら、シンが何故ここを選んだのか。

結城が柔らかいソファに座る。

 

シンは辺りを見渡し、目的の部屋に入る。

 

 

 

「風呂が広い。」とシンは少し嬉しそうにジャグジー付きの大きな風呂を眺めていた。

 

 

 

 

 




『There's Not A Thing I Don't Cherish』
「大切じゃないものなんてない。」

某大作RPGの七作目のアドベントなんちゃらで主人公が言っていたセリフの英語版です。
結城の心境に非常に合っていたので、使わせていただきました。


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第29話 Eupatorium Fortunei

 

 

朝…

 

豪華な食事を終え、何故か、柏木先生が持っていた月光館学園の制服(夏)へと着替え、月光館学園へと向かった。

 

角が目立つという理由で、シンはいつものパーカーを制服の上から着ていた。

「…暑そう。」と結城は言ったが、本人はそうでもないと答えた。

 

「…月光館学園」とシンは大きな門の前で学校を見上げた。

その高校は非常に大きく、何より清潔感に溢れていた。

 

夏季の休みの為、生徒たちはいないが、部活動の声が響いていた。

 

「入れる?」と結城はあたりを見渡して、門があいていることに気が付いた。

「…万が一警備員が来ても大丈夫だ。『脅す』からな」

シンは何食わぬ顔で月光館学園の中へと入って行った。

 

「…どうでもいい…か」と結城は自分は死んでいるし、彼に関しては混沌王。

この世界に居るべき者ではない。いざとなれば、どうにでもなる。

故にどうでもいいと素直に思ったのだ。

 

結城もシンに続くように懐かしい月光館学園へと足を踏み入れた。

 

正面玄関は外見に相応な綺麗な作りで、柱は大理石の様なもので出来ている。

 

「…どうかな?月光館学園は」

「…八十神高校とは対立的で面白い。俺の行っていた、都立の高校より良い。」

 

シンたちは高校を歩き回った。

結城の居たクラスに行ったり、今では珍しい解放されている屋上などに行った。

終始、結城は優しい顔つきで風景を懐かしんでいた。

 

そして、シンに言う。

 

「僕ね、ここで色んな人々と出会ったり、別れたりしてなかったら、世界なんて救ってなかったと思う。

来た時に自分の中に死なんてものの感覚が無かったんだ。」

そういうと、結城は少し笑みを浮かべた。

 

「シェイクスピアじゃないけど、死ぬってことは眠るのと一緒だと思ってたから。」

 

「でも、なんでかな……Nyxとの戦いが終わって、徐々に力が抜けていく日々の中で、もっと生きたいって思いだけがあったんだ。」

 

結城は何も無い空を見上げた。

 

「それはお前がここで大切なものを手に入れすぎたからだ。置いて逝く恐怖だ。

別れが悲しいのは、お前が知らないうちにここで掌の上に多くの大切なものを握ってしまったからだ」

「……そうだね。だから、僕は……この街を、人を守れたんだ。」

 

 

 

 

 

 

そして、月光館学園を早々と出ると、巌戸台駅へと向かった。

 

「たこ焼きの早食いやってた。」

「そうか」

結城に言われると、シンはたこ焼きをまるで掃除機のようにわずか10秒で口に入れた。

 

「…やるね」と結城は対抗心を燃やしたような目でシンを見た。

 

 

「はがくれ…おいしそう」

「でも、定休日だね」

扉には定休日の板が掛けられていた。

「…残念だ」シンと結城は少ししょぼんとした顔ではがくれを後にした。

 

 

「巌戸台駅も大分、回れたね」と結城は嬉しそうに見える。

実のところ、結城も非常に表情の動きは少ない。

しかし、似たもの同士は分かるものである。

 

シンには、結城が嬉しそうに見える。

そして、結城にはシンの表情が分かる。

 

不思議なものである。

 

「さて、ではキミたち"S.E.E.S"に関係ある地に行こう」

「じゃあ、やっぱり、あそこかな」

「…の前に、花屋だ」とシンの言葉に結城はおどろいた。

「どうして?」

「…『人生は舞台である。人は皆、役者。』シェイクスピアはそういっていた。

だからこそ、時には脚本を書いてみたくなる」

「…そうか…うん。わかった」と結城は少し思うところがあったのだろう。

 

 

日も暮れ始め、学校の最寄り駅であるポートアイランド駅のそばの不良の溜まり場は相変わらずの雰囲気であった。

そこへ、パーカー来た少年と、青い髪をした少年が入ってきた。

 

それを見た不良たちはバカにしような口調で二人に近づいてきた。

「おいおい、ここぁ」と一人の少年が話しながらパーカーの少年に近づいた瞬間、全員がぞわっとした感覚に襲われた。暗い路地裏で、まるで月のように光る瞳。

 

 

逃げなければ。死ぬ。

それに体全体が支配された。

 

 

「うぁああああああああああ!!!!!」と全員が叫び声をあげて、塵尻に逃げて行った。

 

 

「綺麗になった。」とシンは満足げだ。

「…ここはS.E.E.Sで先輩だった、荒垣真次郎って人が殺された場所。」

「なるほど…じゃあ、少し待ってみる」

「わかった」と結城はうなずくと立って待つことになった。

 

 

 

 

狭い部屋に二人の女性と、一体の機械が居た。

桐条グループ所有の所謂、会議室である。

だが、それは本社にあり、盗聴や盗撮などがされない会議室である。

 

つまり、それ相応の話となることが分かる。

 

「どーゆーことなんスか?桐条先輩」

そこへ野球帽子をかぶり、ラフな格好で桐条美鶴と対面する人物が居た。

「…シャドウワーカー全員が呼び出しって…大事件なんですか?」

スタイルの良い、短髪の女性が弓を持ち、その部屋へと入ってきた。

「相当手ごわい敵と俺は読んでいる」

そういうと青年はプロテインを飲む。

 

「よく集まってくれた。伊織順平、岳羽ゆかり、明彦」

「俺はいーんすよ?先輩。フリーターなんで」と少し自虐的に笑った青年が伊織順平。

「あんた…定職つきなさいよ」

「ゆかりっち…俺だって、好きでフリーターやってんじゃねーんだぜ?

少年野球のコーチとかしてると、時間とれねーっつか…

まあ、ホントお手上げ侍?」

伊織は両手を高く上げた。

 

「バカじゃないの?…ってかバカ?…もうバカでしょ。」

「三回ゆーな!!」

 

「相変わらずだな。お前らは」

「まったく…」と言葉とは裏腹に桐条は嬉しそうだ。

 

「こうやって、揃うと昔を思い出しますね」とペルソナを召喚し、何かをサーチしている女性は山岸風花。

「…そうですね」と機械の体のアイギスは微笑んだ。

 

「僕達も忘れないでくださいね」

「ワンッ!」とドアから、犬を連れた中学生の制服の少年が来た。

 

「よー!天田少年!」と

「しょ、少年って…僕はもう中学生ですよ!」

「そーか、天田君ももう中学生か…あれ?ちょっと大きくなった?」とゆかりは

「はい!やっぱり、牛乳飲んでいて良かったです!」と天田は笑顔で答えた。

 

「…これで、全員か」と真田は感慨深い顔で皆を見た。

「それで、やっぱり私たちが呼ばれるって…相当大ごとだと思っていいんですよね?」

「ゆかりっちー。当然だろ?シャドウワーカーの主戦力が呼ばれたんだぜ?」と伊織は長い袋から日本刀を取り出した。

 

 

「ああ、伊織の言うとおりだ。まずはこれを見てほしい。」

美鶴がそういうと、電気が消え、プロジェクターが起動した。

 

 

「「「「!!!」」」」

 

 

そこに映ったのは、間違いなく共に戦い、そして、この世界を守った人物。

そして、隣にはパーカーの少年が結城と同じ表情で話す少年が防犯カメラに映っていた。

そこは街灯防犯カメラ。その先には自分たちが暮らした寮がある。

 

風花とアイギス、そして、美鶴以外は驚いた表情でそれを見ていた。

 

「つい昨日だ。巌戸台分寮に結城理と思しき人物が現れた」

「ど、どういうことなんだ!?」と真田は美鶴に言う。

「この四分後に巌戸台分寮の警報が鳴った。そして、その二十三分後にシャドウワーカーが到着したが、すでに誰も居なくなっていた。…この召喚機だけを残してな…」と美鶴は召喚機を皆に見せた。

 

「…それって…理君の?」とゆかりは不安そうに召喚機を見た。

「ああ。ナンバーが確認された」

「ど、どういうことなんですか?」と天田もまた不安そうに美鶴に尋ねた。

 

「私にも分からない。シャドウワーカーの諜報部にも情報がなく、混乱している状態だ」

「クーン…」

「コロマルさんも、混乱であります」とコロマルの感情をアイギスが伝える。

 

「それで…風花がペルソナ出して探してるんだ…」とゆかりが風花を見る。

 

 

『!見つかりました!そ、それに強力なシャドウの反応もあります!』

「…時の狭間と同じ状況であります。」

「…で、でも、私たちは理解したはずじゃん!彼が、この世界を守ってくれたって…」

『うん。なんか、強力なシャドウの反応の近くに微かに何か分からないけど、反応があるの』と風花はゆかりの言葉を補強する証拠を言った。

 

「…兎に角、山岸。場所は?」

 

『ポートアイランド裏の路地です』

 

「…あそこか…これは絶対に敵を倒さなきゃならんな」

「そうですね。僕たちの大切な場所ですから。」と真田と天田は気合を入れた。

「よし!行くぞ!」と美鶴の声と共に皆がその会議室から出て行った。

 

 

 

 

「もうそろそろ来るかもね」

「流石に力を垂れ流しているからな…こんな微力でも気づくだろう」

そういうと、シンは立ち上がった。

「あれ?…まだ会えないのか…」と結城は残念そうに立ち上がった。

「劇的な方がいいだろ?」

「…そうだね…」と結城は納得したようにうなずいた。

 

 

『エストマ』

 

 

 

シャドウワーカーの面々がポートアイランド駅の裏路地に着いた時にはすでにしーんと静まりかえっていた。

 

「あれ?いねぇぞ?」と伊織は首をかしげた。

「ど、どういうことだ?」と真田は構えを解き、風花に尋ねた。

「先ほどまで反応があったんですけど…消えてしまいました」と風花も困った表情で皆を見た。

「反応が消えた…?どういうことだ?」

 

美鶴はあたりを見渡した。

 

「ワンッ!」とコロマルが何かを見つけたようだ。

皆がそこへ行くと、花が置かれていた。

 

「これは…」と美鶴はそれを拾い上げた。

アイギスが言う。

 

「フジバカマの花です。キク科ヒヨドリバナ属の多年生植物。秋の七草の1つであります。」

「花…どういうことだ?」と真田は訳が分からないような顔で伊織を見た。

「俺が知ってる訳ないしょ!真田先輩!」

 

「もしかして、花言葉とかじゃないですか?」と風花が言った。

「!?そうか…フジバカマの花言葉は…」と美鶴が言うと、アイギスが口を開く。

 

 

 

「『ためらい』『遅延』『躊躇』『優しい思い出』…そして、『あの日を思い出す』」

 

 

 

「ためらいとか躊躇って…私たちを会うってことをためらってるってこと!?」

岳羽は少し苛立ち言葉を吐いた。

 

「でも、『優しい思い出』。僕たちに宛てたものなら、なんだか嬉しいですね」

「まだ、結城本人だって決まったわけじゃねーぞ?天田少年。」と伊織は帽子を深く被り直した。

 

「そして、『あの日を思い出す』…か」と美鶴は目をつぶった。

「ここで、あの日ってなると…やっぱり…荒垣先輩のことだよね?あるいは…卒業式かな…」と風花は困った表情で言った。

 

「単なる連想ゲームと片付けてしまうのは簡単だ。だが、大型シャドウの反応があった。

…Nyxも封じられた今、これほどまでの桁違いの反応だったのは確かだ。

動かなければ、被害が出る。」と美鶴は腕を組んだ。

 

「もっと調べる必要がありそうだな」

 

「俺もやりますよ。美鶴先輩。」と伊織は応えた。

「私も、当分仕事無いんで。大丈夫です」

「わ、私も大学休みだし…大丈夫かな?」

「俺も無論、休みだ。遠出して鍛えようと思ったが…これほど面白いことがあるんだ。来年にでも、休学して行くぞ」と真田はギュッと拳を握った。

「ぼ、僕も休みなんでやります!」

「ワンッ!」

 

「…みんな。」と美鶴は皆を見て、頷いた。

 

 

 

「…今は美鶴さんがまとめてくれるんだ」

「成程。彼らからは鳴上達よりも強い力を感じる…」

二人はビルの屋上からそれを見ていた。

 

「…キミっておしゃれな人なんだ」と結城はシンを見て言った。

「少しでも話ってやつが面白くなればなって」

「花言葉をよく知っていたね」

 

「花屋さんに教えてもらった。黒髪の綺麗な顔立ちの男性だった。

実はこのプランもさっき思いついた。」

「え?」と結城は驚いた表情で言う。

「気まぐれなんだね。」と結城は皆が路地裏から出て行くのを屋上から見送り、自分の手に持っている『フジバカマ』を見てシンに尋ねる。

 

 

「キミは…あるのかな?『あの日を思い出す』ことは?」

「…無いと言えば嘘になるな。ある。ただ、思えば思うほど…締め付けられるような感覚になる。だから、思うことをやめた。ひどく虚しくなるだけだ。」とシンは屈伸をして、構える。

「…また、飛び降りるの?」

「慣れたほうがいい」

 

そういうと、シンは飛び降りた。

「"慣れ"か」というと、結城も飛び降りた。

 

着地した瞬間、じーんと足が痺れる感覚になった。

 

「…痛い」

「慣れだ」とシンと結城は夜の街に消えた。

 

 

 

ホテルにて…

 

大きなベットに二人はそれぞれ、寝ていた。

 

「一日ごとに何か起こすの?」

「それが良いだろう。彼らも忙しいだろうしな」とシンはベットに横になり、言う。

「…そうだね」と結城は天井を見上げた。

 

 

「やっぱり、今日の彼らを見てて…守れてよかったって思った。

みんな、それぞれの未来が出来てて。

でも、だからこそ…どうして僕だったのかなって気持ちがある…」

 

「…俺もそうだった。どうして俺が人修羅に選ばれたのか。

俺の場合、だが、意味なんてなかった。役目を終え、王になった今でもわからない。

ただ、お前は違う。」

「?」

 

 

「それが俺とお前の違いかもな」

シンはそれだけ言うと、横を向いてしまった。

 

 

そして、結城には分かった。

自分と彼の違い。

それは"命の答え"。

 

生きることは死ぬことだ。

故に、Nyxを倒すことはできない。

それは生きることを否定することになってしまう。

だから、結城はそれを防ぐことしかできなかった。

 

だが、シンは違った。

自らが望めば、変わらない日常を望めたはずだ。だが、シンは修羅の道を選んだ。

何故?

 

 

そして、結城は気付く。

だから、彼はこの花を選んだのかもしれない。

 

「フジバカマ…『躊躇』」

そう呟くと、横を向き飾ってあるフジバカマの花を見た。

そこには美しく、そして淡いピンク色の花々。

 

だか、それを照らす照明で花を乗せている机の表面に影が濃く現れていた。

 

 

結城には、それが酷く寂しそうに見えた。

 

 

 

 

 




「世の中クソだな!」ってことがあって、「あ、これ更新しよ」と思いました。
それの割には…なんか、普通だなって思いました。
あとP4U2との整合性とか少し考え始めてて。
一応、というか、あれも公式なんで、何となく、意識して書きたいなあとか思ってます。
(けど、既に欠陥がある。それは、真田が日本に居ること…P4Uだとここ何年か居ないみたいな話だった気がする…)

そして、P4U2を買ったら、お金がなくなる…

ペルソナ2のあの演出が良くて使ってみました。
ペルソナ3の面々の口調とかおかしかったら、申し訳ないです。


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第30話 Salvia Splendens

きっと、私は夢を見ている。

不思議なことですね…機械が夢を見るなんて…でも…でも、

これは…電気羊ではないのですね。

 

 

なら…これは…夢ではないのですね…

 

 

アイギスはポートアイランドを歩き回っていた。

それはやはり、彼が居ると思うと、落ち着かなかった。

あの日から時の狭間事件以降は眠れるが、頭からは消えなかった。

 

彼の最後の微笑みがどうしても、時々思い出される。

 

それを払拭する為に、今日は久々に訪れた巌戸台駅へと来ていた。

 

駅に降り立つと、学生町独特の喧騒がそこにはあった。

 

(…あなたはまだこの町に居るんでしょうか…)

そう思うと、パピヨンハートが震える。

そんなことを考えながら、階段を降りていた。

 

 

 

「ありがとうございました」とシンは花屋から出てきた。

「今日は何の花?」

「『サルビア』」

「意味は?」と結城が話しながら階段を登ろうと上を見た。

 

「「あ」」と結城とシンはやってしまったと言った顔で少女を見た。

少女は茫然と、二人を見ていた。

 

「…」

「この人工島は狭いから…予想はしていたが…どうするかは君に任せる」

シンは結城に言うと、結城はうなずいた。

 

「…おかえりなさい…であります…」

金髪の少女は目に涙を浮かべながら、笑っていた。

 

「…ただいま」

青髪の少年は少し微笑むと少女は階段を走って降りてきて、そのまま結城に抱き着いた。

 

「それと…ごめん」

 

結城はシンを見る。シンは察したのかアイギスの前に手を翳し

『ドルミナー』を唱えた。

すると、アイギスは力が抜けすーっと目を閉じた。

 

 

 

 

「…ア…ス…アイギス!」

「!?」とアイギスは声に驚き、飛び起きた。

そして、気が付くと懐かしい巌戸台分寮のソファに寝ていた。

 

「大丈夫なの?アイギス」

「どうして…私はここに?」とアイギスは目の前に居た風花に尋ねた。

「実はね…その、ここでシャドウの反応があったの。それで、アイギスの携帯に連絡したんだけど、出ないからとりあえずみんなで来たら、アイギスがここに寝ていたの」

 

「そうだぜ?アイちゃん…俺たちもびっくりしたぜ?」

「だって、朝にシャドウだもんね…」

「朝からシャドウって…どういうことなんですかね?」と伊織や岳羽、天田が首をかしげる。

 

アイギスは何が起きたのか思い出し、立ち上がろうとしたがふらっとめまいがした。

 

「あ、危ないよ!」

「どうやら、睡眠の魔法を掛けられたようだな」と美鶴は冷静に解説する。

「か、彼が居たんです!巌戸台駅に」

 

「ああ、知っている。カメラに映っていた」と真田は言った。

「お前が隣の少年に魔法を掛けられた。それ以降はカメラの映像が映っていなかった…」

 

と、話していると美鶴の携帯がなり、人の少ない方へと向かった。

 

「それでね、アイギス。この花の花言葉ってわかるかな?」

風花は赤い花をアイギスの前に出した。

 

「…サルビア…『良い家庭』『家族愛』『家庭の徳』『燃ゆる想い』『知恵』『エネルギー』『全て良し』…などです」

「家庭?…なんか、前回のとは違うっちゃ違うよな。」と伊織は首をかしげた。

「しかし、燃ゆる想い…熱いな…結城」と真田はぐっと嬉しそうな顔をした。

 

「…あれ?でも、確か、赤はもう一つ意味がありせんでしたっけ?」と天田は思い出したように言う。

「『あなたの事ばかりを想う』だ」と桐条が電話を終え、ソファに合流した。

 

「…それが9本…それぞれに…なんだか…嬉しいですね…」と風花は泪を流す。

「あいつってこんなロマンチストだったけか?」

「さあ?実際、あいつは部屋は生活感がなかったからな」と真田は答えた。

 

「それで、隣のやつの正体がやっとつかめた。」と桐条は桐条グループの作った小型プロジェクターで壁に移す。

 

「間薙シン。数か月前まで都立の高校に通っており、今は八十神高校に通っている。」

「やそ…がみ?どこだそれは」と真田は首をかしげた。

「いわゆる、田舎だ。」

「?でも、なんでそんなに特定に時間がかかったんですか?」と天田は美鶴に尋ねる。

 

 

「ここからが電子情報に無い話だ。先ほど、連絡があった。

その彼の戸籍情報を取得したが…親の名前が存在しなかった。」

「ど、どういうことなんすか?」と伊織はごくりと唾をのみこんだ。

 

 

「つまり、彼の親が存在しないということだ。」

 

 

 

「…」と皆、意味が分からず黙ってしまった。

「そして…間薙という名前は珍しい。そして、彼の通っていた辺りを考えると、東京に絞り、間薙という名前をあたったが、皆、間薙シンという子供はいないということだ。」

「あまりにも謎が多いですね」とゆかりはため息を吐いた。

 

「…ここからは憶測の域だ。恐らく、シャドウというのは彼だ」

「美鶴にしては大胆な推測だな」と真田は美鶴を見た。

「事実、結城と共に行動をし、そして、魔法を使った辺りシャドウであることは間違いないだろう。ペルソナの召喚も見受けられなかった。殆ど、確定だと私は思う」

「そんで、どうしますか?これから」と伊織は美鶴に尋ねる。

「…次は恐らく、あそこだろう。」

「あそこ?」と風花が首をかしげた。

「月光館学園だ」

 

 

 

 

夕方…

「次は恐らく、彼らは月光館学園に来ると思うだろう」

「うん、僕と彼らのゆかりの地だからね」と結城はUFOキャッチャーをしながらシンに言う。

「その期待に応えてあげようか。」とシンは腕を組んだ。

 

「…それでさ…僕の体っていつまでもつのかな」

「…」シンは答えずに結城の隣にある台でUFOキャッチャーを始めた。

 

「実は君も名残惜しかったりするのかな?」

「…」

シンは首を傾げると、アームを降ろした。

 

 

 

 

 

 

「懐かしいですね、月光館学園」と風花の言葉に皆が頷いた。

「そうだなー俺は、初等部の校庭とか借りて野球しに来てたからそうでもないっつーか」

「…あんたって、ホント空気読めないのね」とゆかりは相変わらず、順平に突っ込んだ。

 

「そろそろ、0時ですね」と天田の言葉に皆が構えた。

 

そして、0時を迎えた。

その瞬間に電撃の音が鳴り響き、思わず皆が目をつぶった。

 

「どうも、こんにちは」

そこには目が金色に光る少年が居た。

 

 

「お前が…間薙シンか」と真田は構えた。

「ええ、そうです。そして、彼が皆が知っている」

「…」と結城は黙ったまま、剣を構えた。

 

その行動に皆が驚いた。

「な、なんで、なんででありますか?」とアイギスが一番取り乱す。

だが、結城は答えることなく、召喚をする。

それは皆が久しぶりに見た、『オルフェウス』であった。

 

オルフェウスは琴を柄を持つと、皆に殴りかかった。

 

「あぶね!」と皆は散らばり避ける。

 

「…本気のようだな」と美鶴は召喚器を構えた。

「こい!『アルテミシア』!」

 

桐条がブフダインを唱え、結城ではなくシンの方を攻撃する。

だが、

「!?」と皆が驚いた。

それはブフダインがそのまま皆の方へと飛んできたのである。

再び皆は回避する。

 

『うそ…あのシャドウ…弱点がありません!』

「な、なんだよそれ!」と順平はシンを見た。

 

「嘗て、とある学生がこう言った。『大なる悲觀は大なる樂觀に一致する』と」

「楽観せよ。死を。恐怖を」シンは手を天田に翳す。

 

 

『うそぶき』

 

 

『!?相手の攻撃来ます!』と風花が皆に言うと、怪しいせん光が天田を包み込んだ。

「天田!」と真田が天田に声を掛ける。

「くっ。大丈夫です」

『どうやら、相手は回復したようです』

 

「クソッ!来い!カエサル」と真田はカエサルを召喚しジオダインを放つが、そのまま返ってくる。

「クソ…どうすればいい」

 

 

「何故の生、何故の死。摂理と理解せど、我々は胸が締め付けられる」

『マグマ・アクシス』

「炎か!俺とコロマルだ!」と伊織とコロマルが前に出て、皆を守る体制に入った。

シンは両手の掌に炎を出現させた後に、前方に向けて腕を突き出し巨大な火炎を迸らせた。

 

「うぉ!!!」「ワンッ!」と伊織とコロマルは吹き飛ばされた。

「うっそ!物理もあったの!?」とゆかりは慌てて回復をする。

「す、すまねぇなゆかりっち…」と伊織は立ち上がろうとするが、ふらつく。

コロマルは気絶してしまったようだ。

 

「ペルソナ、レイズアップ!」とアイギスはアテナを召喚し、ゴットハンドを唱えるが。

『鬼神楽』

それと同時にシンは身を後ろに反らしながら深く息を吸い、顔の前に紫色の光芒で構成された繭状の塊を相手に吐き出した。

 

それにより相殺された。

 

「召喚シークエンス!」と再びアイギスは技を出そうとするが、シンは先に動いていた。

『シナイの神火』

 

シンの手からまるでレーザーの如く出た赤い光は火柱を上げ、皆を襲った。

 

「つ、強いであります…」とアイギスはその一撃で煙を上げる。

「グハッ!」

「くそっ!」と皆は倒れた。

 

 

「色即是空、空即是色。全ては闇から…」

『初めは闇ありき』

 

シンは手を前にかざすと、辺りが一気に暗くなった。

 

風花は思わず目をつぶった。

そして、目を開いた時にはすでに皆が倒れていた。

 

「…空なり」

結城は構えを解く。

シンはパーカーのポケットから、黒く光るものを取り出した。

 

そして、美鶴の前に来る。

その黒光りするほど、綺麗に磨き上げられられ、セフティーも付いていた。

見間違えることはない。銃だ。

 

「享受せよ。死を」と美鶴の頭に向ける。

引き金に指を掛ける。

「くっ…こんなところで…」

 

「先輩!」とゆかりは手を伸ばすが届かない。

 

 

 

「眠れ。安らかに」

そういうと、シンは引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひやっ!」

美鶴の情けない声が校門前に響いた。

皆、茫然とシンを見ていた。

 

「…ぶっ…ハハハハ」と結城は笑い始めた。

「…」シンはニヤァとドSな顔で美鶴を見ていた。

 

「え?なに?…それ…」とゆかりは驚いた表情で、美鶴を見ると、髪が水を掛けられたように濡れていた。

 

 

「…そ、それは…水鉄砲だよ。キンキンに冷えた冷水だけど…」と結城はお腹を抱えながら、笑う。

「結城がどっきりとしたいと言っていた。」と再び、麻痺状態の美鶴に何度も引き金を引き、水鉄砲を掛ける。

 

 

「…ゆうきぃいいいいいいいいいい!!!」と美鶴は顔を赤くし、結城を睨み付けた。

 

 

その後、痺れが解けた美鶴は結城とシンにブフダインを連発する。

結城は慌てて逃げ回る。シンには効くはずもなく、すべて、他の皆にブフダインが飛んでいくので、辺りはひっちゃかめちゃかになった。

 

やっと、美鶴のSPが切れ落ち着いたところでシンは口を開いた。

 

 

「初めまして」とシンは挨拶をする。

「…シャドウではないのか?リョージの一件があるからな…」と伊織はジロジロとシンを見る。

「…おいで、ヒーホー」と手を上にかざすと、先ほどと同じ雷撃音がする。

 

「ヒホー!およびだホ?」とヒーホーが現れた。

「これはなんだ。」と真田はヒーホーを見て、言った。

「『悪魔』」

「悪魔ァ!?」とゆかりは少し怯えた表情でヒーホーを見た。

「少し、説明しますよ。ここに何故、彼がいるのか。俺が何者か…」

 

 

シンは何故、結城を連れてきたのかを話した。

 

 

 

「だが、どうやって結城の魂を封印から引きはがしたんだ?」と美鶴はシンに尋ねる。

「考えればすぐにわかります。彼が封じる以前に誰が、あの門を閉じていたのか。」

「…我々の、生きたいという意志か?」

 

「そう。だが、様々な要因で門が開きかけた、だから僕が魂を掛けて門を封じた。

結果的に、僕の体は抜け殻となり、卒業式に死を迎えた。」と結城が自ら話す。

 

「…しかし、君はなんだ?」と美鶴はシンを見た。

その顔には青く発光する刺青と金色に光る瞳である。

「さぁ?」と言うと、シンは結城を見た。

「…どうでもいい」

 

「まったく…お前は…」

「…結城さん!」と黙っていたアイギスが結城の前に来た。

「アイギス…」と結城がアイギスの方を見た瞬間、パシンとビンタをされた。

 

 

「いつまで…またせるでありますか?」

「…ごめん」と結城はアイギスに頭を下げる。

「もう会えないと思っていました…もう話せないと思ってました…」とアイギスは再び涙を流し始めた。

「…ごめん」

 

 

 

「…おかえりなさい」とアイギスは再び泣きながら笑みを浮かべた。

「…ただいま」

 

それを見た全員が笑顔で結城に駆け寄った。

 

 

 

 

シンはただそれを茫然と眺めていた。

限りある時間だと分かりながら、結城は笑っている。

終わることのない戦いが待っているシンにとって、今いち理解できずに空を見上げた。

 

そして、帰るべき場所がないことがシンの何かにグサリと突き刺さった。

 

(…これが悲しい…だったか?寂しい?…どれだったか)

 

「それにしても、あのセリフはなに?」

「なんか、それっぽい方がいいと思った。」

「…そうなんだ」とシンの言葉に結城は少し微笑んだ。

 

「それで…間薙シン」と美鶴はシンの方を向き言った。

 

「お前はシャドウか?」

 

「俺は…混沌王と名乗っている。先ほども言ったけど、俺は半身悪魔。でも、きっともう悪魔だ」

未だに怪しく光る眼光は鋭く、歴戦の彼らでなければ飲み込まれてしまうほどの闇。

 

「…なかなか、良い目をしてるな」

「手抜いてたよね?シン君」と結城はシンに向かって言った。

「…当たり前。1割も出してない。」

「な、!?本当か!」と真田は驚いた表情で風花を見る。

 

「た、たぶんそうです。彼の体から、もっと大きな力を感じました…」

「…積もる話もあるけど、とりあえず、ホテルへ行きましょう。」と結城が言う。

それに同意するように皆が頷いた。

 

「…ってか、この地面…どうするんだ?」と抉れた地面を順平が見て言った。

「直しておくさ」とシンは適当に言い、レンタルバイクに跨った。

 

美鶴のよこした車の中で皆は話していた。

「…なんか、彼。悲しそうな眼をしてたね」と風花はバイクで並走するシンを見て言った。

「そうか?鋭い眼光で、いい顔つきだった…本気の素手の戦いをしてみたいものだな」

「…そうだね…なんていうかさ、昔のキミに似てた」

 

「僕?」と結城は自分を指差した。

「お前より、もっと雰囲気は刺々しいけどな」

結城は腕を組んで考える。そして、口を開く。

 

 

 

「たぶん、似てる。僕と彼は…たぶん、絶望してるんだ。天田にはわかるだろ?」

「…そうですね…昔の僕もそうでしたから」

「でもよ、あいつ…いいやつだぜ?きっと」と順平は頭の後ろで手を組んで椅子に寄り掛かった。

 

「なんでわかんのよ」とゆかりは順平に言う。

「勘だよ。勘。おれっちの勘は意外と当たるんだぜ?」

「そうだな。500円落としたやつが言ってるんだ。当たるかもしれんぞ?」と真田は伊織に言った。

「ちょ!ちょっとしたトラウマ思い出させないでくださいよ!」

 

順平のツッコミにみんなが笑った。

 

 

 

 




ちょっとネタ不足でこの先は書けてないです。
基本、次のが半分くらいかけたら、投稿するようにしてるんですが、今回はあまり何も考えずに投稿しました。
でも、そのうち掛けると思うのでまったり待っていただいてください。


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第31話 Da Dove Viene?

死は負のイメージがある。

だが、旅立ちと捉える人もいる。

 

それが良いか悪いか、そんな宗教的なことは置いておこう。

 

彼の死はある意味で旅立ち、或いは、種を蒔いた。

やがて終わる世界の延命をしたに過ぎない。

 

終わることが、終わったとき…

俺は死んでいるのだろうか。

 

 

 

「…死ぬ?終わるのか?何が…全てが?どうやって?…終わる…何が…」

 

 

「俺が…終わる」

 

 

シンはバイクに乗りながらそう口に出す。

だが、答える人物はおらず、ただ、信号が青になっただけであった。

 

 

 

 

 

 

「まさに"灯台もと暗し"か」

「うひょーひれぇ!!!」と伊織はシンと結城が泊まっている部屋に入って驚いた。

そして何より、このホテル自体が緊張に包まれていた。

それは考える必要もない。社長直々に突然来たのだ。

 

それはもう…とんでもなく、従業員は緊張していた。

 

「でも、高校生がこんなとこ泊まるって・・・」

「お金はあるんで大丈夫です」とシンは言った。

「羨ましいぜ、少年」と伊織はため息を吐いた。

 

 

 

「どのくらい、結城は持つのだ?」と美鶴はシンに尋ねた。

「・・・そうだね。俺も詳しくは知らない。けど、それほど長くはないだろう」

それを聞いた皆は少し、残念そうな顔をした。

シンは首は傾げた。

「現実は残酷だ。君たちがそれを理解していないとは思えない」

シンはあの一年間を聞いた。

 

影時間が出来た理由。それぞれの過去。すべてを。

 

「ええ、私たちはもう迷っていません。」

「それに今更だぜ?色々と面倒があるだろうしな」と順平は結城に言った。

「ひどいなぁ」

「そ、そうだよ順平君」

 

「しかし、これで俺もまたのんびりと出来る」とシンはステーキにフォークを刺した。

「…しかし、八十稲羽に何があるんだ?」

「何にもありませんよ。もっとも、あちらも面白い事が起きていますがね」

「そうか」

「では、みなさん、俺は帰ります。」とシンはステーキを一口で頬張り、椅子から立ちあがった。

 

 

「え?もっとゆっくりしていけばいいのに…」と風花はシンに言った。

「此れでも王なんで、忙しいので。」

「間薙君」と結城は椅子から立ち上がった。

「なんだ?」

 

 

 

「…また連れてきて。王様」

「…まだ終わっていないのだから楽しめばいい。後、今日までのホテル代は払っておく。あとは何とかしてもらうなり、何なりするが良い。」

「丸投げかよ!」と順平は突っ込んだ。

 

「ああ、あと、これは貰っていくよ。結城理」

そういうと、シンは手に何かを握りしめ部屋を出て行った。

 

 

「というか、結局の所、結城さんはいつまでいられるのでしょうか」

「さぁ?あの人もわからないと言ってましたから、どうしようも無い気がします」とアイギスの疑問に天田が答えた。

 

「…どうでもいい」

「うわ…でたよ、どうでもいい。お前のジュミョウの事なんだぜ?」

「自分で分かるよそれくらい」

「え?だってさっきは…」とゆかりは驚いた顔で結城を見た。

 

結城は一瞬、ハッと閃いた顔をして、そして微笑んだ。

 

「…彼は口下手だな」と結城は呟いた。

「自分で伝えろって意味だったんだ…」

「ん?どういう意味だ?結城」と美鶴は結城に尋ねた。

 

 

 

「僕はね、たぶん、夏の終わりくらいまでだと思う」

 

 

 

 

その後、夏の間様々な場所で彼が見かけられた。

野球の試合で応援する彼、ヒーローショウに現れる彼、大学のボクシング部で戦う彼、ゲームセンターで中学生と格ゲーをする彼、浴衣の美人たちや中学生と居る彼。

ラボに居る彼。

 

そんな彼は夏の終わりに居なくなった。

だが、周りに居た彼らは特に変わらず生活をしている。

 

それは恐らく…記憶が消えているからだ。

 

でも、それは彼が望んだこと。

シン様に見張りを頼まれて、最後の最後に私に願った。

「彼らの記憶を書き換えてほしい」と。

 

だから、私を置いたのかとシン様の先見の目は相変わらずだと痛く感服した。

 

なら、それに答えるだけである。

 

だが、彼らの顔は前よりも明るく笑っているような気がする。

 

私はそう思うのだ。

 

 

PS:私は女神転生本編に出たい。

こんなチンケな二次創作じゃなくて、私もアギダインとか使いたい!(切実)

ムネモシュネ

 

「…恐らく無いホー」

「あら、奇遇ねライホー。私もそう思った所よ」とピクシーは報告書を読み終わると、苛烈なアギダインで燃やした。

「さ、行くわよ。あんたの初仕事」

 

 

 

 

時は戻り、八十稲羽駅へと向かうシン。

 

「…何かわかったか?」とルイは電車に揺られながら、尋ねた。

「ああ、恐らく。今回の事件とは無関係だ。」

「だろうな。シャドウの存在意義そのものが違った訳だ。」

「それに、テレビの世界に説明がつかない。バラバラに散らばった、大型シャドウも居なければ、影時間もない。無関係極まりないな」

「ただ、どうだ?与太話としては面白かったのではないか?」

 

 

「そうだな」とシンは笑みを浮かべた。

 

 

「そっちは?変わりないか?」

「ああ、変わりない」

「そうか」とシンは欠伸をした。

 

 

 

 

 

「この世界は変わらぬな・・・」とオベリスクに居る、ヴィシュヌはそう言った。

太陽神であるヴィシュヌがボルテクス界に光をもたらしている。

だが、太陽と言うにはあまりにも黒い太陽だ。

 

「調子はどうですか?」とクーフーリンが来た。

 

「変わらぬ。それにシンが寄越した部下が優秀で助かる」

「在り難き言葉。それに私の部下達が優秀なのです」とトールは頭を垂れた。

「ハハッ。見よ、この謙虚さを、我はこういう輩は好きだぞ?」

 

「それはよかったです。トール殿あやつらは来ますか?」とクーフーリンは言う。

「ああ、無論だ。だが、先ほども言ったように、ビシャモンテンが上手く守護している。

流石は四天王と称すべきだ」

「はい。了解しました」

 

 

 

「あのクマとか言ったかしら?可愛かったわ」

「そうですか?私には謎の生物極まりなかったですが」

「ああいうのが、おばさんの受けを狙うのよ」

ギンザのママ(ニュクス)にクーフーリンは状況を聞きに来ていた。

 

「ギンザは少し荒れてるみたい。」

「やはり、シジマの勢力が居ますか?」

「ええ…でも、思い出すわね。彼が創世したとき、一瞬だけど、この世界が消えてしまったときのこと」とニュクスは言う。

「・・・」

「でも、まるで電気が付いたようにまた私はここに居た。それに悪魔全員が全員、"カオス"になっているというわけでもないことにも驚いたわ」とニュクスは言う。

 

 

「カオスってやつは混沌と思われがちだが、実はあるいみ自然的状態なのかもしれんぞ?」

とカウンターで飲んでいたロキはクーフーリンに言った。

「自然的状態?」

「ああ、そうだな…例えるなら、待機状態、つまり待ってるのさ」

「待っている?」

 

 

 

 

「世界の始まりをさ」

 

 

 

 

 

 

「ロウの連中は相変わらず、骨無しばっかりだぜ。」

「そうだな。淫猥な野郎も居やがったしな。ハハハハハハッ」とオニたちが笑っていると、そこへイケブクロを治めるオンギョウギが来た。

 

「「おつかれさまです!」」

 

「うむ、ご苦労だったな。今回の討伐も酷く簡単であったな!」

「ええ、そうですぜ。」とオニたちは笑っていた。

 

 

「どうですか?イケブクロは」とそこへクーフーリンが来た。

「おー!来たかクーフーリンよ。順調だ。ロウの奴をつぶしてきたばかりだ」

「そうですか。仲間割れはご法度ですよ?それはご存じですよね?」

「ああ!もちろんだ」

「ただ、やっぱりオレには理解できんのですよ」と一匹のオニがクーフーリンが言った。

 

「いや、確かにあいつを倒すためにはもっと数が必要なのは分かりますけど、だからってそれを仲間とかにするってのはどうなのかなって」

「・・・わかっとらんな。だからこそだ」とオンギョウギはオニに向かって言った。

 

 

「この今のボルテクス界でムスビだぁ、シジマだぁなんてのは本当にごくわずかしかいねぇ。何れ、やつらも鞍替えするだろう。あの見たこともねぇ、"大いなる意志"ってやつのほうか、カオスの"ルシファー"かってな。

だから、わざわざ数を減らす必要なんてねぇってことだろ?」

「はあ。でも実際、残党のせいで未だにナイトメアシステムのあったニヒロ機構や神殿は危なっかしいですぜ?」

 

 

「その為の私です」とクーフーリンは言った。

 

 

「命が出ました。掃討命令です」

「「「うぉおおおおおお!!!」」」

 

 

 

 

「ヒホー。よわっちーんだホー」とライホーはグルグルと腕を回し、相手をなぐりつけた。

「つ、つよいぞ。こい…」と言い掛けたところで『絶対零度』でエリゴールは氷漬けにされた。

 

「クールでほっとなライホーだほ!!」

「て、撤退だ!」とべリスなどが奥に逃げていくが、ライホーの後ろからたくさんの悪魔がなだれ込んできた。

 

 

「…ふん。所詮は残党だ」とバアルは相手の躯を踏みつけ、消し飛ばした。

「しかし、いまさら、掃討か…なぜだ?」と隣に居たピクシーに尋ねた。

「そうね。流石に数が増えてきたみたい。ここのシジマ勢もムスビも間引きしない。別に毎度してることだわ」とピクシーは退屈そうに言った。

 

「実に退屈だ」とバアルはワインを傾けた。

「…あいつがいれば、きっと退屈しないわ」

「ふん。違いないな」とバアルは頬を釣り上げた。

 

 

 

 

俺にとって命はなんだ。

そう考えたとき、昔のように尊いであるとか、重いなどという発想は完全に薄れている。

 

自分以外の命を考えたとき、あの世界では恐らく自らの死に直結する。

 

少しでも敵に情を持つべきではない。

敵は敵。そして、少しでもこちらに寄るつもりがあるなら、試してみる価値はあるが。

 

失敗すれば後は殺されるだけ。

 

そんな世界で生きてくると、この平和な世界が違った見え方をする。

街灯の光さえ、酷く明るく見える。

夜の闇もまたまだまだ明るい部類だ。

 

あの世界に居たからこそ、見える景色がある。

感覚がある。

 

それが、なんだと言われればそれまでだが、結城たちを見ていて少し…何かモヤモヤとした感情がある。

 

「”仲間”…か。」

俺は思わず呟き駅に降り立つ。

そして、新鮮な空気を吸い込んだ。

 

この電車が終電なのか、降りる人は俺以外誰もいない。

静寂に包まれている、八十稲羽駅。

ここに初めて降りたったとき、俺は何かを期待していた。

 

そして、その期待を上回る事件が起きた。

 

恐らく、傲慢なルイには複数の目的があるはずだ。

 

 

それは、恐らくこの世界には何かいる。

 

 

それが、マヨナカテレビを作った。

理由などに興味はない。どうせ、驕ったやつだ。

相手によっては評価してやらんこともない。

ただ、ルイは怒っていることは確かだ。

俺が殺さなくても、ルイに消されるだろうな。

 

見つかり次第にな。

 

「存外、そんなに大したやつではないかもしれんぞ?」

とニャルラトホテプがシンの影を使い、黒い影が形作られ、”シン”が現れた。

 

「それなら、それで、構いやしない。

気の赴くままに、足を進めるだけだ」

「…それが、良い。どうせ、驕ったクズだ。」

「奇遇だな同じことを考えていたよ」

「私ならもっと、残酷な選択を迫る…

嘗て、”周防達哉”にしたようにな」とニャルラトホテプは違う世界の話を思い浮かべて、皮肉そうに笑みを浮かべた。

 

 

「…聞くか?その話。」

「いや。この問題が終わってからでいい。」

「なんだ、いいのか…結構面白いんだがな。」

 

 

「これが終わったら、また退屈になるからな。」

 

 

その言葉にニャルラトホテプは声を出して不気味な声を上げ、笑った。

「違いないな」

 

 

 

 

 

 

 




P4GAが始まりましたね。
今回の鳴上は明らかに二週目だなって思いました。

さて、一応p3の話はこれにて幕引きです。
「え?は?つまんな!」とか思うかもしれませんが、心の内に閉じこめておいて下さい。

そして、今回はすこしだけボルテクス界のその後みたいのを書きました。
フラグも書いたんで、すぐにでも回収するつもりです。


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暑い暑い『葉月』
第32話 Savior 8月12日(金) 天気:雨


「よう…シン」と花村が一番にシンの家へ来ていた。

「…なんだ、雨の日に」

「その、なんだ。出かけようぜ」と頭を掻いて花村はシンを誘った。

 

シンは花村の隣を見ると、二年組が傘を差していた。

 

「…構わない」

シンはそういうと、メリーにアイコンタクトをすると、メリーは「行ってらっしゃいませ」と綺麗なお辞儀をしてシンを見送った。

 

シンの恰好は明らかに暑い。

だが、当の本人は汗をかくことなく、パーカーを着ているために。

誰も突っ込まなかった。

 

「辰巳ポートアイランドに何をしに行ってたんだ?」

「…暇つぶし」とシンは傘を差してアパートから出た。

 

「まあ、確かに事件は一応、犯人が捕まったしな。ただ、やっぱりシンの思惑っていうか…疑念?みたいのは確かに引っ掛かるよな」と花村は言った。

「私たちも少し考えてたの、世間はニュースなんかではもう終わりって雰囲気だったし、警察も終幕の雰囲気みたい。」と天城が言った。

「そうだね…確かにモロキンだけの事件が証拠が出てくるっておかしいと思う」

 

「…模倣犯か…」と鳴上は呟くように口から出した。

 

「でさ、話変わるけど、今日あたり、とりあえずお疲れってことで鳴上の家でお疲れ会的なことをやろうって話をしてたんだけど、お前は辰巳ポートアイランド行っちまうしで、出来なかったんだわ」

「それは悪かったな」

「いや、まあ、堂島さんはいないみたいだしな今日は」と花村は鳴上を見る。

「難航しているみたいだ。立件が。」と鳴上はため息を吐いた。

「でも、それのお陰というか、それのせいで今日のパーティーが出来る訳だし」

千枝は嬉しそうに答えた。

 

「そんで、もうりせとか完二はジュネスに向かってて、クマは…一応バイトしてっけど…やべぇ…心配になってきたわ」と花村は言うと「わりぃ!先行くわ!!」と花村は走ってジュネスへ向かった。

 

「世話係も大変だ。」

「…シンも大変だと思う」と鳴上はシンに言った。

「…大変?お前の方が大変だと思うぞ?

皆の武器を買い、学徒保育から夜の病院までアルバイトをしているじゃないか。」

「え!?そんなバイトしてたの!」と千枝は驚いた顔で鳴上をみた。

 

「慣れてる。シンもやるか?折り鶴。」

「やらん。どうして、よりによって折り紙だ。」

「集中力が高まるぞ?」とどこからともなく折り紙を取り出した。

「やらん」とシンは『逃走加速』で物凄い勢いで走り始めた。

 

「は、はや!」

「レアシャドウより速いかも」と女性陣はそんな感想を言っているなか、鳴上はレアシャドウという言葉に反応して、シンを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

「なんで、疲れてんだ?相棒」

「だ、大丈夫。」

 

>鳴上の根性が上がった!

 

鳴上は息を切らしながら、ジュネスへと来ていた。

シンは辺りを見渡した。

 

「りせや天城、里中は?」

「あー、その、菜々子ちゃんが、オムライスを食べたいって言ってたんスよ。そんで、何故か先輩達は勝負するみたいな話になって…」

「…鳴上もやるのだろ?」

「そうでなきゃ、ただの死刑執行だぜ…」と花村はため息をはいた。

 

「俺もやろう」とシンは言う。

「間薙先輩、料理出きるんスか?」

「…人並みに」

「だ、大丈夫だよな…お前みたいなタイプが意外と核弾頭とかってないよな…」

「任せろ」

そういうとシンは頷いた。

 

「鳴上はどんなオムライスにするんだ?」

「スタンダードなやつでいい」

「手伝います!センパイ!」

 

「間薙先輩はどうするんスか?」

「俺もそれでいい。」

「うっス!」

完二は言われた食材を取りに行った。

 

 

 

 

 

 

夜。

堂島家では、料理大会が行われていた。

女性陣はすぐに作り始めた。鳴上もそれに混ざるような形で料理をする。

 

シンは最後に作るということで、テレビのある居間で菜々子やクマ、花村、完二と話していた。

だか、菜々子はシンが少し怖いのか、チラチラとシンを見るだけであった。

シンはどこからともなく、短めのペンを取り出した。そして、菜々子に見せるように自分の顔の前に両手で、もった。

 

菜々子がそれを見ていると、左手にペンを隠しふっと、息を吹きかけた。

 

「すごい!!」と菜々子は驚いた表情でシンをみた。

 

その手からペンは跡形もなく、消えていた。

「はーすごいっすね、センパイ器用なんスね」

「どこまで、すげぇんだよ。お前」

「すごい!すごい!もう一回やって!」と菜々子は嬉しそうにシンの手品を見ていた。

 

料理という、死刑執行猶予時間は未だに終わらない。

 

「ねーねー、すごいよね!ホンモノのりせちゃんだよ!?」と菜々子は嬉しそうにりせを見てクマに言った。

 

「…クマ…そろそろ"あっち"に帰らないといけないな…」

「どこかに、帰っちゃうの?」

「うん…」

「ふうん…やくそくかぁ。じゃあ、菜々子とやくそくしたら、帰らなくていいの?」

「ナナチャンと…約束?」とクマは菜々子を見た。

「んっと…あそんでもらうやくそく。だめ?」

 

「…っつーか、何を言ってるだよクマ。まだ終わってねーかもしれないだぜ?」と花村はクマに言った。

「それに勝手に職場放棄すんな。大体、お前が居なくなったら…」

「でーきたーっ!はーい、ジャマジャマ、先輩!」とりせはオムライスを居間の机に置いた。

 

シンは終わったのを察すると、キッチンへと向かった。

シンはふと、空になったタバスコを見つけた。

そして、運ばれていく、赤いオムライス。

(…そっとしておこう)

 

 

 

 

「どうぞ、召し上がれ!」と皆のオムライスが机に並べられている。

「ま、まー待て。

いきなり菜々子ちゃんに食べてもらうってのは、その…いかがなもんかな。」

そういうと、花村は千枝を見た。

「こ、こっち見んな!」

「あー、毒見役ってことスか。」と完二は納得したようにうなずいた。

「毒見って、ひっどぉーい!

じゃ私のは、まず花村先輩、食べてみて。絶対おいしいんだから!」とりせは赤いオムライスを花村の前に出した。

 

「俺が一番でいいのか?いや実は、ナニゲに期待してんだよ。

そうじゃなくたって、“りせちー”手作りの料理食べるとか、普通絶対ない体験だろ。」

「じゃ、いただきまーす。」

 

そういうと、スプーンを取り、赤いオムライスを口に入れた。

 

 

「う…」

花村の目から涙が出てきた。

 

 

「こ…これは…菜々子ちゃんには…やれないな…」と汗をかきながら、花村は言った。

「やっだ、美味しくて独り占め宣言!?」

 

鳴上もそれを食べると、目が潤んできた。

兎に角、辛い。辛さと熱さで溶岩のようになっており、フォアグラらしい食感など

まったく見当たらない。

そのうち、血の様な鉄の味がしてきた。

鳴上はすぐに察した、これは菜々子にはやれない。

 

 

「じゃあ、次、私のね。」と天城が言った。

「味見は、んじゃ、オレっスね。」と完二はケチャップの掛かっていないオムライスを食べた。

「お、おい、そんな無防備に…

「…」

 

完二は何も言わずに、再びオムライスを含んだ。

 

「ちょ、ちょっと、何か言ってよ。」と天城は不安そうな顔で完二に言った。

「いや…その…なんつんだ…?"不毛な味"っていうか…」

「不毛!?"不毛"って、味に使わないでしょ!?

おいしいの!?どうなの!?」と天城は少し怒った表情で完二に言った。

 

鳴上はそのオムライスを食べた。

…危険物でない…だが…味がない。無味…

確かに不毛だ。

 

「おいしくはないっスね…なんかこう、"おふ"を生でかじったみてえな…

こんだけ色々入ってて、全く味がしねえって、ある意味、才能じゃねえスか?」

「せ、繊細な味が分からないだけよ!」と天城はショックそうにした。

 

菜々子はそれを見て、そのオムライスに手を伸ばし、食べた。

 

「…おいしいよ?」

「な、菜々子ちゃん…!」とパァっと天城の表情が明るくなった。

 

「じゃ、じゃあ、次はあたしので。うー…緊張するなー…

けど、絶対、うまいと思う! 今度こそ!」

「クマがいただきますー。」

そういうと、クマは少し色の黒いオムライスに手を伸ばした。

 

「ど…どう?」

「うん、まずい。ヨースケたちも食べるクマよ、ほれ。」

「自分で"まずい"つっといて、お前…」と花村も手を伸ばし食べた。

「あー…なるほど…」と花村は納得したようにうなずいた。

 

鳴上もそれを口にした。

…まずい。その一言でしか表現できない。何が足りないとか、具材の切り方とかではなく、まずい。それ以上、以下でもない。

 

「や、ほら…でもさ、前のカレーに比べたら格段の進歩じゃん?」

「ふ、普通にまずいってのが、一番キツイから…しかも、慰められた…」

 

菜々子は天城のと同じように千枝のもおいしいと言って食べた。

天城は千枝のを食べると、笑い始めた。

「あー、ほんとだ…ほんとだほんとだ、普通にマズイ、これ!あははははは!」

「じゃあ、りせちゃんの食べてみなよ!絶対あたしのが美味しんだから!」

そういうわれるまま、天城はりせのを食べると、「う…うぼっ…」と言って倒れた。

 

「せ、先輩!?」とりせは慌てた様子で天城を見た。

「一撃だ」と完二が言った。

「ま…天城や里中のもウマくはなかったけどさ…ブッ倒れはしないかな…ハハ…」と花村は言った。

 

するとりせは泣き始めた。

「こっ…子どもには分からない味なんだもん!大人の味なんだもん!

先輩たちが、お子様なんだもん…

私、私…ううぅ…ひっく…うわぁぁん…」

 

菜々子はそれを見ると、りせのを食べた。

 

「ん…!」と一瞬顔をゆがめるも、「からいけど、おいしいよ。」

そう言われると、りせは一転、笑顔で

「菜々子ちゃん…!ねー、そうだよね!

菜々子ちゃんが一番オトナ!」

 

「うっわ、嘘泣きキタ!」

「そう言や、先輩も作ってたっスよね?」

 

「お兄ちゃんの!いただきまーす。」

そういうと、菜々子は鳴上のを食べた。

 

「すっごい、おいしい!こんなオムライス、はじめてたべた!すごい! おいしい!」

菜々子は大喜びのようだ。

 

そこへシンがオムライスを持ってきた。

 

それを見た皆が驚いた表情であった。

 

「…これ、本当に今…作ったのか?」と花村はシンのオムライスを見て言った。

「そうだが…」とシンは机にオムライスを置いた。

「明らかにクオリティーが違う…」とりせはそれを見て思わず口を開いた。

 

そこには黄金に輝いているのではないかと思うほど、黄色いふわふわなたまごが乗っている、オムライスがあった。

そして、それをシンが包丁で切ると、予想通りの半熟なたまごが姿を現した。

 

「わぁ!テレビで見たことある!」と菜々子は物凄い嬉しそうな顔でそれを食べた。

「おいしい!!お兄ちゃんのと同じくらいおいしいよ!!」

「そうか」とシンは淡々と答えた。

 

りせと千枝はそれに手を伸ばした。

「…ふわふわ」「…お、おいしい」とりせは千枝は唖然としたように言った。

 

結局、菜々子は鳴上のを食べ、シンのは男性陣が食べた。

そして…爆弾処理は…悪魔たちがした。

それも舌のおかしい連中に渡すように、ジャックフロストに渡した。

 

渡された連中はおいしそうにそれを食べたそうだ。

 

 

 

 

「いやぁ…本当に、シンが居てよかったぜ」と花村は嬉しそうにシンに言った。

「どうして、そんなにうまいんだ?」鳴上がそれを尋ねた。

「…別に環境でそうなっただけだ」そういうと、シンは少し俯いた。

 

「提案があるんだけど。今度、お祭りあるだろ、商店街のさ。あれ、みんなで行かないか?」

花村がそう言い始めた。

 

「あ、さんせい!」とりせは答えた。

「むほー!ひょっとして浴衣クマか!?」

「おまつり…」と菜々子はつぶやいた。

 

「菜々子ちゃんも一緒にさ。」と花村は菜々子に言った。

「いっしょに、いーの?」と菜々子は鳴上に尋ねた。

「もちろん」

「ほんと!?わーい!!」と菜々子は大喜びした。

 

「決まりだな」

「出店で買うと、大したモンじゃなくてもウマいんスよね、また。」

 

そんな会話をしながら、8月20日にあるお祭りへ行くこととなった。

 

 

 

みんなが帰ったあと、シンと菜々子が居間に居た。

鳴上は皿を洗っていた。

 

 

「今は楽しい?」とシンは菜々子に尋ねた。

「うん!」と菜々子は笑顔で答えた。

 

 

 

特別、俺は料理がうまくなったわけではない。

俺は…家ではいつも一人だった。

親は共働きで、少し変わりものと言われていた俺は勇や千晶、そして先生、以外とはそれほど仲の良い人間はいなかった。

 

…どこかで、俺は無用な人間だと、思い始めた。

だから、あの日も俺は勇に惹かれた。

同じ…においがしたからだ。

 

そして、俺は親に苦労を掛けないようにしようと思って、自分で料理を小学生のころから始めた。

そして、偶々、その時住んでいたマンションの隣の人が有名なコックで、教えてもらったというだけの話。

 

 

 

 

「…大丈夫?」

菜々子にシンが考え事をしているのに心配したようだ。

シンは「大丈夫」と淡々と答えると、立ち上がった。

「じゃあ、そろそろ帰る」

「ああ、また」と鳴上と菜々子はシンを見送った。

 

 

 

 

そして、今日はマヨナカテレビ…

 

誰も映らず。皆がホッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…またか」

 

 

 

 

 

 




やっとこさ、パソコンで投稿できるので嬉しい限りです。
スマホで大分書き溜めた(そうは言っても15000文字くらいですが…)ので、こうしてパソコンで投稿している次第です。
スマホでも出来るんですが、いろいろと確認しながら投稿したいので、やはりパソコンだとおもう次第です。


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第33話 Festival 8月18日(木)~21日(日)

たとえば、こんな世界を思い浮かべてみてください
あなたの周りにいる、霊感の強い人。
その人には確かに見えるらしい。しかしあなたには何も見えない…
みたい気持ちと見えない安堵感そんなものが入り混じっていたりして

でも時には見えたり聞こえたり

あなたにも感じることがあるはずです
そんな時っていうのは、その霊が何かを伝えようとしている時なんですよ。



夏なるといつも、この小さな町は少しだけ騒がしくなったように感じる。

それは事件終結の空気を漂わせているからなのか、あるいは、夏という季節がそうさせているのか…

あるいは怪談話のせいか…

 

幽霊というものが、存在するかしないか。

 

それは陳腐な話題のような気がするが、俺達の死後に関係しているのだとすると、それはそれで面白い話題になるような気がする。

 

世間はそんな事で溢れている。

それの一例が幽霊だと言える。

 

突き詰めれば、面白いものがある。

だというのに、興味のない人間はそれをくだらないと言う人間もいる。

そんなことより、やるべきことがあると言う人間も居る。

 

実につまらない人生だと、俺は批判する。

そんな思考を俺は嫌悪する。

 

 

まぁ、何れにしても、俺は幽霊などにはなれないだろうが…

 

 

 

 

 

 

 

「出た?何が」

「見たんだよ!血まみれの女の人が、歩きまわってるのを!!」

そんな会話がシンの耳には入ってきた。

 

「…ここにもそう言った怪談話があるのか?」

「そうなのか?」

「…なんか、聞いたことある」

 

皆、ジュネスで溜まっていた。

花村のバイト手伝いが終わり、そして、補講組は補講が終わり、天城以外のメンバーがジュネスへと集まっていた。

 

「昔ね、子供を迎えに行っている途中で、交通事故に遭って、子供を迎えに行けなかった母親の霊が彷徨ってるって聞いたことある。」

「へぇ、まあ、ありがちっちゃありがちなのか」と花村は残念そうな顔で椅子の背もたれに寄り掛かった。

 

「ユウレイって何クマ?」

「幽霊っていうのは、死んだ者が成仏できず姿をあらわしたものとか、死者の霊が現れたものなんて言われてる」とシンはクマに説明した。

「クマも恨みを買うと、化けて出てくるかもしれんぞ?」

「うひょー!!」クマは怯えたように声を上げた。

「クマ、純粋すぎ」とりせが言うとみんなが笑った。

 

「なんか、間薙君とか霊感ありそうだよね」と天城は何となくシンに言った。

「…あるかもな」とシンは言った。

「あーなんか、わかるわ…お前が見えてもなんも違和感ない」と花村はシンに言った。

「じゃ、じゃあ見たりとかするの?」と千枝は少しテンション低めにシンに尋ねた。

 

「ある。例えば…鳴上の後ろとか」

 

そう言われた瞬間、皆がびくっとした。

 

「俺か?」と鳴上は少し驚いた表情で言った。

「女の人、いる」

 

「…」

「う、うそだよね…」と千枝は少し鳴上からはなれた。

「…」とシンは鳴上の後ろに目線をやった。

 

「…うひょー!!!」

「うわ!!クマ公!何しやがんだ!!この野郎!」

クマが叫び声を上げ立ち上がると、机にぶつかり、完二にジュースをこぼした。

 

 

 

そんなドタバタがあってかすっかり幽霊の話を皆が忘れていた。

 

 

 

その日の夜、鳴上は酷く体が重く感じた。

家に帰ってもそれは取れず、風呂に入るとすぐに布団へ入った。

 

鳴上は幽霊など見たことはない。

だが、話のせいだろうと思い、特に気にすることはなかった。

 

その日の夜。

 

鳴上はふと夜中に目が覚めた。

だが、体が動かない。いわゆる金縛りだと鳴上はすぐに察した。

そして、階段を登ってくる音がした。

 

その時、窓から入ってきた風を冷たく感じた。

 

すると、自分の足が掴まれている感覚があった。

それが徐々に顔の方へと近づいてくる。

そして、次の瞬間、恐ろしい形相で血まみれの女性の顔が目の前に来た。

あまりの事に流石の鳴上も気を失った。

 

翌日、そんなこともあり、鳴上は疲れた様子で階段を降りると、菜々子が少し泣きそうな顔で部屋から出てきた。

「どうした」と鳴上は心配そうに菜々子に言った。

「あのね…ユウレイ…見たの」

「またか…」と堂島が菜々子の頭を撫でた。

たしかに菜々子にいつもの様な笑顔はなく、起きてくる時間も少しばかり遅かったように感じた。

 

「また?」

 

「ん。ああ、この時期になるとな、菜々子はいつも見るんだっていうんだ。

俺は見た事無いんだがな、いつも菜々子を見てるだけらしいんだ」と堂島は頭をポリポリ掻いた。

 

「…そうか」と鳴上は大きな欠伸をしてしまった。

「ん?お前も疲れてるようだな。」

「大丈夫…です」と鳴上は花村に頼まれた、バイトの最終日を頑張るため家を出た。

 

 

 

 

「幽霊ね…」とシンは休憩中の鳴上の話を聞いていた。

「マジで出やがったのか…」と花村は鳴上の話を聞いて思ったことを口に出した。

 

「突然、憑いたからな…だが、気にする必要はないぞ。それはお前に害を成そうという類ではない。」とシンは鳴上に言った。

「どうしてわかるんだ?」

 

「俺は小さいころはもっと見えていた。

…今は人間ではないことで別になんとも思ってはいないが、昔は結構、切実な問題だった。

人には見えないものが見えるってのはな。

そんなときさ。偶々、親が好きだった深夜のホラードラマの録画を見ていたとき、最後で言ってたんだ。

 

『霊はね…会いたがってる人がいるから会いにくるの…』ってな。」

 

「それを聞いて以来、そのセリフにもあったように、どうも幽霊ってやつが怖くなくなってな。

俺に会いに来てるって思うと、何だかひどく嬉しくなってそれで、良く寝不足になった。

初めのうちは良く見てたんだが、自然と見えなくなっていた。

…だが、悪魔となった今、再び見えるようになったな。だが、最早どうでも良い部類だが。」

 

 

「会いたい人がいるから…か」

花村はそういうと、恐らく片思いだった『小西早紀』を想い出していた。

 

「…会いたいひとか…」と鳴上には誰だかわからなかった。

 

 

夜…

 

 

「…菜々子に会いたい人?」

「そうだよ」

鳴上はシンに聞いた話を菜々子に話した。

 

「…なるほどな…」堂島もその話を聞いていて、納得したような顔であった。

「うーん…」

「…大丈夫」と鳴上は菜々子の頭を撫でた。

「うん…」と菜々子は少し暗めに返事をした。

 

 

 

 

深夜、再び菜々子は深夜に目が覚めた。

すると、同じように白い幽霊が近寄ってきた。

菜々子の心は恐怖でいっぱいだった。

分かっていても、怖いものだ。

 

菜々子はいつものように、目を閉じてしまおうと思った。

怖いことに目を背けてしまいたかった。

だが、『菜々子に会いたい人が、会いに来てるんだ』という鳴上の言葉を思い出した。

わざわざ、会いに来た人を無視する事は、菜々子には出来なかった。

 

菜々子はその人物をよく見た。

すると、どこかで見たことがあった。

 

菜々子は勇気を振り絞って、声を出した。

「…おかあさん?」

 

母親と確信が持てなかったのは、写真では見たことがあるが、実物は覚えていないし、暗いためかよくみえない。

だが、死んでしまった人で菜々子に会いたい人と言ったら、母親しかいないと思ったのだ。

 

「…」

 

その幽霊が菜々子の近くまで来た。

何かされると思った菜々子は大声を出しそうになったが、冷たい手で髪を撫でられた瞬間、不思議な事にスッと菜々子の恐怖心がなくなった。

寧ろ、温かい優しい気持ちになった。

そして、血まみれの女性は小さな声で言った。

 

 

 

 

 

「…ごめんね、迎え…行けなくて」

 

 

 

 

 

「…うんうん、大丈夫…」と菜々子は笑顔で答えると相手も笑顔で消えていった。

菜々子はそのまま寝入ってしまった。

 

 

一方、鳴上は夢を見た。

そこには女性が一人いた。それはどこかで見たことがあった人であった。

 

 

その女性は軽く頭を下げると

「…菜々子…します」と言うと姿を消した。

 

 

 

お祭り当日の朝…

 

 

昨日とは打って変わった明るい表情の菜々子に堂島は驚いた。

「どうしたんだ?幽霊見なかったのか?」

「見たよ!でもね、怖くなかった!」

「…そうか」と堂島はつぶやくと少し嬉しそうな顔で菜々子の頭を撫でた。

 

「…あのね、たぶん…お母さんだった…」

 

「…夢でも見たんじゃないか?」

「夢じゃないよ!だって、ほら」と菜々子は自分の顔の左側の髪を見せた。

「?」堂島はわからないのか首を傾げた。

 

一方、鳴上は菜々子の髪が珍しく寝癖が付いていることがわかった。

 

 

 

 

 

必ずしも幽霊=悪いものというわけではない。

大切な人があなたの隣にふっと出てくると気があるかもしれません。

そんな時は思い出してあげてください。

その人がどんな人だったか。

 

ちなみにそれ以降、菜々子は幽霊を見なくなったそうだ。

 

 

夜…

 

 

「へぇ…なんか不思議な話だな」と花村は腕を組んで答えた。

「ありがとう。シン」

「…そうか」とシンは言った。

 

「にしても、祭りって、去年はもっと賑わってた気がすんだけど…事件のせいか?」

花村はあたりを見渡し、祭りの様子を見た。

鳴上とシンが想像してたものよりも、とても静かな祭りであった。

 

「確かに今年は、人少ねっスね。ま、あんだけ殺しで騒がれりゃ、仕方ねえか…

マスコミぁ、もう引き上げたみたいっスね。

好き放題かき回して、逃げ足だけは速ぇぜ。」

 

「ま、空いてていいじゃねっスか。」

「そうだな」とシンはうなずいた。

 

「それよか、今重要なのは“イカ焼き”っしょ!」

「おお、イカを食うクマよ!」

「俺も食うか」と完二、クマ、シンはイカ焼きを食べ始めた。

 

そして、様々な露店を回った…

結局、神社の入り口に戻ってきた。

 

「あいつら、おっせーなー…わざわざ天城んちで集合って、何してんだ?」

「待ってりゃそのうち…」と完二が言うと、歓談をゾロゾロと上がってきた。

 

「わ、あれ、そうじゃない?」

 

「ごっめん、遅くなっちった」

「みんなのお着付けに手間取っちゃって」

「でもこれ、中に巻いちゃうから、言うほど涼しくないのよね」

 

それぞれが、天城の家で着物を着てきたようだ。

「歩きにくい…」

「似合ってる」

「…えへへへ…」と菜々子は照れていた。

 

「ナナチャン、可愛いーよ!クマさ、ナナチャンにゾッコンラブ」

「えへへ、ありがとう。」とクマの言葉に更に照れた。

 

「ね、先輩、私たちの浴衣どう?グッときた?」と鳴上にりせは尋ねた。

 

「ああ、みんなきれいだ」と鳴上はさらっとそれを言い。

皆を照れさせた。

 

「あれ?ってか、間薙センパイは?」とりせは居るはずのシンを探した。

 

「えーっと…まぁ、あれだ」と花村が自分の後ろを指差した。

 

 

そこには青い顔の店主。

そして、まるで無表情の仮面でもかぶっているような二人が、ものすごい勢いで金魚を取っている。

メリーとシンであった。

 

あれほど、大量に居た金魚が徐々に丸い水色のケースに入れられていく。

 

「あれじゃ、まるでサラリーマンっスね」

 

まるで機械のように作業をするその様子が、完二にはサラリーマンに見えた。

 

そんな二人はいつものことだと思い、皆は話を進めた。

 

 

 

 

 

「…で、結局お前らは男三人で居ると」

「…クマのせいだ」と鳴上は言った。

 

まとめると、菜々子は堂島が預かり、女子一男子一で分かれようという話になったのだが、ごたごたしているうちにクマが全員を連れて行った。

その結果どうなったかは言うまでもないだろう。

 

 

「運がないな。お前はいつも」とシンは花村に言った。

「なんでだよ。」

「しばしば、自転車でバケツに突っ込むは、ナンパで難破するし、」

「バカ!思い出させんなよ!」と花村はぶるっと震えた。

「じゃあ、じゃんけんで負けたやつがたこ焼き買ってくるってことにしようぜ!」と花村は言った。

「じゃんけん!…」

 

 

 

 

じゃんけんで負けた、花村と完二が買い物をしに行った。

鳴上とシンはベンチに座った。

 

「…こうしてると、俺は昔を思い出す」

「昔?」

 

「…時間は残酷だな」

「?」

鳴上には今一、理解が出来ない。

 

「俺は…ごく普通の高校生だった。お前たち…のようには、楽しめてはいなかった。

事実、俺は退屈な毎日だった。

こういう性格上な、何もない日常はあまりにも息苦しい海の底だった。

それが、ちょっとしたきっかけで変わって行った。

…どこかで楽しんでいた。生き死にの興奮、一瞬の判断…」

 

シンは空を見上げる。

そして、少し言葉をためた。

 

 

「…深淵は見ない方がいい…見るなら、それ相応の覚悟と強さが必要だ。

俺にはなかった。無いままに、好奇心だけで、覗いてしまった。

…キミは飲まれるな。キミは信じていればいい。信じれる仲間と友人を」

 

「…ああ」

 

そういうと、シンは立ち上がった。

メリーがさっとシンに寄ってくる。

 

「暑いな…帰ろうメリー…少し疲れた」

「はい」

 

そういうと、二人は帰って行った。

 

 

 

「あれ?シンは?」とたこ焼きを買ってきた花村が鳴上に尋ねた。

「体調が悪くなったらしい」

「そうか…結局、あいつのこと聞けてないからな…俺たち」

「…でも、そんなに気にすることじゃないっスよ。」と完二はイカ焼きを食べながら言った。

 

「のんきだなお前は…」

 

そこへトボトボとクマが歩いてきた。

その頬は綺麗に手形が付いていた。

 

 

 

 

次の日…

 

昨日よりも静かな祭りで少年が二人ベンチに座っていた。

 

「…あなたは変わっていますね」

そういうと、少年探偵は帽子を深く被った。

 

「…小さいころからだ」

それを聞くと直斗は笑みを浮かべた。

 

「それで。呼び出した理由はなんだ。」

「やっとあなたが言っていた意味が見えてきたんです。

『君から見える景色と俺から見える景色は違う。』と。」

 

直斗は続けて言う。

 

「君がそれぞれ単体の"花びら"を見ているのかもしれないが、

俺は『華の影』を見ているのかもしれない。

…その言葉の意味を少し考えていました。

ですが、今なら少しわかるかもしれません。」

 

「何が分かった?」

 

「つまり、あなたたちは、攫う側ではなく、"何らかの手段で助けている"ということですね?」

「それは俺に"尋ねて"いるのか?あるいは"確認を取って"いるのか?」

「…両方…ですかね」

「…理由は?」とシンはたこ焼きを食べた。

 

「それなら、これまでのあなたの行動が合致が行くんです。

あなたは攫うための監視ではなく、被害者が被害に遭うの防ごうとしていたのではないかと。」と直斗は言う。

 

「…正解か不正解か…それは君が"覚悟"を見せたらわかるだろうな。」

「…覚悟…ですか?」

「ああ」

そういうとシンは不敵に笑った。

ぞくぞくと、直斗の背筋が震え上がった。

 

恐怖。その言葉がふさわしかった。

 

思わず、直斗は目を逸らした。

シンのその瞳に飲み込まれてしまいそうな気がした。

真っ黒な瞳で光の差さない目。

 

ある種の逃避。生き物としての、死を感じ取った。

だが、直斗は口を開いた。

 

「…ど、どういう意味ですか?」

 

「…君はオレに近い人間だ。真実を知りたがる。絶対にキミはする」

 

「…話が見えませんね」と直斗は帽子を深くかぶった。

「…今すぐとは予言はしない」

シンは不敵な笑みを止め、立ち上がった。

 

「…期待しているよ」

シンは神社の階段を降りた。

 

 

 

 

自宅に帰る途中…

「残酷だな君は、あいつは覚悟をみせるだろうな」とニャルラトホテプが影の中から言った。

「…俺が出るより、あいつのほうが手早く出れるだろう。」

「リスクも高いがな」というと、不気味に笑い声をあげた。

 

シンは影を踏みつけると「押さえろ。ばれるぞ」

「そうだった…だが、ずいぶんと愉快なことをするな」

「…これでも"王"なんでな。非情な選択にはなれているよ。」

 

神社から自宅の人気の少ない通りに差し掛かった。

 

「非情…ね。お前は意外と気に入っている様だな。あの人間。」とニャルラトホテプは影からニュイっと、出てくると直斗に化けた。

だが、相変わらず皮肉に満ちた笑みである。

 

「どこがいいのだ?こんな人間。」と自分の姿をみる。

 

「物分かりの良さ、頭脳の回転速度、及びそれに付随する知識…

そこら辺の戦闘狂悪魔より全く以って使える。

失うのは惜しいが、万が一だ。そうなってしまっては、仕方あるまい。」

「それだけ…とは思えないが」とシンの腕に絡みつくようにニャルラトホテプは訊ねた。

シンはそれを弾くと、パーカーのポケットに手を入れた。

 

「…あとは『同族のよしみ』だな。」

「同族?」

「似ているのさ。『子供っぽい』ところがな…

子供みたいに見えるんだよ。意地を張ってな。」

そういうシンはどこか懐かしそうな顔をしていた。

 

「重なるか?過去のお前と」

「愚かだと嘲笑すればいい。だが、良い意味での過去だ。」

 

ニャルラトホテプはふっと鼻で笑い言う。

 

「過去と未来とは、 現実と理想だ。

予知できぬが故に、人は未来に希望を抱き、 それが過去となった時、儚い現実を知る。」

 

「未来に理想を託すほど、ロマンチストではない。

あるとすれば、俺は達成の可能性を秘めた現実的計画を未来に託す。理想は所詮"理想"でしかない。…結果が俺だがな」と皮肉を込めて言うとニャルラトホテプは本日最大の笑い声を上げたのであった。

 

 




稲川○二さん風に始まった今回。
そして、言いたいことがある。



四○R-1○は名作だと言わせて貰おう!!





そんで、まあ、全然関係ない話になりますが。
色んな人の動画とか作品見てると、「なんか作ってみたいな…」とか思うけど、思うだけで何もしないという最悪な状態。
一応、多少の絵心とDTMの経験はあるんですが、アニメーションだと動かし方とか、あと本当に文才がないので(なら、なぜこんなものを書いているのかという疑問が出てきてしまう)、本当に一人ではできないことが多いなと思うわけであります。



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第34話 Sea 8月23日(火) 天気:晴

「やっぱ、バイクっツったらこれっすよ」

「うっせ!!俺たちはこんなバイク買える程、金がねーんだよ!」と花村は完二の言葉に反論した。

「…それに、こういう田舎町は原付の方が利便性がある」

「そうだな。合理的ではある」とシンはうなずいた。

 

「で、バイクのない完二とクマはどうするの?」とりせは二人に尋ねた。

「オレは自転車でいくんだよ」

 

「…クマは俺の後ろに乗ると良い」とシンはクマにもう一つのヘルメットを渡した。

「…クマ惚れちゃうクマ」

そういうと、バイクに跨っているシンに抱き着くような形でバイクに乗った。

 

「死にたくなかったら、しっかり掴まっておけ」

「シン君、冷めてるクマ…」

 

 

「こうやってみると、やっぱりカッコいいね。間薙センパイ」

「そうだね…比較対象があるからね」天城は花村や鳴上のバイクを見て言った。

 

シンのバイクは真っ黒でシンの雰囲気に合っていた。

ただ、相変わらずのパーカーであり、暑い夏だと言うのに、どこか不自然さを感じる。

 

「じゃあ、先に行って正確な場所を伝える」

「頼んだ!」と花村はシンに言う。

 

実は海の場所が正確にはつかめていない。

鳴上は感覚的に行ったことがあるそうだが、正確な場所が分からない。

なので、シンが先行することにした。

 

シンのバイクにはナビが付いているからだ。

 

 

 

 

森の中を走っていると、奇妙な感覚になる。

見慣れない木々と、クネクネと曲がる道…妙に高揚する。

 

俺が…バイクの免許を取ったのはそれも理由がある。

 

知らない道。知らない場所で、俺は…違う"人間"になれる気がしたのだ。

だが、結局…俺は…"俺"以外の何者でもない。

 

 

『お前は何者かにならなければならない』

 

 

カグツチの言葉は俺を未だに苦しめる。

俺は何者だ?

 

人修羅?混沌王?間薙シン?

 

どれが誰だ?何が誰で…俺はどこだ…

どこまでが俺だ?どこまで行っても俺なのか?

 

…名前?…記号でしかない。

この世界は記号でしかない。

過去も未来も。物自体も表象も。

 

俺は知っている。人間は他人が存在しないと自己を失う。

何故なら、自己を映す鏡だからだ。

 

 

あの世界で、俺は一人。

 

俺は…何を…意味…疑念…染まる…

 

 

 

 

『色即是空、空即是色』

 

 

 

「クックッ…」

俺は思わず、笑ってしまった。

その声は恐らくクマには聞こえていない。

エンジン音でかき消されているだろう。

 

信号が赤だったので、止まった。

 

…何をいまさらそんなことを。

悩む必要もない。すべては因と縁。

 

 

「信号、青クマ!!」とクマは言った。

「ああ。そうだな」と俺はスロットルを回した。

 

昔、俺は刑事に憧れた。

正義の味方でかっこよかったような気がしたからだ。

それに…ドラマの中で見る刑事たちは…仲が良く見えた。

熱い人が多く、信念を持っていたように思えた。

 

だからこそ、鳴上達がうらやましい。

 

気兼ねなく話、時には争う。

…だからこそ、分かりあえると彼らは信じている。

 

 

「この辺で良いか」

「着いたクマ!!」と二人は海岸に着いた。

その位置情報を鳴上に送った。

 

 

『恩恵は業であり、罰であるのだ』

『恩恵?才能ということ?」

『…キミは運が悪かった』

「運が悪かった…」

 

 

『そうだ。キミは選ばれたのではない。"選ばれなかった"のだ。』

「選ばれ…なかった…」

 

クマは早々と、着替える場所へと向かったようだ。

 

「…ひどく疲れていますか?」と現れたクーフーリンがシンに言う。

「いや。少しな」

「?」

 

シンは自分の手を見た。

 

「俺の中にある、絶対なる闇の中で、鳴り続ける音がある

それが嫌に心地悪く、嫌に…懐かしい気がしてな。」

 

 

 

 

 

 

「なんか…キンチョーしねえ?海だぞ?水着だぞ?

生"りせちー"だぞ!?いーのか俺…ここで人生の運を

使い果たすんじゃねーか。」

 

 

そこへゾロゾロと女性陣が来た。

 

 

「むっほほーい!」

「うおっ!」

 

「な、なんでここにいんの?海入ってりゃいいじゃん!」と千枝は少し恥ずかしそうに言った。

「先輩たち、待っててくれたんだ?」とりせは鳴上達を見た。

「おい、ヤッベーだろあれは…!」と花村は小声で鳴上に言った。

「意外とフツウ」と鳴上は小声で言った。

「お前の理想、果てしねー!」

 

「あの、早く海へ…」と天城も少し恥ずかしそうにしている。

「チエチャンもリセチャンもユキチャンも、

真夏のプリティ大賞独占クマねー。

可憐なラブリー人魚に囲まれて、

クマもひと夏のいけない体験…しちゃいそう。」

 

 

>シンは思考の高速回転を始めた。そして、一つの答えに辿り着いた!!

 

 

「海水を飲むことか…しておけ、人生は経験だ」

「え?」とクマはシンの方を見た瞬間、クマは妙な浮遊感を感じた。

そして、そのまま海へとインした。

 

 

「だいじょうぶか…あれ」と花村は飛んで行ったクマを見て思った。

「浮き輪ついてるし、大丈夫じゃない?」と天城は冷静にクマを

「いや、浮き輪途中で落ちちゃってるし…」

 

 

疲労した完二が来る前に皆は海に入った。

 

シンは砂の上に座ろうとすると、クーフーリンがビニールシートを広げた。

そして、パラソルを立てる。

 

「ん。すまないな」

「いえ。これも仕える身の仕事です」

 

シンはゆっくりとパラソルの下に寝転んだ。

夏だと言うのに、ここは人があまりいない。

一応、海水浴場となっており、海水浴も許可されてはいる。

シンにとって、これほど綺麗な海水は見たことがない。

 

「…入ってもいいかな?」

天城がシンに声を掛けた。

「ああ」とシンは起き上がり、少し位置をずれた。

「お!パラソルじゃん!入れて!」と千枝もパラソルに入った。

 

「日差しが強いからすぐに、やけちゃうね」

「俺もそうだな。インドア派だったからな。」

「それの割に…その、すごい筋肉だと思う」

 

所謂、細マッチョなシン。

 

「あれだけ、たべて太らないって、羨ましいかも」

「…まあ、それは違う形で消費されているからな」

「やっぱり、悪魔とかだと、そうなの?」と千枝は羨ましそうに言った。

 

「常に喰われている。」

「え!?何に?」と天城は驚いた顔でシンを見た。

シンは天城達とは別の方向を向き、マガタマを吐き出した。

「これだ」

 

それを見た千枝は凍った。

それは大きな白い手足の無い虫の様に見えた。

 

「これ…?」と天城は平然とそれを持ち上げた。

「『マガタマ』という。このマガタマは特殊でな。常にSPを消費する代わりに、絶大な力を発揮する」

「だから、あれだけ強いの?」

「これだけではないがな。」とシンは天城からマガタマを返して貰うと。

 

「「!?」」

 

それをペロリと呑み込んだ。

 

「きゃあああああ!!」と千枝は立ち上がって逃げ出した。

 

シンは首を傾げながらも

「ただ、別にそれはカロリー消費をしているか、といわれると分からない」

 

「へぇ」とやはり、天城は平然と会話をする。

「やっぱり、間薙君って小さいころから、そんな感じだったの?」

 

「そうだな…」

「え?なんで」

「里中さんには言ったが、幽霊なんかを見ていた子供だ。それが都会の一般的な子供とは言い難いな」とシンは髪の毛を掻いた。

 

「じゃあ、向こうでは何してたの?」

「映画を見ていた。暇さえあれば。

この辺にはなくて、沖奈駅前までいかないといけないというのは少し面倒に感じるな」

 

とそこにビーチボールが飛んできた。

 

「おぉぉぉい。ユキコチャンもやるくまよー!!」

「じゃあ、ね。」と雪子はクマの方へと向かった。

 

女子たちが飲み物を買いに行っている間に皆がバラソルへと集まってきた。

 

「あれ?里中が叫び声上げてたけど、なんだ?」

「これだろ。」とマガタマを見せた。

そして、それを呑み込んだ。

 

 

「千枝は虫が嫌いだからな」と鳴上は納得したように頷いた。

「いや、ちげーよ!!なんだよそれ!!虫!?え?なに!?俺がおかしーのか!!」と花村は鳴上に切れる。

「そ、そうっすね」「そ、そそうクマね」

「は?お前ら何テンパってんだよ」

「な、なんでもないっすよ」「そ、そうクマ」

 

 

二人は知っている。事実、シンとパーティーを組んだからこそ、知っている。

シンがあの白い虫を吐き出し飲み込むところを。

 

 

その後、様々なことで皆楽しんだ…

 

 

「それにしても、夏休みもう終わんのか…」と花村は柵に腕を乗せ、海を見た。

「光陰矢の如しだ。」

「悠はなにしてたよ」と花村は尋ねた。

 

「バイトして…バイトして…あと、菜々子の宿題手伝って…バイトだったかな」

「どんだけ、バイトしてんだよ…シンは?」

「俺は…辰巳ポートアイランドと…あとは特に宿題やって…」

「あ…やべぇえええ!!!宿題あったんだっだ!!」と花村は立ち上がり叫んだ。

 

「なに、まだあんたやってないの?」と千枝は清涼飲料水を飲みながら花村に言った。

「あーやべぇよ。どのくらいで終わった?」

「わからん。俺は早々に終わらしたからな」とシンは適当に言う。

 

 

「マジかよ…ちくしょー!!!なんで夏休みの宿題なんかあるんだぁあああああああ」

 

 

それなりに楽しい海水浴だったと言える。

語りたくないという理由で、カットした

 

「めんどくさがるんじゃないホー!!」

 

…完二のハプニングはある意味青春的であったし、それを思い出すのはあまりにも酷な話だと理解してほしい。

 

シンは表情に出ないものの、休息になったと言える。

シン自身、特に疲れなどは感じないが、性分故に空気を吸うように時々ため息を吐く。それは疲労からではなく、退屈だという何よりの証明である。

 

そして何故か、授業中にシンのため息が聞こえたとき、教師は早々と話題を切り替える癖が付いた。

理由は不明。しかし、シンの知らない所で何かが動いていたのはたしかである。

 

 

帰りは帰りで皆ワイワイと帰る。

 

 

「クマはどうすっか」と花村はシンに言った。

「そしたら、お前の家まで送って行く。」

「いや!いいよ、お前んちから、俺んちって結構、距離あるし」

「別に構わない。それに、そんなローラーシューズじゃ、危ないぞ」

 

「…じゃあ、シンに頼むか」と花村は心配そうに言った。

「なんだ、俺の運転は心配か?」

「お前っつーかどちらかと言えばクマが暴れて、そのまま事故ってのが一番最悪だからな…」

 

「…たぶん…大丈夫だろう」

「なんか、不安だわ…」と花村はため息を吐いた。

「…お前、いいやつだな」

「は!?何言ってんだよ!お前!」と恥ずかしそうに花村は自分のバイクに乗った。

「褒め言葉だ。素直に受け取っておけよ」

「うっせーよ!!」と花村は先に皆とバイクで出発した。

 

無論、原付は30kmだがシンは速度を出せるので、早々にシンに追い抜かれた。

 

「やっぱ早いなー。よっし私も…」

「ダメだっつーの。こっちは原付だからそんな飛ばしたら捕まんだよ。それにスキーに行けなくなんだろ?」

 

「スキー?」と天城は首を傾げた。

「冬休みに行こうぜ。どうせなら、さ」

「…まだ夏休みなんだけどな」

鳴上は突っ込んだ。

「い、いいじゃねーか!!それにもう夏休み終わっちまうしさ…」

「まだ、花火大会あんじゃん。」と千枝は花村に言うと、「ああ!そうだった。シンに電話しておくわ」

 

「でも、やっぱりカッコいいなぁ。間薙センパイ…あ、でももちろん、センパイが一番!!」とりせは鳴上に言った。

 

「さらっとすげーこと言ってるよ…この人」と花村はため息を吐いた。

 

 

 

 

シンは花村よりも早く花村の家に着いた。

クマのヘルメットを外すと、クマは少しくらい表情で居た。

 

「…じゃあな」とシンはクマに言う。

「シン君…」

「なんだ」

「シン君は怖いクマか?」とクマはまっすぐな瞳でシンを見て言った。

 

「怖い?何が」

「…自分がナニモノかみんなに言うのは怖くないクマか?」

 

シンは少し間を開けて言った。

 

「…きっとあいつらは言うだろうな。『それがどうした』と。しかし、俺とお前は違う。

俺は違う世界の人間だ。あいつらとはそのうち関係がなくなるだろう。

だが、お前は違う。お前はこっち側にも来れる。簡単にな」

 

「だから、もしお前が"お前の正体"を分かったとき、それがどれだけ残酷な真実であっても、あいつらには伝えるべきだと俺は思う。

一人で…抱えきれない痛みなら、分け合えばいい。

時に必要なのは、少しだけの歩みだけだ。

それに、お前たちの関係はそんなもんじゃあないだろ。」

 

 

そういうとシンはクマの頭を撫でて、バイクで走り去って行った。

 

 

「よー!またせたなクマ。」と花村はヘルメットを脱いだ。

「…」クマは黙ったまま、自分の手を見つめていた。

「…どうしたんだよ」

「な、なんでもないクマ!!」とクマは笑ってごまかした。

 

 

 

 

「残酷…か。お前にとっての残酷とはなんだった?」とニャルラトホテプは後ろにいつの間にか乗っていた。それも相変わらず、直斗の姿である。

 

「…多すぎて数えられんよ。」

「中でも、ひどいものを教えてほしいものだな」

「知らんね。しいて言えば、お前くらいだ」とシンは皮肉を言うと、ニャルラトホテプを笑った。

 

 

 

夜…

 

シンの携帯が鳴った。

「花村かどうした。」

「シンか?実は30日に花火大会があるらしいんだ。来るか?とりあえず、午後にジュネス集合つっーことで。」

「ん。分かった。」

 

そういうとシンは電話を切った。

 

 

儚い時間の中で

夢を見ることさえ、拒まれるなら。

紡ぐ言葉さえ淡く溶ける。

 

俺は一人の修羅なのだ。

 

忘れていた言葉を思い出す。

思い出を焚べよ。忘却できない、思い出を。

 

 

 

 

混沌 ランク 3→4

 

 




アニメに追いついかれるという衝撃の事実。
アニメ速すぎワロタwwww。
でも、まあ、気にしないです。マイペースにこれからも書いていきます。
次の話はちょっとその三話を意識したものにしようかと思います

マリーの話直斗と、それに関連してシンの突っ込んだ話です。
それとちょっとだけ、シンと直斗が良い関係になるかもです。
これは完全に作者の趣味です。申し訳ない。

ただ恋愛だ、なんだにはならないのでそこは期待しないでください。



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第35話 Interrupted By Fireworks 8月30日(火) 天気:晴

午前中…

シンは暇つぶしがてら、ベルベットルームに来た。

 

「…本当の自分向き合うってなに?」

マリーはベルベットルームに来たシンに突然尋ねた。

「…本当の自分?」

シンはジャックフロスト人形をマリーに渡した。

 

「…分からないの。記憶、ないから。」

そういうと、ムギュとジャックフロスト人形を抱きしめた。

 

その言葉にシンは少し懐かしさを感じた。

『おまえは何者かにならねばならぬ』

光の中でカグツチに言われた言葉だ。

 

しかし、別に彼女は何者かである必要はない。

『コトワリ』を築くこともなければ、それを知らなくても生きてはいける。

 

「不安か?」

「…たぶん」とマリーは少し憂鬱そうだ。

「それは難しく答えた方がいいか?」

「うーん…それはイヤ。」

 

「…なら、焦らないことだ。」とシンはベルベットルームのソファに深く座った。

 

「?」

「"お前が何者か"俺は知らないし、知りようもない。

憶測を言っても良いが、先入観は与えられん」

 

「憶測?…何かわかるの?」とマリーはシンを見た。

 

「…状況的観測だ。」

「ジョウキョウ…カンソク?…意味わかんない」

「一つ確かなことは、お前がただの"人間"ではないこと。」

「…」とマリーはジャックフロスト人形に顎を乗せた。

 

「君は…どうやって本当の自分を見つけたの?」

「…俺は…『深淵への跳躍』を決行した。」

「シンエンへの跳躍?…なに…それ」とマリーは首を傾げた。

 

「…俺は昔、深い絶望を味わった。

その世界では代わりに誰も跳躍なんてしてはくれない。

誰かの考えに同調することはできた。

だが、結局それを決めるのは自分でしかない。」

 

「一人で決断し、一人で跳ぶしかなかった。」

 

シンはため息を吐いた。

 

「だから、俺は俺の本心に従った。

好奇心という、狂暴な猛獣の檻を壊した。

それは自分自身の全身全霊を掛けた跳躍だった。

何故なら、戸惑えばあの世界では死に直結する。」

 

シンの表情が曇った。

 

「…例え、大きな後悔…いや、友人を殺す羽目になってもだ。

だが、どんなときも、俺は全身全霊で自分自身を信じて跳躍してきた。

世界が崩壊して、『カオス』を創世したときから、今も、そして、此からもだ。」

 

「…訳わかんない…」

 

「…それでいい。この世界でそんなことを実践したところで、刑務所か野垂れ死にだ。それに俺もまだ未完成だ。あるかないかでは、どうも語れないことでな」

シンは皮肉を言い、目を閉じた。

 

「とりあえず、焦る必要などない。お前には鳴上達がいる。

不安なら言え。経験談でも聞けばいい。俺よりはましだ。」

シンはそういうと、ソファから立ち上がり、出て行った。

 

「…」

マリーは無言のままシンを見送った

 

 

シンはジュネスへ向かうと、まだ誰も居なかった。

 

 

「おや、奇遇ですね」と本物の直斗が、偶々ジュネスのフードコートに居た。

「相変わらずだな。君は」

「ええ、そうですね…」と少し疲れた表情で椅子に座った。

 

「…なんだ、煙たがられるか」

「どういう意味ですか?」と直斗はシンを見る。

「未だに捜査しているそうだな…警察内部じゃ煙たがられるだろうな。

完全に警察は終結モード。多少の矛盾も無理で通すだろうな。」

 

「…何でも御見通しですか。…僕より探偵に向いているんじゃないんですか?」

直斗は帽子を外すと、皮肉を言った。

 

「まさに、孤軍奮闘か…いや、どちらかと言えば四面楚歌か。」

「…」

直斗は一瞬だが、あることを思いついた。だが、それをすぐに頭の中から消そうとした。

 

しかし、「…見返したいなら、今君が考えたことを実行すると良い。」

「!?」

「疲労のせいか、顔に出ているぞ」

「…そ、それは…できません…」と直斗は飲み物を飲んだ。

 

と突然、シンが直斗の顔をのぞきこむ様に近づけた。

「キミを見ていると、どうも不思議な感覚になるな」

「な、ななにをしてるんですか!?」と顔を赤くして直斗は言った。

「…キミは俺に似ている。どこか子供っぽくてな」とシンは顔を放した。

 

「ぼ、ぼくは…やらないとは…言い切れません…

ですが…あなたを信頼しても…その…いいでしょうか」と顔を赤くして直斗はシンに言った。

「…君は有能だからな。見捨てるようなマネはしない。それに、同じ帽子仲間を失うのは退屈、極まりない。」とライドウの帽子をシンは被った。

 

「で、では失礼します」と直斗はフードコートから逃げるように去って行った。

 

 

「どういう心境の変化かな?」

突然、現れたルイにも動じずにシンは答えた。

恰好は皮の手袋に、ハンチング帽子、そして、鼠色のスーツのズボンにyシャツという夏のスタイルになっていた。

 

「…何故だろうな。あいつに居場所を与えてやりたくなったんだ。」

「それは何故だ?」

「…ニャルラトホテプには言ったが、同族のよしみだ。それと、…気まぐれ」

シンの呼び出し機が鳴った。

シンは立ち上がるとステーキを受け取りに行った。

 

「迷え。間薙シン。…それでこそ、完成に近づくのだ」

ルイは笑みを浮かべると、階段から降りて行った。

 

 

 

鳴上達は階段で屋上を目指す。

「シンはもう来てるみたいだな」

「早いね。やっぱり」

「そこらへんが、完璧超人たる所以だろ。どう考えたって」と花村は言った。

 

「やぁ、こんにちは」

「こんにち…?」

スーツの男性が階段をすれ違い様に声を掛けられた。

鳴上は声を掛けられた為に咄嗟に挨拶を返したが、知らない人だとすぐに後ろを振り向いた。

 

「…誰も…いない?」

「ん?どうしたんだ?相棒」

「…いや、なんでもない」と鳴上は首を傾げて階段を登った。

 

 

 

夜。

 

 

 

鳴上達は天城の言う、穴場の高台へと登ってきた。

「ううん、知ってたの。私、山側もよく通るし、お客さんに訊かれる事もあるから。

菜々子ちゃん来られるかな。来る前に場所、電話しておいたけど…」

 

 

そんな話を聞いたから、行かないわけには行かないのだ。

 

「お! ホントに人少ないな。」と花村は早々と一人、階段を登り高台へと行った。

「そういえばクマは?」とりせは周りを見渡した。

 

「片っ端から女の子ナンパした挙句、大谷誤爆してお持ち帰りされた。

とっさに"クマ皮"着て、着ぐるみ気取ってたけど問答無用で抱えられてったぜ…」

「ちょ…それ放っといていいレベル!?」と千枝は花村に言った。

「いーんだよ、日頃のバチが当たったんだ。」と花村は軽く笑った。

 

「今日の花村先輩、クマに冷たくない?」

「今朝のアイツの所業を考えたらむしろ足りねー。もう2、3人、大谷おかわりさせてーぜ…」

「や、死ぬだろそれ。つーか何があったんすか。」

 

そう言われると、花村は震えた。

「思い出したくもねー…アイツ、俺の部屋から余計なモン発掘して、

花村家の朝食に持って来やがったんだよ。

“ヨースケー、この本なーにー?”つってさ。

おかげで俺がどんな辱めを受けたと思う!?」

 

「んな代物、持ってっからでしょーが。」と千枝は呆れた顔で花村を見た。

「親いる前に持って来られるとか、想像しねえだろ!」

 

「それ、女の子いるトコで話す?」

「へそくりって事じゃないの?」と天城はりせに尋ねた。

「男の人のへそくりでしょ。もう放っとこ。」

 

そこに「おぇぷ…」と聞き覚えのある声がした。

クマだ。しかも、ペラペラになったクマだ。

 

「恐るべしクマ…自慢の毛並がズタボロクマァ…」

「予想以上だな…てか、そのカッコ目立つから、さっさと脱いで来いって。」

「この中、生まれたままの姿だから。今朝見たヨースケの本とおなじだね!」

「サラッとトラウマ掘り起こすな!」

 

「…ちなみに、シンならどうやって隠す?」と鳴上はシンに尋ねた。

「残念だが、俺はそういうのはもうなくてな。」とシンは両手を上げて困惑を示した。

 

 

「いた!お兄ちゃん!」と菜々子の声がする前に鳴上はそちらを向いた。

「菜々子ちゃーん!そっか、堂島さん間に合ったんだ!」と皆が菜々子を迎え入れた。

「うん!お父さん、早く帰ってきてくれた!」

「よかったな」

「うん!」と鳴上の言葉に本当に嬉しそうに菜々子は応えた。

 

「悪かったな、気ぃもませちまって。書類の残りもあったが、足立に渡してきた。」

 

クマが一回転して、菜々子の前に現れた。

「ハァーイ、お嬢さん。 よかったら、

ボクと愛の花火を打ち上げてみなーい?」

「許さん」と鳴上が前に立ちふさがった。

 

「やめなっての、クマきち!堂島さんに現行犯逮捕されるかんね!?」と千枝はクマに言った。

 

「なんか下が騒がしっすね。」

「そろそろ始まるのかな?」

「ほんと!?」

 

すると、打ち上げの音が聞こえた。

そして、大きな音と共に綺麗な花火が上がった。

 

「わぁあああああ!!!綺麗!!」と菜々子は嬉しそうに言った。

鳴上達は花火に見とれていた。

 

シンはスッと堂島に近づいた。

「失礼。」

「ん?なんだ?」

「…白鐘直斗…気にかけてやってください」

「なんだ、知り合いだったのか」と堂島は少し怪訝な顔でシンを見た。

 

「…今、まさに四面楚歌。一人で終結モードの事件を追っている。

…子供っぽいところがありますから、居場所を失っています。」

「…」

「日焼けの跡がくっきりついています。

それは歩き回っている証拠。それに靴が新しい割には擦り切れも激しいし、Yシャツも襟と袖が汚れている。

相当、足を使って調べてます。それに、あまり家にも帰れない。」

「…それで?」と堂島は煙草に火をつけた。

 

「たばこの箱の位置から、右利き。よく、誰かの頭を触っていますね。

髪の毛が付いています。中手骨の皮膚が少し赤くなっています。

そして、先ほどの会話から足立さんを軽く殴ったようですね。」

 

「しかし、あなたは直斗と同じように、所内で少し孤立気味だ。」

「…」

「それは直斗と同じことをやっているからだと推測します。だからこそ、あなたにお願いしています」

とシンは淡々と堂島に言った。

 

 

「…悠の周りには変な奴が多いな」と堂島は煙草の煙を吐いた。

「…どうして、そんなことまでわかった」

「観察ですよ。観察」とシンは金色に光る眼を指差した。

 

「…お前は不思議な奴だな。高校生だとは思えないな」

「まあ、そうですね。…でも、俺はどうでもいいので、直斗。あいつに目を掛けてやってください?」

「…わかった。そうするさ」と堂島は携帯灰皿にタバコを入れ、消した。

 

シンは鳴上達を見た。

その光景はとても楽しそうに、皆が輝いていた。

一方、シンの方は影に包まれているような気がシンにはした。

 

 

「…俺はここで良い」

 

 

そんな言葉は花火に消された…。

 

 

 

 

『以上をもちまして、納涼花火大会の演目は

全て終了となります。

また来年のお越しを、地元一同心より

お待ちしております。 有難うございました。』

 

花火が終わるとそんなアナウンスで終了を知らせた。

 

「いっやー、見事見事! 余は満足じゃ。」と千枝は嬉しそうに言った。

「胃袋的にだろ?」

「何よ。みんな色々つまんでたじゃん!」

「大盛肉丼弁当は"つまむ"じゃねえっての…」と花村はボソリと言った。

 

「菜々子ちゃんも、楽しかった?」と天城は菜々子に尋ねた。

「うん」と菜々子は言うも目をこすり、「…ねむい」とつぶやいた。

 

「ははは、だろうな。

もういい時間だ、帰って寝るか。

俺は菜々子と戻るぞ。

お前たちもあまり派手に夜更かしするなよ。」と堂島は菜々子を連れて、階段を降りて行った。

 

「ナナチャン、バイバイクマ!」

「ばいばいくまー。」と菜々子はクマの言葉に振り向き応えて、降りて行った。

 

 

 

「花火は良かったっすけど、なんつーか…夏も終いって感じっすね。」

完二の言葉に千枝は肩を落とした。

「それを言わんでおくれよ…」

 

「私は、けっこう満足だけどな。

お仕事してると夏には秋のカッコしてて、季節感とか無いんだもん。

今年は、海に、花火でしょ?あと浴衣でお祭りも行ったし!」

 

「お祭りな…いい思い出ないけどな、誰かさんのお陰で。」と花村はクマを見た。

「そうなの?」

「オマエだよ!」

「や、結構楽しかったっすけどね。」と完二は言った。

 

「お前、型抜きウマかったな…ってそうじゃねーよ!

もっとこう、甘酸っぱいっつーか、なんつーか…そういうのを期待してたわけ!

なあ?」

 

「確かに大違いだった」

 

「ょ…ちょっと待て。"確かに"ってそれ、何と比べて…

まさかお前、翌日どなたかと…!」と花村は鳴上に言った。

 

「ふーん…そうなんだぁ。」

「…誰なんだろうね。」

「誰…なんだろうねー?」

 

「別に、マリーが行きたいと言っていたから行った。」と鳴上は特に何か問題でも?と言った感じで言った。

 

さらに視線が鋭くなる三人。

 

「おいっ…何だよ、この胃が痛くなるような空気は…!」

「ほんにヨースケは女の子の事ばっかりクマねー。」とクマは言った。

「お前が言うなっ

ての!」

 

「シンも白鐘直斗といた」と鳴上はシンに言った。

「…ん?ああ、そうだな。事件の話をしていた」

「え?そうなんすか?」と完二が珍しく反応した。

 

「なんか、お前とあいつって仲いいよな。」と花村は言う。

「?そうか。まぁ、頭の切れるやつは話が早くて助かるからな」

シンは淡々と答えた。

 

「直斗君も誘って上げればよかったのに」と天城が言った。

「…忙しいからな。あいつは、それにそういうタイプではないだろう」

 

「これっきりって、ちょっと後味悪いかも。私、キツい事言っちゃったし…」とりせは言う。

「そう気にすることはない。寧ろ、良い仕事をした」

 

 

少し、皆のテンションが下がった。

 

 

「うっし!とりあえず、屋台でいろいろ食って帰ろうぜ!」

「そうするクマー!!」

「肉!肉!!」

 

「わたあめとか食べようかな…」

「あ!私もわたあめたべよ!!」

 

完二は少しくらい表情で言った。

 

「…気になるか?」とシンは完二に声を掛けた。

「い、いや!気になんねーっすよ!!む、寧ろ先輩が気になるんじゃねーっすか?」

 

「そうだな。昔の俺に似ているからな。危なっかしいのさ。同族のよしみでもあるがな」

「へぇ…そうっすか」と完二は何となくシンの話を聞いていた。

「…それに…友人が死ぬのは…もう沢山だ」とシンはボソリと言うと鳴上達に続いた。

 

 

 

「…先輩」と完二はそんな背中を見ていた。

 

 

 

 

「何やってんだ!完二!置いてくぞ!」

「い、今行きます!!」と完二は鳴上達を追いかけた。

 

 

 

 

 

ある種の賭け。

あいつが変われるきっかけがあれば、良い。

不安など一切ない。必ず成功できるだろう。

 

 

 

 

 

混沌 ランク 4→5




少しづつだけど、シンの人間性が出てくるように書きました。
シンは実は熱い人間なんだなって感じが出せれば、と思いました。


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変わる世界『長月』
第36話 School Excursion 9月8日(木)~9日(金)


 

季節が過ぎ去るのはあまりにも早い。

慣れるまでに時間がかかる。

長い時間…いや、時間と名称してもいいのか分からないが、幾星霜も流れた事だけは確かだ。

そんな世界で過ごしてきたから、どうも時間という感覚を思い出せずにいる。

 

だが、時間は残酷だ。

 

「…結局、見終わらない」

 

海外ドラマというものがあったので、一括購入したが、量もそうだが、どうも、見終わらなかった。

「…まあ、いい」

俺はYシャツに袖を通した。

普段より大きなカバンを持ち上げ、

 

「じゃあ、メリー。行ってくる」

「はい。修学旅行、行ってらっしゃいませ」と頭を下げて、俺を送り出した。

 

 

やはり、この時間のこの町は静かでいい。

通勤の騒がしさも、人の声も少ない。川の流れる音と、風の音がこの耳に聞こえる。

この感覚はあの世界にはない特色。

 

再び喧騒の中へと戻ると思うと、どうも気は落ちるが、それはそれでいいのだ。

 

「…『ラリツクス ラリツクス いよいよ青く

雲はますます縮れてひかり わたくしはかつきりみちをまがる』」

そんなことさえ、呟きたくなる。

 

 

 

 

私立月光館学園玄関前…

 

存外早くつき、それほど距離の無いことを皆は思った。

 

「うはー、なんだこれ…広過ぎじゃね、この学校?

え、広さで負けてたら、ウチ、勝つトコ無くない…?」

 

花村はその大きさにやられたようだ。

 

「えー、あー、次に、この学園都市とこの学園の設立意義について説明しまぁす…

あー、諸君に一つの諺を紹介しまぁす…“文筆頻々、然る後、君子”といいまして…」

 

長い校長の話は続く…

 

「ふぁー…どうでもいいけど、この校長、話長くない…?」

「千枝、聞こえるって!」

天城は千枝を注意した。

 

「うー、今日はぁ、休校日なんですがー、

えー、交流会ということでぇ…

あー、一部の生徒がー、学校をご案内しまぁす。

えー、まずは、生徒代表から、挨拶を…」

 

校長の横に居た、利発そうな女子生徒が前に出てきた。

めがねを掛けていた。

 

「はい。ようこそ、私立月光館学園へ。

初めまして。生徒会長を務めます、3年D組、伏見千尋です。

今日は宜しくお願いします。」

 

「うお…あの子、レベル高ぇ!」

「た…確かに、カワイっスね…」

と完二も珍しく本音で言った。

「やばい、俺史上、空前のメガネ美人だ…」

「そこ!反応しすぎだから。」

と千枝が花村に言った。

 

「他校の方を招いての本格的な学校交流は、我が学園にとっても初めての試みです。

他者を知ることは己を知ることであり、己を磨く第一歩である…と、私は考えます。

この機会が、参加者一人一人の糧となるよう、私達も精一杯、努めさせて頂きたいと思います。

よろしくお願いします!」

 

「やっばい、全てが負けてる…」

千枝も思わず口に出してしまった。

 

「はいじゃあ、クラスごとに分かれてー。」と柏木先生がそれぞれをクラス分けさせる。

 

鳴上のところに集まっていると、先ほどの女子生徒が焦った様子でこちらに来た。

「すみません、ちょっといいですか?これ、皆さんの今日の予定表です。

後で、配って頂けませんか?

渡しそびれちゃって…遠いところお越し頂いたのに、

段取り悪くて、ごめんなさい。」

 

「気にしなくていい」と鳴上が言うと、微笑み「ふふ、ありがとう。」と言った。

 

「ほんと言うと、さっきのスピーチね、一緒に考えてもらったの。

私がここへ入学したときの、生徒会長…すごく素敵で、憧れの人。

後で電話しなきゃ。おかげさまで無事スピーチできましたって!

あっ、ごめんなさい!自分の事ばっかり…緊張してると喋り過ぎちゃうの、直さなきゃ。」

 

「えっと、皆さんの班はこれから特別授業ですね。

教室は2階ですから。

私、そちらの生徒会の方々と打合せがあるので、失礼しますね。」

そういうと校舎の方へと行った。

 

「いまナニゲに"特別授業"つわれた?ここまで来て"授業"!?」

「まあ、"修学"だからな」とシンは言った。

 

「私たちのクラスは、えっと…"江戸川先生"って人ね…内容は、カバラと…」と天城がプリントを読みながら言った。

「カバ?」と千枝は首を傾げた。

 

「知らねんスか?カジノっスよ、カジノ。」と完二は珍しく自信ありげに答えた。

「それはバカラだ。カバラはユダヤ教の伝統に基づいた創造論、終末論、メシア論を伴う神秘主義思想だ。」とシンは言った。

 

「なんで知ってんだよ…」

「それは…暇な悪魔にグチグチと何百回も説明されれば覚える…」とシンはため息を吐いた。

 

「…で、何時から自由行動?」

「えーとね…」

そういうと、天城の持っているプリントを覗き込み、短い言葉で答えた

 

 

「無い。」

「え?」と花村は思わず驚いた表情で千枝を見た。

 

 

「今日は一日ずっと授業。

今日と明日はホテル泊で…明日と、あさっての昼までは、辛うじて自由行動かな。」

「マジかよ…」

「今日は頑張って"修学"しよ?」と天城の言葉に泣く泣く皆は校舎へと入った。

 

 

結局、江戸川先生の話は『伊弉諾』と『伊弉冉』の話であった。

シンはそれを聞いて、「ふむ…」と言うとその日は夜まで口を開かなかった。

 

 

 

夜…

 

 

 

「はい、ここでぇす。シーサイド・シティホテル"はまぐり"。今日はここにお泊まりよぉ。」柏木先生は明らかに、不審なホテルの前に止まった。

「これ…普通のホテル…?」

一人の女子生徒が思わず口に出してしまった。

 

それもそうだ。ここはホテル街と言われ、いわゆる…"あちら系のホテル"が立ち並んでいた場所である。

今は一応、そうではない。

 

全員に動揺が広がっている。

 

「どぅお?私が見つけたのよぉ、ここ。

最近オープンしたばっかりでぇ、都会っぽいしぃ、しかもお値段もお手頃!

正直、なかなかのチョイスだと思ってるわ。」

 

「ここに泊まんのか…?」

男子学生は疑った様子で言った。

「確かに、看板には、シティホテルって出てるけど、これ…」

「最近開業って…これどうみても、潰れたラブ…「はいそこぉ!立ち止まらないッ!

ど・ん・ど・ん、入ってって。」

柏木先生は急かすように生徒たちをホテルに入れた。

 

 

「ここ…怪しくないか?」

花村は少し焦った様子で言った。

「そう?地元にこういうの無いから、分かんない。」と千枝は首を傾げながら言った。

「ここね、"白河通り"って言って、その…」とりせが言いかけて花村がそれをやめさせた。

 

「り、りせ、いいんだ。なんか、その先、聞きたくねぇ…」

 

 

「あれってか…間薙センパイいなくない?」とりせは辺りを見渡した。

 

 

「ノッフッフッフッ…思ったより早い到着ですね…

それに、なっかなかのホテルです…ボクと会ったら…たとえばヨースケとかは

どんな顔をするでしょうね…?」

「…」

「!?」

クマは無言で誰かに捕まれた瞬間にはその人物と宙を飛んでいた。

 

「うひょおおおおおお!!!」

 

「なんか。もう…いいわ」と花村は疲れた顔で言った。

 

 

クマはバイト代でついてきたそうで、柏木先生も鳴上が咄嗟に効かせた機転でごまかせた。

 

 

 

「…シンはどうしたんだ?」と鳴上がバスローブに着替えている。

「いや。お前のペルソナの事を考えていた。」

「今日の話で?」

「…そもそも、なぜ、お前だけがテレビに入れる能力を有していたか。」とシンは腕を組んで、ひどく赤い照明を見た。

 

「…確かに」

 

「そして、お前の初期ペルソナ」

「イザナギ?」

鳴上はシンに言った。

「何か…関係がありそうだな。お前の能力。」そういうと、シンはチョコ○を食べた。

 

 

次の日の夜…

ポロニアンモール、クラブ・エスカペイド…

 

 

 

「おーすげぇ、これがクラブか…!」

完二はあたりを見渡した。

「やーばい、あたしテンション上がってきた!」

と千枝は軽く飛び跳ねた。

「こういうとこ、地元に無いもんね。」

「いいんですか?高校生がこんな所に来て。」

そう言ったのは白鐘直斗であった。

 

「い、いいんですかって、お前のが先に居ただろ!

てか、そっか、1年もって事は、旅行お前もか…」

花村は白鐘を見て言った。

 

「見たところ、客層は良さそうだし、問題は起きなそうですけどね。」

そういうと直斗は出ていこうとするが「え、帰っちゃうの?」と千枝が言った。

「どう?一緒に。」

 

「一緒にって…僕とですか?」と直斗は言った。

「うん。この間は話せなかったでしょ。」天城は言った。

「この間は、用事があっただけです。」

 

「なら、今は流石にヒマでしょ?

私、話したいと思ってたんだ。

同じ歳で“探偵”なんて、興味あるもん。」とりせは言った。

 

「まあ…構わないですけど。」

直斗は少し恥ずかしそうに言った。

「なんだー?微妙に顔赤くないか?」

「あ、赤くないです!」

直斗は慌てて否定した。

 

「ちょっと待ってて。上、貸し切るから。」

「おう。…おう!? 貸し切る!?」と花村は乗りツッコミをした。

 

 

ポロにアンモール、クラブ・エスカペイド2階…

2階を貸し切り、乾杯をした。

 

 

 

「けど、大丈夫なの?こんなとこ高いんじゃ…」と千枝は言った。

「平気、平気。おととし、ここでシークレットライブした時、

途中で電源落ちて中止になったの。そん時の借りを返したいから、むしろ今日はタダでいいって。」

そういうと、りせは一気に飲み物を飲んだ。

 

「そういう事なら、もっと頼んじゃおっと。」

そういうと、千枝も飲み物を追加で頼んだ。

 

「よぉぉし、クマキュンもエンリョしにゃい!」クマは大はしゃぎで手を上げて言った。

「お前、いつにも増して言葉が妙だぞ…」と完二はクマを見て言った。

 

「ちゅめたいなーん、カンジは…ん、カンジ?

カンジ、カンジ…イイカンジ!なんつって、ブフーッ!!」

「なんで一人でそんなフルスロットルなんだよ…」と花村は言った。

 

妙な空気だとシンは察した。そして、飲み物を飲む…

 

「ソフトドリンクだな。別に」

「?」と鳴上は首を傾げた。

 

 

「王様ゲエーーーーム!

オトナは、こういう場合、王様ゲームするの。

法律で決まってるの…ヒック。なによ…自分らで“りせちー”とかロリっぽい

キャラ付けしたくせに、子供、子供って…ヒック。

知ってんだから…打ち入りも、打ち上げも、私帰ってからの方が盛り上がってんでしょ!

ぶぁかー!今日こそ“王様ゲーム”なんだから!」

 

「な、なんか、よくないカミングアウト始まってんぞ…」

花村は慌てだした。

 

「カァーンジッ!ワリバシ、用意!」

ビシッと感じを指差しりせは完二に準備させた。

 

「あ、あのぉ…王様ゲームって…どんなんだっけ?」

「えっと~、当たりを引いたら王様で~、他のクジには番号があって~…

王様は~、何番と何番はナニしろ~って命令できちゃうの。

でも誰が何番かは~、命令決まるまでヒミツ!」

天城は明らかに酔っている。

 

「さーっすが先輩、話はやーい!」とりせが煽る。

 

そして、皆で引いた。

クマが王様となり「王の名において命ずる!!すみやかに、王様にチッス!!ムチュ~ン!!」

「おう、神よ…女子をお願いします3番!!」

「ウギャー!!」と完二は大声を上げた。

「やっぱ2番…」とクマは完二を見て言った。

 

「変えんな王様!!」

「チッスチッス~!!」と天城が煽る。

 

「カ、カンジ…やっぱりクマの体目当てだったのね!

おっけ、クマの純情あげちゃう!!」とクマは感じに飛びついた。

 

「うわ、イテッ、やめろ!テンメ、シメっぞコラ!

ギャー!いらねーッ!助けて!!」

 

 

 

「さあ…1回戦で早くも脱落者二人よ。」とりせが立ち上がっていった。

「え、そういうゲーム…?」

「続けて、第2回せーんっ!!」

 

次は鳴上が王様になり、皆に煽られ4番が肩車と言った。

「ちょ、三人まで女子なのに俺を当てるかよッ!」

 

そんなことで花村と鳴上は虚しい肩車をした。

 

 

「次!三回戦!!」とりせが大きな声を上げた。

 

そして、王様は白鐘直斗となった。

 

「じゃあ…4番の人の話を聞きたいですね」

「…俺か」とシンは割り箸を見せた。

「…で、では…そ、そうですね…過去でも話してもらえばいいです」と直斗は少し困った顔で言った。

 

 

「過去…そうだな…」

シンはそういうと思い出すように言った。

 

「なんか、すげぇ急速冷凍だな…」と花村が言った。

 

「俺は…ちょっとばかし変な子供だった。

話を聞く限りでは壁を見て笑っていたり、初めて書いた文字は日本語ではなかったとか、そんな話だが…

ただ、子供の頃から映画や本を読むのが好きだった。

親は共働きでいつも俺は家に一人でいることが多かった。そんな変な子供だから友達と言える友達もいないに等しかった。

そのときにやはり本というのがおれの心の支えになっていた。」

「あーだから、頭いいのかなぁ。」

千枝が呟いた。

「さあ?そればかりはそれだけなのか、それともそれ以外の事があるのかはわからない。」

 

シンは話を続ける。

 

「それで…高校生になり、担任の人が病気で数少ない唯一二人の友人と言える人間と、『新宿衛生病院』という病院に見舞いに行った。」

「教員の見舞いって…結構、ないよな。普通」と花村は言った。

「そうだな。昔からの知り合い…というのもある」

 

「そこは人体実験をしているのではないかという噂があった。」

「おっ!面白くなってきたな!」

花村は前のめりでシンの話を聞く。

「その病院に行くと、静寂が建物の中を包んでいた。先に待っていた友人以外、誰一人居なかった。

俺とひとりの友人は先生を探した。

俺は怪しい地下の階へと降りていった。」

 

ゴクリと千枝が唾を飲んだ

「そして、『東京受胎』に巻き込まれた。それくらいだ。」

そういうとシンは飲み物を飲んだ。

 

ガタッという花村がテーブルに頭をぶつける。

「え…?オチは?ってか、なんか、最後のほう端折りすぎじゃね!?」

「過去にオチもクソもないだろ。それに、長くなる。」

 

 

「あははは、おもしろ~い。次は、私、王様~!女王様~!」と天城が突然大声で言った。

「クジひけよ!」と花村は言った。

「よーし、でわぁ~、とても口では言えないハズカシイ~エピソード、語ってもらおー!

じゃ~あ~、そうだな~…あ、直斗くん!」

天城は直斗を指差していった。

 

「何でもアリだな…無視していーぞ、直斗。」

花村は呆れた様子で言った。

「いえ、いいですよ。その代わり、僕が話したら、

皆さんにも“あること”を話してもらいます。」

 

「いいよ~」とりせがふらふらとあたまを揺らしながら言った。

 

直斗の話は自分の家系の話。代々、探偵の家系であること。

祖父の代での警察との太いパイプ、その経緯で今回の事件に呼ばれたことを言った。

 

 

「…え、終わり?直斗もオチなし?」

「間薙さんもいってますが、人の過去にオチなんてありません」

 

「恥っずかし~。ナオト君、恥っずかし~。」と天城は笑いながら言った。

 

「では、次は皆さんの番ですよ。答えてもらいましょう。

皆さんが本当は、事件とどう関わっているのか。」と直斗は真剣な顔で言った。

 

「お前な…空気読めな過ぎて逆にオモシロイよ…」

 

「えっと~、誘拐された人を~、テレビに入って助けに行きま~す!

それで~、うようよしてるシャドウたちを~、ペルソナで"ペルソナァー!"って…」

そういうと天城はペルソナ召喚の構えをした。

 

「ば、ばかおまッ…」

花村は慌てた様子で言った。

 

「ハァ…僕をからかってます?」

直斗は呆れた顔で皆を見た。

 

「ホントらもんッ!ペルソナーっ!」とりせはと天城と同じようにペルソナを召喚する構えをした。

 

「あーもー!この酔っ払いコンビは!」

 

 

「…話す気が無いのは分かりました。大体、何にそんな酔っ払ってるんですか。

コレ、お酒じゃないですよ?」と直斗は飲み物を飲んでいった。

 

「まぁったまた~。」と天城はふらふらしながら言った。

 

「来た時に確認したんです…飲酒運転への抗議で

ここは去年からアルコールを扱ってません。」

「え…みんなして"場酔い"?」と千枝はみんなを見た。

 

「いいじゃらいろ、どっちれも…

うふー、なんか気持ちよくらってきた…

おやすみらさ~い…」

そういうと天城は寝てしまった。

 

その後、直斗に『バカ軍団』という名称を与えられた。

 

 

 

ホテル集合時間前…

 

「東京受胎…とはなんですか?」

 

ホテルの帰りにシンに直斗が尋ねた。

シンは天城を背負っていた。そして、鳴上がりせ、花村がクマを背負っていた。千枝は鳴上と話していた。

 

シンと直斗が一番後ろを歩いていた。

 

 

「…少し前に、祖父の書斎で『ガイア教』という教団の事件を見たことがあります。事実、『代々木公園』での信者の暴徒化で何名かが死亡した事件があり、新興宗教の危険性とニュースが名を打って報道していたのをよく覚えています。」

「それは何年だったか正確に覚えているか?」とシンは直斗に尋ねた。

 

「えーっと…たしか、2004年くらいだったと思われます。」

「そうか…」

(ということは本当に『東京受胎』だけが起きなかった世界なのか?)

シンは厳しい顔で思った。

 

その顔に直斗は気になったが、話を戻した。

 

「…話を戻します。その幹部で、その氷川という過激派があなたの言っていた言葉『東京受胎』などという言葉を口にしているのを思い出しました。」

「…記憶力がいいな。」

「これでも探偵ですから。」

直斗は少し笑った。

 

「…そのうち話すさ」とシンは言った。

 

直斗はシンの顔色を見て言った。

 

「あなたは…いつも壁を張っているですね。」

「ああ。過酷な世界に居たからな。」

シンは天城を背負う位置を直す。

 

「どんな世界ですか?」

直斗はホテルの前で尋ねた。

 

 

「…何もない。月の様な場所だ」

 

その時直斗にはシンの影が嫌に濃く長く見えた。

 

 

 

シンは天城を起こし、微睡状態の天城とりせは千枝に連れて行ってもらった。

 

「…抽象的な人ですね」

「だから、言ったはずだ。俺は変わったやつだと」

 

 

 




先日、友人と黒歴史の話になった。
「流石に過去の俺見てると恥ずかしいわ」と言っていた。
…大丈夫だ!友よ!

「今まさに俺はそんな黒歴史を生成しているのだ!!」
と満身創痍で言いたかったが、恥ずかしがりの俺は言えるはずもなく
「お、おう。そうだな」と辺りさわりなく答えた。

その帰りの電車の中で『死に至る病』という本を読み終わった。

手に取ったきっかけはたまたま。古本屋に言った時にこの本が目について買った。
セイレーン・キルケゴールという人の本だ。
前から気になっていたが本は読んだことがなかった。
「こんなほんなんだ」と思って読んだ。

実はキルケゴールは知っていたし、シンの精神はそこから来ています。
詳しいことは活動報告で書きたいと思います…
ここではなんですので。


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第37話 Summer Gone 9月10日(土)・12(月)

子供の頃、大人たちが何をしているのか、今一理解できなかった。

疲れ切った顔で何処に行き着く訳でもない。

何か目的があるようでもなかった。

ため息ばかり吐き、そして、父母は玄関から出て行く。

 

少学校もそうだった。

周りは見慣れた顔ばかり、単純で酷くつまらなかった。

 

この世界の事はどれもこれも面白いことと言われれば面白いし、それが悲しいことなら悲しい事なのかもしれない。

 

目を閉じたまま、この世界を生きていくのだと思ったとき、

俺は言いようの無い、倦怠感と嫌悪感を覚えた。

 

…伝えることはあまりにも難しい。

何故なら、それは俺にとってとても

 

狂った世界で理解の出来ない世界だった。

狭い世界に居たと言われれば確かにそうだ。

しかし、世界はどこまで行っても"世界"でしかない。

どこまでも…どこまで…狂ってる。

 

俺が異常?正常?

正常とはなんだ?社会的正しさか?人間的正しさか?

ならば、俺は『社会不適合者』でいい。

それに、俺は…そんな世界にはいない。

 

 

「どうでもいい…か」

 

 

シンはソファの上で目覚めたそして、ここがホテルだと言うことを思い出す。

「おはよう」

鳴上がシンに声を掛けた。

その手には珈琲がある。湯気が立っていた。

まさに、ベストタイミング。

 

「…ん。すまない」

シンは大きなあくびをして、珈琲を啜った。

 

「今日で終わりだな」

鳴上は少し残念そうな顔で言った。

 

「…何事にもおわりがある。だからこそ、旅行は良いものだと感じるんだ」

「…そうだな」

鳴上は納得したように頷いた。

 

 

駅前商店街…

ラーメン屋はがくれで皆はラーメンを食べていた。

シンは用事があると言って、すぐに出ていった。

 

 

「…どうだった?」

シンはたこ焼き屋オクトパスでたこ焼きを買っていた。

「指示通り…望みを叶えておきました」

紺色のスーツを着たまるで就活生のような女性がそう答えた。

「…ごくろう。それと、メタトロンは?」

「問題なく。すべて排除されたようです」

「ん。了解した。帰還してもらって構わない」

「…仰せのままに」

 

そういうとスーツの女性は立ち上がり、近くにいる少年に席を譲った。

隣には青い髪の少年が座った。

 

「…まさか、ここまで読まれてるとはね…びっくりしたよ」

「…これでも、伊達に何千年も生きてない」

「フフッ…そうか。そうだね」

 

「ありがとう。間薙シン。」

そういうと少年とスーツを着た女性は町の喧騒に消えていった。

 

 

 

「…『さよならだけが人生だ』」

 

 

 

そんな世界だ。どこでも、あそこでも。

 

…悲傷は火に焚くべよう。

 

 

 

 

 

一方、はがくれ…

 

「…間薙さんはどういった人なんですか?」

直斗は鳴上達に尋ねた。

「なんだ?気になるのか?」

花村が冷やかしながら言った。

「ち、違います!!

ただ…その、僕にも掴めない人でしてね…それに…どこか…不思議な人だと思います。」

 

 

「そうだね…確かに、不思議だね。間薙君は」

千枝はそう言った。

「その…なんつうか、俺達も良くわかんねーんだ。」

花村は頭を掻いた。

「う、うん…なんていうか、彼…悩みとかあんまり言わないし」

と千枝もまたそう言った。

「やはり、そうですか。」

直斗は腕を組んで言った。

 

「…」

完二は黙ったままそれを聞いていた。

 

「でも…きっと彼も何かかかえてるんだと思う。」

「私もそう思う。…私たちよりもっともっと、深いところに居る感じがするの」

「…」

 

皆のテンションがグッと下がった。

 

 

「何を憂鬱な顔をしている。」

「シン」と鳴上は入ってきたシンを見て言った。

 

「…どうせ、くだらないことを考えていたのだろ」

「ち、ちげぇよ!」と花村は大きな声で否定した。

 

「そんなことをしていると、麺が伸びるぞ。」とシンは腕を組んだ。

 

「…あーもう…そうだな。」と花村は何かを言おうとしたが、ラーメンをすすり始めた。

「…そうだね」と千枝もまたラーメンを食べ始めた。

 

「そんなことしてるから、クマが食べたクマ。ゲップ…」

「ああ!!…私…冷ましてただけなのに…」と天城は無くなったラーメンのどんぶりを見ていた。

「てめぇ!クマ公!!」と完二が言った。

「…本当にバカ軍団ですか…」

直斗は呆れた様子で言った。

 

 

シンはそれを眺めていた。

(お前らはそれでいい、俺とお前たちでは違うのだ。住む世界も感覚も、痛みも、すべて違うのだ。)

 

「あ…」と直斗がシンを見て声を漏らした。

シンはその視線に気が付き、言った。

「なんだ」

「…いえ、なんでもないです。…では、先に失礼します。」

 

そういうと直斗は先に集合場所へと行った。

 

 

 

 

彼らも知らない、彼のことを僕は気になる。

そ、それはもちろん…そういう意味ではない。

探偵として…憧れとして、僕は気になる。

 

そして、先ほど、彼は…少し笑みを浮かべていた。

そんな顔を見たのは初めてだ。

 

だからこそ、僕は知りたくなる。

彼の洞察力、思考経路、観察眼…

 

恐らく、彼を見ていれば、僕はもっと成長できるはずだ…

 

だから…僕は彼の考えるとおりに動いてみよう。

 

それが、賭けだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私にはこれしかないの!!」

そういうと少女は自分の頭に銃を突きつけた。

 

「やめるんだ!!」とスーツを着た男性が少女に言った。

 

「…それは自分の意志か?」と怠そうな顔で少女を見たもうひとりの男。

「そうよ!!!」

少女は銃を強く握った。

 

「…いいか、不細工。人間に自由決定などという体のいいものはない。

あるとすれば、それは他人との関係性で生じた選択肢でしかない。

お前の言う、自己などという薄っぺらいものは何一つない!」

 

「な、何言ってんのよ!頭、おかしいんじゃない?」

少女は怠そうな目で自分を見る男に言った。

 

「俺が?この俺がか!?冗談は顔だけにしてくれ、不細工。」と嘲笑しながら男性は笑った。

 

「なんですって!?」と女は男に銃を向けた。

 

「俺が異常だったら

世界はもっとハッピーな常に笑顔に溢れている最高で最低な世界になってるだろうな。

俺は正常だ!正常すぎて、精神科医でも開けそうだ!!」と高らかに笑った。

「あ、あなたって人は!」とスーツを着た男が言った。

 

「何か勘違いしてねぇか?

ハッピーなことはネズミの国か、フォイフォイのとこか、夢の中にしかねーんだよ。」

 

「魔法少女だって首ぶっ飛ばされたりしてんだよ?

ツンデレなんて、リアルじゃただのムカつくやつなんだよ。」

 

「…それにな今は、お前みたいな連中がウヨウヨしてやがる。

けど、俺は別に『それはお前だけじゃない!みんな苦しいんだ!』『明日生きれなかった人がいる』とかそういう、わかりずれぇことは言わねぇ

 

お前の悩みはお前にしかわからねぇからな。

 

ただ、一つ言えんのは。

 

お前が死ねば明日が晴れる訳でもねぇ。誰かが救われるわけでもない。

戦争が終わる訳でもねぇ、赤ちゃんが生まれるわけでもねぇ。

政治が良くなるわけでもねぇし、もちろん、サッカーのルールが変わるわけでもねぇ。

貧しい子供の腹が膨れるわけでもねぇ、新しい学校が建つわけでもねぇ!!!

温暖化が解消されるわけでもねぇ、世界が幸せに包まれるわけもでねぇ

 

何にもねぇ普通の時間が流れて行くだけなんだよ…

 

 

だから、思う存分無様に死ね!!不細工!!」

 

 

 

 

「「「「「えええぇええええええええ!!?」」」」」

少女も駆けつけた警察官やその少女の親が思わない言葉に大声を出した。

 

 

「いやいや!!今のは絶対、いいこと言う感じだったでしょ!?」

スーツの男性は怠そうな顔の男に言った。

 

「は?いや、俺にそういうの求められても困るから…ほら、俺って空気読めないし。

空気詠み人知らずだし…」

 

「しらないですよ!!ああ、もう彼女なきそうじゃないですか…」

「銃持ってるくせに泣くのかよ…え?恥ずかし!お前いくつだよ。中学生だろ。」

「彼女だっていろいろあるんですよ!!」

 

いつの間にか少女は銃を地面に落としていた。

 

「は?しらねーよ。だって、俺あいつじゃないし」

「あなたには人の心を思いやるってことを知らないんですか!?」

「…いや、だから、俺興味ないし、あのクソ餓鬼とも関係とかないし、赤の他人だし、ってか、こんな時間に起こされている俺の身になってほしいというか。」

 

そういうと、怠そうな男は時計を見た。

 

「ああ!!バッ!おま、もう10時じゃねーか!!なんか眠いな…って思ったら、もう10時じゃねーか!!どうすんだよ!!毎日の楽しみ『放送休止』が見れなくなったらどうすんだよ!!ゴラァ!!」

 

「…うわぁああああああああああん!!!」

少女は泣き出した。

 

「あー…もう、どうしてくれるんですか!」とスーツの男性が少女に駆け寄った。

 

「…なんだ、おめぇはあれか?『あーもう』って鳴く、あーもう星人か?」

「知りませんよそんな星人!」

「知るはずねーだろ?テキトーに言ったんだからよ

…とりあえず、俺はかえって寝る。25時から『放送休止』が始まんだ。

あれみてると、どうも落ち着くんだよ…こう、バーがな重要で、そこにある色合いだとかそんなんがな」

 

 

 

 

シンはテレビを消した。

 

修学旅行後から、直斗はコツコツ準備をしているようだ。

シンにとっては選択肢。非道、外道と言われる選択肢もシンにとっては選択肢の中に含まれている。

 

「…間薙様、そろそろ学校の時間ですよ?」

「そうか。わかった」とシンはカバンを持った。

 

と、メリーが珍しいものをシンの前に出した。

 

「…弁当…か」

「は、はい。」

メリーは少し残念そうにシンの前から弁当を下げようとしたが

「出過ぎたまねを「いや、そうではない…ありがとう」…はい」

一転、メリーは少し嬉しそうな雰囲気でシンに弁当を出した。

 

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 

その日の夜…

 

 

シンは相変わらず、テレビを見ていた。だが、ニュースである。

それは目的がある。

 

「はい"報道アイ"の時間です。先日、無事に犯人逮捕となった、

稲羽市の"逆さ磔・連続殺人事件"。解決の陰に、なんと現役高校生の、文字通り

少年探偵の活躍があった事、ご存知でしょうか。

今日は、甘いマスクでも話題をさらいそうな

"探偵王子"、白鐘直斗くんの特集です。今日は宜しくお願いします。」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

シンはそして、笑い始めた。

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

「手柄と呼べる程のものじゃありません。

確かに、先日の諸岡さんの事件については犯人の仕業に間違いありません。

ですが、事件の全体像を見渡したとき、僕には幾つか違和感が残ります。」

「はあ…と、言いますと?」

アナウンサーが直斗に尋ねた。

 

「具体的な事は、残念ながら、まだ何とも。

ですが、事は三人もの犠牲が出た殺人事件です。

小さな違和感でも追及すべきだと僕は思います。」

 

「は、はあ…警察会見の内容と、若干異なるようですが…

で、では次に、"探偵王子の素顔"と題しまして、

直斗君自身のことを聞いていきたいと思います。

"探偵王子"が今まで解決してきた事件は

何と24件。 そのうち16件が…」

 

そこでシンがテレビを消した。

 

そして、不気味に笑い続ける。

シンは顔を押さえ、笑い続ける。

 

真っ暗な部屋の中で、重い声が響いた。

その中、黒い影が蠢いた。

 

「ククッ…やはり、お前と同じか。無知故に知に貪欲になる。

しかし、それを知ったとき、人は虚しさを感じるのだ」

ニャルラトホテプが真っ黒な人間の形で出てきた。

 

「クックックッ…クックックッ…」

 

シンは不気味に笑い続ける。

 

「そして、どうするのだ?お前は…」

「クククッ…どうもしない。同じ方法だ。そして、やつの証明で犯人が絞れてきたのだ…

クククっ…こうでなければな」

そういうと、シンはニャルラトホテプに耳打ちした。

 

「…なるほど。…あいつに与えたものが、ルイの探しているモノだと言うことか」

「そう…そして、犯人に能力を与えたのもこいつだな」

 

「クククッ…そいつは運がなかったようだな。混沌王、明けの明星、そして、この這い寄る混沌を相手にしたのだ、ただの地獄、煉獄ではすまさんぞ…」

そうニャルラトホテプは言うと、影に消えていった。

 

「面白くなってきた…」

シンはそういうと、自分のベットへと向かった。

 

この先の好奇心を満たしてくれるようなことが起こることを思い。

 

 

この世界に来て初めてシンは大声を出して笑った。

 

 

 

 



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第38話 Crack 9月13日(火) 天気:晴

シンは教室から、外を眺めていた。

そこに鳴上や花村、千枝、天城が教室に来た。

 

「なんだったんだ?あいつ」

「?」とシンは花村の言葉に首を傾げた。

「直斗君…確証を取れる行動って言ってた…」と天城がシンに言った。

 

シンは無言で反応しなかった。

 

「流石の間薙君もわかんないでしょ…それだけじゃ…」

千枝は呆れた顔で言った。

 

 

そして、その二日後…

マヨナカテレビに直斗が映った。

 

 

9月16日金曜日…

ジュネスフードコート

 

「昨日の…直斗くんだったよね。」

天城が会話の切り口を開いた。

 

「クマくん、どう?やっぱり…いる?」

「におい、するクマ。」

 

「これじゃ…おんなじだ…今までと、なんも変わってねえ…」

「当たり前だ。やつはそれを狙っていた」とシンは淡々と言う。

 

「…え?…そうか、だから直斗くん、急に特番の取材に…!

直斗くん、"違和感がある"って言ってた。

"納得できない"って言ってた。

それと、“誘拐されるのはテレビに出た人だ”って、言ってたでしょ?」

 

「ちょ、ちょっとまて、シンの口ぶりだと直斗が何かするってわかってたのか?」と花村がシンに言った。

 

「ああ。知っていた。」

すると完二がシンに掴みかかった。

 

「わかってるんすか!?センパイ!」

「承知の上だ。それに、これ以上ない絶好の機会だ。」

「でも、直斗君死んじゃうかもしれないんだよ?」と千枝は怒りながら言った。

 

「…なんだ、お前らはそんなに腑抜けか。助ける前提で俺はアイツを煽った。」

「あいつの情報は俺がすでに知っている。

それにあいつなりの"覚悟"だ。遊びではないことを承知でやつはこの作戦を決行した。」

完二はシンを離した。

 

「…シンはいつもそうだ。勝手になんかやっていて、先の先まで読んでいる…」

鳴上は軽くシンをどついた。

 

「シンにしちゃ珍しく分かりやすくいうじゃねーか。つまり、裏を返せば、俺たちを信用してるってとっていいんだよな、それ。」

花村は立ち上がり準備運動を始めた。

「…」

シンは顔を背けた。

「でなきゃ、私たちにそんなこと言わないでしょ?間薙センパイ、シャイだから」

りせは言った。

 

 

「…俺達のすることは変わらない。それに今回は情報がある分楽にできる。

絶対に助けるぞ。」

鳴上の声に皆が応えた。

 

 

 

 

テレビの中…

 

シンがりせに特徴を言う…

「端的に言う。

まず、あいつは子供っぽい。執着的に事件を捜査していた。

それ故に、警察では子供扱いされていたようだ。

それに背の小さいのがコンプレックスだ。

貪欲に知識を欲していた。それは家系がそうさせるのか、あるいは別か。

そして、居場所を探していた。というより、居場所にこだわっていた。

客観的に物事を見すぎていて、主観を見失っている節がある。

今回の行動は俺が煽ったにせよ、普通の人間なら行動には移さないだろう。

そして、安定…というよりは理論に沿ったものが好みのようだ。

恐らく、料理なんかはレシピ、大匙まで正確にやるタイプだ。

しかし…」

「ちょ、ちょっと待ってセンパイ」

「ん?」とシンはりせのほうを向いた。

「それって本人から聞いたの?」

 

「…いや、見て聞いて相手の行動などの情報を統合すれば、おのずと結果出てくる。」

「え!?ってことはまさか、私や鳴上センパイのもわかったりするの?」

「まあ…幾分には」

「えーっ!じゃあ、鳴上センパイの「今はそんな場合じゃねーっつの!!」」

花村が空気を察して止めた。

 

「…それと」

シンは言葉を詰まらせた。

 

「それと?」

「…いや。これはいい。このくらいでいいか?」

「もう十分すぎるよ。すぐ見つけられる」

 

そういうとりせはペルソナを召喚しサーチし始めた。

 

「そういえば、シン…これ、なんだかわかるか?」

鳴上が櫛を見せてきた。

 

「…これは誰のものだ?」

シンは櫛を手に取った。

 

「マリーちゃんの。記憶無くす前に持ってたみたい」

「でも、うちのお袋によれば、贈り物にはしねぇって、話なんっすよ」

 

「いや。これは贈り物だ。"別れの為"に送った代物だ」

シンは鳴上に櫛を返した。

「何かわかったクマか!?」

クマはシンに飛びついていた。

 

シンはまるで神に祈る様に言った。

 

「呪われてあれ…貴様の眼前で幾億もの呪言を貴様には吐き捨ててやろう…」

 

「ど、どうしたの間薙君」と千枝は少し焦った様子で言った。

「…現実は残酷だな。これ以上の事は俺は言わない。君たちで彼女の助けになるといい」

 

「また、隠し事?」と天城はシンに言った。

「隠し事…というよりは、恐らく真実は残酷だという話だ。俺が言ったところで、それは君たちのためでもないし、彼女自身のためにもならない。」

「それに、お前等なら辿り着くだろう。」とシンは腕を組んだ。

 

 

「見つけたよ!センパイ!」

りせが直斗を見つけたようだ。

 

その言葉に皆が今すべきことを思い出す。

 

 

…秘密結社改造ラボ

 

 

「…なんスかね、ココ。」

完二がそんな建物を見て言った。

「SFチック…て言うか、あー分かった、特撮の秘密基地っぽくないか?」

「あー、ガキん頃は憧れたっスね。」

 

「あれ、シンドいらしいよー、現場。滝とか火の中とか余裕で本人飛び込むらしいし。」

「俺は子供の頃はそれを想像してしまって、内容を見れなかった。」

シンは建物の材質を触る。

 

「どんな、ませた子供だよ…でも、ま、男のロマンの基礎だな。」

「ま、そうね、気持ちは分かるかなー。カンフーと一緒でアクションだしね。

それに"秘密基地"って響きも、結構トキメクよね!」

「…クマ、知ってるクマ!真っ赤な『"マガツヒ"』が流れてるクマね!!」

 

「マガツヒ?」と天城が首を傾げた。

「当てにしない方がいいだろ…こいつの発言なんて…」と花村が言った。

 

 

 

「前回とは違うんだね」

天城、千枝、そして、シンという珍しいメンバー構成になった。

 

「クマは騒いでいたがな」

シンは欠伸をした。

「まぁ、前回の事もあるし…ね」と千枝はシンに言った。

 

「もう、『リベラマ』は唱えんさ」

「でも、私たちそんな魔法知らないんだよね」

「…それは確かにおかしな…疑問だ」とシンは首を傾げた。

 

「その魔法の逆ってあるの?」

「無論。ある」

シンはエストマを唱えた。

 

「…特に実感はないよね」

「あ…」と天城が正面に居るシャドウを指差した。

そのシャドウはこちらを向く、思わず千枝と天城は戦闘態勢に入り、近づこうとしたがシンが腕でそれを止めた。

シャドウはこちらを向くが、まるで見えていない様子でこちらに近づいてきた。

 

そして、何事も無い様に横を通り過ぎて行った。

 

 

「…ホントだ。まるで、鳴上君のあれみたい」

「あれ…あの謎の間か。」

 

鳴上は戦闘後少しぼーっとしているときがある。

それが何度かあるため、鳴上にシンが尋ねたところ

「…カードシャッフルだな」と訳の分からない回答が来た。

 

「鳴上君ってどっかおかしいっていうか、不思議な雰囲気があるよね」

「雪子が言うかな…」と千枝が頭をポリポリと掻いた。

「大丈夫。千枝もおかしいから」

「そういう意味じゃないつーの」

 

シンはそれを見て淡々と言った。

「仲が良いな君たちは」

 

「え!?…まあ、そうだね」と千枝は恥ずかしそうに言った。

「小さい頃から、知り合いだしね」

「…そうか。いいものだな」

 

「なんかそういわれると…恥ずかしいかな」

「間薙君はいなかったの?」

「…どうだろうな。キミたちほど、仲が良いとは言えなかったな。」

シンがそういうと、警報が鳴った。

 

 

『保安システム:正体不明ノ侵入者ハ

現在、地下4階ニ到達…警戒レベル、オレンジ。

施設内ノ重要区画ヲ閉鎖。

侵入者ヲ排除セヨ!』

 

 

「あいつらは地下四階か」

「速いなあ…」

千枝はそう言った。

シンたちはまだ地下二階でまったりと歩いている。

 

 

「ってか大分、間薙君も馴染んできたね。このド田舎に」と千枝は言った。

「それが良いところだ」

「でしょ?私もそう思う」と千枝は少し嬉しそうに言った。

「…空気がおいしい。静かなところで良い。」

シンは深呼吸をした。

 

「…私は…嫌いだった。」

と天城は言った。

「だってね、私は旅館の跡継ぎとか、嫌だったの。

でも…そうじゃないってわかったの。

自分で決めてなかったから…レールに乗せられた気がして、嫌だったの。

嫌なら、逃げるしかないって決めつけて…

でも、今はそうじゃないの…あの旅館を守りたいって思う。

やっぱり、あそこは私の大切な場所だから。」

 

「雪子…」と千枝は少し嬉しそうな顔で言った。

 

それをどう感じたか。シン自身にはどうにも分からなかった。

しかし、何とも言えない感情が湧いた。

 

 

 

(悲しい…これが…悲しいだったか?)

 

 

 

自分にはもうない故郷。親の顔も、勇の顔も、千晶の顔も、先生の顔も。

もう見ることはないと思うと、海の底に沈んだような気持になった。

だが、それはすぐに押し出すようにした。

 

なんだか、そんな考えがひどく退屈に思えてしまったからだった。

 

 

 

 

 

「おかえりーみんな!!」

鳴上達は奥まで言ったがカードキーの関係で一旦戻ってきた。

それに合わせてシンたちも戻ってきたのだ。

 

花村が倒れ込む。

「敵強くなってねぇか?」

「そうっすね…」

 

「こっちは別にって感じ。」

「そりゃそうだろうよ!」と花村はシンを見て言った。

「あれ…ってか間薙センパイは?」

 

「まだ、中。今頃、大暴れしてると思う。」

「なんつーか、それが普通になってるってのが俺は怖いな。」

花村はリボンシトロンを飲みながら言った。

 

 

 

「…弱過ぎる」

シンは軽くフォースアニマルを蹴飛ばした。

相手は物理反射。しかし、シンの攻撃は万能属性であり、そんなものは無意味でしかなった。

全能のバランサーが攻撃を仕掛けるが、それを綺麗に躱され、十字の根元を掴まれ、壁に叩きつけられた。

全能のバランサーは地面に落ち、それをシンが踏みつけ軽々と蹴飛ばす。

追い打ちに追い打ちを重ねる。まるで機械のように。

しかし、その表情はどこか子供が新しいおもちゃを与えられたような笑みを浮かべている。

 

耐性など意味はない『貫通』がある。

 

貫通、万能攻撃。そして、全属性(万能以外)反射。

 

正に最強の矛に、最強の盾。

そして、残酷に非情に相手を蹴散らしていく。

これが、混沌王たる所以。特殊な能力は無い、寧ろ、メタトロンなどに比べれば小さい躰

しかし、それをも利点と生かす素早い動きとその体に見合わないパワー。

 

だから、こそ『混沌王』、『人修羅』などという名称がつけられる。

 

 

 

そこに鳴上達が来た。

 

 

 

「カードキーはあったのか?」

シンは邪魔な相手を投げ飛ばした。

 

「ああ。これで奥に進める。…しかし、今日は一旦引き上げよう」

「な、なんでっすか!?」

完二が鳴上に言った。

 

「…皆が疲れている」

鳴上が皆を見て言った。

「オレァまだ「やめておけ。完二。お前が一番力み過ぎている」」

シンが完二に言った。

 

「冷静になれ。肝心な場所でとちることになりかねん。」

「…うっす」と完二は納得したようにうなずいた。

 

「鳴上も良い判断だと思う」

「…それにアイテムも尽きてきたしな」

鳴上はそういうとカエレールを使って帰った。

 

『間薙先輩はどうするの?』

「俺は…もう少しいる」とりせの言葉にシンは答えた。

『…ふーん。私も残るね』

「…別に帰っても構わないぞ」

『いいじゃん!ね?』

「…好きにすればいい」

 

そういうと、シンはシャドウを蹴散らす為に走り出した。

 

 

シンはシャドウを探すために歩いていた。

 

『間薙センパイって、なんか不思議だね』

「…よく言われていた。"変わっている"、"お前は変だ"と」

『…それって嫌じゃなかったの?』

「…別に…変えるつもりもなかった。変えてしまったら、きっと退屈になるに違いないと思った」

『強いんだね…センパイは』

「…"強い"…というよりは、ただ自分に愚直に居ただけだ。それを曲げてしまったら、世界が退屈で息苦しくなると思った。…それだけの話だ」

 

シンはシャドウを見つけ、走ったままの勢いでなぐりつけた。

相手は無論、吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。

シンはそれを見て、再び歩き始めた。

 

『センパイってたんじゅーん』

「単純なほど、気楽に生きていける。」

『それって、羨ましいかも…私は…どれが自分だかわからなくなっちゃったから』

 

「…自分か。

そんなものは無いのかもしれないし、すべてが自分なのかもしれない。

"他人は自分を映す鏡"だ。

だが、他人が多すぎて、それぞれにそれぞれの自分が居る。

それでそれを拒否し、自己改革するか、あるいはそれら全てが受け入れ、自己を見つめ直すか…

それは人それぞれだ。」

『…やっぱりセンパイって変。』

「褒め言葉と受け取っておく」

 

シンがそういうとりせは笑った。

 

『センパイのこと、ちょっとわかったかも…』

「これがすべてではない。君が一人の"久慈川りせ"であるように、あるいは"りせちー"であるようにな」

シンは一階へと登った。

『…うん、知ってる』

りせは少し声が暗く聞こえた。

 

 

 

 

夜…

 

シンの趣味は?とシンが聞かれた場合、シンは三つのことを言うだろう。

一つはテレビ鑑賞。これは映画やドラマが含まれている。

一つは退屈しないことという曖昧なことをいうだろう。

 

そして、最後は…

 

 

 

「知らなかった…日帰り入浴が出来るとは」

「そうだよね。今年から、始めたことなんだ」

シンは天城雪子の居る、天城屋旅館へと来ていた。

 

そう。シンの趣味。最後は入浴だというこたえる。

実にじじぃ臭いと言われる。

しかし、のんびりとすることもシンは必要だと考えている。

 

「おお。」

シンはその広い露店風呂に感動する。

源泉かけ流しらしく、しかも、日帰り入浴が出来るということを知っているひともいないため、人はいなかった。

 

シンは体を洗い終わると、そうそうに入った。

少し熱いくらいのそのお湯加減はシンにとっては最高であった。

 

シンは肩までつかると、これまでのことを考える。

 

 

 

直斗、俺の疑念は見事に当たった。

これまでと変わらず犯人は居ることが、直斗の行動によって証明された。

そして、こいつが鳴上と同じ能力を持っていること。

理由は簡単だ。テレビに入れられること、つまり、ペルソナ能力を有しているか、あるいはそれに付随する能力を所持していること。

 

そして、鳴上に能力を与えたやつがいること。

そいつは見事に隠れている。

事実、ルイやニャルラトホテプがこれだけ探し、見つけられていないのだ。

そして、そいつが、マリーに関係していることである。

こいつが、神を気取っている。ならば、ぶち殺すだけだ。

 

しかし…

 

 

 

「露天風呂は良いな…」

 

 

シンはそんなことを想いながら、暗い空を見上げた。

 




活動報告に書いたんですが、少し投稿ペースが恐らく落ちます。

落ちる落ちると言いながら落ちなかったですが、今回は本気で落ちる気がします。

でも、失踪はしないとは思いますので、ゆっくりと待っていてください。


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第39話 Searching For My Place 9月17日(土) 天気:晴

「いやぁ…苦労した…このでけえテレビを無くすっていわれてさ。

それで、まぁあ?俺がいろいろと頼んでなんとか、残してもらった。」

 

「一時はどうなることかと思ったけど、なんとかね」と千枝はため息を吐いた。

 

実は直斗の救出をしようと、翌日ジュネスへ行くと、そこにはいつものテレビがなくなっていた。

なんでも、家電が売れない為に縮小の為に移動させるそうだ。

それには一週間くらいかかると花村が言われた。

一刻も助けたい、鳴上達が手伝い、なんとか、17日にはこうして、テレビが元の位置に戻された訳だ。

 

 

「直斗を救出に行こう」と鳴上が言うと、皆が頷いた。

 

 

 

 

秘密結社ラボ…

一番地下深く…

 

「直斗ッ!」

完二が勢いよく扉を開けると、医者のだぼだぼの服を着た直斗といつも通りの直斗が居た。

 

「待ちくたびれましたよ。

…この子の相手をするのに、ほとほと参っていたところです。」

 

「やだぁ!やだ、やだ、行かないで!!」

まるで駄々をこねる子供の様に医者の服を着た直斗が言う。

 

「なぁんで?なんで僕だけ置いてくの!?どぉしていつも僕だけひとりぼっちなのっ!?」

 

「寂しい…寂しい!」

「さみ…しい?」とシンがボソリとつぶやいた。

「僕と同じ顔…まるで僕だとでも言いたげだね。でも、君と僕とじゃ…」

 

「何をごまかしてんだい?僕は、お前だよ。」

突然、安定した口調で語り始めた。

 

「子供の仕草は"ふり"じゃない…お前の真実だ。

だってみんなお前に言うだろ…?"子供のくせに、子供のくせに"ってさ。

いくら事件を解決しても、必死に考えても、子供ってだけで、誰も本心じゃ認めない。

周りが求めてるのは、お前の"頭"だけだ。

"名探偵"扱いは、それが欲しい間だけ…用が済んだら"子供は帰れ"だ。

世の中の二枚舌に、お前はなす術も無い。独りぼっちの、ただの子供だ。」

 

そして、再び泣き出すようにシャドウの直斗は言う。

 

「僕、大人になりたい…今すぐ、大人の男になりたい…

僕の事を、ちゃんと認めてほしい…僕は…居ていい意味がほしい…」

 

 

「やめろ…自分の存在する意味なんて、自分で考えられる…」

直斗は頭を抱える。

「フッ…無理だって言ってるだろ?今現に子供である事実を、どうする?」

「や、やめろ…!」と払いのけるように直斗は言った。

 

「本心じゃ憧れてるだろ?強くてカッコイイ、小説の探偵みたいな、大人の男にさ。

そして、それを体現した人が現れた。

キミだよ。」

シンを指差してシャドウの直斗は言った。

 

「違う…」

「…それは裏を返せば、心の底で自分を子供と思ってるって事だ。

認めろよ…お前は所詮子供さ…自分じゃどうしようもない。

さあ…そろそろ診察は終わりだ…人体改造手術に移ろうか。

いいだろ…白鐘"直斗"くん?」

 

「やめろ!!」

 

「白鐘"ナオト"…男らしくてカッコイイ名前だよな?

けど、事実は変えられない。性別の壁はなお越えられない。

そもそもオトコじゃないのに、強い大人の男になんて、なれる訳ないだろ。」

 

シン以外の人間が驚いた。

 

「え、ちょ…あいつ今…スゲー事口走ったぞ…」

「お…男じゃねえだと!?」

 

「駄々をこねてるつもりはない…それじゃ、何も解決しない…」

それを聞いたシャドウの直斗は一瞬、唖然としてそして、笑い出した。

 

「ふ、ふ…あはは!その言葉はお前が言われたんじゃないか。

"駄々をこねていても、何も解決しないよ、ナオトくん"ってさ!

お前、泣いてたよな。自分の口から言うなんて、

何を守ろうとしてるんだ?」

 

「なっ…にを…」

 

「いいんだ、もう無理しなくていい。そのための"人体改造手術"だ。

駄々をこねたまま、一歩も動けずにいる…僕にはその気持ちがよく分かる。

僕はお前なんだよ…」

 

「違うっ!!」と直斗は大声で否定した。

 

「だめッ!」と千枝が直斗を遮ろうとしたが、完二が止めた。

「いや、いい…ちゃんと吐き出しゃいいんだ。

オレらはアイツを倒して、ケツ持ってやりゃいい…

じゃねえとアイツ…直斗のやつ、苦しいまんまだろ。」

 

そう言われると、本物の直斗が倒れた。

 

「フフ…あははははっ!!言うよね、偉そうに!

いいよ、来なよ…僕はキミみたいに粗暴で

情に流されるタイプが一番嫌いだッ!!」

 

 

 

 

『ライホー見参!』

 

 

 

「ヒホー!!!」という高らかな声が響いた。

 

「な、なんだ!?」

花村は驚いたこえで言った。

シンは呆れた顔でため息を吐いた。

 

すると、無数の召喚音がする。沢山のジャックフロストが現れ始めた。

 

「な、なんだよ!こいつら!」

シャドウの直斗はマハラギダインを唱え続けるが、一方に減る気配がない。

ジャックフロストはそのシャドウの直斗を殴ろうとジャンプするが、避けられる。

「クソッ!」

 

徐々に狭い部屋にジャックフロストだけになって行く。

「な、なにこれ!?」と埋もれそうになりながら、千枝はシンに尋ねる。

「知らん。俺は知らん」とシンは目を閉じたまま、ジャックフロストに流されるまま、埋もれて行った。

 

「ちょ、これ、な…あ、でも、フニフニ…」

完二はジャックフロストのフニフニにやられたようだ。

「クソ!なんだよ、これ」

「…眠くなってきた…」

鳴上は眠ってしまった!

 

シンは鉄柱を登って行き、天井にぶら下がった。

「ヒホー!!ライホー激怒プンプン丸ホー!」

「貴様の怒りなど知らん。」

 

「やめ、うわ…うわぁああああああああああああ!!!」

 

先ほどまで勢い良かったシャドウの直斗は疲労しており、自分に飛びついてくるジャックフロストが増え、地面に落ちた。

そこに更なるジャックフロストがポコポコとまるで子供のケンカのような殴りを続ける。

しかし、この数では圧倒的で最早何が起きているのか分からない。

 

「鳴上達は?」

「ライホー伝説には邪魔なんだホー!!」

「…俺は知らないからな」

 

「馬鹿!俺は味方だ!」

「ヒホ?違ったホー」

と花村を執拗に殴るヒーホー。

 

「きゃっ!どこ触ってんの!!」

と千枝に飛ばされるヒーホー。

 

シンは天井の鉄骨にぶら下がりながら

そんな状況をたのしんでいた。

 

 

 

 

ボコボコにされた直斗のシャドウはいつの間にか医者の服に戻っていた。

直斗が立ち上がる。

 

「ここは…そうだ、皆さんが来てくれて、

それから…そうか…

全部、見られちゃったんでしたね…

ほかの皆さんは?」

 

「…非常に疲労している」

シンが後ろを指差すと、ぐったりした様子で皆が座っていた。

 

「…幼い頃に両親を事故で亡くした僕は、祖父に引き取られました。

僕は友だちを作るのがヘタで…祖父の書斎で、推理小説ばかり読んで過ごしてた…」

 

「将来の夢は、カッコイイ…ハードボイルドな、大人の探偵…」

シャドウの直斗がそう答えた。

 

「両親は、自分たちの仕事に誇りを持っていて、僕も将来継ぐべきだと、疑ってなかった…

普通は窮屈と思うのかも知れませんけど、僕に拒む気持ちは無くて、むしろ憧れていて…

その辺も受け継いだのかも知れません。

祖父はきっと…いつも独りでいる僕の夢を、叶えてくれようとしたんだと思います。

祖父に持ち込まれる相談事を内緒で手伝う内に、気付いたら少年探偵なんて肩書きが付いてて…

初めは嬉しかった…でも、上手く行く事ばかりじゃない…」

 

「事件解決に協力しても、喜ばれるばかりじゃありませんでした…

僕が"子供"だって事自体が気に障っていた人も少なくなかったし…

それだけなら、まあ時間が解決するかも知れません。

だけど…女だって事は、変えようがないんですよね…」

 

「…そういうことか、故に男装か。」

シンは黙って聞いていた。

 

「僕の望む"カッコイイ探偵"というのと、合わないですよ…

それに警察は男社会…軽視される理由がこれ以上増えたら、

誰にも必要とされなくなります…」

 

「誰にも…か…」

シンが腕を組み言った。

 

「綺麗事を言うようだが、必要じゃない人間なんていない。」

 

「ええ…」

そういうと、直斗はシャドウの直斗を見た。

 

「ごめん…僕は知らないフリをして、君というコドモを閉じ込めてきた。

君はいつだって、僕の中にいた。僕は君で…君は僕だ。

僕が望むべきは…いや、望んでるのは、大人の男になる事じゃない。

ありのままの君を、受け入れる事だ…」

 

自分自身と向き合える強い心が、"力"へと変わる…

直斗は、もう一人の自分…困難に立ち向かうための人格の鎧、

ペルソナ"スクナヒコナ"を手に入れた!

 

直斗が倒れそうになるとシンが支える。

 

「それにしても、ズルいですよ…こんな事、ずっと隠していたなんて…

はは…これじゃ警察の手に負えないわけだ…

でも…これで、分かりました…事件はまだ…終わってない…」

 

「…それにしても、しまらない感じになって悪い」

「いえ…僕は大丈夫です。」

「ちょ、ちょっとまってくれ…はぁ…はぁ…」

花村は息切れをしながら言った。

 

 

 

シン以外は皆が疲労しながら外に出た。

 

 

 

 

直斗を警察に届け、帰り道…

 

「次やったら、ころすからね!」

千枝は皆と歩いて帰るライホーに見て言った。

「ヒホー…申し訳ないんだホ」

 

「…でも、気持ちよかったっす」

「そういう、お前の顔は気持ちわりぃな…」

花村が言うと完二と喧嘩を始めた。

 

「どうして、あんなことした?」と鳴上が尋ねる。

 

「ヒホー…向こうでジャックフロスト軍団を結成したホ…

でも、皆の高揚が抑えられなくなっているところに、シンの戦闘が始まることを察知したホ…それでみんなで行ったホ」

そういうと、シンの足に手を伸ばしまるで猿のように「反省ホ」とやった。

 

「ムキ―!!クマ以外のマスコットはいらないクマ!!」

「マスコットではないホ!それに、お前より強いホ!!」

と、次はライホーとクマがケンカを始めた。

 

「私もびっくりしたよ。突然、私の前に現れて、眠らせてきたんだもん…」

「大丈夫か?りせ」と鳴上が言うと、「大丈夫!」と嬉しそうに答えた。

 

 

直斗は既に病院に送った。

 

あとは回復を待つばかりである…

 

シンは締まらない終わり方にどこか、つまらなそうな顔でライホーを見た。

 

 

夜…

 

足立を連れて、自宅で飲んでいた所、鳴上が帰ってきた。

そこで、足立が直斗が見つかったと言うと、安心したと答えた。

しかし、それは知っていると言ったような顔で言っていた。

 

そこで足立がぺちゃくちゃと話すのでとっとと足立の家に帰し、鳴上の友人の間薙も揺さぶってみることにしてみた。

それはやはり、自分の"家族"が何かしていないか、それが不安であるからだ。

堂島は警察という立場を生かし、シンの家を調べた。

 

「はい」

堂島は出てきた人物に驚きながらも

「な、鳴上の叔父の堂島だ。申し訳ないが、間薙シンはいるか?」

「少々お待ちを」

その女性は頭を下げると、ドアを閉め、奥へとはけて行った。

 

すぐに、ドアが開くと、鳴上と同じ制服で居た。

ドアを開けると、外に出てきた。

 

「ご用ですか?」

「ああ、お前が心配してた、白鐘だがな、少し前にいなくなっちまってな

…でも、今日突然現れてやがった。」

「そうですか」

シンは淡々と一切の筋肉を動かすことなく答えた。

 

「…ああ、だからお前に知らせてやろうと思ってな」

「…それだけじゃないでしょう?」とシンは腕を組む。

 

「…まいったな…」

堂島は苦笑いをする。

「態々、俺のところに来る辺り、大胆すぎますよ。

…今、あなたが出来ることは、鳴上悠という人間を信じてやることだけですよ。」

「…そうか。すまなかったな、夜遅くに」と堂島は煙草に火をつけ去って行った。

 

 

 

 

 

俺はベットに寝っころがると思い出す。

 

 

『やだぁ!やだ、やだ、行かないで!!』

 

 

居場所か…全てが全て、うまくいくわけではない。

しかし、今回、直斗を救いだし、トラブルがあったものの、終わった。

今一度、俺の過去を思い出すようなことだった…

 

『置いて行かないで!!』

『…仕事なんだ…これでも読んでいていくれ…』

 

そういって渡されたのは、本。

俺は、本を読めばいつか親が自分に興味を持ってもらえると思っていたのかもしれない。

今思えば、滑稽で、そして、愚かに思える。

そんなことで何かが手元に残る訳でもない。

 

「似ている…か」

 

だからこそ、あいつのシャドウはいつもより見てはいられなかった。

まるで自分のように見えた。

ただ、俺は直斗のように親に憧れたことはなかった。

 

だから、俺は…絶望した。

…俺の信じることを信じることにした。

 

 

『俺の生きる意味…』

 

『ああ、そうか』

 

『一つもない』

 

 

昔の俺はそうだった。生きる意味。

そんなものは持ち合わせていなかった。

夢も希望もない。なりたいものも、やりたいことも、

俺の憧れも…なにもない。

 

そして、おれはあの世界で決めた。

自ら終わりのない絶望という地獄に跳躍してみせた。

俺はまだ飛んでいる最中。

着地もないだろうな。

 

落ちるだけ。

 

 




ネタ切れでクソつまんねーことしか書けてなくて申し訳ないっす。
しかも、大分早々と終わらしてしまった、直斗編…
申し訳ないです…


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近付く心『神無月』
第40話 Take A Step Forward 10月6日(木)・7日


月日が経つのはあまりにも早い、少し前までは夏だったと思えば、すでに秋になろうとしていた。

 

しかし、それのおかげで直斗の回復がひどく早く感じた。

 

放課後…

ジュネスに皆があつまり、直斗の話を聞くことにした。

 

「初めに、チャイムが鳴ったんです。

ところが、玄関に出ても誰も居なくて…不審に思っていたら、急に後ろから

腕が回って、何かで口を塞がれたんです。

それからすぐに、袋のようなものを被せられて、恐らく担いで運ばれました。」

 

「よくそんな覚えてるね。」とりせは感心したように言った。

 

「意識を奪うために薬物を使ったようですが、完全には意識を失わずに済んだので。

想像していた手口と近かったし、心の準備が出来ていました。

それに、少しでも情報を得ておきたくて必死でしたから。」

 

「さっすが、メイタンテーね。」

「褒められた事かよ。冷静すぎんだっつの…」

完二は顔には出ていないものの、心配そうにそうに言った。

 

「手際や体格から言って、犯人は男でしょう。

会話も合図らしい声も一切無かったので、単独犯だと思います。

ただ、ここから先がどうもよく分からない…一度体に衝撃があって、恐らく僕はその時に、テレビの中へ落とされたんだと思いますが…それまでの時間が、短過ぎた気がするんです。

捕らわれてから、ものの数分という感じでした。」

 

「捕まった直後にテレビにって事…あ、道端にテレビがあったとか!?」

千枝は直斗に尋ねる。

 

「その辺りからの記憶は、流石にあやふやなんですが…」

直斗は残念そうに言った。

 

 

「そっか…しかし、驚いたな…まさか犯人、マジで"玄関からピンポーン"かよ…」

花村は驚いた顔で言った。

 

「"よく覚えてない"という、皆さんの証言の理由が、ようやく分かりました。

あれだけの異常体験と、心身の消耗…混乱をきたして当然です。

ただ、状況を見ると、僕と皆さんの失踪体験は、真似る必要の無い所までよく似ている…

恐らく、犯人は同一人物と見て間違いないでしょう。」

 

「それじゃあ、モロキンを殺したっていう、あの久保って子は…」

「これでハッキリしました。

本筋が証明できないうちは厳密には確定しませんが…

久保はやはり、諸岡さんを殺したに過ぎません。

真犯人の手口を真似ただけの"模倣犯"です。」

と直斗は言った。

 

「うちの名探偵はどう思うの?」と千枝はシンに言った。

 

シンはステーキを食べながら言った。

 

「…さぁ?」

 

ガタッと皆がこけた。

 

「なんだよ…」と花村が言った。

「…」シンは再びステーキを食べ始める。

 

その後、直斗が仲間になることが決まった。

そして、皆が解散する。

シンと直斗だけが残って…

 

 

「…用か」と未だにステーキを食べるシンに直斗は言う。

「こうして助かってみると、あなたのしていた行動の意味がすべて理解できます。

違う意味での監視…。」

 

シンはふぅと息を吐くと話し始めた。

「…あいつらには言わなかったが、恐らく、犯人はテレビを持ち運んでいる。

理由はお前が言った、『テレビに入れられる時間の短さ』。

仮にテレビを先に路上に置いておくとすると、不自然だ。かと言って偶然性を信じて、不法投棄のテレビに入れるにしては、どうも犯行が確実すぎる。」

 

そういうと、シンはステーキを食べ終わる。

 

「そして、それが怪しまれない人物。恐らく…宅配便。そして、この近辺の配達者は…」

 

 

 

「生田目太郎だろうな。」

 

 

 

 

「!?そうか!」と直斗は理解したようだ。

「…しかし、それだとおかしな点がある。」

「『山野真由美』、『小西早紀』の時の、生田目のアリバイはあります。」

 

「…というより、アリバイは成立しえない。何故なら、死亡時刻には生田目は違うところにいる…

だが、生田目が態々、渦中の山野真由美に会うなどとなっていたら、それは絶対に記事になっていただろう。

そして、2軒目の殺人を口止めともとれるが、死体発見とテレビに入れるラグを考えると、どうも口止めというのは無いだろうと推察される。」

シンは言った。

「その二件がどうしても引っ掛かる。だから、あいつらには言わなかった。それに、先走って、変な事をされても困る。」

「…そうですね」と直斗は納得したように言った。

 

「"バカ軍団"だからな」

そういうとシンはステーキの皿を片付け、直斗と歩き始めた。

 

 

ジュネスを出て商店街の方へと歩き始めた。

 

 

「そ、それで、いつから僕が女だと気付いていましたか?」

直斗は少し恥ずかしそうに言った。

 

「…骨格、それに付随する、骨の太さ、身長、顔、声。何より」

シンは直斗の靴を指差した。

 

「男は厚底を履くことは少ない。それは恐らく、身長が小さいことがコンプレックス。

つまり、そこまで身長を気にするということは、憧れるのは身長の高い人間だと思われる。

身だしなみがきっちりしており、ポケットにものを入れない性分。マジメなようだな。

ワイシャツに皺は少なく、几帳面な性格。」

 

 

「…すごいですね。そんなことまでわかるんですか」

直斗はキラキラした目でシンを見た。

 

「…役に立ったことはないがな」とシンはポケットに手を入れた。

「どうしてですか?」

「…勝手に頭がそういうことを始めるようになってしまった。」

 

そういうと、シンは向こうから歩いてきた男性を見て言った。

 

「アルコール中毒。最近、離婚した」と呟く。

 

「…なぜそうだと分かるんですか?」

「携帯だ。携帯の充電コードの差し込み口がひどく傷ついている。

小さなキズがたくさんあるのは手を震えるからだ。

それに、結構傷が多い。それほど、落とすことがあるということか、ポケットの中に小銭と一緒に入れたか…」

 

そういっていると、二人の横をその男が通り過ぎた。

ふと、男が指輪を落とした。男は慌てた様子で、それを拾おうとしたが、シンがそれを拾う。

「ありがとうよ…」と男は言うと、歩き始めた。

 

シンそれをちらりと見ると再び話し始めた。

 

 

「…最近、離婚した。携帯が新しい機種。

ストラップの付け跡がひどく濃いのは大量にストラップを付けていたから。

あんな男が大量のストラップはつけないだろう。

つまり、携帯は女にもらったもの…あるいは、譲り受けたもの…

しかし、アルコール依存症がひどく、離婚したのか、男の薬指には濃く指輪の跡があった。

指輪の錆からそれほど、結婚歴は短い。おそらく…3年から4年。

しかし、そんな指輪を外してはいるが、持っている。つまり、未練がある。」

 

「…すごいですね…」

シンは"どうでもいい"と言った感じで再び歩き始めた。

直斗はそんなシンを見て、勉強になると思った。

 

 

 

 

 

 

次の日の昼休み…

 

 

「失礼します。」

二年の教室に直斗が入ってきた。

 

「今日の放課後、時間ありますか?」

と皆に尋ねる。

「何か、事件?」

「いえ…実は、クマくんを医者に診せてみたいんです。」

と直斗は言った。

 

「医者?」

「獣医さん?」

 

「い、一応、人間用のです。

空いてるなら、今日の放課後、精密検査を受けられるように手配しましたから。

クマくんが何者なのか、まずは普通に医者に診てもらうのもいいのかなと。」

 

「それに、僕たち自身の事も、調べてみた方がいいかと思ったんです。

"向こうの世界"の霧や、あの"力"が、体に何か影響を蓄積させていないかどうか。

僕よりも皆さんの方が長いでしょうし、一度診てもらった方がいいかと。」

 

「えー、影響?こ、怖い事サラっと言うなよ…

そっか…その発想無かったわ…」

と花村が言った。

 

「巽くんや久慈川さんの分も頼んであります。」

 

「うわ、手際いー…あんた、ホントに高校生?」

と千枝は直斗にいった。

「見た目はチッサイけどな。」

 

「…じゃ、また放課後に。」

と少し困惑しながら教室から出て行った。

 

 

 

 

放課後、直斗に紹介された病院で全員、精密検査を受けた。

鳴上達を含め、シンもクマも全員が精密検査を受けた。

 

「フツーの健康診断だったな…」

と花村は少し驚いた表情で言った。

「すっげー機械に乗って回されたりすんの、ちっと期待したんスけどね。」

「受けた意味、あったのかな?お医者さんも、何か不思議そうな顔してたし…」

とりせは疑問の表情で言った。

 

「あ、戻ってきた。」

 

直斗と共に、クマが戻ってきた。

 

「お待たせしました。」

「お待たせしまクマ。」

 

「で、クマの事、何か分かったか?」

花村が直斗に尋ねる。

 

「分かりましたよ…分からないって事が。

レントゲンを撮ってもらったんですが、

映りませんでした。

何度撮っても、ボヤけてしまって。

見た目の様子や触診では、異常は無いそうです。

機械がおかしいかも知れないので、まだ心配なら別の病院に行けと言われました。

逆に迷惑をかけた気がしますね…

 

それと間薙さんですが…」

 

直斗は少し困惑した顔で言った。

 

 

「…クマ君とは違い、まるで心霊写真の様なレントゲンが取れました。」

 

「は?」

鳴上も思わず間抜けな声を出してしまった

 

直斗は少し大きい袋からレントゲンの写真を取り出した。

 

 

「きゃっ!」とりせが鳴上の腕に抱き着いた。

「な、なんだこりゃ…」

 

シンのレントゲンには無数の顔が映り込み、レントゲンというよりはただの心霊写真になっている。

 

「…正直、僕も困惑しました」

直斗はすぐにレントゲンを袋に仕舞った。

 

「それで…間薙君は?」と天城が直斗に訪ねる。

「医者と話してます」

 

 

 

 

 

「医者の私がいうのもなんだかね、お祓いに行った方がいい」

「…ええ、そうします」

シンはめんどくさそうな顔で答えとっとと診察室から出ることにした。

そんなものはシンにとっては無意味だし、"悪霊が憑いています"なんて話は今更だし、滑稽な気さえした。

こっちはその実体化したものを、殴り倒しているのだ。

当然、霊となって憑くなんて話はおかしな話でもないし、シンには驚くべきことでもなかった。

 

診察室から出ると、廊下の奥にクマが直斗に追いかけ回されていた。

 

シンはため息を吐き、窓からの景色をぼんやりと見た。

昔とは違った空だ。

 

 

 

 

 

あの頃は永遠に、こんな時間が続くと思ってたいた。

終わる恐怖も何かが起きる期待も、どこか自分とは関係のない誰かの退屈な物語を見ているような気分だった。

景色と時間ばかりが移ろいで、繰り返しては懲りずに唸っていた。

 

あの頃は自己なんてものはなかったように思える。

 

彼らのように見詰める勇気もなかった。

彼らのように変えることも望まなかった。

彼らのように誰かと分かち合うこともなかった。

 

あるのは平凡で退屈な物語。

ただ、ちょっとこの世の全てが虚しく見えただけ。

ありふれた人生、ありふれたビル群、ありふれた事件と時間経過だけ。

それに戻ることは、俺にとってはあり得ないことだった。

 

 

 

『コレハカワリマスカ?』

 

 

「…変わりません」

 

 

 

帰り道、シンがそう呟いた。

 

「ん?なんだ?シン」

隣を歩いていた、花村が尋ねた。

「少し、昔を思い出していた。」

「なんか、お前が言うとすげー昔の事みたいだな…」

「凄い昔の話だ。」

「ん?そうなのか?」

「ああ」

「…お前っていつも、そんな顔してんな。

いつも、考えてるような顔で、笑わねーし、泣かないし。

そのなんつーか…なんか、悩みとかないわけ?」

花村は少し恥ずかしそうに尋ねる。

 

「…無いな。特に」

シンは淡々と答えた。

「本当にないとしたらうらやましいな」

「お前のような悩みはない」

「…そうか、そうかいいな…って、俺のようなってなんだよ!!」

花村が乗りツッコミでシンに突っ込んだ。

 

 

 

 

 

「荒れてますな…主は」

『ボルテクス界』に来たシンは残党が居るとされる、ギンザ大地下道に来ており他のコトワリの残党狩りを始めた。

昔がマネカタが居た場所であるが、ほぼすべてのマネカタはアサクサへと集められた。

無論、それに異を唱えるものが居たことは確かだ。

ヨスガの連中が大量にカオスに流入したこともあり、選民思想のあるやつらは反発をした。

 

しかし、それでシンは王として何かをしたこともなく、誰一人文句を言わなくなった。

 

結局のところの、異を唱えるものは自分の弱さに気づいてしまったのだ。

シンの従えるメンツがあまりにも強大すぎた。

従える関係にはないものの、ルシファー。

仲間にはシヴァ、モトなど強大な悪魔がシンの近くに居た。

 

何より、ゴステンノウの補佐であったトールがシンに仕えていたこともあり、目立った争いは無かった。

 

一方、マネカタ達はフトミミの元、自分たちの聖地が安全であること。

それが彼らにとっては安らぎであった。

 

故に、ギンザ大地下道は今は残党が住みつくところとなり、荒れに荒れている。

 

シンは向こうではあまり使わない、『螺旋の蛇』『ソルニゲル』などの技を乱射する。

そこらじゅうの壁という壁が壊れていく。

 

 

「…やっぱり、あの強さ…痺れるぜ…」

「ああ、あれだけのマガツヒ…食ったら「その前に貴様が死ぬだけだ」…ぎゃぁああああああああ!!」

クーフーリンはオニの手を切り落とした。

 

「主に手を出すなどということは考えないことです。」

「ひぃいい…」

オニは苦しそうに悶える苦しみ、マガツヒを放出させ死んだ。

それに周りの悪魔が群れ、吸う。

 

 

「…終わったな」

大地下道の中央を流れる、水の中でシンはクーフーリンに言った。

「ええ。非常簡単でしたね」

クーフーリンは自分の槍に刺さったパワーの死体を放り投げた。

 

「…死体はいつもどおりでいい。そこら辺の連中が吸い来るだろうな。」

「了解しました」

シンはそういうと、ターミナルのある部屋へと入って行った。

 

 

 

 

 




ちょっと、時間進みすぎなんで、とりあえず、進めていきます。
ですが、挿入という形で話が思いついたら○.5話といった感じで挿入すると思います。


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第41話 Step 10月7日(金)~10日(月)

放課後の屋上…

 

10月だというのに既に寒さを感じる程であった。

 

「うおっ、さみー!」

完二は肩を震わせながら、いつもの定位置に付いた。

シン以外はまだ夏服である。

 

「なんでこんな日に屋上集合?」

「急用ってなに、花村先輩?」

「まったくだクマ!クマはジュネスのチラシ配りでお忙しいクマよ。」

「や、校門でナンパしまくってたでしょーが。」

クマは千枝に突っ込まれた。

 

「事件に何か進展でも?」

 

花村は突然両手を合わせてきた。

 

「…祈る神を間違えている」

シンは淡々とボケる。

「いや、もう…この際だから、悪魔でもいいから頼む!

お前らだけが頼りだ!今週末…空けてくれ!」

 

「今週末…もしかして、中止になった稲羽署のイベント絡みですか?」

直斗が思い出すように尋ねる。

「何の話?」

「今度の日曜日、アイドルの"真下かなみ"さんが一日署長をする予定だったんです。」

 

「ナント! 花丸急上昇中の"かなみん"がこのようなド田舎に!?」

クマは少し興奮したように言った。

 

「かなみ、もうそんな仕事取るようになったんだ…」

「確かに最近テレビでよく見るかも。りせちゃんと同じ事務所なんだ。」

 

「てか、いま稲羽市に来るって、地味に私の騒ぎ追い風にしようって事じゃん…」

「…エグイな、やることが」

鳴上がシンに同意を求めるとうなずいた。

 

「それがポシャると、なんで花村先輩がヤバいんスか?」

「ちゃっかり便乗セールを企画してたらぁ、裏目に出ちゃったクマねっ!」

 

「笑い事じゃねー!

警察の中止決定遅くてさ。

親父、マジ困ってんだ…超頑張って準備してたのに、見てらんねー…

てかもう残念じゃ済まねーんだよ、色々。」

 

そういうと花村が頭を抱えた。

 

「僕の失踪騒ぎで、警察署の受け入れ準備が出来なかったと聞きました。

すみません…僕のせいで。」

「や、お前が気にすることねーけどさ。…まあ、そういう事らしい。」

「で、オレら呼んで、どうしろっつーんスか?」

 

「そこまでの話だと、正直あたしらには…」

「みんなには、色々準備とか手伝って欲しいんだ。

で、その…久慈川さんには…ナンだ、ジュネスで、イベントなど…」

 

「私にかなみの代わりをやれってこと?」

りせは驚いたように言った。

 

「…やっぱ、ダメ?」

 

りせは考えるように間を開けて言った。

「もしかして、マジで結構ヤバイの?」

「分かんねー。」

花村はため息を吐き、続ける。

「俺、息子ったってバイトだし…けどなんか…親父が妙に優しいんだよ。

まさかクビとか、あんのかな…そしたらまた転校とか…

はは…マジかよ、どーしよ。」

 

再びりせは考えると、ぼそりと言った。

「…歌と握手だけ。」

「サインとか、高校生って肩書きで出来ない事は全部NG、逆に大ごとになっちゃうから。

で、先輩たちも一緒に出るなら、考えてもいい。」

 

「一緒に出るって…ア、アイドルとか、そういうの困る。」

 

「スカウトとか来たら困る。」

「ジュネスと専属契約してるから困る。」

「や、困り方おかしいだろ…でもよ、お前が歌うとしてオレら何すんだよ?」

完二がりせに尋ねる。

 

「バックバンドに決まってるでしょ。言っとくけど、アリモノは流せないからね。」

とりせは言った。

 

「いやいやいやっ…!バンドとか無理ゲーすぎだろ!」

花村は両手を振って拒否した。

 

「鍵盤なら少し弾けなくもないです。

祖父の薦めでピアノを習ってましたから。

持って来れますよ、キーボード。」

「乗り気!?」

と直斗の言葉に千枝は驚いた様子で言った。

 

「今回の件は僕のせいでもありますから。やれることは、やりますよ。」

「直斗…サンキュな!そういうことなら、俺もギターはあるぜ!

弾いた事はあんまねーけど。てか、うっかり買ったベースも、物置にあった気すんぞ!?」

「うっかり買うか!どうせ間違ったんでしょ。」

 

「そういう事なら、ウチにも宴会用の何かある。」

「何か…っスか。」

「じゃあ決まりっ!私、バンドスコアのある曲探してくる。

先輩たちは楽器と場所、なんとかしといて!」

 

「わかった!なるべく簡単なやつにしてね!?よぉ~し、やるってなったら燃えてきた!

音楽室借りれないか、すぐ聞いてこよ?」

そう言うととある四人以外は屋上から降りて行った。

 

茫然と鳴上とシン、完二とクマ、そして、直斗が屋上に居た。

「…シンは何か出来るのか?」

「…できなくもないはず」

「センパイ、マジぱねぇっす」

 

「うひょー!!なんだか、テンションあがってきたクマ!!」

 

 

 

そして、すぐに音楽室へと皆が集まってきた。

 

 

 

「マリーちゃんも?」

「うん…思い出つくり…」と少し嬉しそうに言った。

 

「で、どうすんのこれ。

吹奏楽部で余ってんのとか、適当にかき集めて来たけど。」

と千枝が楽器を持ってきていった。

 

「…アレなんすか?」

完二が指を指したのはドラだ。

「ドラだけど?」

「や、"知らないの?"みたいに言われましても…」

と花村が天城に突っ込んだ。

 

「千枝がね、鳴らしたいかと思って。ほら、中華っぽいし。」

「や、中華かどうかは、この際どうでもいいけど…」

 

そして、それぞれ楽器を持った。

「シン先輩は何か出来るんでしょうか?」

と直斗が尋ねる。

 

「…別になんでも」「私も…」

「じゃあ…ギターとか?」

「マリーちゃんもどうするの?」

 

そして、マリーはギターを持つと、『ベルベットルーム』のギターだけ弾ける。

「おお!!うめぇ!!」と花村が興奮気味に言った。

「じゃあ、これを弾いてみてください」

バンドスコアを直斗が差出し、言っては見るものの弾けなかった。

 

「間薙センパイは?」

 

「…」

シンはギターを持つと、花村が持ってきた本を見た。

 

「初めて?」

「ああ。」

 

シンは本をさらっと読むと、ギターを弾き始めた。

正確な弾き方でまるで機械のように弾き始めた。

 

曲は『邪教の館』の曲である。

見事にワンフレーズだけ弾いた。

 

「…こんなもんだ」

シンはギターを置いた。

「…センパイこれは弾けますか?」

「…」

そういうと、『True Story』のバンドスコアを見て軽く弾き始めた。

 

 

「いやいや!!充分すぎんだろ!え?なに?お前なんかやってたのか!?」

花村は驚いた顔でシンに言った。

「…やっていない。」

「じゃあ、なんでできるんだよ!」

「…指さえ動けばどうということはない」とシンは再びギターを置いた。

シンがある程度すべての楽器が出来ることが分かったので、皆に教えるということをシンは行うことにした。

 

 

 

 

「なるほど…」と鳴上が頷きながら、シンの弾くベースを見ていると、ドアがノックされた。

 

「…ちょっといいかな?」

そこには制服を着た、二年生の長髪で軽い茶髪の女子生徒が居た。

 

「は、はい!なんスか?」

花村がその人に対応する。

 

「間薙君いるかな?」

「はい!いますよ。シン!」

花村がシンを呼ぶとシンはその人物の顔を見ると、頷きついていった。

 

 

「誰なんスか?」

「さぁ?…ってか同じ学年であんな子いたっけ?」と千枝は言う。

「うーん…どうかな?」と天城は首を傾げた。

「ま、まさか!?」

クマが思いっきり立ち上がった。

 

 

「か、彼女さんクマか!?」

「「「な、なんだってー!!!」」」

 

 

 

 

日が落ちて、すでに屋上は真っ暗であった。

そこに女子生徒と二人でシンはいた。

 

「気持ち悪い恰好をするな。ルイ」

「そうか?便利な恰好なのだよ、こういう恰好はな」と手をぶらぶらさせながらいた。

「それで、わざわざ来る用とは?」

「…やはり、お前の考えは当たっていそうだ。あの鳴上というやつに能力を与えたのやつが、マヨナカテレビを作り上げた。さも自分が神であることを主張しようとしている。」

ルイは鼻で笑うと、フェンスをよじ登った。

 

「それだけというわけではないのだろう?」

「雨や霧…天候に能力を向ける程の奴だ。それに私や這い寄る混沌、そしてお前にも気づかれないほど、うまく身を隠している…」

 

すると二人は口を噤んだ。

 

「…実にやっかいなことをしてしまったようだ。ではな、少年少女・・・・たち」

ルイは屋上の扉をちらりと見ると、屋上から飛び降り、深い闇に消えて行った。

 

「…まったく盗み聞きとはな」

「悪い」と鳴上がドアを開けてきた。

 

「誰?今の」

マリーがシンに聞く。

「…明けの明星さ」

「明けの明星?」

「知らないっスか?カップ麺すよ、カップ麺」

「なんか、突っ込むのもだりぃ」と花村はあきれた顔で言った。

 

 

最終下校時刻を過ぎた為、ジュネスでの倉庫での練習となった。

 

 

天城たちはやっと吹ける様になり、あとはパターンを覚えるだけとなった。

 

「幸いで、この曲が簡単でよかった」

直斗が言った。

「そこは流石、りせのおかげだと言える。」

シンはりせを褒める。

 

「まぁ、数日で出来る曲っていったらこういうのしかないからね。」

「…うむ。そうか。」

「…間薙センパイ」

「ん!?」

シンの頬を突然、りせが引っ張った。

 

「センパイっていつもそんな顔してるよね」

そふぇで、なにがわふい(それでなにがわるい)?」

「…生きづらくない?」

 

そういうと、りせは手を放した。

 

「…生きづらい…か。そうかもしれんな。」

「だったら、もっと笑ったり、泣いたりしたらいいのに」

「…俺は悪魔だからな。泣かせることはあるかもしれんな」

そういうとシンは鼻で笑い、外へと出て行った。

 

 

「…うーん、りせちゃんでもあの鉄壁はやぶれないか」

「あ、あ悪魔ってど、どうどういうことですか?」と直斗は動揺したように皆に尋ねた。

「あーそうか。直斗は見た事ないんだっけか」

花村がそういうと鳴上が続ける。

「シンはああ見えても悪魔なんだ。『ミロク経典』というやつに書かれている、『東京受胎』に巻き込まれて、悪魔になったそうだ。」

 

「ミロク…経典?…ちょっと待ってください」

直斗は実家に電話をかけ始めた。

 

「なんだろう、突然」

千枝は少し動揺している。

「…何か思い出したんじゃないか?」

 

直斗は何かをメモすると、携帯を切った。

 

「皆さん少し…間薙さんについて話があります、」

「…なんか本人、いないけどいいのか?」と完二が動揺したように言う。

「恐らく、彼は少しづつですが。僕たちに情報を与えてくれていました。

『新宿衛生病院』『ミロク経典』『東京受胎』…

僕はミロク経典という言葉を見て思い出しました。

2004年に東京の代々木公園にガイア教という新興宗教が、暴徒化し死亡者が出ました。」

「あーなんか、あったっすね。テレビで大分騒いでたな」

 

「そして、警察の押収物でミロク経典の重要な部分を電話で祖父に聞いたんです。」

そういうと、直斗はメモを見て言い始めた。

 

「『諸の声聞に告ぐ 我は未来世に於て 三界の滅びるを見たり

 輪転の鼓、十方世界に其の音を演べれば

 東の宮殿、光明をもって胎蔵に入る

 衆生は大悲にて、赤き霊となり

 諸魔は 此れを追うが如くに出づ

 霊の蓮華に秘密主は立ち 理を示現す

 是れ即ち創世の法なり』」

 

「おお、いかにも…って感じだね」

千枝が言うとりせもうなずいた。

「問題はここです。」と自分のメモを見せた。

 

「しゅ…しょう?」とりせが首を傾げながら言った。

衆生(しゅじょう)と読みます。衆生というのは、生命のあるものすべてを指します」

「そして、大悲…これは衆生の苦しみから救うとされている仏です。」

「救うって…何から?」

「…恐らく、生きる事の苦しみ。」

 

「…?どういうことなんだ?」

 

 

 

 

 

「つまり、この世のすべての人間が死んだということです。」

 

 

 

 

 

「?どういうことだ?死んでないぞ」

「そうなんです。そこが今一訳がわからないんです」

 

 

「…」

「!?間薙さん」と直斗は驚いた顔で言った。

「…今はやるべきことがあるように思えるが?」

シンはギターを手にすると、弾きはじめた。

 

 

「…そうだった!俺が転校したらそれどころじゃねええええええええ!!!」

 

 

その後も、皆で朝から夜まで練習を続け、形にはなった。

 

 

本番では緊張しながらも、皆楽しくできたことに充実感を得ていた。

マリーも思い出づくりになったと嬉しそうに言っていた。

シンは結局、裏方ということで演奏をすることはなかったが、

それでも本人は満足そうな顔だった。




学生の身分だからこそ、これだけの早い投稿が出来るのだッ!!
黒歴史に成ろうとも知った事ではないッ!!
何故なら!俺の存在自体が!この鼓動自体が!黒歴史なのだッッッ!!!


…と中二病ぽく言ってみたりする。
こんな性格なんで、たぶん「なんて無駄な時間を過ごしたんだろう」って思うんだろうな。
…最悪。自己嫌悪。


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第42話 I Am "Ashura" Of One. 10月16日(日) 天気:晴

君達が彼を引き揚げられるか?

 

…それはNoだ。

 

君達は彼の隣には立てない。

君達ではあまりにも才能と能力不足だ。

傷を舐め合うだけの、生温い人間関係なら、止めることだ。

そんな思いが彼を傷を深く抉っているのかもしれないのだからな。

 

キミたちも理解している通り、"残酷だ。"君達の現実はいつも。

 

いつか、分かるときがくると思うか?

彼の苦しみが、痛みが、後悔が…

幾星霜もの間、蓄積された絶望がいつか分かるときがくると思うか?

 

その答えもNoだ。

 

人は慣れる生き物だ。適応する生き物だ。

だからこそ、人はそれを素晴らしい事だと、私は思うのだ。

だから、彼はああして生きている。

多くの苦労があり、絶望しているが、慣れでなんとか生きている。

 

だが、見たまえ。

慣れてしまったが故に肝心な場所まで壊れてしまった。

 

悪魔を倒しすぎた彼は慣れていったのさ。

壊すこと、殺すことにな。

だがね?慣れれば慣れるほど、心の奥底の大事な部分が壊れてしまうんだ。

だが、慣れなければ、きっと、彼は壊れていただろう。精神的にね。

 

だから、彼は恐ろしく冷酷に相手を殺す。

真っ黒に染まりつつある闇の中で、無常なまでにな。

 

それはもう、心が無いのか、或いは粉々に砕けてしまったのかもしれない。

 

だから、私は彼を戻そうとここに連れてきた。

何時までも半身人間で居て欲しいためにな。

どちらの良いところを組み合わせ、それを維持したとき、私の目指した悪魔の完成だ。

あのくそったれにも勝つ為にそれが必要なのだ。

 

 

だが、君達がそれを実行することは不可能だ。

 

『深淵を深く覗き込むとき、深淵もまた貴様をじっと見つめているのだ』

 

 

 

君達は優しすぎる。

だからこそ、彼の側に立つことはお勧めできない。

優しすぎるが故に、君達は覗きたがってしまう。

…それが、君たちとそして、彼を苦しめることになってしまう。

 

彼の"仲魔"…或いは"親"として

そして、彼が君達の事を思っているが故に言わせて貰う。

あまり深く立ち入らないことだ。

君たちが想像しているより遥かに残酷なものが待っている。

 

…だが、本当に知りたいのなら、また来ると良い。

私の名前はルイ。ルイサイファー。

おまえらがおちたい(・・・・)なら来ると良い。

喜んで私はその手伝いをしよう。

 

今一度、君達のいう仲間とやらに相談するが良い。

それが君達の選択の正しさを祈る。

 

 

 

 

鳴上達は重いアパートのドアを開けた。

演奏イベントは成功に終わり、試験を終えた鳴上達。

 

シンの真実。それを知ろうとアパートへと来ていた。

 

だが、今日は金髪の男性が出てきた。

その男性は濃いめの金髪、オールバックで後ろは首元まで髪を延ばしている。

黒いスーツを着ており、不気味な笑みを浮かべていた。

 

「…何かようかね」

「間薙シンはいますか?」と鳴上が尋ねる。

「…入りたまえ」というとドアを開けた。

 

そして、あろうことかルイに尋ねてしまった。

 

「間薙シンという人物を知りたい」と。

それが一番初めに繋がるのだ。

 

 

 

一年組以外の者が歩いていた。

「…優しすぎる…か。」と花村は呟くように言った。

「そんなこと思ったこともなかったなあ。優しすぎるから傷つけるなんて。」

「でもね、あの人言ってたよね?知りたいなら来いって」と天城は言う。

「…俺達はきっと、大丈夫だ。」

「そうだな。相棒!」と花村は鳴上の言葉に応えた。

 

神社で皆で集合する。

「うぃーす。先輩。」「おはようございます」

「やっほー!センパイ」と完二とりせ、直斗が合流した。

 

そして、再びシンのアパートへと行った。

 

再び、ルイのいるリビングへと皆が来た。

「クマ…なんで、着ぐるみ着てんだよ…」

「危ないからクマ」

「危ない?」とクマの言葉に首を傾げる天城。

 

ルイは皆の顔を見渡した。

 

 

「成る程…覚悟が決まったようだな。」とルイは不敵な笑みを浮かべる。

 

「覚悟なんて、始めから決まっていた。」

「さっきはちょっと…あれだよ」と花村はルイに向かっていった。

 

「ふっ、まぁいい。来たまえ、現実を教えてやろう。」

「うぉ!」

そういうと、突然、鉄の円柱状のものが、現れ、そこには、読めない文字がズラリと書かれていた。

 

「これは『ターミナル』。シンのいた世界へと繋ぐことのできるものだ。」

「いた世界?」と花村は首を傾げた。

「…まさか、あいつが違う世界から来たことさえ知らないのか?」

 

 

鳴上達に衝撃が走った。

 

 

「だ、だからあいつが悪魔になった事件ってのも、俺達は知らなくて当然なのか。」

「然り。そして、君達を始まりの地へと誘おう。」

ルイはそういうと、ターミナルを手で軽く回した。

すると、徐々に加速していき、強烈なひかりを放った。

 

 

 

思わず、皆が目を瞑った。

 

 

 

 

「…な、なんだここ」

 

そこは無機質な広い部屋であった。

 

「ここは始まりの地。『新宿衛生病院』」

「…なんか、テレビの中みたいに空気が重いね」とりせが言う。

「…それに…なんか嫌な感じ」

天城がメガネをかけて言った。

 

「ここで、彼が生まれた。悪魔としての彼がな」

そういうと、ルイはターミナルを回し始めた。

 

「キミたちが満足するまでここに居ると良い。君たちの世界とこの世界の時間の流れは違うのだからな。」

「ちょ…」と花村が言おうとしたがすでにルイが消えてしまっていた。

 

「とりあえず、出てみる?」

「…ちょっと怖いなぁ」と千枝が言う。

 

「…僕も来たことがないので…なんとも言えませんね」

「…おめ、落ち着きすぎだろ」

 

鳴上達は自動ドアを抜けた。

 

 

そこは地下施設の様な薄暗い空間で所々に血が飛び散っていた。

蛍光灯は明滅し、薄気味悪い雰囲気が出ていた。

「…ここが…東京なのか?」

「東京ってこんなところなのかな?」

「恐らく…違います。」と直斗は呆れた様子で言った。

 

「でも、ここがシンにとっての始まりの場所ってことだよな」

「…進んでみよう」と鳴上の言葉に皆が武器を持って進み始めた。

 

少し歩くとすぐに、エレベータがあった。

「…動いているようですね」

「最悪、ここがどこか携帯で…って圏外…?」

「とりあえず、1Fに行こう。そんで外に出ようぜ…ここはなんか薄気味わりい」

花村はため息を吐くとエレベータのボタンを押し、乗り込んだ。

皆もそれに続くように乗り込んだ。

 

1Fに付くと、そこはドラマなどで見る、病院の入口であった。

「おおお!流石、都会の病院すね」

「でも、椅子とか壁に立てかけてあるし…誰もいないね…」

「なんか…怖い」

 

普段、人に賑わっている場所にふと自分たちだけになったときの恐怖。

それが彼らを襲っていた。

 

 

 

『彼はずっと1つの答えを問い続けている』

 

 

 

「?」

鳴上にはそう誰かがささやいたように聞こえた。

鳴上はキョロキョロと辺りを見渡す。

「な、なん、なんか聞こえたね」と千枝が恐る恐る口にした。

「…『彼はずっと一つの答えを問い続けている』と聞こえました」

直斗は冷静に答えた。

 

「間薙君のことかな?」

天城が言う。

鳴上はふと天井を見上げると、外からの光がどうもおかしい。

 

「…外に出てみよう。」

そういうと鳴上は走って外へと向かった。

 

 

外に出ると、そこは砂漠の世界であった。

「な、なんだよ…これ。」

「な、何にもないじゃん!!」

「…」

 

皆が絶望に落とされた瞬間でもあった。

するとクマが口を開いた。

 

「…シン君ここでずっと一人で暮らしてるクマ」

「クマ!知ってたのか!?」と花村が言った。

「…男のヤクソクだから、言わなかったクマ」

クマは胸を張った。

 

「クマさんにしてはちゃんと守れたんだ」

天城は驚いた顔で言った。

「ゆきちゃん、しどい!!」

 

 

「…人間?どうやって、現れた。」

重い声が鳴上たちに掛けられた。

咄嗟に全員が構えた。

 

「なるほど…恐らく混沌王の知人か…ならば、殺すだけだ」

そういうと、馬に乗った悪魔は槍を構えた。

 

「ペルクマァ!!ブフーラクマ!!」

「ぺ、ペルソナ出せんのかよ!!なら、来いジライヤ」

 

クマのブフーラが見事に当たり、そこに花村のソニックパンチが見事に当たる。

すると、相手は倒れ、赤いフワフワと浮くものを出して死んだ。

 

「なるほど…実に面白い力だ」

そういうと、再びルイが現れた。

 

「ど、どうして、悪魔が攻撃してくるんだ!?」

完二は少し驚いた様子でルイに言った。

「悪魔が全て、シンの味方だと思ったら大間違いだ。

考え方の相違でこの世界は簡単に殺し合いを始めるような世界だ。」

直斗は渋い顔をした。

 

「…まるで、人間と同じ。そう言いたいのか?白鐘直斗。君の思っている通り、そうだ。

しかし、現状では我々のカオスの勢力がこの世界を支配しているし、この先もそうだろう。」

「それは。すこし傲慢だ」

鳴上がそういうと、ルイは一瞬止まり、そして、笑い始めた。

「フハハハハ…まさか、私の為にある言葉をそのまま謂うとはな…それとも皮肉かな?」

そういうと、再びきえた。

 

 

「何だってんだ?」と完二は苛立ちながらも、空を見上げた。

「…それに…あの太陽…黒いよね」とりせも空を見上げてる。

 

「…あいつはこんなところで何年生きてきたんだろう」

「間薙さんは言っていましたね『友人との永別であってもだ』と」

「永別…永遠に会えないって意味だよね?」と千枝は少し俯きながらいった。

 

花村もぼーっと空を見上げた。

空には、同じような地面が広がっており、中心に黒い太陽があった。

花村は呟く。

 

「…たぶんだけどさ、あいつはあの中に居たんだよな。

だとしたら、こんなことになっちまった世界を見て、どう思ったんだろうな…誰もいないんだよな」

「…うん」と千枝もうなずき空を見上げた。

 

 

其々が其々の思ったことぐっとこらえて、空を見上げ続けていた。

自分が一人になってしまった時…そして、こんな世界を生きていけるのか。

そう思うだけで、友人の傷の深さを知った気がした。

 

だからこそ、彼らはぐっとこらえた。

 

言葉にしてしまうのはあまりにも簡単だ。

しかし、してしまうとあまりにも軽くなってしまうような気がしてしまうのだ。

 

 

「空を見上げている最中にごめんよ」

「うお!」と花村の後ろに雲に乗った如意棒を持った猿が居た。

「うお!!」と相手もびっくりした様子で言った。

 

「て、てき!?」

「敵じゃねーよ?たぶんな。」

そういうと、得意そうに如意棒を回した。

「俺はセイテンタイセイ。あのお方に"シブヤ"の警備を任されてるもんだ」

「あのお方?」と天城が首を傾げた。

「ひとs…ってこの呼び方は嫌いだったんだけか…混沌王様だよ!」

 

「混沌王…って…間薙センパイのことだよね?」

「あー…そんな名前だったな」とポリポリと頭を掻いた。

「そんでよ、お前ら、なんでまだ人間がまだいるんだ?

ちょっと前に、王の城の方に来た人間が居たらしいけど…それ以降、バアルさんが人間が来たら手出すなって言われてるしな…」

 

「ルイって人に連れてきてもらった」

鳴上がそう答えると、納得したような顔でうなずきながら「あのひとのやりそうなことだ」と言った。

 

「うっし。とりあえず、お前ら、こんなところじゃあぶねぇ。

とりあえず、シブヤまで一緒に来いや」

 

「それはありがたいかも…」とりせは言った。

「なんでだ?」完二は不思議そうな顔で言った。

「…バカでしょあんた。」

「あん!?」

 

「そこらじゅうに悪魔がいるってことだろ?」とセイテンタイセイは普通に言った。

「そんなもん、さっきみたいに蹴散らしていけばいいじゃねーか」

「そういうやつは嫌いじゃねーが…おすすめはしないぜ?運が悪けりゃ、上位悪魔まで出てくるかもしれねぇしな」

 

「じゃあ、とりあえず、その安全なシブヤってところまでいこ?」

「ってかシブヤってあの渋谷だよな!?ちょっと楽しみだよな!」

花村はテンション高そうに言った。

「どのシブヤかしらねぇがシブヤっつったら、あそこくらいしかねぇからな…

うっし、お前ら行くぞ」

 

そういうと、セイテンタイセイはふわふわと移動し始めた。

鳴上達は先の見えない砂漠を歩き始めた。

 

 

 

 

 

「…つれてきたのか」

「ん?何か問題があったか?」とルイは当然のように答えた。

「…別にかまわん」

シンはそういうと、オベリスクのターミナルへと移動した。

 

 

 

見渡す限砂漠が広がっており、所々に大きな山岳があり、ビルなどが埋まっているような場所もある。

 

「そのセイテンタイセイさんからみて、間薙君はどういう人なのかな?」

天城は尋ねる。

「さんづけはやめてくれぃ。背中がかゆくなりやがる。

そうだな…兎に角、バカみたいに強いってことだな。」

「それは…知ってるかも」

千枝は乾いた笑い声を上げた。

「この世界で強いってのはある意味一つのステータスなんだよな。

…実はこの世界ってのはちゃんとした形になる予定だったんだってよ」

「ちゃんとした形?」

直斗が首を傾げた。

 

「ああ、混沌王を除いたほかに、元々は人間が4人生き残ってたって話だ。

一人は静寂な世界、一人は弱肉強食の世界、一人は…なんだけか…ああ!干渉されない世界。もう一人は…創世までたどり着かなかったって話だけど、なんでも元の世界に戻すっていうものだったらしいぜ」

「シンは何を選んだんだ?」

鳴上が尋ねた。

「そのどれでもない、カオスって選択肢だったのさ。」

「カオス?」

 

 

「そ。そんな運命を作り出した、神にケンカを売ったのさ」

 

 

「…なんか、壮大すぎて実感なさすぎだな」と花村が言った。

「でなきゃ、この世界だって残っちゃいないさ。この世界は、なんでも"停滞"…未完成の世界らしいぜ?俺は詳しくしらねぇけど」

そういうと如意棒で頭を掻いた。

 

「その四人はどうなったんだ?」

 

「全員、死んだよ。うち三人は王が手を下して、最後の一人はその静寂の世界を作ろうとしたやつに殺されたって話だがな。

しかし…残酷なやつだよな、神ってやつは」

セイテンタイセイはため息を吐いた。

 

「その四人のうち、三人は王の友人だったんだぜ。

しかも、ちょうどお前らくらいの年齢でな。

コトワリ…っていうんだけどよ、世界のあり方を端的に示す理念のようなものなんだけど。

それを違えたから、壮絶な殺し合いをしたんだ。」

 

「…」と皆黙ってしまった。

 

「その頃から俺は仲魔として、王に仕えてさ。

あそこら辺はつらかっただろうな。王も。悪魔になったけどよ、俺たちだって、感情位ある。だから、そういうコトワリに参加したり、話し合いでは仲魔になったりする。

だから、あのころの王は本当につらそうな顔してやがったな」

 

セイテンタイセイはそういうと、皆を見た。

そこでやべっといった顔で

「あー!!!やべぇ!!オレ空気読めねぇのかな?」

「…いや。そんなことねぇよ。間薙センパイは自分の考え通したって立派な男じゃねぇか」

「でも…それって友達を殺してまでやらなきゃいけないことなのかな…」

 

「恐らく、そうなんだろうな。でなきゃ、カオスなんて選ばないだろうしな。本人は好奇心とか言ってるけど、恐らくもっと複雑な理由があると思うぜ」

セイテンタイセイはふわふわと浮きながら言った。

 

 

と、遠くに大き目の建物が見えてきた。

 

 

「あれは?」と鳴上が尋ねた。

「あれは『ヨヨギ公園』。妖精たちの住処になってるんだよ。

まあ…手を出すようなバカはいねぇな。滅茶苦茶つえぇ、親分みたいなやつがいるからな」

「なんか、ちょっとした東京観光だな…これじゃ」

花村は頭をかいた。

「でも、いいじゃない?間薙君のルーツになるかもしれないし、面白そうだし」

天城は少し嬉しそうに答えた。

「なんで、天城センパイは楽しそうなんすか」

「カッコいいじゃん。伝説みたいで」

「クマ伝説は?」

「…つまらなそう」

「ユキちゃんひどい!!」

 

そういうと皆が笑った。

 

 

 




やっと、この話を投稿できた。
本当なら、夏休み中になるはずの話だったんですが
「どうせなら全員そろってからの方がいいかも」と思い、急きょ直斗加入後になりました。

ボルテクス界編はそんなに長くは続かないと思いますけど、内容はすごい重要な話になると思います。
シンとペルソナ4組の距離がグイッと近づく話でもあると思うので…

あと最近、なんかフリガナがおかしいと思ったら、とある方法で正式に投稿しているのでそれのせいであったことに気が付いた。
直す…のは面倒だな…とか思いながらも見つけたら、直していきたいと思います。



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第43話 Abandoned World 10月16日(日) 天気:晴

「…ここがシブヤか」

「なんか、人のいねぇ町ってのはこわいっすね」

「そうかも」

 

ヨヨギ公園を通過し、シブヤへと着いた鳴上達は落ち着ける場所へと案内された。

そこは、小部屋の様な場所でソファがあった。

 

「うっし、とりあえず。何が聞きてぇんだ?」

「この世界についてと間薙先輩に関して何か教えてください」

直斗がそういうと、セイテンタイセイはうなずいた。

 

「おう…そうだな。あいつはもう何千年と王としてこの世界に君臨してるぜ。

混沌王…それを取り巻く、悪魔たちは上位悪魔ばかり、上位じゃない悪魔も見かけによらず強い連中ばかりだ。」

「何千年って…そんな生きてんのかよ」

花村は驚いた表情で言った。

 

 

「何かがない限り、悪魔は死ぬことはない」

「こんちわ。バアルさん」とセイテンタイセイは挨拶をした。

 

「この世界について教えてやろう。

この世界はお前らのいわば平行世界だ。ほぼ隣に存在する世界だ。

違う点は一つ。『東京受胎』が起きたか起きなかったか。

それだけの違いだ。」

「何度も出てくるけど、『東京受胎』ってなんですか?」

天城がバアルに尋ねる。

 

「世界の再構成に必要な破壊。すべてを無に帰し、そして再構成する。

その再構成に必要だったのが『コトワリ』。

コトワリを嘗て存在していた、カグツチに示し、世界を再構成する。

それが、東京受胎の真相だ」

「そ、そんな身勝手なこと誰がやったの?」と千枝は少し怒りながら言った。

 

 

「氷川という男だ。愚かな男だ。」

 

 

「氷川…ガイア教の事件…つまり、それがこの世界の要因ですか?」

「そうだ。その一点しか違わない。お前たちも存在したはずだ。

しかし、アイツは違う。あいつは円環から外された呪われし者。どの世界に行こうともあいつは存在しえない。」

 

「うーん。なんか、わかりずらいね」

「千枝。つまりね、高級なお肉がとある場所でしか食べられないって事だよ?」

「ああ!なるほど」

「お前…本当に脳のなか肉しかねえんじゃねーか?」

花村は呆れた様子で言った。

 

そんなことを言っていると、周りの景色がぼんやりとしてきた。

 

「ん?なんだ!?霧か?」

「ウソ!ここテレビの中じゃないでしょ?」

完二とりせが慌てた様子でソファから立ち上がった。

 

「間薙シンの追憶と興じようではないか」

そういうと、バアルは指を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

「…ん…ここは?」

鳴上達はマンションのような一室に居た。

 

その部屋は静寂に包まれていた。

「どこだろう。ここ」

そう天城が辺りを見渡すと少年が本を読んでいた。

それは今と変わらない無表情のシンらしき子供であった。

その格好は見慣れたパーカー姿だ。

 

「…あれが、シンか」

花村はそうバアルに尋ねた。

 

「そう。彼は幼少期、ずっとこうしていた。

彼は孤独だった、少し人と変わっているからと"変人"だと、同年代から罵られていた。

しかし、それは神の気まぐれで与えられた能力であり、そして、"業"でもある。」

そういうと、バアルはテーブルを指差した。

そこには、綺麗な字で『今日も帰りが遅くなります』と書かれたメモだけが置かれていた。

 

「親はそんな彼の能力に気づくことさえなかった。

何故なら、彼の親は仕事ばかりだったからだ。

彼の居場所はこの少し薄暗い部屋のなかしかなかった。」

バアルは淡々と話す。

「…だから、"僕と似ている"と言っていたのでしょうか。」

直斗は少しばつが悪そうに言った。

「…居場所…か。時々、思ったりするかもな」

「何々?ヨースケもそういうのがあるクマか?」

「お前は俺を何だと思ってるわけ?」

「ガッカリ王子?」

「なんだよ!ガッカリって!!」

そんなことを話していると、バアルの咳払いが聞こえた。

 

「…そんな、彼もとある人物に救われていた」

 

そこへチャイムの音が鳴った、すると子供のシンは少し嬉しそうに立ち上がり、ドアを開けた。

そこには制服を着た、黒い髪の毛をした女子高生だった。

清楚な出で立ちで、シンを見ると微笑んだ。

 

「子供なんだから、外で遊ばないの?」

「…遊ぶ相手がいない」

子供のシンは少し悲しそうに言った。

 

「…それなら、外の砂場でいつも一人で遊んでいる同い年くらいの子がいるから、その子に声をかけてみたら?」

「…バカにされる」

「それは、やってみなきゃ、分からないわ」

そういうと、女子高生は微笑みその手に持っていた、スーパーの袋を降ろした。

 

「…うん。分かった」

子供のシンは靴を履き、真新しいサッカーボールを持ち、階段ですぐ近くにある砂場へと走り出した。

 

バアルが指を鳴らしすと、時間が止まった。

「彼女は高尾祐子。この時は、高校生であり、その後教師となり、シンを受け持つ。彼女は巫女であり、彼女がいなければ、東京受胎はあり得なかった。」

「シンが言っていた、お見舞いの担任の先生か…」

鳴上は王さまゲームでの話を思い出した。

 

そして、すっと場面転換した。

 

「なにやってんの?」と子供の頃のシンが砂の城を作っている少年に声を掛けた。

「…別に」

そういうと、自分で作った砂の城を蹴飛ばし崩した。

 

「…一人で遊んでるなら、遊ぼう」

そういうと、サッカーボールを砂場の少年に渡した。

「うん」

そう答えた少年の顔は嬉しそうだった。

 

「僕は間薙シン。すぐそこの団地に住んでる。」

「僕は新田。新田勇」 

 

 

再び、時間が止まる。

 

「彼は新田勇。間薙シンの友人と呼べる唯一無二の友。

そして、誰にも干渉されない世界を望み、間薙シン、自ら彼の命を終わらせた」

「…さっきのお猿さんが言ってたこと?」

千枝が思い出すように言う。

 

「そうだ。彼は世界崩壊後、高尾祐子を探した。

しかし、その際に悪魔に捕まり、マガツヒを吸われ、その精神は耐えられずに、干渉されないというコトワリを開くことにした。

そして、アマラの奥に居た、ノアを呼び出した。

結果はシンに破れ、その命を終えた。」

 

そして、場所が変わる。

そこは図書館のような場所であった。

 

子供のシンは勇、少し嬉しそうに本を読んでいた。

その隣にはあの高尾という高校生が勉強をしていた。

そこへシンと同じくらいの少女が子供が来た。

 

「…それ」

「…これ?」と積んである本をシンが見た。

「貸して?」

「…うん」

 

そういうと、本を引き抜いて渡した。

その少女はすぐ近くに座り、言った。

 

「本が好きなの?」

「そうなんだ」とシンは答えた。

「名前はなんていうの?」

勇が少女に尋ねた。

 

 

橘千晶(たちばなちあき)…」

そういうと、再び本に目を向けた。

 

 

 

「彼女も?」

天城が尋ねる。

「そう。彼女もまたコトワリを啓こうとし、シンに殺された一人。」

そういうと、バアルは言う。

 

「貴様らならどうした。絶望的な世界の中で、変わっていく友人たちを。

貴様らなら、殺さなければ殺される世界で、友人を殺せるか?」

「…うーん」

難しそうな顔で、千枝は唸る。

 

「…愚問だよねそれって、ねぇ?バアル。彼らにはその問いは無意味だし」

「これは…ピクシー様」

そういうとバアルはワインを取り出した。

 

「どういう意味クマ?」

「だって、あんたたちは生死を共にしてきて、見られたくもないものを見られている。

良い意味で言えば、隠しごとの少ない"戦友"であり、"親友"であり、"仲間"でもあるわけ。

そんな、君たちにその問いは無意味。

言葉で語りきれるほど、人間ってやつはうまくできてないみたい」

そういうと鼻で笑った。

 

「…そういわれちゃうと、なんか照れるね」

りせはすこし嬉しそうに言った。

 

「だって、私はずっとシンと居たからわかるわ。だからこそ、言葉はいらない」

 

「なんか良いな、そういうの…」

そう花村は呟くと鳴上を見た。そして、何かを決心したような顔に変わった。

 

 

「でもね、私達とは違う点を教えてあげる」

そういうと、ピクシーは意地悪そうな顔で言った。

 

「いつかは、考えて選択しなきゃ、いけなくなる時が来るわ。どっちを選んでも悲しい選択、傷付く選択っていうのが。

でも、そこで立ち止まってはいけないの。

選択しなかった方で後悔するのは当たり前なの。

だからさ、君たちはシンと仲良くしてね」

「お前は保護者か何かか?」

 

「シン!?」

鳴上達は驚いた様子であった。

「何をやってるんだ。こんなところで」

 

 

いつの間にかシブヤの部屋に戻ってきていた。

 

 

「あまり人の過去を勝手にばらすもんじゃない」

そういうとシンはバアルにボディーブロウで喰らわし、強制的に帰還させた。

「おーこわい」とピクシーは欠伸をしながら、何処からともなく取り出した、クッキーを食べ始めた。

 

「なんか、滅茶苦茶自由な悪魔たちっすね」

「そんなものだ。ずっと寝っころがってるやつもいる」

シンも欠伸をした。

 

「シンはどう思ったんだ?」

鳴上はシンに尋ねる。

「何がだ」とシンは腕を組んだ。

「友人を殺すことに。」

 

シンは厳しい顔で間を開けた。

「…コトワリを違え、創世を争う、出会えば戦うしかない敵同士だった。

幸いなことに、お互いに涙も流れない体になっていた。

後悔がないと言えば嘘になる、だから、俺は世界を作った神に嫌悪した。

こんな運命を作り上げた神をな。」

 

「だから、カオスを選んだ。例え、永遠に呪われようとも、俺はこんな世界からの脱却を望んだ。」

「…それでも、迷いがあるということですか?」

「…いいところを突くわね」とピクシーは直斗を誉めた。

 

「…それは俺の性格上、致し方のない事だ。

前向きに生きていけるほど、ロクな人生を送ってない。

シンはそれを言うと、少し俯いた。

「…これは言い訳か」

「そうだな。」と鳴上は真面目な顔で言った。

 

 

「…俺の過去を知ってどうするつもりだったんだ?」

「…どうするって、正直そのあとのことは考えてなかったかな?」

千枝はポリポリと頭を掻きながら言った。

「私は、私達のだけ見られてるのはズルいかなって思っただけ?」とりせは完二と直斗を見ると二人とも頷いた。

 

 

「ふぅ…まぁいい。」

そこへセイテンタイセイが戻ってきた。

「残党が来たぜ?」

「どこのやつらだ?」

「たぶん、ニヒロだな。」

「…狩るぞ」

そういうと、シンはセイテンタイセイと共に部屋から出て行った。

 

 

「あなたは行かなくていいの?」

「なんで私が行かなきゃなんないのよ、メンドクサイ」

そういうと、ビスケットを食べる。

「…どうせなら、おいしいもの食べる?マネカタが最近始めたらしいの。アサクサで」

 

「おお!浅草!あの有名な、提灯のところか!」

「提灯…」そういうとクマを見て「ぶふっ!」と天城は噴き出し笑い始めた。

「…彼女大丈夫なの?」とピクシーは鳴上に尋ねる。

「いつものことだ」

 

 

ピクシーはターミナルで浅草のターミナルへと皆を連れて行った。

 

「おお!なんか、雰囲気あるな」

 

そこは随分とにぎやかな雰囲気があった。

香ばしい香りがあり、まるでお祭りの様な騒がしさであった。

 

「昔は、シャッターがしまってるところばっかだったけど、ここがマネカタ達の街になってから、悪魔向けに商売始めたの。

って言っても、元は人間の食べ物だし、知恵のある悪魔がいろいろ教えてあげて、作り方とか学んだみたい。

私はそういうのメンドウだからやらないけど、結構おいしいのよ」

 

鼠色の服を着たマネカタと呼ばれる土人が沢山おり、様々な悪魔が露店で買い物をしていた。

 

 

「おお!これは人形焼きか!?」

「そうだよ…買うかい?4つ300マッカだよ」

「マッカ?」と花村は首を傾げた。

「なによ、マッカ持ってないの?」

ピクシーがため息を吐くと皆に、1万マッカ渡した。

 

「シンにつけとくからね!」

「あざーっす!!」

 

そこへ、雰囲気の違うマネカタが現れた。

「…これはピクシー様」

「彼らは…人間ですか?」

「ええ。シンの」

「そうですか。」そういうと鳴上を見て言った。

 

「私はフトミミ。このアサクサを纏めているものだ。」

「鳴上といいます。シンとはどういう関係ですか?」

「…難しい質問だ。だが、今は彼に感謝しているよ。

苦しい時もあるが、今はマネカタ達は充実している。

ただ、虐げられるだけの我々を彼は保護した。

…未来が見えなくなった今、彼の真意は読めない。

だが、今、マネカタ達が望んだものが、ここにはある。

それだけで、私は満足しているのだ」

 

「私もこれだけはよくわからないわ。けど、お菓子がおいしいから、今となっては嬉しい」

「普通に悪魔たちが居ますが、暴れたりしないんですか?」

直斗がフトミミに尋ねた。

「時々、いるが…それほどの騒がしい悪魔はいない」

「それは、何故ですか?」

 

「それは、ここには嘗て東京を守護していた、四天王の二人がここにいらっしゃる。

それに、日本を守っていた必殺霊的国防兵器の『オモイカネ』さんが守護している。

私は他の悪魔を嫌っていましたが…最近はそうでもないのです。

こういった方法もあるのだと思いました。」

そういうと、マネカタの一人がフトミミに話しかける。

 

「…では、これで失礼するよ」

 

「さあ、フトミミの長い話も終わったし、食べましょう」

 

「いいっすねえ!こういう、雰囲気、まるで、まつ「完二…その単語は言うな」」

花村が完二を止めた。

「ヨースケは思い出すクマね?」

「お前のせいだっつーの!!」

 

「おお!肉!!」

「千枝はいっつもそればっかりだね」

「センパイ、太るよ」

「げっ、それは困る…」と千枝は慌てた様子で言った。

 

「その分動けばいいと思いますけど」と直斗は冷静に突っ込んだ。

 

「…君たちバカみたいに明るいのね」

「それが良さ」と鳴上は答えた。

 

「ま、嫌いじゃない」

そういうと、ピクシーは人形焼きにかぶりついた。

 

 

 

 

 

 




ただのカカシですな


というわけで、見事にオチが思いつかないもので大分グダってます。
それに色々とリアルの方がごたごたとしており、明日が山で…
いや、盛大にミスをやらかしましてね…
そんなことを避けるように、コマンドーを見ている今日この頃であります。

そういえば、この話が長くなるといいましたが。






あれは嘘だ




というのも嘘だ。
どうやってオチを付けようか困っている。


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第44話 From The Abyss 10月21日(金)~23(日)

ボルテクス界から帰った鳴上達が驚いたことは、こちらの世界の時間が全くもって経過していないというこである。

そして、試験期間中だということを思い出し、皆がため息を吐いたことは言うまでもないだろう。

 

そんな試験も終わり、やっと落ち着いた頃、鳴上宅に切手の無い脅迫状が送られてきた。

 

10月21日に話は戻る。

 

 

21日放課後、鳴上に屋上に呼び出された。

「"コレイジョウ タスケルナ"。警告、でしょうか…」

「カタカナでカタコトって…ベタすぎない?」

千枝は少し笑いながら言った。

 

「イタズラじゃねんスか?マンガじゃあるめえし。」

「叔父さんには見せたのか?」

花村が鳴上に尋ねた。

 

「見せる気はない」

 

「堂島さんは信頼できる方ですが…見せるのは、控えた方がいいでしょう。

こんな手紙が来る経緯を説明できませんし、心配されて見張りでもつけられたら動けない。

もしこの手紙が本物なら、一番重要なのは内容じゃない…

"宛名入りで、堂島家に届いた"という点です。

犯人は、犯行を邪魔しているのが何処の誰か、詳しく知っている事になる…

しかも全員の中から、わざわざ家主が刑事の堂島家を選んで送りつけてきた…

この手紙…可能なら鑑識にかけたい所ですが、恐らく何も出ないでしょう。

警告と同時に、特定されない自信があるという犯人の意思表示のように思えます。」

 

「…」

シンは鳴上から手紙を見せてもらう。

 

「…クククッ…ハハハハハハハハッ!!!」

「な、なんだよ、びっくりした」

シンが突然笑いだし、皆は驚いた。

 

「いや、面白くてな…あまりにも滑稽で愚行だと思ったら…」

そういうと、まるでバカにしたような笑い声をあげた。

 

 

「いたずらであってくれよ」と花村が言う。

「でも、内容考えると、ただのイタズラにしては出来すぎかも…

もし犯人なら…なんで私たちの事そんなに知ってるのかな…

どこかで見てるとか…?」

 

「違うなそれは…恐らく…フフフッダメだ…アッハハハハ」

シンは再び笑い始めた。

 

「そ、そんなに面白いことなんスか?」

「だって…これじゃ…ハハハハハハッ!!!ダメだ…果てしなくバカだ…クックク」

 

その後、文化祭の話をしている最中もシンはずっと笑っていた。

 

 

 

シンは買い物をして帰ったため一人で帰っていた。

商店街の自分のアパートの近くに、鳴上と黒い服を着た男が居た。

サングラスをしており、実に目立っている。

 

「…何をしている」と鳴上に尋ねた。

「…君は…」

そういうとまるで品定めでもするようにシンを見る。

 

「ルミノール反応についてはご存知ですか?」

「…アルカリ性の水溶液中、ルミノールは過酸化水素と反応して460nmに強い紫青色の発光を示す。ヘミン・ヘモグロビンあるいは血液は発光反応の触媒になる」

「…DNA鑑定に使用する体の部位は?」

「俺は何をしていると聞いている」

「まあ、まあ」と鳴上がなだめる。

 

男は何も言わない。

「…ほほの内側の粘膜細胞。主人の手伝いをしなくていいのか?」

「…」

「顔の日の焼け具合から、外の仕事ではない。そして、歳の割にきっちりとしたスーツと背筋の良さ。軍人だと言えなくもないが、それにしては筋肉が少ない。

靴の年期の割には、擦り減りが少ない。

それに、ポケットの手袋。白いものは普通は使わないものだ。」

 

そういうと、シンは相手に近づき匂いを嗅いだ。

「…高級な茶を入れているようだな。匂いがついているぞ。一般人が飲む様なものではない。」

 

「…直斗さ…白鐘直斗に渡してください」

そういうと、一枚のカードをシンに渡してきた。

シンはそれを鳴上に渡した。

「頼みましたよ」

 

シンは最後にぼそりと言った。

「…もっとうまく偽装するべきだ。執事だと丸出しですよ。ワイシャツの襟に紐ネクタイ跡が付いている。一般人はつけないものだ。」

「…あなたは噂以上ですね。直斗様が非常に嬉しそうにお話しになられるわけだ…」

「それはどうも」

 

そういうと、黒服の男は去って行った。

 

 

 

 

 

「カード…か。何かわかるか?」

「…分かるが面倒だ。」

 

 

 

 

 

次の日…

 

 

河原の屋根のある休憩所があったので、そこに来ていた。

 

「すみません、静かなところで話したかったので…」

「待て、何故俺まで連れてきた」とシンが鳴上に言う。

「まあ、まあ」

 

「…そ、それで、あなたたちにこれを渡したのは、どんな人でしたか?」

「サングラスの黒服の男だった」と鳴上が答えた。

「…間薙さんの目にはどう映りましたか。」

「…同じく」

「…しかし、何故直接ではなく、あなたたちに渡したのでしょうか。」

「それは、直接渡せない理由がある」

シンは頭を掻いた。

「…何故でしょうか…何れにしても、カードは僕が預かっておきます。」

そういうと、直斗はカードをポケットにしまった。

 

 

「恐らくその男は、まだこの町にいるでしょう。

これ以上、あなたを巻き込むわけにはいかない。」

「巻き込まないというより、もう巻き込まれている」

鳴上が言うとシンもうなずいた。

「俺は完全に鳴上に巻き込まれている。」

「まあ、まあ」

「そ、それもそうですね…」

そして、三人で帰ることにした。

 

 

「間薙先輩は脅迫状についてどう思いますか?」

「あの滑稽なやつか。本物だろうな。それに鳴上の家に態々投函した。

そして、"コレイジョウタスケルナ"という内容。

それらを踏まえたら、いたずらというにはあまりにも正確だ。」

 

「それだと、やっぱり、俺たちは見られているということなのだろうか」

「そうだろうな…」とシンは鳴上の言葉にうなずいた。

「誰なんでしょうか…」

 

「さあ、な」とシンは肩をすくめていった。

 

 

 

「?」

シンは首を傾げた。

「たまには服装というものを変えてみました。」

そこにはジャージ姿のメリーが居た。

「何故?ジャージ?」

「機動性に優れていると私は思ったからです。」

その姿はひどく不思議な格好にシンには見えた。

カチューシャをしたまま、ジャージを着ているのだ。

「まあ、いいんじゃないか?」

「これで少し過ごしてみようと思います」

 

シンはソファーに寝っころがった。

そこへインターフォンがなる。

メリーが出ると、直斗の声が聞こえた為、メリーに入れるように言った。

 

 

「こんな時間にくるとはな」とソファーで横になりながらシンは直斗を迎え入れた。

「二人だけで話したいことがありましたから」

「例の脅迫状か。」とシンは言う。

「ええ」

シンはメリーにアイコンタクトをすると、メリーはお茶を入れる準備を始めた。

直斗は一人用のソファに座った。

 

「…滑稽な犯人だ。だが、生田目ではない。別の誰かが生田目を操っているように思えてきた。」

「…なるほど。ですが、あの脅迫状…だけでは何とも言えませんね」

 

「そうだ。仮に生田目が俺たちの行動を監視していて、それぞれの家がどんなことをしていたのかを理解したうえで、鳴上の家にあんな滑稽な脅迫状を送ってきたとするなら、それは紛れもなく頭のおかしいことだと思えてくる。」

シンは起き上がる。

 

「ですが、仮に初めの死亡者が出た二件が違う人物による犯行だとしますと、その二件の犯人と生田目はつながっている…あるいは知っているということになります。

故に、あの脅迫状をだし、尚且つ、僕たちの行動を知っている必要がありますね」

「…俺達の行動をか…可能性だけで言えば何人かが思い当たるが…

まだ、可能性が薄すぎる。」

シンは腕を組むと、目を閉じた。

 

「…もう少し相手の出方を見る必要がありそうですね」

「そうだな。確証がない限りは動けない。こちらが変に突けば、おかしなことになりかねない。」

メリーがお茶を出すと、直斗は軽く会釈をした。

 

「しかし、…その彼女は何者ですか?」とメリーを見て言った。

「…家事手伝いの人」

「普通いませんよ?」

「俺は王だからな」

そういうとシンは少し笑みを浮かべた。

それはどこか、もの悲しさを感じさせるもので、直斗には何故そうなったのか分からなかった。

 

 

「しかし、その…まさか本当にあなたという人が違う世界のモノだとは想像もつきませんでした。」

「『事実は小説よりも奇なり』というしな、実際そんなものだ。

この事件なんてとくに良い例だ。当たり前のように非現実的なことが噂として広まっている。

それが現実的に起きているのに、あまりにも社会的関心が薄すぎる。

この田舎という閉鎖的環境がそれを生んでいる可能性があるだろうな。

そして、これを敷衍(ふえん)していくと、孤立していく地域社会が見えてきそうだな。

やがて、そこが独立した社会を生み出し、やがては衰退していくように思える。」

シンは言い終わると首を横に振った。

 

「先輩…どこまで、考えてるんですか…」

「…問題が跳躍し過ぎだな」

シンがそういうと、直斗は笑った。

 

 

「では、そろそろ、失礼します。」

直斗が椅子から立ち上がるとシンも立ち上がり言った。

 

「送る」

「い、いえ!大丈夫です!」

「そういうわけにはいかないだろう。危ないからな、いろいろと」

そういうとシンは立ち上がって、外へと向かった。

直斗は仕方なく、シンの後についていった。

 

シンがバイクを出してくると、直斗は思わず「カッコいい…」とつぶやいてしまい、すぐに顔を赤くした。

まるで、探偵なのだ。シンは自分と比べると身長がある、そんなこともあり、直斗はそう思い口に出して恥ずかしくなった。

 

シンには聞こえておらず、シンはバイクに跨ると、ヘルメットを直斗に渡した。

直斗は恥ずかしそうに、バイクに跨った。

 

 

 

 

 

ルイが言うほど、シンの変化は特になかった。

そして、鳴上達にも驚くほどの変化もなかった。

 

今回の事で本当にシンが深い深い底に居るのが皆が分かった。

自分が暮らしていた世界が崩壊し、それまで普通だった高校生が、悪魔にされ、素手で戦えと言われる。生きている人が救いだったはずなのに、それぞれが違うコトワリを啓く。

やがて、そんな友人を殺し、世界を停滞させた。

 

たった一つの目的の為に、彼は一人でそれを背負いこんだ。

千年の孤独に耐え抜き、その先も永遠の闘争を繰り返す。

 

そうなってくると、もう鳴上達には想像もつかない。

壮大な映画でも見ているような気分だ。

 

想像しにくいことは、受け入れがたい。

それが鳴上達の今の気持であった。

 

 

では、シンはどうだろうか。

 

シンは相変わらず、笑う事もなく泣く事も、無かった。

弱みも、愚痴も何一つ言わない。

口数は増えてきたものの、どこか堅苦しさを見せていた。

鳴上はそれは仕方ないと思った。

 

何千年もの間、誰も人間のいない世界で一人でいた。

何もないに等しい世界にいた。

そして、闇と孤独、全てに寄り添うようにいた。

深淵の底にずっと長い間いた。

 

ルイに言われたことにすこし納得してしまった。

それでも、鳴上はそれを否定したかった。

信じたいのだ。シンという悪魔を人間を。仲間として。友人として。

 

他のみんなもそうだ。

 

だが、シンという人間が何を考え何を思っているのか。

それは普段の会話ではほとんど読み取れない。

何より、シンのハイライトの無い瞳がすべてを見透かされているようで、ほとんどの人間が目を合わせて話せないのも事実だ。

 

 

そこで、鳴上はシンをもっと知るために、買い物をすることにした。

 

 

23日朝…

 

「シン、今日は暇か?」

鳴上はシンに電話した。

「ん?そうだな。暇だな」

「どこかへ行こう。試験終わりだ」

 

 

 

商店街…

 

 

「二人だけというのは、珍しいかもな」

「確かにそうだ」

鳴上の言葉にシンはうなずいた。

 

この組み合わせはあまりにない。

休日は基本的に誰かと一緒というのが基本である。

 

「何をするか…」

「…買い物をしたい。装備やアイテムを」

鳴上の提案にシンは頷いた。

 

「そういえば、文化祭がどうのこうのと騒いでいたな」

「聞いてたんだ。てっきり寝ていたと思っていた」

 

そう、22日。

投票の際、シンは寝ていた。珍しいと思ったから鳴上は覚えていた。

 

「何をやるんだ?」

「合コン喫茶。」

「…」

シンは目頭を押さえてため息を吐き、口を開いた。

 

「どう考えても、ぽしゃるな」

「そうか?」

「誰もかれもがみんな頭の中、テンション高いわけではないからな」

「そうなのか?」

「当たり前だ」

 

まずはだいだら.に二人は入った。

 

「…何だかんだ初めてだな」

シンは隣にある本屋にはよく行くものの、ここにはあまり来なかった。

理由はない。自分に装備が必要ないからだ。

 

「シンは何か珍しいものは持ってないのか?」

鳴上がおやじと話しながら何となく尋ねる。

「…ないな。シャドウが落とすようなものは」

 

 

四六商店…

 

「シンは財布に入れ過ぎだな」

「…昔はどのくらいいれていたか、覚えていないから適当に入れている。あとはメリーに任せている。こういうのは面倒だ。あと、異常にはがきがくる」

「どんな?」

「土地を買いませんか?マンションを買いませんか?と」

「あー」

鳴上は納得したように唸った。

 

 

自動販売機…

 

「買占めは安定だ」

「だから、時々全部ないのか…」

ガタガタと自販機から飲み物を取り出す。

一旦シンの四次元ポケットに入れておくことにした。

 

 

 

そして、ジュネス…

 

「今日は助かった」と鳴上がシンに言う。

「いいさ。どうせ暇だ」

 

そういうとシンは周りを見渡した、日曜日ということもあり、人が多い。

シンは珍しく苦い顔をした。

 

「シンは人が多いのが苦手か?」

「…ああ。都会が苦手な理由はそれだった。

人がバカみたいに溢れていて、どこに行きつくわけでもない、誰もが納得しない内心を抱えながら、その足を止めない。

酷く当たり前のようで、俺にはどうもそれが異常に思えていた。」

シンはいやと首を横に振った。

 

「どうした?」

「くだらないことだ。俺にはもう関係のないことだ」

「そうでもない。訊いてみたい」

 

「…おかしなやつだな。」

そういうとシンは話を続けた。

 

「そうなると、自分という生き物が嫌いになった。

馴染めない喧騒と誰もがまるで亡霊のように見えた。

俺が無能で価値の無い人間におもえていた。

人と違うことが、まるでゾンビのように俺の足を掴んでいた。」

シンはため息を吐くと言う。

 

「…ただ、今思えば、これはどうでもいいことだった。

長い人生を過ごせばわかる。その時は一生の悩みだと思っていたことは、所詮、雲の流れるのと変わらない。

周りの環境で変わってしまう。

世界が崩壊して、他人という写し鏡がいなくなって分かった。

 

誰も彼も価値なんて持ち合わせていなかった。

ああやって一瞬で絶命してしまえば、等しく無価値で無意味だった。

地位や名誉、お金に権力…

持ち合わせていた人間が生き残ったわけではない。

 

俺と勇、千晶は先生に助けられた…あるいは、選ばれた。

それだけの違いだった。

 

何れにしても、生き残ったのは俺だけ。

 

だから、今は何も思うことはない。

ただ、昔の名残で騒がしいのは苦手だ。」

 

シンは飲み物を飲むと、椅子の背に深く寄り掛かる。

 

「そんな世界で残ったのはなんだと思う?」

「…?」

「…伝統…記憶…思い出、あと建物…そういったものだった。

不思議なものだな。社会的に重視されないものが、結局は残っている。

悪魔たちは自分たちを祭り上げる祭を自分達でやっている。

個人の思い出や、ただ人がいるだけの建物が、祭りという伝統が…

そんなものが、崩壊した世界に残っていた。

皮肉なものだ…」

 

そういうとシンは鼻で笑った。

 

「…お前も大切しておけ、そういったものだけが誰かを介して引き継がれていく…

それが"生きる"と言う一つの答えかもしれない。

…悪い、くさい話になったな」

 

「臭いな」

「シンクンはマジメクマね!」

「陽介か」と鳴上は言った。

 

「盗み聞きとは、働かなくていいのか?」

「休憩だよ、キューケイ」

 

「あれ?鳴上君と間薙君じゃん。なにやってんの?」

と千枝と天城が来た。

「あ!センパーイ!!」

「こんちわっす!!」

「こんにちわ」

 

 

何だかんだ、全員が自然と集まってきた…

楽しい休日になりそうだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんだ、シンはいないのか。残念じゃ喃。どこに行ったんじゃ?」

「あなたたちも来る?面白いところ」

ピクシーは学生帽を被った少年と黒猫に尋ねる

 

 

 

 

 

 

 

「…行くも何も、儂らはそこに行くために来たのだ。

なぁ?ライドウ」

学生帽にマントの少年が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 




少し間が空いたのは夏風邪と完全にネタ不足です。
申し訳ないです。

調子乗って、Minecraftとかを48時間耐久なんてやるんじゃなかったなと思います。
ずっと、ブランチマイニングで…
と、まあそれは置いておいて、存外言っていたボルテクス編は終わりました。
今後は何かしら登場するかもしれませんが。

それとちょっと出したくなったので、ライドウさん登場させます。
でも、ゴウトさんの話方とかちょっと覚えてない…


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第x3話 Ghost

『言葉を友人に持ちたいと思うことがある。

それは、旅路の途中でじぶんがたった一人だと言うことに気がついた時にである。

たしかに言葉の肩をたたくことはできないし、言葉と握手することもできない。

だが、言葉に言いようのない、旧友のなつかしさがあるものである。

~中略~

時には、言葉は思い出に過ぎない。だが、ときには言葉は世界全部の重さと釣合うこともあるだろう。』

 

―寺山修司『ポケットに名言を』より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は幸せを求めるくせに不必要なことを考える生き物だ。

私もそうで、病院というのは何もすることがないから、余計なことまで考えてしまう。

 

例えば…

 

 

「お疲れ様です」

「ありがとうございます」

高校生らしき人が窓を拭いている。

彼はよく来ている気がする。

 

「いつも大変ですね」

「いえ、なれたものです」

 

彼の雰囲気は穏やかな感じである。

(私が普通だった、惚れてるかもね)

そんなことを思っていると、ナースに怒られる。

彼女は上原小夜子。

 

 

「早く寝なさい」

「はーい。小夜子さん」

 

結局、あまり話すことは出来なかった。

車椅子を押されて、私はベッドに寝かされた。

 

私は手元にあるスイッチで個室の病室の電気を消した。

最近、彼女は頑張っている。

上原小夜子というナースだ。

理由は不明、興味を持つだけ疲れるというものだ。

 

私はかれこれ、何年も何年も病院にいる。

 

この狭い閉塞的な空間から私は飛び出せずにいる。

理由は様々だが、大きな理由は私が病気であること。

というより、それ以外と尋ねられた場合、私はうまく答えられないだろう。

 

私はカーテンを閉めると暗い部屋の天井を見上げた。

私の体はそのうち動かなくなるらしい。

 

実感はない。

 

心地悪さはない。その逆も寧ろ無い。

兎に角ある感覚は酷く濁った水中にある滑りのようなもの。

…言葉にするには難しい。

季節はもう秋、過ぎ去っていく私の青春は馬車に運ばれる、江戸時代の農民の人のよう。

悩むことに必死で、人生などというものを謳歌するほど、私は自由でないことを承知だ。

 

 

臓器がエラーを上げる。

音を立てて私を痛め付ける。

 

 

 

そんな時でさえ、私は冷静に考える。

朦朧とする意識と白濁していく視界の中、私のあたまは異常に冴えている。

そして、疑問が浮かび上がる。

まるて、水に沈めたボールのように浮き上がる。

 

 

 

 

私は何故、生きているのだろう。

 

 

 

 

やがて、私はナースに囲まれる。

私の中に溢れている、その液は、赤く白い純白さえ汚す。

私はその度にため息を吐かねばならないのだろうか。

吐き出す。吐き出す。

 

ゆっくりゆっくりと輝く光は錯視の螺旋内に。

本来の巣を離れて、飛び立つ鳥を私は汚してしまう。

夢の中くらい、外に出させて欲しいと願うばかりである。

 

 

 

未だに車椅子は慣れない。

 

小夜子さんは居なくなってしまった。

理由を聞けるほど、私は言葉を上手く使えない。

力を込めて廻す円は、歪みを与えては、私を揺らす。

 

まだ慣れない。

 

動かなくなった足が、将来の私のようで、目の前に現実が押し寄せてきた。

でも、私は生きている。

ここで、まだ生きている、いつか終わる景色なら、私は空さえ蒼く出来る。

ゆっくりゆっくりと、私は長い廊下を転がっていく。

 

私の横を医者が通る。

そして、検査をする部屋へと入っていった。

それを目で追っていると、

両目を閉じて、椅子に凭れる青年がいた。

ぽつねんと、凭れ、まるで…

 

 

 

 

 

「何か用か」

 

その瞳はまっ黒で思わず彼女は吃る。

 

「い、いや!そ、そういうわけではないです」

「そうか。」

 

青年は、どこか不思議な雰囲気であった。

体に似合わない、重厚な雰囲気があった。

まるで…

 

「…顔が近いんだが」

「あーご、ごめんなさい!!」

「…入院患者か。」

「えぇ、ま、まぁそうです。」

「治らない病のようだな。」

その青年は淡々と言った。

 

「ど、どうして分かったんですか?」

「…単に今通った医者をちらっとカルテを見ただけだ。」

青年は淡々と言う。

「…そうですか。よく見てましたね。」

「…注意力。どうてもいい情報も、覚えておくと、それだけで、世界の見方が少しだけ変えられる。」

 

沈黙がその場を支配した。

彼女はどうも沈黙が耐えられない。

 

 

 

 

 

私の中に妙な感覚がある。

 

『世界の見方が変えられる』

 

名も知らぬ彼の言葉が妙に引っかかった。

自分が死ぬと宣告されたとき、私は泣いた。突然の事だった。

当たり前だったものが、当たり前じゃ無くなっていく。

 

当たり前にいた友人がやがて来なくなった。

当たり前に動いていた足が動かなくなっていく。

やがて、心臓も動かなくなる。

 

そう考えると、私は孤独と暗闇に首を締められる。きつくきつく、慟哭しようが、嗚咽を上げようが、確実に私を蝕み犯していく。

黒くなるだろう…私の中にある、純白の未来が黒く染まる。

断末魔の様に高く高く鳴り響いているこの心臓の音が、私を揺さぶる。

 

こうなると、知らなければ私は幸せに死ねただろうか。

 

ゆつくりゆつくりと私の世界を閉じていくのだろう。

 

 

 

わたしにとってこの17年間はなんだったの?

わたしにとってこの生はなんだったの?

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?また、検査ですか?」

「…いや、診察中に医者が倒れたので、外に放り出された」

「ははっ、なんですかそれ」

 

 

彼女がそのあと直ぐに聞いた話だが

医者が倒れた理由はレントゲンのせいだと、看護師が言っていた。

半ば無理矢理に来させたシンをレントゲンを取り、また、それを見てしまった。

 

そこには人間のようなものが映っていたそうだ。

 

それを見た医者が突然倒れ、痙攣を起こし始めた。

彼は淡々とそれを見ていて、看護師がそこにきて、そして、追い出されるといった感じだ。

 

「前に言ってましたけど、私、もうそろそろ死ぬんですよね。」

「…そうか。」

「そうなったとき、どうして私なんだろって思いました。どうして、私じゃなきゃいけないんだろうって。

…私の生きてきた意味って何だろうって」

 

「…それは誰の為の意味だ?」

「勿論、私の為…」

「…なら、諦めた方がいい。残酷だが、自分自身の為の生きる意味なんてものは存在しない。

何故なら、自分の死で全てが終わると考えられているからだ。確かめる術は1つ。

死んでみるといい。

死んでみなければその先に何があるのかなど誰一人としてわからないし、この先誰も理解できない」

 

「それってすごく悲しいことだと思わないの?

なら、私はなんのために生きてきたの!?」

彼女は思わず声を大にして言ってしまい、周りに見られる。

そして、彼女は立ち上がろうとするが、ベタン!と正面から音を立てて倒れた。

そして、思わずほろりと涙が出てしまった。

 

虚しかった。

 

彼女の心がむなしさでいっぱいであった。

 

しかし、彼はそんなことはお構いなしに、彼女を車椅子に座らせると淡々とした顔で話す。

 

 

「…キミはこんな世界に何を期待していたんだ?

何を望み、何があると信じていたんだ?

…残念だが、この世界には何もない。

納得の出来る意味なんてない。」

 

 

そういうと、彼は彼女の顔の前で言った。

 

 

 

 

 

「だから、美しい」

 

 

 

 

 

「一時の栄光と知らずに花びらを開いて枯れる。

自然の力で、いとも簡単に壊れてしまう人工物。

考え方の違いで大勢の人間が殺し合う…

たった一切れのパンでさえ食べられない人間がいる。

一方で

権力で私欲のために金を稼ぐ人間がいる。

生まれながらにしての金持ちがいる。

戦争特需で売上を伸ばす人間がいる」

彼は立ち上がると満足そうに話しを続ける

 

 

「だが、そんな全ての人に死は平等に訪れるんだ。

この世界は虚しい。何故なら人は死ぬからだ。

やがて、忘れられていく。救いのない物語のようだ。

人生なんてそんなものだ。

物語のように代えのきかない、最高で最低の瞬間の、自分自身の死だ。」

 

「しかし、そんな一時的な繁栄と儚さがあるからこそ、この世界は美しい。

変わり続けることが出来るのは、終わりがあるからだ。」

そして、彼は言う。

 

 

 

 

『花に嵐の例えもある

さよならだけが人生だ。

さよならだけが人生なら

また来る春はなんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ねえお母さん。」

「ん?なに?」

「私が生まれてきてよかった?」

「勿論よ。ただ、心残りがあるとすれば、あなたを丈夫に生んであげられなかったことくらいよ」

「…べつにいいよ。『さよならだけが人生だ』ものね」

 

そういう、母は泣いていた。

 

さよならだけが人生。

 

彼にそう言われて、私は呆然とその場から動けなかった。

その言葉だけが脳内をグルグル回っていた。

認めたくないような気がした。

虚しさを受け入れたくなかった。

 

 

でも、現実的にそうだった。

 

そう思うと、私の肩の荷はどっと降り、私の体が水面へと浮上してきた気分になった。

何を生きることにしがみついていたのだろう。

悩んでいても、死ぬのだ。特に私は幸いな事に死ぬ時期もわかっている。

 

なら、私は少しでもいいから、悩んでいる暇があったら、少しでも生きてみようと思った。

そう思うと色々とやりたいことがある。

今では死ぬってのも悪くないかもと思っています。

 

理由が特にあるわけもなく、そうとでも思わないといられなかったのかもしれない。

だが、気持ちは自分でもびっくりするほど穏やかだった。

 

ただ、一つだけどうしても気に入らない。

この場所で死ぬのだけはいやだなぁと思った。

カレンダーが削られていく毎日と変わらない景色。

検査検査で、治す気があるのかないのか分らない医者たち。

ただ、私は帰りたかった。当たり前の家に。

 

私は病院から家に戻った。

久しぶりの帰宅だった。

かれこれ、何年も帰っていない。

 

自分の部屋に入るとそのまま残っていた。

中学生の時から変わっていない部屋だ。

だが、帰ってみると、ここが自分の家だというだけで、少し楽になれた。

 

 

出来れば一目会いたい人はたくさんいたが会えば

この人ともう会えなくなるんだなぁ、という思いばかりが溜まっていきそうで、上手く死を迎えられなくなってしまいそうな気がした。

 

だから、こうしてその人達に向けた言葉を書いている。

私の気持ちを記すことにした。

紙切れに。たった何枚かの紙切れに。

 

 

さて、私はこうして最後を迎えることができて幸せだと思う。

 

私の為の生きてきた意味なんてない。

当たり前だ。17年の平凡な人生だ。

一生掛かって出来ない人もいるわけだ。

それが、無駄か意味のあるいい人生だったか。

そんなものは比べる事しか出来ない人間がやっていればいい。

 

ただ、私が生きている間に与えることのできたちょっとした喜びや楽しみが他の人の生きていく少しでも糧になるのであれば、それは幸いであると思う。

 

私は飛び方を知らなかった。

知るよしもなかった。象られた絵の中でしか、私は生きてなど居なかった。

触れる涙の色は青く染まる。深い深い青だ

 

流れる水を私は知らない。

 

私の体からそっと回り、天さえ張り裂けそうな心構えだ。

 

いつもの癖で、抽象的に書いてしまった…

直そう…

 

…自分の体が動かなくなるのが分かる。

 

だから、動かなくなる前にこうして記しておきたいと思ったのだ。

 

こうして書いていると、恐ろしく感じるときもある。

死んでいく感覚が徐々に迫っていくのが。

手足から何かに掴まれているようになり、やがて、私は寝たきりになるだろう。

手足が細くなっていき…そして、ゆっくりと死ぬそうだ。

 

ただ、今思えば、虚しかったのはさよならが悲しかったからなのかもしれない。

 

 

 

さよならが悲しくなるのは、楽しかった日々が多いからだとわかった。

 

 

知らないうちに私は多くのものを抱え込み愛していたのだとわかった。

 

 

 

 

さて、私のクライシスモーメントを打ち破ってくれた彼。

 

あれ以降、私は彼とは会わなかった。

私が自宅へ帰ったということもあるが、あの検査室に何度も行ったが、来ることはなかった。

看護師さんに聞いてもそんなひとはいなかったって言うし、倒れたって医者も倒れていないと言われた。

 

…亡霊だったのかもしれません。

そんな雰囲気もあったから。

椅子に凭れるその姿はまるで、幽霊のようだったから。

 

 

もし、会える人が居たら伝えて欲しい。

 

『私に意味を与えてくれてありがとう』と。

 

 

 

 

では、さきにいってます。

 

 

 

 

 

 

 

『さよならだけが人生ならば また来る春は何だろう

はるかなる地の果てに咲いている 野の百合は何だろう

さよならだけが人生ならば めぐり会う日は何だろう

やさしいやさしい夕焼けと ふたりの愛は何だろう

さよならだけが人生ならば 建てた我が家なんだろう

さみしいさみしい平原に ともす灯りは何だろう

さよならだけが 人生ならば 人生なんか いりません』

 

寺山修司

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンの前で医者痙攣しながら倒れた。

医者はシンを見上げた。

 

「…馬鹿な医者だ。

俺を怒らせないことだ。しつこいのは嫌いだ。」

 

 




なんというか、書いていて、ちょっとペルソナQの話っぽいなと思いました。
生きる意味とは何ぞや?的な大分難しい問題を題材にしてしまったのは書くときに非常に困りました。

でも、普通に考えて数学とかのように世界共通の意味があるものでもないので、キャラクターに丸投げしてもいいかなと思い書きました。

特に深い意味のない閑話です。フラグも一切ないです。
ただ、ちょっと煮詰まってきたので書いてみました。




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第45話 Festival 10月28日(金)·29日(土)

高校生の時、俺は何を思っていただろうか。

思い出そうにも、どうも思い出すことができない。

人の記憶などそんなものだ。

 

しかし、流石に人生に一回しかなかったことを覚えていないのはおかしい。

大切なことも、どうでもいいことも…すべて忘れてしまっている気がした。

 

いずれにしても、"文化祭"。

俺に文化祭という記憶がなかった。

確かにやったはずである。だが、記憶にない。

しかし、今回は…忘れることのない文化祭になるだろう。

それほど、田舎の文化祭というのは衝撃的なものなのだと、勝手に解釈した。

 

 

 

「…マジかよ…」

「…」

茫然と、花村と鳴上は掲示板を見ていた。

 

10月28日。

掲示板に告知された、それはシンを除く、探索男子メンバーへ公開処刑を知らせる告知であった。

 

女装コンテスト

エントリー者。

 

鳴上悠

花村陽介

巽完二

 

以上三名。

 

 

 

さながら、ヨーロッパの公開処刑を知らせる通知であった。

 

 

 

「どーいうことか、説明してもらおうか!?」

教室に居た千枝と天城に花村は問い詰める。

 

シンの記憶が正しければ、先日、コンテストに勝手にエントリーした花村に女性陣がキレていたことを覚えている。

シンはというと、事件のことを考えていて、話を聞いていなかった。

 

それへのあてつけだろう。

 

「それになんでシンがいねーんだよ!」

「それ、それ!」と千枝も声を大にした。

「それなんだよね。確かに私たち推薦状に書いたんだけど、何故か書かれていないことになってて」

「シン!何やった!どうせならお前も道連れにしてやる」

花村はヤケクソである。

 

「知らん」

シンも思い当たる節がない。

 

「でもね、シン君を落としいれると、呪いとか怖いし」

天城は真剣な顔で言った。

「…それは…否定できねぇっす」

完二はぶるっと身を震わせた。

 

「はーなるほどなー…ってシンは外す気だったってことか!?」

「結果的にそうなっちゃったって話」

千枝は弁明する。

 

シンは首を傾げていた。

千枝と天城が『シン君』と呼んでいることに少し違和感を感じただけなのだ。

どういう心境の変化かわからないが、シンはどうでもいいと思った。

それと思わず、念通する。

『お前らなんかしたか?』

『…私は知らないなぁ』とピクシーは何かを食べながら言っている。

『主!申し訳ありませぬ!この私めがやりました!主に仕えるものとして、恥をかかせるわけにはいきません!』

クーフーリンが言ってきた。

『…まあ、助かったとだけ言っておく』

『ははっ、ありがとうございます』

 

 

「…あれ?猫?」

千枝が花村とまさにケンカを始めようとしたとき、黒い猫が教室に入ってきた。

シンはその猫を見て驚いた表情で猫に寄った。

猫は理解したのか、止まり机にジャンプでシンの肩の上に乗った。

 

「ちょっと外す」

 

シンは教室から出て行った。

 

「な、なんだ?あれもアクマか?」

「さぁ?」

 

 

 

 

 

 

屋上…

『久しいな。間薙シン』

「こんなところまで、態々来るとは手間を掛けさせたなそれに、年をとっていないようで」

『何を言うか。お前と別れてまだ、半年も経っておらん。』

「時間の流れが違うのか」

シンは呟く様に言った

 

『…よもや、現に居るとはな…のう?ライドウ』

そうゴウトが少し嬉しそうにいうと、黒い疾風が屋上に現れた。

 

「久しぶりだな。ライドウ」

ライドウは頷くと、自分の帽子を指差した。

 

「持っているぞ。もちろん」

シンはそういうと、何処からともなく学生帽を取り出した。

すると、ライドウは少しだけ口を緩ませた。

「しかし、お前達が帝都の守から離れてまで来た理由はなんだ?」

『所謂、休暇というものだ。ヤタガラスからの通達でな』

「なるほど…ならば、良い旅館を教えよう」

シンはライドウに言うが。

 

「…学生たる身」

『うむ、それでこそ誉れ高き葛葉四天王の一角、ライドウを継ぐ者よ。

…と、いいたい所だが、今回は日々の疲れを癒せとの、話だ。今回ばかりは、良かろう。』

ゴウトの言葉にライドウは少し間を空け頷いた。

「なら、早速聞いてみよう」

そういうと、シンは屋上から学内に入る。

 

『幸いか、ここは悪魔の気配を余り感じぬ所のようだ。ヤタガラスの選んだ場所は適切であったな』

ライドウはこくりと頷いた。

 

 

シンは教室に戻ると文化祭の準備をしている天城に尋ねる。その後ろに学生帽を被った少年と猫が来た。

幸い、教室にはシンの見知った顔しかいない。

 

「なあ、天城。一人と一匹を泊めてはもらえないか?」

「え?ちょっと待ってね」

そういうと、天城は携帯で電話を掛けに教室の外に出た。

そして、すぐに戻ってきた

 

「多分、大丈夫だと思う」

「助かる」とシンは言うとライドウも頭を軽く下げた。

「みゃー『忝ない』」

 

「うんうん。いいの、シン君には色々と助けてもらってるし」

「ってか、雪子さん?普通に会話してるけど、誰?」

千枝がシンに尋ねる。

 

 

 

「友人だ」

 

 

 

 

 

 

夜…

 

天城屋旅館にライドウ、ゴウトとシンが来ていた。

雪子は案内役として仕事をしている。

 

「みゃー『中々、良い所だな』」

ゴウトは部屋に入るとそういった。

「…良い部屋」

「でも、よかった。ちょうどね?ウチの旅館もペットと一緒に泊まれるっていうのを丁度始めたの」

「みゃー!『我は"ぺっと"などではない』」

ゴウトはそう叫ぶが、無論天城には聞こえない。

 

「じゃあ、御用の時はお呼びください。失礼します」

天城はそういうと、部屋から出ていった。

ライドウは退魔刀を腰から外し、装備を畳の上に置いた。

 

『しかし、お主がタダで此処に来ることは無いだろう?』

ゴウトはテーブルの上に座り、シンにいう。

 

「まあ…そうだな。」

「…楽しそう」

『そうだな。今のお主は"ぼるてくす界"よりはましな顔をしているな』

 

「そうだな…なくなってから見える景色もあるということだ」

シンはそういうと、立ち上がった。

 

「さ、俺は家に帰る。ゆっくりしていくと良い。料金は気にするな」

『さすがは、王だな。太っ腹だな』

そう言われるとシンは髪の毛を掻いて出て行った。

 

 

 

『…どうだ?ライドウ、シンは』

「…更に強くなっている」

『どこまで強くなるのやら…』

ゴウトはテーブルから飛び降り、大きな窓から玄関から出て行くシンを眺めた。

 

 

 

『戦わないことを願うな』

 

 

 

 

 

次の日…

29日。八十神高校校門…

 

 

 

『なるほど、これが文化祭というものか。ライドウ、何事も経験だ』

ゴウトに言われると、ライドウは頷いて答えた。

 

「大正には無い風習だろうな。ライドウはどうなんだ?こういうのは」

「…特に何も」

ライドウは淡々と答える。

 

「…しかし、退魔刀と拳銃は大丈夫か?」

「…恐らく」

『ライドウ、注意するようにな。身分のない我々が捕まっては、恥も良いところだ』

ライドウは頷いた。

 

「模造刀とエアガンといえば、最悪何とかできるだろう」

そんな話をしながら、文化祭の雰囲気の学校へと入った。

 

 

 

『賑やかな場所だな。お主はこういうものを嫌いだと思っていたが…』

「嫌いだ。嫌悪するほどな。ただ、祭りとなると話が変わってくる。祭りに含まれる情緒と雰囲気、そして、その儚さが俺を満たす。それに、こういった好奇心を唆る謎の食べ物が出るのも、文化祭の一環だと思うと、好奇心を擽られる。」

そういうと、棒に刺さった"何か"を食べる。

それをゴウトは変な目で見た。

 

『…なんだ、それは』

「分からん。肉っぽいが…物体Xよりはマシだ。」

ライドウはそれを見ながら、ゴウトに塩のかかっていない、ポップコーンをあげる。

体に良いのか悪いのか、知らないがライドウはあげる。

 

その後、様々な場所を回った。

 

屋上へ行くと静かで、シンを安泰へと誘う

『なかなか、わるくないな。ぽっぷこーんとやらは』

「こうしていると、人間観察が捗るな」

『お主を我は評価している。お主の観察眼は優れておる。

事実、お主のおかげでライドウは成長出来たと言えよう。』

 

「…それはよかった。それでだ、1つ依頼を受けてくれ。」

『ちょうどよい、休養がてら受けてやろうではないかな?ライドウ』

そういうと、ライドウは頷いた。

 

「この街で、起きている出来る限り、悪魔を使役して事件について調べて欲しい。見落としている点がある可能性と、第三者の視点が必要だ。」

 

『成程…流石だな。間薙シン。わかった。特殊依頼として、ライドウ。記しておくぞ』

ライドウは頷く。そして、ライドウはゴウトを抱えると、超人的な跳躍で屋上から飛び降りた。

シンもそれに続くように、屋上から屋上入口の出っ張りに登り、まるで赤いコートを来た半身半魔の様に飛び降りた。

 

 

 

シンとライドウはとりあえず、文化祭が終わってから依頼をしてもらうことにし、文化祭を楽しむことにした。

 

二年生の廊下前…

 

シンとライドウはまるでお葬式のような合コン喫茶から離れ、歩きはじめる。

 

「あ、先輩」

 

シンに声を掛けてきたのは直斗であった。

「こ、こちらの方は?」

「…葛葉ライドウ」

そういうと、ライドウは軽く会釈した。

「それで、この猫は業斗童子」

『みゃ(よろしくな)』

 

「僕は白鐘直斗と言います。ヨロシクお願いします。一見…学生のようですが」

「お前と同業者だ」

「ええ!探偵ですか?」

直斗は驚い顔で言った。

 

 

『みゃー(白鐘…白鐘…聞いたことがあるか?)』

「…あるような、ないような」

シンは小声で言った。

「…ここは世界線が違うかもしれん、一種の平行世界という仮説がある」

『みゃぁ(なるほど…それなら我々が知らない理由に納得できるな)」

 

 

「?」

直斗が首を傾げるが、「いや、なんでもない」とシンはごまかした。

 

 

『みゃ(少し我々は自由に歩かせ貰っても構わないか?)』

「ああ。ただ、あまり派手に動かないことだ」

そういうとライドウとゴウトと別れた。

 

「…変わった格好ですね。彼らは」

「…ただ探偵としては一流だ。荒事も、観察眼も、情報の整理も見事だ。」

「なるほど…」

「しかし、如何せんライドウは口数が少ない。それがあいつの良さでもあるんだがな」

シンはそう言いながら歩く。

 

「も、物静かな人が好きですか?」

「そうだな。騒がしいよりは、圧倒的にしゃべらなくても良い静かなほうがいい」

「そうですか…」

直斗はかんがえこんだ。

 

 

屋台を見て回り、シンは何だか分からないものを食べている。

 

そして、休憩室をやっている教室へと二人は来た。

 

 

「…結局、まだ分かりません。どうして、こんなものを渡したのか」

紙を直斗は持っていたらしく、シンに見せた。

「…匂いがあるな…あぶりだしか?」

「!そうか…早速家に帰ったらやってみます」

直斗は嬉しそうにそれをポケットに戻した。

 

 

 

 

 

「グフフ…二人とも良い雰囲気クマ」

「ばか、声出すな…」

「…お似合いっちゃお似合いかぁ…」

「そうだね。二人とも静かなイメージだし」

「完二いいのぉ?とられちゃうよ?」

「な、なにがだよ!カンケーねぇだろ!」

 

 

 

「…あいつらは尾行には向かないな」

「そうですね」

直斗は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「そうねぇ…もう随分と前のような気がして思い出せないわ」

「…ありがとうございます」

ライドウはそういうと、軽く会釈をした。

 

『うむ…やはり、時間が経っていて証拠も出てこないな』

「…雷電属の現場検証で探してみる」

『そうだな。それがよかろう。現場までいくか』

 

 

第一被害者が吊るされていた付近…

 

 

封魔管を取り出し、あまり大きくないヌエを召喚した。

「ナニカ用カ、ライドウ」

「現場検証を頼む」

「ウム」

 

ヌエがのそのそと辺りを調べる。

 

「…何モナイゾ?ライドウ」

「…そうか…」

『どういうことだ?』

 

「やはり来ていたか」

「…シンか」

ライドウが後ろを向くと、シンがいた。

 

「犯行はテレビに入れて殺すというものだ。」

『てれびに入れる?』

「詳しく話す。」

シンは今回の事件をライドウに話した。

 

『…なるほど、その生田目という人間がお前の友人たちを攫っている。

しかし、殺人となった二件はどうもそいつではないということだな。』

「ああ、生田目のアリバイが完璧だからな。それは調べなくてもいい。

問題は殺人になった犯人だ。」

「…しかし、証拠がない。」

「ヒントがある。白鐘直斗宅にある、脅迫状。恐らく、それが犯人に繋がっているはずだが…」

『…何とも陳腐な犯人だな。脅迫状など…』

ゴウトは笑う。

 

 

二件目の被疑者発見場所…

 

 

 

「…やはり何もないか」

ライドウは唸る。

「殺人方法があまりにも特殊だ…証拠はないだろう」

『うむ…犯人の特定は難しいか』

「ああ、そうなると。生田目を引っ張ってから、やつの考えを聞いてこの二件と未遂事件を比較しなければわからないな」

シンは言う。

 

「とってきたよーライドウ」

フワフワとモーショボーが脅迫状を手に入れてきた。

「…何人か触った跡があるが」

シンはため息を吐いた。

 

「ああ、指紋がべたべたとついてしまっているか。恐らく、それは仲間のモノだろう。」

『不用心だな、まったく…』

「しかし、鳴上が持ってきたときも、指紋はなかった。」

『…現状ではわからぬか』

「…でも、少しだけ、明瞭になった気がする。」

 

『やはり、捜査会議というのは重要だろう?』

「そうだな…さて、報酬だ。それと、1つ頼み事を」

シンはマッカと手紙を取り出し、渡した。

 

ライドウはマッカよりも、手紙を先に開いた。

そして、表情を変えずに頷いた。

『…さて、我々はそろそろ、旅館に戻るぞ?温泉に入りたい』

「猫…ダメ」

『のう…』

ライドウに連れて行かれるようにゴウトは残念な顔で歩いていった。

 

 

 

 




出してみましたけど、派手な活躍はないと思います。

追記
ミスって投稿してしまったみたいですねww
でも、ほぼほぼ完成してたので、問題ないです。


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第46話 (Do Not) Change 10月30日(日) 天気:晴

「さながら、公開処刑に向かう者か」

 

シンは教室に入って行った鳴上達を見て呟いた。

その顔はまるでこれから起こるであろう事態に怯えているのだろう。

 

シンはお楽しみということで、教室から追い出された。

一体彼らはどうなってしまうのか…

 

好奇心で思わず笑みを浮かべる。

 

と、シンの脚の後ろにどんと誰かが抱き着いてきた。

 

 

 

 

「ねぇ、死んでくれる?」

 

 

 

 

「…それは出来ないお願いだ。アリス」

そういうと、シンは頭を撫でる。

 

「間薙様。どうしても、アリス様が行きたいと言っていましたので、連れて参りました。」

「仕方ないやつだ。」

そういわれると、アリスはえへへっと笑った。

 

そこに直斗とクマが教室から出てきた。

直斗とクマはアリスを見るや否や、「これだ!」と直斗とクマ言い、去って行った。

 

「…これ?」

アリスは自分を指さした。

「訳がわからん」

「そんなことより、何か食べたい!」

アリスがそういうと、アリスはシンの手を握り引っ張る。

だが、勘違いしてはいけない。

こんな可愛らしい少女だが、『悪魔』だ。

常人が彼女に引っ張られたらどうなるか、容易に想像がつくと思う。

最悪、腕と胴体がそのままお別れすることになる。

 

しかし、そこは半魔のシンだから、普通の光景に見えているだけ。

無論、メリーも人造人間なので、普通ではない。

ガヤから見れば、日常の日常だが。

事情を知っている人間から、見たら、この光景は非日常の日常だ。

 

 

 

 

「うお!お前、その後ろの方はどなた?」

そう言ってきたのは、一条康。

「…家政婦?」

「家政婦って…一条とこにも居たっけ?」

その隣にはサッカー部の長瀬大輔。

「まぁ、居るちゃ居るな」

そういうと、一条はアリスの目線に合わせて腰を降ろす。

「こんにちは」

「こんにちは!」

アリスは祭の雰囲気も相まって、少しテンションが高いようだ。

「じゃあ、これあげる」

一条はアリスに肉串をあげる

「あ!一条!俺にもくれ!」

「おまえは自分で買えよ!」

 

そんな会話をしながら、ふたりは歩いていった。

 

アリスは少女と思えない食べっぷりで、肉串に尖った歯でかぶりついた。

「おいしい!」

「おやおや」

 

シンには最近のメリーはアリスの親のようにも見える。

シンの家にいることが多いアリス。それは、彼女はシンと同様、退屈が嫌いなのだ。

子供故にというところがある。

そんなこともあり、メリーがいつも世話をしている。

 

そして、シンが驚いたのは、メリーは意外とこの文化祭というものに溶け込んでいて、驚いた。

メイド服。それが、このような驚嘆をシンに与えてくれたのだろう。

文化祭では、兎に角変な格好をしたものが多い。

それが居るために、メリーも浮く事なく、居られるのだ。

 

シン達は体育館で始まるコンテストまで、ブラブラとすることにした。

 

 

 

「ねぇ!シン!これなに?」

アリスが指を指したのは、お化け屋敷であった。

 

「お化け屋敷というやつだ。」

「行きたい!」

 

シン達は説明を受け、中に入る。

中はとても良くできており、広く感じる。

 

開始早々に、お化けの格好をした生徒が脅かしに来たが。

自信があったのだろう、なかなかリアルなゾンビ風の格好をしている。

 

だが、残念かな。

相手は悪魔と人造人間だ。

 

「可愛い!」

アリスが嬉しそうに飛び跳ねる。

シンとメリーは淡々とその出てきたお化け役の生徒を見る。アリスが満足するまで、そこにいて、ゾンビ役の人は焦った様子で奥へと戻っていった。

3人は何事もないように次へと向った。

 

そのあと、他の生徒がその3人を見たところ、暗い部屋の中で、赤い目をした二人と金色の目をした一人にビックリし気絶したり、アリスが逆に驚かしたりで、お化け屋敷は違う悲鳴が響いていた。

アリスは楽しそうに過ごし満足したような顔でアリスは跳ねるように、出口へと向った。

 

 

 

「楽しかった!」

「そうですか。それはよかったです」

メリーはそういうと、アリスの頭を撫でた。

 

「さて、そろそろ、体育館か」

シンは時計を見ながら言った。

 

 

 

 

「レディース、エーン、ジェントルメーン!

文化祭2日目の目玉イベント、"ミス? 八高コンテスト"の

始まりでーす!!さっそく一人目からご紹介しましょう!

稲羽の美しい自然が生み出した暴走特急、破壊力は無限大!

1年3組、巽完二ちゃんの登場だ!!」

 

司会者が盛り上げる。

 

そこへ完二がまるでマリリン・モンローに似せた格好で出てきた。

会場からは悲鳴に似た、叫び声が響いた。

 

「ギャー!」

「キッモ!」

「これはひどい、ひどすぎる!」

 

「さー、僕も近づくのが恐ろしいんですが…チャームポイントはどこですか?」

完二は少し考え口を開いた。

「…目?」

 

「おーっと、意外にスタンダードだぁ!

1番手がコレでは、もう霞んでしまうんじゃないでしょうか、がけっぷちの2番手をご紹介!

ジュネスの御曹司にして爽やかイケメン、口を開けばガッカリ王子!

2年2組、花村陽介ちゃんの登場だ!!」

 

その声に合わせて、花村が出てきた。

それはまるで女子高生的な格好だ。

 

「ど、ども!」

 

さきほどよりはましだと思われるが、やはり悲鳴だ。

 

「やっばい!」

「花村先輩、いい線行くと思ったのにー!」

「や、これいそうで怖い!」

 

「さー、気合いが入った服装ですが…普段からこんな感じで?」

「んなワケねーだろ!ねー…ですわよ?」

何故かお嬢様言葉だ。

 

「僕ももう、おなかいっぱいになってきました!

続いて3番手、この人の登場です!

都会の香り漂うビターマイルド、泣かした女は星の数!?

2年2組に舞い降りた転校生、鳴上 悠ちゃん!」

 

鳴上はまるでスケバンのような格好で竹刀を持っている。

 

「や、やめてー!!」

「なんで先輩、こんなの出ちゃうのー!?」

「うおっ、先輩ってクールだと思ってたのに…」

 

「さー、物議をかもす出場ですが…自分で立候補を?」

「当然です」至極当然のように鳴上は答えた。

 

「さ~て最後は飛び入り参加、出場者たちのお仲間が登場です!

自称"王様fromテレビの国"、キュートでセクシーな小悪魔ベイビー!

その名も"熊田"ちゃんだぁ!!」

 

クマがどうやら飛び入り参加のようで、その恰好はアリスの恰好に似ていた。

 

「ハートをぶち抜くゾ?」

 

「えええ、あれ男の子!?」

「すっごい可愛い!」

「オレ、あれならイケる…」

 

とそこへ、同じような恰好をした少女が突然舞台に上がってきてしまった。

 

シンは隣を見たが、アリスが居なくなっていた。

「あらま」

メリーは淡々と言い、シンはなるべく気づかれないように前の方へ行った。

 

「おっと!ここで少女が登場だ!!」

 

 

「アリスにそっくりだね!クマさん!」

「それは嬉しいクマ!」とクマは嬉しそうに答える。

 

「ねえ、死ん…」とアリスが言おうとしたが、シンが口を押えた。

「失礼」

シンはそういうと、上手へとはけて行った。

 

 

「…かわいかったね」

「でも、間薙先輩の…まさか」

 

そんな話がされるなかで、投票が行われた。

 

無論、クマに決まり、その後のコンテストの審査員になった。

 

 

シンはアリスの手を引っ張り、体育館から出た。

 

 

屋上…

相変わらず、ここは静かだ。

 

「えー違うの?」

「違うんだよ。アリス。あれは君と同じではないんだ」

「…」

アリスは泣きそうな顔でシンの方を向いた。

アリスは友達が欲しかったのだろう。

 

俺も同じだったのかな…

 

シンはアリスと目線を合わせて言う。

「アリス。俺やメリー、おじさん達がいる。

同じ種族ではないし、お前とは違うものだ。

…だが、言い難い何かがあるだろ?」

「うん…わからないけど…」

「なら、俺たちはお前とは仲魔だ。死んでいなくても。」

シンはそういうと、頭を撫でた。

 

 

 

 

 

俺にとっては、高校生だった先生が憧れだった。

明るくて、それでいて、いつも楽しそうだった。

そんな先生が突然居なくなった。

俺に何も言わずに、突然、居なくなった。

 

俺は…そこから変わった。

 

少しでも明るい人間になろうとした。

明るい人間を演じていた。

けど、先生にはなれなかった。

思えば思うほど遠くなっている気がした。

 

そして、高校で再会した。

でも、変わってしまっていた。

憧れだった先生はそこには居なかった。

 

俺は…絶望した。

先生を変えた世界とそんな世界に住む俺を嫌悪した。

人間で居ることさえ忌まわしかった。

 

だが、何一つ変わらなかった。

変えられなかった。救えなかった。

 

 

 

結局、俺は中途半端だ。

 

 

 

 

『これは変わりますか?』

 

 

 

 

「…変わりません」

 

 

 

 

シンは屋上で時間を潰していた。メリーもそれに従うように無言で近くにいる。

アリスはおじさん(ベリアル)に連れていかれた。

そして、そんな言葉を俯き呟いた。

 

最近この言葉がシンの中で渦巻いている。

 

そこへ、ライドウを見ていたヌエが現れた。

『主。ライドウ殿タチハカエッタゾ』

「早いな。何故だ?」

『八咫烏カラ呼バレタソウダ』

「?」

そこへクーフーリンが来る。

『何でも、また蟲が関係しているとか何とかで。』

「忙しいやつらだ。」

シンは手で帰っていいというサインを出すと二人は帰って行った。

そして、シンは寝っ転がった。

汚れなど気にしない、それに、この高校の屋上は掃除されており綺麗なのだ。

 

耳を澄ませば、体育館の方が騒がしい。

 

「…何が変わらないのでしょうか?」

メリーの言葉にシンは肩をすくめた。

「…俺にもわからない」

「分からないのに変わらないのでしょうか。」

「世界ばかりが忙しく変わっていく。

置いていかれるような気分なのさ。

そんな、世界から離れたからこそ、俺は変われなくなったのかもしれない。…中途半端な存在としているからこそ、自分とは何者なのか誰かに問いたくなる。」

シンは大きく息を吐いた。

 

 

 

「結局のところ、創世する前と変わってないのかもな。

この世に完璧は存在しない。だから、皆苦しんでる。

俺もその一部でしかないだけの話だ。」

 

「完璧…?よく分かりません」

メリーは表情を変えずに首を傾げた。

「俺は中途半端ということだよ。

俺は悪魔であり人間でもあった。

そんなヤツがアイデンティティーを形成しようというのが、間違いだ」

だが、とシンは話を続ける

「そんな俺でも一つだけ誇れることがある。」

シンは少し自慢げにメリーにいう。

 

「それはな、いつでも、考えることをやめなかった事だ。考えて行動していたし、それが残酷な結果であっても、俺は考えることを放棄しなかった。

そして、俺は受け入れた。

残酷過ぎる世界、変わりゆく友人達、死の恐怖。

それら全てを受け入れた。

…まぁ、それが最善だったのかは知らないし興味もない。 」

 

そういうと、シンは鼻で笑った。

 

「考えること…分かりました」

「お互い長い命なんだ。焦る必要も無いだろ」

「あ…」

メリーがシンの顔を見て鳩が豆鉄砲を食らったばりに驚いていた。

「ん?」

シンは首を傾げた。

 

 

 

「間薙様。お笑いになりましたね」

メリーはシンを見ていった。

「…そうか?意識はしていなかった」

 

シンがこの世界で初めて笑った。

皮肉屋のシンが心の底から初めて笑った。

笑みを浮かべることはあったものの、それが本気の笑いではなかった。どこかで、違う感情も混っていたのだ。

そんなシンが何の他の感情を込めずに笑ったのだ。

その初めては皮肉屋らしい、心の底からの初笑いであった。

 

「皮肉なもんだな、殺し過ぎて笑うなどということを忘れていたとは。」

「違いありません」

「…お前も少し笑ったな」

「?」

 

メリーも少しだけ口を上げて微笑んでいた。

 

 

当たり前の事が、彼らにとっては当たり前ではない。

当たり前でないことが、彼らにとっては当たり前。

 

当たり前のように笑う事もなければ、泣くこともない。

その変わり、殺し合いと何もせずに椅子に座っている日々の繰り返し…

ボルテクス界ですることがない。

 

シンはそうだ。

何かをつかさどる神でもないし、中途半端な生き物だ。

適当にボルテクス界を歩き回るだけ。

 

そんなことを考えている中、鳴上が来た。

話によれば、天城の旅館に泊まれることになったそうだ。

苦い記憶がそれで洗い流せると良いのだが、

その後の彼らは酷い目に遭うのだ…

 

 

 

…夜、天城屋旅館

 

 

「みんな一緒の部屋じゃないクマね~…」

クマはショックそうに鳴上たちに言った。

「…そりゃそうだろ。」

「隣ならまだ許すけど、遠くへ行ってしまったクマ…」

クマは転がる様に寝っころがった。

 

「空いてる部屋、あんま無いらしくてあいつらは別の階になったって。

菜々子ちゃん連れて、さっそく風呂行くってさ。」

「風呂か…いいなぁ」

シンはいつものパーカーを着ている。

 

「こここ混浴!?」

「何ベンも入るシュミねーし、寝る前1回行きゃいいっスよね。」

「だなー。」

花村も倒れるように寝っころがった。

 

「ところで、この部屋…どういう事なんスかね。けっこう上部屋みたいなのに…」

「…やっぱ、オマエも気になった? 普通、シーズン中に空かねえよな、こんな都合よく…

あえて、スルーしてたんだけど…まさかここで、何かあったとかか?」

 

 

「ここは山野アナが泊まった部屋だな」

 

 

「あー!!言っちった!言っちった!!ってか、お前見えんだっけ!?」

花村は飛び上がりシンに言った。

「…さぁ?」

シンはニヤニヤしながら、花村を見た。

「だが、別にいいじゃないか。幽霊と一緒に泊まれる部屋なんてないぞ?

…それに」

そういうと、シンはカバンを探る。

 

「それに?」

ごくりと皆がシンを見た。

 

「ほら、折角だ百物語でもやろう。」

そういうと、ドサッと蝋燭を百本丁度、机にぶちまけた。

 

「ひゃひゃ、百物語?」

花村は怯えた様子でシンに言う。

「怪談を100話語り終えると、本物の怪が現れるというものだ」

「ななんでそそそそんなそこするクマ?」

 

「なんでって…面白そうだからだ」

 

そうシンが言った瞬間、電話が鳴った

 

シン以外がビクッとした。

 

「い、いきなり鳴るね、しかし!か、完二、出てみ!」

「い、イヤっすよ…せ、せセンパイいってくださいよ」

 

そんな押し付け合いをシンは無視しながら、電話に出た。

「はい…ああ、はい。分かりました」

 

そういうと、シンは電話を切った。

「風呂が入れるようになったそうだ。」

「素晴らしいサービスだな、天城屋旅館…やな汗かいた…」

「はぁ…流しに行きますか。」

そういうと、シン以外は疲れたため息を吐いた。

 

 

 




今回は非常に苦労しました。
というのも、なんというか、とにかく話が進まない。
なので、結構のんびりとした、話が続くので話としては展開で、もともと面白くないものが、更に面白くなるかもしれませんので、ご了承ください。

あと、とある動画で、ZeddというアーティストのClarityという曲を聞きまして、すごく気に入ったんですね。歌詞が特になんというか良くて、影響されすぎることに定評のある作者は早速それで話を書こうとしてしまっている訳です。

どう頑張っても閑話になってしまいますが…
あるいは、シンを想っている人とかの目線で書けばいけるかもとか…いろいろ考えています…



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第47話 Mishap 10月30日(日)・31(月)

「…」

「…」

「…ちくしょう…さっき確かめたけど、あの時間の露天は

"男湯"だったぞ…ヒデー、ヒデーよあいつら…

ううう…」

 

蹲った様子で花村は部屋へと戻ってきた。

実は、意気揚々と風呂へ行くと、何故か千枝たちがおり、桶の弾幕が鳴上達を襲った。

慌てて鳴上達は退散し、部屋へと戻ってきた…

 

「なんか、クマの頭がデコボコしてるなー…」

「それ、たんこぶだな。

オマエ、たんこぶ、出来てやんの。あはは…は…

はぁ…」

完二は疲れた笑いをして、ため息を吐いた。

 

「なぁ…お前らさ……見たか?」

「いや…」

「何も…」

 

 

「ちくしょう…いいことなんか1個もない人生…もう寝よ…」

 

花村が寝ようとした瞬間、女のうめき声が聞こえた。

皆がビクッと反応した。

 

「…待った、先輩。なんか…聞こえねえスか?」

「い、今の…」

「き、聞こえちゃった…!」

 

「いいBGMじゃないか…」

シンは満足そうに寝っころがった。

 

「おわわわぁ…こんなんじゃ、寝らんねえよ!」

完二は怯えた様子で言った。

「決めた!ユキチャンとこ行く!

みんなの寝顔見ながらじゃないと、安心して寝れないですから。」

 

「ちょっ…寝顔って、寝室入り込む気か!?

んなの…おい、どうする…?」

花村は現場リーダーの鳴上の顔を見た。

 

「…やむを得ない。突撃!」

鳴上は早々に部屋から出て行った。

 

「決断早ッ!」

「けどホント、ムリだってこの部屋!」

「おっけ!寝起きドッキリ、ヨーソロー!」

 

「シンはどうすんだよ」

花村は寝っころがるシンを見て言った。

 

「…俺はいい。"福は寝て待て"というしな」

そういうと、手のひらをフイフイッと振った。

「"蒔かぬ種は生えぬ"とも言うけどな。じゃあな!」

花村達は鳴上を追うように意気揚々と行った。

 

 

「…」

シンは立ち上がると、少し硬くなった窓を開ける。

そこから入ってくる少し冷たい空気が色々と思考を正常に組み合わせていく。

 

 

澄んだ景色が思い出させる。

 

 

『…どうして、あなたは神に従わないのです…人の心を持ちながら…どうして』

『無駄です…善悪のさえ、彼を縛りつけるものはないのです』

 

「雑魚は黙っていればいい。『力なき正義が無力であるように正義なき力もまた無力』しかし、正義とはなんだ?」

シンはラファエルの翼を引き千切り、蹴飛ばした。

マガツヒを漏らし息も絶え絶えで、倒れた。

 

「…俺には善でも悪なんてものには縛られない…

気が赴くままに…するだけだ」

 

シンはそういうと、右腕の手のひらをミカエルに向け、右腕の手首に左手を添える。

 

 

『破邪の光弾』

 

 

 

 

(…何回目だったか…それすら危ういな)

シンが遠くに見える山を見ていると、叫び声が聞こえた。

 

「まったく…」

シンは布団に入った。

 

 

 

 

 

 

次の日…

 

 

天城屋旅館から早々に引き上げてきた…

今日は文化祭の代わりの休校日だ。

 

シンはのんびりと、テレビを見ていると、電話がかかってきた。

『お前も、今日ヒマだろ!?頼む、ちょっと付き合ってくんねーか!』

「…まあ、構わない」

『今日ジュネスでハロウィンフェアなんだ。

準備、全然出来てなくてさ!だから、鳴上とお前に頼もうと思って!

頼むよ!』

「暇だから構わない」

『じゃ、フードコートに来てくれ!』

 

 

ジュネスのフードコートへ着くと、大分準備が終わっているようだ。

鳴上達と合流して、飾りを終えた。

 

「う~、腰いってえ…ようやく終わったぜ。」

「こっちは終わっている」

「俺もだ」

 

「にしても…似合ってんな、お前。

板についてるっつーか、そっちが普段着ってレベルだぞ…」

 

鳴上は陽介が用意した、仮装をしており、恐らくドラキュラでもイメージしたものだろう。

 

「やー、でも助かったぜ!ありがとな!ま、アレがいりゃお客は…」

クマがかぼちゃの被り物をしている。

そして、それに負けまいと、少し合体した大きいヒーホーが客を大いに集めている。

 

「あれ、陽介くん。ちょっとちょっと、どうなってんの?」

メガネをかけた真面目そうな店員が花村に話しかける。

 

「あ、チーフ。 お疲れ様っす!ハロウィンフェアの飾り付けなんすけど…」

「え? あはは、やだなあ陽介くん。アレとっくに中止になったでしょ。」

「…は?」

チーフと呼ばれた男性は少し笑いながら言った。

 

「あれ? 中止決まった時の朝礼、陽介くんも居たと思ったけど。

はは、朝だしボンヤリしてたかな?

まあ、片付けよろしくね。」

 

そういうと、辺りを見渡す。

「…凄いねえ、これ。

陽介くんたちが飾り付けたの?

こんなに頑張ってくれるなら、やれば良かったなあ、ハロウィン…」

 

そう言いながら、去って行った。

 

シンと鳴上はじっと花村を見つめた。

 

「み…見ないでくれ。

そんな目で俺を見るな…」

 

シンは早速、ヒーホーに帰る様に指示した。

「きょ、今日のところは許してやるホー」

「…勝ったクマ…」

「何を訳のわからないことを言っている。」

シンはとっとと、ジャックフロストを帰した。

そして、シンは注文しに向かった。

 

「ほんとっ!わりぃ!その衣装やるから勘弁な!」

花村は両手を合わせて鳴上に言った。

「別に構わない」

「シンも悪かった!」

「暇だし構わない」

 

せっせと片付ける花村と鳴上、シン。

シンのステーキが呼ばれると、取りに行き、食べ始めた。

 

 

「相変わらず、お前はステーキだな。飽きずに食えるな」

「…悪魔の肉よりはましだ」

「え?」

衝撃の発言に花村は固まった。

「…ウソだ」

「お前がいうと冗談に聞こえないんだけど…」

「…何を食べていたんだ?」

「幸い、マガツヒで腹は満たされるし、アマラの深界はマガツヒに溢れていた。

それに、常に悪魔化していたから、腹が減ることもなかった。」

シンはそう言いながらステーキを食べる。

 

「…なんつうか、あれだな。ある意味俺たちって非日常に溢れてんな」

花村は思い返すように言う。

「…テレビに入ることもそうだけど、何よりもシン。お前とかさ。

違う世界とか普通に考えたことなかったし、それに悪魔とかも空想のもんだと思ってた。」

「俺は…ペルソナがそれに似たようなものだと思っていた。」

鳴上はそういった。

 

「そうっちゃそうなんだけどさ、こっちの世界じゃ、ペルソナって使えないじゃん?

悪魔は当然のように存在してて、なんつーか便利そうじゃん」

「…そうだな。移動は楽になる。空飛べるやつもいる」

シンは思い出すように言った。

「だろ?それに、お前は『口説き落とし』とかそんなスキルついてるとか、羨ましいすぎんだろ。」

 

「それはスキルというか…なんか違う気がするが」

鳴上がそういうが、花村は認めたく無いようだ…

「…でも、なんつーか気の遠くなるような時間を生きてきたんだな。お前」

「過ぎてしまえばそんなものだ。数えることはできないな。」

 

「…俺さ、たぶんお前らみたいに特別で居たかったんだよな…」

 

花村は少し苦笑いを見せた。

「鳴上は初めから、テレビに入る能力とかあってさそれにペルソナとかも変えられて、ヒーローって感じでさ、初めは羨ましかったんだな…

それにシンはもうなんていうか…次元が違うから…」

 

 

「…でも、俺にもペルソナ能力とか身についてさ、嬉しかったんだ。

悠とも肩を並べて戦えてるし?なんていうかさ、あれだよ」

そういうと花村は頭を掻いた。

「あれだな」

鳴上はシンを見るが、シンは肩をすくめた。

 

「…ま、とりあえず、そういうことだ!…やべ、恥ずかしくなってきた…」

そういうと、花村はバックヤードへ行ってしまった。

「およよ?ヨースケはどこに行ったクマ?」

「…勝手に話して、勝手に居なくなった。」

シンはそう答えると、添えてある人参をフォークで突刺した。

 

 

夜…

 

 

丸々としたその美円。

ピクシーは嬉しそうにそれを持ち上げ、見回す。そして、口の中にその美円を崩す為に歯を当てる。

刹那の音を立てる。カリと音を立てる。

メレンゲが柔らかく、溶け合うクリーム。

 

「うーん!おいしいわ」

「どこがいいんだ?この…なんだ?」

俺はその固く丸い何かを持ち上げた。

「マカロンよ!知らないなんて、人生の8割は損してるわ」

 

ピクシーはそういうと、マカロンに再びかぶりついた。

大体、このピクシーは一体どこからそんな情報を集めているのか。

 

簡単だ。

 

トートの頭をぶっ叩いて、毎度毎度お菓子の話をさせているだけである。

マカロンは中で大好物らしく、溺愛している。

 

「…なんか、失礼なこと考えてない?」

「ん?…さぁ?」

シンは肩をすくめた。

「そう。ならいいの。私はこの楽園に埋れていたいの」

そういうと、マカロンの沢山入った、おさらにダイブした。

 

(…狂ってやがる)

さながら、ピクシーはマタタビを入手した猫の如く、マカロンの上をゴロゴロと転がっている。

なんとも可愛げの無い光景だ。

そんなことより、シンは気になったことを尋ねる。

 

「…全部…食べるのか?」

「え?当たり前じゃん」

「え?」

「え?」

 

 

明らかにピクシーの体には入らない量だ。

シンは改めて気付かされる。このピクシー。

底なしの胃袋を持っているのだと!

 

「…程々にな。」

シンはテレビをつけた。

 

 

『それでは、次のニュースです。

"環境を考える会"代表の香西氏が、市内の小学校を訪れ、霧の影響を現地調査しました。

稲羽市ではここ数年、頻繁に濃霧が発生していますが、原因が良く分かっていません。

市内では霧の原因について憶測が飛び交い、体への影響を不安視する声も上がっています。

ですが市は、霧が人体に害を与える事は考え難いとしており…

殺人事件等による、住民の不安心理の表れなのでは、との見方を示しています。

これを受け、香西氏は、事実関係をはっきりさせるため、現地の小学校を訪れました。

霧の中でも元気に遊ぶ子供たちに、体調や心の不安等について尋ねたという事です…』

 

アナウンサーは淡々とニュースを伝える。

 

『調査を終えた香西氏は、コメントを発表しています。

"現代は、些細な環境の変化にも目を配り、政治に反映させていかなければならない"

"今日私はある生徒と話したが、その子は風評に惑わされず自分の言葉で話していた"

"本来は我々大人こそが、そうでなければならない"

"我々は常に、子供たちの未来を管理する必要がある"』

 

『…香西氏はこう述べました。

集まった保護者達からは拍手が上がりましたが、

一方で、選挙に向けた人気取りとの評もあり今後の行動が注目されています。』

 

紙を送ると、アナウンサーは表情が一転し明るい顔になった。

 

『では、次のニュースです。

今年5月頃から、様々な怪物の話が集まってきており、殺人事件とは別の意味でも八十稲羽市が注目され始めています。

そのブームに乗ろうと、先日、八十稲羽の隣、沖名市に期間限定で巨大お化け屋敷が出来、7月からすでに50万人を突破しました。

約二年前から計画されていたものですが、関係者はタイミングよく、こういった噂が流れて我々も嬉しい限りですと語っていました』

 

 

(なんというか…もう、あいつらは…)

「こっちに来てんのは、だれた?」

「えーっと…詳細まではわからないわ。興味ないし。

でもまあ、幸いアマラの落ち着いた連中しか来てないと思うわ。脳筋は多分あそこの入口まで来れないし、アマラ経絡は広がり続けてるしね。

何千体もの悪魔が迷って、しかも、奥のほうはモトとか住み着いてるし…あまり、想像はしたくないわね」

「…派手にやらなきゃいいさ。それに、俺は別に関係のない話だしな」

 

シンは立ち上がると、買ったDVDを見る為にDVDプレイヤーにDVDを入れた。

 

「何見るの?」

「…『ブレードランナー』と『2001年宇宙の旅』」

「ふーん。あなたも、私のマカロン溺愛と対して変わらない気がするけど」

「…俺は別に、お前みたいにDVDの山で快感と感じることはないと思うが」

「やったこともないくせに」

「…やらなくても想像がつく」

 

シンはそういうと、再生ボタンを押した。

 

 

「この…エイガとか、ショウセツ?どこが面白いわけ?」

「…何故だろうな。呼吸するのと同じ理由かもな。」

「は?」

ピクシーは意味がわからないと言った表情だ。

シンはゆっくりとため息を吐くと、口を開いた。

「…俺にとって本は世界そのものだった。

そこには、他人の頭の中がかかれていて、どんな理由で人間の心が動くのか。

あるいは、登場人物なんかに、自分を自己投影しドンドンその物語にのめり込んでいく…

そして、それが終わった時、振り返る度に胸が熱くなるのを感じる」

 

シンの思わぬ言葉にピクシーは首をかしげた。

 

「…ようは体験のしようのない冒険や、事件、感情の揺れ動きを体感することができる。

だからこそ、娯楽であるし、それがそれ以外には成りえない。

娯楽は娯楽でしかない。例え、商業性があっても、娯楽でしかない。」

 

「ふーん。まあ、いいや。」

ピクシーは興味なさそうに答えて、テレビ画面を見つめるのであった。

 

 

 

 

「古いエイガなのね」

「みたいだな。見た事ないから知らんが、」

「でも、このごちゃごちゃしてる感じは好きだわ。」

 

映画の街は、アジア的な独特な雰囲気をもっており、狭い道に人が溢れ、ビルとビルの間も狭く看板が無数に道路の上にせり出している。

 

「…作るか、こういうところを」

「まあ、スラムっぽいところがあってもいいかもね」

「そういうところを好む悪魔もいるだろう」

 

 

ある種の創世をシンは地味に行っているのであった…

 




解説

『ブレードランナー』
1982年公開のアメリカ映画。フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原作としているものです。
猥雑でアジア的な近未来世界のイメージは1980年代にSF界で台頭したサイバーパンクムーブメントと共鳴し、小説・映画は元よりアニメ・マンガ・ゲームなど後の様々なメディアのSF作品にも決定的な影響を与えることとなった。

『2001年宇宙の旅』
『2001年宇宙の旅』は、アーサー・C・クラークとスタンリー・キューブリックがアイデアを出しあってまとめたストーリーに基いて製作されたSF映画およびSF小説である。映画版はキューブリックが監督・脚本し、1968年4月6日にアメリカで初公開された。

両方とも見たことはあります。
中でもブレードランナーは攻殻機動隊などが好きな僕としては、とてもよかった。
ロボットを殺し続けるうちに、自分も実はそういったロボットなのではないかと疑う。
そう考えると、結構哲学的なんですよね。
元の本は読んだことないんです…(ほしいけど、高かった気がする…)





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走るノイズと変異『霜月』・『師走』
第48話 Head-On Collision 11月5日(土)・6(日)


シンはバイクで堂島家に急いでいた。雨の中だと言うのに、猛スピードで飛ばす。

そして、角をまがった瞬間、トラックが走り去って行った。

シンはアクセルを全開でそのトラックを追いかける。

 

 

『間薙先輩!今どこですか!』

Bluetoothのイヤホンマイクに直斗の声が聞こえた。

「犯人を追いかけている」

『!?』

シンは冷静に答えた。

 

「まだ、家からそれほど離れていないと堂島刑事に伝えろ」

 

シンは電話を切ると、トラックを追いかける。

シンはミスをしたなと思った。『現在地ON』にしておくべきだった、と。

 

シンに気が付いたのか、そのトラックは速度を上げた。

それに合わせるようシンも速度を上げる。

 

雨だが、シンの視界は良好だ、ライトマの影響だ。

 

大通りに出たとき、シンの後ろからサイレンが聞こえた。

恐らく、サイドミラーで確認すると、堂島遼太郎であった。

シンは即座に近道を頭の中で叩きだし、右折した。

 

 

住宅街に差し掛かったトラック。そして、トラックの運転手がバックミラーを見て、再び正面を向いた瞬間、正面からバイクが突っ込んできた。

堂島も、まさか突然止まると思わず、止まりきれずに避けようとしたため、電柱に突っ込んでしまった。

 

 

 

そもそも、何故、そうなったか。

話を戻すべきだろう。

 

 

数日前の雨の日。

その日の深夜にマヨナカテレビが映った。

 

そんなこともあり、シンは警戒していた。

そこには小さい子供らしき人物が映っていた…

 

そして、5日の夜…シンの電話が鳴った。

 

「なんだ?」

『悠が堂島さんに連れてかれちまった!!』

「…ということは、また脅迫状が届いたのかもしれないな…」

『と、とにかく俺たちは警察に行く!』

「…」

 

シンはその頭をフル回転させた。

 

(恐らく、これまでの統計的に今日…今日誘拐されるはずだ。

…誰だ。シルエットでは確実に子供…子供?…テレビに映った…違う。映るのは関係がないとしたら…作文?…!?)

 

『主。人間ガ動イテイル』

監視に回していた、悪魔から連絡が来た。

 

「ん。わかった…」

 

シンはバイクの鍵を取ると、雨の中バイクに乗り走り出した。

 

シンは伊達にテレビを見ている訳でもないし、観察眼を持っている訳ではない。

政治家の行った小学校、そして、マヨナカテレビに映った見覚えのあるシルエット…

それらを合致させると、『堂島菜々子』だと分かったのだ。

彼女の性格なら、ああいった大人びたコメントが出来る。

可能性は大いに高い。

 

 

「一か八か」

シンは頭を横に振った。

違う。それは全力で俺を信じるだけだ。

跳躍して見せる…

 

 

 

 

「菜々子ちゃんが居なくなった!」

そう取調室に花村が言いながら入ってきた。

その後に、完二とクマが入ってきた。

 

その言葉に一番驚いたのは花村を抑えようとした堂島だ。

 

「なっ…どういう事だ!?」

「白鐘からです、菜々子ちゃんちの…てか、堂島さんちの前にいます。」

花村が携帯を渡すと、堂島はそれを受け取った。

 

「白鐘!?おい、どういう事だ!」

声を荒げながら直斗に尋ねた。

 

『今、堂島さんの家にいます。

扉が開いていて、中は誰も居ません。

菜々子ちゃんは…例の連続殺人犯に誘拐されています。

堂島さんだって気付いてたでしょう!?事件は、まだ続いているんです!!』

「…」

『ですが、間薙先輩がそれを察知してバイクで追いかけています』

「!?どこだ!」

『先ほど、堂島さんの家から出たと言っていましたので、まだ、町からは出ていないでしょう』

 

堂島は花村に電話を渡すと、堂島が自分の携帯で電話をかけはじめる

 

「ど、どうするんですか?」

足立が困惑した様子で堂島に尋ねる。

がそれを無視して堂島は電話をしている。

 

『はい、交通課、太田。』

「誘拐事件だ、至急手配たのむ!国道沿いに検問張れ!」

『検問!?ええっと、まず状況を…』

「ゴチャゴチャ言ってないで、やれ!被害者は7歳、女の子。…俺の娘だ!」

『娘さん!?え…現場は?どうして誘拐と?』

「そ、それは…とにかく、これは例の連続殺人にも繋がってるかも知れないんだ!」

『かも知れないって…事件の犯人、挙がったじゃないですか。

いつからですか?いなくなったの。誘拐の予告や、犯行声明は?』

「い、いや…とにかく今は、説明してるヒマは無い!」

『えと、は、はい…一応、関係各所に連絡はしておきますが…』

そういうと、電話を切った。

 

「殺人との関係って言っても、証明出来ないし…

署内すっかり解決ムードですから…ど、どこ行くんですか!?」

堂島が出て行こうとしていたために、足立が止めた。

 

「捜しに行くに決まってんだろ!

例の殺人と繋がりゃ、警察は事実誤認で泥を被る事んなる…上はギリまで事件とぁ認めない。

…待ってられるか!」

 

「で、でも、間薙君が追いかけてるって以外何の情報もないんですよ!?」

「うるせえッ!!だから急いでんだろうがッ!!」

 

そういうと堂島は出て行った。

 

 

 

 

そして、初めに話を戻る。

 

直斗はほぼ確定だと思い、皆に生田目ではないかと言った。

足立はそれで資料を見始めたようだ。

それは堂島家のドアを無防備の状態で開けた事がシンの導き出した答えを真実へと加速させた。

 

「なんで言わなかったの!?」

りせは怒った様子で直斗に言った。

「確固たる証拠がなかったからです。それに、先走って変なことになっては困ると間薙さんが判断したからです」

「変な事って今なってるじゃねーか!クソッ!」

完二は思わず机をたたいた。

「…恐らく、これも間薙先輩の想定の範囲内だと思います」

直斗には珍しく自信無さそうに言った。

「想定の範囲内…って、菜々子ちゃんが拐われることが!?」

「いえ、流石にそこまでとは思いますが…その言い方は悪いですが、間薙先輩は、手段を選ばない方なので、真実を…というよりは、信念を曲げない為に手段を選ばない方だと思えます」

「…だからって、人が死ぬんだぞ!?」

花村は怒った顔で直斗に言った。

「あんまり、ナオチャンいじめちゃいけないクマ!」

「あ…その…わりぃ」

花村は冷静になった。

 

 

「…ってまさかね、まさか…あれ。本当に生田目って運送業?…堂島さんに伝えないと!」

足立は電話を掛けに行く間際に言った。

 

「あーあー、捜査に進展があった以上、僕はすぐ現場へ行かないと。

不在の間にあったことは、僕は知らない。…何も見なかったな。」

「足立さん!」

 

 

足立のおかげで鳴上は警察署から出られ、皆で探しているところで、住宅街で煙が出ているところを発見した。

「おい…なんだあれ、煙出てんぞ!?」

「事故…?あれは…!?」

 

 

皆がそこに行くと、酷い有様であった。

バイクの破片があり、トラックは家の車庫シャッターにから正面から突っ込んでいた。

道路には無数の血がついていた。

そこには足立がおり、堂島を車から降ろしていた。

 

「堂島さん!だ、だいじょうぶですか!?」

足立が堂島に尋ねている。

「な…菜々子は…」

 

そこへ鳴上達が到着する。

 

「もしもし、救急車の手配願います。交通事故です、負傷者、男性一名…」

と直斗が電話を掛けていると、トラックが後ろに下がり始めた。

 

「生田目!?」

直斗がそういった。

 

「…クソ、逃がしたか」

そこには血まみれのシンがシャッターとトラックの隙間から出ていた。

バイクの部品のパイプらしきものが腹部に刺さっており、無数の切り傷があり血が出ていた。

パイプが貫通していた。

 

「これじゃ、バイクも大破してるか」

「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫なのセンパイ!!」

 

「…ああ、問題ない」

そういうと、シンは腹部のパイプを軽々と引き抜いた。

 

「うっぷ…」

足立は吐きに行ってしまった。

グロテスクな音を立てながら、シンの腹部は回復している。

 

シンは堂島の元に行くと、言う。

「申し訳ない。娘さんを事前に救えなかった」

「…菜々子を…菜々子を頼む」

「…」

 

シンは答えずに、トラックの運転席の方へと行った。

直斗もそれに続くように言った。

 

「見て、本当にテレビあるッ!」

千枝の言葉に皆がそちらを向いた。

「本当に持ち運んでいた…」

鳴上が助けに行こうとテレビに触れるが、花村に抑えられた。

 

「バカ!ちゃんと、いつものとこからはいらねーと、出られなくなんぞ!!」

「クソッ!!!」

鳴上は握りこぶしでトラックを叩いた。

 

「日記帳がありました」

シンと直斗が運転席からでてきて言った。

 

「ああ!あ、駄目だって!現場は保存しないと!」

足立が嘔吐から戻ってきてそう言った。

 

「雨が再び振り出していたら、保存もくそもないぞ」

「…」

 

直斗はメモを読み始めた。

 

「"僕は、新世界の存在を知った。なら僕は、人を救わなければならない"」

「"救う"だぁ?なんだそりゃ」

完二が思わず言う。

 

 

「これは…!被害者の現住所!

山野真由美、小西早紀、天城雪子、巽完二、久慈川りせ…

未遂で助かって世に出なかった3件目以降の被害者もちゃんと書かれてる。

そして、諸岡先生の住所は書かれていない。」

 

「すごい…そりゃ決まりだよ。」

足立がそう言った瞬間、一瞬シンがそちらを向いた。

他の人は皆、直斗を向いていた。

 

「最後の日付は今日だ…

"こんな小さな子が映ってしまうなんて。この子だけは、絶対に救ってあげなくては。"」

「それ…菜々子ちゃん!?」

「"何とか入れてあげることが出来た。最近、警察が騒がしい。

この日記も、恐らくこれで最後になるだろう。やれるだけのことはやった…"」

 

「間違いない…今までも全部同じ手口でやったんだ。

宅配の振りして堂々と玄関から来て、すぐ荷台のテレビに放り込んで…

…犯人は生田目だ!」

 

「…とりあえず、堂島さんをだな…」

シンはふらっと倒れた。

 

「間薙先輩!」

皆がシンに近寄った。

何せシンは生身の状態でつぶされたのだ、状態としては最悪だ。

 

 

 

「はいはーい。どいてー、それは俺の患者だよー」

 

 

そんな声がシンの聞いた最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

シンが気が付くとベッドの上だった。

「やっほー、シン」

「ん?ピクシーか。今何日だ。」

どうやら自宅だと理解できた。

 

「6日の0438だ。傷は治しておいた。」

「…ケヴォ―キンか」

「久しいな、混沌王。…まったく、特殊合体を人に丸投げするとはな。」

ケヴォーキアンは煙草を吸っている。

相変わらずの軍服の上に白衣だ。

 

「それで、一応ウチの病院に入院していることになっている。

警察連中が来たが、あの状態では会えないと適当なことを言っておいたらまんまと帰って行った。それで、ニャルラトホテプがお前の代わりに入院している。」

 

「…随分と協力的だな。あいつにしては」

 

シンは『ヤサカニノマガタマ』を装備し人修羅化した。グイグイと細かい傷が治って行く…

 

「今回の事で、大分あいつらが捜しているやつが見えてきそうだと踏んでいた。」

「まあ、お互い利害の一致だろうな」

シンは傷がふさがったのを確認していると、メリーが食事を用意していた。

 

「ああ、ありがとう」

「いえ」

そういうと少し微笑んだ。

 

「!?メリーが笑った!?だと!?」

ケヴォーキアンはもう優勝が決まったアメリカ人くらいに嬉しそうに飛び跳ねた。

 

「どうやった!混沌王!感情をどうやって作り出した!!」

「は?…いや、知らん」

シンはご飯を食べながら、答えた。

「メリーよ何か変化はないか!?」

「…いえ、とくには」

「うむ…これは実に研究意欲がわいてきた…すまんがさっそく帰る!」

そういうとドタドタと走って帰っていった。

 

「あんなやつだったか?」

「さーねー」

ピクシーは肩をすくめた。

「というか、お前はいつまでこっちに居るんだ?」

「え?ああ、ボルテクスはバアルに任せてきた。荒事はあいつの方が好きだろうし。それに、ライドウが今修行がてらに、ボルテクス界にいるから、依頼って形で倒してもらってる」

「…ギンザ大地下道か」

「うん…どうやら、天使の連中が、隠し扉とかいろいろ作ってて、それで苦戦してるの。

まあ、最終手段として、ハルミ一帯を消し去る方法があるけど…これはギンザの街の方にも影響が出るからやめましょう」

「あるいは、埋める方法もありだな。炙って出すのもありだ。」

「まあ、残酷」

「…バアルが好きそうな作戦ではあるな」

シンは鼻で笑うと、食事を進める。

 

 

 

 

 

まだ、日が出て間もない頃…

 

 

河原にてシンを囲むように皆が立っている

「…なんだ、まるで俺が殺人者だな」

 

そうシンが肩を竦めた瞬間、鳴上の拳が飛んできた。

シンは避ける素振りもせずにそれを受け、地面に座り込む形である。

 

「何で何も言わなかった。」

その鳴上の声に怒気が含まれている。

 

「…言っていたらどうしていた。」

「勿論。話を聞きに行ってたっス」

 

シンはため息を吐く。

『怪物と戦う者は自らも怪物とならないように気を付けねばならない。』

「ど、どういう意味?」

千枝は首をかしげた。

 

「…お前たちと生田目の明瞭な差とはなんだ?」

「全然違うと思うけど」

りせは考えつつ言った。

「勿論、皆を助けている事クマ!」

 

「しかし、生田目は"救っている"と書いていた…」

「そりゃ、頭がおかしいんスよ。」

「そう一概にも言えない。頭がおかしいなんてのはお前個人の意見で、あいつは信じきっているのだとしたら、それはあいつにとっての真実だ。」

 

「お前たちと生田目の明瞭な差は無いに等しい。まさに善悪の彼岸の川一本で分かれているのさ。この河のこっちと向こうのようにな」

シンは汚れを払いながら、河の向こう側を指さした。

 

「どういうことだ?」

花村はシンに尋ねる。

 

 

 

 

 

「つまり、お前たちもテレビに入れて殺そうと思えばそれを実行できるということだ。」

 

 

 

 

 

 

その言葉は皆には衝撃的だった。

確かにそうなのだ。生田目はテレビに入れていた。

自分たちもそれが可能なのだ。

 

皆が唖然とした様子でシンを見ていた。

そして、その言葉の意味を頭で理解した瞬間、ぞわっと恐怖で身の毛がよだった。

 

 

「そ、そんなこと絶対にしないよ」

天城は必死に否定する。

 

「本当にそうか?ふとした拍子にお前達は怒り、やってしまうかもしれないぞ?

何故なら、完全犯罪だからな。証拠もない、死亡時刻は関係ない…

例えば、鳴上の愛すべき妹が最悪傷ついた時、自分の矜持を傷つけられたとき、

ふとした瞬間に人は行動してしまうものだ。

よく言っているだろ、『カッとしてやってしまった』などと。

特にお前達は若いからな。」

 

 

「お前達は犯人という"怪物"を追っていること、そして、それらを扱っているのだと自覚すべきだ。

自らが怪物にならない様に、その事を肝に銘じて置かなければならない。

正義と悪は正反対のものではない。一線を越えるか越えないかの違いでしかない…」

シンはそういうと、階段に座った。

 

 

沈黙がその場所を支配した。

 

「…シン。悪かった」

鳴上はシンに頭を下げて謝った。

「…別にいい。それにお前に殴られるのを覚悟していた。

でなければ、お前のパンチなど生身で喰らいたくないものだ。」

シンは頬をさする。

 

「重いからな。なかなか」

鳴上は嬉しそうに笑った。

 

「…こういう時こそ、冷静になれ鳴上。

焦る気持ちも分かる。だが、冷静になればするべきことが見えてくるはずだ。」

 

 

「…菜々子ちゃんを助けよう!!!!」

「うお!いきなりデカい声出すなよ!」

「気合い入れてかないとね!やっぱり」

千枝の声に驚き、花村は耳を塞いだ。

 

「…やっぱりかっけぇっス。間薙センパイ。」

「なーに言ってんの?完二のくせして」

「な!別にいいじゃねーか!」

「完二君のくせ…アハハハ」

何故か天城は笑い出した。

 

いつも通りの皆がそこにはいた。

(お前達の良い所だ。どんなに酷い状況でも前向きに進める…)

「…僕にも言えることですね。『怪物と戦う者は自らも怪物とならないように気を付けねばならない』。ニーチェの善悪の彼岸ですね。

…僕の探偵という職業も、そうなのかもしれません。

社会的責任が多ければ多いほど、その河は狭くなるのでしょう…」

 

直斗は帽子を深く被るとボソリとつぶやいた。

「…間薙先輩はどちらに立っているんですか?」

「この世界でいうなれば俺は、河の向こう側のやつだ。

だが、今の俺は正義や悪、そんなものに縛られる必要はない

したい様にやるだけだ。」

「傲慢ですね」

「俺はまさに怪物だからな。善にはなりきれんのさ。」

シンはそういうと、クマの頭を撫でる。

 

「お前も、気をつけるんだぞ?」

「どういう意味クマ?」

シンの言葉に首をかしげたクマ。

シンは答えなかった。

 

「とりあえず落ちついてフードコートで作戦会議だ」

その鳴上の言葉に皆が頷いた。

 

 

 

 




現実が佳境を迎えて、逃避の為に書いている今日この頃…

『怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ』

超人論とか永劫回帰とかのニーチェさんですね。
永劫回帰ってのは、まぁ、簡単に言えば無限ループ。
ある瞬間は時間が無限だから、再び同じ瞬間がくるという感じのもの。
でも、量子力学で否定されてた気がする…
ペルソナでちょっと出てきた、ルサンチマンを否定してるんだったかな?
ちょっと覚えてないんですけど…

で、『怪物~』の文章ですが、そのままの解釈で使いました。
ケヴォーキアンが12話の初登場で言っていたのは、このことです。
やっとフラグを回収しました…

…忘れてたんですけどね…


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第49話 Relief 11月6日(日)・7(月)

河原から、移動し、フードコートへと来ていた。

 

皆の顔から気迫を感じる…

 

「犯人は、元議員秘書の"生田目太郎"…最初に殺された、山野アナの不倫相手だった男…

くそっ…菜々子ちゃんをさらった上に、堂島さんまで…」

花村は悔しそうに言った。

 

「でも、さすがに堂島さんです。

このタイミングで最初の事件の洗い直しとは…」

 

「けど、事件がまだ不倫絡みって思われてた時、生田目たち関係者って、全員一度疑われたよね?

なんでその時は"アリバイ固い"なんて事になったワケ…?」

 

「実は、資料によれば、生田目らのアリバイは、遺体が出現した夜に対してのものなんです。

本来、死因不明なら手口も不明の筈で、犯行時刻が定まらないため鉄板のアリバイなど取れません。」

 

「…どうもその辺りが怪しいな」

シンは言う。

「え?どういうこと?」

りせが首を傾げた。

「そうだぜ?普通に全部"生田目"が犯人だろ?日記にも名前書いてあったし」

「証拠はあまりにも黒だな。

ただ、理由が不明だ。

…何故テレビにでた人物を殺す必要があったのか

そして、殺すなら何故、テレビに入れる事にこだわったか。救う=殺すとはどうもなっていない。

何故なら、失敗したのにも関わらず、もう一度、殺そうとしにこない点。」

 

「…確かにそうですね…」

直斗は腕を組んで頷いた。

 

「関連性といえば、全員八十稲羽市に住んでいることくらいだろう。

その点も不自然だ。車を持っている生田目が何故、自らの住んでいる町にこだわったのか…

捕まえてほしかったのか…あるいは…」

 

「どうだろうと、誘拐してテレビに入れやがったのは

そいつに違ぇねんだろ…なら、ふん縛るしかねえ。」

「それもそうだ」

シンは考えるのを止めた。

 

「菜々子ちゃん…大丈夫だといいけど…」

千枝は心配そうに言った。

 

テレビに入ると、明らかに霧が濃くなっていた。

「最近の霧騒ぎと何か関係あるのかな…?」

天城が辺りを見渡していう。

「この中も、何か変クマね…」

「きっと、町でいろいろ騒ぎになってるから、こっちの世界にも影響しちゃってる予感。」

「今はとにかく、急ごう。りせ、菜々子ちゃんがいる方角、分かるか?

 

「あっちから感じる。

すごい…何この優しい感じ…絶対助けてあげなきゃ!」

りせが方向を指差した。

 

「行こう…!」

 

テレビ売り場に行く最中に、直斗がシンに話しかけてきた。

 

 

「そういえば、地元紙の記者が僕の家に来ました。」

そんな直斗の言葉にりせも反応した

「私も来たよ?」

「そういやぁ、ウチにも来てました」

「なんと?」

 

捜索願が出された、全員の家にその記者が来ていた。

 

「捜索願が出されたことについて尋ねられました。なかなかの切れ者だと感じました」

「事件のことも聞かれたし…まさか、ね?」

 

 

 

「とりあえず、いまは助けることに集中しよう」

鳴上のその言葉に皆が頷いた。

 

 

 

そこはまるで天国の様な雰囲気である。

 

 

「ここが、菜々子ちゃんの…」

「きれい…お話に出てくる天国みたい。」

「そっか…"天国みたい"か…やっぱ菜々子ちゃん、心の奥じゃ…」

花村はそれを言わずにかみしめた。

「仕方無いよ、まだあんなに小さいんだもん。」

 

心の隅に、死別した母への寂しい思いを抱えていたようだ。

 

皆が決心したような顔だ。

「必ず、助けよう!」

「全力を尽くす…だけど…今日は解散だ」

「え?」

皆が鳴上を見た。

 

「なんでだよ!」

「アイテムがない。買いに行く、装備もしっかりと整えてから行く。」

「…そうっすね、敵も強くなってるし、オレ達がやられちゃ、元も子もねぇっス」

「良い心がけだ鳴上」

完二とシンの言葉に仕方なく、皆は広場に戻る。

テレビから出るとそれぞれ帰って行く。

 

しかし、シンはジュネスに残るようだ。

 

「ん?買い物か?」

花村がバイトの恰好をしていう。

「そうだな。」

 

そういうと、食料品売り場へと向かって行った。

 

 

 

 

ジュネス閉店後…

 

真っ暗な家電売り場にシンはいた。

「あらら、いいの?一人で行っちゃって。」

「まあ、ヒマつぶしだ。」

シンの言葉にピクシーは笑みを浮かべる。

 

 

「今回は長期戦だ。出られなくなることはないな?バアル」

「もちろんだ。仕事が終わったら、宴会でもして待っている」

「好きにしろ」

 

 

シンはそういうと、テレビに入った…

 

 

天上楽土…

 

 

シンは辺りを見渡しながら進む。

「なんかいやね。こういうのって」

「天国か。無縁の話だし、興味もないね」

 

シャドウが現れる

「邪魔ね。弱い癖して」

ピクシーは右手でパチンと指をはじくと『メギドラオン』を唱える。

相手は耐えられるはずもなく、そのまま消し飛んだ。

 

「こっちは喋ってんのよ、邪魔ね」

「おーこわい」

「棒読みね。クーフーリンでも呼んで、先行させる?」

ピクシーは言う。

 

「そうだな。」

シンは手を上に上げると、一撃の雷が鳴った。

 

「お呼びですか?」

「先行して、シャドウを掃討してきて頂戴」

ピクシーがそういうと、クーフーリンは走り出した。

 

「…マジメね、あいつ」

「それが取り柄みたいなモノだ」

 

 

 

次の日…

 

 

「…間薙君は?」

フードコートに集まっていた皆は首を傾げた。

「学校にも来てなかったし、電話も繋がんねー」

「とりあえず、テレビにの中に行くクマ!」

 

皆がテレビに入ると、相変わらず霧が濃いことが分かる。

「とりあえず、行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…少しばかり、疲れたな」

シンは四角い部屋で真ん中に噴水のある部屋で、壁に寄りかかり座った。

ピクシーやクーフーリンは戦っている最中に何処かで別れてしまったようだ。

リベラマで敵との遭遇率を上げた。

そして、暴れに暴れ何体消し飛ばしたか、分からない。

 

「フフッ…久しぶりにこれだけ暴れた」

「でしょー?」

ピクシーが何処からともなくやってきた。

 

「なんだ。来たか」

「でも、何だかんだ威力抑えてなかった?」

「一応な。生田目が何かしでかされると困るからな。」

シンは立ち上がると、ソーマを飲み干した。

 

「ああ、あれだけ高級品だったソーマがねぇ」

「使わなければ、宝の持ち腐れというものだ。」

シンは欠伸をすると、屈伸を始めた。

 

「ここは何階だ?」

「まだ、4Fとかでしょ?そんな登ってきた感じもないしね」

「そうか。」

シンがドアを開けると、シャドウが一斉にシンの方を向いた。

 

 

「まだ、やるの?」

「まだ、足りない」

 

 

すると、シンの目の前に居たシャドウが轟音と共に消し飛んだ。

 

 

「あらら、ホントに来たんだ。まさか本当に釣れるとは…」

ピクシーは驚いた表情だ。

 

「和を重んじた日の国にこれほどの混沌とした心が栄えようとは…」

「…混沌を嫌っていると思っていたが」

シンは構えた。

「気付いたのだ。貴殿もまた、御国を憂いているのだと。そして、御国の危機とあれば、我らは協力すべきだ。」

 

シンは肩をすくめると「…邪魔さえしなければ結構。」と言った。

「ふっ、半神半人と半魔半人…仲良くやろうではないか…」

 

そういうと、大きな剣をシャドウたちに向けた。

 

「国を憂いて幾星霜…必殺の霊的国防兵器、英傑ヤマトタケルここに見参。

御国のために いざ往かん」

 

 

 

 

 

 

鳴上達も天上楽土へと着いた。

そして、既に進行を開始していた。

 

 

『やっぱり、間薙センパイいるね。』

「はは…どこまでジユーなんだよあいつ」

花村はもう、呆れた様子だ。

 

『でも、おかげで、シャドウが減ってるよ!早く菜々子ちゃんを助けに行こ!』

「ああ!でも、しっかりと経験値を積んでいくぞ!」

「おう!相棒!」

「任せるクマ!」

 

 

皆が進行を始めた。

鳴上達は怒涛の勢いで階を登って行く。

『…気を付けて、4階は凄いことになってるから』

「さぁある意味、ボスより緊張するな」

花村は手汗を握る。

「ビビってる場合じゃねぇっすよ、決めたじゃないっすか」

「そうクマ」

「行くぞ」

 

鳴上達男たちは階段を駆け上った。

そして4階に着いた瞬間、シャドウの破片が鳴上達の横を掠めた。

 

「…日の国のモノか。」

「うお、でけぇ」

花村はヤマトタケルの大きさに驚いたようだ。

 

ヤマトタケルは鳴上を見ると、言う。

 

「…成程。この混沌とした和の国でも真実を求めるものがいるようだ…」

そういうと、飛びかかってきたシャドウを剣の一払いで消し飛ばした。

「それが我にとっての救いだ。さあ、往け。ここは修羅と化している。

一刻も早く先に進むが良い。」

 

「…行こう」

鳴上達は走って階段の方へと向かった。

 

 

「あれ?ほら、あそこ、鳴上って子たちじゃないの?」

『大丈夫!?間薙センパイ』

りせの声がシンに聞こえた。

「無論だ」

『そうだよね。でも、勝手に行動しないでね。私たち仲間なんだから…それで合流するといいかも』

 

「…とりあえず、今はヤマトタケルと、俺がいるせいでシャドウたちがそれに群がっている…

一掃したら先に向かう」

『そう伝えておくよ』

 

 

そういうと、シンは集中し始めた。

 

「や、やばそう…」

ピクシーは逃げ始めた。

 

『気合い』

シンは手を前にかざし集中する。

その後、両手を体の前で組んだ後、その手を頭上に掲げて左右に腕を広げる。

それにシャドウがシンに一斉に飛びついた。

 

 

 

 

『地母の晩餐』

 

 

 

 

 

5階に上がった鳴上達に大爆音と同時に大きな地震のような揺れを感じた。

「あ、暴れすぎクマ」

「な、なんで、センパイあんなやるき出してんスか!?」

完二はふらつきながら、言う。

 

「…たぶん…シンなりの償いなんだろ…なんつうかポジティブな捉え方だけど。

あいつ、素直に謝るの苦手そう…うお…だし…」

花村はぐらつきながら言った。

「…行くぞ!」

鳴上達は更に進む。

 

「だ、だ丈夫だよね?」

「お、おおおそらく…大丈夫だと思います」

一階に残っている女性陣は心配そうに言う。

 

「本当にセンパイって自由だよね。」

「でも、時々優しかったりするよ?」

「だね。実際、事件の解決に力を貸してくれてる訳だし。まさに『ヒーロー』って感じ?」

千枝の言葉にりせは笑った。

 

「間薙センパイじゃ、ダークヒーローだよね」

 

先ほどまでさながら戦場のように騒がしかったこの階は、まるでそれが嘘のように静まり返っていた。

この階は霧よりもはるかに濃い煙に包まれていた。

そんな煙の中からシンはゆっくりと出てきた。

 

「…必殺霊的国防兵器をも上回る力…恐ろしいな…混沌王…」

「ふん。さあ、とりあえず、ボルテクスに帰ってくれ。お前の気配にシャドウが寄ってくる」

「貴殿はどうする?」

「俺はエストマでもかけてアイツらを追いかける」

シンはそういうと、階段の方へと向かった。

 

「…」

ヤマトタケルはこのテレビの世界に何かを感じたのだろう。

辺りを見渡し、天に向かって言った。

 

「…この和の国を作りし神々を気取るというのであれば…

我々、必殺霊的国防兵器が…必ずや貴殿を抹殺しに往く。」

 

 

 

そう言い残すと、ヤマトタケルは消えた。

 

 

 

 

鳴上達は苦戦しながらも、『全能のバランサー』を倒す。

「厳しいクマ…」

「相棒が『魔反鏡』をけちんなきゃ楽だったろ」

「…レアアイテムなんだ。」

「いや、そこケチっても仕方ないところっス」

 

「やっと追いついたか」

 

「シンか?」

花村は後ろから入って来たシンを見て、言った。

「大分、成長していきたな」

「そりゃねぇ、俺たちだって伊達に戦ってきてはいないからな」

花村はヘッドフォンを外し、得意そうに言う。

 

「とりあえず、『メディアラハン』」

シンはそういうと、鳴上達に唱えた。

 

「あとどのくらいなんだろう」

「さぁ?分からないな。でもそれほど先ではない気がする」

「クマ…これ以上登ったら、クマっちゃう…」

「うるせぇーよ。勝手にクマってろ」

 

そう花村が言うと、鳴上が回復アイテムを配る。

 

「つってもさ、SP回復ってどうにかなんねぇのかな」

「そうっスね。いつも飲みもんって案外辛いッス。」

「クマは気にしないクマ」

とクマは言うが、おなかがキュルルルと鳴った。

 

「そればかりは仕方ない気がするな。」

「そうはいってもっスよ?缶を飲み干さないと、回復しないっつーのは」

「腹がチャポチャポだな。」

そう言って花村がジャンプすると、チャポチャポと音を立てている。

 

「…キリが良いし、いったん戻ったらどうだ?」

シンがそういうとクマの顔が曇る。

 

「でも、ナナコちゃんが…」

「…わり、文句言ってる場合じゃなかった…」

花村は鳴上に謝る。

「いや…一旦戻ろう。ペルソナも強化したい。」

「…わかった」

 

そして、鳴上達はカエレールで一旦帰還した…

 

 

 

 

 

「それにしても、霧が濃くなってきているな」

シンがそういうと、直斗は頷く。

「現実世界に影響が出ているのはこれのせいでしょうか」

「見づらくて仕方ないな…」

(…やはり、八十稲羽に何かいるのだろうな)

 

シンはそう思うと、階段を登る足を進めた。

 

 

 

『僕は…僕は新世界の存在を知った…僕は人を救わなければならない…そう、僕が…』

 

「声がだんだん近づいてきてる!もう少しだよ。頑張って、先輩!」

りせの声に皆に元気を与える。

 

 

 

 

そして、10天へと着くと大きなドアを開けた。

 

「お…お兄ちゃん!!」

「い、行っちゃダメだ!」

菜々子が配達員の恰好をした生田目に掴まれている。

 

「菜々子を放せ!」

鳴上が大きな声で言う。

 

「この子は、僕が救うんだ…」

 

「菜々子ちゃんを放して!!」

天城がそういうと生田目が嬉しそうに言う。

「あ…はは、僕が…救った、やつらだ…この子も…救ってあげる…」

「あ…? んだコイツ、ラリってんのか?ワケの分かんねえゴタク吐いてんじゃねえ!

さっさとその子放しやがれ!!」

完二がジリッと近づくと生田目は菜々子の首をきつく締める。

 

「巽くん、落ち着いて!彼は何をするか分からない!

今は冷静に話をすべきです。彼の目的が分かれば、上手く対応できるかも。」

 

鳴上が慎重に話を進める。

「…目的は何だ?」

「す、す…く…い。みな…救いを求めてる…」

 

生田目は狂気的な目で答える。

 

「…あんたに救って欲しいなんて、頼んだ覚え無いけど?」

「てーか、救われた覚えもな。真逆だろうが、畜生!」

 

「僕が、テレビに入れなかったら、君たち、どうしてた…?」

 

「どうって…」

天城は言葉に詰まる。

 

「自分と向き合えずにいた…って事?」

りせはそう答える。

 

「そんなっ…死ぬところだったのよ!?」

天城は思わず叫んでしまう。

 

 

「…」

シンは鳴上達にアイコンタクトを取った。

鳴上は分かったのか、花村と完二にも合図を送った。

 

「なぁ、少し尋ねたいんだが…」

「な、んだ?」

 

「殺すことが救いか?」

「殺す…ち、がう、救いだ…」

「…それがお前の本心か」

 

シンは淡々と頷く。

 

「は、は…そう思いたければ、思えばいい…

こんなところまで、追いかけてきやがって…知ってるよ、お前ら…殺す気だ…

は、はは…残念、だったな…この子は僕、が、すくうんだ…」

 

そういうと、更に首を絞めた。

 

「あうっ…」

 

「…」シンが合図した瞬間、鳴上達は一気に間合いを詰めた。

そして、完二がタックルすると、生田目はひるんだその隙に鳴上が菜々子を受け取り、後退した。

 

「菜々子ちゃん…菜々子ちゃん!!」

天城の呼びかけに菜々子は答えずにいる。

恐らく、気絶しているのだろう。

 

 

生田目は狂気的な目を鋭くさせいう。

 

 

「その子を…返せ…その子は…俺が…おれがすくううううううううう!!!」

 

そう生田目が叫んだ瞬間、姿を変えた。

それはまるで天使の様な格好だが、どこか狂気的な縞々の模様をしている。

 

「おれ…おれが、すくうんだ…!ジャマすんなぁぁぁ!」

「どのくらいまで正気なんだ…?」

 

直斗は構えて言う。

 

「さぁな?兎に角ぶっ飛ばすだけだ」

完二も構える。

 

 

「…鳴上達に生田目は任せる…俺は彼女を運ぶ。俺なら安全に運べる」

シンは言う。

「…任せる。」

鳴上はそういうと、構えた。

 

 

 

シンは菜々子を背負うと、大きなドアを開けた。

 

「まてぇえええええええ!!」

生田目のシャドウ?『ジオダイン』を鳴上が跳ね返す。

 

 

「…菜々子をよくも…(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…)」

(相棒、マジ切れじゃねーか)

そんな事を思いながら戦闘を始めた。

 

 

 

 

 

シンは菜々子を背負ったまま、走る。

 

『おい。暇な奴、来い』

「主!やっと俺たちの出番か!」

シンが呼ぶと雷が無数に発生した。

 

「グルルル…久シブリノ出番」

ケルベロスはそういうと吠えた。

「…俺を呼ぶとは、ここを死地にしたいようだな」

オーディンは槍に寄り掛かりながら、言った。

「俺の出番て訳だな!」

最後にフラロウスが現れた。

 

 

「命令だ。安全なところまで道を開けろ」

シンはいつもとは違う、重い声で言った。

 

 

「…ワカッタ。」

「簡単なものだ」

「ヒャッハ!!」

 

そういうとケルベロスは火を吐きながら先行し、オーディンとフラロウスは近づいてきたシャドウを消し飛ばす。

まるで、シャドウ達はゴミのように消し飛ばされていく…

 

 

(…状態は最悪だ…)

 

シンは菜々子を抱え走りながらそう思っていた。

 




こういうモノを書いていると、更にペルソナという作品を深く知れて面白いと感じます。
あの言葉はこういう意味だったのかとか、こういうフラグになってたんだとか、色々あって、非常に面白く感じます。




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第50話 Yearning 11月7日(月)~10(木)

皆が祈る気持ちで、面会謝絶の部屋の前に居た。

その中では、堂島菜々子が必死に生きようとしている。

 

鳴上達は"クニノサギリ"を倒し、生田目は警察に連れて行かれた。

 

しかし、菜々子は危ない状態である。

皆、気が気でない。

 

「ナナチャンはまだ小さくて、みんなみたくもう一人の自分、ちゃんと出なかった…

その上、アイツの暴走にも巻き込まれて…大丈夫だといいんだけど…」

クマは心配そうに言った。

 

「てか、普通の医者に治せんのかよ…」

花村は心配そうにうろちょろと歩き回る。

 

「よよよよ…ナナチャンが心配クマー!」

 

「けど…こっから先は、あたしたちには、どうにも出来ないよ…」

 

しかし、皆が不安そうな顔をしているなか、シンは窓の外を見ている。

 

「…お前は相変わらず、なんつーか落ち着いてんな。」

花村はため息を吐いた。

 

シンは無言で肩をすくめた。

 

「…生田目という"運送屋"の存在…菜々子ちゃんが狙われる可能性…

いつも思う…もっとマシな推理が出来てもよかったはずなのに…!

そうすれば、菜々子ちゃんはこんな目に遭わずに済んだのに…」

 

直斗は悔しそうに言った。

 

「んなの…俺だって同じだ。

あいつの前で、あと一瞬早く反応出来てれば菜々子ちゃん、無事だったかも知れないのに…」

「あたし…ホント自分がやんなる…いっつもイザって時、オロオロしちゃって…」

「私も…何もできなかった…」

「アイツの様子が何か変って…私、もっと早く気づくべきだったのに…」

皆、各々が悔しさをにじませていた。

 

 

「生田目の言い分なんて、聞いてる場合じゃなかったんだ!

あの時、僕が余計なことを言わずに、すぐに菜々子ちゃんを助けていれば!

そうすれば…こんな事には…!」

 

「誰のせいでもない」

鳴上は皆に言った。

 

「でも、僕は…」

「ハァ…やめだ。弱音はその辺にしようぜ…

オレらがやんなきゃならねえのは、ここでピーチク言ってる事か?

テメェを責めて、キズ舐め合って…そんであの子の為んなんのか?

…今は信じるしかねえだろ。過ぎた事言ってんな。

シャキッとしろ…直斗!」

 

「ごめん…キミの言うとおりだ。」

 

「悪ィのは全部、生田目の野郎だ…アイツはキッチリふん縛ったろ?

それに、菜々子ちゃんだって、救い損ねたワケじゃねえ。」

 

「うん…そうだよね。」

天城は頷いた。

 

「ナナチャン、早く元気になるように、クマ、毎日お見舞いに来る!」

「それが、今の私らにできる事…だね。

なによ…完二のくせに、ちょっとだけカッコイイじゃない。」

りせは完二に向かって言うと、完二は恥ずかしそうに頭を掻いた。

 

 

「あれ、キミたちまだいたの?」

足立が疲れた様子で、鳴上達に声を掛けた。

「足立さん、あの…何か、分かった事は…」

天城がそういうが、足立の顔はどうも曇っている。

 

「堂島さんが今、担当の先生と話してるけど詳しい事は、色々検査してみないと…

菜々子ちゃんもだけど、容疑者がなあ…聴取始められるの、いつになるんだか。

ま、とにかくもう遅いから、早く帰りな。

君らまで倒れちゃダメだよ。」

 

「そうだな…今日んとこは、俺たちも帰るか…

菜々子ちゃんは元気んなって戻ってくる。

だから俺らも、暗くなんないでおこう。」

花村は足立の言葉に頷いた。

 

 

「菜々子ちゃんの退院のお祝い、何にしよっか?」

「早ッ!…早くね?」

「ジュネス貸切りパーティとか。」

「スーパー貸し切るって、意味分かんなくね?」

 

そんな会話をしながら、皆は歩いていった。

 

 

 

河原…

 

日は既に落ち、月が河を照らしていた…

 

「…」

鳴上達は話しながら、土手をあるいている中、シンは少し離れて月を見ながら歩いていた。

 

「お、なんか黄昏てるね。シン君」

そんなシンに千枝が声を掛けた。

「別にそういうわけではない。ただ…昔から月というものが好きで…よく眺めていたことを思い出した」

 

「うーん…私は、おなかを膨らませたいけど」

「千枝なら、御団子でも食べたらいいんじゃないかな?」

「お前の場合は肉団子だろ…」

「し、失敬な!」

千枝の言葉に皆が笑った。

 

「…」

シンは感慨深い顔をしながら、再び月を見る。

 

 

「そういえば、月にはウサギがいるなんて話があったスね」

「え!?いるクマか!?」

クマは驚いた表情で言った。

 

「いねーよ!呼吸できねっての!」

「花村は夢がないねぇ…」

花村のツッコミに千枝は呆れた顔で言った。

 

「…lunatic」

「え?」

千枝はシンの言葉を聞き返した。

 

「Lunaticは狂気じみたであるとか、狂人を意味するが、それの語源はLuna。つまり、月だ。」

「へぇ…そうなんすか」

「満月の狼男の話を考えると何となく、納得できるな。」

シンはそういった。

 

「ということは、シンクンは狼男クマね!」

「もう、突っ込むのがめんどくせぇよ…」

そういうと、花村はため息を吐いた。

 

 

 

 

 

旅を続ける。

幾つもの路地をさすらい。

いつしか道は見えなくなっていく。

 

 

 

 

 

そんな日から彼此、三日たった放課後…

直斗に呼び出されたシンは高台に来ていた。

 

「あなたも人が悪いですね」

「?」

「分かっていて、あんなことを言ったんですか?」

そういうと、あぶりだされた文字が出た白い紙を取り出した。

シンと直斗は椅子に座った。

 

「結局、お祖父さまは、僕に大切なことを思い出させようとしたということでした。

そのために、僕が作った探偵七つ道具を探し出させたんだと分かりました。

それと、お祖父さまがあなたにヨロシクと言っていました」

 

「だと思っていた」

シンはため息を吐いた。

 

「執事が態々、あんな暴挙を一人でやるはずがないからな。ともなれば、頼まれたに違いないだろう。そして、そんなことをするのはお前の事を良く知っている人物。

手口は子供じみていたから、実にお前に効果的だったのだろうな。」

 

「…恥ずかしいですが、確かにそうです」

直斗は帽子を深く被り恥ずかしそうに言った。

 

「…僕は侮られないように、見下されないようにって頑張ってきたんです。」

「見事に見透かされていたようだがな。そこは流石というべきか…いや、褒めるべきだな。」

「でも…僕は勘違いしていました。僕には初めから居場所があったんです。

そして、それを増やしてくれたのはあなたや、鳴上さんたちなんです…」

直斗は真剣な顔で言った。

 

 

「…だ、だから、その…いつまでも僕の目標で居て欲しいんです。

僕は女だし、あなたとは違う。でも、"探偵"としてあなたを目標にしたいんです」

 

「…好きにするといい」

シンはそういうと、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。

直斗もそれを真似するように突っ込んだ。

 

「まずは行動からです」

キラキラした目で直斗はシンを見た。

「…そういう、子供っぽいところから直した方が良い」

シンは肩をすくめた。

 

 

 

「…それで、話は変わりますが。間薙先輩はどうおもいますか?」

「救い=殺しでないことは確かだろうな。事実、あいつが殺しに来なかったことが証拠だと思う」

「…あるいは、テレビに入れることが救いなのかもしれませんね」

「まだ、あまりにも情報が少なすぎる。あいつに会ってみなければ分からないことが多すぎる」

シンはそういうと、立ち上がった。

 

 

と、シンの携帯が鳴った。

『鳴上 悠』と画面に表示されていたので、出ることにした。

 

『菜々子はまだ不安定な状況だが、今日は特別に面会できるそうだ。』

「…わかった。直斗には伝えておく」

『助かる。俺は病院に向かってるから…』

「わかった」

 

そういうと、シンは電話を切った。

直斗にそれをいうと、病院に行こうということになった。

 

 

「…」

直斗は恥ずかしそうにバイクの後ろに乗る。

シンは特に何も考えずに乗っているが、相変わらず直斗としては気が気ではない。

どうしたら、いいのか。何を話したらいいのか、もう頭の中は何をしたらいいのかわからない。

 

 

信号で止まる。

「ああ、ああの間薙さんは好きな人とかいるんですか?」

「は?」

突然の質問にシンは驚いた声を出す。

「え、あ、いえ、なんでもないです」

 

 

「…いたよ。殺されたけど」

「え?」

「子供の頃に一回だけな。

自分よりはるかに年上で、俺にとってはそれは救世主の様な人だったのさ。その人のおかげで俺は少しだけ、深淵の底から上がれた。

…だが、突然いなくなった。そして、再び前に現れたけど、あの頃の人とは変わってしまっていた。

それで、俺の恋はおしまい。それに、それを好きと言っていいのかさえ不明だった。

恋というにはあまりにも、お粗末だ。」

 

「それって…あの高尾という女性でしょうか。」

「そういうことだ。」

「…なんだか、悲しい話ですね。」

直斗の回答にシンは少し笑う。

 

「悲劇というよりは、今ではまるで、ファンタジーの喜劇だな。その位、ありえないの話だし、もうどうでもいい笑い話さ。

当時の俺には兎に角、居場所が無かった。

その居場所を与えてくれたのは、紛れもなく先生だった。それだけの話だ。」

 

「…似てます…僕と先輩は」

「…そうかもな」

気が付くと、直斗は自然と落ち着いていた。

落ちないように、シンに抱き着く。

耳をすませるとシンの体からは何も音がしない。

心臓の鼓動も血液の循環の音さえ無い。

 

しかし、少しだけ温かい。

 

それが、風で寒いバイクには丁度良い温かさであった。

 

「…」

直斗は何も言わずに、ギュッとしてしまった。

「?」

シンは首を傾げて、納得したようにバイクを飛ばした。

 

 

 

 

 

 

バイクを降りた直斗は終始恥ずかしそうにしていた。

シンはそれが不思議だった。

 

てっきり、バイクに乗っているのが嫌なので、締めつけを強くしたのかと思ったがどうやら、そうではないと察した。

 

そして、シンはまるで首を傾げる犬のような気分で、頭の中をフル回転させ、何故そうなっているのか考える。

だが、残念ながら分かるはずもなく、シンも思考迷路をさまよっている。

 

終始無言という、不思議な状況で菜々子の病室前まで来た。

 

すると、皆もやはり来ていた。

しかし、さすがに大勢で押し寄せても、少ない人数で何回かに分けて、行くことにした。

 

皆、それぞれが病室に入り、励ましの言葉をかける。

だが、反応はない。

 

シンは淡々とそれを見ていた。

 

皆が出たあとに、シンは菜々子の近くへと行く。

 

「…これを持っているといい。」

シンはそういうと、不思議な色をした欠けたような石に紐が通してあり、それを菜々子の手首につけた。

 

無論、反応はない

 

「…未来は君の中だけにあるべきものだ」

 

シンは呟くようにそういうと、シンは病室から出ていった。

 

 

 

 

 

結局、また、皆で帰ることとなった。

 

いつもと変わらず、シンが皆の後ろを歩いていると、クマが話しかけてきた。

「ナナチャン大丈夫クマか?」

クマは不安そうな顔でシンに尋ねる。

 

「…大丈夫だ。お前が強く願えばな。」

「…分かったクマ。」

クマはそう答えると笑った。

 

 

 

 

 

夜…

月夜の光に照らされる、眠っているシンの横にルイが現れる。

 

「…衝撃の行動だな」

ルイはシンにそういった。

「本当に“ヨミノタカラ“にマガツヒを貯め、砕き割ったモノを人間に渡すなど…」

「あんなガラクタ、もういらない。

それに…ある種の反逆さ。神があの子を殺す気だとするなら、ただ、俺は俺の気が赴くままに行動しただけだ。」

シンが目を開けると、その瞳は金色に光っていた。

 

「…お互い暇なのだな」

「今の俺は何にも縛られないからな。好きなようにやるさ。」

シンの言葉から、数秒沈黙が流れた。

 

「なるほど…それが本来の目的か。ついでに偽神まで釣れれば儲け物ということか。」

ルイは鼻で笑うと、シンは肯定もせず、否定もしなかった。

 

「これで釣れなければ、本当にただ、傍観しているだけなのだろうな。」

「違いない」

 

ヨミノタカラ。

嘗て、創世の時に使われた、簡単に言ってしまえば、膨大なマガツヒを貯めていたものだ。

元は勇がアマラの神殿で手に入れたモノで、マガツヒを貯めていた。創世後、空になっていたが再び満タンにしていた。

 

しかし、出てこない偽神に対して業を煮やしているニャルラトホテプが何かないか?と訪ねた時に、思い切って

それを持っていくことを、提案した。

しかし、あまりにも強大なエネルギーの為に運び出すのが困難だと判断された。

 

皆が知識を出し合い、どうするかと話してあっていた時に、シンが来て。

思いっきり殴った。

 

だが、流石に一撃とはいかず、『乱入剣』という名の手刀を何発も当てると砕けちった。

そして、その一部を菜々子に渡した訳だ。

 

欠片といえども、そのエネルギーは凄まじく、そこら辺のパワーストーンよりも、何百倍もの効果があるのは確かだ。

 

シンの見立てでは、体力的なものもそうだが、精神的な問題があるようにも見えた。

それ故に、シンでも治すことは困難だ。

 

だが、目に見るほどの回復があるかと言われればそういうものではない。

もっと、別の使い方があるのだ。

 

シンはあくまでも種を蒔いたに過ぎない。

 

それを生かせるかは…可能性のほうが大きいだろう…

 

 

 

 

 

「…肩入れするな、お前は」

ルイは鼻で笑う。

「お前が俺に目をつけた理由と対して変わらない気がするがな。可能性…俺には選択しえない可能性を信じてみたくなるものだ。」

シンはそういうと、横を向いた。

「久しぶりの睡眠だ。寝かせてくれ」

「…分かった。」

 

 

 

 

 




こういうの書くのは苦手で、ホントに書きにくかったんですけど、なんとか完成させました。




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第51話 Fog 11月21日(月)~12月3日(土)

 

 

11月21日(月) 天気:曇り

 

 

朝だと言うのに、昨日の雨のせいの霧が残っており気分も悪い。

それにシンはここ最近、アマラ経絡を使って様々な悪魔がボルテクス界に現れてきているため、呼び出されることが増えた。

周期的なもので、やっとそれが落ち着いた所である。

 

そのために、シンの睡眠時間が短くなり、自然とシンは眠そうな顔で家を出ることが増えた。

 

 

「おはよう。シン」

「…」

鳴上のあいさつにシンは答えずに、黙々と歩く。

 

「…寝不足?」

「…本来。睡眠を必要としないのだが、今の状態はあくまでも生身の人間だ。睡眠が少なければ体が思うように動かない…難儀な体だ」

シンはそういうと欠伸をした。

 

 

「あ、きたきた」

掲示板の前に、花村と千枝、そして、その隣には新聞を持った千枝が居た。

「これ見てみ。生田目の事、載ってるの。」

天城の新聞を横から見ていた、花村が鳴上達に言った。

 

そこには一面の見出しに、生田目が意識を取り戻したとある。

 

『今日未明、市内の病院に収容されていた生田目容疑者の意識が回復。

警察の事情聴取に対し、すまない事をした、怖かった、等と供述している。警察は今後、容疑者の供述を元に、事件の全貌解明を進める方針。』

 

 

「ついに終わったんだな。とりあえず…」

「うん…ほんと…ほんとに、ようやくだよね…

なんか、今朝やけに霧が濃くない?

それに、なんか今日…さむっ!」

千枝はそういうと、ぶるっと震えた。

 

「11月でこんなに冷え込むなんて、珍しいよね…」

天城がそういうと、革靴の音がした。

 

 

足立だ。

「あれ、君たち。ちょうどよかった。

ついさっき、病院から連絡があってね。

前回のは特別だったけど、これからは普通に面会がOKだから。」

 

「少し、良くなったんだ…良かった…!」

千枝は嬉しそうに足立の言葉に反応した。

「あれ、その新聞…そっか、そっちはもう知ってるんだ。」

足立は深刻そうな顔で言った。

 

「生田目の様子は?」

鳴上は足立に尋ねる。

 

「一応、意識は回復したけど、なんとも言えないんだよね…」

足立は続けるように言った。

 

「まだちょっと錯乱してるみたいなんだけど少しずつ話を聞いてるところだよ。

えっと、これはまだ内緒なんだけど君たちにならいいかな…

見つかった日記には、山野アナや小西さんについての記述もあってね。

どうも生田目のヤツ、小西さんに言い寄ってたっぽいんだな。」

 

「…」

シンは眠そうな顔をしながらも、その目は足立を見ていた。

 

「あの野郎…!」

花村は拳を握りしめた。

 

 

「あ、そ、それじゃ僕はこれから病院行くから。

堂島さんも何とか動けるようになったし、事件のことで、色々話さなきゃ。」

足立は走って去って行った。

 

「花村…」

「ワリ、大丈夫だ…生田目の野郎は、もう捕まえたんだ。

これ以上は、手も出せないだろ…

それより、放課後みんなで菜々子ちゃんのお見舞い行こうぜ!」

花村は明るく振舞い、言う。

 

「モチ!」

「学校行ったら、みんなにも報告しなきゃね。」

千枝たちは学校へと向かう。

 

 

「…どうしたんだ?」

「…いや…なんでもな…ファアアァァ」

シンは大きな欠伸をして、ポケットに手を入れて歩き始めた。

 

 

 

シンは授業中に考える。

 

(新聞記事の『市内病院』…個室で警備のできる病室…そんな施設のある病院…奇しくも同じ場所か。

…あるいは、図られたものか?…

どうも引っかかる。小さな市だとしても、被害者と容疑者を同じ病院に入れるだろうか…)

 

そんなことを考えていると、うとうととしてきて、そのままシンは寝てしまった。

 

 

 

放課後…

 

菜々子の見舞いに再び皆が来た。

 

その道中、町は異様な空気に包まれていた。

ガスマスクを被った、男が叫んで"霧は有毒だ"などと叫んでいる場面が増えた。

 

皆、そんな光景をすこし不安そうに眺めていた。

 

そして、菜々子の部屋へと来た。

 

「菜々子、見ろ。みんな、お前の見舞いに来てくれたぞ。」

車いすで堂島は足立に連れられて、菜々子の 病室に来ていた。

 

「ん…お、にいちゃ…」

まだ話すのは辛そうだ。それでも菜々子は、嬉しそうな顔をしている…

 

そこへ、看護婦が入ってきて、堂島を見るや否や少し声を荒げて言った。

「堂島さん!もう…今日だけで、何度目ですか?

娘さん心配なのは分かりますけど、あなただって、まだ絶対安静なんですよ!?」

 

「ム…す、すまん。」

「あの…そんなに酷いんですか?」

天城は心配そうに堂島に尋ねた。

 

「ん…まあ、傷口が塞がったばかりだからな。骨もかなりいってるそうだ。」

「すいません。すぐ、僕が押して病室戻りますから。」

足立は看護婦に頭を軽く下げた。

 

「なんでお前が頭下げてんだ…」

「もうすぐ検診ですから、それまでには戻ってくださいよ。」

そういうと、看護婦は部屋から出て行った。

 

「おにい…ちゃん…」

「ここにいるよ」

鳴上がそういうと、微笑んで安心した顔で再び眠りについた。

 

「……。」

 

 

そこへ担当医が来て、廊下に堂島を呼び出した。

 

 

 

「今のところ、状態は安定しています。

ただ…医者が言うべき言葉じゃないんですが…相変わらず、原因が掴めません。

そのため、対症療法的なことしか施せない、というのが現状です。」

 

「危険な状態からは、抜けたんですか?」

堂島は心配そうに尋ねた。

 

「意識は回復してくれましたが、まだ安心は出来ませんね…

しばらくは様子を見てみない事には、なんとも…」

曇った表情で担当医は言った。

 

「……。」

堂島は曇った表情でうつむいた後に後ろにいる足立に尋ねる。

「足立。生田目の件はどうなってる?」

 

「意識が戻ったっていっても、まだロクに話せる状態じゃないですからね。

一日にできる聴取の時間も限られてますし、依然回復待ちってとこです。」

「そうか…

俺も一日も早く仕事に戻らないとな。

その頃には、菜々子も退院できるといいが…」

 

「あー…でも菜々子ちゃんは、ここの方が静かに休めると思いますよ。

外は霧がすごいし、なんだか変なウワサも広まってるし…

この町の霧、どうも発生の原因が不明らしいですからね。」

足立の言葉に医者が反応した。

 

「確かに、霧のせいで体調が悪いと駆け込んで来られる方、増えてますね…

そんな事、普通あり得ないんですが…」

 

「霧は有害なのか?」

鳴上が医者に尋ねる。

 

「絶対に影響が無いとは言い切れない…としか。

少なくとも、人々が不安になっているという点で、精神面への影響は、あるでしょうね。

霧自体の成分…といった話は、専門から外れるので、憶測ですが。

それよりも、この霧のせいで医療関係の車の便に影響が出ている事の方が問題で…」

 

「霧のせいで体調不良だぁ?

馬鹿馬鹿しい…それこそ、霞を食うような話だ。」

堂島は鼻で笑うと、足立に押されて病室へと行った。

 

 

 

 

 

 

皆が帰るところ、シンは病院に残っていた。

一階にある案内板を見つめていた。

「…まだ、いたのか」

堂島が検査を終え、車いすで病室に戻るところだったようだ。

足立がそれを押していた。

 

「…この病院に生田目が居ますね」

「な、何をいってるの?」

足立が慌てた様子で言った。

 

「…市内病院で、個室で警護できる場所…差し詰め、このくらいの大きい病院でしょう。

そして、場所は…第二外科病棟の最上階ですかね。」

シンは真剣な顔で言った。

 

足立は困ったように小声で言う。

 

「…それ、あまり周りに言わないでね」

「言ったって、良くない結果が丸見えですしね。」

シンは肩をすくめた。

 

「…というか、お前…生田目のトラックに正面から突っ込んだのに、随分と元気そうだな…」

「アストロ病院で検査はしましたが、軽傷だったので、そのまま退院して、警察で話をしました。それ以上のことは特に何も…」

 

堂島は鋭い目線でシンを見るが一切の表情の変化もなく、じっと堂島をシンは見ていた。

 

「いや、やめておこう。これで貸し借りなしだ。」

「ええ。おねがいしますよ。」

「…お前が犯罪者じゃなくてよかったよ」

堂島は皮肉そうに言った。

シンは再び肩をすくめた。

 

 

「…」

足立は不思議そうな顔でシンを見送った。

 

 

 

 

霧が出ている一方で、世間は騒がしくなっている。

だが、それが世紀末であるとか原罪であるとか、色々と騒がしい。

 

 

 

11月28日(月) 天気:曇…

 

河原を歩いているシンの横をなぜか、いわゆる普通の女子生徒の恰好に化けているニャルラトホテプが居た。

 

朝のニュースは少し前まで、生田目の事件をやっていたニュースも次第に霧の話ばかりになっていく。

今となっては生田目のニュースなど忘れ去られている。

 

「…この霧…ただ現象というわけではないだろうな」

ニャルラトホテプが未だに立ち込める、霧を見回し言った。

 

「…これだけ、大胆な動きをしているのにも関わらず、気配すら感じないとなると」

「テレビの中か、あるいは…鳴上と同じように人間に種を蒔いただけなのかもしれないな…」

「…ただ一つ、分かることは」

ニャルラトホテプは黒いオーラを出しながら言う。

 

 

 

「この、私が憤っていることくらいだ」

 

 

 

 

「落ち着け。恐らく、その蒔かれた種がこの町のどこかに居るはずだ。」

「なら、一人ずつ…「いや、概ね見当は付いている。問題は…まだ時期ではないということ」時期ではない?」

ニャルラトホテプは首を傾げた。

 

「正確には、"消えてしまった"と言うべきだ。オレ以外誰も覚えていない。」

「…?」

「…お前は知らないだろうな…いつからか…いつの間にかいなくなっていたな」

シンは首を傾げる。

 

 

「恐らく、その人物と違うもう一人の人間。

その親玉がこの霧…というより、マヨナカテレビというものを作ったに違いない。」

 

 

「あくまでも、種を蒔いたに過ぎないから、その親玉を見つけられないというわけか」

「そうかもしれない」

 

「…そのやり方は私の専売特許だというのに、」

そうグチグチ言いながら、ニャルラトホテプは消えた。

 

 

 

シンは相変わらず、退屈そうにテストを解き、何本シャープペンシルが犠牲になった事か…

鳴上はすこし落ち着きがなく…花村は頭を掻きながら…

菜々子のこともあり、シン以外はあまり集中できていないようだった…

 

 

 

 

そして、12月3日(土) 天気: 曇

 

 

鳴上は花村と会い、そのあとシンとも合流し三人は学校へと向かっていた…

 

「しっかしさ、この霧、無くなんねーよな…

天気予報じゃ、初雪降るかもって話だしこんな中で雪とか降ったらどうなんだ?」

 

鳴上達に複数の足音が近づいてきた。

 

「うわっ、いたの!?」

千枝の声だと気が付き、足を止めた。

 

「おお…大集合だな…」

「そこで会って、一緒に来たんだ。

霧で良く見えないときあるから、みんなも固まって来てるっぽいよ。」

 

「にしても、変だよな、ここんとこ。

なんか、寒みぃしさー…」

花村はぶるっと震えた。

 

 

「見通し悪くて怖い…ね、先輩の隣行っていい?」

りせは鳴上のとなりに行った。

 

「この子だけは、相変わらずだね…」

千枝は呆れた様子で言った。

 

 

「だって、ほんとに見通し悪いし。これじゃまるで"向こう"みたい。」

「というより、向こうの霧だろう」

「「「「え!?」」」」

皆はシンの言葉に驚いた。そして、皆がメガネをかける。

 

「わ、見える…」

「どっ…どういう事だ!?」

「このメガネは、向こうの世界の霧を見通すもの…

いやそもそも、メガネをかけたら霧が見通せるなんて事自体、普通じゃあり得ません。」

直斗が冷静に分析を始める。

 

「なら、ええと…あっちの霧が、こっちに漏れてるとか…?」

「まあ、普通に考えればそうだな」

シンは腕を組みながら、頷いた。

 

「…えっ、当たりっぽかった!?

いつもの調子で流されるかと思ったのに…た、ただの思いつきですから…ハハ…」

「思い付きながら、的を射ているな」

シンはそういうと、少し笑った。

 

「いやいや!問題だろ!」

花村はシンに突っ込む。

「とにかく…今日で試験終わりだろ?

ちゃっちゃと済ませて、放課後"特捜本部"に集まろうぜ。」

 

「あー…ヒサカタぶりねー、その名前…」

天城は花村の言葉に頷いた。

 

 

放課後…

ジュネスのフードコートで皆が集まっていた。

千枝は新聞を広げると書かれている事を読み始めた。

 

 

「あ、ここ、霧の話が書いてある。え~っと…

『…一部の専門家からは、この霧が有害な物質を含んでいるのではと危ぶむ声も出始めている。

霧の発生原因や実情の究明に至急取り組むべきとの声が出され…

政府による予備調査が始まったが、原因の特定は難しいとの見解が大勢…』

…だって。この霧って、マジでヤバイもんなワケ?」

 

「町とか、さっぱり人引けちまってっスよ?つーか、ここもスけど。」

完二が辺りを見渡す。正直なところ人っ子一人いない。

「みんな、この霧を怖がって出歩かないみたい。」

 

「確かに、"あっち"の霧に似てる気はするけど…

それ以上のことは、まったくチンプンカンプンね…」

クマも困った表情だ。

 

千枝の新聞を横から覗いていた直斗が言う。

 

「あとは…ここに生田目の略歴と事件についてがまとめてあります。

…最初の被害者は、容疑者と愛人関係にあり、そのもつれから殺害に及んだと見られている。

同4月、第二の被害者、小西早紀さんの遺体発見。 詳しい動機を追及している。

7月には、同じく稲羽市在住の少年による模倣殺人が発生。

一時はこの少年が全ての容疑者と見られたが、捜査の進展により、生田目容疑者が浮上。

先月、稲羽市在住の7歳になる女子児童を誘拐に及んだ際、容疑者は警察により逮捕…

生田目はまだ、どこかの病院に収容されていて、詳しい取り調べはこれからのようです。」

 

 

「やっと、終わったんだなぁ。

いろいろあったけどさ…後は、立件されて、罪が確定するのを待つだけか…?」

花村がそういうと、鳴上が心配そうに言う。

「…本当に立件できるのか?」

「…お前の叔父さんなら、必ずこぎつけるさ。」

 

 

「…」

「おーっと…名探偵は納得出来てないみたい」

千枝はシンを見るとそういった。

 

「…いや、恐らく天城以降の犯人は確実に生田目だろう」

「?でも、日記には山野真由美のことも、小西先輩のことも書いてあってけど」

花村は首を傾げる。

 

「あくまでも仮定の話だ。仮にそれが、『マヨナカテレビ』に映った人物だとするなら、どうだ?」

 

「あー確かに、そうだね…

だって、ほら、私が花村達に話した時って確かに、小西さんも映ってたし、その前には『山野アナが俺の将来の嫁だー』みたいに叫んでたのを聞いたって噂もあったし」

千枝は思い出すように言う。

 

「つまり、どういうことなんスか?」

「つまりも何も、生田目は殺人未遂ってところなのかもしれないという話だ」

シンは普通に表情を変えずに言った。

 

 

「…でも、それだとしたら、ほかにその二人をテレビに入れた犯人がいるってことになるよね」

「そうなるな」

天城の答えにシンは頷いた。

 

「…細かいことを言えば、一件目はわからなくもない。不倫が縺れた殺人。

だが、二件目はなんだ?死体第一次発見者が、この事件に関してどれほどの価値がある。」

「…この事件に関してはそうです。何故なら、テレビにいれてから、死ぬまでに時間さがあります」

直斗は腕を組みながら言う。

 

「生田目と個人的関係があるとするなら、花村や他の人間が知っていてもおかしくはないだろうが、一切そういった話を聞いたことはない…

つまり、あまりにも小西早紀と生田目太郎との接点があまりにもない。

ふとした瞬間、つまり衝動的にあったのだとしたら、そればかりはどうしようもないが…」

シンはそういうと、欠伸をした。

 

 

「いずれにしても、これで少しは落ち着くと思われるが…」

「そうっスね。それが救いっス」

完二はため息を吐いた。

 

「それに、生田目を裁判で裁けるかは別だ。

あるのは状況証拠ばかり、物的証拠がなさすぎる。

立件は難航するだろう…」

 

「捕まえても…裁けねえってことっスか?」

「…その可能性もないとは言えない、ってことです。」

直斗は曇った顔で言った。

 

「んだそりゃ!?

あいつがやったって、オレらはみんな知ってんのに…

大体、殺す事が救済とか、あんなイカレた野郎、放置できねーだろ!?」

 

 

 

「『疑わしきは罰せず』。誘拐は事実だ。それは証言、物的証拠が多くある。

だが、殺人に関してはあまりにも状況証拠ばかり…

残念ながら、あいつが殺しているとしているなら、厳しいな…」

 

 

ふと、鳴上が思い出したように言う。

 

「そういえば、菜々子と炬燵(こたつ)を買う約束をしていた」

「コタツ…っスか?」

「あ、じゃ今から見に行こうよ。戻って来て、コタツあったら菜々子ちゃん、喜ぶよ!」

千枝はやる気になり、椅子から立ち上がった。

 

「おいおい、そーゆう事は早く言いたまえよ。

扱ってるぜ、もうシーズンだからな!

うし、じゃーみんなで選ぶか!」

 




ばっと書き上げました。

で、唐突ですが、僕は受動的ニヒリスト。
それで、この作品におけるシンは。
受動的ニヒリストから、積極的ニヒリストへと昇華した。

学生時代のシンは変わってしまう世界に絶望して流されるままに生きてきた。
ですが、"東京受胎"がある種の変わるきっかけとなった。
積極的ニヒリストは

『すべてが無価値・偽り・仮象ということを前向きに考え、自ら積極的に"仮象"を生み出し、一瞬一瞬を一所懸命生きる』という形へ昇華した。

でも、これを突き通すのって実際不可能なんだと思います。
生きている限り、死ぬことだとか、不安っというのは付いてまわりますから。
でも、シンは死なないし、社会的問題は彼には関係ない話ですから、可能っちゃ可能なのかなと思ってこういう内面にしました。



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第52話 Og Hér Ert Þú 12月3日(土) 天気:曇

ジュネスの家電コーナー…

 

 

「やっぱコタツって言ったらみかんがセットだよね~。」

そんな千枝の言葉に思わず、完二は唸る。

「あー、ベタで最強っスね。」

「最強と言えば、ホットカーペットにコタツの組み合わせでしょう。」

「そのコンボは、ブレーカー逝くな…チンとかした拍子に。」

花村は冷静にツッコミをする。

 

冬は炬燵(こたつ)…やはり炬燵である。

起源を辿れば、禅宗の僧侶により中国からもたらされたとされる『あんか』が起源といわれている。シンはそんな話を悪魔がしていたのを思い出す。

 

「そーだ、クマきち、コタツ初めてだろ。あったかいぞー。」

花村がクマにそういうが、クマの表情は曇っていた。

 

 

「クマはまだ、ここにいても、いいクマ…?

みんなは約束、果たしてくれたから…クマは、もう帰らないと…

でも、ナナチャンが元気になるまで帰りたくない…」

 

「居ていいっての。何回言わせんだお前。

それに、まだ解決してねーかもしれねぇっつーの」

花村は普通にそう答えた。

「目が覚めてクマくんいなかったら、菜々子ちゃん、ガッカリするよ。」

千枝がクマに向かって言った。

 

「け、けど、クマはナナチャンを助けてあげられなかった…」

クマは心配そうにみんなに言った。

 

「バカね。みんなで助けたじゃない。」

「犯人だって捕まえただろ。…オメェが居たおかげだ。」

「今、菜々子ちゃんも頑張ってるのに、そんなこと言っちゃダメよ。」

 

みんながクマにそういう。

 

「うちに来い」

鳴上はクマに言うとクマは嬉しそうに頷いた。

 

 

 

「そうだ、菜々子ちゃんのクリスマスプレゼント、下見しちゃう?」

千枝は店内のクリスマスの雰囲気を悟ったのかそう言った。

「あ、いいかも!きっとそれまでには退院できてるよ。」

その言葉を聞いた花村がビクッとした。

 

「俺のツケとかゆーのはナシな。

ほんと、ナシな。 言っとくぞ。」

 

「失礼だなー。んな事するわけないじゃん。」

「お前の見立てたコイツの服!!」

クマの服を掴んでいった。

「後でレシート見てチビりかけたっつの!おかげで何日バイトさせられたと思ってんだよ!?」

 

「それはさ、ジュネスの価格設定の問題じゃん。」

「のぁッ…!!」

花村は痛いところを突かれたが、すぐに表情を変えて言った。

 

「まー、しょうがねーか…異性の服選びとか、里中さんは初体験だったもんね、きっと。」

「のぁッ…!!なんだとぉ!?」

二人が睨み合いを始める。

 

そんな二人の前に、クマが割り込む。

「やだなあ、ベイベーたち。クマのためにケンカは「「すっこんでろ!!」」…」

 

「ぶふっ…ふふふふふ…」

天城は笑いだす。

 

「先輩たち放っといて、プレゼント、考えよ。」

花村達を放っておいて、残ったモノたちが考える…

 

「つっても、小学生の女の子が欲しがりそうなモンなぁ…」

「菜々子ちゃん、何をプレゼントしたら喜ぶでしょうか?」

 

「うーん…」

鳴上は真剣な顔で悩む。

「シンはどう思う?」と鳴上がシンに尋ねた。

 

「…お前が買ったといえば何でも喜びそうなものだが」

シンは肩をすくめて鳴上に言うと、納得したように頷いた。

 

 

そんな会話をしながら、ジュネスを回っている。

 

 

 

「んじゃ菜々子ちゃんが退院したらお前んちでパーティだな。」

鳴上に花村がそういうと、直斗を除いた女性陣の目が輝いた。

「よーし!じゃあ張り切ってケーキ作るか!」

「当然!」

「すっっごいケーキにしたいね。」

 

「やめなさい!菜々子ちゃん、病院に送り返す気かよ!?」

花村が女性陣に突っ込むと鳴上の電話が鳴った。

その画面を見た鳴上の顔が曇った。

 

足立だ。

 

『も、もしもし?

その、えと、落ち着いて聞いてね?

菜々子ちゃんの容態が急変して…すぐに病院に来て欲しいって先生が。

…頼んだよ。』

 

 

鳴上は電話を切ると皆にそれを話した。

 

 

「と、と、とにかく病院へ!」

花村の言葉に皆が頷いた。

 

 

 

 

 

 

病院に着くと、異常なまでにナースステーションが騒がしかった…

 

「先生、この霧、毒なんでしょ?ウィルスなんでしょ?

テレビでやってましたっ!ワクチンとか、ないんですかっ!?」

 

「落ち着いてください。それはただのウワサですから…」

看護師が騒ぐ女性を制止するが聞く耳を持たない

 

「ウソつけ!ホントはちゃんと薬があんだろ!俺たちを見殺しにする気か!」

「そんなこと、あるわけないでしょ!」

 

そして、そことは違うところで大きな声が聞こえた。

慌てて、皆が菜々子の病室へと向かった。

 

 

「ふざけるな!菜々子はこんなに苦しんでんだぞ!」

堂島だ。堂島が車いすから立ち上がり、医者に掴みかかっていた。

 

「今は状況を見守るしかないんです。ですから、堂島さんも自分の病室へ…」

「俺の事はどうでもいい!

それより菜々子を…ぐぉっ…」

堂島は車いすに倒れ込む様に座った。

 

「堂島さん!」

慌てて皆がそれに近づいた。

 

「菜々子を…こいつを助けてくれ…頼む、どうか菜々子だけは…」

まるで神にでも祈る様に堂島は医者にそういった。

「…最善を尽くします。とにかく、一旦廊下へ。」

「菜々子…」

堂島は看護師に付き添われて病室へと戻って行った。

 

 

 

皆も廊下に出た。

 

 

「…おい、何とかならないのか!?

お前の住んでた世界のことだろ!何か、分かんねーのかよ!」

花村はクマに詰め寄る。

 

「考えてる…考えてるけど…」

クマも不安そうに頭を抱えている。

 

「クソッ…! なんで、あんな小さな子が、こんな事の犠牲になんだよ…」

完二は壁を叩く。

 

皆が不安に駆られ、落ち着きのないなかいつもと変わらない声が皆に聞こえた。

 

「少し落ち着いたらどうだ」

「シンはいつも、そうやって落ち着いてるな」

鳴上は思わず皮肉そうにシンに言った。普段の鳴上ならそんなことは言わない。

だが、状況が状況だ仕方ない。

 

花村が思わずシンに掴みかかる。

「なんでお前は!そうやっていつもいつもおちついていられんだよ!!」

 

 

「勘違いしているから言ってやる。俺は悪魔だ。

涙を流すこともないし、悲しいというのは悪魔になってから一番初めに無くした感情だ。」

そういうと、シンは花村の手を振りほどいた。

 

「それに、ここは病院だ。あまり大声を出すな」

「…わりぃ」

 

「シンでもなんとかできないのか!?」

鳴上は珍しく取り乱し、シンに詰め寄る。

「…」

 

 

 

 

「君たち、まだここに?」

足立が堂島を見届けたあと再びここに戻ってきたようだ。

 

「堂島さんの様子はどうですか?」

「傷が開きかけてたみたいでね。今、病室で処置を受けてるよ。」

足立はため息を吐いた。

 

「…生田目の方は、なんか進展あったんスか?」

「あ、ああ、それなんだけど…一応言っておくと、この事件…立証は難しくなってきたんだ。」

足立は厳しい表情で言った。

 

「どういうことだ?」

花村は真剣な顔で言った。

「本部の人とも話したけど、裁判で有罪に持ち込むのはやっぱり無理があるんだ。

何故、生田目が山野アナ殺しの初動捜査で容疑者から外されたか…」

「そういえば…確か、アリバイがあるって…」

 

 

「その…何だっけ?

テレビに入れるとかって話、立証のしようもないっていうか…

まぁ、誰も信じないし…世間が欲しがるのは、生田目がいつ、どこで、どうやって殺したかだよ。

…堂島さんだって、その事は分かってるんだ。」

足立は少し笑いながら言った。

 

「…えらく冷静じゃねえか。」

「ぼ、僕は本当のこと言っただけだよ。」

完二が足立に掴みかかる。

 

「てめえ…それでもデカか!

あぁ!?そんなに見てえなら見してやんよ!

今すぐここにテレビ持って来いオラ!!」

 

「ちょっと、やめな…」

りせが完二にそういおうとした瞬間、菜々子の病室から看護師が出てきた。

 

 

「…なんだ?」

完二は思わず足立を放した。

 

「菜々子ちゃんのご家族の方は?

早く中へ!声をかけてあげてください!」

鳴上が病室へと入って行った。

 

 

「何だこれ…どういうことだよ!」

「やだ…菜々子ちゃん…」

皆が泣き崩れそうな状態である。

 

 

 

その後、堂島が慌てたようすで菜々子の病室に飛び込んでいった。

皆もそれに続くようになだれ込んだ。

シンはただ目を閉じ、じっと廊下の椅子に座っていた。

 

 

菜々子は必死に戦い、怖いと漏らした。

鳴上と堂島が必死に呼びかけるが、反応が悪くなっていく。

徐々に心電図の音がゆっくりとなる。

 

 

「こ…わいよ…おにい…ちゃん…おとう…さん…」

 

その言葉を最後に無情にも心電図の音が一定の音を立てて鳴り響いた

堂島菜々子は原因不明の病状により息を引き取った。

 

 

 

堂島は足を引きずりながら、どこかへ向かった。

足立が再び廊下に現れ、不思議そうな顔で堂島を見た。

そして、察する。

 

生田目に復讐しに行くのだと。

 

それを防ぐために、完二が足立を脅し、病室を聞きだしては走って向かった。

 

そして、静かな病室でクマは菜々子を見ていた。

 

「クマは…クマは…ナナチャンをずっと見てた…

なのに、助けられなかった…クマの世界で起きたことなのに…

クマはあの世界で、ただひとりのクマのはずなのに…

クマはなにも…クマは…

……。」

 

クマは菜々子の手をぎゅっと握った後、病室から出て行った。

 

その後にシンが病室に入ってきた。

 

「…真相の為に、そして、俺の為に…さあ、陸へ戻ってこい…」

シンはそういうと、菜々子の手首についている石を片手で砕いた。

すると、赤い弾が弾け飛び、菜々子を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ?」

堂島菜々子はいつの間にか川辺に倒れていた。

灰色のそら、謎のオブジェクト、川の向こうは霧で良く見えない…

菜々子がゆっくりと立ち上がると、白い髪をした不思議な年寄りが菜々子を見ていた。

 

「死せる若人の魂よ。三途の川へようこそ。

死者の魂が次なる転生を待ち虚無に耐える場所…」

「さんずのかわ?」

菜々子は首を傾げた。

 

その年寄りは菜々子を向こう岸へと運ぶため、近づいたが手首につけているものに目を合わせて驚いた表情だ。

そして、笑い始めた。

 

「…今回はツケと言うわけか『人修羅』よ」

「?」

 

 

「…さあ 陸へ戻られい。声を頼りに戻られい。」

「?ありがとう、おじさん」

菜々子は陸の方へと歩き出した。

 

そこは森のようでどこもかしこも同じような光景で迷いそうになった。

だが、悠やクマ、花村や千枝、天城や完二、りせや直斗、堂島…

"がんばれ"というこえ、自分の名前を呼ぶこえ…

その声を頼りに菜々子は迷うことなく森を進んでいく…

 

 

 

 

 

皆が生田目の病室の前に行くと、堂島が警察官ともみ合っていた。

「放せ…ヤツに話がある。」

「ですから、許可が無ければ…」

 

「許可だ…?

ならアイツは、誰の許可で菜々子を殺したんだ…あ?

フザけんじゃねーぞ…菜々子は死んで、なんでアイツは生きてる!?

菜々子を返せ…返しやがれッ!!

俺には…菜々子しか…ッ!菜々子しか…

いな…ッ!」

 

堂島がお腹を押さえて倒れた。

警察官がそれを支える。

 

「い、医者!」

慌てた様子で、警察官が声を出した。

 

「放せよ…俺は、アイツを…」

「うわ、わ、大変だ!早く病室へ運んで!

ぼ、僕は、先生に知らせに行くから!」

鳴上達と一緒に来ていた足立が医者を呼びに走った。

二人の警官は堂島を支えるように、病室へと連れて行った。

 

 

 

「堂島さん…まさか、本気で…」

千枝は心配そうな顔でそれらを見送った。

 

「ひとり娘を殺されたんだ…何したって、おかしかねーよ。」

完二は悔しそうな顔で言った。

 

「堂島さん…分かってたのかもな…法で裁ける見込みが、ほぼ無いってさ…

くそっ…先輩殺した上に、とうとう菜々子ちゃんまで…

なのに、当人は罪も償わず、この先ものうのうと…」

花村もまた同じ表情だ。

 

 

「そんなのっ…!」

「なんで…なんで、生きてるのはアイツの方なの?」

 

そんな会話をしていると、病室から物音がした、慌ててドアを開け入ると、開け放たれた窓の前に生田目が座り込んでいた。

 

 

 

「あ…う、あ…」

「何をしてる?」

鳴上が憤った顔で生田目に言い放った。

 

「こ、怖かっ、た…だ…だから…」

 

「お前だけ生きてて…しかも逃げようってのか!?」

「菜々子ちゃんは…アンタのせいで…!!」

皆が生田目に詰め寄る。

 

「お、俺、俺は、何も…」

 

そう生田目が言うと、テレビにノイズが走った。

そこにはシャドウの生田目が映る。

 

「0時…マヨナカテレビ?ちょっと、これって…!!」

りせがそういうと、テレビの中の生田目が話し始めた。

 

『救済は失敗だ。お前たちが邪魔したせいでな。』

「もう一人の生田目…!?

なんでだ!?本人ここに居るし、シャドウは倒したのに…」

花村が驚いた表情でテレビを見た。

 

「思えばあの時、生田目は自身と向き合わなかった。

シャドウがペルソナとして体に戻らなかったようにも見えました…

それが今頃になって見えているのかも…」

直斗は冷静に分析をしている。

 

「こ、れは…」

生田目の顔は明らかに動揺している。

頭を抱え震えだした。

 

『救済は失敗したが、これは、俺のせいじゃない。

…それに、どうせ法律は俺を殺せない。』

「ば、ばかな…」

 

「あれが生田目の、本心の声!?

じゃあ、やっぱり…分かっててやってたんだ…」

千枝は怒りに震えはじめた。

 

「法律がどうした…俺は、お前を許す気はねーぞ…」

花村は生田目に更に詰め寄る。

 

「こ、これは…やめてくれ…」

「あ…? 何をだ…?まだなんもしちゃいねえだろ…

それとも"なんか"してやろうか…?今のテメェに見合う事をよ!」

完二もまた生田目に詰め寄る。

 

「か、完二…」

いつにもまして完二は真剣な表情でりせは不安そうに言葉を漏らした。

 

『好きにすればいいさ。あの子が死んで、俺を恨んでるんだろう?

俺はどっちだっていいんだ。

生きるも死ぬも、俺にとっては大差ない。

でもお前らは違う…クク、無理だよなぁ。

できないよなぁ、そんな事?ククク…俺は"救済"を続けるぞ…

それが俺の使命だからな…!』

そういうと、テレビの中の生田目は高笑いをしながら消えて行った。

 

 

「使命…!?」

「くそっ…」

 

「や、やめてくれ…」

生田目は怯えた様子で言った。

「やめてくれだとよ。どうする?」

花村が皆を見ながら言う。その顔は真剣だ。

 

「ど、どうするって…」

「野郎がこのまま野放しなんざ、許されるワケがねえ。」

「このまま、ただここを出てくなんて、俺には出来ねえ…」

完二もまた真剣な表情だ。

 

「病室にこんな大きなテレビがあるなんて思いませんでした…

こんな物が置いてあるんじゃ、この男はいつ逃げ出して居なくなっても仕方ない…

もっとも、一度入ったら…自力で出る方法なんて無いかも知れませんけど。」

 

「ちょっと待ってよ!それって…まさか…本気…なの…?」

りせは察したのか、止めに入る。

 

「オメェは、このまま帰れんのかよ。」

「で、でも…」

完二の問いにりせは答えられない。

 

「このままでいいとか悪いとか…そういう問題じゃないじゃん!!

何言ってんの…!!そんなこと、できるワケ…!!」

「里中っ!!それにみんなも、聞いてくれ。」

花村が遮るように言う。

 

「やるなら…今しかない。こんな機会、もう二度と巡って来ない。

このままじゃ、コイツは野放しになる。

そしてまた"救済"とやらを繰り返す!たった今コイツの"本心"が言ってたろ!?

そしたら菜々子ちゃんや先輩みたいに…また無実の人が何人も死んでいくんだ!

そんなの、俺は見過ごせねぇ…大切な人殺されて…償わせる事も出来なくて…それが繰り返されんのまで見過ごせってか…?

絶対できねえ!しちゃいけねえだろッ!!」

 

花村は訴えかける。

花村も大事な人を殺されている…

分からなくもない。

 

「は、花村…け、けど…」

千枝は怯えた様子で言った。

 

 

 

 

「ただ"テレビに落とす"…それだけだ。それだけで、全部終わる。」

 

 

 

「お…落とす…だけ…」

 

 

 

「関わりたくないヤツは、出て行ってくれ。

…無理に付き合う事はない。

俺は…コイツを許す気はねえ。

けど、その前にお前の意見が聞きたい。

お前はどうする…鳴上?」

 

 

鳴上もまた葛藤しているように見える。

言葉にしてしまうのは簡単だが、行為は殺人と同等だ。

だが、だが、最愛の"妹"を殺されたのだ…

 

 

「俺は…生田目を…いれ」

 

 

そこにドアの開く音がした。

 

「相変らず、つまらないことをしているようで何よりだ」

「!?」

鳴上を押しのけ、シンは生田目の前に行くと襟をつかみ持ち上げた。。

そして、あろうことか片手で、生田目を持ち上げ、窓の外に生田目を出した。

 

「や、やややめてくれ…」

「ほら、早く選べよ。鳴上。」

 

「な、何やってんの!?」

千枝はシンの行動に驚きを隠せない。

 

「お前たちが行う行為を俺が肩代わりしてやる。もう何十億人の屍の上で俺は生きてるんだ。

一人くらい変わりはしない。

殺すなら同じだろ?俺は裁判などでは裁かれん。善悪も関係ない。

こいつと同じだ。」

 

そういうと、シンは生田目をぶらぶらと揺らす。

 

「それにテレビに入れて殺すことと何が違う。責任感か?罪に問われないからか?」

シンは淡々と答えた。

「シン君はどっちなの?」

「俺か?俺は別にどうでもいい」

「え?

 

「俺はこいつが死のうが、この事件の結末を知ることが出来ればいい。こいつの生死に興味はない。

お前たちがごちゃごちゃと戸惑っているから、オレがやってやると言ってるんだ。

ただ、本当にいいのかと聞いている。冷静にならなくてもいいのかと」

 

「お前は許せるのかよ!」

花村がシンに言う。

 

「許す?何を?お前たちは神にでもなった気か?

裁判で裁けないからお前たちが裁くと言うのか?

随分と面白い話だが、残念ながらお前たちはただの凡人だ。神でも裁判官でも何でもない。全てを知っているつもりか?」

シンは鼻で笑う。

 

「でも、こいつは"救済"を続けるって言ってンだ…」

「救済をか?そもそも、救済とはなんだ。こいつの口からしっかりときいていないぞ?」

「しらねぇよ!こんなラリってるやつの事なんか」

「…考えることを放棄するな。放棄すれば、お前たちは"怪物"だ。

それに…今の状況を客観的に見てみろ。恐らく、ラリってるのは、お前らに違いないな」

シンは冷静に鼻で笑った。

 

ギリギリっと花村が歯を食いしばる。

 

 

『怪物』

その言葉が鳴上の頭によぎった。

徐々に頭が冷めていく…

 

そして、外に出されている生田目を見た。

テレビに入れてしまったら、自分は生田目と変わらない。

『怪物』になってしまう。

 

…果たしてそれは菜々子が望むだろうか。

脳裏に菜々子の笑顔が浮かぶ。

 

 

 

…違う

 

 

 

 

「…落ち着け!」

鳴上は珍しく声を張り上げて行った。

 

ビリリッと部屋に響いたその声で皆が鳴上を見た。

 

「そ、そうだよ。と、とにかく落ち着こうよ。」

天城も鳴上の言葉で冷静さを戻してきた。

「俺は落ち着いてる」

そう言いながらも、花村の呼吸は荒い。

 

シンは何も言わずに生田目を部屋へと戻した。

 

 

 

 

「まだ、納得できない点が多すぎる」

鳴上は真っ直ぐとした瞳で皆に言った。




ちょっと最終調整してたら遅れました。

重要なシーンなので今後、いろいろと手直ししていくかもしれません。


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第53話 Boundary 12月3日(土)・4日(日)

生田目の病室。

そこには深呼吸をする鳴上達が居た。

 

 

「俺はここでこいつを殺すにはあまりにも幼稚な結末だと思うがな」

「…それで、お前はなんで殺さない方を選んだんだよ。」

花村は落ち着きを取り戻したようだ。

 

「鳴上の言った通り、まだ納得できない点があまりにも多いな。

落ち着いて考えれば分かりそうなものだが」

 

「確かに…落ち着いて考えてみるべきですね…

思えば僕たちは、まだ生田目自身からは殆ど何も聞き取っていない…

菜々子ちゃんを酷い目に遭わせたのは、確かにこの男だ…

でも他は、さっきのマヨナカテレビを見て、"そうじゃないか"と感じただけです。

全部押しつけて裁こうなんて…一時の情で盲目になっていた事は否定できません。」

直斗も冷静にそういった。

 

「こいつは何も言わねーじゃねえか。

どんな動機だろうと、こいつがみんなをテレビに放り込んだ事は間違いねえ。

こいつが、先輩を…第一、人殺しを"救済"なんて言ってる奴を

どう理解しろってんだよ!」

 

「理解できない事と、しようともしない事は、全く別のものです。」

直斗はそういうと、花村は悔しそうに言った。

「くそっ…けど、コイツが同じ事繰り返すのを防ぐ

ためなら、俺は出来る事は何だってするぜ。

いつだって、なんだって、な。」

 

「今は考えよう。冷静に…」

鳴上がビシッと花村に言う。

 

「ったく…呆れるほど冷静だな、お前。ま、だからリーダーって事になってんのか…

いいぜ。ならトコトンまで考えようじゃねーか。」

「分かんねー事残したままじゃ、テメェでテメェを騙した事んなるか…

確かに、筋が通らねえな……オレも納得っス。」

 

「疑問点は生田目自身に聞けばいい。"救済"の言葉の意味」

鳴上がそう言うとシンもうなずいた。

 

 

「ちょっ…君たち!何してんの、入っちゃダメだってば!!」

そこへ足立が医者を連れてドアを開けて入ってきた。

 

 

「うわ、ヤバッ。」

「よ、容疑者を見張っていたんですよ。

外の警官は、堂島さんの事で、しばらく手一杯になりそうだったので。

生田目に逃げられでもしたら、警察の沽券や、それから足立さんの信用にも関わりますし。」

直斗はそういうと、足立は困った表情で言った。

 

「そ、それは…どうも。

今後は警護も強化するし、なるべく早く搬送できるよう手配するよ。

だから、今日君らがここへ入った事は…」

「先生、彼の容態は?先ほどは、随分興奮していたんですが。」

直斗は足立そっちのけで、生田目の状態を尋ねる。

 

 

「とりあえず無事のようだが、今は安静が必要なんだ。

とにかく、全員外に出てくれ。」

医者がそういうと

 

「わ、分かりました。」

「俺たちも…戻ろう。菜々子ちゃんのところへ。」

そういうと、鳴上達は外へと出た。

 

 

 

 

病室から出ると、看護師が慌てたようすで

「あ、いた!あなたたち!すぐ来てちょうだい!」

「え、な、何…」

慌てて皆は看護師についていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…何処クマ!?クマの世界…クマか?

なんか、それとは違う感じクマね…たしか、クマは病院に…

そうだ、ナナチャン…

クマは…クマは何も出来なかったクマ…

クマ、何のために、存在していたんだろう…

約束、守ることが出来なかったクマ…あそこにいる意味を、

クマは失くしちゃったクマ…

 

そ、そうか…思い出したクマ…

…やっぱり、そうだったクマね…

みんな…センセイ…

クマはどうしたら…」

 

 

 

 

鳴上達が病室に入ると、心電図の小気味よい音が鳴っていた。

皆が歓喜の声を上げる中、シンは廊下へと出た。

 

 

 

 

 

 

「請求に来たぞ?人修羅よ」

白い髪をして、白い服を着た老人が

「…相変わらずの守銭奴だな。カロン」

「そうだな…今回はこの程度で良い」

そういうと、三本の指を立てた。

シンはマッカで膨れた袋をカロンに渡した。

 

 

「ではな」

そういうと、不気味な笑い声を上げながら去って行った。

 

 

菜々子の容態は嘘のように安定し、皆が涙を流す。

だが、如何せん原因不明なこともあり医者は油断は出来ないと語る。

 

そんな感動後、もう時間も遅いので帰ることにした。

だが、クマが先ほどからいない。病院を探し回るが、やはりいなかった。

仕方なく、皆は帰ることにした。

 

 

 

「…俺はやっぱり、お前のように冷静にはいられなかった」

「いや。お前は冷静に対処できた。…境界を越えなかった。それだけで充分だ」

「…何故、シンは俺たちの手伝いをする?」

 

 

 

「…俺はいつでも変わらない。好奇心。この事件に関しては真実を知りたいだけだ。」

 

 

 

鳴上が見たシンの瞳は真っ黒で光の無いものだった。

だが、その目には黒々と光る輝きがあった。

黒光りするまるで、黒曜石の様なそんな輝きがあった。

 

「お前は、何故この事件を解決したい」

「…俺は信じていたい。仲間やこの町で出会った人たちを。

だから、俺の出来ることをしたい。」

 

鳴上はこの町に来て変われたのだ。

 

 

 

「クマのやつ、呼び出せないってことは、充電切れてんのか…?」

花村が携帯をポケットに入れた。

 

「病院の中もざっと見たけどいなかったよね。

どこ行っちゃったんだろう…」

心配そうな顔で千枝はポケットに手を突っ込んだ。

 

 

そんなとき、頬に冷たい滴が当たる。

 

 

 

「あ…雪…」

天城がそう呟くと皆が空を見上げた。

 

「あ、ほんとだ…生で雪見るなんて、結構久々かも。

でも、この霧だと、雪もキレイに見えないな…」

 

霧が濃く、光もないこの田舎町では到底、見えない。

しかし、暗闇の中降るその雪が非常に幻想的であった。

 

 

「降ってきちゃったね、今年も。う~さむっ。

とりあえず今日は帰ろっ花村、クマくん見つかったら

連絡してよ?」

千枝は震えると歩き出した。

 

「わーってるよ。明日また、特捜本部でな。」

 

そういうとそれぞれが家の方へと向かって行った。

 

「クマのやつ…先に帰ってりゃいいんだけどな。

心配ないとは思うけど、とりあえず急いで帰るわ。じゃまた…明日な!」

シンと鳴上に別れを告げると、花村も帰って行った。

 

 

「…あの時…みんなをひきとめたことは本当に正しいことだったのだろうか…」

鳴上は空を見上げたままシンに尋ねた。

 

「…正しい、正しくないではない。

それがお前の信じた事なら、あとは全力で跳躍するだけだ。

結果は後になってでしか分からない…」

 

シンはポケットに手を突っ込むと白い息を吐いた。

 

「だが、やがて一人で決めなければならないことが沢山出てくる。

その時に、自分の過去を信じて自分で跳躍できるか。できないかだ。

誰もお前の代わりには跳んではくれない。」

 

「…ああ」

 

「説教くさくなったな…俺はまだこうしてる。先に帰るといい」

「…じゃあまた、明日」

鳴上はシンに別れを告げた。

 

 

 

 

次の日は幸い、休みであり朝から早々にジュネスへと集まった。

理由はクマが消えた事だ。

それで、探しまわることにしたが、シンに連絡がつかなかった。

花村が家に行くと、どうやら、アマラ経絡にいるとのこと。連絡のつけ様がないので、仕方なく伝言だけ伝えた。

 

 

「ダメだ、クマのヤツ、どこにも居やがらねえ。」

「"向こう"も今のところ気配なし。

でも、見つけられてないだけかも…霧がすごくて…

ごめん、力になれなくて。」

りせも残念そうに言う。

 

「クマきちのやつ…まさか今度こそホントに帰っちまったんじゃねーだろうな…居ていいって、あれだけ言ったのに…」

 

 

「おはよう」

シンはパーカーのポケットに手を突っ込んでいる。

 

「遅い!というか、もうおはようの時間じゃねぇ!」

花村はビシッとシンを指差し、言った。

 

「それで、状況は?」

「クマ君が見つからないという話です」

直斗がそういうと

「そうか。」

シンは椅子に座った。

 

「焦っても仕方ない」

鳴上の言葉にとりあえず皆が落ち着いて席についた。

 

「アイツ、トボけたやつだけど、義理堅いしな…黙って消えたりはしないよな…」

「確かにクマくんのことは気になりますが、今は信じて、事件の事を考え直してみましょう。

生田目は搬送が間近なようです。

話を聞くにしろ、急がないと、今度こそ手出し出来なくなってしまいます。」

 

直斗はそういうと、手帳を取り出した。

 

「あれから、考えてんだけどさ…やっぱ、すっきりしねーよ。」

「少し、振り返ってみましょう。被害者のうち、殺されたのは二人。

山野アナと、小西さんです。

車から出てきた記録で、生田目は双方と関係があった事が分かっています。」

 

「それは微妙だ」

シンが異を唱えた。

 

「といますと?」

「テレビだ。"マヨナカテレビ"。

やつが見ていないという可能性はない。

それに、マヨナカテレビに映った、あるいはテレビで報道された人物を日記に付けたとするならば、小西早紀との関係があったことにはならない」

 

「…そうですね。」

直斗は一瞬考えるも、すぐに話を続けた。

「ですが、いずれにしてもその後、僕たちを含めた言わば"殺人未遂"が連続…

最後の菜々子ちゃんに対する犯行で、ついに現場を押さえ、決定的な手口が明らかになりました。」

 

「テレビを持ち運ぶって大胆だよね」

千枝がそういう。

「それに運送業…見事な隠れ蓑だった」

「なんかお前が"隠れ蓑"っていうと、忍者の話みたいだな」

シンの言葉に花村が突っ込む。

 

「それだけ聞く限りじゃ、もうどう転んでも"決まり"だけどな。」

完二が唸る。

 

「生田目が逮捕されたことで、警察も久保美津雄を模倣犯と認めましたしね…」

直斗はまとめを言い終わり、手帳を閉じた。

 

「それに、生田目は一件目の山野真由美を殺す理由がない。

そして、二件目の小西早紀。彼女はあくまでも、第一死体発見者…

テレビに入れる犯行だとしたら、死体に上がるまでラグがある。

死体発見者ってだけで、殺す必要があるのか。」

シンは淡々と話す。

 

「仮にねセンパイ。本当に生田目がイッちゃってる可能性は?」

りせはシンに尋ねた。

 

「…前にも言ったが、正常か異常か。そこはあまりにも不明瞭な境界だ。

例えば、鳴上を正常だとするなら、義妹への異常なまでの溺愛っぷり、いわゆる"シスコン"を正当化することになる。」

「…?」

 

鳴上は何を当たり前の様な顔でシンを見た。

 

「たとえば、俺のようなやつが正常だとされる世の中なら、多分、もっと過激な世の中になっているだろうな。

俺にとっては幸せだが…」

 

「結局、正常と異常の差なんて明瞭じゃない。何が正常で何が異常か。わかりゃしない」

シンはそういうと、肩をすくめた。

 

「"正常か、異常か"…なんか、そんなミュージカル見たな、前。」

りせは呟くように言った。

 

「実際、あいつの言ってる"救済"って、どういう意味なんだ?

行動の内容は"人をさらって向こうに放り込む"って事で間違いねーみたいだけどさ。」

「"死による救済"…なんでしょうか…生田目は自分を"救世主"だと言ってました。"向こう側"を"素晴らしい世界"とも。」

花村の言葉に直斗が反応した。

 

「そこを誤解しているのかも。」

鳴上がそういった。

 

 

「…救済は死を意味をしていない。

生田目はお前たちを見て、"僕が救ったやつらだ、この子も救ってあげる"と言っていた。

殺すことが救済なら、何故お前たちは生きている。」

シンは皆を見た。

 

「確かに、死を救済だと思っているなら、その台詞はおかしい…

それに、そう…確かマヨナカテレビに映った生田目も、菜々子ちゃんの死を"失敗"と…」

直斗は頷いた。

「それにね、本当に死を救済だって思っているなら、また私たちをテレビに入れると思うの」

天城はそういう。

 

「なら、ホントに救おうとしてテレビに入れてたとか。」

 

 

千枝のその言葉にみんなが黙った。

 

「ち、ちょっと、黙んないでよ。あたしのは、基本思いつきだからさ…はは…」

シンは唸ると、千枝を見て言った。

「いいね」

「ちょ、どこ行くの?」

りせは椅子から立ち上がったシンに言った

 

 

 

「無論。病院だ」

 

 

 



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第54話 Misunderstanding 12月4日(日) 天気:曇

ずしずしとシンは病院へと入って行く。

「待ってください。警官が警備しています…」

「肝心なところで、メンドクサイことは嫌いだ」

直斗がそういうが、シンは止まらない。

 

 

「ど、どうすんだろう」

「わかんねーよ」

 

 

第二外科病棟の最上階の方に来た。

シンは相変わらず、その足を止めない。

 

「あ、こらこら、たち…」

警官がそう言いかけた瞬間、シンは警官の目の前で指を鳴らした。

すると、まるで人形の糸が切れたように倒れ込んだ。

そして、シンは何事もなかったように倒れた警官を避け、引き戸を開けた。

 

「ちょっと、失礼」

それと同時に、茫然としている鳴上達の後ろから、同じ格好、同じ顔をした男が出てきた。

そして、その警官を持ち上げると、無線機を取り隣の空き室へと運び始めた。

 

 

「え?え?えーっ!?」

「おれはしーらねーぞ」

花村は棒読みで生田目の部屋に入った。

 

「荒々しいっス」

「…こんなことしなくてもしっかりと準備してたんですが…」

直斗は残念そうに言った。

 

 

 

皆が部屋に入ると、生田目がシンを見ていた。

 

「…生田目。訊きたいことがある」

「…。」

「…手短に済ます。」

シンはスキル『説得』を使う。

 

「…最初に誰をテレビに入れた?」

シンはそういうと、鳴上達を見て天城を指差した。

「彼女か?」

その言葉に生田目は頷いた。

 

「えっ…私?」

突然の事で天城は酷く驚いている。

 

 

「…"救う"とは殺す事か?」

「違う…放っておくと、殺される…だから…あそこに入れた…」

生田目は首を横に振った。

 

「山野アナと小西早紀を殺したか?」

鳴上が質問をする。

「彼女たちは殺された…僕は、救えなかった…」

 

「つまり、こうですか?

山野、小西の両事件を知ったあなたは、マヨナカテレビに映った人が殺されると気付いた。

その運命から文字通り"救う"ために、あなたは天城雪子さんを誘拐した…

殺されるよりはと、テレビの中に入れる事で現実の人間が手出し出来ないようにした…

そして、それを続けていった…と。」

直斗がそういうと、生田目は頷いた。

 

「つじつまが合います。

弱ってはいても正気だ…彼はちゃんと、事実を話そうとしている。」

 

「…ほかに犯人が居る。」

鳴上がそう呟いた瞬間、シンは笑い始めた。

 

 

「フフフフッ…そうか。やはりそうか。」

 

「君たち…僕を疑ってないのか…?

…み、見つかったんだな!?あんな酷い事したやつが!!」

「心当たりはある」

 

シンの言葉に皆が驚いた。

「!?」

「ほ、本当か!?誰なんだ!!」

生田目はベッドから起き上がった。

 

「…まだ、確証はない。だが、お前の証言で確率はぐんと上がった」

「…ま、真由美」

安心した様子で生田目はベットに寄り掛かった。

 

「お前のこれまでの事を話せ。警官は当分来ない」

シンはそういうと、椅子に座った。

 

「…キミは信頼できそうだ」

生田目は落ち着いた様子で話し始めた。

 

 

 

 

真由美との不倫が世間に知られてすぐ…僕は騒ぎから逃げるように、

こっちの実家に戻っていた…そして、ひたすらヤケ酒をあおってた…

少し前から、真由美とも連絡が取れなくなっていたからね…

 

真由美はワイドショーで騒がれ、番組を降板させられていた。

僕は彼女に迷惑をかけてばかりで、謝りたかったのに…

やる事も、気力もなくして…そんな時、ふと…

誰かに聞いた噂を思い出したんだ。

他にする事もなかった僕は、テレビの画面に映った自分をぼんやり見ていた…

そうしたら、真由美が映ったんだ。

 

テレビの中の真由美は、僕に助けを求めているように見えた…

 

 

僕は無我夢中で真由美に触れようとして

…その時、腕が…丁度水面に突っ込んだみたいに、テレビの中に潜ったんだ。

驚いて、支えを失って、僕はテレビの向こう側へ落ちそうになった…

 

…酔いが一気に醒めた…

驚いたよ…わけが分からず怖かった。頭がおかしくなったと思った。

結局、夢だったと思う事にして、次の日、仕事をこなした後…中央へ戻った…

次の…午後…いつもの職場に出勤すると…想像通り、クビを言い渡された。

けど、そんな事より僕を打ちのめしたのは…

真由美が遺体で見つかった事だった。

 

それも…僕の実家のあるこの町でだ…

 

しばらく呆然とした後で、あの映像…夜中に真由美が映った映像の事を思い出した。

あれは夢なんかじゃない…本当に、真由美からのSOSだったんじゃないか…?

僕は…怖くてわざと避けていた"テレビにさわる"というのを、もう一度やってみた。

 

そして…あの晩自分に起きた事が、夢なんかじゃなかったと再確認した。

現実だった。紛れもなく…

ならあの映像は…救いを求める真由美が、僕に見せたものだったんじゃないか…?

 

…そう思った。いや…そう思いたかった…

 

「そして…"マヨナカテレビ"の噂に行き当たったんですね。」

直斗がそういう。

 

真由美が生前、妙な番組の噂を追っていた事を思い出したんだ。

僕も人から聞いて知ってはいたけど、子供じみたただの噂と思っていた。

 

「追っていたのは"マヨナカテレビ"なのか?」

「おそらく…そうだ。」

生田目はそう答えた。

 

「…すまない。続けてくれ」

シンは手を自分の顔の前で組み、考え始めた。

 

でも真由美は、あれに映って、そして殺されたんだ。

考えるほど、無関係とは思えなくなった。

間もなく警察の聴取に応じるため、僕はこの町に戻ってきた。

どうせ仕事はクビになったし、真由美の死の理由をちゃんと知りたかった。

そして、雨の夜…また"マヨナカテレビ"に、今度は女の子が映ったんだ。

真由美の時と同じように、その子もまるで助けを求めてるみたいに見えた。

もしかすると、次はこの子が犠牲に…すぐそう思った。

 

「小西先輩のことか…」

花村は悔しそうに言った。

 

真由美に関する報道は全部見ていたから、その子が遺体発見者の子に似てると気付けた。

もしそうなら、狙われるかも知れない。

でも真由美のようにはしたくない…僕は助けたい一心で、必死に見続けた。

そうしたら…その子の姿が段々とハッキリ見えるようになって来たんだ。

 

「段々…はっきり…?」

千枝が言う。

「…ああ。日にちが経つにつれて、徐々に徐々に」

「…先輩のことはどうやって知ったんだ?」

 

「戻ってすぐ、身持ちを崩しかけた僕を見かねた父に、家業の手伝いをするよう言われた…

その時に行った、酒屋の娘さんが、その子だった…」

生田目は思い出すように再び語り始めた。

 

 

悩んだ末に、あの子を呼び出して、気をつけるように警告したんだ。

けれど結局、その晩…彼女が、何か黒いものにまとわりつかれるように、もがき苦しんで…

 

僕は郵便から見た電話番号に電話をすがる思いで掛けた。

でも…出なかった…

あれだけ、警告したのに…彼女は次の日、遺体で見つかった…

 

 

「…」

花村は茫然と聞いていた。

 

 

殺されると分かってたのに、助けられなかった。

僕は…後悔した。もっと、できることがあったはずだと…

僕は、誰からも必要とされていなかった。職場でも…妻にさえ。

そんな中で、真由美だけが僕を認めてくれていた。

その真由美が殺され、同じ犯人がまた女の子を手に掛けた。

 

僕は…僕は、悔しかった。

自分が何もできないなんて許せなかった…!

 

 

「真由美さんのこと、本当に好きだったんだ…」

「好きだったさ…結婚の直前、妻が芸能界で大当たりしたんだ。

嬉しかったけど、暮らしはぎくしゃくし始めた。」

生田目はため息を吐いた。

「…ちょっと分かるかも、そういうの。」

 

「真由美とは…その頃出会ったんだ。選挙で、ウチの先生に取材があった時に。

彼女は看板アナだったけどローカル局勤めで、仕事に対する気持ちが僕とよく似てた。

同郷だから話も合って…まずいとは分かってたけど…親密になるのを止められなかった。

僕には…それしか生き甲斐がなかった。

小西早紀さんが遺体で発見されてすぐ、また別の女の子が映った…」

 

 

「…君だよ。」

生田目は天城を見て言った。

 

 

次はこの子が、さらわれて殺される…真由美やあの子のようにはしたくない。

今度こそ、絶対…

相手は、何処の誰とも分からない殺人鬼…そんな奴から守るにはどうすればいいか…

僕は必死に考えた。

 

説得は小西早紀さんの時点でダメだった。それに怪しまれて捕まったら助ける事すらできない。

 

テレビの中の少女は、楽しげに、僕に笑いかけているように見えた…そして…思ったんだ。

自分には、テレビの"向こう"へ入る力があるらしい…

なら、殺される前に、そこへ"かくまう"事が出来るんじゃないか…と。

 

『"そっち"は、安全って事なのか?そうなんだな!?』

 

今思えば、その時は取りつかれているようなものだったのかもしれない…

 

テレビの中の少女は、そんな僕に、また微笑み返したように見えた…

そうとも…たとえどんな場所だろうと、惨たらしく殺されるよりはいい。

ほとぼりが冷めたら、また出してあげればいい…

テレビの中なら…絶対に見つからない…

 

そう考えた。

 

頭で、全ての事が繋がった気がしたんだ…この力は…真由美がくれたんじゃないか?

二度と自分のような犠牲を出さないように…そして救う事は、僕の使命なんじゃないか?

…ただ、問題もあった。

 

被害者は事情を説明しても理解する筈がない。

一度試して、それで苦い思いもした。

それなら…もう連れ去るしかない。

使命なら、やるしかない…そう、思ったんだ。

 

 

「マヨナカテレビに映った人が殺されると思って、助けるために、私たちをさらった…」

「使命って何よ!? 思いこみってこと!?なんでそんな勝手に信じちゃうワケ!?」

千枝は怒った様子で生田目に言った。

 

「自分がやるしかないと思ったんだ…警察にも電話したけど、信じてもらえなかった。

仕事がらの土地勘、トラック、目立たない事…運送業である事を使えば、全部やれると思った。

自分にしか、できないと思った…でも僕は…救えてはいなかったということか…?」

 

「そうなるな」

シンは肩をすくめた。

「こちらで霧が出る日、テレビの中の世界にいると、死んでしまうんです。

天城さん以降、あなたが"救ってきた"人は…あなたのせいで、死んでいくところでした。

僕らを本当に救ってくれたのは、ここにいる仲間たちです。」

直斗は皆を見た。

 

「やはり、そうか…あの子を追って、自分もテレビの中に入った時、僕は初めて自分のしてきた事に疑問を持った…」

生田目はショックそうに言った。

 

「警察に追われ、逃げたい気持ちもあった。

それでもあんな小さな女の子だけは何としても救わなきゃって…そう思って、後を追ったんだ。

ところが、実際に入ってみたテレビの中は…思ってたのとは全然違う異様な場所だった。

"救った"君たちが日常に戻ったのを知っていたから、想像もしなかったんだ。

まさか…自力では出る事さえ出来ない場所だったなんて…」

 

生田目は口を止めた。そして、言う。

 

「…いや、この言い方は卑怯だな。

多分僕は、内心では危険だと気づいてたんだ…でなきゃ君たちになんて会いに行かなかっただろう。」

 

「俺たちに会いに…!?

待てよ…それまさか、ジュネスでバンドやった時の…!」

花村は思い出したように生田目に行った。

 

「ああ…救った君たちが何故一緒にいるのか、何をどこまで覚えているのかが、知りたくてね。

けれど結局、何も言えずに逃げ帰った。」

生田目は少し俯くと、言葉を続ける。

 

「…きっと、僕は後ろめたかったんだ。

ハハ…そんな無意識に抑えていた疑いや不安が、自分もテレビに入って一気にふき出したわけだ。

気が変になりそうだった…いや、実際おかしくなっていたと思う。

後は知っての通りさ…気付いたら病院のベッドにいた。」

 

「あなたは…本当に"救おうと"し続けていたんですね…」

直斗は慰めるように言った。

 

「でも僕は、その方法を間違ってしまった。

ずっと…いつか、自分も政界に出て、社会の役に立ちたいと思ってたんだ…

けど、その仕事も、愛する人も失って…僕に残されたのはこの力だけだった。

"向こう"を"聖域"か何かだと信じ込んで…無意識にヒーロー気取りだったんだよ…」

皮肉そうに生田目は言った。

 

「僕は…映ったものをまるで疑わず、信じたいように信じてしまった…

自分の頭で考えなかった…だから、守れなかったんだね…

全て、僕の責任だ…」

 

「確かに許されない」

鳴上は正直に言った。

 

「ああ…その通りだ。

罪を逃れる気は無い。覚悟なら出来てる。

誘拐だけでも重罪…それに…たくさんの人を危険に晒したからね…済まなかった…」

生田目は軽く頭を下げた。

 

「マヨナカテレビに、向こうの世界…あんなもの、正しく理解できない方が普通です。

僕らこそ謝らないといけません。

感情に目隠しされて、一歩間違えば全てあなたに押し付けてしまう所だった。」

直斗は言った。

 

「…"救済"を始めてみたら、実際、死体が出なくなったワケだからな。

やればやるほど"自分は救えている"と信じるようになった…か。」

「実に…滑稽だな…僕は…」

生田目はそういうと、目を閉じた。

 

「済まない…少し疲れたみたいだ…」

そう生田目がいうと、ドアがノックされる。

 

「そろそろ起きる。」

その顔は"皮肉に満ちた笑み"でシンに言った。

 

 

「わかった。行こう」

鳴上がそういうと、シンはピョンとソファから立ち上がった。

 

「お願いだ、必ず…犯人を見つけてくれ…あの世界を知る君らにしか、できない…」

「…当たり前だ」

鳴上が答えた。

 

 

 

 

「…ん…あれ?」

警官が起きると、ソファで倒れていた。

そして、自分がいるべき場所を見ると自分が立っていた

 

「…」

「あれ?俺?」

「…そう。お前」

自分が皮肉そうな笑みを浮かべて、笑っていた。

 

「え?」

 

 

すると、突然、警官の頭に透明な髑髏当てられた。

 

「ついでに実験材料だ。」

 

その言葉を最期に聞いた彼は二度と目を覚ますことはなかった。




休みになったので、一気に書き上げる。
ペルソナ4Gをやりながら、話を確認しつつ、書く。
非常に苦労する作業。


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第55話 Stayin' Alive 12月5日(月) 天気:曇

マガツヒ。

私からすれば、人間でいうところのエネルギー。

詳細に言えば、意識存在が持つ精神エネルギーで、苦痛を与えたりすると放出される。

 

事実、創世前はマントラが『カブキチョウ捕囚所』で、拷問をしマネカタ達からマガツヒを吸い取っていた。

空間にも一定量存在し、ライドウ様達は『マグネタイト』と名称していた。

赤く小さいオタマジャクシのような外見で大量に吸い取られると死に至る。

 

これはこの世界の人間にも言えることで、病院では多くのマガツヒが放出されている。

目に見えないだけで、実は悪魔のわたし達には見えている。

ガンで苦しむ患者、足を失った患者、手術前の患者。

ある意味、ここは豊富な精神エネルギー、マガツヒで満たされている。

 

それを人間に与えれば、無論、回復は望めるがライドウ様達が大きな悪魔を召喚するのに、マグネタイトが大量に必要な様に、人間には多くのマガツヒを与えなければ、回復は望めない。

 

故に創世前の人間『新田勇』がカブキチョウ捕囚所でも特別な上階に入れられていたのが、何よりもの証拠だ。

そこで、何が行われたか…想像もしたくない。

あなた様のお話ではそこから、彼はおかしくなったと言っていましたね。

 

いずれにしても、言えることは、人間は悪魔よりも何十倍ものマガツヒを持っていることは事実。

 

それを回復には創世に必要なモノを使うのも納得できるだろう。

 

 

 

堂島菜々子。

 

 

彼女は恐らく成功だといえる。

堂島遼太郎が毎日見舞いに来ては、看護師に連れていかれているのが日常になった。

恐らく、今後は大丈夫だと思われる。

 

 

PS:どうしてわたしだけ、いつも。こういう役回りなのでしょうか。

わたs…

え?…飽きた?…分かりました…ムネモシュネの報告でした…

 

 

 

 

 

今日は学校の創立記念日。

落ち着いて事件について行動できる。

 

 

 

一旦、ジュネスに集まる面々。

だが、そこにはシンが居なかった。

 

「おっかしいな。電話にでねぇ…」

「とりあえず、間薙さんは置いておきましょう。彼なら大丈夫でしょう」

「とりあえず、聞き込みからっスね」

 

商店街で鳴上達は話を聞くが、如何せん春の事である。

覚えている人はあまりにも少なく、情報もない。

出てくるのは小西早紀に関する情報、個人的な感想や、今の霧の話ばかり…

 

 

朝から情報を集めたものの、目新しい情報はなく、夜になってしまった。

 

 

愛屋に集合したが皆、クタクタのようだ。

 

「ハァ…もぉクッタクタ。

やっぱ本物の警察みたいに上手くはいかんね…一日中歩き回ったけど、大した収穫はナシ…」

千枝は疲れた様子でため息を吐いた。

 

「私も同じ。

真犯人どころか、事件に関する話自体、全然出てこなかった感じ。」

「右に同じ。

てか私の場合、こっちが質問責めで全然本題に入れないんだもん…死ぬほど面倒だった。

ハァ…こんな狭い町で誰にも見られてないとか、犯人どれだけ巧妙なわけ?」

 

「…どうする?」

花村は皆に尋ねる。

 

「とりあえず…肉丼1つ。」

「そうじゃねーだろ。

けどまぁ、食べてからにするか…俺、カニ玉チャーハン。」

「じゃあ、オレぁー…チャーシューメン倍盛。」

完二も注文した。

 

 

それぞれが注文したものを平らげた。

 

 

「さてと、お腹も膨れたところでさ…みんなが聞いてきた情報、少なくてもとりあえず交換しとこう。」

 

千枝がそうは言ったものの、大体が知っていることばかり…

 

 

「結局、なんつーか知ってることが多すぎだな」

花村はそういうと、椅子に凭れた。

「新しい情報は、特になし…以上?」

「だな…」

 

「最初の2件について警察は、初動の聞き込みに異例な程の人数を割いてました。

それでもこぼしたような情報を、半年以上も過ぎて拾うというのは、やはり難しいですね。

まず、不審者の目撃証言が無い…

小西さんはともかく、山野アナには熱狂的なファンも居たようですが、状況は同じです。」

直斗は手帳を見ながら言った。

 

「てーか、訊いても訊いても、そっちのけで、どいつもこの霧の事ばっか言いやがる。」

「あと、マヨナカテレビの事ばっかり。

クマの事は…訊いてみたけど、誰も知らなかった。

もう…ほんと何処いったんだろ。」

 

「直斗の方は、何か無いワケ?

新しい推理とか。」

花村は直斗に尋ねる。

 

「新情報まるで無しとなると、どうにも…」

直斗は首を傾げた。

 

「そういえば、君たちに渡せと言われたものがアルヨ」

「は?」

完二がそういうと、店主が紙を渡してきた。

 

その紙は油がついており、中華屋らしい匂いまで移っていた。

そこにはこう書かれていた。

『ワケあって、そちらに居られないからメモを店主に渡す。

お前たちの行動は予想してここに来るだろうと思った。』

 

「アイツは超能力者かよ…」

花村は呆れたように言った。

 

『要点をまとめておく。

 ・犯人は生田目と同様、町に溶け込んでいる。

 ・俺達の行動を継続的に監視しており、鳴上の家を知っている。

 ・二件の人物と接点がある。』

 

 

「これって間薙センパイ?」

りせはその紙を見て言った。

「なぞなぞしてんじゃねーって」

花村は呆れた顔で言った。

 

『俺たちは常に監視されていた。きっかけは分からない。

だが、確かに鳴上達が天城を助けてからだと思われる。

 

事実、捜索願を出されたとき、お前たちの動きは確かに監視されていた。

相手は情報が集まる職業についていることが推察される。

相手はテレビで報道されたものが攫われることを知っていた。

 

無論、相手はテレビの事を知っており、恐らく、お前たちよりも早く知っていた。

でなければ、山野真由美をテレビに入れることは出来なかっただろう。

俺の調べたところによると、山野真由美は居なくなる前に天城屋旅館に泊まっていた。

旅館の人に聞いたのだから間違いないと思われる。

 

そして、そこには報道陣が押し寄せていた。それはりせのときも同じだった。そして、その当時はそれを抑えるため警察関係者が何人か警備に当たっていた。加えて当時の天城旅館に『山野真由美』が宿泊していることを知っていることを考えると警察関係者であることは間違いない。

 

これらの情報を統括すると"足立透"が出てくる。』

 

 

 

「!?そうか」

直斗は珍しく大きな声で言った。

 

「…当たっているかもしれない。」

鳴上は唸りながら言った。

 

「足立さんなら、僕たちの動きも把握できるかも知れない。

鳴上さんの家に近づくことももちろん出来るし、ある程度は土地勘などもあるはずです。

警察関係者なので、情報を得るのも簡単なはずです。」

直斗が言う。

 

「それに足立さん、何だかんだ事件とか推理の最中とか、ジュネスにいたよね?」

天城は思い出すように言った。

「あいつに声かけられた女、クラスにいるらしいぜ?

昼間、聞いたんスよ。ま、警察なんざ、んなもんって思ってたし、

関係ねーって思ってたんスけど。」

「うちの前で交通整理もしてた…」

りせも言う。

 

「山野さんの死体発見者である小西さんにも、足立刑事は何度も聴取しています。

情報が少ないゆえだと聞いてます。

アリバイの堅い発見者を何度も聴取するというのも不自然です」

「他に目的があったとか…?」

 

 

「それが、二人と足立さんを結ぶ線…?

…考えてみりゃ、足立さんと俺らって、結構、色んなとこで会ってるよな。

そのたび、"言い過ぎちゃった"とかって警察の内情、話してたけど…

あれって、俺たちを躍らせるためだったとか…?」

花村は険しい顔で言った。

「脅迫状だって、簡単にポストに入れられる…ていうか、証拠隠滅もできるよね。」

 

足立に様々な状況が不審な影を落とし始めた…

 

「とにかく確認しよう」

「ええ。あくまで可能性に過ぎませんし、すぐに確認したほうがいいですね。」

直斗はそういうと、電話を掛ける。

 

 

「どうも、お世話になってます、白鐘です。

事件のことで、少し気になることがあるので足立刑事と連絡が取りたいんですが…

…え?

搬送? これから!?

あ、は、はい、どうも!」

直斗は慌てた様子で電話を切った。

 

「搬送って…!?」

千枝は驚いた様子で直斗に尋ねる。

 

「足立刑事は、生田目の搬送準備で病院に行っているそうです。すぐに向かいましょう!」

シンのメモを直斗はメモに挟む。そして、皆と共に慌てて愛屋を出て行った。

 

 

 

 

病院に着くと、足立と看護師が居た。

 

「あれ、君たち、何でこんなとこに…そうだ、堂島さん知らない?

病室から抜け出したって言われて…」

そういうと、頭を掻いた。

 

「いっくら釘刺しても、すーぐどっか行っちゃうんだから…」

看護婦はそういうと、探しにどこかへ行った。

 

「やれやれ…生田目の搬送も終わったし、これで帰れる筈だったんだけどなぁ…」

足立はそういうと、ため息を吐いた。

 

「え?ああ、うん。だってほら、堂島さんや菜々子ちゃんとこのまま一緒じゃさ問題でしょ?

それに君たちだって、その方がよかったろ?

それより、君たちこそ何しに?

菜々子ちゃんの病室はこっちじゃないよ?

堂島さん来ないうちに、帰った方がよくない?

また捕まっちゃうよ?」

 

そこへ、足を引きずりながら、堂島が来た。

 

「足立…生田目はどうした?何だか今日は、えらく騒がしかったが…」

「あ、堂島さん!どこに行ってたんですか!」

「それより、生田目はどうした」

「生田目なら、もう搬送しましたよ。報告しようと思って捜してたのに…」

 

その足立の言葉に堂島が驚いた表情で言った。

 

「搬送しただ!?おい誰が良いと言った!ヤツにはまだ、訊きたい事が残ってんだ!」

「ど、堂島さん、勘弁してくださいよぉ!」

「最初の2件の殺しが引っかかるんだ…ヤツは動機もイマイチだし、アリバイも固かったはずだ。

証言で埋まった穴も多いが、そこだけは未だに引っかかる…」

堂島は厳しい顔で足立に言った。

 

「ま~た"刑事のカン"ですか?

でももう搬送しちゃったし、僕に迫られても困りますよぉ…」

足立は鳴上達を見ると言う

「君たちもさ、いい加減もう帰ってよ。警察の仕事のジャマになるからさ。」

 

「…なんだよ。今日に限ってバカに仕事熱心じゃないか…」

「い、嫌だなあ。僕はいつだって、ちゃんとやってますよ。

堂島さんも自分の仕事、してくださいよ。大人しく怪我を治すって仕事をね。」

「…お前らはなにやってんだ?

 

「足立さんに尋ねたいことがあってきました」

「え?なに?」

足立は鳴上たちの方を向いた。

 

「山野アナ失踪の時どこに居ましたか?」

鳴上が尋ねる。

「どこにいましたかって言われても…随分と前だしねぇ…覚えてないなぁ」

 

「小西早紀を取り調べしたことはありますか?」

「そりゃあしたよ。遺体の第一発見者だからね。

まあでも彼女、何も知らなかったから、1、2回ちょっと話を聞いただけだよ。」

 

「…脅迫状に関しては覚えていますか?」

鳴上が足立に聞く。

「彼の家に届いたものです。今は警察に渡っているはずですよね?」

「脅迫状?…覚えてないなぁ…」

 

「おい、覚えてないだ?

あれは、鑑識と組んで調べるようにって、お前に渡しただろ…忘れたのか?」

「は、はは、すいません…あの後すぐ堂島さん事故ったりして、

慌しくなったもんで、つい…」

足立は少し焦りを見せた。

 

「そ、それに、あんなのただのイタズラでしょ?

な…なんすか、急に、質問責めにして!なんなの、この雰囲気は、もう!!

堂島さん、そろそろ病室戻って下さいよ。そんなんだから、怪我治んないんですって。

君たちも、とっとと帰りなさい!大体何時だと思ってるの?

じゃ、僕は戻りますよ。署に戻って報告しなきゃならないんで。」

 

 

「待ってください。最後に一つ。

最初に殺された二人は、実は生田目の仕業じゃないと、はっきり分かったんです。

別の誰かが殺したんだ。足立さん…知りませんか?」

直斗が足立を見る。

 

「な、何を言ってるのか、意味がよく…」

その言葉を遮る様に完二が言った。

 

 

「テメェなんじゃねえかって、言ってんだよ。」

 

「なっ…バ、バカ言うな!

そんなの、生田目が全部"入れた"に決まってるだろ!」

その言葉に千枝が反応した。

 

「い、今…なんて…」

「全部…"入れた"?入れたとか入れないとかってのは、何の話だ?

お前…手口について何か知ってるのか?

まさか、この前のテレビがどうとかって、あの話…」

堂島も疑念を持ったようだ。

 

「そうか…今分かりました。

足立さん…実は僕は、過去のあなたの言動の何かが、ずっと引っかかっていたんです。

何とは分からなかったが、違和感があった…堂島さんの事故現場で、僕が生田目の日記を

読んだ時の事…覚えてますか?

憶えていますよね?まだそんなに日も経っていないですから…」

 

「僕が"未遂で助かって世に出なかった3件目以降の被害者も書かれてる"と言った時、

足立さん、あなたはこう言いました。

"すごい、そりゃ、決まりだね"って。」

直斗はキリッと足立を睨む。

 

「何が決まり(・・・)なんですか?

あの時警察はまだ、事件に未遂のケースがあったなんて知りもしなかった…おかしいじゃないですか。

しかも、数日消息が掴めないなんて無数にある事だ…なのに、僕が読み上げた名前に異論が出ないのもおかしい。

答えて下さい…足立刑事。」

 

「…それは僕のあくまでも考えを言っただけなんだ…」

足立は後ろに一歩さがり、口を手で隠した。

 

 

「…間薙先輩に教えてもらった事があります。

人は嘘をつくとき、視線を右上に逸らし、口を手で隠すそうです。

あなたは、今一歩後ろに下がりました。『後ろめたいことのある人は防御的になる』」

 

「し、知らないって言ってるだろ!!!」

「あ!待て!!!」

 

足立は走りだし逃げ出した。

鳴上達はそれを追う。

 

「足立っ…うっ、クソ…足立ィィ!!」

 

 

 

足立を追うと、生田目のいた病室に入った。

だが、そこには足立はいなかった。

 

「おかしいな…確かにこっちへ逃げたはずなのに…」

「チクショウ…どこへ消えやがったんだ?」

 

そこへ堂島が足を引きずりながら来た。

「…いたか?

警備室に問い合わせた…誰も足立を見てないし、出入りの記録も無い。

この病棟からは、出てないはずだ。必ずまだその辺にいる…」

 

「ここから出てない…?捜したけど…何処にも…」

千枝はベットの下などを探す。

 

「あのヤロウ…う…」

堂島がたおれそうになるのを慌てて鳴上と花村が受け止めた。

慌てて、ナースコールを使って看護師を呼んだ。

 

 

「堂島さん!!まったく、あなたって人は…!!」

「…すまん。ちょっと、動きすぎた…」

「治す気あるの!?これ以上やったら後遺症残りますよ!?この前も大変だったの、忘れたの!?」

 

「…そうだったな。すまん…」

堂島は鳴上を見て言う。

「…頼む、足立を見つけてくれ。このままってワケにはいかない…」

「任せろ…」

 

看護師に連れられて、伸びたひげのせいもあるかもしれないが、さながら連行される憔悴した犯人のようにも見えた。

 

「病棟から出てないって…まさかとは思うけど…」

「うん、多分そうだと思う…だって犯人なら、入れる筈でしょ?」

そういうと、皆は生田目のシャドウが映ったことのある、大きなテレビを見た。

 

「逃げた方、全部見て回ったからな…狭いし、見逃さねーよ。」

「相当追い詰められてましたから、中へ逃げ込んだ可能性もあるでしょう。

でも、これでもし中に居るとなれば、逆に、動かぬ証拠です。」

直斗は冷静に言う。

 

「野郎…マジかよ…で、どうするんスか?」

「明日、ジュネスから入ろう」

鳴上がそういうと、りせもうなずいた。

 

「何処に出るか分からないもん。

いつも通り、昼にジュネスから行こう。

大丈夫、万全にしてけば、あんなヘタレ男、一撃だって。」

 

「ああ、もちろん」

りせの言葉に鳴上は笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「あークソッ!なんで、あんな餓鬼たちにばれるかな!」

足立は狭い部屋の中で、ベットを蹴飛ばした。

 

そこは嘗て、鳴上達が初めてテレビに入ったときに最初に訪れた場所である。

中央には円が作られたロープがあり、壁には一面、引き裂かれたような山野真由美のポスターがある部屋である。

 

ふと、かすかだが音楽が聞こえる。

 

「ああ?なんだぁ?」

足立は窓の向こうに出来ている自分のダンジョンへと向かった。

 

 

 

 

赤い空、禍々しい雰囲気。

そこは酷く、八十稲羽に似ている。

そんな空の元、明らかに不似合いな曲が大きな音で流れている。

 

 

懐かしのBee Geesの『stayin' alive』だ。

 

 

 

そこに近付く革靴の音。

「…どうしてここに?」

足立は驚いた。

 

なぜ彼がここにいるのか。と。

 

曲のサビの部分をその人物は一緒言う。

『「Stayin' Alive(生き続ける)」』

彼はそういうと、スマートフォンの再生を止めた。

 

そして、瓦礫の上から立ち上がった。

 

「なんて退屈なんだ。ただ…生き続けるなんて。

この事件は実に面白かったしあなたは良い所まで来ていた。

でも…」

彼の顔は呆れた顔になった。

 

「結局、あなたはこうして自らテレビに入ってしまった。

つまり、追い詰められたというわけだ。」

 

 

シンはそういうと、両手で頭を抱える。

 

 

「失望したよ。実に…つまらない。」

「…どうやってここに入ったんだい?間薙クン。」

 

 

シンはそう言われると、笑い始めた。

 

 

 

「ハハハハッ…俺は王。入れない場所はない」

 

 

 

「…ハハハッ…なにそれ、君、あたまおかしいの?」

足立は自分の頭を指し嘲笑しながら言う。

「正常だな。お前と同じくらい正常でイカれてるのさ。精神科医でも始めようと思っててな。一番にお前を見てやるよ。」

シンもまた嘲笑する。

 

「ハハハ…ムカつくね君。」

足立はそういうと銃を構えた。

シンは意に止めず、後ろを向いた。

 

「さて、どうするの足立透。」

「何がだい?」

 

 

 

「今死ぬか。捕まるか。どっちにする?」

 

 

 

 




オマージュしたシーンでのそのキャラとシンは退屈していたって点では似ているような気がしました。
なので、完全オマージュという名のパク…




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第56話 Same Kind 12月5日(月)~8日(木)

「死ぬ?…」

足立はシンのその言葉に大きな笑い声をあげる。

 

「やっぱり、キミ面白いねぇ…僕じゃなくて、キミが死ぬんじゃないかな?」

足立はそういうと、躊躇なく引き金を引いた。

だが。

 

 

「聞き分けの悪い人間は嫌いだ」

「…な、なんだよ。オマエ」

足立が思わず一歩引いた。

 

 

足立は勘違いしていた。彼は自分と同じ人間(・・)だと思っていた。

それがそもそもの間違い。

 

彼はいとも簡単に銃弾を片手で止めて見せた。

後ろを向いていたはずなのに、振り向きもせず、彼は豆鉄砲の豆でも止めるように銃弾を片手で抓む様に止めた。

しかも、顔に不気味な刺青が入っている。

 

 

「焦ることはないだろ?

別に俺がお前の様な凡人を殺してもいいんだが、ただ、それじゃあ娯楽としてあまりにも退屈極まりない。

だったら、お前らが監視してた連中と戦うってのはどうだろうかと思ってな。」

 

シンはそういうと、嘲笑する。

 

「娯楽としては最高だ」

「…クソッ!」

足立は『マガツイザナギ』を召喚し、空間殺法を放つもそのまま自分に返ってきた。

シンは何事も無い様に、瓦礫に座った。

 

「やめておけって、面倒は嫌いだ」

足立は数秒厳しい顔で考えるも、戦いの構えを解いた。

そして、少し笑った後にいう。

 

「やめたやめた!僕は無駄な努力ってのはしない主義なんだ。

…キミは僕と同類のようだしね」

「…そうかもな。」

シンはそういうと、スマホの音楽を流し始めた。

 

「君は僕と同じ。退屈なんだろ?あんな世界が」

「そうだな。ただ、俺に俗世の話は意味はない。俺は違う世界の人間だからな」

「…へぇ、そこには何があるんだい?」

足立はシンの隣に腰を下ろすと、相変わらずのバカにしたような顔で尋ねる。

 

 

「何もないな。何も。

それより、お前はどこでこのマヨナカテレビを知った?」

シンはそういうと、足立を見た。

 

「え?あー…どこだったけっなぁ…

でも、このクソ田舎に着いてすぐくらいだったかな」

足立は思い出すように言う。

 

「その後、たまたまテレビに入れる力があるって気がついて、それで、目をかけてやって山野真由美がムカついたからテレビに入れてやった。

それだけ」

 

「ふむ…」

 

「あれ?キミは言わないんだ。『そんなのは犯罪だ!』なーんて、正義感を出しちゃったりさ?」

「言わないな。いう必要もない。」

 

足立はそれを聞くと笑い出した。

「ハハハハっ…やっぱりキミ、頭おかしいよ。」

「…褒め言葉…だな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴上は夢でベルベットルームにいた。

そこにはクマがいて悲しそうな顔で鳴上に真実を話した。

自分がシャドウであること、テレビの中は人の心が反映している世界だということ。

自分はシャドウだが、人に愛されたいと思いこんな姿になったと。

 

そして、皆の前から消えるとクマは言い残した。

 

最後に菜々子にごめんと伝えてほしいと言ったが、菜々子が生きていることを伝えるとうれし涙を流した。

 

クマは眠くなったというと、すっと消えてしまった。

 

 

 

 

鳴上は目を覚ますと、不安になった。

だが、同時に安心もした。

絶対にクマは戻ってこさせると決心した。

 

 

 

 

 

6日(火)

 

 

放課後、皆すぐにジュネスに集まるも、二人足りない。

クマと間薙シン。

 

「どうでした?クマくん、いましたか?」

「いないし、誰も見てないって。」

花村は心配そうな顔で言った。

 

「間薙センパイはどうなんスか?」

完二がシンの家に行った千枝に尋ねる。

「家に帰ってないみたい。メリーさんも知らないって言ってたし」

 

「もう、バカ! ほんっとクマなんだから。事件、山場だってのに!」

 

「それにシン君もまた一人で行動して…」

「シンは心配じゃねーっちゃ心配ないけどさ…なんつーか、突然いなくなるのはやめてほしいな」

 

「…とりあえず、今は今はとにかく、足立を追いましょう。」

直斗の言葉に皆が目標を切り替えた。

 

 

 

 

テレビの中の広場…

 

 

 

「うわ…すっごい霧…前より全然ひどいね。」

千枝はそういうとメガネを思わず拭き取る。

メガネを外すと分かるが、霧というよりはもはや煙に近く、仲間たちの顔もメガネがなければ見えない状況だ。

 

「何これ…どこもかしこも、前に来た時よりずっとイヤな感じ…急いだ方がいいかも。」

りせはそういうと、ペルソナを使ってサーチを始めた。

 

「ちょっと待ってて。足立のヤツ捜してみる。」

 

「俺らの世界もこっちも、どっちも変になってるって事か…?」

「外の霧にも、このメガネ効くんだもん。

普通じゃないよ…霧のせいで具合悪くなったって人、けっこう増えてるみたいだし…

これからどうなるのかな…」

皆は不安そうだ。

 

「…大丈夫。すべて良くなる」

鳴上はまっすぐと皆を見て言った。

 

「いる!足立、こっち側に、いる!」

りせは神経を集中させる。

 

 

「やはり、自分からテレビの中に…決まりですね…この事件を引き起こした張本人は、彼と見て間違いないでしょう。

彼を捕まえれば、この世界の謎も、事件の謎も、きっと解けていくはずです。」

「じゃあ…クマくんの生まれの事なんかも、何か分かるかもしれないね。

ったく、こんな時に、アイツ…」

千枝は呆れた顔で言った。

 

 

と、りせがペルソナを解除する。

 

 

「クマは…こっちにもいない。

ダメ…足立も、居るのは分かるけど、足取り…うまく掴めない…

もうクマ!この肝心な時に、なんで居ないのよ!」

 

りせは諦めずに足立を探し始める。

 

 

 

 

 

一方…

 

 

 

クマは気が付くと病院の病室に居た。

 

「ここは…」

 

そして、自分の事を思い出した。

 

「…そうか…結局…戻って来たんだ…

ここにいたって、クマ、何の役にも立たないのに…

ナナチャン…ごめんなさいクマ…」

クマは悲しそうな顔で菜々子の手を握ると菜々子がクマの方を見た。

「クマさん…?

やっぱり…クマさんだ…こえ…きこえたよ…

がんばれ…って…お兄ちゃんたちの…こえも…」

 

「ナ、ナナチャン!?待ってて、すぐお医者さん呼んでくる!」

クマは慌てて、医者を呼びに病室を出た。

医者を連れてくると、すでに菜々子は眠っていた。

 

 

「また眠ってしまったようですね…」

医者は菜々子を見て言った。

「あ、あの、ナナチャン、さっき、ボクの声が聞こえたって…"がんばれ"って…」

クマは医者に尋ねる。

 

「あの時、奇跡的に持ち直したのは君や、みんなの声が届いたからかもね。

意識が無くても、声は聞こえているものだから。

心停止からの復帰は早々あるものじゃないからね」

「ボクや、みんなの声…みんな…」

クマは泣きそうな顔で言った。

 

「とにかく、彼女の症状は原因も何もかも、よく分からない事だらけでね…

勿論、最善は尽くしているけれど、今のところ具体的な事は不明としか…」

「不明…」

と医者の呼び出し用の電話が鳴った。

「ごめんよ。また、用事があったら呼んでくれ」

そういうと病室を後にした。

 

「もしクマが不明な存在なら、どんな風に変われるのかも不明…

それなら…クマが自分で、不明じゃなくしていけばいいんだ。

ナナチャン、がんばってる…きっとみんなも、今ごろがんばってる…」

 

クマは菜々子を見る。

そして、皆の顔を思い出した。

「ボクは…ボクは、ただのシャドウだけど、

ボクの声でナナチャンも元気出してくれた…

…シャドウだからって何だ。ボクにも、できる事がきっとまだある。」

 

シンが自分のシャドウと対峙したときに言った言葉を思い出す。

『考えることをやめるな。やめてしまっては何も見えなくなる…』

 

「考えること…やめちゃダメだ…

だから、ここに戻ってきたんだよね…ナナチャン…」

 

クマはそういうと走りだした。

自分を信じている人たちを裏切らない為に…

 

 

 

 

 

 

「ダメ…分かるの相変わらず気配だけ…足立の場所は分からない…」

「りせちゃん…」

「クマがいたらな…」

りせは思い出すように言った。

 

「アイツ、もう鼻利かねんじゃなかったか?探知の役に立つんか?」

「はは、立たない。…けど、なんだかんだ言って支えてくれるって言うかさ…」

りせは軽く笑い言った。

 

「騒がしいけど、明るくなれるね。いつでも底抜けっていうかさ。」

「楽観的で…でも、いつでも前向きでしたよね。」

 

とりせが膝を付いた。

 

「だ、大丈夫!?」

千枝は思わずりせを支える。

「だいじょぶ…ちょっとフラついただけ…霧が、すごくて…どうしても、見通せない…」

「今日はもうやめとこう?倒れたらヤバいもん。」

 

「久慈川さんが消耗しては、仮に場所が分かってもまともに戦えません。

夜も近づいてきています。」

「で、でも、」

りせはそうは言うものの大分消耗している。

 

「一旦、外に出よう」

鳴上がそういうと、りせは戸惑うもうなずいた。

 

 

フードコートで再び皆が椅子に座る。

 

 

「クソッ…また足止めか…」

完二は不機嫌そうに言った。

「あそこに居んの、分かってるのに…なによ…私の力、全然役に立たないじゃん…!」

りせが悔しそうにいうと、ふと、柱の影から見慣れているフォルムがこちらを覗いていた。

 

「クマ!?」

りせのその言葉にりせの視線の方をみんなが見た。

 

クマがピョコピョコと音を立てて近づいてきた。

 

「お、お、おま…どぉこに行ってたんだよぉっ!!」

花村は嬉しそうに言った。

「ご、ごめんクマ…」

「バカ! バカグマ!大遅刻よ! どんな大御所よ!

う…うぅぅ…うう…」

 

りせに至ってはクマに抱き着くと泣き始めた。

 

「り、リセチャン、えっと、えっとえっとー…」

クマはあたふたしながら、必死にボケを考える。

「…うそ泣き?」

「バカっ…」

 

「…ご、ゴメンクマ!また、一緒にがんばらせてほしいクマ。」

「世話焼かせやがって…このクマ公!今までどこほっつき歩いてたんだよ!」

完二も心配そうに言った。

「ごめんクマ…クマ…色々分かったんだ。

自分のこと…あの世界のこと。みんなに聞いて欲しいクマ…」

クマはマジメな顔で皆に話し始めた。

 

 

 

自分の正体を。

 

 

 

 

「シャドウってことは、私たちが戦ってるのと同じってこと?」

「皆が知っている通りクマ。シャドウは抑圧された人間の精神そのもの…誰の中にもあるものクマ」

「けど、お前はシャドウなのに、俺たちを襲わなかったし、あの中を平和にしたいって言ってたよな」

花村はクマと初めて会った時を思い出す。

 

「けどクマ結局…特別な意味も力もない、ただのシャドウだったんだクマ。

クマの世界を平和にしたいと思って、今までやってきたけど…

それどころか、こっちの世界にまで、おかしな霧が溢れちゃった…」

 

クマは軽く頭を下げた。

 

「ごめん…ごめんなさいクマ。クマの力が、もっと、スゴイものだったら…」

「いーっての、別に。

大体、初めっからお前に特に期待とかしてないっつの。

今更シャドウだったとか言われても、やっぱそれ系だったのか、みたいな感じだし。」

 

「え?」

クマは顎が外れる勢いで驚いた。

「…な、何ソレ!?

こっちは真剣に告白してるのに、やっぱそれ系って、どういうことクマか!

フツー、こんなプリチーなクマがシャドウなんて思わないでしょーが!」

 

「つーか、シャドウだと何か問題あんのか?」

完二が頭を掻きながら言った。

 

 

「確かに君は、シャドウとして生まれたのかも知れない。

けれど君には、もう"ペルソナ"の力がある。

シャドウとは抑圧下の力であり、自我がそれを制御する事でペルソナともなる…

なら今の君には、ちゃんと自我があるという事じゃないんですか?

 

自我がシャドウを制御するか…シャドウに自我が芽生えるか…

多分、僕らと順序が違っただけじゃないのかな。」

 

「なんだ。じゃあクマくんってもう人間と同じなんじゃん。」

千枝がそういうと、クマはまた驚いた表情で言った。

 

 

「自分が何者なのか、考え続けてるのって俺たちと同じだろ。

んで、大した力もなく、特別な存在でもない…それも、俺たちと同じだ。

それにシンだって言ってたじゃねーか。『お前はお前であることをやめられない』ってさ。

お前はクマなんだよ。シャドウとか人間とかそーいうの抜きにして、クマなんだよ。

お前が何者かだなんてのは、その二の次なんだよ。」

花村が少し恥ずかしそうに言った。

 

「う…うう…うおぉぉぉぉん!!!」

クマは大声を上げて泣き始めた。平日の静かなフードコートにその声が響く。

 

「あ…あり…あり…ありがと…クマ…み…みんなに会えて…良かったクマ…」

 

 

「まあ、俺らもともと、微妙にはみ出してる顔ぶれの集まりだし?

お前もその一人って事だな。」

花村は皆を見ていった。

「誰がはみ出し者ですか。」

「センパイだけでしょ?」

 

花村はため息を吐くと言う。

「あのな…"アイドル"とか"探偵"が言うセリフじゃねーっつーの。」

花村は泣いているクマを見ると言った。

 

「ったく…お前もいつまでも泣いてんなっつの。それどころじゃねーんだから。

お前の居ない間に、真犯人が分かったんだ…山野アナと先輩を殺したのは…足立だ。」

 

「え!?アダチ!?あのズッコケデカ!?

ほっへー…気付かなかったクマ。クマったら節穴さんね…」

 

その後、クマは皆に恥ずかしい言葉を掛けられると何とも不思議な気持ちになった。

自分が如何に必要な存在なのか。クマは自分の心に刻み込んだ。

 

 

 

 

 

 

8日放課後…

 

ジュネスに集まり、家電コーナーに皆で来た。

そして、いつも通りテレビに入る。

 

 

 

だが、出たところはいつもの広場ではなかった。

真っ白な空間。何もない。霧もない。ただただ、真っ白な空間。

 

「あれ?いつもの広場は?」

「入るテレビ間違えたか!?」

 

 

辺りを見渡すと蹲っている人間が居た。

それは良く見慣れた人物だ。

 

 

「シン!」

鳴上がそう呼ぶと、その人物は立ち上がり鳴上達を見た。

すると、何かに取り憑かれたように、頭がぐにゃぐにゃと高速で動く。

そして、口を動かす。

 

「…虚しい。」

「え?」

 

「…幻想を終わらせたくはない」

シンは戦闘態勢に入り、花村に近づき殴る。

それはあまりにも遅く、力もない。

軽々と花村はそれを避ける。

 

 

「おいおい!どうしちまったんだよ!シン!」

花村は慌てた様子で言った。

 

 

 

 

「…濁っている…」

 

 

 

 




ちょっと慌てて書いたので誤字や変なところがあるかもしれません。
後々直していきます。


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第57話 Phantom 12月7日(水) 天気:曇

「記憶が…記憶が歪んでいく…

悪夢は見慣れて、真理もないことに気が付いた。

世界に絶望して、僕はこのまま?」

 

シンのシャドウ?はそういうと、未だに戦闘態勢。

だが、目を閉じている。それに、今のシンよりも酷く幼く見える。

雰囲気が明らかに違う。こちらのほうが優しい雰囲気がある。

 

「…シンのシャドウかこりゃ。だとしたら、ヤバいかもな」

花村は仕方なく構える。

「でも、本物のシン君がいないよ?」

天城はあたりを見渡すが、何もない。

と、天城に魔法が飛んできたが、完二が防ぐ。

 

「四の五のいってると、やられちまいますよ!センパイ!」

「う、うん」

完二の言葉で天城も構える。

 

 

「本物の間薙センパイより全然弱いよ!っていうより…弱すぎるかも…」

 

 

「…歯車が狂いだした。」

シンのシャドウはそういうと、飛び跳ね鳴上に殴りかかった。

だが、それは素人の動きで動きも遅い。

鳴上が避けるのは余裕であった。

 

鳴上はバックステップで避けると、剣で斬り付けた。

だが、それは感触がなく、霧のように消えた。

 

 

『このまま覚めない方が良い…覚めるな、幻影の中から』

そう声が響くと、一瞬で鳴上達の前に現れた。

 

「厄介すぎるって!」

千枝はそういうと、『ゴットハンド』をシンのシャドウに放つ。

だが、感触がない。

 

再び鳴上達の前に現れた。

「…霞む…僕の空隙(くうげき)は埋められない。僕は…必要ないのか!」

そういうと、頭を抱えて『マハラギダイン』を唱える。

 

「あぶねっ!」

皆は何とかそれを避ける。

 

「来い!ヤマトタケル」

直斗はメギドラオンを放つがまた、まるで感触がない。

 

 

 

 

『…僕は…僕は…気付いた。見えなくなった…もう…何も見えない。何も感じたくない。』

 

 

 

 

「!!」

『み、みんな!』

 

先ほどまで見えていた白い空間が、シンのシャドウから黒い霧が出され、一瞬で辺りが真っ暗になり何も見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

真っ黒な空間。光も何もない。ただ黒が続いている。

 

鳴上はその黒さに思わず身震いした。

深淵。まさにその言葉が相応しい。

何もない。本当にただただ黒い空間なのだ。

自分の姿さえ見えない。

 

鳴上は口を開き声を出し誰かを呼ぶも、声にならない。

 

だが、そんな空間に声を聞こえた、その声はどこかで聞いた覚えがある。

 

 

「…悠、大丈夫。これは"幻影"、幻なの。」

「…誰だ?」

鳴上は声をもとを探すが見えない。

そして、その声が誰なのか思い出そうとしたが、思い出せない。

 

「いいの!思い出さないで!…これでいいの…それより、悠。見えてるでしょ?」

「…なにが?」

「あなたの倒すべき敵が。目を閉じれば見えるはず…」

「…」

 

鳴上は目を閉じた。先ほどと変わらない暗闇の中だが、うっすらと人が見える。

それは白く頭を抱えている姿。

 

「…あとはどうすればいいかわかるでしょ?」

「…ああ!ありがとう、マリー」

「…」

 

その声で鳴上の不安は少しだけ、晴れた。

鳴上は刀を握り絞めると、一閃その人の形に見える何かを斬った。

 

 

すると、まるでガラスでも割れるような音がして、白い部屋に戻ってきた。

 

「うお!まぶしっ!」

鳴上は仲間の声で戻ってきたのだと気付いた。

 

『大丈夫?みんな!』

りせの声もハッキリと聞こえる。

 

 

「…」

シンの影は鳴上に斬られてもまだ立っていた。

感触はあった、だが、まだ消えない。

 

「…どうして、間薙センパイがいないのに、シャドウだけが居るんだ?」

完二がシンのシャドウを見ながら言った。

 

「…このシン君のシャドウおかしいクマ。なんていうか…空っぽクマ」

「なんていうか…悲しいそう」

クマとりせは悲しい顔でシンのシャドウを見た。

「…どういうことなんだ?」

 

 

皆がシンのシャドウを見ると突然笑い出した。

そして、シンのシャドウが目を開くと、目から血が流れ出した。

 

「アハハハハハハハ、誰も…誰も彼も死んじゃった!!!

誰も、僕を視てはくれない。だって誰もいないんだから!アハハハハ!!

誰かいないの?何も見えないんだ!幻なら覚めて!

僕は…僕は…ひ…と…り…?

認めてくれる人も、必要としてくれる人も、誰も誰もいない…

…僕は…またあのくらい世界に戻るのか…?

嫌だ…戻りたくない…

僕は…僕は…ただ退屈でいたくなかっただけなんだ!」

 

頭を抱えて倒れ込む。

 

「僕は生き残ることに選ばれた?

…違う。死ぬ事に"選ばれなかった"んだ…

僕は…余り物だ…余分な…存在?

僕は…独りだ…」

 

 

 

 

 

 

 

「…だからどうした」

 

一陣の黒い疾風が鳴上達の前に現れ、シンのシャドウの首を掴みあげる。

それは刺青の入った本物のシンだ。

 

 

あの黒い世界のように黒い黒い唯唯、黒い雰囲気を持った紛れもない間薙シンだ。

 

 

そして、シャドウのシンを床に叩きつけると馬乗りになり、無表情で顔を殴り始めた。

重い重い一発一発がシャドウのシンの顔を歪めていく。

 

「『鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。声あるものは幸いなり。 』

お前が声があるから、悲しまれるのだな。」

シンはそういうと、口を無理矢理開け、シャドウのシンの舌を引きちぎった。

普通なら出来ない。

だが、異常な指先の力と引っ張る力がそれを可能にした。

 

そして、再び殴り始めるシン。

「…そんなことは、知っている。

オマエの言っていること…すべて知っている。

理解しているつもりだ。」

シンは渾身の力を込めて殴り続ける。

 

「ただ、勘違いしている。

お前は俺ではない。お前はもう置いてきた俺だ。

この平和で退屈で平凡で何の展開もない、何もない世界でクソ野郎の手の上で踊り続けるのはこれ以上ウンザリだ。」

シンは殴る手を止めた。

 

「お前は俺じゃない。思い出の中から消えてくれ。」

「…」

 

シャドウはシンに本物のシンの顔に触れ、問いかける。

その手は冷たく、死人のようだ。

口をパクパクとさせる。シンにはそれがなんと言っているか分かった。

 

 

何故なら、それはコイツから聞き飽きるほど聞いた言葉だ。

 

 

『…コレハカワリマスカ?』

「…変わらない。永遠に…変えようが無い。」

 

 

 

 

 

 

シンは無表情で自分のシャドウの言葉に答えた。

シンのシャドウは最後に笑みを浮かべると、自分で自分の首を絞める。

苦しそうな顔で更に自分で締め上げる。

本物のシンはそれを手伝うようにシャドウのシンの手を握り締め上げる。

そして、苦悶の表情のまま、動かなくなり霧のように消えた。

 

 

 

「…」

皆はそれを悲しそうな目で見ていた。

それは、これがシンの本心なのかと思ったからだ。

何よりも、初めてシンの弱い部分を垣間見えたからだ。

 

いつも、淡々と何かをこなし、常に氷水でも被ってるが如く頭は冷静で、無表情だ。

自分たちのように、将来の不安もなく、気ままな生活をしている。

 

羨ましくもあったが、彼の過去を考えるとそれ相応の事だと思えた。

 

そんな彼のシャドウは優しい雰囲気があったものの、どこか狂気的だった。

言葉の意味も分からないし、他の人のシャドウよりも違う意味で過激だった。

 

 

そして、どこか空っぽで悲しそうな佇まいだった。

 

 

そんなことを考えている面々。

シンは立ち上がり、膝を払い息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

 

「…これが現実なんだ。俺にとっての現実はボルテクス界であって、こっちではない。

あれはこっちの世界に来たから生まれた"シャドウ"…。

名称上そう呼称しているが、シャドウというよりは、人間的な俺だったわけだ。俺の幻影だったわけだな。

迷惑をかけた。」

 

「…どうしても、"ボルテクス界"にいなきゃいけないクマ?

クマみたいに外に出れないクマか?」

「そ、そうだぜセンパイ。あんなところにいる必要はないっスよ!」

クマや完二はシンを見て言う。

 

シンは暗い表情で言う。

 

「…幻想に逃げてしまったら、俺はオレが信じてきた事がすべて曲げられてしまう。

俺は何の為に友人を殺して、世界を変えた。

それは俺が信じる自分の世界を作るためだ。

ジャンプしてる最中で降りることは許されない…いや、オレが許したくない。

弱い俺は…もう置いてきたんだ。」

 

シンがそういうと、辺りの風景が崩れていく。

そして、いつものジュネスの入り口と繋がっている広場へと戻っていた。

 

 

「…幻想は所詮、幻想だ。真実はいつも辛く苦いものだ。

さっきの奴の言葉を真に受けるな?あいつと俺は違うやつだ。」

シンはそういうと、広場に座った。

 

 

「足立はこの先の部屋に居る。」

そういって、指を指しただが、誰も動かない。

 

シンはため息を吐くと言う。

「やっとつかんだ真実だろ。早くしろ」

「…シンはどうする?」

 

 

鳴上はシンに尋ねる。

 

 

 

 

 

 

「俺は…今後どうするか考えている。」

 

 

 

 

 

 

シンだけになった広場にルイが現れる。

シンは目を閉じたまま、動かない。

 

「…無様だな」

「知っている」

「どうして、今更シャドウなど出た?」

「恐らく、長時間この世界に居過ぎたせいかもしれん。

実時間は1日以上だろう。」

シンは淡々と答える。

 

「…あれはいわば人間のお前か…さな」

ルイが話をしようとすると、シンが口を塞いだ。

 

 

 

「お前が言わなくてもわかっている。俺は昔の人間の俺とは違う。

俺はここで、この世界で少しだけ良い学生生活を送れた。

まともな、青春というやつだ。

考えられなかった。俺が友人と海に行くなど…」

シンはそういうと少しだけ笑った。

 

 

「…昔の俺は自分の事を"僕"と言っていたのだな…

どこで変わった…」

シンは思い出すように言う。

 

 

シンは数秒、思いに耽る。

 

「…後は、この霧まみれの世界の創造者でもぶち殺して終わりにしようか。」

シンは立ち上がると、伸びをした。

 

「まずは見つけなければな」

「ああ。」

 

 

 

 

 

鳴神たちが部屋に着くと足立が拍手で迎えた。

「いやぁ、本当に追い掛けて来ちゃうなんて、君達、正義感強いねぇ」

「…てめぇ…」

花村は今にも殴りかかりそうな表情で足立を見る。

 

「足立さんが山野アナをテレビに入れたのか!」

「あれは事故だよ。聞きたいことがあったから?ロビーに呼んだんだよ。そしたら、たまたま落ちちゃった…それだけ」

足立は皮肉そうな笑みで鳴上達をみる。

 

 

「小西先輩を入れたのもてめぇか!」

「…ああ、アイツ小西っていうんだ。

小西ね。アイツは取り調べ室のテレビは小さいけど、細身の女子高生だから入っちゃったよ…

…ったく、何が女子高生だ。

世の中クソだな。

僕が学生の頃は、勉強しかさせてもらえなかったっての…」

足立はぼやくようにいう。

 

「許せねえ…!」

 

「おいおい、僕の身にもなってくれよ。

テレビの中が危険だとか知らなかったし、殺す気なんて無かったんだ。

て言うか、どうせあいつら自分の方から生田目をたぶらかしたに決まってる。

議員秘書は、そのまま行きゃいずれは議員だ。

真由美も女子高生も、そこ狙いだろ?

自業自得さ。僕、なんか悪いことしてる?」

 

「ふざけんなッ!こっちへ人を入れりゃ死ぬって、

山野真由美んときに知っただろ!!」

「僕は入れただけだよ、死ぬなんて知らなかったなぁ」

足立はそういうと笑う。

 

「小西先輩の後は何をした」

鳴上は足立に尋ねる。

 

「何もしてないよ、後は生田目だろ?

生田目の奴は、小西って子の死体が上がった後、夜中に警察に電話してきてさぁ。

まぁ、ちょっとだけ背中を押しただけなんだよねぇ」

足立は笑いながら答えた。

 

 

「ふざけんなッ!」

完二が足立に飛びかかるが、足立は霧のように消えてしまった。

 

 

 

 

『アハハハハッ!馬鹿だねぇキミ。僕はこの世界に好かれてるみたいでね。そんなことも出来るだ』

「…信じてたのに足立さん!」

鳴上は拳を握り締め悔しそうに言った。

 

 

 

 

 

「…馬鹿だね。キミも。

そっちが、勝手に期待して、勝手にそういう人間だって決めつけてたんじゃない。

それで、勝手に失望して、僕の責任にするのかい?

それは、お門違いじゃないかな。」

「…」

鳴上は答えられなかった。

 

「このままこうしていてもいいんだけどね。

仕方ないけど、入り口作ってあげるよ。

じゃないと、僕、殺されちゃうから…アハハ!」

 

足立の声が消えると、大きな穴が壁に空いた。

 

「みんな!終わらせるぞ!」

「おう!もちろんだ!」

 

 

 

 

 

「…これでいいのかい?」

足立は瓦礫の上に座るシンに言った。

「大変結構」

「でも、キミの目論見ってやつはなんだい?春の事ばっかり聞いてさ。」

足立は暇そうに銃を回す。

 

「鳴上悠、生田目太郎、足立透。

この3人には共通点がある。」

シンは指を3本立てる。

「それはテレビに入る前から、テレビに入る能力を持っていた。」

「確にそうだねぇ。って事は、君が追ってるってやつが、僕達3人に能力を与えたってことかな?」

「…オトボケ刑事は随分と頭のキレる人物だ」

その言葉に足立は鼻で笑った。

「バカを演じるのは楽だからねぇ…それに、それの方が楽だから」

 

「違いない。

…それで、その3人と恐らく何かしらの形で接触しているはずだ。

それぞれが街の外からやって来た人間。

街の内側と外側。これは大きな意味を持っている。」

 

「インドから香辛料が運ばれ、西洋人の生活が変わったように、日本で開国後大政奉還、そして、明治維新。

第二次世界大戦後の世界のパワーバランス。

全ては自国あるいは、個人単位でも起こりうる可能性。

外から来るものは、内側を激変させる可能性がある。」

「可能性…ねぇ。」

足立は銃を回す手を止めた。

 

「つまり、お前たちは黒船。可能性を見るために仕組まれた、役者。

お前が勝とうが、負けようが、そいつには何の影響もない。」

だが、とシンは耳に指を突っ込みながら言った。

 

 

「そういうやつほど、ツメが甘いしふんぞり返って俺の存在に気がついていない。

いい証拠の悪魔が街にいようとも何も行動をしてこない。

ルシファーや、ニャルラトホトプ、バアルという超上位悪魔が居ても何もしてこない…」

シンは耳に突っ込んだ指に息を吹きかける。

 

「そいつは気がつくべきだった。

俺が来た時点で、脚本通りに行かなくなると。」

 

 

「…万が一、僕が負けたらさ」

足立はそういうと、シンに銃を向けた。

 

 

 

 

 

 

「そいつ、殴っといてよ。」

 

 

 

 

 

 




シンのシャドウなんで、クレイジーな感じにしたかった。
あと、ほんとに足立の口調が不安だ。
手直しするかもしれません。


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第58話 King 12月8日(木) 天気:曇

「真実ほど、無責任なものはない。」

シンは瓦礫の上で赤い空を見上げた。

 

「どんな真実であれ、その瞬間は選び取られた真実しか掴むことは出来ない。正しさや結果は後になってでしか分からない…

ピクシー。正しさとはなんだ?」

「知らないわよ。そんなの。ただ、宗教を信じているニンゲンには、その宗教が真実であり、真理よ。」

ピクシーはつまらなさそうに一回転した。

 

「そうだな。彼らにとってはそれが、絶対的な聖書(キャノン)にも成りうる。それが、人を殺し合いに駆り立てる。

殺し合いが人の本来の姿か?」

「…そうね。殺し合いというよりは、他者を100%理解できないところに問題があるのかもしれないわね。

言葉や行為だけで人間も悪魔も分かり合えないのよ。

それだけよ。それ以外何でもないわ。」

ピクシーは当たり前でしょ?と言った雰囲気でシンに言った。

 

 

シンは思い出すように言う。

 

「…『なんという空しさなんという空しさ、すべては空しい。

太陽の下、人は労苦するがすべての労苦も何になろう。

一代過ぎればまた一代が起こり永遠に耐えるのは大地。昇り、日は沈みあえぎ戻り、また昇る。

風は南に向かい北へ巡り、めぐり巡って吹き風はただ巡りつつ、吹き続ける。

川はみな海に注ぐが海は満ちることなくどの川も、繰り返しその道程を流れる。』」

 

「『何もかも、もの憂い。語り尽くすこともできず目は見飽きることなく耳は聞いても満たされない。

かつてあったことは、これからもありかつて起こったことは、これからも起こる。

太陽の下、新しいものは何ひとつない。

 

見よ、これこそ新しい、と言ってみてもそれもまた、永遠の昔からありこの時代の前にもあった。

昔のことに心を留めるものはない。これから先にあることもその後の世にはだれも心に留めはしまい。』」

 

「『わたしは天の下に起こることをすべて知ろうと熱心に探究し、知恵を尽くして調べた。

神はつらいことを人の子らの務めとなさったものだ。

わたしは太陽の下に起こることをすべて見極めたが、見よ、どれもみな空しく、風を追うようなことであった。

ゆがみは直らず欠けていれば、数えられない。

 

わたしは心にこう言ってみた。

"見よ、かつてエルサレムに君臨した者のだれにもまさって、わたしは知恵を深め、大いなるものとなった"と。

 

わたしの心は知恵と知識を深く見極めたが、

熱心に求めて知ったことは、結局、知恵も知識も狂気であり愚かであるにすぎないということだ。これも風を追うようなことだと悟った。

知恵が深まれば悩みも深まり知識が増せば痛みも増す。』」

シンは言い終わると立ち上がる。

 

「生きていく為といい、自分をだましながら、虚しさから目を逸らすか、

あるいは、絶望したまま生き続けるか…

または…絶望だと知りながら、跳躍するか…

勇敢にも彼らは一番最後を選んだ。」

 

「彼らにとっては、真実を隠すことの方がよっぽど辛いのかもね。」

ピクシーはそういうと、シンの肩に止まった。

 

「…そうか。後悔したくないのだな。」

「そういうことでしょ。」

 

 

 

「どうなるやら…この世界の行方は」

 

 

 

 

鳴上達は大きな扉を開けると、渇いた拍手で足立に迎え入れられた。

「すごいすごい、よくここまで来られたね」

 

そんな足立に直斗が言う。

「…お前の罪状を確認する。お前は、危険と感じていながら、山野真由美をこの世界に放り込んだ。

そして、彼女が死んだ事を知りつつ、今度は小西早紀を同じ目に遭わせた。」

「ハァ…」

足立は興味なさそうにため息を吐いた。

 

 

「更に生田目を騙し、殺人行為を引き継がせ、自身はゲーム感覚で傍観。

そして失踪者が死ななくなると、今度は脅迫状を送り、再び死人が出るように仕向けた。

模倣殺人まで起きたのに、あろう事か刑事の身で、捜査中の容疑者を放り込んだ。

半年で二人が死に、幼い子が重体…いや、それだけじゃない…

何かが一つ掛け違っていたら、何倍もの人数が死んでいた。

全て…愉快犯にも等しい、くだらない動機のために!」

 

「だからさ…それが何なワケ?僕はただ"入れただけ"だって…悪いのはこの世界でしょ? 実際この世界に殺されたんだから。

ここは人々の意思が反映される世界…あ…てことは、犯人はお前らも入れて、外の連中、みんなかな?」

そういうと、足立は嘲笑した。

 

「ふざけんなッ!お前は、人が死ぬのを知ってて、手を下した!それが罪じゃなくてなんだってんだ!」

花村は思わず叫ぶ。

 

「はは…正義感強いねぇ。」

「正義感強いねって…あんた警官でしょ!?世の中の色んな道の中から、わざわざ警察選んだ大人でしょ!?」

千枝は警察官に憧れているからこそ言う。

 

 

「そんな、警察に就職したからって 誰も彼も正義の味方な訳ないだろ?

僕の志望動機はズバリ"合法で本物の銃を持てるから"…結構多いよ、そういうやつ。」

足立はグルグルと銃を回しながら言った。

落ち着きなく、ゆっくりと歩く。

革靴の音が妙にウザったくもあった。

 

「…まぁ面白そうだと思って警察入ったけど、正直、大失敗。周りバカばっかでさー…

ちょ~とした仕事の失敗にケチつけて、こんなド田舎まで飛ばしやがって…

色々がメンド臭くなって、どうしよかなと思ってた時…この"力"を見つけちゃってさ。」

「なんでテメェなんかが…」

 

「なんで?意味なんてないんじゃない?

田舎でクソつまんねー仕事してる僕への、ご褒美みたいなもんなんじゃないの?

やれたから、やっただけだし。で、面白いから、見てただけだし。」

 

「そんな勝手な理屈で…現実がどうなってもいいっていうの?」

天城が足立に言う。

 

「現実なんて、基本は退屈で辛いだけだろ?

みんなこんな世界、認めてない…ただ否定する方法が無いから、耐えて生きてるだけだよ。

うまくやれるやつは初めっから決まってるのさ。"才能"ってチケットを持ってる。

そうじゃないって奴には、自分が違うって事実を見ずに人生を終われるか…そんな選択しか無い。

気付いちゃったら絶望だけ。ゲームオーバーだ。だったらこんな現実、無いほうが良くない?」

足立は鳴上達を見ながら言った。

 

「そんな事ない!」

「…ガキは無知だからウザいよ」

足立は呆れた顔で言った。

 

「…あのさ…今はあれこれ夢見てんだろうけど

"夢"っていうのは"知らない"って事だ。

お前らだって、いずれ分かるさ…どこまで行っても、つまんねー現実がさ。」

「つまんねーのは、テメェだけだろうが!消えてえなら、テメェが一人消えやがれ!

勝手にヒトをつき合せてんじゃね!」

完二が反論する。

 

「…いきがるだけのガキはヤダねぇ。不安で大声出したい気持ちはわかるよ。

けど、こっちは実際そうだったっていう、経験談でモノを言ってるんだよ?

少しは想像してごらん、人間が皆一様に、シャドウになる…目を塞がれて生き続ける。

それって、今の現実と何が違う?いやむしろ、ずっと楽になるはずだ…」

「楽だと…!?何言ってやがる…」

花村は足立を睨み付けた。

 

「あのさ、自分にとってなにが本当で、何が善か…それ、自分で考えてるやつが、どれだけいる?

ほっとんどいないよ?だってさ、考えたってしょうがないんだから

現実に目を向けたって、嫌なことばっかで、変えようがないんだからさ。」

 

 

「変えようが無いこと考えるなんて、こんなメンドくさい話ってないだろ?

だったらそんなもん見ないで、信じたいことだけを、信じて生きたほうがいい。

絶対、そのほうが、楽だろ?楽に生きられりゃ、そりゃいいぜぇ。どんなやつだって、せいぜい80年したら終わるんだし?

だったら、シャドウになればもっと楽だ。何も抑圧しなくていいし、

"見ないフリ"どころか…見なくていい。正直、もう要らないんだよ。

世界が飲み込まれて、人間がシャドウに変わる…今怖がってるだけの連中ほど、

本当はそう望んでいる…なら導いてやるのが、僕の役目だ。」

足立が不気味に笑いながら言った。

 

「…誰もそんなの、望んでない!あんたが、一人で望んでるだけでしょっ!!」

 

「んもー、じゃ、思い出してみてよ…自分から出たシャドウのことをさ。

今の自分なんかより、何倍も生き生きしてたはずだよ!」

そういった足立の様子がおかしい…

 

「気をつけるクマ!なんか様子が変クマよ!」

 

足立の雰囲気がシャドウと同じ雰囲気を纏っている。

「お前ら、シャドウをただの化け物としか見てなかっただろ?

こいつらが、本音のままに動いてんのさ!お前らが楯突くから、暴れんだよ!

これからの世界、お前らみたいなメンドくせーガキこそ、要らねーんだよ!!」

 

「ガキはあなたよ!!生きるのも面倒、死ぬのもイヤ

…そんなの理解されないに決まってるでしょ!!ダダこねてるだけじゃない!!」

天城は戦闘態勢で足立に言った。

 

「人は一人じゃ生きられない。

だから社会と折り合う事を投げたら、生き辛いに決まってるんだ。なのにお前は、立ち向かわず、去る度胸も無く、人である事自体から逃げてごまかそうとしてる。

世の中を面倒と言ったクセに、大勢の他人を巻き込んでな!お前の理屈は全部、コドモ以下の、単なる我がままだ!」

 

「う…うるせぇ!強がってんじゃねぇよ…俺を否定しないと、お前らが立ってられないんだろ!

何も苦労してない、ケツの青い高校生に、お、俺の何がわかんだよぉぉ!!」

足立が頭をブルブルと振るわせる。

認めたくないのだ。

 

「こっちだってな!大切な人殺されて、テメェなんかより、ずっと苦労してんだよ!!。

はっきり言っとくぜ…お前は選ばれたんでも何でもない…タダのくだらねー犯罪者だ!」

 

花村がそういうと、戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

「始まったみたいね」

足立と鳴上達の戦闘をシンは遠くから見ていた。

「…」

「行かないの?」

「本当に傍観者だとしたら、このテレビの世界で何をしたいんだ?」

シンは高い瓦礫を軽々と登っていく。

 

そして、一番高い瓦礫の上から、この赤い空とボルテクス界に似たようなこの場所を見渡した。

 

「…お前のように人間すべてが生きていられる訳ではない。」

ニャルラトホテプが隣に立っていた。

「恐らく、傍観者は見極めようとしているのかもしれん。」

「見極める?」

「フィレモンや私が周防に課した罪と罰のように、お前がカグツチにコトワリを求められたように、傍観者は見極めたいのかもしれん。この世界の人間を。」

「…なるほど。つまり、お前と似たような存在だと言えるのだな…」

シンは腕を組んで続けていう。

 

 

「いわば、集合的無意識から発生した偽神か…

なるほど…だから、上手く人間に化けられるのか。」

「…そうか。」

「無意識下に存在する人間そのものを真似ているとするのであれば、いくら悪魔の力を探そうとも見つかるはずはない。」

シンは納得したように頷いた。

「ともなれば、どうする?混沌王。」

「鳴上、足立、生田目に接触したということは人間の形をしている。

自分の有する力を譲渡するというのは、恐らく相手の体に触れてることが条件になるだろうな。

つまり、相手は三人と一度会っている。」

シンはそういうと、足立達を指さした。

 

 

 

「それにしても、鳴上と足立。非常に対照的だ。

かたや、学生時代に勉強だけしてきた足立。

かたや、命を預けられる仲間がいる鳴上。

人生に挫折してどうでもよくなった足立。

運命と戦い続ける鳴上。

そして、」

 

シンは足立と鳴上のペルソナが鍔迫り合いをしている所を見る。

 

「マガツイザナギとイザナギ。」

 

シンはそういうと、膝を大きく曲げ大きく跳躍した。

 

 

 

 

 

足立は軽々と鳴上達にやられた。

 

 

 

「く、くそっ…なんだよ、つまんねえ…」

足立は膝を地面に付いて辛そうな顔で言った。

 

「く…まぁいい…どうせ、僕は殺されるし、あっちの世界は無くなる…戻るとこなんかないし…みんなシャドウに…」

そういうと不気味に笑い始めた。

 

「よ、ようすがおかしいクマ!」

「な…なによ、これ…!」

「人間は…(ことごと)くシャドウになる。

そして…平らかに一つとなった世界に、秩序の主として、私が降りるのだ。」

足立は真っ黒な霧の様なものを纏って宙を浮いている。

 

「秩序…?降りる…?

なんだコイツ…急にどうしたんだ…?」

困惑した表情で花村が言った。

 

「こいつ…どうなってやがる!?」

完二も驚いた様子だ。

 

「ううん、違う…!こいつ…意識はもう足立じゃない!」

 

足立だったものは鳴上達に言う。

「こちら側も、向こう側も…共に程なく二度とは晴れぬ霧に閉ざされる。

人に望まれた、穏やかなりし世界だ…」

 

その言葉に皆が驚いた。

 

直斗は冷静に尋ねる。

「お前は誰だ!?」

 

 

 

「私は…アメノサギリ。

霧を統べしもの。人の意に呼び起こされしもの。

お前たちが何者をくじこうとも、世界の浸食は止まらない。

もはや全ては時の問題…

お前たちは、大衆の意志を煽り、熱狂させる…良い役者であった。」

 

鳴上達をゆっくりと見ると、アメノサギリは言った。

 

「…が、それも終わりだ。

すぐにもシャドウとなり、現実を忘れ、霧の闇の中で蠢く存在になるであろう…」

 

「何モンだ、テメ―!?…なんでこんな事すんだよ!?」

 

「私は人を望みの前途へと導く者。

人自らが、虚構と現との区別を否とした。

心の平らかを望めど、現実では叶わぬゆえだ…そう、人自らが、こうなる事を望んだのだ。

我が望みは人の望み。

それゆえ私は、こちらの世界を膨張させると決めた…」

 

「な…なら、テメェがこの胸クソ悪ィ世界をこしらえた元締めって事か!?」

 

「ここは、人の心の内に元よりある、無意識の海の一部。

肥大した欲と虚構とによって生まれた虚ろの森。

人は見たいように見る生き物…真実を望まず、霧に紛れさせておきたがる…

にも関わらず人は"見えぬ"ということを恐れる。

それが束の間、真実を欲する光となって霧を張らし、シャドウを苦しめ、暴れさせる…」

 

「…だから、すぐにそばに人間が居たりすれば、襲われて、殺されてしまう…

虚ろの森…」

天城は俯きながら言った。

 

「…じゃあここは、人の心に影響されるも何も…そもそも"心の中の世界"って事?」

 

「人は真実を求める事をあきらめ、闇雲に混乱に沈んでいる。

我が力は強まり、霧は晴れぬ。

世界は虚ろの森に呑みこまれるのだ。」

 

そこへ、重い着地音が響いた。

 

 

 

「…例え、目を塞ごうとも、耳を塞ごうとも、絶望はすぐそこで踊り狂っている。」

「シンか!」

皆がそこを見ると、いつもと変わらない表情で立っていた。

 

「それに、全ての人間がシャドウになったとき、お前は消えるのではないか?

ここは無意識の海、そして、お前は人の意に呼び出されたモノ。

人間などという曖昧な真の無い連中に呼び起こされたモノなど、高が知れている」

シンは呆れた様子で言った。

 

「…貴様は何者だ?」

 

 

 

「混沌王、人修羅、間薙シン…名前がありすぎて困っているところだ。」

 

 

 

 

「…人修羅…何故貴様が居る。ミロク経典に記されている貴様が何故。」

 

 

 

「我が意思の逝くまま…暇を潰しているだけである」

 

 

 

 

 




>なんという虚しさ(ry

冒頭の長いシンの話の部分は『コヘレトの言葉』というものの冒頭です。
不可知論者の僕としては結構、面白い話でした。
それに、厭世的でもあるんですが、如何せん、宗教的な要素もありますので、一部、『ン?』となる部分がありましたが、面白かったです。

まぁ、だからといって神を信じるかは別の話です。
そんな虚無と戦うようなことを人間の務めにしないでもらいたい!(#゚Д゚)
あまりもに辛すぎる…


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第x4話 Ideal Energy

 

 

「話をしよう、あれは今から36万…いや、1万4000年前…いや3…いつだったかな…」

「今年のというか、さっきのはなしじゃないか?

警察官がどうとか。というか、なんだ、その格好は」

シンはルイに言った。

ルイは黒い服で黒いズボンを履き、胸元が大きく空いており、黒い髪の男の姿をしている。

 

 

「まぁ、いい。

彼には一通りの名前しかない。当たり前だ。神でも無ければ哀れな人間の話だ。

でも、恐らく彼にとってはあまりにも怖い体験だったといえるのではないだろうか。」

 

「ライホー知ってるホ!"鼻☆塩☆塩"ホー!!」

「?暗号か…鼻…塩…塩?」

「…間に受けるな、混沌王よ。それは違うルシだ。」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

僕は警察官をやってる。

この八十稲羽で生まれて、育ってきたら、この田舎の雰囲気が好きで、警察官になった。

そんな田舎で、僕は難事件をどんどん…といくわけもなく平凡な警察官の仕事をしている。

 

道案内、パトロール、なんか、そんなのばっかり。

同期ももう一人しかいないけど、なんとものんびりとした仕事だった。

警察官と刑事は違うから、新人でも、元エリートの足立刑事なんかとは天と地の差があった。

 

 

けど、今年は恐らくこの警察官人生で最初で最後の過激な年になると思う。

 

 

それが、始まったのは、学生たちが学年を上げ、新学年となった辺りにこの普通の田舎町に殺人事件が起きた。

 

署内が異常に騒ぎになっていたのをおぼえている。

僕こと、西崎と同期の相沢は野次馬が規制線を超えないように警備していた。

すると、足立刑事が側溝に吐きに来た。

 

「足立ィ!てめぇ、いつまで新人のつもりだぁ!!」

「す、すびませ…ウップ…」

そういうと、足立刑事は再び吐いていた。

ツンとするその匂いに僕は思わず、つられそうになるけど、何とか耐えた。

 

そこへ、僕も通っていた八十神高校の生徒が3人来た。

普通に制服を着た男子生徒と緑のジャージと赤いセーターの女子生徒が通りかかった。

 

堂島刑事がその男子生徒が目を合わせると、堂島刑事はため息を吐いた。

 

「校長にここは通すなって連絡したんだけどな…」

 

「お疲れ様です」

男子生徒が堂島刑事に尋ねる。

「…ああ、全く…足立ィ!いつまで、新人だァ!」

「す、すみません」

「お前たちも早く家に帰れ。」

「は、はーい」

緑のジャージの子が少し驚いた様子で言った。

 

それにしてもエリートだって、死体には見慣れないんだろうな。

それに、アンテナに引っ掛けてあるなんて…

しかも、今世間を賑わせてる、山野真由美が被害者。

 

その後の方針とかは正直、地域課の僕と同期の相沢には関係のない話だったけど、2件目が起きてからは話が変わってきた。

 

第一死体発見者が同じ殺され方をされた。

 

そのあと、地域課であった僕たちも捜査に参加するようになった。

でも、本部から探偵の白鐘直斗って高校生探偵が要請されて捜査してた。

 

刑事課の連中は毛嫌いしてたけど、僕はそんな事無くて、寧ろ足を使わないでタバコをふかしている、一部の連中以外よりも、堂島刑事や白鐘直斗の方がよっぽど、僕の理想の警官だと思えた。

 

それに、日に日に同期の相沢が嫌な奴になってきた。

 

アイツは刑事課にいきたいと酔った勢いで言っていた。

…そのチャンスが来たと喜んで捜査に参加していたけど

…何ていうか、初めのウチは

「俺が犯人を捕まえてやるんだ!」

みたいな意気込みだったけど、ちょうど、暴走族の高校生がテレビに出たあたりではもう、上司へのゴマ擦りに必死で捜査なんかしてなかった。

 

そんなある日だ。

 

商店街のマル久さんの孫が有名になって地元に帰ってきた。

と、言ってもあまり良い意味ではなさそう。

 

僕も休みの日だったし、少し覗きに行こうと思ったら、意外な人が交通整理をしてた。

 

 

「あ、足立さん?」

「やぁ、えーっと…誰だっけ?」

「はっ!地域課の西崎学です!」

足立さんは思い出したかのように、唸った。

 

「僕が代わりましょうか?」

「ああ!いいの、いいの。僕はここで人を待ってるんだ。そのついでだし。高校生をね…待ってるんだ」

「はぁ…」

 

恐らく、堂島刑事の所に来ている高校生だとすぐに分かった。

堂島刑事に伝言でも、頼まれたのだろう。

あの人は忙しい…というより、忙しすぎる。

 

時々、仮眠室で疲れた顔で寝ている時を見かける。

悪い人ではないし、寧ろ真面目な人だ。

でも、やはり、所内の連中の一部はよく思ってない人がいる。

本人は何処吹く風だが…

 

僕は足立さんの言葉に疑問が湧いた

 

「あれ?なんで、ここに来ることが分かってるんですか?」

「ほら、高校生だから、こういう所に来るでしょ?実際…」

 

まぁ、確かにそうだ。

本物の芸能人に会えるとなると、この田舎では大騒ぎだ。

事実、足立さんが交通整理をしていなければ、車が止まっていただろう。

なるほど、納得だ。

 

「キミ、今日休みでしょ?」

「ええ。まぁ」

「地域課だからか…いいなぁ。僕も地域課とかにすればよかったな。」

そういうと、足立さんは笑ったが、すぐにボソりと呟いた。

「でも…それじゃ退屈か。」

「え?」

「ああ、いや、なんでもないよ。」

 

 

その時の足立さんの顔が今でも忘れられない。

普段の顔とは少しだけ、違ったからだ。

 

僕は早々に「お疲れ様です」とだけ言うと家に帰った。

 

 

 

相沢は相変わらずのゴマ擦りで、最近は課長に取り入ってるようで…

あいつも足立さんと同じ感じだ思い出した。

 

あいつは隣の大きな沖名市の警察署勤務の予定だった。

でも、手違いというか、正確には沖名市警察署がちょっとした問題で、新人の人数を間違えていた。

それ故に、相沢を含めた3人がこの八十稲羽署勤務に変わった。

 

それで、結局残ったのは相沢だけ。

 

相沢は本当なら刑事課だったらしいけど、今じゃ退屈な地域課。

…出世欲があることはいい事だけど…何か違う様な気がして、僕は平凡な地域課でいいと思う。

それに、今の仕事に充実を感じている。

 

大した事件も起きないし、物凄い達成感もない。

けど、困っている人を助けられる事や、顔なじみになったおじいさん、おばさんに覚えてもらえるのは嬉しかった。

 

 

 

それから、数ヶ月後に三人目の死体が上がった。

それは前回とはあまりにもガサツな犯行現場だった。

 

夜。

野次馬やマスコミの防止のため僕と相沢はその殺害現場を警備していた。

 

 

「ったく、何で俺がこんなこと…」

相沢はだるそうに欠伸をしていた。

 

「仕方ないだろ。それに警官ってのはこういう地味なもんだ。」

 

ふと、街灯が明滅し始めて消えた。

今、思えば、その時の風は嫌に気持ち悪かったのを思い出す。

ふと、その暗くなった闇から何か黒いものが蠢いたのを感じた瞬間には…

 

 

 

いつの間にか眠っていた。

 

 

 

 

気が付けば、警察官達が集まってきていて、何が起きたのか分らなかった。

外傷が無いから僕たちは居眠りでもしていたのではないかと、疑われたが、外に出てわざわざ居眠りはしない。

と堂島刑事が庇ってくれた。

 

それで、納得したのか僕たちはお咎め無し。

それに、堂島刑事が見た少年がなにかしらの方法でやったのだろうと。話はまとまった。

 

その後、すぐに高校生の犯人が捕まり、署内は解決ムードだった。

でも、堂島刑事と白鐘直斗。この二人だけは納得できない様子だった。

 

と言っても、結局、僕は地域課。

それで、相沢は刑事課に異動となった。

 

羨ましくないと言われればウソになる。

けど、僕はのんびりしているのが、にあってるんだ。

 

 

結局僕と事件の直積的関係はここで終わってしまった。

所詮は課が違う。

 

 

それですべてが終わるはずだった。

その後、白鐘直斗が居なくなったことなどがあったが、別にそれも関係のない話だと思っていた。

 

変わらない町が戻ってきたような気がした。

 

 

 

 

気がしただけであった。

 

 

 

 

交通課から突然、国道沿いに検問を張るから手伝ってほしいと連絡がきて、課長が全員を使って検問を張った。

そこに事故があったと、連絡があり、一番近い僕がそこへ急行する。

 

そこには、すでに救急車が来て堂島刑事を運んでいた。

 

「…?」

僕は事故現場に違和感を覚えた。

堂島刑事の車はあるから、堂島刑事が居るのはわかる。

だが、トラックの運転手が居ない。

 

逃げたのだろうと分かった。

 

そして、僕はトラックの前を見ると、何かがつぶれていることが分かった。

「やばっ!」

 

それはバイクだった。

慌てて消防も呼んだ。幸いというべきか、ガソリンに引火する前に消防が来て対処できたから特に問題もなかった。

 

 

結局、この事故も僕の管轄ではないし、どうなったのかも知らない。

 

 

 

 

 

そして、真犯人として、生田目が捕まった。

僕はその警備を担当することになった。

 

そんなある日、忘れもしない12月3日。

 

朝から異常に寒かったこともあり、何だか嫌な気分だった。

僕は夜に生田目の部屋を警備していると、物凄い形相で堂島刑事が来た。

そして、何も言わずに入ろうとしたため思わず止めた。

 

「許可はありますか?」

地域課の相沢に代わって相棒となった、七沢が堂島刑事に言った。

「放せ…ヤツに話がある。」

「ですから、許可が無ければ…」

 

僕が堂島刑事を押さえながら言う。

怪我の事もあり、あまり力を感じられない。

 

「許可だ…?ならアイツは、誰の許可で菜々子を殺したんだ…あ?

フザけんじゃねーぞ…菜々子は死んで、なんでアイツは生きてる!?

菜々子を返せ…返しやがれッ!!

俺には…菜々子しか…ッ!菜々子しか…

いな…ッ!」

 

そんなことをしていると、堂島さんがお腹を押さえて倒れた。

慌てて、僕は堂島刑事を支えた。

 

「い、医者!」

慌てた様子で、七沢が声を出した。

 

「放せよ…俺は、アイツを…」

「うわ、わ、大変だ!早く病室へ運んで!ぼ、僕は、先生に知らせに行くから!」

足立刑事が慌てた様子で、来た為僕たちは警備の事も忘れ、二人で堂島刑事を病室へと連れて行った。

 

 

その後、経緯を聞いた。

なんでも、一旦堂島刑事の娘さんが息を引き取った。

そうした生田目に堂島は刑事は怒りが湧いたそうだ。

それで、あんなことをしたのか…

 

 

僕はまだ結婚もしてないし、そういうのはよくわからないけど、ただ、大切な人が奪われたらきっと僕も同じことをしているかも。

 

 

そして、次の日、12月4日。

 

 

徹夜で警備をしたためか、代わりが来た。

 

 

 

それは相沢だった。

 

 

 

 

「あれ?地域課(・・・)の西崎クンじゃないか」

「…」

 

会ってすぐに分かった。

もうこいつはあの、偉そうに煙草を吸って何もしない連中の仲間入りをしたんだと。

あの、やる気に溢れていた相沢はいなくなっていた。

 

「それで、なんでお前が来るんだ?」

「上司が変われってうるさいからね。お前みたいな地域課なんて暇なんだから代わる必要ないと思うけどね」

「…お前、一人か?」

「いや、もう一人は遅れてるみたいだな」

相沢は余裕だろ?みたいな顔で言っていた。

バカなのかこいつは。昨日の事もあって、警備を強化しろってお達しがあったのに…

「先輩。俺残りますよ」

「…いいよ、七沢。」

僕は相沢を見て言った。

 

「すぐ来るんだろ?」

「ああ、じゃあな…下っ端」

 

 

僕と七沢は無線機を渡すと、生田目の病室から去って行った。

 

「感じ悪い人ですね」

「…あんなやつ、死ねばいいんだ」

 

僕は思わず言ってしまった。

何と言うか、苛立ちがあった。

変わってしまった最後の同期に、僕は苛立っていた。

 

病院を出る際にあの高校生たちとすれ違った。

堂島刑事の見舞いだろうと思って特に気にしなかった。

 

 

 

僕が家に帰り、次の日に署に行くと僕は課長に呼び出された。

「どうしたんですか?」

「いや、実はな…昨日お前と警備を代わった"相沢"なんだが、いわゆる『影人間』として発見された」

「!?」

 

 

影人間。

数年前に東京の近くの町で異常に流行った病だ。

ある日を境にぱったりと無くなった病だ。

 

俺は慌てて、病院へと行くと、目が虚ろな相沢が寝ていた。

 

「相沢!相沢!」

 

僕が相沢を揺さぶるが反応がなく、ブツブツと何かを言っていた。

何があったのか、ベットの横に居た警備の相方に尋ねると、自分が着くと既に倒れていたということだそうだ。

 

 

「…東京の病院にも尋ねましたが、治す方法がないそうです」

その言葉に相沢の親は泣いていた。

 

 

その後、相沢は警察を辞職という形で退職させられた。

話じゃ、高校生が生田目と話していたそうだし、それにどうやら、上司を脅してたみたいだった。

だから、いずれにしても、相沢は退職勧告される予定だったみたい。

 

そして、僕は気が付いた。

相沢の体が徐々に黒くなっていた。

僕はあの黒くなっていく相沢がまるで何かに生気を吸われている気がしてならなかった。

 

そして、時計を見ると5日になった、ばかりだった。

 

そんで、昼間からお前と飲んで気をまぎらしてんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニャルラトホテプ曰く、ヤツはイデアルエナジーを吸い取ったそうだ。」

「…それで、この話は本人から聞いたのか?」

「ああ。七沢というのは悪魔だ。

酔いながらこの西崎という男が話していたそうだ。」

 

シンはため息を吐くと言う。

「…まったく暇をこじらせるとどうでもいいことを」

しかし、シンは腕を組み言った。

「…しかし…イデアルエナジー…か」

 

「興味を持ったか?混沌王」

そこへニャルラトホテプが現れた。

「…恐らく、マガツヒに似たものなのだろう。

いずれにしても、神を倒すには兎に角、今は力が欲しい。

とりあえずは…この事件からか」

 

そういうと、赤い空を見上げる。

 

「…来たようだぞ?目的の人物が。」

ルイは閉まっている、ドアを見ていった。

「ヒホー!!あのヘタレ刑事ホー!!」

「これで…わかるか?混沌王」

 

皆がシンを見る。

 

「さぁ?わからん。ただ…これで、半分は終わったのかと思うと名残惜しいな」

シンはそういうと、音楽を流し始めた。

 

 

 

『Stayin' Alive』だ。

 

 




洋楽のPiano Man聞きながら書きました。
そんな素晴らしい歌とは一切関係ないですものになってます。

シンが足立が来るまでどうやって暇をつぶしていたか。
書いた話です。
感想でも言われていた警官の話を広げてみた。
その関係で54話の最後を修正しています。

あと、本編は頑張って書いてます。
戦闘は本当に省いて書いてます。
表現力の無さが身にしみる。

いい気分転換になりました。





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第59話 Crime And Punishment 12月8日(木) ~9日(金)

足立の姿が変わって行く。

まるで、取りつかれたように黒い液体があふれ出てくる。

そして、その黒い液体が霧を放つ。

さながら、源泉の様な濃い煙である。

 

「な、なんだこれ」

「…別に毒性はないだろう」

花村の言葉にシンは冷静に答えた。

 

霧が晴れると、そこには黒い大きな眼球の様な形をしていた。

所々に噴出口のようなものがついている。

瞳はカメラのようになっていた。

 

 

『私に刃向う事は、即ち人世の望みに逆らう虚しい行い

…さあ…全てを、甘き迷いの霧の内に…』

 

 

「お前が決めることじゃない!」

鳴上がそういうと、武器を構えた。

「そうだぜ!テメェが決めんじゃねぇ!俺たちが決めるモンだ!」

 

『間薙センパイより、全然弱いよ!』

「比べる対象が違すぎんだ…ろ!!」

そういうと、完二は武器で相手を殴った。

 

「ええ」

直斗はペルソナを召喚すると、メギドラオンを放つ。

 

相手はアグネスヤトラを放ち、皆がダメージを喰らうと

「おいで、コノハノサクヤ!!」

と天城が回復する。

 

チームワークが良く、相手の動きもすぐに判断し、対処していた。

 

 

 

 

「手伝わなくていいの?」

ピクシーは鳴上達の戦いを見ているだけのシンにいった。

「…人の可能性か」

「全員が全員、彼らのようにはなれないけどね。

でも、全員が全員、盲目であることを望んでいないことは確かね。」

 

 

 

 

「世界は虚しい。故に儚く美しい」

 

 

 

 

シンは笑みを浮かべるとただただ、その戦いを見ていただけであった。

何をするわけでもない、ただ本当に見ていただけだった。

 

初めは鳴上達も敵が大きいからなのか、あるいはシンのおかげなのか、余裕のある動きであった。

 

 

 

『愚かな…なら、止むを得まい』

 

霧が相手の噴出口から出始める。

 

「うお!?なんだ」

花村はペルソナを召喚しガルダインを放つが当たらない。

相手が何をしているのかさえ、見えない。

 

 

「りせ!何かわからないか!」

鳴上の声にりせは答えるもその声に不安がある。

『…うん…何も見えない…』

 

 

霧が晴れた瞬間、相手は何かを溜めていた。

 

 

 

 

『ネブラオクルス』

 

 

 

 

その瞬間、相手の目から大きな光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『…』

だが、そこにはボロボロになりながらも立っている鳴上達の姿があった。

 

「へへっ…きかねぇよ」

「こんなの…シン君の攻撃よりショボじゃん…」

「そうっすね、見た目だけ…派手じゃ…意味ねェよ」

「僕たちは…こんな所では折れません…」

そんなことを言っているが、皆はぎりぎりのようだ。

 

『…何故だ。何故、あきらめない。そこまでお前達を駆り立てるものはなんだ。』

 

「シンクンが教えてくれたクマ!」

クマはしっかりと相手を見据え、ブフダインを放つ。

「どんなに、絶望的な状況でもね」

「僕たちは信じるしかないんだ…」

千枝と直斗はペルソナを召喚し、ゴットハンドとメギドラオンを唱えた。

 

 

『信じる?…何を信じるというのだ。』

 

 

「勿論、俺達の隣にいる仲間ァ!」

完二は思いっきりの力で相手を殴りつけた。

「それで、私達を信じてくれてる人達!」

天城はアギダインを放った。

 

『愚かな…真実など、見えはしない』

 

「見える見えないの問題じゃぁ、ねえんだよ!!

俺達は見えなくても自分を信じるしかないんだよ!」

花村は力を振り絞り、ペルソナでガルダインを放つ。

 

「だから、諦められないんだ…諦めたら…俺たちの信念を通せない」

鳴上は剣を支えに立ち上がった。

 

「…俺たちを信じてくれてる、人たちに…俺が信じる人たちの為に!!!」

鳴上はそういうと、イザナギを召喚した。

 

 

 

 

 

「俺たちは前に進む!!俺達の信念の為に!!!」

 

 

 

 

 

イザナギは大きく振りかぶって、相手を斬り付けた。

真っ二つに斬れ、徐々に相手が崩れ始める。

 

『なるほど…強い力だ…力は心が生み出すもの…人の可能性を、お前たちは示したのだ…』

そういうと、震えはじめる。

『いいだろう。お前たちが帰る場所の霧を晴らそう…

我が望みは人の望み…人が望む限り私はいつでも現れよう

…私は、いつでもすぐ傍「それは私の務めだ」』

 

その割り込んできた声の主にアメノサギリは消し飛ばされた。

そして、足立が現れ倒れ込んだ。

 

 

その主は、鳴上と同じ顔をして、鳴上のシャドウかと思われたがどうも違う。

シャドウよりもはるかに禍々しく感じた。

 

「おまえは…」

フラフラの花村が思い出す。

 

それは嘗てシンが自分の身代わりとして使っていた悪魔だと分かった。

 

「…私は、お前達すべての人間の影だ。

人間に(くら)き心がある限り、私はお前たちを見ているぞ」

 

「お前であっても、あいつでも、お呼びじゃねーンだよ」

「そうクマ!!」

「俺たちは…俺たちで"信じる運命"を切り開く」

 

 

その鳴上の眼差しにニャルラトホテプは思い出す。

 

 

 

 

『ああ、うるせぇ…運命運命…同じことしか言えねぇのか…?

いいか、達哉…運命なんてのはな…』

 

『運命などというものは、後出しの予言と何も変わらん。

何かが起こった後で、こういえばいいんだ…』

 

『「全部運命だった」ってね!』

 

 

 

 

 

「…私を嫌った者たちよ見ているか?

これが貴様らの残した可能性だ。

…忌まわしい。」

ニャルラトホテプはどろりと溶けるように消えた。

 

 

皆が足立に寄る。

「…足立さん…アイツに操られてたのかな?」

千枝は倒れている足立を見ながら言った。

「さあ…望んでいた面もあったと思いますが…」

 

 

足立は苦しそうな顔で言った。

「…なんだよ…これで終わりかよ…つまんねぇ…」

「…」

直斗はため息を吐いた。

 

 

 

「別にいいよ…君らは君らで…考えた通りに…生きりゃいい…

未来を変える…力ってのが…キミらにはあるって…いうんならさ…」

「んなもん…誰にだってあんだよ。」

花村が足立に言い放つ。

 

「…さぁ…な…」

足立はそういうと、シンを見た。

 

「…どうするんだい?…ぼくを」

「…どうするかな…だが、お前は俺とは違う。お前はあの世界の法で裁かれるべきだ。」

「裁けるか…わかりもしないのに?」

足立は覇気のない笑いを浮かべた。

 

 

「…お前は人を殺した。手口がどうであれ、それが"あの世界で生きるお前の罪"だ。

そして、裁く裁かれないにしても、お前が生き続けることが"こいつたちの考える罰"だろうな。」

 

 

「…お前がクソだと評した世界を生きろ。

あそこはあまりにも美しい」

 

 

 

「そ…っか…それが…罰ね…ははっ…なんだよ…クソ…つまんねぇ…」

 

 

 

 

シンが足立を抱えると、鳴上たちはテレビから出た。

 

足立は疲弊しているのか、テレビから出ると座り込んでしまった。

 

 

外に出ると、警官が歩いてきた。

 

「…どうも、白鐘さん」

「こんにちは。西崎さん」

直斗は頭を下げる。

 

「…堂島刑事から連絡を受けています。容疑は、山野真由美、小西早紀に対する殺人。

以上で宜しいでしょうか?」

直斗は頷くと言った。

「間違いありません。」

 

「了解しました」

そういうと、足立を見て言った。

「下に救急車を呼んでますが、ここから担架で運びますか?」

「救急車…?」

「ええ。堂島刑事が必要だろうと。

容疑者を手厚く保護してほしいと…その、あくまで個人の要望として、頼まれましたので。」

 

「相棒…だったもんね。」

「…」

足立は浮かない表情で座り込んでいた。

その心中は計り知れない。

 

「では担架を、お願いします」

「了解しました。」

そういうと、警官は階段の方へと降りていった。

 

 

 

「…なんだよ…ちくしょう…」

足立は少しだけ苦虫をかみつぶしたような顔で呟いた。

担架に乗せられるとそのまま運ばれていった。

 

 

 

 

帰り道は既に長期戦を呈したため、夜になっていた。

 

「今日こそ、雪が綺麗に見えるかもね!」

「まあ、さすがに霧が晴れたっぽいしな…夜だから分かりずれぇけど」

千枝の言葉に花村は空を見上げた。

 

「…なんか、実感、少ないっスね」

「それに…体中が痛いクマ…」

「仕方ありません、僕たちは随分と無理をして進みました。」

 

「…これで終わりなのかな」

「事件は一先ず…だがな。」

シンはポケットに手を入れると、白い息を吐いた。

 

 

 

「俺の役割は半分終わったか…」

 

 

 

「お?おおお!!!ユキクマ!!」

クマがテンションを上げて、大きな声で言った。

 

「ホントクマさんは元気だね…私はちょっと疲れちゃったかな」

天城は疲れた顔で言った。

 

「とりあえず今日は帰ろうぜ。みんな疲れてるしな」

「そうだね…私たちも疲れたあ」

 

そう言って、皆はそれぞれ帰ることにした。

 

 

 

深夜…

 

「…さながら、長編映画でも見ているような気分だった」

「とりあえず、終わっちゃったね…」

そういうと、ピクシーはベットで寝ているシンの横に座った。

シンは相変わらず、天井を見上げている。

 

「…娯楽。娯楽は終わりがあるから娯楽であり続けられるのか…終わりのない娯楽はただの害でしかない。」

「って、まだ終わってないよね?」

「…ああ、だから、脚本家が現れるまで舞台で踊ってやる…」

シンはそういうと、目を閉じた。

 

 

 

次の日、皆は疲れていたのか、殆どがウトウトしていた。

霧が晴れたこともあり、少しばかり学校の活気も戻ってきたように感じられる。

 

 

 

 

放課後…

 

皆、フードコートに集まっていた。

霧がないせいか、いつも通りのフードコートに戻っていた。

それでも、冬独特のどんよりした天気でイマイチ、感触としては薄くなる。

 

「なんか、こうしてみると、達成感っつーか?そういうのが身に染みるな」

「私たちがやった!って感じがね!」

「でも、やはり曇っているんですね…」

皆嬉しそうな顔で話していた。

 

しかし、相変わらず不動の男が居る。

言うまでもなく、間薙シンだ。

 

「こういうときも、センパイは変わらねぇっスね」

「…まあ、な」

 

「じゃあ、本当に終わったってことで、センセイの家でパーティーやるクマ!」

「お、ってことは、また私たちが料理のうd「いや!今度こそ、やめてくれ!!」」

千枝の言葉に花村は飛び上がる様にその言葉を遮った。

 

「えー!!せっかく、センパイにまた手料理を食べさせてあげようと思ったのに!」

「お、おう」

鳴上は動揺した顔で焦点が合わない。

 

「次こそは…一撃で…」

「いや、また天城センパイが一撃で沈むんじゃないっスか?」

「…?どういう意味なんでしょうか」

事情を知らない直斗は首を傾げる。

 

 

「料理がマズいクマ!」

 

 

「……なるほど」

「そこ!納得しない」

直斗は納得したようにりせたちを見た。

 

「正直、マッスルドリンコとかミステリーフードってレベルじゃなかったからな!あの物体X」

「い、言ったね!つ、次こそは大丈夫だからね!」

「その次ってあと、何回後だよ!!」

花村と千枝は喧嘩を始めた。

 

「…最悪、悪魔の物好きに食わせれば」

「ああ」

シンのぼそりと言った言葉に鳴上が期待するような目で見た。

 

「いえ、僕がなんとかしましょう。」

「…直斗が頼みだ。」

「は、はい」

直斗はシンの言葉に少し照れながらもうなずいた。

 

 

「それで、料理は何にするか…」

シンの言葉に男性陣が考える。

「…失敗しないもので」

「尚且つある程度食材が決まっているモノ…」

「冷たくないほうが良いっスね」

「クマはマズくなければなんでも良いクマ!」

 

 

シンの頭の上で電球が光った。

 

 

「おでん」

「来た!きた!!それだ!」

「あーそれなら、確かにある程度入れるものとかも決まってるスね」

男性陣はそれだと言った感じで盛り上がる。

 

「えーどうせなら、鍋とかの方がいいんじゃない?」

「お前らがやったら闇鍋になんだろ!!!」

 

 

皆で買い物をする。

 

 

「おでんって、タバスコいれ「ないです」」

「この肉の塊も「いれないです」」

「ケーキ「それはクリスマスです」」

直斗の見事な統制により、女性陣の料理は正常になりそうだと男性陣は直斗に感謝をしながら、その場を去った。

 

 

男性陣も飲み物など重いものを買うためにジュネスの食料品売り場をうろついていた。

 

「それで、シンはいつまでこっちに居るんだ?」

「…まだ、すべてが鮮明になったわけではないからな。それが済むまでだ」

「?」

「そもそも、何故テレビの中に世界などある。

マヨナカテレビをただの超常現象と片付けてしまうのはあまりにもお粗末だ」

シンの言葉に花村が唸る。

 

「まあ、確かにそうだよな…

シャドウとか霧とかの原因は分かって解決したけど、もっとなんつーか根本的なことが分かってない感じだな」

「クマは何にも分からんクマ。」

 

クマは少ししょんぼりとしているようだ。

「…だから言ってんだろ?お前には期待してないって」

「むきー!!クマにも期待していいクマよ!?」

 

「そういや、センパイも三月で帰るんスよね」

その完二の言葉にあ、と花村達は少し暗くなる。

 

 

「…別に会えなくなるわけじゃない」

鳴上はそういうと笑った。

「まあ、そうだな」

「寂しくなるクマね…」

 

 

「始まりがあれば、終わりがある。どんな世界でも終わるものは終わる。」

 

 

「…お前がいうと重さが違うな」

「世界一個終わってるからな」

「なんつー自虐ギャグっスか…」

 

 

そんなことを話しながら、飲みものを買っていった。

 

 

 




無理矢理綺麗に纏めようとして失敗してる感が半端ねぇ…
でも、なんていうか、僕の性格がこの作品にすごい反映されていて、恥ずかしい…
結果とかが実はあんまり興味なくて、そこに至る過程がスゴイ好きなんですね。

例えば、サスペンスでも犯人とかはどうでもよくて、そこまでの過程とか、つながった瞬間の快感がすきだったりします。

ニャルラトホテプが言っているのはペルソナ2罰の話です…
気になるひとは今すぐ、ペルソナ2の罰をやるしかないです。


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第60話 What It Means To Be Human 12月9日(金) 天気:曇り

時として

この世界が酷く奇妙に見えることがあると思う。

その時は決まって、何かがおかしい時だ。

君の知らないところで何かが変わっているのかもしれない。

あるいは何かがすり替わっているのかも知れない。

 

OK…

 

まずは、自分の感覚を疑おう。

一旦、自分を叩くなり刺激が必要だ。

深呼吸も勿論…OKだ。

それがいつもと変わらないなら次は自分以外の要因を考えよう。

 

違う人間が作った?…おそらくそれは違う。

何故なら、彼女らが確かに眉間にしわを寄せながら本と睨み合いをしていたし、文句を言いながらも白鐘直斗の言葉に従っていた。

さながら、日光のサル使いようまたは、タイの象使いのように。

当たり前のようだが、それが酷くムズがゆくなるような光景だったのを覚えているだろう?

 

では、次はなんだろうか。

 

この世界を疑うか?これは夢で、君は走馬灯を見てるんじゃないかなって。

そう。この料理があまりにもひどくて、喉につまらせキミは死んでしまった?

…実に不毛だ。精神が病む前にその考えは地平線の彼方にぶっ飛ばしてしまったほうがいい。

それを考えて死んだ人間が少なからずいる事だろう。

 

 

何を疑うか…

 

 

 

疑うものが無くなったら。

デカルトのように徹底的に疑ったら、こうしてみよう。

 

発想の転換だ。

 

このおでんは美味しい。

 

 

そう。

 

 

それが。

 

 

 

…正解だ。

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら!なんか、こう…変なもん食ったのか!!!」

 

長い葛藤から覚めた花村はあまりにも普通なおでんに花村は思わず言ってしまった。

 

いや、確かに直斗という味覚に問題のないと思われる人物が加入したことは大きいだろう。

それでも…それでも、この平凡さはなんだと花村の頭が理解が追い付かず悲鳴を上げている。

 

不味くも無ければ、辛くもない。味はしっかりと関東風の味付けで、寧ろ染みていて美味しいくらいだ。

 

「普通に不味くない?」

「ちゃんと味する?」

「辛くない?」

 

「…美味しい」

流石の鳴上も驚きながら言った。

その言葉で女性陣は喜びの声を上げた。

 

「まあ、流石におでんの元と本通りに作ればそうなります」

直斗は少し困惑しながら言った。

 

「ふ、普通に美味しい事に俺の頭が追いつかねぇ…」

「早く食べねぇと、このクマが食べちゃうクマ!」

「あ!てめぇ!俺のダイコン!!」

クマは完二の皿から大根を取った。

 

そんなこともありつつガヤガヤと皆で食べることになった。

 

 

「それにしても、いやあ、間薙さんは懐が広いですなぁ…どっかのバイトと違って」

千枝は花村を見ていった。

「うるせぇ!なんで、また、ツケで買おうとしてんだよ!シンが気付かなきゃ、大変な事になってたんだぞ!!」

 

それは少し時間が遡る。

 

「え。こんなするの?」

「よ、予想外ですね…」

それも、そうだ。

おおよそ9人分の食材ともなると結構、するものだ。

それに、それに合わせた鍋まで買ってしまった為、お金が足りないようだ。

 

するとシンが来てPONと軽く払ったのだ。

そういえば、前回のオムライスの時も何だかんだ、シンが払っていた。

 

「…そういや、お前の収入源ってなんだ?」

花村がそういうと、シンは箸をおいて、何も無い空間から真っ赤な綺麗な宝石を取り出した。

 

「うっそ!!!それルビー!?」

りせは驚いた様子で言った。

「ルビーって…こんなにデカかったっけ…」

「…さぁ?ただ、これを売ればそれなりの値段にはなる。」

 

「…どうやって、取っているんですか?」

直斗は怪訝そうにシンに言った。

 

「…昔は稀に倒した悪魔が落としたり、交渉で手に入れてたが。今では余りに余ってるな」

「ひぇー…って事は、私達も一攫千金?」

千枝の言葉にあ、と皆が思った。

 

「で、ですが、それはあくまでも間薙さんだから、出来る事なのかもしれません。」

「どう言う意味だ?」

直斗の言葉に花村が尋ねた。

 

「例えば、僕たちのような高校生があれほどの宝石を売るとなると、それ相応の問題が発生します。」

「あれ?シン君はどうやって、売ってるの?」

天城がシンに尋ねる。

 

「…ルイに売らさせる。」

そう言って、シンは置いてあった500のペットボトルから直飲みで飲んだ。

 

「あーあの、金髪スーツの人っスね?」

「それなら、何となく納得かも。」

完二とりせは思い出すように呟いた。

 

ルイは確かに気品のある格好と雰囲気を持っている。

それ故に質屋で売りに出しても何の問題もない。

所謂、お金持ちだと言われてもそんなに問題のない容姿だし、何よりルイは悪魔。相手を破産させることも可能だ。

あるいはもっと…

 

そんな事を考えて、鳴上は考えるのを止めた。

考えたくもない。

 

 

「しっかし、俺たちって随分とまぁ、特徴的な連中が集まったな。」

花村はそういうと、皆を見た。

「天城は旅館の次期女将、完二は族上がり」

「族上がりじゃねぇよ!!」

「似たようなもんだろ…それに?シャドウに元アイドルと少年探偵…そして、悪魔の王…どんだけ、個性的なメンツだよ…」

「あれ?私は?」

千枝は自分を指さした。

 

「お前ってか、俺達は残念だけど、ふつーの学生だよ。間違いなくな」

「う…そう言われると、確かに…」

「それが、一番だ。」

鳴上は言った。

 

 

「?お前は平凡ではないだろ。何せ、六…」

珍しくシンが言葉を詰まらせた。

 

「は?」

「え?」

「え?」

皆がどうしたのかと思った。

 

「…間違えた。お前はワイルドだからな。ペルソナを付け替えることが出来る。」

シンは素で言ってしまったようだ。

「六?」

「六…?」

女性陣は首をかしげた。

 

鳴上は冷や汗が吹き出してきた。

花村が理解したのか慌てて言った。

「バッカ!!お前、それ…その、兎に角お前は空気読み人知らずか!!」

 

 

「…少し頭の回転が鈍っている。冷静に…冷静に…」

そういうと、立ち上がろうとするもふらりと立ち眩む。

「おいおい…大丈夫か?酔っ払ってんのか?」

花村は笑いながらシンを支える。

 

 

「…これ…お酒ですよ」

直斗はシンが飲んだ、ペットボトルの匂いを嗅いでいった。

 

 

「えー!?何で、ペットボトルに入ってんの!?」

「あ、そう言えば、堂島さんが酔って帰ってきた時に、入れていたような気がする」

 

「ちょ、どうすんだ!?」

「大丈夫だ…俺は年齢的には…もう、高校生じゃないし、何千歳だ。

というか?ここは何世紀だ?」

シンはフラフラと揺れながら皆に言う。

 

「や、やべぇ…シンセンパイって酔うとヤバイやつか?」

「…ああ、駄目だ。冷静に、冷静に」

「…冷製パスタ食べたい…」

そんなギャグに天城が吹き出してしまった。

「アハハハハハハ!!」

「今、すげーシンが俺たちよりになってきたぞ」

花村は困りながらも、少し嬉しそうな顔だ。

 

シンは少し窓を開け、縁側に出た。大きく息を吐き、水を飲む。

 

「…大丈夫か?」

鳴上はシンの肩を叩きながら言った。

「大丈夫だ!!…俺は至って…正常だ。正常。普通だ普通。」

外は寒く、身が震えるほどだ。

 

「…雪か」

シンはそういうと、手を出すと掌に雪が乗って溶けた。

シンはじっとその溶けた雪の雫が残る掌を見ていた。

 

「ホントに大丈夫か?」

そんなシンに鳴上が声を掛けた。

 

「…俺はこの世界が嫌いだなと思っただけだ。このハイカラ野郎。」

「は、ハイカラ野郎…ブフッ」

天城はもう笑いすぎて転げ回る。

 

「どうしてそこまで?」

「もちろん…足立にいったように美しい場所は多く存在するし、いいところもある。」

シンはそういうと、立ち上がり、声を大きくしていった。

 

 

「この町に限らず見てみろ…静かで…平和で、穏やか…非常に腹が立たないか?」

 

 

皆、その言葉にうーんと唸る。

 

平和であればそれに越したことはない。

平和だから、こうして皆で集まってこんなことをしていられるのだ。

花村は確かに退屈だと感じたが、それは都会と比べたときの話である。

過激であればいいわけではない。

 

 

「…ムカつくってことはないな」

花村はシンの言葉に答えた。

 

「…だから、お前は花村なんだ」

「は?いや、関係ねぇじゃん!!なんだよ!!」

「花村ってジャンルなんでしょ?」

そういうと、千枝も笑った。

 

「…退屈なんだ!!

兎に角、その一言に尽きる。

俺が楽しいと思っていることをどうして、俺一人で何故証明できない。

何故、他人が居なければ俺の価値を証明できない。

何故、何故、何故…」

シンはそういうと、自分の位置に戻り、窓を閉めた。

 

「そんな疑問が頭の中で…ずっと回り続けている。

だから、俺は退屈が嫌いだ。

退屈なときばかり…そんな事ばかり…考えてしまう…ロクでもないことばかりな。」

シンは俯くと、ボヤく。

 

「結局…俺は足立より最低なのさ…なんて自己中なんだ…」

シンは窓ガラスに背を預けた。

目が据わり完全に酔っている。

 

「…俺には何かをする勇気もない。自殺も、家出も、何かを変えることが何一つできなかった。

…怖かったんだ…退屈が嫌いなくせに、自分では何もしなかった…

でも、それと同時に、そんな退屈の中で埋もれて行く自分が消えていく感覚も怖かった。

平凡で終わってしまうのだと思うと、それは死ぬことより怖かった…」

 

「それでも、俺は何もしなかった…消えてしまいたかった…」

シンはそういうと、自嘲的に笑った。

「俺も…心の中で願っていたのかもしれないな…」

 

 

「…世界なんて…消えてしまえばいい」

 

 

「…だから…俺はお前が嫌いだクソ野郎…

何が"神"だ…何が、全知全能だ!!クソ喰らえってんだ。

俺は…お前のいら…ない…世界を創る。

それが、友人殺してまで叶えたい願いだ。」

 

「わかったかッ!!」

 

シンはそれだけ言うと、そのまま眠ってしまった。

クマもその隣でいつの間にか眠っていた。

 

 

「…やっぱりこいつも相当の変人だな」

「これだけ、退屈が嫌いな人って相当だよね…」

花村の言葉にりせが答える。

 

「僕のあくまでも推測ですが。子供の頃の彼にとっての世界はきっと、本やテレビ、映画の中にしか無かったのではないでしょうか。」

直斗は冷静に言う。

 

「…彼は幽霊などを見てしまうような子供だったと言っていましたから、やはり友人は少なかったように思われます。その中で、本や映画の中に出てくる登場人物達が羨ましかった。」

「あー成程、映画の中は退屈してるって事はなさそうだな。」

「?」

花村の言葉に千枝は首をかしげた。

 

「千枝で言えば、カンフーで悪の組織を倒してるってことだよ。」

「おお!!なんか、一気に身近になった!!」

天城のフォローにより、千枝は理解したようだ。

 

「彼にとってはその中にしか、この世界が無かったのだと思います。僕もそうでしたから。

それに、彼の親御さんはあまり、彼に構っていなかったみたいですし。」

「あーそうか。お前は親ってのもあるけど、そういうので、探偵に憧れたクチか。」

「ええ。まぁ。僕は祖父がいましたから、そういったことはありませんでしたが」

直斗はあのシンの過去を思い出す。

 

暗い部屋で彼は本を読み、テレビを見ていた。

一人でずっと、耐え忍んでいた。孤独という、恐怖と絶望に。

 

「幼心にあの空間は辛かったと思います…」

「独りっていうのは、自分一人じゃ解決できないからね…」

天城も思うところがあったのか、少し苦い顔で言った。

 

 

「…何スか…この人、マジで普通の人間じゃねぇか」

「違いないね。こんだけ、子供っぽいんだし…誰かと似てね」

完二は鼻で笑い、りせは笑った。

そして、全員で真剣な顔の直斗を見た。

 

直斗はそれに気が付くと恥ずかしそうに言った。

「……そ、それって僕のことですか!?」

「今更かよ」

それで、皆は大声で笑った。

鳴上達はその後、静かに食事と片付けをした。

 

 

 

 

 

 

シンはゆっくりと、目を開けると自分のももにクマの頭があった。

「起きたか?」

「…俺は何をしていた。」

 

鳴上はいきさつを話すと、シンは少し恥ずかしそうに聞いていた。

 

「酒は飲んだことないからな。」

「何歳なんだ?結局。」

「少なくとも、二十歳は超えているさ。おそらく、三千?四千?」

そう答えると、クマの体を軽々と持ち上げた。

クマはまだ、夢の中のようだ。

 

「ん…あ、起きたかシン?」

花村も眠っていたらしく、目を擦っていた。

他の人は帰ったらしく、花村は起きないクマを置いていくわけにはいかず、こうして、待っていたようだ。

 

「もう、10時は一時間以上超えているな」

「あーやべえな、早く帰んねぇと補導されんな。

次されたら、マジで洒落になんねぇ…」

「泊まっていくか?」

鳴上が花村とシンに言う。

「まぁ?迷惑じゃなきゃ、親父に連絡入れれば、問題ないかもな。」

「俺は問題無い。」

「そうするといい。」

鳴上はそういうと、準備を始めた。

 

「じゃあ、俺はとりあえず電話入れてくる」

花村は玄関近くの廊下で電話をかける事にした。

 

 

「…記憶が曖昧だ…それに、頭痛もする。」

「大丈夫か?」

「おそらくな、すぐ治る。」

そう言って!マガタマを飲み込み人修羅化した。

 

シンの顔がスッキリとする。

 

「便利だな」

「永遠の命など、ロクなものではないことだけは言っておく」

 




シリアスながらも、ギャグを入れてみた
それと、これはちょっとしたことで投稿をスマホでしてますので、誤字などがあったかもしれませんが、その際はよろしくお願い致します。

あと、未成年の飲酒はダメですよ。
20歳になった時の感動が薄まると思うし。


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第61話 Vanilla Snow 12月14日(水) 天気:雪

田舎の冬というのはあまりにも寒い。

此処、八十稲羽も冬になると、芯から凍ってしまうようなほど寒いものだから、ポケットに手を入れたくもなる。

最悪、夜にでもなれば気温はマイナスになる程だ。

それを考えれば、まだ今日のこの時間はそれ程でもないと言える。

しかし、頭で分かったところで寒さが和らぐ訳ではない。

寧ろ、寒さを意識してしまい、寒くなってしまう。

 

「…寒いな」

シンは普通の人の状態なので、寒さも普通に感じ取れる。

冬の登校というのは、誰にとっても辛いものだ。

体温が上がりにくく、頭が冴えないことが多い。

 

 

シンは朝の練習をする部活動の寒いが故にいつもよりも、小さい声を聞きながら、自分の教室へと入った。

 

誰もいない。

当たり前だ。

こんな早く学校に来る人間は普通に部活をしている人間だろう。

そんな人間は教室にはいない。

 

シンは一番に教室に入り、スマートフォンでニュースを見る。

くだらない芸能などは一切見ないし、誰が離婚しただ、結婚しただなど、どうでもいい。

経済にも興味もないし、政治も自分には関係が無いので見ない。

シンはこの世界のものではないから。

単純な理由だ。

 

見るのは殺人、事故などの刑事事件。

中でもこの八十稲羽周辺である。

何かしらの変化がないか、それは非常に重要な情報なのだ。

 

故に鳴上達がアメノサギリを倒して以降、多くの悪魔をこの周辺に召喚し情報を集めている。

無論、脳筋軍団はお留守番と相成っている。

 

 

「…おはよう。シン」

「鳴上か…早いな」

「…時間を見間違えた…」

鳴上はぼーっとした表情で、シンの言葉に答えた。

いつもの鋭い眼光はなく、ショボショボしたような目である。

 

「…眠そうだな」

「…寒いから、目が覚めてそのまま、登校してしまった…菜々子の朝ご飯を食べないまま…」

鳴上は悔しそうに語る。

 

「というか、居ないだろうに。」

「…だから、最近、気だるいのだろうか…」

鳴上はそう言うと椅子に座った。

 

「鳴上は朝の部活動をしないのか?」

「しない。菜々子との朝食の最優先事項だ。」

鳴上は当たり前だろといった表情だ

シンは呆れた様子で言った。

 

「そこまでいったら病気だな。妹もいいが、しっかりと妹も含めた六股をどうにかしろ」

「…何処で知ったんだ?」

鳴上は焦っている様子だ。

 

「何処でと言われてもな…お前の行動を見ていれば何となく分かった。決め手はやはり、辰巳ポートアイランドでの事だ。」

「?」

鳴上は覚えがないのか首を傾げた。

 

「お前は同じアクセサリーを5つ買っていた。それは女性もの。プレゼントだ。

そんなことをするのは何故か考えた時、分かった。

…別々のモノを買うと誰にどれを買ったか分からなくなる。それに、ウチのメンバーはアクセサリーを一人を除いてつけない。りせ。

それに、全員が全員、辰巳ポートアイランドに行っていることを考えると、りせが同じものを付けていても違和感はないし、天城は気が付くかもしれないが千枝はそこまで細かい事は気が付かない…

ネックレスなら見えにくい…実に素晴らしい…」

 

「鋭いな…」

鳴上は髪の毛を掻いた。

 

「気をつけることだな。嫉妬は恐ろしい」

 

勇がそうだった。と言いかけたがシンは口を噤んだ。

 

勇は先生を好いていた。理由はわからない。

しかし、先生とおれが一緒にいると嫌な顔をしていたのは事実だ。

あいつは口になんでも出すタイプであった。

昔は引っ込み思案だったが、高校生になった辺りで大分社交的になったと言える。

そんな懐かしい思い出をシンは思い出していた。

 

「どうしたんだ?ぼーっとして」

「いや…俺も眠いの…かもな…」

シンはそういうと、わざとらしくあくびで話を濁した。

 

 

 

過去というのは辛いものほど記憶に残りやすいものだ。

そして、シンの場合はそれが時々鋭く尖ったナイフの様に体の中を抉り、深く突き刺さる。

誰にだってそういうものなのかもしれない。

 

消してしまいたくなる。

 

だが、今のシンや或は、君がそのおかげで居るのだとしたら…

そのことに感謝すべきか?それとも、怨嗟(えんさ)すべきか?

 

そんな時、君は何と答えるべきか。

 

どうでもいい。

それでいい。

 

こんな問いは無意味で無価値。

しかし、そう分かっていながらも頭が勝手に働き出す。

出ることの無い問を永遠に回し続ける。

それを苦痛だと感じたことはない。しかし、気分が悪くなるのは事実だ。

 

「…じゃあ、間薙くん。この式を」

「はい」

数学の中山に指名され、シンは黒板に式を解きに行く。

シンは積分を解きながら思うのだ。

 

 

 

一層のこと、こんな数式のように綺麗に美しくしっかりとした答えが出てくれれば良いのに

 

 

 

 

 

 

 

放課後…

 

「おいおい…こりゃ、長靴とかで来るべきだったか?」

花村は昇降口から見える景色を見て思わず口に出す。

真っ白に染まった校門近く。

その先に見える景色も一面、真っ白で尚且つ雪が未だに降っていた。

 

「うわっ…今日はこんなに積もるのって珍しいよね」

「そうだね…こんなに積もるのは久しぶりかも 」

千枝の言葉に天城が答える。

 

「そういや、何だかんだ降るのは見たけど、積もんのはあんま見ねーな」

 

「あ、センパイ達。ちーっす」

「やっほー、センパイ!」

そういって、りせは鳴上の元へ一直線。

「こんにちは」

直斗は鳴上たちに挨拶すると、昇降口のところでしゃがんでいるシンを見つけた。

 

近づくとシンは雪をじっと観察していた。

 

「先輩は雪がこれほど積もるのを見るのは初めてですか?」

「…」

シンは無言で一掴み真っ白な雪を手にとった。

そして、立ち上がりシンは皆の元へ行く。

直斗は首を傾げた。何をするのだろう。

 

「花村」

シンが花村に声をかける。

「ん?なんぶほっ!!」

 

その雪の塊を花村の顔に押し付けた。

 

「て、てめえ!!何すんだ!」

「…厄祓いだ」

「こんなんで、厄祓えねーよ!!!」

 

花村はそういうと、外に出て花村も雪玉を作ってシンに投げるも、シンは軽々と避ける。

「うぼっ!!」

 

その後ろにいた完二に当たる。

 

「げ、やべっ」

花村は慌てて校門から外へ出ていく。

「ははん…センパイ…随分とやる気じゃねーっスか」

完二はそういうと、花村を追いかける。

シンはその間に雪玉を作って花村に投げた。

 

 

「ホントに子供っぽい」

「けど、なんか、楽しそうじゃん。シン君」

りせと千枝は笑いながら言った。

 

 

 

 

鳴上宅に男性陣が集まっていた。

ストーブの前に二人で温まる、花村と完二。

クマはみかんを食べながらテレビを見ていた。

 

 

「マジでやりやがって…」

「いいじゃねぇスか、楽しかったんだし」

そういいながら、二人は手を擦る。

 

肝心の主犯は鳴上宅にある、新聞を読んでいた。

鳴上は暖かいお茶を入れている。

そんなシンを花村は見る。

 

「ったくよ、お前は寒くないのかよ」

「…人修羅化しているからな。」

「ずりぃなぁ…」

 

気が付くとそうだった。

顔に刺青があることが、ひどく日常化しているため自分達がメガネを付けている、いないのレベルである。

時々、花村や千枝、天城に限らず、しっかりしていそうな直斗でさえ学校にメガネをしてくる時がある。

仲間では違和感ないのだが、他人ともなると、些か不審がる人もいる。

 

 

「そういや、スキーどこ行くか」

「あーなんか、そんな話、してたっスね」

「バカ。一大行事だぞ。忘れんな」

すると、クマは目を光らせ、思いっきり立ち上がった。

 

「クマ知ってるクマ!!"ゲルニカ"クマ!!」

「は?ゲルニカ?」

「…ゲレンデだろう。ゲルニカではピカソになってしまう」

「初めの"ゲ"しかあってねぇじゃん」

 

花村はテンションをあげるクマとは逆に少しテンションが下がっていた。

 

「つっても、原付で行けるような場所じゃねぇしなぁ…」

「…センパイ。なんとか、ならねぇスか?」

完二はシンを見ていった。

 

「…なるな。問題なく」

「おお!マジでか!!」

「宿泊代は気にするな。場所も俺がとっておくし払う。そのかわり、レンタル代やバス代、電車代は何とかしろ。」

「おお!流石、"オオクラダイジン"。」

「…なんで、そんな言葉だけ知ってんだよ」

花村はクマの頭を軽く叩いた。

 

その時、鳴上は見た。シンがニヤリとほくそ笑むのを。

鳴上は少し不安になったのであった。

 

 

 

「じゃあな、悠。それと、クマ!お前はメイワクかけるんじゃねぇぞ!!」

「おじゃましやした!」

「じゃあ…な」

 

クマは堂島や菜々子のいない鳴上を案じて(有り難迷惑)泊まることになった。

鳴上も鳴上で何だかんだ、それを容認した。

 

 

3人は雪の止んだ、暗い住宅街を歩き始めた。

「まぁ、確かにあんな広い家で一人っつーのは何と言うか、寂しいよな」

「ちげねぇ…」

完二は同意するように腕を組んだ。

 

「…シンはどうなんだよ。一人暮らしは」

「一人ではないな。一人と数体の悪魔がいる」

「あーそういや、そうか。」

花村は納得したように頷いた。

 

「…実のところ、その俺、お前に感謝してんだ。」

花村はシンに言った。

 

「?」

シンは首を傾げる。

 

「生田目のこととかも含めてさ、お前がイイ結果に導いてくれたっていうか。いや、確かに悠の決断もあったけど…たぶんだけど、お前が居なきゃ、悠、生田目をテレビに入れてたんじゃねぇかなって思うんだわ。」

「…そうかもしれねぇな。」

「菜々子ちゃんの事もあったし、俺達も生田目が犯人だって思い込んでたわけだし…

そう考えると、お前に何だかんだ助けられてばっかだな」

花村は大きく息を吐いた。

 

 

「…寧ろ俺の方が救われている」

「え?」

シンの意外な言葉に二人は驚いた。

 

「俺はあの頃の先生がいなくなって、世界には絶望していた。だから、こんな世界消えてしまえばいい。そう思ったのは事実だ。そして、選べたはずの再生の道を絶ったのも事実だ。

だが…」

 

シンはそういい詰まると、少し不気味に笑った。

しかし、どこか楽しげにも見える。

 

「俺が…雪を他人にぶつける?…そんなこと誰が予想した。

…気兼ねなく付き合えるお前達のたわいもない話や行動がな。俺にとってはいい経験だといえるのさ。

短い間でも、こんな気持ちを思い出させてくれたお前らには感謝している、感謝しきれないほどにな」

シンは少し口角を緩めて花村達に言った。

 

「あ、ああ。…なんか、お前からそう言われると、すげぇ違和感あんな。」

花村は笑って誤魔化すも、恥ずかしいのか頭を掻いた。

 

「…寒いな」

シンはそういうと、ポケットに手を入れた。

「どっちの意味だよ…ったく。」

「どっちでもいーじゃねぇっスか?」

「…へっ…ちげぇねーな…」

花村はそういうと、鼻の下を少し得意げに擦った。

 

 

 

 

 

 

 

「死ね!混沌王!そして、我主がこのボルテクス界をお治めになるのだ!!」

「…無能め。お前達の信じている信仰など貴様らの足元をすくわれるだけだ」

 

シンはそういうと、天使達を『至高の魔弾』で一瞬で消し飛ばした。

坑道はそれに耐えきれず、崩れ始めた。

シンは俊敏な動きで、崩れ落ちてくる岩を避けたり砕いたりして、『ユウラクチョウ駅』まで戻ってきた。

 

そこへ、ピクシーが飛んできた。

 

「あらら、派手に崩れたわね」

「ガタが来ていたから仕方ない」

シンは服の誇りを払うと、歩き始めた。

 

「それで?用事とは何だ?」

「実はね、ほら前に話してたじゃない?繁華街的なモノを作ろうって。それで、1から街を作ろうって話が出てきたのよ。それで、何処に作ろうかなって話よ」

「…新宿にでも、作ればいいんじゃないか?」

「いいわねぇ…あそこ変な病院しかないしね…退屈な場所だったのよ。それ採用!」

 

ピクシーはそれだけいうと、どこかへ飛んで行った。

 

 

 

 

「最後…で…いいわ…あなたの手に触れさせて…」

「…」

シンは生気のない祐子に手を出した。

祐子はその手を握り締めた。

 

 

「とても…冷たいわね」

「大丈夫…大丈夫だ…先生…もう一度試すんだ。」

シンは仲間のティターニアに回復をさせているが一向に祐子は回復する気配がない。

マガツヒの放出は止まらない。

 

「……私にはできなかったけれど…間薙君、あなたなら…自分の意志で進めると思う…

…これを使って…あなたの意志で…世界を…創るのよ……」

祐子は自分のポケットに入っているヤヒロノヒモロギをシンに渡した。

 

 

「…自由に…世界を………創って」

「……先生?」

「さようなら…シン君」

そう言い終わると、祐子は紐が切れた人形のようにグッタリとなった。

 

シンは呆然と祐子を見ていた。

ティターニアは察したのか、立ち上がりその場から離れた。

 

「主…」

「察しなさい…白い脳筋さん…」

ティターニアの言葉にクーフーリンは怒りそうになるが、自制した。

 

 

 

 

どうしてこうなったんだろうと、思っていた。

けど、先生が目の前で息絶えた時、涙一つ流れなかった。

だけれど、俺は先生の意志を継ぐことはなかった。

自由な世界。形は違えど確かに自由な世界を作っている。

 

 

「また、来ます」

シンはそういうと、トウキョウ議事堂跡地にある石碑にそう語り掛けた。

 

トウキョウ議事堂は創世後、シジマの立て篭もりに使用された。

相手の数が多く、建物を破壊せずに攻略する事は難しいと判断されたために、万能系のスキルを何千発と一斉に放ち、跡形もなく瓦礫の山と化してしまった。

 

結果的に、瓦礫の山の上に祐子の石碑が建てられている。

 

「…警備を頼んだぞ?モト」

「フフフ…分かっておる」

 

モトはここが好きなようだ。理由はマガツヒが多く存在している。

それがモトの理由だろう。

 

 

 

 

 

真っ白な雪。全てを覆い、埋れさせる。

いずれ、すべてが埋まり何も見えなくなる。

初めから何もなかったように。

ただ、真っ白な平地が出来上がる。

 

彼女はそれを望んだ。

 

 

 

 

「…これでいいの…これで…」

白い衣装に身を包み、ただ自分が消えるのを待っている少女。

そんな彼女を遥か上空から見下ろす者も、選択する時を待っていた。

 

「ヨロシイノカ?混沌王ヨ…」

「…時が来れば、何れ雪も溶けよう…」

シンはセトの背中でそう答えた。

「ウム、我ハ従ウノミ」

「では、戻ろうか。混沌王」

バアルのその言葉でセトは大きく翼をはためかせ、バアルは次元に穴を開け、その中へと飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 

私は雪だるま。淡い光で溶けてしまう雪だるま。

自分で動けないし、私の事を忘れてしまう。

溶けて溶けて、私は忘れられる

 

でも、私は覚えている。ずっとずっと覚えている。

 

この瞬間でさえ、私は忘れていない。

だから、思い出すこともない。

 

 

 

これでいいの…これで。

 

 

 

 

 

 

 

 




日常的な会話が苦手過ぎて少し遅れました。
あと、ペルソナ4本編では曇りと天気がなっていますが、雪が増えると思います。
理由は単純に作者が雪が好きだからです。はい。


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第62話 BitterSweet 12月20日(金) 天気:曇り

この時期ばかりは流石のこの小さな街も少しばかり騒がしくなる。

12月に入ればどうも皆浮き足立つ。

それに、事件も無事に解決し、霧も晴れている。

そして、この雪。例年に比べてこの地方では圧倒的に今年は多いそうだ。

 

幸い、今日は降っていないが溶けることなく残るほど、雪が積もっている。

 

放課後、相変わらず寒いフードコートに皆で集まって話をしている。

幸い、前日にこのフードコートは花村とクマが必死に雪掻きをして、雪はない。

 

そして、話の内容は大したものではない。

これは、確かにそうなのだ。

というより、会話というものは基本的にそうだ。

仲間との会話で全てが社会情勢の話をする人間はいないだろう。

 

共通の話題で話しをする。

そうでなければ、所謂"言葉のキャッチボール"は発生しない。

当たり前の事だが、気付かない連中が多い。

 

そんな、認識論は置いておいて脈絡もなく鳴上が口を開いた。

「…みんな。クリスマスはウチに来ないか?」

鳴上から意外な提案だった。

クリスマスといえば、流石のこの田舎も異性同士が共に居るはずだ。

 

シンには鳴上の意図がすぐに理解できた。

そして、大胆な賭けだと思った。

 

現在、義妹を含んだ六股中の彼にとって、明らかにこのクリスマスというイベントは鬼門であったろう。

六股の内、3人はメンバーという、シンにとって、そして今こうしてこの文字を読んでいるそこの読者さんにとっても現実的に考えておかしい状況だと理解してもらいたい。

 

例えるなら、三匹のライオンに囲まれて生活しているようなものだと思われる。

いつ、噛み付かれるか分からない。

常に、ライオンの餌を与えなければならない状況だ。

そんな状態を自ら作り上げた、鳴上悠という人間には痛く感服せざるを得ない。

 

シンはそう思い、目を閉じた。

 

(…俺は良いが、こいつはいい奴だ…不幸がない事を望むよ、クソ野郎。)

 

 

「いいのか?」

花村は鳴上を一瞬見て察し慌てて訂正した。

「…いや、そうだな。悠がそういってんだから、やろうぜ!!」

「何?ちょっと、言葉つまらせちゃって…」

「あー、いやいや!何でも無いから!本当にうん!」

花村は棒読みでそう答えた。

「なんで、センパイ声が裏返ってんスか?」

「バカ!お前は黙ってろ!」

「はぁ…」

 

「あ!じゃあ、今度はケーキだね!」

「げ、マジで言ってんの?」

「ケーキか…」

 

女性陣は小言のように呟く。

そんな中シンはふと、俯いていた顔を上げた。

直斗はそれに気付き声を掛けた。

 

「…どうしたんですか?間薙先輩は」

「…いや、悪いが少し外す」

そう言って、椅子から立ち上がり階段を降りていった。

 

「?なんだ?」

「…さぁ?まぁシン君は王様だし、忙しいんじゃない?」

「それは言えてるかもね。」

千枝の言葉に天城は頷いた。

 

そこへ、チンというエレベーターの到着音と共に帽子を被って厚着の男性とスーツとコートを着た女性が現れた。

そして、車椅子に乗ったひざ掛けをした、綺麗な黒髪の女性がエレベーターから降りてきた。

下は雪掻きされている為、車椅子でも問題無く動かせる。

 

「…?」

直斗はその人達に見覚えがあった。

その人は楽しそうに会話をしていた。

 

「こんな田舎なら、きっと先生の病気も良くなりますよ。」

「ええ。此処は良いところだわ。空気も美味しいし、どこか懐かしいのよ…」

「え?でも、先生は東京育ちですよね?」

帽子の男性が尋ねると車椅子の女性は頷き答えた。

「でも、どこか空気がね…」

「でも、なんで先生。こんなところに?寒くないの?」

「何故かしら…ね…」

そう答えると、微笑んだ。

 

そう言って3人は鳴上達が座る大きな椅子から少し離れた場所に座った。

 

「どしたの?直斗」

りせがそんな彼らをボーッと眺めている直斗に声を掛けた。

 

「いえ…あの方々を見た事がある様な気がしまして」

「…あれ?直斗くんも?実は私もなんだよねぇ…」

直斗の隣に座っていた千枝がそう言った。

「ん?って事は、ふつーに文化祭とかじゃねぇの?」

「いえ。恐らく違うと思います。」

そちら側に背を向けていた、男性陣もちらりとそちらを見た。

 

「…クマも見たことあるクマ」

「んー俺もあんだよなぁ…」

 

そんな会話をしていると、スーツの女性が椅子から立ち上がった。

そして、辺りを見るとこちらに来た。

 

「ちょっといいかな?」

「は、はい!」

「私、こういうものなんだけど。」

 

そういうと、名刺を取り出した。

 

 

その名前を皆が見た瞬間驚いた。

 

 

「私、帝都日本新聞社の橘千晶って言うだけど、君たちは高校生?」

「はい。」

動揺した様子で鳴上が答えた。

流石の鳴上も驚いたようだ。

 

まさか、シンの元友人に会うなどとは思いもしなかった。

それに、記憶より遥かに年を取り大人びていて分らなかった。

 

「ああ、ごめんなさい。緊張してるのかな」

「い、いえ。そんなことナイデス」

花村は途中から言葉がおかしくなった。

 

「それで、用件というのは?」

直斗は冷静に尋ねる。

 

「いやね、ここ最近、終結した連続殺人のニュースを取材していてね。それに、ちょうどあなたが居た訳だし、何か面白い事聞けないかなって」

千晶は直斗を見て言った。

 

「と、言われましてもね、殆どは警察発表通りです。強いて言えば、現職の刑事が犯罪を犯したことは非常に問題ですが、そう言った人達ほど、精神的には脆いのかもしれません…犯罪という、怪物と常に戦いギリギリの境界を彼らは超えないから、刑事であるのかもしれません。

その境界を超えてしまった時、こうした事件になるのだと思います。」

「…なるほど。鋭い指摘だわ。」

メモを取り終わると、千晶はメモを閉じた。

 

「あ、あの」

「はい?」

天城は千晶に尋ねる。

 

「あのお二人は?」

「ああ。彼は新田勇。ファッションデザイナー。っていってもまだ、それほどだと思うけど。

それで、車椅子の女性は高尾祐子さん。わたし達の元担任。今は療養中なの。」

千晶はそういうと、男性陣を見ていった。

 

「綺麗な人でしょ?」

「は?あ、…はい」

完二は驚き照れながら答えた。

 

「なーにやってんだ。千晶」

そこへ、勇が先生を押して連れてきた。

 

「取材よ。取材。」

「相変わらず、真面目だなお前は」

勇はそういうと、鳴上達を見た。

 

「あらら、高校生か。」

「はい。そうです。」

鳴上が答える。

「お、久慈川りせちゃん?」

「はい。」

りせは少し怪訝そうに勇を見た。

 

「ライブの衣装作ったんだけど…つっても分かんないか…」

勇は帽子を外し、髪の毛を掻く。

 

「…もしかして、あの東京公演の時かな?」

「お!たぶんそうかも!…いや、嬉しいなぁ」

「あれ、可愛かったし覚えてますよ!!」

りせも嬉しいのか声を大にした。

「マジで?」

「良かったわね、勇君」

祐子はそういうと、微笑む。

 

「…1つだけ良いですか?」

「ん?なんだ?少年探偵。」

直斗は真剣な表情で言った。

 

 

「"間薙シン"という名前に覚えありますか?」

 

 

「うーん…無いなぁ。まさか有名人とか!?」

「私も知らないわね…」

2人は顔を見わ合わせた。

「…えーっと、凄い変な質問をいいですか?」

千枝は不安そうに尋ねる。

「いいわよ?」

 

「新宿衛生病院って、知ってます?」

千枝に花村が小声で突っ込む。

「…バカ」

「…アハハハ、いや、なんか、気になっちゃって…」

 

「知ってるも何も、俺たちが丁度高校生の時に、先生が病気で入院した病院だよな」

「ええ。あなたが変なオカルト雑誌をあなたが買ってきてね」

「あれは、その…何でだっけか…なんか、手にとって買おうみたいな?」

勇は軽く答えた。

 

「…確か、新宿衛生病院は怪しい噂がある!みたいな、触れ込みだったかしら…」

千晶は腕を組み、思いに耽る。

「そんで、先生の病室分なくて探し回ってたら、変な地下施設的なの見つけて滅茶苦茶怖かったわ…」

「でも、結局普通の病院だったじゃない」

「まぁ、そうなんだけどよ…」

勇は思い出してため息を吐いた。

 

「ごめんなさい…でも、元本院の方に行っちゃうなんてね…」

「そうですよ?あっちは廃墟だったとか!!ホント勘弁してくださいよ!!」

「でも、…何か…」

千晶は眉を顰める。

「ん?何が…」

「いえ、何でも無いわ…」

 

「でも、なんで?」

千晶は千枝を見て言った。

「いえ!それだけです!」

「?」

千晶は怪訝な顔で首を傾げる。

 

「まぁ…いいや。よし、そろそろ帰りますか?先生、俺寒くなっちったよ。」

「…ええ」

祐子は鳴上達を一通り見ると言った。

 

よろしくね(・・・・・)

 

そう言って、高尾は微笑み千晶に押されて帰って行った。

 

 

 

エレベーターの中…

 

「いやぁ、高校生かぁ。懐かしいな」

「先生と再会したのも、高校生だったわね。先生…?」

「ど、どうしたんすか?」

祐子は呆然と首に掛けていた、ネックレスを見た。

それは、硬く何かの破片の様だった。

「何でも無いわ…ただ…ね…そんなにロマンチックだったかしら?」

「?」

祐子はそういうと、微笑んだ。

 

 

 

シンはジュネスの入口で熱いブラックコーヒーと書かれた缶コーヒーを飲みながら、時間を潰していた。

 

「…良いのか?巫女である事には変わりないのだ。恐らく可能性は…「…資格がないさ」」

ルイの言葉を遮るようにシンは言った。

 

「相手は覚えていない。それでいい。

それにそんな曖昧な可能性に掛けて声をかけたところで?ただの変人だ。」

「…気にするな。元々、お前は変人だ」

「…ふん…」

シンは嘲笑すると、熱い熱いコーヒーを飲み干した。

平然とした顔でシンはポツリと呟く。

 

「…苦いな」

そう言って、カラになったスチール缶を片手で握り潰した。

 

 

 

 

祐子達が去っていったあと、りせが言った。

「…あの人、絶対覚えてる」

「驚いていましたからね、あの高尾祐子さんは」

直斗は見逃さなかった、祐子がシンの名前を言った瞬間、手がピクっと反応した事を。

 

「でも、それだと何であの人だけ覚えていたんだろうね。」

「…巫女というのは元来、シャーマン的な役割を果たしていた。東京受胎だけの違う世界だと言うことは、彼女は巫女であったことは確定している。

"神の嫌がらせ"だろうな。どうせ、夢の中で暗示でもしてみせたんだ。相変わらず、ムカつく奴だがな。

あるいは…いや、まさかな…」

シンはそう言って、椅子に座った。

 

「シン君はまさか、来ること分かって、どっか行ったの?」

「ああ、悪魔から連絡があった。それでな」

シンは淡々と答える。

 

 

「…怖いですか?」

直斗は伏せ目がちに尋ねる。

直斗も失礼だと分かっているが、興味。

それが、勝った。

 

「怖いな。決心が鈍る。」

シンは表情を変えずに答えた。それも、即答。

聞かれることが分かっていたかのように。

直斗はそれで少し安心したのか、顔を上げた。

 

「思い出の中でじっとしてくれてればいいのだが…

『忘れねば思い出さず候』と言ったところか。」

シンはそういうと、肩をすくめた。

 

「…随分とロマンチックな事を言うんですね。」

そう言って、直斗は素直に笑った。

「?どう言う意味?」

「…私も分かんない。」

りせや千枝は首をかしげた。

 

「…忘れることもないから、思い出すこともないって意味だよね?」

「…そうだ」

天城の言葉にシンは恥ずかしそうに答えた。

 

「…シン君、クマ惚れちゃう…」

「…クリスマスパーティはクマ鍋だな」

シンの言葉に皆が笑った。

 

 

「あーでも、鍋イイっスね。この時期は最高っス」

「まぁ…変なモン入れなきゃ、まともだろうからな…」

完二の言葉に花村が頷いた。

 

「じゃあ、25日はここで集合って事で。」

「まぁ、それが楽だな。」

 

 

こうして、鳴上は第一関門を突破した。

 

 

 

 

 

個室の病室で、祐子は無機質な天井を見ていた。

気が付けば、自分が死ぬ夢を見ていた。

きっと病気のせいだ。そう思い目を閉じようとすると、気配を感じた。

窓側を見るとカーテンに影が映っていた。

 

「あなたは…誰かしら」

高校生くらいだと影で祐子は分かった。

それもそうだ。何年も見てきた高校生の姿を見間違えるはずもない。

 

「…何の因果でしょうか。」

「…」

祐子はどこかで聞いたことのある声だと分かった。

 

「…やはり、会うべきではなかった。」

その高校生はカーテンの隙間から何か不思議な雰囲気のある尖った石を差し出してきた。

「…」

「良くなることを祈ります。そして……さようなら(・・・・・)忘れねば思い出さず候」

 

その言葉で、祐子は夢を思い出した。

そして、自分が最後に言った言葉だと。

言った相手は…忘れもしない…

 

 

 

「待って!」

 

 

 

起き上がりカーテンを慌てて捲るが、そこには、既に姿が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「間薙シン…ね」

勇がゆっくりと運転する車の中で祐子はそう呟いた。

「先生は知っているんですか?」

「…さあ?わからないわ」

「…それはどっちの意味でしょうか…この質問を誤魔化す意味ですか?それとも、間薙シンって人間についてのことでしょうか?」

千晶は怪訝な顔で祐子に尋ねた。

 

「両方よ」

祐子はそういうと、窓を見た。

 

 

 

 

 

「さようなら…」




解決させたかった事をとりあえず解決させました。
本当はもっと前に違う形で書き上げてたんですが…大幅に変更しました。
何と言うか、シンがちゃんと決別出来るようにしたいなって思った。
まぁ…とりあえずは…


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第x5話 Memories

複数の話で出来ています。
それに、1つ1つは短いです


―混沌王のとある一日―

 

 

退屈そうな顔でその緑色に光沢する板に白い文字を書く。退屈なのは、それが簡単だからです。

もう、正午の昼食も終わり、午後なので皆さんは眠そうにしています。

眠るまいと意気込みますが、どこか遠くへ船を漕ぎに行ってしまいます。

心地のいい場所でしょう。

 

「いいわよ。あってるワ」

 

少し特徴的な顔をした教師はそう告げると、自分は黒い革靴の音を鳴らしながら、席へと戻る。

窓と水滴で、光が乱反射して、教室を照らす。

外は(みぞれ)が降って変に明るいのです。

デッサンの陰影のような、濃く分厚い壁があるというのに、やけに明るのです。

雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなっているのでしょう。溶けて水になりつつあります。

 

古びた椅子に着く。

そこから、外を眺めようか将また、机の上にある本に書かれた記号の羅列を眺めようか…

それとも、机の深く刻まれた木目でも見ようか…

それが、どんな意味持つか、分厚い壁の先にいると信じられていたモノでさえ知らない。

 

或いは、知っているのでしょうか。

 

ただ、そこに彼が見てきた幾千もの陰惨な、或いは、その逆モノたちは、今ある天にある壁よりもずっとずっと沈殿し、何千層と積み上げられ分厚くなってきたのかもしれない。

 

その瞳に高く飛ぶ鳥を映す。白くその翼を広げている。

視界に入った、その理由だけで複数の選択肢の一個を選んだ。

 

外を見るという選択肢。

水が流れるようにただ、それだけ。

やがて、鳥も見えなくなるだろうだろう。

 

 

 

凍り付いたその足元から、積み上げられた雪を学校終わりの少年が蹴飛ばし、壊していました。

何の意味があるか……意味などない。

やりたかったから、やった。

 

そう思う。

 

「先輩はああいうことをしましたか?」

 

友人の直斗は寒そうにマフラーを巻いている。

 

「都会では雪が無かったからな。」

「…そうでしたね。」

 

そういうと、彼女は笑った。

それほど、面白い話でもないだろうに彼女は笑う。

それは、自分の話のフリが悪かった事について笑ったのだろうか。

それとも、バカにした笑いなのだろうか。

 

どうでもいいことでしょう?

 

自分の革靴が氷と共に軽快にリズムを刻んでいるように聞こえてきたのですから、どうでも良いのです。

壁に寄せられた白い雪には、土が混じっています。

白さに魂が錆び付く。魂が黒い事を自覚しました。

八雲に自己を投影しないことにしましょう。

自分の黒さが頭の中で明滅してしまいますから。

 

「先輩はどうして、高校に?」

「意味はない。行けと言われたから行っていただけだ。」

「そうなんですか。」

 

そう直斗は答えました。

 

帽子に着いた水滴が気になります。

制服の胸ポケットのハンカチ、靴の土、ワイシャツの襟、袖。

スボンの裾、ズボン右ポケットの膨らみ。

これは、財布でしょう?彼女は彼女に合った財布を持っています。革の良いやつです。

 

彼女は視線を逸らす、少し気まずいのでしょう。

瞳がICチップ生成のレーザーの様に高速で動いた事を実感しました。

彼女は気付かないでしょう。下を向いていたからです。

きっと、彼女は会話で反応を見ているような気がしました。

 

「…無理して会話する必要はない」

「あ、いえ。そういうつもりでは」

直斗は少し見透かされて、焦っているようです。

ですが、直斗はすぐに納得したような顔で頷きました。

 

「…そうですね。違いますね」

「話したいことを話せばいい。何も気負う必要はない」

「はい」

直斗は頷きました。

 

それからは、探るような会話ではなく、有り触れた話でした。直斗がこなしてきた仕事の話です。

直斗は楽しそうにそれらを語ります。

 

分かれ道で、直斗は足を止め尋ねました。

 

「…あの、また、一緒にか、帰りませんか?」

 

静かな住宅街にそんな言葉が響いた。

手を強く握っている。緊張しているのでしょう。

心拍数も早くなっています。視線も合わせません。

 

内心不思議です。何故それほど迄に高揚するでしょうか。

 

「…構わない」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

―災難―

 

 

え?間薙シン?

うーん、そうだな。アイツはなんて言うか…オーラがヤバイな。

明らかに高校生って感じじゃなくてさ、もっとこう、威圧感がね。違うんだよ。

それに、頭良いし、顔もまあ悪くない。

明らかにモテる要素を含んでんのに、そんな噂も聞かないし。

 

兎に角、変わったやつだよ。

それにさ…あの事合った後じゃあ…なおさらな…

 

 

 

間薙…シン?

あの転校生かな。って言っても、今年は転校生が多過ぎて誰だか分からないんだけどね…アハハハ。

えーっと、今柏木が担任の所だっけ。

でも、彼はテストのランキング上位っていうか、全部満点とか、あり得ない気がするけど…

実は教師になにかしてるんじゃないかって噂になったけど、本人は何処吹く風っていう感じなんだよね。

ガリ勉って雰囲気もないけどね。だって、足も速いしね。

 

それに、彼の悪い噂をしない方がいいって話だよね。

ほら、からかったら殺される位の気迫があるからね…彼

あの事で本性?というか、正体見せた!みたいな。

学校サイトはその話で盛り上がってたみたいだしね。

 

 

 

 

2年の教室。昼休みに鳴上、花村、千枝、天城は弁当を食べながら話していた。

 

 

「は?シンが病院?」

千枝の言葉に花村は驚いた。いや、通常ならそれほど驚く事はない。事故か病気。

ただ、彼は昨日まで普通だったので、病院は関係ないと思われる。結果的に事故の確率が高い。

 

問題はそこではなく、間薙シンにある。

 

彼は悪魔である。

そんな、ヤツが病院など、バイクがグシャクジャになっても、体の方はすぐに治ってしまうような、そんなシンだからこそ花村は驚いた。

 

 

「なんでも、登校中に氷でスリップした車で轢かれたみたい…結構、大変みたい…だよ?」

天城は真剣な顔で答えた。

「えっ…まさか…あの状態じゃなかったから、やばかったとか!?」

花村は椅子から立ち上がり慌てた様子で尋ねる

 

 

 

「うんうん。車が」

 

 

 

「…だよな…うん…そんな気がしてた。」

花村はスッと冷めて、椅子に座った。

「シンの話じゃ、轢かれて壁に挟まれたが、たまたま急いでて、バレないようにフードを被って人修羅化してるところに突っ込んできたから、車の方がバンパーとか壊れたらしい。」

鳴上が話す。

 

「それで、運転手は気絶しちゃったみたいで、自力で車を押して出て、警察に連絡したら、無傷なのにそのまま入院のながれになっちゃったみたい」

 

 

「あーなるほど。そりゃ大変だわ……病院が」

 

 

「そうだよね。シン君、病院嫌いみたいだったし、それに前に話してたけど、あまりにもシツヨウに調べる医者を脅したとか言ってたしね」

千枝は呆れた顔で言った。

「でも、明日には退院だろうと連絡が来ていた。」

「なら?大丈夫か…」

 

「それよりも。結構、その事が噂になってるみたい。」

「…あーそうか。見られたのか…」

花村は額に手を当て首を振った。

 

「…車に轢かれて生きてて、尚且つ無傷って、どんだけ頑丈なんだって噂になるだろうな」

「本人は気にしないだろう」

鳴上がそういうと、皆が頷いた。

 

 

 

 

シンは何もない均等間隔に開けられた天井の穴を見ていた。防音壁だろう。

暇なのだ。下らない検査、反応などする筈ない。

MRIもエラー、レントゲンは亡霊、血液検査は針が折れる。通常状態と言っても、歴戦の戦士の体。

通常状態であっても、通常の何百倍と頑丈なのだ。

 

反応を示さない検査など無意味だ、非常に無意味。

 

そこへ、ドアをノックする音。

ガラッと勢い良く開けられたドア。

居たのは、堂島遼太郎だった。

松葉杖をついてはいるものの、体調は良さそうだ。

 

「よぉ」

「こんにちわ」

「災難だったな。事故られるなんてな」

 

シンはため息を吐いて答えた。

「まぁ、2回目なんでね。1回目は自らなんで…」

 

「にしても、よく無傷だったな」

「体は頑丈ですから」

 

シンのその言葉に堂島は納得した。

それもそうだ。軽トラと正面衝突して、生きているような奴だから、恐らく大丈夫だろうと思いこの部屋に来たのだ。

多少の疑念はあるものの、自分の家族を救ってくれた人間を疑うような無粋な真似はしたくなかった。

 

シンの病室は非常に大きい病室で、個室であった。

シンは軽々とベットから立ち上がると、椅子に座るようにうながした。

堂島は椅子に座り、早々に頭を下げた。

 

 

「言い忘れててな、菜々子をありがとう」

「…此方こそ、申し訳なかった。犯人の疑いがありながらも、黙っていたことを」

「…もし俺がお前だったら、俺も同じ選択をしていたさ、気にするな。」

堂島はふぅとため息を吐いた。

 

「菜々子もお陰で、良くなりつつある…」

堂島はそういうと、ポケットから小さな輪っかで細いものの、どこか頑丈に作られていることが見てすぐに分かった。

 

「…この紐、なんだと思う。」

「…さぁ?なんでしょうね」

シンは堂島から受け取ると、それを見ていた。

 

「菜々子の手首に付いていた。菜々子本人も知らないと言っていた…鳴上も知らないと言っていた…」

「見当もつきませんね」

シンはそういうと、堂島に紐を返した。

 

堂島は数秒、シンを見ると

「相変わらず、表情に変化がないな」

「生まれた時くらいは泣いてたと思いますよ」

シンの皮肉に堂島は鼻で笑うと続ける

「…いや、悪かったな。事故、直後だってのに…それと、本当に菜々子をありがとう」

堂島はそう言って、松葉杖をつきながら去っていった。

 

 

 

「あのね、お父さん」

「なんだ?菜々子」

「菜々子ね…白い髪をしたおじさんに言われたの『陸に戻られよ』って。でね、菜々子みんなの声に呼ばれて歩いていたら、戻ってこれたの。」

「?何の話だ?」

「…うーん…わかんない…でも、気付いたらベットの上にいたの…」

「?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

―所謂、ツンデレ。―

 

 

 

 

ここはボルテクス界のギンザ。

嘗てはニヒロ機構という、氷川という人間が支配していたが、死亡後、数と圧倒的な強さを誇ったカオス、ヨスガ勢力に圧倒され、その息を潜めている。

 

 

「どうなの?ギンザ大地下道は」

「どうですかね…隠れ穴が多くて困ります」

ピクシーはクーフーリンは大きな噴水の近くで話していた。

 

「それにしても…つまらないわね」

「そうですね、実に退屈ですわ」

ピクシーの言葉にティターニアが答えた。

 

「…ヨヨギはどうしたのよ、あんた。」

「別に退屈なので?問題は起こらないと思いますけど?」

ピクシーとティターニアは睨み合いを始める。

「あらあら、さぞかし退屈なんでしょうねぇ?」

「ええ。それはもう、退屈過ぎて頭がもげるくらいですよ?」

「あら、なら、私がもいであげようかしら?」

 

クーフーリンは冷静に二人に言った。

 

「お二人方。こんな所では暴れられては困ります」

「……ふん」

「…では、私はまた、退屈な場所に戻るとしますよ。」

そうティターニアは言うと、ターミナルの部屋へとフワフワと行った。

 

「仲が悪いのですね。」

「…違うわよ。本当に仲が悪いんじゃ、補佐なんかにしないわよ。」

ピクシーはぽつりとそう答えると、どこかへ飛んでいってしまった。

 

 

クーフーリンは空を見上げると、呟く。

 

 

「師匠。私には分かりませぬ。」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

―遺物―

 

 

新宿に街を作っている悪魔たちから連絡が来た。

シンはすぐに新宿衛生病院のターミナルへと向かった。

 

通常、悪魔たちの作る造形といえば、禍々しいものを想像することが多いし、事実そういうものが多い。

しかし、人間であった悪魔が王ということもあり、今回のは人工的なビルが多く建ち並ぶ新宿になるとシンは建設中の街を見て思った。

 

シンはそこから少し、チヨダ寄りの場所で発掘をしている、トートに呼ばれていた。

 

「どうした?」

シンは浮いて目を閉じているトートに話しかけた。

「…恐らく、国会図書館の物でしょう。多くの知識が地下から見つかりました。」

「…ふむ…よし。それらは全部、アマラ深界に持ってくるように頼む」

「仰せのままに」

トートはそういうと、オニやモムノフなどに指示をする。

 

 

 

「…それが、この壮観な光景を作り出したってわけ?」

嘗てはシンがメタトロンと激戦を繰り広げた、広い部屋に本が大量に積まれ、山になっている。

 

「絶賛、部屋を作っている最中だ。」

多くのオニが床を作っている。

大きな真ん中にある柱をくり抜き、階段を作る。

そして、階層を増やしていき、本を置くつもりのようだ。

くり抜き作業は、力自慢のオンギョウギが行っている。

 

「はぁ…もう、アンタの趣味に関しては首を突っ込まないわ」

ピクシーはそういうと、手で丸い形を作る。

 

「…」

シンは無言でマカロンひと袋を渡した。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

―アマラ経絡―

 

 

 

「あれに関しては我々でもわからないことが多い。」

バアルはグラスを揺らしながら答える。

「何れ、違う世界にも繋がるのか?」

「…そればかりは分からんな。今回のもたまたま見つけただけだ。それに、常に移ろい行くあの経絡。

見つけたとしても、今回のように安定させられるほどの力を持った者と交渉出来なければ意味がない。」

ルイも少し濁った金色の壁を触りながら言う。

 

「…終着点があるとすれば、そこには膨大なマガツヒがあるのだろうな。」

シンは床を流れてゆくマガツヒを目で追い、真っ暗な闇へと消えていく様をみていた。

 

「或いは、終着点にヤツが居るのかもしれんな」

「…ヤツは概念でしかない。倒しようが無いだろう」

「何れにせよ、カオス勢力は常に進むのみ」

バアルはそういうと、グラスの中にあったマガツヒを床にわざと零した。

 

マガツヒは床に吸収され、大きな流れとなった。

 

 

「小さなものも、やがては大きくなる。雨粒が大海になる様にな」

「…流石は嵐の神か。」

「ふん。」

ルイの言葉にバアルは鼻で笑った。

 

 

「…ここのマガツヒは氷川の作ったシステムにしっかり流れてるのか?」

「…さぁな。ここまで離れていると、ニヒロの巨大ターミナルでも、集めきれないだろう。」

「では、やはり、どこかへ集められている…ターミナル以上の力で…」

「…そうでなければ、流れは起きない。大海が存在する筈なのだ…」

ルイもシンと同じく真っすぐと伸びた通路の先を見ていた。

まるで、その先に確かに何かが居ると確信しているようだった。

 

 

 

「…帰るか」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 




複数の話がそれぞれ、短いのでくっつけました。
日常を書きました。
なので、面白くないです。

一番上の話だけ少し書き方を変えてみました。


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第63話 Christmas 12月25日(日) 天気:雪

いつもの様に目が覚めるシン。

ベットから這い出る。

 

「グルルル、主オハヨウ」

ケルベロスがシンに擦り寄る。シンは頭を撫でると、カーテンを開けた。

 

「…相変わらず爽やかでない朝だ」

 

それもそうだ、午前4時だ。日など昇っているはずもない。

シンは曇ったガラスを袖を使いガラスを拭く。

 

「ホワイトクリスマスというわけか」

「?ドウイウ意味ダ」

「雪が降っていて、積もっているからな。真っ白。故にホワイトクリスマスという訳だ。」

「ユキ…喰エルカ?」

「食べたきゃ、メリーに持ってきてもらえ。恐らく、もう起きて朝食がテーブルにならんでいるころだ。」

 

シンはそういうと、襖を開ける。

テーブルに着くと、朝の食事量とは思えないほどの量が出てくる。

 

「間薙様。おはようございます」

「ああ、おはよう」

 

そういうと、シンはテレビをつけ、椅子に座った。

シンはそれをゆっくりと食べながら、テレビを見る。

テレビはクリスマスの事で溢れ返っている。

 

「…何故、これほど騒いでいるのでしょうか。」

「俺には、わからん。騒がしいというより、イベントを素直に楽しめなかったタチだからナ」

「…何故でしょうか。」

「…さぁ、な」

 

シンは濁すように首をかしげた。

 

 

「さてと、惨事は防ぐべきだな。」

シンはスマートフォンを取り出すと、メールを打ち始めた。

 

 

 

 

環境や場所が人を変えると言うが、俺の場合そうでもなかった。根本は何一つ変わらない。

 

無性に孤独感に襲われていた。

 

小学生の頃家に帰って誰もいない、夕食も一人で食べ、一人で布団の中に入っていた。

何もない天井をいつも見上げては、どうしてこうなんだろうと思う日々であった。

 

そんな時に、親が貸してくれた図書館のカード。

今でも覚えている。有名大作SFを初めて見た時の感動は未だにこの身に染み付いている。

 

派手なアクションシーン、キャラクター達の心情描写、面白いストーリー、仕掛け…

 

それがこの世界だと思った。

 

それから、毎日DVDか本を図書館で借りた。

それが楽しくて仕方なかった。

 

 

そのせいか、中学や高校でもあまり騒がしいことは苦手であったし、非現実的な事も案外すんなりと受け入れていた。

 

しかし、孤独感は消えなかった。

一人になった時、不意に襲ってきた。

 

 

「非現実的な事?」

鳴上は尋ねる。

 

「同級生が親を殺した事件があった。その第一発見者が俺だった。たまたま、近所の人だったしプリントを渡しに行った際に血まみれのその同級生が玄関から出てきたのを覚えている。」

 

「なんつー思い出だよ…」

花村は深刻そうな顔で言った。

 

 

「それでも、俺は特に変わりなかった。

どこか…映画の中のような感じがしてな。

結局、俺は現実逃避の為に空想という名の理想郷に逃げたのさ。」

シンの話に花村は唸った。

 

「…分かんなくもねぇかな…俺もこんな町、退屈だって思ってたしな。それで、ペルソナっていうすげー能力を手に入れて、浮かれてた。

でも、天城助けるときに軽く怪我した時に、本当に命のやり取りしてんだなって、実感したわ。

それに、どんな事にも終わりがある…

けどさ、今はそうは思わねえんだ。」

花村は思い返すように言う。

 

「俺は、たった一人の"花村陽介"だって気付いたからな。」

花村はそういうと、鼻の下を得意げに擦り、鳴上を見た。

「そうだな。」

鳴上も答えるように頷いた。

 

 

「ってか、センパイ達、なんで毎回ココ集合なんスか」

「さ、さささささむいクマ…」

完二とクマは椅子がガタガタと音を立てるほど震えながら言っていた。

 

「…ブェックシ!!」

花村はくしゃみをする

「…確かにな、中入るか」

 

真っ白なジュネスフードコート。

そこには無論、その5人しかいない。

 

 

 

「この時期は、流石の俺もバイトだわ。」

そう言って、花村とクマはバイト着に着替えていた。

そして、ケーキを陳列していた。

 

鳴上は用事があるそうで、どこかへ行ってしまった。

 

 

「とりあえず、夜までどうします?」

完二は革ジャンのポケットに手を入れていった。

「食材を買おう。」

「そうしますか」

 

 

シンは適当な鍋の食材を探していた。

完二がカートを押す。

 

「…豆腐は…りせのやつが持ってくるって言ってました」

「なら、肉や、野菜か」

「センパイは料理上手いっすよね」

「隣の家にコックがいた。親がいないことを知った為に俺に料理を教えてくれた。結果的に家庭科という授業は評価が高かった。」

「それで、なんか言われたりしなかったんスか?」

「…お前は言われた、たちか」

シンは完二の表情を見ていった。そして、カートに豚肉を入れた。

 

 

「…まぁ…そうスッね。」

完二は苦い表情をする。

 

「男じゃこうだ、女ならこうだって、それがウザったくて」

「…気にするなというのは無理な話だな。」

「そうっすよね。」

「…俺はそういうのを気にしなかったからな」

「ハハッ…そうすっよね。」

完二は少しだけ溜息をはいた。

 

「俺から言えることがあるとすれば、真面目に続けてみればいい。そのうち、周りも何も言わなくなる。」

「そんなもんなんスかね?」

「そんなモノだろう?」

シンはカートに牡蠣を入れた。

 

「…」

完二は考えているようだ。

 

「…あまり、悩むな。自分の好きなものが明確に分かっていれば、それをやっていればいい。」

「そうっスよね!!」

 

完二とシンは買い物を続けた。

 

 

 

 

 

夜…

 

 

「で、なんで、あいつらは別々にケーキを作ってきたんでしょうか?それも、全員別々に…」

「オレ達、死ぬンすか?」

「…クマまだ、死にたくないクマ…」

「…鍋に救いを求めるしかねぇ…」

花村は2人でコンロの前に立っている、鳴上とシンを見た。

「或いは、直斗か…」

本を読みながら、直斗は正確に量を測って作っている。

直斗は時間が取れなかったと言っていたので、急遽作っている。

 

他の面々は満身の顔つきで、テーブルに座っている。

そこには、普通のホールケーキの箱よりも、少しだけ小さ目の白い箱が3つあった。

 

「こ、今度こそは大丈夫だっつーの!!」

「味ちゃんとするから、大丈夫だと思う」

「私はタバスコいれてないから大丈夫ッ!!」

「…いや、ケーキにタバスコは入れねぇよ…」

完二は小声で突っ込んだ。

 

 

 

鍋は後回しにし、先にケーキを食べることにした。

三人がそれぞれケーキの箱開ける。

「お、見た目は悪くない」

それぞれ、別々の種類のモノを作ってきたそうだ。

だが、誰がどれを作ってきたのは秘密らしい。

チョコ、ショート、チーズ。

直斗はティラミスらしい。鋭意、製作中である。

 

「じゃぁ、オレァ王道のショートイタダキマス…」

完二はそういうと、ケーキを皿に取り一口食べた。

 

「ん!」

「なんだ!どうした!完二!ジャリジャリしてんのか!?ブヨブヨしてんのか!?」

「…美味いっス」

 

「な、なんだってー!!」

花村もショートケーキを一口食べる。

「あ、普通に美味いわ」

「じゃあ、クマはこのチョコ貰うクマ!!」

そう言ってクマはチョコのケーキを食べる。

 

「うーん………美味しいクマァ」

 

向こうは非常に盛り上がっている。

シンと鳴上は鍋の具合を見ている。

 

「…何かやったのか?」

鳴上はシンに言う。

「…防げるものは防ぐ、最善の方法だ。」

「…何をしたのか、教えて欲しいものですね」

直斗はシンに尋ねる。

 

「簡単だ。彼女達の性格を考えればな。

負けん気の強い里中さんは、簡単。『勝つには本を手本にすればきっと良くなる』と。

天城さんは真面目な性格だし、何故だか料理の腕も上がっているようにみえた。」

シンは鳴上はちらりと見る。

「?」

「天城さんに関してもクリアだ。

りせも簡単。『鳴上の為に美味しいケーキを作ってればいい』」

「それだけですか?」

「簡単な話だ。俺も一撃は避けたいのさ…」

シンはそういうと、遠い目をした。

 

 

 

その後、出来上がった鍋に舌鼓を打ったり、クマがサンタの格好をしたり、どのケーキが美味しかったかと鳴上に恋人三人が迫り、ある種の修羅場となったりなどで盛り上がった。

鳴上はこの時のスリルは探索よりもあったと後日語っている。

 

 

 

「…あー食った食った…」

「もう、食べられないクマ。」

ケーキもしっかりと全員で食べる。

直斗ケーキも美味しく出来ており、ぺろりと男性陣が食べた。

 

「うむ。余は満足じゃ」

「フフフ…千枝誰の真似…」

 

「でも、一年って早いね」

「そうだな。何か特に今年はいろいろあり過ぎてって感じだよな」

りせの言葉に花村が反応した。

 

「ってか、スキーの話だけど…」

「ああ!でも、どこ行くんだっけ?」

「近いところでとれた場所に行く予定だ。宿泊代は気にしなくていい」

「ってことだし、俺たちは交通費とかだけでいいみたいだな。いや、でもホントに助かるわ、年末なんだかんだで金使う時期だしな。」

「まぁ、そうだな」

花村は鳴上のほうを見ていって、鳴上はゆっくりと頷いた。

 

 

「クマ、トランプしたいクマ!!」

「毎度毎度、隣でデケェ声出すなよ!!クマきち!!」

「ヨースケはウツワが小さいクマ」

クマはそんなことをいいながら、ゴソゴソと上着のポケットからトランプを出した。

 

「まぁ、クリスマスだしやるか。」

「お、じゃぁ、何する?」

「みんなが分かるやつがいいね。」

「クマ、ババア抜きなら知ってるクマ!」

クマはそういうと、トランプを鳴上に渡した。

鳴上はそれを開けると、開封しジョーカーを一枚抜いて混ぜ始めた。

 

「ババなババ。ババア抜きとか、なんか失礼だろ。完二じゃねーんだから。」

「俺カンケーねぇじゃねぇっスか」

そんな事をいいながら、皆に配り終わった。

 

「やっぱ、こんだけ居るとそろわないね」

「そうだね」

千枝の言葉に天城が答える。

 

「…じゃあ、クマから引くクマ!!」

そう言って花村のカードを一枚引いた。

だが、揃わなかったのか、浮かない表情だ。

 

「へへっ、そんな、簡単にそろわねーっつーの!…うーっし!!」

花村は鳴上の手札から引いた。

 

 

 

 

「上がりだ」

「だー!!おかしいだろ!お前、なんかイカサマしてねぇか!」

花村は悔しそうに言った。

 

「花村センパイは運がないねホント」

「"ペルソナは心を表す"とはよく言ったものですな」

「う、うるせぇ、知ってるよ!俺のペルソナは明らかに運のステータス値が低いからな!!」

花村はカードを勢い良く置いた。

 

「それにしたって、6連敗ってどういう事っスか」

「ヨースケは本当に弱いクマ」

「…寧ろこれだけやって、負けていない、間薙先輩も先輩だと思いますが」

直斗はシンを見て言った。

 

「…お前!なんか、イカサマしてないか!」

花村はヤケクソだ。

「してない」

「クソーッ!!なんで、俺は毎回ついてねぇんだ!!」

ガクッと肩を通した花村であった。

 

 

「…でも、こうして、終わってみると本当に終わったって感じるね」

「そうだねー。犯人も捕まえたし、菜々子ちゃんは順調みたいだし」

「来年はクマはー、ナナちゃんとの約束を果たすクマ!!」

 

 

 

帰り道…

シン、直斗、りせは帰る方向がほぼ同じのため、共に帰っていた。

「センパイは楽しかった?」

「まぁ、な」

シンはポケットに手を入れて歩く。

「直斗は?」

「僕も…楽しかったですよ」

「もう、素直じゃないなんだから、センパイは」

「素直でいるには少しばかり精神的な年を取りすぎた」

 

皆が白い息を吐いた。

 

「でも、センパイってそういうところが、カッコイイかもね。普通に映画みたいなセリフもサラリと言ってのけるし…」

「そう言われると、照れる」

シンは表情は変わらないものの、髪の毛を2,3回掻いた。

 

「…センパイは私みたいに迷わなかった?」

「?」

「私はほら、自分自身と演じてるりせちーって言うのが、悩んでた…

センパイもきっとそうなのかなって」

りせはいつもより真剣な顔で尋ねた。

 

 

「俺は寧ろ、りせが羨ましい。」

「え?」

「りせは自分自身を知っている。

でも、俺はずっと仮面を付けていた。昔からずっとずっと、自分を殺してきた。

何度も"自分"が叫び声をあげていたのに、俺は耳を塞いで無視していた。」

シンは止まっている車の雪を手に取ると、小さく丸めた。

 

「そしたら、やがて聞こえなくなった。

でも、その代わりに"自分"を忘れてしまった。」

シンはその雪玉を本当に軽く塀に当てた。

雪玉はすぐに崩れ、真っ白な周りの雪にとけこんだ。

 

「…仮面を付けていた。ではない、仮面をつけざるを得なかった。

その点、りせは良い。お前は本当の自分にわずかでも耳を傾けた。

それが重要なことだ。少しでも怖くなったら、耳を傾けてみるといい。」

シンはそういうと、手を払った。

 

「…」

りせは納得したように頷いた。

 

「…今はどうですか?」

直斗はシンに尋ねる。

「今か?今というよりは、受胎後、他人という写し鏡が居なくなって、また自分の声が聞こえるようになった。俺はそれに従うことにした。

でなければ、こんな好奇心旺盛にこんな事件に首を突っ込んだりはしない。」

そう答えると少し笑った。

 

「なーんだ、センパイ笑えるじゃん」

「…」

シンは足を止めてふと、後ろを振り返った。

静寂の闇の中で何かが尋ねている。

前の様に姿が見えず、ただ声だけが聞こえている気がした。

 

 

 

 

 

コレハカワリマスカ?

 

 

 

 

「変わりません…」

「?」

直斗は足を止めたシンに気がつき、シンの元へときた

「どうしました?」

「…いいえ、変わっていきます…」

 

 

 

 

 






つまらない話で申し訳ないです。

恐らく、スキーイベントまで退屈な感じになると思います…。


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第64話 I Don't Have Any Pray 12月31日(土) ~1月1日(日)

昼間。

シンは病院に来ていた。理由はあの闇医者の付き添いだ。

 

「…このたびは本当にありがとうございます」

「気にするなハハハッ」

ケヴォーキアンはそう言って答えると帽子を被って出てきた。

 

「大晦日だと言うのに…」

「医者に暇なしさ。こんな外部の病院に呼び出されるのだ」

 

 

ケヴォーキアンはポケットに入っている封筒を取り出し中身をちらりと見るとそれをシンに投げた。

シンはそれをキャッチする。

 

「なんだこれ」

「いらん。金など。そんなもの、俺には必要ない。

お前にはメリーを変えてもらったお礼とでも思ってくれて構わん」

「…そうか。」

 

シンは断わる事もなくそれを雑にポケットに入れた。

ケヴォーキアンと共に病室から歩き始めた。

「なぜ、オレがあの患者を救ったと思う?死の医者と言われている俺が」

「…さぁな。あまり興味はない。」

「そういうな、混沌王。

人には死ぬタイミングというものがあると俺は思っている。あの患者はまだ生きたいと願った。それを叶えた。」

 

「だが、俺は神ではない。救いたくても救えん命を数多く見てきた。

だがな所詮、他人の死は『物体』であり『数』でしかない。

俺が救おうとも救わないとも、あるいは死にたいと願おうとも、死ぬ。いつか、必ず死ぬ。

お前たちのような存在を除いてな。」

ケヴォーキアンはそう言って笑う。

 

「しかし、どんな死も『物体』と『数』でしかない。

いくら多くの人間が戦争で死にその倍以上人間が悲しもうとも、関係のない人間にとっては、テレビの中の世界で、数秒表示される"『数』でしかない。

動かなくなった人間、所謂『死体』は意識を持たない『物体』でしかない。医学的死を"死"とするならな。

ましてや、俺の場合は特に、大切に思う人間も居なければこの世界に愛着を持っているのはメリーくらいだ。」

 

ケヴォーキアンは足を止めた。

「だが、自分の死はどうだ?決して触れる事の無い、自分の死。」

 

ケヴォーキアンはそういうと、無邪気な笑みを浮かべる。

 

「俺は死んでみたいのだ。何故なら、好奇心。その一点に尽きる。

…お前と同じだ。ただ、方向性が違うだけだ。」

 

「誰も体験できない、俺だけの死。それがどれほど最高の瞬間なのか俺は知りたいのだ。

その時、俺は何を思う?何を後悔する?誰が隣に居てくれる?」

 

「想像するだけで興味が尽きない。」

 

ケヴォーキアンの顔はまるで夢でも語る子供のような、晴れやかに澄み切った目で語る。

 

「何世紀も前から同じ種類の人間が死に生まれてきていると言うのに、俺はいなかった。

俺の今の意識を持って、今の状況、今のこの瞬間をすべて持ち合わせている人間はいなかった。

それほど、感動的な瞬間があると思うか!?」

 

「量子力学の否定など知らん!

俺は今、この瞬間が"俺"なのだ。誰が否定しようとも、俺は俺なのだよ。

例えるなら…そう!信仰!信仰に近い。俺は俺の存在を信仰しているのだよ!!

全知全能とされている西洋的神などというものより、今この俺を俺と足らしめている俺を信仰するべきだとは思わないか!?

それが、仮に神の恩恵だとしても、だ!!」

 

「人は死ぬ。ならば、天国地獄や輪廻転生、それらすべてのあの世という世界を除いて、絶対的にこの生涯の最後に訪れるであろう死と向き合った瞬間。

俺という人間が、ちっぽけな塵の様な存在が、あまりにも巨大的で絶対的な概念と向き合う瞬間ッ!!

そこにどんな心境が生まれる!?絶望か!?希望か!?

概念と一対一で向き合う。まさに、神と対等に向き合うような感覚に似ているのだ!!!

ハハハハハハハッ!!!!」

 

「…」

シンは口の前に人差し指を立てた。

周りの人が二人を見ている。

ケヴォーキアンはすっと、口を塞ぎ、周りにお辞儀をして謝る。二人はそそくさと階段を降りた。

 

「失敬。…少しばかり興奮しすぎた。

死は俺にとって目標である。

だが…俺はまだ死ぬ気にはならん。

まだこの世界、現象、物自体で俺には知らないことが多すぎる。

それを知ってからでもその最高の瞬間を迎えるのは悪くはないという話だ。」

 

「…」

 

「だから、俺は"自分の死"の前に"他人の死"を理解しようとした。

それには他人の生を理解せねばならない。俺は患者の意思を尊重することにした。

生きたいと思う人間は何故そこまで生きたいのか。

死んでも構わないという人間は何故死んでも構わないのか…

俺はそれを理解しようとした。結果的に死の医者と呼ばれ忌み嫌われる理由だ。」

 

「…死の医者か。しかし、それがどうして、人造人間と繋がる。」

「そればかりは俺も分からん」

「?」

ケヴォーキアンの思わぬ言葉でシンは首を傾げた。

 

「意味などない。できたから作った。それだけだ」

「…ふっ、お前らしいな」

シンは少し笑って答えた。

 

すると、病室から堂島と菜々子が出てきた。

 

「よう。なんだ、来てたのか」

「ええ。まあ」

「…そっちは?」

「ご存知かと思いますが、一応名乗りましょう。ケヴォーキアン・メンゲレと言います。

一応、彼とは友人でしてね。」

ケヴォーキアンは丁寧にお辞儀をし淡々と答える。

 

「…そうか。」

「じゃあ、失礼するよ。俺はまだ、くだらない仕事が残ってるんだ」

「ああ」

 

ケヴォーキアンはそういうと、白衣をはためかせ去って行った。

 

「…どういう知り合いだ?」

「腕が良い医者なので、仲良くしてもらってます」

「…そうか。」

 

「あの人はお医者さん?」

菜々子はシンに尋ねる。

「たぶん…ね。」

 

堂島と菜々子、そしてシンは堂島たちと歩き出す。

 

「仮退院ですか」

「ああ、まあな」

「菜々子ね、クマさんに人形もらったの!!」

菜々子はそういうとシンにクマの人形を見せてきた。

 

「クリスマス一緒に祝えなかったからか…」

「そういえば、お前一人だろ。元旦、ウチに来ると良い」

「…それは迷惑では?」

「一人増えたところで、悠の作るものの量が増えるだけだ…」

そう言って、堂島は笑った。

 

「なら、そうします」

 

堂島たちはシンをバイクの置いてある場所までついてきた。

シンはバイクに跨ると、ふとクマのぬいぐるみを見て思い出す。

菜々子にプレゼントをあげていなかった。

これは、鳴上に殺されるだろう。

 

さて、何がいいか。

変なモノを上げるわけにはいかないだろう。

シンはとりあえず適当に四次元ポケットから取り出すことにした。

 

シンはポケットから光る石を取り出した。

3カラットほどの透明な輝く石だ。

無傷で無色なモノだ。

 

「クリスマスプレゼントをあげていなかった。あげる。」

「わー!!!綺麗!!」

そう言って菜々子は嬉しそうに受け取った。

 

「すまんな、ありがとう」

「大切にしてもらえるとありがたい。」

「うん!!大切にする!!」

 

それはダイヤモンド。価値にすると…想像に任せることとする。

二人はそれを知るよしもない。

 

 

 

流石にこの時期のバイクは寒い。

それに雪があるので滑るが、シンのバイクは滑らないようになっている。

ルイの特注らしいが、原理は不明だ。

雪の上も関係なく走れる。

 

しかし、辺りは車の走っている様子はあまりない。

大晦日。当たり前と言われれば当たり前と思われる。

 

昔は年越しといえぱ、妙な高揚感があった。

テレビ番組は変に騒がしく、周りの人も妙に浮かれて楽しそうな雰囲気があった。

今は何とも言えない、不思議な感覚がある。

 

他人事なのだが、そこにいる自分。

 

そんなとき、どうやって反応したらいいのか。

素直に喜ぶという行動をしたこと無いシンにとって行事というのは、どこか苦行的な意味合いも含まれていた。

 

残念ながら、シンは信仰心などとうの昔に捨てている。

祈る神は、シンにはいない。

 

 

 

 

深夜…

「うー!!寒いっスね!!」

完二は肩を震わせながらシンに言った。

「…ああ、夜は冷える。」

「ほんとっスよ」

完二は寒そうに震えていた。

 

「遅くなった」

鳴上が歩いてきた。

 

「わりい!遅れた!」

「クマーす!シン君、ごめんクマー。ヨースケのせいクマよ。」

 

「寒かったな」

「ええ、寒かったッスよ」

 

「つか100パー、誰がどう考えたってお前のせいだっつーの!!!

ついさっきまで、社員とバイト総出で福袋全部詰め直してたんだよ。

…誰かさんが値段見ねーで、何でも福袋に詰め込みやがったせいでな。」

クマを花村はにらみつける。

 

「フフーンフーン。 デュッワッデュッワ~。」

クマは関係ないと言った感じで踊りだす。

 

「お・め・え・だ・よ・ッ!この…クマ野郎!」

花村はクマの襟を掴み、軽くゴスッと頭に拳骨を打ち込む。

 

「…そ、そんなことより、センセイ。ナナチャンとパパさんは?」

「無茶だろ、こんな寒ィ夜中に。

堂島さんも菜々子ちゃんも、まだ仮退院中なんだしよ。」

「菜々子に無理はさせられない」

完二の言葉に鳴上は頷いた。

 

「では他のみんなは?なにゆえ男子ばっかりクマ?

ま、まさか…男同士で気楽に…とか、ありがちな恋の乾燥注意報…」

 

 

「ちげーっつの。」

花村はあたりを見渡し、腕時計を確認した。

 

「つか、あいつら遅えな。もう時間過ぎたろ。」

 

「天城先輩ん家に一旦集まって…とかスかね。その…なんだ。"晴れ着"とか…」

完二は恥ずかしそうに言った。

その言葉を聞いた瞬間、クマの目が輝き鳴上に詰め寄る。

 

「は、はれぎ!セセセセンセイ!はれぎ!」

「落ち着け」

鳴上は冷静に返した。

 

「だな。お前ら、うろたえ過ぎだっつーの。」

花村はそう言って、完二を見た。

「オレぁ別に…!」

「顔に丸出しだけどな…」

 

「あーでも晴れ着りせちー、とかは確かにお宝っぽいよな…

うお…もしかして直斗もか?言われるとこう、思わず…」

 

花村がそんな想像をしていると、下駄の小気味よい音が遠くから聞こえてきた。

そして、晴れ着の四人が現れる。

 

「お待たせ。」

「ごめんねー!」

「カイロ買いに行ってたら遅くなっちゃって。」

「すみません…」

 

「…」

「……」

花村と完二は茫然と四人を見ていた。

 

「なに、その薄っすいリアクション。」

千枝は少し顔を赤らめて、花村達に言った。

 

 

「アイエエエエ!はーれーぎーはー!?」

クマはどこかの一般人が忍者でも見つけたような声を上げ、興奮していた。

 

「晴れ着って…夜中のうちに行って帰ってくるのに、着ないから…」

「だーよーなー!ハイハイ、分かってましたとも!」

花村もすこしキレ気味に言う。

 

「るっさ!なーに勝手に期待してキレてんのさ!」

千枝もキレ気味に返す。

 

「晴れ着みたいな勝負服はね、もっと"ここぞ"って時に着なきゃ。」

「え、晴れ着って勝負服?」

そして、花村は気付く。

 

「…つかそれ、さりげなく射程外って言ってますよね。」

「さりげなくは言ってないよね。」

天城がぐさりと花村達に言葉のナイフを突き刺す。

 

「心ん中、寒いっス…」

 

「あの…時間を気にしませんか?入口でカウントダウンすることになりますよ。」

直斗は時計を確認しながら、皆に言う。

 

「やべ!二年参りじゃなくなっちまうな。」

「元旦0時にみんなで、とか、私、初めて!」

 

「私も去年までは、旅館のみんなとばっかりだったな。」

天城も思い出すように言う。

 

 

「ていうかさ…」

千枝はそういうと、皆を見た。

 

「良かったね。みんなで平和に来れて。」

 

 

その言葉に皆が微笑んだ。事件が無事に終わり、こうして年を越せるのだ。

千枝の言うとおり本当に良かったと皆が思っている。

 

「…だな。よし、じゃ行こうぜ。」

 

 

そう言って、皆神社の中へ入った。

 

 

皆が神社の中へ入るとさすがの雪が凍った足元の悪い中だが、人が多少なりともいた。

 

りせは手を口に近づけ、寒そうに息を吐いた。

「うーさむい!!」

そう言って手をこすり合わせる。

 

「あっちで甘酒配ってたぞ」

「だーめ。年明けてから」

完二がそういうも千枝にそれを止められる。

 

「ねー来年はまだこないの?」

皆が一斉に携帯電話を開く。

「そろそろ、ですね!」

 

「よーっし!!!5、」

「4!!」

「3!!」

「2!!!」

「いっち!!!」

 

「…?」

シンは声が聞こえなくなったことに首を傾げた。

皆、固まっている。

辺りを見ると、人間の動きが止まった。時間も止まっているようだ。

シンは知っている、この異様な感覚と、不自然に止まった物体や時間を感じた事がある。

 

 

 

「…随分と久しいな」

シンはため息を吐いた。

 

「そうだねぇ…君が時間の概念が存在しえない場所に居たから、会うことが出来なかったからね」

そこには真っ白な服を着て、真っ白な目と真っ白な髪と肌。

 

姿形は少年。しかし、どこか異様さが滲みでている。

 

シンにしか接触してこない、自らを『監視者』と名乗る者だ。

五月ごろに見た夢の対話…あれも、こいつとしていたことだ。

愚かだとシンを言ったものの、あくまでも力を見る為だと後に言われた。

 

実に食えないやつだと思う。

ルイやバアルと同じように。

 

『偉大な意志』とも無関係だと自ら言っていたが、実際はどうだか不明だ。

それが何を意味しているのか、シンやルイ、そして悪魔全体も知らない。

何故なら、シンにしか接触をしてこないからである。

 

何度も接触をしているものの、こっちがいくら攻撃しようとも、死んでは生き返り、死んでは生き返る。

だが、向こうは攻撃をしてこず常に現れては消えるということを繰り返している。

俺もやがて、殺し続けることをやめた。

 

興味を持った。

監視者という存在に。

 

 

「それに、キミを探すのに随分と苦労しちゃったしね」

「…それで、用事はなんだ。こんなところまで」

シンは気怠そうに髪の毛を掻いた。

 

「あけましておめでとう!!間薙シン君!!!」

「…まさか、そんなくだらないこというために来たのか?」

シンは鼻で笑う。

 

「僕はね、やっぱり、気に入ってるんだよ。

君がどれだけ、呪われようとも、君がどれだけ、深い闇の底に落ちようとも。」

 

そういうと、りせのポケットにあるカイロを取る。

 

「僕はあくまでも監視者。関与は許されない。それをやってしまったら、僕が消されるらしいから…」

そういうと、カイロをりせのポケットに戻した。

 

彼はあのヒジリとは違うと言っていた。

彼は『偉大な意志』とは謁見したこともないが、確かに自分はあらゆることを監視するものだと定めを受け行動しているにすぎないと言っていた。

 

それが、誰に与えられたものなのか。

彼は考えてみたが、答えは出なかったそうだ。

 

少年は分厚い本を取り出すと、何かを記し始めた。

「…この世界は…西暦2012年を迎える…人の世界っていうのはこうやって時間を積み重ね行くんだねゑ。

そして、終わっていくんだ。」

 

「それを決めたのは『大いなる意志』または…『偉大な意志』のせいだろう?」

「さぁ?実際、ボクも疑ってるんだ」

そういうと、本を閉じた。

 

「ボクも会ったことないから。でも…いや、やめておこう。僕は所詮、監視者だから」

そういうと、微笑み胸元から懐中時計を取り出した。

 

「…またね、間薙シン。面白い話をまた聞かせてよ。

今のキミは随分と穏やかだから、きっと面白いことをしたんでしょう?

僕はすべてが分かる訳ではないからね…きっと面白いんだろうなあ。」

 

「構わない。どうせ、この世界の事件が終わればまた、退屈になる」

シンはポケットに手を入れた。

 

 

 

監視者は嬉しそうに微笑むと、言葉を紡ぐ。

 

 

「…我を忘却し救い(たま)え」

 

 

そういうと、すーっと白い姿が消えた。

 

 

「「「「「おめでとーっ!!!!!!」」」」」

「…おめでとう」

 

シンは少しタイミングが遅れてしまったようだ。

 

 

「いやぁ、明けたねぇ!!」

「うん!」

千枝と天城は嬉しそうに話している。

 

「おめでとうございます」

「おめでとうクマ!!」

「お、おう」

直斗の言葉に完二は恥ずかしそうに答えた。

 

そんな会話をしていると、ふと雪が降ってきた。

 

「おお!雪クマね!!!」

「新年早々雪見れるなんてな!!」

 

「…」

「…」

 

シンと鳴上は暗い空を見上げていた。

そこから無数に降り、そして、自分の顔に付き溶ける淡い淡い雪を。

芯から凍えるような寒さの中、じっと眺めていた。

 

二人は共に、空を見上げていることに気が付き。

そして、顔を見合わせた。

 

「…おめでとう。シン」

「ああ、おめでとう、鳴上」

 

 

二人は違う世界の人間と悪魔。

人種というより、人間ですらない彼らが確かに共に時を刻んでいった。

 

 

 

また、新しい時間が進み続けるのだ。

 

 

 

 

 

 




ケーヴォキアンはまさにマッドサイエンティストと言った感じにしたかったので、それが表現できたかな?

リアルでも年明けが近づいてきましたね。
こうやって、年を重ねて行くのだと思うと感慨深いのと同時に息苦しささえ感じます。

では、次はスキーの話を書こうと思います。
そして、救出の話へとつながる訳です。

そこで、実は本編では2月に行っているんですが、1月にしようと思ってます。
理由はシンとマリーとかの話を書いてみたいなとか思ったんですよね。
なので、一月にしました。

ちょっとこの辺が記憶があいまいでして、一月って特にイベントがなかったような記憶なので、そうしようかなって思ったんですけど…
たぶん…大丈夫…ですよね…(´・ω・`)


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陳列された偽物の愛情『睦月』
第65話 Vagueness Memory 1月4日(水) 天気:晴れ


気が付けば真っ暗な世界でうつぶせに倒れていた。

そこはかつて、ルイを倒した後の世界に似ている。

 

何もない。

ただ、黒いという事だけが認識できるような場所だ。

 

俺は鉛のように重い首を横に向けると見慣れた顔の人間が俺を見ていた。

立ち上がろうと力を入れようとしたが、力無く、まるで死んで逝く様な感覚であった。

何度か体験している。カレーの時は一撃だったのでそうではなかったが、何度となく死にかけたのは事実だ。

 

特に今の住処である、アマラ深界は酷いものだった。

それぞれのカルパはなぜか、飛び降りる仕様。

変な丸い石が行く手を阻み、当たれば重力と言う名の加速がその衝撃を増す。

一番のものは、ベルゼブブの呪いの廊下だ。完全に殺す気だった。悪魔もそこの悪魔も強く、まさに満身創痍の様相を呈していた。

バアルとなった今でも、その性根の悪さは加速している。

 

 

「…フフッ」

 

死ぬのだ。思い出して笑ったっていいじゃないか。

 

いずれにしても、今、俺は立ち上がれず、彼らは相変らずの無表情で俺を見ていて、死ぬような感覚があるのはたしかだ。

 

勇、千晶、先生、鳴上達が俺を真っ黒な床の上に立ち、俺を見下ろしていた。

その目は何か、俺に訴えかけるようなこともなく、ただただ俺を見下ろしている。

その目に俺が映っていることがわかる。

暗い筈なのに、妙にくっきりと見える。

 

そんな目を見ていると嫌なことばかり思い出す。

 

何故だろうな。

 

…ああ、そうか。

 

子供の頃、俺はいつもこんな目を向けられていたんだ。

 

 

『こいつは自分たちとは違う。』

 

 

だから …少しでもみんなと同じになろうとしたり、何かを知った気で言い格好つけてみたり…

 

だが、考えてみれば、みんな本当の事ではなかったのかもしれない。

きっとそれで何か良いことがあるかもしれないと心の底で思っていた。

きっと、誰かが何とかしてくれる…

 

体が沈む様に重い…

 

…俺ではだめなのか?

…俺では…あの真っ暗な世界を変えられないのか?

 

地べたにへばりついた、あの真っ黒な血が

地べたにへばりついた、この真っ黒な体が…

地べたについた、この真っ黒な空が…

 

 

 

「…此処に居たんだね。」

 

 

 

 

 

 

 

「間薙先輩」

「…」

直斗はそうシンの肩を揺らすも起きる気配はない。

 

「起こさなくてもいいんじゃない?まだ着かない訳だしさ」

千枝がそういうと、ハートの3を備え付けの簡易机に出した。

 

意外にも、バスは空いておりポツポツと人がいる程度である。

それもそうだ。穴場なのだから。

 

あれだけの大雪が降ったが故に滑れるような場所なのだ。

 

そんなバスの中で皆は普段通りの盛り上がりで居たが、シンは窓の縁に肘を付いて寝ていた。

隣には直斗が座っており、シンを起こして再びトランプでもと思ったがどうやら深い眠りについてしまっているようだ。

 

「こいつ、ホント最近忙しいみたいでさ、年初めのバイトしてもらおうと思っても連絡つかなかったしな」

「そうみたいだね。元旦以降忙しかったみたいだしね。」

「王様って言われてっけど、実は一番苦労してそうっスよね」

「…したが、しただからなぁ…」

 

花村の言葉に皆が想像した。

ルイという悪魔。彼に関しては不明だ。しかし、バアルやピクシー、ジャックフロストなどを思い出すと、どうも自由気ままな悪魔が多い気がする。

事実、直斗のシャドウ戦はボコボコにされたことが記憶にあたらしい。

それをまとめ上げるのだから大変だと思われる。

 

花村もシンの苦労がわかる。

休日は入れると言いながら、実際にはいらないバイトがいたり、一方でチーフなどにはしっかりとそういったことを伝えなければならないし、クマの後始末と板挟みの中、花村はバイトをしている。

 

それ故に、シンの大変さが身にしみる程わかるのだ。

 

 

「はい。僕は上がりです」

直斗は四枚まとめてカードを出した。

 

「うっそ。ここで!?」

「革命かよ!!!…うわ、俺の手札一気にゴミになったぞ」

「ってか、クマよくルール分かってんな。」

完二がクマを見る。

「クマはーこの日のために覚えたクマ!」

「へえ、何で覚えたの?」

「ヨースケの部屋にあった、合「だーっ!!お前はわざわざ言わなくていいんだつーの!!」」

 

そんなことをしながらスキー場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

スキー場に着くと、花村や千枝は早々にスノボーを始めた。

初めのうち千枝は何回か転んでいたが、運動能力が高いのか、すぐに慣れ花村と共に勢いよく滑っていた。

 

鳴上は滑れないりせに教えながら滑っている。

完二は滑れるので鳴上と同じ要領で直斗に教えているようだ。

 

クマと天城はただの垂直落下の如く、物凄い勢いで滑り降りるだけ。

そして、再びリフトで上がる。

 

シンは案外、滑れるようでマイペースにスノーボードをしている。

 

 

シンが頂上から滑ろうとしていると、隣に陽介並んだ。

「よう。シン。」

「花村か」

「お、なんだかんだスノボにしたんだ」

 

「まあ、これの方がいいと思った」

 

シンはスキーもスノボーもやったことがないと言っていたが、花村に少し教えてもらっただけで、その身体能力の異常さと理解力の高さであっという間に滑れるようになった。

 

「じゃあ、競争ね!負けたらジュース奢り!」

千枝はそういうと、すぐに滑って降りて行った。

「あ!ずりぃぞ!こら」

「…仕方ない」

 

シンは滑りながら、まるで、スパコンのように最短距離を脳内で叩きだす。

悪魔の無茶苦茶な攻撃を避けれるほどの動体視力、

数秒、コンマ秒でも短くしようとすると、あっという間に二人を抜いた。

 

「うお!速!」

「わ、私も負けてらんない!」

 

 

結局、シンは下に付いたすぐあとに千枝が付き、その後数秒後に花村が付いた。

シンと千枝はスノボを外し並んでいた。

「はい!花村おごりね」

「…お前ら本当に初心者かよ」

 

花村がスノボを外そうとした瞬間、何かが太陽を遮った。

「?」

「…里中さん。一歩後ろに」

シンが小声でそう言った。

 

「え?うん」

千枝はそれに従うように一歩下がる。

 

「ったく…なんだってうお!!!」

 

大きな手と足が生えた雪玉が、花村と共に更に下に転がって行った。

そして小さな小屋に突っ込んだ。

 

「…新生物だな。」

「まあ…ある意味そうなんじゃない?」

 

そこへ、鳴上とりせそして、恐らくその新生物と滑っていた天城がそれを茫然と見る。

そして、天城はツボに入ったのか笑いだし、りせと鳴上は顔を合わせると笑った。

 

 

 

 

 

「いつつつ…ったく、何しやがんだよ…」

「センセイ達が居たから避けようとしたら、宙を舞ったクマ」

「ある意味すげぇよ、それは」

花村は雪を払うと言う。

 

「それよか、どうよ?俺のスノボテクは。惚れ直しちゃっただろ?」

「滑ったっつーか転がってたってほうが正確じゃないっすか。それに毎回クマの野郎俺に突っ込んできやがって」

完二は腰を押さえながら言った。

「カンジはナオちゃんと、ワンonワンレッスンなんてズルイクマ!!」

「そうは言っても、僕は立っているのがやっとでしたから…」

「もう疲れたよー。足ガクガク」

りせも直斗も慣れないことをしたためか非常に疲れているようだ。

 

「明日明後日、もある訳だし、今日はもう引き上げようぜー。里中は腹へってねーの?」

その言葉に思い出したように里中は飛び上がった。

「忘れてた!…今減った!ペンションの夕食、なんだっけ?」

 

「舌平目の無国籍風料理だったかな…

だって、無国籍風っていうのが気になったんだ…」

天城は少し嬉しそうに言う。

 

「"無国籍"なのに"風"なんですね…つまり、どういう味なんでしょうか」

「俺も予約をしながらそれは思った。

"風"ということは…恐らく…『多国籍と思われているけど、実は同じ国の料理でした。』という感じなのか?」

「…どんなものなんでしょうか。謎ですね」

「興味深くてな…俺もそれで良いと思ったんだ」

直斗とシンは無国籍風というものに魅かれているようだ。

 

「なんか、自信ないときに付けるイメージ。"無国籍風"って」

「シェフもお前らには言われたくないだろうな…」

 

そんな会話をしながら、シンが予約したペンションへと向かった。

 

 

 

 

「こちらが鍵でございます。間薙様」

「ん」

シンは管理しているペンションの受付で鍵を受け取る。

 

「…ここ、滅茶苦茶有名なところじゃん…」

「マジでか!?」

「うん…だって、ウチの事務所の社長が行くっていう場所だし…」

「な、なんですてぇ!?っていうか、どうして取れたの?お金は!?」

 

「まぁ、色々と方法はある」

シンはそういうと、カバンを持ち上げた。

 

「なんか、お前がいうと怖いわ…」

「おお、流石、おお…おお??おおお!?」

興奮したクマが何かを言いたそうに高まるも言葉が出てこずに一気に冷め切る。

そして、陽介を見た。

 

「およ…なんだけ?ヨースケ」

「オークラ大臣な」

花村がクマに言った。

 

「"お"だけで分かるって、もう花村とクマは一心同体だな」

鳴上はそういうと、笑った。

「…ヨースケ、クマの心…あげちゃ「気持ちわりぃからやめろ!!!」」

 

そんなことをしながら、ペンションへと向かった。

ホテルのすぐ近くにあったそのペンションは明らかに大きく。

豪華な雰囲気がだだよっていた。

 

 

「おお!!でけぇ!!!」

「それに、すごい、高級そう!!」

ラウンジには大きな暖炉と、座り心地の良さそうなソファなどがあった。

ラウンジからは湖と何ものにも邪魔されない、澄み切った湖があった。

 

「うおー!!こんなところ、この先ぜってぇ泊まれねぇ!!いいのか!?いいのか!?こんな豪華なことがあって!?」

花村は妙にテンションが高く、ソファにダイブするように座った。

 

「噂には聞いてましたが、本当に素晴らしい所ですね」

「それに、凄いお風呂でかかったよ」

流石の直斗や天城も嬉しそうだ。

 

「うおー!!肉だ!!肉だ!!」

千枝は明日の献立を見ているようだ。

 

「自由だなお前たちは」

シンは冷静に荷物を降ろし、ソファについた。

「良いところだ」

鳴上も表情はあまり変わらないものの、どこか楽しげだ。

 

 

そのあと、女子達が先に風呂に入り、男子達はソファでくつろいでいた。

 

 

「無国籍風…うむ…平凡だな」

シンは食材を冷蔵庫から出しながら、言う。

 

「残念?」

「…期待値より平凡で面白みがない」

鳴上はそのシンの反応が面白く笑った。

花村達もそれを見て笑っていた。

 

「?何がそんなにおかしい」

「いや…なんでもねー」

花村がそう言いながら笑っているのをシンは首を傾げる。

 

鳴上達は最近、直斗とシンをセットで見ていると面白くて仕方ないのだ。

普段は冷静で、シンに限っては刺々しささえある。

 

しかし、不思議なことに彼らは疑問を持ち、子供のように話を始める。

今回の無国籍風料理の件もそうだ。

それにこの前もそうだ。

 

 

「…何故、商店街に異質な"だいだら。"という店が生き残っているのか…」

「…客単価が高いのかもしれません。」

「なるほどなー」

 

シンはアイギスのように言う納得すると頷く。

そんなことを話している二人を鳴上が目撃した。

そのギャップで思わず笑ってしまった。

 

花村もジュネスで同じような光景を目にしているため、笑ってしまった。

 

 

 

「…」

鳴上の監視体制を信じて料理は女性陣に任せることにした。

シンは湖に迫り出したバルコニーに出た。

 

寒空の下、シンはバルコニーにある椅子の雪をどかし、座ると空を見上げた。

 

「…うっっ、寒いですね」

「どうして出てきた」

「僕も星を見たくて…」

 

シンは直斗を案じたのか、外で暖を取るための火鉢のようなモノに火を灯した。

それにより、少しだけ暖かくなった。

 

「いいのか?料理の方は」

「ええ、鳴上先輩の先導の元やっていますから」

そういうと、直斗は笑った。

 

「さながら、カルガモの親と子のようでした」

直斗の例えにシンも少しだけ口元を緩める。

 

直斗はシンの前にとあるものを出した。

「これ、持っていてください」

「…"たんていちょう"か」

シンはそのメモ帳らしきものを開く。

 

「ウチに強盗が入ったというのは、嘘でした。祖父が僕に思い出させようとさせたんです」

「知っていた」

「…そうだと思いました。」

直斗は予想通りと言った雰囲気で頷いた。

 

「薬師寺さんが『彼はあなた様と同じ、あるいはそれ以上の探偵能力があります。』と祖父と話していましたから。」

「過大評価だ。俺は探偵ではないし、経験もない。君の祖父には敵わんさ。」

シンはそういうとたんていちょうを閉じた。

そして、直斗に渡す。

 

「?いえ、これはあなたに「君が持っていた方がいい。大切な探偵としての経験の記録だ」…はい」

直斗はそういうと、それを受け取った。

 

シンはそうすると、バルコニーの先端まで行った。

 

「…ずるいですね。あなたは、やっぱり。」

直斗はボソりと小声で呟く。

 

「何か言ったか?」

シンは直斗の方に振り返った。

 

「い、いえ!何でも、な、ないです」

直斗は顔を赤らめて首を横に振った。

 

「 そうか」

シンはそうすると、空を見上げて、月を見た。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、今日はふつーに飯が食えて感動しているぞ」

「ちょっ、それどーいう意味?」

「そのまんまの意味だつーの。」

花村の言葉に千枝が噛み付いた。

 

「結局のところ、無国籍風というのは普通だったな」

「形容し難い味でしたが、美味しかったことは確かです」

 

「でも、センパイと料理出来て楽しかった!」

りせは嬉しそうに鳴上に言うと鳴上も頷いた。

 

 

 

「…じゃあ、俺達も風呂行くか。」

「クマ、完二ははもういってるみたい。」

 

シンと鳴上、花村は風呂場に向かった。

 

 

「おー、脱衣所も広いな…」

そこには、簡易的とはいい難いほどの、広い脱衣所があった。

 

「旅館のようだな」

花村は早々に風呂場ヘと向かった。

鳴上もシンもそれに続くように入る。

 

 

「おー!!こっちも広れぇ!」

蛇口が3つあり、普通の風呂と露天風呂があるようだ。

「いいところだ」

「うむ。風呂はこうでなくてはならない。広く、そして、美しいじょ…「うひょー広いクマー!!」「泳ぐなよクマ野郎!!」…」

シンは景色を見ようとすると、そこには露天風呂で泳ぐクマ達がいた。

 

「…」

「…」

 

シンは何も言わずに外にある洗い場へ行くと無言で温度を冷たい方に回す。

そして、クマを狙いシャワーのボタンを押した。

 

「うひゃあああああ!!!!」

クマがその冷たさにクマは飛び上がる。

 

「風呂で泳ぐな。情緒というモノがなければならない。」

「わ、わかったから、と、とめるクマー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その声はラウンジまで聞こえていた。

「まったく、あいつらっ…」

千枝は目頭を抑える。

 

「ってゆーか、直斗はどうなの?」

「な、何がでしょうか?」

「間薙センパイと?」

りせの質問に直斗は少し顔を赤らめるも、少し悲しそうに言った。

 

「間薙先輩は僕にとっての憧れの人なんです。…恋愛感情を持っていないと言えば…う、嘘になります。」

「やっぱ、そうなんじゃん」

千枝がそう突っ込んだ。

 

直斗は咳をすると言った。

 

「話を戻しますが…詮索するようでいけないことなんですが、間薙先輩はまだ、僕たちには言ってないことがあると思うんです。」

「そう?…結構、赤裸々だった気がするけど…」

りせは思いだながら言う。

 

「うん…私もなんかあると思う」

天城は少しだけ、ばつが悪そうに言った。

 

「…?どういうこと?」

 

 

「疑問があるんです。

何故、間薙先輩はこちらに残っているのでしょうか。」

「…そういえば、言ってなかったけ?まだ、やることがあるみたいな事を。」

 

「そのやることというのは何なんでしょう。」

直斗はそういうと、考える。

 

しかし、間薙シンという、底知れぬ人物に対して答えを導き出すのは不可能に近かった。

 

「ま、だいじょうぶっしょ!なんだかんだね!」

「…ち、千枝。ど、どこから来るの、その自信は」

天城はそういうと、笑い始めた。

 

皆もそれにつられるように笑った。

 

 

 




気が付けばもう年末、愈々、1つまた西暦が年を取り、また繰り返す…
まだ、生まれて短いが、いつも嫌な気分になりますな…

と、頽廃的な自分です。

さてさて、この作品も何だかんだ長続きしてますね。
一応、完結目指してますけど、どうなることやら…
計画性とか無いんで、盛り上がりなく終わると思います。そうならないように、努力はしてみます…

では、皆さんよいお年を。


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第66話 Watch Me Over 1月4日(木)・5日(金)

 

 

ラウンジで皆で持ち寄ったお菓子をつまみながら会話をしていた。

 

 

「クマのやつ風呂入ったつーのに、また出ていきやがった…」

花村はそうはいいつつも、少しだけ期待しているような顔であった。

 

「ああ。あの女子大生がどうのこうのってやつか」

「とか言って、花村もクマ吉に加わりたい派なんでしょ?」

「えーサイアクー」

花村はその言葉で少し凹んだようだ。

 

「悠先輩はそんなのより、私達と、ってか、私と一緒に過ごす方がいいよね?」

りせの質問に鳴上も困っているようだ。

「ま、まぁ、さ、泊まりで男女混合って言ったら「やだ。」」

天城に即答され、花村のテンションが更に下がった。

 

「ごめん、トランプて意味だった?」

「ナイトスキーとか行っちゃう?憧れちゃうな…」

「でも、それまたお風呂とか入ることになっちゃわない?それに、もう今日は疲れたかな…」

 

千枝の言葉にりせもうーんと唸る。

確かに疲れもある。

 

「じゃ…ってか、間薙センパイは何やってんスか。」

「百物語だろ?」

「賛成!」

天城は嬉しそうに賛成した。

 

百物語。本来はロウソクを100本に火を灯す。

そして、怖い話をそれぞれがしていく。

1つ終わる度に、ロウソクを一本消していく。100本目が消えたとき、何かが出るというものである。

 

 

「いや、そういうのは普通、夏でしょ? 」

「うっ…それは私も不賛成かな…」

りせは少し嫌そうな顔であった。

 

「あれ?実は怪談とか苦手派か?」

りせはその言葉に少しおこる。

 

「山はあるんだって、マジで!あんな体験、ロケん時だけで十分よもう…」

「ななな何!?ややややめてよ!」

千枝は慌てだした。

 

「うちの旅館、けっこう色々あるよ!?おトイレ無いはずの離れに泊まったお客さんに"おトイレ暗いですね"って言われた話とか、そこのお部屋ね、お盆になると、写真がうまく写らなくなる時があるの!」

「ホンモノすぎるッ…」

「ライドウも何かを感じると言っていたしな…」

「更に補強された…」

シンの話に千枝は震える。

 

「あ、そうそう。この辺の山、はにわとかよく見つかるんだって。実はこの山自体が大きなお墓だったりして」

 

その言葉に直斗が慌てて立ち上がった。

 

「ででで伝承というものはあくまでも物語的要素が強い文化的な産物でして、かか科学的裏付けなどはなく、「怖いんだな」…」

花村の言葉に直斗は恥ずかしそうに席についた。

 

「じゃあ、せっかくだし、怪談しようぜ」

「…」

 

 

 

一部は仕方ないと言った雰囲気でうなずいた。

 

「天城かシンが最後な。まず、俺から…」

 

花村はそういうと、丸い一人用ソファに座った。

するとしーんと静かになった部屋に時計の針の音だけが響き始めた。

妙に心地悪い速度で針の音が刻まれるのだ。

 

 

「えっとな…もう3年前か。中学ん時、ダチから聞いた話なんだけどさ。

なんかそいつの高校の姉貴が、結構いいトコの私立の高校行ったんだけど、悪い友達できてさ。女同士ツルんで、同じ学年の子イジメてたらしんだよ。毎晩遅く帰ってきちゃ、携帯で仲間とギャハハつっていじめのこと話してたんだけどさ。」

 

「ある日、いきなり真っ青な顔で帰ってきて、以来、黙って部屋に閉じこもるようになったらしんだ。事情訊いても全然シカト。けど、耳澄ますと独りの部屋で繰り返しつぶやいてんだってさ…」

 

 

「"次は私の番だ…"って」

 

 

「流石に心配になってそいつ、姉貴の仲間から話聞こうとしたらしんだ。ところがさ…仲間の子、みんな原因不明で倒れて病院送りになってたらしい…

いよいよ怖くなって、どうしようって悩んでたら、その晩の11時半過ぎにいきなり…」

 

 

「ギャーーーッ!」

花村が驚かせるように立ち上がった。

怪談怖い組はビクッと反応した。

 

「…って部屋に居た姉貴が叫んでさ!部屋入ってみたら、両耳手でふさいで、"呼んでる…!聞こえる…!"って!

でもそいつには何も聞こえなくて、その直後、姉貴は家を飛び出してってさ…

次の日の朝、学校の校門前で、仲間と同じく、意識不明で見つかったらしい。

結局、病院運ばれて助かったらしいんだけど、あとで学校の人に事情聞いてみたらさ…イジめてた子…死んでたらしんだ」

 

 

「その子の怨霊が、一人ずつ呪っていったんじゃないかって…」

 

 

「ギャァァー!!!」

千枝は思わず叫び、耳を塞いで立ち上がった。

「アハハハハ」

天城は笑い始めた。

 

直斗は焦った様子で言う。

「あ、あり、あり得ない!その話には、け、決定的な矛盾があるっ!」

だが、直斗はふと、思い出した。

「…あれ、でもその話、確か実際、警察に届け出があったような気が…」

 

 

「辰巳ポートアイランド」

シンが言う。

 

 

「?」

「俺の知っている話なら、いじめられていた子は生きている」

シンは冷静にそう言った

 

「「「「え!?」」」

「名前は山岸風花。今では大学に行ってる。」

 

「な、なによー…」

ふぅと何となくリアル性が薄れたのかため息を吐いた。

 

 

「でも、その話は本当だ」

「え?」

「…これ以上はややこしいから、想像に任せる」

シンはそういうと、ソファに寄り掛かった。

 

 

「じゃあ、次シン。」

「えぇえ!?」

「いや、もっと怖い方が良いかと思って…」

 

 

「…じゃあ、オレも一つ。」

 

シンはそういうと、いつもと変わらぬ表情で語り始めた。

 

 

「こうやって、とあるコテージで若い人が怖い話をしていた。

その日は湖でみんなで釣りをしてコテージに泊まるって話だった。

それで、とある男が一人で違うところに釣りに行ったんだ。

その後、夜にもなったし、合流して、夕食を食べて怖い話をってなったんだが、それが酷く盛り上がったせいか、その男が一人でトイレに行った。

 

その男は素直な奴で、ちょっと間抜けだが、根はいいやつ…まさにクマみたいなやつだった。

それで、まぁ、あいつは置いておいて怖い話を続けようってことになったんだが、

いつまでたってもその男が帰ってこない。」

 

「流石におかしいってなって、みんなでトイレにいくと。誰もいないんだ。

おかしいなってなって、コテージ内を探し回るんだけど、どこにもいない。

それで靴を見てみるとどうやら、外にいってる。

そしたら、仲間の一人が、その男が湖に向かって歩いているのが見えたっていうから、みんなで外に出たんだ。」

 

「でも見つからなくて、おかしいってなって、みんなで探してみると案外昼間にそいつが釣りをしていた場所に居たんだ。

そいつは湖を眺めてて、"どうしたんだ?"って聞くと、何にも答えずにコテージの方へと歩いて行ったんだ。

皆、首を傾げてまぁ、寝ようってことになった。」

 

 

 

 

「そしたら、次の日…起きると、そいつがいなくなってて、死体で上がったんだ。」

 

 

 

 

「それで、死んだのはどうやら。脚を滑らせて、頭を打って気絶して死んだらしい。

そして、そのまま湖に落ちて呼吸が出来なくなって死んだんだが…」

 

 

 

「その死亡時間が…夜じゃなくて、昼間だったんだ。…ということは…夜一緒にいたのは…」

 

 

「キャァアアアアアアア!!!」

と次はりせが叫び声をあげた。

「アハハハハッおもしろーい!!!」

天城は笑っている。

 

「…なんか、いまの妙にリアルだったな」

流石の花村もブルッと震えた。

 

 

 

 

「霊ってのは案外、すぐそこに居るものだ」

「え?」

 

 

 

シンが窓を指差す方向を皆が一斉に見ると、そこには血まみれのクマが立っていた。

 

「た、たずけるクマァアアアアア」

「キャァアアアアアアアアア!!!」

 

それと同時に電気が落ちた。

千枝やりせなどの悲鳴が響きわたった瞬間、ドタバタ何かが飛んだり、誰かが動いたりと、もうひっちゃかめっちゃかになる。

 

「うおっ!誰だ!つかむんじゃねえ!!!グホッ…」

「怖くない…怖くない…怖くない……」

 

「ちょっと!!どこ触ってんのよ!!!!」

 

鳴上はリーダーとして、電気を付けるスイッチを手探りする。

椅子から立ち上がった瞬間、何者かのパンチを喰らうも、鍛えられた"根性"で耐える。

そして、壁にたどり着くと、手探りでスイッチを探した。

 

 

そして、パチりとスイッチをオンにした。

 

 

そこに広がっていた光景はひどいものであった

 

 

いつの間にかクマはテーブルの上に立っており、お菓子をむさぼっていた。

りせは千枝と抱き合っており、天城何事もなく座っていた。

花村は腕を組んでたっており、完二は倒れていた。

直斗はシンに倒れ込むように蹲り、シンは不動のまま、鳴上の方を見た。

 

 

「みぃいぃぃーたぁあああーなぁああああ。

クマの居ぬ間にお菓子ザンマイとは…のろっちゃうくまぁあああああ」

 

そんなクマのテンションとは一切違うさんにんがいた。

 

()っちゃおうか」

千枝は無表情で立ち上がった。

「うん。()っちゃおう」

りせも無表情で立ち上がる。

「ごめんよ…クマくん…人権は人間にしかないんだ」

直斗も無表情で立ち上がった。

 

クマの周りを三人が囲む。

「ちょ…ベイビーちゃんたち!?目が光を失ってるクマ!!

な、なんでそんな本気クマ!?」

 

「あったりまえでしょ!?クマ吉!あんな手の込んだことして!サイッテーッ!!!」

「な、なんのことクマ!?クマは、みんなに見られないように電気を消しただけクマ!!」

 

 

「「「「「…え?」」」」」

皆が驚いた顔で言った。

 

 

「え?だ、だって、クマさっき窓からのぞいてたじゃねーか」

花村も恐る恐る尋ねる

「?クマはふつーに玄関からひっそりと入ってきたクマ。

その時に、シン君が怖い話してたから、その時を狙ったクマ!」

クマは耳を塞いでおどおどとしている。

 

 

「おかしぃ、じゃねーか。だって、間薙センパイの話が終ってから、窓にクマがいたんじゃねーの?」

完二は殴られた顔をさすりながらいった。

 

「…え?じゃあ、窓のクマって…」

「そ、そん、そんなはずありません。だって、クマ…、クマ、クマ、クマ君は…」

「?何を皆、怯えてるクマ?…ハハーン、分かったクマ!クマの登場にみんな放心状態クマ」

クマは嬉しそうに答える。

 

 

 

「きゃぁああああああああああああ!!!!」

 

 

皆が意味を理解した皆が叫び声をあげた。

 

 

 

 

 

 

『よくやった。』

シンは皆が怯えている中、念通でニャルラトホテプに言った。

『ハハハハッ…面白きことだった。しかし、適当に話を作り出すとはな』

『真実なんていつもそんなモノだ。』

シンはそういうと、ため息吐いた。

 

 

 

 

 

 

深夜……

 

 

皆、シンの話が相当きたのか、ラウンジで眠り始めた。

仕方なく、皆をシンや鳴上、天城が連れていくのだが、不安だと抗議があり、なおかつ、シンのせいだと皆に言われ、シンは仕方なく、起きていることにした。

 

無論、女性陣と男性陣の部屋は分かれており、もう、皆眠りについたのだろう。随分としずかになった

 

 

「…」

シンは真っ暗な部屋の中、小さい音でテレビを見ていた。

 

 

『ユウレイ!?見えるのか、シン!!』

『ま、まさか…』

『すっげーっ!いいなぁ。』

その言葉に驚いた。

『え?…し、信じるの?』

『当たり前じゃん!だって、お前ヘンな所あるし、何より友達だし』

 

 

 

 

シンは勇との会話を思い出す。

シンは初めて、人に信じられたと思い返す。

いつも、シンは嘘つき呼ばわりされ、やがてそれを口にする事さえ止めた。

 

勇ははじめはオドオドしているところがあったが、いつの間にか社交的な人間になっていた。

驚く位の早さだった。

 

だからこそ、そこから落ちてしまった時の絶望に耐えられなかったんだと思う。

誰もいない世界。そして、誰も助けてはくれない世界。

 

やがて、昔の自分を思い出し拒絶することを選んだ。

 

 

シンはそんな、考えを払った。

(夜というのは嫌なことばかり思い出す…)

 

暖炉に魔法で火を灯す。

 

 

 

 

 

 

朝…

 

 

「…」

直斗が真っ先に目を覚ました。

と言っても、目覚めは悪い。悪夢だ。

幽霊の話など聞くんじゃなかったと今後悔をしている。

 

だが、妙なのはシンが悪魔ということを受け入れていることにあると直斗は思う。

 

自分はそういうものが苦手であることを感じた。

しかし、悪魔というとどうもニュアンスというか、身近な雰囲気がない。

しかし、自分がペルソナ使いとなったためなのか、幽霊よりは、恐怖の対象になっていないのが事実だ。

 

 

直斗はラウンジへ行くと、シンがソファに座り、後ろ向きのまま手を挙げて言った。

 

「おはよう」

「お、おはようございます」

 

直斗はお湯を沸かす。

 

「本当に起きていたんですね」

「…ああ。色々と嫌なことを思い出していた」

「夜というのはそういうものですからね」

「違いない」

 

シンはソファから立ち上がると伸びをする。

そして、窓から湖を見た。

 

 

雪のその燐光が眩しく、湖一面が光っていた。

また、日は昇り、日は沈む。

 

 

「また、"今日"が始まるのか」

 

 

 





あけましておめでとうございます。

さて、今回はちょっとホラーな感じでしました。

理由はといいますか、元々、こういう話にする予定でした。
半年くらい前に、『古伝降霊術 百物語〜ほんとにあった怖い話〜』の実況を見まして、『ああ、こういうの使えるかなぁ』と思いながら早半年たちやっとかけたわけであります。

まあ、本当にクマのくだりは適当な話なので。





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第67話 Forgotten 1月5日(金) 天気:晴れ

スキー二日目

 

その日は日が暮れるまで、ゲレンデで過ごすことにした…

 

 

「よーっし!今日も滑るぞーっ!」

千枝が昨日と同じテンションでそう宣言するが、男性陣は少し疲れているようだ。

 

「お前、元気あんな。

昨日…ってか今日の夜中えらい遅くまで騒いでたのに。」

花村は少し疲れた表情でそういった。

 

「なんで知ってるの!?まさか…」

「あれだけ騒げば、聞こえますよ…

壁薄いですって、何度も言ったのに…」

「し、仕方ないでしょ!?間薙センパイが本気でビビらせにきてたんだから…」

りせは動揺しながら言った。

 

「でも…音だけなんだ。」

天城は安心したようだ

「…見られたのかと思った…あのカッコ…」

 

「トークも途中から結構キワドかったけどね。」

りせはそういうと、完二を見た。

「ごめーん完二、枕に鼻血ついちゃった?」

 

「アホか、誰が好き好んでオメー声に聞き耳たてんだよ。」

「俺は、ちょっぴり立てちゃうかもな…聞き耳。」

「クマは、ちょっぴり立てちゃったかな…聞き耳。ナオチャンのおっきさが…とか、ユキチャンの形が…とか、聞こえちゃった!」

クマは適当に話をでっちあげる。

 

 

「作んな、クマ吉!してないでしょ、そんな話!」

「ていうか"形が"って、それ、今考えたの…?わ、私…なんか変わってる!?」

天城は慌てた様子で言った。

 

「気にしすぎですから…というか、踊らされていますって…」

「もー、そんなことより早く滑ろ。」

そうりせがいうと、鳴上の腕をつかんだ。

 

「いこっ、先輩」

 

「…ちょっと待った。」

千枝がそれにどこかの衛兵並にストップをかけた。

「く、久慈川さん?ちょっぴり、あれですわよ?同じ人とばっかり滑り過ぎですことよ?」

「えー、だって丁度いいでしょ?千枝先輩と花村先輩はボードだし、クマと雪子先輩は直滑降ばっかで合わせてくんないし。」

 

「間薙先輩と直斗は完二に教えてもらえばいいわけだし?」

シンは今日はスキーをやるそうで完二に教えてもらうことになっていた。

 

熱戦を繰り広げる鳴上に好意というか恋愛をしている女性陣はそこから激論を始めた。

流石は六股。流石に鳴上もこういった状況に慣れてきたようだ。

冷静に状況を判断して、頭の中を高速回転させているようだ。

 

シンは大丈夫だろうと思い頷く。

 

「…俺たちは先にやっていよう」

「うっす!やりましょうセンパイ!!」

完二は気合充分といった様相だ。

 

「ま、まぁ、ノンビリな」

「お願いします」

 

 

山の中腹でシンと完二、直斗が練習を始めた。

 

 

「…どうだ?滑れそうか?」

「いえ…全く…」

直斗はへっぴりごしでブルブルと震えている。

「ビビってねえでもっと踵開かねえと逆にスピード上がっちまうぞ。

だから膝は内側に入れんだって。」

「でも、これ以上開くと絶対…こ、転ぶから!」

 

「大丈夫だつってんだろ。滑っちまっても俺が止めてやるから。」

 

そんな三人の横を早速、天城とクマが滑って行った。

 

「あれじゃ、何をしに来ているかわからんな」

「つーか単に止まれねぇとかじゃないすか?」

「クマはそうかもな。まぁ、俺たちはのんびりとやるか。スノボーより、俺にとってはスキーの方が難しいようだ。」

 

シンはそう言いながらも、徐々に慣れてはきているようだ。

 

 

 

 

その日はシンと完二、直斗は殆ど、練習をして終わった。

 

 

夜…

すっかり、日も落ち、ロッジ前に皆が集まっていた。

しかも、少し風も強くなってきた。

 

「おっせーな、相棒たち。」

「携帯もつながらないしね。」

「どうしちゃったんだろう。」

 

鳴上とりせ二人で滑りに行ったようだが、どうやらまだ帰ってこないようだ。

 

「…?」

シンが皆とは違う方向を向いた。

そして、携帯電話を取り出した。

 

「…なんだ?…では、今がチャンスということか…

…ああ…そうか、アマラ経絡を通らなければいけない…か」

 

「どうしたんです?」

直斗がシンに尋ねるが、手を前にだし、待てと言う合図を出していた。

 

「ああ。彼女もそれに感づいている?…おそらく。だが、つなげられないのが現状だろう

…ああ、接触してみてくれ…簡単にできるだろう?」

シンはそういって嘲笑すると、携帯を切った。

 

 

「…恐らく、迷っている。」

「えーっ!!!ど、どうするの?」

「といっても、鳴上の事だそれほど遠くには言っていないはずだ」

 

シンはそういうと、ライホーを召喚した。

 

「鳴上悠、久慈川りせを探せ」

「ナルカミ?クジカワ?…わからんホー」

「あー…」

シンはそう唸ると、他の皆を見せた。

 

「この中に居ないニンゲンを探せ」

「ヒホー!!"テイク イット イージー"ホー」

そう答えると、鬱蒼とする森の中に消えた。

 

「わ、私たちも探す?」

「いや、寧ろそれの方が危険だ。あいつはああ見えて優秀だ。すぐ見つかる。」

 

 

やはりすぐに近くの廃屋に居たとライホーから連絡があった。

シンに皆が付いていく。

 

 

「でもよ、この展開だと…ふつーにヤバい(・・・)状況だよな」

「小屋に居るらしいから問題ないだろう」

「ちげーよ…その…なんだ」

「?」

シンは完二の顔を見るが完二も分からないようだ。

 

 

林を抜けると、廃屋のような小さな小屋があった。

ドアを開けようと花村とクマが近づくと。

 

「ちょ…先輩、本気?」

ガタガタと物音がする。

 

「あわああああああ!!!!」

花村とクマがよからぬ想像をして、一気に小屋に突入した。

 

それに続くように皆も入って行った。

 

 

「ななな、なにやっとんじゃーお前らー!アイドルがそんなん、許されませんよ!?」

「ストォォップァァア!!全国が敵んなっちゃうクマァァー!!」

 

鳴上達は花村やクマに気が付き、立ち上がった。

 

「花村先輩…!?それに、みんな!」

酷く驚いた様子でりせは皆を見た。

 

「あれ…服、着てる。」

「このクソ寒みーのになんで脱ぐんスか。つーか花村先輩ら、テンション高すぎだろ。

さっきから何なんスか?」

「それ、口に出して説明しなきゃ、ダメかな…」

直斗は呆れた顔で答えた。

 

シンは鳴上達の後ろにある、テレビに目をやる。

シンには分かった。これがどこか繋ぐ地図になるような、そんな予感がした。

予感というより、確信に近かった。

 

そして、念通を始める。

 

『おい。バアル』

『はい』

『…運命とやらを信じるか?』

『さぁ?興味もありません。我々は常にやりたいことをやってきましたので。

それが例え、あの神の意志だとしても』

『…これは運命なのだろうな…ターミナル生成を頼む。』

『了解した。主よ』

 

 

「うお!!!」

突然現れた、バアルに皆が驚いた。

 

「失礼するぞ。」

バアルは鳴上にそういうと、テレビに触れる。

 

「シンも気が付いたか?」

「これは運命だよ鳴上。Deus ex māchinā(機械仕掛けの神)だ。」

シンはそう答えるとバアルと話を始めた。

 

「デウス…エ…なんだって?」

花村は首を傾げる。

「デウス・エクス・マキナです。簡単に言ってしまえば、どんでん返しです。しかし、…全く意味が分かりません。何がどんでん返しなのでしょうか。」

 

シンは話が終わったのか、立ち上がり腕を組んだ。

 

 

「さて…どこから話すべきか…」

「全部頼むぜ?分かりやすくな。」

シンは手を擦り合わせると、何かを始める様子だった。

 

 

 

「事件はすべて解決し、『アメノサギリ』を倒し、全てが元通りになった。」

「ああ。そうだけど…」

「だが、一つ欠けていることをお前たちは知らない。…正確には"覚えていない"というべきか。」

シンは白い息を吐いた。

 

「え?何かあったっけ?」

「うーん…」

「…曖昧なものだ、人の記憶というのは」

「何がいいたいんだ?」

鳴上がシンに言った。

 

「…繋がったぞ」

「少し強引だが、時間がないのは事実だ…」

「ちょ、詳しく説明してくれないと」

「悪いが時間がない…ついてから説明する」

 

シンはそういうと、バアルの生成したターミナルで消えた。

 

「…どうするんだ、悠」

「…シンのことだ。何か大切なことなんだろう。」

 

「行くなら早くしろ。あそこまで離れるとアマラはとても不安定な場所だ」

バアルはそういうと、ターミナルに寄り掛かり、ワインを飲む。

 

「とりあえずいきやしょう。ここに居たって埒があかねぇ」

完二はそういうとターミナルで移動した。

 

「…そうですね。突然の事で何がなんだか分かりませんが…仕方ありません」

直斗の言葉に皆が頷いた。

そして、皆がターミナルで移動した。

 

 

 

 

 

「…開いたぞ」

ルイがベルベットルームで言った。

 

「…こうして力を借りるとは思いませんでした。」

「私もだ。感謝することだ。混沌王に」

「…」

 

マーガレットはそう答えると、ターミナルで移動した。

ルイもそれに続くようにターミナルを手で回した。

 

 

 

鳴上達が目を開くと、そこには真っ黒な透明な床の中を無数の赤い玉が一定方向に流れて行き

少し濁ったような金色の壁に囲まれた通路だった。

 

しかし、入った時から感じた不快感が強烈であった。

ここに居たくない。まるで服の中を何かが這っているような、そんな感覚があった。

 

「ここはアマラ経絡。本来は直接つなぐつもりだったが…少しばかり色々と問題があってな。」

シンはそういうと、歩き始めた。皆もそれに付いていく。

ゾロゾロと歩いている中、千枝はりせに声を掛けた。

 

「大丈夫?りせちゃん」

「う、うん。ここ、すごいヤバい感じがしてて、気分が悪くなりそう…」

 

「この下の赤い玉は何クマか?」

クマは興味深そうに、床の中を流れる赤い玉を見ている。

 

「マガツヒと呼ばれるものだ。悪魔のエネルギー源みたいなものだ。」

シンは淡々と歩きながら説明する。

 

「…でも、これスゴい嫌な赤だね…濃くて…」

天城は少し困惑した表情で言った。

 

「意識存在が持つ精神エネルギーをマガツヒという。これは意識存在に苦痛を与えると放出されるものだ。」

「苦痛…ってことは」

「肉体的苦痛、精神的苦痛。拷問が一番手っ取り早いか。」

「…」

「事実、俺の友人は吸われすぎておかしくなった。最悪、吸われすぎると死に至る。

探査用ペルソナのりせは不快感を覚えるのだろうな」

「うん…なんていうか、テレビの中よりもっと、タチが悪いカモ」

 

「少しばかりの辛抱だ」

「大丈夫か?りせ」

鳴上がフォローに入る。

「ダメそう…背負って先「わ、私が背負うよ」えーっ…」

笑顔のりせを遮るように千枝がそういう。

 

「元気そうで何よりだ。」

 

シンは別れ道を左に曲がる。マガツヒも左の方へと流れている。

 

「これは、どこに流れてるの?」

千枝は不思議そうにシンに尋ねる。

「昔はアマラ神殿、ナイトメアシステムなど様々な場所に分散していた。しかし、今の殆どは俺の住む『アマラ深界』の宝物庫に流れるようにされている。ターミナルと同じ原理で集めている。だが…」

シンはそういうと、足を止めた。

 

「ここらはどこへ行くのかは知らん。アマラ深界からは遥かに遠くだからな。いわば、ここは無限廊下」

「ふーん…」

 

シンとともに再び皆が歩き始める。

 

「そういえば、何がデウス・エクス・マキナなのでしょうか。」

 

 

「…正直、これはタイミングが良すぎる。アマラ経絡は常に変動している。無論、お前らの世界と俺の世界を繋ぐように安定させることも可能だ。」

 

「だが、今回のところは元々閉じられ、開かれることのない世界だった。その世界の入口を無理矢理繋げたが、不安定な状態が続いていた。」

 

シンが左に曲がろうとすると、突然、その通路の先が消えた。

「ごらんの通りだ」

シンは肩をすくめると、右へ戻った。

 

「ここで、迷ったらどうなるスか?」

「永遠に迷い続ける。息絶えるまで。あるいは殺されて悪魔の餌になるか…」

「そ、それは最悪だ」

千枝はブルっと体を震わせた。

 

「その絶望的な状態でたまたま、先程安定し始めた。

しかし、道が変わってしまい、前に行った行き方は出来なくなっていた。だから、再びこうして、アマラ経絡を通らなければならない。」

 

「しかし、闇雲に歩くわけにはいかない。そんなとき、あのテレビが反応した。そして、道を示した。

あのクソ野郎の仕業でなければなんだというのだ。

まさに、解決困難な状況をクソ野郎が一石を投じたらご覧の通り、いとも容易く行けてしまう…」

 

シンは嫌そうに語る。

 

「あの状態のテレビはあくまでも、道標的な意味合いしか無かった。そのまま入ったとしても、恐らく拒絶され、入ることはできなかった。

だから、俺たちがこうして、それを辿りその世界の入口まで足跡を残さなければならない。

それと同時に、接続の安定化もこれで可能な訳だ。」

 

シンは行き止まりの壁の前で止まった。

 

「ちょっと待ってください。ということは、テレビの中の世界へ向かっているわけですか?」

直斗の質問に皆がそうだと思った。

 

バアルがテレビを調べていたのもそれが理由だと理解した。

 

「ああ。そして、場所さえ分かってしまえば、彼女が繋ぎ一定時間なら安定化してもらえる。」

 

 

「!?」

 

突然、目の前の壁が無くなり、光が射してきた。

そこから1人、人が歩いてくる。

 

「こんにちは。」

「…うわ…すげぇ、美人」

花村は思わずため息を漏らした。

 

「見とれてる場合じゃないって。誰?シン君か鳴上君の知り合い?」

千枝が鳴上に尋ねると鳴上は頷いた。

 

「…ご挨拶をしたいところなのですが、時間がないようなので先を急ぎましょう」

「とにかく今は、先にその場所に着くことが重要だ。」

そういうと、マーガレットとシンは歩き始めた。

 

マーガレットと共にルイが付いてきた。

 

みんなはとりあえず時間がないことだけを感じ取り歩き始めた。

 

 

 

「…掃討を誰にやらせた?」

シンは周りを見ながらそう言った。

 

「真面目が取り柄のやつだ。」

「クー・フーリンか…あと誰だ?」

「多過ぎて分からんな。溜りに溜まっている連中が大暴れしていたことくらいしか、私は知らないからな」

 

シンには容易に想像がついた。

概ね、セイテンタイセイやアルシエルなどの破壊神や魔王が出て行ったのが、容易に想像がつく。

 

シンは何もない、壁の前で立ち止まった。

 

「ん?どうしたんだよ。」

「開くぞ…」

 

シンがそういうと、まるで壁が嘘のように消えた。

先ほど、マーガレットが入ってきた場所のように光が射していた。

 

 

「さて、パンドラの箱になるか…俺にとっては楽しみだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

肝心なことを忘れてる、安全な場所から離れているけど、記憶は私を逃がそうとしない。

 

「…思い出…」

 

嘘だらけの自分をうめつくす。

呼ぶ声に安心して目を開けるとまた自分が作った世界の景色。

私は再び目を閉じる。記憶の中で私はキミを見つける。

 

記憶が私を縛り付ける、あの楽しい思い出に私を縛り付ける。

 

「…何期待しちゃんてんだろ…バカみたい…」

『マ…』

「!?」

『マ…』

「…うるさい!!」

 

耳を塞いでも聞こえてくる声。

私を記憶の中で呼んで、またあの思いを蘇らせた。

私が言いたいことは、もう思い出なんて忘れてしまいたいということばかり。

 




Forgottenはマリーの心情を思い、題名に付けました。
でも、未練があったりなどの気持ちを最後に少し抽象的に書いてみました。

発想は有名海外アーティストの曲名からです。
最後のものちょっとその歌詞を変えただけのオマー…もほ…パクリです。


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第x6話 Meta

少し時を遡り、元旦の話である。






元旦。

 

 

堂島と菜々子が仮退院の為に自宅に帰ってきた時に、シンもおじゃまをしていた。

 

鳴上お手製のおせちに菜々子は嬉しそうにそれらを食べていた。

 

食べ終わり、鳴上の部屋でシンはくつろいでいた。

片付けも終わり、鳴上が階段を上がり部屋に来ると、早々に溜息を吐いた

 

「…なんだ、らしくないな。おせちを作るのがそれほど大変だったか?」

「いや、そうじゃないんだ。…その、なんというか…」

鳴上は机の椅子にゆっくり凭れると話し始めた。

 

 

「時々、テレビの中で死ぬ夢を見るんだ。寝てるときに見るんじゃなくて…その、テレビの中の戦闘で死ぬんだ。」

「…続けてくれ」

「とても、変なことだとは思うんだが、俺がどこか違う視点で、俺が死ぬのを見ていて、りせなんかが、声を掛ける。

それで、暗転して、気が付くといつも、テレビの中の広場にいるんだ。」

 

シンはふむと、唸ると思考を巡らす。

「…俺もそれは何度もあった。ムドやハマで俺が即死して、天使に囲まれてあの世へ旅立つのをどこか他人事の様に眺めていて、気が付くとターミナルまで戻っていたりな」

「シンもあったのか?」

鳴上は驚いた様子だ。

 

「ああ。それに、会ったことさえないヤツの弱点を何故か知っていたり、殺されたハズのボスと何回も何回も戦ったり」

「俺もあった…でも、それはいつも、シンが居なかった…」

「何故だ…」

 

その後、数分。

2人とも黙ってしまった。考えたくもない。

自分が死ぬ夢など、あまり気持ちのいいものではない。

 

それと同時に、2人とも今の自分への不信感が増幅される。

 

本当の自分は既に死んでいて、これはいわば夢。

あるいは、こうしたいと願った自分の妄想。

 

目の前に広がっている景色や光景すら、偽物で、本当の現実ではないのではないか。

ふとした瞬間にこんな脆い現実が崩れ去る。

 

勝ち得た勝利も、美しい景色も、大切な絆も、大切な愛情も。

 

全てモノがまるで、売られている程度の『陳列された偽物の世界』だとしたら。

 

そんなモノの為に自分をすり減らして、生きている意味とはなんだ?

 

やさしいやさしい夕焼と恋人との愛はなんだったんだ?

友人との間に感じた絆とはなんだったんだ?

確かに救った世界はなんだったんだ?

確かに壊した世界はなんだったんだ?

 

深く考えれば考えるほど、頭の中で何か巨大偶像が立ち上がり、自分の頭を喰らい尽くす。

そんな一抹の不安が不意に肥大化し、表面化してきた時、言い難い恐怖が体中を蝕み始める。

 

 

今、まさに2人の体を蝕んでいた。

 

 

「…やめよう。気が滅入る。」

鳴上はそう言うと、椅子に深く凭れる。

その言葉にシンも頷いた。

 

「…いわば、警告なのかもしれないな。」

鳴上はうんと頷きながら言う。

 

「?というと?」

「夢でおかした間違いを起こさないように、夢でそう警告しているのかもしれない。」

「予知夢か…それに白昼夢のダブルコンボとはな…だが、そう思うしかあるまい。」

シンもうんと頷く。

 

「あるいは違う世界のお前がそう警告しているのかもしれないな。」

「…なるほど。でも、もう、テレビに入ること無いだろう」

「さぁ、な」

シンは返答を濁した。

 

 

 

 

その頃、完二、花村、クマはジュネスの搬入口でトラックが来るのを待っていた。

 

「いつも、思うんスけど、鳴上先輩ってどうやってあんだけ大量な飲みモン持ってきてるスかね」

「そりゃお前…」

 

花村は説明しようとしたが確かに不自然極まりない。

武器や防具はいつも、だいだら.に全員が連れていかれて、新調されるので、まぁそこはいい。

だが、あの気持ち悪くなるほどのリボンシトロンや盆ジュースはどうやって持ち運んでいるのだろうか。

 

「…どうやってだろうな」

「きっと、クマみたいにセンセイも懐が大きいから、そこに入ってるクマ」

「さりげなく自分を棚上げすんな…」

花村はそういいながら、手をすり合わせる。

 

「それに、あの人、魚を丸ごと持ってきて食ってましたよね…」

完二は不思議そうな顔で言う。

 

「…なんか、恐ろしいわ。そう考えっと」

「そんなことより、サブイクマ」

凍り始めたクマを見て、花村は溜息を吐く。

 

「…トラック…遅くねぇっスか?」

「クマ、ナカ、ハイル」

「つっても、これだけ従業員居ないんじゃ、帰っちまうよ」

クマは既に中に入ろうとしていた。

 

「今年、マジで気候おかしくねぇっスか?」

「寒すぎだろ。」

「ってか、なんで、俺がこんな寒みぃ所にいなきゃなんねぇんだよ」

「…なんでお前いんだよ!!」

「いや、てめぇが呼んだんじゃねぇか!!」

そんな会話をしながら、彼らは来るはずのないトラックを待って元旦を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

人の人生をひとつの作品としたとき、作者とは誰のことを指すのだろうか。

そこには、無数の答えが存在する。

ただ、1つ確かなことをいえば、その人生の主役であるはずの君が『主役』ではないこと。

 

所詮、その人物は役者でしかない。

 

君が自分で物事を決め選んでいるつもりだろうが、どんな人間も他人との関係性によって生じた動く何か勘違いした生き物のようなものだ。

 

例えば、自分は今日の朝飯に何を食べるか。

明日は何をするか、全部君が決めて生きてるつもりである。

それが一種の自己証明だった。君の人生を君が作り上げているという確証であった。

 

ところが、それの決定すら何者かによって決められていたとするなら、どうする?

例えば、妻。例えば、親。例えば…神。

例えば、顔も知らないような赤の他人。

例えば、コンピューター。

 

君の人生に君の知らない脚本家が存在するとしたら?

 

そうすると、君はもう、どこにもいない事になる。

なぜなら、他者がいないと自分は成立しなくなってしまうからだ。

 

そう。自己証明だったはずの自己選択が、他者によって支配されているということで、自己証明ができなくなってしまっている。

 

 

では、他者が君の人生の作者か?

では、他者は神か?

 

あながち間違いでもないかもしれない。

今の君を作り上げたのは他ならぬ親であったり、環境だったりする。環境も結局のところそういった他人によって作り上げられたものだ。

君一人でそんな所に立っているわけではない。

必ず誰かによって君は作り上げられた。

 

では、彼は誰の影響でこうなるのだろうか。

時々、そう思う。彼はどうして、これほどまでに友人を作れるのだろうか。

 

 

「…忙しそうだ」

「?」

 

シンは元旦のつぎの日の朝。

外を歩いていると千枝と会っている鳴上を見た。

シンは邪魔をしては悪いと思い、特に声を掛ける事もなくジュネスへ向かった。

帰りにりせと会っている鳴上をジュネスで見かけた。

シンは特に気にすることなくそそくさとジュネスから帰った。

 

お昼を済ませ、直斗が暇だという事で、商店街で待ち合わせをしていると、鳴上が見たことあるような女子生徒とあっていた。

 

海老沢だったか?とシンは思いながらも、直斗が来たために、気にすることをやめた。

 

 

「待たせてしまいましたか?」

「待っていない」

「それは良かったです」

 

直斗は安心した様子でふうと息を吐いた。

 

「さて、何をするか」

「実は僕…その」

直斗は少し恥ずかしそうにしている。

 

「なんだ。なんでもいいぞ。どうせ、暇だ。」

「その…いえ、あ、そうだ。この街を歩きませんか?僕はあまり詳しくありませんから。」

「うむ。そうしようか」

シンはコートに手を入れた。

 

まず、すぐ近くにあるだいだら.をみる。

「鎧か…考えたこともなかったな」

「僕も不思議です。何故、間薙先輩が鎧を買わなかったか。」

「それは単純だ。」

シンは刀を持つと言う。

 

 

「何処にも売っていなかった」

 

「そうでした」

直斗は自分の質問で笑ってしまった。

 

こんなお店は普通はない。ただ、この街に来てから、そういった感覚が少しだけおかしくなっていることは確かのようだった。

 

「そうですね。こういったお店があること自体、僕も驚きですよ」

 

 

シンは何だか分からない鉄の塊を買うと直斗と共にだいだら.を後にした。

 

「…何故、商店街に異質な"だいだら."という店が生き残っているのか…」

「…客単価が高いのかもしれません。」

「なるほどなー」

シンのその返答に直斗は笑った。

 

「まるで、ロボットみたいでした。」

「そうか?」

シンもそう言われ、少し口元を緩めた。

 

 

「…次は、本屋は普通の本屋なので、神社でも行きましょうか」

「そうだな」

直斗とシンは神社へと向かった。

 

「そう言えば、今年の2月ににスカイツリーという電波塔が建つらしいですね。」

「ああ、そうらしいな。開業は5月らしいが…そしたら。行くか?」

「え?」

直斗はシンの思わぬ言葉に足を止めた。

 

「興味深いと思わないか?東京の結界を破る、あの塔。マサカドは何を思うんだろうな。」

「え?あ、そ、そうなんですか。」

直斗は少しショックそうに俯いた。

てっきり、デートの誘いかと思ってしまった。

 

 

「…なんだ、不満か。旅費は気にするな。最悪、セトに乗ればいい」

「い、いえ!是非、行きましょう!」

「ああ。」

 

シンはそう答える。

それは、まるで子供のようにも見えた。

 

 

2人は適当に様々な場所を回って、帰宅した。

 

 

 

2日

 

「大丈夫かーヨースケ」

「なんで、てめぇは…ハックシ…元気なんだよチクショウ」

花村はジュネスでマスクをしながら品出しをしていた。

クマもそれを手伝う。

 

「ったく、昨日のせいだよなどー考えても」

「陽介」

「うおっ!相棒!」

鳴上に突然声をかけられて、花村はびっくりする。

 

「センセー、おはよークマ」

「おはよう、クマ。陽介は風邪か?」

「だらしないクマ…」

「俺はお前らと違って。ずっと待ってんたんだよ!!…ヘッション!!」

 

花村は大きなくしゃみをした。

 

「来るはずのない、トラック待ってたんだよ…」

「忠犬クマねー」

「俺は…犬じゃねえっつーの。」

「スキーの旅行も近いし、治さないとな」

鳴上の言葉に花村は頷いた。

 

「ヨースケ、次は飾り付けクマ」

 

そして、花村は言う。

「…疲れた」

 

 

「…疲れた」

シンは部屋でソファに倒れ込むように座った。

そして、すぐにメリーが飲み物を出した。

シンは元旦から睡眠をしていない。

それが、非常に辛くなってきた。

 

「…睡眠なんていう習慣をつけるべきではなかった」

シンはそういうと、何も入れていないブラックコーヒーをグイッと飲み干した。お腹が空いた。とシンは思う。

そして、シンはメリーに言う。

「…何か膨れるモノはないか?」

 

 

「風船?…正月関係ねぇし」

「でもでも、ヨースケ。子供は喜ぶクマ!!」

「まぁ、そうちゃ、そうなんだけどよ…他にもあんだろなんかさ。子供喜ばすやつがさ」

 

 

「ハンバーグか…まぁ、この際だ頼む」

シンがそう言うと、メリーはウデを捲った。

このサインはシンは知っている。長くなるだろうと思いテレビをつけた。

そして、メリーの料理のことを考える。

「…大作(・・)でも作るのだろうか…」

 

 

対策(・・)になるだろ?こうやって、しっかり落下防止しときゃな」

「ほー!!ヨースケあたま良いクマ!!」

花村はそういって、正月飾りを両面テープで止めた。

 

「でーもー、ヨースケ。これは、吊るすものじゃないクマか?」

「いいんだよ。そんなの。誤魔化しだよ誤魔化し」

「ひ、卑怯(・・)クマ」

 

 

秘境(・・)特集…こんな|時期に…」

シンはテレビを見て言う。この時期は視聴率を取ろうと似たような番組をやることが多い。しかし、このチャンネルは違うようだ。

どうやら海の秘境らしい。

「ほう…すごいヒトデ(・・・)

 

 

「にしても、人手(・・)がたらねえ…」

「クマ。もう…テンテンテン…クマ」

クマはモゴモゴしながら、答えた。

 

「それに、人出(・・)も凄いな。「いらっしゃいませ」クマ!」

ジュネスは凄い人出である。この時期は皆、惣菜を買いに来るのだろう。

「やっぱ、この時期は帰省中(・・・)の人が多いのかもな。時機か」

 

 

寄生虫(・・・)か…ジャングルというのはそういうのが多いのか…」

シンはテレビを見て唸る。

「…あとは、何かやっていないのだろうか。…」

シンはチャンネルを回す。

「…ほう、サスペンスか…」

シンはチャンネルを回すのをやめた。

「…すみませんが、調味料をとっていただけませんか?」

「どこのだ?」

 

 

「ってか、俺がクマ。お前、つまみ食いしたな!?」

「してないクマ!」

「付いてんだよソースが!!」

 

 

 

「「目と鼻の先(・・・・・)にな!!!」です。」

 

 

 

 

 

 




メタ的な内容と、フラグと、ちょっと遊び心で後半は書きました。
後半のモノはとあるコントをオマージュしました。知っている人は知っています(´・ω・`)

さて、本編も鋭意製作中ですので、気長にお待ち下さい。


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第68話 Hollow Forest 1月5日(金) 天気:晴れ

着くとそこには、竹薮の広がる場所であった

遠くには大きな埴輪が埋まっていたり、和テイストな風景が広がっていた。

大きな馬の埴輪、竹林、大きな岩。

そんな、場所の少し開けた場所に出た。

 

なにより、雪のような花びらが舞う美しい世界でもあり、それと同時に儚さも感じた。

 

「…大当たりってやつだな。」

シンはどこぞのデビルハンターのような言葉でこの世界への到着を表した。

「テレビの中って感じじゃねーな。」

 

皆が周りを見ている中、マーガレットは花村達を見る。

「ご挨拶が遅れました。皆様には初めてお目にかかります。マーガレットと申します。」

 

そういうと、マーガレットは鳴上を見た。

「私はこの方の"旅"を手助ける者…皆様に害をなすことはありません。」

「…"ありません"って

…でも、まあ、ここまで来た感じだと大丈夫かな?」

千枝は仕方ないといった雰囲気だ。

 

「さて、本来手順というものがございましたが…」

「そういった、くどいやつは嫌いでな。」

シンは遠くにある古墳のようなものを見ている。

 

「…ということですので、私も少々驚嘆してる状況です。」

 

マーガレットは奥にある古墳のようなものを見た。

 

「ここは”虚ろの森”。”人の心の世界”であるテレビの中に、あの子が作り上げた“閉ざされた領域”…。

私どもの元を去ってから、マリーはずっと、この場所に閉じこもっているようです。」

 

「なぜだ?」

鳴上はマーガレットに尋ねた。

 

「私もすべては存じません。

あの子はあなたと心を通わせた結果、ついに記憶を取り戻した…。

ですが、その記憶は、あの子が望んだようなものではなかったようでございます。」

 

マーガレットの話に花村が突っ込む。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。さっきから一体何の話してんだよ?

”マリー”って、あのマリーちゃんか?お前と一緒にいた…」

その花村の言葉に皆が思いだしたように口々に言う。

「あたしも覚えてる。帽子かぶって、お洒落な感じの子だよね!!」

 

「…この世界がつながった今、記憶の鎖は解かれたが…鳴上は覚えていたようだが…」

「…彼女がここにいるって、どういうこと?今、記憶がどうかって…」

 

心配そうに皆がしているため、鳴上がマリーのことを話し始めた。

記憶がないこと、行方不明になっていることを話した…

 

「マリチャン、キオクソーシツだったクマか…」

「ここ、テレビの中だよね。行方不明の人がテレビの中にって、それ…」

天城は心配そうに言う。

 

「おそらく、事件とは関係ない。

この世界に閉じこ(・・・)もっているという言葉。」

 

「…さすが…ということでしょうか。」

マーガレットはそう言ってほほ笑むとシンは肩をすくめる。

 

「間薙様の言うとおり、マリーの失踪は、皆様方の追っていた”誘拐事件”とは関係ないかと。自らこの場所に閉じこもっているようです。」

 

「自分からテレビの中に…ということは、マリーさんもペルソナ能力を?」

直斗はマーガレットに尋ねる。

 

 

 

「いいえ、マリーはもともと、”こちら側の住人”なのです。」

 

 

 

その言葉にシンと鳴上以外は驚きを隠せないようだ。

「お前はどういう子を連れ歩いてたワケ!?」

 

「ねえ、待って。ここってテレビの中なんだよね?だったら、シャドウいるんじゃ…」

「…まじかよ…ってことは」

「マリーが危ない。」

鳴上の言葉に直斗はうなずく。

 

「鳴上先輩の言うとおりですね。もし、彼女がシャドウに襲われたら…」

 

「危険がないとは申せません。。ですが、それは皆様方も同じこと…この先へ進み、マリーを探すおつもりなら、相応の覚悟をしていただかなくてはなりません。」

「…それに、アマラ経絡のこともある…不安要素は少ないほうがいい」

 

シンはそういうと、入口に触れるが弾かれた。

 

「やはりな…」

「?」

「…俺はこの結界を解く作業に当たる。」

シンはそういうと、鳴上を見た。

シンのアイコンタクトの意味を理解し鳴上は頷いた。

 

皆も鳴上を見る。

 

「…俺達はいつもの様にジュネスのテレビから入ろう」

「しかし、ここは閉じられてるって話では?」

「…そのための私でございます」

マーガレットは千枝の疑問に答えた。

 

「場所が分かった今、私が、この世界への道を開ける役目を果たします。テレビの世界からの道を」

マーガレットも本を開き作業にはいる。

 

 

「…とりあえず、俺たちは戻ろう」

「チェックアウトまでには戻る。」

「うん!いつもの様にやればきっと助けられるよ!」

鳴上達はクマの出したテレビで戻っていった。

 

 

 

その広場にはマーガレットとシンだけとなった。

 

 

「…」

「…目的はなんでしょうか?」

マーガレットは本を開いたまま、目線も本に向けたままシンに言った。

 

「目的ね…この世界にいる目的は、このテレビの世界を作り出したやつに興味があるだけだが。」

「…それが、どのようにマリーと繋がるのでしょうか。」

「…彼女がある種の手掛かりである。それに、正体も概ね予想はつく。」

シンは結界から手を離した。

 

 

「…これだけ、長く生きていれば…すぐに見抜ける」

そう言って肩をすくめた。そして、再び、結界に触れる。

 

マーガレットにはその言葉の意味がなんとなくだがわかった。

マリーは途中から気付き始めていたのだろう。

あの客人と出かける度に精神的に不安定になっていたのは事実である。

 

自分が他人とは違うと。

 

しかし、それを認めたくない。

そんな思いで、途中から暮らしてきた。

 

だからこそ、自分の正体がわかったとき大切な人達に迷惑を掛けないように、この世界に篭ったのだろうと。

 

 

「…前回までなかったんだがな…」

シンはコンコン叩きながら、天を仰ぐ。

半円状に結界が生成されていることを確認する。

「…」

 

シンは一体の悪魔を召喚した。

その瞬間、地鳴りが起き、大きな召喚音がした。

いつもの召喚とは明らかに異なる。

 

 

その悪魔の威圧、そして、場の支配力にさすがのマーガレットもきつい表情になる。

 

 

「…久しい哉。人修羅よ」

「マサカド。本当に久しいな」

「トウキョウの守護をしている、余をこの地に呼ぶとは、無論、余程の事なの」

マサカドはじっとシンを見つめる。

 

「当然。この結界について、尋ねたい。」

シンはそう言って、結界の膜に触れる。

「…ほう…」

そう興味深そうに、マサカドは結界の膜に触れた。

 

「できる限り早く、中に入りたい。」

「…ふむ…跋扈(ばっこ)する奴らと闘い、約束通りトウキョウを平定した汝の頼み…よかろう…」

 

そう答えると、マサカドは刀をカチリと音を立てた。

すると、結界全体に無数の線が走り、ガラスが割るように結界が割れた。

 

「…容易い」

「…力技だが…まあ、いいか」

 

マサカドは刀を納めると、じっと古墳の方を見た。

「…強き意思を感じる。人の子ならぬ、大きな意思を余は感じる。

しかし、心憂いも入り交じり、決意はぬかるんでいる」

「…この世界じゃ、どこにでも雨は降るのさ」

シンは大きな馬の埴輪にジャンプで登ると辺りを見渡した。

 

「…だからといって、雨は全てを流してくれる訳でもない。消えぬ痛みもある。癒えぬ傷もある。」

「…然り。」

 

シンは埴輪から飛び降り、マサカドの前に来た。

 

「助かった」

「…ではな、人修羅よ…余は再びトウキョウの守護へと戻るぞ」

「…頼んだ」

 

マサカドはそういうと、消えた。

 

 

 

「…やはり、私には分かりません。あなたがそれ程の力を持ちながら、何故、鳴上様達の世界を支配しないのか」

マーガレットは本を閉じた。

 

シンは肩をすくめて答えた。

 

「…今はそんな気分にはなれないというだけだ。気が向けばやるかもしれんな」

不敵にシンは笑みを浮かべた。

 

シンは出口へ向かおうとすると、紙切れが落ちていた。

それをシンは見て、ポケットに入れた。

 

 

 

 

シンがコテージに戻る頃にはすっかり、朝に近かった。

シンは静かにリビングに行き、ソファに座った。

何をするでもない、ただ呆然と天井を見上げた。

 

何も無い、ただ空調の為のプロペラがあるだけの変哲のない天井である。

今回の話で思い出すことがあった。

 

 

 

 

 

シブヤのクラブ…

 

「街の外がどうなってるか…もう見たでしょ?」

千晶は不安そうな顔で言った。

 

「…何も無くなっていた…」

「わたしの家なんて、何処に建ってたかも分からなくなっちゃった…

もしかしたら人間は世界中でわたし1人なのかもって、本気で考えてたわ」

千晶はそういうと、シンを見て辛いながらも笑みを浮かべた。

 

「…シンくんに会えて良かった。

ちょっとだけ…希望が見えた気がする。

無事だった人、他にもきっといるわよね。

祐子先生だって、勇くんだって、何処かにいるかも知れない」

シンは無言で頷いた。

 

「わたし、探してみるわ…このままじゃ、気が済まないもの。みんな…きっと生きてる、」

 

 

「運命は、そんなに残酷じゃない。」

 

 

「そうでなきゃ…あんまりだわ。」

千晶はそう言って分厚い扉から出ていこうとすると。

 

「あ、」

「?」

千晶はシンの声に足を止めた。

 

「…気をつけて」

「…うん。シンくんもね」

千晶はクラブの扉を開けて出て行った。

 

「良かったのー?とめなくてさー」

ピクシーがフワフワと浮きながらそう尋ねる。

「…いいんだ…俺も少し…希望が見えたかな」

 

 

 

 

 

"運命はそんなに残酷じゃない。"

 

 

今となっては、そんなものは幻想でしかなかったと思う。

運命は残酷だ。時間と同じように多くのモノを傷付ける。

そんな傷は雨じゃ流せない。癒せない。

 

「…虚ろの森(Hollow Forest)か」

 

オレの予測が当たっていれば、非常に的を射たネーミングだ。

彼女は恐らく、生田目に宿っていた『クニノサギリ』。そして、足立に宿っていた『アメノサギリ』。

これらの関係者。

理由は様々だが、まず、アメノサギリの撃退後に消えたこと。

次に、ベルベットルームという、『夢と現実の狭間』の場所にいたこと。

その時点でただの人ではないことは確かだ。

 

それに、テレビの中を自分の死に場所としたとするなら、尚更である。

そして、テレビの中に自分の世界を作り出せたこと。

それが何よりもの証拠。

 

だからいつもそうなのだ、運命は残酷だ。

 

シンはポケットに入れた紙切れを見た。

 

 

 

『キミは本物の様な気がする。

キミは本物の味がする。

でも、私の感情は"まがいもの"。

 

私にはどうしようもない

でも、もし、私がホンモノなら、キミの元へすぐでも行きたい…

私がキミの望むような人間だったら…

いつだって…いつだって…』

 

 

 

誰かへの想いが綴られていた。

 

所々、濡れて滲んでいて読めない。

 

シンはそれをポケットにしまうと、自分の事を思った。

 

 

自分は誰かに愛されていただろうか。

自分は誰かを愛していただろうか。

 

少なくとも、自分は誰も愛してなどいなかった。

自分にとって、この世にあるもので、愛しいモノなどなかった。

 

少なくとも、普通に高校生をやっていた時はそうだった。

 

選択を迫られ、どちらかしかない時は、思いつくままに、選択してきた。

 

しかし、世界の命運となったとき、その重さがグッと変わった。

当たり前の事なのだが、眼前にその選択肢が提示されたとき、身震いしたのを覚えている。

しかし、少なくとも、ボルテクス界で自分は変わった。

そして、何も無いカオスを選択した。

 

だが、結局のところ、愛するモノなどない。

というより、自分には愛が分からないのだ。

 

仲魔との連帯感は感じるが、愛ではない。それに、ピクシーやジャックフロストなどの長年の連れは、愛などという幻想のようなモノで片付けられる程、簡単ではないのだ。

多くのことを共に勝ち取り、得てきた戦友であり、親友であり、名称できない何かなのだ。

 

それが、愛する者とはどうも違う。

言わば、老夫婦のようなものだと思う。

 

 

では、自分は愛されていただろうか。

親…いつも、割れ物を扱うようなものだった

 

…そればかりは今となっては分からない。

自分はそこに"意味を与えること"しかできない。

理解は願望に基づくものでしかない。

 

告白も…分からない。あったのだろうか。

恋愛には疎くてとにかく分からない。

 

 

 

そこまで考えて、シンは渋い顔をした。

何だか、くだらない考えだと自分で思ったのだ。

 

シンは湯を沸かすため、ソファから立ち上がった。

やかんに凍るほどの水を入れ、沸かす。

 

シンは天井を見上げた。

 

謎の病で死んだ少女の手記にも書いてあった言葉を思い出した。

 

『知らないうちに私は多くのものを抱え込み愛していたのだとわかった。(第x3話 Ghostより)』

 

だから、死ぬことが悲しいし、怖い、そして、虚しいのだと。

 

…自分も死と向き合ったとき、そう思うのだろうか。

少なくとも、マリーはそう思ったのだろう。

 

マリー自身が皆と同じだったら…

マリー自身がホンモノだったら…

 

そう上を見上げてシンが考えていると。

ドアが開く音がした。

 

「…おはようございます先輩」

「おーシン君!どうだったの?」

女性陣が起きてきた。そして、千枝は元気そうにシンに尋ねる。

 

「問題はない」

「さっすが!センパイ!」

りせは嬉しそうに答えた。

 

 

 

死か…

 

悲しいこと…なのか…まだ、分からない

自分自身の死…ケヴォーキアン同様、興味は尽きない

 

 

 




ちょいちょい書き足して書いたものなので、誤字などが多いと思われます。


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第69話 Fake Me 1月9日(月) 天気:雪

お詫び


マリーの話は少しカットします。
理由は後書きで。






「改めてくると、不思議な場所だね」

天城の言葉に皆が辺りを見渡す。

 

あたり一面が真っ白に染め上げられている。

勾玉と注連縄で仕切られた扉や不規則に並び敷き詰められた石畳が深い霧の中から見える。

 

 

「ってか、完二のサウナと違って若干、寒ィ」

「い、いやな思い出を思い出さねぇでくださいよ…」

花村と完二はブルっと震えた。

 

「私、冬ってあんまり好きじゃないのよね…ほら、寒いし」

千枝はポリポリと頭を掻いた。

 

「…『順境は春の如し。出遊して花を観る。

逆境は冬の如し。堅く()して雪を()る。

春は()と楽しむ()し。

冬も(また)()しからず。』」

 

「?」

シンの呟きに皆が首をかしげた。

 

「…順境は春の日に外に出て花を見る。一方、逆境は冬で部屋の中にいるという例え。だから、春は楽しむべきだが、冬も別に悪いものではない。逆境もまた然り。という意味がある。」

 

シンは上着のコートに手をいれると言った。

「寒くても、俺は夏より冬の方が好きだ。」

「私も冬好きかな?」

シンの言葉に天城も同意した。

 

「それって、名前に雪があるからスか?「違うよ」」

完二の言葉を天城は即座に否定した。

 

「クマには関係のないはなしだよな」

「失敬な!クマは…ミズギの…あーでもでも、どっちも捨てガタイクマ!!」

「…お前に振ったのが間違いだったよ」

 

「…というか、これ…花びらですね」

直斗が地面の白い何かに触れた。

 

「雪じゃないのかよ…」

 

 

すると、どこからともなく声が聞こえた。

 

 

『ねえ、聞いてアタシの声を

叫んでいるこの声を…アタシはここにいる

血を声に替えて世界の果てで叫んでいる…

アタシは人魚姫

もう帰れない人魚姫 泡へと還る 人魚姫』

 

「これって…マリーちゃん?」

りせは辺りを見渡すがそれらしき人物はいない。

 

シンは改めて皆の顔を見た。

そして、鳴上も同じことをしていた。

 

「緊張しているようだな…」

そんなシンの呟きに鳴上は頷いた。

 

皆、緊張の面持ちである。

それには理由がある。

 

 

 

 

 

ジュネスのフードコート…

人の気配はない。まだ、寒くこのフードコートは鳴上達しか居ない。

 

「あの世界は今日で消える」

シンの突然の宣告に皆が驚いた。

 

「な、なんでだよ!?」

「理由は分からない。ただ、今日がリミットだけが確かかもな。あるいは、マリーが気付いたか…」

シンはステーキを食べながら淡々と答える。

 

「どうしてそこまで…」

りせは悲しそうな表情でいう。

 

「…『人は愛しい人のために犠牲になれるものだ。』…とドラマで言っていた。」

「だからってわたし達に何も言わないなんて…」

 

シンは溜息を吐く。

「…愛しい人にお前たちが含まれているからだろう?」

 

シンは自分のことを思い出しながら言った。

 

「…永遠の別れというものは、悲しくなるから何も言いたくないものだし、何か残して行くことはどちらもが胸の張り裂けそうな心情になる。」

 

「…何より、永訣する方が愛しいものを残していくことが何よりも辛いことなのだ」

 

シンはステーキにフォークを刺した。

それはまるで、親の敵のように少し憎しみを込めて刺した。

 

「…ここで止まるわけにはいくまい。」

 

シンは大きな口を開けて、鋭く尖った犬歯で肉を噛みちぎった。

 

「…へへっ、やっぱ、年の功ってやつか?随分と臭い事言うな」

花村はそういうも、どこか清々しい顔になっていた。

 

「そうだ。俺たちは助けられる。俺たちにしかできないんだ。」

鳴上の言葉に皆の顔つきが変わった。

 

皆が強い意志を持った一方で、シンは自分を嘲笑していた。何故なら、シンはそうは言ったものの、去っていく側の気持ちを自分は知らないからだ。

 

自分はいつも、残される側だったからだ。

 

親に取り残され、先生に残され、生きるために仲間を殺し、恨みを持って氷川を殺した。

しかし、気がつけば、俺はあの広く狭い世界に一人になっていた。

 

 

 

1人、ぽつねんと残されたのだ。

 

 

 

そして、シンは思う。

これらが全て終わったとき、俺は初めて去る側になるのだと。

どんな心境で、どんな言葉を掛けるのか。

あるいは、あの残される側の切ない気持ちと無言の見送りと変わらないのだろうか。

 

自分もマリーのように無言で去ることを選ぶのだろうか。

マリーの気持ちに深く同意をした。

言葉を紡げば紡ぐほど、辛くなってしまうからだろう。

 

しかし、別れに関しては今はただ、分らないという言葉に尽きる。

 

未来というものはいつもそうだ。

 

 

 

 

「…綺麗な場所だ」

シンは悠々と1人で探索していた。

理由はこの場所に装備が持ち込めないことにより、皆がゆっくりと来る事にした。

 

理由は不明だ。だが、結界があった場所から装備を持って先に行こうとすると、弾かれてしまう。

仕方無く、このダンジョンにあるモノで凌ぐしかないと考えたようだ。

 

一方、シンは装備はないので、問題ない。

 

 

シンは突然、後ろから飛び掛ってきたシャドウを軽く裏拳で消し飛ばした。

 

 

「なんか、悠々と歩いてるね」

「焦ったところで、何も解決はしない。それに、自分で閉じこもったなら、焦る必要もない。」

「なるほどね」

シンの横に監視者がいた。

 

「…それに、助けるのはいつもHero(・・・・)の役割だ。俺はヒーローじゃない。」

「まぁ、そういうならね。」

 

シンはそう話しながら、考えていた。

そもそも、この監視者はがこの世界が消えることを教えてきた。

しかし、その情報元が、どうもきな臭い。とシンは疑った。

裏があるような気がした。

おそらく、こいつはハメられていることに気がついていない。

 

こいつが空間の歪みに気付くのか?

 

 

 

『ピクシー』

『なに?』

『…少し調べて欲しいことがある』

シンは少し重い声で言った。

 

『…その感じは、ちょっとばかしヤバそうね』

『"やつら"の動きを調べて欲しい』

『…そんなこと?』

『…ハメられたかもしれない…』

『…わかったわ。』

『…頼む。あと』

『?』

『鳴上たちを頼む。』

『??分かった?わ』とピクシーは言っている意味が分からないのか疑問形のまま、念通を切った。

 

すると、多くの足音が聞こえてきた。

 

「じゃ、またね。」

「…」

シンは答えることもなく、足を止めた。

監視者はすっーと消えた。

 

 

 

「はぁ、一通り揃ったけど…やっぱ、違和感あんな」

花村は防具を確認しながら言った。

 

「仕方ないでしょ?入れなきゃ、助けらんないし」

「でも、やっぱ万全の状態で行きたいよな」

「今、とりあえずはなんとかなっているから、あとにするべきだろう。」

そんな会話をしながら再びその足を進めた。

 

 

 

 

「ヒホー!!頑張るホー」

「応援するホー!!」

「「あ、そーれっ、タールカジャ♪タールカジャ♪」」

戦闘中の鳴上たちの後ろ踊りながら、ジャックフロストとジャックランタンが応援という名のバフを掛けている。

 

シンはそれを眺めていた。

 

「いくぜ!!ペルソナァ!!!」

花村は勢い良く回転し、ペルソナのカードを割る。

それと同時に突風が吹き乱れ、相手を消し飛ばした。

 

シンはそんな中、辺りを見渡していた。

 

「どーしたの?キョロキョロして」

戦闘が終わった千枝がシンに尋ねる。

 

「いや、景色が酷くごちゃごちゃというか、ハチャメチャでな」

シンはそういうと、看板を指さした。

「あ、惣菜大学の看板」

 

「…おそらくだが、彼女がここで死ぬ気なら、矛盾した景色というわけだな。死への恐怖が拭えないか。」

「それに、おそらくですが、大切な思い出なのでしょう。僕たちとの記憶が…」

直斗が付け足すように言った。

 

 

 

 

階層が下がるごとに聴こえるポエムが妙に物悲しく聞こえていた。

内容は恥ずかしいものだが、マリーの叫び声に似たようなものもあった…

 

 

 

そして、入ってから数十分が経った。

さすがに皆疲れている。

 

 

ふと、先行していた千枝が言った。

「みて!誰かいる!」

 

その一言に皆が走って進んだ。

 

 

そこには白いローブを着た人物が居た。

 

 

「誰…?」

皆の足音に気がつきちらりとその人物は向いた。

 

「その声、マリーちゃんか?

すげー探したんだぜ…つか、何だよその格好。どうしちまったんだ?」

花村は安心した様子で声をかけた。

 

「来ないで…!」

「一緒に帰ろう」

鳴上がそういうと、マリーがこちらを向いた。

 

 

「!?」

マリーのその瞳は片方が緑色になっていた。

 

「オメェ…そのツラ…」

 

マリーは困惑した表情で言った。

「信じらんないよ…何で来たの?どうして?」

その言葉に千枝が返した。

 

「聞いてマリーちゃん。

どんな記憶が戻って、どんだけ辛いか、あたしたちには分かんないよ。

でも、死ぬなんて間違ってる!!」

 

マリーは不安そうな顔に変わると答えた。

「分かってるんだ…君たちの思っている通り、ここはお墓…私のお墓。

私はここで死ぬの…」

 

「だから、止めに来たんだ」

「うん、先輩の言う通りだよ。そんなの絶対許さないから!」

 

 

「うるさいッ!何にも知らないクセにッ!」

マリーは声を荒げていった。

「マリチャン…」

「"マリー"なんて…私の名前じゃない!…思い出した…全部思い出したよ。」

 

マリーはそういうと、思い出したことを話し始めた。

 

「私の本当の名前はね、"クスミノオオカミ"。

キミたちは、戦ったんでしょ?クニノサギリ、アメノサギリと…

私はアイツらと同じ。町を霧で覆った、キミたちの敵だよ。」

 

その言葉に皆が驚いた。シンは"ふむ"とうなずいた。

 

「マリーちゃんが…あたしらの…敵?う、嘘でしょ!?」

「そうだよ…人の世界にまぎれて…人の意思を感じて…

"人世の望み"をサギリたちに知らせるのが、私の役目。だから、私だけ、人の姿…

キミらの言葉で言うと、スパイってヤツだよ。」

 

「自分でも知らないうちに、スパイさせられていたってこと?」

 

「そんなこと、関係ない。」

鳴上はマリーを見ていった。

 

「マリーの正体なんて関係ない。」

「バッカじゃないの!?私は悠の望むような人間じゃなかったの!!分かるでしょ!?」

「だから、言ってるじゃないか。関係ないって」

鳴上は強くマリーに言った。

 

「そんなこと、言ったって、埋められない溝なんだよ」

「マリーが勝手に作った溝なんて知らない。」

鳴上は頑なに答える

 

そんな鳴上の肩にシンが手を乗せた。

 

「まぁ、そう焦るな。それだけじゃないだろう?」

「?」

 

 

 

「キミが死ななければ、鳴上たちの世界が消える。そういうことだろう?」

 

 

 

「!?」

シンの言葉に皆が驚いた。

 

「…正解…。知ってるなら、なんで、あんたは来たの?」

「テレビの事件と通じていると思ったから。そうでなければ、退屈だ」

シンは濁りなくニヤリと笑みを浮かべ、答えた。

「バッカじゃないの…」

 

 

 

 

マリーはそれだけ言うと霧のように消えた。

 

シン以外はマリーのいた場所に行くがすでにもう姿はない。

 

 

 

「おい、おいおい!!どういうことなんだ!?シン?」

「足立の時を思い出してみろ。町中が霧に覆われた。おそらく、それが深刻化して、町自体がこのテレビの世界に呑まれる。」

さながら、アバドンがヴァルハラを呑み込んだようにとシンは言おうとしたが、それは違う世界のことで口をつぐんだ。

 

 

「とにかく、追いかけねぇと」

「…悪いな。客が来たようだ」

シンはそういうと、アギダインを来た道の方へと放った。

 

すると、何かに当たり燃えた。

 

それを合図に無数の悪魔召喚音が鳴り響いた。

 

 

「な。なんだぁ!?」

 

天使達である。

 

「…混沌王 間薙シン。貴様の裁きに来た。悔い改めよ。」

「…お前たちは先に行け。俺の客だ」

シンは鳴上達に言った。

 

「俺は大丈夫だ」

 

 

鳴上はすぐに頷くと、走り出した。

皆もそれに続くように走り出した。

 

 

 

 

 

「いたよ!マリーちゃん!」

「何で…何で来るの?どうして? 敵だって言ったじゃん…もう、いいって。何でこんなトコまで来てくれるの…?」

 

 

「助けたいから」

鳴上のその言葉でマリーは戦闘態勢に入った。

 

「…ありがとう…でも、力づくでも帰ってもらうから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方…

 

 

 

 

「やはり…はめられたか?」

シンはラグナロクで敵を焼き尽くした。しかし、減る気配はない。

 

「かもしれんぞ?混沌王よ」

シンの周りには必殺霊的国防兵器の面々が来ていた。

 

「それに、よいのか?この奥で邪悪な気配がしている」

「…問題ない。それにしても、どこに、これほどの!!」

 

シンは飛んできたメギドラを横に避けた。

 

「…ハニエルか…」

そこには赤い6枚の翼に身を包み、目を閉じた者が浮いていた。

 

 

 

 

 

「神の命により。混沌王、ケガレを消し去る…悔い改めよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつつつ…ほんと、やばいな…」

マリーを助けた後、ノロノロと皆が歩いていた。

 

傷を負ったのだ。それも、深い傷だ。

しかし、シャドウがいない。それが幸いだった。

帰りは皆で傷を癒しながら、なんとかシンと別れた辺りにこれた。

そこには無数の悪魔とシャドウの死体が転がっていた。

 

「だ、大丈夫だよね?」

 

皆が入口に近づくと、シンが居た。

 

「シン!」

「…早く戻れ。お前たちの後ろから来てる。」

シンは悪魔を召喚した。

 

鳴上たちが後ろを見ると、無数の白い翼が生えた天使たちが居た。

パワー、ラミエル、ドミニオンなどがゾロゾロ集まっていた。

 

「い、いつの間に!?」

千枝は苦しそうな顔で言った。

 

「…早く戻れ。」

 

シンは鋭い目つきで鳴上たちに言った。

「…行け。」

「でも、っつ!!」

クスノオオミカミとの戦闘で負傷したメンバー達は、大量の悪魔が迫るなか、足を止める。

 

「…死ぬには早過ぎる。」

 

シンは仕方無く、鳴上達に『ドルミナー』を掛けた。

まるで、人形のように倒れる。

油断していたこともあったし、何より体力を消耗していたため、誰も耐えられなかった。

 

シンの意図を理解した仲魔たちは鳴上達を抱えて、次々とアマラ経絡へと脱出する。

 

「…テレビの外に出してやってくれ」

「…よろしいのですか?」

「…」

 

シンは答えずにポイッと1マッカをマーガレットに投げた。

「誰かにやってくれ…今生の別れになるかもしれないからな」

「…承知しました」

 

マーガレットは頷き眠っているマリーの抱えると走って出口へと向かった。

 

 

シャドウの黒い波と天使達がシンの方へと近づいてくる。

 

 

「裁かれる準備ができたか?」

「…」

 

シンはペロッとマガタマを飲み込むと、ニヤリと笑った。

 

 

「雑魚風情が…」




カットの理由は色々ありますが、一番の理由はちょっと、書く気持ちが上がらないことにあります。

書きたいという気持ちが空回りしてて、イイ感じにかけないので、とりあえず、話を先に進めます。

今後、話を進めながら書きたすと思います。



大変申し訳ないです


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第70話 I've Known It All 1月23日(月) 天気:曇り

マリー救出の日以降、鳴上達には妙な違和感が残っていた。

マリーを助け、何事も無い平穏な日常に戻っていた。

マリーも問題なく生きているし、世界も消えていない。

何も変わらない、平凡な学校生活と日常が戻っていた。

 

菜々子も無事に退院し、ジュネスで祝った。

 

しかし、何かがおかしい。何かが、欠けている。

空いている教室の端の机、空っぽのカバン入れ、誰もいない小奇麗なアパート。名前のない部屋。

愛屋の一番奥のカウンター席、ステーキの売れ行き減少…

 

何が足りない、何かがなくなっている。

 

 

23日の放課後…

皆、浮かない顔で鳴上のクラスに居た。

 

 

「…なんか、変だよな…」

「うん…マリーちゃんを助けたんだけど…」

「何か…引っかかってるよね…」

 

「…また、俺達、忘れてんのか?大切なこと」

「…分からない。」

「どうしてなんでしょうか。まるで、霧の掛かったようなモヤモヤした記憶があるように思えます。」

 

 

鳴上達は思い出せずに居た。マリーでさえも、マーガレットでさえも、覚えていない。

しかし、自分たちの中には確かに誰かがいた。

 

 

「ただいま」

「お帰り!お兄ちゃん!」

「ん?菜々子これは?」

「あ、うーん…わからない。でもね、菜々子の部屋にあったの。」

 

大きな宝石を菜々子が持っていた。

 

 

 

 

「…」

鳴上はそれを菜々子から借り、自分の机で眺めていた。

 

美しくカットされたダイアモンド。

蛍光灯に照らすと、中で乱反射する。

 

と鳴上の携帯が鳴った。

 

「もしもし」

『鳴上先輩ですか?』

「直斗か。どうした?」

『興味深いものが見つかりまして、連絡をしました。明日、フードコートに集まれますか?』

「…ああ。皆に伝えておく」

『お願いします。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな終わりなら、満足…か。自己満足か?まあ、…いいか。」

 

どうせ死ぬのだ。どうでいい。

 

そして、自分のしたことを思い出す。

「…自己犠牲…か…本当なら天国に行けるが…無縁の話だな。」

 

 

 

シンは暗い闇の中、倒れていた。

鳴上達を押し寄せる悪魔から鳴上達の世界に繋がる通路は守ったが、マリーの作った世界崩壊に巻き込まれた。

そして、帰る術を失った。

 

 

見慣れた闇の底でシンは立ち上がる力もなく倒れていた。

力尽きた。というより、なんとも言えない疲労感があった。兎に角、体が重い。

シンは鉛のように重い首を横に向けると見慣れた顔の人間がシンを見ていた。

 

「…幻覚か」

 

立ち上がろうと力を入れようとしたが、力無く、まるで疲れきって、脱力するような感覚があった。

何度か体験している。カレーの時は一撃だったのでそうではなかったが、何度となく死にかけたのは事実であった。

 

特に今の住処である、アマラ深界は酷いものだった。

それぞれのカルパはなぜか、飛び降りる仕様。

変な丸い石が行く手を阻み、当たれば重力と言う名の加速がその衝撃を増す。

一番のものは、ベルゼブブの呪いの廊下だ。完全に殺す気だった。悪魔もそこの悪魔も強く、まさに満身創痍の様相を呈していた。

バアルとなった今でも、その性根の悪さは加速している。

 

「…フフッ」

 

シンは思わず笑う。

死ぬのだ。思い出して笑ったっていいじゃないか。

 

いずれにしても、今、シンは立ち上がれず、彼らは相変らずの無表情でシンを見ていて、死ぬような感覚があるのはたしかだ。

 

 

 

 

勇、千晶、先生、鳴上達が俺を真っ黒な床の上に立ち、俺を見下ろしていた。

その目は何か、俺に訴えかけるようなこともなく、ただただ俺を見下ろしている。

その目に俺が映っていることがわかる。

暗い筈なのに、妙にくっきりと見える。

 

そんな目を見ていると嫌なことばかり思い出す。

 

何故だろうな。

 

…ああ、そうか。

子供の頃、俺はいつもこんな目を向けられていたんだ。

 

 

『こいつは自分たちとは違う』

『お前はなんだ』

 

 

だから …少しでもみんなと同じになろうとしたり、何かを知った気で言いカッコつけてみたり…

 

だが、考えてみれば、みんな本当の事ではなかったのかもしれない。

きっとそれで何か良いことがあるかもしれないと心の底で思っていた。

きっと、誰かが何とかしてくれる…

 

体が沈む様に重い…

 

…俺ではだめなのか?

…俺では…あの真っ暗な世界を変えられないのか?

 

地べたにへばりついた、あの真っ黒な血が

地べたにへばりついた、この真っ黒な体が…

地べたについた、この真っ黒な空が…

 

 

…ああ、そうか…ああ、ああ…

全て…分かった…

 

これが、そうか。これが。

 

 

 

 

 

 

「…此処に居たんだね。」

 

 

その声のする方へとシンが向くと監視者がいた。

シンは初めて、自分の体からマガツヒが漏れ出していることが分かった。

監視者の少年は少しだけ、悲しそうな顔でシンを見ていた。

 

「…なんだ、おまえか…」

「こんなところに居ちゃいけないよ」

監視者の少年は手を差し延べるも、シンがその手を掴むことはない。

 

 

「…いいんだよ…俺はここで」

「なに言ってるだい。まだ、何も知らないじゃないか」

 

「…俺は知っている…俺の友人に殺される男を見たし、自分がやってきたことも知っているし…自分がどうなるかも分かっている。」

 

シンはそう答えると、焦点の合わない瞳で少年を見た。

 

 

「…すべて…わかった。もう知るべきものはない…」

 

 

「…生きる意味は?まだ、分かっていないじゃないか…」

「この瞬間のためだ。自己犠牲…それが、意味だったんだよ…」

シンは弱々しく笑った。

 

「…な、何も知らないよ。君は、だってまだあの世界の綺麗なモノたちを見ていないよ」

「…綺麗な川も、綺麗な木も、見飽きるほど見てきたものと変わらない

…ただの木々だし、ただの水…美しい景色ももう…興味ない」

 

監視者は声を焦りながらも荒げ言った。

「…そ、そうだ。結婚相手をまだ見てないだろう?

混沌王に相応しい相手がいると思うんだ!

悪魔でも、あの白鐘って子でもいいんじゃないかな!?」

必死に少年はシンに問い掛ける。

 

「…正直…興味もない」

 

「…あの、世界はどうするんだい!?君の大切な友人を殺してまで作った世界だよ!?」

「…俺が居なくても、あそこは大丈夫だ…信頼できる仲魔がいる」

シンは仲魔達を思い出す。

 

「…あの、高いスカイツリーを見ないのかい!?…天さえ突き破るようなあの高い塔を!!」

「…高い塔なら、オベリスクで見た、飽きるほど登って景色を眺めた…」

シンの瞳から光が消える。

 

「…何も…見えなくなった…真っ暗だな…死ぬのか、やはり」

「…約束を、破るのかい!?白鐘って子との約束を!?彼らは!?彼らとの約束は!?」

「…世界崩壊した今、俺の事はもう、誰も覚えちゃいないさ」

 

 

監視者の顔が悔しそうな表情に変わる。

 

 

『興味ない』

 

 

あれほど、子供のように好奇心の塊だった彼が、興味を持たない。死とはそういうことなのか?死の概念を知らない監視者にとっては、この上ない絶望だった。

 

 

「…すべてわかった気がする…世界の暗闇を見たし、その中でも輝き続ける人間がいることも知った…」

シンはそう言うと、鳴上達を思い出す。

頭の中のスクリーンに彼らを投影する。

 

どんなに苦しい状況でも諦めることをしなかった彼らなら…

彼らとの思い出…そして、仲魔達との思い出…

 

「…長生きはするものではないな

…少しばかり、いとおしいモノを抱えすぎたか」

 

シンは弱々しく笑う。

次に思い出すのは、あの神というやつだ。

 

「…概念に勝つことなんてできやしなかった…クソ野郎…」

 

シンは力なく、天を見上げた。

 

「…自分が選んだことも、自分が必要としたことも知っているし、過去のありようも、これからどうなるかも分かっている…」

 

「…違う…違うんだ。こんな結末は…記せないよ。僕はハッピーエンドが好きなんだ。何事も綺麗に終わるべきなんだ。」

少年はシンの体を持ち上げるが、明らかに軽い。

 

「俺が選択することのなかった世界も見れた。…これ以上望むのは、強欲というもの」

「いいんだよ!君は王なんだから!何を望んだってっ!!」

 

 

「…もうこれ以上望むものはないし、知るべきこともない…」

 

 

「ダメなんだ。そんな、こんな、結末じゃ。僕はまだ、何も聞いていないし、知らないんだ。」

 

「……」

シンは少しだけ沈黙する。そして、考え出したように言った。

 

「なら、おまえの力を貸してくれ…ある種の賭けだ。」

シンは少しだけ笑みを浮かべた。

 

その表情に監視者は少し嬉しくなり答えた。

「うん!なんだい。」

 

 

 

 

 

 

「…お前、跳べ(死ね)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジュネス…

 

 

「メモ?」

直斗が見せた紙を皆が見る。

そこには、足立が犯人ではないかと書かれていた。

推察的内容だったが、非常に的を射ていた。

 

「ええ。ですが、誰にもらったのか分かりません。」

「…なんかー美味しそうな匂いがするね」

千枝は紙の匂いを嗅いでいった。

 

「これ、愛屋じゃないっスか?」

完二は鳴上に言う。

鳴上はその紙を直斗から貰い、よく見た。

「…そうだ。油がついている」

 

「それに、わたし達と結構長い間、行動をともにしてたって事だよね?

ほら、だって、『お前たちの行動は予想してここに来るだろうと思った。』って書いてあるから」

天城の言葉に皆が唸る。

「うーん…」

 

皆が唸る中、マリーがいつもと変わらぬ様子で来た。

「あれ?もう大丈夫なの?」

「これ。」

そういうと、マリーはぶっきらぼうに金貨を渡してきた。

それをテーブルへと置いた。

 

「…なんでしょうか。これは。」

「金貨だけど、見たことないね」

 

 

 

 

魔貨(マッカ)というものだ。」

その声とともに、腕が伸びてきて、そのマッカを取った。

そこには、猫と大正時代の書生の格好をした少年がいた。

 

「依頼料確かに頂いた。そして依頼を果たしに来た。俺は葛葉ライドウ。こちらはゴウト」

『みゃぁ』

ライドウの言葉に答えるように猫が答えた。

「だれ!?ってか、ネコ!?」

千枝は驚いた様子で尋ねる。

 

「たしか…文化祭にいたよな?」

花村は首をかしげながら尋ねる。

ライドウは頷く。

 

「あ!それに、初めてウチがペットと泊まれるのを始めた時に、一番はじめに来てくれてた人!」

天城の質問にも頷いた。

 

『断片的ではあるものの、わしらの情報を覚えているようだな』

ゴウトの言葉にライドウは頷く。

 

「依頼というのは?」

直斗はライドウに尋ねる。

 

「…それらの持ち主から依頼を受けた。思い出すために、君達のいう"てれび"に入る必要がある。」

だがと、ライドウは淡々と続けると指を2本立てた。

 

「まず初めに、ここで忘れるか、向き合うか。…どうする?」

 

 

「私は思い出す。もう、大切な事忘れたくないから」

マリーはすぐにそう答えた。

 

「当たり前クマ!」

「そうだな。」

 

 

「決意は決まったか。厳しい道程になるだろう」

 

 

 

いつものように皆でテレビに入る。

 

 

 

 

 

 

そして、広場から少し歩いた場所に何も無い部屋があった。

薄暗く、妙に青白い白熱電球が光っていた。

そこにはドアがあり、ベットとベットの上に一冊の本が置いてあった。

 

「ここに何かあるってこと?」

「?」

ライドウは肩をすくめた。

 

りせがペルソナを出し、辺りをサーチする。

「…特に反応ないけど。人の反応は」

 

皆はあたりを見渡している。

鳴上はベットの上の本を手に取った。

 

「『てんぷら』?」

鳴上の突然の言葉にみなが集まる。

ライドウだけは無言のまま、それを見ていた。

 

「てんぷらっていったら…ふつーにあの"てんぷら"だよな」

「ってかそれ以外あるんスか?」

 

鳴上はその本を開いた。

 

 

『てんぷら。一時の繁栄も全ては秩序に帰す。

永劫に続くと思われた人の世もまた、秩序に帰す。

混沌を極めた世界でさえ、秩序に帰す。

全てはトウキョウから始まった』

 

 

「…意味わかんねぇ」

花村はあきれた顔でいった。

 

「"てんぷら"ってなんなの?あの"てんぷら"じゃないってこと?」

 

「天麩羅。俗語で"にせもの"を意味する。」

「にせもの?」

ライドウの言葉に直斗も思い出したようだ。

「てんぷら料理が表面は衣、中身は具と異なることからきています。

単に偽物という意味でも使われているということです

…ですが、それが何を意味しているんでしょうか…」

 

すると、周りの景色がぼやけ始めた。そして、思い出す。

 

間薙シンという悪魔を。

 

 

しかし、思い出した瞬間。

自分たちがどこにいるのかさえ、思い出した。

 

 

水の中であった。

 

 

慌てて皆が水面を目指して、泳いだ。

そもそも、それが水面なのかさえ分らないが、兎に角、光のある方へと泳いだ。

鳴上はふと、横を見ると、真っ黒な瞳をした天使がいた。しかし、それは悪魔だと知っている。

 

天使ではない。

 

夥しい程の量のそんな天使達が鳴上達を見ていた。

鳴上はそんな奴らを無視して水面を目指した。

そして、そこには崩れたビルなどが見えていた。

 

「プハッ!!!」

 

皆が、水面に上がり、すぐ近くの岸に泳ぎ着いた。

そこは、何も無い土と月が見下ろす場所であった。

 

後ろは何も無い海が広がっていた。

 

「ど、どうなってんだ!?」

「さ、さっきまで、部屋にいたと思ったら、水の中で水面上がったら」

千枝はその草原に座った。

 

「…なんか、この世界おかしい…」

マリーは冷静に答えた。

「思い出したか?」

 

ライドウは濡れておらず、ゴウトと平然と立っていた。

 

「間薙センパイでしょ!?どうなったわけ!?」

「…ええ!どうなったんですか!?」

直斗はライドウに珍しく大声で尋ねた。

 

「あそこにいるだろう。」

そう言ってライドウが指をさしたのは、三角錐の建物があった。

 

皆がそちらを向いた瞬間、ライドウが突然、抜刀した。

「…出てこい」

「流石だな、葛葉ライドウ」

その声に、ライドウは戦闘態勢を解き、菅から手を引いた。闇の中からワインを傾けながらバアルが現れた。

 

「バアルさんだっけ?」

天城は尋ねるように言う。

「やはり、お前たちはやはりLawであったか。」

「どーいう意味スか?」

「深い意味はない」

バアルはそういうと、ワインを飲み干した。

 

「さて、なぜ、彼があそこにいる理由を話さなければならない。

それは、無世界がアマラ経絡と一時的に繋がってしまったことによる、障害が起きた。

それにより、お前たちとの世界への経絡が再生成されたことにより、非常にややこしい事態となってしまったわけだ。」

バアルはそれにと続ける。

 

「それに、お前達のせいです、わたし達の混沌王は死にかけた…その罪は重いぞ。」

地鳴りがし始めた途端に、ライドウは咄嗟に下がり、刀を抜いた。それと同時に封魔管を3本指に挟んでいる。

 

皆も戦闘態勢に入った。

 

 

「私は、非常に、憤っている…」

 

だが、地鳴りが止み、バアルはワインを何処からともなく取り出し瓶ごと飲み始めた。

 

「…だが、まあ、良い。王は御存命だ。そして、お前達と再会することを望んでいる。

しかし、それを阻む物がいる。」

「だれ?」

天城はバアルに尋ねる。

 

「哀れな天使どもだ。王を檻に閉じ込めることしかできない。それに、結界を張り頑丈に閉じ込めている。」

「つ、つまり?」

千枝は我慢できずに尋ねた。

 

 

 

「お前たちには『カテドラル』内部で結界を生成している、大天使ウリエル・ラファエル・ガブリエル・ミカエルを倒してほしい。そして、あわよくばセラフかメルカバー、メタトロン。そいつらが引き釣り出せれば上等。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、本当にやるとはな…どうせ、俺はいつか死ぬ運命だったというのにな。それに、本気で俺はあそこで死ぬつもりだったが…」

 

シンは寝たまま、ソーマを浴びるように飲み干した。

だが、消えかかった体を完全再生するまでには至らなかった。

体力の消耗が激しい。

 

「…僕は、自分の役割を果たしたに過ぎないんだ…それに、まだ、君は死ぬには早過ぎる…」

 

シンは監視者にソーマを与えようとするが、監視者が首を横に振った。

 

「契約違反だから。僕は無に帰する運命なんだ…無意味。」

「そうか。」

 

「これが…僕の…うんめいだったのかな…」

「…運命に…意味はないだろう」

「そうか…うん、でも、これで満足だよ。」

監視者はシンを見ていった。

 

「やっぱり、キミはそうでなきゃ。…どんな絶望的な状況でも、跳ぶんだ。

だから、キミは、興味ないなんてもう、言わなくていい。キミはキミの気が赴くままにすればいいんだよ…」

「…」

「それが…キミなんだよ。どんな淵だって、崖じゃないんだ。跳べば、向こう岸か、底に着くよ。」

 

監視者はそういうと、体を震わせながら、横を向く。

 

「…自分の死の瞬間を記せるなんて、なんて幸せなんだ…」

何処からともなく、分厚い本を取り出すと、謎の言語を嗚咽のような声で読み上げ、書き始めた。

 

 

 

『喧騒たる迎えは来ず、ただ粛々と自分の死を迎え入れている。

自分はあの喧騒たる迎えの中、虚無の淵に落ちるものだと考えていた。それは吐瀉物のように嫌悪したかったが、そうでなくて、今、自分の心に陰り無し。』

 

『粛々と自分の存在を!そして、これからの虚無の日を!満ちる雫が集いし坩堝で、僕は君を待っている。』

 

そういうと、ニッコリと笑った。

そして、字がよれよれになり、力尽きた。

 

シンは仰向けにすると、その目を閉じさせる。

 

 

「…安らかに眠れ」

 

シンはそういうと、あたりを見渡した。

 

「…どうしたものかな。」

 

シンは本気で死ぬのだと覚悟した。そして、虚脱感しか無かった。

しかし、現れたのは幸いかな監視者である。

彼はアマラ経絡以外の何かの移動手段を持っていた。

 

それが何なのか今となっては分からないが、確かにその移動手段で元のというより、少なくとも消滅した世界からは脱出できた。

 

だが、流石のシンも弱っていた。

それもそうだ。相手はハニエルを筆頭とする大天使。

いくら、シンといえども、防衛戦で大天使を相手にするのはあまりにも辛い戦いであった。

 

シンは冷たい、床に座り込んだ。そして、檻に寄りかかると目を閉じた。

疲労感の中、シンは何となく理解していた。自分が閉じ込められていることに。

 

籠のような檻を見て皮肉そうに言った。

 

「…飛べない鳥もいるんだな」

 




監視者を出した時点でこの話を考えてました。

たぶん、次は説明回になる予定。
LawとかChaosとか、コトワリとか含めて。


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第x7話 Diving In

僕は決して、気概も知性も、ましてやカリスマ性もない。平凡な従属会社員。

でも、変人だって良く言われる。

 

 

 

「僕は明智。聞いてたでしょ?キミはどう思った?」

 

 

 

 

 

 

 

『“我々は常に、子供たちの未来を管理する必要がある”

…香西氏はこう述べました。

集まった保護者達からは拍手が上がりましたが、一方で、選挙に向けた人気取りとの評もあり、また香西氏は政治献金問題の疑惑もあった為、今後の動向が注目されます。』

 

テレビのニュースが終わると、グラスがテーブルに叩きつけられる音がした。

 

「けっ!何が、『“現代は、些細な環境の変化にも目を配り、政治に反映させていかなければならない”』だよ!!そんなこと、できんだったら、その些細な環境の変化でも感じ取って、もっと労働者の賃金を上げてくれってんだ」

 

そう言って、ビールを飲み干す。

こいつは原田という。沖名の方で配達の仕事をやっている。

その枯れた声が特徴的だ。

 

「そう怒りなすんな、原田。こいつらは、自分の利権にしか興味はないのさ。目を配るのはさしずめ、賄賂や政治資金を不正にくれるやつだろうよ。」

 

そう相槌を打ったのは、会社員の柴原。

沖名で証券会社の社員をやっている。

 

「全く、今の政治は腐ってんな!!」

「政治というより、政治家個人だと思うよ…」

 

僕がそう指摘すると、バツが悪そうに原田は言った。

 

「…け!だったら、一層のこと専制政治とかのほうがいいかもな!」

そんな原田の言葉に柴原は少し笑いながら言った。

 

「何れにせよ、香西の言う未来ってやつには、ちと金がかかりすぎるようだがな」

そんな柴原の言葉に俺は肩をすくめた。

 

「仕方ないさ。お金が全てとは言わないけれど、何をするにもお金ってやつがかかる時代で、ましてや、民主的に選ばれたら、それはどんなやつでも"民主的に選ばれた代表の1人"ってことだろうしね。」

「違いないな」

 

「…最悪な民主政治なのかもしれないな」

「戦争してないぶん、まだ、ましか…」

 

愛屋で僕たちはいつも通りに呑んでいた。

今日も週末の集まりで、愛屋の奥にある部屋でテレビをつけて呑んでいた。

 

僕は明智という。この八十稲羽の地元紙の記者だ。

小さいものだから、ページ数も少ない。

内容はこの町でのイベントの情報や、この町での小さな事件。それくらいだ。

 

この平凡な町での事件といえば、さしずめ、迷子猫が見つかったであるとか、野生動物へと警戒情報、または訃報なども事件といえば事件なわけだ。

 

のんびりとした内容が案外にも好評で発行部数が多くてなんとか、やっていけてる。

 

 

 

「それよりもだ。この霧。どうもおかしいぜ?こりゃ」

 

原田が天気の話をするのは珍しい。

僕と柴原はそう思った。

 

いつも、テレビのニュースに文句を言って、天気予報など見ていた試しがない。

自宅では知らないが、少なくとも俺たちとこうして、飲んでいる時は天気予報になるとチャンネルを変える程であった。

 

「明日は槍が降るかもな」

「けっ!抜かせよ。俺だって流石にこの状況は不審に感じんだよ。」

 

「僕もそれは思う」

僕の言葉に2人とも顔を見合わせて笑った。

 

「ほう?あの鈍感明智もか。あれだけ熱視線を浴びていたのに、頭を掻きその視線に耐えきれないで、謝ったお前が気付くとはな」

 

僕は思わず、癖で左の小指で頭を掻いた。

 

「はは。僕は朴念仁と呼ばれたっけね…」

 

僕は高校生時代を思い出す。

 

「その次の日には、柴原の寺の捨てられるはずだった木魚が机に置いてあった。僕はそれをポクポクと鳴らしたもんだ」

そんな僕の皮肉に原田が付け足す。

 

「朴念仁と聞いて、俺が何故か木魚を思い出してな。柴原に頼み込んだ。」

「どこがどう転がれば、朴念仁が木魚になるのやら」

 

そう呆れた声で柴原は言い少し笑ったが、すぐにいつもの真剣な顔に戻った。

 

 

「だが、俺も疑問はある。」

「だろう?」

柴原の言葉に原田はうんうんと頷きながら同意を示した。

 

「そうだね。実は定期的に霧が起きているっていうのが引っかかるね。天候以外の関係があるようにも思えてならない。確かにここは盆地で霧の発生条件としては整いやすい地形ではあるけど、去年の2倍ほど霧が発生してるなんて、おかしいんだ。」

 

「…それに、奇妙な事件があったからな」

柴原は餃子をパクリと食べた。

 

 

 

 

この八十稲羽は山に囲まれた盆地なわけで、霧の発生条件としてはさほど不思議ではない。

しかし、皆が問題に感じているのはそこまで急激に温度が下がっていないというところに起因する。

些か、どうも違和感を禁じ得ない

 

 

「…?」

 

僕は次の日、たまたま自分のメモを見ていた。

何てことはない、あまりにも積み上げられた資料が崩れ、課長に怒られたのだ。

僕は些か、整頓というやつが苦手らしい。

 

それはぼくの机の上には無数のメモの束で、僕と隣の席の神田さんという女性社員と片付けをしているところだった。

 

ふと、捜索願のメモに『白鐘直斗』という名前を見つけた。

 

記憶が正しければ、少年探偵と言われている少女だ。

外見が少年だが、実のところ戸籍は女だった。大衆向けの週刊誌が下衆な話題で盛り上がっていたのを覚えている。

まったく、いつになっても快楽原則は最低なモノだと思うね。

 

「ちょっと。明智さん?読んでないで、片付けて下さ

い!」

「ん?ああ。そうだね。うん」

 

僕はいつもの癖で左手の小指で頭を掻き、崩れた下の部分から少し古いメモが出てきた。目がついたのは、『天城雪子』の同じ捜索願だった。

 

通常、一般捜索願は非公開。

しかし、僕は記者だし、それなりの信頼ってやつを受けていると自負している。

言い方は悪いけど、市民と警察との距離を縮めるような記事を書いたこともあるし、何より所長と知り合いっていうのが、あるかもしれない。

 

「…あー…神田さん?」

「はい?」

「悪いけど、僕は警察署に行ってくるよ。」

 

僕は本格的に頭を掻きながら、部屋を後にした。

後輩の怒号を背にしながら。

 

 

 

 

 

 

「…ありがとう。西沢」

「また、先輩のアンテナに引っかかったんですか?」

「…別に、僕はそんな優良アンテナじゃないさ。受信するのは、法外電波くらいじゃないかな」

「謙遜ですよ。それ」

 

 

僕はこの警察署に友人が多くて助かってる。

記事を書く上でも。僕は地元育ちで、高校は八十神高校だった。だから、というわけでもないけど、後輩や先輩が多かったりする。

 

さて、結果的に言えば、他の捜索願もあった。

関連性で適当に調べてもらったところ、小西早紀、天城雪子、巽完二、久慈川りせ、白鐘直斗。

 

奇妙だ。

 

マヨナカテレビというやつの数日前に失踪している。

大量の情報がそれを証明している。

 

そして、彼、彼女らは不本意な形でテレビに出ている。

 

 

『報道されていたって?』

「天城雪子は第一被害者のいた旅館ってことで、インタビューされていたみたいです。」

『久慈川りせは休業会見、白鐘直斗はニュース番組への出演か…』

僕は携帯電話越しに、頭を掻く動作をして、手帳を閉じた。

 

相手は課長である。

 

「まぁ、僕としては単なる興味なんですがね。ですが、記事になるかどうか…」

『そうだな…』

そう溜めると、課長は閃いたように言った。

 

『八十神高校に影を落とす、連続家出騒動!なんてタイトルはどうだ?』

「別に記事にしようとか、そういうのでは無いんですよ。給料泥棒ですかね?」

僕は課長にそういうと、いやと否定すると、課長は言った。

 

『構わんよ。君は良くやってくれている。』

「そう言って貰えると、幸いですよ。」

『しかし、だ。あまり、神田くんを怒らせんでくれ…オフィースが荒れるのだ』

「それは、失礼しました。」

そういうと、明智は笑いながら電話を切った。

 

(課長には悪いことしたなぁ…)

そんな事を思いながら、明智は頭を掻いた。

 

 

明智はまず、白鐘直斗の居る家へと向かった。

 

凄い家だと小学生並みの感想を抱いた。

それもそうだ。明智は建築などには詳しくない。洋風の屋敷だということぐらいしか、分かることもなかった。

明智はハンチング帽子を脱ぐと、丸め上着のポケットに入れた。

 

少し寝癖のある髪の毛を直すと明智はインターフォンを押す。

 

『はい。』

「私、八十稲羽新聞の明智といいます。すみませんが、白鐘直斗さんはいらっしゃいますか?」

『…どのような、用件でしょうか』

 

そう言われてしまうと、困ってしまう。実直に言ったところで会える可能性は皆無。

明智は腕を組み、ふむと少し考え、言った。

 

 

 

「事件について少々、お話があります。」

 

 

 

 

 

「…おお、まさにお屋敷という感じだなあ」

明智は辺りをキョロキョロと見渡すと頭を小指で掻いた。

彼は頭が痒いから掻いているのではなく、思考しているのだ。

 

 

(ゲストルームというものかな?やはり、こういった部屋は体裁を気にするものか。ともなると、ここら辺にある美術品はさぞ、高級なんだろうか…

僕は絵なんかわかりゃしない…それに、ひどくむず痒くなる。僕に絵の価値をいくら言われてもわからないからね。例えるなら、かたつむりに塩の価値を説明するようなものだ。馬の耳に念仏さ。)

 

明智はそう考えていると、ドアが開いた。

「お待たせしました。白鐘直斗です。」

「いいえ。こちらこそ。僕は明智波留(あけちはる)といいます」

 

直斗がソファに着き、座るように促すと、明智も席についた。

 

 

「それで、事件についてということですが、既に警察の方で公式発表を行いましたが…高校生という形で」

(そうじゃないと、可能性を話したのは紛れもなく君なんだけどな…)

 

明智は少しだけムスっとながら、言った。

「いえ、そうは言ったんですがね、実のところそれについてではないんですよね…いや?あるいみそうなのかもしれませんが。」

 

明智は申し訳なさそうに直斗に言った。

 

「では、僕に用事という事でしょうか」

「ええ。まぁ。少し前にあなたに対して捜索願が出されていましたね。」

「…ええ。まぁ」

「それが少し引っかかりましてね、お聞きしたいと考えている訳なんですよ。」

「…」

 

直斗は困惑した表情で腕を組む。

その様子に明智は慌てた。

 

「いや!そこまで、深く考えて頂かなくても結構です。雑談程度で僕の経緯でも話しますが、よろしいですか?」

 

そんな明智の言葉に直斗は頷いた。

 

「結果から言えば、僕としましては、不審な点があるわけです。白鐘直斗の前にも同じ高校生で捜索願が出されているんですよね。小西早紀に始まり、天城屋旅館の次期女将。暴走族を潰した染物屋の息子。アイドル…」

 

「一見、高校生という以外の共通点が見当たりません。

ですが、何事も見えない事実というやつが隠れているもので、歴史上も様々な見えない事実というモノがありました。」

 

「今回も何かしらの共通点があるのではないかと調べました。となったとき、あなた方は皆さん揃いも揃って、いなくなる前に『テレビにご出演していらっしゃった』」

「…」

 

「ですが、それが失踪する原因とは少しばかり考えにくいわけです。確かに皆さん、良い形でのテレビ出演とはいい難いわけで、言い方は悪いですが下衆な、といいますか…その…不本意な形だと考えられます。」

明智は頂いた紅茶を飲む。

 

「だからと言って、失踪するという事には繋がらないと思うわけです。それに、失踪は数日だけで、こうして地元紙の記者のくだらない妄想を聞いていらっしゃる」

「…なるほど」

そんな明智の言葉に直斗は少しだけ笑みを浮かべる。

 

明智は紅茶のカップを持ち、中を見ながら話す。

 

「ともなれば、あくまで推測なのですが、失踪せざるを得ない何かがあったと捉えるべきだと思った訳です」

「…」

直斗は深く椅子に体を預けた。

 

「…その…なんというか、あながちあのインターフォン越しの事は嘘ではないということなんです。」

「?」

 

「一連の殺人事件とこの失踪が繋がっているように考えた訳です」

「…その理由は」

「山野 真由美に端を発したこの殺人事件と失踪事件が当人たちが、この八十稲羽に居り、尚且つ、その数日前にテレビ出演している…

この点が似ているというだけの、実に適当な理由ですが」

 

そう言って、紅茶を飲むと苦笑いをした。

 

「ですがね?仮に失踪ではなく…誘拐だったらと思いまして。そうなると、どうも、高校生がすべての犯人とは考えにくい訳ですよ。山野真由美との関係性も見えてこないですし、実に巧妙な手口で誘拐している辺り、高校生にしては、精密さが際立ちすぎているような気がしてならないのです。」

 

直斗は彼の鋭い推察力に感服せざるを得なかった。

それと、同時に自分の人を見る目の無さに嫌悪した。

外見が冴えない。足立と似たような雰囲気がある。

目はタレ目で優しそうな雰囲気はあるものの、どうも冴えない感じだが。

 

その実、策士らしい。

 

入念に調べられ、尚且つ、真っ先に情報が得られるであろう、直斗のところに一番初めに来た。

記憶の鮮明さからしても、直斗が正確である。

 

そして、直斗自身がテレビで発言した内容も知っている。

 

外見に騙されてはいけなかった。

 

 

 

「…小説家にでもなられた方がよろしいのでは?」

直斗の言葉に明智は頭を掻いた。

 

「残念ながら、先程の通り。僕は文章構成力がなくて、助手替わりの神田君が解読にいつも、悲鳴を上げながら読めるような形の記事に仕上げてくれるので。」

 

明智は肩をすくめて言った。

 

「適材適所と言う言葉がありますから。最善を尽くしてもダメなモノはダメなわけであります。」

 

「…なるほど。ですが、それだと僕や他の人達はどうしてこうしていられるのでしょうか」

「だから、こうして聞きに来た訳ですよ。警察にも届けていないですしね」

「…」

 

直斗と明智はお互いに目を合わせた。

 

 

「…残念ながら、答えることはできません。」

 

それが直斗の出した答えだった。

しかし、直斗は食いついてくると思った。真実を聞くまで。

何せ、これほどまでに調べ、当人の家まで来るくらいだ

が予想外の回答だった。

 

「そうですか。分かりました。」

「え?」

呆然とする直斗に明智はハンチング帽子を被りながら言った。

 

「おや?意外でしたか?僕が執拗に聞かないこと」

「ええ。まぁ」

「正直な所…知りたいですが、別に仕事ではないので。無理して聞くものでもないかと。

こりゃ、本当に給料泥棒かな……」

 

直斗は明智に尋ねる。

 

「では、なぜお調べに」

 

「僕の想像じゃ、人知を超えたような気がしてならないからね。『マヨナカテレビ』や、『霧』のことも含めて。それは、僕の専門外だ。カルト雑誌の管轄だから。ですが、隣の芝は青く見えるというもので、100%興味がないというのは嘘になりますね」

 

「先程もいいましたが、最善を尽くしてもダメなものはダメなわけですよ。手の届かない場所のことをいくら考えてもそれで腕が伸びるわけじゃない。事件を解決する方法を持っている"君たち"がやればいい。」

 

直斗はこの記者は恐ろしいと思った。

自分たちがやっていることを見抜かれている。

 

頭の中にいくつもの情報がデータベースの様に集約されているような気さえした。

パターンを解析し、共通点を見つける。それらの関係性を先入観なく選別できる能力がある。

 

その後、彼が帰ったあとに明智という男について調べた。

彼の記事は八十稲羽の牧場で馬が生まれたことや、ちょっとしたイベントの取材など多岐に渡っていた。

しかし、その内容は濃密で、インタビューされた側の情報が克明に書かれており、理解しやすかった。

 

だが、直斗はその裏にあることまでは想像がつかなかった。

そ彼はこの町のことを知っており、人とのつながりも多く持っていること。それは、ありとあらゆる情報が、彼のところに来るところも。

 

 

 

 

 

『マヨナカテレビ』という噂。

そして、それに映った事件被害者と捜索願を出された人物たち。

 

「…関わったことが間違いだったかな…」

明智はそう口に出すと、いつもより、激しく頭を掻いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で!?結局、真実分からずじまいか!!」

原田はそんな、明智の話のオチに思わず怒りかけていた。

 

「誰にも分からないよ真実なんて。自分が納得できれば、その人にとっては真実なんだ。宗教に似たようなものかもね」

明智は持参のブランデーを飲む。

 

「ほかのやつには聞いたのか?久慈川りせなんかは」

「聞いたけど、同じような回答だったさ。」

 

明智は溜息を吐いた。

 

「僕はね、別に暴露記事を書こうとか、そんな事には興味無いんだ。それが例え、発行部数を増やす手段であって、真実でないとしたら…一体全体、ジャーナリズムって何だろうって思ってしまうんだ」

「それが、お前の信念か」

 

その柴原の言葉に明智は肩をすくめる。

 

「信念ってほどのモノじゃないよ…それに、彼らは被害者だよ。僕達、一般人が政治家に期待していないように、彼ら彼は、マスメディアによって、作り上げられた偶像、偽物の彼らを先入観として埋め込ませられただけに過ぎない。」

 

「マスメディアを扱うお前がいうか…こりゃ、世も末か?」

 

 

 

 

 

 

 

シンは腕を組みながら、壁に寄りかかった。

これほどの、怪奇現象が起きているのに、当たり前と受容していることにシンは首を傾げたのを覚えている。

 

『慣れ』とは恐ろしいものだと、改めて実感する。

 

彼らの話を聞いているとそれを実感する。

だが、手前に座るだらしなそうな、男は不思議な雰囲気がある。

 

シンはそんなことを考えながら、本のページを捲る。

そんなシンの横に誰かが座った。

 

 

 

 

 

「僕は明智。聞いてたでしょ?キミはどう思った?キミは"彼ら"と何かをしているひとだからね。」

「…その探究心と行動力、何より推察力は素晴らしい。が、世界には知ったところで何もできない真実がある。」

「…」

「事実はいつも残酷で、現実はそれ以上に残酷なのかもしれない」

 

「…そうだね…キミは聡明だ。だから、記事にする気はないよ。何より、こんな現実的でない話を誰が信じるんだか…」

 

「それが、お互いの為ではないですかね?」

シンはテーブルに肘をついた。

 

 

 

「…何れ、真相が明らかになった時に、話してくれれば、僕としては嬉しいかな」

 

明智はそういうと、頭を掻いた。

 

「事実は小説よりも奇なり」

シンは本を見せて言った。

 

「…そうでなきゃ、こんな世界やってられないよ。」

 

明智は珍しくニッコリと笑った




今後もこの明智という人は出てきます。
閑話内だけですが。


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第71話 Make Me Sad 20XX年1月7日(?) 天気:不明

「あったりめぇ、じゃねぇっすか!こっちは1回命を救われてんだ!!」

完二はやる気充分のようだ。

完二だけではない皆がバアルを見た。

 

「そうクマ!」

 

だが、その反応とは裏腹にバアルはため息を吐く。

 

「…言葉の意味を分かっていないようだな。」

「どういう意味だ?」

鳴上はぐいっと前に出て尋ねる。

 

「相手は大天使、最悪、熾天使。そう簡単に倒せるとでも思っているのか?」

 

「相手が誰であれ、やるしかないっしょ!」

千枝は軽く跳ねながら言った。

「珍しく、お前に賛成だよ…」

花村も準備を始めた。

 

「可能性か」

バアルはそう呟くと目を閉じた。

 

「あら、やっぱ、捕まっちゃったんだ」

『これはピクシーか』

フワフワと来たピクシーにゴウトが反応した。

 

「"やっぱ"とは?」

ピクシーの言葉に直斗が反応した。

「…とりあえず、行きましょ。説明しながら。」

 

ピクシーはライドウに軽くお礼をする。

「ライドウ、ありがとうね」

 

「報酬は貰ったから構わない」

ライドウはそう答えると、1マッカを指で弾き、マントを靡かせ、去っていった。

 

ピクシーはそれを見送ると建物の方へと向かった。

皆もそれについて行った。

 

 

 

「シンはハメられたのよ。天使たちによってね」

「どういうこと?」

千枝も含めた皆が意味不明と言った感じだ。

 

「あなたが上手く使われちゃったのかな?」

ピクシーはマリーを指さした。

「私?」

「そ。あなたを助けることでハメられたの。手順としては至って、簡単。アマラ経絡に準備していた大量の悪魔をなだれ込ませた。」

 

「でも、それだけ倒せるほどやわじゃないって知っていたのよ。だから、タイミングを合わせることにした。

あなたたちが、彼女を助けることによって、世界は消えることを知っていたの。それに、シンが助けるだろうって予測もしてた。」

 

ピクシーは建物前にくると、その丸い扉に触れた。

すると軽い音ともに開いた。

 

「だから、あなた達を返すことに専念する。結果的に無の世界にシンを追いやることができた。というより、大天使 ハニエルが出てきたみたい。

それでも、シンは他の仲魔が崩壊に巻き込まれないようにって、強制的に帰還させちゃった。

だから、被害としては明らかに天使達のほうが大きいわ。

大天使ハニエルを含めた、多くの大天使を消せたのは大きいわ。」

 

そういうと、ピクシーは止まった。

 

「でも、それ以上にこっちは大きな被害を受けそうになっていたわ。というより、受けたでしょうね。」

「…そしたら、どうしてた?」

鳴上は少し不安げに尋ねる。

 

「…私はいつだって冷静よ。そうありたいと思っているわ…でも…シンが居なくなっていたらって考えると…私は冷静でいられる自信はないわ。」

 

ピクシーは濁りなく、鳴上達に言った。

 

「私にとっては大切な()だもの。シンがどう思っていたってね…」

 

 

「…」

 

その言葉から、信頼よりも、もっともっと深い意味を感じ取れた。

 

ピクシーは首を振り話を戻した。

 

「…まぁ、結果的には監視者ってやつに助けられたのかな?」

 

「監視者?」

「シンにしか姿を見せたことが無いのよ。でも、隠密的に入らせた悪魔から、白い少年と共に檻の中にいるって話よ。」

 

ピクシーは止まるとため息を吐いた。

「…檻の中ということは…」

直斗は不安げに言う。直斗の言葉を引き継ぐようにピクシーが言う。

「あいつらの想定の範囲内ってことね。こんな建物まで建ててね。それに、シンは別になんとも思ってないだろうけど。」

 

ピクシーの話に改めて深くシンを知れた気がした。

 

「…やっぱ、センパイ人間らしいスね」

完二はしみじみと呟く。

「真意が読めませんからね。僕達よりも遥か先を見てますから」

「でなきゃ、王で居続けることなんてできやしないわ。」

ピクシーは自慢げに言った。

 

「ってか、マリーちゃん大丈夫なわけ?」

「…しらない。でも、多分大丈夫。」

「そんな時はクマがマリちゃんを守るクマ!!」

クマはやる気満々だ。だが、マリーがちょこんと押すとクマはゴロンと倒れてしまった。

 

「た、立てないクマー」

「相変わらずなのかよ…」

 

「…ここまで来ちゃったんだし、私が守っておくから、あなた達だけでも行けば?」

「私もここから、案内するよ!」

りせはそう言って意気込む。

 

「じゃあ、お願いします。」

そう言って、鳴上達は歩き始めた。

 

 

 

 

「ああ、あと。」

ピクシーは鳴上達を止めていった。

 

 

「ここはあなたたちの世界とは違うわ。価値観も思想も、考え方も。それだけは言っておくわ。」

 

 

鳴上達は頷き、丸い扉をくぐった。

 

 

「大丈夫なの?」

マリーは少し心配そうに言った。

「恐らく…ね。」

ピクシーはマカロンを齧る。しかし、その瞳はどこか不安そうだった。

りせはペルソナを召喚し、サポートを始めた。

 

「クー・フーリン!フーリーの羽衣借りて来なさいよ!!」

「…はっ!」

「属性を誤魔化さなきゃ、カテドラルへの道には入れない…あるいは、Lawかしら…全く!セトはどこに行ってんのよ!!」

ピクシーはカテドラルのてっぺんを見つめる。

 

 

 

 

「…いつものように帰ってきてよね」

 

 

一抹の不安の中、ピクシーは目を閉じた。

 

 

 

 

 

中は白を基調とした、ダンジョンとなっていた。

1階の中央は吹き抜けており、上から光が差し込んでいた。

 

「ここまでくると、如何にもって感じだな。真っ白な感じとかさ」

花村は辺りを見渡し言った。

 

「天使って言ってたよね…相手。でも、天使なのに『悪魔』って言ってたね」

「結構、フクザツなんじゃない?そういうところさ。」

「ある種の名称みたいなものかもしれません…」

 

そんな会話をしていると、声が響いた。

 

 

 

 

『…おお。何者か、迷える神の子らよ。汝ら、なぜこの地に赴いたか。』

 

「知ってて聞いてんだろごらァ!!」

「シン君を助けに来たの!!」

完二と天城が答えた。

 

『何と、何と愚かな事を…堕されたモノたちに仲間した混沌王を助けると?何故、助けるのだ?』

 

鳴上は上を見上げて、真っ直ぐとした目で答えた。

 

「友人を助けるのに理由は必要ない」

『…何たる浅慮。ヤツは神に選ばれながらも、多くの大罪を犯したのだ。そんなモノを助けると?』

 

 

『…その浅慮、救い難いぞ。』

 

 

そう答えると、声は聞こえなくなった。

鳴上達は特に気にすることなく、先のドアを開けた。

 

 

「なんか、白いね」

鳴上達は辺りを見渡すと、広く小部屋が何ヶ所かあるような雰囲気があった。

 

 

早速、一つの小部屋の中に入ると。

 

「人!?」

「…おや。」

 

そこには白いローブを着た男性がいた。

 

「あわわわ!何やってるクマ!?早く戻るクマ?」

「戻る?どこへ戻るのですか?」

「どこって…」

花村は辺りを見渡したとき、気がついた。

 

「ちょっとまて…霧ないぞ」

花村はメガネを外した。

皆もメガネを外すと変わらぬ景色が広がっていた。

 

「ど、どういうこと?」

仲間たちが慌てている中、鳴上はその男性に尋ねる。

 

「あなたはここで何を?」

「私は神に選ばれた為、大洪水を免れたのです。これも、神の思し召しでしょうか。」

「洪水って…あの、水がそうだったのかな…」

千枝はあの草原の前にあった、シーンを思い出した。

 

「ここは、何ていうかところなんですか?」

天城が尋ねる。

「知らないのですか?…まぁ、いいでしょう。ここはカテドラル。私達、メシア教徒が建てた聖堂ですよ。」

「聖堂?何の為ですか?」

 

 

「無論。唯一神を迎え入れる為ですよ」

 

 

 

鳴上達はその後、様々な人と話した。

 

悪魔が出る様子もないのでふた手に別れた。

 

 

 

「俺は選ばれたんだ…選民なんだ…俺の人生は正しかったんだ!」

周りに人だかりができている。その男の表情は恍惚とし、天を見上げ、笑い声を上げていた。

 

「…あのツラァ、やべぇっス」

「…」

 

 

「先ほど、天使、パワー様が人を裁いておりました。神に従えないと言ったので、仕方ありません…私の夫だったんですが…仕方ありません。それが、すべての秩序のためなのですから」

 

白いローブを着た女性が黙々と答えた。

 

 

「大洪水は神が我々に与えた試練なのです。我々は千年王国の到来をただ信じていれば、救われるのです。

神は我々を試されているのだ。」

 

 

 

皆、次の階層へと向かう階段の前で集合した。

 

 

「そっちはどうよ。」

「口々に神、神、神、だから、なんか、ちょっと気持ち悪かったかな…」

千枝はため息を吐いた。

 

口々に出てくる言葉は、神、千年王国。

まるで、宗教のようなそんな気さえした。

 

「…完全に盲信しているといえるでしょう。」

直斗は冷静に答えた。

 

「彼らをロウ(Law)と呼ぶ。主の世界では力が全てだと言っていた…」

「誰!?」

突然声をかけてきた男に千枝はすぐさま反応した。

 

その男は腕を組みほくそ笑む。黒いスーツが良く似合う黒髪の男性だった。

 

「私はセト。主を助けるために来たが、Law-Darkの私ではここが限界らしいな」

「Law-Dark?」

鳴上は首をかしげた。

 

「お前たちは…属性無しか。ニュートラルというわけでもなさそうだが」

「ちょっと、待ってくれ!なんの話なんだ?」

 

 

「…属性も知らぬか…まぁ良い。この世界ではLaw、Chaosに属性が分けられる。Lawは秩序を。Chaosは混沌をそれぞれが思想として持っている。Light、Darkは性格を表すものだ。

しかし、主の世界は違った。コトワリという思想に分かれ、そして我が主の"混沌"という思想があの世界を統治している。」

 

「…元々、天使たちはLawであった。しかし、主の世界ではヨスガに加担した。弱肉強食の世界を創ろうとした。

ある種の選民思想なのだと、私は解釈した。

しかし、我が主の混沌となった世界では、彼らは耐えきれず、他の世界でLawとなって、こんな大聖堂などを作り上げていた。それを導いたのは熾天使か、あるいは大天使か。」

セトがクマを見ると、クマは眠っていた。

それに気付いた花村がクマを叩いた。

 

「…簡単に言ってしまえば、コインの裏表。水と油のようなモノなのだ。Law-Chaosという属性は。Neutralというのもあるが、これは揺るぎやすいものだ。」

 

「人を殺すのが秩序なのか?」

花村は強くセトに尋ねた。

 

「絶対的な統制には不穏分子は邪魔なのだろう。

それも、秩序の為、千年王国のため。神を信じるものだけが、選ばれた民。選民になれると。」

 

「お前たち、人間も傾けばそうだろう?」

セトはそういうとニヤリと笑みを浮かべる。

 

「聖地奪還といい、多くの遠征を行った。

救われるためにと関係のない人間を多く殺している。

宗教や思想が違うだけで多くの血を流し、争っている。何一つ変わらない。何世紀も変わらぬことをしている。固い信念や信仰がロクでもない大量殺戮を正当化する。そうではないか?」

 

「そ、それは…そうだけど。」

 

多くの争いの世界史や日本史で学んでいる。

だからこそ、セトの言葉は納得せざるを得なかった。

 

「だから、絶対的な統治が必要なのだと奴らは思っているのだ。

絶対的な救世主(ヒーロー)、あるいは可視化された唯一神。それらが必要なのだ。偽物であってもな。人にとって、絶対的な何かが必要だと考えているのだろう。

だが、カオスやダークのような自由を好むものには虫酸が走るのだろう。」

 

「シンを主と言っているが…あなたはLaw-Dark」

「確かに。なんつーか、逆なモノのようなイメージだけど…」

鳴上の疑問に花村も同調する。

 

 

「…私は秩序的に破壊行動を好んでいるのだ。

しかし、あの世界においては属性というものは意識的に薄いものだ。コトワリと言う形で、その属性を踏襲していることには間違いない」

 

「それに、あの世界は混沌としているが、弱肉強食の世界ではない、事実、弱者のマネカタも不自由なく生きている。

一方で、他のコトワリ残存を圧倒的な力で殲滅することもある。」

 

セトはそういうと、少し不気味に笑った。

 

「そう考えると、私の主は非常に面白いのだ。コトワリに属さないマネカタを救いつつ、他のコトワリには苛烈に攻め立て殲滅する。矛盾。実に矛盾している。だが、それこそが、まさに混沌たる所以だ。全てを殺すニュートラルとも違う。ただ、自己の赴くままに統治し、反応を楽しんでいる。怒れば殺す。楽しければ良い。まさにカオスに相応しい。」

 

それにと、セトは続ける。

 

「あの世界での属性は無意味だ。混沌というコトワリが開かれた今、唯一神と闇とのそのどちらしかないのだからな。まさに、天使と悪魔の戦いなのだ。」

 

「…ややこしいね」

流石の天城もスケールが大きすぎて完全に理解はできていない。

完二やクマに至っては完全に思考停止。白い壁の汚れを見ている状態である

 

「…何れにせよ、お前たちはあの階段を上がれるだろう。この先は敵の警戒が厳しくなる。気をつけることだ。」

 

 

鳴上達は頷くと、目の前の扉を開けた。

 

 

 

 

「全く…緊張感に欠ける連中だ。」

 

 

 

 

 





Lawは全体主義、Chaosは個人主義みたいな感じです。

今回はLawのエグイ部分メインで進みます。


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第72話 Make Me Mad 20XX年1月7日(?) 天気:不明

階段を上がると、すぐにまた、荘厳な声が響いた。

 

『神への反逆と知りてなお進むか?』

「人を殺すのが神の意思だっていうのかよ!!」

花村は天に向かって叫んだ

 

『…然り。それが、絶対なる秩序への道程である。』

 

「だからって!!」

と千枝が反論しようとすると、鳴上が止めた。

 

「何を言っても無駄だ。」

「でも!…」

「俺達は自分達の価値観の議論しに来たわけじゃない。」

鳴上の言葉に千枝は言葉を飲んだ。

 

「…兎に角、今は進もう。」

 

 

 

 

 

「…」

 

シンは万全ではないものの、なんとか死の瀬戸際は脱した。

目を開け、おもむろに檻から出ようとしたが、頑丈に封印されていた。

当たり前かとシンは思い、再び辺りを見渡した。

 

檻は天井に吊り下げており、底はシンの視力を持ってでも見えないほど深かった。

 

檻は黒く、特殊な結界のような形で防御されているが大天使が1,2体欠けてしまえば、この程度なら壊せるとシンは思った。

 

 

「おやおや、凶暴な王が目覚めましたか。」

「…マンセマット」

「…いい眺めですね…罪人はやはり、牢の中に居るべきでしょう。」

「お前が仕組んだか…」

 

シンはそれと同時に笑い出した。

 

「なにがおかしいのです?」

 

「…いや、お前みたいな雑魚で助かったのさ…

熾天使でも、メルカバーやセラフ相手では、流石の俺も戦いにくいということだ」

 

真っ黒なオーラがシンの体から溢れ出てきていた。

 

 

「その足掻き、いつまでもちますかな?」

「貴様こそ」

 

 

お互いにそう言って笑っていた。

しかし、シンは同時に不審にも感じていた。

 

それはどうもこの作戦全体が甘い気がするのだ。

 

確かに初めのうちは実に巧妙に見えていたが、冷静になるとそうでもないのだ。

 

もっと。何か巨大な計画が裏で動いているような気がしてならない。

 

「ああ、それと」

マンセマットはシンに言う。

 

「あなたの仲の良い人間達があなたを助けに来ていますよ」

その言葉にシンは溜息を吐き、首を振る。

 

「……まさか、本当に来るとはな。」

「それだけをお伝えしようかと。では、また(・・)

「どこへ行く?見張ってなくていいのか?」

「ええ。あまり大きな声では言いませんがね、わたしはこの作戦、大きな欠陥があると考えているんですよ」

 

マンセマットは呆れた様子で首を振る。

 

「なぜならば、我が主の意向ではないからですよ」

「………」

「では、失礼しますよ。私もまだ死にたくありませんから。」

 

 

 

 

 

 

鳴上達は角を曲がろうとすると

 

「お、ニンゲン」という軽い声と共に突然、襲ってきた悪魔に何とか身構えたが、無防備な状態で迫ってきた。

 

それは虫のような、しかし、どこか鳥のような雰囲気のあるあくまであった。

 

「迷ってこの中に来たんだけど、ちょうどヨカッタ。次のうち、好きな悪魔を答えるといい。マッカあげーる」

 

「…は?…どーする、相棒」

思わずヘッドフォンを外した花村が鳴上に尋ねる。

 

「…きくだけ、聞いてみよう」

鳴上は武器をおろした。

 

「1!モスマン」

「…うん」

千枝が相槌を入れた。

 

「2!モスマン」

「は?」

完二が首をかしげた。

 

「3!モスマン!ドレダ!」

 

 

「全部同じじゃねーか!!ゴラァ!!」

「いえ!実は番号に意味があるのかもしれません。」

完二がツッコミを入れる一方、直斗は冷静に考える。

 

「…どれも、同じだよね。」

「はよーはよー」

天城が尋ねるもモスマンは羽をはためかせ。聞いていないようだった。どうやら、答えが必要らしい。

 

「2のモスマン、クマ!!」

クマが適当に答えると、モスマンは翼をはためかせて言った。

 

 

「…ころーす」

 

 

「うお!!」

モスマンは突然、火を吐き、鳴上たちを燃やしに掛かった。

油断したこともあって、皆、いつもよりも大きなダメージを負った。

 

「クソ!不意打ちかよ!」

完二は咄嗟にペルソナを召喚し、モスマンを倒した。

 

 

「な、なんなんだよ!!あれ!全部同じだったろ!?」

「…何か理由があったのでしょうか。」

直斗は首をかしげた。

 

 

「それにしても、ここ、広くない?」

「それもそうだけどよ…一向に階段が見つかんないな」

 

確かに見た目よりも広く感じたのは事実で、既に階段を見つけられずに1時間は歩いている。

 

天使の悪魔たちは問答無用で襲ってくる時があるので、楽なのだが、先程のように突然会話をしてくる悪魔もいるため、どうもまだ、慣れない鳴上達である。

 

シャドウは話さないし、酷く無機物的で情も湧かない。

 

だが、悪魔は感情があるし、表情もある。

情が湧いてしまう時がある。

 

「間薙先輩が引用していた言葉を思い出しますね。」

「?」

 

直斗は声を整えると言う。

 

『刀を鳥に加へて鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。聲ある者は幸福也、叫ぶ者は幸福也、泣得るものは幸福也』

 

「?どういう意味なんだ?」

完二はちんぷんかんぷんである。

 

「声のあるものは気にかけてもらえますが、無ければ同情は薄い。泣けるもの叫べるものは幸福だとそういう意味です」

 

「…確かにな。」

花村はそう声を漏らした。

「私達、声の出さないシャドウと戦ってたから、現実感がなくなってたのかな?」

天城は少しだけ、思案する。

 

悪魔は命乞いをしてくるやつもいるし、その後直ぐに嘘だといい反撃してくる奴もいる。

彼らには感情があり、事実、完二が脅したらマッカを出すやつもいた。

 

それが妙に人間味がある。

 

それに、倒した時のこちらを見る目があまりにも脳裏に残ってしまっているのだ。

 

「俺…改めて、俺達は命掛けてんだなって思ったわ…」

花村は拳を改めて握り締めた。

 

「…難しいクマ…」

「でも、俺たちゃ、やらなきゃ、やられるッスよ。」

 

 

「間薙先輩…」

 

 

 

 

 

 

 

「どの位、集まった。」

「ざっと、20万かしら。もっと来るでしょうけど」

バアルの言葉にティターニアはそう答えると、カテドラルを見た。

 

「…忌まわしい…」

「実に…な」

 

そこへ、クーフーリンが来た。

 

「早いわね。流石、ゲリラ戦の名手ですこと。」

「マサカド公は動かず、シヴァ様、ルキフグス様、共に出陣なさると。」

 

「…シヴァ直々の出撃とはな…大事になったな」

「それもそうでしょう?王の誘拐ですから。」

「それで?門の突破どうなっている?」

バアルはクーフーリンに尋ねる。

 

「力技で開けるそうです。それは、マーラ様が到着次第開始するそうです」

「それは心強い…」

バアルはそういうと、ワインを飲んだ。

 

 

「ルイ様やニャルラトホテプは動かずか…あるいは絶対なる勝利を信じておられるのか?」

 

 

 

 

「…迷宮だなこれじゃあ…」

花村がそうボヤくのも無理はない。

 

ここカテドラルは元々、地上8F、地下8Fという構造になっている。構造上、上にいけば行くほど、下に行けば行くほど、1階当たりの面積は狭くなる。

 

やっとの思いで、2階から3階こ階段を見つけたところで、りせから連絡が来る。

 

 

『気をつけて!!何かいるよ』

 

 

そんなりせの声とともに、召喚の雷撃に似た音と共に右手に剣を持ち、左手に花を持つ天使が現れた。

 

「やっと、お出ましか。」

 

「…来たか。罪深きアクマになった、友を救いに来たモノたちよ。我が名はガブリエル、神の命により、汝らを倒さねばならない。」

 

「砕け!ロクテンマオウ!」

完二はそうそうに、ロクテンマオウのマハジオダインを放つ。

それは当たるも手応えがないのか完二は舌打ちをした。

 

「効かぬよ。我に雷撃は効かぬ。」

『センパイ弱点無いよ!』

「ならっ!来い!!ヨシツネ!!!」

 

 

 

 

 

「…」

シンは鳴上達が戦っていることに勘づいた。

 

シンは目を閉じ、回復に努める。

 

 

色々と彼らには迷惑を掛けたと思っている。

そもそも、彼らとの出会いは偶然だった。

 

偶然?

 

いや、この世には偶然などというモノはないという考え方をする奴もいる。

全ては神の手のひらの上、定めを知らぬが故に必然を偶然と思ってしまう愚かさがあると。

 

しかし、自分の想像しえぬ神の手を想像して気を病むくらいなら、そんな神は不要だ。

 

あるいは神の存在は病か?

 

「違いない」

シンは鼻で笑うと、目をあけた。

 

神など病だ。それに、シンでさえ、どれが本物の唯一神なのか知らない。

あるなしで語れるようなものではないのかもしれない。

 

シンは檻に触れるとガタガタと揺さぶる。

感覚的に少し柔らかくなった。

だが、それは妙なことであった。

 

何故なら、鳴上達と対決していた悪魔の気配よりも、はるかに強い気配が近づいていたからである。

 

 

 

 

 

「何故、手加減をした。人の子よ…」

「別、俺たちはあんたを殺す必要はないからな…」

花村はそういうと、医療用セットで治しながら言った。

 

「倒すだけで、いいなら。僕たちにも可能ですから。」

「…何と、慈悲深い…それも『愛』だというですか…」

ガブリエルはそういうと、微笑む。

 

「…愚か也 」

「鳴上くん!!!」

 

ガブリエルは最後の力で鳴上に向け剣を投げた。

皆、気を緩めていた為に判断が遅れた。

鳴上の眼前まで剣が迫った途端、何かがそれを遮った。

 

そして、鳴上の頭、僅か数センチで剣が止まった。

 

「…愚者は汝だ、ガブリエル」

「!?なぜだ!なぜあなた様が」

 

目を大きく開きその遮った悪魔をガブリエルは見た。

 

 

「セラフ様!!」

 

 

そのガブリエルの刀を掴む人の形をした、その悪魔はガブリエルの投げた刀をガブリエルに投げ返した。

無論避けることなどできずに、ガブリエルは絶命した。

 

「…助かった」

「気にすることはない」

 

中性的な顔立ちの悪魔?は白いローブに身を包み、鳴上達を見た。

 

「我が名は熾天使 セラフ。愚かな、天使達を倒さんとする、汝らに伝えなければならぬことがある。」

「天使!?どういうこと?」

 

千枝は構えた。無論、皆も武器を構えた。

 

「我に敵意はない。あるのであれば、助けたりはせぬ」

 

鳴上を見てそういった。

鳴上はみんなの武器を下ろさせた。

 

 

「我にとっては人修羅は敵。しかし、それ以上に『反逆』は大罪である。やつらは(たぶら)かされたのだろう。」

 

「話が見てこないですね」

直斗は首をかしげた。

 

 

セラフの話はこうだ。

 

我々は人修羅を捕えようとこうして、カテドラルを造り上げたし、時空の歪みの中にこのカテドラルを作った。

ここは時間が進まないらしい。

 

だが、明らかな欠陥があったのだ。

 

人修羅が神に愛されていたのだ。愛されすぎていた。

 

故に熾天使は手出しできない。

それをルシファーにつけこまれ人修羅となってしまったのだが、寛大なる我ら主はそれすらも、許されてしまったという。

 

 

「だが、こうして大天使が主の言葉を告げた我の言葉を無視し、それを実行した。

そして、ハニエルを失うという失態まで犯した…

反逆の大罪は許し難き行為である。」

 

セラフは微笑むと鳴上に言った。

 

「汝らの目的は人修羅の救出にあるのだな?」

「そうクマ」

「…ならば、良いか。我が手を出すこともあるまい」

セラフはそういうと、眩しい光の中に溶けていった。

 

 

 

『汝等に神の祝福を』

 

 

 

「なんつーか、色々とややこしいな」

花村はそういうと、頭を掻いた。

 

確かにややこしい。

 

「えーっと、つまり、どういうことなの?」

千枝も理解できていないようだった。

 

「そもそも、間薙先輩を捕まえることを考えていたのは事実みたいですね。ですが、それは大天使達の暴走に過ぎないという話ではないでしょうか。」

「でも、あれだけ神を信じていた悪魔が裏切るとは思えないよ」

天城は直斗の話に疑問を投げ掛けた。

 

「あー言われてみりゃそうっスね」

「?」

完二の言葉に皆が反応した。

 

「いや、だって、あんだけすげぇ信じてるヤツがいたンで、上のやつが裏切るってのは、やっぱりおかしくねぇスか?」

 

"すげぇ信じてるやつ"というのは恐らく、狂信者達であろう。

 

「…分かりかねますね。内部分裂とは考えにくいですしね。」

「それに、さっきのやつの言葉、信じていいのか分かんねーしな…」

 

油断させるための罠かもしれない。

 

やはり、信じきることができない。それは、Law属性の負の面を生々と感じ取ったからである。

真っ白な正義などありはしないと改めて感じた鳴上たちであった。

 

「…"正しい"っていうことが、"正しい"って信じれ無いなんてことにならないよね…」

「少なくとも、でめぇの身内は信じられないようになっちまったら……」

 

そんな不安な顔で皆が語る一方、直斗はLawという属性の最悪の面を垣間見えたように思えた。

それを考えると皆よりも不安な顔で眉間にシワがよる。

 

「大丈夫クマ?ナオちゃん。」

「…先ほどの悪魔にとっては大天使たちも所詮は駒という捉え方もできると思いましてね。」

「…つまり、使い捨ての駒。胸糞わりぃぜ」

完二は意味を理解した。

 

大天使という高い地位の奴も所詮は神の駒でしかない。

そう考えると、血の流れていない機械のように残酷な属性なのだと、改めて理解する。

 

「とりあえず、進もう。シンを早く助けよう。」

鳴上の言葉で皆は思考をやめ、歩き始めた。

 

 

 

シンは大きくため息を吐く。

それは、友人たちにとってこの世界が辛いところうとし思ってのことだ。

 

この世界において何が正しいことなのか悪いことなのか、さほど明瞭ではない。

この世界に限った話ではない。

 

言い方の問題なのだと言える。

 

『秩序ある統治』というのは聞こえはいいが、『自由な意思』を奪ってしまうことにもなる。

『破壊』では、『弱者』は淘汰されるだけになってしまう。

 

どちらが、正しい、悪いと一方的に決めつけられない。

ここには裁判所も裁判官もいないし、憲法も民法もない。

いたとしても力のないそんなものは無意味に違いない。暴力の前に同じ力を持たない言葉はあまりにも無力だ。

 

故にスタンス(立場)がどちらなのかをしっかりと持たなければならない。

 

 

そんな選択をしなければならない時が来る。

 

 

 

 

 

 

 

「…愚かなり。人の子よ。我らを倒すとどうなると思う。」

ウリエルまで倒した鳴上は順調に頂上を目指していた。

 

大天使たちは鳴上達にとっては苦戦する相手であるものの、着実に相手の体力を減らしていけていた。

 

何よりも、多勢に無勢。

戦闘の基本は数である。

 

 

「どーいう意味クマ?」

「…我々がただ汝らを此処に招いたと?」

「罠…ですか?」

「…我々とて、汝らの到来を拱いていた訳ではないのだ。我々とて、そこまで愚かではないのだ。」

ウリエルはそれだけいうと目を閉じた。

 

そして、マガツヒがウリエルの体から漏れ出す。

 

 

 

「この世界に来たことを怨むが良い…人修羅の為に死ぬなど愚の骨頂なり」

 

 

 

 

 

 

 

 




突然の閃きでバッと書いたんで、だいぶあれかも。


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第x8話 The World is (not) Full of Shit


再度登場しました。





(あらかじ)め、断っておかなければならない。

これから、僕が語ることは紛れもない真実であり、決して公表されるべきモノでもない。

思うのは自由だが、口に出すことまでは誰も保証してくれはしないということだ。

 

だからこそ、この真実は公表されるべきではないし、折角本来の鞘に納まったこの町を騒がしくしてしまうに違いない。

 

それはこの町が好きだからこそ、あまりにも不本意な事だろうし、僕がおかしいだけなのかもしれない。

 

 

 

権力とは暴力によって成り立っている。

ウラジーミル・レーニンの言葉を借りるのであれば、『国家権力の本質は暴力である』と。

 

あながち間違いではないと思う。

 

権力は暴力によって成り立っている。

この現代でも全ての権力は暴力によって支えられている。

そこに、資本主義、社会主義、民主共和、民主主義それら全てに関係なく、権力は暴力によって支えられているのは自明の理である。

 

政治学の基礎概念だ。

 

暴力とはある種の『強制力』と言った方が分かり易いのかもしれない。

 

強制力無しに法律を守らせることは出来ない。

その力によって、全ての権力は成り立ち、その権力によって社会が構成され、存続しえているのだ

 

少し脱線だが、だからと言って、私は国家のために死ねるかと聞かれたら真っ先に『No』と答える。

強制力を持ってして、国のために戦えというなら、僕は兎に角、逃げることを考えるだろう。

 

別に僕は国家公務員ではないので、恩も義理もない。

主観的に国家というものに、大した価値はないのだから。

少なくとも、僕自身は個人の自由を尊重したい人間なのだ。

 

理想主義者なのは今に始まったことでもない。

 

……話を戻そう。

 

 

その身近な例は国家に属している『警察機構』だ。

その力は我々に一番近い場所にあり、強力なモノだと言える

市民から見れば少なくとも、軍隊よりも力の象徴である

その警察機構なるものは、絶えず矛盾を抱えながら危うく、且つ絶対的とは言えない正義を成し得ている。

 

その矛盾とは、警察機構は上に行けば行くほど、現実なるものの存在が失われていき、しかし、下の現場はその現実なるものと常に戦わなければならない。

 

その結果が警察機構という巨大組織のそのモノの存在価値を失う結果になる可能性が十分にある。

 

その矛盾に関して、今回の事件が警察上層部と現場の矛盾を酷く、そして、克明にさらけ出す事になった。

 

 

『八十稲羽怪奇連続殺人事件』

 

 

この際、名称はこれで良いだろう。これ以上の名称があるだろうか。

 

 

この事件の発端は『山野 真由美』が死体で上がってきたことに起因する

不倫騒動で番組を降板させられた地元テレビ局の元女子アナウンサーである。

遺体は4月12日の正午ごろ、鮫川付近の民家のテレビアンテナに吊り下げられた状態で発見された。

 

その死体に外傷がなく、死因も不明という実に奇妙な事件が世の中を騒がせた。

 

この八十稲羽は何も無い言ってしまえば、辺境だ。

 

東京から車で3時間ほどの場所で、IC(インターチェンジ)からも離れている。

山に囲まれた辺鄙なこの地を騒がせるには十分過ぎる事件だった。

 

自殺なのかあるいは、他殺なのか。

それさえも掴めずにただただ、マスメディアによって事件はその真実性を失いつつあった。

 

その際にとりあげられたのが、第二の被害者『小西 早紀』。

彼女は山野真由美の事件の第一死体発見者だった。

それを彼ら我々、マスメディアが嗅ぎつけ、取材の応酬である。

 

我ながら、大衆向けは下衆な内容で発行部数や視聴率を撮りたがるものだと再認識した。

そうでもしなければ、儲けが出ないと考えている時点で既に下衆な集団にほかならない。

 

……その一部に数年前まで自分が組み込まれ、奔走していたと思うと尚更嫌になる。

 

話を戻そう。

 

そんな『小西 早紀』も死亡した。殺害されたというのが正しかった。

こうして警察も殺人事件だと理解し、事件の捜査を進めることとなった。

 

しかしながら、その二件は証拠という証拠が上げられず、捜査は難航を極めていた。

 

 

しかし、その後ぱったりと事件は止んだ。

止まぬ雨はないと言うが、市民は少なくとも徐々に平穏な日常を取り戻しつつあった。

雨が少しでも止めば、気持ちも少しは楽になるものだと。

 

 

だが、事件は着実に起きていたのだ。

 

テレビ報道された、人物。取り分け、この八十稲羽に住み、妙な注目のされ方をした人物が誘拐されていた。

 

そもそも、捜索願が月に一回程度の回数で、テレビ報道された人物たちで、且つ高校生たち……

あまりにも奇妙なことだ。

 

注目されたから、家出や隠れたということがあるにしても、家の人が捜索願を出すまでとなると、それは異常なことが起きているにほかならない。

 

また、未成年であることや一部の人間の知名度を考えても潜伏するのはあまりにも多難だと推察される。

その期間もまた短く、失踪後は何日か体調が悪かったという話を聞いた。

 

自己の意思で失踪したとも取れる行動だがやはり疑念が残るのだ。

 

では、仮に誘拐だとして、彼らはなぜ救出されているのか。

僕はそこで、表沙汰にならないような、奇天烈な事がある様な気がしてならかった。

正直、この洞察に関しては勘の域を出ていない。

 

 

今年の霧の発生率は高く、また、霧の次の日に2件の事件の死体が上がっている。

3件目の摸倣犯もそれを正確に真似ることで摸倣犯足り得たのだが、あまりにもお粗末な模倣だったために、僕としては落胆せざるを得ない。

 

そして、冒頭の矛盾に関してこの3件目で明確となっていた。

警察上層部も未だに逮捕できない犯人に焦りを感じ、私立探偵の『白鐘家』に捜査協力を頼むほどであった。

しかし、一向に成果の上がらない中、その摸倣犯の登場である。

 

上層部はありとあらゆる疑念を無視して、摸倣犯に全ての罪を押し付けることによって、この事件の幕切れを図ろうとした。

 

そこで現場との相違が生まれたのは間違いないだろう。

 

初めは『堂島遼太郎』刑事を含めた数十名はそれに異を唱え続け、捜査を続行していた。

だが、警察組織は階級社会。上がそれを許すはずが無く、次々とその疑念を抱えながらも、捜査をやめざるを得なかった。

 

しかし、私立探偵『白鐘直斗』。そして、前記した堂島遼太郎刑事は解決ムードの中、事件を調べていたそうだ。

その空気の読めない行動が上層部やそれに逆らえなかった人達に煙たがられていたのも事実だろう。

 

では、世間はどうだろうか。

一部ネットでは一つの作品となりうるほどに今回の事件がネットの住民たちの妄想や感情を揺さぶったのだろう。

多くの憶測や情報がありとあらゆる場所に転がっていた。

 

では、旧情報源となりつつある、テレビや、マスメディアはどうだったか。

鮮烈に残るほどの報道はなかったように記憶している。

発生当時はニュース番組のトップ。

どこのチャンネルを回しても、同じことしかやっていないし、内容も言葉を変えただけで大した違いはない。

違う角度からの同じ映像。中央テレビ局はヘリを飛ばして映像を取る。

 

視聴者はウンザリするほどの、小西早紀のモザイク加工された映像を見たし、山野真由美の旅館から出てくる映像も目に焼き付くほど見せられた。

 

そのうち、しつこさを感じ苛立つ。

視聴者自身と関係がなければ無いほどなおさらだ。

 

しかし、事件が沈黙し始めるとまるで、男に興味を失せた女のようにすぐに捨てて別の新しい男に付いていく。

 

マスメディア……自分がそのなかに内包されているからこそ、酷い嫌悪感を覚える。

マスメディアなんてものは、歪み軋み亀裂の入った建物でしかない。

 

……少しばかり本音が出たか。

 

 

さて、マスメディアに関しては置いておいて。

 

次にこの町を騒がしたのは第一被害者と不倫していた『生田目太郎』が未成年者誘拐で逮捕されることとなった事件だ。

白鐘直斗が失踪して、復帰するという事件を挟んですぐであった。

 

生田目は逮捕の際には非常に精神的に疲労しており、病院での治療後、立件や取り調べが行われる事となっていた。

 

だが、調べてみるとその被害者及び被害者家族を同じ病院に移送していたそうだ。

警察の明らかな失態だ。

 

だが、それは一人の人物によってなされた作為的な事だった。

としたら、それは酷く小説かドラマみたいに思える。

 

 

『足立 透』なる人物だ。

何より、この真実を教えてくれのは紛れもなく彼であったのだから。

 

 

 

透明なアクリル板を隔てて、明智と足立は椅子に座り向かい合っていた。

 

「それで、興味深い言葉で僕を引っばり出してきたと思ったら……なんだか、キミ、冴えないね…」

 

足立はそう言うと嘲笑する。

明智は椅子に深く寄りかかると、頭を掻いた。

 

「そうだね。僕は別に冴えてる必要もないからね…」

「皮肉だねぇ?法外電波受信機だっていうのに、冴えてないんじゃさ」

「…僕のこと知ってるじゃないですか」

明智は頭を掻く手を止めた。

 

「キミがよーく警察署に顔を出してたからね。キミの後輩の西崎って警官に聞いたんだよ。そしたら、『あの人のアンテナは思いがけない真実を引っ張り出して来るって。でも、本人は法外電波受信機って自称してますよ』と楽しそうに話しててね。記憶に残ってるよ」

 

足立は机に両腕を置く。その手首には手錠がしてある。

 

「…それで、僕の話はどうだったかな?」

「記事には…できないね。」

 

明智は肩をすくめる。

 

「僕たちは別にオカルト雑誌じゃないんだ。」

 

明智は懐かしそうにそう言うと椅子に座り直した。

 

「いや、失敬。それで、その『テレビの世界』っていうのはそもそもなに?」

「さぁ?僕も詳しくは知らないよ。でも、あのテレビの世界は人の心の世界。そうとしか言い様がないね」

「……だから、報道された人がマヨナカテレビに映るのか……そして、それを生田目太郎が誘拐し、安全な場所。つまり、テレビの中に入れていた。」

ポツポツと明智は呟くように言う。

 

「…そうではないか?」

「……そうだね。」

 

明智は確認するように足立を見た。その目は温厚ながらも足立は見覚えのある、そして、あまり好まない目であった。

 

(…どうして、こうも真実ってやつを追いたがるんだか……)

足立はそんなことを思いながら、鳴上達を思い出す。

 

「……それで?聞きたいのはこれだけかい?僕もいい加減疲れたよ…」

「最後に1つ」

 

明智は人差し指を立てた。

 

 

 

「どうして自殺しなかった」

「…」

「これだけのことをしておいて…それに、この先のことを考えれば尚更ね」

 

「……さぁね。今となっては分からないよ」

足立はそういうと、椅子から立ち上がった。

 

「じゃあ、また」

明智は立ち去り背を向ける足立に声を投げた。

 

「………」

 

『…お前は人を殺した。手口がどうであれ、それが"あの世界で生きるお前の罪"だ。

そして、裁く裁かれないにしても、お前が生き続けることが"こいつたちの考える罰"だろうな。

…お前がクソだと評した世界を生きろ。

あそこはあまりにも美しい』

 

 

(……僕にはいつになったらわかるんだろうねぇ……このクソな世界の美しさってやつがさ)

 

足立は連れていかれながら、窓から外の景色を見る。

雲が疎らにある空がそこにはただ広がっていた。

 

(……何てことはないね。ただ、つまんねぇ現実がまだ広がってるよ。)

 

足立はそう思うと牢屋に入れられると笑った。

 

 

「…やっぱり、世の中クソだな…」

 

 

 

 

 

『光を失っても麻痺しなかった連中は途方もない速さで歩き回っていた。』

 

僕がこれまでの『真実を追う人』に共通する事だ。

堂島刑事を含めた学生達。不自然なほど、デパートに集まる彼らはこの事件の関係者だ。

 

だが、僕がそれを問いただしたところでただの自己満足だ。

事件が解決し、平和な日常となった今、彼らも途方も無い平凡な日常に戻る。

 

すべてが全て元の鞘に戻る。

 

昔とは違う、あまりにも忙しく明滅するように日々が過ぎていたあの時とは違う。

好きでもない下衆な記事を書くことも、下らなく興味もないゴシップのために心身をすり減らす必要もない。

 

何もないが、僕の平穏の全てがある。

そんな街に戻るんだ。

これ以上の望むのは余りにも強欲というものだ。

 

警察組織のその後について話すべきかな。

 

堂島刑事は管理責任能力を問われたが、堂島刑事なしにこの事件は解決できなかっただろう。

堂島刑事はお咎め無しと判断された。

 

しかし、捜査を早々に集結させようとした県警の上層部はその殆どが左遷された。

そうさせたのは紛れもなく、その更に上だろう。

 

警察組織に限らず、大衆や大勢の人間は生け贄を欲している。

それは、今の社会構造を浮き彫りにしている。

 

君主制で国王を処刑することで民衆の怒りを塞ぐように、生け贄として、ミスをした人間を処分する必要があった。

それだけは、確かなことだろう。

 

 

 

 

 

 

「……続きがある。そう言ったらどうする?」

シンは隣に座った明智にそう言った。

 

しかし、明智は肩をすくめると癖のついた髪の毛を掻いた。

「…興味はあるけどね、足立さんにも言ったけど、僕はオカルト新聞は雑誌を書いてる訳じゃない。」

 

 

「オカルトは『月刊アヤカシ』にでもやらせておけばいい。『聖丈二』の十八番だ……」

 

「……そうか。因果ものだな。」

シンはそういうと、腕を組む。

 

「月刊アヤカシの内容は知っているか?」

「…唐突だね。そっち系が好きなのかい?」

「ある意味そうだ。」

シンは料理を待ちながら、記憶の奥底の言葉を口に出した。

 

 

「『特集・ガイア教とミロク教典』というのを覚えているか?」

「……覚えてるよ。聖が最後に書いた記事だ。」

 

「ガイア教団幹部の氷川が代々木公園に電波塔を建てた。それに対するデモで死傷者が出てんだっけか…

世間はだいぶ騒いでたけど、聖は氷川の所属していた教団とその教団のミロク教典との関係を示唆していた」

 

「その中で、世界が転生するとか、何とかだったかな?…でも、この世界は何もなかったね。変な噂は確かに世間に広がっていたね。」

 

「新宿衛生病院」

 

「そうそう。よく覚えているね……あそこは建て替えとかなんとかだったかな……

でも、その理由が不明瞭だったことで、色々と噂されてたね。それのせいで客足が遠のいた。」

明智は手帳をめくりながら答えた。

 

「……調べていたのか?」

「一応ね、興味本位で。収賄とか色んなネタがあると思ってね…」

明智はページを捲る手を止めると言う。

 

「えーっと……その後、氷川は殺人教唆で逮捕され、実行犯も捕まった。それによって、ガイア教団は危険集団として認識されているね。氷川は未だに何も語らない。

来週辺りに最高裁でその判決を言い渡されるらしいけど、世間はほぼ無関心だね。騒ぐ様子もない。」

 

明智はそういうと、ブランデーを飲む。

 

「……その聖という人物の最後の記事と言っていたが、どういう意味だ?」

 

「どういう意味も何も、聖はその後死んだんだ。まるで、役割でも終えたようにぽっくりと。死因は心臓発作。」

「……そうか」

「唯一あの会社内じゃ仲が良かったんだけど…ね…」

明智はそういうと、ブランデーを一気に飲んだ。

 

「どうして、僕の周りの人は早死に何だろうね。親も、友人も…」

「……」

 

 

「全く、世の中クソだ…」

明智はそういうと、おどけて笑みを浮かべた。

 

 

 

「なーんてね、足立さんなら言いそうだねこの言葉」

「…そうかもしれませんね」

 

世の中クソ。

この言葉が明智の本心だったか、シンにも分らなかった。

しかし、少なくとも彼はまだ足立のようにこの世界には絶望していないようにシンには見えていた。

 

 

 

 




最近、忙しいということもあるんですが、話がとにかく思い付かない。
今回のやつも某映画を久しぶりに見て書き始めたモノです。

次の話は徐々にですができてます。
数字として明らかに更新速度が落ちていますが……
コンゴトモ シクヨロ…


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第73話 Make Me Feel……Alright? 20XX年1月7日(?) 天気:不明

「やっとか」

シンはグニャリと太い檻の一部を歪め、檻の向こうの廊下を確認した。

 

しかし、不思議なのはその廊下には見張りがいないし、敵の気配もこの階層に感じない。

そもそも、この階層から下の気配が妙に分かりづらい。

何か特殊なことがされているのだとシンは感じた。

 

そもそもここは何階なのか。

おそらく、最上階だと推察される。

 

理由としては上に空が見えたからである。至って単純である。

最上階でなければ上に空は見えないからだ。

 

シンは宙ぶらりんの檻から出ることにした。

中で助走をつけて飛ぶと、なんとか廊下につながる縁へと片手で掴まった。

 

シンは檻が吊るされていた底を見た。

白い建物の性質上、底まで見える。

 

「無傷は無理だな」

イケブクロの元本営ビルを思い出す。あそこから飛び降りたのは良い思い出である。

「というより、一番初めはピクシーに突き落とされたのか。」

 

シンは手に力を入れると、廊下にはい上がった。

 

「それにしても…真意が読めんな」

シンは廊下の両側にあったドアから外を確認しつつ、出る。

 

ピラミッド型をしているこのカテドラルは最上階はそれほど広くない。しかし、シンはそれを知らない。

調べようもない。念通もノイズに似た何かが混ざっており、不通。尚且つ、召喚もできない状態である。

 

ふと壁を見ると、メタトロンの絵があった。

その前には神を象った、像が置かれており剣を天に掲げていた。

 

シンは思い出す。

 

『よくここまで辿り着きましたね

…永劫のアマラの流れを越え、待ち続けた甲斐がありました。

すべてのメノラーを排し、最強の光の刺客すら退けたあなたは…まさに我らが待ち望んだ悪魔です』

 

「…待ち望んだ割には……扱いがひどいがな……大体、待ち望んだ悪魔はこんな良く分からない場所でウロウロとしているぞ。まったく……」

 

シンはボヤくようにメタトロンの絵をアギダインで燃やす。

八つ当たりも甚だしい。

 

シンとしてはメタトロンを見ると腹が立つのだ。

 

 

そんなことを考えながらもシンは冷静にこの建物を調べていた。

感覚的に現在の階層はそれほど、広くないと感じていた。

 

だが、問題は降りる階段が見当たらないことである。

 

(…闇雲に穴があるわけでもなさそうだな…下手に壁に穴を開けると、鳴上たちに被害が出るかもしれん)

シンは結局、その階の大きな広場で待つことにした。

 

大きな陰謀の渦に既に巻き込まれていることさえ、予想もしてなかった。

 

 

 

 

 

 

「汝らの力…見事なり」

「しかし、我らは消えはせぬ。すべては手の内に……」

 

2体の大天使たちはそういうと、マガツヒを放出しながら目を閉じた。

 

 

「はぁはぁ…疲れた……」

花村は息を切らしながら、尻餅を着くように地面に座った。

 

「な、なんで、まとめて出てくるクマ…こ、こういうのは、フツー別々に来るクマ。そーいう、ソウバクマ。」

「た、確かにそういう、相場ですけど、4体同時でなくて良かったです」

クマのメタ発言に直斗がツッコミを入れる。

 

「も、もうダメ。つ、疲れた」

全員、疲れがピークになっていた。

 

それもそうだ。もう既に、7階まで来ている。

そして、四大天使を倒した今、彼らを遮るものはいない。

 

「…鳴上くん、気付いた?」

「?」

膝に手をついて休憩していた鳴上に天城が言う。

 

「この階に上がってから、りせちゃんの声が聞こえなくなってるの」

「…確かに」

「…何か、あったのかな…」

天城は心配そうに言う。

 

「多分、大丈夫。ピクシーさんが居たから。」

鳴上の瞳にはまだ闘志が光っていた。

 

 

 

 

「センパーイ!!センパーイ!!」

りせはペルソナ越しに鳴上たちに声を届けようとするもノイズが混じって何も聞こえない。

 

「大丈夫なの?悠は。」

「たぶんね」

 

ピクシーは少し不安そうに言った。

マリーはそれを感じ取った。いつもとは言わないが、どこか融和な雰囲気がピクシーにはあった。

しかし、今は少しだけピリピリしている。

 

「…心配なの?ピクシーさん」

「…心配は無かったわ。でも、マーラが門を突破してから随分と時間が経ってるわ。それにさっき感じたし熾天使の気配が不安なの。」

「先輩を、助けてくれた悪魔?」

リセの言葉にピクシーは頷く。

 

「熾天使の中でもセラフが出てくるなんて思わなかったわ……そうなると、事はもっと大事(おおごと)で単純じゃなくなるの。」

「あら、こんなところに居たの?ピクシーさぁん?」

そんな3人の後ろに緑色のワンピースのような服を着た悪魔が来た。

 

「ティターニア。なに?あんたまで、出張ってきてるの?」

「当たり前じゃない?私たちの主がピンチなのよ。

それだっていうのに、あなたはこんなところにいるの?」

ピクシーはティターニアを睨むと言う。

 

 

 

「私だって心配よ。今すぐにでも飛んでシンの元に行きたいわ。でもね、それじゃあ、私はシンに言われたことを守れないわ。」

 

『鳴上たちを頼む』

 

シンは消える前にそう言っていた。

たったその一言だけのために、りせたちを守ることにしたし、ピクシーはずっとここにいるのだ。

 

「でもね、ここで私が飛んで行ったら、シンの信頼を裏切ることになるの。だから、私はシンを待ってるわ。」

 

ティターニアにはその言葉にため息を吐いた。

 

「相変わらず素直じゃないのね。」

「うるさい」

「……まっ、キライじゃないわ。」

 

ティターニアはそういうと、マーラがこじ開けた門の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

鳴上たちが8Fに着くと正面に人影があった。

 

「敵!?」

「…ん?」

 

その人影は床に仰向けに寝ていた。

そして、鳴上たちに気付くと、鳴上たちの方に顔を向けた。

 

「……なんだ、鳴上たちか。」

「「「シン(先輩)!?」」」

 

鳴上たちはシンに駆け寄る。赤い絨毯の上で横になっていたシンは勢いよく立ち上がる。

 

「おまっ!ふつーなんか、囚われてるっていうのは、檻とかにさ「ああ、壊してきた」…」

花村のツッコミにシンは平然と答える。

 

「…でも、相変わらずで良かった。それと、たすけてくれてありがとう。」

鳴上はシンに言う。

 

「お前たちには帰る場所がある。それだけの話だ」

シンは相変わらず淡々と答えるだけ。

 

 

 

「感動の再会は終わったか?堕ちた人修羅よ…」

「…セラフか。だから、妙に空気が不味いわけだ。」

 

シンはそちらを向くと淡々と構えた。

メタトロンの絵の前にセラフがゆっくりと降りて、地面に着地する。

「いやはや、実に見事であった。人間たちよ」

セラフは拍手をするように手を叩いた。

 

「いや、まぁ、伊達に俺たちもテレビの中で戦ってないからな」

花村は照れたように言う。

 

「流石はヒーロー(・・・・)と言ったところであるか……」

セラフは言葉を強調して鳴上達に言う。

 

「……そういう事か、セラフ。お前はそういうやつだったな」

シンは何かを悟ったように構えを解いた。

シンのその言葉に皆が首を傾げる。

 

「どういうことです?」

流石の直斗も今の会話だけでは、理解できなかった。

 

 

セラフは笑みを浮かべると大きな声で言った。

「ここに今!我らが救世主たちが誕生したのだ!」

 

まるで、ミュージカルのように大袈裟だ。

 

「救世主?」

千枝は首を傾げた。

「そう。救世主なのだ。そして、我らが敵、人修羅を倒すのだ。」

 

「…?」

鳴上たちは突然のことに意味も分からず、今一理解できていない。

 

 

「二度も言わせるか。汝らが、人修羅を、倒すのだ」

セラフは笑みを浮かべる。

 

「は?何言ってんだ?てめぇ」

完二はセラフにガンを飛ばす。

セラフはそれを無視して話を続ける。

 

「これまでの四大天使を倒してきたのは、お前たちが適性があったか。それを確かめる為である。」

 

「今一理解できません。なぜですか?そもそも、僕たちと間薙先輩が争う必要はありません」

 

「実に単純だ。お前たちは人修羅を倒すか、死ぬか。そのどちらかしか無いのだ。」

 

「…如何にもお前らがやりそうなことだな」

 

「だ、だったら、クマたちが、オマエを倒すクマ!」

クマは焦った様子でセラフに言葉をぶつけた。

 

「…フフフッ……それも叶わぬよ。我が倒されたとき、この世界は消え去る運命なのだ。逃げ道のない汝らに何ができる……」

 

 

「!?」

鳴上は飛んできたシンの拳を刀で防ぐ。

つば競り合いのような形になる。

シンは一旦距離を取る。

 

「そういう事らしい。やるしかないだろう。

「で、出来ないよッ!!そんなこと」

 

「言ったはずだ。いつかは選択しなければならないと」

シンがアギダインを千枝に放つが、天城が前に出て吸収する。

 

「こんなの絶対におかしいよ!」

天城はシンに向かって言い放った。

 

「クッククク……そうか?俺は嬉しいぞ。こうして、戦えることがな」

シンは不気味な笑みを浮かべる。

 

「こうでもならなければ、お前たちと闘うことも無かっただろう?」

 

シンはそういうと、ずっと昔に動かなくなった『マロガレ』を飲み込んだ。

貫通を覚えて以来となるだろう。そう思うとシンも少しだけ感慨深くなる。

 

多くの戦いをマロガレでやってきた。

これが最悪、最後になるかもしれない。

だからこそ、最高の興奮と探究心、

 

 

そして何より。

 

 

気が赴くままに戦うのみ。

 

 

「人生最高の一戦にしよう。可能性を見せてみろ!」

 

シンはそう言うと両掌に火炎を出現させて頭上に掲げ、踏み込みと同時に巨大な火柱を対手に打ち込む。

『マグマ・アクシス』である。

 

「やるしかねぇのか!?」

花村はマハスクカジャで全員の素早さを上げ、その攻撃を避ける。

 

「選択しなければなりません。分かっています……いつでも、そうしてきました……ですが、こればかりは………」

 

直斗は顔を歪めると今にも泣きそうな顔でメギドラオンをシンに向け放つが。集中できていないのか、それを外す。

 

その爆風からシンが飛び出してくると、『ジャベリンレイン』の向かう先を一点に集中させる。

 

「ヘッァ!」

それを振り下ろす。足先から出てきた無数のエネルギーが容赦なく直斗を襲おうとしていたが、完二がとっさに前に入るとそれをモロに受けた。

 

完二は壁に叩きつけられると、そのまま気絶した。

 

「巽くん!!」

直斗は完二に駆け寄る。

 

 

「こ、こんなの絶対におかしいクマ!!シン君やめるクマ!!」

「絶対などない。それに、理不尽なのは今に始まった事ではない。

俺もオマエたちも、その犠牲者に過ぎない。

お前たちは選ばれたのではなく、苛烈な運命に選ばれてしまったのだ(・・・・・・・・・)!」

 

シンは着地した所に、鳴上が一気に距離を詰め、拳と刀のつばぜり合いになる。

 

「これ以上、理不尽な事はもう沢山だッ!!」

鳴上はシンを睨む。

 

「…呪うなら運命を呪え。そこが入口だ」

 

シンはそう言うと、鳴上の腹に蹴りを入れる。

鳴上は少し判断が遅れたものの、瞬時に下がることで軽傷で済んだ。

 

 

「…下らぬ情よ。救世主たちよ。その手で悪しき人修羅を殺せ」

セラフは微笑むと鳴上に言う。

 

「うるせぇ!黙ってろ!」

花村が大声でセラフに言う。

 

「本気で来い。そうすれば、倒せるかもしれん。」

シンは鳴上達を見ながら、再び戦闘態勢に入る。

 

「…シン君の気持ち…分かったよ」

 

天城はそういうと、アマテラスを召喚する。

シンは紙一重で天城のアギダインを避けると、シンは空中で大きく息を吸い『アイスブレス』を鳴上達に放つ。

クマが全員の前に出てそれを防ぐのと同時に花村達がペルソナで一気に攻撃をする。

 

「頼むぜ…ペルソナァ!」

「ペルクマー!!」

「来い、スクナヒコナ!」

 

シンがいるであろう場所に攻撃を集中させた。

しかし、その攻撃を腕で防ぐことなく、シンに直撃する

 

「当たったか!?」

 

しかし、煙の中から傷つきながらもその落下のまま、両手に力を込めている。

それは、何度も見たことのある技であった。

 

ダンジョン全体を揺らし、多くのシャドウを葬ってきた技である。

 

「!?や、ヤバイ!!」

 

 

『地母の晩餐』

 

 

シンを中心に、床に亀裂が入るとそこから、エネルギーが

溢れだし鳴上達を空中に飛ばした。

そして、シンは着地と同時に容赦なく追撃をする。

 

抜刀の構えに入ると、エネルギーで作り出した刀で一閃した。

 

「ヘアッ!」

 

『死亡遊戯』

 

嘗ての仲間たちを容赦なく一閃する。だからこそ、彼は混沌王に成り得た。

だが、3人が立ち上がる。一番初めに真実を追い続けようと鳴上と誓った3人が。

 

鳴上は物理無効にとっさに変えたものの『貫通』により想像以上にダメージを負っているようだ。

倒れたまま動かない。

 

「…まだ、立つか…俺も今ので体力を随分と使ったんだがな…」

「……へへっ、俺たちも舐められたもんだな。まだ、ヨユーだってーの」

花村は膝に手を当てて、息を思いっきり吐く。

 

「なんとなく、お前の辛さが分かったよ。こんな気持ちで親友と戦ったんだな……」

「…」

 

「終わらせようぜ…こんなことペルソナァ!」

ガルダインをシンに向けて放つ。

 

「…」

シンは無言でそれを避けると、『気合い』を入れた。

 

「もう迷わないよ…ペルソナッ!!」

天城はアギダインをシンに放つがそれは払い除けるように振り払われる。

 

「…」

シンは『雄叫び』をあげた。それは轟音に等しく建物が全体が揺れる。

花村達の攻撃が上がるも、それだけ無防備になっている。

 

「絶対にわたし達は諦めない!」

千枝はゴットハンドをシンに放つ。

シンはそれを両腕で防ぐ。

 

「……俺もまだ、諦めてない!!」

 

鳴上はなんとか、立ち上がると、イザナギを召喚する。

その心の決意に共鳴し、イザナギは『裁きの雷』をシンに放った。

それは恐らく、並みの悪魔では消し飛んでしまうほどの威力である。

 

シンはそれをモロに喰らうが、体が煙を上げていても笑みを浮かべる。

 

楽しいからである。戦うことが何よりもの楽しみなのだ。

 

 

「…見事だが…数歩、及ばずだな」

シンはそう言い終わると、掌に己の1割以上のマガツヒを込め、それを吐き出すように鳴上たちに向けてはなった。

 

それは嘗て、反逆の堕天使やカグツチ、そして、多くの熾天使を一瞬にしてマガツヒにした、人修羅最強の攻撃と言っても過言ではない攻撃を仲間に向ける。

人修羅が修羅たる所以。自分の体内のマガツヒを一気に大量に放出した。

 

 

 

『至高の魔弾』

 

 

 

 

 

 

 

 




想像より膨らまなくて、短めに終わります。
大体、こんなもんだと思う。

追記

大変失礼しました。修正しました。

それで、書いてて色んなメガテンの主人公とかペルソナの主人公達ってすげぇ、理不尽に巻き込まれてんなぁと思いました。
真女神転生1,2,3とかペルソナ3とか……
というか、ペルソナ4以外ほとんど理不尽に巻き込まれてるね。

(´・ω・`)カワイソウダネ


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第74話 Various Speculation 1月23日(月) ~25(水)

 

 

「最後に聞きたかったのだ、人修羅よ。」

「なんだ、クソ野郎…」

 

シンは壁に寄りかかりながら、セラフを見た。

鳴上も壁に凭れ、荒い呼吸をしていた。

仲間たちは気絶しているのか、倒れたままである。

 

至高の魔弾は鳴上が『仁王立ち』と『食いしばり』でなんとか防ぎ、耐えた。

 

鳴上達の後ろにはシンが囚われていた場所まで一直線に通れるような穴が空いていた。

 

「コトワリを持たずしても、あの停滞する世界は創造出来ただろう。なのに、何故、混沌のコトワリを持ちて、あの世界を停滞させた。」

 

「…停滞とはお前たちのように神を盲信し自分で考えることを放棄したモノを言う。あの世界においてはなおさらな。」

 

シンは溜息を吐くと少し俯く

「それに、やはり、迷いがあったのかもしれんな…」

シンは天井を見上げる。崩れ落ちた天井、崩れた壁。

シンは崩れた壁を見ると一瞬だけ、後ろ空間を見た。

 

「結局、俺は中途半端な存在なのさ。悪魔にもなれない人間にも戻れない。そんなやつが、興味本位で深淵を覗いたんだ。そしたら、突き落とされた。」

 

シンはセラフを見る。

 

「だかな…クソ野郎…俺はいつも自分を信じて、そんな崖を跳躍してきた。深淵の底で、足掻いて飛び続けているんだ。…誰もいない世界で永遠とも思える時間をな」

「…」

「もう、戻れないと俺は知っている。知りながら、憧れてしまう。こんな世界に来てしまってからこそ、俺は尚一層、暗くなった底を這いずることになる」

 

 

「だが、俺はこの先も相も変わらず跳び続けていられると思う。何故だと思う。」

「……分からぬよ」

 

シンはニヤリと笑う。

 

 

 

「お前みたいな腐ったクソ野郎が臣下にいる神ってやつが、さらに腐ってると確信しているからだ。」

 

 

 

 

シンがそう言った瞬間、セラフの胸に突然、槍が突き出てきたあと、すぐに焔の剣がセラフを斬りつけた。

だが、槍が急所に突き刺さったが、剣はなんとか避けた。

 

焔の剣は轟音と共に地面に叩きつけられた。

 

 

「なん…だと…?どうやってここに…いつの間に…」

セラフは動揺しているようだ。言葉がうまく話せていない。

 

「何外してんのよ!バカ!クズ!変な頭!」

「すまぬ…だが、相手は熾天「うるさい!指図する暇があったら、とっととアイツを殺りなさいよ!」……うむ、だが、既に致命傷だ。」

スルトの頭を素手で殴るティターニア。

スルトは肩に焔の剣を乗せた。

 

突然、ゾロゾロと悪魔たちが現れた。

そして、その、後ろはあの吹き抜けの部屋がある。

 

「まさか……登ってきた…だと…!?」

「寧ろなんでちゃんと階段を登らなきゃいけないのよ。シンが至高の魔弾を撃ったからすぐに場所がわかったわ。階段もないし、仕方ないから飛んできたわ。」

ティターニアはそういうと、鼻で笑った。

 

セラフは突き刺さった槍を抜くが傷が深くマガツヒが漏れ出す。白いローブと白い翼は赤く染まっている。

セラフはその傷を見ると、そのまま地面へと落ちた。

 

「ま、まさか、この事を予測していたな!?貴様!

この我を陥れるとは。それも…当たる直前まで…我が気付かぬと……は……」

セラフは槍を投げたクー・フーリンを見る。

 

「あまりにも弱いですね。セラフ」

クーフーリンは槍を抜くとつまらなさそうに言った。

 

 

「我は…セラフの一部に過ぎぬからな」

 

 

「…哀れだな。分霊とはいえ、そのマガツヒを生かせぬまま、消え去るとはな」

シンは立ち上がると、セラフを見下ろし嘲笑する。

そんなセラフは笑みを浮かべる。

 

「フフフッ……私は…神の意思だ…私は死なぬ…」

「別に構わん。何度でも殺せばいい」

 

シンはそういうと、セラフの頭を片手で掴むと嘗てトールが勇にしたように、マガツヒを吸い始めた。

 

「貴様が…我が主に気に入られている理由が…少しばかり………理解できた……ただ、選択を間違えた………だけなのだ………な」

 

痙攣を始めたセラフはそう微笑みながらマガツヒを大量に放出する。

やがて、動かなくなった。

 

 

「…どう?セラフの味は」

ティターニアの言葉にシンは嫌悪感を顕にする。

 

「…相変わらず、不味い」

 

鳴上はその言葉を耳にしたあと、気を失った。

 

 

 

 

 

 

「……ゆ……悠!」

そんな花村の声で鳴上は目を覚ました。

辺りを見渡すとそこはテレビの世界であった。

それも、入口の広場である。

 

「やっと、目覚ましましたね」

「本当に心配したんだよ!センパイ!」

「…これで、一安心かな?」

 

仲間たちが心配そうに鳴上の顔を見ていた。

鳴上はゆっくりと立ち上がり、鳴上は張本人に事の次第を尋ねる。

 

 

「どうなったんだ?」

「端的に言えば、セラフは死に俺達とお前たちはなんとか、ここまで帰ってこれたという訳だ。」

シンは肩をすくめた。

 

 

「しかし、本当に来るとは思わなかった。」

「何言ってんっスか。」

「友達だから、とーぜんでしょ?」

完二と千枝の言葉に皆が頷いた。

 

シンは数秒、固まったあとにため息を吐いた。

そして、頭をポリポリと掻く。

 

「相変わらずの、お前たちは……お人よしだな。だが、」

 

 

「ありがとう」

 

 

混沌 ランク8→9

 

 

その後、シンのあの時の真意を皆が尋ねる。

 

シンはギリギリまで粘っているつもりでいた。

事実、それぞれの技は最大出力には程遠い。

そして、それぞれの技で建物の強度を調べていた。

 

だが、楽しくなってきてしまって自制が効いていなかったのも事実である。

 

しかし、唯一最大出力を持ってして放った技があった。

 

『至高の魔弾』である。

 

これは賭けに近かった。壁に穴を開けるほどの威力を鳴上達に放った。

結果はご覧の通りマガツヒにならず気絶で済んだ。

 

セラフがなぜ直接、シンと戦わなかったか。

それは、まだ鳴上たちの世界に来る前に激戦を遂げていたからにほかならない。

 

故にこの世界に来る前にシンは気を失っていたし、同時に本当に休養が必要であった。

ルイはそれを踏まえた上でこの世界にあらゆる思惑を混ぜ込み、シンを連れてきたのだと鳴上達に話しながら思ったのだ。

 

あのセラフはセラフの一部でしかない。故に人間の形をしていたし、クーフーリンのゲイボルグで一撃死となった訳である。

 

「それで、僕たちの成長具合はどうでしたか?」

直斗は呆れた様子で尋ねる。

 

 

「悪くない」

 

 

そう答えたシンの頬をバチンとマリーが叩いた。

 

「サイテー、サイアク」

「知っている」

シンの言葉に鳴上たちは笑った。

 

 

一方、シンは誰にも気付かれずにニヤリと笑った。

こうして、怒涛のようなシン救出はいとも簡単に終わった。

まるで『悪い夢』のような出来事も終わった。

 

それと同時にシンの思いつきの目的もまた果たされたのであった。

 

さて、不思議なことに当たり前のように学校では、全員がシンのことを覚えていたし、当たり前のように休み扱いとなっていた。

 

何事も無かったようにこの町はシンを受け入れていた。

 

 

 

 

25日…

 

所代わり、ケヴォーキアンの病院にシンは来ていた。

 

 

 

 

「可能だろうか?」

「不可能ではないだろうな。元来、人間の体というものは入れ物という考え方がある。」

 

ケヴォーキアンはペンを回しながら答える。

 

シンはケヴォーキアンの言葉に付け足すように言う。

「実体二元論か。

この世界には、肉体や物質といった物理的実体とは別に、魂や霊魂、自我や精神、また時に意識、などと呼ばれる能動性を持った心的実体があるのではないかという考え方だな。」

 

そして、シンは鼻で少し笑いながら言った。

 

「この魂や霊魂が俺の知る思念体を魂とするなら、真実だな」

「残念ながら、私はその思念体を知らなんでな。だが、実に興味深い問題ではあるな。

霊なるものが心の強さつまり、意志の強さが作り出したものだと考えるなら、何となくだが、説明はつく。

恨みを抱いて死んだ者が幽霊となって現れる。」

 

「また、ペルソナは心の奥底、つまり、ユングの集団的無意識からその形を呼び出す。故に神話の神や悪魔が心の力となって表に出る。自分と向き合う強さがペルソナとなる。」

 

「心あってこその、証明だがな」

 

ケヴォーキアンは咳払いをすると言う。

 

「まぁ、俺にとって心はあると思っているよ。それは科学的根拠のないモノだがな。

事実、メリーに感情が芽生えたことが良い証左だ。だが、未だにメリーの感情の芽生えに納得のいく答えが出ていないのだからな。」

 

ケヴォーキアンはペンを止める手をやめた。

そして、シンの持ってきた資料に目を通す。

 

「…ふむふむ……」

 

ケヴォーキアンは資料に軽く目を通して口を開いた。

 

「俺は降霊術士ではない。降魔というべきものなのだ。それに、俺はそう長くは生きれんよ。」

 

「……データだけくれ。邪教の館でできるかもしれん。」

「仕方あるまい。やれるだけ、やってみようか」

ケヴォーキアンはそういうと、椅子から立ち上がった。

 

「今日中にもメリーをお前の家に帰す。」

「わかった。」

 

シンは処置室から出ると、念通をする。

 

『事後処理はどうだ?』

『問題なく。アマラ経絡も閉じあの世界は無になりました。』

『メシア教徒は』

『仰せのままに、カブキチョウ捕囚所に送り、例のシステムの中で楽しんでいますよ。永遠にマガツヒを吸われる運命だというのに、愚かな者共だ。』

ヤマは少し楽しそうに答える。

 

 

カオス勢力には本当に手のつけられない外道もいる。

種族的外道ではなく、本当に手を付けられないモノも。

混沌の連中を統率が取れるというのは、半分当たっていて、半分は意味不明なことなのである。

 

統率というよりは、力による統率。圧倒的な力を持ってそんな手の付かない連中を手懐ける。

それに目的が同じであれば、無理矢理にやる必要もない。

 

あの世界はコトワリに縛られているのだから、尚更である。

 

そんなやつらはカブキチョウ捕囚所でマガツヒの搾取の仕事をしている。

外道には外道の仕事がある。

 

カブキチョウ捕囚所は他の勢力の悪魔が殆どでまた、その数の多さから、最近拡張したばかりである。

 

それをまとめているのがヤマである。

 

恐らく、シンの仲魔でもlightやlawの仲魔は絶対に行きたがらない場所でもある。

残虐非道のありとあらゆる手段でマガツヒを掻き集めている。

 

そして、先ほど、言っていたシステムとは嘗て『アルカディア・エリア』という場所で使われていたものである。

仮想世界を作りそこで、生活をさせる。

 

そこはまさに『アルカディア』

 

そして、システムでより多くマガツヒを集めるために神の試練と称して、苦痛を与える。

その苦痛を感じた際に現実世界の体からマガツヒが放出される。それをターミナルを通じて宝物庫へと送る。

 

効率は落ちるものの人間であるが故に濃いマガツヒが抽出できると外道には好評である。

ストレス発散は別に有り余る捕囚が居るので問題ないからである。

 

 

それに、5万もの大群が数の暴力により、カテドラルの天使たちは死に絶えた。

しかし、残りの悪魔たちはアマラ深界での待機をと索敵命じられたのには、ルキフグスの読みがあったからである。

 

『王を消し去るのが目的ではないか」と。

 

怪しい点が多かったし、過去の事例もある。

つまり、天使たちは救世主を欲しているのだ。

悪魔ではない、人修羅と同じだった人間の救世主を。

 

だからこそ、ルキフグスは王不在で王救出に強いメンバーを集めると考えた天使達はこのタイミングで深界を攻撃すると考えた。

 

そして、結果は読み通り天使達が深界へと攻めてきた。

 

だが、ピクシーの要請できた『必殺霊的国防兵器』達とモトやシヴァなどの錚々たるメンバーに迎撃され、相手は撤退した。

 

 

 

『しかしながら、あなた様がこちらにいらっしゃらないと、色々と文句をいうものがおりますので、お早めに帰還してください。』

 

『…わかっている。こちらもそろそろ、この世界のごたごたが片付く頃合いだ。』

『?それは予想ですかな?』

『春というのは何かが終わり、始まる季節だからだ。』

『そういうものですかね?』

 

シンは肩をすくめる。

そんなシンに一月にしては少し暖かい風が吹く。

 

「…もう少ししたら、春だ。」

 

 

 

 

 

 

『組織に必要なことって何だと思う?』

『さあ?団結力とかですかね?』

『そんなものは当たり前の話で、必要なのは「話の分かる上司」に尽きる』

『つまり、自分は"話のわかる上司"だと言いたいんですね』

『そーいうことだ。』

 

 

 

シンは自宅でテレビで放映している映画を見ていた。

 

そこへ、ガチャガチャと鍵を開ける音ともに、見慣れた人物が入ってきた。

 

「お久しぶりです。」

「そうだな。メリー」

「……お食事はどうなされますか?」

「いらない。愛屋に行った」

「助かります。冷蔵庫に何もありませんので。」

 

メリーはいつもと変わらぬ表情でシン。迎えていた。

メリーは早々に掃除を始めた。

 

 

 

 

 

 

シンが起き上がると、固い床の上に居た。

「…」

 

シンは辺りを見渡すと、崩壊した家の中であった。

しかし、それはメリーと共に住んでいる家である。

だが、おかしなことに、周りの景色は濃い霧のようなものでみえない。

 

シンは立ち上がり、壊れた窓から外へ出る。

 

そこは妙な世界で、道路が途中で欠けていたり、街灯が歪み奇妙な形をしていたりと、テレビの世界に近い。

しかし、テレビの世界、独特の空気の重さがない。

 

「現実か?」

 

『そうとも言うし、そうではないとも言えます。』

 

シンは咄嗟に後ろに下がり声のした方へと『アギダイン』

を放った。

しかし、当たった気配はなく、遠くへと炎の塊は飛んで行ってしまった。

 

そして、空中に女と男が現れた。

それは紛れもなく、悪魔の召喚音に近かった。

煙を纏い、その姿を現した。

 

途端に辺りが明るくなってきた。

 

「こうして、しっかりと会えるのは初めてですね、人修羅さん」

「我々はこうして会えたことを嬉しく思う」

 

シンは構えを解く。

 

「姿が違うが、イザナミとイザナギか?」

 

シンが知っているイザナミ、イザナギは幽体に近かった為か、現在の2人はしっかりと実体化しており、力も感じる。

 

「はい。アマラ深界のF666、以来でしょうか」

「また、一段と強くなったようで何よりだ」

2人はシンと、同じ目線まで降りてきた。

 

「この様な場所で申し訳ありません」

「しかし、事は早急な解決が必要になる」

 

シンは腕を組み言う。

幻影(・・)の件か?」

 

「…流石ですね。」

「我々はやはり正しい選択をしたようだ。イザナミよ」

2人は頷く。

 

「あなたが滅びた世界のまま『停滞の混沌と秩序』の世界を創ったとき、私たちは疑念を抱きました」

「しかし、貴殿の心の強さはやはり本物であった」

「その進む方向はどうであれ、私たちは良きことをしたのですね」

2人は見つめ合うと身を寄せあい、微笑み合う。

 

「すまないが、イチャイチャするのは後にしてもらいたい。」

シンは呆れた顔で肩をすくめる。

 

「話を戻しますが、この世界にて、私やイザナギに似た『何かを』感じました。」

「我々が作りしこの日の国の一部に、我々は違和感を覚えた。イザナミの分霊が何か良からぬ事をしているのだと分かった。そこに、貴殿がいた故、汝が関係していると考えたのだ」

 

2人はシンを見る。その視線は疑念というよりは、本当にただ尋ねているだけに過ぎないようにシンには思えた。

 

「ある意味、そうなのかもしれない。イザナギの力を使いし少年を知っている。」

 

イザナギはふむと頷くと尋ねる。

 

「その少年は貴殿の目から見て、どんな人物か?」

 

 

シンは即答した。

「あなたに似た立派な少年だ。”黄泉”まで、友人を助けに来るような勇敢さと正しい心の持ち主であることは間違いない。俺の目が濁っていないのであればの話だが」

 

 

イザナギは大きく頷いた。

「貴殿の信じる者であるのなら、問題は無い。しかし、我はイザナミの方が心配なのだ」

「あなた…」

イザナミはポッと顔を赤くする。

 

「そちらは分からぬか?」

 

 

シンは憶測ながらも話をする。

「その少年に力を与えたやつがいる。だが、そいつは悪魔ではなく、多くの人々の意思を叶えようとしたのではないだろうか。」

 

「マヨナカテレビは人々の見たいという欲求を満たすために流れていた。マリーが言っていたスパイの話もある。人々の望みを知るために彼女が存在していた。 それは何故か、それは望みを叶える為ではないかという仮定をしてみた。」

 

「するとだ、色々と説明がつく。これまで全ての鳴上たちから出たシャドウは『真実から目を背けていた』。

例えば、りせは『自分というもの』から、直斗は『自分が女だという』真実から目を背けていた。」

 

シンは座ると、天を見上げる。

 

「あくまで、憶測であり、大きな穴の空いた推論だ」

「イザナミの幻影と言ったのは?」

 

「イザナミの幻影と言ったのは、単純にイザナギが出てきて、それに対である『マガツイザナギ』。『アメノサギリ』、『クニノサギリ』。産み落としたのはお前だ」

 

シンはそういうとイザナミを指さした。

 

2人はシンの言葉を聞き、顔を見合わせた。

「真実を話しましょう」

「我々が出ていけ(・・・・)ぬ、故に汝に頼みたい。」

 

「…先ほど、私達と『似た何か』と言いましたが、正直にお話しますと、私の一部であるこの世界における『イザナミノミコト』が良からぬことになっています。

そして、今の私達では日の国を訪れる程の力がありません」

「どんな形であれ、我々の分霊が多大なる力を使っていることに相違ないのだ」

「その制御が効かなく、こうして私達はあなたを呼び、解決をして頂きたいと考えました。」

 

2人の言葉にシンの返答は早かった。

 

「元々、そのつもりだ。」

 

 

「おお。忝ない」

「成功の暁には再び、私達の力を貸しましょう」

 

2人は微笑む。

 

 

「しかし、なんだこの鬱蒼とした場所は」

「ここは、私達の分霊の世界です。その為にここに呼ぶことが可能でした。」

「ここは深い霧に包まれ、この場所ではすべてが終わり、そして、始まる場所でもあるようだ(・・・)

「この場所は空の光さえ奪ってしまっているようです(・・・・)

「我々の光だけが、唯一の光」

 

シンは納得した。そして、理解し、鼻で笑う。

 

 

 

「お前ら閉じ込められてるんだな?出ていけない理由があるんだろう?」

 

 

 

 

「…」

「…」

 

2人は無言で頷いた。

 

 

 

つまり、2人は一部であった筈のその力がいつの間にか強大になり、本体の彼らさえ取り込もうとした。

それに抵抗するため、取り込まれたフリをしているという、少し情けない話である。

 

つまり、ここもテレビの世界である。

 

だが、この2人のおかげで空気は重くないのだ。

 

シンは少し苦笑いをしながら言った。

「なに、恥じる必要は無い。元の鞘にすべてが戻るだけだ」

 

「忝ない…」

「ご迷惑をおかけします…」

 

しょんぼりする2人に特に声をかけるとなく、シンはバアルを呼びつけ仮想ターミナルで自宅へと帰還した。




すげぇ、適当に終わった感がいなめないけど、色々と伏線を張りました。
それと、上手くというか、それなりに終わりにつなぐ話にしました。

シンの救出という話には作者的には色々と思惑があったので、はっきり言うとフラグ立てみたいな感じで書きました。

あと、P4Gとの互換性といいますか、矛盾が起きないようにやってますが、どう考えても欠陥があるので、そこはご愛嬌ということで

よろしくお願いします(´・ω・`)


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第x9話 Moment

*注意。

一部、真女神転生3のセリフが出てきます。
その内容を変えているため、注意してください。




「手伝い?」

「ああ、頼めないかな?」

 

鳴上が珍しく人にモノを頼む。

だが、込み入った理由がある訳ではない。

 

何でも、鳴上のアルバイトである『夜の病院の掃除』のアルバイトで人が足りなくなってしまっているらしい。

初めは花村に頼もうと思ったが、花村はジュネスのバイトでいつも遅い。

完二は最近、編みぐるみの販売を始めた為に、夜に時間が取れなくなっていた。

 

そこでシンに白羽の矢が立ったわけである。

 

「別に構わない」

 

シンはふたつ返事で答えた。

シンとしても、マヨナカテレビが無くなり、映画を見るのも流石に飽きてきた頃である。

アマラもセラフの進軍失敗以降、平和である。

無論、ボルテクス界は荒れ放題だが、それがボルテクス界の日常なのだから、問題ない。

 

 

 

 

午後8時から2時間ほどの清掃。

 

綺麗好きなシンは徹底的に掃除を始めた。

鳴上と廊下の窓を拭く。

 

「それで、六股はどうなんだ。里中さんに、天城さん、りせに、文化部とかあと……授業中に居なくなって一緒に出かけててた、人だったかな?あと義姉…」

「…もちろん。奈々子が一番だ」

鳴上はさも当然のように言った。

 

「『色好みの果ては怪しき者にとまる』というし、程々にな」

シンは窓ガラスを下から見て、汚れを確認する

 

「そういう、シンはどうなんだ?」

「何がだ」

「直斗と」

「?」

 

鳴上は少し笑う。

鳴上でなくても、直斗がシンを好いていることは明らかであるが、シンがどう考えているのか、まったくもってわからないのだ。

 

「一緒に下校してたり、休日に会ったりしてるのに?」

「?別におかしな話ではないと思うが。親しい人なら、それが至極当然だと思うが」

「……」

鳴上は呆れた顔でバケツを持ってどこかへ行ってしまった。

 

 

「?訳が分からないな」

シンは肩をすくめると窓を拭く作業に戻る。

外は雨が降り、酷く暗く見える。

星も見えない。

 

ポツポツとその暗闇の中で住宅の光が見えるだけである。

 

「……お疲れ様です」

「…おい」

 

シンの後ろを車椅子に乗った少女が通り過ぎた。

シンはすぐにそれを止めた。

 

「何ですか?」

「何ですかではない。この階の病室に居る人は居ない」

「……あれ?そうなんですか?間違えたのかな?」

 

少女は目に包帯を巻いていた。

ぐるりと何周かされたその包帯はまだ新しかった。

 

「とりあえず、ナースステーションまで押していく」

「ありがとうございます」

 

シンはいつものように観察を始めた。

 

(―脚。外傷あり。両脚に包帯。左手首、頭部にも縫合痕あり。交通事故。

脚部、頭部以外軽傷。右手小指に独特の凹み。スマートフォンの操作時間が長い。歩きスマートフォンによる事故?)

 

そして、ふと、その高速に動く瞳が顔で止まった。

顔の形に既視感を覚えたからだ。

 

(―誰かに似ている……)

 

シンはそこで思考をやめた。

他人の人生に興味を持ちすぎるのは問題だと自制した。

ましてや、他人も他人。もう会うこともないだろう。

 

関係の無い人間だ。

 

「…私より年上みたいですね」

「この病院で一番年上だ」

「え?そんなはずないでしょ?」

 

そういうと、少女は笑った。

シンは本当にこの病院で一番の年上だろう。何百年と生きているのだから当然だ。

 

 

シンがナースステーションに彼女を連れていくと、ナースが微笑む。

 

星奈(せいな)ちゃん、また散歩?」

「ええ。でも、帰り道を間違えちゃったみたいで」

 

彼女は恥ずかしそうに笑った。

ナースに彼女を渡すとシンは仕事に戻ろうと歩き始めた瞬間、服を掴まれた。

 

「また、会えるといいですね」

「……」

シンは答えるでもなく、無言でその場から去った。

 

 

 

翌々日も鳴上の手伝いをしていた。

 

今日は病院でも本館の空の部屋を掃除することになった。

シンが4人部屋に入った瞬間、記憶がフラッシュバックする。

 

 

 

「……っ!!んーだよ!驚かせるなよシン!

突然、音立てたらビクっとするだろ!」

 

そこには、帽子をかぶりオシャレをした新田勇がいた。

 

部屋の中はベットは壊され、カーテンは破れ、窓が開いていた。

勇がそうしたのではないのだろう。当たり前だ。彼にベットを壊すほどの腕力はない。

 

「悪いな」

そんなシンの言葉に勇は軽くため息を吐く。

 

「…とにかくもう。遅れて来たくせにこんなことするか、フツー。」

「…悪い」

 

感情なく謝るシンを見て、勇は帽子を外し、頭の髪の毛を直す。

 

「ああ、もう。…まあ、いいや。

それにしてもアレだよ、誰もいないだろ、キレイさっぱり。

ちゃんと先生に電話して確かめたんだぜ。入院してるの新宿衛生病院だって」

 

「何かあったのかもな」

シンはベットなどの下を覗く。埃が蓄積しているだけであった。

 

「案内も何も無しに、こんなだもんなぁ…さっぱり訳わかんねぇよ。

ヤバイウイルスが逃げ出した。なんてことは無いよなぁ…

お前の好きそうな話題だけど、リアルに起きたら迷惑だからな」

勇は帽子をかぶり直した。

 

「先生の居そうな所は一通り周ったつもりなんだけど、どこか他にいるのかなぁ……」

「分院は行けたか?」

 

「いや、カードキー無くていけないな」

「……そうか」

シンは顔を顰める。それは何か嫌な予感がしたからだ。

奇妙な感覚が徐々に強くなっていたのは事実だ。

 

「……まあ、いいや。オレ、そこら辺もう一回見て、千晶のとこ戻って確認してくるよ。

待たせたから、また怒ってるかなぁ……

ハァ、お嬢さん育ちの相手は大変だわ。

じゃな、シン。」

 

勇は部屋の出口に向かう。

 

「しかしまあ、ヤバイことになってなきゃいいけどねぇ……」

勇はそんな呟きを残して部屋を出た。

 

 

 

シンは目を閉じ、首を横に振った。

すると、普通の病室に戻っていた。誰もいない、静かな病室に。ベットも壊れていないし、窓も開いていない。

八十稲羽の病院だ。

 

「…白昼夢とはな…まったく」

 

シンは呟くと掃除を始めた。

 

シンと鳴上はその手際の良さですぐに2人の目標数が終わってしまい、主任にそれを言うと休んでいていいと言われたため、廊下にあるソファで休んでいた。

 

鳴上は他の人を手伝いに行った。シンは所詮、手伝いなのでそこまでやらなくていいと鳴上に言われ、廊下にいた。

 

 

外はまだ雨が降り続いていた。最近は夜になると降ることがある。

季節の変わり目という訳でもないが、不安定な天気が続いている。

 

 

シンは廊下にあるソファに座り窓から外を見ていた。

そして、懐かしい思い出を思い出していた。

 

 

「お帰りなさい。」

 

橘千晶は新宿衛星病院の1階のエントランスで椅子に座って、シンが聖に貰い渡した『月刊 アヤカシ』を読んでいた。

 

「ねぇ、シンくん。

これの巻頭に載ってる『特集・ガイア教とミロク教典』ってやつ……ちょっと、気になること書いてあるの。」

 

そういうと、千晶は雑誌を捲りながら話し始めた

 

「ガイア教団とか言う、悪魔を拝んでるカルト集団があってね……この日本によ。

その人たちは『ミロク教典』っていう予言書みたいなものを信じてるらしいの。

予言書には、世界に『混沌』が訪れる、みたいな事が書かれてて……」

 

「教団は、それを本気で実現させようとしてるんだって。

『混沌』ってのがテロか何かを指すのか、それともただの世迷い言なのか、まだ詳しい事は分かってないらしいけど、でも……」

 

そんな会話をしていると、勇がエレベーターから降りてきた。

 

「……うーん、先生いないよ。男子トイレまで探したんだぜ。」

 

千晶は呆れた顔で勇を見た

「……やぁね、もう。戻ってくるなり。今まじめな話してるのよ。ちょっと黙ってて。

でね、ここなんだけど」

 

そう言って、千晶は雑誌を広げ、シンに見せた。

 

「『新宿の東に位置する某病院。ここに彼らの計画を解くカギが……』」

そう書かれていて、勇が続けるように言う。

 

「……で、『待て、次号!』なワケね。」

勇はそういうと、辺りを見回しながら言う。

 

「その病院っての、意外とココかもよぉ。

この新宿衛生病院、実は怪しい話があるんだよなぁ。

人体実験やってるだとか、霊視した霊媒師が逃げ出したとか『カルトの息がかかってる』ってのもあったなぁ……」

 

千晶は嫌そうな顔をした。

 

「……そうなの?

わたし、何も知らなかった。やだ、来るんじゃなかったなぁ。

こんなトンデモ雑誌の記事なんて鵜呑みにする気は無いけど…でもこの病院、明らかにおかしいわよね。」

 

「…俺も知らなかったな」

「意外だな。知ってると思ってた。」

勇は驚いた顔で言った。

 

「…それに…人の気配がない」

シンは高い天井を見上げ言った。

 

勇は一変して、不安そうな顔で言った。

 

「……先生のこと、心配になってくるなぁ。

しょうがない、もうちょっと探そうぜ。何にも無きゃ、何にも無いで良いわけだし。

なんかね、分院があるみたいなんだよ。2Fから行ける所。

オレ、そこら辺あたってくるわ。」

 

勇はそういうと、ポケットからカードを取り出しシンに渡した。

 

「ハイこれ、シン。おまえは地下を探してきてくれ。」

「カードあるなら、あんたが地下探せばいいじゃん。

……それとも、怖いの?」

 

勇は否定するように首を横に振る。

 

「こ、怖くなんかないっての!

どうせ地下になんか先生はいないからシンに頼むの!

こいつなら、霊感あるし、度胸あるし……な?」

 

「俺も地下がいいと思ってた」

「だろ?お前そういうの好きそうだもんな

シンは、先生がいないことを確認してくれればOK。

出会いを果たすのはオレの役目。

じゃあな、シン。何かあったら、すぐ逃げろよ。」

 

勇はそういうと、エレベーターの方へと歩いて行った。

 

「……まったくもう、調子いいわね。

でも、正直わたしも先生のこと心配だわ。もう少し探してみましょ。」

 

千晶はそういうと、雑誌を見た。

 

「……記者かぁ……」

「……興味ある?」

 

千晶は少しうなだれて答える。

 

「…そうね。こういうのじゃないけど、新聞記者は面白そうかなって、父親もそういうのだしね…」

 

千晶は首を横に振る。

 

「それより、先生大丈夫かなぁ……」

 

 

 

 

シンはふと、現実に帰ってきた時に後ろに人が立っていることに気がついた。

 

「…久しぶりね」

 

シンはその声に内心驚いたが、その表情を一切変えることなく答えた。

 

「初めまして」

「あら?2回目よ?」

その言葉にシンは顔を顰める。

 

「……まだ、こんな田舎に?」

「ええ。まだ、療養中なのよ。」

 

それは嘗て、好きになった女性であった。

今となっては、もう何も感じない。ただの他人の1人。

それに、彼女は彼女ではないのだから。

幸せそうに年を取り、幸せそうな彼女に最早、未練などない。

それにシンにとって、それは救いだったのかもしれない。

違う世界線であれ、彼女は幸せそうなのだから。

 

だからこそ、自分などと関わる必要はない。

そう考え会うことは避けてきた。

 

 

彼女の名前を高尾 祐子。

 

 

シンは祐子の方を見ることなく、外を眺める。

 

「外は雨ね」

 

シンは表情を変えずに答えた。

「何も語らうことはない。

語れる言葉全て、俺の知るあなたの墓前に話した」

シンはため息を吐く。

 

「そう言わないで。私だって暇なのよ?何も無い病院だからね」

「……まぁ、いいだろう。」

シンは仕方ないと言った顔で答えた。

 

「…私の娘に会った?私は来年から隣町の高校教師をするの。夫の母校よ。あの子は来年には八十稲羽高校に行くわ」

「……ああ。そうか。」

シンは思い出したようにそう口走った。

 

あの顔に包帯を巻いていた少女。

彼女の顔の形に既視感を覚えたのは祐子に似ていたからだと気が付いた。

 

祐子はシンの隣に座り、自分の膝に肘を置き前屈みになる。

 

「この世界でも、私は巫女として生まれたわ。受胎の為の巫女として。でも、あなたの世界線と違ったのは、私には世界をやり直したいという気持ちが無かったわ。氷川に連れていかれる前に、私はこの世界が好きになってしまったのよ。」

 

「そして、氷川は捕まり、受胎を回避したと。」

シンは窓から顔を正面に戻し、ソファに深く座る。

 

「それから、私は平凡な人生を送ったわ。子供も生まれて、それなりに幸せよ。」

「そうか…」

 

シンは天井を見上げる。

 

「…俺はいつも、こうしていればと思う時がある。だが、それは自己過信だ。

あの時の自分にとって、それが最善だと思ったから、そうしたのであって、今ならばというのは、自己過信に過ぎない。」

 

「私もそうね。でも、今の私にはあの時、歩かせて駅まで行かせなければ、娘が事故に遭うこともなかったと後悔したわ。」

 

「その他の選択肢が最善だったかなど、永遠に分からない。考えるだけ、億劫だ」

 

「……変わらないわね」

祐子は少しだけ微笑む。

 

「…捉え方の違いですよ。"変わらない”のではなくて"変われない”んですよ。変わる必要も無い……です。」

 

 

最後に彼女と交わした言葉は確かに昔の『間薙シン』の言葉であった。

 

 

 

 

 

その日の深夜

 

 

『その様子だと上手くいったみたいだな。』

「…ああ。良かった」

『余計なお世話かもしんねーけどさ、友達として、やっぱり、ちゃんと向き合って欲しいつーかさ……あいつ、俺たちの弱みばっかり見てるから、ずりぃなって気持ちもあったけど』

「…そうだな」

『ってか、それいちゃ、お前もそうか』

 

鳴上と花村のたわいもない話は続く……

 

そんな話を聞く人物がいるとも知らずに

 

 

屋根の上に居たシンはなるほどと頷いた。そして、ニヤリと笑みを浮かべると、暗い空に消えた。

 

 

 

次の日の花村はとにかくついていなかった。

 

深夜に突然、何者かに殴られたような夢を見るし、朝の登校中に自転車のタイヤが取れ、股間を強打したり。

シャープペンシルの芯は異常に折れるし、購買のパンは買い損ねるしと取り分け今日はついていなかった。

 

「ああ、クソッ…」

花村は落ち込んだ様子で、前輪タイヤのない自転車を押していた。そして、花村はタイヤを自転車に縛り付けている。

 

「大丈夫なわけ?花村」

「……笑いながら言うなよ」

鳴上と千枝に花村が共に帰っていた。

 

何か企んだんじゃないの(・・・・・・・・・・・)?」

「いや、そんなことは……まさか……な」

「バレたか?」

鳴上はゾクりと背筋が凍る。

 

 

一方、シン、直斗、完二の方面では…

 

「なんすか?それ」

完二はシンが虫かごを下げていることに気が付いた。

その虫かごには、 『運』と書かれ、お札で封をされたいた。

 

「虫だな。少し特殊な。」

「へぇ、でも少し気持ちが悪いですね」

「しかし、便利なヤツなんだ」

 

「「?」」

2人はシンの言葉の意味が分からず首をかしげるのであった。

 

 

 





本当に閑話は好き勝手書いてて、時間軸とかもあんまり気にしなくていいので、気が楽です。

本編はハッキリ言って、0%です(´・ω・`)
お待ちください。


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第75話 Was God 2013年1月30日(月) 天気:曇

更新が遅れて申し訳ありません。
普通にここ1週間は最近はゲームをやってました(´・ω・`)すみません。

あと、急遽この話を挟んだために次のは実は1ヶ月前には完成していましたが、なんか、話のジョイントが欲しかったのでこの話を書きました。

なので、次話は早く上げる予定ですが、誤字チェックとか色々と済ませてからあげます。


 

 

 民話や伝承には様々な類似点が見受けられる。

代表的な例は神隠しや越界などが挙げられる。

例はアメリカのリップ・ヴァン・ウィンクルが挙げられる。内容としては非常に浦島太郎に類似していると言えるだろう。

 その原型はドイツの民話に原型が見られる。その起源は不明ながら、各地でそういった神隠しや越界などに似た現象が起きていることにほかならない。

 

 

 

 

シンは八十稲羽の図書館で本を読んでいた。

人が少ないためか、その静寂さは咳一つさえ許されないほどの空気感がある。

 

そんな所にシンがいるのは暇潰しの為ではない。

 

(……霧の世界に閉じ込められたイザナギ・イザナミ。そして、マリーの話を統合すれば、この地にはイザナミに関連した何かがある)

 

シンは本を置くと席を離れ、民俗学関連の本棚へと移動した。

 

「……『神話の科学』」

 

 部落や集落では昔、『森は異界に繋がっている』とされたり、神様がいる神聖な場所とされていた。

そのために、森に神社を建てることでその地域の繁栄を祈祷していた。

 また、政に楽器などを使用し演奏するのは、音や音楽で他の世界との境界を近付けることを目的としている。

 

(…神社…か)

シンは本を本棚へと戻し、腕を組んだ。

そして、『八十稲羽民俗学』という本を取ると席に戻る。

 

ゆっくりと席につくと、その分厚い本を開く。

そして、本の目次を見て、それらしい所でページを止めた。

 

 

 

 この八十稲羽には八十稲羽特有の神がいる。『伊邪那美尊』である。

天地開闢(てんちかいびゃく)の際に生まれた伊邪那美との関係はイザナミノミコトは本家のイザナミの分霊とも言える。

 とある県にある『イザナミ神社』の唯一の分社として、この八十稲羽市に存在していた『イザナミ神社 分社』。

しかし、その後の開発により分社は縮小され、その名前も変わり、八十稲羽商店街の一画に存在している。

 また、名前を変えた際に、分社としての扱いも取り払われており、

この地で崇められていた『イザナミノミコト』は徐々に忘れ去られていることも事実だ。

 

 

 

シンは本を閉じると、眉を潜めた。

(…そもそも、人の意思を見極める為に何故、『イザナミノミコト』とやらが出てくる必要があったのか……憂うほど。)

 

(八百万というほどの神がいて、何故、ここである必要があった……)

 

 

 

 

 

俺は目を閉じると微かに痛む頭を抑えた。

 

……違う。ここである必要はなかった。イザナミノミコトである必要もなかった。『鳴上 悠』という人間である必要があったのか?

 

 

『ワイルド』という力。

 

それは誰しもが持ちえたものなのだろう。

しかし、環境が周りの人間が『お前はこういう人間だ』と決め付けることによって、自分でもそういう人間なのだと思い込んでしまう。

 

それは空っぽだった瓶に自分の知らぬ間に詰められた、『幻』に過ぎない。

しかし、その幻に取り憑かれ、自分はこういう人間なのだと決めつけてしまい、やがて可能性という道は狭くなるばかり。

 

だが、彼らはその瓶に何も詰めることなく、純粋なまま、ここまで育ってきたのだろう。

 

結城 理はその体に『Death』を宿していたから、ワイルドになり得たのかもしれない。

だが、鳴上 悠はそうではない。彼はただ、この町の外から来て、足立や生田目、そして、鳴上に能力を与えられたものであった。

 

ペルソナは心の具現化だと、イゴールが言っていたことを考えると、結城と鳴上、2人に共通点がある。

 

 

…そう…2人とも、空っぽであった。

 

 

結城に関しては本人が言っていた。

『ここで、多くの人と出会いと別れが無かったら、僕は世界なんか救うつもりなんて無かった』

 

その話を聞いて、鳴上を見ると、明らかに人間が変わっていたことは確かだ。

この八十稲羽で多くの人と出会っていることは、監視から報告は受けている。

 

2人とも親不在の時が多く、環境としては人との関わり合いが少ないと推察される。

結城は爆発事故により親は死亡。鳴上は両親の共働き、そして、海外転勤。

 

……類は友を呼ぶとは言い得て妙だ。

 

俺も両親は共働き。顔を合わせることはほとんど無かった。高校生になって、少し話す程度だったか…。

 

…俺達は空っぽのまま、こんな年齢になっていたわけか。

 

 

俺は本のページを軽く指で叩く。

 

 

2人は自分で自分の瓶を詰めようとしている。

 

人と関わることで自分の空っぽな瓶を埋める。

他人が映し鏡であることを十分に理解し、そして、短絡的ながら自分を『自分たらしめよう』としている。

 

それが力となりペルソナをより強力なモノへと変化させていった。

 

 

一方、俺は…他人もいない世界で好奇心と神を呪うことで、永遠に満たされることのない瓶に汚い水を流し込んでいる。

最高に汚れた水だが、俺はその味が一番好きなんだ。

飲み慣れた水が一番だった。

 

だが、俺達に言えることは誰も空っぽな瓶であることを悲観していないことだ。

 

空っぽな瓶には何でも詰められる。

透明であれば、中身で色も変わる。

 

鳴上はペルソナを変化させながら戦っている。

器用貧乏ともいえるし、ある種の『矛と盾』とも言えるだろう。

たが、そこに潜む『矛盾』と如何に相手をするかが問題になる。

 

無自己なことを嘆くか、空っぽな瓶と受け取るか。

 

鳴上次第なのだ。俺もそうか。

 

 

 

(……今の俺は何色だろうな)

 

シンはふとそんなことを考えながら、『死体の見方と解剖学』という本を手に取っていた。

 

 

 

 

シンは夕日が赤い川面を作り出す頃に川沿いの土手を『死体の見方と解剖学』という本を読みながら歩いていた。

人はほとんど居ないその川沿いはまだ冷たい風を更に冷たくさせていた。

 

 

 

「あれ?シン君じゃん」

シンは本から顔を上げると、セントバーナードの大きい犬を連れている千枝が歩いていた。

シンは本を閉じると、肩掛けのカバンにしまった。

 

「犬か」

シンが頭をなでると気持ちよさそうに目を細めた。

 

「うん。ムクって名前」

「ムクね…変わった名前だ」

 

 

そこへ対岸の川沿いの土手を男が現れ何かから逃げるように走っていた。

そして、その後に警官が2名走って土手に上がってきた。

 

「ちょっと、持ってて」

そう千枝はリードをシンに渡すと、走り出した。

橋を渡り、犯人を追いかけ始めたのだ。

 

「……」

 

シンは肩をすくめるとムクの頭を撫でるのを止め、橋を渡り違う方向へと歩き始めた。

 

 

 

「待てーっ!」

千枝は住宅街をひったくりらしき人物を追いかけていた。

体力に自信のあった犯人なのか、もう10分ほど走りっぱなしだった。だが、流石の犯人も今にも倒れそうな時に狭い道に入った瞬間。

 

「ぎゃぁ!」

 

犯人は伸びてきた手に片手を捕まれ、そこから光るものが零れ落ち、腕をひねられ、コンクリートの地面に倒された。

 

千枝が角を曲がると、そこにはシンとムクがいた。

 

 

 

 

「ご協力ありがとうございました」

「いえいえ」

 

そう警官に言われた千枝は少し納得いかない顔でシンを見た。

 

「どんな手品を使ったの?」

「手品ではない。予測だ。」

 

「?…どういうこと?」

「逃げた犯人は体力に自信があった。理由はあんな見晴らしのいい川沿いに来たこと。そして、この土地の地理に詳しい。理由は土手に上がってきた時に細い道から出てきた。」

 

「それらを考えると、体力に自信がある分、人気の少ない道を使うだろうと考えた。だが、それは決定力に欠ける。」

「なんで?」

「理由は犯人は必死に逃げているから、冷静な判断。しない可能性がある。」

シンはそういうと、肩をすくめた

 

「……じゃぁ、たまたま?」

「そうだな。今回は推理ではなく、単純に運が良かっただけだ」

「なーんだ」

 

そんな呆れた千枝にムクはワンと吠えると、構ってくれとイワンばかりに千枝に擦り寄った。

 

 

「…犯罪が嫌いなようだな」

「あったりまえでしょ?」

「…だが、包丁を持った犯人に接近戦は感心しないな」

シンはムクのリードを千枝に返した。

 

「え?持ってたの?」

「なら、あいつは何故ポケットに片手を入れて走っていた。」

「あ」

千枝は思い出した。一瞬だが、光るものが見えたような気がした。

 

「猪突猛進も結構だが、それでは、守りたいものを守る前に自分が守れなくなるぞ」

「は、はい……本当にその通りです、はい」

「……だが、運動能力はいいセンスだと思う」

 

シンはカバンから本を取り出しながら千枝にそう言った。

 

「そう?」

「戦闘中の蹴りは鋭くて良い」

そうシンが言うとシンの携帯が鳴った。

 

「悪い、出る」

「うん!じゃぁね!」

千枝の言葉にシンは手を軽く挙げて応えた。

 

 

 

 

 

 

「わるいな、ホント。ってか、殆どあいつのせいだけどな」

花村は倉庫でぶちまけられた乾燥麺の箱の中身を箱に詰め直していた。

 

シンはそれを手伝っている。

夕方にクマが箱の山を崩してしまい、中身をぶちまけたのである。

 

 

「ごめんクマ…」

しゅんとしているクマに花村はいつもと変わらぬ顔つきで答えた。

 

「俺よりも、シンにお礼しとけよ。ワザワザ、来てくれたんだからさ」

「…別に構わない。考えが煮詰まってたし、どうせ、家に帰っても本を読む予定だった」

シンは軽々と思い米袋100kgを持ち上げた。

 

「シン君……クマ、惚れちゃう」

「そんなことより、手を動かせ、手を。終わらないと、飯も食えねぇぞー」

「すぐに終わらせるクマ!」

 

そういうと、クマは素早い動きで店内へ戻って行った。

 

「で、考えって何だ?事件のことか?」

「事件……というよりは、そもそもの発端について考えていた。」

「発端?」

花村は箱を運びながら首をかしげた。

 

「鳴上はこの町に来たことで、テレビに入る能力を得た。だが、それを与えたのは誰なのかを突き止めたい。」

「でもよ、そんなことどうやって突き止めんだ?」

「それを考えているところだ」

 

シンは台車に米袋を降ろした。

 

「ただ、さ、そのなんだ、1人でやるなよ?そーいうこと。俺達、仲間だからさ」

「……」

 

 

そこへ、クマが閉店作業を終え、走ってきた。

だが、

 

「あ、」

「うひょー!!」

 

クマが台車につまづき、宙を舞い、そして、バレンタインデーに合わせて積んであった箱にダイブした。

 

呆然と2人はそれを見ていた。

そして、数秒間固まり、シンが先に口を開いた。

 

 

「……手伝う」

「……わりぃ……マジで助かる」

 

 

 

 

 

 

シンはバイクのガソリンが少なくなっていることに気が付き、ジュネスの帰りに入れることにした。

いつもは、違うところで入れているが珍しく一番近いガソリンスタンドで入れることにした。

 

理由としては、噂好きの高校生がいると完二が話していたのを聞いたからである。

 

閉店のギリギリにシンはバイクを滑り込ませた。

 

「いらっしゃいませー、」

「…レギュラー満タンで」

「はい!!かしこまりましたー」

 

シンはヘルメットを外すと、ため息を吐く。

すると、店員がシンの顔を見ると言う。

 

「あれ?もしかして、間薙って人ですか?」

「……そうだ」

「うっそ!本当に!?私、八十神高校の1年なんですよー」

 

高校生らしき少女は嬉しそうに微笑んだ。

シンは最悪だ、といった顔で顔を顰めた。

 

「写真いいですか?」

「…断る。」

「えー!!いいじゃないですかー、一枚くらいー」

「それより、仕事をしろ」

「ちぇ…」

 

バイトの高校生は仕方なくシンのバイクの給油口を開け給油を始めた。

シンはふと、バイクに付けてあった傘がここで借りた傘であることを思い出した。

 

給油ついでに返そうと考えていたが、ここで給油することを避けていたため、すっかりと忘れていたのであった。

 

「そういえば、傘を借りっぱなしだった。」

「?貸した覚えはないけど、ってか、先輩くるの初めてだし」

「?いや、確かに……」

 

シンはそこで、違和感を覚えた。

 

「……ここの従業員の人数は」

店員は奥でテレビを見ているおじさんを見ていった。

 

「ご覧の通り、私と店長だけですよー、まさか、先輩、バイトする?」

「……」

 

シンは悪魔になってから記憶力は抜群に良くなっていた。

ましてや、この街に来て初めて来た時に会った人位は覚えている。

 

「…お前はいつからやってる。」

「えーっと……中学卒業してからじゃない?これでも私ー、危険物の資格持ってるんですよー」

 

「……なるほど、そうか。」

シンはニヤリと笑った。

 

「ありがとうございましたー」

 

シンはバイクに乗り冷たい風を受けながらも、珍しく頭は怒りに満ちていた。

 

 

(……忘れられた神がでしゃばるとどうなるか、教えてやる)

 

 

 

 




ちなみに本当にイザナミ神社は存在します。
兵庫県の淡路市の『伊弉諾神宮』です。

行ってみたいですが、関東圏の人間なので辛い(´・ω・`)。

そして、ご存知だと思いますが、この物語はフィクションです。また、民俗学の話は結構適当推論ですので、ご了承ください。


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重ね着した理想『如月』『弥生』
第76話 Valentine's Day 2012年2月14日(火) 天気:曇・雨


 

朝…

 

その日はシンが寝坊したため、鳴上たちと登校していた。

なんでも、あの寂しいシンジュクに繁華街を作っており、それが徐々に出来上がっているらしい。

その様々なやりとりがシンの登校時間を遅らせているらしい。

 

「なぁなぁ!どーかな?今日の俺?」

花村は少しテンション高めに鳴上たちに話し掛けた。

 

「どうって…いつもと変わんねぇっスよ」

「だらしない顔が体にくっ付いている」

眠そうな完二とシンがそう答えた。

 

「だーっ!!そこじゃねぇ!ってか、だらしないってなんだよ!」

シンは欠伸をすると目を擦り花村を見た

 

「…朝からうるさいな……ヘッドフォンが変わったんだろう?」

「おっ!流石!名探偵だな!!」

花村は嬉しそうにシンと肩を組んだ。

 

「でも、陽介は気をつけたほうがいい」

鳴上は花村に言う。

 

「?」

「ペルソナの"運"が低い」

その言葉に完二は軽く吹き出した。

 

「し、失敬な!俺だってそんな、運が悪いわけじゃ…「ナンパ作戦」…」

花村が話している最中にシンの言葉で花村は言葉を詰まらせる。

忘れもしない、あの日、得たものは花村が得たものはバイクの修理代と虚しさだけだった。

ポジティブに考えるのであれば、少し大人になっただけであろう。

 

「た、多分、大丈夫だ。」

「まあ、とにかく気を付けることだな」

シンはそういうと欠伸をした。

 

 

この時期、特有の灰色の空は妙に生徒たちのこの日の憂鬱さを表現しているようなものであった。

いや、憂鬱なのは一部なのかもしれないし、そうではないのかもしれない。

 

紛れもなく今日はバレンタインデーだ。

いくら、不平を叫ぼうとも、時空改変でもしない限り、この時間流れは紛れもなく今日である。

無論、貰える人は貰えるし、貰えない人は貰え無いものだ。

鳴上たちに関してはそれはあまりにも酷な話になりそうになっていた。

 

 

放課後……

 

花村の強制的な呼び出しにより、鳴上や完二、クマ、シンはそれぞれジュネスに集められていた。

 

「何故、集めた」

シンは腕組みをして、不審そうな顔で花村を見た。

 

「だーっ!!今日が何の日か、分かんってんだろ!?」

「何の日…っつわれてもな…」

完二は首を傾げる。

 

「クマ知ってるクマ!!バレンタインデークマ」

「「ああーなるほど」」

完二とシンは打ち合わせでもしたように同じ返事をした。

 

「だが、こうして、集められる意味がわからん」

シンは花村にそういうと花村は腕を組む。

 

「無論!報告のためだ!」

「なんのスか」

「チョコの数だよ!!」

花村は突っ込みすぎて、息切れをする。

 

「何故そんなことをする」

「意味なんかねーよ!!ただ、そのなんだ……」

花村は頭を掻く。

 

「……それなりに貰えて自慢したいんだな」

シンの言葉に顔を赤くして花村は反論した。

「ち、ちげぇしー!!なんか、こう、あれだよ!!」

「まぁ、別にいいんじゃねースか?オレァ、0個っスから」

「俺もだな」

完二とシンは肩を竦めて答えた。

 

花村はスッと上がっていた熱が冷め、首を傾げる。

「ん?完二はあれだけどよ、シンなんか普通に貰えんじゃねぇの?」

 

「俺に言われても知らん。大体、教室全体が甘い匂いに包まれていて、不快だった」

「そうか?」

「そうだ。ここはベルギーじゃないんだ…」

 

シンはあまり甘いものを好きじゃない。理由はピクシーのせいだ。

ピクシーは事あるごとに甘いものを食べている。

また、ボルテクス界では殆ど行動を共にしているため、体に甘い匂いが付くのだ。

 

それのせいもあってか、シンは甘いものを食べなくなったし、匂いに関しては悪魔になりより感覚は敏感な為、尚一層嫌なのだ。

 

「ふーん。そうかー」

花村は棒読みで答えた。

 

ふと、鳴上は思い出したように紙袋をシンに出した。

その紙袋は包装された箱が何個か入っていた。

 

「なんだこれは」

「シン宛のチョコ」

「なんですとー!?」

花村は驚いた顔で紙袋を見た。

 

鳴上曰く、声を掛けたいのだが基本的に殺気に似たオーラを出しており、声を掛けにくく、また、とにかくシンは休み時間はブラブラとどこかへ行ってしまうため、捕まえること自体難しい。

そのために共に行動をしている鳴上に多くの生徒が頼んだ次第である。

 

「…俺は6個だ」

「クマはーこんなに沢山、貰ったクマ!」

 

クマはそういうと、袋を取り出した。

 

「はいはい。全部、パートさんの義理チョコな」

「クマ、義理でもいいクマ。お腹膨れる」

クマはそういうと、自分の袋のチョコを開けて食べ始めた。

シンはそれを見ると、自分のチョコをクマの袋に入れた。

 

「ちょ!?おい!」

花村は勢い良く、椅子から立ち上がりシンを止めようとしたが、少しばかり遅かった。

もう、どれがどれだか分からない。随分と丁寧に包装されていたのだろう。

 

「いらん」

シンは不機嫌そうに腕を組んだ。

 

「…本人達が見てたらショック受けんだろうなぁ…ってか、お前は痛まないのかよ、良心がさ」

 

「良心の呵責があるなら、俺は何事もない平凡な世界を望んでいたし、それ以前に、俺は殺されていた。つまり、俺は悪魔だ。妙な恋愛感情か好意か分からんがそんなものはいらない。感謝なら感謝されるような覚えもない」

 

シンは肩を竦めて、答えた。

 

「…羨ましい、お答えだよ全く…」

花村は呆れた様子でそう返した。

 

「それで、鳴上は?」

シンは鳴上に尋ねる。

「…まだ(・・)、6つかな」

「まだって、なんだコノヤロー!!」

 

花村は悔しそうに鳴上に飛び掛った。

 

「それで、肝心の花村センパイはどーなんスか。」

『ふふふ、それを聞くかね、巽完二くん』

花村はゴソゴソと自分のリュックサックからデカく包まれたチョコを取り出した。

 

それは、ハートの形をした20cmほどのものだ。

実に上手くラッピングをされている。

 

「……デケェけど、それだけっスか?」

「数じゃないぞ?完二クン。量とその思いは比例するモンなんだよ、きっと」

 

「誰からだ?」

シンは片眉を上げて少し呆れながら尋ねる。

 

「いや、昼休みの間にいつの間にか机に入ってたんだよな。でけぇから、ビビったけどな」

花村はシンにそのチョコを渡す。

シンは鼻をつまみながら、何回かひっくり返す。

 

(実に上手くラッピングされている。丁寧だが、大きい。これほどのモノを作りそして、割ることなく持ち運んだ。細い体型の人間には無理だ。目立つし、なかなかの重量だ。つまり……)

 

数秒固まり。そして、悟った顔をすると花村にかえした。

鳴上もその博識な頭ですぐに察した

 

「…実はこの大きさを自慢したいってのも、あったんだけどさ、相手を知りたいってのが、本音。相手分かりそうか?」

「世の中知らなくていい真実というものもある。」

「そう言われっと気になんだよ。」

「……覚めない夢があってもいいと思う」

鳴上も花村の肩を叩きながら言った。

 

 

シンがジュネスから帰る頃には既に夜になろうとしていた。

鳴上と別れ、完二の家の前で別れると自分のアパートへと帰る。

 

「あっ…ま、間薙先輩」

「…何をしている」

シンの自宅前には直斗がいた。

 

「い、いえ、その、少し用事がありましたから」

「用事があるなら、連絡をすれば良かっただろうに」

シンは家の鍵を開ける。

 

「その、直接渡したかったですから……」

直斗はそういうと、カバンから包装されたチョコを取り出した。

 

「……チョコか」

シンは少し顔を顰める。

 

「き、嫌いでしたか?」

「……ありがとう、頂くよ」

シンはそれを受け取る。直斗は顔を赤くしながら、嬉しそうに微笑んだ。

 

「嬉しいのか」

「あ、いえ!では!失礼しました!!」

直斗は逃げるようにシンの家をあとにした。

 

(……ホワイトデーにはまだ、こちらに居るだろうか)

シンは受け取ったチョコの箱を見ながらそんな事を考えていた。

 

 

夜…

 

シンはソファでグッタリとしていると、ピクシーが現れた。

 

「あら、お疲れね」

「…当たり前だ。連日連夜、シンジュクの件で呼び出される。それに、計画者のどっかの誰かさんはいないからな」

シンはピクシーを睨む。

 

「ご、ごめんなさいねー。でも、わたしだって妖精の長として色々あるのよ」

「……ティターニアに丸投げしているのにか?」

「…モクヒ権よ」

シンはため息を吐くと、テレビを再び見る。

 

ピクシーはふと、鼻腔を突く、甘い匂いに鼻をヒクヒクと動かし反応した。

 

「あれー、わたしの好きなあまーい匂いがするわね」

「…悪いがそれはやれん」

「あれ?シンって甘い物嫌いじゃなかったかしら?」

ピクシーは箱を軽々と持ち上げる。

そして、シンの元へと運んだ。

 

「……大切な貰い物だ」

シンはそれを受け取ると、包みを丁寧に開ける。

 

「あら?もしかして、白鐘って子?」

ピクシーは少し頬をふくらませ怒っているように言った。

 

「……ふむ、苦味があっていい。」

シンは手作りながらも、精巧に作られたチョコを齧り、そう呟いた。

 

「苦っ」

ピクシーは1口食べると、それ以降直斗のチョコには手を出さなかった。シンは美味しそうにそれを完食した。

シンは食べ終わると外を見た。窓に水滴が付き、心地よい音を奏でていた。

 

「頃合いか」

 

 

夜になると商店街には雨が降り始めた。

人通りは皆無になり、その静けさが異様に思えた。

 

ガソリンスタンドの店員はいつものように客が来ないか待っていると、少年と少し大きな傘を差したメイドがいた。

そして、傘を少年は差し出した。

 

「いらっしゃっせー」

「傘をずいぶんと前に借りたままだった」

「ああ!わざわざありが!?」

 

店員は傘を手にとろうと少年の手に触れた瞬間、何かを感じ取り咄嗟に手を引き、後ろに下がった。

 

「どうした、受け取れよ…」

「……何者だ?貴様は」

店員の表情が一変し少年を睨む。

 

「何者?こっちが聞きたいな」

「……」

 

街灯は明滅し消え、辺りは一気に暗くなる。

ガソリンスタンドの電気も激しく点滅する。

そして、暗闇から無数の目がじっとガソリンスタンドの店員を見つめていた。

 

「まぁ、そう、気構えることもない。戦いに来た訳ではない」

「では、何用か」

「単純に傘を返しに来ただけだ。」

 

シンはそういうと、傘を投げた。それは店員の前に落ちる

そして、少年は自分の持っている傘を地面に付けると、片手で寄り掛かった。

 

いつの間にか、雨が止んでいる。

しかし、それはこの商店街だけで、店員の耳にはすぐ先の道の雨音が聞こえていた。

 

「目的を果たしたかったら、まだ隠れていることだ。

ニャルラトホテプに見つかったら、お前は『見極める』ことなく再び人々の無意識に消える」

 

少年は縦に傘を回す。

 

「…しかし、本当に気がついてないとはな……これだけの悪魔がコチラに居るというのに…哀れなほど人以外には疎いらしい」

「……」

 

少年は傘を回すのを止める。

 

「それに、来てみればただの集合的無意識から発生したここに根付く忘れられた神ときた」

シンは目を見開き言い放った。

 

「…失望の境地だ」

「!?」

 

辺りが一瞬暗くなって、街灯が明滅始めた時には既に少年の姿はなかった。

そして、バチンとブレイカーが上がった音がした。

 

 

…ベルベットルーム

 

「……ふむ…実に興味深い、お話です」

イゴールはシンの話に不敵に笑みを浮かべる。

 

「あいつの強さを象徴するものが出てくるはずだと推測しているんだ。はっきり言って、相手は集合的無意識から発生した強大な力だ。それも、本体はあのイザナミときたものだ。」

シンの話にマーガレットも本を閉じる。

 

イゴールは何時ものようにヒッヒと笑った後に答える

 

「あなた様も会われた嘗て、この世界を救った『結城 理』様は多くの人との『絆の力』によって、Nyxを退け、扉の向こうへと閉じ込めることに成功しました。」

「そう。その時にアルカナ『世界』が生まれた本人から聞いている。」

 

「今回もその様なことが起きると?」

マーガレットがシンに尋ねる。

 

「可能性としての話だ。そもそも、俺のこの話も希望的観測に過ぎない。しかし、ケヴォーキアンのおかげで造魔が作れる今、作らない手はない。それも、とびきり強いヤツをな…」

シンのその言葉にマーガレットは笑う。

 

「……フフフ……もし、仮にあなたのこの実験が成功したら、私も悪魔になれるのかしら?」

 

「そうだろうな。それに、お探しの妹も造れるかもしれない。無論、記憶など一切無いが。」

「……」

シンはそういうと、『白金細工のしおり』を机に置いた。

 

「…どこでこれを?」

「結城理から貰ってきた。というより、スってきた」

「……」

マーガレットは黙ったまま、白金細工のしおりを手に取った。

 

「それはあなたに渡しておく。そして、妹にでも会ったら、返しておいてくれ。」

「…しかし、それでは……」

「いや?俺はもっと良いものを貰ってきた」

シンがそう言って見せたのは流石の2人も驚いた表情であった。

 

 

「どこだ!!現れよ!!」

天使勢のパワーは血塗れ。

100体ほどの天使勢の悪魔たちは、唯一、アマラ深界と繋がることを許された『ヨヨギ公園』のターミナルを探し、ヨヨギ公園へと入った。

 

普通であれば、ターミナルはどこにでもいける。

しかし、アマラ深界はシンの統治以降特殊な構造となり、ルシファーお手製の『パス』が必要である。

 

そして、カルパごとにパスのレベル指定がされており、カードキーと同じように規定のレベル以上でなければ、入ることが出来ずに、入り口まで戻される。

それぞれ個体に指定されているため、複製は不可能である。

 

しかし、唯一直通でシンの居るアマラ深界の『第10カルパ』にあるターミナルにいけるのがこの『ヨヨギ公園』である。

 

故に此処に天使達は集まる。だが、ヨヨギ公園は冷酷なティターニアが居る。

何よりも建設途中で止まっていた『オベリスク』に匹敵する高さのタワーの一番上にあるため行くことは困難である。

 

そんなこともあってか、今となってはこの血まみれのパワー一体である。

そして、そのパワーは血眼になりながら、ヨヨギ公園の迷路をさ迷っていた。

 

『…自分の心を制することができないやつは、城壁のない、打ちこわされた町のようだ。と何かに書いてあったな』

『プププッ、バカみたい』

妖精たちの悪い声が公園内に響く。

そして、うすいガラスの割る音がする。

『……この醜い顔も見飽きたな』

 

そう何者かが呟いた時には、パワーはコンテナのような壁に押しつぶされ、マガツヒ化していた。

 

 

「…退屈だな」

バアルはワインをラッパ呑みすると、そう呟いた。

「そう?善戦したほうよ」

ティターニアは呆れた顔で答えた。

 

「違うそうではない。ヨヨギ公園に入ってこれたのはたったの100体。シブヤに現れた時は500は居た。」

「セイテンタイセイが殆ど殺っちゃったみたいね。それでも、討ち逃しが100体は珍しく多いほうかもね」

ティターニアの言葉にバアルは眉を潜める。

 

「……猿は猿でも、かつては王の右腕をしていた猿か。伊達にシブヤを統治していないか」

バアルは不満足そうにため息を吐き、天を見上げた。

 

「…しかし、これでは『混沌王』に仕える前のつまらぬ、環境となんら変わりないな。雑魚を痛めつける下らぬ環境だ」

「……そうね」

ティターニアも珍しく遠い目をした。

 

「……早く戻って来い。お前の居ない世界は酷く退屈で酒が不味いのだ。」

バアルはそう呟くと、グラスを取り出し一杯のワインを飲み干した。

 

「……美味い。相変わらず、酒は美味い」

バアルの言葉にティターニアは呆れた顔でため息を吐いた。





休みにパパッとなおしただけなんで、安定の誤字脱字改行問題あるかもしれません。


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第x10話 Sympathizer



真の理解は思いやりと同時に批判である。
チェンバレン 「日本事物誌」より





 

 

『次のニュースです。7年前に発生した"代々木公園惨殺殺人事件”で問題を起こした元通信会社サイバースの技術主任である、氷川氏に最高裁で殺人教唆、公的機関に爆発物使用により死刑判決が言い渡されました。氷川氏の表情は変わることなく、それを受け入れていました。』

 

ガイア教…本部…

幹部たちがそれそれ話していた。

 

「……あの噂、本当か?」

「どうせ嘘情報だ。あの『人修羅』がこの世界にいるという話だろう?」

「だが、6月以降、あの田舎町に悪魔の目撃談が絶えない」

「悪魔…か…。

実際、氷川を逮捕できたのも、奇跡的なものだったらしい。悪魔を倒しちまった刑事がいるって話だ」

「知ってる。確か、『周防』という名前だったな」

「ああ」

ガイア教徒幹部は腕を組む。

 

「本当に悪魔なんて居るのか?あるいは、集団幻想か?」

 

 

「だってさ!宗一(しゅういち)!」

彼女は八十稲羽の特集記事を見せ付けながら言った。

 

「突然、でかい声出すなよ…なんだって?」

 

東京に住む二人はオカルト研究部に所属する2人で、女子生徒の名を須永鏡子(すながきょうこ)。男子生徒を五月雨宗一(さみだれしゅういち)という。

彼女たちの関係はただの部員という訳ではない。今では腐れ縁と宗一は思っているが、鏡子はそうではないらしい。

2人は幼稚園からずっと一緒に居る。クラス替えでも、ずっと同じだったりする。唯一、去年の高校入学時に初めてバラバラになった。

 

元々、宗一自体が片親という境遇もあってか、しっかりとした子供だった為、2人のあいだに喧嘩も少なかった。小学生の時にラブラブなどと冷やかされても、宗一自体悪い気分でも無かった。

だが、鏡子はまだ“好き"などというものが分からず、妙に嫌がっていたのがショックでそれ以降、そういうのは無いと宗一は思っている。

 

しかし、鏡子は成長するにつれ、彼に惹かれていた。理由は分からない。だが、隣にいるのが当たり前で去年、それを初めて思い知ったのだ。いつものように呆れた顔で自分を見てくれている人がいない。それだけで、さみしく思えた。

だが、昔あれ程拒絶してしまった手前、自分の口から言うのが恥ずかしくなってしまっている。

彼女はとにかく行動的な人間で、活発なタイプだが、どうもそういうことには疎いらしい。そんな2人はオカルト研究部の部室で集まっていたところである。

 

「行くわよ!八十稲羽に!」

鏡子のその言葉に宗一は驚愕する

「は!?馬鹿じゃねぇの!?学校どうすんだよ!」

「ははーん…いいんだ。美優ちゃんのメールアドレスを「だー分かった!分かったよ!!全く」」

宗一はため息を吐き、鏡子は鼻で偉そうに笑った。

 

「それに、明日から土曜日よ?」

「は?……あーそうだっけ」

「……大丈夫なわけ?あんた」

「大丈夫だよ…俺は至って正常運行さ…」

 

宗一は色々と面倒ごとを抱えてしまうたちで事実、バイトの人が足りていない時期を何とか1人で、耐えた男である。その分、人からの信頼は厚く、良い人だと口々に言うだろう。

 

だが、本人はその捌け口を持ち合わせていない。

溜まった疲労を癒す方法は寝るという方法しか知らないほど、無趣味なのだ。

良い人間だがつまらない人間であるという自覚をしている。だからこそ、オカルト研究部に入ったというのもあるのかもしれない。

本人はそのことまでは考えていない。単純に少し意識している女子部員に「数合わせでも入って」と言われ入ったが、思いのほか面白く、また腐れ縁が居るために、こうして部室に集まっている。

一方、鏡子は初めから、オカルトが好きで入っていたがまさか宗一が入ってくるとは思わず、嬉しくベットの上で飛び跳ねたのは彼女の恥ずかしい思い出である。

 

「それで……その、美優さんは」

「来ないわ。用事があるって」

「ですよねー……」

 

宗一はそういうと、肩を落とした。

 

 

「はぁ……これで、俺の今月バイト代飛ぶな……さらば、オラの輝かしい現金たちよ」

 

そう言って泣く泣く、宗一は券売機にお金を入れ、HEHOCO(ヒホコ)にお金をチャージした。ジャックフロストの描かれたICカードで彼のお気に入りである。

 

「そんなお金に執着してると、ろくな事ないわよ。」

「うるせっ……」

「お金は目的を達成するための手段でしかないのよ。お金は手段よ、手段。お金が目的って、相当寂しい考え方よ。改めなさい」

「……お前ってそーいうところだけ、大人な。」

そう言って、宗一は視線を鏡子の顔から体にスライドさせた瞬間、足の先を踏まれた

 

 

案外、八十稲羽までは近かった。始発の電車に乗り、電車を何本か乗り継いだ所であった。2人が八十稲羽に着いたのは、午前9時くらいだった。

 

「で?どうやって、探すんだよ」

「えっとね、目撃談としては色々あるみたい。

例えば、激走する金髪悪魔とか、神社で泣くアリスとか、ドッペルゲンガーとか色々。」

鏡子はスマートフォンを見ながら言った。

 

「…なんつーか、ありきたりではないな。」

 

宗一は腕を組み、ふむと考える。ドッペルゲンガーは有名な話だが、激走する金髪悪魔。なんとも、一見古臭さがあるが、田舎故なのか。問題はアリスの方だろう。明らかにあの格好で居たら浮くが、『噂』程度に収まっている辺り、不思議なものだ。

 

「じゃあ、とりあえず、その目撃場所を周りましょう」

「そうだな」

そう言って、2人はバスの時刻表を見るやいなやため息を吐くのであった。

 

「色んな目撃談があるけど、この商店街が数としては多いの」

宗一たちは噂の数の多いところから行くことにした。

そこは少し寂れた『稲羽市中央通り商店街』という商店街であった。先ほどの噂たちも此処での目撃談が多い。

 

「しっかし、この廃れた感じはなんだろうな…」

「仕方ないわよ」

鏡子は歩きながら流暢にいう。

 

「何もしない地方都市の行き着く先は、老人達だけの集落になって、過疎化と高年齢化。あとは緩やかな終わりだけ…」

 

宗一は雑誌を見ながら答えた。

「まぁ、ここはまだ、ましな方かもな。人は居るし、都市伝説のブームでそれなりに人が来てるそうだからな。それに、ホラー系のテーマパークまで立ったそうじゃねぇか」

「運良くって意味合いか、あるいはそういうのが建ったから、こんな奇妙な噂が立ったのか。謎なところね」

「…」

宗一は鏡子の顔を見る

 

「な、何よ!」

「いや、嬉しそうな顔してんなーとおもってな」

「そ、そうね」

鏡子は恥ずかしそうに顔を逸らした。

 

「しっかし、なんつーか、お前変わってるよ」

宗一は歩き出すとそう言った。

 

「そうかしら。」

「女子でSCP Foundationとか神話とか読んでるやつあんま、いないぜ?オカルトつーか、もう、なんか関係ない気がするけど。それに、それで、英語が読めるようになるとか、ある意味尊敬に値するよ」

 

鏡子はうーんと唸る。変人だと言われているが、悪い気分ではなかった。そもそも、彼女がこういったことが好きになったのは今となってはよく思い出せない。

ただ、他の女子たちが話題の服やイケメンな芸能人の話やファッションの話をしている中、自分や美優はSCP-999が自宅に欲しいとか、神話の話をしたりと、男子寄りの会話であることを思う。そのためか、鏡子は思春期の男子たちでも気兼ねなく話せる女子生徒なのかもしれない。

 

「……そうかもね。あんたは無趣味だし」

「自覚はあるんだな。それに、軽く人をディスってるし」

「でも、他人と違うことに怯えてたって、どーしようもないでしょ?」

鏡子は呆れたように答えた。

 

「…それはさ、理解者がいるからだろ?美優さんとか、清一郎とかオカルト研の連中とか。」

「そうね。じゃなきゃ、私は……」

鏡子は言葉を詰まらせた。

 

(……じゃなきゃ、今頃、私は1人だったかも…)

そんな不安が彼女の言葉を詰まらせた。

 

「ん?なんだよ」

「な、なんでもないわ!」

 

だが、そんなことを考えても仕方がない。何より、その一番の理解者であり、初めての理解者は紛れもなく、目の前にいるこの五月雨宗一に他ならないのだから。

 

 

「で、ここが、そのアリスの居た神社か」

2人バス停から少し歩いたところの神社に入った。

そこはこじんまりしているものの、静かで良い場所だ。

が、異変に2人はすぐに気がついた。

 

「……金色の賽銭箱?趣味悪」

宗一は賽銭箱を見るや否やそう呟いた。

 

「浮きまくりね」

鏡子は賽銭を入れ、幽霊に会えることを祈願した。

2人は神社の中の茂みや本殿の裏まで調べたが特に異変はなかった。

 

「でだ、特に不審なところはなさそうだな」

「うーん、早々に会えるようなものではね」

「だな。次はどこいく?」

「このへんで、聞きこみかしら」

 

聞き込みを続けると、金髪のガラの悪い少年がいるらしい。金髪の悪魔の手がかりとして2人はその店へと赴いた。店に入ると、そこにはハンカチなどの染物系の商品が置かれていた。

その中に人形もある。

 

「あ…結構、かわいいかも」

鏡子はそういうと、それを手に取った。

 

「すみませーん」

鏡子がそう呼ぶも奥から人が出てくる気配があった。

 

「あ、なんだ、いるんじゃない」

「ああん?何だァ、テメェら」

奥から出てきたのは如何にもヤンキーと言った風体の高校生であった。

 

「客よ。これ頂戴」

「……ちっ」

そういうと、その高校生はあみぐるみを袋に入れて渡した。

 

「いっぱい種類があるな。それにどれも丁寧に作られてるし」

「もしかして、作ったのあなた?」

鏡子は何気なく尋ねた。

 

「そ、そうだよ!!わりぃか!!」

高校生は恥ずかしそうに声を荒らげた。普通の人間ならここで、恐怖で逃げていただろう。だが、彼らは変わり者だ。

 

「ふーん。凄いのね」

「そーいう趣味でここまで、出来るんだったらすげぇよ」

「……お前ら、変だとか……言わねぇのか?」

高校生は驚いた顔でふたりを見た。

 

「ああ。あなたの外見でこれはって思われると思ったの?」

「…」

「なら、こう答えるわ。別に?

人には色んな趣味があるものよ。それに良し悪しなんてないわ。どんな人間がなにをしようが自由だもの。犯罪でもないわけだし」

鏡子は真っ直ぐとした目でそう答えた。

 

「……そうか。わりぃな、突然?怒鳴っちまって」

「それでなんだけどさ。あなた、この商店街を激走したことある?」

「ゲキソウ?………あー、確かあったな……」

「…相手は自転車?」

「そん時は……いや、そーじゃねぇと思う」

高校生は頭を掻いた。その言葉に2人はため息を吐いた。

 

「スカだな。この人は悪魔じゃねぇ」

「ごめんね。じゃあ」

そういうと、2人は店をあとにした。

 

「…悪魔ぁ?…センパイに電話しておくか」

完二は珍しく頭が冴え、シンに電話をかけた。

 

 

2人は様々な場所を歩き回るも、結局、それらしい超常現象に遭遇することはなかった。

 

「どんだけ、手際いいんだよ。ビジネスホテル取ってるとか」

宗一は沖名にある、ビジネスホテルの前でそう漏らした。

鏡子は偉そうに胸を張る。

 

「も、もちろん!部屋は別よ!!」

「あたりめーだろ、常識的に考えて」

鍵を受け取った宗一はすぐにエレベーターの方へと向かった。

 

(す、少しぐらい期待したっていいじゃない………)

宗一の素っ気ない反応に鏡子はしょんぼりと宗一について行った。

 

 

次の日、宗一たちは八十神高校に来ていた。理由は『街の中を激走して金髪の悪魔』あの店にいた少年ではないとわかったので、他の方向性で調べていた。それはこの地元にある、八十神高校の制服を着ていたという証言があり、彼らはそれを頼りに高校に来たというわけである。日曜日のため朝からの部活に行く人を捕まえることに成功した。

 

「何か知りませんか?」

校門前で鏡子は八十神高校の女子生徒2人に話を聞いていた。

 

「あー、ほら、あの先輩の事故の話は?」

「詳しく、聞かせて!?」

鏡子は目を輝かせながら、グイッと寄る。

 

「え?えーっとね、確か、登校中だったその先輩に車が突っ込んだんだけど、なんでも、先輩は無傷で車の方が廃車になったとかなんとか」

「でも、あの……間薙先輩は金髪じゃないよね?」

「確かに…」

女子生徒達は首をかしげた。

 

「ありがとうございました!」

鏡子が女子生徒達を見送ると宗一が来た。

 

「どう?そっちは」

「ダメだな。まず、裏門は開いてなかったな」

「まぁ、そうよね。予想は付いてたわ」

「なら行かせるなよな……たっく」

彼女たちはその『間薙先輩』なる人物を探すことにした。

 

 

「マナギ?アー、良く食べに来てくれる子アル」

「ほんと!?」

「待ってれば、来るアルヨー」

 

鏡子はガッツポーズをする。宗一はふぅとため息を吐いて席についた。

 

(…どうせ、偽物だろうけどな……)

宗一のため息は疲れもあるが、そんな猜疑の意味も含まれていた。偽物というのは、宗一は事故の話など、たまたま無傷なだけで変な噂がそうやって流れただけなんだと思った。

 

(…そう考えっと、そのマナギ先輩ってのも可哀想かもな。ありもしない噂を勝手にされてさ)

 

「はい、チャーシューメンネー」

そう言ってカウンターに座る男に店主はチャーシューメンを出した。

2人が店に来てから数分後にパーカーを着た少年が店に来た。

 

「あ、イラッシャイネー」

「間薙さん。お客さん」

あいかに言われ、シンは奥のテーブル席に座る鏡子と宗一を見た。

 

その瞳を見た瞬間、宗一は先ほどの猜疑など空の彼方へと飛んでいっていた。

吸い込まれそうなほど、黒く深みのある瞳をしている。

それと、同時に明らかに普通の人間ではないと2人は悟る。彼らが変わっていたからこそ、感じ取る『異常』であった。

 

「あ、えーっと、あなたが間薙さん?」

「……そうだが。何か」

鏡子はジロジロとシンを見る。

 

「以前、金髪にしていたことは?」

「ない」

その否定に鏡子は腕を組んだ。

シンは怪訝な顔で2人を見ていた。無論、シンはその観察眼である程度は予測が付いていた。

 

(…テーブルの雑誌…『月刊 アヤカシ』。この1年でのオカルトブームにつられてきた、高校生くらいか。)

 

宗一は慌てた様子でシンに自己紹介をする。

 

「俺達、東京の『吉祥寺高等学校』のオカルト研究会の五月雨宗一っていいます。で、こっちが、須永鏡子っていいます。」

「…分かった。とりあえず、席に付け。話はそれからだ」

奥のテーブル席に3人は座る。

 

「それで、オカルトの話で何で俺に用事だ」

「いえ、学校で事故られたのに無傷だったという話を聞きまして「ちょ!おま!いきなり過ぎんだろ!!」」

宗一は驚いた顔で鏡子を見た。

 

「え?だって、面倒臭いじゃん、時間もないしちゃっちゃと真相から聞かないとね」

「た、確かにそうだけどよ」

「で、どうなんですか?」

鏡子はジッとシンを見た。

 

「確かに無傷だったけど、運が良かっただけ」

「……」

シンの言葉に鏡子はじっと無言で見つめる。鏡子は彼の瞳を見た。その瞬間に何か黒いモノに全身をつかまれて引きずり込まれそうになって、彼から目をそらした。

 

「そ、そうなんですか…」

「…期待に添えなくて悪かったな」

(当たりだわ!完全に当たり!)

そんな鏡子の気持ちとは裏腹にシンはちょうど来た炒飯を食べ始めた。

 

「なんだ、結局そうか。完全に空振りだな」

「そんなものでしょ?」

2人がそんな会話をしていると、シンが手を止めた。

 

「わざわざ、そのために東京から?」

「そうなのよ」

シンは何かを考えるように数秒固まったあと、口を開いた。

 

「……そうか。なら、深夜。この商店街に来てみるといい」

「何かあるの?」

鏡子が喰い気味にシンに問うと頷き答えた。

 

 

「いいものを見せてやろう」

 

 

「本当に来るかよ…ってか、明日普通に学校なのに、普通にホテルとってるあたり、人を休ませる気満々じゃねぇか…」

「いいじゃない、高々1日、それも1時間目くらい。それにしても、本当に真っ暗ね」

鏡子はそう呟くと、ふと隣を見た。辺りは本当に暗く、宗一の顔だけが見える。街灯があるのに、1個もついていないし、店も開いていない。それもそうだ。深夜も深夜。まさに丑三つ時であった。

 

「そういや、1回星見に行ったよな。すげえ、小さい頃さ」

「何年前の話よ?もう10年前じゃない」

「俺にとってはまだ10年なんだけどさ、まぁ、そこは良くて。こうやって、お前と2人って何だか懐かしいな」

宗一はそういうと、笑った。

 

「未だに傷ついてんだぜ?お前に『あんたとはそーいうのないから』って言われたの」

「それは……素直に謝る……」

「お互いに幼かったしな。別に」

そんな会話をしていると、街灯が一つだけ明滅し始めた。

 

「ひゃっ!」

「!?」

突然、街灯が一つだけ光ると、そこにはじっと二人を見つめる何かがいた。黒く何かレンチのようねものを持っており、一本足で立っていた。それはじっと彼らを見ていた。数秒間、その緊張状態が続くが、街灯が明滅したほんの一瞬でそれは消えた。

 

「な、なに!?あれ!」

「し、知るかよ!!」

 

ふと2人は自分たちの距離に気がついた。暗闇の中で2人は抱き合っていた。

 

「あ!?わ、わりぃ!!」

宗一は離れようとすると、鏡子はギュッ強く抱きしめた。

「な、なんだよ……」

「もう少しだけ」

「…」

 

バクバクと高鳴り続ける鏡子の心臓は宗一が近いからなのか、あの謎の者に出会ったからなのか分からないくらい動転していた。だが、鏡子には先ほどの恐怖が嘘のようにきえていくのが分かった。

暗闇の中で聞いた宗一の鼓動が優しくて、何よりも温かかったから。

 

「いつまでくっ付いてんだよ。それに、早く行こうぜ。寒い」

「あ……ごめん……」

 

 

そんな2人をこっそりと影から見る二つの影があった。

 

「センパイって、やっぱりロマンチスト?」

りせはシンにそういうと、笑った。

 

ロマン(・・・)を理想主義という意味でとるならな、そうかもしれない」

「でも、珍しいね。センパイが愛のキューピットって」

りせは不思議そうにシンを見て、尋ねた。

 

「…理解者が1人でもいれば、どんな人間だって救われる。エジソンが母親に救われたように、俺が先生に理解されたように。」

そういうと、シンは頭を掻いて、立ち上がった。

 

「あれ?もう帰っちゃうの?センパイ」

「野暮用を済ませる」

 

 

とある刑務所……

 

「こりゃ……ひでぇ…」

「恨みの犯行か?」

「でも、どうやって……」

刑事たちはじっと、現場を見ていた。

 

「先日、死刑判決が下された元通信会社サイバースの技術主任の氷川氏が遺体で発見されたってのは知ってますよね?

でもあれ、氷川の死体は肢体がネズミのようなやつに喰いちぎられた跡や何百箇所もアイスピックで刺されたような傷など、拷問された形跡があったんですよ!?

そんなことされてるのに、声一つあげなかったんですよ!!だから、警察も悪魔の仕業だっ、イテッ!」

「西崎ッ!お前もベラベラと話すな!」

「すみません!堂島刑事!」

西崎が通りかかった堂島に頭を叩かれる。

 

「いや、妙な話だなと思い、僕が聞いたんですけどね」

明智はその寝癖の頭をポリボリと指で掻いた。

「ってことだからさ、じゃ、先輩」

「ん。」

西崎はそういうと、そそくさと署内に入って行った。

 

明智は『月刊 アヤカシ』を開いた。

その一部にこんな見出しが躍っていた。

 

『孤高の氷川氏。その素性に迫る!!』

 

("孤高”……ね。言葉のアヤだなぁ。

氷川にはガイア教の理解者は居なかった。と言うべきだろうな……警察はあの暴動を『集団幻覚』だとしたけど、『操られていた』って聖は言ってたな……)

 

明智は『月刊 アヤカシ』を閉じると頭をかいた。

 

(……彼は一体誰に恨まれたんだろうね。敵は多そうだ)

明智はそう思いながら、頭をかいていない方の手で丸めて持っていた『月刊 アヤカシ』で肩を叩きながら、ゴミ箱に捨てようとゴミ箱を見た。そして、『月刊 アヤカシ』を広げ、数秒考えると再び丸め、肩を叩き始めた。

 

(それにしても、『ミロク経典』。興味はあるけど、内容は極秘中の極秘。広大なネットの海にも一部しかない……)

明智はふと、肩を叩く手を止めた。

 

「……まさか……ね」

明智は頭を横に振ると歩き始めた。自分のポっと出た考えを頭から追い出すためだった。

 

 

 

 

 



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第77話 Ya Know You Got To Go 3月11日(日) 天気:曇

『人生はただ歩き回る影法師、哀れな役者だ。 出場の時だけ舞台の上で、見栄をきったりわめいたり、 そしてあとは消えてなくなる。白痴のしゃべる物語だ、わめき立てる響きと怒りはすさまじいが、意味はなに一つありはしない。 』

『マクベス』第5幕第5場 シェイクスピアより抜粋


「酷い霧だな」

ニャルラトホテプはそう呟くと隣に居るシンを見た。

シンは鳥居の上に座っていた。辺りは霧に包まれ、何一つ見えない状況でも、シンは少しばかり不気味な笑みを浮かべているように見えた。

そして、シンはポツリと思い出しながら『眼にて云ふ』の一節を呟いた。

 

「『あなたの方から見たら ずゐぶんさんたんたるけしきでせうが

わたくしから見えるのはやっぱりきれいな青ぞらとすきとほった風ばかりです。』」

 

「透き通った?どこがだ」

ニャルラトホテプは鼻で笑うもシンは気にする様子はない。

 

「ここに来た時から、妙な既視感を覚えていた。ボルテクス界に似ていると思った。だが、今思えばそれとも違う何かを感じている」

「……」

「…『作られた美しい景色』。そんな、幻覚があるような気がしてならない」

その言葉にニャルラトホテプは声を出して笑った。

 

「ハハハハ、お前はそういうのが好きではなかったか?」

「残念ながら、意味の無い創られた幻は嫌いなタチだ。ましてや、なんのストーリー性さえないのならな」

シンはそういうと、10mはあるであろう、鳥居の上から飛び降りた。着地の衝撃に地面にヒビが入る。

 

「時に、お前は人間に戻りたい。そう思ったことはないか?」

「唐突だな。なぜ、そのような質問を?」

シンは霧の中、ついてくるニャルラトホテプを見ながら言った。

 

「他意はない」ニャルラトホテプは肩を竦めた。

「ある…だが、戻ったとして、俺に何が残る。今、戻ったとして、10年先は自ら死んでるだろうな」

「何故だ?」

「…神への復讐心と自己嫌悪に喰われる。何より、退屈だ」

そう呟くとシンは深い霧の奥に行く。だが、すぐに足を止めた。

 

「どうした?」

「…分からない。分からないが、最近、妙に痛むんだ。」

「痛む?どこがだ」

「分からん」

「分からん痛みとは何だ?」

ニャルラトホテプは首を傾げた。

 

「…失った筈のモノが痛む気がする」

「面白い冗談だ。無いものは痛むはずはないだろうに」

ニャルラトホテプはそう答えると先に進んだ。それに続くようにシンも進み始めた。

 

 

 

足立は狭い部屋の中で手紙を書いていた。それが書き終わると、天を見上げた。固く冷たそうなコンクリートの天井を足立が見つめ続けていると、ヌメリと真っ黒な頭をした犬らしき者か頭だけを出してきた。

 

「ウムム、気ヅイテイタノカ?」

「まぁ、ね。主人にコレを渡してよ」

足立はそういうと、手紙を天に向けた。

 

「……ワカッタ」

イヌガミはそれを咥えると天井に消えた。

イヌガミはすぐにシンの下へと行くと手紙を出した。シンはそれを受け取ると、開いた。

 

『面会中は監視されてるから、口頭では伝えられないために、僕を監視してる悪魔にこれを渡すように頼んだ。

君だけに伝えたいことがあって、この手紙を書いている。彼らじゃ、早とちりで、僕のようになりかねない。

君もウスウス気付いていただろうけど、僕と……悠くんのペルソナは対を成すペルソナだった。マガツイザナギとイザナギ。この2つは恐らく同じヤツに与えられた能力だと思う。詳しくは思い出せないけど、この街に来た時に酷く疲れたことを思い出した。』

 

(正体も、どこのどいつかも掴んだけどな……)

シンは手紙の続きを読む。

 

『ムカつくけど、僕も踊らされている1人に過ぎないと思うと、何だか酷く冷めているよ。別に僕じゃなくたって良かった。外から来た人間であれば誰でも……

それと、変わらず、世界は美しくなんかないし、クソでしかない。一層のことキミにあの時、殺されていた方が楽だったのかもしれないね。何れにしても、僕は何とかやってる。

もう君は気付いてて、余計なお世話かもしれないけど、僕の代わりに1発やってくれないと、困るからね。』

 

『PS:何か言ってやろうって思ったけど、君には言うことは無いな。もう片方の悠くんの手紙にボロクソ書いてやったから、特に言うこともないよ。』

 

シンはそれを読むと手紙を『アギ』で燃やし、塵にした。

 

「返事ハ、ドウスル?」

「書かない。相手も期待していないからな。引き続き頼む。バレてるのは承知だ。他の人間に感づかれなければいい。」

「ウム、ワカッタ」

そう答えるとイヌガミは天井に消えた。

 

 

「お前はこの霧の中の真っ直ぐ歩き続けられるか?」

おどけた様子でニャルラトホテプは自分の真っ黒な影を伸ばすと、『嘲笑顔の直斗』を象って、その線をフラフラと歩く。

 

「何の意味がある」

「意味などない。お前の言葉を借りるのであれば『暇潰し』だ」

ニャルラトホテプは10mほどの黒い線を見事に外れることなく歩き切ると、先程よりは見えやすくなった霧の中で手を振る。

 

「さぁ、来てください!間薙先輩!」

「…その顔で気持ち悪いことを言うな」

シンは呆れ顔でニャルラトホテプを見ると、シンは黒い線を難無く外れることなく渡った。シンは肩を竦めてニャルラトホテプを見ると、ニャルラトホテプも肩を竦めた。

 

「容易いか」

「何を期待したんだ?」

「1本の直線は真実に短距離で繋がるものだ。しかし、すべてがそうではない。何が真実か分かることなどない。」

ニャルラトホテプはそういうと、黒い線を歪め線の終点を違う位置へと動かした。

 

「全ては所詮、自己満足と自己解釈でしかない。そんなものに何の価値がある?」

不敵に笑みを浮かべ、ニャルラトホテプは言葉を続ける。

 

「人間は他人と共有することで普遍的真理を生み出そうとする。他人に理解してもらうことで、安心と愁眉を開こうとする。」

ニャルラトホテプの言葉にシンはため息を吐く。

 

「同じようなことをクマのシャドウに言われたな。」

シンはそういうと、歩き始めた。

 

「残念ながら、俺は答えにあまり興味の無いやつだ。ましてや、俺は普遍的真理を必要としない。俺は回答の先にあるものより、それまでの過程を楽しむタイプだ。何よりこの世界では、回答は全て自己満足に過ぎない。他人という完全に理解できない連中と共に暮らさなければならないからだ。他人が社会を作り、人を作り、歴史も思想も全ては他人の産物に過ぎない。」

シンはそういうと、少し顔を顰める。

 

「……それに、この不確かな己でさえ、他人の産物に過ぎないというのだから、真実も真理も、他人という形容し難いモノに内包された一つの結果でしかない。」

 

「人間は永遠に人間によって創られ、殺される。始まりが神であったとしても、終わらせるのは紛れもなく人間だろうな。」

シンはそういうと、霧を掴むような仕草をする。無論、そんなことはできない。

シンはひどい皮肉だと思った。自らの普通の世界を終わらせたのは、氷川という人間。そして、可能性の目を摘んだのも、嘗て人間だった悪魔。

終わった世界で殆ど死ぬことのない自分。過ぎるのは無限と思える時間ばかり。

 

「……俺の死が霞のようになってから、色々なモノの肩の荷が降りた。違う景色も見えてくるし、その分の痛みや苦しみが終わることはない」

ニャルラトホテプはシンを見ると再び肩をすくめた。自分には関係の無い話であるとそういう意味合いだ。シンもそれを察し、口を噤んだ。

 

「では、彼らが何故、『イザナミ』を追う必要がある。お前は契約のためだと理由を付けられる。だが、彼らは?」

ニャルラトホテプは不敵な笑みを浮かべる。

 

「…友のためか、あるいは、自己満足」

シンはそう言った自分を心の中で嘲笑した。他人を理解することができないと言ったのは紛れもなく自分だというのに、こうして、推測して物事を言っている。

『理解できない事と、しようともしない事は、全く別のもの』という直斗の言葉を思い出す。

理解しようと彼らはシンの世界に近付いた。自分は……どうだろうか。確固たる信頼は……あるのだろうか

違う。近づきすぎると、愛おしく感じてしまう。だから、避けている。しかし、それと同時に『興味』がある。

 

あいつらの行先を。自分が選択し得なかった人生を。

 

「……恐らく、全てにケリをつけたいんだ。俺も含めて、あいつらは」

「その先にあるのは、平凡な日常だというのに」

「……そうでもないかもしれない。平凡な日常かあるいは、その逆のことも、全てはあいつら次第だ」

シンはそういうと、掌を見つめた。そして、ギュッと握り締め歩き始めた。

 

「どこまで行くんだ?」

「どこまでも行く。自問自答して、また霧は濃くなる」

 

 

鳴上はせっせとバレンタイン返しの準備を始めようとしていた。マメな人間なのか、あるいは罪深い一男子なのかは置いておいて、彼はジュネスへと足を運んでいた。無論、手作りのチョコを皆に渡すためだ。

鳴上がジュネスの食品売り場に行くと、花村とシンが居た。鳴上は2人に近付き声を掛けた。

 

「おはよう。2人とも」

「お、悠!」

シンは鳴上を見ると頷くだけで返事をした。

 

「何を話してたんだ?」

悠が2人に聞くと花村が先に口を開いた。

「シンがまた1人でテレビの世界に行ってたからさ」

「別に俺の勝手だ」

「そーだけどよ、お前は何しでかすか分かんねぇし」

花村がそういうと、同時に店内に聞きなれた悲鳴が響いた。

 

「クマか」

「クマだな」

2人はそういうと、花村を見た。その花村は2人の顔を見るとため息を吐き答えた。

 

「だよなぁ……ちょっと行ってくる」

花村は品出しを止めると、悲鳴のした方へと急いで行った。鳴上とシンはそれを見送る。

 

「何をしていたんだ?」

「散歩だ。それよりも、早くチョコの材料を買わなくていいのか?」

シンはそういうと、歩き始めた。鳴上はそれについて行った。

 

「未だに継続中な訳か」

「…」

シンの言葉に鳴上は答えない。

 

「まぁ、いい。時にお前はこの町に来て何か得たか?」

「…多すぎて分からない」

シンはその言葉に何かを確信したように小さく頷いた。

 

「…お前はここに来て、儚い人生の中での一つの答えを見つけたのかもしれない。」

「答え…?」

鳴上は首をかしげた。

 

「”絆”という1つ不確かな答え。しかしながら、それは脆いと思う。お前が信じることを忘れた時、それは簡単に崩れる」

シンは鳴上を見て言った。

 

「それはない。俺はずっと仲間を信じていける。これからも、この先も」

鳴上は真っ直ぐとした瞳でシンの真っ黒な瞳を見た。

初めてあった時とは違う、真っ直ぐと。飲み込まれそうな程、黒い瞳を鳴上は見る。

シンはジロっとした目で鳴上に言った。それは睨みつけるというよりは、彼なりの真剣さがうかがえる目であった。

 

「…最後はお前自身を信じろ。お前の意思に従え。お前が一番何をしたいか、選択するんだ。」

 

「他人のための人生だというものもいるし、他人に生かされてるのも事実だ。だが、生きているのは紛れもなくお前なのだ。お前の人生で、お前が作るものだ」

「……何故、そんなことを?」

 

鳴上はシンに問う。それは、何かを始めようとする彼なりの合図なのか、あるいはただの先人からの言葉なのか。多くの人と知り合い、それぞれに何かがあった。だからこそ、鳴上は多くの人の心を良い意味で見抜いてきたし、鳴上自身も人間として飛躍的に成長できている。

だが、未だにこの間薙シンという悪魔が分からない。何故だか、もっともっと深い闇が彼の中にあるような気がしてならなかった。

鳴上は手汗を感じた。嫌な汗だった。それは鳴上が純粋であるが故に忘れていたことを思い出させることとなった。

 

猜疑心という、確かな心の変化であった。

 

「……違う」

シンは何かを悟ったように首を横に振って言葉を続けた

 

「これは俺の考えの押し付けだ…お前はお前の信じるモノのために跳んでみせろ。それでこそ、お前の価値が生まれる」

シンは淡々と鳴上にそう言った。

 

「……わかった」

 

鳴上はただ、そう答えることしか出来なかった。

彼の言動が読めない。多くの人と向き合うことで、鳴上は人の感情を言葉や表情からいつの間にか読み取るようになっていた。

それが奢りだと気付かされた。鳴上はシンの底の見えない思考の海に飲み込まれていたことに気付いた。そして、彼が『悪魔』であることを鳴上は再び、思い出したような気がした。鳴上の透明な心に一滴の黒い雫が落ちたようだった。

 

混沌

Rank 9 → Unknown

 

汝 その心を持って深淵を覗く時

常闇の底から常に見ているその瞳に

全身全霊を持って そこから跳べる時

再び 汝の心にこのカードは道を示すであろう

 

 

「これは……フフフッ」

混沌のカードを見たイゴールは不敵に笑い声を上げた。

マーガレットは鳴上にカードを見せた。そこには、かつてはグチャグチャに混ぜられた絵の具のような絵が書かれていた、しかし、今は真っ黒に染まっていた。

 

「ご覧の通り。混沌のカードは真っ黒に染まっております」

「それはあなたの心の疑念です。混沌とは全てを一色に染め上げることはありません。全ては流転し、そして、絶対などないという、象徴でもあります」

「…つまり、あなたの心がこうさせてしまっているのよ」

「…どうすればいい?」

「フフフ…簡単なことでございます。あなたがこの黒いカードに再び絵柄を取り戻せば良いのです。あなたの心次第で全ては変わってゆきます」

「…」

「或いは、こちらがこのカードの本当の姿なのかも知れません」

マーガレットはただその美しい顔に笑みを浮かべた。

 

 




光陰矢の如しとはよく言ったもので、更新しよう、更新しようと思い、1ヶ月半が経っていました、ごめんなさい。
そして、いよいよ後数話で終わらせる予定です(あくまでも予定)
グダグダとこのまま続けていても、飽きられていく一方なので、さっとまとめていこうかなと考えてます。
今年中に更新できるかは分かりませんが、皆さん気長にお待ちください(´・ω・`)


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第78話 Don't Say Anything 3月12日(月) 天気:晴

 

 

そろそろ、早いところでは桜が咲き始めた頃、それは突然の出来事であった。

 

彼に関わっている人達は特にその衝撃は大きかった。

「みなさんに残念なお知らせがありまーす」

その言葉で鳴上達2年勢の担任の柏木は朝のホームルームを始めた。

 

「急遽、間薙くんの両親が体調を崩されて帰国されましたので、その為に間薙くぅんーが急遽、転校してしまいました。」

その言葉に教室がざわつく。

 

「えーっ、なんか、突然だね」

「マジか。俺、何だかんだ、あいつと1回も喋ったことねぇ!」

「頭もいいし、おまけに運動は恐ろしいくらいすげぇし、超人だったよな、あいつ」

 

「なんかある意味、怖かったからな」

「でもー、話じゃ間薙くん来てから、学内全体の学力上がったらしいよ、結構」

「そーなのか?」

「だから、教師達は彼に感謝してるらしいよ」

「でも、居なくなったらまた、元に戻んだろ」

そんな会話で教室の狭い空間は満たされていた。

 

それに特に驚いたのは鳴上を含めた4人である。

「どういうこと?」

「そういや、今日居ねぇ…」

「せめて、一言くらいあっても良かったと思うけど」

「悠はなんか、聞いてるか」

花村が鳴上の方を見ると、鳴上はうわの空で窓の外を見ていた。

 

「おい、悠」

花村は鳴上の前に手を出すと、鳴上も気づいたのか3人の方を見た。

 

「?」

「なんだよ、聞いてなかったのか?シンが転校し……」

花村はふと言葉を止め言った。

 

「ってか、あいつ、どこに転校すんだよ」

 

彼らは忘れていた。間薙シンが普通にこの世界に居るものだと思っていた。だが、彼は『悪魔』だ。もとより、この世界の者ですら無かったのだから。

 

 

数日前、シンと最後に会っていたのは鳴上だった。

 

「俺は普通に社会に暮らす自分を想像出来なかった」

鳴上とシンの2人は『進路表』を眺めながら、ジュネスのフードコートにいた。たまたま、鳴上の連絡がついたのが最近、不在の多いシンであった。

 

「どうして?」

「何故だろうな、今となってはわからない」

シンはボールペンをクルクルと回しながら、そう答えた。そして、嘲笑するように鼻で笑い進路表を破り捨てた

 

「鳴上、お前は何者になりたい」

「…まだ、分からない」

「詐欺師でもやったらどうだ。お前は人たらしだからな」

シンは皮肉気味にそう言うと、鼻で笑う。

 

「…なるほど」

「間に受けるな、冗談だ」

シンはそういうと、鳴上に言った。

 

「俺はお前に興味がある。お前の行く末を」

「何故?」

「他人の人生は外から見ればどれも喜劇に過ぎない、比喩に過ぎないからだ。俺は正反対な人間のお前の可能性を見てみたい。ただ、それだけの話だ」

シンはそういうと、自嘲気味に笑みを浮かべ言った。

 

「お前なりの絶望への跳躍はどんなものか、俺はそれをみたいだけだ。」

シンはそういうと、一瞬顔をしかめた。

 

「…また、痛む…」

「大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。じゃぁな、鳴上。俺は用事がある」

「ああ」

鳴上は去っていくシンの背中を見ながら、自分の将来を考えて始めていた。

 

 

 

「俺は時々、お前の目標に疑問を感じる」

 

ケヴォーキアンはそういうと、拡大鏡を付けたゴーグルを上げシンに尋ねる。

 

「お前の目的…いや、存在意義は処刑の如く高い頂でその周りは空虚に思えるほどの断崖。お前はそこを登っている。そこまでして、やるべき事なのか?」

 

ケヴォーキアンはシンに小さな珠が入る程のケースを渡すとそうシンに尋ねた。

 

「そうだな……」

シンは患者が座るであろう、椅子に座りケヴォーキアンから受け取ったケースを光に当てながら答えた。

 

「頂についたら、これまでの道程について考えるさ。」

 

その言葉にケヴォーキアンは肩をすくめた。

 

「…らしくないな。実に楽観的だ。」

「でなければ、こんな酔狂、やってられんさ」

シンはニヤリと笑みを浮かべるとパーカーのポケットにそのケースを入れた。

 

「それに、俺は元々、平凡な山の中腹に居たはずなんだ。人間という変哲のない生き物をやっていた。だが、俺はその中腹から引きずり降ろされた。それで他人とは違う山に登り始めた。それだけなんだ。酷く単純なことなんだ。」

 

「そして、これで、1歩、また、近付く」

シンは満足そうにそのケースをポケットに入れた。するとシンは顔をしかめた。

 

「……大丈夫か?間薙シン」

「痛む……また、痛む」

「どこがだ?」

「分からない、分からないんだ。だが、痛む」

「…」

シンはそういうと、ダンジョンで拾った『ヒランヤ』

を使い、部屋をあとにした。

ふと、ケヴォーキアンはカタカタと机が鳴っていることに気が付いた。そして、その原因はすぐに分かった。

 

(…私の手が震えている…)

ケヴォーキアンは手を抑えると椅子から立ち上がり、看護婦に言った。

 

「すまないが……温かいお茶を入れてくれ」

 

彼は怒っている。理由の分からない痛みに。ケヴォーキアンはそう考えながらシンの痛みについて考えていた。

 

 

 

皆が見た光景はいつもと変わらない、無機質な部屋だけだった。服などなく、一切の生活感が無くなった、ただの『箱』だった。

 

「突然、解約されてね。でも、部屋は綺麗のままだし、家具は置きっぱなし、おまけに新品みたいに綺麗なんだ。こちらとしては文句無いですよ」

大家はそういうと、嬉しそうに鳴上達に語った。

 

「…本当にいなくなっちまった」

 

重い空気の中、ジュネスの緊急のバイトを終わらせた花村がそう口を開いた。

 

「センパイがここまで身勝手だとは思わなかったなぁ」

「別に今に始まった事じゃないっスけどね」

完二はそういうも、どこか寂しげではある。

 

「でも、今回のは…あまりにも急っていうか」

天城の言葉に皆が頷いた。

 

「…どう?名探偵は」

「……はっきり言って、あの人は雲のような人でフワフワと何処かへと気の赴くままに行ってしまいます…他人の心配など関係なく。僕にも分かりかねます…」

直斗はそういうと、俯いた。

 

「シンくんの部屋に何か手掛かり無いかな?」

天城のそんな呟きに直斗が首を振りながら答えた。

「僕が調べさせてもらいましたが、無いです。一切の指紋も、痕跡も埃でさえありませんでした。あれほどあったDVDも食器の類も」

 

「悪魔見つけるっつても、見つけ方も分からねぇし…」

花村は頭をポリポリと掻く。

「…1人、心当たりがある」

鳴上がそう皆に言った。

 

 

 

「それで、私の元へと来た訳か。」

ケヴォーキアンは診療室の椅子に座ったまま、ゾロゾロと来た鳴上たちを見た。

 

「あなたはシンを探していた。だから、きっと知っているはずだ」

「…ふむ、それだけで私にたどり着くのは実に面白い訳だが」

ケヴォーキアンは次の患者のカルテを見ながら唸り、口を開いた。

 

「この際だ。はっきりと私の意見を言おう。君たちはやはり、彼を知るべきではなかった。」

その言葉に鳴上たちは顔をしかめた。

 

「何でだよ?」

完二は睨むようにケヴォーキアンを見た。しかし、ケヴォーキアンは完二など眼中にないのか、鳴上を見て言った。

 

「『怪物と戦う者は常に自らも怪物にならないと知り、戒めるべきだ。

深淵を深く覗き込むとき、深淵もまた貴様をじっと見つめているのだ』

そう確かに私は言った。だが、どうやらそうじゃなかったらしい。」

 

ケヴォーキアンは人差し指で机を一定の感覚で叩きながら目を閉じた。

「怪物は心を取り戻す前に、自ら檻に戻った。怪物が人間だった頃に思いを馳せてしまう前に、また狭い世界に戻ったわけだ。」

 

心。その言葉に皆が嘗て、遭遇したシンのシャドウを思い出した。彼は異常なまでにそれを拒絶しながらも、受け入れているように見えた。だが、そうではなかったようだ。

 

「何故ですか?心を取り戻すことを拒否するんでしょうか」

直斗がケヴォーキアンに尋ねるとケヴォーキアンは目を開いた。

 

「ここからは憶測だ。」

ケヴォーキアンは前置きをすると目を開いた。

 

「…取り戻してしまえば、痛み始めるからだ。無いはずの心がな。後悔、苦痛、罪の意識が生まれてしまう。まさに、幻肢痛ならぬ、『幻心痛(げんしんつう)』と言うべきか。事実、あいつはストレス的な痛みを最近、感じている」

「…何故、間薙先輩が心を?」

「…そこまでは知らないな。おまえたちの方が実時間は長い筈だ。お前達の方が知っているんじゃないか?」

 

 

 

鳴上達がケヴォーキアンを尋ねる数日前、進路について鳴上と会話を交わしたあと。

 

「…痛みが和らいでいるな…」

シンは人間であれば心臓のあたりを叩く。そこは、霧に包まれた世界。

 

「…驚くほど、貴様は馴染んでいるな」

そこへ現れたのはあのガソリンスタンドの店員であった。だが、その店員の眼前でシンは目に追えない速度でその店員の口を塞いだ。

 

「…うるさい、雑魚風情が。俺は今、苛立っている。今は二度と口を開くな。見極める前に消されたくはないだろう?」

シンは完全に瞳が真っ黒になり、店員の口はミシミシと音を立てている。シンは数秒そうやった後に手を話すと再び、心臓の当たりを叩き始めた。店員は痛みに顔を歪めながら、霧の中に消えた。

 

「…何故、痛まない。」

「それはお前の心が痛み始めたのだ」

霧のように現れたのはルイだった。

 

「心?……ああ、だから……懐かしい痛みなのか」

シンは心臓のあたりを叩くことをやめ、ルイを見た。

 

「何故、また俺にそんなモノが」

「あの鳴上というやつのせいだろう。絆などというモノがお前を苦しめている」

その言葉にシンは目を瞑り数秒、黙った後に口を開いた。

「…そうか、ああそうか。そういうことなのか。なら、そろそろ潮時か」

「だろう。しかし、私の目的とは別のモノをお前は手に入れるようだな」

「ああ、それからにしよう。それからなら、この痛みも消えるだろう」

シンはそういうと、シンは何も無い空間からいつものように紙とペンを取り出した。

そして、いつものテレビの入口の広場へと歩き始めた。

 

シンはテレビの世界の入口の広場に着くと外の世界とこちらの世界をつなぐためのテレビを1個持ち上げ、机にするとペンを走らせた。時には唸り、時には目を閉じ、文字を綴った。

 

「……別れというのはいつも……何かが欠けていくような感覚だ」

シンは紙に書きながらそうルイに言った。

「……」

「俺はここに来てから、何一つ変わってなかった…。また、痛みが増えただけだ。」

 

書き終わるとシンはその机にしていたテレビを元の位置に戻し、テープでその横に手紙を貼り付けた。

 

「…いい夢だった」

そう呟くと深い霧の中へ消えて行った。

 

 

 

そして、現在に戻る…

 

「あとは、ここだけか」

鳴上達は霧の世界に来ていた。

 

「どう?りせちゃん」

「……ダメ。反応ない」

りせはペルソナを使い捜索を始めていた。

 

「本当にいなくなっちまったのか?」

「?皆さんこれは何でしょうか。」

直斗が貼り付けられていた手紙を見つけた。鳴上にそれを渡すと、鳴上は手紙を開き読み始めた。

 

 

 

 

大切な友人たちへ

まずは、俺に興味を持ってくれたことを感謝しなければならない。君たちがこの事件について、話してくれなければ、俺はすぐに元の世界に戻っていたに違いない。ありがとう。そして、1度助けられた事はとても感謝している。

しかし、伝えなければならないことがある。

 

まず、君たちを助けるために俺は事件を解決した訳では無い事。結果的にそうなっただけであること。これは君たちも既に承知していることだろう。問題は次だ。君たちは俺のパーソナルに深く侵入し、ありもしない『俺』を作りだしてしまったようだ。

 

『テレビの世界は人の心を映す』

 

君たちの『俺にもこんな弱々しい面もあるのではないか』『だってかつては人間だったんだから』

そんな君たちの俺に対するパーソナルイメージが嘗ての俺のシャドウを作りだしたのではないかと思う。初めのうちはジワジワと仮想の『俺』を作り出していて、それが強くなってしまってシャドウが生まれてしまった。何故なら、君たちは直接的にこの世界との関わりを持っているため、その影響力は大きい筈だ。

そして、俺は次第にそれに影響されて『擬似的な心』、『人間らしき俺』を生み出してしまった。

シャドウに近かった俺は『クマ』と同じようなことが起きたように思える。『人格』を作り出したお前達だからこそ成せたこと。

故に空っぽなシャドウであったと言えなくもない。だが、俺はそれを拒絶した。故にペルソナになることはなかった。

 

確かに君たちの考える『俺』と『俺』は一部は相似していたのかもしれない。だが、それはいつの間にか本来の姿からかけ離れていってしまったようだ。

君たちは俺に何を望んだんだ?

君たちが俺がこういうヤツだという答えを出せればそれで満足だったのか?

俺に答えはだせない。何故なら君たちが思うようなヤツではないからだ。

俺は鳴上の様な『ヒーロー』ではない。俺は君たちの望むようなことは与えられない。何故なら君たちの考えるような『ヒーロー』でも人間でもなければ、心優しい悪魔でも無いのだから。ましてや、そちらの世界の存在ではないから。

 

最近、君たちが俺の側に居ると体が病的に痛む。君たちを理解しようとすればするほど、体中が痛む。

 

だが、一概に君たちを批判する気は無い。何故なら、影響されてしまったのは紛れもなく俺なのだから。

そして、それを気が付かぬまま享受していたのも事実であった。

俺もまた君たちに何かを望んでいたんだろう。埋まらない隙間を埋めようとするために。他人という写鏡を失った世界で俺は長い年月、自己などというものを忘れていた。俺はもう人間社会には戻れないと痛感させて貰った。

多くのことが俺をすり減らしてしまったようだった。

だから、俺は元の鞘に戻る。何事も無い君たちの物語に戻り、君たちがどんな困難も解決出来るように望む。

これほど壮大な事件を解決した君たちには何も怖いものなどないことだろう。

 

最後に。

君たちが再びあるべき生活や暮しに戻り、

ふとした瞬間にこのことを思い出しても、

それが何を変えてしまったのか気づいても、

 

何も言わないで欲しい。

 

君たちの物語はまた、正しい道に戻るだけなのだから、何も言わないでその先の人生を歩むといい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




正直、この段階に来て一気に考えていたエンディングではなくなってしまった
でも、この話を書いて『人間』と『悪魔』の区別をきっちりと付けておきたかったというのもあるし、思いのほか細かい矛盾を除いて、この設定が上手くハマったからこんな感じにしました。

どうしても、別れというのが『新しい日々への期待』みたいな感じには捉えられなくて、そこが投稿を遅らせた理由です。ペルソナ4という作品面では『別れ=悲しい』というのはどうしても、想像しにくかったんですがもう突っ切ってダークゾーンに片足を突っ込もうかなと思い切ってこんな感じにしました。

この先は一文字もできてません(´・ω・`)
頑張ります


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The Final 『You Say Goodbye And I Say Hello』

あの人がいなくなってから、日々は変わらず過ぎていた。

そして、自分たちがしてしまったことは皆が口に出さずとも受け止めていたに違いない。

そして、鳴上先輩が帰る日の前日。

鳴上先輩宛に届いた足立透からの手紙で僕達はテレビ世界を作り出した張本人である『イザナミ』に辿りついた。イザナミを追いテレビの世界に向かった僕達はまるで『黄泉の国会いに行くイサナギ』。まさにその神話に近い形でイザナミを追い掛けた。

そして、僕達はイザナミと戦い……僕が最後に見たのは『憧れの先輩』の姿だった……気がする……それは……誰だっけ………ああ、冷たい手が頭に乗っている……

 

『じゃあな。名探偵さん』

 

 

 

「……」

鳴上は自分の体から何か光り輝く珠を抜かれたことに気がついた。そうした瞬間に名状し難い脱力感が体に生じた。

 

「…」

それをじっと見つめ、ケースに納める少年はニヤリと笑みを浮かべる。そして、テレビの世界が本当のテレビの世界に変わりつつある中、少年は目を閉じた。

 

「悪いな足立……1発入れ損なった」

少年はそうつぶやくと倒れている鳴上の前に来た。

 

「さて、本当の黒幕の『イザナミ』を見つけ出し、このテレビの世界に終止符を打つためにここまで来て、そして、最後は倒した。」

少年は鳴上に近付くと顔を近づけた。

 

「やはり、見込んだだけはあるか…」

シンは不気味に笑みを浮かべると顔を離し歩き始めた。

 

「…あれからこの世界で色々と考えていた。どうすれば、最善だったのか。どうすれば、君たちと誤解なく分かり合えるのか…」

 

シンはテレビの世界の本当の姿である大自然の中で大きな石に座り口を開いた。鳴上の後ろには気を失った仲間たちがいる。鳴上は傷を負いすぎた為に動くことが出来ずに居た。

 

「だが、結局……答えは出ずに、こうしてこの世界での最後の目的を達成した訳だ」

シンはポケットから輝く光の玉を持っていた。

 

「最後の目的。それはお前の魂の一部を装填したモノを頂くこと。そして、それにはお前の『力の一部』が必要だった。だから、お前のペルソナ『伊邪那岐大神』だけ貰っていくことにする。」

 

彼はその光の玉を手品のように消し、そして、カードを1枚その手から取り出した。

 

「タロットカードは『世界(World)』か。奇しくも、理と同じ最後のペルソナという訳か」

シンはそれをポケットに入れると大きくため息をはいた。

 

「結局、俺は失ったものを取り戻すことは無かったよ。鳴上。やっぱり、お前みたいに瓶の中に綺麗な水を入れることは出来なかった。…お前達はあるべき道筋に戻るべきなんだ。俺なんかと関わることなく交わることのない人生をお前達は歩むべきだ。全て、見えない手の上でお前達は踊り続けていくしかないのだ」

シンは大きな石から立ち上がると言った。鳴上は必死に何かを言おうとするも言葉にならない。何故だが、口が動かなかった。それはその気力すら使い果たしていたのだ。

 

 

「じゃあな。全て上手くいくさ、全てな」

「勝手にいなくなるつもり?」

「……」

 

そこにはブスっとした顔で立っていたマリーがいた。

 

「そうだな。お前がそうだったように」

「……そういうの良くないよ」

「お前も俺のことを忘れるように手配しておく」

「忘れないよ。私は人間じゃないから」

マリーはそういうと、微笑んだ。

 

「そうかな?君はあまりにも人間に染まり過ぎたな」

「!?」

シンが指を鳴らした瞬間、マリーは突然に眠気が襲ってきた。

 

 

「…君は選んだんだ。心地よい夢の中で生きることを。俺はそっちは選べないからな。選ぶつもりもないがね」

 

 

 

 

鳴上達は気が付くととても綺麗な景色の中にいた。それは紛れもなく自分たちが『イザナミ』を倒した左証に他ならなかった。皆は喜び、感動し称えあった。

そして、鳴上が都会へ帰った後もこの町では多くの事件があった。『P-1グランプリ』がその良い例だった。しかし、彼らはこの1年で培った力でそれらを乗り越え、大人になっていった。

 

『1人の仲間のことを忘れて』彼らは本来の人生を送っていた。初めからそうであったような人生を送り続けていた。

 

 

 

──2031年

 

その日の都心は酷い雷雨だった。白鐘直斗は探偵事務所社長として仕事を終え、いつものように帰宅していた。

すっかりと彼女は年老いたものの、その眼光の鋭さは30歳を超えても未だに衰えていない。寧ろ、鋭くなっていた。あの頃とは違い、ここは都会。排気ガス臭いし、忙しなく人々が動いている。

そんな直斗の前に車が止まった。そして、窓が開くと警察手帳が出てきた。

 

「白鐘さん、殺人事件がありまして、折角なので迎えに来ました」

「ありがとうございます」

「どうぞ」

 

彼女は車に乗ると、早々に事件現場へと向かった。

事件現場は雨が降っておらず、ビルの間の路地。そこは土になっており、足跡がくっきりと残っていた。既に野次馬が沢山いて、規制線を張っていた。直斗は白い手袋を付けるとブルーシートの中へと入った。

 

「…これは」

「検視の結果待ちですが、ナイフでめった刺しなのは違いありません。身分がわからない為、我々も困っています。」

 

直斗は死体を観察する。すると、1人の警察官が死体を触り始めた。

 

「おい!勝手に触んな!!」

そう刑事が言うも警察官は襟元や袖口、メジャーなど取り出し、終いにはスマートフォンで何かを調べ始めた。

 

「…彼は?」

「新人のヤツです。すみません、すぐに外に出します」

刑事がそういうと、新人の警察官をつかんだ瞬間、新人の警察官が口を開いた。

 

「犯人の足のサイズは27.5cm。170cmくらいの中年男性。足跡のかかった圧力だと70kg前後。

被疑者は左足に負傷のあと、引き擦り方からみて、外傷。被害者と争った形跡あり。ここにこの被害者以外の血、被害者の爪に皮膚片と手に防御創。

泥濘を歩いた形跡がある。ここ周辺は雨が降っていないし、泥濘もない。つまり、雨の降っていた場所から来た。それに、バツイチ。年齢からして、熟年離婚。薬指に跡が残るくらい指輪をしていた。刺し方からして、素人だが、怨恨によるもの。こんなに刺さなくても人は死ぬ。強い恨みがあった。」

新人の警察官はそれを言うと雨具を深く被った。

 

「適当なことを抜かすな!」

刑事がそういうと、新人の警察官の頭を叩いた。

 

「……いえ、あながち当てずっぽうではないと思います。」

直斗も彼に言われて死体を見ると、ズボンに泥が付いていたり彼の言う通り、足跡も確に被害者のものでは無かった。

 

「…彼の言った怨恨の線で調べて下さい」

「本気ですか?」

刑事の言葉に直斗は頷いた。

 

「…あなた、名前は?」

直斗は一緒につまみ出された新人の警官に名前を尋ねた。

 

「シン。間薙シン」

警官が雨具のフードを外すと、そこには年齢の変わらない『間薙シン』が居た。

 

「マナギ…変わった苗字ですね」

直斗はそういうと、彼から目を離した。それはかつて自分が憧れたカッコイイ探偵が吸っていた煙草を吸う為だ。そして、もう何十年も前に1度彼と会ったことがあるような気がしてならなかった。しかし、思い出せなかった。

 

「1度、会ったことがありますか?」

「ある」

「?すみません、いつでしょう、あ!」

直斗の帽子を彼は手に取り、腕を上に伸ばす。

 

「返してくだ……さい?」

直斗はこの光景に既視感を覚えた。シンは直斗に帽子を被せ直すと直斗の横を通ってそのまま歩き始めた。

 

「また会うことがあったら、思い出しておいてくれ」

「ちょっと!」

「その時はなにも言わないで笑っていてくれ」

そんな呟きを残して彼は消えてしまった。

 

「『じゃあな。名探偵さん』」

 

「!?」

直斗はすべてを思い出し、すぐに懐かしいメンバーに電話をかけ始めた。

 

 

「もう、りせちゃんって何歳?」

「もー、失礼ですよ!!」

久慈川りせは司会にそう突っ込むと周りの人たちが盛り上げる。

 

『久慈川りせの軌跡』と題されたその番組で勿論、彼女の高校時代の話になった。

 

「しかし、凄いタイミングでりせちゃんも八十稲羽に戻ったんやね?」

「えぇ、もうその時は大変で」

とりせが言葉を続けようとするとふと、視界に見たことのある少年が客席に座っていた。彼だけはほかの観客と違って明らかに雰囲気が違った。どこか脆く、どこが危なげな瞳がりせをみていた。

 

「したよー」

と一瞬だが、彼女はプロらしく動揺を見せることなく話を続けた。

 

「はい!お疲れ様でしたー!!」

そうADの声とともに収録が終わると同時にりせは客席の方に向かおうとしたが、先輩への挨拶がある。それを軽く終わらせた頃には既に客はドアから出ていき、スタジオの外に近かっただろう。

りせは既視感を覚えた少年を探そうとした時、携帯電話が鳴った。

 

「はい!久慈川です」

『た、大変です!!』

「直斗?どうしたの」

『帰ってきたんですよ!!!』

 

 

 

 

「んで、なんでお前がいるんだよ」

「いいんじゃん。後輩の晴れ舞台な訳だし」

「そうだね」

 

『テレビで紹介されました!』と書かれた商品棚にはとても可愛らしい編みぐるみが置かれていた。

そして、その前には『店長』という名札をつけた花村陽介と警察官の格好をした里中千枝がいた。そして、その横には着物の良く似合う天城雪子とスーツを着た巽完二がいた。

 

「しっかし、完二くん大出世だよねー」

「ま、ある意味そうなんだよな」

「そう言われると照れるッス」

「でも、相変わらず…」

そういうと、天城は完二を見て笑い始めた。

 

「アハハハハ」

「まだ、慣れないんスね」

 

そこへ、フード付のパーカーを着た少年が棚を前に来た。

 

「ほら!早速、お客さんだよ」

「おお!流石だな」

と千枝と花村が言うと完二の携帯電話が鳴った。

 

「はい。巽です」と先ほどとはうって変わって丁寧な言葉遣いになっていた。

『巽くんですか!?』

「なんだ、直斗じゃねぇか。なんだよ」

『た、たいへんなんです!!』

「何がだよ」

 

少年はひとつ手に取ると花村たちの方へと近付いてきた。

その顔に完二は思わず携帯電話を落とした。

 

「これ、くれ」

その少年は何十年も前に見せた不気味な笑みを浮かべそう言った。

 

 

 

驚くほどに俺に変化がなかった。偽物の心を生み出されたから痛むんだとルイは言っていた。それは正しかった。結局、俺は彼らと別れあとは痛みも無くなり、平凡な混沌王のやるべき事をやっていた。

『平凡な』……実に不思議な表現だが、やることは永遠には変わらない。穴だらけのボートに乗り、永遠と穴を塞ぐだけのことを繰り返しているに過ぎないのだから。

そして、俺は再び。この世界のこの地へと来ていた。

彼らは俺に対して、何を感じたのだろうか。怒りだろうか。俺は彼らに難しい問を投げかけてしまったのかもしれない。

 

…明確な答えは彼らから得ることは無かった。彼らはかつてのように俺をまた迎え入れてくれたのだから……まったく、どうして人間というやつは根幹は変わらないのだろうな。

 

しかしながら、俺は卑怯だった。彼らから答えを聞く前に、俺は彼らから回答権を奪ったのだから。記憶を修正し、一時的にこの世界とのアマラ経絡を閉じた。そうすることで、俺は彼らの中から消えたのだから。

他人と自己、自己と他人。そんな括りの中で他人を自分の感覚でしか理解はできない。幾ら他人の心内を知りえても、他人には成り変われない。その瞬間の感情や心情は誰も理解はできない。

俺はそれが怖かった。他人の目が怖かった。他人の感情が自分の知らない所で物事が動くことが怖かった。

他人という得体の知れない怪物が怖かった。

本や映画には無い、謎の恐怖があったのだと今は思う。

 

俺は高台に来ている。俺が再び未練たらしくここに来た理由は二つある。

一つは大人になった彼らを見てみたかった。俺が望みかけた『俺の普通の暮らし』を必死に願ってくれていた彼らのその後を見てみたくなった。実にワガママな願いだ。自分から彼らと縁を切ったというのに。

それにもう一つ理由はある。それがなければ、来ることもなかっただろう。そちらが本命だ。

 

 

シンは『ビフテキ』を食べ終わると空を見上げた。そして、シンは車椅子に座る男性に言う

 

「…世界は自己解釈でできている。お前もそう思うだろう?」

「そんなことはない。俺は他の人と多くの事を共有してきた。勿論、シンとも」

車椅子の男性はそういうと微笑んだ。

 

「…大病を患いながらも、お前の命の輝きは未だに衰えないな。人を助けるために色々な場所を旅したそうだな。それもここで終わる訳だが。」

「俺はまだ終わらない」

「…残念だが、俺は死神で、死人。何もかも全て失っているさ。何度も掴みかけたんだけどな、もう一層のこと死んだままでいることにした。それで、お前を呼びに来たわけさ。」

シンは男性にそういうと、男性はシンを見て肩をすくめた

 

「知っている。でも、俺は最後の最後までしっかりと目を見開いていたいんだ。」

「…その目に何を見る?」

「みんなの笑う顔だ」

 

その男性の言葉にシンは呆れた様子で答えた。

「どこまでも、お前は他人に尽くしてきたのだな。俺が…絶対に歩むことの無かった道をお前は進んできたんだな」

「……それは違う。シンもきっと俺達のためにみんなの前から消えたんだって」

「そうお前が思いたいのであれば、そう思え。所詮、世界は自己解釈でしかないのだから。お前が築いてきたお前の世界は、お前の中で完結するしかない。」

「…それも違う」

男性は弱々しく微笑んだ。

 

「俺達は伝えることができるんだ。自分の世界を、自分の気持ちを。」

「だが、それは欠落してしまう」

「だからこそ、俺はシンがこの世界にいたことをちゃんと伝えたかった…」

男性はシンの冷たい手を冷たい手で握ると大きく息を吸って吐いた。

 

「…全ては花火のように散る」

そうシンが言うと花火が上がった。それは何十年も前に見たものと同じものだった。

 

「…多くの事は語り尽くせない。お前の人生が多くの出来事で構成されているように、幾億もの言葉が完璧に物事を伝えられない以上、そこに『語り得ぬこと』が存在する。そして、それには沈黙するしかない。」

「…どこまで、話したかな…」

男性はそう言うと車椅子に深く寄りかかった。

 

「焦ることは無い。ゆっくりとお前の人生を語ってくれ、永遠の時間がお前を迎え入れる」

「……」

男性はギュッと車椅子の手すりを強く握った。

 

「死ぬことは怖いか?」

「違う。愛しいものが多すぎるから、置いていくのが怖いんだ」

「…それはお前が生きた証にほかならない。」

シンはそういうと、花火の方を見た。

 

そんなシンにポツリと男性は言った

「…もう、何年になるかな。シンの言葉がまだ突き刺さってるんだ。『何も言わないで欲しい』あの言葉が頭から離れなかった。」

男性は力を抜くと、目を閉じた。

 

「俺も……ここに来るまでは、空っぽだったからシンの言っていることが分かったんだ。何よりも、俺がそれを嫌っていたはずなのに、いつの間にか自分の一番嫌っていたことを友人にしてしまっていたんだって」

男性はそういうと、シンを見た。

 

「ごめん」

「いや、俺には帰るべき現実があった訳だ、その口実にしたかったし、俺なりに一時的にでもケジメを付けたかったのさ。」

 

シンは飲み物を飲むとため息の後に言った。

「…この幸せな幻から去る理由が欲しかった。何千年と他人のいない世界にいた俺には他人というモノが恐怖でしかなかった。それが俺の何かを痛めた理由なのかもしれないし、実際、よく分からん」

 

ただ、とシンは言うと花火を見て、言葉を続けた。

「俺の言っていることは滅茶苦茶だ。自己は無いなどと言いながら、自己を理由にお前達の前から去った。論理破綻もいい所だ。だが、俺にとって自己なんてものは小銭と一緒にポケットいれておけばいいものだと思っている。使う時は使い、使わない時はしまう。その程度のものだ。

なによりも、俺は矛盾の塊。言うことも成すことも、全ては矛盾。

俺はどこまでいっても空っぽだ。半魔半人、正確なコトワリを開く事なく、空っぽな世界を作り上げた。だが、空っぽだからこそ、俺は混沌王になった。だからこそ、他人に自己を勝手に詰められること拒絶した。俺は俺だけの体で、意識で、感覚を俺1人で自己証明したかった。神の作り出した紛い物ではなく、全て手の内で全てを『確かなモノ』にしたかった」

「横暴だ」

 

その言葉にシンは肩をすくめた

「この世の不確かさに比べたら、横暴ではないさ。嘗ての俺達に選択肢さえ与えず、(から)の世界に生まれ落とす。複数の真理が蔓延り、それを証明するために血を流し、他人を殺す。信仰などと(うそぶ)き、人々を安心させ堕落させる。あるいは、狂気へと駆り立てる。血の上に信仰を築き上げる。」

 

シンはそういうと、男性の両肩を掴んだ。

「お前がそうしているのも神のせいだ。お前の輝きある未来の可能性を『運命』などという、狭い言葉で言いくるめられてしまっている」

「…」

「こうして、俺の伝えたいことは『言葉』などというものでテクスト化され、誤謬されてしまう。」

 

そして、シンは力強く男性に言った。

「俺はיהוה(YHVH)を殺したい」

シンはそういうと、男性の隣に座った。

 

「そして、それには人の力が必要なのだと分かった。『神殺し』。悪魔の主体、概念、精神性を壊せるのは人間でしかないという一つの答えにたどり着いた。人間には『観測』する力がある。残念ながら俺はもう悪魔になってしまった。だが、お前は違う。まだ、人間だ。」

 

そういうと、シンは男性の正面に立ち勢いよく男性の心臓に目掛け手刀を突き刺した。それは車椅子の背もたれまで貫通した。

 

「グフッ……」

男性は血を吐き出し、震えだした。

 

「そして、これで、お前も俺の『神殺し』だ。」

 

ニヤリとシンは笑みを浮かべると、男性の胸の辺りで嘗てシンが持っていた珠のケースが体に埋め込まれた。そして、シンは手を引き抜くと男性の体は突き刺された筈の傷が綺麗に無くなっていた。

 

「……ああ、懐かしい……感覚だ」

「何十年も前のお前の力だ。」

 

先程まで力なく持たれていた男性はいつの間にか若返り、嘗ての姿を取り戻していた。

 

「お前の力を借りる事にする、『鳴上悠』」

シンはそういうと、鳴上に手を差し出した。

「当たり前だろ?大切な友人の頼みだから」

鳴上はそう答えると手を取り笑った。

 

「悪いな」

そうシンが言うと鳴上は首を横に振り違うと言った意味を込めているように見える。

 

「……ああ…そうか…”ありがとう”…か」

 

 

混沌 Rank Unknown→10

 

我は汝…、汝は我…汝、ついに真実の絆を得たり。

真実の絆…それは即ち、真実の目なり。

今こそ、汝には見ゆるべし。

“混沌”の究極の力、“神殺し”の力

汝が内に目覚めんことを…

 

「どこまで行く?」

鳴上は大きく伸びをしながらシンに尋ねた。

 

「さぁな……行けるところまで行くさ、クマも共にな」

「そうクマ。今度はクマがシンくん助けるクマ!」

「クマ!」

鳴上は驚いた様子でクマを見た。クマもあの時の格好のままでそこにいた。

 

「クマだけ年取らないエイエンの王子様だったクマね」

「だから、ボルテクス界に殆ど居たな」

シンは呆れた様子で最後の花火を背に暗闇に歩き始めた。

 

そこへ、メリーがシンの肩を叩いた。

「準備できました」

「…行くか、愛おしくなる前に」

そういうと、シン達は闇に消えた。

 

 

 

我、漕ぎ出すは空虚な海

 是、即ち悠久なる旅なり

  衆生と輪廻に別れを告げん

 

 

 

 

――僕が産声を上げて、俺がそれを殺した。

 

 

 

 




とりあえず、これで一旦終わりです。
色々と不満はあると思いますが、とりあえず一区切りです。今後どうするかは不明です。
長い間、読んで下さった方々、本当にありがとうございました。良い意味でも悪い意味でも期待を裏切れたでしょうか。それなら、幸いです。

それと、これだけ言わせてくださいペルソナ4と真女神転生3を作り出していただいたアトラスに心の底から感謝をさせてください。これらが無ければ、僕は本当に人生を退屈に過ごしていたと思います。ありがとうございました。

詳しいあとがきは活動報告で、書こうかと思います。


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欠けた地図
第x11話 Deconstruction


久しぶりの投稿で色々間違いがあるかもしれませんが、平常運行です


「それでさ、数学の間西がさ…」

「ハハハ、アホくさ。だよな、シン」

「ん。そうだな」

 

時々、自分が誰と話しているのか分からなくなる。

俺は…一体何に話しているのだろうか。

俯きながら歩いて、彼らの後をついて行っていた。

 

俺は誰と話しているのか、顔を正位置に動かす。

彼らは笑い、数学の教師の今日の失敗を笑い話にしていた。

 

だが、そんな話をしているお前達は誰だ?

なにを取り繕っているのだろうか。何をそれほどお前達を楽しませ、何がそこにお前達をお前達足らしめているんだ?

 

俺は自分でも分かるくらいに眉を寄せた。

 

俺は『お前達』と話しているはずなのに、まるで『空っぽな人形』に話しているみたいだ。会話に意味がない。たわいもない会話、くだらない会話。日常的な平凡な会話。

 

それが…俺達とお前達の正体なのか?

…分からない。それが、友達という正体なのか?

 

そして、俺は気が付いた。俺もそんな人形みたいになっている。

俺は…お前達の本心を知りたい。でも、そう尋ねた所でお前達は答えてはくれないだろう。

 

 

何故なら、俺は……お前達が……怖い。

 

 

「…」

「どう、なさいましたか?」

ベットの上で天井を見つめるシンにメリーはそう声をかけた。

だが、シンは何も答えずメリーの顔を見た後、再び天井を見上げた。

 

 

憂鬱だ。たった、2日の休日を不意にした。ただ、考えてみると『良い休日』とはなんだ?

 

外に出て、人と会って、楽しく笑って、恋をして。

それが『良い休日』なのか?

俺のように朝起きてから、テレビを見て情報を集め、それが終わったら、ドラマを延々と見る。

それは『ダメな休日』なのか?

 

『良い休日』と『ダメな休日』。決定的な差はなんだ?

ドラマを見ることが時間の無駄?だとすれば、生きること自体が無駄だ。客観的に見れば。

結局のところ、自分を納得させたいだけなんだ。

人と同じような休日を過ごして、『自分は人と同じだ』と思い込みたい。

 

…こんな時、皆はどうするんだ?

不安になる。他人と違うことが、まるで罪かのように軽蔑するような目で皆が見る。

 

みんなは埋めようのない孤独をどうするんだ?

 

中学生の時だって、俺は…泣いていた。夜になると、孤独が襲ってくる。一人では解決出来ない悩みだ。

贅沢な悩みか?贅沢?…そうか?

 

俺にとって、それは死ぬほど苦しいことだった。

誤魔化すことのできない現実でしかなかった。

他人から見れば大した悩みでもないかもしれないが、当人には潰されてしまいそうな程の悩みだったりする。

それが…毎日毎日襲ってくるんだ。

 

そうやって自問を繰り返しては自己嫌悪と思考迷宮に落ちていく。登ることもなく、底もない暗闇に落ち続けていたを

 

 

「間薙様」

「…ん」

メリーが顔を覗き込むようにシンを呼んだため、シンは思考迷宮から出た。

 

「お客様です」

「ありがとう」

「私は見られないようにとの、ケヴォーキアン様の命令でした事でしたが」

メリーは恐縮した様子でシン尋ねる。

 

「対応くらい大丈夫だと思うから、次回は頼む」

「分かりました」

メリーは少し嬉しそうに答えた。

 

 

 

「こんにちは」

シンは顔を見ることなく、ドアの前で対応した。

 

「…ああ、どうも。こんにちは」

シンがドアを開けるとそこには直斗が立っていた。

すっかりと夏の格好をし、トレードマークの帽子を被っていた。

 

「通りかかりましたから、挨拶をと思いまして」

「…そうか」

「久慈川りせさんが検査入院した話はご存知ですか?」

直斗は探るようにシンを見た。一方、シンは上の空で直斗をぼーっと見つめた後に口を開いたを

 

「…お前は誰と喋っているんだ?」

「?どういう意味ですか?」

「お前は『俺』が見えているのか?」

「?」

 

直斗は怪訝な顔でシンを見た。そんな直斗を見て、シンは首を横に振ると答えた。

 

「……悪いな。忘れてくれ」

「…寝起きですか?」

 

「そうともいうし、そうでもない」

シンはドアの外に出るとドアに寄りかかり腕を組んだ。

 

「少し事件について、話せますか?」

「…別に構わない」

「どうせなら、歩きながら話しませんか?僕も気分転換がしたいので」

「賛成だ」

シンはそう提案され、ドアから離れた。

 

 

 

「…久慈川さんも数日、捜索願が出されていたみたいですね。ですが、突然、戻ってきた。」

「みたいだな」

シンは素っ気なく答えた。

 

「…何かあなたは知っていますね」

「ああ、知らないな」

シンは何事もないようにポケットに手を入れた。

 

直斗はため息を吐くと困った表情で話し始めた。

 

「…どうも、僕はあなたの事が読めない。失礼を承知で言いますが、何か…普通の人間ならあるであろう『枷』みたいなものが…欠乏しているように思えるんですよ」

直斗は歩きながら言葉を続ける。

 

「どんな質問にも無表情で答え、僕がいくら揺さぶっても逸れることのない瞳。行動にも、それが顕著に出ています。久慈川りせの監視、足立さんの誤認逮捕の際の行動」

 

「あなたは…何か人間として欠乏しています。誰がどう見てもそういうと思います」

 

直斗は言葉を濁すことなくそう言い切った。そう言い切ったのは直斗の賭けでもあった。ここまで言われ、何も言わずにいられる人間などいない。

 

それに、直斗もそれなりの結論があって、それを導き出した。足立の話にあった、一瞬、犯人を車の往来が激しい道路につき飛ばそうとした動き。

足立は気のせいだと言っていたが、直斗には彼にはどうも、『普通の人間』ではない彼の神経があるのだと。

 

直斗は殴られる覚悟でシンにそう言った。

そうすれば、彼が口を開くと思った。

 

だが、直斗が想像し得る反応などでは無かった。

 

 

「だからどうした」

「え?」

直斗は思わず情けない声を出した。

 

「お前がいくら俺を罵倒したところで、お前のしたいことが見え透いていて、何も思わん。」

シンは歩きながら、苦笑し答えた。

 

「突然、歩きながら話したいなどというものだから、何かと思えば、俺を激昴させて何かうっかりを狙ったつもりか?なら、それは失敗だ」

 

「お前は巽完二や久慈川りせの家にわざわざ出向き質問をしていた。それは相手を安心させるためだ。巽完二と会った2回目は歩きながら話した。理由は巽完二を揺さぶり、巽完二という人間を知ろうとした。であれば、『変わった人ですね』などと言うはずはない。」

シンは小西商店の前の自販機で足を止める。

 

「手口が同じでは良くないな。それに、緊張のせいか心拍数の上昇と顔が若干白くなっていること。明らかな『吹っ掛け』だ」

 

「…本心だとしたら?」

直斗の言葉にシンは呆れたため息を吐いたあと、答えた。

 

「…まだ、そういうか?なら、手の震えを抑え、血圧を上げてから言った方がいい。顔が白いぞ。下手な芝居を打つより、もう少し相手の情報を調べてから行動すべきだ」

シンはそういうと緑茶を買い、直斗に手渡した。

 

「……」

直斗は俯き震えながら、それを受け取らずどこかへ行ってしまった。

 

「…負けず嫌い。子供っぽいな。いつも、そうなのですか?」

シンは振り向きながらそう尋ねた。

 

 

「…驚いた。キミは本当に何者だ?」

そこには初老の白髪の男性が立っていた。

 

「暑いですから、喫茶店はありませんが馴染みの店に行きませんか?」

 

 

愛屋のカウンターにシンと初老の男性は席についていた。

「名前はあえて名乗らんよ?」

「賢い手段です。情報は開示し過ぎない。最善の方法ですね」

「分かっておるようで、助かる。それでだが、君から見て直斗はどうだ?」

初老の男性は冷たいお茶を飲み尋ねた。

 

「…何か焦っているように見えました。事件のパターンを見つけて被害者に警告をしながらも、相手は誘拐されてしまった。加えて、家名を背負っているその負担から焦っている。

他人の期待を背負っている。”彼女”自身、そう思っていないと言葉にはするでしょうが。」

シンの彼女という言葉にも一切の動揺を見せない初老の男性にシンは感心した。

 

(無駄な揺さぶりは不要か…)

シンはじっと彼の顔を見ながらそう思った。

 

「…よく見ているな。直斗の先程の無礼は申し訳なかった。祖父として、謝罪する」

初老の男性は軽く頭を下げた。

 

「焦りは人を不安にさせる。それが、さっき程の稚拙な行動に繋がってしまった」

直斗の祖父は残念そうにそう言った。

 

「…しかし、あなたも随分と…孫には甘いようですね。わざわざ、心配で見に来る程ですからね」

「…お主が言った通り、直斗は子供っぽい面もある。それで、周りの人間に煙たがられる面もある。直斗は両親を早くに亡くしてしまった。親と子。例え私のような肉親であっても、その代わりにはなれんものさ」

 

「ですが、可愛い”娘”には旅させろという言葉もありますから」

「…フフフ、お主も親になれば分かるものだ。どれだけ成長しようとも『親と子』その関係は変わらないものだ。例え『祖父と孫』であってもな」

「…そういうものでしょうか」

シンは肩を竦めて答える。

 

それから、2人は夜になるまで様々なことを話した。

 

 

外に出ると車が前に止まった。

「いやはや、楽しい時間であったよ。」

「こちらも、実に為になる話でした。」

「直斗には初心を思い出してほしいものだ…」

直斗の祖父は車に乗りながら少し微笑んだ。

 

「…何かもうお考えがあるようですね?」

「フフフ、楽しみにしておると良い。無論、直斗には秘密にしておいて欲しい」

「楽しいことは好きですよ。とりわけ、他人がその事を知らずに踊っている所を見るのは特に」

「キミはフィクサーか詐欺師に向いていると思う。それでは、また」

 

男性を乗せた車はそのまま走っていった。

 

 

 

(…僕は失態をした。あろう事か重要な情報源を自ら潰してしまう所であった。情けない…)

直斗はため息を吐いた。

 

(…僕は彼に手玉に取られたことを怒ってしまった。でも、冷静なればそうだ。彼は普通ではない。僕は大きな間違いをしている。)

 

「今の僕では、彼には追いつけない」

 

(…悔しい気持ちはある。その気持ちに、僕は負けたんだ。でも、彼の観察眼と人との会話の方法、どれをとっても、僕の祖父と同じ、あるいは上を行く人)

 

「…知りたい」

 

(…自分と殆ど変わらない年齢の彼が何故、あれほど卓越した能力を得られたのか)

 

直斗はドアの前に立つとドアをノックした。

 

『はい』

「し、白鐘です」

『はいはい』

 

シンの声は昨日とは違い、普通の声であった。

 

「おはよう」

「その、昨日は失礼しました。少し…その、言いすぎました。それに…突然、帰ってしまいました」

「構わない」

シンはそういうと、ドアから出てくると鍵を閉めた。

 

「時間あるか?」

「…はい?ええ、大丈夫ですよ」

「少し歩こう」

シンはそういうと、歩き始めた。直斗もそれに続くようにあるき始めた。

 

「…お前は何になりたい?」

「将来という意味でしょうか」

「そう思ってもらってかまわない」

「もちろん、刑事かあるいは探偵です」

「それは良い事だ。目標がより具体的に分かっているなら、進むべき道も見えてくる」

シンはポケットに手を入れる。

 

「…その、何故、そこまで観察眼や人の心理に詳しいのですか?」

「それほど、お前みたいに立派な理由がある訳じゃない。」

「ですが」

と直斗は言葉を続けようとしたがシンに遮られた。

 

 

「お前がこの事件と俺達の関係がわかった時に教えるよ」

 

 

 

1月5日(金) コテージにて…

 

 

「そう言えば、あの時の答えをまだ教えて貰ってませんでした」

早朝のコテージにまだ、皆が起きてくる前に2人は暖炉の前に座っていた。

 

「?」

シンは首をかしげた。

 

「『何故、間薙先輩が観察眼に優れているのか』その答えですよ」

「…ああ。そんなことか」

シンは薪を焚べる。

 

「…あの時は本当に、悔しかったんです。だって、先輩はあの時は普通の人間だと僕は認識してましたから。それが、あんなに僕の心理を読んだんです。それは僕の矜持が打ち砕かれてしまいますよ」

直斗は笑いながら、そういった。

 

「…」

シンはソファに腰掛けると大きく息を吐いた。

 

「……他人を知る為の一つの手段。それだけだ。それが、悪魔との交渉に役立ったのだから、世の中、無駄なことなどないと改めて感じたな」

 

「いえ、間薙先輩の理由もちゃんとしたものだと思います」

「いや、今思えば傲慢だ。理解しようなどとは」

 

シンはそう答えると窓の外を見た。

 

 

子供の頃を未だに夢に見る。暗く、無駄に広い部屋の真ん中で本を広げたり、映画を見ていた。あの頃。

ふと、1人でまだ高かったキッチンの流し台で食器を洗い終え、ふと、振り返った時の光景、眠くなるまで見つめた月光に照らされた薄黒い天井、ふいに現れる孤独は…表現し難い。

 

あの時の孤独感は死ぬまで拭えない。何千年と拭えていないのだから、恐らくそうだ。

 

今は多くの悪魔に囲まれている。それでも時々、孤独を感じる。

 

 

俺は他人が怖い。

だが、それももう関係の無い世界に居る。

 

他人など居るだけで煩わしい。

だが、居ないとそれはそれで……『寂しい』ものだ。

 

 

 

 

 

 




整理するなどといいながら、1年経ちましたね。
そして、このゴールデンウィークを使ってぱっと書いたものを上げる始末。

とにかく、皆様、お久しぶりです。

自分でも終わったという気持ちでいっぱいいっぱいなのですが。
1年前からずっと、『余談』みたいなものを書けたらなぁと思い、書いては消し、書いては消しを繰り返して来ました。

その結果が、これです。
酷いものです。



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第x12話 Airbag

前回よりは早めに完成していましたが何だかんだあって、今に至ります。



『青春とは、奇妙なものだ。 外部は赤く輝いているが、内部ではなにも感じられないのだ。─サルトル─』

 

 

 

周りの人間達がいう『青春』というやつは残酷だ。

俺の青春の半分は悪魔との戦いで構成されている。

そして、もう半分もそれらしいことをしていない。

恋愛も友情、スポーツ。そんな赤く輝かしいものなど無く、ただ虚しさと虚脱の日々だった。

 

つまり、世間的にいえば寂しい人間だったという訳だ。

だからと言って、とりわけ『青春』を謳歌している生徒達を見ても妬ましくは思わないし、寧ろ羨ましいくらいだ。

 

何かに対して本気で向かい合えること。

 

だから、ある意味花村陽介が羨ましく思う時もある。

…本当に、時々……いや、数ヶ月に1回とかだろうか。

 

「ういーす、おはぁぁぁぁあああ!」

 

…いや、前言撤回だ。

彼のようにゴミ箱に突っ込みたくはない。

 

 

 

 

 

 

夏の夜。花村とシンは搬入口でカゴを運んでいた。

 

「…はぁ、しんど」

「花村はこのバイトを始めてからどのくらいだ?」

「えーっと…もうちょいで1年とかか?」

「ほう、だから手慣れているのか」

シンは軽々と野菜の入ったカゴを持ち上げ、歩き始めた。

 

「そうだな。なんつーか、雑務ばっかりだし、バイトリーダーみたいな立ち位置やらされてるし、色々大変なんだけど、な!」

花村は勢いを付けてカゴを持ち上げ、シンのあとをついていく。

 

「ただ、なんつーか親父も大変だろうし、それを少しでも手伝えたらって思うし」

「なによりも、バイトするところがないな」

「ははっ、それは言えてるかもな。悠みたいに、保母さんとか、翻訳とか、そんなん出来ねぇし」

花村は笑いながら、カゴを置きパイプ椅子に座った。

 

「はぁ、重すぎんだろこれ。」

「クマが休みな分、元気がないな」

「んなことねーよ!!仕事が捗るつーの!ただ、心配つーかさ、なんかやらかしそうで不安なんだよな」

 

シンはパイプ椅子を持ってくると近くに座った。

「…何か嫌なことでもあったか」

「……」

シンのその言葉に花村はドキッとしたのか無言でシンを見たあとにため息を吐いた。

 

「…いや、お前に言ってもしょうがないかもしれないけどさ、店長の息子ってだけで、バイトの子達にシフト融通きかせろとか。色々、勝手な都合を押し付けてきたり、小西先輩の悪口とか言われて、すげえ、腹立ってるんだ…」

「…」

「それを一応、社員の人に報告しなきゃいけないしさ、なんつーか、本当にめんどくさいんだよ、色々。」

花村は少し苛立ちながら足を揺らしていた。

 

シンは考えるように瞳だけを花村から逸らすと腕を組んだ。

「…俺に人間関係の悩みをするとは中々、面白い。疎すぎて、何を言ったらいいのやら」

「いや、まぁ……確かにそうだけどよ、でも、シンって何でも淡々とこなしてるし、俺もお前みたいになれたらなって」

 

「クマのシャドウと戦った時にクマにも言ったが、お前はお前であることをやめられない」

シンは花村を見ると言った。

 

「俺としてはお前が羨ましいがな」

「え?何でだ?」

シンの言葉に花村は驚いた表情で尋ねた。

 

「もう少し、自分の状況を客観的に見てみるといい。違う景色も見えてくるものだ」

「…客観的に?」

 

シンは立ち上がると花村を見て尋ねるように口を開いた。

 

「それではいけないのか?」

「え?」

「それとも、それだけのことだからいけないのか?どっちだ?」

 

その時、すぐに花村は答えられなかった。

シンは何も言わずにロッカールームに行ってしまったからもあるが、あまりにも漠然とした質問過ぎたからだ。

 

 

 

深夜…

クマがイビキをたてながら寝ている中、花村は眠れずに天井を見ていた。

 

「…」

シンの言葉が何故か引っ掛かった。今の自分はどちらだろうか。様々な人に様々な事を言われている。

バイトのシフトを変えろや仕事をもっと楽にしろなど、それを社員には言い難いために、彼女達は自分に言ったのだ。

 

何故なのか。

 

単純に自分が店長の息子で融通をきかせられると思ったからだろうか。だが、捉え方によってはそれは『自分だから』言えた事なのだろうか。

 

『それではいけないのか?』

 

それでは、自分は『店長の息子』という肩書きしか相手に見てもらっていないことになる。

 

『それだけのことだから、いけないのだろうか』

 

 

次の日、教室にて…

 

「…またか」

「悪い!今日もバイトがいなくてさ!」

花村は両手を合わせてシンに頼む。だが、半分これは本当のことで、半分は『昨日のこと』をシンに尋ねたかった。

 

「…まぁ、いいさ。考えもまとまらないしな家にいたところで」

「サンキュー!」

 

 

花村とシンは相変わらずの品出しをしていた。すっかりと客足もなくなり、閉店後のバックヤードで椅子に座り休憩していた。

 

「正直さ、まだ分かんねえ。シンの言いたいこととかさ。それだけじゃいけないのか、いけなくないのかって」

花村は椅子に深く寄りかかって答えた。

 

「まだ、人生の途中だろうに。悩む時間はいくらでもある。俺なんかは何千年と生きてるが未だに何一つ正しく理解出来ていないさ」

シンは皮肉気味に笑った。

 

「ただ、言えるのは、自分以外のモノでしか自分を自分たらしめることができない。何故ならば、他人がいなければお前は何者でも無くなってしまう。『ジュネスの店長の息子』、『八十稲羽高校の生徒』『花村陽介という名前』それら全ては他人から与えられたモノだ。それら全てが無くなったとお前は自らを何と表現できる?」

「…」

花村は考えるも答えは出ず、首を横に振った。

 

「結局のところ、他人が決めた『花村陽介』というお前は、『お前』であることをやめられないし、他者との関係を断つことも難しいだろう。であれば、お前がそれらを受け入れるしかないだろう。」

シンはそういうと、鼻で笑い言った。

 

「一般的な母親が言うように『他所はよそ。うちはウチ』の精神だ。お前が苦労するだろうがそれも、お前の大切な一部だろうに。他人には好きな事を言わせておけばいい。ただ、認めるべきモノを認めなくては、見えるものも見えなくなる。」

シンはそういうと、肩を竦め大きく息を吐いた。

 

「他人に詰め込められた色では不満か?それとも、それだけだから、いけないのか?それを決めるのはお前自身だ」

 

「ハハ……なんか、訳わかんなくなってきたよ」

花村は弱く笑うと俯いたまま。数秒間話すことは無かった。だが、大きな呼吸をした後に、おもむろにポツポツと話し始めた。

 

「…なんか、お前と話しててさ思ったんだけど…俺は特別で居たかったのかもな。誰かに認められたかった。

『ジュネスの店長の息子』って肩書きだって、本当に嫌ならここで働いてないだろうしさ。それに……お前の言う通り、こんなのは俺じゃねぇってのが、あったのかもな」

 

「だって、ここはつまんねぇ田舎だって思ってたからさ。俺は、都会からきて、こんなつまんねぇ田舎には染まりたくなかったんだよな。これだけじゃ、いけないって、俺が勝手に決めてただけなのかもな…」

 

「でも、小西先輩が殺されて、ペルソナってすげぇ力に目覚めてさ、俺は特別なんだって思ってたんだけど、現実(こっち)に帰ってくると、変わらないつまんねぇ田舎町だってことに気づいちまう。」

 

花村はそう言うと立ち上がりシンに向かって叫ぶ。

「もっとさ!青春って、すげー色々と起きて!本当に楽しい事をいっぱいしてさ!それが青春ってやつだと思ってた!」

 

花村の言葉にシンは残酷なまでに淡々と答えた。

 

「幻想だよ。それは」

 

その言葉に花村は呆然と立ち尽くし、今にも泣きそうな顔で叫んだ。

 

「分かってんだよ!!そんなこと!お前に言われなくたってな!!!小西先輩が死んじまった時から!!そんなもん!もう俺は分かってんだよ!!」

 

「分かってんだよ!!でも、何で……何で、こんなに納得出来ねぇんだよ……」

 

花村はそういうと思わず、シンに背を向けた。そして、そのまま外へと歩き始めた。

 

「…悪い…ちょっと…」

「…」

 

 

「…泣いてくる」

シンは無言でそれを見送った。

 

 

 

時々、かつての高校生時代の友人らしき者達を思い出そうとする時がある。でも、彼らがどんな人間で、どんな名前だか思い出すことは無い。

薄情だと言われるかもしれないし、それでも構わない。何せ何千年と経っているんだ、忘れて当然だと思わないだろうか。人は色んなことを忘れる。忘れなければ、あまりにも辛いことが多すぎる。

 

…彼らのことも忘れてしまうのだろうか。

かつて友人だと呼称していた彼らを。

次第には、忘れたことすら忘れてしまうのだろうか。

 

だが、何故かな。『親友』というものはどうも忘れにくい何かがある。

 

勇や千晶。

 

だが、そんな友達や親友とも別れねばならない。

永遠と生きているとそればかりだ。

 

さりゆく一切は比喩に過ぎないとはよく言ったものだ。

 

こうして長く生きすぎると、過去は全て比喩になってしまう。いや、長く生きているからだけでないのかもしれないが、自分が生きている限り、過去は全て比喩に変わる。

大切な人の死も、別れも、楽しい思い出も、悲しい記憶も。

 

「…」

 

俺は蒸し暑い空を見上げて、暗い世界で光る星を眺め歩いていた。何か言葉にしようと思ったが、出来なかった。酷く単純な理由で、何も言葉が思いつかないからだ。こういう時ばかり役に立たない頭脳だ。

 

あの暗い世界で輝くほどの幾万、幾億の言葉を紡いだところで、それは100%伝わることは無い。他者に咀嚼され、その受け取り手のフィルターを通してでしか、受け取り手には伝えられない。

 

『言葉を友人に持ちたい』

 

そう言った詩人が居た。全くだ。

言葉と友人であれば、こんなに吐き出したいまどろっこしい気持ちを表現できて、言葉として吐き出せるのだから。あるいは陽介を慰めるような言葉もかけられただろうか。

 

言葉は所詮、言葉でしかない。だが、俺は言葉の可能性も信じている。何故なら、死に際で俺を救ったのも言葉だ。あんな世界(ボルテックス界)では特に。

何度、命乞いをしたことか。今となっては懐かしいことばかりだが。

 

俺だって始めから強かった訳では無い。

毎日、死の恐怖に恐れ戦き、怯え、神経をすり減らしすぎた。何度死ぬ夢を見た事か。次第にどちらが現実なのか、夢なのか区別がつかなくなっていった。そのうちにどっちがどっちなのかどうでも良くなってきた。

 

死ぬ夢も次第に見なくなっていた。何故なら、眠ることが無くなってきていたからだ。

 

それを超えたら、享楽に変わる。だが、相手が弱いと何も感じなくなっていた。より強い相手と、もっと強い敵はどんな戦略で戦えば勝てるのか。次第に相手ではなく、自分の中でも美意識の追求を始める。

 

そこを超えた時に、ただの『作業』に成り果てた訳だが。

 

 

青春は全てが楽しい訳では無い。辛いことも、悲しいことも。

全てが青春と呼ばれるモノの正体だ。

ただの『呼称』でしかないし、大きな人生の一部に過ぎない。それでも、美化されているのは、単純に過去が美化されてるに過ぎないからだ。

こんなこと言ったら、罵られるかもしれないので、俺は陽介には黙っておこうと決めた。というより、俺よりも青春を謳歌している陽介に講釈を垂れるほど青春というやつを知らない。

 

だが、知らないながらも、花村を見ていると、サルトルの言う通り『赤く輝いて』見えているのだ。

もう少しだけ彼らのように自分の気持ちを抑えずに、外へと出しておくべきだったのかもしれない。

 

でも、もう、そんな感情は無くなって、それこそ、今見えている星くらいの距離まで自分から遠くなってしまったに違いない。

 

それに俺にはそんな青春を謳歌する資格は無い。

親友と全世界の人の命を踏み躙った俺には、そんな人生で一番輝かしい部分を体験するなど、烏滸がましいのだから。

 

 

 

 

 

2012年1月4日(金)─

 

シンと花村はリフトに乗ると頂上を目指していた。

 

「いや、マジで久しぶりなんだよな!スノボー!」

「俺は初体験だな。スノボーは」

「いや、初体験でなんで、1回しか転ばねぇんだよ!おかしいだろが!」

花村は怒りながら、リフトを揺らしながらシンを睨んだ。

 

「身体能力だろうか?」

「かーっ!!せっかく、シンの少し情けない場面に出会えると思ってたんだけどな!ってか若干、それも楽しみだったし」

 

シンは山の景色を見ながらふと思い出したように花村に言った。

 

「…それで、鳴上の拳はどうだったんだ?河原での殴り合いは」

「げ!な、なななんで知ってんだよ!しかも、年明け前の話を今更か!?」

スキー場で花村に鳴上との『友情』の証であるような殴り合いしていたのを監視用悪魔からの報告で思い出し、シンは尋ねた。

花村は恥ずかしそうに顔を背けた後、照れ笑いをしながら答えた。

 

「秘密だ」

 

そして、『知り合いが誰もいないから』と前置きをし、花村は言った。

 

「これは俺の人生だし、俺の青春だ。誰も代わりは出来ないんだってな。お前とか悠とか、あとは『八十稲羽』に教えてもらったんだ。」

「…」

 

「俺の代わりは俺にしかできないってな。俺の人生も、誰も代わりは出来ないし、代わりたくないって事だよ!」

 

花村は言葉の勢いよくシンの肩をパンチした後、そのままスノボーで滑って行った。

 

「…恥ずかしいのであれば言わなければ良いのだが…」

シンは殴られた肩をさすりながら、おぼつかないスノーボードの足つきで花村を追いかけるように白い坂を下り始めた。

 

(…なんと、不便で難儀で、めんどくさい生き物だ。言葉にしなければ伝わらない)

シンはその数秒後にスノーボードでの2回目の転倒を経験した。

 

 




今回は陽介について書きました。殆どがシンの独白ですが、陽介の苦悩が書けたらなぁという部分もありました。
次回は千枝になるかと思います。気長にお待ちください。


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第x13話 52hz-whale

まず、誤字報告をして下さった方々に感謝を。ありがとうございます。見てくださっているかは分かりませんが…


友人とは何だろうか。

気兼ねなく話せる人のことだろうか。

感情を素直に出せる相手だろうか。

一緒に居て楽しい人だろうか。

 

『勇』にとって俺は良い友人であっただろうか。

『千晶』にとって俺は良い友人であっただろうか。

 

彼らのことを…俺は…『友人』と呼んでいて良かったのだろうか。

 

 

 

 

「にくー!」

「うるせぇ!!耳元で叫ぶなよ!!」

雨の日ということで、いつもの5人で愛屋へと来ていた。

 

「天城さんは、旅館は大丈夫なのか?」

「うん。この時期はお客さんが少ないから」

シンの問に天城は最近追加された、杏仁豆腐を食べて答えた。

 

「…梅雨に旅館に来る人もいないか」

シンは酔狂だなとは思いつつ、雨の日の旅行ほど気分が滅入ることはないと思った。予定が狂いどこか陰鬱な印象を持ってしまう場所が多いが、雨だからこそ、シンとしては静かに文化財などを巡りたいという気持ちの方が大きい。

そう考えると旅行の雨も時と場合によっては悪くないものだとシンは思っていた。

 

「にしても、まさかシンがなぁ…」

花村は椅子に深く座ると感慨深そうにそう呟いた。

 

「でも、オーラが違ったからね。ここで会った時も」

「そうだね。あれを食べきってる人初めて見たし」

「いや、そこかよ…」

千枝と雪子の話に花村は呆れた様子でツッコミを入れた。ふと、鳴上がシンに尋ねる。

 

「シンって何をして暮らしているんだ?」

「なに…とは?」

「あー、確かに気になるかも」

千枝は興味深そうに腕を組み考える。千枝が真っ先に思いついたのは『勉強』であった。理由としてはやはり、彼は頭が良いし頭もキレる。だが、考えてみると彼の家には何も無かった。大きなテレビが1つだけ。あとは綺麗に何も無かった。

次は『スポーツ』であるが、これもないとすぐに判断した。部活に所属していないし、これもない。

 

「こういっちゃ、あれだけど…お前友達とか居なそうだよな。俺たち以外」

「ああ。いないな」

「否定しないのかよ」

花村は呆れた様子で肩をすくませた。

 

「あまりいると煩わしくて仕方が無いだろう」

 

千枝はこれまた、彼の人間関係について、自分の知っている限りのことを考えはじめた。

彼の人間関係については本当に謎である。

『死の医者』として名高い、外国人医者のケヴォーキアンと一緒にいるのを目撃されることが多々ある。

 

『聖スティル総合病院』はがん治療の患者から終末医療

など、『死』を扱う病院として名高い。

一方で治らないとされてきた病気でも患者を受け入れることからそういった者達にとっての『安息地』でもある。とりわけ、『あの病院いけば余命よりも3倍は生きられる』と言われるほど、世間的には有名な場所である。

 

環境もよく、八十稲羽と沖奈市(おきなし)との中間に位置し交通の便は良くないものの山に囲まれており、静かな湖畔もある。加えて、その周囲に村があり食べ物においても地産地消をしており、地元からも愛されている。そこの院長が『ケヴォーキアン・メレンゲ』という30歳の男性だというのだから驚きである。

 

だが、しばしば、ニュース番組の特集であの病院が登場するも、彼はさほど表には出てこない。患者の特集の時にたまたま彼が出てきた。それで、一時はネット界隈を騒がせた。

 

『…彼についてか?…前の医者がどんな治療をしたかは知らないが、最悪の延命措置だ。薬が多過ぎる。副作用が彼自身を苦しめてる。死の危機が迫っているのだから、精神的不安定な状態だった。』

『今は非常に落ち着いて見えますが?』

『死の恐怖は拭えないものだ。その恐怖が彼にストレスを与えていた。だが、彼自身がここに来て自分よりも早く死ぬ人間達が落ち着き、残りの人生を過ごしていることに疑問を持ち、自ら行動した。その結果が今の彼だ』

 

白い髪の毛とメガネ、加えて顔立ちも整っており、線の細く白衣を着ている。それだけで、『美青年』であった。

 

千枝は深く考えずに尋ねた。

 

「あのお医者さんとは何で知り合ったの?」

「…ケヴォーキアンか?彼は…友人では無いな。知人だな」

「あ。あの人よくうちの旅館の日帰り温泉に来るよ」

「うっそ!マジか。イメージなさすぎ…つーか、あの外見で意外だわ」

千枝は雪子の言葉に驚いた。そんな話しをしたことはすっかりと忘れて、それから、数ヶ月が経ったある日…

 

 

「だから、ウチの病院に来たのか」

「…あははは…」

その日、千枝は風邪を引いてしまった。だが、千枝自身は非常に気持ちは元気であったが、熱があるので仕方なくかかりつけの病院に行こうとした。

しかし、運悪く休診日であった。仕方なく、少し遠いがケヴォーキアンのいる病院へと来た。

診察は手早く終わった。風邪薬を処方され、支払い待ちをしているとケヴォーキアンが前を通った。ケヴォーキアンは千枝を見かけると足を止め、千枝の方へと来た。

 

「珍しい患者だ」

「あはは、どうも」

「何だ、病気か」

「風邪をひいちゃったみたいで…」

千枝は照れながら答えると、ケヴォーキアンが隣に座った。ケヴォーキアンはふむと、千枝を見定めるように観察をする。千枝はいやらしい視線ではないが多少、恥ずかしさもあって少しケヴォーキアンから離れた。

 

「あ、あの何か?」

「…いや、なに。間薙シンについてだが、君から見てどう見える?」

「…その強い人だと思いますけど…」

千枝は首を傾げる。彼が悪魔であることは分かったし、彼の生い立ちも知った。それでも、彼は進み続けている。千枝は素直にそう答えた。

 

「なるほど…まぁ、そうだろうな。俺もあそこまで強いやつは知らんな。精神的にも。身体的にもだが」

 

だが、とケヴォーキアンは続ける。

 

「あいつは君たちよりも弱い面もあると思うぞ?」

「?」

 

「あいつは『友人の信頼』を知らない」

 

千枝はそう言われた瞬間、雪子の顔が浮かんだ。雪子は紛れも無く自分が背中を預けられる『親友』である。だからこそ、かつて自分は無謀を承知でテレビの世界に助けに行った。

自分のシャドウが言ったようにどこかに邪推な気持ちがあったのかもしれないし、雪子がどう思っているかは分からない。

分からない……ふと、千枝の心に不安が生まれた。

普段なら、そんなことは思わないだろう。だが、最近雪子は旅館の手伝いで遊ぶ機会が減っている。加えて千枝は風邪気味であった。故に、そんな気持ちが過ぎったのだ。

 

「…何を感じた?」

「…その、私が思っているように雪子も思っててくれるのかなって…ちょっとだけ不安になりました…」

「ふむ…」

ケヴォーキアンはそう言うと携帯端末を操作しながら話し始めた。

 

「君は『52hzのクジラ』を知っているか?」

「……知らないです。有名なんですか?」

「いや、知らなくても問題は無い」

ケヴォーキアンはそう答えると話しを続ける

 

「クジラという生き物の一部は歌でコミュニケーションを取るそうだ。シロナガスクジラやナガスクジラなどがそうするらしい。

その周波数は10-39hz程度と言われている。だが、そのクジラは52hzで歌うそうだ。これが意味することが分かるか?」

ケヴォーキアンは操作をやめると千枝を見た。

 

「いえ…」

「そのクジラは他のクジラとコミュニケーションをとることが出来ないということだ。誰とも話すことが出来ない。『世界でもっとも孤独なクジラ』という訳だ。そして、彼はそれでも歌い続けている…」

ケヴォーキアンは目線を下にやると言葉を選ぶように続ける。

 

「…必ずしも自分が他人と同じだとは限らない。感覚的な部分は尚更だ。『みんなちがってみんないい』。

確かにそうだが、その言葉は『他人と違う人間』にとっては、自分が『他人と違う』という罪意識の免罪符にはならない。みんな普通を求めようとする。そんなものなど存在しないというのにな」

ケヴォーキアンは立ち上がると白衣のポケットに手を入れた。

 

「君は良き理解者に出会えて良かったな」

「…はい」

千枝はにっこりと微笑み答えた。

 

「それにしても、なぜ、そんな話を?」

千枝が不思議そうに尋ねるとケヴォーキアンは気だるそうに答えた。

 

「患者が見るそうだ。クジラ特集のテレビ番組をな。その中で出てくるとか、なんとか。」

「あはは、それだけですか?だっ…」

千枝がそう茶化そうと言った瞬間に千枝は大きく息を吸いこみ。

 

「へっくしゅん!」

「ふふっ、人を茶化す前に、今は休みたまえ」

 

 

 

 

 

「珍しいね、2人だけって」

「確かにな」

 

シンは天城屋旅館の日帰り温泉から出た後、雪子の好意で縁側に座っていた。雪子は和服を着ており、お客の対応を終えたところであった。

 

「…あ!べ、別にその…変な意味じゃなくてね?」

「分かっているさ」

雪子は慌てた様子で否定するもシンは相変わらずのテンションで雪子もすぐに落ち着きを取り戻した。静かな風の音だけが2人を包む。

 

「…そういえば」

シンはそう切り出した。

 

「里中さんと天城さん。君たち2人を見ていると違和感を覚える」

「?」

「こう言っては何だが、2人は対極的な雰囲気がある。里中さんは活発な人で一方、君は清楚なイメージだ。無論、里中さんや君の全てがそういったイメージであると言いたいわけじゃないが」

シンはそう言うと腕を組む。

 

「それでもなぜ君たちは仲が良い?」

「うーん…」

雪子は数秒考え、少し嬉しそうに答えた。

 

「たぶん、千枝と私が『対極的』な人間だからだと思う。千枝は私にないものを沢山持ってて、それを千枝と共有したいからかな?千枝はどう思っているか……分からないし、私は分けてもらってばっかりだけどね」

 

「でも、私は千枝と一緒なら、色んなことがもっと楽しくなるから」

「…羨ましいよ」

シンがそう答えると雪子は照れたように続ける。

 

「私は…この街が嫌いだった。前にも言ったけどね、旅館の跡継ぎとか自分じゃない誰かのレールの上を走らされてる気がしたの。」

雪子は俯くと少し溜めて話し始める。

 

「それしか選択肢がないって思い込んでて、自分で可能性を狭めてた。」

でも、と続けると雪子は屋根からかすかに見える夜空を見上げる。

 

 

「…籠の入口を閉めたのは自分だって気付いたの。それに気付かせてくれたのは、千枝だった」

 

 

 

 

俺は家に帰るとテレビを見始めた。彼女の言葉に偽りはない。だからこそ、俺は彼女たちが羨ましい。

 

『…52hzのクジラはただひたすらに歌い続けるのです…暗い海の中を孤独に泳ぎ続けるのです』

 

『52hzのクジラ』はどんな気持ちで歌を歌い続けているのだろうか。寂しいと感じるのだろうか、誰かと一緒に居たいのだろうか。

自分がほかのクジラと違うと分からながらも、歌い続けているのか?

 

 

『…また、行けなくなったの?』

『悪いな。仕事が忙しくてな』

『また、今度、出掛けましょう?』

『……いいよ。ぼくは大丈夫だから。仕事、頑張って』

 

 

あの頃に戻ったような感覚だ。1人でテレビを見て、膝を抱えている。暗闇の中、自分の影が酷く黒く見える。

最悪の気分だ。みんなはどうやってこれに耐えるんだ?

 

……ああ。そうか。これは違う。

これは…違う感情だ。かつての孤独じゃない。

別の感情だ。これは、『憧れ』と『嫉妬』だ。

 

 

 

 

 

「うぃーす…」

「おーっす、花村」

「おはよう。陽介」

花村が教室に入ると皆が挨拶をした。花村がリュックをおろし鳴上たちの方へと行く。

 

「あれ?シンは?」

「お休みだって。柏木先生が言ってたよ」

 

雪子の言葉に花村は少し驚いた様子であった。シンは殆ど休みがない。理由は体調不良がないことが一番大きい。たまに向こう側の用事で休むことがあるが、今回は少し特殊だった。

 

「…珍しいな」

陽介は携帯を見るも特に連絡は来ていない。

 

「だよね、いつもなら私たちにも連絡くれるじゃん?でも、今回誰にも連絡してないみたい」

「単純に忘れてるだけかも」

鳴上も携帯を取り出し、メッセージを送るが既読の付く気配はなかった。

 

「昨日は元気そうに見えたけど…」

「?昨日会ったの?」

「うん。ウチのお風呂に良く来るからね」

そう答えた雪子に鳴上が尋ねる。

 

「何か言っていた?」

「うーん…その…千枝と私が羨ましいって言ってたよ」

「え?なんで?」

「…分からない。理由までは言ってなかったから」

雪子の言葉に陽介は唸り、答えた。

 

 

「…様子見に行くか?」

 

 

放課後…シンの家へと向かっていた。

いざ、家の前についた瞬間、ドアが開いた。突然のことに花村は驚いた。シンも少し驚いた様子で皆を見た。

 

「うお!!!」

「…なんだ。揃いも揃って」

「学校を休んでたから、どうしたのかなって。それに、珍しく連絡もなかったし…」

雪子が心配した様子で答えるもシンは相変わらず淡々と返す。

 

「…理由はない。考え事をしていた」

シンはそう言うと屈伸を始めた。

 

「ん?なんだ?運動でもするのか?」

「ちょっとな、煮詰まっている」

「あ、じゃ、私も一緒にいい?」

「?」

千枝の言葉にシンは首を傾げる。

 

「最近、私も鳴上くんと一緒に運動してるし、人数多い方が面白いでしょ?」

「確かに」

千枝の言葉に鳴上も頷き応えた。

 

「…まぁ、勝手にしてくれ」

そう言うとシンは走り始めた。

 

「じゃね!雪子、花村!」

鳴上と千枝はシンに続くように走り始めた。

 

「…あ、うん」

「…やっぱり、おかしいよな、あいつら」

二人は呆然とシンたちを見送った。

 

 

なぜ走るのか。ひどく単純な理由で、孤独に勝てないが、全速力で走ればそんなことどうでも良くなる。

本の受け売りだが。悩むくらいなら、全速力で走るべきだ。悩みをつらつらと頭の中で綴るよりはよっぽどマシだ。

 

 

「ちょ、ちょっと……タンマ、タンマ!」

「…?」

「し、シンのスピードで……走られたら……死ぬ」

千枝と鳴上は倒れるように土手に横になった。

シンはゆっくりと速度を落とすと少し息を切らしながら、二人のもとへと向かう。

 

「なんだ、だらしないな」

「無理だって……あんな速度…ま、マラソン…選手じゃないんだから­­」

千枝は息絶えだえで、シンに話す。

 

「…突然…どうして?」

「……」

シンは倒れている二人の横に座ると俯き、頭の中で言葉をさがすように目線を上下させた。

そして、短く答えた。

 

「意味はない」

 

その溜めた時間とは対極的なあっけらかんな言葉に二人はどっと笑った。

 

 

 

俺は彼女達のようにはなれない。

なぜなら、人間ではないし、数え切れないほどの罪と屍の上にふんぞり返っているヤツだ。

 

だが、頭で分かっていてもとなりの芝ほどよく青く見えるものだ。

 

俺は『孤独』だ。

 

たぶん、誰かが隣にいてもこれを感じてしまうのだ。自分でも嫌になるくらい、この言葉が俺に付き纏って離さない。

 

でも、それで良い。煩わしさに比べれば、孤独の方が良い。そういったところでまた、恋しくなるのだから、もう、考えたところで意味などない。

 

 

 

 

52hzのクジラ。お前はどんな気分だ?

俺は……今は歌でも歌いたい気分だ。

俺は今…最高に虚しいさ。

 

 

 

 




今回は千枝と雪子を題材に『52hzのクジラ』の話と織り交ぜました。
52hzのクジラの話はゲームで知りました。なので詳しくは知りませんが調べてみるとなかなか、興味深かったです。
内容は何というか……ごめんなさい。って感じです。


次回は完二をやる予定です。


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第x14話 Control is an illusion

お久しぶりです。それと、待ってる人が居ましたらお待たせしました。
バーッと書き上げたので、相変わらずの誤字脱字があるかと思いますし、確認もせずにあげてますので、文書がおかしな部分があるかも知れないので、その際はお教えして頂ければ幸いです。

それではどうぞ。


現代の社会構造やシステム、経済などがあまり自分には関係の無い話だと思っていたし、どちらかと言えば嫌いな人間であった。

今思えば、労働によって、両親を縛り付け苦しめていたからこそ、嫌いだったのかもしれない。

我ながら子供らしい発想だが、その本音を隠すために屁理屈をつけては資本主義社会を嫌悪し罵倒していたのだ。肥大化しすぎた人類のエゴが滲み出ているようなシステムだとか、とにかくそれらしい理由を付けては社会を否定あるいは貶めようとしていた節がある。

 

だが、人間を辞めてそんなエゴイズムを排除した時に見えたのは、社会の役割とそのシステムの虚構さである。

人間が社会システムや資本主義を構築し、稼働させていたはずなのに、今となっては人間がシステムに支配されている(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

コントロールは幻想だと(Control is an illusion)

 

人間は何一つコントロール出来ていない。社会も他人、自分の人生でさえ。

 

 

 

 

「こんにちはー。イナバタウンの明智です」

明智はその日、巽屋に来ていた。彼の『法外電波受信機』のものではなく、普通に仕事として来ていた。

 

「ああん?」

「どうも、巽くん」

襖の奥から出てきた少年に明智は平然と尋ねた。普通であれば彼の外見に恐れ慄くが東京の荒々しい人々に揉まれに揉まれた明智には彼など『金髪ひよこ』に見えていた。

 

「けっ、あんたか。なんか用かよ」

「いや、そういえば、先日はありがとうね」

「?」

「事件のことだよ、キミに色々聞いたからね。()()()()()は犯人捕まった訳だし」

明智は商品を見ながら話す。

 

「…それで、何の用だよ」

「取材だよ。最近話題のこれ」

明智はそういうと編みぐるみを手に取った。

 

 

 

「それで取材されたのか!?」

花村は驚いた表情で完二を見た。男子5人は相変わらず、ジュネスのフードコートに居て、花村とクマはバイトの休憩中に集まっていた。

 

「え、ええ。まぁ、なんつーか…はい」

完二は少し照れながらそう答えた。

 

「むきーー!!クマよりも先にマスコミデビューなんて、許せんクマ!!」

「いや、完二の場合は既にテレビデビューしてんだろ…」

「でも、良く受けたな」

鳴上の言葉に完二は少し照れた様子で答えた。

 

「その、何つったらいいんですかね。相手の記者が話しやすいやつで、悪い気がしなかったんスよ」

「…それがヤツらの仕事だからな」

シンは鼻で笑うとビフテキにかぶりついた。

 

「いや、まぁ、そーなんスけど…なんつーか、すげぇ、自然体な人だったんスよ。頭とかボサボサでやる気なくて。でも、とにかく、話し易かったんス」

完二は上手く言えずに終始頭をかいて答えていた。

 

「まぁ、確かに変わった記者がいるとかってのは聞いたけど、あの人がか…」

花村は明智の顔を思い出しながら背もたれに寄り掛かり天を仰ぐ。

 

 

 

時計の針が22時を周り始めた頃。校正を終えた明智の部下である神田が口を開いた。

 

「…どうして、先輩は一人で踊ろうとするんですか?」

 

明智は原稿を書いている最中にそんな言葉を後輩に掛けられた。神田という、自分には勿体ないほどのアシスタントと明智は思っていた。ページの校正をしたりなどは彼女の仕事になる。明智はパソコンから目を離さずに口だけを動かした。

 

「…随分と詩的な表現だね。中々、素敵な表現だ。それを僕の凡夫な脳みそでも分かるように説明してくれ」

「…分かってて聞いてますよね」

ジト目で神田は明智を睨む。

 

「はぁ……なら、正確に言います。どうして、1人で何もかも抱え込んでいるのですか?校正も先輩はライターですからやらなくて良いのに、今日印刷屋さんとの打ち合わせから戻って来たら終わってて、私の軽いチェックだけの状態にしないで頂きたい」

その怒りの言葉に明智はやっと、目線をパソコンから外し、神田を見た。

 

「それは申し訳なかった。僕と違って君はこの仕事に誇りを持っているんだったね」

「…そういう先輩はどうなんですか?」

ジト目で明智を見つめると明智は椅子を回転させ言った。

 

「僕はほら、発行部数増やすとか、有名な賞を取るとかそういうの興味無いし。いや、まあ、昔はあったけどもう、そういうことやってると際限ないからね」

明智は肩を竦めると再びパソコンへと向きを変えた。

 

「…私は先輩のような発想が無いですからね」

「そうじゃないよ。なんだい?君は賞でも欲しいのかい?記者として有名になりたいのかい?」

「…私は真実を書きたいんです。真実を皆さんに伝えたい。」

神田のその言葉に明智は手を止めた。

 

「…難しいことを君は言うね」

「?」

「いや、なんでもないよ。その話はまた今度で。早く帰りな。僕はもう少ししたら、帰るから」

明智は再びタイピングを始めた。

 

 

 

幻想を相手に一生を掛けられるほど…僕は純粋じゃなくなった。そんな人生が陳腐に思えて、次第に自分のやりたい事ってヤツが分からなくなってた。自分が何をしたいのか、もうかつての自分を失うことに対してコントロールがきかなかった。

記者ってやつは、人の不幸や幸福を飯の種にする人間だから。政治家並みに生産性はないし、あるとすれば、ありもしない()()を人々に信じ込ませるだけ。

あるいは…僕自身もそんな幻想(ゆめ)に縋っていたかったのかも。実体のないただの幻想に。

 

 

「ちっ、なんだまた来たのかよ」

「お客さんにそれは手厳しいね」

「けっ…」

完二はそう言うと編みぐるみを編みながら少し恥ずかしそうに言った。

 

「そのよ…ありがとうな」

「ん?何が?」

「あんたの記事のおかげか知らねぇけど、あんまりサツも色々、言わなくなってきたんだよ」

完二がそう言うと明智は一瞬、ポカーンとした後に笑った。

 

「な、なんか…おかしかったのかよ!!」

「アハハ…いや、違うよ。案外、警察ってやつも”公務員¨なんだなって」

「?」

「僕…というか、マスコミの役割は権力の監視機能がある。キミの意外な一面やありもしない噂を今回の記事で僕は消したつもりだ。寧ろ、住民達からすればキミに対して好印象を与えたのかもしれない。ともなれば、キミは良い意味でも悪い意味でも目立つから、そんなキミを邪険にしたら、警察が批判を受ける」

明智は編みぐるみのジャックフロストを弄りながら続ける。

 

「?」

「…まぁ、つまりさ。これまで、君が嫌ってた『他人の目』ってやつがキミを厄介事から多少守ってくれるってことさ。僅かな期間かもしれないし、もちろん、キミが悪いことをすれば、それは相殺される。」

明智の言葉に完二は数秒考えて口を開いた。

 

「なんで、オレにそこまでしてくれんだ?」

「…うーん、慈善事業って訳じゃないな。僕達は人の不幸や幸福を飯の種にしてる。それが仕事だからって訳でも無いね」

明智はジャックフロストを置くと腕を組んだ。

 

「今回は単純にキミが羨ましかったからかもね」

「?」

「理解者がいて、同じ方向を向いていられる仲間が居て。それがきっと羨ましかった」

明智は座ると口を開いた。

 

「少しだけ、独り言を言うよ」

明智はそういうと語り始めた。

 

 

 

道で迷った時、どこを向いていれば良い?

透き通るくらいの空だろうか。分厚いコンクリートの地面だろうか。手を引いてくれる人は居ない。それでも、手を貸さない人々は言う。

 

前を向いていろと。そんな言葉を信じて、いつの間にか自分のコントロールを失う。幻想だ。

勝手に幻の自分を作り出して、その人が手を引いてくれていると誤解させる。自分が崖から落ちているのに気付かない程に幻に縋る人もいる。

 

なぜなら、この現実ってやつがどうしようもないほど幻想に近づいてきているからだ。それなのに、夢は遠ざかった。このひどい矛盾をどうしたら解消出来るんだろうか。

 

自分をコントロール出来ないんだ。

 

 

 

 

「…」

明智はパソコンから目を離し時間を見た。

隣にはせっせと校正をしている部下がいる。

 

「…前の話だけどね、神田くん。」

「はい?」

パーテーションの仕切りから顔を出し、明智は言った。

 

「僕は君と同じように真実を書きたかった。それで、世界を救えるって本気で思ってた。世の中を変えられるって。『ペンは剣よりも強し』ってね」

 

「でも、新聞なんかじゃ世界は変えられない。良くなるどころか、気が付けば悪いことを伝えることばっかりになっちゃったんだ」

明智は指を折りながら説明を続ける。

 

「収賄、殺人、強盗、世間を賑わした人の自宅に押し掛けたり、とにかくそんなことばっかりが目に付いた。そんなある時、被害者の子供にこう言われたんだ」

 

「『お兄さんはどこへ行くの』ってね。話の流れ的にはおかしな事じゃなかった。僕は次の仕事に行かないとって言ったら、子供がそう言ったんだ」

 

明智は大きく背もたれに寄りかかり言葉を続ける。

 

「その時の僕には目的地が見えてなかった

その日に起きた事件を追うだけ。一日先も見えてなかった。道に迷ってたんだ」

 

明智は顔を上げると言った。

 

「でも、昼間に言われたんだ」

 

 

 

「…それは別にテメェだけじゃねぇよ。オレだって前まではそうだったんだ。でも、鳴上先輩や他の色んなヤツに『テメェはテメェのままで良い』って教えて貰ったんだ」

 

「オレだって目的地なんてねーよ。でも、オレがオレらしくいりゃぁ、多少、まともな目的地が見つかるんじゃねぇかなって思ってんだ」

完二は鼻の下を少し恥ずかしそうに擦りながら言った。

 

「ニセモノの自分でも、テメェがテメェを信じなかったら誰が信じてやれるんだって」

 

 

青二才が何をと思うかもしれないけど、()()にも同じことを言われた僕には彼を青いなどと言うことは出来なかった。

 

 

「…若いってのは羨ましいよね。僕達だって、好きで歳をとったわけじゃないのにね」

「先輩と一緒にしないでください。私はまだアラサーですから」

「高校生からみたら、ドングリの背比べだよ。大した違いはないよ」

()()も違います」

神田が強く言うと明智はあはははと頭を掻きながら誤魔化した。

 

「僕は君も羨ましい。真実を伝えたいって気持ちは、『幻』や『偽物』が跋扈するこの社会じゃ、実現は難しいかもしれないけど、それでも探し続けることに意味があるとすれば、それはそれで儲けもんだよ」

「……」

「完二くんに言われて思い出したから、下手くそなりに君より長く生きてる僕が教えてあげる。もし、君が真実を追いかけていて、苦しくなっても一つだけ忘れちゃいけないことがある」

明智はパーテーションに隠れると言う。

 

「自分の本心を誤魔化すのは止めた方がいい」

「?」

神田は首を傾げた。

「…本当の自分の声が聞こえなくなるからさ、僕みたいに」

 

 

『君は何と戦っているんだね?』

『それはもちろん、新聞としての役割を果たすために、不正や汚職とです。世間の人達に真実を伝えたいんです』

『確かに、君の記事はよく読まれているし、読者の反応も大きいみたいだね。加えて、世界的にも評価された』

僕の大学時代の恩師はそういうと、僕を見ながら言った。

 

『でも、ボクとしては大学時代に書いた君の幻想や肉声の方が好きだった。今の君は軽蔑しているんだ。君自身の夢や君自身の肉声を』

『……』

『それはよくないよ。君が君の肉声を軽蔑したら、聞こえなくなってしまうよ。それを今の君が偽物と否定したところで、『偽物』と声をあげるその声も『偽物』だと思っている君自身の声も……どれだけ否定しても『君の肉声』なのだから』

 

 

 

「あー、そこを通すんですよ。んで、ここに入れるんス」

「ふむ」

巽屋に完二とシンが居た。シンは完二に絶賛、編みぐるみを教えて貰っている最中である。

シンとしては気まぐれで始めてみたが、これまた、完二の熱の入りように多少圧倒されつつ、暇な時に巽屋に来て、こうして指導を受けている。

綺麗に編まれたそれは、ジャックフロストの帽子のボンボンが完成しつつあった。

 

「…よくわかんないなぁ。何をどうしたらそうなるんだ?」

明智の方はただの毛糸の塊でそのまま猫が遊びそうなものであった

 

「その、アンタ不器用ッスね」

「…べ、別にいいさ。僕は文章で飯を食べてるんだ。編み物が出来なくても」

明智は諦めたように毛糸の塊を置くと横になった。

 

「君たちも分かるさ、どうしょうもなくて、救いようのないドン臭くて、ただ歳を食った大人にでも何かしらの取り柄があるってことがさ」

「……ちっと、休憩しましょう。茶菓子とかあるんで持ってきます」

完二はスルーすると奥へとお湯を沸かしに行った。

 

「…どうにも僕には不向きのようだよ」

「違いない。必ずしも、最良の教師から最良の生徒が生まれる訳では無いさ」

明智はゆっくりと起き上がると皮肉そうに肩を竦めた。

「それもそうだね。僕は編みぐるみには向いてない。それだけの話だね。言葉にすると呆気ないけど、口に出すと自分の情けなさが痛感できるね」

 

明智はコートを着るとシンを見て言う。

「…幻と戦い続けるのは辛いと思う。足を止められたら、止めてみるのも悪くないよ?」

明智はシンの瞳を見ながら囁くように言った。

 

「…違うな。幻など初めからない。あるとすれば、醜悪な現実を隠すため自分の作りだした現実でしかない」

「随分とリアリストなんだね」

「お前みたいなやつをロマンチストと呼ぶならそうなのだろう」

その言葉に明智はフフッと笑い答える。

 

「僕がロマンチストなら、キミは星の王子さまかな」

「そういう一面があることは否定しない」

シンは出来上がり途中の編みぐるみを持ち上げると答えた。

 

「醜い現実に醜いと言ったところで美しくなる訳ではないのなら、一層のことコントロールを諦めて、享受するしかない時もある。成すがまま、成されるがままだ。」

 

シンは再びあみぐるみを編み始めた。

明智は何も言わずに店を出ていった。

 

 

「…その先輩はどうして、編みぐるみなんて?」

明智が帰ったあと、シンに尋ねてきた。シンは黙々と編みぐるみを作りながら答えた。

「単純に興味があったからだ。他意もない」

「そうっスか」

「お前達と違って俺はもう何千年と生きてる、数えられないくらいにな、加えてあの世界はただ停滞している。改めてこんな世界に来た時に、こうして自分の視野を広げて見るのも悪くないと思っただけだ」

「…そういうもんなんスかね」

完二は後ろに倒れるように畳に寝っ転がる

 

「自分のしたいことをする。俺はそうしてきたし、これからもそうだ」

 

「…やっぱ、センパイが羨ましいっスよ」

「今のお前もそう大差ないだろう?」

シンの言葉に完二は照れながら笑った。

 

 

コントロールは幻想だ。

しかし、その幻想も現実だ。

自分の認識のコントロールが完璧に出来たらと時々思う。あるいは、自分の知覚する世界だけでも、コントロール出来たらと思う。

そうすれば、この癒えない痛みからも多少なりとも解放されないだろうか。

この醜い現実をどうにかして美しく出来ないものだろうか、夢を追い続けるために辛い現実を書き換えられないだろうか。

 

そんな、夢物語ばかり想像してしまう。

 

それに、この問いの行先は『他者の否定』だ。

…勇と同じ答えにたどり着くだろう。

 

成すがまま、成されるがまま、手の届かない事をコントロールしようなど意識したところで、手が伸びるわけでもあるまい。

 

それを後悔したところで、得るものは酷い自己嫌悪と他者への猜疑心の増長だ。

 

 

コントロールは幻想だ。

 

 




今回、とある海外ドラマに触発されて書きました。
わかる人というか、調べれば分かると思います。
タイトルとかモロですからね。

今回は完二の話というです。完二の真っ直ぐな感じが出せれば良いかなと思いました。

次回はいつになる事やら…
お待たせしてしまうかもしれませんが、どうぞよろしく


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