オレと守鶴のヒーローアカデミア (砂狸)
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No.1 始まり
幼少期編が長すぎるという指摘が多数ありましたし、自分も確かに長いし意味がないと思いましたのでバッサリいかせてもらいました。
今後、以前投稿したものは改めて加筆・修正したものを番外編なりで投稿したいと思いますので、期待しないでお待ちください。
―――転生した。
いきなりで悪いが、事の始まりを思い出してみる。
自分でもよくわかっていないのだが、気がついたら記憶にない部屋で椅子に座っている状態だった。それだけだったなら、ただ単に誰かに眠らされている間に運ばれたとしか思わないだろう、…普通なら。しかし自分でも、なぜかそれは違うという意識があった。
自分はすでに死んでいる…。
正気なら思いつかない考えが頭にこびりついてしまって離れてくれなかった。死んだときの記憶は全くない。そもそも自分が誰で、何処で暮らしていて、どんな一生を過ごしたのか……どうしても思い出せない。だから知らない部屋にいつの間にか居ることについても、自分が思い出せないだけで実は自分で部屋に入って、そして椅子に座った…?
……思い出せない。
そんな時、"それ"は唐突に語り掛けてきた。
―――姿かたちを見せない"それ"は、自分には何も言わせてくれないうちにただ向こうが一方的に喋っていただけだが…、まぁ要約すると、自分は元の世界では死んだので異世界、…ぶっちゃけ漫画の世界に転生してくれと頼まれた。
いろいろと事細かく説明してくれる気はないらしく、ただ原作に関わってくれさえすればあとは好きに暮らしてもらって構わない…と、それだけを絶対条件として自分が
…自分がなんで死んだのかも、どんな名前で他に家族はいたのか結婚していたのか等々……、転生する世界のことも、生まれ変わる姿かたちも何もかもに"それ"は答えるつもりはないらしく、ただ一つの問いに対する返答だけを求められた。
転生するのか、しないのか
「はい」か「いいえ」、もしくは「YES」か「NO」。
自分に許された答えは肯定か否定かのどちらかしか許されていなかった。自分の質問に一切の返答はなされずに、"それ"は自分が知っているという漫画の世界、そして好きだというキャラに転生するかどうか…。
五里霧中のなか、自分は選択をしなければいけない―――。
―――なんか面倒くさくなったので難しく考えずにOKだしてみた。
いやーなんかシリアスっぽい雰囲気だしてみたけど、自分そんなに重い人間ではないので。
どっちみち自分、やっぱ死んでるみたいだし。それなら次の人生をくれるっていうラッキーチャンスをくれるっていうなら、ここは素直に貰っておくべきでしょう。
ってなわけで、OKだした直後に様式美的な感じでボッシュートされた。
床がきれいさっぱり無くなったと思ったら椅子に座ったまんま真っ逆さま。…軽く言ってるみたいに聞こえるだろうけど、この時は物凄い悲鳴を上げながら必死に椅子にしがみついていたからね?なにせ急に消えたからね、床。そしたら真っ逆さまだよ、見えた下は真っ暗闇でどこにも光なんてなかったよ。
あれは怖かった……。
いつまでも暗黒の闇の中を落ち続ける恐怖。
…いまでも夢に見る。
トラウマは今はどうでもいいか。
最初にも言ったがいきなりで悪かった。
オレが言いたいのは転生したという一つの事実。
"あれ"がどんな存在だったのだとか、どんな
なので気にしないことにした。
だって転生してからすでに十四年の月日が流れている。
…と言っても前世を思い出したのは三歳の頃なので実質―――、いや、やっぱり思い出そうが思い出してなかろうが、自分は自分なので十四歳でよしとする。
とにかく、オレは今年で中学三年生。
今は受験する高校を選ばなくてはいけない時期。
オレが在籍しているこの
かくいうオレもこの国で一番有名な高校に進学することを決めている。
仕方がないことなんだ、オレを転生させた存在に言われているからね、原作に関われ…って。
それに同じクラスの友人も、
今もそのことで友人と話しているところだ。
「おお、やはり君もボクと同じく
「
「もちろんだとも!やはり
はっきり言って、メガネをかけた真面目な委員長という言葉で言い表せてしまう男。
少々規律を重んじるあまりに周囲と衝突することもある、…けれどオレにとっては良い友人。
「たしかにな。これまで数々のトップヒーローたちを輩出してきた雄英。入学するのは至難ということだが、オレと天哉ならまず落ちることはないだろう」
この友人が合格することは間違いないだろう。
このまま原作通りに進むのならまず入試で落ちることはない。
「しかし雄英の入試は筆記試験はともかく、実技試験では"
「心配することはないだろう。飯田の"個性"ならその機動力と蹴りの威力があれば大丈夫だろう。オレが保証する」
「ありがとう。そう言ってもらえると安心できる。だが、そう言う我愛羅くんこそ君の"個性"ならばどんな相手だろうと圧勝できると思うぞ」
そう言って親指を立たせる天哉は、いかにも爽やかっ!という笑みを浮かべる。
この友人は実に大真面目な顔で恥ずかし気もなく、気障なセリフを吐いてくるので油断ならない。それでもそのセリフが本当に心の底から思っているということが分かってしまうので質が悪い。
"個性"。
この"個性"という単語を耳にし、そして実際に目で見た時には驚いたものだ。
そして直ぐにこの世界がどんな世界なのかを理解した。
"個性"とは。
この世界の総人口の約八割が有している何らかの"特異体質"に対して用いられている通称のことである。
それは友人である飯田の場合なら足にエンジン機関が付いており、それはもう速く走れる。
そしてオレの場合は―――
『シャハハハハ!良いこと言うじゃねェか、飯田よぉ!オレ様がいりゃああのオールマイトだとか云う筋肉も一捻りよ、だろ
オレの腰にぶら下がっている瓢箪から少し甲高い声が発せられ、オレと天哉の話しに割り込んできた。
「
『ケッ!仕方ねェだろうが、こっちは暇で暇で退屈してんだ、たまには話に交ぜろや。なぁ、かまわねェよな飯田?』
「もちろんだとも!しかし、学校内での"個性"使用は原則禁止されているのだから、他のクラスメイトに聞かれないように注意しなければなるまい。本来ならば規則を破らぬよう注意するのだが…、守鶴くんもつらいだろうからな」
やはりいいやつだな……。
そんな天哉に迷惑をかけるのは心苦しいが有り難い。
オレの"個性"はこの瓢箪……ではなく、単に瓢箪に化けているだけで実際の姿は違う。
―――ここまで引っ張ってきてしまったが、ここいら辺で自己紹介をしておいた方がいいだろう。
オレの今世での名は『
個性は"砂漠"と呼称され、能力は発現時に生まれた"
容姿の方は原作と
…ほぼ、と言うのは実は原作と違い眠ると守鶴に体を乗っ取られるという心配がなかったために、不眠症に悩まされることはなかったので目の周りに隈がない。それと額に『愛』の文字も入れていない。
あとは、普通に眉がある。…オレも不思議に思ったが、たぶん守鶴の影響を受けなかったおかげだと考えている。原作のナルトも母親の胎内にいた時から、母親に封印されていた九尾の影響を受けていたためにヒゲが生えていたのだと思う。原作の我愛羅のほかの家族には普通に眉あったしね。
それら以外は我愛羅そのもの。
ついでに家族構成は父と母、それに二人の姉兄がおりオレを含めての五人家族。
転生時に言われた通りにオレが好きな漫画のキャラに転生させられた。
相変わらず前世の自分に関する記憶だけは思い出せないが、それでも自分が好きだった漫画のことくらいは思い出すことはできた。
―――思い出すことはできた…が、その記憶によると自分が転生したキャラと転生した世界はそれぞれ原作が違うはずなんだが…。
容姿及び能力は『NARUTO』の我愛羅、世界は『僕のヒーローアカデミア』。
"あれ"はたしかに転生させるときオレが好きな漫画のキャラに転生させるとは言っていたが、世界に関してはただ
つまり知っているというだけで、オレはこのヒロアカの世界についてはほとんど知らない。
まだ読み始めたばっかで、ほんの数巻しか記憶にない。
そんなのじゃあ碌に知らないのと同じだろう。
そんなわけで、この世界がヒロアカの世界だと気づいたときは驚いたし、なにより中学に入学してクラスメイトに飯田天哉の名前を見つけた時には運命を感じた。―――男に運命を感じてしまったとき、腕に蕁麻疹が出てちょっと意識が無限の彼方へと飛びかけたがそこは我愛羅クオリティ、ちゃんと周囲にバレないように堪えてみせたさ!
説明が長くなってしまったのでこれで最後にしよう。
オレはこのヒロアカの世界に我愛羅として転生し、そして目覚めた"個性"から守鶴という相棒を得た。
最初は転生させた存在から"原作に関われ"という指示が頭にあったが…、この世界で生きていくうちに自分の中にたしかな目標として確立された想いがある。
それは"ヒーロー"という生き方。
職業としてではない、その生き様に憧れた。
幼い子供の頃に抱いたその憧れを『
だからオレはヒーローになるために雄英を目指す。相棒と共に。
そのための第一歩が、オレと守鶴のヒーローアカデミア。
『おい我愛羅、聞いてんのか!オレ様をあのオールマイトとかいうおっさんと闘わせろ!どっちが強いかハッキリさせてやる!』
―――なんだけど、この相棒は血の気が多すぎるようで困る…。
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No.2 入試
雄英高校ヒーロー科
全国に存在するヒーロー科の中でも最難関を誇り、その倍率は圧倒的!
そんな化け物高校に入学するためには勉強ができるだけでもダメ。筆記に加えて実技でも高得点をはじき出さなければ不合格。
しかしそこは我愛羅クオリティ。
前世ではそんなに頭の出来はよろしくなかったが、今のオレは余裕で合格圏内。…とは言え、さすがに元の世界とはあちこちで相違点があるので混乱もあった。
実技試験、つまり"個性"を使用しての戦闘を視野にいれた試験。
これに関してはとくに心配していない。
なにせ自分が使う"個性"はなかなかに汎用性にも優れ、しかも強力。
おまけに試験内容にしても、すでに知り得ているので安心。なにせ、原作でも初期の初期なのでこればかりは覚えている。生まれてから十数年の月日が過ぎていようとも、この体は記憶力が良いようで忘れることなく思い出せる。
まぁ本当は推薦入試の話しもあったが、主人公の雄姿を見てみたかったので辞退しました。
推薦入試を受けてみないかという学校側からの話があったが断った。
だってその話を受けると、主人公が初めて個性を使う場面を見れないじゃないですか。多分、…というか絶対に試験会場は別になるだろうけど、そこはオレの個性を使えば覗き見が可能なので実際にこの目で見てみたい。
同じ中学校同士では試験会場が別々にされてしまうそうなので、主人公と同じ会場になる天哉がいる以上オレは別の会場だろう。
―――そんなことを考えているうちに雄英の校舎が見えてきた!
今日は実技試験を受けるために、ここ雄英まで来たのだ。
「―――これが雄英…か」
ウチの送迎車で雄英まで送ってもらい降車した際に思わず零してしまった言葉がこれである。
仕方がない、これは仕方がないんだ。なにせTVに映された姿等を目にしたことはあっても実際に目にしたのは今回が初めてなのであるからして…。
原作で見たあの建物が目の前にあると思うと、感動してしまうのは仕方がないことなのだ。…今までも家族や天哉に関しても感動しました。
何時までも感動していられないと思い、会場に向かうとする。
天哉とも校舎内で待ち合わせているので、時間に遅れないように歩く。―――が、その途中で特徴的な髪形の人物たちを発見した。
もっさりとした頭の人物と爆発したような髪型の人物。
あれはまさしく主人公ズ!
すでにツンツン頭の人物はさっさと行ってしまったので惜しくも会話の内容は聞き取れなかったが、これが初遭遇である。
…と言っても、以前にヘドロ事件が放送された際に映像越しにではあるが、その姿を見ている。しかし生で目にしたのは今回が初めてであるので感動ものだ!
それにしても主人公は足がガクガクで今にも転びそうだな。……ということは次の展開は―――。
「大丈夫?」
「わっ! え!?」
おお!主人公と、そのヒロインとの
危惧したとおりに緑谷が転びそうになったところを、彼女が個性を使って救う場面!
いやはや、やはり漫画で見た場面を実際に見ることが叶うとは、―――
※ ※ ※ ※
「我愛羅くん、君にしては珍しいな約束の時間を遅れるなんて」
「…すまない」
「いや、別に責めているわけではないのだが……。ただ、いつもなら約束の時間に遅れそうなら先に連絡してくるのに、時間になっても連絡がなかったので心配したよ」
あのあと彼らのやり取りを見終わってからも、感動のあまり時間が過ぎるのも忘れて立ち尽くしてしまった。
そのせいで天哉と約束していた時間が数分だが遅れてしまい、慌てて走る羽目に…。
「これから受けるのは最高峰たる雄英の実技試験だ!受験者たる我々はその実力を試される…!だから我愛羅くん!友人として共に切磋琢磨してきた僕たちの力を雄英の先生方に見て貰おうじゃないか!」
なんかすごい熱くなってる。
今、オレたちは試験開始前の講堂で指定された席に座り、そして普通に会話していたはずなのだが…。
話の途中から熱が入り始め、ついには声を大きくして語り始めやがった。
「ああ、そうだな天哉。今日という日のためにオレたちは共に鍛えてきた。…だが、ここはすでに講堂の中で周りにも受験生たちが大勢いるのだから少し落ち着け」
うん、少し緊張しているみたいだな。
無理もないか。
これから行われる実技試験の概要説明、原作でも天哉はピリピリしていて主人公にも噛み付いていたしな…。
いつもならもっと余裕もあったが、今日はさすがに緊張するなと言っても無駄かな?
「む…。すまない、我愛羅くん…。少々緊張しているようだ。だが君はずいぶんと余裕そうに見える、すごいな…」
自分でも緊張していることに自覚が持てたようだが、オレが緊張していないことにも気がついたようだ。
う~ん、まったく緊張していないわけでもないんだがな…。
「フッ、オレはあまり感情が表情にでるようなタイプじゃないからな…。そう見えるだけで実際にはオレも天哉に負けず劣らず緊張しているさ」
「そうなのか?いや、そうだな、ならお互い頑張ろうじゃないか!」
ふう、また熱くなって声が大きくなってる…。周りがオレたちの方をうるさそうに見てるよ。
ま、これも天哉らしいと言えばらしいのか。
そんな風に話していると、ついに講堂に雄英の講師が入ってきた。壇上に上がり大勢の受験生たちにいつものノリで話し始める。初めは興味本位でラジオを聴いてみただけなのだが、これがけっこうハマってしまった…!恐るべしボイスヒーロー…!
最初の滑り出しは受験生たちによる静寂によりお察しになってしまった。
…やはり雄英を受験するような優等生ともなると真面目くんばかりなのかね?本当はオレもプレゼント・マイクに向かって大声で応えたかったんだが、それはオレのキャラじゃないからと抑えてしまった…。すまない、すまないプレゼント・マイク…!
うん、まぁしょうがないね。
とりあえず…「質問よろしいでしょうか!?」…説明の途中なのに、手を挙げて立ち上がってしまった隣の席の友人は最後までマイク先生の話を聞いた方がいいと思うよ。
ふ~…。注意してたんだけど止められなかったか…。
しかも主人公にわざわざ注意もしてるし。
まぁ、その間オレもしれっと他人の振りして前を向いていた。なので天哉には悪いが、悪しからずにお願いする。
そして原作通りに説明が終わり、プレゼント・マイクによるこの雄英の校訓が伝えられる。
「かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!!
"Plus《更に》 Ultra《向こうへ》"!!
それでは皆、良い受難を!!」
――――――こ、これはニヤニヤが止まらない…!!
いや、本当にニヤついたりはしないんだけどね?我愛羅の顔でそんなことできないから、…できるけどしないから!だってこんな名場面を生で見聞き出来たらうれしくなっちゃうでしょう…!?
「我愛羅くん?もう他のみんなは移動し始めているぞ。僕たちも早く会場まで移動しなくては!」
「む…。すまない天哉」
おっと、またもや動きが止まってしまっていたか。
いかんいかん。これから試験なのだから集中しなければ!
この後は各々着替えてから会場までバスに乗って移動するらしいが…、オレには取りに行かなければならないものがあるから、それを取りに行く手間もあるから早めに出なければいけない。
※ ※ ※
そして天哉とはバス乗り場で別れ、オレは他の同じ会場の受験者たちと一緒に別のバスに乗り、実技試験が行われるそれぞれの会場まで向かった。
―――会場に到着してバスから降りた。
降りたはいいが…、これはすごいな……。
本当に街がひとつ丸々そっくりある…。
周りのみんなも目の前の光景に驚いている。そんな他の受験生たちを見てみると、やはりそれぞれ違うなと思う。服装も各々の学校の体操着を着ている者もいれば、特注品と思える物を着ている。
それに落ち着いている者もいれば精神統一をしている者もいる。
オレは身の丈ほどもある瓢箪を背中に背負い、服装は普通に中学のジャージを着ている。普段は小ぶりの瓢箪を腰にぶら下げているだけだが、今回は念をいれて大きめの瓢箪に化けてもらっている。
瓢箪は事前に家で砂を入れてきて、雄英に到着したときに預けておいた。
「守鶴、これから試験が行われる。前々から言っている通り、今回はお前にも少し働いてもらうことになる。わかっているな?」
『ああん?…ケッ、そういえばそうだったなァ』
こいつ本当に分かっているのか?
「今日の試験は、雄英に入学するための大事な試験なんだぞ。オレの力だけでも合格を狙えるだろうが、それでもお前が力を貸せば確実性が増す」
『フン!そりゃそうだろうがな…。オレは我愛羅と違ってどうにもヒーローってやつにそんな思い入れはねェんだよ。だから気が乗らねェ……ッつー訳で、やっぱ力貸すのはやめだ!』
!!?
こ、この狸!前から今回の試験には力を貸すように
『シャハハハハ、悪いな我愛羅!そういうことで今日はお前ひとりで頑張ってみな!手は貸さねェが、代わりに邪魔はしねェでおいてやるからよォ!』
「ハイスタートー!」
はぁ!?
「どうしたあ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?」
まじかー。
試験始まっちゃったよ…。
―――仕方がない。守鶴のバカの裏切りは悲しいけど別に珍しくないし、素直にお願いを聞いてもらえたことなんてないもんな。
本当にずいぶんと前から今日の事お願いしていたのに…。はぁ…。
他の受験生たちがみんなオレを一人置いて走り去ってしまった。
一人ポツンと取り残されることになったオレは、それでも余裕をもって行動に移ることにする。まずは瓢箪から砂を取り出し、砂を塊にした上に飛び乗りそのまま空を飛び街の中心を目指す。
バス乗り場で別れるときに天哉を尾行させていた砂の目のおかげで向こうの会場の様子がよくわかる。主人公が大慌てでポイントを稼ごうと必死に走っている。
あっ、1ポイントのロボを目の前にして立ち竦んでいる…。
片目を指でふさぎつつ向こうの様子を覗き見してる真っ最中。…いや、もっと試験に集中しろって話になると思いますがね?それでもオレにとっては重要な意味があるんです!
主人公の初めての個性発動シーンをこの目で見てみたいという……魂の奥底から燃え上がる欲求があるんです!!
―――もちろん、こっちはこっちで真面目にポイントを稼いでいますよ?
ズズズズズズズズズズ……!!
上空から捕捉した他の受験者たちが相手にしていないロボを狙い、足元の地中からオレの瓢箪から出した砂を使って作りだした砂をロボに纏わりつかせていく。これぞ
全身に纏わさなくとも、砂を関節部分に潜み込ませていけば簡単に拘束できたし、しばらくすると勝手に停止した。
向こうの様子を見ながらでも、こういう精密作業ができるくらいに個性の鍛錬を重ねてきましたからね!
それに危険そうなほかの受験生がいたら、そちらにも砂を向かわせ救助の真似事もしてみた。と言ってもそんな事態になる受験生なんてまずいないんだけどね。みんな盛大にロボをぶっ壊していっている。たまにその破壊されたロボの部品が気づいてないよその受験生に向かって飛んでいくのを防いでいるだけ。
今の時点で30ポイントくらいは取れているかな?他にも受験生たちには伝えられていないけど救助ポイントというのも見ているらしいけど…。そちらもそこそこ取れているだろし、おそらくすでにオレは合格圏内に入っていると思う。
腕を胸で組みつつ下を見渡せば、みんな一生懸命にロボを攻撃している。
派手に壊しているけど…、これって一応仮想ヴィランという設定らしいんだからそんなに派手に壊していいものなのかね?
仮想でも実際のヴィランも人なわけだし、それにマイク先生も行動不能にしろと言っただけで…破壊しろとは言っていなかった。なのでオレはなるべく傷をつけないように砂で拘束するだけに留めたんだが……いいんだよな?
ボオオォォォォォン!!!
「あれは…」
ちまちまポイント稼ぎしていたら突如巨大なロボが街中から出現した。
すごいな雄英…!
あんな巨大なロボを作れるとは、まさに恐るべし…だな。
0ポイントギミック。倒してもポイントにはならないお邪魔虫。
そう説明されたが、…さてどうしものか。前から存在は知っていたものの、オレ一人でも倒すことはできずともさっきと同じように機能停止までもっていくことはできるだろうが、それでも倒すメリットがないからどちらにしようか迷っていた。
う~ん、ほかのみんなもとっとと逃げて行って、逃げ遅れたような人もいないようだ。
やっぱ無視しよ、無視。
ここで守鶴が力を貸してくれていたなら、あれをどうにでもできたんだが…。その守鶴はやっぱりあれを見てもオレに力を貸す気はないようだ。
『お~、ありゃでけェな』
なんて言ってまるでやる気なし。予定通り守鶴が力を貸していてくれたら…。とも考えるが、まぁ今のポイントでも十分合格できるだろう。
それはともかく
主人公がヒロインを助けるために初めて発動させた……"ワン・フォー・オール"
やはり凄いな。あの巨大なロボがパンチ一発で粉々だ…!純粋なタダの握りしめた拳の一撃がここまでの威力を発揮するとは、わざわざ向こうの会場まで砂の目を送ってまでして見た甲斐があった!
「終・了~!!!!」
プレゼント・マイクの終了宣言が聞こえる。これで試験も終わりか。
今日は沢山良いものが見れた。
これからも雄英に入学すれば、心躍るような機会がいくつもあるだろう。今からそれが楽しみで仕方がない。
『なんだ、これで終わりかよ…。おい我愛羅!この後は飯田連れて、なんか旨いもんでも食いに行こうぜ!』
……このバカ狸が。結局、今日は何一つ働きもしなかったやつが図々しい。
それでも憎めないからしょうもない、何だかんだでこいつとも長いからな~…。
「…ふう。わかった、天哉にも声を掛けて何か食べに行くか」
『おお、そうこなくっちゃな!』
うれしそうに声を弾ませやがって…、これでオレの一番の友なのだから、
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No.??? 我愛羅 英雄伝
まぁ昨日の夜に風呂に浸かりながら簡単に思い浮かんだ内容なんで、あんまり期待しないでください。
という訳で、今回は中身が我愛羅くんという場合です。
とある森の中、ある家族が休日を利用してキャンプに訪れていた。
近くにはきれいな川も流れており、設備も整えられたそこそこ有名な観光名所。
街から少し離れたところに位置しているので、街の
そんな場所に遊びに来ていた子供がおとなしくしていられるだろうか?
まだ幼い子供だったので、一人で遊ばせることはできないので母親が一緒だったが、それでも元気よく森の中に探検しに向かった。
木漏れ日の射す森の中、少し歩き進むたびに母親に楽しそうに話しかける子供の姿は、見る者に微笑ましさを与える光景であるとともにとても暖かな心地にさせるだろう。
そうして森を進む間も、母親からあまり森深くまで入りすぎないように注意を受ける子供はその言葉に多少の不満を覚えるが、それでも大好きな母親の言葉に従いつつも本人にとっては大真面目な気持ちで探検を続ける。
やがて、あちこちに点在する茂みの横を通り過ぎようとすると……その茂みからかすかな声が聞こえてくる。
気になって茂みを掻き分けて入ってみると、そこに居たのは狸だった。
だがその狸は見るからに深く傷ついており、体のあらゆる箇所から血が出ていた。
「…た、大変だ。母様にお願いして手当てしてもらおう!」
一目見た瞬間に、目の前の傷ついた狸を助けてあげたいと思うも、自分ではどうすることもできないと理解し近くにいた母親にお願いしようとする。
子供から見ても、この傷の深さはとても危険だというほどに狸は瀕死の状態だ。
―――だからその狸が起き上がり…、ましてや自分に向かって危害を加えようとするなんて夢にも思わなかった。
『人間…!人間は……大嫌いだ!!!』
息絶える寸前の肉体を、目の前に憎む人間が居るという理由で限界を超え、胴体は変わらず伏せたままだが、頭だけを子供に向けて目を見開く。
その瞳には人間という存在に対する憎悪の念が溢れ、もはやそれが何も関係ない…ましてや自分を何とか助けようと動こうとしていた子供に向けられた。
食いしばられた口からは血とよだれが垂れ、呼吸することも難しいのか、微かな…それでいて激しい唸り声が発せられている……。
その瀕死の…だからこその最期の感情は一層深く重い。
そして、その憎悪の感情を向けられた子供は立ち竦んで動けないでいた。
動物が人の言葉を発したことにも気づくことなく、
まだ幼い、
これが大の大人でも、これほどの負の感情の発露を至近距離で受ければ身も竦む。…もしかしたら腰も抜かすかもしれない。
『―――死ねない。このまま人間どもに復讐することもできずに、死ぬなんてことはできない…!!』
その言葉を口にした次の瞬間、もはや身動きできないはずの狸が子供に向かって飛ぶように行く。
「……えっ?―――うわぁ!!?」
半分透き通ったかのような体になった狸が子供の身体の中にその身を投じる。
本来の狸の身体は、先ほどと同じ場所に横たわっている。横たわってはいるが、今はすでに辛うじて動かされていた腹のふくらみもなく、呼吸は途絶え微動だにせずにいる。
明らかに死んでいる。
しかし―――
『…!……これは…⁉クク、この体があれば―――人間共を皆殺しにしてやれる!!』
子供の口から出てきたのは、死んだはずの狸が発していた声そのものだった。
「―――もう、こんなところに居たのね。お母さんから離れすぎちゃダメって言ったでしょ?そろそろお父さんたちのところへ戻りま――――――ッ!!?」
近くにいた母親が、いつまでも茂みから出てこないので心配して近づいて来たが、子供の様子に気づくことなく声を掛けた。
……だが、突如子供の足元から砂が噴出し…、近づいていた母親は砂に押しのけられることになった。
『シャハハハハハハハハ!!!こいつはいいぜ!この体の個性はなかなか使えるな!!』
噴出した砂はやがて収まるが…、子供がいたはずのその場所から現れたのは、明らかに人間の姿をしていなかった。
身の丈2mを超す巨体。
しかしその体を構成しているのは砂によるもので、しかも腹以外の体中に紋様が張り巡らせられており禍々しい。
そしてその容姿を言葉で表すならば…、狸が一番近いだろうか?
大きく張り出した腹に、とがった耳に大きく裂けた口。両腕は大きく太い、しかし足はあるのかどうかわからない。
なにより目を引くのは、その巨体と同じくらいの大きさの一本の尾。
そんな砂体の化け狸は、目の前で呆然とする母親目掛けて―――
ザン!!
『フン、これでまず一匹…!』
一本一本が太く鋭い爪から繰り出された爪撃。
母親は振り下ろされた爪によって致命傷を負う。
「…ごぼっ」
深い切り口からいくつもの内臓を損傷した母親の口から血があふれ出す。
…母親には自分の身になにが起きたのか、いまだに理解できていまい。
ただ子供と共に森を散策していただけのこと。
それだけ、…ただそれだけのはずだったのに……。
今は見上げるような大きさの化け物に傷を負わされ、何よりも愛する子供に何が起きたのか知る由もない。
けれども―――
それでも自分にはまだできることがある。
その想いから―――
個性を、最後の力を振り絞って……。
「どんなことがっても私が守っていくからね…
…我愛羅」
彼女、加瑠羅という名の母親の個性は"想念"というらしく。
その能力は、彼女が想う相手に対し庇護の加護を与えるそうだ。ただしその庇護も完璧ではなく、どんな危険からも守れるという訳にはいかない。
例えば転んでもケガをしない、向かってきていたはずの落下物がなぜか逸れる程度。
その能力を死の間際に、目の前の化け物の体内に感じる我が子供に向けて全力で……それこそまさに全身全霊を賭けて施す。
『あぁ…?てめぇ何を言って………!!!??』
こと切れる直前、母親は安堵の微笑みを浮かべる。
目の前の化け物の身体が徐々に崩れ去り、その中から我が子の姿が見えたからだ。
…そして―――。
『クソ、クソクソクソ!!―――まだだ…、まだオレは終われねェ…!絶対にまたこの体を奪って…人間共を皆殺しにしてやるぁぁああああ!!!!!』
崩れる自らの身体を見て、事ここに至り今回は目的を果たせそうにないと理解した化け狸は、次こそは完全に体を乗っ取り人間たちに対する復讐を果たさんと怒号を上げる。
最後に発した怒号は森の木々を突き抜け、その先にまで響き渡るほどの絶叫だった。
やがて完全に体は崩れ去り、後に残ったのは砂の海に浮かぶ子供と横たわる母親。…それに血だらけで伏している狸の骸。
その後は化け狸の絶叫を聞きつけた父親と、他にキャンプに来ていた人々が協力して二人を探し出した。
―――それから十数年後
日本で最も人気があり、そして最も難しいと言われる雄英高校ヒーロー科の入学試験会場に一人の少年の姿があった。
所々跳ねた赤い髪に、白皙の美貌という言葉が出てくるような肌の少年。
ただし一番特徴的なのは、目の周りに浮き出た濃い隈だろう。…あと、眉がないのもかな?
身体的な特徴とは別に、彼は自身の身の丈ほどもある瓢箪を背中に背負っていた。
今は概要の説明も終わり、実技試験の行われる会場に辿り着き、後は開始の合図を待つだけの状況。
彼の周りにいる他の受験者たちは、ある者は体をほぐし、中には精神統一を図っているものもいる。
そんな中で彼は自然体でいて、胸の前で腕を組みただ静かに時を待つ。
そして突如宣言される開始の言葉。
誰もが一拍の呼吸、始まったことに気づかずに我を忘れている。
しかし始まりを告げられた瞬間に、彼だけは即座に動き出していた。
周囲の受験者たちに先んじて走り出した彼は、さっそく飛び出してきた標的に向けて瓢箪に詰められていた砂を纏わせる。
流動的に動く砂は瞬時に標的を拘束し、ある程度覆った砂で圧力をかけて破壊していく。
あっさりと壊れる標的を、感情を伺わせない表情で見やると早々と次の標的向けて駆け出していく。
そうして次々と現れる標的を、次第に追いつき始めたほかの受験者たちと共に狙う。
ゴオ… ボオオォォォォン!!!
開始からある程度の時間が経過すると、説明されていた通りに邪魔な相手が出現した。
それは巨大という表現が当て嵌まる大きさであり、相手をしても試験には無意味なこともあり、彼以外の受験者たちは即座に避難を始めていた。そのため周囲には、すでに彼以外の人の姿もなく、また逃げ遅れたような者もいない。
―――彼には、巨大な敵を前にして逃げ出すような真似は到底選ぶべくない選択だった。
かつて大好きな母をその手で殺し、そしてその後も……、今現在でも苦しめさせられている相手を思い起こさせる相手を前にして彼がとった行動は―――
【
あらかじめアスファルトの下…地中にある岩石や鉱物を砕いて砂に変えていた。
組んでいた腕を解き、腕を振り上げ大量に作りあげておいた砂を大噴出させ、相手に纏わせていく。
【
その巨大な体躯を覆い拘束を終え、もはや身動きの一つもできなくなった。
…これがただの八つ当たりに過ぎないとしても、しょせん相手は命を持たない機械仕掛け。
【
ドッ!!!!
一片の呵責もなく、両手で握りつぶす動作が行われたと同時にその巨体が圧壊する。
「…お前もこれぐらい簡単に潰せたらよかったんだがな、守鶴」
幾らもしないうちに試験終了の声が会場に響き渡る。
それを聞きつつ、彼は踵を返し出口へと歩き出す。
彼がヒーローを目指すのは、偏に母に報いんがための一念。
母を殺した化け狸に対する憎しみもあるが…、それでも幼き自分を化け狸から救い、そして今に至るまで…そしてこれからも自身の中に存在し続けるだろう母の愛。
自身に注がれた母の愛は今も自分を守り続けてくれている。
だから今度は自分も他の誰かを守るためにヒーローを目指すことにした。
―――けれど、今だに心に燻り続ける化け狸への憎しみの炎は燃え続けている。
どうでしたでしょうか?
たいしてプロットもないのですが、それでも自分としてはなんかこっちのほうが展開が盛り上がりそうな気が…。
本編のほうは軽めといった感じですが、こちらは重めです。
いちおう活動報告に考えた設定を上げておきます。
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No.3 入学した!
先週は忙しくて帰るとすぐ寝てしまい執筆時間が取れず…、今週は私事で忙しくこれまた時間が取れずでした。
いちおうこれからも書き続ける所存ですので、どうかこれからもよろしくお願いします。
…ただ、今日投稿した二つは急いで書き上げたので、だいぶ荒いと思いますのでご容赦ください。
あ、それと以前に投稿したものにある設定を付け加えたのでご報告させていただきます。
※今作の我愛羅くんには眉ありということにしてもらいます。No.1に加筆しました。
※入試試験で天哉くんと同じ会場ではおかしい、という感想をいくつかいただいたので今回加筆して別の会場であるということをさらに強調させました。No.2に加筆しました。
「我愛羅くん!君はあの実技試験の構造についてなにか気が付かなかったかい!?」
これが試験終了後に再会した友人の第一声だった。
ああ、そういえば天哉はこの試験で見ているのがロボを倒した点数だけじゃないってのを、主人公のとった行動から気が付いたんだっけ。
「…天哉、試験が終わって再会した友人に向かって一番に言うセリフか、それが。…まぁ、天哉が聴いてるのはさきほどの試験で雄英が見ていたのがロボを倒した点数だけではなく、ヒーローとして取るべき行動をとれていたかどうかも見ていた、といったところか?」
そう答えると、天哉は悔しそうな顔になり…。
「ううむ、やはり我愛羅くんも気が付いたか…。実は―――」
それから語られたのはやはり主人公がとった行動についてだった。ヒロインを助けるために誰よりも早く助けに向かった主人公の行為を、天哉は自分でも試験でなければ…と、思ったらしいが…。そこで試験としてこの行動は雄英にどう見られるかを考え、結果主人公の行動はヒーローを目指す者として当然の行為だと思いいたったそうだ。
「そうか、それでそんなに悔しそうなのか天哉は?」
「ああ、僕はこれは
おおう。
ずいぶんと深く思い悩んでいるようだが…。ま、これが天哉というやつの良いところでもあるからな。
「天哉、これから一緒に食事でも行かないか?」
「は?いや、我愛羅くんいったいなにを……」
「いやなに、守鶴のやつが天哉を誘ってこの後何か食べに行こうとうるさいのでな。…そのさいにでもお互いに今回の反省点を話し合おうじゃないか」
「…我愛羅くん…。…わかった、一緒に食べに行こう!―――ただし守鶴くん!前みたいに食べ散らさないようにしたまえよ!?」
『ケッ!さっきはうじうじしてたと思ったら、今度はさっそくお小言かよ!』
ふふ。少しは元気が出てきたみたいだ、今はもう守鶴とわいわい言い合ってる。
これで後は合格・不合格に関わらず通知がくるのは一週間後くらいか。……大丈夫…だと思うんだけど、それでも心配だな、さてはてどうなることやら…。
『おい我愛羅!なにぼさっとしてんだよ、さっさと食いに行くぞ!』
おっと、今は心配するよりも反省会兼打ち上げだな。
※ ※ ※ ※
―――一週間後
待ちに待った通知がようやく届いた。
あれから自己採点も天哉とともに行って、二人とも筆記の方は問題なく合格圏内を上回っていた。
なのであとは実技での点数がどれほど取れたかなんだが…。
というかどう見ても封筒の中に入っていた丸い物体は
『やあやあ、初めましてだね。ネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は―――校長さ!」
…オールマイトじゃないんかい!
ドキドキしてたのに…。オールマイトが投影されると思ってたのにガッカリだよ…。
てか、校長ではありませんか……なんで校長?
『校長として君に入学試験合格を伝えさせてもらうよ!おめでとう!』
―――いよっし!!
正直落ちるとは思ってなかったけど、それでも合格を伝えられてやっと安心できた。
『ん~君は筆記に関しては文句なく合格さ!実技に関しては……これも文句なく合格だよ!』
『我々雄英が実技試験で見ていたのは
…さて、と。
投影が終わって映像が消えたのを見届けてから、さっそく天哉に電話をかけてみようかな―――
Pi・Pi・Pi・Pi
…?
おおう、じつにタイムリーだ。電話しようと考えた矢先に向こうからかかってきたよ。
「我愛羅くん今大丈夫かね!」
電話に出たらすごい勢いで喋ってきた!
この後のことは特別話すこともないと思う。
互いの合格を喜びあい。やはり試験では救助活動も審査されていたこと。また学校で会おう…といったことを話して終わった。
そして家族にも雄英に合格できたことを報告した。
家族全員が喜んでくれたし、それに今年は姉も大学に入るのでそのお祝いもあるからけっこうお祝い事が目白押しになるようだ。
―――守鶴はどうしたのかって?
あいつならオレのベッドの上にいるぜ。…いるんだが…、こいつは合格を教えても『へえそうか、よかったな』の一言で終わらせて後は昼寝に戻りやがった。
ムカついたのでこいつの額に筆で面白い紋様を付け足してやった。ちょっと胸がスッとした。
※ ※ ※
なんやかんやで、春。
ようやく待ちに待ったこの日がやってきた。
今日も今日とてウチ専属の運転手さんによって雄英まで送って来てもらった。今までも雄英までほぼ毎日送迎を繰り返してきたベテランなので実にスムーズに来れた。
「じゃあな我愛羅。あとはさっき言ったとおりに行けばクラスまで辿り着けるじゃん」
「すまない兄様。また帰りは一緒ということになると思うが…では」
「ああ、またな」
実は兄のカンクロウもまた雄英生なのである。
姉はヒーローになる気はなかったのだが、それでも雄英の普通科に去年まで在籍しており兄と共に送迎されていた。そして今年入学になったオレが、その入れ替わりになるような形で兄と共に送迎されることになった。
そのお陰で、すでに2年通っていてこの巨大な雄英内部をよく知っている兄からクラスの位置や、他の施設についても教えてもらうことができた。
…去年の1年生のクラスが、とある先生によって全員除籍処分にさせられていたことも教えてもらった。
実際に当時を知る人から話を聞くと感じるものがあるな…。
※ ※
「おお、我愛羅くん!君と同じクラスになれてよかった!それと今日から同じ雄英生としてよろしく頼む!」
「…ああ、中学から引き続きよろしく頼むぞ、天哉」
1-Aという教室に辿り着き、なかなかに大きい扉を開けて入った瞬間、目が合った天哉に急接近されてさっそく挨拶された。
『おい、オレ様のことも忘れんなよ飯田!』
「おっと、これはすまない!もちろんだとも、これからもよろしく頼むよ守鶴くん!」
いつも通りオレの腰に下げられた普通サイズの瓢箪から、天哉に向かって声を掛ける守鶴。最初の頃はともかく、少し前からけっこう天哉のことを気に入りかけ始めているようで、天哉との掛け合いも面白がっているみたいだ。
他のクラスメイトの姿はまだまばらでしかない。
どうせ天哉が一番乗りをしたのだろうが、彼はいったいどれだけ朝が早いんだ?
「そうそう我愛羅くん、席順はすでに決められているようだ。ボ…俺の席は一列目の4番目だが、君の席は2列目の2番目だ」
「そうか、ありがとう。…天哉とは少し離れてしまうみたいだな、残念だ」
少し離れた位置になるみたいだが……、てかやっぱり通常通り20席しかないよ。
―――う~ん、ある意味恐れていたことが現実になったか。
オレがこの雄英に入学した場合、本来の原作から乖離した展開になるんじゃないかと心配していたんだけど…。実際にオレがAクラスになって、席も規定通りの数しかないってことは誰かが落ちたってことになるんだよな…。
2クラス合わせて40人、その中から誰が落ちているかは確認してみるまで分からないけど…、とりあえずクラスの座席表を見てみる限りだと―――なるほど。
口田の名前がない。…すまない……とは思っちゃいけないんだろうなぁ。
彼の名前を見つけられないということは、彼は雄英に入学を果たせなかったか…、もしくはB組の誰かが落ちて代わりに彼がB組に入ったかのどれかなんだろうけども……。これは自分一人が抱える疑問。オレ以外の誰かしらも持つことのない疑念。
…これはもうどうしようもない事柄。
この件については以前から懸念していたが、それでも雄英に入ろうと決めたのはこのオレ自身。オレという存在が入れば、別の誰かが入ることができなくなる。
―――なんてシリアスに考えてもみたが、どっちみちこの世界は原作から外れていることはわかっていたことなのでオレがああだこうだと悩んでみたところで無駄なのだ。
なにせオレの家族なんて本来この世界の大本ではいない筈なのに存在している。オレも意図しないうちに天哉と遭遇し、そして友達になった。
だから考えるだけ無駄なのだ。
本来ならこうだった、とか。原作通りならこうなっていないければおかしい、だとか。そんなことをいちいち気にしていたらオレは何もできなくなってしまう。
まったく気にしないなんてことはできないけれど…、どっちみちオレはこの世界の原作なんて碌に知らないんだから勝手にすることにする。
『……、…い!』
…まぁ、一応この世界の主役が誰かってのは知っているので、彼の周りでちょっとばかり役に立つ友人キャラとして活躍できれば御の字だろう。これでもオレはけっこう鍛えてきたので、序盤からでも活躍できる自信がある。
なにせオレの個性は砂だからね。砂ってこれでいてなかなか……―――
『おい我愛羅!!さっきからなに呆けっとしてんだ!飯田のやつ、なんか揉めてるぞ!』
―――ッは!
「―――本当にヒーロー志望か!?」
おう…。またやってしまった…。
「すまない守鶴…。すこし考え事をしていた…」
『おいおい…、お前このごろどうしちまったんだ?ったく、これで本当にヒーローなんてのになれんのかよ…?』
ムムム……守鶴にヒーローになれるかどうかなんて心配をされてしまうとは…。
それにしても、いつの間にかクラスメイト達もほとんど揃っていている。しかも、天哉が話していたのは爆豪じゃないか。…そっか、もう始まっていたのか……ということは。
お、居た。…天哉も気づいたか。
「俺は私立聡明中学の………」
「聞いてたよ!あ…っと僕、緑谷。よろしく飯田くん…」
ほうほう!
ふむ、やはり原作通りに話が進むようだな。いままで確認できたのは放送で見たヘドロ事件と、あとは砂浜のゴミ片付けと入学試験のさいにこの目で見た時くらいしか主人公の行動を追えなかったからな。
しかし今のやり取りを見る限り、原作通りの会話が行われているようだ。…もしかしてオレが関わらないとこのまま原作通りの展開が行われるだけで、なにも変わらないなんてことはないよな?
「ふむ、オレも自己紹介でもしてきた方がいいと思うか?」
『ああ?…クク、お前みたいな人見知りが自分から初対面のやつにあいさつに行こうだなんて、どんな心境の変化だ?ワハハハハハハ!』
…守鶴に笑われてしまった…‥。
そりゃオレは昔から初めて会う人間相手だと、うまく話すことができなかったけど…。しかも自分から話しかけにいくなんてまったくしたことなかったけど…。そんなに可笑しいか?―――うん、おかしいな…。
キーン コーン カーン コーン…
あ、チャイムが…。しかもヒロインすでにいるし…。
「今日って式とかガイダンスだけかな?先生ってどんな人だろうね、緊張するよね」
……いやいや、君の後ろ…床になにか居るよ?オレの席からだとよく見えるんだけど、なにかもぞもぞとしたものが君の後ろにいるからね?
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」
それから発せられた言葉にようやく他の人たちも気づいたようで、みんなして同じ気持ちを抱いたと思う。クラスみんなが初日から一体となって同じ気持ちを抱けて幸先良いね!―――それはないか…。
んー、この人が担任の先生か…。
あの去年の一年生を受け持った先生。
そしてこれから行われるのは、あのテストということになるんだろうな。今日までいろいろ鍛えてきた成果が、やっと少しは発揮できる。楽しみだ。
『…なぁ我愛羅よぉ、本当に
「―――守鶴、あの人はたしかに雄英の教師だ。だから頼むから静かにしていてくれ…!」
疑問に思う気持ちはわかるけど、頼むから声に出さないでくれ!ああほら、近くの人が頷いちゃったじゃないか…!
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No.4 主人公と知り合えた
「担任の
ぼさぼさ頭で無精ひげを生え散らかしている、物凄くくたびれた感を漂わせている男から発せられた担任宣言に驚くクラスメイトのみんな。
「早速だが。
本当に何も説明なしに用件だけを伝えて行ってしまう相澤先生。…てか、合理主義にもほどがあるでしょうよ。
「我愛羅くん、何が何やら分からないが…。それでも先生の仰ったとおりに着替えてグラウンドに向かうとしよう」
「天哉…、ああ…そうだな。更衣室の場所は兄に聞いておいたから、まずはそこに行こう」
一応こんなこともあろうかと…こんなこともあろうかと!送ってもらう車の中で兄からさりげなく他の施設の場所と一緒に更衣室の場所も教えておいてもらってあったのだ!
―――まぁ案内表示にしっかり載っているからそんなに意味なかったんだけどね。
※ ※
そしてグラウンド。
「個性把握…テストォ!?」
入学式もガイダンスもすっぽかしてA組のみがグラウンドで個性把握テストを受けることになった。…それにしてももう一つのB組だけで入学式をやっているのかと思うと、それもそれでなんかシュールだと思うな。
雄英の“自由”な校風が売り文句というのを先生側にも当てはめてのこのテスト。たしかに中学時代というか、今まで特定の場所以外での個性使用禁止という規則があったおかげで満足に個性を使う機会なんてなかった。それは体力テストも然り。
しかし今回―――
「爆豪。中学の時、ソフトボール投げ何mだった」
「67m」
「じゃあ“個性”を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ」
相澤先生からボールを投げ渡された彼が地面に描かれた円の中に入る。
「思いっ切りな」
「んじゃまぁ…―――死ねえ!!!」
おお~、すごいなぁ。ボールが物凄い速さで遠ざかっていくのもそうだけど…、彼が本当にあの掛け声を上げるのも凄い。
そして計測された飛距離を相澤先生が読み上げられると、クラスのみんながわいわい騒ぎだす。
ただし、ある一人が言った「面白そう」という言葉が出ると…。
「………面白そう…か」
おおう、やっぱりけっこう怖いよこの先生…。
「ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」
雰囲気も怖いけど…なによりあの眼が……。
「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「「「はあああ!?」」」
「生徒の如何は先生の“自由”。ようこそこれが―――雄英高校ヒーロー科だ」
赤く目が光ってらっしゃる……。怖い…。……あ、一応守鶴が変化してる瓢箪は視線から隠しとこ…。
※
そうして始まった個性把握テスト。
初めに50m走なのだが…、オレよりも先に走った天哉は原作よりも少し速いタイムを取れたようだ。
中学の時に天哉とはよく一緒にトレーニングを共にしていたので、その時にいろいろと手助けを行ったおかげかな?
「なかなか早くなったじゃないか天哉」
「うむ、だが50mじゃ速度を出し切れんからな。まだまださ」
なんか納得いってなさそうだけど、それでも充分早いと思うんだけどなぁ…。
「我愛羅くんももう次だろう?君なら最下位になる心配はしていないが、それでも応援させてもらうよ!」
「ああ、ありがとう天哉」
ただし走る前に、腰にぶら下がっている重りを外しておかないとな。
「…そういう訳だから、大人しくしてるんだぞ守鶴?」
『フン。……わかったわかった、大人しく待っててやるよ』
ジッと睨みつけて、ようやく素直に大人しくしていてくれると言ってくれた。素直に聞き分けてくれればいいんだが…、この狸はへそ曲がりが過ぎて素直に「うん」と言ってくれた試しがない。
―――さて、オレの番なわけだが…。
個性は使わずに走る。…で、行こうと思う。
「ヨーイ……スタート!」
ダッシュ!
一緒に走ることになった人を置き去りに、あっという間にゴールを切る。
天哉とほぼ変わらないくらいのタイムを出せた。
「おいおい!お前すっげぇ早いな、なにかそういう個性なわけ!?」
「…いや、ただ単にトレーニングで鍛えただけだ」
そう、オレに遅れてゴールした電気の個性の彼が聴いて来たので答えたが、オレは体に過負荷を与えても大丈夫そうな体に成長した後は個性を使って…つまり砂を用いたトレーニングを集中して行ってきた。いわゆるウェイトトレーニング。体に重しになる砂を纏わせてトレーニングを行い、徐々に量を増やしていくという鍛え方をしてきた。
その結果、それはそれは見事な筋肉を手に入れることができた。ちゃんとつける筋肉の種類を絞り、目標に沿った筋トレを行ったので、オレの身体は細身ながらも原作の我愛羅ばりの動きができるようにまでなった。
そして次の握力測定でも……と、思ったけどこれは砂を使って圧を掛けてみることにした。
測定器の握りの部分を砂で覆って―――
メキャ!
…おっと。
「我愛羅くん!?学校の備品になんてことを…」
「…すまない。わざとじゃないんだが…」
測定器を一つ壊してしまった。―――まぁこれに関しては測定不能という判定をもらった。
次は立ち幅跳び。
宙に浮かせた砂の塊に飛び乗ってそのまま行こうとしたら無限判定もらった。
次、反復横跳び。
…普通に体使って跳んだ。さすがに残像はでなかった。
そして
ここでオレ以外で初めて無限の判定が出た。もちろんメインヒロインが出した記録である。
…ちなみにオレも彼女の前に無限判定を出した。砂で作った手でボールを握って、そのまま地平の彼方まで…いや、さすがにそれは無理だから、せめて校舎の外まで運ぼうとしたらその前に先生に止められた。
ここまでパッとしない成績しか出せてない彼…。
主人公の彼はこれまでの種目であまり良い成績を出せていない。他のクラスメイトのみんなは大なり小なり何らかの種目で好成績を出しているのだが…。
「緑谷くんはこのままだとマズいぞ…?」
「ったりめーだ、無個性のザコだぞ!」
ついには天哉からも心配の声が上がる。それに応じる彼の言う無個性発言に―――
「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」
「は?」
オレもすぐ近くにいるので会話は聞こえているが…。
それよりも彼の挙動に注意がいってしまっている。
うん、初めの一投を投げたが…結果はやはりだ。
先生の眼が赤く光っている。
「“個性”を消した」
露わになった先生の首にかけられているゴーグルを見た主人公の彼が、先生のヒーローとしての名前を口にする。さすがヒーローオタク!
そしてみんなが先生のヒーロー名を知り騒ぎ出す中、相澤先生は彼に指導という名の勧告を受ける。
「指導を受けていたようだが、どう思う我愛羅くん?」
「除籍宣告だろ」
「…あれは、天哉の言う通り指導でもあっているだろうが、そこの彼が言っていることも合っていると思う」
でも、あそこでブツブツひとり言をしながら考えに没頭している彼は、こんなところでつまづくヤツじゃない。
だからオレは心配せずに安心して彼の投球を見させてもらう。
「見込み…ゼロ……」
相澤先生がつまらなさそうにそう口にしているのを横目にしつつ、彼の指がボールから離れる最後の瞬間―――
「今」
ほらねほらね!
これでこそまさに主人公!
「あの痛み…程じゃない!!」
「先生……!まだ……動けます」
「こいつ……!」
お~かっこいい!
最後の瞬間に指先のみでボールを弾き飛ばした。たったそれだけの動作だけど、それでも本来なら一朝一夕でできることじゃないだろう?それをこの土壇場でやってみせるんだから、これぞ主人公って感じだねぇ。
「やっとヒーローらしい記録出したよーー」
「指が腫れ上がっているぞ。入試の件といい…、おかしな個性だ……」
「スマートじゃないよね」
「………」
近くの人たちがそれぞれ感想を口にしているが、そういえばこの後の展開は―――
「………!!!」
横向いたら凄いビックリしている顔を見れた。
「どーいうことだ、こら、ワケを言えデク、てめぇ!!」
「うわああ!!!」
止める間もなく掌から爆発を起こさせながら走って行ってしまった…。
「んぐぇ!!」
ははは。なんか面白い捕まり方してる。
先生の個性で爆発も止められているようだし、捕縛布を巻かれて動けないようだ。
…ちょっといい気味だと思ってしまった。彼が走り出すときに近くにいたせいで爆風で煽られたもんで。
さてと、この後の種目はなんだったか?
いやまだボール投げ終えていない人がいるのか……忘れてた。
※
残りの……もう何ていうかボール投げのインパクトで他の種目を残りものとしか思えなくなってしまったな。
えっと、持久走はこれもただ走るだけでもよかったけど、いちおうこれ個性把握テストだし個性を使ってみようと思う…ので、砂に乗ったオレ自身は腕組んでみんなの頭上を悠々と飛んでみました。
―――罪悪感が半端なかったです。
約一名を除いた他のみんなに対して罪悪感を感じた。…その一名はもちろんバイクに乗っていた彼女のことです。
みんな一生懸命走っている中を、上から見下ろしながらトラックを飛んで行くのは堪えた…。
……はい、次。
上体起こしに関しては特になにもない。普通に上体起こしをした。
最後。
長座体前屈は…、背中を砂で押して数字を稼いだ。そこそこ伸びた。
これで全種目が終了した。
※
全種目が終了し、これから相澤先生による結果発表が行われる。
「んじゃパパっと結果発表」
軽い、仮にも最下位除籍処分なんて重大を伝えようとする前振りとしては軽すぎだろう。
「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」
開示されたものを見ると…、へぇ…オレが1位か…。―――って、オレが1位かよ!
まぁ、そういえばオレもいくつか測定不能で無限なんていう判定受けてたからそうなるのも当然…なのかな?
「ちなみに除籍はウソな」
そしてまたえらく軽い感じでウソだと話す相澤先生。
「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」
「「「はーーーーー!!!??」」」
ぶっは!!
すっげぇな主人公の顔!思わず表情が崩れそうになってしまったぞ。
他のクラスメイトたちも驚いてるが、彼が一番凄い驚きようだな。ま、それもしょうがないか。彼の成績は最下位、先生の宣言通りなら除籍されてしまうところだったわけだしな。
「あんなのウソに決まってるじゃない…。ちょっと考えればわかりますわ…」
うん?ああ、彼女はたしか物を作りだす個性の……。常識で考えれば彼女の言葉は正しいが…しかし―――
「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ」
そう言って先生は立ち去ろうとする…が、その前に主人公に保健室の利用書を手渡す。
立ち去ったのを見届けてから主人公に言葉をかけてみる。
「よかったな。雄英に通っている兄から聞いた事があるがあの教師、たしか今までに100人以上を除籍させてきた先生らしい」
「「はあ!!?」」
おっと、近くの人にも聞こえてしまったか。
「が、我愛羅くん、その話は本当かい!?」
「ああ、なんでも去年ではとうとう一クラスを全員除籍にしたと聞いた」
話を聞いてたらしい天哉にも聞かれたので答えたが、去年の一年生は今では一クラスしか残っていないそうだし、その前から度々除籍処分を行使してすでに通算で100人以上を除籍してきたそうだ。
…ちょっとこの場で話したのは軽率だったかな。オレの発言で周りがざわついてきてしまった。仕方がないので主人公の彼に早く保健室に行った方がいいと促して、天哉を誘って教室に戻るとする。
更衣室が混む前にさっさと行こう…。
※ ※
時間は流れ、今は下校時間。
校門前までしか共にいけないが、天哉と二人で校舎の玄関を出る。すると、目の前にずいぶんと落ち込んだ雰囲気を漂わせる背中が見えた。
「疲れた…!!」
「指は治ったのかい?」
「わ!飯田くん…!うん、リカバリーガールのおかげで…」
早速とばかりに天哉が主人公の彼の肩を掴み話しかけた。よし、これならオレも自然な流れで…!
「そうか、それはよかった。…ああすまん、オレは天哉の友人で風影我愛羅と言う。よろしく頼む」
…自然だったよな?
「あ…うん、よろしくね、僕は緑谷」
よーし、これで主人公の彼…いや、今はもうお互いに自己紹介し終えたんだからこれからは緑谷と呼ぼう!
「しかし、我愛羅くんが言っていたが本当にあの先生は…「おーい!」…む?」
「駅まで?待ってー!」
天哉が話している途中にメインヒロイン来た!これで彼女ともお知り合いになれる!
「君は∞女子」…天哉、それならオレは∞男子か?
「麗日お茶子です!えっと飯田天哉くんに、あなたは…」
「オレは風影我愛羅という、これからよろしく頼む」
ふ、オレの方を向いて困った顔をされてしまったのですぐさま自己紹介させてもらったぜ!
「うん!これからよろしくね!…それで緑谷…デクくん!だよね!!」
「デク!!?」
「え、だってテストの時爆豪って人が「デクてめぇー!!」って」
この流れ、そういえば……表情が崩壊しないよう抑える準備をしなければ…!
「あの…、本名は出久で…、デクはかっちゃんがバカにして…」
「蔑称か」
「えーーそうなんだ!!ごめん!!」
抑え…、抑えなければ…!
「でも「デク」って…「頑張れ!!」って感じで―――なんか好きだ、私」
「デクです」
「緑谷くん!!」
―――ぶほぉ!!
ひょ…表情には出さなかったけど、これは凄い…凄い笑える…!!
「浅いぞ!!蔑称なんだろ!?」
「コペルニクス的転回…」
「コぺ?」
くっ…!これ以上…これ以上笑わせないでないでくれ…!
『…おい我愛羅、お前なんか様子がおかしいようだが大丈夫か?』
「―――…ああ、大丈夫だ守鶴。心配してくれてありがとう」
『いや…。まあ、お前が平気だっつうんならいいんだがよ…』
守鶴…お前が心配してくれるなんてどれ位ぶりだ?でもありがたいことだ。
三人とは校門で別れてオレは迎えの車に乗り込んだ。
兄が来るのを待つしばらくの間、明日から始まる授業について考える。オレが知っている限りだと、明日のヒーロー基礎学は戦闘訓練。
どんな相手と組んで、どの相手と戦うことになるのか…今から楽しみだ。
―――それについにオールマイトと
今回投稿した2話はあまり面白くできませんでしたが、次の話ではもうちょっと頑張って面白くするよう努力してみます。
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No.5 うごめく陰謀…!
次回こそは必ず闘います!―――戦闘描写がうまくできるか不安ですが…。
登校二日目の今日。
雄英に向かう車の中で少し物思いに
昨日は大変喜ばしい出来事があった。主人公の緑谷とお互いに自己紹介を経て知り合えた。もちろん麗日さんとも知り合えたこともうれしい。
まだまだお互いの名前を知った程度だが、それでもこれから親交を深めていけば…、と…友だちと呼んで差し支えないのではないだろうか!?
―――すまん、自分はっきりと友だちと呼べる相手が少ないもんで……。
…とにかく!
今日の午後は…待ちに待ったヒーロー基礎学がある!!
午前中は通常の授業が行われるが、それもそれで楽しみではある。教壇に立つのはいずれもプロのヒーローたちで、どの教師も別の意味で個性あふれる方々ばかり。…それに今日行われる英語の授業はあのプレゼント・マイク! 一ファンとして心して清聴しなければ…!
※ ※ ※
いまだにクラスのほとんどと碌に挨拶も交わせていないが、それでも一緒に授業を受けてみたわけなんだが……普通だ。受けた授業の内容は普通に高校の授業そのもので、変わっているのは教師陣の説明の仕方くらいだった。…まぁ面白かったから別にオレ的にはオッケーなんですけどね!
にしても雄英は国立の高校なわりには一貫して週6日制だし、土曜以外の平日は授業が7限まであり、その土曜も6限まである。日曜が休日なのはうれしいけど多分課題が出されるだろうし…。これはなかなかハードだ。
まぁ、それはともかく。
午前の授業が終わり、本日初めて食すことが叶った…クックヒーロー・ランチラッシュが提供する一流の料理を存分に味わい、ついに午後の授業が始まる。
ヒーロー基礎学。
前世ではなかった授業の一つであり、この世界でもヒーロー科でしか受けることのない授業。オレは高まる期待を胸に、あの人物が教室の扉を開けるのを待つ。
他のクラスメイトも同じ気持ちなのか、教室の中は落ち着きのない気配で満ちている。そんな中、あのヒーローが―――
「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!!」
来たー!!
「オールマイトだ…!!すげえや、本当に先生やってるんだな…!!!」
「
みんな色々言ってるけど確かにスゲー!!
生まれ変わってから初めて生でこの人を見れたけど、やっぱなんかこの人だけ画風チゲー!筋肉スゲー!…やばい、テンション上がりすぎて
まぁそれだけこの人と出会えたのがうれしいってことなんだけど。画面の向こう側にいた憧れの存在がすぐ目の前にいるってのは、やっぱ気持ちが昂るものなんだなよな。
「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ!!」
溜めたあとに突き出された手には『BATTLE』のプレートが握られていた。…にしてもこの人、教室入ってきたときもそうだったけど動作が面白いよね?
「早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!」
「戦闘……」「訓練…!」
「そしてそいつに伴って…こちら!!!」"ガゴッ"
オールマイトが壁を腕で示すと、壁から収納スペースがせり出してくる。
「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた…
「「「「おおお!!!!」」」」
「着替えたら順次グラウンド・
「「「「はーい!!!」」」」
収納スペースに収まっていた自分の出席番号が印字されているケースを取り出し、さっそく更衣室まで着替えに向かう。
―――更衣室でドキドキしながらケースを開くと、中には要望通りのコスチュームが収められていた。
各自で着替え終わり次第、順次指定された場所に向かう。天哉は着替えるの大変そうな割には結構早い。オレなんかは比較的早く着替え終わったのに同じくらいだったので、一緒にグラウンドβまで行くことにした。
…緑谷は着替えるのに手間取っていたようだったが、先に行っていてくれと言うので先に向かうことにした。
「それにしても我愛羅くんは本当にそのコスチュームでよかったのかい?」
「オレには砂の防御があるからな、軽装でも問題ない。…だが天哉のほうはずいぶんと…その、重装備だな?やはり家族たちのコスチュームをイメージしているのか?」
元々お互いにコスチュームに関しては話し合っていたりもしたのだが、実際に目の当たりにすると出てくる感想にも驚きが出てくる。
「このコスチュームは要望書で説明と一緒に絵に描いて説明させていただいた通りの仕上がりなのだが、ボ…俺は特定のヒーローに似せてもらいたいとは書いていないので、きっと偶然だと思う」
そうなのか?…まぁこれも必然なのだろう、物語的に。…それにしてもなかなか自分の一人称が慣れてないようだな。
オレのコスチュームについて説明させてもらうと、原作の我愛羅をイメージさせてもらい要望には絵を描き、あとは性能についてはお任せにした。
具体的には風影就任後の服装をイメージしてロングコートと左肩から掛かる防御性の高いジャケット、それに背中に瓢箪を背負うための帯、極めつけは額に『愛』の文字と両目の周りに隈取をペイントしてみた。このペイントは専用の薬剤を用いなければ洗っても落ちない
そんな心配を他所にオレたちは目的の場所にまで辿り着いた。そこにはすでにほかのクラスメイト達がそこそこ集まっていた。
―――こうして見てみると、やっぱりみんなけっこう似合っているよなぁ。ヒーローっていうのはみんなコスチュームを身に纏っているものと言う先入観があるけど、今目の前にいるのはクラスメイトとして顔を合わせた人たちだったのに、それがヒーローのコスチュームを身に纏っているのを見るとなんだか不思議な感じがするよ。
特に女子の4人はまともに正面から見れないからね?
二人は肌に張り付くようなスーツ姿だし…、一人は今にもその同年代よりも育っている個所が露わになりそうだし…、なにより約一名…ほとんど何も身に着けていないよね?手袋と靴と、後はイヤホンくらい??―――……凄まじいな…!!
「皆早い…!!」
おおっと、みんなの観察をしていたら最後の緑谷が来たようだ。
「さあ!!始めようか有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!!」
全員が揃ったところでオールマイトがその渋い声で授業の開始を告げる。にも拘わらず、緑谷が麗日のコスチュームに目を奪われ、そこをあの淫欲の小鬼が緑谷に絡んでいる。…オレは内心で同意しておく。
「良いじゃないか皆。カッコイイぜ!!…ムム!?」
オールマイトがそう言ってくれるが、すぐに顔をそらしてせき込むような姿でプルプル震えている。わかる、わかるよオールマイト…。あの緑谷のコスを見ると、誰をイメージしているのか丸わかりだもんな…!
「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
そんな折にいつものように天哉がズバッと挙手をして質問を繰り出す。
「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での
そこからはオールマイトがどのような内容かを説明し始める。
クラスメイト同士で『
そしてこれからコンビ及び対戦相手を決めるためのくじを引くことになったのだが…。
オレはちょっと小細工を試してみることにした。
以前から考えていたことなのだが、この世界はこのままいけば恐らく原作に沿った通りに進んでいくと思う。昨日のテストではオレが一位になったが、それ以外の順位はすべて原作の通りだった。
まだ確定するには材料が少ないので断定できないが、オレが居ても
能動的に動かなければ大きな変化は得られないだろう。―――…つってもオレってば救助訓練のときに襲撃が行われる事件ぐらいしか記憶にないんだけどね?その後のストーリーはあんまり…いや、まったく知らないので原作と変わったのかどうかなんて判断つかないから。
だから今回ちょっと積極的に
その結果―――
ヒーロー組
緑谷・麗日 VS 爆豪・飯田
常闇・オレ VS 峰田・芦戸
切島・上鳴 VS 青山・耳郎
轟・葉隠 VS 尾白・砂籐
蛙吹・障子 VS 瀬呂・八百万
……なんでじゃあ!?
先んじて箱の中に砂を潜ませ、誰がくじを取ろうとしても原作とは違う相手同士になるように細工したのに…なんであの四人だけ変わってないんだ!?
他の連中はうまくいったのに…なぜ?
やっぱりオレに
そんな考察を脳内で繰り広げる間にも授業は進んでいく。
第一戦が行われるビルの地下にあるモニタールームに対戦チーム以外のクラスメイト達と共に降りると、各画面にビル内部の様子が映しだされている。
はっきり言ってその後の展開は原作の通りに事は進んだ。爆豪と天哉の組が無傷のまま破れ、勝ったはずのヒーロー組たちは麗日は酔いに苦しみ、肝心の緑谷はボロボロ…。
見ている間はずっと緑谷の心配をしていたと思う。
体をボロボロにしつつも、勝つためにさらに腕を酷使する姿には痛々しさを覚えた。…くじを操作しようとした理由の一つが、これを恐れて対戦表を変えようと思ったんだけどな…。
ハンソーロボの担架に乗せられて保健室へ連れて行かれる緑谷以外がモニタールームに揃い、今の対戦を講評するそうだ。
例の一部の箇所が大きい女子がオールマイトに代わって全員の講評が行われると、次の対戦はオレの番なのでタッグを組むことになる相手と共に別のビルへと向かう。
「俺の名は
『ヨロシクナ!』
開始地点に到着したあとはお互いに自己紹介ということになり、まず初めに彼…常闇が個性とともに名乗ってくれた。いきなり彼のマントから彼の個性そのものであるダークシャドウが姿を現したので少しビックリしてしまった…。
「ああ、よろしく頼む。オレは風影我愛羅。そしてこいつが…」
『ふん…。オレ様はよろしくする気はねェからな、そこんところだけよろしくな』
憎まれ口を叩きながら背中の瓢箪から声だけで挨拶を返す守鶴。
「…ほう。俺の黒影《ダークシャドウ》と同じ個性の持ち主なのか?」「ナノカ?」
彼…常闇は頭だけが鳥に似た顔立ちをしているので、ちょっと表情が分かりずらいところがあるが、それでも驚きの表情をしたことはわかった。ついでにダークシャドウも。
「多分おなじ…なのだと思う。オレの“個性”は複合型なのだが、オレ自身は砂を操るが…同時にこの守鶴も宿しており、砂があればこうして実体を得ることができるのだ」
と言っても今は瓢箪に化けていて、本来の狸の姿での紹介ができないのが残念だ。守鶴も大事な自己紹介の場なんだから元の姿に戻ってもいいだろうに…。
「…すまんな。本来こいつの姿はこれではないのだが…、あまりこいつは素直ではないんだ」
『おい我愛羅!あまり余計なことは言うんじゃねェよ!』
「ほう…、そうなのか?俺と黒影《ダークシャドウ》は対等の存在…、幼き頃より共に過ごし共に苦難を乗り越えてきた相棒だ」
『オウヨ!』
そう言ってお互いに視線を交わす二人…。……オレたちだって…!
「なるほど、だがそれはオレたちとて同じだ。なぁ守鶴?」
背中に感じる相手に向かってそう問いかける。
『…ケ!ったくしょうがねェな!!』
不意に背中の重みが消える。
そしてオレの横には元の姿に戻った守鶴がいた。
『我愛羅がどうしてもっつうからな…、オレは別にどうでもいいんだけどな!そこんところ忘れんなよ!?』
―――こいつって結構面倒くさい性格してるよな…。素直によろしくお願いすればいいのに…。
この間、わずか数分の会話だったが…、それでも互いに知り合うことができた。―――意図的にだが。…はいすみません、小細工したときに意図して常闇とコンビになれるようにしました。早いうちに彼とダークシャドウの二人と話したかったもので…。クラスでオレから話しかけるとなんで彼の個性を知っているのかという話になるので、自然の流れで互いに自己紹介できる都合のいい時機が今回だった。
これから対戦なのであまり話せないけれど、それでも知り合えたのだからこれからもっと話せる機会は増えるだろうからそれで良しとする。
この四人なら…戦うことになった二人には悪いけど、負ける気がしない…!
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No.6 対人戦闘訓練
と言っても、今回投稿してみたものの、あんまりいい出来とは言えないですけどねー。
それでも投稿してみました。よろしくお願いします。
負ける気がしない…!―――なんて…敗北フラグが
お互いに"個性"を簡単にだが教えあいつつ作戦を考え、そして…オールマイトより開始の合図が伝えられた。
「それでは打ち合わせ通り、先ずはオレの砂で作った『瞳』で内部を探る。少し待ってくれ」
常闇に待つように言うと同時に、砂でいくつか作りだした『瞳』でビルの外と内から各階を覗いていく。これって物凄い疲れるんだよなぁ…。入ってくる情報量が多すぎて、一つ二つならまだしも複数操作するとなると棒立ちになって完全無防備になってしまう。
ヒーローチームに渡された見取り図によるとこのビルは5階建て。窓に面した部屋に置いてあると助かるんだけどな…。昨日の個性把握テストの時にオレが空を飛べることは分かっているだろうから、それを考慮していれば密室に隠すかも…。
しかし―――
「…見つけた、四階の中央フロア。ヴィランの二人も同じ部屋にいるようだ」
「ほう…便利な"個性"だ」
けっこう簡単に見つけ出せた。さすがに窓から覗ける部屋には置かれていなかったけれど、各階の窓がない部屋を上の階から調べて行ったら見つけた。
さっそくビル内に入り、発見した核の置いてある部屋まで向かうことにした。オレの『瞳』で
そういえば、先ほど聞いた限りだと常闇の持ち味は射程範囲と素早い攻撃。しかしそれも間合いを詰められ本体を狙われると
途中何事もなく目標が置かれている階まで辿り着けた。
最初の『瞳』の探索には一分も掛からなかったし、ここまで来るのにも数分しか掛かっていない。なので制限時間的には、余裕で十分以上は残されているだろう。
「では作戦通りに」
「了解した」
ちょっとした作戦を思いついたので、少しの間常闇とは別行動をとる。
― ― ― ― ― ―
Side ヴィランチーム
「ねーやっぱり私が出て、足止めとかしてきた方がいいんじゃないかなー?」
「いやいやいや!相手の一人は昨日のテストで一位だったヤツだぞ!?そんなん相手にしてたら瞬殺されるわ、瞬殺!!だから二人で守ってた方がいいって!」
四階中央の部屋で騒いでいるのはピンク色の肌の女子と、…ちょっと?背の低い男子の二人。女子の方は開始早々に部屋から出て、上がってくるヒーローたちを迎え撃とうと意見した。しかしもう一方の男子は反対に、この部屋で罠を張って待とうという真逆の意見。
「だってさー、さっきの戦闘見たでしょ?あれ見たら私もやったろー!って気になっちゃってうずうずしちゃうんだよ!!峰田はどーよ?」
「そんなこと言ったってオイラの"個性"じゃあ罠張って待ち伏せるのが一番なんだっつーの!!それにオイラがタイマン張っても碌な目に合わねーよ…」
そう言う少年の言葉通り、部屋のあちこちに少年の"個性"によって頭部からもぎ取られた球状の…髪?が設置してある。
「でもこのままココで待っててもすぐに見つかっちゃうよ。それだったら二人で下の階で待ち伏せて時間稼ぎしたほうがいいと思うけどなー…」
つまらなさそうに言いながら、なおも少年に積極的に攻撃しようと提案する。
「んなこと言ったって、ココならそんなすぐには見つかんねーよ。あいつらだって下の階から順に捜索するはずだから上手くすりゃ時間いっぱいまで―――」
バタン!!
都合よく制限時間いっぱいまで逃げきれればと考えていたようだが、少年の言葉の途中で部屋のドアが思い切りよく。
「―――ってもうかよー!!?」
まだ始まってそれほど経ってもいない筈なのにいきなり見つかってしまったことに驚き悲鳴を上げる少年。
「大人しく捕縛されろ、さもなくば…実力行使に出る」
しかしもう一人居るはずのコンビの姿がない。
「ウソ!?もう見つかっちゃったの!?」
「でも一人しかいねーぞ、これはチャンス!!芦戸、二人でソッコーで袋叩きだ!!」
相手が一人しかいないことに気づいた瞬間に、これを好機とみた少年がコンビの少女に二人で袋叩きにしようと言い出す。もう一人がどこにいるかわからないが、この部屋は周りを壁に囲まれている。ならば唯一の出入り口を注意していれば問題ないと考えての言葉だった。
そして
……ポス
なぜか突然、核の床が消え去り下の階に落ちて行ってしまった。
「いっくよー!!」
「オラオラオラオラ!!!」ポポポポポポ
それに気づかず目の前の常闇に攻撃を仕掛ける二人。一人は足元から液体を出して素早く近づいていき、もう一人は頭からモギ取った物を投げつける、が…。
『ヒーローチーム…WIIIIIN《ウィーーン》!!』
「「……へ??」」
― ― ― ― ― ―
Side 我愛羅
今の今まで終始『瞳』で見ていた二人は、何が起こったのかまるでわかっておらずに呆然としている。
それもしょうがないだろう。なんせ二人にしてみれば、これから常闇と闘おうとしたらその矢先に負けてしまっていたのだから。
そんなこんなで、いまだに状況が呑み込めていない二人を余所に、さっそくとばかりに今回の講評に移ることになった。
「うーん、今回は特に大きなケガもなく、それに建物にも大した被害を出さずに終えられて…先生ちょっとほっとしちゃったよ!」
オールマイトはホッとしたと言った次にはいつもの大きな笑い声を上げた。
「それじゃあ今戦のベストは…だれかわかる人はいるかな?」
みんなの前に四人で並んでいると、オールマイトが今戦のベストが誰かをクラスメイト達に聞いていた。
「はい!今回のベストは我愛羅くんだと思います!!」
誰よりも早く手を上げて答えたのは天哉だった。
「ほう、それはなぜかな?」
「はい、なぜなら我愛羅くんは開始早々に核兵器の置かれている場所を捜索し終えるとともに、目標の核兵器を確実に、かつ安全に確保するためにまず常闇くんに部屋に突入させ
「う、うむ、概ね正解だよ…!」
一息に言い切った天哉の言葉に親指を立てるオールマイト。しかしながらその後にオールマイトも…。
「ただし風影少年も常闇少年も開始から一貫して核の置かれた階まで一直線だったが、その間はまったく索敵もせずに奇襲の可能性も度外視していた。これはどうしてだい?」
…ああ、そういえば開始前にお互いの"個性"に関して話したときに『瞳』に関しても話したから探索と索敵に関しては一任させてもらってたからなあ。オールマイトも通信機を介した会話は聞いてたんだろうけど、『瞳』については知らないのか…。
「それに関しては…この『瞳』を介して二人の動向は把握していた。なので途中も奇襲には注意を払わずに、一直線で部屋を目指した。…これでいいか?」
オレの目の前で『瞳』を作りだし、なぜ核を見つけ出せたか…なぜ奇襲を心配していなかったかをオールマイト含め全員に説明した。……まあ今の時点で知られても別に困ることではないしな。
「つまり君は相手チームの動きをすべて把握しており、しかも核兵器の置かれている位置も知っていたから正確に真下の床を開けることができたわけだ…うーん、なるほどね!」
親指立ててくれるオールマイトにオレも親指立てて返したいけど我慢、我慢!
『(―――おい我愛羅!!なんでオレ様の出番がねェんだよ!?)』
「(守鶴…。今回の対人訓練でお前の得意とする大規模技を出せば被害が大きすぎるだろう。次の機会には必ずお前の力を借りさせてもらう。すまんな)」
いきなり頭に直接語りかけるように怒鳴ってきた守鶴の声に弁解しておく。もともとオールマイトからも建物に大きな被害が及ぶような真似は禁止されていたのだから、仕方がないんだ。それに次の機会というのは本心からだ。次は是非とも必ず活躍してもらう予定だ。
「なにそれー、私たちって初めから監視されてたの?それじゃ勝ち目何てないじゃん!くやしー!!」
「おいおい、マジかよ。それって覗き見し放題じゃねぇか…!メッチャ羨ましいんですけど!!!」
あの淫欲の塊にとっては負けたことよりもオレの『瞳』が羨ましいようで、しきりに羨ましがっている。―――覗キ見ナンテヤッタコトナイヨ?ホントダヨ?
この後は常闇と、
第三戦 切島・上鳴 VS 青山・耳郎
この対戦はヒーローチームの切島と上鳴が開始早々から突っ走り、各階を手っ取り早く捜索して核が置いてある部屋まで行こうとしたのだろうが…、耳郎が青山と待ち伏せをして二人を奇襲。
敢え無く二人はその混乱の中で確保テープを巻かれ敗北。
それにしても切島と上鳴の二人は碌に索敵も行わずに突っ走りすぎだな。どっちの"個性"も索敵に向かないと言えばそれまでだが…。
第四戦 轟・葉隠 VS 尾白・砂籐
…うーむ、これはちょっと尾白と砂籐が可哀そうすぎたかな。
原作とまったく変わらない展開で轟がたった一人で圧倒。尾白と砂籐は碌に何もできないで足元を凍らされていた。……何もできなかったのは葉隠もか。障子だったら一応索敵で活躍できたんだろうが…。
ちなみにみんなと一緒に地下に居たオレも寒さで震えていた。砂じゃあさすがに寒さを防ぐことができないんですよね…。しかしそれでもオレはしっかりと「は?寒い?なにそれ?」みたいな余裕顔でいましたけどね!!
第五戦 蛙吹・障子 VS 瀬呂・八百万
この対戦はけっこう接戦で見応えがあった。
蛙吹と障子のコンビは実にバランスが良かったし、瀬呂と八百万は核の置いてある部屋で準備万端で待ち受けていた。
結果は、瀬呂&八百万の
―――これですべての戦闘訓練が終了した。
あとは原作通りにオールマイトがクラスみんなに声を掛けてとっとと退散してしまった。
オレたちもさっさと着替えようと更衣室まで向かうことにする。
緑谷との対戦後はずっと俯いたままだった彼は、更衣室で着替えている最中も終始無言で大人しかった。まあ今日の放課後には元気も戻るのだろうが、彼のこんな様子を見るのはこう言っては何だがけっこう不気味なので、早いところ無駄に大きい元気を取り戻してもらいところだ。
※ ※
放課後。
クラスの半分が集まって本日行われた訓練について反省会をすることになった。
いやまあ訓練が終わった後に、誰かが放課後に反省会やろうぜ!っと声を掛け合っていたのがいつの間にか増えてクラスの半数が参加することになった。
その時にお互いに自己紹介を行い、きちんと名前を交換し合った。
訓練の際にコンビを組んだ常闇とはさらに話し合うことができたし、あのカエル少女からは「梅雨ちゃんと呼んで」と言ってもらった。―――……そういえばオレってば何気に家族以外の女性から気軽に声かけてもらったのって初めて…?
いや、そんな筈は―――…気にしてはいけない、過去はともかく今のオレには気軽に声を掛けてくれる女子がいるんだ…!
ワイワイとみんなが騒ぐ中、特にオレと話したのは天哉と常闇を除けば今日相手した二人…芦戸と峰田。
芦戸は普通に訓練でのオレの行為を凄いといってくれた。…本当は最初批難されるんじゃないかと身構えたんだが、しかし彼女はそんな様子を見せずに純粋にオレを褒めてくれた。
「今日は凄かったよー、なんかいつの間にか負けてたけど全っ然気づかなかった!今度は負けないからね!」―――なにこの天使…!!って思ったね、オレは…。
なのに峰田の方は、「なぁなぁおい、お前絶対覗きやったことあんだろ…?オイラにも見せることってできねぇのかよ、おい?」などどと、まるでオレが既に覗きをしているかのように
話しかけ、自分にも見せろとねだってきた。……まったく、失礼してしまうな彼には…!―――そんなこと…やったこと……無いと……言うの…に。
「おお緑谷来た!!!おつかれ!!」
おお!!!緑谷のお帰りだ!!
切島が大声を上げると、みんながさっそくとばかりに緑谷のもとへ集まっていく。もちろん峰田も緑谷の方へと向かって行った。
自分たちの名前を言いながら、さっきの訓練時の緑谷の頑張りに関する言葉を投げかけていく。その最中に麗日が上鳴と共に本の山を抱えながら入ってきた。
「あれ!?デクくん怪我!治してもらえなかったの!?」
「あ、いや、これは僕の体力のアレで…。あの麗日さん…それより―――」
窓際の自分の席の方を見る緑谷が、麗日に彼の居所を尋ねる。
麗日が答えると同時に緑谷は廊下を駆け出して行ってしまった。
「緑谷くんはいったいどうしたんだい?」
「フッ…どこに向かったかなど、決まっている…」
「これも宿縁…」
天哉はともかく、常闇はどこに行ったか察したらしい。
―――さて、と。
一言断りを入れてからオレも廊下に出る。
もちろん緑谷の後を追うなんていう無粋な真似ではないと二人には言っておいた。ただ、ちょうど雄英の校門がよく見える窓の前を通ってみるだけだ。もしかしたら外に何か見えれば立ち止まってしまうかもしれない。…しかしそれはわざとじゃないので悪しからず。
ちょうど緑谷が追い付いたところだったようで、此処からだと何を話しているのかさっぱりわからないが、それでもその様子はわかる。
緑谷が話している間、彼―――爆豪は大人しく聞いているだけだったが…、緑谷が話し終えると突如爆発したかのように怒鳴り始める。―――怒鳴っているうちに爆豪の眼から何か光るものが落ち始める。
…泣いている…んだよなぁ。
これもまた青春というやつか。―――なんかいいなぁ…。
怒鳴るだけ怒鳴った後、爆豪は袖で涙を拭いながら帰っていく。ただし―――
「爆・豪・少年!!」
物凄い速さで走ってきたオールマイトに捕まってしまったようだがな。
窓越しでも聞こえてくるような大声で爆豪に向かって行ったオールマイトだったが、少し話した後すぐに手を放してしまい、爆豪はさっさと行ってしまった。
「何だったの、あれ?」
「男の因縁…ってやつです」
「緑谷ちゃんが一方的に言い訳してたように見えたけど…?」
「男の因縁です…!!」
……なんか知らないうちにオレの隣に芦戸と麗日に…つ、梅雨ちゃ……ん、がいた。
「―――そう…因縁、だな」
とりあえずオレも最初から気づいていましたよって顔で話に乗っかっておいた。
まぁ、これで明日になれば爆豪も元に戻ってるだろう。これで次は委員決め、その次は…いよいよだな。
どうなることやら…。
戦闘描写なんて今回初めてまともに書いてみましたが、難しく考えすぎて書いては消してを繰り返してしまい、結局原作の緑谷・爆豪戦を真似たものになってしまいました。
だいたい派手な技は建物に被害いってしまって使えない、そうすると守鶴も使えない。地味にやらざるを得ないということでこのようなことになりました。
しかーし、今度のUSJではそこそこ派手目にいってみようと考えていますので、お待ちください。
ただし次の投稿は番外編、もしくは幼少期編を書いてみようと考えているので少し長めにお待たせさせてしまうかもしれません。
いちおう週に2~3話は投稿するように頑張ってみます。
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