D.C.Ⅲ 探偵部活動日誌? (shu-boy)
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第1話 ロンドン到着

最初は原作とほとんど同じように進んでいきます。


 

 

 1950年8月31日。

 王立ロンドン魔法学園(通称『風見鶏』)に、幼馴染の葛木清隆と葛木姫乃と一緒に入学することとなった『柏田(かしわだ) (しゅう)』こと、この俺は――船の甲板で波の音を聞きながら海を見ていた。

 すぐ近くにで、憂鬱そうな顔をしながら幼馴染の葛木清隆は、俺と同じように大海原を眺めている。

 そうやって(しばら)くしていると――

「兄さん……。それに修兄(しゅうにい)……」

 これまた幼馴染で妹のような存在の葛木姫乃が近づいてきた。

「なに二人とも、憂鬱だ~って顔して、遠くなんか眺めちゃってるの?」

「いや、だって……。実際、憂鬱だし」

「確かに憂鬱だ。これからの事を考えると、特に憂鬱になる。俺なんか会社を恵子(けいこ)さんに全部任せて来てるから、本当に大丈夫か不安で……。だから――」

 と、そんな事を言いつつ、二人の方を見ると……

「ずっと手を握っててやっただろ?」

「……………………」

 清隆の言葉に、姫乃が顔を赤くしながらお礼を言っていた。

 ……でた。でましたよ。もう何回目だろうか、この義兄妹は二人だけの世界なるものをつくり、俺の話や意見が無視されたのって……。

 でもまあ、今のは独り言みたいな所もあったから、別に腹を立てるほどでもないけどな。

 そう思い、二人の会話を少し聞きつつ、俺は再び海の方に顔を向け、二人の親父(おやじ)さんに言われたことを思い出し始めた。

 

 

 

 俺は子供の頃から、よく用事があり足を運んでいた葛木家に呼ばれ、親父さんのいる部屋に入ると清隆と一緒に俺の事を待っていた。

 この葛木家とは縁があり、よく俺が働いている会社を利用してくれている。

 その為、俺は歳が同じくらいの姫乃たちとよく遊んでいた。

 でも清隆と姫乃が義兄妹で、清隆が自分の歳について、姫乃に内緒で信頼して俺に話してくれたのは今から2年前くらいだった。

 なんと、ほんの数歳だが清隆は見た目通りの年齢じゃなかったらしい。

 俺も少しは魔法については知っているが、清隆が言うに『無意識で年齢を止めていた』らしいのだが、それはかなり魔力……または魔法力とでもいえるものが高くなければ出来るものではない……と思う。……多分。

 ――でも、そんな小さい時から高い魔力がある清隆と、名家である葛木家の親父さんが真剣な顔で部屋で待っていたら、俺も真剣に聞かなきゃ流石にマズイと思い。

「……今日はどうしたんですか?」

 と、真面目に聞きながら畳に座る。

 すると親父さんが口を開き、

「修くんに……少し頼みたいことがあってな。実は――」

 俺を家に呼んだ理由について話してくれた。

 

 すると親父さんから聞かされたお願いとは、清隆の手伝い。

 しかも俺の会社にまで連絡を入れて、了解まで取ってあった。

「えーと……なんで俺なんですか?」

 他に適任者はいないのか、もしくは清隆だけではダメなのかと聞いてみる。

 そりゃ清隆たちが外国に行けば寂しいし、姫乃の事も聞かされた後だから、手伝いたい気持ちもあるが……そこでなぜ手伝いに俺が呼ばれたのだろう。

 俺は確かに少し魔法を使えるがそこまで魔力も高くないし、知識も少ない。そんな俺が呼ばれる理由なんてないはずだ。

「修。お前こないだ魔法使いのカテゴリー試験を受けなかったか?」

 俺の疑問に親父さんではなく、清隆が答えた。

「そりゃあ受けたけどさ……なんでそのこと知ってるんだ? それに正式な試験じゃないぞ。道具が必要でロクにできてない物もあったしな」

 ちなみにカテゴリーというのは、魔法使いのランクのようなものだ。

 カテゴリー試験は、その名の通り協会に申請してもらうための試験。この成績によってカテゴリーが決まる。

 確か他にも、清隆と一緒に行こうとしている魔法学校を卒業すると、カテゴリー2をもらえるはずだ。

 それ以外の魔法使いはみんなカテゴリー1に分類される。

 俺はその試験を会社に来た魔法教会の人が忘れていった、カテゴリー試験の内容が書かれていた本を見て、カテゴリー試験の内容を軽い気持ちで同僚数人と一緒にやったものだ。

 当然、申請もしていないので俺のカテゴリーは1のはずだ。

「でも少しは受けたんだろ。その時の様子を見ていた人がいて、それが葛木家と縁がある人でな」

「へぇ、それで?」

「その試験をやっていたのが修だって分かったらしくて、うちに来た時に『今度、彼に正式に試験を受けさせてはどうでしょう?』って言われたんだ」

 なるほど。確かに葛木家に縁のあるものなら魔法の事を知っていてもおかしくないし、葛木家の親戚が集まってる時に、姫乃たちと普通に遊んでいたこともあるから、俺の事も知っていて不思議はないが……

「まさか、そんなまだよく分かりもしないカテゴリーが理由で選んだ……とか言わないよな?」

「それこそ、まさか――だよ。俺たちもそんな事じゃお願いしないって。ただ単に今回は俺たちの判断だ。俺の知っている中で、一番助けになってくれそうなのはお前だからな」

「いや……でも俺の魔力はぜんぜん強くないし、魔法に関する知識もそんなにないぞ?」

 そう俺が言うと、再び親父さんが、

「とりあえず……修くんの会社としても、もっと魔法の知識を付けて来いと言っていたし――それに姫乃も君がいてくれた方が嬉しいだろう」

「うっ……」

 トドメの一言を言ってきた。

 流石にここまで言われたら、断るわけにはいかない。

「……分かりました。行かせてもらいます……」

 そう親父さんに答え――あとは費用の事や試験の事なんかを色々と話したり、やったりしていたら、なんだかんだで学校へ向かう日となった。

 

 

 

 ――と、しばらく考え事をしていたら、

「うわぁ……」

「こりゃ、想像以上だな」

 姫乃と清隆の声で我に返る。

「ん?」

 気が付けば、辺りは白い霧に包まれていた。

 それに少し肌寒い。

「すごいすごい。さすが霧の都ロンドンだね……」

「……着いたのか?」

「あ、修兄。やっと気が付いたんだ。さっきから何回も声かけてたんだよ?」

「……悪かったな」

 まさか、姫乃にこんな事を言われるとは……我ながら思い出に浸りすぎてたな。今度からはそんなことはしないように心がけよう。

 

 

 

 船を降り、しばらく歩いていると、清隆がふと脚を止めた。

「あれ……?」

 そして何かを考え始める。

「どうかした?」

「姫乃、お前は何も感じなかったのか?」

「何が?」

「ん~、うまく言葉にはできないんだけど……なんか違和感があったって言うか……」

「どーゆーこと?」

 清隆の言葉に首を(かし)げる姫乃。

 ……やっぱり、さっきから感じているこの感じは気のせいじゃなかったのか。

「兄さんの気のせいじゃないない? 何かしらの変化を感じる感覚だったら、わたしの方が敏感なはずだし」

「そうかな? ……修はどうだった?」

「何かしらは感じるな。……まるで、魔力か何かで区切られて、異世界に来たみたいな……」

「そう。そういう感じだ」

 俺の意見に大きく賛成する清隆。

 そして俺の言葉を聞き姫乃は、

「修兄も何か感じたの? ……ってことは本当に何かあるってこと?」

「おい姫乃。なんで俺の言葉は信じないで、修の言うことは信じるんだ……」

「だって、修兄。ついこないだのカテゴリー試験で『魔法的な感覚・感知能力と分析力だけはカテゴリー4級です』って言われたんでしょ? なら兄さんよりも信用できるよ。悪いけど」

 姫乃が言うように、俺はこのロンドンに来る前に、ちゃんとしたカテゴリー試験を受けた。

 すると結果は――カテゴリー4。

 協会が言うには『あなたは、魔法の感覚・感知能力。そして分析。さらに創作能力がズバ抜けています。自身の少ない魔法力を補う為に、新しい魔法を作り出すことが出来たのが何よりの証拠です』……と、色々はしょったので、少しおかしい所もあるが大体こんな感じの事を言われた。

 あと『魔法力が高くて、もう少し知識があればカテゴリー5になれたんですけどね……』とも言われた。

 その事を姫乃には、さっき姫乃が言ったように少し誤魔化して伝えた。

 試験を見に来ていた清隆と親父さん、そして数名の協会の人にしか知られないように、親父さんのツテで頼んだが……試験のせいで少し出るのが遅れてしまったので、姫乃には誤魔化してだがちゃんと結果を伝えたのだ。

 誤魔化してる時点で『ちゃんと』は教えてないかもしれないけどな……。カテゴリーも1だったて伝えたし。

「それで修兄。わたしたちは学校に行って大丈夫なの?」

 姫乃は俺と清隆がこんなこと言うから学校に行くのが心配になってきたらしい。

「まあ、大丈夫じゃないか。今のところ、害になるような感覚でもないし」

「そっか……」

用心(ようじん)はしておいた方が良いかもしれないけどな」

「用心ならいつもしてるよ。初めての土地に来た時には特に、ね」

「それもそうだな……」

 初めての場所に来たら、少なからずとも人は確実に用心はするよな。

 そして俺との会話を終え、姫乃は清隆の方に再び向き。

「さて、兄さん。修兄も大丈夫だって言ってますし、これからどうします?」

「……どうって?」

「いや、せっかくロンドンに来たんだからさ、観光地でも見て回ろうかな~なんて思って」

「「は?」」

 俺と清隆の声が重なってしまった。

「ロンドン塔とか、見てみたいな、なんて思っているんだけど……」

 ……用心してる、と行ったそばからすぐこれか。

 そんな案はすぐに却下となり、俺達は学校へ向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多少、設定やキャラの性格が違いがあるかもしれません。そこに関してはノーコメントでお願いします。
分からないことや質問があったらいつでも聞いてください。
あと、更新速度は遅いです。


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第2話 学園到着

二日連続更新です。……まだまだ先が長い。


 

 

 

 (そび)え立つ時計塔――ウエストミンスター宮殿。

 その中でビック・ベンというおじさんと挨拶を交わして中に入り、案内された道を進むと手のくぼみがあり、そこに案内状をかざして先に進めるようになった。

 …………のはいいのだが……。

 俺は清隆たちのあとを追いながらなので今の所は問題がないが、さっきのビック・ベンと時と言い、手のくぼみと言い、俺はあることに気づいた。

 というか、なんで今まで気づかなかったんだよ。こんなレベルの事に。

(――案内状なんて、貰っていないっ!)

 その隠し通路の先に進むとエスカエーターに乗って、学園に向かうことになったので、姫乃たちは外に咲いている桜のことで盛り上がっているが、俺にはそんなの楽しむ余裕なんてない。

 エスカレーターが何で動いているかとか、桜がなんでこの時期に咲いているのかとかは今はどうでもいい。

 マズイ……マズイ、マズイ、マズイ、マズイ!

 案内状が無いってことは、もしかして学園に入れないんじゃ……いや、もう入れているから問題ないか?

 でもこの学園は全寮制。案内状がない生徒を入れてくれるとは思えない。

 いやもしかしたら最悪ここまで来ると、学園に荷物が届いてない場合もある。

 それどころか、明日の入学式で名前が呼ばれないことも……

「……どうしたの、修兄?」

「どうすればいい……このままやり過ごすか……それとも……」

「おい、修」

「ふひぁい!」

「うお! そ、そこまでビックリするなよ。こっちの方が驚く」

「わ、悪い……」

 考え事の最中に清隆に肩を叩かれて、不覚にもかなり慌ててしまった。

 するとそんな俺の様子を見た二人は、心配そうな顔をして、

「どうしたんだ?」「どうしたの?」

 と聞いてきてくれた。

 ……黙っていてもどうしよもないし、素直に相談してみよう。

 

「ど、どどどどどうするの!? もうここまで来ちゃったんだよ!」

「……修。なんで今まで気づかなかったんだ……?」

 案の定、相談したら二人は心配してくれたが、清隆が心配の裏に何か混ざった目で俺に聞いてきた。

「いやー、向こうで制服なんかと一緒に貰えるのかな~、と思って」

「……ちなみにもう制服も配られてるぞ」

「…………本当に?」

「ああ」

 ――できれば聞きたくなかったよそんな情報! なんてことを教えてくれるんだ、この幼馴染は! 

 と叫んでも仕方がないので、ぐっ、と抑え、それと同時にエスカレーターが着いたので降りる。

 そして、

「とりあえず、俺は学園長室にでも行って話してくる。話しが長くかもしれないから、お前ら待たせるのも悪いから先に行くな!」

「って、場所分かるのか!?」

「分からないけど、走りながら探す!」

 と二人に言って、学園長室に走った。

 

 

 

 そして学園の校舎の中を走ること(数が少なかったけど、人が見ている時には早歩きで)5分、ようやくそれらしい部屋を見つけた。

「ぜぇ、はぁ、はぁ……よし!」

 息を整えて、その部屋の扉にノックをする。

 すると――

「はい、カギは空いてます。どうぞ」

 と言う声が聞こえたので、

「し、失礼します……」

 なるべく粗相(そそう)のないように部屋に入った。

「あら、あなたは……?」

「あの俺、日本から来た柏田修っていうんですけど……」

「ああ、あなただったのね。突然入学させてほしいって葛木さんが言ってきた子は」

「え? 親父さんから連絡があったんですか?」

「ええ。ごめんなさいね。(きゅう)だったから案内状も何も出せなくて」

「いやいや、別に良いですよそれくらい!」

 そのせいでこちらとしては冷や汗ものだったが、こっちが無理を言ったんだからそれはしょうがない。

「案内状を送らなかったから来ないかと思ってしまったのだけれど……ちゃんと来てくれたみたいね」

「はい。葛木家の兄妹のおかげで」

「あ、修くん。キミがその兄妹と一緒ということで……申し訳ないんだけど……」

「……はい?」

 学園長が次にはっした言葉に、俺は流石に言葉を失った。

 

 

「そういえば、二人は一緒ではないの?」

 学園長の話に、何とか状況を飲み込んで少し会話が落ち着いた頃、学園長はそう言って首を傾げた。

 うーん、やっぱり一人で来たの失敗だったかな……なんて事を考えたと同時に、俺の背中の方――つまり学園長室の扉にノックの音が鳴った。

「本科1年のシャルル・マロースです。日本からの新入生を連れてきました」

 丁度、清隆たちが到着したらしい。

 どうやら、学園長室までシャルルという人に送ってもらったらしいな。

「ああ、ありがとう。通して頂戴」

「はい。失礼します」

 学園長が返事をすると、一人の女の人が入ってきて、

「くぴっぴ!」

 その後ろを何だかわからない生き物がついてきた。

「さ、ふたりとも。入りなさい」

 そしてシャルルさんと言うらしい人に呼びこまれて、清隆と姫乃が部屋に入ってきた。

「「し、失礼します……」」

「待っていたわ」

「では、あたしはこれで。学園長、あとはお願いします」

「ありがと、シャルルさん。それにエト」

「じゃ、またね」

 シャルルさんは軽くウインクを二人にした後、俺の方を少しだけ見て学園長室から出て行った。

 ……それにしても、あの人が連れていたトナカイのような鹿のような訳の分からない生き物は何だったんだ? 学園長がさっき言った名前からするとエトって名前らしいが……名前以外、何も分からない生き物だったな。

 

 それから学園長と葛木家についての事や学校生活の事を少し話をして、俺達は学園長にそれぞれの寮のカギを渡され、寮に向かうことになった。

 

 

 

「お、来たね。若人諸君」

「くぴぃ~~」

「あれ、シャルルさん……」

 俺たちが校舎から出ると、シャルルさんが立っていた。

「どうしたんですか?」

「ふたりとも、これから寮に行くんでしょ? だったら、そこまで案内してあげようかなって思って」

 姫乃の問いにそう答え、二人の手を握る。

 ……なんか、スキンシップがスゴイ人だなこの人。

「あれ? あなたはさっき学園長の部屋にいた……」

「あ、柏田修です。よろしく」

 手を握った後に、やっと俺の事を気づいたらしい。

「柏田……ヘンね。一応、新入生――特に留学生の名前は一通り目を通したのだけど……そんな名前あったかしら……」

 どうやらこの人は、新入生の名簿に目を通せる役職の人らしい。

 でも、知らなくても仕方がないことだ。

「多分、名前は載ってなかったんだと思います」

「「「えっ?」」」

 三人の声は重なり、清隆も姫乃も俺の方を向く。

「いや~、その……二人にも言ってなかったけど……俺、まだ風見鶏の生徒じゃないらしい」

「それだったら俺達も、まだ入学式を受けてないんだがら、正式な風見鶏の生徒じゃ……」

「あー、違う違う。清隆たちさっき学園長に寮の部屋のカギもらったろ?」

「ああ」

「でも、俺はもらわなかったんだよね……」

「……まさか!」

「そのまさか。まだ新入生に登録されてない……」

 どうやら学園長がいうには、生徒の登録を一斉にするらしく……俺の入学の登録してくれとお願いが来たのはその一斉登録の少しあとだったらしい。

 そのせいで、色々と手続き(制服などの採寸や発注とかなどなどが)面倒になり、少し俺の登録が遅れているらしい。

 あと、普通だったら遅れたら入学させてもらえないのを、葛木家のお願いということもあり、学園長個人の関係で入学させるからと、生徒会などの手伝いはなく、この事は学園長ひとりでやってくれているのも遅れの原因だとか。

 『ごめんなさいね。何かとこの時期は忙しくて、進むのが遅くて……』と俺に言ってくれたが、無理を言ったのだから、お礼することはあっても、文句なんかぜんぜんなかった。

 でもまあ……入学式の日に制服じゃなくて、一人だけ私服っていうのはさすがに嫌だけどな。

 その為、俺に制服や寮の部屋がつくのは、入学式の数日後になるらしい。

 それまでは、さきっき渡された学園長が作った、入学許可証を首から下げるようにと言われた。

 入学許可証と言っても、学園長が文字を書いた紙に穴開けて、そこにひもを通して魔法でやぶれにくくしたものだけどな。

 

 その事を話し終えると、

「え……じゃあ、それまで部屋どうするんだ?」

 清隆が、当然考えるであろう疑問を言ってきた。

「そんなの決まってるだろ。清隆の部屋に泊まる」

「……は?」

「というか、学園長にそうお願いされた。さすがに荷物は他の部屋に保管してくれているらしい」

「……はあ、分かったよ。少しの間だけなんだろ?」

「ああ。悪いな」

「話はついたみたいね」

 俺と清隆の会話が終わるのを待っていたらしいシャルルさんは、俺に手を差し出してきた。

「ようこそ風見鶏へ。あたしはこの風見鶏の本科生のシャルル・マロースよ。よろしくね。――いつもの挨拶は、ちゃんと制服などを貰って、正式な生徒になった後でね」

「こちらこそよろしくお願いします」

 俺もその手を握り返す――が、なんか疑問に思う言葉がなんか出てきてたぞ今。

(『いつもの挨拶』って……なんだ?)

 清隆に聞こうとしたら、何だか少し顔が赤い気がするし……なんか嫌な予感がするが、ここはスルーしておこう。俺にはもっと気になっていることがあった。

「あの……シャルルさん」

「ん、なに?」

「そこにいる鹿って……使い魔ですか?」

 さっきからシャルルさんの後ろにいる、何の動物だか分からない生き物が気になってしょうがなかったので、聞いてみた。

「鹿じゃなくてトナカイよ。それに、使い魔なんて呼び方しないで。この子は、あたしにとって家族のようなものなんだから」

「そ、そうですか。すいません。――ごめんな、エト」

 使い魔呼ばわりしたことに、シャルルさんと、後ろにいるエトに謝る。

 ……しかし、トナカイだったのか。なんか少し納得できないけど、とりあえず、受け入れることにしよう。

 それにエトから何かしらの魔法的なものを感じるような気がしたんだけど……気のせいかな?

「あれ? 修くんに、この子の名前教えたっけ?」

「へ? あ、ああ……さっき学園長が呼んでたんで……違いましたか?」

 シャルルさんの言葉に、エトについて考えていた頭を切り替えて返事をする。

 するとシャルルさんは首を横に振り、エトの名前があっていることを肯定してくれた。

「ううん……でも、よくそんなちょっとしたこと覚えてるなぁ、って」

「たまたま覚えてただけです」

 あまりにエトが印象強すぎて、忘れられませんでした。

「……それより、そろそろ寮に行きたいんですけど……」

「あ、うん。それじゃあついてきて」

 俺の言葉で思い出したのか、シャルルさんは学生寮に案内を開始してくれた。

 そのシャルルさんの後ろに(清隆と姫乃は手を引かれながら)、ついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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第3話 修の不安

……は、話の題名が意味不明に! ――といっても、いい題名が思いつかなかっただけなんですけどね。すいません。
こんな意味不明な題名は、よくあると思うんでよろしくお願いします。


 

 

 

 シャルルさんについていき、しばらく歩くと大きな建物が見えてきた。

「ここが風見鶏自慢の学生寮。なかなか快適な場所なんだよ」

 確かに、清潔で住みやすそうな所だ。

「入口は共通だけど、左が男子寮で、右が女子寮――どちらも男女が行き来することは、原則的に禁止となっています」

 原則的には……か。

 なら罰なんかは無いんじゃ……

「まあ、だからって罰則があるわけじゃないけどね。一応、覚えておいてちょうだい」

 ……無かったな。

 そんな罰則の話で清隆と姫乃、そしてシャルルさんは色々と雑談を始めた。

 俺もシャルルさんや姫乃たちの会話に参加したいのだけれど……

「あの、すいませんシャルルさん。俺、自分の荷物取りに行ってきていいですか? 早めに移動されないと、清隆にも迷惑がかかるし」

「別に俺はいくら遅くなっても良いぞ。なんなら手伝うし」

「その気持ちはありがたいんだが……遅くなりすぎると、他の生徒にも迷惑になるかもしれないだろ。――だから、俺は先に行ってお前の部屋に持っていくもの整理してからお前の部屋に行くよ。清隆たちはシャルルさんに寮についてしっかり話を聞いといてくれ。そして後で教えてくれ」

「ああ、分かった」

「それじゃあ修くん、またね」

「はい。案内ありがとうございました」

 と、挨拶をかわしてその場を去った。

 

 

 

 学園長に言われた部屋で荷物整理をして、清隆の部屋に向かう。

「ここだな。――おーい清隆ー。入るぞー」

 ノックをしながら扉を開け――ようとしたが、カギがかかっていた。

「おーい、清隆ー。いないのかー」

 ……いくら呼んでも返事がない。

(……仕方がない)

 清隆には申し訳ないが、魔法で開けさせてもらうことにした。

 一応、魔法学園の寮の扉と言うことで、魔法対策はされていたが、俺の得意分野は魔法の分析や感知と魔法の創作系だ。

 

 魔法の感知――まあ感知と言っても、魔法の場合であれば、ある程度何の魔法か分かるわけじゃない。正確には俺の場合、魔法に対する知識が無さ過ぎて、どんな魔法だか分からないというのが正しいけどな。

 魔力なら生まれた時からある程度魔力を持った人だったら、その人が魔力を持った人かそうでない人かの見わけがついていたんだけど……それが特別なことだと知ったのは、葛木家と知り合ってからだ。

 

 魔法の分析――分析もその魔法の波長……という感じのものを感じ取り、それを頭の中で整理するだけ。複雑な魔法だったとしても、根本的なことは変わらずいくつかの波長の魔力を整理していくだけだ。

 あとは整理した波長を、今まで整理した事のある魔法から、それと似ている波長の魔法と照らし合わせれば、大体の魔法ならどんな魔法か分析も出来る。

 

 魔法の創作――これは自分の魔力があまり強くないので、実際にある魔法に制限を足したり変えたりして使いやすくしたり……自分が魔法でやりたい事を、簡単にできないか悩みながら、制限を考え同じような波長の魔力を合わせるようにしていくうちに、だんだん魔法が創りやすくなっただけだ。

 実際、こないだ協会の人や清隆たちに言われるまで、魔法を創っているなんてぜんぜん思ってなかった。

 

 なのでこれらの事から、俺は魔法による結界なんかに気づかれないように入ったり、穴を開けることや――魔法対策(扉を開けさせない複雑なロックの魔法や妨害魔法など)の魔力を分析して、一時的に魔法対策のものを無効化されるのは得意というわけだ。

 無効化させた後で、後は適当に制限をかけて清隆のカギを開ける魔法をかければいい。

 いやこの場合、制限を『知り合いの部屋』にして、一回ぽっきりの魔法で開ければすぐに開くかな。

 『一回のみ』と制限をつけたせば、何かと魔力の弱い俺でも大抵の魔法は使える。

 けど次にその魔法を使うときは、その魔法の制限をちょっと変えなきゃいけないのだが……まあもう慣れたので、そんなものはぜんぜん気にしない。カギ開けの場合は制限つけるの楽だしな。

 その為、カギ開けは俺の数少ない特技だ。

「よいしょっと……」

 素早く俺はカギを開け、部屋の外くらいの距離なら、清隆ほどの魔力なら感じられるの為、部屋にいると分かっているので、

「清隆ー、入るぞー」

 そう言いながら入ると――上着を脱いで窓の外をボケー、としながら見ている清隆の姿があった。

「……お前、何やってんだ?」

「うお、修! な、なんでお前が!?」

「いくら外から声かけても返事がないから、勝手にカギ開けて入らしてもらった」

「そ、そうか、悪かったな。でも……普通は返事が無かったら留守と考えないか?」

 そうやって苦笑いする清隆に、

「お前ほどの魔力を持つやつが部屋の中にいれば、外からだって気づけるよ」

 と、荷物を邪魔にならなそうな場所に置きながら言う。

「その感知力にはさすがと言わせてもらうが……カギはどうした? 魔法で開けたとか言ったが、ここの扉には魔法で開けられないために、魔法防止の魔法がかかっていたろ?」

「ふっ……なめてもらっては困るな。清隆」

 俺はわざとらしく偉そうにして言ってやった。

「自慢じゃないが――俺のカテゴリー4というランクは、カギ開け魔法でほとんど決まったと言っても過言ではない!」

「本当に自慢じゃないな! それにそんなことないからな!」

 おお、ナイスなツッコミだ。

 さすがに俺のそれだけで選ばれたのではないと思うが……他に得意な事なんて、魔法ではほとんどないと言える。

 なので――

「正直、なんで俺がカテゴリー4になれたか不思議でな。本当にそれくらいしか魔法では得意なことなんてほとんどないんだよ」

「何言ってんだよ。そりゃあ、俺も修がカテゴリー4だって言われた時は驚いたが……あの試験を見れば誰もが納得するぞ」

「……いや、いくら制限を増やして魔法を簡単にして使っても、他の清隆たちカテゴリー4に比べて必ず魔力の差で速くバテる。なら、俺にはカギ開けくらいしか無いかなって思ってな」

 清隆に正直な俺が思っていたことを話した。

「はあ……バカだな、お前」

「なんでため息ついてまでバカにされなきゃいけないんだよ。事実を言っただけだろ?」

「だから、その魔法の制限を簡単に、あまり魔法の知識もないのに増やせる時点で、カテゴリー4というランクにいてもおかしくないんだよ。普通は」

「……そうなのか?」

 いつもそうして使っているので、いまいちピンとこない。

 言葉にするなら『こんなのみんな出来るんじゃないのか?』と言えばいいのだろうか。

「そうなんだよ。それに加えてお前は魔法の感知能力なんかに優れてるからな。カテゴリー4でも全然不思議じゃない」

「そうか……ありかとな。実際、少し不安だったんだよ。俺なんかがカテゴリ-4になっていいのか、ってな」

 協会の人に『あなたほどの魔力でカテゴリー4になった人は初めてです』って言われたのも、そう考えてしまった少しの原因でもある。

 なので、清隆のおかげでまだあまり納得できていないものの、少しは不安がなくなったのも事実なので、一応お礼を言った。

「別にこれくらいお礼を言われるほどのことじゃ――って、ヤバい! 時間が!」

 清隆は突然時計を見るなり慌てだした。

「時間? 時間がどうかしたのか?」

「姫乃と待ち合わせの約束してるんだよ。風見鶏の中を色々見て回ろうって」

「へぇ、なら俺も行っていいか?」

 俺も見てみたいしな。

「ああ。――よし、それじゃあ行くぞ!」

 上着を慌てて着直して用意が終わった清隆に合わせて、俺も急いて部屋を出た。

 

 

 

「……………………」

「…………なぁ清隆。本当に待ち合わせの時間、間違ってないんだな?」

「…………ああ」

 清隆の言う約束の時間を過ぎて約5分。

 あんなに急いできて待っていても、姫乃は現れない。

「……ったく」

 隣にいる清隆が、ため息交じりの声をもらす。

 まあ、俺としても姫乃がすぐに来ないなんて、慣れっこだ。

 曰(いわ)く、女の子ってのは、基本的に身支度に時間がかかるもの……らしいからな。

 俺か清隆が迎えに行っても良いが、原則的に男子は女子寮には入らない方がいいと、さっきシャルルさんが言っていたし、仕方がないので待つことにした。

 ……のだが、

「――あっ!」

 入学許可証を、さっきの俺の荷物が置いてある部屋に忘れてきたことに気づいた。

 あれがないと、今現在もしもの時に俺の身分を証明するもんなんてないし……めんどくさいけど取りに戻るか。

「悪い清隆。入学許可証忘れたから取ってくる。ちょっと待っててくれるか?」

「ああ、分かった。別に急がなくていいぞ。どうせ姫乃も来てないし」

「悪いな。じゃあ行ってくるよ」

 清隆は『急がなくていい』と言っていたが、姫乃は自分が待たすのは良いくせに、待たされると機嫌が悪くなるので、俺は急いで入学許可証を取りに戻った。

 

 

 

 

 

 

 




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第4話 学園の案内

今回は風見鶏の中の説明回みたいなものです。


 

 

 

 俺が入学許可証を手に取り、清隆の元へ戻ると、すでに姫乃が来ていた。

 そしてもう一人、笑顔がよく似合う東洋人の女の子と一緒に喋っている。

(日本人……かな?)

 そう思いながら三人の元へ近づき、そして清隆に、

「ロンドンに着いて早々、早速、ナンパか清隆?」

 おちょくりの意味も混ぜて声をかける。

「……なんでお前は、来てすぐに姫乃と同じことを言うんだ」

 はぁ、とため息をつきながら俺に返事を返す清隆。

 やっぱり姫乃もそう思ったのか。

「えっと……清隆さんたちのお知り合いですか?」

「ああ。俺は清隆の幼馴染の柏田修。よろしく」

 清隆の横で控えめに聞いてきたので、清隆を軽くスルーして挨拶をする。

 このナンパした、してないのことで、会話を長くしてこの子をこれ以上困らしても悪いしな。

「あ、わたしは陽ノ本(ひのもと) (あおい)と言います。こちらこそよろしくです」

「陽ノ本さん、ね」

 やっぱり日本人らしい。

「あ、清隆さんたちにも言ったんですけど、葵で良いですよ。あと、できれば葵ちゃんでお願いします!」

「わ、分かったよ。葵ちゃん。――なら、俺も修でいいよ」

 元気がある子だな。

 それにしても、なんでこんな元気いっぱいな子が、この風見鶏で働いているのだろうか……?

 ……まあ初対面でいろいろ聞くのも礼儀が悪いし、他の気になることを聞いておこう。

「それで、なんで清隆たちと葵ちゃんは話してるんだ?」

「あ、それはですね――」

 俺の問いに葵ちゃんが、先ほど何があったかを話してくれた。

 どうやら、アルバイトでガス灯を灯す魔法がこもった石を取り換えようとしていたら、乗っていた脚立(きゃたつ)が倒れて、危ない所を清隆に助けてもらったらしい。

 その後、取り換えるのまで手伝ってもらったので、葵ちゃんが恩返しに学園を案内することになった――とのことだ。

「それで、お前を待っていたというわけだ」

 葵ちゃんの説明が終わり、最後に清隆がココに(とど)まっていた訳を言った。

「そうか、悪いな。待たせちゃって」

「そんなに待ってないですよ、修兄。せいぜい1分くらいです」

 姫乃がすかさず俺にフォローを入れる。

 俺と清隆以外の人がいる前なので、猫かぶり中。

 でも、あと数分遅れてたら多分、フォローはなかったな。……あ、危なかった。

「それじゃあ、待たしてた俺が言うのもなんだけど……葵ちゃん、案内よろしく」

「お任せください!」

 

 

 まず最初は桜が咲いている道に案内をされた。

「ここは通学路ですね。学校が始まったら、安里夕方には、魔法学校の生徒さんたちが沢山通ります」

「ここはさっきも通ったな」

 寮に行く時にな。

「ああ、そうでしたか」

「こんな時期でも桜が咲いてるんですね」

「ええ。不思議ですよね。さすがは魔法学校って感じです!」

 そんな姫乃と葵ちゃんの話を聞きながら、また移動することにした。

 

 

「ここは?」

「ここは船着き場です。向こうに見えるのは図書館島とリゾート島ですね」

 清隆よ言葉に、すぐに葵ちゃんが答えを返す。

 そしてその答えを聞いた姫乃が、

「図書館島? リゾート島?」

 俺も聞いたことのない名前について、葵ちゃんに聞く。

「はい。図書館島には大きな図書館があります。いろんな本があるみたいですよ」

 学校に図書室があるんじゃなくて、図書館島ってのがあるのか……それだけ本が入りきらないってことなのかな?

 ということは、清隆が求めている知識はその図書館島にあるかもな。

「リゾート島っていうのは?」

 図書館島についてはもういいのか、再び姫乃が葵ちゃんに質問する。

「リゾート島はリゾート島です。大きなショッピングモールがあって買い物もできるし、なんとなんとビーチもあります」

「ビーチで何するの?」

「もちろん、泳いだりできるんですよ。あそこはいつでも夏みたいに暑いですから」

 本当にリゾート島だな。そりゃ。

 けど……

「あのふたつの島にはどうやって行くんだ?」

 見たところ橋もないみたいなので、気になり葵ちゃんに聞いてみた。

「ああ、わたしたち一般の住民は定期便で言ったり来たりするんですけどね、風見鶏の生徒さんは違います」

 船出てるのか……そういや最初に葵ちゃんが『船着き場』って言ってたっけ。

 それに今の会話で葵ちゃんが、風見鶏の生徒でないことが分かった。

 ……まあ、それは今は置いておくとして。

「どう違うんだ?」

「生徒さんたちはぁ、学校から支給された個人用のボートを持ってるみたいですね。それで自由に行き来してます」

「ボート……ね」

 ボートが支給されないと行けないってことか。少しリゾート島に興味があったんだが……仕方がない。

 というか、まだ新入生として登録させてもいない俺は、はたして入学式の日にボートを支給されるのだろうか? ……謎だ。

 清隆の顔をチラリと見てみると、ポーかフェイスを保っているが、図書館島に行きたくてしょうがないようだ。清隆の使命を考えれば当然だと思う。

 俺だって、半分はその使命の手伝いの為にここまで来たんだ。図書館島に行きたい気持ちは俺にもある。

 でも、急ぐことでもないのだ。今は我慢をしよう。図書館島もリゾート島も。

 しかし、そう思っても多少の名残り惜しさを残し、俺たちは再び移動することにした。

 

 

 次に来たのは、寮の割と近めの所にあるいとつのお店だった。

「ここはわたしが主に働かせてもらっているお店『ケーキ・ビフォア・フラワーズ』です。通称『フラワーズ』♪」

 花の前にケーキ……日本語で言うなら『色気より食い気』、『花より団子』って意味か?

 飲食店にしてはストレートな名前だな。

 その後、葵ちゃんが『テイクアウトもできます!』『お味はホショウ付きです!』などのセールスをするので、今度来てみようと思った。

 

 

 そして最後に、俺たちは学校の校舎の前に来ていた。

「ここが、皆さんがの通うことになる王立ロンドン魔法学校、通称『風見鶏』です。予科二年、本科二年の四年制の魔法学校で、在籍者は主に英国出身者の魔法使いではありますが、広く世界に門戸を開いています。……なんで風見鶏と呼ばれているかっていうと、いろいろ説はあるんですが――上空から見下ろした校舎のカタが風車の用だから、そう呼ばれているって説が一般的です。学園長のエリザベスさんは、一見、お若く見えますが、実は結構な年齢の魔法使いだって噂もちらほら聞きますよ」

 来てそうそう、葵ちゃんは俺より詳しい風見鶏についての知識を教えてくれた。

 なぜそんなに知っているのか聞いたら『各園都市内で働かしてもらってる身ですからね。詳しくもなります』……だそうだ。

 

 

「――だいたい、こんなところでしょうか? 大急ぎで回ったから、詳しい説明はできませんでしたけど」

 葵ちゃんの案内も終わり、俺と清隆、姫乃と葵ちゃんは寮の前に戻ってきた。

「いや、十分だよ。なぁ?」

 俺と姫乃に聞いて来る清隆に、

「ああ」「ええ」

 と同意する。

「それに、初日からこれ以上情報入れたら、頭がパンクしちゃいそうですし」

「右に同じく」

 すでにもうパンクしそうだ。

「あとはおいおい知っていくから、いいよ」

「ありがとね、葵ちゃん」

「いえいえ、どーいたしまして♪」

 姫乃の奴、葵ちゃんとすっかり打ち解けあっている。

 やっぱり、日本人同士だと打ち解けやすいのかな?

「それじゃあ、わたし、次のバイトがあるんでこれでって……あ!!」

 葵ちゃんは何かに気づいて脚を止める。

 葵ちゃんの視線を追うと、寮の入口から金髪の女性が出てきたところだった。

「――っ!」

 俺はその女性に驚きを隠せなかった。

(な、なんて魔力だ!)

 俺の魔力感知は普通、知らない人の魔力を感じるのに15mくらいからなら感じれる。

 知っていて魔力の質が分かる人なら、意識すれば30~50mくらいなら感じれるし、清隆くらいの魔力ならもう少し遠くでも大丈夫だ。

 当然、感知する側の方が魔力を高めて魔法なんかを使えばもっと距離はもっと伸びるし、こっちからも感知用の魔法を使って伸ばすこともできる。

 しかし、女性は何もしていないで、100mくらい先からこちらに向かって歩いているだけにも関わらず、魔力を感じる。当たり前のことだが、俺はあの女性を見るのも初めてだ。

 ――と、言うことは、彼女は何もしていない時の無意識に流れる魔力でさえ、普通の人の何倍も魔力があふれ出ているということだ。

 多分……いや、確実に清隆以上の魔力をこの女性は持っている、と俺は思った。

「こ、こんにちは!」

「……こんにちは」

 葵ちゃんの緊張した面持ちに、金髪の女性は優雅な笑みを浮かべ、挨拶を交わす。

(上級生、か?)

 この魔力に、背筋の伸びた堂々とした歩き方――どう見ても『一流』という雰囲気の女の人だ。

 シャルルさんとは違った、『風格』のようなものが感じられる。

「……………………?」

 一瞬、その女性は俺たちの方を見る。

 なので俺は(清隆と姫乃も)即座に会釈をする。

「………………」

 すると女性は、ほんの小さな笑みを返してくれた。

 そして俺たちの横を通りすぎていく。

 すれ違った瞬間、ほのかに桜の花の香りがした――と思うのだが、正直近くで初めて感じる魔力にそれどころじゃなかった。

 俺は振り返り、しばらく彼女の魔力に意識を向けていたが、多分150mを過ぎた辺りではとんど何も感じなくなった。

「はぁ……。相変わらず……かっこいいですねぇ」

 俺と同じように彼女の背中を見つめていた清隆、姫乃、葵ちゃんだったが、そんな中、葵ちゃんは一番最初に言葉を口にした。

 そこでようやく俺たちの時が動き出したような気がした。

「い、今の人は? 知り合い?」

「はい」

 清隆が葵ちゃんに質問し、葵ちゃんが頷く。

 そんな清隆と姫乃たちの会話を横で聞きながら、俺は未だに彼女が向かった先を眺めていた。

 やっぱり、あの人は清隆よりも凄い魔法使い何だろうか?

 葵ちゃんなら知っているかもと、意識を会話の方に向ける。

 すると清隆が、

「ひょっとして、あの人がリッカ・グリーンウッド?」

 と葵ちゃんに聞いた。

「なんだ、清隆あの人のこと知ってるのか?」

「知ってるも何も、あの人は世界に五人しかいないカテゴリー5の魔法使いだぞ。しかも噂に名高い《孤高の洋蘭(カトレア)》だ」

 ……やっぱり、清隆より凄い魔法使いだったのか。

 俺は再び、『凄いです』などと話してる姫乃たちの横で、彼女が去ったあとを眺めた。

 なぜそんなカテゴリー5の称号を貰うほどの凄い人がこの学園にいるのか、と。

 

 

 

 

 

 




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第5話 入学式1

入学式は長いので何回かに分けます。


 

 

 

 葵ちゃんの案内が終わってから数時間経ち、滞在初日の夜。

 量の中には食堂や大浴場があったが、各部屋にもバスやトイレ、冷蔵庫、小さなキッチンなどが備え付けられていた――が、当然のごとく、ベットは一部屋に一つ。

 なので、俺と清隆は風呂をでて着替えた後、あることに悩まされていた。

「さて清隆。俺はどこで寝ればいいんだ?」

「そういえば、考えてなかったな。……一緒に寝るか?」

「野郎と一緒に同じベットで寝ろっていうのか! どこの鬼だ、お前は!」

 そりゃあ流石に子供のころは何度か一緒に寝たことはあったが……この歳で男二人が同じベットに寝るなんて、想像したくもない。

 思わず俺と清隆が一緒に寝てる所を一瞬想像してしまったが、あまりの気持ち悪さにすぐに頭を切り替えた。

「だよな……俺だって嫌だ」

「…………仕方ない。清隆、ちょっと運ぶの手伝ってくれないか?」

 こうなったら、運ぶのが面倒だけど持ってくるしかないな。

「運ぶの手伝うって……何を持ってくるつもりなんだ?」

(たたみ)布団(ふとん)

「はぁ? なんでお前、そんなモノ持ってきてるんだよ!?」

「いやー、学校の場所がロンドンって言うから、絶対に畳と布団が恋しくなるんだろうなー、と思ってこっちに送った」

「……一応聞きたいんだが、修。お前、他に何持って来たんだ?」

「仕事の道具と魔法に関係するもの。あとは日本を感じれるもの」

「……とりあえず、お前の荷物が置いてある部屋へ行ってから感想を言わせてもらうことにする」

 その後、清隆の部屋に畳と布団を持っていき、俺たちは眠りについた。

 あと、俺の荷物の置いてある部屋に来た清隆が『こんなに荷物持ってきて……お前はバカか!』と言っていた。

 確かに清隆の持って来た荷物の倍以上あるけど、仕方ないじゃないか! ――と心に思いながら、眠りについた。

 

 

 

 朝――俺は慣れない気温のせいか、それとも少なからず今日の入学式に緊張しているのか、割と早めに目が覚めた。

 見慣れない天井のせいで少し戸惑ったが、すぐに寮の部屋にいることを思い出す。

 横になったまま首を動かし、横のベットで寝ている清隆を見てみると、まだ寝ていた。

 ……というか、魔力がどこか先に伸びている感じがするから、清隆の奴、得意の夢見の魔法を使ってるのか?

 でも、確か清隆は相手の了承がないと夢見はしないはずなんだけど…………まあ、起きたら聞けばいいか。

 それよりも、せっかく小さいがキッチンがあるんだし、時間もあるしちゃんと目を覚ますためにお茶でも沸かそう。

 勝手に使わせてもらうお礼として、清隆の分も作っておくか。

 そう思い、俺はキッチンへ向かう為に起き上った。

 

 そして数分が経ち、お湯が沸き自分の持ってきていたお茶を入れていると、

「ぅああ、他人の夢を見てしまった……」

 なんて声が聞こえたのでそちらを見ると、ベットの上で自己嫌悪に見舞われた清隆の姿があった。

 なので俺は清隆の分のお茶を注ぎ、

「おはようさん、清隆。ほら、お茶」

「……おはよう修。お茶、ありがとな」

 清隆の元へ持っていき差し出す。

 そのお茶をお礼を言って受けとる清隆の顔には、少し反省のような色があった。

「なんだよ。朝起きて清隆の様子を見たら、夢見してるからなんでだろうと思ってたけど……自分の意思じゃなかったのか?」

「ああ。長旅のせいか、それとも枕が変わったせいかせいか――とにかく勝手に覗いてしまったことには変わりない。……はぁ、いちから鍛え直すかなぁ」

「……別にそれくらい気にしなくても良いと思うけどな。そりゃあ、人の夢を勝手に見るのは気分が悪いかもしれないけど、無意識じゃ仕方なくないか?」

「いや、無意識に見てしまうのがダメなんだ。仮にも俺は夢見を得意とするカテゴ――」

「――清隆、この話題はまだ後でだ」

 俺は清隆の言葉を途中で止めた。

 なぜなら、俺が夢見に対して話を振ったので、外に意識を少し向けて人が来ないか確認をしていたのだ。

 それでこの部屋のすぐ近くに誰かが……というか、知っている魔力の感じがしたので話を止めたのだ。

 一応、寮の扉には防音の魔法がかかっているらしいが、念のために。

 そして、それから数秒が経ち、カギが開く音がして、不意に扉が開いた。

「こら~、兄さん、修兄! そろそろ起きないとダメだよ~! 今日は入学式なんだからね~!」

 と言い、姫乃が部屋に入ってくる。

 当然のことながら、学校の制服に身を包んでいる。

 その為だからは知らんが、いつになく姫乃はハイテンションだった。

「って、あれ? もう起きてたんだ。しかもお茶まで飲んでるし……。せっかく起こしに来たんだけどな、残念……」

 俺らが起きていることを知り、少しテンションを下げる姫乃。

「……さすがだな修」

 さすがというのは、姫乃が来ることが分かったことを言ってるんだろうな。多分。

「え? なに、修兄がどうかしたの?」

「いや、何でもない。……っていうか姫乃、男子寮に女子が入ってきちゃまずいだろ」

「女子寮に男子が入ってくるよりましでしょ?」

 どういう理屈なんだろうか。それは。

 ……さて、この兄妹が会話に夢中になってる間に着替えるとするか。

 そう思い着替えを始めるが姫乃と清隆は、

「それに鍵、かかってただろ?」

「知ってるでしょ? 『家族の部屋のカギを開ける魔法』は得意なの。兄さんが教えてくれたんだよ?」

 なんて会話をしていて、こちらに気づいていない。

 そのことに少し寂しい気持ちを感じながらも『ほぉ~、そんな魔法を清隆は創ってたのか~』と考えながら気を(まぎ)らわしてるうちに、着替えが終了する。

 すると今度は、姫乃の制服を清隆が褒め始めてる。

(……これ、先に行っても気づかれないんじゃないか?)

 そう思いながらも、流石に普通の生徒と違って私服で登校しなければいけない俺は、一人で学校に行く度胸は持ち合わせてないないので、仕方なく二人の会話を聞きつつ待つことした。

「さて、俺も制服に着替えるか……」

「うんうん、兄さんの制服姿、早く見たい」

 そう言って姫乃は清隆をじっと見つめる。

「……って、おい! とりあえず、着替えるから出てけよな」

「別に兄さんの着替えくらい、気にしないけど?」

「俺は気にするの!」

「はいはい。じゃあ、ラウンジで待ってるから、一緒に食堂行こ? 修兄も、ね?」

 そこでようやく姫乃が俺の方を向いて聞いてきたので、

「ああ、いいぞ」

 と答えた。

「俺も制服に着替えたらすぐ行くから待ってろ」

「は~い。じゃ、またあとで♪」

 姫乃はそう言って、小さく手を振ると部屋を飛び出していった。

「……ふぅ」

「ほら清隆。ため息なんかついてないで、早く着替えたらどうだ?」

「なんだよ。一息入れるくらいいいじゃないか。お前だって着替えるんだろ?」

「お前たち兄妹が話している間に着替え終わりました」

「えっ? だってお前、それって私服じゃ――あ!」

 よかった。気づいてくれて。あと少し清隆が気づくのを遅かったら、殴っている所だった。

 やっぱり私服で入学式はツライな、と起きてから20分で改めて思わさされた。

 

 

 

 ものの五分とかかあらず、清隆が着替えを済ませたので一緒に部屋を出る。 

 そして待たされるのが苦手な姫乃の為に、廊下を二人して早足で歩いていると――

「……………………」

 女中姿の女性とすれ違った。

 あれ、あの人……どこかで見たような………………まあいいや。とにかく今は急ごう。

 

 

 

 それから、二階にある男女共有スペースのラウンジで姫乃と交流して、学生食堂へと向かう。

 するとそこには、外にあったカフェが朝だからオープンしていないとかで、食堂で働いている葵ちゃんを発見。本当に働き者だな、この子は。

 そしてそのままご飯を食べ、学校へ。

 道中、『兄さんが葵ちゃん相手に、デレデレしてるから悪いです』という、食事中から不機嫌な姫乃にため息をつきながら歩く清隆。

 そこに偶然にも登校していたシャルルさんが、二人の口喧嘩を止めてくれた。

 それには、凄く感謝します。シャルルさん。

 俺が止めようとしても、いつの間にか俺まで口喧嘩に参加していることがしょっちゅうなので、最近は口を出さず見守るのが多くなってきてたので、こうして止めてくれると凄くありがたかった。

 

 

 

「いよいよだね……」

 校舎について早々、姫乃がそんな事を言った。

「何が?」

「え? あ、ううん。いよいよ、わたしたちの新しい学園生活が始まるんだなぁ……って思ったら、胸がいっぱいになっただけ」

「……まあ、そうだな。多分、新入生の全員は少なからずそんなんじゃないか? ……約一名を除いて」

 会話を止め、清隆と姫乃がこちらを心配そうな、それでいて何かを悟っているような目で見つめてくる。

 お願いだからやめろ、そういう目は。こっちだって辛いんだから。――さっきからすれ違う生徒に変な目を向けられて、早くも帰りたいと願うばかりだよ。俺は。

「……ほら、修兄。行こうよ。多分、みんなについて行けだいいと思うから」

「…………はぁ」

 そう言われ、肩を落としながら姫乃と清隆について行くと、

「新入生はこっちへ移動して」

 ……なんだか知っているような声がした。

 見てみると、上級生と思わしき女生徒が、新入生を案内していた。

 みんな、その上級生の指示に従って、続々と中へ入っていく。

 ……というかあの人って。

 俺と同じく気づいたのか、清隆と姫乃が上級生に声をかける。

「あの、すいません」

「……何?」

五条院(ごじょういん) (ともえ)さん……ですよね?」

「そうだけど……。君らは――」

「俺ですよ、俺。葛木清隆」

「姫乃です」

「かつらぎ……って、ああ――清隆に姫乃か。すっかり見違えたね、分からなかったよ。……ということは、そっちのは……」

 俺に視線が向けられたので、仕方なく挨拶をする。

「……修です」

「やっぱりか。相変わらず女のような、それでいて男のような顔をしているな君は。……それで、なんで修は制服じゃないんだい?」

「それはですね――」

「ばっ、ばかやめろ姫乃……って、もう遅いか……」

 姫乃が巴さんに耳打ちで事情を説明し始める。

 こうなったら、この人は理由を聞くまで俺たちをここから動かさないだろう。そういう人なのだこの人は。

 そして、あらかた姫乃の説明を聞き終わると――

「あはははっ! 君はバカかい! ははは、まさかこんな生徒が風見鶏にいるなんてね! 何年かこの学園に通ってるけど、こんな生徒は修が初めてだ!」

「…………全部が俺のせいって訳でも無いんですけどね」

 俺の言葉虚しく、ぜんぜん聞こえておらず、巴さんは笑うばかり。

 だからこの人には言いたくなかったんだ。

 彼女は葛木家に遠縁の親戚筋にあたる五条院家の息女らしく、何度か葛木家の家で幼い頃会ったことがあった。

 だがこういう性格の為か、どちらかと言えば俺はこの人が苦手だ。

 なので、もう後の相手は清隆と姫乃に負かすことにした。

 そして色々話していく内に清隆が、

「う。今、思い出した……。俺、巴さん、苦手だったんだ」

 そう俺もなんで清隆がそんな平然と話しているのか不思議だったが……忘れてたのか、自分が俺と一緒でこの人が苦手なこと。

 だが清隆。それは口に出してはいけないセリフだったようだ。

「つれないなぁ……そんなことを言うなって」

 獲物を見つけた目をしてるぞ。この先輩。

「そうですよ、今は頼れる先輩なんですから。これから、この学園でいろいろお世話になるでしょうし」

「あ~、頼れる先輩なら、他にもいろいろいるろ思うから、できればそっちによろしく」

 姫乃がそんな目に気づかずそう言うと、めんどくさそうな顔になり、いきなり先輩としてどうかというセリフを言い出す。

 ナイスだ姫乃。これで清隆が狙われることも、飛び火を食らうこともないだろう。……同時にこの人を先輩として、あまり頼れなくもなったが……もとより、そこまで頼むことが無いので大丈夫だろう。

「で、新入生はどこに行けばいいんですか?」

「ほら、そこの列に従って進めばいい。そっちが待機室になっているから、すぐにわかるでしょ」

 巴さんが、廊下の先へ指さす。

 清隆の言葉で、やっと新入生の集まる場所が分かった。

「すぐに入学式が始まるから、それまでは部屋で待機していてくれ」

「分かりました。ありがとうございます」

 俺も清隆のお礼と一緒に会釈をして、他の新入生たちが進んでいく先へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 




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第6話 入学式2

今回は少し長いですがよろしくお願いします。


 

 

 

 俺たちが通された待合室は、すでに多くの生徒で賑わっていた。

 とりあえず、座席の指定が無いので、適当な席を選び三人で座る。

 そして――俺の私服姿に集まる視線。

 正直、今にでも逃げ出して帰りたい気持ちもあるが、ここまで来たのだから、頑張って目線をスルーする。

「すごいですね」

 周囲の目を意識してか、言葉づかいもすでに外面モードの姫乃がつぶやく。

「何が?」

「だって、ここにいる人たち、全部、魔法使いなんですよね?」

「そうだな。――しかも、ここに通うってことは、単なる魔力持ちってだけじゃなくて、相応の実力を身に付けた連中ってことだ」

 清隆が言うように、魔法使いの血を受け継いでいるために、生まれつき魔力を持っている人間は、実はそれなりに存在する。

 でも、そういう魔力持ちが、自分の力に気づかないまま生涯を終えるケースは多々ある。

 時折、自分の魔力を行使する者があらわれ、それが発覚して清隆のように引き取られ、正規の教育を受ける場合もある。……が、そういう者はあまり多くないって話を聞いている。

 ちなみに俺もその数少ない一人で、どうやら生まれた場所は清隆と同じらしい。

 生まれてからしばらくは、俺は親とちゃんと暮らしていた(といっても、離婚したらしく母親とだけだけど)。

 俺は生まれつき魔力を感知できた為、小さい頃は魔力を持った人を見ると『それは特別な人の証だ!』なんて思い、たまに見かける魔力持ちについて行くことがあったらしい。

 そして俺が生まれて4,5年経った頃、母親が病気で死んだ。

 それで、両親が死んだらもはや子供に選択権なく、遠い親戚の恵子さんという人に引き取られた。

 その人はそこまで魔力は強くないけど魔法使いで、俺はその人にしばらく暮らしている内に魔力持ちだと言われ、魔法の教育を受け指してもらい今にいたる。

 その後、恵子さんのやっている会社のお手伝い&教育と言うことで清隆や姫乃と知り合った。

「あまり、お友達に自分の能力についてお話したことなかったけど、ここでなら、いろいろ話せますね」

「そうだな」

 姫乃たちとは、家のお付き合いもあったが通っている学校も同じだった為、当然二人の会話の意味が分かる。

 今までは通常の学校に通っていたから、学校の友達に魔法の事を話せなかったが、ここでなら心置きなく話せる――ということだろう。

 そうやって姫乃と清隆の話をしばらく聞いていたら、

「お、同郷者はっけ~~~ん!!」

 ハイテンションな声がするのでそちらに顔を向けると、そこには満面の笑顔の日本人男子の姿があった。

「………………」

 さらに背後には、朝に寮の廊下で見かけた女中姿の女の子がいた。

 ……っていうか、やっぱりこの子どこかで見たことあるぞ。

 それに、この子の魔力……

「あれれ? 日本人じゃなかった? チーラマ! アニョハセヨ~! サェンバェノー?」

「……い、いや、日本人だよ」

「そっか、良かった。俺の名前は江戸川(えどがわ) 耕助(こうすけ)。よろしくな」

「俺は、葛木清隆。で、こいつが妹の」

「葛木姫乃です」

 清隆たちが挨拶を交わす中、俺は必死に記憶を探る。

 ……江戸川? そういえば、何年か前にそんな名前の一家を仕事の関係上、少しだけ行ったことがあったような……。

「おお~、姫乃ちゃんか~。良い名前。俺、君の兄さんの親友の江戸川耕助。よろしくね」

「ど、ども……」

「……いつから親友になったんだ?」

 清隆や耕助が騒がしいせいで、他の人の視線がただでさえ集まりやすい私服なのに、より集め始めた。

「やれやれ、騒がしいヤツらがいるみたいだね」

「名門高への入学で浮かれてるのでしょう。イアン様が気にすることではないと思いますよ」

「……まあ、そうだな」

 ヤケにキザッたらしい奴が、そんな事を言っていた。

 もはや俺の私服についてはスルーのようだ。

 確かにツッコまれるとキツイけど、スルーされるものそれはそれでツライものがあった。

「ところで、そっちにいる制服じゃない奴。姫乃ちゃんたちの知り合い?」

「え、あ、はい。……修兄、呼ばれてますよ」

 そう言って、姫乃が俺の肩を揺する。

「というか、修。お前この部屋に来てから一言も喋ってなくないか? どうしたんだよ?」

「ん? ああ、悪い。俺は柏田修。よろしくな。……それと、黙ってたのは考え事をしてたからだ」

「考えごと?」

「ああ。――江戸川って言ったよな、あんた」

「耕助でいいよ。耕助で。……それで、江戸川って言ったけど、それが何か問題あるのか?」

「いや、ないよ。ただ、江戸川って名前になんか聞き覚えがあると思ったら、江戸川家の作る人形にウチの会社が協力してたのを思い出しただけだ」

「へ? 人形を作る際に協力して……柏田……ってことは、もしかして! あの柏田会社の関係者!?」

 柏田会社――その名の通り、柏田恵子さんが社長を務める会社のことだ。

 その仕事内容は『魔法で商品を作りあげること』。

 具体的には魔法の力で科学製品を造る機械などを高度な機械にしたり、食べ物を魔法で加工して売るなどなど、さまざまな種類の仕事がある。

 しかも、魔法で手を加えられそうなものなら何でも手を加えたりする。(犯罪に関係するものや、法律が禁止するものはさすがに手は出してない)

 さらに言えば、魔法が関係ない生活用品などの販売もしている。

 まあ簡単に言えば、魔法で物を作ったり、売るのが仕事なのだ。ただそれが普通の会社と違って、魔法に関係ある家系なども一般人に含めて販売などをしているだけ。

 もちろん普通に魔法に関係あるものも取り扱って売っているので、葛木家や江戸川家にも縁があったってこと。

 江戸川家はうちの会社に、人形を作るために必要な道具や部品を大量に注文してくれたので、それをお届けするのが俺ってことになって、その際に江戸川家で出迎えてくれたのが、この後ろにいる女の子だったのだ。

 多分、あの部品はこの子とは違う子に使われたんだな。

「そう。多分覚えてないと思うけど、何年か前に江戸川家に届け物をしたことがあるんだよね」

「ああ、全然覚えてない」

「マスターの全く中身のない頭と違って、私はちゃんと覚えていますよ。柏木様のこと」

 ……ん? この子、今凄い毒吐かなかったか? 俺の聞き間違いか?

「なあ耕助……今、この……えっと……」

「申し遅れました。私の名前は、江戸川(えどがわ) 四季(しき)と申します」

「あ、ありがとうございます」

 四季さんに会釈をされながら名前を言われた為、訳もなくお礼を言ってしまった。……何に対してお礼言ったんだ、俺?

「え、えっと……四季さんは良く俺の事を覚えていたね。あんなにすぐ帰ったのに」

「ええ。だって、私を人形だと一目で見抜けたのは、柏木様が初めてだったものですから」

「あー、そういえば……」

 そういえば、江戸川家に行った時デリカシーを考えずに、初めて見た四季さん……というか人形に感動して『キミって人形なのかな!』って、勢いよく言ったちゃったような……。

 だから俺も四季さんのことを覚えてたのかな?

「ああ。そういえば前、四季が『一目で私の事を見抜いたお方がおりました』……とか言っていた気がするな」

「あら、マスターのチンパンジー並みの頭にも、一応は私の言ったことを記憶するくらいの性能はあるんですね」

「それはどういう意味だ!」

「そのままの意味ですよ。マスター」

「……なあ耕助。さっきも聞こうとしたが、四季さんはいつもこんな感じなのか?」

 それなら、四季さんはかなりの毒舌ってことになる。

「いや、それは……」

「あの~……修兄。そろそろ、わたしたちにも事情を……」

「あ、悪い。今説明する」

 耕助が何かを言う前に、いい加減会話の外にいた姫乃が、声をかけて来た。

 確かに、清隆と姫乃はここまま話してたら置いてきぼりだよな。

 なので、俺は自分の知る限りの事を二人に話した。

 前に何があったことと、江戸川家が東京の有名な人形使いであることなどだ。

 

 ――俺の説明を聞き終わると姫乃は、

「さすが修兄。感知能力だけは高いですよね。四季さんをすぐに人形だって気づけるなんて」

 と、驚きの声をあげた。

「あはは……どうも。――それより、話を戻すけど耕助。四季さんはいつもこんな感じなのか?」

 このまま話を続けると、前に姫乃についたカテゴリーテストの嘘の事がバレかねないので、俺は話をさっきの話に戻すことにした。

「いや、そりゃ違うよ。――ほら、初めての場所で、こいつもちょっと緊張してるんだよ。で、言動がちょっとだけおかしくなっちゃってるっていうか……」

「いい加減なことを言うと蹴りますよ? 私はいつも通りです」

「………………」

 さすがに江戸川家の御曹司も、人形の酷い言葉に黙る。

「あのさ……差しがましいようだけど、いくらそういう性格でも、自分のマスターにあんまり酷いことは言わない方が……」

「あまり気になさらないでください、柏木様。私は、マスターの性癖を考慮して性格が設定されているのです」

「性癖?」

性的嗜好(せいてきしこう)……とも言い換えることもできます」

 ……性的嗜好? 自分を悪く言われることが? それって、つまり……。

「え? ……ということは、耕助は……」

「はい。柏木様はお分かりになるのが早いですね」

「えっと……どういうことだ?」

 清隆が俺たちの言ってる意味が分からないのか、困った顔をしている。

「つまりですね、葛木様。若い女性タイプの私に酷い言葉を投げかけられることで、マスターは性的興奮を覚えるのです」

「や、やめろよ。初対面の相手にそんな駄目カミングアウトしないでくれ! あ、あるだろ? ほら、世間体とか!」

 耕助が顔を赤くしながら、四季さんに反論する。

「ほらね。こうやって我がマスターは快感を得ているのです」

 ……今の耕助は、快感で顔が赤くなっているわけじゃないと思うが……ツッコまないでおこう。

 俺はそう感じ取ったけど、清隆と姫乃は普通に四季さんの言うことを信じて、

「そ、それは……」

「……最低ですね」

 なんて呟いてるしな。

「うおお……。初っ端から、俺のスクールライフが音を立てて崩れていく……ま、まだ初日だっていうのに……」

 二人の呟きを聞き、耕助が頭を抱えながら、膝からくずれおれた。

 耕助、お前は分かってない。今まで崩れてないだけましじゃないか……。

 ――俺なんて入学式に私服とかいうアンバランスさで、学校入る前からスクールライフは崩れてるよ!

 もはやそうやって耕助に叫んでやりたい……が、さすがにそこまでやると、よりスクールライフが終わりそうな気がするので止めておく。

「元気出してください、マスター。あとでもっと汚い言葉を投げかけてあげますから……」

 ……まあ、この二人は一応仲がいい……かな?

 清隆たちもそうとったのか、一応今後の付き合いの為に『今後ともよろしく』と声を耕助にかける。

「……ん?」

 と、そこで、床にはいつくばっていた耕助が顔をあげる。

「そう言えば、二人とも、さっき葛木って言わなかった?」

「言ったけど……」

「つかむことをお伺いしますが、葛木って……あの、葛木?」

「君が言っているのがどの葛木かわからんけど、多分、その葛木で合っていると思う……」

「うええええええぇ!?」

 今までで、一番の大きな声をあげて驚く耕助。

 そりゃ、驚くのは分かるが……それにしちゃ、それに気づくの遅すぎだろ。

「どうかしたんですか、マスター。変な顔がより一層、崩れてますよ……」

「ってことは、名門中の名門じゃないか。四季、あの葛木家だよ。聞いたことあるだろ?」

「え? ああ……」

 それから四季しばらく考えた後――清隆たちのお世話することに決めた……みたいなことを言い、耕助が『従者が寝取られた! さすがは葛木家!』みたいな感じで騒ぎ始める。

 ……これからこいつらと一緒ということは、騒がしくなりそうだなぁ。でも、退屈になるよりは……いや、限度によるな。

 なんて思っていると――

「あの、すみません。あまり教室で騒がないでくれますか」

 俺たちが日本語で喋っている中、英語で俺たちを注意する声が後ろから聞こえた。

 振り返ってみると、女の子が眉をしかめて俺たちを見つめていた。

 さすがにこれは、騒ぎすぎたみたいだ。

「ごめんごめん、騒ぐつもりはなかったんだ」

 清隆が代表して女の子に謝る。

「……以後、気をつけてください」

「俺、葛木清隆。日本から来たんだ。よろしく」

 ……よくそんなすぐに自己紹介とか出来るよな。清隆の奴。しかも女の子に。……俺なら仕事でもない限り、少し喋ってからでしか出来そうにないぞ。

「わたしは葛木姫乃です」

「あ、俺俺! 俺は江戸川耕助!」

「江戸川四季と申します……」

 姫乃たちも清隆に続いて自己紹介をしているので、

「俺は柏田修。よろしく」

 と、俺も自己紹介と挨拶をしておく。

「……よ、よろしく」

 女の子は、俺たちの勢いに気圧されたようだったが、おずおずと頷いた。

 …………あれ? 名前は?

「あの……」

「な、なんですか?」

「君の名前は……?」

 やっぱり清隆も女の子が名乗らないのを疑問に思ったらしく、名前を聞き直す。

 すると女の子は、

「……え?」

 『この人は何を言っているの?』みたいな顔になった。

 ということは、有名な家柄の娘さんだったのだろうか?

 しかし、自慢じゃないが俺は英国のお偉いさんまでもは知らない。

 それは清隆もだったらしく、遠慮がちに言う。

「ご、ごめん……俺たち、海外から来たから」

「……そうでしたね。魔法使いを目指す者が誰でも私を知っていると思い込むのはさすがに自意識過剰でした。――私はクリサリス。サラ・クリサリスといいます」

「クリサリス? あのクリサリス?」

 サラという女の子の名前に、耕助が驚きの声をあげる。

「はい」

「あ、聞いたことあるかも……」

「俺も聞いたことあるな」

 清隆と姫乃も知っているらしい。

 ……あれ? もしかして、知らないの俺だけ?

「聞いたことも何も、クリサリスって、英国の超名門魔術師の一族じゃないか!!」

 この耕助の名乗りに、クラス中が注目する。

「騒ぐほどのことじゃない、と思いますが……」

「まあ、ともかくよろしくね、サラさん」

「よろしく」

 そう言って清隆が右手を差し出す。

 サラも遠慮がちにその握手に応じ、

「ここでのことでわからないこととかありましたら、何でも聞いてください」

 と、社交辞令な感じで言葉を交わす。

 そして挨拶を終え、持ってきていた本をサラは読み始めた。

 それにしても……

「名前だけでこんだけ注目を集めるってことは、それだけクリサリスってすごい家なんだな……」

 今は視線が落ち着いたが、先ほどの事を思い出し、俺は感じたことをサラに失礼が無いように、日本語で……しかも小さく呟いた……はずなんだが、

「おまっ! えっ? 本当に知らないのか、クリサリス家を!?」

 耕助に聞こえてしまったらしい。……というか、日本人(清隆たち)は全員聞こえてしまっていたらしい。

 俺の言葉を聞いて、耕助が俺に『信じられない』といった感じで言ってくる。

 清隆たちの顔を見ても同じような顔をしている。

 ……ここまで驚かれるんだったら、サラに悪いけど開き直ってやろう。

「ああ、悪いけど知らない。名前を聞いたことすらないくらいだ」

「な、名前もか? 普通、この学校に来る生徒なら少しは英国の勉強するだろ? というか、俺はお前が学校に来る前に猛勉強する姿を見た。なのに、なんで知らないんだ? 英国の事を少しでも調べれば必ず少しは出てくる名前だぞ?」

「確かに清隆の言うように、親父さんに言われてからここに来る少し前まで猛勉強をしていた。けど、それは……」

「それは……?」

 俺はめい一杯、息を吸い込む。そして――

「――英語の勉強だよ! ロンドンに行くって言うから慌てて勉強したんだよ! 俺は清隆たちと違って全然、英語の勉強してなかったから、頑張って勉強したんだ! そんな予備知識を入れてる余裕なんてなかったんだよ!」

 息継ぎをしない早口で、清隆に向かって言ってやった。

 清隆は少し驚いていたが、すぐに俺へと新しい疑問を返す。

「そ、それは悪かったな……。でも、魔法の事を学んでいる身としては、少しは聞いたことのある名前だぞ?」

「恵子さんは家柄とか、特に言ってくれない人だからな。家柄を知るには自分で調べるくらいしかなかったんだよ」

「ということは……俺たち葛木家のこととか、他の家の事も調べたことがあるんだろ? だったら……」

「だから無理だって。だってクリサリス家の名前が出るのって、ほとんど英語の話せる人や、英語で書かれた本だろ?」

 英国の家柄のことを、日本語で書かれている書物やなんかは、そうそうおいてないはずだ。

「まあ、そうだが……」

「だったら絶対無理だ。俺、勉強する前まで10から上の数字の英語が分からないほど、英語の読み書きできなかったし。――むしろ今こうして英語でこっちの人と話せてるのが奇跡みたいなものだよ」

「…………よく、あの短期間でここまで覚えたな……」

「会社の同僚に頼んで、カタカナでも英語の発声と意味が書かれている翻訳した本を借りて、死ぬ気で読んで覚えた。……しかもその本、英語は書かれてなく全部カタカナだったから、今でも英語の読み書きは全然自信ないしな」

 つまり俺の今の英語の状態は、『言葉は知っていても、文字(単語)は知らない』って感じだ。

 そりゃあ、読むのは少しは出来るだろう。読んだ発音の意味は知っているだろうから。

 でも、書きとなるとかなり不安だ。漢字で例えるなら、読むことはできても、書くときになると書けなくなるのと同じようなことだと思う。

「…………」

 俺の言葉聞き、言葉を失うとはまさにこの事だ、ってくらいの黙り具合だ。みんな(日本語で話していた為、日本人だけだが)。まあ予想はしてたけどな。

 ……あとからジワジワくるこの言ってしまった感。もし、穴があったら入りたいです……はい。

 そしてしばらくこの空気が続き、俺が本気で走って帰ろうか考え始めたくらいに、

「修。あとで英語教えてやるよ」

「わたしもです」

「私もお手伝いできることがあったら、おっしゃって下さい」

「俺も手伝うぜ」

 と、みんなが優しく声をかけてくれた。

 俺はその後、入学式がの時間になるまで、この嬉しいような、それでいてなんか悲しいような気持ちでいることになった。

 

 

 

 

 

 




修の会社、英語の件についてはこの小説オリジナルです。
今回の話でオリキャラ主人公の修の性格が少し分かったと思いますが、その性格が自分の考えていたものと少し違うようになってしまったような……そうでないような、そんな気分です。
なので少し性格をちょっとずつ変えていこうか、考え中です。

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第7話 入学式3

今回も少し長めです。


 

 

 

 入学式の時間になり、俺たち新入生は講堂いへ向かい集まった。

 そこで清隆と姫乃、耕助や四季さんとともに列に並び、式が始まるまで待つ。

 ――そして、

『皆さん、はじめまして。王立ロンドン魔法学園にようこそ』

 学園長が姿を見せた。それに合わせて無人の楽器たちが音楽を奏でる。

 学園長は新入生を見渡して何かを言っていたが……正直、学園長にはわるいけど、何を言っていたのかよく覚えてない……というか、聞き流してしまった。

 昔から学校の行事では、偉い先生の話を聞き流すのが普通だったことと、今の俺の服装が完全なる場違いによる緊張というか……なんともいえない空気のせいで、全く話が頭に入ってこないのだ。

 現に、隣に座っている清隆たちが何か喋っていたが、全く頭に入ってこない。

 そのまま頭に入ってこないまま式は進み、シャルルさんが檀上に上がり、挨拶をしていたのを聞き、『シャルルさんは生徒会長』ということと、『俺たち風見鶏の生徒は、任務(ミッション)受けることを義務づけられている』ということを、微かに頭に残しながらもさらに式が進む。

 シャルルさんは一通り話した後、壇上から去り、そして再び新たな生徒が壇上に上がってきたようだ。

『皆さん、はじめまして。本科1年生の……』

 重要事項は後で調べれば良いし、早くこの空気感から解放されたいので、

(早く終わらないかなぁ……)

 と思いながら、壇上に上がった生徒を確認しないまま、天井を見上げている。

 しかし、それがいけなかったらしい。

(――ヤバいっ!)

 俺の座っていた椅子に魔力が宿ったのを感じ、慌てて立つ。それに合わせ、急に立ち上がった俺を見て、周りの生徒が驚く。

 そして俺が立ち上がって1秒経つか経たないかのタイミングで――椅子が天井に向け、物凄い勢いで飛んで行った。

 そのまま椅子は天井すれすれで止まり、あった位置に戻ってくる。

 ……あのまま座っていたら、確実に俺は天井に頭をぶつけてたな。

 俺は魔法をかけたであろう生徒の方を向く。

『これから壇上に上がる生徒や先生の話を聞かない奴は、こうなるのでよく覚えておくように』

 その魔法をかけた人物――巴さんは、他の話を聞いていない生徒や話している生徒が、ややいるのを感じたのか分からないが……とにかく俺が話を聞いていない代表として狙われたらしい。

 その効果もあってか、ほんの少しではあったが、聞こえていた話し声などが一切聞こえなくなった。

『では、早速、クラス分けを発表していきたいと思う。名前を呼ばれた者は、私の前に来てくれ――なお、呼ばれた者のは順次、支給品を渡していく』

 巴さんはそのまま何もなかったかのように話を進める。

 そんな態度の巴さんに文句を言いたい気持ちもあったが、俺が話を聞いていなかったのが悪いのと、過去の経験上……この人に逆らうと怖いので、黙って俺は巴さんに打ち上げられて戻ってきた椅子に座る。

 清隆や姫乃も心配そうに俺の事を見ててくれたが、この静かな空気の中、話しかけてはこなかった。

『この三種類の品が風見鶏の生徒である証だ』

 また狙われたら嫌なので、頑張って巴さんお話を聞く。

 すると巴さんは三つの品物を手元に出す。

『ひとつ目はこれ。(ワンド)だ』

 まず最初に巴さんが示したのは、短い棒状の物だった。

 初めて見たが、その棒状の物はおとぎ話に出てくる魔法使いが持っている杖にそっくりだと思った。個人的な感想だが。

『魔法に必ずしもこのようなワンドが必要というわけではない。特に海外からの留学生にはあまりなじみがない物だろう』

 確かに、日本ではあんな杖を使って魔法を使っている人を見たことがない。

『だか、このワンドは、必ずや君たちの助けになると思う。大事に使ってやってくれ――次はこれ』

 次に巴さんが取り出したのは、小さなブローチのようなものだった。

『これは、個人専用の小舟(ボート)だ。これを、地底湖に浮かべればたちまち人を乗せられる大きさになる』

 多分、あれが昨日葵ちゃんの言っていたボートで、あれを使って図書館島などにも行けるようになるわけだ。

『最後にこれだ』

 最後に巴さんがかかげたのは、見たこともない物体だった。

 化粧用のコンパクトのような意匠が施されているが、小型の通信機のようにも見えなくもない。

『これは便利な品物でな、一種のトランシーバのようなものだ。……といっても、当然のことながら電波で通信するものではなく、魔法の力を使用しているから、遮蔽物に関係なく通話することが可能だ。――これを我々は貝殻(シェル)と呼んでいる』

 つまりはどこにいても、それを使えば電話のように相手と話すことが出来る……ということらしい。

『しかし、シェルは残念ながら地上ではごく限られた区間でしか使えない。だが、この地下空間であれば、どこにいても通信可能だ』

 ……多分、外だと魔力が足りなくて使えないんだな。

 けれど、この地下空間なら入った時から感じてるが、桜を咲かせるためだか、気温を保つためだかに魔法を使う為、常にかなりの魔力が充満している。

 そのため、地下ではどこにいても使えるのだろう。

『これら三種の神器は、どれもこの風見鶏でも各園生活に必要へ可決なものになると思う。受領したら、大事に使ってくれ。…………ふむ、説明が長くなってしまったな。それでは、クラス分けに行きたいと思う!』

 ついにきたか……。清隆たちと同じクラスだといいんだけど。

 そして最初に呼ばれた人物は、

『サラ・クリサリス!』

 サラだった。

「はい」

「サラ・クリサリス、君はA組だ。頑張ってくれ」

 そう言って巴さんはサラに三つのアイテムを手渡す。

 サラは名門に恥じない振る舞いでそれを受け取ったあと、壇上から降りる。

『次、イアン・セルウェイ!』

 たしかあいつは、教室で騒いでいた俺たちに文句を言っていたキザな男。

 容姿端麗ないかにも英国貴族、といった感じから見るに、どこかの偉い貴族……なのか?

「君はC組だ」

 と言われたあと、男はいろいろと巴さんと先輩に対しての言葉の使い方などを話し、壇上をおりる。

 ……C組には入りたくないな。気分的に。

『次は……メアリー・ホームズ!』

 巴さんが次の人の名前を呼ぶ。

『メアリー・ホームズはいないか?』

 返事がなかったので、巴さんが再び名前を呼ぶ。……しかし新入生の中から返事はない。

「欠席……か? そのような報告は受けていないが…………ふ~ん。まあ、仕方がない。では、次」

 と、次へ行こうとした瞬間――

「います! メアリー・ホームズいます!」

 ドタドタ音をたてながら、元気な感じな女の子が講堂に入ってきた。

「ったく、あんたがもたもたしてるから遅くなっちゃったじゃないの!」

「ちょ、酷いなぁ。人のせいにしないでよ。のんびりしてたのはホームズの方だろ?」

 そしてさらにもう一人、おしとやかそうな外見の女の子が遅れて入ってきた。

「う、うるさいわね。口答えしないの!」

「まったく、初日から遅刻なんて、勘弁してほしいよ」

「メアリー・ホームズだな?」

「あ、はい! そうです!」

「はやくこちらへ来い。渡すものがある」

「あ、すみません」

 メアリーと呼ばれた女の子は、そう言って慌てて壇上に上がり巴さんから三つのアイテムを受け取る。

「メアリー・ホームズ、君はB組だ。覚えておくように」

「は~い♪」

「それと、ついでだ……そこの君……」

 ついでと言い、巴さんは二番目に入っていた女の子に顔を向ける。

「僕……ですか?」

「名前は?」

「エドワード・ワトスンです」

「……その恰好は?」

「え? ああ、趣味みたいなものです。校則違反ではない……と、聞いていますが」

 ……なんだ、この会話。まるであの子の服装がダメだということのように聞こえるんだが……気のせいか?

「まあ、いいだろう。君もこっちに来たまえ」

「はい」

「君もメアリーと同じくB組だ」

「あ、わかりました。よろしくお願いします」

「遅刻に関しては、入学式が終了し次第、クラスの担当するマスターに報告するように」

「はい!」

「うむ、いい返事だ」

「失礼します」

 そう言い、エドワードというらしい子はアイテムを受け取り、メアリーと一緒に申し訳なさそうに生徒たちの列に交じった。

『次、瑠理香(るりか)・オーデット!』

「はい!」

 

 

 

 それからしばらくは普通に点呼とクラス分けが続いた。

「ああ、早く名前呼ばれないかな~?」

「別に早かろうが遅かろうが、どっちでもいいだろ?」

「そうなんだけどさ、でも、結果は早く知りたいっていうか……」

 という、先ほどの巴さんの魔法の静かさはクラス分けの為、消え失せていたので、清隆と耕助が無駄話をしているのを横で聞いていると――

『江戸川耕助!』

 耕助が呼ばれた。

「はいはいは~~~い!!」

「返事は一度でいいぞ」

「はい!」

「君はA組だ。頑張ってくれ」

「おお~、A組かぁ……」

 ということは、サラと同じか。

 ……あと、決まった後になぜか耕助はこちらに向かってVサインをしていたが……どういう意味でのVサインだったのだろうか。……分からん。

 そんな耕助を見て、

「……はあ」

 ちょっと憂鬱そうに、ため息の音がサラの方から聞こえてきた。

 少しだが、彼女の気持ちが分かるような気がした。多分、清隆や姫乃も同じだろう。

 

 それからしばらくは、また、知らない生徒の名前が続き、

『葛木姫乃!』

 次は、姫乃が呼ばれた。

「あ、はいっ!!」

「姫乃はA組だ。精進するように」

「わ、わかりました。ありがとうございます」

 そして、帰ってきた姫乃に、

「よっしゃぁ! 姫乃ちゃんゲット! 同じクラスだね、よろしくよろしく!」

 と耕助がテンション高めで言う。

「あ、あはは……よろしく」

 そんな耕助に向かって愛想笑いを浮かべた後、姫乃が俺と清隆の方を見る。

「………………」

 その目は明らかに『兄さんと修兄も、A組になれるよね? 同じクラスになれるよね?』と問いかけていた。

(……そうであって欲しいな)

『次、葛木清隆!』

 そんなことを考えた瞬間、清隆の名前が呼ばれた。

「はい! …………じゃあ、ちょっと言ってくる」

「うん」「ああ」

 俺たちにそう言い、清隆はあわてて巴さんのいる壇上へ向かう。

「緊張しているみたいだね」

「ええ、まあ」

「できることなら、妹と同じクラスになりたいという顔だ」

「べ、別にそういうわけでは――」

 と言っているが、絶対に一緒になりたいと思ってる顔だな。あれは。

「くす……。さすがに兄妹で同じクラスって言うのは虫が良い話だと思うぞ」

「そ、そうですかね?」

「なんてね、冗談だ。葛木清隆、A組。兄妹そろってA組だ」

「え、マジですか?」

「嘘じゃないって。清隆はA組。ホラ、ここに書いてある」

 そう言って、巴さんは清隆に多分クラスが書かれているであろう紙を見せた。

「ありがとうございます!」

 あの清隆の反応からして、嘘じゃなかったんだろう。三種の神器を受け取りながらお礼言ってるし。

 そうして清隆は巴さんと少し話した後、俺たちの所へ戻ってくる。

「やりましたね、兄さん」

「ああ、同じクラスだ。あとは――」

 姫乃が嬉しそうに清隆に声をかける。そして清隆は姫乃に一言言った後、俺の方を見る。 

 ……分かってる。これで俺だけ違うクラスだったら、マジで少し泣きそうだ。

 そして、名前はまたしばらく続きついに――

『えー、最後に柏田修!』

 俺が呼ばれた。

「はい!」

 俺が壇上に上がると、私服の為か生徒たちが少しざわついた。

「さっきの私の魔法を避けたのは見事だったな。よく気が付いた」

「まさか、入学式の最中にあんなことすると思わないから、驚きましたよ……。もう次は勘弁してください」

「ふっ……なら、今度からは真面目に話を聞くことだな。――それで、君のクラスなんだが……」

「はい」

「学園長から、清隆たちと同じクラスにするようにと言われていてな。手続きの遅れいるので、せめてものとの処置だそうだ」

「学園長……」

 ありがとうございます。こちらが無理言ってお願いしたのに、そんなことまでしてくれて……。

 今度お会いしたら、ちゃんとお礼を言っておこう。

「ということで、下がっていいぞ」

 巴さんは、みんなのようにクラスを言った後、三種の神器を前には出さず、俺に帰っていいと言ってきた。

「……あの、巴さん」

「ん? なんだい?」

「俺のアイテムは?」

「ない。まあ、しばらくしたら来るだろう」

 ……そうですか。寮の部屋と同じく、三種の神器すら渡されないんですね。

 

 その後、リッカさんが出ていて魔法使いの心構えについて語り、リッカさんが喋り終わると教員たちの軽い注意事項を伝達され、入学式は終わった。

 

 

 

 

 




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第8話 親睦会

なかなか先に進めない……


 

 

 

 入学式も終わり、俺たちは予科A組の教室へと案内された。

 そこでしばらく清隆、姫乃、耕助、四季さんと共に話していると――

「はい、皆、席について~」

 と言って、リッカさんが入ってきた。

 それと同時に、教室のざわめきが停止する。

「はれれ? なんであの人が……?」

 そんなことを言う耕助と同じように皆も一瞬ぽかんと言う顔をしていたが、俺を含めあわてて席に着く。

「今日からマスターとして、この予科1年Aクラスを担当することになりました。リッカ・グリーンウッドです。どうか、よろしく」

「どういうこと?」

 俺に小声で聞いて来る耕助に、

「分からん。――清隆、どうしてリッカさんは、なんでこのクラスに来たんだ?」

 と返し、清隆に俺が質問する。

「本科生の成績優秀者の3人が予科のクラスを担当するんだって入学式のときに言ってただろ?」

「「そうだっけ……?」」

「お前らな……」

 そんな俺たちのやりとりが聞こえたのか、リッカさんが補足を始めた。

「先ほどの入学式でも少々、説明があったと思うけど本学園のマスターシステムについて説明させてもらうわね」

 その後のリッカさんの説明によると、予科の各クラスにはマスターと呼ばれる本科生が監督として付く。……これは普通の学校で言うところの、担任の先生みたいなものらしい。

 この上級生の指導員が各クラスに一人付く理由は、女王陛下を通じてさまざまに舞い込んでくる依頼にあるという。

 基本的に危険な任務は本科生の仕事だが、中には危険な依頼も存在し――また、簡単な依頼のように思えるものでも、命に関わるようなトラブルが発生しないことがないとは言い切れない。

 なのでリッカさんたちマスターは、俺たち予科生のサポートするために配属されていると考えて良い……だそうだ。

 そういう引率めいたものは、部屋に(こも)って研究するばかりのような、教員の魔法使いには向かないってこと……なのか? ……まあ、どちらでもいいか。

 ちなみに、B組にはシャルルさん。C組には巴さんがマスターになっているらしい。

「さて――ここからが本題よ。しっかり、聞いて頂戴ね」

 一通り説明し終わったリッカさんがそういうので、少し話してざわついていた教室が再び静かになる。

「先ほどの入学式でも言った通り、予科のクラス分けは各クラスの総合力が均等になるように配分されており――A、B、Cというのは、クラスのランキングを示すものじゃありません。けど、クラスにランキングがないってわけではないから、安心しちゃだめよ」

 ……どういう意味だ?

「A、B、Cという3つのクラスは基本的に色々と競い合って、その都度(つど)、ランクが変動していきます。女王陛下の依頼も、そのランクに応じて選択権が与えられるから、注意してね」

 これもまたリッカさんのこの後の説明を聞いて分かったんだが――依頼が三種類舞い込んでいた場合などに、ランキングの高いクラスから順に依頼を選ぶことが出来るらしい。

 つまりランキングら高いほうが、難しい仕事だろうが簡単な仕事だろうが選べるということだ。

 そのランキングは、与えられた以来の達成率、その過程などを学園側が総合評価して、ランキングが決められるらしい……が。

 しかし、最初のランク決めだけはクラス対抗試合によって決められる。

 その対抗試合が、何の試合かっていうと――

「クラス対抗試合って何の試合ですか?」

 清隆が、こうリッカさんに聞き、その答えが返ってくる。

「えーと、あなたは確か……葛木清隆くんね?」

「はい」

「日本から来たあなたが知っているかわからないけど、グニルックっていう魔法競技よ」

 グニルック…………全く聞いたことないな。

 でも、クラスの人たちは『ああ、あれか』みたいな反応を示しているので、こちらではメジャーな競技なのかもしれない。

「試合は今から一週間後。ルールを知らない子には、私がしっかり教えてあげるから、安心して授業に望んでちょうだい。ああ、そうそう――」

 そこで、リッカさんは唐突に拳を握りしめながら、

「私がこのクラスのマスターになったからには、敗北は許されないわよ!」

 と言ってきた。

 今までのクールな感じを残しいていたが、瞳の奥に燃やすものを感じた。

「特に! シャルルのクラスに負けることがあったら、ただじゃおかないからね! ……ま、私の指導に従えば、負けるようなことは絶対にないって思っていいわ。ビシバシしごくから、バッチリついてきなさいよね!」

 そう言ってリッカさんは、俺たちに向かってウインクをした。

 とっつきづらそうな印象があったけど、案外、お茶目な人なのかもしれない。

 と、クラスの緊張がリッカさんの笑顔で緩和したところで――キーンコーンカーンコーン――とチャイムが鳴り響いた。

 多分、ホームルームはこれで終了、ということだろう。

「じゃあ、今日はここまで。みんな、これからよろしくね」

「およ? じゃあ、今日はもう解散ってことですか?」

「今日は入学式だけだから、そうなるわね。授業のこととかは明日以降、説明するから安心して頂戴」

 耕助の問いに、普通に返すリッカさん。

「あ、でも――せっかくだから、この後、予科1年A組の親睦会を開きましょう。私が奢ってあげるわ」

 リッカさんの言葉にクラスが盛り上がる。

「じゃあ、私はちょっと学園長室に報告してこなちゃいけないから、皆は教室で待っててくれるかな?」

「はいはいは~い、了解です」

 耕助が手をあげながら返事をする。……元気がいいな。相変わらず。

「うん、いい返事。じゃあ、ちょっと失礼するわね」

 リッカさんはそう言って教室を出て行った。

 

 ――そして、しばらく清隆たちと話していると、再び扉が開いた。

「ああ、そうそう……男子ひとり、ちょっと手伝ってくれないかな」

 リッカさんが入ってきて、清隆を指さし、

「え~と、ああ、じゃあそこの葛木清隆くん。頼める?」

 と、お願いをしてきた。

「俺ですか? 別にかまいませんけど」

「じゃあ、ちょっとついてきて」

「はい」

「わたしも行きましょうか?」

 清隆だけではと、姫乃もリッカさんに声をかける。

「ああ、ひとりいれば十分よ。ありがとね」

「じゃあ、ちょっと行ってくる」

 そう言って清隆はリッカさんの後をついて行った。

 

 

 

 その後少しの間、耕助や姫乃と喋っていると、サラのシェルに連絡がかかり、葵ちゃんの働いている『フラワーズ』に集合とリッカさんが言ってきたので、クラス皆でフラワーズへと移動。

 すると――

「いらっしゃいませ~。予約なさったA組の皆さんですね」

 バイトの葵ちゃんが出迎えてくれた。

 クラスの皆がお店の中に入る最中、葵ちゃんが俺と姫乃を見つけて声をかけてきた。

「あ、姫乃ちゃんに修さん。お二人ともA組だったんですね。……清隆さんは違うクラスなんですか?」

「ああ、違う違う。清隆はリッカさんの手伝いで少し遅れてるだけだよ」

「そうなんですか? なら、あとで清隆さんにも出迎えなきゃですね」

「ああ、よろしく頼むよ」

「お願いね、葵ちゃん。お仕事頑張ってください」

 という会話をして、俺たちも店の中にあるテーブルにつく。

 すると耕助が、

「なあなあ! 今の可愛い子、姫乃ちゃんと修の知り合い!」

 と、テンション高めでしつこく聞いてきたので、しぶしぶ葵ちゃんを呼んで自己紹介などをした。

 

 

 

 葵ちゃんと耕助、四季さんの自己紹介が終わって10分くらいが経った頃。

「清隆さんがいらっしゃったようですよ」

 四季さんが俺たちにそう言った。

 まあ、魔力が近くに来てるということは、分かっていたのだが……姿が見えないうちに『来たぞ』なんて言っても、説明が面倒なので黙っておいた。

「お、来たな」

「兄さん……」

「ひどいな、先に行っちゃうなんて」

 そういう耕助、姫乃、清隆の会話を聞きながら、俺は清隆の姿……というか、少し格好に違和感があることに気が付いた。

 いや、恰好はぜんぜん変ではない。むしろ自然でいつも道理に感じられるんだが……どうにもいつもの清隆と(はっ)している魔力と少し違うというか、違うのが混ざっているというか。

 ――そうやって俺が悩んでいると、耕助たちの会話の途中で四季さんが、気になる発言をした。

「あら、清隆さん、そんな首飾り、してましたっけ?」

 ……首飾り?

「何言ってるんだ。最初にあった時から、してたろ?」

「へ?」

 耕助が四季さんにそう言い、清隆がヘンな声を出す。

「ねぇ、姫乃ちゃん? こいつ、最初から首飾りしてたよね?」

「え? …………ええ。多分――してた、と思います」

 姫乃もその後、耕助に聞かれて不思議そうにするが、耕助の言葉を肯定する。……とは言いつつ、納得はしていないようだけどな。

(……なるほどな)

 今のみんなの会話を聞いて、ようやく清隆の違和感の正体が分かった。

 四季さんが疑問に思った首飾り。あれから魔力が感じられる。……多分、耕助たちや俺が一瞬気にならなかったことから、あの首飾りを清隆がつけても違和感が無いようにする魔法がかけられているのだろう。

 だけど、四季さんは人形だから魔法の効果が薄いし、いつも一緒にいた姫乃にも違和感が残る……といったところだ。

 俺も少し違和感を感じてしまったけど、一度分かってしまえば、頭がスッキリしたかのように、首飾りを清隆がつけていなかったことが分かる。

 普通は魔力を詳しく解析しなきゃどういう魔法か、または使用者はだれか……などは分からないモノだけど、この場合は清隆が会っていたという人物――つまり、リッカさんだとみて間違いない。

 ――と、俺がそんなことを考えていると、

「やっほー、皆そろってる?」

 そう言って、リッカさんが遅れてやってきた。

「そろってますよ」

「…………」

 そしてそろっていることを伝えた清隆の方を一瞥する。

 しかし、それは一瞬のことで、すぐに何喰わない顔に戻った。……俺も、ついさっきまでリッカさんの事を考えて、よく見ていなきゃ気づかなかっただろう。

「ふむふむ、よろしい。じゃあ、今日は私の奢りってことで、皆、存分に騒いで頂戴」

「は~~~い!」

 リッカさんの言葉に、耕助が元気よく返す。

 ……仕方がない。皆の前で何があったのか聞くわけにもいかないし……後で清隆に部屋で聞こう。

 ――という結論にして、俺は席をシャッフルしつつやる自己紹介で、『どうして私服なのか』の理由を話しながら、新しい仲間たちと雑談をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




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第9話 メアリーとエドワード

やっと二人と会話が出来ました。


 

 

 

 しばらく、親睦会の席でクラスのみんなと話していると、俺の常日頃(つねひごろ)持ち歩いていた、折り畳み式の手紙のような物が振動し、俺はその手紙のようなものをポケットから出す。

 これは、シェルと同じく魔法を使い文章……というか手紙を送るものだ。実際、映し出す物は広げると一般的な手紙サイズくらいだし、紙のように柔らかくて折り曲げても平気だ。……破れたら魔法で直さないといけないけど。

 この手紙には名前が無く、俺は勝手に『魔手紙』と言っている。まあ『魔法の手紙』の略なんだけどな。

 使い方は簡単で、これの持ち主(俺と恵子さんしか持っていないけど)が、『魔手紙』に直接文字を書き、書いた後、魔法で送る。

 しかも、シェルとは違い、いつでも手紙の連絡が出来る。

 なぜなら、送るための魔法を『俺の魔手紙と恵子さんの魔手紙のみ』という制限に『文章のみ』という制限も加えて、魔法を簡単にして魔力が少なくても届くようにしているからだ。……ということで、製品化および清隆たちもこれは持っていないのだ。

 なので、俺はどこでも恵子さんとは連絡は取れる――訳なんだが……恵子さんがこれを送ってくる場合は、ほとんどが仕事の手伝いのお願いなのだ。

 過去のこの魔手紙に保管できている手紙(少しなら送ってきた手紙を取っておけるのだ)を見ても、約8割が仕事の手伝いだ。

 今回はどんな内容なのかなぁ……と思いながら手紙を開くと。

『修へ。学校は始まった? そんな始まってすぐで悪いんだけど、やっぱり私だけだと商品のアイデアがあまり出ないの。なので修も手伝ってくれない? 内容は――』

 などと書かれていた。

 よく見てみると、二つのお願いがある。

(……これ、一つはいいとしても、もう一つはすぐにでもやらないと終わらないんじゃないか?)

 そう思い、仕方がないがこの場を早く切り上げて寮へ帰ることにした。

 俺が風見鶏に行く際に、恵子さんとの約束で『アイデア出しだけは手伝う』というのをしてしまったのだ。

 理由は、こういうのは大勢で考えた方が良いし、魔法づくりのアイデアにもなるかもしれないからだ。

 もちろん入学費や生活費とは別に少しのバイト代も貰える。

 授業料や生活費は全部恵子さんが出している。なので月々の仕送りにその分をプラスして、お金が俺に送られてくるということだ。

 ……生活費とかを出してるんだからいらない、と言ったんだが『生活費なんかは親のかわりである私が出す。それが私の義務なの。――仕事の手伝いも、修が手伝って働いたんだから、社長である私がお礼にお金を渡す。これも私の義務なの』と言っていたので、ありがたく受け取らせてもらっている。

 なので極力、恵子さんから来た仕事はキチンと手伝ってあげたいのだ。それがお金を貰い……そして育ててもらった者の義務だと思うから。

 そんな理由で、俺はリッカさんに許しをもらってから、清隆たちに声をかけフラワーズを出た。

 

 

 

 リッカさんに了解をとり、親睦会を切り上げて俺の荷物の置いてある部屋に、早速届け物が届いていた物を見てみる。

 それを見ながら、清隆に夜遅くになるかもしれないので、俺の荷物の置いてある部屋にある一畳半くらいのスペースで、俺の荷物を机にして紙を置き、考え始めた。……までは良かったのだが……。

「………………ダメだ。全然わからない……」

 懐中時計で確認してみると、部屋に入って考えること約4時間。いくら考えてもいいと思うものは出ない。

 恵子さんからのお願い――それは『外国人女性に似合う和服のデザイン』を考えてほしいというものだった。 確かに日本には現在、戦争が終わり外国人の女性が来てくれているが……普通の和服を着せるのはダメなのか? と恵子さんに聞いたら『送った和服の中からよく似合うのを数枚選んで』と返事が返ってきた。 

 なので俺は送られてきた荷物の中に入っていた紙(あらかじめナンバーがふられており、それにマルをするだけ)には、ほとんど何も書かれていない。

 というか、実際に着てもらう人がいないと無理なんじゃないか、これ?

 勝手に想像して悪いかもしれないが、リッカさんやシャルルさん、サラなどが着ている姿を考えても、行きつく答えは――『全部似合ってる』――この一言だった。

 でも仕事なんだし、何枚かは選ばないとならない。でもだからと言って適当に選ぶのも気が引ける。

 だから誰かに何回か着てもらう……というのが一番の理想なのだけど……実際それは無理なお願いかもしれない。

 この和服のお願いは、遅くとも明日の朝までに仕上げないと間に合わない。

 普通はもう一つのお願いのようにゆっくりでも良いか、数日は大丈夫なのだが……どうやら、荷物をココへ送る期間を計算に入れてなかったらしい。それに気づいたのは荷物を送った後らしく、魔手紙にもお詫びが書かれていた。

 けど、俺に『遅くなるかもしれないんで、男子寮に来て和服を着てくれませんか?』なんて頼める外国人女子は、親睦会まで抜け出して来ているのでいるわけがない。

 ……どうせならもっと早く気づくべきだった。そうしたら、ラウンジなんかで……いや、どこで着替えさせるって話だよ。それにそんなところでお願いなんかしていたら、確実に変人だ。

「――ん~…………はぁ」

 軽く伸びをして、頭を休める。……仕方ない、あとの事はご飯でも食べた後に考えよう。

 考えたら速行動――という言葉かよく似合うほどに、俺は頭を切り替え、ご飯を食べるために食堂へ向かう為部屋の出口へ向かう。

 まだ6時少し前だし食堂混んでるかなぁ、なんて考えていたら――出口の扉を開けようとしてふと気付く。部屋の奥に入るために積み重ねた荷物が、こちらに倒れてくることに!

「――うわっ、あぶなっ!」

 とっさに扉を開けて回避…………したは良いものの、

「……めんどくさそうだなぁ」

 荷物があふれ、廊下にまであふれ出て来た。

 不幸中の幸いだけど、壊れている物は無さそうなんだが……見るからにこれは片づけるのがめんどくさいのが分かる。

「うわぁ、盛大にやらかしたわねぇ」

「メアリー。ただでさえ男子寮に来ちゃいけないのに来てるんだから、そういうことは言わないものだよ。男子はあまり片づけしない人もいるんだし、メアリーが勝手に見たのにそんなこと言うなんて失礼だよ」

 ……いや、この件に関しては、誰だか知らないけどフォローしてくれるのは嬉しいけど、俺が悪い。

 なので俺は声のした方へ向き、

「いや、これに関しては俺が悪いよ。……でもフォローしてくれてありがとな」

 と声をかける。

「別にフォローのつもりじゃなかったんだけど……そう言ってもらえると嬉しいかな。……でも、ごめんね。メアリーがヘンなこと言っちゃって」

「いやいや、こっちの荷物の整理ができてなかったのがいけなかっただけだし……えーと……エドワード……って名前だったっけ?」

 俺は見覚えのある二人の、フォローを入れてくれた方に聞く。

 この二人、確か入学式で遅刻をしてきた二人のはずだ。

 あの時は巴さんに『ちゃんと聞くように』と言われて少ししかたってなく、さらにあんな派手に登場していたので、名前を何となく憶えていたのだ。……名前にも少し興味があったしな。

「あれ……? 僕の名前知ってるんですか?」

 俺に名前を言われて不思議がるエドワード。この反応を見るに間違いなさそうだ。

 ……それにしても、入学式の時は大勢の人がいたから気づかなかったけど、エドワードの魔力の波長って……。

「いや、入学式で目立ってたからさ。何となく名前を憶えてただけだよ」

「あはは、それはお恥ずかしい所を……」

「確かに、あたしたちも遅れたせいで目立っていたけど、あんたも相当目立ってたわよ。入学式に私服で、さらに一人だけ三種の神器を貰ってないんだから」

「うっ……」

 エドワードの隣にいた、背の低い金髪の女の子が、人が気にしている所を的確に言ってきた。

 顔は可愛いんだけど……俺の中で、この子の第一印象は『言葉に遠慮がない女の子』と決まった。

「こらメアリー、またそんなこと言って。ダメだろ、気にしてるかもしれないんだから」

 そして先ほど同様に、すぐにエドワードがメアリーに注意を入れる。

 エドワードはメアリーとは違い、第一印象は悪くはない……のだが、しかし先ほどから感じる魔力の感じのせいで、少し特殊な第一印象がつくられてしまっている。

 それは『真面目そうな、女装して可愛い男子』というものだ。

 魔力の波長と言うのは、魔法によって違う。

 それは人も同じで、魔法を使う為に魔力の波長を変化させない普段の状態では、人によって違う。

 さらに言えば、魔力……すならち魔法に必要なのは『想いの力』。なので、男女によっても当然違ってくるのだが、逆にいえば少しは性別ごとに共通した部分をあるということだ。

 そして、エドワードからは明らかに女の子からは感じられない魔力を感じられた。見た目は女の子なのに。

「ごめんね。えーと……」

「あ、俺は日本から来て、名前は柏田修っていうんだ」

「修くん。――改めていうけど、ごめんね。メアリーがヘンこと言っちゃって……」

 エドワードが申し訳なさそうに謝ってくる。

「いや、いいよ。誰だって入学式に私服でいたらおかしく思うから。……でも、今度からはあまりそこに触れないでいただけるとありがたい」

「わ、わるかったわね。よく考えもせずに言っちゃって……」

「いや、だから大丈夫だって……それより、キミの名前はメアリーであってる?」

「ええ、そうよ。あたしはメアリー・ホームズ、B組よ。で、こっちのがエドワード・ワトスンで同じくB組。まあなんというかエドワードとは腐れ縁なのよ」

「改めてよろしくね。修くん」

「ああ、こちらこそよろしく」

 お互い握手をして自己紹介を済ます。するとその後にエドワードが再び申し訳なさそうな顔をして、

「それで修くん。さっきのメアリーの発言のお詫び……って訳じゃないけど、荷物も片づけを手伝っても良いかな? このままじゃ廊下を通る人にも迷惑かもしれないし」

「いや、でも……」

「三人で済ませた方が速いわよ。やるんだったら、早く片付けしょ」

「あ、メアリーもやってくれるんだ。……じゃあ、申し訳ないけど頼めるかな」

 こうして俺は二人に片づけを手伝ってもらうことになり、ものの数分で片づけを終わらした。

 

 

 

 

 

 

 




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第10話 メアリーとエドワード2

久しぶりの更新です。……やっと学生の敵との戦いが終わった。


 

 

 

 片づけを終わらしたので、メアリーたちもご飯に行くところだったらしく、俺も一緒に食べようということになった。

 どうやらB組も親睦会的なものはやったらしいが、二人はそこまで食べてなかったのと、時間がたったからとのことで食堂に食べに行くらしい。

 俺は二人に了解を取り、一緒について行くこととなった。

 あと、なぜメアリーが男子寮にいたのかだが……たぶん俺の想像だけど、エドワードの部屋が俺の荷物を置いてある部屋の近く、もしくは奥にあって、用事か何かの為に伺ったんじゃないかと思う。

 ……まあ、詳しくはご飯を一緒に食べるときにでも聞こう。

 

 男子生徒は奇跡的におらず、二人は男子寮の廊下から出ることが出来た。

 そしてエドワードに先ほど歩きながら思いついたことの為に、廊下を出たラウンジ辺りでエドワードに確認することにした。

「なあ、エドワード。ちょっと聞きたいことあるんだけどいいか?」

「ん? なに、修くん?」

「エドワードのその服装……自分の趣味なのか?」

「え……それってどういう……」

 エドワードが、少し驚いた表情でこちらに見ながら足を止める。

「その女装は自分の趣味なのか? ――って意味で聞いたんだ。……答えたくないなら、無理には聞かないけど……」

「いや、そんなんじゃないけど……でも――」

「あ、あんた! なんでエドワードの性別を知ってるの!? もしかして、エドワードのストーカーか何か!?」

「違うっ!」

「もしくはあたしたちの情報を、どこかで入手してるか……それとも全一年生の名前やプロフィールなんかを管理できる人なんじゃ……」

「それも違う! つか、まだ三種の神器すら渡されてない俺に、そんな管理なんてできるわけないだろ!」

 エドワードの言葉に割り込んで、ヘンな事を言ってくるメアリー。

 なぜエドワードの性別を判断しただけで、ここまで言われなきゃならないんだ。――と一瞬思ったのだが、エドワードの姿を見て納得する。

 それと同時に、エドワードが入学式に服装について巴さんに言っていた『趣味みたいなものです』と言っていたのを思い出す。

 あの言葉どうりなのだとしたら、エドワードのことを見分けられた人は――

「あはは、ごめんね修くん。でも僕が男だって何も言わないで分かったのって、修くんが初めてだったんだよね。……よかったら、なんで分かったのか教えてくれないかな?」

 ――いないらしい。

 まあ俺も魔力を感じることが出来なかったら、男だなんてわからなかったと思う。

 実際、一緒に片づけをしているときに魔力を何度か確認し直したけど、かなり怪しいけど何度確認しても男の波長で……それでも今もまだ信じられないんだが……エドワードやメアリーのセリフで、エドワードが男ということが確定した。

「えっとな……俺は人の魔力を生まれつき感じ取れるんだ。それで――」

 エドワードの『どうして分かったのか』という質問に、俺の体質のことで姫乃に教えているより少し少ない程度の情報でエドワードたちに理由を教える。

 これからエドワードにお願いすることもあったので、ストーカーなんかと間違えていられたら、確実にお願いを聞いてもらえない可能性があるからだ。

「――というわけだ。わかってくれたか?」

「ええ、シュウがとても変人だってことがね」

「なんでそうなる!」

「まあとりあえず、シュウがなんでエドワードの事が分かったのかも理解できたし、さっさと食堂に行きましょ」

「……あの、俺の話し聞いてます?」

 そうつぶやくも、メアリーは食堂へ向けて歩き始める。……どうして変人になってしまったのかを聞きたかったのだけど……もういいか、変わっていることは確かだしな。

 聞きたきゃ食堂で聞けばいいか、と考え、メアリーの後ろについて行く為に歩き出した。それと同時に歩き出したエドワードが俺に近づき小声で言ってきた。

「ごめんね修くん。メアリーも悪気かあるわけじゃないんだよ」

「大丈夫、わかってるよ」

 これは偏見(へんけん)かもしれないが、女の子の多くがメアリーみたいなものなのだと、俺はそう認識している。原因は俺の一番話したことのある女子――すなわち姫乃だ。

 なので俺はメアリーのことはあまり気にしていなかった。

 それよりもエドワードが自分から近づいてきてくれたので、この際だし聞いておくのもいいだろう。

「なあ、エドワード。ちょっとお願いしたいことがあるんだけどいいか?」

「僕にできることならいいよ。メアリーが迷惑かけて申し訳なかったしね」

「いや、別に迷惑はかけられてないが……でも、エドワードが手伝ってくれるなら凄く助かる」

 内容によるかもしれないが、お願いを聞いてくれるというエドワードに感謝しつつ、俺はお願いの内容をエドワードに話した。

 お願いの内容――それはエドワードに今日本から送られてきているいろんな種類の和服を着てもらうことだ。

 エドワードならもともと男性寮に住んでるんだし、遅くなっても問題はないし、外見的にも問題はないはずだ。

 そのお願いの内容を聞いたエドワードは、

「いいよ」

 と言ってくれた。

 俺はエドワードに学食を奢り(ついでにメアリーにも奢った)、その後食堂で一緒にメアリーと別れ、エドワードとさっき片づけた俺の荷物の置いてある部屋で、何時間か恵子さんから送られてきた仕事に取り掛かった。

 

 

 

 

「ただいまー」

 エドワードが手伝ってくれたおかげで予想よりはるかに早く仕事も終わり、エドワードにお礼を言った後、俺は清隆の部屋に帰ってきた。

 それでも少し遅くなってしまったので、少し小さめに声を出したんだが、

「お帰り」

「おー、マジで清隆の部屋に住んでたんだな。修って」

 返事がちゃんと帰ってきた。……そして、なぜか耕助が部屋にいた。

 清隆には昨日俺が遅くなっても、(あらかじ)め待たないで寝て良いと言っていたので、遅くなったと思っていたがどうやらまだ寝る時間じゃなかったらしい。耕助も部屋に来てるしな。

 時間くらい確認しておけばよかった。今度から気を付けよう……って、そのころには俺も部屋を持ってるはず……だよな?

「んじゃ、俺、修も帰ってきたことだし戻るわ。これからよろしくな。修も、んじゃな」

 といい耕助がそう言い俺と入れ違いで部屋を出て行く。……何しに来てたんだ、あいつ?

「……なんで耕助が部屋に来てたんだ?」 

「なんか、うちの女子の見てくれのレベルが高いから、その思いを伝えたくて俺の部屋に来たんだと」

「……なるほど」

 今日一日で出来た耕助のイメージが、耕助ならそんな理由で部屋に来てもおかしくないだろうと思わせる。

「仕事終わったのか?」

「ああ。……といっても、あと一つ残ってるけどな。まあこっちは急いでるわけじゃないし、気長(きなが)にやるよ」

「大変だな、お前」

「清隆ほどじゃないけどな。よく似合ってるぞ、その首飾り」

「うっ!」

 清隆の首にある首飾りを指しながら言うと、清隆が嫌なことを思い出したという風に眉を曲げる。 

「なにがあったんだよ」

「……俺がカテゴリー4なのをリッカさん知っててな。それで『何が目的でこの学院に来たの?』とか色々と聞かれて、葛木家のお役目の事まで聞かれたから、『姫乃を守るため』とずっと言い続けたら、『念のため……』とか言われて、監視用に付けられた」

「そりゃ、大変だったな」

 俺もカテゴリー4なのだけど、多分正式に決まってから一か月たってないし、さすがのリッカさんでもわからなかったのだろう。

「けど……なんで首飾りが付けられたって気づいたんだ? 姫乃ですら気づかなかったし」

「そりゃあ最初の数秒は気づけなかったけど、清隆の魔力とは明らかに違うものがあれば、さすがに気づくって」

「なるほど。……なあ、魔法解析に特化したカテゴリー4の修だったらこの首飾り外すこと出来るんじゃないか?」

「……確かに、何日かかければ外せるかもしれないな」

 実際、魔法の解除は、魔力の感じることのできる俺にはそんなに難しいことじゃない。波長を調べたりなどの時間はかかるけどな。

 カテゴリー5のリッカさんの魔法も、詳しく波長を調べて、魔法を分解するイメージで解除していけば、いずれは外れるだろう。

 けれど……

「いやだ」

「な、なんでだよ?」

「その首飾りを外したら、俺までリッカさんに目をつけられないだろ? ……まあ、この会話ですでにばれている可能性もあるけど」

「……そうだよな。……悪い、こんなこと言って」

 俺の言葉に肩を落とす清隆。

「良いって、監視されてるなんて嫌だもんな。さすがに外すことは出来ないけど、少しの間魔法の効力を無くすことは出来るかもしれないからさ。そしたら、その隙に調べ物でもしろよ」

 カテゴリー5であるリッカさんの魔法で、ばれないようにそんなこと出来るか分からないけど、常に監視という清隆にちょっと悪いことをしたと思い、俺はそう言った。

「けど、あくまで『出来るかもしれない』だからな。『出来る』とは言ってないぞ」

 一応、清隆なら分かったとは思うが釘を刺しておいた。

「分かってるって。……ありがとう。少しは気持ちが(らく)になったよ」

「そうか……。なら今日はもう寝るか。いろいろあって疲れたし」

「そうだな」

「お休みな、清隆」

「ああ、お休み」

 俺は布団、清隆はベットへと足を運び。それぞれ眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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第11話 魔法の創作

約一週間ぶりの更新。多分これからの更新は、一週間から二週間の間隔でしていくと思います。
更新は遅いかもですが、これからもよろしくお願いします。
……今回は少し短めかもです。


 

 

 

「う~ん……どうするかなぁ」

 俺は今、一昨日(おととい)葵ちゃん達と来た船着き場にいていた。

 風見鶏に行った次の日の朝、俺は昨日と同じように清隆より早く目を覚ました。

 休日に早く目を覚ましてしまったということで、せっかくなので授業が始まる前に英語の勉強をしようと図書館島へ行くことにした。

 なので清隆に『出かけてくる』と置手紙(おきてがみ)を残して、船着き場まで来たのだが……

「俺……ボート貰ってないんだよなぁ」

 そんな独り言が空を切る。

 なぜこんなに悩んでいるかいうと、俺には図書館島に行く方法がないからだ。

 地下にいる一般人向けの船で行こうと思っていたのだが、船の時刻表を見るとリゾート島へは船も結構な本数が出てはいるらしいのだが、それに対し図書館島への船の本数は少ない。次の船までは一時間以上もある。

 なので生徒用のボートが凄く羨ましくなったのだ。

 けれど、ない物を羨ましく思っても行けないことに変わりはない。

 朝早く起きたのに一時間もどこかでだらだらと過ごすのは、凄く損をした気分……というか損だ。

「――そうだ!」

 こんな時こそ魔法を使えばいいんだ! ……と思ったのだが。

「……俺の魔力じゃ、図書館島まで絶対に飛べないよな」

 人を宙に浮かす魔法は魔力をかなり必要とする。

 物を下から念力のように持ち上げるとか、風を使い宙に飛ぶなどいろいろと方法はあるのだが、どれも人の体重を支えるにはそれなりに魔力が必要となり、それを図書館島までとなると今の予科一年ではほとんどが無理かもしれない。

(――となると、新しい魔法を創るしかないか)

 そう考え、頭の中に魔法を創るために必要な事を思い浮かべる。

 魔法を創るのに大切なことはたったの2つ。

 1つ目は『イメージのしやすさ』――これが思いの力を原動力とする魔法にとって、簡単に使えるかを決める。

 2つ目は『効果の限定』――魔法というのは、効果を限定すればするほど簡単になっていく。つまりは魔法に制約を付けるってことだ。清隆(いわ)く『漠然としたものよりは、具体的であればあるほど、より小さな力で『現実の調律』できるようになる』ということらしい(開錠の魔法を創っていた時に聞いた)。

 この2つが出来ていれば、魔法使いなら誰でも魔法が創れる。

(……まずは『イメージのしやすさ』、か)

 魔法で図書館島まで飛んでいく……または他の方法をとるか。……さて、どうしたものか。

 泳いでや歩いて行くにしても、俺の魔力の量じゃ図書館島まで魔法を継続して使えない可能性がある。できることなら少しくらい力を込めてでも早めに図書館島に行ける魔法が理想だ。

 スピードを求めるなら瞬間移動なんかが一番早いけど……そんなの、清隆ほどの魔力があったって図書館島まで――しかも自分自身を移動させるなんてのは、いくら効果を限定させても無理だろう。

 いや、開錠の魔法のように一回だけしか使えないように限定すれば…………無理だな。俺に瞬間移動なんてどう考えても出来るイメージがしない。

 ならどうするか。……そもそも空を飛ぶことのできない人に、『空を飛ぶ』というイメージは難しすぎるのだ。

 もっと空を飛ぶなら人間に出来る動きにしないと。例えば……歩く、とか。

 そうだ。歩くことにしよう。『空中を歩く』。

 イメージの基本は出来た。あとはスピード。――これは足を速くする魔法を創って、それを組み合わせよう。そうすれば空中じゃなくても、素早く動けるし。

 効果の限定は、靴を履いているときだけにしよう。帰りも使いそうだし。

 靴の底に風の魔法か何かで足場を固定すれば、あとは簡単に空中で歩けると思う。

 なんせ『歩く』という動作は、人間の中で最も基本的な動作だ。つまりそれは、同時にイメージがしやすいということを意味する。

「よし、だいたいできたな」

 試しに靴にさっき考えた術式の魔法をかけ、階段を上るイメージで足をあげる。

 そして――

「おお!」

 足を落とすと、ちゃんと空中に足が止まった。どうやら空中に浮くことには成功したらしい。

 しかしこのままでは意味がない。

 なのでそのままイメージした階段を歩く。

(……思ったよりも魔力の消費が少ないな)

 歩いた感想はそんなものだった。これなら問題なく図書館島に行けそうだ。それどころか、歩いてでも行けるくらいだ。

 おそらくここまで魔力の消費が少ないのは、俺が考えていた以上に『歩く』という動きは人間にとってイメージしやすかったらしい。

 ――つまり俺は今、『空中を歩く』魔法を完成させたわけだ。

 効果は靴を履いている時だけだが、靴を履いていれば普段から速く走れる。多分、本気を出せば時速でいうと60kmくらいは出せるんじゃないだろうか。

 それに加えて空中も歩けて、しかも確信は持てないが地上で走るのと同じくらいのスピードは出せると思う。当然、消費する魔力も増えるけど。

「……これ、なんかヤバくないか?」

 俺は素直に感じたことを口に出してしまった。

 何がやばいかというと……それはもちろん今創った魔法のことだ。

 創った後にいうのもなんだが、自分でも驚くほどに魔法の出来(でき)がよかった。

 魔力の消費も少ないし、使い方もかなり簡単だ。魔法の初心者でも練習すればすぐに出来るようになるレベルに。

 『ならいいじゃないか』――と思うかもしれないが、実際の所はかなりマズイ。

 なぜなら、普通は空中に浮くにはそれなりに実力が必要なのだ。

 それがいとも簡単に浮いて、ましてやほとんど魔力を使わず素早く動けるなんて、そんな魔法は存在しないはずだ(俺が知る限りでは)。

 つまり、こんな魔法を予科一年生が使っていたら、俺が創ったとは思われないかもしれないけど、少なくとも面倒なことになりそうだ。……具体的になにが起こるかは想像できないけど。

(……とりあえず図書館島に行ってから考えよう)

 そう考え、俺は誰にも見られないうちに図書館島へ走るのだった。

 

 

 

 

 




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第12話 図書館で

やっぱり話のいいタイトルが思いつかない……


 

 

 

 とりあえず図書館島に着いた(多分、飛んでいた姿は見られてはいないだろう)俺は、新しく創った魔法の事は誰にも言わなければいい(清隆にもリッカさんの魔法がかけられている為、言わないことにした)と考え、図書館へ向かった。

 図書館へはすぐに着き、そのまま足を中へ進める。――すると、三種の神器すら渡されていない俺だが、すでに入室の許可がされているのか、入り口で自動的にチェックすみ、簡単に入ることができた。

 中には生徒も少しいるが、おそらく全員本科生の先輩方だろう。

(……さて、俺もお目当ての物を探すとするか)

 俺のお目当ての物、それは簡単な本なら何でもいい。

 当たり前の事だが、外国に日本の英語教材があるはずもない。

 なので、もともと英語は喋れる――つまり単語は知っている――のだから覚えるのも簡単なはずだ。

 我ながらなぜ英語が喋れて、読み書きが出来ないのだろう。

 と、そんなことを考えながら本の棚を見て歩いていると――

「おおっ!」

 な、なんてことだ。さすが風見鶏の図書館なだけある。まさか『日本語の英語教材』まで置いてあるなんて!

 ……なんて少し感動らしきものを感じていたが、よくその本が置いてある場所を見ると英語以外の言葉で書かれた、他の国の本も置いてあった。

 多分、留学生が勉強できるようにおいてあるのだろう。

 それを見た俺は、外国に他の国の言葉の本はないと考えていた自分が少し恥ずかしくなってきたので、すぐに本を手に取り、気を逸らす為に勉強を始めるのだった。

 

 

 

 

「……ん?」

 勉強をして一時間とちょっとしたんじゃないかと思われるくらいに、他の本も見てみようかな、と考えて自習用にと図書館に置いてある椅子から立ち上がると、そこで知っている魔力――しかも、ちらほらいる本科生だと思われる生徒より大きい魔力が図書館の中にあることに気づいた。

 なのでその魔力のもとへ向かうと、

「うーむ……?」

 頭を悩ましている清隆の姿があった。

 すぐに声をかけようと思ったのだが、俺よりも先にそんな清隆に声をかける少女がいた。

「どうしたんですか?」

 ――サラだ。

 サラが声をかけたせいでもないが、俺は完全に出て行くタイミングを逃したと感じ、しばらく二人の会話を本棚の反対から聞くことにした。

 ……少しいけないことをしている気がしたが、清隆がサラと一緒に来ていることが気になったので、あとで謝ろうと考え、二人の会話に耳を傾ける。

 図書館の中なので静かに話すだろうと思い、即席で『聞こうとする耳の裏に手を当てる』と『対象の音、もしくは声が知っているものであること』という二つの効果を付けた『聴力を上げる魔法』を創り耳をすますと、清隆が丁度さっきのサラの質問に答える所だった。

「ああ、俺が探している分野の本が無いんだ」

「清隆の探している分野って何ですか?」

「ああ、え~っと呪い(カース)関連……」

「の、呪い? だ、誰かを呪う気ですか?」

 サラの声が、少し身構えたように聞こえた。……当たり前だ。『呪い関連の本を探してます』だなんて聞いたら、誰だって身構えるにきまってる。

「違うって……。遠縁の親戚にさ、ちょっと呪いで困ってる人がいるのを思い出してさ、解呪の専門書とかないかなぁとか思ったものだから」

「ああ……」

 葛木家の使命の事を知っている俺としては、清隆の今のセリフがハッタリだと分かったのだが、どうやらサラは信じたらしい。

 ……それにしても……

(『清隆』、か……)

 サラがそう言っていたことから、清隆と少しは喋れる仲になっていることが分かり『同時に図書館島へも一緒に来たのだろう』という推測も出来上がった。

「だったら、そういう関連の書籍がないか、かかりの人に聞いてみたらとうですか?」

 ――と、推測をたてていたら、話が進みサラがこんなことを清隆に言ったところで考えごとの世界から意識が戻る。

 ……丁度出るのに絶好の場面だな。

「ああ、うん。そうされてもらうよ」

「清隆。残念ながら聞きに行っても、お目当ての本はないぞ」

 サラに言われてかかりの人の所に行こうとする清隆を、そう言い止める。

 すると――

「修!」

「柏田!」

 二人が驚いた顔で俺の方へ目線を向ける。

 そんな目線を受けつつ、さっきの言葉を続ける。

「ここの図書館。上級な魔法書籍は、予科生には見せちゃいけないことになってるんだと。閲覧するためには『閲覧レベル』ってやつを上げる必要があるらしい――しかも、清隆が見たがっているような関連の書物は、学園長などの許可がないと閲覧できない可能性もあるらしいぞ」

 つなみに俺たち入学したての閲覧レベルは1らしい。

 閲覧レベルはよっぽどのことがない限り、進級すれば上がるらしい。

 ――などのことも含めて教えてやると、清隆は肩を落としながら、

「そっか~。……とりあえず、今日のところは出直すことにするか」

 と言って納得した。

 しかしサラはまだ納得が出来ないことがあったらしく、眉を少し上げながら俺に聞いてきた。

「ところで、なんで柏田は……」

「シュウ」

「え?」

「『妹もいるんだから、葛木だとややこしいだろ』とか言われて、清隆の事を名前で呼んでるんだろ? なら俺も修でいいって」

 長年の付き合いから、清隆がそう言ったであろうことをサラに言うと、

「な、なんで分かったんですか……」

 驚いた表情で返事をするサラを見て、本当に言ったんだなと確信する。

「まあ、付き合い長いからな。清隆とは。前の学校でも大抵の人にそう言ってたし」

「……そうでしたか。まあ名前の事に関しては、一人も二人もかわらないのでいいですけど。――それで、修はなんでこの図書館にいるんですか? しかもよく閲覧レベルの事なんて知っていましたね。元から知ってたんですか?」

「第一の質問に関しては、英語の勉強のため。二つ目に関しては、一時間くらい前に同じ質問を俺がかかりの人に聞いたから、言われたことをそのまま返しただけ。――ということだ」

「修も呪い関連の書籍を探してたんですか?」

「ああ。一応俺も清隆が言っている親戚に会ったことがあるからな。清隆と同じ理由で探してたんだよ」

 サラに言ったように、俺は一応だが清隆と一緒に親父さんから使命を任されている身なので、清隆と同じように英語の教材を探す前に、清隆と同じく呪いに関するものなどの本を探したのだが……さっき俺が言った通り、かかりの人に言われてしまった。

「……そうなんですか」

「ああ。――さてと、勉強もひと段落ついていた所だし、帰ることにするかな。清隆はもう寮に帰るんだろ?」

「ん? ああ、目的も一応、達成したことだし、そのつもりだけど」

「なら俺もボート乗せてってくれないか? 俺ボートもらってないし」

 次もあの魔法が見られないとも限らないからな。……もう見られてる可能性もあるけど。

「定期便使えよ。来る時もそれで来たんだろ?」

「良いじゃないか。定期便は待つのが面倒なんだよ」

「……仕方ないな」

 渋々だが頷いてくれた清隆。

 このあと、英語の教材の本を数冊借りたあと、清隆&サラと一緒に帰ることになったになったんだが、ボートにかかっていた魔法に驚かされた俺であった。

 

 

 その後、寮に戻った俺は清隆の部屋で勉強をして、食堂で先に食べてきた清隆と入れ違いで食堂へ向かうと、メアリーとエドワードがいたので、一緒に食べさせてもらい。

 明日の予定(授業について行くためにまるまる一日英語の勉強)と授業開始日の朝も一緒に食べることを約束して、そのまま部屋に帰り、一日が終わった。

 

 

 

 




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第13話 授業開始初日の朝

かなり久々更新&短めです。……なんか色々すいません。


 

 

 

「ふぁぁぁ……」

 授業開始の初日の朝、食堂に向かう途中にそんな欠伸(あくび)がこぼれてしまった。

 その理由は単純で、只今の時刻は午前四時半の少し前。なので眠いのも仕方ないというものだ。

 しかも昨日は一日中を英語の勉強で頭を使っているので、普段の早起きの時より眠い。

 なぜこんな早起きをして食堂に向かっているかというと――

「あ、修さん。早いですね」

「そりゃあ、バイトとして働かしてもらう初日なんだから早めにも来るよ。……というか、朝の仕込みにしては遅い方だと思うぞ。この時間だと」

 ――食堂で朝の調理の仕込みのバイトをするためだ。

 実は昨日、勉強の合間にフラワーズにご飯を食べに行った時に、バイトを多く掛け持ちしている葵ちゃんに『良い仕事ない?』と聞いたのだ。

 そしたら『朝の食堂の仕込みなんかいいんじゃないですか?』と言われたので、葵ちゃんのコネで食堂で面接をして、今日から週に何回か働かしてもらうことが昨日決定した。

「ほとんどは専門の方たちがやってくれてますから、わたしたちは簡単な料理を作るくらいなんですよ」

 俺の事を食堂の入口で律儀に待ってくれていた葵ちゃんが、俺の疑問に答える。

 そしてそのまま話しながら食堂へと一緒に入る。

「……ところで葵ちゃんは、俺の事を何分くらい前から待っていたんだ?」

「そんなに待ってませんよ。一、二分って所ですかね。十分前には着いておこうって思って待ってたら、すぐに修さんが来てくれました」

「そうだったのか」

 姫乃を小さい頃待たせて怒らせて以来、女性を待たせると怖いものだというものが俺の中から消えないものとなってしまっているので、それを聞いて少しほっとしてしまった。

「でもなんでバイトなんてやろうと思ったんですか? こういっては何ですけど、風見鶏の学生でバイトをしている人なんてほとんどいませんよ? いても、前にやっていた人は勉強や魔法の研究も(おろそ)かになってしまったらしいですよ? それでもやるんですか?」

「まあ一応……疎かになったらなったでそれから頑張ればいいかなぁ~、ってことで、今は少しでもお金を貯めておきたいんだよね」

「何か欲しい物でも?」

「いや、欲しい物はないんだけど……少しでも学費の足しになればなと思って。ここの学費って高いから払ってもらっているのも申し訳なくて……」

 今葵ちゃんに言った一言は、バイトをしたい理由の全てである。

 というかこれ以外にバイトをしたい気持ちになる理由が他にまだない。

 なので恵子さんには内緒でバイトをすることにしたのだ。

 ちなみにバイトについてはロンドンに来る前から考えていたので、魔法の遅れに関してもとっくに覚悟は出来ているので、葵ちゃんの言っている風にならないよう頑張るつもりだ。

「ということで、これからよろしくな。葵ちゃん」

「いえいえ、こちらこそです」

 葵ちゃんと挨拶を交わし、俺は葵ちゃんと仕事場に向かった。

 

 

 

 

 葵ちゃんに仕事を(おそ)わりながら仕事をし、仕込みがある程度終わったので食堂で朝ご飯をたべることにした。

 葵ちゃんも今回だけは自分と食べるとのことで、一緒に席に向かう。……まあ葵ちゃんは食べ終わったらに仕事に戻るらしいけど。

「それで修さん。これから待ち合わせしている人というのはどういう人なんですか?」

 前に約束していたメアリーとエドワードの分の食事も持ちながら席に向かう途中で葵ちゃんがそんなことを聞いてきた。

「えっと、一人はメアリー・ホームズっていう女の子で、もう一人はエドワード・ワトスンっていう俺と同じ『男』だよ」

 エドワードが男というのを少し強めに言っておいた。

「あ、ホームズって名前は聞いたことあります。確か探偵の血筋の家系だとか……」

「へー、よく知ってるね」

「あはは。そりゃあ修さんより長くここに住んでますからね。そういう情報も入ってくるんですよ」

 少し自慢げに話す葵ちゃんの話を聞きながら、葵ちゃんがメアリーの事を知っていた驚きと同時にメアリーが探偵の家系ということに驚かさせる。

(……探偵って性格じゃないよな)

 失礼ながら本などで登場する探偵などとはメアリーがあまりに違う性格の為、そんな感想を抱いてしまった。

 

 そうやって葵ちゃんの話を聞きながら食堂の席の多く並ぶ場所に出ると、すでに見知った顔が二人座っていた。

「あ、やっと来たわね。おそいわよ、シュウ」

「おはよう。修くん」

「おはよう二人とも。――急なんだけど、この子も相席させてもらってもいいか?」

 席に座りながらそう聞くと、メアリーもエドワードも首を縦に振る。

「失礼します。わたしは陽ノ本葵といいます。いつもはこの食堂やフラワーズで働いでいるので、気軽に声をかけてください」

「僕はエドワード・ワトスン。よろしくね、葵さん」

「あたしはメアリー・ホームズ。よろしくね」

「えっと……はい。よろしくお願いします」

 一瞬エドワードの名前を聞き不思議そうにするも返事を返す葵ちゃん。

 ……多分、先に俺がエドワードが男だと伝えているから戸惑ってるんだろう。証拠に葵ちゃんがこちらを向き俺に確認する目つきで視線を送ってきた。

 なので葵ちゃんに首を縦に振り肯定と伝える。

 すると、

「あの修さんから聞いたんですけど……男の子……なんですよね?」

 とエドワードに半信半疑で確認をとる。よっぽど信じられなかったらしい。

「うん。正真正銘、男です」

「そ、そうなんですか……」

 まだ驚いてはいるが、他人の俺が言うより、本人が肯定したことにより葵ちゃんも信じたらしい。

「ほらシュウ。これがエドワードを見た時の一般的な反応よ」

「うるさいなぁ。俺だって驚いてたろ」

「シュウは『男かどうか』じゃなくて『男がどうして女装しているのか』に驚いたんでしょ? なら十分(じゅうぶん)ヘンよ」

「えっ、もしかして修さん男の人だってすぐに分かったんですか!?」

 葵ちゃんが今度は俺のことを驚いたように見る。

 

 それから葵ちゃんになんで男だと分かったのかとか『授業はどんなものなのかなぁ』と想像を膨らませてみるなどをして楽しみ、そこから葵ちゃんに三人で朝ご飯のお礼を言った後(仕事の合間に特別に作ってくれた)別れ教室へ二人と一緒に向かった。

 ――ちなみに前日に二人から『日本の料理が食べていたい』と言われて持っていた、葵ちゃん特製の卵焼きやお新香などといった定食料理はかなり美味しかった。

 

 

 

 

 

 

 




久々の更新でした。……待ってくれてた人いるのかな?


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