ファランコス、このすばす (頭シー◯ス)
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流れ着いたその場所

灰に使命なし


 ここは何処なのだろうか。誰に言うでもなく、そう独り言を呟いた火の無い灰は座り込む。

 もう幾度となく行った火継ぎ。気紛れにその火を絶やしたが、初めてやった訳でもないのにおかしな状況に陥っている。

 本来であれば灰の墓所の棺で目覚め、再び使命に殉じる旅をしなければならない。

 だが、気が付けば居た場所は知らない土地。どこか死にかけを思わせる、薪の王たちの故郷が流れ着くロスリックとは似ても似つかない。そんな命の活気がある草原。

 いつまでも座っている訳にはいかないと思い、火の無い灰は立つ。ひとまず、「何かがいそうな壁の中を確認してみよう」と。

 

 道中、でかいだけのカエルをファランの大剣で軽く斬殺し、目的地に着いた火の無い灰は目を疑った。

 見るからに正気の人間が沢山いたのだ。これまで見てきた人間は、ダークリングのせいで亡者に成り果てた者がほとんどだった彼からすれば、あり得ないとすら言える事だ。

 正気な者が沢山いるのは良い事だ。なのだが、火の無い灰からすると謎は深まるばかりだ。

 ダークリングの無い人間など、考えた事すらなかったのだから。

 いつも目覚めるのは火の時代の末期。誰かが薪の王たちを玉座に無理矢理戻さなければ、火の時代が終わる一歩手前。全ての人間にダークリングがあり、弱い連中は亡者に成り果てている。もはや、人間という種族は死に体と言っていい状態だ。

 もしかすれば、早起きでもしてしまったのかもしれない。いくら亡者になっていなくとも、学があるわけでない火の無い灰には、そんなかもしれないとの可能性を上げるくらいしか出来なかった。

 解らぬ事しかない現状に、落ち着いて考えるべきだろうと、火の無い灰は篝火を探すのだった。篝火は何処にあろうとも、ダークリングを持つ不死人にとって唯一の寄る辺なのだから…

 

 篝火が無い。その可能性に気付いたのは、街を探索し始めて3日程時間が経ったくらいであった。

 普通の人間からすれば何を馬鹿なと言いたくなる話だが、火の無い灰からすればあり得ない事だ。

 不死人にとって、火の無い灰にとって旅は篝火を拠点に行うものであった。篝火を巡るのが旅と言っても差し支えない。

 そも、不死人なら誰もが持つが、宝と言えるエスト瓶は篝火で満たす。エストは不死人のメインとなる回復手段故に、必要不可欠といえる。

 ロスリックには各所にその篝火があり、それが普通であった。だから、ここにもあるだろうと探してしまったのだ。

 

「あ、探し物は見つかりましたか?」

 

 店の前を掃除していた女性、名前はウィズが火の無い灰に声を掛けた。街中では剣を抜身のままにしてはいけないなどといった、欠如していた常識を教えてくれた人である。

 無い事が判ったと返せば、まるで自分が悲しいかのように物憂げな顔で励ましの言葉。

 これだけで、火の無い灰はイイ人認定を出す。それでも、ウィズから感じるソウルは異形のソウルなので、いつか手にしたいと思うのだが。

 篝火もなく、火防女による導きもない。頼れそうな人物は目の前に一人とあって、火の無い灰はウィズに今後の相談をするのであった。

 

 自分の名前は何であろうか?ウィズに名前を聞かれ、思ったのはそんな事であった。特に名前を呼ばれる事も無く、火継ぎを繰り返すうちに忘れ去ってしまった名前に未練はない。が、街で生活するのに必要となればそのままという訳にもいかなかった。

 そこで、火の無い灰は装備から名前を貰う事にした。深淵の兆しあれば、一国すら滅ぼすのに躊躇しなかった深淵狩りの集団、ファランの不死隊から。

 火の無い灰改めて、ファランは地味な冒険者デビューをした。なんて事はない。何をするにも先立つモノは必要であり、その稼ぎの為に冒険者になったのだ

 ファランはソウルなら大量に持っているが、エリスなる硬貨は持っておらず無一文となる。幸いにもウィズに事前に相談したお陰で、手持ちのいらない装備を売って登録料は捻出できた。

 登録時に、火防女によって限界まで強化された能力に驚かれたが、それ以外は特には問題はなかった。

 

 ファランのいる街は、初心者の街とまで言われるアクセル。領主が悪徳貴族であるのを除けば、特に問題などない平和な街である。

 そんな平和な街であるアクセルでも、冒険者の仕事は雑用から討伐に調査と多岐に渡り、年がら年中何かしらの依頼がある。冬になると強いモンスターの討伐依頼だけになるらしいが、今は関係無いだろう。

 そんな中からファランが選んだのはジャイアントトードの討伐である。

 人を丸のみにできる巨体に、その大きさに見合った舌の長さで離れた獲物でも捕まえるモンスター。こう聞けばなんと恐ろしいモンスターと思うが、金属が苦手で金属製の鎧でも着ていれば丸のみには滅多にされない。さらには走って逃げれなくもない早さとあって、人間が捕食されるとすれば準備不足の駆け出し冒険者や農家か子供くらいなものである。

 街に入る前に軽く斬殺したことのある相手とあって、ファランに緊張はない。

 ジャイアントトードを前にして、懐からウィズから買った魔道具を取り出す。ジャイアントトードが好む匂いを発し、飲み込んだら爆発して確実に仕留める品だ。

 効果だけなら有用な道具である。ただし、値段がお高くジャイアントトード一匹とは釣り合わない。しかも、付近にいる全てのジャイアントトードを引き寄せてしまうという欠陥品である。

 駆け出し冒険者はまずジャイアントトードを相手にするだろうからと、ウィズは善意でオススメしたのだろう。しかし、初心者が使えばジャイアントトードに囲まれて、最悪食べられて終わりとなる。

 ウィズの澱みと言うべきか穢れと言うべきか判らないが、どこか黒いモノと青いモノが入り交じるソウルに相応しい所業であるが、繰り返すが善意である。

 ウィズは駆け出し冒険者向けと思ってるのだろうが、欠陥扱いの部分も加味すると別の使い道が出てくる。何かしらの理由でジャイアントトードを誘き寄せたいか、食用である肉を大量に得る為に使うのが正しいのであろう。

 そんな思考をしながらでも、ファランの体はもはや染み付いたとまで言える動きでジャイアントトードを仕留めていく。

 左手の短剣を地面に突き立て、軸にしての回転切り。続けて逆回転して切りつけ、最後に体ごと縦回転して両断する。ニ撃でもって逃げれぬように足を切り、トドメの一撃を入れる動きだ。

 狼血を受け継ぎしファランの不死隊は、度々その有り様を狼に例えられていた。深淵狩りである彼らもしくは彼女らに、深淵が関わるモノを逃がす失態は許されない。

 ゆえにその狩りの動きは、まず逃げれぬようにするのだ。人であろうがなんであれ、深淵を広げかねないモノを。そこに、例外など存在しない。例え、己であろうと。

 ジャイアントトードがそんな狩りから逃げられるはずもなく、餌に誘われて姿を現した全てのジャイアントトードは食用肉になる運命であった。

 

 何事もなくクエストを終わらせたファランは、一人で冒険者ギルドに併設された酒場で冒険者カードを見ていた。

 この世界もしくは時代の冒険者は、モンスターを倒す事でソウル的なモノを取り込んでレベルアップする。レベルが上がればステータスが上がり、更にはスキルを習得する為のポイントが得られる。

 なにそれズルい。冒険者カードの概要を聞いたファランの率直な感想がそれであった。

 自身もレベルアップはできるが、火防女の手によってステータスを一つ1上昇させるだけである。無論、冒険者カードの1と火防女の1が同じとは限らないが、それでも全体的に上がるとは差が大きいではないか。

 さらに言うなら、習得さえすれば色々と便利になるスキルも大概である。ポイントさえあれば指先一つで即できるようになるなど、技術を馬鹿にしてすらいるとも感じられる。

 尤も、武器を持てばステータスさえ足りていれば熟練のように振り回し、魔法・奇跡・呪術はスクロールさえあれば習得が容易。ありとあらゆる適性ガン無視な不死人の行為を目にすれば「お前が言うな」と言われるが。

 世界の違いを感じつつも、じっと自身の冒険者カードを見る。

 職業は冒険者であり、持たざる者であった身であるのにスキルポイントは豊富。ステータスに関しては魔王軍との戦いで最前線を生き残れるくらいに高いらしく、スキル欄は空欄である。空欄なのは、ジョブ冒険者は誰かにスキルを教えて貰わないと習得出来ないからである。

 誰かにスキルを教わってスキルを習得するのは当然だが、問題は何を習得するかであった。火防女に限界まで強化されているため、レベルアップでスキルポイントが手に入らないかもしれない。だから習得するスキルは選らばなければならない。

 付け加えるなら、ソロで行動できるようなスキル構成にすべきであろう。白霊と違って、冒険者は捨て駒にしたり、一緒に特攻を気軽にできる相手ではないのだから。

 初心者の街と言うだけあって、アクセルの冒険者のレベルは全体的に低い。教わりさえすれば習得可能性という特性を生かすのであれば、早々にレベルが高く教われるスキルが豊富であろう別の街に行くのも手である。

 尤も、そうするとウィズのソウルが手に入りにくくなるし、何より死んだらどこで復活するか判らない。判明するまではアクセルにいた方が良いだろう。死んだら灰の墓所送りもありえる。

 この世界に使命があるかはまだ判らない。だが、薪の王たちの故郷が流れ着くロスリックを駆け巡り、王狩りを火継ぎを成し遂げた火の無い灰は止まらない。

 深淵の監視者の装束を身に纏い、集めた武器に魔法を駆使して戦うのだ。これまでがそうであったように、これからも一区切りつくまで進む。

 例え旅が徒労に終わるとしても。




火の無い灰
皆大好き好奇心の塊。今はウィズの異形のソウルを欲しいと思うも、積極的に殺しに行くつもりはない。でも機会があったら回収したいと思っている。

ソウル
相手の体力わかるならどんな感じか判るだろうと、異形のソウル所持か判る設定

ファランの不死隊の剣技
深淵歩き(虚偽)アルトリウスの剣技を可能な限り再現したのがあのモーションだと思っている。
パリィ可能という悲しみを背負っており、初見にはワケわからん殺しで熟練にはパリィの鴨にされる。

ファランの大剣
特殊特大剣というオンリーワンなカテゴリにいる。
武器の説明で特に言及はないが、深淵狩りの効果がある。なので狼騎士の大剣と同じで装備すれば今日から君も深淵狩りだ!(なお対象は半分くらいボス)


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出会うはある意味同類

 冒険者は危険なほどに稼ぎやすい。

 アクセル近くまで流れてきたマンティコアを討伐しながら、ファランはそんな下らない事を考えていた。

 討伐の報酬は人類への危険度から算出され、採取の報酬は往復の危険度で算出される。なので、マンティコアの討伐はアクセルではかなりの値段となる。

 だからアクセルで受けられるパーティーは限られ、ステータスだけなら高レベル冒険者なファランにこの話が来たのだ。緊急性はなく、塩漬けになる前に達成出来そうだから、一応声を掛けた程度であるが。

 ライオンをベースに、コウモリの羽とサソリの尻尾が追加されたようなマンティコアは強敵である。そもそも、空を飛べて大型の肉食獣くらいの攻撃力があれば、だいたい強敵だ。人間ならそう判断するのが正しい。

 だからファランも、普段使わないミルウッドの大弓と竜狩りの大矢を使ってマンティコアを撃ち落とした。地面に落ちれば、あとは解体しながら殺すだけである。飛ばれさえしなければ、大型の獣など慣れたものだ。

 場所が山岳とあって、狩りよりも移動の方が大変との有様である。帰りなら一瞬で移動出来ていたのにと思えば、如何に篝火に助けられていたかが解る。

 解決手段はテレポートの魔法を覚える事なのだが、アクセルにはファランが知る限りではテレポートの使い手はいない。これでは教わりようがない。

 帰ったらギルドで使い手がいないか聞こうと決め、マンティコアの首を落とす。

 生き物からただの物になったマンティコアをソウル化し、回収してからファランは帰路につくのであった。

 

 物質のソウル化とその還元は不死人にとって基本的な能力と言える。素手だったのに、次の瞬間には特大剣が握られてるなど、よくある事だ。

 なので大きいとは言え、マンティコアの死骸をいきなり取り出して驚かれるとは、ファランは考えもしなかった。ジャイアントトードの時は持ち帰るとの発想すらなく、今回が初のお持ち帰りであった。

 

「テレポートを使える方、ですか?」

 

 物の出し入れは独自の魔法と処理されて、ようやくファランは帰路につく際に考えていた事を聞けた。テレポートさえあれば、格段にフットワークが軽くできる。

 

「でしたら、現役は引退されてますが、ウィズ魔法店の店主さんならお教えできるはずです」

 

 おもいっきり知り合いに使い手がいた。そもそも私的な知り合いはウィズしかいないが。

 あのいい人なら、あっさりと教えてくれるだろうと、意気揚々とウィズの店に足を向けるのだった。

 

 特に語るような話もなく、テレポートを習得したファランは鍛冶屋に来ていた。消費した竜狩りの大矢を補充しようと思ってだ。

 

「コレと同じのをのぉ…」

 

 鍛冶屋の主人が竜狩りの大矢を調べているが、その表情は険しい。矢と言うより鈍器染みた形状に加え、良質の金属が使われているのが軽く調べただけで判るからだ。竜狩りに使われていた品なのだから然もあらん。

 似たような物は作れはするが、どうしても劣化したような品質になってしまう。神代故に揃えらえた素材に、全く違うルーツの鍛冶。この2つはどうしようもないのだから。

 高くなる上に劣るとなれば、ファランには今日のところは帰るしかなかった。それでも普通の矢であれば、問題はないとの確認を取れたのは幸いか。

 あちらから個数制限をしなければ、一定の値段でいくらでも売ってくれる。祭祀場の侍女を初めとした面々が、なんとありがたい事か。代わりに入手経路の謎は止まるところをしらないが。

 

 消耗品の補充が難しいと思い知るのは、さして時間が掛かる事ではなかった。矢にボルトは普通の物なら問題ないが、裏返せば普通の以外は金を高く積まなければ手には入らないか、そもそも類似品すらない。消耗品のほとんどが、そんな有り様であった。

 よもや糞団子が貴重になるとは、と嘆きながらギルドに併設されている酒場でクリムゾンビアなるものを呷る。

 一杯引っかけて、別に困るものではないかと考え直す。幸いにも消耗品の代わりとなる手段は存在する。ただほとんどが魔法の枠を使うのが難点なのだが。そして魔法を使えるようにするのには篝火が必要となる。

 天然の篝火は存在しないと判っているが、手持ちの品で代用は出来なくはないであろう。

 ただし、ファランが一度でも触れれば知る事になる。篝火が元の場所への寄る辺になるか否かを…

 

 街の外の草原で帰還の骨片を軽く盛り、中心付近に火継ぎの大剣を突き立て火を灯す。そうやって出来た篝火は、弱々しく燃えるも不思議と消えそうな気配はない。

 傍に座れば体力と魔力が回復し、装備も修復される。そして感じるのは、この篝火が他の篝火と繋がっていないとの事実。考えてみればあたり前だ。火継ぎを終わらせてこの世界に流れ着いたのだ。かつて灯した篝火の火は、消えてしまうに決まっている。

 不死人の寄る辺たる篝火も、世界まで違えばどうしようもないのだろう。他の機能は問題なく使えるので、他に篝火があれば移動自体はできそうではある。火継ぎの大剣が一本しかないので、他に篝火を作れないから意味がないが。

 確認は済んだと、火継ぎの大剣と帰還の骨片を回収して森に足を向ける。今日はコボルトと初心者殺しの討伐依頼を受けているのだ。

 

 毎日のように初心者に不向きな討伐依頼を消化し、酒場で酔えない酒をてきとうに飲む。順調な冒険者生活。そう、スキル集め以外は順調な生活である。

 

「ソードマスターやアークウィザードに成れますよ。なんでしたらアークプリーストにも」

 

 良い方法がないかギルド職員に相談すれば、ジョブ冒険者から他のに成れと言われるのだ。いかに純度100%の営業スマイルで言われようとも、変えるつもりは毛頭ない。どんなスキルでも習得可能は、レベル的に成長できないであろうファランには必要なのだ。誰がなんと言おうとも。コミュ障で周りの冒険者と仲良くなれずに教われなくてもだ。

 そう、ファランは友人のなり方や友人との会話とはどんな事を話せばいいか判らなかった。たまに会うなら、近況などを話せばいいが、アクセルでは毎日のように会うから話す内容がないのだ。

 それだけ近い人間が多いのは喜ばしい事ではあるが、いまだに戸惑いの方が大きい。残念な事に、味方の作り方が助ける以外やったことがないので、会話から協力関係になるのはファランにはハードルが高い。

 

「相席いいだろうか」

 

 凛とした雰囲気に、金髪碧眼の美人。見てくれだけなら問題はないので、ファランは了承する。

 チラチラとこちらの様子を伺っているのを尻目に、ファランは装備からして女騎士っぽい相手のソウルに目を細めていた。ウィズとは真逆に近い白さを感じさせるソウルは、異形のソウルに変質しそうである。何より気掛かりなのは、何処と無く双王子のソウルと似ている事か。

 もし異形のソウルと成ったら、是非とも回収したいところである。

 

「……その、いいだろうか?」

 

 よもや頭の中で回収(殺し)いつになるかを考えているなどと露知らず、女騎士は口を開いた。

 

「私とパーティーを組んでくれないだろうか!」

 

 緊張からか上ずり大きな声での頼みに、ファランは軽く了承する。

 

「本当か!?今さら無しはないぞ!」

 

 今度は嬉しさから声を張り上げるのは、端から見ていれば微笑ましいものだ。なのに、幾つものパーティーから可哀想なモノを見る目を向けられている。しかもファランに。

 

「……まあ期待させておいて、いきなり突き落とすような真似もそれはそれで…」

 

 まるで蛆をぶっかけられても放置してるような発言に、ファランは苦言を呈する。自分は―――必要さえなければ―――そんな不誠実な真似はしない。

 欲しいモノの為なら、ロザリヤの指や積む者の(なんだってやってきた)男の発言とは思えない。ついでに言うなら、神喰らいとファラン(地名)にフィリアノールの眠りだって守ってきた。当然闇霊狩りにメダル集めだってやっていた。

 

「ああ、いや。別にそんな事をしてくれそうに見えるとか言いたかった訳じゃない。気を悪くしたらすまない」

 

 バツが悪そうに視線をずらしながら苦笑する女騎士であるが、気持ちを切り替えたのか真面目な顔になる。

 

「私はクルセイダーのダクネスだ。気軽にダクネスと呼んでくれ」

 

 まさかの上位職にファランはの顔は自然と笑みを浮かべる。これならばスキルの方も期待出来そうだと。

 いかれた世界の存在に似てる奴に、真っ当な保証など何処にもないというのに。




双王子のソウルに似ている
先王が発狂ものの血の営みがあったとの事。恐らくは外部から優れた血を家系に入れるのは、とうの昔に通過したと思われる。


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頭シーリス ダクネスちゃん

 女騎士とは頭シーリスであれとの協定でもあるのだろうか?

 そうファランが本気で考える程に、ダクネスは頭がイッていた。具体的に言うなら、敵を見つけ次第に突撃してなぜか命中しない剣を振り回すのだ。

 ソードマスターと対をなすと言われるクルセイダーは、防御に秀でておりパーティーのタンク役をこなす存在だ。その為にいかに敵を引き付け、耐えるかが問われる。基本的に人間より身体的に優れたモンスターの圧力は強く、精神的にも身体的にも耐えるのは並大抵の事ではない。

 もしもタンク役が怖じ気づいて後ろに下がったり、倒れて前線が崩れればそこから被害が広がってしまう。正に後衛を守る盾であり、安定したパーティーを目指すなら是非とも欲しい存在である。

 しかし、ダクネスはいくら後衛がいないからといって、攻撃が当たらない癖に敵に突撃をかましたのだ。これにはやる気あるのかと流石のファランも言いたくなる。

 

「やる気は無論ある」

 

 やる気はあっても、実力的に不可能な事をやろうとする無謀はお呼びではないのだ。頭シーリスか。

 

「っん!…そのシーリスがどんな人物かは知らないが、罵倒されてるだけはわかるぞ!」

 

 駄目な所だけに物分りが良いダクネスの背後で、件のシーリスが下を指差して煽っている姿を幻視したファランの目が濁る。

 覚悟だけは騎士だったシーリスでは、特殊性癖持ちのダクネスにすら劣るであろう。煽ったのはファランの中のシーリス像なので、本人はきっとしないはずだ。せいぜいが亡者化して襲ってくるくらいである。

 しかし、いくらなんでも攻撃が一切当たらないのは流石におかしい。わざとやっているのか、それとも神にでも呪われたりしているなどが疑わしい。

 

「……攻撃が当たらないのは昔からだ。決してわざとやっている訳ではない」

 

 目を逸らしながらのダクネスの言葉がなんと白々しい事か。だいたい、スキルポイントさえあれば命中率を上げるスキルは容易に習得できるのだ。そういったのを優先的に習得すれば、攻撃は自ずと当たるようになる筈である。

 なのだが、ダクネスはスキル振りはクルセイダーのスキル群の中から防御系スキルだけを習得するという、防御極振りというもの。

 スキルはあくまでも技術なので、ダクネスの剣の腕が一般人以下の、それこそ一般人ですら剣を握って生きるのを諦めるように説得するレベルの才能という事になる。そういった者でも人並みの腕にはスキルはしてくれる救済措置みたいなモノなのに、ダクネスは習得していないのだ。

 尤も、スキルがあるからこそ才能というのが際立つ例も存在する。属性魔法などは、得意なモノなら少ないポイントで習得でき、逆に苦手なモノは多くのポイントが必要になるか、そもそも習得出来なかったりする。

 ダクネスの場合は防御系が得意なモノでポイントが少なく済むが、剣の才能を必要する攻撃系は多くのポイントが必要になるのかもしれない。それでもマトモに戦えないのなら、無理をしてでも一つくらいは習得しているべきである。

 

「う、動けない相手なら私の攻撃も当たるぞ…」

 

 それはファランも承知している。絶対に当たらないのかの検証で、脚を切って動けなくしたコボルトに攻撃させたら当たったのだ。ただし、最初の数回はギリギリ掠めるで当たらず、あまりの恐怖でコボルトが気絶してようやくだが。

 そうであっても、ダクネスはステータスは低いどころか高い―――運と技量はおそらく低い―――のでコボルトは一撃で絶命した。ステータス上は本当にダクネスはシーリスと違って優秀なのだ。頭がある意味悪いので、誰かがキチンと指示を出せば化ける可能性はある。個人プレイ上等な根っから不死人なファランには無理な話だが。

 

「…そ、その、このパーティーはやはり今回限りだろうか……?」

 

 普通であれば突撃思考クルセイダーなどお呼びではない。だからダクネスは不安そうなのだろう。また一緒にやっていられるかと、パーティーから追い出されると。

 そんな心配など、普通ではないファランには無用であったが。将来的には別れるにしろ、この死が重い世界で放っておいても死なないであろうダクネスの硬さは貴重である。なにより、硬すぎて殺し方を近くで観察して考えたい。

 

「そうか!よろしく頼む!」

 

 大鎚で叩き潰すべきか、それとも呪術で焼くべきか。そんな事を考えているとはいざ知らず、ダクネスはそれはもう嬉しそうであった。

 

 エリス教は女神エリスを崇める宗教である。ファランの今いる国である、ベルゼルグ王国の国教にもなっている。更に付け加えるなら、通貨の単位もエリスである。

 ライバル宗教にアクシズ教があるが、今は置いておく。

 そんなエリス教の教会にファランはダクネスに連れられて来ていた。

 クエスト中は嬉々としてモンスターに突撃するダクネスだが、流石に教会では凛とした雰囲気である。もしかしたら、懺悔室で神父に性癖暴露して悦に入ってた事とかあるかもしれないが、ファランには知れない事なので問題ない。

 それよりも、つい並んでいる椅子を壊したくなる方が問題か。たまにアイテムが隠されていたりするので、邪魔な椅子は壊すに限る。流石に人の手が入っている場所なのでやらないが。

 教会に来たからには祈るべきだろうと、ファランはその体勢になる。女神エリスは運を司る、ならばこそ人間と相性が良いのも頷ける。運とは人間の本質故に。

 一応聞いておくべきか。耳いるか。

 

『え、耳ですか…?』

 

 頭に響く声に、ファランは思わず目線だけで辺りを伺う。やはりというべきか、自分にしか聞こえていないようである。

 この現象には覚えがある。エンマに連れ去られる時にも似たように声が聞こえるのだ。たぶんであるが、奇跡の範疇の術である。

 

『えっと、捧げ物でも耳はちょっとご遠慮してもらってもいいですか?』

 

 推定女神エリスなまだ困惑中なのか、神族特有の威厳は感じられない。

 

『って、この声は信者の人?でも信仰心が欠片も感じられない?』

 

 推定女神エリスの言葉で、ようやくファランはこうなった原因が自分にあると判った。極まった信仰のステータスのせいで、推定女神エリスに意識を向けたから何らかの繋がりを作ってしまったのだ。

 何に向けているかも自身ですら判らない、ドーピング信仰がよもやこういった事態を引き起こすなど、聖職者からすれば憤慨物であろう。

 向こうが困惑している間に、意識を無名の王に向ける。その判断が良かったのか、直ぐに推定女神エリスとの繋がりは断ち切れる。

 

「…どうした?」

 

 推定女神エリスと精神的接触があったなどと、エリス教徒であるダクネスに言えるはずもない。ファランは曖昧に笑うと、教会から出るかと提案した。

 

 前衛二人しかいないパーティーはバランスが悪い。ロスリックであれば、友情チェインに白霊と召喚者は互いを害する事はできない法則によって問題が無かった。だが、互いが生身であるので、下手に至近距離で武器を振るうと当たるのだ。主にダクネスの攻撃がファランに。

 その為にいつでも距離を離し、万が一が起きないようにファランは気をつけていた。ダクネスは攻撃を一発くらっても、平然としているのだから不公平である。

 ダクネスの有効的な使い方は、ひたすら敵を引き付けるデコイを使わせ続けるだけである。モンスターに袋叩きにされて本人も満足、危険を減らせてファランも満足である。

 ただし、デコイをやらせるだけではダクネスはレベルが低いままになってしまう。なのでほとんどのモンスターは動けないまで痛め付けて、トドメだけはダクネスが差すとなっている。

 レベルが上がれば異形のソウルになると踏んでいるファランであったが、果たしてその時にダクネスは殺せる範疇にあるかが少しだけ心配であった。




シーリス
ダクソ3での最弱協力NPC
暗月エンチャしても雀の涙なダメージしか出せない。
敵の真ん前で無駄に断固奇跡を使う。
しかも場合によっては使っても無駄な奇跡を使う。
祖父は最強のNPC候補。
騎士の誓いを断ると亡者の穴倉で亡者化して襲ってくる。
などとネタに困らないキャラ。頭シーリスは某掲示板で使われた暴言。

エンマ
謎奇跡でエルドリッチとヨームを倒した主人公を強制召喚する婆。
先に殺害しておいても召喚されるので、初対面時に仕込まれたか、ロスリックの小環旗に細工されている模様。


約定の証。暗月の誓約は達成が安定しない、銀騎士からのドロップが渋いと集めるのが大変だった。
アプデによって多少はマシになったが、やはり集めるのは苦行である。

友情チェイン
複数人で攻撃して抜け出せないようにする事。これが俺達の友情・勝利・相手の死だ!


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化けの皮

 ふと気が付けば、ダクネスの背後でハベルのコスプレをした不死人がサムズアップしている幻影が見えた。そんな筈はないと凝視すれば、たちどころに消え去る。

 確かにダクネスは、「岩のような」と呼ばれるハベルの如き硬さだ。それでも女性に対して「岩のような」は、流石に失礼極まりないと判断は出来る。事実であるかは関係無く、マナーの問題だ。ウィズが言ってた。

 そんなダクネスの成長は、早々に諦めるべきかもしれない。別にレベル上げが億劫になったとか、ダクネスのステータスの伸びが悪くなったなどではない。ダクネスのレベルは最初から上がりにくいし、その分ステータスの伸びは良い。

 ダクネスはステータスに恵まれているのに、その被虐願望を満たす事しか考えていないのだ。戦う事すら考えていないダクネスに、戦士としての成長は望めない。

 硬くて望んで囮になるのはパーティーとしては有用ではあるが、その腕力を考えれば攻撃もして欲しいところである。しかし、ダクネスは攻撃系のスキルを習得は絶対にしないだろう。

 ならばファランに出来る事は一つ。ダクネスをスキル無しでも、攻撃が当たるように鍛えるだけだ。ファランだってスキル無しでも攻撃は当たるのだから、いくら年季の違いがあるとしてもダクネスにも出来ない道理は無い。

 

「……別に私の攻撃が当たらなくても、問題は無いのではないか?」

 

 嘘をつけない性格か、それとも嘘をつけ慣れていないからか、相変わらず気にしている事に関する話題のダクネスの態度は白々しさがする。

 無論、無理矢理にやらせようという訳ではない。挑戦するだけでも、ダクネスが悦ぶご褒美、いや、お仕置きも考えてある。

 

「お仕置き、だと」

 

 ゴクリと、生唾を飲み込む音が聞こえそうな程に、ダクネスの反応は劇的であった。

 判りやすい、実に判りやすい反応である。

 ダクネスは真っ当な人間なら避けるような、尊厳を傷付ける苦痛を望んでいる。それはモンスターに負けて辱しめられたり、人間の屑としか言えないような男の伴侶となって言いなりになるといったモノだ。

 モンスターに袋叩きにされて悦び、ソレを唯一のパーティーメンバーに白い目で見られるなどまだ生温い。苛烈かつ蔑むような痛みこそ望んでいる。

 その望みを叶えると言わんばかりに、ファランはどこからともなく、トゲの直剣を抜く。

 切りつければ、トゲが出血を強いるその直剣は、ロザリアより中指を二つ名に戴いたトゲの騎士たるカークの得物。無論、持ち主(カーク)を殺して奪った品だ。

 拷問器具染みた直剣に、ダクネスの目は釘付けだ。斬られれば、どれだけの快感(いたみ)をくれるのだろうか考えているに違いない。

 ファランが無節操に集めた品々の中には、ダクネスが気に入りそうな物が幾つかある。中にはくれてやっても良い物だってある。

 ソレを聞いて、ダクネスは欲望の火を灯すのだった。

 

 毒の大木槌がダクネスの胸を鎧越しに強打する。常人であれば尻餅を着くか、少しくらいは浮きそうになる衝撃。それをダクネスは、一身に受けて微動だにしない。

 正にクルセイダーの鏡のような仁王立ち。なのだが、その内情は余す事なく喜び(いたみ)を噛みしめているのだから変態だ。

 続けて毒の大木槌が振るわれるも、その全てをダクネスは受け止める。盾としては本当に優秀だが、遂にダクネスは不調から表情を歪める。ようやくダクネスを毒状態に追い込んだのだ。

 予想よりも耐えたダクネスを驚くを通り越してドン引きしながら、ファランはフィリアノールの聖鈴を取り出す。奇跡の癒しの涙で毒を消すためだ。

 奇跡を発動しようとすると、ダクネスが止める。

 

「もう少し、毒を味わって…」

 

 無視してファランは毒を消すのだった。

 ダクネスにとっては無情な対応だが、続けて太陽の光の癒しを使われて回復させられる。

 

「しかし凄いな。そこまでダメージは受けていなかったが、今の魔法ならかなりの重傷でも治せるんじゃないのか?」

 

 そのくらい出来なければ、名前に太陽を含むに値しないであろう。太陽とは―――神族であっても冠するとすれば最高位に位置付けられる程に―――偉大で、大事な存在なのだから。ただしグウィンは死んで当然。

 しかし、ダクネスはそんな事を気にしているべきではあるまい。故にファランは、次の武器をダクネスに渡す。

 

「また大槌か…」

 

 渡されたモーンの大槌に不満げであるが、スキルを習得しない以上は手に馴染む武器を振るうべきである。それが解っているのと、試した後のご褒美(おしおき)欲しさにダクネスは武器を振るう。

 凛とした雰囲気のダクネスは、武器を握ろうともその雰囲気を損なう事なく、まるで絵画のようである。そして武器を振るえば、検討違いではないが仮想敵には当たらないであろう軌道を描く残念具合。なぜ想像でも外す。

 ダクネスの技量の低さを見誤っていたのだろう。もしくは、この世界の住人はスキルを過信して、スキルの習得無しでは満足に武器の一つも振るえない身体になっているのか。

 鍛えれば良いと思っていたが、とんだ思い上がりであったようだ。不死人なら武器を当たるように振るうなど簡単なのに。

 

「なんだその目は…っん!」

 

 思わず悦んでしまったダクネスに、ファランの目が濁る。こんな思いをしたのは、召喚した白霊が闇霊に呪術の浄化でワンパンされて以来であろうか。一時期割りとあったかもしれない。

 検証と訓練が無駄と判断したファランは、アリアンデルの薔薇でダクネスを滅多打ちにして、ご褒美も終わらすのだった。

 

 ダクネスに攻撃を期待するだけ無駄と知ってから数日。そのダクネスが銀髪の友人とやらを連れて来た。なんでもパーティーに入れたいとの事だ。

 

「なんで、そんな嫌そうな顔をする!」

 

 本気で言っているのだろうか?ただでさえ前衛二人でバランスが悪いのに、更に前衛を増やすとは。連れてくるなら、プリーストかウィザードであろう。

 

「確かにそうだが、ソロで苦労してると聞いてな…」

 

 ダクネスはファランの正論に分があると解っている。それでも、数少ない友人が困っているのを見過ごせないのだ。

 騎士と友人のキーワードは、ファランにジークバルトを想起させる。だからこそ、銀髪の友人とやらは信用ならない。

 異形のソウルを持つ者が、冒険者稼業で苦労?

 それも初心者の街であるアクセルで?

 しかもソウルは雷を思い起こす黄色を帯びている。憶測でしかないが、神族(エリス)かその血が流れているのに?

 この世界では神は隔絶した存在ゆえに、疑問は胸に留めているが、必要とあらば闇派生した武器か凶王の磔を抜くのも躊躇いは無い。準備ができるなら、対神族として闇属性の魔法を用意だってする。

 別に信者でないファランに価値があるのは、その異形のソウルくらいであろう。

 

「あはは…随分と手厳しいね」

 

 困ったように頬の傷をなぞるが、ファランの目には人間の振りをしているようにしか映らない。

 解らない。神族が人間の振りをしてまで、近付いて来たのかが。殺すつもりなら直接しなくとも、信者に神託でも下せばよいだろに。

 あるいは、既に自身が手を下さねばならないと、実力を測られているか。英雄一人よりもネズミ十匹の方が怖いのだが。

 そこまで考え、パーティーに入れても問題は無いと気付く。

 確かに前衛ばかりが揃ってバランスが悪いが、聞けば盗賊。則ち前衛ではあるものの、サポートが主たる役目だ。

 ダクネスがそこまで考えているかは疑問だが、ダンジョンなどの探索を視野に入れるなら悪くはない選択だ。

 もしも、冒険中に暗殺されそうになったとしても、即死さえ回避出来れば堂々と殺せる。むしろそうなって異形のソウルを手にできれば万々歳である。

 頑固なダクネスに折れたと言わんばかりにため息をつき、ファランは心の中だけで喝采を上げながら銀髪の友人改め、盗賊のクリスをパーティーに加えるのだった。




岩のようなハベル
皆大好き脳筋戦士。なのだが、大魔力防護がハベルの物語らしく、「魔術を嫌い、それに対する手段を怠らなかった」とあるので筋バサが正しい姿かもしれない。
ちなみにダクソシリーズ通して本人は出ておらず、古竜の頂にいるのは装備が同じ別人との事。でも硬いのでかなり厄介。
大竜牙と大盾は本人の遺物と明記されているが、その他の防具や指輪はハベルの戦士にまつわる品だったりする。

グウィン
神族VS古竜を神族の勝利に導いた凄い神。だけど薪の王周りはだいたいコイツのせい。
火の時代を存続させる為に火継ぎの儀式を確立。火の時代は人間にとっても別段悪い時代ではないようだが、竜狩りに加わったのに語られなかったりと少なくとも一段下の扱いをしていたもよう。

浄化
相手を内側から焼く呪術。掴んでから焼くので扱いにくい部類。
かつてはバグで特定条件下で右手に持った武器の攻撃力が加算されるなんてことがあった。そのせいでワンパンされるのが珍しくなく、DLC未配信だった当時は唯一の浄化が決まるボスである深淵の監視者も被害にあった。


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キールのダンジョン

 クリスは女神エリスの地上での姿である。元は教会に通い詰めて、友達が欲しいと祈るダクネスと地上の持ち主が亡くなった神器回収の為に用意したモノである。

 信者の願いを叶え、自分は地上を楽しでなはく、必要な仕事をできる素晴らしい案であった。流石に天界での仕事に支障が出ないように気を付ける必要があるが、そのくらいは許容範囲として流せる程度である。

 そしていざ決行の直前で聞こえてきたのだ。「耳いるか」と。

 自身に信者の声が聞こえるのは稀ではあるが、無い事はない。ただし、そういった場合は信仰が高まり、ごく短い間に交信に成功した結果だ。

 まかり間違っても、気軽に電話を掛けてきたように、繋がるようなモノではない。相手も予想外だったのかすぐに切られたが、だからと言ってエリスも女神として放置する訳にはいかない。明らかな異常なのだから。つい先輩女神が関わっているのではと思ったが、調べてその方がいくらかマシだったと知るのだった。

 

 人間、という種族は基本的に脆弱だ。中には強くある為に強者を血族に加え、積み重ねる内に生まれもっての強者もいるが、それはほんの一握りとなる。

 ただし、生き物を殺す事で殺した相手の魂の一部を吸収し、俗にレベルアップと言われる方法で後天的に強者になる事も可能である。尤も、才能が存在する以上は、その強さの上限には隔たりが存在する。

 そう、強さには上限があってしかるべきなのだ。それは魂の吸収に上限があるという事でもあり、無限と勘違いしそうな量の(ソウル)を溜め込めるのはあってはならない事だ。

 そのあってはならない事を実行しているファランは、エリスには悪魔にすら見えた。体内に契約によって縛られた人を飼い、永遠に悪感情を絞りとっている悪魔に。

 しかし、流石に女神の身体で種族を間違えるエリスではない。ファランが正真正銘の人間なのは間違いない。

 だからと言って何もしないのは愚策だ。逸脱した存在が勇者のように魔王を倒すならいいが、もし第二の魔王になったら大問題になる。転生者を送りこんで、ようやく魔王軍と膠着状態の戦況を維持しているのだ。そこに第二の魔王など現れれば、人類の敗北に繋がりかねない。

 故に、エリスは見極めなければならない、ファランの人間性を。地上での活動は必須とまでなったのだ。大義名分があれば動きが早いのは、神も人も同じであった。

 

 そんなこんなで地上で活動を開始したエリス改めクリスは、ファランのパーティーメンバーとしてダンジョンを攻略していた。

 キールのダンジョン。アクセルの近くにあるだけあって、初心者用のそのダンジョンは元は悪い魔法使いに作られたとされている。かつては凶悪なダンジョンだったかもしれないが、今や探索されて目ぼしいお宝は取り尽くされ、残っているのはダンジョンそのものと住み着いたアンデットと下級悪魔くらいである。

 ダンジョンとしては体験版もいいところであるが、盗賊であるクリスの能力を見るには十分である。

 クリス、ファラン、ダクネスの順番で縦一列に並ぶ、由緒正しき冒険スタイルでの探索である。先頭のクリスが索敵と罠感知を行い、真ん中のファランが幽鬼のトーチで照らしつつ必要に応じて戦闘、最後尾のダクネスは左手にたいまつ、右手に幽鬼のトーチのダブル明かりシステムしながら後方を警戒。尤も、ダンジョンのレベルが低すぎてどれも大した意味がないが。

 

「…なあ、おかしくないか?」

 

 唐突に口を開いたダクネスに、ファランが首をかしげる。ダンジョンの構造はギルドで聞いた通りであったし、出てきたモンスターも同様である。

 いったい何がおかしいのであろうか?自分の武器が普段使っているファランの大剣ではなく、狭い場所かつスケルトンが出るのを考慮してメイスを使っている事か。

 

「違う、なぜ私は両手に明かりなのだ。これでは剣が振るえないではないか!」

 

 はて、当たらぬ攻撃しかできない奴が明かり役に徹する事のなにがおかしいか。

 足を止めているクリスに先に進むように促す。

 

「流石に、それはないんじゃないかな…」

 

 ダクネスへのあんまりな扱いにクリスも苦笑い。しかしファランはダクネスの扱いを変えるつもりはない。

 クリスのバインドによって、ダクネスの攻撃が当てられる場面は増えこそしたが、だからと言って全てのモンスターをバインドする訳にもいかないのだ。なにより、好きに距離を取れない場所で剣を振るわせて、こちらに当たったらどうするつもりか。

 ハッキリと言わねばならないか。自分は一撃は耐えるだろうが、クリスは死ぬ。

 

「~ッしかしだな!」

 

 普段のように囮になって仲間の盾としても活躍できないからか、ダンジョン攻略がおきに召さないようである。このままもよくないかと、ファランはダクネスの肩を叩きながら、クリスに聞こえないように耳打ちする。

 

「…本当か?」

 

 無論である。嘘を付いたこと無かろうに。

 

「わかった」

 

 チョロい。あっさりと答えをだしたダクネスを心の中だけで笑い、嫌に静かなクリスを見る。気不味そうに、頬の傷を人差し指で掻いていた。

 

「あのさ、二人は付き合ったりしてないんだよね?

 それにしちゃ~距離近くない?」

 

 確認するような、或いは確信してるような物言いにファランは苦笑いだ。男女のあれこれなど解らないが、ダクネスが相手はない。

 

「そんな関係ではないさ」

 

 ダクネスも笑いながら否定し、その話題は打ち切りとなった。

 しかし、ファランは少しだけ先を考えた。まかり間違って結婚まで行ったら、契りの剣をダクネスに刺さねばならないのだろう。果たして、契りの剣はダクネスを貫けるのだろうか?アレは儀礼剣であるが故に、さほど鋭くはないのだが。

 

 ロスリックとこの世界で時折見た目が似通ったモンスターの存在を確認できる。流石に性質までは同じではない。おそらく最も目にしやすいスケルトンだが、この世界のスケルトンは、ロスリックのより根性が足りてない感じがするのだ。

 ロスリックのスケルトンは、普段はバラバラになって転がっており、ソウルを持つ者が近付くと殺そうと人形(ひとがた)になる。構成する骨がバラけようとも、体力を削りきらない限りは人形に戻って戦う。場合によっては、体力を削りきったと見せかけて復活して再び向かってくる。

 ところがこの世界のスケルトンは、普段から人形で徘徊しており、構成する骨がバラける時は砕けたか死ぬ時だという体たらく。復活もないそうだ。

 回復系の魔法で倒せるとの違いはあるが、それは奇跡にはアンデットを浄化する力が備わっていないのであろう。試したら一切ダメージを受けた様子がないので、ほぼ確定だ。

 そして悪魔(デーモン)。下級悪魔であるグレムリンは、うろ底にいたデーモンに結構似ている。尤も、生態などを聞く限り根本的に違う存在のようだが。共通するのは人の敵と言えるのと、上位個体は強いくらいか。

 ちなみに、スケルトン(アンデット)グレムリン(悪魔)はエリス教にとって滅ぶ以外無しの存在である。その証拠と言わんばかりに、クリスは嬉々として担当のグレムリンを、十万エリスはすると言っていたマジックダガーで殺している。相手がスケルトンでも、嬉々として斬りかかる光景が容易に想像できる苛烈さだ。

 幸いと言うべきか、スケルトンはファランが手早く片付けるので、そんな場面が実演される事はなかった。

 戦闘と呼ぶには一方的なものを繰り返し、特に語るような出来事もなくキールのダンジョンは攻略された。

 

 ギルドで二人と別れ、ちょっとした準備をしたファランは再び合流したダクネスと、キールのダンジョン最深部にテレポートで訪れていた。

 

「誰もいないよう…」

 

 すかさず辺りを窺うダクネスを、容赦なくバインドによって荒縄で縛り上げる。

 

「隙を突いた拘束!酷い事をするつもりか!?」

 

 期待し過ぎて息の荒いダクネスに、最近濁りまくりなファランの目が逆に澄んでいく。この変態性は間違いなくダクネスだと安心感すらあるのだ。人はソレを達観と呼ぶ。

 ファランがダクネスの対になる趣味に目覚めた訳ではない。ダンジョン攻略中の約束を実行しているだけである。

 サービスだと言いながら、ファランはバインドしたと同時に自分から倒れたダクネスを足蹴にし、軽く転がす。

 

「なんという屈辱!っく…!」

 

 言葉とは裏腹に、喜色で彩られた声音は清々しい位に心情を現していた。親が見たら泣く光景である。

 そんな騒ぎに釣られてか、スケルトンが寄ってくる。

 

「っこ、このまま私はモンスターに嬲りモノにされるのか!?」

 

 嬉しそうに言いながら、チラチラと期待の籠った視線をファランに向ける姿は、親は号泣確定である。

 隠密を使ってファランが存在感を消せば、ダクネスは更に騒ぎだす。

 

「いいのか!?たの、ではなく、仲間を見捨てて!

 何処まで鬼畜なんだ!?」

 

 ちょうど仰向けになっているので、放置していたら涎を顔に垂らしそうな興奮の仕方…親はそろそろ悲しみから首を吊りかねないではなかろうか。

 新しい盗賊スキルの確認も済んだ。ダクネスとの約束ももう果たしたと見ていいだろうと、ファランは迫っていたスケルトンにメイスを叩きつけて倒す。

 ダクネスが残念そうな顔だったのを無視し、今度こそ帰路に着くのであった。




幽鬼のトーチ
ファランの幽鬼の武器の一つ。ほぼ松明だけどキチンと補正と戦技が存在する。ただし必要ステに理信10を要求してくるので、特化運用してるとたいまつで良いとなる。
原盤突っ込めば、四週目くらいまでは武器として使えるかな?

契りの剣
ロンドールの儀礼剣。使い方が伴侶となるアンリの顔面にぶっ差すとあって、不死人の結婚式はケーキ入刀ではなく伴侶入刀とネタにされる。
あくまで闇の王になる為の儀式だと思われる。
なお、アンリはプレイヤーが男だと最後のムービーで装備そのままで登場するので、どっかで復活してるとハッキリと判る。


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