とある世界の絶対氷結(アブソリュート・フリーズ) (宇宙戦争)
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虚空爆破《グラビトン》事件編
プロローグ 学園都市


2024年 7月16日

 

 学園都市。

 

 東京都西部に存在する人口230万人を誇る一大都市。

 

 科学の街を体現したような都市であり、その都市の近代化振りは世界一である。

 

 どれだけ近代化しているかと言うと、学園都市とその“外”との技術差が20~30年離れているという現実がそれを物語っている。

 

 この街の特徴は様々あるが、その1つに住んでいる人間が当てられる。

 

 それは学園都市の住民はその8割・・・つまり、184万人が学生であるという点である。

 

 基本的に学問都市という事になっているので、学生が大半を占めているのである

 

 そして・・・この街最大の特徴は何と言っても超能力だろう。

 

 超能力は科学で解明出来る。

 

 この学園都市の売り文句の1つであり、看板の1つでもある。

 

 能力者の段階は6段階に別れているが、その最高位である超能力者(レベル5)はたったの7人しか居ない。

 

 ・・・いや、それに匹敵する人間も存在するが、その人間は表向きは無能力者(レベル0)か、レベル判定そのものがされていない。

 

 そして、反対に無能力者(レベル0)・・・能力が全く使えない人間の数は184万人の内、実に6割。

 

 つまり、この街は230万人の人口が居るが、能力を使えるのは100万人に満たない。

 

 それ故に、能力が使える者は無能力者、または能力がギリギリ発現している低能力者を見下す風潮がある。

 

 だからこそ、そんな無能力者の集団は徒党を組んで能力者と渡り合おうとする。

 

 それをこの街ではスキルアウトと呼ぶ。

 

 

「おいおい、常盤台の嬢ちゃん。こんな所に居ると危ないぜ」

 

 

「そうそう、悪いお兄さん達に色々されちゃうだろうしな」

 

 

 一組のスキルアウトが、まだ中学生の年頃のシャンパンゴールドのショートカットの髪形をした少女を取り囲んでナンパをしている。

 

 この街ではよくある光景である。

 

 ちなみに常盤台とは、学舎の園と呼ばれている空間の中に存在する女子中学校で、“外”で言うところのお嬢様学校である。

 

 だが、“外”のお嬢様学校と決定的に違う所は生徒が全員が全員、高位能力者であるという点だろう。

 

 と言うよりも、この常盤台中学は強能力者(レベル3)以上が入学出来るという正に能力至上主義を体現したような学校である。

 

 それ故に、嫉妬や逆恨みも多く買うので、スキルアウトの攻撃対象にもされたりする。

 

 

「はぁ」

 

 

 少女は溜め息を着いた。

 

 スキルアウトとて、完全なる馬鹿では無い。

 

 彼女の着ている服装で常盤台中学という事は分かっていた。

 

 この学園都市では制服着用が義務付けられており、私服を着ている事は補導の対象にすらなる。

 

 その為、制服姿でその学生が何処の所属であるか分かるようになっているのだ。

 

 このスキルアウトは本格的なスキルアウトと違い、ただの不良の集まりに過ぎなかった為、この少女にあまり敵意は向けていなかった。

 

 ・・・いないのだが、それ故に人数が多ければ大丈夫だと思っているのか、こうして平然とナンパをしているのだ。

 

 だが、この不良達には1つ不運な点があった。

 

 知っている者が居れば、当然だと思うだろう。

 

 何故ならば

 

 

「まったく、退屈しないわねーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女はこの街の看板娘にして、学園都市に7人しか居ない超能力者(レベル5)の第三位

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーこの街は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 御坂美琴なのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

公園

 

 学園都市第7学区にあるとある公園のベンチでは、二人の少女が楽しそうに会話をしていた。

 

 1人は黒髪のロングヘアーで白い花の髪飾りを着けている少女。

 

 もう1人は、頭に大きな花畑を生やした・・・もとい、大きな花畑の髪飾りを着けた少女だった。

 

 

「御坂美琴?」

 

 

 黒髪のロングヘアーした少女、佐天涙子がその名前を口にする。

 

 

「はい!念願かなって、あの御坂美琴さんに会わせて貰える事になったんですよぉ~。白井さんに頼み続けた甲斐が有りました!!佐天さんも一緒に行きましょう!!」

 

 

 御坂美琴。

 

 その名前はこの学園都市の超能力者(レベル5)の代名詞でもある。

 

 勿論、超能力者(レベル5)全般の人間を知っている者や、とある不幸な少年が聞けば否定するだろう。

 

 何故ならば、彼らはそれ以上の人間を知っているのだから・・・・・・

 

 彼らからすれば御坂美琴など、“未熟な小娘”である。

 

 だが、一般の学生は第三位以外の超能力者を知らない。

 

 それもその筈で、第三位以外の超能力者(レベル5)は学園都市上層部が厳重な情報封鎖を行っているのだ。

 

 よほどの腕を持ったハッカーでも無い限り、知る事は不可能だった。

 

 ・・・もっとも、その凄腕のハッカーの内の1人は今ここに居たが。

 

 

「え~」

 

 

 だが、そんな人物に会えると聞いても、左天は気乗りしなかった。

 

 何故なら、

 

 

「御坂美琴って、あれでしょう?常盤台の超能力者。あたし、ああいう人達嫌いなんだよねぇ。自分より下の人達を見下してるじゃん」

 

 

 彼女は高位能力者をこのように考えていたからだ。

 

 そして、それは事実でもあった。

 

 能力が全て。

 

 この考えが蔓延している学園都市では、低位能力者は侮蔑の対象にすらなる。

 

 彼女も無能力者(レベル0)である為、身に染みてそれが分かっていた。

 

 まあ、“外”で蔓延している女尊男卑の風潮に比べればマシだったが、それでも侮蔑の対象にされた人間からしてみればいい迷惑である。

 

 そして、彼女はそこまで考えてはいなかったが、御坂美琴の経歴そのものも低位能力者侮蔑の一端となっている。

 

 低能力者(レベル1)から超能力者(レベル5)に成り上がったというストーリー。

 

 そんな話を学園都市全体で教師が生徒に言い聞かせるように言っているのだ。

 

 低位能力者は更に肩身の狭い思いをするだろう。

 

 そして、高位能力者は今までの侮蔑に加えて、こう思うに違いない。

 

 お前らは御坂美琴のようにすらなれないのか、と。

 

 だからこそ、低位能力者の間でも御坂美琴に反感を持っている人間は少なくない。

 

 それが意識下であろうが、無意識下であろうが、だ。

 

 そして、佐天はどちらかと言うと、後者に属する人間だった。

 

 少なくとも今のところは・・・

 

 

「そんなこと・・・」

 

 

 花畑の少女・・・初春はその佐天の発言を否定しようとするが、言い淀む。

 

 何故なら、彼女は佐天と然程変わらない低能力者(レベル1)であったからだ。

 

 まあ、それでも佐天よりはマシだったが、肩身の狭い思いをしたのは確かである。

 

 

「しかも常盤台って言ったら、どうせいけすかないお嬢様に決まってーーー」

 

 

「良いじゃないですか、お嬢様!!」

 

 

 シリアスな展開の中で突然、初春が興奮する。

 

 どうやら『お嬢様』という言葉に反応したようだ。

 

 

「いえ、お嬢様だからこそいいじゃないですか!ああ、いいですよねお嬢様!!お嬢様のお嬢様によるお嬢様のための楽園『学び舎の園』!一度は行ってみたい『学び舎の園』!みんな大好き『学び舎の園』!そんな所に通う超能力者の御坂美琴さん!きっと素晴らしいお嬢様に違いありません!いい匂いがするに違いありません!そんなお嬢様に一度でいいから会ってみたいじゃないですか!」

 

 

「い、良い匂いって。う、初春?本当にそっちの気は無いんだよね?この前、同じ支部に勤めている年上の男が気になるって言ってなかったけ?」

 

 

 初春の様子に段々心配になってきた佐天は慎重に尋ねる。

 

 ・・・もし“そっちの気”が有るならば、付き合い方も考え直さなければならない。

 

 ちなみに同じ支部に勤めている年上の男性とは、中学1年生の初春や左天より3つ程年上の高校1年生ぐらいの年頃の風紀委員(ジャッジメント)だ。

 

 この街の治安機関は2つある。

 

 1つは教員などが所属する警備員(アンチスキル)

 

 もう1つは学生が所属する風紀委員(ジャッジメント)

 

 特に風紀委員(ジャッジメント)の方は、その仕事の関係上、高位能力者か、何か特殊な技能を持った者しかなれない。

 

 初春も風紀委員(ジャッジメント)の1人であり、第177支部に勤めている。

 

 ちなみに先程の会話で出てきた白井という少女もこの支部に所属している。

 

 

「さ、佐天さんは私を何だと思っているんですか!!兎に角、行きますよ!!」

 

 

「ああ、ちょっと、初春!?」

 

 

 初春はそう言うと、何処かに行こうとしていた。

 

 慌てて呼び止めようとする佐天だったが、初春は止まらない。

 

 佐天は戸惑っていたが、このまま初春に行かせるのは色々と危険な気がしたので着いていく事にした。

 

 そして、20分後、ピンクのツインテールをした少女がシャンパンゴールドの髪をした少女に鼻息荒く抱き付いているのを見て、その判断を後悔する事になる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同時刻 第7学区

 

 佐天と初春が御坂美琴と白井黒子に遭遇していた頃、第7学区の道路を2人の少年が歩いていた。

 

 1人はこれといった特徴は無いが、爛々とした雰囲気の少年ーーー秋島ユウキ。

 

 もう1人は、ツンツン頭をした幸薄そうな少年ーーー上条当麻だった。

 

 

「本当にこの辺りなのか?」

 

 

「ああ、垣根からの情報によるとな」

 

 

 上条がユウキに尋ねると、ユウキは淡々と答えた。

 

 

「でも、それなら他の風紀委員(ジャッジメント)支部に連絡すれば良かったんじゃないか?」

 

 

「そうしたいところだが、万が一という事もある。取り逃がしたら元も子も無い。やはり、俺達が出ていくのが確実だろう」

 

 

 2人は現在、風紀委員(ジャッジメント)の仕事をしている垣根から銀行強盗が起きたという報告を聞いていた。

 

 本来なら、連絡を入れた垣根という少年が行くのが筋なのだが、風紀委員(ジャッジメント)には第二位という事は秘密で入らせているので、この仕事を担当するとなると、能力を白昼堂々と街中で使う可能性が高い(と言うより、能力を使わないで捕まえられる可能性は0に近い)。

 

 何ればれるにしても、今暫し垣根が第二位という事は秘密にしておきたい者達にとってはそれは不都合でしか無かった。

 

 ちなみにこの2人の少年もその者達の内に入っている。

 

 だが、風紀委員(ジャッジメント)2人の少年、いや、爛々とした少年が何故そこまで強盗を自分達の手で捕まえる事に拘るのか?

 

 それは強盗の近くに御坂美琴が居るからだ。

 

 詳しくは後に話すが、ユウキはある重要な地位に着いており、主に第7学区の担当を任されている立場だ。

 

 だが、ここ最近、御坂美琴が起こす停電事件に頭を悩まされており、ユウキは寝る間も惜しんで働いていた。

 

 それこそ、目の下に隈が幾つも出来るくらいに・・・

 

 そして、ユウキはこの強盗事件で御坂美琴が彼女の代名詞でもある超電磁砲(レールガン)をぶっぱなす事を知っていたのだ。

 

 そんな事をされれば、ユウキの仕事は地獄のように増えてしまう為、御坂美琴が銀行強盗と遭遇する前に自分達の手で片付けてしまおうと考えたのだ。

 

 ちなみに上条は御坂美琴の暴走の原因ということで(理不尽にも)仕事を手伝わされる事となっていた。

 

 

「にしても、第7学区全体に自動警報装置を着けるなんて、他じゃやらないだろうな」

 

 

 そう、この第7学区にはユウキの手配によって自動警報装置が各所に備え付けられている。

 

 それは銀行も例外では無く、この第7学区で銀行強盗などすれば直ぐ様警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)が駆け付ける仕組みになっている。

 

 ここまで厳重な仕組みは他の区には無かったので、この第7学区は正しく学園都市で一番防犯設備が整っている区だろう。

 

 それはユウキがこの銀行強盗事件を知っていて、その対策の為に備えさせたという理由も有ったが、本来は“ある勢力”への対策用だった。

 

 まあ、それとは別にもう1つ理由が有ったが、それは後に分かる。

 

 

「さてと、通報が有ったのはあの銀行ーーー」

 

 

 ユウキがそこまで言い掛けた時、真っ昼間から閉じられていた銀行のシャッターが突然内側から爆発した。

 

 まさかと思い、周囲を見渡すと、自分達とは反対側の歩行路に、後の超電磁砲(レールガン)組を発見していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

佐天視点

 

 

(可笑しな人達)

 

 

 それが佐天の白井と御坂に対する印象であった。

 

 白井は大能力者(レベル4)、御坂は言わずとも知れた超能力者(レベル5)

 

 無能力者(レベル0)の佐天からしてみれば、どちらも雲の上の存在である。

 

 それ故に高圧的な態度を取られるかと身構えていたのだが、蓋を開けてみればびっくりする程、礼儀正しかった。

 

 そして、思ったよりも親しみ易かった為、いつの間にか仲良くなる事が出来た。

 

 

「良かったですね」

 

 

「ん?」

 

 

 そんな佐天に隣に居た初春が話し掛けてくる。

 

 今、四人はグレープを食べながら街を歩いていた。

 

 

「御坂さん、思ったよりも親しみ易くて」

 

 

「・・・・・・クリーム、付いてるよ」

 

 

 佐天が自分の口元を指差しながらそう言うと、初春は慌てる。

 

 その様子は可愛らしかった為、佐天がその様子を苦笑しながら見ていた。

 

 そして、ふと視線を前に移すと御坂が襲い掛かる白井を左手で制止ながら右手に持ったグレープを死守していた。

 

 

「どうなんだろうなぁ……」

 

 

 佐天がなんともいえない気持ちで二人のやりとりを眺めていると、初春が何かに気付いた。

 

 

「あれ?」

 

 

「?どうしたの初春?」

 

 

「いえ、なんであの銀行昼間からシャッターを――」

 

 

 そう言って初春が道向こうの銀行を指差した瞬間、

 

 

 

バーーーン!!!

 

 

 

 シャッターが内側からの爆発で吹き飛んだ。

 

 

「え!?なんなの!?」

 

 

「初春!警備員(アンチスキル)への連絡と、怪我人の有無の確認!急いでくださいな!」

 

 

「は、はい」

 

 

 佐天が爆発の衝撃に驚き身を屈めているのを飛び越え、白井は風紀委員の腕章を身に付けながら、初春へ指示を出す。

 

 その顔は御坂にセクハラしていた変態ではなく、風紀委員(ジャッジメント)第177支部のエースへと変わっていた。

 

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ユウキ・上条サイド

 

 

「おい!これは不味いんじゃねえのか!?」

 

 

「分かってるさ。けど、今更、風紀委員(ジャッジメント)を出し抜くというのも不味い」

 

 

 ユウキと上条は風紀委員(ジャッジメント)ではないので、当然の事ながら逮捕権など持っていない。

 

 いや、風紀委員(ジャッジメント)も元々は持っていなかったのだが、治安の悪化につれて警備員(アンチスキル)では人手が足りなくなった為、逮捕権を与えられたという経緯があった。

 

 それは兎も角、流石に風紀委員(ジャッジメント)の目の前で横から捕まえるというのは不味い。

 

 後々、色々と厄介な事になる可能性が在る。

 

 

(ちっ。仕方ない。暫く様子を見るしかないか)

 

 

 ユウキと上条は現場から付かず離れずの距離から様子を見る事にした。

 

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銀行前

 

 

「凄い・・・」

 

 

 佐天は同い年の白井の見事な手並みを素直に賞賛していた。

 

 白井は3人の強盗の内、体重100キロは有るであろう大男を瞬く間に拘束した。

 

 白井の身長ははっきり言って小学生と言われても違和感が無い程だ。

 

 その小柄な体躯で能力を使わずに体術だけで大男を拘束したのは称賛に値する。

 

 

「さすが黒子」

 

 

 御坂は後輩の活躍をさも当然のように、しかし少し誇らしげに称えた。

 

 そんな中、少し遠くから何やら言い争うような声が聞こえた。

 

 

「ダメです!今ここから離れちゃ!」

 

 

「でも!」

 

 

 そこでは、初春が一人の女性がいて、佐天と御坂もそこに向かう。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「なにかあった?」

 

 

「それが・・・」

 

 

「息子がいなくなっちゃったんです!」

 

 

 初春が事情を説明するのを遮るように、母親と思われる女性が叫んだ。

 

 その顔には酷い狼狽の色が浮かんでいる。

 

 

「さっきまでそこで遊んでいたんですけど・・・少し目を離した隙に・・・」

 

 

 こんなこと、風紀委員の腕章もつけていない一般人の御坂と佐天に話す必要などない。

 

 そんなことにも頭が回らない程、彼女は混乱しているようだった。

 

 

「・・・分かった。じゃあ、私と初春さんで――」

 

 

「あたしも探します!」

 

 

 佐天は自分でも気付かないうちに叫んでいた。

 

 しかし、周りのみんなが動いているのに、自分だけ何もしないのは嫌だった。

 

 

「分かった。手分けして探しましょう」

 

 

 御坂はそんな佐天を見据えてそう言った。



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設定

登場人物 

 

秋島 ユウキ 15歳

 

この物語の主人公。『碇家の栄光』では碇ユウキと呼ばれていた男。寿命を終えた際に何故か5歳の時の姿でこの世界に転生する。ちなみに親は居ない。アレイスターとの交渉により条件付きでプランに協力している。その過程で学園都市軍を発足し、その司令官に着く。また、統括理事の1人でもある。上条当麻とも丁度転生してから一週間後に出会う。能力は前世から受け継がれている。

 

上条当麻 15歳

 

原作のとある魔術の禁書目録の主人公。この物語ではユウキとの出会いによってそれなりに暗部にも身を置いているが、(ある事件までは)基本的に人を殺めた事はない。格闘レベルは原作よりも高くなっていて、だいたい土御門と互角程度。また精神的にもかなり成長している。フラグは相変わらず(むしろ、原作よりも強い)。基本的に原作のような心優しい性格だが、ある事件を境に原作のような“全てを救うヒーロー”ではなく、“自分の守りたいものだけを守るヒーロー”となっている。そして、“ある事件”の経緯から御坂美琴に依存にも似た執着心を持っている。アウローラの所属。

 

一方通行 15歳

 

この物語では絶対能力者計画(レベル6シフト)がユウキの謀略と上条の物理的妨害により、初期の段階で頓挫している為、原作よりも自虐的な性格にはなっていない。性格はユウキや上条と知り合った事でかなり丸くなっている。アウローラの所属。

 

垣根帝督 15歳

 

学園都市第2位の能力者。原作通り、スクールを結成したが、とある事件で上条当麻に敗れる。以来、ユウキ達とつるんでいる。アウローラの準所属。

 

浜面仕上 15歳

 

元スキルアウトの無能力者。3年ほど前に上条と知り合い、その後、色々な経緯があってアウローラの所属となる。そして、上条が変わってしまう原因となった“とある事件”の際、学園都市レベル5第四位と交戦し、原作より一年程早く勝利を手にした。

 

御坂美琴 14歳

 

原作通り上条当麻のヒロイン。ただし、原作ではインデックスがメインヒロインだったが、この物語では彼女がメインヒロインである。

 

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世界観

 

学園都市

 

人口230万人の独立都市。原作通り、外の世界とは隔離されていて、外とは技術レベルが20~30年の開きがある。10年ほど前までは原作通りの外交を行っていたが、白騎士事件により風向きが変わる。ISの登場と女性優遇制度の施行により、国会議員などに女性議員が多数採用され、その過程で学園都市に圧力が掛けられ始める。その後、学園都市・日本国間での暗闘と舌戦が10年ほど繰り広げられ、現在に至る。

 

学園都市軍

 

総兵力3万人(+2万人)。元々は学園都市の軍隊であるが、原作通り起きた一方通行(アクセラレータ)退治作戦の際に、やはり原作通りと言うべきか、壊滅し、再編に秋島ユウキが大きく関わっている為、殆どユウキの私軍になっている。人員は自衛隊でのIS採用により、自衛隊を首になった男性を中心に構成されている。ユウキが自らその足で集めた為、人格に問題の無い人間が集められている。

 

妹達(シスターズ)

 

この世界では“打ち止め(ラストオーダー)を含めて2万人”が残存していて、アウローラ(表向きは学園都市軍)に編入されている。

 

アウローラ

 

ユウキをリーダーとした組織。かつてのアウローラ財団とは比べ物にならないほど小さな組織となっているが、その質はなかなか侮れない。



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プロローグ2 ヒーロー

第七学区 路上

 

 さて、再び現場に目を移すと、3人の男の内、1人が気絶させられ、残りの2人は白井に対しての認識を改めた。

 

 そして、リーダーらしき男が自らの掌に炎を出し、白井を威嚇していた。

 

 男は白井が只者ではないことは分かったが、それでも自分は強能力者(レベル3)ということに少なからずの自負があった。

 

 

「今更後悔してもおせぇぞ。この俺が能力を出したからには、てめぇには消し炭になって──」

 

 

 と男がカッコよくセリフを決めている最中に、白井は消える。

 

 

「は?消えッ!」

 

 

 白井は突如男の上に現れ、後頭部を蹴り飛ばす。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 倒れ込んだ男を、白井は持ち歩いている鉄釘をテレポートさせ地面に縫い付ける。

 

 この状態になってようやく男は、自身と白井の圧倒的な実力差を思い知っていた。

 

 それもその筈。

 

 男はたかだか強能力者(レベル3)、対する白井は大能力者(レベル4)なのだから。

 

 

「これ以上抵抗するなら、次はこれを体内に直接テレポートさせますわよ♪」

 

 

 男の戦意は完全に消失した。

 

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第七学区 

 

 

「どこ行ったのよ、もぉ~」

 

 

 一方、初春と御坂と佐天(+お母さん)の男の子捜索は難航していた。

 

 佐天は突っ伏して草むらを覗き込むが、よく考えたらその男の子の特徴を聞きそびれていたことに気づき、自分もあのお母さんに負けず劣らずテンパっていたのだと思い知る。

 

 それはそうだろう。

 

 ここは学園都市。

 

 超能力などいうものを真面目に研究し、常識として浸透している実験都市。

 

 だがしかし、自分はなんてことはない普通の学生なのだ。

 

 御坂のように電撃なんて出せないし、白井のようにテレポートなんて出来ない。

 

 ましてや、佐天涙子は普通の学生で、普通の人間である。

 

 だからこれまで、ごくごく普通の日常を生きてきた。

 

 だからこんなことに巻き込まれたのは生まれてはじめてなのだ。

 

 テンパりもする。

 

 しかし、佐天が普通の人生から脱却した決定的な分岐点は、おそらくここだったのだろう。

 

 超能力者の御坂ではなく。

 

 風紀委員(ジャッジメント)の初春でもなく。

 

 テンパっている佐天が見つけたのだ。

 

 一番に見つけてしまったのだ。

 

 先程の3人組の最後の1人の男が小さな男の子を人質にとろうとしているのを。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第七学区

 

 白井黒子は中学一年の13才だが、風紀委員としてはベテランの域にいる。

 

 元々風紀委員は学生で構成されているので、中一の白井でも下っ端というわけではなく、むしろその空間移動という能力のおかげで誰よりも早く現場に駆けつけられ、誰よりも多くの成果を挙げて、誰よりも多くの実践経験を積んでいる。

 

 その為、2人目の男が能力を発動したとき、白井の中でその男をすぐさま無効化することが最優先事項となり、即座に実行に移した。

 

 これはもはや無意識下での処理だった。

 

 だが、その結果、最後の男を放置してしまった。

 

 最後の男は初めの1人の男があっさりやられた途端、白井の撃退を諦めた。

 

 2人目の男とは違い無能力者だった分、その可能性はあっさり捨て、逃亡一本に絞ることが出来たのだ。

 

 そして、その先に無防備の小さな男の子が、これ見よがしに突っ立っていた。

 

 やることは一つだった。

 

 

「おい、坊主こっちこい!」

 

 

「え、何?嫌だ!怖い!」

 

 

 少年は必死に抵抗する。

 

 佐天は完全にパニックになり、どうすればいいのか分からなかった。

 

 周りを見渡すも、初春も御坂もすぐに駆けつけられる距離ではない。白井は2人目の男と対峙している。

 

 自分しかいない。

 

 少年を助けることが出来るのは、ここには自分しかいない。

 

 もちろんここで逃げ出す選択肢もあっただろう。

 

 大声で助けを求めることも出来ただろう。

 

 13才の女の子、即ち、去年までランドセルを背負っていたような女の子に、銀行強盗に素手で立ち向かうことを強要することなど、誰にも出来やしない。

 

 いや、仮にもっと年齢が上であったとしても、戦う事など強要できない。

 

 何故なら、彼女は無能力者(レベル0)なのだから。

 

 だから、ここが分岐点だ。

 

 佐天が“普通”に生きるか。

 

 数々の事件に巻き込まれる波乱万丈な“物語”の主要人物メインキャラになるか。

 

 

「・・・あたし、だってっ!!」

 

 

 そして、佐天涙子は決断する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメぇーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが彼女が物語の主人公となる事を決断した瞬間であった。

 

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第七学区

 

 その叫びに佐天と同じく、子供を探していた御坂は振り返った。

 

 そこには、3人目の男に連れ去られようとする男の子を必死でかばう佐天がいた。

 

 

「離せ、このガキ!!」

 

 

 男が足を振り上げる。

 

 佐天が男の子を抱きかかえる。

 

 ダメだ。

 

 間に合わない。

 

 そんな時──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 御坂の横を一つの人影が叫びながら、過ぎ去る。

 

 初春も白井も目を見開き、驚愕する。

 

 男も呆気にとられ、その行動を一瞬制限された。

 

 それで十分だった。

 

 男の顔面に、右拳が突き刺さる。

 

 強烈な勢いで吹き飛ばされ、佐天は恐る恐る目を開き、自身の傍らに立つ影を見上げた。

 

 そこにいたのは、ツンツン頭の高校生くらいの少年だった。

 

 少年は佐天を守るように、男との間に立った。

 

 だが、殴られた男は鼻血がたらたらと垂れるのを押さえながらゆっくりと立ち上がる。

 

 そして、近くにあった車で逃走しようと動き出した瞬間──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サラサラサラサラサラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その車が砂のように崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく。手間掛けさせやがって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そこには米神を抑えているもう1人の少年が居た。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第七学区

 

 何が起きたか分からなかった。

 

 突然現れた少年が3人目の男を殴り倒し、もう1人、いつの間にか現れた少年が能力らしきもので男が乗り込もうとしていた車を溶かしてしまった。

 

 

「下がってろ」

 

 

「は、はい」

 

 

 突然現れた少年は佐天達を守るように、男との間に立ち塞がる。

 

 ユウキも上条とは反対側から、男を挟むように立ち塞がった。

 

 

「ちっくしょう!!なんなんだよ!!お前らはぁ!!!」

 

 

 男はそう言って上条に向かって殴り掛かった。

 

 だが、それは失策である。

 

 

「悪いな──」

 

 

 そう言いながら、男のパンチをかわして──

 

 

 

 

 

 

 

「肉弾戦は得意なんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 男に向かって再度、右手でパンチをお見舞いした。

 

 男は再び倒れた。

 

 そして、少年は佐天の方に振り向いた。

 

 佐天は一瞬、ビクッとしたが、少年は佐天に優しく語りかけた。

 

 

「よく頑張ったな。お前の勇気のおかげで間に合った」

 

 

 その言葉が、佐天には凄く嬉しかった。

 

 御坂や白井なら当たり前のようにできる行動でも、佐天には一世一代の頑張りだったのだ。

 

 この人は、それが分かっている気がした。

 

 弱い側の気持ちを分かっている人のような気がした。

 

 

「おい!これ以上は不味い。行くぞ!!」

 

 

 もう1人の少年がこの場から去る事を促す。

 

 心なしか、米神に青筋が立っているように見える。

 

 

「ああ、今、行く!」

 

 

 そう言って少年は即座にその場を去っていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第七学区

 

 

「佐天さん!!大丈夫でしたか!?」

 

 

「佐天さん、大丈夫!?」

 

 

「心配しましたわ。ごめんなさい、わたくしが油断したせいで」

 

 

 初春、御坂、白井が佐天を迎える。

 

 

「ええ。なんとか」

 

 

 佐天が三人に笑顔を向けた時、佐天の腕の中の男の子が母親を見つける。

 

 

「ママ!」

 

 

「透!!」

 

 

 透は母親の元に駆け寄り、思いっきり抱き着く。

 

 母親も我が子を力いっぱい抱きしめた。

 

 それを見た佐天は、恐怖で強張っていた自身の頬が優しく緩むのを感じた。

 

 すると、母親が涙で潤みきっている瞳を佐天の方に向けて、勢いよく頭を下げた。

 

 

「本当に、ありがとうございました!!」

 

 

「え、いや、あの」

 

 

 今まで受けたことのない大きさの感謝に佐天が再び戸惑っていると、母親が優しく腕の中の透に「ほら、あなたも」と促す。

 

 すると、透は満面の笑みで。

 

 

「ありがとう。お姉ちゃん!!」

 

 

 とまっすぐに感謝を告げた。

 

 佐天は嬉しそうに微笑む。

 

 この言葉だけで、自分の一生分の勇気が報われた気がした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第七学区

 

 

「あ!そういえば、あの人達は誰なんですか!?」

 

 

 透親子を笑顔で見送った後、佐天は自分を助けてくれた恩人を尋ねた。

 

 

「「知りません(知りませんですの)」」

 

 

 初春と黒子は知らないらしい。

 

 だが、御坂美琴だけが2人の男が去った方角を見つめながら憤慨していた。

 

 

「あいつぅ!!」

 

 

 どうやらかなりご機嫌ななめなようである。

 

 佐天は恐る恐るだが、御坂に尋ねた。

 

 

「あの人達を知っているんですか?」

 

 

「・・・ええ。まあ、ツンツン頭の方だけだけど。もう1人の男は知らないわ」

 

 

 そう言いつつ、御坂は1ヶ月前の事を思い出した。

 

 スキルアウトに絡まれていた自分に助け船を出した少年。

 

 まあ、あの場面は正直自分だけでどうにかなったのだが、それでも助けようとした行為はちょっとだけ嬉しかった。

 

 もっとも、そのスキルアウトと戦わずに、自分の手を引きつつ逃げようとした時は若干失望したが。

 

 しかし、それ以来、御坂は少年に少しばかりの興味を持ち、半ばストーカー紛いの行為を行っていた。

 

 そして、時には少年がフラグを立てながらスキルアウトから女の子を逃がしているところを助けたりしていた。

 

 もっとも、少年は御坂の行為にはあまり良い顔をしなかったが。

 

 

「そうですか。じゃあ、次会った時にお礼言わないとなぁ」

 

 

 佐天はそう言いながら少年──上条当麻が去った方向を見つめていた。

 

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第7学区 某所

 

 

「本っ当にすまん!!」

 

 

 上条はユウキに向かって盛大に土下座をしていた。

 

 こう見えても、ユウキと上条の付き合いは長い。

 

 ユウキの指示の有能さは上条も分かっていた。

 

 だからこそ、先程こうして勝手に飛び出した事を詫びていたのだ。

 

 

「いや、良いさ。大したミスじゃないしな。それに事情が事情だからな。“あの女”の前でどうしても良い格好を見せたかったというのは分かる」

 

 

 ユウキの言うあの女とは、上条が身を挺す形で庇った佐天涙子という少女・・・ではない。

 

 御坂美琴という少女の事だ。

 

 

「・・・」

 

 

「だが、な」

 

 

 ユウキはそう前置きしつつ上条をギロリと睨み付ける。

 

 

「今回はあれで良かったかもしれんが、次回もそうとは限らん。以後、注意するように。・・・“あいつ”の為にもな」

 

 

「・・・・・・ああ、分かっている」

 

 

「ならいい。じゃあ、俺は仕事に戻る。お前はお前で動け」

 

 

「分かった」

 

 

 ユウキの言葉に上条が答えた次の瞬間、二人の姿はその場から消えた。

 

 何の痕跡も残さずに・・・



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プロローグ3 暗部

学園都市 某所

 

 暗部。

 

 それは学園都市の“闇”の部分であり、大都市なら何処にでも有るようなもの。

 

 そして、その闇で活動する暗部組織の目的は学園都市内に居る不穏分子の排除。

 

 それはどの暗部組織でも変わらない。

 

 が、アウローラという組織はそれに加えてもう1つ役目が存在している。

 

 それは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、待ってくれ!この街から出ていく!!頼む!見逃してくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “外”からの侵入者の排除だった。

 

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学園都市 某所

 

 “外”からの侵入者。

 

 この対処は本来、暗部ではなく警備員(アンチスキル)の役目だが、稀に暗部が侵入者への対応を行っているケースが存在する。

 

 まず1つ目に秘密を知りすぎた者。

 

 10年程前に起きた白騎士事件以来、学園都市への諜報員派遣の頻度は増していた。

 

 何故か?

 

 それは大雑把に言うならば、ISの台頭による女性の社会進出によって、女性の権威が上がった事が挙げられる。

 

 女性の権威が上がる。

 

 これだけなら良い話に聞こえるだろうが、男にとっては面白くない・・・を通り越して危機的出来事である。

 

 何故なら、ISの登場によって女性優遇制度などという訳の分からない法律が出来て、男性の社会は極端に狭まってしまったからだ。

 

 幾らISの登場によって女性の権威が上がった結果になったとは言え、どうしてそんな極端な方針に走ったのか、転生者であるユウキやこの学園都市の人間には意味不明であったのだが、外の人間はそういう決断をした訳である。

 

 そして、僅か10年という期間で女尊男卑の風潮があちこちに見られるようになってしまった。

 

 が、そうでは無いところは無いところも存在する。

 

 例えば、イスラム教圏国家。

 

 これは宗教的にIS保有が不可能な国々だ。

 

 当然だろう。

 

 彼らの宗教感からすれば、女性は守られるべき者であり、戦いは男が行うものだからだ。

 

 その宗教感からすれば、女性しか使えないISなど、断じて認める事が出来ないのである。

 

 その為か、どうにか女尊男卑の風潮からは免れていた。

 

 そして、この学園都市。

 

 この街も女尊男卑の風潮から免れている場所の1つだ。

 

 当然だろう。

 

 確かに白騎士事件によって“外”の最新兵器は軒並みISの前にガラクタと化した。

 

 しかし、それは学園都市が屈服した事を意味しない。

 

 何故なら、学園都市と“外”との技術差は20~30年離れている。

 

 軍事技術に至ってはそれ以上である。

 

 そして、ISと学園都市の兵器はまだ戦った事が無い。

 

 白騎士事件の事を完全に無視していたからだ。

 

 故に、学園都市と女尊男卑主義者。

 

 どちらも自分こそが優位だと、信じて疑っていかなかった。

 

 だが、それを“外”の世界の住民から見ればどうか?

 

 白騎士事件以前までは確かに学園都市から技術提供をしてもらう形で技術を発展させてきた。

 

 が、今はそうでもない。

 

 ISを解析する事で得られる学園都市には無いかもしれない技術も有る。

 

 何より、壁に覆われて閉鎖的であり、得体の知れない学園都市より、実際に目にするISの方に“外”の人間が畏怖を抱いてしまうのは、人間の心理としてある意味当然の事である(もっとも、ISの方も10年経っても数パーセントしか解析されていない為、得体の知れなさという点ではどっこいどっこいだったが)。

 

 故に、“外”の人間は良かれ悪かれ、徐々にISの方に心が傾いていったのである。

 

 だが、それでも学園都市が“外”に対して一定の影響力を保っていた。

 

 理由は2つある。

 

 まず、ISから解析される技術力が学園都市から供出される技術力より明らかに少ない事。

 

 それはそうだろう。

 

 ISがどんなに凄くとも、所詮は1つの兵器でしかなく、おまけに解析も殆ど出来ていない為、供出される技術というのは、学園都市から供与される技術と比べれば大した量ではないのだ。

 

 そして、外交的パイプ。

 

 学園都市は半世紀以上前から存在する都市。

 

 故に、外交的パイプも幅広い。

 

 そのパイプは幾ら女尊男卑の世の中となり、女尊男卑主義者が台頭してきたと言っても、完全に無視するには影響力が大きすぎるものだった。

 

 だからこそ、学園都市は“外”に対して一定の影響力を持つことが出来るのだ。

 

 だが、“外”への学園都市の影響力が減衰しているというのもまた確かであり、学園都市と“外”とは徐々に関係が悪化してきていた。

 

 それ故に、諜報合戦もそれに比して激化。

 

 学園都市に侵入する人間も日増しに増えていた。

 

 そういう事情があり、アウローラも“外”の人間の排除の仕事に駆り出されていた。

 

 だが、それとは別に同じ“外”の人間でも昔から学園都市と対立している者達が居る。

 

 それが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら魔術師がこの街に居る時点でそれは不可能なんだよ。諦めろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔術師だった。

 

 魔術。

 

 この科学の都市とも言える学園都市で信じる者はどれだけ存在するだろうか?

 

 “外”の世界ならば、超能力が有るんだから魔術も有っても不思議では無いと考えるかもしれない。

 

 が、ここは超能力すら解析できる科学技術を持った学園都市。

 

 そうであるが故に、一種の固定観念が存在する。

 

 あらゆるものは科学で解明できる。

 

 そういう固定観念だった。

 

 別にこの考えは“普通なら”あまり可笑しな考えではない。

 

 “外”に存在するISであっても、所詮は科学の産物であり、魔術で造られた、という訳ではないからだ。

 

 だが、現実というのは常に想像の斜め上を行く。

 

 この世界には、確かに魔術は存在しているのだ。

 

 そして、この魔術師こそが、学園都市最大の宿敵である。

 

 決して表沙汰にはされていないが、この世の中は科学サイドと魔術サイドに見事にパックリ別れており、中立陣営はアメリカなどを除いては殆ど居ない。

 

 故に、科学サイドと魔術サイドは世界の裏側で米ソの冷戦宜しく睨み合いを続けており、諜報活動の為に学園都市に侵入しようとする魔術師は後を絶たなかった。

 

 そして、学園都市にはアイテムやスクールなどとは別に、その魔術師に対する排除組織が存在していて、アウローラはその中の1つであった。

 

 

「じゃあな。あばよ」

 

 

 

バン!

 

 

 

 銃声が聞こえた直後、男の額に風穴が空き、男は倒れた。

 

 それを見ても少年──上条当麻は表情を変えない。

 

 こんな事は日常茶飯事だからだ。

 

 その顔には、昼間見せた笑顔は一欠片も無かった。

 

 

「お見事です」

 

 

 上条の後ろから少年の声がした。

 

 少年は丸眼鏡を掛けた優男といった感じで、もう少し成長すれば、サラリーマン風の男になるような見込みの風貌だった。

 

 

「・・・それは皮肉のつもりか?」

 

 

 上条は苦笑する。

 

 この少年は上条より銃の腕が断然上であり、上条の腕では逆立ちしても勝てないからだ。

 

 仮に上条がこの少年に銃を突き付けていて、少年が銃をホルスターに仕舞ったまま両手を頭の上に挙げている状態だったとしても、撃ち合いになればこの少年が勝つ。

 

 この少年はそれほどの実力者だった。

 

 

「いえ、本当に大したものだったからそう言ったまでです。他意は有りません」

 

 

 少年は上条の言葉にそう返した。

 

 上条はそれこそが皮肉だと言いたかったが、どうせ無駄だと思い、止めた。

 

 銃の腕ではどうやってもこの少年には勝てないのだから。

 

 

「・・・ところで、後は任せて良いか?」

 

 

「はい、お任せを」

 

 

「じゃあな」

 

 

「お疲れさまでした」

 

 

 

 上条はその場を去っていった。

 

 そして、少年──野比のび太はそれを見送ると、死体の後片付けを始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

西暦2024年 7月17日 深夜

 

 

「どういう事だ?」

 

 

 ユウキはテレビ電話でIS学園に居る織斑一夏からある報告を受け取って首を傾げていた。

 

 実はユウキは、今年の春頃、のび太や一夏にある調査を命じていたのだ。

 

 それは上条夫婦と御坂夫婦の現在の状況だった。

 

 何故こんな事を調べていたかといえば、些細な切っ掛けからだった。

 

 数ヶ月前にある用事でアレイスターの元へと行った時、アレイスターが気になる事を喋ったのだ。

 

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回想 西暦2024年 春 窓の無いビル

 

 

「ふむ、どうやらプランは順調なようだな」

 

 

 そう言ったのはアレイスター・クロウリー。

 

 性別も年齢も不明な謎の人間。

 

 だが、その人間の目の前に立つユウキはその正体を知っていた。

 

 もっとも、誰にも話してはいなかったが。

 

 

「当たり前だろ。俺がやっているんだから」

 

 

 ユウキは自信満々に言っていた。

 

 

「・・・・・・ふむ、ここまでの代金と言ってはなんだが・・・1つ良い事を教えてやろう」

 

 

「なんだ?」

 

 

 ユウキはアレイスターに尋ねる。

 

 不審に思ったが、貰える情報は出来るだけ貰っといた方が良い。

 

 そう考えたユウキはアレイスターからの情報を聞く事にした。

 

 

「上条夫妻と御坂夫妻の現状を君は知っているかな?」

 

 

「上条夫妻と御坂夫妻?」

 

 

 ユウキはふと思い出す。

 

 ユウキはこれでも前々世で『とある魔術の禁書目録』を見ていた男だ。

 

 その主人公と(ほぼメイン)ヒロインである上条当麻と御坂美琴の家族構成(妹達(シスターズ)を除く)ぐらいは知っている。

 

 上条家の上条刀夜と上条詩奈。

 

 御坂家の御坂旅掛と御坂美鈴。

 

 双方ともに変わり者の家族である。

 

 だが、ユウキは両家の現状など知らない。

 

 他にやることが色々有ったからだ。

 

 

(原作から外れかけているから、何か変化でも起きたのか?)

 

 

 ユウキはそう思った。

 

 この“学園都市の物語”は、既に原作から大きく逸脱している。

 

 まあ、それは“外の物語”にも言える事なのだが。

 

 

「・・・まあ、時間があったら調べてみるといい」

 

 

 アレイスターはそう言ったまま黙ってしまった。

 

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時系列は戻り 西暦2024年 7月17日 深夜

 

 そして、ユウキは気になって一夏やのび太に調査を命じていた。

 

 だが、一夏は学生である為、なかなか時間が取れず、のび太はのび太で色々やることがあったので、調査期間はほんの僅かしか取れず、こうして4ヶ月も掛かってしまった。

 

 しかし、その調査結果はその苦労に足りうるものだった。

 

 

・調査報告書

 

御坂旅掛→5年前のラクーンシティでのバイオハザード事件で行方不明。

 

御坂美鈴→5年前のR市でのバイオハザード事件で行方不明。

 

上条刀夜→居場所不明。されど、生存は確認されている。

 

上条詩歌→東京都某区に在住。されど、生活に問題あり。

 

 以上。

 

 

(まさか、原作が始まる遥か前から原作キャラの一部が死亡していたとは・・・)

 

 

 ユウキは原作とあまりにも解離した現実に呆然としながらも、気になった情報を電話の先の一夏に尋ねる。

 

 

「この“上条詩歌の生活に問題あり”というのはどういう事だ?」

 

 

『はい。どうやら、昔の上条さんの不幸の時の影響で近所から腫れ物扱いされているようですね。・・・肩身の狭い思いをしているようです』

 

 

「ふ~む。しかし、何故上条夫妻は引っ越さなかったんだ?上条夫妻の経済力なら、引っ越すくらいなら可能だろう?」

 

 

『・・・それがまた奇妙な事に、5年前にもR市への引っ越し話が持ち上がったようですが、引っ越す直前にR市そのものがバイオハザードによって壊滅しています』

 

 

「・・・」

 

 

『おまけにその話を聞いた近所の人間から「上条家そのものが不幸の呪いで覆われている」という噂が立ちまして、以前にも増して肩身が狭くなったようです』

 

 

「なるほど・・・」

 

 

 ユウキは腕を組んで少しだけ考えた。

 

 ユウキとしても、両家がここまで酷い状況になっていたのは想定外だった。

 

 おそらくだが、上条夫妻は原作より断然肩身の狭い思いをしている。

 

 それでも仕送りを今でも上条当麻に送り続けているあたり、愛情は衰えていないのだろう。

 

 大した精神力だ。

 

 ユウキは素直にそう思った。

 

 だが、御坂家の方はもっと深刻だった。

 

 なんせ、夫婦双方が5年前に行方不明になっているのだ。 

 

 しかも、夫婦が行方不明になった都市は、どちらもバイオハザードが発生した上に、最終的に核により吹っ飛ばされている。

 

 これを切り抜けられるのは、奇跡レベルで運が良い者か、スーパーマンレベルの超人だけだろう。

 

 まあ、それを言ってしまえば、この2つの都市をどちらも切り抜けているのび太とその仲間は、奇跡が当たり前のように起きる者か、スーパーマン以上の超人という事になるのだが。

 

 

(この点はのび太に聞いた方が良さそうだな)

 

 

 のび太はおそらく偶然だろうが、御坂夫妻が行方不明になった都市をどちらも切り抜けている。

 

 やはりこういう情報は当事者に聞いた方が効率が良い。

 

 そう考えたユウキは、今度のび太に当時の事件を聞く事にした。

 

 だが、まだ気になる事が1つあった。

 

 

「1つ聞きたいんだが、これらの情報は御坂美琴は知っているのか?」

 

 

『さあ、分かりません。ですが、少なくとも妹達(シスターズ)は御坂さんの両親の現状を知っていると思いますよ』

 

 

 ユウキは一夏の言葉を聞きながら、これは不味いと考え始めていた。

 

 御坂美琴は現在、妹達(シスターズ)の事ですら何も知らない。

 

 その上で、両親が既に死亡しているかもしれない事を伝えれば、どうなるかは分かりきった事だった。

 

 しかし、何故5年前に行方不明になったのに、本人である御坂美琴が気づいていないか?

 

 これはあくまでユウキの推測だが、御坂美琴が能力開発に全力を挙げて取り組んでいたからだ。

 

 御坂美琴が低能力者(レベル1)から超能力者(レベル5)になった話は学園都市では有名だが、その超能力者(レベル5)になったのは、実は去年の話である。

 

 そして、その努力は並々ならぬものではなかった。

 

 その為、御坂美琴はその努力の為にあらゆるものを犠牲にしてきた。

 

 時間、友達、思い出。

 

 そして、親と過ごす時間もその内に入っていたのだろう。

 

 だからこそ、両親の失踪にすら気づいていない。

 

 そのユウキの推測は普通ならかなり無理のある考えだが、その常識が良くも悪くも通用しないのが学園都市なのだ。

 

 十分に考えられる話であった。

 

 だが、もう1つ可能性がある。

 

 それは両親のどちらか、あるいは両方が何らかの事情で事件後に姿を消している可能性。

 

 早い話が、某小学1年生の名探偵みたいな状況になってる可能性である。

 

 この2つの事件は、どちらもアンブレラという企業が関わっている。

 

 そして、アンブレラの現状は原作バイオの2003年と同じような状況、すなわち、裁判で敗れる寸前という状況である。

 

 身を隠していて、こっそり御坂美琴に会っているという可能性も否定出来ない。

 

 

(まあ、どちらが真実にしろ、今は様子見だな。前者だったら、近いうちに手を打たなきゃいけないが)

 

 

 ユウキはそう思いながら一夏との会話を続けた。

 

 

「で、お前は夏休み中は此方に来れそうか?」

 

 

『・・・まあ、可能と言っちゃ可能です。8月中旬以降になりますが』

 

 

「なるべく早く来てくれ」

 

 

『了解しました』

 

 

「じゃあ、話は以上だ。おやすみ」

 

 

 そう言ってユウキは電話の電源を切った。

 

 すると、辺りに静粛が満ちる。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぅ」

 

 

 ユウキは一息着いた後、考える。

 

 事態は思ったより深刻だ。

 

 御坂夫妻の失踪。

 

 上条夫妻の現状。

 

 後者だけでも計画の不確定要素になりかねないのだが、前者の御坂夫妻の失踪はそれ以上に痛い。

 

 もし御坂夫妻が本当に死亡していて、更に御坂美琴がこの事を今まで知らず、何かの切っ掛けで知った場合、御坂美琴の心理に多大な影響を与える。

 

 これに加えて、妹達(シスターズ)の存在を知れば、御坂美琴の精神は崩壊してしまうかもしれず、そうなると必然的に上条当麻にも絶大な影響を与える事になる。

 

 これからは慎重に動かなければならない。

 

 ユウキはそう考えていた。



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プロローグ4 交差前夜

西暦2024年 7月18日 第7学区 セブンスミスト

 

 

「ごめんなさいね、垣根さん。買い物に付き合わせて」

 

 

「気にしてねぇよ。・・・白井に後で何て言うか考えるのが少々面倒だけどな」

 

 

 第7学区セブンスミストの店内を風紀委員(ジャッジメント)の腕章を着けた垣根と初春、そして、佐天が歩いていた。

 

 しかし、何故風紀委員(ジャッジメント)の初春と垣根が居るか?

 

 それは簡単に言えば、風紀委員(ジャッジメント)の仕事を現在サボっているからである。

 

 もっとも、垣根の場合は少し違うが。

 

 

(たくっ。あの野郎、俺を囮にしやがって)

 

 

 垣根は心の内で人使いの荒い上司(ユウキ)に向かってそう吐き捨てる。

 

 今回起きる虚空爆破(グラビトン)事件。

 

 ユウキはその首謀者である介旅初矢の事前(既に被害は幾つか出ていたが)の摘発を目論んでいた。

 

 だが、万が一、補足に失敗した場合に備えて、垣根を保険兼囮にして、原作で標的であった初春飾利の護衛を行わせようと考え、垣根にそれを頼んだのだ。

 

 

「大丈夫ですよぉ。白井さんなら自分でどうにかしてくれますし、いざとなったら、何事も無かったかのように戻れば良いんですからぁ」

 

 

 微妙に黒い事を言う初春。

 

 その言葉を聞いた垣根は上司(ユウキ)程じゃないにしても、黒いなと思ったが、口には出さない。

 

 垣根としても、あのツインテ(白井)には少しムカついていたからだ。

 

 一応、垣根は無能力者(レベル0)として風紀委員(ジャッジメント)に入っている。

 

 理由は垣根の能力は唯一無二と言っても良いものの為、それ以外だとレベル5の第二位だという事がすぐにバレてしまうし、垣根は第一位(一方通行)と違って腕っぷしが強いので、無能力者としても十分やっていけると判断したからだ。

 

 だが、そのせいで白井(格下)から馬鹿にされる事もしょっちゅうであり、垣根のプライドを地味に傷つけていた。

 

 

(まっ。精々後処理頑張れよ。ツインテ)

 

 

 垣根はそう思いながら、初春や佐天と共にパトロール(サボり)を継続した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

同日 第7学区 路地裏

 

 

 

ドッガアアアァァン!! 

 

 

 

 第7学区の路地裏に爆発音が響く。

 

 それを至近距離で、尚且つ常人の人間が食らえば、吹っ飛ばされて、良くて意識不明の重体、悪ければ死んでいるだろう。

 

 だが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだよ!!お前は!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条当間はその常人のベクトルには入らない。

 

 常に超能力者(レベル5)と戦っている上条からすれば、レベルアッパーを使っているとはいえ、大能力者(レベル4)でしかない介旅初矢の能力など、大したものでは無かったのだ。

 

 だが、そんな事など、当然の事ながら介旅初矢は知らない。

 

 彼にあるのは、自分の能力による攻撃をかわした上条に対する恐怖と怒りのみである。

 

 しかし、上条からすれば介旅初矢がどう思っていようが、はっきり言えば関係ない。

 

 ただただ仕事を実行するのみである。

 

 上条は再び攻撃しようとしている介旅に向かって突進すると、介旅の腹部に向かって裏拳を放つ。

 

 それをもろに食らった介旅は1メートル程後退り、意識を失った。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ。もう終わり?」

 

 

 上条はあまりにも呆気ない勝利に、逆に拍子抜けしたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第7学区 某所

 

 

「そうか。終わったか」

 

 

 ユウキは上条からの連絡を受けてそう言った。

 

 拍子抜けした上条とは違い、ユウキは上条が介旅にあっさりと勝ったのは想定内であった。

 

 介旅初矢はレベルアッパーを使用して、大能力者(レベル4)並の強さになっていたとは言え、元々の強さは異能力者(レベル2)にすぎない。

 

 しかも、原作から、能力による風紀委員(ジャッジメント)襲撃が立て続けに成功した事で、気が大きくなっている事も確認されている。

 

 つまり、大能力者(レベル4)ごときで調子に乗るような輩が、超能力者(レベル5)相手に張り合える上条の敵ではない。

 

 少なくとも、ユウキはそう考えていたのだ。

 

 

「では、“例の場所”に運んでおけ。くれぐれも気づかれるなよ?」

 

 

 ユウキは上条にそう命令した。

 

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第7学区 路地裏

 

 

「大将、秋島はなんだって?」

 

 

 いつの間にかこの場に来ていた金髪の少年の名は浜面仕上。

 

 見ての通り、不良っぽい風貌をしているが、それもその筈。

 

 浜面は元スキルアウトだからである。

 

 一応、アウローラにも所属している少年だが、基本的な仕事は雑用。

 

 端から見たら、とてもではないが大物には見えない。

 

 だが、去年の冬にとある事件でアウローラと暗部組織の1つ、アイテムが衝突した際、学園都市超能力者(レベル5)の第4位と交戦し、これを倒すという実績を上げている。

 

 その実績を考えれば、これだけでも大物と判断されるには十分な理由だ。

 

 何故なら、この学園都市には、超能力者(レベル5)に勝てる人間など、数える程しか居ないのだから。

 

 

「“例の場所”に連れていけってさ」

 

 

「その後は?」

 

 

「おそらく、“記憶改竄”をして警備員(アンチスキル)につき出すんだろ」

 

 

 上条は浜面の問いにそう答える。

 

 元々、事前に立案した計画では、介旅初矢の殺害計画など存在しない。

 

 だが、ある事情で警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)を利用する為に、今暫し虚空爆破(グラビトン)事件の犯人が見つかっては困るのだ。

 

 そして、利用した後に介旅初矢を虚空爆破(グラビトン)事件の犯人として警備員(アンチスキル)につきだし、めでたしめでたしと言うのが、彼らの筋書きである。

 

 

「さて、と。それじゃあ、一汗流しますか!」

 

 

 上条はそう言いながら、再び気合いを入れた。

 

 その後、セブンスミストにて爆破事件は起きず、警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)による虚空爆破(グラビトン)事件の捜査は再び暗礁に乗り上げる事となる。

 

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西暦2024年 7月19日 第7学区 某所 深夜

 

 セブンスミスト爆破“未遂”事件から1日経った7月19日。

 

 この日も後一時間ほどで終わろうとしていたが、ユウキは休む間もなく働いていた。

 

 何故なら、明日は科学と魔術が本格的に交わる事になる日であり、それと平行して“もう1つの計画”を進めなければならないユウキとしては、こんなところで休んでいる暇など無かった。

 

 

「魔術方面は上条に任せていれば大丈夫だろう」

 

 

 魔術方面は原作通りに上条に任せる予定だった。

 

 上条の強さなら、ステイルクラスなら余裕で倒せる。

 

 問題はもう1人の神裂であったが、これははっきり言ってユウキにも分からなかった。

 

 何故なら、ユウキは神裂どころか、聖人とすら未だ戦った事が無いからだ。

 

 アークで解析しようにも、元となるデータが無ければどうにもならない。

 

 

「・・・やはり、念の為に一方通行(アクセラレータ)を向かわせようかな?」

 

 

 ユウキはそうも考えた。

 

 一方通行(アクセラレータ)が出ていけば、魔術を殆ど使えず、肉弾戦1択の神裂には確実に勝てる。

 

 が、そこまで考えたところでユウキはその考えを切り捨てる。

 

 

(いや、駄目だ。そんな事をしたら、イギリス清教との戦争になってしまう)

 

 

 確かに戦闘面だけを考えれば、一方通行(アクセラレータ)投入は妥当な選択だろう。

 

 だが、政治的に考えると、それは不味い選択肢である。

 

 学園都市最強の能力者をイギリス清教の迎撃に出す。

 

 これでは勝ったとしても、イギリス清教に学園都市への敵対心を植え付けてしまう事になる。

 

 それは不味い。

 

 今の段階ではイギリス清教との戦闘準備など整っていないので、早くて11月、遅くて原作通りの12月まで待って欲しいというのがユウキの本音だった。

 

 

「まあ、魔術サイドの方はそれで良いとして、問題は幻想御手(レベルアッパー)事件だな」

 

 

 明日、7月20日は科学と魔術が交差する日であると同時に、幻想御手(レベルアッパー)事件が本格的に動き出す日でもあった。

 

 

「確か明日は佐天涙子がレベルアッパーを手に入れる日だったな」

 

 

 ユウキは原作を思い出す。

 

 世間では未だ虚空爆破(グラビトン)事件は解決していない事になっている。

 

 原作では幻想御手(レベルアッパー)に目を向ける事になった事件をアウローラが介入して解決する機会を潰してしまった為、警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)幻想御手(レベルアッパー)に目を向ける余裕がなく、必然的に幻想御手(レベルアッパー)に対する対応は大きく遅れを取っていた。

 

 ちなみに御坂美事に至っては未だに幻想御手(レベルアッパー)すら知らない。

 

 事実、今日は原作では御坂美琴が幻想御手(レベルアッパー)の情報を手に入れる為にスキルアウトに接触して、最終的に第7学区の一部で電子機器が全滅した事件?が起こったが、この世界ではそんな事は起きていない。

 

 おそらく、御坂美琴を含む超電磁砲(レールガン)組が幻想御手(レベルアッパー)に目を向けるのは、佐天涙子が幻想御手(レベルアッパー)で昏睡したその後になるだろう。

 

 とは言っても、幻想御手(レベルアッパー)事件に対して、ユウキを含むアウローラが手を出すのはここまでだ。

 

 ここからの幻想御手(レベルアッパー)事件の解決は原作通りに超電磁砲(レールガン)組に任せる。

 

 その間に自分達は“もう1つの計画”を発動し、アウローラ最大の宿敵たる“木原”に攻勢を掛ける。

 

 

「明日は忙しくなるな」

 

 

 ユウキはそう思った。

 

 こうして、7月19日の夜はふけていく。



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