ざっつなオーバーロードIF展開 (sognathus)
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運に恵まれたヘッケラン

フォーサイトが生き残る話です。
ヘッケランがもう少し慎重に行動を選んでいたら……というものです。


司会らしきダークエルフの少年(?)の紹介によって現れたのは骸骨。

一見では武具を装備したスケルトンという印象だが、自分達が闘う相手として出てきたわけだし、何よりあのダークエルフが支配者とか言っていた気がしたので、ヘッケランは出てきたアレをただのスケルトンだと思う事は瞬時にやめた。

 

「ヘッケラン……」

 

イミ―ナの警戒と不安が混じる声がヘッケランにかかる。

背後にいるロバーディクとアルシェから感じる雰囲気もそれに似たものだとヘッケランには解った。

直感的にこの状況は非常に不味い、というだけで済めばまだ良い方だと彼は感じた。

 

(さて、この状況どうするか……)

 

ヘッケランは深呼吸して自分を出来る限り落ち着かせると、頭に浮かんだ行動を一つ一つ慎重に選んで取る事にした。

 

(先ず嘘はダメだ)

 

実は自らを落ち着かせる前に真っ先に一つ案が浮かんでいたのだが、ヘッケランはそれを既に破棄していた。

落ち着いた頭で改めて考えるといくらなんでも無策に過ぎた。

直感で自分より遥かに強いと感じた相手を虚言で切り抜けようなどあまりにも危険だ。

力で敵わないからそこ弁で逃れると言うのも手と言えば手だが、そうした結果相手に嘘を見抜かれ勘気を被ったりしたらそれこそ一貫の終わりだ。

だからこそ先ずは全身全霊で自分の誠意と謝意を示さなければならない。

ヘッケランはそれを行動に移していった。

 

「ん?」

 

アインズは自分の前に進み出てきた男が取った行動を見て首を傾げた。

 

「イミ―ナ俺の装備を全部預かってくれ」

 

「え?!」

 

リーダーの予想だにしない言葉にイミ―ナ以外のメンバーも驚き表情をする。

 

「ちょっと、あなた何を?!」

 

「いいから。頼む……」

 

イミ―ナの剣幕もどこ吹く風、ヘッケランはただ黙って手早く脱いだ装備を半ば強引に彼女に押し付ける形で預けると、アインズをから視線を逸らさずに姿勢を正して言った。

 

「ア……アインズ・ウール・ゴウン……? 殿。ゴウン殿とお呼びさせて頂いても宜しいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

罠に誘い込まれた哀れな実験体が意外にも初手から礼儀正しく下手に出た発言をしてきたので、アインズも彼の態度に合わせて鷹揚に頷いてみせた。

一方、崇拝する主人の活躍が見られると期待していたアウラと、その様子を闘技場の観客席から見ていたナザリックの他の面々も怪訝な顔をしていた。

 

「あの……先ずは、金銭目的という卑しい目的で貴方の領土を汚した事を、此処にいない他の仲間を含めてその代表として謝罪します。本当に……心から……申し訳なく思います」

 

「うむ。それで?」

 

取り付く島もないという感じだが少なくとも気分を害してはいないようだ。

 

(ここまではまだ大丈夫。大丈夫)

 

ヘッケランは再び息を深く吸うと口を開いた。

 

「あ、えっと……これは……俺の、私の予想ですが……。私達は貴方に絶対に勝てないと……直感で感じます。……正直直ぐに殺されますよね?」

 

「そうだな。お前達に出来るのはただ無駄に足掻く事だけだろう」

 

「「「!」」」

 

ヘッケランの問い掛けに当たり前だといった様子で即答したアインズの言葉に後ろの三人がそれぞれの感情で息を飲む気配をヘッケランは感じた。

特に気が強いイミ―ナに関しては驚きと共に強い憤りも感じているであろう事は彼には予想は余裕だったので、後ろでに片手を突きだして制した。

 

「……ですよね。それが解った上で、恐れながら、身の程を弁えていない事は承知の上で申し上げたいのですが……」

 

「なんだ?」

 

「絶対に勝てないなら、せめて……他の仲間の安否は判らないので、せめて私の命一つで後ろの三人だけはどうか……」

 

「へ……!」

 

ついに我慢できなくなって歩み寄ろうとしたイミ―ナを、機転を利かせたロバーディクが素早く動いて彼女の口を塞ぎ、次いで腕で抑え込んだ。

不意の拘束にイミ―ナは一瞬驚くも、直ぐに抵抗して逃れようとしたが、ヘッケランの命を懸けた行動の意を汲んだロバーディクとアルシェの自分を諌めようとする目を見て何とかすんでの所思いとどまる。

アインズはそれを興味なさそうに一瞥だけくれると、再びヘッケランに視線を戻して短く言葉を返した。

 

「つまりあいつらの助命を乞いたいのか?」

 

「そうです。が、大変な失礼を働いた私達がリーダーの私の命一つで赦して貰えるとは……難しいと実は思っています。ですので、そこに、正常な状態を保ったままという条件の下、後ろの三人を貴方の役に立たせるという案はどうでしょう……?」

 

「……ふむ」

 

アインズはヘッケランの提案に思案するように口元に手を当てた。

正直最初から全員殺すつもりだったが、それでも殊勝な態度を見せれば苦痛は与えずに……一人は記憶を弄る実験をしてみたかったが、まぁそういう慈悲を見せても良いかなくらいには思っていた。

が、最初にナザリックに踏み込む目的が金銭だと答えておきながら、ここに来てそれが卑しい事だと認めた上で仲間の為に自分を犠牲にするのも一切厭わんとする姿勢を見せたこの男の態度には僅かながらに感心もした。

 

(さてどうするか……)

 

アインズは考えた。

勿論ここまで踏み込ませた時点で生還させるなど論外だ。

だが彼が言うように外の世界のパイプとして役立たせるとするなら……冒険者組合に所属していないワーカーという立場はそれなりに有益に思えた。

何より現時点で生き残っているワーカーはこの4人だけのようだし、管理する側としても人数が少ないのは助かる。

 

(記憶を弄る実験は、他に捕まえた生き残りでもいいか)

 

「ふむ」

 

正直少々拍子抜けで幾分残念な気持ちもあったが、アインズは決定した。

 

「一つ訊く」

 

「は、はい。なんなりと」

 

「お前がこのパーティーのリーダーなんだな?」

 

「そうです」

 

「と言う事は、お前が居た方がパーティーとして最も効率良く機能するという事だな?」

 

「……はい」

 

「謙遜はするな。事実ならそれを認めてはっきり答えろ」

 

「はい」

 

「よし」

 

「……」

 

予想外にも好転しそうな展開にヘッケランは体に走っていた緊張が自然と解けようとするのを感じた。

だが何とか気を入れ直して握った拳に力を込めて自らを奮い立たせる。

 

(まだだ。まだ気を抜くのは早い)

 

「裏切ったらこの世にこれ以上はないという苦痛を与えた後に殺す」

 

「はい」

 

「こちらの指示に対して下手を打っても……まぁ苦しむかは内容にもよるが、覚悟することになる」

 

「はい」

 

「こちらに付く以上、背信行為は絶対に隠せないと知れ。無駄だ。どんなに用心しても必ず露見する」

 

「分かりました」

 

「よし、ではお前達の命を助ける事をアインズ・ウール・ゴウンの名に誓って約束しよう……が」

 

(ほい来た)

 

最後まで気を抜かなくて正解だった。

こういった暗部の組織に属する以上必ず何か通過儀礼的なものを求められるのは常だった。

問題はそれがどのような内容なのかだが……。

 

「流石に理解しているような目をしているな。そうだ、洗礼だ。お前達には私の配下となる前に先ず洗礼を受けて貰う。勿論断るという選択などあり得ない。良いな?」

 

「勿論です」

 

それから程なくしてヘッケランはそうやって即答した事を文字通り死ぬほど後悔する事になった。

その道連れとなった他の三人も最初はあまりの内容にアインズに降る選択をした彼を激しく恨んだのだが、やがてそんな余裕も瞬時に失せ、いつ終わるとも知れない凄まじい苦痛にただ泣き叫ぶのだった。




はい、晴れてナザリックに忠実なフォーサイトができました。
きっと4人とも生き残れた幸運に感謝しつつも固形物を摂れない身体になっている事でしょう。


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命乞いの成功

ニグンさんの命乞いをアインズ様が気まぐれで受け入れる話です。


「……」

 

必死の形相で己の部下を見捨てて自分だけは助けて欲しいという男を見てアインズはふと考えた。

 

(今までの経緯からこいつは所属する国の中ではそれなりの立場にいそうだな……)

 

転移した世界の情報を知る為になるべく多くを生かしたままナザリックへと運び、あらゆる手で情報を引き出すつもりだったアインズはニグンという男のこの世界においての価値について考える。

 

(今重要なのは『何を』するにしても全て慎重に慎重を重ねた行動をする事だ)

 

この場にいる人間を尋問の後に殺したとしてもアンデッド化やその他の用途に実験として使える有用性は確かにあった。

だがそれでも果たして本当にこいつらだけで足りるだろうか?

安易に使い潰して後悔はしないだろうか?

 

アインズはついさっき守る事になった村の人間や礼儀正しい戦士長なる男の事を思い出した。

 

(あいつらはダメだな。せっかく友好な関係を築けそうなのにそれを数がいるからという理由だけで使い潰すのは勿体ない。それにせっかくたっちさんへの恩に報いる為にした行動を無駄にするなんて絶対に嫌だ)

 

極力慎重に、そして極力初手で最大限の成果を。

ここに来て打算的な本来の性格に加えて用心の鬼になりつつあったアインズはアルベドに言った。

 

「アルベド、情報を得る為にこいつらを無力化して全員ナザリックへ持って帰る」

 

「畏まりましたアインズ様」

 

「おい貴様、忘れてしまった。名前は何だった?」

 

「へっ? は、はい! ニグンです! ニグン・グリッド・ルーインと申します!」

 

時間にして1分も経っていなかったが、それでも目の前の絶対者から言葉を掛けられなかった事が恐ろしくて溜まらなかったニグンは即答した。

 

 

「そうか、ルーイン」

 

「はい!」

 

「感謝しろ。貴様の望みは貴様自身の私への貢献の度合いによっては叶えられるぞ」

 

「は……はい! 寛大なるお慈悲に、心より……心より感謝申し上げますぅ……!」

 

例え僅かでもいい、自分が生き残れる可能性を得た事をニグンは素直に涙を流して喜んだ。

 

 

 

 

「ふむ、これで13人目か」

 

「はい。やはりどんな質問でも3つ答えると死にました」

 

「ふむ……」

 

カルデ村での騒動から程なく時が経った頃、アインズは連れ去ったスレイン法国の人間から情報を引き出す行動を早速試みた。

先ずは一般隊員と思しき男に対して、一人目はアインズ自ら行った。

因みにニグンの番は、彼の情報源としての有用性を考慮して当然最後とする事に決めていた。

結果、名前と出身国と年齢を訊いただけで突如その場に崩れ落ちて絶命するというもので終わった。

二人目は支配の呪言を使えるナザリック最高の頭脳の一人、守護者デミウルゴスが行ったが、これもやはり3つの簡単な質問をした直後に絶命し、判ったのは支配の呪言はしっかり効果を発揮していたという事くらいだった。

三人目からはもう拷問を含めたあらゆる手段を講じて試みる事を許可したが、やはり結果は同じだった。

苦しみから解放されたいが為に苦悶の声で答えた虚言と思しき言葉でもやはり3つ目の質問に答えた後に死んだ。

 

スレイン法国なる国家の力ある者によって何らかの仕掛けが施されているのは間違いなかった。

そこでアインズはもしかしたら死んだ後に蘇生させたらその効果は消えているかもと思い至り……。

 

「アインズ様成功です! 蘇生させた者に対してはあの効果は解除されているようです!」

 

「そうか」

 

主人の発想とその成功を心から喜び、背中の羽を動かしてそこでも感情表現をしているアルベドにアインズは満足げ気に頷いた。

 

「準備はできたな。ルーインを一度殺すぞ」

 

探求を重ねた結果に得た確信とはいえ、それを素直に喜ぶ発言にしてはあまりにも物騒であり、同時にニグンに対しては余りにも非情だった。

 

 

「ルーイン、話は聞いているな? お前に掛けられていた制約は解除した。さぁ、全てだ。先ずお前から知っている知識を全て話せ。その後に私の質問に全て答えろ」

 

「は、はい!」

 

昏睡状態にされていたニグンは無情にもその状態で一度魔法で即死させられた。

そしてその直後に蘇生させられたのだが、ゲームでいうところのレベルダウンにあたる効果として身体能力が著しく落ちており、先ずそれをまともな状態になるまでにしっかり回復させられた。

だがそこからが地獄だった。

身体能力が回復し、ようやくまともな状態に戻れたと思いきや、今度はナザリックを決して裏切らないようにとデミウルゴスが考案したある『洗礼』を受けたのだ。

結果、ニグンは今度は精神がやられてしまい、まともな精神状態に戻るのに更に5日かかった。

因みにこの時点で、この世界で死ぬとこうやって弱くなるという現象を情報としてアインズは得る事が出来た為、彼はニグンという情報源の(本人の意思とは無関係の)献身に気分を良くするのだった。

 

そしてそれらの経過を経てやっと全快したニグンは今、アインズの(始終従順なら何もされない)尋問に答える為に、座ってるだけで疲れが癒される豪奢な椅子、傍らの小さなテーブルには今まで飲んだ事がないくらい美味しく冷たい飲み物が配されるという捕虜としては本来あり得ない破格の待遇を受けた。

しかし此処に来てニグンもある程度は冷静さ取り戻していた。

目の前は疲れを知らない不死の王(オーバーロード)、そしてこの待遇。

ニグンはこれから途方も無い時間アインズに付き合わせれるであろうことを予想した。

きっと長時間の拘束によって眠気に襲われても魔法か何かで即座に回復させられるであろう。

ニグンはこれから訪れるある意味苦行とも言える時間に、決して目の前の男の機嫌を損なわせず、かつ誠心誠意答えようと心に決めた。

そして……。

 

 

「アインズ様、如何でしたか?」

 

述べ一週間という長きに渡りニグンを拘束し、玉座の間で彼と語りに語り尽くしたアインズは満足げに言った。

 

「素晴らしい。本当に素晴らしい。アレは本当に素晴らしい情報、いや、知識と言うべきか? それを私にもたらしてくれた」

 

「それは何よりです。アインズ様の会話を聞いているだけの私でもそれは実感するところでした」

 

「そうだろう? しかしこの世界、存外ユグドラシルと縁が深い世界のようだな」

 

「は!、誠に然り。そしてあのルーインという男が所属していたスレイン法国という国家、ワールドアイテムを所有している可能性が有るという事が判ったのも大変な収穫でしたね」

 

アルベドよりやや離れた位置に佇んでいたデミウルゴスも得た情報の中で何よりもアインズが成果だと思っていそうなものを選定して言った。

 

「そうだな。聞いたところ精神を支配する類のようだ。これは知らないのは危なかった。もし使用される様な事があれば、それを解除する手段は一度殺した後に復活させるくらいだろう」

 

アインズは自らその手段を実行したかもしれない可能性を想像して身震いした。

 

(大事な仲間が残した俺の大切な子供のようなこいつらにそんな事絶対にしたくない)

 

「アインズ様には敵わないのは当然だと思いますが、絶死絶命とかいう女は先ず最警戒すべき人間の一人でしょうね」

 

「そうだな。身体的強さはプレイヤーレベルMAX相応だとして、それより持っている能力が気になるところだ」

 

「それで、あのルーインという男どう致します?」

 

「ん?」

 

アルベドの話に相槌を打っていたところにデミウルゴスが処理すべき案件といった様子で訊いた。

アインズはルーインの処分について訊かれたのだと気付いた。

正直情報源としての役割は果たしたので、用済みと言えば用済みだ。

殺してもいいし、デミウルゴスが欲すれば何の用途に使うかは知らないが与えても良いと思えた。

が、しかしである。

 

「あの男はそれなりにナザリックに貢献してくれた。尋問の為とはいえ洗礼も受けたのなら裏切る事もあるまい。無碍に扱うのは可哀そうというものだ」

 

「お優しいのですね。くふふ、流石私の旦那様です♪」

 

(誰が旦那だ誰が)

 

妄言と思いたいが恐らく本心なのだろう。

さり気に正妻アピールをするアルベドに一瞥だけくれて軽く咳払いをして場を取り繕うとアインズは言った。

 

「ニグンはあれでも外の世界ではそれなりの強さのようだ。ならそれをナザリックの力で更に強化させてみたい。どこまでこの世界の人間が強くなるかの実験だ」

 

「は! そうなればあのルーインなる男もよりアインズ様に深く感謝をし、ナザリックに絶対の忠誠を改めて誓う事でしょう!」

 

「うむ、頭自体はそれなりに回るよだから外の世界で動かす手駒としても使えるだろう。顔は変える必要があるかもしれんが……異論は無いな? アルベド」

 

「元よりアインズ様の意見に意を唱える気などありません」

 

「そうか」

 

アルベドの天使の笑みと共に受けた言葉に更に機嫌を良くしたアインズは意気揚々と二人を伴って今後の方針について更に詰める為に執務室へと向かって行った。

 

「ああ、そういえば。申し訳ございませんアインズ様、もう一つ確認させて頂きたい事が」

 

「なんだ?」

 

「まだ残っているルーインが連れていた部下の人間共は如何致しますか?」

 

「ああ」

 

アインズはすっかりそれらの存在を忘れていた。

だが、意外に結論はすんなり出た。

 

「それは要らん、好きにしろ。ルーインより価値がある情報を持ってなさそうという時点で無価値だ。だがまぁ、処分する過程である程度は念の為調べておけ」

 

「畏まりました」

 

あっさりとそう言い捨てるアインズの非情な言葉にデミウルゴスは悪魔らしい凄惨な笑みを浮かべた。




傾城傾国の効果がシャルティアを復活させた事で解除されていたので、例の3つ質問したら死ぬと言う仕掛けもこれなら解除できるだろうと言う独自の考察を適用しました。
そしてニグンさん生存おめでとう!

追記、原作でニグンを蘇生した場合ホームポイントに戻る可能性について示唆されていましたが、現状それが正解である描写は確認されない為その場で成功した事にしました。
青の薔薇のメンバーの蘇生の場合、遺体を保管していたのでその場での復活するのが正解のようにも思えますが、法国の人物に関しては、蘇生されたらホームポイントに戻る別に術を掛けられている可能性もあると思います。
が、原作でクレマンティーヌの遺体が消えている事を考えると……筆者としてはやはりその場での復活が有力かなと思います。


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手痛い代償

クレマンティーヌがアインズ様から別の攻め方を受ける話です。
しかしニグンが彼に降っているという設定を下地にしているので、結果は原作と比べて大きく異なったようです。


「クレマンティーヌ……?」

 

「あぁれぇ? もしかして私の事知ってるのぉ? おっかしいなぁいくらアタシが強くても、カッパー程度の冒険者が私の存在を知っているなんてちょおっと考え難いんだけどなぁ……誰かに聞いたの?」

 

自分の名前を聞いて心当たりがあるような素振りを見せたモモンにクレマンティーヌは興味を持った。

正確にはモモンではなく、彼に自分の事を教えた存在にだ。

漆黒聖典を裏切って法国に追われる立場になったとはいえ、まさか法国のクソったれどもが自分の所在を掴む為にカッパー程度の冒険者にまで知れ渡るほど、元秘匿組織所属のメンバーの名前を漏えいさせするとは考え難い。

だとしたら法国とは直接関係が無い自分を知る者がモモンに情報を与えたのかもしれないとクレマンティーヌは考えたのだ。

そして彼女のその予想は半分当たった。

モモンはクレマンティーヌの問いに対して僅かにフルフェイスの兜を揺らして頷くと、件の人物の名を告げた。

 

「ニグンだ」

 

「……え?」

 

「知っているだろう? 陽光聖典のニグンだ」

 

「え? え? ちょ、ちょっと待ってよ。ニグンってあの? アタシが知っている方のニグン? ただ名前が同じだけの別人じゃなくて?」

 

「陽光聖典の、と言っただろう? そのニグンだ」

 

「はぁ……?」

 

クレマンティーヌはモモンが言っている意味が解らないといった様子で軽く混乱した。

てっきり法国とは関係が無い人間の名が出てくると思ったら、予想に反して実によく知っている男の名前が出てきたからだ。

 

(え? ニグンでしょ? なんで法国の貴重な陽光聖典の隊長が一介のカッパー風情のブリキ野郎なんかにアタシの情報を漏らしたってのよ……)

 

個人戦では圧勝できる確信を持ちながらも、クレマンティーヌはニグンがそんな不利な戦いをしない、寧ろ自分が優位に立ったとしても容易に隙など見せない非常に優秀な人物だという事を知っていた。

確かに個人戦で接近できたのなら目の前の男であっても勝機はあったかもしれない、だが先にも述べたようにニグンは決してそのような愚かな過ちを犯す男ではない。

ということは……?

 

「あんた、どうしてニグンを知っているの? そしてそいつは今何をしているの?」

 

「質問ばかりで礼儀を知らない女だな。まぁいい、せっかく得た好機(情報源)だ。特別に教えてやろう。ニグンは私に敗北した。そして今やあいつは私の部下だ」

 

「は……?」

 

クレマンティーヌは今度こそ本当にわけが解らないと呆けた顔をした。

こいつは一体何を言っているのだろうか?

よりにもよってこいつがニグンを倒した?

そしてあろうことかあいつを部下にした?

本当にわけが解らなかった。

 

「ごめん、あんたが言っている事がわけ解んないんだけど」

 

「私の言葉の意味が解らない? 子供でも解る単語の方が多いはずだが?」

 

「そういう事言ってんじゃねーよ!!」

 

モモンの自分を舐めた切った態度に憤慨したクレマンティーヌは、大腿に巻いていたベルトから一瞬で投擲用の小型のダガーを引き抜くと、稲妻のような速さでそれをモモンの顔面に投げつけた。

しかしそこでまたもあり得ない事が、今度は実際に目の前で起こった。

 

「え?」

 

なんとモモンは目にも止まらぬ速さで投げつけられたそれを難なくキャッチし、逆に彼女が反応して避ける事ができない速さで投げ返してきたのだ。

 

「ああああああああ?!」

 

モモンが投げたダガーはクレマンティーヌの足に刺さるどころかそれを突き抜けて地面に埋没した。

クレマンティーヌは不意に襲われた激痛に思わず悲鳴をあげる。

 

「ふっ、一々態度が挑発的で品の無い女だと思っていたが、悲鳴はちゃんと女らしいじゃないか」

 

「!!! っ、て、てめぇぇぇぇ!!」

 

激情に駆られて思考が沸騰したクレマンティーヌはそのおかげで一瞬痛みを忘れ、本能で身体強化の武技を重ねると、凶悪な表情で人間の身体能力の限界を超えた速さの刺突をモモンに見舞った。

今度はモモンの方がそれを避けれなかったようだ。

怒りに我を忘れた一撃ながら見事にフルプレートの鎧からから覗く腕の付け根という狙い難い弱点にクレマンティーヌのスティレットは当たった。

 

(やった! ざまーみろ!)

 

致命傷でこそなかったが、腕と胴を繋ぐ骨は完全に粉砕したと踏んだクレマンティーヌは、これによってモモンが大幅に弱体したと確信した。

こちらも足を負傷したが、この男と比べれば何と言う事は無い。

後は痛みに喘いで満足に武器を振るえなくなったであろうこの男をたっぷりと嬲りながら殺すという楽しみを味わうだけだ。

 

「ひひ、さぁて……」

 

痛みより勝利とこれからの楽しみに心が躍ったクレマンティーヌが恍惚の笑みを浮かべた時だった。

 

「えっ?」

 

モモンを貫いたスティレットを握っていた手の自由が突如として利かなくなったのだ。

予想外の事態に焦ったクレマンティーヌがその原因を目で追って確認すると驚愕した。

何故なら自分の手の自由を奪っていたのは、先程『自分が』自由を奪ったはずの方のモモンの手だったからだ。

 

「そんな、どうし……」

 

クレマンティーヌは最後まで疑問を口にする事は出来なかった。

モモンがそれを言い終わる前に空いた方の手に持っていた大剣で器用にも肉薄していた間合いから彼女のスティレットを握っていた方の手を手首から先で切り落としたからだ。

 

「ぎゃっ、ああああああ?!」

 

迸る血飛沫と足の怪我のそれを上回る激痛にクレマンティーヌは再び悲鳴をあげる。

その悲鳴は二人の勝負が完全に着いた事を告げていた。

 

 

「ふぅ……っ、ふぅ……!」

 

ようやく落ち着きを取り戻したものの、焼ける様な痛みに涙を滲ませて惨めに後ずさりをするクレマンティーヌ。

モモンはそれをまるで興味が無い玩具に対するように様子で力なくただ眺めていた。

そしてそんな彼女にようやくモモンがかけた言葉は意外なものだった。

 

「降伏しろ」

 

「え……?」

 

「降伏すれば命だけは助けてやる。命だけは、この場は、な」

 

「はっ……は! 自分の勝ちが決まったからって、私が大人しく従うとでも……!」

 

はっきり言ってただの強がりだった。

だが、そんな無様な強がりでもクレマンティーヌはしないよりマシに思えた。

 

「てめぇの手にかかるくらない私は……!」

 

先に自分で自分を殺すと言いたかった。

だが、それより先にモモンが絶望を予感させる言葉を掛けてきた。

 

「自殺するか? ならするがいい。直ぐに生き返らせるがな」

 

「え……?」

 

「悪いが、私は蘇生魔法程度容易に何度でも行使できる力を持っている。そう何度でも、だ」

 

「……」

 

「頭では意味が解ったようだな。そうだ、お前が反抗的な態度を見せて自殺すれば私はそんなお前を、何度でも蘇らせてその度に殺す。哀れにも弱って抵抗する力がなくなっていくお前を飽きるまで嬲り殺し続け、その後ようやく飽きたら今度は早く死んで楽になりたいと思う様な苦痛が続く地獄に捕らえ続けてやる」

 

とてもカッパーのプレート、いや、そんなもの関係ない。

冒険者どころか人間とは思えないようなおぞましい脅し文句だった。

何故見た目はただの戦士なのに言っている事がただの脅しではなく本当だと思えるのだろう。

クレマンティーヌはじわじわと湧いてくる恐怖の波に心が冷えて犯されていくのを感じながら疑問に思った。

そんな時である。

 

「あっ」

 

モモンが不意に何故か自分の兜を外した。

クレマンティーヌはその兜の下から現れたモモンの素顔を見て再び驚愕の表情をする。

 

「見ての通り私は人間ではない。こうしてお前に正体を教えたのは、これが最後のチャンスだという事を理解させる為だ」

 

兜の下から現れた顔は骸骨だった。

それもただの骸骨ではなない。

双眸に不気味な赤い瞳が光り、ただのスケルトンより凶悪な顔に見えた。

そして兜を脱ぐと同時にモモンの鎧姿は消え去り、代わりに豪奢で重厚そうなアインズの本来の服装へと変わった。

 

「……」

 

クレマンティーヌはそれを見てようやく段々理解できてきた。

自分が今まで戦っていたのは職業戦士ではなく、ただのマジックキャスター(魔法詠唱者)だったのだと。

そしてそれ同時にこれも理解した。

 

(こいつは人間じゃない……。だから……ああ、だからさっき言っていた私を何度も蘇生させて殺すという言葉は本当だったんだ……。本当にできるんだ……)

 

「おい、汚いな」

 

手首と足から未だに出血を続けるクレマンティーヌから新たに流れ出てきたものにアインズは気付いた。

それは鼻を突く異臭を放ち、クレマンティーヌの下腹部を覆っていた衣類に大きな染みを作って溢れ出てきた彼女の尿だった。

クレマンティーヌはついに正体を現したアインズに対する恐怖に気丈を保つ糸が切れ、失禁してしまったのだ。

 

「まぁ、まだ直接言葉は聞いてないが。どうやら白旗は上げたようだな。では……」

 

自分に近付いてくるアインズの白く大きな骨の手を、クレマンティーヌは最早なんの抵抗をする気も起こせずただ見つめ続ける事しかできなかった。

そんな彼女の耳にアインズのどこか喜ばしげな抑揚のない声が響く。

 

レアモノ(貴重な手駒)ゲットだ」




ただでは転ばないであろうクレマンティーヌをできるだけ苛めてみました。
結構満足してます。


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実は生き返っていた漆黒の剣

タイトルの通り本編では全滅した漆黒の剣のメンバーは本作ではアインズによって生き返らされます。
ニグンさんを配下にしている設定なので、スレイン法国で信仰されている六大神の事も知っており、それらがプレイヤーである可能性があるという結論にもアインズは至っています。


孫を助けたいなら全てを差し出せと言ったモモンにリイジー・バレアレは彼を悪魔かと言った。

そんなバレアレを見てモモンはふとある事を思い付いた。

その思い付きを実行するのに必要なある人物をナザリックから呼び出す為、モモンは即座にメッセージで命令を送った。

 

「仰せにより罷り越しましたアインズ様。本日は如何様なご用命でしょうか?」

 

10秒もしない内にゲートから現れたのは戦闘メイドの一人のルプスレギナ・ベータだった。

 

「うむ。この場の安全は確保されているな?」

 

「問題御座いません」

 

「よし、なら――」

 

「!!?」

 

ただでさえ唐突な展開に目を白黒させてポカンとしていたバレアレは更に驚愕する事になった。

何故なら不意に目の前の漆黒の戦士が豪奢なローブに身を包んだアンデッドの姿へと変わったからだ。

 

「まぁそう驚くな、というのも難しいだろうが、少し大人しくしていろ」

 

アインズはそう言うと呼び出したルプスレギナに殺された漆黒の剣のメンバー4人の蘇生を命じた。

人間如きを何故蘇生などさせるのか僅かに疑問に思ったルプスレギナであったが、主人の事だから当然その命令にも深い考えがあっての事だと直ぐに思い至った。

そして心の中で主の考えに疑問を持ってしまった不敬を深く反省すると、下された命を速やかに実行した。

 

「なんと……!」

 

バレアレは目の前で瞬く間に起こった奇跡にただただ驚くばかりだった。

そんな彼女にようやくこれから本題だといった様子でアインズが話しかける。

 

「六大神は知っているか?」

 

「え?」

 

「スレイン法国で信仰されている神の事だ。噂程度なら耳にくらいした事があるだろう?」

 

「ま、まぁ……」

 

「今回は部下に働きの場を与える為に私の力の一端を見せるという名目で彼らを蘇らせた訳だが。私自ら同じ事をしようとすれば蘇生の時に力を失う事なく完全に復活させる事など容易いのだ」

 

「……」

 

「さて、そんなお前たちからしたら神の如き力を持つ私は一体如何なる存在だと思う?」

 

「まさか……」

 

バレアレは先程アインズが冒頭で六大神の事を尋ねてきた事を思い出してもしやと思った。

実際に目にした力は彼の部下のものだったが、部下ですら容易くこんな奇跡を起こせるのだから、そんな彼女らを従えている眼の前のアンデッドの力が強大に過ぎるという事くらい想像は容易だった。

だからこそアインズのこの問い掛けにも然程時間をかける事なく一つの結論に辿り着く事ができた。

 

「もしやおま……貴方は神……と……?」

 

「六大神そのモノではないが、その存在と同格かそれ以上なのは間違いない。見た目はこの通りアンデッドだが……寧ろ見た目が異形だからこそ信憑性も増すのではないか?」

 

「……」

 

バレアレは何も言えなかった。

目の前のオーバーロード(死の支配者)に自分がどんな異見をしても無意味に思えたし、何より彼の存在を知った事で自分のこの先の運命は完全に握られていると無意識に悟ったからだ。

 

「まぁそう不安になる必要はない。ここまで我が力を見せ、正体を教えたのは先程お前が差し出した報酬の話をまとめる為だ」

 

「わ、儂に何をしろと……?」

 

「ああ、そうだ。勿論孫は助けてやる。その上での話だからそこは安心するといい。でだ、私がお前に求めるのは……」

 

 

孫を助ける代償として求められたものはバレアレにとって実行に移すに難くない事だったので彼女は安心した。

確かに住み慣れた街から彼の者が治める土地に移り住み、彼が求めるポーションの研究をしろというのは横暴とも言えなくもなかった。

だが研究さえすれば生活の保障はしてくれたし、何よりあれほど強大な力を感じさせた者が治める土地に住むこと自体が、今住んでいるこの街にいるよりは結果的に将来が安泰に思えたので良しと心を納得させる事ができた。

 

 

一方その頃、バレアレが早速荷物をまとめる準備を別室でしている時のアインズ達はというと……。

 

「生き返らせたのはナーベラルという事にしとけ」

 

「えっ、私ですか?」

 

「意識を取り戻した奴らにはお前が《死者復活/レイズデッド》まで使える優秀なマジックキャスター(魔法詠唱者)だと信じさせるんだ。近い内にアダマンタイト(最高位)級になるのだから、私自身の武勇も相俟ってチームとしても相応の実力だと認識されるだろう」

 

「なるほど、流石でございます」

 

「ルプスレギナ、お前の手柄を利用する形になって済まないな」

 

「いえ、滅相もざいません! 寧ろ至高の御方のお役に立つことができて歓びが心に満ちております!」

 

「……まぁ正直ここであいつらがナーベラルに恩を感じるようになれば、こいつも多少人間に対して……あいつらだけにでも不穏な態度を取る事は多少は控えるようになるのではないかと期待もあったんだがな」

 

「アインズ様?!」

 

「あー……確かにそれは良い考えだと思います。流石ですね!」

 

「ちょっとルプーまで!」

 

「はは、まぁ許せ」

 

アインズは骨の顔だが優しげな笑い声をあげると片手をナーベラルの頭に、そしてもう一方の手をルプスレギナの頭に置いて二人の頭を撫でた。

 

「あ……! そんな……アインズ様……」

 

「あっ、そ、それは反則ッスぅ……」

 

うっとりした目で幸福感に満ち溢れた顔をする二人、その嬉しそうな様子にアインズは満足すると撫でるのもそこそこにして立ち上がり、再びモモンの姿へと変身した。

 

「さて、4人が意識を取り戻す前に宿屋にでも運ぶぞ」

 

「その後はこのゴ……こいつらはどうするんですか?」

 

「さっきも言った通り奴らは私達に返し切れない程の恩を感じるようになるはずだ。それはこれからの私の名声を高めるのに非常に都合の良い駒になるという事を意味し、そして同時に私という英雄の存在に一生頭が上がらない関係となる事を意味する」

 

「なるほど。限界まで利用し尽くすわけですね!」

 

アインズの深慮に目を輝かせて感嘆に震えるルプスレギナにアインズはちょっと引き気味に「まぁそうとも言えるな」と呟き返すと、一度咳払いをして居住まいを正して改めて命令した。

 

「さぁ閑話はここまでだ。ルプスレギナは元の任務に戻れ。ナーベラル、あいつらを運ぶぞ」




アインズ様のシンパとして頭が上がらない漆黒の剣の方々、面白そうだなぁ。


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雇われます

更に時は遡ってアインズとガゼフが初めて出会った時の話です。
自分を雇いたいと言ってきたガゼフに対して、アインズは原作とは異なり、その場で確かな信用を得る為とはいえ、かなり思い切った判断をしました。


「私を雇いたい?」

 

「そうです。できれば貴方の力を貸して頂きたい」

 

「……それは私が人間ではなくても構わない、かな?」

 

「……何?」

 

おもむろにアインズが仮面を外し、その素顔を見たガゼフは驚愕した。

それは彼だけでなく、彼の部下、そしてその場に居合わせた村人全員も同じ様な反応をした。

 

「あ、アンデッド……?!」

 

「驚かせて申し訳ない。だが仮面を外して正体を教えたのは私なりの誠意の表れだと思って欲しい。ガゼフ殿、こんな私でも、人間ではない異形の者でも私を信じて雇いたいと思いますか?」

 

「……」

 

ガゼフは流石に直ぐには反応ができなかった。

アインズが凄まじい力を持つマジックキャスターとは思っていたが、まさか彼が人外であったという事までは予想していなかった。

ガゼフは部下を見た。

皆アインズの正体を知って驚き慄いているが、その表情にはアンデッドであるアインズに対する不信感が明確に浮かんでいた。

対してアインズに救われた村人達は部下ほどではないが、驚き戸惑っているようだった。

流石に彼らはアインズに命を救われただけあって、彼をアンデッドだからといって直ぐに掌を返して冷淡な態度を取る事はできないようだ。

 

「ガゼフ殿?」

 

「……っ」

 

(そうだ。アンデッドだから敵意や嫌悪感を人間が自然と持ってしまうのは仕方のない事だ。だからこそ今俺がそれとは別に感じている違和感をしっかりと正面から見据えるべきなんだ)

 

アインズの声で深い思慮から我に返ったガゼフはアインズを正面から見つめて己の答えを導き出す事にした。

 

(アンデッドとは生者に反する性質から自然と憎しみや敵意を持っているというのは常識だ。だが彼からはそういったモノは全く感じない。だが流石に親しみ易さも全く感じさせないところを見ると、単に人間に対しては敵意がないというだけで、それ以上に興味が薄いのだろう。だがそれだけでも彼はアンデッドとしては異質だ。つまり少なくともこちらの話が通じる可能性は有る)

 

考えをまとめたガゼフは小さく咳払いをして居住まいを正すと、真剣な表情をしてアインズに言った。

 

「すまない、失礼をした。少し自分の中で考えをまとめていた」

 

「そうですか。しかしそれも無理はありません。しかし考えをまとめるにしてはやや時間が短く思えましたが、大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「では答えを聞かせてもらいましょう」

 

「答えは変わりません。私は貴方がアンデッドだとしても、信用できる人物だと断定した上で、やはり力をお貸し頂きたいと思う」

 

ガゼフの背後で部下達が不安が混じった動揺した声を漏らすのが聴こえた。

ガゼフはそれを耳にした瞬間に踵を返して部下達の方を振り向くと、大声で、しかし固い意思を感じさせる声で言った。

 

「鎮まれ! 皆が動揺するのは当然だし解る。だが、ここは私の直感を信じて欲しい! このリ・エスティーゼ王国の戦士長を! このガゼフ・ストロノーフを!」

 

アインズを信じろという根拠の大部分を自分の人望に掛けるという愚かとも言える行動だったにも関わらず、部下達はその一言で満場一致で彼に従う意を固めたようだった。

未だに不安げな表情をした者は数人いたものの、それでも最早、彼に対して意見するものは一人も出ず、皆目だけは篤い信頼が籠もった瞳でガゼフを見つめていた。

 

ガゼフはそんな部下達に黙って一度だけ頭を下げて謝意を示すと、再びアインズの方に向き直って言った。

 

「申し訳ない。だが、これで貴方の助力を給わりたいというのは私達の総意となった。……受けて、貰えるだろうか?」

 

「……」

 

アインズはそう言うガゼフとその後ろに控える戦士団を眺めて心の中で思った。

 

(大した人望と判断力だな。とても現実の俺じゃこうはいかないだろうな。それに初対面だというのに誠意と信用をここまで感じさせるのも凄い。こんな人、現実でも見た事ないなぁ……)

 

ガゼフの人としての誠実さを本来の人格である鈴木悟の残滓で感じ取っていたアインズは、その人柄にお世辞抜きで感心していた。

そしてそれと同時に彼という人間を人材としてとても貴重な存在と捉えるようになっていた。

故に然程悩むこともなくアインズもガゼフ同様に間を置かずに答える事ができた。

 

「承知した、ガゼフ・ストロノーフ殿。私の力をお貸ししよう。そしてそれに対する報酬だが、今回はアンデッドであるにも関わらず私を信用してくれた貴方に対する感謝の気持ちという事で無償で構わない」

 

「なんと、それは……。いや、流石にそれでは申し訳……」

 

予想外の友好的な展開に驚き、そして素直に恐縮するガゼフを見てアインズは心から笑って言った。

 

「ははは、大丈夫、構いません。だが、一つ要望させて貰えるならガゼフ殿、これを機に貴方と誼を通じ、できれば当たり障りのない関係を築けていけたらと思う。それで、今回はどうだろうか?」

 

「アインズ殿……」

 

アンデッドとしてはあまりにも意外な、友好的で柔らかい態度にガゼフはしどろもどろになりながらも最終的にはその顔にはっきりと笑みを称えて応えた。

 

「分かりましたアインズ殿。ではよろしく頼む」

 

「こちらこそストロノーフ殿。そして有難う」

 

ガゼフが差し出してきた手を、実はちゃんと密かに魔法とナザリックにいるニグレドからの報告で安全を確認していたアインズは躊躇うことなくしっかりと握り返した。




そしてアインズ様はガゼフ達を村に残してアルベドと二人でニグンたちを迎え討ちます。
ガゼフと相まみえることなくいきなりアインズに蹂躙される事になるニグンさんですが、そのお陰もあって早々に心が折れて命乞いをしたようです。


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心配

完全なオリジナルストーリーですが、もしフォーサイトが配下になっていたらアルシェの話として有り得るだろうなと考えた話です。


「それで、話というのは?」

 

謁見の間、玉座に座るアインズに幸運にも謁見を許されたフォーサイトのメンバーの一人であるアルシェが片膝を突いた姿勢のまま話し始めた。

 

「はい。妹……私の妹達の様子を見に行かせて頂けないでしょうか?」

 

家族の様子を見に行きたいというアルシェの姿は以前より明らかに痩けていた。

元々細くて少女らしさのあった外見ではあったが、それが『スレンダー』という意味において仲間であるイミーナにかなり近くなり、顔色も体調に問題は無いにも関わらず若干青かった。

これはナザリックに忠誠を誓う事になった上で受けさせられた『洗礼』が影響していたのは明らかだった。

 

「お前達は私からの指示がない時は基本的に今まで通りの活動を許可していたと思うが?」

 

「っ……申し訳ございません。無意識にアインズ様の許可を頂く必要があると考えてしまいまして」

 

「ふむ?」

 

眼の前で小さく震えるアルシェを見ながらアインズは顎に手をやって見えない疑問符を浮かべていた。

 

(洗礼の恐怖の影響で必要以上に俺に気を遣うようになってしまったかな? だとしたら同情はするけど、裏切り行為を考えさせない為には必要な処置だから仕方ないか。でも家族の様子を、か……)

 

「アルシェ」

 

「は、はい!」

 

恐縮しきって緊張で震えた声をあげるアルシェを鷹揚な態度で手で制しながらアインズは言った。

 

「そう畏まらずとも良い。で、一つ訊きたいのだが」

 

「な、なんでしょう……?」

 

「家には両親はいないのか?」

 

「……います」

 

「ん? ふむ……その、両親に何か問題があるという事か?」

 

何となく察したさり気ないアインズの一言だったが、その一言でアルシェは何かのスイッチが入ったようで、先程とは比べると幾分自然体に近い感じで抑揚のない声で喋り始めた。

 

「はい。私の両親は馬鹿です」

 

「は?」

 

「貴族の身分を剥奪されてもその現実を素直に受け入れられず、ただ私の収入のみを糧に浪費し、それが貴族の嗜みだと、それが身分を剥奪した皇帝に対する反骨心の表れだと現実逃避をし続ける愚か者です」

 

「な、なるほど?」

 

「そんな愚かな両親だから私の収入がないと妹に何もすることができない無能なんです」

 

「なるほどなぁ……」

 

話の途中からアインズはアルシェに明確に同情するようになっていた。

『こいつ、苦労していたんだな』と。

だからこそアインズは何の悪意もなくこんな悪魔じみた提案をあくまで心からの『善意』としてアルシェにした。

 

「アルシェ、一つ私から提案があるのだが」

 

「え? は、はい」

 

「その愚か者の両親を私に差し出せ」

 

「えっ」

 

「何に『使う』かは聞かないほうが良いと思うし、聞いたところでまぁそれほど嫌っている両親だ。『何が』あったとしても気にはならないだろう?」

 

「え、えっと……」

 

「もし私の提案を受け入れるのなら……」

 

予想外の展開に呆然とするアルシェを他所に、アインズは空間から一掴みの布袋を取り出し、それをアルシェに差し出した。

 

「こ、これは……?」

 

「まぁ中身を見てみるといい」

 

恐る恐るアインズからその袋を受け取った瞬間に感じた袋の重さから何となく中身を察したアルシェであったが、実際にその中身を見て結局驚くことになった。

何故なら袋の中には見たこともないくらい眩い金貨がぎっしりと詰まっていたからだ。

アルシェは震える指でその内の一枚を摘んで取り出し、それをしげしげと見つめる。

 

「あ……」

 

アインズが見せた金貨はそれは素晴らしい出来であり、アルシェが今まで見てきたどの貨幣よりも恐ろしいくらいに均整の取れた綺麗な円形をしており、縁の僅かな厚みにはギザギザの模様まで付けられていた。

そしてその金貨はやはりメインとなる紋章も素晴らしく美しい刻印がされていた。

そう、されていたのだが、その紋章を見てアルシェは首を傾げた。

 

(これ、何処の国の金貨だろう? 見たことがない)

 

アルシェの疑問を感じ取ったのか、彼女が疑問を口にする前にアインズが言った。

 

「それは何れ私が興す国で使用するつもりの金貨だ」

 

「あ……な、なるほど。そうでございましたか」

 

「うむ。以前この辺り一帯を調査した時に手付かずの金山も幾つか発見していてな。そこで採取した金で作ったものだ」

 

「……」

 

「勿論まだ存在しない国の貨幣なのでそのまま使うことはできない。が、出来には納得しているだろう? 全て金のみで作ってあるから純度は文句のつけようがない。鋳潰せば十分に他国でも通用するだろう」

 

「そんな鋳潰すなんて……!」

 

はっきり言って金貨の出来だけでもこの世界では芸術品と言っても良い出来だとアルシェは思っていた。

そしてそんな素晴らしいできの金貨を、他国の通貨だから使うなら鋳潰すしか無いとあっさり断じたアインズの底知れない余裕に恐怖すら感じた。

そんなアルシェにアインズはやはり軽い調子で笑いながら話を続けた。

 

「気にすることはない。はっきり言ってこんなものいくらでも作れる」

 

「……」

 

「で、どうする? 提案を飲むか? 別に飲まなくても様子を見に行くくらい許すぞ」

 

「……」

 

周りの自分を見る視線にアルシェは凄まじい殺気を感じた。

それがアインズの配下から放たれているものだとアルシェは直ぐに察する事ができた。

そしてその殺気が主人の提案を彼女が無礼にも拒否するのを安じた事から来ているのは自明の理であった。

 

「一応……」

 

「ん?」

 

アルシェは小さな声ではあったがポツリポツリと言葉を紡ぎ始めた。

 

「一応、あんな両親でも私達をある程度育ててくれた恩は……感じてます……」

 

「うむ」

 

「で、でも……」

 

「ゆっくりでいいぞ」

 

アインズの気遣いに言葉では表しよう無い複雑な気持ちで気が狂いそうになりながらアルシェは何とか謝意として浅く頭を垂れると気丈にも話を続けた。

 

「でもやはり、愛想が尽きているという事実は変わりません。だから……」

 

「ああ」

 

「だから、せめて苦しまずに死なせた上で、その遺体をゴウン様のお役に立てるという事で……せ、せめて……どうでしょうか……?」

 

果たしてその瞳から出ていた涙にはどういう意味が込められていたのか。

泣き笑いという言葉通りに半泣きに引きつった笑顔という何とも言えない悲壮な表情でそう妥協を提案するアルシェに、アインズは僅かに悩んだ末、小さく頷くと口を開いた。

 

「良いだろう。その案で構わない」

 

(ま、死体でも実験できる事はあるしそれ以外に利用法もあるしな)

 

軽い言葉の裏でやはり軽い調子でそんな非情な事を考えているアインズに対して、アルシェは全ての力を使い果たしたとばかりに精根果てた様子で感謝の言葉を震える声でアインズに伝えたのだった。




アルシェはこれで幸せに……うん、過去を振り返らなければ大丈夫だと思います。
でも純粋な瞳で自分を見てくる妹達にはどんな顔をするのかと想像すると、やはりちょっと気の毒とも思います。


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ちょっと早く来たももん様

原作よりちょっと早くイビルアイ達と邂逅を果たしたモモンの話です。


突如頭上より降り立った黒い鎧の戦士に一同の視線は集中した。

彼はかなりの高所より降り立ったらしいにも関わらずその身体は石のように不動であり、おおよそ落下によるバランス崩壊、ないしはダメージを受けた様子を微塵も感じさせなかった。

降り立った戦士は周囲を見渡して状況を察すると、今まさにがエントマに攻撃を与えんとしていたイビルアイを庇うように立ち塞がると、当の攻撃の対象であったエントマを冷静に見据えながら言った。

 

「突然失礼。助太刀しよう」

 

「……!!」

 

予想だにしなかった突然の主人の登場にエントマは声もなく驚き、それと同時に持った彼に対する畏敬の念から無意識に数歩後ろに下がった。

その姿はさっきまで死闘を繰り広げていたイビルアイ達からすれば黒い鎧の戦士、モモンの威圧感に圧倒され怯んだようにしか見えなかった。

 

(威圧感だけでこの凄まじさ。この男は一体……いや、黒い鎧! そうか……)

 

モモンの風貌から直ぐに彼が誰かを悟ったイビルアイは、彼に前方の視界を覆われることで自然と不思議な安心感を感じていた事に小さく驚きつつも蒼の薔薇最高戦力に相応しい落ち着いた声で言った。

 

「失礼、貴方は漆黒の英雄モモン殿とお見受けする。私は蒼の薔薇のイビルアイ。早速だがモモン殿、悪いが助太刀は無用だ。私は、少なくともあいつに関しては有利に事を進める事ができるという確信がある」

 

「ほう?」

 

背後より聴こえた妙な声にモモンが首だけを動かしてイビルアイの方を向く。

イビルアイはただそれだけの事なのに、何故かモモンのそんなさりげない所作に無骨な男らしさを感じてちょっと胸がときめいた。

 

「それはどういう事ですか?」

 

モモンの落ち着いた声がイビルアイの自信の根拠を訊いた。

 

「私は《蟲殺し/ヴァーミンペイン》という蟲種族に強力な特攻効果のある魔法が使えるんだ。見たところあのメイドは蟲種族のようだ。なら必ず私の魔法が効くはずだ」

 

「それはそれは……」

 

イビルアイの口から出た魔法の効果に強い警戒心を持って更に数歩後ずさったエントマを尻目に、アインズは彼女から聞いたユグドラシルでは聞いたこともない魔法の名前にアインズは興味を惹かれた。

 

(殺虫剤のようなものかな? だとしたら確かにエントマには危険な魔法かもしれない。ん? という事は恐怖公にも効果大という事か?)

 

アインズは脳裏で殺虫スプレーを掛けられて苦しそうに藻掻く恐怖公の姿を想像して不謹慎にもその姿に吹き出しそうになってしまった。

だがそれをすんでのところで何とか抑えた。

 

(想像した事自体はちょっと笑えないけど、エントマに危機が迫っている事は間違いないしな。さて、ここはどうやってあいつを逃してやるか……。というか何故こんな状況になっているんだ?)

 

組合から受けた依頼で空中を移動していたアインズが、街の中で起きていた異変に気付いて興味本位で降り立ってみれば何とも妙な展開となっていた。

エントマをが冒険者達と戦っていた事から推察するに、恐らくまた自分の知らないところでデミウルゴスの壮大な計画が動いていたらしい事は大凡の察しが付いた。

だが問題はアインズ自身がその計画の目的を全く把握できていないという事だった。

 

アインズは取り敢えず最低限の現在の状況を理解する為に、士気高く今にも前に踊り出んとしていたイビルアイを宥めるようになるべく落ち着いた声が出るように努めて彼女に訊いた。

 

「すまない。その前に今に至るまで経緯のをお訊きしたい」

 

「そんな悠長なやり取りを今やっている場合か?! 今はあの蟲メイドを一刻も早く仕留めるべきだ!」

 

「……! この! アイ……」

 

主人に対するイビルアイの無礼な態度に怒ってついエントマがモモンの正体に通ずる名を零しそうになった時だった。

アインズはすかさずそれを察してエントマの言葉を遮るように大剣を彼女の前に突き出し、ついエントマの軽率な行動に対する苛立ちから強い口調でぶっきらぼうに言った。

 

「黙れ」

 

「……!」

 

本人はただエントマを諌める為に言った一言のつもりだったのだが、その言葉はイビルアイ達を含め身を竦ませる威圧感を与えるには十分過ぎる程の効果を発揮した。

見るとエントマは主人に強く注意された事にすっかり怯え、かつ己の失態に対する羞恥心に震えてしょげ返り、更に数歩後退した。

そんなエントマの姿は声だけで強敵を圧倒するモモンの英雄としての姿をその場にいた蒼の薔薇のメンバー全員に強く印象付けた。

 

(何という存在感だ! まさか声だけで私達どころか敵まで畏縮させてしまうとは! こ、こんなカッコイイ英雄見た事ないぞ!)

 

「す、すまないももん様。ついしゃしゃり出ようとしてしまった……」

 

「は? い、いや……」

 

いつの間にか自分を様付けで呼び、そして何故かしおらしい態度を見せるようになっていたイビルアイをアインズは純粋に不気味に思い若干引いた。

だがそれによって自分が主導権を握る展開となっていた事を目ざとく確信し、その好機を逃すまいとエントマを見据えながら言葉を続けた。

 

「悪いが選手交代とさせてもらう。貴方の言葉を疑ったわけでは決してないが、私ならもっと迅速にこの事態を収拾できる」

 

つまり上手くエントマの相手をしているように見せて、見えない所で逃がすつもりだったのだが、そこで新たな声がその場に響いた。

 

「おやおや、配下の者が何やら手こずっているようなので気になって来てみれば、何とも非常に手強そうな英雄がいらっしゃる」

 

「……」

 

モモンは最早その声に心の中で驚くことも焦ることもなかった。

声の主の正体を察したところで彼にこの行動の目的をどう上手く質す展開に持っていくか思考を瞬時に切り替えたからだ。

 

「お前は誰だ?」

 

アインズがイビルアイを庇ったようにエントマを背後に隠して現れた男はナザリックに所属する者なら誰もが知る最高の知恵者の一人だった。

その男はアインズに優雅な動作で一礼すると、仮面を被った顔を上げて言った。

 

「私はヤルダバオト。魔皇ヤルダバオトと申します」

 

その言葉に、アインズはこれから始まる芝居で行う演技に対して本来ありえない疲労感を感じた気がした。




ガガーランとティアがヤルダバオトに殺されるどころか、エントマが口唇蟲を失う展開にすらならないイビルアイとモモンの出会いの話となりました。
蒼の薔薇二人が死なず、アインズとエントマがイビルアイにヘイトを持つ展開にならなかった以外は、これから続くアインズとヤルダバオトの戦いは原作と多分同じだとお考えください。


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歩行(大虐殺)

原作ではアインズによって行われたカッツェ平野での大虐殺。
本作でも殺戮は行われますが、ちょっと展開が違います。


王国軍の大軍を前にしてアインズは当初超位魔法を使うつもりだった。

帝国から最大の魔法をもって開戦の合図として欲しいというような事をお願いされた気がしたので、それならうってつけの魔法があると実際に使うのを楽しみにしていた。

だが、ここにきてちょっと彼の気分が変わった。

 

(《イア・シュブニグラス/黒き豊穣への貢》を使えば大きな戦果を帝国にも見せることができるだろうけど、でもあれを使うと下手をしたらガゼフを殺してしまうかもしれないんだよな……)

 

ガゼフの事を一人の人間として気に入っていたアインズはできれば彼を殺したくはなかった。

勿論魔法を発動してもその効果によって後から召喚される()()()()()()()を操る自信はあった。

けどだからといって『もし』が絶対に無いとは言えないのだ。

 

「ふむ……」

 

アインズは今にも進軍せんとしている王国軍を眺めながら一人最前線で尚も呑気に考えていた。

 

(そうだ。あれをやってみるか。見方によってはある意味カッコ良く見える気がするぞ)

 

 

「何のつもりだあれは……?」

 

ボウロロープ侯は正面から一人向かってくるマジックキャスターの格好をしたアンデッドをワケが解らないという顔で見つめていた。

 

(アインズ・ウール・ゴウンがアンデッドだった事に驚いていたら、なんか呑気に歩いてきたぞ? 一体あれは何のつもりだ?)

 

「将軍、どうされますか?」

 

副官が怪訝そうな声で指示を求めて彼に訊いた。

そんな指示を仰ごうとする副官は、ボウロロープ侯と同じくアインズの行動の真意が掴めず、その顔には気味悪がっている感情がありありと浮かんでいた。

 

「ああ……まぁ、進軍だ。あの頭のおかしいアンデッドを踏み潰せ。魔法を使ってくるだろうから正面からは行くな。回り込んで包囲して仕留めろ。弓隊には第一陣が接敵するまで矢を放たせろ」

 

「はっ」

 

ボウロロープ候の許可が下りた事によって先ず左翼の前列から5千の兵がアインズ目掛けて駆け出した。

たった一人のアンデッドに正直この判断は馬鹿らしく思ったのだが、自身がアインズをそれだけの戦力を持っていると判断したので、先ずはそれを確認しようとしたのだ。

因みに虎の子である自身直属の精鋭兵団には待機を命じていた。

 

(あいつらは駄目だ。まだ動かす時ではないし、動かす価値があるようには思えない)

 

「将軍! あれを!」

 

正直歩兵が接敵する前に弓矢によってアインズが落命するのが先かもしれないとボウロロープ候が次の指示の事をぼんやりと考えていた時だった。

突如副官の驚きに染まった声が彼を淡い物思いから現実に引き戻した。

 

「どうした? なんだ?」

 

「いえ、あれ……」

 

「ん? ……は?」

 

副官が大声で指を指していたのはアインズだった。

そこには『今頃』には弓矢を受け、針のむしろとなって倒れているアインズの死体が転がっているはずだった。

だが実際には全くその常識的な予想とは異なった展開となっていた。

弓矢自体は問題なく全てアインズが歩いている位置まで届いているのだが、その内の直接彼に当たった矢の全てが彼の体に当たった瞬間、いや、触れた瞬間とも言うべき時にまるで石の壁にでも当たったような衝撃を受けて折れて地に落ちていたのだった。

そして矢を受けた本人はといえば、依然として何事もなかった様子でただ歩いて尚もこちらに向かってきていた。

どうやら当たって砕けた矢では彼の歩調を鈍らせることすらできないようだった。

 

「なんだ……どういう事なのだあれは……」

 

「な、何かの魔法でしょうか……」

 

(魔法にしたってあれだけの矢玉を一斉に受けて無傷で済むものか?)

 

ボウロロープ候はようやく込み上げてきた不安を振り払うかのように頭を一度振ると、間もなく接敵するはずの歩兵の様子を目で追った。

 

(何の魔法かは知らんがあれだけの兵に直接攻撃されれば流石に……)

 

そんな淡い期待をボウロロープ候が持った時だった。

アインズはちょうどその時に王国軍の歩兵が後10メートル程にまで迫ったところである()()()を使った。

 

「絶望のオーラⅤ」

 

アインズがスキルを発動させると彼に肉薄した兵士が途端に地に伏せて動かなくなった。

それは彼の近くにいた者だけではなかった。

その恐ろしい何かの余波はまるで波紋のように広がっているようで、まだアインズの姿すらまともに見えていない後方の兵士たちにまで程なくして届き、そしてその瞬間に前列の兵士たちと同じように倒れて動かなくなった。

 

「……」

 

「……」

 

ボウロロープ候と副官はその様子を愕然とした顔でただ眺めていた。

 

(あ……は……? 一体何が……)

 

「将軍!! 将軍、どうします?!」

 

驚きの感情が籠もった大声から悲鳴じみた大声へと変わっていた副官の声でボウロロープ候は再び呆然としていた状態から我に返った。

 

「あ……? ……っ、と、突撃だ。左翼の全ての隊をやつに向かわせろ! 騎兵突撃用意!!」

 

ボウロロープ候の大音声で現実離れした光景に彼以上に呆然としていた騎馬隊に喝が入る。

突撃の下命が下りたようだ。

 

正直あんなものを見せられてどう戦ったらいいのか全く判らなかったが、騎士たちは兵の本分で何とか体裁を整えると、歩兵隊の前に出て何とか陣形を整えた。

 

指示された陣形は長蛇の陣。

騎馬隊としては妙な陣形だったが、その陣形を選択した理由がアインズただ一人の殲滅のみを目的としたものだと考えれば納得がいくものだった。

つまり何が何でもアインズを後続の兵全てを使ってでも押し切って倒すというボウロロープ候の咄嗟の判断が形となったものだった。

 

「騎兵が進軍するから弓はもう使うな! 弓隊も抜刀して歩兵隊と一緒に突撃しろ! いいか! 騎馬隊の後を追うんだ! ただひたすらに前だけ見て進めぇ!!」

 

かくして鬼の形相となったボウロロープ候の号令で、まさかの左翼6万による全軍突撃がアインズ一人に対して始まった。

左翼本陣に残っているのはボロロープ候の副官と万が一を考えてと彼から託された精鋭兵団だけだった。

副官は全軍を率いて勇ましく駆け出したボロロープ候の無事の帰還をただ祈るのだった。

 

―――だが、現実は非情だった。

 

「…………」

 

副官と精鋭兵団たちは目の前の光景を言葉を失くして見つめる事しか最早できなかった。

それだけ現実と受け入れがたい惨状が広がっていたのだ。

彼らの視線の先には、アインズに向かって進軍した6万の大軍が彼に接敵したと思われる地点からまるで海が割れるように裂け始め、彼が歩いてきた跡の両側にあっという間に無数の動かなくなった兵の山ができるという悪夢のような光景があった。

 

「……て……だ……。っ、撤退だ! 撤退するぞ! 王と全ての軍にそれを伝えるのだ!!」

 

渇き切った口からようやくその言葉を絞り出した副官は自らが鞭を打たれた馬のように兵を率いて全力で駆け始めた。

もはやあれではボウロロープ候や彼に従って向かっていった他の貴族の安否は火を見るより明らかだった。

だからこそ彼は直感で最前の判断を取るために、伝えるために直ぐに行動を移したのだった。

 

だが、幸運にも同じ光景を目の当たりにしたレエブン候とガゼフが彼より早く撤退の判断を下していた為、既に王国軍は両名の進言を受け入れ、王都への撤退行動へと移っていた。

 

一方アインズはといえば、呑気に死体を撒き散らしながら、恐らくこういう状況においてガゼフが取るであろう行動を予測し、彼との再会を確信してウキウキと歩を進めていた。




半端な感じですがここで終わります。
ガゼフが辿る運命もこの話では原作と異ならせるつもりなので、多分どこかで続きを出すと思います。
その時はタイトルもこの話の続きと判り易く、したいですね。


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結論を出していた再開

結局前回の話の続きとなりました。
戦闘描写は一切なく、殆ど男二人の地味な話です。
が、原作とは大分違う展開です。


『アインズ様、仰せつかっておりました目標の人間がそちらに近付いております』

 

「む、そうか」

 

その時の状況をナザリックより監視していたニグレドからのメッセージでアインズは自分に迫ってくるガゼフの存在を知った。

スキルで殺してしまわないように絶望のオーラⅤを解除して彼女から情報として貰い受けたガゼフが来る向方に自らも歩みを進める。

 

「あ、見えた」

 

やがて前方より3人の人影が見えた。

ガゼフはその3人の真ん中におり、両側の2人はアインズが初めて見た気がする人間だったが、ニグレドから即座にその2人に関する情報を得て彼らがガゼフの親しい仲の人間だという事をアインズは把握した。

 

「ゴウン殿!」

 

「やぁストロノーフ殿!」

 

お互いの姿がはっきりと視認できる距離になってガゼフの方からアインズに声を掛けてきた。

その声にアインズを直ぐに応じ、彼はまるで久しぶりに会う知人に対する挨拶のような、そんな気軽さを感じる明るい声を発するのだった。

 

「ゴウン殿……お久しぶりです」

 

「そうですね。こうして直接会うのはカルネ村の時以来でしたか」

 

「……そうですね」

 

アインズに返事をしながらガゼフは彼が歩いてきた方向を目で追った。

そこには眠るように何の外傷もなく屍となって横たわっている王国軍の兵士たちの身体が低い丘のように連なっていた。

アインズが歩いてきた跡はさながら丘の間に続く小道のようであった。

 

「やってくれましたなゴウン殿。いや、本当に……よくもここまで……」

 

果たしてその時のガゼフの声に含まれていた感情はどういうものだったか。

憤りのような称賛するような、そんな何とも言えない感情が渦巻く平坦な声で、彼は呆れ果てたというような顔でアインズにそう言った。

アインズもガゼフの視線の先を追って後ろを振り向きながら少し肩を竦ませて言った。

 

「申し訳ない……だが向かって来るものだからな」

 

「っ……。お二人の会話の間に入るご無礼をお許しください。私は王国兵士のクライムと言います。恐れながら貴方にお訊きします! そ、そのお言葉ですとまるで向かってこなければ彼らは死ななかったというように聞こえるのですが……?」

 

「その通りだクライム君。彼らは私に向かって……いや、近付きさえしなければ死ななかった」

 

「何だそれは……そんな魔法があるのか……。近付くだけで死ぬなんて……」

 

天を仰ぎながら悪い冗談だと言わんばかりの表情でそう言った男はブレイン・アングラウスだった。

アインズは彼のその言葉を聞いて軽く笑いながらとんでもない事を言った。

 

「ははは、それは違いますよ。これは魔法ではない」

 

「……え?」

 

ガゼフを含めて、アインズの前の3人は唖然とした顔で彼を見た。

 

「これは単純に私の力だ。武技みたいなものなので、魔法の行使によって消費する魔力というような消耗も私には発生していないのですよ」

 

3人は一切の消耗もなく、ただ気ままな歩行だけで数万の人間を殺してここまで来たという怪物に最早返事もできなかったが、唯一人その中でブレインだけが気丈にも無意識からか「化物か」と一言誰にともなく呟くのだった。

 

「そ、それは……。あっ、つまり今私達が貴方とこうして会話できているという事はその力を解除しているという事ですか?」

 

「その通りですストロノーフ殿。私は貴方には死んで欲しくなかったのでね」

 

その言葉はまるでガゼフに付いてきた後ろの2人に関してはどうでも良かったという風にも取れたが、アインズはこの時点でブレインとクライムがガゼフと親しい仲という事情からある程度彼らにも配慮する事を決定していた。

 

「なるほど。では、後ろの2人も今こうして貴方の前に居られるのもその配慮のおかげという事ですね。……ありがとう」

 

無数の兵士たちの死体を前にして正直お礼の言葉を言う事が倫理的に誤っている気はしないでもなかったが、ガゼフは何とか己の感情を殺して先ずは目の前の超常の存在の機嫌を損ねない事に全力を尽くす選択をした。

 

「ストロノーフ殿、無理に礼など言う必要はない。貴方達にとって今の私は敵、それも数万の兵の命を奪った憎き敵という立場である事は私も否定するつもりはない」

 

「……ではこのやりきれない気持ちは貴方を戦場へと送った帝国へ向けることで、この場は収める事にします。ふぅ…………よし、もうこの話はなしだ。2人もいいな? こう言っては卑怯と思うかもしれないが……戦争だ。王国にこうなる事を避けさせることができなかったという責任が俺に無いとも言い切れない」

 

「ガゼフ……」

 

「ストロノーフ様……」

 

ブレインとクライムは苦渋、片や同情に満ちた顔でガゼフを見つめるだけで特に何も反論する事はなかった。

そんな2人に謝辞の一礼を一度するとガゼフは改めてアインズに向き直って言った。

 

「それで、ここまで私を生かしてくれた理由は何でしょうか?」

 

「ああ、うむ。ストロノーフ殿、戦の趨勢、これで決まったという事で良いかな?」

 

「ああ、完敗だ。私は一戦士長に過ぎないが、それでもまだ過半以上の兵力が残っているとはいえ『貴方一人』で6万近くの兵を葬ったという戦果に対して王国は敗北を認めるべきだと私は思う」

 

「そうですか。では国王陛下にその進言自体は……」

 

「任せて下さい。何人かの力を借りて……そうするまでもないかも知れないが、王への進言は責任を持って行います」

 

「よろしい。では此度の戦争に私が加担する事を決めた動機を先ずお話します」

 

「ええ、是非お願いします」

 

ガゼフはここからが本題だということを本能で察して表情を引き締めた。

恐らく今からアインズが語る事は6万の兵の命という戦果相応の何かを求めてくるのは明らかだった。

アインズは軽く咳払いを一度するとこんな話をした。

 

「私はかねてより自分の『国』というものが欲しかった。その為に準備もした。国を手に入れた時に組み込む内政のシステムなど言わずもがなだ。当然それらを担う人材に関しても万全の状態だ」

 

「話の腰を折って申し訳ない。ゴウン殿、それはつまり、貴方はこの戦の勝利者としてもしや……」

 

「うむ。国を興すにはまず領土が必要だろう? 故に私はリ・エスディーゼ王国に私へのエ・ランテルの割譲を要求する」

 

ある程度予想はできていたとはいえ、アインズの言葉は3人には衝撃だった。

まさかアンデッドが自らの国欲しさに人間の戦争に加担し、見事その目的を達するなんて悪い方の夢物語のようだった。

 

「もしこの要求を飲むのなら私は以下のことを誓約します」

 

「そ、それは……?」

 

ガゼフは自然と乾いていた口で苦労しながらアインズに訊いた。

 

「一つ、私に領土を割譲した時点でリ・エスティーゼ王国を我が国の同盟国とする事。これによって我が国は盟主国としてあらゆる国難に協力し、貴国を助けることを約束します」

 

「……」

 

戦勝国らしい有無を言わさぬ物言いにガゼフは気圧され気味だったが、それでもアインズの言葉を冷静に頭の中では吟味していた。

 

「ゴウン殿、それはつまり王国が同盟国なることでこれ以降帝国の脅威に晒されない、と取ってもよろしいのでしょうか?」

 

「察しが良いですねストロノーフ殿。その通り、ここまで力を示した私に、そして我が国と同盟を結んだ国に帝国がちょっかいを出す事は考え難いですよね? まぁ私は、王国と同盟が成立したら帝国にもこの同盟に加入するよう提案するつもりですけどね。断ることは、まぁないでしょう」

 

「なるほど、同盟国同士となればお互いが戦う事もなくなる……」

 

「その通り。ましてや私はアンデッド。不死身です。同盟が成立すれば王国と帝国が争うことは永遠になくなる。……皇帝は相当悔しがるでしょうけどね」

 

「私は政治に疎いのですが、悪い話ではない、という気はしますね」

 

「そうですか。話を理解してくれているようで私も嬉しいです。いや、私もなかなかに弁達者なのだな」

 

 

ここに来て2人を取り巻く雰囲気は談笑が発生するくらい和やかなものになりつつあった。

そんな2人をブレインとクライムは微妙な顔で見ているのだった。

 

「ああ、そうだ誓約はもう一つあるのです」

 

「なんでしょう」

 

「敗北を認め、同盟を承知して頂けるのなら、私は貴方達を今日此処では殺しません」

 

「……」

 

ガゼフはこの言葉にハッとした目でアインズを見た。

その話はまるで自分が王国に対して人質扱いされているようで正直気分が良くなかった。

だがアインズはそんなガゼフを気にかける様子もなく、今度は彼の後ろに先程から控え続けていたブレインとクライムを見ながら話を続けた。

 

「ストロノーフ殿、今貴方と後ろの2人は、この様子を何処かで見守っている者たちにはどう映るでしょうね?」

 

「え?」

 

ガゼフ達3人はアインズの言葉の意味が解らなくて異口同音した。

 

「数万の命を瞬く間に奪ってきた私に物怖じなく近付き、そして今なおこうして私と()()()事が出来ている貴方達は外から見ている者たちにはどう見えるでしょう?」

 

「いや、まさか……」

 

ガゼフはアインズが言わんとしている事を何となく察してまさかと思った。

後ろではブレインも同じ結論に達したようで微妙な表情をし、その隣のクライムだけがまだ理解できず眉を潜めていた。

 

「勿論私が魔法の効果を切ったと思われるかもしれない。が、生きて戻ることによって貴方達はきっと数万の命を奪った怪物に物怖じなく接し、そして終戦の条件を取り付けてきた者としてきっと英雄扱い。つまり王国にとって失いたくない存在になるのではないでしょうか?」

 

「……つまり私を利用したと?」

 

戦士の誇りを利用されたようで剣呑な声出し憮然とした表情をしたガゼフにアインズは頭を振りながら言った。

 

「いや、結果としてこれが良いかな、と思い至っただけです」

 

「……? というと?」

 

「正直に言えば、私は貴方を自分の仲間にしたかった。だが、それは難しそうだという結論に達したからせめて貴方を上手く生かす選択をした、といったところです」

 

「え、それは……」

 

大量に死者を出した殺戮者でありながら唐突にそんな当事者に似つかわしくない人間臭さを出したアインズにガゼフは戸惑った。

アインズはそんな彼を真っ直ぐ見ながら思ったことを言った。

 

「本当の仲間とは力ずくでは出来ない、という事です。だからこそ私は貴方に人間でありながら安易に失いたくない魅力を感じた」

 

そう言うとアインズは話が決まったら帝国に伝えてくれと一言だけ言うとフライの魔法でどこかへ飛び去っていった。




ガゼフ生存ルート完了!


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尋問という名の反省会

転移後の世界の情報についてはあらかたニグンさんから得ており、かつ漆黒の剣のメンバーが生きているという設定を下地にしている為、本話ではニニャの性別は把握していても日記までには興味を持っていないという設定になってます。
あと原作よりもっと抜き打ちのアインズ様の電撃訪問となっているので、その場にいる人物にデミウルゴス、コキュートス、ビクティム、影武者はいません。

※今回の話のモチーフとなった原作のエピソードの二次創作は結構あるので、ありきたりの流れに退屈する可能性が大いにあると思います。


「セバスが裏切った?」

 

アインズはソリュシャンからの不穏な内容の報告に思わず耳を疑った。

だが、彼女の声の真剣さからそれが偽りであることはなさそうだったし、何より今現在に至るまでNPCたちが自分に対して背信的な態度を見せた事はなかった為、結局事実だと結論した。

しかし重要なのはその内容である。

一体どのような行いに対してソリュシャンは裏切りだと判断したのだろう。

アインズはそれを確認した。

 

「で、裏切りというのはセバスは何をしたんだ?」

 

ソリュシャンから事の詳細を聞いてアインズは実にセバスらしい行動だと先ず思った。

そしてそれを裏切り、問題のある行動だと判断したソリュシャンの事も理解できた。

なのでアインズは先ずはソリュシャンの機転を褒め、それからセバスが館に戻ったら自分に知らせるようにと指示をした。

 

(なるほどなぁ……確かにそれは組織からしたら問題のある行動だよな。だけど裏切りとまで言うのは……まぁあいつらからしたら俺に対する行為としてはそう思えたんだろうな)

 

アインズは自分の今の境遇が現実世界の会社で言うところの管理職、またはバイトを管理する社員のように思えた。

彼らをまとめるのは大変だが、それでも現実世界の仕事と比べれば、娯楽の延長のような現在の状況を考えると決して嫌ではない。

寧ろ楽しい、やり甲斐のある環境にいるとさえ思えた。

そんな風にアインズが自分の元いた世界と今いる世界の事を比べながら物思いに耽っているところにセバスの帰還の報告がソリュシャンよりメッセージで伝えられた。

 

 

「セバス」

 

「?! アインズ様?!」

 

突然後ろから声を掛けられ、振り向いた先に主がいたのでセバスは激しく狼狽えた。

その様子を見てアインズはソリュシャンに自分が来ることをセバスにも伝えるよう指示するのを失念していた事に気付いた。

 

(いやでも、普通は伝えていてもおかしくはないよな。うーん、いや、もしかしたら……)

 

アインズはセバスの後ろにいたソリュシャンをちらりと見た。

彼女はいつもと変わらない様子に見えたが、アインズはどことなく感じる雰囲気がツンと尖ったもののように感じた。

 

(もしセバスが動揺するのを見越した上でわざと伝えてなかったとしたら、こいつもなかなか意地悪なところがあるな)

 

「セバス、まぁ落ち着け」

 

「は、は……これはお見苦しいところを……」

 

「良い良い。取り敢えず応接室に来てくれるか? あるよなソリュシャン? そこまで私を案内してくれ」

 

「は、こちらです」

 

「セバス?」

 

「は、畏まりました」

 

突然のアインズの訪問、そして何処となく普段より冷たく感じたソリュシャンの自分に対する視線。

セバスはそれだけで事態の大凡の見当が付いた。

セバスはこれから起こる展開を予想して、アインズの背中を見つめながらズシリと重い気持ちになるのだった。

 

 

「さて、セバス。先ずは突然訪問してすまないな」

 

「いえ、アインズ様が謝罪される必要など微塵もありません。寧ろ常に出迎えられる心構えを怠っていた私に非があります」

 

「いや、そこまで身構えなくても良い。疲れるだろう。ソリュシャンも楽にしろ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

ソリュシャンはそう言って一礼をしたものの、特に座ったりはせずに元の姿勢のまま体の前で手を合わせた。

どうやらセバスと同じく気を抜く事には抵抗があるらしい。

アインズはそんな2人の献身的とも言っていい真面目ぶりを心の中で嬉しく思いながら、セバスの方を向いて一度フムと頷くと話し始めた。

 

「セバス、その様子では大方の予想が付いているみたいだな?」

 

「は、私が拾った人間……ツアレの事だと愚考致します」

 

『ツアレ』

 

『人間の女』ならまだしも感情が籠もった声で人間の名前を言うセバスにソリュシャンは密かに気分を悪くした。

人間軽視の傾向が強い方であるソリュシャンはどうしてもその人間に配慮を感じるセバスの態度が気になるのだった。

アインズもセバスがツアレと名前を呼んだ事に気付いたようだったが、ソリュシャンとは逆に何処か楽しげな、まるでからかっているような雰囲気でセバスに言った。

 

「ツアレ? そうか、その人間はツアレというのだな?」

 

「は、はい」

 

「……女か?」

 

「え、ええ……」

 

「ふむ、そうかそうか……」

 

骸骨の顔なので例え笑っていてもそれは他者から見たらそれが判らないのだが、その場にいたせバスとソリュシャンには確かにアインズが笑っているように思えた。

それも声を発する笑いではなく、何処となく卑らしさを感じるニヤニヤとしたものだった。

 

「セバス、その女を一度見てみたい。連れてきてくれ」

 

「え? は、は。畏まりました暫しお待ちを」

 

「ああ、悪いが5分くらい時間をかけて来てくれ」

 

「え? それはつまり5分後に、という事で……?」

 

「そういう事だ。部屋を出て5分後に連れてきてくれ」

 

「……? 畏まりました。では」

 

ガチャリとドアが閉まる音がしてアインズとソリュシャンだけになるとアインズはこらえていた笑いをついに漏らしてしまった。

 

「っ……ふふ」

 

「アインズ様?」

 

「ああ、すまないソリュシャン。あいつが助けた女のことでいちいち緊張する様子が愛らしくてな」

 

「愛らしい……?」

 

てっきり厳しい叱責がセバスに飛ぶと予想していたソリュシャンはアインズのこの意外な言葉に眉を寄せて首を傾げた。

アインズは尚も小さく吹き出しながらソリュシャンを見て言った。

 

「ソリュシャン私はな、セバスの今回の行動自体にはそれほど不快感を感じていない。が、組織としては確かに問題のある行動だったとは思っている」

 

「……? と仰いますと?」

 

「恐らくセバスの行動原理にはあいつを創造したたっちさんの存在が大きく影響している」

 

「たっち・みー様が……?」

 

「そうだ。たっちさんの性格は知っているか? とにかく正義感が強くて、困っている人がいたら助けるのは当たり前、と公言していた人だ。そんなたっちさんが創ったキャラだから、セバスはカルマ値も極善だし、その関係もあって色濃くたっちさんの性格の影響も受けてしまったのだろう」

 

「なるほど」

 

「親の影響から本能として取りたい行動と、私へ絶対の忠誠を誓う気持ち、その板挟みであいつはどれだけ苦悩したのだろうな」

 

「……」

 

「言っておくがお前には一切非はない。断言するが正しい行動だったと私は思う。だからこそこの場があるわけだしな」

 

「そ、そんな……。私はこうした方が宜しいかとナザリックの事を思って……」

 

「そうやって自分で判断し、ちゃんと私に教えてくれたのが良かったのだ。ソリュシャンお手柄だったぞ。今回は表での活動の件も含めてよく働いてくれた」

 

「アインズ様……」

 

津波のように押し寄せる賛辞にソリュシャンは感激から惚けた顔となる。

アインズからすればただの言葉でここまで嬉しそうにするのかとチョロさに申し訳無さを感じる程であった。

 

 

「……」

 

一連の会話を扉の向こうで聞いていたセバスはアインズの優しさに、感激から一人黙ってただただ涙していた。

それから目頭を押さえて何とか涙を抑えると何かを決意した真剣な表情でツアレが居る部屋へと向かうのだった。

 

(過ちを犯したこの身に何と過分なお優しいお言葉とご配慮。……今後アインズ様に背く行動は決して取るまい。下される命には全身全霊を持って応え、鉄の意志で必ずや果たさん)

 

 

 

「ツアレを連れて参りましたアインズ様」

 

「ああ。ん……?」

 

アインズの姿を見て一瞬恐れる表情をするも、気丈にも直ぐに持ち直し自ら彼の前に進み出たツアレを見てアインズは何か頭にひっかかるものを感じた。

僅かに身を乗り出して改めてツアレを見つめるアインズにセバスは軽く驚き、ツアレは僅かに身を竦ませた。

ソリュシャンはといえば、敬愛する主が人間如きの雌に何か気を引かれている様子に明確に嫉妬し、口の端を人知れず噛むのだった。

 

(なんだ……? こいつ何処かで見たことあるような……? いや、顔か……? あっ、そういえばあいつに似ている気がする)

 

アインズの脳裏に少し前に助けた冒険者パーティーのある人物の顔が浮かんだ。

 

「お前がツアレか?」

 

「は、はい……」

 

「なぁ、これは私の予想なんだが、お前は妹とか姉はいないか?」

 

「え?!」

 

アインズの言葉にツアレは驚きに目を見張る。

どうやら予想は当たっていそうだとアインズは思った。

 

「その反応はいそうだな? もしかしてニニャとかいう名前だったりするか?」

 

「わ、私は……私の名前は……本名はツアレニーニャといいます」

 

「ツアレ、ニーニャ……ニニャ……ああ、当たりか?」

 

「あ、あな……」

 

「ゴウン様」

 

「え?」

 

「ゴウン様とお呼びなさい」

 

つい自分の妹を知ってるかも知れないと問い質そうツアレがしたところで、横からセバスの固い声がした。

彼を見ると初めて見る厳しい目をしていた。

ここは失礼があってはならない。

それが下手をしたらセバスにも迷惑を掛ける事になるかもしれないと判断したツアレは、謝罪すると居住まいを正してアインズに言った。

 

「失礼致しました。ゴウン様は……あの……私の妹をご存知なのですか?」

 

「多分、といったところだな。本人から詳しいことを聞いたわけではないが。お前の妹である可能性は高いと思う」

 

(なんかあいつ性別隠してたみたいだし、多分当たりかな)

 

「そ、そうですか。でも良かった……妹は生きているかもしれないんですね……」

 

ツアレがホッと安堵の表情をしたのも束の間、アインズがそれを遮るように今度はセバスを見て話を続けた。

 

「悪いがその話は後だ。でだセバス」

 

「至高の御方のご命令には絶対服従致します」

 

「ん……」

 

アインズが話の全容を言う前に片膝を突いて絶対服従の意を示すセバス。

その態度からは、これから下されるかも知れない彼にとって如何なる非情な命であっても必ず従うという強い意志が目に見えて解った。

 

「そうか……。お前は自分が犯した失態を理解しているんだな?」

 

「はっ」

 

「私が忠誠の証を示せと言うかも知れない、という事も予想できていそうだな?」

 

「殺せと申されるのでしたら……」

 

「ふむ」

 

殺せという不穏な言葉にツアレはビクリと震え、それが自分のことであることを何となく悟った。

見る限り眼の前のアンデッドはセバスの目上の存在のようだった。

そして自分を助けた事がアインズと呼ばれるアンデッドに迷惑をかけるという失態をセバスが犯してしまい、それを咎められているのだと、セバスの一言からツアレはそこまで悟ったのだった。

 

「……」

 

正直死ぬのは怖い。

震える唇をそうさせまいと我慢しようするので精一杯だった。

だがこれまでに何度も早く死にたいと思うほどの辛い目にも遭ってきた。

だからどうせ死ぬなら、命の恩人である誠実な(セバス)の手に掛るのなら悪くない最期だとツアレは思えた。

 

「セバス様……」

 

アインズとセバスの間に立ち、ゆっくりとした動作で跪き頭を垂れ、ツアレは自分の首をセバスに差し出した。

 

「ツアレ……」

 

セバスはここに来てツアレの器量の良さ、察しの良さに感心していた。

それは意外にもソリュシャンも同じで、劣等種族ながら自分の運命を誰よりも悟り、臆病で貧弱に見えた彼女が逃げ出しもせずに話の流れを汲んで自ら命を差し出してきた事を純粋に見直していた。

 

一方アインズはといえば……。

 

(え、なにこれ)

 

軽く脅すだけで反省を促すつもりだったのに、勝手にシリアスな流れになってきたのでか内心かなり焦っていた。

セバスが拳を振り上げて彼女の後頭部に狙いを定めたところでセバスもツアレも本気であることが解ったのでアインズは慌てて(表面上は冷静に)言った。

 

「待て。私はまだ何も言っていないぞ?」

 

「っ、失礼しましたアインズ様!」

 

確かに主の承諾もなしに勝手に事を進めようとしていたことは無礼であった。

セバスは直ぐに姿勢を正して一歩下がると謝罪した。

そしてその事を解っていながらも部屋を取り巻く雰囲気から言葉を挟むべきではないと独自に判断していたソリュシャンもまた、己の無礼をセバスに倣って謝罪した。

 

「ああうん、いいんだ。お前から行動で示してくれたので今回は不問とする。あと今回の件の経緯は私自ら他の守護者に伝える。ソリュシャン異論はあるか?」

 

「適切なご判断かと存じます」

 

「うむ。ではそういう事だセバス」

 

「重ね重ねアインズ様には篤い御慈悲を賜り、感謝の言葉もございません」

 

「はは、良い良い。それよりツアレのこれからの処遇について話そうか」




この後はツアレ本人からセバスの傍に居たいのでナザリックで働きたいと希望し、アインズがそれを表での活動に対するセバスへの褒美とする事で彼女は原作と同じポジションになります。
ソリュシャンに対する褒美の話とかは単話でやってみたいですね。


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月夜の森で

前話からの流れでまた大虐殺より前の話です。
表現は間接的にしてますが、割と性的だと思える描写があります。


クレマンティーヌを確保した直後、アインズは何となく今自分と離れて活動している仲間のことが気になった。

離れていると言っても自分の目が常に届くナザリックにいる仲間の事ではなく、完全に別働隊として活動している仲間の事だ。

クレマンティーヌより前に配下にしたニグンから得た情報から察するに、この世界にユグドラシルの最高位のレアアイテムであるワールドアイテムが在る可能性は低くないと思えた。

故にワールドアイテムを装備していない自分から離れている仲間の事が、同じくナザリックから離れて活動していた事もあってふと心配になったのだ。

 

(何やっているんだ自分は。今更心配するなんて警戒の意識が低いぞ)

 

アインズは自分の迂闊さに反省と苛立ちを覚えながら努めて冷静を装った声で早速アルベドに連絡を取り、今最も自分の管理から遠いところで働いている者の確認をした。

 

 

 

「アインズ様に叱られるぅゥゥ!!」

 

「誰に叱られるだって?」

 

「あ、アインズ様?!」

 

木の上から遠方を眺めていたシャルティアは、自分の下方から予想だにしない愛しい声を聴いて仰天した。

おかげで発動していた血の狂乱も治まり、落ち着きを取り戻した彼女は、敬愛する主を頭上より高い所から見下ろすという非礼を一刻も早くやめてそれを詫びる為に即座に地面へと降りた。

 

自分が地面に降り立った時には既に彼女の護衛役として従えていたヴァンパイアブライドの二人がアインズの前方、左右に別れて膝を突いて迎えていた。

用意されていた中央の位置にシャルティアは直ぐに着くと、彼女も部下の二人と同じように膝を突いて主を迎え、そして先程の自分の非礼も詫びた。

するとアインズは慈悲深くも全く気にした様子もなく、軽く片手を上げるだけで応えるのだった。

 

「大変失礼致しんした!」

 

「ん? まぁ良い。ところでシャルティア」

 

「は、何でありんしょう!」

 

「うん、まぁ先ずお前の疑問に答えておこう」

 

「いえ、そんな! アインズ様が私に会い(愛)に来て下さいんしたのに態々理由など!」

 

「ん? なんか今……まぁいいか。いやそれはお前……そうもいかんだろ。考えようによってはお前の任務遂行能力を私が疑問に思っているとも取れるわけだし」

 

「なるほど、その為の査察でありんすね!」

 

「いや、だから違うと……まぁ血の狂乱は抑えて欲しかったが」

 

「……っ、も、申し訳……」

 

「まぁ良い。大事にはなっていないようだしお前も油断をしないように努める良い機会になっただろう」

 

「は、はい!」

 

「うん、でだ。私は単にお前の事が心配になって来ただけだ。別にお前の事を信用していないわけではないぞ? 本当に、単純に、純粋に、お前が心配でだな」

 

「あ、アインズ様ぁ……」

 

望外の、あまりにも有り難い言葉にシャルティアは身体を震わせながら目を潤ませ、頬を染めて喜びの感情を露わにした。

その時に身体の一部分に関しては『悦び』にすら達してしまい、既に『ソコ』から溢れた愛情は、密かにシャルティアの足元まで伝い、彼女が履いていたソックスに物理的な変化をもたらしていた。

 

「で、本題に入るが、さっきの私に叱られるというのはどういう事だ?」

 

「あ……」

 

シャルティアは自分の失態を苦々しく思いながらもアインズに事の顛末を包み隠さずに正直に話した。

 

「なるほどな……お前の名前を知った人間一人と存在だけを知るグループを、か」

 

「は、はい……」

 

「その、野盗のアジトで会った男の名はブレイン・アングラウス、だったか?」

 

「はい」

 

「そいつの事は一先ず放っておいて良い」

 

「え?」

 

意外な主人の判断にシャルティアは思わず驚きの声を漏らした。

そして直ぐに主人の判断に僅かでも疑問の感情が混じった反応をしてしまった事を口元を抑えて反省して謝った。

 

「も、申し訳……!」

 

「良い良い。目撃者は居ない方が良いというのは間違いではないのだ。その上でそいつを消さなくて良いのはな。そのアングラウスという男は野盗に加担していたのだろう?」

 

「え? ええ……」

 

「対してお前は人間の社会において反社会的な存在を害したわけだ」

 

「そ、そうでありんす……ね?」

 

「そんなやつらに加担していたアングラスがそうそうお前の事を一般市民に話すと思うか? もし話したとしても信じてもらえると思うか? 恐らく自分の行いに後ろめたさを感じる真っ当な価値観を持っていれば、余程仲が良くて信用ができる極限られた者にしか話さないだろう。そんな規模の話が噂としてどれほど広まるか知れた事とは思わないか?」

 

「な、なるほど」

 

主人の聡明さにシャルティアは感銘に輝く目を向ける。

アインズはその視線にまんざらでもなさそうな反応で軽く咳払いをすると話を続けた。

 

「それにその男は少なくともお前の部下と同等かそれ以上の強さみたいだしな。この世界では強者かもしれない。だとしたらレアだ。偶然の運命で死ぬ事がない限りは自分の目で品定めをして可能なら手に入れたい」

 

「お望みでしたら直ぐにでも!」

 

「はは、そんなに急ぐことはない。王国の周辺で活動しているなら強さが本物ならまた見つけることもあるだろう。その時は私のこの判断が正解か誤りか判るかもな」

 

「アインズ様に間違いなどありんせん!」

 

「ありがとうシャルティア。だがお前の私に対する今のその態度は盲信だと知れ」

 

「え……」

 

「根拠なく何でも信じるな決めるな。それは時に油断へと繋がり最悪の事態すら招くかも知れない。別に私は私を信じるなとか慕われるのが迷惑だなどと言うつもりは無いぞ? 私はただ、自分の力で考え行動し、その上で私の力になって助けてくれるお前たちが好きなんだ。早くそうなって欲しい。それだけだ」

 

「アインズ様……畏まりんした! 妾頑張りんす! 精一杯努力しんしてアインズ様のご期待に常に添えられるよう立派な下僕になってお見せするでありんす!」

 

「うむ、それでこそ我がナザリックの守護者だ」

 

「はい! 今後の私に是非ご期待くんなまし! ……それで、でありんすがアインズ様」

 

「ああ、この女か」

 

「はい、この女は処分しんすか?」

 

アインズに向けていた温かい感情に満ちた声とは正反対の冷たい声で、自分が一瞬冷静さを取り戻すきっかけを作った人間の女、ブリタを見据えながらシャルティアは彼女の処遇をアインズに問うた。

アインズはその質問には即答せずに少し考えるように顎に手をやった。

 

(どうするかな。真っ当な冒険者だからさっきのアングラウスという男を逃がすのとはわけが違う。こいつは王国の社会の一員だから変に噂が広まると困るけど……)

 

アインズは自分が渡したポーションのおかげでシャルティアが一時的に我に返り、更にそれが自分が彼女と問題なく合流出来たことに繋がった事を考えた。

 

「……私が初期にまともに交流した数少ない王国の人間というのもあるしな。それにこいつ一人なら……シャルティア」

 

「はっ」

 

「こいつはお前の下僕にしろ。その上で平時は王国に潜伏して情報を提供する情報源とするのだ」

 

「畏まりんした。あの、では夜は……」

 

「ん?」

 

「夜は、こいつは私の好きにしても宜しいでありんすか?」

 

シャルティアの欲情に光る眼にアインズはやや呆れた声で返した。

 

「壊すなよ?」

 

「はい! 私なしでは生きられない身体にするだけでありんす!」

 

「そうか……。まぁ程々にな?」

 

「有り難うございます!」

 

「では、残りの、確かここで死んでる奴ら以外のグループは森に逃げたんだったな?」

 

「は、恐らく」

 

「ではそいつらに関しては速やかに処分しろ。眷属を放て」

 

「畏まりんした。では……」

 

「?」

 

アインズは何故か申し訳なさそうな目で自分を見るシャルティアに首を傾げた。

 

「どうした?」

 

「あの……ご命令とはいえ、再びアインズ様を高所から見下ろすことになるのは気が……」

 

「ああ、そういう事か。確かに、俯瞰した方が反応が地上より判り易いからな」

 

「で、では宜しければご一緒に……」

 

顔を赤らめながら手を差し出し来たシャルティアを見てアインズはそこで自分でも大胆だと思うことをした。

それは単なる思いつきで、シャルティアが喜ぶ顔を見たいという純粋な親心みたいなものだったのだが、その行為を受けたシャルティアからしたら正にアンデッドであるにも関わらず天にも昇るような気持ちになるものだった。

 

「あ、アインズ様?!」

 

シャルティアは自分の手を握ってくれたかと思うと、不意にそこから更に抱き上げたアインズに激しく動揺した。

そんなシャルティアにアインズは優しく言うのだった。

 

「これでも眷属は呼べるだろう?」

 

「は、はい! お前達! お前達も呼んだ眷属と一緒に行くのよ!」(訳:速やかに私とアインズ様の二人っきりにしなさい!)

 

正に以心伝心、シャルティアの言葉に含まれた真意を理解したヴァンパイアブライドの二人は頷くと、彼女が眷属を召喚するのに合わせて行動できるように臨戦態勢を取った。

 

「よし、行くか」

 

アインズはシャルティアを抱き上げてフライの魔法で森を見下ろす位置にまで上がるとシャルティアに顔を向けて頷いた。

 

「眷属よ! この森にいる人間を一人残らず殺してその死体をここまで持って来い!」

 

アインズの了解を得て発動した彼女が命令を発した直後森の木々から影のような黒く蠢くモノが複数現れ、ヴァンパイアブライド達一緒に彼方の方角へと颯爽と駆けて行った。

 

「あ、アインズ様……二人きり……でありんす……ね」

 

「あ? ああ、そうだな」

 

夜空に輝く月の光を浴びて、アンデッドの男に抱かれたアンデッドの女は再び幸福と先程から感じ続けている快感に頬を赤らめる。

アインズはそんなシャルティアを見て――――

 

(ん? なんかシャルティアの足を支えている方の腕の辺りだけ冷たい?)

 

と思うのだった。




久しぶりです。
ブリタはシャルティアの性dになりました。
カレイお婆ちゃんと漆黒聖典がナザリック御一行の手によって被害に遭う話まで作りたかったのですが、あまり長い文を作るのは苦手なので途中で切ることにしました。
今年最後の更新にはしたくないですね。
できるならもう一話(続きを)出したいです。


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いきなり満願成就一つ達成

やっと投稿したと思ったら前話の続きをやると思いきや何ともっと初期の頃の話のIFとなりました。

※原作の時間軸的にこの時点ではモモンガと名乗っているので、この話でも表記はそうします。

※性的描写やや有り


NPCが会話をしている。

口元が動いている。

コマンドを用いなくても命令ができる。

数々のイレギュラーに混乱するモモンガであったが、玉座の間でアルベドと二人きりになったところで更にこの状況を確かめる有効な方法を思いついた。

倫理的にあまり乗り気はしなかったが『それ』は今おかれている自分の状況がゲームの世界ではないとより確信ができるものだったので、彼は意を決してアルベドに命令した。

 

「アルベド、私の傍に」

 

「はい♪」

 

モモンガの命令に黄金の瞳を喜色で輝かせたアルベドは即座に応じ、彼が自分を抱き寄せられる位置にまで接近した。

その時モモンガはアルベドから香水のような女性的な甘い匂いを感じ、その事に内心で驚愕する。

 

(匂いがする?! 確かユグドラシルでは嗅覚の機能はなかったはず。これはいよいよ確かめなければいけないな……)

 

モモンガは最後に確かめるべき事を改めて強く決意すると無意識に彼女を自分の膝に座らせるように抱き寄せながら言った。

 

「アルベド」

 

「あっ♪ モ、モモンガ様っ♪」

 

自分の腰に回ってきたモモンガの手にアルベドは狂喜する。

勿論抗うことなど決してせず、自分を引き寄せるその力に素直に従ってモモンガの膝に座らせてもらう。

アルベドは今は腰を回って太腿にのっている彼の手を見て自分の中の感情がどんどん昂ぶっていくのを感じた。

 

(あぁ、そんな。いきなり、いきなりですか? そんな、此処で? でもそれが貴方の御意思であるのならどうして抗えましょうか? どうしてそれを嫌悪などしましょうか? ああモモンガ様……アルベドは、アルベドは……今、自分に飛び込んでくる幸運の数々に紛うことなき至福を感じております……!)

 

そんな幸福で荒れ狂うアルベドの気持ちなど露知らず抱き寄せた彼女にモモンガは続けて言う。

 

「胸を触らせてくれ」

 

「?! は、はい! どうぞお好きに!!」

 

元々露出が多くて胸元どころか肩まで開けていた服だったが、アルベドは事もあろうにそんな服の胸元を自らずり下げ乳房を完全に露出させた。

正直この時点でゲームの中では決して行えない18禁行為ができる事が確認できていたのだが、モモンガはアルベドの予想外の行動に完全に動揺して冷静さを保つのに酷く苦労した。

 

(ええ?! ふ、服が……というより裸の胸ぇ?! ……確かユグドラシルでは、例えば自分の股間を触ろうとしたらそれはできなかった気がする。いや、触ってもそこにあるべき『モノ』とその感触が無かった、だったかな?)

 

女性の胸も同様だ。

確かギルド内や他の女性プレイヤーからは触れるけどまるで安っぽいドールを触ってるような感触でただ無機質に固いだけだと聞いたような気がする。

だからと言って流石にそれを実際に自分にも確かめさせてくれ、俺の股間も触っていいからなどとお願いすることは無かったが。

というよりそこまでの行為は何らかの妨害機能が働いて恐らくできなかっただろう。

だが今、それらを全て覆す事態が自分の目の前で起こっていた。

 

(……ここまで来るともう確かめる必要はないけど……)

 

モモンガが悩んでいるフリをしながらチラリと豊満で凄まじい魅力を放っていたアルベドの裸の胸に視線を向ける。

地肌の色通りに白い胸はやはり大きかったが、だからといって下品さを感じさせる事は無く、美の化身という表現に相応しい魅力を依然として放っていた。

彼女を創造したタブラ・スマラグディナがどれだけ設定に入魂していたかがモモンガにはよく解った。

 

(下着の状態からスタイルを決めるのが限界だったキャラデザを、あの長くて手の込んだ設定が補強してる感じかな? 女性NPCは大体美人だけど、中身までこうも完成度が高いのは流石はタブラさんと言ったところか)

 

ゲームのキャラ(アンデッド)の姿になっていた所為か性欲は驚くほど感じなかったが、それでも心の奥に滾る男としての欲と好奇心に背中を押される形でモモンガは身体の何処からともなく息を一つ大きく吐き出すと、慎重な手付きでそれに触れた。

 

「ああっ♪」

 

アルベドの恍惚に満ちた表情と嬌声が玉座の間に木霊する。

彼女の羽は刺激と感激に小刻みに震え、そこから発せられる声が官能的な嬌声に変質するのはあっという間だった。

 

(柔らかい……ていうか寧ろ重い? これは……こういうものなのか)

 

最初は徐に優しく鷲掴みにしたが、そこから乳房を掬うように下から持ち上げ、その圧倒的な質量と感触にモモンガは別の意味で感慨深い気持ちになった。

 

(そうか、女性の胸はただ柔らかいものだと思っていたけど、大きいとしっかりこうして重みもあるんだな……あっ)

 

モモンガはつい夢中になってアルベドの胸を揉みしだいている自分に気付いて我に返り、申し訳ないとばかりに彼女の胸から手を離した。

 

「す、すまん。つ、つい……」

 

「あっ……そ、そんな。モモンガ様が謝罪されるようなことなど一切ございません! 寧ろ心ゆくまで、私で宜しければ!」

 

「あ、うん……」

 

もっと触ってと言わんばかりに身を乗り出して自分で自分の胸を持ち上げてモモンガに迫るアルベドにモモンガは気圧される。

しかしもうその場で確認したいことは大方できていたのでそれ以上何をするという考えは彼には浮かばなかった。

 

「いや、大丈夫だ。確認したいことは大方……おい? アルベド?」

 

要件はこれで終わりと話を締めくくろうとしたモモンガだったが、アルベドは彼の目の前でいそいそと服を脱ぎ始めており、彼は大いに動揺する。

予想外と言えばそうだが、展開的には解らなくもない状況だ。

だがこれ以上はいけない。

何れ命令を下したセバズ・チャンやプレアデス達が戻ってくるだろう。

その時にこの醜態を見られるという事態だけは何とか避けたかった。

 

「ま、待て。お前、何をしている? ダメだ服を着ろ」

 

「はっ……はっ……えぇ……はい……。申し訳ございません。私、すっかりこれからモモンガ様に初めてを捧げられると……」

 

「いや、すまないな。別にそういうつもりではなかった……ん?」

 

アルベドの一言にモモンガは何かひっかかりを感じた。

 

(初めて……?)

 

モモンガはステータス欄を表示するとアルベドの長い設定を改めて読む。

 

(……んー……設定からはそれっぽい感じはするけど……)

 

確認し終えたモモンガは目の前の半裸の守護者筆頭に問うた。

 

「アルベド……お前処女なのか?」

 

「はい! 勿論で御座います! アルベドは生まれた頃より自身の純潔は貴方様に捧げようと決意しおりました!」

 

「そ、そうか……」

 

(生まれた頃より? 決意?)

 

正直大まかな設定からはアルベドが何故そう思うに至ったのかまでは読み解けなかった。

だが一つだけそうなってしまった可能性になら心当たりはあった。

 

『モモンガを愛している』

 

(これか)

 

沈鬱な気持ちになったモモンガは確かめることにした。

 

(これは絶対に確認しなければならない。安易な行いでもそれがNPCに影響しているかどうかを)

 

「アルベド、それは……それは私を愛しているからか?」

 

「その通りで御座います!」

 

(やっぱりか……)

 

モモンガは今の異変に遭遇する前に自分が犯してしまった軽率な行いを思い出した。

茶目っ気のつもりでアルベドの解説欄に追記しただけだったのだが、それがまさかこんな形で自分に返ってくるなんて。

彼は大いに罪悪感に駆られ、勝手に設定を弄ってしまった事をタブラに心の中で侘びた。

そしてそれと同じことをアルベドにもした。

自分の軽はずみな行いの影響を受けた紛れもない被害者なのだから、それを詫びるのはモモンガからしたら当然であった。

 

「も、モモンガ様?! な、何を?! どうか、どうか頭をお上げ下さい! 一下僕に過ぎない私などに頭など下げないで下さい!」

 

「そうもいかないのだアルベド。お前は今私のことを愛していると言った。そう思ってしまうのは私がお前の創造主のタブラさんの設定を安易な気持ちで弄ってしまったからなのだ。その事を本人に謝れない以上、代わりにお前に謝罪する以外に選択肢など皆無だ。だからどうかアルベド、この事を謝らせてくれ。本当にすま……」

 

モモンガは最後まで言えなかった。

何故なら謝罪のために頭を下げて下を向いた視線の先に、土下座することによって自分より更に低い位置に伏せたアルベドの姿があったからだ。

 

「アルベド……何を……」

 

「恐れながら……恐れながらどうかお許しを。貴方の謝罪を受けることを否定する私の無礼をどうか……! ご希望でしたらこの後に自らの死によって貴方様に働いた無礼を贖います故。どうか……!」

 

「……アルベド、何故そうまでして私に非があることを認めたがらない……?」

 

謝罪しようとしている自分によもやどうか謝らないでくれと部下としての献身さすら感じさせる彼女の必死な様子にモモンガは躊躇いがち訊く。

アルベドはその問にあくまで主に対する無礼を詫びる下僕として面を床に伏したまま答えた。

 

「……それは、私のこのモモンガ様に対する気持ちは紛れもない真実だからです。そして至高なる御方に仕える身として、守護者筆頭として、敬愛する主に頭を下げさせるなどという返り忠と取れる行いは断じて容認できないからです」

 

「後者はともかく、前者は事実だ」

 

「いえ違います! モモンガ様 ……これは、これは私の持論なのですが、お許し頂けるのであればそのお耳を一時傾けて頂きたく存じます」

 

「許す。だがそれには顔を上げて私を見て話せ。膝など突いたままでなくてもいい。立ち上がり楽な姿勢で、私を見て話せ」

 

「……慈悲深き御心に心より感謝申し上げます」

 

アルベドは顔を伏せたまま一度だけ頷くと、立ち上がり玉座に座るモモンガを見下さない位置にまで恭しい態度で下がった後に静かに話し始めた。

 

「私がこの気持をここまで真実だと肯定しますのは、それだけ私の創造主タブラ・スマグラディナ様の想いが強いからだと思うのです」

 

「タブラさんの想い?」

 

「はい。モモンガ様のご承知の通り、私という人物の解説にはタブラ様は大変な真剣さを感じますよね?」

 

「ん? ああ、そうだな」(まぁあれだけ長ければな)

 

「ですよね? つまり私のこの性格は、相応に完成されたものなのです。だからこそ私は、モモンガ様のあの一文に影響を受けたのだと私は思うのです」

 

「……あの一文に影響を受けたのもタブラさんの功績によるものだと?」

 

「はい、その通りでございます! ああ、流石は至高の41人。流石は私の創造主タブラ・スマグラディナ様!」

 

「……」

 

モモンガは肘掛けに肘を突いて指で歯を擦るようにしながら先程のまでのアルベドの話を頭の中で反芻させる。

 

(面白い解釈だな。というより説得力を感じる。タブラさんに対する罪悪感はあるけど、アルベドの話はそれはそれで納得できるものを感じる)

 

正直あれだけ練り込まれた解説に余計な一言を入れられたら、タブラも良い顔をしないだろうが、それでも彼と最後に会ったのは何時であるか等を考えるとアルベドの話も相まってモモンガは心に感じていたもやもやが少し晴れた気がした。

故にだからこそ結論した。

アルベドに対する答を。

 

「アルベド」

 

「はっ」

 

「解った。私はお前の考えを肯定する。そしてもうお前の私に対する想いは偽りのものなどとは断じたりはしない」

 

「モモンガ様ぁ! あ、ありがたき幸せに御座います!」

 

「うむ、それでは……ん?」

 

モモンガは気付いた。

アルベドの気持ちを肯定した一瞬で彼女が再び自分の間近にいつの間にか戻り、再び跪いて自分の足元のローブを握っている事に。

 

「アルベド、まだ何かあるのか?」

 

「恐れながら私の気持を受け入れて頂いた事で最後に一つだけお聞き届け頂きたい願いが御座います」

 

「言ってみろ」

 

「……私の、初めてを貰ってください」

 

「……」

 

モモンガもとい、鈴木悟も身体は成人だったのでアルベドの言葉の意味が解らないという事は無かった。

寧ろ18禁行為が行えると判ったこの世界で『そういった』楽しみに興味を持った事もはっきりと自覚していた。

だがそれでも2つこの時点で彼が思いつく問題があったのだ。

 

(とは言ってもアンデッドになってから性欲はマジで微妙だからな。快感を得たいというより行為に満足感を見出すくらいなら……まるっきりエロゲだな)

 

「アルベド」

 

「はい!」

 

「私はアンデッドだ」

 

「承知しております!」

 

「普通にできると思うか? その……そういった事を」

 

「今日日快楽を得るのとご寵愛を頂くのは表裏一体と考えております! ましてや私の初めてを捧げたいという願い一点くらいでしたらそう難しくもないかと」

 

「普通にできないぞ?」

 

「どのような形であれ、一番始めに貴方様に私の初めてを捧げられたのなら、先ず間違いなく私は満足し、永遠にも等しい幸福感に満たされるでしょう!」

 

「……まぁそこまで望むのなら。暫し待て。お前を問題なく受け入れられる環境を作る」

 

「あ、ありがとうございます! ああ……モモンガ様、大好きです!」

 

素の人間の状態であったなら先ず間違いなく動揺して無様を晒すところであったが、アンデッド化の影響で性欲の大きな減衰と変質、そして精神の強い安定性を獲得した鈴木悟はかくしてモモンガとしてアルベドの一番の願いを然程抵抗もなく受け入れる事ができた。

部下にメッセージを送って二人の時間を取ったり、魔法の組み合わせでプライベート空間を構築するさなかに嬉しさから我慢しきれずに自分に抱きついてきたアルベドの裸の胸の感触を顔全体に感じながらも、モモンガはスムーズに事を進めるのだった。

そしてアルベドとの行為の最中モモンガは思った。

 

(これは『完全』な人間の姿に自由に変えられる手段も考えておいた方が後々いろいろと有効そうだな)と。




はい、以上の流れでこの話ではアルベドは処女ではなくなりました。
つまりバイコーンに乗れます。
実はこれを実現したかっただけというw
いや、人間として物を食べれるアインズ様を書きたいという思いもありますね。
ウィッシュ・アポン・ア・スターとかで安易に姿を変身できるようにするとか。
効果が持続しない条件とかあるのかなぁ。


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アインズ・ウール・ゴウン

一話投稿すると直ぐに次の話が浮かぶことが結構あります。
前話の続きみたいなものです。


モモンガが自身の名をアインズと改める宣言をした時のアルベドの憤りは果たしていかばかりのものであったか。

何故なら彼女はゲームから離れて自分たちを放置したモモンガ以外のギルドメンバーに明確に仄暗い感情を抱いていたからだ。

 

(よもや私たちを見捨てた者達が所属していた組織の名を自ら代わりに名乗るなんて……! ああでもモモンガ様っ、アルベドは貴方の命であるのならそれにも甘んじ……喜んで従います! そしていつの日にか愛しき真実の御名を再びお呼びできる日が来る時が一刻も早く来るように全身全霊を持って粉骨砕身致します!)

 

アインズと身体(?)の関係を持てた事によって、自分のアインズに対する関係の優位性を得たと確信していたアルベドは、前述した複雑な心境においても精神の安定を余裕を持って保つことができ、アインズの宣言を承諾した時の表情も立ち振舞にも一切の違和感をその姿を見るものに感じさせなかった。

その者の中には当然アインズも含まれており、彼は守護者統括の反応を見てアインズ・ウール・ゴウンの新たな出発を意識し、これから自分が歩む道に何が待ち受けるのか冒険心に心を踊らせるのだった。

 

「ではアインズ様、先ずは優先されるのは貴方様以外の至高の41人の捜索、という事で宜しいでしょうか?」

 

アインズの宣言から最優先事項として常にそれを意識するべきと考えたデミウルゴスがアインズに確認を取る。

その言葉にアルベドは心の中に冷たい水が流れるような不快感を感じたが、勿論そんな感情など表に出さずに微笑みを称えたまま傍らの敬愛している主人の反応を待つ。

その主人から出た言葉は、守護者含めたナザリックに住まう者なら一人残らず意外に思うものだった。

 

「いや、別に優先しなくていい」

 

「は……? あ、いえ。失礼しました。あ、いやしかし申し訳ないのですが恐れながら確認させて下さい。……それで本当に宜しいのですか?」

 

「強いて言うならこの世界に来る直前に私に会いに来てくれたヘロヘロさんくらいはできることならまた迎え入れたいが、まぁ見つける事があっても無理強いするつもりはない」

 

「そ、それは何故ですか?」

 

何となく自分の創造主に対するアインズの感情に距離を感じたアウラがついその身に感じた不安からアインズの許可を求めること無く質問を口走ってしまう。

アルベドはその無礼を険しい目つきで咎めるが、アインズはそれを手で制してやめさせると子供に対する話し方を意識したような幾分柔らかい声調で答えた。

 

「それはなアウラ。皆個々に理由があってナザリックを去ったからだ。彼らには自身の生活により直結した此処より優先すべき、優先したい事があったのだ。己の生活に直結しているとなれば何方を選ぶのかは明白だろう?」

 

「……」

 

アウラはアインズの言葉に暗い表情をして俯いた。

それはまるで母親に置いていかれた幼子のような様子で俯いて表情が見えない彼女の肩は心なしか僅かに震えて見えた。

その様子から彼女の心情を察したアインズは尚も優しく続ける。

 

「……だが、一つだけ断っておくが誤解してはならないぞ?」

 

「え?」

 

「皆は何もお前たちに愛想を尽かして去ったのではないという事だ。本当に愛想を尽かしたのなら自分の存在(データ)も消して去っているはずだ。どうなっても良いと思っていたのならこのナザリックに眠るレアアイテム(財宝)、そして至宝であるお前たち、このナザリックそのものを私に託して消えたりなどしないはずだ」

 

「……」

 

「姿こそないが皆可能性を残して去っている。これはお前たちにまだ愛情がある証なのではないか?」

 

「アインズ様……」

 

「ナント心ニ響ク言葉……」

 

「ペロロンチーノ様……」

 

アインズの話を聞いた者たちは皆その言葉に心を打たれ涙した。

まだ自分たち創造主に見捨てられたわけではないと諭したアインズの優しさに、そして唯一人ナザリックに残って自分たちを導こうとしている彼の深い慈愛と偉大さに。

たが唯一人アルベドだけは主人の言葉に心は打たれたものの、複雑な表情をしていた。

アインズはそれに気付いて彼女に声を掛ける。

 

「何か言いたげだなアルベド。どうした?」

 

裡に秘していた気持ちをアインズに察せられたのはアルベドにとって想定外のことだったらしい。

彼女は主の素晴らしい言葉とはいえ、一瞬でもつい気を抜いてしまった自分の迂闊さを激しく後悔するように口の端を噛みながら真剣な表情でアインズに向かい合った。

 

「は、アインズ様私は……」

 

「ああ」(アルベドだけ明らかに皆と反応が違うな。これはやっぱり彼女の濃密な設定に俺が干渉した結果かな)

 

そうアインズが考えていた一方でアルベドも心を決めていた。

 

(私は既に身も心も愛しい人に捧げたいという満願を達成できた。そこまで近しい場所にまで受けれて頂いたというのに、ここに来て己の心の裡を秘すなんて……なんて無礼、なんて恩知らず。私はこの方に隠し事など一切しない……!)

 

「アインズ様、恐れながら私の偽りのない言葉で貴方の気分を害してしまうかもしれない事を先にお詫び致します」

 

「分かった、許そう。そして誓おう。お前から何を聞いても私がお前を厭わないことを」

 

「アインズ様……」

 

アルベドはアインズの慈悲深さと愛情に感動の涙を一筋流すと、表情を引き締めて話し始めた。

その時に自分の背中に感じる2つの殺気にも彼女は気付いていた。

一つは明瞭な頭脳と洞察力でアルベドが何を言いたいかを何となく察したデミウルゴスの激しいな敵意が混じったもの。

そしてもう一つは至高の存在に対して敢えて無礼を働こうとしているアルベドに、守護者の責務として厳しい態度を取るコキュートスのものだった。

 

「アインズ様私は……実は私は、此処にいる皆と違って貴方様を除いて残りの至高の方々に対して然程良い感情を持っておりません……」

 

「……!!」

 

いよいよデミウルゴスの殺気が背中越しでもまるで刃を突き立てられているように感じられるほどに強くなった。

傍らにいたコキュートスも彼ほどではなかったが武器を手にしていた手を握り直し、いつアルベドが不遜な行動をしても応じられるように全身に力を入れた。

他の者は守護者筆頭のものとは思えないアルベドの言葉にただ唖然とし、戸惑っていた。

 

「そうか。続きを話してくれるか?」

 

対するアインズは、意外にも特に驚いた様子も見せず落ち着き払った仕草で片手を振りアルベドに話を続けるよう促した。

 

「はい。何故私がそう思っているのと申しますと、単純に私は皆と違って至高の方々に見捨てられたという思いが人一倍強く、そしてそれに対して明確な不快感と憤りを持っているからです」

 

「……なるほどな。それはお前の創造主のタブラさんに対してもか?」

 

「……はい」

 

『!!!!』

 

神にも等しい自分の生みの親に対してもはっきりと不快感を持っていると断言したアルベドに、デミウルゴスとコキュートスも殺気を忘れてしまうほどに驚愕した。

彼らでもこれほど驚くのだから、それ以外のものに至っては最早言葉も出ないくらいに目を見張ってただただ呆然とアルベドを見つめることしかできなかった。

だがそんな状況においてもアインズだけはやはりいつも通りの様子で「ふむ」小さく頷くのだった。

 

「アルベド」

 

「はい。私は既に貴方様に満たされました。どのようなご処分でも謹しみ、喜んでお受け致しま――」

 

「お前は凄いな」

 

「え?」

 

『え?』

 

アインズの言葉にアルベドとその他の者たちの漏れた声が重なった。

 

「あ、アインズ様……?」

 

一体何が凄いというのか。

ただただアルベドが紛うことく万死に値するほど無礼なだけだというのに、何故そこで彼女を褒めるような言葉が出るのか。

それが全く理解できずについ動揺を隠せずにそう問うデミウルゴスを見ながらアインズは軽く笑いながら言った。

 

「はは、なぁアルベド。やはり私はお前は凄いと思う」

 

「え? え……? あ、あの……お、恐れながら何故そう思われるのですか?」

 

「ふむ。それはな、お前以外の者は皆創造主に対して敬愛の念を失わないという、私たちプレイヤーからすれば良くも悪くもユグドラシルのシステムの安定さを体現してみせたのに対して、唯お前一人だけはそれに対して自分なりの確固とした意見を持ち、それに対して疑問を呈し、そしてこの結論に至ったという他の者にはないイレギュラー(独立性)を私に示して見せてくれたからだ」

 

「は、はぁ……」

 

「有象無象を問わず希少性(レア)を何よりも好む私としては逆にお前という存在が私の傍らに居る事を心から嬉しく思うぞ」

 

「えぇ?! あ、あの、それはそれはぁ……えぇっと、大変光栄ではあるのですがえーっと……」

 

アインズの反応にまさか創造主に対しても敵対心を持っている自分を褒めて頂きありがとうございます、など言うわけにもいかずアルベドは普段の冷静さをすっかり失って慌てふためく。

挙げ句に助け舟をさっきまで自分に殺気を送っていた相手(デミウルゴス)にまで視線で求める始末だった。

 

そんなアルベドの意向に沿うのは癪だったが、既に落ち着きを取り戻していた彼は姿勢をビシッと正すと、眼鏡のブリッジを指で上げてアインズに言った。

 

「お言葉ですがアインズ様。イレギュラーは不安定であるからこそイレギュラーと言うのかと。それを貴重なケースだからといって安定した私たちを差し置いて優遇するのは……恐れながら今後に一抹の不安を感じるのですが?」

 

「ははは、デミウルゴス、私は別にアルベドを優遇するつもりで褒めたのではない。さっきお前が言った通りアルベドの存在が希少(レア)に思えたから嬉しくてつい褒めたのだ。何もお前たちがそうでないからと言ってこれから冷遇するつもりも、ましてやアルベドだけは重用して贔屓するつもりなど微塵もないぞ?」

 

「そ、そうですか……。それならば安心ですが……」

 

アインズの言葉にその場は引き下がったデミウルゴスだが、反応はいまいち釈然としないといったもので、まだ完全には納得していないようだった。

アインズはそれを見越した上でアルベドに再び向き直り話し掛けた。

 

「アルベドよ」

 

「はっ」

 

「先ずよく自分の心根を正直に打ち明けてくれた。その誠実さは先のお前の話のおかげもあって私を二重に喜ばせてくれた」

 

「いえ、いえ! 恐れ多い事で御座います!」

 

「ふむ。だが」

 

「……はい」

 

アインズの話題の切り替えからアルベドは今度こそ覚悟した。

自分に下る処分はいかなるものでも進んで受けるつもりだった。

 

「どうか他のメンバーを見つけることがあっても不快に思っていたからといっていきなり攻撃なんかはしないでくれ。いや、しないとは思っているぞ? だが、皆を安心させたくてな?」

 

「は……? え、えぇ……はい」

 

アインズの言葉にキョトンとするアルベドを他所に玉座から立ち上がり宣言するようにアインズは声を大きくして自分の愛する部下たちを眺めながら言った。

 

「お前たちに問う! もし自分の生みの親が忽然と別れの言葉もなく消えたら何の疑問も悲しみの思いも抱かずただその現実を受け入れられるものか?!」

 

『……』

 

皆一様に黙っていた。

中にはそれこそ至高の存在に対する絶対の忠誠の証と言いたい者は数人はいたが、もし至高の存在が唯一人残ったアインズすらもいなかった場合を考えると果たして自信を持ってそうだと言い切れるか疑問に思え、やがて異見する気は失せた。

 

「そうだ。それが普通だ。何も思わないなど有り得ない! 中には愚直に忠義を貫くことを美徳と思う者もいるだろう! だがそれは盲信だ! 親にただ依存しそれがいなければ自己を保つのが難しい不安定(イレギュラー)な存在だ! 私はこの不安定(イレギュラー)な存在こそ私自身が本当に事を任せて大丈夫だろうかと不安に思う。故に信用できない! 大事にはするが何も任せられない!」

 

『……』

 

皆今度はアインズの言葉を落ち着いて清聴しているようだった。

アルベドもデミウルゴス、コキュートス、その他の者も皆静かに目を閉じてアインズの言葉の意味をじっくりと吟味していた。

 

「だからといって全て自分の意思に従ってやるのも勿論正しくない! それはただの暴走だ。だから私は、このアルベドの様に先ずしっかりと自己と己の意見を持ち、何か行動をする時は仲間に相談し、私にも必ず報告する程度の自立性を持つことを切に願う次第だ!」

 

「アインズ様……」

 

アインズの話にすっかり魅了され、感動の涙をアルベドは流していた。

 

「アルベド」

 

「は!」

 

「先のお前の創造主に対する負の感情、今の私の話を聞いてもなお捨てずに保ち続けたいと思う程のものか?」

 

「……いいえ、アインズ様の御心に絶対服従致します。発見した際は必ず報告し対応の相談を致します」

 

「うむ、それで良い。先にも言ったがこちらから捜すような事はしない。何かの行動中に偶然見つけたら御の字くらいのつもりでいればいい。私は此処にプレイヤーとして唯一人残っている時点で、何よりも大事にし、守りたいと思っているのはお前たちだ。その為に私は常に全力を尽くすことを約束し、決してお前たちを自分から見捨てたりはしないと誓おう」

 

「アインズ様……!」

 

「はぁ……ぐすっ……流石は至高の存在の頂点に立つ御方でありんすね……。妾は一生アインズ様にお尽くしすると誓いんす……」

 

「ぐす……ぼ、僕感動しちゃって前が見えないや。お姉ちゃんは?」

 

「はぁ……」

 

「ふっ……ふ……。アウラは感動で声も出ないようですね」

 

「フフ、ソウ言ウオ前モイロイロト言葉ニ詰マッテイルヨウダガ?」

 

「ふっ……悪魔の……目にも……涙……ですな……。っ」

 

「はぁ……僕、僕……アインズ様にお仕えできて良かったぁ……」

 

「私たちプレアデスも幸せ者ね……」

 

「うふふ、早く至高の方のお役に立ちたいものね」

 

「私ぃ頑張るぅ!」

 

「流石アインズ様ッス! これで惚れるなっていうのが無理な話ッス!」

 

「でもできるならなるべく独り占め……」

 

「シズ、そこまでよ」

 

皆アインズを口々に讃え、絶対の忠誠を、ナザリックの為に全力を尽くすを心に強く誓い直した。

 

「ナザリック万歳! アインズ・ウール・ゴウン万歳! アインズ様万歳!」

 

きっかけが誰だったのかは判らなかったが、この唱和は次々とナザリックに住まう者に伝播していき、やがってナザリック全体に木霊する程の唱和になるまでに然程時間はかからなかった。

 




この話ではアインズがアルベドの心の裡を知ることになり、以後彼女が後ろめたいというか怪しい行動をアインズ様に内緒ですることはなくなるかもしれません。
初めっからナザリックの固い絆全開モード及び、今話でのアインズ様は過去の仲間には原作ほど執心を持っていないので、その辺りは穏やかに進むかもしれません。


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ソリュシャンの提案

今回は短いです。
色んな所で偶にネタとして見ることがあるソリュシャンの風呂ネタの話です。


アインズは本来の姿が日本人である関係か風呂が好きであった。

現実の世界ではスチーム風呂にしか入ってなかったので、転移後の世界で大浴場に浸かった時の感動は一入(ひとしお)のものがあった。

 

ところで今のアインズの姿は骨である。

この姿では生身であったならマナーや恥じらいから腰にタオルを巻いたりしたのだが、骨の状態とあってはそもそも覆いたい部分が消失しているためタオルは必要ないと思うのは思考としては自然の流れと言える。

まぁそれ以前に骨の状態では腰にタオルを巻くこと自体が面倒でやり難いという理由もあったのだが。

だがアインズは思った。

 

『これはこれではしたないな』と。

 

故にタオルを巻く代わりにバスローブを入浴の前後に身に着ける事を思い付く。

結果としてそれは正解であった。

入浴前からバスローブを着ているのは若干違和感はあったが、タオルを巻く事と比べたら遥かに容易であったし、バスローブが衣服の体を成している事もあって裸の状態で彷徨くのと比べたら遥かにマシであった。

 

「これはアインズ様……これからご入浴ですか?」

 

バスローブを着ているアインズの姿を目にしたソリュシャンが主人の行動を察して挨拶の代わりに声を掛ける。

 

「ああそうだ。ちょっとスライム風呂にな」

 

「え……?」

 

『スライム』という単語にピクりと反応するソリュシャン。

それは一体どういう事だろうかとアインズに問う前に彼の方から機嫌の良い声で教えてくれた。

 

「私は一度スライム風呂に浸かって身を清めてから普通の湯に浸かるのを入浴の手順にしていてな。今から丁度最初の行程に入るところというわけだ」

 

「……なるほど」

 

アインズのその後に続く説明でソリュシャンは彼の考えを理解する。

肉体がある生物と違って骨の状態のアインズが身体を洗う場合、剥き出しになっている全ての部分を洗おうとすると非常に手間がかかり、かつ細かいパーツの集合体とも言える状態故なので自力での完璧な洗浄は困難であるという。

そこで思い付いたのがスライムに頼るもので、その目的を聞いたソリュシャンも成る程と納得した。

確かにスライムであるなら主人の意に沿って清めたい箇所に移動ができるし湯を使ったり自分でするより遥かに効率的で適切だと言えるだろう。

故にである。

 

同じスライム族として、そして至高の存在に仕える者として、ナザリックの中でも最下層の者からしたら上位に位置しているともいえる彼女が主人の役に立ちたいと思うのは当然であった。

故にソリュシャンは乞うた。

 

「そのお役目、是非私に務めさせて頂きたく思います」

 

「えっ」

 

アインズは予想外のソリュシャンの願いに驚き戸惑うが、スライムに身体の洗浄を頼んでいるのなら同じ種族の自分にもできるし、させて欲しいという彼女の考えも解らないでもなかった。

だがである。

 

(いくら俺の役に立つのが幸せだからといって、プレアデス(メイド)に身体の世話をしてもらうのはなぁ……なんのエロゲだよ)

 

僅かな背徳感と男としてのプライド、そしてソリュシャンの想いの間に思い悩むアインズだったが、そこでソリュシャンから魅力的な押しの一言が入る。

 

「私なら今使っているスライムよりきっと満足がいく気分をアインズ様にご提供できると確信しております」

 

「なに?」

 

聞くとなるほどと思える内容だった。

スライム族の中でも上位に位置する自分ならただアインズの身体を清めるだけでなく、その最中に自分の性質を変化させることによって、あっちの世界(リアル)の風呂で言うところの電気風呂やバブル風呂のようなバリエーションを提供できるという。

これは風呂好きなアインズにとって確かに魅力的な内容であった。

 

「ふむ……そうか。ならば、一度試してみて気に入ったならば今後お前をこの役目に任ずるとしよう」

 

「!!! 有難うございます!」

 

アインズの返事に心の何処かで却下される事を予想していたソリュシャンは輝くような笑顔と明るい声で喜び礼を言う。

その表情と声は、常に冷静で落ち着いている印象のある彼女の初めて見るものであり、彼はソリュシャンのそんな意外な一面が見れたことを嬉しく思った。

そして……。

 

 

果たしてソリュシャンに自分の入浴の世話を頼んだのは正解と言えた。

だが自分が入浴を楽しんでいる時に、彼の身体を取り込んで奉仕に励んでいるソリュシャンから快感と悦びに満ちた嬌声のような声が時折響くのは何とかしてほしかった。

自分は入浴を楽しみ、ソリュシャンは主人に仕えられて幸福という win win の結果の筈であったが、何か厄介な事がこれから起こりそうな予感がアインズはした。




一度でいいから原作者様の手によるこういう微笑ましいソリュシャン嬢の描写が見てみたいと思います。
ウェブ版では市場の場面で似た雰囲気の描写を読んだことある気がします。


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人間精鋭部隊

完全なオリジナル話
ニグン、クレマン、フォーサイトが生きていた場合にアインズが見出したかもしれない活用法


「人間による精鋭部隊、ですか」

 

「そうだ。私が直接配下にした人間達がいただろう?」

 

「ええ、確か……ニグン・グリッド・ルーイン、クレマンティーヌ、ヘッケラン・ターマイト、ロバーデイク・ゴルトロン、イミーナ、アルシェ・イーブ・リイル・フルトの6人でしたか」

 

「そう、そいつ……ん、その者達だ」

 

見下している人間であってもナザリックに属すものなら、それも主人自ら配下に加えた者なら当然とでも言うようにデミウルゴスはアインズが指す人間の名前を全てフルネームで完璧に答えた。

アインズは改めてデミウルゴスの有能さと要領の良さに感心した。

 

『その者達』

 

デミウルゴスはアインズが彼らの形容を言い直したのを見て自分の判断が間違いでなかったことを確信した。

本来なら姓がある者は名前の一部だけ言うところであったのだが、アインズが彼らを使って精鋭部隊を創ろうという発言から、ある程度その人間達の事を評価していると推察し、自分もそれに倣って呼び方を変えたのだった。

 

「その者達は人間の世界ではそれなりに上位に位置する能力らしい。特にかつて法国に属していたルーインとクレマンティーヌは、な」

 

「なるほど。では部隊ができた暁にはその二人をそれぞれリーダーとサブリーダーに置くのが良いでしょうな」

 

「うむ、自明の理だな」

 

「恐れ入ります。しかしとなると、永く彼らにナザリックの役に立ってもらうとすると……シャルティアの眷属になってもらうのが良いかもしれませんね」

 

「ああ、それは私も一時考えたのだがな。確かに戦闘力の向上に加えて不老、そして耐久力を持つのは魅力的だ。だがそれだと私自ら配下にした意味が薄れるし、何より生まれ持った技量が低下してしまうのが多少惜しくてな」

 

アインズはこの前シャルティアに渡した女の冒険者の事を思い出した。

彼女の場合は元々能力自体は高いとはいえなかったので、眷属化によって技量が低下してもそれを強化された戦闘力が補って余りあった。

だが元々それなりに優秀な能力を持つ人間を眷属化した場合、それによって低下する技量は向上する戦闘力と天秤にかけて見合うものかという事である。

 

「ふむ……ああ、なるほど! つまりアインズ様は彼らを人間のまま不老不死にしようとお考えなのですね」

 

「その通り。まぁ方法はなくもないが、できることならそれを消費せずにこの世界の技術を以て実現したいところではあるが、な」

 

「当然ですね。不老不死化の方法もナザリックが保有する貴重な財。それを使うより先ずこの世界の技術を用いようとなさるのは至極真っ当な道理だと私も共感するところです」

 

「うむ、そうだろう? では不老不死化する方法は後々考えるとして、早速その者達を我が前に呼んでくるのだ」

 

「はっ!」

 

 

『…………』

 

謁見の間、アインズの前に並び立った6人は皆一様に不安げな表情をしていた。

6人にはもう一つ共通点があった。

それは全員が調子が悪そうな顔色をしており、冒険者らしく鍛えた身体を持っていなかったら皆病人に見えたことだろう。

アインズは彼らを見ながら未だに『洗礼』の後遺症が残っているんだなと静かに同情した。

多分それとは別に自分の事も恐れているのだろう。

そりゃそうだ。

デミウルゴスから直接でも恐怖するだろうに、それが自分からなんて例えば末端の営業社員がいきなり会社の社長に呼び出されるようなものだ。

アインズは自分が彼らに二重の意味でプレッシャーを与えてしまっていることに心の中ですまなく思いながら、努めて威厳のある声で切り出した。

 

「突然呼び出してすまないな」

 

「いえ!ゴウン様がお謝りになることなど一切ございません!」

 

「そ、そうです! あ、あたし達ゴウン様の命とあらば即馳せ参じます!」

 

「と、当然俺……あっ、私達も同じ心づもりです!」

 

ニグンとクレマンティーヌに続いてヘッケランがそれに即同調し、彼の隣に立つ残りの3人も同意とばかりに必死な形相で頷く。

 

「あー……うん」

 

アインズは彼らの篤い忠誠の言葉は嬉しく思いつつも、その目に見えた必死さに彼らにここまで追い込む経験をさせてしまった事を改めて申し訳なく思った。

 

(いや、効果は抜群だと思ってるよ? これなら地上のどんな責め苦にあったとしても裏切らないと思うしね? でもいざこうして常に憔悴しきっている人を見ると、可哀想だなぁくらいは思っちゃうよ)

 

「まぁ難しいだろうがそう緊張しなくても良い。今回お前達を呼んだのは人間族のみで構成したナザリックの部隊を創設しようと思い至ったからだ」

 

「人間族……人のみの部隊ですか」

 

「そうだルーイン。構成員が全員人間なら外での活動はし易いだろう? お前達はそれなりに人間の世界では腕が立つ。勿論これからもっと成長して私の役に立ってくれると確信している。その上でお前達に今より効率的に動いてもらうには、と考えた次第だ」

 

「なるほど……」

 

俯いて何か良い言葉をひねり出そうとヘッケランが苦しんでいた時だった。

そんな彼を助けたい一新でイミーナが消え入りそうな声でアインズに発言の許可を求めた。

 

「あ、あの……」

 

「質問か? イミーナ。良いぞ許す」

 

「あ、ありがとうございます。その……こ、個人的な疑問で申し訳ございませんが、その人間で構成する部隊というのは今の所は私達6人のみなのですか?」

 

「ああ、そうだ。今の所は、な。近い内にもう少し増える予定だ。それまではお前達6人。リーダーはルーイン、サブリーダーはクレマンティーヌにやってもらおうと思っている。異論はあるか?」

 

『一切ございません!』

 

6人一斉に声を揃えて答えた。

正直今まで4人だけだった冒険者パーティにいきなり一国の特殊部隊の元隊長、加えてその特殊部隊の中でも精鋭中の精鋭といえる部隊の元隊員の組み合わせを入れた場合、チームとしてのバランスを安定させるのは苦労しそうに思えたが、そんな事口に出せるわけがない。

またあの地獄を味あわせられる可能性を考えたら、それだけは絶対に回避したいという6人全員の共通する強い想いを以てすれば、この程度の難事どうにかなるだろう。

それほどまでに元々の立場は違えど、同じ経験をした者同士ということもあり、6人の心の結束は早くも強いものに成りつつあった。

アインズはその様子に満足気に頷くと一同を見て他に質問はないかと訊いた。

 

「あ、あたしから一つ」

 

発言してきたのはクレマンティーヌだった。

 

「うむ、何だ?」

 

「優秀な戦力と言うなら私に心当たりがあります」

 

「ああ、それはもしかして漆黒聖典という奴らの事か?」

 

「えっ」

 

「やはりそうか。ほら、お前この前私にワールドアイテムを持っている奴とその護衛に付いていた奴についての情報を教えてくれただろう?」

 

「あ……」

 

クレマンティーヌはつい数日前、顔面の皮がない(おぞ)ましい顔をした女の部屋に連れて行かれ、何をされるか判らない恐怖に耐えながら女が映した映像を見てそれらに関する情報をアインズに伝えた事を思い出した。

 

「あ、もしかして……」

 

「うむ、お前のおかげで完璧に一網打尽にできた。あの時いた奴は全員今、洗礼を受けている最中だ。かなり隊員としてのモラルも高いと聞いていたので特に念入りに長めの洗礼を受けさせている」

 

「あ、はは……そ、そうですか」

 

「うむ。特にあのワールドアイテムを持っていた老婆は老体だけに死なせないように苦労していると報告を受けている。腕が鳴るとも言っていたがな。楽しそうでなによりだ」

 

単にアンデッド化の影響からの全く悪意のない自然な発言だったのだが、その言葉は改めて6人がアインズから地獄の魔王のような恐怖の印象を受けるのに十分なものだった。

 

「そうだ。洗礼といえば、そいつらより先に確保して受けさせていた奴らがいてな。そいつらも間もなくお前達と合流するだろう」

 

「と、言いますとさぞ名の知れた者達なのでしょうね」

 

ロバーデイクが蒼い顔をしながらも何とか声を絞り出してアインズのスカウトを間接的に褒め称える。

彼の横では気力が尽きかけそうなのをなんとか踏ん張って耐え、必死に頷いてロバーデイクに同意を示すアルシェがいた。

 

「ああ、王国の裏の業界では結構知れ渡っていたみたいだぞ? たしか六腕とかいうグループだったかな? あいつらもなかなかに面白いスキルを持っていたな。正式に配下になるのが楽しみだ」

 

『…………』

 

最早6人は言葉も出なかった。

しかしそんな中でも心に抱いたことはあった。

それは今洗礼を受けている者達が一刻も早く地獄の苦しみから解放されることだった。

 

(クソイケ好かない奴らだったけど、今回ばかりは同情するわね……)

 

隣で蒼白の顔で俯き何やらブツブツ呟きだしたニグンを横目で見ながら、クレマンティーヌは何時の間にか芽生えていた他者を想いやる心でかつての同胞達に心より同情するのだった。




肝心の描写がある話を作る前に、原作でシャルティアと対峙した漆黒晴天+婆と六腕はちゃっかりアインズ様にゲットされている事になりました。


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ちょっと待てよ

ゲヘナで確保した人間について。
ちょっと考えれば思い至ったかもしれないという話です。


作戦(ゲヘナ)の完了直後、アインズは混乱に乗じて攫った王国の多数の人間の行く末に憐れみを感じ、自分に敵対的でない者には苦痛なき速やかな死を与えるようデミウルゴスに命じかけたが、その時にふとある考えが過ぎった。

 

(待てよ)

 

考えてみればこれだけ大量の人間を確保できた事実がナザリックにとって有益だというデミウルゴスの言葉は適切であるが、それでもこの『大量』という部分になんとなくひっかかりをアインズは感じた。

 

(大量の人間……。そりゃこれだけいればいろんな実験とかアンデッド兵の作成に役立つだろうけど、なんか他にも気になるな。うーん……あっ)

 

その時、喉に引っかかった魚の小骨のような違和感に悩んでいたアインズの頭の中で『大量の人間』というワードから牧場という言葉が浮かび上がった。

 

(まさか……いや、そうだろうな多分)

 

何故もっと早く気が付かなかったのだろうか。

悪魔そのものであるデミウルゴスの存在、そしてそんな彼の悪魔としての本質からくる言葉の表現。

デミルウルゴスが言っていた『牧場』やそこで養育している『羊』という言葉から、それが実際にどういう場所でどういう動物を管理しているのか、ちょっと客観的に考えれてみればあっさりと見当が付いた。

 

「なぁデミウルゴス」

 

「はい何でしょう?」

 

「この人間たちは、例の牧場に送るつもりか?」

 

アインズの言葉にデミウルゴスはそうですねと笑顔で返すと、牧場で行われている『行為』を考えれば(おぞ)ましく思えるほどに、如何にも悪魔らしい軽い調子で答えた。

その反応にアインズは、デミウルゴスは自分が元々羊が人間のことだと理解していると思っていたなと確信した。

 

(いや、今知ったよ。確かにそんな悪魔的な所業で作られた魔法スクロールなら、最初からある程度魔力が宿ってそうだな。でもいざ知ったら流石にビックリだっての)

 

「これだけいれば羊皮紙の生産効率もそれなりに上がるでしょう。勿論他にも活用法があるのは存じておりますので、配分はアインズ様のご一存で」

 

「うむ……」

 

アインズは反応こそ落ち着きはらっていたが、頭の中ではかなり悩んでいた。

 

先ず落ち着いて考えてみると、一番最初に攫った人間の内、敵対的な者以外は安楽死させるよう指示したとしても、その裁量権はデミルウルゴスに有る事を失念していた自分自身にアインズは呆れた。

勿論有能な彼を信頼していないわけではなかったが、敵対的でないなどという漠然とした言い方では少しでも反抗的な態度を見せた人間はデミウルゴスにとって敵対的だと判断されてもなんら不思議ではなかった。

寧ろこんな状況で攫われ、不安感に苛まれる中で従順な態度を取る人間など果たして如何ほどいるだろうか?

ちょっと考えれば分かることだったのだ。

攫った人間の中には家族単位の者もいるだろうし、当然女子供の単体もいるだろう。

アインズはその点から、実際に最初に思った通りに指示をしたら恐らくユリやペストーニャが子供の事で不満を持つかもしれない可能性に気付いた。

 

(あの二人は多分俺に子供の助命を嘆願してきそうだな。あ、あとニグレドもか。勿論俺は構わないけど、でも実際そうなったらアルベドやデミウルゴス(こいつ)が俺の決定に異見する事を多分咎めるだろうな。……そうなったらその時の雰囲気も悪くなるし、また対応も考えないといけない。危ない……ちょっと面倒臭いことになるところだった)

 

これなら敵対的ではなく王国で犯罪者として扱われていた者以外は楽に殺してやれと言った方が適切に思われた。

だがそうすると先ず間違いなく恐らく捕らえた人間の9割以上はその対象となるだろう。

そうなるとせっかく自分(アインズ)の為に収めた人間の確保(成果)に対するデミウルゴスの気持ちとしてはどうなのか。

 

(うん、部下を持つ上司としてこの判断も駄目だな)

 

アインズは一先ずそこまで考えをまとめると軽く咳払いをしてデミウルゴスにこう言った。

 

「一先ず確保した人間の活用については考慮したいから全員仮死状態にして私が指示するまで保管しておけ」

 

「はっ、畏まりました」

 

「ああ、あと。ユリやペストーニャには、その中に含まれる子供に関しては取り敢えず害する考えは私には無いという事も伝えておいてくれ」

 

「おお……その私たち(ナザリック)に対する把握力とご配慮、流石でございます。委細承知致しました」

 

「あっ、すまない。あと一つ」

 

その時、最後に付け足されたアインズの言葉はデミウルゴスにとって至上の歓びでもあり、至高の者の従者として大変気合が入るものであった。

 

「例の牧場だが、近い内に視察したい。私を迎える準備が終わり次第教えるように」

 

「……! はっ、光栄でございます! 早急にアインズ様をお迎えする準備を整え、完了次第速やかにお知らせ致します!」

 

デミウルゴスは自分の成果をアインズに評価してもらえる機会が訪れた事に興奮し、心の裡で歓びに打ち震えるのであった。




ちょっと短いですけどこれで区切りが良いのでここまでとします。
次はアインズ様の牧場視察の話が確定しているし、構想もほぼ出来ているのでそうお待たせする事なく投稿できると思います。


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牧場改革

牧場の様子はあまりおどろおどろしい描写にはなっていないと思います。


「ふむ、ふむ……」

 

デミウルゴスが言っていた牧場はアインズの予想通り人間を家畜としたものだった。

ただひとつ予想とは違ったのは、その光景が想像以上の地獄絵図だったことである。

羊皮紙に使う皮を、原材料となる当事者()同士で剥がし合わせ、剥がした後の血だらけの背中に治癒魔法(ヒーリング)を施し少しでも生産効率を上げようという試みなど、よくもまぁこんな非道い事を思いついたものだと半ばアインズは呆れながらも感心した。

他にもアインズが確認した光景としては、家畜扱いなので当然全員全裸で男女関係なく同じ所で放牧、男は否応なく女の裸を見ることになるので大体の個体は常に生殖器を勃起させている、トイレ代わりの肥溜めのような箇所が数カ所あり、何の囲いもないその場所で排泄を行わせている。

食事は基本的に死んた人間の肉をハンバーグやウインナーに調理した物、牧場中央に二箇所設けられている大きな溜池を飲料と入浴の目的に分けて使わせている。異種族交配の実験も行われており、種族ごとに最も効率の良い交尾法の探求等々。

大凡地上で考えられる悪行の中でも、人間にとって最悪と言える地獄のような光景がそこらじゅうで見て取れた。

それでもアンデッド化の影響を受けているとはいえ、元人間のアインズがこの悲惨な光景にそれほど動揺することなく事実として受け入れられたのは、彼が現実世界で学生の時に学校の授業で行われた100年以上前にあったとある世界規模の戦争に関心を持ち、その中でも戦争の最も『悲惨』と言える部分に何故か惹かれたからだ。

アインズがまだ鈴木悟だった頃、彼は好奇心に突き動かされるままに『その部分』の記録について夢中で調べ、よく同じ人間としてこんな事を考え、実行できたものだと恐怖と感心が混同した複雑な気持ちになった。

そして今、その地獄のような世界が、人間によるものではないが、自分の手によって実現されている。

その事実に、アインズは自分の認識が及んでなかったとはいえ心のどこかで感動しているのを感じた。

 

(俺は今歴史に残る事をしている)

 

内容の良し悪しは置いておいて、先ず間違いなく目の前で行われている事は、この世界の歴史において起こったどんな悲惨な出来事をも超えるものだろう。

残念なのはいくら歴史に残るほどの行いだからといって世間一般、少なくとも人間側としてはとてもではないが表の歴史として残せないであろうほどの悪行ということである。

 

(常識的に考えてこれは先ず地上に知られるわけにはいけない事実だよな……)

 

だからこそこの牧場で飼われている人間たちの運命は決していた。

生きるも死ぬも人生のすべてが牧場(そこ)で完結する事が。

だがこうも考えられた。

地上から攫ってきた人間にはともかく、ここで生まれた人間にとっては世界の全てなのである。

亜人も含めて動物の中で唯一理性というものを持っている人族であるが、生まれたての赤ん坊の頃から家畜として育てればただの獣となりえるのではないか。

現実の世界のいつの頃かに、野獣に育てられた子供が保護されたという記録を見た記憶をアインズは思い出した。

 

(確かその子は最終的には保護された当時よりはマシな状態になりはしたけど、最後までまともに人語を話せなかったとかそんな感じだったような……)

 

「……デミウルゴス」

 

「はっ」

 

アインズは傍らに控えていたデミウルゴスに問うた。

 

「ここの人間、繁殖させているようだが、この牧場しか知らないその生まれた子供はどのように扱っている? やはり地上から攫ってきた人間と違って最初から『羊』としてか?」

 

「正確にお答えするのならば、『羊』にしようとしている、といったところですね」

 

「ふむ。それは人間は他の動物と違って繁殖に時間がかかることと関係があるという事だな」

 

「仰る通りでございます。ここで生まれた赤ん坊は全てあちらの、ここより少々離れたところに建設中の別の牧場に隔離するようにしております」

 

デミウルゴスが指をさした方を見ると、確かにまだ建築中の建物が目立つ、入り口が門で遮られた小さな別の牧場があった。

 

「塀や柵がないようだが、障壁も兼ねた幻影魔法でも施しているのか?」

 

「はい。下手に高い塀などを設ければ無垢な羊とはいえ元は人間。生まれ持った強い好奇心がその先の事に興味を抱かせるでしょう」

 

「その無垢な羊の現在の数はどれくらいだ?」

 

「ようやく600に届こうというところです。いや、人間は年中発情していても雌が生む子供の数は犬猫と比べてかなり少ないですからね。そこは異種族との交配でもっと効率の良い種を何れ作ることができれば、と思っております」

 

「……ふむ。それまでは攫ってきた人間に交尾に励んでもらうわけか。当然お前ならそれの効率を上げるための設備や方法も既に導入しているんだろうな」

 

「勿論でございます。羊専用に作ったルール、交尾専用の設備と発情をより促進させる精神覚醒魔法等々。現状行えるあらゆる手段を講じております。あと他に今考えておりますのは……」

 

それからデミウルゴスの話は1時間ほど続いた。

その話の大凡を聞き、改めて牧場の存在に納得したアインズは「そうか」とポツリと呟くと、(おもむろ)にその場に腰を下ろした。

主が不意に草原の上とはいえ地べたに座ったことに驚いたデミウルゴスは、直ぐにアインズの為に椅子かその代わりになるような物を慌てて用意しようとしたがアインズはそれをやんわりと止めた。

 

「良い。ちょっとこうして考え事をしたくなってな。すまないが少し一人にしてくれるか? 大丈夫だ。お前に対して機嫌を悪くしたわけではない。話も全て納得したし牧場(ここ)の事も納得して評価もしている。ただ私からも考案できることがあればな、とな」

 

「左様でございましたか。恐れ多いお気遣いに唯感謝するばかりです。それでは何か御用がございましたら何時でもお呼び下さい」

 

「ああ、有難うデミウルゴス」

 

 

(さて)

 

丘の上から一人凄惨な牧場の様子を眺めながらアインズは考えた。

 

(酷いな。これは人間にとっては地獄だ。そして最初から獣の人間を作ろうとしている俺は完全な人外だな)

 

アンデッド化の影響があったからこそ受け入れられて理解できた。

ナザリックに必要なことだからこそデミウルゴスの考えも納得できたし評価できた。

だがそれでもなおこうして完全に割り切れずに何処か後味の悪さを感じるのは、自分の中に本来の自分である『鈴木悟』がまだ生きているからだとアインズは結論した。

その事に彼は少しホッとした。

 

(んじゃ、ちょっと観察してみるか)

 

自分が直接現場に赴いてそこで働いている者に話を聞くのも良かったが、いきなり幹部(デミウルゴス)を介さずに取締役(アインズ)が来たら現場は恐縮して混乱するかもしれなかったし、何よりちょっと行きたくないという気持ちもあった。

故にアインズは遠距離からでも観察ができる透視機能も付いた双眼鏡のような形をした魔法のアイテムを用意し、それを覗いた。

 

(うーん…………)

 

少しでも生産効率を上げる為に頻繁に交尾はさせているとは聞いていたが、一つだけアインズは懸念していることがあった。

そしてその懸念が当たっていた事を、アイテムを使った時アインズは確信した。

 

(理性を飛ばして性欲に考えを集中させるのは良いけど、その魔法のせいで男はともかく女は……)

 

種馬である男の精子が常に出るのは、これも何か魔法か悪魔の知恵で補っているのだろう。

だから少なくとも男に関してはアインズの懸念には該当していなかった。

該当していたのは……。

 

(理性が飛んでいるおかげで苦しみは感じていないようだけど、やっぱり女はあれはそう持たないだろうな)

 

つい先程デミウルゴスが言っていた通り、犬猫と違って人間は一度に産む子供の数は基本的に少ない。

それに加えて出産時に身体にかかる負担も相当なものなのだ。

故にあのように唯の子産み道具として使っていれば頭では感じなくても身体の方は直ぐに限界になり、女の殆どが交尾中か出産中に死んでいた。

それに対して男の方は意識が飛びすぎた事によるショック死だ。

男の方は制御すればまだ持たせることができるが、女の方はそうはいかない。

これでは効率が悪いということで異種交配による新種(ハイブリッド)を創ろうという考えも解るが、それでも結局は女の方が消耗し直ぐに調達が必要になるという問題を解決するのは難しいだろう。

 

(まぁこんだけ手間をかけて酷い事をしているからこそ、良いスクロールが出来るのかもしれないけど……)

 

まだギリギリ人間に見える出産用の女や隔離された方で早速『獣』として扱われている生まれたばかりの赤ん坊を眺めながらふと思った。

 

(手間……か……。所業はともかく、もしかしてスクロールの質が唯純粋に、そして単純に、素材と製造過程が重要なのだとしたら……)

 

世界には歴史があり、その中には勿論『紙』も含まれている。

現実の世界で大量生産されありふれていたパルプ紙。

その前に使われていた和紙や羊皮紙。

この現代紙より前に使われていた紙は製造には手間やコストがかかり、だからこそ日常生活では殆ど使われなくなった。

ではその旧世代の紙よりもっと前の『紙』の原形のような物であれば……。

鈴木悟の頃、現実世界で戦争について調べる過程で歴史についても触れるのは必然だった。

 

 

(そういえば昔、古代の戦争について調べていた時、読んでいた本の中に『パピルス』という単語があったような……。確かあれは紙の代わりのような物で、作るのにえらい手間がかかったというのを見た気がするな……)

 

思い立ったが吉日。

アインズは早速図書館に赴くと目当ての本がないか司書長のティトゥスを呼んで調べてもらった。

 

現実世界(リアルワールド)の古代史に関する本でございますか」

 

「うむ。なるべく紀元前という言葉が使われている本が望ましい。ギルメンの中でも特に神話やTRPGが好きだったタブラさんなら、趣味が高じて関連の書籍を残している可能性があるのだ」

 

「なるほど承りました。暫しお待ちを」

 

 

暫くしてティトゥスは思った以上の大量に積み重ねられた本を、器用にバランスを保ちながらアインズの前に運んできた。

 

「これで全てではありませんが、して、その中でどういった趣の物をご所望でしょうか?」

 

「うむ。それなんだが……」

 

 

幸運は続くものである。

アインズの期待に応えるかのようにパピルスの歴史や製法に関して記された本は直ぐに見つかった。

 

「ふむ、なるほど。確かに仰る通り、製造に魔力が宿った大樹や植物系の魔物を使えば、より完成度の高いスクロールが出来るかもしれませんな」

 

「ああ、それに大量生産の方でも同じ素材を原料として使えば、上手くすれば今作っているスクロールと同じレベルの物が出来るかもしれない」

 

「素晴らしい。となると今のスクロールの原料となっている『素材』はその内不要となるのでしょうか?」

 

「いや、高級品のカバーや下地に使うつもりだからそれはない。それでもずっと必要な量は減るはずだからその辺りは今度デミウルゴスと相談しないとな」

 

「では牧場は今より小規模になるのですね」

 

「というより牧場から職場に変更だな。『素材』として使っていた者たちに仕事としてそれを命じ、多少の給金や自由に過ごす時間を代償として与える。忘恩の徒でなければナザリックに忠誠を誓うことだろう」

 

「深遠なるお考えにただただ感服する次第でございます。それではもう決まったも同然でしょうが、アインズ様の発案が成功することを私は此処で祈って待っております」

 

「有難う。良い物が来ることを期待して待っていてくれ」

 

 

こうしてかねてより課題であった、高位の魔法スクロール作りに対する改革がアインズによって実行され、最終的にその試みは大成功に終わった。

一から全て手で作られた高級品は第六位階の魔法の行使に耐え、素材の更なる追求によってはそれ以上の魔法が行使できる可能性も十分に見て取れた。

後に連れてきて育成に力を注いだドワーフの向上した技術力の果てに造り上げた紙の大量生産機で作られたスクロールもアインズの予想通り第三位階の魔法が行使でき、これによってナザリック内のスクロールの貴重性と生産の問題は一挙に解決した。

 

一つ問題というより気を遣ったのはデミウルゴスの件だった。

アインズから最初にこの案を訊いた時、彼は主の案を褒め称えつつも自分のアイデンティティを示す楽しみででもあった牧場(遊び場)が失くなることに対して明らかな落胆が見て取れた。

しかしそれもアインズから、先日王国襲撃の時に攫って保管した人間を、モモンを表世界の英雄として確固たるものにする為に使わせてもらえないかと頼まれると、ついさっき見せた落胆の様子は何処へやら、アインズの役に立てる事に喜びコロッと上機嫌になったという。




牧場で溢れた人間はどうなったのか。
改善された仕事場(元牧場)の様子とか。
王国から攫った人間をどう役立てたのか。
等についてはどの内話にできたらと思います。

感想のコメント返しも後ほど。


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洗礼の様子

クレマンティーヌは元漆黒聖典の一員だったので、当然法国から機密漏洩防止の術がかけられていたと思いますが、原作で自由に活動しているのを見る限り、流石にその術は自力で解除しているだろうという予想を設定に取り入れました。
後半、やや倒錯した性的描写があります。


クレマンティーヌが目を覚ますとそこは闇の世界だった。

 

「…………ここ……」

 

ぼんやりする頭に寝ぼけ眼、そんな状態でクレマンティーヌは世界有数の強者らしく逞しい精神力で状況把握を始めた。

 

(最後の記憶……えっと……)

 

「………………っ」

 

脳裏に恐怖と絶望の象徴である絶対者の髑髏の相貌を思い出し、クレマンティーヌは不安心から自分の身体を抱き締めようとした。

 

「……?」

 

だが、できなかった。

身体の自由が利かないのだ。

視界が全くの闇しか捉えることができなかったことから自分の身体が今現在どういう状態なのかは詳細には把握できない。

しかし四肢の自由が利かない事から判断するに鉄錠のようなもので四肢は固定されているようだ。

加えて暑くも寒くもなかったが、肌に直接感じるこの空気の感触。

 

「真っ裸って、わけね……」

 

拘束されている四肢は動かせないものの、肌に物理的感触がないところをみるとどうやら魔法の類を使われているようだ。

 

「ん……」

 

目を覚ました時に頭を上げられたので首は拘束されていなかった。

クレマンティーヌは僅かな自由を噛み締めようと首の凝りを解しながら考える。

 

(あの……に拘束されてまだ生きているってことは、まぁこれから拷問を受けてその後に死ぬか生きるかってところね。問題は……)

 

『何度でも蘇らせてその度に殺す。哀れにも弱って抵抗する力がなくなっていくお前を飽きるまで嬲り殺し続け、その後ようやく飽きたら今度は早く死んで楽になりたいと思う様な苦痛が続く地獄に捕らえ続けてやる』

 

頭にこびり付いていたので長い言葉でも明確に思い出した。

 

「うっ……」

 

拷問どころではなかった。

絶対者が言っていた事は間違いなく事実だろう。

という事は数々の修羅場をくぐり抜け、頭がおかしくなりそうな闇を見てきた自分が覚悟して受け入れようと予想していた悪夢も当然生温いということになる。

 

「……うっ……ひっ……ぐす……」

 

再びあの時感じた恐怖と絶望を思い出し、完全に屈服した相手に拉致された上に裸に剥かれ、自由も奪われているという状態も相まって、亀裂の入っていたクレマンティーヌの心は耐えられるはずもなく少女のように涙を零して泣き始めた。

完全に心のタガが外れた影響で無意識に再び失禁もしていたが、もうそんな醜態など気にならないくらいこの時点で彼女は絶望していた。

そんな時である。

 

「ひっ?!」

 

枯れ葉が硬い物に当たっているような乾いた音が闇の彼方から聴こえ、クレマンティーヌは見えもしないのに恐怖で見開いた目を前方に向ける。

意味があるかどうかは判らなかったが、彼女は必死に息を殺して己の気配を隠そうとしたものの、口元を手で隠すことはできなかったのでどうしても荒い息の一部が鼻孔から微かに漏れ出た。

 

「ふむ、僅かな息遣いと臭いから察するにどうやら意識を回復したようですな」

 

「だ、誰?!」

 

聴こえてきた声はこの場に似つかわしくないほどに紳士的で落ち着いた男性の声だったが、クレマンティーヌはそれくらいで安心感を覚えるほどこの状況を甘くみていなかった。

無駄とも思えた彼女の問い掛けに声の主は意外にも「失礼」と柔軟に応じ「自己紹介をするならお互い姿が見えなければ意味はありませんね」と壁に設置されていた何かの照明装置を作動させた。

 

「!!」

 

クレマンティーヌは声の主の怖気が走る姿を見て声を出せずに絶句した。

目の前に現れたのは不気味に直立こそしているものの巨大なゴキブリそのものだった。

常にせわしなく動く脚や触覚と顎はそれだけで男性はもちろん、特に女性が感じる嫌悪感は相当なものだった。

 

「まぁ私は暗くても視えていたんですけどね。魔法やスキルが使えない状態では人間である貴方にはなす術はありませんからね」

 

どうせなら見えないほうが良かった。

心底そう思いながらクレマンティーヌは恐怖で歯をカチカチ鳴らしながらゴキブリに問うた。

 

「な……なんなのよアンタは?!」

 

「いけませんよ。女性がそのような大きな声ではしたない」

 

ゴキブリはそう言うとコホンと咳払いをして手の役割をしていた脚の一つを器用に動かしてお辞儀をして言った。

 

「私は恐怖公。アインズ様の命によりナザリック地下大墳墓の第二階層にございます領域、通称“黒棺”の守護の任を務めさせて頂いている者です」

 

「はぁ……はぁ……」

 

自分の事を恐怖公と名乗ったゴキブリの言っていることの殆どは理解できなかったが、その僅かな合間にクレマンティーヌはなんとか息を整えて落ち着こうとした。

一方恐怖公はというと紳士的にクレマンティーヌが落ち着くのをじっと待ち、激しく動く彼女の肩の動きが小さくなるのを見守っていた。

そしてやがて顔こそ上げて自分の方を見ないものの、吐いていた息が大分小さくなっったのを認めたところで恐怖公は続けた。

 

「貴方は……ああ、いや。無理に自己紹介をされなくても結構ですよ。察するに随分お辛い状態のようですからね。私の方で必要な情報は予め頂いておりますので……。貴女のお名前はクレマンティーヌさんでしたよね? どうぞ宜しく」

 

「私に……何をする気……?」

 

恐怖公の挨拶には応えず、クレマンティーヌは会話の核になる部分を直球で訊いた。

如何に紳士的に接せられてもゴキブリと親しく話す気になど到底なれなかった。

恐怖公はそんな彼女の素っ気ない(?)態度に気分を害した様子もなく、紳士的な態度を崩さずに落ち着いた声で答えた。

 

「お話が早くて助かります。私は自分の役割を果たすために貴女の元を訪れました」

 

「役割……?」

 

「先ず貴女にお伝えする事と致しましては、ご安心ください。貴女は死にません。そしてこれからも死ぬような目には遭いません。これは直接面接(?)されたアインズ様が最後は反抗する事なく大人しく負けを認められた貴女の態度を評価されたからです。殊勝ですね。この事には私も感心致しました」

 

「…………」

 

クレマンティーヌはただ黙って恐怖公の次の言葉を待った。

殺さないとしたらどうするのだろう。

やはり拷問を受けて先ずはいろいろと情報を引き出されるのであろうか。

 

(クソ……)

 

クレマンティーヌは心の中で過去に法国に施された機密の漏洩を防ぐた為の誓約(ギアス)を解除していた事を後悔した。

解除をしていなければ自分から態とタブーに触れて一回は楽に死ねたのに。

 

(一回……)

 

確かあの絶対者は殺す度に何度も生き返らせるというような事を言っていた。

ということは一回安らかに死ぬことなどほぼ意味が無いという事だ。

 

(なんだ、結局解除してもしていなくてもほぼ同じじゃん……)

 

自分の浅はかな打算を自嘲する感情は止められず、クレマンティーヌはこんな状況にも関わらずつい笑みを顔に浮かべてしまう。

 

「おや? 何故お笑いに? 気丈な方ですね」

 

「気にしないで。それで、改めて訊くわ。この自由を奪われた上に裸に剥かれ、その上小便まで漏らしている敵対していた女に、殺す意思がないとしたら何をする気?」

 

「ああ、ええ。端的に申しますとこれから貴女に洗礼を施します」

 

「……洗礼?」

 

「はい。アインズ様は貴女を希少な存在(レアモノ)と評価しご自身の配下に、つまるところ私共の仲間として迎えられる判断を下されました。はい、それに当たりまして……」

 

「外様は洗礼を受ける必要があるって事?」

 

「その通り」

 

恐怖公はクレマンティーヌの明瞭さを称えるようにスティックの柄を持っていた脚を空いている方の脚でポンポンと叩いた。

 

「それで、ですね。それに当たりまして次に貴女にお伝えする事があります。洗礼は大変な苦痛を味わうものになります。相手を苦しめることに悦びを見出す嗜好は私にはありませんが、これも務めですのでどうかここはご容赦ください」

 

「……」

 

絶対者が与える苦痛、その言葉を聞いてクレマンティーヌは顔を蒼くするが、恐怖公がまだ何か言いたいことがあるようで、何となくそれに根拠の無い期待を感じて黙って彼の次の言葉を待った。

恐怖公はそれに応えるように今度は少し明るい声で言ってきた。

 

「しかしですね、ここで最後に貴女にお伝えすることがあります。この洗礼に関しまして貴女の面接(?)時の殊勝な態度を評価してアインズ様は少しだけその洗礼の内容を易しくされる決定をされました」

 

「……というと?」

 

「簡単に言うと一つのみだった工程を二つに分けます。最初の工程は元々あった工程と同じで大変な苦痛を味わうものです。しかしお喜び下さい。今回その行程を行う時間を従来の半分とします」

 

「……もう一つの工程は?」

 

「性的な陵辱を与える内容です。これも紳士の私としては心苦しいのですが、まぁ見ての通り私は異形種ですから貴女にそういった事を行っても特に感じ入る事はありません。ただただ貴女は私のことなど気になさらずに陵辱に耐えて頂ければ宜しいかと存じます」

 

「……ねぇ」

 

「なんでしょう?」

 

「その工程、どちらを先に受けるか選べるかしら?」

 

「洗礼執行の裁量は私に一任されております。そのご希望には問題なく応えられますよ」

 

「じゃあ最初に一番辛いのお願い……」

 

「賢明な選択かと存じます。では準備は宜しいですか?」

 

「え」

 

円滑な会話からあまりにもスムーズに即洗礼が始まろうとしている事にクレマンティーヌは動揺の声を漏らした。

 

(え? もう直ぐ? 今から始まるの? しまった、せめて内容くらい訊いておけば……)

 

 

「……………え?」

 

恐怖公の足音というよりその雰囲気に似た音をクレマンティーヌはその時聴いた。

最初はカサコソという小さな音が次第に大きくなり、そして暴風のような音を発して恐怖公の背後からナニカが自分に向かってくるのを彼女は感じた。

恐怖公の背後から黒い風がうねるように現れたかと思えば“それ”は二つの流れに別れて彼を避け、その前で一斉に地面に降りて合流し、一つの黒い波となった。

 

「あ…………いやぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

その地面から自分に這い寄ってくる黒い波の正体に気付いてクレマンティーヌは悲鳴を上げた。

涙と涎、そしてまた失禁しながら無駄とは解っていても拘束された身体で可能な限り身をよじろうとした。

彼女に迫ってきたのは大量の“普通”のサイズのゴキブリだった。

動けない身体の穴という穴、目、口、鼻、耳から虫が侵入してきた。

怖気、吐き気、痛み、あらゆる苦痛で気が遠くなりかけた時、虫に破られる寸前の彼女の鼓膜が僅かに恐怖公の声を捉えた。

 

「先ずは本来は1週間のところを4日、私の眷属の食料として耐えてください。途中で死なないようにしっかり管理しますので。あ、性器と肛門からは今回は……」

 

クレマンティーヌが正気で捉えた恐怖公の声はここまでだった。

あとはひたすらに発狂しながら苦痛にまみれ、4日経つ頃には息をしているだけの屍のような状態になっていた。

 

 

「酷い状態だな。生きているが死んでいるぞ」

 

「髪もストレスで抜け落ちたり白色化していますね。脳もストレスの影響で萎縮しているでしょう」

 

「やはり女だと男より劣化が激しいか?」

 

「統計的にはその傾向が認められますが、そもそも人間が種族として虫に嫌悪感を抱く傾向が強いようですからね。あまり当てにできるデータではないのではと私は愚考します」

 

「ふむ、そうだな。よし、経過観察はこれで良い。完全に回復させたらまた恐怖公に引き渡して残りの工程を済ませろ」

 

「畏まりました」

 

 

記憶の何処かでそんな魔王と悪魔の会話を聴いた気がした。

 

「…………ん」

 

「おはようございます。お喜び下さい最初の工程は終わりましたよ」

 

「!!!」

 

意識を回復したら目の前に嫌悪感の権化が居た。

ソレを見ただけでクレマンティーヌの意識は完全に覚醒し、全ての記憶も思い出して恐怖からガタガタと震えだす。

だがこの時も身体は裸で拘束されており、自分の体を抱いて不安を和らげることはできなかった。

だが両脚だけは何故か拘束されていなかった。

 

「では、起きて早々に恐縮ですが、最後の工程と参りましょうか」

 

最後の工程。

最初の時は目、口、鼻、耳の穴から虫に侵入され地獄という言葉では生温い程の苦痛を味わった。

そして次、脚だけは拘束されていない現在の状況とアノ時下半身からは虫に侵入されることはなかった事から大凡の見当は付いていた。

つまりは……。

 

「…………」

 

クレマンティーヌは白い顔で黙って恐怖公に股を割って見せ、彼にデリケートな2つの穴を晒した。

 

「殊勝ですね。今からは痛みを伴う苦痛はありません。その代わりひたすら己の尊厳が侵される苦痛に耐えて下さい。では行きますよ」

 

最初の時と違って今度はゴキブリだけでなくもっと奇っ怪で怖気が走るフォルムをした様々な虫が多数恐怖公の背後から出現してきたのを見て、クレマンティーヌは涙を一筋流しながら壊れた笑みを浮かべるのだった。




オバロの新作が来年出るようで嬉しいです
というか早くベルドの正体が知りたいっ
聖王国編の話とか今度は作ってみたいなぁ


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交渉成功?

被害無しで支配下に入るのはやっぱり難しいのでは、と思いました


支配下に入るか入らないか。

交渉の余地はないとばかりに単純明確な二択を迫られたクアゴアの王ペ・リユロは、内心困惑しながらも知性のあるモンスターには見えない外観に似つかわしくない優秀な頭脳で高速で思考した。

 

彼は先ず相手の話を飲むことを前提として、その判断材料になる現在判っていることを一つ一つ思い浮かべた。

苦しい条件を飲んで敵の討伐の為に派遣してもらったドラゴンはどうやらそれに失敗した。

しかも敵の傘下に入ったようだ。

それを確信するに至る光景こそ実際に目の当たりにしたわけではないが、現に今敵の勢力と思われる相手は無傷で自分と相対している。

それに二人から感じる余裕。

最後の一つが一番リユロは気になった。

 

もし無傷の様子がドラゴンとの戦いで負った傷を癒やし、身なりを取り繕ったものであるなら、余程の役者か強固な意志を持った者であることだろう。

だが二人からはそれは感じない気がリユロはした。

完全な勘であったが、人間より優れた身体能力を持つ亜人であるリユロの感覚は鋭く、それは直感のような第六感にまで及んでいた。

それはクアゴアという原始的な種族をここまで導いた稀代の英雄であるリユロだからこそ持ち得たとも言える彼が最後に頼みとしている自分の力。

もし氏族王たる自分の最後の頼みが勘だと誰かが知れば、その者はきっと呆れたり失望したりするかもしれない。

しかし最後に頼りになるのが自分自身だとすれば、そんな不確定なものでも自信を持てるほどの力にまで昇華させる。

それもまたリユロの優秀なところであった。

故に彼は努めて冷静に利口に慎重に『誰でも』解るように言葉を紡いでいった。

 

「……一つ、この質問に答えていただければ即そちらの支配に入るか否かをお答えさせて頂くが宜しいか?」

 

クワゴアの静かで落ち着いた言葉に小さい方と赤い鎧の方は顔を見合わせ、小さい方が小さく頷くと赤い鎧の方が口を開いた。

 

「宜しい。では一つだけ許しんす」

 

「ありがとうございます。……では、今私の前には貴方がたお二人だけなのですが、ご覧の通り私達の方が圧倒的に数が多い。つまりをれは『数』を戦力の優劣の判断材料とするならこちらに分があるということです。それを踏まえた上でお訊きします。貴方がたお二人にとってはその一つの事実など意味が無いとする程のお力をお持ち、ということで宜しいでしょうか……?」

 

「その通りでありんす。わたし達にとって、おんしらの『数』などは意味のないことでありんす」

 

リユロの問いに考える様子もなく赤い鎧の方はそう即答した。

それに対して小さい方は少し考える素振りを見せたが、しかしその様子は口元に指を当て、視線を上に向けたちょっとした考え事をしているような軽い態度だった。

 

「まぁ結構数はいるけど、私達二人なら……えっと、勧告を受け入れなかった場合は1万だから……オスメス4千ずつと子供2千まで減らすのに1分もかからないんじゃない?」

 

「でありんすね。でもそうなった場合はわたし一人でやるつもりでありんすから。……まぁそれでも大体5分くらい?」

 

「うん、そんなもんかもね」

 

「……」

 

目の前の二人は、先程数の理を即否定した二人は、何やらかなり物騒な話を軽い調子でしていた。

リユロはその光景に言葉で表しようがない悪寒と寒気を同時に感じて思わず言葉を失って茫然と立ち竦んでしまっていた。

ドワーフのように毛が多くないので表情は判り難かったが、二人の声の調子からはまるで日常会話をするような気安い雰囲気であることは容易に理解できた。

そこには弱者が強者から感じるような奢りや余裕、侮りといった優越感のようなものは一切なく、本当にただの何気ない会話、歩いている時に小石の欠片を知らずに蹴っても仕方ないよねといった自分たちに対する明確な無関心さがあった。

 

そんな事実から来る不快感にリユロが未だに茫然自失としていると、赤い鎧の方が彼に目を向けて話しかけてきた。

 

「それで? 質問には答えんした。支配下に入りんすか?」

 

「ぁ……」

 

何時の間にか口腔がカラカラに渇いてしまっていたのでリユロは直ぐに言葉を発することができなかった。

しかしそれでも彼の中では既に答えは決まっていた。

直感がもう判断材料としては十分だ、支配を受け入れるのが正解だと強く自分に語りかけていた。

だがそれでも彼は王、多くの者を束ねる統率者故に敵と戦わずして支配下に入ることを自分に付き従ってきた者たちに納得させることができなかった。

ではどうするか、リユロはギリギリまで考えながら弱々しい声で綱渡りのように言葉を紡いだ。

 

「し、支配下に入ります。あ……ただ……」

 

「質問は一つだと言いんしたよね?」

 

「……!!」

 

短い言葉だったが赤い鎧から得も言えぬ凄まじい威圧感をリユロは感じた。

しかしそれは自分の勘は正しかったと確信した瞬間でもあった。

彼は咄嗟に頭を下げ頭上に感じる圧力になんとか耐えながら、苦しそうに言った。

 

「い、いえ質問ではありません。た、ただ……」

 

「ただ?」

 

「支配下に入ることを私が部下たちに納得させるために一撃だけで構いませんので、貴方の力を我が軍に示して頂けませんか?」

 

「ああ、そういう……」

 

正直リユロの話を聞くまではシャルティアは、それが質問ではなくたとえ嘆願だったとしても絶対者として躾の理由からも聞き入れるつもりはなかった。

だが運が良かったのか悪かったのか、彼の願いは良い感じに簡単でかつシャルティアの加虐嗜好とマッチしてい為、愉悦に目を光らせた彼女に受け入れられた。

 

程なくしてリユロはこの時の願いに対して他に良い案があったのではと後悔することになるが、後に親友となるストレスから来る脱毛に悩むとある皇帝の苦労話を聞いて自分の悩みなどまだ小さい方だったと少し持ち直したという。




久しぶりで……え、4年ぶりくらい
この作品の最後の投稿そんなに前だったのか……(吃驚)


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