僕と優子と短編集 (鱸のポワレ)
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僕と嫌い?と木下さん
頬を赤らめる吉井くん。ドキドキと緊張しているアタシ。そう、これは吉井くんに呼び出されたアタシと吉井くんとの屋上での話だ。
「木下さんのことが嫌いです。付き合ってください」
「はい?」
吉井くんにそう告げられたアタシは、頭の中が混乱していた。
「どういうこと?意味がわからないのだけど」
「ほら、嫌よ嫌よも好きのうちって言うでしょ。僕なりに頭を使ってみたんだ。木下さんと釣り合う男になるために。どうかな?」
今、吉井くんが話している時のキメ顔を秀吉がしていたら、関節技をきめて腕の2本や3本はへし折っていただろう。あっ、腕は2本しかないか。テヘッ☆
まあ、それは秀吉だった場合の話だ。吉井くんならどんなことをしても許せるだろうか。どんなことかというとそれはもう、あんなことやそんなことだ。よ、吉井くんとアタシではそういうことは想像しづらい。坂本くんと吉井くんなら簡単に想像できるけど……
「って、何考えてんのよアタシは」
「どど、どうしたの木下さん!?」
やばい!声に出してしまった。
「ごめんなさい。なんでもないわ」
ふぅ、と息を吐き少し自分を落ち着かせる。アタシが吉井くんのことをどう思っているのかよくわかっていなかった。少なくともここにくるまでは。でも、いまこの場所でどうしたいかはハッキリわかった。吉井くんが勇気を出して告白をしてくれたのだから返事をしなくてはいけない。というかしたい。変な妄想なんかしてないで……
「アタシもあなたのことが嫌いよ。だから、よろしくお願いします」
「えっ?嫌いなのにお願いしますってどういうこと?」
吉井くんの困惑している表情からして本当に意味がわからないのだろう。吉井くんが先に言ったくせに……
「はぁ、馬鹿ね吉井くんは。こういうことよ」
アタシはそう言って吉井くんの唇に自分の唇を重ねる。
「よろしくね、吉井くん」
この後、二人とも顔が真っ赤になり沈黙が続いたのは言うまでもない……
後日談……
明久と秀吉の会話
「姉上と付き合ってるじゃと!!」
「うん、そうだけど。どうしてそんな、鬼でも見たように怯えてるのさ秀吉」
それはそれは、秀吉とは思えないほどブルブルと震えていた。
「悪いことは言わん。姉上はやめておくのじ…あ、姉上〜ワシの顔を掴んでどうする気じゃー」
「あら、秀吉。面白そうな話をしているじゃない。私にも聞かせてよ。トイレでゆっくり、ね☆」
「あ、姉上?ワシは女子トイレには入らんぞーーーい」
「秀吉ーーー!!」
僕の叫び声は届かず、秀吉がものの数秒で拉致されてしまう。
父さん、母さん、今日僕は初めて鬼を見ました……
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僕と優子と三つの贈り物
前回の話とは関わりはありません。
僕は、どれだけ待ちわびていただろう。どれほど待ち遠しかっただろう。でも、ついにこの時が来た。
「おぎゃあ。おぎゃあ」
「生まれました。元気な男の子です」
「おつかれ、優子」
「うん。ありがと」
僕らの、僕と優子の子供が生まれた。
「優子もあの子も無事で本当によかったよー」
「ええ、そうね」
まだ、あれから数時間しか経ってないから疲れいるのだろう。いつもより返事が短いし眠たそうだ。今、この話をするべきか迷ったけど、この機会を逃したらもう駄目な気がする。それに前からきめていたんだ、今日こそプロポーズをすると。
「優子、実は大事な話があるんだけど〜、今いいかな?」
「悪いけど短めにお願い。もう疲れちゃって」
「そっか、ならまた別の機会に……」
って僕のバカ!アホ!Fクラス!
ここであきらめてどうする。
「実は、いくつか優子に贈り物があるんだけど、受け取ってくれる?」
「明久がワタシに?それは楽しみね」
よかった。どうやら興味を持ってくれたようだ。このまま計画通りに行けるぞ!
「いくつかあるんだけど…最初はこれね。子供を産むために頑張ってくれたから。はい、お祝いと感謝を込めてネックレス」
「ありがと。明久にしてはいいセンスね。まあ、明久がくれたものならなんでもいいんだけど……」
「え?ごめん、前半しか聞き取れなかったよ」
「いっ、いいのよ!なんでもない。それより嬉しいわ」
「喜んでくれてよかったよ。じゃあ次ね、えーっと次はこれ。怪獣の人形だよ!!」
「は?なにこれ?」
あれ?おかしいな、あんまり喜んでない気がする。そうか、ちゃんと説明しなきゃ優子もわかんないよね。僕ったら忘れてたよ。てへぺろ☆
「僕の分と子供の分も買ってあるんだ。全部で三体だよ。これで怪獣ごっこができるね」
グッ、と親指を立てる僕。おかしい、説明をしても優子の微妙な表情は変わらない。
「そ、そうね。ありがと……」
優子は照れてるのかな?そうだ、そうに違いない。だからそんな、天ぷらの中身がハイチュウだったときのような顔をしているんだ。それにしても、ハイチュウの天ぷらはどんな味がするんだろう……
そんなことより、最後のプレゼントを渡す時が来た。これを渡すのは凄く緊張する。こんなの人生で一度きりだろう。まあ、二回目があったらこまるけど……
「じゃあ、最後のプレゼントね。最後は……」
足が震える。生まれたての子鹿みたいに。でも、僕はこの日を最高の日にしたいから、勇気を振り絞る。
「最後は、指輪だよ」
「えっ?」
口に手を抑えて驚く優子。その表情は、僕にとってプラスの表情ととっていいのだろうか。僕には分からない。でも、このままいくしかない!
「優子。いや、木下優子さん。僕とけっきょんしてくだひゃい!!」
「えっ」
やってしまった……最後の最後で噛むなんて。優子の「えっ」は、指輪を渡したときの「えっ」とは訳が違うことぐらいバカな僕にでもわかる…
「フフッ、フフフッ……フフッ」
「えっ?」
今度は僕の方が「えっ?」と言葉が漏れる。優子が笑いをこらえている。
「全く明久らしいわね。でも、ありがとう。嬉しかったわ。だから、よろしくお願いします」
優子の目には涙が溜まっていた。これで良かったのだと思う。本当に。
「でも、こんなにプレゼント貰っちゃってよかったのかしら?」
「それは大丈夫だよ」
「なんでそんなこと言えるの?」
「だって、優子には赤ちゃんっていう素敵な贈り物を貰ったからね」
「バカ」
赤くなった優子の顔を見ているとニヤニヤが止まらなかった。
〜数時間後〜
「久しぶり〜優子、吉井くんも」
「久しぶり愛子、来てくれてありがとう」
「久しぶり、工藤さん」
「二人にプレゼントがあるよ〜」
鞄の中から袋を取り出して優子に渡す。んんっ!あれはまさか……
「怪獣の人形だよー。子供と遊ぶようにね。二体も用意したんだ」
「あ、ありがとう……」
これで五体目だ……
〜さらに数時間後〜
「姉上ー、明久ー、祝いに来たぞい」
「今日の劇団の練習は終わったんだね」
「ウム。これは、二人に祝いじゃ」
「まさか、怪獣じゃないよね?」
「明久、なぜわかったのじゃ」
「いや、ありがとう……」
「二体あるから子供と遊べるぞい、って姉上、関節はそっちには曲がらんのじゃーーー」
これで七体……
〜さらにさらに数時間後〜
「よう明久と木下姉、来てやったぞ」
「やあ雄二、わざわざ悪いね」
「まあな、ホレ明久お前にやるよ。祝いだ」
ガスッ(スネを蹴る音)
「おいっ、なぜ俺の足を蹴る明久」
「雄二こそ、なんで怪獣なのさ!」
「いや、それがいいと思ってな。お前は怪獣で遊ぶのが好きだろ?」
「しかも、子供じゃなくて僕用!?」
八体か……これでヒーローの負けは確定した。
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川とお家と吉井君 前編
アタシ、木下優子はその場に立ち尽くし、絶望するしかなかった。なぜこうなってしまったのか、遡ること10分前だ。
アタシは、BL本の新刊を買いに町の図書館へと向かっている途中に、橋を眺めている吉井君を見かけた。アタシの気になる相手というか好きな人だった。アタシは、橋の方へ駆け出して行った。
「おーい、吉井君ー」
「木下さん!?」
吉井君が驚いた顔をしてこっちを向いた。正直、休日に吉井君と会えるなんて、凄くテンションが上がる。
「橋の上で何してたの?」
「ああ、ちょっと川に食材がないか探してたんだ」
「え?」
確かにこの橋の下に川は流れているが、食材とは意味がわからない。
「どういうこと?」
「ほら、川に魚がいたら取って食べれるでしょ」
「スーパーで買えばいいじゃない」
アタシの言葉に対して吉井君は真顔で答える。
「ほら、スーパーってお金とるじゃん」
「え!?つまり、お金がないから川で取ろうとしてたの?」
「そういうこと」
吉井君は、親指をグッと立てる。
つまりこれは、自然な流れで家でご飯を食べるお誘いが出来るということでは?
吉井君とご飯……想像するだけで興奮してしまう。って、何妄想してるのよアタシ。
変な妄想をかき消すために、両腕を大きく振り出す。うーむ、我ながらヤバイ行動だ。
しかし、ヤバイ行動だけで済んだなら良かったのかもしれない。
ポチャン。
腕を振った拍子に付けていた腕時計が宙をまってしまった。
アタシの時計は、見事に川へダイビングした。
「そんな……」
「待って木下さん。諦めるのはまだ早いよ」
「え?」
「ほら、よく見てよ」
吉井君が指した方向を見ると、時計は小さな岩に引っかかっていて、まだ流されてはいなかった。
「ちょっと待っててね」
「ちょっと吉井君!?」
吉井君は橋を渡り、川の方に降りて行ってしまった。
「何してるの?」
「もちろん時計を取るのさ」
吉井君は形振りかまわず川の中に飛び込んで行った。
「時計なんてもういいから。それより吉井君が風邪ひいちゃうでしょ」
「ほら、バカは風邪ひかないって言うでしょ」
「そういう問題じゃないわ」
「でも、もう少しで……」
吉井君が腕を伸ばすが、あと少しのところで川に流されそうになってしまう。
「うわあぁ!」
「吉井君!!」
アタシも形振り構わず川に飛び込む。アタシのせいで吉井君に何かあったらアタシは……。
「捕まって吉井君」
「うん、ありがとう」
吉井君を引っ張り川から引き上げる。よくよく考えたら、吉井君と手を繋いでしまった。恥ずかしい……。
「もう、無茶しちゃダメでしょ」
「ごめんなさい」
「でも、ありがと」
「え!?」
よっぽど驚いたのか、キョトンとした顔をしていた。
「服濡れちゃったわね。お礼もしたいし、アタシの家にこない?」
「そんなの悪いよ」
「ご飯作ってあげるわよ。どうする?」
「行かせていただきます」
「よろしい。じゃあ行きましょ」
アタシ達は、家に向かって行った。
七日後に後編出します。後編もよろしくお願いします。
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川とお家と吉井君 後編
「どうぞ上がって」
「お邪魔しまーす」
「誰もいないわよ」
あれから数分が過ぎアタシと吉井君は、家に着いていた。
「え!?じゃあ木下さんと2人きり?」
「そうだけど。嫌かしら?」
「嫌じゃないけど……」
「じゃあシャワー浴びてきていいわよ。洋服濡れちゃってるでしょ」
「先に木下さんが入ってよ。風邪ひいちゃうよ」
じゃあ一緒に入りましょう。なんて言えるはずがない。
「じゃあお先に」
「うん」
またまた数分が過ぎ、アタシはお風呂場から出るはずだった。しかし、ある失敗をおかしてしまっていたことに気付き、身動きが取れなくなってしまっていた。なんと、着替えを持ってくるのを忘れてしまっていたのだ。
どうしよう。裸のまま歩き回るわけにもいかないし、吉井君にとってもらうしか……。
「吉井くーん。アタシの洋服を取って欲しいんだけど」
「どこにあるの?」
「アタシの部屋……」
「へ!?入っていいの」
「別にいいわよ」
吉井君ならね。
「わかったよ」
吉井君が遠くへ行く音が聞こえる。
ん?ていうか吉井君が取ってくるってことは、アタシの下着が見られるんじゃ……。
恥ずかしいけど吉井君ならいいか。なんて考えてる自分が1番恥ずかしい。
そうこうしている内に足音が聞こえてきた。
「木下さん、持ってきたよ。洗面所のドア開けるね」
「ちょっとまって今は……」
吉井君がドアを開ける。
アタシが洗面所に裸でいるにもかかわらず。
「きっ、きき、木下さん?!なんで洗面所に?」
「いいから出て行って!」
吉井君に裸を見られてしまった。恥ずかしいっていうより悲しい?感じだ。
「ごめん木下さん。わざとじゃないんだ」
「別にいいわ。それより、こっちこそごめんなさい。見たくないものを見せてしまって。 」
「そんなことないよ!木下さんの体、すごく綺麗だったよ。って、僕は何を口走ってるんだ!!」
「そう……」
綺麗って、綺麗って言われた。嬉しい。嬉しい過ぎて死にそう。
「それより、アタシは着替え終わったからシャワー浴び来ていいわよ」
「じゃあお言葉に甘えて」
アタシは、吉井君と入れ違いに洗面所を出てリビングへ向かう。
今日は、吉井君といっぱい話しができて疲れてしまったのか、いつの間にか意識が遠のいてしまっていた。
「よし、い君?」
「目が覚めたみたいだね」
アタシの体の上には毛布がある。アタシが風邪をひかないように吉井君が毛布をかけてくれたのだろう。
やっぱり。
「吉井君のこういう所が好き」
「え!?」
やばい、声に出てた!
「いや、今のはついでちゃって」
「でも僕は、木下さんのこと好きだよ」
「本当に?友達としてとかじゃなくて?」
「うん。友達としてとかじゃなくて1人の女の子として好きだよ」
「嬉しい……アタシも吉井君が好き」
吉井君がアタシに腕を回し抱きしめてくる。アタシも吉井君を抱きしめ返す。
「あの……、キスしてもいいですか?」
「いいけど、 アタシ始めてよ」
「僕も始めてだよ」
アタシは、目を閉じる。
吉井君の唇とアタシの唇が重なる。
あんなに大好きだった吉井君が、今はこんなに近くにいて抱きしめてくれる。
なんて幸せなんだろう。
「木下さん。僕と付き合ってください」
「順番がおかしいじゃない。バカね」
フフッ、とアタシが笑い吉井君は苦笑いをする。
そして、アタシは再び吉井君の唇にアタシの唇を重ねる。
「アタシも好きよ」
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僕と優子と誕生日
アタシ、木下優子は去年の夏に明久に告白されて、付き合い始めることにした。一緒に登校して一緒にご飯を食べて一緒に帰る。毎日が充実していた。
しかし、そんなアタシに今、人生最大の壁が立ちはだかっている。それは、明久への誕生日プレゼント。
実は二ヶ月前から内緒で手編みのマフラーを作っていたのだが失敗してしまい、今やペラペラの布となってしまっている。明日が明久の誕生日。このままじゃまずい。本当にまずい。
「はぁ」
もう、何度目かもわからない溜息をつく。
放課後にどっかで買って来なきゃいけない。何にしようかな……。
誰かに聞きたいけど、誰かに聞くってなると思いつくのは愛子と代表ぐらいだ。
不幸中の幸いというやつか、二人が丁度やってくる。
「優子ー、次は体育だから更衣室行こ」
「うん」
「……優子、何かあった?」
「なっ!?なんでわかったの」
「……優子のことなら分かる」
「流石代表だね」
代表には敵わないな……。
アタシは抱えていた悩み、明久の誕生日プレゼントについて二人に打ち明けることにした。
「実は、明久にあげる誕生日プレゼントを考えてて…」
愛子は、ふむふむと頷き話し出した。
「それならさ、プレゼントはわ・た・し、っていうのはどう?」
「な…何言ってんのよ。できるわけないじゃない」
「ゴメンゴメン。代表はどう思う?」
今度は、無表情ながらも真剣に考えてくれているであろう、代表に愛子が聞く。
代表は一拍おいて問題発言。
「……婚姻届?」
「十年後に参考にさせてもらうわ……」
「……そう?」
そういえば、この二人は少しずれていたんだった☆
誰か、ちゃんとしたアドバイスをくれる人はいないのだろうか。
「しょうがない。アイツに聞くか」
アタシは、ある教室に向かって歩き出した。
「秀吉はいるかしら?」
Fクラスの田中君?だか横山君?だかに言うとすぐに呼んできてくれた。それにしても、本当にここはAクラスと比べて酷い設備だなと毎回思う。
明久もよくこんなとこで勉強できるな。ていうか明久は勉強してないんだった……。
ガラガラガラ。ドアが勢いよく開き、秀吉が教室から出てくる。
「何じゃ、姉上?」
「ちょっと来てくれるかしら」
「ウム、問題ないのじゃ」
秀吉と共に学校の屋上にやって来た。
なぜ、屋上なのか。それはもちろん、誰にも聞かれたくないからだ。
実際、アタシと明久が付き合っていることを知っているのは、代表と愛子と秀吉だけだ。Fクラスの人達にバレてしまうと、明久は襲われてしまうのだ。
「何の用じゃ?姉上」
「急に呼び出して悪かったわね。実は明久の誕生日プレゼントなんだけど…」
「手作りマフラーはどうしたのじゃ?」
くっ!秀吉のくせに鋭い……。
「実は、失敗しちゃったのよ。代わりになるものを探しているのだけど、明久が好きなもの何か知らない?」
「別に失敗しても明久なら喜ぶと思うのじゃが?」
「ダメに決まってるでしょ!」
そんなのは有り得ない。失敗したのを渡すなんて頭のおかしい子だ。明久も困ると思う。
でも、彼ならそれでもアタシに優しくしてくれるだろう。アタシは明久の、そういう所が大好きだ。だからこそ、喜んでくれるちゃんとしたプレゼントを買いたいのに……。
「で?明久の好きなもの知ってる?」
「一番好きなのは姉上じゃろうな」
「な、何言ってんのよ!」
「本当のことじゃろ?」
「………」
「後は、ゲームとか料理とかじゃな」
「うーん。やっぱりその二つよね」
昨日もゲームと調理道具は考えたが、ゲームのカセットとか調理器具とかをあげるのって彼女らしくない気がする。
……うーん。
正直、参考にはならない我が弟。それでも、ここまで来てくれたことには、お礼を言うべきだろう。
「まあ、ありがとね秀吉」
「どういたしましてじゃ」
アタシ達は屋上から出てそれぞれのクラスに戻る。
もうすぐ放課後、本格的に時間がなくなってきた。
☆
アタシは、校門の前でいつものように明久を待つ。
友達とふざけ合っている人、一人で黙々と歩く人、彼女とイチャイチャしている人、それを追いかけているFクラス。
様々な人が校門を抜けていく。そんな人達を眺めているとアタシは何故だか、自分がちっぽけに感じてしまう。アタシはこの人達の中の一人で、ただの生徒dぐらいでしか無いのではないかと。でも、それはアタシを知らない人が見た場合だ。明久から見たらアタシはたった一人の彼女なのだ。それだけで十分だ。明久にとってアタシが大事な人ならそれで。それ以外の人はどうでもいい。
それにしても明久遅いな……。
そう思ってから数分後、予想通り明久からメールがきた。
『ごめん優子。鉄人に捕まっちゃって、まだ帰れそうもないや。悪いけど先に帰ってくれる?』
正直、ラッキーだと思ってしまった。これでプレゼントを買いに行ける!
『わかったわ。じゃあお先に帰らせてもらうわね』
いや待て?こんなメールでいいのだろうか。彼女らしくもっと可愛いメールを送ろう。
『わかったわアッキー♡今日はもう会えないけど、後で電話いっぱいしようね I love you♡」
………。
一人で何やってるんだアタシは!!
結局、最初に書いたメールを送って、早急にショッピングセンターへ向かった。
バスに乗って十五分ほどで、目的の場所に。
さてと、雑貨屋さんやおもちゃ屋さんなど、色々あるがどこにいこうか。
店内案内地図と睨めっこをしていると、知った顔が横を通る。
「坂本くん?」
「おお、木下姉か。奇遇だな」
坂本くんだ。これは丁度いい。坂本くんは明久と一番仲のいい友達だ。明久の好みは把握しているだろう。というか、坂本くんも明久にプレゼントを買いに来たのかもしれない。
「じゃあ俺はもういくぞ。翔子に見られたら面倒だからな……」
「あの、ちょっとまって」
「ん?なんだ」
「実は……」
「ん?」
「いえ、やっぱり何でもないわ」
「そうか?じゃあ俺はいくぞ」
危なかったー!そういえば明久と付き合ってることは、秘密にしてたんだった。危うく、口を滑らしてしまいそうになった。
「もうここでいいや!」
半ば、やけくそ気味に目の前の店に入る。アクセサリーのお店パイナップル。ネーミングセンスは置いておいて、商品は中々のものだった。
「あっ、これ」
店の商品の棚には、ハート型のアクセサリーが置いてある。漫画とかでありがちな、半分に分けられて恋人同士で持つやつだ。
何故かはわからないが、これにピンと来た。
「すいません。このハートのアクセサリーください」
思ったよりも早く買い物が終わり、その分、家でのお楽しみタイムが増え、HPを回復することに成功した優子であった。by木下優子
☆
ついに明久の誕生日がやってきた。プレゼントも用意してあるから大丈夫!今日は、久々のデートを楽しもう!
「ご、ごめ〜ん優子。ちょっと姉さんに捕まっちゃって」
「別に大丈夫よ?」
「よかった。じゃあ行こっか」
「ええ」
「はい」
「え?」
明久はアタシに右手を差し出してくる。
「手、繋がない?」
「ごめんなさい。今日はちょっと」
アタシはとっさに手を隠す。
裁縫で失敗をしてボロボロになった手を見られたくなかったからだ。
それから、私達は遊園地に行き一日中遊び、明久の家に来た。
「適当に座ってて。ご飯作るよ」
「いや、私も手伝うわ」
「お客様にそんなことはさせられないよ」
「いいの。明久の隣になるべくいたいから」
明久が赤くなって止まっている間にエプロンを持って隣に並ぶ。もちろんアタシの顔の方が赤い。
台所に並んで二人で料理を作る。
こんな時間が一生続いてくれたらいいのに、という希望はやはり叶わずものの数分でクライマックスを迎える。
お皿を取ろうとしたら明久も同じ事を考えていたらしく、手と手がぶつかる。
「ごっ、ごめんなさい!」
「ここっ!こっちこそ!!」
今度は二人の顔は、梅干しのように赤くなる。いつも手は繋ぐが不意打ちはずるい!
お互い照れて余り喋らなかったが、なんとか料理が完成した。
「じゃあ食べよっか」
「ええ、頂いたきましょ」
「「いただきます」」
私達は、お互いのことやAクラスのこと、Fクラスのことなどほかにも、たわいもない話をしながらご飯を食べ進めた。
「それにしても流石の腕前ね、明久」
「そうかな?ありがと」
パエリアにサラダにスープ。どれを食べても、十分店を出せるぐらいおいしかった。アタシも手伝ったが、ほとんど明久だ。本当にアタシは彼女らしくない。
「優子、今自分のこと攻めたでしょ?」
「え!?どうしてそう思ったの?」
「そりゃ、その、か、彼氏だから」
明久は照れて下を向き、テーブルに向かってそう喋った。うん、アタシも照れる。
二人の沈黙が続くと、耐えかねて明久が話し出す。
「で?ど、どうしたの」
「アタシ彼女らしくないなと思って」
「え?」
ポカンと口を開けていた。バカだけど可愛い。バカわいい。そんな言葉を発明しているうちに明久は言葉を発した。
「優子は十分最高の彼女だよ!」
「そう?」
「うん。その証拠にキスをする時だってちゃんと……」
「って!何を言おうとしてんのよ。恥ずかしい」
「ご、ごめん」
その後は無言となり、静かに晩餐は終わりを迎えた。
「そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」
お皿を洗いながら明久が言う。
「そんなに出てって欲しいの?」
少し意地悪に返すと、明久は困った顔をしてから喋りだした。
「いや、夜になると危ないかなって」
「じゃあ泊まっていい?」
「ええっ!?」
「彼女が止まるのって、そんなに驚くことかしら」
「いや、まあどうだろうね」
「で?泊まっていいの?」
「まあ、優子がいいなら構わないけど」
「じゃあお言葉に甘えて」
その後アタシ達はお風呂を済ませて、談話をしたりゲームをしたりした。
「ふぅ。そろそろ寝よっか」
「そうだけど、その前に少しいいかしら」
「何?」
アタシは鞄の中からプレゼントを取り出す。
「はい、誕生日おめでとう」
「ありがとう。忘れられてたかと思ったよ」
「彼女よアタシは……」
明久は、ごめんごめんと言いながらプレゼントを開けて行く。
「えーっと、これはハートのストラップか。ありがとう大事にするね」
明久が笑顔を作る。何というかぎこちなかった。
「あんまり気に入らなかった?」
「え!?そんなことないよ。でも、優子手を怪我してたからプレゼントは編みものだと思ってたんだ。だから驚いちゃって」
「ああ、それね」
痛いところを突かれたな……。気づいていたなんて、アタシのことよく見てくれてる証拠だと思うとすごく嬉しかった。
「実は、失敗してただのペラペラの布になっちゃったの」
「それって、今持ってる?」
「あるけど……」
アタシは再び鞄の中に手を入れ、失敗したマフラーを出した。
「これなんだけど」
「もらってもいいかな?」
「別にいいけど、そんな物どうするの」
そう問いかけると今度は、純粋な笑顔で明久は答えた。
「優子が頑張って作ってくれたからね。大切に使わせてもらうよ」
「そんなペラペラなの使えないわよ」
「でも全然寒くないよ。優子の愛情がたっぷりで暖かいからね」
明久は、なんてバカなんだろうと呆れてしまう。でもそんなことより、明久の優しさが凄く嬉しかった。アタシは、彼のこんなところに惚れたんだろうと思う。
「バカ。でも……ありがと」
「うん」
明久が返事をすると同時に彼の胸に飛び込み、耳元で囁いた。
「大好き」
どうでしたか。感想や評価、アドバイスなどよろしくお願いします。
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