ひびみくの後ろの席の百合豚モブ (東山恭一)
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モブ子の一日
私は私立リディアン音楽院高等科の生徒、もちろん音楽の道を志して居るのだがもう一つ趣味故の「下心」があってここに入学した。それは…
「あ、おはよー!」
「おはよう」
「あ、おはよう。立花さん、小日向さん」
栗色の髪の元気な少女の立花響さんと黒いショートヘアに白いリボンが特徴的な小日向未来さん。毎日一緒に登校してくるのは一つ屋根の下で暮らして居るかららしい。そして二人して私の前の席に座る。
「ねえ未来、今日はさー」
そう、これなのだ。私は俗に言う「百合豚」なのだ。リディアンに行けば百合の一つ二つくらいあるかと思って入学したが期せずして大当たりを引き当ててしまった。それと言うのも…
「今日の晩御飯何ー?」
「響ったら、さっき朝ご飯食べたばっかりでしょ?」
「えへへー、でも未来のご飯美味しくってー」
「調子良いんだから」
朝っぱらからこれかという思いが湧き上がる、イギリスあたりならとっくの昔に婚姻届出してるであろうこの二人、朝っぱらから全開である。ニヤけたいがぐっと我慢する。朝のHRが終わり授業が始まる、だが授業如きではこの二人は全く止まらない。小声の会話が聞こえてくる。
「未来、ここってさー…」
「そこは昨日やったばっかりでしょ、ここをこうしてー…」
「あー、ありがとう!」
「どうしたいまして」
そう言って顔を合わせて笑い合う。叫びそうになるがここも耐える。殺す気マンマンなやりとりをシラフでやるんだからもー!となるが我慢我慢…と、そんな事をしてるうちに授業が終わる。午前の授業が全て終わり昼休みになる、私は学食に行ってカレーを頼み適当な席に座る。ここの学食は安くて美味いと言うのがとても学生想いで身に染みる。
「美味い…ッ」
カレーを噛み締めていたら私の視界内の席に立花さんと小日向さんが友達3人を連れて座った。今日は運が良いなと思いつつ引き続きカレーを食べていると会話が聞こえてきた。
「ねぇビッキー、今日おばちゃんのお好み焼き食べてこーよ!」
「うん、良いよー!」
買い食いを快諾する立花さん、それは良いのだがそれをやると小日向さんの晩御飯が食べられなくなるのでは?と思っていたら小日向さんが同様の事を立花さんに言った。
「響、お好み焼き食べて晩御飯も食べられるの?」
「大丈夫だよぉ。未来のご飯は別腹だよ!」
「そんなものなの?」
「そんなものだよ!美味しいご飯ならいくらでも食べられちゃうからね!」
前言撤回、カレーと立花さんと小日向さんの絡みのダブルパンチで胸焼けしては幸運ではあるがその後がきつい、必死に水を飲み干しフゥと息をつく。いつもより数倍量が多く感じたカレーをなんとか平らげ午後の授業に向かう。午後の展開は大体読めている。それは…
「zzz…」
「響、起きて。響ったら」
「むにゃ…もう食べられないよお…」
「もう…」
こんななのだ、こんななのだ。とにかくこんななのだ、この二人の前では語彙力など紙屑のように吹き飛んでしまう。顔を覆って震えていると大声が聞こえてきた。
「立花さん!!!」
「はいぃッ!」
またか、と呆れ気味に立花さんが先生に怒られている風景を見ていた。この時ばかりは小日向さんも呆れたように溜息をついていた。立花さんが怒られ終わって座ると申し訳なさそうに頭を掻きながら話し始めた。
「いやはや、お恥ずかしいところを…」
「もう、昨日もでしょ」
「どーもお昼ごはん食べると眠くなっちゃって」
「もう寝ないでよね」
「大丈夫大丈夫」
はいワンセット終わった。とてもよろしい、見慣れてる百合は癒しを与えてくれる。午前とは打って変わってほんわかしつつ学校が終わった。さて、と荷物を持って帰宅しようと中庭に出るとまた、いや幸運にも再び立花さんと小日向さんが前が歩いているのが見えた。
「お好み焼きお好み焼きー♪」
「お好み焼き楽しみだね」
「うん!」
ルンルンで歩いている立花さんと小日向さん。これだけでも大分よろしいのだがこれだけでは終わらなかった。
「あっ…!」
「未来!」
つまづいて転びそうになった小日向さんを立花さんがとっさに支えた。鍛えてるとあって流石と思っていると二人が話し始めた。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう。響」
「未来はおっちょこちょいだなぁ」
「それ響が言う?」
「あー、それどう言う意味ー?」
「そのままの意味ですー」
「むぅ、まあ良いや。未来」
傾いていた状態の小日向さんを元に戻して立花さんは言った。
「大丈夫、未来に何があっても私が守るってみせるから。ねっ!」
「…うん、ありがとう。響」
「うん、おまかせあれっ!」
刹那、夏の暑さなど知ったことかと言わんばかりに私は走り出していた。ただ夢中で、弾かれたように。息を荒げながら「ただいま」と言って自宅の階段を駆け上がって制服のまま布団に寝転がって枕を顔に被せた。
「ハァァァァァァァァァァァ…」
私の溜息とも叫びとも取れる声が部屋にこだまする。そこから畳み掛けるように独り言を開始した。
「本当に何なのあの二人…何も中庭でイチャつかなくても良いじゃん…あ…あ…やばい…語彙力が…無理…助けて…タスケテ…まあとにかくアレだ…」
私はこれが日課だがいつもこう締めるようにしている。
「今日も良いもん見させてもらいました…」
Twitterの垢作りました
@touyama_kyouiti
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モブ子の新カプ発見
今日も今日とて私はリディアンにて立花さんと小日向さんがイチャイチャしてるのを朝から見ていた。すると脇から声が「おはよう」と聞き慣れた声が聞こえた。
「おっ」
私が振り向くとそこには友達が立っていた。先日は風邪で休んでいたみたいだが快癒したようだ。良かった良かったと胸をなでおろす。
「やや、治ったようで何より何より」
「夏風邪は辛いからね。普段は僕風邪とかしないんだけど」
「まあまあなっちゃったもんはしょうがない」
「まあね」
友達はニコッと笑うとカバンを開き授業の準備を始めた。私もそれを見て「もうそんな時間か…」と呟いて準備を始める、そして授業に入った訳だが前の二人はエンジンフルスロットル、なのにこっちがオーバーヒートするかと思った。何度も叫びそうになったのを耐え忍んで何とか授業を終えた。
「ッハァー…」
「アハハ、座学なのに溜息ついてる。また前の二人?」
私が二人が居なくなったのを見て溜息をつくと友達が分かっているかのように原因を言った。
「そうだよ、あの二人が一限からイチャイチャしてるのが最高に好きなんだよ」
「えっと…百合?だよね。僕が居ない時大丈夫だった?」
「大丈夫じゃなかった…排出先が居ないんだもん…あの二人に殺されるかと思った…」
「えっ?」
「あ、いや。比喩ね比喩」
「びっくりしたぁ…」
とまあこんな風に友達は百合の事は微塵も知らないが特にマイナスの感情とかは抱かずに付き合ってくれるので良い友達を持った。立花さんと小日向さんと言いリディアンでは私持ってるなと強く思う。そんなこんなでお昼、今日は珍しく弁当なので友達と一緒に中庭で食べることにした。そんな時である。
「んぁ…?」
「ん?どうかした?」
「や、あの二人。確か…」
「ああ、雪音さんと風鳴先輩だね」
そう、私の視線上には青いポニーテールと端正な顔立ちで否が応でも目を引く姿をした風鳴翼先輩と最近新しく編入した雪音クリスさんが渡り廊下で話していた。
「あの二人仲良かったのか…なるほど」
「あ?食指動いちゃってる?」
「トーゼン、ちょっと静かにしてて」
「はーいっ」
私は耳を澄ませて二人の会話を聞いてみると二人とも声の通りが良いのか結構会話が聞こえてきた。
「…が全く反省しなくて、参りそうですよホントに」
「の割には楽しそうに見えるが?」
「なっ…そんな訳無いですよッ!こっちは本気で…」
「ああ、分かっているとも」
「からかわないで下さいよホントに…」
この時点でも先輩後輩してて大分ヤバイのだが二人はまだ話を続けていた。
「ハハハ、すまないな。そうだ、今日は雪音の好きなラーメン屋に行くか?」
「ホントですか!?もしや奢ってくれたり?」
「ほう?言うではないか雪音?まあ良いだろう、今日は特別だぞ」
「マジで!?やっりぃ!」
あまりのアレさに顔を手で覆うが尚も聞くのを止めずにいると風鳴先輩が何かを思いついたように話し始めた。
「そうだ、マリアに電話して今日の晩はいらないと伝えておかねば」
「ああ、そうですね。マリアのヤツそこら辺疎かにするとメンドくさそうですし」
「前回連絡し忘れた時は結構怒られたがな…」
私はそれを聞いて思わず「は?」と声が出てしまった。友達がそれに反応してこっちに話しかけた。
「どうかした?」
「や…あの…」
「ん?」
「翼さんが言ってたんだけど…「マリア」って誰か分かりますかって分かるわけないか…」
「んー…?マリア…マリアかぁ…あっ、もしかして」
「マジで?分かるの?」
友達が指を鳴らすと私は目を輝かせて手を顔から取って友達の方を向いた。
「マリア・カデンツァヴナ・イヴさんじゃないかな。ほら、アーティストの」
「アーティスト…私そっちは疎いからなあ…調べてみるか…」
携帯を取り出し調べてみるとそこにはピンク色の長髪で頂点の猫耳のような髪型が印象的な綺麗な女性が映っていた。
「…ほーお」
「どう?分かった」
「いや顔良すぎでしょ風鳴先輩こんな顔良い人と同棲してんのハァ〜〜〜〜〜〜〜…無理」
私はまたうずくまって早口でまくし立てた。友達はケラケラと笑いながらそれを囃し立てる。
「ありゃ、また発作が起こった」
「う…うう…そのご様子を是非見たい…けど叶わぬ願い…あと雪音さんとの先輩後輩ムーブ何…ホント何…」
「大丈夫ー?」
「…無理」
「そっかそっか、とりあえずもうすぐ昼休憩終わるし一旦教室戻ろう」
「うん…」
私は教室に戻った後も立花さんと小日向さんのイチャつきを見せられなんとか1日が終わった頃には完全に頭がパンクしていた。
「うぁ…リディアンナメてた…」
「今日体育ないのに見事にグロッキーになってるねぇ?」
「そりゃ一日で3組もカプぶち込まれりゃこうもなるって…帰って落ち着くために少し寝よ…」
「うん、それが良いよ。君に風邪引かれても困るしね」
「うん…バイバイ」
「バイバーイ」
私はヘトヘトになりながら家に帰り着きベットにボフンと寝込んだあと枕を顔の上に乗せて手で押さえる。
「やっべー…リディアンやっべー…今世紀稀代レベルの百合の園だわ…どうなるんだ私…うん…良いもん見させてもらったけども…」
私はそんな事をブツブツと呟き晩御飯までしばしの眠りに落ちた。
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星奈の敗北
それは、ある日の昼休みの事だった。空と弁当を食べている時に「ソレ」はやってきた。
「今日も元気だ弁当と百合が美味いッ!」
「それは良かった、あの二人今日も飛ばしてるみたいだしね」
「うん…本当好き…夫婦だもんあの二人…」
「夫婦ってまた面白い例えだねぇ」
「いや結婚しててもおかしくはない…」
そんな時だった、私の心を切り刻む災厄が訪れたのは。
「デース!」
「ソレ」は、その声と共に視界に入ってきた。特徴的だったのでふとそちらを見た。
「星奈?どうかした?」
「いや…あの二人」
「ソレ」は一つ後輩の生徒の二人組、一人は金髪のショート、一人は黒髪のツインテールだった。
「ああ、暁さんと月読さんだね。一つ後輩で最近入ってきたって言う」
「へぇ…」
「ソレ」は認識した瞬間に、私の心を切り刻んだ。
「やっぱり調の手は冷たいデス!暑くても気持ちいいデス!」
手を繋いでいた、人目をはばからず。楽しそうに。その瞬間に私の語彙力が塵と消えた。
「そう言う切ちゃんの二の腕だって冷たい、程よい気持ち良さ」
「ちょっと、調くすぐったいデス!調もくすぐるデス!」
そう言って暁さんが月読さんに抱きついてくすぐり始めた。私の思考が…消えた。目の前の暴力になすすべなど一つもない、そう悟った。認識がなくなり二人のやりとりが頭に入ってこない。だが最後だけははっきり聞こえた。
「やっぱり調大好きデス!」
「うん…私も切ちゃん大好きだよ…」
…と、それからすぐ意識を取り戻した。
「星奈!?ねぇ大丈夫!?」
「…えっ、あっ…あぁ…どうかした?」
「どうかしたのはこっちだよ、あの二人見るなり固まってうわごと呟いてるんだもん」
「いや…あの…あの二人がヤバすぎて…何…アレ…」
私は言葉を絞り出すのがやっとだった、目の前の「アレ」はなんだったのか。言葉にできない、したくない。したらもう一度あの感覚を味わうのかと思うと…そもそもあの感覚はなんなんだ…?初めて立花さんと小日向さんを見た時だってああはならなかった…
「星奈!?またボーッとしてるよ?」
「ハッ…」
「ホントに大丈夫?」
「大丈夫…どこも痛くないし悪くない、ただあの二人が…ヤバイ」
「教室戻る?」
「うん…」
私は教室に戻った後ひたすらぐでんとしていた。さっきの「アレ」はなんだったのだろうか、何故手を繋いでいたのか、何故全く人目もはばからずイチャイチャしていたのか、何故公衆の面前で「大好き」などと言い合えるのか。何も分からない、それに今は脳が分かることを拒んでいる。そんな気がした。
「空…」
「ん?」
「ちょっと寝るから授業始まったら起こして…」
「うん、分かった」
少しして起こされた後、授業中も上の空だった。立花さんと小日向の絡みも今日は全く頭に入ってこなかった。そして帰り道でも何度か空に呼び掛けられて返事するくらいにはぽやんとしていたらしい。そして家に帰り枕をかぶる。
「なんなんだろ…アレ…」
さっきよりは頭が動く、そうすると「節操がない」と言うワードが出てきた。
「ああ…そうか、節操がないのか…確かに立花さんと小日向さんは多少なり人を弁えてるから…なるほど…」
私は一人で納得した後、疲れ切った頭を癒すようにまたしばしの眠りについた。
あとしつこいようですがツイッターフォローしてくれると嬉しいです。創作の事とかシンフォギアの事とか色々呟きます
@touyama_kyouiti
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星奈の目覚め
それからと言うもの私はあの二人のことについてずっと考えていた。公衆の面前でもあの節操のなさ、何故なのか。考えれば考えるほど分からなくなる、それでも私は何かに突き動かされるように考えていた。
「星奈ー?」
「ん…?ああ、空。どうしたの?」
「また暁さんと月読さんの事考えてるの?」
「うん…分からなさすぎてどうにも…それにあんなに節操ないのなんなんだろって…」
「ふーん…」
授業が始まってもそれは変わらなかった、立花さんと小日向さんのやりとりすら入らない程度には深く考え込んでいた。そして昼休み、空がふと話しかけて来た。
「ねぇ星奈」
「…ん?」
「放課後さ、ちょっと僕に付き合ってくれるかな」
「え?…ああ、うん。分かった」
「ありがとね」
そう言って空は笑った後また弁当を食べ始め、私はまた唸り始めた。急にあんな事を言い始めた空がよく分からなかったがそんな事はすぐにあの二人の事で掻き消えた。そして放課後、私は空に話しかけた。
「空、昼の話だけどどこ行くのさ」
「ちょっと付いて来てよ」
「…?うん、分かった」
空の言われるままについて行くと人気のない校舎裏に来た、少し不審に思って空に話しかけようとしたがそれより先に空が話し始めた。
「ねぇ星奈」
「ん?」
「星奈はさ、百合の事が嫌いになっちゃったの?」
「へっ!?何を藪から棒に、そんな事無いって。私が百合を嫌うだなんてそんな事天地がひっくり返っても…」
「でも星奈…」
空はそこまで言うと俯いてしまったがまた消え入りそうな声で話し始めた。
「最近ずっとウンウン唸ってて…全然楽しそうじゃないんだもん」
「それはあの二人が…」
「それでも、それでも前の星奈は楽しそうだったよ?」
「え…?」
空は私の肩を掴んで泣きそうな声で言った。
「最初に立花さんと小日向さんを見た時に星奈は「何も分かんない、けどあの二人は大当たりだ」ってすっごく嬉しそうに言ってた。でも暁さんと月読さんを見てからはずっと何も言わずに唸ってて…」
「…」
私はその時を思い浮かべ殴られたような気分になった。確かにそうだ、何も分からなかった。一体アレはなんなんだと少し怖くもなった、けど今はここまでエモい百合だと思うまで頑張ってあの二人のことをわかろうとしてきた。そこまで考えると空が落ち着いたのか声は泣きそうだが笑って話しかけて来た。
「ねぇ星奈」
「…うん」
「僕ね、星奈が楽しそうに立花さんと小日向さんのこと話してるのすっごく好きなの。星奈の楽しそうに話してるの見るだけで僕も楽しくなるの」
「えっ?」
「ホントだよ、僕に百合は分からない。それでも楽しいの…でも今は星奈は全然楽しそうじゃないから僕まで悲しくなっちゃうな」
「そうか…そうなのか…」
まさかそうだったとは思わなかった、空は確かに私の話すことを嫌な顔一つせずに聞いてくれた。でもまさか楽しいだなんて、そう考えるとすごく申し訳なくなる。
「ごめんね…空…」
「謝って欲しくない、僕はただ前みたいに楽しく話す星奈に戻って欲しい。ダメかな?」
「…ダメじゃない、ありがとう。目が覚めたよ」
私は私の肩を掴んでいる空の手を握って言った。
「私油断してた、立花さんと小日向さんのことがわかるなら大抵の百合は分かるだろうって。でもそんな事ないんだ、百合なんて無限にある、あの二人だけが全てじゃない。なんでこんな事分かんなかったんだろ、ありがとね」
私がそう言うと空は嬉しそうな顔をした後笑って言った。
「うん!」
「迷惑かけたね…で、そろそろ帰る?」
「うん、そうしよっ!」
帰る途中、手を繋ぎ開いた方の手でクレープを持った暁さんと月読さんをを見かけた。そこまで遠くなかったので会話が鮮明に聞こえて来た。
「調調、調のクレープどんな味がするデス?」
「美味しいよ、一口食べる?」
「ホントデスか!?じゃあ私のも一口あげるデス!」
そう言うと二人は互いのクレープを差し出しあって同時にパクリと口にした。
「う〜ん、調のクレープ美味しいデス!」
「切ちゃんのクレープも美味しい…」
「それは良かったデス!」
そんなやりとりをして私達とは違う道を歩いて行った。私は思わず顔を手で塞いで上を向いた。
「星奈…?」
空の心配そうな声が聞こえるが私はその体勢のまま喋った。
「いや…二度目だけど本当になんなのあの二人…ガチで節操なさすぎる…けどさぁ…」
「ん?」
私は笑って空の方を向いて言った。
「やっぱリディアン間違いなく最高の百合の園だわ。見てて飽きない!」
空はそんな私を見て笑って答えた。
「うん、やっぱりいつもの星奈だ。楽しい!」
「アハハ、どーも。んじゃまた明日!」
「バイバーイ!」
私は家に帰り着くといつものように枕をかぶった。
「何なんだよあの二人…クレープのアーンのし合いとか…それも公衆の面前で…あのバカップルがぁ…もっとやれぇ…へへへ…あー…」
私はそう言うと飛び起きて夕暮れの空を見た。
「なんなんだ空は…私の事楽しいって…そっか…フッ…」
そこまで言ってまた寝転んで枕を被った後呟いた。
「やっぱ空は最高の友達だ、私の胸の内を全部受け止めてくれる。名は体を表すってマジやん…」
そう言って私は最高の友達の事を噛み締めていた。
ほぼ星奈と空の話になってしまいました。あと1話だけこの二人がいちゃつきますがご容赦ください
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星奈のお出かけ
私は今日は欲しい本があるため少し足を伸ばして隣町のショッピングモールに来ている。空は部活と重なり来れないようなので単独行動だが別にイヤなわけじゃない。目的の本を買いほくほく気分で店を出ようとするとふと見知った顔が目に飛び込んで来た。
「お…?」
それは立花さんだった、一人でいるようだがどこか焦っている。そのまま通り過ぎても何か悪い気がしたので話しかける事にした。
「立花さん?どうかしたの?」
「あっ、星奈ちゃん!」
立花さんが私を確認すると駆け寄って来て焦り切った様子で話しかけて来た。
「ねぇ!どこかで未来を見なかった!?」
「えっ?小日向さん?」
「うん!はぐれちゃったみたいで…」
「見てないけど…」
「そっかぁ…ありがと!」
そう言って駆け出そうとする響さんに無意識で声をかけてしまった。
「ねぇ!一緒に探さない!?」
「えっ?良いの?」
「えっ、あ、うん。良いよ」
「ありがとー!それじゃ行こっ!」
そう言って立花さんは私の手を掴んで引きずるように歩き始めた。ちょっと待ってこれ地雷シチュだわ、やっちまった。小日向さんに殺される。下手に呼び止めなければよかった。とりあえず私はその点を突っ込む事にした。
「あの…立花さん…手…」
「あっ、ごめんね。痛かった?」
「そうじゃないんだけど、わざわざ繋がなくても大丈夫だよ」
「そう?じゃあ離すね」
そう言って手を離してくれたが一体何なんだろうかこの人は、前々からイケメンムーブかますなとは思ってたがまさかここまでとは思わなかった。こりゃ覚悟がいるなと思っていた矢先、立花さんが話しかけて来た。
「星奈ちゃんは今日一人なの?」
「うん、本買いに来ただけだから」
「そうなんだ?どんな本?」
「え?うん、ただの漫画だよ」
それ以上踏み込まないで、百合漫画だから。変なこと吹き込んでこの二人に影響があったら私生きていけなくなるからやめて。なんとか立花さんの無自覚な追求を振り切り話題を変えた。
「立花さんはここに何しに?」
「未来と一緒にカップを買いに来たんだ。使ってたのが割れちゃってね」
二人で買い物と聞いて少し興味が湧いて踏み込んだ質問をしてみた。
「へぇ、何買ったの?」
「ほらこれ、黄色のが私で紫のが未来のだよ」
立花さんが取り出したのは色づきグラスのカップだった。それもお揃いの、マジかよ。少し意地悪のつもりだったのに見事にカウンター喰らっちゃったよ。思わず叫びそうになるがぐっと堪えた。やめよう、殺される。この二人に殺される。そう思い直すとふと考えが浮かんだ。
「立花さん?携帯ないの?」
「携帯…?そうだ!携帯だ!」
こうしてたまに抜けてるのも立花さんらしいなとは思う。小日向さん大変なんだろうなぁ…まあそこらへんも含めてこの二人はとてもよろしいのですが。そんな事を思っていると立花さんが嬉しそうに話しかけて来た。
「連絡来てた!ちょっと遠いけど待ち合わせ場所決まったよ!行こう!」
「立花さん!走ったら危ないって!」
私は走る立花さんを追いかけてそのまま集合場所まで来てしまった。そこには小日向さんが心配した様子で待っていたが立花さんを見つけると明るい表情にすぐに変わった。
「響!」
「未来!良かったぁ、どうしようかと思ってたよ!」
「もう、携帯鳴らしたのに…」
「アハハ、ごめんごめん」
私を置いてカップルし始めたぞオイ、最高かよ。このまま去ってやろうか、それが良いと去ろうとすると立花さんに呼び止められた。
「星奈ちゃん!ありがとね!」
「あっ、うん。どういたしまして。バイバイ」
「バイバーイ!」
それだけ言って去ろうとすると背後から二人の会話が聞こえて来た。
「やっぱり未来の近くが1番安心するなぁ、やっぱり私の陽だまりだ」
「ふふ、ありがとう。響」
…え?今なんてったの立花さん?陽だまりとか言った?小日向さんの事陽だまりとか言った?知らなかったァ…マジかぁ…。ニヤケそうになる顔をなんとか抑えながら帰路につき家に帰り着いた。いつもなら1番に封を切る漫画を置いて私はベッドに転がった。
「陽だまり…陽だまりって…うぁ…表現がエモい…ウッソでしょねぇ…あー…やはりあの二人ナメてかかると殺される…今漫画読んだら多分死ぬ…しばらく悶えてよ…くぅぅ…最高かよ…」
そんな風にいつも通りに私の時間は過ぎていった。
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星奈、歌姫を見つける
私は前回部活で来られなかった空と一緒にショッピングモールに来ている。だが…
「あっちゃー…やっちゃった」
色々見て回っていたが別れて単独行動した拍子に迷子になってしまった。前回の立花さんと言いここは女二人を迷わせる百合殺し的な何かでもあるのかと冗談交じりに考えつつ空に電話して集合場所を決めてそこに向かう。その途中ふと見覚えのあるような姿が目に入ってきた。
「んー…?」
鮮やかな青い髪、すらっとした体躯。周りは分かっていないようだが私はリディアンで何度も見たから何となくわかる、風鳴先輩だ、やはりこういう所ではバレるとまずいのか変装をしている。そして横にもう一人数歳年上のピンクの髪の女の人を連れている。
(付き人…?いやプライベートだし…)
少し考えるとどこかで見たような気がする。確か何度か風鳴先輩とデュエットした事のあるマリア…えーと…まあ良いか、マリアさんが一緒に歩いている、それ自体食指が動くのだがまず変装してるとは言え有名人オーラがハンパない。
(うわぁ…リディアンで見慣れてるから分かったけどこれバレたら大変なことになりそう。あんまり見てて怪しまれてもヤダけどもうちょっと見てたいなあ…じゃねぇ!)
空を待たせてることを思い出し飛び跳ねん勢いでその場を去った。
「お待たせー、ごめんねはぐれちゃって」
「大丈夫だよ、僕も見てなかったのが悪いんだし。さ、行こうか」
「おーう!」
空と合流し歩いてる途中私は小声で空に話した。
「あのさ、合流する途中で風鳴先輩とマリアさんが一緒に歩いてるの見たよ」
「ホントに?」
「うん、それからは知らないけどまだここら辺に居たりしてね」
「そっかぁ…でもまあサインとかは良いかな、色紙ないし」
「まあね」
そうしてクスッと笑いながら歩いていると運良く再び風鳴先輩とマリアさんを見つけた、二人はマリアさんの服を選んでいるようだった。空も私もテンションが上がるがせっかくのプライベートなので邪魔せずにちょっと脇を通るくらいにしようと決めた。
「なんかドキドキするね?」
「まあもうあの世紀の歌姫と同じ空気吸ってるってだけでだいぶヤバいんだけど」
「ふふ、そうだね」
そしてスッと隣を通る瞬間。風鳴先輩の話し声が一瞬聞こえてきた。
「帰ったらファッションショーでもするか?」
帰ったら…?はて、どう言うことだろうか。私は歩きながら少し考えるとその答えはすぐに出たがここで止まると勘付かれかねないのでそのまま歩き続け十分に距離を取ってから空の肩を叩いた。
「ん?どうかした?まさか隣通っただけで尊いとかそんな感じかな?」
「風鳴先輩が…「帰ったらファッションショーするか?」って…マリアさんに…」
空はその言葉を聞いて少し考えると少し驚いたように言葉を返した。
「それって…」
「同棲じゃん…?まぁじかぁ…あの二人同棲してたのかぁ…でもなんかサッパリした関係っぽい…それはそれで良しッ!」
「良かったね、思わぬ収穫があって」
「うん…」
突然の百合に心を震わせながらモールを楽しみ帰る時分になった。出口への道なのでまた二人が服を選んでいたところに戻ると暁さんと月読さんが居た。
「…マジか」
「ほら、気を強く持ってね」
「応ッ」
空に励まされ歩いて行くと少し離れてても話し声が聞こえてくる。
「調、アタシどっちが似合うと思うデス?」
「んー…こっち、かな」
「ホントデスか!?アタシもこっちが似合うかなーと思ってたんデスよ!やっぱり調は私の事なんでも分かってるデス!」
「切ちゃんの事だもん、なんでも分かるよ」
そこまで聞いて話し声が聞こえなくなる。私はもはやヨロヨロだがここからまだ帰らねばならないのだ。かなりキツイ帰路を辿りなんとか家に帰り着くとベッドにボフンと寝転がって呟いた。
「あのバカップルめ…やはり要注意多少といったところ…容赦ない暴力で私を切り裂いてくる…怖い…けど歌姫二人は良かった…今頃ファッションショーしてるのかな…うわぁ…ええなあ…あの二人の家の壁になりてぇ…」
そんな事を呻いていたが疲れが出たのかそのまま眠りに落ちてしまった。晩御飯には起こされたがその時もにやけそうなのを必死に堪えながら食べてたのは内緒の話。
@touyama_kyouiti
フォローしてお題とかマシュマロとかくれるととても嬉しいです。どうかお願いします
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星奈と特別授業
今日は特別授業らしく1年生と同じ教室で授業をする事になった、いつもより広い教室に移動し決められた一個で四人座れる長机の左から二番目に座る。どうやら席がランダムらしく空と離れてしまった。まあ少し寂しくはあるがほんの1時間だし大したことは無いだろうと思っていると目の前の光景に絶句した。
「未来、ここであってる?」
「うん、大丈夫だよ」
「あっ星奈ちゃん!前後だねー」
「…そうだね」
「ん?具合悪いの?」
「いや全くそんなことはないよ」
「そう?なら良いけど」
そう言って二人は隣同士に腰掛ける。捨てる神あれば拾う神ありとはこの事か、にしてもラッキーだったぜ。まさかこの二人の後ろを取れるとは僥倖僥倖、退屈しないで済みそうだなどと呑気に思っていると前の机の残りの二人がやってきたのだがその二人に私は絶望した。
「ややっ!?奇遇デース!まさか響さん未来さんと隣になれるとは!」
「ラッキーだったね、切ちゃん」
「わぁ、偶然だね!ほら座って座って!」
そう言って暁さんと月読さんも腰掛ける。嘘でしょ?空いないと私死んじゃうよこれ?この四人とか百合豚だけを殺す機械になり得るよ?私はせめて何か救いをと見回すと少し遠目に空が居た、目配せを送るとこっちを向き何かを察したように胸の前で両手で握りこぶしを作り「ファイト!」と言わんばかりにグッと握る、私はOKサインを作り机に突っ伏し誰にも聞こえないような声で呟いた。
「今日が私の命日か…百合で死ねるなら本望かな…」
そう弱気に言ったあとチャイム前を向くともはや禁断を通り越して自衛隊あたりが出動したほうがいいんじゃないかレベルの百合の園が小声で展開されていた。
「それでデスねそれでデスね、調の料理がすごく美味しかったんデス!」
「それを言うなら未来の料理だって負けてないよッ!」
「ちょ、ちょっと切ちゃん。恥ずかしいよ…」
「響も声が大きいよ」
月読さんと小日向さんが窘め二人は苦笑いしながら一応の収束を見えた。いきなり嫁自慢を見せつけられ表情が緩みそうになるが隣に二人もいるのでなんとか持ちこたえる。クソッ、隣が空ならいくらでもニヤけられたのに。だがこんなものでこの四人が止まる訳はなく更なる尊みが私を待ち構えていた。立って少し歌うという段に入り私達は一度起立し歌い始める。
「〜♩」
歌唱は何事もなく終えた、これで軽く小指繋ぐとかあったら声が裏返ってた。そこら辺は幾ら何でも自重したと言うとこかな。そして座ると暁さんと月読さんが小さくハイタッチをしていた。
「イェーイ」
「やったね、切ちゃん」
まあもはやこの程度で私がアクションを起こすと思ったら大間違いよ、慣れたわ。そして時間が経ち授業ももはやクライマックスと言ったところ。私は勝ったなと余裕綽々でいた。なんなら立花さんも暁さんもうつうつとしている。いつも通りだな、うんうん。
「んー…」
「むにゃ…」
二人が傾きそのまま暁さんと立花さんがそれぞれに寄りかかるような形になろうと言った感じだった。なるほど、そう言うのも悪くない。そう思った矢先、そんなものは一瞬で飛び越す感情がやってきた。
「…」
小日向さんと月読さんが黙ったまま立花さんと暁さんを抱き寄せた。私は一瞬変な声が出たが咳き込んでなんとか誤魔化すことに成功した。マジかよこの二人強かすぎんか、この二人を見誤ってた。ああいかん、頬が緩む。口元を隠し授業を受けなんとか終了のチャイムが鳴る。例をした後四人はまたいつものように話しながら教室を去っていったが…
「…ヤバ…マジかよ…」
「星奈?星奈?大丈夫?」
「あ…空…」
机に突っ伏していたところに空がやってきた。なんとか無事だと伝えそのまま帰りのホームルームまで過ごしフラフラと自宅のベッドに転がった。
「…やべぇなあの2組のスケ…強すぎるじゃん…勝てんわ…うん…」
そして私はいつもの一言を口にして締めた。
「今日もいいもん見させてもらいました…」
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