帝都廻。 (玉砕兵士)
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1話

初投稿、初小説になります
連載にするかはわからないので一応短編にしています。
駄文になりますがよろしくお願いします。


人が次第に朽ちくように、国もいずれは滅びゆく

 

 

千年栄えた帝都すらも今や腐敗し生き地獄

 

 

人の形の魑魅魍魎《ちみもうりょう》が、

 

 

我が物顔で跋扈する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かをさらいに夜がくる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はあの店に行くわよ!!」

 

「お待ちください、お嬢様!」

 

目を輝かせながら買い物の次の店である向かいの建物へと向かうアリアとその屋敷の警備兵。

それを驚いて眼差しで見ているのは

帝国の辺境の村から来たタツミ。

今はアリアに野宿しようとしているところを拾われてその恩に報いるため屋敷の警備兵の人達と一緒にアリアの警護(?)をしている。

 

〈多すぎだろ、どんだけ買うんだよアリアさん!〉

 

と心の中でツッコミを入れていた

 

「お嬢様の買い物って凄いんですね…もうなんか量が面白くなってますよ。」

 

「お嬢様に限らず女ってのはみんなあんな感じだ」

 

そんなタツミの言葉をこれが普通だよと若干諦めた感じで答えた

 

「そうすか?俺の知り合いは着物はすぐ選ぶんですけど。」

 

タツミは田舎から一緒に来たサヨとイエヤスを思い出しながら呟く

 

「それより上を見ていみろ」

 

「え?」

 

「あれが帝都の中心…宮殿だ」

 

言われるがままに、警備兵の男と同じ所に目を向けると他の建物より一際大きく立派な建物がタツミの目に入った

 

〈うわぁ、デケェなぁ想像してたのと倍以上にデケェ!〉

「あれが国を動かす皇帝様のいる所ですか!?」

 

 

「いや」

そう言うと、警備兵の男は誰にも聞かれないように細心の注意を払って小声でタツミに

「少し違う、皇帝はいるが今は子供だ。」

「その皇帝を影で動かす大臣こそがこの国を腐らせる元凶だ」

 

〈腐らせるってそれってもしかして〉

 

タツミが危うく口からでかかった所を

 

警備兵の男がすんでのところでタツミの口をふさぐと

「おっと変な声は出すなよ、聞かれれば打ち首だ」

 

「じゃあ、俺の村が重税で苦しんでいるのも」

 

「帝都の常識だ」

「他にもあんな連中もいるぞ」

 

タツミは警備兵の男が指をさすところの壁に貼られている手配書らしきものに目を向けた。

 

「ナイトレイド?」

 

「帝都を震え上がらせている殺し屋集団だ名前の通り標的に夜襲を仕掛けてきやがる」

「帝都の重役達や富裕層の人間が主に狙われている」

そう話す警備兵の男からは僅かに額から汗が流れていた。

 

〈そんなにおっかねぇ奴らなのか?〉

 

「一応覚悟はしておけよ」

 

「はい!」

〈そんなおっかねぇ奴らなのか、そんな奴らにアリアさんは狙われるかもしれねぇってことか用心しねぇとな〉

 

「あと、とりあえずアレなんとかしてこい」

 

「なんの修行ですか!」

 

とタツミ屋敷の警備兵がアリアの買った服やら装飾品などの荷物を運ぶのに四苦八苦してるあいだに時間は過ぎていき夜になる

 

 

 

深夜

 

 

 

その夜、何者かの殺気に気づいたタツミはベットから飛び起きた。

 

「なんだ…殺気⁉︎」

 

その時、タツミの脳裏に浮かんだのは昼間警備兵の男との話が思い出されていた

 

「帝都を震え上がらせている殺し屋集団だ…帝都の重役達や富裕層の人間が命を狙われている」

 

その時、外の様子を確認するため窓の外を確認した時彼等はいた。

 

満月を背にして、彼等は標的の屋敷を見下ろすようにいた。

ナイトレイドの襲撃である。

 

「富裕層だからってここも狙うのかよ⁉︎」

 

屋敷の異常に気づいた警備兵はすでに行動を起こしていた。

突如襲来したナイトレイドへの迎撃に向かうため屋敷の警備兵の中では、タツミが強いと一目見ただけで分かった腕利きの3人が向かっていった。

 

「俺はどうする⁉︎加勢に行くか…護衛に行くか」

 

タツミは考える間も無く、すぐに護衛に行動を移した。

何故なら迎撃に向かった屋敷の警備兵3人が瞬く間にナイトレイドに殺されてしまったからである。

彼が護衛に行く決意をしたのはせめて恩人であるアリアだけでも助けねばという考えからであった。

 

〈せめて、せめてアリアさんを守らないと!〉

 

屋敷の裏口の道を最短ルートで探していたタツミであったが、屋敷が広かったため時間が掛かりはしたものの運良くアリアとその護衛を務めていた者に合流できた。

 

だが、そこでアリアの護衛を務めていた警備兵の男から異常を察知した帝都の警備兵が来るまでの間ナイトレイドの連中を食い止めてくれと頼まれなし崩し的に引き受ける形になってしまったタツミ。

そこに追ってきたナイトレイドの追っ手である少女とあわや戦闘となるかと思われるも、少女はタツミを無視して護衛とアリアに向かっていった。

護衛の警備兵が手にしていたマシンガンで少女に発砲するも、少女の斬撃の方が圧倒的に速く一足にて必殺の間合いに入ると一閃すると護衛の警備兵は上半身と下半身が泣き別れして絶命してしまった。

 

「ヒィッ」

 

目の前で人が真っ二つにされた光景を見てしまい腰がぬけてしまったアリア

目の前には、そんな惨殺死体を作り出した暗殺者がいた

 

「待ちやがれ!」

 

アリアを守るためにタツミが少女に斬りかかる

 

「お前は標的ではない、斬る必要はない」

尚も表情を変えずに少女は淡々という

 

「でもこの娘は斬るつもりなんだろ」

 

「うん」

 

「うん⁉︎」

 

「邪魔すると斬るが?」

殺気は感じられないが警告をするようにタツミに聞いてくる

 

「だからって逃げられるか!」

タツミが覚悟を決めて、叫ぶ

 

「そうか、では葬る」

瞬間、少女の殺気が倍増されビリビリとタツミの肌に突き刺さる。

 

明確に相手の少女はこちらの事を殺すと言った。今まで感じたことのない殺気に気圧されるタツミであるがアリアを守ると決めた以上絶対に負けるわけにはいかなかった。

 

〈少なくとも、今の俺に勝てる相手じゃない。けど、そんなこと気にしてられない!〉

 

〈そもそも女の子一人救えない奴が村を救えるわけがない!〉

 

その瞬間同時に飛び出していく二人。

 

最初の一撃を受け止め、お互い鍔迫り合いにもたれるも、タツミはすぐに剣を振り上げ少女に一太刀を浴びせようとする。

それを軽い身のこなしで上にジャンプして回避する少女は続けてタツミに蹴り技を与える。

 

〈ま、まずい!〉

蹴り技によってダメージを受けたのではなく、体制を崩されたことでタツミが無防備な状態になってしまった。

そこへアカメの突きが繰り出された。

 

ザシュ

 

アカメの帝具村雨の一撃を食らってしまい力なく倒れるタツミだが、まだ息はあり多少突きの衝撃は残っていたもののダメージは無かったタツミ

 

〈来い、油断してこっちに来やがれ〉

 

「…」

〈先程の刀の感触は、人体ではなかったこの男油断できない〉

 

「へ、油断して近づいてもこないのかよ」

 

「手応えが人体ではなかった」

 

タツミが胸元のシャツから取り出したのは木彫りの人形のようなもので、誇らしげにかかげながら

 

「村の連中が守ってくれたのさ」

 

「葬る」

 

「ちょっと待って。お前ら金目当てかなんだろこの娘は見逃してやれよ。戦場でもないのに罪もない女の子を殺す気か!」

 

〈ダメだ、コイツ全く話を聞いてねぇ!〉

少女の刀がタツミを斬ろうとし、タツミが死を覚悟した瞬間

 

「待った」

少女の後ろから別の人物が現れ少女を引っ張った

 

「何をする」

 

「まだ時間はあるだろ、この少年には借りがあるんだ返してやろうと思ってな。」

 

タツミには嫌でもその人物に見覚えがあった。

 

「あんた、あの時のおっぱ!」

その人物はタツミが最初に帝都に訪れた時に金を騙し取り、野宿をする羽目になった原因であるレオーネだった

 

 

「そうだよ美人のお姉さんだ」

レオーネはタツミに笑顔を向けウインクしてみせそういった

 

「少年、お前罪もない女の子を殺すなといったがこれを見てもそんなことが言えるかな」

レオーネが屋敷の倉庫の前に立つと凄まじい動物の脚力でそれを蹴破った

 

「見てみろ、これが帝都の闇だ」

 

倉庫の中にあったのは夥しい数の凄惨な死体で溢れていた。

手足がちぎれているもの、目玉がないもの、凄まじい数の拷問器具にはどれも元の色がわからないほどに血で染まっていた。

全員が苦悶の表情を浮かべており、想像を絶するものであったことが窺いしれる。

 

「な、なんだよコレ…」

 

「地方から来た身元不明の者達を甘い言葉で誘い込み己の趣味である拷問にかけて死ぬまで弄ぶ。それがこの家の人間の本性だ。」

 

そんな隙を突き、アリアが静かに逃げ出そうとするのをレオーネは見逃さずすぐにアリアを捕まえた。今のレオーネの表情は先程とは違い殺し屋の顔に戻っていた

 

「この家の人間がやったのか」

 

「そうだ、護衛達も黙っていたので同罪だ」

 

「う、嘘よ私はこんな場所があるなんて知らなかったわ。タツミは助けた私とコイツらとどっちを信じるのよ」

ナイトレイドの下調べで既にアリアが関わっていたことはわかっていたがまだ嘘をつこうとする様子にレオーネは蔑みの眼差しを向ける。

そんな時、倉庫の檻から声が聞こえてきた。

 

「タ、タツミだろ、俺だ」

 

「イエヤス⁉︎」

そこにいたのはバンダナが特徴的な村のムードメーカー的な存在であったイエヤスが居た。今のイエヤスは身体中に斑点模様があり誰が見ても異常があるのは明らかであった。

 

「俺とサヨはその女に声を掛けられて、飯を食ったら意識が遠くなって気がついたらここにいたんだ。その女がサヨをいじめ殺しやがった」

アリアを睨みながら言うイエヤスの表情は親友の命を奪った者に向けられる憤怒の形相であった。

 

「何が悪いって言うのよ。お前達は何の役にも立てない地方の田舎者でしょ!家畜と同じ、それをどう扱おうが私の勝手じゃない!!だいたいその女家畜のくせに髪がサラサラで生意気すぎ、私がこんなにクセッ毛で悩んでるのに、だから念入りに責めてあげたのよむしろこんなに目を掛けて貰って感謝すべきだわ!!」

タツミの目の前で自分の罪状をまくし立てるアリアの表情は醜悪そのものであった

 

「最後に一つ聞きたい、サヨはサヨは何処だ」

そう倉庫の中のどこにもサヨはいなかったのだ、タツミはアリアが自らの罪状を言っていた後半あたりから何も聞いていなかった。もうすでにタツミはアリアを殺すことに決心がついていた。

 

「知らないわよ、そんなの。それより私に恩を感じてるならはやくコイツらを殺しなさい!」

 

「善人の皮を被ったサド家族か邪魔して悪かったなアカメ」

 

「葬る」

 

「待て」

 

「まさか、またかばう気か?」

 

「いや、俺が斬る」

憤怒の表情でタツミが斬りかかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、突如としてアリアの背後の倉庫から黒い触手のようなものが飛び出しアリアの身体に巻きつき、そのままアリアの身体を凄い勢いで引っ張り倉庫の深い闇へと姿が消えた。

 

「なんだ、今のは!?」

突然の事態に驚いたタツミだが、すぐにアリアに振り下ろした剣を握り直し戦闘体制を継続する

 

アカメ達ナイトレイドもこの異常事態に対応するべく、各々が自分の帝具である槍や、刀、銃を深い闇の中である倉庫に向ける

 

この時レオーネは、誰よりも早く倉庫の奥にいる得体の知れないナニかをその動物的本能で感じとった。

 

「な、なにかヤバいのが居る。」

〈こんな気配今まで感じたこともない、身の毛もよだつナニが居る!〉

 

この時レオーネが感じ取っていたのは圧倒的な強者への恐怖ではなく純粋な死への恐怖だった。

 

ズルズル…ズルズル

 

ナニかを引きずりながらゆっくりとやって来る音がまず聞こえた。次に倉庫の暗がりから出てきたのは先程アリアを暗がりに引きずり込んだ黒い触手がウネウネと動きながら月明かりの下に晒された。

そしてついにその全容が露わになった。

黒い触手に、白い大きな袋を背負いこみ、のっぺりとした白い仮面のようなものが顔をなしているのかこちらの方をジッと見つめている異形のもの

 

「な、なんだ、こいつ?」

 

タツミが呆然としているなか、先程までは気づいてなかったがそんな異形の背負っている袋の中で何かが動いているのをタツミは見た。

 

「なによ!ここ⁉︎出しなさい!早くここから出しなさい!!」

 

タツミはすぐにその声がアリアだと分かり、声を聞くたびに沸々と怒りが湧き上がってきていた。

怒りに駆られたタツミは相手が危険種か何かだろうと思うとすぐに剣を振り上げ飛び出した。

 

「この野郎、袋ごと俺が斬ってやる!」

 

アカメには劣るものの凄まじい速さで迫ると剣を振り下ろす

 

だが、それに反応した異形は先程とは比べ物にならない速さで前に跳ねるように動きタツミの斬撃を躱す。

 

「標的は葬る」

 

次に動いたのは、ナイトレイドのアカメだった。異形に近づき異形の弱点かもしれない白い仮面にむけ神速の斬撃を振るい刀の一太刀を浴びせようとする。

 

〈危険種なら命があるはず、かすりさえすれば仕留められる。〉

アカメが持つ帝具村雨は対象に当てさえすれば、そこが急所であろうとなかろうと当たったところから全身に呪毒が周り相手を死に至らしめるという凶悪なものだ。しかし敢えて異形の急所を狙ったのはひとえに彼女が暗殺者としての訓練を受けており、帝具の性能に驕ることなく、常に殺す時には相手が死ぬ一撃を与えるよう鍛錬をしているからである。

 

アカメは上段から振り下ろしで白い仮面を狙う。そこに黒い触手がアカメを吹き飛ばそうと左右から振るわれるも、瞬時にそれを察知したアカメは横薙ぎに村雨を一閃し、触手を斬る。

 

「やった、勝った!」

ラバックガッツポーズをして喜ぶ

 

ナイトレイドの他の面々も、ラバックのように喜んだりするわけでもなかったが、皆んな一様にホッとしていた。

正体不明の危険種に遭遇した面々からすればホッとした表情を浮かべていた。

だが、それも長くは続かなかった。

 

アカメはこの正体不明の危険種に相対してるからこそ、一番初めにその異常さに気がついた。

「皆気をつけろ、こいつ呪毒が効いてない!」

 

ナイトレイドの全員に衝撃が走った。

一撃必殺の帝具である村雨の呪毒が全く効かない、こんなことがあり得るのだろうか。

そして事態は加速していく。

 

「アカメちゃん、撤退だ!警備隊がもうすぐこっちに来る!!」

ラバックの帝具千変万化クローステールが警備隊の接近を探知していた。

 

「アカメ、撤退だ標的を殺ってないがやむを得ない!」

 

口々にアカメに撤退を促す声が上がっていく。状況が状況だけにアカメも悔しそうではあったがナイトレイドの仲間とともに撤退を行なっていく

 

「ほら少年、お前も来ないとやばいぞ。アカメの村雨が効かないヤバい奴のところにお前を放っていけない」

 

「おわぁ、なんで俺まで!?」

「俺はアイツをまだ斬ってねぇ!」

 

「危険種の袋に入れられてたアイツも多分あの危険種の餌になるだろうし大丈夫だよ」

 

そして、レオーネはタツミの抵抗をものともせずに、半ば強引に引っ張っていく

 

タツミはレオーネに抱えられたまま、眼下を見ると、最初と同じようにこちらをジッと見つめている白い仮面を付けた異形のものはまだそこにいたが、こちらから手を出さなければなにもしないのか最初と同じようにこちらをジッと見つめていたがタツミに興味がなくなってしまったのか、倉庫から出てきた時と同じように屋敷の奥の方へとゆっくりと這いながら夜の闇に消えていった

 

そして、後にタツミは村の仲間のような人をもう見たくないという思いでナイトレイドへと加入した。

この時から、襲撃時に現れた危険種。それもアカメの村雨が効かないのである。このことは暗殺集団であるナイトレイドにとっては驚異であった。アカメ達が帰還しすぐにこのことがボスのナジェンダに報告するとこの危険種に対する対策が検討されるようになった。

 

そして後日、レオーネが遺体を回収するため屋敷に向かうも倉庫にはどこにも遺体はなく、凄惨な血の跡と拷問器具しか残されていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書いちまった。


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2話

いいや限界だ、押すね!今だ!!
やったぞ!発動(投稿)したぞ!!!







というわけで連載小説にします。
予定としては月1で投稿目指して頑張ります!
早ければ早く投稿します。


 

 

 

 

「サヨ、イエヤス、俺は元気でやってるからお前らもそっちで元気にしてろよな」

タツミは花が添えられた小さな2つの墓の前で誰も眠ってなどいない場所にそう語りかけた。

 

その後ろでタツミの様子を悲しそうな目で眺めるレオーネ

 

「ごめん、タツミお前の親友を見つけられなくて、どこに連れていかれたのかも分からなくて。」

珍しくレオーネが申し訳なさそうな顔で謝ってきていた。

 

「いや、レオーネが謝る事じゃないよ。それよりどうしたんだこんなところまで来て、すぐ戻るって言ったのに」

タツミが不思議そうにレオーネにそう問うと

 

「いや、大したことじゃないんだ。ボスが夕飯だからタツミを呼んできて欲しいって命令したから、ここに居るだろうと思って。」

 

「そうなのか、分かった行こう。」

 

「もういいのかい?なんならもう少しいても。」

 

「いや待たせるわけにはいかないからな。行こう」

 

そう言ったタツミの様子はもう先程の哀しげな様子は一切なく、いつもの元気なタツミの姿に戻っていた。

 

そんなタツミの様子に少し安心したレオーネはアジトの岩山にタツミと2人で戻っていった。

 

道中レオーネはタツミにアリアと、消えたサヨを探すためアリアの屋敷から離れた帝都の中でも人通りが少ない場所を探していた時の出来事を話した。

 

それとは別にレオーネはアリアを連れ去った危険種の手掛かりを探すようにとボスであるナジェンダから命令されていた。その巣を探すためにもまずは帝都の中から何か手がかりはないかと思い帝都の端から端まで歩いて探していたがレオーネはなんの手がかりも掴めてはいなかった。

 

無理もなかった、なんせ何から何まで正体不明で、反乱軍の本部にナジェンダが信頼する部下のアカメ達から姿、形さらに、帝具(村雨)の呪毒が全く効かない相手などの報告しても最初は何かの冗談だと思われ相手にもされず、埒のあかない本部にナジェンダが珍しく怒鳴るぐらいであった。

 

そこでナジェンダが直接本部に怒鳴り込むように入ると、漸く本当のことだと本部が気づき詳細が書かれた文書をナジェンダから受け取ると、上層部はその正体不明の危険種を恐れた。

 

帝具、しかも一撃必殺の村雨の呪毒が全くの無力という報告は帝国を相手取る反乱軍としては戦闘能力が未知数とはいえ帝国最強の将軍エスデスに匹敵するほどの脅威であった。

 

それをもし帝国が飼い慣らしているものだとしたら、悪夢いや帝国にとっての悪魔以外の何物でもないだろう。

 

しかし、何もしないわけにはいかなかった。

 

すぐにその危険種の情報を収集する命令が帝都に潜伏している諜報部隊に下命され、暗殺集団である筈のナイトレイドにも一時的ではあるものの情報を収集するように命令が下された。

 

救いがあったとすれば、帝国の飼い慣らした危険種でも帝国の科学力によって生み出された危険種でもないということがすぐに判明したためである。

 

落ち着いて考えてみれば、たかが貴族のお嬢様1人を救うために帝国いや、あの大臣がそんな重要なカードを使うわけはなかったのである。

 

こうして反乱軍本部はホッと一息をつくことになるが脅威的な存在であるのには変わらなかった。これで

 

だが、上層部はピンチをチャンスに変えろと言わんばかりに暗殺集団であるナイトレイドに可能であれば飼い慣らすことをナジェンダに要請した。

 

あくまでも命令ではなく要請というのも村雨が効かない相手に対し生け捕りをするのは流石に上層部も危険だと分かっていたため、このような要請にしたが、ナジェンダはあからさまに嫌そうな顔をしつつも要請とことだけあって、あまりにも危険すぎる任務に大切な部下の命を失いたくなかったもののやらなければいいだけだと割り切り、この任務をできる限り行うと一応の了承を示した。

 

アジトに戻ったナジェンダはアカメ達に今回の要請を一応伝えはしたものの通常の暗殺を優先するようにという命令をし、正体不明の危険種に対しては絶対の戦闘を禁じた。なお、一応の体裁を整えるため鼻の効くレオーネだけは暫くはこの危険種の手がかりの捜索をナジェンダから命じられ、ナジェンダからも休日だと思ってあまり行かないところを散歩するだけで良いと言われ、レオーネはこのやる気のない危険種の捜索を快く了承した。

 

余談だが、ナジェンダの喫煙がその日だけはいつもの倍であったという。

 

そして、そんなこんなで危険種の一応の捜索という任務(休日)を遂行していたレオーネだが、誰も彼女が思わぬ発見をするとは思わなかったであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日レオーネは昼間からいつも通りに酔わない程度に酒を飲み、散歩をしていると、嗅ぎ覚えのある匂いが鼻をかすめたのを感じ一瞬血の匂いかとも感じたレオーネだが鉄臭い匂いではなくある人間の匂いであった。

 

暫くウンウンとあれも違うこの匂いとも違うと考えていたが、考えるのをやめてとりあえずその匂いの元に行ってみることにしたレオーネ。

 

近づくにつれてその匂いの正体がまさかという疑念から確信へと変わる。

 

「あのサド家族の娘生きてやがった!」

 

前に取り逃がした標的の娘であるアリアである。

 

〈まさか、あの危険種に捕まって生きていたとはなでもそれも今日までの命だ。タツミの親友の仇を今とってやる〉

 

人気のない路地を進むにつれ匂いは強くなっていく。

 

次のかどを曲がればというところでレオーネは急ブレーキをかけ止まった。

 

〈まさか、これは罠か!?〉

〈あの化け物が仕掛けた罠なら、ちょっと不味いなまんまと引っかかっちまった。〉

 

レオーネはすぐさま帝具ライオネルを発動し、周囲を警戒する。

 

だが、いつまでたっても襲撃はおろかその気配すらないことにレオーネは困惑したがあまりにも襲撃の気配を感知できないことに痺れを切らし、もし出会えばすぐに逃げればいいと判断し考えるのをやめ戦闘態勢を維持しつつ曲がり角の向こうに飛び出した。

 

曲がり角の先は行き止まりでその行き止まりに座り込んでいる少女が1人いただけであった。その少女こそが前回のナイトレイドの標的の1人アリアであった。

 

〈どうやら、本当にあの化け物の襲撃はないみたいだな。〉

 

周囲の安全を確保したレオーネはライオネルを発動したまま座り込むアリアに近づく

 

〈おかしい、寝てるわけでも気絶してるわけでもなさそうだ〉

 

試しにレオーネは、アリアの手を取り腕の骨をライオネルの力でバキリッと骨を折ったものの、アリアは何の反応も示さなかった。泣き叫ぶわけでもなくダラリと腕の骨が折れただけに終わった。

 

レオーネはまさかと思い脈を測ってみるも脈は正常であった。次に顔を見てみると光のない瞳で何処を見ているのか分からず廃人のようになっていた。

 

〈死んでねぇがこりゃ死ぬよりも酷いことされてるな。不気味だやっぱりアイツは化け物だ。〉

 

そんなアリアの廃人になってしまった様子に恐怖したレオーネはアリアを殺す必要もないと考え、不気味なアリアの最後の様子を見届けたレオーネは足早に逃げるように路地裏を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事の次第をアジトに戻る道中タツミにレオーネは聞かせた

 

「そんなことがあったのか、アイツがそんな状態になってるなんて。」

タツミは内心複雑な気分であった、イエヤスとサヨの仇を自分で取れなかった事の怒りももちろんあったが廃人同然になってしまったアリアの最後にタツミは哀れすら感じていた。

 

そんなタツミの内心を悟ってか、レオーネが話を変えるようにタツミの背中をバシバシと叩きながら

「とにかくタツミ、アイツに会ったらボスの言った通りに戦わずに逃げる事だぞ。」

 

そんな話しをしているうちに目の前に岩肌をくり抜いてできたアジトが見えていた。

 

数日後、タツミはヨマワリさんと再び出会うことになるのだがそれは今はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目がさめると、私はそこにいた。

だがよく耳をすますと周りには静けさの中に鈴虫の綺麗な鳴き声が聞こえ、フクロウのホー、ホーという鳴き声も聞こえてくる。

 

私が目を覚ましたのはどこかの墓地であったらしい、墓地なんてもう私はたぶん、いたであろうおじいちゃんとおばあちゃんのお墓まいりぐらいか、わたしの親友を探したあのときぐらいにしか来たことがなく、そんな場所で寝ていたせいかひどく寒かったもののこんな不気味な場所にいるのに何故だか心地よく、落ち着ける場所だとそんな風に感じていた。私の懐かしくも恐ろしい思い出の地。

 

周りには墓石が綺麗に整理整頓されるように置かれ、辺りには静けさしかない。そしてここがしんじられないが地球じゃないどこか別の世界だと分かった。

 

よく見てみると私の故郷のお墓とは形や大きさも色々違うし、墓石に貼ってある文字は英語に似ていたけど、少し違うっぽい。それだけならまだ外国だと強く誰かに言われたならばそれを信じていたであろう。

だが現実には誰も見たことも聞いたことも無いような鳥のようなしかしそれよりも遥かに大きい、そんな怪鳥が一羽のみならず何羽も満月の空背景にを雄大に飛んでいたのである。

 

そこまで見たら流石に私も信じざるを得なかったし、なによりも覚悟を決めなければいけなかった。頼れる人もいなくなった、自分が悲しんだときに励まし寄り添ってくれるたった1人の親友もいないこの世界に来てしまったということに

 

そしてどうやらこの世界にはあのお化け達はいないらしい、先程見た、見たこともない怪鳥や大きいモグラみたいに地面から出てきた蛇のようなものもいたがあの夜に見た心の底から怖いと感じたお化けは何処にもいなかった。

 

お化け比べれば怖くないからもしかしたら案外、仲良くなれるかもしれないと呑気に考えてしまうそんな私がいた。

 

そして私はあまり生前のことを覚えていなかった。でも忘れていないこと、絶対に忘れたくないものもあった。

 

私にとって大切な1つだけの思い出。他の人達とは違う体験をしたことでその時の事を今でも鮮明に覚えている。

 

小学生の頃の夏に大切な私のかけがえのない親友ににお別れの一言を言うためにとっても怖い夜を駆け回ったあの夏、その後私は親友に会うために必ず1年に一度は親友に逢いに行っていた。そのことだけはよく覚えていた。

 

「でもここは何処なんだろうあっちの大きな街に行けば分かるかな。」

 

ハルの見た先には、暗い夜の街並みが見えていた。明かりは小さくともその数からしてとても大きい街だということはハルにも遠目ながらもそれはわかった。

 

そして、ハルはこの街、帝都の夜に踏み入った。

 

そこでハルが目にしたものは、生前まであんなに恐ろしかったお化けが私は全く怖くなくなり、代わりにもっと怖いものが

 

それ以上に怖いものができてしまったのだ。

 

以前私はあの夜にコトワリ様のまじないの言葉を口にした、人の末路を目撃した時があった。

 

だが私の目の前にはその時以上に惨たらしい死体が目の前にあった。

 

何かの広場と思われる場所にはあの時のコトワリ様に出会った時の惨劇を見た以上に凄惨な死体が磔にされているのであった。

 

ある人は腰から下がない人であったり、ある人は両目が無かったり、ある人は全身に刀の切り傷を刻まれ、傷のない部分の方が見つけるのが難しいのではないかとぐらいに傷だらけの人、またある人はコトワリ様の犠牲になった人形のように四肢を切られた人もいた。

 

ハルはこの光景を見て腰が引けてしまった。顔は今にも泣きそうである。

 

〈なんで、なんでこんな酷いことができるの?〉

 

1人の少女にはそれはそれは残酷なことであっただろう、右も左もわからないこの世界に、来た理由も分からないこんな残酷な世界にたった1人で迷い込んでしまったのだから

 

〈もしかして、あの時に私が見たお化けもこんなヒドいことされたから生きている人や、私に怖いことするのかな〉

 

そう思うとハルはとても悲しい気分になり、あんなに怖かったお化けに対して申し訳ない、懺悔の念が少女の胸の中に広がっていった。

 

そして異世界にたった1人で迷いこんな凄惨な光景を見てしまった少女は、自分の未来に絶望した少女は、前にいた世界では絶対に言ってはいけないまじないの言葉を使ってしまう

 

「こんな酷い世界なんて、もうイヤダよぉ。」

 

少女が涙ながらにようやく絞り出した声はなんの意味もなかった、何も起こりはしなかった。ただただ静寂のみが広がった。

 

「どうして、どうして?…なんで?」

 

悲しみにくれる少女であったが次第になんでこんな目にあわなければいけないのかという自分に対する、この世界に迷い込ませた理不尽に対する怒りが沸々と胸中に懺悔の念を塗りつぶすように広がっていた。

 

少女の胸中を恨み、憎しみという、ドス黒い感情が支配する前に不意に最初に見た凄惨な広場が見えた

 

〈あの人達はもっと…私よりも辛くて苦しかったのかなぁ〉

 

そのことを考えると少女の胸中にあったドス黒い感情は雲散していき、私の親友ならと、考え、思い出すようになった。

 

〈あの子なら、あの子ならきっと自分のことよりも私のために何かをするに決まっている。〉

 

自分のことよりも、まず他人である私のことを誰よりも深く考える優しかった親友のことを思い出していたのだ。

 

そして、少女はもう一度あの広場を見た。誰もが目を背けたくなるような凄惨な光景を前にして、先程の怯えた様子を見せることなく、1つの決意を胸に秘めた、そんな強い目を少女は持っていた。

 

少女は帝都に行く道中で綺麗な花だと思い、摘んでおいた青い花を一輪そっと広場にある遺体の前に優しく置いた。

 

まるでそれは、凄惨な処刑をされてしまった人達の怒りを鎮める様に慰める様であった。

 

「ごめんなさい、今の私にははこんなことしかできないけどお化けになって人を襲うのはきっと悲しいことだから、とっても悲しいことだから」

 

「私頑張るよ、頑張ってこの人達みたいな人をもう出さないように頑張るよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユイ」

 

 

 

 

そして今私は分かった。

何故、あのまじないの言葉を自らの意思で言ってしまったのか、最初に私がいた深夜の不気味なはずの墓地にいることが、何故安心できたのか私は今それが分かった。

 

私はもうすでに死んでいるからだ。

 

墓地が、自分が本来なら安らかに眠っているであろう場所であった筈だったからだ。

 

そして、いくら夜で警備が薄いとはいえ暗殺集団ナイトレイドの蔓延る帝都。

簡単には入れるわけがないのだ。では何故そんな帝都に帝都の外から来た少女が1人入ることができたのか?

 

それは少女の今の姿に理由が答えがあった。

 

雨が上がった後のせいか、そこには雨水の溜まった水面があった。

 

そして水面に写っていたのは私が生前生きていた頃に出会った恐ろしかったあるお化けの姿であった。

 

あの夜、私の親友を探しに駆け回ったあの日、私を助けてくれた女の子から聞いた夜に子供をどこかに連れ去ってしまう怖かったお化け。私を隣町の工場に攫った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨマワリさんになっていた。

 

 

これも何かの運命なのかな、あの夜にあのお化け達に会った時から決められた運命なのかな、それともあの神様の与えた罰かな、それとも呪いなのかな、

 

 

 

 

それとも、

 

 

 

 

 

 

 

「ユイ、ごめんね。もう逢いに行けそうにないや。」

 

「でもきっとユイの分も頑張ってこの人達みたいな人を出さないようにするよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都広場の誰もいない深夜、そんな広場にヨマワリさんの姿になったハルが月を眺めながらそう呟いた。

 

ハルの親友にに呟いた言葉は誰にも届くことなく、静寂だけが広場にはあったが、ここで誓った親友のユイとの約束はきっと守られるだろう。

 

 

 

 

 

 

 




ハルちゃんの登場です!
それと同時にアリアはご退場でした。

そして沢山のお気に入り、UA、評価の方ありがとうございます!


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3話

なんとか間に合った!


ある日、ある夜、帝都にて。

 

「お願い、殺さないで」

苦しそうに首を絞められながらそれでも命が助かるために声をなお上げる1人の女性。

傍らには、既に息絶え首だけとなった男の死体。

 

「駄目駄目こんな時間に出歩いてるお前たちが悪い。夜に教わったろ夜には怖ーいお化けが出るんだよ。」

 

「なんでもするう!」

 

「ほんと?俺おしゃべりだけど話し相手になってくれる?」

 

「うん!なる!なるから!!」

僅かに見えた一筋の希望に必死に縋ろうとする女も話し相手になるだけならと微かに見えた希望に必死になる

 

だが女に最初から希望はなかった

 

「首と胴が離れてるってどんな気分?ちょっぴり切ない?」

そう言い月明かりに照らされた男の顔は非常に冷たく残酷だった。

 

「え?」

 

女が自分の死を理解するよりも早く女の首は地面に転がり次第に首から流れ出た血に染まっていく。

 

「んーっ」

「愉快愉快、やめられないな」

 

さも楽しそうに男は笑い、いや嗤い醜悪に満ちた顔を笑顔を歪ませた。

 

 

 

その様子を街角から様子を伺うように静かに見つめている者のには気付かず男は暗い帝都の闇に消えていった。

 

見つめていたものはゆっくりと月明かりに出てくると徐々にその姿をみせてきた。

 

月明かりに照らされたそれはヨマワリさんとなったハルであった。

 

「あの人も悪い人なのかなぁ」

なんだか、なんでなのかは分からないけどちょっぴり悲しそうな人だったような気がする。

 

それはハルの中で不思議なことであった。

 

今まで帝都で出会ってきた人たちは皆外見は普通の人に見えても中身は恐ろしい拷問を平然と行うような人ばかりであった。

 

しかし今ハルの前にいる人は、たしかに側から見ていれば人を楽しそうに殺し、愉快、愉快と口で言ってはいたもののハルの見た限りではそのように感じることは出来なかった。

 

むしろその逆で、殺すたびに辛く悲しそうになっている気がするのだ。

 

このモヤモヤとしたよくわからない考えがハルの中に残ってはいるものの結局ハルには首切りザンクに抱いた考えがまとまらず彼を見逃していた。

 

「あの人を攫うのはまだもう少し考えよう、それにそれよりももっと倒さなくちゃいけない相手がいる。」

 

いつの間にやらヨマワリさんからハル本来の青いリボンが似合う幼い可愛らしい少女へと姿を変えた。

 

そのハルの右手には路地裏から拾ってきたであろう沢山の紙の束があった。内容は主に帝都において指名手配がされている者たちばかりであった。

 

ハルは紙束から一枚の指名手配の写真を抜き取り、それをじっと静かに見つめる。

 

その指名手配の写真には帝都を騒がす暗殺集団ナイトレイドの一人アカメが写っていた。

 

「まずはこの人達を倒さなくちゃ」

 

「頑張るよ、ユイ」

 

そう呟いたハルは帝都の暗がりに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってくれ、待ってくれよサヨ!」

 

首切りザンクを倒したタツミ達これで、帝具を回収して任務完了の報告をして終わりと思われていた時タツミが急に誰かを追うようにして走り出してしまったのだ。

 

突然のことだったので、滅多なことでは動じないアカメも任務の主目的も達成して帝具を回収して帰るだけで気が緩んでいたせいか一瞬キョトンとしたような顔をしたものの、すぐに顔を引き締めタツミの後を急いで追っていく。

 

「一体どうしたんだタツミ!いきなり走り出して、それにサヨってお前と一緒に帝都に来た親友じゃないのか。それにその親友はもう」

 

「分かってる!」

 

走ってから、幾分の時間もたってないが相当な距離をほぼ全速力で走っていたためお互いに息は上がってはいるもののまだまだ2人とも余裕はあった。

走るのをやめて、アカメに振り返り足を止めたタツミの顔は一瞬辛そうな顔であったが、すぐに気持ちを切り替えたのか顔は冷静であるものの一抹の希望に縋っているような辛そうな目になっていた。

 

「だから、追っかけてるんだ!サヨが俺の前に現れて来たのはただの偶然だとは思えないんだ。何か俺に伝えたいことがあると思うんだ。それにもし無事に生きているなら村に戻してやりてえしな」

タツミの心中には心優しいサヨにはこんな根深い闇が巣食う帝都では生きて行くのは厳しいだろうというサヨを救いたいという思いがあった。

 

 

そんなタツミの止めるアカメを振り切ろうとするタツミにアカメは何も出来なかった。いや、動けなかったという方が正しかった。

 

アカメの腕には黒い触手が巻きつきタツミを止めようとしたアカメはタツミを止めることが出来なかったのだ。

 

「これは!?タッ!!?」

 

触手はアカメの手足に巻きつき身体の動きを封じるとそのまま路地裏に引きずり込もうとする。

アカメは必死に抵抗するものの、身体の四肢を封じられてしまっては何も出来ずに抵抗も虚しくアカメは路地裏に引き込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タツミがサヨを追いかけて幾ばくかの時が経ち、必死にサヨを追いかけるタツミであるがサヨは時折姿を見せ、すぐに街角を曲がったり建物の陰に隠れたりと姿を消してしまい中々追いつくことが出来ずにいたのだった。

 

努力も虚しくサヨを見失ってしまったタツミ。気がつくとタツミは帝都郊外の墓地にいた。

 

「初めてくる場所だ。」

〈墓地なんてアジトぐらいしかくるところなかったからな〉

 

人が生まれてから、最後に行き着くことになる最後の終着駅である墓地。タツミは知らず知らずのうちに不気味な場所に来てしまい内心では早くこんな不気味な場所から任務も終わったのだから早くアジトに帰りたいと思っていた。

だが、サヨを早く見つけ出さなければという親友を想う気持ちを考えれば彼女をこんな不気味な場所に彼女を置いてはいけなかった。

己を奮い立たせ、いざサヨを探すのを再開しようとしたその時であった。

 

ズルズル、ズルズル

 

なにかを引きずるような音を立ててなにかがこちらの後ろに近づいてきていた。

 

アイツだ!

 

屋敷でサヨとイエヤスを酷い仕打ちをした憎いアリアを攫った正体不明の化け物。

 

タツミも油断をしていたわけではない、こんな時でもいやこんな状況だからこそ周囲に注意をしていたから誰かが近づいてきているのであれば草むらに隠れるぐらいの余裕を持っていられるようにしていた。

 

そしてそれは、静かにゆっくりとしかし確実にタツミに近づいていたのだ。

 

タツミは恐怖した。

 

帝都で出会った反吐の出るような人間でも、人に襲いかかる危険種などという生易しいものではない。次第にタツミが感じていくのは得体の知れないナニカに対する恐怖でもましてアリアに行われたであろう想像を絶する苦しみに対する恐怖ではない。

 

 

 

似ていたのだ。タツミの近しい人の気配に、

 

 

だが、似ているだけで完璧に同一だとは断言することができなかった。

 

 

同じ人とは思えないほどに近しい人の形をした禍々しいナニカ。

 

 

辛く苦しい気分、自分の恩人が死んでしまった時のような酷い喪失感。

 

 

そして生きとしいけるものへの強い怒りと憎しみ。

 

 

それらを一緒くたに合わさったような禍々しいモノ。

 

 

誰の気配かは分からない。だがそんなことを考えている暇はタツミにはなかったし、何故そう思ったのかも分からない。

アカメのムラサメすら効かなかった相手にどうやって挑めというのであろうか、タツミの選択は三十六計逃げるに如かずの逃げの一択であった。

 

そして当然のように逃げる獲物を狙い、追いかけるヨマワリさん。

 

帝都郊外の墓地を舞台にした鬼ごっこの始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ走ったであろうか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広い墓地を右へ左へと逃げるタツミ。

元からサヨを探すために走り通しであったタツミにも体力の限界が見え始めていた。

息は切れ切れ、足ももつれて、今にも転びそうである。

だがここで止まるわけにはいかなかった。ここで止まればあの正体不明の化け物の餌食になることが容易にタツミには想像できた。

 

以前として、タツミはヨマワリさんから逃げおおせ、ヨマワリさんもタツミを捕まえ損ねていた。

 

だが次第に追い詰められていくのはヨマワリさんから未だに逃げおおせていないタツミであった。

 

クソ、もう体力が持たねぇ

 

内心で弱音を吐くタツミ。もう駄目かもしれないと諦めかけたその時再び彼女はタツミの前に現れた

 

「サヨ!」

今度はしっかりとサヨはこちらを待ち、早くこっちへと言っているような気がした。

 

あそこに行けば助かるかもしれない。

 

タツミにはそう思えて仕方がなかった。

心なしかタツミにはサヨがこちらに向けて微笑んでいるように見え、タツミは最後の力を振り絞りサヨを目指す。

 

そして、唐突に始まったヨマワリさんとの追いかけっこも終わりへと近づいていた。

 

 

 

行き止まりである。

 

 

絶望し、サヨの前で崩れ落ちるように倒れこむタツミ。ズルズルと引きずる音をたてながら尚も迫るヨマワリさん。もはやこれまでとタツミが諦め、せめてサヨだけでもと思い、サヨを逃がそうと剣をとりヨマワリさんと戦おうと決意し、後ろを振り返ると

 

サヨが自分を守るように両手を広げていた。

 

いつの間に自分の背後に回ったのかとかそんなことを考えている余裕は今のタツミには無かった。

 

「サヨ、やめろあれは俺たちが勝てる相手じゃねぇ!!」

 

タツミが声を張り上げながら言うも、サヨは微動だにしなかった。

 

そしてヨマワリさんもまたタツミへ襲ってくることもなかった。奇妙な静寂が訪れ、永遠に続くかと思われたその静寂は突然ヨマワリさんが背景と同化するように消えていったことでそれもまた終わった。

 

「消えた!」

突然消えたヨマワリさんに驚き、またどこからか襲ってくるんじゃないかと周りを見渡すも出会ってしまった時のような悪漢もなく、また恐怖もなかった。断言できるわけではないがタツミにはもうヨマワリさんはどこにもいないと感じていた。

 

「一体どうしたんだ?」

 

そのまま暫く呆然としていたタツミではあったが、取り敢えず近くにいるサヨに声を掛けた。

 

「なぁサヨ、アイツ一体何処に消えちまったんだ…。サヨ?」

 

辺りを見回すもサヨの姿は何処にもなく、替わりにあるのは今更ながらに気づいた当たり一面に広がる赤い花畑であった。

 

「サヨの奴また居なくなっちまった。なんで居なくなっちまうんだよ。」

 

ヨマワリさんが消えたことで幾分か余裕を取り戻したタツミはサヨがまた突然自分の前から消えてしまったにせよ生きているのを確認でき嬉しくあった。

 

「良かった、生きてたんだなサヨ。」

死んだと思っていた仲間が生きていた。これほど嬉しいことはタツミにはなかった。

涙が溢れるのを我慢できなかったタツミは嬉し涙を暫く流し続けた。

 

そして今日はもうアジトに戻ろうと歩き出したタツミは何か硬いものにつまづき転んでしまった。

 

「イテテ、なんだよこれ?」

タツミがつまづいたものは、赤く鉄さびた大きな四角い箱の取っ手であった。と言ってもそのほとんどが地中に埋まっており、見ることができるのは地表から出ている取手だけであった。

 

「こんなところになんでこんなものが?」

興味本意で中を開けてみると、タツミは驚いてまた転んでしまった。

 

「アカメ!大丈夫か!?」

 

中に居たのはタツミを止めようとしたところで帝都でヨマワリさんに襲われていたアカメであった。

 

「おい、しっかりしろアカメ!」

 

「うぅ、」

アカメが頭を押さえながら立ち上がるのを見たタツミは先ずは無事であったアカメに安堵した。

 

「ここは何処だ…タツミ?」

 

「良かったぁ。」

 

思わぬところで、アカメに再会出来たタツミはアカメと別れてからの経緯

を説明し、アカメもタツミを止めようとしたところでヨマワリさんに襲われた事を説明して、お互いの状況把握に努めた。

 

「サヨが、サヨが生きていたんだ!」

そしてタツミは嬉々としてサヨが生きていた事をアカメに話した、そのサヨがあの化け物を退いた事などを嬉しそうにアカメに語った。

 

「本当に、本当に良かった。サヨが生きているのをしれただけでも俺すっごい嬉しいんだ。」

 

嬉しさで興奮しているタツミを遮るようにアカメは声を掛けた。

 

「すまない、タツミ話しているところで悪いんだが」

 

「なっなんだよ」

話を遮られ、若干不機嫌になりながらタツミはアカメの声を聞いた。

 

「あそこにいるのは誰なんだ?」

 

タツミが振り返ると、アカメの視線の先には確かに人がいた。

 

タツミには一目で分かったサヨだった。

 

サラサラの綺麗な黒髪は悲しげに風に靡き、身体は痛々しい傷が無数にあるものの顔は穏やかなものであった。

 

そこにサヨは居た。

 

ただしタツミの望む結果とは真逆であり、彼女は既に永遠に眼を覚ますことなく、ただ眠り続けていた。

 

残酷な現実だけがそこにあった。

 

 

「サヨ…嘘だろ。」

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

あらん限りの声でタツミは目の前の現実を否定した。

 

アカメはその様子を見守ることしかできなかった。

 

 

 

 




次はもっと遅くなるかも、ごめんなさい!


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4話

うおおおおおお
たくさんのお気に入りとUAありがとうございます!
これからも頑張って書きたいと思います!!


ある夜、また帝都においてナイトレイドの仕事が始まった。タツミとレオーネが別の場所で暗殺の仕事を終えて帰路についているころ、マインとシェーレの2人もまたアジトへの帰路についていた。

 

「チブルって標的用心深いにも程があったわ。」

 

「でも無事に片付いて何よりです。」

 

「「!?」」

突然の殺気に身を固める2人、次の瞬間2人の走っていた未来位置に何者かによる強烈な蹴り技が叩き込まれた。

 

ガゴォっ!!

 

攻撃を代わりに受けた石で舗装された地面には小さなクレーターができており、その破壊力がいかに強力であったかをうかがわせた。

 

おおよそ、普通の人間では出せるようなものではない。

 

「やはり。顔が手配書と一致…ナイトレイドのシェーレと断定!」

 

「更に連れの女も、所持している帝具からナイトレイドと断定!」

 

相手が警備隊の鎧を纏っていることから敵と断定したものの、2人はその者から感じる気配は、他の有象無象の警備隊の人間では発せられないほどの殺意と憎悪。

相手の女の尋常ならざる気配から2人はお互いに相手の殺意に反応するように戦闘体制に入る

 

「帝都警備隊、セリュー・ユビキタス!絶対正義の名の下に悪をここで断罪する!!」

 

 

 

「正体がバレた以上来てもらうか、死んでもらうしかない訳だけど…」

マインは自分で言ってはみたものの最早戦うしかない状況であるのは相手の様子からして一目瞭然だというのがわかっていた。

 

「賊の生死は問わず、ならば正義(わたし)が処刑する!パパはお前達の様な凶賊と戦い殉職した。そしてお前達は師である隊長を殺した!絶対に許さない!!」

 

「殺る気満々て訳ね、なら先手必勝!」

パンプキンから連続して放たれた鉛玉は一発も外れることなくセリューの体めがけ直進していくが、セリューは余裕の表情を崩すことなく躱すことさせえもなく不動のままだった。

まるで自分には絶対に当たらないという余裕を感じさせた。

 

実際にそれは正しく、パンプキンの銃弾はセリューには1発も当たることはなかった。

 

セリューは自らが回避するまでもなく、自身の相棒でもある何倍にも倍加したコロの体でもって直接銃弾を防いだのだ。

 

「マイン、やはりあれは帝具です。」

 

「みたいね、しかも生物型ってやつか。」

 

お返しとばかりに、セリューも自分の武器であるトンファー形状の銃器をシェーレとマインに向けて銃弾の雨を降らせる。

 

だが、それも苦もなくマインとシェーレは横に避けて銃弾を回避する。

 

セリューはそれを見て、トンファーの銃撃だけでは効果が薄いと判断して次の一手を繰り出すためにコロに指示を出す。

 

「コロ、捕食!」

 

次の瞬間、何倍にも倍加していたコロが自身に最も近かった敵であるシェーレにサメの歯の様な鋭利な牙で襲いかかった。

 

だが、それもシェーレの卓越した戦闘センスによりすれ違いざまにコロの口半分を切り裂かれる始末により無為に終わる。

 

だが、そんな相棒の無惨な姿を見ても、セリューは余裕の笑みを浮かべていた。

それを証明するかの様にコロはシェーレの背後に立ち上がってきていた。切り裂かれた口はまるで攻撃を受けていないかの様に元に戻りシェーレへと敵意むき出しの形相で今にも攻撃をせんと立ち上がっていた。

 

コロがシェーレに攻撃を仕掛ける前にマインのパンプキンが火を吹いた。

自身のピンチだけでなく、仲間の危機にも反応したパンプキンはコロを背中から吹き飛ばす。

 

「文献にも書いてあったでしょシェーレ、体のどこかにある核を砕かない限り再生し続けるって。」

厄介な相手を前にし苦虫を噛み潰した様な顔で言うマインに

 

「なかなか面倒な相手ですね。」

より一層気を引き締めて言うシェーレ

 

帝具同士の戦いはまだ始まったばかりである。

 

 

 

「コロ、腕。」

 

「キュウウウウゥゥゥ…」

セリューの指示にコロの体が反応し、ズルリと丸太のように太い豪腕が倍加したコロの体に合わせる様に生えてきた。

 

その様子を見たマインはまるで死体にたかるウジを見てしまったかのように気分になり素直に気持ち悪いと感想を述べてしまう。

 

「こうなったらあれしかないわシェーレ」

 

「分かりました」

 

「粉砕!」

セリューが指示を飛ばすと同時にコロは獣の様な雄叫びをあげながら今度はマインへと殺人的な拳のラッシュをしながら襲いかかる。

 

「何よこれ、逃げ場ないじゃない!」

まるで、壁の様にすごい勢いで迫り来るコロの拳のラッシュを目にしてマインは声を上げる。

 

そこへすかさず帝具の中でも中々の硬度を誇るエクスタスを盾にシェーレがマインの防御に入る。

 

ピィィィィィィィィィィィッッ!!

 

ナイトレイドの2人がどちらも守勢に回った瞬間を狙いセリューは増援の警笛を鳴らす。

 

マインそして、シェーレはやむを得ない状況だったとはいえしまったと感じた。

 

異常事態の証とも言える警笛を鳴らされた以上有象無象とはいえ数だけはいるとはいえ帝具持ちの相手がいる戦場に更に警備隊が来るのはピンチの一言に尽きた。

 

だが、逆に言えばピンチはマインにとってもこれは大きなチャンスでもあった。

 

「嵐の様な攻撃、援軍も呼ばれた。これはまさにピンチ!」

 

こんな状況、ピンチな状況を冷静に見て判断できるあたりマインは暗殺集団ナイトレイドの1人であり、強者の1人でもあった。

 

「だからこそ行けぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

シェーレに拳のラッシュを叩き込んでいるのに夢中になっていた無防備なコロにマインのパンプキンの一撃は見事に命中した。

 

凄まじいパンプキンの一撃を受けたコロは、その威力により顔の皮膚が融解しとかあがっていた。

 

「火力が上がった!?」

突然の相手の帝具の火力増強に一時は驚くセリューではあったが、すぐさま再生を始めるコロに安堵するセリュー。

 

「クソ、もう修復を始めてるなんて生命力。」

これほどの火力を当てられてもすぐさま再生をする生物型帝具であるコロに歯ぎしりをするマイン。

 

「帝具の耐久性をなめるな」

 

「帝具は道具」

 

「!?」

 

「使い手さえ仕留めればすぐに止まります!」

マインの放った一撃によりコロの拳のラッシュが止まった直後に事前にマインと示し合わせてたとおりにシェーレはコロを操っているセリューに接近戦を仕掛けていた。

 

エクスタス()!!

 

「金属の発光、こんな技が!?」

 

「終わりです」

帝具の中でも中々の硬度、そして最強の斬れ味を誇るエクスタスがあとほんの少しまでセリューを追い詰めるもセリューは至近距離でのトンファーガンの斉射によりエクスタスの攻撃を回避する。

 

修復を終えたコロも追い詰められた主人の危機を助けるべくセリューの元に向かおうとするものの、マインの胴体への攻撃に踏みとどまる。

 

「おっと、アンタは私。」

先ほどの攻撃と比べるとだいぶ火力は落ちてはいたものの、帝具であるコロへの危機意識、いつ来るかわからない帝都警備隊という援軍の脅威でコロを丸ごと消しとばすほどの威力はないにせよ火力を一点において集中すれば、コロの体を貫通できるだけの威力をパンプキンはまだ持っていた。

最初は、シェーレがコロの適合者であるセリューを倒すまでの時間稼ぎをするつもりであったが、マインはコロの核の場所を少しずつ消去法で見当をつけ始めていた。

 

マインに希望が見え始めていた。

 

マインがコロ相手に時間稼ぎをしている間にもシェーレとセリューの戦いは激しさを増していく。

 

 

セリューは元々は訓練こそ人並みにオーガから鍛えられてはいたものの対人戦それも帝具同士での戦いの経験は全くと言っていいほどなく、接近戦が得意のシェーレが相手では防戦一方であった。

 

だが、それも終わりが見え始めていた。

 

足場の悪い広場の中で不運にもセリューはつまずいてしまい体制を崩し、そのセリューの隙を見逃すシェーレではなかった。再度肉薄しエクスタスによる斬撃を喰らわせることに成功した。

 

「うああああ」

 

咄嗟に腕を前に出し致命傷を防ぐことには成功したものの腕を綺麗に切り飛ばされ反撃の手段を文字通り無くしたかに見えた。

 

だが、

 

「正義は必ず勝ァァァァァァツ」

 

セリューにとっての奥の手でもあった。人体改造。その一端である腕からの銃器出現にはさしものシェーレも驚いた。

 

次の一手で、トドメをさせると考えていたシェーレは先程と同じくセリューに接近していたのが仇になってしまっていたのだ。

 

「隊長から授かった切り札だ。喰らえええ!」

 

帝都の広場に1発の銃声が鳴り響く。まるでそこの時間だけが止まったかの様に2人は動かなかった。

 

この至近距離での銃撃は逃れられまいと内心で確信していたセリューではあったが、エクスタスを盾にし無傷でいるシェーレがおり、セリューの確信は否定された。

 

奥の手が防御され、一瞬動揺したセリューの隙をつきシェーレはセリューの奥の手である腕から生えている銃器を斬りとばす。

 

「ぐっ、まだまだ!」

 

自身の奥の手も破られ、絶対絶命のこの状況かでも彼女の自分が悪と認識したものへの殺意はまだまだ意気軒昂であった。そして彼女の奥の手が破られた今彼女は最後の手段をとった。

 

「コロ、狂化(おくのて)!」

 

奥の手の発動を認識したコロは体毛は白から赤黒い色へと変わり、体長も先ほどよりも更に大きくなり、見るものを恐怖させるものへとなっていた。

 

 

ギョアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

 

凄まじいコロの咆哮により思わず耳を塞いでしまうマインとシェーレ。

その隙をつきコロはマインを捕らえることに成功する。

 

「握りつぶせぇ!」

 

「ああああああああああああ!」

ミシミシ、バキバキと骨が砕ける不快な音と激痛を耳と全身で味わうマインはたまらずに悲鳴をあげる。

 

だがそれもシェーレがコロの腕を斬り飛ばしたことにより中断される。

 

「シェーレ!」

 

「間に合いました!」

 

そして、

 

 

 

バン!

 

 

 

「体が…動か…!?」

 

シェーレはセリューからの、隠されたもう一つの仕込み銃からの背中からの一撃をもろに受け、体が一瞬止まってしまった。

 

この一瞬がシェーレの命運を分けた。

 

セリューの生物型帝具であるコロの下手な危険種よりも獰猛で強靭な歯がシェーレを噛み砕こうと既に襲いかかっていた。

 

 

「正義執行!!」

 

 

 

 

呆然とし、ただ目の前の光景をただ見ることしか出来なかったマインの目に黒い何かが飛び出してくるのが一瞬見えた。

 

 

 

ドゴッ!!

 

鈍い音なにかの重量物同士がぶつかりあったような鈍い音が広場に響き渡り、敵の生物型帝具である、コロが広場の向こうに吹っ飛んでいった。

 

その余波を受けてか、それとも謎の危険種かはたまたコロの相手を噛み砕こうとする殺意のせいか、シェーレはコロとは正反対の方向へと吹っ飛ばされていき広場の大木にしたたかに打ちつけられた。

 

マインは目の前の光景が信じられなくて、驚き固まってしまった。親友が目の前で敵に殺されそうになっていた所を、前に自分達を、更に正確に言えば、ついこの間アカメを襲った相手が、突然目の前に現れて、敵である相手の生物型帝具に襲いかかったからである。

 

マインが驚きで硬直してるいる間にも敵であるセリューの生物型帝具のコロとヨマワリさんとの戦いは尚も続き、激しさを増していく。

 

「な、なんだ敵の新手か!?」

 

一方のセリューの方もヨマワリさんの突然の登場に驚きはしたもののすぐに気を引き締めて、新たな敵に殺意を向ける。

 

「何人、何体増えようが、悪は断罪する!正義執行だ!!」

 

そのセリューの呼びかけに応じるようにコロはヨマワリさんに向けて突進し、ヨマワリさんもコロに追撃を加えるべく突進を仕掛ける。

 

お互いに突進し、肉のぶつかりあう鈍い音が響く。

 

だが、突進の反動から立ち直るのはコロの方が早く、ヨマワリさんの胴体に噛みつきを仕掛け、食らいつく。

噛み付かれたヨマワリさんは呻き声を一つも上げず、致命傷ではなかったのか元気よく身を捩り噛みつきを仕掛けたコロを鬱陶しそうに振りほどこうとする。

だが、なかなか噛みついたコロは振りほどけない。

一向に振りほどけないコロにヨマワリさんは業を煮やしたのか、触手を使いコロの四肢をキツく縛り上げ、拘束する。

 

一瞬、コロの噛みつきが緩んだ瞬間を狙い、ヨマワリさんも反撃として頭突きをコロに食らわした。

 

お互いに離れ、間合いを取る。

 

誰も動けない静寂は長くは続かず、またコロとヨマワリさんのお互いの突進が始まる。

 

噛みつき、触手で打ちのめし、豪腕で叩き潰し、凄まじい鈍い音の頭突きを繰り出し、コロとヨマワリさんの戦いは長期戦の様相を呈し始めた。

 

しかし、戦いはヨマワリさんが次第に不利になってきたと見えてきた。

 

少なくとも、セリューとマインのお互いの目にはそう見えた。

 

なにせ、ヨマワリさんの身体はもうボロボロでいたるところにはコロの噛みつき傷が見え、豪腕で凹んでいるところも見える。頭部と思われる白い仮面にはヒビが入っている。

 

一方のコロの方には確かにヨマワリさんに受けた傷はあるものの、生物型帝具の特徴でもある異常とも言える再生能力で傷を受ければすぐに再生をしていた。

 

更に言えば、ヨマワリさんの攻撃方法も叩く、潰すなどの物理攻撃に特化したもので切り裂く、噛みちぎると言った、切断系の攻撃ではなかったのも原因であり、生物型帝具の唯一の弱点である核を、コロの心臓に有効な攻撃を与えられなかったのである。

 

状況的に言えば、長期戦になればなるほどヨマワリさんが不利であった。

 

この状況にセリューは嗤う。

 

謎の危険種の存在に一時はどうなるかと思ったセリューであったが、やはり奥の手を使ったコロは最強であり、負けることはないと確信していた。

 

だが、時間が経てば経つほど、不利になるのはセリューにとっても同じであった。

 

奥の手のコロの狂化もタイムミリットがあり、時間は限られていた。故にセリューもコロも一気にこの敵とカタをつけるため短期決戦を狙った。

 

「一気にトドメをさせ、コロッ!!」

 

瞬間、マインも動いた!

 

マインも殺し屋稼業で鍛えた戦闘センスから、シェーレを助けてくれたのか、コロを襲ったのかは分からなかったが、コロが動いた瞬間に負傷したシェーレと共に逃走を図るため、シェーレが吹っ飛ばされた場所へ向かった。

 

セリューもマインの動きを見て何をするか一目で分かったものの、目の前に未だに脅威があるため動けずにいた。

 

マインはシェーレの元へ向かうため、一目散に走り出し

 

セリューはコロの巨体が邪魔でヨマワリさんが見えなくなった

 

その瞬間

 

 

 

 

ぐりんっ

 

 

 

何かが裏返るような音と共にヨマワリさんの姿が変わった。

 

セリューの見た感じでソレは肉の塊であった。形は丸っこくて、全体の殆どはピンク色の肉で、所々から赤ん坊のような幼い手がコブのように生えていた。

そして中心はゴツゴツとした白い歯並びの良い歯があった。そしてその中には、暗闇の中心には唯一先程までと同じ特徴であった仮面があり先程までと変わらず白いヒビの入った仮面があった。だが、それも直ぐに治り、感情を感じさせない白い仮面に戻った。

 

そしてヨマワリさんの反撃が始まった。

 

ぶるぶると体表を震わせた瞬間、凄まじいスピードでコロに攻撃を仕掛ける。

 

「また突進か?!そんな攻撃は無駄だ!」

 

コロもそれを察知して腕を組み、防御の構えをする

 

しかし、今度のヨマワリさんの攻撃は叩く等の攻撃ではなく、噛みちぎる、斬撃系統であった!

 

通り過ぎざまにコロの足を噛むとそのまま勢いを殺さずにコロの足を基点にコロを地面に叩きつけ、そのまま噛みちぎった。

 

一瞬で戦いの雌雄は決して、その後は一方的な展開であった。

 

体表から生えた赤ん坊のような幼い手はその見た目に反して強靭であり、コロの太い丸太のような腕を抑え込むと、頭部と腕を順々に食いちぎった。

 

同時にコロの体からは急速に力が抜けていき、ダラリと落ちた。

 

「そんなコロが、奥の手も使っていたのに、あんな簡単に!?」

 

セリューは目の前の光景が信じられず呆然と立ち尽くしてしまう。

 

マインも既にシェーレを回収しており戦いの様子を見ていたがヨマワリさんの圧倒的な戦闘力を見て、内心で恐怖していた。

 

アカメの必殺の帝具であるムラサメも効かない特殊な身体と生物型帝具であるコロの奥の手をも圧倒する戦闘能力。

 

それと同時にマインは確信した。あれは帝具であると、帝具であればムラサメも効かない説明がつき、姿形が変わったのも相手の生物型帝具と同じようなものだと推測できた。

 

マインがそう思案していると

 

「あれだっ!交戦してるぞ!!」

 

「応援をもっと呼べぇ!!」

 

帝都の警備隊達も集まり、いよいよ逃走しか手段がなくなってきた。

 

ここでマインは逃走を図った。

 

帝都警備隊も希少な帝具持ちであるセリューの護衛を残し後を追おうとした。

 

しかしそこにヨマワリさんが立ちはだかる。

 

ぐりんっ

 

再び裏返り、通常の形態に戻ったヨマワリさんは一気に加速した。

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、帝都警備隊の報告書にはこう記されていた。

 

セリュー副隊長は単独で帝都を警戒中にナイトレイドと思われる一味と偶発的に遭遇し、戦闘に突入。

 

壮絶な戦闘の末、ナイトレイドの構成員2名に負傷させるも副隊長もまた負傷。

 

副隊長の警笛に呼応して我々も広場に到着するも、敵2名が逃走を開始し、戦闘は終了。

 

追撃を仕掛けるも、謎の危険種に阻まれ、失敗。

 

帝都警備隊の副隊長セリューユビキタス。図鑑に記されていない謎の危険種に襲われ生死不明

 

 

 

 

 




こんぐらいのペースで投稿できたらなぁ。


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5話

ネタが出たんで、早めに投稿します!
次こそは遅くなるかと思います。
では第5話どうぞ


 

 

「ここは…何処?」

 

暗い闇の中、手探りで脱出場所を探る者は気がつくとどこか暗い箱の様な場所にいた。そして数分の間格闘するも中々出られないでいた。

 

「くそ、せめて腕が使えれば。」

 

そう彼女ことセリューはあれからどのくらい時間が経っているかはわからないものの未だに腕を切断されたままであったのだ。

だがそんな彼女の暗闇での悪戦苦闘も彼女が目覚めてすぐに終わった。

 

ぎぎ、ぎぎ

 

金属の軋む音と同時に月明かりが暗闇にセリューに差し込み、暗闇からのその眩しさに思わず目を閉じかけるセリューだがやっと暗闇以外のものが見えてきたのだセリューにとってはまさに希望の光であった。だがそれも完全に開ききる前に止まった。

月明かりが僅かにセリューの顔に差し込むだけでそれ以上の光が来ない。

暗闇の空間でやっと差した一筋の光が、途中で止まる。これは今のセリューにとっては耐え難い苦痛であり、拷問にも等しい行為であった。

 

「おい!ふざけるな!さっさとここから出せ!!」

 

我慢できなくなったセリューは暗い鉄の箱でまた暫くの間格闘するも、かなり頑丈にできているのか、腕の使えないセリューが力不足なだけなせいか、ビクともしなかった。

 

そして、段々と不安がセリューの心に重なっていきそれは次第に恐怖へと変わっていく。

 

「誰か…誰か居るんだろう?そこに、お願いだ、開けてくれ頼む。」

 

恐怖が長い間続けばそれは絶望へと変わりセリューの心を少しずつゆっくりとしかし確実にセリューの心を蝕んでゆく。

 

どれほど長い時が経ったであろうか、牢獄の様な場所で1分が1時間にも感じるような、それでいて何日も過ぎているような感覚に感じたセリューは自分はもうここで誰にも看取られることなく死んで、朽ちていくのだと思うようになっていた。

 

「もっと悪を倒したかったなぁ、せめてみんなにコロに会いたかったなぁ。」

 

セリューの脳裏に浮かんでいくのは今までの思い出、走馬灯が見えていた。

初めて悪を断罪した日は達成感と何物にも変え難い達成感があった。オーガ隊長との辛く厳しい訓練の日々も自分が日々強くなっていくのを感じたやりがいのある日々、そしてコロという自分の生涯にとって唯一無二の戦友に会い、強敵ナイトレイドを追い詰めたあの瞬間。

 

だがそれでもまだ足りない、まだまだセリューにはやり残したことが、やりたいことがたくさんあった。

 

だがそれもこれまでだとセリューは感じた。

 

「なんだか絶望に浸ってるとこ悪いけど、大丈夫かい?」

 

唐突によく通る滑舌の良い若い男性の声が聞こえた。セリューはその声に一筋の希望が見えた。否、見出した。

 

「!?誰か居るのか、頼むここから出してくれ!」

そして必死にその声にここから助けてくれるようにすがる。

 

「まあまあ、落ち着きなよ。ちゃんと出してやるから。でも訳あってアンタを今ここから出すわけにはいかないんだ。」

 

「なにぃ!ふざけるな!早くここから出せ!!」

激昂し、すかさず怒りの声を外にいる男にぶつけるセリュー。

だが、男は努めて冷静に興奮したセリューを落ち着けるように言葉を語りかけた。

 

「だから落ち着きなって、そう興奮しなさんな一つお願いを聞いてもらうだけだから。」

 

相手の落ち着いた口調に幾分か冷静さを取り戻したセリューは相手のお願いをまずは聞くことにした。条件次第では相手を断罪することを心のうちで留めておきながら

 

「なにお願いって言っても簡単さ少しの間私とおしゃべりしてくれれば良いんだ。」

 

そんな簡単なこと?

 

相手を疑いつつもセリューはそんな簡単な条件に内心拍子抜けしつつも相手の気が変わらないうちに話を進めるため、それを了承する。

 

「それは良かった。いやぁ嬉しいね、ここ最近あまり人と喋ってなかったから嬉しいよ。」

 

それから男は饒舌に上機嫌にこの帝都のことや、自らの休日の過ごし方や、嫌な上司の愚痴などを話した。

 

セリューは適当に話を聞こうと、話が早く終わらせるように最初は適当に相槌を打つセリューであったが、時にジョークや冗談を交える話にセリューはいつのまにかツッコンだり、それは違うと反論したりするようになっていた。そう少しづつセリューは男に心を開いてくようになっていた。

 

だが、それと同時に喉の奥に小魚の骨が刺さるような、何処かで聞いたことあるような、なんとなく引っかかるようなものを、男の話に奇妙な違和感を感じながら、それが分からずにセリューは男の望むように話を続けていた。

 

「それで、その上司がムカつくんだよ。疲れてんのに俺にばかり仕事を回してさぁ。今思い出してもムカついてきた。あぁームカつく!」

 

「あはは、でもそれってあなたが仕事が上手いって信頼されてるから任せてもらえるんですよ。なんだか羨ましいです。」

 

「そういうわけじゃないと思うけどなぁ、それよりなんで羨ましいんだい?君もこんな良い子なのに?」

 

男が心底不思議だと言わんばかりにセリューにそう聞き返す。

 

「私の上司、オーガ隊長って言うんですけれどね訓練とかには付き合ってもらったり、色々と助言も頂いてはいるんですけれど、中々オーガ隊長の仕事には手伝わせてもらえないんですよ。いつも助けてもらっているから私も何か手伝えられないかなと思って、お仕事手伝いますって!言ってはいるんですけど、絶対にダメだと言われてついに最後まで手伝ってあげられなかったんですよ。」

 

会話の途中で心酔するオーガのことを思い出し、涙が出そうになるセリュー、そんな彼女の感情を読み取ったのか、悲しそうなセリューに男はしまったと感じてたじろぐのが箱の中にいるセリューにでも分かり、優しい人なんだなとセリューは思った。

 

「ごめんね、なんだか辛い事を思い出させちゃったみたいだね。」

 

「いえ、いいんです。オーガ隊長は最後まで立派な人でしたから。」

 

元気を取り戻したセリューに男は安心したのか、ある提案をすることにした。

 

「じゃあさ、そのオーガ隊長って人の仕事見せてあげようか?」

男は上機嫌にそう言った。

 

「なに言ってるんですか?その冗談面白くないですよ。」

 

セリューが見えない相手にジト目で反応するのが分かってないのか、男はさも自信たっぷりに言う。

 

「本当だって、よし分かった!俺のこの能力の真の力をお嬢さんに見せてやろう。」

 

「いや別にいいですよ、そんなことできるわけないじゃないですか。」

 

心酔するオーガのことをなんだか馬鹿にされてるような気がしてセリューは内心で男の評価を1段階下げつつ、興味をそそるような話ではないためそろそろこの話で終わりにしようかと考え始めていた。

 

「大丈夫だって本当だから、ちょっと目を瞑るだけだから。終わったらお嬢さんを出してあげるから。」

 

と男は尚もセリューに食い下がる。

 

「分かりました、ちょっとだけですからね。」

譲れないものがあるのか、しつこく迫る男に、根負けしてセリューはまた目を閉じる。

 

そして1分くらいであろうかいつまで経っても変化は訪れずにいた。

 

「まだですか、全然見えませんよ?」

 

しかし男からの返事は一切ない、それどころかいつのまにか気配すらも感じなくなっていた。

 

まさか何処かに勝手に行ってしまったのかと思い、目を開けるとそこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーガが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、隊長!?どうしてここに、あなたは死んでしまったはずじゃ!?」

 

信じられないことにセリューの目の前には自分の心酔するオーガ隊長がいたのだ。涙ぐむセリューを無視してオーガはセリューの元に歩いてくる。

そしてセリューをすり抜けていく。

 

「え?」

 

驚くセリューをそのままに通り過ぎていき、オーガは歩いていく。血まみれの剣を持って。

歩き向かっていく先には胴体を切られて身体中血まみれになっている1人の壮年の男が居た。

 

セリューには見覚えがあった、オーガがまだ存命の頃にナイトレイドに暗殺されたと報告書には記載された無実の人。この時はそうだと思っていたがオーガのあの血塗れの剣を見てセリューはまさかと思った。

 

血まみれの男は息も絶え絶えにオーガに訴える。

 

「まっ待ってくれ!あんたへの上納金は来月きちんと2ヶ月分払う!だから命だけは。」

 

「今月も払えてねぇ嘘つきは、来月も払わねぇに決まってんだろ。何よりセリューの相手してイライラが溜まって俺はイラついてんだよ!だからテメェのこと殺すんだよ。テメェの代わりはいくらでもいるしな!」

 

セリューが今まで見たことも無いような醜悪な顔でオーガは男にそう話す。

 

「そ、そんな」

絶望に顔を歪めた男の顔を見て、オーガはそんな男の絶望しきった表情に満足したのか笑いながら男を斬殺した。

 

セリューが今まで信じていたオーガのイメージがヒビが入る。

 

「な、なにこれ?なんでオーガ隊長?」

 

そして唐突にセリューは思い出す。

 

「じゃあさ、そのオーガ隊長って人の仕事見せてあげようか?」

 

思い出すと同時にセリューは愕然とする。

 

これがオーガ隊長の真の姿なの

 

そしてここからがセリューにとって地獄のような光景の連続であり、オーガの犯した罪をセリューは1人見続けた。

 

ある者は恋人を目の前で殺してから女を死ぬまで犯し続け、ある者は無実の罪の人を難癖をつけて胴体を真っ二つにして殺し、またある者は新調した剣の試し斬りといい殺された者もいた。

そんな地獄のような光景をセリューは延々と見せつけられ、悲鳴を聞かされ続けた。

 

まるでセリューの敵とする悪を体現したものがオーガそのものであった。

 

「いやいやもう見たくない、もう覚めて。」

 

そんな憔悴しきったセリューの願いは通じたのか、目の前の光景を見たくないと目を閉じていたセリューは唐突に周りが静かになったのを感じ目を開けた。

 

忘れられない、尊敬していた父の最後の場所であった

 

怪我をして片膝をつく父を前に剣を構えるオーガ

 

「嘘、や、やめて」

 

今までの回想からその凄惨な最期を分かってしまったセリューはオーガの凶行を止めるため走り出す。

 

だが、これは男が見せたオーガの過去の回想であり決して変えられるものではなかった。

 

オーガの凶刃は止まることなくセリューの最愛の父の首を跳ね飛ばした。

 

「イヤァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがオーガ隊長の真の姿だよ。」

 

次にセリューが目を覚ますと月明かりがセリューの体を照らし出していた。

 

箱は完全に開ききっており、すぐにセリューが抜け出せる状態であった。

 

月明かりが影になっていて、男の顔は分からなかったものの箱の上から男は黙ってこちらを見ているような気がした。

 

「君の正義は私から見れば非常に歪んでいて、今までの君はきっと沢山の無実の人をオーガの命令で殺してしまったと思うよ。でも今の君なら、正義の心を本当に持ちたいと願い悪に屈しない強い精神を持つ君ならきっと今までの殺してしまった人の償いはできなくてもこれから助けられる人ならまだ沢山いるはずだ。」

 

「私に…私にはそんなこと」

これから背負う罪に恐ろしくなり、つい逃げ腰になり言葉尻が弱くなるセリュー。だが男はセリューに勇気を出させるように

 

「できる!できるさきっと君なら。それに私が出来ずに後悔したことを君にはさせたくないんだ。」

 

そう言い、男はセリューを引っ張り上げる。

 

立ち上がれないセリューを見て、男は苦笑しつつも穏やかに告げる。

 

「さて、私のお喋りは終わり。私を救ってくれた小さな少女が君を迎えにそろそろ来たしこれでお別れだ元気でね。」

そう言って後ろを振り返るも誰も迎えには来てはおらず、セリューは男にはなにが見えているのか分からずにいたが特に気にも止めなかった。それよりも男に聞きたいことがセリューにはあった。

 

「あ、あの最後に名前を聞いても良いですか?」

男から見て、そう言ったセリューの顔は強い決意をし気高く生きようとする顔をしていた。

男はそれを見て満足したように頷きながら

 

「そういえば私の名前を言ってなかったね。」

 

その刹那、セリューの意識は暗転した。

 

背後から気づかれないように近づいていたヨマワリさんがセリューを袋に入れたからだ。そのままヨマワリさんは夜の森の暗闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名前はザンク。帝都で一番のお喋りさ。」

 




ご意見、ご感想楽しく読ませていただいております。
この場を借りてありがとうございます!


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6話

遅くなると言ったな、アレはウソだ!

またまたネタが出たんで早めに投稿します!




 

 

暖かい日差しに目が覚めて、気がつくとセリューはナイトレイドの精鋭たるシェーレとマインと激戦を繰り広げた広場で目を覚ましていた。

 

「生きてる、生きて帰ってこれたんだよね。」

 

セリューがこんな呟きを漏らすのも無理のないことであった。なにせヨマワリさんに攫われてから、短い時間ではあったものの謎の男との会話で絶望から一気に希望へと引き上げられ、新たな自身の正義を見つけ、セリューは今まるで生まれ変わったような気分であった。

 

「あんなことが起こっていたなんて、まるで夢見たい。」

 

夢であったのかもしれない。だが今のセリューにとっては夢であろうがなかろうがどうでも良かった。あの時の男との出会いは一生忘れない事だと同時に自分にとって大切なものであったと確信を持って言えるとセリューは感じていたし、もう一度やり直そうと感じていた。

 

その後、見回りをしていた警備隊に発見されたセリューは腕の怪我もまだ治っていなかったことにより病院へとすぐさま搬送することになった。

 

そして、ヨマワリさんの情報も帝国に知れ渡った。

 

だが、反応はナイトレイドの時ほどではなく、新発見の厄介な危険種程度の認識であった。

事前に警備隊に発見されそこから得た大まかな情報もあったことも評価の低さにあった。たしかに生物型帝具であるコロを圧倒するほどの強さには目を見張るものがあるものの、世の中にはそんな生物はごまんといるもので危険ではないかと言われれば確かに危険ではあるものの、セリューが失踪して以降その危険種に襲われたという報告が全く無く最初は本当にそんな生物が存在するのかどうか疑われたほどである。

そしていざ、調査を開始するも危険種にとって良いエサであるはずの人が多い時間帯である昼間にも現れず、それどころか住処と思われる痕跡すらなかった。

住処はともかくとして、では夜行性なのかと考えて日が完全に沈んだ夜に調査を再度開始した部隊は帝都中にその危険種を発見するための監視網を敷いた。

膨大な人員を費やした作戦に成果は上がった。確かに対象の危険種は夜に活動しているのは分かったものの、特に人を襲って食べるようなことはせずに帝都の夜をなにかを求めるようにさまよっているだけでしかなかった。このことからこの危険種の事をヨマワリと名付けられるようになった。

 

人を襲わずたださまようだけのこの奇妙なヨマワリの生態にますます訳が分からなくなった調査部隊そして研究部隊ではあるものの新たに出現した危険種ということもあって更なる調査を続行しようとするものの、ここでスポンサーであり調査を命じた帝国からストップがかけられた。

襲わなければ大丈夫ということもあり、危険性が皆無の危険種にこれ以上金も時間も掛けられないと中止が言い渡されたのであった。帝国にはそれ以上の悩みの種である革命軍がまだいるのである。さらに言えばナイトレイドもまだ夜に活動していることから上手くいけば危険種とナイトレイドの共倒れを狙える計算もあった。

 

さらに貴重な調査部隊ならびに研究部隊を訳の分からない危険種のために与える時間も金も帝国には無かった。また今度新たに作られるエスデス率いる治安維持部隊にいざとなれば討伐を任せられるという意見もあり中止となったのである。

 

だが、これは一部の人間に大臣派の人にとっては大きな間違いであった。

 

記録されている帝国の犯罪統計では殺人等の件数は依然として変わらないものの行方不明の件数は少しづつ上がってきているのである。

 

確かに人を食べるなどの襲う事をしなかった件の危険種ではあるが、人の目を盗んで攫ってはいたのである。しかも大臣派の人ばかりでも主に人を人とも思えない所業を犯すものを狙って攫っては後日に生気が抜けたように発見され、これをみた警備隊や病院の関係者、たまたま発見した市民の人々は死よりも恐ろしいものを感じるようになる。

 

人々はこの危険種の事を夜に現れ殺人などの悪い事をやっている人達を攫うために夜の街をさまよっていることから畏怖を込めてこう呼んだ

 

 

ヨマワリさんと。

 

 

話を元に戻そう。

 

後日、治療を施されたセリューはDr.スタイリッシュによって両腕に武器を施された義手を取り付けられた。大半が凶悪な武器であったが、その義手の中にはセリューの要望で暴徒鎮圧用のスタンガンであったりゴム弾を装弾しているマシンガンなど非殺傷の武器も取り付けられた。

この要望には、Dr.スタイリッシュから装備できる武器の数が減り義手本来の性能が低下すると苦言が寄せられたがセリューは頑としてこの装備の追加を希望して譲らなかった。

今までのような小さな悪でも即断罪するような気性の荒いことはなくなりセリューはまるで人が変わったかのように、帝都の悪人達を無闇矢鱈に殺すことなく先程にも述べた非殺傷の武器で鎮圧したりとセリューの殺人は激減した。

だがその分割を食ったのが、麻薬や殺人を行った人などでそういった人に対しては容赦のない暴行を加えた。

次第にセリューの活動する区域では治安が急速に直り、セリューは今まで人々からその躊躇のない処刑に恐れられていたが、この日からまるでアイドルのように愛されていた。元々の容姿の良さや天真爛漫な性格も相まって一躍帝都の人気者になっていった。

 

だがしかし、セリューの幸運もここまでだったのかたまたま通りかかった裏路地で警備隊の新任の隊長が賄賂を貰っているところを目撃して激怒したセリューはその新任の隊長をボコボコに殴り倒したのだ。

結果から言えば後日セリューは降格された。

これは、大臣派の役人達の策動で歪んだ正義感を持つセリューを第2のオーガ隊長のようにして美味い汁を吸おうとしていた役人達であったが、ある日を境に人が変わったセリューに自分達にとって都合の悪い人間を消させようとデマを吹き込んでも殺す事を拒否したり、それどころか治安が回復したことにより賄賂の数も減り、以前のように貧しい人を拷問する趣味も出来ない日々が続き鬱憤が溜まっていたのである。

 

そこに今回の隊長への暴行事件である。

 

そして目障りであったセリューの排除若しくはその動きに制限をかける事を目論んだのだ。

 

流石に貴重な帝具持ちであるセリューを処刑するまでにはいかなかったが最低限その動きに制限をかける故にこの処分であった。

 

そして、降格処分を受けたセリューは依然と違い悪を自由に処断できないことにしばらくの間悶々とした日々を過ごしていたがすぐに転機は訪れる。

 

帝具持ちで結成された、エスデス率いる帝国の治安維持部隊。

 

イェーガーズのメンバーとして召集をかけられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰か、アタシと訓練しなさい!」

怪我が完治したマインは早速、怪我の治療のために休んでなまった体を元に戻すため、いやそれ以上にするために訓練をしようと訓練場に訪れていたが既にそこには先客が居た。

 

「よぉ、マイン」

「良かった、完治したか!」

 

先客である腕立てをしている途中のタツミとその手伝いのためタツミの上に乗っているアカメが返事をする。

その隣には、同じく腕立てをするラバックと手伝いをするレオーネ

 

「コイツ等、いつまでも鍛錬やってるから手伝いをな。」

若干タツミよりもきつそうな顔をして顔を引きつらせているラバックの上でレオーネは朗らかに笑いながらマインに言う。

 

ブラートがいた頃よりもなんだか汗臭いなぁと思いながら聞くマインに次に今度はタツミが口を開く。

 

「装備してみて分かったけどインクルシオは凄え勢いで体力を消耗する。兄貴みたいに長時間つけられるように体を作らないと、今のままじゃ透明化だって一瞬で終わっちまう。」

 

ブラート

 

彼は前の竜船での三獣士との戦いでその1人であるリヴァの奥の手の血刀殺で命を落としていた。

 

今は亡きブラートの想いを引き継いで、必死になって強くなろうとするタツミの姿にマインは一瞬心が揺れるの感じながらタツミの顔を見る。

 

コイツ、こんな顔もできるんだ。

 

一瞬タツミにときめくのを感じたマインは慌ててラバックに質問をぶつける。

 

「ラバの汗まみれは珍しいわね」

「男の子が2人だけになっちまったからな流石の俺も頑張らなきゃと思ったわけよ。」

 

そんな真剣な顔をするラバックにマインはコイツもちゃんと考えてるんだなぁと若干失礼な事を考えていた。

 

「カッコつけてるけど腕立て回数タツミの半分以下だからな。」

日頃風呂場を覗こうとするラバックに仕返しをしようとしているのかレオーネはラバックをからかった。

 

「それは仕方ない」

 

先程まで静かであったアカメが言ってしまった。

 

「私とレオーネでは体重に大きな差がある。」

 

アカメと以外の三人の空気が一瞬にして固まる

女性に言ってはいけない、ことのほかレオーネに言ってはいけない事をアカメは普通に言ってしまったのだ。

 

直後に怒ったレオーネはアカメに鉄拳制裁を加える。

ゴン!

大きな音を出しながら繰り出された拳はアカメの脳天に見事に命中してアカメは頭にタンコブを作りながら、レオーネ以外の三人になんで?と涙目になりながら目で尋ねる。

 

三人は思わずアカメから目を逸らしてしまい、居心地の悪い沈黙が流れる。

 

そんな沈黙も長くは続かずアカメを含む四人に声をかけるものが現れる。

 

「みなさん、鍛錬お疲れ様です。」

「お、お疲れ様です。」

 

車椅子に座り穏やかな笑みを浮かべながらこちらに来るシェーレと一人の少女。

場の空気を壊すことに定評のあるシェーレだが、今回ばかりは良い方に作用したようで先程までなんとも言えなかった空気が良くなる。

マインはそんなシェーレに声をかける。

 

「シェーレ!もう横になってなくて大丈夫なの?」

 

「はい、私もマインと同じく怪我はもう大丈夫ですよ。」

 

あの絶体絶命の戦いからマインと共に運良く逃げ出すことができたシェーレ。しかしながら無傷とまではいかずに背中を強く打ちつけた際にシェーレの下半身は麻痺し、暗殺の仕事をするのに重大な障害をおってしまった。

そして怪我が完治するまでの間、療養に集中するようにとナジェンダから言われていた。

 

「アンタもシェーレの療養の手伝いありがとね。」

 

「ううん、シェーレお姉ちゃんと一緒に絵本読むのもお散歩するのもとっても楽しかった。」

 

にこやかに笑いながら言う少女はその外見にふさわしい笑顔を見せる。

 

この少女、実はナイトレイドのアジトの付近の山間部をさまよっていたところ保護されたのである。

 

最初こそラバックの糸の帝具の反応からして相手が一人ということも相まってアカメとレオーネが出撃したものの、相手が衰弱している無害の少女と分かりすぐさまアカメは撤退し、しかし警戒は怠らず獣並みの嗅覚を持ちもし逃げられても直ぐに追いかけ殺すことができるレオーネが少女の見張りとして残った。

 

伝令としてアジトに戻ったアカメはナジェンダに詳細を報告する。数秒ほど思案したナジェンダは無為に死なせることはできないとして保護を決定した。

 

連絡を受けたレオーネはすぐさま少女を連れ帰り簡単な応急手当を行い、栄養補給を行わせた結果、無事少女は快方へとむかっていった。

 

回復した少女は、暫くの間はアジトで軟禁することになっていたが、この監視役に名乗りを上げたのが療養中のシェーレで、対象の無害な少女であるのなら大丈夫だろうとナジェンダもそれを了承した。

 

暇を持て余していたシェーレは、何気なく監視役に名乗っていたが少女といる生活はとても楽しく過ごせていた。今までのシェーレの人生の中でこれ以上ないくらいに幸せであった。

 

シェーレと少女が仲睦まじげに楽しげに会話しているのをアカメやマイン、タツミ、それにラバックはそれを嬉しそうに見続けている。

 

「揃ってるな。」

 

そんな和やかな雰囲気にナジェンダも入ってくるが、格好からして何処かに遠出するような格好をしていた。

 

 

 

 

 

 

「革命軍本部まで遠出?」

 

「三獣士から奪取した3つの帝具を届けるんだ、あとシェーレには悪いがシェーレも一緒に連れて行く。」

それを聞いたシェーレと少女が残念そうな表情をする

 

「お姉ちゃん…行っちゃうの?」

泣きそうになりながらシェーレに尋ねる少女

 

「ごめんね、でもアカメちゃん達もみんな好きでしょう?それにいつかきっとまた会えるから。」

 

「…うん」

ションボリしながら頷く少女はまだ悲しそうであった

 

「大丈夫なんですかシェーレよりもその子の方が優先するべきだとは思いますが。」

 

「道中、危険な目に合わせるかもしれない。アジトの方が安全だ。」

ナジェンダのその言葉に少し思うところはあるものの、ボスの言うことであるのでそれ以上はタツミは聞くことはしなかった。しかしもう一つ気になることがあるタツミは二つ目の質問をナジェンダに聞く。

 

「あとその斧めちゃくちゃ重いですよ。大丈夫ですか?」

 

「あぁこれ位なら、ほれ武器として使うのは無理だが運搬はできるさ。ほれ」

 

そう言って超重量級の帝具であるベルヴァーグを軽々しく片手で持つナジェンダ。

それに驚きの表情で見るタツミ

 

「もしかしてボスも凄い人?」

 

「当たり前だろ元将軍だぜ。」

ヒソヒソ声で話すタツミとラバックだがバッチリとナジェンダには聞かれており、嬉しそうな顔をしながらベルヴァーグを見せつけるように掲げるナジェンダ。

しかし直ぐに顔を引き締めナジェンダはアカメに

 

「留守は頼むぞアカメ。作戦はみんながんばれだ!」

 

「だいたい分かった。」

 

「おいっ、アバウトだな大丈夫か!」

あまりにもあんまりな作戦内容に思わず突っ込むタツミ

 

「アレできっちり役割こなすから問題ないって」

笑いながら問題ないとラバックは言う

 

「本部へ行く目的はメンバーの補充も兼ねている。即戦力でこちらに回せる人材となると期待は薄いがな。」

 

「ごめんよ…俺が弱かったばっかりに」

ブラートの最後を思い出し辛そうな申し訳ない表情をするタツミ。それを見たナジェンダは真剣な表情でタツミに言う。

 

「お前が戦った三獣士は帝国最強の攻撃力を持つエスデス軍の中軸だ。そいつらを撃破してかつ帝具を3つ奪取してきた。いくらエスデスが無双でもこれで軍の弱体は確実だ。革命実行時の大きな懸念がごっそり和らいだのだぞ。船の人間達だけでなく帝国と戦うことになる革命軍数万人の兵士達も結果的に救ったんだ。」

 

「お前は強いし良くやっているさ。」

 

普段は誰よりも厳しいナジェンダからのこの言葉に歯を食いしばり泣きそうな表情になるタツミ。

 

ナジェンダの言葉に重ねるようにレオーネはタツミに

 

「調子に乗らせないように黙ってたけど、ブラートが言ってたよ。『タツミはまだ青いけどありゃあマジで強くなるぜ。厳しく鍛えていきゃあそれこそ俺を超える男になるかもしれねえ、楽しみだぜ。』ってね。」

 

「兄貴…!」

我慢できずに思わず涙ぐむタツミ

 

「自分を誇れタツミ!そして生き延びて、ブラートが見込んだような男になってみろ!!」

静かにそう言ってナジェンダとシェーレは革命軍本部へと行く。タツミは無言で持って、決意を込めた眼差しで応えるため無言でもってそれを見送った。

 

そしてナジェンダとシェーレが無言で去っていくのを見送るのはタツミだけではなかった。少女もまたナジェンダ達を正確にはシェーレを見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、私の大切なものが私から離れていく。」

 

瞳から光の消えた目で少女は最後まで見えなくなるまでナジェンダ達を見送り続けた。

 

 

 




重ね重ね沢山のUAとお気に入り、そしてご感想ありがとうございます!


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7話

力尽きました。ネタも尽きました。



 

 

「という訳で、イェーガーズの補欠となったタツミだ。」

目をうっとりとさせながらタツミに熱い視線を向けるエスデス。

 

「市民をそのまま連れて来ちゃったんですか?」

仮面越しに困ったような顔をしつつ筋骨隆々の男、ボルスはエスデスにそう尋ねる

 

警戒する目をするタツミをよそに尚も熱い視線を送り続けるエスデスはボルスやイェーガーズのメンバー全員に宣言するように

「暮らしに不自由はさせないさそれに部隊の補欠にするだけじゃない…感じたんだ。」

 

「タツミは…私の恋の相手になるとな」

 

「それでなんで首輪させてるんですか?」

「そうですよ!何もしていない市民ですよ!可哀想です!!」

同情のこもった目でタツミを見るウェイブと前に知り合ったタツミをエスデスのあんまりな待遇にセリューが苦言を言う

 

セリューとウェイブの二人からの援護射撃を見てランは助け舟として

「ペットじゃなく正式な恋人にしたいのなら、違いを出すために外されては?」

 

セリューとウェイブの批判とランの助け舟もあってかエスデスは少し思案すると

 

「それは確かにな…外そう。」

タツミの首輪を外しながら、今後のためにエスデスはあることを思いついた

「そういえばこのメンバーの中で恋人がいたり結婚してるものは?」

 

スッと静かに手をあげるボルスにセリューとウェイブはあまりにも予想外の人物過ぎて驚愕の表情になる。ちなみに他三人はあまり驚いてない。というかどうでもよさそうだった。

 

「ボルスさんそうなんですか!?」

 

「うん結婚6年目!もうよく出来た人で私にはもったいないくらい!」

顔を赤らめ恥ずかしそうにするが実際には仮面で隠れてその顔は見えない。だがその恥ずかしそうに体をくねらせる仕草から照れているのがわかった。

 

場がなんとも言えない沈黙に包まれた。その絶好の機会にタツミは

「あ…あのー、気に入ってくださったのは嬉しいんですが。俺…宮仕えする気は全然ないというか。」

 

「ふふっ言いなりにもならないところも染めがいがあるな。」

まるで聞いていないと言わんばかりのエスデス

 

「まぁまぁ、いきなりすぎて混乱しているのでは」

 

声をかけて来たセリューにタツミは警戒を込めた目になる

 

マインとシェーレと戦ったやつか。

 

「大丈夫ですよ。私達はせ…」

ここでセリューは躊躇う。果たして今の自分は自信をもって正義を語ることができるだろうか。いや、まだ、まだ言えない。

あの時に男に助けてもらったことを、教えてもらったことを忘れていないセリュー。

 

「私達は悪い人達と戦い、弱い人の味方ですから。」

 

撫でられているのは子供扱いされていて癪には触った。だが、セリューに抱いた悪感情はそれだけであった。

ナイトレイドともっと正確に言えば自分と考えを同じくするこの娘に意外だとタツミは感じた。

 

「エスデス様!ご命令にあったギョガン湖周辺の調査が終わりました!!」

 

タツミの思考はそれ以上考えることなくそこで中断された。

 

「お前達、初の大きな仕事だぞ。」

 

「最近ギョガン湖に山賊の砦が出来たのは知っているな。」

 

「もちろんです。帝都近郊における悪人達の駆け込み寺…苦々しく思っていました。」

セリューがエスデスの問いにすかさず答える。

 

「うむナイトレイドなど居場所が掴めない相手は後回し。まずは目に見える賊から潰していく。」

 

「敵が降伏してきたらどうします隊長?」

ボルスが素顔の分からない仮面越しにエスデスに尋ねる。

 

「降伏は弱者の行為…そして弱者は淘汰されるのが常だ。」

エスデスが当然だと言うようにボルスにそう答える。

 

「ちょっと待ってください!」

ここでエスデスの発言に水を差すようにセリューが待ったをかけた。

 

「正義は…正義はむやみやたらに人を殺しちゃダメだと思います!私は今までの行いを悔い改めようと言うなら殺さずに然るべき法のもとに罰を与えるべきだと思います!!」

 

「ほう、つまりお前は私に意見するつもりか?」

刹那、エスデスの纏う空気が、部屋の中の空気が一瞬にして絶対零度の中にいるような凍えるような殺気に包まれた。

 

「わ、私はただ、」

エスデスの纏う空気に気圧され尻すぼみに涙目になるセリュー。今にもセリューが殺されてしまうんじゃないかと緊張の走る空気にイェーガーズのメンバーは誰も動けずにいた。

 

だが

 

「お、お、脅したって無駄です!たとえ誰がなんと言おうと私は私の考えを改めるつもりはありません!」

先程の怯える様子はまだあるもののエスデスに彼女は、セリューはそう言い切った。

その目だけは怯えてはいなかった。セリューは最後まで彼女、エスデスの目を見てそう言い切ったのだ。

 

「フフッ」

エスデスが唐突に笑うと、部屋に充満していた殺気もなくなった。

 

「?」

 

「アッハハハハハハ」

さも愉快だと言わんばかりに、可笑しいと大声で笑い始めたのだった。

 

「私にそんな口の利き方をする奴はブドーの奴ぐらいだと思っていたがお前みたいな奴は久しぶりだぞセリュー。」

 

殺されると覚悟していたセリューはエスデスにいきなり笑われたことで緊張の糸が切れその場にペタンと座り込んでしまう。

 

「良いだろう。お前に降伏してきたものには手は出さん。約束しよう。」

 

「ただし、それはお前の戦いのほどを見てから決めることにする。お前のその甘い考えが通じるほど私は優しくはないからな。」

 

「は、はい!」

セリューがエスデスに敬礼を持って返事をする中エスデスは部屋に入った時のセリューへの最初の評価を改め直すことにしていた。

 

セリューのあの目、強者の強い目だ。

私に媚びへつらうような輩とは違う、将来絶対に強くなる強くなる人間の姿だ。

ああ、なんて良い日なんだ愛しいタツミとは運命的な出会い、さらにセリューのような将軍級の器に出会えるなんて

将来は絶対にタツミと同じく私のものにしてやる。

 

エスデスがセリューのことを考えてはいたもののその思考はすぐに中断してメンバーにギョガン湖への移動を命じた。

 

セリューはこの後のギョガン湖の戦いにて、エスデスに認められるほどの戦果を出し、生き残りへの降伏をセリューの戦果に免じて認めることとなり、私の目に狂いはなかったと内心で決心する。

 

その夜、タツミはエスデスの説得を試みるものの根本的な生き方への考えの違いから不可能だと分かり、失意のうちにその夜は眠ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、舞台はタツミがフェイクマウンテンでウェイブから逃げ、アカメに助けられるところまで進むことになる

 

「以上が俺が見てきたイェーガーズの戦力だ。」

 

「本当に全員が帝具使いか、きっついなぁー」

レオーネがイェーガーズの強大な戦力に顔を強張らせている。

 

「でも、そんなに悪いことばかりじゃねぇんだ。」

 

「というと、どういうことなんだタツミ?」

不思議そうな顔をしたレオーネがタツミにそう聞き返す。

 

「あのセリューって言う奴、マインが言うほど悪い奴じゃねえと思うんだ。それどころか俺たちナイトレイドの仲間になってくれるかもしれねえ。」

 

「ちょっとタツミ!あんた何馬鹿なこと言ってんの、アイツはシェーレを殺しかけたのよ。そんな奴仲間にするなんて私は絶対に認めないわよ!」

 

「まぁ待てマイン。まずはタツミの言うことを聞こう。帝具使いが仲間になってくれればこれほど心強いことはないんだ。」

鬼気迫る表情でタツミに殴りかかろうとするマインを止めるレオーネにタツミは感謝しつつ話を続ける。

 

「俺も最初は信じられなかったが、山賊の砦を潰す時にアイツはエスデスに降伏してきたやつを殺すことを真っ向から反対したんだ。」

 

タツミの話に驚きの表情になるナイトレイドのメンバー

 

「最初こそエスデスに脅されてどうなるかと思ったけど、それでもアイツはあのエスデスに言い切ったんだ。」

 

あのエスデスにそこまで言ったのかと更に驚くアカメ達

 

「多分だけどアイツの心の中ではきっと弱い人達を助けたいんだよ。俺たちナイトレイドと目的は一緒なんだ。」

 

「まさかそれほどまでだとはな。」

「分かったタツミお前がそこまで言うなら、お前が仲間にしてみろ」

現在ナイトレイドの隊長であるアカメからの許可が出てタツミは、嬉しくなる。それで仲間を増やせることに、ひいては仲間の命を助けられることができると思い。

 

「分かった、みんな俺に任せてくれ!」

 

「だが、今はダメだぞタツミ。ボスが戻ってきてから改めて作戦を立てよう。」

 

こうして、ナイトレイドはセリューを仲間に引き込まないか作戦を立てつつ、イェーガーズと対峙していくことになる

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オカマの感って、当たるのよねぇ。フェイクマウンテンからは随分離れてたけど。」

 

Dr.スタイリッシュが指差す先には

 

「ナイトレイドのアジト…見ーっけ。」

 

避けられない戦いが今幕を開け、避けられない死もまた近づいている。

 

果たしてそれはナイトレイドかイェーガーズかそれはまだ誰にも分からない。

 

 

 

 




今度は僕アカの小説も書きたいなぁ

書いて良いですかね?

確実に帝都廻と両立が出来るかどうか怪しいところになります。


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8話

今月最後の投稿になります!
ネタも力も湧いてきました!執筆活動頑張ります!

あと、ナイトレイド襲撃はキングクリムゾンしました。
ごめんなさい。


 

 

「さぁて俺たちももうアジトに戻ろう。」

ラバックがそうアカメ達に話しかける。

 

帝具パーフェクターで作られた薬剤で巨大化したDr.スタイリッシュに誰一人死ぬことなく勝利したアカメ達

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう、あ、あうぅ、うぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いはまだ終わってなどいなかった。

 

弱々しくか細い少女の声に反応するアカメ達。

 

振り向くとそこには前に山で保護した少女が弱々しい足取りでこちらにゆっくりと歩いてくるのが見えた。

 

「おい、大丈夫か!怪我してるのか!」

 

少女が怪我をしたと思い、慌てて駆け寄ろうとするタツミ。

 

「待てタツミ!」

 

「?」

 

「何か、何か様子が変だ!」

少女に対して警戒心を隠そうともせず露わにするナジェンダが駆け寄ろうとするタツミに待ったをかけた。

ナジェンダの脳裏には思い出したくもない自分にとって忌まわしい過去が思い出される。

それはエスデスと敵と対峙し、そして戦い、右目と右腕を失った時に似ていた。

あくまでも似ていただけでエスデスと違うのは、殺気とは違う濃密な死を少女から感じとっていたのである。

まさかこの少女からそんなものを感じている自分がナジェンダには信じられなかったが、現実として目の前にその死への脅威をナジェンダは感じていた。

ナイトレイドのアジトに準備万端で襲撃を仕掛けてきたDr.スタイリッシュ以上の脅威を。

 

「…しい」

 

「?」

 

「さみしいよ、さみしいよ。また一人ぼっちはさみしいよ」

ひっく、ひっくとしゃくりをあげながら弱々しい声を上げる少女。

「もう、もう一人はいやだよぉ、一人はさみしくてかなしくてつらいよぉ。」

 

アカメ達は次第に感じていく。その少女から放たれる濃密な死の気配を、殺気を、狂気を。

 

そして少女はぶつぶつと呪いのように何かを呟いていた。

 

声は次第に大きくなり、全員に聞こえるようになる。

 

「ハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハルハル」

 

誰かの名前であろうか?

 

タツミは少女が呪いの言葉のように呟く言葉を聞きながら少女の言葉は誰かを呼んでいるとそう解釈していた。

 

そして少女の周囲に変化が生じ始めた。

 

黒い、暗いなにかが闇夜ではないなにかが、少女に集まっていくのだ。少女を中心にして、闇のように黒い物をどんどん少女は吸収していく。

 

 

 

「サミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサミシイサ…………………。」

 

唐突に少女が口を閉じた。

 

誰も動かずにいた。いや誰も動けずにいた。

 

少女の異質な気配に当てられていたのである。

 

いつのまにか少女の周りを漂っていた黒い何かは消えていた。

 

気配や空気に一番敏感なレオーネが震えていた。

 

顔は青ざめ、ブルブルと体は震え、今にも倒れてしまいそうなほどであった。

 

レオーネは濃密な死の気配を人一倍感じて今にも今すぐにでも逃げ出したい気分であったが、仲間を見捨てないという強い想いだけが彼女をここに踏みとどまらせていた。

 

カチカチと、レオーネの歯が震える音のみが聞こえる。

 

静かな、静かであった。風も止んでいた。虫の声も、風の音も、草木のかすれる音も。

 

ザッ

 

地面を踏みしめる音にアカメ達みんなが反応した。

 

タツミがゆっくりと少女に近づいていた。

 

「タツミよせ、近づくんじゃない!下がるんだ!」

異常な状態に冷や汗をかくナジェンダがタツミに再度待ったをかける。だがタツミは

 

「寂しいって言ってるんだ。助けないと。」

 

「駄目だ!殺されるぞ!!」

 

「何が起きているのか確かめねぇとこのままじっと待っているだけじゃ殺されると思うんだ。話ができるかもしれねぇ。あの子は寂しいって言ってるんだ。俺は寂しがってる女の子を助けないなんて男じゃねぇ。そう思うんだ。それに俺たちに危害を加えるって決まったわけじゃねぇんだ。近づいて、様子を探る。それだけだ。」

 

たしかにタツミの言う通りこのままじっとしていては極度の緊張で疲労が溜まっていくのは不味かった。逃げるにしても戦うにしてもこれからの体力を考えるとここでじっとしているのはどう考えても得策ではなかった。ナジェンダは冷静に考えそして判断を下した。

 

行動をすることにしたのである。

 

「……………分かったタツミ。」

 

「ボス!」

あまりにも危険なタツミの行動に抗議の声を上げるように怯えるレオーネがナジェンダに言う。

 

「ただし、何か少しでも異常を感じたらすぐに殺す。それでいいな。」

 

「…分かった。」

 

「マイン頼むぞ!」

ナジェンダはマインに事が起こった際の攻撃を任せた。

 

「分かったわ、一撃で仕留める。」

その目はまだ怯えてはいたものの幾千の暗殺の修羅場を潜り抜けたプロの殺し屋の目をしていた。

 

そして

 

ゆっくりとタツミは顔をうつむかせながら涙を流し、座り込む少女に近づいていく。細心の注意を払って。

 

ザッ

 

ザッ

 

ザッ

 

ザッ

 

少女まであと一メートルというところでこれ以上は少女に近づくのは危険と判断してタツミは立ち止まる。

 

そして少女にタツミは話しかける

 

「シェーレが居なくなって寂しかったのか?」

 

「ひっく、ううん違うの。ハルに会いたいの。」

 

タツミの問いに答えたせいか、シェーレの話題が出たせいかは分からないが少女の発していた死の気配が幾分か弱まる。

やはりハルというのは誰かの名前だったのかとそう感じたタツミ

 

「大丈夫だぞ、ナイトレイドは、俺たちは絶対にお前に寂しい想いなんてさせない本当だ。」

 

「ほんとに?」

 

「ああ、本当だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユイちゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユイは自分の名前を呼んだタツミの声に反応したのか、ビクリと体を一瞬震わせると次第にタツミに顔を上げ始める

 

「じゃあ」

 

「じゃあ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッショニキテ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユイの顔を見たタツミはあまりの恐怖に体が固まってしまう。

 

ユイが流していた涙は黒い涙であったのだ。ボトボトと地面に落ちてユイの周りを黒いシミが広がってゆく。

ユイの顔は黒い涙を流す右眼がどんどん大きくなってゆき左眼を押し潰さんばかりに肥大化していく。

そして黒い涙が顔を覆いユイの可愛らしい顔を黒く塗りつぶし、ゆいいつ真っ白な右眼だけが大きい左右非対称の不気味な目をしていた。

視線は常に一箇所に留まらずギョロギョロと混乱したように彷徨わせていた。

 

「タツミ、逃げろ!」

 

ドウッ

 

タツミの顔の横を一筋の光線が通過していく。

 

マインの帝具パンプキンから放たれた光弾はユイの濃密な死の気配を感じていたマインの危機意識からか凄まじい威力を持ってユイの顔面に直撃する。

 

「あんなとこで固まってるんじゃないわよ!」

 

「悪りぃ助かったマイン!」

 

「やったか?」

パンプキンの光弾の衝撃にユイのいた場所からは土煙が立ち昇っている。

 

土煙が晴れるとそこには首から上をパンプキンの光弾によって失ったユイが先ほどと変わらぬ様子で立っていた。

 

「やったぞ!さっすがマインだ!」

ラバックが歓声をあげ、流石だとマインを褒め称えるもそれも長くは続かなかった。

 

「いや、まだだ!」

ゴボゴボと黒い液体が空中で形を作り、ユイの顔を瞬時に再生していく。

再生し終わったユイの顔は先程とは違って混乱したようにギョロギョロと視線を彷徨わせてはいなかった。

攻撃を加えてきたマインを睨みつけていたのである。

 

瞬間マインの立っていた地面が赤黒く変色する。

 

「…ッ!マイン危ないそこを離れろ!!」

 

ナジェンダの言葉と自身の感じた嫌な予感にすぐにその場を離れる

瞬間、赤黒く変色した地面から同じく剣山の如く赤黒い針が飛び出してマインを串刺しにしようとしていたのだ。

 

「これがコイツの攻撃!?」

 

マインが冷や汗をかきながら距離を開けるためユイから更に離れる

しかし瞬間的に移動したユイが黒いもやを一際大きくしそれでマインを一飲みに飲み込まんと襲いかかる。

 

「なっ!?」

 

それをすんでのところで、横に転がって避けるマイン

そして替わりにマインの後ろにあった木を葉っぱ一枚残さず黒いもやが飲み込んだ。

飲み込み、元の大きさに戻ったユイ。黒いもやが飲み込んだ木は養分を1つ残らず吸収されてしまったのか、急速に木は枯れて朽ちていく。

 

「あの黒いもやもやに触るとやばそうだな」

タツミがユイの攻撃を見てあれ以上近づかなくて良かったと思ったことを言う

 

「ならこれはどうだ!一気にケリをつける!!」

ラバックがユイの周りに細く強靭な糸を張り巡らせ、一気にそれを引きユイを引き裂かんとするが、ユイの体に触れた瞬間糸は切れ、ラバックの攻撃は無意味なものとなった。

 

「吸収する帝具か?」

ラバックが帝具クローステールでユイに攻撃した糸を回収する。

 

「いや、違う。あれは帝具なんかじゃない!あれは人が作り出したものなんかじゃない。みんな心してかかれ、私達が相手にするのは化け物だ!」

 

そしてナイトレイドと怨霊となったユイの戦いは激化していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アカメは斬る、マインは撃つ、レオーネは岩で潰すなどの攻撃をアカメ達はユイに仕掛けるが、まるで効いてないかのようにユイの勢いは止まらず、黒いもやでの飲み込みや次第に増えていく赤黒い針での攻撃は速さを大きさを増していく。

 

戦いは膠着状態へとなっていくかと思われたが

 

「ぐおっ!?」

 

不安定な足場に着地して、体勢を崩してしまったタツミ

 

そこに目をつけたユイが瞬間的に移動して、タツミの腕を捕まえる。

 

「うぐっ!」

 

タツミの腕はまるで万力の如く締め上げられるように嫌な音を立てながら軋む。

腕を振りほどこうともがくタツミにユイの黒いもやが迫り、飲み込まんとする

 

「タツミッ!」

 

アカメの悲痛な叫びがこだまする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが寸前でユイの攻撃は止まり、掴んでいたタツミの拘束も緩む。

 

その一瞬の隙を逃さずタツミはユイから逃れる。

「どうしたんだ?止まったぞ?」

 

そしてユイの様子も変わっていく。

 

左右非対称の大きな右目から、また涙が流れた。

だが、今度はさっきとは違って黒くはなく透明な悲しい時に流す涙のそれであった。

そして黒いもやは雲散していく、ユイの顔もまた元に戻っていき年相応の可愛らしい少女の顔に戻っていく。

そして

 

「呼んでいる」

 

と呟くと姿が薄くなってゆき次第に見えなくなってしまった。

 

「一体どうしちまったんだ?」

タツミがみんなの気持ちを代弁するように言う。

そして誰よりも早くユイの残していったものに気づくのが早かった。

 

「これは、手紙?」

 

 

 

もうすぐなつがおわります。

ハルはまいとしわたしのところにきておはなをおいていってくれます。

とてもうれしくわたしはいちねんにいちにちこのときだけはこころがあたたかくなるようなきがします。

でも、しらないところにとばされて、ハルにはもうあえないとわかってしまいました。

シェーレおねえちゃんとあえたのはうれしかったけど、しんゆうのハルにもあいたいです。

かみさまはわたしがいきているときでさえも、しんだあともわたしのたいせつなものをわたしからはなしてしまいます。

そしてシェーレおねえちゃんもわたしからはなれていきました。

もうなにも、うしないたくないです。

もうだれとも、おわかれしたくないです。

こんなにつらくて、かなしくて、くるしいのならわたしはなにもいらないです。

だからおねがいです。

さいごにわたしに、ハルとあわせてください。

 

 

手紙はここまでで終わっていた。

 

タツミはユイという少女を始めてこの手紙を読んで理解したような気がした。

幽霊になったということには驚きはしたもののすでに怨霊となったユイを見ているので、納得もしていた。

 

「ユイちゃん、苦しかったんだな。」

 

タツミが思ったことを口に出す。それにナジェンダは

 

「あの少女は、彼女は失ったものを、取り戻そうとしているのかもしれない。生きているものを殺してをあの黒いもやで取り込んで、心の寂しさを埋めようとしていたのかもしれないな。」

 

「死んだ幽霊だったのかしかも別の世界のそれじゃ倒せないのも納得だねこりゃあ。」

調子を取り戻したレオーネがやれやれといった風に言う。

 

「正確に言うと怨霊だがな。さて戦いも終わったし、一旦アジトに戻ろう。必要なものをまとめて別のアジトに場所を移さねばならん。」

 

そしてナジェンダ達ナイトレイドはアジトへの帰路に着いた。

 

だが、ここで問題が1つ発生した。別のアジトへの引っ越しを全員で進めている中で、マインが敵を倒し、奪い返した帝具の万物両断エクスタスが赤黒いシミだけを残して消えてしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 




ご感想などおまちしております!


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9話

大変長らくお待たせしてしまいました。


最終更新日から2年も経ってしまいました。
本当に申し訳ありません。

そんでもって、こんな不定期な更新でも最後までやり遂げたいと思いますので気長に待ってくだされば嬉しいところになります。

あと、今回はかなり胸糞展開がありますのでご注意下さい。




深夜  丑三つ時

 

帝都

 

 

 

 

「たくっ、あんなに苦労したのにこれっぽっちかよ。」

 

 

 

狭い建物と建物がひしめいてまるで迷路のようになっている暗い路地の中で、1人の男が手の中にある金貨を入れた袋をジャラジャラと弄びながら歩いている。

 

 

ここは帝都の中にあるいくつかあるうちの一つである貧民街

増設に増設を繰り返した違法建築が建ち並び、道や屋根に捨てられたゴミと非合法な薬品、鉄臭い血、死体が落ちているのも珍しくなく酷い時には腐臭すら漂っている。

 

 

 

日中の時間帯であっても日の光も、人の手も届かないような帝国の搾取される者たちと犯罪者達の住処

 

人身売買、殺人、強姦、違法薬物の売買、賄賂や機密情報の違法な取引、人肉すら取引されていた。

 

最後の人肉は飢えた貧民街に住んでいる人達にとっては手軽に入手ができる貴重な栄養源であった。

しかしそれが危険な病原体や薬品の温床であった場合には命はない。

 

 

 

表通りの華やかな雰囲気は悪魔でも帝都の仮面の姿であり、その裏に隠された顔は全くもって醜悪な真逆の顔を持っていた。

 

現在の帝国の本性がよく見える場所でもあった。

 

そして先程挙げた中でも、もう一つ付け加えるとするならば

 

 

暗殺組織(ナイトレイド)への依頼

実際ここは警備隊の鍛えられた人間ですら安易にこの貧民街に踏み込めば死亡率は高く敬遠されている場所である。

 

帝都においては警備隊の手が届かない珍しい治外法権のような状態になっていた。

 

 

そんな貧民街の計画性のない増築とそれによる薄暗い細い路地はまさに迷路であり、その貧民街の住人であったとしても迷うものがおり、その迷路の道案内で金を稼ぐものもいる。

 

帝都の多くいる犯罪組織の中でも貧民街に密接に関わる組織は必ずこの道案内を雇っており貧民街限定ではあるものの大金を得ることが出来る人気の職業である。

 

しかし、道を覚える時に殺されることも珍しくなく犯罪組織の抗争において最初に命を狙われるのも珍しくないものであった。

 

当初、革命軍総司令部の下部組織である諜報機関は身を隠しやすいという秘匿性と帝都の裏の情報が多く集まりやすいこの貧民街の中に作られる予定であったが金目当ての住民達の警備隊への密告や、潰しても潰しても湧いて出てくる犯罪組織との終わりの見えない抗争。

 

 

言うなれば、大量のトラップを仕掛けられた密林を進む革命軍にゲリラ戦を仕掛ける犯罪組織のような構図が出来上がっていた。

 

 

犯罪組織の大多数は数に任せた攻勢しか出来ない烏合の衆であり、軍から離れた元歴戦の兵と将軍を抱える革命軍の敵ではないが、そんな派手に動けば秘匿性も何も無くなり即座に帝国が貧民街ごと叩き潰すことが容易に想像できたためあえなく中止された。

 

 

ちなみにナイトレイドのアジトは当初貧民街に設置される事を予定したものの、こういった出来事によりアジトは人気のない森にある崖をくり抜いたものが使われた。

 

 

 

そんな帝国と革命軍のどちらもが手に負えない危険地帯であっても実力さえあれば、どんな身分のものもその行いはどうであれ人としての生活を送れる唯一の世界であった。

 

 

 

無論全ての貧民街が、このような弱肉強食の世界というわけではないが全ての貧民街に共通して奥へ、奥へと進めば進むほど命の危機に晒されるのだ。

 

言うなれば人の形をした怪物がいる帝都の中のダンジョンか、一歩一歩進むたびに自分の命を賭ける地雷原と言ったところか。

 

 

 

 

 

月明かりもさしてこないほどのそんな暗い貧民街の中を男はなんの迷いもなく自宅への帰途へついていた。

 

 

「あのガキを捕まえるのに、こちとらそこそこ金も使って人手を集めた挙句走り回ったってのに。これじゃあやってらんねぇよ」

 

男は闇夜に溶け込むような黒い服装で仕事への愚痴を溢しながら、汚臭のする通りを顔をしかめながら足早に通り過ぎてゆく。

 

男は人攫いで、その日生きる為の金を稼いでいた。

攫うのは容姿の整った女性から少女は勿論の事。珍しいものは少年にまで手を出そうというのもある。

 

拐われたもののその後は死ぬまで慰み者にされるならまだいい方だ。

酷い奴は悲鳴や死ぬ前の反応を見たいからといたぶられて死ぬか、男にはもう忘れ去られて記憶にないが兄弟や姉妹での殺し合いさせられたり等の陰惨なものある。

 

 

今日は数少ないお得意様の1人である貴族からカフェでウェイトレスをしていた愛らしい少女に一目惚れしてすぐにでも欲しいから拐ってきて欲しいとの事だった。

人目が無くなったのを機に誘拐しようとしたのだが、その少女が見た目に反して武術の使い手であり油断して鳩尾に肘を入れられて逃げられてしまった。

 

その後は酷いもので素早い身のこなしで貧民街の方に逃げられて、道案内や金を渡して協力させた人間を使い1時間の捜索でやっと捕まえることが出来た。

 

依頼は達成したものの、出費も多かった為に全く割に合わない仕事となってしまったのだ。

 

 

そんな男の前を突然タッタッタっと駆けていく小さな影が建物の影から出てきたと思ったら何かに躓いてしまったのか目の前で転んだ。

 

一瞬何が飛び出したのかヒヤッとしたが、無害(・・)そうな少女でホッとする。

 

しかも、傷を隠しているのか包帯や絆創膏がやや目立つもののなかなか可愛らしい見た目で長い髪の毛を後ろでポニーテールでしているのが印象的な幼い子供。

 

イテテッとソプラノの声が男の耳に心地よく響いていくのを感じて頭ではあの贅肉まみれの貴族が不快な汁を撒き散らしながら喜びそうだと思いながら男の少女を見る目は劣情抱くようなものではなく、古い懐かしいものを思い出して悲しんでいるような目であった。

 

悪夢のような帝都に男が来たのは、妹に何か食べさせてやりたかったからだ。

 

昔は貧しくとも食べて幸せに生きていけたのに

 

ある時から男は帝都へ出稼ぎに行った。妹のためにまたいつの日か一緒に食べられるささやかな幸せのために。

 

まだ出稼ぎに来て間もない頃だった。

最初の俺は仮初の親切心に騙されて危うく拷問されて殺されるところだったが、運良く逃げ出すことが出来た。

 

その後もめげずにまともな職についてはいたが、かい叩かれるような日銭では、妹はおろか自分も生きてはいけない。

 

 

そして人攫いになった。

男もその日から人の形をした怪物になった。故郷の妹のために。

 

そんな言い訳を心で唱えて。

 

 

そしてようやく仕事にも慣れてきた頃、依頼主は仕送りに出した子供を地獄の帝都から迎えに来たと言っていた。

初めての善行だと思った。

料金は受け取らず、絶対にここに連れてくるとその親に固く約束した。

 

人間まだまだ捨てたものではないと心から思った男はすぐに件の子供見つけ出すことが出来た。子供は妹と同じぐらいので、依頼主の親に久しぶりに会った少女は涙ぐみながらパパ、ママと言いながら駆け寄っていくのを見た時は感動したものだ。

少女からは心からの笑顔とありがとうのお礼を、そして少女の指に嵌められていた物とは色違いのおもちゃの指輪を貰った。

 

 

「あたしの宝物、故郷のお友達がくれたの。」

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、別の仕事の帰りに人身売買の取引所に首だけのあの少女がいた。

既に心臓は止まっていた少女の目からはあの心からの笑顔は霞も見えなかった。

 

少女の最後の表情は眩しいほどの笑顔も希望のかけらもなく死に染まっていた。

 

 

 

人違いかと、何かの間違いと思った男は売買を取り仕切る男に子供の事を聞くと親から(・・・・)直接買ったと言った。

 

聞くとあの親は、女が孕んだ子供や養子として引き取ったりした子供を売っていたらしい。

 

今回は、容姿のいい子供だったからまた高く売ろうと考えていたらしい。

他にも子供を持つ親を騙して出稼ぎでいい場所を知っていると言って、連れて行った子供を売り飛ばしたこともあるらしい。

 

母親は売った金の半分を貰い。男はその半分と女を抱いた快楽を得る

 

さっきも言ったように容姿が整っている子供は特に高く売れる。上手くいって子供が働けば仕送りも貰える。

 

 

そんな帝都でも上位に入るほどの最低な人間だった。

人を食い物にする怪物にもなれない。自分はあの親を可哀想な人間だと思った。

 

 

 

 

少女は売られた翌日にどうやってかは分からないが、自殺防止の為の猿轡を外して自ら舌を噛み切って死んだらしい。

他にも(・・・)不可解な事があっらしいが、詳しいことまでは頭に入ることはなかった。

少しでも損失を補填するために売れ残った余り物を一応置いてはいるがそれ以外については食肉加工場(人肉解体所)や研究所に売り飛ばしたらしい。

 

 

 

 

取締りの男はあの親に不良品を買わされた。落とし前をつけに行くと言っていた。

 

その話を聞いた後、男は少女を取り締まりの男から買い。貰ったおもちゃの指輪を少女と一緒の棺に納めた。

 

自分(怪物)が持っているにはあまりにもそれは似つかわしくなかったから。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

 

思い出したくない過ぎ去った過去を幻視していた男は、ハッと我に帰ると心配するような眼差しで自分を見つめる少女の方へと振り向いた。

 

遠目で見てても分かってはいたが、やはり整った顔をしている少女は愛らしい容姿の中に傷だらけのその小さな体躯は何とも言えない庇護欲を掻き立てられるかのようだった。

 

 

「あ、あぁ、大丈夫だよ。…ちょっと、…………ちょっとぼーっとしてただけなんだ。」

 

 

我ながら、下手な言い訳だと感じながら少女の心配するような目から逃げるように顔を背ける。

 

 

「………そっか。」

 

「それよりもお嬢ちゃんはこんな所で何をしているんだい?」

 

「探してるの。」

 

「探してる?探してるって、一体何をだい??」

 

こんな夜中に出歩いてまで何を探しているのか見当もつかない男は少女に問い返す。

 

「分からない。分からないの。何を探してたのか分からなくなっちゃって、でもとっても大切なものなの。」

 

「…そうか。ならもし良ければだけど少しだけならお兄ちゃんも手伝おうか?」

要領を得ない少女の答えに、男は手掛かりも何も無い探し物に手を貸そうと思った。

 

きっとあの少女への贖罪だろうと心の何処かでは思いつつも。

 

 

 

 

 

少女のその小さな歩幅に歩調を合わせつつ、男は色々なものでごった返してる細い路地に目を通しながら夜の道を歩く。

 

少女もその小さな目で探し物を必死に探している。

 

こんな危険な帝都の一際夜の貧民街で何かを探す少女の大切なものとは一体何なのか?興味が無いわけではなかったが、聞き出そうとするつもりはなかった。

関われば少女を不幸にしてしまうのでは無いかとの危惧から聞かなかった。

 

 

 

怪物(自分には)の居場所はどこにも無いほうがいい。大切なものも(故郷の妹)不幸にしてしまうから。

 

 

 

「…ちゃん。お兄ちゃん!」

 

「!?。…なんだい?どうかしたのかい?」

 

「今日はもう家に帰ろうかと思うの。ありがとうございます。お兄ちゃん。」

 

「もうそんな時間か。」

 

 

いつの間にか貧民街を抜けていた。

 

男と少女は水平線の向こうから登る太陽が暗い世界に明るく差し込もうという時間帯まで少女といたらしい。

いつにも増して朝日が眩しいと男は感じた。

早く帰りたいと思った。

 

 

「お兄ちゃんは本当に優しいね。最後にお願いしてもいい?」

 

「?…あぁ、なんだい?」

 

少女は軽く折り曲げた右手の小指をこちらにそっと向けて若干緊張した様子で尋ねてきた。

 

「私とお友達になって欲しいんです。」

「私、お兄ちゃんと一緒に探してて大切なものがなんなのか分かったような気がするんです。」

 

「…」

 

「きっと私の探しているものって、隣で助けてくれる友達なんじゃないかって。私はきっと友達を探してたんです!」

 

約束しても2度と会うことはないだろう。

少女の探し物はもしかしたら辞めさせたほうが良いのかもしれない。知らない方が幸せということも特にこの帝都では多くあるのだ。

そして自分はともかくとして目の前の少女はこんな時間に毎日うろついていては殺してくれと言っているようなものなのだ。

 

何にせよ自分や少女もこの帝都で長生きすることはないだろう。

 

 

なら少しだけ、こんなささやかなものでもいいのなら少女の望みを叶えてあげよう。

 

 

「あぁ、約束しよう。」

そう言うと、男は少女の左手の小指と自分の左手の小指を絡めた。

 

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 

幻視した少女の笑顔と彼女の笑顔が男には重なったように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっトいっシょだよ。」

 

 

 

「あっ、が、グアアアァァァァァァァァ!?!!。」

 

自分の左肘から先から大量の血が噴水のように飛び出していく。左腕を失った激痛と喪失感にバランスを崩した男はたまらずに地面に倒れ込む。

 

足元の地面が赤く、紅く染まっていく。

 

大量に失血して、身体中が寒さを感じるよりも早く男の体は冷たくなっていく。

冷たい地面と男の体温が同じになるにつれて、急速に鈍り始める感覚と目蓋が重くなって今にも2度と覚めない眠りにつくような恐ろしい感覚が体に走る。

 

必死に永遠の眠りに抗う男に、少女の様相は先程までの愛らしい少女ではなく顔の右半分の斜めに残った左半分とは不釣り合いな大きな目が自分が死ぬのを嬉々として待っているかのように凝視していた。

 

だがその声音は子守唄を歌う様な慈悲深いもので男に語りかけてきた。

 

 

「私はお兄ちゃんと会うずっと前から、友達を探してたんだよ。

ずっと自分が何をしているのか分からなかったけど、やっと自分の大切なものをお兄ちゃんのおかげで思い出せたの!

 

昔から私はその子とずっと一緒にいたの!一緒に手を繋いで、遊んだ一番最初の大切な大切な友達を!!

でも私ね最初はお兄ちゃんをお友達にするつもりはなかったの。でもお兄ちゃんは私をいっぱい助けてくれたから、私もお兄ちゃんの友達になってそれよりもいっぱい助けてあげたくなったの。

 

それに寂しく無いよ。お友達になってくれた人はいっぱいいるの!!」

 

 

 

そう言うと少女は背中のリュックサックから大量の腕を取り出して並べ始めた。

全て小さく細い腕で大きさから子供だと男には分かった。

 

 

 

「この子は初めて遊んでくれた黄色い髪が綺麗な私と同じ女の子で、この子は病気で遊び相手が欲しいって言ってきてくれて友達になって、この子達は私と同じぐらいなのにみんなで協力して仕事をしてたんだって、すごいよね!それでこの子は……」

 

 

 

あまりの光景に絶句した男が目に入らないのか、少女は夢中で(友達)を紹介していく。

 

 

 

「最後にこの子は、本当のお母さんとお父さんに合わせて欲しいって言って友達になったの。」

 

その腕の手には薬指に見覚えのあるおもちゃの指輪が嵌っていた。

 

 

 

 

「か、怪物。」

 

その言葉を口に出してすぐに男は内心で否定する。

 

怪物は最初から怪物などでは無い。

最初は何処にでもいるただの人間なのだ。

 

湖に小石を投げれば水面が波打つように小さくとも何か切っ掛けがあるのだ。

 

帝都の市民から恐れられていたオーガも、残酷な性癖を持つ貴族も、狂戦士(バーサーカー)のようなエスデス将軍も、帝都を地獄に変えた諸悪の根源たる大臣(オネスト)も。

 

 

 

だが目の前にいるのは欲求を満たすために人を食い物にするとかそんなモノではなく

ただ粛々と当然のように死を撒き散らす疫病か、厄災か、それよりももっとおぞましく、恐ろしい、無害な少女の形をした形容し難いナニ(怨霊)かしか男には分からなかった。

 

 

 

そしてその言葉を最後に(怪物は人間に)は永遠の眠りについた

 

 

 

「お兄ちゃんは大人の人だけど、優しいからきっと私とみんなの良いお兄ちゃんになれるよ。早くハルにみんなを紹介したいなぁ。…………あれ?私今なんて言ったんだっけ??」

 

 

 

少しの間思い出そうとするも、結局思い出すことはなかった。

 

ユイは男の腕を大切そうに拾うと他のも纏めてリュックサックに入れて日の光を避けるように路地の闇へと消えていった。

 

 

 




本当は今回の話は倍ぐらい長くなる予定だったんですが、1日でも早く投稿したいと考えて分割にしてしまいました。

次の次くらいの話はストーリーの都合上出来ているので、次回は2話まとめて更新できるかと思います。

それではまた次の投稿まで気長にお待ちくださればと思います。


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