魔女達は鋼の巨人と共に抗う様です (voros)
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第一話 邂逅

アニメを見たり、画集を買って何か一筆書こうかな。
そう思っていた時に出会ったのがTitanfallシリーズ。

『この動き、陸戦ウィッチなら出来んじゃね?』
そう思って筆を執ってみました。陸戦ウィッチの活躍が主体ですが、
航空ウィッチも多数出ます。ご意見感想、お待ちしております。


「私はデザートを賭ける!」

「言ったな? なら、こいつ賭ける」

 ドスンと大きな音を立て、テーブルの上に荒っぽく瓶が置かれた。

 

「扶桑から届いた銘酒だっけ? これは俄然やる気が出るね」

 ニヤリと笑みを浮かべるクルピンスキー。あの三人は明日も変わらず

 戦果争いをするつもりらしい。

 

「ねーねー、ひかりちゃんは誰が勝つと思う?」

「え~と・・・」

 ヴァルトルートの問いかけに返す言葉が浮かばない。

 ひかりは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「そりゃ勿論、全員墜落でノーゲームでしょ」

「おい誰だ! 今喋った奴は!?」

 整備班の誰かが飛ばした野次に噛み付く直枝。

 ひかりは思わず吹き出してしまうのであった。

 

「あはは・・・でも、こうして冗談が言える位には平和になったんですよね」

 ひかりの呟きに周りが頷く。ネウロイの巣を撃破した御蔭だろう。最近は

 ウィッチや隊員が死亡した等の訃報が聞かれなくなってきた。

 

「つっても、残党がどっかに残ってるだろうし、まだまだ気は抜けないな」

 ふと、ストライカーユニットの方へ視線を向ける直枝。フレイヤー作戦で

 破損したユニットも、すっかり本来の姿を取り戻している。傍らには

 大きく歪んだリベレーターが吊るされていた。

 

「何度も死ぬかと思ったからね。少しは平和になって貰わないと──」

 ヴァルトルートの返事は、喧しい警報の音によって掻き消された。

 

「総員、持ち場へ戻れ!」

「おっしゃ、出撃するぞ!」

「入口を開けるぞ!」

「お先に失礼!」

 

 格納庫の中が騒がしくなり始める。ある者は武器を手に、

 ある者は工具を手に。己が成すべき事をする為に動いた。

 

「ネウロイ出現! ブロークンアロー!」

 耳に付けたインカムから叫び声が響く。

「こちら第502統合戦闘航空団所属、下原定子です! 至急援護に向かいます!」

 哨戒に出ていた下原が応答に出たらしい。雑音に混ざって彼女の声が聞こえる。

 

「現在、────交戦・・・支援を・・・」

「くそっ、碌に聞こえやしねぇ!」

 舌打ちをしながらもテキパキと発進準備を整える管野。

 夜明け前だけあって何とか飛行は出来そうだった。

 

「了解、直ちに向かいます」

 どうやら位置が近かったのだろう。下原は内容を聞き取れたらしい。

「おい、オレ達も今からそっちに向かう。場所は何処だ!」

 格納庫の入り口が開くや否や、飛び立ちながらも管野は怒鳴った。

 

「きゃあっ!」

 しかし、帰って来たのは悲鳴だった。戦闘が始まったのだろう。

 雑音の他に爆発音が混ざりつつあった。

「大丈夫ですか!? すぐに向かいま──」

 ひかりの言葉を遮って下原が金切り声で叫んだ。

 

「ノブゴロド方面監視所周辺で新種の人型ネウロイがネウロイと交戦中!

 人型の数は七・・・」

 雑音が酷くなり、遂には途切れた。今は耳障りな音しか聞こえない。

 

「は? マジかよ!?」

 問いかけに返事は帰ってこない。が、ハッとしたように管野は

 ひかりの方へと顔を向けた。

 

「ひかり、今の聞いちまったか!?」

「あの、人型ネウロイって・・・」

「ひかりちゃん!」

 ヴァルトルートが真剣な眼差しで手を伸ばし、口を塞ぐように掌を広げた。

 

「いいかい? 今聞こえた事は他人には絶対喋っちゃ駄目。本当は

 聞いただけでも禁固刑は確実なんだ。出来なければ除隊だけじゃ

 済まないよ!」

 

 普段の陽気な雰囲気が消え、鋭い目つきをしていた。

 視線を横に向ければニパも直枝も険しい表情をしている。

 

「どうする? 誤認じゃなかったら手が足らないよ」

「見える位置まで近づいちまってるんだ! 援護に行かなきゃ下原が死ぬぞ!?」

「けど、他の皆が来るまでには時間が・・・」

 ちらりとヴァルトルートは地平線に目を向けた。

 

 まだ空は暗く、雲が出ている為に視界は御世辞にも良いとは言えない。

 不幸中の幸いは夜明けが近いのでナイトウィッチでは無くても飛べる

 ギリギリの明るさである事。自主練の為に起きていた雁淵や、早番で

 待機していた自分達なら即座に救援に迎える事だった。だが・・・

 

「人型が七機・・・かぁ」

 かつて相対した二機の人型ネウロイですら、散々手を焼かされたのだ。

 近寄れば意識を狂わされ、動きを真似される。しかも仲間同士で情報を

 共有できるらしく、危険度は通常のネウロイとは別格だ。

 

「下手すると全員歩きで帰る事になるかもな」

「それで済めばマシな方でしょ」

「ひかりちゃん、撤退前提で動くよ。いいね?」

 

 闘争心が高い三人ですら撤退前提で語り合う姿に、

 ひかりは並々ならぬ事態であると察するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上には炎の花が咲き乱れ、空は空で赤い光が迸り、闇夜を照らしている。

 本来ならば、ネウロイと戦う時は当然の様に広がる光景だ。しかし・・・

「どうしてネウロイがネウロイに撃ち落とされているの?」

 眼下に広がる光景は、下原が知る常識から随分と掛け離れていた。

 

 燃え盛る炎を前に立つ巨大な影が複数。煙が邪魔で正確には見えないが、

 それらは人の様な輪郭であった。煙越しに複数の赤い光が地上から空へ

 放たれており、飛んでいるネウロイが薙ぎ払われている。

 

「撃て、撃て! 撤退までの時間を稼ぐんだ!」

 その圧倒的な火力から逃げる様に走る地上のネウロイ達が、

 ノブゴロド方面の監視をしていた部隊と衝突していた。

 陸戦ウィッチとの挟み撃ちで次々と数が減っているものの、

 元の数が多すぎる。徐々に戦線は押し込まれ始めていた。

 

「お待たせしました! これより航空支援に入ります!」

 指を咥えて高みの見物をしている暇は無い。有効射程に入るや否や、

 引き金を引き搾る下原。13mmの弾丸は飛行速度と合わさり、充分な

 威力となって眼下の敵に吸い込まれた。

 

「援軍が来たぞ!」

「ありがとなー!」

 口々に兵士達が感謝の言葉を叫びつつ笑顔を浮かべている。

 

「何とか間に合った・・・!」

 迫り来るネウロイの脚を撃ち抜き、あるいは胴へ風穴を開けて

 動きを止める。下原の存在に気が付いて対空砲火を始めようと

 するネウロイ。その隙に陸戦ウィッチが砲撃でカバーする。

 戦線の崩壊は押し留められそうだ。

 

「よう! 元気は有り余っているか!?」

 雑音が酷いが、聞き覚えのある声がインカムから響いた。

「ええ。元気ですよ、アウロラさん!」

 炸裂音や地鳴りの音に負けじと叫ぶ下原だった。

 

「そいつは良かった!」

 75mm対ネウロイ砲を振り回すようにして照準を合わせ、動きを止めた敵を

 吹き飛ばすアウロラ。相変わらず豪快な戦いぶりをしているようだ。

 

「飛んで来たなら一体どんな状況か分かるか!? ネウロイが

 同士討ちをしているなんて、今まで実際に見た事が無くてな!」

「私もです! 10時から来ます!」

 旋回して反撃を避けつつ、下原は弾丸の雨を振りまいた。

 

 火力に劣る航空ウィッチでは、どうしても撃破に時間が掛かる。増して、

 広域の哨戒用に軽装備かつ機動力を優先したセッティングではシールドの

 耐久力も不安だった。夜勤終了間際でもあり、多少疲労も溜まっている。

 

「3時から二機! 釣り出します!」

 

 故に暗がりに紛れて接近するネウロイに曳光弾を撃ち込み、

 時にシールドでビームを受け止め火点を露わにさせ・・・

 位置だけを示して反撃は地上のウィッチ達に任せていた。

 

「空の方は良いんですか!?」

「放って置いても向こうが落としてくれます。それに、

 空からも攻撃されたらこっちの手が足りなくなります!」

 未だに戦線を保てている理由の一つが航空支援の有無であった。

 

 ウィッチである自分達よりも仲間割れをしたネウロイを優先的に狙っているらしく、

 空からの攻撃が殆ど来ないのだ。尤も、攻撃するよりも先に撃墜されているから

 なのかもしれない。遣り取りをしている間にも、空中からネウロイの残骸が

 雨あられと降っているのだから。

 

「お・・・もはら・・・きこ・・・かい!?」

 切れ切れではあるが、ヴァルトルートの声が無線に混ざり始めた。

「他の・・・も、援護・・・ぞ!」

 今度は直枝の声。かなり近い位置まで来ているようだ。

 

「ねーちゃ・・・無事・・・よ!」

 そしてニパの声。ブレイクウィッチーズの集合である。

「この程度でやられるような私じゃないぞ!」

 手榴弾のピンを引き抜きつつも、アウロラはニパの呼びかけに答えた。

 

「来て早々で悪いが、部下の救出を頼む! 炎で仲間が分断されてるんだ!」

「どこにいるの!?」

 今度はインカムでは無く、直接耳に声が届いた。

 見上げれば本人が目に映る位置に居た。

 

「湖面の向かい側! 二人いるが、見えるか!?」

 アウロラが指を差した方向を見るも、壁の様に広がった

 黒い煙が邪魔で向こうの様子は不明だ。

 

「煙が酷過ぎて無理。それに、ああも撃たれてたら近付けないよ!」

 地上からでは木々が視界を塞いでいるから分からないだろうが、

 ビームの他に実弾が混ざって飛んできている。日が昇り始めているから

 弾道が分かるが、暗闇だったら防ぐ前に被弾しかねなかった。

 

「くそったれ! この数じゃ近寄る前に叩き落されるぞ!?」

 シールドを張りながら接近を試みるも、弾幕に押し返されて

 後退する管野。早くもシールドは赤熱し始めていた。

 

「中尉! お前なら行けるか!?」

「数を減らさないと駄目だね!」

 撤退する兵士達をシールドで守りつつ叫び返したヴァルトルート。

 障害物が何も無い湖面をノコノコ飛べば、良い的になるだけだ。

 

「悠長に待っていられるか! 何なら私一人で──」

「その必要は有りません! 私達は無事です!」

 痺れを切らして突撃を敢行する寸前、クリアな音声が届いた。

 

「ハロネン、無事だったか! ニパ、どこにいるか分かるか!?」

「いや、此処からじゃ見えない!」

 太陽は半分以上地平線から顔を出して明るくなっている。

 だが、辺りを見渡しても人影らしき物は見えない。

 

「もうすぐそちらに到着します! これから来る巨人は

 絶対に撃たないでください。味方です!」

「何だって?」

 巨人とは何だ? そう訊き返す前に、聞き慣れない声が通信に割り込んだ。

 

「林の中を突っ切る。しっかり掴まれ!」

「ソードコア、起動」

 一つは低い男の声。もう一つは感情を感じられない無機質な声だ。

 

「居ました! 9時方向、距離600!」

 下原の声に到着していた502メンバーが一斉に注意を向けた。

 そこに一つ目の巨人が居た。体の節々が発光しており、金属と思しき

 見た目をしている。木々の高さと比較して約6、7mは有るだろう。

 

「そこをどけ!」

 ひょろりとした外見と裏腹に、力強く巨大な剣を構えたまま林の中を

 駆け抜け、すれ違いざまにネウロイを叩き斬る。そして

 地面を掬い上げる様に腕を振るう度、白い閃光が地を這った。

 

「凄い、一撃で倒してる!」

 文字通りの一刀両断。再生能力が有るネウロイでも、回復しきる前に

 粉砕されるか刻まれて塵と化している。暴れ回る巨人が近づくに連れ、

 巨人の肩に誰かが乗っている事が見えて来た。

 

「繋がった! 皆さん、無事ですか!?」

 ひかりの声が無線から届いた。

 

「来るのが遅いよ!」

「ごめんなさい! 撤退していた兵士の皆さんの治療に回ってました!」

 ジョゼの声が追加で届く。更にサーシャの声が続いた。

「状況は!?」

 

「現在多数の地上型ネウロイを掃討中! 要救助者一名が湖の向こうに居る!」

「サーシャさん、あの巨人達は味方です。彼らの援護に回って下さい」

 ヴァルトルートの声と同時に下原の指示も届く。

 

「味方って・・・ビームを撃ってますよね? ネウロイじゃないんですか?」

「少なくとも今は敵じゃない。奴らからは一発も撃たれちゃいないだろ?」

 ひかりの問いかけに直枝が答えた。

 

 日が昇り、夜間視を持たないウィッチ達でも戦場が見渡せるようになっていた。

 ネウロイ達が戦っていたのは奇怪な姿をした巨人達だった。以前戦った人型の

 ネウロイはウィッチにそっくりな外見だった。だが、今回は違う。いずれも

 人間の頭に当たる部分が見当たらず、機械の部品が所々に見えるのだ。

 

「おい、道を開けてくれ。到着するぞ!」

 男の声が再度通信に割り込んだ。

「こちらからも見えた。総員、砲撃支援開始!」

 アウロラの指示と共にウィッチ達の魔力を込めた砲弾が放たれた。

 

「私達も援護します!」

 続けて空からの機銃掃射。接近してくる巨人と、その肩に掴まる

 ウィッチを阻む障害は瞬く間に爆ぜて無くなった。

 

「ソードコア、オフライン」

 無機質な声が無線から響き、一拍遅れて巨人が構えを解いた。

 そしてアウロラの前で立ち止まり、肩に掴まったウィッチが

 地上へと飛び降りた。

 

「ハロネン、無事か?」

「はい!」

「なら、戦え」

 一言だけの短い遣り取り。それが彼女達の練度の高さを物語っていた。

 士気は充分。増援も来た。状況はウィッチ達が有利になりつつあった。

 

「で、あんたは何者だ?」

 アウロラはハロネンを送り届けた巨人に訊ねると、

 背中に剣を仕舞いながら巨人が答えた。

 

「所謂傭兵って奴だ。いきなりで悪いが、あの黒い連中とアンタらとは

 敵対してるようだな? そこで一つ頼みだ。俺達に攻撃しないと

 保障してくれ。そしたら奴らの始末を手伝おう。乗るか?」

「乗った!」

 アウロラは攻撃が止んだ隙に弾薬を再装填しながら返事をした。

 

「ついでに一つ訊きたい。テッポと言う銀髪で小柄な兵士を見かけてないか?」

「もしかして、こいつか?」

 巨人の目玉と思われる場所が輝き、空中にホログラムが浮かび上がる。

 

「へぇ、そんな事もできるんだ」

「感心してる場合じゃないよ! 得体のしれない相手に安請け合いなんて!」

 口笛を吹かせるヴァルトルート。一方ニパはアウロラを咎めた。今の発言から

 この巨人はネウロイの存在を知らないのだ。幾ら何でも怪しすぎる。

 

「だが、腕は確かだぞ。助力を得られるなら、それに越した事は無い」

 地上の方は大体片付いた。おかげで周りの状況も落ち着いて把握できる。

 アウロラは監視所の管制塔に飛び移り、湖面の方を眺めた。

 

 完全に太陽が姿を現した今、湖面の向かい側は誰もが見える状態だ。

 水辺に有った筈の木々は焼き払われ、灰と化して空き地を形成していた。

 三体の巨人がそこに陣取り、巨大な銃器を手に空へ向かって攻撃している。

 複数見えた赤いビームの正体は、一つを除いて曳光弾の連射であった。

 

「もしかして、あれはシールド!?」

 最も水辺に近い巨人は左手から円盾の様に光を放っていた。

 扶桑の様な漢字や梵字でもなく、欧州の様なギリシャ文字も無い。

 しかし、飛んでくる弾丸や光はしっかりと防がれている。

 

「まさか、あれはウィッチなの?」

 サーシャは驚きのあまり目を丸く見開いていた。歴史上ウィッチ以外でシールドを

 出せた記録は無い。どう見ても生物ではない巨人がシールドを出せるとは・・・。

 

「ウィッチだか何だか知らんが、あれが仲間だ。

 さっきの嬢ちゃんはあいつらが守ってるぞ」

 目の前の巨人が指を差した方向を見ると、先程の三人から少し離れた場所に

 別の巨人が三人居た。一人は地面を焼き払い、もう一人は火の壁を越えて来た

 ネウロイを迎撃している。

 

「テッポが居ました! あの巨人の肩に乗っています!」

 恐らくは遊撃要員だろう。踏み荒らされて穴だらけになった地面を機敏に動き回り、

 手にした機関銃で撃ち返す白銀の体を持った巨人。その肩にはシールドを張って

 ビームを防ぐウィッチの姿が有った。

 

「援護に向かいましょう!」

 弾倉を交換しながらジョゼが言った。

「ジョゼさん、大丈夫なんですか? 治療で消耗してる筈ですし」

 リロードの隙を庇う為、シールドの陰へジョゼを隠すように

 ひかりはポジションを移した。

 

「大丈夫。まだ行けます! 皆さんは怪我をしてませんか?」

 ぐるりと周りを見渡すが、重篤な負傷をしている者はいない。

 既に一般兵は退避が終わり、残るはウィッチだけだ。

 

「私達は空の方を受け持ちます。誤射しないように伝えてくれますか?」

「応。こちらローニン。現地武装勢力と接触。支援要請を取り付けた。

 増援の航空戦力がそちらに向かう。誤射すんなよ!」

 サーシャの言葉に、ローニンと名乗った巨人がサムズアップで応えた。

 

「こちらトーン、心得た。こっちに来るのは少し待て」

 湖面の向かいで薄い光の壁に隠れて銃を乱射していた巨人の両肩から、

 フリーガ―ハマーを連想させる長方形の箱が突き出た。

 

「サルヴォコア、起動!」

 連続した発射音と共に凄まじい数のロケット弾が発射された。

 ざっと数えても四、五十発は一度に飛んでいる。それが空の

 ネウロイ達へ一直線に飛んで行った。

 

「凄い・・・あんな神業めいた事が出来るなんて・・・」

 映像記憶の魔法が使えるサーシャは、目の前に起きた

 一瞬の出来事が事細かに見えていた。

 

「神業?」

「あの巨人、ロケット弾を全部ネウロイに直撃させていたわ」

 その言葉に、居合わせた全員が息を呑んだ。

 

 フリーガーハマーを始めとして、ロケット弾は弾速が遅い上に空気抵抗を

 受けやすい。その為に命中精度が低いので直撃狙いではなく、近接信管を

 用いて空間を吹き飛ばして攻撃する事が多いのだ。それを全弾直撃。

 噂に名高いアフリカの星なら、やってのけられるのかもしれないが・・・。

 

「ちぇっ、あれ以上は無理か」

 小型のネウロイ・・・言わゆるフライング・ゴブレットを始めとした小物は

 一掃されたが、高高度を飛ぶ中型は健在だ。

 

「そっちで飛んでる御嬢さん方、申し訳無いけど残りは頼めます?」

「お、譲ってくれるの?」

「正直、これ以上ロハで働きたくないんで」

 

 無線から女性の嫌そうな声が流れてくる。それに呼応するかのように

 周りの巨人達が数回屈伸した。

 

「全くだよ。やっと仕事が終わって帰れると思いきや、

 ミリシアに追われてドンパチだ。さっさと風呂に入りたいね」

「隣に同じ。あんたらは戦果争いで黒いのとやりあってるんだろ?

 ちっこいのは粗方始末したから、後は好きにやって頂戴」

 

 次々と知らない相手からの通信が入る。どこか気だるそうなのに、

 余裕たっぷりにネウロイを蹴散らしている所で実力の高さが伺える。

 

「御膳立てされた様で癪だけど、いらねぇってんなら貰って行くぜ!」

「あ~っ! 抜け駆けはずるいよ!」

 魔道エンジンを全開にして上昇を始める管野。慌ててニパが後を追う。

 そして続々と上がる502メンバーが上空で戦闘を開始した。

 

「おーおー、若い子は元気だねぇ。ところで、こっちに銃口を向けるのは

 止めてくれないか。色々と怪しいし、疑う気持ちは分かる。だが、こんな

 状況で喧嘩を売るつもりはないぞ?」 

 ローニンとやらが肩をすくめるような動作をしながら喋った。

 

「申し訳ないのですが、これも仕事です。所属不明の戦闘部隊が自分の管轄区域で

 何の通達も無しに戦闘行為をしていたら、黙って見ている訳にはいきませんよね?」

 一人だけ地上に残っていたエディータ。手にしたフリーガーハマーは

 ネウロイでは無くローニンへと向けられていた。

 

「そりゃあ、ごもっともな意見だが、今だけは共同戦線を張ってくれないかい?

 あんたらは向こうの御嬢さんを助けたい。俺達も生き残りたい。勿論、詳しい話は

 後でする。雇ってくれるなら報酬分はきっちり働こう。それじゃ駄目か?」

 その問いかけに手を挙げながらアウロラが答えた

 

「支払いは現金以外じゃ駄目か? 生憎持ち合わせが無いんだ」

「なっ、何を言い出すんですか!?」

 エディータは顔を引き攣らせてアウロラの方を見た。

 

「じゃあ、今回は奴らの始末は示威行為って事でロハで引き受ける。

 今後は最低でも食事と住居はそっち持ち。武器弾薬は要相談。

 細かい話は後で詰める。それで良いかい? 隊長さんよ」

 

「構わんが、何なら酌でもしてやろうか? 声からして

 お前は男の様だし、綺麗所は欲しいだろう?」

 どこから持って来たのやら。アウロラは酒瓶を手に、グビリと中身を呷っていた。

 

「そいつは嬉しいねぇ。さてと、隊長さんの許可も下りたようだし、もう一仕事かね」

 彼は背負っていた銃身が三つも有る銃器を手にしながら、楽しそうに言葉を返した。

 

「おーい、あんたらを手伝う事になったから宜しくな」

 地面を踏み鳴らしながら陸戦ウィッチ達の元へと駆け寄ると、手にした銃を乱射して

 援護を始めるローニン。どうやら手にしている武器は散弾銃の類だったらしく、

 炸裂音と共にネウロイが蜂の巣となって爆散していく。

 

「いやぁ、流石にアレは肝を冷やしたな」

「ユーティライネン中尉、一体何を考えているのですか!?」

 冷や汗を拭うアウロラに、エディータは噛み付かんばかりの勢いで怒鳴った。

 

「決まっている。皆を守る最善の判断をしただけだ」

 アウロラは真面目な口調でエディータに向き直った。

 

「奴らは下原が来る前から暗闇で一方的にネウロイを狩っていた。

 魔法力を使わず、航空戦力も無しにだ。奴らは全員ナイトウィッチ並みの

 索敵能力と、急降下爆撃ウィッチ並みの火力を備えていると言っても良い。

 奴らを野放しにするのは危険過ぎる。敵かどうかの見極めは必要だ」

 

 酒を飲み干し、空になった瓶を投げ捨ててアウロラは続ける。

「それに、あれ程の火力を持っているんだ。周りの連中は喉から手が

 出る程欲しがるだろうさ。軍事力としても、政治の手札としてもな」

 

 正体不明で胡散臭い部分は有る。だが、戦力としては申し分無いのは

 今しがた証明してみせた。衣食住を要求した事から、中に人が乗っていると

 考えられる。ならば首輪として繋ぎ留める手段としても使える筈だ。

 そこを突いて良からぬ事を企む者がいないとは限らないのだ。

 

「なんにせよ、今は安全の確保が先だ。私達も行くぞ」

 一息ついて活を入れ直したアウロラは、残敵を討つべく

 戦火の只中へ飛び込んで行った。

 

 これが最初の邂逅であった。後に彼女達は知る事となる。

 別の世界で起きた事故、この世界で起きた事故がきっかけで

 有り得たかもしれない未来と繋がってしまった事を。

 



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第二話 証拠品

「やっと終わった・・・」

 温かく降り注ぐ日光を浴びつつ安堵の呟きを零すテッポであった。

 凍り付いていた湖面は粉々に砕け、撒き散らされた土で黒く染まっている。

 木々は焼け落ちるか薙ぎ払われ、見るも無残な姿だ。ネウロイの白く輝く残骸が

 雪の様に散っており、見渡す限り動く物は見えなかった。

 

「おーい、無事ですか~!?」

 湖面の向かい側も片付いたのだろう。航空ウィッチ達が向かって来ている。

「大丈夫です! ユニットは片方被弾してますが、怪我は有りません!」

 手を振りながら返事を返すと、無線越しに隊長の声が聞こえた。

 

「よーし、良くやった。さっさと帰って飯にするぞ」

 やっと基地に戻れる。そう思うと、急に胃がシクシクと痛み始めた。

「所属不明の部隊に告げます。状況把握の為、事情聴取への同行を願います」

 アウロラに代わり、エディータの声が聞こえてくる。

 

「了解。総員武装解除」

 ハロネンを対岸に連れて行った男の声が無線で響くと、巨人達は武器を降ろした。

 

「ついでに我々が乗っていた輸送機を運ばせて貰えないか。全部で四機有るんだが、

 敵に鹵獲される前に場所を移したい。それは可能か?」

「・・・・・・少々お待ちを」

 上層部にでも掛け合っているのだろう。しばらく時間が掛かりそうだ。

 

「お嬢ちゃんの援護には感謝する。おかげで大分楽をさせて貰った」

 一息ついていると、眼下の巨人が語り掛けてきた。

「こちらこそ、助けてくれて感謝してます」

「さて、今の内に訊いておきたいんだが・・・ここは何て言う国の、どの場所だ?」

 唐突に質問が投げかけられる。周りの巨人達からも視線を向けられている気がした。

 

「えっ? ええと、ここはオラーシャ帝国のペテルブルグですけど」

「聞いた事が無いな。誰か知ってるか?」

 周りの巨人達も顔の前で手を振った。

 

「ふむ、じゃあ年号と年月は?」

「西暦1945年の、2月ですけど」

「そうか。なら、ハモンドと言う企業を聞いた事は?」

「ありません」

「う~ん・・・なら、ウィッチと言うのは一体なんだ?」

 

 次々と色々な事を訊ねる巨人達。どれもこれもが当たり障りの無い

 常識に関する事ばかりであり、どこか浮世離れした印象を感じさせていた。

 そうこうしている内にエディータから再度通信が来た。

 

「本部より許可が下りました。護衛として我々が同伴致します」

「どうも。んじゃ、御嬢ちゃんは降りて貰おうか」

 対岸からストライカーユニット回収中隊の面々が駆け寄って来ていた。

 それを見て跪く様に巨人が屈み、手を地面に着けた。腕を滑り降りる様にして着地。

 立ち上がろうとすると、体が揺れているような感覚がして真っ直ぐに立てなかった。

 

「これで全員集合だな。応急処置が終わり次第移動とする」

「「「「「はい!」」」」」

 アウロラの指示にウィッチ達が同時に応えた。

 

「では、達者でな」

 七人の巨人は、地面に足跡を残しながら去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく到着したみたいね」

 移動を続けて十数分。雪で簡易的な隠蔽がされた輸送機へ到着した一行であった。

「おいおい、こんな滑走路も開けた場所も無い所で飛べんのかよ?」

 管野は周囲を見渡して呟いた。周囲は生い茂る針葉樹で一杯だ。

 

「そもそも、あの輸送機プロペラが無いよね?」

 ニパが並んでいる輸送機を眺めて言った。巨人達が乗り込んでいる

 直方体の様な形をした輸送機も、機銃等が備え付けられている方も

 プロペラが見当たらないのだ。

 

「これから離陸する。ぶつからないように距離を取ってくれ」

 無線から指示が伝わって来た。取り巻く様に待機していたウィッチ達が

 十分に下がると、四機の輸送機は真っ直ぐ上に浮かび始めた。

 ストライカーユニットのように、呪符を浮かべる素振りも無くだ。

 

「えっ、垂直に飛べるの!?」

「おい、あっちは操縦席に誰も乗ってないぞ!」

 驚きを口にする面々。そんな彼女達の前へ輸送機が並んだ。

 

「準備完了だ。で、どっちに行けば良い?」

 思わぬ挙動に面食らうウィッチ達だが、すぐに気を取り直して隊列を組んだ。

 

「ここからは私達が先導します。どうぞこちらへ」

 楔形に並び直し、基地へと向かう502メンバー。その後ろをピッタリ追従する

 輸送機が飛行機雲を作りつつ空を駆け抜けて行った。

 

「ますます怪しいですね。一体どこから来たんでしょうか?」

 時折振り返りながら、エディータは輸送機をつぶさに観察していた。

「誰も人が乗ってなくても飛べる上に、発着に場所を選ばない

 飛行機・・・確かに、こんな物が一体どこで作られたんだろうね」

 ヴァルトルートも油断無く身構えつつ視線を向けていた。

 

「まさかとは思うけど、ウォーロックの技術が使われてるんじゃないだろうな?」

「有りえ・・・無いとは言い切れないわね」

 サーシャは渋い表情を浮かべた。

 

 赤いビームを放つ等の疑わしい点はある。されど、基地の近くで騒ぎを起こす

 理由は無いだろうし、何よりこうも簡単に基地まで付いてくる理由が無い。

 これがウィッチ不要論を掲げていた軍部による行動なら、あまりにも動きが

 お粗末なのだ。

 

「さて、到着だな」

 滑走路には整備兵達が準備を整えて待っていた。先んじて帰還していた

 ストライカーユニット回収班の面々も修理の為に集まっている。

 

「お疲れ様です。ご飯の支度は出来ていますよ!」

 航空ウィッチでの第一発見者として、先んじて帰還していた下原が真っ先に出迎えた。

「よかったぁ~・・・もうペコペコですよ~」

 げっそりとした様子でジョゼが嬉しそうに笑顔を見せた。

 

「飯ねぇ・・・こっちもマトモな飯に有り付きたいもんだ」

 続けて着陸した輸送機から兵士らしき人物が下りて来た。

 全員が顔全体を覆うヘルメットをしている為、素顔は見えなかった。

 

「うう・・・寒いわね。早く建物まで入りたいわ」

「生身は辛いな。シミュクラムが羨ましいぞ」

 続いて降りてくる装備も体格もバラバラな兵士達。警戒しながら見守る

 ウィッチ達であったが、最後の二人が姿を見せた時は驚きで思わず仰け反った。

 

「に、人間じゃない!?」

 最後に降りた二人は、生身の部分が一か所も無かった。手足だけなら義手や

 義足で説明が付く。だが、胴体や頭の部分まで作り物で出来ているとは

 予想外だった。

 

「で、誰が責任者ですかね?」

 頭の代わりに金属製のカメラを載せたような見た目の兵士が話しかけた。

「ああ・・私だ」

 多少面食らった様子ではあるが、ラルは兵士達の前へ進み出た。

 

「先程は援護をどうも。我々は、貴女方よりも遥か未来の時間にて

 傭兵組織エイペックスプレデターズに所属している者です」

 低い男の声。無線でローニンと名乗った巨人と同じだった。

 

「未来だと? ふざけているのか?」

「そう思うのも無理は無いでしょうが、これに関しては証拠が有ります。

 後で見せても構いませんが、まずは自己紹介を済ませても宜しいでしょうか」

 顔が無いので表情を図りかねるが、至って真面目な口調で話すカメラ頭。

 

「ならば後で見せて貰おう」

 ラルは話を進めると決めたらしい。それを見てカメラ頭が続ける。

「さて、まずは名前からと行きたいのですが、現在は契約中に基づく任務中で

 本名を名乗る事は出来ません。代わりにTACネームにて自己紹介をさせて頂きます」

 カメラ頭は軽く頭を下げた。

 

「私はフェーズ。端から順番にパルス──」

 体の至る所にナイフケースを括り付けた兵士が頷いた。

「スティム──」

 もう一人の全身義肢の兵士が進み出た。

「クローク──」

 首に毛皮を巻いた大柄な兵士が胸に手を当てた。

 

「グラップル──」

 最も軽装の兵士が軽く手を挙げた。

「ホロ──」

 ヘルメットの覗き口がT字になっている兵士が指差された。

「そしてアンプ」

 最後に左肩からクレーンの様に突き出た機械の腕が印象的な兵士が紹介され、

 フェーズはラルへと向き直った。

 

「して、我々の処遇はどのような物になるので?」

「流石に立ち話をする訳には行かないのでな。まずは事情聴取を行う。

 そちらに負傷者が居るなら治療を施すが・・・」

「いえ、問題ありません」

 泥や煤が付着しているが、兵士達の外見には血痕等は見られなかった。

 

「それでは付いて来て貰おう」

 踵を返して基地へと向かうラル。背後には周りから浮いた武装の

 兵士達が続くのであった。

 

「・・・・・・まさか人間ですらないとは思わなかったなぁ」

 ハトが豆鉄砲を喰らったかような表情で見送るヴァルトルート。

 周りの反応も似たり寄ったりだった。

 

「なんにせよ、まずは食事ですね」

 朝方から叩き起こされたので、朝食を摂れていないウィッチもいる。

 人によっては腹の虫が鳴る程まで空腹で胃が鈍く痛んでいた。

 整備員にユニットの整備を頼み、食堂へ向かう一行であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程、確かに巨人としか言いようが無いですね」

 食事を終え、502メンバーは武器の整備の為に格納庫へ集まっていた。

「それで、ネウロイは彼らから逃げていたって事?」

 ジョゼは下原に訊ねた。

 

「うん。私達が到着してからも空からは攻撃が飛んでこなかったし、

 恐らく、私達よりも巨人の方が脅威だと判断してたんじゃないかな」

 下原は巨人にペイントされた絵柄を見ながら返事をした。

 

 部隊証なのだろう。悪魔の頭を模した骨の様な絵に『APEX』と文字が描かれた

 イラストが見えた。あのようなデザインを採用している組織に覚えは無い。

 

「魔法を使わずに夜間戦闘をして、ネウロイに接近戦を挑み、

 コアを破壊出来ている? どう考えても普通じゃないね」

 瘴気を放つネウロイは、魔法力無しに近づけば命を落とす。そして、ダメージを

 与える事も難しい。戦車や艦砲などの大口径武器なら有効打にはなるが・・・。

 

「ウィッチの様にシールドを張り、ネウロイの様に赤いビームを使える。

 でも、ウィッチやネウロイの存在を知らない。うーん・・・」

 この世界でネウロイの存在を知らない人間はいない。それにも拘らず

 ネウロイが逃げていたと言う事は、コアを破壊していたのだろう。

 

「そしてロケット弾の全弾命中。射撃能力は相当な腕前と・・・」

 見た所では巨人達の武装は最小でも20mmは有った。ウィッチの武器用で使う単位の

 Magic Mass(魔法質量)の意味ではなく、純粋な大きさとしての方の単位換算でだ。

 他も40mm級の大砲や、自分の上半身と同じぐらいの弾が撃てる擲弾発射機まで有る。

 それを動いている空中の敵に当てるとは、並大抵の腕ではない。

 

「一体どこから来たんでしょうね?」

「少なくとも読める字が有るんだから、そこから出身を探せるんじゃない?」

 ヴァルトルートは格納庫の隅に纏めて置かれた傭兵達の武器に目を向けていた。

 企業のロゴマークや刻印が有る。ブリタニア語で読める辺り、

 欧州の製品なのかもしれない。

 

「・・・ん? これは手裏剣に苦無? 何でこんな物が」

「こっちはL.ARMORY、これはBrockhaurd Manufacturingで、あれは

 Burrell Defense・・・どれもこれも聞いた事がないですけど、

 皆さんは知ってますか?」

「いや、全然」

 誰もが首を横に振った。

 

「おおっと、あんまり触らない方が良いぞ。物によっちゃ

 死体も残らず吹き飛ぶ威力の物だってあるんだ」

 背後から砕けた口調で話しかけられた。振り返るとラル達とフェーズが来ていた。

 

「あれ、何で此処に?」

「一時的に協力体制を築くのでな。撃墜記録を始めとした証拠の

 確認をしに来た。では、そちらの事情を説明して貰おう」

 ラルを尻目にフェーズが剣を持った巨人の前に立つと、巨人の目が輝き始める。

 

「これから我々がこっちに来るまでの記録を見せる。機密情報に

 関する部分は省かせて貰うが、そこは理解して欲しい」

 フェーズは装備の山の中から薄い板のような物を取り出した。

「よし、PDAもタイタンのバッテリーも充分と」

 彼がPDAを指で弄ると、空中にどこかの映像が映し出された。

 

「さて、まずは認識の齟齬から埋めさせて貰おう。我々が居た世界には

 魔法力なんて物は無い。代わりに科学が発達し、ある程度は時空間も

 制御出来る程だ。具体的には、こんな風に──」

 フェーズがラルに向き直ると、バチッと弾ける様な音がして彼の姿が消えた。

 

「──別の時間軸を通って、別の場所に移動したりとかも出来る。

 詳しい話をすると長くなるんで、今は省くぞ」

 いつの間にやら、格納庫の入り口までフェーズが移動していた。

 

「今、あの人がどうやって動いたのか分かった?」

「い、いえ、全然分かりませんでした」

 航空ウィッチとして視力の良さは優秀なのは当然だが、

 彼女らの目を持ってしても移動経路が全く分からなかったのだ。

 

「擬態していたネウロイも居たくらいだし、やっぱりネウロイの技術なんじゃ・・・」

 ニパは物に擬態したり、体の上半分だけ空の景色に溶け込んでいた

 ネウロイと交戦した経験を思い出していた。

 

「こうした技術の発展で地球以外の星を開拓し、そこに人が暮らせるようになった。

 だが、違う星の原生生物達は決して人間に友好的では無かった」

 彼女らの呟きを気にせずフェーズは続ける。

 

 映し出された光景は、明らかに地球の物では無かった。異形の動物達・・・

 中には100メートルを超すような巨大な生物が映っている。近くの人間や

 乗り物も一緒に映っている為、その異常な大きさが際立っている。

 

「星の開拓を進めるには、この原生生物をどうにかしなければならなかった。

 様々な兵器、道具が開発された。その一つがタイタン。目の前に並んでいる

 コレだ。こいつは戦闘用だが、本来は資材運搬とかの作業用に作られた物だ」

 フェーズはタイタンの腕に自らの手を置いた。

 

「そして開拓が進んだのは良いが、ここで地球と開拓先の間で衝突が有った。

 地球としては資源が欲しい。だが、開拓地としては資源を取られると困る。

 そこから武力衝突が起こり、やがて開拓地側はミリシアと呼ばれる組織を

 作り、地球側と戦争を起こすまでになった」

 

 映像が切り替わり、荒廃した街並みが映し出された。焼け落ちた建物。

 飛び交う戦闘機。地面には幾多の死体と凄惨な光景が広がっている。

 

「業を煮やした地球側は、ミリシア殲滅の為にフォールド・ウェポンと言う兵器

 開発が進められていた。さっくり言えば、重力波を撃ち込んで空間諸共相手を

 引き裂く兵器だ。その威力は、惑星を丸ごと吹き飛ばせる」

 

 また映像が切り替わる。今度は上空から地表を見下ろしている視点だ。

 皹割れた地表が強烈な閃光に包まれると、凄まじい爆発と共に吹き飛んだ。

 地中奥深くのマグマが剥き出しになって宙を飛んでいる。

 

「あれ、きっと作り物・・・ですよね?」

 余りにも現実離れした光景。この世界でこんな事が実際に

 起きていたなら、ネウロイどころじゃなくなっている。

「でも、とてもそうは思えないですよね」

 ひかりもジョゼも、半信半疑と言った様子で映像を見ていた。

 

「ここからが本題だが、このフォールド・ウェポンは膨大な威力故に時空間にすら

 影響を齎す。具体的には時間に裂け目が出来て、それに巻き込まれると過去に

 飛ばされる。我々が此処に来たのも、その裂け目に入ったからだ」

 

 今度は凄まじい数のタイタンが迫り来る様子が映った。人間の兵士は勿論、

 フェーズと良く似た見た目の兵や、地上型のネウロイに良く似た赤い機械が

 押し寄せている。

 

「此処に来る直前、大規模な襲撃を防ぐ様に依頼主から雇われていてね。

 こいつらを片付けて帰る途中にミリシアから襲撃を受けた。数は不利、

 更に戦闘後で消耗して居る時だったんでな。まともにやり合えば死ぬ。

 生き残るには博打に出るしかなかった」

 フェーズはラルへと向き直った。

 

「フォールド・ウェポンの実験跡地には、今も時間の裂け目が残されている。

 そこに飛び込んで奴らを振り切ったんだ。追跡を撒いたら、元の時間に戻る

 つもりで居たんだが・・・どういう訳か戻れなくなっちまった。そこからは

 そっちも知ってる通り、あの黒い連中とのドンパチだ」

 

 映像が途切れ、格納庫の中が少し暗くなった。

 

「戻れなくなった理由は幾つか考えられる。その前に一つ訊きたいんだが、

 こっちで膨大なエネルギーを使う事は無かったか? 大爆発か何か・・・」

「・・・まさか、グレゴーリが?」

 星一つとはいかないが、少なからず心当たりが有った。ネウロイのコア崩壊だ。

 扶桑海事変ではコアの崩壊で台風が消滅する程の爆発が生じたと聞いている。

 

「心当たりは有ると。此処からは推測交じりになるが、この世界でも

 膨大なエネルギーを使う何かが原因で空間に異常が発生したんだろう」

 フェーズは彼女の呟きに応じた。

 

「少なくとも過去に戻っただけならどうにかする方法は有った。

 救援要請をするなりすれば良いからな。だが連絡は取れず、

 元の世界に戻れなくなっていた。となると、帰還を妨害する

 原因が何かしらある筈だ」

 フェーズは新たに映像を流し始めた。

 

「それをどうにかしたいのが一点。元より時間の裂け目は一か所だけじゃない。

 他にも此の世界へ通じる穴が有れば、そこから我々の世界側の追手が来るかも

 しれん。そうなると拙い事になる。こっちは金属製の兵器ばかりで、魔法力は

 無いからな。下手すると兵器が乗っ取られるかもしれん。それを阻止したい」

 

 今度は暗闇の中、激しい戦闘を行っている様子が映された。

 目の前に置いてある物と同じ武装をしたタイタンが、ネウロイ相手に

 している。その背中には陸戦ウィッチがしがみついていた。

 あの時の戦闘だ。

 

「我々の故郷にネウロイが来ても困るんでね。奴らに対する対抗手段は学びたい。

 そちらにしても、万が一タイタンを始めとした我々の兵器がネウロイに

 変化した時の対処法は学んでおきたいだろう?」

 

 映像が途切れ、また格納庫の中が暗くなる。誰もが口を閉ざしていた。

 時間を超えて未来から過去へ。まるで御伽噺の様な話を真面目に話され、

 それが事実であると言われたのだ。反応に困るのも無理は無かった。

 

「さて、長々と話したが・・・何か質問は有るか?」

 しばし沈黙が続き、ラルが口を開いた。

 

「とりあえず、お前達が使い物になるか見極めたい。丁度ネウロイの襲撃で

 周辺の偵察を予定していた所だ。隊員と同行して実力を測らせて貰い、

 その結果で契約内容を詰めさせてもらう」

 続いてロスマンが置かれた装備の山から弾倉を掴んだ。

 

「弾薬はおそらく規格が合わないでしょうから、色々と調査させて欲しいわ。

 出来れば銃器類も見本として幾つか貸して貰っても?」

「構わないが、それなら弾薬とか武器はそっちで使ってる物の予備で良いんで

 多少は融通してくれると助かるんだがね」

 

 フェーズは置かれた武器の中から二丁の銃を引っ張り出した。商品名だろうか、

 一つはCharge Rifle、もう一つはL-STARと刻印がされている。

 

「出来ないとなると安心して使えるのは弾切れを起こさないコレだけだ。

 タイタンだったらイオン・・・レーザーをぶっ放してた奴だけだ。」

 その言葉に、整備をしていた全員の手が止まった。 

 

「二つだけは厳しいですね・・・とりあえず、

 一通りの武器で試射して貰っても良いでしょうか?」

「構わんが、一部の武器は特性上、高熱が出るからなぁ・・・下手すると火事になるぞ」

「消火器も用意した方が良さそうですね」

 武器を抱えながら、ラル達はフェーズを案内して行った。

 

「今の聞いた?」

「はい。弾切れが無いって」

 ひかりへ囁くように確認するニパ。

 

「あれが本当なら、是非とも欲しいよね。補給の為に帰還する手間も省けるし」

 手元のMG42のサドルマガジンに弾薬を込めつつ、ヴァルトルートは呟く。

「話が本当なら弾薬代が浮かせられるし、他に回せるかも」

 ひかりの呟きに下原が反応する。

 

「食事が豪華に・・・」

「・・・ジュルリ」

 以前備蓄庫が吹き飛ばされた時、味気ない食事が続いて辛酸を嘗める破目に

 陥ったのだ。料理好きな下原は勿論、食い気の多いジョゼも想像に胸を

 膨らませていた。

 

「よし、さっさと終わらせて見に行こう。万が一こっちでも

 使える日が来たら面白い事になりそうだ」

 各々考える事は異なるが、好奇心で作業の手が進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔するぞ」

 執務室の扉が開けられ、アウロラが入ってきた。

 書類からペンを離し、サーシャは顔を上げた。

 

「ユニットの方は無事?」

「外装が多少凹んだものの、他は無事だ。それで、取り調べは済んだのか」

 サーシャは報告書を指で示した。

 

「生身じゃない二人は済んでいるわ。残りは回復を待ってから行う予定。

 詳細については纏めて有るから、読みたければ参考までにどうぞ」

「・・・小型撃墜211、中型5、それにブラウシュテルマー破壊?

 たった七人で? 戦果を盛っているとしか思えないな」

 アウロラは報告書に目を通しながら感想を述べた。

 

「私もそう思うけど、これだけの情報を渡されるたら真実なのかもしれないわ」

 別の報告書を差し出すサーシャ。アウロラは受け取って中身を見ると、

 ネウロイの形状やコアに関する解説図が連なっていた。手書きなので図が

 粗いが、挿絵として見るなら情報価値は充分だ。

 

「それ程の戦果を挙げられた理由は、彼らがコアの位置を特定する武装を

 持っているからだそうよ。勿論、それを破壊するだけの火力もあるけれど」

「やはりか。魔眼に近い何かが有るとは踏んでいたが・・・

 本当にあるとはな。一体どんな代物なんだ」

 ソファーに腰を下ろしてアウロラは報告書をめくった。

 

「レントゲンの原理を応用した物らしいわ。これでコアの位置を特定して集中砲火を

 浴びせられたそうよ。夜間でも戦えたのも、煙幕を透過して狙える照準器の御蔭。

 装備の質が段違いに優れているの」

 サーシャはリボルバー式の拳銃を差し出した。

 

「この拳銃にしたってそう。ダットサイトって名前の照準らしいけど、

 狙い易さは段違いよ。試しに覗いてみて」

 受け取ったアウロラは弾が抜かれているかを確認してから真っ直ぐに構えた。

 

 抜き打ちで引っ掛からないようにする為なのか、照星が削られている。

 だが照門の部分を覗き込むとレティクルの様に光の点が浮かぶので、

 狙いを定める分には問題は無さそうだ。むしろ、視界が広く取れる分

 扱い易そうである。

 

「武装の質もそうだけど、何より年期が違い過ぎるわ。ウィッチは十年もすれば

 上がりを迎える。でも、向こうは医療が進んでいて数十年は現役。彼らも全員

 現役で、私達の倍以上は戦争に参加しているそうよ」

「とすると、全身が生身で無くても戦っているのか?」

 

 全身が機械だった二人の傭兵。あそこまで人である事を捨てられる世界とは

 一体どのような物なのか? 想像もつかないが、薄気味悪さを感じる二人であった。

 

「さて・・・大分脱線したけど、そろそろ聞かせて貰おうかしら」

「ああ。昨晩は新品のユニットや部品が届いたんで、慣らしを兼ねて

 夜間行軍の訓練を行っていた。そしたら爆音が響いたんで、湖を

 越えて偵察に向かったんだが──」

 アウロラは夜中に起きた出来事を話し始めるのであった。



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第三話 警戒

「流石は雪国。冷却効率が段違いだな」

 銃口から吹き上がる白煙。強烈な熱気で陽炎が見える。

 的の代わりに使っている装甲板には大きな穴が開いていた。

 

「う~む・・・弾速が遅すぎるな」

 ラルはL-STARを構えつつ感想を述べた。

「開発経緯からして接近戦用の武装なんでね。特性上遠距離にも

 使えるから分類が軽機関銃になってるだけだ。遠距離戦は期待できんよ」

 

 ある程度距離が開いていれば発射を見てから弾を避けられる程度の弾速である。

 止まっている相手でなければ逃げられるのが関の山だ。

 

「とはいえ、無反動で精度も良い。弾自体も大きくて当てやすい。

 制圧射撃には使えそうか?」

 

 低重力、あるいは無重力圏でも使える完全な無反動兵器。これならば

 例え魔力を失ってもリコイルコントロールに悩まされる事は無いだろう。

 魔法力の補助無しの片手撃ちでも、余裕で的を狙えるのだ。

 

「電磁シールドや高密度素材の破壊には持って来いだからな。

 あのネウロイとやらが金属と同化するんなら、こいつは有効だろう。

 味方に誤射するとああなるから注意だが」

 フェーズは的の後ろに設置していた木材を引っ張り出した。

 

「生物に当たれば水分が蒸発。弾け飛んで死体すら残らん。くれぐれも気を付ける事だ」

 固定具の代わりに使っていた木材は、内側から爆発したかのように弾け飛んでいる。

 鼻を突く焦げた臭いが熱量の多さを物語っていた。

 

「薪割りの手間が省けそうだな。で、そっちは?」

 ラルは別の武器を試射するエディータに話し掛けた。

 

「確かに扱い易いですね。煙越しでも良く見えます」

 単射でコインを撃ち抜くエディータ。彼女の前には焚き火をしているドラム缶が

 置いてあった。煙が出る様に生木をくべているので、もうもうと黒い煙が出ている。

 

「しっかし、スレットスコープも無いとは。魔法とやらで何とかならんのかねぇ」

「赤外線を使った暗視装置なら開発中だが、実戦配備されるほど出回ってはいない。

 夜間視を持つ者も居る事はいる。問題はどこでも引く手あまたで中々配属されん」

 焚き火に砕けた木材を投げ込みつつラルは答えた。

 

「対人用だけあって威力は物足りませんが、それを差し引いて尚

 余り有る精度ですね。訓練用に一丁欲しい位です」

 煙で視界が塞がれている状態にも関わらず、正確に的の中心を撃ち抜く。

 銃に取り付けられたスコープには、標的の輪郭が強調表示されていた。

 

「当然とは言え、規格が合わないからなぁ・・・どうにか弾だけでも

 調達したい所だが、金もコネも無い以上無理か」

 腕を組みつつ唸るフェーズ。直前の仕事で受け取った前金も、

 こちらの世界では何の役にも立たない。

 

「で、偵察はいつやるんで?」

「修理が済み次第行う。まぁ、明後日ぐらいには行うだろうな」

 指折り数えてラルが答える。

 

「そうか・・・なら、暇な間に挨拶回りだけでも済ませたいんだが、出来るか?」

「ふむ・・・」

 しばし沈黙。その間に試射を終えたエディータが戻ってきた。

 

「こちらも終わりましたが、どうしましたか?」

「顔繋ぎをしたいそうだが、どうするべきかと思ってな」

 戦闘を終えたばかりでユニットの整備も途中。基地内を無暗に歩き回らせるのは

 問題だが、外で勝手に出歩かせるのも宜しくない。

 

「なら、一つ手伝って貰いましょうか。丁度手が足りてない所でしたし」

「何をしろと?」

「マスコミ対策です」

 借りた武器を返しつつ、エディータは答えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取材ねぇ・・・」

 困った様子でフェーズがぼやいた。

 

「たかだか二百ちょっと仕留めた位で騒ぐ事はないだろうに」

「ウィッチなら問題にはならなかったんですけどね」

 扉を叩くと、中から声がした。

 

「どうぞ」

 セーターにスラックス姿の女性が部屋の中で座っていた。

「失礼します」

「ちょいと失礼」

 エディータに続き、フェーズが入った。

 

「初めまして。リベリオンのグラフ誌で契約社員として

 取材に来ている、デビー・シーモアと申します」

「あー・・・フェーズだ。任務中につき本名は言えないが、理解してくれ」

 デビーは懐からメモを取り出した。

 

「それでは早速取材を始めたいのですが」

「待て、その前に言っておく。これは契約に含んでない事だ。

 どうしても応じろってんなら話を詰めさせてもらうぞ」

 フェーズはエディータに向き直った。

 

「ええ。我々との契約には含まれていません。

 ですので、彼女と契約を結んで頂ければと思いまして」

「そうか。で、具体的な契約内容は?」

「差支えの無い範囲での情報提供を。それと、取材時の護衛予約を」

 デビーは荷物から新聞記事を差し出した。

 

「つい最近まではネウロイの拠点が近くに有りましてね。壊滅後も未だに襲撃が

 起こっているので、中々取材に出向けないんですよ。そこで一つ安全を買いたいと

 思いまして。日程の方はまだ未定なので予約だけしておこうかと」

「成程。そっちは詳細が分かってから話を詰めるとしよう。で、報酬は?」

 腕を組み直してフェーズは訊ねた。

 

「こちらの相場が分からないのでは金銭での支払いは揉めそうですし、

 代わりに現物の調達と宣伝を引き受けると言うのはどうでしょう?

 衣料品や生活用品はお持ちでないそうですし」

「ふむ、ある程度こっちの事情を知っているようだな」

 全身機械の姿を見て驚かなかった辺り、情報は最低限持っているようだ。

 

「皆さんは傭兵なのでしょう? 私共が新聞に活躍を載せれば、それだけ

 支援も集めやすくなります。雇い主も増えるでしょうし、支援する企業と

 しても武器を安く売り込んでくれるでしょうから、お互いの為になるかと」

「自分で言うのも何だが、この見た目で信用されるのか?」

 

 ただでさえ全身機械の見た目と言うだけで驚かれているのである。

 この程度で銃を向けられたりするようでは、民間人に会った所で

 マトモな反応が返ってくるとは思えない。他のメンバーなら何とか

 なるだろうが・・・。

 

「難しいですね。でも、貴方達の活躍は多くの兵士が目にしております。

 箝口令を敷いたとしても完全には情報を封じる事は出来ないでしょう」 

 デビーは幾つか写真を出した。ピンボケや光量不足でマトモに被写体が

 写ってはいないが、それでも戦火の中を動く人影やネウロイが撮られている。

 

「ウィッチの手を借りずとも脅威に抗える。それだけでも手を借りたがる所は

 幾らでも有ります。それが非合法な存在であっても」

「ああ、ならず者か。そんな所と繋がってると話して大丈夫なのか?」

 デビーの狙いが読めた。裏社会の組織との橋渡しをするつもりなのだ。

 

「御安心を。此処の司令に比べれば可愛い物ですから」

 フェーズが視線を向けると、目を反らすエディータであった。

 どうやら司令殿は喰えない人物のようだ。

 

「まぁ、ちゃんと報酬さえ払ってくれれば特に言う事は無い。予約の件は承ろう」

「それででは取材の前金としてこちらを」

 デビーは大きな酒瓶をテーブルの上に置いた。

 

「友好を深めるなり、交渉の材料にするなり、お好きなようにどうぞ」

「物々交換ね・・・よっぽど追い詰められてるんだな」

 顔が有れば苦々しく笑っていたであろう様子で、フェーズは瓶を受け取った。

 

「そう言えば、スティムに話を持ち掛けなかったのか?」

「断られました。代わりに貴方へ話すようにと言われましたので」

「あんにゃろう、逃げたな。それで、何を話せばいい?」

 小声で毒づくフェーズであった。

 

「こちらの質問に答えて頂くだけで結構です。まずは戦闘した場所から何ですが・・・」

 エディータの立会いの下、デビーとフェーズの対談が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ま、ざっとこんな様子だったな」

 時を同じくして、別の部屋ではアウロラとサーシャがデブリーフィングを行っていた。

「その時は全身機械の二人も見えなかった。大方輸送機にでも居たんだろうな」

「つまり、生身の四人で第一波を凌いだと? 化け物ね・・・」

 苦虫を噛み潰したような表情でサーシャは唸った。

 

「背中に旧式ストライカーの発動機みたいな物を背負っていただろう?

 あの道具で木の幹を走り、空に留まり・・・尋常でない動きをしていたよ。

 てっきり航空ウィッチが林の中を飛び回っているのかと思った程だ」

 アウロラは、ぬるくなってしまった紅茶を一息に飲み干した。

 

「で、奴らが仕留めそこなった連中を片付けている内に中型ネウロイが出てきた。

 退路が狭まる前に戦線を下げようとしたら、炎の波だ。巨人の中に火攻めを

 やってたのが居ただろう? 奴が森ごとネウロイを焼き払ったんだろうな」

 御代わりを注ごうとポットを傾けるも、中身は既に無くなっていた。

 

「煙と火の壁で二人が取り残され、私達は下がるしかなかった。

 後は知っての通りだ。援軍が来るまで湖面の側で足止めしつつ、

 撤退の援護をしていた」

 仕方なくポットを置き、背もたれに身を預けるアウロラであった。

 

「彼らが敵でなくて本当に良かったわ」

 疲れた様子でサーシャ溜め息をついた。

 

 巨人達ですら理不尽な強さを持っていたのに、中身の兵士すら規格外だ。

 完全初見でネウロイを撃退。しかも話を聞く限り疑似的に空中戦を行える

 装備や、下手な大砲より強力な携行火器があるらしい。

 

「それで、どうする? 戦力としては申し分ないが、奴らには追手が

 居るんだろう? 下手に置いておけば巻き添えを食う羽目に陥りかねないぞ」

「だけど、あれだけ派手に目立った後だと隠しきれない。

 間違いなく担ぎ上げる動きが出て来るわ」

 サーシャは窓の外へと目を向けた。

 

 無線に割り込んで通信をしていた以上現場の通信兵は当然として、基地の通信班にも

 会話内容は聞かれているだろう。しかも、ウィッチを知らないと言い切っているのだ。

 何かしらの調査は来るだろうし、空薬莢などの痕跡を調べられれば存在を隠しきるのは

 不可能だ。まして、ウィッチでない人間がやったとなれば・・・。

 

「出来る事なら遠ざけたいけど、あんなのを野放しにするのもね・・・」

 二人して黙り込み、沈黙が部屋を包んだ。

 

 幾多の人間が殺し合い、屍となって横たわっていた映像は衝撃的だった。

 如何に戦い慣れたウィッチと言えど、殺人の経験なんて物は積んでいない。

 そして彼らはミリシアに追われていると言っていた。万が一彼らと敵対すれば

 どうなる事か・・・下手をすれば精神的な影響で一気に魔法力を失う事にも

 繋がりかねない。

 

「リスクを抱えるだけの価値はあるんだろうが、

 人となりが分からん事には下手に動けないな」

 アウロラは一枚の紙切れをサーシャに差し出した。

 

「と、言う訳で少々融通を聞かせて貰いたいんだが」

「・・・・・・食料品の捻出? 何をするつもり?」

 内容を見て問い返すサーシャ。紙には宴会でも開こうかと思われる量の

 食料品の使用許可申請が綴られていた。

 

「ああ。どの道肩を並べる事になりそうだからな。約束の酌をするついでに、

 色々と踏み込んでみようと思う。扶桑で言う同じ釜の飯が何たらって奴だ」

 アウロラが大きく伸びをすると、関節から鈍い音が鳴った。

 

「この時勢で苦しいのは分かっているが、あれ程の実力者を敵に回したくは無い。

 どうにかして協力を取り付けて貰いたい。そちらからも頼んでもらえないか?」

「やれるだけやってみましょう」

 キリキリと痛む胃を抑えつつサーシャは答える。

 

 ブラウシュテルマーを破壊したと言う事は、巣の近くで戦闘をしたという事。

 そこから生還しただけでも実力の目安にはなる。魔法力無しに瘴気の只中で

 戦い抜いた方法も、可能であれば知りたい所だ。

 

「ですが、どさくさに紛れてヴィーナの量を増やすのは

 認められません。お酒を呑みたいなら自腹で購入してください」

「チッ、バレたか」

 アウロラは付き返された申請書を残念そうに受け取るのであった。



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第四話 誘い水

内容が少なくても投稿ペースを速めるのと、間隔がゆっくりでも内容を多く書いて
投稿するのではどっちが良いんでしょうかね? では、第四話です。


「全く・・・焚き付け代わりに使いたい位だ」

 デスクに山積みとなった書類を前に嘆くラル。書いても押し付けても

 一向に減らない事務作業。書類を主敵とし、余力を以ってネウロイを

 片付けるとは、まさにこの事であろう。

 

「とりあえず、調書は最優先で確認を」

 サーシャは情け容赦無く抱えた紙束をデスクの上に追加した。

「これではカップを置く所も無いな」

 正直、ネウロイ相手に銃撃をしていた方が精神的には楽である。

 とりあえず撃てば片付くし、胃を擦り減らす折衝作業も無い。

 

「で、あの連中は使えそうか?」

「少なくとも通信関連では有用でしょう。彼らが来てから

 通信妨害が改善されているようでしたし、こちらの周波数を

 短時間で割り出して介入した点からも保証できます」

 報告書の一部を抜き出すラルに、サーシャは答えた。

 

「そう言えば円滑に連絡が行き渡っていたな」

「向こうの方で中継を担っていた様です。問題は

 こちらの通信も筒抜けにされた点ですが・・・」

 ラルは渋い表情を見せた。

 

 会話に割り込んでいた以上、こちらの無線を傍受していた可能性は拭えない。

 民間用ならいざ知らず、軍用無線の暗号を半日も経たず解析して介入なぞ

 簡単にはできない。傭兵達の潜在的な危険性は飛躍的に高まった。当然だが

 来るかもしれない追手に対しても。

 

「念の為周波数は変更だ。暗号の件も伝えて防諜に注力するように」

「わかりました。それと、スティムさんがこれを渡すようにと」

 サーシャは折り畳まれた紙を渡した。

 

「これは・・・広告か」

 渡された紙はエイペックスプレデターズのパンフレットであった。

 開いてみると、業務内容や契約規定等々が綴られている。

 随分と用意が良いものだ。

 

「護衛、輸送、雑事代行、建造物補修・・・随分と手広くやっているな」

 元々は作業用外骨格の延長として作られたのがタイタンである。

 そのスペックを生かせるから戦闘用が作られたのであり、本来の

 用途はこちらが主流だ。尤も、彼女達には知る由も無い事だが。

 

「他にも遊撃戦術指南等も請け負っているそうです。上がりを迎えた時や

 ユニットの破損時に備えて指導を依頼しても良いかもしれませんね」

「何か見所が?」

 パンフレットを読む手を止めて視線を上げると、サーシャが続けた。

 

「ええ。陸戦ウィッチ主体のオラーシャなら、彼らの戦術は有用でしょう。特に

 都市部での戦闘となれば、下手な陸戦ウィッチより彼らの方が上かもしれません」

 サーシャは一枚の写真を差し出した。劫火に照らし出された林の中で、

 傾いた幹の側面を人間が走る一場面が写されていた。

 

「以前ロスマン曹長が雁淵さんへ指導していた際に壁を登らせていましたが、

 アレと似たような事を体系的な訓練内容として確立しているそうです。専用の

 道具の代わりに魔法力を使えるウィッチならば、同じ事が出来るでしょう」

 写真に写る人間の腰へ指を差しながら、彼女は話を続けた。

 

「これは噂に聞くジェットストライカーみたいな物か?」

 背中側に取り付けた装置からロケットの様に火が噴き出ている。

 これが姿勢の制御と落下阻止の働きをしているようだ。

 噴煙の軌跡から木を駆け昇っている事が窺える。

 

「陸戦ウィッチよりも機動力に秀でているようですし、追手を

 仮想敵として考えるなら模擬戦の一つは済ませておきたい所です」

 ラルは厄介事の種が増えた事に頭を痛めつつ書類を片隅に追いやった。

 

「それに加えて向こうからの申し出なのですが、

 正規雇用の際には武器の設計情報の提供も考慮すると」

「こっちは分かりやすいな。とは言え、対人用が主流ではな・・・」

 表情を曇らせて思案するラルであった。

 

 向こうの狙いとしては補充部品の確保や換装を可能とする事で

 販路を広げたいのだろう。実際に試射で使い勝手は確認している。

 素材や工作制度の問題は有るだろうが、逆行解析で得られる技術は

 こちらにとって利益になる。そして向こうは信用を得られると言った所か。

 

「それなんですが、一部の武器で設計が殆ど同じ物が混ざっているんです。

 名前まで一致しているので、もしかしたら此方でも近い内に生産されるかも

 知れないとの事です」

 サーシャは手書きの図が描かれた紙を見せた。

 

「これは・・・SKSじゃないか。一体どうやって知ったんだ」

 先日の大規模作戦の際に砲兵へ支給された、今年になって生産された最新式の

 自動小銃が描かれていた。御丁寧にも分解図まで添えられている。

 だが今朝の戦闘では砲兵が不在であり、この基地は航空戦力が主体なので

 そもそも武器自体が無い。故に傭兵達が詳細を知る事は出来ない筈だが・・・。

 

「陸戦ウィッチから此方の世界の年月を知って用意したそうです。

 ユーティライネン大尉からの借りは返すとの事で、こちらは無償で

 提供すると。この世界でも二年後には生産されるかもしれないとも言っていました」

 続けて別の設計図が出された。これも銃器の設計図のようだ。

 

「雇用については即断出来ないが、考慮しておこう。他に特記事項は?」

「今の所は有りません」

「分かった。では、引き続き警戒態勢を維持しておくように」

 ラルは図面の端に書かれた、Ak47の文字を睨むように見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「これも異国情緒って奴か」

 穀物粥に、酸味が利いた黒いパン。そして温かいスープとミルク。

 メニュー自体は質素だが、温かい食事が食べられるだけでも

 冷えた体には有り難い物である。

 

「御馳走さん。ところで、御代わりはあるかい?」

「いえ、これで終わりです」

「そいつは残念。ま、タダで食う飯は後が怖いしな。この辺にしておこう」

 のんびりとした様子で食事を済ませる傭兵とは対照的に、監視をしている

 一般兵達は緊張した面持ちだ。

 

「じゃ、部屋に戻らせて貰おうか」

 武装した兵士に囲まれているにも関わらず、余裕たっぷりに話しかける

 肝の太さ。それが強者が持つ自信の表れとして周囲には映っていた。

 

「・・・ん? ドアが開いてるな」

 兵士に連れられて宛がわれた部屋に戻ると、既に先客が居た。

 三角巾で髪を束ね、この寒い気候の中で平然と太ももを晒す服装をした女性。

 こちらに気付いた様子も無く、雑巾を手に窓を丹念に磨いている。

 

「誰かと思えば、さっき飛んでた嬢ちゃんか」

 アンプに話しかけられて漸く気が付いて振り返ると、女性はペコリと頭を下げた。

「あっ、先程はどうも。ジョーゼット・ルマールです」

「アンプだ。若いのに偉いねぇ。こんなきっちり掃除も出来るなんて」

 

 元々使われていなかった事に加え、老朽化が目に見えて分かる部屋だった。

 それが今やピッカピカである。漆喰が剥がれ落ちた部分から煉瓦が剥き出しに

 なっているが、そこに文句を言うのは贅沢だろう。

 

「すみません、まだ掃除中なので暫く掛かるかと」

「そのようだな」

 モップ掛けでもしたのだろう。床は水気を含んで

 明かりを反射しており、空中には埃が舞っている。

 

「しょうがない、時間を潰すか・・・そうだ。今の内に機体の整備を

 しておきたいんだが、誰に許可を取れば良いか知ってるかい?

 格納庫に出入りするにも許可が居るそうなんで困っているんだが」

 思い出したかのようにアンプは頼み込んだ。 

 

「えっ? そう、ですね・・・」

 作業を止めて考え込むジョゼ。隊長格は全員事後処理の最中で動けそうにない。

 自身も掃除の最中で離れる訳には・・・

 

「大丈夫。許可は取って来たわ」

 金属質の足音を響かせながら全身機械の兵士が歩み寄ってきた。スティムだ。

「他の連中も食事を終えたようだし、声を掛けとくわ」

「おうよ。そんじゃ、掃除は宜しく!」

 ヒラヒラと手を振りながらアンプは格納庫へと向かうのであった。

 

「しっかし、時代が時代とはいえ、こんなのが動いてるなんてね」

 元の時代・・・この世界から見れば、遥か未来に於いては見かけなくなった

 プロペラ式の輸送機を見てアンプは呟いた。滑走路では、積み下ろし作業で

 多くの人員が動員されている。

 

「あれは流石に操縦できないな・・・お?」

 冷え込む通路を歩いていると、パンツ丸出しの子供が歩いている。

「よう、嬢ちゃん。さっきは助かった。怪我が無さそうでなによりだ」

「へっ?」

 視線を向ければ見覚えの無い男性。一瞬思考が止まるテッポであった。

 

「素顔だと顔を合わせるのは初めてだな。アンプだよ。ほら、アンタを

 肩に乗っけて戦ってたろ? 色々と質問もしたし」

「あ・・・ああ! あの時の」

 鷹揚に語り掛ける黒人男性の正体に合点がいったテッポであった。

 

「また近々組む事になりそうだからな。その時に一緒になったら宜しく」

 通る声を残して離れて行くアンプ。止めておいた輸送機に乗り込み、

 整備用具を引っ張り出した。

 

 相次いだ連戦で塗装が剥げ落ち、至る所に返り血や機械油が付いていた。

 放置すれば更に酷い事になるだろう。アンプは自分のPDAを探して弄った。

 輸送機の片隅に仕舞われていたロボットの目に光が宿る。

 

「マーヴィン、機体の掃除をしておけ!」

「──!」

 黄色の塗装が施されたロボットが返事の代わりに効果音を出した。

 メンテナンス用に手を換装し、圧縮空気が吹き付ける甲高い音と共に

 付着した汚れを落とし始める。

 

「さて、こっちもやらんとな」

 予備の弾薬を引っ張り出し、空になった弾倉へと再装填。

 分解してガンオイルを塗り直し、付着した火薬の残り滓を

 圧縮空気で吹き飛ばす。この後は電気系統のチェックも──

 

「良いなぁ~、便利そうで」

「こういうのが有ったら掃除も楽だろうな」

 何やら外が騒がしい。窓から外を覗き見ると、物珍しそうにマーヴィンへ

 群がる人々が見えた。中には生足を晒した寒そうな格好の女性も居る。

 

「──・・・」

「あっ、喜んでる!」

 胸元のディスプレイでスマイルマークを表示させつつ敬礼をするマーヴィン。

 ウィッチ達は、それを面白がってキャピキャピ笑いあっていた。

 

「おい、何か用か?」

「あ、どうも。今度の出撃に備えて合同訓練をしておこうかと思いまして、

 体調がよろしければ一緒にどうかと誘いに来ました」

 顔を出して声を掛けると、年長らしきウィッチが振り向いて話した。

 

「成程・・・俺は構わないが、他の連中にも声を掛けておいた方が良いか?」

「忙しいなら結構ですけど、可能なら御願いしたいなぁ・・・と」

「分かった。伝えておこう。で、いつからやるんだ?」

「13時からです」

 ちらりと視線を壁に掛けられた時計へと向けるアンプ。まだ開始時間は先だ。

 

「分かった。仲間には伝えておこう」

 輸送機の無線を動かし、メッセージを送信するアンプ。これで連絡は済んだ。

 次の出撃に備えるなら、今の内に準備しておかねばなるまい。

 

「はてさて、魔女の戦い方ってのはどんなものなのやら」

 厳つい義足の様なユニットを尻目に、アンプは整備を続けるのであった。

 



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第五話 腕試し

「こうして並ぶと壮観だねぇ・・・」

 一列に並ぶ7人の巨人。そのいずれもが10mに達する巨体であり、

 削れた装甲や塗装が威圧感を放っていた。遠巻きに観察していても、

 ついつい身構えてしまいそうになる。

 

「う~む、一体どうやって飛んでたんだか。さっぱり分からん」

「このクッソ寒い中パンツ丸出しで飛べる時点で常識何て役に立たないわよ」

「何で動物の耳やら尻尾が出てるんだ?」

 そんなウィッチ達を観察する傭兵一行。頭を悩ませる者、面白がる者、反応は様々だ。

 

「さて、これから情報交換を兼ねた模擬戦をするようなんだが・・・」

 アンプは陸戦ウィッチに視線を向けた。

「酔っぱらって大丈夫か?」

「大丈夫。この程度でヘマをする程じゃない」

 陸戦ウィッチからは酒精の臭いが漂っていた。

 

「おいおい、この後はタイタンともやり合うんだろ? こんなんで大丈夫なのか?」

「問題無い。いつもの事だ」

 アウロラも赤ら顔で傭兵の問いに応える。

 

「世界が違ってもロシアではどいつも飲んだくれてるのか・・・」

「この寒い中、飲まなかったら凍えてしまうからな。一杯どうだ?」

「口も無いのに飲める訳無いだろうが」

「なら、酒じゃなくて機械油を奢ってやるか」

「いらんわ、そんなもん」

 

 軽口を叩き合うアウロラとフェーズ。おっさん臭い言葉の応酬が

 途切れる事無く続いていた。

 

「何やってんだかねぇ」

 呆れた様子で借りた武器の点検をするクローク。流石に実弾武器を訓練で

 使う訳にはいかないので、基地の備品からペイント弾や武器を借りていた。

 

「これまた面倒な・・・」

 ぶつくさ言いながらもPPSh41・・・ペーペーシャのドラムマガジンに弾を込めていた。

 ゼンマイを巻いた後に弾を込める必要があるので、向きを揃えて装填するのが

 難しいのである。

 

「ところで、対ネウロイ用の訓練って何をするの?」

 PPS43を組み立てながらパルスが訊ねた。

「えーと・・・あくまでも航空ウィッチの場合なんですが」

 声を掛けられ、ひかりは緊張気味に答えた。

 

「座学だと語学や航空工学を勉強します。実技だと地上演習脚で使い魔の魔力や

 ユニットの制御方法を練習します。体力作りに走り込みとか剣術訓練もしますね」

「ほ~・・・あんなの相手に斬りかかるんだ」

「昔は武器の威力不足から危険を承知でやってたそうですけど、今は危険なので

 滅多にしないそうです。固有魔法次第では行える人もいるそうですけど」

 

 以前はユニットの魔法力増幅効果が乏しい事も有り、20mmの弾丸でもネウロイを

 倒しきれなかった事もしばしばあったらしい。今使っている13mmや7.92mmでも

 充分な威力を発揮できる事を考えれば、技術の進歩が窺える。

 

「固有魔法? 何それ」

「魔法力をそのまま扱うんじゃなくて別の形で使える場合、その特性を固有魔法と

 名付けるんです。傷を治したり、遠くの物を見たり、種類は色々ですけど」

 ひかりも九九式に使うペイント弾を弾倉へ装填しつつ答えた。

 

「羨ましいもんだね。空飛んだり、盾を出したり出来るだけでも凄いもんだけど」

 弾倉を取り付け、セレクターをフルオートに合わせる。パルスは的へ向かって

 一気に弾をばら撒いた。瞬く間に弾倉が空になり、薬室が解放状態で止まる。

 

「よし、こいつを借りようかな」

「じゃあ場所を代わって」

 漸く弾を込め終えたクロークがレンジに入る。

 単発射撃で弾道を確認すると、セレクターを切り替えた。

 

「ジャムらないでよ!」

 ミシンの様に規則正しい連射音と共に空薬莢が石畳を跳ねる甲高い音が続く。

 数秒と経たずに弾が切れる。にも拘らず、立てられた的に付着した点は一個だけだ。

 

「あー・・・寒い。指が悴みそうだ」

 入れ替わりに入ったグラップルは、MG42を構えた。

「早いとこ衣服を調達したいな!」

 半ばキレ気味に引き金を引くグラップル。横に並んだ複数の的を

 薙ぎ払うように狙いを定めて撃ち抜いた。

 

「これは驚いたなぁ・・・」

 舌を巻いて呟くヴァルトルート。傭兵達が撃った全ての弾は、的の中心から

 10cmと離れずに着弾していたのだ。周囲から感嘆の声が湧きあがる。

「糞! 寒くてまともに狙えやしねぇ」

 が、当の本人達は不満げに舌打ちをしていた。

 

「お前ら何を言ってるんだ。これだけ当てられりゃ充分だろ」

 呆れたように管野が呟いた。

「あんたらは良いかもしれんが、俺達に取っちゃ落第点なのさ」

 モシンナガンを手にしつつ、フェーズが話しかけた。

 

「あれで? 一体どんな基準で訓練してんだ」

「普段だったら20㎞走り込んでからやる。的から25m離れて、短機関銃で中心から

 10cm以内に全弾叩き込めて合格だ。失敗したら勿論やり直しだ」

「頭おかしいんじゃねぇの」

 無茶苦茶な訓練内容にドン引きする管野であった。

 

「諸君、準備は済んだか?」

 珍しく武装した状態でラルがやって来た。

「はっ! 模擬標的並びに気球も準備済みです!」

「では、模擬戦に取り掛かろう。そちらは?」

 ラルは傭兵達に話しかけた。

 

「まぁ、一通りは」

「それではこちらへ」

 エディータの先導の下、訓練場へと移動する一行であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶっといロープに繋がれ、ゆらゆらと風に流されている風船。

 見た目はネウロイを模している辺り、あれが標的の代わりなのだろう。

 地上にもキルハウス宜しくハリボテの建造物等が設置されている。

 

「これより訓練を開始する。最初は誰から始めるのかな?」

「それじゃあ、俺から始めよう」

 アンプがSVT-40を担ぎつつ、前に進み出た。

 

「では、手順の説明に移ります。順路に沿って移動しつつ、配置された

 標的を射撃。一周までに掛かった時間と命中した有効弾数、その際の

 傾向を元に今度の任務における配置を決定します。何か質問は?」

 サーシャの問いに、アンプが手を挙げた。

 

「そっちの一般兵みたく地面だけを歩いた方が良いか?

 自由にやって良いなら、俺達のやり方で進めるが」

「・・・・・・とりあえず、一週目は我々と同じように御願いします。

 陸戦兵用の訓練場で空を飛ばれたら訓練にならないので」

 サーシャは空砲を構えて耳を塞いだ。

 

「では、始め!」

 発砲音が轟くや否や、アンプの顔から笑みが消えた。

 同時に伏せられていた的が次々と立てられる。

 

「ッ!」

 息を止め、端から一つずつ狙いを定めるアンプ。ほんの十分程度しか

 手にしていない銃であるにも関わらず、易々と標的を撃ち抜いてみせた。

 

「前進!」

 的を全て撃ち終えるまで僅か十数秒。リロードをしながら

 次の模擬陣地まで駆けるアンプ。まだ初弾の空薬莢は白煙を上げていた。

 

「第二波、始め!」

 次は市街を模した陣地であった。民家や塔などの窓から少しだけネウロイの的が

 顔を覗かせている。まだ避難していない人が残っていると言う想定なのだろう。

 市民が描かれた的も混ざっていた。

 

「チッ、スコープ付けりゃ良かったな」

 舌打ちを交えながらも同様に狙い撃つアンプ。先程よりは遅いが、

 殆ど等間隔で銃声を響かせている。

 

「速い・・・!」

 不正やミスの有無を確認すべく上空から観察しているウィッチ達も驚きを隠せない。

 魔法力で弾道を操作したり、超感覚を使っている訳でも無い。なのに自分達でも

 出せるか怪しい記録を打ち立てているのだ。

 

「ボヤボヤするな! 配置に付け!」

 ラルの一喝で各々が得物を構えた。

「第三波、始め!」

 風船の陰に隠れつつ、陣地に踏み込むアンプに狙いを定める。

 

「撃ち方始め!」

 最後の陣地は塹壕の上に飛行タイプのネウロイ型風船が浮かんでいた。

 本来なら気球を浮かべて的代わりに配置し、籠の部分から着弾を確認したり

 反撃を行うのが基本だ。が、今回はウィッチがいるので観測や反撃を代行している。

 

「おいおい、盾を出すのは勘弁してくれよ!?」

 遮蔽物に飛び込みつつ叫ぶアンプ。訓練の為に態々基地司令まで

 出張っているのである。大盤振る舞いも良い所だ。

 

「大丈夫! そこまではしませんから!」

「そりゃどうも! 嬉しくて涙が出そうだよ!」

 流石に全員から集中砲火を受ける様な理不尽配置や難易度ではない。

 それでも『魔女の大鍋』とも称される激戦地オラーシャで生き延びた

 精鋭達である。射撃精度は誰もが高い。

 

「なら、こっちも一つ歓迎してやるよ!」

 アンプは卵型の手榴弾を空中へ高々と放り投げた。訓練用なので爆発はしないが・・・

「バーカ、当たる訳ねぇだろ!」

「馬鹿は手前だよ」

 アンプが塹壕から飛び出して発砲した。

 

「中尉、少佐、ユニットに被弾!」

 サーシャの声が飛んできた。

「何っ!?」

「え!?」

 同時に下を向く二人。そこには塗料が付着したユニットが有った。

 

「撃ったのは一回だけですよ!? 何で一緒に・・・」

 ふと、ひかりの視界に青い何かが落ちていくのが見えた。さっきの手榴弾だ。

「あんにゃろう、空中で手榴弾を撃ち抜いたのか!?」

 どうやら飛び散った塗料を浴びたらしい。此処まで来ると変態の領域である。

 

「この程度で驚かれちゃ困るぞ。俺より腕が良い奴がいるんだからな」

「やってくれるねぇ・・・」

 続けざまに風船へ二発。文句の付けようがない撃墜判定にヴァルトルートが歯噛む。

 

「予想通り対人戦は甘いな、嬢ちゃん!」

 フェイントを仕掛け、時には離れた遮蔽物へ滑り込み、隠れながらも

 残るメンバーの攻撃を掻い潜り、目標を仕留める。ネウロイとは勝手の

 違う動きをするアンプに、ウィッチ達は翻弄されていた。

 

「そこまで!」

 遂に最後の的が撃ち抜かれ、空砲が連続して響いた。

「お疲れさん。いやぁ、良い物を見せて貰った」

 訓練場を抜け出し、悠々とウィッチ達を見上げるアンプ。

 目の保養と言わんばかりにウィッチのズボンを鑑賞していた。

 

「ここまで凄いとは思いませんでした、これが未来だと当たり前なんですか?」

 化け物染みた腕前に畏怖の念すら覚えながら下原が訊ねた。

「まさか。此処まで出来るのは全体の2%程度。これぐらいの腕が無いと

 戦闘用タイタンに乗れないのさ。出来ない奴は死ぬだけだ」

 二人の会話にフェーズが割り込んだ。

 

「とりあえず、あれ位の成績なら合格かい?」

「ええ・・・合格、です」

 無茶苦茶過ぎる結果に面食らいながら答えるサーシャ。

 

「あんなのが追手って・・・頭が痛くなりそう」

「安心しろ。此処にいるのは腕っこきばかりだ。

 報酬さえきっちり払ってくれりゃ、片付けてやるよ」

 胃痛の種が増えて苦しむサーシャの肩を叩きつつ、フェーズが慰めた。

 

「さて、二週目は本気を出しても構わないみたいなんだが・・・

 やった方が良いかい? 下手したら泣かせるかもしれないけど」

 ちらりとヴァルトルートに視線を投げかけるアンプ。

 

「中尉を泣かせる分には構いませんので、遠慮なくやっちゃってください」

「ちょっと、それはないよ~・・・」

 バッサリ言い切るサーシャにヴァルトルートは曇らせた表情を浮かべた。

 

「んじゃ、二週目まで休ませて貰おうかね」

 ヘルメットを外し、冷たい風で火照りを冷ますアンプであった。

 



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第六話 教導

海外wikiから情報収集するのが手間取ってしまった・・・日本語版の資料が欲しい所です。


「つっかれたぁ・・・」

 朝方の戦闘に加えて急遽決まった模擬戦。思った以上に疲労が圧し掛かる。

 

 二周目の訓練で、私達ウィッチはシールドの使用や移動を解禁。傭兵の皆さんは

 背中に付けた道具で飛び跳ねたり壁を走ったりする他、各々に専用で支給された

 戦術武装を解禁する条件で始まった。お互いが組むに当たって本気の実力を確認

 しておきたいとの事で試したのだけれど、その結果は大惨事の一言に尽きた。

 

「へーい、お疲れさん。本気でやり合った感想は?」

「正直に言うと反則ですね」

 感想を述べると、アンプさんが笑い始めた。

 

「姿が消える、鉤縄で移動する、分身の術・・・まるで忍者みたいでした」

「お、こっちでも忍者って言葉が有るのか。もしや実在してたのかな?」

「ええと・・・そこまでは何とも・・・」

 興味津々といった様子で訊ねられても、詳しくは知らないから答えようがない。

 

「何だかんだで予定より時間喰っちまったからな。疲れたなら喰うか?」

 差し出された手には半透明の飴玉が乗っていた。

「良いんですか?」

 この時勢で甘味は配給でも中々来ない貴重品だ。思わず唾液が口に湧き出す。

 

「おう。暫くは此処で世話になるみたいだし、組んで仕事をする事にも

 なりそうだからな。お互いに仲良くなっておいた方が良いだろう?」

 ニヤリと笑う彼の背後で、ジョゼさんが羨ましそうに視線を向けていた。

 

「良いなぁ・・・」

「お嬢ちゃんも一つどうだ?」

 目を輝かせて覗き込むジョゼさんにも飴玉が差し出された。

 

「頂きます!」

「はっはっは、そんなに慌てなくても飴玉は逃げやしないさ」

 頬を緩ませてるジョゼさんを見て、アンプさんは愉快そうに笑っていた。

 

「じゃあ、私も」

 包み紙を引き剥がして口の中に入れると、甘しょっぱい風味が広がる。

 塩が少し混ざっているようだ。

 

「それにしても、ちょいとやり過ぎたか?」

 申し訳なさそうに呟くと、アンプさんはクルピンスキーさんの方を見た。

 ユニットに隠れていた部分を除けば全身が塗料で汚れている。

 

「皆さん、徹底して狙ってましたからね」

「中々射撃が上手だったからな。真っ先に黙らせておきたかったんだが・・・

 許可が下りたとはいえ、手心を加えておけばよかったか?」

 

 皆のユニットや服は酷い有様だった。赤から緑まで様々な色の塗料が

 付着した端から凍りつき、整備員も落とすのに手間取っている。

 私も被弾はしているが、流石に顔までは汚れていない。

 

「最後の方は本気で撃ちあってましたからね・・・」

 ジョゼさんが程よい甘さに舌鼓を打ちながら相槌を打った。

「先生なんてフリーガーハマーを持ち出してましたよね」

 一周目ではMG42を使っていたのに、二周目では物陰目掛けて撃ち込んでいた。

 他のメンバーも連携して仕留めようと殺気立っていた様な気がする。

 

「それだけ評価してくれたって事なら嬉しいね。報酬も色を付けてくれると良いが」

「単に心をへし折られてムキになっただけじゃない?」

 細身の機械兵士・・・スティムさんが近寄って来た。

 

「お前が言うな。ロケット弾を撃った瞬間に撃ち抜く奴が有るか」

「クロークよりはマシでしょ。飛びついた挙句、盾にして同士討ちさせてるんだし」

 アンプさんが指を差すと、その先には塗料でべっとりと汚れて半泣きになっている

 ニパさんが居た。

 

「うえぇ・・・口に入っちゃった・・・」

「いやぁ~ゴメン。つい癖で顔に当てちゃった」

 その横で申し訳なさそうにパルスさんが謝っている。

 

「てめぇこんにゃろ! さっさと離しやがれ!」

「うるせぇ。動くと絡まるから大人しくしろ」

 向こうではワイヤーで縛り上げられた管野さんを解放すべく、

 グラップルさんが格闘していた。

 

「ま、人を盾にして投げたグラップルが一番悪いって事で」

「異議無し」

「聞こえてるぞ」

 アンプさんとスティムさんの呟きに応えるグラップルさん。

 結構耳が良いのかもしれない。

 

「さて、これだけやれば実力の方は信用して貰えましたかね」

 フェーズさんがラルさんに話しかけた。

「ああ。まさか此処までやられるとは思わなかった」

 ラル隊長はユニットの他、コルセットに桃色の塗料が付着していた。

 

「そちらも結構な御手前でした。貴女方となら組んでも上手く

 やれるでしょうな。ウチの若い連中にも良い経験になったでしょうし」

「こちらこそ。次もどうぞ宜しくお願いします」

 ロスマン先生と握手を交わすフェーズさん。随分と打ち解けた様に見える。

 

「お疲れ様。実際に手を合わせた感想は?」

 サーシャさんがクリップボードを片手にやって来た。

 

「実質固有魔法みたいな物ですよね、アレ」

「あんなの初見でやられたら対応できないよ」

「ですよね。クロークさんなんて全然見えませんでした」

 クルピンスキーさんや下原さんが答える。私も続いて答えた。

 

「TACネームは各々の専用武装から名付けられていたみたいだな」

 凍り付いた塗料を叩き落としながらラル隊長が割って入った。

「まさか足音まで出せる幻とは。敵に回したく無い物だ」

 コルセットに触ると腰が痛むのか、顔が少し歪んでいる。

 

「でも、結構良い人達ですよね。とっつきやすいですし」

「どこがだ!? 思い切り人を蹴りやがって!」

 飴を舌で転がしながら微笑むジョゼさんに対して、管野さんは怒り心頭だった。

 

「確かに、素行は宜しくないな」

「ええ。幾らウィッチに対する理解が浅いと言っても、

 足蹴にするような人はちょっと・・・」

 サーシャさんが傭兵の皆さんへ視線を向けた。

 

「だが、あれだけ有利な条件の下で被弾を許した事は反省すべきだ。

 悔しいなら、次の訓練では後れを取らないように。いいな?」

 隊長の言葉に、私も皆も頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘムロック、スピットファイア、ディヴォーション、そしてクレーバー。

 これだけしか使えないか・・・まぁ、無いよりはマシか」

 幸運な事に、こちらの世界でも7.62x54mmR弾と14.5x114mm弾の規格が

 共通しているのは幸いであった。

 

「おい、こっちは補給が終わったぞ」

 アンプがタイタンに乗りながら話しかけてきた。外を見れば先程のウィッチ達が

 待機している。その佇まいには、もう油断は微塵も見られない。

 

「応。今行く」

 砲身を足場に搭乗席へ。ハッチが閉まり、機械音声が響く。

「AIオフライン。パイロットモードへ移行」

 一瞬暗くなった内部に映像が映し出される。背中から得物を取り出し、外へと向かう。

 

「待たせたな。実弾は持ったか? トイレは済ませたか? 

 事故が怖けりゃ、今の内に遺書の準備もしておけよ」

「心配するな。そこまでヤワな隊員は居ない」

 ホロの軽口にラルが答えた。

 

「オーケー。一応そっちの模擬弾に交換してあるが、20mmだからな。

 覚悟が出来てるなら言う事は無い。では、訓練を始めようか」

 八つの銃身を持つガトリング砲を構え、ホロは会話の口火を切った。

 

「まずはタイタンの概要から説明しよう。見ればわかると思うが、

 タイタンと言っても形状は色々だ。大別すると三つに分かれる。

 軽量で動きの速い奴、頑丈だが動きの遅い奴、両方の中間の三つだ」

 重い足音を立てながら、立ち並ぶ機体の前へホロが移動した。

 

「どの機体も14・5mm以下の弾丸を弾く装甲を持っている。そして余剰電力を回す事で

 シールドと呼ばれる増加装甲を展開する事も可能だ。そこの嬢ちゃん、試しに一発

 撃ってみな。機体に当たる前に曲がる筈だ」

 ホロは手招きをしてエディータに話しかけると、誰も居ない場所へと移動した。

 

「あの、これは実弾ですけど、本当に撃っても?」

「大丈夫だ。例え戦車砲でも耐えられる代物だからな」

 スピーカー越しにアンプが促すと、エディータはリージョンに向かって

 フリーガーハマーの引き金を引いた。

 

「無傷・・・ですか」

「流石に連続して攻撃されると防ぎきれないけどな」

 黒い煙と爆炎が吹き流された後には、塗装一つ禿げる事無く

 平然と立っている機体が有った。

 

「このシールド機能は戦闘用なら全部のタイタンに備わっている。

 これとは別に専用の防御装備としてのシールドも有るから、

 機体に回すシールドは便宜上バリアと呼称するぞ」

 ホロは手にしたガトリング砲を掲げた。

 

「まず俺の乗ってる機体から説明しよう。こいつはリージョン。

 見ての通り重量級だ。正確にはオーガ級と言うんだが、今は

 省かせて貰う。で、武装はプレデターキャノン一つだけだ」

 掲げたガトリング砲から傘の様に青いシールドが広がった。

 

「得意分野は火力支援や制圧射撃。見た目とは裏腹に精密射撃も出来るんでな、

 疑似的な狙撃も出来なくはない。防御装備はガンシールド。攻撃しながら

 身を守る為の物だけあって、頑丈さはトップクラス。力押しで壊せるとは思うなよ」

 

 ガトリング砲を腰だめに構えると、左肩以外は光の傘に隠れている。

 ただし銃身の先端だけは傘の外に有り、攻撃できるようになっていた。

 

「体を守るだけでも厄介なのに、誰でも盾も出せるんですか」

「いや、全部が全部じゃないぞ。例えば、このモナークは盾になる装備が無いからな」

 渋い顔で呟いたジョゼに、アンプは機体の顔の前で横に手を振った。

 

「代わりに電撃で相手の動きを止める防御武装が有るけどな」

 背中からサブアームが飛び出すと、空に向かって一条の光が放たれた。

「ネウロイには効き目が有るんですか?」

「一応効果はある。デカイのには当ててないから知らん」

 肩をすくめるようにしつつアンプは答えた。

 

「ここからが一番大事なんだが、タイタンにはコアと呼ばれる物が二つある。

 リアクターコアと専用のコアの二つだ。前者は機械のエンジンとすれば、

 後者は固有魔法みたいな物と言えば想像できるかな?」

 固有魔法と聞いてウィッチ達の耳が跳ね上がった。

 

「それは、ソードコアとか?」

 無線で流れた無機質な声を思い出しつつラルが訊ねた。

「だな。このリージョンの場合は処理能力の強化だが・・・

 分かりやすく言えば視界内の相手に攻撃が必中すると言った方が良いかな」

 ホロはヴァルトルートを指さした。

 

「この中で一番速い嬢ちゃんでも、遮蔽物が無けりゃ余裕で撃ち落とせる。

 と言っても、口だけなら何とでも言えるからな。早速で悪いんだが的に

 なってくれないか?」

「いきなり失礼だね」

 

 むっとした表情でヴァルトルートが答えた。物には言い方が有るだろうと

 内心思うものの、変態染みた射撃を見ている以上、自信の表れとも受け取れた。

 

「そりゃあ最大で分間六千発の弾幕をぶちまけられるからな。MG42とは訳が違うぞ」

「うげぇ・・・そんな物で撃ち落とすつもりだったのかよ」

 模擬弾とは言え20mmを連射されたら命に関わる。ドン引きする直枝にホロが続けた。

 

「心配するな。態と当て無い様に撃つ事も出来るから」

 ガトリング砲の砲身が急速に回転し始め、ギュインと風を切る音が響いた。

 八つの銃身が一気に赤く染まり、見る者全てに緊張が走る。

 

「はっ!?」

 不意打ちの攻撃に身をすくませるも、そこは経験豊富なウィッチである。

 条件反射でシールドを張り、衝撃に備えて角度を調整した。

 

「パワーショット行くぞー」

 対照的に緊張感の無い声でホロが声を掛けた。

 一拍遅れてウィッチを襲ったのは、弾丸の『壁』であった。

 

「きゃあ・・・あれ?」

 魔法力で高められた反応速度が捉えた弾幕。まるで散弾銃のように弾丸が飛び散る

 光景に悲鳴が漏れ出るが、ものの見事に弾丸はウィッチの居る場所だけを避けて

 飛んで行った。

 

「いきなり何をするんですか!?」

 ひかりが青ざめた顔で冷や汗を流しつつ叫ぶのも無理はない。

 己の手首はあろう太さの弾丸が、いきなり数十発も飛んできたのだから。

 

「何って、慢心を無くそうとしてるだけだが?」

 さも平然とホロは言い放った。

 

「さっきと違って自由に動けるし、連携して動ける分あんたらが有利なのは事実だ。

 が、バンガード級やイージスタイタンと呼ばれるエース仕様が相手だったら話は

 変わる。魔法の盾が有れば・・・何て甘えは通じないしな」

 ホロは手にしたガトリング砲のスイッチを切り替えた。

 

「ここに並ぶタイタンは全部イージスタイタンって奴なんでね。今の内に

 俺達の動きを慣れておけば、ミリシアの安物に襲われても楽に対処できる。

 とは言え、あんたらが持ってるプライド、俺達の実力に対する不信感が

 隙となってるんでね。徹底的に潰しておかないと拙い」

 

 そうアンプは答えると、機体のハッチを開けてウィッチ達の

 背後へと移動した。その手には何かの機械が握られている。

「ドレッドノート起動。貫通弾、処刑人、リダイレクト、ドリルショット準備完了」

 そして、リージョンの機械音声が響いた。

 

「よし、アンプ。増幅壁を展開してくれ」

 アンプが手にした機械を地面に置くのを見届け、ホロはガトリング砲のセレクターを

 切り替えた。近距離から遠距離用にモニターのレティクルが狭まる。

 

「という訳で、まずは認識の齟齬を埋めさせてもらう。詳しい説明は後でキッチリ

 やるとして・・・まずは一直線に並んで魔法の盾を出してくれ。雁淵とやらは

 一番前で、管野とやらは最後尾で頼む」

「今度は何をするつもりだい?」

 

 脇で見学していたアウロラが口を挟んだ。周りの

 陸戦ウィッチも心配そうに視線を投げかけている。

 

「一列に並んだ魔法の盾を、一射で全部貫通させる。勿論、ウィッチに怪我はさせん」

「正気か!?」

 さも平然と命を危険に晒そうとするホロに、噛み付くような声でアウロラが怒鳴った。

 

「正気だ。あんたらが持つ魔法力とやらのエネルギー特性は、解析が終わってる。

 その弱点も幾つか分かって来た。これを放置しようものなら、間違いなく全員が

 黒焦げ死体にされる。特に、接近戦を好む犬耳の嬢ちゃんは最初に死ぬだろうさ」

「んだと!?」

 

 管野はホロの挑発に生えた耳を逆立て、握り拳を突き立てて吼えた。

 それを見てホロは中指を突き立てて煽った。

 

「文句を言いたいなら防ぎ切ってみろ。話はそれからだ。俺達だって死にたくねぇし、

 お前みたいに自殺まがいの動きをするような奴と組む位なら、魔法力が一番少ない

 雁淵と組んだ方が遥かに安心できる」

「こ、この野郎・・・! 後で覚えておけよ!」

 

 今直ぐにでも殴り倒したい所であるが、ひかりの魔法力が弱い事を見抜き、

 先程の訓練では結果を残している。少なからず実力は有しており、見識は

 認めざるを得ない。それが彼女の理性を繋ぎ留めていた。

 

「あ~あ・・・本気で泣かせに掛かってるわね。可哀相に・・・」

 同情を声に含ませてパルスが呟いた。

「まぁ、あの手の性格には上下関係を叩き込むのが手っ取り早いからな。

 篩い分けも兼ねているとはいえ、後が大変だな」

 フェーズがパルスの言葉に頷いた。

 

「それで良い。シールドは手と重ねて出すなよ? 弾を貫通させるからな」

「わかってらぁ!」

 喧嘩腰のまま移動する管野。他のメンバーも傭兵達の

 指示に沿って移動し、位置を調整している。

 

「やはり、心配かい?」

 ふと、フェーズがアウロラに話しかけた。

「そりゃあ、ね。幾ら論より証拠っても、此処まで無茶苦茶をするとは

 思っても無かったからね。これがあんたらの当たり前なのかい?」

 周りのウィッチは勿論、一般兵達も視線をフェーズに向けた。

 

「普段より相当甘い。何せ、訓練者の98%が死ぬのが当然だからな。

 元の世界だったら、ここまで懇切丁寧にはやらん。口答えをすれば、

 実弾で黙らせている。映像を見て見るか?」

 平然と言い切った彼に、誰もが絶句した。

 

「なっ・・・」

「訓練相手が死体を残せるリージョンだからマシな方だぞ? スコーチは

 テルミットで死体すら残さず焼き殺される、イオンならば肉体が蒸発。

 モナークなら感電し、ローニンなら空間諸共引き裂かれるからな」

 

 タイタン用資格の中でも戦闘用資格であるフルコンバット認証は、シュミレータを

 無許可で所持するだけでも重罪を課されるのだ。資格を手にする為には人間を

 卒業するレベルで過酷な訓練を行わなければならない。訓練内容には生身で

 タイタンに挑み、破壊する事も有る。故に死傷率は極めて高い。

 

「命の値段は安いぜ? 人間が増えすぎて地球から溢れ出す位だからな。

 自爆特攻程度は当たり前。俺みたく人間とも言えなくなるような姿に

 なってまで戦闘力を求める奴もいる。正気のままじゃ、俺達の故郷から

 やってくる連中には勝てんよ」

 

 足を速くする方法は無いかと尋ねられれば、脚を切断して義足に変えろと

 言われるのが当たり前の世界である。たった一滴で三日は眠れなくなる

 興奮剤を常用する変態も居るフロンティアに於いて、死なない様に指導を

 する事なぞ甘やかしにすぎないのだ。 

 

 準備を終えた航空ウィッチ達に視線を戻しつつフェーズは語った。

 再びギュインと砲身が回転すると、ガトリング砲から一点に収束して

 弾丸が放たれた。極小範囲に纏められた弾丸は、破城槌の如く魔女の

 守りを貫いて吹き飛ばした。無論、魔女達に被弾は一切無い。

 

「二つ二つの場にて早く死ぬはうに片付くばかりなり。別に仔細なし。胸すわって

 進むなり・・・ってね。さて、訓練が終わるまでに何人が正気を捨てられるかな?」

 

 追い詰められ、生きるか死ぬかの二択を迫れれば、迷わず死ぬ方法を選べ。

 そう呟くパルスのヘルメットは、バイザーが点滅していたのであった。

 



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第七話 悩みの種

お知らせ

第七話まで閲覧して下さり誠に有難うございます。感想を書いて下さった方々にも
この場を借りて御礼を申し上げます。

さて、ここからが本題です。当作品では陸戦ウィッチを中心として活躍をさせる
予定ですが、序章部分が終わるまでの間は原作に登場した航空ウィッチを主役として
描く事になります。その間に視聴者参加企画として皆様からオリジナルウィッチの
募集をやってみたいと思います。以下は募集要項です。




必須事項

1:陸戦、空戦ウィッチの区分指定(できれば陸戦ウィッチ希望)
2:年齢
3:出身国(原作の地名だと面倒でしょうから、日本など地球の名称で書いてOK)
4:キャラの名前
5:使い魔(動物以外も可能とします。昆虫とかも希望が有れば書いてください)


必須ではないけど、書いてくれると助かる事

1:愛称や渾名
2:性格や好物、年齢等の各種プロフィール
3:パンツの種類(スパッツ、長ズボン等好みが有れば)
4:使用武器
5:アピールポイント(巨乳などの身体的特徴、甘えん坊等の精神的特徴など)
6:固有魔法
7:階級、所属部隊での役割(諜報部や従軍記者と言った軍以外でもOK)
8:上記の項目以外で書きたいと皆様が思った事


退役済みウィッチとかでも構いませんし、漫画版のエーリカ見たく
ズボンを履かずに歩き回る趣味が有る、みたいな突き抜けた設定でも構いません。
皆さんの考えるウィッチを自由に書いてください。シナリオの都合、こちらで
一部設定を変える事も有り得るので予め御了承下さい。

何か思い付きましたらメッセージ並びに活動報告欄にて投稿の程、お願い致します。
そして原作に興味を持ちましたら、TitanFall並びにストライクウィッチーズについて
応援を宜しくお願い致します。


「死屍累々・・・ってか?」

 大幅に消耗し、血の気が失せたウィッチ達を見てホロが呟いた。

 

「この・・・化け物め・・・!」

 極寒のオラーシャに吹きすさぶ吹雪の中で、顔に

 汗を浮かべつつ管野が吐き捨てる様に声を出した。

 

「ユニットが・・・どうしてそこまで無茶をやったんですか!?」

 地面に突っ伏しているのはサーシャ。視線の先には煙を吹きだす

 ストライカーユニットが三組。言わずもがな、あの三人組が持ち主だ。

 

「少なくとも私は無茶してないよ・・・」

 どんよりとした表情でニパは言い訳をした。

「まさかバードストライクで墜落するなんて・・・」

「ツイてないわね」

 同情するような声でパルスが話しかけた。

 

「まぁ、これだけやれば理解しただろう? 正面から挑めば勝ち目は無い。

 この時代なら・・・パンツァーファウストを急所に当てて逃げる位か?

 仕留めるなら戦艦の砲撃を直接打ち込む位じゃないと無駄だ」

 ホロはリージョンから飛び降りてウィッチ達に近付いた。

 

「幾ら何でも頑丈過ぎますよ・・・戦車の装甲だって無傷じゃ済まないのに」

 連射のあまり焼き付きそうな状態になった九九式。それに対して変色すら

 していないリージョンのガトリング砲を見比べつつ下原は嘆いた。

 

「そりゃそうだ。この時代の戦車と比べれば、装甲強度は最低でも四倍を

 超えてるからな。まぁ、どこまで信用できるかは調査しないと分からんが、

 歩兵が持てる武器でタイタンを壊すのは諦めた方が良いぞ」

 フェーズは飛び散った塗料を掃除しながら答えた。

 

 補足すると、この時代の主流たる対物火器パンツァーファウストは均質圧延鋼

 装甲換算で200mm程度の装甲しか破壊できない。だが、1990年に日本で採用された

 90式戦車は120 mm砲を採用しており、この主砲用の徹甲弾は、初期の物でも

 540mm相当の装甲を、改良型で680mmの装甲を貫通する。

 

 そして同戦車の装甲は、この120mm砲から7発も被弾して大丈夫だった記録が有る。

 たかが45年程度でも装甲技術の差は歴然だ。遥か未来に於いて更なる発展を遂げた

 装甲技術を持ち込まれれば、この世界の住民に勝ち目は無いのだ。

 

「畜生・・・ぶん殴れりゃ勝てるのに・・・」

「現状じゃ近づく前に殺されるのがオチだ。だから

 対処法を学ばなきゃならないんだ。納得できたかい?」

 疲労困憊で倒れる管野へ手を差し伸べるアンプ。管野は悔しそうに手を取った。

 

「ううむ・・・余所から援軍を引き抜く必要も考えなければならないか?」

 渋い表情でラルは頭を悩ませていた。

 

 此処まで頑丈だと対処できるウィッチは極少数だ。電撃を使えるペリーヌ中尉、

 魔力を徹して急所を攻撃できる角丸中尉。あるいはアンジェラ中尉の魔法炸裂弾が

 良い所だろう。他にも候補は居るが、至近距離まで踏み込まねばならない以上

 危険過ぎる賭けになってしまうのは明白である。

 

「やったら間違い無く暗殺されますね」

「だな。もし実行すれば、刺客を送り込まれるに違いない」

 エディータは無言で頷いた。

 

 管野に下原、ひかりを引き抜いたから、扶桑は論外。カールスラントからは

 クルピンスキーにエディータ。ガリアからはジョゼ。スオムスの方でニパと

 アウロラを招いているのだ。これ以上の戦力を求めたら呪い殺されかねない。

 事実、ミーナからは相当恨みを買っているのだから。

 

「これで俺達の価値が正当に評価してくれるなら良いんだが・・・どうかな?」

「少なくとも足元を見られる事は無いでしょ」

 離れた場所ではスティムやグラップルが建物の壁に張り付いて掃除していた。

 基地の整備兵達も武装に付着した塗料を剥がして塗装し直している。

 

「何にせよ、弾の切れ目が命の切れ目だ。それまでは我慢しねぇとな」

 不服そうにグラップルは唸った。

 

 タイタンでは20×138mmB弾を使うXO-16A2を特化武装とするモナーク、並びに

 20×101mmRBを使うプレデターキャノンを特化武装とするリージョン。継戦能力を

 維持できるのは、弾薬補給が出来る二機だけ。イオンも充電できれば多少なりとも

 楽になるが、この基地の電力事情は不安定で頼れない。除外するのが賢明だろう。

 

「これからどうなるんだか、心配になって来たな・・・」

 傭兵達の気持ちを代弁するかの如く、空は曇っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、呼び出された理由は分かるかな?」

 執務室にてラルは腕を組んで窓の外を見下ろしていた。

「ユニットを壊した事って訳じゃあ・・・なさそうだね」

 ヴァルトルートは視線を横に向けながら呟いた。

 

「朝の無線の件と言えばわかるな?」

「あっ」

 ぎくりと身を震わせる下原。幸いにもタイタンとの邂逅で誤魔化せてはいたが、

 『新種の人型ネウロイ』と言ってしまったのだ。

 

「傭兵達の存在が上手く身代わりになった御蔭で基地内部の

 人員は言いくるめる事はできたが、他の基地は流石にな・・・」

 よりによって広域無線での失態で、各所から問い合わせが来たのだ。

 深々と溜め息をつくと、ラルは振り返って視線を合わせた。

 

「加えて、ひかりも聞いてしまったのだろう? 違反を犯した以上禁固刑と

 言いたい所だが、そうも言ってられない状況なのでな。ひかりは誓約書に

 署名をした上で説明を聞く事。残りは明後日からの偵察任務に出撃せよ。

 カウハバを含め各基地で誤解を解け。ただし、航空加給は無しだ」

 

 航空加給が無いと聞いて表情を曇らせる四人。例えネウロイと交戦しても、

 ご褒美として貰える甘味が支給されないとなれば気力が削がれるのも当然だ。

 

「そして、傭兵達と共に今朝の交戦地域を調査するように。巣の周辺で

 戦闘となった以上、今までの襲来予測が狂った可能性も考えられる。

 特に向こうからの追手が確認された場合は即座に帰還だ」

 ラルは被弾箇所を撫でる様に手を当てた。

 

「あいつらと一緒か・・・気に食わないな」

 管野は蹴り飛ばされた尻を撫でて呟いた。グラップルに縛り上げられた挙句

 ユニットを引き剥がされ、盾として放り投げられて地面に打ち付けられたのだ。

 

「そうですか? 結構良い人だと思いますけど。教え方も上手でしたし」

 それに対して、ひかりの反応は対照的だった。人当たりの良いアンプ達から

 助言やら飴玉やらを貰ったので、そこまで悪印象は持っていなかった。

 

「あんまり信用し過ぎるのもどうかと思うけどね。人殺しなのは事実だし」

 ヴァルトルートが苦言を呈した。

「こっちは首を絞められたし」

 同じくニパも否定的であった。

 

「とは言え、彼らが齎した情報は非常に有用だ。巣の周辺を撮影した映像、

 新型ネウロイに関する交戦記録・・・どちらも今まで偵察班が行った

 活動よりも遥かに有益な情報を渡して来たのも事実だ。ついでに、

 ユニットの破損部分を調べ上げて報告までして来たよ」

 

 指で机の上の紙束を指し示すラル。覗き込んでみると、各々が使用する

 ユニットの内部破損個所が正確に指摘されていた。無論、こんな物を

 傭兵達が手に入れられる訳が無いし、そもそも時間が無い。

 

「何でこんな物を!?」

「遠回しな牽制と実力の誇示だ。迂闊に敵に回そうものなら、情報を

 流すつもりだろう。ユニットの設計に関する情報なら高く売れるからな」

 

 司令としては非常に厄介な問題だった。所属不明の外部勢力が各国の

 機密情報を握った上に、直接排除が難しいと見せつけられたのだ。

 野放しにすれば政治的な問題に発展しかねないし、手元に留めれば

 厄介事が転がり込んでくるかもしれない。

 

「勿論、ただ手をこまねいて見ているつもりはない。帰り道が有るならば

 即刻お帰り願うが、それまではネウロイ掃討に役立って貰うとしよう」

 毒を喰らわば皿まで。手駒として使えるのであれば何でも使うのが

 ラルの手法だ。巣に喧嘩を売って帰還できる技量が有るなら使うだけだ。

 

「詳細は食事の後に済ませよう。空腹で気が立っていては出来る事も出来ん。

 丁度夕食の時間だ。多数撃破の祝いを兼ねて、今日は豪華になっているぞ」

 張り詰めた緊張を解すように笑みを浮かべるラルであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~・・・良い香りですね~。食欲がそそられます」

「これは忘れられそうに無い光景ですね」

 良い笑顔で鍋を覗き込むジョゼ。その横にはサーシャが驚きを露わにして立っていた。

 

「傭兵だって戦うだけが仕事じゃないわ。時には洗濯代行だってするし、

 見てくれだけで判断しない方が身の為よ」

「その見た目で言われると、すっごくモヤモヤするんですが」

 全身機械のスティムがエプロンを付けている違和感バリバリの光景に

 サーシャは苦笑いを浮かべた。

 

「この時代には民間軍事会社なんて無いから、想像すらできないでしょうけどね」

 クロークも野菜を刻みながら口を挟んだ。

「しっかし、男子禁制とはね・・・イタリア人には厳しい世界だこと」

 パルスも鍋を掻き混ぜつつ会話に加わった。

 

「それにしても、夕食は妙に豪華ね。昼間は結構質素だったのに」

「ネウロイ撃墜分の報奨って事で色を付けて下さったそうです」

 ジョゼは林檎を摩り下ろしつつ答えた。

 

 契約締結前かつ軍属ではない傭兵達であっても、撃墜は事実。事が事だけに

 公の記録には残せないが、その分の報酬を食事の支給と言う形で建て替えた。

 その結果、傭兵達は例外的にウィッチと同等の食事待遇を得られたのだ。

 代わりに金銭的な遣り取りは無しである。

 

「で、向こうは何をやってるの?」

 パルスの視線の先には、厨房入口で騒ぎを起こしているヴァルトルート達が居た。

「ああ、いつもの事ですので気にしないでください」

 心なしかサーシャの目が遠い。周りのメンバーも顔を背けていた。

 

「ねぇ、ちょっとぐらい声を掛けても良いじゃないか~」

「駄目です! またキャビアを無駄遣いするつもりでしょう!?」

 エディータが大声で怒鳴る物だから、否応も無く内容が聞こえてくる。

 

「ギンバイの常習犯なの?」

「それと料理が下手なんです」

 周りが息をピッタリ合わせて頷いた。

 

「ああ・・・成程。それは有罪ね」

 パルスも納得した様子で呟いた。

「ところで、これは何て料理なんですか?」

 見慣れぬ料理に興味津々といった様子でジョゼが訊ねた。

 

「韓国名物参鶏湯。材料が足りないからモドキだけどね」

「扶桑料理・・・とは何かが違いますね」

 口の端に唾液を溜め込みながら隙を窺うジョゼ。

 摘まみ食いをする気が見え見えである。

 

「まぁ、こっちだと化け物に占領されてる地域の料理だからねぇ・・・」

 こちらの世界では扶桑海事変の際に大陸側の領土を放棄している。

 そこで文化の継承も絶たれたのかもしれない。

「お、何やら良い匂いが」

 ゾロゾロと席を外していたメンバーが戻って来た。

 

「野郎共、用が済んだなら手伝う! ほら、皿を並べて」

「へいへいっと」

 武装を外して素顔を晒した傭兵達がテキパキと動き出す。黒人や白人、更には

 黄色人種まで。雑多な人種から成る構成は、どこか統合戦闘航空団にも似ている。

 

「じゃあ、御相伴にあずかろうとするか」

 ワインの瓶からコルクが抜けると、小気味良い音が部屋に響くのであった。



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第八話 チェイス

仕事が終わった後だと中々筆が進みませんねぇ。まとまった休暇が欲しい所です。
では、第八話です。


「はっ、はぁ・・・っく!」

 傭兵達との邂逅から一日。ユニットを修理する為出撃不可となった管野は

 憤怒の形相を浮かべて走り込んでいた。

 

「くそっ、気に入らねぇ! 余所者の癖に大きな面しやがって」

 彼女は昨日の演習で集中砲火を受けた怒りを呪詛として吐きながら

 鍛錬に励む原動力として叩き付けていた。

 

 

 

 

「つまるところ、魔法力とやらを変換する事で物理的な干渉が出来るんだろ?

 なら、その逆・・・物理的な干渉方法に手を加えれば魔法力に干渉する事も

 不可能じゃない。あんたらが足に付けて使う機械の様にな」

 昨晩の食事会で耳にしたアンプの言葉が脳裏によぎる。

 

「エネルギーと言う物は、言うなれば波のような形をしている。波の形に合わせて

 別の波がぶつかれば波同士は消える。だが隙間を潜り抜ける様に波がぶつかる場合は

 上手く相殺できない。あんた達の盾が容易く割れたのは、電磁波の波を

 シールド破壊用に調整して叩き込んだからだよ」

 

 隙間の大きな太い波を数本。その間に細い波が一本。そして先端には矢印。

 窓に息を吹き掛け、指で簡単な図を描きつつ彼は説明していた。

 

「所謂アーク兵器って奴なんだが、俺のモナークやリージョンの場合は

 コアの効果として弾丸に電磁場を纏わせる事が出来る。シールドを

 防ぎにくくなるように波長を合わせれば魔女の盾にも有効打を出せるし、

 魔法力と同じ波長にすればネウロイにも有効打を出せるって訳だ」

 

 原理はどうあれ機械によって魔法の力を増幅している以上、何らかの形で

 魔法力に物理的な方法で干渉する事が出来るのは確実。元々は電磁装甲に

 対処する為の技術が、この世界では魔女の力を必要としない武器として

 猛威を振るう可能性を示していた。

 

「こっちの武器として使えれば便利そうだけど、ネウロイに渡ったら一大事だな」

「ああ・・・腰どころか頭も痛くなってきた・・・」

 居合わせていたアウロラとラルが渋い表情を浮かべていたのが記憶に新しい。

 

「ま、向こうの連中が追って来たってんなら片付けるさ。雇ってくれるんなら

 勢力を選ばないの信条なんでね。こっちでの初営業って事でサービスしとくぞ?」

「そうは言っても予算がな・・・まぁ、ユニットの修理代より安く済むなら

 減俸した分を回すのも考えなくはないが」

 冗談なのか本気なのか分からないラルの一言。果たして、目は笑っていただろうか。

 

 

 

 

「次は絶対に鼻っ柱へし折ってやる」

 握り拳を作りつつ、朝靄が立ち込める基地を駆ける管野であった。

 

「そこで止まらない! 小刻みでも動いているだけで狙いはブレるのよ!」

「はいっ!」

 

 ふと気が付けば、ひかりの声が聞こえてきた。他にも誰かが居るようだが、

 管野が今居る場所からは見えない。だが、金属が擦れる特徴的な音から

 予想は出来る。

 

「息を止めるな! 力を込める時には誰だって無意識にやっちまう癖だが、

 それを見抜かれれば攻撃の合図と悟られる。相手の不意を突くつもりなら

 仕掛けと動き、間を読ませない立ち回りを心掛けろ!」

 

 音の出所に近寄ってみると、案の定スティム達が居た。雪を固めて作られた

 陣地で追いかけっこをしている。背中には昨日の演習で身に着けていた

 飛行器具は見当たらない。そして周囲には野次馬が群がっていた。

 

「よし、此処まで! 一旦休憩するぞ」

 甲高いアラーム音を立てるPDAを弄りつつ、フェーズは合図を出す。

「5ゲーム0勝利5敗。ま、根性と体力だけは及第点だな。で、次は?」

「よーし、私がやろう」

 いがらっぽい声でアウロラが名乗りを上げた。

 

「何で鬼ごっこなんてやってんだ?」

「レクリエーションを兼ねた賭け試合だ。暇潰しにしては中々面白いぞ」

「ついでに感覚を慣らす為。前の戦場とは重力が違うから、

 調整しないと全力が出せないのよ」

 管野の問いにスティムとアウロラが答える。

 

「という事は万全でもないのに昨日あんな動きを・・・?」

「一応これでも生身の部分は有るからね。時差ボケとかも有ったし、

 本気であっても全力じゃないわ」

 

 スティムの外見は全身機械だが、神経や脳等は生身だったりする。

 電気刺激を与える事で強制的に神経伝達物質を放出させ、任意の

 タイミングで反応速度を上げる。薬物を外部から注射する方式よりも

 経費が安くなるフロンティアの傭兵御用達の義体化プランである。

 

「とりあえず勝ち星一つな。で、あんたは何を賭けに出す?」

「もちろん酒。あんた、一瓶持ってるんだろ? それを勝ったら貰おう」

「乗った。足に付ける機械は使わなくていいのか?」

「ペンキを塗ったばかりで乾いてないんだ」

 

 底に穴が開いたドラム缶、中途半端に焼切れた鉄骨、錆浮いて廃棄されたと思しき

 廃材が配置された雪上の舞台に二人が上がる。ガラクタの高さ自体は高くても腰の

 辺りまでしかない。だが迷路の様に張り巡らされており、単純に追いかけっこを

 するとなると手間が掛かるだろう。

 

「んじゃ、こっちが勝てば現金を貰おうか。ところで、何回やるんだ?」

「一瓶しかないんだろう? なら一発勝負だ」

 彼女が空になった酒瓶を放り投げると、使い魔の耳や尻尾が飛び出した。

 

「オーケー。ハンデの代わりに鬼役は俺から始めよう。消えるのも無しだ」

「そいつは有り難いね。でも、易々と捕まってやるつもりは無いぞ?」

 口調自体は実に軽い。だが、両者に漂う空気は剣呑そのもの。

 底冷えする様な威圧感が周囲の口を閉ざす。

 

「では、ゲーム開始」

 スティムが合図するや否や二人は同時に駆けた。

 アウロラは飛びのいて距離を取り、フェーズは後を追う。

 

「では、お手並み拝見と行こうか!」

 魔法力により強化された身体能力で距離を取るアウロラ。使い魔としている

 狼さながらに舞台の上を力強く疾駆する。

 

「精々楽しませてくれよ、お嬢さん」

 対するフェーズはスライディングで障害物の隙間を潜り抜け、時には飛び越え

 ショートカット。フェイントを混ぜた動きで有利な位置取りへと誘い込む姿は

 狩人の様であった。

 

「残り半分」

 30秒程過ぎた頃、スティムは大声で告げた。

「ほら、どうした。このままだと捕まえられないぞ!?」

「問題無い。アンタの動きは覚えた。そろそろ本気で相手をしてやる」

 

 淡々とした口調で一言。そこからフェーズの動きが変化した。

 小さく刻む走り方から、腰を落として大股に踏み込む様に動く。

 ただそれだけにも拘らず、徐々にアウロラとの距離が縮まっていく。

 

「おおっと!?」

「これで詰み、だ」

 舞台の角に追い詰められ、フェーズの腕が迫り──

 

「まだだ!」

 魔法力に物を言わせた大ジャンプ。敷き詰めた雪が

 爆ぜる勢いのままに空中へとアウロラの体が舞った。

 

「往生際が悪いぞ!」

 残り時間は数秒のみ。走り寄った勢いのままに廃材を蹴飛ばして方向転換。

 そのまま積み上げられた瓦礫を駆け上がったフェーズ。否応なく緊張は高まる。

 

「酒は──」

「金は──」

「「貰った!!」」

 二人の声が同時に響くと共に、試合終了のアラームが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねーちゃん、何でそんな事になったのさ」

 朝っぱらから医務室で横たわるアウロラに呆れた様子でニパが話しかけた。

「いや、ちょっと力みすぎてなぁ・・・」

 苦笑交じりに答えたアウロラ。走り回って血が巡ったのか、頬は赤く染まっていた。

 

「まさか雪煙で観測できず無効試合になるとは思わなかった」

 滞空時間で逃げ切りを考えたまでは良かったものの、舞台は雪を固めて

 作った即席品。予想以上に脆過ぎたのだ。

 

「で、空中衝突で体勢を崩した上に着地地点の障害物も見えなくなって

 着地に失敗。足を挫いたんで運んできたって訳だ」

 ジョゼが治癒を施している横でフェーズが語る。機械部品の隙間に

 粉雪が見え隠れしていた。

 

「まぁ、重傷にならずに済んだのは幸いだ。廃材で指でも切ったら事だったからな」

「それにしても、魔法力を使ってまで逃げるだなんて・・・」

「使わなければ捕まっていたさ」

 足首を動かして具合を見るアウロラ。若干痛みが残っているのだろう。

 足に力を込めると表情を僅かに歪ませた。

 

「それにしても、一体何をしたんですか? 道具も魔法力も無しに

 ウィッチと真っ向から渡り合えるなんて、魔法みたいです」

「おいおい、魔女が魔法みたいとか言っちゃ駄目だろ」

 唸るような声を出してフェーズが笑った。

 

「種を明かせば【歩き方】と【先読み】だ。上下に足を動かせば、着地までの時間が

 無駄になる。それを無くす為に摺り足で上下の動きを、大股で歩数を減らすんだ」

 ひかりの質問にフェーズが答え始めた。

 

「無論、基礎的な身体能力で劣る以上は一直線に逃走されたら追いつけない。

 が、入り組んだ地形ならば動きに変化が生じる。乗り越える、跳ぶ、滑り込む。

 そうした余計な動作を入れるとなれば、自然と予備動作が現れるからな。その

 代表的な動作が息を止める事。射撃体勢に入る時、一瞬息を止めたりするだろう?」

 

 重い物を持ち上げる時に『よっこいしょ』等と声を出すのと理由は同じである。

 力を入れる際、人は体に負担を集中させない動作を入れてしまう。古武術等で

 呼吸に合わせた動きを叩き込むのは、その予兆を隠す為だ。

 

「それを見抜いたり誘発させれば、見ての通り小細工無しでも魔女は追い詰められる。

 防ぐには得意とする交戦距離や攻撃の予兆、移動の癖を悟らせないようにする事だ。

 下手すりゃネウロイに体を乗っ取られた機械兵士なんてのが出て来るとも限らない。

 覚えておいて損は無いだろうさ」

 

 金属を捕食、同化する特性が有る以上ありえないとは言い切れない。自分と同じ

 戦術を使うネウロイなんてのが襲ってこようものなら、自身の立場は悪化する。

 そうなる前に予防線を張っておかねば、傭兵達の身が危ない。

 

「うわ、お前達みたいなのがネウロイ化して襲って来るとか考えたくないな」

 手榴弾を空中で撃ち抜く変態技量集団である。それがネウロイ並みの再生力を

 持って襲ってくるなぞ想像するだけで恐ろしい。彼らなら投擲前に手を撃ち抜いて

 誤爆を誘う位やりかねないだろう。アウロラの眉間に皺が寄るのも無理は無い。

 

「幾ら百戦錬磨のベテランつっても、相手の戦い方が分からんと十全には戦えん。

 こちとらネウロイ戦は素人だからな。そっちは任せる。だが人間が相手なら

 任せて貰おう。それで今まで食って来たんでな」

 プロとしての誇りなのか、フェーズの声からは確かな自信を感じる。

 

「お、居た居た。例の申請が通ったぞ」

 そうこうしている内にタブレットを手にしたホロが医務室へ顔を覗かせた。

「作戦室を借りて情報交換会を開く。14時までに記録を纏めにゃならん。

 スコーチとローニンのアーカイブをリンクさせてくれ」

 コツコツとタブレットの画面を指で叩くホロ。それを尻目にスティムが立った。

 

「了解。そこの二人は動けないのかしら?」

「これ位なら問題ありません。すぐにでも終わりますから」

 火照った顔に浮かぶ汗を拭い、ジョゼが答えた。

 

「そうか。治療が間に合いそうに無かったら、会場まで

 お姫様抱っこで運ぶべきか悩む所だったぞ」

 真面目な口調で放たれた一言に吹き出すウィッチ一同。

 

「何がおかしい? 淑女をエスコートするのは紳士の役目だろう」

「ぶふっ!」

 続く言葉でニパが限界を迎え、腹を抱えて蹲る様に背を曲げた。

 

「ね・・・ねーちゃんが淑女扱い・・・」

 女傑という表現が似合うアウロラが淑女扱いである。

 彼女の人柄を知る者ならば抱く事が無い評価だ。

 それを口説くような言葉で話しかけるとは・・・。

 

「おい、どういう意味だ」

 ムッとした表情でアウロラが詰め寄る。丸太でネウロイを撲殺する彼女も

 歴とした二十代。世が世なら花も盛りの年頃である。これでも女の子らしい

 一面は有るのである。一応。

 

「とりあえず何とかなりそうなら良かった。んじゃ、この辺で失礼」

 ヘッドロックをニパに仕掛けるアウロラを後に残してフェーズは部屋を去った。



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第九話 ミーティング

スピンオフ作品でApex Legendsが発売されましたね。
Titanfallも三作目が作成確定との事ですし、楽しみです。
ウィッチ募集は続いていますので気が向いたら気軽にどうぞ。


「便利だね~、こんな事も出来るなんて」

 カメラの代わりに使っているマーヴィンが薄暗い作戦室の

 ボードに映し出す映像を見てヴァルトルートが呟く。

 

 高解像度のカラー画像は、音声付きでブレも無い。動画として撮影されているので

 一連の動きが把握しやすい。交戦記録としては実に有益な代物である。

 タイタン側で共同撃墜の記録まで計算しているため、戦果の確認も楽に取れる。

 

「惜しむらくは、フィルム代が掛かる事ですね」

 壁に映し出された映像をカメラで写し取る度にフラッシュが焚かれる。

 電子機器同士での情報共有が出来ないので止むを得ない事では有るが、

 情報量が多いだけにフィルム代は嵩む。

 

 すれ違いざまにネウロイを殴り壊す管野。シールドで正面からの攻撃を守りつつ

 逆側のネウロイを片手撃ちで墜とすニパ。密集地帯を突っ切り、同士討ちを誘う

 ヴァルトルート。三者三様の動きが自由に見られるのは動画の利点である。

 

「う~ん・・・反省点も多々有りますね」

 腕を組みつつエディータは顔を顰めた。なまじ画質が良い物だから、

 弾道の逸れ方や各自の飛行軌跡、装備の破損原因すらも分かってしまうのだ。

 

「随分多く集まったもんだな。表沙汰にはしたくないだろうに」

 見渡せば席の大半は埋まっている。人いきれで部屋が暖かくなっていた。

 

「巣の撮影どころか攻撃まで成功した例は希少なんですよ」

 根元を砕かれ倒れこむブラウシュテルマー。その倒壊に巻き込まれて

 吹っ飛ぶネウロイ。巣から湧き出す増援。撤退戦なので情報量は

 乏しいが、一連の動きが誰でも分かるのは大きい。

 

「それはそれとして、恐ろしいものだ。力業だけで対抗できるとは・・・」

 中型のネウロイが粉微塵に砕ける様子を逆再生しながら呟くラル。

 死因・・・もとい、破壊原因は胴体を貫通する軌道で放たれた一撃だ。

 後ろに控えていた小型諸共吹っ飛ばしている事からも威力は察せられる。

 

「ある程度予想はしていたけど、やっぱり違うものね」

「中国大陸壊滅・・・文化が流入してないのも納得だ」

 一方、傭兵達も世界地図を前に腕を組んでいた。

 

「と言うか、まさか欠陥兵器が敵として存在するとはな」

 ある意味で英国面の象徴たるパンジャンドラムが敵として襲ってきたとか、

 ロシアの空挺戦車そっくりなネウロイが来た等々、突っ込みどころ満載の

 戦闘記録が存在すると知れば頭が痛くなるのも当然だろう。

 

「こうも違うと仕込みも当てが外れたか? それなりに共通点も有る様だが・・・」

 戦術装備の特性故に時間移動に関しては造詣が深いフェーズであったが、予想を

 大きく外れた現状には頭を悩ませていた。アメリカ大陸が星形になっていたり、

 エーテルとか言う未知の資源が存在するとは予想外にも程がある。

 

「何にせよ、危険地帯に踏み込む必要が有りそうだからな。協力体制は作っておかねば」

 いくら高性能でも輸送機だけで対空砲火の嵐に突っ込む訳にはいかない。

 露払いだけでも現地戦力に頼った方が生存の目は有る。弾丸も燃料も有限。

 帰還直後に追手の襲撃が有り得る以上は尚更必要な事である。

 

「さて・・・そろそろ時間も残り半分だ。一旦情報交換は区切るとしよう」

 その一言に周囲の注目が集まる。ボードの前へ立ったラルは、傭兵達を一瞥した。

 

「まずは状況を整理する。昨日未明、ネウロイの襲撃に巻き込まれた彼らだが・・・ 

 暫定的に当基地の所属として扱う事にする。管轄はストライカーユニット回収班と

 するが、今後変更の可能性は有る。各自留意するように」

「と、言う訳でよろしく」

 パルスが軽く笑みを浮かべて手を振った。

 

「おいおい、いきなり組ませて大丈夫なのか?」

 あからさまに猜疑の視線を向ける管野。碌に付き合いの無い相手を

 戦力として組み込むのは色々と不安だ。

 

「無論、いきなり共同出撃をするつもりは無い。色々と調整が必要だからな」

 一口に軍隊と言っても、国によって戦闘教本は異なる。例えば突撃の際に

 踏み込む足は左右どちらが先か、戦闘機同士で交戦開始となれば立ち回りを

 どうするか等々。その違いを擦りあわせなければ誤射等の危険性が生じる。

 

「それに、彼らが持ち込んだ情報は非常に有益であると言わざるを得ない。

 この映像もそうだが・・・さっきの設計図を出してもらえないか?」

「おうよ」

 ホロがタブレットを弄ると、艦船の設計図らしきものが映し出された。

 

「・・・・・・? これって、赤城の──」

「違う。加賀の方だ」

 ひかりの呟きに即フェーズが訂正を入れる。そこに映っていたのは、

 扶桑海軍の艦艇たる加賀だった。

 

「次も頼む」

 再び映像が切り替わる。今度は戦艦の設計図の様だ。

「あっ! これ、リシュリューの!?」

 ジョゼが驚きの声を上げる。かつてダカール港で護衛任務に就いた事も有るのだ。

 リベリオンの援軍が来るまで単独戦闘を強いられた事は忘れられようも無い。

 

「まだまだ有るぞ。フォッケウルフ、マスダング、零式艦上戦闘機・・・

 陸上兵器ならT-34とかな。流石にストライカーユニットの設計図は無いが、

 それ以外は一通り持っているぞ」

 

 次々と映し出される設計図や写真。多少なりとも差異は有れど、

 現物に関わった事がある者ならば本物ではないかと思える物ばかりだ。

 

「何でこんな物を持ってるんですか!?」

 こんな物を見せられれば流石に驚きを隠せない。どれもこれもが軍事機密であり、

 そう簡単に入手できるような物ではない。どよめく声が作戦室に響く。

 

「かつて過去の失われた記録を現在へ持ち帰るプロジェクトに

 関わっていた事があるからだ。フェーズ、この話は任せるぞ」

 タブレットを叩く硬い音。地球ではない何処かの写真が投影される。

 

「我々の故郷フロンティアでは人間以外の何かが作り出した文明の遺跡が存在する。

 その遺産を解析する為に編み出されたのが時間移動技術。こうして消える他にも、

 条件を満たせば過去と未来を行き来する事も出来るそうだ」

 フェーズシフトが起動する。弾ける様な独特な音と共に姿が一瞬消え去った。

 

「今となっては失われた技術を、過去に戻って調査する計画。それは地球で成功を

 収めていた。その最たる例が軍艦製造の技術転用だ。我々の世界では戦艦と言う

 種別の艦船は廃れて存在していないし、建造当時の資料も機密保持で失われた。

 それを過去に戻って回収したから此処に設計図の情報が有ると言う訳だ」

 

 軍事技術の民間転用例は多い。戦時下で大和型戦艦に測距儀を納入した日本光學

 工業株式會社が、レンズ制作技術を守り続けた結果が現代日本における株式会社

 ニコンのカメラ業界シェア一位である。もしも機密保持で全ての資料が捨てられ、

 生かされなければ今の繁栄は無かったかもしれない。

 

「尤も、過去に戻った際に完璧な隠密は達成できなかったんでな。UFO騒ぎに

 なったりと色々問題も有った。結果として地球での試験は打ち切り。だから

 フロンティアへ拠点を移して実験する事になったらしいがな」

 

 ドローンが存在していなかった時代である。撮影の為に姿を見せた際に

 過去の人々がUFOと見間違えるのも無理は無かったに違いない。

 

「この技術を用いて遺跡の過去を調べ上げ、更なる発展を模索しているのがアレス師団。

 先日見せたアホみたいな爆発を起こした兵器の実験もやってる危険な所だ。万一にも

 この世界に目を付けようものなら、根こそぎ資源を分捕っていくのは目に見えている」

 映像が切り替わり、動画が再生され始めた。

 

「もとより、IMCは民間人の虐殺を黙認している。新型兵器の実験をする為に

 植民地の住人を問答無用でモルモットにしたからな。降伏もするだけ無駄だ。

 敵対する事になれば、こういうのを相手取る必要が有るぞ」

 

 魔女達の前に映し出されたのは空に浮かぶ船だった。戦闘機と思われる飛行機に

 囲まれながらも対空砲火を浴びせ、船底から地上へと箱らしき物を落としていた。

 その箱の着地点へ目掛けて一発の爆弾が戦闘機から落とされ、味方の戦闘機を

 巻き添えにして白い閃光と共に紅蓮の火球が全てを呑みこんだ。

 

「燃料気化爆弾。三千度に達する爆炎と、酸素を失った爆風が半径数百メートルを

 薙ぎ払う。仮に生き残っても範囲内は有毒ガスで呼吸すら出来なくなる。魔女は

 何でも防ぐ盾を出せると言っても、息をせずには動けないだろ? 」

 映像が進むにつれて土埃が薄れ、爆心地の状況が露わになった。

 

「うえぇ・・・っ!」

 誰かが堪らず呻いた。映像から目を反らす者、顔色が目に見えて悪くなる者・・・

 映し出された凄惨な死体の山は、歴戦の魔女達すら受け止めきれぬ地獄であった。

 

 ネウロイの攻撃はビーム主体。故に死体は断面が焼き潰され、下手をすれば

 肉片すら残らない。が、燃料気化爆弾は爆風による肺へのダメージや一酸化

 炭素での呼吸困難、もしくは高熱で死ぬ。それだけに死体は原形を残すのだ。

 生々しい苦痛の痕跡は、映像越しでも塗炭を舐めた事が想像が出来てしまう。

 

「空を飛べる奴なら範囲外に逃れるだろうが、火力が足りないからな。

 燃料切れで飛べなくなるまで持久戦に持ち込まれたらチェックメイトだ」

 喉を掻き毟りながら白目を剥いた死体。火膨れで変わり果てた死体・・・

 そして墜落した戦闘機に潰されて原型を留めていない死体が映し出された。

 

「資源が存在する以上はIMCから見れば搾取対象になり得るし、ミリシアから

 見ても真っ当に人が住める絶好の開拓地だ。どっちが来ても戦争の火種に

 なりかねん。そして本当に戦争となれば、どちらの勢力にもついていない

 我々も一纏めで攻撃対象となる」

 

 争いと言う物は同じ実力同士の間でしか発生しない・・・等と言う様に、

 力無くして対話はできない。傭兵達が今此処で魔女達と会話が出来るのは

 ネウロイを倒せる実力を示し、魔女達が一機のタイタン相手に苦戦した事で

 脅威と認識されたが故。実力に差が有れば対話の前に押し潰されるだけだ。

 

「そんな訳で、未来の技術や我々の戦力を提供する代わりに手を組もうって事に

 なった。流石に出会って数日程度で信用しろってのは無理があるからな。当然

 結果で示す。よろしく頼むぞ」

 そう締めくくり、フェーズは身を引いた。

 

「クソッ、マジで頭が痛くなってきた・・・」

「だろうね。こっちも正直悩んでるし」

 苦虫を噛み潰した表情を浮かべるグラップル。相槌を打ちつつクロークが答えた。

 情報を整理すればするほど如何に自分達が拙い環境下に在るかが突きつけられる。

 

「周りは自然だらけで人が住める環境じゃない。

 心置きなく化学兵器が使えるとなればキツイわ」

 毒ガスを撒いたとしても機械兵士ならば一切影響は無い。

 生身の仲間が多い傭兵達としても頭痛の種だった。

 

「とりあえず最優先で物資を確保しないとな。贅沢は言えないが、

 グリスだけでも調達できると良いんだがな・・・後は代替武器もな」

 幾ら極限環境に対応しているタイタンとて消耗品だ。油を差さねば

 動きは鈍る。それは死に直結しかねない問題だ。先行きの暗さに

 頭を抱えるのは、魔女達だけでは無かったのであった。

 

 

 



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第十話 変わり始めた歴史

Apex Legendsをやってみようと思ったらエラー頻発。やむなく参加を断念しました。
それはさておき、漸くオリジナルウィッチの御披露目です。まだまだ募集は続けて
いるので思い付いたら気軽にメッセージをどうぞ。


「パンドラ、ねぇ・・・」

 情報交換会を終えて一夜が明け、執務室には上層部が集まっていた。

「部隊名としてはピッタリだろう?」

 ラルは紅茶を片手に答えた。

 

「ああ、そうだな。どちらにしても関わりたくないって意味で」

 箱の中には希望が残っていたとも、偽りの希望と言う救いの無い災厄が

 入っていたとも語られるパンドラの箱。あの傭兵達が持ち込んだ情報は

 皮肉としても最適な例えであった。

 

「で、あの映像を見て勝ち目は見えそうかい?」

 アウロラは横目で視線を投げかけた。

「少なくとも空中空母を持ち込まれたら詰む。そう結論付けました」

 現像された写真を指先で示すサーシャ。

 

 空に浮かぶ空母。そこからは戦闘機が飛び出したり、ドロップポッドが地上へ

 投下されている。何もない空中に突然ワープして現れていた様子を映像で見た

 ウィッチ達は、一目で危険性を認識した代物だ。

 

「こんな物が都市部上空へ現れようものなら戦いにすらなりません。

 万が一にもネウロイの手に落ちたとすれば、彼らの助力は必須でしょう」

 文字通りの瞬間移動。レーダーで事前予測も出来ず、目視で発見も不可能。

 奇襲を仕掛けられたら防ぎようが無いとは理不尽過ぎる。

 

「それでなくとも武器の射程は桁違い、戦闘機は音速を超えて当然。

 先手を取られた時点で対抗手段は皆無でしょう。なので、彼らの

 追手に対する考察は現時点では保留とします」

 

 ただでさえ携行火器が通用しないタイタン一機相手に苦戦するのに、

 ICBM等の超遠距離攻撃が出来る兵器や無人突っ込んで来た挙句

 自爆してくる迷惑極まりない連中が集団で来て対抗できる程の余裕は

 無い。元より大規模作戦の余波で物資が足りないのだから。

 

「それよりも彼らが新たな戦力として使える以上、ネウロイ残党の掃討や

 技術解析に注力すべきです。夜間戦闘員の増強が出来るだけでも負担の

 軽減に繋がりますから」

 

 傭兵達の持ち込んだ装備の中で一際興味を引いたのが脅威スコープだった。

 土煙による視界不良、暗闇や迷彩に対して絶大な効果を発揮し、夜間でも

 戦闘を可能とする。この世界でも生産が成功すればナイトウィッチ以外が

 夜間でも活動できる。その可能性は魅力的だ。

 

「完全に信用できる訳では無いが、少なくとも敵では無い。

 今の所は互いに利用し合って様子見に徹しよう」

 大量の情報を持っていた経緯が経緯だけに信用するのは難しい。

 が、それを態々話してくれた点は誠意の表れなのかもしれない。

 

「まずは目先の事だ。北部国境の山中で以前から補給物資が消えると

 報告が相次いで寄せられている。調査が終わり次第片付けるとしよう」

 大事を片付け、ようやく小事に取り組む為に魔女達が頭を捻っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・これもか」

 ドラム缶に匹敵する大きな空薬莢。例え戦車であっても

 これ程の大きな弾丸は発射できない。軍艦の砲弾ならば

 あり得るだろうが、此処はオラーシャの森林である。

 

「ここらで大きな作戦が有るって聞いたけど、とっくに始まってるのかな?」

 抉られた地面、焼き払われた木々。そして見た事が無い大きさの空薬莢。

 雪が覆い隠して尚目立つ激しい戦闘の痕跡が至る所で見受けられる。

 

「参ったなぁ、何か美味しい物が食えないか期待してたのに・・・」

 ロバに曳かせた荷台の上で渋い顔を浮かべる少女。荷台からは

 日月紋がペイントされたユニットが見え隠れしていた。

 

「どうしたもんか・・・お?」

 戦場跡地を独り寂しく進むと、トラックの荷台に何やら積み込む

 人だかりが見えて来た。服装からして民間人。見た所放棄された

 物資や武器を回収しているようだ。

 

「お~い、何やってんのさ?」

 声を張り上げて呼びかけると、トラックに群がっていた人々は

 ビクリと身を震わせて武器を手に取った。

 

「ちょっちょっ、敵じゃないって!」

「あん? 見ない顔のウィッチだな・・・」

 慌てて両手を挙げつつもシールドを展開できるように準備するも、少女の顔を

 見るなり警戒を解いた民間人。どこか安堵している気がする。

 

「あんた、何者だ?」

「アタシは西沢義子。ここらで大きな作戦をやるって聞いたから

 手伝いに来たんだ。もしかして、この辺でやってたりとか?」

「いや、それならもう終わったぞ」

 トラックの運転手と思しき壮年の男性が運転席の窓から身を乗り出した。

 

「え、マジ? こんだけ真新しい痕跡が残っているのに?」

 愕然とした様子で西沢は運転手に問い返した。

「ああ。昨日ノヴゴロドの方からネウロイが攻めて来たそうでな、

 その時の爪痕がコレなんだよ。ところで、ウィッチって事は502の所属か?」

 顔の前で横に手を振りつつ西沢は否定した。

 

「いんや、今はどこにも所属してないね」

「それなら俺らの護衛をしてくれないか? またネウロイが襲って来る前に

 使えそうな物は集めたいんだ。放って置いて餌になるよりはマシだからな。

 当然タダじゃない。食事や物資を分けようと思うんだが・・・」

 

 荷台にはギッシリと弾薬や銃器類が詰み込まれている。万が一にも

 ネウロイのビームが当たろうものなら誘爆で木端微塵に吹き飛ぶだろう。

 護衛が欲しいと言うのも理解できるが、それにしては不可解な点が有る。

 

「アンタ達こそ何者なんだ? 軍の協力者でもないし、ただの民間人って

 割には物騒な物を集めてるみたいじゃん。流石に悪い事を企んでるなら

 掛ける情けは無いよ?」

 

 軍人の護衛も無く、502の所属かどうかを聞いた時点で少なくとも

 統合戦闘航空団とは関わりが無いのは間違いない。集めている武器も

 小銃とかだけなら民間人でも使えるが、戦車の砲弾も集めているのは

 流石に怪しいと言わざるを得ない。民間人が使える訳が無いのだから。

 

「アタイらは義勇兵だからね。国を放り出して逃げたような連中とは

 別物だから心配しなくても大丈夫! なんならアタイ達の拠点に来る?」

 打ち捨てられていた戦車のハッチが開かれた。中から女性の声も聞こえる。

 

「ほー、そういう事・・・!?」

 戦車の中から現れた人物を見て西沢の声が途切れた。

「驚いてる所を見ると、本当にアタイ達の事を知らないみたいだね」

 その人物には目が無かった。火傷の痕で両目が塞がっていたのだ。

 

「アタイはルフィナ・シャラポヴァ。よろしく頼むよ」

 珍しい事に動物の耳が見えない少女は、長い尻尾を揺らしつつ挨拶をした。

「お、おう・・・さっきも言ったけど、西沢義子だ。こっちこそ宜しく」

 多少面食らったものの、気を取り直して挨拶をする西沢であった。

 

「ま、軍を脱走して悪さしてる連中じゃないなら問題無いか。温かい飯と

 寝床、有れば弾薬とかの物資さえ有るなら手伝うのも吝かじゃないね」

「そいつは有り難い。何処に行ってもウィッチは足りなくてね」

 ルフィナは戦車の中から引っ張り出した砲弾をトラックへ積み上げた。

 

「ほらほら、今の内にさっさと移動する! またデカブツが来たら

 荷物を放り出して逃げるのも難しいんだからね!」

「あいよぉ!」

 彼女の掛け声と共に周りの男連中が動き回る。

 

「なんならアタシも運ぶのを手伝おうか? 人手は多い方が良いだろ?」

「飛べるアンタが疲れさせる訳には行かないよ。

 こちとら陸戦用のユニットしか持って無いんだ」

 ルフィナは西沢の馬車に積まれたユニットを指さした。

 

「何で分かったんだ?」

「アタシの固有魔法。見ての通り目は見えないけど、音で形を『視る』事なら

 出来る。言うなれば音響探知かな。流石に色までは分からないけど・・・」

 ルフィナは舌打ちを数回響かせた。

 

「日月紋・・・扶桑の出身みたいだね。弾も13mmなら有るから、

 足りないなら持って行って頂戴。手榴弾とかも有るけど使う?」

「見えないのに分かるもんなのか・・・弾は受け取るとして、

 デカブツがどうのと言ってたけど、そいつは倒してあるのか?」

 

 大型ネウロイともなれば流石に手持ちの武装だけで挑むのは分が悪い。

 火力不足もあるが、それ以上に非戦闘員を護衛しながら戦闘するのは

 キツイからだ。

 

「いや、そこまでは分からない。何せ夜襲だったし、固有魔法が有っても

 遠くまでは視られないからね。ま、空戦ウィッチが戦っていたんだし、

 追い払うぐらいは出来てたんじゃないかな?」

 ルフィナは戦車に立てかけておいた小銃を担ぎ上げた。

 

「ま、細かい話は後にしよう。こんな寒い所で長話をするのは辛いからね。

 さぁ、野郎共! 次の場所に移るよ! 早いとこ回収しないと雪に埋もれて

 掘り出すのが面倒になるからね!」

 

 目ぼしい物資は回収したのだろう。散っていた男連中が戻り始め、

 ルフィナの呼びかけと共にトラックのエンジンが唸り声を挙げた。

 

「んじゃ、付いてくとするか」

 ロバの手綱を握り、えっちらおっちら後を追う西沢。

 少なくとも飯の種には困らなくなりそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、面倒な事になってきたな」

 情報交換会を終えて早速内容を纏めた傭兵一同。割と詰みかけてる

 悲惨な人類に協力しながら帰還手段を探さねばならない状況に頭を

 痛める破目になるとは、運が悪いと言わざるを得ない。

 

「敵は主兵装はビームと砲撃、もしくは近接攻撃。金属を吸収し、増殖や再生を

 行いつつ毒性のガスを放出する。主な弱点はコアと呼ばれる物体への攻撃。

 破壊するとコアを持つ本体から派生した子機は一斉に自壊する・・・」

 

 知れば知るほど訳が分からない存在である。ビームと自己修復程度なら

 ドローン等によるものだと説明が付く。だが、毒ガス発生や自己成長を

 行うといった特徴まであると、元の世界から流れ込んだ技術とは思えない。

 

「エネルギーサイフォンは効果が有る以上何らかの電気的刺激で反応している筈だ」

「テザートラップも引っかかったしな。金属で構成されてるのは確実だろ」

「アークウェポンならともかく、通常弾だと効き目が薄いし・・・IEDでも作る?」

「移動手段が徒歩と言うよりも諾足だから・・・直接投げつけた方がマシかも」

 

 各々の交戦記録や所見を元に対ネウロイ用の戦術を模索。近い内に

 ブラックマーケットとの伝手が出来そうなので、資金の調達や売買

 出来そうな情報等の精査も必須。いつ契約が途切れるか分からない

 立場である以上、予め顧客を見定められる状況は整える事は必須だ。

 

「機体も休ませたい所だが、元手が無いのは不安だ。さて、誰が出るべきか」

「スコーチは論外。こっちで留守番だろうね。ノーススターは」

「小物相手には不向きだからな。汎用性で考えるならトーンだろ」

 揃いも揃って頭を捻っていると、一人のウィッチが傭兵達に近づいた。

 

「あの・・・フェーズさん、ですか?」

「そりゃあっち。ちょっと、客だよ」

 スティムが手招きをしてフェーズを呼び寄せた。

 

「ん? 見ない顔だな・・・」

 頭から虫の触覚らしきものが飛び出ており、尻からは黄色と黒の縞模様の

 太い突起物の先から黒光りする針が見える。どうやら蜂のウィッチらしい。

 だが、情報交換の際には見なかった顔だ。背中には大荷物を背負っている。

 

「初めまして、イルヴァ・ランデスコーグです。

 記者のデビーさんから話を伺って参りました」

 ぺこりと頭を下げると、彼女は背中の荷物を降ろして差し出した。

 

「こちらに皆様全員分の生活必需品が入っております。どうぞ、ご確認を」

 イルヴァに言われるがままに封を解くと、肌着からコートまで

 多様な衣類が詰め込まれていた。洗面用具に爪切りと言った

 小物類まで随分と至れり尽くせりである。

 

「成程、取材の報酬の後金って訳か」

「助かった~。何日も着替えずに居たら臭いが付く所だったわ」

 流石に採寸はしていないので丈が少々合わなかったりするが、

 着替えられずに居るよりは遥かにマシだ。そこは目を瞑ろう。

 

「それと今後の取引について相談の場を設けたいのですが──」

「すまんが、これから出撃で今直ぐには対応できそうに無い。

 連絡先を教えて貰えるか、日を改めて再度来て貰えないか?」

 デビーの紹介で訊ねたのだろうが、生憎と間が悪すぎた。

 

「分かりました。では、今日の所は失礼致します」

 柔らかな物腰で一礼。品の良さを滲ませながらイルヴァは去って行った。

 荷物を背負っていた時には見えなかったが、彼女の尻は肩幅より大きい。

 異様な大きさだが、あれも魔法力の影響なのだろうか?

 

「さ~て・・・懸念事項が一つ消えた事は良いとして、何から手を付けるべきやら」

 一瞬浮かんだ疑問を振り払いつつ、偵察任務と言う条件も有り見た目からして

 表に出られないスティムは己の成すべき事を探すのであった。

 

 本来ならば出会う筈の無い人々が出会い、歴史は変わり始める。

 その変化が吉と出るか、凶と出るか? 予想する事は誰にも

 出来ないのであった。



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第11話 祝福の魔女

漫画とかの巻末を見ると、戦術なり時代考証なり専門の人が協力している理由が良く分かります。
一人で執筆から情報収集までやるのは負担が重過ぎる! まして、機体のIF要素まで取り込んでるもんだから情報源を探るだけでも一苦労。ストパン世界でミグは一体どうなったのやら・・・。とりあえず11話です。


「すみません、テーブルビートの箱はどちらへ?」

「左奥の壁際へ置いて下さい!」

 ぞろぞろと運び込まれる食料品の山。ランタンの僅かな

 明かりを頼りに倉庫へと積み上げられて行く。

 

「ああ~もうっ! また住み着いてる!」

 倉庫の隅をチョロチョロ逃げ回る鼠。ジョゼは悲鳴を上げつつも

 捕まえようと追いかけ回すが、流石に壁の中へと逃げ込まれたら

 手も足も出ない。

 

「折角居なくなって安心できると思ったのに・・・」

 がっくりと肩を落として残念がるジョゼ。食べる事が何よりも好きな

 彼女にとって食料を食い荒らす鼠は許されざる敵である。

 

「あの、良ければ捕まえて差し上げましょうか?」

 涙目で落ち込むジョゼへ荷運びの女性が話しかけた。

 彼女の作業服には刺繍で『イルヴァ』と名前が縫い込まれていた。

 

「え、出来るんですか?」

「少し時間を頂ければ。もし可能なら手伝って頂けると助かりますが」

「是非とも御願いします!」

 女性の手を両手で握りしめてジョゼは目を輝かせた。

 

「それでは少々お時間を頂きますね」

 頭から虫の触覚が、尻からは蜂が持つ黄色と黒の腹部が飛び出した。

 鋭く尖った針の先端は仄かに魔法の光が帯びている。

 

「暫くすれば鼠が穴から飛び出してくるので、それを捕まえて頂けますか」

「お任せください!」

 鼻息を荒く吹かせて返事をするジョゼ。気合は充分過ぎる程だ。

 

「分かりました。これ、一つ借りますね」

 積み上げた食糧の山から小さなジャガイモを手に取ると、表面に軽く息を

 吹き掛けて壁の前に置いたイルヴァ。魔法力特有の淡い光がジャガイモの

 表面を包み込んでいる。

 

「後は物陰に隠れて、出てきた所を捕まえれば・・・」

 木箱の裏に身を潜めると、先程逃げ込んだであろう鼠が早くも

 壁の穴から顔を覗かせた。ジャガイモを齧ろうと身を乗り出して近付き──

 

「はい、この通りです」

 ──齧るや否や鼠の体が宙に浮いた。古より魔女が使うとされる念動力。

 直接対象に触れていなくても、魔法の力場を生み出す要領で干渉すれば

 ちょっとした小物程度は宙に浮かせられる。

 

「捕まえたっ!」

 ジャガイモから離れようと暴れる鼠の尻尾を掴み、会心の笑みを浮かべるジョゼ。

 イルヴァは再度ジャガイモを穴の前に置き直した。

 

「後は繰り返すだけですね」

 隠れ、捕まえ、置き直す。固有魔法でも使っているのだろうか? あれよあれよと

 鼠が釣り出されてジャガイモに齧りついて行く。鼠が出なくなる頃には、ジャガイモは

 歯型でボロボロに変わり果てていた。

 

「では、仕事が残っているので失礼します」

「有り難う御座いました!」

 満面の笑みで見送るジョゼに一礼し、足早に去っていくイルヴァ。

 やるべき事は残っている。

 

「お疲れ様です」

 すれ違う基地の人々に労いの言葉を掛けつつ外に出る。そして視界の端に

 格納庫前の見慣れない飛行機を捉えた。プロペラが見当たらない妙な外見。

 傭兵達が乗って来た輸送機である。

 

 武器を使うネウロイを見た。ネウロイが人を食べた。ネウロイと組んで戦う人を見た。

 普段ならば流言と一蹴されるであろう話であるが、実際に助けられた人がいる。

 しかも502所属のウィッチ達と一緒に目撃されているのだ。単なる噂にしては奇妙。

 まして、ネウロイ同士が交戦と無線で聞けば調べぬ訳にはいかない。

 

「ネウロイを屠る巨人・・・あれでしょうか?」

 騒がしく出撃準備を整える人々に混じって動く鋼の巨人。陸戦型ユニットにしては

 桁違いに巨大。恐らく、アレこそが噂の震源地であろう事は想像に難くない。

 

「それより、こちらを済ませませんとね」

 巨人の事は一先ず置いておくとして、自分が成すべき事は済ませなければならない。

 乗って来たトラックへ戻り、積み荷を担いで再び建物の中へと戻るイルヴァ。今度は

 格納庫に届け物だ。

 

「すみません、受領印をくださいな」

「おう、お疲れ」

 整備士の傍らに積み上げられる木箱の山。本来ならフォークリフトでも無ければ

 持ち上げる事すら困難な重量物。何せ中身はユニットの補修部品等の金属なのだ。

 それを生身で軽々と持ち運ぶとなれば、魔力量の高さが窺い知れる。

 

「では、いつも通りに?」

「頼む。これから出撃だから、トラックを先にやってくれ」

 イルヴァの尻から飛び出した針が一直線に伸びると、淡い光が

 彼女の周囲を包み込んだ。そしてそれはトラックをも包み始める。

 

「ふぅ・・・えいっ!」

 大きく深呼吸。一拍置いて目を見開くと、イルヴァの触れた部分から

 トラックに光が付着し始める。それに合わせて少しだけ彼女の巨大な

 尻が小さくなった。

 

「終わりました」

「よし、次は男連中を頼む。第一班集合!」

 先んじて詰めていた兵士達がイルヴァの前に整列する。

 皆一様に片側の裾を捲り上げ、手首を外気に晒していた。

 

「では、少し堪えて下さいな」

 自らの股下から針を潜らせ、先頭に立っていた兵士の手を取り針へと宛がう。

 僅かばかりの位置調整。そして彼女は針を兵士の手首へと突き刺した。

 

「あづっ・・・」

 痛みに呻く兵士。使い魔たる蜂の部分が脈打つように

 蠢くと、兵士の体にも燐光が宿った。

 

「はい、結構です。次の方どうぞ」

 手慣れた様子で針を引き抜き、次の兵士へ針を突き刺すイルヴァ。

 こうして同じ作業を繰り返す事十数分。彼女の尻は人並みの大きさにまで

 小さく縮んでいた。

 

「今日はツイてるな。御蔭で瘴気を気にせず動けそうだ」

「あくまでも気休めですからね? 私達と違ってシールドは出せないんですから」

 最後の一人から針を引き抜きつつ、イルヴァは人差し指を立てて兵士を窘めた。

 

「くっちゃべってる暇が有ったら乗れ!」

「いけね、また会ったらよろしく頼むよ」

 小隊長にどやされて駆ける兵士を見送り、イルヴァは踵を返して格納庫を去った。

 

「これで全部終わりですね、うん」

 届け物は降ろした。サービスも振る舞い終わった。これで本命の仕事に取り掛かれる。

 緩んでしまった紐パンを締め直し、今度は基地の指令室へ歩み始めるイルヴァだった。

 

 

 

 

 

 

 

「晴れ続けていて良かった。雪の下に埋もれていたら骨が折れてたな」

 弾薬が残っている弾倉を拾い上げ、こびりついた泥や雪を払う。

 氷雪に晒され錆び付こうものなら、如何に軍用品と言えど故障の元になる。

 

「こっちは・・・もう駄目か」

 踏みつぶされたか、あるいは流れ弾でも当たったか。砲身が歪んだ戦車が

 埋もれていた。掘り起こすまでも無くスクラップ確定だ。

 

「しゃーない、使える物だけ集めて次行くぞ」

「了解!」

 分隊長の指示の元、兵卒達が物資を回収していく。ネウロイの餌にする位なら

 再利用するべきである。元より物資は有れば有るほど良いのだから。

 

「それにしても、俺達にもアレが有ればな・・・」

 ぼやく分隊長の視線は、傭兵達が操る巨人へと向けられていた。

 

「よーし、そのまま降ろすぞ」

 ビームで抉られた穴に嵌ったのか、数十トンにも達する戦車が斜めに傾いている。

 それを容易く持ち上げ、平地に置き直す。重機が無ければ手間の掛かる作業を

 僅か数分で片付ける巨人の姿は味方でいる内は頼もしい物であった。

 

「弾倉まで喰われてたら目も当てられなかったけど、ツイてたわね」

 流石に数日程度で根こそぎ喰われていた、何て事にはならなかったようだ。

 雪を掘り返す手間も左程掛からずに済んだのは幸運だ。

 

「でも、燃料は取られたようだけど?」

 スターリンのオルガン・・・もとい、BM-13の荷台に倒れ掛かっていた木を

 タイタンに放り投げさせ、状態をチェックするクローク。燃料計の針は端に

 振り切れ、タンクからは零れたガソリンの跡が残っていた。

 

「ネウロイとやらは金属を喰うとは聞いたが・・・燃料も啜るのか?」

「それは無い。こりゃ人間の仕業だろうな」

 グラップルの問いに首を横に振ってアウロラは答える。

 

「こりゃ義勇兵の連中が持って行ったな」

 雑多な靴跡を見てユニット回収班の一人が舌打ちを鳴らす。

「義勇兵って事は民兵か? 素人にしちゃ手際良く持ち出したみたいだな」

 他の車両等を見ても丁寧に部品取りが成されている。少なからず工学知識を

 持ち得た人物が関わっているのは違いない。

 

「いや、そうとは限らない。退役した元軍人やウィッチも混ざっている事が

 有り得る。ま、十中八九は太陽の住人あたりが持って行ったんだろうけどね」

 アウロラは道を塞ぐ倒木を担ぎ上げながら話に加わった。

 

「おいおい、軍事物資かっぱらう連中を野放しにして大丈夫か?」

 ホロは隠す素振りすら見せずに顔を顰めた。

「そうもいかない。下手な軍隊より役に立つとか言われてるし、

 実際にオラーシャの戦線を維持できるのは奴らが居るからって話を聞くんだ」

 手に付着した雪を払い落してアウロラは続ける。

 

「此処オラーシャじゃ数日で戦線が前後する事が当たり前。その度に物資やらを

 運んでたら戦うどころじゃない。だからゲリラ戦用の補給拠点を各地に置いて

 運搬の手間を省いたり、橋頭堡に出来るようにしている。で、その拠点整備を

 一手に引き受けてるのが太陽の住人って訳さ」

 

 拠点と言っても軍事基地のような物ではない。精々が煉瓦と丸太で組んだ

 セーフハウスと言った方が正しい。ただし、地下には非常食や予備弾薬、

 その他サバイバル用品などが用意されている。規模が規模なので大部隊の

 補給には使えないが、分隊程度なら寒さを凌いで夜を明かす程度は可能だ。

 

「他にも民間人の護衛やらを引き受けてるもんだから、下手に抑え付けると

 こっちの補給まで巡り巡って滞りかねないって話さ。詳しい事は主計科の

 連中に訊けば分かると思うけど」

 横目でサーシャに視線を一瞬だけ向けるアウロラであった。

 

「今朝方荷物を持って来たのは、そいつらだったのか?」

 グラップルは少しだけ作業の手を止めて思案した。正式に名乗ってはいなかったが

 軍にしては妙に素早く物資を調達して来た上、デビーの紹介で来たと言っていた。

 もしかしたら、紹介予定だった裏社会の組織とは太陽の住人の事かもしれない。

 

「ん? これだけ轍が違う・・・って事は、これの後を追って行けば

 まだ間に合うんじゃない? 痕跡からして左程時間が経ってないわ」

 パルスは仲間へとシグナルを送った。

 

 タイヤにしては細い線が二筋。踏み潰されたであろう小枝の表面は

 まだ凍り付いていない。直近の時間に誰かが通り過ぎて行ったのだろう。

 何より、蹄の跡が残っている。軍は輸送に動物を用いていないのだから。

 

「態々追わなくても物資が残ってるしな・・・今から追う必要は無いだろう」

 轍の跡が残る方向へ視線を移し、見上げるホロ。その先には頂きに雪を残す

 山脈が並び立つ。行き先がどこかは不明だが、轍の後からして運べる量は

 そう多くは無いだろう。下手に追えば燃料代で足が出かねない。

 

「そりゃそうなんだろうけど――」

 同じく山脈を眺めたクロークの言葉が途切れた。空に赤い光が昇っている。

 

「グラップル!」

「分かってらぁ!」

 声を掛けられるのと殆ど同じくしてノーススターが宙に舞う。レールガンを

 構え、光の根元を注視。捉えた光景を仲間へと共有する。

 

「ネウロイ、一体。地上型! 航空魔女、一人。交戦中!」

「飛んでる? どこの基地だ!? 区域が間違ってるぞ」

 無線で噛み付く様に管野が吼える。基地毎に区切られた哨戒範囲が

 決まっている以上、こんな所で魔女が戦っているのは妙な話である。

 

「これより援護に向かいます。地上部隊は撤収開始!」

「「「「「「了解!」」」」」」」

 サーシャの号令の元、502部隊は飛行機雲を残して離れて行くのであった。



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第12話 合流

いやはや、最近は暑くて執筆する気力も失せるから困りますね。
雪国の涼しさが羨ましい物です。では、12話となります。


 予想されて然るべき事では有った。茸を探すなら一個ずつ採取するよりも

 群生地で纏まった数を採った方が効率が良い。となれば、ネウロイだって

 広大な戦場跡地を駆け回るよりも物資集積所を襲撃した方が楽だと考える。

 あるいは物資を山積みにした車両を狙うだろう。

 

「だからって態々こっちを狙わないで貰いたいんだけどね」

 顰め面を隠そうともせずにルフィナが悪態を吐いた。常人では感知できない

 僅かな振動。されど彼女ならばソナーさながらに感じ取る事が出来る。

 使い魔が土竜なだけあって音や振動に関しては一日の長が有るのだ。

 

「早速アタシの出番って訳だ」

 初弾を装填しつつユニットに足を突っ込む西沢。魔道エンジンが咆哮を轟かせる。

「トラックはアタイが守る。上から援護と奴らの配置を伝えて」

 チャーチルMk.IIIユニットに足を突っ込み、ルフィナも戦闘準備を整えた。

 

「さて、こっちも片付けないとね。」

 ルフィナは荷台の上で山積みにされた武器の中から時限爆弾を選び、地面に置いた。

 ついでに余った鉄兜や地雷を山盛りにして設置。そしてトラックに乗り込んだ。 

 

「勿体無いけど、餌にされるよりはマシだからね」

 周囲には回収し損ねた砲弾類が散乱している。時限爆弾が作動すれば

 一機に誘爆して即席のキルゾーンに早変わり。致命傷にはならずとも、

 集まったネウロイの脚を砕いて転倒させれば時間稼ぎになるだろう。

 

「そっちも気を付けてな!」

 トラックのエンジンも唸りを上げた。異変を感じてか、荷車を曳かせていた驢馬も

 後を追う様にして逃げ出している。直に交戦距離までネウロイがやって来るだろう。

 

「一つ人の生き血を啜り──」

 まずは空中戦に備えて高度を稼ぐ。制空権の確保は死活問題であるが故に。

「二つ不埒な悪行三昧──」

 ユニットの調子を確かめる様に周囲を旋回。弾薬を詰め込んだ鞄の紐を締め直す。

「三つ醜い浮世のネウロイ──」

 空にも敵影。優先すべきは機動力に優れる飛行型。ならば成すべき事は単純だ。

 

「退治してくれよう! 西沢義子見参ってね!」

 迫り来るネウロイの群れがをトラックを見つける前に囮となって注意を逸らす。

 そして事が済んだら美味い食事を御馳走して貰うのだ。

 

「敵は二方向から来てる。北北西、距離6000。南東、距離1500」

「ちぇっ、全然時間が足りないね」

 襲撃を察知できただけマシな方ではあるが、位置取りが悪すぎる。

 このままでは挟撃されかねない。

 

「陸の方は引き受ける! さぁ野郎共、切り札の使い時だよ!」

「あいよぉ!」

 今は迷う時間すら惜しい。離れた方の足止めをして貰っている内に近い連中を

 始末せねば挟撃される。手短に指示を出し、連れて来た仲間達に許可を出す。

 ルフィナの仲間達は仄かに光を纏う弾丸を銃に込めた。

 

「トラップ網に誘い込んでやって! クラッカーで歓迎だよ!」

 伊達や酔狂で危険地帯に飛び込んでいる訳では無い。襲撃に備えて逃走経路の

 策定、ブービートラップの設置も抜かりなく準備している。迂闊にネウロイが

 踏み込めば、汚い花火を浴びる事になるだろう。

 

「終わったらアタシも歓迎して欲しいねぇ」

 軽口交じりに銃を構え、敵陣へと一人踊り込む西沢であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「空に敵影無し。対地装備だけで問題無さそうだ」

 レールガンの照準越しに見える景色に異常は無い。居たとしても

 今は木々より高く飛んでいる事は無い。居たら502基地の方で

 連絡の一つは来るだろう。

 

「となると、こっちの方が役立ちそうね」

 グラップルの報告を受けて対物ロケット砲たるアーチャーを背中に背負い直し、

 クレーバーを手にしたスティム。14・5mmの大口径弾を使用し、この時代に於いて

 互換性のある弾薬を流用できる狙撃銃。これなら小型程度は撃退できるだろう。

 

「んじゃ、こっちは援護に回った方が良さそうね」

 イオンに乗り込み、肩のレーザーを構えるパルス。誤射の危険性を考えれば

 迂闊に爆発物を使う訳にも行かない。ならば高精度の光学兵器の方が安全だ。

 

「流石に全員で行く訳には行かないからな。パルス、クローク、

 グラップルは援護に向かってくれ。残りは撤収補助に回るぞ」

「「「「「Roger!」」」」」

 援護組はタイタンと共に先行した航空ウィッチの後を追い、

 残りは陸戦ウィッチと共に周囲の警戒へと移った。

 

「炙り出せ!」

「了解!」

 最低限の言葉だけで意図は伝わる。放物線を描いて放たれた探知機がX線を放った。

 パルスソナーの地形や障害物をも通り抜ける不可視の光が戦場を貫く。

 

「コア持ちが居るな・・・おい、嬢ちゃん達! 俺達はコアの位置に

 印を付ける。トドメは任せて良いか? 戦果は共同扱いで良けりゃだが!」

「どうぞ!」

 アンプの呼びかけに即答する魔女一同。物資が不足している現状で無駄弾を

 使おうものならサーシャの怒りに触れる。それだけは避けねばならない。

 

「よーし、耳塞げ!」

 プレデターキャノンの砲身が空転し始める。近くにいた歩兵達が慌てて耳を塞ぐ。

 耳を劈く轟音と共に空薬莢の雨が降り注いだ。木々を巻き込んで一直線に放たれた

 無数の弾丸は、過たずネウロイの側面を抉り抜く

 

「足止め!」

「応!」

 そして怯んだ隙にモナークの左肩から青い電撃が迸る。感電したネウロイの

 移動速度が目に見えて鈍くなった。

 

「いただきっ!」

 その隙を逃すヘマはしない。ウィッチ達の集中砲火が破損個所へと浴びせられる。

 交戦開始から僅か十数秒と経たずに一機撃破であった。

 

「え~と、トドメは誰が刺したの?」

 曳光弾やら榴弾やらで着弾の瞬間は見えた物ではない。ニパ自身ですら

 自分の弾が何処に命中したか把握できていなかった。

 

「分析中・・・・・・左翼より7.92mm弾が命中」

 無機質な機械音声で告げられる報告。口径からしてMG42の弾だ。

 つまり、ヴァルトルートかニパのどちらかしか適合しない。

 そして位置取りを考えれば逆算も容易。

 

「じゃあ僕だね」

 ヴァルトルートが口の端を歪めて喜んだ。人の目と違って機械の記録ならば

 照合も容易。嘘の報告の可能性も当然あるが、それなら自身の利益に通ずる

 報告をする筈。ならば一先ず信用できると思っておこう。

 

「まぁ、流石に気付きますよね~・・・」

 何を狙っていたのかは知らないが、横から殴り込む形となったので初弾は難なく

 命中した。が、流石に向こうも馬鹿では無い。向きを変えて反撃のビームを

 飛ばしてきている。ジョゼは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「けど、こっちが制空権を握ってるなら大した脅威じゃないわ」

 上空には航空ウィッチ。地面には砲兵とタイタン。一方を攻撃すれば

 隙を突いて他方が攻める。まして、イニシアチブを握っているのだ。

 早々負ける事は無い。弾薬が節約できそうで安堵するサーシャだった。

 

「・・・ん?」

 後詰めとして待機していたスティムが反射的にスコープを覗き込む。

 白いセーラー服を着たウィッチが接近して来ている。502基地では

 見かけない顔だ。

 

「こちらスティム。東から航空ウィッチの接近を確認。基地のメンバーじゃない」

「そいつか、獲物を横取りした奴は! おい、何処のどいつだ!?」

 管野の怒鳴り声が割り込む。

 

「あっ!? 西沢さんじゃないですか!」

「何ですって?」

 下原とエディ-タが反応する。向こうも気付いたのだろう。

 片手を上げて笑みを浮かべていた。

 

「いやぁ、助かった。弾切らしちゃってさ。悪いけど少し分けてくれないかい?」

 赤熱した銃身から煙を吹かせながら近寄る西沢。吊り下げている鞄は風に煽られ

 不規則に揺れ動いていた。中身は空の様だ。

 

「知り合いなの? 先生も知ってるみたいだけど」

 ヴァルトルートが下原に訊ねる。反応からしてエディータも知る人物であるらしい。

「一時期リバウで有った事が有るんですよ。お久しぶりです!」

 思いも寄らぬ場所での再開。懐かしい記憶が脳裏をよぎる。

 

「あ? おー・・・どちらさまでしたっけ?」

 が、西沢は全く以って覚えていなかった。

「下原定子ですっ! 坂本少佐の下で一緒に飛んでたじゃないですか!」

「そうだっけ? どうも人の顔を覚えるのは苦手でさ・・・」

 申し訳なさそうに頭を掻きながら苦笑いを浮かべる西沢だった。

 

「ま、細かい事は後。こっから南南西でネウロイに追われてる人が居てね。

 飛行型を撃ち落とすのに精一杯で正直手が足りない。手を貸してくれないかな?」

「え? レーダーには反応が無い筈・・・」

「あー、原因判明。奴ら、体に炭を貼り付けてるわよ」

 会話の途中でクロークが口を挟んだ。

 

 ステルス機にはフェライト鉄や炭素材が含まれている塗料を使用する。波長が

 短い電波ならば反射を防ぐ事が出来るので、低空飛行かつ簡易的でもレーダー

 対策を整えていたなら発見が遅れた理由にはなるだろう。尤も、この時代では

 それを知る者は皆無であったが。

 

「奴らには飛べる奴は居ないんだろう? なら、此処は任せて行きな!」

 アウロラがサムズアップで応える。傭兵達のマーキングも有って普段とは

 桁違いに効率的な狩りを行えている。一人くらいは残して欲しいが、戦力を

 惜しんで要救助者が死んだら本末転倒だ。

 

「くっちゃべってる暇が有ったら始末してくれ。ゴキブリ退治は面倒なんでな」

 テザートラップを撒きながら進路妨害を主軸に立ち回るグラップル。

 六十トンにも及ぶ重装甲のタイタンすら拘束できる電磁石の罠。

 掛かればネウロイとて地面に釘付けだ。

 

「はい、ただ今!」

 近場に居たジョゼは拘束を解かんと暴れるネウロイへ鉛の雨を叩き込む。

 胴体が削れた所に電磁石の爆発。残った体をコア諸共吹き飛ばすのであった。

 

「魔法力ね・・・確かに奴ら相手なら有効らしいみたいね」

 精々ライフル弾程度の威力なのに易々と黒い装甲を削り砕くウィッチの攻撃。

 対物火器を撃ち込んで漸く痛痒と成り得る傭兵達の攻撃に等しい威力を出せるとは

 驚嘆に値する。

 

「暇が有れば是非とも調べさせてもらいたいわ」

 飛び散る弾丸を尻目に援護射撃を叩き込むスティムの独り言が銃声に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、折角良い物見つけたと思ったんだけどね」

 弾薬箱の中で微かに淡い光を放つ弾丸。それは込められた

 魔法力が放つ輝きである。そんじょそこらの通常弾と異なり、

 一般的な男性兵士でもネウロイに痛打を与えられる魔導弾だ。

 

 トラックに据え付けられた長大なライフルの銃口からカバーが外される。

 象撃ち銃ことラティm/39。本体だけでも重量にして50キロ近い対物火器。

 その弾倉へ淡く輝く弾丸が押し込まれた。ボルトが反時計回りに回され、

 射撃体勢が整う。

 

「全員手榴弾用意! まずは転ばせてやれ!」

 ルフィナは唸りを上げるエンジンの音に負けない様に張り上げた。

 悪路を走行中のトラックから高速で動くネウロイを撃ち抜くのは

 魔女であっても困難。なので、最初は動きを止める。

 

「まだだ、もうちょい・・・今だ!」

 合図と共に手榴弾が一斉に地面へと叩きつけられる。元よりネウロイ相手に

 手榴弾は有効打にならない。だが、凍り付いた地面と雪を吹き飛ばして泥を

 作り出す事は可能だ。爆風と熱で即席の泥濘が出来上がった。

 

 細長いネウロイの足は地面に多大な負荷を掛ける。硬い氷なら踏み砕いて

 進む事も出来るだろうが、中途半端に水気を帯びた氷の上では逆効果だ。

 ずるりと横滑りを起こして転び、後続を巻き込んで団子状態となった。

 

「よし、撃ちまくれ! 姉御の仕事を奪ってやれ!」

 男衆が銃を手に取り、縺れ込んだネウロイの集団へ弾丸を叩き込む。

 揺れる車の上からでは照準もブレるが、手数に任せた面での攻撃なら

 少なからず命中する。被弾した小型ネウロイが弾けて沈黙していった。

 

「いいぞ、そのまま踏ん張りな! もうすぐパーティ会場だかんね!」

 反動だけで車体が浮かび上がりかねないラティの反動。20mmが空を切り裂いて

 ネウロイに飛び込めば、コアの有無に関わらず触れる全てを貫く。巻き込んだ

 樹木が支えを失い、軋みながら大地へ倒れ伏した。

 

「印が見えたぞ!」

 運転席から怒鳴り声。雪と木が支配する地上で一際目立つ

 真っ赤なペンキを塗りたくられた看板が視界の端を流れて消えた。

 地雷原の警告表示だ。

 

「分かった、場所を変わりな。アタイが誘導する」

 銃座を離れて運転席の上に陣取り、生えた尻尾を一直線に伸ばして耳を澄ます。

 研ぎ澄まされた耳からは地面から反射する音を余さず捉えていた。

 

「左、左、直進、左! 氷河を越えたら右に切れ!」

 矢継ぎ早にルフィナが指示を出し、林道を突っ切るトラック集団。

 幾多に分かれた道をネウロイが異なる進路で追跡するも、大半が

 地雷を踏んで吹っ飛んでいる。

 

 地雷と言えど、種類も用途も色々。此処オラーシャでは振り積もる雪と木々が

 中型ネウロイの進行を妨げるので、戦車級と称される陸上型より小回りの利く

 小型対策がメインである。その代表格たる跳躍地雷は地面から少しだけ針金が

 地面から出ている。彼女は針金からの反射音で位置を把握しているのだ。

 

「だーっ! しつこいのは油汚れだけで充分だっての!」

 撃てども爆破しても追って来るネウロイ。男連中が悪態を

 吐く間にも増援が次々と迫ってくる。このままではジリ貧。

 そんな事はルフィナとて承知の上だ。

 

「安心しな。手は打ってあるんだからね」

 わざわざ貴重な物資に爆弾を仕掛けたり、地雷原を突っ切るような真似を

 何の計算も無く行った訳では無い。例え広大なオラーシャの大地であれど、

 派手な狼煙が見えればどうなるか。

 

「居たぞ! ぶちのめせ!」

 上から重く低い音が降り注ぐ。一拍遅れて金属同士が弾ける衝撃が木々を揺らした。

 枝葉に絡みついた残雪は、振動に耐えかね地に落ちる。茶色く汚された轍の痕跡が

 再び白く染め直された。

 

「ほーら、壊し屋共が到着だ」

 出撃の度に何かしら壊していく悪名高き三人。ブレイクウィッチーズの到着だ。

「後は向こうで始末してくれる。とっとと尻尾を巻いて逃げるんだよ」

 文字通りに自身の長い尻尾を丸め、ルフィナは鮫の如く笑みを浮かべたのであった。



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