グリフィンの戦術人形はキワモノか!? (杜甫kuresu)
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禁酒戒厳令

ヤ ン デ レ で は な い



「指揮官、今日の資源収支の概算が終わりましたよ」

「流石AR15だ、速さが違いますよ」

 

 そうですか、と素っ気なく言ったつもりのようだがAR15の機嫌は良さそうだ。口元は薄っすらと弧を描く。

 まるで俺は彼女の機嫌取りに褒めたみたいに見えるかもしれないが、実際仕事が早い。特に計算とかの事務的な処理――――――勿論戦闘もそうだ。端的に言うと優秀。

 しかし評価を盛んに気にしたりする辺り、承認欲求は強いらしい。AR15は俺よりかよっぽど社会で役に立ってるし、見た目も良いはずだがどうよその辺り。

 

 それはさておき、書類を受け取って印を押す。2062年だろうがこういう所を手作業でさせるのは変わらない。

 

「大体プラスみたいですね、大規模な小隊を動かさなかったからでしょうか」

「そうだな~、本部の支給もガバガバですしな~…………ん?」

 

 適当に眺めていると、雑費として何だか妙な減りがある。今日は何かが壊れたとかお菓子を追加購入したとかは無いはずだが。

 AR15に手招き。

 

「ちょいちょい」

「はい? どうかしましたか」

「いや、この雑費って何に――――――」

 

 AR15が下手な作り笑いを始めた。

――――――――はあはあ? 『また』か。

 

「い、いえ。えーっと、それはですね…………」

 

 かなり嘘が下手なことで有名なAR15は必死で取り繕おうとするが、あんまり哀れなので早急に核心を突きに行く。

 

「酒か」

「ちちちちちチガイマスヨ、ソンナワケナイジャナイデスカ」

「じゃあまた俺と密着するための手錠購入ですか」

「それは昨日買いました!」

 

 止めて?

 彼女、何が面白いのか寝てる間に俺の手と自分の手を手錠で繋いじゃう女子なのだ。朝っぱらからニコニコしてくれるのは嬉しいのだが、一体どうして俺が犯罪者みたいな雰囲気を醸さないと笑ってくれないのやら。ドSか?

 

 ってか怪しすぎる。また酒か、酒なんだろ。

――ああーっと、知らない人にちゃんと解説しておこうか。これは決してAR15がベロベロによって異常行動を繰り広げる…………という訳じゃない。ちょっと見たいね、でも庇っているのは恐らくHK416というARだ。

 

 アイツは――――まあアイツは言葉にするならやばい奴の部類なのだが、酒が入るとヤバイのだ。どうヤバイのかはご想像におまかせするがヤバイ、俺は飲ませたことを後悔した経験が有るのだ。

 そして割と飲みたがる。ストレス発散に良いとか言ってたが、俺はアイツが酒を飲む時に傍には居たくないというのは確か。

 

 露骨に目を逸らして棒読みまでされると、何だか俺が仲間はずれにされてるような気分すらする。

 

「あのな、君達が飲酒しようがタバコふかせようがとやかく言うつもりはないんだ。勿論ヤクだとか犯罪はいかんのだが、そこら辺は寛容であって然るべきだというのが俺の意見だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが416と酒の組み合わせは例外「しきかぁ~ん! わたしのことよんだかしら~!?」ダメだったか~!」

 

 メンドクサイ(HK416)のが来た! ああもう思いっきり酒瓶持ってるよ俺帰っていいかな!?

 ドアを開けながら千鳥足で華麗なステップを決めていらっしゃられる、こちらの銀髪の君がHK416となります。ああもう、せっかくタイトめの黒基調が似合ってるのにフィールドジャケットのボタンも外してる。隠れたたわわの谷間とこんにちわ、内心俺はゴメンナサイの土下座である。

 

 完璧に酔っ払っているその姿に目を覆いながらAR15に問う。

 

「これがお望みか、AR15さんよ?」

「416に銃を突きつけられながら『何? M16A1は飲めて私は飲めないとでも? 失礼な人形ね私はアイツより優秀なのよそうでなければ指揮官に見放されてるわ大体(ry』って詰め寄られたら私も怖いんですよ!?」

「それは…………お気の毒に」

 

 ってか別に能力なんぞ伸ばしようあるし、根気あるかの方が重要だぞ。そして簡単に見捨てるほど落ちぶれてねえ。

 

「笑いながら言われても説得力ありませんから!」

「まあ俺に手錠かけたりする罰だなガハハハ!」

 

 いやだって想像するだけで面白いじゃん。

 多分、壁ドンからの顎に顎を突きつけカチ上げるようなえげつないゴクドゥーな絵面だったんだと思う。何か責められなくなってきたな。

 

「しきかん、わたしをさしおいてほかのおんなとしゃべるとはいいどきょうしてるわね!」

「ああ~悪かった悪かった。それで何用かな、416嬢」

 

 ぷくーっと頬をふくらませる416はアレだ、可愛いんだが油断しちゃあいけねえぜジョースターさん。

 確かに酒が入っていない時より格段に可愛いとは思うのだがそういう事じゃない。

 

「そう! そうなのよしきかん、きいて!」

「え~はいはい。何ですか?」

「きょうM16A1のところにいったら――――――」

 

 どうする? こっから先の『私M16A1大好きなんだけど全然振り向いてくれないのよどうすれば良いかしら!?』というのを延々と遠回しにした愚痴を聞きたい?

 

 

 

 

 

 

 

 聞きたいのか…………アンタは中々に物好きだな。いや、変態の間違いか?

 

 

 

 

 

 

 

例の妹(M4A1)とやらと喋ってたのよいえそれは全くどうでも良いことよまさかいつもより楽しそうなアイツを見て妬いたりなんてするわけ無いでしょ馬鹿にしないで私もあんな風に喋りたいとか全然思ってる訳無いでしょ何言わせてるのよそれでまあ邪魔しても面白くないから観察してたんだけど話が終わったら私のところに歩いてきたアイツニコニコしながらなんて言ったと思う『待っててくれたのか、悪い』何を勘違いしてるのかしらアイツ万分の一の確率でも私が待っていると思う時点でとんだ思い上がりよ誰かしらねあんなお花畑な思考ルーチンを設計した馬鹿はああペルシカね絶対あの女の研究室にいつか手榴弾打ち込んでやるわ取り敢えずまあそこまでは私の寛大な慈悲で許すとするわ次は『お前、慣れてくると何か妹みたいだな』って何よまず慣れてるんじゃないわよべべべべべ別に嬉しいとかそういうのじゃないわよ勘違いしないで頂戴というかどうせならもっと別の関係にして欲しいと言うかいえ何でもないわ気の迷いよきっとそう間違いないわ私最近疲れてるのよいやまあ敢えて言うならせめて同年代扱いして欲しいと言うか大体私達そんなに差なんて無いのにアイツ私のこと子供扱いして何というか凄く嫌なのよ!」

「属性が多い、急に普通に喋ってる風を装うな、ペルシカさんを許してやれ、俺じゃなくてM16姉さんにツンデレキメてこい、そして――――――もうさっさと付き合えよお前

 

 ツッコミが追いつかないんだよ、というか一挙手一投足でデレデレするなもう付き合えよお前ら(怒涛の二度目)。416喋ってる最中も迫真の百面相だったし。

 付き合え、という単語に416のみならずAR15まで凄くアワアワとして顔を赤くし始める。この娘達初心にも程が有るんじゃないかな、変な男に騙されないか俺心配だよ。

 

「つつつつ付き合うって指揮官!? 二体とも人形じゃない、いえ別に指揮官と人形が付き合えないとかそういう話ではなくてむしろ私は一向に構わないんですけどそういう問題じゃなくて…………

「そ、そうよ!? 体は許しても心まで許しはしないわ!? 私の誠意は示したはずよ、指揮官!」

「まるで俺を監視しているように「そうだけど」行く先々に出てきて『次はコッチをした方が良くないかしら』とか提案してくるストーカー的なアレは決して誠意じゃないちょっと待て体は許してしまったんですかHK416さん????

 

 というか今スルーしちゃいけないセリフをスルーした気がするが今日もボクは元気です。

 

「アッ」

 

 逆上せたみたいに更に顔が赤く茹でダコの様相を呈していく。図星だな、ウン。

 俺以外のメンツが全員すげえ顔でそれぞれジタバタし始める。君らもう分かったんだけど落ち着かないか――――――とか言った所で止まらないしまずは二人が吐き出すもん吐き出して落ち着くのを待とう。

 

「違うわ!? この前酔っ払って絡んできたアイツにお酒を飲まされたと思ったら一緒にベットに裸で入っていただけよ決して何も起きてないわ誤解よ!?」

「もろダメやんけ、っていうか自分でもさっき分かってたくない? 現実受け入れろ、オラッ!」

「いやよ! 初めて裸体を見せる相手ぐらい決めているもの!」

 

 テンションがエロ同人じみてきた。

 というか何見せる相手って。色んな意味で気になる単語過ぎる。

 

「違う、違う違う違う違う!」

 

 ああダメだ狂気じみた目つきしてる。しかも何処向いてるのかも分かんねえ、これはどうしようもねえな。

 こうなった416はもうダメだ。特定のことが絡まなければむしろ良識的な部類ですら有るのだが、今回はその特定のことの一つたるM16A1が絡んでしまっていた。

 いや俺でもそのシチュエーション思い出すと流石に頭抱えるけどさ。

 

 倒れ伏して頭を掻き始めるヤベー方はまあ酔って絡んでくるよりは――――――と思っていたのだが、AR15が爆弾を投げた。核爆発レベルの。

 

「え? M16、この前も他の人形を自分の部屋に連れ込んでなかったかしら?」

「聞きたくなかった部下達の恋愛事情。いよいよ俺の頭もパーリナイッ☆」

 

 確かに気質は有るがマジで連れ込んでるとは。別に同意の上なら良いんだけどさ、俺は416に関してはちょっと議論の余地が有ると思うんだよね。

 錯乱した416が突如立ち上がったかと思うと、ヨロヨロと俺のズボンの裾を引いて縋ってくる。

 

「違う、違うのよ指揮官…………決してあんな奴に魂は売り渡していないわ。私は完璧よ、指揮官の武器となりうる存在よ、間違いないわ、ええ絶対に。ねえそうでしょう?」

「あ、うん。それはまあそうなんじゃねえかな――――――多分

「よね!?」

「ソウダナ416スッゲーナー可愛クテ強イシ最高ダナー!」

「そ、そう。可愛い、可愛いのね……………そう」

 

 何だこの空間は、俺もうこのまま倒れ伏して全てを忘れたい。

 とはいえ、何やら満足したらしい416はもじもじとしてぺたりと座り込んだのでひとまずミッション完了。このまま個室までちゃんと運んでやってだな――――――そうは問屋が卸さなかった。

 

 開きっぱなしのドアからひょこりと顔が飛び出る。

 

「ああもうどなたでしょうか帰れやがれですよ」

 

 その既に酔っ払ってるとしか思えない蕩けた隻眼を見て俺は血の気が引いた。陽気なふりをしていてもダメなもんはダメっすね、ヤバイ。

 

「よう指揮官! これから飲むんだが「絶対既に飲んでるよね」今日も一杯どうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「M16A1…………ッ! あの夜何をしたのか吐きなさい! 今すぐよ!?」

 

 何処からともなく手榴弾を取り出して掴みかかろうとする416と

 

「あぁ~? にしても今日も元気がいいな、416!」

 

 と陽気に大笑いして頭を撫でに行こうとする(神経を逆撫でするとも言う)M16A1を俺が羽交い締めして止める。

 416はエゲツない腕力で抵抗するから頼む――――――それだけ簡潔にアイコンタクトで伝えたのが功を奏した、416はしっかりとAR15に羽交い締めされてる――――――おおー揺れてる揺れてる。

 

「ちょっと、離しなさい! アイツを殺さなきゃ!」

「尚更駄目に決まってるでしょ!? 指揮官の命令を背くぐらいなら私は死ぬわ!」

「いや死ななくていいから。それより416、胸最高に揺れてるぞ」

 

 空気を読まずに言ってみた発言が416の精神にダイレクトアタック! 次回! 416、死す! 死闘(デュエル)スタンバイ!

 急に自分の胸部にすーっと視線を落とした416の目からハイライトが消えた。死んだな。

 

「ターゲット変更、指揮官をコロス」

「…………指揮官、やっぱり胸ですか。こんな脂肪の塊に拘っている内は二流です、身を以て学んでください」

「!!!!???? お前…………死ぬのか?」

「死ぬのは指揮官ですよ」

「無慈悲!?」

 

 スッとAR15の力が緩んだかと思うと416が弾丸のように此方に突っ込んでくる。銀髪が舞うのがまるで残像だ、速すぎる。

 残り5m、1m、即死距離。

 

「おのれさすがAR小隊AR小隊きたない!」

「フッ」

「煩いわよ黙って死ね! 死体ぐらいは自室で愛でてあげるわ!」

 

 愛情歪みすぎてて受け止めきれん。

 

 羞恥に呑まれた416が大きく姿勢を落として踏み込むと、左から恐ろしい速度の手刀が俺の喉に飛んでくる。

 流石に走馬灯を悟って「走馬灯はラッキースケベのまとめ集にして下さい」とお祈りを捧げる。

 

「駄目だ死ぬならせめて太ももでロックして多分気持ち良いから――――――ッ!?」

「よく喋るな指揮官は、にしても物騒だ」

 

 死ななかった。

 正確にはM16が俺めがけて飛んできたスーパー手刀を片手で止めていた。よくあのスピードの手首を掴むぜ。

 

「流石姐さん! 俺に出来ないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれるあこがれるゥ!?」

「そう褒めるなよ、へへ」

 

 あ、ちょっと嬉しそう。この気持ち――――――――もしかして恋?

 冗談は置いておくが、416の腕を止めているM16の腕力は相当なものだと思う。416は下がりも踏み込みも出来ないらしく、ぐぬぬと歯を見せて露骨に悔しがる。

 

「どきなさいよ! 死ななきゃ分かんない物もあるわ!」

「死んだら終わりじゃないんですかねそれ」

 

 お前みたいに皆が皆スペア有ると思うなよ。

 

「まあまあ、取り敢えず一杯飲んで落ち着けよ。急に酒置いて走っていきやがって」

「姐さんが飲ませたのかよフッザケんな!?」

「なはは~、それ程でも有るぜ」

 

 キメ顔しても許せないんだよなあ…………。

 なんてことしてくれやがってるんですかねえ? 思いっきりマッチポンプじゃねえか姐さんのファン辞めます。

 

「指揮官が私を呼んだのよ!? 行かなければ万死に値するわ!?」

「いやそんな事は」

「それはそうだと思うわ、私も同意よ416!」

 

 AR15が416とグータッチし始めて手に負えない。何の相互理解を得たと言うんだ?

 

「そんな、事はですね…………何でこの人達俺がそんな鬼畜外道だと思ってるの」

「鬼畜外道ってか、指揮官にかかってるウェイトが重いよな」

「そういうもん?」

「そういうもんだ」

 

 もう良いや。そういうことにしとこう。

 この後例の浮気相手が来て

 

「この泥棒猫!」

 

 とか昼ドラでしかほぼ聞かない面白フレーズを416から聞けることになったのだが諸事情有って(ダレそうなので)割愛とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、416の事?」

「ああ」

「変なこと聞くんだな、それで何が知りたいんだ?」

 

 後日。間違いなく素面であることを確認してM16A1に仕事の合間に聞いてみたのだが、返答が

 

「ベッドで裸だった理由だよ、二人で何してたんだよ」

「ええ? 確か裸族の布教じゃなかったかねえ…………」

「 紛 ら わ し い  」

「まず裸族って呼び方がおかしいだろ!? あの開放感をもっと広めて一般化を図りたいんだ! 手始めに酔ってる416からだな…………」

 

 とうとう俺は失笑した。俺は倫理教育からしなくちゃなんねえのか?

 乾いた笑いを上げながら操り人形みたいな動きになっていると、M16A1が急に神妙な顔つきに変わる。

 

「あ、そういやだな。AR15が『明後日あたりが気が緩んでるはず…………!』とか呟きながら一人でドス黒い笑いしてたぞ、手錠買ってなかったか?」

「俺、最近生きてけるのか不安になってきた」

 

 馬鹿だなー、とM16A1が俺の背中をバシバシと叩く。悪いんだけど、マジで痛かった。

 

「指揮官、死ぬならとっくに死んでる筈さ。ダイジョーブ、生きてるって」

「成る程やっぱ姐さんはアッタマ良いー! そういう事ではない!?

 

 あの奇行が許されてるのって俺も悪いけどこの人達が止めないにも有ると思う。

 

「最近はあのまま旅行行きたいらしいぞ。独り言ダダ漏れで面白いな―アイツ」

「無理だろ、どんな旅行先でも事情聴取されるわ。普通に誘えば普通に行くのにな、そしてアンタは止めような?」

「いやぁ、指揮官は皆誘っちゃうからなあ…………当分AR15も苦労するらしい」

 

 ええやん、皆で旅行。どうせ俺が出るだけで大事だし皆来ればいいだろ?

 こう言ったら溜息をつかれた。何でさ。




正直ね、書いてる途中で「あ、面子がヤンデレ勢と被ってるぅ」とか思ったけど知るか。俺が好きなのは重い女でヤンデレとはちょい違うんだよゴメンナサイ見逃して。

ところでAR15が半端じゃなく好きなんですよね何がというと評価を求めてくるあの感じだと言ってしまえば簡単なんですが対抗心が強かったり誓約する時の「え、私ですか?」みたいな反応から滲み出る自己評価の低さがツボなんですよねこういう娘は現実でも依存気質になりがちでヤンデレと言うより過剰に相手を求めてしまって自己嫌悪に陥ったりすると思うこれが( ・∀・)イイ!!

好きなのは精神的にズッタズタにされても涙目で睨んでくるようなシチュです。心の輝きがピークに来るよね。是非とも416、AR15辺りのちょっとエチィイラストをですね…………(そろそろ辞めておけ)。

投稿が勢い過ぎたので修正とかこっそり消えてたら「ああ…………」って思って欲しい。
後書きまでがエンターテイメント。後書きだけでもタイトル回収して本文で出来てなくても許しを請う。


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お前も「家族」だ

良いタイトルが思いつかないときは無題です。気が向いたらタイトルが付きます。今回は偶々直前で思いつきました。
恐ろしい話、今回はアルトリウス戦のBGM流して書きました。

「勃ったまま死ね!」とか言っちゃったやつが居るけどアレは天才だと思うよ俺。


「はい、チェック」

「げぇ。お前強すぎだろ」

 

 突然だが、俺はUMP45という小悪魔系サイコ女子にチェスで勝ったことがない。

 さすが司令塔と素直に褒めてやる真っ直ぐなハートを俺が持っていれば全く問題はなかったが、俺は意地汚くそして負けず嫌いだった。

 

「指揮官も飽きないね、結果も見えてるのに」

「まだだ! まだ終わらんよ!」

「ふーん、そうしちゃうんだ。はい、チェックメイト」

「なぁ!?」

 

 この通り完璧に遊ばれている。多分だけど45がボードゲーム上手い云々以前に俺がど下手くそなんだろうなあとは思う。

 時間が空いた時にはそこそこの頻度で勝負を挑んでいるわけだが、大抵の場合この通り掌の上で遊ばれた挙げ句負けるのがオチだ。俺が不意を突けると言ったら精々本物の自殺行為みたいな指し方ぐらいのもの。

 

 やれやれ、と小馬鹿にしたように肩を竦められる。

 

「これだけ負けてるんだから本とか読んでみれば? 私はそんなの読んでないけど」

「くぅ、尚更そんなもんに頼って堪るか! ムカつくなあ!」

 

 俺も俺だとは思うがこういう風に煽られると意地でも一泡吹かせたくなるのだ。ヘリアンにもこの前『貴官の長所はその馬――――――無鉄砲さに有る』と言われた所だ、アンタ絶対馬鹿って言おうとしたよな自覚は有る。

 

 この通り合コン23連敗の女にも馬鹿呼ばわりされる俺だが、やっぱりプライドだけは一丁前に有るのである。

 こんな勝負は興味なし、とでも言わんばかりにテーブルから立った45がニヤニヤと此方を見る。

 

「そう言えば416をひん剥いて「でかい!」とか言って興奮したってホント?」

「誰ですかそんな大ぼらを吹いたアホは!?」

「いや、嘘だよ? 随分動揺してるけど、まさか本当にやっちゃったの~?」

「 し て ま せ ん ! 」

 

 俺で遊ぶんじゃねえよこの小娘ぇ!?

 45はゲーム上だけにとどまらず精神的にも俺を攻撃する側である。この通り俺をからかっては日々の潤い代わりにしている疑惑があり、最近は流石に嫌気が差してきている所だ。

 

「416がでかいのは圧倒的事実だが「やらし~」それに叫んで興奮とかしてねえよ。胸揺れてるぞって言ったらキレられただけだ」

「誰でも怒るよそれ」

「そう? 別に揉ませてくれとかは言ってないぞ」

「当然だと思う、というか近寄らないで」

 

 そうか、そういうものか。以後気をつける、覚えてる内は。

 

「でもお前揉むようなビビデバビデブゥッ!?

 

 喋り切る前にビンタされた。酷い。

 明らかに人力ではない重たすぎる一撃に外れそうな顎の安否を確認していると、涙で滲んだ視界なりに45の昏く蔑み混じりの無機質な瞳が見える。

 

 嫌われない内に謝っておく。

 

「悪かった、俺が悪かったから機嫌を治してくれ。お前が居ないと俺は困るんだ」

 

 少なくとも俺がチェスで勝つまではな。

 さっきまでの黒い表情は何処へやら、若干あたふたとし始める。忙しいやつだな、いやいつも妹とか416の後始末で忙しそうでは有るけども。

 

「そ、そうなんだ。居ないと困るんだ、へー。ふーん」

「そうだな。(居ない相手には勝てないから)俺にとって必要不可欠な存在だよ」

「へ~!? そうなんだ~!?」

 

 そんな視線を右往左往させる事実ではあるまいに。

 やたらと照れながら返答に困って俯いている45。何だ気色悪い、お前チェスで俺を蹂躙することにそこまでの意義を見出してたのか? 俺もちょっとびっくりだよ。

 

「指揮官、私がどういう人形か分かってそういう事言ってる?」

「――――――? いやまあ面白いやつだよな。戦闘中のヤバイ感じ、結構好きだぞ」

「好き!?」

「うん、ストレートなやつは好きだ」

 

 変に自制効かせるより良い方向に異常性発揮してて俺としては非常に好ましいと感じるね。

 非ぬ方向に制御しきれなかったり、我慢我慢と続くよりはアレのほうがよっぽど良い。理解は出来ないが共感はするし、あの程度を一側面と受け取れないようなナイーブなやつなら俺は指揮官になってない。

 

 45が何故か顔を真赤にしてノックアウトされている。そんな歯の浮くようなセリフ言ってないだろ、大体俺はそこまで顔が良くないし。

 

「どうした? オーバークロックでもしてたのか?」

「もう良い、分かってる。指揮官はそういう人なんだよね、私も馬鹿じゃないから」

「は?」

 

 何の話だかさっぱりだ。時々45はこうやってよく分からないまま一人で話を進めていく悪い癖が有る。

 この前も「ナイン、良いよね…………」って振ったらエゲツない文字数/秒でタイプライター宜しくカタカタと呪詛じみた何かを延々と語られたときは俺も苦笑いしか出来なかった。地味にシスコンだ、愛されてるよなあナイン。

 

 ナインについて思いを馳せていると扉が蹴破るような勢いで開く。案の定AR15だ。

 

「浮気ですか指揮官!」

「浮気も何も本命も居なけりゃ浮気相手も居ない」

「私というものが有りながら!?」

「ごめんちょっと何を言ってるか分からない」

 

 AR15はただの副官なのだが何故本妻が如き言動を繰り返しているのだろう。

 

「私と指揮官はどう見ても「いやいや、どー見ても指揮官は普通に接してるだけだよ」黙りなさいこの異教徒!」

「異教徒と来たぞ45、俺は困ってる」

「私も困ってるよー」

 

 一体主教に否定された宗教に何の価値が有るってんだー。というか45さんキッチリ笑ってますけど全然困ってないだろ。

 誰に唆されたのか異教徒を切って捨てたAR15。異教徒にヘリクツ説法の一つもできない宗教に価値なぞ無いのではなかろうかと思いつつ、主教自ら説得に乗り出す。

 

「あのなAR15? 俺は特定の個人と関係を持つ気はないからな」

「複数と関係を持つということですか!?」

「え、あ、いやそういう事では」

「面白いこと言うのね指揮官、私そういうドス黒い男って好きだよ」

 

 お前はよく分からん性癖を暴露するんじゃねえ!

 

「大体一人に尽くすって簡単なようですっごく難しいことだし私的には複数に食いつくぐらいで素に見えるというかある意味安心感有るって思うんだけど何かオカシイかな」

「徹頭徹尾おかしかった。待ってろ、マトモな男を何時か連れてきてやる」

「マトモじゃない男は此処に居るよね?」

「そうだな、でもマトモじゃねえ」

 

 浮気ぐせはないつもりだがマトモなつもりもない。

 アレか、人間不信の延長線みたいな感じなんだろうか。べーつに軍のおっさんならともかく普通のやつってそんな性根腐ったやつばっかでもないと思うんだけどなあ、まあこんな会社しか知らないとそれぐらいになるんだろうか。

 

「一夫多妻制はこの時勢では致し方無い事ですが、公言されてしまうと複雑な気分ですね…………」

「何を言ってるんだ」

「指揮官ってばケダモノー!」

「45は火種を撒くな!」

 

 この愉快犯め。

 火種(AR15)(45)()が揃ってさあ大変。俺は薪の王だった…………? 世界を延命させなきゃ。

 

 鎮火活動にいよいよ沈みそうなガラスハートに襲いかかるは天井の通気口から這い出てきた416のトチ狂ったぐるぐる目。なんでお前其処から出てくるんだよ。

 

「私を脱がせたのかしら指揮官、しかも興奮したの!?」

「いやだいぶ前の話題を掘り返すな、違うと言っておろうに」

「興奮してくれなかったの!?」

「日に日に残念になっていくな、416よ」

 

 何だよ興奮してくれなかったのって。興奮しなくちゃならない義務でも在るのか俺。

 当然のごとく俺にバッサリ切られた416は、ハンチング帽を引き裂かんばかりに頭の上で引っ張りながら瞳孔をガン開きしてブツブツとなにか言い始めた。

 

い……! !」

「私の指揮官よ、あんたに興奮するわけ無いでしょ!」

 

 AR15の反論がバカ丸出しである。ってか416はどうやってあんな狂ったような怪奇ボイスを発してるんだ。ああでも誰も突っ込まないから俺もスルーしたほうが良いんだろうなコレ。

 

「コイツラの何が駄目かと言うとこういう感じが駄目なんだよ、よくて妹止まり?」

「成る程成る程、つまり私は?」

「お前も射程圏内じゃねえよ」

 

 45はちぇ、とあまり可愛くない感じのガチな舌打ちをした。お前俺の前で取り繕うってことを忘れてしまったよな、別に俺は良いんだけどさ。

 定期的にそういうよく分からんやり取りを俺に持ちかけてくるが、45に関しては100%俺に異性的な興味ゼロだと思う。

 

 ほならね? もっと「アピールしてるふりアピール」じゃなくて「アピール」するでしょって話ですよ、45はこの異教徒弾圧系アサルトライフルと露出狂アサルトライフルよりは常識自体はあるし、要領もいいからな。

 

「即答しなくても良いじゃない」

「俺の中ではSMG、AR、HGは軒並み同年代か妹だから」

「今日から皆家族なんですか!? ファミパンオッケーなんですか!? ヤッター!」

「「特に関係ないから帰りなさいナイン」」

「家族はこんな冷たいわけないじゃないですか! ヤダー!!!!!!!」

 

 ナイン、何の脈絡も無いどころか『まるで最初から居たかのように』横に居て叫びだすの怖いから辞めような。




鈍感描写に手練感が有るのは作者自体がモノホンだからです。男女構わず好意が全く分からず人生で苦労している、碌なもんじゃねえよコレ。そもそもモテないからな!

UMP45ね実は持ってないんですけど単純に分類しちゃうと「お、大人を馬鹿にしやがって」系の女子高生みたいな空気なのに戦闘中の口の悪さでコイツヤベーなってなる隠れクレイジー小悪魔な訳ですが依存美少女の才気も有るのではと小生は具申しますね自分がヤベー奴だって自覚が有るタイプは大抵一発大きいイベントが入れば重度の依存を起こすというのが個人的見解なんですよ理解されないし共感されないことを分かってるような要領の良いタイプは尚更自分を包み込むようなタイプにズブズブ依存すると思いますねというか今何回も書き直してるけどそんな感じに近い短編を投稿予定なんですよ取り敢えずUMP45は良いぞ。

にしても一話で評価バーが出来てUA1300超えって毎度ながらギャグは撮れ高が良すぎる傾向がある、ウデマエが追いつかない。
アバーズレーン同様、狂った感想もお待ちしております。返しテキトーだけど。

今回あとがきとかミスりまくってる。注意散漫。


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よろしい、ならば抱擁だ

ウマーモン! ウマーモン! ウマーモン!

AR15の「真っ暗で怖いよ……。誰か、助けて……。」に「昼戦やぞ…………何言うてんねや」って思ってたけど漸く目が潰れてると気づけました。ゲス顔が止まらない、趣味が悪いぞ。
ゴメンな、防御演習で目潰し決めてる悪い人は俺だ…………では本編。


「指揮官さん指揮官さん、私とハグして下さるかしら?」

「Why!? 何でだ」

 

 何時も通りもぬけの殻だったデータルームでサボっていると、やってくるなりKar98kがニコニコと提案してきた。

 Kar98k。自己申告では162cmと言うが実際は明らかに150cm程度、尚ヒールで誤魔化している模様。軍人と豪奢の合間のような華美な服装と裏腹に、とても子供っぽい要素の多いRFの一人だ。

 

 お嬢様育ちな思考設計が成されているらしく、俺を驚かす突飛な発言の尽きない彼女であるが取り敢えず事情聴取。相互理解に必要なのは情報共有だ。

 

「好きな人とハグをすると一日分のストレスが解消されるんですって」

「うん、どういう事だ」

「私の事は嫌いかしら?」

 

 いや、そうではなくて。異世界人との会話じみた妙なズレに頭を抱える。

――くっそこれ妙に逃げても逃げ切れない奴だよな、此処は素直に応じておくか。

 

「オーケー、オーケー理解した。何秒がご所望かねお嬢さん」

「ええっと、3分ぐらい?」

「暑苦しいわ。まあ良いけど」

 

 早く早くと手を広げて歓迎ポーズを取っているKar。これ何か凄え色々間違ってるけど文句言ったら誰かから尻にでけえ大剣とかぶっ刺されて死にそうだし黙っておこう。

 今更拒否できそうもないので必死に背伸びしているKarにそっと抱きつく。変に触ったら腰をボッキリ折りそうで怖い、多分折られるのは俺なんだろうが。

 

 率直な感想を言うと――――――コートめっちゃもこもこってぐらいかな! 残念、華奢だなとか言ってやる感性もなければもこもこしすぎてよく分からんのですよ!

 

「ふふ、どうでしょうか?」

「柔らかくてもこもこ。これはハマる」

「そうでしょうそうでしょう、もっと褒めてくださっても良いのよ?」

 

 むっ。唐突に閃いた。

 思わず口元が歪に歪むのを触って確認した後、背中をポンポンと叩きながら

 

「Karちゃんはマジで可愛いと思うよ俺」

「――――――!?」

「個人的に背が低い女の子の方が俺は好きなんだよな、いや別に庇護欲をそそるとか上から目線なのではなくサイズ感は可愛さに直結すると言うか」

「っ!? っ!? っっっ!?」

「これで銃の腕前も抜群とか誓約するしかねえな困ったなー!」

 

 効いてる効いてる。意外と攻めに回るのも楽しいもんだな。

――いやーね? 誰に言い訳するわけでもないけども俺はあくまで「過剰に褒めただけ」なのであって、決して罵倒も意地悪もしていないわけですよ。

 人を褒めるという行為は優しい人間の行動だと思いがちだが、実のところ見いだせる俺スゲーだとか褒めてる事に快感を覚える変態も居る。要は楽しいんですよ。

 

 Karは見事に反応しやすい部類だったらしく、ギュッと強く抱き締めてくる。これは効いているぞ、分かりやすいゲージが有るのは良い。

 

「な、何ですの急に!? 私をからかうのはお止めになって!?」

「事実を述べただけだ、うん」

 

 いつも何だかんだ巻き込まれる側だから偶には加害者がしたい。そういう時も有る。

 嬉し恥ずか死に陥ったKarは俺の胸に顔を埋めて表情を隠す。ああ~、堪らねえぜ。

 

 人形の変な側面ばかり見てるとまるで俺はヤバイヤツと一つ屋根の下で生きているようだが、忘れないでほしいのが基本は人形が異常な程の美人であるということ。俺が積極的にアクションを起こしてこういう表情を引き出せば、まるでバラ色の人生を送っているように見えなくもないのだ。

 だが現実は非情である。そんなホクホクばかりかと言うとそうでもない、一々言わないだけ。言うと悲惨だから。

 

「しきかぁーん、またサボりかな――――――おっと。これは不倫現場ということだよね?」

 

 そう。例えば45に目撃されるとか。

 

「チッガーウ!」

「いやでもこれは完璧に『同僚との不倫キス現場を探偵に抑えられているのに妻に対して必死で言い訳する予定で焦る思考で屁理屈を捏ね続ける夫』みたいな顔だよ、私詳しいから」

「昼ドラでも見たのか45」

 

 そんな訳ないでしょ、とヘラリと笑うのは良いがお前って出まかせの時はサイドテール弄ってるの気づいてるか?

 まあ知られたくないとのことなので詮索はしまい。ムカついた時に的確に急所として突きに行くからな――――――何だ、俺が見逃す人種だとでも? だとしたらアンタちょっと優しすぎるな。

 

「合意の上ですから、ね?」

 

 重要参考人が要らぬことを嘯き出した。

 45の口元が釣り上がる。不味いコイツ尾ひれをつけて焚きつける気だ、多分416とかAR15とかを!

 

「待て待てKarちゃん!?」

「指揮官さんは私の事、嫌い…………だったかしら…………」

「そうです俺達は合意の上だよバカヤロウ!」

 

 そんな悲しそうな眼でコッチを見るな! 幾ら俺でも言葉に困るだろうが!

 45のやつ状況は完全に理解してやがるのにこの笑顔。ううーん敵なら顔の原型は留めていないぞ☆

 

 後ろに回していた手からボイスレコーダーを見せてくる。用意周到どころじゃねえぞお前、もはやライターの才能すら感じるわ。俺がいい仕事場所紹介してやれば嬉々として大企業を二つや三つ潰す気がする。

 

「じゃ、今のデータはバラ撒いておくね」

「おっと待てい、ナインが俺にだけ教えてくれた『ヒミツ』に興味はないか」

「話だけは聞いてあげよっかな」

 

 三行堕ち。ナインは最強、ハッキリ分かんだね。

 明らかにデレデレした笑顔でこちらににじり寄ってくる45はサイコクレイジーレズという単語がピッタリなそれだ。凄え強い魚雷とか開幕で撃ちそう(小並感)。

 

――今のは実はハッタリでもなくて、だからといってKarにお聞かせ出来る内容でもない。

 

「ちょっと耳貸せ、大声で言えない」

「唆るじゃない、しょうもない内容だったらネットにばら撒くからね」

「た、多分大丈夫だろう」

 

 内容はご想像にお任せしておくが、俺の耳打ちが終わると45が明らかに上気した顔で

 

「9!? 話は夜にたっぷりと身体に聞かせてもらうからね!?」

 

 とかなり歪んだ笑顔を携えて走っていった――――――という辺りで大体ご想像いただきたい。

 というかアイツ何をする気なんだ。拷問? それとも………………いやいや、まっさか~。

 

 

 

 

 

 

 

「という事が有っただけだ」

「浮気ですね、指揮官」

「魔女狩りと大差ないこの切り捨て方よな」

 

 AR15に見つかりました(いつもの)(実質正妻)(逃げたい現実)(誓約で差をつけろ)。

 彼女の監視網をくぐり抜けるのは至難の業だ。いや、監視網と言うより「よく分からないが揉めるとAR15が発見してしまう『運命力』」みたいなものから逃げるのが難しい。人はコレをご都合主義と呼ぶ。

 

「つ、付き合ってもないのにハグだなんて! しかも三分も!」

「アメリカ出身が何ほざいてんだよ」

「そういう問題じゃありません!」

 

 大人の観点から言わせてもらって下らん、実に下らん。ハグだのファーストキスだの童貞だのにぶっちゃけて言って価値はない。過ぎてしまえばそんなものの価値というのは幻想である。

 

――とは思うのだが、年頃の精神状態なのでそう言ってやるのは酷だ。夢は見ていいと思う。

 

「何だ、したいって言うならしてもいいぞ」

「そういう問題でも――――――――?????????」

「本気で困惑するところかコレ」

 

 今にも「僕は今、冷静さを欠こうとしています」とでも言いそうな狼狽しきった顔で固まってしまう。

 

「えっと、それはどういう…………」

「いやそのまんまだけど」

 

 ほら、自称正妻みたいだからさ。それぐらい平気だと思って。

 Kar曰くハグはストレス軽減に役立つのだから、他人に過敏になりがちなAR15としては願ってもないだろう。まさか嫌われてはいまい、嫌われてたら泣く。

 

 口を覆ってオタオタと目線を泳がせて考え込んでしまうAR15。地蔵を決め込んでいたKarがニコニコとしながら彼女の手を取る。

 

「何を迷うことがありますの?」

「い、いえ…………ですがまだそういうのは速いと言うかその――――――」

 

 慌てふためくAR15をKarがそっと抱き寄せる。

 

「K、Karさん!?」

「100回好きを重ねるよりも、こうした方が好意は伝わるものではなくて?」

「そ、それはそうですが…………」

 

 少しだけ紅潮しながら肩に顔を埋めるAR15。え、ウチのARってこんな可愛いんだ…………!?

 Karの方もさながら母親のごとく(居もしないもので例えるのはアレなのだが、本当にそういう表情なのだ)柔らかく微笑んで背中を擦ってやっている。俺の母親もアレぐらい綺麗で優しかったらなあ…………俺ももうちょっと慈悲が有ったかもしれない。

 

「手錠は無理だがハグなら受け止められるぞ」

「ほら、指揮官さんもああ言っていることですし」

 

 特殊性癖は対応しかねるが別にハグぐらいはね?

 何だかんだAR15の異常行動の大半は俺がどうのこうのより「人間相手の承認欲求」から来ているもので、多分だが相手は誰でも良いんだと思うのよな。

 

 早く自信を持ってもらえると有り難いね、俺は人形みたいにその気になれば無限に生きていけるって訳でもないし。

 

「ほれほれ、胸板は厚いと評判だぞ」

「指揮官さんその評判どうやって流れたのかしら」

「9と416に脱がされたんだよ言わせんな恥ずかしい」

 

 45は唆したり碌な事をせん――――――――待て。ナイン大丈夫かなあ……………………ま、ダイジョーブっしょ!

 何が有ったかとか聞かないで、俺もあんまり思い出したくはないねアレは。

 

 AR15は疑心暗鬼じみた怪訝な表情で俺を見る。

 

「妙に甘くありませんか」

「馬鹿言え俺は原則甘々だわ」

 

 甘々でも看過できない事例が大量に起きてるんだよ。

 個性と逸脱に関して俺は世界広しと言えど実に寛容な部類の上司だとご理解していただきたい。普通殺人手刀で決めにかかる部下を野放しにするような奴居ねえよ、ギャグ小説だからじゃなくて俺の懐の広さだぞマジで。

 

――――というとだいぶ傲慢だけども、実際甘い。

 AR15は貰ってきた子犬みたいに何度か俺の眼を見て何か読み取ろうとしていたが、まったくもって俺の思考が「無」と気づいてしまったのかゆっくりと歩み寄ってくる。

 面倒なので俺から抱きついた、どうせこうなる。

 

「ちょ、ちょっと――――――ッ!」

「ながいくだりはおれきらいなのよなー」

 

 Kar程ではないがアウターがかなりもこもこしている。皆もこもこし過ぎだな、俺がハグ魔になりそう。

 しかしKarもそうだったのだが体の線が本当に細いこと細いこと。手を回してみると何だか不安になってくる、やっぱ本気で蹴ったら複雑骨折するだろ――――――実際は俺が複雑骨折するが。

 

 どうでも良いが凄い強く抱きついてくる、愛が重い。

 

「AR15さん? 俺の腰がポッキリいかれるんだけど」

「嫌です」

「あらあら、愛されているようですわね」

 

 そういう問題か?

 この後密着状態で五分ほど仕事をしたのだが、45に見られて見事に事故ったのは別の話。




K a r ち ゃ ん 可 愛 く な い ?
別の作品で散々書いてるだろとか言われても私は語りますよまずKarちゃんはイラストの銃との比率から背がえげつなく低いんですがどうしてもイメージと合わないので150cmで勘弁してください実際は140とかそんなレベル個人的には指揮官へのお高く止まろうとして微妙に空回りする人懐っこいキャラを忠実に書くのも吝かではないのですがどうせなのでAR15にお姉ちゃんムーブをかます形にしました皆さん的にはKarちゃんは「お姉様」か「お嬢様」かどちらでしょうか僕個人としてはどちらでもありどちらでもないとだけ語らせていただきましょうところで200連は超えたけど何時になったらKarちゃんは俺とご挨拶してくれるの?

今回は可愛いにだいぶポイント振ってると思う。使ってるキャラが今の所14体ぐらいなのでレベリング終わるまでキャラチェンジは我慢して下さい、無理。
私の小説のテンションって勇なまの魔王に近いもの有るよね。

指揮官はウザく腹が立ちモテてる理由を本気で問いただしたくなるように作ってます。そうしないとモテムーブの後のあまりの不運が不憫に見えるからね。ちなみにお父さんポジを意識してます。


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45錯誤①

別にギャグだけとは言っていない。何時も通りアズレンの新情報でエンプラがハブられてて笑いながら悲しんでる私だ。

UMP45すき…………持ってないけど――――――ところがどっこい漸く出ました。小悪魔JKみたいなの割と好きなんですよね。
ベルセルクのSign聞いてた。は?って思うのは正常だから大丈夫。


 実は、指揮官を殺そうとしたことが有る。

 比喩だとか物語上のインパクト重視のセリフでも何でも無く、字面通りに殺そうとした。それも計画的に、人形の思考回路の抜け道を見つけるところまで丁寧にこなして。

 

 今日はそういう私と、あの奇っ怪な指揮官の話になるというわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官! 早く、早くアレ何とかしてってば!?」

「俺も虫苦手なんだよ!?」

 

 45が俺にしがみついてくる、それはまあ良いにしても俺が身動きが取れない。何でこんながっちりロックして移動を阻害してくるんだよ、何か間違えてるぞお前。

 俺達はさっきまで何時も通りにチェスをして、当然のように俺が惨敗をしていたのだが突然「ヤツ」が来た。

 

 漆黒の体躯に、捉えられぬ疾さを持つ触覚おぞましき「ヤツ」だ――――――名前を考えるだけでも悍ましい! 言わないぞ、俺はピー音が入らないとしてもあの忌まわしい名前は口にしない!

 

「窓に! 窓にぃ!」

 

 45が指差しながら服ごと腹の贅肉を握りしめる。痛い、半端じゃなく痛いから辞めろ!

 俺が手を軽く叩いてもさっぱり力は緩まない、どころか段々と力が強くなってきたのでこっちも激しく叩くが全く収まらない。痛い痛い痛い痛い!

 

 ヤツは暫く直上方向に進行を続けていたが、何を思い立ったのかピタリと動きが止まる。

 

「し、指揮官! はやくアレ、えっとアレだよ! 何だっけなあ、思い出せない!」

「ゴ、ゴ○ジェットか!?」

「それそれ、どこにやっちゃったの!?」

 

 何処だっけ、最近全然見かけなかったから全然覚えてねえよ!

 頭を抱えながら記憶の糸を辿ろうとしてみるがさっぱりだ、横から45が潤んだ瞳のまま背中をバシバシ叩いてくるがショック療法で思い出せたら苦労しねえから!?

 

 考えているうちにもヤツは冒涜的に触覚をうねらせる。見れば見るほどに不快、これから死角が怖くて眠れねえな。アイツティンダロスの猟犬か何かかよ!?

 

「ねえ、まだ!? まだなの指揮官!?」

「わーってるよ! えっと…………どこだっけな…………!」

 

 ゴキ○ェットは俺が管理してる。虫嫌いな人形が乱用した結果、雑費で済ませられなくなった前例が有る故な。

 という訳で45が焦るのは頷ける。生殺与奪権を持つ人間がこうでは急かして当然だ。

 

――駄目だ思い出せない! ええいままよ、適当に散策を始める。

 

「ちょっと指揮官、まさか忘れちゃったの!?」

「仕方ねえだろ! 最近平和だったんだからよぉ!」

 

 腹の肉ごと俺を振り回さないで、焦るのは分かるけどやめて俺が死ぬ。

 自分の机を片っ端から開けていくが何も出てこない。ヘリアンの合コン失敗記録等々の「本気で下らないカウントをしまくった紙切れ」とか、人形が欲しがってたものの一覧とかくっそ下らん表彰の紙ばっかり出てくる。此処ゴミしか置いてねえな。

 

 特に表彰、コレまあ実績を認めてってのも有るんだけど形而上のものも多くて――――――

 

「指揮官真面目に探してよ!」

「ひえっ!? あ、いやスンマセン」

 

 涙目でこっちを睨む――――というか嘆願じみた表情で急かしてくる。うわ何かゴメン。

 

「悪かったよ、探すからそうこの世の絶望を見たような顔をするんじゃない。俺まで心が痛い」

「わ”か”っ”て”る”な”ら”は”や”く”し”て”よ”ぉ”!」

「わ、悪かったって」

 

 そんな虫苦手だと思わないだろ俺だって。

 完全に緊張の糸の限界でボロボロ泣き出す45に一周回って俺だけクールダウンしてしまう。おんなのこまもらなきゃ()。

 

 あまりにも珍しい光景に困惑庇護欲ついでに嗜虐心が沸々と沸き起こる。嗜虐心は――――――いや、これは止めてやろう。というか俺も後で痛い目を見そう。

 

「は”や”く”!!!!!!!!」

「うおおおおおおハイハイハイ!?」

「はいは一回!」

「オカンか!?」

 

 見つからない、ヤバイ見つからんぞ! 横から切羽詰まった催促が飛んでくるのも有って結局正常な判断が出来てないなコレは!

――――――そう。俺は油断していた。

 

 よりにもよって武器を探すあまり、背後から迫ってくる「ヤツ」に気が付かなかった――。

 

「ああああああああああああ飛んできてるあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

「――――――っ!?」

 

 45に至っては声すら出ていない、まさか「ヤツ」が飛ぶとは思わなかったんだ。

 今後一生記憶から消えないトラウマに震えながら、俺は自らの反射神経の限界を――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと――――――よいしょっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷めた声がしたかと思うと、「ヤツ」が煌めきと共に明後日へと消えていく。

 すぐさまナイフが壁に突き刺さるような軽い音――――――いや、本当に壁に刺さってる。「ヤツ」のえげつない死骸を縛り付けながら。

 

「…………え? え?」

 

 45が絞り出すような乾いた声で首をブンブンと横に振る。どうやら彼女にはナイフの飛んできた方向までちゃんともう理解できているらしい、腐っても戦場に生きる身か。

 

 俺もようやく理解してナイフの持ち主の方へと振り向く。

 

「指揮官、たかだかゴキブリくらいで動揺しすぎです」

「あ――――AR15か」

 

 AR15がため息混じりに俺を見ていた。

 そう言えばあのナイフって…………。俺がぐちゃぐちゃになった頭でようやく絞り出したマトモなセリフは

 

「パンツ千切れてないか?」

 

 だった。ドン引きされたね。

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官、ちょっと今のは酷いと思います…………!」

いびゃあずびゃんずびゃん(いやあすまんすまん)

 

 AR15に1発、45からは半狂乱気味に4発顔面パンチを貰った。悪かった、悪かったって――――――今日は謝り倒しだな。

――さて、種明かしと行こう。

 

 AR15の服…………というかパンツだな。実は面白い仕組みになってて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あ? 意味分かんねえって? 俺も分かんねえよ、でもそれが事実だ。だからAR15のナイフを無理に引っ張ると取れる。もう流石に下品に過ぎるから何度も言わんが取れる。

 

「指揮官、デリカシーゼロなの?」

「だからって4発も殴らんでも」

「今はAR15の方が指揮官より上なの!」

 

 マジかよ。俺がちゃちゃっと退治してれば惚れていた可能性が微レ存…………?

 実際AR15に抱きついていっている、当人が面倒そうに払うのがまた――――こう、ねえ? どっかではキマシタワーって言うんだっけ? キマシは通さないぞ。コレなんか違うわ。

 

「ちょっと、近い」

「そう言わずに」

「…………はぁ。指揮官以外にパーソナルスペースに入られるの嫌いなんだけど?」

「刺々しいところも好き」

 

 これは多分吊り橋効果ってやつだなコレ、極端過ぎる。性格の問題って感じじゃ無さそうだ。

 何かイメージと違って放置していても面白いんだが、俺達には急務が有った。いつまでも眺めてオモシレー!とか言ってる場合でもない。

 

「それでだなAR15」

「はい、どうかしましたか?」

 

 出来るだけ見ないようにしつつ、後ろの壁を指差す。

 

「あのナイフ及びアレを何とかしてくれるか? 俺無理だわ、というか並の男でも抵抗有るか賛否両論なグロ画像だわ」

「はあ、なら散った体液も拭き取っておきますね」

「わざわざ言うな生々しい」

 

 妙な所で男前になるな、お前はFF13のライト○ングか。

 45を軽く引っ剥がしたかと思うとティッシュを取り出すなり掃除にかかる。意外と振り払い方は優しかったな、コレは惚れる。いや惚れないけど。

 

「後、ゴキジェットはこの前UMP9が叫びながら使い切ってましたよ」

「アイツ何してんだよ、後で説教だな。俺に報告はして然るべきだろ」

 

 45が「多分言い難かったんだと思うよ」的な顔でこちらを見るがそういう問題じゃない。俺の金じゃないし、言いにくくても言わなきゃならんことも有る。逃げれんことには逃げてはならんのだ。

 

 金があれば冷凍スプレー式に変えたいぐらいなんだが、今言ったように俺の金ではないから躊躇ってしまうというわけだ。

 ガタガタと言っている内にAR15が作業を終わらせたようだ。

 

「まあ彼女の言い分も聞いてあげて下さいね、言い訳って取り敢えず聞いてもらうと気が楽にはなりますから」

「え、何今日のAR15気遣い完璧すぎて気色悪いんだけど」

 

 そこまで言いますか、と少しだけションボリとするAR15。いつもだったら謝るけど君いつもの言動がなあ…………。

 まあ次は気をつけようぐらいには思いつつ二人を観察していると、流石にAR15もナイフの惨状に顔を顰める。

 

「ちょっと…………洗ってきていいでしょうか?」

「どうぞどうぞ、俺はそんな事を責める上司じゃないし」

「では」

 

 あ、45もついていった。

 まあいっか。

 

 

 

 

 

 

 

「…………それで? あんた、何が目的なのよ」

「あれ? あっさりバレたね、やっぱりパピーは勘が鋭いようで」

「気づいてなかったら腰に手を回した時点で放り投げてるわよ」

 

 洗いたてのナイフを目の前で光らせてくる。おお怖い怖い。

――とはいえこんな事をされる筋合いはない。益はあれど損はない存在だよ、今回に限っては。

 

「いや、AR15って凄く強いな―と思って。何となく敵情視察?」

「何の敵なのよあんた」

「さあ何でしょ~?」

 

 おどけてみたが彼女は素っ気なく、かつ的確に表現して「強い」のは事実だ。

 さっきの遠投も目で追うのがやっとだった。そもそも自分ではない方向に向かっている小さいものにナイフを当てること自体、かなり異常だ。口ぶりを聞くにはそれ程集中して行った行動でもないようだし。

 投げた石を横から石を投げて弾かれたら怖いよね? アレってそういうものだし。

 

 強さについては勿論戦場で反吐が出るほど知っているけれど、やっぱり前で囮やってると見る機会があんまり無いから。

 

「私はあんたが指揮官にくっついてたのが気になるわよ!」

「怖い怖い。降参だから噛みつかないでね」

 

 誰が噛み付くものですか、と吐き捨てるように言われた。手厳しい。

 

「とはいえ付き合いが長いからね、AR15もそうなんじゃない?」

「それはそうだけど! そうだけど!」

「だったらAR15もチャンスをものにするべきだよ。吉良吉影もそう言ってる」

「キラ? 何だか空間把握が得意そうな名前ね」

 

 いやそれは知らないけど。つい最近読んだ古い本が頭をよぎって。

 AR15が急に水を掬って顔にバシャリとかける。こっちまで散ってきたよ…………。

 

「そういうつけ込むやり方は駄目なのよ! 何か駄目、異論なんて認めないんだから!」

「青いなあ、ちょっと羨ましいよ私」

 

 まあ他所様のスタンスに文句は言わないけど。

 時々AR15はピュアに過ぎて眩しい時がある。別に良いんだけど、良いんだけど言いしれぬ敗北感って有るよね。こう、忘れてしまったものだ。

 

 AR15の髪先から水が滴り落ちると、AR15が頬を染めながら顔をブンブンと振る。

 

「だ、大体だ、だだだ抱きついた事ないし!」

「そう、どうでもいいかな」

「言わせといて何なのよあんた!?」

 

 いや、勝手に言ったよね。

 自爆したかと思うとこっちを恨めしげに睨んでくるのは滑稽を通り越して愛嬌だ。指揮官が甘くなるわけだね、これは強みだ。チャンスを活かせてるんじゃない? 属性を発揮する的な意味で。

 

「というかあんたと指揮官ってどういう関係なのよ。ずっと気になってたんだけど」

「あ? 聞いちゃう? 凄く誘導されてる感がするけど聞いちゃうんだ?」

「何に誘導されてるっていうのよ」

 

 何だかあんまり好きになれ無さそうな人、神さまとかかな?(逆に神になりたいわ)

――だけど隠すほどの話でもないんだよね。まあ言ったら私がどんな目に遭うかと思うと言わないほうが良い所は多分にある。

 

 AR15は返答待ちでじっとりとこちらを見つめている。変に逃げるのも無理か。

 

「…………まあ、言ったら絶対AR15に刺されるから言いたくなかったんだけど」

「どんな過去抱えてんのよ」

「でもさっきの件、感謝してるのは本当だからちょっと話しちゃおうかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が指揮官を殺そうとした時の話」

 

 さてさて人形の殺人劇。はじまりはじまり。

 語りは私、UMP45が務めていくよ。




45が独身アパートおじさんの家に転がり込んできた小悪魔JKみたいな言動になってきた。個人的には愛嬌があって好きな部類ですけど若干原作と離れたかなあ。
え、45のSDキャラって指先で銃立てようとしたりするのかよ…………誓約指輪要るかい?

ドルフロは実力派二次創作多くて…………許せないよねえ!?
くそ、俺は普通に嫉妬するんだよ巫山戯やがって。嘘(ではない)ですどんどん書いて、俺も読みたい。

そういやAR15が好きな理由なんですけど多分FF13のライトニングに凄くかぶってるからなんですよね、ライトニングも凄い好き。まあアッチは坂本真綾だけど。


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カプセルと紙束とライフルと①

Kar様が降臨なされたので緊急特番です。
ド派手に前後編! 何故45の話を書かないのかは「Not Found」の後書きとかで察して欲しい!(ダイマ)

では、参る。


「指揮官さんの経歴、ですか?」

「そうそう」

 

 押しかけ人形もとい我が基地最低のトリックスターの45は今日も元気に情報収集中である。

 眼の前で俺の個人情報聞きに行くってどうなのよお前、聞かれて困る素性はないけどさ。

 

 Karがこちらをチラリと見て俺の様子を窺う。いや忖度しろとは言ってねえから、好きに判断してくれ。

 

「私も勿論知っていますけど、そういう事は本人に聞くものですよ」

「Karちゃんのケチ~」

「ケ、ケチ…………!?」

 

 凄くどうでも良いコラムだが、Karは自分より年下の相手に嫌われるのが駄目だ。どうやらお姉さん扱いされるのが密かな願望らしい、お前その背で【自主規制】。

 小さく手を握りしめて唸るKarを見事に放置、45がトテトテとこっちに歩いてくる。

 

「じゃあ教えてよ」

「お前よく正面勝負で答えると思ったな」

「当たるも八卦、当たらぬも八卦みたいな?」

 

 発想としては正解だ、グリフィンドールに50点。

 アイコンタクトで一人で悶てるKarを何とかしろと言ってはみるが45の真っ直ぐな瞳が

 

『やっておいてなんだけど、ああなると収集つかないんだよね』

 

 と切実に訴えかけてくる。テメエなあ…………。

 Karと45は何というか、仲が良いと言うか良い遊び相手になっている。年上ヅラをしたいKarとしては甘えてくる(純正100%猫被っている疑惑は置いておいて)45は有り難いし、楽に情報をポイポイ出してくる最古参のKarは利用しない手がない存在だ。

 

 ちなみにこの前9や416、驚くことにG11まで混ぜてババ抜きをしているのを見たが、Karはかなり顔に出ていた。遊んでもらっているのは実のところKarらしい。

 

「お前がなんとかしろ」

「しょうがないなあ、指揮官は」

 

 いやお前のせいだろ!?

 何故か俺が悪いやつみたいなムードに持ち込まれながら45が戻っていく。もう慣れてきてるのが虚しい話なのだが、この程度でガアガアと五分も十分も言い争いになっていてはこの基地は暴言の宝物庫になってしまう。

 

 45がションボリしたまま隅に居るKarの肩をつつく。

 

「ところでKarちゃん、最近後衛の動きを意識して動けて無くてさ。できればどんな動きしてるのか教えて欲しいな~って」

「…………藪から棒ですわね」

 

 45が手を合わせて上目遣いでもう一発。

 

「お願い! Karちゃんにしか頼めないの!」

 

 勝ったな。

 

「そ、そうでしたか~。「私にしか」頼めないのですか、そうですか! それは仕方ありませんね、時間は何時頃がよろしくて!?」

「コイツチョロいわ~(えっとね、大体――――)」

「最後の最後でミスったか45!?」

 

 両方共アホだから駄目だった!?

 かなり舞い上がっていたKarの顔が石像みたいに固まった、今のは気の毒過ぎる。お前もお前だ45、後で倫理的欠如を正さねばならんようだな?

 

 ジト目で人形不信に入ったKarがスススと俺の服の裾を掴む。

 

「いやあの俺で隠れても無理だから」

「45ちゃんに苛められましたの、助けて下さる?」

「苛めてはないよ私」

 

 苛めてはないな、貶めたのは確かだ。

 45が猛獣に近寄る飼育員のような様相を見せつつもジリリジリリと距離を詰める。お前こういう時の雰囲気が怖いんだよ。

 

 基本的にろくな事を考えてないから悪人面とまで言わなくても、45の表情はそれだけ他者を警戒させがちなのだ。

 

「今のは冗談、冗談なんだよKarちゃん」

「そう言っていつも意地悪をするではありませんか! 私だってもう騙されませんからね!」

 

 いやもう名実ともに45が上手なんだなあと感心するぐらいだ。

 元々45がKarに甘えている絵面自体想像しがたいものは有ったが、俺の予想通りという他ない。

 

 しかし意外と気に入った相手以外を相手にしないのが45な辺り、嫌いなわけではないのだろう。ピュアッピュアなKarとはえらいあべこべな組み合わせだが関係性とは往々にしてそういうものだ。

 

「もうしないから、ね?」

 

 うわちょっと涙目になってる、コイツ妙な演技ばっかり上手いな。だが仲違いさせるのも俺的には好きじゃないから大声で指摘してやる気にもなれんぞ、ぐぬぬぬぬ…………。

 

 怒涛の名演技にKarも若干揺らいでる。だからお前チョロいって言われるんだな大体理解したわ。

 二人とも基地では古い付き合いとはいえ、こんな感じで日々Karが踊らされている舞台裏というのはちょっと見てみたい所は有る。偶には加担してみるか?

 

「45も反省してるみたいだし、許してやったら良いんじゃないか?」

「指揮官さんまで絆されましたの!? いつもいつもこんな感じでうやむやになって、忘れた頃にこういう事が起きているわ。もう駄目ったら駄目です! 駄目!」

 

 じゃあ何で逆にさっきはチョロかったんだよお前、鳥なのか? 三歩歩いたら忘れるのか?

 おっと45選手迫真の嗚咽ゥ! お前は一体何でそんな妙なスキルを獲得してるんだ、俺はお前を社会に出す日が来るのがちょっとだけ怖いかな!? いや鉄血とずっと戦えとも言わんけども!?

 

 オレオレ詐欺じみた勢いだけの騙しが続く。

 

「もうしないからぁ…………!」

「ぐっ――――――何だかもうしないんじゃないか、って思いそうになりますわね…………!」

 

 何だろうこの意味不明な攻防。

 もう長いので割愛しておくと端的に言って仲直りしてた、これぞ真の泣き落とし。でめたしでめたし――――――なのか? いやもうよー分からんわ。

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうして私までダウトするハメになるのよ」

 

 AR15が不満げにカードを二枚放る。数字は5。

 9も呼んで4人でカードゲームと持ち込んでいた、Karちゃんの機嫌直しにはコレに限る。何だかんだ遊ぶのが好きなようだ。

 

 3枚置く。

 

「3枚…………何だか怪しいですわね」

「奇遇ですね、Karさん。私も怪しいと思ってました」

 

 何で二人で意気投合してるんだろうか、これは蹴落としあうゲームでは?

 ちなみに余裕で嘘だ。残念ながら私の運はネザーマントルぐらい低くて、まるで手札に恵まれた試しがない。

 

 まあダウトで恵まれてる手札って何か、と聞かれると唸る展開になるのだけどそれは割愛。

 

「どうかな~? 偶々持ってるかもしれないよ、冷静になってみてよ。今回6以降って一回しか出されてないでしょ?」

 

 私がすぐにダウト宣言されるからね。ゲームが進まない。

 とはいえ疑われるのは分かる。だって今場に出てるのはたったの7枚、看破された所で私が致命的なダメージは負わないからだ。ちょっとぐらい博打に出る可能性もそれは考慮されるべきだ。

 

――普段の言動? やだなあ、私は清廉潔白な正直者だよ?

 AR15が9を矢面に立たせる。

 

「9、だんまり決め込むつもり?」

「………………あ、ごめん!? お昼に食べた秋刀魚のこと考えてたよ!?」

「ウッソだろ私の愛すべき妹よ」

 

 AR15は溜息をつき、Karちゃんが事の一部始終を9に説明する。

 ふんふん、と分かっているのかちょっぴり不安な笑顔で話を聞き終えたかと思うと、躊躇なく

 

「じゃあダウト!」

 

 踏み切ってきた。笑顔が引きつる。

 

「ど、どういう風の吹き回しかな9…………」

「いや、私達の三人の手札と場に出てるのが計46枚でしょ? この中に一枚しか6が無い確率って、まあ有り得ないよね!」

 

 ニコニコと無軌道にやってのける最愛の妹に、私はあっさり降参した。

 ちなみに7のカードを9が全部持っていて、とうとう直感と運だけで9がいち早く上がってしまった。これには私も敵わない。

 

 

 

 

 

 

 

「ではカードを一番持っていた45ちゃんが私達にアイスということで」

「はいはい、私の負けです。分かりましたよ…………」

 

 弱い、他の二人が弱すぎる。しかも子供騙しなポーカーフェイスのポの字も無い酷い駆け引きでゲームも進まない。長くなりそうだったので途中で適当にカードを貰って負けておくことにした。

 カードが減ったら減ったでこちらへの煽りは大変酷かったので本気でカード地獄にしてやろうかとは思ったけど、本末転倒過ぎたので頑張って耐えた。変にレベルの高い煽りより小学生レベルの方がイラッと来る事って無い?

 

 とはいえこれで容赦を知っているので、致し方なく食堂でアイスを買う。

 

「にしても45がこの手の駆け引きで惨敗ってのも珍しいわね、手を抜いたんじゃないのあんた」

 

――――――君みたいな勘の良い人形はキライだよ。大人しく好意を受け取っておけばいいのに。

 

「猿も木から落ちるって言うしね、今日は調子が悪かったみたい」

「え~、でもこの前も45姉Karちゃん相手にてかgむぐぅ!?

 

 要らないことを言わない、知らないほうが幸せな事実は沢山有るわ。大事なことは何が事実かよりも何が幸せかに限るのよ。

 他二名は全く理解が追いついてなさげな間の抜けた顔で此方を見ている、セーフ。多分。

 

「それで、Karちゃんは指揮官と古い付き合いなんだっけ?」

「まだ聞きますか、答えませんよ?」

 

 きっぱりと断られる。意外とガード堅いなあ。

 

「おお、Karちゃんが珍しく真面目な顔してるよ45姉!」

「珍しくとは何ですか珍しくとは」

 

 ある特殊なグループ内(404小隊予定メンバー)では専らポンコツの扱いだからね、仕方ない。

 ちなみに具体的にどういう印象かと言うと416は

 

『扱いにくい上司みたいだわ、性格が良いから好感は持てるけど』

 

 G11は

 

『寝てると起こしてくるからニガテ』

 

 9は

 

『騒がしくて退屈しないよ!』

 

 私は――――――まあ、良い弄り相手ぐらいかな。

 この通り、当人が思うよりかなり面白くて頼りない人形というイメージが強い。いやG11は通常運転だから置いておいて、だ。

 

 Karちゃんが咎めるような視線を此方に送ってくる。

 

「私は好奇心に従ってるだけだよ。むしろ疑似人格として好ましいぐらいの一般的、且つ良好そのものな行動じゃない?」

「相変わらずそういう屁理屈は得意ですね。詮索はあまり褒められなくてよ?」

 

 急に本当に年上みたいなことを言ってくる。

 しかし残念ながら支持者は9だけではない。AR15の方も何処となーく目を逸らしつつも興味を示している、アレだけ経歴が語られないとなると皆否応なく興味をもつよね。

 

 AR15の方を見るなりKarちゃんが大きく溜息をつく。

 

「…………はぁ、AR15ちゃんまで」

「い、いや私は」

「こう期待の眼差しを送られると無碍にも出来ませんわ。私、畜生の類ではありませんもの」

 

 堕ちた。やっぱチョロいな。

 Karちゃんは気づけばペロリとアイスを平らげていた。カップをゴミ箱に捨ててしまう。

 

「場所を移しましょう。今回は特別ですからね?」

「とくべつ! スペシャル! いえーい!」

 

 いや其処ってそんな喜ぶところかな、9。いやサムズアップしてないでお姉ちゃんの視線の意味を忖度して欲しいな。

 小躍りして妙なステップを刻みだす9と、口には出さないが小さくガッツポーズをしているAR15を放置してKarちゃんが此方に歩いてくる。

 

 私の横を通り過ぎる直前ぐらい、Karちゃんが私の耳元に口を寄せる。

 

「それに、いつも手加減してもらっていますからね。偶には恩も返しませんと」

「なっ――――――気付いてたの?」

「ふふっ。またお相手してくださる?」

 

 何時も通りの柔らかい笑みを残したまま歩いていってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何か、むかつく」

「45姉?」

 

 お見通しって訳?




セリフの文章版を見て思ってたんですけどKar98kって会社的には「何を考えてるか分かりにくいけど黒いカリスマの有る妙なお嬢様キャラ」の予定だったんだけど茅野氏の演技が「若干ポンコツ気味の可愛いお姉ちゃん(笑)」みたいなポジになってるんですよね多分録ってみたら「それはそれで…………ええやん」みたいに会社もノリノリになったんだろうなあと思います俺も概ね同意です。

これを機にもう一個の「ドールズマトモじゃないん?」ももうちょい詰めて投稿する予定。

45とKarちゃんは仲が良いようですね、書いてる内にこうなってた。まあ二次創作ってありえないキャラ同士の絡みも醍醐味の一つだし、こういうのは積極的にやっていく予定です。
普段は遊ぶ側だけど偶に逆転する45――――――俺は天才か?

Karはメチャクチャこの手の賭け事は強いけど、45に合わせて手加減してるだけ。それぐらいの設定だったりする。
今更例のヤンデレ小説を読み漁ってる。リアルタイムで追えば良かった。


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45錯誤②

シリアスをどうぞ。長いです、期待してないのに本当に悪いと思う。
途中から久しぶりに書いたから書き方が別物だったらごめんね。いや今回は意図的に別物なんだけど。

高評価もらったから活用するためにちょっと急いだ。


 私は人間がかなりニガテだ。そもそも私達を作った所辺りが気に食わない。

 何故自分達ではなく、わざわざ擬似的な人格まで植え付けた私達に戦わせるのだろう。招いた厄災は自らの身を以て鎮めるのは昔から変わらない。人柱だってそういうものだった。

 

 だからニガテだ、責任を押し付けるような人間が。とても。

 

「おら! カプセルはまだ残ってるんだよオラァン!?」

「か、勘弁して…………もう満腹中枢が…………」

 

 んなもん人形に有るかいな、と口にスプーンを突っ込まれる。カプセルのフルーツ味をこれ程憎んだ日もなかなか無い。

 着任初日、流石にいきなり警戒されまいと明るく振る舞ってみたのは良いのだけどまさか――――――こんな狂気じみた量のカプセルを食べさせられるとは全くもって想定していなかった。

 

 しかも直前には目の回る量の作戦報告書も読まされている。この人は頭がオカシイんだとあの段階で気がついてはいたけど、このカプセル地獄はおかしいというより異常だ。勘弁して。

 

「うっ…………フルーツの味に反射的に嫌悪感が――――」

「後バケツ一個分! 歯ぁ食いしばれぇ!」

「食いしばったら食べれないんじゃない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気の毒だが正義(性能)の為だ!」

「誰もこんな正義要らないよ」

 

 押し付けがましいの正義じゃなくて独善っていうんだよ、私はこんな力は望んでない。

 デスクに戻った指揮官と対象的に、私は客用のソファに沈み込んでいた。酷い疲労感で力が入らない、変な所まで人間に似せること無いのに。

 

 コンコン、ノックの音に指揮官が二つ返事で了承する。出てきたのはやたらと大きな軍帽の銀髪の女――――――女? 背が凄く低いから、女なのか少女なのか判別に困る――――――。

 それについて考えると背筋がゾワゾワしてきたから終わりにするね。身長について触れたら駄目なのかな、どうなんだろうね。

 

「指揮官さん、要件は終わったかしら?」

「終わったぞ、ちょっと手こずったが全部食った」

 

 チラリと私の方を見たかと言うと、ちょっぴり申し訳なさげにニコリと笑う。育ちがよろしいようで。

 私は違法パーツもじゃんじゃん使ってるから似ても似つかないらしい――――――なんて、勝手に僻んでいると話が進んでいく。

 

「相変わらず惨いことをしますね。彼女の顔色、少し悪すぎではなくて?」

「まあそうだが、毎週やりますとかそういう訳でもないし多少はね?」

 

 毎週やってたら正直寝首をかかれても文句言えないよ、というか私が殺しに行く。

 話が通じねえや、なんて言って肩を竦める指揮官を放置して少女が此方に来ると、膝を折って挨拶をする。

 

「初めまして、私はRFタイプの戦術人形のMauser Karbiner 98 kurz。あなたのお名前は?」

「UMP45。聞きたいんだけど、指揮官っていつもこういう事してるの?」

 

 まあ、と苦笑いをしてお茶を濁してくる。いつもしてるんだ…………先行き不安で済まない得体のしれなさを感じる。

 速くも不信感を募らせていることを悟らせてしまったのか、もーぜる、えっと。からび?がフォローに入る、ゴメン忘れたから地の文にも書けないや。

 

「決して悪い人ではありませんから、あまり不安にならないでくださればと」

「ごめん、名前なんて言ったっけ?」

「あらあら、45ちゃんも中々マイペースな娘のようですわね~…………」

 

 そうかな? 何考えてるかわからない、とかなら言われそうだけど。

 

「モーゼルカラビーナアハトウントノインツィヒクルツですわ」

「長いね…………」

 

 次に忘れたら怒られそうだ。えっと、もーぜるからびーなあはと、あはと、あはと………………もういや。

 私の心中を察してしまったのか、妥協案が提示された。

 

「まあ皆さん覚えられない、というか長いですからKarちゃんと呼ばれています」

「成る程、Karちゃんか。それなら全然」

 

 考えた第一人者に感謝のキスでも送りたいね、うんうん。

 

「おーい待ってくれぇ! 女同士でいちゃついてないで俺も混ぜてくれ」

「別にいちゃついていませんわ、指揮官さんがやるだけやってリカバリーに入らないから」

「俺はやりっぱなしの主義なんだよ!」

「思いっきり最低じゃん」

 

 つい素が。

 しまったと思えばもう遅い。指揮官がどんよりとした空気を纏って部屋の隅で三角座りをしてしまう、この人メンドクサイね。

 

「45ちゃん、指揮官さんは俗にいう「雑魚メンタル」ですから」

「ガハァ!」

「あまり正論を言って」

「グフォオ!?」

「現実を見せないであげてもらえると助かるわ」

「殺せ! いっそ殺せ!?」

 

 そしてかなり騒がしい人だ。

 

 

 

 

 

 

 

「お前、人間嫌いだろ?」

「え~、急だね。どうして?」

 

 笑って返すと、指揮官の此方をじっと見つめてくる。

 どう見ても笑顔なんだけど、目を見るほどに何だか見透かされているような気持ち悪い感覚になる。とても趣味の悪い何かに目をつけられたような、得体の知れない嫌悪感。

 

「何となくだ、お前の笑い方があんまり胡散臭いからな」

「酷いなぁ。上司と部下ってまずは信頼関係からだよ?」

 

 もちろんそうだ、とケタケタ笑う。

 部屋を案内される途中、彼の世間話は妙な方向に逸れ出していた。元々掴みにくい性格には見えたがこれ程奇天烈なのは予想外。

 

「別にお前を信用してないんじゃない。俺は事実が知りたいだけさ」

「ふーん。別に嘘はつかないよ、私」

 

 喋らないだけで。

 言葉にしなければ良いだけだ。好意も、悪意も、敵意も、同意も。嫌いなものも、好きなものも彼は知らなくていい。

 

 知る意味がないから。

 

「まあ嫌なことは嫌と言えるようになることだ。誠意の証として、お前には『人の殺し方』を教えてやろう」

「何それ? 指揮官って結構面白い冗談を言うんだ――――――」

 

 刹那、ガンケースが開かれたと思うと彼の手の平に銃口が当たる。

 私にも見えない速度で行われたそれ、彼は仕上げと言わんばかりにトリガーに私の指を押し当てる。

 

「方法は至って単純。『無心で引き金を引くんだ』、何を撃つとかトリガーを引けばどうなるとか何も考えるな。そこにトリガーが有って、だから引く――――――それだけに集中すれば、人だろうが何だろうが人形のセーフティを無視して撃てる」

「…………冗談きついよ、指揮官」

 

 素早くセーフティが外される。彼の表情は笑っているものの全く面白さはない、それでいて真剣さが何処からか染み出していて一周回って不気味。

 

「試しに撃ってみろ。何、怪我の理由は俺が暴発させたで済ませてやる」

「――――――嫌だ、上官は撃てないよ」

 

 それは嘘じゃない。別に彼は何もしていない、無抵抗の人間をいきなり撃つ程倫理観が腐り落ちた覚えもない。

 指をトリガーから離そうとすると、指揮官は無理やり手を抑えつけてくる。

 

「いいや、お前は()()()()()()()()()()。人間嫌いが人間を裏切れないんじゃ、俺達はフェアじゃねえ」

「――――――馬鹿馬鹿しいなあ、私達がどうやったらフェアになるの? 面白い冗談だけは得意みたいだけど」

 

 人形と人間なんて、従属と支配者の関係を超えられない。

 私達は様々な方法で人間に対する牙をもがれている。それはどうやったって対等に戻せない。

 

 指揮官はしばらくそのまま固まっていたが、私がてこでもトリガーを引かないという決定をしているのが漸く理解できたのか

 

「…………まあ対等は無理だわな! はははは!」

 

 そう言って銃から手を離すと先に歩いていってしまう。

 

「……………………変な男」

 

 だけど、ちょっとだけ興味は湧いた。

 

 

 

 

 

 

 

 その興味が殺意に変わったのは、もう幾度か実戦を重ねて――――――丁度、人に銃を向けられるようになった頃。

 

 

 

 

 

 

 

「416を――――――――見捨てろ?」

 

 ある強襲作戦の事だ。鉄血がすぐさま引いてしまった事実を軽視して、結果的に鉄血に囲まれる中を走った。そんな最中、孤立してしまった彼女についての指示だ。

 

『そうだ。ムリなものはムリだろう、速く撤退しろ』

 

 その言葉は冷え切っているのに頭で熱を持ち、確かに残響する。

――いやいや、違う。熱くなっているのは私の思考だった。あの時私は、確かにそれに怒ったのだ。殆ど何かに怒ったことなんて無いから今でもあやふやに思うけど、彼の指揮に『反感』を覚えていた。

 

 走りながら通信にがなる。

 

「今メインフレームを破棄したら戦力は著しく落ちるよ! 此処は多少のリスクを承知で救援に向かったほうが――――――」

『阿呆。お前らは三体のダミーを持っているだろう、内何体が破壊された?』

 

 気づけば舌打ちをしていた。横で私を見ていた9の表情が、一体私がどんな顔をしていたのかを何となく察せてしまう。

 

――私達は実戦経験での評価に連れて、ニ体のダミー人形を与えられていた。

 UMP45、UMP9、HK416、G11。共通点は恐らくマトモな生産をされていないことだけだったが、当初から必ず四人をセットで行動させられていた。

 

 今回もそれは変わらず数はつまり十二体。私達のダミーを含めた合計は――――――五体。ダミーは416の一体だけだった。

 氷のような言葉の刃が振り下ろされる。

 

『416もダミーを持っているだろうが、正直それを回収してもロスによる帰還率の低下の方が懸念事項。お前らだけでも帰ってこい』

「でも――――――!」

『これは命令だ』

 

 じわりと汗が滴る錯覚、そんな訳はない。

 通信は切られた。走りながら考える、例えば416を助けるメリットを。今逃げ帰る事の無意味を。考えた、考えたがそれは――――――正解だった。

 

 様子を窺う9を他所に足ばかり速まった。私は珍しく動揺していて、もうどうにもならなかった。




45の設定をよく知らなかったけど最近察したので、仲間思いに路線変更をかけました。ちょっと過剰演出だった?
重々しくて申し訳ないが、私は人間同士の関係性の根源を書くのが好きでして。お付き合い戴けたならそれは何より。もうちょっとでちゃんと締めます。ダイジェストにしてしまったのもアレだね、腕不足だわ。本当は色々盛りたい、暇があればちゃんと外伝を書こうかな。

45は「臨界ダイバー」とか「ゴーゴー幽霊船」が似合う女ですね。俺は好きです、貴方はどう?
他には「ドラマツルギー」とかも良いね。となると9は「ナンセンス文学」か―――――ーもうやめよう、この話をすると長くなる。



お休みしてる間に皆更新してますねえ(一作品だけ目逸ししつつ)。日記形式流行ってるってマジ? 書くか!()
更新はちょいちょいするので気長に待ってて。

こっちでもぶっちゃけとくか。高評価もらうとやる気出ます、この作品を好きになったのが運の尽きと。
後もっと感想よこしてけ? くっそ雑でええんやぞ。


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こんなのお部屋じゃないわ! 豪奢な汚部屋よ!【前編】

だったら片付ければ良いだろ!
「最近過労なのでお休みします」――――UMP45

とのことなので別のお話。シリアスをガタガタやってたらジャンルを疑われるので仕方ねえ、テンションジェットコースターいえー!
今回は没を拾った話にして、多分結構面白い方。


「え、マジで入るけど良いのか?」

 

 じわりと頬から汗が滴った。緊迫感はドアノブのせいか、横目に映る笑顔の彼女のせいか。ともかく今の俺は簡単に言うと年甲斐もなく緊張していたのだ。

 ニコニコとして言外の了承、というよりゴーサインを出すのはKar98k。いつもながらの笑顔には確かに寛容な姿勢が見て取れるが、だからといって俺も不用心に出来ることではない。

 

 私室への入室、色めき立つ若者なら口にするだけでどよめく蠱惑のキーワードだな。俺は今、彼女の私室への入室を果たそうとしていたのである。

 

「さあさあ、遠慮なさらずに」

「ああうん。お前がそう言うなら良いけども…………」

 

 嘘だ、俺だって抵抗は有る。

 

 人形をあくまで機械と会計処理するグリフィンなのだが、意外なことにプライベートスペースには寛容だった。

 I.O.P社製の彼女達は高性能かつ脆弱、な性質上は『維持費』が掛かるものなのだがどうしてだろう。家具、アクセサリー、嗜好品も場合によってしっかりと支給される。正しくは給料という自由資金の形だが。

 

 減価償却し続ける彼女たちの部屋というのは――――――ああ、言い切ろう。「女の子の部屋」なのだ、決して機械の置き場所じゃない。Karならば例えば、大学生の女の子の私室に上がり込むのとかと同じと考えうる。

 

 間違いない。俺はそんな断定に頭をくらくらさせつつ、へっぴり腰のままドアノブをくるりと回す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、謝ってくれるか」

 

 さて、俺は絶句していた。何故か? いつも大概なラノベ展開に耐久してきた俺が溜息をつくなど、さぞ面倒事が起きたのだろうと思うかもしれないが当たりだ。

 

 Karがキョトンと首を傾げる。人形のような顔立ちのせいでついつい可愛く思うが、今は其れどころじゃねえんだよ。

 

「…………? えっと、私は何かしたかしら?」

 

 ああした、俺のただでさえ低いフラグ管理能力を悪用してフラグという鈍器で薙ぎに来たな。

 

 散らかる本やアルバムは装丁が革である辺り、高級そうだが地面に生えるように散乱してちゃあ値段なりの威厳など持ち合わせない。一応ブラシだとか女の子らしい用品は存在したが、これも散乱してると逆効果なのはご存知の通り。

 家具や物品の一つ一つの価値が読み取れるほど、その部屋はチープさを濃くしていた。高級品は手に余らせると逆効果を匂わせるもんだったらしい。

 

 まあお分かり頂けただろう。彼女は――――――うん。

 

「いや、お前。これは俗に言う汚部屋だろ」

 

 Kar98k。かつてドイツ軍で旧式ながら抜群の安定感と生産性で居座り続けた主力ライフル、イメージ上高貴で育ちが良い人形だと思う奴も多いかもな。

 

 さよならエレガント、こんにちわ要保護幼女。分かってはいたが背丈はなくとも気品あるその上っ面はただの見掛け倒し、その実ただの生活能力ゼロの残念ミニチュアライフル人形だったというわけだ。

 お前の取り柄は今日からモコモコでドイッチュなライフルって事だけだな。うん。

 

 

 

 

 

 

 

「掃除じゃ掃除じゃ! 貴様の汚部屋をお部屋に戻してくれる、敵は整理能力にあり!」

「汚部屋などと言わないでくださるかしら!? 全て配置に意味がありましてよ!?」

 

 Karがアワアワと具体的施策をすることなく俺を制止する。

 ええい辞めんか合法ロリお嬢様! 育ちの良さは外面でも持ち物でも無くて行動に表れてんだよ、一応羨望の眼差しを向けてる後輩に申し訳が立たんぞこれは!

 

「部屋が汚いやつはどいつもそう言うんだよ! 人を入れたいなら常識的な配置を覚えるんだな!」

 

 別に個人の休息の場として汚いだの綺麗だのは宗教。俺も別にね、そこまで言う気はない。ただゴミが多くて異臭がするだとか、変な虫湧いたら公共の福祉ってやつに従うまでのことだ。

 

 だがこのKarとかいうアホの子は俺を招いた。インヴァイトの上でこれだ、自覚までもないとなるとこの汚さは視覚公害、貴様は発生源! 世が世であるなら貴様など万死に値する!

 まずは散らばった資料らしき紙を乱暴に集める、見てるだけで歯軋りしそうだ。

 

「ああ!? ちゃんと分けていましたのよ、グチャグチャにしないで頂戴!?」

「知るかよ!? 既にグチャグチャだしそもそも紙は這いつくばって探し出すもんじゃねえんだよ!」

 

 何をどうしたら整理していると認識するんだねこれ。今どきNの方が部屋に統一性有るレベル。

 

 パワープレイを敢行した俺になりふりなど構わぬと決断してしまったのだろう、Karは俺にのしかかってくる。物理的な妨害が重くなってきた、何がって物理的に重かったってことね。

 

「Karちゃん重い」

「お、重い!? 失礼よ指揮官さん!?」

 

 だって重いんだもん! これを軽いと言えるのはイケメンなんかじゃねえ、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ!

 戦術人形は生体部品を使っているだけ有って、例えば胸とかお腹の感触は人間の其れだ。ああ、俺は焦る男じゃないぞ。諸事情有ってそういう設定なんだ(俺がそういうイケメン好きなんだよね)

 

 セックスアピールが出来るなんてI.O.P社は何がしたいんだ。民間用の流用だから、やっぱり「こだわり抜くことこそ親しみやすさなのさ!」なんてペルシカがノリノリで提唱したりした結果か? 待て、ペルシカってそういう仕事だったっけ。まあ良いや。

 

 まあそれでもやっぱり人間の器官って結構凄いものらしい。機械とか技術で代用すると結構重いんだと。俺達ってスゲー!

 

――――――ええっと、それでKarはちょっと本格的に落ち込んだらしい。妙な所まで人間だよな君ら…………。

 

「ああー、でも何か良いヌイグルミみたいだ。やっぱのしかかって良いよ、人肌恋しい年齢だからな…………」

「何だか恥ずかしいからやめですやめっ!」

「ええ…………天邪鬼、寂しい男に慰めの一つぐらいだなぁ」

 

 顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。精巧な表情の設定には思わずかのダ・ヴィンチもニッコリだろうが、作ったやつは本当に何を考えてるのだろう。人間らしさ、を追求したその真意は気にならなくもない。

 

 ところで退いてくれたのまでは助かったのだが、無視して整理に戻った俺が面白くないのか。さながら気の向いた猫のごとくしきりに妨害が入るようになる。面倒な奴め。

 俺の手を引っ張ったり体を揺すってきたり、耳元に息を吹きかけてきたり。子供かよお前は。

 

「辞めんかこの箱入り娘」

「べーっ!」

 

 品性を疑う。なんて冗談は置いておいても、やはりこの娘が子供っぽいのは事実だろう。まあそれに同じことして返しちゃう俺も十分ガキなのかね?

 

 視界を塞ぐ手やら何やらを払いつつガヤガヤ騒いで掃除に勤しんでいたが、そろそろKarの妨害にイライラとしてきたと言うか視界がグラグラしていて疲れてきた。

 

「マジで辞めて、酔う。吐く」

「手を止めれば議論の余地を与えましょう!」

 

 ほーん、随分上からくるじゃねえかよテメエ…………。

 

「ほらほら、さっさと面倒なことはやめてしまいなさいな。偶には高い珈琲でも飲んでゆっくりしましょう?」

「――――ッ!? 『高い珈琲』だとッ!?」

 

 俺は珈琲に眼が無いんだ、それはちょっと聞き逃がせない情報だ!

 思わずガバリと振り向くとKarの不敵または勝ち誇ったような顔。コイツ俺が狂信者じみた珈琲野郎なのを知っててその話題を引き合いに出してきたってわけかよ!?

 

 その笑顔がいつもの柔らかい、されど何処か陰りの濃い不穏なものに変わる。

 

「ええ。最近は嗜好品も高くなってしまったご時世ですが、私そういうものへの投資は疎かにしない事が信条ですのよ? 勿論、味は保証致しましょう」

 

 な、何~~~ッ!?

 Kar98kと言えば今でこそ要介護の合法ロリみたいな肩書をひっつけては見たが、確かに審美眼や舌の肥え具合には定評があるッ!

 どんな料理にでも的確な評をし、しかも良い所と悪い所までシートで綺麗に渡すマメさ! 料理好きの人形からは太鼓判を押される人形界最大の美食家!

 

 そのKar98kが『味を保証した』だと!?

 

「そ、掃除を諦めてしまえば…………掃除を放り投げれば……ほ…………ほんとに………その『珈琲』……を……飲ませてくれるのか?」

 

 Karの口元は一層愉悦に釣り上がる。これではまるで悪魔の契約だ。

 ゆっくりと、その細く白い指が俺の止まってしまった手を絡め取る。

 

「えぇ、約束致しますわ~。下らない『掃除』と、引き換えのギブアンドテイクです」

「ハリー…………ハリーッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが断る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――何ですってッ!」

 

 ははは…………それは魅力的だ、大層魅力的な提案じゃあないか。

 うんうん、俺もその珈琲とやらには勿論大いに興味関心を持っている。持っていますとも! 何ならそれに元値以上の金を懸けても良かった、なにせそれを見つけたお前の眼と舌にも俺は確かに報酬を支払うべきであるからだ。

 

 だが、一つだけお前は見誤ったんだよ。Kar98k。

 その手を払い、ガバリと振り向く。そう、その顔だよ! お前の『不意を突かれた表情』はそれを上回る価値を持った!

 

「この小野也人(やひと)が最も好きな事のひとつは」

 

 

 

「自分で強いと思ってるやつに」

 

 

 

「『NO』と断ってやる事なんだよォ……」

 

 さて。締まらないのだが此処でニュースだ。

 今思いっきり振り向いて手を握ったから、バランスを崩した。腰がグッキリ行っちゃいましてね? 痛い痛い痛い痛い!?

 

「あ腰がぁ!?」

「えぇ!? 締まりませんね、指揮官さんは!?」

 

 しゃあねえよだってこれそういう作品だから!?

 そのまま後ろに倒れ込むのにKarを巻き込んでしまう。俺達が倒れ込むのと同時に明細もしれぬ書類が舞い上がる、それはまるで紙吹雪だ。

 

――ご都合主義極まり、俺は見事押し倒される形になった。さっきも言ったが俺は大したことないのだがKarがぱちくりと俺を見て固まってしまう。これは…………面倒なやつだ。

 

「ええっと、退いてくれないか? Karちゃんの髪食っちゃうぞ俺」

「――――――えっ!? あ、その――――――」

 

 あたふたあたふたと面白いぐらいにまごついている、真面目に髪食べちゃうよ俺。これは事故、俺は髪を嗅ぐ以外に変態チックな趣味はないはずだ。

 

 終わらない逆サービスシーンに歯がゆい思いをしながら待機していると、Karの太ももの間から扉がノック、殆どノータイムで開かれ始めるのが目に映る。

 あ、駄目だこれ終わった。Karがフリーズしてる、サヨナラ! 指揮官はしめやかに爆散した!

 

「あの…………Karさん? 大きな物音がしましたが――――――――」

 

 どうやら隣の部屋のライフルの――――――声を聞くにはスプリングフィールド。誰が呼んだか春田ママ、皆頼りにしてる落ち着いた雰囲気のお姉さんのライフルだ。このモコモコドイツライフルみたいな似非じゃなくてマジのお姉さんな。

 

 俺は声からしか状況を計り知れなかったのだが、しばらくスプリングフィールドのブーツが固まっていたのは確認できた。

 

「ええっと………………お、お邪魔でしたね? 失礼致しますッ!?」

「「誤解なんです!? これにはちゃんとした事情がぁッ!?」」




Karちゃんは馬鹿強いが私生活がどうしようもなくダメダメな感じ。
とはいえ能ある鷹はうんたらという奴で常に頭は回ってる。教養も有るが、無闇矢鱈に振りかざさない。然るべき場所に立てば遺憾なく披露するのだろう。
指揮官に関しては「大好き」、意味は想像にお任せします。

ちなみに俺の部屋は汚いです。Karちゃんには賛同します。母親が勝手に位置を移動してると逆に分からないのよな。
中盤滅茶苦茶にフザケました。小野也人は昔から使いまわしてる指揮官の名前です、アズレン二次とかでも出てきてますね。


最近BLEACHを一気観しようとしてるからオサレも取り入れたい。何というか、足りてないよね。
後どうでも良いんだけどアズレンのジャン・バールが井上麻里奈さんだそうなので実質グローザ姉貴。

という訳でこれ終わったらグローザ姐さんを書こうな!!!!!!!!!!!


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こんなのお部屋じゃないわ! 豪奢な汚部屋よ!【中編】

下らない返しのせいで人の近所の排水溝を埋め立てさせたようなので責任取りに来ました。
という訳でエムフォエルを崇めろ。ちなみに今回は別に出てこない。

長すぎたから中編でゆるして。AR15とかマシマシにするからゆるして。


「指揮官!? また浮気ですか!? しかもまたKarさんと…………やはりアレなんですか!? 私より大人な女性じゃないと駄目ということなんですか!?」

「「うん事情を話すから座ってくださりますか?」」

 

 扉のすぐ前のダクトから落ちてきたAR15に、俺とKarは史上最大に冷静な返しを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、それだけの事でしたか…………」

 

 スプリングフィールドが困ったように笑う。まあこれは俺でも困るからどうのこうのという事もあるまい。

 改めて紹介しようか。一応彼女は至って真っ当なライフルだ。戦闘に関しても素直に優秀な人で、副官の時は俺のコンディションについていつも気にしてくれる良妻賢母の匂い芳しい皆のライフルママ。

 

――戦闘に関して素直じゃないというのは、例えばこのモコモコドイツライフルみたいな近接戦に持ち込んで、挙げ句マントで誤魔化しながら四面楚歌を乗り切る変態の事を言う。実のところ俺の人形はそんなやつばっかだ。

 

「で す が ! これはやはり不倫だと思います、指揮官!」

「あのですね、俺はお前と婚姻どころか誓約すら果たして無いただの上司と部下でだな」

「た、「ただの」上司と部下――――――!?」

 

 要らないこと言ったからAR15の顔色が悪くなる、ディレイ無しで飛んできたライフル勢お二人の視線に俺は「それでもコイツは彼女じゃない」とガリレオ・ガリレイもかくやの異端審問の気分を味わう羽目になった。

 

 何故俺がアウェーなのかはこの際突っ込まずに正当性だけを主張する。全否定から入ると言い分は通りにくい、要らない所は黙認してしまうのに限るのだ。

 

「待て待てお二人方、実際俺はAR15に色目を使う程の穢れた感性してねえし。どうせならもっとこう――――――――キツくないやつ、そうだな。M4ちゃんとかをだな…………」

 

 誰が呼んだか安らぎの大天使エムフォエル。確かアレは珍しく酒を飲んでしまったSOP大先生が名付けた悪乗りの異名だった気がするが、アレ以来この基地では欠乏状態にある癒やしを供給される度に

 

『流石エムフォエルだ、ヒロイン力が違いますよ』

 

 だとか

 

『大天使エムフォエルのお恵みなんだね、分かるとも!』

 

 とかSOP大先生とか45辺りがイジりに現れるのも恒例行事だ。どうでも良いわそんな情報。

 さてさて、M4という愛すべき同輩を褒める言と暗に「お前キツイんだよ」というニュアンスの摩擦に遭遇したAR15はというと、何というか悶絶でもしそうな悩ましげな表情になる。

 

「くっ――――――――凄くもやもやしますね…………! しかしそれはともかく握手しましょう、M4が良いというのは同感です」

「エ、アッハイ」

 

 お前仲間にアレな方向の親愛を向けてるからなあ。この前M4と「ほら、M4って男の相手下手そうだし」とか言いながらちゃっかりデートにしゃれこんでたしな、俺はアレ以来お前を「節操のない変態人形」と念頭に置いて行動してるんだ。何頬染めてんだよお前マジで俺のこと好きなの? エムフォエル好きなんじゃないの? お恵み欲しいんじゃないの?

 

 何が怖いってその時の出来事を事細かに俺に報告して、まあ要するに「やっぱりM4可愛くないですか!?」って全力で推してきた所。お前そっちも行けるのかよってなるよなそりゃあよ。

 

――――――俺はAR15のかつての凶行に気を取られ、前方から迫る鉄の鈍色に気が付かなかった!

 

「捕まえました――――――」

「何!?」

 

 ガチャリという嫌な音共に俺の手首に冒涜的な冷たい感触。見るまでもなく手錠だ。

 

「テメエまだやる気有ったのかコレェ!?」

「やはり正妻が誰かを身体に教え込まなくてはなりませんよね!」

「ノリノリだなお前!?」

 

 笑い方が黒い、離せ! 離せぇ!

 当然戦術人形には抵抗できないのであっさりAR15の左手首と俺の右手首は見つめ合う形になってしまった。

 

「顔だけは良いよなお前」

「顔『さえも』良い!?」

「凄い都合のいい耳だな」

 

 さて。

 

 

 

 

 

 

 

「「まあこの部屋は汚いですよね」」

「はい3対1で俺の勝ち~~~~~~~~!!!!!!!!!」

 

 まあ議論の余地すら無いわな。俺も何か勝ち誇ってるけどあまりに見え透いてる感じだったから、正直な所征服感とかはない。

 Karは顔を青くして膝をつく。お前もノリノリだなオイ。

 

「な、何故!? い……! 

「それ私の台詞だから取らないでよKarちゃん」

 

 サブリミナル416。扉越しに声が聞こえてきたから、多分ダクトからひょこっと出てきて喋ってどっか行ったんだろう。にしてももうそこまで来たなら部屋に入っていけばいいのに、今回に限っては静観を決め込んでいるらしい。

 

 ガックシ来てるKarは置いておいて、間違いなく女子力のあるスプリングフィールドと(色々怪しいが)AR15を流し見する。ああ、スルーしてるけどまだ手錠で繋がれてる。もう慣れた。

 

「という訳で整理しようという訳だが、手伝ってもらっても良いか?」

「私で良ければ。これを見たら流石に放っておけませんから」

 

 圧倒的大正義春田ママ。その柔和な笑顔で1スマイル100万円を超える時価相場を俺市場で今この瞬間に叩き出した。

 これが正妻力なんだよ、と圧を込めた視線をAR15に送る。分かるか、俺が求める正妻というのはこういう包容力が有って、気遣いも出来て、人並みの配慮というものが有って

 

「あまりに汚いと此処でUN○出来ませんしね、私も手伝います」

「ああ駄目だお前は私利私欲でしか善行を積めないのかよ!?」

 

 というかUNOって、あの時以来(5話の事ね)仲がよろしいようで私は大変嬉しいです! 何の心配してんの俺!?

 AR15の表情は決して「べ、別に心配だからとかじゃないんですからねっ!」みたいな元祖ツンデレのモノでは全くない。予想通り「これじゃあ舞台のセッティングとして不適切ね」みたいな戦闘中の不都合を見た時の顔だ。そういう所で俺はひっそりとお前の女子力測ってんだよ気づけ…………?

 

 その勢いのままに、虫でも触っているようなおっかなびっくりの手付きで一冊の革装丁の本を吊り上げる。

 

「まあ取り敢えず大きいものから片付けた方が良さげよね。Karちゃん、これは?」

「ええっと…………ああ、それはバーティミ○スですわ」

「意外と良い児童文学読むんだなお前。俺も好きだぞ、下の注釈がしょっぱいようなしっとりしてるような不思議な感じなのが読み心地として非常にいい。しかも注釈だからあくまで「自由意志」なのも有って、端話をちゃんとスルーも出来るから没入性が高い。この本は天才が書いたものだと俺は思う。主人公のナサ○エルの言葉にならないヒネた感じもまた味わい深くてな、是非とも本に強い興味を持つ奴には一度手を取ってもらいたい」

 

 まあとにかく読んでくれよ、王道の魔術モノとしてはかのハリー・ポッ○ーに勝るとも劣らない――――――ってなんだ。どいつもこいつも変な顔して。

 

 しばらく部屋には妙な空気が纏って会話が硬直してしまう。何か言おうと思ったのだが、視線は俺に集まっているようで俺が変に手を加えたからとどうにかなるものでもないのは明白だった。

 口を開いたのはKar。

 

「――――――ちょっと意外ですわね、指揮官さんが熱く語るなんて」

「え? ああそうだな、俺女の子に対するフェチ以外はあんまり語らないな確かに」

「「「それは語らなくても結構なんですけどね」」」

 

 何だよお前ら、こういう時だけ息を揃えてからに。

 

 しばらく一同の空気は完全なる静止を帯びて南極顔負けの氷点下に凍えていたのだが、しかし蜘蛛の糸でも最初はたらりと垂れてくるものだった。段々と空気が生気を帯びて、ついでに俺を無かったものにして進行し始めた。なんで。

 

「それで、私としては本の処理もやむを得ない量かな。Karちゃん、ちょっと物が多すぎるよ」

 

 アレ、いつの間にAR15はそんなにフランクになったんだ? えっと、前までは敬語で事務関係しか会話はなかった気がするんだけど。

 まあ仲が良いのは良いことだ、またKarが舐められているのは置いておくとしても。コイツ地味に強いからあんまり侮らない方が良いんだけどな、ホント。

 

「私も同意見です。持つのは構いませんが些かこれは…………」

「まあ物量多いわな、せっかくの高級品もチープに見える」

「皆さん寄ってたかってボロカスに言いますのね…………」

 

 およよ~じゃねえんだよさっさとやるぞこの箱入り娘。




自他構わず同じ原作の作品からネタを拝借する趣味があって、便乗じみた事をするかもしれない。「知っていれば」程度なので探してみても良いね。
辞めて欲しい人は直談判してくれたら修正しておきます、迷惑かけたり不快にしたいわけじゃねえし。

しゃちさんのネーミングセンスすき(名前伏せろよ)。エムフォエル、モコモコドイツライフル、さてさて次は何なのやら。あ、使い方こんなんで良かった? 今後も出番は有るよエムフォエル。なんか発音可愛い。
可愛いよエムフォエル! キャー☆ お恵みちょうだーい!
ヤバ過ぎる。忘れてくれ。大天使にして大物アイドルなのか…………? いや違うだろ。


次は某銃紹介小説のオマージュしたいけど許可取ったほうが良いのかな…………分からん。
ちなみに俺のネタもフリー素材。面白い作品が見れればどうでも良い、むしろ使った上で面白ければ長文投下も免れない(やめろ)

今更新が速いのは「気が向いてるだけ」なので遅くなったらまあ察して欲しい。


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特別編:どるラジ! ボルトアクション編

ああ、そういう事だよ。許可は出てる、好きにやらせてもらうぜ? 台本形式も有るから気をつけろ? 今日は祭りさ。

結構銃のお話とかしちゃうので、無理に読む必要はありません。ただ俺がやりたかっただけの身勝手な回となっております。
ところでアンタ、俺の最推しについてどれくらい知ってるよ?


「Kar98kと」

「……………ST ARー15の」

 

 突然、放送のスイッチが入るなり聞き慣れた声がした。吹き出すかと思った。

 

 アイツちょっと嫌がってるよな。うん、俺そう思う、そういう声だもん。

 暫くAR15が渋るようなトーンの下がった声を放送から漏れさせていたが、Karは何やら上手く言いくるめたようだ。「せーのっ」と言うKarの掛け声が直前に響く。

 

 まさか放送しても呑気にラーメンを食って聞いているとは思わんのだろう。

 

「「ライフル徹底講座!」」

「ええ~、このコーナー。指揮官さんがあまりに銃、特にライフルに関心を持ってくださらないのでカリンさんに無理を言って設けていただきました!」

 

 おいおい、カリーナの胃痛が心配されるニュースだな今の。流石にそんなよく分からない権限まで無いだろう、幕僚つったってこれは結構頑張ってくれたんじゃねえの?

 テンションの高いKarに置いていかれたAR15の困惑混じりの反応をKarが掻き消しつつ、ゆっくり進行していく。

 

「…………これ読むの? ええっと――――――『本コーナーは近くの基地のガンスミスが人形と行っているコーナーとはキチンとお話をつけているため、盗用したものではありません』。何のこと?」

「それはともかく。性能諸元は私の独学に頼った偏り有るもの(つまり俺の検索頼りと言う訳ですな)となる可能性が有ること、予めご了承くださいね?」

 

 おいおい、俺に教えるって言ったくせにお前もガバガバなんかい。とはいえこの前の本を見るに、ただのアホの子と言う訳ではないから心配は要らないんだろうが。

 アイツはノブレス・オブリージュだとか、情報の信頼性はある程度しっかりしてる。お嬢様と言うより、そこら辺は領主の娘に近い気品を感じなくもないがそれは良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Kar

「では記念すべき第一回のゲストをどうぞ!」

 

わーちゃん

「いきなり何よ…………Karちゃんはホント急にこういう事させるんだから」

 

AR15

「という訳で近代ライフルとして見本――――とは行かない癖のある銃だけど、わーちゃんを招いて解説していくらしいわ。まあ、人選は妥当かしら」

 

わーちゃん

「誰がわーちゃんよ! 私はWA2000って名前がちゃんと有るの! 変なあだ名で呼ばないで頂戴!」

 

Kar

「あ、わーちゃんは喜んでますからご心配なく。「つんでれ」なるものでしてよ」

 

わーちゃん

「な――――っ!? だ、誰がツンデレよ!」

 

AR15

「はいはい、ちゃちゃっと話を進めていきましょう。わー『さん』も速く帰りたいですよね?」

 

わーちゃん

「事実だけど、何か上手く誤魔化された気分だわ…………」

 

 いや、お前実際言いくるめられてるぞ。意外だな、AR15も飛ばすやつが多いとちゃんと落ち着くんだ。

 

 

 

 

 

Kar

「さて。ところでわーちゃんは何で呼ばれたか、検討は付いているかしら?」

 

 ああ、わーちゃん呼びに関してはAR15の「話が伸びちゃいますよ、わー『さん』」の一言で我慢する結論が出たみたいだ。アイツ意外と扱い上手いな。

 

わーちゃん

「知らない。銃の全長は200mmも短いし、構造だってKarちゃんみたいに堅実じゃないわよ」

 

 不機嫌なわーちゃんの物言いにKarがちょっとだけ苦笑いした。

 

AR15

(成る程、ちょっとしたコンプレックスなんだ。となると――――――?)

 

Kar

「まあまあ、正解はわーちゃんが私達――――――ボルトアクションライフルに迫る命中精度を誇ること。後、近代の銃だということ」

 

AR15

「…………ああ。私が敢えて聞けば良いのね、『ボルトアクションライフルは、そんなに凄い精度なの?』と」

 

 ほうほう。AR15を呼んだ意味が見えてきたぞ。

 

Kar

「よく出来ました! 導入は100点ですね――――――それでボルトアクションというのは、まあ簡単に言うとナウ○カさんの愛用するあの銃のガシャガシャしてるハンドル操作。アレみたいな感じです」

 

 えらく大雑把である。

 

AR15

「ああ~、何となく分かった」

 

わーちゃん

「じゃあ聞いたげる。あの億劫な動作の利点って何?」

 

Kar

「億劫とは言ってくれますね。娯楽界隈ではこのアクションを愛好する殿方(俺とか)も多かったのですよ…………では利点ですね。さらりと言っちゃいましょうね、『構造が単純』で『頑丈』になって最後に『命中精度』が高い」

 

 全部大事なんだけど、単純で頑丈ってそれは凄い大事なことだ。

――ええっと、銃の構造は興味ないんだけど要点は知ってるからかいつまんで教えるぞ?

 

 Kar98kが採用されたのは1935年のドイツだ。さてさて、そもそも銃とは何?

――――殺人の道具? 惜しい。当時のKar98kの役割は「兵士に行き渡る銃」だ。つまり銃は性能も大事なんだけど、生産が楽なのも重要なんだ。

 

 更に頑丈なのはそれだけで有利だ。例えばG11のケースレス弾丸は薬莢がないせいで恐ろしく湿気に弱かったんだ。

 これは採用されない理由になった。だから「安定して使える、不調を来たさない」のも大事なんだ。

 

――って、知ってたら悪かったな。一応。

 

AR15

「人形のイロモノさに比べて堅実かつ実用性溢れる銃の機構なんですね」

 

Kar

「AR15ちゃん!? ま、まあそうですね。実際私は長く使われましたし、各国がコピーしました。今は流石に駄目ですね、儀礼用のものとなってしまいましたわ」

 

 少し申し訳無さそうに言うが、今でも儀礼用になる程度には「兵士の象徴」と捉えられるだけ十分Kar98kは凄い銃なんだぞ。本当に。

 

わーちゃん

「ふーん…………じゃあ私の上位互換じゃない」

 

Kar

「それは早計です。わーちゃんは全く違う用途ですもの、私と比べるのは魚とカエルを泳がせて速さを論じるようなものでしてよ。カエルは水辺だけが生きる場所とも限りませんのに、愚かしいでしょう?」

 

 おお、マトモなこと言ってる。

 わーちゃんは納得はしてくれたみたいだ、不満そうな唸り声はするが特に反論は出ない。多分Karが妙な謙遜をしているようにも見えるのだろう。

 

AR15

「それで、具体的にその利点の理由って?」

 

Kar

「難しく言っては指揮官さんが逃げちゃいますから、単純に説明しますが「人力に任せた」という所が大きいですね。ちなみに私はコストより弾薬威力を重視した方式なんですよ?」

 

わーちゃん

「…………でも、良い所ずくめじゃないわよね。こう、あんまり貶す気はないんだけど」

 

 わーちゃんの控えめな横やりにKarがニッコリとしているのが想像できた。アイツ絶対そういう事する。

 

Kar

「そうですね。一杯ありますよ? わーちゃんのような自動小銃と比べると一発一発ガシャコンガシャコーン!ってしますから速射はお手上げですし、引き金から手を放すせいで照準がずれちゃいます」

 

AR15

「結構ガッツリとした欠陥じゃないそれ」

 

Kar

「まあ自動小銃の方が後の方式ですもの。むしろそのデメリットが見えたのは自動小銃のおかげです――――――――つまり、わーちゃんは一概に私の下位互換なんて、同じ性能で比べても言えませんね」

 

――ふーん。成る程、俺を盾にそういうフォローしたかったのね。まあ良いぞ、俺なんか好きに使え。

 ちょっとびっくりしたらしきわーちゃんの息を呑む音。

 

Kar

「自動小銃は速射性能が高いんです、まあちょっとお値が張っちゃいますけどね」

 

わーちゃん

「――――ふ、ふーん。コストって銃じゃ大事だし結構致命的だけどね…………」

 

 わーちゃんはコストで死んだ経緯が有るからね…………え、何で知ってるかって? そりゃあメンタル管理は仕事だ、仕事に含まれるなら調べるぞ。

 

Kar

「それにわーちゃん、最初に言ったことは覚えていますか?」

 

わーちゃん

「いっぱい喋ったからわからない」

 

 ツンとしてらっしゃる。トラウマだもんな、嵩んでいくお値段。

 

Kar

「ですから、わーちゃんはボルトアクション方式に迫る精度です――――――自動小銃ですが」

 

わーちゃん

「…………何よ、それが言いたかったってこと?」

 

Kar

「そうですね♪ 更にkurz(短い)を冠した私よりも短い銃身長、つまり取り回しも良いんですよ――――――――要するに、値段と見かけの性能で単純比較はダメということ。適材適所、ですよ?」

 

 まあわーちゃんは入って間もないからなあ、気にしちゃう所かもしれん。

 銃壊した時露骨にへこんでたし。俺そんなことで責めないのに、一生懸命やったんならもうどうしようもねえからなそんなの。わーちゃんが怪我するより俺はマシだ、上は知らん。黙らせる。

 

 粗方察したAR15が纏めに強引に持っていく。

 

AR15

「さて、Karちゃん。一応「指揮官さんの為に」だったかしら? じゃあ纏めましょ」

 

Kar

「いえいえ、ちゃんと指揮官さんのためですよ? まあ纏めをしましょうか」

 

 Karは此処ぞとばかりに紙を取り出す音をさせる。多分ここだけはちゃんと纏めてあるんだろう、妙に抜かりのない人形だ。だから俺はアイツに戦闘面では全幅の信頼を置いてるつもりなんだぜ?

 

 だから長い付き合いで一度も銃のことなんて調べなかった所もある。アイツはちゃんと考慮して喋るからな、心配する必要がない。

 

Kar

「という訳で、ボルトアクション方式! せっかくなので後発の自動小銃と絡めた解説としてみましたが如何でしょう? 唯のロマンじゃありません、今でもちゃんと使われる構造なんですからね! 指揮官さん、分かりましたか~っ!?」

 

 はいはい、一応わかった。明日までは覚えておいてやるよ。

 

AR15

「まあ、ライフルについて明るくなかったし勉強にはなったわ。呼んでくれてアリガト、Karちゃん」

 

Kar

「あらあらAR15ちゃん、嬉しいことを言ってくれますのね? まあ次回も司会ですけど」

 

AR15

「聞いてないよそれ!?」

 

Kar

「それでは指揮官さん、また次回――――――ほら、わーちゃんも一言!」

 

わーちゃん

「ともかく、性能が何でも結論は一緒よ。私は殺しの為だけに作られたわ…………ま、まあ? ちゃんと『適材適所で』使い分けてくれると、その…………う、嬉しいわ!」

 

Kar

「ナイスツンデレ♪」

 

わーちゃん

「ツンデレじゃない!」

 

 あ、ラジオ切れた。騒がしい奴らめ。




すげえなあの人、これ毎日書くとかハゲるから嫌だわ。アンタ、分からないだけで結構凄い重労働してるぞ。ありがたいことやで。

という訳で大好きなボルトアクションの話でした。書いてる間もガションガションしたくて仕方なかった。
わーちゃんは全然知らなかったけど、形も特徴的で良いと思います。まあ生産性は仕方ない…………時代が追いつくさ。

わーちゃんは新米な方です。基地で最強クラス設定のAR15とKarちゃん相手にあんな態度を取る辺り実は大物なのでは?


今回はWikipedia、ニコニコ大百科、pixiv、その他等々と大変多くの不確定情報を使用しました。
間違い不備等有ればご教授下さい。俺の糧になります。


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45錯誤③

「よく帰還したな」

 

 けろりとした顔で淡々と言い放った彼の額に、迷うことなく銃を突きつけた。9とG11の空気感がどよめいたのなんて構わなかった。

 張られた簡易のテント内。機材をバックにした彼は、表情を固くしたまますらすらと言葉を紡ぎ出す。

 

「何の真似だ、UMP45」

「どうして」

 

 絞り出せたのはそれだけだった。気を抜けば引き金を引くぐらいの、そういう勢いを持っていた気がする。

 彼は微動だにしなかった。何時も通りに言葉遣いと反したスラリと伸びる背筋のままに、突きつけられた銃なんて目もくれずに私の瞳を真っ直ぐと射貫いてくる。

 

 以前は苦手だったその態度が、その時だけ嫌悪感に変わる。

 

「416を置いてくる必要なんて有ったかな?」

「有った。彼女を救出できる可能性自体低い、そしてお前達までロストしたら俺はとてもグリフィンに顔向けできない」

 

 その理性的ぶった言い草に頭が沸騰するような錯覚。今思えば彼は全くもって正しい判断をしたのだが、私はそれを正しいと分かっていたのだが――――――これはそういう問題ではない。

 

 僅かでも有った可能性を切り捨てた結末が隊員の欠落。これは私にとって許しがたい損失だった、私はそれなりに仲間意識が有ったようなのだ。

 彼は煽るように無感情に続ける。

 

「撃ちたいなら撃てよ。俺はお前にそう教えた、暴発したと報告すれば良いだけのこと――――――カリーナにもそうするように伝えている」

「そう。いい度胸をしてるわ、来世では是非とも相棒にでもしたい所ね」

 

 引き金を、ゆっくりと引いた。

 

 だけどそれは同時に彼を射殺すには敵わなかった。突然血相を変えた彼が、私の後ろに回る形でステップを踏んだのだ。虚しく銃声は彼の手の平の中で響き、血飛沫を上げながら彼が後ろに回り込む。

 理由なんて分からなかった。聞こえたのは私のものじゃない鋭い銃声と、弾丸が肉を抉った聞き馴染みのない音。一回、二回、三回、四回、五回、六回――――――スローだったその音もとうとう数えられなくなった。

 

 時間が止まった。私のパーカーに生暖かい液体が染み込む感覚に息を呑むどころか頭が真っ白になる。状況が分からない。

 

「――――――馬鹿野郎、射撃方向は見えただろうが…………早く追え!」

 

 そう叫び声のする頭の上から血が降りかかる、彼が吐いた事だけがちらりと視界の端から確認できた。

 9とG11の焦ったような足音の後、いつもの聞き慣れた一際高速のバースト音。私にはそれがどうしても鈍く、ゆっくりと、芝居がかって聞こえてしまう。

 

 動かす口も、何処か非現実的。

 

「…………な、んで」

「ケホッ! 何でとか良いから、お前は一旦中に入れ…………せっかくカッコよく庇ったんだから生き残れよ、ヒロイン役」

 

 彼が雪崩込むように押してきたのに身を任せて、テントの奥の方に歩く。

 身体は震えていなかったけれど確かに心の奥底が怯えているのが分かる。人の生死なんて見慣れれば予想がつく、今彼は死の瀬戸際に立たされている。

 

 椅子に座るように促されたが、水を吐くようなひどい音に怖気だってしまって彼を投げるように腰掛けさせる。

 

「うっ――――――馬鹿野郎、親切心を利かせるなら座らせ方も気をつけろ」

 

 言葉が出ない。彼の背中から流れていた血液量があまりに多かった。

 銃傷の数は腕などの末端まで含めると九。応急処置に問題が有れば、何の不備もなく彼は死ぬことが出来る状態と言って差し支えない。

 

 応急処置の手際を順序良く思い出したはずなのに、彼の姿を見る度に真っ白になる。

 

「落ち着け。どうせ撃つ気だったんだろ? じゃあ当たるも八卦当たらぬも八卦、ぐらいで処置してくれよ……」

「でも」

「じゃあアレだ…………何? あの練習用の人形。アレだと思えよ」

「でも!」

 

――そんな事、出来る訳ない。

 ついさっきの私ならそれが出来ただろう。何時も通り乱れることなんて無かったし、それこそ処置の途中で始末する算段だってつける余裕を持っているのかもしれない。

 

 でも彼は()()()()()()()()()。全くもって善意で息をしていた事実を、行動で証明してしまった。

 戸惑いを隠しきれない私の服の裾を彼が引く。

 

「ちょっと来い…………」

「待って、今応急処置を――――――!」

 

 驚くぐらい、無理な力で引き寄せられた。

 

「落ち着けよ司令塔、落ち着けばお前は出来る」

 

 彼は血まみれの手を上げた後、少し躊躇いながら反対の手で私の頭を撫でる。

 ゆっくり、ゆっくり。優しいかは私の疑似人格では分かりかねる筈だけど、多分優しく。何時も通り、私の目を真っ直ぐ見ながら。こんな時なのに彼は必死で目の焦点を合わせて、私の顔を目に焼き付けようとしている。

 

「大丈夫だ、416は問題ない。アイツラも……まあ、倒すだろ」

「後は好きにしろ…………まあ、助けても良いし。駄目でも良いんだよ…………」

 

 彼の声がゆっくりと小さくなっていって、最後に手が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ助かったんだけどね?」

「ああもう! せっかくちょっとハラハラしてたのに! 今最高にあんたをぶん殴りたい気分よ!?」

 

 いやだって今416も指揮官も健在だし、隠せてないしバレバレバーだし。

 まあ「その手のお涙頂戴モノかほーん」みたいに読まれてる気も薄々してるし、話の腰を折る方が個人的に楽しいんだよね。

 

 拍子抜けしたのが余程効いてしまったのか、AR15はガクリと洗面所に倒れ込んでいる。

 

「まあそんな関係性。どんなのって? 私も分からないってこと」

「そりゃそうでしょうね、分かるわけ無いわ――――――それより」

 

 またナイフが目の前で止まる。言うまでも無くAR15のものなのだけど、心なしか滴る水が更に殺意じみたものを帯びている気がする。

 

「指揮官を撃ったっていうのは本当かしら。返答によっては目の傷が増えるわよ」

「…………事実だよ、別にやろうって言うならすれば? 抵抗権はないし、抵抗する気もないよ」

 

 事実だからね、その二次被害を被る義務も同様に私には有る筈。

――と一応なりに身構えてはいたんだけど、AR15はあっさりとナイフをしまうと大きく溜息。

 

 どうやら免罪符は戴けたようだ。慈悲深きAR15サマには感謝しないとね。

 

「そう淡々と認められると責める気も起きないわ。大体、彼が許しているなら私がどうこうするのはお門違い――――そうじゃない?」

「うわAR15のくせにマトモなこと言ってる、急いで指揮官に相談しなきゃ!?」

「ブ××すわよ!?」

 

 まあはしたないはしたない、私はそんなお下品な言葉は使わなくてよ?

――ああー、このキャラは無理だ。うん。

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん」

「ふーんって、勝手に話したのに怒らないんだ」

 

 彼の反応は思ったより薄い。書類ばかりに視線を集める彼の表情は私からはよく見えなかった。

 てっきり喋らないから話したくないんだと思ってたんだけど、そういう訳じゃないんだ。

 

「いや、俺にプライベートを制限する権利はないし、お前が喋るべきだと思ったんならそうなんだろうさ」

 

 指揮官は雄弁に口説き文句のようなことを語る。

 

「Karちゃんの面倒も見てくれてるし、何だかんだお前はやりたい放題のようで周りの手綱をある程度握ってくれてるところもあるしな。そういう管理能力は信用してるぜ」

 

 そんなつもりはないんだけど、まあそう見えるならそうなんだろう。指揮官の中では。

 

「変に信頼するんだね、ちょっと気持ち悪い」

「…………お前、知り合いによく似てるからな」

 

 それは、何というか指揮官には運がないらしい。自分で言うのも何だがそれほど性根が良いわけではない。

 

 一段落ついたのだろうか、書類を投げ捨てたかと思うと椅子の背もたれ任せにぐるぐると回転し始める。表情はどことなく淋しげと言うか、感傷的な感じで珍しい顔だった。

――こうやって見ると顔は凄く良いんだよね、顔は。

 

「まあアイツはお前とは違うお節介だったけどな、似てるんだが似てない」

「具体的には?」

「…………ええー、言わないと駄目か?」

 

 露骨に嫌そうな顔をする。むしろ聞きたいね。

 頷いてみせるとかなり渋々、と言った様子で簡潔な答えを返す。

 

「俺の持ち物ひっくり返して文句言ったり、怪我した時は食事を口までスプーンで運んできたな。後添い寝とかしてきた、アイツもニヤニヤしてたから真意が掴めなかった」

「それ女の子でしょ」

「何故分かったし」

 

 言うまでもなく。

 その思い出が相当苦いものなのか、段々と指揮官は顔を青ざめさせて手で覆ってしまう。まあどう見ても女難の相は付きまとってるしそんなものだよね。

 

 一頻り小さく唸って落ち着いたらしい。

 

「お前に最初に言ったアレ、アレもアイツの押し売り」

「人の撃ち方の話をするって…………指揮官ってホント女運無いんだね」

 

 そうかね、と素っ頓狂な顔で言うので無言で肯定しておく。

 何時になく妙な間ができてしまって、ついさっきのAR15の言葉を思い出す。

 

『でも、実際それは謝るべきじゃないの? あんた自身も早とちりで撃ったのは心残りなんでしょ、どうせ』

 

 分かってないようで分かってる面倒くさい人形だ。残念ながら図星だったりする。

――私はあまり謝ったことはない。非を認めたことがないというか、それは実際にないからなのが殆どなんだけどともかく無いものは無い。

 

 でも確かに、心残りでも有る。良い機会かもしれない。

 

「指揮官」

「なんだー? 俺は今トラウマが蘇ってるんだ、アイツが腰に手を回してきた時の怖気だつ感触よ…………」

「あの時。指揮官の事、撃ってごめんね」

「…………AR15に言われたな?」

 

 何でそんなに察しが良いんだか、だからこの人と喋るのは苦手。

 上の空だった指揮官の表情にがらりと色が灯り、私の顔をじっと見る。

 

「良いよ別に、分からないままの方が切迫さが出ると思って騙したんだから」

「それでもだよ」

「もう許した」

 

 知ってる。でも言わなくちゃ駄目だからね。

 

「ついでに今更なんだけど、私は指揮官のこと好きだよ。指揮官はどう?」

「勿論好きだぞ、何なら指輪欲しいか?」

「いい。物じゃないと分からないような物分りの悪い女じゃないもん」

「そうかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て、それどういう意味だ」

「お好きなようにお考えください。それでなんだけど、此処に416が居るって気づいてた?」

「あっ」

 

 遅い遅い、「指輪」なんて物騒極まりない言葉を出すなら場所は選ばないとー。

 私が何を言うまでもなく上のダクトから416が真っ逆さまで飛び出てくる。ハンチング帽が私の頭に落ちたので普通に被ってみよう、案外似合うかな?

 

「指揮官!? 45に誓約できるなら私とも出来るはずよね!? どうして!? ねえどうして私は駄目なのかしら!?」

「ダーめんどくせー! 45、てめえハメやがったな!?」

 

 さてね。こういうのは真偽はともかくとして、それっぽく笑って煙に巻いてしまうに限る。彼が騒いでいるのを見るのは好きだし、コミュニケーションの手段は多くて損がないもんね。こういうのも交流の形だろうか。

 

「さてさて、それはどうかなー?」

「絶対狙ってたな!? いや416、今のは言葉の綾であってだな――――――」

い……! !」

 

 また始まった、こうなると416は止まらないからしばらく飽きない光景が続くだろう。

――個人的には笑っている顔も、困っている顔ももっと見たいように思う。これがどういう感情に該当するのかはまだ私には分からない。

 泣いてる顔はどうだろうか、怒ってる顔はどうなんだろうか。分からないことは種類も量も一杯だ。

 

 それこそこうやって試行錯誤して、感情の出処から綺麗に洗っていく予定。時間は沢山ある、その正体が分かる日も近いだろう。




取り敢えず目下のこれから処理した。息切れで後半適当すぎて申し訳ないとは思っている。
とほくれすファンならこの指揮官が誰なのかは明白だったりする、そういう事です。

次かもうちょっと後ぐらいに本当に危ないネタを打ち込むので、クレームが来たら今日の日はさようなら。
この特殊タグ実は使い回しである。誤字報告機能とかで原文に戻すと面白いよ、まるでプログラミング言語だぁ…………。

45が一杯笑って一杯泣ける世界線は此処ですか?

そう言えばシリーズ物で纏めた方が良い? 情報の開示的にはこの順番が良いんだけど、シリーズ物を纏めても一向に構わないのだが。


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指揮官「合法でえっちないたずら出来るってこマ?」

コイツ最低じゃねえか(作者並感)。
まあ元々誑し倒してた男だから仕方ねえよな。


「指揮官さん! お菓子をくれないとえ、えっちないたずらしちゃいますよ!」

「お、じゃあ今日の夜11時辺りにもう一回その格好で来てくれ。可愛いし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どどどどどうしましょう!?」

「やったねKarちゃん! 懐妊したらこのUMP姉妹、全身全霊を以てお祝いするから!」

 

 いや煽って焦らすなよ45…………ああ、今日は俺が地の文だよ。誰って、そりゃアンタも分かってんだろ?

 慌てふためいて顔を真赤にしたKarが食堂に帰ってきたので、何事か何事かと人形達が寄ってたかってこのザマである。彼女達は野次馬根性旺盛且つあまりに騒ぎたがりすぎるのだ。

 

 9が煽りに参加してもう大変。

 

「やったね45姉! 家族が増えるよ!」

「い、いえそうと決まったわけではありませんからね!?」

 

 ケタケタと二人でぐるぐるとKarの周りでおどける姿は間違いなく姉妹だ。

 問題はAR15だ。それを聞くなりウォッカバーボンジンとアルコール漬けになってしまっていて、今の瞬間にもグラスを机に叩きつけてだいぶ荒れている。

 

 真っ赤になったAR15を一同が引きつった表情で見るが、Karに胡乱かつ鋭い蒼海の瞳が襲いかかる。

 

「あのですねぇ! たかだか夜のお、おおおおお呼ばれぐらいで動揺するなんてぇ。し、素人なんですからねぇ!」

「じゃあAR15は経験有るってことだねすごいね~」

 

 45やけくそレベルの煽り。AR15は45の肩に手をグルンと回すと席に引きずり込む。

 

「そういうことじゃありません~! 気持ちの問題です~!」

 

 耳元でがなるAR15はみっともなく、また息が酒臭い。

 

「落ち着きなさいよR15。みっともない」

「AR15よ!」

 

 そう言いながら死んだような瞳を向ける416も少なからず沈没船状態だ。

 しばらく416を睨んでいたAR15だったが、糸が切れたようにフッと視線を外すと机にうずくまって嗚咽を漏らしだす。

 

「なんで…………なんでぇ…………ぐすっ」

「分かった、私も飲むの付き合うから。ね?」

 

 45も流石に哀れに思ったのか、グラスに酒を注ぐとAR15の丸くなった背中を擦る。何だかんだ度が過ぎると反省はするらしい。

 

 珍しく胡散臭さのない慈愛の視線を向けている45に一同も若干どよめきつつ、そんな場合ではない。

 そうやって同時に躍り出たのはFALとトンプソンだ。FALはツンと断ったので仮装こそしていないが、トンプソンはとんがり帽子を被っている。

 

「指揮官の一挙一投足で妄想して勝手に一喜一憂だなんてナンセンスよ、出た目に従うのがスマートってものじゃないかしら」

「馬鹿言えFAL! 私はボスについていくんだぞ、姉御が誰かも重要だってえの! お前もそんな事言いながら足が勝手にボスの部屋に行ってるの気づいてんのか、え?」

 

 FALが気恥ずかしそうに食堂の扉前から早歩きでトンプソンの前に戻ってくると、くわっと剣呑を変えてトンプソンに絡みだす。

 

「五月蝿いわよ私だって気になりますええそうですともなにか駄目かしら!?」

「正直になれって言ってんだこのナンセンス女! 大体テメエのセンスってなんだ、その見せブラか! え、ああん!?」

「言ったわね!?――――」

 

 FALとトンプソンはいつもこんな感じなので一同は放置した。まあどうせ最後に何だかんだ何とかなっているし、実戦ではむしろ共闘のスコアが最も高いぐらいである。

 

 さて。何故か蚊帳の外だったKarはずっと顔を覆うなりうろちょろうろちょろ、時々扉の方を見ると顔を真赤にしてまたうろうろ。と大変挙動不審だった。

 見るに見かねた9がKarの肩を強めに叩く。

 

「まあまあ落ち着こうよ、Karちゃん!」

「そ、そうは言ってもですよ! 内容が内容ですし!」

「ダイジョーブダイジョーブ、指揮官多分優しくしてくれるって!」

「~~~~っ! そういう事ではありませんから!」

 

 全くもって本題に触れてないのに勝手に想像したのはKarの完全敗北と言うべきだろう。

――そうしてこうして周りまでガヤガヤとし始めたタイミングで、食堂の扉がきしむ音がする。開くのはともかくとして、今此処には活動している人形のほぼ全員が居るはずだった。

 

 入ってくるのは誰なのか。ピタリと静寂に呑まれた食堂にそれの足音が響く。

 

「あぁ~腹減った。おお、お前らどうした? 別に喋ればいいだろ、上司が来たらお静かになんてキャラかよ」

「件の人だ」

「例の大罪人だ」

「異教徒です」

「異教徒ってなんだよ異教徒って」

 

 はいバトンタッチ。地の文疲れた。

 

――入ってくるなりこの言われよう。一体俺が何をしたというのか、色々した気がする。

 妙なぐらいに集まった視線に思わず俺でも気圧されてしまう。

 

 プレッシャーをかいくぐって奥の様子を見てみるが、何やら顔を真赤にして酒を煽るAR15だとか、死んだ顔の416とかが見える。45が…………待て、慰めてる? 嘘だ。

 

「…………というか本当になんだよ。お菓子欲しいなら部屋に来いよ」

「いや、えっちないたずらされそうだし嫌かな」

 

 45が真顔でそんな事を言う。何、何なの俺のこのアウェー感。何時にも増してアウェーだなオイ。

 訳が分からないまま豚骨醤油ラーメンを注文する。視線は一向に俺から外れる気配がない、これからもしかして魔女裁判で俺殺されるんだろうか。

 

 意外と早く来たラーメンを机に置いて食事に入るがまだ俺はジロジロと見られている。気持ちわりぃの。

 

「え、何だ。お菓子要るなら持ってくるぞ…………違うのか、じゃあ何ですかね」

 

 耐えかねて少し猫背になってしまった、だって空気が異様にも程があるし。

 肩身の狭い食事が五分ほど続いていたが、碌に減らない伸び始めの麺に辟易としだした辺りでドン! とわーちゃんが俺の前でペペロンチーノを食べ始める。

 

 こちらも俺に恨めしげな視線を送っている。そろそろやりすぎで人形に殺されるんだろうか俺…………まあそれはそれで仕方ないy

 

「ねえ! Karちゃんに、えっと、その…………え、えっちないたずらするってホント!?」

「は!? え、ああ――――――おお! そういう事ね成る程!」

 

 Karのヤツめ、耐えきれずに周りに言いふらしたな? 他のやつに言うなよってちゃんと釘を差しておいたのに、全く。

 

 周りに人だかりが居なくて気づかなかったが、今でもKarはドラキュラ伯爵のコスプレをしたままらしい。潤んだ瞳の下には八重歯のチャーミングな口元が見える。コートも裾がギザギザで裏地が赤の、まあ至ってドラキュラだぞー! って感じのやつ。

 

 そこは律儀なんだ、へえ。

 では質問に答えようか。

 

「イエスと言ったら?」

「へ、ヘンタイ!?」

 

 ビンタされた。椅子ごと倒れる。

 

「イテェなオイ!?」

「ケダモノ! バカアホドジ間抜けぇ!」

「え、ええ…………まあ流れ的に否定はしないけども」

 

 それはわーちゃんじゃなくてヒッパーちゃんの台詞だと思うんですけど。

 一同からの視線が怪訝からかなり混沌としたものになった。不審、絶望、期待、高揚。何だコイツラ楽しそうだな。

 

「Karちゃんさあ、こういうのは普通言いふらしちゃならんぞ? 怒らないけども」

「だってぇ…………だってぇ…………」

 

 いや待って泣かれても俺が困るんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

「でも来るんだ、こんばんわ」

「ノーとは言っていませんわ…………」

 

 もじもじとして入ってこないKarを取り敢えず部屋に連れ込む。面倒くさい。

 いつも強引な筈なのだが何やら俺の手付きが荒いとでも思ったのか、怯えてるのか照れてるのかよくわからない顔をする。

 

 面白いけどもう終わりか。目をつむりっぱなしで何を期待していらっしゃられるのかカラビーナ嬢に話しかける。

 

「なあなあ、俺がさっき何て言ったか覚えてるか?」

「え?」

「いや、何て言ったか復唱してみ?」

 

 目をパチクリとさせるKar。俺が急かすとおたおたと答える。

 

「えっと…………「今日の夜11時辺りにもう一回その格好で来てくれ」です」

「ああ、何か疑問は?」

「私で…………その、良いんですか?」

 

 いやそんな大真面目に聞かれましてもですね。

 

「俺はえっちないたずらをするとは一言も言っていない」

「…………え?」

 

 やっぱり分かってなかったか。というかそれも含めて敢えてそういう言い方をしておいたのだが、予想外の方向性で効力が発揮されたらしい。

 

 先に言っておくが俺は何ら事実の把握は怠っていない。だからまあKarの想像していることも大体分かるし、何故そう思っているかも予想はついている。

 

「俺の部屋を見ろ。この狂った菓子の量を」

 

 これを見れば分かると思ったんだがな。

――俺の部屋の半分が菓子の入ったダンボールで埋まっている。まあ内容は色々だが、これがそんな事をしようという男の部屋だろうか、ムードゼロ過ぎて失笑モノだわ。

 

 ダンボールの量に呆気に取られたKarが口をパクパクしながら尋ねる。

 

「こ、これは?」

「今日の夜にゲリラ訪問して全員に配る菓子。文句は「お菓子を受け取らなきゃえっちないたずらししちゃうぞ!」だ」

「はい? え?」

 

 説明がもう面倒になってきたので、取り敢えず席について包装作業に戻る。

 

「いやこれめっちゃ有るからさ、手伝ってもらおうと思って。ついでに配るのも」

「だからこの衣装?」

「そう」

 

 それに見てて可愛いから目の保養になるし。この作業虚無だから癒やしがないと困るんだわホント。

 自分がかなり面白い勘違いをしていたことに気づいたのか、赤かったKarの顔がりんごレベルにまで発火する。

 

 まあそういう想定で触れ回るのまで考えてはいた。そのまま教えたらKarは抑えきれずに周りに言ってしまうし、それなら誤魔化すフェイクが有ったほうが良いとは考えては居たが――――――あんな視線を向けられるのはちょっと予想外だった。

 

 面白そうなので抱き寄せて耳元で

 

「こういうのがお望みでしたか? お嬢さん」

 

 と言ったらKarが何やらボソボソと言った後に倒れてしまった。ウッソだろ流石に笑ってくれよこれはサムいだろ。

――これは一周回って恥ずかしいな、と思いつつ作業に戻る。

 

 もう最近は室内も肌寒い。Karをベッドまで運んでやるが、完全にショートしたのか起きる様子はまるでない。

 寝顔は至って穏やかなものなので、まあ時間が経てば興奮気味に起き上がるだろう。結局一人の作業になってしまったが、叩き起こそうという気も起きない。

 

「全く、唯一の誓約人形がこれじゃあなあ?」

 

 まあ指輪をつけてなきゃ誰も分からん訳だ。我が細君の明日を僅かに憂いつつ、俺はまた億劫な包装作業に戻った。

 起きてから手伝ってもらおう。




急ぎ足で書いたから粗い。ド派手なタイトル詐欺とクソイケメンムーブがキツイ回でしたね…………。

これそろそろ完結させて次行きたい。何か一話目と書き方自体が違うし。


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