鉄血の三日月 (止まるんじゃねぇぞ…)
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第0話「プロローグ」

小説を書くのがこれが最初ですが頑張っていこうと思います。


 第0話「プロローグ」

 

 「――おい、バルバトス。お前だって止まりたくないだろ?」

 

 ギチギチと鉄と鉄同士が削れる音を鳴らしながらも、バルバトスと呼ばれる機体は紅い眼光を光らせその問いに答えるかのように光る。

 声の主、三日月・オーガスは右目から溢れ出ている血の涙を頬に流れていたところを舌で掬い取る。血特有の鉄の味を確認すると口角を上げ、ニィと笑みを浮かべると操縦機を握りしめた。

 

 「んじゃ、いくかぁ!!」

 

 三日月・オーガスの声に反応するようにバルバトスも持てるだけの力を振り絞り大地を蹴りだす。蹴り出した先に敵機を見つけると、相手が反応する前に右手の鋭利な爪でコックピットに向けて一撃で仕留めるように繰り出す。敵は何が起こったか理解する頃には、すでに終わっていた。

 その光景を見ていた敵陣営達もすぐさま反撃するが、いくら瀕死寸前の機体だからとはいえここまでの差はなんだ。相手はたった一機。しかもすでに手負いの機体。左腕を失い、動かすたびに舞い散る機械のパーツ。バルバトスの象徴ともいえる二本の角は片方折れている。

 パイロットの三日月・オーガスも敵からは見えていないものの身体のあちこちにバルバトスが負傷した時に飛び散った鉄の破片が至る所に突き刺さっていていた。並みの人間ならば痛みに耐えきれずのたうち回っていてもおかしくはなにであろうにも関わらず。

 

 「……なんなんだよ、あいつ。本当の悪魔じゃねぇか!?」

 

 敵の一人が溢した叫び声。叫び声を上げた敵の目の前の光景には信じられない光景が映っていた。こちらの陣営には数十機いたにもかかわらず、一機、また一機と次々と葬られていく。

 バルバトスの装備の一つ、テイルブレードに一突きされた後、刺された機体は他の機体に投げ飛ばされたかと思えば、投げ飛ばしてきた地点から一気に加速をしてきては同時に残っている右手の爪でコックピットに向けて突き立てる。

 動かなくなった敵機の武器であるアックスを奪い取っては、まだ倒していない敵機に向かって突き立てる。もはや自分たちでは手に負えない――そう思った時、

 

 「下がれ! こいつの相手は私がする!」

 

 突如、バルバトス向かって行ったのはアリアンロッド所属、ジュリエッタ・ジュリスであった。

 ジュリエッタはバルバトスに突進し、味方の機体からある程度のところまで引き離すと反撃を行う。ジュリエッタの攻撃に対し紙一重に避け続けるバルバトスの操縦者、三日月・オーガスの行動に理解が出来なかった。

 

 「何故だ! 何故まだ抗う!? 無駄なあがきだ! こんな無意味な戦いに何の大義があるというのだ!?」

 

 その問いに対し三日月は薄れていくと意識の中、ぼんやりと考えた。

 

 「大儀?……なにそれ。意味?――そうだな」

 

 ――意味ならある。俺にはオルガがくれた意味がある。

何にも持っていなかった。この手の中に、こんなにも多くのものが溢れている。

 生まれた時から強くなければ生きてはいけない。それだけはわかっていた。そんな生きるか死ぬかだけしか持ちえなかった俺に多くのものモノをくれた。――そうだ。俺たちは辿りついていたんだ。

 

 すでにバルバトスの機体は限界を超えていた。それでもバルバトスは最後まで三日月の意志に応えるかのように、ジュリエッタの機体に向かって特攻していく。

 

 「何故だ…何故なんだ!? 果たすべき大義もなく、何故!?」

 

 もはや攻撃ともいえないバルバトスのテイルブレードを撃ち落とし、悲痛な表情を浮かべながらバルバトスのコックピットに向けて腕部についているブレードを一閃。そこに映っていたものはすでに意識を失っていた三日月の姿だった。

 

 「もう……意識が」

 

 ジュリエッタは最後まで理解が出来なかった。彼が何故そんなにも抗い、戦い抜いたのかを。その意味を知ることはもう――ないであろう。

 これが三日月・オーガスの最後の生き様だった。

 

 

 ♢

 

 

 ――あれからどうなったのだろう。

 三日月はぼんやりとした意識の中ふと思った。あの戦いの後自分は死んだんだと思っていた。しかし、死んだかと思っていたら朦朧とはしているものの意識はあった。だが、いざ体を動かそうにも体の感覚自体が存在していないのかうまく動かすことが出来ない。

 

 (……てっきり意識があるから喋れるかと思ったけど喋れないし)

 

 あまり難しいことを考えることが苦手な三日月にとって今の状況を把握することは無理だということはよくわかった。それでもこうも時間間隔もなく、ふよふよとした浮遊感に近い感覚を感じると、じっとしているのが退屈に思えてしまう。

 

 (クーデリアが言ってたあの世っていうのかな。なんか宇宙にいた時に似てるけど)

 

 クーデリアの話で聞いたことがある。なんでも人は死ぬと肉体は無くなり魂だけになるらしい。以前、葬式ってのもやったことがあるけど、てっきりオルガやビスケット、シノ達に会えるかと思ったがどうやらそうではないらしい。

 

 (クーデリアやアトラはどうしてるんだろう? ミサンガまた汚しちゃったからアトラ怒ってるかもしれない。クーデリア一緒に謝ってくれるかな)

 

 いつの日かまた皆と会えたらと考えていると、前方、あるいは目の前に一筋の光が差し込む。

 

 (あれは……なんだろう?)

 

 景色もなければ辺りは真っ暗なところから一筋の光が見える。無意識のうちに手を伸ばす感覚をすると、今まで動かすことも認識することも出来なかった手の感覚があった。

 

 「……あれ? 動く?」

 

 手だけではなかった。どうやら喋ることも出来るようになっていることに三日月は気づいた。他の部位も少しずつだが徐々に認識が出来るようになっていく。

 視界が少しずつクリアになるとようやく目が見えるようになった。だが、目の前には三日月にとって思いもしなかった人物がいた。

 

 ――そこに映っていたのは幼少期から共に過ごし、三日月に意味を与えた張本人、オルガ・イツカの姿であった。

 

 

 




面白いと思って頂けるように頑張っていきます


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第一章「序章」
第一話


一応出来てたので投稿しました。
ゆっくりですが頑張っていきたいです。


 第一章「序章」第一話

 

「おい、大丈夫か!? 怪我はねぇか!?」

 

 目の前に映るその人物はかつて幼少期から共に過ごし、兄貴分であり、三日月にとって全てといっても過言ではない人物。

 

 ――オルガ・イツカ。

 かつて、鉄華団団長であり火星の王。そして、誰よりも相棒である三日月・オーガスを信頼していた人物であった。

 そのオルガが目の前にいる。三日月にとって最も会いたかった人である。

 しかし、そのオルガが再開早々切羽詰まった表情で自分のことを心配している。

 

 「悪いなこんな状況でよぉ。今は説明している暇がねぇんだ。……大淀!」

 

 「はい、わかりました。――では、行きましょう!」

 

 オルガは大淀と呼ぶ女性に声をかけ、それに応えるように大淀も返事を返す。大淀は三日月の近くに駆け寄ると、三日月の手を取り立ち上がらせる。大淀は三日月を立ち上がらせると、オルガに視線を送りオルガもその視線に対し頷く。

 大淀は三日月の手を握りしめ入り口であろう場所に向けて走り出す。

 

 「そいつを頼んだぞ。大淀!」

 

 「わかっています! あなたもいきなりで悪いですが今はゆっくりしている場合ではないんです! 敵がすぐに近くにいるので」

 

 ……敵? ギャラルホルンが攻めてきたのか?

 あまりにも急な展開に三日月は状況が追いつけなかった。もし仮にギャラルホルンが攻めてきたのだったら自分が出るしかない。かつてもそうだった。鉄華団を立ち上げたその頃から三日月達はずっとギャラルホルンと戦い続けてきた。三日月が最後まで戦かったあの時もギャラルホルンとの闘いであったのだから。

 

 「……俺が出ようか?」

 

 「――ッ!? 何を言っているんですか、あなたは! まだ建造されて間もないあなたが勝てる相手ではないんですよ!? お願いですから今は走ることだけを考えてください!!」

 

 建造? 言ってることがよくわかんないや。それにあんたが誰なのかもわかないし。

オルガとどういう関係なのだろう。とりあえずあんたはオルガにとって敵ではないってことだけはわかった。

 

 「……わかった」

 

 「すみません。本当はゆっくりお話しをしたいところだったんですけど、あなたが目覚める頃にいきなり敵が攻めてきたものでして。……後で説明をしますのでお願いします!」

 

 大淀の言葉に三日月はコクリと頷く。それはわかった。だが、肝心のオルガが気になる。

 

 「……オルガはどうするの?」

 

 「オルガ提督なら今から艦隊の指揮を取りに向かわれますので、また後で会えます」

 

 三日月は大淀の言葉に疑問を抱いた。

 オルガ提督? 艦隊の指揮? 聞きなれない言葉がいくつも出てくる。訳の分からないことが続き三日月は――

 

 (――なんか、イライラする)

 

 三日月は胸の中に霧が晴れないことに苛立ちを感じつつも、大淀の指示に従い走るのであった。

 

 

 ♢

 

 

 「……行ったか」

 

 オルガは大淀達が部屋から出たのを確認すると自身も自分の持ち場に着くために腰を上げる。ポケットの中から通信機を取り出すと右耳にかけ状況確認を始める。

 

 「俺だ。敵の確認はできたのか?」

 

 「うん。今確認できたよ。駆逐艦イ級が三体に……後方部戦艦ル級!?」

 

 「――ッ!? ル級だと!? 何かの間違いじゃねぇのか!」

 

 「いや……間違いなんかじゃないよ」

 

 通信機からの報告に驚きを隠せなかった。このあたりの海域に戦艦が出現したことがあったなどという報告も履歴も一切なかった。過去に一度だけ重巡級が一体現れたということぐらいしか載っていなかった。にも関わらずいきなり戦艦級が出てくるのはあまりにもおかしい。

 

 (――まさか!?)

 

 一つだけ心当たりがあった。いや、おそらくこれしか理由が思いつかない。そんな確信めいたものがオルガの中に存在していた。

 

 「『三日月』が建造されたからっていうのかよ……」

 

 「『三日月』って、まさかあの『三日月』なの!?」

 

 「あぁ……そうだ。あの『三日月』だ。――ビスケット」

 

 通信機の向こうから驚きを隠せない様子が聞こえるのは、かつては鉄華団が発足する前からオルガの参謀役として支え続け、地球投下後の戦闘で惜しくも命を落としてしまった。

 その彼がオルガの口から建造が成功したことに喜びを隠しきれなかった。

 

 「やったじゃないか! 今までずっとこの日を待っていたんだもんね」

 

 「喜ぶのはまだ先だ。今はル級をなんとかしないと喜ぶもんも喜べねぇ」

 

 「――ッ!! そうだね、ごめん。完全に浮かれてた」

 

 「いや、正直俺もさっきまでは浮かれてた。気にするな」

 

 ビスケットが浮かれるのも無理はねぇ。なにせ、あの『三日月』の建造をどれだけ楽しみにしていたことか。その願いがようやく叶ったっていうのに、この状況じゃおちおち喜ぶ暇もねえじゃねぇか。

 

 「遠征に出ているメンバーはどうなんだ」

 

 「実はさっき神通さんから緊急の連絡がきたんだけど……」

 

 ……嫌な予感がするな。俺の読みが当たればおそらく敵機との戦闘――

 

 「――敵機との戦闘を開始するって」

 

 「……やっぱりな。敵の数は?」

 

 「敵の数はさっきと同じ四体。しかも全機駆逐艦ロ級だって。ただ、戦闘が終わっても鎮守府までの距離を考えると、まだ時間がかかりそうって」

 

 おそらくこのまま何も起きなければ遠征メンバーの実力を考えると負けるとは思えない。問題はこっちだ。今この鎮守府に残っているメンバーと言ったら、さっき建造した『三日月』、大淀、工作艦の明石くらいしかいない。

 さっき大淀が言っていた通り『三日月』はダメだ。まだ練度も低いうえに戦闘経験が皆無。そんな奴をいきなり戦えなどと言えるわけがねぇ。大淀は……ダメだ。あいつは戦えない理由がある。明石はそもそも戦闘員じゃない。

 ――となると方法は一つしかない。

 

 「――ビスケット。頼みがある」

 

 オルガは右目をそっと閉じビスケットに肝心の内容を伝える。オルガの内容にビスケットは通信機越しに息をのむ音を発する。たった一言「わかった」とだけ言うとビスケットは通信を切った。

 オルガは締めていた軍服のボタン全て外し、被っていた白い帽子を深く被りなおして出口へと向かう。

 これから待ち受けるル級との戦闘に向けて足を運ぶのであった。

 




文章短くてすいません。なるべく長く書けるよう頑張ります


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第二話

毎日投稿は難しいかもしれないですが、頑張りたいです


 第一章「序章」第二話

 

 「はっ……はっ……」

 

 大淀はオルガの指示により建造されて間もない『三日月』の手を引いて走っていた。時折走りながらも『三日月』の様子を確認するが、自身とは違い疲れているどころか、ケロッとした表情を浮かべている。

 目的地まであとわずかというところで走るのを止め、息を整えるためゆっくりではないが歩きへと変えた。大淀は後ろを向くと『三日月』に向かって話しかける。

 

 「すみません……先ほどは急ぎとは言え自己紹介すらままらないで。私は大淀型1番艦 軽巡洋艦の大淀と申します。あなたのことをずっと待っていました」

 

 「……俺のことを?」

 

 三日月の問いに大淀は「はい」と一言答えた。

 

 「あなたが来ることをここの人たちはずっと楽しみにしていました。特にオルガ提督は今さっきまであなたが来たことを喜んでいました」

 

 オルガが俺を待っていた。その言葉を聞いた三日月は久々に再開したオルガの言葉に胸が躍る。早く会いたい。また、昔みたいに一緒にいられる。そう思うとふと頬を綻ばせる。

 

 「そっか……オルガが」

 

 「えぇ……ですが、今は喜ぶのは後になりそうです」

 

 ……そういえば、さっきこいつが言ってたな。敵が来たって。

 

 「そういえばさっき敵が来たって言ってたけど」

 

 「えぇ、すぐ近くまで来ています。今遠征に向かっていた艦隊も帰還する頃だと思いますが……」

 

 三日月の問いに大淀は顎に手を当て思案していた。何やら気がかりでもあるのだろうか。あまり難しいことは考えるのが苦手な三日月だが、オルガもよく似たようなことをしていたのを覚えている。

 

 「……戻ってくるにしては少し遅いですね。もしかしたら、敵と遭遇してしまったかもしれません」

 

 「別動隊がいるってこと?」

 

 「えぇ、おそらくは。あまり悠長なことをしている暇はないですね。急ぎましょう」

 

 大淀は三日月に告げると手を握りしめ離れないように歩き続けた。三日月も特に気にすることなく大淀の行動に追及をすることはなかった。

 

 「着きました。ここが目的地です」

 

 「ここは……」

 

 目的地と呼ばれる場所にたどり着くと、そこには武器やら資材などの類が多く収納されていた。どうやらここは格納庫らしい。以前から見慣れている光景であったが、一つ違うとすれば大量の水が溜まっているスペースが存在しているということだろうか。

 

 「ちょっと、待ってて下さいね。今、あなたに会わせたい人物が――」

 

 「あ、大淀! 待ってたよ。お、その子が噂の『三日月』ちゃんなのかな?」

 

 倉庫の奥からひょいと顔を突き出すのはピンク色の髪に黄緑色の瞳が特徴的である。ニコニコとした表情で三日月達に近づいてくる。

 

「初めまして、私、工作艦の明石って言います。よろしくね」

 

「……んっ。よろしく」

 

明石は手を三日月に差出し、三日月も明石に手を差し出すが、ふと何かに気付いたのか手に付けていた軍手を取ろうとしていた。

 

「ごめん。こんな汚い手で握手しようとしちゃって。まあ、手袋をとっても汚いとは思うけど……」

 

「……いいよ。別に」

 

 三日月は明石が手袋を脱ぐ前に手を握りしめる。一瞬、驚いた明石だが頬を緩め三日月の握手に自身も握りしめる。無表情な顔にぶっきらぼうな言い方とは裏腹な行動にどうやら満足したみたいだ。

 

 「あなた、意外に見かけによらずいい子ね」

 

 「別に、普通じゃん?」

 

 キョトンとした顔をする三日月に明石はプッと口元から息を吹き出すと、クツクツと笑い出した。

 

 「あはは! いいね。好きだよ、あなたみたいな素直な子」

 

 「そっか」

 

 たった一言告げると、明石は満足したのか先ほどの明るい表情から真剣な表情へと変える。それもそのはず。今は呑気に話をしている場合などではないのだから。事態は思っているよりも深刻であった。

 

 「さっき、こっちにもビスケットさんから連絡が届いたわ。遠征メンバーは帰還途中に敵艦との遭遇、交戦に入ったって。それほど数は多くないし敵自体も倒せると思うけど問題はこっちに向かってきている方。相手の中にル級がいるって」

 

 「ル級ですって!? 今までの記録に出てきたなんてことはなかったはずです!」

 

 「でも事実イ級三体との四体編成でこちらに向かっているって!……いくら遠征メンバーが戻ってきても、イ級はともかくル級に勝てるとは思えない」

 

 ペタンと力なく座り込んでしまう大淀。絶望的な状況に明石も苦虫を嚙み潰したよう唇を噛みしめる。

 

 (――まただ)

 

 ここに来る前にもそうだった。三日月は自分の胸を掴み力を入れる。外側じゃない。 もっと奥に黒く渦巻く何かがあった。オルガや大淀たちの姿を見るたびに思い出す。

 ――あぁ、そうか。このイライラする理由はこれか。

 三日月は思い出す。彼らの姿を見て何とも言えぬ苛立つ理由を――何故俺はこんな場所にいるんだと。

 常に最前線で戦い誰よりも率先して戦ってきた自分が、出撃すら出来ず、あまつさえイマイチ状況も理解できていない。そんな無力な自分に苛立っていることに初めて気づいた。

 

 (俺の全てはオルガに貰ったものなんだ。だから俺の全てはオルガの為に使わなきゃいけないんだ――)

 

 オルガが守ろうとしているこの場所を守るために、俺が出来る精一杯のことするだけだ。

 なら――やることは一つだけだ。

 

 「ねぇ……アカシって言ってたっけ?」

 

 「え、な、何かしら」

 

 「あんたに頼みたいことがあるんだけど」

 

 突然の呼びかけに明石は驚いたものの、三日月のじっと見つめる瞳に目を逸らせずにいた。まだ会って間もない子だが、この子の一言一言が真剣を帯びているように思える。

 

 「……頼みってなにかしら?」

 

 「俺を――出撃させて欲しいんだけど」

 



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第三話

一応このお話はあくまで艦これの世界観でやっていこうと思っていますので御願いします。


 第一章「序章」第三話

 

 「な、何を言っているんですかあなたは!?」

 

 三日月の言葉に大淀は動揺を隠しきれなかった。それもそのはず。

 三日月が建造されてから、まだ間もないというのに明石に出撃させてほしいなどとお願いをする意味が分からなかった。実戦経験はおろか艤装の起動演習すらまだなのだ。出撃したところで何も出来ず犬死するのが目に見えている。

 

 「あんたに話してるんじゃないんだけど」

 

 「わ、私に話しているとかの話じゃないんですよ!? まだここに来たばかりのあなたに出来ることは何もないんです! 今は戦うことを考えずこれからのことを――」

 

 「ちょっと大淀は黙ってて」

 

 「あ、明石!? あなたまで何言っているんですか!」

 

 大淀の怒鳴り声に目もくれず、明石は三日月のじっと見つめる瞳に目を合わせる。この子の目を逸らしてはいけない。そんな気がするのだ。

 

 「出撃するっていうことがどういうことか分かる?」

 

 「うん」

 

 「死ぬかもしれないのよ」

 

 「分かってる」

 

 「あなたね……」

 

 明石は三日月との問答に思わずため息をつく。あまりにも即答なうえ、恐れているわけでもなく、強がっているわけでもなく、ただ淡々と答えていった。

 

 「どうして……」

 

 どうしてそうまで言い切れるの?

 大淀ほどではないが戦うことが怖くないだろうか? 

 工作艦の明石としては戦う事は出来ずとも、後方で前衛を支えるために海域に出なければいけない時もある。無論、今まで自分自身が経験をしたことがあるかと聞かれればそうではない。過去にそういう事例があったという話なだけだ。

 だが、仮に出ることになったとしたら、例え後方であっても怖いと思う。それなのに、目の前にいる自分より一回り小さな子が「そんな当たり前のことを聞いてくるんだ?」と言いたげな目で見てくる。

 

 「……あのさ、勘違いしないでほしいんだけど」

 

 「……えっ?」

 

 「命を大切にしてないって思わないでほしいんだけど」

 

 ――な、なんでわかったの?

 三日月の言葉に目を見開く。――間違いなどではなかった。

 あの瞳からはどこか心を見透かされているかのように思えて仕方がなかった。だから三日月の瞳から目が離せずにいた。

 分かっているんだ、この子は。戦うことの意味を。戦うことの怖さを。

 

 「それに、俺の命は俺だけじゃない。皆のモノでもあるんだ。だから――俺は俺が出来ることをやるだけだよ」

 

 「――そっか」

 

 もう、何も言えないじゃない。

 そう思い明石は三日月の頭をポンッと手を置くと、少し乱暴に撫でる。三日月も明石のやっていることに文句を言うこともなく、ただされるがままであった。気分を良くしたのか明石は三日月の頭から手を離すと、両手を腰に添え胸を張りながら言うのである。

 

 「わかったわ。今すぐ艤装の用意をするから待ってて頂戴」

 

 「ちょ、ちょっと明石!? 何勝手に話を進めてるんですか! 提督の指示も無しに勝手に出撃なんかさせたりしてこの子になにかあったらどうするんですか!!」

 

 「大淀、もうこの子に何言っても無駄だからね。この子なら大丈夫。あとで責任でも処罰でもなんでも受けてやるわよ。だから、今はこの子のことを信じましょう」

 

 「明石あなた……あぁ、もうわかりましたよ! あとでキッチリ受けてもらいますからね!」

 

 「さっすが大淀! やっぱ持つべきものは友って言うしね」

 

 「あなたみたいな友達は正直疲れるんですけど……」

 

 はぁと息を吐く大淀に明石はパンッと手を合わせ一言「ゴメン」と告げる。明石の行動に仕方ないと言わんばかりに、鼻から息を流す。

 

 「もう……ほんっとに昔から変わらないんですから貴女は」

 

 「えへへ……それより急がないとね。――おやっさん!? ちょっといいかな!!」

 

 「――なんだ、今手が離せねぇってのによ」

 

 明石は倉庫の奥に向かって大声で呼ぶと、倉庫の奥の方から肌黒くガタイのいいおじさんがひょいと顔を出す。

 

 「ちょっとこの子の艤装の準備に手伝ってほしいんだけど!」

 

 「あん? 話を聞いていなかったのか、お前。俺は今手が離せねぇって言ってんだろうが」

 

 「またまた~そんなこと言ってどうせアレの整備でもしてたんでしょ?」

 

 「そ、そんなことはないぞ? 俺は艤装の整備をだなぁ……」

 

 「――おやっさん?」

 

 「あん?」

 

 三日月はおやっさんと呼ばれる人物に声を掛けると、こちらに気付いたのか明石から視線を外しこちらに目を向ける。

 

 「誰だ、そいつは?」

 

 「この子ですか? 前にオルガ提督が言ってた『三日月』ちゃんです!」

 

 「……『三日月』っか」

 

 おやっさんと呼ばれる男は明石が紹介した三日月の顔を見ると、何を思ったのかフッと息を吹き失笑する。

 視線の先には癖のあるセミロングの髪にアホ毛。瞳は金色である。服装は黒セーラー服を纏い、睦月型の特徴で三日月の形をした月飾りを右襟に着いている。

 

 (同じ『三日月』なのにあいつと全然違うなんてよぉ……)

 

 似ていると言えば無表情な顔立ちに、じっと人のことを見透かしているかのように見える瞳。強いて言えばアホ毛もあったというところではないか。しかし、いくら似ていたとはいえおやっさんの知っている三日月の姿とはかけ離れているのもであった。

 

 「おやっさん」

 

 「ん、なんだ『三日月』?」

 

 「久しぶり。おやっさんも相変わらず元気そうだね」

 

 「……はぁ? お前何言って――」

 

 「知合いですか?」と質問される明石の言葉におやっさんは答えることが出来なかった。いかもに昔の知り合いに会ったかのように話しかける少女におやっさんは開いた口が閉めることが出来ないでいた。

 

 (いや、ありえねぇ。だ、だけどよぉ……もし、俺の知る三日月だとした――)

 

 「おやっさん?」とコテンと首を傾げる少女の手を取ると、倉庫の奥へと手を取り連れていく。明石と大淀に少し話があるから待っていてほしいとだけ伝え倉庫の奥へと入ると、少女の目線に合わせ片膝を地面に着きもう一度顔を確認した。

 

 「俺の顔に何かついてる?」

 

 「お前……あの三日月なのか?」

 

 「なに言ってんの? 俺は俺だよ。三日月・オーガスだけど……おやっさん、もしかして俺のこと忘れたの?」

 

 「はぁ……お前、今自分がどういう状態なのか分かってんのか?」

 

 「……?」

 

 言っていることがよくわからないと言いたげな三日月の顔に、おやっさんはため息を溢すと、腰に下げているポーチから一枚の手鏡を取り出すと、それを三日月に差し渡す。

 

 「ほれ、今のお前の顔を見てみろ。そしたら俺の気持ちがよーくわかるからよ」

 

 手渡された鏡に写る自身の顔を見ると、一瞬だが目を見開きまじまじと確認している。だが、いつもの無表情な顔立ちに戻ると気が済んだのか、手鏡をおやっさんに返す。

 

 「ふーん」

 

 「ふーんってお前なぁ……もう少し、こう、驚いたり焦ったりしてもいいんじゃねぇか?」

 

 「別に」

 

 「別にって……ま、お前らしいと思うぜ。俺はよ」

 

 相変わらずな様子に安心したおやっさんは三日月の頭を撫でると、地面につけた膝を持ち上げる。

 二人のいるところに戻ろうとした三日月だが、倉庫の奥の片隅に見覚えのあるものが置いてあるのに気づく。

 

 「――おやっさん。これって」

 

 「あぁ、そうだよ。お前さんが知ってるもんだよ」

 

 片隅に置かれていたのは、かつてギャラルホルンの襲撃の際、初めて使用したバルバトスと呼ばれるガンダムシリーズの一つ機体に装備されていた武器、レアアロイ製メイスが置かれていた。そのメイスの隣には三日月と書かれていた盾に単装砲が一つ、円柱状の缶と煙突が付いたのと、三連装魚雷管が合計二基置かれている。

 

 「言っておくが、この世界では阿頼耶識システムもバルバトスも存在しないからな」

 

 「えっ、そうなの?」

 

 「あぁ、この世界じゃあ俺たちの世界でいうMSやMWは存在しねぇ。しかも俺たちのような男の代わりに、さっきのお嬢ちゃんたちが戦ってるってことだ」

 

 おやっさんの話によると、この世界の海に突然敵が現れたらしい。なんでも昔、国と国が戦争して沈んだ船だったのが人の形へと変え、あらゆる海域に侵略したとか。

 ――深海棲姫。それが敵の正体だという。その深海棲姫に対抗するために作られたのが俺が呼ばれていた『三日月』という存在。正確にはこちらも昔使われていた船が元に作られた存在を艦娘と呼ぶそうだ。

 

 正直、おやっさんが他にも色々と説明をしてくれたけど、俺には難しいことはわかんない。けど、一つだけわかることならある。

 

 「まあ、つまりだな……」

 

 「ねぇ、おやっさん。そのシンカイって奴らはオルガにとって敵ってことでいいんだよね?」

 

 「お前、オルガに会ったのか?」

 

 「うん」

 

 コクリと頷く三日月。

 

 「で、どうなの?」

 

 「まあ間違いじゃないけどよ。ざっくり言えばそうだな」

 

 「そっか」

 

 それさえ分かればいい。小難しいことを考えるのはオルガがしてくれるから、俺はオルガの命令があればそれに従う。けど、もし、オルガに手を出すなら――敵だ。

誰であろうと殺す。それだけの話なんだから。

 三日月はクスリと笑みを浮かべるとこれからについておやっさんの指示に従うのであった。

 




理想:「俺……もしかして○○の身体に!?」

現実:「ふーん。別に、問題ある?」

とかミカなら言いそうなのは自分だけなのかな?


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第四話

結構三日月のキャラを書いていて思ったんですけど、割と難しいですね。
あと、文章が下手なせいでちゃんと説明とか出来ていなかったらすみません。
描写も簡単かつ分かりやすく書けるように頑張ります


 第一章「序章」第四話

 

 「1班は武器、弾薬をありったけ持ってくるんだ! 2班はボートの用意は出来たか!? まだならとっとと用意してくれ! 外の奴らが時間を稼いでいる間に終わらせるぞぉ!!」

 

 現在、鎮守府内に存在する格納庫の一つに多くの人が集まっていた。その中心となる人物、オルガ・イツカは各班ごとに指示を送っていた。一人一人が怒声や罵声を上げながらも一つのことを成すために必死になって動き回っていた。その中の一人がオルガに向かって走ってくる。

 

 「外の4班、5班から伝達きました! もう、持ちそうにありません!!」

 

 「――ッ!? わかった! 4班、5班に連絡してくれ。離脱するようにってな。敵の様子はどんな感じだ」

 

 「依然として変わらず敵機ル級は未だ動いていない様子です。イ級の方は迎撃はしているものの傷一つないとのことで、やはり艦娘でないと対処出来ないと思われます」

 

 報告を聞いたオルガは小さくチッと舌打ちをすると右目を伏せる。深海棲艦の中でも最も弱い分類に入る駆逐艦イ級だが、それでも通常人間兵器であるRPGやグレネードによる攻撃でダメージは与えられるのではないかと、期待してないといえば嘘になるが、こうも予想通りだと作戦が困難になる。

 

 「オルガ提督! ボートと武器の類はこれで全部です!」

 

 「わかった! 3班も集まったか!?」

 

 「あぁ、今全員揃ったぞ」

 

 どし、どしっと足音を踏む締め向かってくるのは、かつてアリアンロッドの戦いで三日月と共に戦い、鉄華団の団員を逃がすために最後まで戦った男――昭弘・アルトランドであった。

 

 「4班と5班の奴らはどうした?」

 

 「怪我したやつはメリビットさんが診てくれている。動けそうな奴らは何人か連れてきた」

 

 「そうか。ありがとな昭弘」

 

 「俺はお前の指示に従っただけだ。気にするな」

 

 昭弘はオルガにそれだけ言うと腕を組みながら視線を外す。昭弘のぶっきらぼうな言い方にオルガはにやりと獰猛な笑みを浮かべた。視線を外した昭弘もオルガと同じく獰猛な笑みを浮かべる。

 

 オルガは頭に被っていた帽子を取ると、集まった班の人たちに向け告げる。

 

 「いいかお前ら! これから俺たちは遠征に向かった奴らが戻ってくるまで深海棲艦を足止めする! 今、ビスケットが他の鎮守府にも応援を要請している。連絡がつき次第、こっちに来るはずだ。だから――お前らの命、俺に預けてくれないか!!」

 

 バッと勢いよく頭を下げる。オルガの行動にシーンと静まり返った。

 正直なところ無茶な話だと思う。相手は深海棲艦。敵は一体だけではない。しかも後方には戦艦ル級が待ち構えている。今の今までイ級との交戦を行っていたが敵はほぼ無傷に対し、こちらの被害は増すばかり。実際、死人も何人か出ている。

 もし、断られるようなことがあればそれでもいいと思っている。それでも俺はたとえ一人になろうともこの鎮守府は守る。そう決意したのだから――

 

 ――だが、オルガの思いとは逆の方向へと進んでいた。

 

 「なぁに言ってんですか、提督さんよぉ」

 

 「……えっ?」

 

 「俺たちがここを守らないでどうするんだよ!」

 

 「陸の上には俺たちの家族が住んでるんだ。あいつらを守るためにも戦わずして、いつ戦うっていうんだ!」

 

 そうだそうだと周りの連中も声をそろえ始めた。呆気を取られたオルガの肩をポンと叩き一人の男が告げた。

 

 「それによ。あんたのおかげでここまで深海棲艦と対等に戦えたんだ。あと少しじゃねえか。それまで生きればいい話だろうがよ」

 

 男の言葉に胸の中に熱い気持ちが籠る。オルガは胸を握りしめると男たちに向かって感謝の言葉を込めて伝える。

 

 「――ありがとな。お前ら! 無理だけはするな! 生き延びることだけは忘れすんじゃねえぞ!!」

 

 「「「おおー!!」」」

 

 「よし! 各員ボートに乗り込め! 武器を忘れるな! それからあくまで時間稼ぎだってことを憶えといてくれ! アイツらならきっと来てくれるはずだからな!!」

 

 オルガの言葉に各自ボートに武器を詰め込むと、準備が出来次第発進する。近くにいた昭弘はオルガに腕を突き出すと、オルガも昭弘に腕を突き出し重ね合わせた。

 

 「また先に死ぬんじゃねえぞ、団長」

 

 「あぁ、わかってる。お前も死ぬんじゃねえぞ、昭弘」

 

 「ふん……言われるまでもねえ」

 

 昭弘は満足気にオルガとのやり取りを終えると大量の重火器を抱え込みボートへと向かった。

 

 「さてと……俺も行くとするか」

 

 オルガも昭弘と同じく自分が乗用するボートに向かうと、ボートの操縦席に背中を預け待っていた男がいた。

 ――ユージン・セブンスターク。

 かつて鉄華団発足する前からオルガとは衝突しあっていたものの、副団長として彼に尽くし、CGS時代の中でもアリアンロッドとの戦いから生き残った人物でもある。

 

 「おせーぞオルガ」

 

 「悪いなユージン。待たせてすまなかったな」

 

 「別にいいからよ。早くアイツらに指揮を出さねえと不味いだろうが」

 

 「あぁ、そうだな。――行くぞ」

 

 「おう」

 

 ユージンは短く答えると、ボートの鍵を回しエンジンを起動させ、アクセルを踏むのであった。

 

 

 ♢

 

 

 「明石。準備は出来たか?」

 

 「こっちはオッケーだよ。んじゃ『三日月』ちゃん。準備はいい?」

 

 「うん。いいよ」

 

 明石は三日月の背中に円柱状の缶を固定させ、脊髄の辺りを触れると小さな窪みを感じさせる。三日月は背中の違和感に気付くとおやっさんに質問した。

 

 「阿頼耶識システムはないんじゃなかったの?」

 

 「あん? 確かに阿頼耶識システムは無いって言ったがよ。お前は他の奴らとちょっと違うんだよ」

 

 「違うって?」

 

 三日月の疑問におやっさんはうねり声を上げ、頭を掻き始める。隣で作業していた明石はというと、「阿頼耶識システム?」とハテナマークを頭に浮かべていた。

 

 「まあ簡単に説明するとな。お前みたいな奴をこの世界では『建造』って言われる分類に入るんだよ。それと、そこにいる明石っていう奴は『適合者』と言われている」

 

 この世界の艦娘には二つの分類に分けられている。

一つは『建造』と呼ばれている方法で生み出された艦娘。そして、もう一つが『適合者』と呼ばれる分類であった。

 

 『建造』された艦娘は沈んだ船の核となる部分、つまり動力源を媒体として生まれてきた存在である。彼女たちは船本体が人の形となったものと言っても過言ではない。故にその船の性能を引き出すことが可能である。

 

 また、明石のような存在は『適合者』と呼ばれている。『適合者』とは艦娘の元となる船の艤装とのシンクロ率を意味する。ようは元となる人間と艤装とのシンクロ率が高ければ高いほど、艤装の性能が発揮されるということだ。

 

 「もっとざっくり言うとだな。お前が阿頼耶識システムで動かしていた時みたいに感覚的に動かせることが出来るのが『建造』って方だな。逆に阿頼耶識システム無しのない奴らのことをここでは『適合者』って言えばわかるか?」

 

 「えっと……つまり俺はバルバトスのようなもんなの?」

 

 「そういうこった」

 

 「そっか」

 

 おやっさんとの話に胸をなでおろす三日月。就学経験のない三日月にとってこの手の専門的な話は苦手であった。今までは理解できずとも、阿頼耶識システムのおかげでバルバトスを動かすことが出来たのだ。それが今回もってことなんだろう。

 

 「なんにせよ、阿頼耶識システムに似たようなのが今のお前にあるってことだけわかってればいいんだよ」

 

 「うん。わかった」

 

 「えっと……それじゃあ『三日月』ちゃん行くよ?」

 

 明石は三日月に告げると脊髄の辺りの小さな窪みに、円柱状の缶からケーブルジャックらしきものを引っ張り出し、窪みに差し込む。カチッと音がなると明石は外れないよう固定し三日月から離れる。すると、三日月の頭の中に大量の情報が一気に流れ込んだ。

 

 「あ、ぐっ!?」

 

 「み、『三日月』ちゃん!?」

 

 「お、おい、三日月!? 大丈夫か!?」

 

 おやっさんや明石が三日月に心配そうに声を掛けるが、三日月の耳には入ってこなかった。想像以上にも膨大な情報量に耐えきれず脳がショートを起こしそうであった。あまりの激痛に三日月も普段は見せない涙を目に一杯溜めこむ。

 

 『――三日月』

 

 「――あ、が、くぅ!?」

 

 『私と同じ名前だね』

 

 頭の中に直接語り掛けてくる少女の声。物柔らかそうな声色。でも、オドオドとした感じではなく、はっきりとした声が聞こえてきた。

 ――そうか。お前も俺と同じ三日月っていうんだ。

 

 『睦月型10番艦、三日月。よろしくね』

 

 「――あぁ」

 

 頭の中に入ってきた情報もようやく整理が終わると、『三日月』の艤装の性能、武器の扱いなどの使用方法といったのが理解できるようになった。三日月は目に溜まった涙を拭うと、おやっさんに残りの艤装の装着の催促を促すのであった。

 

 「三日月……大丈夫か?」

 

 「うん。だから急ごう」

 

 「しゃねぇか……明石! 行けるってよ!」

 

 「こっちも残りの兵装の装着終わったよ! 『三日月』ちゃん、無理はしないでね」

 

 「うん。わかった」

 

 明石は三日月の残りの艤装である防御盾、単装砲、三連装魚雷管を各部分に着け終える。出撃をしようとする三日月に、おやっさんは両手で鉄メイスを抱え込んでくる。

 

 「ほれ、お前にはこいつが必要だろ?」

 

 「これで……倒せるの?」

 

 「あぁ、使うことはねえと思っていたが作っておいてよかったぜ。そいつはお前以外扱えないから。まあ正直海の上で使えるかどうかはわかんないけどな」

 

 ふと頬を緩めるおやっさんから鉄メイスを受け取ると、始めて手にするそれは、かつてバルバトスに乗っていた時に使っていた感覚が手から伝わってくる。重さもそうだが、全長は三日月よりも少し高く、鉄メイスの棒の後部を地面につけると、先端分が三日月の頭一個分のデカさを持っていた。

 

 「おやっさん。これを『三日月』ちゃんに渡すつもりで?」

 

 「いや、単に気まぐれで作っただけだ。ただ、万が一を考えて奴らに対抗出来るための素材や仕込みはしたがな。……正直な話な。誰にも渡すつもりなんてなかったしな」

 

 用はお蔵入りなもんだとおやっさんは明石に答える。おやっさんのどこか含みのある言い方に明石は疑問を抱いたが、今は事が事なため、追及するのは後にしようと思った。

 

 「おやっさん」

 

 「あぁ、わかってる! 3番から出すぞ。あそこからなら敵の近くに出れるはずだ」

 

 三日月は格納庫にあった水が溜まっているスペースに足を運ぶ。すると、なんの躊躇いも無しに水の上に乗ると、沈むことなく二本の足で立っていた。おやっさんがタブレットを持ち出し操作すると、目の前のシャッターが開き水路が開かれた。

 

 「よし! いけるぞ、三日月!!」

 

 「『三日月』ちゃん! 絶対生きて帰ってきてね! じゃないと大淀に怒られちゃうからさ!」

 

 「もう怒ってますよ! ……『三日月』さん。お願いですから無茶なことだけはしないで下さいね?」

 

 「うん。ありがとう。おやっさん、アカシ、オオヨド、行ってくるね」

 

 三日月はそれぞれにお礼を言うと、そっと目を閉じ鉄メイスの柄の部分を頭に当てる。そして、意を決したのか鉄メイスを腰に添えると出撃の際にする掛け声を放つ。

 

 「行くぞ――『三日月』」

 




もし感想でこれってこの後どうするのとかキャラは何を出すのとかはなるべく言わないでおこうと思います。(設定の矛盾とかあった時に対処できないため)
なるべく、皆さんが楽しめるようなお話を作っていきたいなー

*『建造』と『適合者』のわかりやすい例え(本文では説明するときに書きたくなかった為、ここで書かせてもらいます)

ex)『建造』⇒ガンダム・フレーム(バルバトスとか)

  『適合者』⇒モビルスーツ(グレイズ・フレームとか)

違いは阿頼耶識システムがあるかないかみたいな感じです。(矛盾点があったらすみません)

徐々に本編で書いていこうと思います。わかりやすい例えは後書きに書いていけたらなーと思います。よろしくお願いします。


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第五話

一番書きたかった部分がようやく書けたのでよかったです。
これからも頑張ります。


 第一章「序章」第五話

 

 ――ドンッ!! ドドォーン!!

 

 「うわぁぁぁぁ!? 死ぬ―!!」

 

 「い、いてぇぇぇええ!!」

 

 「た、たすけ、お、溺れ、ガバボォッ!?」

 

 「7班と8班深追いし過ぎるな! 10班はまだ生きている奴がいたら海から引き揚げてくれ! 9班と11班は10班の援護に回れ!! 倒せなくていい!! なんとしてでも注意だけを引き付けてくれ!!」

 

 ル級の艦隊との交戦から2時間。遠征メンバーの帰還とビスケットに頼んだ他所の鎮守府からの応援が来ることを信じ、奮闘していた。しかし、相手は深海棲艦。船の形をしたバケモノである。たかだかRPGやライフルなど対人間兵器で敵う相手ではないのだ。

 駆逐艦イ級を一体沈めるだけでも、艦娘無しで挑めば最低こちらも三隻必要になる。それだけ兵力の差があるのだ。

 

 何故、こうも艦娘という存在に頼らなくてはいけないのか。それは相手の装甲に問題があった。彼女等は装甲から特殊なシールドが展開されている。それを破るには同じ船である艦娘からの攻撃でしか突き破ることが出来ない。そのシールドが何故艦娘にしか効かないのか、あるいは艦娘以外の通常兵器でも対抗出来るのか、などといった原因究明は今全国的に研究を進めている。

 

 そして、オルガを含めイ級との交戦をしている彼等はそのことを知らないわけではない。むしろ、知っているからこそ戦っていた。深海棲艦の一部は海だけではなく、陸にまで攻めてくることがある。イ級もその一つ。海いる時は見えていないものの、二本の短い脚を持ち、その脚で燃料や弾薬、鉄などの資材を食料として襲う。あまつさえ、奴等は人間さえ好物としている。

 

 そんな奴等を陸にあげてしまえばどうなる? 簡単なことだ。地上に住んでいる家族や友人たちが皆殺しになってしまうからだ。だからオルガ達は無駄な行為だとしても、命を張ってでもやらなければならなかったのだ。

 

 「おいオルガ! このままじゃジリ貧だぞ!? いくらル級が攻撃してこないからって、イ級三体も相手するには無理にもほどがあんだろうが!!」

 

 「わかってる、んなことはよ!! あと少しなんだ! 今、ビスケットから連絡が来たんだ。もうすぐ遠征組が戻ってくるってな! それに要請した鎮守府からも応援が到着するまでそうはかからねぇはずだ。踏ん張ってくれ、お前ら!!」

 

 オルガは通信越しに皆に語り掛けると「おう」、「了解!」と気合の入った返事が聞こえてくる。だが、ユージンの言う通り、状況はかなり不味い。

 囮となった奴等の船が大半壊され、残っているのはオルガを含め6隻しか残っていなかった。最初にいた奴等は10班に回収され助かったか、イ級共に殺されたか。そのどちらかであった。

 

 オルガはル級の方をチラリと視線を向ける。するとル級はオルガと目が合うと、この状況を楽しんでいるかのように嘲笑っていた。

 

 (――あの野郎!!)

 

 楽しんでやがる!! 

 オルガはル級の表情を見て理解した。奴等は分かってんだ。俺たちじゃ太刀打ち出来ないことに。無駄な足掻きをしていることに。

 ル級の攻撃は最初以外攻撃をしてくる気配がないことが、報告の内容を含めて理解していた。だが、理解はしていたが意図が読めないでいた。

 何故だ。何故攻めてこない?

 艦娘がいない今なら一気に攻め落とすことも出来たはず。

 その理由は至極簡単であった。――俺たちが抗う姿を見て楽しむためだ。

 

 その理由にイ級は壊れたボートの木片に縋り付いている奴がいればゆっくりと近づいては鼻の先であろう部分で小突き、大きな口を開きながら一気に飲み込んでいく。顎を上下に動かすと、骨が砕けてるのと、肉を噛む音が一緒に混ざり合うのが、嫌でも聞こえてくる。

 それだけじゃない。三体の内、一体は溺れないよう必死に泳いでいる奴の足を、噛みちぎらないよう挟み込み、溺れるか溺れないかの瀬戸際を繰り返していた。そのやり取りの先に待ち構えていたのは、必死に生きようと足掻いたが体力の限界を超え、海に沈み、イ級の口の中へと誘われていくのであった。その末路が、どぷっと泡をたてると赤黒い色の液体が海に染みわたっていく。

 

 「オルガ! まだ、まだ応援は来ねえのかよ!?」

 

 「もうすぐなんだ! だから――」

 

 「うおぉぉぉぉぉぉ、やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

 ユージンの悲痛な声にオルガは諭そうとしたその時、護衛に回っていた昭弘を乗せた班が、今にも食べられそうな奴を助けるために、全速力でイ級に向かって行く。

 

 「昭弘ォ!! ダメだ! 逃げ――」

 

 ――ガシャン!!

 

 イ級は一旦沈むと昭弘を乗せた船を頭の先で体当たりすると宙へと浮かばせる。一回転ほど宙に舞うと、ボートは海に叩きつけられ、木っ端微塵に崩壊した。その直後、ボートから乗せていた弾薬が引火したと思わるれであろう爆発が辺り一帯に吹き渡る。

 

 「あ、昭弘ォォォォォォォォ!!」

 

 「――ッ!! 船の速度を止めるなぁ!! あと少し、あと少しで!!」

 

 ユージンは目に溢れる涙を流しなら大声で叫び声をあげる。オルガは振り落とされないよう握りしめていた手に力を込めてユージンに命令する。昭弘を沈めたイ級を射殺す勢いで睨みつける。しかし、その眼には多くの涙を流していた。

 その光景を見ていたル級は静かにこちらを見つめ微笑んでいた。

 

 (昭弘――俺に言ったじゃねえか。死ぬんじゃねぇってよ)

 

 この世界で再開した仲間を今度こそは守り抜くと、そう誓ったはずなのに――。

 ――お前が先に死んでどうすんだ。昭弘! まだてめえと話してえことはいくらでもあるんだぞ! お前には地上で待ってる奴らがいるだろうが!! 俺はあの人に――ラフタの姐さんに何て言えばいいんだよ!!

 

 「――おい、オルガ? なんかこっち見てんぞ!?」

 

 「――――」

 

 オルガはユージンの言葉の方を伺うと、昭弘の船を沈めたイ級がこちらを見つめていた。すると、イ級の緑色の瞳が一瞬、光出すと全速力で大きな口を開けながら向かってくる。

 

 「しぬ、しぬ、しぬ、死ぬぅぅぅぅぅぅ!?」

 

 「死なねぇ! 死んでたまるか!!」

 

 イ級はオルガの船を丸呑みしようと、イルカのように飛びかかってくる。ユージンは必死になりながら紙一重でイ級の猛攻から逃げず続けていた。絶望的な状況の中、ユージンが死を覚悟した言葉に、オルガは全力で否定した。右、左、右と避け続けるユージンの操縦にイ級はしつこくも攻め続けるのを止めなかった。時にはUターン、旋回、あらゆる方法で逃げ続けた。

 

 「このままじゃ――」

 

 バシャン! バシャン!!

 

 「こんなところじゃ――」

 

 ――バッシャーン!!

 

 「――終われねえぇぇぇぇぇ!!」

 

 オルガの咆哮がイ級に向けて放たれる。イ級の猛攻に避け続けた末、オルガ達はイ級と真正面から対面する。オルガも人の中ではかなり身長があるほうだ。だが、目の前に存在しているバケモノはオルガの一回りも二回りも大きい。そんなバケモノが緑の瞳から閃光をほとぼらしらせる。大きな口の中からは大きな砲塔が一基見える。それだけではなく、大きな歯が数本付いていた。しかし、その歯からは今まで戦ってくれていた仲間たちの血がびっしりとこびりついていた。

 

 そのイ級がもう目前と近づいてくる。ユージンは頭を抱え、これから待ち受ける自分の未来を想像し、必死に耐えるように震えあがっていた。ル級は目の前の敵がイ級に捕食される様を、心待ちにしていた。

 ――だが、この絶望的な状況下でたった一人、諦めていなかった人物がいた。

 ――オルガだ。

 

 (俺はアイツに言ってねぇ――)

 

 今日までの間、たった一人会いたいと願い続けた艦娘。

 

 『睦月型10番艦 三日月』

 

 彼女の名前にある『三日月』という名は相棒であり、弟分であり、誰よりも信頼できるやつ。そんなミカの名前を持った船があるって聞いたときは、正直心が躍った。

 そのために出来ることは尽くしてきた。そして今日、ようやく会えた。

 

 (俺は決めたんだ――)

 

 そいつが俺の知っているミカでないことは百も承知だ。けど俺はあいつと約束したんだ。あの日に――

 

 『――ねぇ、次はどうすればいい、オルガ?』

 

 『――決まってんだろ』

 

 『――?』

 

 『いくんだよ』

 

 『どこに?』

 

 『ここじゃない、どっか。俺たちの――』

 

 ――本当の居場所に。

 

 (睦月型10番艦『三日月』、お前を連れてってやるからよ。だからよ……死ぬわけにはいかねぇんだ!)

 

 「だろ? ――ミカァァァァ!!」

 

 オルガはかつての相棒に向けて言い放つ。それはこの場に存在するはずのない、彼にとって相棒であった三日月・オーガスに向けて送る。それこそが、オルガがこの世界に来て決意したことであり、約束を守れなかった自分がせめて出来る唯一の方法だと信じて。

 

 ――だからこそ信じられなかった。目の前に起こった光景が――

 

 ――ドコオォォォォォン!!

 轟音の中、オルガは目の前の光景から目が離せないでいた。

 それはかつて、鉄華団を立ち上げる直前に起こったギャラルホルンの襲撃の際、目の当たりにした光景にそっくりだったからだ。

 

 「――!? ――!?」

 

 「――ふぅ」

 

 オルガの船に飛びかかろうとしたイ級の目の前に、突如黒い鉄の塊がイ級の顔面を襲う。イ級はその黒い塊の存在に気付けなかったからか、砲塔の照準を合わせることも出来ず、黒い物体に叩き潰されてしまう。イ級の先端部分はメイスと呼ばれる武器が装甲ごと抉り潰されていた。メイスによる攻撃で絶命すると、イ級は先程まで光らせていた眼光を静かに沈黙させる。

 

 沈黙したイ級の顔面からメイスを取り出すと、メイスを振りかぶった人物であろう背中を見て思った。

 ――バルバトス?

 いや、バルバトスなわけがない。だけどこの背中を知っている。

 バルバトスの時に見た大きな背中の姿とは真逆に近い。もっと小さな背中だ。だが、そんな小さな背中からは力強く感じさせる。

 

 「お前、まさか――」

 

 「ねぇ。次はどうすればいい、オルガ?」

 

 ――ミカなのか。そう言葉を続けて言おうとすると、目の前の少女はこちらに振り向くことなく訊いてくる。オルガは思わず息をのんだ。信じられるはずもなかった。

 目の前の少女が相棒のミカだなんて。

 

 「教えてくれオルガ。俺はこれから何をしたらいい?」

 

 振り返る少女。その少女から似つかわしくない言葉が聞こえる。だが、姿形はどうであれ、目の前の少女からはミカの雰囲気を纏っていた。

 

 「オルガの言う事なら俺やるよ。それがオルガの決めたことなら」

 

 「――たく、お前っていう奴は」

 

 (……変わらねぇな、お前は)

 

 黒いセーラー服を纏った少女は不敵な笑みを浮かべると、オルガもそれに釣られて笑みをこぼす。

 

 「――なぁ、ミカ」

 

 「ん?」

 

 「お前しか頼めねえとっておきの仕事がある。頼めるか?」

 

 「あぁ、もちろん」

 

 「なら――まずはあいつらをやっちまえミカ!」

 

 「りょーかい!!」

 

 オルガの言葉に三日月は鉄メイスを握り締めると、残りのイ級に向かって発進するのであった。

 




戦闘描写がものすごく難しかったですけど楽しかったです。
あと、ミカの口調と雰囲気が難しすぎて似てなかったらすみません(汗)
三日月ちゃんの恰好したミカのセリフを想像するのが最近楽しかったりします、
では、また。


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第六話

これでとりあえず第一章は終了しました。
次から新しい章を書いていきます。


 第一章「序章」第六話

 

 「うそだろ……あれが三日月なのかよ」

 

 ユージンはつい先ほど行われていたオルガのやり取りを見て信じられずにいた。けれど、あのやり取りはかつて二人がしていたのを見たことがあった。だからこそ確信する。あれは、三日月・オーガスなのだと。

 

 「ミカがイ級の相手を引き受けている間に、俺たちは生き残った奴を回収して離脱すんぞ!」

 

 「三日月を放っておいていいのかよ!?」

 

 「あいつなら大丈夫だ! だから今は急ぐぞ!!」

 

 「お、おう!」

 

 オルガの言葉にユージンは船を出そうとした時、船の後方部からガシッと何かが掴まっているのに気づく。

 

 「ぶはぁ!? はぁ……はぁ……」

 

 「お前は――昭弘!? 生きてたのか!?」

 

 「あ、あぁ……悪い。手を貸してくれないか?」

 

 「お、おう!!」

 

 オルガは昭弘の手を取るとボートに上がらせ座らせる。

 

 「昭弘お前……てっきり死んだんじゃないかってよ」

 

 「あぁ、俺もそう思った」

 

 なんでも昭弘が言うには、船が宙に舞う前に同じ船に乗っていた奴が突き飛ばしてくれたおかげで、死を免れたらしい。爆発したところから離れていたのも運が良かったとしか言えなかった。

 

 「他のイ級に見つからず潜水して近くまで来たんだが、さすがに何度も潜水してお前らに近づくのは無理があったかもな」

 

 「いや、よく見つからずに来れたな」

 

 「運が良かっただけだ。……それより、さっきの奴は」

 

 「あぁ、ミカが助けに来てくれたんだ」

 

 「あれが、三日月?」

 

 昭弘は信じられないといった表情を浮かべていた。最後の記憶に残った三日月の姿は男だったはず。しかし、あれはどう見ても昭弘の知っていた三日月ではないかった。

 

 「今の俺にもうまく説明出来ねえ。状況が状況なせいで整理している暇はねぇ。けどな、あいつはやるって言ったんだ。俺はミカを信じるだけだ」

 

 「――あぁ、そうだな」

 

 オルガの言葉に昭弘も頷く。オルガは昭弘たちと共に今も救援を待っている彼等のもとへと急ぐのであった。

 

 

 ♢

 

 

 「りょーかい!!」

 

 オルガの命令通り三日月は前方に存在する二体のイ級に向かって突進する。イ級の内一体が三日月に気付くと、口の中に装備されている砲塔を三日月に向けて標準を合わせる。狙いを定め真正面から向かってくる三日月に発射しようとするが――不発。正確には真正面から来た三日月が持っていた鉄メイスを投擲ところ、イ級の砲塔に刺さり爆発した。

 

 もう一体のイ級が三日月に攻撃をしようとしたが、すでに姿がなく左右を確認しているところ、三日月は倒したイ級の砲塔から鉄メイスを抜き、もう一体のイ級の側部に回り込み鉄メイスを打ち込む。ガンッと鈍い音を立てると次第に硬い装甲を砕き、肉を貫く。

 三日月は続けさまに二発、三発と打ち込むと、イ級は悲鳴をあげると力なく沈んでいった。

 

 「……ふぅ」

 

 一息。三日月は息を吐いた。海での戦いに三日月は多少不安であったが、バルバトスの戦いの経験が活きたことに少しホッとする。しかし、バルバトスのように機械を動かしているのではなく、自身の身体を動かすとなると話が違ってくる。

 それは肉体による疲労。先ほどのイ級の戦闘で鉄メイスを振った時に気付いた。こんなにもメイスが重いんだと。一回、また一回と振った時に伝わる衝撃。その衝撃によって自身が振り回されないよう踏ん張らなければいけない。踏ん張るためにはかなり体力を消費する。

 

 三日月はこの世界に来てから一日も経っていない。そして、生まれてきたばかりの三日月にとっての初めての戦闘。それに、三日月・オーガスにとって平気と思っていても『睦月型10番艦三日月』にとって、すでに限界であった。

 

 (……どうしよう)

 

 腕の震えが止まらない。仮に振れてもあと数回が限度だ。三日月はチラリと横へと視線を向ける。視線の先にいた深海棲艦ル級はあからさまに怒った様子でこちらを見ている。

 

 「けど、俺はオルガに言われたんだ。あんたらをやっちまえってさ!」

 

 三日月はル級の周囲を反時計回りに回り始める。ル級も三日月の動きに合わせて砲撃を開始する。ル級の両手に展開されている砲塔合計10基が三日月に向けて発射される。

 イ級とは比べ物にならず10基による放射の雨は、今の三日月にとって分がない。体力ももう持ちそうにない。そう思い、三日月は鉄メイスで自身の周りを旋回しながらメイスの先端部分を水に漬けた。

 

 「――ナメルナァァァァァ!!」

 

 ル級のとも思われる声が辺りを響かせる。水しぶきごときに見失うわけがない。あまりにも古典な方法で馬鹿にされているとしか思えない作戦にル級は怒りをあらわにする。両手の全砲塔を前方へと連射する。しかし、その水しぶきの中にすでに三日月の姿はない。

 

 「――マサカ!?」

 

 「おおおぉぉぉぉ!!」

 

 三日月は水面に触れるかどうかのギリギリのラインからル級に滑り込む。下方から放たれる鉄メイスがル級の心臓に向けて放たれる。

 

 ガキィッン!!

 

 「グウゥゥゥゥゥゥ!?」

 

 間一髪、両手の艤装を重ね合わせ盾を作るようにして鉄メイスによる攻撃を防ぎきる。すると三日月はメイスの柄の部分についていたボタンを押すと、メイスの先端部から一本の杭がル級の艤装を貫き心臓部へと深々と突き刺さった。

 

 「……グ、フッ」

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 三日月は最後の力を込めて、ル級に鉄メイスで突き刺さった心臓部をさらに押し込む。ル級の目から光が消えると後ろ向きに倒れ込みながら、海の底へと沈んでいく。三日月はル級に刺した鉄メイスを離さないよう手を握りしめた。ル級が沈んだのを確認すると、三日月はゆっくりと立ち上がり帰還しようと試みるが――

 

 「……あれ?」

 

 身体が上手く動かない。それだけじゃない。推進作用を持つ足底部の機能が完全に止まっている。歩いてでも戻ろうと試みるが一向に体が言う事を利かないでいた。

 

 (俺は――まだ!)

 

 「まだだ……まだ。――あっ?」

 

 水面に膝を着け波を立たせる。三日月はガクッと膝の力が抜け水面に倒れ込むと意識を失うのであった。

 

 

 ♢

 

 

 「――ああああああ!?」

 

 「うわっ!? びっくりさせないでよ、おやっさん!」

 

 「明石やべぇ! 三日月の艤装に燃料補給するの忘れた……」

 

 「うぇ!? どうするんですか!!」

 

 おやっさんこと、ナディ・雪之丞・カッサパは自身の失態を明石に告発すると驚愕の表情を浮かべた。

 

 この世界において艦娘の艤装の燃料切れとは、すなわち活動停止を意味する。当然だ。例え、車のライトやエンジンに異常が見られなくとも、車のエンジンを動かすための燃料。つまりはガソリンが切れていたら動くはずもない。

 

 艤装に接続していなければ起きることなどないが接続していた場合、燃料切れを起こせば艤装によるシステムの影響で活動停止になる。これは、燃料切れによって艦娘が沈まぬ代わりに活動停止になることで水上に浮上できるシステムになっている。

 

 だが、このシステムには少し問題があった。

 それは『建造』と『適合者』による活動停止の意味合いが違うからだ。

 『適合者』は仮に活動停止しても、それはあくまで艤装が動かなくなるだけで本人に影響はない。何故なら、三日月のような『適合者』船の核となる動力源が艤装に組み込まれており、艤装と直接つなぐためのケーブルも存在しないからである。

 故に『適合者』は『建造』と違い艤装による兵装を扱う際、『建造』のように感覚的に動かすことが出来ず、ズレを生じやすい。

 

 『建造』は『適合者』とは違い船の核となる動力源がすでに体内に存在しているおかげで、艤装に組み込まれたシステムをケーブルを用いることで、脳に直接送り込めるようになる。

 そのおかげで三日月は、まだ使用したこともない艤装の運用や海上での推進の仕方、武器の使用方法が理解できた。だが、『適合者』とは違って艤装と直接繋いでいるせいか、艤装の活動停止=自身の活動停止にもなりうるのであった。ただ、活動停止とは言っても意識を失うと言った方がよいのかもしれない。

 

 だからこそ雪之丞は自分のしたことに頭を抱え込むのでった。

 

 「どうしよう……」

 

 「どうしようじゃないですよ! これで『三日月』ちゃん死んじゃったらどうしてくれるんですか!?」

 

 「仕方ねえだろ!? 艤装のセッティングで一杯一杯でよぉ。武器の弾薬はちゃんと忘れずにしたんだが」

 

 「肝心の燃料を補給し忘れたら、敵に当てて下さいって言ってるようなものでしょうが!!」

 

 「あーやべぇ、マジでやべぇ。艤装の残りの燃料どんくらいだったかな……」

 

 雪之丞と明石のやり取りを傍で見ていた大淀は、二人を倉庫の奥へと連れて行くと怒涛のごとく説教を受けていたことは誰も知る由もなかった。

 

 




わざわざ足を運んでいただいて皆様には感謝しています。
評価も付けて頂いたり、感想を送っていただけて、これからの励みになりますので、これからも精進していけたらいいなーと思います。

焦らず、無理せず、毎日コツコツを心掛けていけたら幸いです。

ありがとうございました。


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第二章「再会」
第七話


第二章開幕です。
第二章はなるべくキャラクターを出したいとは思いますが、多すぎて話が進まない……
一章で死んだはずの仲間たちの登場に皆さんもいくつか考察があると思いますが、皆さんと期待しているものと同じであれば嬉しいです。
あと、艦娘の登場キャラが迷い過ぎてどれがいいのかと考えてますので楽しみにしていてください。 
では、どうぞ


 第二章「再開」第七話

 

 「おーい。その機材はこっちに持ってきてくれ」

 

 「オーライ、オーライ」

 

 「いくぞ……せーの!」

 

 ル級の襲撃から半日が過ぎた。応援に来てくれた他所の艦娘はまた敵が来ないよう巡回警備に回り、それ以外の人は復興作業へと回っていた。鎮守府自体はル級による攻撃が主な被害を受けたが、それ以外の建物による被害はさほど被害を受けずにいた。壊れた鉄骨やコンクリートの撤去作業に、壊れた建物の修復作業はあと一日、二日で作業が終了するほどのものであった。

 ――しかし、人事的被害はあまりにも大きすぎた。

 

 「――これが、主人のだって言うんですか?」

 

 「――はい」

 

 一人の女性がオルガの目の前に地面に膝を着け、手の中に残った一個の指輪がじっと見つめていた。

 

 「間違いありません。彼が俺に自慢げに見せてくれたものと同じでしたので間違いないかと」

 

 「まだ、あんなに小さな子が出来たっていうのに……そのために頑張って仕事するって」

 

 「……」

 

 「……主人は、立派に勤めを果たしましたか?」

 

 「――ッ。彼は新米の提督である俺を激励して支えてくれました。そして、最後までここに住んでいる人たちを守ろうと戦ってくれました」

 

 「そうですか……あの人らしい」

 

 「……すみません。俺も他に行かないといけないので」

 

 「わざわざ……ありがとうございました」

 

 オルガは被っていた白い帽子のキャップをキュッと深く被り目元を隠した。後ろに振り返り歩き出すと、女性の嗚咽が耳にこびりついく。

 オルガは生前から人の死はいくつも見てきた。生まれた時から死との背中合わせで生きてきた。生きるためにはやられる前にやらなければならない。そして、目的のためなら立ちふさがる奴は敵だと。

 

 だが、決して人の死に慣れているわけではない。特に、仲間の死は決して慣れることない。例え、そいつがどんな理不尽な死に方をしたとしても、割り切らなければ前に進めないからだ。かつての自分もそうだった。ビスケットが死んだとき、ミカが逃げ道を作ってくれなかったら、俺はあのまま何も出来ずにいたと思う。

 

 「――俺は謝らねえからな」

 

 けどよ、せめてあんたの奥さんと子ども達が平穏に暮らせる世の中にはしてみせる。そう心に誓いオルガは激励をしてくれた男を想い海を眺めるのであった。

 

 

 ♢

 

 

 「おい。それはこっちだ」

 

 「あ、すみません」

 

 昭弘は指示された資材を間違えて運ぼうとしていた青年に指摘する。

 

 「……」

 

 「あの……」

 

 「……お前、新兵か」

 

 「あ、はい。まだ学校を卒業してからそんなに経ってないです」

 

 その青年は昭弘に向かって敬礼をする。青年の敬礼からは新米だということもあるのか初々しい感じをさせる。

 

 「……そうか」

 

 「俺も、これから頑張ってこの町の人たちを守っていくつもりです!」

 

 グッと握りこぶしを作り意気込む青年。その光景にどこか懐かしさを感じる。

 

 「……頑張れよ」

 

 「はい! ありがとうございます!」

 

 青年は昭弘に一礼すると元気よく資材を運んで行った。その後ろ姿に息をつくと一人の女性が昭弘に近づく。

 

 「ねぇ……そこのガチムチ野郎。ちょっといい?」

 

 「あん? いきなりなん――」

 

 ドスンッ!!

 

 「あ、がぁ……」

 

 昭弘は女性に向かって振り返ろうとした際、溝内に腰の入った拳が一発入る。これでも昭弘は自分の体に自信を持っていた。訓練で鍛え上げられた肉体は大抵の奴なら痛くもかゆくもない。ましてや女性に負けるわけがないと思っている。だが、いくら溝内だからとはいえここまでのパンチを入れられる奴は一人しか知らない。

 

 「あ、姐さん……」

 

 「バカ! 心配したんだからね……」

 

 「……すみません、姐さん。俺……」

 

 「分かってる。アンタのそういうところが好きになったんだから。けど、無茶だけはしないで」

 

 「……そうだな」

 

 姐さんと呼ばれる女性の名はラフタ・フランクランド。タービンズ所属のパイロットであり、よく三日月達と共に戦った仲間である。しかし、タービンズ解散後にジャスレイの手下によって命を落としてしまった。

 この世界でラフタは昭弘と再会すると、生前言えなかった好意を伝える。昭弘もラフタの好意に少しずつ向き合い、今となっては最近やっと付き合うことになったのである。

 

 「お、ラフタの姐さん。久しぶりですね」

 

 「あ、オルガ! 久しぶりじゃん」

 

 オルガは手をあげてラフタに声を掛ける。ラフタもオルガに手を振り返す。

 

 「えぇ。名瀬の兄貴はどちらに?」

 

 「ダーリンならあっちにいたよ」

 

 ラフタは海岸の方に指を指すと、オルガはラフタに一言お礼を言う。

 

 「わざわざありがとうございます。 ……あぁ、それとな昭弘」

 

 「ん?」

 

 「お前には無茶した罰として明日一日謹慎な」

 

 「んなっ!?」

 

 昭弘はオルガの命令に動揺する。昭弘の表情にオルガはその場を立ち去り後ろ姿のまま告げる。

 

 「お前の謹慎場所はここじゃねえ。自分家に帰ってたまにはラフタの姐さんと過ごせ。そうすれば、お前の無茶も少しは落ち着くだろ」

 

 「……お前にだけは言われたくねえよ」

 

 「……あぁ、そうだな」

 

 昭弘は後ろ姿のオルガに頭を下げると、オルガは振り返ることなく手を振って、その場を立ち去るのでった。

 




毎日一話更新出来るよう頑張ります
あと、凄い見てくださってる方が増えてきたので有難いです。
私情ですが……ラフタと昭弘のラブラブな番外編が書けたら書きたい。てかあの二人は幸せになって欲しい。あとマサヒロも幸せにしてぇ……。
では、また


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第八話

何度もアニメを見直して書いていたりするのですが、もしかしたら違っているところもあるかもしれませんが、指摘して頂けたりしてもらえると幸いです。
割と独自解釈があるかもしれませんが……多分大丈夫だと思いたい。
それと一つ――三日月のキャラが難しすぎてツライorz
まあ、なんにせよ。あんまりおかしな内容にならないようこれからも頑張っていこうと思います。では、どうぞ。


 第二章「再開」第八話

 

 「名瀬の兄貴、わざわざすみません。こちらまで来て頂いて」

 

 「何言っていやがる。可愛い弟分のためだ。これくらい構いやしねえさ」

 

 オルガは名瀬と呼ばれる男に声を掛けると、手をヒラヒラと振り答える。

 名瀬・タービン。テイワズの輸送部門を担当する下部組織のリーダーである。彼は行き場のない女性を受け入れるため奮闘したり、弟分であるオルガを面倒見がいいなど、情に厚い人物である。

 そんな名瀬がここにいる理由はビスケットによって応援要請を受けたからである。

 

 「全く、お前らはどうしてこうも面倒ごとに巻き込まれやすいんだ」

 

 「す、すみません……」

 

 「いくら着任してからまだ半年も経っていないってのに、鎮守府が崩壊。あまつさえ提督であるお前まで死んじまったら、目も当てられねえぞ」

 

 「か、返す言葉もねえです……」

 

 「ま、無事だったからいいけどよ」

 

 名瀬は腰に手を置き息を吹くと、オルガはそっぽを向くと頭をかいた。

 

 「それで? 例のやつはどうなった?」

 

 「『三日月』のことですか?」

 

 「それ以外ねえだろ。で、どうだったんだよ?」

 

 「実は――」

 

 

 ♢

 

 

 「――おいおい!? それは本当なのかよ! あの三日月が睦月型の『三日月』として蘇ったってのはよ!!」

 

 「えぇ、正直な話、未だ俺も信じられないんですけど……」

 

 オルガの言葉に名瀬は動揺を隠しきれずにいた。それもそのはず。

 そもそも、元を辿ればオルガは三日月を蘇らせるために今日まで過ごしてきたわけではない。オルガはあくまで睦月型10番艦『三日月』を『建造』することが目的だったのだから。

 

 この世界で『適合者』ともう一つ『建造』と呼ばれる方法によって生み出された艦娘が存在する。『建造』と呼ばれる艦娘がどうやって生み出されるのか。それは船の核となる動力源を媒体として生み出される。

 

 『建造』方法とは、提督であるオルガが妖精に弾薬、燃料、鉄、ボーキサイトといった資材を渡すことによって作り出される。そもそも妖精とはなんなのか。その存在は未だ解明されていないが、誰でも見えるという訳ではない。むしろ、ほとんどの人が認識することすらままならない。この妖精を認識することが出来る者だけが提督へとなる条件なのだ。

 

 妖精の役割として主なことは、艦娘の艤装。特に空母の武器である艦載機を操る際には、妖精がいなくては動かしたり出来ないのだ。そして、もう一つの役割は艦娘を生み出すための『建造』である。だが、この『建造』にはある理由が原因で普段行われないでいた。

 

 そう――『建造』の成功率の低さである。

 大量の資材を消費するにも関わらず、成功できるのは1パーセントあるかないかだ。そして、『建造』する船の種類によって資材の消費量が違うのだ。『三日月』は駆逐艦であるが、戦艦クラスを『建造』しようとすれば、駆逐艦の10倍の消費量の差がある。

 しかも、その10倍の消費量が一回の成功率が1パーセントあるかないかだ。例え、成功したとしても、国自体が無くなってしまう。

 それゆえに、この世界に存在する艦娘の大半が『適合者』なのが現状である。

 

 「――ったくよ。『建造』出来るだけでも奇跡に近いのに、あの三日月が来るなんてな。お前、どんだけ三日月のことが好きなんだよ」

 

 「え、あ、いや、その……なんていうか」

 

 「いいぜ、言わなくても分かってるって。お前がどれだけ頑張ってたか知ってるからよ」

 

 「兄貴……」

 

 名瀬はオルガの肩をポンと軽く叩くと、不敵の笑みを浮かべる。オルガは名瀬の言葉に口元を緩めた。

 

 「毎日、毎日、遠征の奴らに資材調達の任務をさせている間、お前は俺以外のところにも必死になって伝手を探しては分けてもらえないか頼みに行ってたんだよな」

 

 「……あいつらも俺の無茶なお願いについて来てくれてるんです。新米だろうが、なんだろうが俺の出来ることをやっただけです」

 

 「言うねえ。そういう筋が通ったところは変わらねえな、お前は」

 

 「でも……俺だけでは無理でした。兄貴と再会していなかったら、こうはなりませんでした。本当に――ありがとうございます」

 

 今回の修復作業による人員、資材、それに艦娘による鎮守府の警備強化のための手配は全て名瀬が受け持っていた。オルガがビスケットに頼み、名瀬に今回の襲撃について知らせると、すぐさま知り合いの鎮守府に応援要請を送ってくれたのである。

 まだ、オルガはそれほど他所の鎮守府とのつながりはなく、応援を呼べるほど頼める場所がなかった。しかし、名瀬の広い顔のおかげでこうしてことを運ぶことが出来たのである。

 そして、今日『建造』された『三日月』による必要な資材の支援も名瀬は出来る限りの範囲でオルガのことを支えたのだ。

 

 「おいおい勘弁してくれ。女ならともかく男に言われると、尻の穴がかゆくなって仕方ねえだろうが」

 

 オルガは名瀬にお辞儀をすると、名瀬はオルガに対する言葉とは裏腹に満面な笑みで言う。

 

 「そういえばお前に前々から聞きたいことがあったんだけどよ」

 

 「聞きたいことってなんですか、兄貴?」

 

 「あの睦月型10番艦『三日月』の動力源のことだが……お前、この鎮守府に着任して間もない頃に俺に会いに来たよな」

 

 「そうですが……兄貴、どうして今になってそんなことを?」

 

 「あの時は再会できたことに頭が一杯だったからよ。今となっては気づかなかったが……オルガ。お前、誰から手に入れたんだ。あの動力源を」

 

 「……」

 

 「それにお前のことを俺に紹介した奴を調べてみたら聞いたことのある名前があってな。そいつの名は確か――モンタークっていう男だったんだが」

 

 名瀬はオルガを真剣な瞳でじっと見つめると、オルガは夜が明ける日を見つめながら告げた。

 

 「……俺たちの世界でかつて、ギャラルホルン監査局所属の特務三佐だった男――マクギリス・ファリドからです」

 




一応補足

この世界の建造は私たちがやっている「艦これ」のように資材を溶かすとポンッと出る感じじゃないようにしました。でないと、『建造』と『適合者』のメリット、デメリットがしっかり分けられないと思いまして。

まあそれだけの資材をどうしたんだと疑問に思われると思いますので、徐々に解き明かしていこうと思います。

では、また


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第九話

今回からやっと艦娘の登場になります。
てか初期に登場させるキャラが4人以外思いつかないのは不味いのかな……。
まあ序盤はいいとして中盤以降真面目に考えて行こう(言い聞かせ)


 第二章「再開」第九話

 

 「――ハッ!?」

 

 三日月は目を覚ますと視界一帯にまばゆい光が襲う。意識が覚醒するにつれ、全身の鈍い痛みに思わずうめき声をあげる。

 

 「……ここは?」

 

 いまいち状況を飲み込めないでいた三日月は周囲を見渡そうとするが、自身にもたれ掛かっている二人の子供の存在に気付いた。

 

 「……」

 

 (……なにこれ?)

 

 目に映るのは優しい緑の髪に白銀の色の髪をした少女。その二人からは安らかな表情で眠っていた。その表情から、まるで三日月のことを心配していたかのよう、静かに寝息をたてていた。

 

 「あら、気が付いたのね」

 

 「……アンタは」

 

 「久しぶりね、三日月くん」

 

 目を覚ました三日月に声を掛けたのは、かつて歳星を出立した鉄華団に監査役兼財務アドバイザーとして派遣された女性。メリビット・ステープルトンの姿があった。

 

 

 ♢

 

 

 「あなたのことはオルガ提督――いえ、団長さんって言ったらいいのかしらね? あなたが三日月くんだってことは聞かされてるわ」

 

 「そっか」

 

 三日月はメリビットに短く返事を返す。そのやりとりにメリビットは柔らかな表情で三日月を見つめる。

 

 「ほんとに変わらないのね、あなた。最初、団長さんから聞いたときは疑心半疑だったけど今なら信じられるわ。あなたが三日月くんだってね」

 

 「あのさ、アンタに訊きたいことがあるんだけど」

 

 「何かしら?」

 

 「これ……なに?」

 

 三日月の視界に映る二人の少女について訊くと、メリビットは「あぁ、その子たちね」と返事を返すと、緑の髪をした少女の髪を優しく撫でる。

 

 「この子たちはあなたが倒れたところを助けに来てくれたのよ?」

 

 「……コイツらが?」

 

 三日月はメリビットに首をかしげると縦に振って肯定する。

 

 「……そういえば、コイツらの格好って俺の着てる服と一緒なんだな」

 

 「そうよ。この子たちはあなたの姉にあたる子たちよ」

 

 「――はっ?」

 

 メリビットの言葉に三日月は目を見開く。メリビットから二人の少女に視線を移す。視線をメリビットに戻すと首を横に振った。

 

 「俺に姉なんていないけど?」

 

 「そうね。あなたには団長さんがいるものね。……でもね? その体の子はこの子たちにとって大事な妹なの」

 

 「……『三日月』の?」

 

 「えぇ、そう。だから彼女の家族のこと大切にしてあげてね」

 

 (……そっか。コイツらがお前の家族なんだな――『三日月』)

 

 『――うん』

 

 三日月は心の中でもう一人の『三日月』に語り掛けると、短くだが返事が返ってくる。まるで、もう一人の自分が近くにいる気配を感じさせる。三日月はふと笑みをこぼすとメリビットに向かって言う。

 

 「わかった。アンタの言う通り大事にする」

 

 「えぇ、そうして頂戴。それじゃあ、ちょっと用事があるからこの子たちのことお願いね」

 

 「うん」

 

 三日月の返事にメリビットは気分良く部屋から出ていくのを見送った。三日月は未だ眠りから覚めない姉たちを待つためもう一度眠るのであった。

 

 

 ♢

 

 

 「……ふぁ。今何時だ?」

 

 緑髪をした少女、長月は寝起きたばかりの体を起こすため腕を上へと伸ばす。体を震わせ眠気を払い隣で寝ている菊月に目を向けた。

 

 「……菊月もよく頑張ったな。さすが私の妹なことだけはある」

 

 白銀の髪が寝息をたてることにユラユラと揺れる。軽く頭を撫で労っていると、どこから視線を感じる。

 

 「……ん?」

 

 「……」

 

 ジッとこちらを見つめる金色の瞳。見つめ合ってしばらく、長月は菊月の頭に置いてある手を見つめ自分がしていたことに今更ながら気づいた。

 

 「……見たのか?」

 

 「うん」

 

 「……どこからだ?」

 

 「アンタが起きたところからだけど」

 

 「――」

 

 カアッと顔を赤くさせ口元がパクパクと泳ぐ。三日月はコテンと首をかしげると顔を手で覆いしゃがみ込む。

 

 「……今のは忘れてくれ」

 

 「わかった」

 

 ケロッと言い放つ目の前の少女に長月は思わず訝しげな表情を浮かべる。

 

 「……本当だな?」

 

 「うん」

 

 「本当の本当にだな!?」

 

 「言わないって」

 

 「……ならいい」

 

 「……けどさ」

 

 「うん?」

 

 スッと指を指す示す方向に長月は視線を向けると、さっきまで撫でていた菊月の耳が赤くなっていた。

 

 「多分、意味ないと思うけど」

 

 「――う、うわあああああああ!?」

 

 

 ♢

 

 

 「うっ……ひっく、ひく……」

 

 「「…………」」

 

 あれから長月は部屋の隅ですすり声を上げ泣いていた。菊月は慰めようと色々しているが、長月にとって惨めでしか感じないことに気付いていない様子。三日月もこの手に関しては不得手な方だったので、どうしていいのか分からず困惑していた。

 

 (こういうとき、アトラならどうするかな……)

 

 以前、地球に向かう途中クーデリアが泣いてしまった時のことを思い出す。

 三日月は重い体をベッドから起こして長月の所へ歩く。菊月の肩を軽く叩く。振り返る菊月に三日月は視線を送ると、菊月も何かに察したのか三日月に首を振り交代する。三日月はそっと抱きしめるかのように長月の体を抱きしめると頭を撫でた。

 

 「……ふぇ?」

 

 「ごめん。女の子が泣いている時はこうするのがいいって、アトラが言ってたから。これしかわからないや」

 

 「……」

 

 三日月の行動に思わずされるがままの長月。優しく髪を撫でる手からはどこか温かいものを感じる。しばらくして長月のすすり声が聞こえなくなると、最後にポンポンと頭に触れて離れていく。

 

 「落ち着いた?」

 

 「……はっ!? す、すまない! 見苦しいところを見せたな」

 

 「別にいいよ」

 

 長月はゴシゴシと目に残った涙を拭うと凛とした表情を浮かべる。その姿を見た三日月は胸を撫で下ろす。

 

 「私は睦月型8番艦駆逐艦、長月だ。駆逐艦と侮るなよ!」

 

 「あーえっと、三日月。三日月・オーガ――じゃなかった。睦月型10番艦駆逐艦、『三日月』だっけ?」

 

 「……なんで疑問形なんだ?」

 

 長月は決めセリフを言い手を差し出す。三日月も長月の手を取り自己紹介をするが、三日月の仕方に思わず指摘する。

 

 「あーごめん。まだ慣れてなくって」

 

 「そ、そうか。そういえば急だったからな。すまない」

 

 「別に、気にしてないから」

 

 慣れていないのは名乗り方だったのだが、どうやら勘違いをしているのに気づいていない様子だったので、特に言わなくてもいいだろうと思った三日月である。

 

 「それで……アンタは?」

 

 「菊月だ……共にゆこう」

 

 「……?」

 

 三日月は菊月の方に向くと、そっと差し出す手を受け取り握手を交わす。だが、菊月のセリフの意図が理解できず反応できずにいた。

 

 「あーあまり菊月の言う事に気にしなくていいからな」

 

 「そうなのか?」

 

 「あぁ、とりあえずよろしくって言ってると思ってくれてかまない」

 

 「ふぅーん。よろしく」

 

 長月の説明に三日月は頷くと、長月と同じ部屋の隅で「うぅ……なんなのさ、一体……」とつぶやいているのが聞こえるが、聞こえていない振りをした。

 

 こうして、新たな仲間が出来た三日月であった。

 




ストックの第二章を書き終えたんですけど……今更なんですけど、結構説明とか出来ていなかったりするかもしれないです。
出来たらでいいんで指摘して頂けたりすると有難いのでよろしくお願いします。
これからも皆さんが楽しんでいただければ幸いです。

最後に一言――やっぱり駆逐艦は最高だなぁ!!

パンッパンッ!!(銃声の音)


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第十話

今回で初期メンバーは全員です。今後はキャラを増やすつもりではありますが、如何せんオルフェンズのキャラだけでも多いのに、艦これのキャラをあれもこれも出したりが出来なくってすみません。
代わりに一人一人のキャラを大事に活躍させていきたいと思います。
……初期は多分、皆さんもこんな感じのメンバーじゃなかったのかな?
では、どうぞ


 第二章「再開」第十話

 

 「そういえばアンタたちが俺のことを助けに来てくれたって聞いたんだけど」

 

 「あぁ、そうだ」

 

 自己紹介を終えひと段落すると、三日月達はベッドに座りながら話をしていた。

 

 「お前が倒れた時、私たちもすぐ近くまで来ていたんだ」

 

 「へぇ」

 

 「ル級を倒した後の倒れたお前を見てすぐわかった。外傷もないはずなのに全然動かなかったからおそらくは燃料切れなんだろうなって」

 

 「そっか。――ありがとう」

 

 三日月は長月たちに礼を言うと、頬を赤く染めながら首を振った。

 

 「礼はいらぬ……だが、悪い気はしないな」

 

 「あぁ、私たちは当然のことをしただけだ」

 

 菊月が腕を組みながら言うと、長月もそれに続き頷く。それでも、あの時倒れたところを助けてもらったことに三日月は感謝の気持ちが浮かび上がる。

 

 「それでも本当に――ありがとう」

 

 「う、うむ……」

 

 「あ、あぁ……」

 

 三日月の素直な言葉に二人は恥ずかしさのあまり思わず頬を掻く。

 

 「そいういえばアンタたち以外いなかったのか?」

 

 「いや、私たち以外にあと二人いたんだ。おそらく二人もこちらに来るはず――」

 

 「――失礼します」

 

 コンコンとドアを叩く音が聞こえると、ドアをガラッと開け姿を現す。そこにいたのは柿色の下地に白の半袖セーラー服を着用した女性が二人。一人は茶髪で後頭部に緑色のリボンをつけている。前髪は外にハネたワンレングスが特徴的だ。もう一人は、茶髪のセミロングをツーサイドアップにし、髪と同じ茶色い瞳が印象的である。

 

 「お、元気そうじゃん。いやーよかった!」

 

 「お怪我は大丈夫ですか?」

 

 「ん、平気」

 

 ツーサイドアップの女性は後頭部に腕を組むと笑顔で話しかけてくる。緑のリボンをした女性の質問に三日月は端的に答える。

 

 「そうですか……紹介がまだですね。私は川内型2番艦、神通です。よろしくお願い致します」

 

 「アタシ? アタシは川内型1番艦、川内ね! カワウチじゃないからね!」

 

 神通は頭を深く下げお辞儀する。川内は指を伸ばし三日月に向けて喋る。三日月は川内の話した言葉の意味がわからず思わず聞き返す。

 

 「カワウチじゃない?」

 

 「そそ、漢字で川の川に、内側とかの内って書いてセンダイって言うんだぞ。間違えないでよね~」

 

 「ふーん。……じゃあアンタのことはカワウチって言うね」

 

 「あれ!? アタシの話聞いてた!?」

 

 自慢げな表情で三日月に言うが、予想とは違った反応に思わず、川内はずっこけそうになった。

 

 「うん。聞いてたけど」

 

 「ゼッタイ聞いてないでしょ! センダイだよ!? セ・ン・ダ・イ!!」

 

 「うん。カワウチ」

 

 「カワウチ言うなー!」

 

 ムキーと言いたげに両腕を天井に向け大声を上げる。三日月は川内のリアクションが内心面白いと思ったことを、心の隅にしまっておこうと思った。

 

 「それで……あなたが噂の『三日月』さんでいいのかしら?」

 

 「そうだけど?」

 

 「……失礼で申し訳ありませんが、私が知ってる睦月型10番艦『三日月』のイメージと随分かけ離れてる気がするんですが……」

 

 「あー確かにね。なんていうか、こう、礼儀正しくて真面目っ子なイメージがあるけど、あたしの知ってる『三日月』とも違う気がするかも」

 

 「……そうなのか?」

 

 三日月は二人に訊くと二人して頷く。心の中で『三日月』にも語り掛けると、うんうんと首を振っているのを感じた。二人の反応に三日月は「ふーん」とだけ答えると、隣にいた長月から呆れた表情で三日月を見ていた。

 

 「ふーんって……そんな興味がなさそうに言わないでくれ。仮にも私たちの妹なんだぞ? もっと、こう、だな? もう少し『三日月』らしくだな――」

 

 「……じゃあ、聞くけど。アンタの知ってる『三日月』に俺はなった方がいいのか?」

 

 ジッと見つめる三日月に長月は思わず口をつぐむ。しかし、長月は緑色の髪を揺らし、首を横に振ると優しげに微笑みかける。

 

 「――いや、よその『三日月』はそうかもしれない。けど、私は今のままでいいと思うぞ」

 

 長月の言葉に無言であった菊月だがうっすらと笑みを浮かべ同意していた。無表情のまま三日月は「そっか」とだけ短く返事する。すると、そのやりとりに長月と菊月は思わず嘆息するのであった。

 

 三日月達のやり取りを見ていた神通と川内は胸の内が温かくなる。自分たちもそうだが、姉妹との繋がりを感じさせてくれる。そんな気にさせてくれるのだ。

 実際、神通も川内も同じ船の姉妹艦ではあるものの、血の繋がりがあるわけではない。適合し艦娘になったことで、初めて知り合った赤の他人。だが、血は繋がらなくとも今は同じ家族とも呼べる存在であると二人は思っていた。互いにそんな会話をしなくても心の中で通じ合っていた。

 

 「それでは自己紹介も終わったことですし、他の方々も外で待っていることですので行きましょう」

 

 「そーだね。帰ってから何も食べてないしね。アタシお腹空いたよー」

 

 「そうだな。……『三日月』はもう体の方は大丈夫なのか?」

 

 「うん? あー大分回復したからいける」

 

 「ほう! なら行こう。ほら、菊月も行くぞ!」

 

 「あぁ……今いく――って、長月!? 急に引っ張るな!」

 

 神通がパンッと手を叩くと三日月達は頷き行動を開始する。長月に引っ張られ、躓かないように走る菊月。三日月はその後ろをゆっくりと歩く。神通と川内もそれに続き微笑ましそうな表情を浮かべながら後を追うのであった。

 




皆さん。カワウチじゃないですよ、川内と書いてセンダイですよ(唐突)
実は艦これ初めてやった時、カワウチ連呼してました。あれは恥ずかしかったです。

艦これの2015のイベントでも三日月ちゃんと神通さんが活躍したことを思い出して採用しました。これからのお話で絡ませていきたいなー。

あと、補足なんですが文章の三日月と艦これの三日月の違いを
・三日月→三日月・オーガス

・『三日月』→三日月(艦これ)

にしてあります。
本来、こんな説明する必要があるのかと言われたらないと言われるとは思いますが一応後書きにて書かせていただきました。どうもすみません……

最後に一言……早く、クーデリアとアトラちゃんを出したい(ボソッ
では、また


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第十一話

これから更新が遅れるかもしれませんが一日一話頑張ります。


 第二章「再開」第十一話

 

 「ふんふんふ~ん。ふ~んふ~ん♪」

 

 「ご機嫌だねぇ」

 

 「うひぃ!?」

 

 鼻歌交じりにブレスレットを編んでいると、背後から女性の声がかかる。不意に声を掛けられた少女は思わず立ち上がると、背後の女性に見えないように、編んでいたブレスレットを後ろに隠すのであった。

 

 「す、すみません!」

 

 「いいよ別に。それに今日は近くの鎮守府の襲撃のせいで、客が来る気配もないから店を閉めるつもりでいたからね」

 

 女性は腰に手を置くと、どこか諦めた表情を浮かべながら窓の外を眺める。窓の外から見える鎮守府から、建物の修復作業や艦娘の巡回警備の様子が窺える。チラリと横目で少女の持っているブレスレットを見ると笑みをこぼす。

 

 「それ……あの坊主のかい?」

 

 「……はい」

 

 少女は持っていたブレスレットを見つめると寂しげな表情を浮かべた。

 

 「あの坊主に会えたのかい?」

 

 「いいえ。まだ……会えてないです」

 

 「そっか。 ……悪いね。野暮なことを聞いて」

 

 少女の言う事に女性は一言謝ると首を横に振る。

 

 「いいんです。それに……団長さんやクーデリカさん。鉄華団の人たちの何人かは出会えたんです。きっと――会えます」

 

 女性は少女の今にも泣きそうな笑みに思わずそっと抱きしめる。

 

 「お、女将さん……」

 

 「大丈夫。アンタならきっと会えるさ」

 

 「……はい」

 

 女性は最後に少女の背中を軽く叩く。少女は女性から離れると、袖で目尻を拭い晴れやかな表情を浮かべる。

 

 「よーし! 絶対三日月に会うんだから!」

 

 「その意気だよ。それじゃあ……行こうかね」

 

 「女将さん、どこか出かけるんですか?」

 

 「何言ってるんだい。アンタも行くんだよ」

 

 「ふぇ?」

 

 女将さんと呼ばれる女性、ハバは少女の手を引き外へと連れ出す。店の隣の駐車場まで歩くと困惑した少女をトラックに乗せた。

 

 「あの……どこへ行くんですか?」

 

 「決まってるだろ? 行先は――あの鉄華団がいる鎮守府にだよ」

 

 笑顔で答える女将さんは少女――アトラ・ミクスタに言うとエンジンをかけ「HABA'S STORE」と書かれたトラックを走らせるのであった。

 

 

 ♢

 

 

 「そういえば兄弟。お前はこれからどうするんだ?」

 

 「え?」

 

 海岸沿いを歩きながら名瀬はオルガに訊くと、突然の質問に間抜け声をあげる。

 

 「いやだからな。これからどうするんだって聞いてるんだよ」

 

 「あ、あぁ……そうですね」

 

 腕を組み唸り声を上げると、空を見上げながら呟く。

 

 「とりあえず報告書を作成して人員の補充の要請とか始末書とかの作成とか……あと、あいつらの遠征に必要な安全なルートの検索とか――」

 

 「あーうん。悪かった。俺の聞き方が悪かったな」

 

 「え、違うんですか?」

 

 「違えよ。そんなことはお前らのところの話だろ。俺の言いたいことはそんなことじゃねえ」

 

 「それじゃあ……」

 

 「俺の聞きたいことはなだな……オルガ、お前がこれからどういう道を進んでいくのかを聞きてえんだよ」

 

 「……」

 

 名瀬の内容にオルガは思わず押し黙ってしまう。名瀬はどこか遠くを見るかのように海を見つめている。

 

 「なあ兄弟。俺は知りてえんだ。お前があの時みたいに生き急いでいるんじゃねえってかよ」

 

 「それは……」

 

 「以前、俺に家族を守るために、お前は火星の王を目指すべき場所だと言ったよな? だが、今はもう過去のことだ。だからこそ聞きてえんだ。 ……今のお前は何を目指しているんだ?」

 

 名瀬の言葉にオルガは口ごもる。何かを言おうと試みるが思うように言葉に出すことが出来ずにいた。そんなオルガのもとに三日月を率いて歩いてくる。

 

 「あ、提督。お時間よろしいでしょうか?」

 

 「あ、あぁ、神通か。悪いが名瀬の兄貴と話してる最中なんだ。用件なら後で聞くから今は――」

 

 「オルガ」

 

 神通と話していたオルガの前に姿を現すのは、黒セーラー服を纏い少女の姿をした相棒、三日月の姿だった。

 

 「……」

 

 「……」

 

 オルガと三日月は見つめ合うことしばらく、一連のやり取りを見ていた彼等は迂闊に動くことが出来ずにいた。一触即発と言いたげな不穏な雰囲気に思わず周囲の人たちは息をのむ。実際のところ、オルガと三日月の両者共々、久々の再会に言葉が見つからずにいた。

 

 (ミカ――俺は……)

 

 会えて嬉しいはずなのに声に出すことが出来ない。話したいことは山ほどあった。

 連れて行くと約束したことを果たせず先に死んでしまったこと。お前が助けに来てくれたおかげで皆を守ることが出来たこと。俺の無茶なお願いをいつも断らず引き受けてくれたこと。お前とまた再会できて嬉しいこと。

 感謝、謝罪、懇願、感激、ありとあらゆる感情と言葉が混じり合い胸の内からあふれ出す。だが、目の前の相棒に上手く伝えられずいる自分に苛立ちを覚え拳に力がこもる。

 

 そんなオルガの様子に三日月はただ腕を前に出すと――

 

 「――連れてってくれるんでしょ?」

 

 「――は?」

 

 三日月の言葉にオルガは思わずあっけらかんと声をあげる。そんなオルガの様子を無視するかのように話を続ける。

 

 「俺たちの――『本当の居場所』に」

 

 (オルガ。もう一度連れて行ってくれ。俺たちの辿り着いていたあの場所に)

 

 三日月の言葉にオルガは目元を片手で覆うと空に向かって高らかに笑い出す。

 

 「――ク、ククク……アッハッハッハ!! あぁ、そうだったな!」

 

 (そうだ。俺は何を迷う必要があったんだ)

 

 答えは――目の前にあるじゃねえか。

 

 「あぁ、わかったよ! 連れて行ってやるよ! たとえこの先、どんな困難が待ち受けようともお前を、お前たちを、俺が連れて行ってやるよ!」

 

 (今度こそ連れて行ってやる。俺たちの――『本当の居場所』によ!!)

 

 三日月は辿り着いた場所にもう一度辿り着くために、オルガは果たせなかった約束の居場所へと連れて行くために、それぞれの思いが重なり合うと、オルガは三日月に腕を出し重ね合わせると、互いに不敵な笑みを浮かべるのであった。




アニメで確認はしたんですが、意外とミカとオルガのやり取りってこういうのばっかりで、他のキャラと違って、こういうシーンが多くなると思いますが、ご了承ください。
では、また。


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第十二話

今の今までクーデリアのことをクーデリカと書いていたことに気付いていませんでした。感想で教えて下さった方、ありがとうございます。
多分、間違えてる箇所がいくつかあるかもしれないので、あったら教えてください。
では、どうぞ。


 第二章「再開」第十二話

 

 「……そうかよ」

 

 名瀬は三日月とオルガのやり取りを見て口元を緩めると、オルガに何も言わず立ち去ろうとする。すると、背後から呼び止められる声が聞こえてくる。名瀬は首だけ後ろに向けて振り返る。

 

 「……なんだよ兄弟」

 

 「兄貴……さっきの質問の答えなんですが、俺は――」

 

 「あー悪いな。その話はもういいんだ」

 

 「えっ!?」

 

 名瀬の言う事に戸惑うオルガ。オルガの表情を見て名瀬はクスリと笑うと止めていた足を動かし歩き出す。後ろから引き留める声が聞こえてくるが、聞えないフリをして歩き続ける。

 

 (行けよ兄弟。お前の目指すべき場所によ)

 

 二人のやり取りの中で名瀬は確かなことが一つだけわかった気がした。それさえ知れたならいいと思い歩き続けていると、海岸沿いに名瀬の妻――アミダ・アルカが海の景色を眺めていた。アミダは名瀬が歩いてくるのに気づくと、名瀬の背中に回り込みもたれかかる形で抱き着く。

 

 「アンタ、もういいのかい?」

 

 「あぁ、ここでの用は済んだ。あとのことは他の奴にでも任せるさ」

 

 名瀬はアミダに軽めの接吻をすると、アミダもそれに応えるように名瀬と同じことをする。

 

 「あの子に訊きたいことがあったんだろ? それで?」

 

 「ん? あーあれな。やっぱり訊くのは止めることにしたんだわ」

 

 「あらどうして?」

 

 アミダの疑問に名瀬は微笑みながら答える。

 

 「分かったんだよ。アイツがどこを目指すかをよ」

 

 「訊いてもいないのにかい?」

 

 「あぁ」

 

 断言するかのような名瀬の口ぶりに、アミダは不思議に思う。その気配を察したかのように名瀬は話を続けた。

 

 「俺はまたアイツが火星の王を目指した時みたいに、生き急いでいるんじゃないかと心配したんだがよ」

 

 そう、名瀬はオルガが再び家族の為にと無理をしているんだと思っていた。ハシュマルとの戦闘で半身不随になった三日月の話を聞いていた時のことを思い出す。初めてオルガと出会った時から頃に比べ、多くの仲間を失い続けた鉄華団。それでもなお、辿り着く場所があるんだと信じ続け立ち止まることをしなかったオルガ。

 

 だが、あの時の名瀬から見たオルガの顔からはどこでもいいから早く降りて楽になりたい。そう訴えているかのようにも見えた。だが、立ち止まることを許されなかったオルガの立場や団員の意志によって、もう戻れないところまで来てしまった。

 

 だからこそ知りたかった。また火星の王でも地球の王にでもなると目指すのかと。

家族に楽をさせてやりたい。その気持ちは変わっていない様子だったオルガの姿を見て名瀬は思った。

 

 以前、いくらでも方法はあると提案したことがあった。だが、オルガは名瀬の言葉を否定し戦う事でしか生きられないと話したことがある。けど、それはすでに過去のこと。今ならまだ間に合う。そう思った名瀬はオルガの返答次第では殴ってでも止めるつもりで今日、ここに来たのだった。

 

 ――しかし、それは杞憂で終わった。

 あの三日月のやり取りをしていたオルガの表情から伝わってきたのは、仲間の屍を超えてまで辿り着こうとしていた、あの時の目とは違うことに。今度こそ、誰も失わず皆で辿り着くんだと。そう決意する眼差しを感じた。

 

 だから名瀬はあえてオルガに訊くのをやめた。もし、名瀬の思い通りなら全力でそれを支えてやろうと思った。仮に違うというのなら殴ってでも止めてやると決めたのだ。

それが、名瀬が出来る精一杯の恩返しだと考えていた。

 

 「けど今のアイツなら大丈夫だ。たとえ、この先どんな困難が待ち構えていようともな」

 

 「……そうだね。あの子たちならきっとやれるだろうさ」

 

 「あぁ。さぁ、とっとと帰るとするか!」

 

 大声を上げ一緒に帰ろうとするとポケットに入れてあった携帯電話が鳴り響く。

 

 「……ちっ。誰だよ、今どう見てもいい雰囲気だったはずなのによ」

 

 ピッとボタンを押す音を鳴らすと、電話の先から聞き慣れた声が聞こえてくる

 

 「悪い名瀬。ちょっといいかい?」

 

 「あん? どうしたんだアジ―。何か問題でもあるのか?」

 

 「あぁ、ちょっとね。前話していた件なんだが」

 

 アジ―・グルミン。かつてタービンズ専属のパイロットであり、鉄華団と共にしていた。名瀬が亡くなりタービンズ壊滅後、一時期ラフタの死に責任を感じてふさぎ込んでしまうが、残ったメンバーをまとめ上げ、名瀬の意志を引き継ぐのであった。

 そんな彼女はというと、今後のことを考えて名瀬はアジ―に後を引き継がせようと考え、名瀬の代理として働いていた。

 

 「取引先の奴らが、やっぱり例の提案には乗れないって行き成り言い出してきたんだよ。挙句の果てに自分たちの言いように話を進めてくるんだ」

 

 「それをどうにかするのがテメエの仕事だろうが」

 

 「そうなんだけどさ……」

 

 名瀬は思わずため息をこぼす。こりゃあまだまだ任せるのは先かなと思っていたところ、話の続きがあったらしくアジ―が話を続けると――

 

 「……姐さんをよこせば話に乗ってもいいって言ってくるのさ」

 

 「――ほぅ?」

 

 ビキッと額の血管が今にも浮き出るかのような音を出す。頬を引きつらせながら不敵な笑みを浮かべると「すぐに向かう」とだけ伝え通話を切った。

 

 「あら、どうしたのアンタ?」

 

 「おもしれえ……俺の女に手を出そうとはいい度胸じゃねぇか」

 

 「ふふっ。アンタ、なんて顔をしてるんだい? イイ男が台無しだよ?」

 

 「いいんだよ。お前がわかっていれば問題ないさ」

 

 「ったく、アンタっていう男は」

 

 名瀬はアミダの腰に腕を回すと、アミダも名瀬の肩に寄りかかる。二人は顔を合わせると、互いに頬笑みながらアジ―の元へと歩き出すのであった。




全然三日月が出ていませんでしたが、次回から多分出ると思います。今回の章は戦いとかはないと思うんですが、出せるキャラは出していこうと思います。
では、また。


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第十三話

結構書いていて思うことがあるんですが、割と自分は話しているときの描写を詳しく書こうとする癖があるのですが、あんまり書かなくてもいいのかなと疑問に思うことがありますけど、どっちの方がいいんだろう?
では、どうぞ


 第二章「再開」第十三話

 

 「……」

 

 神通は不思議に思う。先ほどの行われていた提督と『三日月』のやり取りについて疑問を抱いていた。

 

 (提督と彼女は以前から知り合い?)

 

 いや、それはありえない。初めて提督とお会いした時から彼女の存在について知らされていた。睦月型10番艦『三日月』、彼女の歴史や性能、主な役割などあまり知っている様子ではなかった。本に書いてあることや人から聞いた程度の知識しか持ち得ているようにしか思えなかった。実際の船を見たことがあるわけでもなく、戦艦大和や長門のような有名な軍艦という訳ではないのだ。

 

 そんな彼女の存在を、着任した当初の提督から話を聞かされた時は何か思入れのある出来事でもあったのかと思った。けれど、実際のところ、提督の話を聞いてみるとそういう訳ではないが、どうしても彼女を『建造』したいと話をしていたことを思い出す。

彼女の『建造』のために日々、私たちに資材の調達による任務を与え、自身自ら他の場所に足を運んでは支援を得られないかどうかと交渉しに行くほどである。

 

 何故、何故なんだろう? 

 そこまでするだけの理由が本当にあるのか。そう思い幾度も提督に訊きに行ったことがあるが、いつも恥ずかしそうにしながら話をはぐらかされた。そんな感じに今日まで過ごしてきたが、目の前で起こった光景を見て思うことがあった。

 

 (彼女は――本当に提督の話していた『三日月』なのでしょうか?)

 

 知りたい。彼女が本当は何者なのかを。

 神通は呆然と名瀬の後ろ姿を見送っていたオルガに近づき話しかける。

 

 「提督、よろしいでしょうか?」

 

 「ん? あ、あぁ、悪いな神通。で? 用件はどうした?」

 

 本当は『三日月』を連れてきたことを報告しに来ただけであったが、今は違う。ただ純粋に彼女との関係を知りたいと思い訊くことにした。

 

 「……『三日月』さんとは以前からお会いになったことでもあるのですか?」

 

 「……あー」

 

 神通の質問にオルガは手を目に当てると空に向かって顔をあげる。オルガは何て説明したらいいんだと、聞こえるか聞こえないかの声でつぶやく。

 

 「そのーなんて言えばいいのか、わからないけどよ。アイツは……『三日月』は俺の知っていた奴にそっくりなんだよ」

 

 「知っていた奴?」

 

 「あぁ、そうだ。俺の相棒で弟分でもあったんだが、そいつと同じ名前をしていた」

 

 「……その方とはどうなったのですか?」

 

 「会っちゃいねえ。いや――会えてねえな」

 

 「……そうですか」

 

 初めて提督の口からそんな話が聞けた。そんな思いが神通の中にあったのと同時に聞いてはいけないことなのだと察した。けれど、そんな様子をお構いなしにオルガは話を続けた。

 

 「……けどな。そんな奴と同じ名前に加えて仕草や雰囲気まで一緒ときやがる。だからよ……つい、そいつにしていた時と同じことをしちまった」

 

 「提督……」

 

 「悪かったな。誤解を生むようなことをしちまってよ。俺はアイツとは今日初めて会ったばかりなんだ。それだけはわかってくれ」

 

 「――はい!」

 

 オルガの話に神通は元気よく返事をする。神通はどこか納得した様子でオルガに敬礼をすると、三日月達のいるところへと戻っていく。

 だが、内心オルガは気が気ではなかった。

 

 「……はぁあああああああ」

 

 (一体どう説明すればよかったんだよ!?)

 

 あの『建造』で出会えたのが、睦月型10番艦『三日月』の方じゃなくて、相棒のミカなんだって言えるわけがねえだろ。俺たちの世界のミカを知ってる奴なんて、同じ世界で関わった奴以外いるわけがないねえ。仮に説明したとしても「提督? 頭大丈夫ですか?」なんて言われてもみろよ。無理だ。絶対無理だ。このまま頭のおかしい提督として過ごさなきゃいけないとか無理に決まってんだろ!?

 

 (俺は仮にも鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ!? そんな俺が軽蔑の眼差しの中、過ごすのなんか、なんてことは――あるに決まってるだろうが!!)

 

 「……どうしたの、オルガ?」

 

 頭を抱え込み地面に膝を着いていたオルガにビスケットは声を掛ける。しばらくして落ち着いたのかオルガはビスケットに向かって言う。

 

 「……なぁ、ビスケット」

 

 「なんだい、オルガ?」

 

 「俺は……どうすればよかったんだ?」

 

 「え、なんの話?」

 

 いきなりの話にビスケットは戸惑う。オルガは地面に向かって盛大にため息をつくのであった。




オルガって意外に男からは大丈夫でも女の子から軽蔑されたりするとダメそうと思うのは自分だけかな?
では、また


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第十四話

まず始めに……すみません。
なにが、とは言えませんがすみません。
まあ、読んでいただければわかると思います
では、どうぞ。


 第二章「再開」第十四話

 

 時は夕刻。復興作業から半日が経過していた。三日月たちは微力ながらも復興作業の手伝いを行っていた。

 

 「よーし!今日はここまでにしよう。お前ら! あとはゆっくり休んでくれ!」

 

 オルガの号令に作業員たちはそれぞれ労いの言葉をかけて仕事から上がっていく。

 

 「……ふぅ」

 

 三日月もオルガの言葉を聞き、最後に片づけていたものを終えると、黒いセーラー服の袖で額の汗を拭う。三日月は生前の時のように上手くいかないと思った。

 

 (……やっぱり、前みたいに上手くいかないや)

 

 少女の体のせいかすぐ疲れやすく、重いものを持つのも一苦労であった。生前の三日月は男性にしてCGS時代から体を鍛えていたこともあって体力もあった。だが、今回はそうも言っていられないようだ。

 

 「……また、鍛えないと」

 

 こんなんじゃダメだ。そう思い、三日月はどこか鍛える場所がないかと探しに向かおうとしたところに――姉妹艦である長月、菊月がこちらに向かってくる。

 

 「おーい『三日月』! そっちは終わったのか?」

 

 「ん? あぁ、今終わったところだけど」

 

 「ほう! そいつはよかった。今から菊月と一緒にお風呂に行くんだが『三日月』も行かないか?」

 

 「……お風呂かぁ」

 

 どうしようと心の中でつぶやく。正直、今は鍛錬したい気分であったが、目の前の長月と菊月の眼からは期待に満ちた視線を向けられていた。どうでもいい奴からとかなら断ったりするのだが、仮にも妹であり家族の頼みを無下に断りづらいと思った。

 『三日月』もお風呂に入りたいと言ってるのが聞こえると、仕方ないと思いつつ長月の提案に乗るのである。

 

 「いいよ」

 

 「――ッ!! そうか! なら、早く行かないと夕飯に遅れてしまうからな!」

 

 「――ッ!! ふっ、礼は言わぬ……」

 

 長月は三日月の左手を、菊月は右手を取ると共に走り出し、それについて行く三日月であった。

 

 

 ♢

 

 

 「……はぁ」

 

 ……疲れた。オルガは両手を腰に当て背中を逸らすと一息、ため息をこぼす。凝り固まった肩を回す。ゴキゴキと肩を鳴らしていると作業を終えたビスケットがこちらに向かってくる。

 

 「お疲れ様、オルガ」

 

 「あぁ、ビスケットも今日はサンキューな」

 

 「気にしないでよ。当たり前のことをしただけなんだから」

 

 「それでもだ。お前にはいつも感謝してるんだぜ?」

 

 ニィと笑みを浮かべ振り返ると、ビスケットもオルガにつられ笑みをこぼす。オルガとビスケットは食堂である間宮のところに向かおうと足を運ぶ。

 

 「そっか。なら、これからはもっと頑張って貰わないとだね」

 

 「あぁ、わかってる。ミカも来たんだ。俺たちのやることはここから始まるんだからよ」

 

 「そうだね。あ、そうだ。オルガに伝えとかなきゃいけないことがあって」

 

 「あん? 伝えとかなきゃいけないことって?」

 

 「間宮さんの手伝いにアトラとハバの女将さんが手伝いに来てくれたんだけど……」

 

 「……」

 

 ビスケットの言葉にオルガは歩くのを止める。ビスケットは歩くのを止めたオルガに振り返ると、そこには呆然と立ち尽くしていたオルガの姿があった。

 

 「……アトラが来てんのか?」

 

 「う、うん。そうだけど?」

 

 「……」

 

 オルガはビスケットの返事に上を見上げる。

 以前、クーデリアのお嬢さんと会った時に聞いたことがある。俺が死んだ後、ミカはアリアンロッドの戦いから団員を守るために最後まで戦ったそうだ。アトラとクーデリアのお嬢さんも最後まで三日月が帰ってくると信じて待っていたらしいが、結果は望んでいたものと違った形になってしまった。二人はその後一緒に暮らして最後まで過ごしていたらしい。

 

 きっと会わせてやれば問題なんてねえはずだ。だが、今のミカを本当に会わせてもいいのか? 中身は俺たちの知ってるミカだけど姿形はまるで別人なんだぞ。ミカのことが好きだったアトラの前に今のミカを会わせられるのか。

 

 「……ねえ、オルガ」

 

 「ん? なんだよ、ビスケット」

 

 「今アトラと三日月のことを考えてなかったかい?」

 

 「……」

 

 「あの子なら今の三日月を見てもきっと大丈夫だよ」

 

 ビスケットの言葉に目が点になるオルガ。だが、ビスケットの表情からオルガはふと息を吐くと、右目を瞑り口角を上げ笑みをこぼす。

 

 「……ったく、お前は何で俺の考えていることがわかんだよ」

 

 「何を今更言ってるんだい。俺がオルガの近くでどれだけ見てきたと思ってるの?」

 

 「……そっか。アトラなら大丈夫か」

 

 なら早く知らせてやらねえとな。そう思いオルガはアトラの場所に向かおうとしたが、一つ聞きたいことがあったのを忘れていた。

 

 「……そういやビスケット。ちょっといいか?」

 

 「うん? なんだいオルガ?」

 

 「ミカを知らねえか? さっきから姿が見えねえんだけどよ」

 

 「あぁ、三日月なら今お風呂に行ってるんじゃないか?」

 

 「――風呂、だと?」

 

 「? うん。長月と菊月と確か一緒だったと思うけど――って、オルガ!?」

 

 「はぁ……はぁ……!!」

 

 オルガはビスケットの静止を聞かずに、全速力で風呂場へと走り出す。

 

 (ま、待ちやがれミカァアアアアア! 今のお前の状況分かってんのか!? 今のお前は女なんだぞ!? しかも相手は幼女だぞ!! 何やってやがるんだお前!!)

 

 オルガは艦娘専用の風呂場に着くと、既に風呂から出た後の状態をした三日月と長月たちが入り口に立っていた。オルガは三日月達のところに到着すると肩で息をして呼吸を整えるのであった。

 

 「……オルガ?」

 

 「し、司令官? 『三日月』に用でもあったのか?」

 

 「あ、あぁ、悪い。ちょっと借りてくぞ」

 

 オルガは三日月の手を取り、長月達から少し距離を離すと小声で話しかける。

 

 「……なぁ、ミカ」

 

 「どうしたの、オルガ?」

 

 「お前……今は女だっていうこと忘れてないよな?」

 

 「何を言ってるの、オルガ?」

 

 そんな当たり前なことを何故聞くんだと言わんばかりの視線をオルガに送ると、オルガは開いた口が塞がらないでいた。

 

 「ミカお前……あいつらとお風呂に入って何とも思わなかったのかよ」

 

 「別に、普通でしょ?」

 

 それだけ言うと三日月は「また後でね、オルガ」とだけ言い残し、長月達のもとへと戻っていく。オルガの後を追いかけてきたビスケットは息を切らしながら近づいてくる。

 

 「はぁ、はぁ……急に走り出してどうしたの、オルガ?」

 

 「……なぁ、ビスケット」

 

 「……なに、オルガ?」

 

 なんか今日同じ光景を見た気がする。そんな気を感じたビスケットはとりあえずオルガの話を聞くことにした。

 

 「……すげぇよ……ミカは……」

 

 「だから何の話?」

 

 ビスケットの疑問に答えることもなく、オルガは長月達と歩く三日月の背中をただ眺めるだけであった。




入浴シーンはいつか書きます。
今回はすみませんが勘弁してください。
あと、オルガの動画とか見るとどうしてもこんなキャラになってしまう傾向にあるんですが、なんとか頑張ります(笑)
いつも読者の皆様には感謝しています。
これからも頑張ります。
では、また。


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第十五話

毎日、更新、頑張ります!
では、どうぞ


 第二章「再開」第十五話

 

 ガヤガヤと賑やかな雰囲気を出しているこの場所、食堂「間宮」に今日の復興作業を終えた作業員や警備を終えた艦娘達が皆一緒になって集まっていた。

 

 ここは食堂「間宮」。食堂「間宮」とは補給艦『間宮』が経営している場所である。間宮の主な役割として、艦娘の士気、つまりコンディションを管理している。食堂「間宮」以外にも喫茶店を開いており、艦娘以外にも一般の人も利用できるようになっている。ちなみに、食堂の場所と喫茶店の場所は離れており、利用できるのはあくまで喫茶店のほうだけである。無論だが、お店の売り上げの一部は鎮守府へと入るようになっている。これはオルガと間宮が話し合った結果であり、経営に関しても無理がない程度にという条件である。

 

 ゴトンッ!

 

 「はい! 次はこれを運んでもらえますか?」

 

 「「はーい!」」

 

 間宮は食堂のテーブルカウンターからカレーの入った鍋を置くと二人の少女、クッキー、クラッカーに鍋を運んでもらうよう頼む。クッキーとクラッカーは間宮の頼みに元気よく返事を返すと、二人仲良く協力し合いながら鍋を運んでいく。二人の後ろ姿を見て頬を緩めた間宮の元に、兄であるビスケット・グリフォンが近づいてきた。

 

 「すみません間宮さん。二人とも迷惑かけてないですか?」

 

 「そんなことないです。ビスケットさん、あの子たちが一生懸命手伝ってくれたおかげで皆助かってますよ」

 

 「そうですか。よかった……」

 

 ホッと息をつくビスケットに間宮は微笑む。

 

 「いいお兄さんですね。ビスケットさんは」

 

 「えっ、あ、いや……そんなことないです。でも、あの子たちは僕にとって大事な妹ですから」

 

 「ふふっ。やっぱりいいお兄さんだと思いますよ、私はそう思います」

 

 「あ、ははは……」

 

 間宮の素直な感想にビスケットは帽子を深く被り顔を隠す。間宮はビスケットの耳が真っ赤になっていることに気付くが、彼の行動を考えると流石に指摘するのは可哀想だと思い、あえて見て見ぬふりをすることにした。

 

 「……そ、そういえばアトラはキッチンの方にいますか?」

 

 「アトラちゃん? アトラちゃんなら今、ハバの女将さんと追加の料理の仕込みの最中だけど……呼んできましょうか?」

 

 「すみません。忙しい中、こんなことを頼んでしまって」

 

 「いいのよ、気にしないで下さいね。――アトラちゃん! ちょっとお時間いい?」

 

 間宮はビスケットの頼みを聞くと、後ろを振り返り、鍋をかき回していたアトラに声をかける。アトラは間宮の声に気付くと、女将さんに鍋をかき回していたお玉を渡し、後のことをお願いする。アトラのお願いに女将さんは景気良く頷くと、アトラは間宮とビスケットのところに向かった。

 

 「はーい!……どうしたんですか、間宮さん?」

 

 「今ビスケットさんがお時間いいかって聞いてきたんだけど、大丈夫ですか?」

 

 「あ、はい。私は大丈夫です。ちょうど終わったところだったんで。……それで何か用かな?」

 

 「うん。……ちょっと、ここじゃなんだから外でもいいかな?」

 

 「うん? いいけど……ここじゃあダメなの?」

 

 「ちょっとね。アトラにとって大事な話だから」

 

 「……わかった」

 

 アトラはビスケットの言葉に頷くと、キッチンと食堂のホールに繋がる扉を潜り、ビスケットのところまで行く。ビスケットはアトラが来ると、食堂から出ようと歩き始める。

 ビスケットの後を追うと歩き始めたアトラの視界に、一人の少女が目につく。

 

 (……あの子、どこかで見たことがある気がする)

 

 アトラの視界に入る少女は、髪が黒く癖のあるセミロングにアホ毛。瞳は金色に黒いセーラー服を着ていた。だが、その少女ならぬ雰囲気に無表情で黙々と食べている姿が、どことなく好きだった男の子とそっくりだったことあってか、目が離せないでいた。

 

 (――三日月?)

 

 ふと思ってしまった。あまりにも酷似していたものだから。しかし、アトラは思い返す。私の知っている三日月は男だったはず。いや、男であった。間違いないと確信すると同時に残念な気持ちでもある。だって、あの子はどう見ても女の子なのだから。それは彼女が三日月でないことを意味した。

 

 「おーい。どうかしたのかい?」

 

 「あ、ううん。今行くね」

 

 チラッと少女の方をもう一度だけ確認するとビスケットの所まで走っていくのでった。

 

 

 ♢

 

 

 「……ん、うまい」

 

 「ほら、『三日月』さん。そんなに慌てて食べなくても誰も取りませんよ?」

 

 三日月の口元についた食べ物の汚れを神通が拭ってあげる。優しく拭ってあげると一言三日月はお礼を言った。

 

 「んぅ……ありがと、ジンツウ」

 

 「どういたしまして」

 

 ニッコリと神通は笑顔で返すと、三日月は頷くとすぐに食事の続きに戻る。

 

 「ふっふー。『三日月』はまだまだ子供だねぇ」

 

 「……カワウチ、うるさい」

 

 「カワウチ言うなぁぁぁぁ!」

 

 「姉さん、ここは食堂なんですから静かにしてください」

 

 三日月の言葉に反応して騒ぐ川内。その川内をなだめようとする神通であった。

 

 「……もう。どっちが子どもなんですかね、姉さん?」

 

 「だって、『三日月』がアタシの名前をちゃんと呼んでくれないから――って、アタシのおかずが減ってるんだけど!?」

 

 バッと顔をあげ三日月に睨みつけるが、川内の睨みを気にした様子もなく三日月は黙々と食べ続ける。

 

 「……アンタ、いつの間にアタシのおかずを?」

 

 「俺じゃない」

 

 「じゃあ誰が――」

 

 「ん」

 

 三日月の指に示された人物を川内は見る。それは隣に座って食事をしていた長月に指されていた。

 

 「え、な、長月?」

 

 「……」

 

 もごもごと口の中が動き続いている長月の口に、川内は驚きを隠せずにいた。一番まともな子だと思っていた川内にとって不意打ちに近かった。

 

 「ちょ、ちょっと長月~? じょ、冗談よね?」

 

 「モグモグ……こいつはいいな」

 

 「な、長月―!?」

 

 ドヤ顔で食べ終わるところを見せると、川内は思いっきり席を立ちあがり叫ぶ。そして、長月の他にも自身の皿からおかずが持っていかれる光景が目に焼き付く。

 

 「えっ!? ちょ、き、菊月!?」

 

 「モグモグ……運が悪かったな!!」

 

 「ア、アンタまで何言い出してんの!?」

 

 「礼は言わぬ……この力、何に使うか……」

 

 「食べ終わってから何言ってんの、アンタらはぁぁぁぁ!!」

 

 「礼じゃなくて謝れー!」と川内は騒ぎ出すと、長月と菊月の追いかけっこが始まった。自分の姉の姿を見て思わず、眉間に皺を寄せる神通に、三日月は一言「大丈夫?」とだけ声をかける。

 

 「えぇ、大丈夫です。……でも、少しホッとしました」

 

 「なんで?」

 

 神通は長月と菊月の方を見ているとポツリと言葉を漏らす。

 

 「……あの子たちはあなたのことをずっと待ち望んでいました。どんなに『建造』の成功率が低かろうと、私たちよりも一生懸命資材の調達任務に勤しんでいました。そして、今日やっと待ち望んでいた妹に出会えたんですもの。きっと、今日まで色々と我慢してきたことも多いと思います。だから、普段真面目なあの子たちが羽目を外す真似をしているんだと思って」

 

 「……そっか」

 

 神通の話に三日月は一言だけ言うと、頬を緩ませる。

 自分自身に言ってる訳ではなくとも、素直に嬉しいと思った。それは『三日月』を家族として迎い入れていることに他ならないのだから。

 

 「……俺も、嬉しい」

 

 「――ッ!! そう、ですか。……本当に良かった」

 

神通の目から一筋の涙が流れる。神通は涙を拭うと三日月と共に、楽しく騒いでいる川内たちの光景を眺めるのであった。




忙しくなってきたので更新が遅くなったらすみません。
では、また。


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第十六話

あの……すいません。
投稿したと思ったらしていませんでした!
もう毎日投稿破ってしまった……これからは出来る限り頑張ります。
では、どうぞ。


 第二章「再開」第十六話

 

 カチャカチャと食器を片付ける音が食堂一帯に響き渡る。それぞれが食事を終えると片づけ始める。片付け終わるとそれぞれ戻るべき場所へと戻り、就寝に備えるために足を運ぶ。

 三日月も神通たちと共に食器を片付けていた。食器皿を返却コーナーに持っていくと、間宮が食器を受け取りに来る。

 

 「ありがとう。『三日月』ちゃんは偉いわね」

 

 「別に、普通でしょ」

 

 「ふふ、いい子だね。あ、そうそう。自己紹介がまだだったわね? 私は間宮。よろしくね、『三日月』ちゃん」

 

 「ん、よろしく」

 

 三日月は間宮にそう言うと食器を渡す。間宮が受け取ったのを確認すると、自分も長月達と一緒に部屋に戻ろうとする。長月達の戻ろうとしたところに、ビスケットが走ってこちらに向かってきた。

 

 「どうしたの、ビスケット?」

 

 「はぁ……はぁ……み、三日月。今、時間あるかな?」

 

 「? 別にいいけど」

 

 「そっか……今からちょっと会ってほしい人がいるんだ」

 

 「会ってほしい人?」

 

 三日月が聞き返すと、ビスケットは「うん」とだけ言って頷く。

 

 「もしかして……オルガのこと?」

 

 「いや、オルガじゃないよ。もっと別な人」

 

 「……」

 

 ビスケットの勿体ぶる言い方に三日月は不思議に思う。

 オルガ以外にいるとしたら誰だろう? 昭弘? ユージンなのか? 一応知っている人とは既に言葉を交わしたはずだが、まだ誰かいたのだろうか?

 三日月は今日あいさつしたであろう人物をビスケットに聞いてみるが、どれも違うらしい。会ってからのお楽しみとしか言わないビスケットの後ろを、ただついて行くしかなかった三日月であった。

 

 「……この先にいるから。あとは三日月だけでいいかな?」

 

 「……わかった」

 

 ビスケットの頼みに三日月は頷く。海岸沿いをそのまま真っ直ぐ歩くが、夜の暗さのせいで周りが見えない。しかし、ある程度歩き続けていると目の前に人影がいるのが分かった。

 三日月はその人影に向かって歩き続けると、人影らしきものがこちらの存在にも気づいた様子でこちらに近づいてくる。三日月はその人影の前にたどり着くと、じっと相手の顔を見つめる。

 

 「……アンタが俺のことを呼んだのか?」

 

 「え、いや、私はビスケットに言われてアナタを待つようにって――」

 

 (あれ……この声。もしかして――)

 

 「――アトラ、なの?」

 

 「――えっ?」

 

 三日月が目の前の人物に話しかけた刹那、夜空の光が辺りを照らし出す。

 暗くて何も見えなかった人影から現れたのは、かつての仲間であり、大事な人であるアトラ・ミクスタの姿がそこにあった。

 

 

 ♢

 

 

 アトラは三日月の言葉に息をするのを忘れてしまうほどであった。目の前の少女は、先ほど食堂で見かけた人物と同一人物に間違いなかった。だからこそ、信じられなかった。目の前の少女がアトラの知っている三日月・オーガスであることだという真実に。

 

 「……ミ、三日月……なの?」

 

 「……うん。そうだよ」

 

 三日月であろう少女の言葉から放たれる声に、アトラは反応できずにいた。

 ずっと会いたいと願い続けた。アトラがこの世界に来てから鉄華団のメンバーとは何人か会ってきたが、少し年齢とかが違ったりしていたりする位で、ほとんど変わっていない人の方が占めていた。

 

 だが、目の前の少女は違った。姿形以前に性別まで違っているときた。もはや変わっている所ではない。変わり過ぎていて逆に思考が追い付かないくらいだ。

 神様は残酷だ、と言う人がいたりするがまさにその通りだとアトラは思った。よりにもよって会いたいと願った人の姿が――少女の姿をしているのだろうと。

 

 「――なんで?」

 

 「……アトラ?」

 

 「なんで……三日月、なんでなの?」

 

 「……」

 

 今にも倒れそうなアトラの足取りに、三日月は近づくとそっと優しく抱きしめた。アトラは三日月に抱きしめられると、黒いセーラー服の襟を力いっぱい握りしめる。そして、三日月から顔が隠れるようにアトラは三日月の胸に顔をうずめる。

 

 「……三日月……どうしよう」

 

 「……」

 

 「これじゃあ――三日月の赤ちゃんが作れないよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 「……は?」

 

 

 ♢

 

 

 「……あの、その、えっと、ごめんね? 三日月」

 

 「あ、いや、うん。アトラはもう平気?」

 

 「う、うん。いきなりごめんね? びっくりしたでしょ」

 

 「あーうん。まあね」

 

 普段はあまり驚かない三日月だったが、今回のアトラの言葉には流石の三日月も驚きを隠せずにいた。あれからしばらくして、アトラも落ち着きを見せると、三日月の胸から離れて顔を合わせる。

 

 「……本当に三日月なんだね」

 

 「そうだけど……どうして?」

 

 「どうしてって……そりゃあ、三日月がいきなり女の子になってたら普通驚くよ」

 

 「そうかな?」

 

 「そうだよ! きっとそうに決まってる!」

 

 ムッとした表情で接近するアトラの顔面に、三日月は顔を引いてしまう。そんな三日月の様子をお構いなしに続けてくる。

 

 「それに……私よりちょっと胸が大きい気が……」

 

 「え、なに? 聞こえなかったんだけど」

 

 「あ、う、ううん! こっちの話!」

 

 「?」

 

 アトラがブツブツと何か喋ったと思った瞬間、いきなり身を引き始めた。アトラの行動に思わず三日月は頬を緩める。三日月の表情にアトラも不機嫌そうな顔から優しい顔へと変わる。

 

 「アトラも変わらないんだね」

 

 「そ、そうかな?」

 

 「うん。少し、ホッとした」

 

 「三日月……あ、そうだ!」

 

 アトラは何かを思い出したかのように、パーカーのポケットから何かを探している様子だった。ポケットの中を弄っていると、お目当ての物を見つけたのか、ポケットの中から取り出すと三日月の目の前に差し出す。

 

 「――これって」

 

 「……うん。前のと同じブレスレットだよ」

 

 アトラの手の平にあるブレスレットは、かつて地球に向かう時にお守りとして渡したものと同じものであった。アトラは三日月の左手首を持つと、手の平にあったブレスレットを着けてあげる。三日月はアトラがブレスレットを着け終えると、ブレスレットを顔に近づけ大きく息を吸う。息を吐くと、どこか満足げな笑みを浮かべアトラにお礼を言う。

 

 「……ありがとう。大事にするね」

 

 「……」

 

 「……アトラ?」

 

 アトラは三日月の左手首にあるブレスレットごと両手で掴むと、願いを込めるかのように強く握りしめた。

 

 「――約束して」

 

 「え?」

 

 「もう……どこにもいなくなったりしないって……約束、して」

 

 ポロポロと溢れ出すアトラの目から涙が地面に向かって零れ落ちていく。三日月はどうしたらいいのかと考える前には、既にアトラを抱きしめていたことに気付く。三日月の腕の中で泣き続けるアトラを赤ん坊をあやすかのように、背中を優しく叩き続ける。

 

 「わかった」

 

 「……本当に?」

 

 「うん」

 

 アトラも分かっていた。あの時、三日月が戦わなければ、もっと多くの犠牲が出たことに。三日月が最後まで戦ったおかげで助かった人たちがいたことに。そして、今回も同じように大切なものを守るために戦いに身を投じるのだと。だからこそアトラは願いを込める。

 

 「――約束だよ?」

 

 「――うん。約束」

 

 もう――どこにもいかないように、と。ブレスレットに願いを込めるのであった。

 




アトラちゃんって時々こんな感じのキャラですよね?
結構oh……っていう発言してますし……いや、うん。多分大丈夫。
でも喜怒哀楽がハッキリしてて可愛いから自分的にはかなり好きです(笑)
では、また。


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第十七話

これで第二章は終了になります。
もっと、多くのキャラとか描写とかしたかったんですが、今後の展開でやっていくよう頑張りたいです。
では、どうぞ。


 第二章「再開」第十七話

 

 「じゃあね、三日月」

 

 「うん。アトラも気を付けて」

 

 三日月はハバの女将さんのトラックまで同行すると、アトラに別れを告げて見送る。トラックが発車するのを確認すると、長月達の元へと戻ろうとした時、後ろから歩く音が聞こえてくる。

 

 「よおミカ。もう、いいのか?」

 

 「うん。アトラと話が出来たから大丈夫」

 

 「……そっか」

 

 後ろから歩いてきたのは、かつて鉄華団団長、オルガ・イツカであった。

 三日月はオルガに振り返ると、どうしたのかと訊く。するとオルガは大したことはないとだけ告げると、海岸沿いに指を指す。

 

 「ちょっと話さないか? 久しぶりに会えたって言うのに、お互いドタバタしてたからな。まだいけそうか?」

 

 「オルガが言うなら俺は付き合うよ」

 

 「……ったく。別に無理しなくてもいいんだぞ?」

 

 「別に、無理はしてないよ」

 

 「……そっか。んじゃ、頼むわ」

 

 「うん」

 

 オルガが歩き始めると、三日月もオルガに続きついて行く。海岸沿いにたどり着くと、オルガはコンクリートで出来た地面に腰を下ろすと、三日月もオルガの隣に腰を下ろす。三日月の足とは違い、オルガの足はちょっとしたことで海面に触れそうであった。

 オルガは海面を眺めている三日月と何を話したらいいのかと迷っていると、三日月のスカートのポケットから何かを取り出し、口元に運んでいく。

 

 「おいミカ。それ、どうしたんだ?」

 

 「ん? あぁ、これ? さっきアトラから貰った」

 

 三日月は食べていたものをいくつか渡す。オルガは手に渡されたものを確認すると、それはドライフルーツの一種、レーズンであった。

 

 「……なんでレーズンなんだ?」

 

 「アトラが言ってた。この世界に火星ヤシがないから代わりにって」

 

 ミカの話によると、なんでも火星ヤシに似た果実、デーツってのがあるらしいんだが、普段入手するには難しいらしい。だから代わりに似たレーズンを渡したそうだ。あとここだけの話なんだが、生前のミカがよく眼から血を出していたこともあってか、レーズンにしたってアトラに言われたとのことだ。

 

 「……てか、うまいのか?」

 

 「オルガも食べてみなよ」

 

 「……」

 

 気持ちは有難いんだけどよ……どうしても、ミカが渡すもののほとんどが外れな気がしてよ。正直、躊躇っちまうんだが。おい、ミカ。そんな期待に満ちた瞳で見るんじゃねえよ。今のお前の姿わかってんのか? 結構可愛いとか思っちまうじゃねえか。

 

 「……いけるな、コレ」

 

 「うん。今度アトラからもっと貰うつもり」

 

 ぱあっと無表情でありながら嬉しいそうな感情を見せるミカに俺は頬を緩める。どこからどう見ても、どこにでもいる少女の姿にしか見えないミカが、未だにあの三日月・オーガス本人だと思えなかった。けど、こうも違和感がないわけではないが違わないとなれば信じる他ないと思った。

 

 「……そういえば他の皆はどこにいるの?」

 

 「……あーそのことなんだけどな」

 

 「ん?」

 

 ミカが俺に不思議そうに尋ねてくる。そりゃあそうだよな。こんだけ知り合いに会ったら気になるよな。どう説明していいんだろうな。あんまり難しい話とかだと、ミカはよくわかんないだろうしよ。取りあえずそうだな……。

 

 「この世界について誰かから詳しく聞いたか?」

 

 「おやっさんから一応は。……なんだっけ? シンカイっとかいう奴らが攻めてきたんでしょ?」

 

 「そうだ。その深海棲姫からこの町守るため、海を取り返すために俺たちは戦ってる」

 

 「……つまりオルガの敵ってこと?」

 

 「まあ、俺の敵って言うのもなんだけどよ。あながち間違いじゃねえな」

 

 「――そっか」

 

 それだけ言うとミカは海面をただじっと眺める。それは前と同じで俺たちに立ちふさがる奴は敵でいいのだという認識に違いなかった。

 

 「なんにせよ、俺たちがやることは一つだ」

 

 「うん――オルガ」

 

 「あん?」

 

 「――連れて行ってくれるんでしょ?」

 

 ミカの瞳が俺を捉える。俺はその瞳から目を逸らさずしっかりと頷く。

 

 「あぁ、今度こそ連れてってやる。俺たちの――『本当の居場所』によ」

 

 「あぁ、だから連れてってくれ。そのためにオルガ――俺は次、どうしたらいい?」

 

 ミカが次の指示をくれと言わんばかりに俺のことを見てくる。俺はすっと海面の先、今まさに出てきたであろう太陽に向かって指を指して言う。

 

 「この世界には『暁の水平線』っていう言葉があるんだけどよ。俺たちはそれに向かって勝利を勝ち取っていくことが、今のやるべきことだと俺は思っている」

 

 「……どういう意味なの? その『暁の水平線』って」

 

 「そうだな……ざっくり言うと夜明け前の海の向こうから太陽が昇るってことなんだろうけどよ。俺たちはその夜明け前、つまり深海棲姫との因縁を終わらせて、戦いを終わらせるって意味で使ったりしてる」

 

 「……つまり、シンカイを倒せば戦いは終わるの?」

 

 「あぁ、そうだ。そのためにミカ。俺ともう一度戦ってくれるか?」

 

 そう言うとミカは何を言っているんだと言いたげな顔でこちらを見つめている。

 

 「俺の命は元々オルガに貰ったものなんだ。だから、この命はオルガのために使わなきゃいけないんだ」

 

 「ミカお前……」

 

 (本当に変わらねぇんだな)

 

 昔と同じことを言ってた時を思い出す。俺はミカに拳を出すと、ミカもそれに応えるように拳をコツンとぶつける。

 

 「頼んだぜ、ミカ」

 

 「うん」

 

 俺の返事にミカも返事を返す。俺たちは朝日が昇るのを一緒に眺めると、お互いに鎮守府に戻ろうと立ち上がった。

 

 「あ、そうだ」

 

 「どうした?」

 

 「さっきの話の途中なんだけど」

 

 「あぁ、そうだったな。忘れてたわけじゃねえんだけどよ」

 

 いい雰囲気で終わろうとしたところにミカがさっきの話の続きを求めてくる。いや、本当に忘れてたわけじゃねえんだ。ただ、流れ的にこのままでいいかとか思っちまっただけなんだ。許してくれ、ミカ。

 

 「実は俺もそんなに他の皆とは会っちゃいねえんだ」

 

 「へーそうなんだ?」

 

 「あぁ。昭弘とかユージンは俺が海兵の学校に行ってた時に再開したしな。ビスケットは俺と幼馴染っていうこともあって、今も一緒にいるんだけどよ」

 

 「……そういえばオルガ。なんか前よりも老けてない?」

 

 「まあな。俺はあの時よりかは年はあるしな。今年で26になると思ったけど」

 

 「え、そうなの?」

 

 「あぁ。 ……それに俺にもよくわかんねえんだけどよ。俺が死んだ時より、遥かに年上なアトラが今じゃ俺よりも全然年下だしよ」

 

 「へぇ……って、アトラは一度死んだの?」

 

 「あん? そうだって聞いてるぜ。確か……95とかまで長生きしたとか」

 

 「……」

 

 ……おい、ミカ? 大丈夫か? 気持ちは分かるけどよ。そんなに目を点にしてまで驚くことはねえだろ。

 

 「まあ言いてえことはあると思うけどよ。どういうわけか、死んだはずの仲間がこの世界にいるってことと、アトラのように最後まで長生きして死んだ奴もいるってことだ」

 

 そう、この世界で過ごしていて思ったことがある。本来死んだはずのビスケットや俺は生き返るなんて話はないと思っていた。現に再会した時はお互い驚いたしな。ユージン達なんかには会って早々殴られたりもしたな。

 

 けど、話を聞いてみると全員が殺されたりしていたわけじゃないらしい。ちゃんと、アトラのように最後まで年を取って死んだ奴もいれば、俺のような奴もいる。それに、どういうわけか記憶もちゃんと持っているときた。それと、この世界に来た時、誰かの体だったわけじゃない。むしろ、赤ん坊から生まれてきたところから生きてきた奴しかいないんじゃないのか?

 

 俺たちは死んだ時期や死に様などは違っても、また再会することができたんだ。今はそれでいいと思っている。ただ、正直な話を言うと、ここまで別れたはずの仲間達と出会うと誰かが仕組んだことじゃないかと勘ぐってしまうことがある。まるで、俺たちの世界にいた時のようなことを再現するかのような感じがしてならない。

 

 「まあなんにせよ。これからもよろしく頼むぜ、ミカ」

 

 「あぁ、こちらこそよろしく頼むよ、オルガ」

 

 俺たちは再びの再会に喜び合うと鎮守府に戻るのであった。

 ちなみに余談だが、朝まで帰ってくるのを待っていた長月、菊月から酷く心配していたとミカから報告を聞かされたのであった。




一番書くのが大変だった気がします。
一応補足というか説明ですが、とりあえず簡潔に言いますと皆一回は死んでます(ざっくり)
殺されたりとか寿命でとか色々ですが、死んだうえで記憶有りな感じです。
次からは三章に入りますが、いよいよミカが入ったことで新しい展開をやっていきたいと思います。
特に艦これ要素が多いんじゃないかな?
長い文章ですみませんでした。
では、また。


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第三章「始動」
第十八話


三章開幕です
頑張りたいと思います
では、どうぞ


 第三章「始動」第十八話

 

 三日月が着任してから一週間が経とうとしていた。

 ル級の襲撃によって損害した建物の復興作業も一段落着いたところだった。鎮守府やその周囲による被害はさほどなかったこともあり、それほど時間がかかることもなかった。強いて言えば、イ級による人事的被害の方が大きかったと言える。

 

 「……はぁ」

 

 「提督、気持ちは分かりますがもう少しです。頑張ってください」

 

 「あぁ、悪いな」

 

 「いいえ、これも秘書官の務めですから」

 

 オルガは大淀から今回の鎮守府における報告書の作成や始末書などの作業を行っていた。かれこれ6時間は椅子に座りっぱなしであった。時折体を動かすために肩を回したり、足を伸ばしたりしてほぐす。

 

 そもそも、オルガはデスクワークはそれほど得意という訳ではない。じっとしているのが性に合わないのだ。デスクワークよりも実際の現場での指示の方が向いているのだ。だが、今回のような本部に提出する始末書や請求書の類は、どうしてもオルガにしか出来ない仕事であった。

 オルガは最後の書類にハンコを押すとやっと終わったと言って椅子に寄り掛かった。

 

 「これで全部か?」

 

 「えぇ、これで終わりだと思いま――」

 

 「オルガ、僕だよ」

 

 コンコンとドアをノックして入ってきたのはビスケットだった。ビスケットはオルガの机の前に来ると、大量の書類を目の前に置く。オルガは血の気が引いた表情でビスケットの置いた書類に指を指す。

 

 「……なぁ、ビスケット」

 

 「頑張ってね、オルガ」

 

 「おい、ちょっと待て! なんだこの書類の山は!?」

 

 オルガは置かれた書類について問いただすと、ビスケットはため息をこぼす。

 

 「追加の書類だけど……」

 

 「んなことは見ればわかる。俺が言いたいことはそういう事じゃなくて……」

 

 「さっき大淀さんに連絡したはずなんだけど……」

 

 サッと視線を逸らす大淀。手に持っていたタブレットで顔を隠すと、小さな声で「……そういえばありました」とつぶやく。

 

 「おい。さっきので終わりじゃなかったのか?」

 

 「……すみません。私のミスです。申し訳ありません!」

 

 深くお辞儀する大淀にオルガはため息をつく。しかし、オルガは叱ることなく大淀の頭をポンと軽く叩くと、ニッコリと笑う。

 

 「気にすんな。誰しも間違いはあるってもんだ。どうせ、終わらせなきゃいけないんだしよ。……手伝ってくれるか?」

 

 「――ッ! はい!」

 

 オルガの言葉に大淀は嬉しそうな声で返事をする。ビスケットもオルガと大淀のやり取りに安心すると部屋を出ようとする。だが、ビスケットがドアを開けるよりも前に執務室に入っていた人物がいた。

 

 「あん? なんだビスケット。お前もオルガに用があってきたのかよ」

 

 「うん。今ちょうど終わったところなんだけど……ユージンも?」

 

 「まあな。昭弘を探してんだけどよ……」

 

 「昭弘なら謹慎中だぞ」

 

 ユージンの質問に答えるオルガ。オルガの言うことにユージンは驚く。

 

 「はぁ!? なんであいつが謹慎中なんだよ!!」

 

 「あん? 勝手に敵に突っ込んだからだ。あと、しばらく家に戻ってねえらしいからな。今頃ラフタの姐さんと一緒にいるんじゃねえのか?」

 

 「あーマジかよ。ちょっと聞きてえことがあったのによ」

 

 「急ぎの案件か?」

 

 「いや、単にあいつが管理してた資材のリストを見せてほしかっただけだ」

 

 ユージンがそう言うと、オルガは机の引き出しの中から一枚の紙をユージンに渡す。

 

 「これのことか?」

 

 「お、そうそう。お前が持ってたのかよ」

 

 「あぁ、昭弘に渡されたのを思い出してよ」

 

 「へへ、そうかよ。……ところでよ。三日月について何か聞いてるか?」

 

 「ミカのこと?」

 

 ユージンの言葉にオルガは首を傾ける。特にこれといったことは三日月本人からも聞かされていないと思ったオルガはユージンの話に耳を傾ける。

 

 「……ミカがどうした?」

 

 「あ、いや、そんなに深い意味で言ったんじゃなねえよ。ただ……」

 

 「あん?」

 

 ユージンが窓の方に視線を送ると、オルガとビスケットに大淀は窓の外を見た。そこにあったのは普段行われている海上訓練であった。ル級の襲撃でより訓練に力が入っている艦隊メンバーの光景を見て思わず笑みをこぼす一同。だが、ユージンの方に振り返ると、難しい顔のままであった。

 

 「別に……問題なさそうに見えんだけどよ」

 

 「私もそう思います」

 

 「僕もだけど……」

 

 「……はぁ。お前ら一体何を見てやがるんだ。三日月と神通をよく見ろ」

 

 ユージンの言葉にもう一度外を見る。今度はユージンの言う通り三日月と神通だけを見ていると――

 

 「『三日月』さん! ここではそういう戦い方ではいけないんです! 砲雷撃戦とは、もっと――」

 

 「……」

 

 ((うわぁ……))

 

 「?」

 

 ユージンの言葉通り三日月と神通だけを注視して見ると、神通の教えに三日月は不機嫌そうな態度をとっていた。大淀にとって三日月達の光景は別段おかしなところはないと思った。だが、他の二人は三日月達のやり取りを見てすぐにわかった。

 

 元々、鉄華団の時もそうであったが、三日月の戦い方は集団戦に向いていないのだ。地球に送り届ける時もそうであった。集団とはいっても各自の役割を担って行動していたことがほとんどである。つまり、単独行動に近い戦いだったのだ。実際、遊撃隊長として任されたときも率先して、敵陣に切り込んでいった。

 

 だが、海上での戦い方は違う。艦隊の陣形を崩さず、いかに相手より優位に立てるかが勝利のキモなのだ。航空戦による優勢の有無。航海によるT字の不利有利。そして、いかに統率の執れた陣形を保てるかによるものである。

 

 今の言ったことが全て揃えば負けないとまでは言わなくとも、基本的な戦いが出来なければ勝てる戦いも勝てないのだ。そんな基本的な戦いとは違い、三日月の戦い方は根本的に違っていた。

 

 無理もないとオルガとビスケットは思った。三日月を見てきた彼らにとって、この海上での戦い方は三日月の戦い方からかけ離れているのだから。ましてや、ル級の時のように一騎打ちの戦いなどまずありえない。今回はなかったが、大抵は第二、第三艦隊と敵の艦隊がいるのだ。そんな中を突撃なんてしたら、どんなに強固な装甲であってもひとたまりもないだろう。

 

 そんな三日月の戦い方に指摘という名の説教を神通から受けていた。三日月本人は神通の細かい指摘に嫌気がさしていた。いつも頼んだと戦い方を任せてくれたオルガとは違い、こうも指摘をされると、流石の三日月も我慢の限界に近かった。

 

 「聞いているのですか『三日月』さん!?」

 

 「……うるさいな」

 

 三日月の言葉に辺り一帯にヒビが入ったかのような音が響き渡る。その光景を真直で見ていた長月と菊月は青ざめた表情を浮かべる。川内も三日月の行動に思わず手で顔を塞ぐほどであった。神通の黙りこくった顔を気にも留めず、スカートに入れておいたドライフルーツのレーズンを口に運ぶ。

 

 「――『三日月』。いい加減にしなさい」

 

 「別に、ふざけてないけど?」

 

 あっけらかんとした表情で答える三日月に神通は手に込めていた力を抜くと、神通は三日月から離れていく。

 

 「……今日は頭を冷やしなさい。罰としてドラム缶を背負った走行50周してきなさい」

 

 「ん。わかった」

 

 あっさりと了承すると三日月は一旦、陸の方へと戻るとドラム缶を取りに帰る。神通は三日月に振り返ることなく長月達の元に戻ると、長月達は酷くおびえた様子で神通のことを見るのであった。




三章は神通とか川内とかあと長月や菊月を中心に書いていきたいなーと思っています。
では、また。


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第十九話

注意
ページは間違っておりません。
では、どうぞ。


 第三章「始動」第十九話

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 「アハハ! 楽しいね『三日月』! やっぱり夜戦はこうじゃないとね!!」

 

 「……あぐっ!?」

 

 疲労困憊の三日月に休む暇もなく攻撃を続ける川内。演習用の弾は実弾とは違い、艤装によるダメージはほぼない。だが、いくら艤装にダメージがないとはいえ直接生身に当たれば痛いだけでは済まされない。しかも、三日月は『適合者』と違って直接艤装に繋がっている分、ダメージによる痛みが伝わりやすかった。

 

 「『建造』の子達も可哀想だよね。どうせなら私たちみたいな『適合者』組と同じようにすれば痛みもいくらか和らぐと思うんだけどね。……まあ、感覚が鋭くなった分、動きはアタシ達よりも動けるから仕方ないのかな?」

 

 「はぁ……うぐっ!?」

 

 「ほら、『三日月』。もうおしまいなの? 夜戦は始まったばかりなんだよ? アタシたちよりも感覚的に動けるんだから、動かないと取り柄が無くなっちゃうけど?」

 

 「……このままじゃ」

 

 不味いと思い、三日月は艤装に搭載されている単装砲を川内へと照準を合わせるが、向けた先には既に川内の姿はなかった。気づいたときには既に遅く、川内は三日月のすぐそばまで近づくと、脇腹に向けて単装砲を一発、二発と立て続けにトリガーを引く。

 

 パンッ、パンッと軽そうに聞こえる銃声とは裏腹に、三日月の脇腹に演習用の弾が当たる度に、骨をきしませる音が響き渡る。三日月はあまりの苦痛に悶絶しそうになりかけた。銃撃による衝撃で何度も海面を跳ね回ると、痛む脇腹を抑えながらも三日月は立ち上がる。

 

 「……はぁ……はぁ……」

 

 「ねぇ、何でこんなことをしているか分かるかな?」

 

 「はぁ……ジンツウの、ことじゃないの?」

 

 「うーん。まあ間違いじゃないけど。半分間違い」

 

 川内の攻撃が止んだことで息を整え始める三日月。そんな三日月の様子とは違い、川内は海面を氷の上を滑るかのように、滑らかな動きで三日月の周辺を滑っていた。

 三日月の言葉に川内は、人差し指を口に当てると考える素振りを見せる。

 

 「半分?」

 

 「そ、半分。確かに神通ちゃんのことはあるんだけどさ。それだけだと、ただ妹を苛めた子を苛め返しにきたみたいじゃん?」

 

 「……え?」

 

 「え……ってアンタ『三日月』。アタシのことをどう思っていたの!?」

 

 「ごめん。ちょっと意外だった」

 

 三日月の言葉に川内は頬を膨らませる。ツーサイドアップの髪が羽ばたいているように見える様子からどうやら怒らせてしまったらしい。しかし、川内はため息をつくと、すぐさま元の感じで話しかけてくる。

 

 「まあ、いいや。話の続きなんだけどさ。アンタがどう戦おうとアタシはいいと思ってるよ。実際、アンタの戦い方は嫌いじゃないしね。かく言うアタシも夜戦の時は結構アンタの戦いに近いしね」

 

 川内は三日月の戦い方はアリだと思っている。ル級との戦い振りを少しだが見て思った。あんな無茶苦茶な戦いは他では出来ない動きだと感じた。

 これから先、深海棲姫との戦いにおいて、これまでのような戦い方では勝てない場面も出てくると思う。もしも艦隊の乱れを生じたらどうするのか。敵に分断されて艦隊としての機能を失ってしまったらどうするのか。

 

 そんな時、三日月のスタイルであれば、敵に不意を付け入れることが可能かもしれない。だから、川内は決して神通のように必ずしも間違いだということは言わなかったのである。しかし、川内は三日月の戦い方に否定はしないものの、肯定もしなかった。それは、三日月がこの世界において何も知らな過ぎたからであった。

 

 「いい? アンタにイイ事を教えてあげる」

 

 「……イイ事?」

 

 三日月の言う事に川内は頷く。

 

 「そ、この世界ではアタシ達、艦娘は敵と戦うたびに強くなれるよう出来ているの。敵を倒して、訓練を積んで、鍛錬を怠らなければ、艤装にその経験値が溜まっていくの」

 

 「艤装に経験値?」

 

 「ようは戦えば戦うほど、アタシ達が強くなるってこと。そして、ある一定の経験値を積むとね――アタシのように『改』って存在にもなれるんだ」

 

 「『改』?」

 

 川内の話に三日月は首を傾ける。艤装から送られてくるデータの中にそれらしき言葉があったが、あまりわからないでいた。艤装と繋ぐことで主に戦闘の仕方、海上での航行の方法、武器の使用方法などがほとんどなのだ。ちなみに、神通の説教の理由は単にやり方がわからないのではなく、自分に合わなかったからが最もな理由だったりする。

 

 話が逸れてしまったが、艤装にはあるシステムが組み込まれている。それは戦闘による経験値を蓄積することが出来るのである。そして、川内のようにある一定値まで経験値が溜まると、第二次段階へと進化することが出来る。この次の段階への移行を『改造』と呼ばれている。

 

 最も経験値が溜まったからと言って、その場で姿形が変わるわけではなく、鎮守府の設備による改造工事によって、行われて初めて次の段階へと進めるのだ。

 

 「『改』になると、今までとは違って性能も格段と上がるんだ。だから、アンタが『建造』でアタシ達よりも格段と性能が良くっても、アタシ達『適合者』にとってその差を埋めるためには、こうして『改』とかにならないと差を埋められないんだけどね」

 

 「……じゃあ、俺もその『改』になれば、アンタよりも強くなれるのか?」

 

 「勿論だよ。アタシ達より遥かに強くなれるよ」

 

 (もっとも、それだけの差を埋めるだけの戦闘経験を積めばの話だけどさ)

 

 川内はニヤリと笑みを浮かべると、三日月との戦闘を再開するのであった。

 




次話で何故三日月と川内が夜戦していたかはわかりますのでご安心ください。
……というよりこんな急な展開にしたことに深く反省してます、はい。
あと今回は艦これの『改』についてですが、どこかのアニメみたいに急に進化するわけではありません。まあ、そこは現実的というかなんというかですが、今の川内と三日月のレベルの差を言ってみれば……

・川内改:(lv25)

・ミカ:(lv5)

ですかね?
まあ、艦これをやっている方は分かると思いますが、割と20の差はデカいと分かると思います。しかも、川内は夜戦は強いですから今のミカでは難しい……と思ってます。
長々とすみませんでした。
では、また


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第二十話

19話の補完にあたる部分というか何というか……わかりづらく書いてしまってすみませんでした。
では、どうぞ。


 第三章「始動」第二十話

 

 「おーい。『三日月』? 生きてるー?」

 

 「……」

 

 海面の上を川内に担がれて運ばれる三日月は、全身ずぶ濡れの状態になっていた。川内の応答に答えることすらままならないでいた三日月は、取り敢えず頭を振ることで返事を返す。

 

 「そっかー。ごめんね? ちょっとやり過ぎちゃった」

 

 「……」

 

 (……やり過ぎた?)

 

 もはや、やり過ぎ以前の問題だと思った三日月であったが、如何せん全身がだるいせいか考えるのも億劫になっていた。考えることを止めて全身力を抜くと、三日月は大きく息を吐いた。川内は三日月の様子に気にも留めることはせず鼻歌を歌いながら、おやっさんのいる格納庫へと足を運ぶのであった。

 

 そもそも何故、三日月と川内がこんな夜中に戦闘訓練を行っていたか。その理由は海上訓練が終了した後のことから始まった。

 

 

 ♢

 

 

 「ん? 『三日月』、まだ帰らないのか?」

 

 「うん。まだやろうと思って」

 

 長月が明石に艤装の返却をし終えると三日月に声を掛ける。菊月もそろそろ来る頃かと思い長月は一緒に戻らないかと訊くが、三日月は首を横に振る。

 

 「そうか、あまり遅くなるなよ。……あと神通さんの件だが」

 

 「あぁ」

 

 辺りを確認し本人がいないことを確認すると、長月は三日月の耳元で話しかける。

 

 「……悪いことは言わない。あまりあの人を怒らせない方がいいと思うぞ」

 

 「ん? 俺、ジンツウのこと怒らせたの?」

 

 「え、き、気づいていなかったのか!?」

 

 三日月の発言に長月は目を見開く。あれだけのことがあって怒っていないと思った三日月の考えが読めず困惑してしまう。

 

 「……『三日月』。お前は凄いと思うぞ。あの神通さん相手によく言えるものだ」

 

 「別に、普通じゃん?」

 

 「いや普通であるわけないだろ!?」

 

 「あっ」

 

 長月は三日月に向かって叫び声をあげる。大声を出しているせいか、長月は気づいた様子もなく三日月に話しかけるが、三日月の気の抜けた一言で気配を察した。ブリキ人形のような動きで首を後ろに向けると、顔は笑顔なはずなのに背中に般若がいると錯覚してしまうほどの雰囲気を纏った神通がニッコリと笑みを浮かべて背後に立っていた。

 

 「あら? どうしたのですか長月さん?」

 

 「あ、あの、えっと……だな」

 

 ガクガクと震える足を必死に元に戻そうと努力をするが、一向に収まるどころか震えが増すばかりであった。隣で喋っていた三日月に助けを求めようと振り返るが、どこにも姿が見えなかった。

 

 (み、『三日月』―!?)

 

 心の中で叫ぶが、どこを見渡しても三日月の姿は見当たらない。ちょうど艤装の返却を終えた菊月がこちらに向かって歩いてくるが、神通の尋常ならざる気配を察し、来た方向へと戻ろうとするが――

 

 「あら、菊月さん? もう艤装の返却は終えたのではないのですか?」

 

 「……う、うむ」

 

 冷や汗が止まらない菊月の肩に優しく手を置く神通。かく言う長月も菊月同様、肩に手を置かれると、帰ろうと思っていた部屋とは逆の道へと連れて行かれる。

 

 「あ、あの、神通さん? 私たちの帰る方向とは逆だと思うのだが……」

 

 「あ、あぁ、私もそう思うのだが……」

 

 「――ウ・フ・フ」

 

 「「――」」

 

 神通に連れて行かれた先で、長月と菊月の悲鳴が鎮守府にまで響き渡たるのであった。

 

 

 「ふっ……ふっ……!」

 

 神通が現れるのに気づいた三日月はすぐさまその場を離れた。長月に神通が怒っていることを言ってくれなければ、どうなっていたかわからないと思った。

 

 (あとで長月に謝ろう)

 

 その場から逃げてしまったことに罪悪感を感じた三日月は、部屋に帰ったら長月に謝罪しようと決意する。

 

 ここは鎮守府の中でも使用されていない部屋だった。それほど深い意味があったわけではないが、この部屋の壁についていた棒を見た時に、筋トレにちょうどいいと思った。オルガにも許可を得ることが出来たので、三日月は時間さえあれば、ここにきて筋トレを行っていた。まだ着任してから一週間ほどしか経っていないことか、まだトレーニングの結果があまり現れないでいた。

 

 (もっと、頑張らないと……)

 

 ふと、神通の話を思い出す。今日の訓練で指摘されたことについて三日月は自分は間違っているとは思ってはいなかった。オルガの前に立ちふさがる敵であれば誰であろうと関係ない。これまでも、これからも。そう思って今日まで生きてきた。

 

 しかし、今までの戦い方では駄目だということもわかっているつもりではあった。初めてル級との戦闘で感じたのはバルバトスのような感じで戦うのには無理があるのだと。だから、神通に指摘されたとき、つい思っていたことを言ってしまったと思う三日月であった。

 

 「……うん」

 

 家族である神通と喧嘩をしてしまった。そう思った三日月はちゃんと謝りに行こうと思い、掴んでいた棒を離す。降りると、背後に人の気配を感じた。

 

 「……カワウチ?」

 

 「よっ、頑張ってるじゃん」

 

 背後の気配を警戒してすぐさま振り返ると、そこにいたのは川内型1番艦である川内が立っていた。

 

 「俺に何か用?」

 

 「うん。ちょっとね~。……時間いい?」

 

 「いいけど」

 

 「そっか! んじゃ、いこっか!」

 

 こうして、三日月は川内の後を追い、再び格納庫へと向かうのであった。

 

 ♢

 

 これが三日月と川内との戦闘演習にいたるまでに起こったことの顛末であった。




三日月って感情について少し鈍いところがあると思ったらこうなりました。
早く神通とは仲良くしてもらいたいものです。
では、また。


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第二十一話

今回は川内と三日月の回です
では、どうぞ。


 第三章「始動」第二十一話

 

 「それじゃあ、明石におやっさん。あとはお願いねー」

 

 「はーい。『三日月』ちゃんもしっかり休んでねー」

 

 「おう、任せとけ。……三日月もしっかりな」

 

 「うん」

 

 海上から帰還した川内と三日月は使用した艤装を、明石とおやっさんに預けるとそのまま格納庫から出る。さっきよりも体力が回復した三日月は、川内の肩から降りて海岸沿いを歩く。先程まで三日月と戦闘演習を行っていた川内は、疲れているどころか、元気になっていく姿に三日月は素直に感心する。

 

 「……凄いね。カワウチは」

 

 「ふっ、ふっ、ふっー。そうだよーアタシは凄いんだぞ。見直した?」

 

 「うん。見直した」

 

 「……」

 

 川内は自慢げに三日月に話しかけると素直に答える。今まで誰かに素直に言われることがなかった川内は、三日月に顔が見えないよう先頭に立つ。そして、今の川内の顔は真っ赤な状態へとなっていた。川内は別な話をして気を紛らわそうと三日月に話しかけた。

 

 「あ、そうそう。神通のことなんだけど……」

 

 「そのことなんだけど」

 

 「うん?」

 

 「俺、明日謝るよ」

 

 三日月は足を止めて立ち止まると川内に告げる。川内も三日月の言葉に歩くのを止めると後ろに振り返る。三日月は川内の顔をじっと見つめる。金色の瞳からは嘘をついているとは思えないと感じた川内は頬を緩ませる。

 

 「……そっか。それが聞けてちょっと安心した」

 

 「そうなの?」

 

 そう言うと川内は「うん」と頷く。

 

 「……ねえ、『三日月』。なんで神通あんなにアンタのことを厳しくするか知ってる?」

 

 「ううん。よくわかんないけど、俺のことが大切だからじゃないの?」

 

 「もちろんアンタのことが大事だからってのもあるよ。でもね、それだけじゃないの」

 

 「……どういうこと?」

 

 川内は三日月から視線を外すと海を眺める。水面一帯が月に照らされて宝石のように輝いている。そんな光景を眺めながら川内はポツリと漏らす。

 

 「……ここに着任する前に、アタシたちの姉妹艦の那珂ちゃんって子がいたんだ」

 

 「……死んだの?」

 

 三日月の言葉に川内は首を振った。

 

 「いや、死んでないよ。ただ、ある日、出撃した時に神通を庇って那珂ちゃんはあと一歩で轟沈寸前だったんだ」

 

 ――轟沈。それは、この世界で艦娘の死を意味する。

 艦娘が深海棲姫との戦闘において致命的なダメージを受けると、艤装が壊れてしまう。つまりは船が沈むことを意味する。ル級を倒した際に起こった現象と同じで、自身の力で浮き上がることが出来ず、ただ海の底へと落ちていくのだ。そうなってしまったら、もはや助けることは出来ない。それは死んだ人間を生き返らせることが出来ないのと同じであるからだ。

 

 「あの時、神通は自分に力が足りなかったって言ってね。那珂ちゃんを守れなかったのは自分だって攻めてね。敵の奇襲に気付かなったのは皆同じだったのに、自分だけのせいって。だからあの子は強くならなきゃいけない、守らなきゃいけないって。たとえ、仲間から煙たがれようとも守れるのであれば、なんだってするって」

 

 「……そんなことがあったのか」

 

 言われてみればそうかもしれないと三日月は思った。神通の指導で敵との戦い方や陣形による連携が多かったが、そこには自分を仲間のことを強調して話していたことに気付いた。

 

 「だからさ。あの子のことを嫌いにならないであげてね」

 

 「わかってる。アンタに言われるまでもないさ」

 

 そう言うと三日月も川内と同じ海の方へと視線を移す。川内は三日月に見えないよう微笑を浮かべると、頭を思いっきりかき回す。突然の行動に三日月もなされるがままであったが、川内は満足したのか頭をかき回すのを止める。

 そして、川内は三日月から離れると腕を後ろに組んで前へと歩き出した。

 

 「……あの子のこと。これからもよろしくね?」

 

 「ん、わかった」

 

 三日月の返事に川内はその場を去ろうとするが――

 

 「あ、ちょっといい?」 

 

 「なに?」

 

 「アンタに頼みがあるんだけど」

 

 「お、『三日月』の初めての頼みかー。いいよー。何でも言ってくれちゃっていいんだよ!」

 

 川内のテンションに正直苛立ちを覚えそうになった三日月であったが、なんとか堪えることに成功する。

 

 「これからも夜の特訓に付き合ってくんない?」

 

 「……へぇー? あれだけボコボコにされたっていうのに、わざわざ自分から頼みにくるんだ」

 

 「うん」

 

 三日月の返事に川内は素直に感心する。まだここに来てから一週間ほどしか経っていないのと、大抵川内と夜戦での戦闘訓練を受けたがらない人の方が多いからであった。そんな三日月が臆することなく頼んできたことに、喜びを隠しきれずにいた。

 

 「いいけど……アタシ、夜戦に関してはさっきのように手加減できないんだ。だからあんまり教えるってことが出来ないけどいいの?」

 

 「アンタとやっていれば強くなれるんだろ? 俺はこのままじゃダメなんだ」

 

 「ダメって……まだ来たばかりなんだから、そんなに焦んなくても――」

 

 「俺が出来る精一杯のことをしたいんだ」

 

 その言葉に川内は息を詰まらせる。三日月は自身の手のひらを見つめる。その見つめる瞳からはどこか強い意志を感じさせた。それを感じた川内は心の片隅でひっそりと決意する。

 

 「わかった。『三日月』の初めての頼みだしね。いいよ」

 

 「いいの?」

 

 「いいよー。けど、明日から覚悟しとけよ~」

 

 「うん。わかった」

 

 三日月の言葉に満足した川内は手を取ると一緒に鎮守府へと戻るのであった。

 




本当はもっと感情の描写とか上手く書けたらよかったんですが、これから頑張っていきたいです。
次回はいよいよ新たな展開に突入する予定です。
では、また


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第二十二話

毎日は無理だった……というよりも月末は忙しいんで木曜日は投稿は難しいかもしれません。
それはさておき、今回から新たな展開に入ると思います。
では、どうぞ。


 第三章「始動」第二十二話

 

 午前10時。オルガの率いる艦隊メンバーは格納庫へと集まっていた。

 

 「集まりましたね。今日の訓練は巡回警備を兼ねて、少し鎮守府から離れたとこで訓練を行いたいと思います」

 

 「ん、わかった」

 

 「「……」」

 

 神通の話に三日月は返事を返す。だが、隣にいた長月と菊月はげっそりとした顔で立っていた。

 

 「……どうしたの?」

 

 「ど、どうしたんでしょうね?」

 

 川内の疑問に神通は目を逸らす。その様子に川内は「あぁ」と一言いって察する。

 

 「あんまりやり過ぎたらダメだよ?」

 

 「うぅ……き、気を付けます」

 

 川内が神通に注意すると、神通は恥ずかしそうに耳を真っ赤に染める。

 

 「んじゃ、とっとと用意して行くよー」

 

 パンパンと手を叩く川内。それによって各自艤装の用意をする。三日月もおやっさんに艤装の装着を手伝ってもらう。艤装と自身の体に繋ぐと胸を打たれたかのような感覚が襲ってくる。

 

 「大丈夫か?」

 

 「うん。問題ない」

 

 不備がないか確認すると三日月はおやっさんに報告する。全ての艤装を付け終わるとおやっさんは鉄メイスを運んでくるが、それを三日月は首を横に振る。

 

 「おやっさん。今日はいいよ」

 

 「まあそうかもしれないけどよ。万が一ってこともあるからな。こうしてやれば……」

 

 おやっさんは三日月の煙突のついた艤装の側面に鉄メイスを付ける。メイスの先端部は下を向いており歩くと、コンッ、コンッと地面と擦れる音が響き渡る。

 

 「それなら海で邪魔にならねえだろ。盾とは逆側に付けたから当たってやりずらさもそんなにねえはずだ。それに外す時は、艤装にロックを解除するよう頭で考えたら外れるからよ」

 

 「ありがとう。おやっさん」

 

 「気にすんな」

 

 それだけ言うとおやっさんは他の作業へと戻って行った。三日月も神通達のいるところへと向かうのであった。

 

 

 ♢

 

 

 ここは鎮守府から少し離れたところにある海域。神通達は普段行っていた実践訓練を、いつもとは違って、鎮守府正面近海で行っていた。鎮守府内でも出来ないことはないが、ここ最近の海域は少しおかしいということもあり、警備も兼ねて行われていた。

 

 ル級の襲撃に対する情報も少なく、もしかしたら偵察隊がいるかもしれないと思った神通はオルガに相談すると、了承を得たが条件付きであった。それはオルガのいる鎮守府には三日月を含めて5人しか所属していない。ゆえに、全員で近海警備に行ってしまうと、鎮守府内の警備が薄くなってしまうからだ。

 

 だから、訓練の時間は三時間ほどで切り上げるようオルガは神通に言った。これから新たに着任してくる艦娘がいると思うが、それまではなるべく鎮守府内でやるようにと強く言い聞かせたのである。

 

 本来であれば鎮守府正面近海に潜んでいる深海棲艦の類はイ級くらいしか現れない。まだそれほど実戦経験を行っていない艦娘はここで体験するのがほとんどである。しかし、オルガは過去の記録からも一度も出たことがなかったはずの戦艦ル級の出現に、不穏な空気を感じ取ると、早めに切り上げるよう伝えたのだった。

 

――鎮守府から出てもうすぐ三時間が経過しようとしていた。

 

 「よし……皆さん。今日の訓練はここまでにしましょう」

 

 神通は三日月達に訓練の終了の合図を送る。神通の合図を確認すると、各自それぞれの行動を取り出す。そして、神通は三日月の方へと視線を向ける。

 

 「……」

 

 (今日の『三日月』さん。なんだか素直だった気がする)

 

 昨日とはまるで逆だった。私の指示を嫌そうな顔をすることなく聞いて実行していたし、何より一生懸命やっていた気がする。不真面目ではないが、どこかやり方が気に食わなさそうな雰囲気は感じさせたけど今日は違った。必死にこの海上戦での戦い方を知ろうとしてくれた気がする。

 

 そう思った神通は昨日のことを振り返ると、自身にも思うところがいくつか思い浮かびあがった。

 

 (私、ちゃんと『三日月』さんのことを見ていなかったかもしれない。自分の意見を押し付ける感じになっていたかもしれません。それに、あの子とはそんなにまだ話が出来てないかも)

 

 現に神通は目の前の三日月と川内が話し合っている姿を見て思った。昨日姉である川内から三日月と少し話をしたと聞いていたが、ここまで話している仲になっているとは思ってもいなかった。

 

 (私は皆さんに戦いでの怖い思いをさせたくないように、訓練を厳しくしてきました。けれど、私が皆さんを失うのが怖くて無意識に遠ざけていたのかもしれない。もっと……皆さんと話さないといけませんね)

 

 もう、これ以上仲間が傷つく姿を見ないためにも――

 そう思い神通は川内達の元に行く。

 

 「……『三日月』さん。あの、昨日は……」

 

 「……ゴメン」

 

 神通が言葉を探していると、三日月は神通に頭を下げた。

 

 「え、いや、私の方こそ言い過ぎました。ごめんなさい……」

 

 神通も頭を下げると三日月は首を横に振る。

 

 「いや、神通は悪くない。俺、あんまり人が怒ったとか、そういうことがわからなくて。でもさ、俺とアンタはオルガのいう家族なんだろ?」

 

 「――家族」

 

 三日月の家族という言葉に神通は胸に手を当てる。胸の奥底からどこか温かい何かがあふれてきそうな感覚が芽生えてくる。

 

 「あれ? 違った?」

 

 「……いいえ、そうですね。私たちは家族です」

 

 「そっか。だから家族のアンタと喧嘩したと思ったから、俺は謝らないと思ったんだ」

 

 「そうですか」

 

 それだけ言うと神通は三日月に手を差し出す。神通の行動に疑問を抱く。

 

 「……ん?」

 

 「この国では『仲直りの握手』というものがあるんです。お互いに喧嘩したり、揉めてしまった時には、これをすれば元の関係に戻れると意味が込められているんです」

 

 「へぇー。だったらアンタとこれをすれば、もう仲直りしたってことでいいの?」

 

 「はい。これで大丈夫です」

 

 そう言うと三日月は差し出された手を取ると握手を交わす。傍で見ていた川内は昨日の三日月の言葉が嘘でなかったことに安堵する。妹である神通の表情も柔らかな笑みを浮かべていた。お互い許し合い仲直りを終えて手を離そうとした瞬間――前方から砲撃音が響き渡る。

 

 「――ッ!? 皆さん! 回避行動を取って下さい!!」

 

 神通の叫び声に一同はすぐさま離れる。突如、海面に一本の水の柱が立つ。すぐに柱が消えると周囲に大粒の水が降り注ぐ。

 三日月は撃ってきたであろう方向に、すぐに視線を向けると一つの影がそこにあった。

 

 「――嘘、でしょ?」

 

 川内の信じられないと言った口調に思わず神通も口元を塞ぐ。二人の様子からして、あれはかなりの強敵なのだとすぐに悟った。

 

 「ジンツウ。あれは?」

 

 「あれは――深海棲艦『戦艦レ級』」




仲直りの後からのレ級登場です。
次回からレ級遭遇編に入ります。
では、また。


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第二十三話

誤字報告ありがとうございました。
結構自分でも探したのですが見つけて頂いて助かりました。
では、どうぞ。


 第三章「始動」第二十三話

 

 ――戦艦レ級。

 戦艦でありながら小柄な体系をしており、黒いコート状のようなものを着ている。黒い素材で出来たブラをしていて、可愛らしい笑顔を浮かべながら敬礼をしていた。

 だが、そんな可愛らしい顔とは裏腹に、その強さは異常なほど強い。

 

 艦種こそ「戦艦」でありながら他の上位種である姫や鬼クラスの深海棲艦に匹敵するほど特殊な艦艇でもある。その強さとは、戦艦でありながらも航空戦、開幕雷撃、砲撃戦、雷撃戦、夜戦の全てに参加が可能といった艦艇であったりする。

 

 故に彼女のことを戦艦の皮を被った何かと言われるほど恐れらてきた。彼女一人で一艦隊分の強さを持っていると言っても過言ではない。彼女の出現により多くの提督たちは被害を受けてきた。

 

 そして、彼女一人によって、いくつもの町や鎮守府が壊滅へと追いやられたのは数えきれないほどあったりする。何故、彼女によってそこまでの被害が防ぎきれずにいたのか。それは、彼女の神出鬼没さにあった。

 

 本来、彼女はこんな鎮守府付近に生息するような艦艇ではない。むしろ、もっと奥の海域に生息する艦艇であるのだ。だが、時折彼女は鎮守府付近、あるいは鎮守府内にまで現れたこともあった。そんな神出鬼没さに対応出来ず命を落とす提督たちも少なくなかった。

 

 そんな神出鬼没な彼女だが、ここ数年見る影もなく姿を消したのだ。それは、今まで何事もなかったかのように、姿を現すこともなければ攻めてくることもなくなっていた。

 

 だからこそ、神通と川内は目の前の彼女の存在に目を疑わざるをえなかった。

 

 「ヒ、ヒヒッ。……レ、レレ」

 

 ニヤリと獰猛な笑みを浮かべながら敬礼をしているレ級。その敬礼からは、ただなんとなくやっているだけのようにしか見えなくもなかった。

 

 「……姉さん。今すぐ『三日月』さんたちを連れて離脱してください」

 

 「――ッ!? 神通、アンタ言ってる意味分かってるの?」

 

 「そ、そうだ。神通さんも一緒に……」

 

 川内は神通を睨みつけるよう言う。長月は神通も共に離脱するよう説得しかけるが、神通はフルフルと首を振った。

 

 「分かってます、姉さん。……長月さん。私もあなた達と逃げることが出来ればそうしたいです。ですが、誰かがここで残ならければ、誰が鎮守府の人や町の人たちの避難をしてあげるのですか?」

 

 「そ、それは……」

 

 神通の言葉に長月は言葉を詰まらせる。川内は神通の瞳から揺るぎない意志に気付くと背を向け鎮守府の方へと向く。

 

 「……わかった。あとは頼むね」

 

 「……はい」

 

 川内の頬に涙が零れ落ちる。震える体を悟られないよう必死に耐える。ここで泣くわけにはいかない。泣いている暇があるなら、提督に連絡して一刻も早く対応しなければならない。だが、頭ではわかっているがどうしても止まらなかった。そんな姉の後ろ姿に心の中で「ごめんなさい」と謝罪するとレ級に向き合う。

 

 「姉さんは旗艦をお願いします。長月、菊月のお二人は周囲の警戒を怠らないように。『三日月』は殿をお願いしますね」

 

 神通は振り返ることなく各自に役割を与える。神通の指示にそれぞれ返事を返す。長月や菊月は顔を歪ませ嗚咽し、川内は静かに泣きじゃくっている二人の声に感化されないよう心を殺すのであった。そんな中、三日月は表情を変えずに神通の後ろ姿を見ていた。

 

 「……ジンツウ」

 

 「……『三日月』さん。あなたと仲直りが出来て良かった」

 

 「……うん」

 

 「もし、生きて帰れたらいっぱいお話ししましょう。あなたはあまり喋るのが得意ではないですから、色々聞きたいことがあるんです。だから……」

 

 「わかった」

 

 それだけ言うと神通は後ろを振り返り微笑した。今にも消えそうな表情に三日月は思い出す。それは、かつての仲間が浮かべていた表情と同じだということに。死を決した時の顔であると。だから三日月は何も言わなかった。彼女の思いを無駄にしたくなかったから。

 

 「カワウチ」

 

 「――うん。皆、行くよ!!」

 

 川内の掛け声に神通を置いて離脱する。レ級は川内達の後ろ姿をじっと眺めていた。レ級が川内達に攻撃を仕掛けないか見張っていた神通だが、攻撃する気配がないことにひとまず息をつく。

 

 (……どうやら追う気配はないようですね)

 

 相手はレ級。戦艦クラスに対し自分は軽巡なのだ。規模も兵装も何もかもが自分より遥かに各上なのだ。そんな相手が追撃する形にでもなれば一人ではとてもではないが太刀打ちすら出来ない。

 一艦隊、大体六人構成の艦隊が彼女一人分なのだ。そんな化け物が目の前にいる。これ以上理不尽な奴がいるのかと言いたいくらいの気持ちがあった。

 

 ――死。まさにその言葉が目の前に存在している。神通自身、生きて帰れるなど甘い考えはすでになかった。けれど、彼女にとって死は自身に対する恐怖ではなかった。最も恐怖したのは仲間が死ぬこと。それだけが神通にとっての恐怖であった。

 

 「姉さん、長月さん、菊月さん。そして――『三日月』さん。短い間でしたがあなた達と会えてよかった。本当に楽しかった。だけど――」

 

 たった一つだけ心残りがあった。それは以前、姉妹艦である那珂との出来事だった。

 

 

 ♢

 

 

 「う、ひっく……」

 

 「もう、神通ちゃん。そんなに泣かないでよ~。ほら、那珂ちゃんのようにこうやってさ~。キャハ☆」

 

 「で、でも……」

 

 それはオルガの鎮守府に着任する前の話。神通は川内、那珂と一緒に他の鎮守府に属していた。そして、その鎮守府で深海棲艦との戦いに参加した作戦の時に、那珂は神通を庇って轟沈寸前まで追いやられることになった。

 

 結果的に作戦は成功し、深海棲艦の拠点であると思われる島を奪還することが出来た。だが、被害は小さい訳ではなかった。那珂のような者もいれば、未だに意識が目覚めない者もいたりした。

 

 そんな中、那珂は必死に神通を励まそうとしたが、一向に泣き止むのが収まらない気配に頭を抱えていた。

 

 「う~ん……じゃあさ、神通ちゃんはどうしたら泣き止んでくれるのかな?」

 

 「……わ、わからないです」

 

 「え~そんなぁ。……あっ、いいこと思いついたかも!」

 

 「……えっ?」

 

 拳銃のような形を手で作り顎に当てる。ベロを口角の方へと出し、ベロとは反対方向に目を閉じる。いわゆるウィンクである。その光景からどからともなくキュピィ―ンと擬音が出ているかのような雰囲気があった。

 

 「約束だよ! 約束!」

 

 「……約束、ですか?」

 

 「そうそう!……約束ってさ。あるのとないのと違うんだと思うんだよね」

 

 うんうんと頷く那珂。その仕草にぼーっと神通は見つめていた。

 

 「今度なにかあったら神通ちゃんが助けてよ。そして、また一緒に生きて帰るの」

 

 「……私が、那珂ちゃんを」

 

 「うん! 大丈夫、神通ちゃんは強いからね~。きっとできるよ」

 

 那珂はニコッと笑いながら小指を出す。その小指に神通も小指を絡ませる。

 

 「……私、約束します。もし、那珂ちゃんの身に何かあったら必ず駆け付けますからね」

 

 「うん! 約束だぞー! あ、でも助けて死ぬマネだけは許さないんだからね!」

 

 「うふふ……わかってます。また、生きて一緒に帰りましょ」

 

 「えへへ。やっぱ神通ちゃんは笑ってた方がいいよ」

 

 那珂は泣き止む神通に笑いかける。それに釣られて神通も笑い出す。

 しばらくして、那珂は別の鎮守府に移動の報告が入り、川内、神通たちもオルガの鎮守府へと移動することになった。

 

 

 ♢

 

 

 「……那珂ちゃん」

 

 約束、守れないかもしれません。けれど――最後のその時まで私は諦めません。

あなたとの約束を果たすためにも、生きて――帰ります!

 

 「『華の二水戦』――神通、いきます!」




明日も更新が出来るよう頑張ります
では、また。


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第二十四話

忙しくなってきたので更新が遅くなると思いますが、頑張っていきたい
では、どうぞ。


 第三章「始動」第二十四話

 

 神通と別れてから少し経った頃、川内は鎮守府へと帰還途中にオルガに状況報告をしていた。

 

 「レ級が出たって言うのは本当なのか川内!?」

 

 「うん! 今、神通が私たちを逃がすために時間稼ぎをしてくれてるんだけど、もう……」

 

 「――くっそ!!」

 

 ドンッと通信越しに物が蹴り飛ばされたかのような音が耳に入る。ギリッと歯を食いしばるかのような音が聞こえるとオルガは川内に伝える。

 

 「わかった。今、その近辺に帰還途中の艦隊がないか連絡を取り合ってみる。お前たちはすぐに戻ってきてくれ」

 

 「……提督、アタシ」

 

 「ダメだ」

 

 ピシャリと言い放つオルガ。オルガの言葉に川内は声を荒げる。

 

 「どうして!? まだ何も言ってないじゃん!」

 

 「ダメだ! お前のことだ。どうせ助けに行ってもいいかって言いてえんだろ」

 

 「でも、このままじゃ神通が死んじゃうんだよ!? 救援が来たって間に合う訳がないじゃん!!」

 

 「わかってんだよ、そんなことはよ!!」

 

 「――ッ!!」

 

 通信越しのオルガの悲痛な声に川内は何も言えずにいた。

 ――そう、一番辛いのはその場に駆けつけることが出来ない提督自身なんだと。事あるごとに提督であるオルガは言った。

 

 『俺も……お前らのように戦えたら守れるかもしれねえのによ。いつも、すまねえ』

 

 川内はその言葉だけでも十分だと思っていた。だから頑張れるのだと。その思いに気付きながらも口に出してしまった自分が情けなくなった気がした。

 

 「……ゴメンなさい。アタシ、言い過ぎた」

 

 「……いや、こっちこそすまねえ。とにかくお前らは帰還してくれ。あとのことは俺たちに任せろ」

 

 「うん……わかった」

 

 これ以上何も出来ることはない。そう言われたことに悔しさを思いつつもオルガとの通信を切ろうとした瞬間――

 

 「オルガ」

 

 「……ミカ、お前」

 

 「『三日月』。アンタ――」

 

 通信に割り込んできた三日月の言葉に両者息をのむ。感情のこもってない声で三日月は話を続ける。

 

 「俺が出ようか?」

 

 「……ミカ、お前な」

 

 「――『三日月』。アンタ、ふざけてるの?」

 

 オルガが言うよりも前に、川内は三日月の襟を掴み上げると睨みつけた。その川内の様子に動じることなく目を合わす。

 

 「ふざけてないけど?」

 

 「アンタ、言ってることわかってる? アンタ一人で何が出来るの? 昨日のアタシにボコボコにされたの忘れたの?」

 

 「別に、忘れてないけど?」

 

 「だったら―!」

 

 「けどさ、それでいいの?」

 

 「――ッ」

 

 三日月の言葉に思わず息を詰まらせる。

 ……いい訳がない。いい訳、ないじゃない。例え実の妹じゃなくても、もうアタシにとってあの子は妹で、仲間で、家族なのよ。そんなあの子を見捨てて行けるわけない。けど、相手はあのレ級なのよ。アタシの練度じゃとてもじゃないけど勝てる相手じゃない。いや、アタシを含めて全員で勝てる確率はないに等しい。

 

 「……じゃあ、どうすればいいのよ。アタシじゃアイツには勝てない。この場の誰も勝てるような相手じゃないんだよ? アンタなんかじゃ太刀打ち出来るような相手じゃないんだ。そんな相手に……どうしたらいいって言うのよ!!」

 

 川内は掴みかかった三日月の襟を揺らし続ける。次第に揺らすのを止めると膝が崩れ海面に座り込む。そして、力なく手を離すと腕がユラユラと宙に揺れる。

 

 「……アンタ、俺に言ったよね」

 

 「……へっ?」

 

 「ジンツウを頼むって」

 

 「――」

 

 項垂れていた顔を上げ三日月の顔を見る。その瞳からは、絶望した様子など微塵も見せない様子を感じさせられる。そんな瞳から川内は目が離せずにいた。

 

 「オルガ」

 

 「……なんだ、ミカ」

 

 「俺はオルガが決めたならそれに従う。けど、俺はカワウチに頼まれたんだ。ジンツウを――頼むって」

 

 「……」

 

 数秒後。三日月の言葉にオルガは深いため息をこぼした。

 

 「……はぁ。わかったよ。けどな、ミカ」

 

 「うん?」

 

 「一つ約束しろ。こっちで救援を呼ぶからそれまで時間を稼いでくれ。決して無茶な真似だけはやめてくれ。……いいな?」

 

 「あぁ、わかった」

 

 「そっか。なら後は頼んだ」

 

 「ん」

 

 それだけ伝えると三日月はオルガとの通信を切る。そして、神通の元に駆け付けようと川内達に背を向ける。その後ろ姿に川内は三日月の名を呼ぶ。

 

 「『三日月』!」

 

 「なに?」

 

 「あの子を――神通を助けて」

 

 「あぁ、任せて」

 

 本来は行くのであれば自分が行かなくてはいけないはずなのに、まだ来てからそんなに経っていない三日月に託すのはあまりにも無謀にもほどがあると川内は思った。しかし、その後ろ姿にどこか奇跡を生んでくれるのではないかと期待してしまう。最悪の場合、どちらも戻ってこないかもしれないというのに。それでも今は三日月に託すしかないと思った川内は心の中で祈った。

 

 川内と同じく長月と菊月も三日月の後ろ姿に声を掛ける。

 

 「死ぬなよ!」

 

 「必ず、戻ってこい!」

 

 「うん。行ってくる」

 

 長月と菊月に返事を返すと艤装に取り付けていた鉄メイスを手に取る。後ろを振り返ることなく三日月は静かに口に出す。

 

 「睦月型 10番艦 駆逐艦『三日月』――出る!」

 

 そして、三日月は全速力で神通の元へと駆け付けるのだった。




次回からレ級との戦いになります。
……書いていますが結構な量になった気がする。
では、また。


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第二十五話

昨日確認しましたが……日間ランキング7位に入ってた時はびっくりしました。
投稿してないはずなのに何故なんだろう?
まあ何はともあれいろんな方に見て頂けたので良かったです。
では、どうぞ。


第三章「始動」第二十五話

 

 「はぁ……はぁ……!」

 

 あれから神通は三日月達を逃がすために、たった一人でレ級との戦闘に奮闘していた。海上を縦横無尽に駆け回り攻撃を繰り出していた。

 

 (……不味いですね。もう、弾薬も燃料もそろそろ限界です)

 

 時刻を確認すると戦闘開始から大分時間稼ぎが出来たことに胸をおろす。だが、問題はこの状況の中、どうやってあのレ級から戦闘を離脱するかということだ。戦闘開始から今の今までレ級からの攻撃はそれ程多くはしてこなかった。いや、むしろ三日月達を追わなかったのも疑問に思う。

 

 あれ程の戦力差があるにも関わらず襲ってこなかったのか。最初の一撃のみ以外は特に攻撃をしてくるわけでもなく、ただ後ろ姿を眺めていたことに不思議でならなかった。現にこちらが攻撃をしているのに、反撃はおろか特に避けようともしない。まるで、わざと攻撃を食らっているかのように見える。

 

 レ級は神通の砲撃を避けることもなく受け続けていた。だが、その表情からは苦痛によって顔を歪ませることはなく、どこか余裕があるかのように思わせる顔をしていた。まるで、そんな攻撃など効かないと言わんばかりの笑みを浮かべている。

 

 (けれど、例え攻撃が効いていなくても時間さえ稼げれば……!)

 

 そう、あくまでレ級と戦闘に勝利することが目的ではない。むしろ、どれだけ時間を稼げるかが今回のポイントなのだ。神通は決して死ぬつもりも考えていなければ、勝てるつもりなどと思ってもいない。ならば、やることはただ一つ――

 

 (――この攻撃で戦線離脱します!)

 

 左腕の主砲の弾薬を使い切ると、腰に付けている魚雷管を全射投下しようとした途端――突如、上空から攻撃が降り注ぐ。

 

 「――ッ!? あれは……!」

 

 間一髪、上空からの攻撃に気付くとその場から離れる神通。顔を上げると、そこには敵の艦載機が宙に浮いていた。その数は五機にも及んでいた。

 

 「いつの間に……まさか援軍!?」

 

 バッと後方を振り返り敵の姿を確認するが、敵はおろか辺りには何もあるようには見えなかった。レ級の方へと視線を戻すと、そこにはレ級の尻尾の付け根の部分から、尻尾の背だと思われるところを走って、次々と艦載機が飛び出していく。

 

「……う、そ」

 

 ブオンッとエンジンの音を鳴らしながら次々と艦載機が上空を覆っていく。神通の周辺を敵の艦載機は旋回し始める。その数、おおよそ二十機にも及ぶ艦載機が神通の周辺を取り囲んだ。そんな光景にレ級は先程から浮かべていた笑みを、より一層深くすると艦載機に向かって敬礼をする。

 

 「――あぁ、そういうことでしたか」

 

 神通は全てを察した。どうして逃がした相手を追わなかったのか。反撃することなく攻撃を受け続けたのか。そう――全てはこの時の為だったのだと。

 

「は、はは……」

 

 神通の口から乾いた声が漏れる。全身から力が抜けると両膝を海面につける。所謂女の子座りとも呼ばれる座り方をしていた。両腕は項垂れ空を見上げれば、見えるのは快晴の空などではなく暗黒に染まり切った空、それは敵艦載機が埋め尽くしていたというのと同義であった。

 

 「レ、レレ……♪」

 

 楽しそうな声を出しながらこちらを眺めているレ級。その姿は無邪気な子供そのものだと言ってもいいだろう。

 

 「いつから……でしたの?」

 

 誰に問う訳でもなく自然と漏れる言葉に神通は振り返る。ここまでの戦闘に違和感は幾つか感じていたことはあった。だが、あれほど攻撃をしながら動き回っていて艦載機が飛び出す瞬間に気付かないなどあるのか。いや、気づかないはずがない。例え音に気付けなくとも気づかない訳がない。上空による攻撃がないか警戒を怠らなかった。何度も確認したが、一機も飛んでなどいなかった。

 

 「――まさか」

 

 ただ一つだけ思い当たる節があるとすれば、それは神通の攻撃、移動に対してレ級の向きが常に真正面に向いていたということ。神通の行動に合わせてレ級はその場から動くことはしなかったが、方向転換だけは行っていた。つまり、神通はレ級の背後を見てはいなかった。

 

 おそらく、こちらに悟られないために敢えて攻撃を真正面で受け続けたことによって、背後の尻尾から出される艦載機の存在に気付かせずに準備していたのだろう。そんなことが出来るのはこの状況以外ありえない。

 

 敵が一人。相手は自分の格下の軽巡。砲撃による損傷などほとんど効かない。あるとすれば魚雷による攻撃と、夜戦での戦闘のみ。だが、今はまだ夜まで時間があるうえに魚雷による攻撃など避けるのは容易い。これほど好条件の戦闘が彼女にはあった。

 そして、これほど手間を掛けてまで神通と戦う理由は一つだけ。

 

 それは深海棲艦として最もな理由――艦娘に絶望を与える。

 それこそが彼女達の戦う理由であり、存在意義なのだ。だからこそ、神通はそのことに気付くと絶望へと打ちのめされる。

 

 「レ、レ、レ~」

 

 「……」

 

 レ級がゆっくりと神通に近づいていく。神通は先程まで抱いていた想いを打ち砕かれ、目の前の存在から動けずにいた。いや、動いたところで意味がないのだと感じ始めていた。

 

 (残りは魚雷だけ。あとは燃料も帰るまでの分はほとんど残っていません)

 

 もはや魚雷を撃ったところで避けるのが目に見えている。どうあがいても無駄なのだ。

 

 「レレ!」

 

 「あがっ!?」

 

 神通の身体にレ級の尻尾が巻き付く。その尻尾は華奢な身体の持ち主とは釣り合っていないほどの重量感があった。そんな尻尾を軽々と扱いながら神通の身体を締め付ける。

 

 メキメキ!!――バキッ!!

 

 「き、きゃああああ!?」

 

 徐々に強まる締め付けに右腕に取り付けられている兵装と自身の骨が折れたことに、叫び声をあげる。その光景にレ級は嬉しそうに眺めている。次第に体中の骨が軋む音を立てる。アバラの骨がいくつか折れて内臓に突き刺さると、口から吐血をする。

 

 「かはっ!……はぁ……はぁ……」

 

 (――もう、ダメかもしれません)

 

 たった尻尾で締め付けられただけでこの有様。右腕は折れ、アバラもいくつか持っていかれた。魚雷管も両腰についている内の一つは潰れかけているせいで上手く作動しない。燃料も弾薬も尽きた今、神通に出来ることは一つだった。

 

 (せめて……命に代えても……!)

 

 残った魚雷管をレ級に標準を合わせる。その存在に気付いたのかレ級はさっきとは違い驚愕すると焦りが見え始めた。流石のレ級も近距離での魚雷発射は予想していなかったらしい。

 

 「……那珂ちゃん、ごめんなさい。約束、守れそうにありません……」

 

 神通はそっと目を閉じる。せめてもの悪あがきに神通はレ級に近距離による魚雷を発射ようとした瞬間――海上が激しく揺れた。

 

 「――え?」

 

 何が起こったのか神通は理解できなかった。目の前に出来た水の柱が消えると、そこにあったのは黒い鉄の塊がレ級の尻尾を叩き潰していたということ。そして、レ級はその黒い鉄の塊から離れながら苦悶の表情をしていたこと。レ級の尻尾の力が弱まると神通を水面へと落とした。神通は弱弱しくも無事に着地すると折れた右腕を押さえる。

 

 「――生きてる?」

 

 黒い鉄の塊の隣に立っていたのは、逃がしたはずの三日月がこちらをじっと見つめていた。その姿に神通は呆然と見つめることしか出来なかった。

 

 「……なんで?」

 

 「え?」

 

 「なんで……来たんですか。私は姉さんたちと逃げるように言ったはずです。なのに……わざわざ戻ってくるような真似をしたんですか!」

 

 痛む右腕を庇いながらも神通は三日月に糾弾する。

 

 「姉さんや提督は何と言ってたんですか? あなたは彼らの言葉を無視してまで助けに来たのですか?……だったら、要らなぬ世話です。まだあなただけでも逃げることが出来るはずです。さぁ、早く逃げてくだ――」

 

 「――約束したんだ」

 

 「……約束?」

 

 「あぁ、カワウチにジンツウを頼むって」

 

 レ級の尻尾に振り下ろした鉄メイスを持ち直すと、三日月はレ級へと視線を向ける。その視線の先には紅い眼からは怒りに満ち溢れているかのよう感じさせる。

 

 「……姉さんがそんなことを」

 

 「うん。オルガも良いって言ってた。だから来た」

 

 そう言うと三日月は鉄メイスの先端部をレ級に向ける。レ級は上空に向かって咆哮を上げると、艦載機の群れが三日月へと狙いを定めた。だが、そんな様子に三日月は臆することもなく敵から目を離さないでいた。

 そんな三日月の後ろ姿を見ていた神通はつくづく思う。

 

 (……どうしてこの子はこんなにも平然としていられるの?)

 

 相手は自分よりも格上の相手であるレ級。それに上空には圧倒的な数のレ級の艦載機がこちらを取り囲んでいるというのに。ましては片や大破寸前の手負いの仲間がいるというのにどうして堂々とした態度を取っていられるのか不思議でならなかった。

 

 もはや戦いなどではない。虐殺に近い戦いだというのに、その背中からはどこからか希望があるかのように感じられた。その背中が振り返ると神通に微笑みかける。

 

 「――いくね」

 

 「――えぇ、気を付けて」

 

 三日月の微笑みに神通も笑みを浮かべる。三日月は神通から視線をレ級へと戻した。

 そして、三日月は鉄メイスを担ぐとレ級に向かって全速力で水面を走り出すのであった。




いよいよレ級との戦闘開始です。
では、また。


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第二十六話

レ級戦その一です。
では、どうぞ。


 第三章「始動」第二十六話

 

 「ふっ……!」

 

 三日月はレ級に全速力で接近すると担いでいた鉄メイスを振りかぶった。三日月の鉄メイスをひらりと避けるレ級。避けた地点に鉄メイスが振り落とされると大きな水の柱が立つ。振りかぶるだけで終わることはなく、そのまま横へと薙ぎ払うかのように鉄メイスを振るった。レ級も横からくる塊に目掛けて拳に力を込めると、タイミングを合わせて打ち込む。

 

 「レレ!」

 

 「……」

 

 ガキィン!

 

 鉄と鉄がぶつかり合う音が辺りに響き渡る。レ級の放たれた拳は傷一つ付くことなく鉄メイスとの力の勝負が続いている。その光景を目にした神通は驚きのあまりに開いた口が閉まらずにいた。

 

 それもそのはず。あれだけの質量を持った鉄メイスの横薙ぎによる攻撃を素手で打ち返してきたのだ。それに見たところ痛む様子を見せるどころか喜々とした様子で三日月に押し返そうとしていたのだから。

 

 神通自身、元来の船の戦いとは違い、深海棲艦との戦いで戦艦クラスが主砲による長距離射撃だけではなく、近接戦闘による戦い方もあることは知っていた。主に殴ったりする以外の方法以外は知らないが、敵の顔面を殴りつけたり、敵の砲弾を裏拳で弾いたりする戦艦もいるという噂を聞いたことがあった。

 

 だが、あくまで噂であり目にしたことは一度もない。そもそも近接戦闘に及ぶほどの戦闘が無いに等しいからだ。当然だ。何故なら砲撃による戦いが主にも関わらず、敵に真っ向から突っ込む奴などいないからだ。そんなことをしたら敵の格好の的になるのだから。

 

 しかし、目の前の光景は噂以上の出来事だった。戦艦どころか駆逐艦なのに、戦艦が搭載している砲塔くらいの重さを感じさせる鉄メイスを振っているのだ。それに、その鉄メイスに対抗しようとして拳を打ち込んでくる始末。もはや、神通にとって今まで学んできた戦い方とは一体何なんだと叫びたくなったのも無理はない。そんなことを思っていたところに状況は急変した。

 

 「――レ、レ、レレレッ!?」

 

 「はあっ!」

 

 ガンッ! ガンッ!!

 

 鉄メイスと拳が幾度となくぶつかり合う。二度、三度と立て続けに振り続ける三日月の攻撃に顔を歪み始めるレ級。レ級は驚きよりも拳に伝わる物理的衝撃による、痛みの方が段々と大きくなっていくことに気付く。初撃は全然感じなかった痛みがじわじわと伝わり始める。

 

 だが、痛みもそうだが何より驚いたことがレ級にはあった。それは自身との近接戦闘に劣るどころか、まともに打ち合っていることに驚きを隠せずにいた。

 これまでも何度か艦娘と遭遇しては戦ってきた。そして、自分と同じ戦艦クラスの艦娘と殴り合うことは無かった訳ではない。近接戦闘に及んだとしても殴り合いに負けたことなどなかった。なのに、目の前の敵は一体何なんだと思わずにはいられなかった。

 

 相手は自分と同じくらいの体系だがクラスはどう見ても駆逐艦。そんな奴が戦艦である自分を押し始めている。あろうことか、さっきまで戦闘していた軽巡の攻撃は痛くも痒くもない攻撃だったはずなのに、敵の武器と思われる攻撃が効いていることに動揺を隠せずにいた。

 

 「レレレレー!!」

 

 「――ッ!! くそっ!」

 

 拳での攻撃を止めて腕を交差させて防御の構えを取る。三日月の猛攻に耐えながらレ級は上空に咆哮を上げると、艦載機が三日月に向かって上空から銃撃を開始した。

 すぐさま三日月は攻撃を中断すると、鉄メイスを盾に使いながら銃弾を受け切っていた。

 

 「『三日月』さん……!!」

 

 不味いと神通は思った。今回の訓練での必要であった兵装の中に対空射撃の出来る装備を持ってきた人は誰もいなかったのだ。鎮守府付近ということもあり魚雷に砲塔以外は必要ないと判断した結果であった。その判断が裏目に出た事に神通は過去の自分を恨んだ。

 

 (どうしましょう……このままでは『三日月』さんが……!)

 

 せめて援護でもと思い銃口を艦載機に向けるがハッと気づく。

 

 (そうでした……もう、私には残弾が残っていないんでした)

 

 神通は下唇を強く噛みしめると口の中に血の味が染み渡る。今の自分がいかに役に立たないことを思い知らされる。そんな自分が情けなくて仕方がなかった。

 

 「それでも……せめて、私に出来ることを……!」

 

 体中悲鳴を上げる体を奮い起こして神通はレ級へと方向転換を行う。レ級の方角へと体を向けると、片膝を水面に着けて狙いを定める。

 

 (まだ、片方の魚雷管は生きているんです。これなら――ッ!?)

 

 ギロッと横目で見ていたレ級に気付く。その眼差しに気付くと神通は身体が震えあがってきた。

 

 「……あ、あぁ」

 

 海面に着けていない膝を支えていた手が震える。外からでも奥歯がカチカチとぶつかる音が鳴るくらい出していた。先程までの体験を思い出してしまい、思わず神通は震える体を鎮めようと必死に耐える。

 こんなことをしている場合ではないと頭ではわかってはいたが、どうしても体が言う事を聞かずにいた。

 

 (はやく、はやく『三日月』さんを助けないといけないんです!……だからお願いです。私に、力を貸してください――那珂ちゃん!)

 

 頭の中で思い描いた那珂の笑顔を思い出すと、少しだけ震えが落ち着いた。今しかないと思った神通はレ級に向かって魚雷を発射しようとしたその時――上空から敵艦載機の内一機が物凄いで神通に目掛けて飛んできた。

 

 「くっ!?」

 

 気付いた時にはすぐそばまで飛んできていた。ちらりとレ級に視線を向けると、そこにはこちらに向かって手を向けているレ級の姿が映っていた。その姿はまるで「その手には二度と乗らない」と言わんばかりの姿が目に見えた。

 

 もはや、自分が魚雷を撃つよりも先に追突することに察した神通は目を閉じてしまう。自身の状態で言えばギリギリ大破ではないが大破寸前といった具合であった。そんな状態で敵艦載機による特攻など食らったら耐えきれない。心の中で目の前で戦っている三日月や那珂、川内やその他の人たちに謝罪をすると、今から起こりうる事態に目をギュッと閉じる。

 だが――そんな事態などならなかった。

 

 ドゴォォォォォン!!

 

 「……え、あれ?」

 

 激しい爆発音からは細かい鉄の塊が海へと沈んでいく。この展開にまさかと思った神通は思い当たる人物に視線を向けるとそこには――二丁の単装砲を構えた三日月が立っているのであった。




アーケードの艦これの動画で三日月が両手に持っているのを見て「あ、これミカが使ったらカッコよくね?」と思いこんな感じにしました。
次回で二丁持ってる理由が分かるんでお楽しみに。
では、また


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第二十七話

レ級戦その二です
では、どうぞ。


 第三章「始動」第二十七話

 

 「み、『三日月』さん!?」

 

 「大丈夫、ジンツウ?」

 

 神通に向かって行った艦載機を落とすと三日月は銃口を下げる。神通に被害が出ていないことを確信すると三日月はひとまず安心した。

 

 「そ、その単装砲はどうしたのですか!?」

 

 「ん? あぁ、これ?……長月に渡されたんだ」

 

 神通が指で指し示す先には、三日月の所有していた単装砲とは違い、もう一丁の単装砲が握られていた。その単装砲は三日月と同じ形をしたものとそっくりであった。

 

 実は三日月がここに来るまでの間、行く寸前に長月から単装砲と弾薬、燃料を分けてもらっていたのだ。代わりに腰に付けていた爆雷を預けた。そして、行く直前に爆雷を装備していた両腰に単装砲を付けてここまで来たのであった。

 鉄メイスを扱う際には邪魔にならないように両腰に単装砲が装着出来るよう、事前におやっさんが単装砲に仕掛けをしてくれたおかげで落とすこともなく戦闘が出来るのである。

 

 だが、本来であればそのような機能はついてなどいない。あくまで三日月がメイスでの戦い方を知っているおやっさんの配慮によるものである。なので、他の鎮守府の装備を譲り受けた場合、入れ替えながら戦う場合は捨てるか、スカートのベルトに入れるぐらいしか方法がないのだが、現実問題捨てる以外三日月にとって選択肢がないと言い切ってもおかしくはないだろう。

 

 「い、いつの間に……」

 

 「神通と別れてこっちに来る途中で……っと!」

 

 神通に説明をしていたところ新たな艦載機が三日月に向かって接近してきたところを三日月は迎撃する。単装砲のトリガーを一回、二回と艦載機に向かって引くとカンッと軽い音を立てる。だが、軽い音とは裏腹に艦載機は上空で轟音を響かせ爆発した。

 

 「……鬱陶しいな」

 

 次々と艦載機による上空攻撃に三日月は思わず眉をひそめる。圧倒的な数を相手に一機、また一機と単装砲による砲撃を繰り返していた。そして、三日月は神通を中心として円を描くように航海する。

 

 手負いの神通は動けないことを考慮してのことだった。レ級だけではなく、艦載機の数も多い中、離脱するのは難しい。ならば、逃げられないのなら神通を守りながら戦えばいいだけのこと。そう考えた三日月は神通の周囲を警戒しつつの迎撃試みることにしたのだ。

 

 「レレ―!」

 

 「――ッ!」

 

 レ級は三日月に向かって尻尾の先端部の口を開くと砲塔を現し砲撃する。間一髪、三日月はレ級の攻撃に気付くと上体を逸らしながら急速旋回を行い攻撃を避けた。

 

 「……」

 

 カンッ! カンッ! ドゴォォォォォン!!

 

 「レッ……!?」

 

 回避をしてすぐさま三日月は敵の尻尾の先端部の口の中に目掛けて単装砲を連射する。口の中の砲塔が爆発を起こすと、レ級の尻尾はまるで苦しんでいるかのように見えた。そして、レ級の尻尾は爆発した砲塔を空に目掛けて向けると、そのまま力なく海へと倒れた。その様子にレ級の顔は酷く焦った顔つきをしていた。

 

 「……あれ?」

 

 (空にいた鳥みたいな奴の数が減ってる?)

 

 いくら撃っても撃っても、次々と現れたレ級の艦載機の数が着実に減っていることに気付く。それに、尻尾を破壊してから艦載機の様子がおかしいと感じた。動きが鈍いとでも言えばいいのだろうか。少なくとも、さっきよりかは動きが遅くなったことに三日月は好機だと思った。

 

 それに引き換え、レ級は尻尾の破壊に動揺を隠しきれずにいた。

 尻尾にはいくつか機能があった。一つは艦載機を発進させるための滑走路としての役割。二つ目は艦載機を指揮する役割。そして、三つ目は主に砲撃による攻撃である。だが、三日月の攻撃で尻尾が機能停止した今、艦載機を指揮するどころか新たに飛ばすことも出来ないでいた。

 

 本来、三日月の単装砲だけではビクともしないのだが、最初の三日月の鉄メイスの攻撃で背びれに当たる部分の滑走路の損傷と、砲塔内に内蔵されていた砲弾を撃ち抜かれたせいで一気に破壊されてしまったのだ。

 

 「レ、レレ、レレレ……」

 

 オロオロと慌てふためくレ級。こんなはずではなかった。こんなことになるとは思いもしなかった。そんな思いを抱いている合間、レ級は周囲の気配に気づく。

 

 「――レ?」

 

 「……はぁ」

 

 一息。三日月は息を吐くと上空に構えていた両腕を下すと力を抜いた。手にしていた単装砲のトリガーを引くがカチカチと音を鳴らすだけで弾が出ることはなかった。代わりに上空からはレ級の艦載機の破片が海の底へと落ちていくのである。

 

 その光景にレ級は間抜けた声を発してしまう。あれだけの数の艦載機を一人で落としたのかと。信じられないと言わんばかりの視線を三日月に向ける。

三日月は弾倉が空になった単装砲を海に放り投げると、残った武器――鉄メイスを構える。

 

 「これで――アンタだけになった」

 

 「――レ、レ、レレレレ!!」

 

 三日月の言葉にレ級は笑みを浮かべながら前髪をぐしゃぐしゃに弄る。気が済むとレ級は三日月と対峙する。そして、あろうことか自身の尻尾を引きちぎり始めた。

 

 「レ、レ、レレー!!」

 

 「……ふーん」

 

 その奇怪な行動に三日月は驚くことは無かった。おそらく使えなくなった部分を軽くして機動性を上げる為であろうと考えた。

 その考えは概ね正しく、レ級自身も重荷となった尻尾を切り離すことで機動性を上げようと考えたのだ。痛みはあるが我慢できなくはないと思ったレ級は切り捨てた尻尾を海に放り投げると三日月へと一直線に突っ込む。三日月も鉄メイスを担ぎレ級に向かって一直線に走り出す。

 

 お互いに間合いに入ると互いの武器であるメイスと拳のぶつかり合う音が辺りを響かせるのであった。




正直、レ級の艦載機の量はもっといると思うんですが、そこは……あまり突っ込まないでいただけると嬉しいです(笑)

三日月:残りの兵装・鉄メイス
         ・単装砲(自身の)→海へ捨てる
         ・単装砲(長月)→海へ捨てる
         ・魚雷管(両足)

三日月の状態:小破(なるかならないか)

さぁ、どうなる。
では、また。

※追記
感想で得た円状の缶→爆雷と直しセリフも少し変えました。
どうも、ありがとうございます。


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第二十八話

レ級戦その三です

いよいよ大詰めです。

では、どうぞ。


 第三章「始動」第二十八話

 

 「ふっ……!!」

 

 「レレレレレ……!!」

 

 互いの攻撃がぶつかり合い、どちらも力が劣っていることは無かった。力は拮抗し合い動かないでいた。三日月は鉄メイスを傾けレ級を横へといなす。いなされたレ級は止まらずに出していた力の流れに逆らえずそのまま進んでいく。

 全力速力ということもあって、直ぐには方向転換が出来なかったレ級は速度が落ち着いたところで三日月の方へと方向転換する。

 

 「レ……!?」

 

 「ちっ……!」

 

 すぐさま気付いたレ級は方向転換と同時にその場から横へと飛んだ。自身の飛んだ位置を横目で確認すると直後、魚雷が通り過ぎていくのが見えた。

 これは三日月が鉄メイスでいなした後、レ級から距離を取るように後退しつつ一直線に並んだところで、足に装備していいた魚雷を発射した。

 

 艤装から送られてきたデータによって使い方は知っていても実践で使用したことが訓練以外なかった。あくまで的に当てるだけであって動く的には当てたことは無い。そんな初めてでもある動く的、つまりレ級に向かって魚雷を発射したのである。

 

 互いは一直線、距離も十分生かせるほどの距離。タイミングも完璧な状況であるはずなのに、それを回避したレ級に三日月は思わず舌打ちをしてしまう。

 

 「レレッ!!」

 

 着地したレ級はすぐさま両手を握り絞めるとその場に向かって殴りだした。

ドンッと大きな音を立てながら一本の水の柱が高々と現れる。何か来ると思った三日月は鉄メイスを構えながら次の攻撃に備えた。だが――

 

 「レ……」

 

 徐々に水の柱が消えていくと上空から水蒸気が風に乗って落ちていく。消えた水柱の場所には、先程から動いた形跡も感じられないレ級がコートの裾を持ち上げているだけだった。

 

 その様子に三日月は警戒をしつつ様子を見ていたところに近くで見守っていた神通の叫び声が聞こえた。

 

 「――『三日月』さん! 下です! 魚雷がすぐ近くに……!?」

 

 「――ッ!?」

 

 神通の声に直後、三日月は後退をしながらも海面の下の存在に目を見張る。その存在はレ級のと思われる魚雷がすぐ近くまで迫っていた。

 

 神通は今回の戦いで驚かされてばかりだった。自分の学んできた砲雷撃戦の戦い方など無視するかのような戦いぶりに開いた口が塞がらないほどである。三日月達から距離が離れていた神通が目にしたのは、海面に拳を叩きつけた後にコートの裾を上げた途端――魚雷がボトボトと海面へと落ちていくところであった。

 

 魚雷を落としながらニヤリと笑みを浮かべるレ級の表情を見落とさなかった神通は三日月の方へと振り返る。案の定、気づいている様子もない三日月に大声で知らせたのである。

 しかし、知らせるには遅く目の前までに迫っていた魚雷が三日月に当たると思ったが――

 

 「……えっ!?」

 

 「レ……!?」

 

 「ぐうっ……!?」

 

 寸前、三日月は迫りくる魚雷をバク転をすることで回避することに成功する。その光景を見ていた神通は三日月の行動に信じられずにいた。

 

 (艤装を背負ったままバク転なんて真似……どうしたらそんなことが出来るんですか貴女は!?)

 

 ――無茶苦茶すぎる。目の前の少女の戦い方に神通はとことん思い知らされる。これは海での戦い方などではない。いや、船の動き方ではないと言った方が適切なのかもしれない。そう――根本的な戦いが違うのだ。だからこそ、神通は思う。

 

 (あのレ級と……渡り合えるのでしょう)

 

 自身よりも練度は劣っているどころか、まだこの世界にきてから一月も経たない少女が遥か格上の相手であるレ級と互角以上の戦いを繰り広げている。そんな格上の相手に勝つには従来の方法では駄目だと痛感せざるを得なかった。

 

 そんなことを思っている間、三日月はバク転により魚雷直撃による損傷は皆無で終わったが――

 

 「あぐっ……!!」

 

 バク転した後、魚雷による回避は成功したものの着地までは無事とはいかなかった。

 そもそもの話、艤装を付けた状態でのバク転など出来るはずもなかった。それだけの重さを背負ったまま飛ぶだけの脚力などあるわけがない。それに加えて背中に背負っている艤装のせいで体勢に無理があったのだ。言うなればバク転モドキと言った方がいいのかもしれない。無論、そんな状態で着地などできるはずもなく海面に背中を打ち付ける形で着地することになる。

 

 三日月本人もこればかりはかなり無茶をしたと思った。本来の持ち主である『三日月』に心配されたが、大丈夫とだけ心の中で告げると痛む体を奮い立たせる。

 手に持っていた鉄メイスを握りしめ、痛む体に鞭を打ちながらその場を離れた。動きながらレ級の行動を見張っていたが、どうやらあれが本当に最後の兵装だったらしい。その証拠に悔しそうに歯ぎしりをするレ級の姿が見えた。

 

 「……なら」

 

 ――あとはヤるだけだ。

 そう思い三日月は全速力でレ級に接近する。鉄メイスを担ぎ渾身の一撃を叩きつけようと手に力を込める。

 迫りくる三日月にレ級はその場から動けないでいた。

 

 「レ、レ、レ……」

 

 ――ナンダコイツハ。イッタイ――ナンダンダ。

 迫りくる金色の目を宿した少女にかつてないほどの恐怖を感じたレ級。今までの戦ってきた相手とまるで違う。自分より弱いはずの相手にここまで追い詰められてしまうことに畏怖してしまう。

 

 全ての兵装は使い切ってしまった。もはや打つ手がないに等しい。最後の奥の手の魚雷も回避された今、残っているのは所々指が折れた両拳位なものだった。砲弾ならいざ知らず、目の前の黒髪の少女の手にする武器と打ち合うほどの力が残ってなどいない。短い脚では避けられた後の攻撃に耐えられるかどうかも分からないでいた。

 

 初手で喰らった時のことを思い出してみるが、かなりの痛みを生じたはず。そんな攻撃をもろに喰らったら今度こそ沈むと確信する。迫りくる中、レ級は静かに目を閉じる。十秒も満たないほど時間が経過した時、レ級は意を決した表情で目を見開く。

 

 迫りくる鉄メイスにレ級は両腕をクロスする形で受ける体制へと備えた。チャンスがあるとすれば、この一撃を耐えた直後の隙を狙うしかない。そう思い、レ級は歯を食いしばり足に力を込め、直ぐに来るであろう攻撃を待った。

 

 この時、その場にいた誰もが思った。次の攻撃で勝敗が決まるのだと。だが――世界はあまりにも残酷であった。




次回「三日月、大ピンチ」

では、また~


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第二十九話

その四です。

次回で最後になります。

では、どうぞ。


 第三章「始動」第二十九話

 

 「――あ、れ?」

 

 レ級に接近しながら三日月はふと気の抜けた声をあげてしまう。それは突然であった。担いでいた鉄メイスの重みが一気に感じたのと同時に、体が思うよう動かなくなっていることに気付く。それは接近する前には感じられないほどの怠惰感が全身に襲ってくるほどのものであった。

 

 足から海面へと発せられる推進速度も徐々に落ちていくのが伝わってくる。接近する途中で止まることはないが、このままだと勢いを殺し終えたところ――つまりはレ級の目の前に止まる可能性があった。

 

 (この感じ……前にもあった気がする)

 

 段々と薄れていく意識の中、思い浮かんだのは最初の戦闘――戦艦ル級の戦闘後に起こった現象のことだった。

 

 (まさか……もう、燃料が……)

 

 思い当たる節があるとしたらそれしかないと思った。レ級と遭遇するまでの間の訓練の時、長月達から分けてもらった分、それに今の今まで行われていた戦闘のことを考えれば当然のことである。いくら燃費のいい睦月型とはいえ、これだけ激しい戦闘を補給無しで戦えばそうなるのも必然であった。

 

 艦娘が海に沈まない為の安全システムがこんな形で起動してしまうことに三日月は恨まずにいられなかった。

 

 (どうしよう……このままじゃ……!)

 

 速度を殺して接近するのを止めれば、その後の結末などたかが知れる。かと言って、このまま接近すれば目の前で止まって格好の的になるだけだ。なんとかこの状況を打破しなくてはいけないと思っているが、意識が薄れる中うまく思考することすらままらないでいた。

 

 「――ッ!? 『三日月』さん!?」

 

 三日月の異変に一早く気付いたのは神通だった。さっきまでの様子とは明らかに違うことに戸惑いを隠せなかった。徐々に失速していくのと同時に項垂れていく顔。以前、三日月がル級との戦いでの後、救助をした時に明石から聞いていた話と同じ症状であった。

 

 「……まさか、『三日月』さんも燃料がもう……!?」

 

 あと少しでレ級に接触する間近でシステムが作動するとは思いもしてなかった。いや――失念していたと言った方がいいのかもしれない。

 

 (……考えてみればあれだけ動き回れば無理もないかもしれません。通常では考えられない動きをするために想像以上の燃料消費をしていたはず)

 

 常に全速航海。急な旋回運動。思い当たる節などいくらでもあるが、この短時間でこれだけ動き回れば当然のことだと思った。

 

 「……どうしたら」

 

 このままではレ級に返り討ちに合うのは必然。自分が代わりに助けることが出来れば今すぐにでも駆け付けたいくらいだ。だが、もはやこちらも動ける状態ではない。出来るとすれば方向転換くらいしかない。

 

 (……考えなさい、私。今の状況で何が出来る?)

 

 接触するまであと一分も満たないこの状況を打ち破るにはどうしたらいいのかと神通は思案した。幸い、レ級には三日月の状態に気付いている様子はなかった。というよりもレ級自身も余裕がないのか、目の前のことに集中しているからか気付く気配を感じられない。

 

 自身は動けない。残りの兵装は魚雷のみ。しかも片方はレ級に捕まった時に使えなくなった。しかし、今魚雷を撃ってしまったら三日月にまで被害が及ぶのは目に見えている。その三日月も既に意識を失いかけている。そんな状態で避けろと言われて動けるのかと聞かれれば、おそらく無理であろう。

 

 「――うん」

 

 ――これしかない。

 

 そう思い神通は三日月に向かって出せる限りの声量で指示を与える。

 

 「――『三日月』さん! その武器をレ級に向かって投げてください!!」

 

 「……ジン、ツウ?」

 

 三日月は薄れゆく意識の中、凛とした声が耳へと入っていく。声をする方へとチラッと目を向けると、そこには神通がレ級に向かって指を向けていた。だが、声が聞こえただけであって何を言っているのかはよく分からないでいた。

 

 (……もう、意識が――)

 

 朦朧とした意識が失われようとした瞬間――声が聞こえた。

 

 『――三日月』

 

 「……」

 

 ――『三日月』か? 

 

 『うん。――あれ』

 

 「……?」

 

 ――あれ? 目の前の敵がどうした?

 

 『彼女が言ってた。――投げてって』

 

 ――あいつにか? 誰が言ってたんだ?

 

 『アナタの――守りたい人が』

 

 「――ッ!!」

 

 その言葉に三日月は意識を覚醒させる。目の前の敵――レ級に俯いていた顔を上げしっかり見据えると、最後の力を振り絞り速度を落とさないまま旋回する。その旋回によって生まれえた遠心力を利用して手にしていた鉄メイスをレ級へと投擲した。

 

 「ウオオオオォォォォォ!!」

 

 「――ッ!? レレ!?」

 

 まさかの展開にレ級は驚く。今までの戦い方であれば接近してきたところ、あの武器で殴るだけだと考えていた。なのに、ここまで近づきてきたはずなのに投げてくるとはレ級自身思いもよらないことだった。

 

 しかし、近づいて殴るも投げてくるも同じことだと思った。一番脅威とも言える武器を敵自ら投げてきたのだ。これを防ぎきれば勝ったも同然。迫りくる鉄メイスの衝撃に備えて構えていると――それはすぐに来た。

 

 ガキイィィィィィン!!

 

 「ギ、ギギギギギギィィィィィ!!」

 

 想像以上の威力にレ級は歯を食いしばる。あの駆逐艦にそれだけの力がまだ残っていたのか。そう思いつつ鉄メイスの威力に耐えるために必死に踏ん張り続けた。耐え続けた結果――レ級は倒れることは無かった。

 

 「――なっ」

 

 「――ヒ、ヒヒ、ヒヒヒヒ!!」

 

 ――耐えた。耐えた。耐えた!

 目の前の少女は愕然とした表情でこちらを見ていた。そして、あろうことかその場で倒れ込んでしまった。防いだ腕を見るが前に出していた方の腕の骨が折れただけで、残った腕は折れていないことにレ級は安堵した。

 

 ――アァ、コレデヤットシズメラレル。

 長かった戦闘に大きく息を吐くレ級。目の前で倒れた少女は起き上がる気配を見せない。もう一人はさっき戦った時、動けないことは分かっている。後は簡単――深海へと沈めればいい。

 

 「レ、レ、レ~♪」

 

 さっき何か言ってた気がすると思い、レ級は神通の方へと振り向く。今頃は絶望した顔でも浮かべているに違いない。そう思い振り返った瞬間――

 

 「――レ?」

 

 ――目の前が光に覆われた。




遅くなってしまってすみませんでした。普通に書く時間というより内容をどうするのかと悩んでいたらこうなりました。

あと近々活動報告で宜しければですが、オルフェンズのキャラと艦これのキャラで合いそうな組み合わせを教えて頂けたらなと思っています。

……正直な話、オルフェンズキャラと艦これキャラの組み合わせが一番悩んでいるんでどうかお力添えをぉぉぉぉ。

次回「レ級との決着」

では、また。


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第三十話

その5です。

これでラストです。

では、どうぞ


 第三章「始動」第三十話

 

 ドゴォォォォォン!!

 

 「――くっ!?」

 

 激しい爆発に神通は残った腕で口元を塞ぐ。爆発による衝撃と高温の熱に襲われる。暫くして爆発の衝撃に耐えるとすぐさま三日月の確認を急いだ。

 

 「『三日月』!! 大丈夫ですか!?」

 

 周囲を確認すると呻き声を上げて倒れていた三日月の姿が確認できた。運が良かったからか、どうやら大きな損傷を受けている様子は見られなかった。

 

 「……良かった」

 

 あまりにも無謀な行動に過去の自分を殴りに行きたい神通であったが、とりあえず作戦が成功したことにホッと胸を撫で下ろす。

 

 「……これでよかったのでしょうか」

 

 ポツリと呟く神通に応えるものなどいなかった。

 作戦――とはあまりにも言い難いものであった。それは三日月が投げたメイスで吹き飛んだ先に止まったレ級に向かって魚雷を発射するという単純明快かつ短絡的すぎる作戦内容であった。

 

 もしも、一歩間違えれば三日月ごと爆発に巻き込む恐れもあるというのにだ。だが、これ以外の方法を神通は思いつかなかった。時間もほとんどない中、考え出した答えがこれだった。

 

 以前の自分であれば仲間を傷つけない方法を考えたであろう。しかし、目の前にいたレ級を倒すことは出来なかったはず。自分がした行動に神通は正しかったのか、それとも間違っていたのか分からないでいた。

 

 仮に答えられる人がいるのなら教えて欲しいと切実に思う。神通はそんなことを考えながら爆発した場所を眺めていたところ――薄っすらと煙の中から影が見えた。

 

 「――嘘」

 

 ――ありえない。いや、ありえるはずがない。

 完全に直撃したところをこの目で見ていた。防御はおろか避けられるはずもなかったはずだ。当たった瞬間を見逃すはずがない。

 そう思った神通の表情は青ざめていた。何故なら――目の前のレ級がまだ倒れていないからだ。

 

 「レ、レ……カハッ」

 

 煙が晴れてくるとレ級の姿も露わになる。片腕は爆発で吹き飛び、被っていたフードが取れて素顔が確認できた。左目は爆発のせいで失明しているように見える。息絶えそうな姿なはずなのに、しっかりと海面に足をつけて立っていた。

 その姿に神通は憤りを感じていた。

 

 「……どうして、なんですか!?」

 

 砲撃ならいざ知らず魚雷直撃となれば無事では済まないはずだ。普通なら沈んでいておかしくないはず。なのに、膝を着くどころか二本足で立っている始末。理不尽にも程がある。

 

 「レレ――」

 

 「……まさか、待って!?」

 

 ゆっくり、ゆっくりと海面を歩くレ級。歩く先には倒れている三日月の方向であった。叫び声を上げながらレ級に静止するよう呼びかける神通。折れていない腕を伸ばすが届くはずもなく、ただ虚しさだけが伝わってくる。

 

 「レ、レ――シ、ズメ」

 

 「や、やめてぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 レ級は三日月の場所まで辿り着くと、三日月の頭に向かって足を上空へと伸ばした後、そのまま振り落とした。顔面を砕く勢いで振り落とされる足を神通は見ていることしか出来ないでいた。

 

 (動いて! あの子を救えるならこの体がどうなっても構わない。だから――お願い、動いて下さい!!)

 

 もはやボロボロである体に鞭を打ち三日月を救おうと動かすが、激しい痛みのせいで動かすことが出来ない。そんな自分の体に思わず涙が溢れ出す。痛み、悔しさ、情けなさ、あらゆる感情や症状によって流れる涙は止まらないでいた。

 

 もはや三日月の顔面まで目前となった足を止める手段を移せないでいた神通はギュッと目を閉じた。訪れるであろう三日月の顔面が砕け散る音を耐えるために――だが、一向にその音は訪れないでいた。

 

 「……え?」

 

 何かあったのかと目を見開き、三日月の方を見るとそこにあったのは――1人の艦娘がレ級に向かって殴りつけていた瞬間であった。

 

 「カハッ……!?」

 

 殴られたレ級は不意を突かれたこともあり、まともに受け身を取ることすら出来ないでいた。まるでボールが飛び跳ねるかのように海面の上を飛び跳ねていた。そして、海面を滑り込み、徐々に止まると痛む体を抱えようと丸く蹲るレ級。

 

 その姿を見つめていた艦娘だと思われる女性に神通は声を掛けた。

 

 「……貴女は一体――」

 

 「……間に合ってよかった」

 

 神通へと振り返る女性は腰まであるロングストレートの髪に真紅の瞳が特徴的であった。

 頭には艦橋をモチーフしたヘッドギアをつけ、首には首輪のようなパーツ、両腕には長手袋、腰周りはミニスカートに、大日本帝国の菊の御紋をあしらったベルトという服装。その女性の艤装は煙突の付いた腰ユニットから体を挟みこむように左右に展開し、それぞれに41cm連装砲を計4門装備しているのが見える。

 

 振り返る女性の姿を見た神通は一人思い当たる人物がいたことに気付く。それは艦娘をやっている人であれば誰でも知っている人物。彼女の名は――

 

 「――長門さん、ですか?」

 

 「うん? 私のことを知っているのか?」

 

 「いえ、知っているも何も……」

 

 彼女ほど有名な人物、もとい船を知らぬ者などいないだろう。船を知らない子供でさえ名前だけは聞いたことがあるというくらいなものなのだ。それを同じ艦娘である神通が知らないはずがなかった。それに、ビック7とも呼ばれる彼女がどうしてこの場所にいるのか不思議でならないでいた。

 

 「あの、どうしてこの場所に貴女がいるのですか?」

 

 「それを私に聞くのか?」

 

 「え、だって……」

 

 「理由など一つしかないだろう?」

 

 「……まさか、援軍ですか?」

 

 神通の問いに長門は頷く。倒れている三日月をそっと抱きかかえると三日月に向かって労いの言葉を掛けた。

 

 「……よく、頑張ったな。たった一人であのレ級と戦うとは大した奴だ」

 

 安全システムのせいで意識を失っていた三日月の耳に長門の言葉は届くことは無かった。届いているはずはないのに、三日月の表情は柔らかな顔つきをしていた。まるで長門の言葉に反応したかのように。三日月の表情を確認するとクスリと笑いかける長門。しかし、すぐさま凛とした表情へと戻すと立ち上がったレ級へと視線を向けた。

 

 「……まだ立つというのか」

 

 「ガ、グ、ギィ……!」

 

 「……もはや深海棲姫を通り越してゾンビ棲姫と呼んでも間違いじゃないだろう」

 

 レ級の姿を眺めていた長門はそう言うと、レ級から背を向けて離れようとする。

 

 「え、あの、長門さん? まさかこのまま放って置くのですか!?」

 

 「いや、そんなことはしない」

 

 「だったら……!!」

 

 「もう――勝負は着いているのだからな」

 

 「……どういう意味です、か?」

 

 長門に真意を訊こうとしていたところ、神通の頭上からエンジン音が聞こえてくる。大量の艦載機が上空を埋め尽くしていた。一つ違うのは先程までのレ級のとは違って、全ての艦載機が味方のであるということだった。そして、レ級のとは比べ物にならない程の艦載機の量がレ級の方へと飛んでいく。

 

 その光景をレ級も同じく眺めていた。空一帯に広がる艦載機を眺め思い出していたのは、先ほど戦闘した軽巡にした時と同じ光景だなと思っていた。自分の状態を確認するまでもないとレ級は思った。全ての兵装は使い切った。満身創痍な身体。おまけに数えきれないほどの艦載機がこちらに向かってきている。

 

 「レ、レレ……」

 

 引きつる頬の痙攣が止まらない。逃げようにも思うように体が言う事を聞かない。チラリと長門達の方へと視線を向けると、そこにいたのは鋭い眼差しでこちらを睨んでいる長門であった。

 

 「……貴様は言ったな、沈めと。ならば望み通り海の底へ帰るといい」

 

 長門はガッコンと音を立て計4門の連装砲をレ級へと狙いを定める。振動で三日月に負担が掛からないようしっかりと抱きかかえる配慮も忘れたりはしない。すぅっと息を吸い込み一拍置くと――海域に一帯に広がる程の号令を放った。

 

 「――全艦隊一斉射撃。目標、戦艦レ級。――撃てぇぇぇぇぇ!!」

 

 ドンッ!! ドンッ!!

 

 長門の4門の連装砲が一斉に射撃を開始する。それだけではない。長門の後方からも多くの砲弾がレ級へと発射されていく。神通は勢いよく後ろを振り返るとそこに立っていたのは、長門と似た服装を着た女性と巫女服のような服を着用した女性が二人立っていた。

 

 次々と打ち込まれる砲弾にレ級は為す術もない。折れた腕で防ぐことは出来ず、逃げることも敵わない。上空から振り落ちてくる爆撃を避ける手段を持っていない。ならば――

 

 「ヒ、ヒヒ……レッ!!」

 

 砲弾の雨と上空からの爆撃攻撃を受けながらレ級は長門達に向けて、渾身の笑みを浮かべながら折れた腕で敬礼をして見せた。敵の最後の姿に長門は決して言葉に出すことはしなかったが、心の中でひっそりと敬礼を返した。

 

 同情などではない。敵でも見方でも誰であろうと長門は戦った相手に敬意を持つよう心掛けていた。だが、滅ぼすべき敵に向けて敬礼などしてはないとわかっている。だからこそ、表ではその振る舞いを見せる真似などしなかった。

 

 激しい轟音が数分続いた末、辺り一帯には火の海が広がっていた。

 そこに残っていたのはレ級にコートらしき衣服の断片が海に漂っているだけであった。

 

 「……もう、終わったんですよね?」

 

 「あぁ……神通だったな? 君もよく頑張ったな。無事で――良かった」

 

 「――んっ!」

 

 無事で良かった――その言葉を聞いて初めて神通は自分が今生きていることを実感できた。最初にレ級に挑んだ時には死ぬかもしれないと死を覚悟しつつ、生きようと必死に戦った。だが、今は意識を失っている三日月が助けに来なかったらと思うと既に死んでいただろうと思う。それに長門達が助けに来なかったら二人とも死んでいたはず。それが今では二人とも無事でいる。そのことに神通は止まりかけていた涙がまた溢れ出てきた。

 

 「――那珂、ちゃん」

 

 ――約束、守ることが出来たみたいです。

 

 安全システムが作動して動けずにいる神通を巫女服のような服を着た女性二人が滑り寄ってくる。神通の近くまで滑りよると、神通のことに気付いたのか二人の女性は互いに顔を見合わせ笑みを浮かべ合い、そっと神通の頭を撫でるのであった。そのことに神通は戦闘で押し殺していた感情が一気に溢れ出し大声で泣き喚くのであった。

 

 こうして、無事三日月達はレ級との戦いに勝利するのであった。




次回で第三章は終了となります。

補足なんですが、建造の三日月と違って神通は適合者ですので、気を失うことは無いんですがその場から動けないというのがあるとだけ書いときます。……多分、説明してあるから大丈夫だとは思うんですが、一応。

では、また。


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