電気のヒーローアカデミア (耳郎クラスタ)
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1V 目覚め

超絶見切り発車です。
勢いで書いたので内容的におかしいところは多分にあると思いますが、ご容赦ください。


 傘を差していたら雷に打たれた。

 落雷が原因の死亡事故はそれなりにあると知っていたが、自分がそうなるとは夢にも思っていなかった。

 そして、覚めるはずもない目を覚ました時に違和感を覚えた。

 目を覚ますと体が縮んでいたのだ。

 しかも知らない夫婦が泣きながら俺を抱きしめてきた。

 

「電気、よかった……!」

「きっと個性が発現して落雷をうまく受け流せたんだ!」

 

 目を覚ましたばかりの俺は何がなんだかわからずにただただ混乱していた。

 しかし、しばらく入院しているうちに医者から俺の個性が〝帯電〟ということを知らされた。

 病室のネームプレートを見てみれば〝上鳴電気〟の四文字。

 何日も入院しているうちに俺は自分が自分ではない誰かになっているのだということがようやく自覚できた。

 そして、この世界が俺の好きな漫画〝僕のヒーローアカデミア〟の世界だという事実をやっと理解できたのだった。

 状況を推理するに前世の俺は落雷に打たれて死んだ。

 それから現在四歳の原作キャラである上鳴電気に憑依してしまった。

 つまりはそういうことなのだろう。

 最初こそ喜んだ。

 自分の好きな作品の世界で生きていけるということがどうしようもなく嬉しかった。

 だが、この世界で暮らしているうちに――怖くなった。

 個性という超常を日常として生きている周囲が怖かった。

 個性を悪用して日常的に暴れまわる(ヴィラン)が怖かった。

 敵を退治するヒーローを楽しそうに見物する野次馬が怖かった。

 今日も壊れゆく街に何も疑問を持たない人達が怖かった。

 そして何よりも、自分の個性が怖かった。

 俺の個性は〝帯電〟だ。つまりは電気を纏えてしまう個性――人を簡単に殺せる個性だ。

 人体はどうあがいたところで電気を纏うのは不可能だ。電気を浴びれば感電するし、落雷が当たれば死ぬ。

 上鳴電気。俺が憑依したこのキャラのことは好きだが、いまいちぱっとしないという印象のキャラだった。どちらかというとギャグ要因という印象が強かったせいか、強さが実感できないでいた。

 だが、当事者に憑依して初めてわかった。この個性の殺傷能力はあまりにも高すぎる。

 きっと、こんなことを考えてしまうのは個性なんて力のない平凡な世の中で暮らしていたせいなのだろう。どうしても、こんな爆弾を抱えて生きていきたくないなんて思ってしまう。

 だから俺は決めたのだ。

 この個性を完全に制御する。

 自分の個性に怯えずに暮らせるようになるため――俺はヒーローになる。

 

 

 

『オールマイト、ヘドロ敵から中学生救出!』

「あれからもう十年以上経つのか……」

 

 ネットニュースでオールマイトがヘドロ敵から中学生を救出したという記事を読んで、ようやくデクやオールマイトの激動の物語が始まるという意識が芽生える。

 鍛えに鍛えた俺の〝帯電〟は500万Vまでなら放電してもアホにならなくなった。

 これなら脳がショートして肝心な場面で敵に隙をさらさなくて済むだろう。

 他にもいろんなことができるようになった。

 微弱な電気を感知して索敵、全身の末梢神経に電気を流して肉体の反応速度を上げる、筋肉を電気で刺激して筋力を上げるなど、ちなみに最後のは某見た目は子供な名探偵のキック力増強シューズからヒントを得た。

 それからこの世界で暮らしているうちに、思ったよりも人間の体が頑丈だということにも気がついた。そもそも無個性の方が珍しい世の中で肉体が俺の知っている人間よりも頑丈なのは当たり前のことだった。

 とはいえ、未だに個性への恐怖は消えない。前世よりも死と隣り合わせなのは変わらないのだ。

 

「上鳴、これからみんなでゲーセン行くんだけど来るか?」

「行く行く! 校門で待っててくれ」

 

 友人から声をかけられスマホをしまう。今はいったん原作のことは忘れて高校入学までの日々を楽しむとしよう。

 どうせまともな高校生活なんて送れやしないのだから。

 正直、別に雄英高校に行く必要なんてないと何度も思った。わざわざ危険な場所に身を置く必要なんてない。でも、他の高校ではダメなのだ。俺はこの世界で怯えずに生きていきたい。そのためには高校三年間でとことん成長してヒーローとしての道を歩むしかないのだ。そのためには俺の雄英入学は不可欠なのだ。

 もちろん、理由はそれだけではない。俺は原作キャラだ。その俺が抜けたことで物語にどんな影響が出るかわからない以上、基本的に原作と同じルートをたどる必要があるのだ。俺がA組にいないことで敵が生徒として代わりに入学する可能性がある以上、下手な選択はできない。

 これがきっかけでオールマイトが早めに引退することがあったりしたら、現状の平和が崩れ去るだろうしな。

 

「そういや、みんなは進路調査表出したか?」

 

 高校から近場のゲームセンターでコインゲームに興じていると、思い出したかのように友人の一人が聞いてきた。

 

「やっべ、まだ出してねぇ」

「ま、どこだろうとヒーロー科しかねぇけど」

「上鳴は行く高校決めてんの?」

「俺は雄英受けるけど」

 

 雄英という単語を聞いた瞬間、全員が怪訝な顔をして俺の顔を見てきた。

 

「本気かよ?」

「上鳴の成績じゃギリじゃね?」

「実技試験もあるし、筆記はギリでもいいって」

 

 実を言うと、俺は筆記試験が苦手である。というか、勉強が苦手なんだよな。自分では頑張っているつもりなんだが、記憶力が悪いため、どうにも頭に入ってこないのだ。まあ、雄英ギリギリという時点でそこまで成績は悪くないのだが。きっと受験が終わったらパーになるんだろうな……。

 

「そういや上鳴の個性って見たことなかったけど、そんなに強いのか?」

「おうよ。こちとら最強の個性持ってんだ、雄英だろうが士傑だろうが受かり放題よ!」

「あー、こりゃ落ちたな」

「ドンマイ」

「滑り止め、ちゃんと受けておけよ」

 

 普段からお調子者で通っている俺の言葉を誰も本気で受け取らない。

 

「何だよお前らー……まあ、記念受験なんだけど」

「「「だと思ったよ」」」

 

 でも、それでいいのだ。どうせ卒業したら会わなくなる連中だ。深い付き合いをしてもしょうがない。俺にとって友人とはその程度の人間でしかない。

 

 ただ自分の居場所を作るためだけの存在。それを着かず離れずの距離でキープするにはこの周りに合わせて調子に乗るキャラが一番楽だったというだけだ。

 

 さて、帰ったら受験勉強でもしますかね。

 

 

 

 そして、受験当日。

 筆記試験は自己採点でもちょっと怪しいレベル。これでも死ぬ気で勉強したんだけどなぁ。勉強の合間にスマホをいじってたのが良くなかったのだろうか。

 筆記試験が終わるといよいよ実技試験だ。

 プレゼントマイクの説明を聞きながら会場を見回すとブツブツ呟いているデクとキレている爆豪、プレゼントマイクに質問をしている飯田の姿は確認できた。というか、リアルで見ると思ったよりも漫画やアニメと違うからわからないな。

 自分の顔を見た時も思ったが、二次元と三次元の違いは思ったよりも大きい。デクは本当に冴えない感じだし、爆豪は実物の方が百倍怖い。あと異形型の連中も怖い。

 というか、原作でこのタイミングで話す人間を把握していなかったら、まず気付かなかっただろう。

 

『俺からは以上だ。最後にリスナーへ我が校校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った。真の英雄とは人生の不幸を乗り越えてゆく者と。〝PlusUltra!〟それでは皆、良い受難を!』

 

 プレゼントマイクの締めの言葉を皮切りに続々と受験生が移動を始める。

 受験票を確認してみると演習会場はFだった。演習会場Fに移動してみると、爆豪ともデクとも違う会場だった。

 俺はこの試験が救援ポイント込みのものだと知っている。

 敵ポイントを稼ぐのは当然として、きちんとピンチの奴らは助けていこう。

 

「試験開始!」

 

 試験官の先生のカウントダウンなしの号令と共に試験がスタートする。

 俺の会場の試験官はプレゼントマイクではなかったが、どうでもいいことだ。

 

「さっさと片付ける!」

 

 俺は号令と同時に個性を発動させて超スピードで会場内に突入する。これは筋肉のツボを電気で刺激して強化する技だ。原作でいうところのデクのワンフォーオール・フルカウルみたいなものだ。

 俺の個性は指向性を持たせて放つことができない。一部の技を除けばその限りではないが、基本的な攻撃手段は放電だ。だったら他の受験者が来る前に敵ロボを一通り片づければ、点数妨害と(ヴィラン)ポイント獲得をこなせて周りを傷つけずに済むという一石三鳥にもなるのだ。

 おまけに相手が機械だからか、人間よりも位置を把握しやすい。

 バラけている敵ロボは拳に電気を纏わせて蹴り壊し、固まっている敵ロボは、

 

『標的捕捉!! ブッ殺ス!!』

「はいはいワロスワロス……〝無差別放電130万V!!!〟」

 

 放電で纏めて倒していった。たぶんこれが一番効率がいい。機械には電気攻撃が効く、はっきりわかんだね。

 開けた場所で纏めてロボを倒したところで俺の敵ポイントは合計20ポイント。これだけでは筆記試験が不安な以上、点数はもっと稼がなくてはいけない。

 受験者も結構散らばってきたことだし、そろそろ救助ポイント稼ぎ始めるか。

 今度は敵ロボではなく、人間を探しながら広い会場を回る。

 崩れた瓦礫に挟まれている人、ロボに背後をとられた人、それらを笑顔で助け続ける。作業の様に助けてたら救助ポイントあんまり入らないだろうからな。

 

「っと、大丈夫か!」

「あ、ああ……悪い」

 

 もう試験後半は完全に救援メインだ。前半で思ったよりも電気を使い過ぎたので、これくらいでちょうどいいだろう。

 

「残り二分!」

「やばっ、あと二分かよ」

「くそっ、敵全然残ってないじゃねぇか!」

 

 残り時間を聞いて焦り出す受験者達。そこに畳み掛けるようにTHOOM!! と轟音が鳴り響き、0ポイントのお邪魔虫が出現した。

 

「で、デカ過ぎる!」

「に、逃げるんだぁ……」

「勝てるわけがない!」

 

 周りからしたら命の危険を感じる0ポイントの何の得にもならない敵。だが、救助ポイントの存在を知っている俺からしたら的がデカイだけのおいしい敵でしかない。むしろこれを待っていたまである。

 それに受験用のロボだし、もしもの時は誰か止めに入るだろう。

 

「みんな、早くここから逃げろ!」

 

 俺はわざとカメラ越しに見ているだろう審査員に聞こえるように大声で叫ぶ。周りの受験者は何事かとこちらを見る奴もいたが、大多数が振り返ることなく一目散に逃げていく。

 それでいい。さっさと消えてくれないと安心して個性が使えない。

 俺は持ってきていたゲームセンターのコインをポケットから取り出すと、右親指の上に乗せて弾く。

 

「ホント、機械は遠慮しなくていいから助かるぜ……〝コイルガン・デストロイヤー!!!〟」

 

 右腕に電流を走らせ、落ちてきたコインを打ち出す。

 これ、某超電磁砲を真似したんだけど、実際にやってみたらレールガンっていうかコイルガンだった。レールガンも再現できなくはないのだが、両腕の極が逆になるように電流を流さなければいけないのと、必要な電気の消耗が激しいという理由で実用的ではなかったのだ。

 コイルガンならば、弾丸が磁性体でなければいけないという縛りがあるが、基本的に低コストで打てるので、個人的には気にいっている必殺技だ。

 俺のコイルガンを受けたお邪魔虫は出現した時よりも激しい轟音を立てながら崩れていった。

 

「残り20秒!」

 

 よし、もうやることないし帰るか。

 俺はコイルガンの余波で崩れた瓦礫が降り注ぐ中、逃げ惑う受験者と共に会場の出口へと向かった。

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

「実技総合成績でました」

 

1位 爆豪勝己

 

VILLAN(ヴィラン)  77P

RESCUE(レスキュー) 0

 

2位 切島鋭児朗

 

VILLAN(ヴィラン)  39P

RESCUE(レスキュー) 35P

 

3位 麗日お茶子

 

VILLAN(ヴィラン)  28P

RESCUE(レスキュー) 45P

 

4位 塩崎茨

 

VILLAN(ヴィラン)  36P

RESCUE(レスキュー) 32P

 

5位 上鳴電気

 

VILLAN(ヴィラン)  20P

RESCUE(レスキュー) 47P

 

6位 飯田天哉

 

VILLAN(ヴィラン)  52P

RESCUE(レスキュー) 9P

 

7位 緑谷出久

 

VILLAN(ヴィラン)  0P

RESCUE(レスキュー) 60P

 

8位 鉄哲徹鐵

 

VILLAN(ヴィラン)  49P

RESCUE(レスキュー) 10P

 

9位 常闇踏陰

 

VILLAN(ヴィラン)  47P

RESCUE(レスキュー) 10P

 

 表示された順位を見て審査員達はわいわいと各自の見解を述べ始める。

 

「救助ポイント0で一位とはなあ! 仮想敵は標的を捕捉し近寄ってくる。後半、他が鈍っていく中派手な個性で寄せ付け迎撃し続けたタフネスの賜物だ」

「対照的に敵ポイント0で7位。アレに立ち向かったのは過去にもいたけど……今年はまさか二人もいるとはな」

「しかも二人共ブッ飛ばしちゃうとはね」

「5位の彼、自分の個性をよく理解している。個性を使っての索敵、単騎の仮想敵には物理攻撃、まとまった仮想敵には放電。しかも彼が後半、仮想敵を全然攻撃しなくなったのは周りに人がいて放電ができなかったからだ」

「いや、それにしてもピタリと止めたのは違和感がなかったか? それこそ、電気を纏って殴れば単騎の敵には……」

「最後のアレに立ち向かった時もまるで、これでやるべきことはやったとばかりに出口に向かっていたしな。もしかして、彼はこの試験の構造に気がついていたのではないか?」

 

 各々が見解を述べる中、一人の男が後ろの方で気だるげにモニターを眺めていた。

 

(……ったく、わいわいと)

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 雄英から合格通知がきた。

 両親は大騒ぎしていたが、俺はそれを無表情で受け取った。

 あの巨大な仮想敵まで倒してんだ。心配するとすれば筆記試験ぐらいである。

 封筒を破って中身を出すと、中からディスクが出てきて、空中に映像が投影された。

 

『私が投影された!』

 

 知っていた知識通りオールマイトが投影される。前から思っていたが、オールマイトって本当に日本人なのかよ。どうみてもガタイのいいアメリカ人にしか見えないぞ。

 

『何故私が合格通知をするかというと、今年から雄英に勤めることになったからなんだ。時間もないことだし、端的に伝えると結果は合格だ』

 

 よし、何とか入れたな。筆記も大丈夫だったみたいだ。

 

『ただし! 筆記試験の結果はギリギリもいいところだ。というか、合格者の中では最下位だ。今後は勉強もしっかりするように!』

 

 全然大丈夫じゃなかった。いや、ヒーローに数学とか英語とかいる? 英語はいるな、うん。

 

『それと実技試験だが、敵ポイント20ポイント。これだけならば不合格だが、我々が見ていたのは敵ポイントのみにあらず! 救助活動ポイント、しかも審査制! 我々が見ていたもう一つの基礎能力! 上鳴電気、47ポイント』

 

 あれ、思ったより少なくないか。もしかしたら、試験終了まで残っていなかったのがまずかったのだろうか。それとも、声のかけ方が不自然だったのだろうか。

 

『君の救助ポイントに関しては審査員で意見が割れてね。わざとやってるんじゃないかとか、最後に瓦礫が逃げる人達に降ってくることを気にせずに試験終了を待たずに出口に向かったとか、いろいろ意見はあったが、君が個性で周りを巻き込まずに動いていたことは見ていたよ! 受験という競争の場で周りに気を使うなんてなかなかできることじゃない! 誇るといい!』

 

 違う、周りに気を使ったんじゃない。自分の個性で周りを傷つけるのが怖かっただけだ。誇れるはずがないじゃないか。

 

『来いよ、上鳴少年! 雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!』

 

 まあ、自分が誇れるような人間じゃなくても、ヒーローに向いていなくても、俺は雄英に行く。

 ここからだ。ようやくスタートラインに立てた。

 待ってろよ、俺のヒーローアカデミア。

 




ちなみに上鳴を5位にしたのは、単純にアニメや漫画で丁度見切れている順位だったからです。


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2V 雄英入学

原作の流れがやりたいため、前回の話ではささっと憑依から原作開始まで駆け足で書かせていただきました。


 俺が雄英の入試に合格したという話は瞬く間に学校中に知れ渡り、同級生達はみんな口を揃えて奇跡だと言っていた。

 先生からも「お前は我が校の誇りだ!」と言われたが、俺からすれば雄英入学が前提条件だった以上、そこまで手放しで喜ぶわけがない。

 とはいえ、うまくいって安心したのも事実だ。

 入学からの三年間で何としてでも成長しなければいけないのだ。敵連合の襲撃もある以上、悠長に構えている時間はない。

 この超常の世界に怯えないため。

 並みいる敵達に怯えないため。

 自分自身の個性に怯えないため。

 俺はどこまでも成長しなければいけないのだ。

 

「〝無差別放電500万V!!!〟」

 

 今日も人のいない河原で早朝から放電と充電を繰り返す。いきなり許容上限の電圧で放電を続けているが、頭痛が酷くなってきたらやめて、しばらく休憩をはさむ。それの繰り返しだ。これを俺は四歳の時から繰り返してきた。それでも500万Vである。

 俺の記憶力が悪いのは、小さい頃から無茶な個性トレーニングを続けてきたせいかもしれない。

 もちろん、原作知識はこの世界で生きるための貴重な武器になるので、文字で書きだして部屋に厳重に保管してあるが、個性持ちが溢れているこの世界だ。どこから情報が漏れるかわからない以上、そのまま文章で保管しておくのは危険だ。

 だから漫画を描くことにした。

 絵なんて書いたこともなかった俺だが、小学校の時から頑張ってコツコツ描いてようやく期末試験のとこまで描くことができた。ちなみに、文字で書きだした分は漫画にする都度燃やして破棄している。

 もちろん、そのままの内容で描くと怪しまれるのでキャラの口調や見た目は多少変えてある。

 別に耳郎をヒロインとして描いたのには他意はない。ごめんな麗日、やっぱ漫画にする以上、一番好きなキャラをヒロインにしたかったんだ。

 最初こそ、原作知識を忘れないようにするために描いていたが、それが高じて今では漫画はギターと並んで俺の趣味となっている。

 

「さてと、そろそろ行きますか……」

 

 シャワーを浴びる時間と着替える時間を考慮すると、そろそろ特訓は切り上げた方がいいだろう。

 登校時間としてはだいぶ早いが、脳を休ませるのと充電のための時間も必要だ。

 雄英高校から届いていた制服に着替えると、何というか実感が沸く。今まではオールマイトを含め、知識で事情を知っているだけの〝キャラクター〟でしかなかった。だけど、これから三年間を共にしていく以上、ちゃんと接していかないとな。

 まだ人通りの少ない通学路を進み、雄英高校に来るのは受験以来だからかなり久しぶりに感じる。

 やはりというか、時間的にも早かったため生徒の姿はあまり見受けられない。

 それは校舎の中でも同じだった。1-Aの教室に入ると、既に来ている生徒がちらほらといた。ここはいっちょ、元気よく挨拶をしとくか。

 

「うぃーっす! みんな早ぇな! 俺てっきり自分が一番だと思ってた!」

「あー、電気ビリビリの人!」

 

 俺が挨拶をするや否や、すぐに反応した人がいた。人というより浮いている制服なんだが。

 

「君は?」

「あっ、私は葉隠透! よろしく!」

「俺は上鳴電気! こっちこそよろしく!」

「「イェーイ!」」

 

 何故かノリでハイタッチしてしまったが、随分とテンションの高い子だ。あと、透明だからハイタッチしづらい。

 

「つか、何で俺のこと――」

 

 確か周りには原作キャラらしき人は……ああ、そりゃそうか。葉隠って透明だもんな。気づくはずもないか。

 

「もしかして同じ会場だった?」

「ピンポーン! いやぁ、上鳴くん凄かったよね。あの巨大仮想敵倒しちゃうんだもん!」

 

 葉隠の一言に周りの奴らが反応して顔を上げてこちらを見てくる。

 

「何! それは本当か!?」

 

 周りの奴らも驚いてはいたが、その中でもひときわ驚いていたのが、眼鏡の男子。飯田だった。

 

「ああ、突然済まない。ボ……俺は私立聡明中学出身飯田天哉だ」

「上鳴電気だ。よろしくな」

「それで君もあの巨大仮想敵に挑んだというのは本当なのか?」

「ああ、マジだよ。も、っつーことは、もう一人の奴と同じ会場だったのか?」

「ああ、彼はきっとあの試験の構造に気がついていたのだろう。君もそうだったのか?」

 

 いやいや、デクは気がついてないぞ。深読みし過ぎだろう。

 

「いやぁ、俺はさっぱり気がつかなかったよ。すごいなそいつ!」

「謙遜することはないさ。試験の構造を知らずに助けたというのならば、それは誇るべき行為だ」

 

 誇るべきねぇ……それはまさしくデクに向けられるべき賞賛だな。

 

「マジか! やっぱ俺ってば天才なんじゃね!」

「……何かこのアホっぽさからは信じられないな」

 

 呆れたような呟きを零したのは耳たぶからコードのようなものが伸びている女子生徒。あの耳は個性〝イヤホンジャック〟。ってことは、あの女子生徒が耳郎か。

 ……何というか、普通の人間の造形で耳からプラグが出てるってなかなかの違和感だな。でも、そのアンバランスさ嫌いじゃない。

 

「アホで悪かったな!」

「あ、聞こえてたんだ」

「聞こえてるわ! つか、ラインやってる?」

 

 せっかくだし、ライン交換しておこう。

 

「いきなりかよ……ウチは耳郎響香。よろしく。はいQRコード」

「おう! よろしくな!」

 

 そんなこんなでみんなでラインを交換する流れになっている間に続々と登校してきた連中が教室に入ってきた。

 爆豪と飯田が言い争いしたり、デクと麗日が話したりしているうちに相澤先生がやってきた。

 それからA組は入学式を欠席して個性把握テストをすることになった。

 

「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった?」

「67m」

「じゃあ個性を使ってやってみろ。円からでなきゃ何をしてもいい、早よ」

 

 入試一位だった爆豪が説明のために選ばれ、ソフトボール投げをする準備に入る。

 

「んじゃまあ……死ねぇぇぇぇぇ!」

 

 BOOOM!! という爆音と共にソフトボールがあり得ないほど吹っ飛ぶ。ていうか、死ねって……。

 爆豪の記録は705.2mだった。俺はどうやって飛ばすかな……。

 

「まず自分の〝最大限〟を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 最大限、か。俺の個性でどこまでできるか。まずは一通り試してみなきゃな。

 

「なんだこれ! すげー面白そう!」

「個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」

 

 今まで個性使用禁止の中で暮らしてきたため、盛り上がるA組一同。そんな浮かれた空気を払拭するように相澤先生は凄みを利かせて言う。

 

「面白そうか……ヒーローになる為の三年間。そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい? よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」

『はああ!?』

 

 あまりにも理不尽な言葉にほぼ全員が驚きの声を上げる。最下位、だけではない。見込みなしと判断されたらクラス丸ごと除外されかねない。

 

「生徒の如何は先生(おれたち)の〝自由〟。ようこそこれが――雄英高校ヒーロー科だ」

 

 俺も本気で取り組まなくては。

 

 

第一種目:50m走

 

 

 うーん、筋力を強化してもいいが、それよりも体全身の末梢神経に電気を流して肉体の反応速度を上げた方がいいのか? あれやると、体が結構痛いんだよな。

 いや、ここは両方の重ねがけでいってみよう。多少の痛みは我慢するしかない。

 

「次、出席番号七番、八番」

 

 俺と切島が呼ばれ、スタートラインに立つ。

 

「おっ、上鳴と一緒か。負けねぇぞ!」

「おうよ! こっちも本気でいくぜ!」

 

 全身の末梢神経に電気を流し、筋肉もツボを刺激して強化する。どんだけスピードが出るかはわからないが、出力全開でいってみよう。

 

「ぶっちぎるぜ!」

 

 スタートの合図と同時に地面を蹴る。

 

「どわぁぁぁ!?」

 

 スピードは出た。確かに出た。だが、出過ぎた。

 予想以上の超スピードが出た俺は、勢い余ってゴールと同時にズッコケた。

 

「2秒03!」

 

 飯田を超える記録は出せたもの、これはコントロール出来てないとみなされたりしないだろうか。……やっぱりぶっつけ本番の前に試してみるべきだったな。

 

「記録はすごいのにダサい……」

「何か締まらないね」

 

 

第二種目:握力

 

 

 握力は筋肉のツボを刺激するだけでいいだろう。

 

「よっと」

「うえっ86kgwって、あんた……そんなに鍛えてたの?」

 

 ただ力を込めただけに見える状態からの好記録に隣にいた耳郎は驚いている。強化してこのぐらいじゃまだまだだな。

 

「これでも結構筋肉筋肉付いてんだぜ! 触ってみるか?」

「いや、何かキモイからいいや」

「酷くない!?」

 

 会ってからそんなに経ってないのに耳郎は俺に対して辛辣だった。まあ、笑っているからいじってるだけなんだろうけど。

 

 

第三種目:立ち幅跳び

 

 

 立ち幅跳びはどうしたもんかな。速さに自信はあるが、パワーとなると増強型の個性には一歩劣るんだよな。

 コイルガンで飛ぶのもいいが、コインって使ってもいいのかね。

 ま、言われたら気をつければいいか。

 

「そんじゃまあ、いっちょいきますかねぇ! 〝コイルガン・デストロイヤー!!!〟」

 

 後ろを向いてコインを斜め下の地面に向けて打ち出す。出来るだけ横に跳べるように調整してみたが、思ったよりも高く飛んでしまった。

 

「よし、今度はコケないよう――へぶっ!」

「あ、またコケた」

「つうか、どんだけ飛んでんだよ!」

「記録は凄いのに凄さを感じさせないのもある意味才能だな」

 

 結局顔面から地面に突っ込んだ俺の記録は62mだった。

 

 

第四種目:反復横跳び

 

 

 今度は体の反応速度を上げるだけでいってみよう。

 

「おらあぁぁぁぁぁ!」

 

 記録は95回。峰田の100回超えこそ叶わなかったが、ぶっちぎりの好記録だ。

 

「どうよ耳郎!」

「何でウチ? まあ、凄いんじゃない?」

「何故に疑問形!? もっと驚いてくれてもいいだろ!」

「や、もうあんたがどんな記録だしても驚かない気がする」

 

 これで個性把握テストの半分の種目が終了した。

 

 

第五種目:ボール投げ

 

 

 ようやく折り返しか。今のところ二位か三位といったところだろうが、正直順位とかはどうでもいい。それぞれ出来ることは違うのだからそこは競い合うところではない。俺はただ単に自分がどれだけ個性をうまく使えるかというところが気がかりだったのだ。

 一見、今までうまくいっているように見えるが、着地に失敗したりしている時点で論外だ。これが敵との戦闘ならば致命的な隙になる。もっと頑張らなくては。

 未完成な技を使えばお粗末な結果になる可能性は高い。それでも、せっかくの機会をふいにする方がもったいない。

 俺はソフトボールを両手で挟み、両腕を真っ直ぐに伸ばす。

 

「上鳴の奴、次は何をする気なんだ?」

「見たところ、上鳴君の個性は電気に関するもの。ということはアレはレールガンを撃つ気なのではないだろうか」

「レールガンって、あの磁力で鉄球とか撃つ奴?」

「ああ、別名電磁投射砲。さっき立ち幅跳びで使ったコイルガンとは違って、物体を電磁誘導により加速させて撃ち出す装置だ。レールガンは電位差のある二本の伝導体製のレールの間に、電流を通す伝導体を弾丸として挟み、弾丸上の電流とレールの電流に発生する磁場の相互作用によって弾体を加速して発射する装置さ」

 

 ご丁寧に飯田が解説をしてくれる。たぶん俺が説明するよりもわかりやすいんじゃないだろうか。

 

「飯田、解説サンキューな! いくぜ! 〝レールガン・デストロイヤー!!!〟」

 

 電位差を作り出すための微調整は難しかったが、日頃の特訓の賜物かうまくいった。

 レールガンによって撃ちだされたソフトボールは凄まじい勢いで飛んでいき、見えなくなってしまった。

 

「1682.4m」

「っしゃぁぁぁ!」

 

 今回は落ち着いて準備できる状況だったからいいが、実戦だと不意打ちとか遠距離射撃とかにしか使えなさそうだな。コスチュームの要望ではそこら辺も書いておいたけど、いつだってコスチュームで戦えるとは限らないし、要特訓だな。

 

「あいつ、爆豪がすげー記録出す度に才能マンとか言ってたけど……」

「上鳴の方が才能マンじゃねぇか……てか、ことごとく記録は爆豪より上だし」

「ンダとコラァ! てめぇクソ電気! 調子乗ってんじゃねぇぞ!」

「ええっ、俺は何も言ってないだろ!?」

 

 ヤバい、なんか爆豪に目をつけられた。瀬呂、あとで覚えておけよ……!

 俺の投擲からしばらくすると、デクの番が回ってきた。

 最初は相澤先生に個性を消されて46mと平凡な記録になってしまったデクだったが、何か覚悟を決めた表情になると、指先だけに個性を集中させてソフトボールをふっ飛ばした。

 

「〝SMASH!!!〟」

 

 爆豪の時のように物凄い勢いでふっ飛ぶソフトボール。やっぱワンフォーオールのパワーは凄いな。

 

「……705.3m」

「先生……! まだ、動けます」

「こいつ……!」

 

 不覚にもその姿をかっこいいと思ってしまった。

 変色した人差し指を見れば、それがどれだけの激痛なのか想像に難くない。

 自分でコントロールができないのがわかっていて、たとえ指だとしてもそれが内側から破裂するように壊れるのをわかっていて、デクは個性を使ったのだ。

 激痛が返ってくるのを理解した上で個性を使うのがどれだけ覚悟のいることか、未だに自分の個性に怯えている俺ならわかる。

 そうだ。俺が原作の男性キャラの中でもデクを一番好きになったのはこういうところがかっこいいからだ。

 普段はおどおどしてるのに、覚悟を決めた時のかっこよさは俺の心を鷲掴みにした。

 気がつくと俺はデクの元へと駆け出していた。

 

「指、大丈夫か」

「ありがとう、上鳴君。痛むけど、動けないほどじゃないよ」

「そっか。一応、これで固定しとけ」

 

 俺はボールペンを当て木にしてハンカチをデクの指に巻いた。

 

「あ、汚れちゃうよ!」

「いいんだよ、別にそんなに使わねぇし。それに怪我してる奴を放っておくのはヒーローらしくないだろ?」

「うん……! ありがとう、上鳴君」

 

 俺の言葉に嬉しそうにデクは頷いた。

 

「そんじゃ残りの種目も頑張ろうぜ、デク」

「えっ」

 

 あっ、しまった。心の中でいつも呼んでるからつい癖で呼んでしまった。

 

「や、その、悪い、爆豪がそう呼んでるからつい。でも、ほら、デクって呼びやすいし、何かカッコいいじゃん!」

 

 デクは木偶の坊と出久の呼び方をもじった蔑称だ。本人は呼ばれて良い気はしないだろうし、慌てて俺は言い訳をした。

 カッコいいと思っているのは本当だ。というより、原作でデクがカッコいいというイメージが強いからそういう風に思っているだけなんだがな。

 

「かっこいい?」

「ああ、なんかこう、名前だけ聞くと強くなさそうだけど、これからどんどん強くなるっていうか……」

 

 そうだ。最初、ヒロアカを手に取った時、何か主人公はぱっとしないし、デクって弱そうな響きだなと思っていた。

 だが、読み進めるうちにその印象は変わっていった。

 

「どんな時でも諦めない、強くなるためにとことん努力する。泥臭くても最後に勝つ。そんな努力の結晶みたいな感じがするんだ」

 

 ああ、思い出した。周りに合わせて笑って、嫌われるのが怖くて言いたい事なんて何にも言えなかった前世での俺に勇気をくれたのは漫画の中のデクだったんだ。

 落ちこぼれと笑われても諦めず、ワンフォーオールを手に入れた後もずっと頑張っているデクから勇気をもらっていた。デクのおかげで俺も頑張ろう、そう思えるようになったんだった。

 俺にとってのヒーローは間違いなくデクだったのだ。

 そんな俺の勝手な前世事情なんて知らないデクはまさかそんなことを言われるとは思っていなかったのか、ぽかんとしていた。

 

「悪い、俺バカだから勝手にそう感じちまった。デク……緑谷が嫌なら――」

「デクでいいよ。ううん、デクがいい!」

 

 俺の言葉を食い気味にデクは遮って笑顔を浮かべた。

 

「そっか、改めてよろしくなデク!」

「こちらこそ! 上鳴君!」

 

 その後、爆豪が滅茶苦茶怖い顔で怒鳴りながらデクに突っかかったり、相澤先生のドライアイが発覚したり、といろいろあったが、残りの三種目を終えて何とか個性把握テストは終了した。

 

「んじゃ、パパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する――ちなみに除籍はウソな」

 

 先生の言葉にほぼ全員が時が止まったかのように固まる。

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

『はあぁぁぁぁぁ!?』

 

 デクの顔が凄く面白いことになっている。まあ、やっとスタートラインに立てたと思ったら、個性のコントロールできないのに除籍されるかもしれないっていうプレッシャーがあったから無理もないか。

 ちなみに個性把握テストの順位は――

 

1位 八百万 百

 

2位 上鳴 電気

 

3位 爆豪 勝己

 

4位 轟 焦凍

 

5位 飯田 天哉

 

6位 常闇 踏陰

 

7位 障子 目蔵

 

8位 尾白 猿夫

 

9位 切島 鋭児郎

 

10位 芦戸 三奈

 

11位 麗日 お茶子

 

12位 口田 甲司

 

13位 砂藤 力道

 

14位 蛙吹 梅雨

 

15位 青山 優雅

 

16位 瀬呂 範太

 

17位 耳郎 響香

 

18位 葉隠 透

 

19位 峰田 実

 

20位 緑谷 出久 

 

 やっぱり創造には勝てなかったよ……。

 




レールガンとかコイルガンとかよくわからないので、イメージで書いてます(白目)


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3V アホと個性は使いよう

こっちの上鳴君は心の中では知的ぶっていますがわりと素でアホなところがあったりします。


 雄英での初日が終わり、下校時刻になった。

 いきなり個性把握テストをしたこともあってか、みんな疲れているようだった。

 

「にしても、ヤオモモすごかったな~。さすがにアレには勝てねぇわ。規格外過ぎる」

「や、あんたも十分規格外だから。てか、ヤオモモって……」

 

 放課後、席が隣ということもあって俺は耳郎を誘って二人で下校していた。

 

「緑谷といい、あんたすぐあだ名つけるよね」

 

 それは原作読んでた時の癖が出てるだけなんだけどな。今度から気をつけよう。

 

「そっちのがなんかフレンドリーな感じでいいじゃん」

「じゃあウチにも付けてみてよ」

 

 そう言われると困ってしまう。耳郎のことは耳郎って言ってたしなぁ……。

 

「ジロちゃん?」

「あ、ごめん。鳥肌たったからやめて」

「お前、ホント俺に辛辣だな!?」

 

 まあ、こういう気の置けないやり取りができるのは嫌いじゃない。いじられキャラは得なのである。

 

「そういえば、上鳴の個性って電気を操る個性?」

「いや、俺のは纏うだけだ。細かい調整は最近少しだけできるようになった」

 

 本当にこの個性の調整は大変だった。何もしなかったらただの放電ぶっぱマンになっていただろう。

 

「でも電気系の個性って貴重らしいし、ある意味勝ち組だよね」

「勝ち組なわけねぇだろ。一歩間違えれれば人を殺しかねない力なんだぞ」

「あ、うん、ごめん……」

 

 個性を羨むようなことを言われたせいでつい語気が強くなってしまった。耳郎は俺の言葉に驚いた後、申し訳ないさそうな表情を浮かべて謝ってきた。

 

「悪ぃ、ちょっと昔いろいろあってさ。気にしないでくれ」

 

 俺はいつものようにへらへらと笑うと、話題を変えることにした。

 

「そういや、みんないろんな個性持ってて面白かったな!」

「うん、爆豪とか絶対敵に回したくない個性だよね……」

 

 爆豪の暴れっぷりを思い出したのか、耳郎はゲンナリとしている。

 

「爆豪の爆破も厄介だけど、俺としては切島の硬化も強いと思うぜ」

「あんた二人の個性知ってんの?」

 

 やべっ、原作で知ってたからついそのまま個性の名前を言ってしまった。

 

「個性把握テストで見てたしな。個性の名前まで合ってるかは知らねぇけど」

「あんたアホだけど、そういうとこはしっかりしてるんだね」

「アホは余計だっつーの。つか、耳郎は個性で索敵・盗聴以外に何ができるんだ? 何となく想像はつくけど」

 

 今度は怪しまれないようにあえて耳郎に個性の詳細を聞いておく。万が一、ボロを出した時のために「想像がつく」の一言も添えて。

 

「ウチの〝イヤホンジャック〟はこのプラグを挿したものに心音を爆音で叩きこめるよ。あとコードも6mまで伸びるから拘束にも使えるかな」

 

 本当に便利な個性だと思う。さすがは作者が一番初めに思いついた個性だ。

 

「やっぱ、すげぇ個性だなそれ」

「あんた程じゃないっての」

「俺のは強いけど、調整が難いんだよ。それにイヤホンジャックなら――いや、いいや。とにかく、これからヒーローになるために頑張ろうぜ!」

 

 人を殺す心配はないだろ? という言葉を言いかけて飲み込む。人の個性を僻むのはよくない。

 

「うん、ウチも絶対ヒーローになってみせる」

「コスチュームとかどんなのにしたんだ?」

「ウチはロックな感じにしたよ。あと、足にスピーカーブーツつけて爆音の衝撃波に指向性もつけられるようにした」

 

 あのロックな感じのコスチューム個性とコンセプトがぴったりな感じで結構好きなんだよな。

 

「上鳴は?」

「俺のはまあいろいろと機能は付けたけど、一番の見どころは腕のレールガンだな」

 

 素の状態でレールガンを撃つには調整が必要だ。ならば細かい調整を勝手にやってくれるコスチュームにすれば、実戦でも使用できると思ったのだ。

 

「あれ結構威力出るよね。でも、破壊力あり過ぎて不便じゃない?」

「そこはアレだよ。調整で何とかするって」

「さっき調整難いって言ったばっかじゃん……」

 

 確かに耳郎の言葉は一理ある。出力は一応絞れるように作っているが、そもそも人に向けて撃つものじゃないからな。

 

「ま、おいおいコス改良は必要だな。そんじゃ、俺こっちだから」

「うん、また明日」

「おう!」

 

 やっぱり原作キャラとの会話は心躍る。紙の向こうから見ていた人達がこの世界では生きている。それを実感できて本当に良かった。

 今日は筆がノリそうだ。寮に入る前にさっさと知っているところまで描き上げなければ。

 

 

 

 そして、次の日。

 午前からヒーロー関連の授業かと思いきや、普通の授業だった。

 

「あー……個性使ってないのに脳みそショートしそうだ」

「上鳴は勉強できなそうだもんな」

 

 俺はちょうど食堂に向かう途中の峰田と会ったので、一緒に昼食を取ることにした。

 

「実は俺、入試合格者の中で筆記は最下位だったんだ」

「マジかよ!? よくここに入れたな」

「実技試験で結果残したからな」

 

 正直、俺の成績が悪いのは個性の使い過ぎによる記憶力の低下もある気がする。元々勉強が苦手だったところに記憶力まで悪いときたら、もはや成績が悪いのはしょうがないのだ。決して怠けていたわけではないと強く主張したい。

 

「実技試験といえば、峰田はどうやって合格したんだ?」

「オイラの個性で仮想敵をくっつけて動けなくしたんだ。別に壊さなくても無力化はできるし」

「その発想はなかった」

 

 ついつい原作では派手にぶっ壊しているイメージが強かったから壊さなきゃいけないもんだと思っていたが、無力化するならむしろ電波でジャミングして動けなくするのもありだったのかもしれない。

 

「あれ、そのボールってくっつける以外にも効果あるのか?」

 

 俺は個性把握テストであり得ないスピードで跳ねていた峰田の姿を思い出し、疑問を口にする。

 

「オイラ自身にはくっつかないでめっちゃ跳ねるんだよ」

「ああ、そういやそうだったな!」

「知らないんじゃなかったのか?」

 

 個性について聞いてきたのに、まるで知っていたかのような口ぶりに怪訝な顔をする峰田。ヤバいな、記憶力が低下しすぎてこんなことまで忘れるようになってしまった。

 帰ったら自分の漫画を読み返さなくては。

 

「い、いや、ほら、個性把握テストでのことを思い出したんだよ! 食い終わったから先行ってるな!」

 

 俺はいつものように言い訳をすると、そそくさと食堂を後にした。

 昼休みが終わると、待ちに待ったヒーロー基礎学の時間だ。この授業では被服控除により、頼んでいたコスチュームを身に纏って授業を行う。

 ――被服控除とは。

 入学前に〝個性届〟〝身体情報〟を提出すると、学校専属のサポート会社がコスチュームを用意してくれる便利なシステムだ。

 俺のコスチュームは元々の原作デザインに加え、両腕にレールガンに変形するガンレットが装着されている。電極の調整を自動でやってくれるため、俺はただ電気を流し込むだけでいい分、生身でやるより大分楽になった。弾丸は腰のベルトに保管されていて、すぐに装填できるようになっている。サングラス風のゴーグルには残り電気残量の表示と、半径5km圏内のにいる人間を探すことができる。探索対象の電気量を調整するば、人間以外も索敵できる。この索敵範囲の拡張は両耳に着けたヘッドホンのようなアンテナで個性を強化しているため可能になった。

 コスチュームに着替えて訓練場に着くと、様々なデザインのコスチュームを身に付けたクラスメイトの姿が。

 個人的に抜群にカッコいいのは飯田だろう。インゲニウムのコスチュームを真似たんだろうが、足にエンジンがついている飯田の方がカッコいいと思う。

 

「始めようか有精卵共! 戦闘訓練のお時間だ!」

 

 こうして、オールマイトの説明の後、屋内対人戦闘訓練が始まった。

 チーム分けはこうなった。

 

A 緑谷 出久 麗日 お茶子

 

B 轟 焦凍 障子 目蔵

 

C 八百万 百 峰田 実

 

D 爆豪 勝己 飯田 天哉

 

E 芦戸 三奈 青山 優雅

 

F 口田 甲司 砂藤 力道

 

G 耳郎 響香 上鳴 電気

 

H 常闇 踏陰 蛙吹 梅雨

 

I 尾白 猿夫 葉隠 透

 

J 瀬呂 範太 切島 鋭児郎

 

 俺は耳郎と一緒か。原作でどうだったかは覚えてないが、デクVS爆豪は同じだろうな。

 案の定クジ引きの結果、トップバッターはAコンビVS Dコンビになった。

 訓練開始早々の爆豪の奇襲。それをデクは間一髪で避け、右の大振りの一撃を背負い投げで受け流した。

 こうして見ると使えるな、あの背負い投げ。相手の力を利用しての一撃で怯んだところに電撃。今度機会があったら試してみよう。

 怯んだ爆豪にデクが何かを叫んでいる。おそらく、麗日に言われた「頑張れって感じのデクだ!」と言っているのだろう。

 激しい戦闘の末、デクが腕をぶっ壊しながらも天井をブチ抜き、麗日がそれを利用する形で核まで無重力で飛んで確保した。

 

『ヒーローチームWIN!』

 

 こうして一回目の戦闘訓練が終了した。

 それからいくつかのチームが訓練を行い、俺達の番が回ってきた。

 

「さてさてお次は敵チームCコンビ、ヒーローチームGコンビだ!」

 

 俺と耳郎はGコンビでヒーローチームだ。対戦相手はヤオモモと峰田か。

 

「教室といい、また一緒だな! よろしく耳郎!」

「うん、よろしく。演習でコケないでよ?」

「コケねぇよ!」

「嘘嘘、ごめんって。あんた強いし、頼りにしてるよ」

「お、おう」

 

 何というか、素直に褒められるのは照れるな。

 

「……とりあえず、個性の整理しとくか。ヤオモモが物を作り出す個性。峰田が頭からくっつく玉をもぎる個性か。こりゃトラップ作って籠城する感じでくるだろうな」

「あの八百万って子の個性はわかるけど、あの小っこいのの個性何で知ってんの?」

 

 まだ交流が浅いからか、耳郎は不思議そうに聞いてくる。

 

「昼一緒に食ったときに峰田と仲良くなったんだよ。そん時に聞いた」

「情報戦ならこっちが有利……ってわけでもないか。上鳴の個性もバレてるし、ウチのは見た目で連想がしやすい」

「だが詳細は知られてねぇ。それに、情報戦っつーならこっちが有利だ。索敵に関しては俺と耳郎がいれば簡単だしな」

「ウチは音で、上鳴は電気での索敵ってことか。二人の居場所はウチが音で調べて、トラップとかは上鳴の電気で調べるって感じ?」

「そんな感じだな」

「問題は核がある部屋に入った時にどう二人を攻略するかだね」

 

 しかし、どうしたもんか。核があるんじゃ迂闊にレールガンも放電も使えない。屋内の被害は最小限に抑えなければいけない。本当にヒーローは制約が多い。

 

「正直、ヤオモモの個性は汎用性が高いから、その場その場で対応するしかねぇな。峰田はうん、何とかなるだろ」

「結局、その場判断じゃん」

 

 呆れたようにジトっとした視線を俺に向けてくる耳郎。実際のところ、ヤオモモが何をしてくるかまでは想像がつかない。峰田はもぎったの投げてくるだろうけど。

 

「アレだよ。あんまガチガチに作戦固めると、いざ失敗した時にパニクるだろ?」

「それっぽいこと言ってるけど、ただの考えなしでしょうが……あのね。部屋に入った時が一番の勝負どこでしょ? 核があるって想定で動いている以上、あんたの個性で下手に攻撃するわけにはいかないし」

「間違いなく核がある部屋はトラップだらけだよなぁ……どうしたもんか」

 

 レールガンも屋内戦闘では破壊力が高すぎるし、放電は味方を巻き込むから論外。思ったよりも屋内戦闘は俺と相性が悪かった。

 その点、耳郎は屋内戦闘向けな個性の気がする。

 それなら――

 

「いっそのこと下から攻めてみるか」

 

 

 

「遅いですわね。二人とも」

「トラップに引っかかってんじゃねぇか。オイラ見てくるぜ?」

「いえ、あの二人に接近戦は危険ですわ。時間切れはこちらの勝利ですし、下手に確保を狙うよりはこうして待っている方が得策ですわ」

「まあ、あと二分でこんだけトラップまみれの部屋を攻略なんてできないだろうしな」

「ドアの前には峰田さんのもぎったボール。部屋中撒きビシだらけで核の周りは有刺鉄線で固めていますから、そう簡単には攻略されないと思いますが……」

 

 ヤオモモと峰田が部屋の中でこれからの動きを相談している間、俺は核のある部屋の扉の目の前でスタンバっていた。

 

「耳郎、準備出来たか?」

『うん、ウチはいつでもいいよ』

 

 俺は耳郎と無線機でやりとりをして連携をとっていた。

 現在、耳郎がいるのは核がある部屋の真下だ。

 

「んじゃ、いくぞ……3、2、1」

 

「『0!』」

 

 合図と共に俺は部屋の中に飛び込む。扉の前にもぎもぎがあるのはわかってる。だから、俺は体に電気を纏い、全身を電磁石にして天井に張り付いた。

 

「来ましたわね、上鳴さんっ!?」

「うわっ、地面が!?」

 

 俺が突入したことで臨戦態勢にあるヤオモモと峰田だったが、突然地面が砕けて空いた穴に足を取られてしまった。

 

「きゃぁぁぁぁぁ!?」

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 そのまま地面の穴から耳郎イヤホンジャックが伸びてきて二人に刺さる。爆音を流し込まれた二人はそのまま地面に倒れ伏した。

 意識はあるだろうが、すぐには動けないはずだ。

 

「ほい、確保」

 

 俺は倒れた二人に確保テープを巻く。これでこちら側の勝利だ。

 

「やられましたわ……」

「ヤオヨロッパイ最高」

「お前、ブレねぇな」

 

 折り重なるように倒れたせいか、峰田はヤオモモの下敷きになって恍惚の表情を浮かべていた。ヒーローの卵としてそれでいいのか峰田……。

 

「お疲れ上鳴」

 

 俺が確保したのが確認できらからか、耳郎は上の階に合流してきた。

 

「耳郎もサンキューな」

 

『ヒーローチーム! WIN!』

 

 鳴り響く訓練終了の合図と共に俺達はハイタッチをした。

 

「さて、講評の時間だ!」

 

 モニタールーム戻るとオールマイト直々の好評が始まった。

 

「今回のMVPは耳郎少女だな。初めに敵チームの位置を把握して、最後には真下からの奇襲。自身の個性を存分に生かした活躍だった。上鳴少年も作戦の立案と仕掛けられた罠の感知、作戦も耳郎少女とよく話し合って決めていたから連携もバッチリだったな!」

「やー、マジで耳郎と一緒で助かったわ! マジでありがとな!」

「……作戦考えたのはあんたでしょ?」

 

 あまり褒められることに慣れていないのか、耳郎は恥ずかしそうにイヤホンジャックのプラグ同士をカチカチ突っつきながらそっぽを向いた。

 

「でも、上鳴って今回あんま活躍してなくね?」

「確かに個性使ってたのは、ほとんど耳郎だったしな」

 

 瀬呂と砂藤は個性把握テストと違って俺が目立った活躍をしていないせいか首を傾げていた。

 

「いやいや、上鳴少年の個性は屋内で使うには危険すぎる。彼もそれを理解した上で耳郎少女の個性を生かす作戦を立てたんだ。自分の個性が現場の状況に合わないことはよくある。そこで前に出すぎるのではなく、一歩引いてサポートに回るのも立派なことさ!」

「なるほど……」

「確かに、探知にも使えるって凄いよな」

 

 オールマイトの説明を聞いた二人共は納得していた。

 

「八百万少女と峰田少年も作戦は悪くなかった。ただ終盤、罠を仕掛けたことでちょっと気が緩んでいたよ。時間切れを狙うのは悪くない作戦だったが、もう少し偵察をしてみるのもありだったな!」

 

 ちなみに終盤まで焦らすのも作戦のうちだった。もし飛び出してきたらすぐに電気を纏って気絶させる予定だったしな。

 

「今回もなかなかレベルの高い訓練だった! 次は敵チームFコンビ、ヒーローチームEコンビだ!」

 

 こうして無事、屋内での対人戦闘訓練は終了した。

 放課後、俺達は今日の訓練の反省会をしていた。

 

「やっぱ、上鳴と耳郎のチームは凄かったよな」

「ていうか、上鳴って案外頭いいのな」

「意外だよね」

「いや、こいつはアホだよ?」

「確か入試合格者の中で筆記最下位だったもんな」

「お前らこれ反省会だよな!? 俺の悪口大会じゃないよね!?」

 

 真面目に反省会をしていたはずなのに、何故か途中から俺がアホなのに凄いという話になっていた。ちなみに爆豪はすぐに帰ってしまった。

 それから先生に頼まれて俺と麗日は職員室に全員分の戦闘訓練の評価ノートを取りにいった。

 職員室から戻ると、目を覚ましたデクが教室に戻ってきていた。

 

「おおー、緑谷来た! お疲れ!」

 

 爆豪との戦いを見て熱くなったのか、切島はまっさきにデクの元へと駆け寄っていった。

 

「何しゃべってっか分かんなかったけど熱かったぜ、おめぇ!」

「入試一位の爆豪と互角に渡り合うなんてな!」

「一戦目であんなのやられたから俺らも力入っちまったぜ!」

「エレガントには程遠かっ――」

「よく避けたよ!」

 

 青山もみんなに続いてデクに話しかけようとしたが芦戸に遮られていた。

 

「俺は切島鋭児郎。今みんなで訓練の反省会してたんだ」

「俺、瀬呂範太」

「僕は青山――」

「私、芦戸三奈! よく避けたよ!」

 

 さっきから言葉を遮られている青山が不憫でならない。

 

「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

「俺、砂藤!」

「オイラは峰田!」

 

 一通りみんなの自己紹介が終わったので、俺もデクに話しかける。

 

「デク、お疲れ」

「上鳴君!」

「すっげぇパワーだったな! でも、あんま無茶すんなよ? 見てるこっちがハラハラすっから」

「ご、ごめん、気をつけるよ」

 

 申し訳なさそうに縮こまるデクに、麗日は心配そうに声をかけた。

 

「デク君、怪我治してもらえなかったの?」

「これは僕の体力のあれで。あの……麗日さん、それよりかっちゃんは?」

「みんな止めたんだけど、さっき黙って帰っちゃったよ」

「……っ」

 

 麗日の言葉を聞いた途端にデクは血相を変えて教室を飛び出していった。

 

「デク君、どうしたんだろ……」

 

 その後、窓から何かを話すデクと爆豪を麗日、梅雨ちゃん、芦戸が見ていた。

 きっと今頃ワンフォーオールのことを抽象的に話しているのだろう。

 




耳郎ちゃんのプラグつんつんは可愛いと思うのです。


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4V それが当たり前の流れ

本当はUSJ編の初めまで書いているのですが、長くなりそうなのとキリが悪いので分けました。
そのため、今回は短めです。


 戦闘訓練の次の日。

 朝のホームルームで相澤先生は爆豪とデクがに小言を言ってから、本題に入った。

 

「学級委員を決めてもらう」

『学校っぽいの来た――――!』

 

 今まで相澤先生の合理的カリキュラムのせいで学校っぽいことがあまりなかったためか、クラスが一気に盛り上がる。

 

「委員長! やりたいですソレ俺!」

「リーダーやるやる!」

「ウチもやりたいス」

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30cm」

 

 普通科なら義務って感じでやりたがらないであろう役職も、ヒーロー科ならば別だ。

 このヒーロー科では集団を導くトップヒーローとしての素地を鍛えられるため、はたまた目立ちたがりが多いためか、ほぼ全員が挙手していた。あと、最後のはおかしいと思う。

 

「静粛にしたまえ!」

 

 そんなクラスの空気に待ったをかける奴がいた。

 

「〝多〟を牽引する責任重大な仕事だぞ! 〝やりたい者〟がやれるモノではないだろう!」

 

 待ったをかけたのは飯田だった。むしろ、お前がやれよと言いたいところである。

 

「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……! 民主主義に則り、真のリーダーをみんなで決めるというのなら……これは投票で決めるべき議案」

 

 と、言いつつも飯田の手は綺麗にそびえ立っていた。

 そんなこんなで飯田の案が採用され、投票の結果――

 

緑谷 出久 三

 

八百万 百 二

 

爆豪 勝己 一

 

飯田 天哉 一

 

常闇 踏陰 一

 

障子 目蔵 一

 

尾白 猿夫 一

 

切島 鋭児郎 一

 

芦戸 三奈 一

 

口田 甲司 一

 

砂藤 力道 一

 

蛙吹 梅雨 一

 

青山 優雅 一

 

瀬呂 範太 一

 

耳郎 響香 一

 

葉隠 透 一

 

峰田 実 一

 

「僕、三票――――!?」

 

 衝撃の投票結果。あれ、委員長って飯田じゃなかったのか?

 俺もトドメの一票とばかりに入れたのだが、どうしてこうなった。

 

「一票!? 一体誰が!」

「他に入れたのね……」

「お前もやりたがってたのに何がしたいんだ飯田……」

 

 結局、そのまま委員長がデク、副委員長がヤオモモに決まった。

 俺はみんなが盛り上がる中、悔しそうな表情を浮かべる飯田が気がかりだった。

 昼休みなったので、耳郎とランチラッシュのメシ処に行こうと思ったのだが、既に女子組と仲良く昼食を取りにいってたため断念。峰田はいつの間にか消えていた。他の連中も既に食堂に向かっていたり、既にお弁当を広げている。つまりはボッチである。

 せっかくなのでデク達と昼を取るのも悪くないと思い、学食で彼らの姿を探していると、もりもりお米を食べている麗日の姿が目に入った。

 

「人を導く立場はまだ俺には早いのだと思う。上手の緑谷君が就任するのが正しい」

「そうか? 委員長なら俺は飯田の方が向いてると思うけどな」

 

 丁度話しこんでいたところだったので、会話に割り込むような形で自然とデクの隣に座る。よし、これでボッチ飯回避だ。

 

「上鳴君! 一人でどうしたの?」

「いや、耳郎も峰田もいなくてデク達とメシ食おうと思ってさ」

「それよりも飯田君の方が委員長に向いてるって……」

「まさか俺の一票は」

「俺だよ。だってあの時、飯田は委員長をやりたいのに、あえてそれが正しいと思って投票形式を提案したんだろ? そういう風に真面目すぎるくらいの奴が委員長には丁度いいと思うぞ。何せ、他の奴らが暴走した時のストッパーになんなきゃいけないからな」

 

 俺の言葉に三人は唖然とした様子で俺の顔を見てきた。俺、そんなに変なこと言ってないと思うんだけど。

 

「上鳴く――」

 

 飯田が俺に何か言おうとした瞬間、校内に警報が鳴り響いた。

 

「警報!?」

 

 警報はセキュリティが突破されたことによって鳴ったものだ。確かこれって伏線じゃなかったか? 屋内対人戦闘訓練の次は確かUSJだったよな。

 

「って、何じゃこりゃ!?」

 

 考え込んでいる間にパニックになった生徒達の波に流されてしまっていたようだ。や、やばい……あんまり圧力をかけられるとストレスのあまり放電してしまいそうだ。

 

「痛ぇ! 痛ぇよ!」

「押すなって!」

「ちょっと倒れる!」

「押ーすなって!」

「ちょっ、マジでヤバい、って……!」

 

 そうやって何とか空いている空間に逃げようともがいていたら、壁際の方にふっ飛ばされた。

 

「おわっ!?」

「きゃっ」

 

 どうやら、勢い余って女子生徒に壁ドンしてしまったようだ。

 

「って、耳郎?」

「上鳴、驚かせないでよ……」

 

 壁際の耳郎はホッとしたように息をつく。それよりも俺としては気になることがある。

 

「なあ、今『きゃっ』って――」

「言ってない」

「あ、はい」

 

 ギンッという擬音が聞こえそうな勢いで睨まれては閉口せざるを得ない。

 

「つか、これしばらく収まりそうにねぇな……ぐぇっ」

「ちょっと大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。前にも言ったけど、結構鍛えてんだぜ?」

 

 実際のところかなりキツイのだが、ここは少し見栄を張らせてもらおう。

 それからその状態で耐えていると、飯田が麗日の個性で浮いて、ふくらはぎのエンジンを使って吹っ飛び、出口に張り付いた。

 

「皆さん……大丈――夫!」

 

 牛ぎゅう詰め状態の生徒全員に聞こえるように、飯田は声を張って叫ぶ。

 

「あの声、飯田じゃん」

「何か何とかなりそうだな」

 

 だって、こういうことが起こるってことは飯田がメインで何かする話だろうからな。

 

「ただのマスコミです! 何もパニックになることはありません。大丈夫! ここは雄英、最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!」

 

 それからパニックが収まった生徒達は落ち着いてゆっくりと動き出した。

 やっとこさ人混みから抜け出した時、耳郎が唐突にポツリと呟いた。

 

「……ありがと」

「何が?」

「ウチのこと、あの人混みから守ってくれてたんでしょ? 正直不安だったから落ち着いたよ。ありがとう」

「あー……いや、まあ、なし崩し的にそうなったというか」

 

 どうにも素直にそれを認めるのは恥ずかしい。何と言うか、真正面から気持ちをぶつけられるのは苦手なのだ。

 

「あんた、チャラチャラしてるように見えて意外とウブなんだね」

「うるせっ」

 

 そして、次の日のホームルームでデクの推薦もあり、飯田が委員長をやることになった。昨日の一件でデクは飯田が委員長に相応しいと思ったのだろう。

 ちなみに副委員長であるヤオモモの立場は一切考慮されなかった。

 なるほど、こういう流れだったのか。道理で飯田に票が集まらなかったわけだ。

 無事、委員長に就任した飯田が俺の元へと歩いてくる。

 

「ありがとう、上鳴君。君のおかげで自分に自信が持てたよ」

「おう、期待してるぜ委員長!」

「ああ、聖務に恥じないよう頑張るさ!」

 

 今まで俺が見た中で一番の笑顔を浮かべると、飯田はデクと入れ替わるように黒板の前に立った。

 

「あんた、飯田に何か言ったの?」

「いんや、俺は当たり前のことしか言ってないぜ?」

 

 ――だって、それが原作通りの流れなのだから。

 




主人公は良くも悪くも原作に固執するところがある感じを表現しようと思ったので、このような感じにしました。
ちなみにちゃんと書きだしたメモや漫画を読み返したり、重要な単語を聞いたりしないと、彼は原作知識を一切思い出せない状態です。


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5V 中途半端な知識は身を滅ぼす

会社の先輩と徹カラして二日酔いで当欠するという社会人にあるまじき失態をしてしまいました……。
会社の先輩からカラオケの時の動画が送られてきて、そこには「耳郎ちゃぁぁぁん!」と叫んでピースサインを熱唱する自分の姿が……。


 今日の午後からのヒーロー基礎学はレスキュー訓練だ。

 レスキューとなると俺の個性は使いどころが難しいが、この授業でしっかりと学ばなくては。

 

「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう!」

 

 委員長に就任した飯田はさっそく張り切っている。

 結局、バスは二席ずつ並んでいるタイプのバスではなかったため、飯田は凹んでいた。

 訓練所に向かう途中、暇なクラスメイト達はバスの中で談笑していた。

 デクの隣に座っている女の子、蛙吹梅雨は疑問に思ったのか、デクに個性の話を振った。

 

「あなたの個性、オールマイトに似てる」

「そそそそ、そうかな!? いや、でも、僕はその!」

 

 梅雨ちゃんに指摘されて慌ててデクがごまかすが、オールマイトは反動で怪我をしないということから別物と納得されていた。

 

「しかし、増強型のシンプルな個性はいいな! 派手で出来ることが多い! 俺の〝硬化〟は対人じゃ強ぇけどいかんせん地味なんだよなー」

「僕はすごくかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する個性だよ!」

「いっそのこと全身ガチガチに硬化してみたら派手になるんじゃねぇの?」

 

 アメコミでも確か全身岩石みたいな奴いたし、人間離れした姿は恐怖以上にカッコよさを内包していると思う。

 

「全身硬化か……いいなそれ!」

 

 確かそのうち使うんだよな。技名忘れたけど。

 

「……全身を硬化できれば、全方位の攻撃にも耐えられるし、攻撃にも転用できるぞ。しかも、目も硬化できれば防御系の個性の人によくある〝目〟が弱点ってこともなくなる。相手の攻撃に怯まず進んで攻撃ができればそれは無敵じゃないか……! あっ、でも、硬化をかけて動く以上、動きは遅くなるしどうしても後手に回る……」

「おーい、デク。戻ってこーい」

 

 いつものブツブツ癖が始まったので、周りが若干引いている。

 

「派手で強ぇってつったら、やっぱ轟と爆豪、あと上鳴だな」

 

 そんな空気を仕切り直すように切島が言った。

 

「まあ、派手だけど俺らは攻撃範囲が広過ぎて共闘には向かねぇぞ」

「あァ!? 俺はてめぇと違って範囲攻撃以外も余裕だわ! 一緒にすんなクソ電気!」

「でも、そのクソを下水で煮込んだ性格のせいで共闘難くね?」

「てめぇのボキャブラリーは何だコラ! 殺すぞ!」

「(かっちゃんがイジられてる……! 信じられない光景だ。さすが雄英……!)」

「もう着くぞ。いい加減にしとけよ……」

『ハイ!』

 

 相澤先生の一言で一斉に静まる車内。そろそろ演習場に着くみたいだ。

 

「すっげ――――! USJかよ!?」

 

 説明のため、出てきたのはスペースヒーロー13号先生だ。

 

「水難事故、土砂災害、火事……etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も――ウソの災害や事故ルーム!」

 

 今日のレスキュー訓練ってUSJでだったのかよ……。てことは、敵襲撃はこの後ってことか。ここからは少しも油断できないぞ。

 

「えー、始める前にお小言を一つ二つ、三つ、四つ……」

 

 どんどん言おうとしている小言が増えていく13号先生。言いたいことがあるなら個数決めなきゃいいのに。

 

「皆さん、ご存じだとは思いますが、僕の個性は〝ブラックホール〟どんなものでも吸いこんでチリにしてしまいます」

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

 デクの言葉に同調するように麗日が激しく頷いている。

 

「ええ……しかし、簡単に人を殺せる力です。みんなの中にもそういう個性がいるでしょう」

 

 13号先生の重い言葉に空気が変わる。さっきまではしゃいでいた連中も神妙な面持ちで先生の話を聞き始めた。

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているように見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる〝いきすぎた個性〟を個々が持っていることを忘れないでください」

 

 いきすぎた個性。俺の個性だってそうだ。人を殺す力。実際に前世の俺は落雷で死んでいる。憑依した時も個性が発現していなければ俺は死んでいた。

 

「君達の力は人を傷つける為にあるのではない。助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」

 

 だから、俺は学ばなければいけない。この個性で人を殺めないためにも。とはいえ、今日は学べないのだけど。

 

「以上、ご静聴ありがとうございました」

 

 とてもためになる先生の話が終わった。みんなは感激したようにまたはしゃぎ始める。内容が内容だったのと、この後に敵の襲撃があることを知っている俺はとてもそんな気分にはなれなかった。

 

「上鳴君、大丈夫?」

「え、あ、ああ! ちょっと感動しちまってな」

 

 一人だけ黙って突っ立っていたからか、デクが心配そうに声をかけてきた。本当にデクは細かいところに気がつく。表情に出ないように気を付けないとな。

 

「一塊になって動くな! 13号! 生徒を守れ!」

 

 そして、その時はやってきた。

 黒い靄のような物から現れる敵達。そこから溢れだすのは途方もない悪意。プロヒーローはこんなのといつも戦っているのかと改めて実感させられる。

 怖い。こんなものと対峙するなんて冗談じゃない。冗談じゃない、が――

 

「先生、ダメです! 連絡取ろうと思ったんすけど、電波妨害が酷くて個性使っても俺じゃ連絡できません!」

 

 自分にできることをやるしかない。

 

「対応が迅速だな上鳴。状況はわかった」

 

 俺の言葉に頷くと相澤先生は捕縛布を握りしめ、ゴーグルを装着した。

 

「先生は一人で戦うんですか!? あの数じゃいくら個性を消すっていっても! イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は――」

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号! 任せたぞ」

 

 デクの言葉を遮るように、先生は敵が集まる中央広場へと飛び出した。

 相澤先生が戦っている間に避難をしようとした俺達だったが、瞬きの一瞬の隙をついてワープの個性を持つ黒霧が目の前に現れた。

 

「初めまして我々は敵連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせていただいたのは平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして……本来ならば、ここにオールマイトがいらっしゃるはずですが、何か変更があったのでしょうか? まあ、それとは関係なく、私の役目はこれ」

 

 咄嗟に爆豪と切島が飛びかかるが、靄が散っただけでダメージは与えられなかった。

 それから黒霧は俺達をバラけさせるために靄を広げてワープゲートを発動させた。

 

「ここは?」

 

 気がつくと俺は岩山のような場所に移動させられていた。俺の近くには耳郎とヤオモモがいる。

 周りには多数の敵。傍から見れば絶対絶命のピンチだ。

 

「ヤオモモ! 薄手で良い! 絶縁体のシートを作ってくれ!」

「了解ですわ!」

 

 俺の言葉と共に即座にヤオモモが創造を始める。別に放電で倒す必要はない。

 

「耳郎さん、シートの中へ!」

「わかった!」

「いくぜ……〝無差別放電30万V!!!〟」

『ぐわあぁぁぁぁぁ!?』

 

 抑えめの放電のため、敵連中は痺れて蹲る程度だったが、それだけの隙があれば十分だ。

 

「耳郎!」

「任せて!」

 

 耳郎は両耳のプラグをスピーカーブーツに差し込むと、蹲っている敵達に容赦なく爆音の衝撃波を叩きこんだ。

 

『耳があぁぁぁぁぁ!?』

 

 放電と衝撃派をくらった三十人余りいた敵達は物の数秒で地面にひれ伏したのだった。

 

「……凄いですわ。お二人共。こんなにあっさりと敵を倒してしまうなんて」

「ウチはトドメ刺しただけだよ。ここに飛ばされた瞬間に指示を出した上鳴の方が凄いって」

「いや、ヤオモモの創造がなかったらこんなにあっさりとはいかなかっただろうな。耳郎もありがとな。俺だけだったら放電の出力をもっと高めなきゃいけなかった」

 

 うまく言ったことに安堵して二人に礼を言うと、二人は怪訝な表情を浮かべた。

 

「上鳴さん……」

「いつもと雰囲気違くない?」

「敵が襲ってきてんのにへらへらしてらんないだろ」

 

 現状、大事なのはいかに他の連中と合流するかだ。原作でみんな無事だったからと油断はしていられない。どこで歯車が狂うかわからないのだ。できれば、広場の状況も知りたいところだ。

 

「それよりも早くここを――耳郎、危ねぇ!?」

 

 強力な電気を感知して咄嗟に耳郎を突き飛ばす。その瞬間、俺の体を強力な電撃が貫いた。雷に打たれたような衝撃が全身を駆け巡った。

 

 



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6V 原作通りの代償

「上鳴!」

「おっと動くな。手ぇ上げろ。個性は使用禁止だ。使えばこいつを殺す」

 

 敵は力なくだらんと手足をぶら下げる上鳴の首根っこを掴み、もう片方の手から電気を迸らせる。

 やられた。あっさりと敵達を倒したことで安心して完全に油断していた。

 上鳴はウチを庇ってあの電撃をモロに受けた。たとえ電気系の個性だとしても、無事では済まないだろう。

 

「同じ電気系個性としては殺したくはないがしょうがないよな」

「全滅させたと思わせてからの伏兵……こんなことも想定できていなかったなんて」

 

 敵達を倒した後も油断せずにウチがイヤホンジャックで索敵をしていれば、こんなことにはならなかった。ウチのせいで上鳴は……!

 

「電気系、おそらく上鳴さんの言っていた通信妨害している奴ですわ」

 

 後悔は後だ。今はこの状況を打開して上鳴を助けなきゃ!

 

「そっちへ行く。決して動くなよ」

 

 こうなったら奴の気をそらして衝撃波で倒すしかない。ウチならプラグさえつなげればノーモーションで攻撃できる。

 

「……上鳴もだけどさ。電気系って〝生まれながらの勝ち組〟じゃん」

「何を……」

 

 ヤオモモは突然こんなことを言い出したウチに戸惑っているけど、ウチが何をしようとしているのかを理解して納得したような表情になった。

 

「だってヒーローでなくてもいろんな仕事あるし、引く手あまたじゃん。いや純粋な疑問ね? 何で敵なんかやってんのかなって……」

 

 あと少し。あと少しでプラグがスピーカーに刺さる。そうすれば……!

 

「気付かれないとでも思ったか?」

 

 だけど、あと少しというところで敵に気付かれてしまった。迸る電気が強くなり、それを上鳴に近づけるところを見て、ウチはプラグを引っ込めざるを得なかった。

 

「くっ!」

 

 甘かった。気をそらして攻撃なんて作戦、読まれないわけがなかったのだ。どうしよう、このままじゃ上鳴が……!

 

「子供の浅知恵などバカな大人にしか通じないさ」

 

 まったくもってその通りだ。自分の無力さが悔しくて唇を噛む。何がヒーローだ。ウチはクライスメイト一人救えないじゃないか。

 敵が上鳴を持ったままこっちに向かってくる。もうダメだ。そう思った瞬間――

 

「俺もそう思うぜ〝ハートビート・ショック!!!〟」

 

 敵の胸の辺りに強烈な電撃が叩きこまれた。

 

「かはっ……」

 

 苦しそうに息を吐き出し、地面に倒れていく敵。

 一瞬、ウチとヤオモモは何が起きたかわからなかった。

 だけど、頭を押さえながらしっかりと自分の足で立ち上がったそいつを見て、何が起きたのかを理解した。

 

「雄英に潜入してる時点でお前らはどう考えてもバカな大人だろうが」

「上鳴!?」

「無事でしたの!?」

 

 ウチらは慌てて上鳴の元へと駆け寄った。

 

「悪い、脳天直撃したから少し怯んじまった」

「少し怯むって、あんた……」

 

 普通はあんな電撃が頭に当たったら即死だ。改めて自分が上鳴に命を救われたということを実感した。

 

「俺は電気系の個性だから電気には耐性あんだよ。それより耳郎、怪我はないか?」

 

 自分が一番大変な状況だったのにも関わらず、こいつはウチのことを心配してきた。

 

「う、うん。ウチは平気。あの、ありがとう……」

「いいっていいって! ……無事で良かった」

 

 そして、心底安心したように笑う上鳴の顔を見て、何だか少し心がざわつくのを感じたのだった。

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 危っっっぶな。

 まさか伏兵がいるなんて思いもよらなかった。

 というか、原作知識のメモを燃やして漫画にしたからわからなかったけど、これって原作でもあったんじゃないか?

 つくづく自分の甘さに危機感を覚える。

 危うく俺のせいで耳郎を死なせるところだった。

 

「んじゃ、みんなと合流するか」

「でも、ここからだと敵のリーダーとはち合わせることになるんじゃない?」

 

 俺達がいる山岳ゾーンから出口までは結構な距離がある。それに必然的に中央広場を通っていくことになる。

 大丈夫、俺達は原作でも無事にここを切り抜けるはずだ。大丈夫。

 

「だけど、その方が他の場所から抜け出してきた奴と合流もしやすいぞ」

「ですが、やはり得策とは言い難いですわ。戦っている相澤先生のお邪魔をしてしまうかもしれませんし……」

「それならヤオモモ。光学迷彩は作れるか?」

「なるほど、それなら敵にも気付かれずに中央広場付近を通ることもできますわね」

 

 ヤオモモは早速、光学迷彩の布を創造する。俺達はそれを頭からかぶって索敵をしながら中央広場を目指した。

 細かい事は覚えていないが、この後はオールマイトが助けにくるはず。それまで持ちこたえれば俺達は無事に帰れるはずだ。

 途中で敵に遭遇することもなく、すんなりと中央広場へとたどり着くことができた。

 そして、そこで俺達は見てしまった。

 

「対平和の象徴。改人〝脳無〟」

 

 黒くて巨大な敵〝脳無〟がボロボロになっている相澤先生を押さえつけている光景を。

 

「相澤先生……!」

「そんな……!」

 

 耳郎とヤオモモはあまりにもショッキングな光景に言葉を失っている。

 脳無は相澤先生の頭を掴み、持ち上げる。きっと地面に思いっきり叩きつける気なのだろう。

 相澤先生はこの後原作でどうなった?

 思い出せない。

 オールマイトは?

 爆豪たちがいないから、まだ来ないはずだ。

 雄英体育祭では出てたか?

 試合内容しかわからない。

 そこから先は?

 自分の漫画を見返さないとわからない。

 思い出せ、思い出せ……! 思いだ――

 

「…………っ! 先生から手ぇ離しやがれぇぇぇ!」

 

 気がつけば俺は脳無に向かって飛び出しながらレールガンを放っていた。

 自分でも不思議だった。

 あれだけ敵や個性が怖い怖いと言っていたのに、気がつけば敵に向かって飛び出している。

 別に敵や個性が怖くなくなったわけではない。ただそれ以上に、自分が動かないことで誰かが傷つくことが怖いと感じたのだ。

 俺が原作を思い出せない以上、相澤先生が無事な保証はない。俺が飛び出す理由はそれだけで十分だった。

 レールガンが直撃した脳無は少しだけ怯み、相澤先生から手を離した。その瞬間、俺は電気で筋肉のツボを刺激して脚力を強化する。

 瞬時に先生をその場から回収して脳無から引き離す。

 

「大丈夫ですか先生!?」

「……上、鳴……すまん助かった」

 

 先生は重症だ。今は辛うじて気力で意識を保っているが長くは続かないだろう。

 

「情けないなぁ、イレイザーヘッド! 守るべき生徒に守られるなんてさぁ!」

「俺からすれば雑魚集めてお山の大将気取ってるお前の方が情けないと思うぜ!」

 

 俺は水辺の方にデク達が入るのを確認すると、そっちの方へと相澤先生を投げた。重症なのに雑な扱いをして申し訳ないが、俺ごと向こうに行くとデク達が標的にされてしまう。

 

「相澤先生を頼む、梅雨ちゃん!」

「ケロッ、任せて!」

 

 すぐさま梅雨ちゃんが舌で先生を回収する。

 

「ムカつくなぁ……脳無、このガキから殺せ」

「やれるもんならやってみろ! 〝無差別放電200万V!!!〟」

 

 即座に放電で防御する。死柄木はさっきのレールガンから予測していたのか既に距離をとっていた。

 

「ちっ、やっぱり電気系か」

 

 脳無は融通がきかないのだろう。俺の放電を受けて痺れていた。

 

「上鳴君! 早く逃げなきゃ!」

「デク、電波妨害の奴は倒した。直に先生達が応援に来てくれる! 俺が時間を稼ぐ! だから早く相澤先生を安全な場所へ!」

 

 俺の言葉を聞いた死柄木は苛立ったように首筋を掻き毟る。

 

「は――……はあ……さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。あーあ……今回はゲームオーバーだ。帰ろっか」

「おう、帰れ帰れ。お呼びじゃねぇんだよ」

「はぁ……でも、帰る前にムカつくガキを殺して平和の象徴の矜持をへし折ってやろう。殺れ、脳無!」

 

 死柄木は脳無を指示を出す。痺れはもう切れたらしく、脳無は一直線に俺の方へと突っ込んでくる。

 さすが対オールマイト用に作られただけあって、動きが凄まじく速い。だが、反射速度を上げた俺なら避けられない速さじゃない。

 オールマイトの戦闘スタイルに合わせているのか、脳無はひたすらにパンチを繰り出してくる。

 その全てを見てから躱す。隙あらばカウンターも叩きこんでいくが、殴ったところでまったく効いている様子はない。

 電気を纏ったパンチでは電圧が弱過ぎてまったく効かない。これでは埒が明かない。

 

「危ねっ」

 

 頬のすぐ横を脳無の拳が通過する。それだけで頬が切れ、血が滲んでくる。オールマイト並のパワーと言われるだけあって、その拳圧は半端ではない。おそらく掠っただけでもアウトだろう。

 一瞬の気も抜けない攻防の中、俺は何とか脳無の攻撃を凌ぎきっていた。

 最初は高笑いをしていた死柄木も俺が脳無の攻撃を次々躱していくものだから、表情を曇らせた。

 

「速い……!」

「悪いがこちとら個性が発現した時から鍛えてんだ! 急造の怪人なんかに負けられるかぁぁぁ!」

 

 突き出された右腕を躱してしっかりと掴み背負い投げを決める。そう、爆豪を投げ飛ばしたデクのように。

 

「ショック吸収だったか? でも、電気ショックは吸収できねぇよなぁ! 〝200万Vスタンガン!!!〟」

 

 俺の電流を浴びて脳無は人間の物とは思えない奇声を上げる。それと同時に俺の頭に軋むような痛みが走る。

 まずい、そろそろ限界が近い。末梢神経に流している電気、筋力強化に使っている電気、そして放電。許容W数もそうだが、そろそろ決めないと体内の電気が切れる。

 しかし、脳無は痺れながらも何とか体を動かして起き上がろうとしていた。

 

「くそっ、まだ動けるのか!」

「脳無の個性がショック吸収だけと思ったか? 残念、そいつは超回復も持っている」

 

 脳無を掴んでいた手が振り払われる。

 俺はそのまま吹き飛ばされ、地面に激しく体を打ちつけられた。

 

「それでもう終わりか? やっぱりガキはガキだな」

「まだだ……!」

 

 身体強化の反動と今のダメージで体が軋む。

 これはおそらく原作通りじゃない。上鳴電気が脳無に立ち向かうなんてシーンはなかったはずだ。

 どうすればいい、どうすれば原作通りに……!

 

「上鳴!」

「上鳴さん!」

「来るな! 逃げろ!」

 

 今にも光学迷彩脱ぎ捨てて駆けつけてきそうな二人を止める。姿は現していないから思いとどまってくれたようだ。

 それから足音が聞こえてきたから、ここから離れてくれるだろう。ならば、しっかり足止めはしなくては。

 

「ちっ、まだガキがいたか……先に殺そうかな?」

「どこ見てんだ……!」

 

 俺は死柄木に向かってレールガンを撃つ。だが、レールガンを掌で受け止めて崩壊させた死柄木は右手から血をポタポタと垂らしながら忌々しげにこちらを睨んできた。

 

「痛っ……衝撃は殺しきれなかったか。右腕が壊れちゃったよ。あー、これだからヒーローは嫌だ。他が為に振るう暴力は美談になるんだ。そうだろう?」

「御託は法律守ってからほざけっての」

「はっ、まあいいや。そんなに殺して欲しければ殺してやるよ。脳無」

 

 死柄木の指示と共に脳無が迫る。

 その拳を何とか躱すが、動作がワンテンポ遅れて俺は脳無に捕まってしまった。

 

「やっと捕まえたぁ……そのまま握り潰せ。いくら放電をしたところでソイツは止まらないぞ?」

「あ、がぁぁぁぁぁ!?」

 

 全身の骨が軋むような音を上げる。

 だが、俺にその攻撃は悪手だ。

 

「……超回復も、持ってるなら……再生速度が、追いつかない……くらいの電流を、叩きこんでやる……」

 

 やるなら一気に高電圧の電撃を放つしかない。許容上限はオーバーする。アホになるだけならまだいい。下手をすれば脳が焼き切れる危険性だってある。だけど、今ここで俺が逃げたら耳郎が、ヤオモモが、デクが、梅雨ちゃんが、峰田が、相澤先生が、危険にさらされる。逃げるわけにはいかない。

 

「絶対に……離すなよぉ……! 〝無差別放電――」

 

 俺は体内に残っていたありったけの電気を限界を超えた高電圧で解き放った。

 

「――600万V!!!〟」

 

 そして、頭が割れるような激痛を感じた瞬間。俺は意識を手放したのだった。

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 始めてみる上鳴の本気の形相。

 その表情にウチらが介入できる余地はないと理解してしまった。

 でも、これでいいの?

 ヒーローが仲間を見捨てて……それでいいの?

 

『あ、がぁぁぁぁぁ!?』

 

 背後から聞こえてくる上鳴の悲鳴。それを聞いた瞬間、ウチの足は中央広場へと戻っていた。

 

「やっぱり、あいつを見捨てることなんてできない!」

「耳郎さん!?」

 

 あいつなら相性がいいから大丈夫なんて言い訳だ。

 バカだった。あいつだってウチらと同じでついこの間まで中学生だったんだ。

 敵との戦いなんて初めてに決まっているのに……!

 広場の近くに戻ったの同時に、眩い電光が走り視界が真っ白になる。

 そして、電光が収まった時、そこには黒焦げになった脳無とかいう敵に折り重なるように倒れている上鳴の姿があった。

 

「ふざけんなよ……オールマイトが衰えたっていうからここまで乗り込んできたんだぞ。なのにこれは何だ? ガキ一人に何だこの始末は……!」

 

 敵連合のリーダーは苛立ったように首筋を掻き毟り上鳴へと手を伸ばす。

 

「よくも俺の脳無を……せめてこのガキだけでも殺す!」

「上鳴から離れろ!」

「いけません、耳郎さん!」

 

 光学迷彩を脱ぎ捨て、ウチはスピーカーにプラグを差し込んで衝撃波を敵へと放った。

 

「っぁ、耳が……!」

「上鳴!」

 

 敵が怯んだ隙に上鳴の元へと駆け寄る。上鳴でもあの電圧には耐えられなかったのか、全身が脳無ほどではないが焦げていた。

 

「さっきのガキか。次から次へと鬱陶しいんだよ!」

「耳郎さん、敵が!」

 

 ヤオモモの声で敵が自分の方に手を伸ばしていることに気がつく。やばっ、避けられない……!

 

「〝DELAWARE SMASH!!!〟」

 

 間一髪、というところで緑谷がデコピンから発生させた衝撃波で敵をふっ飛ばしてくれた。

 

「大丈夫!? 耳郎さん、八百万さん!」

「緑谷さん、その指……」

 

 緑谷の指は個性を使った反動で変な方向に曲がり、赤黒く変色していた。

 

「死柄木弔」

 

 そこへワープゲートの個性を持つ敵もやってきた。最悪だ。この状況でまた飛ばされたりしたら……!

 

「遅いぞ黒霧。脳無がやられた」

「ええ、ここはいったん引いた方がいいでしょう」

 

 ワープを警戒していると、敵連合はどうやら引くことに決めたらしい。

 でも、安心したのもつかの間。倒れたはずの脳無が黒焦げのまま起き上がったのだ。

 

「嘘、でしょ……」

「はは、はははっ! やっぱり脳無の超回復は凄い! 黒霧、帰るのはこいつらを殺してからだ! 殺れ脳無! このガキ共を殺せ!」

 

 再び訪れる絶望。上鳴があれだけ身を呈して倒したと思ったのに。

 

「〝SMASH!!!〟」

 

 即座に緑谷が脳無に殴りかかるが、脳無はびくともしなかった。てっきりまた腕を壊したのかと思ったけど、緑谷の腕は壊れていなかった。

 

「良い動きするなぁ……スマッシュってオールマイトのフォロワーかい?」

「まずい!」

 

 脳無が緑谷を捕まえる前にイヤホンジャックを伸ばして緑谷を回収する。

 

「ありがとう、耳郎さん!」

「いいよ、それよりヤオモモ。上鳴を連れて逃げて」

「……了解しましたわ」

 

 ウチらを置いていくことに抵抗があったのか、葛藤する様子を見せたヤオモモだったけど、上鳴を抱えると光学迷彩を被って走り出した。

 

「逃がすな!」

「させない!」

 

 ウチは脳無に向かって爆音の衝撃波を叩きこむ。一瞬とはいえ、聴覚にダメージを負った脳無の動きが鈍る。

 

「行って!」

 

 さて、あとは緑谷と二人でこのピンチをどう乗り切るかだけど、それを考える必要はなくなった。

 なぜなら――

 

「もう大丈夫……私が来た!」

 

 平和の象徴が、駆け付けてくれたからだ。

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

「両中指と親指粉砕骨折の彼と意識不明の彼を除けばほぼ全員無事か」

 

 オールマイトが脳無を殴り飛ばし、雄英教師達が駆け付けたことによって敵連合は撤退した。

 1-Aの生徒達は脅威が去って安心している者もいれば、暗い顔を浮かべたままの者もいる。

 

「刑事さん、相澤先生と上鳴ちゃんは?」

『両腕粉砕骨折の重傷。もし上鳴君が助けに入っていなかったらもっと酷い事になっていた。その上鳴君は全身打撲に許容量以上の電気を使ったことによる全身火傷、さらには脳が焼き切れる寸前だ。何かしら後遺症が残る可能性が高い』

「だそうだ」

「ケロ……」

 

 13号は背中から上腕にかけての裂傷が酷いが命に別状はなし。

 オールマイトも同じく命に別条なし。

 緑谷出久に関してもオールマイトと同様、リカバリーガールの処置で十分。

 今回の襲撃で一番の重傷だったのは、生徒の一人である上鳴電気だった。

 




捕足すると、今回の上鳴の行動によって

・相澤先生の目の後遺症がなくなる。
・オールマイトがそこまで活動限界を超えないで動きが鈍った脳無を倒す。
・デクが飛び出さない。
・上鳴が敵連合にマークされる。

などの影響がでました。

やったね、原作から大して変わってないよ(白目)
もちろん、このちょっとした変化から後の展開に影響はでます。


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7V 思い出せ、記憶

今回の展開には賛否両論あるとは思いますが、どうしても書いてみたい今後の内容につながってくるので、ご容赦ください。

9/15
内容の修正を加えました。


敵連合によるUSJ襲撃事件についてのご報告。

 

雄英高校ヒーロー科一年A組生徒20名は救助レスキュー訓練を行うべく、嘘の災害や事故ルーム……略してUSJに赴くも訓練開始直前、敵連合と名乗る集団からの襲撃を受けました。

敵連合側の個性によって、生徒たちは各救難施設に分断。

担当教師だった相澤と13号は敵に対抗するも、黒霧と名乗る敵によって13号は負傷。

相澤もまた主犯格である死柄木弔と脳無と呼ばれる敵の攻撃を受け、戦闘不能状態陥りました。

しかし、生徒の一人である上鳴電気が脳無を一時的な戦闘不能状態にすることに成功。

その後、諸般の事情で遅れてきたオールマイトが戦闘に参加し、形成が逆転。

またA組クラス委員長である飯田天哉が本校校舎にいたプロヒーロー達に連絡。

現場に急行させたことで事件は一気に収拾しました。

結果として教師三名、生徒二名が負傷するという学校側に運営責任が問われかねない事態を招いたことに遺憾であると言わざるを得ません。

しかし、雄英高校としては数日の後にヒーロー科を通常のカリキュラムに戻す予定でいます。

人々を困難から救い、敵と戦う術を生徒達に身に着けさせる為に三年という期間はあまりにも短い。

その旨を鑑みての処置だとお考え下さい。一年A組生徒の保護者の皆様にはご心配とご迷惑をお掛け致しますが、何卒、ご理解とご協力を承りたいと思っております。

 

雄英高校ヒーロー科一年A組担任、相澤消太。

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 目を覚ました時、俺は病院のベッドで寝ていた。

 というか、それ以前に自分が誰だか思い出せないんだが。

 

「痛ってぇ!」

 

 せめて自分の名前だけでも確認しようと起き上がろうとした瞬間、全身を軋むような痛みが走った。

 何だこれ、筋肉痛か? 何でこんなボロボロになってるんだ俺。

 

「上鳴、電気……か」

 

 何か凄いアレな名前だな。個性そのままというか、個性出た後につけたんじゃないかと思うくらいだ。

 今思い出せるのは自分の個性の使い方くらい。

 

「おや、上鳴君。目を覚ましたのかい」

 

 どうしたものかと悩んでいると、病室のドアが開いて白衣を着た若い男性が入ってきた。たぶん俺の主治医だろう。

 

「はい、たった今」

 

 それからMRIなどの検査をして俺の脳に異常がないことが確認できた。

 医者の先生から聞いた話では脳が焼き切れる寸前で二日間も眠っていたらしい。

 リカバリーガールっていうヒーローも治療してくれたらしいが、そもそもどうしてそんな重症な状況になったかはわからない。

 ちなみに俺はあの雄英高校のヒーロー科に所属しているらしい。

 やばいな。ビックリするくらい何も思い出せない。

 というか、先生があまりにも矢継早に話すもんだから記憶喪失のこと言い忘れた。というか、先生も脳の状態みたら気がつくと思うんだが……。

 明日には退院できるみたいだけど、どうしたものか。

 しょうがない。素直に記憶喪失のことを打ち明けて――

 そんなことを考えていると、病室のドアがノックする音が聞こえた。

 

「どうぞ」

「上鳴! 目を覚ましたの!?」

 

 俺が返事をした途端に凄まじい勢いでドアを開けて制服を着た一人の女の子が入ってきた。耳から垂れているイヤホンのようなものは彼女の個性だろうか。

 

「良かった……このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思った」

 

 女の子は心底安心したように目に涙を浮かべた。この様子だと、どうやら彼女は俺の知り合いらしい。早いとこ記憶がない事を告げないと。

 

「脳に後遺症が残るかもしれないって聞いてたけど、その様子なら大丈夫そうだね……」

「お、おう」

 

 記憶喪失を打ち明けようとしたが、心から安堵した様子の彼女に何も言えなくなってしまった。

 ここまで心配してくれているということは友達、もしくは彼女なのだろう。まいったな……本当のことを言った方がいいのだろうが、心の底から安心している彼女を悲しませるのは心苦しい。

 

「とりあえず、明日には退院出来るみてぇだから、明後日には学校に顔出せると思う」

 

 ひとまず、記憶喪失の件はごまかすことにした。

 

「そっか、良かった」

「あ、授業のノート写させてくんね?」

「あんた用に取ってあるから大丈夫だよ」

「女神かよ……!」

 

 何だこの子。寝たきりの俺のためにここまでしてくれるなんてどれだけ良い子なんだよ。

 

「大袈裟だって……こっちは命を助けられたんだからこのくらい当然だよ」

 

 マジか。俺、そんなことしてたのか。

 正直、こんな殺傷能力の高い個性で人を助けられたのなら、それはとても嬉しい事だ。

 

「そんな大したことしてねぇって。俺は自分にできることをやっただけだ」

「あのね。自分にできること以上をやったから、そうなったんでしょうが」

「……返す言葉もありません」

 

 少しばかりムッとした様子で怒る彼女はちょっと可愛かった。

 

「わかったらもう無茶しないでね」

「おう、気をつける」

「よろしい」

 

 俺の言葉に満足気に頷いた彼女は、何かを思い出したかのような表情になった。

 

「あ、そうだ。オールマイトが『上鳴少年が脳無を弱らせてくれたおかげで倒すことができた。ありがとう』って伝えといて言ってたよ」

「えっ、オールマイトが!? 何で!?」

 

 どうしてNo.1ヒーローのオールマイトが一学生の俺なんかにお礼なんて言うんだ? というか、この子もオールマイトの知り合いなの?

 

「ああ、そっか。あんたあの後気絶しちゃったもんね」

 

 それから彼女は俺が戦いの中で気絶した後に何があったかを話してくれた。

 

「そんなことがあったのか」

「ホント、信じられないよね。敵が雄英に侵入してくるなんてさ」

「だよなぁ……」

 

 俺としてはオールマイトが雄英の教師に就任してたってことの方が衝撃なんだけどな。

 それから、彼女とはいろいろと会話をしたが、ボロが出ないようにするのが大変だった。

 

「それじゃ、ウチは帰るね」

「おう、わざわざありがとな」

 

 彼女が病室を出るのと同時にドッと疲れが押し寄せてくる。結局、彼女の名前はわからなかった。

 ラインで確認しようにもクラスメイトらしき人から大量にメッセージが送られているのを見ると、誰が誰なのかさっぱりわからない。

 結局俺は、そのまま両親にも記憶のことをごまかしつつ退院した。

 自分の部屋に帰ると、何だか懐かしい気分になる。記憶はなくても体が覚えているという奴だろうか。

 置いてあるものはデッサン人形やパソコンに液晶タブレットとペンタブレット。それにアコースティックギターにエレキギターも置いてあった。どうやら俺は漫画を描くのと音楽が趣味だったらしい。

 机の引き出しを開けてみれば、そこには昔自分が描いたであろう作品がぎっしり詰まっていた。

 

「これが俺の描いた漫画か」

 

 絵は下手だったが、話が進むにつれて段々と線が整ってきて、最新まで来るとこいつ誰だよと言いたくなるレベルで上達していた。

 タイトルは〝僕のヒーローアカデミア〟。無個性だった主人公が憧れのヒーローから個性を受け継ぎ、最高のヒーローを目指すという少年漫画のような内容だ。

 しかし、個性を受け継ぐって何だよ、とつい思ってしまう。個性は発現するものであって受け継ぐなんてありえない。まあ、これは漫画だから無個性でヒーローに憧れる主人公が個性を受け継いで頑張るって方がゼロからのスタートって感じがして面白いと思ったのだろう。

 ヒロインは耳からイヤホンのようなものが伸びているって……これ思いっきりモデルあの子じゃん。もしかしたら、俺はあの子のことが好きだったのかもしれないな。

 それにしても、この漫画の中での学校は敵に襲われ過ぎだろというくらいに襲われている。

 しかも林間学校では生徒まで攫われる始末だ。漫画だからそういう展開の方が燃えるのだろうが、これが現実で起きたら一溜まりもないな。

 そんなことを思いつつ、自分の描いた漫画を引き出しにしまうと、携帯がなった。この音はラインだな。

 見てみると、耳郎響香という女の子からのメッセージだった。

 

《明日からちゃんと自分でノート取りなよ》

 

「ははっ、そっか……あの子か」

 

 俺のお見舞いに来てくれた子は耳郎響香というらしい。そっか、耳郎響香ね……苗字の読み方がわからないんだが。

 

《わかってるって》

 

 とりあえず、返信をして俺は彼女の名字の読み方をググることにしたのだった。

 




原作知識を失ったようで失っていない件。
ちなみに、記憶喪失といっても一般常識レベルのことなどは覚えています。日常生活を送るのにも問題はありません。


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8V 救え、救助訓練

まず初めに、たくさんのご意見ご感想いただきありがとうございます。
まさかここまでのことになるとは思っていなかったので、感想欄で対応しきれないということもあり、一応私の考えを述べさせていただきます。
もともと上鳴の個性は使いすぎると脳がショートする設定なので、限界以上に酷使すれば記憶に影響が出るだろうなと思っております。
現在の上鳴の状態としては、個性社会に関する恐怖は残っているが、原因がわからないという状態です。


 退院の翌日。

 俺は雄英高校の校内案内図の前にいた。

 

「1-Aってどこだよ……」

 

 退院明けに迷子とか絶対に記憶喪失がバレる。こんなことになるならあの耳郎って子と一緒に登校する約束くらいすればよかった。

 まあ、こういうことを想定して時間には余裕を持って登校してるし、案外体が覚えてたりするから大丈夫だろう……と、思っていた時期が俺にもありました。

 

「マジでどこだ、ここ」

 

 いけると思ったらまさかの迷子である。ああ、自分の直感ほど信じちゃいけないんだな。

 

「上鳴君! もう大丈夫なの!?」

 

 このまま教室にたどり着けないかもしれない、と途方に暮れていたら、何かぱっとしない見た目の男子生徒に話しかけられた。

 

「お、おう。この通りよ! 心配かけたな!」

 

 反応からして知り合いだろうから、それっぽく振舞う。すると、俺の言葉に安心したように彼は笑顔を浮かべた。

 

「元気になって良かったよ……それより、どこ行くの? 教室はこっちだけど」

「あー、何かボーッと歩いてたから教室通り過ぎちまった」

「えっ、本当に大丈夫!? まさか、個性の反動による後遺症とか……」

 

 凄いなこいつ。ほとんど正解だ。これだけ鋭いということは元々頭がいいか、よっぽど俺と仲が良かったということだな。

 

「は、はははー……心配し過ぎだって」

 

 とにかく、こいつだけには記憶喪失がバレないように細心の注意を払って行動しよう。

 

「それにしても、マスコミの数が凄かったね」

「だなー。やっぱ雄英が敵に襲撃されたとなりゃ格好のネタだもんな」

 

 正直、かなり早めに来たせいでマスコミが殺到している様子は見受けられなかったが、適当に話を合わせておく。

 

「あの脳無って敵、とんでもない強さだった」

「ああ、対オールマイトとして連れてこられたみたいだったからな。つか、個性複数持ちとかチートもいいとこだよな」

 

 耳郎から話を聞いた脳無という敵。俺が凄まじい電撃で倒したらしいが、俺が記憶喪失になるくらいの電圧で放った一撃でも完全な戦闘不能にはできなかったのだ。これをチートと呼ばずしてなんと呼ぶのか。

 

「でも、その脳無を一時的にでも戦闘不能にした上鳴君は凄いよ」

「その反動で入院してりゃ世話ないって。あの後、敵が残ってるのに俺が倒れたせいで耳郎達には迷惑かけたみたいだし」

 

 倒れ伏す俺を耳郎と緑谷という生徒が守り、八百万という女子生徒が俺を避難させてくれたらしい。どんな強敵を倒したとしてもそこで終わりじゃないのだ。自分に対してこんなことを言うのもなんがだ、記憶を失う前の俺は浅はかだったという他ない。

 

「だから、もうこんな無茶はしねぇ」

 

 少なくとも助ける側が助けられる側に回ることのないようにしなければならない。状況が許してくれるのならば、だけどな。

 

「上鳴君……うん、僕も気をつけるよ」

 

 俺の決意を聞いて思うところがあったのか、彼も決意をしたかのように頷いた。

 そうこうしているうちにA組の教室に辿り着いた。

 今までのラインの履歴を振り返り、俺がみんなにどういう感じで接していたかは予習済みだ。ここは元気良くいくぞ!

 

「うぃーっす! みんな待たせたな! 上鳴電気、完全復活だぜ!」

「上鳴だ!」

「上鳴が帰ってきたぁぁぁ!」

「もう体は大丈夫なのかい!?」

「もう平気なの上鳴ちゃん?」

「おめぇ、相澤先生を助けるために飛び出したんだってな! 男らしいぜ!」

 

 教室に入った途端、クラスメイト達が一斉に駆け寄ってくる。このクラス、勢い凄いな。

 

「おいおい、俺は聖徳太子じゃねぇっての。順番に来てくれって」

「脳に後遺症が残るかもと聞いておりましたけど……」

 

 俺の言葉にポニーテールの女子生徒が律義に手を上げて質問をしてくる。

 

「あー……それなんだけど」

 

 一番聞きづらいけど、みんなが気になっていることを代表して聞いてきた感じか。もちろん、答えは決まっている。

 

「実は大分アホになっちまったみたいでさぁ……入学してから勉強した授業の内容忘れちまった」

「いや、それはあんたが聞いてなかっただけでしょ」

 

 俺が用意していた言い訳に対して、耳郎が呆れたようにツッコミを入れてくる。

 

「えっ、何でバレたんだ!」

「いやいや、あんた普段からノートに落書きばっかしてんじゃん……」

 

 確かに今までのノートを見返したら落書きだらけだった。耳郎が知ってるってことは席が近いのか。ていうか、自分の席がわからないから先生が入ってくるギリギリまで座れないな。

 

「……何かいつもの上鳴って感じだね」

 

 良かった。ちゃんと俺は自分を演じられているようだ。これならクラスのみんなにバレることはないだろう。

 

「むむっ、もうこんな時間か。みんな! 上鳴君の体調は気になるが、朝のホームルームが始まる。席につけ!」

 

 委員長気質な眼鏡の男子生徒の掛け声と共にみんなが席に着く。俺はみんなが席に着いてから余った席に座った。やっぱり耳郎の隣の席だったようだ。

 クラスのみんなが席に着くのとほぼ同時に担任である相澤先生が教室に入ってきた。

 

「おはよう」

「相澤先生復帰早ぇぇぇ!」

「プロ過ぎる!」

 

 包帯ぐるぐる巻き状態で出勤してきた相澤先生にみんな驚きの声をあげる。

 

「先生、無事だったのですね!」

「無事言うんかなぁアレ……」

「あんなことがあったばかりだが、時間は有限だ。今日から通常のカリキュラム通りヒーロー基礎学を行う」

 

 通常のカリキュラム通りというより、四日間遅れていた分を取り返すためにという感じだろうな。

 

「今回は前回できなかったUSJでのレスキュー訓練を行う。全員、ホームルームが終わり次第着替えてバスに乗り込むように」

 

 ホームルームが終わると、みんな更衣室でコスチュームに着替えて順番にバスへと乗り込む。

 

「上鳴」

 

 みんなに続いてバスに乗り込もうとしていたら、相澤先生に呼び止められた。

 

「すまん……本来守る立場であるお前に助けられ、危険に晒してしまった」

「先生、そこはありがとうって言ってくださいよ……俺だってあんな無茶はこれっきりにします。人を助けるなら最後まで自分は無事でないといけませんから」

 

 俺が耳郎から聞かされた情報を頼りにそう答えると、相澤先生は包帯越しからもわかるくらいに目を見開いた。

 

「耳が痛い話だな……助けてくれてありがとうな、ヒーロー」

 

 相澤先生にそう言われて胸が熱くなる。

 俺には相澤先生を助けるために飛び出した記憶はない。

 それでも、その時の俺が飛び出して良かったと思えた。

 今回は実力不足で自分が大怪我を負う羽目になってしまった。

 だけど、人を救うために動いたこと自体は間違ってはいないのだ。

 

「先生、俺頑張ります!」

 

 俺は意気揚々とバスへと乗り込んだ。

 USJに着くと、宇宙服のとうなコスチュームに身を包んだヒーローが待っていた。あれはスペースヒーロー13号だな。

 

「まあ、あんなことがあったけど授業は授業。というわけで、救助訓練。しっかり行っていきましょう」

「13号先生、もう動いて大丈夫なんですか?」

 

 ピンクのパツパツコスチュームに身を包んだ丸顔の女子が13号先生の容体を心配する。あのコスチュームなんかエロイな。一番エロイのは八百万のコスチュームだけど。

 

「ちょっと背中が捲れただけさ。先輩に比べたら大したことじゃないよ」

 

 13号先生は彼女の心配に笑って答えるが、ちょっとでも背中が捲れるのはとんでもないことだと思うのだが。

 

「授業を行えるのなら何でもいい。とにかく早く始めるぞ、時間がもったいない」

 

 このままだと無駄に会話が続きそうだと思ったのか、相澤先生は和やかな空気を打ち切るように救難施設へと向かった。

 

「ではまずは山岳救助の訓練です。訓練想定としまして登山客三名が誤ってこの谷底へ滑落。一名は頭を激しく打ち付け意識不明、もう二名は足を骨折し、動けず救助要請という形です」

 

 山岳ゾーンに来た俺達は13号先生から訓練の内容を聞いていた。

 

「じゃ、怪我人役はランダムで決めたこの三人」

 

 怪我人役は俺、峰田、耳郎の三人組。救助に駆け付けたのヒーロー役が芦戸、八百万、爆豪、切島の四人組に決まった。

 一先ず俺達三人は崖の下に移動して、救助を待つことにした。

 

「意識不明役って寝てればいいのか?」

「いや、目を閉じてじっとしてればいいんじゃないの」

 

 しかし、最近まで意識不明で入院していた俺が意識不明役とはこれいかに。

 

「救助されるに当たって胸および臀部にやむを得ず触れてしまった場合、それは罪に当たるのか否か……!」

「クズかよ」

 

 耳郎が小柄な男子、峰田に向かってゴミを見るような視線を向ける。

 

「お前に限ってはアウトだと思うぞ……なあ、耳郎。俺でもアウトかな?」

「アウトだよ! 意識不明なんだからおとなしく寝てろ!」

「のわぁぁぁ!?」

 

 俺は耳郎からイヤホンジャックを通して爆音を叩きこまれた。解せぬ。

 

「皆さん、安心してください! 今すぐ向かいます!」

 

 そんなやりとりをしていたら崖の上から八百万の呼びかけが聞こえてきた。訓練なのに、しっかりと本番さながらに行動するその姿は本当に立派だと思う。

 

「助かった、ありがとう!」

 

 耳郎も要救護者を想定してそれに答える。

 

「頼む! ヤオロヨッパイ降りて来てくれ!」

「クズかよ」

 

 峰田は……うん、ブレないのも才能の内だよな。

 ちなみに、降りてきたのは芦戸だった。それでも峰田は嬉しそうにしてたけど。

 

「そんじゃ、意識不明の上鳴から引き揚げるよ」

 

 出来るだけ体の力を抜いて意識不明の重症者を装う。芦戸は俺を担架に乗せて、爆豪と切島、八百万が俺を引き上げてくれる。

 

「……どうしましたの上鳴さん?」

「耳郎にやられた」

 

 まだ頭がガンガンする。まあ、あれも女の子の心音って思うと悪く……やっぱ悪いわ。

 

「一体、何を言ったんですの……」

 

 八百万はゲンナリしている俺に少し呆れていた。

 そのまま滞りなく訓練は進み、次は倒壊ゾーンに行くことになった。

 

 

 

「この倒壊ゾーンでの訓練想定では震災直後の都市部。被災者の数や位置が何もわからない状態でなるべく多くを助ける訓練です。八分の制限時間を設定し、これまた四人組での救助活動を行います。残りの十六名は各々好きな場所に隠れて救助を待つこと。ただし、その内八名は声を出せない状態と仮定します」

 

 倒壊ゾーンにやってきた俺達は13号先生から訓練の内容を聞いていた。要するに、かくれんぼというわけだ。

 俺は救助側で声を出してはいけないから、どこか建物の中にでも隠れるとするか。

 

「ありゃ轟」

「……上鳴」

 

 適当な建物の中に入ったのだが、既に先役がいた。

 

「悪ぃ、俺別のとこ行くわ」

「いや、いい。俺がどく」

 

 短くそう告げると、轟はどこかへ行ってしまった。あいつ、無口だな。クールというか、ドライというか……。

 まあ、記憶喪失を隠したい俺としてはそれがありがたいんだけども。

 

「はぁ……」

 

 つい耳郎を悲しませたくなくて記憶喪失のことをごまかしてしまったが、今後も記憶が戻らないままだったらどうしようという不安が頭をよぎる。

 

「何て顔だ。ヒーローなら常に笑顔を忘れちゃいけないなぁ」

「っ、何だ!?」

 

 近くの瓦礫が爆ぜ、筋骨隆々のマスク男が現れた。

 

「四日ぶりに暴れるとするか!」

 

 四日ぶりっていうと、丁度USJの襲撃があった時だ。ということは、こいつ潜伏してた敵か!

 

「くっ」

 

 すぐに全身の末梢神経に電気を流す。病み上がりで調子は出ないが、そんなことを言っている場合ではない。

 ここは逃げの一手に限る。

 

「おっと、逃がさないぞ」

「くっ、速ぇ」

 

 俺の反射速度を上回るなんてとんでもない奴だ。

 

「悪くない判断力だが、この俺から逃げることなんてできやしねぇさ!」

 

 あれ何かこの声聞いたことあるような気がするぞ。くぐもっているが、もしや……。

 俺はすぐさま敵の体内に流れる電気を感知してみる。

 驚いたことに敵の体内には激流のように電気が迸っている。大抵の場合、増強系の個性が肉体を強化している時は体内の電気が活発に駆け巡る。これだけの電気が常に神経や筋肉を刺激している状態なのは、はっきり言って異常だ。

 そして、そんなとんでもない増強系の個性と思わしき人物は俺の知る限り、一人しかいない。

 

「もしかして……オールマイト?」

「HAHAHA! まさかバレるとは思ってなかったぞ! 凄いな上鳴少年!」

 

 俺の言葉を肯定するようにアメリカンな笑い方をしてオールマイトがマスクを外す。

 

「どの道、協力はしてもらおうと思っていたんだが、どうしてわかったんだい?」

「いや、何つーか、増強系特有の体内を駆け巡る電気の量が規格外だったってのと、声ですかね」

 

 というか、敵の襲撃があったばっかりなのに何してんだこのヒーローは。

 

「……なるほど、私の体の中はそうなっていたのか」

 

 俺の言葉をオールマイトは興味深そうに頷いていた。

 

「オールマイト、個性解かないんすか?」

「えっ!?」

「いや、だってまだ体ん中凄い電気駆け巡ってるし、個性かけ続けるのキツくないっすか?」

 

 特に増強系の個性は使えば使う程体に負荷がかかる。緑谷がその良い例だろう。

 

「HAHAHA! まだこれからが本番だからね! さっきも言ったが協力して欲しいんだ」

 

 オールマイトはアメリカンな笑みを零すと、俺の質問をはぐらかした。

 

「というと?」

 

 オールマイトの意図を尋ねると、オールマイトは神妙な面持ちで語った。

 

「君達生徒は先の事件を何千、何万分の一で起こった事故だと思っている。しかしそうではない。ヒーローには絶えず危険が付き纏う、そのことを自覚して欲しくてね」

「ヒーローはいつだって命懸け、ですか」

「ああ、正直全員にサプライズといきたかったが、君は先の事件で重傷を負った身だ。無茶はできないと思ってね」

 

 重症なら緑谷もだと思うが、あいつの場合リカバリーガールの治癒で十分だったから、大丈夫だと判断したのだろう。

 

「わかりました。とりあえず、気絶した振りでいいすか?」

「ありがとう、上鳴少年!」

 

 こうしてどう考えても後で袋叩きに合いそうなオールマイトのサプライズが始まった。

 そして案の定――

 

『やり過ぎなんだよ、オールマイト!!』

 

 そして案の定、峰田のもぎもぎを利用したとりもちにくっついた状態でオールマイトは袋叩きに合っていた。

 お、俺も巻き込まれない内に逃げよう。

 

「てめぇもこのクソサプライズ共犯か!」

 

 残念。爆豪に見つかってしまった!

 

「わ、悪かったって! しょうがねぇじゃん、オールマイトの頼みだったんだからさぁ!」

「洒落になってないっての……」

「まったくですわ」

 

 耳郎と八百万も不機嫌そうにこちらに詰め寄ってくる。何かめっちゃ怒ってるんだけど!

 

「い、いや、ほら、ヒーローは常に命懸けって言うし、な? なあ、何か言ってくれよ緑谷!」

「えっ」

 

 緑谷は驚いた顔でこちらを見ると、唖然としたように立ち尽くしていた。ちょっと、何か言ってくれって!

 

「サ、サラダバー!」

『待てぇぇぇ!』

 

 こうしてかくれんぼから一転、地獄の鬼ごっこが始まったのだった。

 




これからも私は自分の書きたいものを好きに書いていくので、応援してくださる方はよろしくお願い致します!


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9V 上鳴電気のスタートライン

ヒロアカ映画二週目行ってきましたが最高でしたね。
やっぱり劇場だと爆発音やスマッシュ後の炸裂音がいいですね。

結構ツッコミがあったので、一応検査とかは描写してないだけで耳郎ちゃんが帰った後にしてます。描写不足で申し訳ございません。
ちょっと目を覚ました後の話も近いうちに修正します。
 →耳郎ちゃんが来る前の方が違和感なかったので、先生が来る描写は追加しました。


 地獄の鬼ごっこが終わり、放課後。

 鬼達に袋叩きにされた俺は保健室へと向かっていた。

 別に怪我をしたわけではない。ただ俺の治癒をしてくれたお礼をリカバリーガールに言いに行こうと思っていたのだ。

 

「失礼します」

「おや、上鳴じゃないか。もう体の具合はいいのかい?」

 

 保健室に入った途端に白衣を着たお婆さんにそう声をかけられた。リカバリー……ガール?

 

「え、ええ、おかげ様で」

「そうかい。正直、脳が焼き切れかけていると聞かされた時は肝を冷やしたが、医者の腕が相当良かったんだろうね。あたしの施した治癒なんてちょっとだけで済んだからね。その後不自由はないかい?」

「この通り、ピンピンしてますよ」

 

 体は問題ない。問題は記憶の方だ。話から察するに俺は許容量以上の放電をした影響で記憶喪失になった。人の顔や名前は忘れたが、日常生活を送る上での知識などは問題ない。自分の個性に関する記憶もあるしな。

 

「もうあんな無茶はしちゃいけないよ。緑谷の腕や指もそうだが、激しい損傷を受けてから治すと、体がバカになっちまうからね」

「バカに……」

 

 言ってみれば、一度アゴを壊されたボクサーはアゴにパンチを受けると脳震盪を起こしやすくなる、みたいな感じだろうか。

 

「何かあったらすぐに言うんだよ」

「はい、ありがとうございます」

 

 俺はリカバリーガールに頭を下げると保健室を後にした。

 とりあえずは個性の確認だ。末梢神経に電気を流すのは問題ないことはオールマイトの時にわかった。

 問題は放電の方だ。

 雄英高校は訓練施設がいくつもある。当然、申請を上げなければ使えるものではないが、申請は既に通っている。

 相澤先生には後遺症の確認のための個性使用目的ということで申請している。

 

「遅いぞ、上鳴」

「すんません、ちょっとリカバリーガールんとこ行ってました」

 

 他と比べると比較的小規模な訓練場では既に相澤先生が待っていた。コスチュームに着替えた俺は一応時間ピッタリに着いたのだが、やっぱりこういう時は五分前行動するべきだったな。

 

「時間は有限だ。後遺症の確認のためと言っていたが、あれからお前は個性使ったのか?」

「全身の末梢神経に電気を流す位は問題なかったです」

「そうか。じゃあ一通りやってみろ」

 

 それから俺は筋力強化に、コイルガン、レールガンを試してみたが、一通り問題なく使うことができた。

 

「何か一通り問題なさそうっすね」

「次は〝放電〟だ」

「こ、こんだけ使えるんなら……」

「全部確認しなきゃ意味ないだろ」

 

 有無を言わさずに相澤先生は俺に放電を使うように促す。何か使うのに抵抗があるんだよなぁ……まあ、やるだけやってみるか。

 

『脳に後遺症が残るかもしれないって聞いてたけど、その様子なら大丈夫そうだね……』

 

 個性を発動させようとした瞬間、耳郎の言葉が頭を過る。

 

「〝無差別放電10ま――っ!〟」

 

 そして電気を全身に纏った瞬間、全身を悪寒が駆け巡る。何だこれ。怖い、怖い、怖い、怖い、怖い!

 心臓を鷲掴みにされるような感覚からつい個性の使用を解いてしまう。

 

「……あ、あちゃー、ちょい調整ミスっちゃいました!」

 

 心の中から沸いてきた恐怖をかき消すようにおどけて笑う。だが、声も足も俺の意志に反するように震えていた。

 何故、放電ができなかったか。

 理由は自分でもわかっていた。

 怖いのだ。

 また記憶を失うんじゃないか。

 自分が自分じゃなくなるようで、自分の居場所がなくなるようで。

 

「トラウマ……いや、元々か。上鳴、お前自分の個性が怖いんだろ」

 

 そんな俺の内心を見抜くように相澤先生が告げる。

 

「元々お前は個性の制御だけで言えばプロでもやっていける精度だった。それもセンスとは違う、必死こいて手にしたものだ。ガキの頃からそんだけの修練を積む奴はヒーローに強く憧れる奴か、自分の個性に怯えている奴くらいだ」

 

 そしてお前は後者だろ、と先生は続けた。

 

「電気を操る個性でお前くらいの奴はいくらでもいる。だが、電気を纏うだけの個性でここまでできる奴はそういない」

「電気を纏う、だけ?」

 

 電気を纏うだけ。相澤先生は大したことがないというつもりで言っていないことはわかっている。だけど電気を纏う〝だけ〟なんて簡単に言わないでほしい。

 この個性がどれだけ危険な物か、わかっていないからそんなことが言えるのだ。

 目を覚ました時からずっと思っていた。

 俺はこの個性社会が怖い。ずっと個性社会の中で暮らしてきたのにも関わらず、この社会が怖いのだ。

 原因はわからない。でも、話に聞いた幼い時に落雷を浴びたからだけではないことは確かなのだ。

 

「上鳴?」

「ふざけないでくださいよ……!」

 

 だから、相澤先生の何とも思っていないような淡々としたその言葉に俺は頭に血が上ってしまった。

 

「自由に操れるならまだ良かった! 操れれば〝電気〟にここまで恐怖しなかった! でも、俺の個性は自由が効かないんですよ! 爆弾を投げるのと、体に巻きつけるのじゃ訳が違う! たとえ自分が電気に耐性を持っていようが怖いものは怖いんですよ!」

 

 きっと怖かったから記憶を失う前の俺は纏う方向でどれだけできるか、とことん試したのだろう。

 末梢神経に電気を纏い、筋肉に電気を纏い、さらには纏い方を変えて電磁石の要領でコイルガンやレールガンを編み出した。

 何がきっかけでここまで自分の個性にここまで恐怖を抱くようになったかはわからない。自分のだけじゃない。俺は〝個性〟そのものが怖い。きっとヒーローを目指しているのもこんな爆弾を抱えたまま、守られる側にいるのが怖かったからだ。

 

「……それがお前の本音か」

 

 相澤先生は短くそう呟くと、目を見開いた。

 

「荒療治にはなるが……思いっきり放電してみろ。安心しろ、お前の個性は発動直前に俺が消してやる。万が一に備えて絶縁シートも用意してある」

「……できません」

 

 また記憶を失ったら。そう思うと脳に一番負荷のかかる放電をするのがどうしても怖かった。

 

「上鳴、俺を信じろ。俺を誰だと思ってるんだ。俺は――プロヒーロー〝イレイザーヘッド〟だ」

 

 ヒーローであることを前面に出してこない相澤先生らしくない言葉に息を呑む。

 イレイザーヘッド。個性である抹消を用いて見た物の個性を消すことが出来るアングラ系ヒーロー。この個性社会の中でその個性がどれだけ強力なものかは想像に難くない。

 

「――――っ」

 

 別に相澤先生は個性を発動させてないのに、彼の目を見た瞬間に体の震えが止まる。

 初めてだった。

 個性に怯えたことはあっても、個性に安心したことはなかった。

 

「いきます……しっかり消してくださいよ!」

「ああ……!」

「〝無差別放電――〟」

 

 全身の毛がゾワリと沸き立つのを感じる。問題はこの後だ。

 

「〝――500万V!!!〟」

 

 許容上限での放電。だが、電気が出ることはない。発動の直前、相澤先生が個性を消してくれたからだろう。

 

「どうだ。感覚としては?」

「こんだけ力んでも放電できないなんて凄い違和感です」

「だろうな」

 

 放電できるのが普通というのもどうかと思うが、個性とはそういうものなのだということを初めて実感したかもしれない。

 俺は思い違いをしたのだ。

 怖いから制御していたんじゃない。

 怖いから抑圧をしていたんだ。

 きっと本当に制御したいのなら、受け入れなければいけないのだ。

 俺は相澤先生に感謝をしながら、個性の発動を続ける。この個性を出そうとしているのに出ない違和感というものが新鮮だったからだ。

 

「あっ、目がかゆい」

 

 しかし、何を血迷ったか、相澤先生は絶縁シートをかぶって目を瞑った。そんな急に〝抹消〟の個性を止められたらどうなるか。

 

「ちょぉぉぉ!? 何してんですかぁぁぁぁぁ!」

 

 ――BZZZZZZZT!!!

 

 当然こうなる。

 想像以上に力んでいたのか。俺の放った絶好調の放電が当たりを黒焦げにした。

 

「ふっ……どうやら後遺症も問題ないようだな」

「脳に後遺症あるかもしんない生徒に全開で放電させるとか、あんた鬼か!」

「安心しろ、症状は医者から聞いてた。脳に異常はなく、許容量以上の電圧を放たなければ大丈夫ともな」

 

 マジか。この人マジか。いや、確かに俺も医者から聞いて検査の後も問題ないとは言われていたけども!

 このもどかしい感情をどうしてくれようか。

 

「先生、せめて一発殴らせてください! 今の俺にはその権利があるはず……!」

「やれるもんなら、やってみろ」

 

 相澤先生は不敵に笑うと、捕縛布を構えた。

 

「いっくぜぇぇぇ!」

 

 全身の筋肉を電気で刺激して強化する。さらに全身に電気を纏い、末梢神経にも電気を流して近接戦闘に特化した状態にする。

 もはや個性の使用にためらいはない。

 そのまま先生に向かって走ろうとした瞬間、体の力が抜けた……はりゃ?

 

「ああそうだ。脳はショートしやすくなってるみたいだから気をつけろよ」

「ウェーイ?」

 

 それから俺は訓練施設の借用時間いっぱいまでアホになっていたらしい。

 俺がアホから立ち直ると、相澤先生は訓練施設使用者の後が閊えているとだけ言うと、すたすた職員室に向かって歩き出した。

 俺は職員室へと向かう相澤先生に気になっていたことを聞いてみることにした。

 

「あの、今更こんなこと聞くのも何なんすけど……俺一人に肩入れすんのまずくないすか?」

 

 特に相澤先生はこういうことを気にするタイプだ。全員に平等に接する。そういう対応だと思っていたのだが。

 

「お前の気にすることじゃない。元はといえば俺の不甲斐なさが招いた事態だ。後遺症の確認と聞かされて俺が確認しない道理はない」

 

 どうやら相澤先生なりの責任の取り方の一環だったらしい。

 

「それでも、俺を救けてくれてありがとうございます――イレイザーヘッド」

「ああ……」

 

 俺は相澤先生にお礼を言うと、帰路に着いた。

 結局のところ、記憶を失う前のように放電が使えるようになっただけで、特に変わったわけではない。アホにはなりやすくなったけど。

 それでも、一つだけ変わったことがある。

 俺は個性が怖いから、社会が怖いから、強くなるためにヒーローを目指していた。

 でも、これからは自分と同じように恐怖や不安を抱いている人に安心してもらえるような人間になりたいと思えた。

 俺はヒーローになる。

 どんな時だって人々を安心させ恐怖から救う、そんなヒーローになるんだ。

 




たぶん、今回の話の中の違和感に気が付く人は結構いると思います。


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10V 原作知識の行方

上耳成分が足りない……足りない……早く補給しなきゃ……

※注意、今回からオリキャラが登場します。
一応、今後も職場体験などでオリキャラが出る場面がありますが、そこまでたくさん出すつもりはありません。


 雄英高校ヒーロー科

 1年A組担任

 相澤様

 いつも大変お世話になっております。

 傑英大学付属病院脳神経外科の藪井と申します。

 先日は御校の上鳴電気様の退院、誠におめでとうございます。

 近々雄英高校では雄英体育祭を催されると聞き及びました。

 つきましては、私を出張医として体育祭に参加させていただけないでしょうか?

 上鳴様は検査の結果、脳に異常は見られませんでしたが、以前よりも個性の反動で脳がショートしやすくなっております。

 No.1ヒーローオールマイトに匹敵する強さを持つ脳無に向かって飛び出していったことから、今回も彼が無茶をしないとは限りません。

 この度の治療では奇跡的に日常生活に異常がない程に回復することができましたが、また許容以上の放電をすれば今度こそ命に関わる事態となります。

 先日の敵連合襲撃の件もあり、厳戒態勢の雄英に部外者を招き入れるのは大変厳しいと思われます。

 しかし、医者として優秀なヒーローの卵である上鳴様をこのままの状態で雄英体育祭に参加させ、私自身が何もできないというのは主治医として大変心苦しく思います。

 何卒、宜しくお願い致します。

 

 

 

「はぁ、こんなんでいいか。日本のメールは格式張って面倒臭いったらありゃしない……おっと、そろそろ連絡しなきゃな……はぁ……」

 

 すっかり日も落ち、暗くなった病院内で白衣を着た医者が携帯を手にどこかへと電話している。

 彼の名は藪井聖哉(やぶいせいや)。上鳴電気の主治医だった男である。

 

「お世話になっております、藪井です。こちら大流(おおながれ)さんの番号で間違いないでしょうか?」

『ああ、間違いない。連絡待っていたよ』

 

 それからしばらくの間を置いて電話の相手、大流は何かの準備を終えたと言わんばかりに話し始めた。

 

『さて、もう大丈夫だ。結果を聞こうか』

「簡潔に言うと、損傷が酷く彼の記憶は抽出できない状態になっていました」

 

 藪井は上鳴電気の脳の状態を思い出す。

 上鳴の脳は焼き切れる寸前だった。普通ならばそのまま死ぬか、まともな日常生活を送れなくなる。

 さらに言えば、上鳴は許容上限を超えた個性の使用をしたとあったが、実際はそんな生易しいものではない。彼は最後の最後で調整をしくじり、自分が思っていた以上の電圧で放電してしまったのだ。

 

「本当に生きているのが不思議な状態でした。雄英側には〝個性で治した後の状態にした後〟で『奇跡的に脳自体に損傷はまったくなかった』と伝えていますよ。きちんと彼の脳を診られる前に入れ替われて良かったです」

 

 雄英高校には医者の処置に加えてリカバリーガールの治癒によって完全回復したのと、目を覚ました後のMRI検査でも問題はなかったと伝えてある。

 

『修復の個性を使ってもダメだったのかい? かなり質の良い物を渡したはずけど』

「人間を巻き戻す個性ならまだしも、壊れたものを直すだけの個性じゃ無理ですね」

 

 激しい電撃によって壊れてしまった記憶は個性でも治せるものではなかった。上鳴にとって幸いだったのは壊れた記憶がエピソード記憶のみだったということだろう。そう壊れた記憶は、だ。

 

『それは残念だ。私としては彼が脳無を何故〝急造の怪人〟と呼び、個性を複数持っていることに動揺しなかったのか知りたかったのだがね……』

 

 電話口の向こうで男は心底残念そうに嘆く。

 

「まだ手はありますよ。彼の脳は個性の性質上、特殊な構造をしています。そのため、記憶は抽出できない程に破壊されていますが、修復不可能というわけでもありません。今回の修復で一部の復旧はできました」

 

 それでも、読み取りは不可ですが、と藪井は続ける。

 

「あとは彼が思い出すか否か」

『それは楽しみだ。是非とも彼には記憶を取り戻してもらわないといけないねぇ。じゃあ、引き続き頼むよ〝ブラックジャック〟』

 

 まるで笑いながら話すように電話口から楽しそうな声が漏れる。

 

「やだなぁ……今の僕は藪井聖哉ですよ」

 

 そう言うと、藪井――ブラックジャックは電話を切った。

 

「しかし上鳴君はうまくやれるかねぇ……くくっ、記憶喪失を隠すのはきっと辛いだろうなぁ」

 

 ブラックジャックは苦悩する上鳴の様子を思い浮かべて笑みを浮かべた。

 彼は耳郎響香が上鳴が目を覚ます前からお見舞いに来ていたのを知っていた。

 そんな彼女に上鳴が記憶のことを話すか否か。それを聞いてから学校側への連絡を考えていたのだ。

 

「ま、記憶の抽出失敗とか嘘なんですけどね」

 

 そういうと、ブラックジャックは光る掌を見ながら嫌らしい笑みを浮かべた。

 

「〝僕のヒーローアカデミア〟かぁ……こんな面白いもん、途中退場する人には教えるわけないもんな。さてさて、原作では出てきてない僕はどうしようかねぇ」

 

『ブラックジャック。個性:記憶奪取。触れた人間の記憶を奪い取って自分の物にすることができるぞ! 記憶を全て抜き取ると相手は廃人になっちまう超怖い個性だ! 逆に相手に記憶を渡すこともできる。ただし、一度に大量の記憶を抜き取ると自分の脳にも負荷がかかるから注意が必要だ』

 

 彼は敵専門の医者として彼は海外を渡り歩き、海外の敵の間では有名である。現在は活動拠点を日本へと移している。

 彼の医療に関する知識は豊富だが、それは相手の記憶を抜き取って自分のものにするという個性〝記憶奪取〟によるものだ。

 しかも、エピソード記憶だけでなく経験や知識なども奪い取れるため、彼に医者としての人生を狂わされた名医は多い。

 何故、彼が顔や名前を変えて正規の病院に潜入しているかと言うと、裏社会で有名な大物敵に雇われたからである。

 ブラックジャックが渡された個性は〝整形〟と〝修復〟だ。治癒は持ち合わせがなかったため、もらうことはできなかったのだ。

 

「夜勤って怠いなぁ……日本の労働環境マジでブラックだな。面倒臭い」

 

 そしてブラックジャックの潜入の際、一人の脳外科医が犠牲になったのは言うまでもないことだろう。




前回の違和感はリカバリーガールと相澤先生の上鳴の症状に対する認識です。
これからはちょくちょく〝原作知識〟を巡る展開も挟まっていきますので、途中から原作沿いを離れると思います。


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11V 体育祭に向けて

しまったな、やぶさん体育祭終わってから出せばよかったかもしれない……やっぱ展開早すぎましたかね?


 雄英体育祭が迫っている。

 雄英体育祭とは雄英高校――いや日本の中でもビッグイベントの一つで、かつてのオリンピックに代わる物だ。

 全国から多数のプロヒーローも見にくるこのビッグイベントは、俺達ヒーローの卵にとってはまたとないチャンスでもある。

 本格的にヒーローを目指すことにした以上、俺も頑張らなくてはいけない。

 当然、やることは決まっている。

 

「マックいかね?」

「体育祭が迫ってるのに悠長過ぎないかな?」

 

 緑谷と個性に関する話をする。これが勝利への近道だ。

 

「お前なら個性の活用方法思いつくだろ。緑谷は俺というライバルの個性の詳細情報が知れる。俺は個性の活用方法を知れる。winwinじゃねぇか」

「――……うん、それは確かにそうだけど。そうなのかなぁ……」

 

 緑谷は俺の言葉を聞いて考え込むと、悩ましげに首を傾げた。

 

「ちなみに、今日は三十分だけ訓練場の使用許可が取れてるぞ」

「行くよ!」

 

 この時期になるとたくさんの生徒が訓練場の使用許可を取ろうとするため、なかなか許可を取ることはできないが、今日はたまたまキャンセルした生徒がいたらしく、うまいこと許可が取れたのだ。

 

「あ、ウチも行っていい?」

「もちのろんだぜ!」

 

 耳郎なら大歓迎だ。お礼もまだ出来てなかったし、訓練後のマックで奢るのも辞さない。

 

「あっ、俺も――」

「悪いな瀬呂。この訓練場は三人用なんだ」

「嘘つけ! めちゃくちゃ広いだろうが!」

 

 便乗しようとした瀬呂をばっさりと切り捨てる。いや、別に来てもいいんだけどな。

 

「嘘だよ。せっかくだし一緒に特訓しようぜ」

「ったく、俺の扱い酷くないか?」

「俺程じゃないから安心しろって」

 

 ここ数日でわかったが、俺のクラスでの扱い酷さはなかなかのものだ。まあ、お調子者キャラで行ってるからいいんだけども。

 

「それじゃ、コスチュームに着替えて現地集合で!」

 

 こうして俺、緑谷、耳郎、瀬呂の特訓が始まった。

 

「卵が爆発しない……爆発しない……爆発しない……しない、しない!」

 

 緑谷はひたすら目を瞑ってイメージを反芻してデコピンを繰り返している。

 どうやら個性の調整が難しいから、その特訓をしているようだ。

 

「頭だけ纏わない……頭だけ纏わない……纏わ、ない!」

 

 俺は部分的に電気を纏う特訓をしている。放電は範囲攻撃に使えるが、消耗が激しい上に威力が分散するので効率的ではない。

 まずは首から下だけに電気を纏う練習だ。

 

「あんたら、何か怖いんだけど……」

「執念染みたものを感じるな」

 

 耳郎はイヤホンジャックで瀬呂をいろんな方向から攻撃し、瀬呂はテープを壁にくっつけたりして機動力を高めて躱している。

 

「しょうがねぇだろ。俺も緑谷も個性の調整難いんだから」

「うん? うん、そうだね」

 

 耳郎は俺の言葉に何か引っかかりを覚えたように首を傾げた後、頷く。俺、そんな変なこと言ったか?

 

「僕もまだうまく個性の調整ができないから、こうしてイメージを反芻しないとまた体が壊れちゃうんだ」

「俺も脳がショートしやすくなっちまったから、出来るだけ頭には纏わないようにしてんだよ」

 

 ちなみにパワーローダー先生のところで脳にかかる負荷を減らすサポートアイテムを依頼したのだが、体育祭ではヒーロー科は公平を期すためにサポートアイテムは使えない。

 俺の後遺症も以前よりアホになりやすくなっただけで命に関わるような後遺症ではないため、サポートアイテムの申請は通らないだろう。

 

「やっぱりUSJの後の後遺症が……」

 

 耳郎は俺の言葉にまた不安そうな表情を浮かべる。やめてくれ、その表情は俺に効く……。

 

「いや、元々俺の個性はある程度放電すれば脳に負荷がかかってショートするんだよ。USJの時はそれすらすっ飛ばして、脳味噌焼き切れる寸前までの放電をしたからぶっ倒れたってだけだ」

 

 言ってみれば今回の後遺症はMPの上限がちょっと減ったようなものだ。威力の高い電撃程、消費するMPは高いから、使えばアホにもなりやすい。

 だが、MPの上限値が伸ばせなくなったわけではない。無茶をせずに堅実に鍛えていけば、また許容上限は上がっていくらしい。

 今回アホになりやすくなったのは急激に壊れた箇所を治した影響らしいから、今後は気をつけなくてはいけない。

 まあ、せっかく鍛えていた許容上限が減ったのは痛いけどな。

 

「じゃあ、脳がショートしたらどうなるんだ?」

 

 瀬呂が気になっていたのか、ショートした後にどうなるかを聞いてくる。

 

「アホになる」

「アホに」

「アホって……」

 

 アホというだけではわかりづらかったのか、瀬呂も耳郎も頭に?マークを浮かべている。

 そんな二人の疑問に答えるように緑谷が答えた。

 

「つまり、まともに思考ができない状態ってことじゃないかな」

「おーそれそれ。それが一番わかりやすいかもな」

 

 緑谷の言葉を肯定すると、耳郎がもったいないものを見るような視線を向けてきた。

 

「それって実戦だと致命的なんじゃ……」

「だから鍛えてたんだよ!」

「ちょっと見てみてぇな」

「勘弁してくれ……」

 

 たぶん、みんなの前で見せることはないんじゃないだろうか。

 

「つか、さっきから気になってたんだけどさ。緑谷って何で体の一部にしか個性を使わないんだ?」

「それはまだ制御できないからで……」

「一部だけに使う方が難くね? 正直、俺はお前みたいに一部に個性使いたいくらいなんだけど」

 

 俺の個性は電気を纏う個性だが、一部に纏うのは難しい。何せ、体全体が電気を通しやすくできているのだ。纏う量に強弱を付けられるようにはなったが、どうしても体全体に纏ってしまう。

 問題は他にもある。俺の個性には指向性が付けられない。纏った電気を放つ時は拡散するように放たれる。例えば、拳に重点的に電気を纏って放っても、拳を中心にして拡散するように電気が放たれる。はっきり言って纏ったまま殴った方が強い。

 

「ねぇ、上鳴君ってよく筋力を強化してるよね。使ってる時はどんなイメージ?」

「おう、全体に満遍なく力が行き渡るようにしてるぜ」

「体全体に……いや、今の僕だと制御できなくて体全体がバキバキになる。でも、発動させてすぐに止めて、イメージトレーニングを繰り返せば……」

 

 俺の言葉に緑谷はいつものブツブツモードに入った。これが平常運転と聞いた時は驚いたが、何かもう慣れた。

 俺もイメトレと個性の使用の繰り返しだな。

 それから残りの時間を目一杯に使った俺達は着替えを済ませて教室に戻ってきた。

 これからマックに行こうと思っていたのにUSJの一件があったからか、相澤先生に寄り道せずに帰るように釘を刺されてしまった。

 

「いやぁ、今日は上鳴が訓練場を借りてくれて助かったな!」

「うん、ありがとう上鳴君!」

 

 体育祭前の期間に訓練場を借りて訓練が出来たからか、瀬呂と緑谷はご満悦だ。そんな彼らとは対照的に俺の心の中はどんよりと曇っていた。

 

「はぁ……マック」

「どんだけ行きたかったんだよ……『放課後マックで談笑したかったらお生憎』って相澤先生も言ってたじゃん」

「しょうがねぇだろ、ハンバーガー好きなんだから」

「ふーん……」

 

 耳郎は興味深そうに俺の顔を見てきた。

 

「何だよ、ハンバーガー好きで悪いかよ」

「いや、あんたの好きな食べ物とか初めて知ったなーって」

「そういえば僕、上鳴君の趣味も知らないや」

 

 そうなのか。てっきり俺は仲の良い耳郎、緑谷には好きな食べ物を含め、自分のことはもっと話しているものだと思っていたが。

 

「俺の趣味はギターと漫画だよ」

 

 漫画はまだわかるのだが、ギターは正直謎である。何故か今のうちに弾いて練習をしなければ、という思いはあるのだが、その理由はよくわかっていない。

 

「上鳴、あんたギター弾けるの?」

「おう、一応昔から弾いてるぜ」

「へぇ、そうなんだ!」

 

 俺がギターをやっていると聞いた途端に目を輝かせる耳郎。何かシイタケみたいな目になっていてるぞ。

 というか、ちょ、近い近い!

 

「どうせ、上鳴のことだからモテたいからやってたんだろ?」

「うーん、まあな」

「そうなんだ……」

 

 瀬呂の言葉に何とも言えず、俺は適当に頷く。そして耳郎。そんなに露骨にガッカリしないでくれ。心が痛い。

 でもラインの履歴から見る俺の人物像としてはそれが妥当な理由か。

 

「そうだ、上鳴君はどんな漫画好きなの?」

 

 微妙な空気になりつつあるのを察した緑谷は、話題をもう一つの趣味である漫画へと変えた。

 

「好きって言うか、俺は描く方だぞ?」

 

「「「えっ、上鳴(君)漫画描くの!?」」」

 

 俺の言葉に三人が驚いたように声を上げる。

 

「そ、そんなに驚くことか?」

「意外過ぎだって……」

 

 というか、それ以前にどれだけ俺はみんなに自分のことを話してないんだよ。

 

「どんな漫画を描いてるの! ヒーローモノ!?」

 

 緑谷に至っては目を輝かせている。ああ、そういうの好きそうだもんなお前。

 

「無個性の主人公が最高のヒーローになる話だな」

「えっ」

 

 何故か漫画の内容を聞いた緑谷は固まっていた。

 

「無個性って……主人公なのに?」

 

 耳郎は最高のヒーローになる主人公が無個性という、ヒーローとしては致命的な状況に怪訝な顔をしている。

 

「無個性だから主人公にしたんだよ。その方が成り上がる感じでいいだろ」

「確かに、どん底から這い上がるのは胸熱だな」

 

 瀬呂は少年漫画でよくある展開が結構好きみたいだ。かくいう俺も好きである。

 

「まあ、さすがに無個性のままヒーローにするのはちょっと無理がある気がして、憧れのヒーローから個性を継承するって流れは入れたな」

「えぇ!?」

 

 描いた時の俺の気持ちを推測しながら言うと、緑谷は声を裏返らせて驚きの声を上げた。

 

「いや、確かに無理があるのはわかるけど、そんなに驚かなくても」

「そ、そういうわけじゃないんだけども……」

 

 慌てて何かをごまかすように両手と首をブンブン振る緑谷。

 

「個性を継承する、か。そんな個性、実際にあんのかな」

 

 ふと、疑問に思ったのか瀬呂がそんなことを言い出す。

 

「さすがにないでしょ。だって、個性を持ってるのに継承されたら個性複数持ってることになるじゃん」

 

 耳郎が瀬呂の言葉を否定したので、俺も今後の参考とばかりに案を言ってみる。

 

「じゃあ、個性が継承されたら混ざり合うとかどうよ」

「それ、渡した時に本来の個性消えちゃうでしょ」

「俺の漫画だとしばらくは譲渡した側も個性使えてだんだん衰える設定にして――どうした緑谷、顔色悪いぞ?」

 

 瀬呂や耳郎と話すのに夢中になって緑谷をすっかり置いてけぼりにしていた。

 緑谷の方を見ると、汗をだらだらと垂らしていて少し体調が悪そうだった。

 

「う、うん、ちょっと、疲れちゃったから僕は先に帰るね! 今日はありがとう、また訓練する時は誘ってね! また明日!」

 

 矢継ぎ早に言うと、緑谷は体調が悪いとは思えないくらい元気に駆けだしていった。

 

「急にどうしたんだろ?」

「さあ?」

 

 あの様子だと何かごまかしたいことでもあったのだろうか? うーん、緑谷も何だかんだで謎が多い奴だな……。

 




記憶を失った後の上鳴「俺の友人、俺のこと知らな過ぎ……」


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12V 気持ちの行方

今回ちょっとだけ映画ネタ入りますので注意です!
まあ、予告とかで言われてることなのでネタバレにはなりませんが。


 それは雄英体育祭を前日に控えた時のことだった。

 

 最近、耳郎のことが気になる。

 

 いや、変な意味じゃない。

 単純に話す機会が多いため、いろいろ記憶を失う前の関係を勘ぐってしまうのだ。

 俺と耳郎はただの友達関係というのは間違いない。だが、問題は俺の方の気持ちだ。

 問題は俺が耳郎のことを好きだったか、否かということである。

 鞄に入っているスケッチブックを見れば、そこには横から見た耳郎のスケッチが描かれている。しかも表情や仕草一つ一つが繊細に描かれているのだ。

 しかし、これは漫画を描くための資料とも言えるため判断材料たり得ない。

 そこで俺は耳郎のことを良く観察してみることにしたのだ。

 サバサバした性格のクールなロッキンガールというのが、耳郎の第一印象だ。

 だが、冷めた感じの割には乙女っぽい一面もあり、自分が女の子らしくないことを気にしている。そのため、峰田に性欲の対象として見られないことに大して複雑な思いを持っているようだ。そこをからかったりすると割とマジで怒るが、そこもまた可愛い。

 ここまで耳郎のことを可愛いと感じている俺だが問題が一つある。

 俺は耳郎に自分のことを大して話していなかったのだ。好きな女の子相手にまったくアピールをしないなんてことあり得るのだろうか。少なくとも記憶を失う前の俺の性格からそれはありえない。

 そんなに人に話すことを躊躇うような趣味でもないし、一体俺はどんなつもりで耳郎と接していたのだろうか。

 考えれば考える程わからなくなる。

 

 ああ、カムバック記憶!

 

 そうして頭を抱えて唸っていると俺は学内の掲示板でとある情報を見つけた。

 そして、その内容がずっと頭から離れなかった。

 

『I・アイランドでI・エキスポ開催!』

 

 I・アイランドとは海に浮かぶ巨大人口移動都市のことで、I・エキスポとは島の科学者達の個性研究やサポートアイテムの研究成果の展示会のことだ。

 ヒーローを目指す者ならばまず行きたいイベントの一つであることは間違いないだろう。

 このI・エキスポのプレオープンチケットだが、実は雄英体育祭の優勝者にはチケットがサポート企業から送られるらしいのだ。

 I・エキスポの開催時期は夏休み中。そう、夏休み中なのだ。

 そしてI・エキスポ開催の日に何があるか。それは八月一日――耳郎の誕生日である。

 耳郎には世話になっているし、個人的には是非ともチケットを獲得して彼女を誘いたいところである。きっと最高の誕生日プレゼントになるに違いない。

 

『ハッピーバースデー、耳郎!』

『えっ、嘘。ウチの誕生日知ってて……!』

 

 I・アイランドの夜景をバックに誕生日を祝う俺。それに感激する耳郎。うん、いいんじゃないだろうか。

 よし、絶対に優勝しよう。

 目下、ネックなのは爆豪と轟だ。他の科にも強い奴はいるだろうが、身近な脅威というとこの二人になるだろう。

 そして、雄英体育祭当日。

 決意を新たに、体育祭の会場に入り授業の準備を整える。

 

「よっす耳郎」

 

 席に着くと、隣の耳郎に挨拶する。耳郎はいじっていたスマホから顔を上げてこっちを見て挨拶を返してきた。

 

「おはよ上鳴。ん、寝癖ついてるよ」

「いや、これは個性のせいで髪がはねてるだけ」

「そ、じゃあ常に寝癖ついてるんだ」

 

 今日も耳郎はサバサバしていてクールだが、何だろう。今日の耳郎はいつもよりも可愛く見えるのだが。

 

「いや、だから寝癖じゃねぇって……つか、耳郎なんか今日いつもと違くね?」

「どこが?」

「こう……気合い入ってる感じ」

 

 可愛いとそのまま言うわけにもいかないのでそういうと、耳郎は呆れたように言った。

 

「そりゃ気合いも入るでしょ。年に一回のチャンスなんだから。むしろ、あんたは気を抜き過ぎ」

「自然体って言ってくれ。これでも優勝目指してんだぜ」

 

 俺の言葉に爆豪と轟がピクッと反応する。

 

「おい、調子に乗ってんじゃねぇぞ。一位になんのは俺だ」

「だから狙わせてもらうぜ一位の座。俺だって負けられない理由があんだよ」

 

 絡んできた爆豪を真っ直ぐに睨み返す。

 

「ケッ、ぶっ殺す」

「はっ、上等だ」

 

 爆豪は敵意を霧散させて自分の席に戻っていった。

 

「負けられない理由って」

「そりゃもちろん――内緒☆」

 

 うっかり口を滑らせそうになったため、慌ててテヘペロ的な感じでごまかす。

 

「きっしょ。そういうの似合わないからやめときな?」

「相変わらず辛辣だな!」

 

 そんないつものやりとりをしていると、轟が緑谷の方に歩いて行き、彼に対する宣戦布告が始まった。

 

「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」

「えっ、うん」

「けど、お前オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりもねぇが、お前には勝つぞ」

「おいおい、急に喧嘩腰でどうした? 直前にやめろって」

「仲良しごっこじゃねぇんだ。何だっていいだろ」

 

 間に切島が入って不穏な空気を払拭しようとするが、轟はその手を振り払う。

 そこで今まで黙っていた緑谷が口を開いた。

 

「轟君が何を思って僕に勝つって言ってるのかはわかんないけど、そりゃ君の方が上だよ。でも、みんな本気でトップを狙ってるんだ。最高のヒーローに。遅れを取るわけにはいかないんだ――僕も本気で獲りにいく」

 

 緑谷は轟の宣戦布告を真正面から受け止めていた。

 

「やっぱ緑谷はかっこいいな」

 

 ああいう覚悟を決めた時の緑谷のかっこよさは心に来るものがある。覚えていないのに、何かこう……胸が熱くなるような感覚を覚える。

 

「あんた本当に緑谷好きだよね。この前言ってた漫画の主人公と境遇が似てるからとか?」

「ああ、そうかもな。そう考えるとあいつが俺の考える理想のヒーローの形なのかもしれないな」

 

 何かこう、どんな時でも絶対に諦めなくて、泥臭くても最後に勝つ……努力の結晶的な感じ?

 

「理想のヒーロー、ね。同級生に思うことじゃないでしょ」

「それでも俺にとってあいつはヒーローだよ」

 

 何でかわからないが、そう感じる。でもフィーリングというものは大事だ。意味なんて後からついてくるんだから。

 

「それなら、あんただってウチのヒーローだし」

「はぇ?」

「何、間抜けな声出してんの。USJで助けてくれたじゃん」

 

 イヤホンジャックをくるくると指で回しながら耳郎が言う。何その仕草可愛い。

 

「ああ、そのことか」

「ああって、あんた……」

 

 耳郎にとっては結構大事なことだったのか、気の抜けた俺の反応に少しがっかりした様子だ。ここはビシッとあの時助けたことだけが特別じゃないと言っておこう。

 

「別にあの時だけじゃなくて、これからだって助けるっての。耳郎には笑っててもらいたいからな!」

 

 記憶喪失で目を覚ました俺は耳郎の存在に助けられた。彼女がいたことでどれだけ安心できたか。だから、彼女にはずっと笑顔でいて欲しいのだ。

 

「んなっ」

「どうした、顔が赤いぞ」

 

 俺の言葉に顔を赤くして固まる耳郎。んん? ははーん、もしかしなくても照れているな貴様。

 

「なーなー! どうして顔赤いんだぁ? あれれーこの部屋空調効いてるぜぇ? なぁ、どうしてそんなに顔を、赤く、してるんだぁ?」

「うっさい、ばか! こっち見んな!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 調子に乗って耳郎をからかい過ぎた俺は反撃とばかりに心音を爆音で叩き込まれた。しかも、耳郎が心臓バクバクだったせいで威力は倍増していた。

 やっぱり、照れてる耳郎は可愛いなぁ。前もちょくちょくからかったりしてたけど、この心音を叩き込まれるまでの一連の流れ、嫌いじゃない。

 顔を真っ赤にして荒れ狂う耳郎と、倒れ伏す俺を見てクラスの連中がひそひそと話し始める。

 

「なあ、やっぱ上鳴ってアホだよな」

「上鳴ちゃん、学習能力ゼロね」

「オイラも、オイラも女子と戯れたい……!」

「何で俺はあんなアホに宣戦布告しちまったんだ……!」

「バグゴー、気にすんな。上鳴はアホだけど強ぇから」

 

 ――雄英体育祭が始まる。

 




雄英体育祭が始まる(キリッ

耳郎ちゃんの誕生日と映画の時間軸って合わせること可能だと思うんですよね。


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13V うなれ、体育祭!

耳郎ちゃんのヒロイン力がアップを始めました。


『刮目しろオーディエンス! 群がれマスメディア! 一年ステージ生徒の入場だ!』

 

 プレゼントマイクの実況と共に会場へと入場する。

 あちこちで花火が飛んでいて、見ているだけでえげつない程予算使っているんだなということが理解できる。

 

「選手宣誓!」

 

 18禁ヒーローミッドナイト。個性の特性上、コスチュームの露出度が高くなりすぎて、コスチュームの露出度の規定ができてしまったくらいやばい人だ。

 うん、極薄タイツエロいけど、胸のとこはあれ透けないのかね。

 

「ミッドナイト先生なんちゅう格好だ」

「さすが18禁ヒーロー」

「18禁なのに高校にいてもいいのか?」

「いい!」

 

 俺も峰田に同意である。

 

「選手代表1-A! 爆豪勝己!」

 

 ミッドナイト先生に呼ばれ、壇上へと上がる爆豪。正直、彼がこれから何をするかなど容易に想像がつく。

 

「センセー。俺が一位になる」

 

 絶対やると思った。

 でも、シンプルなのは嫌いじゃない……俺達を巻き込まなければの話だが。

 ブーイングの嵐の中、第一種目の説明が始まった。

 

「第一種目はいわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者がティアドリンク! さて運命の第一種目、今年は障害物競走!」

 

 計十一クラスによる全員参加の障害物競走。乱戦になるのは目に見えている。

 コースを守れば何をしてもいいとくれば、範囲攻撃の出来る俺と轟が大幅に有利だろう。

 十一クラス全員が位置に着く。どうせ、入試の時と一緒でカウントダウンはないのだろう。

 

「スタート!」

 

 スタートと同時に一斉に全員がゲートを潜ろうとぎゅうぎゅう詰めになる。やるならここだな。

 

「いきなりで悪ぃけど……〝無差別放電30万V!!!〟」

『あばばばばば!?』

 

 威力抑えめの放電を叩き込む。ちょっと痺れるだろうが、妨害できれば十分だ。

 

「おっ先~」

 

 痺れた連中が倒れたことで道が開ける。どうやら、俺がトップのようだ。

 

『まずはヒーロー科A組上鳴が飛び出した! いきなり放電とは容赦ないぜ!』

 

 次に脚力のみを強化する。電気は節約しなければ。

 このままトップを走ってぶっちぎろうと思ったのだが、そうは問屋が卸さない。

 

「行かせねぇよ」

「やっぱ来たか轟」

 

 後ろから迫り来る氷結。地面を這うように来たそれを俺はジャンプで躱す。

 

「俺だけに構ってると足下掬われっぞ!」

 

 振り返れば後ろも同じように高くジャンプして氷結を躱している。

 

「みてぇだな……!」

 

 轟の靴の裏にはスパイクがあるようで、氷の上でも問題なく走っていた。

 このままだと抜かされるな。

 俺は今度は足の裏に電気を纏う。氷は電熱で溶けていくため、問題なく走れる。よし、個性の部分制御、少しずつだけどできるようになってきたな。

 

「ちっ」

 

 轟は併走する俺を忌々しげに睨み付ける。

 そこで轟音が響き、巨大なロボットが現れた。

 

『さあ、いきなり障害物だ! まずは手始め第一関門ロボ・インフェルノ!』

「せっかくならもっとすげぇの用意してもらいてぇもんだな」

 

 あ、やばい。轟が出力高めの氷結撃つ気だ。

 だったら、俺は妨害させてもらう。

 末梢神経にも電気を流して肉体の反応速度を上げる。そして、一気に俺はロボの足下まで駆けだした。

 そして、握った両拳から親指だけを立てて電波を放つ。

 

「通信妨害しちまえば動けねぇよなぁ!」

 

 俺に向かって襲いかかるロボは全て停止。そして、無駄だとわかっても発動準備に入った轟は氷結を止められない。

 轟の氷結により既に停止したロボが凍り付く。さらにはそれが倒れたことで後続妨害にも繋がる。

 このままスピードを落とさずに駆け抜ける。

 

『さすがは推薦入学者! 初めて戦ったロボ・インフェルノをまったく寄せ付けないエリートっぷりだぁ!』

『攻略と妨害を一度に行ったのは合理的かつ戦略的行動だが、それを利用されたな。ジャミングでロボの動きを止めた上鳴の方が一枚上手だ』

 

 プレゼントマイクと相澤先生の実況を聞き流しながらひたすら進んでいくと、断崖絶壁の綱渡りステージが現れた。

 まいったな。跳躍できる距離じゃないし、ここはあれで行ってみるか!

 俺は両腕を挙げると、コイルのように電気を纏わせて電磁石にする。

 

「さすがにこの場所なら砂鉄はあるだろうからな……〝砂鉄巻!!!〟」

 

 俺は周囲から大量の砂鉄を巻き上げて竜巻のようなそれを地面にぶつけた。

 巻き上げられた大量の砂鉄がぶつかった勢いで、俺の体が宙を舞う。正直コイルガンやレールガンが使えれば良かったのだが、弾丸の持ち込みが出来ない以上、使うことはできない。

 

『A組上鳴! 砂鉄を巻き上げてそれを地面にぶつけて空を飛んだ! そんなのありかよ!』

『これも個性の応用だ。しかしまあ、よくもこれだけの砂鉄を巻き上げられるもんだ』

 

 この不格好な飛び方は飛距離はないため、何回も同じことを繰り返して飛び続ける。

 その間に轟が綱を凍らせて滑るように移動している。まずい、そろそろ追い抜かれる。

 

『おおっとここでトップが代わった。追いついてきたぜ轟ぃ!』

 

 ちっ、抜かれたか。

 早いとこ俺もここを抜けないとな。

 

『早くも最終関門、一面地雷原! 地雷の位置はよく見りゃわかる使用になってんぞ! 目と足酷使しろ!』

 

 地雷かそれなら電気感知を使えば場所はわかるはずだ。

 轟は後続に道を作りたくないのか、地面を凍らせずに堅実に進んでいる。今なら追い抜ける。

 

「待てよ、轟ぃぃぃ!」

 

 足は止めない。地雷のない位置を的確に踏んで一気に駆け抜ける!

 

「くっ、上鳴か!」

 

 スピードを緩めずに突っ込んできた俺に轟が氷結の発動準備にかかる。

 

「俺を忘れんじゃねぇ!」

 

 だが、そこに爆豪が乱入する。あいつずっと飛んでるな。

 

「てめぇ、宣戦布告する相手を間違えてんじゃねぇよ!」

 

 どうやら、爆豪は轟が緑谷に宣戦布告したのが気にくわなかったみたいだ。

 

「おっ先……ぐえっ!?」

 

 轟に集中している間に進もうと思ったのだが、どうやら俺のこともしっかり爆破してきたらしい。

 

「そっちがその気なら……〝砂鉄波!!!〟」

 

 俺は吹っ飛びながら砂鉄を巻き上げて二人へとぶつける。砂鉄どころか地雷まで巻き上げられえげつないレベルの爆発が起こるが、氷結で防がれたようだ。

 

「やりやがったなクソ電気!」

「先にやったのはお前だろ!」

 

 爆豪を無視しようとすれば轟の氷結。轟を無視しようとすれば爆豪が容赦なく爆破してくるこの状況で、誰も先にゴールへと駆けることはできなかった。

 誰か一人でも抜け駆けしようとすれば、他の二人が妨害するという足の引っ張り合いが発生していた。

 

 

 ――BOOOM!!!

 

 

 そんな膠着状態の中、突然後方で大爆発が起きた。

 威力からして一個の地雷での威力ではない。

 

『偶然か故意か!? A組緑谷、爆風で猛追! つーか、抜いたぁ!?』

 

 やっぱこんな策使ってくるのは緑谷しかいないよな。

 

「デク、俺の前を行くんじゃねぇ!」

 

 デクか。爆豪がそう、呼んでるんだったな……んん?

 今は緑谷に抜かれてそんな場合じゃないのに、俺の足は止まっていた。

 

「緑谷出久、イズク、デク……デク?」

 

 何かが引っかかる。それが何かはわからない。

『デクでいいよ。ううん、デクがいい!』

 

 緑谷の声だ。いつそれを言っていたのかはわからない。

 でも、デクという響きが無性に懐かしく感じられた。もしかして、記憶が思い出せそうなのか?

 

「って、そんな場合じゃない!」

 

 俺は先頭集団から少し遅れた場所にいた。全力で走るが当然前三人には追いつけない。

 

「くっそぉぉぉ! これじゃ四位じゃねぇか!」

 

 結局、ゴールした時には緑谷、轟、爆豪の三人がいた。

 そして、次々に後続がゴールしてきて予選通過者が発表された。

 

「はぁ、四位か……」

「何、落ち込んでんの。四位で落ち込まれたら二十二位のウチの立つ瀬がないじゃん」

 

 一位を取れなくて落ち込んでいると、ゴールした耳郎がやってきた。

 

「いや、目指してるもの取れなかったら悔しいだろ……」

「何か上鳴、初めて見るガチ具合だね」

「そりゃあ――」

「そりゃあ?」

 

 I・エキスポのチケット手に入れて耳郎の誕生日を祝いたい、なんて言えない。

 

「まあ、いろいろと」

「気になるじゃん。上鳴がそんなにガチになる理由」

「総合で一位になったら教える」

 

 どうせ、その時にはI・エキスポに誘うことになるんだし問題ない。

 

「それじゃあ、聞けないかもしれないじゃん」

「別にそんな大したことじゃ、なくはないけども!」

「ウチには教えられないようなことなの?」

「耳郎につーか、耳郎だからつーか……」

 

 煮え切らない俺の答えに耳郎はムスっとした表情である条件を提示してきた。

 

「じゃあ、賭けしよ。次の競技で一位を取れなかったら何で体育祭にガチになってんのかウチに教えて」

「おまっ、それ条件酷くね!?」

 

 それだと俺が一方的に不利じゃないか。

 

「どうせ、一位獲るんでしょ。だったら、関係ないよね? それにウチもリスクを負うよ」

「どんな?」

「条件は上鳴が決めていいよ」

 

 その時俺の頭に電流が走る。良いこと思いついた! くくくっ、条件を相手に委ねるなど、愚の骨頂!

 次の種目は例年の傾向から察するにチーム戦だ。組むなら轟とヤオヨロ、もう言いにくいからヤオモモでいっか。耳郎や芦戸もそう呼んでるし。

 

「じゃあ、俺が一位だったらほっぺにキスな! 轟ぃぃぃ! ヤオモモォォォ! 次たぶんチーム戦だから組んでくれぇぇぇ!」

「うぉい! あんたにプライドはないのか! てか、待って……あいつ何て言った? 昼奢りとかじゃなくて、ほっぺにキス?」

 

 正直、さっき負けたばかりの轟のところに行くのは気が引けたが、この戦い絶対に負けられない!

 俺は全力で轟、ヤオモモの元へと走っていった。

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」




現在の上鳴の記憶は壊れていますが中途半端に修復された状況です。
なので、こうしてたまに音声のみ唐突に思い出したりすることはあります。


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14V 奥の手と奥の手

遅くなりました……お待たせしてしまいすみません。


 次の競技は騎馬戦だった。

 制限時間は十五分。ポイントの合計が騎馬のポイントとなり、騎手はそのポイント数が表示されたハチマキを装着するというルールだ。

 

『それじゃ、これよりチーム決めの交渉スタートよ!』

 

 交渉と言っても、既に俺達のチームは決まっているので、早速作戦会議の始まりだ。

 

「上鳴は左翼で放電して相手を近づけるな。八百万は右翼で絶縁体やら防御移動の補助。飯田は機動力源、もといフィジカルを生かした防御。これがベストだろ」

「では轟君は氷と熱で攻撃牽制ということか?」

「いや、戦闘において左は絶対使わねぇ」

 

 轟は客席で燃えさかっているヒーローエンデヴァーの方へと視線をやる。そういえば、父親だったっけか。いろいろと確執があるのだろう。

 

「何でもいいって。さすがは推薦入学者と委員長。頭良い奴らと組めてよかったぜ」

「ですが、どうして上鳴さんから私達と組もうとしたのですか?」

「この試合。一位で通過しなきゃいけない理由ができたからな」

 

 本音を言えばライバルである轟と組むことに抵抗がないわけではない。

 だが、轟は迷いも少ないし即断即決で作戦を実行してくれるからリーダーを任せるには適任だ。

 

「それにチーム戦においての指揮なら轟が適任だからな。今回は兵隊に準じるよ。うまく使ってくれよ?」

「……ああ」

 

 俺達の騎馬は轟が205、飯田が180、ヤオモモが125、俺が195で合計705Pだ。ほとんどが上位だったからかハチマキのポイントが高ポイントになったな。

 まあ、一つのハチマキでのポイントのエグさでいえば緑谷チームには負けるが。1000万ポイントってバラエティじゃないんだから……。

 

『スタート!』

 

 轟の作戦はこうだ。

 1000万ポイントを狙うのは中盤にし、緑谷を狙う連中が一塊になったところで俺の放電と轟の氷結で一網打尽にする。

 俺としても放電回数は出来るだけ押さえていきたいので、ありがたい案だ。

 

「つっても、俺達だって高ポイントだから狙われるぞ」

「その時は迎え撃てばいいだけですわ」

「むしろ、俺ら以外のハチマキ全部獲るくらいの勢いでいきてぇな」

「張り切ってるな上鳴君! 僕も緑谷君に挑戦するため、そのくらいの勢いでいかねば!」

「……まあ、どの道1000万は獲る」

 

 しかし、予想に反して俺達の騎馬はまったくと言っていいほど狙われなかった。

 理由としては、B組の連中が徒党を組んで俺達の偵察をしていたため、障害物競争でトップを争っていた俺と轟を狙うのはリスクが高いと思ったのだろう。

 実際のところ、ほとんどの騎馬が緑谷狙いである。

 そして、峰田のもぎもぎに足を取られ、ピンチかと思われた緑谷だったが、再び上昇して難を逃れた。

 

「調子に乗ってんじゃねぇぞクソが!」

「常闇君!」

 

 そこへ何と空中に爆豪が飛び立ち、鉢巻を奪おうとするが、常闇の黒影に防がれる。騎馬戦なのに、騎手が騎馬から離れていいのかよ……。

 

「あんなのありかよ」

『テクニカルなのでオッケー! 地面に足ついてたらダメだったけど!』

「あり、みたいですわね……」

 

 いくらなんでも自由過ぎるだろ。

 それから執拗なまでの緑谷狙いが続き、俺達は体力を温存したまま試合中盤にさしかかった。

 というか、みんな目先のポイントに飛びつき過ぎだろ。こっちの布陣が盤石なのもあったが、それにしても狙われな過ぎである。

 

「そろそろ獲るぞ」

 

 サポート科の子のアイテムも少し破損し、ほどよく疲労が溜まっている緑谷チーム。攻めるなら今だ。

 

「八百万、電導と絶縁シートを頼む」

「わかりましたわ!」

「上鳴」

「オッケーわかってる! 威力は抑えめで大丈夫だよな?」

「ああ、足止めさえできれば問題ねぇ」

 

 轟も俺の後遺症のことは一応考慮しているのか、無理はさせようとしない。ある意味、攻撃手段としては俺とヤオモモ、轟のコンボは凶悪だからな。

 

「しっかり防げよ……〝無差別放電30万V!!!〟」

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?』

「か~み~な~り~!」

 

 俺の放電によって近くにいた緑谷狙いの連中が痺れて動けなくなる。……耳郎には後で謝っておこう。

 そこにすかさず轟の氷結。完封もいいところである。

 

「一応もらっとく」

「えっ」

 

 凍り付いている集団の一人から轟がしょっぱいポイントのハチマキを奪う。

 

「何で70の奴とったんだよ」

「念のためのおとり用だ。1000万獲った後も取り替えされる可能性はあるからな。それに全部獲ったら身動きがしづらくなるだろ」

 

 他にもしっかりとポイントは確保してあるあたり轟は抜け目がないな。

 

「んじゃ、1000万も獲りますかね」

「ええ、さっきの放電は常闇さんの個性で防がれてしまいましたが、サポートアイテムは故障したはず。追い詰めましたわね」

 

 これで機動力は大幅に削った。轟きが氷で囲いを作り完全に包囲網が完成したことで緑谷チームは絶体絶命……のはずだったんだけどな。

 

「おい、後一分しかねぇぞ!」

「さすが緑谷君。手強いな……」

 

 緑谷は轟が左を使わないことを読んで常に左側をキープしてる。

 

「この野郎……!」

「こうなりゃ俺のコイルガンで! ヤオモモ弾丸を頼む!」

「いけませんわ。悪質な騎馬崩しはルール違反になってしまいます」

 

 轟が左の個性を使ってくれれば話は別だが、いろいろと闇が深そうなこいつにそれを頼むのは酷な話だ。

 砂鉄もこのフィールドでは集まらないし、鉄? そうか!

 

「轟! 俺の電磁石ならあいつらを引き寄せられるかもしれねぇ!」

「電磁石? そうか、あいつらのサポートアイテムか……!」

 

 騎馬を組んでいる以上、手を離すのは厳しいから、体全体を電磁石にした方がいいな。

 

「いっくぜぇ……!」

 

 全身にコイルのように電気を纏う。その瞬間に緑谷チーム全体がこっちの騎馬に引っ張られるように引き寄せられる。

 麗日の個性で軽くしているのもあり、踏ん張りは効きづらいだろう。

 

「まずっ、解除!」

 

 慌てて麗日が個性を解除するがもう遅い。

 

「飯田!」

「獲れよ轟君!」

「……ああ」

 

 その瞬間に飯田がエンジンで加速して動きの鈍った緑谷チームの騎馬に接近する。

 そして、轟は見事1000万ポイントのハチマキを緑谷から奪い取ることに成功した。

 その上、轟は抜け目なく麗日と常闇、サポート科の発目の足を凍らせて身動きを獲れなくしていた。

 

『おおっとここでポイントが動いた! 緑谷チーム、急転直下の0ポイント!』

 

 一気に0ポイントに落ちたことで緑谷チームの連携はガタガタになる、と思いきや――

 

「――〝フルカウル!!!〟」

 

 緑谷は凄まじい形相でこちらに単騎で飛びかかってきた。

 

「八百万!」

「甘いです――っ!?」

「嘘っだろ!?」

 

 すぐさま簡易的な盾を出すヤオモモだったが、緑谷は滑らかな動きでそれを踏み台にして加速し、轟の眼前へ迫る。

 どうやら今までのように一部だけの強化ではなく、全身を強化したようだ。訓練の賜か、火事場の馬鹿力か、とにかく今の俺達にとっては向かい風でしかない。

 

「僕を信用してくれた……三人の思いを僕は今、背負ってんだぁぁぁ!」

 

 対応が送れた轟は咄嗟に左を使おうとしたが、緑谷に超パワーで体勢を崩され、そのまま丸ごとハチマキを全て奪われてしまった。

 

「常闇君!」

「〝黒影!!!〟」

 

 どうやら緑谷は試合中の爆豪の動きを参考にしたらしい。単騎で飛んで回収してもらうとなれば、回収役は常闇しかいないはず。

 

「させるか! 〝無差別放で――」

「お待ちください上鳴さん! 絶縁シートが!」

「んなっ!?」

 

 何と緑谷はハチマキと同時に絶縁シートまで奪っていたのだ。これでは放電はできない。

 

「これで放電も防げる!」

 

 やられた。まさか装備まで奪われるとは思わなかった。

 しかも、絶縁シートをかぶられたらハチマキの位置がわからない。絶対絶命だ。

 

『おおっと、この一瞬の間にまたポイントが入れ替わったぁ! 今度は轟チームが急転直下の0ポイントだぁ!』

「もう一度絶縁シートを作ります!」

「ヤオモモ、かなり厚めに作ってくれ! 無理矢理突破する」

「わかりましたわ!」

 

 時間は残り20秒。俺がやるべきことはあの絶縁シートを引き剥がすこと!

 

「轟もボサッとしてんじゃねぇ! 後は任せたぜ……〝無差別放電500万V!!!〟」

 

 俺の放電により、辺り一面が黒焦げになる。当然、緑谷チームが奪った絶縁シートもだ。絶縁シートは破壊できたが、残念ながら黒影に防がれたため緑谷は無事だ。

 

「絶縁シートが!?」

「ウェ、ウェーイ……!」

 

 うぇへへ、やってやったぜぇ。

 なんかもうこれかったんじゃねぇ?

 

「上鳴君……おかげで道が開けた! みんな、奥の手を使って加速する。取り返すぞ、轟君!」

「ああ……!」

「ウェーイ!」

「しっかり掴まっていてくれ。トルクオーバー……〝レシプロバースト!!!〟」

 

 ――DRRRRR!!!

 

 うっひゃぁぁぁ、なんだこれ! ちょうはぇぇぇ!

 

『またまた1000万ポイントが入れ替わったぁ! 何だよ飯田、そんな超加速があるなら最初から見せろよ! そして、ここでタイムアップ!』

「ウェウェ、ウェーイ!」

「あの上鳴さん?」

「……これが個性の副作用って奴か。初めて見たな」

「何というか、骨格まで変わっていないか?」

 

 騎馬戦終了後、俺はアホから戻った後に自分が最終種目に出場することを知った。

 何故か、クラスのみんなが俺の顔を見るたびに顔を背けて肩を震わせていたが……考えないようにしよう。

 




そういえば、ヒロアカの処刑用BGMこと「You Say Run」って有精卵とかけてるんですかね。すっごい今更ですけど。


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15V 騙せ、チアガール

記憶喪失後にいろいろなしがらみが消えた状態で峰田君と仲良くした結果


「まったく、君も無茶をするね」

「いやぁ、許容上限までの電圧なら大丈夫だと思って」

 

 アホから立ち直った俺はリカバリーガールの出張診療所で俺の主治医だった藪井先生からお説教を受けていた。

 藪井先生はどうやら俺の後遺症を心配してわざわざ雄英体育祭に医者として参加できないか、相澤先生に打診してくれていたらしい。これでまた頭が上がらない人が増えたな。

 

「まあ、簡易MRIで見た感じ異常は見えなかったし、午後からも許容上限以上の電圧は使わないように」

「はい、気をつけます」

 

 無茶をせずに爆豪や轟に勝てれば苦労はしないが、脳さえ無事なら何とかなるだろう。500万V以上の電気を使うのならば、絶対に頭に纏わないようにすればいいのだ。まあ、対人でそこまでの電圧を使うことはないだろうが。

 

「そういや、先生は脳外科医っすけど脳に爆弾もってそうなのって俺くらいしかいないのに、よく雄英の許可降りましたね」

 

 USJの事件もあって、雄英は外部の人間を招くことはかなり渋ったそうだ。

 

「あくまで専門が脳外科というだけで、一通り医療の知識はあるからね。こうみえて内科も整形外科もいけるんだよ」

「おかげであたしも助かってるよ。なんなら雄英に来て欲しいくらいだ」

 

 リカバリーガールのお墨付きももらっているということは相当な名医なのだろう。これで情にも厚いとか、この人主役で医療ドラマ作れるレベルだ。

 

「それは僕には荷が重いですよ。それに僕はヒーローじゃないので個性は使えませんし」

「先生の個性って医療向きじゃないんすか?」

「いや、医療向きではあるよ。ただ僕はヒーローじゃなくて医者になる必要があったんだ」

 

 なりたい、ではなくなる必要があった。その言葉を口にした時、藪井先生の纏う雰囲気が少し変わった気がするが、何か事情があったのだろう。深入りはしない方が良さそうだ。

 

「とにもかくにも、午後からの本戦。頑張っておいで」

「はい、ありがとうございました!」

 

 俺は藪井先生にお礼を言うと、診療所を後にした。

 午前の部が終わり、昼休憩を挟んでから午後の部が始まる。

 俺は瀬呂、峰田、砂藤、切島と食堂で昼食を取っていた。

 

「いやぁ、上鳴の放電は凄かったな」

「あれに加えて轟の氷結はえげつないよなぁ」

「ていうか、何食ってんだ上鳴」

「電気だけど? 騎馬戦で使い過ぎたから充電してんだよ」

「電気ってうまいのか?」

「うーん、ちょっと辛い感じだな」

「電気って、辛いのか……」

 

 試合終盤の電磁石と放電でかなりの電気を消費してしまったため、俺はモバイルバッテリーから電気を食っていた。一応、口以外からも摂取はできるが、こっちの方がおいしいから口から摂取しているのだ。

 どこか座れる席を探していると、ちょうどチアガール達が通りがかった。確か、午後からプロのチアガール達が応援してくれるんだっけか。

 

「な、なあ、上鳴! オイラ、閃いたぜ!」

「話を聞こう」

 

 峰田が目を輝かせてこういう話をするということは、何か女子に関することで名案を閃いたということだ。これに乗らない手はない。俺だって目の保養になる女子は好きなのだ。

 峰田との思い出も忘れてしまった俺だが、ラインの履歴で相当下世話な話をしていたところを見るに、こういうことに無縁なA組男子達の中でも数少ない悪友だったのだろう。というか、ヒーロー科とはいえ、みんな女の子に興味なさ過ぎない?

 

「あれはまたくだらないことを考えてるな」

「お前ら……ほどほどにしておけよ」

 

 切島達は呆れたように俺達から離れていく。まあ、いいだろう。二人の方が席に着きやすいし。

 

「で、何を思いついたんだ?」

「八百万を言いくるめて女子にチアの格好させるんだよ。相澤先生からの伝言って言えば信じるだろうし、八百万なら創造でチアコスも造れる」

「鬼才現る」

 

 だが、その作戦には穴がある。

 

「峰田、合理性を優先する相澤先生が伝言を頼むとは考えづらい。しかも制服がないとなると、怪しまれる。相澤先生は手違いで制服が届いてないから確認に行った。だから伝言を頼んだってことにしよう。あと、チアの格好で応援合戦をするのはみんな知ってる感じの体でいくぞ」

 

 さも何でお前ら知らないの感を出すことが重要だ。

 

「会話のリードは俺に任せろ!」

「上鳴……! やっぱ持つべきものは親友だぜ」

 

 こうして俺達はA組女子にチアガールの格好させるために作戦を開始したのであった。

 

「ヤオモモ、耳郎」

 

 俺はちょうど近くにいたヤオモモと耳郎に声をかけた。耳郎は俺の声にわかりやすくビクッと反応すると、顔を背けた。そんな露骨な反応されると傷つくんだが。

 

「あら、上鳴さっ、ん……!」

「ちょっと待て。何で笑ってるんだ」

「わ、笑ってな、ど」

 

 ヤオモモに至っては俺の顔を見るだけで吹き出しそうになる始末。どんだけ酷い事になってたんだ、俺の顔は……。

 

「ん。んんっ! 失礼しました。上鳴さん、先ほどはありがとうございました。おかげで最終種目に出場することができましたわ」

「いや、いいって。俺だってヤオモモいなけりゃ騎馬戦なんてできなかったし、轟や飯田にもたくさん助けられたしな。礼を言うのは俺の方だ」

 

 それにしても緑谷のアレは凄かった。常に全身を強化して動ければ、体も壊さずに戦えるんじゃないだろうか。

 

「あと、耳郎。容赦なく放電して悪かったな。痛かったろ?」

「……別に真剣勝負でのことだから気にしてないよ」

「耳郎さん、どうしましたの?」

 

 耳郎は俺から一定の距離を保って警戒態勢を解かない。ああ、約束のこと気にしてんのか。

 

「約束はまと後でいいっての。つか、そんなに警戒されると傷つくわ」

「そ。ならいいけど……」

 

 耳郎は安心していいのかわからないといった複雑な表情になる。まあ、約束をなしにするつもりは毛頭ない。

 

「約束?」

「まあ、ちょっとな……そういや、午後は応援合戦だな。頑張れよ」

 

 俺はさりげなく峰田に目配せをして作戦を開始する。峰田にはしばらく黙っていてもらう。このタイミングでこいつが口を挟んだら怪しまれる可能性があるからな。

 

「「応援合戦?」」

 

 案の定、二人は怪訝な表情になる。

 

「あれ、相澤先生から聞いてなかったのか? 午後は女子全員ああやって応援合戦するんだろ?」

「ええっ!?」

 

 俺はチアガール達を指さし、さも当然のように言う。そこへ峰田が追い打ちをかける。

 

「上鳴、相澤先生から何か頼まれてなかったか?」

「あー、そうだった」

 

 この作戦で大事なのはヤオモモと耳郎が知らないというところへ、知っているのが当然という流れで話を進めることである。

 

「そういや、手違いでチアガールの制服が届いてなかったんだった。相澤先生は確認にいっちまって、創造で制服造れるヤオモモにチアの制服を造るように伝言頼まれたんだった」

「そうで、でしたの? ですが、私達チアリーダーのことについては何も……」

「マジか。じゃあ、もしかしたらA組の女子は全員知らないんじゃねぇか? だったら、伝えとかないとまずいと思うぜ」

「相澤先生も急いでたしな」

 

 さも相澤先生がチアガールの制服のために今も動いているという風に話を進める。ここまでくればヤオモモも信じる気になるだろう。耳郎は疑うというよりもやりたくなさそう、といった様子だ。

 

「わかりましたわ。私にお任せください!」

 

 困っている状況で頼られたからか、ヤオモモは嬉しそうに張り切っている。うん、プリプリしてるの超可愛いな。

 

「さすが副委員長! 頼りになるぜ!」

「じゃあ、オイラ達は相澤先生のとこいってくるぜ」

 

 こうして俺達は無事、女子達にチアガールの格好をさせることに成功したのだった。

 そして、午後の部が始まった。

 

『どーしたA組!? 何のサービスだそりゃ!』

「峰田さん、上鳴さん! 騙しましたわね!」

「「ひょー!」」

 

 ヤオモモの怒鳴り声を聞きながら俺達はお互いにサムズアップを交わす。

 

「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」

 

 完全に策にハメられたヤオモモは地面に膝をついて落ち込んでいる。そんな彼女を麗日が慰めていた。

 

「アホだろアイツら……!」

 

 耳郎は顔を赤らめながらポンポンを地面へと叩きつける。

 

「おいおい、せっかくなんだし応援してく――のわぁぁぁぁぁ!?」

「よくもまあ、こんなことやらせた張本人がウチの目の前に来れたもんだよねぇ……!」

 

 爆音を叩きこまれ、地面に倒れ伏す俺に耳郎は般若のようなオーラを纏ってやってくる。

 

「痛っ……そう怒んなって。みんな似合っててすげぇ可愛いと思うぜ! なあ、峰田?」

「ああ、いいおっぱいだぜ」

「うん、お前はちょっと黙ってろ」

 

 涎を垂らしながら目を血走らせている峰田はいろいろとアウトな気がする。

 

「せっかくの体育祭なんだしこういうとこで盛り上げないとだろ?」

「そうだね! せっかくだし、やったろ!」

「透ちゃん、好きね」

 

 葉隠はノリノリでチアのボンボンを振り出す。よし、ノリの良い葉隠が空気を変えてくれた。

 

「えぇぇぇ……」

 

 それに対して耳郎は恥ずかしそうに肩を落とした。

 

「いや、騙したのは悪かったって。でも、似合ってるってのは本当だぜ?」

「そういう問題じゃないっての……」

 

 顔を赤くして恥ずかしそうに体を隠す耳郎は控えめに言って最高に可愛い。他の女子たちがノリノリの中でこういう反応をするというのも耳郎の魅力の一つだろう。

 

「上鳴、チアガールって最高だな! やっぱりオイラの目に狂いはなかった!」

 

 峰田はとてもいい笑顔で俺の傍に寄ってくる。うん、この名案を思い付いたのは峰田だったな。

 

「ああ、まったくだぜ! へそ出しノースリブにミニスカ最こ――ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 峰田に同意した瞬間、顔どころかイヤホンジャックの先まで真っ赤にして耳郎が爆音を叩きこんできた。

 

「……遺言はそれだけ?」

「ナイス爆音……ロックだぜ耳郎」

 

 俺は最後の力を振り絞って耳郎にサムズアップをする。

 

「上鳴君、凄い……! 耳郎さんの攻撃をあれだけ浴びてまだ立ち上がるなんて」

「アホもあそこまで突き通せば男らしいぜ!」

「いや、騙されんな。あれはただの変態だぞ」

 

 緑谷と切島が感心する中、瀬呂が冷静に突っ込みを入れていたのだった。

 




実のところ記憶を失って以降、彼の心を支えていたのは耳郎ちゃん、相澤先生以外だと数少ない本音で下ネタトークできる峰田君だったのです。
男子にとって下ネタトークができる友人って貴重だと思うのです。


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16V 約束?

ヒロアカ4期決定ですね!


 レククリエーションの第一競技は借り物競走だ。

 

「無理だろ……」

「背脂ってお前」

 

 お題を引いて絶望している峰田のカードを見てみれば、書いてある文字は〝背脂〟。無茶ぶりにも程がある。

 

「ヤオモモに頼むのは……無理だよな」

 

 さっきのことがあった後で協力してくれるとは思えない。

 

「上鳴は何引いたんだ?」

「えーと、うわぁ……」

 

 書いてあったお題は〝気になる女の子〟だった。これが〝好きな人〟とかだったら、友達で好きな奴という名目で峰田かデクを連れて行くのだが、性別まで指定されているのはタチが悪い。絶対これ性別逆バージョンも混じってるだろ。

 

「八百万でいいじゃん。オイラはあのおっぱいが気になる」

「お前は気になるで済んでないだろ」

 

 まいったな。気になる女の子と言われて真っ先に思い浮かぶのは耳郎だ。素直に協力してくれるとも思えないし、お題を見せるのもまずい。絶対碌なことにならない。

 それに今は自分が耳郎を好きかもはっきりしていない中途半端な状態だ。俺にとって気になる女の子とくれば耳郎しかいない。誰だよ、こんなピンポイントなお題考えた奴。

 

「レクほっぽり出すわけにもいかねぇし、しょうがねぇか」

「オイラはどうすれば?」

「強く生きろ」

 

 ここは動揺せずに勢いでさっと終わらせるのが吉だ。別に気になる、というだけなら異性として気になるという意味ではないだろうし。

 俺は意を決して、一人だけむくれてしゃがみ込んでいるチアガールの元へと向かった。

 

「なぁ、じりょう」

 

 そして、いきなり噛んだ。動揺し過ぎだろ、俺。

 

「……何?」

 

 チアの件をまだ恨んでいるのか、耳郎は俺を射殺さんばかりに睨んできた。三白眼でそれやられると怖いんだけど。

 

「借り物競走でちょっと――」

「あぁん?」

「ごめん、何でもない」

 

 協力してほしいと言う前に俺の言葉は封殺された。

 これは無理だ。今の耳郎はまともに話が出来る状態じゃない。借り物競走は諦めよう。

 

「お待ちください上鳴さん、耳郎さん」

 

 肩を落として立ち去ろうとする俺をヤオモモが引き留める。

 

「耳郎さん、上鳴さんは本戦を控えているのに、このレクリエーションに真剣に参加しています。チアのことは私も腹に据えかねているところはありますが、ここは一旦協力しませんか?」

「でもさぁ……」

「お仕置きは後でもできますわ」

 

 とても良い笑顔でそういうヤオモモに若干恐怖を覚えるが、まあ美少女のお仕置きならご褒美の範疇で済む……といいなぁ。

 

「ヤオモモがそう言うなら……」

 

 助け船を出すと、ヤオモモは俺にウィンクをする。えっ、何この展開。まさか……。

 

「ヤオモモ、もしかして俺のカード見た?」

「さあ、どうでしょう♪」

 

 俺の問いにヤオモモはにっこりと、とても楽しそうな笑顔を浮かべた。あっ、これ見られてる反応だ。

 

「言っとくけど、そういんじゃねぇからな? これはただ、今の俺の状況を振り返って一番適した人材が耳郎だったってだけだかんな?」

「ええ、わかっておりますわ」

 

 たぶん、わかっている以上のことになっている気がするのだが。

 

「さっきから何の話してんの」

「い、いや、何でもない。それより着いてきてくれ、頼む」

「いいけど、お題教えて欲しいんだけど」

 

 さっきのヤオモモの反応の後にお題を教えるのは結構キツイんだが。

 

「〝クラスで仲が良い人〟だったぜ」

「ふーん……それなら峰田でいい、じゃん!」

 

 腑に落ちないといった顔で首を傾げた耳郎だったが、俺が油断した瞬間にイヤホンジャックを背後から回して俺のカードを奪い取ろうとした。

 

「残念、それは残像だ」

「あんた、いよいよ動きが人外染みてきたね……」

 

 個性で肉体の反応速度を上げて躱した俺に対して呆れたようにため息をつくと、耳郎は諦めたように俺についてきた。

 

「ミッドナイト先生、判定お願いします」

 

 審判であるミッドナイトにカードを見せると、彼女は口元をわかりやすく吊り上げた。

 

「どれどれ……あら♪ ふーん、なるほどねぇ……オッケーよ!」

 

 かなり含みのある表情を浮かべているが、別にそういうのではないと声を大にして言いたい。

 まあ、ここでそれを言うといろいろと厄介なことになりそうなので黙っておこう。

 無事、借り物競走をクリアした俺は一息ついていた。

 

「ふぃー……何とかクリア出来た。耳郎もありがとな。んじゃ、俺はこれで」

「ちょっと。さっきのミッドナイト先生の反応といい、本当にお題は何だったの?」

 

 耳郎はどうにも俺の引いたお題が気になるようで、しつこく聞いてくる。

 そのままお題を言うのもあれだし、ちょっと捻った言い方でごまかすとしようか。

 

「あー〝自分の支えになっている人〟だよ」

 

 さっきの俺や周囲の反応からしておかしくない答え。尚且つ恋愛方面に捉えづらい完璧な答えだ。ちなみに、これは割と本音でもある。

 

「ほら、俺が倒れた時に耳郎は病院にもお見舞いに来てくれたし、俺が休んでる間のノートとかもとっててくれたろ。それ以外でも普段から耳郎には助けられてんだぜ。隣にいると安心するっつーかさ、必要不可欠な存在的な?」

 

 俺は耳郎がいなかったら、こんなに楽しく毎日を過ごせていなかったかもしれない。

 

「っ……アホのくせに、あんたはまたシレッとそういうことを……!」

 

 せっかくの機会なので、それを伝えたところ、耳郎は何故か顔を真っ赤にしてイヤホンジャックをムチのようにして俺の顔面をペシペシと叩いてきた。

 

「えっ、痛ぇ、ちょ、何、新技!? 痛いんだけど!」

「痛くしてるんだよ! このバ上鳴!」

 

 何故かいつものようなイヤホンジャックによる爆音は飛んでこなかった。

 それから、大玉転がしなどの競技もあったが、俺は全てにしっかり参加させてもらった。

 正直、個性は一切使っていないが、これはこれでちょっと楽しかった。

 本戦に出るならば体力は温存して最終調整を行った方がいいのだが、どうにも俺はこの体育祭をきちんと楽しんだ上で勝ちたいと思ったのだ。

 言うなれば気力回復を重視したわけである。

 ずっと張り詰めていても本来の実力は発揮できないし、B組の連中の個性を落ち着いて確認することもできる。

 B組の中で気になったのは塩崎茨という子だ。

 あの綺麗系と可愛い系の両方が入った顔立ちの子とは相性が悪い。まあ、その子が俺の一回戦の対戦相手なんだけども。

 髪が植物のツルのようになっていて、それを自在に操れる。俺も電撃も容易く防がれてしまうだろう。ツルをアースにしてしまえば、電撃も効かない。本来、触れたら即感電の俺は拘束系の個性とは相性がいいはずなのに、ここまで相性悪いとなると、上鳴絶対殺すウーマンの名をあげても良いかもしれないレベルである。

 まあ、それならそれでやりようはあるけど。

 一回戦に向けて対戦相手の対策を練り、控え室へと向かう。

 すると、ちょうど耳郎と会った。

 

「あれ、どこ行くんだ?」

「更衣室だよ」

 

 若干キレ気味にそう言った耳郎は俺を恨みがまし気に睨みつける。

 

「えー、着替えちゃうのかよ。もったいねぇ」

 

 それを着替えるなんてとんでもない。

 

「こんな恥ずかしい格好いつまでもしてられるわけないでしょ!」

 

 耳郎はまだ恥ずかしいのか応援用のボンボンを床に叩き付ける。

 

「第一、ウチのこんな格好見てもしょうがないでしょ」

「何で?」

 

 俺には眼福でしょうがない光景なんだが。

 

「だって、ウチみんなと比べてもスタイル良くないし」

 

 耳郎は俯いて自信なさげにイヤホンジャックのプラグを突き合わせる。だから、そういう仕草が可愛いというのに、何故それがわからないのか。

 それにA組女子のスタイルの良さがおかしいだけだから。気にしたらキリがないと思う。

 というか、そんな環境の中での耳郎は貴重な存在だと思うのだが。

 

「スリムなのも十分いいと思うけど」

 

 服とか胸元緩いし、屈んだときの胸元がエロくて俺は好きだぞ。貧乳万歳。

 それに耳郎は足がすらっとしていて、ミニスカがとても映えるのだ。それにヘソ出しスタイルもスリムだから似合うし、胸しか見ていない連中にはわからないだろうが、耳郎のチアガールの破壊力はオールマイトのデトロイトスマッシュを凌駕しているのだ。

 

「少なくとも、俺は好きだぞ。耳郎のチアガール」

「うぅっ……あんたって奴はホントに……!」

 

 もはや茹で蛸レベルで顔を赤くした耳郎は額に手を当ててため息をついた。

 うーん、これ以上はチアガールに関する話はやめとくか。

 

「あっ、そうだ。俺、騎馬戦一位だったから約束」

「このタイミングでそれ言う!?」

 

 ちょうど、いい話題があったと思って振ってみたのだが、あまり良くなかったのだろうか。

 

「いや、今なら誰もいないし、いいかなって」

「いいわけないでしょ! こんな格好で、あんたに……するとか」

 

 なるほど、確かにチアガールでのほっぺチューの方がテンションは上がる。図らずも最高のシチューエーションを手に入れられたのも、普段の行いが良いからだな。ヒーロー目指してて良かった。

 

「どうせすることになるんだし、いいじゃん。むしろ、後々にする方が恥いだろ」

「くぅぅぅ……わかったよ! すればいいんでしょ、すれば!」

 

 やけくそ気味に耳郎は叫ぶと、俺の横に立って目を瞑った。

 半分くらいノリでこんなことしてしまったわけだが、いざされるとなるとドキドキするなこれ。

 

「耳郎さーん、どこにいらっしゃいますの」

 

 と、そこで曲がり角からヤオモモがやってきた。

 

「あっ、耳郎ちょま――っ!?」

 

 クラスの奴に見られうのは気まずいと思い、慌てて耳郎を止めるために彼女の方を向くと――

 

「んっ!?」

 

 既に耳郎の顔は目の前にあって、制止する間もなく俺と耳郎の唇が重なってしまった。

 

「あー……し、失礼致しました!」

 

 それを見たヤオモモは猛スピードで回れ右をしてどこかへと走り去っていった。

 

「「…………」」

 

 慌てて離れるも時既に遅し。気まずい空気が流れる。一瞬の出来事だったとはいえ、耳郎の唇の感触がまだ残っているような気がしてドキドキが止まらない。凄い柔らかかった……。

 

「ねえ」

「ハイ」

 

 沈黙を打ち破るように投げかけられる耳郎の抑揚のない声。今度は違う意味でドキドキしてきたぞ。

 

「あんたが騎馬戦で一位だったら、何だっけ?」

「耳郎さんがほっぺにキスしてくれる約束でした」

「で、この状況は?」

「ヤオモモが来たので、一旦止めようと振り返りました」

「つまり、事故だと?」

 

 耳郎の言葉に俺は深く頷く。

 

「えーと……ごめん」

 

 耳郎の圧に耐えかねて俺は深く頭を下げた。事故とはいえ、これはちょっとまずい。

 だが、耳郎は優しい女の子だ。素直に謝れば許して――

 

「ごめん…………で済むかバカァァァァァ!」

「ですよねぇぇぇ!」

 

 ――くれるわけがなかった。

 

 耳郎が般若のような表情になり、イヤホンジャックでの爆音攻撃を連打してくる。

 さすがに素直に浴びると、間違いなく本戦に出れる体じゃなくなりそうなので、俺は躱しながら全力でダッシュする。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 次、本戦だから爆音は待って!」

「うっさい! あんたなんか負けろバカ! 無理矢理電気使わせてアホにしてやる!」

「それは勘弁してくれ!」

 

 そして、本戦が始まるまで俺と耳郎の地獄の鬼ごっこが幕を上げたのだった。




上鳴「耳郎を好きかもはっきりしていない中途半端な状態」
などと供述しており……


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