卍解しないと席官にもなれないらしい。 (赤茄子 秋)
しおりを挟む

原作開始前 1.始まりの嘘

あいつの事はよく知らねぇよ、俺と関わりは殆ど無かったしな。でも強かったのは知ってるぜ。ユーハバッハに俺の力を試せなかったのは残念だったけどな。

元死神代行 黒崎一護


護廷十三隊(ごていじゅうさんたい)、創設者である山本元柳斎重國(やまもとげんりゅうさいしげくに)が総隊長を務める尸魂界(ソウルソサエティ)の守護及び現世における魂魄の保護、虚の退治等の任務をこなす実動部隊。

 

その名の通りに十三の部隊で構成され、一隊二百人強、総勢三千人程度が任に就く死神の集団である。

 

高潔な精神と、強靭な肉体を持った精鋭集団だ。

 

なぜ急にこんな話をしたかと言うと、俺が今年からこの集団に勤務することになるからである。

 

俺の名は萩風(はぎかぜ)カワウソ、今年から死神になる男だ。

 

なぜ死神になったかと最初に言うと「女の子にちやほやされたい!」からである。不純とでも何とでも言うと良い、俺はこれを信条に生き続けるのに誇りを持っている。

 

ちなみに女の子への渇望だけあってか、彼女どころかガールフレンドも居ない。てか、話す機会が無い。俺自身もわかりきっているが、容姿は中の下である。声はまぁまぁ良いかもしれないが、正直影響はほぼゼロだろう。

 

この死神になるには養成する学院でしっかりと成績を残せた者がなれるんだが、その成績も中の下!!

 

てか、浅打(あさうち)っていう死神の武器となる斬魄刀(ざんぱくとう)になる前に配られた刀を斬魄刀にできなかった…

 

なんだよ…サクセスストーリーの影すら見えねぇよ。

 

夢見ていたんだな、俺は特別な死神で…いつか自分の才能が認められるような事件が起こると。

 

それを俺の唯一慕う…いや、そもそも仲良いの一人しか居ないけど、先輩に言ったら「目を覚ませ」と酔っ払いながら言われた。

 

そんな学院でもパッとしない俺に、当然というか友人すらできなかった。てか、思い付きで入ったせいか、周りとの温度差もあったんだよなぁ。

 

そんな学生生活を送ってれば…うん、結果もね…まぁそこは置いとこうか。

 

俺は四番隊に配置された。

 

四番隊とは一言で言うと医療班で、後方支援の最前線にあまり出ない唯一の班といっても良いかもしれない。斬魄刀をモノにできなかった俺が入るなら妥当ではあるだろう。

 

理由は合法的に女の子に触れ合うつもりで入ってない…とは言わないけど、回道はそこそこできるんだよね、俺。でも斬魄刀とかさっぱりですね。

 

護廷十三隊がイケメンを抹殺するための集団だったら、俺は斬魄刀をモノにできたと思うんだよなぁ。

 

卍解(ばんかい)とか、夢のまた夢だよなぁ〜。

 

☆☆☆☆☆

 

いつもよく飲む居酒屋で、俺たちは飲みに行っていた。

 

名目は一応、俺の死神としての就任おめでとうの会である。

 

だが目の前の男、まぁ先輩としか呼んでないからそこは置いとこうか。この人は何かと理由をつけて酒を飲みたいだけなのだろう、この人と知り合った理由なんてたまたま出身地が近いだけだし。

 

うちは圧倒的な過疎地で、かなり遠方から来てるからだろうな。知り合いなんざ居ないし、友達も居ない。てか家族も居ないわ、気づいたらよくわからんボロい母屋で暮らしてた気がする。

 

まあそこは置いといて、やはり俺もこれから死神になるわけだが、まだ俺は春を諦めていない。これからどうすれば良いのか、酔っ払って気分が良くなって来た先輩にご教授願っていたところなのだが。

 

「…すみません、よく聞こえなかったんですが」

 

俺はなんか聞きたくない単語が聞こえた気がした、そりゃとんでもないレベルの。

 

俺は聞き返すと気分の良さそうな先輩はもう一度答えた。

 

「席官になりたかったら最低でも卍解はせんと「くそがぁっ!やっぱり聞き間違えじゃなかった!!」うっさいの、ボケ!」

 

先輩に想定外の現実を教えられたが、今は我慢だ。とりあえず、俺の中の情報を整理したい。

 

「始解できたら席官って噂は嘘なんですか!?」

 

俺には友人は居ない、てか死神の知り合いがこの人しかいない。でも噂程度には小耳に挟んでいる。始解とは斬魄刀の解放の第一段階、だがこれを物にするのにも辛い修行が待っていると聞いている。

 

というか、目覚めないで終わる人も居るそうだ。

 

でも所詮は噂、真実を確かめるには現役の死神から聞くのが一番だ。

 

俺の熱い眼差しを注ぐと、先輩は手に持つとっくりの酒を一気に飲む干す。

 

そして不敵に少しだけ笑う。あ、冗談だったのかな?

 

「ふっ、嘘やな」

 

「ちくしょうめがぁぁ!!」

 

俺は思わず店内で叫び声をあげてしまう、だが今日は俺たちのような宴会をしている客が多いからか追い出されたり目立ったりはしていない。

 

まぁ、だからいつもこんな所で酒を飲んでいるのだろうが。

 

「まぁ席官なんて夢のまた夢、隊長なんざ更にその夢やな!」

 

くそ、席官って雲の上の存在と思ってたけど怪物じゃねぇか!

 

言い忘れてたが、卍解ってのは斬魄刀の最終解放された所謂真の力だ。逆に言えば、そこで斬魄刀としてのパワーアップは終わる。だが護廷十三隊には13人の隊長がいるが、席官はその9倍居る。

 

「あれ、でも卍解って斬魄刀の最終解放ですよね?そしたら席官と隊長の差ってそこまで無いんじゃ…」

 

でもそれだと隊長は席官レベルの力を持って居たら誰でも良いって事になるんじゃないか?

 

「あ、あぁー…そうやわなぁ…ー」

 

先輩は何か言い淀んでいる、これは…まさかここまで全て嘘だったって事か。人の嘘を見抜くのが下手くそな俺でも、これは流石にわかるな。

 

と考えていると、先輩の顔つきが変わった。しかも、なんか手招きして来て耳を差し出すように仕向けられる。

 

なんだ?財布でも忘れたのだろうか?そう俺が考えていると、先輩は静かに話し始めた。

 

「ここだけの話や、実は……隊長は更に上をできなならん」

 

更に…上!?ふぁっ!?

 

「卍解の先…!?そんなの存在するんですか!?」

 

「せや」と先輩は酒を飲みながら頷く。なるほど、これは護廷十三隊でも一部の人しか知らないような事実なのかもしれない。

 

だから先輩は言い澱み、考えたのだろう。まさか……俺には言っても大丈夫と決断したのか?俺はそこに至る才能があるかもしれないって事か!?

 

「それはいったい、どんな力ですか!?」

 

俺は先輩に詰め寄る。知りたい、その力とは何なのか!!!

 

「えっと…えぇ…卍解・改弐(ばんかい・かいに)!!そんな先の力があるんや!」

 

先輩は少しテンパっていた気もするが、その力をおしえてくれた。

 

卍解・改弐(ばんかい・かいに)

 

まさか、そんな力があるなんて…解放したのに改めてるのか。なんか変な意味になってる気がするが、たぶんそんだけ凄い力なんだろう。

 

隊長格の死神は化け物か!?

 

そんな存在に、俺はなれるのか!?

 

ここで俺の頭の中で学院に居た頃の女子の会話を思い出す。

 

『隊長って、もう隊長ってだけでカッコいいよね!』

『そうそう、私もあんな男の人と一晩でも付き合いたいかも』

『顔つきが歴戦の戦士って感じで、もうその目で射抜かれたら大変よ!』

 

「ふっ…」

 

やばい、隊長ってとんでもないな。女の子にモテモテじゃん、先輩だって認めて話してくれたんだぞ?俺は隊長格になれるだけの器だってさ!なら、目指さないわけないよな。

 

女の子がその先に居るなら、俺は必ずその先に行くぞ!

 

「先輩、俺はどうすれば良いんでしょうか!!」




息抜きに書いてたらたまったので投稿します。

あ、先輩はオリキャラです。勘違いというのを起こした諸悪の根源です。

これ以降はそんな出て来ません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2.影で努力するって、カッコよくね?

もし彼が居なければ、尸魂界も現世も霊王も消えていたでしょう。師として、彼を誇りに思います。また会えるならば、会いたいですね……

護廷十三隊総隊長 一番隊隊長 卯ノ花八千流


まだ四番隊に配属されたばかりなのもあってか、俺はしばらく暇であった。

 

四番隊の隊長は卯ノ花烈(うのはなれつ)、唯一の女性の死神での隊長だ。護廷十三隊が結成されて今は500年くらい経ってるらしいが、彼女は最初期から居る古参らしい。

 

一応言うと、あの人は俺のストイライクゾーンから外れてる。だって俺の目指すのは「カワウソさんカッコいい!抱いて!」っていう感じの少し頭悪そうな可愛い女の子だから。真逆じゃん、一度だけ怒ってる雰囲気を体験したけど般若じゃねぇか。でも美人です、超美人です。何か良い匂いします、この人に一生ついてこうと思うほどに惚れたかもしれないが、理性の残ったところが辞めとけと言ってる気がする。

 

とりあえず、四番隊に志望したのは回復系の鬼道がまだマシだったからっていうのが言いたかったんだな。卯ノ花隊長に目が眩んだとか…最初しか無いんだからな!美人だし、職場に美人な上司がいた方がやる気出るだろ!?

 

と、とりあえず俺は暇を貰ってる話に戻す!

 

で、現在の俺だけど…

 

「あの酔っ払い、もう少しマシな地図を書けよ!?」

 

この前の飲み会で先輩にこれからどうすれば女の子にモテモテに……じゃなくて、隊長になれるかを聞いたわけですよ。

 

そしたらおもむろに練習場所に最適?な場所を地図にしてくれたわけなんだが。

 

「遠いわ!俺の地元の更に先とかふざけてんだろ!?」

 

俺はかれこれ、半月ほど全力で走り続けて目的地周辺までやって来て居た。

 

一応死神には瞬歩っていう高速移動術がある、で落ちこぼれの俺でもちょっと瞬歩は使えるんだけど、フルで使っても半月ですよ。

 

しかも、地図がアバウト過ぎて場所もよくわかんねぇ!

 

だが、俺が疲れた体に鞭を打ちながらもこの場所に来て居るのには様々な理由がある。

 

1つは

 

「あと一月で帰らねぇと隊長に殺されかねねぇんだけど!?」

 

時間がヤバい、暇がかなり長かったので目的地まで余裕で行けるだろうと高を括っていた俺なのだが。目印に中々辿り着けず、道行く人に聞くとヤバイほど遠い所にあるのがわかった。

 

おい、ふざけんなよ。どんなに遅くても3日で行けると思っていた俺はヤバいよ、足がガクガクしてる。生まれたてのバンビみたいになってる。「騙されたと思って、行ってみな!」って、騙されるとは思わなかったわ!あの先輩はいつか締めるぞ!?本当に目的地あんだろうな!?

 

「うっ…マジで、あんだよな!?」

 

落ち着け、まだ希望的な主な理由が俺には残されている。

 

1つは鍛錬の場の確認で、そこはなんか霊子濃度がハンパねぇって聞いてるのでそこを体感したい事。

 

もう一つはなんかすげー疲れが取れる天然の温泉があるって事だ。

 

正直、もう温泉に入るしか俺の足を治せる気がしないんだわ。このままだと初日から遅刻してクビになるまでの未来が見えて仕方ないんだわ。

 

今の俺の足じゃ三ヶ月あっても間に合わない気がしてならない。

 

そんなことを考えながら浅打を杖に、足を動かし続けていると…初めて確かな手応えを感じる。いや、鼻応えだ。

 

「温泉……温泉!!」

 

硫黄の香りだ、この腐ったたまごみたいな香りだ。なぜか力が湧き始めた、全力で足を動かして先へと進む。道無き道の草木を全て浅打で切り開いて進み続ける。

 

そして硫黄の香りの先へと向かい続け、遂に。

 

「温、泉……!?」

 

青白く中が輝く洞窟と、それとは対照的に真っ赤な温泉をみつけるのであった。

 

☆☆☆☆☆

 

結論から言おう、遅刻した。

 

「そこになおりなさい」

 

今は卯ノ花隊長に正座でお叱りを受けている。あ、卯ノ花隊長の私室に呼び出されてます、なんか良い香りします。

 

えっとそうじゃなくて、実はあの後に洞窟に入ったんだけどさ…入った瞬間に動けなくなったんだよね。なんか凄い霊子の密度だった、ハンパなかったわ。イメージとしては重力が急に何十倍にもなった感じで、息が苦しいとか初めてでしたよ。そこで兵糧丸とかで食い繋ぎながら3日ほど動けなくなってた。

 

そして何とか這いずりながら温泉で回復しようとしたけど、いや疲れは取れたよ?問題は温泉の霊子濃度もハンパなかったから傷だらけになってたって事かな?おい、何であそこが最適な場所って言ったんだよ!ノリと勢いだけで勧めてるじゃないかと思っても仕方ないよね!?

 

俺の命が枯れ果てる所だったわ!!

 

「萩風、返事は?」

 

「え?は、はい!肝に銘じます!」

 

で、そこから何とか這いずりながら洞窟を出たんだけど帰りに半月かかってギリギリ遅刻。朝寝坊って事にしておいたら、周りからかなり冷ややかな目で見られました。違うもん、俺頑張ってるから!

 

そしてその御褒美なのか、卯ノ花隊長っていう超絶美しい女の子の部屋に招かれてるんだよ!これから毎日の遅刻も辞さない所存でございます!

 

「では貴方に、罰を与えます」

 

「え、罰?」

 

そんな俺の心を見透かしてか、卯ノ花隊長はにっこりと笑う。

 

「期間はそうですね…ここは優しく、貴方の成績も鑑みて5年あげましょう、斬魄刀を物にしなさい。でなければ四番隊をクビにします、良いですね?」

 

悲報、萩風カワウソ。初日から退職の通知がされる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3.斬魄刀への道

最初見た時はこいつから大した才能も力も感じなかった、霊王様が気にかける理由もな。

零番隊第一官 東方神将 麒麟寺天示郎


斬魄刀って、エロくね。何というか、響きが良いよね。

 

ザンって女の子の前に現れて、パクっと平らげて、トウッてドッキングする。

 

斬魄刀の鍛冶師が聞いたら、いや…全ての死神が聞いたら「ねぇよ」と答えるような事を考え続けて何年たったんだろうか。

 

「お主、わっちが来てからも心の声が喧しいのぅ」

 

そしてカワウソの前に座る少女もまた「ねぇよ」と答え「殺すぞ」と答えるだろう。

 

そう俺の斬魄刀、名は天狐だ。て○んこじゃないぞ、てんこだ。見た目としては花魁さんみたいなのに獣耳と尻尾が九つある。

 

超可愛い、ぺろぺろしたい。俺の心の中のオアシスです。

 

「いつか殺す」

 

もう、ツンデレだなぁ。

 

「炙り殺すぞ、ゴミが」

 

はい、すみませんでした。調子に乗りました、ごめんなさい。痛いのは嫌です!女の子に嫌われるのはもっと嫌です!だって仕方ないじゃん!可愛いもん、美少女だもん!ちょっとくらい調子に乗っちゃうじゃんか!これからも大切にしますから許してください!!

 

「…ふ、ふん!精進すると良いわ!」

 

あ、照れてる。可愛い。ちょろい。

 

「ん?主はなんと言った?」

 

まぁ心が癒されましたわ、とりあえず現実にでも帰るか。少しだけお別れを告げて現実に帰ります。

 

現実では卯ノ花隊長の私室の前に居ます、今回は呼び出しじゃないよ?とりあえず軽く声をかけますか。

 

「萩風ですか、入りなさい」

 

そしてその数刻後に凛とした声が響く、やはり大人の女性の色気って良いよな。

 

「失礼します、卯ノ花隊長。ご報告があります」

 

……さて皆さんお気づきになったかと思うが、斬魄刀を手にいれました。長かったなぁ……こんな15歳くらいの子供が考えそうな事を考え続けないとやっていけない程に長かったわ。

 

「やっと手に入れましたか」

 

どうやら向こうも察しているようだ、俺が報告することなんて殆ど無いからね。

 

卯ノ花隊長も祝福してくれている。俺は四番隊に配属されてから特に親しい仲になれた人は居なかった、何というかここに来るのは戦いから逃げた人が集まる的な風潮があるからなのかもしれない。

 

俺がここに来た理由とか合法的に女の子の死神と触れ合えるからだからなんだけど、周りとの温度差がやっぱり大きいのかもしれない。

 

とまぁ四番隊で話せる仲は卯ノ花隊長位しか居ない、そしてその卯ノ花隊長だけど。

 

どこか疲れた顔もしてる気もする、気にしないでおこう。

 

だって……

 

「100年でやっと手にいれてくれましたか……」

 

この視線が痛いから。

 

いや、頑張ったんだよ?俺は頑張ったんだよ!?5年越えてから残念そうな目を向けられてたけど、その時は回道でそこそこの成績残してたらオーケーだったから!ノーカンだから!ノーカンだから!!

 

でも天狐ちゃんが中々名前を教えてくれなかったんだよ!始解をモノにしろって言われてこんなに掛かるとは思いもしなかったんだよ!?

 

最初の50年なんだけど、そもそも修行場まで走って往復して帰るだけになってて辛かった。斬魄刀の修行?ほとんどなかったな、瞬歩は速くなったと思うけど。

 

あ、この時から視線が痛かった。他の隊士からもな!

 

その後の40年は、洞窟で殆ど這いつくばってた。てか今も立ってるのがシンドイ、そんな中で刀を振り回すとか無理ですよ。そんな感じで時間は流れまして。

 

最後の10年、刀を振れるようになってたら女の子が現れた。なんか幻覚が見えるほどに疲れたのかと思ってたら斬魄刀の化身?みたいものだった!

 

そして結婚を前提に付き合おうとしたらぶん殴られた、それが今の天狐ちゃんである。そこで斬魄刀になったんだけど、そこから直ぐにだけど、なんとか始解をできるようにもなった。

 

天狐ちゃんの力が発揮される、つまり俺と天狐ちゃんが一つになると……なんか力が漲ってきた、卍解したくなってきたぜ!できないけどね!

 

で、俺の霊圧も入隊した時よりも高くなってる。でも、そうしたら俺の霊圧ってそこらの死神より高い気がするんだよね。で、その事を例によって先輩に相談したら「みんな力は隠してんだよ、解放してたら煩わしいってのもあるし、恥ずかしいって思われるぞ。常識を持ってない可哀想な奴ってな」と聞いたので、霊圧は隠すようにしてます。

 

自惚れるなよ、まだその時じゃない。最低でも、卍解できないと自惚れねぇよ。

 

「萩風、私から一つ話があります」

 

「あ、はい。なんでしょうか」

 

「実は席官に空きが出ているのですが、どうでしょうか」

 

…席官、あの席官か?選ばれし者だけがなれる、あの席官か!?

 

あれ…って事は、まさか?

 

「待ってください、俺に…斬魄刀を解放しろって事ですか?」

 

卍解をもうご所望ですか、無理ですよ。俺に卍解は早すぎますよ!?彼女にも相談したよ、そしたらあと3回くらい死神としてやり直したらできるんじゃないかしら?とか笑ってたんですよ!?

 

「いいえ、貴方の回道の腕は確かなものとなってきています。これはお願いですね、席官になりませんか?」

 

と思ったが、どうやら卍解は望んでないらしい。これは俺からすれば願ってもいない。だが俺は直ぐに。

 

「お断りします」

 

そう、言った。

 

「俺はまだ、未熟です。俺がそこに着くのは、俺が斬魄刀に認められてからです、それは譲れません」

 

ちゃんと理由はある、俺の下半身は不誠実だけども頭は誠実なのだ。

 

そんな特例のように席官になってみてよ、周りは納得しねぇよ。「卍解もできねぇ奴が何を偉ぶって…」ってなる未来が見えます。

 

回道だって他のヤル気の無い有象無象に比べたらできるだけだ、合法的に女の子に触れ合えるのに何で鍛えないのか理解に苦しむよ。まぁほとんどが野郎だからなんだけど、数少ない少女達を治す俺のゴットハンドはまだまだ成長させたいよ。

 

でも、やっぱり斬魄刀を解放しないと…卍解できないと相応しくないんだろうよ。

 

俺は堂々と胸を張ってなりたい、始解どころか斬魄刀にすらできなかった俺が100年で始解を会得できたんだ。

 

なら、その3倍だろうが4倍だろうががんばるさ。女の子にちやほやされる未来がこの先にあるなら、その先に俺は必ずいるんダヨォ!

 

そしてその気持ちを汲み取…いや、取られたら困るんだけど。卯ノ花隊長は何とか納得してくれたようだ。

 

「わかりました、ですが斬魄刀を鍛えるだけでは席官にはなれません。今後、私が貴方の回道を見させていただきます」

 

☆☆☆☆☆

 

私、卯ノ花 烈は彼をかっている、それはなぜかと言われたら目に力があるからだろう。四番隊に配属される死神の目は基本的に、死んでいる。死神として死んでいるのだ。

 

四番隊に配属されてから目が死んで行くものも多い、特に新入隊者には顕著に出ているだろう。だが彼の目だけは生き生きとしていた、ここでの活動に満足しているようであった。そう、生き甲斐を感じているのだろう。

 

初日からの遅刻でヤル気の無い奴かと最初は思いました、だが彼は1ヶ月と少し会わなかっただけで変わっていた、ミジンコ程度の力の筈であったが芋虫程度になっていたからだ。この成長速度は異常だ、たとえ最底辺の存在であっても伸びるには限度がある。

 

そして私は彼を試すのも含めて少しだけ罰を与えた、斬魄刀を物にしろ。つまり、浅打を斬魄刀にしろと言ったのだ。結果は100年とかなりの時間をかけてしまったが、これは本当かどうか怪しい。

 

彼の霊圧は洗練され、以前とは比べ物にならない。これを見抜けるのは恐らく隊長格でも私か総隊長位だろう、それ程に霊圧を隠すのが上手い。

 

それだけの技術があるならば、彼はとっくに斬魄刀をモノにできたはずなのだ。

 

だがそんな事は取るに足らない些細な問題だ。

 

彼はどんな鍛錬を積んでいたかは知らないが、これならば任せても良いだろう。そう、席官だ。今は9番の席が空いている、彼は知らないかもしれないが周りからの信頼は厚い。

 

そして向上心の高い彼はこれを受けるだろうと、そう思い任せようとするが。

 

「待ってください、俺に…斬魄刀を解放しろって事ですか?」

 

違う、だが彼ならば直ぐに始解も物にできるとの判断だ。我々四番隊に必要とされるのは戦時に血を流すのではなく、血をいかに流さないかである。

 

「いいえ、貴方の回道の腕は確かなものとなってきています。これはお願いですね、席官になりませんか?」

 

私はお願いという形で頼んだ、彼の回道の腕も中々のものである。周りから反対の声も上がらないだろう。

 

だが彼は悩むそぶりもなく。

 

「お断りします」

 

そう、言った。

 

「俺はまだ、未熟です。俺がそこに着くのは、俺が斬魄刀に認められてからです、それは譲れません」

 

そして続けざまにそう答えた、彼は自分が許せないのだろう。斬魄刀に認められていないのに、始解を会得していないのに席官となる事が。

 

周りがどうとは関係ないのだろう、自分を納得させなければ済まないという、何と生き辛い人だろうか。

 

「わかりました、ですが斬魄刀を鍛えるだけでは席官にはなれません。今後、私が貴方の回道を見させていただきます」

 

だからこそ、私にできるのはその生き方を少しだけ助ける事だけだろう。

 

そして彼もまた

 

「ご期待に添えるよう、精進します」

 

と、真っ直ぐな目で答えていた。




主人公が活躍するのは千年血戦編からです。

今しばらく、お待ち下さい。

【天狐】
萩風の斬魄刀

容姿は9本の尾が生えた背丈が160cm程度の少女。
花魁のような髪飾りと着物、髪は金髪で瞳の色は黄昏色。

髪の纏め方は彼女の気分で変わるようで、長い髪をツインテールにしたりそのまま流したり様々である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4.石の上に三年、卍解の習得に……

あの方は私に回道だけでなく、死神とは何かを教えて頂きました。高潔な精神こそが、死神には必要なのだと。

護廷十三隊四番隊隊長 虎徹勇音


「はぁ…はぁ…」

 

彼はいつもの練習場の洞窟で、遂にあの力を会得した。

 

「やっとだ、やっと、やっと…、会得したゾォォ!!」

 

本当に長かった、私がこの刀に宿ってから310年だ。目の前で狂乱しながら喜んでいるのは我が主人であるカワウソだ、彼は本当に鍛えた。

 

それこそ暇さえあればここに来た、瞬歩で半月かかっていたこの道のりも3時間あればたどり着けるほどになっていた。血反吐を吐き、疲れが取れるが激痛の走る風呂に浸かり、無限に生まれる岩の柱の霰を弾き続け、彼の実力は辿り着けたのだ。はっきり言って才能らしいものを彼からは感じなかった私だが、今はわかる。

 

彼は努力の天才なのだと、自身の信念の為にどんな壁でも乗り越えていくのだと。

 

「ふ、お主も男前になったのう」

 

「お、ありがとな!天狐ちゃんのおかげでここまでなれたよ!」

 

思わず私も呟く、ここまで成長していた彼は立派になっていた。霊圧も並みの死神とは違う格を持っている、何度も言うが本当に成長していた。

 

その姿を見ているとふと彼の笑いが消える、なぜか。また真剣な表情へ戻った、確かに卍解は会得してもまだ先はある。極めるのには数十年かかる、だがそれとは何か違う気がする。

 

「天狐ちゃん」

 

不意に名を呼ばれる。

 

「な、なんじゃ?わっちに聞きたいことがあるのか?」

 

私は少しだけ狼狽たえてしまう、それでも何とか平静を装うように振る舞おうとするが…

 

「卍解・改弐って、どうしたらできるかな?」

 

「お主は何を言っとるんじゃ」

 

いつのまにか真顔になっていた。

 

☆☆☆☆☆

 

俺は、おそらく人生で一番疲れてる。

 

「萩風、心が乱れていますよ」

 

「申し訳ありません、隊長」

 

すると俺の鍛錬を続けてくれてる卯ノ花隊長も、どうやらそれに気づいているようだ。

 

俺は卯ノ花隊長の弟子という立場になった、卯ノ花隊長からスパルタ式に学んだ回道のおかげで女の子の治療が捗っている。最高だよな、でも一様に女の子の死神達は俺を避けてる気がする。まぁ不純な心でも見抜いてるんだろう、まぁ不純しかないからある意味純粋なんだろうけど。

 

で、今は卯ノ花隊長と修行中だったんだけど。どうやら俺の心の乱れが術に出ていたようだ。

 

「萩風、自覚なさい。今の貴方は私の弟子であり、回道においてはこのソウルソサエティで三本の指に入る存在なのだと」

 

俺の回道だが、隊長曰くかなり上達したらしい。正直に言うと自覚はあまりないんだよね、でも俺の不純な気は何か俺を新たなステージへ導いてくれたらしい。

 

それに関わらずに俺と仲良くするような人は居ないが、卯ノ花隊長の付き人的な立場と周りからは見えてるらしい、副隊長よりも居る時間は長いかもな。一応、俺はこの隊では古参だから話相手と説明している。

 

秘められた力を解放するのって、浪漫の塊だよな。でも大丈夫、俺は席官になったら解き放つ予定だから。

 

あ、そうだ。席官になる条件を満たしたよ、今は席官の席が空いてないので俺は席官になってないけどね。

 

少し前の俺なら直ぐにでもなりたいところだったんだけど……今は正直何も考えられないのだ。

 

「隊長、俺は迷っているんです」

 

「…どうかしたのですか?」

 

隊長も珍しいのか、俺を心配している。いつもはやる気に満ち溢れているからだろうな、けど今の俺は正直かなり精神的にきているのだ。

 

「俺はいずれ隊長格になるつもりでした」

 

「でした…とは、どういう事ですか?」

 

「斬魄刀の力を…俺は、引き出せないんです」

 

卍解・改弐について天狐ちゃんに聞いたが、知らぬ存ぜぬでまったく話が通じないのだ。

 

俺たちの絆はこの300年で確かなものとなっていたと思ったのは、俺の自惚れだったのかもしれない。彼女にどれだけ聞いても鬱陶しいと言われてしまい、俺の心は粉々である。もうお婿に行けないくらいにボロボロです。

 

そんな俺にどうしろと、何ができるんだと……

 

すると卯ノ花隊長は

 

「顔をあげなさい…萩風、貴方には可能性があります」

 

珍しく卯ノ花隊長は俺を激励していた。

 

「斬魄刀の力を解放できるだけの力を、貴方はまだ持っていないだけです。回道以外はどうですか?」

 

回道……以外?そんな事、考えたこともなかった。なぜなら、常に斬魄刀を解放することだけに身を注いで来たからだ。

 

確かに…俺は現状に満足していたのかもしれない。だが、満足できる程の実力を俺は持っているのだろうか?

 

「剣術はどうですか?貴方はまだ、伸び代はあるのです。斬魄刀に認められないのが何ですか、それを悔いる時間はありません、斬魄刀に認められる死神になる事こそが貴方の今の仕事です」

 

隊長…俺は感銘を受けた。

 

確かに、俺は斬魄刀に認められるだけの器ができたのかと言われるとまだまだ器として不十分なのではないかと考えられる。

 

そうか、天狐ちゃんはそう言いたかったのか!

 

卍解・改弐にするのには、俺自身がそれに耐えうるだけの強靭な肉体と精神力、そして死神としての能力を身につけなければならないという事か!

 

「萩風、貴方の死神の道はまだ長い。焦らず、じっくりと踏みしめて行くのです」

 

「隊長…ありがとうございます」

 

俺の決心はついた。俺のような才能のカケラもないような奴が満足した時点で成長は終わってしまうのだ。ならば、やる事は決まっている。俺は、まだまだ成長する。

 

「では弟子として…卯ノ花隊長、俺に剣術を教えてください」

 

そこで俺は卯ノ花隊長に頭を下げた。

 

「その意味…貴方は、わかっているのですか?」

 

「っ!?」

 

座布団が硬く感じる、なんだこの言葉の重たさは?まるで死神としての分岐点に立ったかのような、そんな重要な選択を迫られている気がする。

 

でも、俺には最初から一本道と変わらない。

 

「重々承知しています、ですが私は卯ノ花隊長から学びたいのです」

 

隊長しか俺には居ないんですよ、ツテが!何処の馬の骨ともわからん奴が他の隊長に剣術の指南とか頼めないですよ!

 

確かに卯ノ花隊長は後方支援の隊長、恐らく剣術は隊長格の中では二歩は下だろう。卯ノ花隊長は剣術を使う必要が無い人であるが、隊長格には最低限度の力が求められるはずだ。

 

俺からしても、先ずは卯ノ花隊長を超えなければ他の隊長は超えられないのだ!

 

「…良いでしょう」

 

そして俺の願いが届いたのか、卯ノ花隊長の言葉が柔らかくなっている。これで俺は天狐ちゃんに認められる為の新しいステージへと行けるのだ!

 

そう喜んでいると卯ノ花隊長は「ですが」と言い始め、それと同時に襖の向こうから声が聞こえる。女性の声だ。

 

「ちょうど良いですね、入りなさい」

 

現れたのは長身の死神だ、背は俺とおんなじくらいだろうか。それに対してなんか何処となくおどおどしてるように見える。

 

少し青っぽい髪で目立ちそうだが、俺はこの子を見た事ない。美少女ならば必ず俺の脳内に保管されるから、恐らく新入りなんだろう。

 

「彼女は虎徹勇音(こてついさね)、新しく四番隊に入った隊士です。彼女に回道を教える事を条件に、貴方へ剣術を教えましょう。構いませんか?」

 

え?良いんですか?こんな無垢な女性を私の色に染めても良いんですか!?

 

いやまぁ冗談だけどね?回道を教えるってのは初めてだな、まぁ教わったことをそのまま教えたらいいか。

 

「問題ありません」

 

即OKですよ、明日から楽しい死神ライフが送れそうだぜ!

 

☆☆☆☆☆

 

萩風達が去った私室で、彼女は一人刀を握りしめている。

 

「まさか……私が誰かに、この技を教える事になるとは」

 

四番隊隊長、卯ノ花烈。

 

本名、卯ノ花八千流(うのはなやちる)

 

八千流とは、数多ある全ての剣術を修めた者として自身に名付けた名だ。傲慢とも取れる名だが、彼女はそれに見合うだけの実力を身に付けた死神である。

 

彼女は本来ならば罪人だ、数多の者を斬り伏せて来たのだから。

 

しかし彼女は、史上最強と呼ばれる護廷十三隊の初代十一番隊隊長を務めていた死神であった。その腕を買われたからだ。

 

剣術で勝る死神は存在しない。過去に戦った一人の子供を除いて、彼女より強い死神は存在しないと彼女は知っている。

 

剣八と呼ばれる、死神において最強の剣の鬼。その初代を務めた彼女を萩風もわからないわけではないだろう。

 

彼女から教わると言う事は、それ相応の覚悟と死と隣り合わせの鍛錬が待っている事を。

 

だが、彼女にそんな事は関係ない。彼女が考えるのは、ただ一つ。

 

「彼は私を、喜ばせられる死神になってくれるかしら」

 

己を超える、怪物になるかどうかだけである。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5.時間が過ぎるのって、早いよね

あいつとは良い勝負ができた、俺に戦いとは何かを思い出させてくれたからな。命をかけた殺し合い、考えるのも惜しい攻防の連続。また戦いたくて仕方ないぜ。

護廷十三隊十一番隊隊長 更木剣八


「今日はここまでとしましょうか」

 

卯ノ花隊長は悠々と木刀を腰に仕舞う、対して俺はこの言葉を聞くと足から力が抜け落ちて倒れてしまう。足も手もガクガクと震え、木刀を握っていた手には血豆が割れて木刀も真っ赤です。

 

てか、毎回体のどこかの骨が折れてます。身体中痣だらけ、もう動けないレベルです。

 

「はぁ…はぁ…はぁい、ありがとうございまし、た…」

 

えぐいよ、鍛錬超えげつないよ?卯ノ花隊長、鬼みたいに強いんだけど?俺の想定していた隊長格の敷居って、こんなに高かったのか!?

 

そりゃ斬魄刀にも認められねぇよ、四番隊でこのレベルだぞ?他の隊長格はこれ以上とか化け物ばっかじゃねぇか!!

 

こんなの100年続けてるけど、勝てる気配すら無いんですけど!?

 

いや最初の10年は一瞬でノックアウトされて水かけて起こされてを繰り返して…、50年経つ頃でようやく防御だけなら取れるようになって卯ノ花隊長が本気を出し始めて、最近になってようやく打ち合いができるようになったけど…卯ノ花隊長、むちゃんこ強い。

 

理想の女の子との打ち合い?いや…こんなハードだと、気にできねぇよ。気にした次の日に俺の墓が立つ。

 

なお、20062戦中、俺の勝利数は0。敗北数は20062回である、やべぇよ全く勝てねぇよ。卯ノ花隊長は成長していると言ってくれてるが、隊長になる日は遠過ぎるぞ。

 

あ、でもこの前に副隊長になりました。いきなり副隊長ってのには驚いたけど、卍解も回道もできるなら就いてもまぁ大丈夫だよな?と自分を納得させてなりました。

 

やっと席が空いたからね、副隊長の仕事と弟子の世話を兼任しながらこの鍛錬をこなしてます。もう俺の体が悲鳴あげてるが、凡人以下の俺はこのくらいやんないと成長できないからなぁ……

 

「萩風副隊長、卯ノ花隊長。少々よろしいでしょうか?」

 

すると武道場の扉の奥から声が聞こえる。それに対して卯ノ花隊長が「お入りなさい」と答えると。

 

「失礼しま…萩風さん!?大丈夫ですか!?」

 

「お、おう…今日もハードだったよ」

 

武道場に入って来たのは虎徹勇音、三席です。はえーよ、成長はえーよ。俺は回道教えたけど、いつの間に卍解極めたんだよ、天才じゃねぇか。俺もう教える事教えたけど未だに「私は未熟です」とか嫌味にしか聞こえないからね?卯ノ花隊長から聞いたのをそのまま伝える位しか、回道の心構え的な事しか俺はもう話す事が無いんだけど。

 

でも彼女は三席になって忙しくなってきているから、最近はこの鍛錬の後の怪我の治療の時しか絡む事は無いんだよね。

 

虎徹ちゃん、美人だよなぁ。彼女に回道教えてた時が死神ライフで一番至福の時間でした。今はその美人に治療されてて最高です、弟子の成長を感じると言う点でも、すべすべの柔らかい手の感触を楽しめるって言う点でもね!

 

「勇音、今日は来るのが早かったですが何か報告ですか?」

 

「あ、すみません!緊急の招集が隊長にあるので、至急1番隊隊舎へ集まれとの事です!」

 

「わかりました、では汗を流してから直ぐに向かいましょう。萩風は遅れても構わないので休んでいなさい、彼の回復は任せましたよ」

 

あれ、何か大変そうだなぁ。まぁ心配できる程の実力は無いんですけどね!更に言うと体はボロボロですしね!隊首会サボれてラッキー?

 

☆☆☆☆☆

 

「(今日も、傷だらけだ…)」

 

萩風を治療する彼女、虎徹勇音はいつもその傷の多さと重さに驚きを隠せない。日常的に見ている鍛練後の萩風の怪我で感覚は麻痺しているかもしれないが、そんな事は無い。

 

「(左腕の骨折が7ヶ所、右腕が4ヶ所…肋骨が3本、両足も酷い。裂傷だらけ、木刀での打ち合いでこんなになるまで…こんなの、鍛錬っていうより拷問じゃ…)」

 

重症だ、この100年の間に彼の弟子となってからこの鍛練の後に重症で無かった日は存在しない。

 

だが彼には休むと言う概念が存在しない、鍛練をやめると言う概念が無いのだ。

 

「萩風さん、如何ですか?」

 

そして彼に教わった回道であれば、この傷を治すのも容易である。と言っても彼も同時進行で自身を回復させていたので彼女の力だけでは直ぐに医療室のベッドの上に居ただろう。

 

「問題無い、とりあえず大丈夫だわ」

 

だが痛みが取れたわけではない、神経が覚えた痛みは未だに彼の体を走り回っている。にもかかわらず、彼は欠伸をすると直ぐに立ち上がって木刀を拾い上げる。

 

どうせまた隊首会が終わったら一人で練習するのだ、どこで練習しているのかは知らないが彼はそう言う死神なのだから。

 

「ありがとう虎徹さん。とりあえず、風呂入って来るわ。また片付けお願いしてもいい?」

 

「はい、お任せ下さい」

 

虎徹勇音にできるのは、彼の手助けだけなのだから。

 

☆☆☆☆☆

 

「今回は、どんな要件での呼び出しかなぁ」

 

そう呟くのは女物の着物を軽く羽織る死神だ。そしてその後ろには長髪の白髪をした死神も居る。

 

緊急の隊首会、そこに誰よりも早く駆けつけていたのは護廷十三隊の隊長の中でも古参である2人であった。

 

「おー、京楽。結構久しぶりになるな」

 

十三番隊隊長である浮竹十四郎(うきたけじゅうしろう)、八番隊隊長である京楽春水(きょうらくしゅんすい)の2人だ。100年以上隊長を務める、総隊長の教え子達だ。

 

また2人は友人関係であるが、浮竹の方は病弱な為に隊首会をよく病欠するのだが、今回は体調が良かったので誰よりも早く到着していた。

 

「俺のいない間に四番隊に新しい副隊長ができたそうじゃないか、噂ではかなり古参の」

 

「あぁ、中々の古参だ。萩風カワウソ、あの卯ノ花隊長の一番の弟子らしいからね」

 

自然と前回居なかった時の話が話題となる、と言ってもいつも通りの定例会だ。違った事はこの事くらいなのだから。

 

「卯ノ花隊長のか、それは凄いな。彼の名は聞いた事がある、回道の達人とは聞いていたがお弟子さんだったのか」

 

萩風の噂は隊長達の耳にも届いている、彼は回道の腕を体感した者から又聞きした物であるが本来なら治療に1週間かかる傷を10分足らずで完治させたりなど、眉唾ものばかりだ。だが卯ノ花隊長の弟子ならば納得できるだろう、彼女は護廷十三隊で最も腕が立つ回道の使い手なのだから。

 

「京楽から見て、その子はどうだ?」

 

だが直に会った事は無い、浮竹はそれを京楽へと伺う。彼は京楽の慧眼を信用している、その彼から見て萩風カワウソとはどのように写るのか気になるのだ。

 

「そうだねぇー…一度会って、少し話したけど。古参なのに謙虚だったよ」

 

その心構えと態度は簡単にはできない事だ、どんな者でも驕りというものが出てくるのだから。それは強者へと至る道において最大の障害かもしれない、驕りとは自身を強いと錯覚させてしまうのだから。

 

「でもね…隊長達の一挙一動を観察する程、力に飢えてるみたいだけどね」

 

それを聞いた浮竹は「おぉ!」と感嘆の声をあげる。彼は謙虚でありながら、まだまだ強者へと至る為の貪欲さを持っているのだ。どの隊長達もそんな力への貪欲さでのし上がった者も多いだろう。

 

そして最後に京楽は

 

「まぁ、彼ならいつか僕らに並ぶ死神になるさ」

 

そう呟くと、それに対して

 

「当然です」

 

と卯ノ花隊長は真後ろで答えていた。

 

「げ、卯ノ花隊長…いつの間にこちらへ?」

 

「今しがたですよ、弟子が褒められるのは嬉しいものですね」

 

にっこりと笑う卯ノ花隊長だが、どこか素直ではなさそうに見える。そういう人なのを2人は知っているが、何に素直で無いのかはわからない。




沢山の感想と評価、お気に入り登録ありがとうございます。

この作品では原作の主人公は空気気味になるかもしれませんが、ご容赦ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6.イケメンって、世の不条理だよね?

彼は私の中で大した事は無い存在であった、賞賛に値しても警戒に値する死神ではなかった。黒崎一護に敗れた後もそう考えていたさ。だが滅却師の長を倒した時の霊圧を感じてからは、私と同等に彼を警戒しなかった滅却師達を…哀れだと感じたよ。

元護廷十三隊五番隊隊長 藍染惣右介


俺が死神になってから、500年が経ちました。

 

ソウルソサエティも色々変わった。100年前だと隊長とか3人くらい一気に変わった、まぁ何より変わったのは俺も成長してきているとこだと思う。

 

鬼道を鍛え、剣の腕を磨き、斬魄刀を磨き、はっきり言うとそろそろ卍解・改弐を覚えても良い頃合いだと思うんだ。しかも最近になって天狐ちゃんも「何か、思い出しそうだ…」と言い始めてる、そう言う設定なのかな?思い出したら卍解・改弐を発動できるんかな?

 

そんなこんなでまた俺はいつもの鍛錬場所にやって来る。

 

「よぅ、久しぶりだな。ヒヨッコ」

 

「随分と久しぶりですね、麒麟寺さん」

 

麒麟寺天示郎(きりんじてんじろう)。最初に会ったのは100年前かな?最後は確か20年だった気がする。

 

このリーゼントのおっさんはこの洞窟とか温泉を作った人らしい、まぁこんな場所が自然発生しないとは思ってたから予想は出来てた。

 

それとこのおっさん、無茶苦茶強い。めっちゃ早い動きができる、最初はその動きが全く見えなかった。卯ノ花隊長に鍛えられてた俺が少しだけ天狗になってた時期に会ったんだが、背後に立たれて背中を殴られるまで気づかない早さだった。俺は速力には自信があったけど、護廷十三隊の死神でもないこの人の瞬歩を見たら俺もまだまだだと思った。

 

そして、より一層ここまで走り込んだよ。

 

おかげでここまで1時間で来れるようになった。

 

「ほー、見えるようになったか」

 

そのおかげかね、今は何とか見える。いやぁ、この人おかしいよ。前より動体視力が良くなった俺でも、目の端で捉えるのがやっとなんだから。ちなみに何かよく知らないけど霊王とかいう人を守ってる組織に入ってるらしい、俺はそこら辺がよく分かってないけど凄い事なのかな?異国の王様の近衛兵みたいな?

 

「隊長直々に鍛えられてるんで」

 

それと俺の実力だが、この前にやっと記念すべき初勝利をもぎ取った。34250戦、34246敗、3分け 、1勝!でもこれに自惚れてはならない。何故なら勝てたのは一度だけ、それに加えて卯ノ花隊長以上の怪物が12人居ると考えればもう震えが止まらねぇよ。

 

「積もる話もあるが、実は今日は休みじゃねぇ」

 

ん、休みじゃないのか?この人がここに来るのは休みの時にちょこっと見に来るからって聞いてたんだけど?

 

「霊王様がお前に興味を持ってる、いつかお前はうちに来れる逸材だと思われてるらしいぞ」

 

あ、仕事ですか。勧誘かぁ。この人の入ってる組織は知らない、自己紹介された時に聞き漏らしたと思う。もしくは言ってないのかもしれん。

 

「え、嫌ですけど」

 

もちろん嫌だよ、俺は女の子にチヤホヤされたくてここまで頑張ってきたんだよ。王ってことは男だろ?何で野郎を守る為に剣を振るんだよ、俺は俺と女の子のために斬魄刀を振るからな!

 

「はっ、つれねーな。俺様の本当の湯を味わわせてやろうと思ってたのにな」

 

「この湯で十分ですよ」

 

後、この湯で傷を負う事はなくなった。耐性でもついたんだろうよ、そりゃ何年も入ってたら慣れるか。

洞窟は未だに水の中を泳いでるみたいな違和感あんだけどねー。

 

「そろそろ上がりますよ、女の子を待たせてるんで」

 

この後に色々と約束とかあるんですよ、仕事も修行のこってるしな!

 

☆☆☆☆☆

 

一人で入る風呂が寂しいのか、いや…これは今しがた出て行った男へ対して物思いにふけっているからだろう。彼は独り言を呟いていた。

 

「あいつは自覚してんのかねぇ」

 

零番隊は死神の中の精鋭の中の精鋭の5人。その実力は3000人以上在籍する護廷十三隊の総力を上回る、霊王から選ばれた猛者なのだ。

 

その霊王に選ばれる条件は一つ、ソウルソサエティで歴史に残るような事をしたかだ。例えば零番隊のリーダーの立場にある兵主部一兵衛はソウルソサエティにある全てに名を付けた。

 

斬魄刀も、卍解もだ。

 

他にも全ての斬魄刀の元となる浅打を作り上げた二枚屋王悦など、誰もが偉業を為し得ている。

 

「まぁ、そん時はそんときか」

 

霊王が気にかけているということは、彼はソウルソサエティに変革を起こす寵児になる可能性があるという事だ。

 

麒麟寺が彼を見て、特筆すべき所は無い。確かに実力はありそうだが、ソウルソサエティに変革を起こせるような男かどうかと問われたら答えはノーだ。

 

だが、彼には一つだけ彼の異常なまでの実力がわかっている。

 

「ここを使うとはいえ…いや、ここを使ったからこそ霊王様に気に入られたか…

 

 

 

 

 

 

霊王様が作成された、この地でな

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

約束の時間まで5分か、ギリギリだな。麒麟寺さんと話してて長風呂しちまったな。

 

実は今日は女の子の死神と約束があるのだ、二人っきりでな!残念な事に野郎への贈り物選びを手伝わされるんだけどな!!その子くっそ可愛いのになぁ!!

 

「あ、萩風副隊長!」

 

あ、プライベートなんで副隊長呼びはよして欲しいなぁ。今の俺の格好って、超緩い一般的な平民と変わらない服装なんだからさ。

 

「すまない、雛森さん。遅れてしまった」

 

彼女は雛森桃(ひなもりもも)、5番隊副隊長です。めっちゃ若いよ、俺も容姿だけは若いけどこの子は優等生みたいな子でねすぐに副隊長になったんだよね。半端ねぇよ、俺そこに就くのに400年かかってるのに、その4倍以上早く就くのはおかしくない?

 

この子との繋がりは初めての隊長、副隊長の集まりで緊張してたみたいだから軽く話して輪を広げてあげたくらいの繋がりである。

 

普段なら見知らぬ女の子と話すのは大変なんだけど、キョドリまくってた彼女を見てたら自然と落ち着いて話し合えたんだよね。

 

「やぁ、萩風副隊長」

 

で、このメガネをかけた優男が何でここに居るんですかねぇ…

 

「藍染隊長、お久しぶりですね」

 

5番隊隊長、藍染惣右介(あいぜんそうすけ)。怪物集団である隊長格の一人だ。

 

「買い物かい?」

 

そうですよ、貴方へのね!雛森さんがわからないからって相談に乗ってるんですよ!何で貴方がタイミング悪くも居るんですかねぇ!?

 

なんでよりによってこんなイケメンの贈り物を俺が考えるんだよ!?他のイケメンにしろよ!三番隊副隊長の吉良君とか、九番隊副隊長の檜佐木君とかさ!顔面偏差値高い子達だろ?俺の偏差値は40程度だわ!!

 

貧乏くじにも程があるからな!?しかも雛森さんが「萩風さんしか、こんな事頼めなくて…」って言われたら断れないだろうが!!

 

そん時の周りの目がやばかったからな!特に十番隊の日番谷隊長の目つきやばかったぞ、完全に俺を射殺す眼をしてたからな!

 

「そうかい、邪魔をして悪かったね」

 

くそ、イケメンなんて嫌いだ!鍛えようが無いからな!

 

しかもなんて場の空気が読める人なんだ、イケメン過ぎるだろ!実力もあって心までイケメンとか、こんなの居て俺が隊長になれても刺身の横のツマかシソ程度の価値しか出ねぇじゃねぇか!!

 

「藍染隊長……」

 

はい、隣の雛森さんは立ち去って行くイケメンにうっとりしてます。

 

何で休日にこんな事をしなきゃならんのや……女の子と一緒なのに、ただただ俺と隊長との男としての実力差を見せつけられただけかよ。

 

…その後は特に何も起こらず、無事に俺の休日は終わった。

 

あ、卯ノ花隊長に「今度は負けませんよ、萩風」と鍛錬と言う名の一方的な殺戮が行われてたわ。俺っていつもボロボロだなぁ…

 

それと後日、斬魄刀を片手に「雛森と付き合ってるなら…俺に一言、挨拶は無いのか?」と日番谷隊長が四番隊隊舎にまでやって来た。どうやら密会してると勘違いしたようで、雛森さんが来るまで誤解されたのも書いておこう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ソウルソサエティ編 7.座学サボってたから、世間知らずだわ。

お礼もできずにお別れしたのは、残念です…

護廷十三隊五番隊副隊長 日番谷桃


○月×日

 

最近、初めての友人ができた。雀部副隊長だ、彼は俺を仲間と言って茶会に誘ってくれた。まぁ、俺ってこの人の次に古参な副隊長だしな。この人はいつも隊長の話断ってるのでも有名だ、総隊長の事をずっと話してたが自然と飽きなかった。

 

友人と飲む茶がここまで美味いとは知らなかった。

 

○月×日

 

女の子の友達が居ない、男の友達は一人できたけど女の子が居ない。誰か、アホそうな子は居ないのか?ちょっとバカで可愛い子は!?駄目だ、女の子の死神って身持ちが良さそうな子しか見当たらねぇ!

 

○月×日

 

あぁぁ!?何で俺に、彼女が居ないんだよ!この歳でまだ卒業してねぇよ、てか女の子の友達も居ないよ!

え?虎徹勇音?弟子に手を出したら紹介された卯ノ花隊長に殺されるわ!!雛森桃?あのイケメンに勝てるところがあるなら言ってみろよ!!そして日番谷隊長も狙ってるんだぞ!勝てねぇよ!え?卯ノ花隊長?プロポーズしたら俺の屍を遮魂膜に投げ込むと思う。

 

…俺に、未来はあるのだろうか。

 

○月×日

 

胸の大きさじゃない…性格の良さなんだ…

 

○月×日

 

可愛い彼女が欲しい

 

○月×日

 

おっぱい、おぱ…おぱぱばぱぱぱぱぱぱぱp

 

◯月×日

 

邪念は鍛錬で消してきた。

 

いつものような平和…うん、平和な時間が流れてく。そんな時にこの招集はあった。副隊長の証である副官証を強制されてつけるの何気に初めてかもしれない。

 

で、副隊長も全員集められましたよ。隊首会には出られないけどね。

 

で行われたのは緊急隊首会だ。そして、今回はそれに見合うだけの事件だった。

 

朽木ルキアっていう子が大罪を犯したらしい、死神の力をあろうことか通りすがりの人間に渡したそうだ。

 

あ、それって罪なのか。知らんかった。

 

で、その子は死刑だってさ。

 

いや予想外ですわ。双極ってのはよくわかんないけど…あ、死神処刑する斬魄刀だったかな?座学サボり気味だったからよぐわがんね。

 

で、死神の力を渡しただけで死ぬのか?

 

いや、渡して無くしたなら取り返せばいいじゃん。そこまでやばいの?もし無くしたならまた修行して死神の力をゲットできないかな?

 

その後は適当に理由言われたけど、俺は納得しなかったなぁ。世の中で数少ない女性の死神を殺す理由なんざ、存在しないだろう?

 

つまり…あ、俺には何もできないけどね。何か出来そうな人に任せるわ。てか、処刑まで2週間とか短いと思うのは俺だけかな?

 

何か急いでるようにしか感じないんだよなぁ…もしかしたら、俺が世間知らずだからなのかもしれんが。

 

まぁ違和感があるなら隊長達の誰かが解決するだろ、俺はいつも通りに卯ノ花隊長と鍛錬するよ…

 

◯月×日

 

旅禍ってのが侵入してきたらしい。

 

とりあえず侵入者ですね、遮魂膜って凄い膜が瀞霊廷を覆ってるんだけどそれを突破してきたらしい。

 

数は分かってるだけで5人、被害は十一番隊が壊滅的被害を受けて3席と5席がやられたらしい。卍解つかってたら流石の俺でも霊圧で感知できると思うし、卍解使わなかったのかな?

 

思い立ったが吉日、ちょうど治療室に居るらしいから行ってきた。

行くと十二番隊の涅隊長に脅されてたけど、ここ四番隊管轄ですからね?でもゴネてきたから「俺を相手取るってことが、どういう事かわかってての行動か?」と「俺に手を出したら卯ノ花隊長を敵に回すぞ!?あぁん!?」という意味を含めて追っ払った。渋々去ってくれた後に3席の斑目君に戦闘の事について聞いたら驚いた顔をしながらも卍解は使わなかったと言っていた。まぁ使っちゃ駄目だよな。卍解をしたら瀞霊廷がヤバいことになるだろうし、総隊長から許可とか無いと駄目だよな。

 

俺も卍解しないように気をつけないとな…

 

◯月×日

 

六番隊の阿散井恋次(あばらいれんじ)副隊長がやられた、卍解が使えない状況下とは言え副隊長をやるとか敵は中々強いそうだ。

 

あ、ちなみに今の俺は両腕を包帯でぐるぐる巻きにしてます。まぁ名誉の負傷だから問題無い、女の子に血を流させるわけにはいかないし、これがベストだと思ったからな。

 

何故かと言うと藍染隊長が殺されたのが発見されてから話は始まるんだけど…

 

☆☆☆☆☆

 

ポタポタと赤い水滴が滴り落ちる、その水滴の根源となる泉にもう命は宿っていない。見ればわかるのだ、斬魄刀が胸に刺さっている。目も半開きのまま影が差し込んでいる、第一発見者の雛森桃にはわかる。回道に少なからず精通している彼女にはわかる。

 

藍染隊長は殺されたのだと。

 

「藍染隊長…」

 

その後ろから他の部隊の副隊長が集まる、呆然と立ち尽くす彼女へ駆け寄る三番隊の副隊長の吉良が揺さぶるも彼女の目に光は宿らない。

 

「雛森くん、どうしたんだい?雛森くん!!」

 

そして次に動いたのは四番隊の副隊長である萩風だ、直ぐに藍染の死体から斬魄刀を抜き取り治療に取り掛かろうとする。だが直ぐに諦める、何故なら死んでいるのをはっきりと確認してしまったからだろう。

 

壁に足をねじ込んで体を支え、藍染隊長であった物言わぬ体を抱える。

 

「いやぁぁぁぁ!!」

 

そして雛森はそれを見て更に絶望する、何故なら回道に精通している四番隊の副隊長が匙を投げているからだ。まだ息があるかもしれないという一抹の希望すら、拭いとられたのだから。

 

「なんや、朝っぱらから騒々し…おや、これはえらい一大事やね」

 

そんな一同の背後に現れたのは三番隊の隊長である、市丸隊長だ。同じ隊長格が亡くなったというのに、えらく緊張感が無い。まるで知っていたかのように、そう考えた雛森の頭には同じく隊長であり幼馴染である十番隊隊長、日番谷の声を思い出す。

 

《三番隊には気をつけろ、特に藍染が一人の時はな》

 

「お前か!!」

 

刀を抜き、そのまま彼女は斬りかかる。副隊長とは言え隊長に次ぐ実力者だ、不意をつければ隊長と言えど殺せる。ましてや、背中を見せて抜刀すらしていないならば。

 

しかし、それは一対一の場合に限る。

 

キンッ!というぶつかり合った金属音が響く。市丸は抜刀すらしていない、雛森が振るった斬魄刀は別の死神、彼の斬魄刀によって防がれていた。

 

「僕は三番隊の副隊長だ、ここを退くわけにはいかない」

 

吉良は市丸の手前で彼女の斬撃を防いだ。当たり前だ、市丸隊長は吉良副隊長の上司なのだから。とっている行動は違うが、藍染隊長の為に剣を振るう雛森副隊長と立場は同じなのだから。

 

「退きなさいよ!」

 

「退かない!わかってるだろ!」

 

二人が鍔迫り合いをしている間に、市丸は悠々と離れて行く。だが吉良が退くつもりも、退けない事もわかっている。ならば、彼女が取る行動は予期できた。

 

(はじ)け『飛梅(とびうめ)』!!」

 

そして彼女の斬魄刀が解放される、七支刀のような斬魄刀へと形状が変化する。

 

「っ!!自分が何をしてるのか、わかっているのか!」

 

同時に、吉良へ向けて爆発が起こる。飛梅の能力である、始解した彼女の斬魄刀の力であり、彼女が本気なのだと吉良は瞬時に理解する。

 

(おもて)()げろ『侘助(わびすけ)』!!」

 

そして彼もまた斬魄刀を解放せざるを得ない状況であった、このままでは殺し合いになる。二人には退く事ができない理由がある、冷静でない雛森副隊長が相手の吉良副隊長には退けないのだ。

 

そして、二人の攻撃が交差しようとした時に。

 

「っ!!」

 

先程まで藍染隊長を抱いていた萩風が、二人の間に立っていた。

 

「イテテ…二人とも、斬魄刀をしまってくれると嬉しいんだけど」

 

それも、素手で始解された斬魄刀を受け止めてだ。当然無傷では無い、ポタポタと赤い水滴が糊のように粘性を持ちながら両者の斬魄刀を伝って手に流れ落ちる。

 

「え、あ…」

 

そこで二人はやっと理解したのか、動きが止まる。そして深々と刺しこまれた二人の斬魄刀が彼から抜きとられる。

 

そして周りの者達だが、副隊長でありながら誰一人としてこの戦いをとめられなかった。否、動けなかったのだ。この混乱した状況をうまく把握できず、これを上手く納める方法が無かったからだろう。

 

「痛いと思ったら…骨まで届いたか」

 

だが萩風は全く関係のない自分が血を流す事で、お互いの動きを止める事ができた。結果的に雛森副隊長が冷静さを取り戻すきっかけも与えていた。だからあえて、彼も斬魄刀で守らなかったのだろう。

 

とも考えられるが、始解が行えないという噂通りならば斬魄刀を使う意味がなかったともとれる。

 

「萩風副隊長、腕が…!?」

 

「大丈夫、傷口は塞いだから。痛みは残るけどね」

 

松本副隊長が負傷した萩風へ駆け寄る、そして他の副隊長はようやく吉良と雛森を拘束する。

 

そして最初傷を見た松本は顔が青くなる、左腕は灼け爛れ右腕からは骨が見え傷ついていたのもみえたのだから。

 

が、直後にその青くなった顔は色を取り戻す。

 

「もう骨をくっつけて…?」

 

「応急処置だけどね。斬魄刀で傷ついたから、少し回復に時間はかかるけど、俺の心配はしなくていいよ」

 

いや、そこに驚いているだけではない。回道に長けた萩風ならここまで回復するのも噂程度には知っているからだ。

驚いているのは松本くらいだろう、だから無知な彼女が萩風の元へ駆け寄ったのだ。

 

だが殆どの副隊長全員が驚いているのは《始解された斬魄刀を受けて何故、骨に届いた程度で済むのか》だ。本来ならそのまま切り裂かれ、最悪死んでいる筈だ。また副隊長達の誰一人として、萩風の動きは捉えられなかった。藍染隊長の死体だが、丁寧に地面に置かれている。磔になっていたのを下ろし、それをして皆の間を駆け抜けて2人を止めたのだ。

 

これだけの動作をして見えないはずがないのに見えなかった。

 

それもそのはずだろう、近くにいた隊長である市丸ギンですらその軌跡がうっすらと見えた程度なのだから。

 

「牢屋に連れてくぞ」

 

二人はそのまま他の副隊長達に連行されていく、松本も萩風の容体が無事なのを確認してから近くに居るであろう日番谷隊長へ報告へむかう。

 

「大丈夫かいな、萩風副隊長」

 

そしてそのまま連行されて行く雛森副隊長の目の前を通り、萩風へと歩み寄る。この二人に接点はない、というか萩風と接点のある隊長は卯ノ花隊長だけだが。

 

この場には二人だけであった。

 

だからこそ、萩風は問うた。

 

「市丸隊長、雛森副隊長を殺そうとしてましたね。殺さないようにできる力があるにもかかわらずに」

 

返答は無いが、恐らく間違い無いのだろう。少しだけ嫌らしく微笑み、それで萩風は理解する。彼から発せられた微弱な殺気、それを見抜けていたのは萩風だけだろう。常に卯ノ花隊長との殺意の溢れた戦いに身を投じていたからこそ身につけた特技だ。

 

「俺は隊長格だろうが、女の子の血を流す奴は許さないんで」

 

そう言い、萩風はその場を後にする。これから報告に向かうのだろう、ご丁寧にいつの間にか現場を市丸が簡単に手を出せないように結界を張っている。

 

「怖いなぁ…萩風副隊長は…」

 

そう言いながら、彼を見送る。その目は蛇のように冷ややかなものであった。

 

「殺したいくらいに、なぁ。」

 

☆☆☆☆☆

 

旅禍、それは尸魂街に紛れ込み災いを巻き起こすと言われる存在だ。そしてその旅禍の中で最も強い男、黒崎一護は副隊長である阿散井恋次を破り地下へと治療の為に避難していて。

 

「おい花太郎、さっきの奴は副隊長の中でどんくらい強いんだ?」

 

そして、治療を受けながら出来る限りの情報収集に努めていた。阿散井恋次という副隊長を確かに彼は倒した、だが13人居る副隊長の一人だ。彼がどの程度の力であり、それは13人居る隊長格との力量差はどのくらいあるのか一護には想像がつかないからだ。

 

「わかりませんよ、僕は四番隊なんですよ?他所の隊士がどれくらい強いとか知りませんよ!」

 

そして尋問される山田花太郎は回道に通じていても、瞬歩もできない非戦闘員の代表的な男だ。普通の四番隊の隊士とはこういう男だ、読者は勘違いしてそうだが彼が四番隊のオーソドックスだ。

 

「じゃあお前んとこの副隊長と隊長はどうなんだよ、あいつより強いのか?」

 

そして一護からの質問は自然と花太郎の属する四番隊へと移っていく。

 

「さぁ…隊長は優しくて貫録もありますけど…副隊長が斬魄刀を使ったのを見た事も聞いた事もありませんから…噂じゃ、副隊長は始解もできないとか言われてますね…あ、でも部下を大切にしてくれる良い人ですよ!僕たち四番隊を誇りに思ってくれてる人です!」

 

萩風副隊長は回道の腕だけで副隊長となった死神、そう言って彼を揶揄する死神も少なくはない。彼が斬魄刀を解放するどころか、抜刀する所も聞いたことが無いからだろう。

 

だからこそ、そんな噂が流れていく。

 

「でも昔に隊長の推薦を断ったとか…ってのも聞いた事もありますね」

 

こちらもあくまで噂、隊長が殉職や引退、行方不明になった際に隊長の席は空く。だがそれを断ると言う事は斬魄刀をモノにしてるのでは?とも考えられたが…どちらにせよ前線に出ない意気地なしのレッテルが貼られている。

 

あくまでも、一部の死神からではあるが。

 

「一応聞くが、名前は?」

 

一護は何か引っかかるのか、その名を問う。

 

「萩風カワウソ、副隊長では雀部副隊長に次いで古参の死神らしいです」

 

間接的ではあるが、この時が黒崎一護が萩風カワウソという死神を知った瞬間であった。




この世界の主人公はかなり空気になってます、ご了承ください。

貴重な千年血戦編以外の主人公活躍?シーン。

そして建てられる死亡フラグ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8.死神ってやばいわ。

あの人の卍解は恐ろしく強いが俺でも戦えるレベルだ。…おい信じろよ。

護廷十三隊六番隊副隊長 阿散井恋次


はいはい、さらっと隊長に喧嘩売っちゃいました♪

 

あっははははははは!!!はー、は!うわぁぁぁぉぁぉぉ!!?

 

俺なにしてんの!?バカなの死ぬの?死んじゃいますよねぇ!卍解しか習得できてない俺じゃ、殺されちゃいますよねぇ!?

 

そんな心が荒ぶってる俺の所に訪問しに客がやって来る。

 

「萩風副隊長、今回は助かった」

 

日番谷隊長が態々頭を下げに来た。いや、傷は治ったんよ?俺もいつでも治せるレベルだからね、斬魄刀で切られたから手こずっただけだし。別に骨に霊圧が溜まってるせいか斬魄刀を防いでも骨に傷一つないし、松本さんは折れてたと思ってたみたいだけど。侘助のせいでちょっと体が重かったり飛梅のせいで火傷してただけだし。

 

「日番谷隊長、俺は当たり前の事をしただけですよ」

 

女の子を守るのに理由は無い、正直に言うと朽木ルキアの死刑も納得いってないけどね。

 

「市丸については俺に任せてくれ」

 

「助かります」

 

ありがとうございます!!命の恩人かよ、最高かよ!流石は天才だな、一番若い隊長は彼だしね!俺が四番隊追い出されたら十番隊行きますよ!

 

「…済まないな、本当はあんたが相手したかっただろうに」

 

え、何言ってんの?啖呵切ったけど、まぁ啖呵切ったけど!そん時は頭に血が上ってたんですよ、隊長格には勝てないよ?卍解・改弐をまだ身につけられてないからな!

 

「萩風…」

 

そしてそんな胸中を知ってか知らずか、何かを日番谷隊長が呟こうとした時だった。

 

これは突然起こった。

 

「っ!?」

 

遠くからだが感じる、霊圧の爆発的な増加。

 

中々デカイ霊圧を感じる…隊長クラスか?

 

「この霊圧は…更木剣八か」

 

日番谷隊長がそう呟く。

 

え、それ十一番隊隊長じゃないですかー…!

 

でも隊長ってやっぱり怪物じゃねぇか!みんな始解もしないでこんくらいの霊圧秘めてんの!?この日番谷隊長の小さい体のどこにそんな力があるん!?

 

「用事ができた、最後に一つだけ頼まれてくれないか?」

 

ん?日番谷隊長、何かあるんですか?面倒ごとは嫌いですからね?

 

「雛森を…頼んでもいいか?」

 

雛森副隊長?今は牢屋に入れられてるな。

 

「お任せを」

 

喜んでやりますよ!面倒ごと?いやいや、ご褒美ですよ。

 

☆☆☆☆☆

 

旅禍のうち、3人が既に捕まったらしい。

 

京楽隊長、東仙隊長、浮竹隊長が捕らえて来たらしい。で、残りの旅禍なんだけど姿を消してしかも一人は更木剣八を倒したらしい。ヤバいやんけ、半端ないって!強さえげつねぇよ!卍解使ってたかは分からんけど、隊長にそのまま剣術で挑む時点でヤバいけどな!

 

あーあ、しかも朽木ルキアの処刑日時が早まったらしい。旅禍が来たからかな?まぁ、俺にはどうにもできないんだけどさ。

 

…いや、出来ることあるな。旅禍を巻き込むとか、いやそれやったら副隊長じゃなくなるだろうなぁ、俺が死にかねん。つまりそれをやる事は無い。

 

それに、雛森副隊長を最優先に考えるべきだよな。

 

「萩風副隊長、何かお悩みですか?」

 

あ、ちょっと考え事をし過ぎたかな。いつのまにか隣に虎徹勇音三席が居た。最近は卯ノ花隊長の鍛錬後にしか会わないな、まぁ虎徹さんは優秀だから教える事がもう何もないからなんだけどねぇ。

 

「いや大丈夫だ。藍染隊長の検死は終わったのか?」

 

「はい、ですが卯ノ花隊長は何か引っかかるようで……」

 

あー、俺も発見した時に軽く検死したけども特に何もなかったな。でもまさかあの藍染隊長が胸に一突きだけで死ぬとは思わなかったな。不自然なのはそんくらいだよ、無防備だったんだろうなぁ…としか思えん。

 

まぁ、今の俺に出来ることなんて何も無いからなぁ。

 

というか虎徹さん少し暗い気がするな。

 

「元気を出せ、胸を張れ虎徹三席、君は君のできることをやればいい」

 

「っ、はっはい!」

 

するとシャッキ!と背を伸ばす虎徹さん。

 

「…っ!?」

 

なん…だと…!?いつもは背中を丸めてるから気づきづらかったが、こんな戦闘力を持っていたのか!?この山…ヤバイ、とりあえず元気出してくれたのは嬉しいが、俺は俺で元気になりそうだ。

 

「と…とりあえず、雛森さんの所へ行ってくるか」

 

「え、あの…ご一緒します!」

 

「それは嬉しいけど…今は良いよ、隊長のサポートを頼む」

 

普段なら即了承するよ、でも無理だね。今は有事で隊長には誰かしらが控えとかないと不味い。俺は俺で動きたい、だから虎徹さんはここで置いてくよ。

 

あーいつの間にか、もう夜だよ。もう雛森さんも昇った血も落ち着いてるよね?とりあえず、顔くらいは出しとかないとな。

 

雛森さんは友達が多そうだけど、日番谷隊長に託されたら行かざるを得ないよな。

 

☆☆☆☆☆

 

「…んで、こうなるのかよ」

 

デカイ穴が檻の奥に空いてる、当然これは元からあるわけないよ。

一応簡単に突破できないように…じゃなくて、絶対に突破されないように結界と見張りが居るはずなんだけども。まぁ雛森さん鬼道の天才らしいし、突破できちゃったかぁー。

 

速報 牢屋の方に来たら、雛森さん脱獄してました。

 

あ、これ市丸隊長殺しに行ったくさいな。

 

「萩風副隊長、如何なさいますか?」

 

ん、あぁそっか。一応、俺は副隊長だからな。この場で一番偉いの、俺だよな。なんて都合の悪い…いや、逆に良かったのか?

 

「直ぐに連れ戻してくるよ、報告は任せる」

 

とりあえず檻を開けて穴から外へ飛び出す、雛森さんの霊圧探さないとな。いや…もっと目立つ、市丸隊長の霊圧探すか?いや、雛森副隊長みっけたわ。最悪、力ずくで連れ帰るか。

 

自惚れかもしれないけど、俺って雀部副隊長とかを除く他の副隊長よりは強いと思うからね。卍解・改弐身につけてる奴とか居ないだろうし、まぁ隊長格以外なら相手しても問題無いぞ!

 

☆☆☆☆

 

夜の瀞霊廷を駆け抜けて行く、月明かりが辺りを照らしていき薄ぼんやりとした灯と、標的の霊圧を頼りに彼女はかけていた。既に脱獄してから30分は経過してるだろう、これだけ離れれば直ぐに見つかる事はない。

 

斬魄刀を片手に、それでも彼女は足を緩めない。何故なら目的を果たすための可能性を少しでも上げたいからだ、1秒でも長く時間が欲しいから。

 

だから彼女は誰よりも速く走っていた。

 

「なんとか、追い付いたな」

 

だが彼は悠々と彼女の前に立った。いつの間にか追い抜き、自身の目の前に降り立った死神に対して、彼女は斬魄刀を抜きはしない。仮にここで吉良副隊長が現れたなら、彼女は迷わずに抜刀し斬りかかっていただろう。

 

「萩風さん…」

 

四番隊 副隊長 萩風カワウソ

 

なぜここに居るのか、雛森には理解できない。だが、彼ならば話せばわかるのでは無いか?と。萩風は自覚していないだろうが、彼の名は護廷十三隊に知らぬ者が居ないほど轟いている。

 

その名は学院にすら轟いていたのだから、彼が特別講師としてやって来た時なんて席が足らずに立ち見してる生徒も居た。

 

だが逆に戦場に出ない臆病者とも揶揄される死神だ。

 

もし藍染隊長と出会わなければ、日番谷冬獅郎という幼馴染が居ないならば、彼女は四番隊に入っていたのかもしれない。彼は誰にでも同様に優しい、何と言われているのか知っていても関係無しに接する。

 

雛森は彼を信用している、なぜなら彼は死神の規範となるべき人格者だから。

 

「退いてください、私は…日番谷隊長を倒さなければならないんです!」

 

そう言うと、彼は面食らっているように見えた。雛森どころか、普段の彼がこのような表情をしてる事が無いからだろう。

 

「日番谷隊長をか、理由は?」

 

雛森の予想通り、彼はまず対話を行ってくれる。それに安堵しながら彼女は藍染隊長が記した遺書を抜粋しながら話す。

 

「今回の事件、おかしい事だらけなのはわかりますよね?」

 

本当におかしい事が沢山ある、刑に執行されるにあたっての過程であったり方法であったりもだ。

 

「そうかもな、でも君がおかしいのもわかってるつもりだ」

 

「日番谷隊長は双極でソウルソサエティを破壊するつもりなんです、私が止めなきゃならないんです!」

 

少しだけ、萩風は考え込む。双極が何かわからないわけでは無いだろう、斬魄刀の力の何100倍という力を持つ斬魄刀だ。これを使えばソウルソサエティは壊れる、朽木ルキアの処刑が早まったのもトントン拍子に進んでいたのもこれが理由なのだ。

 

そう、藍染の遺書には記されていたのだ。

 

「なるほど、筋は通ってるのかな」

 

そして、それをどうやら萩風も理解しているようだ。

 

「なら、それを壊せばいいだろ?」

 

だが、まったく分からないことを言い始めていた。

 

「物凄い力を持つ斬魄刀ですよ!破壊なんか、できるわけ…」

 

「まぁそう簡単には無理だろうけど…世の中に壊れないものは無いよ、作られた物はね。斬魄刀も折れるだろ、あれも斬魄刀に変わり無いんだから折れるよ。むしろ、手続きとか貴重さで対処に時間がかかりそうだな…」

 

そう言われると納得する自分が居るのに雛森は気付く、確かにそれをできれば日番谷隊長の思惑は潰れる。だが、それではダメだ。今の彼女自身の目的はソウルソサエティを守る事ではなくなっている。

 

藍染隊長の仇を取る事だ。

 

だが、彼の一言がその頭によぎった言葉を消し去った。

 

「てか日番谷隊長、雛森さんの事が好きなのにそんな君も危ない事出来るわけないだろ」

 

今、何と言ったのか?

 

「……え?」

 

誰が誰を好きと?日番谷冬獅郎が雛森桃を好きだと?そんなわけがあるのか?と、彼女の中ではとてつもない情報量が錯綜し顔はたちまちオーバーヒートの為か真っ赤に染め上がる。

 

「…雛森さん、自覚なかったの?」

 

そんな様子を見た萩風は「あれ、これ言って大丈夫だったかな…」と呟いているが時すでに遅し。

 

心の中で可哀想に思ってるのか、萩風の目はここには居ない十番隊の隊長の事を考えて何とも言えない目をしている。

 

「えっと、シロちゃんは…その、ただの幼馴染で…」

 

「昔君がポロっと言った隊長ってカッコいいよね!を真に受けて今に至るぞ」

 

それを聞いた雛森は既にもう「え、あ…うぅぅー!?」と声にならない声でしか話せなくなっている。どうやら言語野がやられたようだ。

 

「ちなみにこの前俺のところに来たのだって、かなり辛そうな顔してたし。そのまま飲みに連れてったら…半泣きだったからな?色んな事をボロボロ聞いたぞ。例えば君は日番谷隊長と過ごしてた幼少期にいつか結婚しようと約束して、それを君は覚えてるのか心配になってたり「えっえっ!?ひ、あ…うわぁぁぁぁぁぁ!!?」」

 

雛森は混乱している、とても混乱している。顔を抑え、頭を埋め、穴があったら入りたい心境にかられ…

 

「あれ、雛森さん?」

 

そのまま気絶した。




日番谷発言が無かったら戦闘してた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9.全身真っ黒の黒幕だったらわかりやすいんだが…

彼か?私は然程深い知り合いでは無いのだがな。だが護廷十三隊で…いや、尸魂界で彼を知らない者はいないだろう。

護廷十三隊十三番隊副隊長 朽木ルキア


日番谷隊長が黒幕説、何度も考えても無さそうなんだよな。

 

あの人に人脈は?薄いだろうな、他に協力者は?隊長で組んでたとして、市丸隊長か?いや、それも無いか。市丸隊長と昨日やりあってたらしいし、吉良副隊長から少し話を聞いたけどガチのやり合いらしい。演技でガチバトルできるのかなぁ、日番谷隊長の斬魄刀で何か上手くできそうな予感はするけど。

 

てかどう考えても瀞霊廷を壊す理由が無い、瀞霊廷を支配するためならわかるけどさ。瀞霊廷壊してどこに行くつもりなんだろうね、あー霊王の居る所とか?ソウルソサエティのどこに居るとか知らんけど。ソウルソサエティのどっかの国の王様だよな?いや無いか、霊王殺して誰も居ない世界を統べても楽しく無いだろ。

 

いや俺が知らないだけでそんなの関係無い!みたいな恨みとかがあるのかもしれないけど。やはり日番谷隊長が黒幕説は低いと思う。

 

なら雛森を任せないで、吉良にでも殺させれば悲劇の男として周りから容疑者としての嫌疑は薄れるだろう。

 

死神の中で一番美味しいのは誰だろ?雛森が死ぬ事かそれとも双極を奪う事が嬉しいやつは?そもそも藍染隊長を殺したのは誰なのかわかんねぇからなぁ。

 

第1候補はとりあえず市丸隊長だな、黒よりの黒の可能性が一番高い。仮に黒幕がこの人だとしよう、雛森を殺すメリットは?藍染の犬みたいなもんだから鬱陶しいから殺すのは弱い気がする。幼馴染の日番谷隊長を敵に回すんだから、大人しく牢獄に打ち込んだらいいだろ。

 

それに藍染隊長はどうやら日番谷隊長が黒幕と思ってたらしいし、じゃあ日番谷隊長と市丸隊長が黒幕だとしたら?

 

接点が見つからない、二人をよく知らないのもあるけど…だとしても藍染隊長が簡単にやられ過ぎなんだよな。隊長二人掛かりでも多少は抵抗できるはずだけど現場を見ても争った痕跡無いし、むしろ自殺したんじゃね?と思うくらいだ。

 

…じゃあ、一番俺の中でありえなさそうな藍染隊長が黒幕だった場合でも考えてみるか。

 

死体は人形とか何かの方法で誤魔化す、日番谷隊長が黒幕と嘘をつく、雛森副隊長が居なくなると…?いや、暴走させるのが目的だとしたらどうだ。まぁ混乱してるよな、現在進行形で。雛森副隊長を後で消せる大義名分が手に入るだろうし、市丸隊長からしたら大した事は無いんだろうな。

 

なんか話が通るような…でも確か流水系の斬魄刀の鏡花水月って霧が能力で同士討ちさせるんだよな。幻覚を継続して使用はできないだろうしー…他の隊長で関わってそうな怪しそうな人居ないしなぁ…

 

「あの、萩風副隊長!!聞いてますか!」

 

ゆさゆさと俺は肩を揺らされて現実に戻る、揺らしてきたのは青い髪が特徴的な虎徹さんだ。

 

「ん?あー、すまん。ボーッとしてたな」

 

気づいたらまた考え事をしてたらしい、いやマジで分からないなぁ。誰が犯人なんだろ、旅禍なら副隊長が集まってるあの場所まで侵攻してたらやばいよな。

 

でも更木隊長倒す怪物だし、あり得る?

 

「って、また聞いてないじゃないですか!」

 

「ごめんごめん、いや俺も歳かなー」

 

取り敢えず誤魔化して笑うが虎徹三席の顔色は優れない。

 

「雛森さんの事ですか?」

 

「…まーね、今は日番谷隊長が見てるけど…二度も抜け出してるからね」

 

案の定、バレてるみたいですね。虎徹さんは鋭いな、確かに俺からしたら犯人の事はどうでも良い。ただ、任された雛森さんを誰から守ればいいかぐらいは考えたい。

 

で、今考えた中で一番危ないのは恐らく明日だ。隊長、副隊長の全員が一応は参加するんだからね。雛森さんが逃げ出してやられる可能性が高い。

 

「そうだ虎徹さん。明日の処刑さ、代わりに出席してもらっていいかな?」

 

雛森さんが一番抜け出してヤバいのはここじゃないかと思う、今回の黒幕は何故か雛森副隊長を利用しようとしてる気がするから。

 

「駄目ですよ、萩風副隊長」

 

でもそれは断られた。あ、虎徹三席じゃないよ?真後ろに居る卯ノ花隊長に断られたんだから。

 

「そうは言っても隊長、俺は出席したくないんですよ」

 

でも少しワガママを言わせて貰おう。いつもなら言わないけど、ちょっと嫌なんだよねぇ。訂正、女の子の処刑とか見るだけで俺の心が折れそうだからすっごく嫌です。

 

「今回の処刑の是非はありません、それが四十六室の決定ですから」

 

…あれ、四十六室?そう言えば、四十六室についてはなんも考えてなかったな。いや、そこが黒幕とかありえないでしょ。

 

「そう言えば隊長、今回の処刑ってどれくらい異例なことがありますか?」

 

「処刑までの猶予期間の撤廃、隊長以外の双極の使用、刑の不平さ、数え上げればキリはありませんね」

 

四十六室の決定は絶対、それは護廷十三隊にも決まれば従う他ない。

 

…だがこの不自然なこと全て黒幕が四十六室なら、辻褄が合うかもしれない。

 

「尚更行けないですね、それを認めたと思われちゃいますよ」

 

日番谷隊長と市丸隊長が黒幕でかつ、四十六室も黒幕。それならやばいな、無茶苦茶ヤバい。他にも俺が知らない内通者も居るかもしれない、だが雛森副隊長を殺す理由無いよなぁ…雛森副隊長は混乱させるために送ってる感じだと思うな。

 

取り敢えず女の子の命を任せられたんだから、守らないわけにはいかないよな。仮に黒幕からの頼みでもね、いやまだ決まったわけじゃないけど。

 

あ、だとしたら死刑囚の朽木ルキアさんも被害者だ。でもそっちまで手が回らないし…他の隊長達を信じる他ないよなぁ…

 

「…わかりました、明日は勇音を連れて行きましょう」

 

あれ、何故か卯ノ花隊長が折れてくれた。それは願ったり叶ったりだわ、では遠慮なく。

 

「ありがとうございます」

 

☆☆☆☆☆

 

十番隊隊舎、日番谷冬獅郎が纏める十番隊に属す者達全員が基本的にここで働く。

小柄であるが、稀代の天才と呼ばれる死神だ。卍解も習得し、他の隊長格に引けを取らないほどの実力者だ。

 

そんな彼の横に控えるのは副隊長である松本乱菊、彼女もまた天才というわけではないが副隊長として相応しい実力の持ち主である。

 

また彼等が居るのは、雛森副隊長が軟禁されている部屋だ。中で彼女は疲れがたまっていたのか連れてこられた日からぐっすりと眠っている、だがここには檻もない部屋だ。このまま放っておいて外部からの敵に襲われてしまうわけにはいかないと日番谷隊長が結界を張っている。

 

外からは簡単に突破はできない、雛森の安全を確保すると二人はそのまま目的地へ向かおうとするが。

 

そんな彼等の前に現れたのは。

 

「こんにちは、日番谷隊長。突然押し掛けてすまない」

 

「萩風副隊長…なぜ、ここに?」

 

雛森は脱走した直後に彼に捕縛され、この隊舎に連れてこられた。

萩風に連行された彼女は気絶した状態であったが、目に付く傷はなく無傷で捕縛していた。なお、萩風に怪我は無く現場もまた瓦礫一つ無かったらしい。

 

だが雛森が連れられてきた時、何故か萩風はしきりに「すまない」と言って目を逸らしていた。その時日番谷は「あんたに非は無い…」と言っておいた、むしろ逃げた雛森を捕まえてくれたことに感謝してるくらいである。

 

なお、彼が謝っているのは雛森が脱獄してしまった事に対してじゃないのは知らない。

 

「(いったい、どんな方法で雛森を無力化した?斬魄刀の能力か?いや…萩風の霊圧は感じなかった、説得したか不意をついたか…どちらにせよ、助かったのには変わりないか…)」

 

日番谷冬獅郎は彼もまた敵の可能性を疑っていた、だが雛森を無傷で捕らえてきた事で安心して信頼できる死神となっていた。

 

「雛森さんを助ける為に最大限の助力をさせていただきます、卯ノ花隊長から了承は得ているので御心配無く」

 

正直に言って、日番谷にとって助かるだろう。日番谷は手数が少ない、副隊長の松本くらいが彼の打てる手札だ。

 

この手札が加わるだけでどれ程頼もしいか、回道においては卯ノ花隊長に次ぐ実力者、500年もの間を死神として生きてきた男だ。

 

戦場に出ない根性無しと言われているが違う、本来ならば卯ノ花隊長の推薦であるが、十番隊の隊長の候補に挙がっていた死神だ。本当にそんな実力があるのか?と問いたいかもしれないが、実力の裏付けとして雛森副隊長を無傷で捕らえたのが証拠だ。

 

だが本人曰くまだ斬魄刀の力を引き出せていないと断ったらしい。卍解は最低条件だからだろう、仕方なく日番谷が隊長となったのだ。

 

「確かに…有事の際に、優れた回道の使い手は必要でしょう」

 

松本も日番谷と同意見のようだ、仮に黒幕と相対した場合にどちらかに被害が出るのは確実だ。敵の企みを知る為に生かさなければならない、そしてこちらに被害を出してはならないのだ。

 

「それもそうか、付いて来ても良いが覚悟は…いや、この問答は失礼だったな。謝罪しよう」

 

日番谷は彼へ警告しようとするが、直ぐに改める。彼自身がそもそも隊長格にも引けを取らない高潔な魂の持ち主だからだ。この程度の覚悟は承知で来ているのだろう。

 

「俺はあんたを信用してるぜ、回道の腕だけじゃねぇ…死神としてもだ」

 

だからあえて言葉に出す、それに対して萩風は驚いているようで少し面白いものが見れたと日番谷は後ろへ振り返ると。

 

「隊長、それ私にもですよね?」

 

後ろではしゃぐ松本の隣を抜けて彼は外へ向かう。

 

「さっさと行くぞ松本、四十六室へ急ぐ」

 




十番隊隊舎で目覚める雛森

狸寝入り中の雛森「(え、え、え!?何で私が十番隊の隊舎に居るの!?あ、シロちゃんの声が聞こえる!)」

日番谷「すまねぇ…俺が、助けてやれなくて…」

狸寝入り中の雛森「(うわぁぁぁぁ!!起きれないよ!こんな時に起きてシロちゃんの顔見れないよ!!萩風副隊長、何でここにしたんですか!?もう起きれないですよ!恥ずかしくて死んじゃいますよ!)」

日番谷「今度は、必ず俺が守るからな…」

狸寝入り中の雛森「(ひゃっ、ひ…う…)」

そして雛森は意識を手放した。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10.この日ほど、呪いたい日は無いと思う…①

僕の中で一番の死神は山爺だったよ。きっと、山爺は喜んでるかな。もう山爺を超える死神は居たことに。

護廷十三隊八番隊隊長 京楽春水


中央四十六室

 

尸魂界全土から集められた四十人の賢者と六人の裁判官で構成される尸魂界におかれる最高の司法機関。死神の犯した罪咎は全てここで裁かれ、その裁定の執行に武力が必要と判断されれば、隠密機動(おんみつきどう)鬼道衆(きどうしゅう)・護廷十三隊等の各実行部隊に指令が下される。絶対的な決定権を持ち、その裁定にはたとえ隊長格といえど異を唱えることは許されない。

 

「…見張りはどこだ?」

 

だが、その場に来たというのに外の門を守る見張りは誰も居ない。

 

「見当たりませんね」

 

そして中に入る。といっても屋根のある建物に入るわけではない。門は外門と内門の二重となっているのだ、だがそこにも誰も居ない。

 

不審に思いながらも日番谷達は歩を進める。そして中の扉を開けようと試みるが、ここには鍵がかかっている。しかも内側からだ。

 

「十番隊隊長の日番谷冬獅郎だ、緊急故に門を開けて頂きたい」

 

内側から鍵がかかっているのならば、中に人がいるのは確かな事だ。日番谷は中の者へ問いかける、だがその扉を守るように網目を作るように刃が現れ扉を塞ぐ。

 

「…仕方ない、離れてろ」

 

そしてそれを見た日番谷は少し考えると自身の斬魄刀を引き抜く。

 

「ちょっと隊長!?」

 

松本が制止の声をかけるもそのまま日番谷隊長は扉を防御壁ごと破壊する。なお、萩風はどこ吹く風と知らん顔している。これがバレたらどうせ彼も罰せられるが。

 

そして斬魄刀を仕舞う日番谷だが、松本も直ぐに違和感に気づく。いや最初から違和感だらけなのだが、今度の違和感は明確過ぎる。

 

「警報がならない」

 

四十六室の扉が突破されたのだ、現世でもし銀行に侵入者が来たならば直ぐに非常時の対策の装置を使えば警察に連絡が行く。それをここでは警報という形で響き渡るはずだが、その音がなる気配はない。

 

「嫌な予感がするぜ…」

 

日番谷がそう呟くと先頭となって中へ入っていく。入って直ぐに異変に気付いたのは萩風だ、その次に日番谷、松本の順に気づく。

 

「馬鹿な…」

 

血の匂いだ、しかもそれはよりにもよって四十六室のメンバーの物であった。

 

直ぐに萩風は検死を始める、と言っても簡単な事しかできないが、死因や状況程度は予想はできる。そして、日番谷隊長達は萩風が居たことで素早く情報を手に入る事ができていた。

 

「死亡推定時刻は…わかりませんが、旅禍が来る前。死因は斬魄刀に切り捨てられた事による…魂魄の損傷です」

 

「そんな前からか!?」

 

その日に四十六室が全滅したのならば、黒幕は何を狙っているかは分からないが日番谷は気づく。朽木ルキアの処刑を早めるのを命令したのは、四十六室のメンバーが死んでからだ。

 

その日から黒幕は動いていた、旅禍の可能性も拭えないがこれは内側からの侵攻の方が納得のいく。何故なら、そうでなければここまで護廷十三隊の内情を理解していないだろうからだ。

 

そんな時である、日番谷は背後からの視線に気づく。

 

「まさか吉良…お前がやったのか!?」

 

そこに居たのは吉良イヅル、護廷十三隊三番隊の副隊長を務める男だ。

 

「萩風副隊長はここで調査を頼む、行くぞ松本!」

 

彼が何かしら関わってる可能性が高い、日番谷は松本を連れて直ぐに追いかけ四十六室を出て行った。

 

☆☆☆☆☆

 

日番谷隊長が怪しいかもしれないと思って付いて行ったら、四十六室の人達が死んでた。マジでヤバイよな?さっさと抜け出したいんだけど、今すぐに助けを呼びたいんだけど!

 

卯ノ花隊長助けてください!

 

そんな事を思いながらしっかりと任された仕事やるんだからなぁ…はい、斬魄刀で切り裂かれて死んでます。以上、助けを呼びに行こうかな。

 

もう嫌だよぉ〜、女の子の処刑を見たくなかったけどこんな死体の山見たくなかったよぉ〜…一応、抵抗した痕跡はあるな。マジでそんくらいよ、特にできることないって〜…

 

そんな事を思いながら振り向くとそこには一人の死神が居た。

 

「雛森副隊長、何でそこ…あー、日番谷隊長が好き過ぎてもストーカーは良くないぞ」

 

「ち、違います!!」

 

いつから居た?彼女は日番谷隊長の結界で守られていた筈だ、いや脱走したんだろうな。霊圧を消すのも訳ないか、彼女は鬼道の天才なんだから。

 

残念ながらまた彼女を追い返さないといけないみたいだわ、女の子に刀とか向けたくないんだけど!また日番谷隊長のネタで攻めてやろうか?少し顔赤いし、たぶん自暴自棄とかにならなければ無傷で終わりそうだ。

 

「止まってくれ、俺も君をあんな形で何度も倒したくない」

 

「やめてくださいよ!?私もそろそろ怒りますよ!?」

 

彼女だってわかってるだろ、俺は同じ副隊長でも俺の方が強いのを。斬魄刀の破壊力は彼女が圧倒的に上でも、俺の斬魄刀との相性は悪いからね。卍解を超えた力を使えない君じゃ、俺は倒せない!たぶん!

 

「じゃあ、僕なら倒せるんかな?」

 

ゾワっとした、背筋が舐められたみたいにヒヤリとした。消されていた霊圧が現れ、その感覚と嫌らしい声は忘れられない。俺は油断してない、一箇所しかない出入り口の、雛森さんの隣を通り抜けたのはあり得ない。何故なら、俺は見ていたからだ。

 

「市丸隊長…!?」

 

彼の斬魄刀の能力的に、最初からここに居たって事だ。最初から、四十六室に居たって事だろう。

 

彼の斬魄刀の能力は斬魄刀の刃の伸縮を自由にできる能力だと聞いてるし、そんな彼と間合いは然程意味をなさない。

 

冷や汗が流れる俺をよそに、市丸隊長は雛森さんへ声をかける。

 

「雛森副隊長は奥で待ち人がおるで、君も会いたい人や」

 

それを聞いた雛森さんは俺の横を通り抜けていく。なんで止めないのかって?そんな隙を見せた瞬間に市丸隊長に殺されかねないからだよ、明らかな敵意がその目にやどっちまってる。

 

てか雛森さんの会いたい人?俺の知る中だと藍染隊長くらいだが、彼女の両親とか親友…とかもあり得る。でも、一番可能性が高いのはやはり藍染隊長だろう。

 

日番谷隊長は外だし、違うよなぁ…

 

「市丸隊長…四十六室を騙っていたのは貴方ですか?」

 

日番谷隊長を離した時点で、彼は白だ。黒の予想もしてたから付いてきたけど真っ黒なのは藍染隊長と市丸隊長かよ、最悪過ぎる。俺じゃどうにもできない、卍解使ってもまだ見ぬ卍解・改弐で殺されるだろう。

 

日番谷隊長、卯ノ花隊長…助けてください!!

 

俺は戦う為に来てないから!雛森さんの敵っぽい人が俺より強かったら他力本願するところだっただけだから!

 

「いや、僕は何も。ただ…僕はここに来ただけや。萩風副隊長もそやろ?」

 

故に俺にできるのは雛森さんの霊圧を感じて無事を祈り、この人と戦闘しないようにしなければならない。

 

「…雛森さんを、どうするつもりですか」

 

「あーそやね…もう、終わったって言うたらどうする?」

 

え?…っ!?今、雛森さんの霊圧が消えた!?それと同時に、奥から見覚えのあるイケメンがやって来る。メガネとその隊長だけが羽織るそれは、間違いない。

 

「やぁ、久しぶりだね。萩風副隊長(はぎかぜふくたいちょう)

 

藍染隊長、だがそんな事を気にしてる暇が無い!直ぐに二人の横を通り抜けて奥へと走り抜ける、そして…

 

「君の腕なら助かってしまうね、バラバラにした方が良かったかな?」

 

血の池に沈む雛森さんを見つける、状況からして藍染隊長がやったのだろう。見たところ、斬魄刀も抜いてないし抵抗の跡がない。不意打ちで、やりやがった!まだ意識はギリギリ残っているのだが…

 

「良かった…シロちゃんが、悪い人じゃ…なく…」

 

そう言って、雛森さんは意識を手放した。

 

藍染は信用していたが、日番谷隊長も信用していた。どちらも信用していたから、藍染から真実を聞きたくて会いたかったわけか…ふざけてんな。

 

(おく)()せ 『天狐(てんこ)』!!」

 

俺はすぐに斬魄刀を解放する、現れたのは普通の刀の背に9本の小刀のようなものができる。これが俺の始解だ。

 

「それが、君の斬魄刀か。見るのは初めてだ」

 

俺の斬魄刀の能力は幻影を作り出す事。動かないならば人の幻影も作り出す事もできるが、主だった用途は景色を偽る事だ。

 

霊圧すら偽れる、だが景色が揺れ動くので幻影になってるのが相手にも分かってしまうという弱点もある。まぁ全体的に揺れてて最初から偽ってるのをバラすのだが、そこでいきなり動けというのも難しいだろう。

 

直ぐに俺が作り上げるのは偽りの陽炎、俺が刀を構えて固まっているのと倒れた雛森さんの幻影…俺は俺を偽れる、雛森さんも霊圧が消えかけているのでそのまま作れる。他人と全く同質の霊圧の偽装とかできませんよ。

 

正直、こんなのは子供騙しにしかならないだろう。しかし、圧倒的な初見殺しになるはずだ。そこに隙ができるはずだ。

 

それですぐに二人の真横を抜けて逃げ…っ!?

 

「ほぅ…雛森くんを抱えて避けたのか、流石は卯ノ花隊長の右腕だ。幻影(ダミー)もよくできてたよ、危うく見間違えそうだった」

 

俺の左肩から血がドバドバと流れ出て来る、こいつ今の一瞬で斬りつけて来やがった!てか俺もいつ抜刀したのかも、斬りかかって来たのかもわからなかった。超高速とかそんなレベルじゃねぇ、斬魄刀の能力か?

 

これが…隊長格の力か!?

 

「瞬歩は中々速いじゃないか、遅ければ楽に逝けただろうに」

 

結局、出口に辿り着けない。2人の隊長が行く手を阻む。

 

でも今は雛森さんの治療を優先だ、俺の肩も敵の能力も後回しにせざるをえない。

 

ヤバイ、隊長が2人とか…勝てる気が微塵もしないわ。

 

「藍染隊長…流石は隊長格だ。抜刀の瞬間すら見えなかったよ」

 

「君の方こそ、副隊長として十分過ぎる実力だ。だが、この程度ではあるまい」

 

「…あぁ、やっぱり始解じゃ隊長格2人を相手できないよな」

 

と言っても俺が打てる手はあれだけだ、それを使えば逃げる時間を稼げる…と信じたいけど、雛森さん抱えては厳しいかな…

 

でも、やるしか無いよなぁ…

 

覚悟を決めるか。

 

「残紅に跪け 卍解」

 

そして、俺の斬魄刀は真紅に染まっていく。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11.この日ほど、呪いたい日はないと思う…②

あの死神の斬魄刀…天狐のもう一つの卍解は、まさしく鬼神だった。俺とまともにやり合える…いや、あの状態の俺を圧倒する死神が存在するとは、思いもしなかった。

そして、それでも全力を出していない奴が、鬼神を超える存在になれるとは思いもしたくなかった。


現虚圏統治者 元第4十刃 ウルキオラ・シファー


「残紅に跪け 卍解(ばんかい) 陽炎天狐(かげろうてんこ)

 

俺は彼女を背負いながら、斬魄刀を解放する。

 

俺自身の装束が紅色に変わる変化が現れている、次に俺の斬魄刀は柄も刀身も真紅に染まる。紅玉のような赤い鉱石でできたような、斬魄刀だ。

 

なお斬魄刀そのものは普通の刀の形となる。あと炎熱といっても、今必要なのは破壊力ではない。見せるのはまやかしだ。今から俺が使うのは、逃げる為に使う技だ。

 

炎周(えんしゅう)九十九提灯(つくもちょうちん)

 

そして、俺の周りは森の中にある街道の雰囲気を醸す別空間へと姿を変える。そしてそこを円のように、提灯が並んでいる。

 

「殺してでも、押し通る」

 

「あまり強い言葉を遣うなよ、弱く見えるぞ」

 

余裕を見せる藍染だが、その隣には

 

「っ!?」

 

もう一人の俺が切りかかっていた。ギリギリで避けられたが藍染は驚いている、そりゃそうだ…100人も俺が現れたら驚く。

 

「卍解を使えば10倍強くなるって話だが…単純に考えたら、俺は100倍に強いわけだ」

 

九十九提灯は天狐の進化能力、術の範囲もそうだが俺は俺自身の分身を、虚像であるが作れるようになる。だが実像を伴う虚像だ、全てが俺であり(まやかし)だ。

 

そこに8人の俺が一斉に、上下左右前後から襲いかかる。全てを避ける事は、不可能だ。

 

「…ぐ、まさか…この私が…」

 

そして、藍染に全員が襲いかかる。避けきれなかったのか、何箇所か切りつける事もできた。これでしばらくは自由には動けないはずだ。

 

もちろん、市丸にも10人配置して警戒している。本人に動く気配はないが、それでも警戒を解くつもりはない。

 

そして、その間に俺は2人の間を抜けて逃げさせてもらう!

 

あくまでも俺は倒すつもりも、必要も無い。このまま逃げて、逃げて……

 

 

 

 

……待て、俺の攻撃程度で隊長格を倒せる?俺の卍解程度で、ダメージを負わせることが可能なのか?

 

「っ!?」

 

そこで俺は注意を最大限に高める、どこから攻撃が来るか…わからないからだ。この程度で、隊長が倒せるはずがない。

 

「…実に、興味深い技だ」

 

倒したと思わされた藍染は、そこには居なかった。

 

「ぐばっ…!?」

 

そして、俺の渾身の卍解はあっさりと打ち砕かれた。

 

「いつの間に…そこへ…」

 

気づいたら、藍染は襲いかかった俺の分身、そして市丸に対応していた分身を全員切り殺していた。全員、一撃で屠られている。

 

「驚く必要は無い、副隊長に甘んじていた君との差なんてわかっていた事だろう?」

 

俺の卍解には明確な弱点が実はある、それはどの虚像を攻撃しても本体である俺へダメージが反映される事だ。そして一撃食らった虚像は消え、提灯も消える。また、倒れた虚像は提灯に再点火…もう一度卍解してリロードされるまで復活しない。

 

このままではヤバいが、俺は出来る手を打つ。分身を集めて藍染を囲うのだ。

 

縛道(ばくどう)の六十一 六杖光牢(りくじょうこうろう)!!」

 

破道(はどう)の六十三 雷吼炮(らいこうほう)!!」

 

6つの光の杭が打ち込まれる、そしてそこへ雷の咆哮が襲いかかる。当たった、奴の動きはなかった。六〇番台の鬼道、当たったならば無傷ではないはずだ。

 

「ぐっ…また、どこに隠れてた!?」

 

しかし、そこに奴は居らず鬼道を使った俺をまた全て切り捨てていく。

 

数の利を得るのがこの卍解の最大の特徴、なので数の利を簡単にひっくり返せる程度の力しか持たない。しかし俺が押されてるのが、なぜなのかわからない。

 

この能力は実体を持つ瞬間を切り替えられる、攻撃時に実体を持っているがそれ以外は基本的に虚像だ。

 

なのに切り捨てられていく、藍染の位置を把握してるのに把握できていないからだろう。

 

藍染を貫いたと思ったら、そこには居ない。隣で実像である虚像の俺を刺している。

 

そして彼はまた、隣に居た。実体の俺の隣だ。嫌な予感がした、そんな俺にできたのは回避ではなく雛森さんを虚像へ投げ飛ばしてこの攻撃の範囲外へ離すことだけだった。

 

そして周りにいた分身へ襲いかかるように指示をするが…

 

「破道の九十 黒棺(くろひつぎ)

 

黒い箱が俺を覆い尽くしていく。

 

「がっ…」

 

重力の奔流に包まれ、引き裂かれた俺の体から血がまた抜かれていく。当然だが、本体である俺は虚像になれない。だから来るとわかっていても攻撃を避けられなければくらう。更に嫌なことに、棺には俺を含めて実像の俺が7人もいた。7倍の威力の攻撃を受けてしまった。

 

いや、そんな事を言ってる場合じゃない…今はダメージ量を考えるな。でも…あ、死ぬかも。

 

九〇番台、詠唱破棄。卍解も使わずに卍解を破る、これが隊長たる所以…今の俺じゃ足元にも及ばない。気づけば、卍解は解除されていた。

 

「はぁ…はぁ…ぐ、が…」

 

もはや命すらヤバい状況だ、隊長格とはここまでの怪物とは想像してもできていなかった。卍解を使えば何とかなるかもしれない?逃げれられる時間を稼げる?甘過ぎる考えだった、俺自身は気づかぬ間に自惚れていたのだ。

 

どこかで満足していたのだろう、だから敗れた。

 

奴は俺に副隊長に甘んじていたと言っていた、俺には副隊長という席すら重たかったのか…?まだ、副隊長の器に足りないのか?

 

というか、藍染隊長の能力がまったく読めない。自分との差があり過ぎて、測定できない。

 

俺には一応だが、まだ手札はあると言えばある。だがここには雛森さんがいる。巻き込むリスクが高過ぎる。

 

「素晴らしい力だったよ、萩風副隊長。だが怪我人の治療をしながら、彼女を庇いながら戦うのには相手が悪かった」

 

藍染が斬魄刀を俺に向ける、避ける余裕は無い。

 

「瀕死の彼女をそこまで回復させるとは、一対一では……少し、面倒だったかな」

 

そんな絶体絶命の時だった、背後から軽く身震いするほどの研ぎ澄まされた霊圧と怒号が聞こえたのは。

 

「藍染、市丸!!」

 

そこに居たのは今一番来てくれる可能性が高く、頼もしい隊長。

 

「日番谷隊長…」

 

日番谷冬獅郎、松本さんは居ないが彼が来てくれたなら俺と雛森さんが逃げる時間を稼げる。

 

「遅れてすまない…萩風副隊長、雛森は助かるか?」

 

ボロボロの俺に声をかけてくれるが、俺の心配もして欲しいです。

 

「…藍染に負けたら、意味ないですよ」

 

「すまない…任せるぞ」

 

すぐに日番谷隊長は俺と雛森さんを守るように2人へ立ち塞がる。俺も本当なら助太刀したいが、やっぱり重症の雛森さんを治すのには時間がかかりそうだ。

 

え?回道得意なんだろって?すぐに治せと?内臓の再組成って結構難しいんだかんな!

 

そして、俺の体もヤバいんだよ!!でも、雛森さんの方が命的にはやばい!

 

☆☆☆☆☆

 

既に、日番谷冬獅郎は斬魄刀を引き抜いていた。

 

「藍染、市丸…いつからだ、いつから雛森を…俺達を騙してた!」

 

冷気が雛森と萩風の近くを除く辺りを支配する、その斬魄刀の名は氷輪丸。氷雪系最強の天候すら操る斬魄刀である。

 

「別に誰も騙してないさ、ただ誰も本当の僕を理解できていないだけでね」

 

にも関わらず、藍染と市丸には緊張感をカケラも感じられない。それは更に日番谷の頭へ血を上らせてしまう、隊長としての…護廷十三隊としての誇りを傷つけられたのもあるが、日番谷はどうしても納得のいかないことがある。

 

「雛森はお前を、お前に憧れて五番隊に入ったんだぞ!その気持ちを踏みにじったお前は…!!」

 

雛森桃は藍染惣右介に命を救われ、憧れて護廷十三隊の五番隊に入隊した。萩風と共に誕生日の贈り物を選んだり、副隊長を目指したのも彼に少しでも近付く為だからだ。

 

「日番谷君、後学のために一つだけ教えておこう。

 

 

 

 

 

 

 

憧れは…

 

理解から最も遠い感情だよ

 

だが、その一言で直ぐに理解する。日番谷の怒りが頂点に達した瞬間であった、直ぐに霊圧を解放し持てる力の全てをさらけ出す。いや、正確には全開ではない。なぜなら萩風達を巻き込むわけにはいないからだ、現段階で出しても良いと考えた全力だ。

 

霜天(そうてん)()せ『氷輪丸(ひょうりんまる)』!!…っ!?」

 

だが、それは叶わなかった。

 

「済まないね、そろそろ時間切れだ」

 

卍解を使おうとした日番谷隊長は血を吹き出しながら倒れる。いつの間にか目の前に居た藍染は、背後にいた。

 

「日番谷隊長っ!!!」

 

直ぐに萩風が治療に向かおうとするがそれはできない、何故ならばもう藍染の標的は彼ではなくなってしまったからだ。

 

「さてと…今度こそ君かな。あの卍解は僕でなければ善戦できただろうね。でもまさか君が私の企みを見抜くとは思いもしなかった、偽装した死体にでも気づいたのかな?」

 

萩風にはその一連の流れが見えなかった、瞬間移動をしたように移動した藍染によって日番谷がやられた事しか理解できていなかった。

 

「偶々だ」

 

故に、今は何処から来るかわからない攻撃に備える他無い。雛森の回復も何とか死にはしないレベルにまで回復させたが、治療が終わってるわけでは無い。もう一度か二度、刺されたら死ぬレベルなのだ。

 

「嘘は良くない、偶々ここに来る死神なんて1人として居ないんだからね」

 

萩風は片手で斬魄刀を、片手で雛森を抱えるがどちらに分があるかは明らかである。

 

藍染がゆっくりと萩風の方へと歩を進める、萩風がもはや打てる手は一つしかない。最後の抵抗だが、これしか無いのだ。

 

「藍染、いつ俺が卍解を見せきった?」

 

「ほぅ…」

 

瞬間、萩風の霊圧が爆発的に上昇する。それに藍染は少しだけ驚き、その後ろにいる市丸は目を見開いている。

 

「もう四十六室の奴らは皆殺しにしたんだろ?俺が倒れたらどうせ二人も殺される。あんたの位置を把握できないなら、ここら一帯を吹き飛ばせばいい」

 

先程は逃げる為の戦いだったが、最早逃げる事なぞ不可能だ。

 

ならばと…彼は斬魄刀を片手で構え、全ての霊圧を収束させていく。今までの力が散布する能力なら、これは収束し一つとなる能力だ。

 

そしてもう一度、陽炎天狐を発動させる。

 

「卍解…!?」

 

だが発動できない、藍染はそれに関わらず距離を更に縮める。萩風はなぜ卍解ができなかったかを最初は理解できなかった。

 

「ちょっと、麻痺してたかな…この傷じゃ、厳しいか…」

 

だが瞬時に理解する、自分が卍解に堪えられないだけの傷を負っていた事に。傷の深さが、見た目より酷いことに。いつもは極限状態で行われる修行を基本にしてはならない、今の傷は修行の時より重く深く、卍解に堪えきれない。

 

そう斬魄刀に判断されたのだろう。

 

「お待ちなさい」

 

だがその静寂の雰囲気を破って2人の死神が現れる。それを予期していたのか藍染に驚きは無い、しかし萩風は振り向かずに霊圧を感じ取って目を見開いている。

 

「これはこれは、卯ノ花隊長。そろそろだとは思っていたよ。優秀な部下をお持ちでしたね。振り向いた瞬間に殺すつもりだったのですが」

 

「卯ノ花隊長、虎徹三席もか…?」

 

萩風は斬魄刀を構えながらも隣へ降り立つ彼女らを今度は目で確認する。

 

「萩風さん、直ぐに治療します!」

 

すると虎徹は真っ先に萩風と雛森の元へ向かう、止血すらしていなかった萩風の死神の装束は真っ赤である。それはかなり危ない状況である、赤い血は酸素が含まれた物だ。このまま垂れ流していたら死んでいた、それ程までに危ない状態であった。

 

しかし、雛森副隊長も重傷ではあるが命に別状は無い。この状態ですら回復させた萩風に感服しながらも虎徹は萩風の治療を続ける。

 

そしてまた、新たな戦いが始まっていた。

 

☆☆☆☆☆

 

卍解しようとしたらできなかった、いや忘れてたわ。俺の左肩とか…てか全身を思いっきり切り裂かれて体から血が噴射してたの。いや、雛森さんの方が重傷だったし、仕方なくない?アドレナリンがドバドバで気づかなかったんだけど、天狐ちゃんが意図的に阻止したのだろう。

 

今やってたら死んでたと思うわ…でも、一安心できるかな?卯ノ花隊長は鬼強い。あ、でも他の隊長は神強い人ばっかだろうし…あ、ダメだ。おれの頭が回らん、血を流し過ぎたな。

 

「藍染隊長…いえ、もう隊長ではありませんね。罪人、藍染惣右介」

 

「流石だよ、卯ノ花隊長。偽装した僕の死体に、僅かな違和感を感じるとは…よくここがわかったね」

 

「あれ程精巧な死体の人形を準備したあなたが隠れるなら、ここが最適なのはわかります。最近の四十六室の動向に不自然な点も多かったのですから、自明の理です」

 

なんか話し合ってる、よくわからんが藍染隊長が黒幕って見抜いてきたらしい。流石は卯ノ花隊長だ、他に援軍がいないのは心細いけど…

 

「惜しいなぁ…二つ間違えている。僕は隠れていない、そして…これは、人形なんかじゃない」

 

っ!?急に藍染隊長が二人に…いや、正確には藍染隊長が藍染の人形を持っている。でも、いつの間に取り出したのだろうか?二人を見てみると、どうやら二人にも見えなかったらしい。

 

(くだ)けろ 『鏡花水月(きょうかすいげつ)』」

 

そして人形は光の塵となって砕け散ると、藍染の手には斬魄刀が握られていた。

 

「僕の鏡花水月が有する能力は完全催眠、術中に嵌めた相手の五感全てを操り、全てを偽る能力だ」

 

…あれ、俺の能力の完全上位互換じゃね?藍染隊長の始解は見た事があるし、実践して見せ…あ、仕込まれたのか。副隊長全滅じゃん、てか隊長も恐らく全滅してるじゃん。てか日番谷隊長が本気出す前に倒してるじゃん、不意打ちとかえげつな…ん?

 

あれ、こいつ勝てんの?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

破面編 12.彼の日記と親衛隊

え?あいつ霊王やってるの?

現在は隠居中の先輩


○月×日

 

いやー、酷かった。今回良かったと思うのは…処刑されかけた朽木ルキアさんが旅禍に助けられた事かな?

 

まぁそれに…重傷だったけど、死人は俺を含めて居なかったよ!

 

藍染惣右介、東仙要、市丸ギンの三人が護廷十三隊を裏切った。あの後はなんかよくわからん紐みたいなので転移してた、時間無いとか言ってたしな。

 

まぁ卯ノ花隊長が来たおかげで俺は何とか殺されないで済んだ、雛森さん達も回復が早かった。

 

しかしヤバイな。なんか崩玉って奴の解放に1年かかるからまだ動かないらしいけど、とんでもねぇな…隊長を超えた力を手に入れようとしてんのか?

 

まぁ、今の俺には然程関係ないかな。

 

今問題なのは…三番隊と五番隊と九番隊の隊長が居なくなった事だ。

 

だからって総隊長、俺を隊長にしようとしないでくださいよ。

 

○月×日

なんだよ決闘って!ふざけてんのかクソジジイ!!

炎熱系最強って噂ぐらいは聞いたことあんだぞ!?勝てるわけねぇだろうが!!

 

ぐっ、仕方ない…ここは雀部さんに説得してもらおう。

 

○月×日

 

雀部、貴様…謀ったな!?俺がなんで貴方と戦うんですかい!?

おい、天候操るとかずるいだろ!え?私に勝てたら隊長にならなくていい?いいだろう、全力で叩き潰す!!

 

友の眼を覚まさせるのも、友である俺の仕事だ!

 

○月×日

 

とりあえず隊長にはならずに済んだ、始解と剣術だけで雀部さんの卍解を破れた。でも何で卍解・改弐を使ってこなかったんだろ…まぁ使われるかもしれなかったからさっくり倒したけど。

 

え?念願の隊長だろって?断らなくてよくないって?

 

俺が固辞したのには理由がある、藍染惣右介に俺は何もできずに倒された。

 

このまま隊長を名乗っても「斬魄刀を解放しきれてない古参の新隊長(笑)」とか「後方支援の隊長より弱い隊長(驚)」って言われるに決まってる。

 

卍解を超えなければならない、だから現世の哨戒だったかな?日番谷先遣隊も辞退した。俺が隊長になってたら萩風先遣隊になってたかな…危なかった、いきなり仕事とか押し付けられそうだったわ。

 

とりあえず、その任務も雛森さんのカウンセリングを理由に断ったよ。雛森さん藍染の事すっかり忘れて切り替えてるけど、日番谷隊長の顔が見れないとかで仕事に支障が出てる。

 

今はゆっくりと名前を聞いてもショートしない練習中だ、次は雑な肖像画、その次は声を録音して聞かせ、その次に鍛錬中の汗の滴るいい男である写真を見せて行く予定だ。

 

なお、まだ先は長そうである。大丈夫かなぁ……

 

○月×日

 

自分を追い込む、めっちゃ追い込む。俺は死にかけた時に卍解できなかった、卯ノ花隊長達が来なければ死んでただろう。

 

だから、今は死にかけた状態で卍解をする修行をしてる。かれこれ100回ほど生死を彷徨ってるが、まだ卍解を超えることはできない。

 

凡人の俺にはここが限界…とは、決め付けたくない。努力を止めた瞬間に成長は止まる、ならばこのまま努力を続けていくつもりだ。

 

卍解・改弐の道は、果てしないな……

 

○月×日

 

卯ノ花隊長に免許皆伝されました。

 

でも、自主練を怠るつもりは無いぞ。隊長格に並べるだけの力、早く手に入れないといけない。

 

あ、最近虎徹さんがチラチラ俺を見てる気がする。なんだろ…まさか、俺を治療できないから治療の練習できなくて不満とか?

 

いやいや、卯ノ花隊長の稽古は継続してるぞ。単に俺が怪我しなくなってきただけだよ?

 

○月×日

 

虚圏って場所へ派遣される事になった。

 

井上織姫って子の救助任務で、少数精鋭で向かった。俺は行ってすぐに独断行動が許可されたから適当に治療者を探してみた。

 

道中で俺は「死神代行が居るよ!」って、なんか変な鼻水垂らした虚に聞いて天蓋って場所に行った。天蓋って閉鎖空間だからかな?霊圧感じなかったわ。だから気づかなかったけど、入ってみたら死神代行が死にかけ…いや、胸に穴空いてたな。

 

こいつ死んでたな。他にも旅禍だった女の子と眼鏡が居たけど、助かる可能性がない奴を助ける余裕は無いからな。回復できそうな女の子に死神代行をとりあえずは任せた。

 

で、そこのNo.4の奴と戦闘する事になった。途中で何かパワーアップして悪魔みたいなのになったから卍解して倒した。虚と戦うの何気に初めてだったわ、強かった。

 

でもこいつの上に三人も居んのか…副隊長じゃ勝てないだろうな。

 

あ、その後に死神代行が…なんだろう、虚になった。そう表す他に無いんだよね。俺が瀕死にして治療してる虚を殺そうとしてきたから返り討ちにしといた、卍解で倒せたから良かったわ。そしたら骨みたいなのがボロボロ取れて元の人間になってた。

 

まさかこれが卍解・改弐に至る為の鍵か?そんな事を考えながら適当に三人を治療して下ろしといた。虚も卍解ぽい事してたし、でも体の中に虚入れたくねぇなぁ…

 

あ、その後?その後はボコボコにし過ぎた虚の治療やってた、降りて気づいたら卯ノ花隊長と死神代行が居なかった。

 

他の隊長とかとっくに仕事終わらしてたわ。で、そのまま普通に尸魂界に帰ったな。

 

あー、大変だった。

 

○月×日

 

速報 藍染惣右介 逮捕!

 

死神代行と隊長達が倒したらしい、市丸ギンは藍染を殺そうとして返り討ち、東仙要は藍染に普通に殺されたらしい。

 

え?そんだけかって?そんだけだよ、知らねぇよ!副隊長でもなぁ!知り合いとかツテがあるわけじゃねぇんだよ!!

 

まぁ、隊長格を総隊長含めて相手したんだから当然の結果だろうね。

 

隊長たちはやっぱ強いなぁ、俺も頑張らないとなぁ…

 

○月×日

 

溜まった有給消化してきます、俺が隊長に至る為に…卍解を超える為に、生死をかけた本気の修行してくる。

 

○月×日

 

久々に帰ってきたら隊長とか一新してたな、よし。

 

あ、別に…隊長に無理矢理させられるのが嫌だったから逃げたんじゃないよ?そ、そんな気持ちは……少ししか無かったからな!

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

女性の死神の数は少ない、だがそれでも一定数は在籍している。

 

その中でも大多数の女性の死神が所属している、秘密の会がある。

 

【萩風親衛隊】

 

四番隊の副隊長である萩風カワウソの、ファンクラブである。

 

萩風は確かに、イケメンではない。むしろ平均かそれより下である、だがここに在籍する死神は彼を顔で判断していない。

 

顔がタイプという者も勿論居るし、声が好きという者も居る。

 

だが最も彼に惹かれているのは謙虚であり、誰にでも対等に接し、規律は守り、正義感の強い死神である事。つまる所、規範となるべき死神だからだ。

 

例え怪我を負っても大したことは無いからと治療を拒む女性の死神に対しても、怪我の大小に関わらず「確かに、動く分には問題無さそうだもんね」と彼はまず肯定を示した。しかし博識な彼は様々な事象やリスクを説明し、簡単な健診だけは行なうのだ。

 

結果的に魂魄に響く程の重傷でも、それに対して「え、予想外な…んっ、ん!…残念ながら、俺の予想の通りだな」と完璧な処置を行い無事に日常生活へ戻している。

 

彼はどのような時でも、全力なのだ。

 

そしてこの会は、そんな直向きな姿に心を打たれた者たちによって作られたのだ。

 

会長を務めるのは彼の弟子であり、四番隊では卯ノ花隊長に次いで萩風に近い者。

 

虎徹勇音である。

 

現在は定例会が行われており、各部隊の代表(理事)が会議を行っている。

 

しかし、これを見ていたらこう思う人もいるのではないだろうか。

 

このような会を開き、萩風へどのように接し、どの程度なら話してもいいのか。そんな本人とはまったく関係しないところでの決定をしてるのではないか?と。

 

周りを牽制するようにしていたら、嫉妬や誹謗の言い争いに発展してしまうのでは無いかと。

 

だが安心して欲しい、この会は別に萩風に対してのルールを決める会では無い。

 

「会長、萩風様と最近はどうなのでしょうか!」

 

「会長、また日和ったんですか!?」

 

「会長、このままではまた進展がありませんよ!」

 

「で、でもぉ…」

 

会長の恋路を応援する会である。元々はこのような会では無かった。最初は本当にファンクラブから始まり無秩序が秩序の萩風ラブの集まりであった。

 

しかし、そんな時に萩風に対して不快な事を申した死神が居た。内容を簡単に纏めれば「かっこつけたがり」や「どうせ男は下半身に素直だろうぜ!」などだ。

 

その時は皆も実際には上手く反論できなかった、何故なら彼について何も知らないから。一方的な偶像を押し付けていたからだ。

 

だがその時に居合わせた虎徹勇音はこれを真っ向から全て否定、完膚無きまでに言い負かす。その時に萩風へ好意を抱いていた死神達は気づく、彼に相応しいのは…いや、彼女レベルでなければ彼の隣に居てはならないのだと。

 

またその文句を言ってきた男の死神だが、今は改心して女の子になる程である。

 

以来、この会は会長の恋路を応援する会へと変わったのだ。

 

「特記戦力だった雛森副隊長が消えたとはいえ、会長も油断はできませんよ。今は殆ど横並びとは言え、会長も次の一手を打たなければなりません」

 

男の声であるが、今は女の子の幹部が言った言葉に「それは、わかってるのですが…」と、覇気が弱い。元々彼女は内気な性格だ、あまり上に立って皆を引っ張って行くのが得意では無い。

 

だが、引っ張り上げられ、押し上げられる才は誰にも負けない。

 

この会は自身に進展が無いのをわかっているからこそ、彼女は参加している。

 

「私じゃ…萩風さんと、釣り合うかどうか…」

 

そう言って気弱になる会長、だがいつもの事なのか理事たちはそのまま会議を続ける。

 

「さりげないボディタッチはどうだ?」

「師弟関係じゃ効果は薄いんじゃないか?」

「確かに、現に今までも…」

 

「新しい甘味処の無料券は?」「あそこは特記戦力もよく利用する、リスクが高い」「自室でのデートプランは?」

 

「萩風様に剣術の指南を受ければ?上手くいけば…」「あの人の剣術、何秒耐えれると思う?時間が足りんだろ」

 

「あの人の彼女暦を調べて、傾向を…」「駄目ですね。かなり巧妙に隠されてます、可能性の断片すら拾えないとは…」

 

「いっそ押し倒して…」

「一瞬で気を刈り取られるぞ」

 

その後も会議は続いたが、結局進展はなかった。

 

会長の恋を実らせる事はできるのか、それは誰にもわからない。




特記戦力
それは萩風と何かいい雰囲気を醸し出す女性の死神達の中で、最も会長の恋路を阻む可能性の高い者達の事を畏怖を込めて呼称されている。

1.松本乱菊
もっとも最近に警戒人物として登録された死神。
胸部装甲が厚く、人当たりも良い副隊長。彼の回道の力や自己犠牲をしてでも諍いを止める態度を見てから尊敬し始める。

2.伊勢七緒
斬魄刀を持たないというコンプレックスを抱いていたが、萩風が斬魄刀を物にするのに100年かかったのを笑い話のように話してから気が楽になる。この中では比較的に脅威度は低い。

3.卯ノ花烈
特記戦力筆頭、一緒に行動しない方が少ないと思うほどに萩風と共に居る。彼と鍛錬をしてる間は本当の意味での笑顔を見せている程に心を許している、いつでも萩風を籠絡できるので常に警戒している。

4.砕蜂
二番隊の隊長。同副隊長の大前田とは真逆の性格と凛とした態度、そして規範を守る心構えと振る舞いから尊敬されている。彼を隊長に最も押し出したい人物であり、萩風からは敬遠されていると自覚してない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13.最強の副隊長

滅却師の生き残りは…元星十字騎士団では僕を含めて四人だけど、なんで生きてるか僕もよくわかってないよ。

滅却師 石田雨竜


隊長になるのには、条件がある。

 

最低限の条件が、卍解の習得だ。更木剣八という例外はあるが、原則としてこれをクリアしなければ隊長にはなれない。

 

そして隊長になる方法なのだが、その方法は三つある。

 

一つ目は、総隊長を含む隊長3名以上の立会いの下に行われる「隊首試験」に合格すること。

 

二つ目は、隊長6名以上の推薦を受け、残る隊長7名のうち3名以上に承認されること。

 

三つ目は、隊員200名以上の立会いの下、現隊長を一騎打ちで倒すことだ。

 

そして新たに追加された四つ目がある。

 

四つ目は、総隊長が選ぶ死神、もしくは総隊長から決闘を申し込まれ敗北した場合、強制的に隊長となる。

 

☆☆☆☆☆

 

「…雀部さん、どうしても戦わないといけないのか?」

 

2人が居るのは無間、1分の間も無く閉ざされ無限にも広大な場を有する場所。本来ならば、簡単には使用許可の下りない場所だ。

 

だが、総隊長命令であればここの使用は認められている。

 

「愚問ですな、私は元柳斎殿の命を受けて貴方を…萩風副隊長を倒します」

 

そして、総隊長である山本元柳斎重國はここの使用の許可を出した。

 

「…俺に隊長は、荷が重い」

 

萩風の言葉に嘘や偽りが無いのは少ない時間でも茶を酌み交わした雀部にはわかる、だからだろう。彼に少しでもやる気を出させる為にこう言った。

 

「…では、こうしましょう。私を倒せたなら…隊長にならない様に私が進言いたしましょう」

 

この提案は総隊長からの命令ではない、雀部に命じられたのは萩風の実力の確認も兼ねてある。彼が隊長に推薦されるのは初めてでは無い、以前は日番谷に譲っているがその時も「まだ、荷が重いです……今しばらく、お待ち頂きたい」と断っている。

 

だが元柳斎の命令は萩風と戦って、彼の実力がどの程度のものなのかを把握するというもの。そして隊長の器ならば、負かして隊長にしろとの事だ。だが隊長の器で無ければ、申し込んだ決闘を決闘中に無かったことにする。

 

では逆の場合では、勝ってしまった場合はどうなのかと問われるかもしれないが。この勝負は最初から簡単に負けるような死神は選ばれない、故に道はある程度決まっている。

 

「わかった…やろうか」

 

萩風も覚悟が決まったのか、隠していた霊圧を露わにする。雀部はその霊圧の高さに驚く、並の隊長と同格だ。しかも、まだ斬魄刀を解放していないにもかかわらずだ。

 

(おく)()せ『天狐(てんこ)』」

 

穿(うが)て『厳霊丸(ごんりょうまる)』」

 

2人は斬魄刀を解放し、直ぐに力をぶつけ合う。厳霊丸から雷の刃が向けられれば、直ぐに萩風はそれを受け流していく。

 

萩風が小さな炎の塊を飛ばすと、それを雀部は切り捨てそのまま萩風へと剣を振るう。

 

また萩風が鬼道を使うと、雀部も同レベルの鬼道で相殺する。

 

そしてまたお互いに剣をぶつけ合う。

 

そんな短くも、一進一退の攻防が続いた。

 

「…流石ですな、萩風殿」

 

心からの賞賛だ、雀部はこの短時間のやり取りでいかに萩風の実力が高みにいるかを確認していた。斬魄刀を今まで解放したのは藍染惣右介との戦闘の一度きり、敗北したと聞いていた彼の実力は他の副隊長とどの程度の差があるのかわからなかったが、既に隊長として最低限の力を持ち合わせているのを確認する。

 

これは敬愛する元柳斎によい報告ができると思った雀部であった。

 

「準備運動は、このくらいにしときますか?」

 

が、この言葉で直ぐに身体中がゾワリとしたのを感じ取る。先程までの攻防で雀部は手心を加えた瞬間なぞ片時も無かった、卯ノ花隊長の弟子とは伺っている。だがそれはあくまでも回道における弟子だと、そう考えていた。

 

だが、それは間違いだ。この男…萩風カワウソは、何かが蠢いている。

 

「じゃあ、一気に終わらせましょう。雀部さんの卍解、見せてくれないですか?」

 

雀部の実力は並の隊長格を凌駕している、特に群を抜いているのは間違いなく卍解だ。それを所望される、本来であれば雀部は卍解をするつもりはなかった。

 

これを使うのは総隊長である元柳斎の為に使うと決めているからだ、その卍解を覚えたのは2000年も昔の事だ。だが目の前500年程度の若造に挑むには、これしか無いのも理解していた。

 

「…卍解!!」

 

そして、雀部は霊圧を解放する。

 

黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)

 

上空に向けて斬魄刀から雷が走る、そして上部に1本、下部に11本の帯が伸びた楕円形の雷の塊が現れる。それは斬魄刀を構える雀部の動きに合わせて、その雷の破壊の力は動かされているようで、軽く振って地面が抉れるだけの雷撃が落とされている。

 

「この卍解を見せるのは、元柳斎殿に次いで2人目です」

 

この卍解を元柳斎に使った時は、彼の額に傷跡を残した。それ程の力だ、天候を操る斬魄刀だ。

 

「行きますよ…萩風!!」

 

そう叫ぶと、雷が萩風へ向けて叩きつけられる。放たれた雷撃は地面を大きく抉り消す、当たればダメージは避けられない。それ程研鑽された、斬魄刀の卍解だ。雀部の卍解は、他の副隊長とは比べ物にならない物だ。

 

「っ!?」

 

だが、萩風はその雷撃を避けていた。気がつけば雀部の背後に居る、直ぐにそこへ雷撃を落とすがもうそこには居ない。そして気づく、彼が超高速で動き回っている事にだ。

 

また、動きの軌跡が読めない事に。

 

「雷より瞬歩が速いのが、そんなに不思議でしたか?」

 

そんな事を呟いて来た。嘘だと信じたいが、信じられない。

 

不思議どころでは無い、あり得ない。だが雀部の取れる行動は他にもある。速さを上回るのは想定外だ、ではそれならば避ける事すら許さなければよいのだ。

 

雀部は斬魄刀を円を描く様に振り、そして振り落とす。それに呼応し、雷が雨の様に降り注いだ。無作為で無差別な破壊の嵐、雀部自身ですらどこに落ちるかもわからないほどのランダムな攻撃だ。

 

それは10秒程度の殲滅の光の嵐であるが、確かに降り注いだ。辺りに広がるのは抉れ去った地面の跡が目立つ。しかし、ある一箇所だけ地面へのダメージが無かった。その場所も間違いなく雷が降り注いだ場所だ、だがそこには…

 

「…バカな」

 

無傷で仁王立ちする、萩風が居た。

 

そして次の瞬間に

 

「ぐっ…お見事…」

 

萩風の攻撃が雀部の鳩尾へと叩き込まれた。剣の柄で腹を殴られたのだ、そして斬魄刀を手放した雀部は降参の合図をする。

 

「参りました…どうやって、避けきったのですか?」

 

「あの雨みたいな雷を避けてはいない。ちょっと早く空を切って真空の多重の層を作って逸らしただけで…まぁ、剣術だ」

 

それを聞いて目を見開く雀部、ただの剣術で卍解を防ぎきったのだと聞けば驚かざるを得ないだろう。

 

いや、不可能では無い。なぜなら彼は初代最強の剣の鬼の一番弟子なのだから。

 

「後ネタバラシすると、瞬歩が雷より速いわけがない。あんなのはちょっと始解使って偽って、集中力を削っただけだ」

 

「完敗…ですな」

 

彼の斬魄刀は幻惑の類を用いる妖刀、その力は体感して分かる。この男は、間違いなく隊長の器である。卍解も習得していると考えられるが、彼が斬魄刀を使用したのはたったの2度。

 

逆に…この男を破った、藍染惣右介とはどれほどの怪物なのだろうか?

 

「じゃあ、隊長の話は無しだ…俺になる覚悟ができたときに、誘ってくれ」

 

そう言うと萩風は足早に無間を出て行く、この男は隊長に興味が無いというわけではないのだろう。

 

「まったく…狡い死神だ」

 

雀部はそう呟く事しかできなかった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

俺は何とか隊長を断る事に成功した。副隊長の卍解を相手に始解のみの解放で勝利を収めた。藍染隊長という怪物を相手にした俺からしたら、まずまずの結果だ。

 

今までは隊長との稽古は卯ノ花隊長という俺からしたらマグマ風呂であったが、他の隊長に比べたら温い湯に浸かっていた。藍染という隊長の、太陽のような絶対的な存在と出会ってしまった俺には…やはり次のステップに移らないといけない。

 

しかし、役職を同格にしたからと言って中身は空っぽでは意味がない。

 

だが、彼女は俺が隊長を断ったと知ると四番隊の隊舎へ押しかけて来た。

 

「萩風、なぜ断った!」

 

砕蜂(ソイフォン)隊長、そうは言われても…」

 

二番隊の隊長である砕蜂さんだ、美人なんだが胸部装甲に難がある人だ。俺はこの人を好きか嫌いかで聞かれた場合は、苦手と答えるだろう。え?答え方が間違ってる?細かい事は気にするな、ストレスでハゲるぞ。

 

まぁ、俺がこの人が苦手な理由だけど…なぜか隊長になれ!ってずっと言ってくるんだよね。具体的に言うと、6人の隊長が居なくなった時から言われてる。いやぁあの時は大変だったわ…抜けた所の部隊の各所を回ってカウンセラーとして仕事して来たから。

 

いやぁ、今思うに3,5,9,の副隊長とか席が一番高い人は落ち着いてたなぁ…藍染とかの黒幕の3人だし。逆に砕蜂さんのカウセリングは大変だった…途中で逆ギレするわ俺に隊長をやれやら色々罵倒されて、しかも少し泣き出すし…そん時は女の子とどう接したらいいかわかんなかったので、軽く背中をさすって落ちつかせたな。頭撫でたらセクハラでしょっぴかれる予感がしたからやらなかったけど。

 

あ、100年前くらいのやつだよ。副隊長になったばかりなのに、そもそも斬魄刀を解放しきってないし。今もできてないし。

 

この人は苦手だ、なぜなら俺の事が嫌いだから。俺の事を意気地なしだとかそんな風には思っているのだろう。てかそう言う風に色々と言われたし。美人から嫌われると、心に来るよね……

 

で、今回も3人居なくなってしまったからか…どうやら護廷十三隊の隊長の敷居を下げて俺を無理矢理に隊長にしようとしてると考えられる。

 

「卍解の習得は済んでいるのだろう!」

 

護廷十三隊も人員不足なのだろう、俺がこれだけ修行を続けても身に付かない卍解・改弐は一部の…一握りの天才しか扱えないのだろう。

 

それこそ、数千人に10人程度の…限られた存在にだけ。

 

「そうですよ…卍解しか、習得できてません」

 

だが、俺のモットーは初志貫徹である。なんか最近はやたらとしつこいし。ここで俺の気持ちをはっきりとさせておこう。

 

あ、途中で話逸らして有耶無耶にしてもいいな。

 

確か、ここら辺で……

 

☆☆☆☆☆

 

彼を知るのは、隊長になってからでは無い。もっと前…そう100年程前に6人の隊長が消え…特に自分の上司であり敬愛していた存在であった元二番隊隊長 四楓院夜一が姿を消してしまった時くらいだ。

 

その時の私は裏切り者だと激怒して感情を納得させようとしていた時期だろう。

 

当時の私は4席、だが卍解は習得していたので間も無くして隊長へと昇格した。

 

その時には既に彼は…萩風カワウソは副隊長であった。少しの間だが、同じ副隊長の時期もあった。でも、関わり合いはほとんど無い。

 

なぜならば…回道の腕だけでのし上がったというこの男を、私は嫌いだったからだ。私に兄は5人いた、全員戦死したのだがな。弱肉強食の世界であるこの世で、弱者の塊のような四番隊の副隊長が始解すらできていないという噂に腹が立っていたからだろう。

 

力が無くては守る物も守れない、力が全て。巨悪を倒すのも力なのだ。

 

死神とは戦う集団なのだ、そう思っていたからだろう。

 

この時もそうだ、二番隊の隊長が決まるまでは代理で二番隊を率いていた時に彼は…なぜか、私のところへやって来たのだ。雑談をしに来たと言っていたが、それはただの建前なのだと思う。

 

当時の私は酷く取り乱していた、それは自覚もしているがそれでも上手く表面上は取り繕えていたのだ。

 

執務も任務もこなしてたし、訓練も怠らなかった。何も不都合も無ければ、迷惑もかけていなかった。完璧な死神の規範となるような生活を心がけていたと思う。

 

しかし、彼はいとも容易く「大丈夫ですよ、無理しなくても。砕蜂さんなら、大丈夫です」と不覚にも、関わり合いのないこの男に…心の中を見透かされてしまったのだと感じてしまった。

 

そう言われた時は、この男に言い当てられたのに心の底から嫌悪を感じたので…全力で色々な事をぶちまけたと思う。

 

どこまでぶちまけたかは覚えてないが、それを全て受け止めた上で彼はまた…

 

「我々は護廷十三隊の仲間です、完璧な必要はありません。完璧な心でなくていい、ただそこを補う仲間を信じてあげてください……俺は、貴方を信じます」と言った。

 

その時の彼を見て、私は彼を回道だけの男だと揶揄してしまったのを恥じた。隊長になる器とは……人を見る器なのではないかと。

 

私自身の敬愛する上司であった夜一様は、簡単に何かを裏切る人では無い。何か事情があったのかもしれない、ただ単に一緒に消えた浦原喜助が居たのも気に食わなかったのもあるだろう。

 

この事は100年ごしに和解できたので良かった、そう…勘違いで済んだのだ。だが萩風が居なければ…そのまま、夜一様を手にかけていたかもしれない。夜一様と出会った時は、対話から始めてすぐに事態と事情を理解した。だから、萩風には感謝をしている所もある。

 

そしてこの非常時に、私は彼に隊長になるべきだと真っ先に総隊長や他の隊長達に進言した。彼以上の器は居ない、隊長になるなら彼だと。

 

現に藍染の魔の手から、身を挺して雛森副隊長を守ったと聞いた時は「やはり彼こそが…」と「やっと彼も隊長か」と非常時であるのだが少しだけ心が浮ついていたのかもしれない。

 

だが…悉く断っている。間違いなく、今の死神の中で隊長を務めるべき器は彼なのに、だ。

 

そして今日は遂に納得のいかなさに腹が立ってしまい、大前田も置いて押しかけてしまった。

 

そして…初めて、彼が隊長にならない理由を話し始めるところまでやってきていた。

 

「隊長に必要なのは…持論だけど、覚悟なんだと思うんですよ」

 

覚悟、それは一言で言うのは簡単だ。無論、隊長になるには隊を率いる…200人以上の部下の命を預かる事の覚悟は、隊長ならしているはずだ。

 

私にも覚悟はある。私の考える覚悟とは、護廷十三隊としての規律を重んじ…必ず任務を遂行する為にどんな事をしても成功させる事だ。これは隠密機動ならではの感性なのかもしれないが、そういう物なのだ。

 

「どんな失敗や困難があっても、皆を引っ張れる巨人でなければならないし、皆から寄りかかられるだけの巨樹にならなければならない」

 

隊長とはある意味孤独だ、それは理解している。それだけ頼られるだけの存在にならなければならない事もわかっている。だが、これは力を付ければいいのだ。そう、卍解という境地に達したならば自ずと手に入るもののはずだ。

 

「俺に必要なのは……絶対に安心させるような、そういう存在になるという覚悟が足りてないんです。俺だけでも勝つ、という覚悟が。それがあるか無いか…それが、隊長であって副隊長との差なんだと。それだけは、自分で見つけなければならない」

 

「つまり…覚悟が決まるまで、隊長にならないつもりか?それは違う、隊長とはなるべき者がなるはずだ。私は萩風を…」

 

これを聞いて、私はすぐに反論した。周りから認められた者は隊長になるのだ、確かに卍解を身につけただけで隊長になる事は出来ないが卍解という境地へと至る道のりでその覚悟が手に入るはずなのだ。

 

しかし、彼は……

 

「俺は卍解だけで満足して、隊長にはならない」

 

そう、言い放った。

 

「…狡いではないか、萩風」

 

私もそう呟く事しかできなかった、私は覚悟が中途半端な時に隊長となった。他にやるべき人も、やれる人もいないのだからとやった。

 

だが、彼は自身に厳し過ぎるようだ。他人に甘い癖に、自身を徹底的に虐めている。

 

あの時に私を励まし前を向かせて覚悟を作った男が、酷いことを言うものだ。

 

すると突然萩風は。

 

「砕蜂さんもそんな怖い顔しないでくださいよ、どうです。近くに新しい甘味処ができたらしいですし、ゆっくりお茶でもしませんか?」

 

「へっ?」

 

「あれ?甘いものは苦手でしたか?」

 

茶に誘って来た。待て、誘う?誰を?私を?軽く周りの霊圧を探るが、どうやら私しかこの部屋には居ないらしい。

 

つまり、彼は私と茶を飲みたいと言って来たという事だ。

 

「いや…その、問題無い。甘い物は、苦手じゃにゃ……苦手では無い」

 

「それは良かったです、じゃあ準備をしてくるのでちょっとだけ待っててくださいね」

 

予想外なことで、思わず上ずった声を出してしまったが…というか思いっきり噛んでしまった。

 

死神となってから…というか、産まれてからこんな事に誘われたのは初めてである。初めての体験で…何故だろうか、並みの任務を遂行することよりも緊張している気がする。

 

萩風カワウソは何を考えているのかわからない、だが自分を隊長として部下でも無いのに信用して来た男だ。

 

「…狡いぞ、萩風」

 

私は彼をどう思っているのか、よくわかっていない。だが今は嫌いではないし、夜一様と似ているが、違った何かを思っているのだと思う。

 

☆☆☆☆☆

 

砕蜂さんから隊長の話をそらすためにとりあえずお茶に誘って有耶無耶にしてたら、甘味処に大前田副隊長が現れてあらぬ噂をぶちまけやがった。店内で、大声で。しかもそのまま叫びながら出て行きやがった。

 

おい、デートじゃねぇよ!俺この人苦手なんだよ、中身が全く読めないから琴線とか読めないんだよ!この人怒ってるじゃん!少しフリーズして、俺の顔を見てから顔真っ赤にして大前田をぶっ飛ばしに行ったじゃん!

 

いや、なんか頬を染めた砕蜂隊長めちゃくちゃ可愛かったけど。

 

あーぁ、また関係ない事で嫌われたわ……別に、女の子に嫌われてるのには慣れてるけどな!!クソガァ!!

 

 

 

……グスン。心の中では泣いた。




完全に砕蜂回になったなぁ…

近々オリジナルの小説のサンプルを投稿するかもしれませんが、こっちも頑張るのでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14.虚圏で活動中

彼か?紳士仲間だ。

虚圏の住人 ペッシェ・ガティーシェ


いつもの鍛錬場で彼はまた、斬魄刀を振るい続ける。霊圧を最大限にまで高め、撒き散らし、また高める。何度だって続ける、何度でもやり続ける。

 

そう、卍解を超えるまでだ。

 

「もうやめんか!!」

 

だからこそ、彼女は大きく萩風の心へ声を荒げた。

 

「天狐ちゃん…俺はまだ諦められないんだよ」

 

天狐、彼女は萩風の斬魄刀だ。精神世界でもボロボロにやつれた萩風の襟首を掴み上げると今度は目の前で声を荒げ続ける。

 

「そんなボロボロにまでなって何を望む!?主はもはや限界なぞとうに迎えとる!!このままでは死ぬ!間違いなく!!」

 

もうやめてくれ、悲痛な叫びが天狐から浴びせられる。必死な天狐を前に萩風は無言であった。

 

「何が主を……っ!?」

 

それが気に食わず、また同じような言葉を浴びせようとしたが。萩風の顔を見て言葉が止まってしまう、冷たいとかそういった類の目ではない。だが、この目を見てしまってはもう言葉は捻り出すこともできない。

 

「それが?」

 

覚悟を決めた、男の目がそこにはあるのだ。

 

「俺は、俺をレベルアップしないといけない。たとえ…何度、死の淵に立っていてもだ」

 

萩風は悔いているのだろう、藍染という怪物的な死神に一矢報いる事すら出来ずに、一方的にズタボロにされてしまった事に。

 

彼は強い、だが藍染はその先にいた。萩風が自信をなくしているわけではない、ただ誤った認識を再確認してしまっているのだろう。

 

もし最初の相手が市丸ならば、彼はこんな事を続ける事はなかったかもしれない。だが、それでも彼は自身が崩壊の一歩手前までを往復するのかもしれない。

 

「天狐ちゃんに相応しい、死神になるまで……折れない」

 

そしてまた萩風は霊圧の上限を解放していく、そしてまた痛みに慣れた萩風ですら絶叫するような修行が再開されていく。

 

天狐ができるのは、もはやそれを見て祈る事だけだ。

 

「本当に……」

 

だが、彼は気づいてない。

 

「主は、死神なのか…?」

 

もはや、彼の魂魄は死神とは異なるものへと変化していっている事に。

 

☆☆☆☆☆

 

殆ど何もないだだっ広い砂漠が広がっている。

 

ここにいたら何もなさ過ぎて、この男の場合は退屈で死にそうなくらいだろう。大きな白い建造物があるだけで、他には何もない。

 

「藍染は…いたら、隊長に任せるか」

 

彼にとって久しぶりの任務だ、四番隊の副隊長である萩風に任務が下されるのは本人でも何年振りかわからないほどである。というより。四番隊に任務が下されるのが少ない。あくまでも後方支援の部隊だからだ。

 

「虚って座学の授業でちょこっと見た覚えしか無いから骸骨っぽい奴ら…ってイメージしかないけど、大丈夫かな?」

 

あくまでも一人であるからこそ、呟ける独り言を呟きながら軽く砂漠の中を走り抜けていく。

 

「ここが虚圏(ウェコムンド)か、何もないな」

 

萩風は虚圏へ派遣された。本人はそもそも何処かへ派遣されるのは初めての事なので少しだけワクワクしていたようだが、何も無さ過ぎて少しずつ興奮が落ち着いてきている。

 

「負傷者探さないとな…てか、虚とかも襲ってくるんだよなぁ」

 

彼の仕事は先行してる者達の治療が仕事だ。初めての前線だが、あくまでも治療がメインだ。

 

最初は一緒に突入した者達と行動していたが、卯ノ花隊長が単独行動を許したので今は一人で虚圏を駆け回っている。

 

流石にそこらの虚には負けないと思っているからこそ、萩風の単独行動を許可したのだろう。

 

そして、虚に気をつけながら負傷者を探していると。萩風は死神ではない霊圧を感じ取る。敵か?と、立ち止まって刀に手を置くと…

 

「待て!お前は一護の仲間か!?」

 

変なのがいた。ちょっと鼻水?が垂れた虚がいた。白と紫のカラーリングと、アリとクワガタが合体したような仮面がついた人型の虚である。そんな虚を見た萩風だが、実はまた少しだけ興奮している。

 

初めての、虚だからだ。

 

「(へー、これが虚か!あれ?虚って人型のこんなサイズのやつだっけ?もしかして昔過ぎて、今はこれが当たり前なのか?人語とか喋るとか進化してんなぁ)」

 

もしくはここだけの亜種みたいな存在か?と勘違いで納得していると、どうやら目の前の虚が焦っているのに気づく。

 

「その格好、死神だな!仲間なら一護を助けて欲しいのだ!」

 

「誰だそいつ…そんなやつ知らな…あ、死神代行か。助けるメンバーの顔はわかるけど、名前とかうろ覚えだったなぁ…他は誰だったかなぁ…」

 

ちなみに、虚圏へ派遣されたメンバーは十二番隊の隊長の涅マユリ、副隊長の涅ネム、十一番隊隊長の更木剣八、六番隊隊長の朽木白哉、そして我らが四番隊からは隊長の卯ノ花烈、三席の虎徹勇音、7席の山田花太郎と副隊長の萩風の計8人である。

 

攫われた井上織姫、その女性を救出するのが一応はメインの任務であり、四番隊は怪我人の治療がメインである。

 

「まずいのだよ!流石にウルキオラ様と戦うのはまずい!超強いかもしれない私や雨竜でも無理だ!助けてやってくれ!」

 

「確か眼鏡と…え?あぁ、負傷者がいるのか?」

 

萩風は少し考え事をしてたようで、後半の「助けてやってくれ!」しか聞こえていなかったようだが、それを聞き返さずに後半の都合の良さそうな言葉にのみ焦点を当てる。

 

なぜなら彼の任務は治療だからだ、単独行動を許されて誰一人助けられませんでした!と言った場合は卯ノ花隊長から叱責されるのが確実であり、その上で同じ四番隊の隊士に情けない醜態を晒してしまうからだ。

 

彼は今、治療をしなければならないという焦燥感に駆られていたのだ。

 

「どこにいる?あっちか?向こうか?」

 

「あの上だ!」

 

そう言って白と紫の虚は上を指差した。

 

「えっと…空の上で戦ってるのか。うーん…」

 

流石の萩風も予想外だったのか少しだけ悩み込む。軽く見ても、隣にある建造物よりも遠くに穴らしきものを確認する。だが何か納得したようで萩風はその準備を始める。

 

「でも、あんた空飛べなそうだし…ん?なぜ屈伸をしてる?」

 

虚はなぜか準備運動を始めた萩風に対して「とりあえずそこの塔を登れ!そして屋上からおもいっきりジャンプすれば、いけんこともないはずだ!」と萩風に自身の思いついた作戦を伝えようとしていると。

 

「離れてろ、危ないぞ」

 

「え?あ、ちょまっ!?砂がぁぁぁ!?」

 

そう言い、数秒してから萩風の周りが爆ぜた。その衝撃で飛んできた砂が、当然虚…ペッシェに飛びかかる。

 

「ペッ!ペッ!何するのだ!私とお前の仲でもやっていい…んん?あいつは…」

 

口に入った砂を吐き出しながらも予告もなしに謎の爆破を起こした萩風に適当なシャレでも言いながら詰め寄ろうとするが、そこに萩風はいない。おかしいなぁ…と思いながら周りを見渡すが足跡すら見当たらない。

 

そこで、ペッシェは気づく。

 

「うそーん……」

 

この高さを、ジャンプして天蓋へと至った事に。

 

☆☆☆☆☆

 

天蓋、それは虚圏の上に存在する世界。暗い闇と僅かな光が差し込むだけの虚な世界。

 

そこでは白い悪魔のような存在が、片手に人を持ち上げていた。

 

存在の名はウルキオラ、黒崎一護を屠った破面である。

 

「あっけなかったな」

 

今しがた、骸となった人間を無造作に投げ捨てる。

 

その人間、黒崎一護は間違いなく絶命していた。胸に巨大な穴を開けられ、虚空を見つめ続けるその眼は閉じる事なく白く染まっている。

 

「黒崎君!!」

 

「無駄だ、確実に殺した」

 

井上がすぐに治療に取り掛かろうと黒崎の元へと駆け寄る。井上の行うそれを無駄な行為とわかっているが、ウルキオラはそれを拒もうと井上の方へと向かおうとする。

 

光の雨(リヒト・レーゲン)!!」

 

だがそこを真後ろから、技の文字通りに光の矢が雨のように降り注ぐ。滅却師である石田雨竜の攻撃だ、面制圧を行う攻撃であるがまともに喰らえばタダでは済まない攻撃だ。

 

「お前では俺に勝てない。その矢では俺を貫くことはないからだ」

 

しかし、その攻撃はウルキオラの硬質な鋼皮(イエロ)を通す事はできない。また一瞬で石田の隣へ移動すると、地面へ叩きつけるように蹴り飛ばす。

 

「がっ!?」

 

石田は直ぐに敵と自分との力の差を理解する、自分が戦った他の破面とは比べものにならない存在だと。だが、石田が次の手を打とうとしても目の前にいる悪魔の攻撃の方が遥かに早いのも石田は理解していた。

 

ウルキオラが石田雨竜を手にかけようとした時だ。

 

ドコン…と、鈍い音が響く。そこには天蓋を突破する時に舞い上がった煙で上手く確認できないが。一人の人影があり、それが徐々に晴れるとウルキオラはその男に目を見開く。

 

「…お前は」

 

石田への手は止まっている、その隙に石田は井上の元へと駆けて行く。ウルキオラがそれを横目にするが、直ぐにその標的の方へと神経をとがらせる。

 

「怪我人は三人か?」

 

「っ!?」

 

が、とがらせる前にその男は石田達の元へと高速で移動していた。そして直ぐに胸に風穴の空いた黒崎の治療に取り掛かる。隣では井上も処置を行っているが…

 

「……すまない」

 

直ぐに、男は治療を諦める。そして三人を覆うように薄緑色の半透明の結界を張る。

 

「治癒の結界だ、内側からは破れないようになってる。俺にできるのは、これくらいだ…」

 

その男、萩風カワウソはそこに居るもう一人の存在へと向き直る。それは明確な敵意を現し、萩風の元へ悪魔のような足を進めて行く。

 

「俺はこの子達の治療をする為に来ただけだ、戦いたいなら下の隊長達とやってくれないか?」

 

萩風の仕事はあくまでも治療、戦闘ではない。それは総隊長より命ぜられた任務なのだ、おいそれと簡単に破って良いものではない。

 

「何か勘違いしてるようだが、お前は確実に殺せと藍染様より承っている」

 

しかし、萩風はすぐに避けようのない戦いだと察する。こいつの敵意は、自分に全て向かっているのだと。

 

「…お前は誰だ?」

 

第4十刃(クワトロ・エスパーダ) ウルキオラ・シファーだ」

 

萩風は何を言ってるかわかってるようでわかってない顔をしているが、その胸に刻まれた4の数字を見て適当に話を繋げる。

 

「奇遇だな、俺も4番だ。俺を知ってるみたいだが自己紹介させてもらう、四番隊 副隊長 萩風カワウソだ」

 

そしてその4という数字、萩風はそれが何を現すかを何となくであるが察している様子である。藍染の手駒の、四番手という事をだ。

 

「俺は藍染様より、貴様を倒すべく力を頂いている。確実に、殺す為だ」

 

そして悍ましく、暗く、冷たく、重みのある霊圧が辺りを包み込む。それは治癒の結界によって治療中の二人も感じ取っているようだ。だからこそ、どれだけ絶望的なのか理解している。

 

「逃げてください!あいつは怪物だ!!副隊長じゃとても…!!」

 

石田が結界を突破し、加勢に向かおうとするもそれはできない。それはそうだ、これは萩風が治療を拒否するような者でも必ず治療すべく編み出した結界。外側からは壊れやすいが、内側からは余程のことでなければ壊れない物だからだ。

 

石田の抗議も虚しいままに両者は歩み寄る。

 

そして、お互いが目の前まで近づくと「戦いを始める前に、一つ質問したい」と萩風が問う。ウルキオラが「なんだ?」と答えると。

 

「藍染は卍解しなくても、お前を倒せるか?」

 

萩風がこの数字の敵を見て最初に考えた事が二つある。

 

一つはこいつの上に三人の手駒が存在しているという可能性もだが、「虚は本当に人型に進化したのか…」という事。ちなみにこいつらは虚ではない、死神の力を持った破面である。

 

もう一つは、四番手と推測できるウルキオラは藍染に比べたらどの程度の実力か?という事である。

 

「苦もなくなされるだろう」

 

そして、ウルキオラはそれに即答する。その様子に萩風は「やっぱりか…じゃあ」と少し考える素ぶりを見せると。

 

「卍解しないで倒してみるか」

 

と答えた。ウルキオラも予想外の事であるのか、少し戸惑いながらも「なんだと?」と霊圧を更に鋭く叩き付ける。

 

それに対して萩風は「あー、すまん。お前の実力を疑ったわけじゃない」と言うと。

 

「これは慢心じゃない、藍染を超えるのに…最低でもお前には卍解無しで勝てないといけないからだ」

 

萩風に慢心は無い、あるのは己が上に行く為にはなにが必要なのかを考える向上心だけだ。

 

そして、腰から斬魄刀を抜いて刀を構える。

 

また、ウルキオラは緑色の霊子で固められた光の槍を携帯する。

 

「やろうか、4番」

 

「後悔するなよ、死神」




Q.好きな死神は?

萩風「女の子」

Q.苦手な死神は?

萩風「砕蜂さん…くらいかな?基本的に仲が悪い人はいないと、俺は信じたい」

Q.虎徹勇音さんと付き合いたいとか思いますか?

萩風「めっちゃ思う。てか彼女が欲しい」

Q.砕蜂さんと付き合いたいと思いますか?

萩風「美人だな…まぁ、顔とか可愛いし。彼女欲しなぁ…」

Q.卯ノ花隊長と付き合いたいと思いますか?

萩風「ノーコメントでお願いします……」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15.虚圏で戦闘中

帰ってくると言っていたが……いや、待つのは慣れてる。横並びになりたかったよ……え?ち、違う!夫婦という意味で言ってにゃ…言ってない!

護廷十三隊 二番隊隊長 砕蜂


「うそ…だろ?」

 

石田雨竜は目の前の事実が余りに自分の予期していた未来と乖離していたので、そのまま固まってしまっていた。

 

あまりに現実離れした事実は、聡明な石田の脳をもってしても認め、理解するのに時間がかかっていた。

 

目の前で行われている、目で追うことだけがやっとの高次元でのやり取り。結界で緩和されているが、凄まじい霊圧と覇気、そして全身を襲う謎の高揚感に支配されてしまう。

 

「僕と黒崎が苦戦した奴と互角…いや、押してる?!」

 

天鎖斬月は黒崎一護の卍解であるが、それはスピードに力を極端に割り振った能力を持つ卍解だ。そして目の前の悪魔、ウルキオラはそれを優に上回っていた。

 

なのだが。

 

「卍解も使わずに…本当に副隊長なのか?」

 

そのウルキオラのスピードすら、萩風は上回っていた。

 

☆☆☆☆☆

 

高速で行われている斬撃の応酬に、両者は未だに無傷であった。

 

スピードは萩風が上、防御力はウルキオラが上、戦闘技術は萩風が上、経験値はウルキオラが上、攻撃力はほぼ互角。

 

両者共に一歩も退かないやり取りをしている。

 

「どうした、死神。その程度か?」

 

「そっちこそ、そろそろ本気を出していいんだぞ?」

 

だが、お互いに実力はまだ隠している。それをお互いが理解している、ウルキオラの挑発に萩風は眉一つ動かさずに鬼道で反撃するがそれはウルキオラによって放たれた虚閃で相殺される。

 

そして戦闘が始まってから、初めてお互いに動きが止まる。疲労などではない、むしろ両者はまだまだ力を出せる。止まった理由は、萩風にある。

 

萩風は斬魄刀、既に始解された天狐を一瞥するとウルキオラに向き直る。

 

「お前、見えてるな?」

 

萩風がそう問うとウルキオラは「見えている」と即答する。

 

「言ったはずだ、貴様を殺す為に力を授かったと」

 

天狐の能力は一言で表すならば、虚構の世界に塗り潰す事だ。景色ならば彼の斬魄刀で地獄を天国に、現世を虚圏へ偽ることが可能だ。

 

しかし、それは景色を偽っただけであり霊圧の技術が高い者はその違和感に気づいてしまう。だがそれでも、偽りの全てを把握するのは不可能である。

 

以前に藍染の攻撃を萩風が受けた時、あれは長年の勘で咄嗟に避けられただけではない。藍染の霊圧を無意識で察知できたからこその回避でもあった。

 

更に言うと、藍染程の実力者でも萩風の位置を正確には測れなかったからこそでもある。

 

だからこそ、萩風は違和感に気づく。ウルキオラ・シファーは藍染の四番手、藍染の手下だ。藍染より優れているならば、手下になる事は無いはずだ。

 

「俺の眼は貴様の幻影を見分ける。いかなる小細工も意味を成さない」

 

そして、萩風の考えは正しかった。藍染はウルキオラの目を強化したのだ、天狐を見破る為に。萩風の卍解である【陽炎天狐 炎周・九十九提灯】も言わば虚構が実体を持つ力。

 

しかし、その虚構を必ず見破る。ウルキオラが虚圏に残された理由は一つ。「萩風が虚圏へ現れた場合の対処」だ、現世ならば藍染自らが手を下せば良い。だがあれは群の力、萩風一人で虚圏を落としてしまう。

 

また、それだけではない。今のウルキオラは藍染の配下の破面においては最速、最硬、最大の霊圧を持っている。全ては、藍染から賜るものである。

 

「破道の八十八 飛龍撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)

 

もはや天狐の能力は無効化された、ならばと萩風は鬼道と剣術をメインに攻防を続ける。

 

「無駄だ、避ける必要すらない」

 

放たれた力の塊、滅殺の極光をウルキオラは片腕で受け止める。そしてもう一方の片腕で虚閃を放つ。また萩風も鬼道でそれを相殺する、そして両者はまた近接戦闘へとシフトしていく。

 

だが、お互いが実力の探り合いをしているこの攻防に動きは無い。どちらかに戦局が傾くような事は、起こらない。

 

だからこそ、ウルキオラは決断した。

 

「お遊びは…ここまでにするぞ」

 

そして、胸にある鈍く輝く玉へ手を当てる。

 

黒翼天魔(ムルシエラゴ)新天地開放(レクイエム)

 

☆☆☆☆☆

 

目の前で急激な霊圧の膨張が始まる。黒と白の光が螺旋状に天に昇っていき、その中心にいる存在…ウルキオラ・シファーが間違いなく、本気を出そうとしていた。

 

これが目覚めた場合、卍解無しの自分では勝てない。そう悟ったのか、萩風は距離を取ると霊圧を高める。

 

蒼天(そうてん)()する(てん)なる大河(たいが)噪音(そうおん)する大地(だいち)真髄(しんずい)

 

目の前では霊圧の膨張が止まることを知らないウルキオラが包まれた光の塔、並みの攻撃ではウルキオラに届きすらしないのを萩風は察している。

 

()()銀嶺(ぎんれい)()わり()皇居(こうきょ)(まど)え・(したが)え・()じ・()()れ・(とが)()れ」

 

結界に守られている石田や井上も現状の異様さと、何かが来るという確信めいたものを感じているようである。だからこそ、萩風は自身の持てる力で最強の鬼道を詠唱している。

 

(みち)しるべ()破邪(はじゃ)洞窟(どうくつ)憑座(よりまし)から(はな)つ・(さば)きの鉄槌(てっつい)

 

萩風の右手が光輝く、すると暗がりの世界であった天蓋に新たな光りが現れる。そして、萩風が合図をするように右手を振り下ろす。

 

「破道の九十三 瞬天閃降下(しゅんてんせんこうか)

 

天から振り下ろされたのは、光の裁きであった。螺旋状に立ち上っていた光の塔を容易く撃ち抜くそれはそのまま中に居たであろうウルキオラを貫通していく。

 

光が落ちて来た、表すならそんな言葉だ。萩風が藍染という規格外の怪物との戦いを想定して覚えた技だ。

その威力には石田達も驚いている、そりゃそうだろう。光が降り注いだ地は、跡形もなく消滅している。今は空虚な洞窟だけが残っているのだから。

 

ここだけ見れば、圧倒的な力を見せつけて萩風が勝利した…と見えていた。

 

「悪い冗談だろ」

 

思わず萩風は呟くのも仕方ない事かもしれない、それは洞窟からゆっくりと浮かび上がってきた。深淵から舞い戻ったその姿は、禍々しく…悪魔や堕天使といった言葉が相応しい存在感を放ち続けている。

 

「悲観する必要はない、藍染様の御力の前では…皆等しく、無力なだけなのだから」

 

ウルキオラ・シファーは、食らった時の傷を超速で回復させたのか、体からは少しだが煙のような物が出てくるがすぐに収まる。胸には鈍く輝く球体、その力の源らしき物体は……ウルキオラを別次元の存在へと進化させていた。

 

「あ…ぐ…!?」

 

結界に守られている石田や井上は、障壁でいくらか緩和されている筈だが。息が詰まっているような…息をするのを忘れてしまうような存在感に、押し潰されている。それを萩風は確認すると少しだけ結界の強度を上げる。

 

それによりいくらかマシにはなったようではあるが、それでも体に染み付いてしまった恐怖を拭えていないようである。

 

「残紅に跪け 卍解!!」

 

萩風は今のウルキオラと正面から戦うのは分が悪い、そう判断するとすぐに霊圧を解放する。ウルキオラにも見劣りしない、霊圧の解放だ。萩風が卍解を封印していたのは、どこまで卍解無しで戦えるのか、己のレベルを見極めるためだ。

 

そしてある程度、藍染との差を把握したからこそ発動する卍解。

 

「無駄だ」

 

しかし、萩風が斬魄刀を解放しようとするも、現れた虚像の軍団は実体を形作る前に消されてしまう。虚像の状態に攻撃したのだ、この時の萩風にダメージは反映されないが…己の卍解の全てを否定されていた。

 

「っ、何を…しやがった!?」

 

あまりに一方的に消された卍解に、萩風は眼を見開いたまま動けなくなっている。

 

「貴様の卍解なぞ、この状態になる前の俺でも対応できる。虚像は一定以上の霊圧の揺らぎを与えてやれば、実体を保てなくなる。理解したか?」

 

淡々と語られる萩風の卍解の弱点。だが萩風も初めて知る弱点であった、そんな事をされた事もなければそんな事で虚像が消えるとも考えた事が無かったからだ。

 

「遅い」

 

「がばっ…!?」

 

ならばと、萩風は斬魄刀で斬りかかるがそれは防がれる。いや、防御されたのではない。肌が硬すぎて刃が通っていないのだ、だからわざとウルキオラは避けなかったのだろう。そしてカウンターに放たれた翼の薙ぎ払いを避けきれずに投げ飛ばされてしまう。

 

「散れ 黒翼の矢(ネグロ・グラバ)

 

翼から放たれるのは刃の嵐、その全てが並みの死神を瞬殺する破壊力を持つ。それが止めどなく注がれる。数分ほどうち続け、弾着の際に舞い上がった煙が晴れていくとそこには傷だらけの萩風が貫いた羽を支えに座り込んでいる。

 

速度、攻撃力、防御力、霊圧、全てにおいてウルキオラが何歩も先を行っている。

 

萩風がこうなったのは慢心だけではない、天狐の能力がウルキオラに通じていたなら立場は逆転していた可能性もある。藍染が予期し、与えた。それが、今を表している。

 

「終わりか…この程度ならば、藍染様が手を下すまでもなかったな」

 

ウルキオラの全力を受け止められる死神は、総隊長でも厳しいだろう。そう察することができる程度の力の差が開いている。この怪物はその気になれば虚圏を破壊し尽くす事なぞ造作もない存在だからだ。

 

そしてウルキオラはまた与えられた使命を全うするための考えを始める。

 

とりあえず、ここに来た隊長達を順番に殺しておくか。そんな事を考えながら、先ずは目の前にいる石田雨竜から消しに向かおうとすると。

 

「……まだ生きていたのか」

 

萩風はまた、ウルキオラの目の前に立ち塞がっていた。体のあちこちに流血の跡が見受けられる、だが既に傷は塞がっているようでウルキオラの霊圧を目の前で受けても、微動だにしていない。

 

「死ななきゃ、擦り傷だからな。四番隊副隊長は伊達じゃない」

 

そう言うと「じゃあ、こっちも遊びは終わりだ」とボソリと呟く。ウルキオラが辛うじて聞けたそれが何を意味するのか、それは直ぐに分かることとなる。

 

「鬼火よ集え 卍解」




最近、自分の小説の勉強中の作者です。

オリジナル鬼道、あとブレソル三周年記念のウルキオラさんにご登場願いました。レクイエムとか勝手に名付けました。

なんかエゲツない奴になってますが、今後の萩風カワウソをご期待ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16.虚圏で卍解中

なんで、こいつを特記戦力にしなかったんだよ。お陰で皆んなやられて…なんで、こんな奴に命救われてんだよ。……え?顔が赤い?そ、それは腹が減ったからだ!!あいつは大っ嫌いだ!!

元星十字騎士団 霊王の特別世話係
リルトット・ランパード


萩風が熱風に包まれていく、その撒き散らす炎だけで、周りの地が消えてしまいそうなほどの熱量だ。ウルキオラは攻撃を仕掛けない、今攻撃をしても熱の壁で威力が削られてしまうと考えたからだろう。

 

そして徐々に、その炎の壁が薄くなってきているのがわかっていたからだろう。

 

紫怨(しおん)火狐ノ皮衣(ひぎつねのかわごろも)

 

そこから現れた萩風の斬魄刀は九十九提灯と同じものだが、若干紫色へ変異している。装束は狐のような毛皮を纏うコートに変わり、萩風の隣には二つの紫色の炎が宙に舞っている。

 

その姿を見たウルキオラだが、大した驚きはない。なぜなら、今の萩風は遥かに自分より劣っていると直ぐにわかったからだ。そもそも、霊圧が遥かにウルキオラを下回っている。

 

むしろ、弱体化したのではないかと思う程なのだ。それは萩風も理解している筈だ。故にウルキオラは直ぐにある答えに行き着く。

 

卍解を失敗したのだと。

 

「勝負を諦めたか、死神」

 

萩風はそれに対して斬魄刀を構える事で答える、勝負を諦めているわけではないようだ。それでも今の状態のウルキオラに挑むのが、どれ程無謀な事なのか理解してないわけがない。

 

なのでウルキオラはまずは様子見を兼ね、軽く薙ぎ払う事に決める。真横に響転で移動し、萩風に槍状の武器で攻撃する。この程度でやられなければ、何か裏がある筈。そう考えながらのウルキオラの攻撃だが。

 

「どうやら……本当に、彼我の実力差を理解していなかったようだな」

 

萩風はそれに反応もできずに遥か彼方へと吹き飛ばされる。何ともあっけない、あっけなさ過ぎる。この程度の奴は敵では無いとウルキオラの主人である藍染は答えた。藍染の持つ鏡花水月の前では無力だからだ。

 

「待たせて悪かったな、すぐに終わらせよう」

 

そして処刑を待たせ続けた石田達の方へと向かう。内側から破れないその結界から石田達が逃げる術はない。そしてその結界へと手を伸ばす。

 

「貴様……どうやら、確実に息の根を止めて、死体を確認した方が良さそうだ」

 

ウルキオラが結界に手をかけようとしたが、その手は隣に現れた萩風に止められていた。そのまま萩風は軽くウルキオラを投げ飛ばすが、ウルキオラは苦もなく地面へ着地する。

 

しかし疑問に思える。先程の力程度なら投げ飛ばすどころか引き止めることも、ウルキオラの邪魔が出来る程の力もなかったはずなのだ。

 

そして、次の瞬間に萩風の霊圧のレベルが跳ね上がる。

 

「…まだ、やる気はあるようだな」

 

萩風の背からは半透明の尻尾のような物が、紫色のオーラを放ちながら揺らめいている。

 

「さっきは済まなかった。未だに、こいつの力を掌握できてないんだ」

 

そう言う萩風の力は、確かに膨れ上がった。だが…それでも、ウルキオラよりも下だ。だからこそ、ウルキオラの反応は薄い。

 

「先程よりもレベルが上がったのは認めよう、だがそれでも俺には届かん」

 

ウルキオラの力の源は胸元に埋め込まれた崩玉のレプリカだ。藍染が崩玉の上位物質への変換は可能なのか?また、複製は可能なのか?そのような実験を経て作り上げた失敗作の劣化品である。

 

だが、その力はオリジナルに比べて劣っていても絶大だ。そこらの破面なぞ敵ではない、そこらの隊長や副隊長は敵ではない。それ程の力をもつのが、今のウルキオラだ。

 

「この卍解は九十九提灯の灯りを全て、俺一人に集めた力だ。でもこれの解放には、気分屋なこの子に付き合わないといけない。解放は俺の手に委ねられてないんだ」

 

何を言っている?そう呟こうとしたウルキオラの表情は、次の瞬間に大きく歪んでいた。

 

「っ!?貴様…どこから、その力を」

 

萩風から2本目の尾が現れると、その力はウルキオラと並んでいた。レプリカとは言え、崩玉の力を引き出すウルキオラとだ。

 

「ここまで来るのには、400年はかかった」

 

そして、3番目の尾が現れると。ウルキオラの霊圧を超えた力を得ていた。

 

「始めるか、こっちも本気だ」

 

ありえない、そんな言葉がウルキオラの頭の中を半濁する。藍染が崩玉を完全支配した状態で打ち負かされるなら納得もいく、だが目の前の男。

 

萩風カワウソのあり得べからざる力に、打ち負かされると誰が予想できるのか。

 

「バカな、貴様…萩風カワウソ!お前は何者だ!?」

 

これ程の力を持ったこの死神は、何なのか。それが納得も理解もできないウルキオラは、初めて声を荒げた。これまで心無い破面と言われ、本人もそう自覚していた彼。これが最初の感情表現になるのであった。

 

「死神だよ、ウルキオラ」

 

だが萩風はそれを嘲笑うかのように、淡々と答えると斬魄刀へ霊圧を注ぎ始める。ウルキオラも諦めてはいない、だからこそウルキオラも同様に槍へ力の全てを注ぎ込む。

 

嵐の夜亡(ウ・トルメンタ・ムーテ)

 

漆黒の混じる翡翠の槍が萩風の方へ迸るエネルギーを撒き散らしながら向かい。

 

斬天焔穹(ざんてんえんきゅう)

 

紫炎の鋭利な斬撃が、半月の様に鮮やかな弧を描きながら飛ぶ。

 

そしてその一撃は槍を完全に打ち砕き、ウルキオラを切り裂いていた。

 

☆☆☆☆☆

暗い海の中を沈んでいく様に、黒崎一護は落ちていっている。

 

もはや、何も守れない。そんな力が、無い。

 

そんな黒崎一護の中で、何かが呼んでいる。

 

見せられるのは黒い玉だ、凄まじい力がこもっていると簡単に分かる程の物が映されている。

 

それは語りかける。今、床に転がるアレは必要なのだと。

 

あれを手に入れるのに、あの二人は邪魔だと。

 

それは誘惑している、アレが手に入れば絶対的な力が手に入ると。

 

全てを守れる力が、手に入ると。

 

井上織姫を守る力が、手に入ると。

 

そう聞いてしまった黒崎一護は、何かへ飲み込まれてしまうのを許してしまっていた。

 

☆☆☆☆☆

中々、激しい戦闘だった。いやー、強かったなぁ。最悪隊長格来るまで粘れたらいいかな?とか思ってたけど、俺で倒せる範囲でよかった。

 

後、うちの天狐ちゃんの機嫌が良かったのもよかった。これ使うと体疲れるし、この子に無理させたくない。天狐ちゃんはこれ使う時は本当に渋々力を渡すって感じだから負けてたかもしれなかったなぁー。

 

あ、ちなみに今は倒した虚の回復中だよ。思ったより強くやっちゃったみたいだから、いやこいつが強かったのが悪い。俺がボコボコにしたのは悪くないな。

 

「お前は……。そうか……俺は、負けたのか」

 

ん?なんか起きたみたいだな。回復力は高いのか?まだまだボロボロだけど、しぶとい奴だな。

 

「あぁ、俺の勝ちだ」

 

とりあえず、少しドヤ顔で言ってみる。実戦で勝つのって、最高に気持ちいいわ。特にお互いが出せる力出して勝つって、こんなに楽しかったのか…修行しかしてこなかった、俺の初めての発見かもしれん。

 

「なぜ、俺を助けている?」

 

「四番隊は流れた血を止めるのが仕事だ、そこに敵も味方も関係ない」

 

じゃないと隊長に怒られるし、あくまでも治療で来てるし。あの眼鏡君とかの治療は終わったけど、やっぱあの死神代行は死んじゃったのがなぁ…怒られるかもな。

 

もしかしたら現世へ藍染倒すのに派遣されるかもだが、隊長が6人くらいいるらしいし、大丈夫だな。隊長は俺なんかより、何倍も強い人達だろうし。

 

☆☆☆☆☆

今の言葉に、ウルキオラは違和感を覚える。敵も味方も関係ない、確かにその理論は理想だ。だが現実は先に手を出し、命も奪っている。

 

ウルキオラは萩風達の敵、覆しようのない事実であり、敵味方の介在しないその理論で死神代行の命を奪ったウルキオラは、殺されても仕方ない。いや、殺すべきだろう。

 

「お前は…」

 

その理論の間違いを、矛盾を伝えようとウルキオラは体を起き上がらせると、違和感を感じる。いや、今まで違和感を感じていたものが無くなったのに気づいた。

 

胸に手を当て、萩風に問う。

 

「萩風、レプリカはどこにある?」

 

レプリカ、それが指すのを萩風がわからないわけではないだろう。胸に埋め込まれていた崩玉のレプリカが無くなっているのに、萩風も気づいているはずだろう。

 

すると萩風は…

 

「あ…」

 

と呟くと、とある一点を見つめる。釣られてウルキオラも見ると、そこにはコロコロと死神代行の方へ転がる崩玉のレプリカがあった。井上が無意味な治療を続けている、そこの結界にぶつかると。

 

「グォォォオ!!」

 

怪物が、目を覚ました。黒崎一護の骸は起き上がると、頭に突起が生えた怪物へと変貌していく。顔も体も羽のように白い外殻に覆われ、異形の咆哮はその場に居るものを圧倒する。

 

「やべ…」

 

ウルキオラにしか聞こえないほど小さく呟く萩風。

 

「貴様、バカなのか!?」

 

ウルキオラが思わぬところで、2度目の感情を表す。

 

井上の結界を破りながら、黒崎一護が異形の姿になって蘇生される。隣の井上も構わずに、足元にあった崩玉を踏み砕く。そして溢れ出したエネルギーを全て、余すことなく吸い上げた。

 

刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)!!」

 

「鬼火よ集え 卍解!!」

 

ウルキオラと萩風は今出せる力を解放する。

 

ウルキオラが解放する力は先ほどまで使っていた黒翼天魔・新天地解放に遥かに劣るが、他の破面は存在すら知らないであろう、破面の能力の先の力の解放。

 

そして萩風が尾を1本解放した状態で、火狐ノ皮衣を発動させる。

 

黒崎一護は虚の怪物と化したが、更にエネルギーを吸い上げた影響か背中には羽というには歪な突起が現れる。頭に生えた角は鹿のように枝分かれし、腕にはいつのまにか天鎖斬月が握られている。

 

そして、その異形は二人に向けて巨大な赤い力の塊を発射する。

 

「貴様の卍解の完全解放まで、どれだけ稼げばいい?」

 

「知るか!俺に聞くんじゃねぇ!」

 

それを二人は斬撃と槍の投擲で相殺するが、殺しきれなかった衝撃に襲われる。

 

この攻撃の隙に石田が井上を避難させているので、二人は全力で放っている。それでも、打ち消せなかったのだ。

 

「さっさとしろ!!」

 

「ウルキオラ、お前ってこんなにテンション高いやつだったっけ?冷静そうなカッコいい奴アピールしてたキャラは捨てたのか?」

 

「貴様…!!先程までの礼儀を弁えていた奴と、全くの別人に言われたくない!」

 

「こいつ…!!命の恩人に対する礼儀もねぇ奴にも言われたくもないわ!」

 

「今の状況がわかってるか!?」

 

「1〜100までわかってるわ!!…訂正、20ぐらい迄ならわかる!!」

 

二人はしょうもない言い合いをしているが、ウルキオラは槍を生み出しては投げ続け、萩風は斬魄刀のエネルギーが溜まる度に斬撃を放つ。

 

しかし、異形は確実に二人の方へと近づいていた。

 

「このままでは…っ!?」

 

このままでは、二人とも殺されてしまう。ウルキオラが思案していると、隣で霊圧が跳ね上がった。

 

見てみると、萩風の背に4本の尾が現れている。そしてこの状態は新天地解放を超えた目の前の異形を、遥かに超えていた。

 

「良かったな、ウルキオラ。今日のこの子は、気分が良いらしい」

 

よく見ると、変化は尻尾の増加だけでない。纏う毛皮は炎の様に紫色の炎を散らし、周りを漂っていた炎が今は萩風の指令を受けるのを待っているかの様に静止している。

 

「グォォォオ!!」

 

そして異形の怪物だが、天鎖斬月から黒い衝撃を放つ。普段から彼を知っているものならわかるであろう、月牙天衝だ。

 

しかし威力は桁違いであり、ウルキオラは身震いするほどなのだが…となりに萩風が居るだけで、大した障害に思えなくなっていた。

 

そしてそれに対して、萩風は軽く斬魄刀を縦に薙ぐ。

 

斬天焔穹(ざんてんえんきゅう)円転消化必倒刃(えんてんしょうかひっとうじん)

 

その技は黒い衝撃とぶつかり合うと、そのまま押し切り異形へと衝突する。焔が異形を包みこむと、そのまま爆炎を吹かす。しばらくするとそれは止み、中から虚の外殻がボロボロと取れる黒崎一護が居た。

 

「…何を、した?」

 

ウルキオラはそう聞くのも無理はない。今の力は間違いなく、あの怪物を屠るチカラを秘めていた。にも関わらず、黒崎一護は原型を留めているどころか生き残っているのだ。

 

「この状態で使える、絶対に殺さない技だとでも思っててくれ。死んだら治療できないしな」

 

そう答えながら、黒崎一護を回復の結界で囲う。

 

ウルキオラへの説明を簡単に済ませた萩風だが、詳しく話すと今の萩風の力は敵を瀕死にする、峰打ちの様な技だ。攻撃力が5000で放った攻撃は体力が1000しかない相手ならオーバーキルとなるだろう。だが、この技は999のダメージに変わり、瀕死に留めることができる。

 

殺しはしない、萩風が第四の尾を解放した状態でのみ解放できる力だ。それを聞いて緊張の線が切れたのか、はたまた限界だったのか。ウルキオラは崩れ落ち、そのまま地面に寝転がる。

 

「無理すんな、お前も治療途中だったんだぞ」

 

そして卍解を解いた萩風が治療を始める。萩風自身にも疲労が見えるが、今のウルキオラに比べればマシだ。

 

「藍染様に、不敬を働いてしまったな…」

 

「安心しろ、その藍染は護廷十三隊が相手する。お前はゆっくり治療に専念しとけ、中々傷が酷いからな」

 

これからの事を考えていたウルキオラへ、すかさず答える萩風。死神とは、よくわからない。ウルキオラは死神なぞ取るに足らない存在だと思っていたが、今は少し違っていた。

 

この男が答えるなら、それだけの信用に足る存在の集まりなのだろうと。

 

「少し、眠いな……」

 

なぜか安心感がある、なぜかはわからない。

 

先程まで争い、共闘した死神に安心している。

 

下らない言い争いなぞした覚えがない、隣に立たれて安心した事なぞない、今は…この死神がわからないのを、理解したい自分がいるのにウルキオラは気づく。

 

「(ふっ、そうか……。これが、心か……悪くない)」

 

ウルキオラの意識は闇の底へ落ちた。

 

☆☆☆☆☆

 

虚圏での死神側の損害は無し、また敵は壊滅させる事に成功する。

 

また、現世にて隊長格を含む護廷十三隊の精鋭部隊が壊滅するも、現れた死神代行によって藍染惣右介へ勝利を収める。

 

崩玉と融合し殺すのが困難となった藍染惣右介は2万年の投獄が言い渡され、一番隊隊舎の地下に存在する真央地下大監獄に幽閉される。

 

また東仙要、市丸ギンの両名は死亡。

 

死神側の死者は、無しである。

 

また空席であった隊長であるが、三番隊に鳳橋楼十郎、五番隊に平子真子、九番隊に六車拳西の行方不明であった元隊長達が任命される。

 

総隊長が片腕を失うなど、多くの損害を出した。心に傷を負う隊士も少なくないだろう。

 

それでも護廷十三隊は勝利を収め、一連の騒動は終結したのであった。




前回と今回のウルキオラの技はオリジナルです。

破面編は終わりで、次回から2年くらい時間を進めて千年血戦編を始めたいと思います。

閑話に雛森ちゃんとか、一角とかのその後を書こうかな〜…とか考えてます。予定は未定ですが、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 17.弟子と休暇の閑話

あの人のおかげで、俺は強くなれた。
今度の鬼灯丸は、簡単に折れねぇぜ?

護廷十三隊 十一番隊 副隊長 斑目一角


卯ノ花隊長に有給をとると伝えると、条件付きで許された。

 

モチロン、婚活のためなどではない。いや…全否定はできないかもしれないな。俺は隊長になる為に、修行してるし。今回も卍解を超える為の修行期間を設けただけだし。

 

最近になり、俺の実力は飛躍的に上昇してきていると思う。そりゃ、実戦で藍染とかウルキオラっていう奴らと戦って少しだが経験ができたからかもしれない。

 

藍染は投獄されたが、ウルキオラは友人だ。そう、友人である。死神以外での友人だ。死神の友人が一人しかいないとかは置いておくが、とりあえず友達である。

 

彼は良いやつだ、心が無いとか言いながらも揶揄うと槍を投げてくる。それなりに楽しい日々を過ごしてたと思う、虚圏で。

 

ウルキオラから何か虚圏を自由に出入りできる装置兼連絡装置を貰った、なので虚圏に遊びに行く事が増えた。

 

暇な時はちょくちょく顔を出しに行き、ハリベルさんの配下の子達にセクハラするペッシェと仲良くなった。彼も友人…いや、戦友と言うべきかもしれない。友人より戦友の方が、しっくりくる。

 

よく様々な論議をしたのが、記憶に新しい。

 

最初こそは馬鹿らしいと思っていたが、彼の熱意に動かされてしまった俺はハリベルさんの配下…エミルーちゃんをからかって遊んだ。

 

だってこの子の反応が面白くてさ、配下の子達って全員ハリベルさん最高!大好き!って子達なんだけど、この子は俺がハリベルさんを狙う敵と認識してくれたようで、めちゃくちゃ嫌われてたんだよな。

 

で、誤解を解く為に「ハリベルさんより、君のがタイプだがな」とか言うと、「ふ、ふざけんな!ぶっ殺してやる!!」って、顔を真っ赤にして襲いかかって来たんだな。

 

軽く手合わせした後に、治療と称して色々グレーな事はした。その時の恥じらう顔は最高でしたね!

 

後、ここは虚圏だから別に何しても良いじゃん!と気づく俺。

 

この子、アホでかわいくて反応が面白い。途中で「あれ?この子、俺の好みにどストライクだな」と更に気づく。

 

そっから会う度に少しからかったりして楽しんだ、ハリベルさん?他の子達は?確かに全員が中々の戦闘力を持っている、あんなの砕蜂さんに見せたら大変だな。あの子達が美人なのは認めるが、俺はあくまでもモテたいのは死神である。

 

エミルーちゃんをからかうのだって、破面だからだし。あ、破面っていうのは後でウルキオラが教えてくれた。虚とは何か違うらしいが、それは置いておこう。

 

彼女とは絶対に結ばれないからこそ、からかって遊んでただけだし。

 

あれだ、モフモフのネコがいたらモフリたいだろ?でも結婚したいと思わないのが普通だ。

 

子供ができないのは愛の形がどうとか以前に、種として不可能だからなんだから。

 

いやまぁ……ザエルなんちゃらとかいうもう死んじゃった破面の人の研究結果で、死神と破面の間に子供ができる事がわかっちゃったんだけど。

 

はい、こっからセクハラ紛いのものは辞めました。はい、チキりました。エミルーちゃんに色々とやらかしたのを深く反省してます。

 

この状況をわかりやすく説明すると、なんだろ……イメージとして、現世の事で例えると二次元の女の子が急に三次元で現れるみたいな?もしくは近所の可愛がってた男の娘が女の子と判明した…とか?

 

軽くハグしたり、頭撫でたり、手を揉んだり、匂い嗅いだり、本当にあの時の俺は色々とおかしかったんです。

 

物欲しそうな目をしてくる様になっちゃったエミルーちゃんですが、ハリベルさんに押し付けてます。

 

いや、俺は悪くねぇ!でも、すいませんでした!仕方ないんです、お遊びで揶揄ってたのが遊びじゃなくなるのは、なんか不誠実じゃん!

 

エミルーちゃんには悪いけど、破面と結婚するならそれなりの準備とか法の改正する時間が欲しいから!

 

えっと…脱線しまくったけど、これは藍染の事件の後の1ヶ月くらいの出来事です。ちょっと虚圏に行き辛くなったのもあるけど、とりあえず卯ノ花隊長に有給をとる許可を貰ったところから話を戻す。

 

俺は自分を磨く為の修行場へ行こうとしたんだが。

 

「萩風副隊長、弟子にしてください」

 

と俺の部屋に斑目一角がやって来ていた。

 

何でこのハゲが俺を選んだかは分からなかったけど、どこかから有給の事を聞いたのだろう。

 

まぁ、許可はした。理由?よく言うじゃないか、教えて学ぶってやつだ。と言っても2年は短すぎるから斬魄刀についてのみ教える、期間限定の弟子である。

 

2週間後にここに準備をしてから来い。と洞窟の地図を渡してから帰ってもらった。一応、俺はまだまだ事務処理などが残ってるからだ。

 

斑目一角くんがどれくらい強いかわからないけど、少しだけ楽しみでもある。

 

☆☆☆☆☆

 

その死神と最初に出会ったのは、四番隊の隊舎であった。

 

その時の彼、斑目一角は尸魂界に侵入してきた旅禍の一人、黒崎一護に敗北し、治療を受けていた。

 

護廷十三隊でも屈指の実力者が集まる十一番隊、それが壊滅状態になり、その三席の男が負けた。それは尸魂界に衝撃を与えていた。

 

当然だが、そこへ情報を求めにこの隊長もやって来ていた。

 

「どうしても吐く気にならないかね、斑目一角君」

 

護廷十三隊 十二番隊隊長 涅マユリ。マッドサイエンティスト、科学のためならばどんな事をしても良いと考える男だ。白塗りの顔と、お歯黒が特徴的な死神だ。

 

そんな彼がここに来る理由は一つ、旅禍を捕まえて実験体にする事だ。その為に情報を集めに来たのだ。彼に捕まれば…どうなるか考えるのが恐ろしい、残酷な科学の発展の犠牲になるのだ。

 

一角の真上を掠めて飛んでいく衝撃は壁を貫通している。次はお前だと言うのを、示していた。

 

だが一角は今回の旅禍について、知らぬ存ぜぬで貫き通すつもりであった。それはこの男に話したくないというのもあるのと、今一角が死んでいないのは旅禍に助けられたからでもあった。

 

だが、これからどうしようかと考えていると廊下の方からナース服の女性が現れる。四番隊に所属する治療の為の隊士だ。

 

「困ります、十二番隊隊長様!このような準戦闘行為は…」

 

「うるさいよ!」

 

そう言うとナースの隣の壁に風穴が開く…事は無かった。なぜならマユリの腕は、いつの間にか抑えられていたからだ。ナース服の女性とマユリとの間に立つその死神に、一角も驚いている。

 

いつの間に、そこに居たのか?一角すら気づかぬ間に、その場に彼は居たのだ。

 

「お前は…間の悪い奴が来てしまったようだね」

 

「涅隊長、貴方はいつから四番隊の隊長になったつもりでしょうか。私の部下に、何をするおつもりでしたか?」

 

萩風カワウソ 四番隊の副隊長である。彼はマユリの腕を下に向けるように抑えるとマユリはその腕を払う。

 

そして十二番隊の隊長と四番隊の副隊長が睨み合う、あまりの威圧感に一角ですら飲まれそうだ。そして当然だがナース服の彼女は飲まれかけている。

 

「ここは俺が何とかしとくから、君は持ち場に戻ってくれ」

 

「は、はい…」

 

弱々しく呟くと、そのまま彼女は何処かへ去っていく。ちなみに言うと、萩風は彼女の直轄の上司ではない。萩風に部下らしい部下は居らず、活動時は基本的に虎徹三席か卯ノ花隊長と行動しているからだろう。だが副隊長の事実は変わらない、故に四番隊の隊士は全て彼の部下だ。

 

「隊長に向かって、随分と偉そうにするじゃないか。礼節を弁え給え」

 

マユリの殺気が浴びせられるが、ケロリとしている萩風。何とも感じてないのは普段からこれ以上の殺気を浴び続けているからだろう。なお、萩風の十二番隊の…涅マユリの印象が「ずっと引きこもってるガリ勉」という情けない認識なのもあるだろう。

 

「ここは我々四番隊の管轄下です、礼節を説くならご自分の行動で示して頂きたい。そもそも十一番隊でもない貴方が、斑目三席に面会するのは如何でしょうか。どうやら、部下でもない隊士に罰を与えようとしているように感じたのですが。越権行為も、謹んで頂きたい」

 

「よく回る口じゃないか、直接バラしたい程に興味を唆るね。まぁ、豪胆さはよくわかった。だが、私は単純に今回の侵入者の情報を集めていたに過ぎない。それを邪魔する君もまた、隊長への活動を妨げているとも言えるね?尋問の邪魔だ、去りたまえ」

 

この状況で萩風は何もしていない、仮に出るところに出れば萩風が勝つだろう。そう、この隊長以外ならば。涅マユリは数多の手段を持つ、天才科学者だ。

 

黒すら白に塗り潰す、そんな方法や手段を持っている。だからこそ、萩風に対して強気でいた。

 

このままではマズイ、自分を庇ってもらった萩風にまで被害が及んでしまうと一角が起き上がろうとした時だ。

 

萩風はマユリの腕を、もう一度掴んだのだ。

 

「なんだい、さっさと…っ!?」

 

すると呆れたような、苛立つような声を出していたマユリの言葉が止まっていた。それは隣に控えていた十二番隊の副隊長の涅ネムも、横になっていた一角もだ。

 

「俺を相手取るってことが、どういう事かわかってての行動か?」

 

それは『俺を怒らせるな』とでも言うような、そんな霊圧を出していた。怪我人である一角を気遣って抑えているように感じるが、手の先から直に感じるマユリは冷や汗を少しだけ垂らしていた。

 

「貴様…いい度胸じゃないか。流石はあの女の部下だね」

 

そう言うと、腕を払う。そして握られていた腕を軽く観察してから、そのまま渋々と外へ出て行く。

 

「行くぞネム。さっさと付いて来い、このウスノロ」

 

そう言われたネムもついて行く、萩風はその様子を嫌そうに見送った。

 

「萩風副隊長、わざわざありがとうございます」

 

マユリ達が居なくなったのを確認してから、一角は庇ってもらった萩風へ礼を告げる。あのまま誰も来なければ、間違い無くあの涅マユリは手を出していただろう。

 

「気にしないでくれ、俺は俺の仕事をしたに過ぎない」

 

そうは言っているが緊張していたのか、彼の頬を冷や汗を伝っている。隊長相手に啖呵を切るのにはそれなりの、勇気と実力がいるはずだからだ。そんな彼だが、一角に「でもそうだな…一つ、いいかな?」と問う、一角も助けてもらったばかりだったので「なんでしょうか」と気前よく返事をすると。

 

「君は卍解を、使ってないよね?」

 

「っ!?」

 

とんでもない爆弾を落としてきていた。

 

卍解、それは斬魄刀の最終解放。一握りの死神が弛み無い努力で到達できる力、それは隊長格になる条件の一つである。

 

それを斑目一角はできる、副隊長でもない死神ならば恐らく唯一の存在である。

 

なぜこれが爆弾かと言うと、一角は卍解が出来ることを隠しているからだ。卍解ができる死神は推薦され、隊長となってしまう。

 

それが嫌だからだ、一角は隊長である更木剣八の下で戦って死ぬと決めている。それが彼の死神としての吟持だからだ、それを曲げたくないからだ。

 

どう答えるべきかと迷っていると、萩風は何か納得しているようであった。

 

「その顔を見たら分かったよ、傷はゆっくりと治しなよ」

 

「は、はい…え?終わりですか?卍解は使ってませんが、それだけですか?」

 

そしてそのまま帰ろうとする萩風を思わず呼び止める。

 

「いや、旅禍の強さとか知りたかっただけだから。今度は気をつけてね」

 

そして、今度こそ部屋を出て行った。

 

少ししてから緊張が抜けたのか、大きく溜め息を吐くと一角は先程までのやり取りを思い出し、考える。

 

十一番隊と四番隊の仲は悪い。一角も戦いを好まない四番隊の死神を理解できないが、初めて四番隊の死神へ抱く感情ができていた。

 

「戦いたくなってきたな……よりによって四番隊の副隊長に、か」

 

そして同時に、あの死神とは何なのかと理解したくなってきていた。

 

☆☆☆☆☆

 

最近、雛森が冷たい。そんな相談を受け、俺はまた酒盛りをしていた。はい、相手は日番谷隊長です。

 

この人とだが、かなり酒盛りをするようになった。全部雛森さんの話なんだが、それだけ雛森さんラブなんだろう。ストレートに告れよ、絶対上手くいくから。今の雛森さんは「藍染?新しいお菓子ですか?」とか言うような人だから、大丈夫だから。

 

ただ「日番谷冬、獅郎…シロ、シロロロロ…!?」とか言っちゃうような子でもある。俺は悪くない、世界が悪い。さらに言うなら幼馴染で天才でイケメンの日番谷隊長が悪い。俺に無いもの全部持ってやがる、こいつが悪い!

 

「萩風、最近…目を合わせても、何処かへ逃げられるんだが……俺は嫌われたのかもしれん」

 

そして雛森さんだけでなく、こっちも拗らせてやがる。正解を言うと、単に恥ずかしくて照れて逃げてるだけである。

 

「この前はちょっと強引に肩を掴んじまった時は、はは…何やってんだろうな…」

 

これも、そうである。今の雛森さんは最近になって、やっと日番谷隊長のボディタッチで気絶しないレベルにまでレベルアップしたのだ。

 

でも、壁ドンみたいな感じで日番谷隊長と見つめあった時は大変だった。具体的に言うと、俺の目の前で気絶した。まだ早かったようである。

 

昔は当たり前のようにできてたけど、この子大丈夫かな…めちゃくちゃ不安。同時に、めんどくさいんだがな。この二人が。

 

俺はずっと雛森さんの日番谷隊長慣れの練習に付き合い、ずっと日番谷隊長の愚痴を聞いている。本当にめんどくさいのは、二人とも両思いのことだろう。そのくせ、どっちも草食系だから進展がない。

 

「ん?萩風、誰か来たぞ」

 

寂しく酒盛りをしてる日番谷隊長が叩かれたドアの方へ向く。やっと来たか、遅かったがまぁいい。俺はこの時を待っていた、このめんどくさい関係を終わらせる為に、待っていたのだ!!

 

「お邪魔しま……え?」

 

「……雛、森?」

 

中に入って来たのは雛森さんだ。俺は彼女を手招きすると、とりあえず座布団に座らせる。そして酒を注いで飲ませる、二人は無言であるがそこは構わない。ちゃんとBGMを準備しているからだ。

 

「萩風、その手にあるのはなんだ?」

 

そう、俺は何度も二人の面談をしている。そこからそれっぽいBGMを録音してるので……抜粋して、流させてもらった。

 

『俺は、雛森が居ないと…ダメなんだ…』

『シロちゃんといるだけで、ドキドキしちゃって…これが恋なのかって気づいちゃって…』

『桃は、可愛いからな…』

『シロちゃんって、とてもカッコよくて…私じゃ、釣り合わないんじゃないかなぁって…』

 

日番谷隊長は「うわぁぁぁぉぁ!?」と叫び声をあげ、雛森さんは「え?え、えぇぇっ!?ふわぁぁ!?」可愛い悲鳴をあげている。その間に、俺は準備していた結界を張る。

 

「縛道の八十四 八方封殺陣(はっぽうふうさつじん)

 

四角い箱が、二人を閉じ込める。

内側からは破れない、無茶苦茶硬い結界だ。詠唱破棄でかなり無理をしたが、前もってそれの補助となる準備も行なっている。

 

更に、それだけではない。二人には一服盛らせていただいた。俺は四番隊で、薬剤の調合にも精通している。二人が良い雰囲気のまま夜を過ごしてもらう為に、頑張らせてもらった。

 

雛森さんには顕著に出てるようで、体が火照ってきたようだ。「シロちゃん…」と言いながら日番谷隊長へもたれかかっている。計画通りだ。

 

「萩風、お前!?なんて事してくれてんだ!?」

 

それに気づいた日番谷隊長だが、隣で雛森さんが日番谷隊長に詰め寄っている。なんか猛獣の目をしていた気がするが、無視する。

 

「いい加減、お互いに気付いてください」

 

こっちは限界なんだよ!!毎回、毎回、毎回、毎回!!

 

俺だってなぁ、こんな可愛い幼馴染欲しかったわ!!拗らせたこいつらのフォローの為に、何回も何回も気を回してなぁ!!俺の気苦労わかってねぇだろ!?

 

修行時間とか仕事の時間を削るわけにいかねぇから、勉強の時間削ってたんだぞ!!

 

ちなみに、この勉強は虎徹さんとお茶しながら女性との接し方を学ぶ時間だ。虎徹さんから「男性の方との付き合い方を、教えて頂きたい」と向こうから頼まれたので付き合っている。俺から手を出した時は卯ノ花隊長に男性的に消されるのは間違いないが、彼女からのお願いならば大丈夫だろう。

 

「待て!萩風…!!萩風ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

日番谷隊長の悲鳴が木霊していく中、俺は扉を閉める。最後の瞬間に日番谷隊長に覆いかぶさってく雛森さんが見えたが、これから大変そうだなぁという感想を持ちながら一息つく。

 

「やっとか…」

 

やっと解放される。

 

この作戦を思いついたのは最近で、いい加減この二人の砂糖を吐きそうになる茶番に付き合わされるのは御免だからだ。さっさとくっつけ、そして爆ぜろ。俺もやっと、本格的に女の子を探せる。

 

「今から、朝までこの結界は解けません。準備はしておいたので、ごゆっくり…」

 

そのまま部屋を去る。防音の結界も張ってあげた。俺の部屋の近くは誰もが通らないので、これで問題無い。寝場所も虎徹さんに頼んだから大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

後日

 

日番谷隊長と雛森さんの二人が付き合いだしたのが広まる。

 

同時に、虎徹さんと俺が付き合っているという噂が駆け巡った。俺が虎徹さんの部屋に夜に入って行ったのが見られてたのかもしれん…いや、まさか隣で寝るとか思わなかったし。寝れなかったし。

 

如何わしい事はなかったけど、如何わしい事したくなかったの?と聞かれたら否定できないです……

 

でも、虎徹さんが全力で否定してるの見て対象外なのがわかったので酒を飲んで忘れたいと思います。虎徹さんに「もしかして、ワンチャンあるか?」とか思ってた自分に激しく嫌悪感が湧いているので、飲んで忘れたいと思います。

 

あれだな、男としてまったく意識されてないのがわかりました。

 

死にたくなりました。

 

後、ちくしょうめー!!…って叫ぶ、吉良君と仲良くなりました。この子も苦労してんだな…。

 

 




最近、BLEACHのssが増えた気がする。私も負けていられませんね!

ちなみに、作者はあの四人だとシィアン派です。異論は認める。

あと何度も指摘されてた日記の「死人はいなかったよ!」ですが、頭に「(書面上は死神の)死人はいなかったよ!」となります。

それと、いつも感想ありがとうございます。

やる気が出てくるのはこの感想等のおかげです。今後も頑張ります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

千年血戦編 18.陥落する虚圏と宣戦布告

人物プロフィール

萩風カワウソ:男

立場:護廷十三隊 四番隊 副隊長

髪は片目が隠れる程に前髪が長い、これは自分の顔面偏差値が低いので意図的に伸ばしている。ロン毛では無い。前髪に白いメッシュの入った黒髪で碧眼、背は高め。腕には副隊長の証である副官章がついている。

斬魄刀:天狐
能力は景色の偽造、炎熱系の斬魄刀なので炎の斬撃を放つ事も可能。景色を偽れるが偽ると揺らぎが出てしまうなど、鏡花水月などと比べると欺く力は弱い。

解号:「送り出せ〜」

卍解:陽炎天狐 炎周・九十九提灯
99の分身を作る卍解、その一人一人が萩風に及ばないが萩風のチカラを持っている。分身は虚像と実像を自由に入れ替える事ができ、虚像の最中は攻撃を受けない。
たが一撃を受けると消える事や、ダメージが本体に反映されるなどの弱点も多い。
斬魄刀は紅玉のようになり、格好も赤みがかった装束に変化する。

卍解・改:紫怨・火狐ノ皮衣
萩風が修行中に一度折れた陽炎天狐を自身で直した際に手に入れた力。九十九提灯の力を本体に集めた力であり、尾が増える程に力を解放していく。今現在に萩風が確認できているのは五本である。
外見は毛皮のついた陽炎天狐の装束となり、斬魄刀は九十九提灯の時と変わらないが、どちらも赤から紫に変化している。
また二つの自由に動き回る狐火を従えている。そして、尾が4本目以降は毛皮が紫の炎を撒き散らす。

技:斬天焔穹
天狐へ込めた霊圧の炎を斬撃の形で放出した技。
派生技に相手を殺さない峰打ちのような技である【斬天焔穹・円転消化必倒刃】がある。


それは突然の事であった。いや、事件の前兆というのに気づかなかっただけなのかもしれない。だが、今回も突然の出来事であり…これもまた、更なるとてつもない事件の前兆でもあった。

 

「阿近三席、虚の消失が止まりません!このままでは…」

 

技術開発局で虚の消失が多発したのだ。今までも誤差程度の物は起こっており、その都度調整をしてきていたが、今回は常軌を逸したレベルの被害だ。

 

一つや二つではない、数千、数万の単位での、虚の消失だ。

 

「そんな事はわかってる、他に報告が無いなら下がってろ!」

 

現場の隊士達の報告はあり得ないと言った風に響き渡る、無理もないだろう。このような事態を経験した事は無いからだ、だがこのままでは何が起こってしまうかくらいは全員理解している。

 

だからこそ、焦っているのだろう。

 

「隊長…これは…」

 

「わかってるよ、こんな事をこなすのは奴等しか居ない」

 

十二番隊隊長 兼 技術開発局 2代目局長 涅マユリは天才である。様々な倫理を無視した実験でソウルソサエティを発展させてきた怪物である。

 

そして、その怪物が恐れていた可能性の一つが起こったのだ。

 

この可能性は旅禍、石田雨竜が現れた時から考えていた可能性だ。

 

「虚を存在そのものから消し去れるのは、奴等……滅却師(クインシー)だヨ……!」

 

☆☆☆☆☆

 

いつもの様に、彼はそこにいた。杖をつきながら、隊士から現状の報告を受けていた。

 

彼がこの場に居た理由なぞ一つ、彼が長だからだ。死神最強、故に護廷十三隊を纏め上げる長だ。

 

「以上が報告になりがっ!?」

 

その長たる人物の部屋に、その者達は堂々と踏み込んでいた。邪魔だと言わんばかりに、報告中の死神を殺害している。

 

「何奴」

 

その人物の背後には全身を白い外套と制服、そして顔の見えないようにか、それとも兵の区別をつかせない為か、サングラスのような素材で顔は隠されている。

 

「お初にお目にかかる。護廷十三隊総隊長山本 元柳斎 重國とお見受けする。宣戦を布告しに参った」

 

そして彼等はここの主人に向け、大それた事に戦いを仕掛けると宣言した。

 

「だが貴殿に手土産の一つも無しというのも、些か納得もいかないだろう」

 

余程余裕なのか、彼等…いや正確には彼等のリーダー格らしき使者は饒舌だ。

 

だが山本重國は動じない、何故ならば数の利を取られた所で意味をなさないから。

 

「安心せい、貴様ら狼藉者の首で十分」

 

そして、彼等の命を刈り取る為の戦闘態勢に入っているからだ。しかしその殺気を前にしても彼等は動じない。どこか余裕があるように感じる、それに対して杖から斬魄刀を取り出そうとすると、リーダー格の使者は「手土産が届いたぞ」と呟き指をパチンッ!とならす。

 

そして突如として巨大な槍が彼等の後方の壁面に突き刺さる。身の丈なんて物じゃない、4mは超えているであろう。

 

現れたそれには山本重國も驚愕している、だが驚いているのはその槍の大きさや力ではない。

 

「雀部っ…!!」

 

彼の信頼に足る右腕、護廷十三隊一番隊副隊長…雀部 長次郎 忠息(ささきべ ちょうじろう ただおき)が、槍に貫かれていることだ。

 

「嘆くな、彼を褒め称えてやるべきだ。我等にとっては矮小な存在であるが、彼は君たちの行く末を示してくれたのだ。即ち、抗うのも無益な死だ。5日後、【尸魂界(ソウルソサエティ)】は我々【見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)】に殲滅される」

 

☆☆☆☆☆

 

「今日はここら辺にしようか」

 

その声で一角は地面へと身を任せる。一角が弟子入りをし、この洞窟に来て2年ほど。一角の実力は跳ね上がった、虎が翼を得たような気分だ。

 

それ程までに劇的に実力をつけた。最初、ここに来いと地図を渡された時は遠回しに弟子入りを拒否した嫌がらせかと思うほどに遠い所だった。

 

準備を二日で済ませて一週間程で走り切ったが、残りの五日間は地獄だった。入った瞬間に地面に膝をつき、立ち上がることすら出来ずに地面に2日寝そべった。その後に何とか洞窟で歩ける程度にはなったが、そこへ「早かったなハゲ、体の調子はどうだ?」と、悠々とここに来た萩風を見た時は鳥肌が立っていた。

 

今でこそ、斬魄刀を振るったりはする事ができる一角だが。未だに、全身を泥の中を進むような感覚をこの洞窟で感じている。だが外へ一歩出ると体の軽さは異常である、ここで何百年も修行してきた萩風の実力だが、一角の全力ですら底が見えていない。それに畏怖を感じるのが、弟子である今の斑目一角だ。

 

「一角、まだまだだな。隊長になれんぞ」

 

「前にも言いましたが、俺は今の隊長の下で戦い続けるだけですよ」

 

「お前の道か、俺には真似できそうにないな」

 

よく言う、彼もまた卯ノ花隊長の下に居たいからこそ隊長の推薦を断り続けているのだろう。殆どの他の隊長や副隊長はそれに気づいている。卯ノ花隊長への恩義で、彼は四番隊を離れないのを、わかっている。

 

すると萩風の袖から電子音が鳴り響く。卯ノ花隊長から渡された連絡用の端末だ。本来なら副隊長が2年も休暇を取ることはできない、だが緊急の呼び出しには必ず出席する事でそれは許諾されたと聞いている。

 

この前の死神代行についての招集の他に、萩風の友人である雀部と茶をする為にちょくちょく帰っている。一角はここ最近帰れてないが、そろそろ有給が切れるので戻る予定ではある。

 

今回は誰からどの様な呼び出しか?そう聞こうとしたが、それを思いとどまる。

 

端末で連絡している萩風の表情に、影が差し込んだからだ。ただ連絡中は「あぁ…そうか、わかった…」と返事だけをして端末を耳から離す。少しだけ萩風が止まったと思うと…

 

「っ!?」

 

斬魄刀を引き抜いて壁へ向けて斬撃を放った。

 

この洞窟はかなり丈夫な上に自己再生の能力もあるので、崩落などの危険は無い。だが萩風がこのような突発的な行動をしたのが初めてだったので、あまりの衝撃と圧力で一角は動けない。

 

「萩風さん、どうかしたんですか?」

 

恐る恐る、一角は問う。

 

「隊葬だ。雀部が……一番隊の副隊長、雀部長次郎忠息が死んだ」

 

一番隊の副隊長、それが護廷十三隊にとっても萩風にとってもどれだけ重要な人物か一角にはわかっている。

 

一番隊は入隊するだけで栄誉とされるエリート集団、そこの副隊長である雀部は隊長クラスの実力者と呼ばれる古参の死神だ。総隊長からの信頼も厚く、同じく副隊長である萩風の友人…いや、親友である。

 

いつも修行中は真剣な表情で研ぎ澄ましていた萩風だが、茶に行く時の萩風の表情はいつもと違い気が緩んだ綻ぶ笑顔だったのを一角は知っている。

 

今の萩風の行動からして、恐らく殺されたのだろう。親友へ理不尽な死を与えた者を、許さないという殺意がのっていたのを一角なら理解できる。

 

「一角、荷物を纏めたら直ぐに行くぞ」

 

萩風は自分は冷静になっていると言い聞かせるように、荷物を纏めに外へ出た。その背中は、目覚めてはいけない鬼神が起こされたように感じる。

 

☆☆☆☆☆

来訪者は突然現れた、その者達によって虚圏(ウェコムンド)にいた破面は蹂躙されていく。

 

白い装束を纏うその集団はウルキオラの指揮した破面の軍を容易く打ち砕き、侵攻を続け…遂には、首領までその矢を向けていた。

 

既に第二階層まで解放したウルキオラが雑兵を殺し続けていたが、今は無様にも地面に横たわっている。今の状態でも周りを囲う雑兵くらいは処理できる。だが、その奥に控える何人かが敵の主戦力に瞬殺されるのもわかっていた。

 

はっきり言うと、そいつらの数人を相手してもウルキオラの敗北はあり得ない。ウルキオラの力は破面でも異常だ、そこらの死神の隊長格を上回る実力だ。

 

「貴様らは……なんだ」

 

しかし目の前の男、敵のトップと思われる敵には手も足も出なかった。

 

「光栄に思うがいい、ウルキオラ・シファー。今より、この地は我が領土となる」

 

ユーハバッハ、それが彼の名であった。白の集団であるこの集団の中で、この男だけは黒い外套を身に付け異彩を放っていた。

 

奴らの種族を、ウルキオラはわかっている。石田雨竜と同じ、滅却師だ。だが目の前の怪物は、滅却師と一言で表せるような存在ではなかった。

 

徹底的に蹂躙され、一方的な敗北を受けた。

 

「ハリベル……」

 

目の前には自身に次いでの実力者であるハリベルもまた、磔にされて運ばれている。見せしめだ、殺してはいないが対抗できるだけの力を残さないで倒されている。

 

直ぐに自分もそこに行くのは、ウルキオラは理解していた。

 

「俺では、貴様に勝てない」

 

「何を当たり前の事を言っている。お前の運命は、お前以上に理解している」

 

ウルキオラに向けて剣が向けられる。だがウルキオラが投了するわけにはいかない、それは虚圏のトップとしても、ウルキオラ・シファーとしてもできない。

 

今のウルキオラで勝てない、新天地解放ができたウルキオラでも勝てるかわからない怪物。そんな絶望的な力の差を感じるユーハバッハに勝てるビジョンがウルキオラには見えない。

 

だが、自身を怪物と比喩した時の状態を打ち崩した死神を、ウルキオラは知っている。

 

「俺は勝てない……だが、貴様らは必ず報いを受ける。我が友、萩風カワウソが必ず貴様らを討ち滅ぼす!俺たちを倒した優越感に浸れるのは、今だけだ!」

 

そう叫ぶと、ウルキオラは翡翠の槍を片手にユーハバッハへ向かっていった。




お気に入りが2万を超えました、累計ランキング13位になりました。

えっと……私が何を言ってるかわからない人もいるかもしれないですが、私も何が起こってるのか理解ができていないです。

ありがとうございます、これからも定期投稿を心がけて頑張ります。

それと萩風の顔とかの質問が来ていたので、プロフィールに書いておきました。ご確認ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19.虚圏狩猟部隊

滅却師
虚を消滅させる能力を持つ人間。その性質上、死神とは敵対し1000年前に山本的柳斎重國などの死神によって滅んだ。

ユーハバッハ
滅却師の祖であり、彼の血は全ての滅却師に流れている。過去に山本元柳斎重國に敗北したが、復活。護廷十三隊へと宣戦を布告する。

星十字騎士団
20人以上の滅却師の精鋭が所属する最強部隊。全員が差異はあれど護廷十三隊の隊長格と同等の実力を有している。


前に置かれる木製の台座の上には、1人の男が横たえられている。その服装は彼が最も長く着続けていた一番隊の装束。だが彼がこれを着るのも、最後である。

 

その広場には2000を超える死神が集まっている。

 

ある者は泣き崩れ、ある者は嗚咽を押し殺し、ある者は拳を血が出るほどに握りしめている。

 

今行われているのは葬儀だ。護廷十三隊 一番隊副隊長 雀部長次郎忠息の葬儀に、護廷十三隊の集まれる全ての死神が集まっていた。

 

式を執り行うのは彼の直属の上司であり護廷十三隊のトップである総隊長、山本元柳斎重國である。

 

列をなす死神達の最前列に立つのは隊長と副隊長、その中で六番隊の朽木白哉と阿散井恋次は語り合っていた。

 

「雀部長次郎忠息は、高潔なる精神を持った…隊長となるべき死神であった」

 

葬儀は粛々と進められている。棺桶は無い、あるのは傷一つない姿で寝かせられた遺体だけ。

 

「総隊長がある限り、生涯をその右腕として捧げると誓った男」

 

チラリと、朽木白哉は二つ隣にいる四番隊の副隊長を横目に見る。阿散井恋次も釣られてその方を見ると、驚く。手からはどれ程握り締めたのかわからない程に、血が出ている事に。

 

悲痛な叫びが聞こえてきそうな程に暗い顔だが、その手で押し殺しているのだろう。だが本人を見たところ、どうやら血が出ている事に気付いていなかったようだ。隣の虎徹勇音三席に諭されて気づいている。

 

「その男の唯一の友であった萩風カワウソ、彼もまた副隊長を貫く死神だ。同じ志を持つ彼等は並々ならぬ強固な絆で結ばれていたと聞いている」

 

今回の遺体の修繕を行ったのも、萩風カワウソである。遺体の修繕を行うのは四番隊の仕事なので不自然な所は無い。だが、無二の友を失った萩風の心中を察した総隊長はあえて萩風にこの仕事を任せなかった。

 

しかし、彼はこれを独断で勝手に行なった。遺体の修繕には何ら問題は無く、むしろ葬儀までの時間に余裕ができた程だ。総隊長も事態が事態なので不問としたが、首が飛んでいてもおかしくはなかった。

 

だが、やらずにはいられなかったのだろう。最後の見送りの為に、自身の磨いた回道の餞別を渡したかったのだろう。

 

「総隊長に至っては、護廷十三隊の設立以前からの信頼に足る側近であった」

 

総隊長との関係は萩風よりも更に深い。雲泥の差だ、それは絶対的な唯一が彼にあったからだ。総隊長の命令であれば、萩風に剣を向ける程の覚悟を持つ男だったからだ。

 

護廷十三隊の隊長といえど、人格者ばかりではない。いかに強力な卍解を取得していようが、副隊長に甘んじる臆病者と揶揄された事も少なくなかった。

 

だが幾たびと隊長格に空席がでようとも、隊長の代行すら拒んだ。全てはどのような時であろうと、総隊長の為に迅速に対応する為だ。

 

その男が初めて敵との戦いで卍解を使い、死んだ。

 

「彼等の痛嘆、我等若輩が推し量るに余りある」

 

総隊長も表情は暗い。誰よりも胸に秘める想いが熱いのはわかる、だがこれは嵐の前の静けさのようで……山本重國は、総隊長としての行動を機械的に遂行していた。

 

☆☆☆☆☆

 

「ウルキオラが、負けたのか……!?」

 

そう驚く一護の前には2人の破面が居る。1人はペッシェ・ガティーシェ、もう1人はネル・トゥ。どちらも黒崎達が過去に虚圏に井上織姫の奪還時に手を貸してくれた破面だ。なぜここに居るのか?

 

それは正体不明の破面が現れた所から話は始まる。

 

昼食の買い物の為に外へ出ていた黒崎は普段通りの生活を送っていたのだが、突如として謎の白装束の破面が現れたのだ。そしてそのまま黒崎へと襲いかかる、黒崎も死神の力で対抗した。

 

なぜ襲いかかってきたか黒崎にはわからないが、この破面は滅却師の能力を使ってきていた。石田雨竜と同じ、滅却師の能力だ。

 

だが黒崎もそこらの死神とは別格の存在、度重なる挑発を受けながらもその破面を返り討ちにする。

 

その後に2人は現れた。タイミングがタイミングなだけに嫌な予感はしていた。そして予想は正しく、どうやらただ事ではなさそうだった。

 

緊急事態故に直ぐにでも話をしたかった黒崎だが、ただの人には見えない存在とは言え黒崎が虚空に向かって話していては近所であらぬ噂も立つ。

 

もっとも彼の場合は然程気にしないのだろうが、偶然にも茶渡泰虎と井上織姫が黒崎の家に来ていたので彼等を交えて話を聞いていた。

 

「突然やってきた集団に、破面の軍を率いたウルキオラ様とハリベル様が立ち向かった。しかし、破面の軍は一方的な蹂躙を受けて壊滅。ハリベル様とウルキオラ様は磔にされ、虚圏に晒されている」

 

それを聞いて3人は絶句する。

 

特に衝撃的なのは、ウルキオラの敗北だろう。黒崎と井上はその力を肌身に感じている、並の隊長格を凌駕した怪物。そのウルキオラが負けたとなれば、驚くのも無理はないだろう。

 

「奴等の目的は破面を手先に加える事だと考えられる。だが生き残りを何を目的に選別しているのかはわからない。そして我々にとって一番の問題は、ドンドチャッカが捕まった事だ……!」

 

ドンドチャッカもまた過去に手を貸してくれた破面だ。ペッシェ達が来たのは恩を着せる為ではないが、黒崎ならば手を貸してくれるだろうと踏んでだ。

 

「一護、助けに行くんだろ?」

 

「石田くんも呼びに行った方がいいかな?」

 

井上と茶渡は躊躇いなく助けに行く事を決意していた。それは隣にいる黒崎も同様だ。だが、黒崎は少しだけ迷った表情を見せると。

 

「石田は……置いて行こう」

 

と言う。これには2人も驚いているが、そのまま話を続ける。

 

「滅却師は虚を滅却する為に居る、言ってもどうせ断られるだろうしな」

 

これには嘘をついてないが、本音も言っていない。敵が滅却師かそれに類するものと想定されるならば、石田を無理矢理に連れて行くのは良くないと考える彼なりの優しさだ。

 

と言ってもそれでは置いていかれた石田に後でどやされてしまうので「ま、メールくらいはしとくか」と免罪符の準備をしようとしてると、窓から「面白い話をしてますね」と少し陽気な黒崎達に聞き覚えのある声が聞こえる。

 

「どうです?虚圏行きの切符、手配しましょうか?」

 

☆☆☆☆☆

 

大量の破面達が白い装束の集団、滅却師の集団に連れられていく。辺りには滅却師達の侵攻で死体が山の様に転がり、滅却師特有の滅却術によって燃えるはずがない虚圏の建造物や砂が青い炎に包まれている。

 

そして連れられた者達が行き着くのはここを取り仕切るリーダー達、星十字騎士団(シュテルンリッター)の構成員3名だ。

 

更にその真後ろには磔にされたウルキオラ・シファーとティア・ハリベルが瀕死の状態で晒されていた。殺されていないが、逆らえばどうなるかは想像に難くない。

 

この異様な雰囲気に、殆どの破面達は飲み込まれてしまっている。そして前の3人の中で眼鏡をかけた滅却師、キルゲ・オピーが槍を片手に並べられた破面達の前へとやってくる。

 

「ハイハーイ!静粛に!これより、破面・虚混合の大センバツ大会を開催いたします!順に入隊テストを行いますが どうかそのチャンスを無駄にしないでくださいね!」

 

そう言うと順に破面の覚悟の決まらぬ前に次々と刺し殺していく。戸惑いながら絶命していく破面、その躊躇の無さに部下の滅却師達からも「本当に破面を回収する気はあるのか?」と疑問に思う者も少なくない。

 

そんなキルゲを後ろから見るのは今回の虚圏狩猟部隊(ウェコムンドヤークトアルメー)に選ばれた他の滅却師の2人。小柄な少女であるリルトット・ランパードと剣闘士のような格好をしたジェラルド・ヴァルキリーだ。

 

「陛下は何故、此奴らを連れていかなかったのだ?」

 

彼が指す陛下は滅却師の祖であり王、ユーハバッハだ。他の滅却師もユーハバッハを陛下と呼ぶが、その彼はそこそこ頭の切れるリルトットへと疑問を投げかけた。

 

ジェラルドはこの3人の中でも、星十字騎士団の中でも古参の滅却師だ。リルトットはこの3人の中では最も新米であり、名目上の隊長はキルゲだがこの中で最も上の実力者はジェラルドだ。

 

その疑問を無下に無視するわけにもいかないので、リルトットなりに考えるこの2人の破面を連れて行かない理由を告げる。

 

「簡単だろ。ここを支配していた奴等を晒して破面の心を折って、その逆境に耐えれるだけの手駒を見つけやすくする為じゃねぇか?」

 

現に、選別中に逆らおうという気骨のある者は居ない。目の前に自分達の種族の一番手と二番手が磔にされれば、歯向かうのがいかに無謀なのかわかるからだろう。

 

だが、ユーハバッハが望むのはその無謀に立ち向かう気骨ある愚者だ。扱いやすく、力もある。それが単体で勝手に動くのなら大した事は無いが、絶対的な君臨者が指揮するには上質な手駒だからだ。

 

「成る程、流石は陛下だ!」

 

と納得しているジェラルドだが、リルトットはユーハバッハの用心深さを知っている。まだ他にも用心はある。

 

やはり、思い付くのは磔にされている二体の破面だ。

 

万が一にも奪い返されても即殺できるように、ここに3人も星十字騎士団が居る。ここで3人は過剰とも言える、更に星十字騎士団でも間違いなく五本の指に入るジェラルドまで居る。

 

確かに、この破面。特にウルキオラ・シファーはユーハバッハなどの一部の滅却師でしか倒す事はできないが、手負いなら話は別である。

 

それこそ、キルゲとリルトットの2人で十分。むしろ過剰かもしれない。

 

だがジェラルド・ヴァルキリーの派遣は明らかに過剰、明らかに警戒が過ぎる。この滅却師の能力はそこらの星十字騎士団とはわけが違う、本当にリルトットと同じ滅却師なのか疑問に思うレベルだ。

 

「あー腹が減って来やがった、あいつ居れば楽につまめるんだけどなァ」

 

思考が少し鈍る。ここに居ない他の星十字騎士団の滅却師が居れば直ぐに頭へ糖分を補給できるのだろうが、既にここに来る前に貰った分の菓子は腹の底へ消えている。

 

仕方ないので持参した飴に噛り付き、乱雑に噛み砕く。

 

「はっはっは!豪快に食すではないか!」

 

隣で女性にあるまじき雄々しい食べ方にジェラルドが称賛しているが、それは無視してまた思考を元に戻す。

 

確かに、ジェラルド・ヴァルキリーは強力な滅却師だ。そこらの滅却師とは比べるのも馬鹿らしく感じるほどに。

 

だが、これが妥当だとしたらどうだ。

 

それならばユーハバッハはリルトット達のまだ見ぬ敵を想定しているという事になる。

 

星十字騎士団の滅却師は特に注意すべき敵が陛下より示されている。

 

5人の特記戦力、その者達が陛下の行く手を阻む未知数の力を持つ最大の障害。

 

その者たちが攻めてくるならジェラルドの配置も理解できる。だが虚圏に来るような特記戦力とは誰だろうか。

 

そんな思慮にふけっているリルトットだったが、突然の爆発とその衝撃で思考を中断する。

 

「あれは、ねぇな」

 

そう呟くリルトットの前…もっと詳しく言えば、キルゲの前に3人の破面が現れている。

 

「てめぇら、ハリベル様を返しやがれ!!」

 

「ついでに、ウルキオラ様もな!」

 

「私はハリベル様さえ助けられれば十分なのだけど」

 

額に仮面の名残であるツノの生えた破面、エミルー・アパッチ。

長い髪と袖で口元を隠す癖が特徴的な破面、シィアン・スンスン、

頭と首に仮面の名残のある背の高い破面、フランチェスカ・ミラ・ローズの3人の破面。

 

彼女らは磔にされているティア・ハリベルの従属官だ。そして臆せずに現れた3人は、周りの雑兵を片し始める。

 

「ひぃっ!?」

「隊長、こいつらヤバっ」

「助け」

 

滅却師も無抵抗ではない、だが3人との実力差が大きいだけだ。

 

彼女らは護廷十三隊で言うところの副隊長レベルの実力を有している、雑兵の滅却師では相手にならない。

 

それを見る三人の星十字騎士団。ある者はその実力が陛下に役立つかどうかを考え、ある者はどの程度の実力を持っているのか期待し、ある者は想定より遥かに劣る敵にまたも思慮にふけこみながら菓子を貪る。

 

「ちょうど暇を持て余していた所だ、我が相手しても良いか?」

 

そして動いたのは最も好戦的な滅却師であるジェラルドだった。ただの滅却師では相手にもならないこの3人の破面の実力を推し量れないならばと、自らが試しに向かったのだ。

 

「勝手にしろよ」

 

「殺してはいけませんよ」

 

「わかっておる!」

 

2人の了承を得ると軽く跳躍し、砂漠の粉塵を撒き散らしながら三人の破面の前へジェラルドは立つ。

キルゲは入れ替わるように後ろに下がり、リルトットは興味がないようで、また新しい菓子を食べている。

 

その様子を見たスンスンは不可解に思いながらも、ジェラルドと相対する。

 

「はっ、やっと出て来やがったか!!」

 

アパッチはやっと現れた敵の隊長格をぶちのめせる事に歓喜し。

 

「ハリベル様を返せ!マスクゴリラ!!」

 

ミラローズは自身の敬愛するハリベルを助け出すのに邪魔な障害に怒気を孕ませ。

 

「不味いわね、こいつ…」

 

1人冷静さの残った頭で相手の力量を測ってしまったスンスンは冷や汗を垂れ流しながらも、突撃する。

 

「我は星十字騎士団 ジェラルド・ヴァルキリー!貴様らが奇跡も起こせぬ程に圧倒してやろう!」

 

☆☆☆☆☆

 

「……行って、しまいましたか」

 

そう呟く卯ノ花の表情は、どこか暗い。だが同時に、仕方ないとも割り切っているような顔をしている。

 

ほんの数時間前にあった隊首会で滅却師という敵との戦争が確定した。復讐の炎に燃える総隊長を卯ノ花は久しぶりに見る、かつてあった滅却師の殲滅の戦い以来だろう。

 

「卯ノ花隊長、萩風副隊長は……」

 

隣では卯ノ花の左腕である虎徹が不安になっている。無理もない、彼女は知らないからだ。なぜ、このタイミングでいなくなったかを。

 

「彼は戻ってきますよ、私が彼の事で嘘をついた事がありましたか?」

 

一応、卯ノ花に萩風は直談判に来ていた。その内容はシンプルで簡単だった。

 

「一生のお願いです、俺に少しだけ時間をください」

 

それが彼が土下座で頼み込んできた言葉だ。卯ノ花は隊長としての立場で許可する事は簡単にできない。

 

だが、だからと言ってここで否定しても雀部副隊長の死体を治すような勝手をまたするのも目に見えていた。

 

「我々四番隊に命ぜられたのは待機、ならば怪我人がここに運び込まれる迄に戻るならば彼は命令を違反していません」

 

故に1時間、それが萩風に与えた虚圏への偵察時間であった。




累計順位が10位になりました。身に余る評価ですが、その期待に応えられるように頑張りたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20.たった1人の虚圏奪還部隊

ちゃんボクもわからないヨ……卍解を治すって、何をしたのかナ?

零番隊第三官 西方神将 二枚屋王悦


勝負はあっさりとついた。

 

アパッチ達はそこらの破面に比べて十分に強い。現に2年前に起こった護廷十三隊との戦いでは大多数の副隊長を戦闘不能にした。

 

総隊長には敗れたが、それでも十分な実力者。それが全員、地面に寝そべり息をするだけの人形となっていた。

 

「少しやり過ぎたな!死んでは陛下に献上出来ぬではないか!」

 

ジェラルド・ヴァルキリー。この滅却師は傷一つどころか汗一つ無く、息すら穏やかであった。

 

三人はよく戦っていた、ジェラルドにダメージもしっかりと与えていた。だが1分もかからずに決着していた。

 

彼の能力の前に、為すすべもなく敗北した。それだけの事実で、その事実を覆すだけの力を彼女らは持っていなかったのだ。

 

「がっ…ぁ…」

 

だが無理矢理にエミルー・アパッチは立ち上がる。同様に、他の2人も立ち上がる。その目に諦めの色は薄いがある。それ程に一方的に叩きのめされたのだからむしろ立ち向かおうとする気概だけでも褒められるだろう。

 

そして、まだ完全に諦めていない。

 

目の前にハリベルがいる、それだけで動かしていた。

 

「これ以上動くと死ぬな、仕方ない。気絶をさせてやるべきか」

 

「それこそ命を落としますよ」

 

「何、手加減はする!」

 

そう言うとゆっくりとエミルー達の元へと歩を進める。もはや三人には抵抗する力どころか、このまま立ち続ける力すら残っていない。そしてジェラルドが三歩ほど近づいた時にはエミルーの軸がぶれた。

 

この中で1番限界を超えていたのは彼女だ、それに釣られて他の2人も糸が切れた人形のように意識を失う。

 

「ん?奴らはどこだ?」

 

だが、彼女らがそのまま地面に倒れる事はなかった。

 

「は…ぎ、ぜ……はりべ……たす…け……」

 

エミルーはそこに居た彼を見ると、今度こそ気絶する。だが先に気絶した2人よりも、その表情は柔らかく感じる。

 

先に気絶した2人も、地面にぶつかる前に丁寧に遠くの砂漠の上に置かれている。

 

「よく耐えてくれた、後は俺が何とかする」

 

三人を地面へ寝かせるとそのまま結界を張る。今回張られたのは外側からの衝撃に強い治癒の結界。それは暗に、この後に普段使う内側からは破れないような結界よりも戦闘での衝撃に耐えられる事を優先している事を示していた。

 

だからこそ、態々瞬歩で遠くに3人を運んだのだろう。

 

「誰が、あの3人を倒した?」

 

恐ろしく早い瞬歩、それにリルトットとキルゲは驚いているが、目の前に現れたというのにジェラルドはその事について反応はない。

 

「我だ!」

 

だが質問には堂々と宣言する。あまりの清々しい答えに嘘は見えないと判断したのか、萩風は「そうか」と呟き次の質問をする

 

「あの2人もお前か?」

 

「それは我ではない、陛下だ!」

 

あまりにペラペラと話すジェラルド。それは萩風からすればありがたい事だ、だがそれはこの男が自分に対して絶対の自信を持っているとも捉える事ができる。

 

この程度の事を話しても、何の問題もないと。

 

「じゃあ……

雀部長次郎忠息を殺したのは、お前達3人の誰かか?」

 

萩風の鋭い圧力が三人の滅却師へと向けられる。いや、先程から向けられてはいた。だが抑えていたのを抑えられなくなってるような、そんな殺意の波動を感じる。

 

「そりゃドリスコールだな、俺たちじゃねぇ」

 

特に隠す事でも無いので、あっさりとリルトットは答える。ここで変な疑いでも受け、自分への勝手な恨みを買いたくは無いからだろう。

 

ドリスコールは一度、自身の能力の向上の為と手土産の準備の為に派遣された星十字騎士団の滅却師だ。恐らく、その時に殺された中に居た人物なのだろうとリルトットは察しての言葉である。

 

「そうか。お前ら2人と周りの雑魚は見逃してやる、消えろ」

 

そしてもうリルトットとキルゲに興味が消えたのか、そのままジェラルドを睨み付ける。

 

「はっはっは!よもや、我と戦う気か!その意気や」

 

ジェラルドが悠々と言葉を垂れ流していたが、それはいつの間にか真横に移動していた萩風の攻撃で堰き止めらる。

 

「破道の八十八 飛龍撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)

 

極光がリルトットとキルゲの数m隣を吹き飛ばし、地面は大きく抉れている。この程度で倒される星十字騎士団ではないが、ジェラルドはその攻撃で彼方へと吹き飛ばされていた。

 

「見逃すって、言ったんだけどな」

 

それに反応し、兵士の滅却師が萩風を囲い矢を放つ。青白い力を持った矢は萩風を掠めるが、萩風の顔に焦りはない。

 

「送り出せ 『天狐』」

 

その襲い掛かってきた滅却師の矢を今度は全て弾く。当然、弾かれた滅却師はギョッと驚き僅かであるが硬直する。

 

そしてその隙を見逃さずに、瞬歩での高速移動をしながら白打で倒し回る。殺す気は無いようで、全員気絶させられたままリルトット達の方へと投げられる。

 

まるで「こいつらを連れて帰れ」とでも言うように。

 

「特記戦力じゃねぇよな、こいつ。誰だ?」

 

一撃でジェラルドが吹き飛ぶとは想定していなかったリルトットは、冷や汗が止まらない。不意打ち気味な攻撃ではあったが、それでもジェラルドやキルゲ、そしてリルトットも気づかぬ程の動きをするのは想定外である。

 

見逃してやるとは言われているのは本当の事だろう、理論だった根拠は無いが確信できる。

 

だが、ここで逃げて命は無いのはわかっている。ここで戦うか、陛下に殺されるか、二つに一つである。

 

「この死神、もしや……」

 

そこでキルゲは一つ心当たりがあるようで、それをウルキオラを見て思い出す。

 

『必ず貴様らを討ち滅ぼす!俺たちを倒した優越感に浸れるのは、今だけだ!』

 

負け犬の遠吠え、それはキルゲも聞いていた。最後の捨てセリフにしては、情けない小物のようにも感じる物だった。だが、残念な事にウルキオラ・シファーは特記戦力に最も近いと言われていた破面だ。

 

その破面が呼んだ友、あれはただの遠吠えではなかったのだろう。

 

「四番隊 副隊長 萩風カワウソ。情報は少ないですが、少なくとも回復術と剣術に関しては一級品だそうです」

 

キルゲは情報にあった萩風カワウソについて思い出す。戦闘能力は不明、至って普通の後方支援の死神。だが、剣術に関しては一級品どころか護廷十三隊で3本の指に入るレベルの使い手である。

 

そして当然だが、回道についても護廷十三隊においては二番手。この男を超える回道の使い手は3人しか存在しない。

 

「そっちの滅却師は俺を知ってるのか」

 

「特記戦力ではありませんが、成る程……強い」

 

特記戦力はユーハバッハが決めた未知数の者達の総称だ。ユーハバッハがそれに選ばないのには、理由があるはずだ。

 

だがこの死神が実力者なのはもはやキルゲにも、リルトットにもわかっている。

 

しかし、焦りはない。2人に緊張感や絶望感は無い。

 

「ですが…卍解も使えぬ副隊長程度の死神なぞ、我等の敵ではありません」

 

むしろあるのは、ここでこの死神を対処できて良かったという安堵感だ。萩風カワウソが態々敵陣のど真ん中で、星十字騎士団を相手に萩風の増援が来る可能性が低い中戦えるのだ。

 

むしろ、死にに来ていると言われた方が納得できる。

 

そして「ましてや……」と呟き、遥か彼方へ飛ばされた同胞の方向にキルゲは顔を向ける。

 

「奇跡のジェラルド・ヴァルキリーの敵ではね」

 

するとキルゲの真横へ高速で巨男が着地する。砂漠の砂を撒き散らしながら現れた滅却師は間違いなくジェラルド・ヴァルキリーだ。

 

だが背の丈が伸び、筋肉量も増えている。更にキズは体に一つもない。

 

「おい……別に殺す気はなかったが、手加減はしてないぞ?」

 

そして何より、霊圧の量が増えている。萩風の放った鬼道は必殺技ではないが、萩風の扱う九十番代を除く鬼道では最強の技だ。それが無傷で帰ってくるなぞ、普通ならばありえない。

 

「なるほどね、そいつの能力か。厄介だな」

 

そう言う萩風に焦りはないが、ここで敵の能力の真髄を見抜く時間は無い。

 

既に虚圏に来て15分、後の5人の回復の時間も考えると30分かかり、戻るのには5分だ。

 

萩風の中で、もはやこの滅却師と戦える時間は10分しかない。出し惜しみをしてる時間は無い。

 

「卍解 陽炎天狐 …っ!?」

 

だが、それは誤りであった。萩風は突如として力の抜けていく自身の斬魄刀に絶望感を覆い尽くす。

 

そして横目に、円形の物体を構えるリルトットがそれを懐に仕舞い込んでいるのを見る。まさかと思いながらも、萩風は斬魄刀に問いかける。

 

「天狐?……返事してくれよ。天狐!!」

 

声は聞こえない、どれだけ話しかけても返ってこない。

 

鬱陶しそうに、気品がある凛とした声音は聞こえない。

 

精神世界に入ってみても、そこには気怠げに口元に手を当てながら微笑む彼女はいない。

 

「ぐがっ!?」

 

そして萩風は忘れている、今は戦闘中である事を。その隙を見逃さずに、キルゲの矢が放たれ爆散する。

 

「残念でしたね、卍解を奪われてしまうとは」

 

キルゲは嫌卑しく、不気味な笑みを浮かべていた。

 

☆☆☆☆☆

 

自分達で作った機械を信じられない、そんな数値が次々と現れている。

 

前回、滅却師は黒陵門を攻めた。

 

黒陵門とはこの瀞霊廷の入り口である四箇所の一つであり、そこで1番隊の隊士116名と雀部副隊長が襲われ全員死亡した。

 

今回も門から侵入される。そう予想していた死神達であったが、敵は突如として内側に現れた。

 

「どういう事だ!現状を報告しろ!」

 

阿近の声が十二番隊の統合情報室に響くと、それに呼応し周りの隊士達が報告を始める。

 

心の何処かで聞き間違えであって欲しい、そう願う阿近三席であったが報告は悲惨なものであった。

 

「現在、16カ所で敵霊圧を確認!しかし、霊圧未確認地でも被害を確認!推定での敵数は18です!」

 

「射場副隊長の霊圧が消失!並びに、同隊の席官4名も消失!!」

 

「西地区…隊士345名の霊圧が消失!」

 

その後も報告が続けられるが、戦勝報告らしき吉報は一つとしてない。その後もあるのは如何に被害が甚大で、敵は強大かということだけだ。

 

「侵入から7分で、戦死者は1000名以上。まだ増え続けてるのか……!!」

 

阿近がそう呟くのも仕方ない、敵の滅却師は死神を圧倒している。たった10数人でここを落としてしまいかねない。

 

「(無茶苦茶だ、一方的過ぎる……。こんな奴らに、勝てる筈がねぇ……)」

 

絶望的な報告は、止まずに続いていた。

 

☆☆☆☆☆

 

手元にもう抜け殻の斬魄刀だけがある。

 

萩風の天狐が奪われた、それは間違いようの無い事実だった。

 

「さっさと終わらせるか、腹が減ってきた」

 

今の萩風は受けたダメージを回復するのも忘れている、それ程までに思考が止まってしまっていた。

 

無理もない、いつも居たはずの者が消えてしまったのだ。実感が湧かなくて、当然だ。

 

だが、その痛みは少しづつ萩風を現実に引き戻している。

 

「我がやろう、任せておけ!」

 

ジェラルドは滅却師特有の弓に矢を番えると、溢れんばかりの霊圧を込めて発射した。並みの死神どころか、まともに食らえばどんな死神でも殺せる滅却師の矢。

 

これで終わりだ、楽にしてやる。そんな意味と力が込められた、それが萩風に当たる直前。

 

「本当に……やっちまったな」

 

霊圧が跳ね上がり、それを素手で弾き返した。弾かれた矢は萩風の後方に飛んでいくと、光を放ちながら爆散する。間も無く、土煙と共に爆風もやって来ていた。

 

「っ!?」

 

3人の滅却師は、目の前の死神を信じられないような眼で見ていた。

 

リルトットの手には奪った『陽炎天狐』が確かにある。だが目の前の死神の霊圧の量も鋭さも、卍解を使っていないのにも関わらずに高い。

 

「卍解は奪った、間違いねぇ。どうす」

 

そう他の星十字騎士団の者へ策を伺おうとするリルトットだったが、その声が届く事はなかった。

 

「縛道の八十四 八方封殺陣(はっぽうふうさつじん)

 

突如としてリルトットの真横に移動していた萩風は、そのままリルトットを結界の中に閉じ込める。下界との情報をシャットアウトするこの技は萩風の得意技の一つでもある。

 

「ーー!、ー!!」

 

中からは何かを叫んでるようだが、同時に張った防音の効果でその声は届かない。逆に、外側からの声もリルトットには届かない。

 

そのリルトットを助けに動いたのはキルゲだった、滅却師は矢を使う種族だが剣を使う者も当然居る。そのキルゲが抜刀し、萩風に斬りかかる。

 

「油断しましたね、萩風カワウソ」

 

キルゲの刃が萩風の首を切り裂く。「殺りましたか」そう呟こうとするキルゲであったが異変に気づく。

 

血が出ていない、それどころか萩風自身に動きが全く無い。どういう事かと思考と現実との乖離により少しだけ硬直してしまったキルゲの真横に「お前も油断すんなよ」と呟かれる。

 

それが萩風の声なのはすぐに分かった、だが目の前に萩風はまだ居る。故に、キルゲに取れる行動は後退での敵の様子見であった。

 

だが、離れていく最中で見えた本体の萩風の掌にある赤い光を見ると愚策であったのを察する。

 

わざと、自分との距離を空けるために囁いて来たのだと。

 

「破道の三十一 赤火砲(しゃっかほう)

 

「がっばぁ!?」

 

この火の玉は学院で全員が身につける程度の難易度の鬼道である。それこそ、苦手な者でもこれだけは覚えている死神もいる程の。

 

だが萩風の放ったそれは桁違いだ、通常サイズよりも凝縮された炎の塊は炸裂し、キルゲを大きく吹き飛ばす。

 

「さっきのお返しだ眼鏡猿。お前はこの部下どもを連れて帰れ。巻き込まれて死にたいなら、いいけどな」

 

「ぐっ、貴様ぁ……!」

 

舐められている。いや、そうでは無い。萩風が行ったのは先程の不意打ち気味に放ったキルゲの矢のダメージを返して来ただけだ。

 

つまり、この死神はまだまだ底を見せていない程の実力を有しているにも関わらずに、3人に対してやられた事以上の事をしていない。

 

少なくとも、こちらから命を取るつもりで戦っているのにだ。

 

甘い、甘過ぎる。心技体の心が甘いのだ、この程度の弱い心に腹が立つほどに。なぜ手加減をする、なぜ必要以上の攻撃をしない。

 

こいつの心情が、読めない。

 

そんな奴に、キルゲは手も足も出ていない。

 

「(この死神……大鬼道長並みに鬼道も扱えるのですか!引き出しが多過ぎて、厄介ですね)」

 

キルゲもまだ本気では無いが、それでも目の前の死神に卍解すら使われずに負ける未来が見えてしまっている。

 

そんなキルゲと萩風の間を横切り、ジェラルドは立つ。

 

「我が貰うぞ、良いな?」

 

「……任せましたよ」

 

キルゲもそう言う事しかできない。リルトットを封じる結界を見るが、あれならば並の衝撃で壊れる事は無いと確認すると放置する事にする。

 

確かに解くのは簡単だ。今のリルトットには難しいが今の卍解を奪っていないキルゲなら容易に出来る。

 

だが、今解いても今度は解く気力すら起こらないようにボコボコにされてから結界に閉じ込められるのが目に見えている。

 

それはリルトットも同じなのか、今は結界の中で普通にお菓子を食べてリラックスしていた。

 

確かにリルトットとキルゲはこの萩風カワウソに歯が立たない、だが今はジェラルド・ヴァルキリーが居る。

 

「場所を変えるぞ。ここじゃ、お互いに戦い辛い」

 

「よかろう」

 

そしてジェラルドと死神の周りの地面が爆ぜ、キルゲの気づいた時にはどこかへ移動していた。

 

キルゲは「困った者ですね、陛下に報告が…」と呟きながら、元々の目的の一つである磔にされている破面を確認し、また止まる。

 

「いつの間に、やってたのですかね……」

 

そこにウルキオラもハリベルも居ない、キルゲは仕方なく気絶した滅却師を叩き起こし破面を探しに向かった。

 

「ーー!?」

 

なお、リルトット・ランパードは放置されるのであった。




2次創作を始めて3年程ですが、始めてこの様な物を頂きました。

ありがとうございます。


【挿絵表示】


イラストは天狐です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20.5話 死神vs滅却師 開戦

情報量が多くなるかも知れませんが、ご了承ください。

それと11/2にBLEACHの小説も出るので、この際に読んだ事がない方は是非BLEACHを読んでみてください。

小説の方で霊王について色々と書かれてますし、卍解初披露のキャラもいて最高です。



「第1狩猟部隊より入電。虚圏へ侵入した死神、萩風カワウソとジェラルド・ヴァルキリーが交戦中。また'特記戦力,黒崎一護とキルゲ・オピーが接敵、現在交戦中です」

 

無線に届いた情報は、そのまま放送されユーハバッハの耳へと届く。

 

玉座に座るユーハバッハはその放送を聞くとニヤリと笑い、腰掛けていた玉座から立ち上がると「さて 行こうか」と衛兵に告げながら歩を進める。

 

「陛下、どちらへ?」

 

「決まっているだろう、尸魂界(ソウルソサエティ)だ」

 

即答したユーハバッハに衛兵の滅却師も驚きを隠せない。宣戦を布告して間もない、約束の5日はまだ先だ。その疑問に答えるように、ユーハバッハは話し出す。

 

「萩風カワウソと特記戦力である黒崎一護が虚圏にいるのだ、これ以上の好機はないだろう。萩風カワウソは予期せぬ行動をするが、虚圏へやって来るとは都合が良い」

 

そう話すユーハバッハの顔は今までに変わりないように見えるが、恍惚とした表情をしている。この瞬間を待ちわびていたのだろう、この瞬間から起こす悲劇の幕を開けるのを。

 

「星十字騎士団へ通達せよ、これより

見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)』は尸魂界へ侵攻する」

 

☆☆☆☆☆

 

瀞霊廷を独特の緊張感が張り詰めていた、その中で阿散井恋次、そして隣にいる吉良イヅルもその緊張感に包まれている。

 

「吉良、今回の敵をどう思う」

 

阿散井には力はあっても、そこまで頭は残念ながらない。なので今回の敵の狙いなどを読む事ができないし、この戦いの意味もよくわかっていない。

 

「僕の意見で良いなら、今回の敵はかなり計画を練ってる。手際の良さとかでもそうだけど、情報での利は向こうが握ってる」

 

それに対し、阿散井も肯定を意味した頷きをする。涅隊長からも有益な情報はまだ来ていない、それが如何に不利なのかは理解している。こちらの戦力も能力も知っている、だからこそ既に一番隊の隊士116人の被害を出しているのだ。

 

この116人は宣戦布告にやってきた滅却師と同時刻に行われた虐殺であり、その時に雀部副隊長も致命傷を負っている。

 

「僕等の考えや常識は通じないと考えた方がいいのかもしれない、卍解を封じるとも聞いてるしね。でなければ雀部副隊長が簡単に負ける事はあり得ない。僕等副隊長の中じゃ、一番強い死神だったと思うからね……」

 

確かに、雀部副隊長は白打や剣術はそこまで高い実力を持っているわけでは無いが斬魄刀においては最上位の一振りの一つだろう。

 

これを知っているのは本当に一部の死神だけだが、同じ副隊長であり唯一の親友である萩風曰く「雀部さんの卍解はヤバいぞ、嵐を相手にしたような力だ」と言うほどだ。

 

なお、本気の萩風が嵐を切れるのは誰も知らない。

 

「君の卍解も気をつけた方がいい」

 

「そういう吉良は卍解はできないのか?俺からすれば出来てても可笑しくないんだが」

 

「一応できるようになったよ、僕だって鍛錬を怠ってはいないからね。むしろ鍛錬をしてないと気を保ってられなくてね……」

 

それを聞いた阿散井は「あー……」と踏んではいけない地雷を自分で踏みやがったなと思いながらも優しく肩を叩き「今度飲みに行くか」と友人として慰める事にする。

 

最近、吉良は失恋したのだ。相手は同期の雛森で、そのお相手は日番谷冬獅郎。十番隊隊長である。なお、色々とゲスい事をしたキューピッドが萩風なのは日番谷しか知らない。

 

吉良が雛森の事が好きなのを阿散井は学院の頃から知っていたが、やはり幼馴染で隊長の日番谷は強敵だったのだろう。

 

「……ありがとう、僕も前を向いていくよ」

 

そんな吉良の愚痴に付き合うのが偶々居合わせて仲良くなった萩風なのだが、最近だと「日番谷隊長みたいでめんどくせぇ…」と思われているのを、吉良は知らない。

 

そして吉良が立ち直ろうとしている時、外から何かが爆ぜる音が聞こえる。

 

「っ!?」

 

また、同時に二人は気づく。途轍もなく巨大な霊圧を複数感じたのを。

 

「吉良!こりゃ…」

 

「間違いなく、滅却師の仕業だろうね……!」

 

二人は直ぐに外へ出ると、青白い柱を確認する。

 

その数は10数本だが、高密度の霊子でできたその青い炎の柱が何を意味するのか、それは護廷十三隊の全ての隊士が理解している。

 

「何なんだよ、あいつら……!!」

 

戦争の始まりだ。

 

☆☆☆☆☆

 

異変を感じた七番隊の副隊長である射場鉄左衛門(いばてつざえもん)は他の隊士を連れ、柱の根元までやって来ていた。ざっと数えて30人以上の死神が柱を囲み、どこから敵が現れても対応できるようにしている。

 

「観測班!結果はどうじゃ!」

 

射場の後ろには十二番隊の隊士が何かの計器を弄っているようだが、中々結果が出ていないようである。

 

無理もない、目の前の柱の霊子の濃度は計器を狂わせるほど高いからだ。だがその緊張感が隊士たちの中で張り巡り、十二番隊の隊士の声を待つ。

 

「高密度過ぎて反応が……っ!今、出ました!サンプル抽出霊圧との適合率93!間違いありません、滅却師です!」

 

それを皮切りに、全員が雄叫びをあげる。それを最初にあげたのは射場副隊長だ、全員の士気を高めつつ道の敵への恐怖を払拭する為だろう。

 

「「「うおぉー!!!」」」

 

そして、柱の中に人影がついに視認できる。

 

「全員、かからんかい!」

 

射場は始解した斬魄刀を片手にそのまま突撃する。隊士たちも雄叫びをあげながら突撃するが、瞬間。何かが柱から飛び出す。鬼道の攻撃のようであったが、それとは全く違う。

 

「い、射場副隊長!!」

 

そして、その攻撃を受けた射場副隊長の半身は大きく抉れて無くなっていた。

 

「悪いな、皆殺しって命令なんだわ」

 

そう呟きながら、柱から現れたモヒカン頭の滅却師は素手で隊士たちを倒し始める。始解した席官でも一撃で踏み潰し、殴り殺していく。

 

「う、うぉぉ!!」

「だめだ、勝てっこねぇ…!」

「待て、逃げるな!戦え!」

 

絶望し逃げ出す隊士がいたのも、仕方なかった。

 

「待たんか!」

 

だが、その声に振り返ると隊士たちと滅却師の間にその大男はドスン!と音を立てながら着地する。

 

死神で唯一、人狼と呼ばれる種族の男の死神は、怒声と共にやって来た。

 

「貴様が、これをやったのか…!!ワシの副隊長も殺したのは、貴様だな!」

 

「あぁ、知らないな。殺した雑魚は覚えない主義なんだ」

 

その、答えに斬魄刀を引き抜きながら吠える。

 

「ならばワシの名を覚えておけ、七番隊隊長 狛村左陣(こまむらさじん)だ!!」

 

憤怒に燃えながらも、周りを叱咤するように、自身を叱咤するように突撃する。

 

星十字騎士団(シュテルンリッター) H! 灼熱(ザ・ヒート)・バズビーだ!」

 

☆☆☆☆☆

 

「なんやねん、ホンマ…!」

 

いち早く駆けつけた五番隊隊長 平子真子(ひらこしんじ)はその場の異様さに飲み込まれそうになっていた。

 

「しっかりせぇ、桃!」

 

自身の部下である雛森副隊長を含め、他の隊士も身動きも出来ずに気絶させられていたからだ。更に、それを悠々と殺す滅却師もだろう。直ぐに平子はこの滅却師の能力だと把握する。

 

「無駄だぜ、こいつらは動けねぇ。でも安心しな、すぐにあんたも動けなくしてやるからさ」

 

顔の上半分をゴーグルで覆い、歯を交互にお歯黒にしたのが特徴的な滅却師はポケットに手を突っ込みながら不敵に平子へと笑いかける。

 

「ほな……そっちも動けないようにしたろか!!」

 

そして、平子は抜刀すると直ぐに斬魄刀を解放し戦闘を始める。無論、今寝ている隊士たちを巻き込まないような場所でだ。

 

平子真子 vs ナナナ・ナジャークープ

 

☆☆☆☆☆

 

「ふむ、貴様は隊長か!」

 

隊士たちをプロレスの技のような攻撃で殺戮を繰り返していく、そこへ飛び蹴りしながらも登場したのはSUPER副隊長である久南白(くなましろ)だ。

 

過去に副隊長であったが、戻って来たときには既に檜佐木が副隊長としていたので代わりに与えられた名前だけの役職だ。

 

とは言え元は副隊長、実力は確かだ。その蹴りを受け止め弾く目の前の滅却師は、間違いなく強者であった。

 

「白。気をつけろ、強いぞ。最初から仮面付けとけ」

 

そして後ろから現れたのはその隊長である六車拳西(むぐるまけんせい)だ。周りの無残な状況を作り上げた滅却師にふつふつと怒りを募らせながらも冷静さを忘れないように敵を睨みつける。

 

「ワガハイが目立つに、絶好のチャンスだな!」

 

そう言うと霊圧が解放される。滅却師の幹部格であるのに相応しい力は、護廷十三隊の隊長格と遜色ない力であった。

 

「むぅ、スーパー副隊長は負けないのだ!」

 

白は虚化し仮面をつけると、六車はそのまま斬魄刀を片手に霊圧を高める。

 

敵の力は強大、いくら虚化している白が居ても勝てるかは微妙な所だと六車は理解している。

 

「白、奴の動きを見てろ。奴が何をしてくるかをだ、頼むぞ」

 

そう言うと隣でゆっくりと彼女は頷く、それを横目で確認した六車はマスクを前にして霊圧を解放し、斬魄刀を最終解放まで一気に行う。

 

卍解(ばんかい) 鉄拳断風(てっけんたちかぜ)!!」

 

六車の全身を覆うその卍解は鎧のようだ、しかしそれを前にしても滅却師のマスクは意に介していない。それどころか、それを目にするとワクワクしたように懐から円盤を取り出す。

 

「っ!?」

 

すると異変が起きる。卍解が解けたのだ。

 

無論、六車が自ら解いたわけではない。

 

「え!?けんせい、何で卍解解いたの!?」

 

隣の白を見るに、敵の動きはあの円盤を取り出した事だろう。そして六車に僅かにわかったのは、その円盤に卍解が吸い込まれたのだろうという事だけだ。

 

「わかんねぇのか!奴は卍解を、奪ったんだよ……!」

 

六車拳西&久南白vsマスク・ド・マスキュリン

 

☆☆☆☆☆

 

卍解を奪う力を敵は持っている、その報は直ぐに全ての隊士に伝えられた。

 

だが隊長格の死神達は既に感じ取っている、どこで誰の卍解が奪われたのかという事を。

 

「報告は十番隊からでしょうが、どうやら二番隊、六番隊、九番隊も奪われたようですね」

 

卯ノ花達四番隊に総隊長より命ぜられたのは'待機,だ。

 

怪我人が運び込まれても迅速に対応する事が出来るようにという配慮であるが、戦闘が始まり多数の死者が出ているのにも関わらずに未だに怪我人は一人も運び込まれてこない。

 

恐らく、戦闘が終わるまでは運ばれてこないだろうと卯ノ花は考えている。このままでは無残に一方的に倒されるとも。

 

「卯ノ花隊長……私達は、どうすれば」

 

隣では不安な声で三席である虎徹勇音が青い顔をしている。無理もない、副隊長クラスの実力を既に有している彼女はもうわかっているのだろう。

 

この事態の不利さと、敵の圧倒的な力を。

 

「勇音。もしもの時は……四番隊を、任せましたよ」

 

鞘に収まる自身の斬魄刀を見つめながら卯ノ花はいつもとは少し違った笑顔を見せる。その顔は何かの覚悟を決めたような笑顔であり、虎徹はそれにザワリとした嫌な予感を感じる。

 

「え、縁起でもないこと、言わないでくださいよ!萩風さんだって……その、すぐに来てくれますから!」

 

虎徹三席が言い澱むのも無理はない、理由は二つある。

 

一つは萩風が来ただけでは、戦況をひっくり返す事は出来ないのだろうという事。ましてや卍解を奪う奴等を相手に、だ。

 

もう一つは、既に約束の1時間は過ぎている事だろう。

 

「これは、後で久々に説教しなければなりませんね」

 

卯ノ花のその呟きは、まるで願望のように聞こえていた。

 

「その時は、ご一緒しますよ……」

 

虎徹もまた、弱々しく答えるのであった。

 

☆☆☆☆☆

 

「この程度とは、呆気ないものだな」

 

瓦礫と死神の骸の街へと変わった瀞霊廷を前に、ユーハバッハは哀れんだような目でその街を見る。

 

既に自身の部隊である星十字騎士団が隊長格にも戦果をあげ始め、もはや護廷十三隊の死神達に同情とは違う憐れみを感じていた。

 

「やはり目下の敵は零番隊か、護廷十三隊もこの程度とは」

 

隣では星十字騎士団のトップであるハッシュヴァルトが周りの死神達を切り捨て、控えている。やはり呆気ないと思いながらもそのまま瓦解した街を歩む。

 

このまま死神達の終わりを見届けるのも一興かと思っていると、後ろから「ヨォ」と声をかけられる。

 

「この雑魚どもの親玉はお前か?」

 

その男の手には…いや、刀には3人の人が串焼きの具材の様に刺されて運ばれていた。ドサリと落とされたその者達と、その男が誰かと知りハッシュヴァルトは驚愕する。

 

「特記戦力 更木剣八(ざらきけんぱち)……!!」

 

十一番隊隊長にして、剣八の名を背負う怪物。更に驚くのはその刀から落とされた滅却師達だろう。

 

全員が星十字騎士団の滅却師だ。精鋭を集めたこの部隊の滅却師達は強い。現にこの3人を除く滅却師は誰一人として死んでも、負けてもいない。だがこの3人も倒す怪物は、たしかに特記戦力に相応しい力を持っていた。

 

「星十字騎士団を3名も…化け物とは聞いていたが、ここまでとは」

 

特記戦力は未知数で選ばれた5人の死神の事であり、更木剣八は底知れない【戦闘力】で選ばれている。

 

すると刀を振り、付いた血を払うとそのまま更木剣八はニヤリと笑いながらユーハバッハへと向かう。

 

「てめぇに用はねぇ!俺があんのは、こいつだからな!!」

 

☆☆☆☆☆

 

煙をあげ、血に染まりながら瓦解していく瀞霊廷を見下ろす山本重國は目的の敵を見つけたのか、霊圧が少しだけ揺らぐ。

 

だが直ぐに抑え込むと、ギロリとした鋭い目付きである一点を見る。見えるのは更木剣八と戦うユーハバッハだ。

 

自身が千年前にユーハバッハを殺しそこねた結果が今である。自身の右腕であった雀部長次郎忠息を亡くし、自身が守ってきた瀞霊廷を好き放題にされて壊されている。

 

もはや、我慢の限界であった。自身の不甲斐なさもあるが、それ以上にこのまま滅却師をのさばらせる事を許せなかった。

 

「出る、お主は残り 此処を守護せよ」

 

背後に控えるのは本来であれば副隊長であった雀部であるが、今は一番隊三席の沖牙源志郎(おききばげんしろう)が控えている。

 

胸中を理解してるつもりではあるが、沖牙は総隊長からの命令に対して短く

 

「御意」

 

と言う。

 

それを聞き届けた山本重國は、爆ぜるようにその場から消えユーハバッハの元へと駆けていた。

 

弾ける霊圧に怒りが込められる、その霊圧の力強さは間違いなく総隊長に相応しく、死神達を鼓舞する力を持っていた。




護廷十三隊 vs 星十字騎士団&陛下

二番隊隊長 砕蜂 vs 蒼都

三番隊隊長 鳳橋楼十郎 vs バンビエッタ・バスターバイン

五番隊隊長 平子真子 vs ナナナ・ナジャークープ

六番隊副隊長 阿散井恋次
&三番隊副隊長 吉良イヅル
&六番隊隊長 朽木白哉 vs BG9

七番隊隊長 狛村左陣vsバザード・ブラック(バズビー)

八番隊隊長 京楽春水 vs ロバート・アキュトロン

九番隊隊長 六車拳西
&九番隊Super副隊長 久南白 vs マスク・ド・マスキュリン

十番隊隊長 日番谷冬獅郎
&十番隊副隊長 松本乱菊 vs エス・ノト

十一番隊隊長 更木剣八 vs ユーハバッハ

十三番隊隊長 浮竹十四郎
&九番隊副隊長 檜佐木修平 vs ドリスコール・ペルチ

☆☆☆☆☆

虚化できる六車が卍解を奪われたのについては21.5話でやりますのでお待ちください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21.霊王の心臓

リルトットってこんな乙女にして大丈夫なんだろうか…。


「ひでぇな」

 

周りに散乱する、死体、死体、死体。

 

破面の死体が辺りに転がっている。

 

黒崎達一行が浦原喜助の手助けを受け、虚圏へとやって来て目に飛び込んできたのは惨劇の跡であった。

 

「ドンドチャッカの霊圧を感じる…向こうか」

 

チャド、織姫が辺りの悲惨さを気に病むが、時間に余裕は無いだろう。一護は先ずはドンドチャッカの救出を優先しようと前へ進もうとするが、別の霊圧を感じる。

 

「みんな、下がれ!」

 

破面ではない、そしてその存在達から攻撃が放たれていた。気づいた一護は斬魄刀でその矢を全て弾き返すと、数十人の白装束の集団を見つける。

 

「やれやれ、こんな所で出会ってしまうとは……」

 

その中の少しだけ装束がボロく黒焦げた眼鏡の隊長らしき男が集団の先頭に立つ。先程、萩風の赤火砲を受けたキルゲだ。

 

「特記戦力筆頭、黒崎一護」

 

新たな矢を番ると、集団は一斉に矢を放つ。黒崎達は各々でその矢を撃ち落とすも、防御するだけでは勝てない。

 

「虚圏を無茶苦茶にしたのは、お前達なんだな?」

 

すると一護は斬魄刀へ霊圧を集中する。チャドや織姫達は一護が何をするのかわかったようで、直ぐに後ろへ下がる。

 

「卍解 天鎖斬月(てんさざんげつ)

 

黒崎一護の卍解、それは朽木白哉の卍解である『千本桜(せんぼんざくら) 影巌(かげよし)』のような派手さも無ければ、萩風カワウソの『陽炎天狐(かげろうてんこ)』のような特殊で特異な能力は持たない。

 

「な、一瞬で…!?」

 

能力は小さな黒刀に力を封じ込め、速度の一点強化をする卍解だ。

 

襲いかかって来た全ての滅却師を切り捨てる、キルゲは円盤を取り出し卍解を奪い取れるか試していたが、結果は奪えていない。

 

既に黒崎一護の卍解が奪えない情報(ダーテン)をキルゲは得ていたが、その理由は不明だ。だが円盤、メダリオンに不備がないのは確認済み。

 

この男には、卍解を封じる事ができない。それは特記戦力でないとしても、警戒に余りある存在であった。

 

「この数の聖兵を瞬殺ですか、恐ろしい力だ。やはり、ここで倒すべき存在ですね!」

 

するとキルゲは円盤を懐に仕舞い、腰から剣を引き抜く。そしてそれに呼応するように、キルゲの体を光のヴェールが包み込む。

 

頭に天使のような輪が現れ、背には光の翼。同様に身体中を光の鎧が包み込んでいた。

 

「お教えしましょう、この力の名は滅却師完聖体(クインシー・フォルシュテンディッヒ)。貴方を裁く神の」

 

だが、その名乗りを終える前にキルゲの体を光が貫く。別に浦原やチャドが不意をついて攻撃したわけではない。その攻撃は、キルゲの後方から、黒崎達の前から来た。

 

「全員伏せろ、月牙天衝(げつかてんしょう)!!」

 

奥に見える巨人から撒き散らされた光弾がランダムに飛んでくる。それは黒崎達にも飛んできたので、一護は斬撃を飛ばしその弾をはたき落とす。だが相殺されても一護を少し後退りさせる程度の爆風が起こる。

 

「あれも、滅却師…なのか?」

 

一護も戸惑いを隠せない、遠目から見て50〜100mを超える人が虚圏で暴れているのだ。これを見て動揺しない方がおかしいだろう。

 

だが、あれを倒さねばならない。でなければ虚圏の破面を助ける事ができない。

 

(ホロウ)化した月牙天衝なら……」

 

しかし、一護の全力でも明らかに火力が不足している。このまま無策で突撃しては無残に返り討ちだろう。

 

それを見兼ねた浦原も一護の隣へ来る。

 

「一緒に戦いますよ、黒崎さん。あのデカイのは、一人で尸魂界を落としかねない程の力を持ってます。とりあえず、策を練るのでお待ちください」

 

ペッシェや織姫達はドンドチャッカ救出の為に護衛も兼ねて避難させる。あの怪物の前に、手数は然程意味をなさないとの浦原の判断である。よって、これから立ち向かうのはチャド、一護、浦原の3名だ。

 

だがこの三人でも正面から戦えば勝機はない。遠くから見るだけでとてつもない霊圧を放ち、隊長格の死神が束になっても勝てるかどうかわからないような怪物だ。

 

そして一護も浦原も、そこで二つの霊圧を感じ取る。

 

「(誰かが戦って…いや、逃げてるのか。確かに、アレを正攻法で倒すのは難しい。予想が正しければ……霊王の欠片を持ってるのか)」

 

反撃をしているようだが、その部位がパワーアップしていく。そんな怪物相手に、浦原が策を練るのにかかった時間は観察を始めて2分もかからなかった。

 

☆☆☆☆☆

 

萩風はかつてない程に本気で戦っていた。だが、戦況が劣勢なのは誰の目にも明らかであった。

 

「破道の五十七 大地転踊(だいちてんよう)

 

「ちっ」

 

大量の岩石を飛ばすも腕を薙ぐだけで全て破壊される。

 

「破道の九十三 瞬天閃降下(しゅんてんせんこうか)

 

「効かぬと言った!」

 

光の裁きを与えても、耐えきりパワーアップし更に萩風を追い詰める。

 

火の球をぶつけても、氷の刃をぶつけても、どの攻撃でもジェラルドに致命傷を与える事はできていなかった。いや、致命傷は与えている。だがそれを上回る回復力を持っているのだ。

 

卍解が使えない、それは萩風にとっては最も強力な手札を潰しているのであった。

 

「我は奇跡(ザ・ミラクル)・ジェラルド!与えられた聖文字はM!!我は与えられたダメージを、神の体へと変換する!」

 

高らかに宣言する滅却師の体は遂には40mを超え始め、攻撃もあたりを巻き込むような派手なものに変わって来ていた。

 

「流石は副隊長!我によくダメージを与えた!だが、神を殺す事なぞ出来はしない!!」

 

萩風の鬼道は全て弾かれ、もはや勝ち筋は無い。萩風の全ての攻撃を弾いたジェラルドに、もはや負ける可能性は無い。

 

「お前、勝ったと思ってるだろ?」

 

そう……ジェラルドが、思うのは無理もなかった。どこからどう見ても、ジェラルドに敗北する可能性は思いつかない。

 

「俺はさっきからダメージなんて与えてない、それどころか攻撃もしていない」

 

ジェラルドは萩風の言葉を理解しても意味がわかっていないようだ。

 

萩風はダメージを与えていないと言ったが、現にジェラルドの体はパワーアップし、霊圧量も増えている。適当な事を言って勝負から逃げようとしている、ジェラルドはそう考えると拳を振り上げる。

 

「な、我の腕が…!!」

 

だが、それはジェラルドが振りかぶろうとすると簡単に千切れ飛んでしまった。萩風に動きはない、ジェラルドは直ぐに腕を再生させようとする。

 

「馬鹿な!我の能力が……何故だ!」

 

だが、腕の再生は起こらなかった。

 

「俺は滅却師の事を調べた。お前達の身体能力や体内構造、能力その物にも。十二番隊から、ちょこっと拝借してな」

 

萩風の手には注射器が一つある、それは既に空っぽだが中には僅かに緑色の液体が残っている。名を『従属薬』、萩風が十二番隊の研究資料を拝借し、独自に作り上げた薬だ。

 

萩風は薬剤の調合に関しては、自身の右に出る者はいないと自負している。確かに回道では卯ノ花烈や山田清之介に劣っている、だが萩風は隊長格になる為の実績を作っている。

 

それの一つが彼の薬剤師としての実力。

 

薬剤の調合術だけは、萩風が誰にも負けない武器である。

 

「貴様等の感覚器を狂わせる薬を調合した。鼓膜、耳小骨、痛点、霊覚、それと俺等死神で言うところの魄睡に効く薬だ。効果は…対象が想像した事を起きたと錯覚させる」

 

鼓膜や耳小骨は音を聞くのに重要な器官であり、痛点は触覚の事だ。霊覚とは霊圧を感知する器官であり、魄睡は霊力を生み出す器官である。

 

網膜の視神経を操る薬を作っても良いのだが、それでは萩風以外にも使えてしまう。この薬は萩風の待つ斬魄刀、天狐の能力を使う前提とし作り上げたものだ。

 

「お前はダメージを受けていると錯覚していた。だが、これだけなら意味はない。体に起こった異常は7分を超えると平常時の状態に戻る、すると…そうなる」

 

ジェラルドの空虚な体がボロボロになって崩れていく。足が砕け、体がヒビ割れる。元からダメージなぞ無かった、そう錯覚していた体を正気に戻した結果が今のジェラルドだ。

 

神の体の交換が無かったことになり、元に戻ろうと必死になっているのだ。

 

「我は…我は!!」

 

後、勘違いして欲しくないが。萩風はジェラルドに対応した薬を作ったわけでも、ジェラルドという存在を予期していたわけでもない。

 

元は萩風が滅却師の霊子を服従させる能力を逆手に取る事を考えて作った薬だ。

 

霊子を服従していると錯覚させるが、力は実際には発動している。では力をどこから持ってくるか、それは魂魄を削って持ってくるのだ。そう錯覚させるように1日で作り上げた、萩風特製の薬だ。

 

デメリットは量産できず、3つしか作れていない事だろう。そしてその全てを巨大化したジェラルドに使用してしまったのだが。

 

これはまさしく、萩風の対滅却師の切り札である。

 

「……殺すってのは、中々辛いもんだな」

 

初めての殺人。虚すら狩った事がない萩風に、それはのしかかっているようだ。

 

「一人で戦うのも、辛いんだな……」

 

崩れ行く骸を見届けた萩風は、次は卍解を取り返しにリルトットの元へと向かうのだった。

 

☆☆☆☆☆

 

結界に閉じ込められた少女、ここだけ見たら俺はしょっ引かれるかもしれない。

 

先にやらかしたのは彼女なので問題無いだろうけど、俺に対してなんか怯えてるのか戦意が喪失してる女の子を閉じ込めてるんだよなぁ……しょ、しょっ引かれないよな?不安になってきた。砕蜂隊長とかに見られたらキルされそう。

 

「あの眼鏡猿は帰ったか?」

 

「……知るかよ」

 

何だろう、女の子からそんな怯えたような諦めた目で見られると色々と気分が複雑なんだが。俺がこの子を汚したみたいで申し訳ない気持ちが現れて来るんだが。

 

とりあえず置いとくか、天狐ちゃんを取り戻すのが最優先だ。

 

ちなみに、さきに大男の滅却師をやった理由は簡単だ。卍解を返して貰うのに間違いなく邪魔をして来るから。

 

眼鏡猿は大した事無いけど、あれは強い。なら先に倒しておけばいい、天狐ちゃんの始解の力は残ってたから一応は倒せた。

 

気持ち的には直ぐにでも返して欲しかったが、あの滅却師は何というか嫌な予感がした。その予感が何と無くとかじゃなく、確実に何か持ってるって感じた。

 

浮竹隊長の霊圧を目の前で感じた時、似たような感覚があった気もする。

 

その予感は何かはわからないが、あの滅却師が無傷で戻ってきた時に体が反応していた。結局のところ、理由はわからないままなんだけどね。

 

「これに、入ってる……」

 

その円盤を俺は受け取ると、中から俺の中に力が解放されていく感触がした。精神世界を見てみると天狐ちゃんも居た!抱きつこうとしたけど、何故か「邪魔じゃ!今は考え事がある」と断られた。なぜだ!?俺は寂しかったのに!!……駄目だ、俺は重たい男にならない。

 

そう、クールになるんだ。

 

仕方ないので現実世界に戻る。

 

「……終わりだ」

 

すると、なぜか空気が冷え切ってた。

 

彼女の目が死んだように更に暗くなってた。

 

「……なんだよ」

 

こっちのセリフだわ、どうしたらこんな強姦された女の子みたいな雰囲気を醸し出せるの?こことかエミルーちゃんに見られたら誤解しか起きないんだけど。

 

「俺に捕虜の価値は無いし、あっても今無くなった。もう、終わりなんだよ……」

 

何だこのめんどくさい女の子。でもほっとくつもりは元よりない、滅却師なら敵側の情報も知ってるだろうし。

 

とりあえず場所を移そうと思い手を引こうとした時、真後ろで嫌な雰囲気がする。これは……さっきも感じた奴だ。

 

「…マジかよ」

 

死んだ事を確認できたと思ったんだけど、なんでだ!?

 

「なんで、生きてるんだよ。あの滅却師…!」

 

遠くで体がつながり、復活していくジェラルドが見える。しかも、さっきよりも強いのがわかる。すると俺の後ろにいる女の子も乾いた笑い声を出している。

 

「はっ、はは……バカかよ、あの『霊王の心臓』が死ぬ筈ねぇのに。負けたと思って、陛下に殺される前に殺されるのかよ……」

 

凄い不安な事を言われた気がする。でも聞く間も無く、大男はエネルギーを撒き散らす。

 

ウルキオラ達には結界は張れてるから、大丈夫かもしれないけど。当たれば並みの奴は死ぬ。そんな破壊の光弾。

 

そして、それは俺達の方へも飛んでくる。仕方ないので、魂が抜けた人形みたいになってる女の子を背負って避ける。ってやばいな、向こうも俺達の事に気付いたのかダッシュで追いかけて来た。

 

「なっ、お前!離しやが「黙ってろクソガキ!」っ!俺はガキじゃねぇ!」

 

すると俺に背負われたのをこの子が気づいたようだ。だが、何処と無く元気が薄く感じる。

 

「張る見栄も胸も無いだろうが、比喩抜きで」

 

「なっ、こいつ…!」

 

「ついでに背伸びする程の背も無いよな、比喩抜きで」

 

「お前、俺の気にしてる事を……!!」

 

抱きつく締まりが強くなる。地味に辛いが、女の子に元気が出てきたようで何よりである。女の子のハイライト消えた目とか、俺の精神衛生上よろしくない。

 

でも、今は気にする余裕が無くなりつつある。

 

それと、今の大男は見境なく俺だけでなくこの子も殺す気だった。間違いなくだ、流石にそんなの見過ごしてたら夢見が悪過ぎる。じゃなきゃあんな無差別な攻撃をしてこない。

 

というか、女の子の!それもこんな子供を殺そうとするとは、滅却師には人の心が無いのか?!

 

「何で助けた!敵だぞ!?俺がお前を殺すと思わねぇのか!?」

 

「殺気があるならとっくに投げ捨ててるわ!!もう自分は死んだみたいな顔すんな!…っ!くそ、なんでデカいのに速いんだよ」

 

いや、殺意は俺の発言で来てたけど。元気出させる為だから!俺なりのちょっとした心のケアだから!

 

というのは置いといて、この大男。ジェラルドは強い、そして俺を殺すのに手段を選んでない。それにこの子が巻き込まれる可能性は高いし、この子は陛下に殺されると言って絶望してたんだ。

 

俺を殺して名誉挽回のチャンスをする可能性が無いように話してたんだ、恐らくもうこの子は滅却師側で生きていけない。そんなニュアンスを感じたからな。

 

「『敵でも味方でも、救える命は全て救う』俺の師であり隊長の言葉だ。俺はお前を殺すつもりもないし、自殺紛いの事をさせるつもりもない」

 

俺の後輩で俺より回道凄くてめっちゃ出世…というか他所に引き抜かれた山田清之介君なんかの感性はヤバイけどな。目の前でどんなに死にたそうな奴がいても必ず生かす、そいつの意思は関係ない。

 

そいつよりはマシだろう。

 

後さっきの言葉、師匠である卯ノ花隊長は『敵でも味方でも、救える命は全て救う』の後に『殺す奴は全員殺す』っておっかない言葉も付くな。

 

……あれ、四番隊って変人ばっかり?何か俺も片足くらいは突っ込んでそうだけど、大丈夫かな…婚活とかに響かないかな?

 

「俺はお前の卍解取ったんだぞ!?許せねーだろ!」

 

「何許されてると思ってんだよ!俺の大切な子を奪ったんだ、後でやり返すに決まってんだろ!」

 

敵の情報、洗いざらい吐いて貰うに決まってんだろ。天狐を一時的にとはいえ奪ったんだ、仲間を裏切ってでも吐いて貰う。

 

「へ?……お、お前変態かよ!」

 

「何の話してんだよ!?」

 

てか、こいつに構ってる場合でもない。スピードは俺が少しだけ上、でも流石にこのままだとやられる。てか、卯ノ花隊長との約束の時間まで間に合わねぇ!

 

鬼道で足とか攻撃しても、蚊に刺された程度にしか気にしてないのか化け物じゃねぇか!なんでこんな奴相手しなきゃいけないんだよ!

 

誰か、助けて!童貞のまま流石に死にたくないんだけど!

 

「体は奪われても、俺の心まで奪わせや……!!」

 

「本当に何の話してんだよ!?」

 

このままでも埒が明かない、とりあえず奴の動きを止めなきゃどうしようもない。だけど、この子を背負いながら戦える相手じゃない。

 

「ダメ元でも卍解を「無理だ、あいつも卍解を奪える。あいつが100人に増えるだけだ」ちっ、知ってたよ!」

 

やっぱり滅却師は全員卍解をあの円盤で奪えるのか。てか、能力までわかんのかよ!

 

……あれ、何でこの子俺の手助けしてんの?確かに、滅却師側で生きていけないのかもしれないけどそれは死神側で生きていくとは同義じゃない。

 

むしろ死神は敵だ。滅却師も敵になっただけで、俺に手を貸すか?

 

「俺は捕まったらどうせ殺される。だから……お前に命を預ける」

 

顔は見えないけど、耳元で相当覚悟をした上での言葉が聞こえた。

 

一人の少女がこれからの人生を決める覚悟をした。急に足が重くなった気がする、何というか……命の重さみたいのがズッシリと重量化したんだろう。

 

「体重は軽いのに重たい事言いやがって……。重たい女は嫌われるらしいぞ」

 

「あぁ!?お前、あんだけ俺に口弁を垂れた癖に……!」

 

後ろで何か暴れ始めそうな雰囲気を感じる。ここで暴れられたら最悪、仲良く死にかねん。

 

「任せとけ。女の子の一人や二人を守れないで、副隊長は名乗れねぇんだよ」

 

「……ぅ」

 

……あれ、何も言わなくなっちゃたんだけど?ちょっと震えてる……?

 

もしかして「副隊長だったのか……隊長じゃないのかぁ……」みたいな幻滅したのか?やめて!そんな子供の純粋な奴!耐えられないから!別の意味で足が重たくなるから!

 

俺の背中ってそんなに頼りないのかな!?

 

「っ!!」

 

すると突然、桃色の無数の光弾がジェラルドへ殺到する。それは奴に当たると同時に爆ぜ、奴の頭部や腕部を粉々に吹き飛ばす。

 

「今のは…」

 

今のは……『破道の九十一 千手皎天汰炮(せんじゅこうてんたいほう)』か!?

 

俺は鬼道で使える九十番台の破道は三つしか無い。いやこの三つしか覚える為の巻物見つかんなかったからなんだけどね?

 

他の九十番台の知識程度はある、でも実物は初めて見た。というか、誰が使ったんだ。九十番代は素人が簡単に覚える事ができる代物じゃない筈だけど……。

 

「お久しぶりですね、萩風さん」

 

「何で貴方が…ここに?」

 

浦原喜助(うらはらきすけ)、元十二番隊の隊長。今は現世で活動してるらしいが、何故ここにいるんだ?

 

あ、てか死神代行の黒崎一護君とかも居る。マジで何でいるんだ?

 

「現状は把握してます」

 

俺は把握できてない。すいません、何が起こってるかもよくわかってないです。

 

「それでいくつか萩風さんに質問がありますが、まだ戦えますか?」

 

「まだ戦えますよ…でも、あれに卍解無しで勝てる手があるんですか?」

 

正直、俺が本気を出せても無限に生き返る奴を殺す方法なんて塵一つ残さずに消し去るくらいですよ?卍解封じられてたら流石に無理だ。

 

とりあえず、女の子を元旅禍の大男に渡す。チャドって呼ばれてる子だな。流石にここからは危なさそうだし、この子には死なれるわけにはいかない。

 

ドリスコール、陛下、こいつらの情報だけでも話してもらわなければ困る。

 

「その子を頼むぞ、今だけでも絶対に守ってくれ」と伝えておき、俺は浦原さんの隣へ行く。更に隣には黒崎君、どうやら彼も手を貸してくれるようだ。

 

二人の手には既に斬魄刀が握られている、だが手数が増えた程度で勝てる敵ではない。

 

それでも、俺の隣にいる浦原喜助さんは天才だと聞いてる。何でも涅隊長よりも上の天才。凡人である俺なんかの思いつかない策を練っていたのだろう、目の前で今にも立ち上がりそうな巨人がいる中、俺へ話しかける。

 

「萩風さん、『ーーーー』は使えますか?」

 

「威力は落ちますが、『ーーーー』なら使えます。でも、それで本当に……」

 

『ーーーー』でも、勝てるのか?それで消し炭にでもする気か?だが浦原さんの策ならこの程度じゃなさそうだ。そういう、自信のある眼をしてる。

 

「えぇ、『ーーーー』が使えるなら。今から作戦を伝えます」




本屋に行かないと、売り切れてないのを祈る。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21.5話 劣勢と光明

「卍解を…奪うだと!?」

 

阿散井恋次、吉良イヅル、朽木白哉の相対する滅却師は全身を鎧で包む、他の滅却師とは違った異様な姿であった。

 

それは殆どの滅却師、そして全ての星十字騎士団の滅却師は鎧で守る必要なぞ無く『静血装(プルート・ヴェーネ)』という滅却師独自の防御術を身につけているからだ。

 

だからこそ、隊長と副隊長の3人がかりでも攻めあぐねている。鎧に守られているわけでは無いだろう、鎧は何かを隠す為のものと考えるべきだ。

 

そんな膠着した戦線を崩す為に使用された朽木白哉の卍解であったが、それは奪われてしまった。

 

「朽木家当主 六番隊隊長 朽木白哉 サンプルは採り終えた」

 

そう機械のように呟く滅却師、BG9。すると彼の手に持っている円盤、メダリオンから花吹雪が舞う。それは一度その身に喰らった事のある阿散井恋次も、噂だけでも聞いた事のある吉良イヅルも、そして元の所有者である朽木白哉には分かってしまった。

 

「後は 千本桜のデータ回収のみだ」

 

奪った卍解は、使う事が出来ることに。

 

千本桜は刃を見えない程の小さな刃へと変えて戦う斬魄刀、そしてその卍解…『千本桜 影巌』は刀の柄を含めて全てを億の刃へと変えて操る力。

 

「朽木隊長…!!」

 

その力の奔流は容易に始解状態の千本桜を飲み込み、朽木白哉へ襲いかかる。

 

「ぐ、貴様……」

 

そしてその桜色の波から現れたのは、血みどろとなった朽木白哉の姿である。千本桜の卍解は強力だ、故にそれに飲み込まれた者がどうなるのかは想像に難くない。

 

「耐えたか ならば次で」

 

無機質な声を響かせるBG9だが、そこへ阿散井の攻撃が飛び掛る。最早朽木白哉の体力どころか、命まで危ない。このままでは死ぬのは、吉良にも阿散井にもわかっていた。

 

阿散井恋次(あばらいれんじ) お前のデータも採り終えたのだが」

 

「てめぇ如きが、千本桜を使ってんじゃねぇ!!」

 

阿散井が相手してる間に吉良が回復を試みる。吉良も元は四番隊の隊士であり、回道の心得がある。だがそれでも千本桜に飲み込まれた朽木白哉は危ない、それこそ萩風カワウソや虎徹勇音、卯ノ花烈レベルの回道の使い手が必要な程に。

 

「卍解を奪うなんて……僕達はこんな奴らに、どうやって戦えばいいんだ……!!」

 

吉良もまた、絶望的な状況の打破が困難なことを察しているのであった。

 

☆☆☆☆☆

 

奪った卍解を身に纏うマスクの前に、六車達は劣勢であった。

 

マスクは滅却師でありながら弓矢を使うよりも近接戦に秀でている、また六車の卍解である『鉄拳断風』も近接戦闘の能力を飛躍的に向上させる卍解だ。

 

いくら隊長である六車拳西でも、仮面をつけた久南白でも、勝てる戦いではなかった。

 

むしろ、卍解を使うマスクを相手に怪我人の隊士達を逃す時間の確保など、よく立ち向かえていた。ただ相手が悪かった。

 

そんな相手なのだ、二人は既に限界も近かった。

 

「白!!」

 

特に、今吹き飛ばされた久南は酷い。仮面は粉々、全身の装束は白い部分が赤く染まり、いつもの快活な少女の姿はそこになかった。

 

「終わりだ、悪党!スター・イーグルキック!」

 

ただの飛び蹴りと思ってはいけない。マスクの力はプロレスの技を超強力で放つ滅却師だ。時折ビームも放つが、この飛び蹴りに耐えられる力が久南には残っていないのは明らかである。

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

だが、そのトドメの一撃は久南には届かなかった。

 

「ぁ……けん、せい」

 

そこに居たのは虚化し、仮面をつける六車であった。

 

それは単純なパワーアップだけでなく、虚閃などといった虚の持つ能力を扱えるようになった力である。

 

これを使わなかった理由は単純だが、この力は虚の力であるからだ。

 

今の六車は死神であり、隊長だ。一応は平の隊士である久南が使うのとはわけが違う。

 

同様の理由で虚化が使える死神、平子真子と鳳橋楼十郎も虚化は使わない。それこそ、自身の矜持と死神としての誇りを汚してしまうからだ。

 

だが、久南の命を守る事はその吟持を捨てる理由として十分だった。それだけである。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

「ワガハイが力負けするだと……!?」

 

そして虚化した六車は身を呈して飛び蹴りを受け止め、それを投げ飛ばす。虚化した力は強大、だがここで六車は疑問に思う。

 

なぜ虚化した程度で、卍解を纏うマスクに力の押し合いに勝てたのか?と。卍解した六車ならばこの程度では押し返されない、何かが起こっているのか?と。

 

なお、その疑問は瓦礫に投げ飛ばされたマスクが現れた事で判明する。

 

「メダリオンに異常は無いはず!ワガハイから鎧の力が……!?」

 

『鉄拳断風』の鎧が剥がれ、剥がれたところから血を流している。逆に剥がれた所の卍解は六車へと帰還していた。しかも次第に剥がれ落ちる場所は多くなっていく。

 

「卍解が、元に……!?」

 

なぜこんな事が起きたのか?先程までと六車で違うのは虚化した事だけである。

 

六車も虚化について詳しい事を知らない。藍染惣右介の陰謀により実験台とされ虚となってしまった事と、それを浦原喜助に助けてもらった事だ。

 

だが本人達の知らない更に詳しい話をすれば、この虚化はオンオフを切り替えている。

 

内在する魂魄に混じろうとしていた虚の力、それを浦原喜助は切り離したのだ。混じらせる時と、混じらせない時。その二つのオンオフを切り替えるのだ。

 

なお、例外もいる。彼らが後天的な虚化であり、先天的な虚化を身につけている者もいるからだ。

 

「シンジとローズに……知らせ」

 

六車もバカでは無い、敵から卍解を奪い返す方法の理論はわからない。だが同じ虚化の使える二人ならば、卍解を奪われずに済む。広域型の卍解である二人ならば、多数の滅却師も相手取れると。

 

「スター・フラッシュパンチ!!」

 

だが、その願いも虚しく。既に限界の近かった六車はマスクの拳で吹き飛ばされた。卍解の復活で命はギリギリ助かったが、意識を失ってしまっていた。

 

「ふむ、隊長も倒してしまったか。次の目立つ場所は……」

 

マスクはここでの戦いに満足したのか、久南と六車の命を特に考えずに自身がより目立つ場所を探す。いや考えていないのとは違う、このまま放置してれば二人が死ぬのは誰の目にも明らかなのだから。

 

そんなマスクが周りを調べていると、ある一箇所に大量の霊圧を感じる。

 

「向こうに死神の霊圧数が多い、やはりギャラリーは多くなくてはな!!」

 

そしてマスクは大量の霊圧のある場所、大量の死神が治療の準備をして待機している場所。

 

四番隊舎へと向かうのであった。

 

☆☆☆☆☆

 

「この程度か、更木剣八」

 

ユーハバッハは剣も抜かずに倒した特記戦力の1人、更木剣八を地面に投げ捨てる。

 

更木剣八は本気だった、更木剣八の実力は本物だった、更木剣八は護廷十三隊の中で誰よりも凶暴な獣だった。

 

だが、敵わない。ユーハバッハはそれを足蹴にしている、ユーハバッハにとって更木剣八はこの程度の脅威であっただけ。

 

買い被っていたのだろう、この程度しか力を持たない奴等を。

 

そうした時、ユーハバッハ達の真後ろで爆炎と共に地に降り立つ死神が居た。1000年以上死神の長として居座り、炎熱系最強の斬魄刀を片手に、その老人は現れる。

 

「久しぶりじゃな、ユーハバッハ。今度こそ、お主の息の根を完全に止めに来た」

 

山本 元柳斎 重國 。ユーハバッハを一度、殺した男だ。

 

「ジジイ…手、出すんじゃ…」

 

投げ捨てられた更木剣八だが、ギリギリ意識を保っている。流石は他の死神からも恐れられる怪物だ、それを有無も言わさずに四番隊舎へと投げる山本重國も普通ではないが。

 

口を動かせても重傷者、それでも投げ飛ばさなければならない状況なのだ。このままでは、間違いなく戦いに巻き込み殺してしまうからだろう。

 

「お前は老いたな、山本重國」

 

そう言うユーハバッハへ、ゴキリと首を鳴らすとその手に持つ炎熱系最強の斬魄刀…『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』で斬りかかる。爆炎あげて襲い掛かる攻撃をユーハバッハも腕で受け止める、それは滅却師の持つ血管に霊子を流す防御術『静血装(プルート・ヴェーネ)』があるからこそ成せる技だ。

 

「いきなりか、手を出すなよ。ハッシュバルト」

 

しかし『流刃若火』の攻撃で袖は焼き消え、腕も焼けている。更木剣八やウルキオラとの戦いでは無傷だったユーハバッハにダメージを与えたことにはハッシュバルトも少なからず驚いているが、ユーハバッハが負ける等とは考えていないようだ。

 

「はい、陛下」と返事をすると、そのまま少し離れて待機をする。

 

そしてユーハバッハは腰から剣を引き抜く。黒い刀身をしたその剣、死神の使う刀が『斬魄刀』ならば、滅却師の使うこの剣は『滅却十字(クインシー・クロス)』、斬魄刀のように卍解や始解は存在しない。

 

それを引き抜いた事を確認した山本重國は「漸く抜いたか」と呟くと、霊圧を最大限にまで高める。爆炎をあげる刀はその刀へと炎が収束している、しばらくすれば炎が消え、焼け焦げた小さな刀だけが残る。

 

卍解の失敗?いや違う、これが彼の卍解だ。爆炎を全て、一振りの刀へ収める力だ。

 

「卍解 残火(ざんか)太刀(たち)

 

彼は待っていたのだ、ユーハバッハが剣を抜くのを。何故か?簡単だ。

 

どんな言い訳もできない、完璧な勝利を収める為だ。敵の首領を完膚無きまで叩きのめし、殺すのを見せつける為だ。

 

「あの時と同じと思うでないぞ、ユーハバッハ」

 

そう言う山本重国へ、ユーハバッハは不意打ち気味に剣で切りつける。特に防御らしい防御もしない山本重國に、その凶刃は届く。

 

「何!?」

 

いや、届いていない。剣は半ばで折れて先が無くなっている。何が起こっているかと見開いた目で山本重國を見ると、彼は不敵に笑うかける。

 

「焦るでない。仕方ないから見せてやろう」

 

そう言うと、山本重國の体から灼熱の炎が吹き出す。いや、正確には炎のようなオーラを放つ霊圧だ。しかしその温度は千五百万℃と、鉄なぞ簡単に溶けてしまう温度だ。

 

「残火の太刀 "西,, 残日獄衣(ざんじつごくい)

 

それが、この技の名である。こんな防御術を持つ卍解は無い、そもそもそんな力を持つ斬魄刀が少ない。故に、総隊長の力は絶大だ。

 

「卍解した儂はその身と刃に太陽を纏っていると思うがよい。さて、お次はどうするつもりじゃ?」

 

そう言われたユーハバッハの手には折れた剣、だがそんなのは使い物にならない。それを投げ捨て、ユーハバッハは手から矢を放つ。とてつもない霊子の込められたエネルギーの矢。

 

だが、それを山本重國は片腕で受け止める。この男の卍解の防御力はさる事ながら、そのものの技量も途轍もない。

 

老いぼれの死神?違う、彼は常に最盛期。経験値を経てその力を上げていく。

 

最強の死神だ。

 

「直ぐに終わらせよう、ユーハバッハ。でなければ、儂達も尸魂界も死ぬからのう」

 

だが、そんな絶大な卍解『残火の太刀』にも弱点…というより、デメリットがある。彼の使う能力は炎、その卍解を解放している最中は少しずつ周りの水を消していくのだ。

 

同時刻に行われているエス・ノトの奪った日番谷冬獅郎の卍解『大紅蓮氷輪丸』でさえそれにより使用出来なくなる程の力だ。

 

このままではユーハバッハに勝ち目は無い、ゆえに彼は決断した。本気を出す事を。

 

「仕方ない。私の力を解放しよう、この『全…!?」

 

山本重國は本気を出そうとするユーハバッハに身構えるが、どうやら様子がおかしい。まるで力を御しきれてないような、そもそも力を引き出せてないように狼狽えているのだ。

 

「な、何故だ!?私の能力がっ…がが…ば、なんだ…!?」

 

「絶望の余りに狼狽えるか、情け無い男よ。ユーハバッハ、だがその程度で全ての死神の痛みを感じる事はできん!貴様ら滅却師の狼藉に理解は足りぬと知れ!」

 

そう言うと、腰に刀を引くと居合斬りをするようにユーハバッハへとその刀を向ける。

 

「残火の太刀 "北,, 天地灰尽(てんちかいじん)

 

薙がれたその刀の先にあるユーハバッハの体は、消えた。腕、腹、腰はまるで最初からなかったかのように消えて無くなっていた。この卍解において最強の技であるこの力は飛ばした斬撃の当たった箇所を消し飛ばす。

 

灼熱の刃に消えたのだ。それを山本重國は確認すると、卍解を解く。

 

途端に今まで消していた水が雨となって降り注ぎ、地面に横たわるユーハバッハにも降り注ぐ。確実な死を意味している、山本重國はユーハバッハの最期を見届けようと歩み寄ろうとするがそれは背後の彼方より聞こえた爆音で止まる。

 

「何、まさか……!!」

 

振り返った先には燃え上がる一番隊の隊舎が見える。

 

「Rのロイド・ロイド。哀れな息子よ」

 

そして、本物のユーハバッハが偽物のユーハバッハの前に立っていた。既に偽物は変装が解け、姿形や服装の異なった別人に変わっている。

 

「へ、陛下…申し訳ありま」

 

ユーハバッハはその能力を御しきれていないとロイドのユーハバッハを撃ち抜く。いや、撃ち飲み込むと言うべきかもしれない。

 

全身を吹き飛ばされ、残ったのは空虚な洞穴のみとなったのだから。この世にロイドがいたという証拠は、体ごと消滅した。

 

「貴様、今迄どこに……」

 

何故偽物を用意した?そう暗に聞く山本重國に対して、ユーハバッハは向き直り答える。

 

「藍染惣右介に会っていた。残念ながら我が軍門に下らなかったが、栓無い事だ。時間は余りある、永久にな」

 

それを聞いた山本重國は納得した。何故、一番隊の隊舎からこの男が来たのか?地下にある『真央地下大監獄』そこが目当てだったのだと。

 

「どうした、山本重國?まだまだ力は残ってるのだろう?」

 

「知れた事を!卍解……っ!?」

 

そして偽物はユーハバッハが藍染惣右介と語る時間を稼ぐ為なのと、山本重國の体力を削る為でもあったのだろう。

 

そしてそれは成功し、疲れが残った体に鞭打ちながら再度卍解する山本重國だが。

 

「もっとも……貴様では私に勝てるとは思えんがな」

 

「儂の卍解を、奪えたのか……!!」

 

それはユーハバッハの持つメダリオンによって奪われる。山本重國が卍解を使った理由は単純だが、自身の慢心もあった。強力な卍解はそれに見合った代償もある、底知れぬ力を奪う事なぞできない。

 

そう考えていたが、それは半分間違っている。

 

卍解は誰のものでも奪える、だが奪った卍解を制御できるかは本人の技量次第。故にユーハバッハは山本重國の卍解を奪わせなかった、その強大な力を使えるのはユーハバッハのみだからだ。

 

「さらばだ、山本重國」

 

そして、ユーハバッハは今しがた奪った卍解を一瞬だけ解き放ち。

 

山本重國の体は真っ二つに切り裂かれ、死亡した。

 

☆☆☆☆☆

 

山本重國の霊圧、それは卍解を奪われた隊長達を、圧倒的な力に屈しそうになっていた隊士達を、鼓舞していた。

 

そして山本重國の敗北と死、それはその全てを更なる絶望へ叩き落とすには十分過ぎていた。

 

ユーハバッハはこの戦場に存在する全ての死神、その心が折れていく音を感じながら山本重國の死体を足蹴にする。

 

「山本重國、半端者よ。何故私が貴様や萩風カワウソを特記戦力に入れなかったかわかるか?」

 

返事は無い、もう死んでいる。物言わぬ骸となった山本重國からの返事なぞ期待していないが、ユーハバッハは言いたい事がある。

 

それは哀れみを含む、侮蔑の言葉だ。

 

「萩風カワウソは確かに強者だ、だが人殺しの経験もない半端者だ。人殺しに躊躇する半端者に負ける事なぞ、あり得ないからだ」

 

確かに萩風は命を奪うのを躊躇っている。それは命を救うのが生業の四番隊に所属してるからこその弱さ、そう感じるのも無理はない。

 

だが、その甘さがあるからこそウルキオラ・シファーは生き残っている。虚圏でリルトット・ランパードは生き残っているが、ユーハバッハの知る由はない。

 

「そして貴様もだ。甘くなった、隻腕で何故挑む?井上織姫に何故治させない?貴様は何でも利用し、どんな手を使ってでも勝つ死神だった。だが、我等を殺してから変わった」

 

だが、山本重國の事はよくわかっている。山本重國は平和を維持する為に変わった、人を巻き込まないようにする事を重要視していた。

 

黒崎一護を巻き込まないようにしていた、井上織姫の治癒を拒んだ。死神だけでの解決、それが要らぬ犠牲を生まない解決法だと信じていたからだ。

 

「尸魂界はこれから死ぬが、護廷十三隊は我らと共に1000年前に死んだのだ!」

 

一層強く、骸の頭を踏みつけるとユーハバッハはそこから足を退ける。

 

「何?」

 

いや……退かされていた。脛の辺りの服は千切れ飛び、静血装で防御はしたが僅かに流血している。更に、気づくと目の前に刀があった。

 

それはユーハバッハの頭蓋を切り裂こうと迫り、紙一重でかわし下がると、その刀を向けて来た死神を視認する。

 

「足を退きましたか。では次は切り落としましょう、ユーハバッハ」

 

「まさか、貴様が来るとはな」

 

いつもは前で結んだ髪を後ろで一つ結び下ろし、斬魄刀を構えるその女性の死神。ユーハバッハがそのものを見間違える筈がない。

 

「四番隊隊……いや、初代剣八。卯ノ花八千流」




原作との相違点

1.戦ってる隊長と滅却師の組み合わせが違う

2.卍解奪われない方法の切っ掛けが手に入る

3.総隊長の卍解、見せ切れてない

4.ロイドが褒められない

5.卯ノ花隊長が現れる


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22.十龍転滅

続編の小説で、リルトットちゃんが生き残る事を祈ってます。


虚圏で二つの小さな影が巨人の周りを飛び回る。一人は卍解状態での超高速移動をする黒崎一護、もう一人は努力と修練だけで超高速移動の境地に辿り着いた萩風カワウソである。

 

ジェラルドの大きさは既に100mを超え、振るう攻撃全てが即死級の破壊力を持っていた。だがそれを紙一重で避けた二人は同時に技を放つ。

 

「月牙天衝!!」

 

「斬天焔穹!!」

 

2人の必殺技である斬撃、その威力に申し分はない。しかしそれは残念な事に隊長格や十刃レベルの力ならばという仮定だ。

 

既に盾を破壊し、剣を破壊した2人であるが武器がない程度でジェラルドという個は揺らがなかった。

 

「無駄だ!我に貴様らが群がろうと勝てる筈はない!」

 

それはジェラルドに有効打とはならずに弾き返される。規格外の敵であるジェラルドには効いていないのだ。直ぐに攻撃に移るジェラルドだが、それをまた2人は寸前で避ける。

 

今の2人はジェラルドに唯一優っているスピードで翻弄している。ジェラルドも有効打はあるが届いていない。俗に言う膠着状態となっているが、我武者羅に体力を減らしながら攻めていると取れる2人の特攻と、悠々と戦い不滅の体力と身体を持つと言って差し支えのない怪物との戦い。

 

これは膠着状態、だが萩風達が負けるのは必然である。

 

そして、ジェラルドも自身の勝利が揺らがないのは分かりきっている事であった。

 

「萩風、今度はどうする?」

 

「もう1回、目を眩ます。後は成り行きで避けまくれ」

 

ジェラルドからすれば鬱陶しい羽虫に過ぎない、だがそれを承知で2人は空中を飛び回る。

 

「(速い。砕蜂や白哉よりも速い!俺の全力でも同等って、どういう事だよ?これで卍解無しの副隊長かよ……!?)」

 

黒崎が共に戦う萩風を見て思うのは異常な速さだ。

 

デコイとしての仕事の殆どをこなす反射などの身体能力の高さは並みの死神を凌駕している。

 

なぜ副隊長なのか?それも四番隊の副隊長だ、逆に隊長を務める卯ノ花は何者なのかも気になる程である。

 

「我を相手に、しぶといぞ!」

 

だが、反則級の力を持つジェラルドとは戦いにすらなっていないのだ。

 

どれだけ攻撃してこようが、その度にパワーアップするジェラルドが負けるはずがない。

 

そう思っていると、遠くから声が聞こえる。その方へジェラルドが顔を向けると帽子を被った1人の死神が待機していた。

 

ジェラルドは気づいてないが、先程ジェラルドを不意打ち気味に攻撃した浦原喜助である。

 

「2人とも!準備完了しました!!」

 

その合図を待っていましたとばかりに動いたのは萩風であった。超高速でジェラルドを翻弄しながら彼の前に立つと、そのまま両手でジェラルドの瞳を貫く。大きく身体を仰け反らし、萩風を払おうと腕を伸ばすが、その前に萩風は更に眼球を破壊する。

 

「硬い体だけど、流石に目玉は弱いよな?」

 

そう萩風は呟くと両手から電撃を放つ。本来は武器や地に流して攻撃する技であるが、それを体内を破壊する為に使用する。これで少しは時間を稼げるだろう。

 

「破道の十一 綴雷電」

 

内側からの攻撃、それを受けたジェラルドの視界は完全に暗転する。

 

ジェラルドの誤算は彼等をただの羽虫と考えていた事だろう。彼らはハエやトンボではない。例えるなら蜂だろう。

 

武器を持っているのだ、人を殺す事もできる武器を。

 

だが、ジェラルドはそれを理解していなかった。

 

「頼むぞ!黒崎!!」

 

萩風が黒崎を呼び捨てにするのは初めてであったが、それを気にせず黒崎は仮面を付けて全力で霊圧を溜めると目を塞ぐ隙だらけのジェラルドの足元へ降り立つ。

 

「月牙ーーーー天衝!!」

 

そして、ジェラルドの足の腱を切り裂いた。それにより、ついにジェラルドは地面に倒れ込む。その巨大な質量が崩れただけでも災害であり、地を大きく揺らす。

 

そしてそれを確認した萩風と浦原はジェラルドから離れた位置から対称の位置に立つと霊圧を高める。

 

「「万象(ばんしょう)(かたど)無城(むじょう)石垣(いしがき)天地(てんち)()現界(げんかい)する鼓動(こどう)進撃(しんげき)」」

 

それは禁術と言っても差し支えのない鬼道の詠唱である。

 

「「(いち)破滅(はめつ)し・()消滅(しょうめつ)し・(さん)燼滅(じんめつ)し・(よん)討滅(とうめつ)し・()断滅(だんめつ)し・(すべ)てに幻滅(げんめつ)せよ」」

 

最も強力な鬼道とは何か?それは萩風のよく利用する【瞬天閃降下】でも藍染惣右介の利用する【黒棺】でもない。九十番台の中で最強の鬼道は九十番でも九十三番でもない。

 

「「()きて(のぼ)災厄(さいやく)咆哮(ほうこう)(てん)じて(めっ)する幻想(げんそう)審判(しんぱん)」」

 

それを唱えるとジェラルドを中心とした10角形の1角から一頭ずつ、龍を模った力の塊が地を裂いて現れる。その力は萩風達から直に引き出された力ではない。

 

霊脈から引きずり出したその力は、並みの鬼道とは比べ物にならない。

 

並みの九十番台の鬼道すら凌駕する力を持ち、この技が使われた環境に多大な影響を与えてしまう程の威力。

 

「「破道の九十九 五龍転滅(ごりゅうてんめつ)」」

 

十頭の龍はジェラルドへと降り注ぐと、その体を消し飛ばした。

 

☆☆☆☆☆

 

黒崎一護は離れた位置からその龍が襲い掛かる瞬間を見たていたが、その一撃は紛う事なき必殺滅却の光だった。この技で残ったのはジェラルドの残骸だけだ。

 

あの怪物には黒崎の全力も届かなかったが、その相手にここまでの攻撃とダメージを与えると思わなかった。

 

黒崎は同じ九十番台の【黒棺】を藍染から受けた事がある。確かにあれは恐ろしい技だ、だがこの技は更に恐ろしい破壊力を持っているのがわかる。それを2人で放ったのだ、途轍もない威力である。

 

「死んだ……んじゃないのか?」

 

黒崎がそう言うのも無理はく、それはどの様な者からも同じ答えが返ってくるだろう。ここまで木っ端微塵にされて、死なない奴は居るのか?ユーハバッハやウルキオラですら不可能だ。

 

「まだですよ、黒崎さん」

 

そう浦原が言うと死体から光の粒子が集まり始める。それは人の形になると、ジェラルドとなって現れる。光の鎧を身につけたジェラルドは間違い無く、今までで一番強い状態である。

 

「この程度で我は死なぬ、神は死なぬ!我はジェラルド・ヴァルキリー!最強の滅却師である!!龍程度で、神に敵うわけがない!!」

 

高々と宣言するジェラルド。絶対的な自信が表れたその言葉は慢心ではなく事実であった。だから当たり前のように、高笑いをする。

 

「……とんでもないな」

 

萩風はそれを見て思わずつぶやいた。それを聞き取ったのかジェラルドは更に笑い声を大きくする。

 

だが、萩風が驚いているのはジェラルドについてではない。

 

「流石は、浦原さんだ」

 

天才、浦原喜助に対してだ。

 

そして、ジェラルドの重心が大きく傾く。それは見ればわかるが、片足が地面に埋まってしまったからだ。

 

「何だ、貴様らは穴を掘っていたのか?落とし穴程度で神の歩む道を止められる筈も無いがな!」

 

そして突然、ジェラルドの笑い声と余裕のあった叫びが途絶える。代わりに今迄に無いほどに狼狽えた声が響く。

 

それは今の状況の異常さに気づいたからだ。地の中へ沈み込んだ足を引き抜こうとするが、どうやろうと抜けないのだ。

 

「馬鹿な、これはただの穴では無いのか?何故だ……!?」

 

どれだけ引き抜こうとしても、脱出できない。

 

それもそうだろう。これはジェラルドの思う通り、ただの落とし穴ではない。

 

すると今度は逆の片足も地を割る。だがそこでジェラルドは初めて気づく、これは落とし穴であるがただの落とし穴では無いことを。割ったのは地面ではなく、空間である事を。

 

地面を掘る落とし穴ではない。この落とし穴は、先が見えない深淵を写している。今は指先で虚圏にしがみついているが、その顔にはこの戦いの中ではなかった、恐怖が見える。

 

そして驚愕し、なぜこうなったのかわかっていないジェラルドに親切に浦原は話し始める。

 

「貴方を殺す事は現状でほぼ不可能でした。アタシも貴方を倒すのに都合の良い道具を持ち合わせてません、貴方はとても強い能力を持ってますからね」

 

浦原はそう言うと、斬魄刀でジェラルドの指を一本弾く。するとジェラルドの身体はグラリと揺れて今にも落ちそうになる。

 

「なので能力を利用させて貰いました」

 

浦原は利用したのだ、ジェラルドの能力を。ジェラルドの能力を遠目に観察し、導き出した数百を超える可能性の中であり得る事を考えた。

 

その結果、導き出した答えは「【霊王の欠片】に攻撃に使われた傷を霊子に変換する能力を有している」であった。

 

この場合、浦原の使える策は少なかった。単に物量で圧殺するのも、現代兵器に近い霊子を含まない武器を使用するのも、殆どの策が有効ではなくなるからだ。そして単純な火力で消しとばすにしても、その火力を準備するのも、試して失敗した場合のリスクが大き過ぎるのであった。

 

「虚圏の霊脈から霊子を引き摺り出し、虚圏の存在を希薄化して貴方の存在を虚圏の許容出来ない存在にまで引き上げました。貴方は、もはや虚圏にいる事はできない」

 

浦原が準備していたのは一定範囲内での霊力の濃度を減らす事である。この虚圏という世界の次元を下げ、ジェラルドそのものの次元を超えさせたのだ。

 

この世界はシャボン玉だ。その中に大小様々なシャボン玉があるが、浦原がしたのは世界というシャボン玉を縮め、ジェラルドというシャボン玉を巨大化したのだ。

 

当然、大きくなり過ぎたシャボン玉は外へはみ出てしまう。今のジェラルドの状況だ。

 

「貴方が行くのは、世界の狭間。ここに追放するのが、一番できる可能性の高い方法でした」

 

だが同時にリスクもある。

 

これは浦原達もいる虚圏そのものを破壊してしまう可能性があるのだ。他にも別の世界へと偶発的にも侵入されてしまう可能性もある。だが、その策を仕切るのが浦原喜助であったのがジェラルドの敗因だ。

 

今のジェラルドは、どの世界にも入れないレベルでの強化を行なっている。【五龍転滅】、それは殆ど禁術に近い技だ。霊脈から引き出すこの力はその周りの環境を破壊してしまう。これは破壊力だけで禁術と呼ばれるのではない、その世界の地域そのものの力を引き出す恐ろしい技だ。

 

それを二発も受けたジェラルドは間違い無く世界に触れても侵入できるような存在にはなれなくなったのだ。

 

勿論、彼が自身を弱体化させれば可能だ。だが強化前の彼を倒す方法など、浦原ならば数万を超える策を練れる。そして、今の状態で弱体化された場合でも可能である。

 

そして残念な事に、この男には弱体化するという概念がそもそも存在していなかった。

 

「貴様らぁぁぁぁ!!」

 

ジェラルドは空間の狭間へと吸い込まれるように消えていった。

 

☆☆☆☆☆

 

俺がこの作戦を聞いた時に最初に思い、出た言葉は「えげつな」である。俺も本当はこいつを殺すつもりは無かった、半殺しにするつもりではあったけど。

 

浦原さんの作戦は殺せないなら追放しようって奴だ。

 

てか驚いたわ。いきなり浦原さんから「【五龍転滅】は使えますか?」って聞かれて。一応、使えますよ?俺だって隊長目指したんですから。完全に詠唱しても8割しか威力出ないですけどね。

 

その事を言ったら浦原さんは少しだけ驚いてた。

 

え?もしかして副隊長クラスでも覚えてるの当たり前なのか!?そうなら俺はどうせ凡人ですよ!俺が30年かけて覚えたこの技はなんだったんだよ!!

 

他の奴は1年とかで覚えてんのかな!?ふざけんじゃねぇぞ天才どもが!

 

オリジナルの鬼道を作れないとなれないのかな、隊長って。雛森さんとか伊勢さんとかオリジナルの鬼道バンバンできるらしいし。俺はできないよ、そんなの。才能のカケラもありませんから……。

 

……少しだけ泣きそうな心を落ち着かせて、取り敢えず現実を見たいと思います。

 

「で、この穴を塞ぐのか」

 

バカでかい穴が虚圏に空いてる。浦原さんが「穴は大丈夫っすよ、任せてください」とは言ってたけど。虚圏無くなったらどうすんだろ、エミルーちゃん達とウルキオラ位なら家に居候させられると思うけど。

 

俺って趣味らしい趣味も無いし、金だけはあるからな。貴族街の高級料亭にも行き放題なくらいにはな!虚しくなるから2度と一人で行かないけどな!!

 

虎徹さんとか誘って練習したいけど、果たして了承してくれるんだろうか……貴族の砕蜂さんでもいいか。前は奢ってもらっちゃったけど、今度はあの人に土下座して「俺を(女の子から見て恥ずかしくないような作法を使える)男にしてください」って頼み込むか。

 

もしくは大前田副隊長に可愛い妹がいるらしいから、そこら辺からブルジョワな生活での作法を聞いてみるか?

 

「何、まさか……黒崎さん!萩風さん!穴から離れてください!」

 

そんな事を考えていると地面が揺れる。虚圏でも地震とかあるのか〜…とかじゃないよな。俺の目の前にデカイ指見えるし。間違い無くあいつが戻ろうとしてる。

 

「本当に、神様なのかもな。この怪物」

 

浦原さんも焦ってる。というか、俺も焦ってる。卍解した俺の最高火力があればはたき落とす程度は可能だろう。だが今のところ卍解も出来ない俺は雑魚である。

 

「負けぬ。神が敗れる事は無いのだ!我が神罰を与えるのだ!」

 

このままでは手遅れになる、俺にだってまだ切り札は残ってるがここで使っても良いのか?試すのもヤバイ鬼道だ。

 

「っ!?萩風さん、その鬼道は……まさか」

 

時間は無い、俺は懐から俺の血を煮詰めて高濃度にした物が入った瓶を片手に今にも出てきそうなジェラルドの真上に飛ぶ。

 

すると頭に輪っか、背中に羽を広げた巨人がいる。ジェラルドだ、とんでもない奴だ。俺が今迄に戦った奴の誰よりも強い怪物だ。

 

なら、これしか俺が奴を落とせる技は無いだろう。

 

「破道の九十六」

 

この禁術は恐ろしい。焼けた我が身を触媒として初めて発動する犠牲破道だ。火力はとてつもない、そしてこれを我が身で行ったら触媒となった体は無くなる。

 

そんな危ない技、覚えたく無かったが俺はちょっとした裏技を使う。と言ってもこんなの誰でも思いつきそうな裏技だ。

 

血液と僅かな肉片しか無いが、威力は大して変わらない。何故かって?この血、本来の120倍は濃いドロドロの物だから。腕の一本よりも、濃い俺の情報が入ってる。

 

何でこんなのあるかって?こんな破道覚えなきゃ準備してないからだよ。自分の体をぶっ壊すとか、こんなの使う奴居るのかな……居たらバカなんじゃないかな。

 

一刀火葬(いっとうかそう)

 

瓶を割り、赤くヒビ割れた血液は全て霊子に変わると灼熱の刃となった。その大きさは本気を出しただけあり、卍解した程の威力は出なくともジェラルドを貫き世界から弾き出した。

 

エミルーちゃん達をボコボコにした罪は重い。だが殺しはしない。

 

「この我が、我がぁぁぁぁぁ!!!」

 

殺しはし……ん?

 

……おかしいな、威力こんなに出る技だったかな。100年前とかに試しに使った時に比べて7倍くらい威力が違う気がする。

 

ジェラルドを消し炭にした気がする。

 

「神様だとしても、神様並みの知性を持ってないなら、宝の持ち腐れなんだろうな」

 

浦原喜助が居なかったら負けてた。黒崎一護は……まぁ居た方が楽だった。俺1人で勝てる奴じゃなかった、隊長レベルの実力者が本気を出せる状況でないと勝てない怪物なんだろう。

 

日番谷隊長や総隊長辺りならタイマンで倒しそうだよな、焼いたり凍らしたり。隊長ってヤバイ。

 

とりあえず俺は塞がれていく穴を見ながら。

 

「……終わったか。とりあえず治療……ん?」

 

ウルキオラ達の治療時間を考えて、思い出す。時計を軽く確認すると、現時点で1時間ほどの遅刻が確定していた。

 

「あ、終わった……う、卯ノ花隊長に殺されないよな……?」

 

約束を破る男も、時間に遅れる男も嫌われるよな。そんな所虎徹さんとか女の子の死神に見られたら……!!

 

冷静になった頭を抱えるのであった。卯ノ花隊長からの何年振りかわからないお説教を考えたくも無いのであった。




Q.虎徹三席との噂が囁かれていますが、その件についてどう思いでしょうか?

萩風「俺の心が抉れるんで、回答は控えさせえください……」

Q.砕蜂隊長がそろそろ婚活を始めると言われてますが、見合いを行ったというのは事実でしょうか?

萩風「そんなのは無かったですよ?砕蜂さんとは偶に貴族街の御飯に誘われて、そう言う所だと『どれすこーど』っていうのが大事な所だから高そうな服に着替えて、美味しい御飯食べたり庭園を散歩したりする程度の仲ですよ」

Q.卯ノ花隊長から「身を固めないのですか?」と心配されてるそうですが、どうなのでしょうか?

萩風「回答は差し控えさえてもらいます」

Q.卯ノ花隊長から「独り身は、寂しいですよ?」と言われたのは事実ですか?

萩風「俺の心を抉るので、回答は差し控えさえてもらいます……」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22.5話 希望は何処か

資格受けてて遅れました。取り敢えず株主に帰属する当期純利益は見たくない。2月に再チャレンジとか、見たくないなぁ……

あ、それと12月4日にBLEACHの小説の完結作が来るみたいですね!二巻は中々厚みがありましたが、楽しみです!


路地の裏に隠れる死神が、そこにはいる。一人は左の脇腹の辺りが赤黒く染まった羽織を身に付ける長い白髪の死神。もう一人は死神にしては袖が無い珍しい服装であり、頬には数字の『69』が刻まれている。

 

十三番隊の隊長である白髪の死神、浮竹十四郎は満身創痍であった。隣では浮竹程では無いがボロボロの九番隊の副隊長である檜佐木修兵が周りを警戒している。

 

今の浮竹は強力な電撃技を食らってしまい、腹に大きな穴が空いている。唯一の救いは火傷によって止血は行われている事だが、これ以上戦うのは難しいだろう。

 

そもそも、浮竹は体が弱い。これは隊首会を欠席する程に重く、今日も良いわけでは無かった。だからと言って、200年以上も隊長を続けている浮竹は簡単に敗れる死神では無い

 

「申し訳ありません、俺を庇って……」

 

「気にするな、俺も防ぎ切れなかった……」

 

この攻撃は檜佐木を庇って負った傷である。双魚理で防ぎ切れなかった攻撃が貫通したのだ。

 

檜佐木修兵は決して弱い死神ではない。むしろ、斬魄刀の破壊力は始解にしては大きい。隊長程では無いが、間違いなく強者だ

 

この傷を負ったのはどちらも悪くない。真の悪は二人が相対した、卍解を使う滅却師だ。天候を操る、卍解を使って来たのだから。

 

「(最悪だ……元柳斎先生が殺されて、護廷十三隊の士気が目に見えて落ちてる。俺はまともに動けない……いや、俺だけじゃない。京楽や他の隊長たちの霊圧も弱ってる。せめて、敵の幹部を一人でも倒せれば……)」

 

そして浮竹は自身の体の状況、護廷十三隊の状況を冷静に分析する。現状は絶望的だ。卍解は使えない、総隊長は死亡、ただただ蹂躙されている。一方的に、蹂躙されている。

 

増援は期待できない。幹部格を一人として落とせていない。既に副隊長にまで被害を出している浮竹達死神とは違うのだ。

 

「(このまま、状況が好転するきっかけが無ければ……)」

 

護廷十三隊は、完全敗北する。

 

だが、そのきっかけを生み出せない浮竹は奥歯を噛み締める。どうすれば良いのか、他の隊長達も考えているはずだ。現状を打開できる、一手を。

 

卍解を取り戻せる、卍解を奪うのを阻止する。そんな方法があれば間違いなく希望となれるだろう。

 

だが、今すぐに出来るほど楽ではない。

 

どうしたものかと頭を抱える浮竹だが、そこで二人は針で刺されたような鋭い霊圧を感じる。

 

「この霊圧は…!!」

 

檜佐木はその霊圧に困惑している。そう、困惑しているのだ。歓喜ではなく、困惑だ。その霊圧を感じ取って、誰の霊圧なのかわかる死神は恐らく少ない。何故ならこの霊圧を放つ死神は本気で戦う事なぞ殆ど無く、普段は戦うフィールドが違う。敵を倒す死神ではない。

 

本来ならば待機命令を受けていたはずの死神だ。

 

「卯ノ花隊長か……」

 

卯ノ花烈、護廷十三隊の中では実力を疑問視する者が多いが護廷十三隊では指折りの実力者である。

 

浮竹は彼女の実力を知る、数少ない死神だ。恐らく、護廷十三隊において彼女以上の剣技を扱える死神は存在しないだろう。鬼道の腕もあり、霊圧も高い。そこらの死神が束になっても戦いにすらならないような死神なのだ。

 

初代剣八、初代最強である。

 

「これが、卯ノ花隊長の霊圧……!?何て、力強い霊圧なんだ……」

 

浮竹は檜佐木の目を見ると、そこに希望が見えたのに気づく。そしてそれは檜佐木だけではないようで、護廷十三隊の死神達が鼓舞されているのにも気づく。

 

だが、浮竹の顔色は良くなかった。体調の問題ではない、檜佐木の目を見ればわかるのだ。

 

「これでも、勝てるのか……?」という、諦めにも似た敵の強大さに希望が霞んでいるのだ。だからだろう、総隊長が出陣した時に比べて護廷十三隊の死神達から強い覇気が感じられない。

 

「(時間の問題だ。卯ノ花隊長と言えど元柳斎先生を殺した奴に卍解無しで戦うのは……何か、他の希望が無ければならない。このままでも、駄目だ)」

 

いくら初代剣八と言えども、相手が悪い。確かに卯ノ花は強い、だが卍解を封じられて戦える相手ではない。さらに総隊長の卍解を奪われているのだ、剣技だけでどうにかなる域を超えているのだ。

 

「(今の護廷十三隊には、卯ノ花隊長以上の希望が無い。鬼道に長けた死神でも、戦えるかどうかすら怪しい相手だ……隊長の俺が、いつまでも休んでいられない……!)」

 

そう考えると居ても立っても居られない、浮竹は無理矢理に起き上がり立ち上がる。

 

「浮竹隊長、今は動かないでください!隙を見て四番隊に」

 

だが隣にいる檜佐木がそんな状態の浮竹に無理をさせるわけにもいかない。浮竹に休むように手を貸しながらも座らせようとするが、そこで向かおうと考えている四番隊の方向に嫌な気配を感じる。

 

「この霊圧……!!あの野郎!!」

 

それは浮竹も感じ取っている。数は雑兵を含めれば200人を超えるが、真なる脅威は5人だ。その中でも檜佐木が熱り立つのは先程まで戦い浮竹に重傷を負わせた滅却師だ。

 

「卯ノ花隊長が居ない状況で、今の四番隊は不味い……!!」

 

そう言うと、浮竹は言う事を聞かぬ体に鞭を打ちながら駆ける。そしてその後に檜佐木も追従する。各所で隊長や副隊長を負かした滅却師が集結する、四番隊舎へと全力で。

 

「間に合ってくれ……」

 

檜佐木がそう呟くも、既に戦闘が始まっているのに心の中で舌打ちをしていた。

 

☆☆☆☆☆

 

皆を集めた虎徹勇音は隊長と副隊長の不在を皆に告げた。先程から始まったユーハバッハとの戦闘で放たれた霊圧で、勘づいている隊士もいるようだが、副隊長の不在と隊長が敵の首領と戦っていることに関しては大きな動揺を生む。

 

副隊長は殺されたのではないか?と思う者も多いようで、前者には絶望感に包み込まれていたようだが、後者は隊長が戦えること、そして感じる霊圧が卯ノ花隊長の本気ということに驚愕しているようだ。

 

卯ノ花の目的、護廷十三隊の希望へと一時的になる事は成功しているようだ。今の護廷十三隊は大半の隊長格が敗北、もしくは劣勢なのだ。これ以上、敵に好き勝手をさせない為にも『命を賭し、総隊長の命令を初めて背いた』のだ。

 

だが、これは護廷十三隊の精神的な問題だ。今の虎徹達四番隊の抱える問題は希望などではなく、自身の命を、護廷十三隊の命を失うような事態であり、最悪と言って差し支え無い程に深刻である。

 

「他の隊への応援要請はできましたか?」

 

「先程、十二番隊の隊舎も襲撃されたようで連絡がまだついていません!ですが、難しいかと思われます……」

 

「ありがとうございます。引き続き対応を続けてください!」

 

虎徹はいつもの弱々しい声を出さずに、できるだけ気丈に振る舞う。慣れていない行為なのか、彼女の体がガタガタと静かに小さく震えているが、それを押し殺し、言うことを聞かせるように声を張り上げる。

 

「虎徹三席、我々はどうすれば……」

 

不安そうな隊士達の声が辺りから聞こえる。無理もない、外から感じるのは数百の滅却師の兵士だ。

 

更に率いるのは隊長格に引けを取らない滅却師が5人だ。この群を見て、打つ手がないのは誰の目にも明らかだった。それが、全て四番隊へと立ち塞がる隊士達を斬り伏せながら突き進んでいる。

 

今起こっているのは、護廷十三隊の戦闘後の隊士達の命に関わる問題なのだ。ここを捨てるのは簡単だ。だが、捨てては救える命をすくえなくなる。しかし虎徹勇音がどう頑張ろうが勝てないのはわかっている。

 

だからと言って、諦めるわけにはいかない。虎徹は何をしてでも守り切る覚悟を決め、檄を飛ばす。

 

「毒ガスで時間を稼ぎます!私の研究室か、足りなければ萩風副隊長の研究室から『赤い血のような黒さのある薬瓶』と『白緑の蛇の浸る白の薬瓶』を持ってきてください!調合は7:3で、解毒剤の『黄色の魂魄草が浸る透明な瓶』も確保してください!私が『天挺空羅』で伝令を送ります!遅滞戦闘に専念して、無理をしないで!絶対に、敵を倒す事を考えないでください!」

 

虎徹は三席として、副隊長と隊長が居ないこの場所を守る使命があるのだ。いつものおどおどとした態度は無い、あるのは皆を導く席官としての堂々とした姿である。

 

気づけば、体の震えも止まっていた。

 

「ですが、それで何を待つのですか!?」

 

だがそれで隊士達も、虎徹も騙されるわけがない。各所で護廷十三隊の隊士達が敗北したからこそ、ここまで攻め込まれてしまっているのだ。増援なぞ、来るはずがない。

 

そもそも、虎徹の知る限り四番隊にある薬瓶で調合しても大した効力を持つ毒ガスを撒けない。少量を吸って殺傷できるほどの毒ガスは作れない。作れても、時間がない。そもそも、撒けても焼き払われたり、散らされたりはするのは目に見ている。本当に時間稼ぎにしかならないのだ。

 

涅マユリの卍解である『金色疋殺地蔵』のような力は持たないし、広範囲に散布しても解毒剤が足りなければ護廷十三隊の首を絞めてしまう。八方塞がりの中で虎徹の導いた策では、四番隊は勝てないが延命はできる。

 

いや、今の虎徹には延命しか考えていない。他の隊が惨敗してるのだ、四番隊が勝てるはずが無いのはわかってるのだ。

 

「必ず増援が来ます。それまでここを死守するのです!」

 

だからこそ、虎徹はそれを押し通す。気の利いた言葉は無い、今の状況を好転させるような考えもない、今の虎徹にできるのは信じて待つ事だけなのだ。

 

少なくとも、一人だけ増援にあてはある。だがそれだけで事態が好転出来るほどの高望みはしていない。敵の軍勢を前に皆の心が折れかけている、他の増援が来るまでの支えになれるなら良いのだ。

 

だが、彼ならば何とかしてしまうのでは無いか?という確信めいた何かを感じている。四番隊の、虎徹の希望は隊長である卯ノ花だけではない。

 

「更木隊長の治療は田中四席にお任せします。そして、戦える者は私と共に時間を稼ぎに行きます!ついてきてください!」

 

自身の斬魄刀を腰に下げ、四番隊の中で比較的まともな戦力を連れて行く。だが、比較的だ。

 

四番隊は後方支援、他所の隊に比べれば貧弱としか言えない。そのせいで隊長や副隊長ですら『弱い』と言われているのだ。

 

だが、虎徹は知っている。

 

隊長と副隊長の本来の実力を。

 

「(早く戻って来てくださいよ、萩風副隊長……!!)」




Q.貴方の考える理想の女性はどんな方ですか?

萩風「少し頭が悪くて……天然とは違うんだよね。無垢な幼さがあるって感じか?胸は大きい方が好ましいけど、顔は美人タイプより可愛いタイプ。抱きつかれるより抱き付きたい感じで……今のところ、タイプにど真ん中なのはエミルーちゃんです」

Q.死神では?

「死神なら、虎徹さんかな。あと最近になって……砕蜂さんが可愛く感じ始めたんかな。砕蜂さんは近々誰かと婚姻を結ぶ予定って風の噂で聞いたから、取り敢えず相手を嫉妬(薬剤)で不幸せにしたら殺す。あ、顔はタイプだよ。最近は彼女の色んな面が見えて……あれ、もしかして死神の中だと一番好みに近い性格かもしれない。意外と可愛い性格だし……俺が隊長でイケメンならなぁ……」

Q.砕蜂さんから婚姻を申し込まれたらどうしますか?

「カウンセリングですね。どう錯乱したかはわかりませんが、辛いことがあったのかもしれませんし……友人として親身になって、相談に乗りたいと思います」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23.初代剣八

今回、長いです。

卯ノ花隊長を多少魔改造したかもしれないけど、あまり違和感を感じない自分がいます。


雨を雑巾のように絞り切った曇天の下で行われるその撃ち合いは、尸魂界の歴史に残るのに異論ない戦いだろう。

 

地は裂け、空気は震え、瓦礫が舞い踊る。その隙間を縫うように、2人の怪物がぶつかり合う。

 

「破道の七十八 斬華輪(ざんげりん)

 

卯ノ花が放つ鬼道の刃は、地を割いてユーハバッハへと向かう。それを確認したユーハバッハは自身の剣で弾くが上手く捌ききれない。これはただの鬼道の刃ではない、空を切り斬撃を飛ばす卯ノ花の剣術との複合技だ。

 

「卯ノ花八千流、腕を上げたな」

 

「えぇ、刺激的な毎日を送っていましたからね」

 

「成る程、萩風カワウソの影響か」

 

それを受けたユーハバッハはニヤリと笑うと、片手で滅却師の使う滅却矢を放つ。

 

「縛道の八十一 断空(だんくう)

 

そして卯ノ花はその矢を空に現れた透明な盾で防ぐ。どちらも譲らない、滅却師と死神を引っ括めても最高レベルの実力者だ。一瞬、一瞬の刹那の間隙に幾重にも重なる攻防が繰り広げられている。

 

「縛道の九十一 雁字縛(がんじしばり)

 

そして卯ノ花は影のように地面を這う黒い力の流体を襲わせる。縛道の術は多岐に渡るが、これは縛道においては異質な力だ。本来、縛道は文字の通りに敵を縛り、捕まえる力だ。

 

これもそれに類するが、根本的に違うのはこの縛道は敵を攻撃する事だろう。無論他にもある、だがこの影は相手を貫き殺す。

 

敵をじわじわと追い詰め殺す事に特化した、縛道である。

 

「小手先の技で、私を倒せると思っているのか。ならば甘いとしか言えぬぞ、卯ノ花八千流!」

 

だが相手は滅却師の王、簡単にはいかない。這い寄る混沌の闇を全て弾き、避ける。確かに強力な力だ、全方位から襲い掛かるこの技は初見殺しでもあるが、ユーハバッハは苦もなく払い除ける。

 

「そちらこそ、本気も出さずに私を相手できると思われるとは。甘く見られたものですね」

 

だが、これは卯ノ花の文字通り小手先の技だ。本命は彼女自身であり、影に気を取られていたユーハバッハにそのまま近づくとその脇を斬りつける。

 

剣技において卯ノ花は護廷十三隊最強、それはユーハバッハも超えている。

 

「貴様程度に、私の力を使うまでもない。卯ノ花八千流、貴様を何故特記戦力にしなかったと思う?」

 

だが斬りつけた箇所に流血は見られない。よく見ると血管が浮かび上がって攻撃が防がれたのがわかる。滅却師の防御技である静血装だ、だが卯ノ花は気にもとめずに斬りかかる。

 

「その防御術で私の剣を攻略できるとでも思っているのですか?確かにただの斬撃では傷すらつかないようですね。ならば……貴方の防御の追い付けない次元の速さで斬るだけです」

 

卯ノ花の斬撃の速度が更に上がる。ユーハバッハもそれに追いつかなくなってきたのか、衣服に切り傷が増えていく。防御術でダメージは受けていないが、時間の問題だろう。

 

「貴様の剣術は他の滅却師には脅威だろう。萩風カワウソのような甘さもない、だが貴様……何故、今になるまで戦わなかった」

 

にも関わらずに、ユーハバッハに焦りもなければ動きもない。先程から変わらないのだ、劣勢であるならば何か新たな手を打たなければ負けてしまうのが分かりきっているはずなのに。

 

「貴様は所詮、上からの命令に従うだけの愚図だ。判断も遅く、萩風カワウソのように予期せぬ事をしない……いや、できない。利口になってしまった、角が取れてしまった、貴様は」

 

虚勢とも取れる余裕を見せるユーハバッハ、その言葉を遮るように卯ノ花は特大の斬撃を撃ち込む。それにはユーハバッハも至近距離で受け切れないと理解し、直ぐに下がりながら捌ききる。

 

距離が空けば有利になるのは弓を使えるユーハバッハ、卯ノ花も鬼道を使えるが近接戦闘の方が得意だ。だが距離を空けた、それがユーハバッハには少し理解できていないようだが、卯ノ花は嘲るように呟き始める。

 

「世迷言を。私が臆病者と言いたいようですが……私が動かなかった理由なぞ、簡単ですよ」

 

そして、卯ノ花は今迄に無いほどに特大の霊圧を身から放つ。

 

ユーハバッハは初めて、余裕のあった表情が揺らぐ。と言っても一瞬だ、だが一瞬でも揺らがせるほどの力を放っている。何故ユーハバッハが揺らいでしまったのか、それは想定外だからだ。

 

総隊長である山本重國や特記戦力である更木剣八という脅威を破ったユーハバッハに、零番隊以外に更なる壁が現れるとは思いもしなかったからだ。

 

「総隊長や他の隊長達が全てを解決していました。だからこそ私が動く必要が無かった、それだけの事ですよ。ユーハバッハ、貴方が私を見誤った代償は大きいですよ?」

 

卯ノ花八千流。彼女は最も警戒を怠ってはならない死神だったという事にユーハバッハは気づく。卯ノ花の実力を過小に評価していた、彼女は自身の障害となる敵である事を認識したのだ。

 

だが、それでもユーハバッハの顔には焦りがカケラも見られない。ニヤリと笑う彼は卯ノ花からすれば不気味だろう、だが彼女も一撃で滅却師の王を倒せるなぞ楽観視していない。

 

「片腕から貰いますよ、ユーハバッハ!」

 

勝機はここだ、卯ノ花が霊圧を高めて刀を振り続ける。隙ができる、どこかで必ずできる。そう思い、振る卯ノ花の斬魄刀は明確な隙を見つけ出す。

 

「(もらった!)」

 

卯ノ花は斬魄刀を振り抜く。鮮血が舞い、卯ノ花の刀を伝ってユーハバッハの血が流れる。

 

「っ!?」

 

だが、地面にユーハバッハの腕は転がっていない。代わりに、折れた卯ノ花の斬魄刀の刃先が地面に突き刺さっている。

 

確かに傷はついた、だがそれは擦り傷のような浅さの傷だ。折れた刃先が掠っただけだ。なぜ擦り傷程度で今の攻撃を防げたのか、卯ノ花は理解できない。

 

「(折られた?どこで?今の動作の何処にそんな事ができる隙があった?いえ、それ以前に私が気づかない内に斬魄刀を折れる筈が……)」

 

卯ノ花が心の中で激しく取り乱す。何処にも避けられる程の動きはなかった。剣を折られる要素や可能性なぞ存在しなかった。今の攻防において、負ける要素は無かったはずだった。

 

そしえ戸惑う卯ノ花にユーハバッハは「どうした。まるで敗北する未来が見えていなかったような顔をしてるぞ」と、見事に彼女の胸中を見破る。

 

「卯ノ花八千流、素晴らしいぞ。特記戦力にする程では無いが私への十分な脅威だ、それこそ山本重國以上の。ならば……使うのも仕方の無い事だ」

 

彼が目覚めてから、この力を使うのは2度目だ。

 

本来ならば卯ノ花が卍解も使わずに対応できる程度の実力のユーハバッハに、ウルキオラが敗北する事なぞあり得ない。ウルキオラは最強の破面、最強の死神であった山本重國とも渡り合える実力を有している。

 

更に詳しく言うと、卍解を使った山本重國とだ。

 

ならば何故、卯ノ花が渡り合えいてたのか。それは基本能力だけで戦えるという甘い考えをユーハバッハがしていたからだ。さらに言えば、彼は奪った山本重國の卍解も使っていない。

 

それは卯ノ花も不可解に感じていたが、彼の能力の片鱗を感じた彼女は卍解を持ってるか否かなど誤差に過ぎないと感じ取る。

 

「『全知全能(ジ・オールマイティ)』、貴様等死神が私に勝つ事を不可能にする能力だ」

 

神にも等しい力の片鱗を振るえるのを、卯ノ花は本能で感じ取ってしまっていた。

 

☆☆☆☆☆

 

毒ガスの散布、それは一定の戦果を出している。数にしては雑兵を50人程度は殺せただろう。だがこれだけで勝てると思い上がる虎徹ではない。

 

もって数分というのは虎徹もわかっている、だがそれでも構わないとわかっていてこの戦果は十分だろう。

 

「っ!!」

 

虎徹勇音だけが感じた、絶望。

僅かな霊圧の揺らぎと敵首領の言い様のない不気味な気配。これが何を意味するか、直ぐに虎徹だけは理解できていた。

 

他の隊士たちは鼓舞され、士気も回復の傾向にある。それは一重に卯ノ花の自殺紛いの特攻のおかげだ。敵の首領と、総隊長を殺した滅却師との一騎打ちの戦い。

 

誰もがすぐに敗北する、殺される。そう思っていた中で、彼女が戦い続けているだけで士気は回復したのだ。勝てるかもしれないと、隊士達に希望を与えたのだ。

 

だが虎徹の心は最初から絶望に染まっている。別に、卯ノ花の実力を信用していないわけではない。卯ノ花八千流は剣術において最強、それは紛う事ない事実。

 

しかし、今の卍解が使えない状況で勝てる程甘くない。虎徹には最初から現実が見えていた、見えてしまったから予期できていた。

 

「(卯ノ花隊長が……このままじゃ、死……!)」

 

そして優勢に感じていた中で形勢が逆転したのを感じ取ったのだ。

 

即ち、卯ノ花の敗北。勝敗は最初から決まっていたとも言える、だがそれでも抗うのを卯ノ花は選んだのだ。虎徹もまたそれを送り出したのだ。

 

「ガスが……!!」

 

そして、不幸は連なる。今まで四番隊舎迄の道を遮っていた毒ガスが雷撃で焼き払われ、冷気で吹き飛ばされる。

 

毒ガスが焼けた事により黒煙と変わり、その中を悠々と歩み前進してくる滅却師達を死神達は感知する。

 

「いやー、罪だよなぁ!圧倒的な力の差ってのは、罪だよなぁ!えぇ!そこの死神さんよぉ!」

 

ドリスコールは雷を片手に高笑いをしながら、毒ガスの撒かれていた地域から抜け出す。また、その後ろから続々と滅却師達が現れる。

 

ドリスコール、マスク、バズビー、エス・ノト、バンビエッタ。5人の星十字騎士団とそれに追従する雑兵150人。これを死神の戦力で例えるならば隊長や副隊長レベル5人と隊士150人だ。

 

非戦闘員が大半を占める、四番隊の手に負える数でも怪物でもない。

 

「虎徹三席、増援は期待できません。どうしますか……?!」

 

「時間を稼ぎ続けます。私が死のうと、必ず稼ぎ続けます」

 

不安がる隊士の声を一蹴すると、虎徹は他の隊士の目を見る。卯ノ花隊長の影響で悲観的に全てを捉える者は少ない。ここを持ち堪えさせる程度の力と士気はあるのを確認すると、虎徹は敵を見据え叫ぶ。

 

「隊長が戦っておられるのです!私達が膝を折るのは私が許しません!卯ノ花隊長が敵の首領を撃ち取り帰る場所は、私達が守り抜きます!」

 

それに呼応し、隊士たちは雄叫びをあげ士気を更に高める。普段の彼女からは思いも寄らない姿に心打たれたのだろう、副隊長と隊長の不在時にできる限りの仕事を彼女はやっている。

 

そして、図らずともそれは敵の雑兵を威圧する事に成功している。ユーハバッハと卯ノ花隊長が戦っているのに気づいていても、どういう展開かを読めないからこそでもあろう。

 

「なんかうっさい奴等ね、本気で陛下に勝てると思ってんのかしら」

 

「勝てるわけ無いだろ。というか、もうほぼ陛下の勝ちだな」

 

「ソウダネ。陛下ト戦ッテル隊長ガ弱ッテル、大シタ事無イネ」

 

だが、星十字騎士団の5人は至って平常だ。陛下という絶対的な存在が負けるとカケラも信じていない、そう言うメンツの集まりだからだろう。自分の力を信じているからこそ、それを超えるユーハバッハが負けるはずが無いという事を。

 

「あいつら貰うぜ、オレが強くなるのに必要だからなぁ!」

 

バンビエッタ達はドリスコールが進んで敵を殺していく事に異を唱えるつもりは無いようで、それを好きにやらせる。今の星十字騎士団に下された命令は一つ、尸魂界の蹂躙だ。それを勝手にやろうとしているのだから、無理に動く必要が無いならば3人は動かない。

 

「待て!ワガハイがそれでは目立たん!」

 

「それじゃ、オレが強くなれねーんだよ!!」

 

だが目立つ事を信条にしてるマスクがそれに待ったをかけようとするも、直ぐに雷撃が向かう。

 

先ずは横から削り取って行こう、そう思い放たれたそこには30人ほどの隊士たちが固まっていた。ドリスコールの持つ聖文字はO、能力は『大量虐殺(ジ・オーバーキル)』。殺せば殺す程力が増す能力、そこに向けて奪った卍解を投げつけるのは効率的な攻撃だ。

 

着弾と同時に目を開けるのも難しい閃光と衝撃波が吹き荒ぶ。だが、なぜか着弾したのは地面ではなく空中であった。

 

「あ?んだこりゃ」

 

ドリスコールが目を凝らすと、そこには透明な盾が四番隊舎を覆うように展開されている事に気付いた。今の攻撃がこれに防がれたのはわかるが、着弾し破壊された盾は直ぐに修復されている。

 

「……準備をして、正解でしたね」

 

虎徹は若干疲れの出た声で呟く。

 

断空結界、それがこの結界の名だ。『縛道の八十一 断空』を結界のように重ね、囲う結界である。その防御能力は『九十番代未満の破道の無効化』という程の強固さだ。それを多重に展開するのだ、卍解と言えど簡単に突破はできない。

 

だが、同時に果てしない量の霊力が必要となる。これを個人で展開、維持できる死神は存在しないだろう。だが、個人でなければ可能な事である。

 

透明な盾のドームは四番隊の隊士たちの霊力によって維持されている、ただ各所に置かれた装置に霊力を送るだけで維持できる結界だ。これは元からあったものではなく、虎徹の指示で作らせた防衛システムだ。

 

非戦闘員が大半を占めるこの隊で有効な防衛能力を使うのに、これは適していた。

 

「よえー奴が小賢しい事するじゃねーか、でもよえー奴のやる事なんざ大した事ねぇんだわ!」

 

だが、あっさりと破壊される。虎徹は鬼道に長けた死神というわけではない。この技も急造し、有り合わせで作り上げた理想とはほど遠い試作品であり、様々な触媒を用いて毒ガスで稼いだ時間を使って作り上げた結界だ。

 

しかし、所詮は急造。ある物を用いて作り上げた間に合わせの結界、卍解の力を何発も受けられる程の力は持っていない。

 

「(白兵戦は最終手段、まだ手はあるけど……こんなやり方をしてきたら、どうにもできない……!ここを死守するには、何もかもが足りてない……!!)」

 

そして虎徹は断空結界が崩壊した無茶苦茶な力技を目の当たりにし、慣れない疲労と強張る身体が自分の動きを止めていた事に気づく。

 

この戦力を相手にするのは、荷が重過ぎる。むしろよく持たせた方だ、他の隊では白兵戦が主体だ。白兵戦が主体でない四番隊だからこそ、遅延に徹したからこそ稼げた時間だ。

 

だが、もはや遅延できるような技も罠も無い。

 

「虎徹三席!?」

 

気づくと、虎徹は地面に倒れかけていた。他の隊士の声や自身の気迫で踏み止まり倒れるのは避けたが、それでも膝を折り手を地べたへついてしまう。

 

「まだ、私は……!」

 

虎徹の疲労の原因はシンプルである。霊力を使い過ぎたのだ。

 

仕掛けた罠の数々、だがそれには当然維持するだけの力が無ければならない。他の隊士達も勿論霊力を送っていた、だがそれは展開された罠にだ。いつでも展開されるように準備をしていた罠の全て、虎徹が維持していたのだ。

 

無論一人では無い、だが全ての維持に霊力を送っていたのは虎徹だけである。

 

「無茶をし過ぎですよ!どれだけ結界に霊力を送って……」

 

そして、無理が祟った結果が今だ。霊力の供給が止まり、準備されていた全ての罠が止まる。これが何を意味するのか、わからない隊士達ではない。

 

「お、終わった……」

 

そう呟き、何人かの隊士は完全に戦意を失う。目の前で結界が崩壊された事や新たな罠が使えなくなった事も大きいだろう。だが真に受け入れ難い事実は、首領と戦う卯ノ花の劣勢が平の隊士でも感じ取れるようになった事だろう。

 

「よぉー、死神ども。ひーふーみーのー…80人程度か、中にはもっと居るみてーだし、暫くは楽しめそうだなぁ!」

 

そして、遂に四番隊舎の敷地内に彼等は侵入してきていた。罠はない、戦力もまともに無い。隊長、副隊長は不在。それに次ぐ三席も満身創痍。

 

「先ずは、お前からやるぜ。その方が面白そうだからな」

 

回復を受けている虎徹に向け、ニヒルに笑うのはドリスコールだ。絶望していく隊士達を嬲り殺していくのを快楽としか感じない彼は、虎徹は更なる絶望へ落とす為に最初に殺そうと、ゆっくりと歩み寄る。

 

「虎徹三席、逃げましょう!最早、我々は敗北したのです!貴方まで死なせては、卯ノ花隊長に申し開きできません!」

 

虎徹の治療を行う隊士が必死の説得を行うが、虎徹は首を縦に振らない。

 

ここを放棄し、逃げるのが正しいのかもしれない。だが放棄しては救える命を救えなくなってしまう。

 

そんな葛藤してる間にドリスコールは一歩、一歩と近づいて来る。もう射程内であるにも関わらずに近づいて来るのは虎徹の最期を間近で見る為だろう。

 

「私達は、負けない」

 

それを悟った虎徹は疲労で上手く動かない体を無理矢理立ち上がらせ、今にも倒れそうでありながら力強く叫ぶ。

 

「副隊長が、隊長が!必ず我等を導いてくれます!私が倒された程度で、貴方達は護廷十三隊には勝てない!」

 

そして虎徹は自身の斬魄刀を引き抜く。

 

(はし)れ 『凍雲(いでぐも)』!!」

 

始解した虎徹に呼応するように、四番隊の隊士達は斬魄刀を引き抜く。何人かは始解もするが、他所の隊士に比べれば貧弱と言える。それを見たマスクは敵が弱過ぎる事にガッカリすると、ドリスコールにこの場を譲る。

 

「いいぜ、全員殺すんだからなぁ!」

 

そしてドリスコールの雷撃が四番隊の隊士達へ向けられ、皆が死を感じた時だった。

 

「あ?なんだこ……っ!!」

 

空間に黒い穴、ガルガンダが虎徹達とドリスコール達の間に開かれる。だがその穴を覗こうとした瞬間に、穴から現れた二つの斬撃が飛ばされる。一つは黒く、もう一つは赤い。見るものが見れば分かるだろう、黒い斬撃は月牙天衝、赤い斬撃は斬天焔穹だと。

 

それはドリスコールに直撃し、遥か彼方へと吹き飛ばす。

 

そしてその穴からは二人の死神が現れ、それを目にした者は全員目を見開く。

 

理由は様々だ。

 

「黒崎一護、死神代行か!?」

「卍解を使ってないか?奪われないのか!?」

「何故、あそこからあの人と一緒に……?」

 

そのうちの1人である黒崎一護にも勿論驚いている。だが、四番隊の隊士の誰もが驚いているのはその隣の死神だ。

 

その死神がこのタイミングで来る事を予期していなかった者、その死神が斬魄刀を引き抜いている事に驚いている者、それ以前に戦える事に驚いている者が多いだろう。

 

「虎徹三席。副隊長の仕事、押し付けて悪かった」

 

服は少しだけ焼け焦げてるが、その逞しい声と背中は虎徹の待ち望んでいた死神だ。また、隣の死神もまた護廷十三隊が待ち望んでいた希望だ。

 

死にそうな目をしていた隊士達の顔に、光が差し込んでいる。目の前で敵の幹部を吹き飛ばしたのも大きいだろう、虎徹は土壇場で卯ノ花隊長の目論見通りになった事に安堵すると途端に力が抜けて地面へ足を下ろす。

 

「萩風副隊長……!!」

 

そして、萩風と黒崎は事態の深刻さをすぐに悟る。黒崎は阿散井恋次や朽木ルキア達、顔見知りの死神が軒並み瀕死なのを感じ取っているようで、苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 

萩風もまた似たような表情だ。ここまで被害が出るとは思いもしてなかったのだろう、特に現在戦い弱っている自身の隊長の霊圧を感じ取ったのか、黒崎の方を見ずに呟く。

 

「黒崎、卯ノ花隊長の方を任せていいか?」

 

「……わかった、任せてくれ」

 

黒崎は目の前の軍勢を見る。「俺もやる」そう言おうと考えたようだが、萩風の静かに燃える闘志を感じたようだ。元から敵の首領であるユーハバッハを倒すつもりである黒崎は卯ノ花の元へと向かう。

 

「縛道の六十二 百歩欄干(ひゃっぽらんかん)

 

それを追いかけようとする滅却師も居たが、萩風はそれら全ての雑兵を六角柱の形をした物体で撃ち落とす。黒崎の邪魔をさせない……というよりは、ここから逃す気は無い。そんな意味を込められた鬼道を放つ。それにより黒崎を追いかける愚行をする滅却師はいなくなった。

 

「虎徹三席達はしばらく休んでくれ。後の事は副隊長の仕事だ」

 

それを確認すると、萩風はギロリと敵を睨みつける。

 

数にして150の雑兵と5人の怪物。相対するは、護廷十三隊の副隊長1人。

 

この戦いがどちらが優位かは明白、にも関わらず四番隊の隊士達に、特に虎徹勇音には恐れはない。

 

「……お任せしました」

 

その言葉を呟き、虎徹は安らかに気を絶っていた。

 

☆☆☆☆☆

秀才が天才を超えることはあり得ない。

 

それが萩風の持論であり、世の理と言っても過言でない程の事実である。

 

世を回し、皆の先を行き、新天地を見つけ出す存在、それが天才だ。今迄にない物を作り出す、今まで出来ないのが当たり前の事をこなしてしまう。それが天才だ。

 

秀才とはその道を模倣し、天才の後ろを歩く凡人の事だ。先を進み続ける天才に、追いつくはずもない。天才の境地に辿り着けても、その時には既に天才は新たな境地に辿り着く。追いつけるのも追い越すのも、天才を超える天才だけだ。

 

秀才は凡人の延長線、秀才は天才となるセンスが無かった出来損ない。秀才は、センスを磨けても天才のそれに圧倒的に劣ってしまうから、敵わない。

 

だが天才とは産まれてから天才である者と、産まれた後に天才となる二つのパターンがある。前者はまさしく、天の贈り物だろう。

 

だが後者は違う、後者は学び吸収し新たな境地を見出す者だ。見出せないのが秀才だ。

 

しかし、模倣するだけで天才にはなれない。天才とは、新しい事を常に行い続ける存在の事だ。

 

そして、萩風が行ってきたのは全て模倣である。書かれていた高難易度の術を覚えた、世界最強の剣豪の剣術を学んだ、医療術を学んだ、だがこの世に無かったような革新的な新たな物を作れない。

 

いや正確に言うと過去に天才が作ったものをアレンジしたオリジナルに近いものはある。だが萩風は全く新しい力を、術を、薬を、創造できない。その境地に至れない。萩風カワウソは浦原喜助や涅マユリを超える存在にはなれない。

 

彼では時代を作れない。

 

萩風カワウソは斬魄刀において、隊長格には遠く及ばない。

 

萩風カワウソは鬼道において、藍染惣右介には遠く及ばない。

 

萩風カワウソは回道において、卯ノ花烈を超える一番にはなれない。

 

萩風カワウソは薬剤において、一番であっても歴史に名を残すような死神ではない。

 

これら全てが萩風の思う、自身の実力である。そして、概ね正しい。

 

後者三つは、紛れのない事実である。回道において、絶対に超えられない壁を萩風は超えることが出来ないからだ。そして薬剤に関しても、今の尸魂界においては一番というだけだ。天才が現れてしまえば立場は逆転する、何故なら萩風は秀才だからだ。

 

単に時間をかけて一番になっただけで、天才ではないのだ。

 

後者の三つにおいて、萩風は秀才なのだ。

 

だが前者の一つにおいて、萩風は自身が凡人という勘違いをしてるとは気づいてない。

 

卍解の先は無い、だが知らない。九十番台の鬼道を詠唱できる隊長格は少なく、ましてや複数扱える者なぞ藍染惣右介や浦原喜助程度だ。どちらも天才だ。鬼道において、萩風は後追いに過ぎない。

 

だが、斬魄刀において彼はその道の先を歩む者がいないのを知らない。涅マユリという天才の先へ行っているのを知らない。

 

萩風もまた、道を切り開く天才の一人なのを自覚していない。

 

それを誰もが、萩風自身も見誤っているからこそ気づかれない事実なのである。




今日にBLEACHの小説の三巻が発売ですよ!

書店に急げ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24.第一次侵攻 後半戦

前回のあらすじ

虚圏でジェラルドを倒した萩風カワウソ&黒崎一護、尸魂界に到着。

今回も長いかもです。


滅却師達の目の前に突如として現れた死神、特記戦力でもないただの副隊長は単騎で150を超える集団の前に立ちはだかっていた。

 

その死神は他の死神を戦線から離脱させ、その後直ぐに先程張られた結界と同質の壁を展開する。違うのは規模が敷地全体から中央の隊舎のみを囲っている事だけだろう。

 

維持をしてるのはどうやら中の死神達で、その死神は斬魄刀を始解し何故かドリスコールを睨みつけていた。

 

「ゴリラみたいな見た目の調子乗ってそうな男……的確な表現で助かったな」

 

滅却師達の方にこの呟きは聞こえていない。だがその視線を感じていない者もいないだろう。当の本人であるドリスコールも、勿論感じ取っている。

 

「手ぇ出すなよ!オレの獲物なんだからなぁ!!」

 

そのうえ、彼は萩風から不意打ち気味の一撃を受けている。これで倒れない辺りは滅却師の精鋭たる所以なのだろうが、中身は残念ながら不相応と言わざるを得ないだろう。

 

「勝手にしろ、そんでさっさとここを潰して終わりだ」

 

それを周りの星十字騎士団は分かっているようで、バズビーと他2人はため息を少し吐いてドリスコールの後ろに下がる。マスクは現れた謎の副隊長に興味津々ではあるが、先程譲ると言ってしまった手前無理矢理横取りはマズいと思い遅れて下がる。

 

それをドリスコールは確認すると、稲光と共にすぐに卍解を使用する。最初から本気で挑むという意思を表されたその技の名は『卍解 黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)』。

 

「懐かしい技だな、そいつは」

 

目の前の死神、萩風カワウソの死神では唯一の親友の卍解だ。

 

元一番隊副隊長 雀部長次郎忠息の物だったそれは天候を操る卍解であり、雷撃を操る卍解だ。萩風は昔、この技を嵐を相手にする卍解と話した事がある。

 

それに比喩や誇張は無く、雷撃の嵐を呼ぶのがこの卍解だ。

 

そしてそれは総隊長に癒えない傷跡を残す程の力を持つ卍解である。

 

「知ってるのか?そりゃ嬉しいだろうなぁ!もう2度と見れねぇ力だ!俺に感謝しなきゃなぁぁ!!」

 

そして、それを容赦なく降り注がさせるドリスコール。雷光は収束し一つの剣となり、ジグザグで不安定な線を描きながら萩風へと落とされた。大地を破壊する程の破壊力を持つそれは大地を焦がし、着弾を確認もせずに連続で降り注ぐ。

 

「どうだぁ!!これが、テメェと同じ副隊長の卍解だ!今はオレの卍解だ!」

 

そして、更に降り注がさせる。その度に光は瞬き、大地は揺れ、空気は激しく揺れ動く。

 

「えげつねぇな、もう死んでるだろ」

 

後ろでそれを見るバズビーも思わず呟く。いくら星十字騎士団でもこれを耐え切れるのは片手で数えられる程度だろう。その耐えられるのは基本的にどのような攻撃も耐えてしまう怪物なのだが。

 

そんな雨のような絶え間ない攻撃の中。

 

「自己紹介してなかったな。それの持ち主の親友、萩風カワウソだ」

 

雷撃の雨の中に居るはずの萩風はドリスコールの目の前に居た。

 

「っ!?てめぇ、どうやっ」

 

それにはドリスコールだけでなく、他の星十字騎士団も驚いている。何処にも逃げられる隙は無かった。しかし袖などが少し焼け焦げているので、間違いなくそこには居たのだろう。

 

だか彼等は知る由も無い。超高速での斬撃でその攻撃が捌き切られたのを、雷撃と雷撃の僅かな間隙に天狐の能力を使いながら超高速で移動しドリスコールの前に立ったのを。

 

「さよならだ、雀部」

 

萩風は初めて悲痛な小さな叫びを呟く。今までの彼の死神としての人生で、初めての叫びだ。

 

その叫びと共に萩風は斬魄刀を振り下ろす。だが彼はただ斬り殺す事が可能な距離にいながらも、心が納得いかないのだろう。言いようの無い感情の爆発が、斬魄刀に乗せられる。

 

「っ!!?」

 

鬼道の刃である『破道の七十八 斬華輪(ざんげりん) 』、灼熱の刃である『斬天焔穹(ざんてんえんきゅう)』、そして自身の持つ剣術の『卯ノ花流(殺人)剣術』複合技。この技と同等の力を扱えるのは、卯ノ花や京楽と言った片手で数えられる程度の死神だろう。叫びもなくこの世からドリスコールという存在が抹消されるのは、当然の帰結であった。

 

☆☆☆☆☆

 

萩風が全力で放った力は凄まじく、ドリスコールは消え去った。それを確認し、感慨に耽っているようだがそれを邪魔するように滅却師達は襲いかかっていた。

 

仲間の死なぞ何とも思わない、ドリスコールの死なぞ何とも思わずに襲いかかっているのだ。

 

それには萩風は少なからず動揺は誘えると思っていたのか行動が遅滞している。

 

「っ!?」

 

飛んできた拳に萩風は片手で咄嗟に防御する。だが全身が武器であるマスクの攻撃は腕で受け止めるのは疲労の残る萩風には難しく、威力に負け吹き飛び、地面を2度跳ねる。

 

「ワガハイのラリアットを防ぐとは、悪党にしてはやるではないか!」

 

萩風は直ぐに体勢を立て直し、斬魄刀を構え直すがその両サイドから萩風へ向けて2人の滅却師が攻撃態勢を整えている。

 

「バーナーフィンガー!1!」

「死ねぇ!!」

 

赤髪のモヒカン男、バズビーの指先から放たれたのは炎の圧縮されたレーザーだ。これに同じ副隊長の射場は殺され、隊長の狛村と七番隊は敗北した。

 

そしてもう1人の少女、バンビエッタから放たれたのは爆弾だ。また、三番隊隊長の鳳橋を破ったこの力はただの爆弾ではなく、触れたものを爆弾にするという生身では防御不可の能力だ。

 

「縛道の八十一 断空(だんくう)

 

対して萩風は壁を張り、防ぎきれはしなかったが回避までの時間を稼ぐ。一点特化の攻撃と壁そのものを爆弾にするというのに、この技は少々相性が悪かったようだが。

 

「やるじゃねぇか!一本じゃ足りねぇみたいだな!」

 

だが完全に防がれはしなかったものの、当てられずに回避までの時間を稼がれたのが癪に障ったのか、バズビーは指を更に増やす。

 

「バーナーフィンガー!2!!」

 

「破道の七十二 双蓮蒼火墜(そうれんそうかつい)

 

単純に考えて、2倍の力となったその技に萩風は青い炎をぶつけて相殺する。それにはバズビーは大きく目を見開き驚いているが、その隙に萩風は斬撃を放つ。

 

「スターパンチ!」

 

だがその攻撃はキャンセルされ、マスクの攻撃が肩にめり込み吹き飛ぶ。だが予期はしていたようで、そのまま受け身を取り左手をマスクに向けて霊力を高める。

 

「破道の……っ!?」

 

だが今度は上から降り注ぐ黒い棘が襲い掛かり、後方に下がる事で何とか回避する。

 

「避ケラレタ」

 

エス・ノトも今の攻撃を避けた事には驚いているようだ。不意打ち気味に襲った死角からの攻撃、これを避けたという事はこの場にいる全ての滅却師の位置を把握しながら戦っているという事でもある。

 

「はぁ……はぁ……っ!!」

 

現に死角から雑兵の放つ矢の雨を躱し、全方位から襲い掛かる雑兵の滅却師を吹き飛ばしている。何人かは当たり所が悪く死んでいるが、雑兵でも十分に体力を削る程度には役立っている。

 

だが、それでも萩風は倒れはしない。傷は無い、あっても治されている。体力は無限ではないが底が見えきれず、雑兵の方が先に全滅するだろう。

 

「どうやら、そこらの奴よりかは出来るようだな」

 

それを眺めながらゆっくりと観察するバズビー、他の3人も同様だ。

 

「ソウダネ。サッキノ隊長ヨリ戦エテル」

 

「しぶといのは同感だけど、なんか弱ってない?」

 

「あぁ、今のうちに殺っといた方が良さそうだな」

 

簡単にいかないからこそ、雑兵での戦闘の観察と体力の削りという作戦を立てた。少なくともバズビーが倒した狛村より体力を持ち、エス・ノトが倒した日番谷よりも斬魄刀の扱いに長け、マスクの倒した六車より早く動け、バンビエッタの倒した鳳橋よりも洗練された体捌きをしている。

 

いや、ほぼ全てのステータスが戦った隊長達よりも上なのでは無いかと推測される。

 

「どうする」

 

「殺ス、僕ノ卍解デ殺ス」

 

そう言うとエス・ノトの背中から氷の翼が現れる。蒼白い氷刃を宿し、天候を操る最上位の斬魄刀の力を解放する。

 

『卍解 大紅蓮氷輪丸(だいぐれんひょうりんまる)』護廷十三隊の代表する天才、日番谷冬獅郎(ひつがやとうしろう)の卍解だ。

 

その氷刃は宙に氷柱のような形で展開され、萩風へとその刃を向かわせる。当たれば致命傷だけでなく、その場で氷漬けにされる。必殺の攻撃が滅却師の雑兵と戦っている萩風へと向かうのだ。

 

「ま、まだ我々が!?」

 

当然、味方からの攻撃を予期していなかった雑兵にもその無差別な攻撃はぶつかる。ぶつかった滅却師は体を貫かれ絶命すると同時に氷漬けにされ、砕けて消える。

 

「お前ら、仲間ごと……!?」

 

萩風は一瞬だけ対応が遅れるも、天狐の炎を一点に集中し自身に飛んできた氷柱を二つ程破壊する。しかし、元々萩風の斬魄刀は炎が使えるだけで火力の高い斬魄刀ではないのもあり刀身が僅かに凍る。

 

直ぐに解凍するも受け続けるのは良くないと判断し、回避に率先する。

 

「見覚えある氷と思ったら、今度は日番谷隊長の卍解か……卍解でこの力、汎用性高くて羨ましいな」

 

萩風は日番谷の卍解は見た事ないが、始解はある。故にこれが日番谷隊長の卍解と気付くのは簡単ではあったが、卍解の状態での力に驚嘆している。

 

まさしく氷を支配した神、それが彼の卍解なのだ。それを操る敵に並の鬼道では対処出来ないと判断したのか、辺りを炎の結界で囲い始める。

 

「縛道の八十 灰燼障紅(かいじんしょうこう)

 

氷柱程度の大きさの氷ならば蒸発させる程の火力を有する結界を展開する。しかし、この炎の結界は欠陥を抱えた鬼道だ。展開する術者の周りに現れるという技の性質上、術者も焼け死ぬ可能性が高い。

 

また炎自体を操る事は出来ないので、攻撃には転じられない。そんな技を使わなければならない程に萩風は追い詰められているのをエス・ノトは分かっている。

 

「無駄ダヨ。君ト同ジ副隊長モ、隊長ダッテ倒セタンダ。隊長ノ方ハ氷漬ケ二シテアゲタ、コレハコンナ技デ防ゲナイ」

 

そしてエス・ノトは氷の量を増やす。萩風は尚も火傷の治癒をしながら結界に閉じこもるが時間の問題なのは明らかである。

 

そしてエス・ノトはそれを分かっているので、自身の技である棘を炎の弱くなった結界の隙間を通して発射する。

 

「っ!?なんだこ……!!」

 

萩風は動けないなりに最低限の動きで回避をするが、左腕に着弾してしまう。

 

額から汗を掻き、眼は焦点が合わなくなり始める。斬魄刀を構える手は小刻みに斬魄刀を握る事を拒否するように震え、動悸が速くなる。

 

毒のように全身に浸透するそれはエス・ノトの能力、聖文字のF『恐怖(ザ・フィアー)』だ。

 

「動ケナイヨネ?恐怖ハ誰モガ持ツ物ダケド、ソレハ誰モ克服デキナイ。乗リ超エラレナイ、惑ワス物デ勘違イスル。真ノ恐怖トハ心ノ奥底二ベットリト付イテ離レル事ハ無イ物。避ケラレナイ、絡ミツイテ離レナイ。ダカラ副隊長モ隊長モ関係無イ、我々ハ本能カラハ逃レラレナイ」

 

そこへエス・ノトは極端に弱体化した結界に向けて特大の氷を注ぎ込む。先程とは比べ物にならないそれは結界を容易に破壊し、回避の余地を残していない萩風へと真っ直ぐに向かう。

 

「っ!?」

 

驚愕する萩風はその場から動けない、恐怖という枷が動かさせない。

 

「終ワリ」

 

そして、爆煙と共に爆煙の身体を押し潰す。

 

とてもただの死神では抱える事も出来ない巨大な塊はドスンと地面を響かせる音を立て、煙を吹き飛ばす。

 

「グロい事になったなぁ……」

 

煙の晴れた跡には氷塊と血の池だけが残っているのであった。

 

☆☆☆☆☆

 

見上げる空は灰色だ。見慣れた空に感慨深くなるのは何故か。そう気付いた時、ウルキオラは自身が寝そべっている事に気づく。意識の喪う寸前まで、磔にされ同胞の虐殺を見せ続けられた記憶は頭の中にこびり付いている。

 

何故ここに?そんな風に考えるウルキオラの体は何故か軽い。死にそうな程に麻痺し、動けば命を削っていたような感覚は消えている。

 

そして起き上がり、周りを見てみるとハリベルとその従者が萩風の結界で回復されている。また、すぐ隣を見てみるとウルキオラを回復したであろう井上織姫と現世で何度か対面した事がある死神が立っている。

 

「浦原喜助か……貴様にも助けられるとはな」

 

そう言うウルキオラは更に注視し、周りを見れば地形に変化が起こる程の激しい戦闘の後なのを感じ取る。またその中に黒崎一護や萩風カワウソの霊圧も感じ取るが、その二人はここにはいない。

 

「カワウソと、黒崎一護はどこだ?」

 

「二人は一足先に尸魂界に帰って、代わりにアタシ達が残ってます」

 

それを聞いたウルキオラ短く「そうか」と、呟くと万全ではない体で浦原へと向き、軽く頭を下げる。

 

「世話になったな、浦原喜助」

 

それに対して、以前とはまるで別人のようになったウルキオラに多少驚きながらも浦原はすぐに表情を整える。

 

「何を言ってるんですか、困った時はお互い様ですよ」

 

浦原はウルキオラにニコリと笑いかける。同様に隣にいた井上織姫も笑いかけるが、ウルキオラはその笑みに何かを察する。

 

「つまり、そっちも困った状況というわけか」

 

「えぇ、そうみたいっスね。お察しが早くて助かります」

 

「完治してない俺を置いて、カワウソが帰るとは思えんからな」

 

浦原喜助は無駄な事をする死神ではない。虚圏を救いに来たのが暇つぶしや正義感に動かされて……などでは決してない。彼ならば友好をウルキオラや他の有力な破面と結ぶ為に来るのもあり得る。

 

だが、今の状況で困った事になってる場合。悠長に親交を深める事は両者に不都合だ。ウルキオラの理解力を把握してるからこそ、彼が直ぐに言葉の真意に気付いても驚きもしない。

 

これから始まるのは、両者の都合の為に作る同盟。

 

その為の、契約である。

 

「アタシの伝手で何とかしてみます。とりあえず敵さんの首領、ユーハバッハについて知ってる事を教えて貰えませんか」

 

「……出来る事なら、今すぐにでもカワウソに知らせたいがな」

 

この男が何とかする、そう言う程に信用できる事は無いだろう。何をするかは想像もつかない事が多いが、ウルキオラはそれを契約の条件として知り得る限りの敵について話を始める。

 

「奴の基本的な滅却師としての戦闘能力は並より遥かに高い、しかしその程度だ。俺で対応できる範囲内であり、お前達死神の隊長格を上回る。その程度だ」

 

「だが俺の知る中で、奴とまともに戦える死神は存在すらしないだろう。鏡花水月を扱う藍染様を除いてだ。未来を見通すユーハバッハを欺けなければ、誰であろうと戦いにすらならない」

 

☆☆☆☆☆

 

山本重國の卍解の後に降る雨は、まだ止まない。敗残者への追い討ちとも言える尸魂界の流すその涙は、勝者への心を癒すオアシスかもしれない。立場が変われば見方も変わり、少なくともユーハバッハには勝利の美酒を浴びているような気分だろう。

 

天を仰ぎ、無数に現れた瞳で見る空は彼の目にどう映っているかは知る由もない。だが気分が良いのは表情からも、立ち振る舞いからも伺えていた。

 

「よく耐えるな、卯ノ花八千流(うのはなやちる)

 

ユーハバッハの前には全身を傷だらけにしながらも、斬魄刀を構える卯ノ花が居る。既に勝負は決まり、闘志も何度か折った。

 

だが、卯ノ花は諦めていない。傷ついた体は傷が付くたびに治癒し、特攻する。何度でも立ち向かい、弾かれる。そして何度目かもわからない特攻がまた行われる。

 

「絶望していないようだな。私の能力の穴を探しているのか、私の能力を理解できてないのだろうに」

 

「私が理解する必要はありませんよ、私の後に繋がれば良いのです!」

 

卯ノ花の行動は、次への布石となる為に、捨て石となる事。実にシンプルで他人には簡単に真似できない行動だ。

 

だが、その行動のおかげで卯ノ花はユーハバッハが次の動きを把握する事を見破っていた。卯ノ花レベルの剣術の初見殺しの技も防がれれば、信じ難い事実も納得できる物であった。

 

「(私の斬撃を全て読み切るだけではない!この力……まだ、何かあるはず。それを引き出さなければ……私の命と引き換えにしてでも!!)」

 

卯ノ花の胸中にあるのは、亡き総隊長の遺志を継ぐ事だ。卯ノ花八千流が負けようと、護廷十三隊が負けなければ良い。卯ノ花がここで死のうと、剣八も、隊長も、後を継ぐ者は既に居る。

 

自分の死が護廷十三隊の為になるならば、卯ノ花は命を捧げる。

 

護廷の為に、卯ノ花はユーハバッハの底を引き出そうと動いている。この様子は涅隊長や零番隊などの他の死神が把握していると信じ、戦っている。

 

「破道の……!!」

 

「勘は鋭いようだな、初代剣八。だが、実力の差は埋まらんぞ」

 

卯ノ花が直感的に攻撃をキャンセルし、距離を取りながら攻撃の隙を伺う。対してユーハバッハは余裕綽々で次はどのように動くかを楽しんでいる節があり、それに内心卯ノ花も腹立つが突破口どころか光明すら見えない現実に腹立つ。

 

このまま何も出来ずに無駄死にする、そう思い始める程に力の差を感じていた彼女であったがその不安は塗り潰される。

 

「この霊圧は……!!」

 

彼女は思わず呟く。感じるのは2人の死神の霊圧、そのうち1人が自分達の方へと高速で移動している。そしてもう1人は多数の滅却師へと立ち向かうのを感じ取る。

 

「黒崎一護、やはり貴様か」

 

卯ノ花の前に黒い影が降り立つ。並の隊長の倍はある霊圧、卍解された漆黒の斬魄刀、見間違える筈がない。死神代行、黒崎一護である。

 

「卯ノ花さん、助けに来たぜ」

 

その言葉を聞いた彼女の心は幾らか楽になっただろう。卍解という死神において切り札であり、必殺技を防がれた状態では勝ちの目が見えなかったこの怪物と戦えるかもしれないという希望が生まれたのだ。

 

「退きなさい!黒崎一護!貴方まで無駄死にする必要はありません!」

 

だが、彼女が黒崎を戦わせるわけにはいかなかった。そもそもこの戦いは護廷十三隊の戦いであり、無関係の者を巻き込むのは護廷十三隊の誰も本意では無いだろう。

 

そして最大の問題は、ユーハバッハの力だ。これが黒崎一護で対応可能な怪物ならば、護廷十三隊と共に倒すのは吝かではない。だが肌身に感じた卯ノ花は簡単に容認できないのである。

 

「それはできねぇな。萩風から、頼まれてんだからな」

 

それを言うや否や、黒崎は最大火力である月牙天衝を放つ。漆黒の斬撃は真っ直ぐにユーハバッハへと向かい、避ける素振りを見せないのには疑問であるが直撃する。

 

「っ!?」

 

だが直撃したかと思われた斬撃は簡単に弾かれる。ユーハバッハの手には滅却十字、引き抜かれたそれはまるでどのような角度で受け止めれば弾けるかを分かっていたかのように構えられていた。

 

「甘いぞ、一護。能力を解いたとは言え、私を相手しているのだぞ」

 

気付くとユーハバッハの眼は普通の状態へと戻っていた。だが近くで見ていた卯ノ花はわかる、黒崎の攻撃を受けた時に能力を解いたという事を。

 

「(先ほどの動きからして黒崎一護の行動を予知できていた、なら何故に能力を解いた?時間制限か回数制限、負担が大きいのか?どちらにせよ今は好機と考えるべきなのかもしれない……いや、まだ総隊長の卍解を使っていない。つまり、まだまだ余裕があるという事でもある……!せめて私も卍解が使えたならば……)」

 

卯ノ花は今迄の戦いからユーハバッハの能力を未だに探し続けていた。正確には検証だが、卯ノ花が思い付く限りの攻撃は全て防がれ返り討ちにされた。

 

だが黒崎一護に対しては能力を使っていないだけでなく、卍解も防いでいない。理由はわからないが、間違いなく今は好機である。卯ノ花は疲労で鈍る体に鞭を打ち立ち上がると、ユーハバッハへと向かう。

 

「陛下の戦いの邪魔はさせません、卯ノ花八千流」

 

だがそれを側近であるハッシュヴァルトは阻んでいた。卯ノ花は突破しようと斬魄刀を振りかぶるもそれは弾かれ、鋭い剣撃をハッシュヴァルトも放つがそれは卯ノ花は斬魄刀で逸らして避ける。

 

「(やはり、これも手練れ……今の私では捨て石にもなれない……)」

 

今の軽い打ち合いだけで敵の力量を測った卯ノ花は黒崎の援護に向かえないのを悟り、自身の非力さを呪う。卍解が使えていれば話は違ったかもしれないが、少なくとも今の万全とは程遠い卯ノ花ではハッシュヴァルトは倒せない。

 

そして、黒崎はその間にも着実に追い詰められていた。

 

剣技は劣り、速度は劣り、パワーも劣っている。渡り合えてはいたが、力の差が顕著に表れている。

 

互いに剣を打ち合っているが、簡単に黒崎は弾かれ、紙一重でかわし続けるがユーハバッハの蹴りで大きく吹き飛び瓦礫に背中から飛び込む。

 

すかさず、ユーハバッハは立ち上がる隙も与えずにのし掛かると剣を首に突き立てる。斬魄刀の防御も間に合わない一撃に黒崎は大きく目を見開き静止する。

 

そしてユーハバッハはそれを確認すると「ハッシュヴァルト、連れて行くぞ。息はあるはずだ」と自身の本拠地へと連行する為に、ずっと待機していた部下に指示を出す。

 

ハッシュヴァルトは卯ノ花との戦いを切り上げ、撤退命令を全ての滅却師に送る。

 

そしてユーハバッハは卯ノ花を一瞥し、最後に「この女の命は奪っておくか」と呟き卯ノ花へと向かおうとする。

 

「陛下っ!!」

 

だが、その行動はユーハバッハが振り向いた瞬間に吹き飛んだ事で途中で止まる。ユーハバッハは予想外の事で少しだけ体が硬直していた、確認していた筈なのだ。間違いなく刺さっていたのだ。そこには首に確かに攻撃を受けた筈の黒崎一護が斬魄刀から斬撃を放っていたのだ。

 

「月牙天衝!!」

 

と言っても、ユーハバッハは黒崎を上回る手練れだ。間一髪で負傷しながらも致命傷は避け、傷は左腕に負う程度に済んでいる。

 

だが何故黒崎一護に傷はなく、戦闘を続けられているのか。致命的なダメージの筈だった、だがそれはユーハバッハが自身で切りつけた首筋を見て理解した。

 

「今のは……静脈装か」

 

その技は本来であれば滅却師だけが覚えられる防御術、死神では体得は出来ない。するとユーハバッハは何かを理解したようで、黒崎に向けて「なるほどな」と呟く。

 

「やれやれ、我が子と剣を交えるのは悲運としか言えんな」

 

「おい、どういう事だ。お前の事なんざ知らねぇぞ!」

 

黒崎はその呟きに対して極度に反応する。理解できないというのが本音だろう、何を言っているのかわからないというのが頭の中を駆け巡る。その意味を否定したいのだ、自身の父親は間違いなく黒崎一心でありユーハバッハなどという親は存在しない。

 

だが、それを見兼ねたのかユーハバッハは更に呟く。

 

「そうか、貴様は母親の事も知らないのだな」

 

ユーハバッハが追い討ちをかけるように発した言葉に黒崎の動揺は大きくなっていく。それに対して「詳しくは『見えざる帝国』で話してやろう」とまた剣を黒崎へと向けようとする。

 

「……時間切れか、まだ私は能力を完全に扱えないようだ」

 

だが、ユーハバッハは何故か剣を仕舞う。黒崎の生け捕りと卯ノ花の殺害は諦めたようで、帰還のために空間に扉を開ける。

 

「帰還だ。来たる零番隊に備え、ここは退く」

 

「了解しました」

 

そしてハッシュヴァルトもそれに付き従い、ユーハバッハに追従する。既に他の滅却師は撤退を済ませているものも居り、本当に撤退するのは黒崎も理解している。

 

「待ちやがれ!!」

 

だが、黒崎は尸魂界を無茶苦茶にした者達が目の前に居て飛びかからないわけがなかった。天鎖斬月をユーハバッハへと振りかぶりながら向かうが、残念ながらその攻撃は追従するハッシュヴァルトに防がれる。

 

「!?」

 

そして、天鎖斬月は真っ二つに折られてしまった。




滅却師

星十字騎士団 4人死亡
聖兵 300人以上死亡
---------------------

死神

1番隊隊長 兼 総隊長
山本元柳斎重國 敗北 死亡(卍解奪われる)
2番隊隊長 砕蜂 敗北 (卍解奪われる)
3番隊隊長 鳳橋楼十郎 敗北
4番隊隊長 卯ノ花烈 敗北
5番隊隊長 平子真子 引き分け
6番隊隊長 朽木白哉 敗北 瀕死 (卍解奪われる)
7番隊隊長 狛村左陣 敗北
8番隊隊長 京楽春水 敗北
9番隊隊長 六車拳西 敗北 重症
10番隊隊長 日番谷冬獅郎 敗北 瀕死(卍解 奪われる)
11番隊隊長 更木剣八 敗北 重症
12番隊隊長 涅マユリ 雑兵相手に勝利
13番隊隊長 浮竹十四郎 敗北 重症
平の隊士 1000人以上死亡


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25.いつから死んでいると錯覚していた?

萩風のappは7〜10程度ですが、虎徹勇音や砕蜂目線でのappは倍になっています。



「グロい事になったなぁ……」

 

目の前にできた血の池とその中央に鎮座する氷の塊は誰の目から見てもそこには潰れた死体があるのは明らかであった。

 

エス・ノトの放った氷塊に思わず呟くのも無理はないだろう。戦争だが、人の命を奪う時にここまで酷く嬲り殺したのだから。

 

だが、その言葉を聞いた滅却師は全員驚愕している。深い意味はこの言葉にはない、的外れな事を言っているわけでもない。むしろ適切な言葉で、大勢でかかって倒したのだから当たり前とも言える。

 

「!?ナンデ……!!」

 

「てめぇ、いつの間に……!?」

 

問題なのは、その言葉を潰されたはずの萩風が話していた事だろう。

 

4人の星十字騎士団は全員は驚き方に差はあれど、何故萩風が生きているのかわかっていない。それを見て萩風はこの感覚を逆の立場から感じていた事を思い出す。

 

「いつの間に……か、いつから俺を殺せてたと錯覚していたんだ?」

 

萩風の心の中で絶対的な壁を作り出す存在、藍染惣右介。隊長としての萩風の心の中での壁であり、今もなお立ち塞がる壁だ。この言葉が自然と出てきたのはそんな藍染に対して自分が少しでも近づこうとしたからかもしれない。

 

「こいつ、殺す!イラつく言葉使うんじゃないわよ!!」

 

否定できる言葉では無いのでバンビエッタは今にも飛び掛かりそうになっているが、他の星十字騎士団は動かない。先程の種明かしはされていないからだろう、何をしたのかわかっていないのだ。

 

意味不明で摩訶不思議で想定不能。だからこそ迂闊に動けない、それを見て萩風は優位に立てているのを見てニヤリと笑う。それは萩風に対して「情報」を持ってないのを理解したからだ。萩風の技は種明かしがされれば卍解ですら対応されてしまうほどリスキーだからこそこれは大きなアドバンテージとなっている。

 

「待てよ、まさかこいつ虚圏から来たんじゃ……!!」

 

先程、萩風が『縛道の八十 灰燼障紅』を使ったのは防御の為ではない、次の一手に繋げる為の策であった。それは萩風の斬魄刀、天狐の性質を完璧に扱う為である。天狐は焱熱系の斬魄刀であり、一言で言うなら変幻自在の陽炎を見せるのが主な能力だ。

 

しかしエス・ノトによって冷やされた大気では上手く能力は使えない、そこで萩風が天狐を使える温度まで大気が冷やされるのも仮定してから放ったのだ。

 

「僕ノ能力ハ当ッタ……何ヲ」

 

「お前の毒ならちゃんと抜いた、あれは演技と幻影だ。幻影に合わせて声をつけるの難しかったんだぞ?」

 

エス・ノトの能力である『恐怖』は身体に触れると溶け込む、傷口などとは関係なくだ。それを一瞬で確認した萩風は毒が効いているかのような幻影を見せている最中に一度腕を切り落とした。

 

その場にいたからこそ声まで合成し、炎の結界に居たからこそいつもよりも幻影の精度は上がっていた。これを見抜けるのは藍染惣右介レベルでの観察眼を持つものだけだろう。

 

そして切り落とした腕から血と毒を抜き、また繋ぎなおした。萩風は腕を再生する事は出来ないが腕を繋げる事はでき、氷塊の下にあった血溜まりはこれの処理が行われたからだ。

 

だがこれは萩風がエス・ノトの能力を毒と勘違いしてからこそできた対応であった。エス・ノトの能力は確かに毒だが、生物の本能を恐怖で縛り付けるのが能力だ。

 

逆に瞬間的とは言え腕の細胞が壊死したからこそ毒は吐き出されたのだ。死んだモノに本能はない、だから能力が錯覚したのだ。

 

無茶にも思えるが、萩風には腕の細胞の壊死程度なら蘇生できる。萩風や卯ノ花の若さの秘訣もここにあったりする。

 

「おい、こりゃ……!!」

 

バズビーが思わず叫ぶ、それは萩風の後ろから現れた龍に対してだ。

 

「お前らこんだけ好き勝手したんだ。覚悟は出来てるだろ?……俺は出来てる」

 

萩風の覚悟は出来たか?と言うのに対して具体的な圧力が支配し、4人に向けて四頭が、卯ノ花達の戦う遠くに向けて一頭を放つ。

 

「破道の九十九 五龍転滅」

 

2割しか出ていないとは言え禁術に最も近い鬼道、街並みを破壊しながらそれは猛進した。

 

☆☆☆☆☆

 

ハッシュヴァルトは帰還しようとした寸前に、足を止める。それは離れた場所にあった霊圧の迫力、響き渡る轟音、先程まで戦っていた4人の霊圧の沈黙、そしてこちらの方へと飛ぶ龍とその背に乗る死神。

 

「星十字騎士団が……4人も倒された。この霊圧は……!!」

 

そして龍は一寸の狂いも無く、ユーハバッハへと落とされた。ハッシュヴァルトとユーハバッハは回避すると、1人の死神が降り立った。

 

「お前が、ユーハバッハか」

 

鋭い殺意をぶつける死神、萩風カワウソは自身の斬魄刀である天狐をユーハバッハに向け睨みつける。

 

ユーハバッハに向けられたそれは山本重國の放つ殺気と似ている、だが萩風のそれは静かだ。心の中で燻り続けられた炎が表に出ようとしているのを完璧に抑えている。萩風は常に冷静さを保とうと努力している、視界に血塗れに装束を赤く濡らす卯ノ花が居ても。いや、居るからこそかもしれない。

 

「萩風カワウソ、藍染惣右介に劣る死神か」

 

萩風は藍染惣右介という名を聞くとピクリと眉が動く。そして先程までとは違い、簡単に行くような相手ではないと理解する。先程の星十字騎士団は全力を出させる前に動揺させて倒したが、今度はそんな搦め手も小手先の技も意味を成さないと感じる。

 

「斬魄刀においても、鬼道においても……全てにおいて下位互換と言って良いお前を警戒する必要は無い。貴様も自覚しているのだろう?藍染惣右介という壁が越えられない事に」

 

『鏡花水月』は一度始解さえ見せれば完全に『天狐』を上回る。萩風が藍染にないもので力を持つのは回道程度だ。その回道でも、藍染惣右介という壁を登るのには圧倒的に足りていない。

 

胸中を言い当てられたようで、萩風の顔色は良くない。冷静さを保とうという努力は感じる、しかし崩壊寸前のダムのように堰き止められない憎悪の炎が渦巻いている。

 

そしてそれをわが身に纏わせず、代わりに斬魄刀に炎として纏わせる。

 

「わからないようだな、仕方ない。ならば少しだけわからせようか」

 

ユーハバッハはハッシュヴァルトを下がらせると萩風と相対する。萩風は自身の技である『斬天焔穹』を放ち、ユーハバッハはあえて受けて弾く。

 

「っ!!」

 

萩風も最高威力で無いとは言え、生身で受け弾かれるとは思わなかったようで動きが僅かに硬直する。その硬直の間にユーハバッハは一瞬だけ能力の真価を発揮する。

 

ユーハバッハの能力、それは卯ノ花では全く対応できずに敗北した程の力だ。それは萩風からも分かる身体的な変化、眼球に現れた複数の眼で分かる。

 

何をしてくるのか?萩風は身構える。どこからどのような攻撃が来たとしても対応できるようにだ。

 

「貴様……そうか、そういうことか。貴様は半歩とは言え踏み込んでいるのか」

 

しかし数秒立っても、何も起こらない。戦闘において数秒も立って、何も起こらないのに萩風は次の動きの最善を選べずにいる。

 

ユーハバッハはそんな萩風に対して意味深な言葉を呟くと、眼を閉じる。萩風はこの呟きの意味をわかっていない、この意味がわかる可能性があるならば浦原喜助などの『とある存在』を認知している者だけだろう。

 

「最後に良い事を知れた、次に会えるならば楽しみにしておこう」

 

「行くぞ、ハッシュヴァルト」と彼はハッシュヴァルトを呼ぶと「はい、陛下」と言い追従する。

 

そして萩風は「逃すわけ」と言いかけた時に卯ノ花が軽く血を吐いたのを横目に見てしまい、踏み止まる。今去ってもらうのは双方にとって不利益はない、ここで仮に戦っても萩風は卯ノ花達を巻き込まないのは不可能だ。更に近くにはまだ真っ二つにされた総隊長の死体もある、今の状況を冷静に判断すればここで無策で追いかけても返り討ちに遭い無意味な被害を出すだけである。

 

「また会おう、尸魂界よ」

 

最後にそう呟き、滅却師達は尸魂界を去った。

 

これにて、第一次侵攻は終了したのであった。

 

☆☆☆☆☆

 

護廷十三隊の第一次侵攻による被害報告

 

死亡者

一番隊隊長 兼 総隊長 山本元柳斎重國

七番隊副隊長 射場鉄座左門

他 席官 67名

隊士 1157名

 

重傷者

六番隊隊長 朽木白哉 『再起不能の可能性あり』

九番隊隊長 六車拳西

十番隊隊長 日番谷冬獅郎 『再起不能の可能性あり』

十一番隊隊長 更木剣八

十三番隊隊長 浮竹十四郎

 

六番隊副隊長 阿散井恋次

十番隊副隊長 松本乱菊

十三番隊 朽木ルキア

 

他 席官 17名

隊士 140名

 




陛下にどうやったら勝てるか色々考えましたが、陛下って慢心してても隙が殆ど無いのがエグいですよね……。

☆☆☆
萩風→藍染惣右介
卍解を始解で破った怪物、隊長の目安。

萩風→ウルキオラ・シファー
親友、たまに冗談が通じないがいい奴。

萩風→斑目一角
ハゲ、中々扱きに耐える骨のある奴。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26.新総隊長

あけましておめでとうございます。

BLEACHを実家から回収してきました。

卯ノ花隊長の卍解の能力を未だに把握できないんですが、オリジナルでも良いのかな……?


隊首会が執り行われるいつもの場所は、いつにも増して重苦しい雰囲気が漂っている。今行われているのは緊急の隊首会、しかし総隊長のいつも居座る場には総隊長の死体が台の上に安置されている。

 

参加している隊長格は砕蜂、鳳橋、平子、狛村、六車、更木、浮竹の7人だけだ。総隊長は死亡、卯ノ花は負傷者の治療、日番谷と朽木は治療中、京楽は珍しい事に不明、涅は滅却師対策の研究中で欠席だ。

 

逆に、これだけ集まれたとも言える。護廷十三隊の被害は過去最悪、集まれた隊長も傷だらけで皆大なり小なり、何処かしらに治療の跡がある。本来なら六車と浮竹なぞ、ベッド上でまだ休んでいなければならないような状態だ。

 

だが、今の事態がそれを許さなかったのである。

 

「総隊長……」

 

浮竹の悲痛な呟きはどれだけの思いが詰まっているのだろうか。山本重國の開いた塾での最初の隊長の1人であり、200年以上彼の下で隊長を務め、敬愛した師が敵の凶刃に倒れたのだ。慚愧の念に堪えないのも、仕方ない事であった。

 

「とりあえず落ち着こう、俺たちは……総隊長の遺志を」

 

「落ち着いてなぞ居られるか!!」

 

浮竹は今集まっている者の中で最も古参な死神だ。対して砕蜂は隊長の中では新米である、しかし声を荒げずにいられなかった。

 

「総隊長が敗北したのだぞ!?分かっているのか!命だけでなく、誇りある卍解も奪われたのだぞ!!」

 

それは誰も言わなかった事だ。皆腹に抑え込んでいるが、内心は絶望で埋め尽くされているのだ。最強の死神を殺され、最強の死神の必殺技を奪われた。今まで起こってきた問題とはレベルが違う、護廷十三隊は過去最大の壁にぶつかったのだ。天にも届くその壁は高さの上限が見えない程の、卍解無しではどうにもならない壁があるのだ。

 

浮竹はその叫びに対して少しだけ怯む、無理もないだろう。恩師を殺され、一命を取り留めたが彼の副隊長である朽木ルキアも重傷、彼自身も重傷なのだ。疲労があるのも仕方ない。

 

砕蜂が間違っているのは誰の目にも明らかだ。だが的外れな事を言っていないからこそ、誰も咎めることができない。

 

全員が水の中にいるように静まり返っている。沈殿し、何を為すべきなのかを見失いかけている。水の中でどうにかもがこうとしているのだ、砕蜂も浮竹も。2人だけでなく、全員が何とかしなければならないと考えていても動けない。

 

「やけに大人しい隊首会ですね」

 

そんな水底を攪拌するように、凛とした声とともにドアが開く。

 

そこには今しがた自身の必要な重傷者の治療を済ませてきた四番隊の隊長、卯ノ花がいる。

 

「朽木隊長と日番谷隊長の一命を取り留めました、ですが復帰は難しいでしょう」

 

だがいつもの定位置に付かず、あえて総隊長の遺体と対面するように立った。周りの沈んだ空気を直ぐに感じ取ったのだろう、彼女がそこに着いたのには誰一人異論は言わない。

 

「いつまで死を悼んでいるのですか、我等が為すべきは次に何を備えるかでしょう」

 

「何故落ち着けている、総隊長と最も関わり合いが長く敵の首領と渡り合った者が……」

 

砕蜂は先より弱々しく、霞んでいくように呟く。それを卯ノ花は一瞥すると、少し溜め息を吐いてから砕蜂を射抜くように睨み、呟く。

 

「今の砕蜂隊長を見て、萩風はどう思いますかね」

 

「ぇ、ぁ……っ……!?」

 

砕蜂の治療をしたのは萩風だ。その時に顔を真っ赤にして治療を受けている砕蜂を見たからこそ出た言葉なのだが、他の隊長達にはわからないだろう。なおその時に砕蜂は『肌が綺麗』や『鍛え抜かれた美しい体』など褒めちぎられていたのも付け加えておく。

 

「……済まなかった、落ち着けた」

 

治療の時を思い出してるのだろうか、顔を真っ赤にしながら落ち着いたと言う砕蜂を他所に他の隊長達も「それもそうだ、俺達がやらねばならん」と意思を表していく。下がっていた士気に火がついたのかもしれない、全員が隊長という自覚を思い出していく。

 

士気を取り戻す護廷十三隊の隊長達、それを見た卯ノ花は自身のいつもいる砕蜂の隣へと移動しようとした時だ。

 

「会議中失礼します!卯ノ花隊長へ、緊急の書簡が」

 

突然扉が開かれ、そこには片手に手紙を持った中央四十六室の使いがいる。卯ノ花は自身への命令だとわかると少しだけ考え込むと、直ぐに覚悟を決めたように使いへと顔を向ける。

 

「この場で構いません、読み上げてください」

 

「は、はっ!四番隊隊長 卯ノ花八千流 彼の者を2代目護廷十三隊総隊長兼一番隊隊長に命ずる。中央四十六室よりの伝令です」

 

それを聞いた隊長達は驚きもしているが、納得もしている。彼女だけは敵の長に挑み続けた、護廷十三隊で総合的に見れば彼女以上の死神は居ないだろう。

 

しかし、卯ノ花は予想していた事と違うのか「そっちの方ですか」と呟く。総隊長に任命される可能性があるとは予期していたが、それ以上に予期していた事があったのだろう。

 

「わかりました」

 

そして卯ノ花は書簡を受け取り、胸元に仕舞い込むと立ち位置を確認する。砕蜂隊長の隣なのは変わらないが変わるのは自分が中心となる事だろう。

 

総隊長の立ち位置へと移動した彼女は四番隊の羽織を脱ぎ捨てると、遺品の一つである一番隊隊長の羽織を着る。違うのは背中の数字だけだが、その重さを実感してるのか一呼吸置いてから周りの隊長達を見つめる。

 

「これより、護廷十三隊の指揮を執ります」

 

☆☆☆☆☆

 

終わった。色々と終わった。

 

被害が中々にやばかったので全力で治療作業してたから忙しくて隊首会に出れなかったから具体的な被害がわからないが死者の数がかなり多い。というか副隊長の怪我人の数が半端ないな、死人もいるし。

 

でも、何より総隊長が死んでいたのがマズいだろう。これは護廷十三隊に良くない。

 

そして朽木隊長は内臓が消え去るレベルでの負傷、意識の回復すら怪しい。日番谷隊長は氷漬けにされてたから全身の凍傷とかでほぼ死人だ。2人とも何とか命を繋ぎ止めているが時間の問題である。

 

日番谷隊長の事をお願いします!って泣きついてきた雛森さんを見て心が痛んだな。ごめんね雛森さん、俺って俺にかける回道はそこそこだけど他人にかけるのは他人を知り尽くすだけのデータが無いと殆ど何もできないんだ。

 

そんな感じで、ある程度の治療作業が終わってやっと隊首会に出ようと思った時だ。

 

中央四十六室へ卯ノ花隊長から呼び出された。

 

わかっている、覚悟はしてた。

 

破道の九十九を使った俺が悪い、あれ環境破壊が半端ないから禁術になっててもおかしくないやつだ。そんなのを勝手に使ったのだ、緊急時で多少は大目に見てくれると信じたい。

 

だがこれだけで呼び出されるとは思えない、何かあるはずだ。しかも呼び出すのが卯ノ花隊長だ、四十六室じゃないところに何かあるはずだ。

 

「入りなさい」

 

卯ノ花隊長に呼ばれ、扉を開ける。

 

中に入ると周りを囲うように……うわぁ、尸魂界のすっごい偉くて頭良い人達が、いっぱいだぁ……。

 

なんか俺の心が空っぽになっていく気がする。

 

「その者に、か」

 

「はい」

 

重厚な感じの話し方をする賢者、そしてその声を向けられているのは護廷十三隊の総隊長の証とも言える一番隊隊長の羽織を着る、卯ノ花総隊長だ。ここで俺に任命する事、何となく予想はできる。というか、決定事項なのだろう。

 

「彼を私の後任として護廷十三隊 四番隊 新隊長に任命します」

 

予想通りだった、やはり繰り上がりで俺が隊長になった。緊急時なので仕方ないが、やはり俺だった。俺以上に虎徹さんは戦闘能力は無いだろうけど、回道はじきに抜かれるから虎徹さんが任命されるとも思ってたんだけどなぁ。

 

だけど、これだけじゃないとも俺は思った。隊長になるのは仕方ない、卍解の先も後少しで見つかりそうだし……あとは切っ掛けがあればって感じだ。

 

だけど、隊長にする事だけの為に態々呼び出して説明するとは思わない。

 

「そして、更木剣八への剣術の指南を任せます」

 

……更木剣八?護廷十三隊、ヤンキーの集団である十一番隊隊長のあの更木剣八?いつもうちの四番隊に難癖付けに来るあの十一番隊のトップ?

 

俺、あそこの人達は嫌いではないけど苦手なんだよな……めんどくさいと言うか、一角みたいに早めにマウント取っとかないと舐められっぱなしになりそうなんだよね。四番隊を馬鹿にする奴は片っ端からお話をしたけど、それでもやっぱりそりが合わないんだろうなぁ。

 

というか、そんな人達の隊長と?あかん奴やん、ヤンキーのボスとか。いっつもボロボロな斬魄刀を持ってて副隊長が可哀想とは思ってるけど、あれと戦うの?え?ヤンキーに剣術教えるの?

 

俺、死なない?

 

「先ほどの事から、如何に更木剣八という存在の力が必要がご理解いただけたと思います」

 

そこに俺の死亡の可能性は述べてくれたのかな……あ、なんか哀れんだような視線をいくつか感じる。述べたのかぁ……そっかぁ……、で誰一人として反論はしないのかぁ……。

 

「話は終わったみたいですね。萩風、行きますよ」

 

☆☆☆☆☆

 

重傷であったバンビは体のあちこちに包帯や湿布を貼りながら城の中を歩いている。あの時、萩風カワウソと戦った滅却師は全員生きている。

 

全員が大なり小なりダメージを受けはした、だが萩風の本気である無詠唱の鬼道を受けたのだ。彼等は萩風に対してまだ奥の手を見せていない、だからこそ負けたとは思っていない。

 

だが勝てない可能性があるのだと理解すると、バンビエッタはいつもよりも気性が荒くなっていた。更に追い討ちをかけるように彼女のチームであるバンビーズの1人であるリルトット・ランパードの消失も大きいだろう。

 

それも虚圏で萩風カワウソや黒崎一護とぶつかったと聞いたなら、生きている可能性は薄いのだろうと。

 

故に今の彼女の近くに滅却師の一人どころか、周りを歩こうとするものも居ない。彼女に鬱憤を晴らされる為だけに殺されてしまうからだろう。

 

「やぁ、バンビさん」

 

だが、そこにいる滅却師は無防備に彼女に話しかける。命知らずとも言えるその行為にバンビエッタも「何よ」と不機嫌に舌打ちをしながら振り返る。そこでバンビエッタは振り返ったら生意気なこいつを半殺しにするつもりだったが、そこに居た滅却師に絶句する。

 

彼ならば、どんな状況の彼女でも気軽に話しかけられるだろいた。いや、どの滅却師にも気軽に話しかけられる。不敬だとしても、話しかけられる。最強格の一人なのは、間違いない。

 

「グレミィ……何の用よ」

 

グレミィ・トゥミュー 最高の怪物だ。普段はのんびりとしたようだが、能力は最悪そのもの。彼の機嫌が損なわれた瞬間に、バンビエッタは塵すら残らずにこの世から消え去る。

 

そんな存在から話しかけられれば、流石のバンビエッタも怯んでしまう。

 

「彼女は、死んだのかな」

 

一体何を聞いてくるのかと思いきや、彼が聞いてきたのはとある滅却師の生死であった。バンビエッタは直ぐにわかる、そもそも女性の星十字騎士団の被害が出てるのは一人だけだ。そして彼が態々バンビエッタに話しかけて来たという事からも、誰について聞きたいのかも把握する。

 

「殺されたかもしれないわね。黒崎一護か萩風カワウソにね」

 

虚圏で音信不通となり行方不明になったリルトットの生死を陛下は把握できているが、何故かそれについて公表されない。だからこそ彼は彼女の所に訪れたと理解した彼女は、その答えに満足しているかどうかだけが気掛かりになっている。

 

「へぇ……わかった、ありがとう」

 

そして、あっさりとグレミィはその場を去ろうとする。あまりにあっさりと終わったのに拍子抜けしたせいか、思わずバンビエッタは彼を呼び止める。

 

「……意外ね。リルに惚れてたの?」

 

「だったらどうするの?」

 

「どうもしないわよ。どっちにしろ、萩風の方は私が殺すから邪魔するんじゃないわよ!」

 

☆☆☆☆☆

 

言いたい事を言えて満足したバンビエッタはその場をせっせと去る。

 

自分の言いたい事を一方的に告げた彼女の後ろ姿をチラりとグレミィは見るが、直ぐに興味無さげに地面へと顔を向ける。

 

取り残された彼はそのまま少しだけ立ち止まる。特別な思い出も無ければ、特別な思いを思う事もない場所。そんな場所に立ち止まるが、何を思うのかドーナツを空から作り出すと、一口食べる。

 

輪っかを軽く齧り、咀嚼し飲み込むがそこにはお菓子を食べて喜ぶような笑顔はない。そしてそれを直ぐに投げ捨てる。

 

周りに誰がいるなら勿体無いとも思うだろうが、生憎と誰もいない。後で掃除係の仕事が増えてしまうのだろうと思えたが、その心配は床にドーナツが触れた瞬間に無くなる。いや、心配どころか物体そのものが消えた。

 

床に落ちると同時にドーナツはこの世から消え去ったのだ。

 

それをしたグレミィは指を舐めて満足しなかったドーナツの余韻を感じているのか、ポケットに手をしまい込んでドーナツと共にその余韻を忘れるように天を仰ぐ。

 

いつものようなつまらない現実を見るその目は、彼にしかわからない程度の違う目をしている。グレミィはもう一度、今度はキャンディーを取り出すと齧る。

 

「あーぁ、思い通りにいかない。美味しくないなぁ」

 

グレミィは小さく呟き、辺りの静謐な空間にそれはよく響いた。

 

そして投げ捨てられたキャンディーの音も、よく響いていた。




黒崎へ死亡フラグが立ちました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27.命懸けの剣術指南と零番隊の来訪

艦娘達の入渠中に書いてたら8000字超えちゃった……。

他の作者さんって1日に何文字書けるんだろうか、私の場合は本気でやり込んでも1万字超えないんですよねぇ……毎回書店に並ぶ本を見てプロの人達がどれだけ書いてるか、想像すると腕がつりそうです。


隊長の証である白い羽織を着る二人の隊長が、何もない闇が周りを囲う広いだけの空間で、強者だけが放つ独特の空気をぶつけ合っている。

 

「よくこんな所を借りられたな」

 

既に抜刀し、肩にボロボロの刀を不良の鉄パイプのように扱う男。更木剣八は眼帯を外し、ニヤリと獲物を射抜く眼を光らせている。

 

「卯ノ花総隊長の許可もありますから。借りれない道理はありませんよ」

 

そしてもう一人の隊長、萩風カワウソは斬魄刀を鞘にしまっている、しかしいつでも抜刀が出来るだけの戦闘のスイッチを入れている。

 

怪物の眼光に射抜かれて動けなくなるような柔な精神はしていない。そして怪物はそれを楽しめるような相手かを確かめる為に軽く斬魄刀を振っただけで剣圧を放ち、萩風はそれは抜刀し同等の剣圧を放ち相殺する。

 

「あいつの傷が疼いて仕方ねぇ……弟子のお前なら、期待していいんだよな?」

 

霊圧を放つ怪物、それは並みの隊長どころか萩風のそれすら遥かに上回る。萩風は少しだけその霊圧の高さに怯むが、萩風も霊圧を一時的に増幅させて圧を跳ね返す。

 

萩風も卍解をすれば多少は霊圧を跳ね上げられるが、これは殺し合いではない。萩風はあくまでも剣術の指南、更木剣八は殺すつもりでやってくるだけである。

 

それが致命的なのだが。

 

「始めましょうか、実戦形式での試合」

 

萩風はあえて始解をせずに、斬りかかる。更木はそれを刀で受けるが萩風はそれを僅かに揺さぶり、角度を不安定にした所で上に弾き三度斬り付ける。

 

しかし萩風の真上から殺気を感じる、弾いた刀を察知し後ろに飛んで回避すると剣圧を2発放つ。更木はそれを横薙ぎに弾くと萩風へと跳躍し距離を詰める。

 

そして斬りかかる更木の斬撃を萩風は刀で受け止める。凄まじい霊圧が撒き散らされる鍔迫り合いとなるが、両者の顔はまだまだ余裕がある。

 

だが萩風の表情は優れないのに対して更木の顔は満面の笑みを浮かべている。

 

「やるじゃねぇか、お前とはやっぱり楽しめそうだ!」

 

怪物の残酷な玩具に選ばれてしまったのを理解したのか、萩風の顔には冷や汗が流れ始めていた。

 

だがそれを気にせずに萩風へと荒いが、力強い斬撃が連続して襲いかかる。萩風はそれを全て攻撃の方向をずらしたりと剣術だけで捌き、浅いながらも連続して更木を斬り付ける。

 

しかし、攻撃に集中し過ぎた為に一撃を喰らう。腹を貫かれ吹き飛ばされたが、直ぐに回復して萩風は三発の剣圧を撃つ。

 

「あいつの弟子ってのは本当らしいなぁ!太刀筋がそっくりだぜ!」

 

そして更木の体が温まって来たのを把握し、速度を一段階引き上げる。鬼道は使わない、あくまでも剣術だけでの戦いだからだ。故に萩風の使える手札は多くが消える。

 

だとしても、萩風は強い。だがそれを怪物は上回る。

 

「どうしたぁ!まだまだ出来んだろうガァ!!」

 

「お互い様でしょ。今日からとは言え俺も隊長の端くれですから」

 

萩風のあげた速度に早くも付いてくる怪物に対し更に速度を二段階あげる。

 

怪物は突然の獲物のレベルアップに一瞬遅れる。この程度の速度は全力の更木剣八ならば簡単に対応できる。だが、それはできない。

 

彼はできない。不意をつかれたのは事実だが、そんな程度で反応が遅れることなぞありえない筈なのに。

 

彼が抱える致命的な弱点により、全力を出し切れない。

 

そして対応し切れずに、刀を弾き飛ばされ無防備な姿を晒す更木の胸を萩風の刀が貫いた。

 

右胸を貫くそれが致命傷なのは、更木でもすぐに分かった。

 

「(!?今のは……どういう事だ?)」

 

しかし、更木が絶命する事は無かった。確かに胸を貫かれた感触を覚えていたが、胸には傷一つどころか血の一滴も垂れていない。

 

萩風はそんな思考を始めるのも御構い無しに更木へ斬りかかる。一瞬一瞬で行われる、刹那の攻防。

 

そこへ余計な思考を割く余裕なぞない、怪物は思考を完全に獣へと変えてただただ目の前の獲物へ牙を向ける。

 

「(関係ねぇ!今はこの瞬間を感じろ!考える暇なんざいらねェ!!)」

 

更木の動きが洗練されていく。無駄が省かれ、余裕が消え去り、全てを曝け出そうとしている。だが、まだ先がある。萩風にも、更木にも。

 

二人の試合は、まだ始まったばかりであった。

 

☆☆☆☆☆

 

半壊し、瓦解した外の景色を直に見える一番隊の隊長室で卯ノ花八千流(うのはな やちる)は外の景色を眺め続けている。着慣れない羽織は遺品をそのまま流用した影響で血痕がいくつも残っている。

 

何を思い、外を見るのか。先程に送り出した弟子は、今頃には自身の知る限りで最も剣八に相応しい男と死闘を行なっているのだろう。

 

そんな時、コンコンとノック音が聞こえる。

 

「失礼するね」

 

中に訪ねてきた隊長、京楽春水(きょうらく しゅんすい)が入って来てもなお向き直らない。京楽はその姿を見ると、何故ここに今のタイミングでこの場へ来たのか。そして何を謝りに来たのかを把握しているのを、理解した。

 

「京楽隊長……やはり、貴方の差し金だったのですね」

 

呟くようではっきりとしたその凛とした声音は、総隊長としても羽織る一番隊隊長の羽織の醸し出す独特の雰囲気と相まって悲しくも聞こえるが、芯を通した全てを見通している長としての堂々とした声にも聞こえる。

 

卯ノ花は理解している。自分が隊長へ抜擢されるには、何かしらの外的要因があったのだという事を。確かに卯ノ花は死神の長である総隊長を殺した敵の首領であるユーハバッハと渡り合い、生還した。

 

護廷十三隊にとって僅かながらも希望にはなっているのは自身も理解している、だがそれでも総隊長になるのには足りていないと分かっている。

 

判断材料の一つにはなり得る、だがそれだけ。それだけならば、裏で色々と手を回すほどの知性と行動力のあり実力もある京楽が総隊長となる筈だと。

 

京楽ならば信頼や経験も問題無い、むしろ卯ノ花はそこが四番隊であった故に薄かった。戦闘も指揮も計略も任せられるだけの人望は足りていない、そう思われているのがわかっている。

 

だから、何故京楽が卯ノ花を総隊長に推薦したのかをわからなかった。実力では問題無いが、安全牌で行くならば京楽春水が選ばれるはずだからだ。

 

だが、何となく卯ノ花はその答えも見抜いていた。

 

「……僕は山爺が殺された時に隊長として動けなかった。だからこそ、片目も失った。こんな事を言っちゃうのは悪いかもしれないけど、隣人の死を理解しても動けるだけの冷徹さと判断が出来る卯ノ花さんが適任だと思ったからなんだ」

 

「えぇ、私情を挟んでは混乱を招いてしまいます。先の砕蜂さんのように、自分を見失ってしまっても総隊長という自己を確立できなければいけませんからね」

 

それを聞いて京楽は「そうだね……流石は総隊長だよ」と卯ノ花の強さを感じた。だがそれと同時にその強さに甘えて、寄り掛かっているのもハッキリと自覚する。

 

「僕は分かっていて卯ノ花さんを総隊長へ推薦した。萩風隊長が死地に送り出されるのも分かっていた。僕は、嫌な仕事を全部押し付けた……恨むんなら、この戦いが終わった後で好きなだけ恨んで欲しい」

 

京楽は分かっていた。卯ノ花を総隊長に推薦する事は、護廷十三隊にとっては正しくても……卯ノ花にとっては酷な選択を強いる事を。卯ノ花を総隊長にした場合、更木剣八の剣術の指南へ白羽の矢が立つのはその弟子である萩風なのを。

 

それも、卯ノ花が総隊長として命令し送り出す事を。

 

全てを把握し、送り出したのだ。中央四十六室に対して卯ノ花の提案がすんなり通ったのも京楽が前もって話を通していたからだ。

 

全ては、護廷十三隊の為に……萩風カワウソを切り捨てる準備をしたのだ。

 

これを聞いて卯ノ花は軽蔑するだろうかと、そう思い卯ノ花へと目を向けるが京楽の予期していた答えとは違い「何を言ってるのですか」と卯ノ花はここで初めて京楽へと顔を向ける。

 

そこには悲壮感をカケラも感じない顔がある、そこには侮蔑の意思は感じない、そこには卯ノ花が京楽を恨むような気はカケラもない事が感じ取れた。

 

「彼は私を満たした死神、彼ならば必ず生きて帰ってくると信じていますから」

 

そしてそれが、弛み無い程に固く結ばれた信頼の絆によるものだという事を分かってしまう。こんな物に寄り掛かってしまったのかというのに京楽は選択を後悔はしないが懺悔をする。

 

「師弟というよりは、まるで夫婦みたいな信頼関係だね」

 

「えぇ……それも、悪くないですかね」

 

微笑む卯ノ花の表情は過去に見たことがない程に柔らかかった。作り笑顔ではないのは、200年を超える隊長同士の付き合いからわかってしまう。

 

こんな時でなければ、二人を引き裂く事はなかったのに。そう思わずにはいられないが、京楽はその業を背負うだけの覚悟はとうに持ち合わせている。

 

そんな時に卯ノ花は顔を少しだけ外に向けると、何かを感じ取ったようでそのまま目を空へと向ける。

 

「零番隊の皆さんがいらしたようですね。行きましょう」

 

卯ノ花は表情を総隊長に相応しいモノへと切り替え、京楽はその後ろを追従する。

 

本来ならば、ここに居るのに相応しい男でないことを京楽は残念に思うのであった。

 

☆☆☆☆☆

 

黒崎が連れて来られた場所は何も無い広場だ。折られた卍解が治らないこと、護廷十三隊を助けられなかった事に意気消沈しながらもやって来たそこには4,6,10,11を除く全ての隊長が集結している。

 

驚いたのは総隊長に卯ノ花が任命された事位であるが、このような所でやって来る『零番隊(ぜろばんたい)』は何処から現れるのか。

 

王族特務という護廷十三隊とは違った任務を遂行する5人、その5人については涅隊長からさわりだけ聞いている。だがどのような存在なのかは、聞いていない。

 

そうこうしていると、風切り音が聞こえる。それを耳にした隊長の何人かは広場から一歩下がる。徐々に大きくなる風切り音に、黒崎はそれが上から聞こえてきたのがわかると同様に下がる。

 

ズドンと、地面に刺さるように目の前に落ちて来たのは白い円柱。

 

そこから現れる5人。1人はハゲているが髭の濃いおっさん、リーゼント頭の男に、グラサンをかけた男、丸々太った女性、着物を着た傀儡のような腕を大量に持つ女と、個性が豊かな5人。

 

いったいどんな奴らなのかと、黒崎は身構えるがそれはいきなりスカされてしまう。

 

「ィよッしゃアーーー!!!」

 

異様に雰囲気の明るい五人の集団。

 

聞けばこの五人は護廷十三隊の総力を上回る程の実力を持っているらしいのだが、よくわからない道具でドンドンパフパフ鳴らして場を盛り上げながら来るのに黒崎だけでなく他の隊長達もドン引きしていた。

 

「来たぜ来たぜ、いよいよ来たぜ!零番隊サマのお通りだぜー!!」

 

リーゼントが特徴的な男、零番隊 東方神将 麒麟寺天示郎(きりんじてんじろう)が先陣を切って周りに威張り散らしていく。えらく態度のでかい個性的な男にその場の隊長達も苦笑いをしている。

 

「零番隊の皆さん、ようこそおいで下さいましたね」

 

唯一、彼と互いの面識のある卯ノ花は麒麟寺の前へと歩み寄る。

 

「よぉ卯ノ花!総隊長になるたァ、思わなかったぜ。俺の教えた治療の技はしっかり出来たんだろうな?」

 

「えぇ勿論です。それと麒麟寺さん、直ぐにでも本来の目的を話してくれませんか?」

 

ギロリと睨み付ける麒麟寺、それをカケラも気にしない卯ノ花。両者は共に護廷十三隊の初期隊長、四番隊と十一番隊を率いていた怪物だ。

 

急激に氷点下まで下がり切る空気に護廷十三隊の隊長達も黒崎も一様に「あ、やばい」と感じる程である。

 

なおその後ろで五番隊の隊長である平子が元十二番隊の隊長である曳舟桐生(ひきふねきりお)に絡まれている。

 

「まァまァ!久方ぶりの再会じゃ!つもる話もあろうが後にせい!」

 

だが麒麟寺の肩へと頭の禿げて髭の濃い男。まなこ和尚 兵主部一兵衛(ひょうすべいちべえ)は手を回し場を収める、それに麒麟寺も渋々引き下がり卯ノ花も引き下がる。

 

そして和尚は「さてと」と呟き、話し出す。

 

「霊王様の御意志で護廷十三隊の建て直しと、何人か上に運びに来た。先ずは黒崎一護、おんしを連れてく」

 

黒崎は思わず「えっ?」と呟くが。卯ノ花は「何人か……?」という呟きをする。目的自体は想像できていた、負傷者が連れて行かれる可能性は考えていたが、黒崎が連れて行かれるのは予想できていなかったようだ。

 

「おんしの斬魄刀、天鎖斬月は治せんが。限りなく近いものへ打ち直す事はできる、その超霊術は霊王宮にしか無い。まぁ断っても無理矢理連れてくが」

 

力強く言う和尚。黒崎からすれば治せないと言われたばかりの斬魄刀を治せるのはありがたいが話が急展開過ぎてついていけていないようだ。

 

「既に名簿にあった者は集めた。後は黒崎一護、そちと……萩風カワウソだけじゃ」

 

そしていつの間にか、5つの球体を傀儡のような腕で抱える大織神 修多羅(しゅたら) 千手丸(せんじゅまる)が黒崎へと傀儡の指を向ける。

 

球体の中には負傷中の隊長である朽木白哉と日番谷冬獅郎、副隊長の朽木ルキアと阿散井恋次、そして折られた天鎖斬月が入っている。

 

4人は四番隊の管理する治療室に、天鎖斬月は涅隊長の研究室に置かれていたものだ。今の僅かな時間で、すべてを回収し切るこの者もまた怪物級の死神であったのだ。

 

「卯ノ花、分かってるよな。こいつらは俺が治す、お前はお前の仕事をやれ」

 

そしてこの4人が回収される理由を卯ノ花はしっかりと理解している。卯ノ花の力では4人は全快にできない、そしてこのままでは日番谷隊長と朽木隊長の両名は死亡するという事を。

 

「……わかりました。ですが萩風隊長は暫く動けません、彼には重要な仕事を任せてますので」

 

「ならそれまでわしが残ろう、上に着いたら天柱輦(てんちゅうれん)を一つ送っとくれ」

 

先程の白い円柱の手配に「了解したYO」とグラサンをかけた男、二枚屋王悦は答える。

 

卯ノ花も総隊長として、零番隊への最低限の仕事をし終える。更木剣八への剣術指南で簡単に死ぬような死神とは思っていない、しかし隊長三人が運ばれてしまうのは護廷十三隊の士気に少なからず影響が出てしまうのを思い悩んでいるようだ。

 

卯ノ花はただ頷くことしか出来ない。だがこれからどうすべきかを考え続けなければならない。

 

「待て!」

 

だが、それに対して砕蜂は待ったをかける。

 

「萩風は卍解が折られたわけでも、命に関わるような負傷をしたわけでもない!何故連れて行く?霊王の守りを固める為に引き抜きでもしてるんじゃないか!?」

 

連れて行かれる6人の中で、萩風だけは何も理由がなかった。他の5人は納得できるだけの材料があるが、萩風だけはただ「連れて行く」と言っただけだ。

 

「それが必要な事だからじゃ。霊王様にとっても 護廷十三隊にとっても」

 

「霊王様の高尚な御意志を理解するのはやめておけ。推し量れる存在じゃない」

 

「そんな事、私が許すわけ……!?」

 

実を言えば黒崎一護も萩風と似た理由で連れてかれるのだが、斬魄刀の打ち治しという理由ができただけであるのを砕蜂は知らない。だが、知っていたとしても恐らく噛みついていただろう。

 

「っ!?」

 

だが、噛み付いてきた砕蜂の背後はあっさりと取られていた。速さに自信のある砕蜂の背後を取るのは簡単ではない、そしてそれを気付かれずにすることは更にだ。

 

先程からの何処かおちゃらけた雰囲気を纏っていた麒麟寺は居ない。背後を取った俊足の持ち主である彼は砕蜂の肩へ手を置くと静かに見据える。

 

「私情で動くな、お前にとっての萩風は知らねぇが。それは護廷十三隊で200人率いる隊長に正しい振る舞いか?」

 

砕蜂は間違った事をしてるとは思っていない。だが、それが私情によるモノなのは分かっていた。萩風とやっと対等の立場になれたというのに、それが何処か一気に遠くの存在になっていくような気がしている。

 

今までは早く同じ立場になれとせっついた、同じ立場で共に護廷十三隊の死神として戦いたかった。だから、置いて行かれたくない。待つ方も辛いが、追いかけるのも辛い。

 

待つ苦しさを終えて直ぐに追いかける側になりたくはなかった。

 

置いて行かれたくないというワガママだった。

 

「砕蜂隊長、ここは収めてください」

 

卯ノ花は砕蜂の肩に手を置いて引き寄せる。麒麟寺は頭を掻きながら砕蜂の肩から手を離す、ここで妙ないざこざは起きないだろうと卯ノ花を信用しているからだろう。回道においては師弟関係であるが、それだけではない関係を2人は持っているからだ。

 

「総隊長、しかし……」

 

「彼が必要なのでしょう。兵主部 一兵衛が残る程に」

 

卯ノ花はチラりと和尚の方へと顔を向ける。和尚はそれに気づくと「ん?わしにか」と呟きつつもそれについて否定する。

 

「いや、わしが残るのは一番暇じゃからじゃよ。天示郎は治療、桐生は飯、王悦(おうえつ)は打ち治し、千手丸が服を仕立てるからの」

 

「霊王を守る、という大役を推してでもですか?」

 

和尚の動きが一瞬だけ止まる。それを見て卯ノ花「やはり、そうですか」と呟く。和尚は零番隊のリーダー的存在だ、そのリーダーが霊王の護衛という任務を放棄するとは考えられない。

 

それに今のメンバーで残すなら千手丸でも麒麟寺でも実は良い。治療は麒麟寺の部下に任せれば良いし、千手丸の仕立ては帰ってから行えば良い。

 

確かに効率的な問題では和尚が残るのが最適だろう。だがこれでは、まるで最も重要なのは人を集める事のように感じてしまう。

 

萩風だけの為に残るのは何故か、もしくは黒崎一護や他の者が上に行くなら問題無いのかもしれない。

 

「総隊長らしく、上手くできそうじゃな。これなら安心できそうじゃ」

 

「まだまだですよ、総隊長の遺志を継ぎ切れていませんから」

 

両者が笑いかけるが、それは形だけだろう。

 

裏側ではお互いに侮れない存在だと思いあっているのは、互いに理解しているのだから。

 

☆☆☆☆☆

 

お互いに血塗れになりながらも、両者の間で行われる剣撃の音が止むことは無い。

 

超高速で行われる2人の戦いは衝撃波を撒き散らし、無数の斬撃を舞わせる程に荒れている。

 

片や総隊長を上回る実力を持った護廷十三隊の怪物、片や総隊長から免許皆伝を受けた一番の弟子、この2人が戦って荒れないはずが無かった。

 

お互いに始解はしていない。更木は元から始解を覚えてないが、萩風はあくまでも剣術を教える為に始解はしていない。だが萩風も剣術の指南が表面的な物であるのはわかっている。

 

目的は更木剣八の底を引き出し、心の中に存在する枷を外す事。萩風はその為に出来る限りゆっくりと、だが着実に更木剣八の底を引き出してきた。

 

そのおかげで更木の動きは鋭さ、反応、力、予測、速さ、全てのキレが増している。だがまだ全力ではない、まだ引き出しきれていない。

 

そして萩風は全力で戦った。途中から更木への回復を忘れてしまいそうになるくらいに。その底を引き出す為に。

 

 

 

 

だが、更木剣八は萩風カワウソより強かった。

 

「がっ……!」

 

萩風の体が横薙ぎに斬りつけられる。戦いが始まって1日以上が経ち、萩風はここで初めて致命傷を負う。

 

萩風は更木の戦ってきた事のある相手の中では3本の指には確実に入る程の死神だ、その底を最も引き出せたのは間違いなく彼だろう。しかし、それでも足りない。

 

「(……終わりか)」

 

更木剣八という底知れぬ怪物は、少しだけ期待外れだという顔をする。萩風のそれが致命傷なのは何体もの敵を、何人もの敵を屠ってきたからこそわかる。

 

萩風は何度も更木に致命傷を与えては治した、与えては治し続けた。その度に更木は生まれ変わるように力を解放していった。誰よりも強い怪物を生まれ変わらせ、本当の姿へと近づけていった。その瞬間は間違い無く、更木剣八にとっては至福の時間だった。

 

更木剣八は今まで眠っていたのだ。覚まさせるには、彼に戦いを楽しませられるだけの力と時間がなければならない。

 

誰よりも戦いを好み、誰よりも楽しみたい男。それが更木剣八だ。

 

だがいつものように殺し、終わった。

 

戦いを楽しみきる前に、終わった。

 

更木の目の前でまた、1人の死神が

 

「死んだ、そう思ったでしょ」

 

死ぬことはなかった。

 

「緩い、俺がどこの隊の隊長で……誰の弟子だと思ってるんですか」

 

四番隊 隊長 萩風カワウソ、彼は最も殺しにくい死神だ。

 

萩風の回道の技術力は卯ノ花には及ばない。だが全てが及ばないというわけではない、局所的に勝るところは存在するのだ。

 

それは2つ存在する。1つは結界術を用いての広範囲の治療術、護廷十三隊が先の戦いで死者の数を劇的に減らす事の出来た技術だ。と言ってもこれは一人一人の治療できるだけの傷の深さに限度はある。

 

そしてもう一つが、自身への治療術。萩風は自分の体を知り尽くしている、どれだけの荒い治療に耐えられるのかを、どれだけの血液を有してるかを、骨の具体的な強度を、全てだ。だからこそ、彼はそのデータを基に材料さえあれば自身を複製出来るほどに回道の力を行使できる。なおデータさえあれば、唯一霊圧を知り尽くしている卯ノ花の治療だけは可能である。

 

そして、そんな力を持つ萩風の致命傷は見る見るうちに塞がった。

 

卍解(ばんかい) 陽炎天狐(かげろうてんこ)

 

斬魄刀を構え直す萩風、だが最初と違い今度は斬魄刀を赤く光らせていく。霊圧が解放されていき、無数の萩風が現れていく。そのどれもが一騎当千の力を持つ萩風の分身、更木剣八の底を引き出す為に現れた人柱(ひとばしら)

 

「……!!」

 

その全てが、更木へと襲い掛かる。雑魚の試し斬りとは違う、本気で楽しめる試合が始まる。

 

「ウオォォォォォ!!!」

 

彼は咆哮する、感が極まり咆哮する。鬼気迫る顔をしているが、笑顔でもある。

 

このやり取りの名を彼は知った気でいた。だが、違った。

 

無数の刃に晒され、逆に無数の刃で敵を屠る。

 

リアルな感触を感じ続ける、思考が止まって楽しんでいるのに意識が飛ぶ瞬間ができる。

 

これが、これこそが。

 

彼の求めていた、戦いであった。




萩風の遺書を読んでる虎徹勇音を書こうと思いましたが、そしたら1万を軽く超えそうなのでやめときました。どっかの閑話でやるかもです。

あと麒麟寺天示郎は四番隊の隊長とかの設定は一応無いですが、普通にあり得そうなので初代四番隊の隊長をお任せしました。

彼等は後方支援がメインですけど……その隊長達は気にしないでください。私も気にしないでおきます。

それといつも誤字報告と感想、評価ありがとうございます。年内の完結を目指しますので、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28.舞台前の役者達

過去最高……12000字超えてた……。

暇な時間にゆっくり読んでください。

☆☆☆☆☆
前回までのあらすじ

滅却師と護廷十三隊の全面戦争が始まり、護廷十三隊は一度目の侵攻で総隊長の死を含め多数の被害を出してしまう。

そして中央四十六室は次の戦いに備え、護廷十三隊の総隊長に卯ノ花八千流が抜擢される。そして繰り上がりで四番隊の隊長となった主人公、萩風カワウソ。しかしその彼の最初の任務は更木剣八と殺し合いをする事であった。

卍解を使い更木剣八へと対抗する萩風、果たして勝負はどうなるのか……!!

一方その頃、黒崎達一行は霊王宮のお風呂でのんびりとした後、たらふく美味しいご飯を食べていた(原作準拠で嘘は言っていない)!!


「これで、一先ずは終わりですね」

 

集まった書類をトントンと整え、纏めると軽く伸びをする。目の前では最後の確認をする山田花太郎が目を通し、おおむね大丈夫なのを把握すると笑顔でデスクワークをしていた上司へと待ち望んでいた終了の合図をする。

 

「はい、お疲れ様です。虎徹副隊長」

 

卯ノ花が総隊長を拝命するのと同時に繰り上がりで任された役職。彼女自身は他の副隊長に引けを取らない実力を持っているのだが、未だに腕にある副官の証である腕章には慣れていないようだ。

 

そして目の前の同時に昇級した山田花太郎もまた、慣れていないようだ。

 

「山田三席も無理をしないでくださいね、私達の戦いはこれからですから」

 

笑顔をむける虎徹に「は、はい!」と元気良く返事をすると、そのまま山田三席は部屋を後にする。

 

「……戦争、ですもんね」

 

虎徹はそのまま椅子に腰掛けていると、先ほどの言葉を頭の中で反芻させていた。ほかに相応しい人は居そうで、自分以外でも務まるんじゃないかと思ってしまうほどに、片腕が少しだけ重く感じている。

 

「私が……副隊長」

 

彼女はそう呟くと、立ち上がり部屋を出る。今は非常時だ、ゆえに周りで皆が忙しなく動いているのがわかる。仕事は終わらせたが、何かをしないといけないのではないかという使命感と責任感に駆られてしまう。

 

落ち着かない。落ち着けない、落ち着けるわけがない。繰り上がりとはいえ副隊長になり、現状の四番隊のトップとしての重圧がのしかかる。

 

逃げたい、助けてほしい、側にいてほしい。

 

「……今日は、疲れたのかな」

 

いつもと違うからこそ、日常が呼び起こされていたのかもしれない。

 

任された仕事の大半を終わらせた彼女は何を思うのか、その部屋に入った。彼女自身も滅多に入らないその部屋、物が少ない落ち着く部屋。

 

畳と少ない家具だけの部屋、萩風の私室だ。

 

中は大して物もないが、だからこそ落ち着ける。座布団を一つ拝借すると座り込み、手で身を抱える。

 

助けてほしい、こんな弱々しい所を見せるわけにはいかないからこそ支えてほしい。いきなり任された大役、虎徹はまだ心の準備はできていなかったのだ。

 

萩風と卯ノ花という2人が常に上にいたからこそ、準備する必要が無かった。でも、必要になってしまった。負けたくないが、負けてしまいそうな心細さを感じてしまう。

 

この、部屋は落ち着き過ぎる。

 

だからだろうか。彼女が、ふと違和感に気づけたのも。

 

「……、何かある」

 

彼女はたまたま座り込んだ座布団の中に隠されている封筒を見つける。そこには小さく『萩風カワウソ』と書かれ、表紙には大きく遺書と書かれている。

 

「これって」

 

これは見なくてはならない物だろう。だが何故だろうか、見てはいけない気がしている。

 

そこに覚悟が見えてしまいそうで、その覚悟にどれだけの執念を燃やしているのかを感じてしまいそうで、その執念にこの遺書を書いている萩風が思い浮かんでしまうそうだからだ。

 

だがそれでも、虎徹は手に取った。それを机に置いて何分迷ったか。はたまた数時間経っていたのかもしれない。

 

ただの文字の羅列、そうは割り切れない。だが彼女は意を決し、その紙をゆっくりと開いた。

 

『初めて遺書という物を書く。これを書くのは何処と無く無邪気な男の心を擽るようだが、それ相応の覚悟が必要になったという事と思うと筆が止まる。腕に隊長としての重石がのしかかったようで、これから書く字が読みにくくなるかもしれないが許して欲しい』

 

中にはそこそこの量の文字が書かれ、途中で何度も迷いながら書いたのだろう。滲んだところもあれば、墨の乾き具合も若干違っている。

 

今にもこれを書いている萩風の姿が脳裏に浮かんでしまう。

 

「大丈夫ですよ、貴方の字は何度も読んできましたから」

 

最も彼と共に同じ時間を過ごしたのは間違いなく、今総隊長を務める卯ノ花だ。しかし、仕事を最も共にしたのは間違いなく虎徹勇音だ。何度も見る癖のあるが力強い字から、彼が幾度も考え抜きながら言葉を選んでいるかがわかる。

 

いつもは殆ど仏頂面で、四番隊の隊士達はその姿を遠巻きにしか見てこなかった。

 

しかし虎徹は知っている。卯ノ花と戦っている最中に死力を尽くして挑む彼を、傷つくのも傷つけるのも嫌で仕方がない彼を、油断している時はいつもの作られた口調が緩む彼を。

 

『これが誰かに読まれてるなら、俺は既にこの世に居なくなってる……と思う。生きててうっかり処分をし忘れたなら、黙って燃やしてくれると助かる』

 

そして何処かで弱気な彼を、彼女は知っている。

 

『思えば、護廷十三隊には500年以上死神として務めてきた。いつのまにか俺より古参な死神は隊長達くらいで、副隊長では雀部しか先輩は居なかった。ずっと何処かで孤独感を抱えていたのかもしれない、周りとの溝に』

 

萩風と虎徹が初めて出会ったのは200年程前の時だ。その時の彼を見た時の事は虎徹も覚えている。

 

猛獣、表すならそんな言葉だろう。繊細さが大切な回道を、こんなガサツそうな男の死神から教えてもらえるのだろうかという不安があった。

 

だがそんなものは杞憂であり、彼が師になってくれた事で彼女自身は大きく成長出来た。だからこそ、彼の感じる孤独も近くに居たからこそ少しだけだが感じていた。

 

副隊長という地位に抜擢され、周りとの温度差に苦しんでいたのだろうと。だからこそ力が必要だったのだろうと、自身の存在を証明するために。その努力で得た力がたとえ、四番隊に相応しいかも考えずに。

 

彼が欲しかったのは、副隊長という地位ではない。欲しかったのは、その先の力とそれを自分だけが理解できていれば良いという謙虚な姿勢だったのだと。

 

『でも今はそんな事は思わない。卯ノ花総隊長から様々な事を学んでから変わった。俺が虎徹勇音を弟子にした時も、副隊長に就任した時も、初めて卍解を身につけた時も、俺の全ては……卯ノ花総隊長から始まり、様々な人と関わり今に至ったのだと思っている』

 

それを読むと、何故かズキリと心が痛む。今迄は彼女という人間性ゆえに感じる事の無い感情、自身の自信なさゆえに感じる事の少ない感情。

 

「(あぁ……嫉妬してるんだ、卯ノ花総隊長に)」

 

ズルイ、というこの感情。萩風に出会い、彼を育て上げたというのが何となく羨ましいのだ。目の前で今の萩風に至るのに、どんな苦難の道を乗り越えてきたのかを見てきた事を。

 

少しだけ可愛く頰を膨らませ、また虎徹は先を読み続ける。

 

『俺が死ぬ時は、どんな最期なのかは何となくだが予期できる。更木剣八と戦い喰い殺されるか、ユーハバッハに立ち向かい帰らぬ人となる時のどちらかだと思う』

 

ピクリと、虎徹の目が文字を追うのを止める。死という文字が初めて現れたからだろう。覚悟はしてたのに、何故か指に力が入らない。遺書がスルリと落ちてしまいそうなのを何とか踏ん張り、数回深呼吸をする。

 

気持ちの覚悟はできていたと思っていた。だが、この人だけは死なない人だと思っていた。いつもボロボロなのに、なんて事のないように振る舞うこの人は真の意味で死神に至っているのだからと。

 

『本音を言えば、戦うのは恐ろしい』

 

知っている、傷つくのも傷つけるのも怖いから。

 

『だが、それ以上に戦わないで失う事の方が何倍も恐ろしい』

 

知っている、教えてくれたのは貴方だから。

 

『戦え、戦わなければ生き残れない。俺の死をどんな形に捉えても良い、だが何かを奪わせない戦いを、これを読んだ者にはして欲しい』

 

『戦え』その文字は特に力強く書かれている。何を思い彼が戦地へと向かうのか、何を思い自分達を守っていたのかを。虎徹は近くで見て、教わってきたからこそ、その意味を感じ取れている。

 

頰を数滴の雫が伝っていく。それは真下にある手紙を濡らしていき、僅かに墨を滲ませる。抑えてなければならない、まだまだやるべき事は残っているのだから。

 

「だめ、まだ……私が、頑張らないと」

 

抑えていなければ、何もかもを投げ出してしまいそうになってしまうから。

 

そして最後の紙をめくる、最後の紙は他の紙と違い少ない量の文字だけが緊張の糸が切れたような字で書かれている。それはたまに亡き雀部と文通する時のような力が程よく抜けた文字である。

 

『追伸 何か似合わないカッコよさげな遺書になったのは気にしないでください』

 

それはこれを読んで気を沈ませた者を気楽にさせる為の言葉だ。虎徹を泣かせないように隣で言われてるようで、励まされてるような気分になる。

 

「私って、本当に単純なんだろうなぁ……」

 

気負い過ぎるな、でも全力で頑張れ。そんな励ましの言葉が隠れた手紙を、虎徹は懐に仕舞い込む。何処か胸の内側がじんわりとあったかくなり、安心感に包まれていく。近くにいるようで、遠くにいるのを感じるのだ。

 

「これくらい、良いですよね。だって萩風さん、またいつも通りに生きて帰って来るんですから」

 

珍しく少しだけ狡い女の子は、必要の無くなる物を自分の物にするのであった。

 

☆☆☆☆☆

 

焦がれる、まだまだ殺し足りない。どれだけの刃を受けようと、どれだけの敵を屠ろうと、まだ足りていない。

 

目の前の男、それは間違いなく滾るこの闘志を焼きつくさせられるだけの存在。卍解という必殺技を使われ、既に8割以上の敵を殺すが未だに健在の存在。

 

だがそれでも最強は己、斬れぬものなぞ存在しない。だからこそ、負けるはずがない。

 

どれだけ傷つこうと、必ず斬る。

 

「ウォォォォァァァ!!」

 

そしてなおも、獣は飛びかかる。幾多の攻撃を受けようと、標的と斬り合うのを楽しむために。

 

「剣ちゃん!」

 

しかし、背後からの声に体がピタリと静止する。戦闘中の更木剣八へこんな事をして無事で済まないのは護廷十三隊の常識だろう、不粋な真似をしたのは誰なのかというのが止まった理由の一つである。

 

そしてもう一つは聞き慣れた声であり、本来ならばここに居るはずがない死神の声だからだ。

 

彼女ならば、戦いの邪魔なぞする筈がないからだ。

 

「やっとこっち向いてくれた!剣ちゃんったら、斬る相手しか見てないんだから!」

 

草鹿やちる、更木剣八が隊長を務めている十一番隊の副隊長である。外見はいつもと変わらない桃色の髪に死覇装なのだが、いつもとは少しだけ雰囲気は違う。更木もそれには気づくが、それを意図的に無視する。

 

今は戦いの最中で、それが最高に楽しいからだ。

 

「うるせぇぞやちる、黙ってろ。俺がこいつと殺り合って……?!」

 

しかし、辺りは変わっていた。標的、萩風カワウソはどこにもおらずましてや場所が荒野へと変わっている。この世界には、2人しかいないのだ。

 

夢のような戦いではあったが、夢ではないのはわかっている。

 

「何処だ、ここは。おいやちる、萩風のヤロウは何処だ。俺はまだまだ満足してねぇんだ!」

 

だからこそ、更木はこの場をつくりだしたであろうやちるへと問いかける。この場に変わるまでと違うのは彼女が現れた事くらいしかないのだから当然であるが、やちるはそれについては答えずに話し始める。

 

「駄目だよ剣ちゃん、ウソウソまだまだ元気だし。もうこのままじゃ剣ちゃんが負けちゃうよ!」

 

「あぁ!?俺が負けるって言いてぇのか!?」

 

更木は自身とは最も長い間を一緒にいる彼女が自身への敗北について言及するとは思わず、この場の事から頭が吹っ飛びやちるに対してギラギラとした怒気をぶつける。

 

しかし

 

「剣ちゃんが負けるわけないじゃん!」

 

その怒気は直ぐに霧散する。

 

更木はここで初めて、しっかりと草鹿やちるを見た。そして先程感じた違和感をしっかりと感じ取った。今までは感じた事もなかった、声だった。

 

目の前からも確かに聞こえる。確かに聞こえるが、二つの声が重なって聞こえてくるのだ。今迄は感じなかった声、それは更木剣八の手に持つ刀から聞こえてきていた。

 

今迄は無視していたというわけではないのだが、夢中になる彼は感じとれなかったのだろう。その手に持つモノから聞こえてくる声を。

 

「剣ちゃんが私をちゃんと使えるなら、誰にだって負けないんだから!」

 

今迄ずっと近くにいた彼女は、誰よりも近くにいたのだった。

 

そしてボロボロのナマクラは斬魄刀へと、昇華したのだった。

 

☆☆☆☆☆

 

パタリと倒れる怪物、その周りは血で溢れた地獄絵図だ。

 

「はぁ……はぁ……ギリッギリじゃねぇか」

 

更木剣八との殺し合い(一方的)結果は俺の辛勝だろう。

 

ちなみに俺の全身は血塗れ、汚れてない所が無いほどだ。傷はある程度治せたが、致命傷になる程の深い傷は完治できていない。更木隊長を治しながら3日も戦っていれば、流石に限界が来たようだ。

 

床に座り込みながらゆっくりと呼吸を整えるが、口の中は血の味と嫌な固形物を感じ上手く吸えない。

 

吐き出すと血の塊と肉の塊、唾液が混じってるのか疑問に思う程の真っ黒な血が吐き出されている。それでも何とか呼吸は楽になった、過去最高にボロボロだ。

 

これでも生きてる辺り、俺もそこそこ隊長格に近付けているという事なのかもしれない。

 

そして、横目で倒れ込む更木隊長を見るが地面に突っ伏したまま動かない。息はあるし、拍動も聞こえるから生きてはいるのだろう。

 

しかし、とんでもない怪物だ。

 

何が怪物かって……始解もせずに、100人の俺を相手にその殆ど全てを殺しきったのだ。あ、補足すると俺の数少ない特技である斬魄刀の見分ける力で始解をしてるかどうかはわかる。

 

自分で斬魄刀を折って治してから目覚めた力だが、まさか十一番隊の草鹿やちる副隊長が斬魄刀とか思わないよね。俺も似たような事しようとしたけど出来なかったから、更木隊長は半端ないです。

 

そして、全力の卍解ですら更木隊長から始解も引き出せなかった。

 

ちなみにオリジナル含めて7人以外皆殺し……ふざけ過ぎた怪物だろ。二度と戦いたくない。

 

と言っても、もう勝負はついた。更木隊長ならほっといても死なない自信がこの戦いでついたが治療をしておかないと。いつ滅却師達が来るかもわからないんだからな。

 

「書いた遺書、書き直すべきかな」

 

一応、こっそりと仕舞ってるから見られたら恥ずかしいんだよな。今のうちから見られたり……しないよね?そんな都合よく誰もいない部屋で座布団に座ったりして見つかったりしないよね?そんな事しないよね?

 

……何だろう、嫌な予感がする。念のために、後でこっそり処分しとこう。

 

うん、さっさと帰ろう。もうクタクタだわ。

 

「…ちる……テメェ、……だったのか」

 

「……は?」

 

寝息?いびき?違う、そんなわけない。そうだったら良かったのに、そうだったなら俺の心はどれだけ平穏を保てたのか。目の前で先程とは比べるのも馬鹿らしくなる霊圧を放ちながら、刀を身の丈を超える程の鉈に変えて立ち上がる。

 

え、もう体力残ってないのに?

 

()め 『野晒(のざらし)』」

 

「っ……!?」

 

その大鉈が薙ぎ払われ、俺の視点がズレる。世界がズレるって言うのが正しいのかもしれないが、真横に落下していくような感覚で……。

 

受け身を取ろうとするけど、何故か手の先が動く感覚がしない。

 

「あ、れ……?」

 

そして目の前に、下半身が転がってる。

 

更木隊長はそのまま地面に倒れたが、何が起きたんだ……?!

 

確かなのは……異様な寒さが、体の中を駆け巡っている事。咄嗟に発動しようとした卍解・改は間に合わなかったのか?殺意を受けるより先に、体が斬り裂かれた……?

 

なんで斬られたのがわかるのに、なんで斬られて倒れてるのがわからないのだろうか。回復したいのに腕は転がってて……あ、そもそも体力も尽きてるか。

 

何だか分からないが、何でだろう。死にそうになってるのに、何処かで死なないって何かに言われてる。焦り続けて発狂する自分がいるのに、リラックスしている自分がいる。

 

だからかもしれないけど、何が起こったがわかっても自分の事を分かれていない。

 

「か、い……?」

 

何かが燃え尽きていく。消えたことの無い何かがゆっくりと消えていき、煙のように掴めない物が引きずられていく。

 

そんなよく分からない感触を感じながら、意識は闇の中へと引きずり込まれていく。

 

☆☆☆☆☆

 

青い炎に包まれた殺風景な砂漠だけの世界、襲撃された虚圏。数多の死体が放置されていたその場所も全て回収、供養されている。青い炎も虚圏の王、そして浦原喜助の両名によって直々に消し止められ、崩壊した建物以外の環境は元に戻っている。

 

そしてここでする事を終えた王、ウルキオラ・シファーは旅立とうとしていた。

 

「ハリベル、ここは任せたぞ」

 

ハリベルの「はっ、お任せを」と言うのを確認すると、ウルキオラは灰色の外套を翻し別れを告げる。ここから先の戦いに付いて行けるのは虚圏ではウルキオラだけだ、負傷し回復の終えていないハリベルには荷が重い。

 

故に、虚圏から旅立つのはそこの王であるウルキオラだけである。付き人は居ない。

 

「準備は万端みたいっスね」

 

「あぁ。そっちこそ、契約は覚えているな」

 

「モチロンっスよ。こっちの準備は問題無いです、後はウルキオラさん達次第っス」

 

そして浦原喜助は既に虚圏からの扉を開き、準備を済ましている。最後の確認も問題無く、いつでも虚圏を飛び出す事はできる。

 

「本音を言えば、時間が足りない。だがそんな悠長な事は言っていられない」

 

しかし、ウルキオラにはまだ時間が足りていない。萩風の応急処置と井上織姫による治療で傷は治った。だが完治はしておらず、井上の異能でも治せない傷が未だに残っている。他にも切り札の解放もあるが、時間はやはり足りていない。

 

それでも、今を逃せばチャンスは殆ど無くなるのだった。

 

「こいつを連れて行く必要が、あるんだな」

 

そして浦原喜助が先程述べたように連れて行かれるのはウルキオラ1人ではない。付き人の破面でも、虚でもない。

 

「んだよ、文句あんのか」

 

「俺には無い」

 

同行人の滅却師、リルトット・ランパードは悪態を吐くが実力差はわきまえているようで思いのほか反抗心は小さい。同じ目的を持つ仲間という事もあるのだろうが。

 

「えぇ、まぁ……現状では彼女がいるかどうかで尸魂界の未来が決まるかもしれませんね」

 

浦原は具体的な事を濁しながら話すが、それでも重要な事なのだろう。彼は護廷十三隊の天才、涅マユリを超える天才。ウルキオラ達の思いもよらない事を考え、思いもよらない秘密を知っている。

 

「別に、ジェラルドみてーな大した事はできねーぞ?」

 

「大丈夫っスよ!大した事ないのはわかってますから!」

 

屈託しかない笑顔を向ける浦原、それに謙遜したつもりで言った滅却師でも上から数十人に選ばれる精鋭であった彼女のプライドが大きく傷つく。

 

そして、左手に矢を装填する。

 

「殺す」

 

「待て」

 

それをウルキオラは後ろからがっちりと押さえ込み、捕縛する。

 

「離せぇぇぇ、ウルキオラァァァ!こいつは殺す!それとその持ち方すんな!俺の身長が低いって言いてぇのか!!」

 

この少女萩風の時でも察せられたと思うが、沸点が低い。ウルキオラに押さえつけられているが、ガチギレである。また、両腕を抱えて持ち上げられて子供のように扱われてるのもイラついているようだ。

 

足を振り回して必死に拘束をとこうとしているが、今のリルトットに為すすべはない。

 

「俺との契約がある、それまでは死んでもらっては困る」

 

「アッハッハ」

 

「それでもやっぱ殺す!笑うんじゃねぇ!」

 

自分に対して攻撃されそうなのにも関わらず、子供のように扱われる姿に扇子を持ちながら爆笑する浦原。心なしかウルキオラとリルトットの距離が近づいたようだが、それを狙っていたのかは定かではない。

 

不安で不気味な胡散臭い奴なのだ。しかし、それも作られたキャラクターだ。本当の彼の姿を見せるのはほんの一部の人間のみの、信用ならない奴。

 

それでも、彼の情報と契約は信用に値する物である。

 

そして流石にふざけ過ぎたと思ったのか、彼は「じゃあ、そろそろ冗談はこれくらいにしておきましょう」と一声かける。それにリルトットは仕方なく矛を収め、ウルキオラもやっとかという風にリルトットを下ろす。

 

「後で殺す」

 

まだ矛はしまいきれていないようだが、2人の準備は万端である。浦原も苦笑いをしてるが、そろそろ時間である。浦原喜助の計算が正しいならば、直ぐに最後の準備をしなければならない。

 

「まぁまぁ……行きましょうか、霊王宮行き片道列車の旅に」

 

3人はその切符を手に入れる為、尸魂界へと旅立つのであった。

 

☆☆☆☆☆

 

無間の扉の前の長い廊下、本来ならここに立ち入るのは禁止されている場所で2人の死神は扉から出てくる者を待ち続けている。

 

兵主部 一兵衛、和尚と呼ばれている零番隊のリーダー。萩風を上に連れて行くために待機を続けている。

 

もう1人は二番隊の隊長、砕蜂だ。護廷十三隊でも指折りの実力者であり、隠密機動も束ねている。そんな彼女と和尚の雰囲気は、一言で言えば最悪であった。

 

「儂だけでもええんじゃぞ?隊長とて暇じゃあるまい」

 

「私はやるべき仕事なら済ませている、今の私のすべき事はここにいる事だ」

 

敵意を正面からぶつける砕蜂に、和尚もやれやれといった様子である。いくら言っても、何を言っても砕蜂の警戒がなくならないのだ。

 

名目上は和尚の滞在中の付き人としてだが、明らかに付き人のしていい態度ではない。砕蜂も多少は融通が利くのだが、こと萩風カワウソと四楓院夜一においては全く融通の利かない死神へと変わってしまう。

 

「何度も言っとるじゃろうが。儂は萩風を連れて行くだけで、霊王様の命令に従っとるんじゃて」

 

「貴様は先程から、連れて行くと答えるだけで送り返すという言葉を使っていない、帰れない可能性もあるのだろ。ならば私は反対する」

 

「儂が言ったところで、何の保証にもならんのだぞ?」

 

「気休めにはなる、言質も取れる」

 

言質は取れないと言ってるのだが、先程からこのようなやり取りがずっと続いている。数時間もこんなやり取りをしていれば、流石の和尚も精神的にやや疲れてしまうが砕蜂は疲れた様子は無い。

 

「頑固じゃな、モテんぞ」

 

「有象無象に対してどう思われようが何とも思わん」

 

どう言っても言い返す、そんなやり取りを繰り返しているのだが先程の和尚も少しだけめんどくさそうにしている。それでも少しは真面目に返している、それは砕蜂の不安も理解しているからだ。

 

何処ぞのいつもは上にいる輩に急に仲間を連れて行かれてしまうのだ。何も思わない方がおかしいだろう。

 

そんな不毛なやり取りを続けていると、和尚が扉の方へと目を向ける。まだ扉は開いていない、中の様子がわかるはずもないのだが「ん?終わったか」と和尚は呟き扉の方へと歩みだす。

 

最初は気づかなかった砕蜂も慌てて追いかける。そして彼女が扉の前に立った時に見計らったように、門は開いた。

 

「あれは……」

 

パサリ、パサリと草履でゆっくりと歩く音が暗闇の奥から聞こえてくる。フラフラとしたその足音は途切れ途切れのゆったりとした物で、一定のペースで歩けていない事からいかに疲労しているかが伺える。

 

中からはむせ返る程の色濃い血の臭いが漂い、砕蜂も少し顔をしかめるほどだ。一体何人で殺し合いをすればこれだけの惨劇の後のような血臭がするのだろうか。

 

「どうやら、2人とも生きとるな」

 

和尚は呟くと、奥からゆっくりと歩く者を砕蜂はやっと視認できる。微弱過ぎて感じるのが難しかった霊圧を、やっと感じる事ができる。

 

ボロボロで真っ赤に染まる死覇装と隊長の羽織、見ていられないほどに疲労困憊な彼は歩き続けている。砕蜂は確かに、待ち望んだ霊圧を感じる事が出来ていた。

 

「待っていたぞ、萩風……!?」

 

だが、彼は覚束ない足取りをついに崩し扉を目前にして倒れ込む。咄嗟に砕蜂が隣から肩を貸すが、間近で見る萩風の状態はギリギリとしか言えない状態であった。

 

「あ、ぁぁ……砕蜂さん?」

 

貸した肩に感じる歪んだ腕の骨の形とべったりとした血の感触、曲がってはいけない方向に曲がった片足の脛、肺呼吸をするたびに苦しそうに動く胸を見ると肋骨が殆ど折れ、満身創痍としか言えない状態であった。

 

「って事は、生き……あれ、何で生きて……?いや、死……?」

 

青い白い顔が更に蒼白していく。目がボヤけているようで、今にも眠ってしまいそうな顔をしている。

 

「馬鹿を言うな!貴様は生きている、私が保証する。大丈夫だ、貴様が信用する私が言うのだから間違いはない!!」

 

砕蜂は「待っていろ、直ぐに四番隊に運んでやる!それまで耐えろ!」と励まし続ける。今の萩風の負傷は酷すぎる、萩風レベルの回道の使い手でこの様なのだ。致命傷は幸い見当たらないので死にはしないだろうが、一刻も早く萩風を安心できる場所に運びたい気持ちを抑えつつゆっくりと持ち上げようとする。

 

が、それを見兼ねた和尚は思いの外重傷に「やれやれ……相当、消耗しとるな」と呟くと萩風を砕蜂よりも早く持ち上げ、治療を簡単に始める。砕蜂に回道の心得は殆ど無いが、それでも幾分か萩風の表情が安らいだのは理解できる。

 

「時間も無い、このまま連れて行った方が治るのも早いじゃろう」

 

しかし、和尚は四番隊に連れて行くつもりはなかった。そのまま萩風を抱えると、直ぐにでも上に向かおうとする。

 

「待て、萩風は帰ってこれるのか!?それだけでも言え!」

 

しかし、砕蜂はそれを予期し先回りし和尚の行く手を阻む。瞬歩は圧倒的に零番隊の死神達の方が速いのは把握している。ならば先回りし抵抗をする事はできるのだ、それが小さな反抗で簡単に突破されてしまうと知っていても。砕蜂は気づけば体が動いてしまっていたのだ。

 

「どいた方が、良いぞ?」

 

「っ……!?」

 

そして、和尚は初めて少しだけ霊圧を開いた。片鱗とはいえ砕蜂とは桁違いの年月を生きる最強の死神の力を感じ、身が強張る。意味がない抵抗なのは、わかっている。ここで抵抗をしなかったら丸く収まる。

 

だが、抵抗をしなければ砕蜂の信念が許せない。砕蜂は自身の持てる力の霊圧を全て開き、徹底抗戦の意思を見せる。

 

一触即発、そんな状況の中で

 

「大丈夫ですよ……砕蜂さん」

 

萩風が消えそうな言葉で呟き始める。

 

霊圧を感じ起きてしまったのか、砕蜂の怒りと恐怖の入り混じった霊圧を。それを落ち着かせようと、場の状況も何も把握できていない萩風はまたゆっくりと呟き始める。

 

「これ終わっ……たら、またご飯でも行き……ま……」

 

約束を言い終える前に、萩風は眠りについてしまう。弱々しい声はゆっくりと消えていった。そしてそれに合わせるように、砕蜂のトゲトゲとした霊圧は収まっていった。何処と無く霊圧も優しさと丸さを感じ、それを理解した和尚は無言でその場を立ち去っていく。

 

萩風は言い終える前に眠ってしまったようだが、砕蜂は確かに消え入りそうな声をしっかりと聞き取った。

 

だから、信じる事にした。零番隊も霊王も信用していない、だが彼を信じて待ってみる事にした。

 

「最高級のを準備してやる。だから……必ず帰って来い」

 

彼が約束を反故にしたことなぞ、一度としてないのだから。

 

☆☆☆☆☆

 

時間は萩風達の死闘より、2日遡る。とある流魂街の外れの森で、その2人は空を見上げる。

 

「ったく、めんどくセーな。死んだら楽になるって聞いてたが、仕事ばっかじゃねぇか」

 

打ち上げられていく黒崎達を乗せた天柱輦を見上げる男達は、死神のような霊圧の濃さを持ちながらもそれとはまるで異なる格好をした2人である。

 

現世の言葉でで表すならヤンキー、不良などだろう。だが彼等は共に、死神に殺された者達だ。

 

死後の世界でここまで強い魂も珍しくだろう。だからこそ空高く飛んで行く柱の打ち上げを行った彼女に拾われたのだが。

 

「そういや、この後にもう1人来るらしいな。月島、どんな奴かわかるか?」

 

黒いジャケットを着た男、銀城(ぎんじょう) 空吾(くうご)は指先でペンダントを弄りながら隣の長身の男へ問いかける。見た目は白いワイシャツにサスペンダーという格好をするこの男の名は月島(つきしま) 秀九郎(しゅうくろう)、銀城と共に現世で黒崎達に殺された完現術者(フルブリンガー)だ。

 

その月島は「ちょっと待ってて」と言うと記憶の引き出しを開け始め、いくつかヒットする。

 

「石田雨竜や朽木白哉の記憶にあるね。萩風カワウソ、護廷十三隊の副隊長らしいよ。上に連れてかれる人の中じゃ……一番の実力者かな」

 

クスリと笑う月島。それに「マジかよ」と言う銀城。理由は上に連れて行かれていく者達の中でも己を殺した黒崎すら越えるのに驚いている。

 

「上に連れてかれてんのはお前を殺した隊長もいんだぞ、他の奴らよりもそんなにか?」

 

だが他にも護廷十三隊の中でも指折りの実力者が上に送られているのだ。月島を殺した朽木白哉、天才である日番谷冬獅郎という隊長達も連れて行かれているのだ。

 

「少なくとも、黒崎を一度殺した虚圏の王と対等にやり合えるだけの存在らしいよ。護廷十三隊でも戦えるのは限られてると思うし、出来る限り敵に回したくないかな」

 

月島にここまで言わせる相手はそうはいない。銀城は考えを改めた。先程の越えるという表現は甘い、凌駕しているという方が適切なのだと。

 

虚圏の王ウルキオラ・シファー、彼の劣化品とは言え崩玉を使った進化に対応できる死神なぞ護廷十三隊に居ても1人か2人だ。卍解状態の黒崎をその二段階前の状態で圧倒する怪物、それを聞いて銀城は「あの時そいつもいたら、他の奴らも死んでたかもな……」と小さく呟く。

 

今となっては殆ど関係ない、完現術者の集まり。死神を倒すという野望を持った人間達であったが、相手が悪かったのだと今更ながらに実感しているのだろう。

 

「万が一の時、お前なら挟めるか?」

 

「さぁね。不意打ちならできるかもだけど、今の彼はわからないし。案外滅却師にズタボロにされてるかもよ」

 

「なら誰なら勝てるんだよ」

 

「だからこそ……あのお姉ちゃんは正攻法以外の手を使える僕らを動かすんだろ?」

 

月島は本に挟まった栞を抜き取ると、いつでも戦える準備ができているのだと銀城へ見せる。

 

「僕は黒崎の為に動きたくないけど、君のためなら仕方なくでも動くよ」

 

覚悟はできていると月島は示す。それが何を望んでいるのかはわかっている。銀城はそれに対して十字架のネックレスを手で軽く見せつけると、月島は軽く笑いかけ開いた本をサラサラと読み始める。

 

それを横目に、銀城はまた空を仰ぐ。既に黒崎達を乗せた柱は見えず、蒼穹が広がり続けている。この何処かの向こうにいる敵、仲間、味方を考えていると、逆らえない流れに乗ってしまったのだと実感してしまい、めんどくさそうに溜息を吐く。

 

動くのは借りを返す為、己の為でもあるそれを果たす。

 

今の銀城が動く理由はそれであり、それだけではない。

 

「やってやろうじゃねぇか。ついでに浮竹の面も見てやる」

 

長年の謎を解明するのも、彼の目的の一つである。




更木隊長は砕蜂さんがちゃんと四番隊の隊士を呼んでくれましたので、虎徹副隊長が治療中です。

それと次回を挟んでからか、もしくは次回から。

第二次侵攻を始めます。色々とゴチャゴチャするかもしれませんが、頑張ります。

☆☆☆☆☆

Q.卯ノ花隊長が総隊長になりましたが、疑問に思わなかったんですか?

萩風「え?だって総隊長って実力とかより曲者だらけの隊長達纏める事ができる人の事でしょ?卯ノ花さんなら適任じゃないですか」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29.少し未来の夢

新入部員集めるのに徴兵されていた。

あと部長かぁ…うそーん。忙しくなるなぁ…。


見渡す限りの青い空と下界に浮かぶ白い雲。曇ることのないこの世界ではいつもの事であるが、快晴である。しかし和尚には何故かこれが嵐の前の静けさにしか感じられない。仮に嵐がやって来ても、零番隊の者達ならば嵐を切ることは造作も無いだろう。

 

しかし、やって来るであろうユーハバッハという災害は何処までの存在なのかは和尚には予測できない。ただ分かっていることは、護廷十三隊を倒したら次はここなのだという事だろう。

 

和尚は外の様子を軽く伺う。見る先には研鑽を続ける2人の死神がいる。その死神達は下界からやって来た朽木ルキアと阿散井恋次だ。

 

帰って来たばかりの和尚の仕事は下界からやって来た死神達に稽古をつけることだ。今は2人だけだが、他の者達も治療が終わり次第にやって来るだろう。

 

今2人はピタリと制止し、互いに集中して剣を向け合っている。それだけの修行だが、それは集中力を大きく削っていく。

 

現に2人は修行終了の合図の鐘と同時に「ぷはぁっ!!」と大きく息を吐き出し、地べたに座りこんだ。時間にして半日程度であろうか、彼等が高濃度の霊子で覆われた空間の中で無ければこの程度の修行は苦もないだろう。

 

しかし副隊長クラスの実力者ですら最初は立ち上がる事も、呼吸をする事すら難しい空間だ。ここで動けるだけ、彼等は大きくレベルアップできている。

 

そんな2人を見て、そろそろ次の段階の修行に入ろうかとも考え始めると2人の会話が聞こえて来る。

 

疲れはあるようだが、それでも余裕もあるようだ。心置きなく新しい修行に入れるだろう。

 

「ふむ……後はカワウソと一護か。間に合うと良いんじゃが……」

 

だが、気掛かりなのは未だに目を覚まさない萩風だ。黒崎一護や他の隊長達の心配を全くしていないわけではないが、萩風の場合は不確定要素が多い。一護は既に準備は最終段階であるが、萩風は準備のスタートラインにも立てていないのだ。

 

更に浦原喜助が送り込んだ2人も気掛かりだ。直ぐに排除しようとも考えたが、それは早計であった故に監視下に置き放置している。不確定要素の一つであるが、今は敵に回すメリットは少ないからである。

 

今、最も重要な敵は別にいる。

 

「ユーハバッハ……儂らが負けるようならば、2人でもどうにもならんじゃろうな」

 

最も重要なのはユーハバッハ達、滅却師がここに攻めて来るかという事だ。万が一にも霊王が殺されてしまえば、霊王によって分断された世界は、霊王が消えれば統合され壊れてしまうだろう。

 

だが、崩壊を止める方法は無いわけではない。

 

「カワウソよ、お主が人柱となるのも運命なのかもしれんの」

 

無関係とも言える黒崎一護よりも優先されて召し上がげられるのは、萩風カワウソなのは明らかであった。

 

☆☆☆☆☆

 

あー、何だろう。体から力がふわっと抜けてる気がする。スゲー軽い。なんだ、昇天してんのか?死んだのか?

 

目を少し開けると空が綺麗だった。雲1つなく、何処か空に近づいているような感覚がする。まじかぁ、死んだのかぁ?

 

あー、せめて天使みたいな美少女にこのまま連れていかれたいなぁ……。

 

「目覚めたか」

 

「……は?」

 

美少女、美少女、美少女に……連れていかれたかったなぁ……!!

 

……うん、美麗な顔だよ。でも君は男だよね。俺、悪いが男は無理なんだわ。

 

「どうした、傷は殆ど治っているぞ」

 

「……いやそうじゃねぇよ」

 

目の前には美青年の友人、ウルキオラ・シファーがいる。見てみれば俺が治せなかった傷は消え、元気な姿である。

 

てかどうりで身体が軽いわけだ。俺の身体にも傷1つ残ってない、結構な重症だったんだが。

 

まぁ、とりあえず。頭の中のごちゃごちゃを吐き出そうか!

 

「ここどこだよ!あと、何でしれっとお前が居んだよ!?俺が言うのもなんだけど、結構傷やばかったろ!?」

 

ウルキオラが上半身……いや、普通に裸か。てか俺もやん、なんならここお風呂やん。どこの露天風呂だよ、それとここ絶対に普通の場所じゃないだろ。

 

「密航してきた、傷はつい先程に治った。この湯のおかげだろう」

 

ごめん、話が全く飲み込めない。

 

「ここは霊王宮、空の上にある空間だ」

 

「れ、霊王宮?え、あ、お、おう?まさかそんな所に……」

 

どっかで聞いたことあるような……やべぇ、わかんねぇ。本気の声音で言ってるから嘘は無さそうだし、凄いところには居るんだろう。ウルキオラがジトッとした懐疑的な目で見てきてるが無視だ。そんな常識知らねぇのかよって目で見てきるが、こいつまさか読心術の使い手なのか。

 

「俺はお前の心なぞ読めんぞ」

 

「読めてるじゃねぇか!!」

 

「考えている事が顔に出ている」

 

「それでわかるなら、お前はもう少し顔に出せよ」

 

くそ、何だろう。ウルキオラの余裕の笑み?ぽいのがドヤ顔にしか見えない。その顔はなんだよ!そこそこ長い付き合いの俺ですら殆ど分からない程度の機微しかねぇよ!

 

でもそっちがその気なら、言ってやる!ハリベルさんに「ウルキオラがあの3人に手を出してるらしい」って無い事ばっか言ってやる!その時はどうなるかわかるよな?!虚圏で王様やってるから色々とやる事やってるって言ってやる!!

 

俺は本気だぞ!

 

反省して謝るなら今のうちだからな!

 

「その時は、俺も同じ事をするだけだ。どちらの言葉が「悪かった、深く反省している。だからエミルーちゃんとかに告げ口するのはやめてください、特にハリベルさんとかエミルーちゃんとか。あ、靴を舐め」止めろ、貴様に自尊心は無いのか……」

 

やっぱり心を読んでやがる。風呂の上で浮いてから土下座をしてお願いする。呆れたウルキオラの声が聞こえるが、自尊心を殺す事なんて事は社会的に殺されるのに比べればマシだ。

 

だからお願いします、エミルーちゃんだけには変な事言わないで下さい!嫌われちゃうから!

 

この前エミルーちゃんにセクハ……軽いスキンシップして以来、普通に話せて無いんだぞ!!

 

いやでも、その時は俺は何も悪くない!とは言い切れないけど。ちょっとうっかり躓いてエミルーちゃんの胸元に飛び込んでしまったんだ。これは本当にわざとじゃなかったし直ぐに退こうと思ったけど、男の性というか離れられなかくて。顔を埋めて母性を感じてただけなのに……エミルーちゃんも強く否定してなかったからそのまま抱き着いてただけなのに。まさかね、突然のハリベルさんの攻撃が来てね。当たれば手足の2.3本は吹き飛んでたかもしれん。

 

でもその後にハリベルさんが言ってた『あのままだったなら、貴様は虚圏に一生居ることになるぞ』って言ってたが、どういう事だろうか……殺されて墓に入れられる的な?まぁ大したことじゃ無いだろ。その時はウルキオラに助けて貰えば。

 

「ったく、騒がしい奴らだな」

 

「いや、俺は悪く……えっ!?」

 

「よう萩風、俺の風呂はどうだ?」

 

そんな懐かしい記憶の引き出しを開けてるの夢中になっていると、奥から現世ではリーゼントヘアーって言ういかつい先端が丸まった髪型の男がやってきた。

 

「えっと、き、き……麒麟寺さん?風呂は気持ち良かった?と思います」

 

「おう、俺がやったんだから当たり前だろうがな」

 

いや、言ってて思ったけど。寝てたから風呂の加減とか何もわからないです。

 

あと一瞬ちょっと久しぶりで名前を忘れかけた。麒麟寺さんには気付かれてないみたいだが、となりのウルキオラの視線が痛い。大丈夫、合ってたから!ノーカンだから!

 

てか頭が落ち着かん。そうだ、冷静になれ。こんな姿を女の子に見られたら幻滅じゃ済まないぞ!俺の寡黙な人あたりのそこそこいい隊士という作り上げた心象が消えてしまう!

 

「本当なら少しは話を聞きたかったが、さっさと上がれ。んで飯でも食ってこい、お前たちに時間は然程残ってねぇからな」

 

周りに女の子の気配は……なんか変な気配が上からするけど、女の子は居ないから幸いだ。よし、さっきまでの落ち着きのないだらしない行動は見られてないな!

 

……おい、ウルキオラ。その目は何だ?

 

……あっ!こいつ鼻で笑いやがった!やっぱりこいつ心読めるじゃねぇか!!

 

☆☆☆☆☆

 

ボンヤリとした景色が浮かび上がる。ここは何処かと周りを見回すとどうやら何処かの教室のようだ。その景色を見ている死神の卵達が集まっているのだろうとわかると、これが夢なのだという事を把握する。

 

中々にハッキリとした夢である、だが自分が生徒なのか空に舞う霊なのかは定かでは無い。そんな事を考えていると、予鈴が鳴り同時に着物を着た壮年だがどこか飄々とした雰囲気を感じる男が教室へと入る。

 

「ハイハーイ、じゃあ午後の授業を始めるぞ」

 

教卓に立つその者の顔は何故か黒く塗り潰されている。

 

いや、彼だけでなかった。周りを見れば白や赤など様々な色で顔が伺える事は無かった。

 

他にも手にする教本、黒板の文字、何かを隠すようにあるそれらに少しだけ違和感を覚える。だが夢の中というふわふわした緊張感を感じないせいか、然程気にならなかった。

 

そして、授業が始まる。

 

「今日から始めるのは『×王護=大戦』か、内容は濃いがここに今の尸魂界へ至る大きな分岐点だねー。ちゃん%覚えてね、僕も今日はいつもより真面#にやるよー」

 

だがどうやら声にもノイズが混じり所々聞こえないが、それも気にならない。

 

「まずこの戦争は『〒○¥』と『死神』との間に勃発した。%g0年前に起こり、1200人以上の死者を出し当時の護廷十三隊の総隊長を含めた@長5人が殉職し、1人が再&不能となった程の激しい戦争だった」

 

「ちなみに再起不能になったのは僕なんだけどねー」と笑いながら語りかける教師に生徒たちが「またまた先生がボケてるなぁ」と冗談として受け取って笑いに包まれているが、何人かは笑っていない者も居る。

 

どうやら教師の彼自身は戦時中の生き証人なのは確かなようである。そして先ほどクスリともしていなかった者の中の1人が落ち着いたのを見計らい挙手をする。

 

挙げたのはどこか凛としたん雰囲気のする少女、なのだろう。顔を伺えないので彼にはその雰囲気からでしか感じ取る事ができない。

 

「ん?なんだいjp#川さん、質問があるなら良いよ」

 

そう言われた少女は立ち上がると教本を片手に黒く塗り潰されてるが故に分からないが、どうやら教本のどこかに疑問があったらしい。

 

「その♪%先生、伺いたいのですが。護廷十三隊の総¥長を殺めた敵の首領を、どうやって討ち取ったのでしょうか。隊長達によって%ち取られたとしかなくて、他に詳しい記述が教本に載っていないのです」

 

それを聞いた教師は「なるほどねぇ……」と少しだけ呟くように何かを思いにふけっている。その様子が少しだけ先程までとは違うのは雰囲気でしかわからないが、顔が見えるのならより明確な感情を読み取れただろう。

 

「予習をしっかりとしているようだね。それについては後で蛇足として話すから、待っててね」

 

優しく「ごめんね?」と言うと少女は真面目なようで「ありがとうございます」と言い着席する。

 

「この戦いで我々が生きている事からもわかるだろうが、死神達は勝利した。当時の霊王は死亡し、復興には多大な時間がかかった。だが失った物だけがこの戦争にあるわけでは無い」

 

「虚圏と尸魂界が初めて手を取り合い解決した戦争でもある。その後両界での関係は分かっていると思うけど、学舎に破面も死神も関係なく過ごせるようになった。可愛い子が増えて先生は嬉しいよー」

 

「それで、先程朽木の質問の話だな。敵の首領、『〒#$バッ$』は護廷十三隊の隊長達によって討ち取られた。でも直接戦ったのは数人でね、他の死神達は僕も含めて見守る事しかできなかった」

 

急に話のテンポが早まっていく。世界が早送りにされていく。どうやらそろそろ夢から覚めてしまうのだろう。

 

だが何故か今度はその早送りが急に止まる。教師の雰囲気も今までで一番真面目な雰囲気を感じ、生徒達も感じ取っているようだ。

 

これではまるでこれからが重要だと言っているような物だ。だが、所詮は夢だ。

 

上手く聞き取れない所が多いが、これも夢の醍醐味なのだろう。起きた時に覚えているかどうかも怪しい夢なのだから。

 

それでも、辻褄が合っている程に珍しく精度の高い夢に興味は尽きない。

 

「どうやら、これを作っている中央#@六室は曖昧な裏付けのない情報を載せたく無かったらしい。仕方のない事なんだけどねぇ」

 

少しだけテレビを停止させたように止まったような沈黙の後に、彼は意味深に呟いた。

 

「ま、待ってください!」

 

それに静まり返っていた生徒達だが、雰囲気はよくない。噛み砕いて話を飲み込もうとしてる者が大半である、しかし頭の回転が速く直ぐに飲み込んだ生徒はワナワナとしながら響く声で絞り出す。

 

「もしかして、その人物はまだ死んでないんじゃ……!?」

 

不確かな情報、それが何を指すのかわかった者の中には小さく悲鳴をあげる者もいる。

 

その悲鳴が連鎖し、教室内が途端にザワザワと騒ぎ出す。それに全く反応をしていない者も居る、だが大多数の者達はその何かに怯えている。ここにいる者達は当時の戦争を知らない者達、血みどろの戦いが起こったのは想像に難くないだろう。

 

そしてその惨劇が、もしかしたら今からでもいい起こるかもしれないと言う恐怖に震えているのだ。

 

だが教師はその生徒達に「あー、大丈夫大丈夫!変に不安を煽ってごめんよ」と宥めるように話しかける。もしこれが本当の事ならそれこそ簡単に言える事ではなく、少しずつだが何度か言い続けたおかげでとりあえずは生徒達は落ち着きを取り戻す。

 

「ふぅ、まぁこうなっちゃうか。一応、これ以上は教師の口からは言えないけど、老人の独り言だと思って聞いて欲しい」

 

それに生徒たちは食い入るように顔を向け、見つめる。これは当時を生きていた死神の話なのだと、望まれた答えを持っているのだと。

 

そして夢を見る彼も、気になる内容であった。何故なら、いくつか心当たりがあり自分に何かしら関係するのは夢とはいえ明らかだったから。

 

「当時の&#隊隊長が一騎討ちの末に討ち取った。確実に息の根を止められたから、またこの*%によって戦$が起こる事は無いよ」

 

しかし、途端にノイズ混じりになり重要事が抜け落ちていく。同時世界が遠のいていく、教師から出ていくと言うよりは教師という画像から追い出されていく感覚だ。

 

「その者が成した事を知る者は少ない、だけど当時の映像を直に見た護廷十三隊の隊長、副隊長達では知らない者は少ない。@代目総隊長の右腕とも言われた、その隊長の名は……」

 

そして遠のいていく声から、答えは聞こえることは無かった。

 

☆☆☆☆☆

 

無機質な岩で出来た玉座に腰掛けるユーハバッハの前に跪く滅却師が二人いた。早朝に呼び出され、目覚めたばかりの彼の前にいる内の1人はハッシュヴァルトだ。滅却師の精鋭部隊『星十字騎士団』のリーダーにしてNo.2の呼び声も高い滅却師だ。

 

そしてもう1人は唯一の混血の滅却師にして、現代で生き残った者である石田雨竜は陛下の呼びかけに馳せ参じていた。

 

片やNo.2と共に呼び出された雨竜は不釣り合いに見えるだろう。しかしそれは違う。

 

今の雨竜はユーハバッハの次期後継者として発表された滅却師である。それがどういった意図なのかは殆ど誰も理解できていないが、異例の出世なのは誰の目にも明らかだった。

 

「陛下、どちらへ」

 

そんな2人を呼び出したユーハバッハだが、玉座から立ち上がるのでハッシュヴァルトは問い掛けた。それに対してユーハバッハは短く「尸魂界だ」と答えると、直ぐに「全ての兵を集めるのだ」とハッシュヴァルトに命令する。

 

ハッシュヴァルトが呼び出されたのは兵の指揮の為、それを把握すると直ぐに命令遂行の為に部屋を出て行く。

 

だが、ここで雨竜は疑問に思うだろう。ハッシュヴァルトには役目がある、呼び出されたのは必然だ。しかし、何故自身は呼び出されたのかと。

 

「時は満ちた。すこぶる調子も良い、能力も完全に使えるであろう」

 

「快眠できたようで、何よりです」

 

「あぁ……悪夢を見た時ほど、良い気分になれる事は無い」

 

ユーハバッハは口角をあげてニヒルに笑う。何を見たのかと聞くのも失礼に感じ、雨竜は言葉が詰まる。悪夢を見て気分が良くなる彼の気持ちなぞ、雨竜には分からないからだろう。

 

だがユーハバッハの今見る悪夢は、想像に難くない。

 

「行くぞ。世界は、これより新たな時を歩み出すのだ」

 

自身の敗北する夢を見て何故気分が良くなるのか。

 

そんな事、彼自身が彼の敗北する事なぞあり得ないと信じているからだろう。

 

対岸の火事を間近で見れる悪夢は、彼には至高だったのだろう。




時系列、一次侵攻から

1日目
萩風:更木剣八と斬り合う。
黒崎他:霊王宮へ。

2日目
黒崎・阿散井:回復、メシを食う。
日番谷他:入浴中
萩風:更木剣八と斬り合う

3日目
黒崎:帰宅
阿散井:斬魄刀準備
ルキア:復活
日番谷他:入浴中
萩風:更木剣八と斬り合う

4日目
ルキア・阿散井:修行開始
萩風:霊王宮へ移送&入湯
ウルキオラ:入湯
日番谷他:入浴中

5日目
日番谷他:回復
萩風:入浴中
阿散井他:修行
ウルキオラ他:準備

6日目
黒崎:帰還
萩風:入浴中

7日目
萩風:目覚める
黒崎:修行中

8日目
滅却師:侵攻開始


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。