【戦闘妖精雪風×ストライクウィッチーズ】妖風の魔女 Re:boot (ブネーネ)
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ウィッチとの遭遇 前編
人類は進化と成長を繰り返しながら地球上の各地で繁栄し、この世界の覇者と言うべき存在となった。
しかし1936年に突如として現れた謎の生命体【ネウロイ】は前触れなく人類に牙を剥き、大地を貪り、踏み荒らし、汚染しながら人類を迫害しその版図を大きく広げていった。
人類史に再び争いの歴史が刻まれ、安寧の時から叩き起こされた人類は悪夢の中で再び武器を手に立ち上がった。
後に長く長く語られる事となる、第二次ネウロイ大戦である。
ロマーニャジョルナーレ紙 1945年2月某日発行
人類連合軍総司令部直属の統合戦闘航空団(JFW)の一つ、ロマーニャ及び周辺国の防衛を任務とする第504JFW「アルダーウィッチーズ」が先頭に立ち、各国から選出された魔女十数名と総勢千人近くから構成される三つの運営群をもってヴェネツェア――現実のイタリア北東部に相当する国――を占領している【ネウロイの巣】に対してコンタクト、および対話を試みる【トラヤヌス作戦】を決行した。
しかし突如として発生した
ヴェネツェア一帯の住人を全て避難させ、504JFWは殿を務めて撤退の援護にあたった。
避難完了と同時に504JFW及び前線司令部は前進基地を放棄、しかしその後の撤退戦により各構成群は中破、504JFWに至っては半壊、ウィッチからも重軽傷者出るという凄惨な結果に終わった。
しかしこれを補うべく人類初となるガリア―人類は進化と成長を繰り返しながら地球上の各地で繁栄し、この世界の覇者と言うべき存在となった。
しかし1936年に突如として現れた謎の生命体【ネウロイ】は前触れなく人類に牙を剥き、大地を貪り、踏み荒らし、汚染しながら人類を迫害しその版図を大きく広げていった。
人類史に再び争いの歴史が刻まれ、安寧の時から叩き起こされた人類は悪夢の中で再び武器を手に立ち上がった。
後に長く長く語られる事となる、第二次ネウロイ大戦である。
ロマーニャジョルナーレ紙 1945年2月某日発行
人類連合軍総司令部直属の統合戦闘航空団(JFW)の一つ、ロマーニャ及び周辺国の防衛を任務とする第504JFW「アルダーウィッチーズ」が先頭に立ち、各国から選出された魔女十数名と総勢千人近くから構成される三つの運営群をもってヴェネツェア――現実のイタリア北東部に相当する国――を占領している【ネウロイの巣】に対してコンタクト、および対話を試みる【トラヤヌス作戦】を決行した。
しかし突如として発生した
ヴェネツェア一帯の住人を全て避難させ、504JFWは殿を務めて撤退の援護にあたった。
避難完了と同時に504JFW及び前線司令部は前進基地を放棄、しかしその後の撤退戦により各構成群は中破、504JFWに至っては半壊、ウィッチからも重軽傷者出るという凄惨な結果に終わった。
しかしこれを補うべく人類初となるガリア――現実のフランスに相当する国――を占領していたネウロイの巣の破壊を成し遂げた実績をもつ第501JFW「ストライクウィッチーズ」が再結成される事により暫定的にこの近辺の地域の防衛に当たる事が連合軍によって決定した。
これによりロマーニャ及び周辺国ではこの件に関して――――――
―――1945年3月某日。
ロマーニャの海に面している古代ウィッチの遺跡を流用して新たに設立された501JFWロマーニャ基地へ扶桑製大型飛行艇・二式大艇が向かっていた。
「やっとロマーニャ基地かぁ…そろそろ地面が恋しくなってきたところです」
「この程度の航行で音を上げるとはやわになったものだな宮藤。これは訓練のやり直しだな、期待しておけ」
「ええええ!!!?」
私の直属の上官である坂本美緒少佐がこちらを半目で睨む、扶桑を発ち既に一週間、各所を経由しながら向かっているのだから大目に見てほしい。
坂本少佐は私の父と縁が深い人で、私の事を父の忘れ形見としてよく面倒を見てもらっている。
かつて扶桑はネウロイ戦争の初期に起きたネウロイによる大規模進攻――後に扶桑海事変と呼ばれている――を受け、その際にストライカーユニットの研究者だった私の父【宮藤一郎】は行方不明となった。
決して少なくない犠牲と被害を受けながらも一斉攻勢を跳ねのけ粗方事態が落ち着いた時、当時父が開発に携わっていた新型ストライカーユニットのテストパイロットを務めていた坂本少佐の手によって訃報が届けられたのだった。
幼い心に傷を残したまま大きくなった私は、自分の中で人一倍に膨れ上がっていく空を飛びたい衝動を日々抑えきれなくなっていた。
空を飛ぶには二種類の方法がある。パイロットになって飛行機に乗るか、軍属のウィッチとなってストライカーを履くかだ。
ウィッチとは魔力という力を操る素質を持ち、それを用いることが出来る極限られた未成年の女子のみを指す異名であり主に軍に属する兵士の括りである。
日に日に私を駆り立てるその衝動に身を任せた私は母の反対の声を振り切って即座に家を飛び出した、私がまだ11才の頃だった。
今にして思えば父の背中を、かつての面影を追っていただけだと分かる、さらに幼い頃は訃報を信じず自分が父を連れ戻すのだと意気込んでいた時期もあった。
訓練所に駆け込んだ私は持前の素養で難なく通過しウィッチの卵になった。
周りから『あの宮藤だ』と好奇の目に晒されながらも座学と幾度かの実技演習を挟んでついにストライカーを実際に履いて行う飛行訓練にまで漕ぎつけた。
当時の教官であった坂本少佐との二度目の対面では大層驚かれたが、そこから長い付き合いが始まった。
訓練期間を終えて卒業し、遣欧部隊に配属後のある日、坂本少佐が欧州にて多大なる戦果上げた事に起因して人類連合軍から直々に501JFWの戦闘隊長――千人強を統括する組織の中で事実上のNo.2――に推薦されると、少佐は私を原隊から501JFWへ異動させる事を条件に承諾したのだった。
世界各国のエースと思惑を集めた501JFWにておんぶにだっこで任務をこなしていたが、去年の八月にネウロイのコアを転用した無人可変戦闘機・ウォーロックの暴走に伴うガリアのネウロイの巣消滅
当時謹慎中にも拘らずこれを破り、命令無視の独断先行は厳密的にはガリアのネウロイの巣が消滅した事と関係はなく、赤城を取り込み暴走を続けたウォーロックを撃墜して決着を付けても余りある罪状が残った。
その責任を取って私は不名誉除隊になったが、常識外れの固有魔法とウォーロックに関するの緘口令の監視の為に坂本少佐の預かりという条件で原隊に復帰となった、なんだかんだでウィッチは貴重であった。
今更実家に帰る事も出来ずに治癒魔法を活かして欧州の各地を巡っていたが再び辞令を受け501JFW異動して今に至る。
―――少佐、正面より未確認機接近、数は1、大きい、これは…
その声を断ち切るように突如赤い一条の光線が二式大艇の傍を掠めて行く、この見慣れた色の光はネウロイの光線!!
―――第一エンジン被弾!!
―――ネウロイ反応を補足、大型ネウロイと断定!!
「急降下して一度やりすごせ!私が直接出る!」
―――了解!!なんとかやってみます!
少佐の指示に従い二式大艇が降下を始める、肉眼で捉えたそのネウロイは確かに大型ネウロイと呼べるサイズだった。
「…雲に隠れていたか」
「坂本さん!下を見て下さい、あれヴェネツェアの軍艦ですよ!ネウロイに砲塔を向けてます!」
「何!?…おい待て、護衛の魔女の姿が見当たらないぞ!宮藤!至急出撃だ!!」
そう話している間にもベネツェアの艦隊がネウロイとの交戦を今にも開戦しようとしていた。
確かにベネツェアはネウロイによって大打撃を受けウィッチを含む戦力は減少している、しかし魔女なしで出撃するなんて無謀にも程がある。
ネウロイにはウィッチの持つ魔力でしか対抗出来ないのが絶対の共通認識だ、これが最悪な状況であるのは間違いない。ネウロイにとってはまさに鎧袖一触に過ぎないだろう。
「あの装備で大型ネウロイが落とせるか!ロマーニャのウィッチは!!?」
―――ロマーニャ軍からは航続距離不足との回答です!!
坂本少佐はストライカー発進促進システム(SSPS)に搭載された己の扶桑製新型ストライカー【紫電改】のエンジンに火を入れる。
「…ユニットトラブル!エンジンが始動しない!至急点検を急げ!2分で起動させろ!!」
―――り、了解!!
「坂本さん!私が先行してネウロイの足止めをします!!!」
ネウロイにも様々な区分があるが基本的なネウロイ討伐にはまずウロイを構成する源である「コア」の位置を探し出し、これを砕くことが重要である。
大型ネウロイは基本的にとにかく硬く攻撃も激しい、通常はウィッチが複数人必要になってくるが、幸いここはロマーニャに近く基地に先行している501JFWの援軍も期待できるだろう。
「…私か501の援軍が到着するまで耐え忍べ。そして絶対に生きて帰ってこい、これは命令だ」
「了解!!!」
20世紀、人類が唯一手に入れた脅威に立ち向かう為の力、現代ウィッチの新たな魔法の箒【ストライカーユニット】
第一次ネウロイ戦争を終え、いずれ来る災厄に対して戦力が必要とされていた時代には未だ旧式のストライカーユニットが主流であった。
大腿の中程から下を覆う様に直接装着する飛行ユニットとそれなりの重量のある魔道エンジンを背負わなければならず、別々に配置された分嵩張るばかりか魔力増幅能も気休め程度と涙が出るような装備であった。
しかしそれは私の父、【宮藤一郎】が新たに提唱した【宮藤理論】によって革新的な進歩を遂げた。
未成年の少女にのみ宿る【魔法力】を【魔導エンジン】にて増幅させるところは旧式と同じだが、装着部分を異空間へ逃がす事により軽量化と省スペース化に成功。
増幅能も比較にならないほどの向上をみせ、ストライカーユニット自体に魔力運用を補助する機能を搭載した事で操作の簡略化と汎用性を得ながら強力な推進力を手に入れた人類の希望の翼だ。
昇降機が上がりきり、SSPSに載せられた私に与えられた空戦型ストライカー【零式艦上戦闘脚二二型甲】――通称、零戦――の魔導エンジンに火を入れる。
エンジン始動―――回転数異常なし、始動機をパージ。
燃料噴射装置、異常なし。
クラッチ動作確認、異常なし
魔導エンジン、異常なし
魔法力混合停止位置、圧力・温度正常
コンパス、ジャイロスコープ、高度計、気圧計、確認。異常なし
何百回と繰り返した手順を滞りなく済ませ、SSPSから離陸補助用の魔法陣を展開してストライカーの離陸に必要な推進力を稼ぐ。
「安全装置解除」
ストライカーを支える固定具が外れ末節部から噴き出す飛行術式が大気中のエーテルと衝突して渦を描き、強大な推進力が芳佳の体をゆるりと空へと抱き上げる。
後はいつもの様に風と飛ぶ感覚に身を任せてこの空を飛ぶだけだ。
私はストライカーが大好きだ、私を空に連れていく無限と自由の象徴、私はこのマシンがどうしようもなく好きだ。
――――父は死んだ、この翼だけを残して
「宮藤芳佳軍曹、発進します」
ヴェネツェア海軍に休みはない。トラヤヌス作戦で多くの魔女が傷つき苦しんでいる今でこそ犠牲を払おうとも戦わなければ、我々は愛国心の基に国民を守らねばならない。
現在504JFWが離れ、501JFWが正式に着任するまでの間の最も警戒すべき時にその大型ネウロイは突如として現れた。
「艦長、大型ネウロイを射程に捉えました」
「…全艦、第三戦速!!進路、大型ネウロイ!対空戦闘用意!!」
ヴェネツェア艦隊の艦長レオナルド・ロレダン大佐は航海長ジョバンニ・コッラルト中佐からの報告を受け瞼を開く。
既にお互いに存在を認め総鑑撤退は間に合わない、ならば皆、鬨の声を挙げよ。
「全艦、撃ち方初め!」
―――「全艦、撃ち方ああああああああああああ!」
ヴェネツェア艦隊ザラ級重巡洋艦の20.3cm 53口径連装砲、次いで放たれる各艦の砲塔から放たれたのは採用試験中の対ネウロイ用の試製焼夷弾だ。
ネウロイは人類に対して無敵ではない。そもそも性質なのかとにかく水に弱いし、コアを砕く事が出来れば爆弾でも砲弾でもそれこそ岩でもいい。
しかし、それでも未だに魔女が希望である所以はネウロイの修復能力に依る、とにかく修復が速いのだ。コアさえ残っていれば外装が木端微塵になろうと即座に修復されてしまう。
それに対して魔女の魔法力は最たる特徴である固有魔法、シールド、肉体環境や武装の強化の三つに加えてネウロイの修復能力の阻害に働く性質がある。
人類も魔法力に頼らない人材、戦術、武装、兵器の開発を急いでいるのだがそれでも未だ生身の人間より魔女の方が戦果や生還率が高い。
今日も魔女はマルチロールかつファイターとして戦場を飛び回り、結果どうあがいても損耗が激しい最前線に送られることが常である。
―――煙が晴れます!!ネウロイ、依然健在!!
「…効果…認められず、…足止めすらも叶わぬか」
次の瞬間、赤い閃光が二条放たれ海を割り仲間の軍艦が爆散する。
―――「駆逐艦ベニエル他2隻大破!航行不能!」
―――「機関出力急速に低下!このままでは足が止まります!!」
海軍帽を深く被りこれから思案する、無力すぎる我々の価値とは一体何かと自問もした。
これがまだ中型ネウロイ程度であれば対抗手段もあったが既に勝敗は決した、相手が悪すぎた、我々は敗北した。
総員退艦の命を告げる為にと吸息したその時の事だった。
―――「…艦長!ウィッチです!!」
―――「ウィッチが来てくれた!!」
―――「あの白地に月と太陽のシンボル…扶桑の魔女だ!」
「扶桑の魔女…お前は、お前の価値はどれ程だ!」
それは国を愛する者の、軍人の、男の、叫びだ。自分達こそが「アレ」と戦うべきだと、何よりも悔しく歯がゆく、情けなかったのだ。
「我、扶桑皇国海軍、遣欧艦隊第24航空戦隊288航空隊所属 宮藤芳佳軍曹。ネウロイ撃墜の為支援を求む」
「…勿論だとも、好きなだけ持っていけ!全艦、舵そのまま!これより扶桑の魔女を援護する!」
しかし彼女もまた軍人だ、大の男が『お嬢さん』の前で泣き喚くような真似が出来るわけもなし、生き延びてこそ、なのだから。
「ネウロイの外装をとにかく削り取れ!あとは魔女がとどめを刺す!」
息を吹き返したように残存する艦から放たれる支援砲撃がネウロイの肌に着弾していく。
対ネウロイ用焼夷弾をに以て削った箇所を修復されないように20ミリ機銃を撃ち続けるもネウロイのコアは一向に姿を見せない。
「…坂本少佐、聞こえますか。あの大型ネウロイのコアが見えますか?」
一部の魔女にはそれぞれ『固有魔法』と呼ばれる特長的な能力を持っている。
例えば宮藤は【治癒魔法】であり、坂本は【魔眼】と呼ばれる望遠、コアの探査能力だ。
〈…宮藤、コアがネウロイの体内を縦横無尽に移動している、同時多重攻撃が必要だ〉
「反則、反則ですよそんなの!!」
〈こっちはストライカーユニット復帰の目途が付いた、なるべくネウロイの注意を引き付けろ!!〉
「…了解!!」
とは言えども凄まじい速度と自在な軌道で相手を屠るネウロイのビームからベネツェア艦隊を守りながら攻めに入るのは無理だ。
かと言って現状を打破できる援護は望めず、シールドを張りながらの防戦は魔力をいたずらに消費するだけならば────全ての防御を捨てる。
「ワレ扶桑の二番…吶喊します!!」
扶桑の魔女は伝統的な武器として扶桑刀を振るう、無銘の扶桑刀を下段に構えて大型ネウロイの下を潜るように抜けた宮藤をビームが空を、海を切り裂きながら追っていく。
しかしそれを意にも介さず纏う速度をそのまま急上昇に変換してネウロイの間合いの内に入る。
宮藤はかつて同じ念動系の固有魔法持ちであり、坂本少佐の先輩であった黒江大尉から固有魔法とは違う、奥義の手解きを受けている。
天空を引き裂き大地を貫く雷の如きその魔剣の名は「雲耀」
「はああぁアアアアアアアアッ――――!!!!」
溢れんばかりの魔力が込められた無銘の扶桑刀は脅威的な剛性と切れ味を発揮する、慣性を乗せた脇構えからの切り上げはネウロイの横っ腹を見事に割ってみせた。
しかし外した、不意打ち気味な一撃は有効であったがコアは依然として逃げ続けている。
大型ネウロイの攻撃は一層苛烈となって二度と接近はさせてくれそうにない。
それを超える無理を通すべきか悩んだその時―――――空で人が羽ばたいた
「よくやったぞ宮藤!!」
魔法力が失われる年齢の壁、既にシールドすらも使えない人間が扶桑刀一振りだけでネウロイの上を取った二式大艇から飛び降りた。
「烈風…斬―――――!!!!」
それは坂本独自の理論からこの世に黄泉帰った、魔法力を用いた扶桑に伝わる二の太刀要らずの一の太刀、その名を 烈風斬。
元になったのは宮藤と同じ雲耀だが、裂帛の気合から放たれるのその刀身を余り越して伸びる魔法力の刃は空を裂き、葬りさる無情の一撃であった。
見事、大型ネウロイを飲み込む魔力の刃はコアを粉砕しその鋼鉄の身体は塵芥と消えた。
烈風斬は大型ネウロイですらも一撃で葬り去る、名だたるウィッチの中でも個人クラスでは最大火力と言える一太刀だ。
しかし代償も大きい、成人に近い坂本少佐の数少ないウィッチ生命をこの刃は吸い尽くすだろう。
「坂本さん!…何故烈風斬を使ったんですか」
重力に捕らわれ落ちていく坂本少佐を横抱きに拾い上げると、少佐の曇りない瞳がこちらを捉えていた。
「勘違いするな。お前が堕とし損ねたから私がネウロイを撃破しただけであって、それに付随する結果は結果でしかない」
「…はい」
「だが…よくやったよお前は」
そういって気絶するように眠りに落ちた坂本少佐を二式大艇まで運んだ後、耳に嵌めたインカムでベネツェア艦隊と交信する。
「…扶桑の二番よりヴェネツェア艦隊へ戦闘終了、援護感謝します」
『艦長のレオナルド・ロレダン大佐だ。扶桑のお嬢さん――フソウナデシコと言うのか?――、本当に助かったよ』
「当然の事です、ウィッチですから」
『何か助けになれる事があれば私達を呼んでくれ、君達が救ってくれた命だからな、君達に報いたい』
「えぇ!?…それじゃあ機会があればでお願いします!それでは任務に戻りますので!!ご武運を!!」
ベネツェア艦隊と別れて二式大艇は針路を元のコースへ戻す、燃料はロマーニャまで持つだろう。
ユニットの補助なしで急激な魔力を消費した反動によって深く眠る坂本少佐を横目で一瞥した後、欠伸を堪えて口の端から漏らす。
もうしばらくはネウロイの襲撃はないだろうと踏んで、私も疲れたので眠ってしまおうと決めた。
私は瞼を閉じて深呼吸を一つ、そしてもう一つで私の意識は薄れ、次第に深く落ちていった。
世界観や設定の疑問やご指摘、誤字脱字、感想等の貴重なご意見は常に募集しております。
皆様からのメッセージを励みにこれからも投稿していきたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。
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ウィッチとの遭遇 後編
数時間後、地中海上に黒い影が3つ。――――そして加えてもう1つ
「…ここは…南極じゃない。おかしいぞ『ジャック』、これは一体」
「…『超空間通路』の異常か!?そんな話聞いた事ないぞ…!」
「しかしジャムも付いてきたみたいだが…どうする?」
「もちろん速やかに撃墜しろ『零』!!」
声に応える様に零は対ジャム用迷彩『ジャムセンスジャマー』を起動させる。黒い戦闘機の肌の上を赤い光の波が流れていくその姿はこの世界の脅威であるネウロイに似たそのものだ。
「ジャムの目標は…なんだアレは」
「…現代の軍艦ではないな、造りが古すぎる。どうなってるんだここは」
「…『妖精空間』」
可能性の一つを呟く深井零中尉の言葉を振り切るように、戦闘偵察機メイヴに搭載されている機械知性体――パーソナルネーム「雪風」――はディスプレイにメッセージを示す。
〈Kill the JAM…Lt.FUKAI 〉
「ジャック、舌を噛むなよ」
「…うおおぉ!?」
メイヴと雪風の運動性能を信頼した急降下しながらの前方へ一回転。
その最中にメイヴの前進翼は基部から回転して後退翼になり上反角も鋭く稼働し高速機動モードに移行した事をモニタで確認し、スロットルレバーを前へ押し込み加速。
〈MODE RAM-AIR〉
アフターバーナーを起動させマッハ2.6を突破した時点で上部2基の吸気口を開き、次いで三基の増槽をパージする。逃がすつもりはない。
〈Enemy / JAM Type1〉
敵はジャムの中でも最も旧式のタイプ1、地球に威力偵察をする程度ならそれでいいのかもしれないがその意図は一体何か。
そもそもこの遭遇は偶然か?ジャム相手では何が起こっても不思議ではない。
しかし何であれ地球でジャムの好きにさせるのは見過ごせない、ジャムの殲滅は絶対だ。
―――そんな思考が追い付いたのは、メイヴの主翼下のハードポイントに接続されていた短距離空対空ミサイルAAM III がジャム三機を撃墜した後の事だ。
「あっけない…一体何なんだ」
〈LOW_FUEL〉
「ジャック、このままじゃ海水浴だ」
「…とりあえず、あの艦隊にコンタクトを取ろう。燃料なら何とかなる筈だ」
・・・・・・・・・・・
「さて、これをどう思うね。お坊ちゃん」
ヴェネツェア艦隊の艦長レオナルド・ロレダン大佐は先ほどの大型ネウロイから受けた被害を悪化させかねない因子との遭遇に溜息がこぼれた。
「…さすがに手に余りますよこれは」
航海長のジョバンニ・コッラルト中佐も、同じ心境であろう。
<こちらはFAF所属SAF-Vのジェイムズ・ブッカー少佐。国際条約に基づき、燃料を給油していただきたい>
「先程の小型ネウロイを瞬時に撃墜した見たこともない技術と戦闘機、そしてその性能。さらには謎の組織」
「しかし、空母を連れていない私達には燃料を補給させる手段がない、機嫌を損なわれない内に別の奴らに相手をさせよう」
「とはいえこの近くにある基地と言えば…」
そこで艦長は苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
「…501JFW、ロマーニャ基地」
・・・・・・・・
<これからそちらに案内のウィッチを呼ぶ、そのウィッチと合流して交渉してくれ。判断はそのウィッチに預ける>
「ウィッチ?コードネームか?何を指している」
<ウィッチはウィッチだ、しばらく待っていたまえ>
一応とはいえ協力が得られる事になり雪風に待機命令を入力し、警戒しながら同空域に旋回して待機する。
「零、マスターアームスイッチを切っておけ。雪風が暴れ出さないとは限らない」
「…了解、だが嫌に焦らされるな、ウィッチとやらが空中給油機なら言う事はないが」
「あえて給油機を呼ぶとは言ってないからには違うのだろう、しかし見当はつかない」
<CAUTION/Unknown machine approach>
コックピット内に高鳴る警戒音と点滅する雪風からのメッセージ
雪風は『対ジャム戦の遂行』と『味方を犠牲にしてでも戦闘から得た情報を持って必ず帰還する』の二つの至上命令を基に構成された戦闘補助AIだ。
その雪風が―――ジャムでは無い何かに怯えている。
そしてレーダーに映る小型の反応と目視の情報が一致し、驚愕する。
「こちらは501JFW隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐。武装解除して我が方に帰順せよ、繰り返す、武装解除して我が方に帰順せよ」
人が、飛んでいる。
足は途中から鋼鉄の冷たい質感に覆われており、頭からは獣を模した耳も生やしている。まさに彼女らの方が妖精ではないか。
しかし身の丈に合わない銃器で武装していることから皮肉にも意識が困惑から抜け出した。
俺達と同じ、彼女も兵士だ。
「ジャック」
「交渉するしかあるまい、どのみち燃料がなければどうしようもない、絶対にこちらから手を出すなよ」
「…わかった」
<…こちらはFAF所属SAF-Vのジェイムズ・ブッカー少佐。国際条約に基づき燃料を給油していただきたい>
「FAF…聞いた事のない組織ですね。貴方は何者ですか?どこの所属か明らかにしなければ実力行使を厭いません」
〈フェアリィ空軍だ、まさか本当にわからないわけではあるまい?〉
「フェアリィ空軍…何処の国家に属しているのですか?」
〈フェアリィ空軍は国連から独立した組織だ、まさか本気で言ってるのか?〉
「…ジェイムズ・ブッカー少佐、フェアリィ空軍に所属している貴方はここロマーニャの空域で一体何を?」
〈フェアリィ星から通路を通って地球に到着した後、この戦闘機に搭載された新型エンジンのテスト飛行を行う。テストが終了次第フェアリィ星にある基地へ帰還する。そのように国連に任務内容を提出した筈だ〉
「エンジンテストの筈なのに何故武装を?」
〈何が起こるか分からないからだ、先ほども我々に先んじて地球へ侵入したジャムがそちらの軍艦を攻撃しようとしたので撃墜した。正当な攻撃だ〉
「…そちらには私達に対して敵意は無いと判断しても?」
〈分かった、今武装解除する。ただ本当に燃料が危うい。質問には答えるしある程度の条件はのむ。それではダメか?〉
「…分かりました、それでは武装解除を確認した後に我々の基地に案内しますが怪しい動きを見せた時点で撃墜します。よろしいですか?」
応える様に残りのミサイルをハードポイントから切り離し投棄した事を確認すると、ウィッチに連れられあの黒いネウロイのような戦闘機を引き連れて去っていった。
「艦長…」
「宮藤軍曹に助けられ、その彼女の部隊に嵐を送るとは…恩知らずもいいところだな」
完全に彼女らの姿が見えなくなり、警戒解除の号令を放つ。
501JFWの隊長が基地に到着すれば本格的に任務を遂行するだろう、自分達は任務を果たしたのだ。
こうしてベネツェア艦隊は空しさを覚えながらも彼らの仕事をするために、次の任務の為にベネツェアへ帰路についた。
大型ネウロイとの交戦した私達はその後トラブルに巻き込まれる事なく古代ウィッチの遺跡を転用した新501JFWロマーニャ基地に到着し、二式大艇は無事任務を果たした。
「それではミーナ隊長への報告は私達が行いますので皆さんとはこれで」
―――了解しました、宮藤軍曹
―――私達は次の任務に移ります、それでは
彼らはこのロマーニャ基地から物資を載せてまた別基地へ向かう手筈になっている。
土地によって海路や空路も安定していない場合にこうして色々な国で様々な国の装備や設備、そして輸送機等を使いまわしている。
私や坂本少佐の20mm機関銃も欧州に合わせて13mmに改修したり、オーバーホールが間に合わない時は仲間のストライカーを借りて出撃した事もある。そうやって国同士の連携をもって初めてネウロイに対抗する事が出来るのだ。
501の衛生隊に坂本少佐を預けると見覚えのあるかつての仲間がいた。
「よぉ、宮藤!お前もやっと来たか!…でも相変わらずタイミングは悪いなぁ」
明るい陽だまり色の茶髪を風に流すこの女性はリベリオン――現実のアメリカに相当する――出身のシャーロット・E・イェーガー大尉だ。
しかし出迎えにしても彼女はフル装備で格納庫に待機しているのは一体どういう事か、よくよく周りを見れば先ほどから整備兵達も武装しており、滑走路の向こうを指差してざわついている
「ヨシカも一応準備しておいでよ、変なのが来るってさ」
深い碧色の髪を両端で二つにまとめている少女はロマーニャ出身のフランチェスカ・ルッキーニ少尉、私よりも年下ではあるが立派な上官だ。
「変なのって一体何?」
「あれさ」
大尉が示す滑走路の先の水平線から黒の戦闘機がこちらに向かってくる、しかし一向にランディングアプローチに入る気配が見られない。
「おいおいあの黒いのこのまま基地に突っ込むつもりか!?」
「どうするシャーリー!?」
「宮藤、私達とシールドを張れ!!」
「は、はい!!」
未だ滑走路の上で減速する気配の見せない不明機のコースに合わせて三人は腹に息を貯めてシールドを備える。
しかし先程まで確かに速度を乗せて飛んで来たこの戦闘機は胴体上面のエアブレーキを展開し、合わせて主翼を基部ごと上方に捻り制動をかけ速度を急速に落とすと真下へふわりと着地した。
「最高に狂ってるな…コイツは」
「木の葉落とし…ですかね?」
先程降ろした荷物に紛れていたストライカーユニットを装着した宮藤は先の二人と共にホバリングしながら戦闘機に銃口を向けて一挙一動を見逃さぬように警戒態勢をとる。
誘導員の指示に従い自走するソレを格納庫の手前で停止させるとゆっくりと風防が上に開いていき二人の男が立ち上がり両手を挙げながら声を放つ。
「あー…私がFAF、SAF五番隊所属のジェイムズ・ブッカー少佐です。こっちはパイロットの深井零中尉」
金髪の男は30代程であろうか、髭も整えられているし何よりその仕草からは真っ当なモノを感じる。ただ、彼のブリタニア語――あるいは言語か――はどこか違和感を覚える。
「貴方々の隊長の許可を得て一度寄らせていただいたのですが…連絡は」
「届いていますよブッカー少佐殿、上から失礼しますが私は501JFW所属のシャーロット・E・イェーガー大尉。出来るだけ不審な動きは止めて頂けると幸いですがね?」
「勿論、大人しくしておきますよイェーガー大尉。最初から此方には敵意はありませんから」
「それは何より、ご協力感謝します」
遅れる事十数分程、水平線の向こうから遅れて来た――速度の差で追いつけなかったが――随伴のカールスラントの魔女三人がやって来た。
その内の一人こそが世界で初めてのJFWの提案者であり創設者、そして501JFWの隊長(司令)であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐である。
「ミーナ隊長!」
「待たせたわね。あの戦闘機は?」
「格納庫の前です、パイロットの男二人もそこに」
「ありがとう、…イェーガー大尉、ルッキーニ少尉、バルクホルン大尉とエーリカ中尉はユニットを装備した状態で警戒態勢のまま待機」
『了解』
「あ!!…遅れましたミーナ隊長!坂本少佐、宮藤軍曹。以上二名、本日付けで501JFWに着任します!!」
「また会えて嬉しいわ宮藤さん。ところで坂本少佐の姿が見えないけれど…」
「…ここへ来る途中、大型ネウロイと交戦した際に相当魔力を消費した為しばらくは目を覚まさないと思います」
「ならここで起こしても聴取出来るような調子は出ないわね…。分かったわ、宮藤軍曹も警戒にあたってちょうだい」
「了解しました」
「あ~!!宮藤久しぶりじゃーん」
「ハルトマンさん!」
ショートの金髪が輝くこの少女はネウロイに最も被害を受けたカールスラント――現実のドイツに相当――の中でも撃墜記録一位であり世界四強のトップエース、エーリカ・ハルトマン中尉だ。
「宮藤、501が解散してから大丈夫だったか?」
「バルクホルンさん…お二人ともお久しぶりです」
茶髪を二つのお下げにしているのはゲルトルート・バルクホルン大尉、カールスラント組の最後の一人。
カールスラント四強には名を連ねてこそいないが、250機以上のネウロイを屠り続けて来たトップエースだ。
「はいはい感動の再開も構わないけれど今は職務が優先よ、トゥルーデ達は残りの仲間の出迎えよろしくね」
「「了解!!」」
コックピットの縁に腰掛けて待っていると自分達の下へ少女達が軍人達の間を割って歩み寄って来きた。
「改めて、第501統合航空戦闘団司令ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。フェアリィ空軍のジェイムズ・ブッカー少佐殿で間違いないでしょうか?」
やはりこの距離で見る赤身がかった茶髪の少女のミーナ中佐は若く、恐らくは未だ成人もしていないだろう。
「そうです、こっちはパイロットの深井零中尉。これから事情聴取でもしていただけるのでしょうか?」
「ええ勿論。二名とも戦闘機から降りて銃器や凶器の類は全て足元に置いて下さい、後で発覚した場合は貴方達を無事に保護する事が出来なくなります」
「分かりました」
そう指示を受けて敵意が無い事を示す為、携帯している緊急時用の多目的ナイフなど一式を取り外して全て足元に無造作に置いた。
「結構。…そのままついて来てください」
兵士から背中に銃口を突き付けられながら案内された基地の中は頑丈な石造りでひんやりとした空気が湛えられ、しかし差し込む陽の光は柔らかな温かさを伝えてくる。
まるでどこかの歴史的な建造物のようだ、電気は通っている様だがどこも電線が剥き出しでいずれも後付けで伸ばしたものだと分かる。
案内された簡易的な取り調べ室の中には自分達二人とミーナ中佐、それと武装した兵士が数人が後ろに控えている。
「それではこれより聴取を行いますが、あなたには黙秘する権利があります。ただしあなたの供述は何であれ、不利に扱われるおそれがあります。よろしいですか?」
この世界でも『黙秘権』は与えられるらしい。そこに人間がいて、それが進化する中で生まれる効率的な当然の結果の一つなのかもしれない。
「こちらも答えられる事にはできる限り応えよう」
「では初めに、貴方の名前はジェイムズ・ブッカー少佐であっていますね?」
「そうだ」
「それとあなたは…」
「深井零、中尉だ」
「ブッカー少佐、それとフカイ中尉の所属をもう一度正式な名称で教えていただけますでしょうか」
「フェアリィ空軍フェアリイ基地戦術戦闘航空団 特殊戦第5飛行戦隊だ」
「どれも聞いた事がない名前ですね…本気で言ってるのですか?」
確かに正気とは思えないだろう、俺達にとっても501JFW等という組織は地球にも、フェアリィ星にも存在していないのだから。
「本気だ、俺たちは人類の敵であるジャムを迎撃する事を目的に結成した独立組織だ」
「そのジャムと言うのは?」
「おいおい…もう地球はジャムを夢物語にしたのか?見た目は安定していないが見ればわかる」
「ネウロイとは違うのですか?」
「ネウロイ?私は知らない、初耳だ。ネウロイというのはそちらの敵の機体か?」
「…これを見ていただけますか?」
現時点でこの地球に生きる人類がネウロイの存在を知らないわけがない、予め用意しておいた一般的なネウロイの写真を二人の前にスライドさせる。
「…私は、このようなジャムを今まで見たことはない。零はどう思う」
「ジャムではないだろう、だが雪風に聞くのが一番だとは思う」
東洋人の男はただ一言、迷いなく「ジャムでは無い」と告げた。
「待って、そのユキカゼというのは?貴方達の協力者?」
「俺たちが乗っていたあの戦闘機の搭載されているAIだ」
「AI…?それは一体」
「…一言で言えば意思を持った中央管制ユニットだ、マシンだよ」
「機械が意思を持つ…?」
「ああ、雪風には絶対に触るな。確かに武装解除はしたが今は不安定で何を仕出かすか分からない。あまり刺激しないでくれ」
ふと脳裏に浮かぶのは半自立制御で動くウォーロックの姿、制御できない力を持つべきではないと、あの時は深く感じさせられた、誰もがそう感じたはずだ。
「…こちらは何も有効な情報を得てはいないのに、自分の要求だけは通そうということかしら?」
「こちらは何も嘘は付いていないし、隠していることもない。というより話がすれ違っているような気もする」
「同感ですね…ならば今度は逆に自分で自分の事を説明していただけますでしょうか?」
ブッカー少佐はある程度の間を置いて『自分達の世界』について語り始めた。そして飛び出してきた内容は時に理解できないような言葉や単語を交えながら広がっていった。
南極大陸に現れた謎の『超空間通路』、それに伴い突如現れたジャムの突然の侵攻、それを持てる力と技術の全てをもって追い返した人間たち。
そして、脅威の根絶の為に通路を通り抜けるとそれは別の星だった。
その為、宇宙天体条約に基づき一国家による独占した干渉が出来ない為に国連の監視の下にフェアリィ星に国に捕らわれない独立した組織が誕生することになった。
「それがジャムの潜むフェアリィ星にて通路の防衛、迎撃を任されたのがFAF、フェアリィ空軍だ」
似ている、まずそう感じた。
謎の敵の出現から、対抗する為に独立した組織が誕生する流れまでもが一緒だ。
「それで?貴方達が所属する特殊戦とは?」
「…俺達の任務はただ一つ、俺たちは対ジャム戦において戦闘情報の収集に努め、一切の友軍に対して援護は行わない。そうして得られた情報を例え友軍が犠牲になり、全滅しようとも確実に持ち帰る事だ」
フカイ中尉の語ったその内容に調書を記していた筆が止まり、部屋が数舜沈黙に包まれる。
似ていると思った事が間違いだった、それは恐ろしく自分勝手で、何よりも悲しい事ではないか。
「そして、俺たちに割り当てられている戦闘機に新しいエンジンが届いたので、地球でのエンジンテストの為に超空間通路を通り抜けたらこちらに辿り着いたわけだ。よって侵攻の意志はは一切ない、信じてくれ」
「ここはロマーニャであり、南極ではありませんがこれをその通路の異常であると?」
「少なくとも原因があるとすればそれ位だと考えている」
「…今回の聴取はここまでに、条約に従い捕虜として最低限の扱いは保証します、また以降の処置は追って通達します、何か質問は」
「特にはない」
「ない」
「それでは、終了します」
世界観や設定の疑問やご指摘、誤字脱字、感想等の貴重なご意見は常に募集しております。
皆様からのメッセージを励みにこれからも投稿していきたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。
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仲間の為に
異世界から訪れたとされる捕虜二人が捕虜となってから一週間後。
ロマーニャ西部に臨時で設立された新504JFW基地へ扶桑組の宮藤と坂本は扶桑から送られた物資を運んでいた。
504JFWは元々はロマーニャの防衛を任されていた部隊で、ロマーニャ公国は惜しみなくロマーニャ三軍(陸・空・海軍)の何れにも属さない公室直属精鋭部隊「赤ズボン隊―パンターニ・ロッシ―」から五人の魔女をここへ配属させている。
しかしトラヤヌス作戦の際に起きたイレギュラーによって504JFWは半壊、むしろ半壊で済んだ事が奇跡にも思える惨事に巻き込まれた。
「いやー、助かったわ坂本少佐。あのタイミングでネウロイの巣が発生するなんて予想もしてなかったから」
「いや、気にしないで頂きたい。流石にここまでイレギュラーな事態は想定外だった」
「そうね、まさかネウロイがネウロイを攻撃するなんて…」
504JFW・アルダーウィッチーズ隊長のフェデリカ・N・ドッリオ少佐はロマーニャ魔女らしい朗らかで気楽な笑みを浮かべている、しかしその眼の下の隈までは隠せていない。
補給任務自体は彼女のサイン一つで終わる、しかし坂本少佐にはまだやる事があるようだった。
「…それでは、ロマーニャ周辺の連携ですが」
「そうね、パパっと確認しちゃいましょうか」
新しくヴェネツェアに出現したネウロイの影響から慌ただしく動いた情勢は今、ネウロイの巣を中心に戦力が大きく3つ存在する。
一つはロマーニャの首都ローマの西方に臨時基地を構えた504JFW
次いで反対側のローマの東方に再度編成され、アドリア海側を防衛する501JFW
そしてロマーニャとヘルウェティア連邦の隣、501JFWがネウロイから解放したガリア共和国に駐在・防衛する506JFW・ノーブルウィッチーズのBチーム
以上の三隊は有事の際に独立して動くことが出来るロマーニャ方面の攻撃魔女部隊、JFWの全てである。
現在ロマーニャの防衛任務は主に501JFWに移譲され、504JFWは主にローマ及びローマより西方の防衛と501JFWのサポートに回る事で両者が合意した。
「それじゃあこれでお終いね、詳しい内訳は纏めさせて501へ送るわ」
「了解した、ところで隊員の様子は如何かな?」
「聞いたと思うけど皆ボロボロ…特にアンジェラ中尉がね。応急的な処置は済ませたけど回復魔法持ちのウィッチを呼べるほどロマーニャも余裕があるわけじゃないから」
損害を受けたのは504JFWだけではなく周辺の住人や滞在していた部隊もまとめてネウロイに襲撃されていた。その為一時的にベネツェア難民の受け入れを行っているロマーニャでは病院等の施設も開放され、例え魔女であろうと場合によっては受け入れられない状況になっている。
「…もしかして宮藤ちゃんを貸してくれるの?」
「本当はすぐにでも連れて来たかったのだが…やむを得ない事情の為にここまで伸びてしまった、申し訳ない」
「いえ、来てくれるだけでも本当に嬉しいわ。よろしくお願いね、宮藤軍曹」
「は、はい!!」
「…臨時基地、ここも元々は別の建物だったのかな」
ちらほらと廊下には未開封の木箱が無造作に置かれ、壁の一部は剥がれて土壁がむき出しになっている。しかし造り自体はしっかりしているようで扉も最低限の修復で済ませている様だ。
「あら、宮藤ちゃん?」
振り返ればセミロングの癖のついた茶髪の少女、ズボンとシャツの赤色をジャケットの黒で締めて際立たせる少女がいた。
「…フェル中尉!!」
フェルナンディア・マルヴェッツィ中尉は赤ズボン隊所属の魔女である。
北アフリカ戦線で後の「三変人」と呼ばれる仲間二人とチームを組むようになり、ある時地上大型ネウロイを撃破した際に名誉ある赤ズボン隊に任命された経歴を持つベテランのウィッチだ。
「ホントに久しぶりねぇ、宮藤ちゃん」
「フェル中尉こそ、ガリア以来ですね」
「報告書見たわよ~?随分やんちゃしたらしいじゃない」
「あはは…」
「まあいいわ。宮藤ちゃん、私と摸擬戦してみない?」
「マルヴェッツィ中尉殿とですか?」
「駄目とは言わないのかしら?」
「いえ、せっかくの機会ですから。それで、私が勝ったらどうなるのですか?」
「そうね、ツケ一つでどう?扶桑人はそういうの好きでしょ」
「はい中尉殿、光栄であります」
宮藤軍曹は、とてもいい笑顔で敬礼を返した。
補給の道中の護衛を兼ねてストライカーと武装を積んでいた宮藤は標準装備の13mm機関銃に摸擬戦用のペイント弾を装填し、無銘の扶桑刀を装備してマルヴェッツィ中尉と同じ高度で対峙する。
ルールは一般的な摸擬戦を採用し、相手の体とストライカーにペイント弾を命中させれば勝利、シールドを展開したり弾切れになった場合はその者の敗北となる。
また扶桑刀を使う宮藤の為にマルヴェッツィ中尉のストライカーには吹き流しが取り付けられており、これを切り裂いた場合は宮藤の勝利となる。
『準備はいいか二人とも』
地上でマイクを持つ坂本少佐の隣に立っている扶桑海軍の軍服を纏っている茶髪の女がいる、504JFWの戦闘隊長、リバウの貴婦人とも呼ばれた竹井大尉だ。
『ルールは分かっているな?判定はこちらで行う、此方からの終了の合図が出るまで摸擬戦を続ける』
「了解」
「…いつでもいけます!!」
『よろしい、それでは…初めッ!!』
坂本少佐の開始の声と共に空に昇っていく彩光弾を合図に二人の距離は一直線に縮まって行く。
先手は宮藤による正面からの牽制射撃だった。
フェル中尉は上昇して回避、宮藤がフェル中尉の下を通り過ぎるタイミングに合わせてストライカーを軸に体を捻って反転する。
ストライカーユニットはレシプロ機とは違い翼で揚力を得る必要が無い、よってある程度の速度の上でならレシプロ機では不可能な空戦機動も可能になる。
反転を終えて宮藤の背を照準に捉えるも未だ反転しないのは距離を取る為か、しかし狙撃手ではない宮藤があえて距離を取る必要は無い筈。
発砲しても宮藤は体を振り子のように左右に不規則に揺らしながら射線から外れ緩やかに降下していく。
「弾切れ狙っているのなら無駄よ!」
一方で宮藤は当然ながら勝つことを諦めていたわけではなかった、しかし勝つためには、彼女が本領を発揮する為には彼女の土俵へと誘い込まねばならなかった。
宮藤は背後からの追撃を回避しながら中尉との距離や角度を覚られぬように横目で捉えながら条件を整える、三次元の罠を張り終えた宮藤は突如として急激に加速して上昇した。
「…え!?」
追跡する為に上昇を開始した時、上下左右の何処にも宮藤の姿はなかった。姿が見当たらない、まるで蜃気楼の様に消えて――――しまうわけがない。
宮藤は彼女の背後に居た、小回りが利くストライカーユニットの機動を活かした扶桑のマニューバ、上昇した後に全身で空気抵抗を受けながら逆噴射する事で急減速する。
本来はフェイントの上昇に釣られて加速し頭上を通り過ぎた敵機の腹へ射撃する木の葉落としのアレンジだ。
宮藤は中尉の上を飛び越え、減速する事によって背後に回った、視界にもし欠片でも宮藤を捉えたとしても相対的に離れていく為優位に立つことが出来る。
中尉はセンスで背後に居る宮藤を感じていた、速度も緩めておらずむしろそのまま加速して上昇を続け射線から逃れていた。
「舐めるんじゃないわよ!!」
宮藤の偏差射撃を背面姿勢からの下方逆宙返りにて高度を速度に変換して反転し、位置エネルギーの速度を乗せてペイント弾を放つ。
木の葉崩しのアレンジと言っても速度を失うのは同様であった。
ここぞとばかりに断続的に放たれる弾丸を宮藤は片方の魔道エンジンのみ回転数を急激に上昇させ疑似的なバレルロールで回避、もう一基の魔導エンジンと回転数を同調させ安定飛行へ戻す頃にはフェル中尉は既に反転しており再度宮藤の背後を取っていた。
宮藤は再び魔力を注ぎ込み急速上昇旋回、追跡する中尉は反射的に背後を取る為に旋回の径を縮めて内側へ潜り込んでいく。
そこへ宮藤は強引に上体を反らせて急激でさらに旋回コースの内側へ潜り込む、フェル中尉は宮藤の背後を取る事を諦め上昇して上を取る―――――筈だった。
上昇の頂点に届き見下す体勢となったフェル中尉を覆う一つの人影――――中尉の更に上に扶桑刀を抜いた宮藤が居た。
「なんで宮藤ちゃんが上に…!?」
――――扶桑のマニューバの一つ、背後を取る相手に対するカウンターを昇華させた巴戦の知恵の輪。
「左捻り込みのアレンジ!?」
背後をとって優位に立っていた筈が、絡まり解けた時には形勢が逆転している。
体を捻って迎撃しても急降下する宮藤を射線に捉える前に決着がつく、降下して逃げても全ての要素で負けている今の状況では何も覆せない。
無銘を上段に構えた宮藤が急降下して逃げるマルヴェッツィ中尉の背後から一閃し、見事吹き流しは両断され風と舞い落ちて行く。
『そこまで!!』
「ありがとうございました!!」
「お疲れ様…完敗ね」
空中で律儀に礼をする宮藤軍曹、呼吸の一つも乱していないその姿にマルヴェッツィ中尉は若干舌を巻いた。
504基地内の観測室にて数人の魔女が摸擬戦を観戦していた。
「あー!フェル隊長の負けかよー!!」
『三変人』の一角マルチナ・クレスピ曹長は賭けに負け茶菓子を没収される。
「まー撤退戦の負傷も癒えてないのに摸擬戦なんかするからだろ」
その点を鑑み一人勝ちした『大将』ドミニカ・S・ジェンタイル大尉はご機嫌で女房役が焼いたカップケーキを頬張っている。
「それにしてもあの最後のマニューバ、いい動きしてたわね」
賭けの胴元、ドッリオ少佐は賭けていた茶菓子の3割を懐に入れる
「あれが…扶桑の伝説の魔女ですか…」
珈琲を用意したのは『三変人』の一角、ルチアナ・マッツェイ少尉、さりげなく賭けになっていたお菓子を開けて口に含んでいる。
「いやー負けたわ!宮藤ちゃんいい動きするじゃない!なんでまだ軍曹なのよ!」
「不名誉除隊なので…なけなしの功績も0どころかマイナスになってしまいましたし…」
二人仲良く臨時基地で最も最初に取り付けられた大浴場――勿論、扶桑人の発案である――に浸かりながらお互いを称えていたが宮藤の顔が急に曇る。
「あー…そうだったわね、というかなんで不名誉除隊なんて事になってたのよ」
「私が勝ったので秘密です」
「へぇ~そういう事言っちゃうんだー」
「うぐぐぐ」
水しぶきが跳ねて二人の笑い声がこだまする中、宮藤の手がマルヴェッツィ中尉の体に軽くふれた時彼女が顔をしかめるのを見た。
「…中尉、怪我が治ってないんですよね?」
「え?…あはは、いやー別にホラ私元爆撃魔女だったし、ドッグファイトに長けてる宮藤ちゃんには分が悪いし―――」
「そうじゃなくて…治療するので背中向けて下さい」
「うー…分かったわよ」
元々中尉は軽度とは言え治療魔法を使える為に魔法医学科に所属していたが、途中で切り上げ戦闘職を希望したと何かで読んだ事がある。
その未練に加えてプライドが引っかかるのか、怪我を隠したがる癖があるようだった。
「はい、終わりです」
「は~あっさりねぇ。…ねえ宮藤ちゃんも504に来ない?」
宮藤が持つ固有魔法の『治癒魔法』は単純にして強大な力であり、場合によってはそれだけでも争いが起こり得る程の力だ。
そんな彼女が自分達504に来てくれればそれだけで―――もう傷つき苦しむ仲間を見なくてもよくなるのではないだろうか
「それは駄目です。504のみんなを守れるのは中尉達のみんなの筈です」
それを読んだのか宮藤はバッサリと切り捨てる。
「私はみんなを守る為に501の皆と一緒に戦います、だから中尉もみんなを守る為に504で戦うべきです。一人で出来る事なんてたかが知れているからこそ皆で出来る事をするべきだって思います」
「…あーあ、フラれちゃった。じゃあ今の内にイチャイチャしておきましょうか」
「ちょっと!中尉!?」
入浴後に504JFWのメンバーを片っ端から治療して回ると、その頃には坂本少佐の手続きも終了したらしくマルヴェッツィ中尉と何か話しているのが見えた。
「坂本さん、そろそろ時間ですよ」
「そうか、では行こうか宮藤」
宮藤は二人の会話が終わったであろうタイミングで少佐と合流する。
そして、トラックに乗り込む坂本に続いて乗り込もうとする宮藤に声をかけた。
「ねぇ宮藤ちゃん。私の事、フェルで良いわよ」
「…了解しましたフェルさん。お互いにフェアな摸擬戦はまたの機会に、ツケ1ですからね」
「オーケーオーケー、覚えておくわよ。今日はありがとうね」
「…それでは、また―――」
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ジャムだ、間違いない。
ロマーニャの四月は未だに少しだけ肌寒く、窓には鉄格子が嵌められているだけで冷え切った風は素通りして入ってくる。
軟禁されているこの部屋には簡易的なベッドと毛布がある他には何もない、壁は堅牢な石造りで、木造の扉はその重厚な音からして重く頑丈であり監視の目を盗んで突破することは難しいだろう。
窓の外には海が見える、フェアリイ星では感じられない濁りのような、地球の生物が作り出す血の匂いを感じた。
「…既に軟禁されて二日程か。そろそろMIA《作戦行動中行方不明》認定されてるだろうか、ジャック」
「南極で俺達が確認されていないのなら、恐らく超空間通路に向かう際中に何かしらの事故が起きた事になるだろう」
FAFは地球防衛の任務を受けてフェアリィ星に在るわけだが、地球側からすればジャムやFAFは既に空想上の産物という扱いを受けている。
身近にある端末を起動させ、気になるワードを検索すればいい、「ジャム」「FAF」「超空間通路」。
当たり障りのない浅い情報が関の山で、いつの間にかはぐらかされて情報が途切れるようになっている。
覚えているとして国連や各国の政府機関の一部、《ジ・インベーダー》の著者であるリン・ジャクスンを始めとした様々な思惑で動く政治的、あるいは軍事的なジャーナリスト達、そしてアングラな情報に釘付けのマニア位のものだろう。
誰もがジャムの存在と脅威を、FAFの重要性を忘れさろうとしてしまっている、ジャムはもはや現実的では無かった。
しかし人類史最高峰ともいえる高性能な戦闘機が突如消息不明となれば波紋を呼んで各方面は大きく動く。
「そういう時には決まってクレームを入れてペナルティを課し、予算を減らす事が好きな人間がこぞって寄ってくる」とジャックは続けた。
「零、もしこの状況がジャムの仕業だとしたらどうだ?」
「ジャムの仕業か、例えそうだとしてどこまでがジャムの仕業だと信じられる」
「何?」
「この世界はジャムの造った物なのか、それともジャムに誘導されたのか、俺達は別の所に居てこの幻を見ているのか。分かるのはその答えを握っているジャムだけで、今その答えに近づけるのは雪風だけだ」
「そなえよつねに、という事か」
雪風は「対ジャム戦の遂行」と「友軍の生死に関わらず、援護する事もなく必ず情報を保持して帰還せよ」を至上命令として組み込まれた自律型の戦闘知性体だ。
恐らくジャムはこちらの戦闘機械の解析の為にアクションを仕掛けた、雪風は己の存在意義として全能力を以てジャムと戦うだろう。
その時自分達は何が出来るのか、妖精の眼を持たない人間の、ただ一人の存在として。
雪風に乗って空を飛ぶ時、そんな悠長な事等考えられずに居られた、一瞬の認識の遅れが即ち死に繋がるからだった。
だがむざむざと死ぬわけにはいかない、生存競争だ、生きるのなら戦うしかないならどうであれ戦い続けるしかない、逃げる場所なんてもう何処にもないのだから。
FFR-41MR【メイヴ】、パーソナルネーム雪風は501JFW基地の格納庫、その一角にてシートを被せられ監視を付けられた状態で封鎖されていた。
今の雪風は特殊戦司令部内にある【戦術コンピュータ】や本部の【中枢コンピュータ】どころか、既存のコンピュータネットワークの全てから外れた状態にある。
その上で戦術偵察機としてフライト中のエンジンの燃焼率や空気抵抗などのエアデータ、本体に内蔵された高解像度の可視光カメラによる地形データの照合、アナログな無線通信や高性能な指向性集音マイクにより得られる情報の解析。
その上で各種空中波やジャミング、あるいは不可解な干渉に対してECMセンサーや対電磁防御等を構えていた。
彼女は一秒と休まずにジャムとの戦闘を続けていた、武装の応酬は無かったが、確かに対ジャム戦を展開していた。
パイロットの居ないコックピットに、ディスプレイの中で淡く点滅する一つのメッセージ。
〈Home on JAM〉
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ネウロイだ、間違いない。
501JFW総隊長・ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は己の執務室で痛む頭を押さえていた。
事の発端はトラヤヌス作戦の結果を受けて501JFWの再結成が決まり、新たに用意されたロマーニャ基地へ向かう途中にて拾ったあの男達の事だ。
人類の偉大な発明と言えば、何を思い浮かべるか、人によって答えは様々だ。
しかし現時点で、かつ兵器という点で最も評価されているのは様々な意見こそあれどストライカーユニットで間違いない。
それを彼等の乗っていた戦闘機は出力を全開にしたストライカーをいとも簡単に抜き去っていった、スピード自慢のイェーガー大尉でも追いつく事は困難であろう。
彼等が投棄したロケット弾は何かを切っ掛けに爆発する可能性があったためベネツェア艦隊に処理を頼んであるが、その威力は凄まじい威力を秘めていたらしい。
『ユキカゼ』、彼等が呼ぶ現代技術の及ばない時代錯誤な漆黒の戦闘機が確かに今自分の足元に存在する。
そして異世界に存在するというフェアリィ空軍、見知らぬ装備と未知の技術の世界からやって来た異世界人、私は彼等の正体はネウロイなのではないかと疑っている。
もしもそうだとしたら問題は容易い、501JFWは司令部を持ち各運用群、そして千人強からなる部隊を抱える一組織であるからだ。
周辺地域の防衛と対ネウロイ戦に関してはある程度の裁量権を与えられ、大義名分と総隊長たる自分のサインさえあれば数人程度なら秘密裏にこの世から消滅させる事は可能だ。
そうならないのは出来なくなる理由があったからだ、それは今朝の話である、緊急の要件として暗号通信にてとある人物から連絡が入った。
アドルフィーネ・ガランド中将、501JFWを統括する上官であり原隊であるカールスラント空軍のウィッチ隊総監である女傑だ。
用件はつまり、捕虜に手を出すなという事だった、さらには中将自ら捕虜との対話を希望しているという話だ。
ミーナ中佐は問題の種が凄まじい勢いで根を張り、それが大きく枝葉を広げ忌々しくも災厄の果実を落とそうとしていくイメージが脳裏から離れない。
もう事態は止まらない、一刻も早くあの忌々しくも不吉なあの黒い戦闘機に別れを告げたかったというのに。
その現状を知っており苦悩する中佐を眺める人間がもう一人いた、501JFW副隊長にして戦闘隊長、坂本美緒少佐である。
坂本としては思考はシンプルだった、敵は斬り捨てるだけの事である、だが何が敵であるかを判別するのは苦手であった。
だからこそ、どこか心の底ではミーナ中佐という存在を指針としている自分が居たのも確かだった。
その綺麗な顔の眉間に皺を寄せて悩む姿をみて、さっさと処分してしまえばいいのにと考えて、それが出来ないから悩んでいるのだと思い出した。
世界は戦争に包まれ、ネウロイだけでも手一杯だというのに人間は人間同士で争っている。
起床時間が過ぎているから皆はそろそろ食堂へ集まるころだ、息抜きに朝食へ誘うのもいいだろう、それともモラルを乱さない為に遠慮するべきか?
本来であれば副隊長の自分が補佐するべき立場なのだが、私が口を開こうとしても名案が在るわけでもない。
やはり剣だけの女だ、だから剣に人生を捧げて来た、しかし己が鍛え上げた肢体の剣はもはやヒビ入り、折れかけている。
やはり私は駄目な人間だ、だからこそ戦いに人生を…しかし…。
執務室では幹部が二人して唸り、結局食堂に顔を出す事は無かった。
後で作り置きの料理を宮藤軍曹が持ってくるまで、それは続いていた。
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魔女のテーブルマナー
軟禁されてから早十日目、遂に扉が開かれた。
遂に俺達の処遇が決まったようだ、後ろに武装した兵士を連れたミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐殿は以前の数割増しの険しい表情で抑揚なく告げる。
「貴方達に会いたいという人が来ています、後ろを向いて膝を付き、手を後ろに回しなさい」
「待ってくれ、誰なんだ一体、俺達に用がある人間というのは」
「会えば分かります、早くしなさい」
よほど嫌われているのだろう、取り付く島もなく後ろ手に手錠で拘束された、目隠しは無かった。
絶体絶命の状況だ、もしもFAFがジャムを鹵獲したらどうするだろうか、何であれ素直に巣へ返す事だけはないだろう。
零も一度妖精空間からの帰還を――重傷を負い、植物状態にはなったものの――果たしている、しかし奇跡的な状況が重なっただけであり二人ともそういった特殊な訓練は受けていない。
良くて処刑か、悪くて人体実験か、今のヴィルケ中佐の機嫌からすれば在り得なくもなさそうだ。
数日前にも通った石造りの廊下を通って取調室まで連行すると椅子に並んで座らされ、更に拘束を増やされた。
前回の中佐との取り調べの際には無かったもので、今回やって来るであろう人物の背景が大方の予測がついた。
数分後に再び取調室の扉が開き隙間から日光が差し込む、初めに制服の違う武装した兵士が入り、その次に長身の女性がブーツを鳴らして入って来た。
逆行が掛かり、長髪である事以外は分からなかったが対面に付いた時その線の細さに見合わない据わった目線がこちらを射抜いた。
「初めまして異世界人、人類連合軍所属501JFW統括、アドルフィーネ・ガランド中将だ」
年若い少女にしか見えないが中将であると彼女は言う、ヴィルケ中佐の階級と比べればありえない話ではない、あるいはFAFの様な階級制度の可能性もある。
重要なのは、自分達の今後を決めるのは彼女次第だと言う事だ。
「FAF、SAF五番隊所属のジェイムズ・ブッカー少佐です」
「同じくSAF所属の深井零中尉だ」
自己紹介をお互いに済ませたら互いの要件を済ませるだけだ、先に口火を切ったのはガランド中将からだった。
「さて、君達の立場と主張は聞かせてもらった。その上で言わせてもらえば貴方達の要求を飲む事は難しい」
「何故だ」
「まず初めに貴方達の存在が怪しすぎる、適当な身分をでっち上げたどこかの組織の工作員である可能性が否定できない」
「この世界の人間ではない事は確かだが、ここへ来たのは俺達の意思ではない。例え俺達が工作員であったとしても内側に招き入れたのはそこの中佐殿だ、中佐殿も査問会議にかけてみるか」
「いや、その必要はないな。なので一度その説は置いておこう」
非を指摘されたヴィルケ中佐の視線が一層鋭くなったように思えるが、零は動じない。
「そもそもだな、話にあった南極の通路も確認できていないし、貴方達が希望する燃料を給油する事も出来ない、その上協力を要請する根拠である国際法とやらを守る義務もない」
「……」
「そこで提案なんだが、こちらの話を聞いてもらえるだろうか」
そう言って机の上に並べたのは数枚の写真、一対のコーン状の鋼鉄の物体、海上で見た事があるこれは「確か…ストライカー、ユニットですか?」
「その通りだブッカー少佐、しかしコレは従来の物とは異なるユニット『ジェットストライカー』だ」
話が読めてきた、だからこそ自分達は今まで拘束されていたのだ、彼女らが未知なる技術を得る為に。
「貴方達は何故私達がこの技術を欲しているかを分かるか?」
「兵器は戦う為だろう」
「それは、そうだろう。しかし兵器は何と戦うかによって形を変える」
FAFが、特殊戦が対ジャム戦に適応したように彼女達も姿を変えるという。
「私達はネウロイを駆逐する為に戦う、これはこれまでの思想とはかけ離れた新たなる力、これは我々にとって戦況を打開する力になり得るのだ」
ジェットエンジンを搭載したストライカー、何も知らない自分達ではその価値は理解しきれないが彼女の言葉は徐々に熱をもっていく。
「私達はずっとこの敵と争い続けている、ウィッチは魔力を持った少女にしか成る事は出来ない、人類の中でも数%の人間しかネウロイに対して有効打を持たないのが現状だ」
「そもそもネウロイとは何だ」
「インベーダーさ、敵だよ。突然現れて国を焼き、人を襲う。この基地のウィッチは指折りのスペシャルだが他はそうじゃない、例え一桁の娘だって最前線に送らねばならない私の気持ちが分かるか?」
「…俺だって同じだ、何度でも仲間を最前線に送りだしてきた」
深井零が二度目の妖精空間に攫われた時、酷い焦燥感に教われた事を覚えている。
零とは友としての感情を抜きにしても、自分は安全な場所でふんぞり返っていると言う事はどうしても出来なかった。
「それならば私達の事情も分かっただろう。特別な事はいらない、理論の根幹さえ築く事が出来ればあとは自分達でやっていける」
「その為にジェットエンジンの基礎理論を教えろという事か」
「そうだ」
「…それは構わないが、雪風に手を出す事は許さない」
「契約成立だな」
―――――非常事態を告げる高鳴るサイレンの音が鳴り響く。
「…ネウロイか。丁度いい、ミーナ中佐は指揮を執りに向かい給え」
「坂本少佐が居ます、態々私が――――」
「君はいつからネウロイに対して余裕の態度を取れるようになったのかな?命令だ、ネウロイ戦において指揮をとりネウロイを確実に撃墜せよ、復唱」
「…ネウロイ戦の指揮を執り、確実にネウロイを撃墜します」
「よろしい」
ヴィルケ中佐が此方を一瞥するも、命令に逆らう事も出来ずに敬礼してその場を後にする。
「丁度いい。貴方達と私達の敵、ネウロイのおでましだよ」
遅筆ながら、この辺からやっと前作の流れに合流出来そうです。
世界観や設定の疑問やご指摘、誤字脱字、感想等の貴重なご意見は常に募集しております。
皆様からのメッセージを励みにこれからも投稿していきたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。
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