おんハピ♪ 〜Only Happy♪〜 (赤瀬紅夜)
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Lucky.1 はじめまして

世の中には、生まれた瞬間に決まるものは、多々ある。

 

 

性別、容姿、家庭、病気、気質、人種、才能、ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーそして、運。

 

 

私もそれらに恵まれなかった人間だ。

 

 

それでも私は自分を変えたかった。

 

 

だからこそ、あの高校に入ってみようと思ったのかも知れない。

 

 

成績や運動能力の名門校である、天之御船学園に。

 

 

しかし、私のそんな自分を変えたいという想いは、

 

 

思いがけないカタチで叶うことになる。

 

 

私の名前は、西沢 彩歌(にしさわ あやか)

 

 

 

私は_______________________________だ。

 

 

 

 

 

 

「行ってきます、母さん」

 

「彩歌、降水確率20%で曇りだけど傘持って!」

 

母さんのいつも通りな心配に、靴を履いてから傘を持ち答える。

 

「はーい、わかったよ、母さん」

 

ドアを開けて、外に出ると晴れ間が見えていたのに、私の周りばかり雲が集まり、雨が降り出した。

 

それは、さっきまでの暖かな日差しを打ち消し、小雨を降らしたかと思うと表情をさらに変えて雨を激しくしていった。

 

それを私は無言で見つめ深くうなだれる。

しかし、私は元々用意していた傘を一気に広げ、呟いてから向かう。

大丈夫、私は慣れてる。

 

 

4月7日、今日も雨。

 

私は、天之御船学園の生徒になった。

 

なったと言っても、今から入学式に行くのだから実際にはまだなっていない様なものだけれど。

 

 

 

「この、天之御船学園は、勉強やスポーツなど、各分野に渡って………」

 

校長の話で教育理念を語っていたけど、私の心の中はそれどころじゃ無かった。

 

冷や汗が、つぅーと背中を伝い落ちる。

 

緊張感で冷や汗が止まらないとか、学園に来て浮かれてたとか、そういうことじゃ無いのは、理解していた。

 

 

そもそも、天之御船学園では1組〜6組あり、1〜3は勉強が出来る人が集まり、4〜6はスポーツを出来る人が集まっている。

 

そういうクラス編成なのは、誰もが知っているいわゆる、周知の事実だ。

 

しかし、私はその中で7組に振り分けられていた。

私が得た情報は半分合っていて、半分間違っていた。

この高校に見学に来た時に、ここの教師は、7組のことを教えてくれなかったようだ。

 

 

そんな事を考えていたら、いつのまにか式は終わってしまい、私は7組の教室の席に座っていた。

そう、私はこのクラスのことを何も知らない。

中学の時の友達……いや、人達とも違う学校になって、私の知っている人はこのクラスに1人もいなかった。

 

 

「はーい、みんな揃ってますか?」

 

すると、前の扉から先生らしき人が入ってきた。

 

その人は、少し深めの青髪を後ろで縛り、額の右側の方にも髪を垂らしていた。

目を細めていて優しそうな笑顔で私たちを見ているけれど、どこか隙のない感じがする。

 

「このクラスの担任を務める、小平です」

 

そう感じているうちに、その先生、小平先生が話し出す。

 

「入学式でも説明があったように、この学校は生徒の才能をぐーんと伸ばして、たくさんの偉人を輩出しています」

 

「1組から3組は勉学、4組から6組はスポーツのスペシャリストをこれからの3年間で目指してもらいます。

 

小平先生が、その事実をこのクラスに伝えると、クラス中にどよめきが広がった。

 

しかし、その中から挙手をして疑問を呈する生徒もいた。

 

「先生、そんな学科に分けられるなんて、受験前は聞いていません。

 

そんな、ある意味虚を突いた疑問にも小平先生は余裕をもって受け答える。

 

「あら、あなたは雲雀丘 瑠璃(ひばりがおか るり)さんね」

 

どうやら、この生徒は雲雀丘 瑠璃というらしい。

 

パッと見では、1組から3組の勉学のクラスに入っていても、おかしくないような雰囲気を持っている。

 

「はい」

 

「それに、このクラスは7組ですけど、あたしたちは何をするんですか?」

 

不安げな表情で雲雀丘さんが問いかける。

 

「非常にいい質問です」

 

その疑問に、感心したのか小平先生は、そう言い、

 

「あなた方には………」

 

と、黒板に大きな字で文字を書き始めた。

 

 

教室に、チョークで文字を書く音が響く。

 

チョークを横向きにして大きく文字を書きながら使って私たちの前に現れたのは、

 

 

 

 

 

 

 

『幸福』 という二文字だった。

 

 

 

 

 

 

 

「………全員、幸せになってもらいます」

 

そう、言葉を続けた。

 

 

一瞬の静寂の後、ピンクの学校指定ジャージを着た子が、

 

「しあわせ・・・?」

 

と言いつつ、首をかしげた。

 

………って何故この子は制服では無い、ジャージを着ているんだろう?

 

 

小平先生が笑顔のまま、差し棒片手に説明を始めた。

 

「戸惑うのにも、無理もありませんね」

「理解する時間はこれからたくさんありますから、ズバリ言っちゃいましょう」

 

そして、差し棒を前(つまりは生徒側の方)へと、向け言い切った。

 

 

 

 

 

「ここにいる皆さんは全員・・・・・・・・・・・不幸です」

 

 

 

その言葉に、私も含めて、このクラスの生徒全員に衝撃が走った。

 

 

 

小平先生はさらに続ける。

 

「世の中、多大なる幸運をもって生まれる人もあれば、不幸・・・不の業でせっかくの才能を発揮できない人もいます」

 

「皆さんは大なり小なり、不を背負う、不幸側の人間なんですよ」

 

その言葉、いや、真実にクラスがざわつく。

 

そんなざわつきの中、またも、雲雀丘さんが席から立ち上がった。

 

「せっかくですけど、あたし、人に言われるほど不幸な人間じゃ……」

 

その言葉に小平先生は、あることを言う。

 

「学園は受験前に、しっかりとした極秘調査を行っています」

 

小平先生の目が鋭くなり、続ける。

 

「あなたは本当に、なんにも心当たりがないと………?」

 

「………!」

 

雲雀丘さんは心当たりでもあったのだろうか、動きが止まった。

 

私も、今日持って来て傘立てのところに置いておいた“アレ”を思い出した。

 

私が悩んでいて、それでも最近はもう悩むことにも慣れてしまった。

 

小平先生は、雲雀丘さんに言ったのだけれど、私自身に心当たりがむしろあり過ぎるくらいに、あった。

 

 

「安心してください」

 

小平先生は、クラス中を見渡すようにし、

 

「皆さんを一つのクラスに集めたのは」

 

一つ一つ、言葉を紡ぎ、

 

「その不幸を克服し」

 

私たちが、このクラスに振り分けられた理由を、

 

「幸福を掴んでもらうためなのですから」

 

堂々と、語った。

 

 

その目的を、知ったクラスのみんなはついに沈黙を保てなくなった。

 

 

ダムが崩壊したかのように、どよめきやざわめきが大きくなり、クラスは騒がしく、そして無秩序に乱れて行く。

小平先生が、何かを言っているようだが聞こえないほどだった。

 

 

しばらくの間、この状況が続き席から立っていた雲雀丘さんも、呆然としていた。

まさにその時だった。

 

 

バキィン‼

 

 

「いいから、さっさと黙れよガキども、そんなんだからろくな運持ってねぇんだろうが」

 

小平先生が、手に持っていた差し棒を真っ二つにへし折り、さっきよりも鋭く、もはや殺気が籠っているんじゃないかというぐらいの目で生徒たち睨みながら言い放った。

 

 

その恐ろしさに、クラスは一瞬で静まり返って先ほどから呆然と立っていた雲雀丘さんも、すごすごと席に着いてしまった。

 

 

そして、小平先生は、先ほどまで見せていた表情を笑顔に戻し、折って真っ二つになった差し棒を、両手から離して床に落とした。

 

その際に、カラァン!と差し棒の残骸が高い音を立てていた。

 

私は、どうやら凄い所に来たのかも知れないと、小平先生に、恐怖を感じながら思った。

 

この気持ちは私だけでは無いのか、周りを見渡しても、みんなの顔が引きつっていた。

 

「これはマズイねー」

 

後ろの席から、小さくそう聞こえた気がした。




いかがでしたか?

1話から、彩歌の語りのみです……。

〜次回予告〜

彩歌に声を掛けてくる人物が現れる!………かも。

次回、Lucky.2 ななくみ

彩歌ちゃん、友達出来るのかな~。

この時点でのプロフィールを書いておきます。

不幸タイプ…不明
番号…未定
にしさわ あやか
西沢 彩歌
元ネタ…西武柳沢駅
語り部。
茶髪でツインテール
性格:冷静で、優れた観察眼をもつ

あと、一応原作キャラも、

不幸タイプ…不明
番号…未定
ひばりがおか るり
雲雀丘 瑠璃
元ネタ…ひばりヶ丘駅
紺色のロングヘア
性格:世話好き

最後に謝辞を。

ここまで、読んで下さったあなたに感謝を込めて

ありがとうこざいました!

一話目ですが、今後もよろしくお願いします。

アイデアとアドバイスをくれた、チモシーさんにも感謝を。

多分、週一更新になると思います。

それでは、(^o^)/


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Lucky.2 ななくみ (☆)

「はーい、いい子たちですね~」

 

折れた差し棒を、両手から離した小平先生はその後、こう切り出した。

 

「それでは早速、席替えもかねて、本日の測定をしましょう」

 

小平先生は、丁寧な口調ながらも有無を言わせずにこう説明した。

 

「今朝、皆さんの机に数字の書いた紙を入れておきました。その数に従って席を決めていきますが………そうですねぇ、数が少ないほどラッキーということにしましょうか。」

 

それを聞き、私を含めた、クラスのみんなが机の中にあった紙を開く。

 

 

 

このクラスの人数は40人。

 

私の運は悪いけれど、さすがに30番台には、いってないはず・・・。

 

そこに書かれていた数字は、

 

 

 

 

 

 

 

31

 

 

 

 

 

だった。

 

「………ッ!!」

 

31番ということは、このクラスの中でも、運が悪い方に入る。私の不運は、そこまでひどいとは……。

 

 

「ふぅ」

 

とりあえず、前の黒板の座席表を見るために前のほうへ移動する。

 

 

私の席は………っと、

 

右から三番目の、後ろから二番目、か。後ろの方だったら、クラスで目立つこともないかな。近くの人は、何番なのかな……?

前に出て、もう一度座席表を見てみる。 

すると、左上の席が気になった。

 

1・・・・・・番・・・?

 

なるほど。いくら不幸な人たちが集まっても、マシな人はいるんだと思い、その席に目をやると、

 

「……」

 

その席に座っていた、黒髪の子と目が合ってしまった。

じっくりと私の方を見つめている。

すると、軽く頭を下げられ、そのまま目線を外された。

………まあ、このクラスで一番運が良い子なんて、私には関係ないだろう。自分の席に着き、座る。

 

 

トントンという風に後ろの子から、肩をたたかれた。気になって振り向くと、カチューシャをした子が声をかけて来た。その子は茶髪の髪を短く切った髪に屈託のない表情で、私に話しかけてきた。

 

「お、やっと気づいてくれたね、おっはよう!」

 

純粋な笑顔で挨拶をしてくれたので、私も返す。

 

「はい、おはようございます」

 

私の挨拶が変だったのか、アッハハと笑い、話し始めた。

 

「アタシの名前は、砂川 流(すなかわ ながる)っていうんだ。よろしくっ」

 

砂川はともかく流とは珍しい名前だ。そんな感想を私は持った。

 

身長は私よりも高く、すらっとしている。

性格は明るい感じなのか、私に声をかけてくれた。

 

「よろしくお願いします、砂川さん。私は、西沢 彩歌と言います」

 

「砂川さんじゃなくて、気軽にアタシのことは、流って呼んでもいいよ。代わりに君のことはあやかって呼ぶね」

 

いきなり名前呼びは・・・と思い、流さんと呼ぶことにした。

 そういえば、わたしの番号は31番で流さんの番号は32番だった。

 

「流さん、私たちの番号って近いけど、不運だったことってある?」

 

うーーん……と首をかしげながら答えた。

 

「アタシは、無いかな~」

 

不運だったことが無い、か。

 

自覚がないだけで、もしかしたら何かしらの不運は背負っているのかも・・・そう考えてた時、

 

「ま!これから仲良くしてほしいな。 よろしくっ、アヤカ」

 

そういいながら二カッと笑い、右手を差し出された。

 

「う、うんよろしくね」

 

私も、差し出された右手を握り返した。

 

 

 

「はーい、席も決まりましたね。今日はもうこれで終わりですが、お試しで一つ、宿題を出しましょう」

 

と、小平先生が言いながら宿題を出した。

 

 

そして、私たちの前に出されたのは、………生卵(賞味期限切れ)だった。

 

「生だから、気を付けてくださいね。 この卵を明日まで割らずに持っておくこと。それが、本日の宿題です。」

 

 

すると突然、小平先生が左側の方を指したかと思うと、白髪の様な髪色をした眠そうな生徒に注意した。

 

「そこ!ちゃんと持ち帰ってくださいね。」

 

どうやら、卵を持ち帰らないでおこうとした生徒がいたようだった。

そうして、変な宿題を出されて私の入学式は終了した。

 

 

 

「それにしても、この生卵、どうやって持っておこうかな。」

 

 

 

私が、一人教室に残っているのには、理由があった。まあ、他クラスメイトたちは、友達だったりが出来たりして一緒に帰ってたけれど、私は、自らその誘いを断った。

 

 

もちろん私だって友達は欲しい。

 

 

 

でも、

 

 

 

 

まだ私の不幸を知ってもらってない、

 

 

 

 

いや、

 

 

 

私が打ち明けていないだけで、向こうも何かしらの不幸は抱えているはずだった。

 

 

席替えの時に仲良くなった、流さんも無かったと言ってたけど、やっぱり、何かの不幸は持っているんだと思う。

 

 

でも今は………

 

「……………………」

 

沈黙に包まれている教室の中、1人椅子の音を立てながら立ち上がり、呟く。

 

「帰ろうかな」

 

くよくよ考えていても仕方がないし、とりあえずは家に帰ろうかな。

そう思い、私は席から立ちあがった。

 

 

生卵片手に階段を下りて下駄箱に着いてから、靴を履き替える。

予め傘立てに用意しておいた、傘をさして学園から出る。

 

 

すると、外はあっという間に暗くなり黒々と曇ってきて、無数の雨を降らす。

 

篠突く雨とでも言うのか、激しく降っている雨に鬱陶しさを感じながら傘をさし、帰路を急ぐ。

 

 

今日、他の人たちと帰らなっかったのには、理由がある。

 

 

それが、今の状況。

 

 

私は、よく雨に降られた。

 

 

いつでも、

 

どこでも、

 

今でさえ。

 

 

私の不運は、悪天候。

 

 

私の周りだけ、雨が降るから、他の人たちと帰りたくなかった。

 

 

きっと、

 

”いつものことで慣れている”

 

私とは違い、傘の用意なんてしてないだろうから。

 

 

「っ………!」

 

片足が水たまりに足をとられて、なんとか転ないようにともう片方の足で踏ん張った。

 

 

すると、私の左手に持っていた卵はするりと手から抜けて、地面に落ちてしまった。

 

グシャリと音を立てながら生卵が割れる。

 

 

激しい雨の中、落ちた卵を冷淡な目で見る。

 

「やっぱりね。」

 

小さく、呟いた。

 

自分の持っていた傘に、激しく雨粒が、叩きつけられる。

 

私の表情は、暗くなってゆく。

 

 

【挿絵表示】

 

 

私は、悪天候の不幸に見舞われた高校生だ。

 

 

 

次の日、

 

「全員、卵を割ってしまったようですね」

 

小平先生の優しげな言葉に、全員が押し黙る。

 

「これも想定内です。 どんな状況で割ってしまったか、紙に書いて提出……」

 

と、ここで割り込む声があった。

声のする方を見ると、先日ピンクのジャージを着ていた子だった。

 

「せんせ~!」

 

ジャ~ン!と、その子は、高く卵を掲げると、その瞬間に教室中で驚きの声が上がる。

 

 

さすがにこの事は想定外だったのか、小平先生も、あらと言って驚いている。

 

 

すると、その子の持っていた卵が割れ、中からヒヨコが飛び出した。

ピヨリと鳴くと、その子の頭の上に乗ってしまった。

 

「アッハハハハッ!見てよ、あやか、あの子の卵からヒヨコが生まれてるよ」

 

そんな、楽しそうに笑ってる流さんを見て、私も思わず笑っていた。

 

「ふふっ、うん。そうだね」

 

 

パンッ、と小平先生が手を叩いた。

 

「はい。みなさん。 花小泉さん以外は、なぜ卵を割ってしまったのかという、理由を書いてくださいね」

 

そう呼びかけた後、小平先生は、プリントを配った。

 

貰ったプリントには、『なぜ、卵を割ったのか、その経緯を説明せよ。』と書いてある。

 

そこに、雨の中転びそうになって……と書こうとして、私は慌てて文章を消した。

 

なんだか、本当のことを書いてしまうのは、私にとって癪な気がした。 

 

書き直そうとしたとき、右から強い視線を感じた。

 

何だろう、後ろの席にいる砂川さんとかかな?

 

そう思い、右を向いてみると………そこには、小平先生が満面の笑みを浮かべてこっちを見ていた。

 

 

 

放課後。

 

私は、プリントに嘘を書こうとした罰として、

 

教室に残って掃除をしていた。

 

小平先生曰く、

 

「嘘をつく人ほど、不幸に陥りやすいんですよ。それに嘘をつけば、自分自身にそのツケが戻ってきますよ」

 

口調自体はとても丁寧なんだけど、明らかに怒っているのがわかる様な声のトーンだった。

 

小平先生は一通り私に説教をした後、教室(七組)の掃除を軽くする様にと言い残して職員室に呼ばれて行った。

 

 

「はぁ………」

 

なんて、一人でため息をつきながら箒でごみを集めていると、

 

音を立てて教室の扉が開いた。

 

誰が入って来たのかと思ったら、短めの茶髪に黄色いカチューシャをしている。

 

つまりは、入って来たのは流さんだった。

 

「お~、アヤカいいところにって、何やってるの?」

 

私の姿を見つけるなり、そう聞いて来た。

 

「その、卵を割った理由のプリントに嘘を書こうとしたら、怒られて。その罰で、ね………」

 

「ふーん、そうだったんだ」

 

少しにやけた様な表情を作って、こう言った。

 

「そう言えばアヤカに用事があったんだよ。」

 

「……?」

 

私になにか用事があるのだろうか?

 

そう思っていると、流さんが入ってきた扉の方を向いて

 

「おーい、遠慮せずに入ってきなよ。」

 

と声を掛け、小声で私にある事を知らせる。

 

「実はさ、紹介したい友達がいるんだ。アタシって、実は友達多いんだよー。」

 

 

え、紹介したい友達………?

 

困惑していると、

 

扉の方から二人の女の子が入ってきて……




~次回予告~

流ちゃんが、紹介したい友達とは…?

次回、Lucky.3 こっちにおいで

この話までで、アニメ1話に追いつきました。

ハナコ達が、親睦を深めていた数時間後に雨にうたれていた彩歌………ちょっと可哀想な事しちゃいましたかね……。

次の話は、アニメの2話の身体測定では、無さそうですが・・・?


追加された分のプロフィールも、書いておきます。

不幸タイプ…悪天候
番号…31
にしさわ あやか
西沢 彩歌
元ネタ…西武柳沢駅
茶髪でツインテール
片方の髪に太陽をかたどったアクセサリーをしている。
性格:冷静で、優れた観察眼をもつ

不幸タイプ…不明
番号…1
???
元ネタ…???
黒髪を肩まで伸ばしている
性格:???

不幸タイプ…不明
番号…32
すなかわ ながる
砂川 流
元ネタ…武蔵砂川駅
カチューシャをしている
性格:気さくで明るい

一応、ヒバリさんも、

不幸タイプ…不明
番号…28
ひばりがおか るり
雲雀丘 瑠璃

こうなって来ると、出席番号1番の子が謎過ぎますね。

ま、他の子達も続々と登場しますので、乞うご期待!

最後に謝辞を。

ここまで読んでくれて、ありがとう!

そして、挿絵を描いてくださった、ガンバりささんに感謝します!


これからキャラ増えるので安心してください!

それでは、また来週に!


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Lucky.3 こっちにおいで

「紹介したい友達がいるんだ」

 

そう流さん言われ、扉から2人の女の子入ってきた。

 

私は、その二人のことを知らなっかった。

(というか七組に知り合いはいないから当然とも言える)

 

1人は黒髪を肩まで下ろした子で身長は私よりも低くて紅い目をして、もう1人は濃いめの茶髪を後ろでおだんごにした子で、身長は多分私と同じくらい。

 

黒髪の子はこちらを面白そうな眼で、おだんごの子はこちらを何かをお願いしたいような眼で見ていた。。

 

「この高校に入ってから友達が結構な数で出来たんだけど、その中でもあやかに用があるって言っててね」

 

流さんがそう言うと、黒髪の子が話し始めた。

 

「こんにちは、初めまして………ですかね?」

 

「あっ、入学式の席替えの時に挨拶した気がします!改めて、ボクは、出席番号1番の恋ヶ窪 椎名(こいがくぼ しいな)って言います」

 

出席番号1番その言葉を聞いて思い出した。

 

出席番号を見るために前の方に行ったときに、会釈をしてくれた子だった。

 

……というか、さっき自分のことをボクって呼んでなかった?

いや、この学園は女子校だし、この子も女の子のはず……。

 

「よ、よろしくお願いします。私の名前は西沢……」

 

「知っていますよ~、西沢 彩歌(にしさわ あやか)さんでしょう?」

 

と、私が自己紹介しようとした時、おだんごの子が言葉を被せた。

 

どうやら二人とも、既に流さんから私のことを聞いていた様だった。

 

「わたしは、玉上 陽毬(たまかみ ひまり)と言います〜。よくひまりと呼ばれます〜」

 

「実は砂川さんと恋ヶ窪さんにお願いをして人を集めようとしていたんです〜」

 

おっとりした口調で、しゃべりだした。

なぜ人を集めようとしていたのかと、疑問に思い聞いてみることにした。

 

「玉上さん、人を集めていたって言ってましたけど、集めて何をするの?」

 

すると、恥ずかしそうにうつむきながらひまりさんは理由を言った。

 

「実は友達が欲…ではなくて、わたしの家が日本料理店でして~」

 

「わたし自身がメニューを考えて、作った料理をお店に出す前にモニタリング?と言うのでしょうか。まぁ事前調査がいるので、わたしが動いていました~」

 

「まあ、つまりは新作の試食をして頂きたくて、人を集めていましたという訳ですね〜」

 

と、そこに流さんがやって来て、ひまりさん(と呼ぶ事にした)に肩を組み始めた。

肩を組まれたことに、ひまりさんがビクッとしていたが、流さんは構わず話した。

 

「つ・ま・り、ひまりんは友達が欲しくて、人を集めているってね!」

 

その言葉に、慌てたようにひまりさんが返す。

 

「そういうことではないのですけど、う~ん、まあ認めます………」

 

しょんぼりしたかと思うと、

 

「あと、砂川さん、ひまりんはやめて下さいといったのに~」

 

そう言って流さんをポカッと軽く叩いた。

 

 

そのやり取りの横から、恋ヶ窪さんが私の方に寄ってきてひそひそと話した。

 

「という訳で、ボクも人が困っているのは見てられなくて、陽毬ちゃんの友達になったんですよ」ヒソヒソ

 

さっきから、どうしても気になっていたことがあったので聞いてみた。

 

「……恋ヶ窪さんってなんで自分の事をボクって呼ぶの?」

 

うーん……と悩まし気な仕草を見せた後、こう答えた。

 

「昔に、友達からオトコみたいだねって言われて……」

「その時に、ボクって自分の事を言ったらさ、そのまま変えれなくなってしまった感じ…かな…」

 

ヒソヒソ話していたけれど流さんが、私たちの会話を止めた。

 

「ちょいちょい、君たち話聞いてた?」

恋ヶ窪さんと話していたので、流さんたちが何を話しているかは聞いていなかったですと、恋ヶ窪さんが相槌を打つ。

 

「いえ、すみません。なんの話をしていたんですかね?」

 

それを受け、流さんが応えた。

 

「まあ、ひまりんが困ってるから明日か明後日のどっちかにひまりんの家に遊びに行こうって事」

 

「さあさ、みんなの予定はどっちが空いてる?」

 

そう聞かれた私と恋ヶ窪さんだったが、私はあいにくというか、友達が居ないから、予定は空き放題だった。

 

「私はどっちも大丈夫だけど……恋ヶ窪さんはどう?」

 

そう聞いてみると、恋ヶ窪さんもどうやら予定はなっかたようで、土日は大丈夫だからと答えていた。

 

「そ、それでは早速ですが、明日の土曜日の昼頃に、この学校の正門付近に集合ということで、よろしいでしょうか~?」

 

ひまりさんの提案に、みんなが合意をして、その日は解散となった。

 

みんなが、掃除を手伝うと言ってくれたけど、小平先生に頼まれたことだから言い一人で掃除をした。

 

ガラガラッと扉を開ける音がし扉の方をみると、ひまりさんが一人で戻って来ていた。

 

「教室にハンカチを忘れてました〜」

 

どうやら、ひまりさんはハンカチを忘れていて、1人教室に戻ってしたらしい。

 

ひまりさんは机に向かい、ハンカチを取り出して確認すると鞄にしまった。

 

「彩歌さん、じゃわたしはもう帰りますね〜。昼頃…といってましたけど、正午に正門前に集合でお願いしますね〜」

 

扉の前まで移動し、ぺこりと頭を下げる。

 

「それでは彩歌さん、さようなら〜」

 

パタパタと右手を振って帰って行った。

 

私も右手を振ってさようならと言った。

 

そして、右手に結んである黄色と白の模様のミサンガに目がついた。

 

このミサンガは死んだ祖母がくれたもので、私がよく雨に降られるから魔除けとして、私が小学生の時に着けてくれた。

 

「このミサンガが切れない限り、不幸な事にはならないからねぇ」と言われたけれど後々になって考えてみれば、ミサンガっていうものは切れたところで願いを叶えるものであって、着けてる時はそんなに効果が無いとか。

 

でも、当時の私は祖母がくれたミサンガを心の底から喜んでいた。

 

そして、何年も経った今でもこのミサンガは切れずに私の右手に結んである。

 

教室の中を見渡しても、もう綺麗な状態だったけど、

 

私の悪天候にみんなを巻き込んでしまうんじゃないか、

 

その思いが頭をよぎって、みんなが帰った後に、また一人で帰宅した。

 

 

教室を掃除してから廊下に出た時、服を着て二足で歩くウサギのぬいぐるみ?のようなものを見かけたけれど、あれは一体何だったんだろう?




あれってチモ…おっと、この辺にしときます。

というわけで、今回は少し短めの話でした。

〜次回予告〜

陽毬さんの料理店にみんなで行こう!

次回、Lucky.4 いまいくよ

この辺からオリジナルで展開していきます。

この時点でのキャラクター紹介します。

不幸タイプ…不明
こいがくぼ しいな
恋ヶ窪 椎名
元ネタ…恋ヶ窪駅 椎名町駅
黒髪を肩のあたりまで伸ばしている
目の色は真紅
性格:普通…?
一人称はボク

不幸タイプ…悪天候
にしさわ あやか
西沢 彩歌
茶髪でツインテール
目の色は緑色
性格:冷静で、優れた観察眼をもつ
一人称は私


不幸タイプ…不明
たまかみ ひまり
玉上 陽毬
元ネタ…玉川上水駅
濃い茶髪で後ろにおだんごを結んでいる
性格:おっとりしていて、面倒見が良い
目の色は明るい黄色
一人称はわたし
日本料理のお店の看板娘で新作を自ら作ることもしばしば。

不幸タイプ…不明
すなかわ ながる
砂川 流
元ネタ…武蔵砂川駅
カチューシャをしている
性格:気さくで明るいが影の努力家
一人称はアタシ
目の色は深い青

こんなところですかね〜。

まだまだ、不幸タイプは分からない子が多いですね。

最後に謝辞を。

ここまで読んで下さった読者様ありがとうございます!

プロフィールは参考程度にして下さいね。

それでは、また来週〜。


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Lucky.4 いまいくよ (☆)

 ―4月9日土曜日―

 

上を見上げると、春に似つかわしくないくらいの快晴の空が広がっていた。

ただいまの時刻は11時20分、つまり集合時間の40分前だ。

そして私は、集合場所でもあった、天之御船学園の正門前まで来ていた。

 

わたしの不幸タイプの悪天候の為に他の人より早めに来ていた……という訳では無く、ただ単に私が焦って時間よりも早く来てしまっただけだ。

 

時間も余ってることだし、ここで私の不幸タイプである悪天候についての考えをまとめてみようと思った。

この体質になってからの癖みたいなものかな。

 

私の悪天候はそう酷いものではない。

 

天候がさっきまでは晴れていたのに、急に雨が降ってくるとか、季節外れの雪が降ったりとはしない。

あくまでも私の予想になるけれど、せいぜい降水確率が上昇するだけだ。

入学式の日の降水確率は、20%でその数値が上がって雨に降られた。

でも、今日は違う。

 

今日の日差しは今の季節に合わず少し暑いぐらいに照っていた。

今日の降水確率は、0%だった。

いくら私が不幸でも、0%の日は雨には降られたことは無かった。

 

 

そんな考えをまとめていた時に、待ち合わせた1人?と思われる人がこちらに走ってきた。

 

その子は、なんというか…白いフリフリのついた黒のドレス――――つまりはゴスロリのようなファッションをしていて、黒い髪を肩まで伸ばしていた。

そのドレスを揺らしながらこちらに向かってきたのは、

なんと……………………………恋ヶ窪さんだった。

 

「お、西沢さんも早いんですね!」

 

と言うと、手を振りながら笑顔で恋ヶ窪さんも正門前まで来た。

 

うーん、何だろうこのファッションについて何か言うべきか、何で恋ヶ窪さんも早く来たのかどっちについて言えばいいのか分からない……し、全然わからない。

そう私が悩んでいると、恋ヶ窪さんが何かを感づいたらしく、自ら口を開いた。

 

「いや、あのですね、この格好はボクの趣味とかじゃなくて、お母さんが友達と遊びに行くなら着て行きなさいって……」

 

母親は、娘になんて服を着せてるんだか……。

 

すると、恋ヶ窪さんが恥ずかしそうにつぶやいた。

 

「実はさ、ボクって自分を言うようになってから、お母さんが女の子らしくさせたかったみたいで……」

 

そんな理由は分かる気がすると、一人納得していた。

まぁ確かに、ある日突然自分の娘がボクとか言い出したらそうなってしまうかも。

 

と思ったところで、ツンツンッと後ろから背中をつつかれた。

 

後ろを振り返ると、ひまりさんと流さんがいた。

 

「もう、おふたりとも集合していたんですね~」

 

と言っていたひまりさんだったが、着物という格好にまたも私は驚いてしまった。

 

「ひ、ひまりさんは着物を着ているんだね…」

 

「はい、お店の制服が着物になっているので普段も着るようになったんですよ〜〜」

お店の制服が着物とは、日本料理店と聞いたのでかなり本格的な場所なのだろうか?

 

身軽そうな服に帽子を被った流さんがみんなに呼びかけた。

 

「もう集まったんなら、早くひまりんの家に行ってご飯食べよっ!」

 

その声をキッカケに私たちはひまりさんの家へと向かった。

 

ちなみに、私の今日の服はカジュアルなデニムのジャケットにスカートだった。

 

普通…………だよね?

 

 

ひまりさんの家を一言で表すなら屋敷だった。

 

日本料理店と言っていたけれど、そのお店がまさか和風屋敷のような佇まいとは、思いもしなかった。

 

看板が立て掛けてあり、「鳳玉亭」と書かれていて、到着早々に

 

「ここがひまりんの家かーー!広いねっー!」

 

そう、流さんがそう叫んだ。

 

「ねえねえひまりん、このお店って名前なんて言うの?」

 

「ああ、砂川さんそれはですね~…」

 

と、ひまりさんがしゃべろうとした時に恋ヶ窪さんがポツリと呟いた。

 

「ほうぎょくてい、ですかね」

 

その言葉は流さんの耳にも入ったようで、

 

「あれ、ほうぎょくていって読むんだね。ひまりんそれで本当はなんて読むの?」

 

「は、はい………その通りでほうぎょくていと読みます~」

 

ひまりさんがどことなく、ションボリしているように見える。

 

きっと、名前の読み方を教えたかったのだろう。

 

 

とにかく入ろうということで、ぞろぞろと鳳玉亭に入ろうとした所をひまりさんに止められた。

 

「ま、待ってください!」

 

「皆さんは、新作の試食をお願いしたいのですが、営業中のお店の中で食べるという訳にもいかないので、二階の住居スペースまで移動していただけますかね~?」

 

その言葉に一同は納得した。

 

「確かに、ボクたちがお店でまだ出てないものを食べる訳にはいかないよね」

 

恋ヶ窪さんがそう、呟いた。

 

 

屋敷の一階をお店として、二階を住居スペースとして使ってるようで、私たちは二階に向かった。

 

 

「少し待っていてください、今新作の料理を持って来ますからね~」

 

そう言われて、リビングのようなところで通されていた。

 

「「・・・」」

 

なんとなく、気まずくなって沈黙が辺りに流れた。

 

「ボクの服って、なんかこのお店に合ってないですよね…」

 

あはは…と、力なく恋ヶ窪さんが笑った。

 

すると、それを聞いた流さんが口を開けた。

 

「そんな事無いと思うよ、しーちゃんって可愛い見た目してるから、そういうフリフリな服も似合ってる!」

 

そういう、流さんの服装はボーイッシュな格好をしていた。

野球キャップにボーダーの入ったシャツとジーパン、そして、今は脇に置いてあるが軽い羽織ものもシャツの上から着ていた。

 

「ボクもそういうボーイッシュな格好してみたいです!こういうドレスみたいな服しか持ってないから……」

 

と、恋ヶ窪さんが話していた時、ひまりさんがお盆になにかを載せてやってきた。

 

「皆さん、取り敢えずお茶だけ持って来ましたよ〜。あのう、部屋の奥にテーブルがあるので、そこでお茶飲みませんか〜?」

 

そう言われ、私たちはリビングの奥にあった、大きめのテーブルにそれぞれ腰をかけた。

 

 

その合間にひまりさんがお茶を配りながら説明してくれた。

 

「実はこのお茶も「和紅茶」と言って、日本で作られた紅茶なんですよ〜。このお茶もわたしから提案したものなんです〜」

 

和紅茶って言うんだこのお茶。

 

「あっボクの和紅茶に茶柱立ってる…!」

 

そう言って恋ヶ窪さんが驚いていた。

 

「恋ヶ窪さん珍しいですね〜、紅茶なので茶柱は立たないはずなのですが……」

 

そういえば、恋ヶ窪さんってどんな不幸タイプなんだろう…?

 

………今は和紅茶を飲もうかな。

 

「ひまりさん、早速頂きます」

 

湯呑みを持って、少し冷まし口に和紅茶を入れる。

 

すると、私の口の中に紅茶にしては甘めの味そして、少しだけ苦味が残った。

この前飲んだダージリンとは、違った味わいがある。

ダージリンは苦味が強めだった印象だったけど、この和紅茶は最後に少しの苦味が残っただけで全体的に美味しかった。

 

「この和紅茶ってすごい美味しい……」

 

思わず、そう口にしてしまうくらいに。

 

周りを見ると、流さんと恋ヶ窪さんの口にも合ったらしく幸せそうな顔をしていた。

 

「どうやら、皆さんの口に合ったようでなによりです~。他の料理も持って来ますね~」

 

そう言って、ひまりさんが部屋から出て行った。

 

 

それから、約五分後・・・・・

 

 

「次の料理は、鰹巻きおにぎりですよ~」

 

と、言い大皿をテーブルの中央に置いた。その傍らには取り分ける用であろう小皿も用意されていた。

 

焼き色のついた一口サイズのおにぎりに、タレで味付けし少し炙ってそうな鰹が巻かれていた。

更にその上から、ネギとゴマが降りかけられていた。

 

「元々は、料理人の間で食べていたお夜食だったので、わたしがそれを見つけてアレンジを加えて新作メニューに加えたんです~」

 

そう言ったひまりさんの発言に、流さんが驚きの声を上げた。

 

「へー、元は夜食だったんだ~、ひまりんよく見つけたね!」

 

グッ!と、親指を立てて流さんがひまりさんにサインを送った。

 

「そ、それじゃあ、皆さん食べてみてください~」

 

そう言いながら、ひまりさんが私たちに鰹巻きおにぎりを小皿に取り分けて、配った。

 

私は自分の小皿に載っている鰹巻きおにぎりに、箸を伸ばして掴み、一口に頬張る。

 

口に入れた瞬間、甘じょっぱいタレと、鰹の食感が広がった。

 

その後に、おにぎり………いや、かつお節を入れた焼きおにぎりの味が口の中に広がった。

 

「これも、凄く美味しい!」

 

私は思わずそう叫んだ。

 

 

それから、約一時間後……

 

私たちは、ひまりさんのお店の前にいた。

 

「今日は本当にありがとうございました~。お蔭で新作の料理をお店に出せそうです」

 

そのまったりとした言葉に、恋ヶ窪さんが応える。

 

「ボクたちも結構おいしい思いしたんだから、そんなに感謝しなくてもいいですよ」

 

そして、恋ヶ窪さんの言葉に流さんも続けて言う。

 

「そうだよ、ひまりん!アタシたちも美味しく食べれて、ひまりんも喜ぶ。これでお互いトントンだしさっ!」

 

笑顔で言い切る流さんを見て安心したのか、ひまりさんもみなさん気を付けて帰ってくださいね~と言い私たちを見送った。

 

 

 

「それじゃっ、あやか、しーちゃんまた明後日学校でね!」

 

「ちょっと、ボクをそんな風に呼ばないでよ………じゃあ、これから流ちゃんって呼ぶから!…あと、彩歌ちゃんも呼び方はこれで良いですよね?」

 

そんなやり取りを流さんと恋ヶ窪さんがしあったりして、私たちはそれぞれの帰路に着くために道を分かれた。

 

そして、自分の家に向かう途中。

 

今日はなんだか楽しくて、思わず笑みがこぼれた。

 

でも、その時、私がまだ小学生だった頃の記憶が蘇る。

 

ーーーーー

 

あの頃、私は園池 菜野花という子とよく遊んでいて、お昼を一緒に食べに行った時のことを思い出していた。

 

「彩歌、今日のお昼美味しかった」

 

トコトコと私の隣に菜野花が歩いてきてそう言った。

 

「また行きたいね、あそこのお店。それか今度は私がおススメのお店を紹介するよ」

 

「うん・・・楽しみにしてるね」

 

ーーーーー

 

そう言って、微笑んでた菜野花の顔を思い出した。

 

いや、あの頃は確かナノちゃんって呼んでたんだっけ。

 

今日のお昼の中に菜野花が居れば良かったのに。

 

そう思いながら、私は家へと急いだ。




~次回予告~

やって来た月曜日!
お待ちかねの身体測定が………あれ?始まらない?

次回、Lucky.5 ずっとおなじ

次の話から、またアニメに戻ります。

今回は初登場キャラはいましたが、彩歌の回想のみだったのでプロフィールは無しです。

最後に謝辞を。

ここまで、読んで下さったそこのあなたに最大の感謝を!

あと、まっちゃんさんに私服姿(ゴスロリ)の恋ヶ窪 椎名を描いて貰いました〜〜


【挿絵表示】


可愛いですね〜!

本当にありがとうございましたm(_ _)m

ではでは〜〜


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Lucky.5 ずっとおなじ

4月11日の今日は、身体測定の前に生徒との面談がある。

幸福クラスである、7組を受け持つ者としてその一部を表記しておこうと思う。

何せ今年の生徒達はいつにも増して、厄介な生徒が多いのだから。

 

〜〜〜

 

「それじゃあ、初めに恋ヶ窪 椎名さん入ってきてください。」

 

「はい。」

 

そう言いながら、恋ヶ窪さんは私の前の椅子に腰を下ろした。

 

私は、手元に置いてある調査報告書に目を向ける。

 

そこには、1年7組、幸福クラス、出席番号1番、そして恋ヶ窪椎名と言う名前や顔写真まで貼られており、その下には不幸の分類、傾向と対策、特記事項など事細かに書かれていた。

 

不幸の分類を見て、やはり恋ヶ窪さんが幸福クラスの中でも異端だということがうかがえた。

 

私は、予め用意してあった、質問をいくつか尋ねる。

 

「恋ヶ窪さんは趣味などはありますか?」

 

この質問に、恋ヶ窪さんはキョトンとし、特には無いですと答えた。

 

 

「………それでは、これで個人面談は終わりです。ところで、恋ヶ窪さんは花小泉 杏という生徒はご存知ですか?」

 

「………いえ?面識はないですが。」

 

「そうですか。なら、構いませんが、恋ヶ窪さん、花小泉 杏さんにはできるだけ近づかないようにしてくださいね。」

 

「………わかりました。(……誰だろ?)」

 

 

この後は、出席番号2番なので……萩生 響さんですか。

 

恋ヶ窪さんよりはむしろこちらの方が気が楽に感じますね。

 

〜〜〜

 

次の出席番号は、12番なので……

 

「園池 菜野花さん、どうぞ。」

 

「失礼します。」

 

そう言って、紫がかった黒髪をお下げにした生徒、つまりは園池 菜野花さんが入ってきた。

 

調査報告書の得記事項に、警戒心が強いや、あまり社交的ではない。そして、ある遊園地で、バイトをしている事などが書かれている。

 

まずは、この事ですかね……。

 

「園池さんは遊園地でのバイトをしている様ですね。学業との両立は出来るのですか?」

 

その質問に、園池さんはこちらを見やってから、ボソリと呟く様に答えた。

 

「出来ますけど・・・。」

 

「それならば良しとしましょう。それでは園池さん、あなたの特技などはありますか?」

 

この質問には呟くのでは無く、ハッキリと答えた。

 

「絵を描くことや、デザインの方は得意・・・・です。」

 

デザイン…ですか。 確かに調査報告書にも書いてありますが………そうですね、園池さんには他の生徒よりも夢について考えていそうですね。

 

それから、いくつかの質問を重ねていく。

 

「西沢 彩歌さんと顔見知りの様ですね。もう会いましたか?」

 

その質問に、園池さんは不思議そうな顔をして答えた。

 

「ワタシは彩歌がこの学園にいるなんて、知らなかったです・・・・今度、話しかけてみます。」

 

知らなかったとは、驚きですね……。

 

「これで、個人面談は終わりです。園池さん、あなたには将来の夢をしっかり持っている様ですね。」

 

ボソッ「・・・・・・・当然でしょ。」

 

「それでは、失礼しました。」

 

何か呟いた様に見えたのは気のせいだったのでしょうか?

 

〜〜〜

 

次の生徒は29番………あと、10人ほどですかね。

 

「それでは、玉上 陽毬さん入ってきて下さいね。」

 

「し、失礼します〜。」

 

玉上さんの調査報告書には、実家の日本料理店「鳳玉亭」で、お手伝いをしている事。

さらには、

その下に一昨日恋ヶ窪 椎名、西沢 彩歌、砂川 流の3人を家に招いたということも書かれている。

 

最初は、この事について質問しましょうか。

 

「玉上さんは、一昨日友達とお昼を一緒に食べたそうですね。楽しかったですか?」

 

玉上さんは何故その事を知っているのかと疑問に思っていたようですが、こう答えました。

 

「はい〜、新しくお友達が出来て凄い嬉しかったです〜。」

 

お友達………ですか。良いことなのでしょうね。

 

「それは良かったですね。あと玉上さん、あなたの得意教科は何ですか?」

 

「そうですね〜、古典とか、家庭科ですかね〜。」

 

やはり、家庭科が得意でしたか。

得意な事は聞かなくても良さそうですね。

しかし、この生徒にはいささか警戒心が無さすぎる気もしますが……まあ、いいでしょう。

 

「それでは、これで個人面談を終わります。」

 

〜〜〜

 

出席番号31番、この生徒も中々大変ですね。

 

「西沢 彩歌さん、入ってきていいですよ。」

 

「はい、失礼します。」

 

相手を冷静に見れる観察眼、自分の状況を客観的に判断出来る判断力どれをとってもこの生徒は自分自身の身の守り方を知っている様ですね。

 

「西沢さんは、このクラスには馴染めましたか?」

 

ですが、卵の宿題の時にウソをついてしまったり自分をあまり信じてはいない様ですね。

 

「はい、入学式当初はあまり馴染めていませんでしたが、次の日に友達が何人か出来ました。」

 

こちらをじっと見つめながらこう答えた。

 

もう、大丈夫かもしれませんね。

 

いくつかの質問の後、個人面談を切り上げた。

 

「それでは、これで個人面談を終わりますね。西沢さんは今日来る時に雨に降られましたか?」

 

その質問に、西沢さんはこちらを少し睨みながらこう答えた。

 

「ええ、多少服が濡れた程度ですけど。それでは、失礼します。」

 

〜〜〜

 

次は32番なので、砂川 流さんですか。

今からすることを思うと少しだけ気が重いですね…。

 

「砂川 流さん、どうぞ入ってください。」

 

「失礼しますねー。」

 

教師の前であるのにも関わらず気楽そうな、それでいて無理をしているような態度。…やはり、まだ不幸を抱えている様ですね。

 

「砂川さん、ここでは下らない見栄なんて張らないでくださいね。」

 

この一言に砂川さんは大分驚いている様ですね。

 

「小平先生…いやぁ、冗談キツイなぁ、見栄なんて張ってるワケないじゃないですか………」

 

それでは砂川さんの肩の力を抜いてもらいましょうかね。

 

「砂川さんはこの学園に入学してから、何人ほどの友達が出来ましたか?」

 

驚いていた砂川さんも、パッと表情を明るく変え答えた。

 

「そりゃ、もう10人以上出来ましたよ!」

 

………なるほど。

「砂川さん、その答えは嘘ですね。」

 

1年7組の生徒は今のところ40人。

 

その中で、砂川さんと親しくなったのは恋ヶ窪さん、西沢さん、玉上さん、そして不幸にも寄ってしまっていた江古田さん以外には、関わりすらもっていないなようでしたし。

 

 

………………仕方ないですね。

 

他の生徒の皆さんよりも先にこの事を言う必要がありそうです。

 

「砂川さん、あなたの不幸は自分から認めない限り、到底直ることはありません。」

 

この生徒、いや、この子には不幸を克服して欲しい。

 

「それとも、あなたは中学時代の失敗をまた繰り返すのですか?」

 

その想いが強くなってしまい、ついキツめの言葉をかけてしまいました…ね。

 

流石にこの言葉は効いたのでしょう、砂川さんは少し大人しくなったようです。

 

「それでは、個人面談を始めます。まず、質問ですが………」

 

質問を重ねながら、本当は不幸を克服するのではなく、その不幸を受け入れる様になることを願った。

 

きっと、砂川さんには伝わらない様ですがね。

 

〜〜〜

 

個人面談の後は身体測定ですか……。

 

 

と、その前にお昼を食べておきましょうか。

 

あの子を呼んで頼まないといけない事もありますし。

 

さて、これからも忙しくなりそうですね。




まさかの今回は、小平先生の語りのみでした……。

あれ?どこか小平先生のSっ気が強い様な……?

〜次回予告〜

身体測定、次こそやるぞー!

次回、Lucky.6 みんなで

次の話は再び彩歌に語り部が戻ります!

今回の話によって、新たに追加されたプロフィールを載せときます!

不幸タイプ…不明
番号12
そのいけ なのか
園池 菜野花
元ネタ…遊園地西駅
紫のかかった黒髪をショートヘアにしている。
性格:無口。警戒心が強い
目の色は淡い紫

不幸タイプ…見栄
無意識のうちに余計な見栄を張ってしまう
番号32
すなかわ ながる
砂川 流
元ネタ…武蔵砂川駅
カチューシャをしている
性格:気さくで明るいが影の努力家

流ちゃんが中学時代に起こした失敗とは…?
それは、またいつかの話でしたいと思ってます。

次の話は挿絵アリの予定です!

ではでは〜〜。


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Lucky.6 みんなで(☆)

私は、次の身体測定の為に着替えに更衣室に来ていた。

 

小平先生との個人面談を終えて、少しだけ気が楽になっていた。

 

「あ~、西沢さんも個人面談終わったんですか〜。」

 

体操服に着替えようとした所で、元々更衣室にいたひまりさんに声を掛けられた。

 

「ひまりさん、小平先生との個人面談、けっこう緊張しませんでしか?」

 

ひまりさんは、へ?というような顔をして答えた。

 

「うーん、そうでも無かった気がしますね〜、ちょっと怖いところもありますけど、基本的に良い先生だと思いますよ〜。」

 

入学式のアレを見ても、"ちょっと"怖いか…肝が座ってる人だ………

 

「わたしはそれよりも、体重が増えてないか心配ですよ〜、料理を作って、試食しての繰り返しをしてたお陰で体重が増えたような気がするんです〜。」

 

あー、一昨日にご馳走になった料理は、普段から自分で作ったりしてる賜物に依るもの……

 

という事は、

普段から自分で作った料理を食べてるという事なんだよね……。

 

「……体重増えてないといいね。ひまりさん。」

 

「はい〜、わたしにとっては体重と料理は切っても切れない縁なので〜。あっ、そういえば、わたし達まだ着替えて無かったですね〜、早めに着替えちゃいましょうか〜。」

 

そうね、と私は答えたけど、あることが頭から離れてくれなかった。

 

着替えようと言って制服の上着を両手で脱ぎ、上半身がブラを着けている状態になった時、服を着ていた時よりも幾らか大きく見えるひまりさんの胸に注目してしまった。

黄色を基調としたブラがひまりさんの後頭部のおだんごと色がお揃いで………。

 

どうやら、ひまりさんは着痩せするタイプらしい。

 

 

【挿絵表示】

 

 

私は、まあ普通位だと思うのだけれど………ひまりさんのには負ける……かな。

 

「き、着替えたところだし、私たちだけでも体育館に行ってみよっか。」

 

「そうですね~、彩歌さん。」

 

と、二人で身体測定をする会場である体育館に向かった。

 

 

体育館に着くと、すでに何人かの生徒が測り始めていた様だった。

 

2~5人程度のグループを好きなように組んで、測り合っている様子だけど………その中に1人だけ存在が浮いてしまっている子がいた。

 

その子は、背丈が周りと比べて小柄で黒い髪を垂らして紅い目をしていてって……恋ヶ窪さん⁉︎

 

どうやら隣にいるひまりさんも恋ヶ窪さんをみつけたようで、声を掛けていた。

 

「椎名さ~ん、わたし達といっしょに測りませんか~?」

 

クルッとこちらの声を聞き取ったのか、恋ヶ窪さんが振り返った。

 

「彩歌ちゃんに、陽毬ちゃんだ!うん、ボクも測り合いたいです。」

 

 

こうして、三人で身体測定をすることになった。

 

「ボクが個人面談を、一番最初に受けることになるとは思わなくて、他に友達もいなくて余ってたんです。」

 

そうか、確か今やってきた個人面談って、出席番号順じゃなかったから、

 

「個人面談の呼ばれた順番って入学式の日に試した、幸福度を測る時の番号を使っているものだったから、恋ヶ窪さんが一番最初になったってことだよね?」

 

と、恋ヶ窪さんに聴くとそのようで、コクリと頷いた。

 

「彩歌さん、どの種目から測ってもいいらしいですよ〜。」

 

「それじゃ、あそこの測定からやろうかな。」

 

そう言って私が指し示したのは、体前屈測定だった。

 

 

「体前屈測定って確か、台の上に立って上半身を倒して両手を足の先に向かって伸ばして、棒みたいのを押すものですよね?」

 

恋ヶ窪さんの声に私は、うんと頷いた。

 

「たしかに、今のところあれが一番空いてますね〜。でもわたし体前屈測定って苦手なんですよ〜。」

 

そう言ったひまりさんの声に、恋ヶ窪さんが驚いたような顔をしてこう言った。

 

「陽毬ちゃんに苦手な物があったなんて、意外ですね。こう見えてもボクは前屈って得意なんですよ!」

 

どうやら、恋ヶ窪さんは張り切っているようだった。

 

さて、私も平均くらいには頑張らないといけないかな…と思いつつ、ふと気になったことがあったので「ひまりさんって何で長座体前屈ニガテなの?」と聞こうとしたら……「よし、がんばるぞ~!」と言う恋ヶ窪さんの言葉に遮られてしまった。

そして、その言葉と共に測定器の方へと駆けて行った。

 

どうやら順番がまわって来たようで、測定器の方を見るともう既に恋ヶ窪さんは準備を終えたのか、台の上に立って手を伸ばし始めていた。

 

「よっと」

その掛け声と共に上体を倒し、台に取り付けてある棒を押し記録を伸ばしていった。

 

恋ヶ窪さんってほんとに体が柔らかいんだと思っていると、恋ヶ窪さんの測定を手伝っていたひまりさんがひゃっ!と声を上げた。

 

「ど、どうしたの?ひまりさん!」

 

そう言いながらひまりさんの方を見ると、驚いて固まっているひまりさんの横に、淡いピンクのような白のような色をした二足で立つウサギのぬいぐるみ?のような生き物がいた。

……しかも服を着て首元は赤いリボン結んでいる。

 

「そこまで、驚かなくてもいいじゃない。ボクはこの学園で造られた[ロボ助っ兎 チモシー mk-1]って言って、幸福クラスの案内役をやってるのさ!」

 

よろしくね~と小さめの腕を振りながらそう言った。

 

確かにロボットと言われると柔らかそうな外見とは違い、腕や足の稼働した時に機械音がするような気がする。

しかし、あまりにもなめらかに動くのでロボットというよりもぬいぐるみが突然動き出した様にしか見えない………。

 

すると、固まっていたひまりさんが近づいてきてヒソヒソと、私の耳元で話してきた。

 

「な、何なのでしょうか〜このロボット君は……。」

 

私もヒソヒソ声で、ひまりさんに返す。

 

「私だって、分からないって……あ!確か入学式の日の帰り際に見た気がする……」

 

そしてお互いに"?"を浮かべたままでいると、そのロボット(確かチモシーmk-1だったろうか?)が、何かに気づいた様にその目を光らせた。

 

「よく気づいたね、そう!何を隠そうボクは入学式初日からみんなを見守るために日夜活動していたのさっ!」

 

あの時はまだ調整ができてなかったんだけどね〜と、言いながらチモシーは胸を張った。

 

「ロボットに見えない外見をしてますね〜、助っ兎…という事は、わたし達の測定も手伝ってくれますか〜?」

 

しかしひまりさんの言葉に、チモシーは応じれないとでもいうかの様にムリムリと首を振りながらこう答えた。

 

「今からキミたちの測定の手伝いをしても良いんだけど、小平先生からお使いを頼まれているからまた今度ね〜。」

 

そう言って、よくしゃべるロボは去っていった。

 

「可愛らしい子でしたね〜。あっそういえば椎名さんがまだ測定している最中でしたね〜〜。」

 

確かにそうだった。

チラリと恋ヶ窪さんの方を見ると、ちょうど棒を押し数値が出始めていたところだった。

ひまりさんが、数値が書いているであろう画面を覗き込み、私たちに伝える。

 

「ええっと〜10.51417cm……って細かい数まで出るんですね〜。」

 

「確かに、小数点切らずに正確に測れるなんて、この測定器…いえ、この学園が凄まじいってことなのかもね…。」

 

そう言った私に、計測を終えた恋ヶ窪さんが返答を返した。

 

「彩歌ちゃん、どうやらこの測定器だけじゃなくて、この学校自体が最新設備を完備しているらしいですよ。」

 

そうだったんだ。たしかにやたら真新しい校舎だったりしていたし。そう考えると、さっきのロボットも学園の備品の1つなのかもしれない。

 

「西沢さん、次わたしが測定しても良いですか〜?」

 

! その言葉で私が物事にふけっていたことに気づき、慌てて返答する。

 

「ああ、うん、良いよ先に使っても……ってひまりさん、確か体前屈測定苦手なんじゃなかったっけ?」

 

そう聞くと、ひまりさんは少し恥ずかしそうに俯きながら呟いた。

 

「…恥ずかしいので、早めに終わらせたいんです〜。」

 

そういう事だったのか。確かに私も出来る事なら体重測る時なんかは早く終わって欲しいと思う。

 

よいしょと台の上に立ち、手を伸ばして棒を押している……が、少ししか棒が動かない。

 

それを見兼ねかのか、恋ヶ窪さんがひまりさんに声を掛ける。

 

「陽毬ちゃん、息をゆっくり吐いて力抜いて下さい!」

 

その言葉がひまりさんに伝わった様で、コクリと頷いた。ふぅ〜〜と息を吐きながら、頑張って棒を押しているようだった。そのおかげか、棒がさっきよりも下がっているようだった。

 

「それじゃあ、陽毬ちゃんの数値は〜っと、3.21333cm。うん結構良い感じです。」

 

陽毬ちゃん頑張りましたねぇと、恋ヶ窪さんがひまりさんを労っていると、突然ひまりさんがその場にへたり込んでしまった。

 

「椎名さん、お気づかいありがとございます〜、ですけどわたし、疲れちゃってちょっとその辺で休んでます〜。」

 

そう言って、ひまりさんが体育館のドアにもたれかかるようにして休んでいると……

 

 

ガラガラッ

 

 

とドアが開き、ひまりさんがそのままドアの方向に倒れて、入ってきた子とぶつかってしまった。

 

「・・・っ!」

 

その子もひまりさんにつまづいて、お互いが折り重なるように倒れてしまった。ひまりさんの上に紫がかった黒髪の子が乗っかってしまっていた。

 

「だ、大丈夫!?」

 

思わず2人に駆け寄る。

 

「わたしは大丈夫です〜。」

 

どうやらひまりさんは無事なようだ。

ドアから入ってきた子は…

 

「・・・問題はない。ワタシが・・・うっかりしていただけ。」

 

そう言いながら起き上がり、こちらをジッと見つめる目は淡い紫で……

 

「って、もしかしてナノちゃん!?」

 

そう、ひまりさんとぶつかり倒れた子は、私の幼馴染の園池 菜野花だった。

 

「も、もしかして、彩歌・・・?」

 

私が頷くと、無表情に近かった表情がだんだんと明るみを増していく。

 

「あ、彩歌〜〜!会いたかった!ワタシ、彩歌に会えなくて淋しかった・・・。」

 

まさかこんな所で会うなんて、思わなかった。

 

 

「あの、お二人がお知り合いだったんですね〜。改めまして、わたしは玉上 陽毬といいます〜。」

 

そう言ったひまりさんに続けるように、恋ヶ窪さんも紹介を始めた。

 

「ボクは、恋ヶ窪 椎名って言います。よろしくです。」

 

2人の紹介に、ナノちゃんも答えた。

 

「ワタシの・・・名前は、そのいけ、園池 菜野花と言います。・・・・・その、よろしく。」

 

うん、そう言えばナノちゃんって人見知りだった…。

 

 

「それじゃ、自己紹介も済んだことですし、みんなで身体測定、しましょう!」

 

恋ヶ窪さんに連れられて、どうやらナノちゃんも一緒に測るらしい。

やはり、まだ人見知りは続行中のようで、明るかった表情も今ではデフォルトの無表情に戻っている。

ナノちゃんとの再会を楽しむよりも先にやることがありそうだ。




菜野花ちゃんの、無口設定が順調になくなり始めている気がしてきます。

……ヤバくない?

〜次回予告〜

身体測定を終えた彩歌たちは砂川 流と合流し、5人で部活見学をすることに……

次回、Lucky.7 あなたと

お着替え中の陽毬ちゃんを、まっちゃんさんに、描いて貰いました〜アニメでは無かったサービスシーンですねぇ…。

更には今回から本格的に、おんハピ♪に参加する、園池 菜野花さんをガンバりささんに描いてもらいました。


【挿絵表示】


お二人のお陰でおんハピ♪書いていけます!

最後に、ここまで読んでくださっている読者さまにも最大の感謝をしたいです。

ではでは〜


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Lucky.7 あなたと

更衣室で体操服に着替えた私とひまりさんは、身体測定のために体育館に入った所で恋ヶ窪さんと会い、一緒に測ることに。

その途中で、私の幼馴染の園池 菜野花(ナノちゃん)と再会する。

そして再会後、身体測定を終えて私たちが体育館を出た所から始まる。

 

「・・・き、今日は・・・・・ありがとね。」

 

未だ人見知りしているのか、ナノちゃんは言葉を詰まらせながらそういった。

 

「こちらこそ、ですよ〜。園池さんもこれからお昼も一緒に食べませんか?」

 

ナノちゃんの緊張を察したのか、ひまりさんがこの4人でお昼を食べないかと提案した。

食事を共にすることで、ナノちゃんとの距離を詰めたいと思ったのだろう。

 

「・・・・・・・。」

 

ナノちゃんが、ひまりさんの提案に無言になってしまっている。

 

「陽毬ちゃん良いですねその案! ボクも今日誰かとお昼食べたかったんですよ。」

 

恋ヶ窪さんも同意し、私はナノちゃんに聞いてみることにした。

私が聞いた方がナノちゃんも答えやすいのかもという考えもあったけれど、やっぱりみんなでご飯を一緒に食べた方が美味しくなるのだと、この前の土曜日の時のひまりさんの家でお昼を食べたからだと思う。

 

「ナノちゃん、みんなで一緒にお昼食べない?私も久し振りにナノちゃんとご飯食べたいし。」

 

「彩歌と・・・・・! うん、食べたい・・・一緒に食べる人もいなっかたし・・・。」

 

表情を少しだけ明るくして、同意してくれた。そんなにみんなと食べたかったのだろうか………?

 

 

「そうと決まったら、早速食教室に行こうか!アタシ、もうお腹空いちゃったよ…。」

 

そうみんなを促す様に、流さんが……って流さん!?

 

私を含めみんなが驚いている中、恋ヶ窪さんが口を開いた。

 

「ど、どうして流さんがいるんです!?」

 

さっきまで、というか身体測定の時点ではいなっかたはずだ。

 

「しーちゃん、どうしてかってアタシは身体測定を、個人面談の前にパパッと終わらせちゃったからね。」

 

どうやら流さんは先に身体測定を終わらせたらしい。

ひまりさんが少し涙目になって流さんに訴える。

 

「あ、あんまり驚かせないでください〜、わたし、怖いの苦手なんですから〜。」

 

びくびくと震えているひまりさんに多少引け目を感じたのか流さんも、ごめんごめんと謝っていた。

 

この中で、1人状況を理解していなかったナノちゃんに私が説明した。

 

「ナノちゃん、この人は砂川 流さんっていって私の友達なんだ。」

 

「そうそう、気軽に話しかけてね、これからよろしく!」

 

私の説明に乗っかる形で、流さんも自己紹介をした。

 

「よ、よろしくです・・・・・。」

 

私が相手じゃないとやっぱりコミュニケーション取るのは難しいかな…。

 

 

そして、私たちは1年7組の教室に戻った。

 

教室の中で机をいくつか繋げて、それぞれのお昼ご飯を広げる。

 

私とひまりさん、恋ヶ窪さんはお弁当で、流さんとナノちゃんはコンビニや購買で買ってきた物の様だった。

 

「流さんと、ナノちゃんはお弁当持ってこないの?」

 

流さんが焼きそばパンにかぶりつきながら、答えた。

 

「アタシはこの学園の購買のメニューが気になってね。」

 

ナノちゃんは小ぶりなサラダを食べながら答えた。

 

「ワタシは・・・そんなに・・量・・・・食べないから。」

 

少し恥ずかしそうにそう言ったナノちゃんに、ひまりさんがむッとなって話し始めた。

 

「もう、園池さんわたし達は食べ盛りなんですからもっと食べないとだめじゃないですか~。」

 

きっと家が料理店だからだろう。ひまりさんは純粋にナノちゃんのことを心配して言っているのだと思う。

 

しかし、そもそもですね~とひまりさんがナノちゃんに向かって説教(?)の様なものを始めた。

 

「ま、まあボクたちはご飯食べましょう……。」

 

という恋ヶ窪さんの一言で、私たち三人はお昼ご飯を再開した。

 

 

 

お昼の時間はもう終わり、一緒に食べていた五人で学園の部活見学を見て周ることにしていた。向かう部活は

ナノちゃんの希望で美術部がある、美術室となった。ナノちゃんは昔から絵とかイラストを描くのがうまかったし、きっとやりたかった事なのだろう。

 

その移動中の合間にナノちゃんが話しかけてきた。

 

「彩歌・・・明日から・・・・なぜか玉上に弁当作って貰うことに・・・なった。」

 

どうやら、ひまりさんにこってり説教されたようでしょんぼりしながらそう言った。ひまりさんは日本料理店のメニューを考えるくらいのお料理上手だったけれど、それ相応のご飯をしっかり食べてほしいという、気持ちも強いということなのかな…。

 

「まあ、良いことなんじゃない?ナノちゃんも前はもっと食べてたし。」

 

そうなんだけど・・・とナノちゃんが呟いたところで私たちは美術室の前に立っていた。

 

「えーっと、それで誰から教室に入るのかなー。とりあえずひまりん行ってみよーかー。」

 

そう言いながら、流さんが部室に入る様にひまりさんを促した。

 

「またそう言ってわたしにやらせようとするなんてズルいですよ〜ぅ。」

 

そう言いながらも、失礼しますと言って部室に入って行くひまりさんはやっぱり良い人の様だった。

 

ひまりさんがまず部室に入り、その後に流さん、私、ナノちゃん、恋ヶ窪さんと美術室に入って行った。

 

「ようこそ、美術部へって言っても特に何も無いけどゆっくりして行ってね。」

 

そう話してくれた髪を後ろでポニーテールにまとめた先輩に感謝を言おうと口を開きかけた時、私よりも早くナノちゃんが質問をした。

 

「ワタシは・・・この部活に入りたいと思っていますが・・・・・・週に何回・・行けば良いのかとか・・・・ありますか?」

 

 




〜次回予告〜

わたし、花小泉 杏っていいます!

今日は、小平先生に頼まれて次回予告?っていうのをやりにきたんだけど・・・・・そのタイトルが書いてあった紙を無くしちゃったんだ〜。

いつのまにか無くなってて、う〜ん、にゃんにゃんに追いかけられた時なのか、ドブにハマった時なのか、それとも川に落ちた時・・・?

分からないけど、みんなの為にも思い出さなくちゃ!

・・・

・・・・・

・・・・・・・

全然思い出せないや……。

次回、Lucky.8 んーと、わたしはすっごくついてるよ!

これで良かったのかなぁ〜。

あ!、あんなところににゃんにゃんが!

待って〜〜今行くからね!

ニャ---!

あぅー、にゃんにゃん………パタリコ

お相手は、何かいいことあったらハッピー!
花小泉 杏だったよ〜。


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Lucky.8 んーと、わたしはすっごくついてるよ!

「それじゃ、アタシ達は他の部活回ろうか?どーする?」

 

そう言った流さんに、恋ヶ窪さんが質問で返した。

 

「ボク達だけで先に行っていいんですか?」

 

確かに、ナノちゃんの入る部活が決まったからって先に行って見知らぬ先輩ばかりの美術室に置いて行くにはいかない。

そう思って、未だ先輩と話してるナノちゃんを見ると、ナノちゃんの顔が………………ほころんでいることに気づいた。

きっと、好きな絵のことで先輩と話しているのだろう。

私は昔から、絵を描くのが好きだったナノちゃんを知っていた。だからこそ、きっとここは私たちは美術部からは出た方が良いのだろう。

 

「恋ヶ窪さん、私たちで先に行ってもいいと思う。ナノちゃんはこの部活に決めたようだしね。」

 

私たちの話す声が聞こえたのか、ナノちゃんがこちら側を向いて私に向かって唇だけ動かしてこう伝えた。

 

さ、き、いっ、て、て

 

と。 私はそれを頷きで返して4人で美術部を後にした。

 

 

ガラガラッ

 

美術室のドアを閉め、部室から出た所で3人で揃って頭を抱えた。

 

「う〜ん、次どこに行くのか全く決めてなくて困りましたね〜〜」

 

そう、ひまりさんが声に出した通りお昼を食べ終わった私たちは、ナノちゃんの希望で美術部に見学しに行く事は決まっていた。しかし、それ以降の計画を立てていなかった………。

 

悩んでいると、唐突に流さんがひまりさんに抱きついた。

「ひーまりーん、どこか行きたいとかないのー?」

抱きつかれたひまりさんが恥ずかしがって、声をあげる。

「ひゃうっ!砂川…さんっ、変なとこ触らないでくださいよ〜っ…。」

身をよじる様にして、流さんから離れようとするひまりさん。

そして、流さんが逃すまいとひまりさんを捕まえる。

 

そんなじゃれあいを、私と恋ヶ窪さんで一緒にぼーーっと見ていた。

 

……………。

 

すると突然、恋ヶ窪さんが赤い目を輝かせた。

 

「クンクン…!クッキーだ、クッキーの焼いてる匂いがしますよ!彩歌ちゃん…!」

 

そう言い切った恋ヶ窪さんに、さっきまでじゃれ合っていた2人が驚いて動きを止めて、こう言った。

 

「「え?」」

 

ひまりさんと、流さんの声は見事にシンクロしていた。

 

 

「クッキーのいい匂いがどこからかして来るんです。」

 

という、恋ヶ窪さんの情報を頼りにみんなで考えてみる。

 

「流石に、誰かが持って来たものって訳でも無いよねー?」

 

流さんの意見を聞くと、たしかに誰かが持ってきたお菓子とかの可能性もある。

 

だけど、良い匂いを嗅いだ恋ヶ窪さんはついさっき気がついた様なそぶりを見せていた。

 

「という事は…ひまりさん、この学園って家庭部とかあるの?」

 

そういえば、この前メモ帳を持ってたし、もしかしたら家庭部の場所を知っているのかもしれない。

そう思って、ひまりさんに尋ねてみた。

 

「か、家庭部ですか?確かあった気がしますけど………いまメモ帳出しますね〜」ゴソゴソ

 

そう言いながら、ひまりさんがポケットを探っている…………………しかし、ひまりさんの顔からだんだんと色が抜けていく。

 

「す、すみません彩歌さん〜。どこかに落として来ちゃったみたいです……。」

 

そう言って、あわあわとしているひまりさんをみて、さっきまで引っ付いていた流さんが思い出した様に呟いた。

 

「そういえば、家庭部ってこの2つ上の教室じゃ無かったっけ…?」

 

2つ上の教室………恋ヶ窪さんはよく2階分も離れているのに嗅ぎつける事が出来たのだろう?と、少し疑問に思う。

 

「そ、そうでしたね〜、ここは一階ですので、3階にあると思います〜早速行ってみましょうか?」

 

そう言ったひまりさんは、どこか落ち着きが無いようにも見えた。

さっき探していたメモ帳を失くしてしまったのかも。

 

 

そして、私たちは2つ上の教室である家庭部に向かう為に階段を登った。

2階に着いた時にちょうど家庭部のある3階の方から、生徒の何人かが降りて来る様で、話し声が聞こえて来た。

 

「それで、ぼたんは次はどの部活見学したいの?」

 

「わ、私の生きたい場所なんて、ありふれたものですが…………陸上部などに行ってみたいです。」

 

「陸上部…!いいね〜ぼたんちゃん!わたしも走ってみようかなぁ…ヒバリちゃんも一緒に走る……?」

 

どうやら3人ほどいる様で、一番先を歩いているのがぼたんと言われている子で緩めに髪を三つ編みにしている。

その次に瑠璃色の髪をストレートに背中に下ろして2人の会話を聞いているのが、ヒバリちゃんと呼ばれていた子だろう。

そして最後に階段を降りて来たのが、金色の様にも見えるオレンジ色の髪をショートにし、後ろでお団子に束ねている子で、ひまりさんよりも高めの位置にお団子を結んでいる。

 

すると突然、最後に歩いていた子が踊り場から数段下の所で足を滑らし、先を降りていた2人を追い越す様にして、私たちがいる階段近くの廊下に落ちて来た。

 

「ふぇぇ………」

階段から落ちて来た子が目を回して倒れていた。

 

「「「「……………………………………。」」」」

 

あまりの出来事に、私たち4人全員とも呆然として言葉を発せないでいると、さっきまで喋っていた2人が慌てて階段を駆け下りて来て、さっきの子に駆け寄った。

 

「は、はなこ!階段から落ちるなんて…!」

「はなこさん、しっかりしてください!わたくしなんかが、はなこさんに話しかけたばっかりにこんなことになってしまうなんて……。」

 

た、大変な事になってしまった。

どうにかして私たちも助ける手段が無いかと探そうとした時に、トテトテとまたもや3階の方から降りて来るのが………ってあのぬいぐるみみたいなロボットって確か、、、

 

「ち、チモシー!触らせて〜〜!」

 

バッと倒れていたはなこ(と呼ばれていた)が立ち上がってチモシーに駆け寄っていった。

 

「もう、触らないでよね!こう、機密な機械なんだから。」

 

そう言いながら、追いかけっこをして私たちが来た二階の方へ駆け降りて行った。

 

それのやり取りを見た2人は安心したのか、ホッと息を吐いてから、私たちに向き合ってこう言った。

 

「さっきは、あたし達のせいで迷惑かけてごめんなさい。」

 

「お礼を言いたいのは山々なのですが、はなこさんを追いかけないと行けないので、先に失礼しますね〜。」

 

そして、2人は急いで階段を降りて行った。

 

 

「嵐の様な人達でしたね……。」

 

恋ヶ窪さんの呟きにみんなで揃って頷いた。

 

 

階段を登り、しばらく歩いて家庭部の使用している調理実習室前に着いた。確かにこの距離になれば、恋ヶ窪さんが言っていたクッキーの匂いが漂ってきた。

 

早速入ってみようという事で、4人揃ってドアを開けると………

 

そこには、クッキーを美味しそうに食べている先輩達の姿があった。

 

そのうちの一人であろう先輩が、こちらに声を掛けて来てこう言った。

 

「ようこそ家庭部へ、と言ってもさっき来た一年生達………というか、雲雀丘って子がクッキーを焼いてくれて今はみんなで食べてる所なんだけどね。」

 

「良かったら食べてみて。」と、私たちにクッキーが何枚か入った包み紙をくれた。

 

雲雀丘………って事はさっき会った内の一人である、ヒバリちゃんと呼ばれていた子だろうか…?

 

「早速だけど、食べてみようー!」

 

流さんはそう言いながら、包み紙を開けてクッキーを食べ始めた。

ちょうど4枚入っていた様で、分け合えれた。

 

それぞれのクッキーが動物の形をしていて、私のはパンダの形をしたものだった。

 

一口かじってみると、焼きたてなのであろう少しだけ温かく、生地の甘さと包み込む様なバターの香りが効いていて、とても美味しかった。

 

これ美味しいと幸せそうにしているのであろう、3人を見てみるとひまりさんだけ、一口だけかじったクッキーを持ってプルプル震えている。

 

「どしたのひまりん?何かあったの?」

 

そう流ちゃんが聞いたら、ひまりさんは全員を見てこう伝えた。

「わたし、も〜っと美味しくクッキーを焼いてみせます…!今から作り始めるので、他の見学はお願いします!

また帰り際に寄って来て下さいね〜」

 

……どうやら、和食料理店「鳳玉亭」の看板娘としての、料理魂に火が着いてしまったようだ。

 

 

そして、私たちは家庭部を後にした。

 

「ひまりんって料理作る時に、あんなに気合いを入れるなんて知らなかったなー。アタシ達は次の部活見学に行こうか。」

 

「行きたいところあるんですか?」

 

流さんの提案に恋ヶ窪さんが疑問を持ってそう聞き返した。それを受けて、流さんがニヤリと笑って答えた。

 

「中学生の頃に水泳が得意だったから水泳部見に行かない?」

 

 

 

………………………

 

 

そして、その日の帰り道。

 

流さんが行きたいと言っていた水泳部に顔を出して、流さんがそのまま入部手続きを済ましている間に、私と恋ヶ窪さんで美術部にいるナノちゃんを呼びに行った。

流さんは、手続きが終わり次第ひまりさんの所に向かうようだった。

 

ナノちゃんはいたく美術部を気に入ったらしく、私たちと別れた後に入部をして、早速絵を描いていた様だった。

 

そして3人で調理自習室に向かい、ひまりさんと流さんと合流して一緒に帰ることになり、今に至る。

 

「陽毬、このクッキー美味しい・・・。」

 

「嬉しい事言ってくれますね〜、菜野花さん。明日からお弁当作って来ますからね〜。」

 

どうやら、ひまりさんの料理魂も再燃するらしい。

 

 

 

 

今日、一日で色んなことがあった。

 

 

ナノちゃんに会ったり、

 

 

部活をまわったり、

 

 

こうして帰り道に友達と帰れるなんて、

 

 

入学したての頃は考えられなかった。

 

 

 

今はこの5人で、これから色んなことを経験していきたいと思う。

 

 

「これが、もしかして幸福って事なのかな」

 

 

みんなと別れた後、

 

私はひとり、そう呟いた。




こんばんは、レッドです!

〜次回予告〜

まだまだ終わらないよ!

次回、Lucky.9 くっきー

なぜか最終回みたいな感じがでてますが、まだまだおんハピ♪は続きます。

今回を通して、彩歌ちゃんも少しだけ自分を肯定できるようになったのかも知れません。

次の更新は、色々立て込んでいる為、2週間後となります。

ではでは〜〜


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Lucky.9 くっきー

身体測定と部活動の見学をした月曜日から3日が経過し、今日は14日の木曜日。

 

火曜日、水曜日と雨続きだった日から、

今日の天気模様は今朝見たニュースで「本日の予報は曇りのち晴れ、朝方のパラパラとした雨に気を付けて」という事だった。

 

しかし、学園へと向かう私の周囲にはパラパラとした雨では無く、シトシトと雨が降っていた。

 

「土砂降りにならなかっただけマシかな。」

 

そう1人つぶやいて、私は早足で天之御船学園へ向かった。

 

小雨と言うよりは、霧雨のような雨粒が傘や制服の袖を濡らす。

シットリとした湿気の中、ふと道の傍に屋根のあるバス停を通過する。

そのバス停に雨宿りでもしようかと考えたけれど、私の不幸《悪天候》の場合一定の所で留まっていると、さらに天候が崩れる事も多いから、それなら早めに学園に向かった方が良い。

 

バシャッ

 

水溜りを何となくローファーで踏む。

少しだけだけど、気分がスカッとした。

 

…………今日はまだ始まったばかりだし、学園にすら着いていない。

 

ローファーで水溜りを踏んだせいか右足が少し重いようにも感じる。

 

でもこの重みはきっと気のせいなんだろう。

今日、天之御船学園に到着して、また友達と喋ったり、菜野花と遊んだりするのに抵抗を感じているだけなのだと思う。

 

抵抗……というよりは罪悪感に近いのかもしれない。

 

私は、自分に対してこんなにも幸せになっても良いのだろうかと疑問に思ってしまう。

 

今まで、私は不幸側の人間と思ったことは、なにも小平先生が入学式のあの日に指摘した時だけじゃ無い。

 

初めて私がよく雨に降られると自覚した時。

 

親友だった菜野花と離ればなれになってしまった時。

 

中学の時にみんなが楽しみにしていた修学旅行が雨模様になった時。

 

 

いくらでもある。

 

 

……………………………いけない。

 

また雨のせいか、物事をどんどんと悪い方へと考えてしまっていた。

 

少し急ごう。

 

早足で歩いていくうちに天之御船学園の校舎が見えてきた。

 

雨に負けないように、自身の不幸に負けないように、

 

1日の中で頑張っていこう。

 

そうやって、

 

くよくよした考えを捨てたところで………

 

私は自分の居場所になりつつある学園に到着した。

 

ーーーーー

 

雨雲はどこに行ったのか、午前中の授業が終わりお昼になった所で空は晴れ渡っていた。

 

「今日もわたし達と食べましょうよ〜。」

 

その声に応え、私は机をくっ付ける。

 

そうして、いくつかの机を繋げてみんなでお昼ご飯を食べる為に固まった。

 

その面々は、私、さっき声をかけたひまりさん、そのひまりさんにお昼のお弁当を作ってもらっているナノちゃん、そしていつも私達とお昼を食べたがる流さん、最後に机が遠いので椅子だけ持って来ている恋ヶ窪さん達だ。

 

みんなで机を固めた後、ひまりさんが意気揚々と立ち上がり「恒例行事」を始めた。

 

「それでは〜、皆さん手を合わせて下さ〜い。」

 

そう言ったひまりさんの掛け声とともに5人でそれぞれ両手を合わせる。

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

食事に感謝して5人でそう言った。

 

………流石にこの歳になって恥ずかしいけど。

 

 

というのも、身体測定があった日の次の日の事。

 

ひまりさんがせっかくだからみんなでいただきますと言いましょう〜と提案があった。

 

流さんのいいんじゃない?という言葉と昨日にナノちゃんがひまりさんに説教を食らっていたので、なし崩し的に決まった。

 

私は言い出したその日のみだと思っていたから、まあいいかなぁくらいに考えていたけど、もはや恒例行事と化してしまった。

 

そうして、みんなで少し恥ずかしそうにしてお昼を食べる。

 

しばらくご飯を食べながら喋っていると、話題は家族の話になった。

 

「本当に困った妹なんですよ…。」

 

と、恋ヶ窪さんが珍しく苦い顔をしてそう言った。

 

「しーちゃんそう言うけどさ、どういう妹ちゃんなわけ?」

 

流さんの問いかけに恋ヶ窪さんがしんなりとして答える。

 

「それがですね、性格がさっぱりしていると言えば聞こえが良いんですけど、要は飽きっぽくて何でもすぐ辞めちゃってて。理由を聞いても、お姉ちゃんにはカンケーないしとか言ってどっか行っちゃうし。」

ボクより背が高いし、運動神経抜群に良いですし、知らない人とすぐ仲良く……とブツブツと不満をつぶやいている。

 

というか、最後の方とか単純にほめてる気もするけど…。

 

余りの妹さんへの愚痴のオンパレードに、私たちは顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。

 

 

ーーーーー

 

 

 

「ふぁーー。」

 

昼下がりの授業中、流さんのかすかな欠伸の音が聞こえてきた。

 

いくら幸福クラスといえども、高校のカリキュラムは受けないといけない。

 

お昼を食べた後に受ける授業はやはり眠気が襲う。

 

今の受けている授業は数学I。

 

今日が初めての授業だったけれど、教科書の範囲が順調に進んでいくのを受けながら実感した。

 

確か、吾野先生という名前だっただろうか。

 

珍しい白銀の髪に、頭の上に髪の毛が跳ねていてアホ毛のようになっている。

 

のんびりとした口調での説明なのに、内容がしっかりと理解できる。

 

因数分解の公式を黒板に書いている間に、私はひっそりと周りを見渡してみた。

 

相変わらず流さんは眠そうにしているけれど、何とか授業について行こうと目を擦っている。

 

流さんと反対側の席についているナノちゃんとその隣の席のひまりさんに目を向けると、もっと驚くべきことが起こっていた。

 

ナノちゃんが真剣に机に向き合って書きものをしている思いきや、よく見ると、スケッチブックに絵を一心不乱に描いているだけだし、ひまりさんに関していえば眠気に負けたのか、机に上に突っ伏してすうすうと心地好さそうに寝息を立てている。

 

この2人はすでに手遅れだったのかもしれない……。

 

心の中で、先生が2人の姿を発見しないようにと祈りながら、恋ヶ窪さんが座る左前の方の席に目を向ける。

 

3人中2人が眠気に襲われ、1人が授業を受けていないという状況の中、恋ヶ窪さんはどうなのか……?

 

だがそこには、真面目にノートを取り真剣な表情で黒板を見つめる恋ヶ窪さんの姿があった。

 

 

そこではたと気付く。

 

私も他の子を見ているだけじゃなくて勉強しよう。

 

恋ヶ窪さんによって、勉強のスイッチが入った気がした。




タイトル関係なくちゃった。

〜次回予告〜

遂におんハピ♪も10話に突入!次は……え?彩歌の語りじゃないの?

次回、Lucky.10 めまぐるしく

何が起こるのか……。

2週間ぶりですかね。

天野御船学園→天之御船学園という間違いに気づきました。
変換が悪いんだーー(責任転嫁)
一応、今までの話での間違いを変更してきました。


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Lucky.10 めまぐるしく

わたしの朝は早くて、5時に起きます。

 

「ふぁ〜あ」

 

欠伸をしながらベットから起き上がり、まだ眠い目をこすります。

 

ふと、床を見ると畳が敷かれています。

 

畳の上にベットなんて、わたし自身も可笑しいと思いますけれど、理由があったようです。

 

我が家は日本家屋のようなデザインなのですが、わたしが幼い頃にベットに寝たがっていたから、だそうです。

 

まあ、なんでわたしの事をこんな風に他人事の様に語るのかっていうのは、わたしが覚えてないだけなんですけどね。

 

「さてと。」

 

起きてからはまず、自分の身なりを整えます。

 

パジャマから着替えて洗顔、歯磨きを済ませ髪を後ろでお団子にした後に、朝食とお弁当作りに取り掛かります。

 

身支度を整えるのに、僅か5分。

 

わたしもやっとこの生活に慣れてきましたね〜。

 

最初の頃は、料理を作る際に邪魔になるかと思って、髪を束ねてポニーテールにしていました。

でも、お母さんに今のお団子のやり方を教わってからは、ずっとお団子をしています。

 

今では料理を作る時だけでは無く、普段からこの髪型になっているのですけどね…。

 

お気に入りの髪型に整えた後、わたしの名前が書いてあるエプロンを身に付けて調理場に入ります。

 

「おはよう日毬。今日もお友達の分の弁当を作るのかい?」

 

おとうさんに声をかけられました。

わたしの料理の先生でもあり、我が家のお店を切り盛りしているだけあって、いっつもわたしより早く起きています。

それにわたしは、すっごくおとうさんの事を尊敬しています。

……まぁ、自分のおとうさんの事を尊敬の眼差しで見るのもどうかと思いますけどね。

 

「おとうさん、おはようございます~。はい!今日も頑張って作りますよ〜。」

 

そう言うと、お父さんは少し微笑んでわたしの頭を撫でてくれました。

 

えっへへ、頭撫でてもらえて嬉し………って違います〜‼︎

 

「お、おとうさん! わたしもう高校生なんですから、子ども扱いしないで下さい〜!」

 

カァァァッと頰が熱くなるのがわたしでも判ります。

 

「もうっ、今日はわたしがみんなの分のお弁当を作るので、おとうさんは調理場から出てってください〜!」

 

そう言って、わたしは苦しまぎれにおとうさんを責めるようなことを言ってしまいました。

 

「そんなに、一人で作りたかったのか…?」

 

そう言い残して、おとうさんは心配そうな表情を浮かべたまま出て行きました。

 

 

「うぅぅぅ、おとうさんに酷いことをわたしは言ってしまったのでしょうか…?」

 

そう独り言をつぶやいきながら、玉子焼きを焼くために冷蔵庫から生卵をいくつか取り出します。

そうして、生卵を割っていくうちに、さっきおとうさんに言ってしまった事が頭によぎります。

 

 

 

………クシャ、

 

 

「わ、わ、落としちゃいました……うぅ、せっかくの卵さんが……ごめんなさい…。」

 

思わず座り込んで、生卵に謝ってしまいました。

新鮮な生卵を落としてしまい、割れてしまった殻から白身がドロリと床に広がってしまいました。

慌てて片ずけようとして、布巾を取ろうとして立ち上がった時にくるり滑る事で、とわたしの身体は宙に浮いてしまいました。

浮揚感が在ったのもつかの間の出来事で、次の瞬間には調理室の床の上に転んでいました。

 

卵の割れたところの真上に転んだのかパジャマ

 

「えへへ、、」

 

そういえば、あの入学式の日の帰り道もこんな事がありましたっけ…。

 

落とした生卵の残骸を片付けながらあの日の帰り道の事をを思い返していました。

 

〜〜〜

 

そう、確かあの2人と会ったのは入学して間もない時でした。

 

晴れやかだった空も曇り始めていました。

 

天之御船学園の入学式を終えて、1人帰宅している時に生卵を渡されていたわたしは、卵を大事そうに抱えて慎重に歩きながら家へと帰っていました。

 

帰り道である、河川沿いを慎重に歩いていると、1匹のネコちゃんが、猛ダッシュでわたしの右側を通り過ぎて行きました。

 

「ニャ、フグゥー…ぺっ」ダダダッ

 

クシャ、

 

そのネコちゃん(黒猫でした)が、生卵を咥えていたようでそれを取り落としたのか、割れた殻と中身がが地面に広がっていました。

 

と、わたしが割れた卵を見て立ち竦んでいると、今度は同じ制服を着た子が横を通り過ぎました。

 

何のことか、わたしには分からず、セミロングの赤っぽい髪色を颯爽揺らしながら通り過ぎた子の発している声を聞いてみると…。

 

「……コラ〜〜〜!レンの生卵を落としたなあ〜〜!このヒビキから逃げようなんぞ……」ダダダダッ

 

何故、ネコちゃんの後を追って行ったのでしょうか?

 

わたしの頭の中が混乱しながらも、思いついた事がありました。

 

「もしかして、生卵をネコちゃんに取られでもしたのでしょうか…?」

 

本当にそうだとしたら、大変かもしれないです〜。

 

そう考えながら、とりあえず可哀想な生卵さんをどうにかしようとしゃがみ込んだところで、頭上から声を掛けられました。

 

「ねえ、そこの君。ヒビキって言って走り去って行った子見なかった?」

 

そこには、同じ7組の子で透き通った様な青色の瞳がそこにはあって……

 

〜〜〜

 

………って、この2人は違う人達ですね。

 

そうそう、確かネコちゃんを追って迷子になったヒビキさんをわたしも追う事になって、そこで、自分の生卵を割っちゃったんですよね…。

 

〜〜〜

 

追いかけっこの最中、

 

二手に分かれて追いかけようと言うところで、勢い余って手からスルリと離れて行った生卵は、丁度わたしの進行方向に落ちた事で、それを踏んでわたしは転んでしまっていました。

 

「………。」

 

転んだ先に同じ制服を着た小柄な子がいて、目が合っていたと思います。

 

気まずくなって、えへへ、、と誤魔化していると、背後から現れた誰かさん両脇を抱えられて持ち上げられてしまいました。

 

「ひゃうっっ!」

 

思わず、変な声が出てしまっていたと思います。

 

「この子が、さっきれんちゃんが言ってたヒビキって子かなー?」

 

取り敢えず立ち上がらせないとねー。

そう言ってわたしを地面に下ろしてくれました。

 

それを見ていた、小柄な子がパチパチと小さく拍手しながら言いました。

 

「流さん、多分違う子だろうけど捕獲おめでとうです。」

 

当時のわたしは、まさに混乱の極みでした。

 

手伝っているのにわたしが捕まっているの?とか、この人たちは誰?という風に。

 

わたしの状態を察したのか、わたしを持ち上げたカチューシャの子が事情を説明してくれました。

 

〜〜〜

 

と、事情というには些細なものでしたが、れんさんと二手に別れたところでれんさんが通りがかりの2人に頼んで、わたしの方に援軍を送っていた様でした。

そして、あの時に目の前にいた小柄な子が、恋ヶ窪さんで、わたしを持ち上げた子が砂川さんでした。

 

紆余曲折あったものの、何とかヒビキさんを捕らえる事に成功し、砂川さんにからかわれたりしてひまりんと呼ばれたりもしました……。

 

その後、砂川さんと帰り道が同じだったわたしは、筆記用具を取りに学校に戻ったりもするのですが、今は関係ないですよね〜。

 

まあ、そんな事があってからあの時落としてしまった卵に、申し訳無さと有り難みと両方持つ様になっていて、料理のことになると今までよりも熱が入る様になりました。

 

「大丈夫か⁉︎日毬………って、こりゃ盛大にやらかしたな。」

 

ガチャリと調理室の扉を開けて、おとうさんが慌てて入って来ました。

 

今のわたしを見かねたのか、苦笑いしながらもわたしを立ち上がらせてくれました。

 

「今日のところは、朝のケンカは終わりにしようか。せっかくの制服が台無しだから、取り敢えず今の服は洗濯して、着替えてきなさい。お弁当は父さんが作っとくから。」

 

そう言いながら、わたしの肩をポンポンと優しく叩いて送り出してくれました。

 

「すぐに入ってくるから、待っててくださいね〜。」

 

そう言って調理室を出た後、わたしは脱衣所に向かいながら思わず、頰に手を当てていた。

 

手のひらよりも温かい温度を感じる。

 

やっぱり、わたしの頰はまだ赤くなっている様だった。

 

こんなさまでは、まともにおとうさんと顔合わせ出来ない。

 

わたしのめまぐるしい朝の時間は始まったばかり。

 

取り敢えず、一旦お風呂に入ってたまには気持ちをリラックスさせた後に、料理を手伝おう。

 

そう決意して、脱衣所に入り服を脱いで、お団子を崩して、身体を洗って、浴槽に入って一息ついた所でふと気づく。

 

「…そういえば、わたしの服の替え、部屋に置きっぱなしですね…。」

 

この歳になっても、おとうさんを多く頼るところが残ってしまいそうです〜。




陽毬ちゃんの過去回想……。

ということで、今回は趣向を変えて語り部チェンジしてみました。

〜次回予告〜

休日の土曜日に、彩歌はお母さんから買い物を頼まれデパートに行くと、そこには恋ヶ窪さんがゲームセンターに居て…?

次回、Lucky.11 がいしゅつ

休日に出会うのは恋ヶ窪 椎名だけじゃない!

次回をお楽しみに〜。


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Lucky.11 がいしゅつ

天之御船学園に入学してから2度目の日曜日を迎えた、4月17日。

 

午前中に降っていた雨が止み、晴れ間が見えた。

 

そんな時の昼食の時間のことだった。

 

母さんと二人でミートソースのかかったスパゲッティを食べていると、ふと思い出した様にこう言われた。

 

「ねえ彩歌、デパートで買い物に行く気はないかしら?」

 

買い物……か。

 

母さんが私にお使いを頼むなんて珍しい。

私の不幸のことは知っているけれど、それでもこの休日中に一歩も家から出ないで、ゴロゴロしてばかりしていたのは流石にまずかったかな……。

 

「分かったよ、母さん。それで何を買ってくれば良いの?」

 

遠目のデパートなんかに行かなくても、近くにスーパーがあるからそこで済むと思って聞いてみた。

 

「母さんはいつも行ってるスーパーに行ってるから、彩歌はデパートに行って服でも買ってきなさい。」

 

服……確かにそこまで多くは持ってないけど、必要最低限の分は持っているから必要ないかな。

 

「彩歌はある程度服は持ってるでしょうけど、せっかく高校生になったんだから、いつもは着ない様な服でも買ってイメチェンしてみなさいな。」

と、私の思った事を悟ったのか母さんはそう言った。

 

イメチェンしてみなさいなって言われてもな…。

ため息をひっそりとついた後、私はデパートへと向かった。

 

…今日は晴れてるから傘は要らないかな。

外に出ると、傘を持ち歩かない事に、なんとなく不安に感じた。

まぁ、小春日和な陽気に流石に雨は降ってこない……かな。

 

 

デパートに入った私は、とりあえず三階フロアに向かった。

 

このデパート…というかショッピングモールは1階が食料品売り場、2階がゲームセンターと雑貨屋、そして3階がファッションとなっている。

 

その一角にある洋服屋さん「ひだまり」に来ていた。

 

最近できたお店なので、どんな服が置いてあるのか気になったから入ったんだけど……。

 

「お客様、こちらの洋服と合わせるならこちらのスカートなどを添えるとより一層雰囲気がふんわりしますよ。」

「ご試着でしたらあちらに…」

 

という具合に物凄い勢いで服やらをオススメされ、あれよあれよという間に試着室に入っていた。

 

「私ってもしかして流されやすいのかな…。」

 

一人そう呟いて、先程渡された衣装に着替えてみる。

店員さんにオススメされたのは、白のブラウスにピンクのロングスカートというものだったけれど、正直自分で選んだものではないので、似合うのかどうかが分からない不安が私の中で渦巻いていた。

 

恐る恐る鏡をのぞいてみると………思いのほか似合っている私がいた。

 

店員さんからオススメされて試着室に入った時には不安だったけど、いざ着てみるとピンクのロングスカートの色がそこまでキツくないところが春先の季節にはよく合ってる気がした。

 

折角だから買ってみよう。

 

もともと着ていた服に着替えて、さっき着たブラウスとロングスカートを会計に出した。

 

会計にいた店員さんは、さっきの押しの強い店員さんではないようだった。

 

「合計で8,640円になります。」

 

ブラウスが5,000円にロングスカートが4,000からの25%引きで3,000円……お得に買えたのかも。

 

………あの店員さんには少し感謝しないといけないかな。

 

 

 

「ありがとうございましたー。」

 

店員さんの声を背に受けて、私は「ひだまり」を後にした。

 

紙袋を片手に下げて、どうせならデパートの中で何かしようと歩き出す。

 

服屋に靴屋などが立ち並ぶ通りを抜けて、エスカレーターに乗って2階に降りてみる。

 

雑貨屋さん……というか本でもみようと思った。

 

今日はよく晴れてたし、最近面白い推理小説が読みたくなっていたので、エスカレーターから降りて、本屋に向かう事にした。

 

ガヤガヤ

 

しかし、エスカレーターから降りたところで、私は足を止めざる得なかった。

本屋に行く前に通る道にあるゲームセンターに人だかりができていた。

このゲームセンターには入口の方に太鼓のリズムゲームが置いてある。

その人だかりだろうか……と思っていると、その中に顔見知りがいた。

子供たちの中で頭一つ分身長が高いので否が応でも目につくのだけれど。

 

その人はそれはもう、むちゃくちゃ爆笑していた。

 

「アハハハっ、ちっちゃいのに上手いー!動きにくそうな服なのに、スゲーバチ動くの早い…ぷぷっ!」

 

流さんが、子供たちに混じっていたのだ。

 

その目線の先には……ドレスの様なフリフリした服を身にまとい必至に太鼓に向かってバチを振るう恋ヶ窪さんの姿があった。

 

ドドドン、カカッ、ドンドンカカッ……

 

うん、とても楽しそうだけどあの中に入るとめんどくさい事になりそうだから無視しよう。

 

その結論が出た事で2人の姿を視界から外して、当初の目的だった本屋に向かうために方向転換して歩き出す。

 

 

「……! アヤカじゃん、おーい!」パタパタ

 

…流さんに気付かれてしまった。

 

「…………逃げよう。」ボソッ

 

目を合わせた瞬間にそう呟いて、私はゲームセンターと反対側に走り出した。

 

ダダダダダッ

 

さっき買った服たちの入った紙袋を前に抱えて全速力で走る。

 

頰に風が当たるのが感じる。

 

人はそこまで居なかったから出来る限りスピードを上げる。

 

「はあ、はあ……」

 

息が切れ始めたところで、ポンと肩を叩かれた。

 

後ろを振り返ると、流さんがいつの間にか追いついていて私を捕まえていた。

 

「アヤカ、うん、今のはちょっと傷ついたなー。」

 

苦笑いして私を見つめる流さんに、私は謝ることしか出来なかった。

 

「流さん、ごめんね…。一緒に遊ぼう?」

 

しーちゃんのところに戻ろうか。と流さんは私に笑顔で言った。




というわけで、まだまだ続きます。

〜次回予告〜

恋ヶ窪さんたちと合流した彩歌は、無事家へと帰ることができるのか…?

次回、Lucky.12 わたしも

いや〜、友達見た瞬間に走って逃げるとか、彩歌もなかなかおてんばですね〜〜(*´-`)


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Lucky.12 わたしも

流さんに連れられ、恋ヶ窪さんが待つゲームセンターに向かう途中…

 

「それで、アヤカは何しにショッピングモールにきてたわけー?」

 

「うん…ちょっと色々あって……。」

と、流さんの何気ない質問に対して私は歯切れ悪く答えてしまう。

ついつい、胸の前に抱えている紙袋を持つ手に力が入ってしまい、紙袋がカサカサと音を立てる。

 

「まあ、あんまり聞かないことにするよ。」

 

その返答に安堵する。

見せられない理由が、流さんに見せるとからかわれる気がしたから…なんて口が裂けても言えない。

 

「………。」

「………。」

 

2人揃って押し黙ってしまう。

 

というか、普段から流さんから話しかけられてばかりで、私から話しかけたことなんて一度もない気がする…。

……うん、こうなってくるとかなり気まずいかも。

 

「流さんは、今日は水泳部とかの部活は無いの?」

とりあえず、流さんが入った部活の話を振ってみた。

 

すると、流さんはブラブラさせていた両手を頭も後ろで組んで答えた。

 

「いやー、実は毎週日曜日は部活なくてさー。暇してたところに丁度よくしーちゃんが歩いてたから、ショッピングモールに入ってゲームセンターに直行したんだよー。なんのゲームするかと思ったら、太鼓叩き出すわ、子供が集まってくるわで大笑いしてたんだよ。…あーあれは本当におもしろかったなー!」

 

「ふふふっ」

と、私もおもわず笑ってしまう。

流さんの語り口が生き生きとしていて、本当に楽しそうに出来事を述べていく。

 

ガヤガヤ

 

騒がしい音に正面を見ると、いつのまにかゲームセンターに着いていた。

 

「アヤカ、相変わらずしーちゃんの周りに子供達が多いね…。」

と、少し苦笑いしながらこちらを向く。

 

「確かにすごい人気だけど、恋ヶ窪さんがあんなに上手いなんて知らなかった。」

流さんに返す形でそう呟く。

恋ヶ窪さん自身は真剣そうにバチを振るっているんだけど、何せフリフリの着いた可愛らしい服を着ながらやってるからこの上なく目立つ。

 

ドドン!

 

と恋ヶ窪さんが力強く太鼓を叩いてふぅーと一息をつく。

曲がどうやら終わったみたいで、次の並んでいた子に変わる。

 

そして、辺りを見渡して…こちらの方を見て驚いたように口を開けてパクパクさせた後、俯いてこちらに歩いてきた。

 

「……流ちゃんに彩歌ちゃん、どうもです。」ペコリッ

恥ずかしいのか、恋ヶ窪さんの頬が赤い。

 

恥ずかしがっている恋ヶ窪さんの様子を見て、流さんが声をかける。

 

「まあ、そう恥ずかしがらなくても良いじゃん!いやーそれにしても、しーちゃんってリズム系のゲームできたんだね!というか、さっきはなんの曲やってたの?」

 

一瞬たじろいでいた恋ヶ窪さんだったけれど、よほど好きなのか曲のことを説明してきた。

 

「うん、実はトクラァ2000って曲で、このゲームにしか無い曲なんです。コレがまた難しくて大変なんですよ!」

それでですね、と流さんに説明をし続ける。

 

「え、うんそれでそれで?」

と、テキトーそうに流さんが相槌を打ちながら待つこと……五分。

 

「………と、そういう経緯があってこの曲ができたんですよ!」

ふふんっと胸を張って説明を終える。

 

「しーちゃんってくわしいんだねー。」

少しぐったりとした流さんがそう言う。

 

ふと、疑問に思い聞いてみる。

「恋ヶ窪さんは毎週とかこの太鼓のゲームやってるの?」

 

すると、恋ヶ窪さんが満面の笑みでうん!と答えた。

なるほど、やっぱりある程度練習しないとあの域には達せないんだ…。

 

パン!

 

と流さんが手を叩いて提案する。

 

「よし、そろそろ夕方だけど、みんなでコーヒーでも飲んでいかない?」

 

と、その言葉に恋ヶ窪さんが嬉しそうに答える。

 

「いいね!ボクちょうど喉乾いてたんですよ。彩歌ちゃんはどうします?」

 

私も、走り回ったりして少し喉が渇いてる。

 

「うん、私も行きたいな。」

 

「よし!じゃあ決まりっ!ちょうどこの前いいお店見つけたんだー!」

そう流さんが言って突然走り出した。

 

「えっ!ちょっと待って流ちゃん!」

「流さん、いきなり走り出した!」

 

唐突な流さんの行動に私たち2人は驚く。

 

でも、なんだか今が楽しくて思はず、来てよかったな。と呟く。

 

すると恋ヶ窪さんがこっちを向いて、何か言いました?と聞いてきた。

 

「なんでもない。」

 

そう答えて、私は走り出す。

今日はなんだか、いつもよりも身体が軽い気がする。




明けましておめでとうございます、レッドです!

今年に入って1本目の投稿でしたが、割と今回は文章量少なめです。
忙しかったりしたのもありますけど、出来るだけすっきりした感じに書こうかな〜と思ってこんな感じにしました。
楽しんでいただけましたかね…?

〜次回予告〜

彩歌は美術部に入った菜野花に、一緒に美術館に行かないかと誘われる。

次回、Lucky.13 ぼんやりと

皆さん、良いお年を〜〜(^o^)/


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Lucky.13 ぼんやりと

4月19日の火曜日の帰り道に、私は美術室の前にいた。

この日は窓から差し込む日の光がぽかぽかと暖かくて、春先に似つかわしい天気だった。

 

ナノちゃん、つまりこの美術室に先週入部した園池 菜野花の部活が終わるのをぼんやりと待っていたんだけど……。

 

………なかなか、出てこない。

 

すぐに終わるから…と言っていた割にはかれこれ30分以上は待っている。

 

窓の外にいたスズメが、1匹いたのがいつのまにか少しずつ増えていって今では5匹くらいになっていた。

 

待つくらいなら美術室に入れば良いのではないかと思う人もいるだろうけど、入りずらい理由がその美術室から騒々しい音が聞こえ続けているから。

ドッドッドッド、ガタガタ、とまるで工事現場かの様な音を立てていて、私はこの部屋へと続く扉を開けれないままでいた。

 

入ろうかと悩んでいる間に、ガラガラと音を立てて美術室からナノちゃんが出てきた。

 

「彩歌・・・もしかしなくても、待った?」

 

相変わらず無表情気味な顔でそれでも少し、申し訳なさそうにそう私に尋ねた。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

それから30分後、とある美術館の展示室にて一枚の絵を2人で眺めていた。

 

ナノちゃんと美術室の前で合流した時に、余ったと言う美術館の鑑賞券を使い、2人で見に行くことになった。

そうして訪れたのだけれど、この部屋に入るなりナノちゃんはこの絵を見つめたまま動かなくなっていた。

 

「ナノちゃん、よほどこの絵が気に入ったんだね。」

 

ちょんちょんと肩を叩きながら言うと、くるりとこちらを見て…うん、と小声で返した。

 

それにしても、かなり大きな絵だった。

 

縦幅3.2m、横幅2.7mくらいの絵で、この部屋に入った際に1番目立つであろう中央に飾ってあった。

まるで見るものを圧倒するこのように鎮座していて、その絵を見たナノちゃんの目線は釘付けにされていた。

 

その絵は凄い不思議な絵で、真ん中に白いドレスを着た少女、左右には同じようなドレスを纏った女がいる。

その少女の左側には絵の具を持ち絵を描こうとしている画家のような風体の者がいて、反対側には犬や使用人のような者たちもいる。

………しかし、この絵には少し奇妙な事があった。

まるで、その絵にいるほぼ全ての人がこちらを見つめているかのように描かれていた。

 

こちら側が見ているはずなのに、まるであっちから鑑賞されているみたいな、そんな不思議な気分になった。

 

確かに、この絵はナノちゃんの興味を引けるのも分かる気がする。

 

思い返してみれば、ナノちゃんと初めて会った時も絵を見ていたように思う。

 

そう、確かあれはまだ私が幼稚園に通っていた頃……。

 

〜〜〜

 

今から思えば他愛のない話なんだろうと思うけど、確かにナノちゃん…いや、菜野花との出会いは強く私の中に残っていた。

 

きたみふね幼稚園に入った頃のことは覚えてないけど、菜野花と出会う前に一度だけ転入生が入ってきた。

その子は、白くて長い綺麗な髪を持っていて、来た瞬間にみんなの注目の的になっていたように思う。

 

その子がみんなにもてはやされ始めてから、数日が経った頃、その子をいつも見ていた赤い髪をツインテールにしていた子と共に朝に遅れて来た日があった。

遅れてきただけならそこまで気にも留めなかっただろうけど、何よりも驚いたのはその2人が両方とも髪をバッサリと切った状態で入ってきていた。

 

赤い髪の子は少々髪が短くなっている程度だった。

でも、転入してきた子の髪は最初腰まであるんじゃないかとくらいあった髪は、すっかりショートヘアになっていた。

 

その様子に、私も含め多くの子が驚いていた。

 

ザワザワとざわめき出す室内の中で、私は部屋の片隅でニコニコと楽しそうに絵本を読んでいる子を見つけた。

 

その子は、紫がかった髪を少し揺らしながらも目をキラキラと輝かせていた。

 

気になりだした私はその子にこう尋ねた。

「ねえ、なんの本読んでるの?」

 

するとその子はこちらに気づいたようで読んでいた本をこちらに向けて広げた。

 

そこには、数々の名画と呼ばれる絵が載っているとても綺麗な絵本だった。

けれどその時の私はそれを見ても何が面白いのかまでは理解できないでいた。

 

「………?」と疑問を浮かべていた私にその子が説明してくれた。

 

「えっとね、こっちの絵は外国の凄い人が描いた絵で、これは日本の人が描いた絵で…」

と言うように。

 

それを聞いた私は、戸惑いながらもその子のお話を聞いた。

 

時々つっかえながら、又は冗談めいて、それでいて本当に楽しそうにお話をしてくれた。

 

そうして、その子が持っていた本に載っていた絵を説明し終わった時に、その子がこう自己紹介をした。

 

「ワタシは、園池 菜野花。これからもお話ししてくれるとうれしい…な。」

 

そう言って私に手を差し出してきてくれた。

それに答えるように私も、

「に、西沢 彩歌です。うん、いっぱいしゃべろうね。」

と言って菜野花の手を取って握手をしたのだった。

 

〜〜〜

 

それが初めてナノちゃんと会った時の話。

 

最初の頃はナノちゃんは、あんまり人見知りじゃなかったんだけど、いつのまにか人前ではあんまり喋らなくなったんだっけ…

 

「彩歌・・?」

 

と、ナノちゃんに声を掛けられてハッと気付く。

 

どうやら、思い出を辿るのに集中しすぎていたみたいだった。

 

「もう、彩歌しっかりしてよ。…次の絵を見に行こう……?」

 

少し不思議そうな顔をしながらも、私の手を握ってくる。

 

「うん、そうだねナノちゃん。」

 

私もその手を握り返して、一歩進む。

 

そうして、私たちはぼんやりする暇もなく歩きながらいろんな絵を見て回った。

 

学校の帰りから来たから、それから二時間ぐらいしかみれなかったけど、とても楽しかった。

 

まあ、その帰り道に例のごとく雨に降られて、びしょ濡れになりながら家に帰ったのは、また別のお話。




彩歌と菜野花の美術館への寄り道…楽しんでいただけましたかね?

幼稚園の頃の菜野花は、今の性格とだいぶ違うのも、不幸が関係したりしていなかったり…。

〜次回予告〜

特に予定してなかったので、息抜き会というか、まあ、ただお喋りし合う話にしようと思っています!

次回、Lucky.14 たあいもなく

それでは、次回もお楽しみに〜。


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Lucky.14 たあいもなく

ナノちゃんとのお出かけが終わり、数日経った頃。

具体的に言えば、4月21日の木曜日の昼下がりの教室でのこと。

 

 

「この中に犯人がいる………僕はそう思うです。」

 

ガタリと席から立ち上がり、恋ヶ窪さんがそう宣言した。

その言葉を聞いた瞬間、私を含める周りにいた子達の表情が自然と引き締まる。

 

私たちの顔を見渡し、恋ヶ窪さんがふぅ、と一息着いてから犯人へと指をさしこう言った。

 

「あなたが犯人です。_____

 

〜〜〜

 

いつも通り、5人で集まり机を並べて食べようということになりみんなで食べることにした。

しかし、私とナノちゃんそれにひまりさんと恋ヶ窪さんはお弁当だけれど、流さんはパンを買って来ないといけない。

 

流さんを待っている間に、机をくっ付けておこうということになり机をいくつかつなげる。

それぞれの位置に座ったところで流さんが戻って来た。

 

目当てのパンを買って来たのかどこか嬉しそうにしてビニール袋を揺らしている。

いやー、待たせたね。と言いながら自分の席に戻り椅子にストンと座る。

 

みんな揃ったところで、ひまりさんが号令をかけて声を揃えて「いただきます」と言う。

 

それぞれのお弁当やパンを食べながら喋り合う。

 

 

さっき受けた授業とか、

 

 

今日の朝ごはんに何を食べただとか、

 

 

恋ヶ窪さんの妹さんへの愚痴を聞いたり、

 

 

ひまりさんが今日の朝に靴下を履き忘れたとか、

 

 

そんな他愛もない話に、みんなで笑いあってお昼の時間が過ぎていった。

 

しかし、その会話の折に流さんがいった一言で状況は一変する。

 

「ねえ、アタシの筆箱どこに行ったか知らない?」

 

きょろきょろと辺りを見渡しながらそう聞いて来た。

 

「う〜ん、机の中とかに入ってませんか〜?」

 

「いやー、それがさーひまりん、真っ先に探したんだけど無くてさ。」

 

ひまりさんと流さんの会話が進んでいる中で、私は冷や汗を流していた。

流さんが筆箱が無い、と言った時に私自身の机の中を見た時に何故だかそこには“流さんの筆箱”が入っていた。

 

……いや、もちろん私が隠したとかそういう訳では無い。

 

たしかに流さんには日頃お世話になっていう反面、少々行動的な一面に私が困っているという事はあるけれど、それだからって別に隠す理由にはならない。

 

つまり、私は今完全な冤罪状況に陥っていた。

 

現時点で1番危惧するのは、私が流さんの筆箱を隠した犯人と誤解される事だった。

 

この現状を何とかしないといけない。

 

その為には、私の机に何故流さんの筆箱が入ってしまったかを考える必要がある…………………とは思わない。

 

誰かが入れたにしろ、偶発的だったにしろ、そのトリックが判った所で今の状況を打破できる解決策になるとは限らないから。

 

それよりも、私の机の中に筆箱が入っているのを何とかしないといけない。

 

解決策を幾つか探してみることにする。

 

その1、正直に話す。

 

この案が1番まともそうに思える。

それでもこの案は少し頂けない。

 

正直に言って信じてくれると思う。

……けれど、もし信じてくれないのかもしれないと思うと、すごく怖くなってしまう。

 

私に対して仲良くしてもらっているけれど、この関係がもしも壊れてしまったらと思うだけで恐ろしい。

 

そうと思うまでに私は、出来た友達を失いたくなかった。

 

その2、流さんの筆箱を何処かに隠す。

 

今、私が犯人になるという状況に陥らなければ良いのだから、件の流さんの筆箱自体を何処かに隠せば自然と犯人では無くなる。

 

しかし、しかしだ。

 

そんなことをしてしまっては、私はきっとこれから先、流さんに対して負い目のような物を感じてしまう…と思う。

 

負い目という感情を抜きにしても、人の物を隠すなんて事は私には出来ない。

どうしても、隠した後にボロが出てしまうと思ったからだ。

 

それでも、私の机から流さんの筆箱を引き離すというようなアイデアはもしかしたらアリなのかも知れない。

 

その3、流さんの机の中に戻す。

 

その2を改良したものと言っても良い。

 

今までの考えが実現不可能に近いと判断して残された手段は、もう流さんの机の中に戻すしか無い。

 

確かに残された手段だけれど、今のところ最善の策なのでは無いのだろうか。

 

戻してしまえば、取り敢えず私が犯人になる事もないし、流さんも不思議に思っても不快に思う事はないと思う。

 

それでも、この案にも穴はある。

 

流さんの机の中に入れるタイミングが無い。

という事だった。

 

もちろん、流さんが座っているから入れ難いっていうのもあるけど、とにかく流さんの意識を机から引き離す必要がある。

 

出来れば、他のみんなの意識もどこか一点に集めておきたい。

 

でも、それを実行に移せそうになかった。

みんなの意識を一点に集めてさらに私への注意を外させるなんて方法は、今の私は持ち合わせていなかった。

 

完全に手詰まり。

 

そこで、私は半ば諦めてみんなが話し合っている中に入ることにした。

 

 

 

 

 

「この中に犯人がいる………僕はそう思うです。」

 

ガタッと席から立ち上がり、恋ヶ窪さんがそう宣言した。

その言葉を聞いた瞬間、私を含める周りにいた子達の表情が自然と引き締まる。

 

私たちの顔を見渡し、恋ヶ窪さんがふぅ、と一息着いてから犯人へと指をさしこう言った。

 

「あなたが犯人です。_____菜野花ちゃん。」

 

その瞬間、私たちの意識がナノちゃんに向いた。

 

……今!

 

今まさに、この瞬間が流さんの筆箱を机の中に入れるべきベストなタイミングだと思う。

 

すかさず、私は左手側にいる流さんの机の中に筆箱を滑り込ませ、入ったことを確認すると、目線をナノちゃんに向ける。

 

すると、恋ヶ窪さんがちょっと困ったように笑いながらナノちゃんに質問していた。

 

「流ちゃんの筆箱を何処かにやったなら教えて欲しいです。」

 

別に怒ったりして無いというように優しくナノちゃんに声をかける。

 

ナノちゃんは少し困ったようにしていたが、やがてハッと思い出したかのようなそぶりを見せて、ポツリと話した。

 

「・・・・そういえば、砂川の筆箱が・・・落ちていたから、机の中に入れたと・・・・思う。」

 

それを聞いた恋ヶ窪さんが、もう一度流さんに机を確認するように言うと、流さんが驚きの声を上げた。

 

「…おー!、しーちゃん確認したら机の中に入ってたよー!」

 

高々と自らの筆箱を持ち上げて、見つかったことを喜んでいた。

 

「よかったですね〜、見つかって〜〜。」

 

と、ひまりさんがほっと胸を撫で下ろす。

 

「菜野花ちゃん、犯人なんて言ってごめんなさいです。」

 

「・・・・別に気にして・・無い。」

 

「それでも、申し訳ないというか……

 

恋ヶ窪さんと、ナノちゃんとのやり取りを聞いているうちに、私は判った事があった。

 

その1を選んでいても、みんななら別に気にしなかったんだという事に。

 

私が1人で勝手に思い込んでいただけで、みんなは私のことを受け入れてくれているんだとを知った。

 

どうやら、私1人で動転していらないことをしてしまったのかもしれない。

 

 

……というか、ナノちゃん筆箱入れる机間違えたんだ…。




〜次回予告〜

こんにちは、わたくしは久米川 牡丹と申します。

……うぅ、ですがこんなわたしの事なんか誰も気に止めませんよね、すみません出すぎた真似をしてしまって……。

それでも、わたしに課せられた使命を果たすべきですよね…。

それではええと紙は……ああ、貧血で力が…パタリ

次回、Lucky.15 んんっ、ど、どうかお気になさらずに

お相手は、何か良いことわたくし如きにあるはずがありませんよね。

久米川 牡丹でした。


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Lucky.15 んんっ、ど、どうかお気になさらずに

部屋を出る前に天気を確認しようとして部屋のカーテンを開ける。

すると、外の景色は雨模様に見事に染まっていて、雲はどんよりと重々しげだ。

 

「はぁ・・・・。」

 

ため息をついてしまうくらいに気分が落ち込んできたので、思わずベットの方を見遣ってしまう。

・・・・・バイト休む?・・・・・・このままベットに飛び込んで寝てしまうのもあり・・・かも・・・・。

 

「うーっ。さすがに・・・今日くらいは・・行こう・・・。」

 

 

思わず外に出ようかどうかを思い直しそうになって慌てて起動修正をかける。

前回、誘惑に負けベットへ飛び込みながらのだ〜〜いぶ。

毛布を被ってモフモフゴロゴロしてしまった前科がある。

 

・・・・・・・・。

 

いくら部屋でも出来るとはいえ、毎週の様に部屋に閉じこもってバイト先に行かなかったら申し訳ない。

 

現場に行くからこそ、感じるものは絶対にあるはず。

絵描きを志す者としては、風、匂い、鮮明な情景を思い浮かべただけ、だなんて実際に見なければ描き切れない。

 

・・・遊園地に行くのは、中学から続けてる美術(マナビ)の一環でもあるのだから。

 

部屋中の鍵をしっかりと施錠して戸締りを終えて、再度襲いかかるベットからの誘惑を払いのけるついでに、昨日荷物を詰めたリュックを背中に背負って部屋から出る。

 

最後に玄関の鍵を閉めてアパートの廊下に出る。

 

カーテンを開けた時の様な気持ちが、再びワタシの中に入り込んできた。

 

『いってきます』と誰かに声をかけることは、ワタシには無い。

 

両親ともに土日は朝早くから仕事に行ってしまうから、言える場面が少ない。

 

エレベーターで地下まで降りて、駐輪場からワタシの自転車を見つけ出した所で鍵を外す。

地上に出る様に、屋根のある所の最後まで自転車をおす。

 

 

 

出た所で自転車にまたがる。

 

すると、外に描かれていた重々しい空気が弾かれた様に、ポツリポツリと雨が降ってきた。

 

雨が降ってくるということを朝のニュースを見て知っていたので、すかさず雨ガッパを着込んだ。

バサリッ、という音が雨ガッパを着たことで、ほぼ全身から反響して聞こえてくる。

 

ワタシは、まるで全ての音が増幅したみたいに聞こえるから、雨の日でも自転車を降りずにバイトに向かう。

 

雨ガッパを着ると、髪留めが雨粒の反射で光った様に見えるらしいし。

 

「・・・雨の日でも、良いことあるよね・・・。」

 

・・・・・モチロン、安全には注意しながらの運転を・・・心がけて。

 

 

 

元寄りの駅まで漕いで行き、到着した所で自転車を折り畳む。

自転車を入れる専用の袋がリュックに入っている。

その袋を使うことで、折りたたみ自転車を持ったまま駅を乗り継ぐことができる。

 

ワタシは、折りたたみ式の自転車は少し値段が高いけれどその分利便性も高いと思っているし、雨の日に電車で移動しようとするなら尚更のことだった。

そこに、雨ガッパで濡れない為に覆ったビニールの袋を括り付けて慎重に運ぶ。

 

今の時間帯の人通りは少ない、という事を引っ越してきて・・・?

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・いや、戻ってきてから知ったのは、あの学園に入学してからの生活が始まった時だった。

 

エレベーターを使って大きな荷物を運んで行く。

 

駅のホームに着いたとこで、空いていたプラスチック製の椅子に座りながら、左手首に巻いておいた腕時計の時間を確認する。

 

そろそろ、電車が到着しそうな時間だ。

 

・・・・・・・そこから、電車に乗り込んでから。。。。。。。。髪留めを・・・・・・・・・そう、筆みたいなデザインの。。。。。。。。髪色に合った紫の色を兼ね備えた………………髪留めを。。。。。。。。髪の左側から………右側へと。。。。。。。………付け替えた。

 

電車を降りる。

 

自分の持っていた袋を、駅員さんに預け入れる。

 

そうしてすぐ歩いたところに、遊園地が……園池 菜野花が持つ居場所が佇んでいた。

 

慣れた足取りでゲートを潜る。

 

ワタシの意思は、いつも通り・・・・定まっていた様に・・・意識の奥へと向かう・・・・・。

 

 

…………(なのか)に学園なんて居場所はいらない。。。。。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月23日土曜日、10:24 園池 菜野花が遊園地の関係者用ゲートからの入場を確認。

 

アルバイト先である遊園地について追加情報

 

・名称[Continue Games]→関係者は{ガメ}と呼んでいる

 

・テーマパークとしての規模はやや小型

 

・ジェットコースター、お化け屋敷、観覧車などの定番の物以外に多くのアーケード型ゲーム、プリント倶楽部などが多く、種類が豊富である

 

記載日:4/24

 

___________これ以上は、書ききれなかった。

 

報告以前に、守る配慮もある。

 

 

 

「…砂川さんが、行動を起こすのが先かと思いましたが、まさか園池さんの動きが先とは思いませんでしたね。」

 

「チモシー、この事は私たち2人の秘密ですよ?」

 

今は、報告書を書いている関係上、立体映像でしかないのですが、きっと聞こえているのでしょう。

 

コクリと、頷いたチモシーの姿が映し出されていた。




え、これで終わり……ませんよ?

〜次回予告〜

次回、Lucky.16 ひさしぶりに

おんハピ♪は、この話で終わりませんが、僕の都合上で、

約一ヶ月くらいお休みします。

次回の更新は、2月28日です!

ではでは〜(^o^)ノ


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Lucky.16 ひさしぶりに

「ふぁーあ…」

 

ぽかぽかな陽気に包まれて、のんびりと登校していると思わず寝てしまいそうになる。

 

というのも、ここ最近晴れの日が続いていて、私はちょっと浮かれていた。

いつも通りの道をただ歩くだけでも、晴れている日と雨が降っている日では気の持ちようが違う。

 

 

全ての雨が私の不幸(悪天候)によって作り出された訳じゃ無いのは知ってる。

…それでもやっぱり、今までの雨は私がいるから降り続けているのかと思うと、気分も落ち込んでくる。

 

そんな想いを振り払うように私は頭を左右に振って気持ちを切り替える。

 

くよくよ考えても仕方ない、それに今はいい天気なんだから、気にする必要もない。

 

学園に入学してからは、この不幸は私だけじゃ無いってわかったし、少しずつだけど友達も出来てる…と思う。

 

友達……か。

 

一年前はそんな言葉とは無縁の生活を送っていた気がする。

 

小学校の卒業と同時にナノちゃんと別れて、中学に上がってからはそれなりに居た友達ともクラスが別れて疎遠になりつつあったっけ。

 

それでも、三年生の時、同じクラスになって。

 

三年生最期の修学旅行、あそこで私の不幸は……。

 

「____っ!」

 

嫌なことを思い出してしまった。

 

 

………あの頃からだろうか、ひとりでいることに慣れてしまったのは。

 

 

 

「ん…?」ゴシゴシ

 

昔の事を考えてしまっていたからか、

 

それとも眠気がまだ残っているのか、

 

目の前の状況を整理しようと、私は自らの目をこすってみる。

 

しかし、それでも目の前に広がる衝撃的な光景をにわかに信じられない。

 

それは、ちょうど道の角を曲がった時に、目の前に猫に顔を覆われたままで歩いている子だった。

 

 

 

「「ニャー」」

と、その子から猫の鳴き声が聞こえて来る。

 

顔の正面側には薄茶色の猫、後ろ側には黒色の猫と挟まれるようにして顔が塞がってしまっているから、その猫たちが鳴いたのだろう。

 

「「「ニャー、ニャー」」」

 

2匹のはずなのに、鳴き声が多く聞こえる。

…いくら何でも多すぎな感じはするけど。

 

その子は正面が見えているのかいないのか、私の横をふらふらとおぼつかない足取りで通り抜けて行き、またどこかの角に曲がったのか、見えなくなった。

 

あまりの光景に、私はしばらく呆けていたけど、1つ思い当たるというか、気づいた点がある。

 

さっきの子は、よく見ると今の私が着ているのと同じ服で、天之御船学園の制服を着ていた。

 

さらに、猫が居た顔の付近にばかりに気がとられていたけど、あの生徒が着用していたネクタイが、私のと同じように四つ葉のクローバーの刺繍が施されていた。

 

つまりは、私と同じクラスに通う、不幸を背負った生徒のひとりだったのだと結論付けた。

 

………しかし、結論付けるのと同時に私の中である気持ちが渦巻いていた。

 

それは、あの生徒が何者であろうと、あまり関わり合いになりたく無いという、一種の切実な願いだった。

 

銀の様な白っぽい髪をショートにして、猫に思いっきり視界を遮られた生徒。

 

その生徒の存在は、私はのちに知ることとなる。

 

 

とか言ってみたところで、同じクラスなんだから登校中に会う事もあるよね…。

 

でもあの生徒の不幸は、動物に関する何かなのだろうか…?

 

 

 

 

 

「お、何か落ちてる…。」

 

「ねね、おねーちゃん、また何か拾ったの?」

 

「りんごっ、しぃ〜〜…」

 

と、道を曲がろうとしたらそんな声が聞こえてきた。

きっと、声からしたら私と同い年くらいの子たちなのだろう。

 

その2人の姿を見ようと角を曲がり切った。

 

 

すると、その2人は歩みを止めて道の端の方に固まっている。

 

1人は、またもや私と同じ制服を着ている、それでもやっぱり身長が低くて、黒髪をストレートに肩まで伸ばしている。

 

その後ろを歩いているらしい、もう1人は制服からして中学生だろうか?セーラー服を着て歩いている。

身長が高く、少しカールする様にしていて、黒髪を肩まで伸ばしていた。

 

そして、2人とも目が紅く、顔立ちはかなり似ていた。

 

そういえば…この前学園で恋ヶ窪さんがお弁当を食べながら妹がいるって言っていた様な気が……。

 

顔立ちが似ているということは、あの2人が恋ヶ窪 椎名とその妹ちゃんなんだろう。

 

最初に歩いていた方が、恋ヶ窪さん(姉)で、もう1人の子が話に聞く、恋ヶ窪さん(妹)なんだ。

 

そう気づいた時には、何となくだけど、元いた曲がり角に身を潜めた。

 

私は、1つ気になったことがあった。

 

それは恋ヶ窪さんがあんなに愚痴(という名の愛情の裏返し)を言っていた妹ちゃんはどんな子なんだろうか?

 

ということで、家の塀から背丈の違う姉妹をこっそりと観察する事にした。

 

恋ヶ窪さんというと、便宜上わかりにくくなるので、ここでは恋ヶ窪さんの妹を『妹ちゃん』と呼んでおこう。

 

〜〜〜

 

「ふっふっふっ、どうやらボクにラッキーなことが起こっていますね。」

 

恋ヶ窪さんが自慢げに、何か拾ったものを天高くかかげていた。

 

かかげたものをよく見ようと目を凝らすと、太陽の光に反射してキラキラ光っている。

あれは…道端に落ちている小銭かな?

 

恋ヶ窪さんの方は身長が低めなので、小銭を精一杯手を伸ばして位置が妹の顔くらいまでしかない。

 

それでも恋ヶ窪さんは妹ちゃんに向かって、高らかにこう宣言した。

 

「ボクはこれから交番に行って、この小銭を交番に届けて来るから。」

りんごは先に中学校に行ってて、と。

 

しかし、それを聞いた妹ちゃんは、ハッ‼︎と思いついた様な顔になって姉に言う。

 

「おねーちゃんも、まだまだね!りんごだったらその拾ったお金をりんごのものにしちゃうけどな〜。」

 

この妹ちゃん、性格が恋ヶ窪さんとだいぶ違うのかも。

 

その言葉を聞いた姉が驚いた様に妹の方を見る。

 

それから、少しムッとして、

 

「りんご、そんなことしたらだめでしょ。拾ったお金はちゃんと元の持ち主に届けてあげないと。」

 

と、妹ちゃんを優しい口調で叱り、小銭をかかげていた両手から左手だけはずし、コツンと妹の頭を叩いた。

 

「むぅ…わかった。 ごめんなさい。」

 

ちょっとむくれて答えた妹ちゃんに恋ヶ窪さんも頷き

 

「わかればよろしい。それじゃあ、ボクは交番に行って来るのでりんごは真っ直ぐ登校してね。」

 

 

〜〜〜

 

 

 

身長差があるのでぱっと見では妹が姉を叱っている様にも見えるけれど

 

…恋ヶ窪さんが姉として、妹ちゃんを「だめでしょ」と注意してあげていた。

 

妹ちゃんもすぐに謝っていた。

 

性格がだいぶ違うは言い過ぎかな。

 

だって、恋ヶ窪さんも自分が悪いと思ったら、それこそ真っ先に謝るのだから。

 

「妹っていうのも、何だか良いな。」

 

そう、思わず私は口に出していた。

 

目を瞑って、もしも私に妹がいたらと考えてみたけど、やっぱりぼんやりとしていて、うまく想像出来なかった。

 

私は一人っ子だから兄弟とか姉妹に憧れてる…のかもな。

 

再び、恋ヶ窪姉妹の方に目を向けると、2人はもう交番に向かったのか、姿を確認することは出来なかった。

 

……って、いつまでもここにいる必要も無いよね。

 

そう思い、私は隠れていた塀から出て道に出る。

 

妹みたいだな、と考えた事もあったナノちゃんとは幼稚園の頃からの付き合い。

中学生になって離れ離れになるまでは私にとっては身近な存在だった。

 

ナノちゃん………ってそういえば!

 

思い出した瞬間、私は目の前が真っ白になるくらいの衝撃を受けた。

 

そうだった、ナノちゃんと一緒に登校する約束をしていたんだった!

 

ええと、確か待ち合わせ場所が‘あそこ’だから、ここからでも向かえる……はず。

 

ナノちゃんと一緒に登校しようと、私は久し振りに思い出の場所に向かうことにした。

 

恋ヶ窪さんが、妹ちゃんに「真っ直ぐ登校して」と言ったのを見ていたのに、妹ちゃんより年上の私が遅れる訳にはいかない。




かなり久し振りでしたが、いかがでしたかね…?

〜次回予告〜

彩歌は菜野花一緒に天之御船学園に行くことは出来るのか……⁉︎

次回、Lucky.17 ばらばらにわかれて

あの話が始まりますよ〜!

おんハピ♪は再び連載再開です。

読んでくれているあなたに感謝を。

ではでは〜!


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Lucky.17 ばらばらにわかれて

「行かなきゃ。」

 

鞄を小脇に抱えて、ローファーのかかとを鳴らして脱げないように確認する。

 

右手に目をやると白と黄色のミサンガが映る。

 

せめて、ナノちゃんが1人で学園に行く前に間に合うように。

 

私は一歩ずつ走り出した。

 

加速を徐々にしていき、しっかりと前を向いて走る。

 

私の中で全速力の速度であの場所に向かう。

 

「はぁ……、はぁ……、待っててね、ナノちゃん。」

 

確かに私が忘れていたのはうっかりしていた。

 

昨日、ナノちゃんが一緒に学校に行こうって言ってくれたのも初めてだったから。

 

それなのに、私は今日は天気がいいからって浮かれて意識の外にナノちゃんを追いやっていた。

 

途中、生徒の何人かとすれ違う。

 

この前に、階段で遭遇した3人が、楽しそうにおしゃべりしながら私の横を通り過ぎていく。

 

「ヒバリちゃん、それでね、それでね……。」

 

今も、私はあんな風にナノちゃんと話していたのかな。

 

いや、ナノちゃんだけじゃない。

 

流さんも、恋ヶ窪さんも、ひまりさんも。

 

天之御船学園に入ってから、少しずつだけど友達ができていったことも確かだ。

でも、だから、だからこそ、あの時にナノちゃんと会えたのは凄い嬉しかった。

 

身体測定の日にナノちゃんと会った時は、私自身驚き過ぎて、あんまり話せなかった。

 

 

幼稚園のある道の通りに出るために、角を曲がる。

自分でも息が切れているのがわかるくらいに、全力で走っていた。

 

 

小学校の時にナノちゃんが引っ越して以来、色んなことがあった。

 

最初はナノちゃんが居なくなったのが寂しくて、むしろ色んな友達と遊ぶようになった。

 

私の不幸を気づいた人はあんまり居なかったけど、わかった途端にみんなして、気まずそうな顔をしていた。

その人たちとの距離は、自然と私から離れていった。

 

その人たちは私自身の否定はしなかった。

 

けれど、何となく不吉なものを見るような目で 私 が観られているのを感じた。

 

 

 

それでも、

 

それでも、

 

私の不幸を知っても、私自身を避けず、肯定してくれたのは

ナノちゃんだけだったから。

 

裏切りたくない。

 

……………いや、違うのかな。

 

ナノちゃんに見限られたくないっていうのが、私の本心なんだろう。

 

 

前方に幼稚園のカラフルな門が見えて来た。

 

私は急ぐためにより一層速度を上げる。

 

 

 

そうして、ついに私はナノちゃんと出会った場所である、きたみふね幼稚園に到着した。

 

「はあー、はぁー……。」

 

膝に手をつき、肩で息をしながら幼稚園の前に止まる。

 

思わず、顔を伏せてしまう。

 

春先とはいえ全力で走ったからか、私の額からは汗が出ていた。

 

ポタッポタッ、と汗が地面へと吸い込まれる。

 

 

……ナノちゃんがいなかったらどうしよう……

 

そんな考えが頭をよぎる。

 

 

 

「彩歌・・・・・? どうした・・・の? そんなに肩で・・・・・息をし・・・て?」

 

顔を上げると、そこにはいつも通りのナノちゃんが立っていた。

 

 

ナノちゃん、待っててくれたんだ。

 

あまりの嬉しさに、気を緩めたら涙が出てきそうだった。

 

「ナノちゃん、ごめんね。来るの、遅れちゃって……。」

 

私は真っ直ぐにナノちゃんの目を見て、そういった。

 

ナノちゃんは、少し眉を困ったように寄せて首を横に振ると、

 

「気にしなくて・・・・・いい・・よ、彩歌。来てくれて・・・・・・ありがとう。」

 

そう言いながら、微かにだけど優しげに笑った。

 

 

 

 

天之御船学園に着いて、靴を履き替えているあたりでチャイムの音が聞こえてきた。

 

「・・・・・彩歌、もしかして・・ワタシ達、遅刻・・・・・?」

 

微妙なところだけど、チャイムが鳴っている最中に校舎の中には入ったから良いのかも?

いや、もしかしたら教室内に入っていないからダメなのかも……。

 

「ナノちゃん、遅刻かどうかはわからないけど、取り敢えず教室まで急ごうか。」

 

コクリとナノちゃんが頷いた所で、後ろから昇降口に響くような声が聞こえてきた。

 

「せーーーーーっふ!!」

 

私たち2人はその声に驚いて後ろを振り返ると、誰かが走ってきていた。

 

その人物は、徐々に私たちに近づいてくると、ずざざっ と音を立てながら、目の前に止まった。

 

その子は、小さな肩で息を切らしながら、真っ直ぐな紅い瞳で私とナノちゃんを見据えてこう言った。

 

「おはようです。お二人さん。」

 

その顔にはどこか満足げな表情をしていて、とても遅刻をした人の顔には見えなかった。

 

その子は背丈が小さくて、真っ直ぐな黒髪を肩まで伸ばしていて、今朝私が妹さんと一緒にいるところを目撃した、恋ヶ窪さんだった。

 

 

1年7組の教室には、難なく入ることができた。

 

いつもは、朝早くから小平先生がいるのだけれど、私たちが教室に入った時にはまだ来ていなかった。

 

私たちが教室に入ると、教室の入り口側にいた流さんとひまりさんが挨拶をしてきた。

 

「おお、3人揃って珍しいねー、おっはよう!」

 

流さんはそう言いながら、右手をパタパタと振った。

それに続いて、ひまりさんもほんわかとした雰囲気でおはようございます〜と言った。

 

私たちも挨拶を返す所で、小平先生が教室に入ってきた。

 

何気なく教室の前に目を向けると、黒板には4月28日(木)という日付と、日直の名前が書いてある。

 

 

小平先生は入ってくるなり、教室を見渡し、

 

「みなさん、席に座って下さいね。」

 

と、いつも通りな、にこやかな笑顔で言った。

 

みんなが座ったのを確認した所で、朝の連絡事項をいくつか述べていく。

 

いくつかを言った後、小平先生は一呼吸置いて、話し始めた。

 

「それでは、昨日も知らせていた通り、本日する事について、説明しますね。」

 

くるりと背を向け黒板に何やら文字を書き始めた。

 

「本日からいよいよ7組の特別カリキュラム、幸福実技を行います。」

 

そして、書きながら説明もするようだ。

 

「最初の実技は、すごろくをやりますよ。」

 

そう言うと、小平先生が自ら書いた文字が見えるように、体をこちら側に向けた。

 

そこには、『幸福実技 すごろく』と書いてあった。

 

当然、私たちの頭には疑問しか浮かばなかった。

 

「では早速、7組専用課題授業施設に行きましょう。」

 

 

……えっ、まさか専用の施設があるの!?

 

 

驚きを隠せぬまま、私たちは移動を始める事になった。

 

〜〜〜

 

バラバラに向かっていたので、自然といつも一緒にいるメンバーになっていた。

 

ざわざわとしながら私たちが着いた場所は、体育館だった。

 

なぜ体育館なんだろう?

 

何となくだけど、すごろくをやるのだから他の教室に移動するのかと思ったんだけど…………。

 

「えぇ〜、なんで体育館に来たの⁉︎」

 

と、流さんも私と同じ事を考えたのか、驚き、それでいて不思議そうに言った。

 

「う〜ん、何ででしょうかね〜って、『アレ』何ですか……?」

 

受け答えていたひまりさんが、戸惑うように体育館の中央を指差す。

 

指をさした方向を見ると、目を見張るような光景が広がっていた。

 

金属で出来ているのであろう大きな杭の様なものが、ガタガタガタッ とバスケットコートのフリースローラインに、

一列ずつセンターラインを挟むようにして並んだかと思えば、

サイレン音を鳴らしながら床が切り開き、突如大きな四角い穴が出来上がった。

 

それを見た何人かの生徒からは驚きの声が出ている。

 

しかし流さんと、恋ヶ窪さんがキラキラとした目で、その光景を見つめている。

 

「しーちゃん、『アレ』マジでカッコ良くない⁉︎」

 

そう言った流さんの顔を恋ヶ窪さんが見つめながら、

 

「はい!ボクも、こういうのに憧れてるんですよ!」

 

と息巻きながら答えた。

 

ウィーン、ガッチャン!

 

と、さっき空いた穴から、正方形の黒い床が現れたかと思うと、

四方向に私の腰くらいの高さの壁が立った。

 

………?

 

またもや、恋ヶ窪さんと流さんの目が光っていると、小平先生が出来たモノに向かって歩き、私たちを見渡しながらこう言った。

 

「さあ、施設はこの下です。」

 

小平先生が、笑顔で片手を向けている所で、割り込んだ声が聞こえてきた。

 

「遅くなりましたー!」

 

タタタッと体育館の開け放たれた扉から、2人の生徒が入ってきた。

 

1人は、癖のあるセミロングヘアで、濃い赤色と茶髪の中間のような髪色をしている。

瞳が黄色で、目元に少し力が入っているようなので、負けず嫌いの類いの子かもしれない。

 

もう1人は顔の正面に猫が覆いかぶさっていて……って、今朝私の近くを通り過ぎた子だ。

どこに行くかと思ったら、あのまま遅刻していたんだ……。

 

その2人を見た小平先生が声をかける。

 

「遅刻ですよ、萩生 響さん、江古田 蓮さん。」

 

 

 

「それではみなさん、エレベーターに乗り込んでくださいね。」

 

という、小平先生の指示の元、私たちは黒い床の、大きなエレベーターに乗り込み、地下へと移動していた。

 

このエレベーターが出てきたときの音よりも、かなり静かに稼働しているようで、あまり機械音は聴こえない。

 

40人の生徒を載せてもビクともしない頑丈な造りのようで、私は少しだけ安心していた。

 

それでも、私たちの中に約1名かなり不安がっている子がいた。

 

……………ひまりさん、なんだけども。

 

というのも、エレベーターに乗り込んでから、高度(というよりも地下に潜るから海抜?)が下がってから自然とエレベーター内が暗くなったことで、暗所恐怖症らしいひまりさんが怖がってその場にうずくまってしまっていた。

 

「うぅ〜、暗い所怖いんですよぉ〜、お願いですから、早く着いてぇ……くださいよぉ〜……。」

 

と、今にも泣き出しそうな口調で言っていた。

 

「なーんか面白そうだし、大丈夫だって‼︎」

 

「え、えっ・・・・と大丈・・夫・・?」

 

流さんや、ナノちゃんが元気付けたり、安心させようとして近くに行って一緒に話し込んでいた。

 

そうしているうちに、チンッと音がなり、エレベーターが止まる。

 

そして、前方に自動ドアのような分厚い壁が大きく開け放たれる。

 

……この学園はどうなっているのか、こんなものが地下にあるなんて建設にどれだけの費用がかかったかと思うと想像しただけでも頭がいたい。

 

カッ!!

 

とライトが、点灯し広々しい空間が露わになる。

 

それと同時に、様々な物が部屋の中を動き回り、遂には大きな光る看板が出てきたかと思うと、その看板の正面に1つの小さな影が現れた。

 

「うぇるか〜〜っむ、うっさ〜、チモシーラ〜〜ンド!」

 

と、動くウサギのぬいぐるみのようなロボット、チモシーが叫ぶ。

 

カツカツと靴音を鳴らし、小平先生がチモシーに近づく。

 

そして振り返り、いつも通りの笑顔でこう言った。

 

「等身大のすごろくです。これは、あなた達自身が駒になって行うゲーム。運を鍛えるのにすごろくはピッタリなんですよ。」

 

と、抱えるほどの大きさのサイコロを持ち、説明を続ける。

 

「やっぱり、こんなゲームで授業なんておかしいですよ。」

 

と、確か雲雀丘さんだったろうか。

 

生徒の質問に対して、小平先生は黒いオーラを背後にまといながら、

 

「では、手っ取り早くロシアンルーレットで運試ししますか……?」

 

ガチャリと、多分本物であろう拳銃を持ちながら訊ね返した。

 

生徒全体に恐怖が浸透した。

 

……もちろん、生徒全員の否定によってすごろくをすることになった。

 

それを見た小平先生は満足したのか、それでは始めましょうか。 と言ってゴンドラのようなものに乗って上へと上がっていった。

 

その際に、みなさん2〜3人で1組のグループ作ってください。 と言い残していった。

 

……えっと、つまり私たちは、バラバラに分かれるの?

 

始まろうとしていたすごろくに参加するには、私たちは2つのチームに別れないといけないようだった。




~次回予告~

いよいよ始まる等身大すごろく!

彩歌たちは、二チームに分かれてやることに。

はたして、何番目にゴールするのか……?

次回、Lucky.18 りあるたいむ

誰と誰とがチームを組むかも、お楽しみに!


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Lucky.18 りあるたいむ

「2〜3人って、だったらボク達は2つのグループに分かれないとですね。」

 

少しだけ残念そうな顔をして恋ヶ窪さんがそう言った。

2〜3人のグループか。

私たちは5人だから、2人と3人のグループに分けた方がいいよね。

チーム分けの方法はどうしようかな。

うーん、じゃんけんとかで決めて……

「よーっし、それじゃあじゃんけんで決めよう!」

と、私の考えをまるで先読みしたかのように、流さんが明るくそう言った。

それを見たひまりさんが、にこにことしながら、

「あ〜、いいですね〜、勝った人と負けた人同士で決めます〜〜?」

と言った。

……私が言おうかと思ったけど、まあ流さんが言うならいいかな。

 

それじゃあ早速やってみようと言う事で、5人で集まって輪を作るようにして集まる。

それぞれの右手を出して準備をする。

「それじゃー、行っくよー!」

流さんの掛け声で私たちも声を出す。

「「じゃーんけんぽん!」」

「「「さいしょーはぐー」」」

って、あれ………?

最初ってグーから始めるんじゃなかったっけ?

それぞれの手の形を見ると、グーの人もいればチョキ、パーの人もいる。

みんなの顔を見ると、やっぱりみんなも不思議そうな顔をしている。

……どうやら、最初の掛け声でバラつてしまったようだった。

確かに、最初はグーと言わずに始める人もいるから、バラついたのはしょうがないと思うけど……。

ここは、私が言おう。

「それじゃあ、みんなで最初はグーから始める事にしない?」

そうしようと言う事で、仕切り直してもう一回。

 

「さいしょーはぐー、」

「じゃーんけーん、ぽん!」

 

……何となくだけど、私はパーを出した。

私と同じく、パーを出していたのが、ナノちゃんとひまりさん。

そして、残る2人の恋ヶ窪さんと流さんは、チョキを出していた。

 

こうして、今回は私、ナノちゃん、ひまりさんの3人グループと、恋ヶ窪さんと流さんの2人グループに分かれることに決定した。

 

 

「それじゃ〜、投げますよ〜……えいっ!」

ひまりさんが投げたサイコロはコロコロと転がり、ナノちゃんの足元で止まった。

ナノちゃんが少しだけしゃがみ込んで、サイコロの出た目を言う。

「・・・・4・・です・・・・ね・・。」

それを聞いたひまりさんは嬉しそうな顔をして、それじゃあ行きましょうか〜と、先頭になってマス目を進んでいった。

ひまりさんに続いて私も行こうと、ナノちゃんに声をかける。

「ナノちゃん、私たちも行こう?」

声が聞こえたのか、ナノちゃんは足元にあったサイコロを拾い、私の後ろを付いていくように歩き出した。

ひまりさんに追いついてみると、ひまりさんはマスを見たまま固まっていた。

なにが書いてあるのか見えなかったので、ひまりさんの横から覗くようにして見てみると、

[一回休み]

とそのマス目には書かれていた。

 

ひまりさんを見てみると、悲しそうにしょんぼりしている。

ちょっとだけ涙目になっていた。

「す、すみません……わたし、やらかしてしましました〜。」

どうやら、このマスを出してしまったことを気にしているようだった。

ひまりさんはその場にうずくまってしまった。

 

………可哀想になったので慰めようと近づくと、同じことを思ったのか、ナノちゃんもひまりさんを慰めに来ていた。

ナノちゃんがひまりさんの背中をさすって、私はひまりさんに声をかけることにした。

「ひまりさん、あんまり気にしないで下さい。私たちも気にしてないから……。」

そうしている内に、一回休みが過ぎて私たちの番が回って来た。

 

ひまりさんは、さっきのダメージからは回復して、のほほんとした顔をしながら順番が回って来るのを待っていた。

 

次に投げるのは……ナノちゃんか。

 

ナノちゃんの方を見ると、いつも通りの無表情なんだけど口元がキリッとしていて、なんだか本気のようだった。

胸の前にサイコロを持ったナノちゃんは、そのまま落とすようにサイコロを振る。

コテン、と地面に落ちたサイコロは転がり、私たちが次に進むマス目を見せる。

 

書いてある数字は、「3」だった。

 

「彩歌・・・陽毬・・・・それじゃ・・・・・・行こ?」

そういうナノちゃんに続いて3マス進むと、そこには、机が1つポツンと置いてあった。

 

よく見てみると、その机の上にはスケッチブックと鉛筆、そして紙切れが置いてあった。

「あの紙はなんて書いてあるんでしょうか〜?」

そう言いながら、ひまりさんが紙切れに手を伸ばして、取り書いてあったことを読み上げる。

 

「え〜と、誰か1人の似顔絵を描く……ですか〜。」

う〜ん……と、悩ましげにお題の紙をひまりさんが見つめている。

きっと、ひまりさんは似顔絵が描けないから、自分がやれないと思っているんだろう。

 

似顔絵を描く、か……ナノちゃんの似顔絵なら、小学生の頃描いたことあったけれど。

それでも、お題はお題だし、やるしかないのかな……。

 

「それじゃあ、私が「わたし・・・・絵・・・・描けるよ?」

 

………?

 

どうやらナノちゃんと言うことが被ってしまったらしい。

ナノちゃんの方を見ると、驚いたように口をパクパクさせている。

ここは、絵心のあるナノちゃんに任せようかな。

 

「ナノちゃん、それじゃあ似顔絵お願いできる?」

 

その言葉を聞くと、ナノちゃんはコクリと頷き、机の上に置いてあったスケッチブックを手に取った。

スッと目を細めて、私とひまりさんを見つめる。

鉛筆を持った左手が動き始める。

……ちなみに、ナノちゃんは本来は右利きだけど、絵を描くときだけは左手を使って絵を描いている。

シャー、スーッと鉛筆が紙の上を踊る音が響く。

 

しばらくした後、できた。とナノちゃんから言われた。

 

その声を聞いたひまりさんは嬉しそうにして、

「本当にできたんですか〜!見せてくださいね〜。」

と言ってナノちゃんからスケッチブックを受け取った。

 

ひまりさんの見ている顔が徐々にほころんでいく。

 

私も横から見てみると、そこには私とひまりさんの2人が鉛筆で綺麗に描かれていた。

似顔絵というか、最早模写レベルの絵だった。

 

ひまりさんがこちらに気づき、嬉しそうな声を上げる。

「彩歌さん、凄いですよね〜コレ!」

「す、凄いね! これでお題もクリア……?」

確かに、私も感嘆の声を上げてしまった。

 

ナノちゃんがスケッチブックを元の位置に戻すと、机から音声が流れてきた。

 

「はい、これでお題はクリアですね。 それでは、次のサイコロを振って下さい。」

 

ナノちゃんが私にサイコロを渡す。

「・・・・彩歌、頑張って・・・・ね・・・。」

 

私はナノちゃんからしっかりとサイコロを受け取り、勢いよく投げる。

 

私たちの試験は、まだ始まったばかり。

 




という事で、もう少しだけ続きます。

〜次回予告〜

彩歌と陽毬と菜野花の3人に待ち受ける難問なお題とは……?
3人は果たして無事にゴールする事は出来るのか…!

次回、Lucky.19 がむしゃらに

え?椎名ちゃんと流ちゃん?
あー、20話でやります…(多分


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Lucky.19 がむしゃらに

私は、サイコロを持つ手に力を込めた。

 

取り敢えずは、ナノちゃんのおかげでお題をクリアできたけど、次にどんなお題が来るかがわからない以上、いいマスに止まるのを願うしかない。

 

サイコロをそっと投げる。

 

私の手元を離れたサイコロは、しばらく転がって動きを止めた。

 

サイコロの表には、6という数字が書かれていた。

 

私はその結果に安堵する。

 

「彩歌さん、やりましたね〜! これでいっぱい進めます〜。」

 

ぱちぱちと拍手しながら、ひまりさんが嬉しそうに言った。

 

そうして私たちは6マス分進むと、またもやお題が出ていた。

 

『恋すの活用形を全て答えよ』

 

………これは、古典の問題だろうか?

 

まだ習ってないから分からないけど、誰かわかる人いるかな?

 

ナノちゃんの方を見ると、分からないのか悩ましげに頭を抱えていた。

 

しかし、ひまりさんを見ると目を輝かせている。

 

「わたし、分かります〜!」

 

「恋すの活用形は、未然形から、せ、し、す、する、すれ、せよ、です〜!」

 

正解だったようで、パンッと音がなり次に進めるようになった。

 

ひまりさんがとことこ歩いてサイコロを持ち、投げるように構える。

 

「次はわたしが投げますね〜。」

 

意気込んでいるのか、手先が少し震えている。

 

「それじゃあ、いきますよ〜、えいっ!」

 

ひまりさんのサイコロが宙を舞い、着地する。

 

しばらくしたあと、サイコロは止まった。

 

出た目を見てみると、2と書かれている。

 

それを見たひまりさんが、一瞬しゅんとなった顔をしたけど、それでもめげずに進みましょう〜と言って歩き出した。

 

2マス進むと、そこにはチモシーが待っていた。

 

こちらに気づくと、パタパタと手を振ってくる。

 

「ようこそ〜、ここではボクがお題を出すね。」

 

そう言いながら背後からパネルのような板のようなものを取り出した。

 

「じゃじゃ〜ん、今回のお題はコレ!」

 

パネルを前に出すと、チモシーが高らかに宣言する。

 

「チモシー〜〜、クイ〜ズ!」

 

パネルにはこう書かれていた。

 

『花や植物を育てるのが苦手な鳥は?』

 

チモシーがクイズと言っていたから、これを解けばいいのかな。

 

苦手な鳥か……鳥類なんだから、それに関連づけて考えないと。

花や植物だから、うーん、家庭菜園的なことかな?

どうにも私はこの手の問題には弱い。

この際、他のみんなはどうなのか聞いてみよう。

 

私はナノちゃんの方に行き、聞いてみる。

「ナノちゃん、答えとか分かった?」

 

こちらをちらりと見やったナノちゃんは、コクリと頷き答えた。

 

「・・・・答え・・は・・・・カラス・・・だと思う・・・・・。」

 

それを聞いたチモシーは、ニヤリとしたかと思うとピョンと飛び跳ねて言った。

 

「せいか〜い、それじゃ続いて第2問!」

 

『味噌の中に入っているものは?』

 

味噌の中か。

普通だったら食塩とか大豆とかって答えるんだけど、多分違う。

ということは、何か違う発想をした方が良いって事だよね。

 

「分かりました〜!答えはファです〜。」

 

身を乗り出しながらそう言ったひまりさんの答えに、チモシーはまたも正解と言い、最後に3つ目の問題が出された。

 

『カラスを1秒で透明にするには』

 

カラスを透明に………この上なく不可能に近そうだけど、今までの問題の性質上、言葉遊び的な解釈で捉えれば良い。

 

透明にって、視界に映る時点で透明にするのかな?

 

いや、この際固定概念は捨てよう。

 

透明にこだわる必要はないのだと思う。

 

透明なものの連想で行こう。

 

水、水晶、……水晶っていうことはガラス?

 

ガラス……カラスに濁音をつければガラスになる。

 

つまり答えはガラスだから、濁音をつけること?

 

自身はないけど、もうここで答えてしまおう。

 

「答えは、濁音をつける。つまりは濁音をつけてガラスにすることで、透明にできる。」

 

その答えに、チモシーは右手をピシッと上げてニヤリと笑って言った。

 

「だいせ〜いか〜い!次のマスに行ってね〜、それじゃボクはここでお別れ。」

 

クルリと背を向け、移動用の乗り物に乗り込む。

 

「またね〜〜。」

 

そう言って手を振りながらチモシーは去り、私たちはまたサイコロを転がし、次のマスへと進む。

 

こうして様々なお題をクリアしながら進んで、私たちは遂にゴール手前まで来ていた。

 

ゴール手前まで来て、最後のお題になるであろうものは、三脚の上に一眼レフのカメラが置いてあった。

 

紙が巻いてあり、読んでみるとそこには『チームで最高の笑顔で写真を撮れ』と書いてある。

 

写真撮影か。

 

よし、お題をクリアするためにもみんなで撮ろう。

 

タイマーをセットし、3人でカメラの前に立つ。

 

ピッピッピッ、カシャ

 

ナノちゃんが撮れたか確認し、どうやら撮れていたようでサイコロを振る。

 

3が出て、みんなで3マス進むと、そこはゴールだった。

 

小平先生がいて、私たちをねぎらってくれた。

 

「3人とも、お疲れ様です。 順位ですが、16チーム中8位なので大体真ん中くらいですね。」

 

ふと、目を向けると、恋ヶ窪さんと流さんがいた。

 

「おー、ひまりんたちもおつかれー。」

 

流さんが嬉しそうに声をかけてくれた。

 

恋ヶ窪さんも近づいてきて、実は……と話をしだす。

 

「実は、ボク達一番最初にゴールしたんです。」

 

私たちは、バラバラになったけど、また集まっておしゃべりをする。

 

がむしゃらにやってきたけど、こうしてまた会えてよかった。

 

ひとまずは、流さん達がどうして一位になったのかを聞いてみようかな。




という感じで、一応彩歌達のすごろく編はこれにて終わりです。

〜次回予告〜

椎名と流によるすごろく!

2人は本当に1番になることが出来るのか……?

次回、Lucky.20 おたがいに

それでは、次回もお楽しみに〜!


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Lucky.20 おたがいに(☆)

等身大すごろくと言っても、お遊びだしどうにでもなるだろーとたかをくくっていたアタシだったけど、いざ始まってみれば衝撃以外の何物でもなかった。

 

まず、はじめにしーちゃんからサイコロを振って、その後にアタシが振り、数を多く出した方が二回振りもう1人が一回の合計三回のルーチンを作ろうって話になった。

 

しーちゃんが振って、最初は4。

 

その次にアタシが振って3。

 

ギリギリだけど、アタシの負けでしーちゃん二回、アタシ一回でやることにした。

 

そうしてやってから、約10分経過。

 

アタシは言葉を失っていた。

 

順調に駒を進んでいったのだけれど、それがあまりにも順調過ぎた。

 

アタシは1とか、3とか、運がいいと5あたりの目を出してたけど、しーちゃんはえげつない数字を叩き出していた。

 

4、5が出るのは当たり前で、6もバンバン出るし、1〜3の目が出ないくらい快調に進んでいった。

 

しーちゃんがまたも6を出して、マスをしばらく進むとそこには小平先生と、小さなロボットが立っていた。

 

…………正直、あの先生嫌いなんだよなー。

 

できれば関わり合いになりたくないけど、この感じはやっぱりお題を出されるのか。

 

「来ましたね。あなた達が今のところぶっちぎりで1位ですよ。」

 

ニコニコとそう言う。

 

それに続いて、小さな影が動く。

確か、チモシーだっけ?

 

パネルが出てきて、アタシ達の前にボタンが現れる。

 

「ドキドキ!コスプレルーレットだよ〜。」

 

で〜んと言う効果音とともにチモシーがそう宣言した。

 

「流ちゃん、コスプレって本当ですか⁉︎」

 

驚いた様な顔をしてしーちゃんが問いかけてくる。

 

「うーん、どうやら本当らしいねー。」

 

取り敢えずは、アタシから先にルーレットをやらしてもらおう。

 

ルーレットには、沢山の動物が描かれていた。

 

兎、猫、虎、イカ、羊に魚まで。

 

あれやこれやのコスプレをすることになりそうだなー。

 

コスプレとか初めてだけど、何になるか……。

 

アタシは、ルーレットに繋がっているであろうボタンに手を掛けてた。

 

途端にルーレットの一部が光り、クルクルと動物達を照らしながら回り出した。

 

カチリッとボタンを押す。

 

しばらく回った後、止まったマスは………

 

 

 

「流ちゃん、その犬耳お似合いです。」

 

と、しーちゃんがニヤニヤしながら言う。

 

そう、アタシのコスプレは「犬」だった。

 

犬といっても、犬耳をつけて玩具の尻尾を着けただけなんだけど、制服の上から着けてるだけだから何となく気恥ずかしい思いにかられる。

 

「そう言う、しーちゃんだってペンギンさんになって可愛いよー。」

 

アタシは犬だったけど、 それに対してしーちゃんはペンギンだった。

 

しーちゃんは衣装が丸ごと変化している。

 

着ぐるみと言うよりは、布で作ったパジャマみたいな薄さのもので、全体的に青色のペンギンをかぶる様に衣装にしている。

 

ただ、胸から足元にかけての真ん中あたりは白色になっている。

 

サイズがなかったのか少しぶかぶかな感じもするけど、それでもしーちゃんの小さな体躯には似合っていた。

 

「流ちゃん、それじゃあ行きましょう。」

 

小さなペンギンが、アタシを覗き込みながらそう言う。

 

「うん、そうだね、しーちゃん。」

 

それに答えながら、アタシも進んだ。

 

 

………そういえば、あの時。

 

入学式の日の帰り道で、しーちゃんと会った時のことを思い出す。

 

そう、あれはアタシが入学して早々にプールに忍び込んだ時のこと。

 

〜〜〜

 

入学式を終えて、何と無くだけど家に帰りたくなかった。

 

帰路につこうと思っていたけど、気になってプールによることにした。

 

水泳部に入りたかったし、何よりも誰かいれば話し相手になってくれるかと思って。

 

しかし、残念ながら扉は施錠されていて入れなかった。

 

……なので、フェンスをよじ登っていくことにした。

 

今更ながら、何やってんだアタシ!

って感じだけど今更ながらに思えば、そんな無茶をしたいくらい暇だったのかも知れない。

 

「よいしょっと。」

 

フェンスの頂上まで来ると、アタシはそこから飛び降りた。

 

アスファルトの地面に着地したのにも関わらず、あんまり衝撃は来なかった。

 

プールの方に目を向けると、意外にもプールの中の水は透き通っていて綺麗だった。

 

春先にはまだ使って無いから割と汚いかと思ったけどそうでも無さそう。

 

「ん? んーー?」

 

よく目を凝らすと、プールを挟んだ向かい側に誰かがいる……?

 

プールサイドにしゃがみ込んで、揺らめく水面をじーっと見つめている。

 

ペタペタとアタシは足音を鳴らしながら、その子に近づく。

 

こんなところに、アタシと同じ様に来ている子がいるなんて。

 

意外も意外。

 

もしかしたら、新手の不良かと思ったけど、その子に近づいてその子の顔を見た瞬間に、そんな考えはアタシの中でもろく崩れ去った。

 

小さな体躯に、薄っすらとした肉付き。

 

肌が透き通る様に白いのに、髪は対照的に黒い。

 

そして何よりも、クリクリとした紅い瞳。

 

え、え、何この子………!

 

「めっっちゃ可愛いーーー!!」

 

気づいたら抱きついて頬ずりしていた。

 

私は女子でもかなりの高身長で、体格もそれなりにある。

 

何で今そんなことを言ったかと言うと、身長の大きい子が小さな子を力一杯抱きしめたらどうなるかと言うことだ。

 

……まあ、つまりはアタシは初対面の子を抱きかかえて持ち上げて、更には頬ずりをしていた、というワケ。

 

「可愛いなーもう! うりうりうり。」

 

「止めてください! もういいので!」

 

頬ずりをしまくって可愛がってる所で、ばたばたと手足を振り回しながら声を上げた。

 

流石に可哀想になって来たので、下ろしてあげる。

 

キッとこっちを見て、プルプル震えている。

 

………震えてるのも可愛いかも。

 

ってそうじゃない、そうじゃない。

 

「ええと、きみは何でこんな所にいるのー?」

 

アタシはポリポリと頰をかきながら、そう尋ねる。

 

「ボクは、見学しに来ててプールサイドでぼーっとしてただけなのに!」

 

どうやらしなくても怒っているなー、こりゃ。

 

アタシは顔の前で手を縦にしてゴメンゴメンとジェスチャーを取りながらなんとか宥める。

 

……この背丈の高さからして中学生?

いや、もしかしたら大人びている小学生のなのかも知れない。

 

「どこから来たのかなー? 勝手に高校に入っちゃったらダメだぞー。」

 

頭を撫でながら言い聞かせる。

 

するとプルプルとまたも震えだして、パシンとアタシの手を払いのける。

 

「ボクは〜! 高校生だし! 同じクラスじゃん!」

 

紅い瞳に涙を溜めながら、叫んだ。

 

‥‥‥‥マジですか。

 

 

そこからしばらく、事情を聞いた。

 

「いやー、まさかホントに同じクラスだとは。 よろしくねー、椎名さん。」

 

彼女の名前は恋ヶ窪 椎名というらしい。

 

椎名だからしーちゃんかな?

とあだ名を考えたけど、ここで子供扱いをするとまた起こりそうだったから、まあ椎名さんと呼ぶことにした。

 

「よろしくです。 それで、流さん……でしたっけ? 流さんはどうしてフェンスを越えてまでここに来たんですか?」

 

おずおずという様に、椎名さんが訪ねてきた。

 

「えーっと、それはね……。」

 

改めて聞かれると答えにくいなー。

何となくなんて言えないし……そうだ!

 

「実は水泳部に入りたくってさー。」

 

水泳部に入りたいのは確かだし、別に嘘もついてないから良いよね。

 

「なるほど、そうでしたか。」

 

うんうんと頷きながら椎名さんはそう返した。

 

「まあ、アタシは許可とか取っているわけじゃ無いから、ここに来たことは秘密にしといてね?」

 

アタシはそう言って人差し指を唇にそっと付けた。

 

【挿絵表示】

 

 

〜〜〜

 

……まあその後にひまりんと会ったりして何だかんだあったけど、それは省略しよう。

 

「流ちゃん、ゴールしましたよ! って聞いてます?」

 

ゆさゆさと、しーちゃんがアタシを揺さぶってくる。

 

「気づいてるってば。 なんだかんだ言ってアタシ達が、1位になったね。」

 

アタシ達はあのまま順調にコマを進めて、めでたく1位でゴールしたのだった。

 

まだ彩歌達が来るまで時間もあるし、暇つぶしにしーちゃんをいじってるかな。

 

そう決意し、アタシはしーちゃんに抱きついて頬ずりをした。

 

あの時みたいに、しーちゃんが手足をばたばたして苦しげに叫んだ。

 

「流ちゃん、止めてくださいー!!」

 

やっぱり、しーちゃんってちっちゃくって可愛い……!




という感じで、流ちゃんの語りでやってみました。

いかがでしたかね〜?

元気な感じに書いたので、文章が明るくなってればな〜と思います。

〜次回予告〜

すごろくを終えた彩歌達は、その帰り道寄り道をしていくことに。

次回、Lucky.21 かえりみち

………ちなみに、椎名ちゃんが着ていたペンギンのぬいぐるみは、アニメ「氷菓」という作品で着ていたものがモチーフです。

ではでは!

また次回に会いましょう〜!


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Lucky.21 かえりみち

等身大すごろくをやり、実技テストは終了となった。

 

昼食を挟んで1時間だけ授業をして、早く帰れることになった私たちは、天之御船学園の校門の前で帰り道どこに行くかを決めかねていた。

 

「はい! ボクはゲームセンターが良いですっ!」

恋ヶ窪さんがピシッと手をあげて発言する。

 

ゲームセンターか………。

 

私自身、あんまりゲームセンターだとかの娯楽施設には行ったことがない。

唯一あるとすれば、昔っからナノちゃんと行っていたカラオケだけど、最近はその場所もすっかり行ってなかった。

この前に恋ヶ窪さんのプレイを見て、行ってみたくなったものの、なかなか踏ん切りが付かずに行けないでいた

そこで、出てきたのが恋ヶ窪さんの提案だった。

 

私にしてみれば願ったり叶ったりだけど、他のみんなはどうなのか、とうかがってみると………。

 

ひまりさんはにこにことしているし、ナノちゃんは無表情ながらもどこか楽しそうな感じがするから、きっと行きたいっていうことかな。

そして、流さんはといえば……嬉しさ100%のニヤニヤ笑いだった。

そっか、何だかんだでみんなも行きたがっているようだし、寄り道していこうかな、ゲームセンター。

 

「それじゃあ、行きますか! ゲームセンター、アタシの遊び場に!」

 

そう言いながら流さんが歩き出す………が、すぐに立ち止まって私たちの方を振り返ると申し訳なさそうにこう言った。

 

「いやー、実は今から行くゲームセンターの場所知らないから、誰か教えて?」

 

恋ヶ窪さんがため息をつきながら流さんに近づいて、道を教えている。

 

……うーん、本当にゲームセンターまでたどり着けるのかな?

 

 

とは言ったものの、意外と呆気なくゲームセンターに辿り着いた。

私自身、なんとなくだけど、このままゲームセンターにつかないんじゃ無いのかなって思ってたくらいだったけど。

 

「アヤカー!、ひまりんー!、なのっちー!、ちょっと目を離した隙に、しーちゃんがリズムゲームの列に並んじゃったから、一緒に並ぼうよー!」

ブンブンと手を振って未だにゲームセンターの前にいる私たちに呼びかけると、店内に入っていった。

 

その声に反応して、ナノちゃんがピクリと肩を震わせた。

「・・・・・彩歌、ワタシちょっと・・・走る・・ね。」

 

タタタッと小走りにナノちゃんは店内に走っていった。

 

………もしかして、流さんの「そのっち呼び」に不満があったという事かな?

確かに流さんの馴れ馴れしい感じはあるけど、悪い人ではない……はずだけど。

 

「あっ……、菜野花さんも店内に入った様ですし、わたし達もお店に入りましょうかね〜。」

 

追いかけようとして、振り返って呼びかけてくれたひまりさんと一緒に、店内に入る。

 

自動ドアを潜り抜けると、私の双方から音波が押し寄せてくるような錯覚に陥った。

なんせ何年も行ってなかったんだから、急なゲームセンターの喧騒(けんそう)に私はかなり衝撃を受けていた。

 

「うわっ、ひまりさん、こんなにゲームセンターってうるさかったけ?」

 

一緒に店内に入ったひまりさんに声をかけようとして右側を見ると、ぐるぐると目を回していた。

「ちょっと、ひまりさん大丈夫?」

私は慌ててひまりさんの正面に回る。

 

「ああ、彩歌さん大丈夫です。 わたし、ちょっと音に酔ってしまった感じだったので〜。」

 

音に酔う…?っと思ったけど、そういえばひまりさんはゲームセンターに入るのが、初めてなんだっけ。

 

私もさっき驚いた様に、ひまりさんもきっとやられたのだと思う。

ええと、どうしよう……。

取り敢えず何かした方が良いのかな?

それとも、ひまりさんを連れて流さん達の方に行く?

 

そう考えている間にも、ひまりさんの顔はみるみるうちに青くなっていく。

かなりマズイ状況かも知れないと判断して、ナノちゃんが向かっていったリズムコーナーの方に目線を送る。

と、こちらの様子に気付いたのか、流さんに怒っているのであろうナノちゃんが、流さんの背中を押す。

流さんも私たちの様子に気付いたのか、急いで走ってきた。

 

「ひっまりーん、ダイジョーブ? って……これは気分悪くなったっぽいなー。 よーし、ちょっとだけ移動しよう。」

躊躇(ためら)わず肩を貸して、流さんはリズムコーナーとは逆方向にあるお手洗いの方にある椅子の所にひまりさんを運ぶ。

 

私も慌てて、流さんとひまりさんの後を追う。

 

流さんはひまりさんを椅子に座らせると、自販機で冷たいジュースを買うと直接手渡した。

 

「砂川さん、大丈夫ですよ〜。 少しだけ気分が悪くなっただけなので〜。」

 

ひまりさんは流るさんにそうお礼を言うと、私にも感謝をしてくれた。

彩歌さん、ありがとうございます〜、と。

 

私は何もしてないに等しいけど、お礼を言われて少し嬉しくなった自分が居た。

 

ひまりさんが、流さんから貰ったジュースを飲むまで待った後、ひまりさんは回復したらしく、しーちゃんとナノちゃんが待っている、リズムコーナーまで3人で歩いて向かった。

 

到着すると、私と流さんにとって2回目になる光景が広がっていた。

しかし、そこには新しい要素も加わっていた。

太鼓のゲームを恋ヶ窪さんがプレイする(誰もが驚くような超絶プレイ)だけならまだしも、その横にナノちゃんがいて、隣の太鼓で2Pとなり、同じ難易度のものをラクラクとこなしていた。

 

「ひゅー、なのっt……じゃなくて菜野花ちゃん、やるねー!」

流さんが言い直しながらナノちゃんを褒める。

 

「はわわっ〜、椎名さんも、菜野花さんも凄いです〜!」

ひまりさんもパチパチと小さく拍手をしながら、2人を交互に見ながら呟く。

 

と、演奏が終わり得点が表示されていく。

徐々に2人の点数は伸びていったけど、少しの差でナノちゃんの方が負けてしまった。

 

「椎名、その・・・悔しかった・・けど、楽しかった・・・・・・よ・・・。」

 

スッと自ら手を差し出すナノちゃん。

それをしっかりと握り返しながら、恋ヶ窪さんは今日1番の笑顔でこう言った。

「ふふんっ、ボクを越えなきゃ世界には勝てないです!」

 

 

急に辺りは閑散となり、静けさが広がる。

気まずい雰囲気が私たちの間に流れる。

 

 

それを受けて、ナノちゃんは、後ずさりながら

「・・・・・いや、世界は・・・ちょっと・・・・ムリ・・・。」

と言ってクスクス笑った。

 

それを見て耐えきれなくなったのか、流さんとひまりさんが吹き出して笑い出す。

「アッハハ、面白い事言うねー、しーちゃん。 アタシ、笑い過ぎてお腹痛い!」

「椎名さんも面白い人だったんですね〜! ふふっ。」

 

圧倒的に不利な状況へと、追い込まれた恋ヶ窪さんは顔を赤くして、私に向かって聞いてくる。

「彩歌ちゃんは、ボクは世界に行くと思うよね?」

………うん、流石に恋ヶ窪さんが可哀想だし、ちゃんと答えよう。

 

「まずは、全国からだよね。」

ポンと恋ヶ窪さんの肩に手を置いて、そう告げる。

 

それを聞いた恋ヶ窪さんは、ますます顔を赤くして、

「もうっ、ボクを小バカにしないでよー!!………違うヤツやろう!次に行こうっ。」

と、叫んだ後に歩いて行ってしまった。

 

みんなでごめんと謝りながら、恋ヶ窪さんに着いて行く。

 

こんな、帰り道もたまには悪くないかな。

私にとっての、友達と一緒なら。




遂に彩歌が、4人のことを友達判定しました!
……もう20話以上来たんだけどね。

〜次回予告〜
ゲームセンター編はこれで終わり…かと思いきや次の話もこれの続きです。
次回、Lucky.22 るーるのうえで

それでは、お楽しみに〜〜!



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Lucky.22 るーるのうえで

Disappear of Red!

……という事で、ちょっとだけ更新遅れましたが、また再開します。

それでは、本編をどうぞ!


みんなで恋ヶ窪さんに謝ったあと、ゲームセンター内を遊び回った。

 

 

100円を15枚のコインに変えて、それをいかに増やすかを5人で競ったり。

 

ハンドルが付いている椅子に座って、カーレースを体験できるようなゲームに熱中したり。

 

ゾンビを狙うシューティングゲームに、ペアで挑戦して誰と組むかで喧嘩したり。

 

インターネット対戦型の格闘ゲームで強い人にコテンパンにやられたり。

 

新しいリズムゲームを恋ヶ窪さんが探し始めて、恋ヶ窪さんをみんなで探したり。

 

 

 

少し家に帰りたくないな、そう思った。

 

……なんとなく、ここにいる自分がとても幸せに感じた。

 

気のせいかもしれないけど。

 

 

私が物思いにふけようとした時に、流さんが、両腕を上げて伸びをしながら言った。

 

「いやーっ、ゲームセンターとかの寄り道って楽しいよねー。」

 

それに続く形で、恋ヶ窪さんとナノちゃんが話す。

 

「たまにボク1人でも来るんです。 でも、こうして大人数で遊ぶのも悪くないです。」

 

「ワタシも・・・初めて・・・・・こんなに・・・楽しいなんて・・・・・・ね・・。」

 

4人で視線が合わさって自然と笑い合っていた。

 

 

あははは、はっはっはっはっ、ふふふふっ、アハハハッ。

 

笑い声がそれぞれ重なる。

 

ハッとしたように顔を上げて、流さんが唐突に笑いを止める。

「って、ちょっと待とう……ひまりん居なくない……?」

 

途端に、流さんが辺りを見渡してひまりさんを探す。

 

「「「え……?」」」

 

珍しく……かどうかはともかくとして、私と恋ヶ窪さん、そしてナノちゃんは、声を同じくしてその場で固まった。

 

流さんと同じようにして、私たちも慌ててひまりさんを探そうとした時、

 

「きっと、あそこにいると思うからなー、みんなで行ってみようか。」

 

流さんからそう言って、ゲームセンターのとあるコーナーに向かった。

 

私たち3人は、その後をついていく。

 

さっきまでいた、筐体(きょうたい)型ゲームが並んでいたコーナーから離れて、クレーンゲームが多く集まる一角に来ていた。

 

いつの間に、ひまりさんとはぐれてしまったのだろう。

 

ひまりさん自身、少し抜けてるところはあるけど、実際はしっかりしている人のはずだと思う。

 

でも、そう思うと同時に、はぐれてしまった原因は、

 

もしかして、また気分が悪くなって、例えばお手洗いに行ったのかも知れない。

 

その可能性に思い当たっったから、

お手洗いに割と近いスペースにある、

クレーンゲームコーナーに来たのかと思ったけど、流さんの考えはどうやら違うようだった。

 

「ひっまりーん、いるなら返事してー。」

 

緊張感のなさそうに、流さんがいるであろうひまりさんに呼びかける。

 

途中、ナノちゃんが立ち止まって、割と小さめのクレーンゲーム機をまじまじと見つめていた。

 

「これ・・・・面白い・・・かも・・・?」

 

私だけかもしれないけど、そのクレーンゲーム機から流れるBGMが、微妙な感じを醸し出していた。

中に入っているのも、よく分からないような、小さめのキーホルダーが並んでいた。

その中でも、一際目立つ様な、シャベルのキーホルダーをナノちゃんは眺めていた。

 

肩をちょいちょいと触って、ナノちゃんに呼びかける。

 

「ナノちゃん、ひまりさんが見つかって無いけど、このクレーンゲームするの?」

 

尋ねると、ナノちゃんは静かに首を横に振った。

 

「彩歌・・・・別に良い。 シャベル・・・・欲しかった・・・けど、あれは・・・・違う人のために・・・・ある。」

もう行こう。

 

そう言って、スタスタと歩き出していった。

 

うーん、よくわからないけど、ひまりさんのために諦めたのかな……?

 

納得ができないまま、ナノちゃんに付いていくと、耳に鋭く声が入った。

 

「いーーーたーーーー!!!!」

 

な、何が起こったの?

 

丁度ナノちゃんや恋ヶ窪さんが向かった方向から聞こえたから、そっちの方に急いで行く。

 

すると、そこには。

 

 

ある、クレーンゲーム機のガラスの前でぐったりしているひまりさん。

 

それを見つけて大声を出したのか、ケホケホと咳き込んでいる流さん。

 

そして、それを見守っていたナノちゃんと恋ヶ窪さんがいた。

 

「ひまりん、みんなで散々探したよー。 ここに来て正解だったみたいだけど。」

 

流さんがやれやれという風にひまりさんに話しかける。

 

「それで、ひまりん。 何かあったの?」

 

「ああ、砂川さん……実は、わたし……」

 

何を告げるのかが気になって、ひまりさん以外は口を自然と閉じて、ひまりさんの方に向く。

私も、ひまりさんが、みんなとはぐれてまで、ここにいたのかが、気になっていた。

 

「わたし……このぬいぐるみが取れないんですよ〜!」

 

うぅ〜、と泣くようにその場にひまりさんが崩れた。

 

「ええっ! それだけのことでー!?」

 

流さんが驚愕の声を上げて、それを聞いたひまりさんが、いつぞやの時のように、ポカポカと流さんを叩いた。

 

はぁ…、とため息をついて、恋ヶ窪さんが、ひまりさんの取り損ねたクレーンゲーム機に、100円玉を投入した。

 

「あの、ボクがチャレンジしてみますんで、どれが欲しいですか?」

 

スッと目を細めて、ひまりさんにそうたずねる。

 

「椎名さん……その、取ってもらうなんて申し訳ないですし。」

 

慌ててひまりさんが謝る。

 

それでも、なお引き下がらない恋ヶ窪さんを前にして、ひまりさんはしぶしぶ、指を伸ばして指し示す。

 

「あの、あれです。 お魚さんの子で……お願いします〜。」

 

「了解です。」

 

そう言って恋ヶ窪さんがクレーンを横に動かす。

 

軽快なBGMと共にクレーンを、ぬいぐるみがある位置にまで持っていく。

 

そこから、くるりと後ろを振り返って、ナノちゃんにクレーンゲーム機の横に回るようにお願いする。

 

きっと、所定の位置まで来たら知らせるような役割なんだろう。

 

「菜野花ちゃん、ぬいぐるみより少し奥くらいになったら、言って欲しいです。」

 

「・・・わかった。」

 

息を合わせて、恋ヶ窪さんはクレーンを奥へと動かす。

 

 

そして、ひまりさんが欲しがっているぬいぐるみから少し離れた場所にクレーンが来た時、ナノちゃんがストップと言って、それを聞いた恋ヶ窪さんが、クレーンを動かすために押していたボタンから手を離した。

 

またもや、軽快なBGMが流れる中でクレーンひまりさんの欲しい、魚のぬいぐるみの、一つ奥のぬいぐるみを掴んだ。

 

「しーちゃん、アレは別のものじゃない?」

 

流さんが不安げな表情で、そう呟く中、クレーンは奥のぬいぐるみを掴んで持ち上げた。

 

すると、その持ち上げた衝撃で、前にあったひまりさんのねらっていた、ぬいぐるみが受け取り口に落ちてきた。

 

「すごいですね〜!」

 

ひまりさんが感動しながら、恋ヶ窪さんや私たちにお礼を言う。

 

「よっし、ひまりんも見つかったし、ぬいぐるみも取れたし、そろそろ帰ろうかー。」

 

そろそろ、夕暮れの時間だし、良いタイミングかも知れない。

 

自動ドアをくぐり抜けて、私たちはゲームセンターから外に出た。

 

また今度来ようね。

 

と、また向かう約束をして、それぞれの家に帰っていった。

 

今日は、色んなことがあったけど、楽しかった。

 

幸福実技で、等身大サイコロをしたと思ったら、帰り道にみんなでゲームセンターに寄り道している。

 

こんな日が、また来ると良いな。

 

そう思いながら、私は名残惜しく思いながら、帰路についた。




〜次回予告〜

そ、それじゃ予告をするわよ。

私は、雲雀丘 瑠璃。

はなこたちからは、ヒバリちゃんって呼ばれてて。

ええっと、何を言えば良いのかしら……。

え?

何で「オジギビト」が好きなのかって?

……そ、そんなつもりは、まあ、そうなんだけど…。

でも、今はあの人は関係ないじゃない!

もうっ!
恥ずかしいからやめて!

次回、Lucky.23 りゆうなんてないわよ

本当の理由は、秘密にしてね。


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Lucky.23 りゆうなんてないわよ

カーテンの隙間から、朝日が差し込む。

日の光が柔らかに注ぐ中、朝食の匂いが鼻をくすぐる。

どうやら、朝になったらしい。

 

きっとお母さんが、作ってるのかな。

 

未だベットの中にいながらも、ぼんやりとした頭で考え、1つ、あくびをして起き上がる。

 

 

壁掛け時計を見ると、9:00という現在の時刻を表す数字と、4/29(Fri)と、今日の日付を教えてくれる。

日付機能付きだと、何かと便利かな。

 

そっか、今日はみんなでゲームセンターに行った日の次の日か……。

 

伸びをして、ベットから起き上がり慣れた手つきで、パジャマから天之御船学園の制服へと着替える。

まるで、私の意思とは関係なく勝手に体が動いているようだった。

 

赤いチェックのスカートを履き、長袖のワイシャツに袖を通す。

本当は、ここで髪を整えておきたいけど、今縛ってしまうと洗顔とかの時に手間が増えるから後回しにする。

ツインテールなんて、古風な髪型と思われるけど、小さい頃からずっとあの髪型にしていたから、もう私にとってのアイデンティティみたいなものだった。

最後に、靴下を履いて一旦身支度を終える。

 

リビングがある部屋へと向かうと、お母さんがまだ作っているのか調理の匂いが強まるとともに、テレビの音が微かに聞こえてきた。

 

「あら、彩歌、おはよう。 今日はずいぶん遅かったのね。」

 

部屋に入ると、お母さんが料理をしながら言った。

 

「あー、うん。 そうだね。」

朝、起きたばかりだと私の頭は働かないのか、お母さんの声に適当に答える。

 

テレビを一瞥(いちべつ)すると、左上に時刻が示してあった。

 

9:20

 

……あ、遅刻だ。

 

寝ぼけた目をこすると、よりはっきりと見える。

 

「お母さん、ごめん。 私、今日は朝ご飯いらないから。」

 

言い終わると同時に、洗面所に向かう。

 

時間がないのは、わかっていても、身支度に用意する時間は要る。

 

それでも、顔を洗ったりして軽く身支度を整えて、髪を結ぶ。

 

いつもつけている、太陽みたいなデザインの髪留め。

 

両親からもらったお土産で、私はとても気に入ってる。

それでも、最近はちょっと古くなっているからそろそろ変えても良いかも。

 

自分の部屋に戻って、制服を着込む。

 

少しずつ息を整えて、冷静になるように心がける。

 

「大丈夫、説明すれば良いだけ。」

自分に言い聞かせるようにして、呟く。

 

カバンを持って、玄関に急ぐ。

 

玄関のドアを開けて、振り向きざまに告げる。

 

「行ってきます!」

 

小走りになりながら学園に続く道を急ぐ。

 

ローファーは少し走りにくいけど、この際は仕方ない。

 

うーん、なんで私は寝過ごしたんだろう……?

 

道を走りながら、自問自答する。

 

何時もは、6時くらいには目がさめるのにな。

 

「目覚まし時計とか買おうかな……っと。」

 

私は、ある道の上で立ち尽くしていた。

 

この道、というか路地は、恋ヶ窪姉妹がいた所だった。

あの仲睦まじい姉妹影を見かけたのが、つい昨日のこと。

そう思うと私の足は自然と途中の路地で立ち止まってしまった。

 

そろそろ行こうかな。

 

また、私は小走りになりながらも、天之御船学園へと急ぐ。

 

 

しばらく走ったところに、校門が見えてきた。

 

やっと、到着した。

 

嬉しさと同時に、遅刻したことへの不安もある。

 

一歩一歩、進んで近づいてみると、ある違和感に気付く。

 

「これ、閉まって鍵がかかってる?」

 

在ろう事か、門自体が閉まっているだけではなく、施錠までされていた。

 

登校時間以外は、閉鎖って事なのかな……?

 

首を傾げていると、誰かが校舎から出てきた。

 

その人物は二人で、一人はめんどくさそうにしながらも、白銀の髪をなびかせながら歩いていて、その後から、ふらふらしながらも、黒色の白衣(?)に白い髪を後ろに束ねた、顔色が悪そうな先生が付いてきていた。

 

あの二人は……多分教師かな?

 

だんだんとこちらに近づいてくる。

 

校門の前にいる、不自然な生徒に気づいたのか、私に目を合わせて近づく。

 

すると、二人の顔がはっきりと分かると、そのうちの一人は、私と面識があった。

面識と言っても、確か最初の数学Ⅰの授業を受け持っていた、吾野先生だった気がする。

目もオッドアイだし、多分そうだと思う。

 

「お前は確か……西沢 彩歌と言ったかな。 その、今日から連休になっていて、天之御船学園は空いていない。」

 

 

今日って、休みの日だったんだ。

 

私は、どうやら勘違いをしていたらしい。




さて、間違えて天之御船学園に来てしまった、彩歌。

なんとか話をつけるも、
二人の教師に連れられて「ある場所」に行くことに⁉︎

次回、Lucky.24 はんべつできない

新キャラは、まさかの教師。


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Lucky.24 はんべつできない

今日は、4月29日の金曜日。

 

普段だったら、平日で学園に向かわないといけない日なのに、あいにくゴールデンウィークという休日に入っていて、私はそれを勘違いして、今現在、天之御船学園の校門前に、2人の教師と対面していた。

 

なんでゴールデンウィークなんて名前にしたんだろう?

祝日の日によって長さが変わってしまうなんて、最も安定している物体である金の名を冠するにふさわしくないと思う。

……まあ、雑談はこの辺にして。

 

「すみません、吾野(あがの)先生。 間違えて登校してしましました。」

私は、頭を下げながらそう発言をする。

2人いるうちの1人は、以前数学を教えていた先生で面識があったけど、隣にいる黒い白衣(黒衣?)を着ている先生は、私は面識がなかった。

 

吾野先生は、めんどくさそうに白銀の髪をかき上げながら、私に尋ねてきた。

 

「なあ、お前は園池 菜野花という生徒を知っているか?」

 

知ってるも何も、ナノちゃんとは幼馴染でもある。

というか、吾野先生は幸福クラスの授業を受け持ったこともあるんだから、生徒の判別くらいはできて欲しいな。

 

私は、吾野先生からの問いかけに頷いて答える。

 

すると、となりにいる先生が沈黙を破る形で口を開いた。

 

「顔馴染みならば、話は早いでしょう。」

 

私の方を見ると、にっこりと微笑んで自己紹介を始めた。

 

「はじめまして、彩歌さん。 ワタクシの名前は伏見(ふしみ)と申します。 天之御船学園では保健室に常務していま……ゴフッ!」

 

初対面である、伏見先生は柔らかに微笑んだまま、口から赤い血を噴き出し、もとい、吐血していた。

 

いきなりの出来事に、私の頭は付いていけずに真っ白になる。

 

「伏見センセ、いつもの事だけど、流石に生徒の前だからさ……まあ、抑えるのが大変なのも分かるけど。」

 

そう言いつつ、慣れた手付きで吾野先生は、伏見先生の吐血した血の処理をしている。

 

問題の伏見先生は、俯いたまま一言も喋らない。

 

「いや、彩歌すまんな。 この先生はよく吐血するんだ。 まあ、そこまで気にしないでやってくれ。」

 

「気にしないで……と言われても。 その、伏見先生は大丈夫何ですか?」

 

あまりの光景に、我を失っていたけど、私もだんだんと落ち着いてきて、吾野先生の言葉になんとか答える。

 

すると、俯いていた伏見先生が顔を上げて、申し訳なさそうな、困ったような笑みを浮かべて、

 

「すみませんね、彩歌さん。 ワタクシの体質みたいなモノなので。」

 

と、言った。

 

吾野先生が、私との間にある天之御船学園の校門の鍵を開けながら、話す。

 

「突然で悪いけどさ、この3人でドライブ行かない? 行かないといけない場所があるけど、1人じゃ伏見センセの面倒見切れないし、菜野花っつう生徒の顔馴染みなら、話は早い。」

 

……ドライブって、いきなり過ぎる気もするけど、ナノちゃんが関係してるならこの人達に付いていく価値はあるかも知れない。

 

「まあ、判りました。 それで、どこに行くんですか?」

 

そう聞くと、吾野先生の代わりに伏見先生が答えた。

 

「いえ、単なる遊園地ですよ。」

 

ナノちゃんと、遊園地の関係って何だろう……?

 

そう疑問を残したまま私は2人に連れられ、遊園地−Continue Games−へと向かったのだった。

 

 

 

遊園地までは、吾野先生の所有物であろう車に乗せてもらったけど、ほんの10分ほどで目的の場所に到着した。

 

駅の近場でもある為、遊園地自体の駐車場は無く、近場のパーキングエリアに車を止め、しばらく歩いた先に、遊園地はそびえ立っていた。

 

遊園地としては珍しく、近くに駅があり駅の改札口を出ると、すぐその遊園地に入れるような作りになっていた。

 

私自身は忘れてたけど、今日からゴールデンウィークに入っているから、遊園地の入り口は混雑を極めてた。

 

「うっし、それじゃあ入るとしますか。 あー、ちなみにだけど、この遊園地は大人料金の2人しかいらないから。」

 

西沢は先に入ってな。

 

そう言われて、18歳以下のお客様という列に並ぶ。

 

移動中の車の中、伏見先生に言われたのが、Continue Gamesという遊園地は18歳以下の入場料金が発生しないのだとか。

というのも、この遊園地は経営難に陥っていた所を、とある財閥が買い取り、一年ほど前に立て直し、及び改装が加えられて、アトラクションの約半分を取り壊して、ゲームコーナーなるものを作り出した。

そのコーナーは、全国ありとあらゆるもののアーケードゲームや筐体ゲームが数多くある遊園地として、世に言うアーケードゲームの宝庫として一気に客の足が集まったそうだった。

 

その買い取った財閥というのが、園池財閥と言って、全国のゲームセンターに機械を置く会社グループの元締めなのだそうだ。

 

その結果、遊園地自体の入場料よりも、遊園地に入ってからのゲームをやるお金に入れてさえくれればいいという事なのだろう。

 

園池財閥とは言っても、ナノちゃん、つまるところの園池菜野花本人との関係はないらしい。

小学校に上がった時に教えてもらったけど、両親がたまたまその会社内で結婚した時に、2人で名字を変えたらしい。

 

……今考えてみれば、結婚してお互いが違う苗字になるなんてことなんてほとんど無いようなケースだけど、その当時の私は、珍しい事もあるんだ、という程度にしか思っていなかった。

 

 

そんなことを思い出しているうちに、遊園地の中に入っていた。

 

しばらく待っていると、先生2人も入ってきて合流した。

 

「そういえば、先生2人の用事ってなんですか?」

 

我ながら、聞くのが遅すぎるような質問の気もするが、一応聞いておく。

 

「あ、それはですね、園池 菜野花さんのバイトの様子を見にきたからですよ。」

 

ナノちゃんって、バイトしてたんだ。

なんか意外な気もする。

 

「それで、そうやってナノちゃんを見つけるんですか?」

 

そう問いかけると、吾野先生が答えてくれた。

 

「ああ、彩歌はナノちゃんって呼ぶんだな。 探すのは簡単だ。 直接仕事場にこちらから向かえばいい。」

 

そう言って、吾野先生が指をさして示した場所は、この遊園地の総合案内所だった。

 

お土産屋の隣に併設されているその施設は、大体は迷子の呼び出しとか、園内の案内をするスタッフが控えているなどの場所だが、その反対側には関係者専用の場所があり、そこの中でナノちゃんが働いているという事だった。

 

まず、その案内所に行くと、先生達が事情を説明して入れるように取り付けてくれた。

 

私の中では先生についてくというよりも、ナノちゃんのバイト姿を見たいという好奇心に変わっていた。

 

そうして、いざ入ってみると、係りの人に案内されて、私たちはある一室の前にいた。

 

吾野先生がノックしてすると、どうぞーという声が返ってきた。

 

入るぞーと言いながら、吾野先生は扉を開ける。

 

私も続いて部屋の中に入ると、その部屋の内装が見えてきた。

 

割と広めの部屋なのに、壁際をほぼ埋め尽くしている本棚のせいで圧迫感があり、その本棚に入っているものもクリアファイルや、紙を纏めたものばかり。

きっと遊園地に関する書類があるのだろう。

 

スチール製のしっかりとした机が真ん中にあり、その卓を囲むようにして人が何人かで作業している。

作業といっても、大きな紙に線を引いたり、書類を見て話し合ったりと大忙しだった。

 

「例の、園池 菜野花さんがどこにいるのか見当がつきませんね。」

 

辺りを見渡すながら、伏見先生が不安げにつぶやく。

 

私もつられて、室内を見渡す……すると、机の端の方で何やら他の人たちと楽しそうに話し合っていた。

 

ただ、髪型とか特徴とかで判断しただけで、私は目の前にいる子が、ナノちゃんだとは判別できなかった。

 

学園では、いつも物静かなナノちゃんだけど、ここでは、明るく社交的に、自分から話しかけているほどだった。

 

(なのか)が思うに、この辺の予算は削るべきだと思うな。」

「それはそうかもだけど、うちにもいろいろあって……。」

 

仕事の話か、職場の人同士で話している。

 

「これはこれは、思ったよりも重症なようですね。」

 

ふと声のする方を向くと、となりに伏見先生が立っていた。

口元をハンカチで抑えているあたり、また吐血したのかも知れない。

 

重症という言葉が気になり、問いかけてみると、

 

「彩歌さんは、目の前にいる園池さんの様子を見て異変を感じませんでしたか?」

 

逆に質問で返された。

 

「まあ、ナノちゃんがまるで人格が変わったみたいに感じましたけど。」

 

……少なくとも、私が知っているナノちゃんとは、一線を課しているようにも感じるほどの変わりっぷりだった。

 

「ええ、全くその通りです。 ワタクシの見解、というよりも医学的に見れば、あそこにいる彼女は解離性同一性障害(かいりせいどういつせいしょうがい)つまりは、二重人格で間違い無いでしょう。」

 

「……え?」

 

伏見先生がスラスラと答えた、言葉の内容に私は驚愕する。

 

二重人格? ナノちゃんが?

 

混乱のあまり、動向が早まり、冷や汗が背中を伝う。

 

いくら、中学生活の3年間に会っていなかったとはいえ、こんなにも人は変わるのだろうか?

 

「そんな事ない、と思います。」

 

何とか息を整えて、伏見先生に応える。

 

 

少し歩いて、ナノちゃんのもとに行く。

 

「ナ、ナノちゃんってバイトしてたんだ。」

 

そう声を掛けてみると、その子は、首を傾げて尋ねてきた。

 

「あのう、どちら様ですか?」

 

目の前が真っ暗になりそうだった。

 

いえ、すみませんと、なんとか声を絞りして言ってから、先生の元に戻る。

 

「言ったでしょ、今話しかけても相手は分からないかも知れないって。」

 

伏見先生の言うことが、頭に入ってこない。

 

それでも、それでも、あの少女は、ナノちゃんではないと証明されてしまった。

 

こんなことが起こるなんて、どうすれば良いのだろうか?

 

この疑問には、誰も答えてくれない。




という事で、少し暗めに今回の話は一旦おしまいです。

〜次回予告〜

次は、何話かぶりにあの人の語りで物語は進行していきます!

園池 菜野花は二重人格なのか……?

次回、Lucky.25 ぎゅうにゅう

次週はお休みするかも知れません!

ではでは〜!


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Lucky.25 ぎゅうにゅう (☆)

ゴールデンウィーク初日の4月29日金曜日、昭和の日。

 

ワタシは目をこすりながら、朝食の準備をする。

準備といっても、ほぼ一人暮らしみたいな生活をしていると、ある程度のパターンは決まってくる。

 

食パンをトースターに差し込んでから、冷蔵庫からベーコンと生卵を取り出す。

 

火をつけたフライパンにベーコンを置き、すぐにひっくり返す。

その上に卵を落として少量の水を入れて、蓋をする。

蓋をする時に火を少しだけ弱めておく。

 

香ばしい匂いといい音がする中、チンっとトースターから音がする。

またもや冷蔵庫からマーガリンを取り出して、こんがりと焼き目のついたトーストに塗り込む。

 

皿にトーストを置き、ワタシは目線をフライパンに向ける。

 

フタを開けると、美味しそうに目玉焼きが出来上がっていた。

出来た目玉焼きをトーストの上に乗せて、椅子に座り手を合わせる。

 

「・・・・・いただき・・・・ます。」

 

・・・・以前は、いただきますなんて言ってなかったけど、玉上さんの真似をしているうちに自然と身についてしまった。

 

「これから、バイトか・・・な。」

 

祝日となる今日から三日間は、アルバイトに打ち込むようにシフトを入れておいた。

学生としては、勉強もしないといけないんだけど、ついついバイトをしたくなってしまう。

 

・・・・もぐもぐと朝食のパンを食べながら、ぼんやりと考える。

 

彩歌達と遊ぶのもいいかもしれないけど、あいにくワタシは連絡を取る手段を持っていなかった。

 

携帯電話なんて、通話代や通信料が心配で持ったことすらなかった。

あの人たちに言えば買ってくれるかもしれないけど、どうせなら自分で買いたい。

 

さらに言えば、このマンションに固定電話がないのも辛いところ。

 

・・・・・まあ、しょうがないか。

 

時計を見ると、8時を過ぎようとしていた。

 

電車で行くことを考えたら、そろそろバイトに行く時間になる。

 

コップに牛乳を注ぎ、一気に飲み干す。

 

「・・・・ぷはっ!」

 

今日も・・・美味しい・・・。

 

ふと自分の胸に手を当てる。

 

昔から気にしていて、豆乳とかも飲んでいた・・・お陰か、最近は・・・成長している・・・・・よね?

 

流し台に食器を運び、それを片付けながら、あくびをする。

未だに眠気が取れない。

 

また月曜日になったら、普通に学園が始まるから切り替えは大事にしないと。

 

カーテンから覗く空は良好、着替えを素早く済ませる。

 

半袖のシャツにデニムのズボンを履き、上からカーディガンを羽織った。

 

そこから更にキャップ帽を目深に被る。

 

玄関で、動きやすいスニーカを履いてドアを開ける。

 

外に出てから、しっかりと鍵をかける。

 

「さて、バイトに・・・・行こうかな。」

 

テクテクと歩きながら駅へと向かう。

 

駅に着いて電車に乗ってから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なのか)は目覚める。

「さて、そろそろ始めよう。」

 

到着駅から躍り出た(なのか)は、自分の表情がだんだん豊かになっていくのを感じる。

 

遊園地を関係者専用である出入り口から入ると、目の前にいたスタッフの内の1人に声をかける。

 

「おはよう、開園まで時間があるけどトラブルとか無い?」

 

その質問に、シャキッと背筋を伸ばしたスタッフはハキハキと答える。

 

「はいっ! 今のところ滞りなく進んでいます。」

 

(なのか)はため息をひとつ付いてスタッフに呼びかける。

 

「全く、(なのか)相手にそんなに畏まらなくても良いのに。」

 

少なくとも、(なのか)よりはキャリア歴は長いはずだと思う。

 

そのスタッフは言いづらそうにしながらもこう言った。

 

「いえ、ここ、Continue Gamesという遊園地がここまで人気になったのも貴女(あなた)のお陰だからです。」

 

それでは。と別れの挨拶を述べながらそのスタッフは去っていった。

 

まあ、この遊園地は今では大盛況となっているけど、昔はそうでは無かった。

 

少しだけ、あの頃を回想していこうかな。

 

〜〜〜

 

一年前のこと、(なのか)がここにやって来た。

 

(なのか)は、ここに来るとまずは遊園地内を案内させられた。

 

そこを観て回って(なのか)が目にしたのは、衝撃の光景だった。

 

人が、ほとんど居ない、そんな状況だった。

 

大概の地方遊園地は、その土地に根ずく形でその存在価値を発揮している。

 

しかし、老朽化によりアトラクションのほぼ半分が使い物にならなくなり、ろくなお店も出ておらず、お土産屋さんには満足なマスコットキャラクターでさえ居ない状況だった。

 

だから、(なのか)は、持ち前の才能を活かしてこの遊園地を変えることにした。

 

今にして思えば、(なのか)は陶酔していたのかもしれない。

 

一つの大きな施設である遊園が自分の思い通りになるということに。

 

その遊園地の事務室のようなところに案内され、(なのか)は、紙と何種類かのペン、それと園内地図を持って来るようにお願いした。

 

しばらくすると、言っていた品が届いた。

 

 

よし、ここはひとつ考えてみよう。

 

 

ひとまずはこの遊園地にテーマを持たせることにした。

 

絵を描くうえでも、まずは何かしらのテーマだったり、タイトル、意味とかを付けてから描き始める。

 

それと同じようにしようと考えて、まずは遊園地の名前を変えることにした。

 

「遊園地 ローディング」から、「Continue Games」へと。

 

何をやろうかな……と考えていると、まずは園内マップを見直すことにした。

 

すると、東側にあるアトラクションの多くが故障または使用不可の状態が続いているものだった。

 

(なのか)は、何か有効活用できないかと考えることにした。

 

そこで、その場所には他のアトラクションを置くとか……いや、アトラクションじゃなくてもいいのかもしれない。

 

そう、いっそのこと、アーケードゲーム機とかを置いてみるのはどうだろうか。

 

リズムゲームにメダルゲーム、UFOキャッチャーとか、カード対戦ゲームとかも入れよう。

 

遊園地の中に大きなゲームセンターがあるような、いや、遊園地自体がゲームセンターのようにするのが良いと思う。

 

よし、遊園地のテーマは「日本最大のゲームセンターを遊園地に」にしよう。

 

それから、何かマスコットキャラクターを用意しよう。

 

遊園地の名前にも入っているGAMEを使いたいな……。

 

ローマ読みからガメにして、カメのキャラクターにしよう。

 

ゲームセンターってきらきらしてるイメージだから、甲羅に星を加えたるするのも面白いかもしれない。

 

この子の絵も、ラフ絵だけど描いておこうかな…………

一枚の紙を手に取り、シャーペンで輪郭を描きながら、ペンを持ち替えて簡単に色を塗って、更には輪郭も加える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

…………っと、こんな感じ。

 

他には、食事処かな。

 

売店の少なさもそうだけど、さっき見回った時に感じたのは、食事を食べれるレストランが少なかったイメージ。

 

イタリアンから和風料理に、中華まで出来る限り用意してくれるように頼もうっと。

 

ここまで考えたところで、ふとテレビをつける。

 

ニュース番組が映し出されていて、都会の方の特集が組まれていた。

 

とこのように、駅周辺は夜中も光に満ちており観光しやすく人気となっています。

 

というようにイントネーションのハキハキとした声を聞いたところで、閃いた。

 

……夜の時間帯も営業するというのはどうだろうか。

 

時間をあまり遅くしなければ有意義にスペースが確保できるし、大人が立ち寄りやすい雰囲気を作れればいけるかも知れない。

 

さっき思いついたガメちゃんと、もう一匹マスコットキャラクターを考えておこう。

 

夜のイメージで、出来るだけ可愛いのが良いな……あ、そうだ。

 

フクロウというのはどうだろうか。

 

夜行性だし、夜を象徴している。

 

またもや、紙を一枚とって描き始める。

 

いくら夜とはいえ、あんまりスタイリッシュなデザインにしても気味が悪くなちゃいそうだから、丸くして柔らかいイメージを持たせるようにしよう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

っと、こんなものかな。

 

名前は、continueを逆にしたeunitnocの最初のeuniをローマ読みして、エウニー君にしよう。

 

 

そのほかにも、いろんなことを纏めたりしているうちに、お母さんとお父さんが迎えに来た。

 

扉から入ると、そろそろ帰ろうか、などと言いながら(なのか)の肩に手を載せると……

 

「さて、もうお目覚めの時間だよ。 ナノカに戻るんだ。」そう言った。

 

(なのか)はその時、あの言葉の意味が分からなかったし、理解できなかった。

 

でも、その意味を知る前に(なのか)の意識は眠りに引き込まれるように沈み込んでいった。

 

 

あの時に意識がなくなってから、次に意識が戻ったのはまた遊園地に来た時だった。

 

(なのか)はその時に全てを理解した。

 

今考えていること、物、何もかもが(なのか)であって、(なのか)では無いことを。

 

以前から意識が切り離されたような感覚があった。

 

それでいて、何日間も記憶が抜けているのに違和感を感じることも無かった。

 

考えれる事は考え続けて、辿り着いた。

 

でもそれは、ありえない事だと思っていた。

 

それは、(なのか)が二重人格のようなものを持っているという結論。

 

現に、それに気づいた時から少しずつ(なのか)以外の自分の存在に気づいた。

 

〜〜〜

 

そうして、(なのか)が何者かわからないまま遊園地作りに勤しんだ。

 

それは、今も続いている。

 

もう何ヶ月かすると、Continue Gameにナイト営業が始まる。

 

それに向けて、(なのか)は動かなくてはいけない。

 

営業・企画部署の部屋に入ると、企画書を片手に指示を出す。

 

暫くすると、(なのか)に訪問者がいるという情報が届いた。

 

両親でもなさそうだし、これはもう1人の自分の知り合いかな?

 

これは(なのか)がもう1人の自分を知る手がかりになるかも知れない。

 

さあ、ナノカを知ろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そn|

 

園池 菜野花に関して|

 

 

いくつか、調査が進むうちに分かった事があったので記録しておく。

 

まず、彼女(便宜上そう呼称する)は、解離性同一障害、いわゆる二重人格であろう。

 

この事実は、養護教諭である伏見からの情報でわかった。

 

その根拠は多岐にわたるが、詳しくは参考資料である、ファイルNo.21に記してある。

 

 

次に、園池という名字から連想されるように、ソノイケ・ゲーム・プロダクションズ(株)との関わりもあり、両親がその会社の広報で勤めているらしい。

 

ソノイケ・ゲーム・プロダクションズ(株)は、園池財閥が経営しており主にアーケードゲームや家庭用ゲームを販売しているようだ。

 

更には、彼女は幼稚園児の頃、西沢 彩歌と出会い成長するうちに絵の才能が徐々に開花したと思われる。

 

小学生では絵描きとしての才覚を発揮し、数々の作品が賞をとっていた記録も残されている。

 

しかし、小学課程終了後に彼女の絵師としての才能に目を付けた園池財閥は、自らの組織が手掛けるデザイン科専攻の中高一貫校へと転入をさせる様に、両親2人と共に左遷してしまう。

 

早い話が転勤をすることによって未来の優秀な社員を獲得しようとしたのだろう。

 

彩歌と離れ離れになった彼女はその才能を磨き続け、中等部3年と高等部3年分の計6年分の課程を3年で終えた。

 

だが、その間の記憶は本人から欠落しており、その空白の3年間にもう1人の人格が形成されたと見られる。

 

それからは、園池財閥に関わることになるともう1人の人格が出てくるようだった。

 

アルバイトと称した活動も、このもう1人の人格を定期的に目覚めさせる為の物だろう。

 

現在、分かっている事は以上である。

 

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小平は、報告書を書き終えると一息つく。

 

「全く、困ったものですね……伏見先生と吾野先生から事情を聞いてみれば裏であんなことしていたなんて。」

 

現在、4月30日の土曜日。

 

前日、養護教諭の伏見と数学教師の吾野が西沢 彩歌と行動を共にし、園池 菜野花の現状を目撃してから1日経過していた。

 

一口飲んだコーヒーカップを机に戻し、身体をほぐす。

 

「小平先生……大丈夫?」

 

小平の背後から、金髪の少女がおどおどとしながら言う。

 

「おや、いたのですか。 私は大丈夫ですが、あなたは今年もクラスに入らずに一年を終えるつもりですか。」

 

少し困ったように眉を寄せながら、小平はその少女に尋ねる。

 

すると、ぷるぷると震えながら口を開いては、ボクには……と呟き、また口を閉じてしまう。

 

「もう少し、マイク無しで喋る練習をした方がいいかも知れないですね。」

 

その少女の様子を見た小平はそう呟くと、再び机の上にあるパソコンに向かう。

 

「私は確かにあなたが幸福クラスの支援をすることを許可しましたが、あなたも幸福クラスの一員だという事を忘れないでくださいね。」

 

その言葉に、少女はコクリとうなずくとその場を後にした。




今回は、だいぶ長いし、視点変更アリで、読んでくださったあなたに感謝です。

ガメちゃんはガンバりささんに、エウニー君はまっちゃんさんに描いて頂きました!

ただ、ひたすらに感謝です!ありがとうございますm(_ _)m

今回は満を辞して(?)あの子も登場しましたね!

〜次回予告〜

おんハピ♪はついにゴールデンウィーク編に突入!

それぞれの休日を過ごす内に、彩歌は重大なことに気付いてしまい……!?

次回、Lucky.26 うたがい

出来れば来週に投稿したい……。


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Lucky.26 うたがい

ゴールデンウィーク2日目の4月30日。

 

「ふぁ…ふ」

 

欠伸をしながらベットから起きあがる。

 

壁に掛けてある時計を見ると、午前7時を指している。

 

自分の体を見下ろすと、何故か制服を着ていた。

 

寝起きのぼんやりとした頭のまま、何があったかを思い出す。

 

「そうだ、そういえば。 昨日は間違えて学園に行ってそれから……。」

 

ナノちゃんを見た。

 

口には出さずに、心の中で思う。

 

口に出すとなんだか本当のことだって認めないといけないみたいに感じたから。

 

本当の事なんだけど、私の中ではまだ整理しきれていない。

 

昨日に私が目撃したナノちゃんは、はっきり言って別人だった。

姿が変わったのではなく、中身が私の知らない誰かと入れ替わってしまったように。

昨日は、結局吾野先生と伏見先生と一緒にナノちゃんを目撃したところで帰ることになり、私は自宅まで車で送られた。

帰り際の車内では、吾野先生が車を飛ばしご機嫌になっている中、隣で伏見先生がぶつぶつと呟き、私はというと……押し黙っていた。

 

頭の中の整理をするためにというのもあったけど、何よりも混乱していたんだと思う。

 

車から降ろされると、吾野先生は車に乗り込みながらこう言った。

「あんまり、気すんなよ。 どうにかしてやっからよ。」

さっさと家に入れ、というようなそぶりを見せ、伏見先生と共に去って行った。

きっと、天之御船学園に戻ったのだろう。

 

「さて、どうしようかな……。」

 

家に入ると、私は少し考えてしまう。

これから、どうするのか。

そして、どうナノちゃんと関わっていけば良いのか。

 

私は自室に入ってベットに飛び込む。

 

制服に皺が寄っちゃいそうだけど、今はそんな些細な事は気にならなかった。

額の上に右手を乗せて考える。

 

ナノちゃんが二重人格だということを、

 

私が受け入れることができるのかという事を。

 

ただ、疲労からか、私の意識は遠のいて行き、終いには眠ってしまった様だった。

 

そうして、今に至る。

 

「だから私は制服のままだったんだ……。」

 

まったく、母さんも起こしてくれれば良かったのに。

 

ええと、昨日家に帰ってきたのが午後1時くらいだったから、17時間くらいは寝てたのかな……。

 

いくらなんでも、私は寝すぎな気がする。

 

と、思っているところで、くきゅーーという音が聞こえてきた。

何事かと思ったけど、単純に私のお腹の音が鳴っているだけだった。

 

「ううっ……恥ずかしいな。」

 

誰もいないとはいえ、こんなに大きいお腹の音を出してしまうなんて。

そりゃ何時間も寝ていたんだから、お腹も減るよね。

 

私は自室から出て、リビングに向かう。

 

リビングには、母さんか父さんがいるかと思ったのに、誰もおらず代わりに机の上に一枚だけ、行き手紙が置かれていた。

 

そこには……

 

彩歌へ

 

あなたは間違えて高校に行っちゃってたけど、お母さんとお父さんは今日からゴールデンウィークの終わりまで、夫婦で旅行に行ってきまーす。

彩歌一人になちゃうけど、頑張ってね!

寂しくなったら電話してきてもいいけど、電波が届かないかもしれないからそれだけは気をつけてねー。

あなたの生活力なら、一人でもやっていけると思います。

 

追伸、お土産には期待しててね。

 

と書かれていた。

 

「あの2人は何やってるんだか……。」

 

夫婦揃って、ひとり娘を置いて海外旅行に行くなんて……。

 

信頼されてるってことなんだろうけど、ゴールデンウィーク中の約一週間の間、私はなんとかして生活しないといけないのか。

 

とりあえず電話をかけようと、固定電話の方に向かうと、その傍にスマートフォンが置いてあった。

 

「うーん、なんだろうこれ?」

 

桜色の手帳型ケースに身を包んだソレは、手に取ってみると意外と軽く、使いやすそうだった。

 

私は、今までスマホとかに触ったことなんてなかった。

 

私自身が携帯を使う意味なんてなかったし、あまり友達とのやり取りもしなかったせいで持っていなかった。

 

まじまじと見つめたあと、スマホを手にとって手帳を開くようにスマホの画面を見る。

 

すると、突然スマホがバイブレーションを起こし、震えだした。

 

驚きながらスマホの画面を見ると、「着信:西沢 紅葉(くれは)」と表示されている。

 

西沢 紅葉とは、私の実の母親で今この状況を作り出したであろう張本人だ。

 

左下の丸い黄緑色の電話の様なマークをタップして、着信に出る。

 

「もしもし、母さん?」

 

すると、普段とは違う、少し浮ついたような声が帰ってきた。

 

『もしもし彩歌? スマホの調子はいい感じ?』

 

「うん、まあまあだよ。 それで聞いたいことがあるんだけどさ、いつの間に私の両親はひとり娘を放っておいて海外旅行なんてものに出かけているの?」

 

スマホの向こう側から笑い声が聞こえたあと、母さんは答えた。

 

『実はここ数年、結婚記念日という存在を夫婦揃って忘れていて。 それで丁度休みが取れたので羽を伸ばしているところなんだよー。』

 

私は、1人しかいない家の中を見渡したあと、ため息をついて質問をさらにぶつける。

 

「それで、具体的にはいつ帰ってくるの? それとこのスマホはいつのまに買ったやつなの? 父さんはいま一緒にいるの?」

 

『あーもううるさいよー。 お父さんに変わるからあとはよろしくー。』

 

少しの間ガタガタと音がした後、父さんに電話相手が変わる。

 

『もしもし、彩歌か?』

 

父さんに変わったところで、私はある予想を立てていた。

 

「うん。 私だよ、それで父さんもしかして母さんっていま…」

 

『ああ、酒に酔って寝てるよ。 すまんな、そっちはどうだ?』

 

「とりあえず大丈夫だけど、状況を説明してほしいかな。」

 

『ああ、わかった。』

 

そういうと、なぜ今の状況になったかを説明してくれた。

 

まず、父さんは母さんに連れられる形で旅行に行ったらしかった。

私を家に残したのは、ゴールデンウィーク中にも学園に通わないといけないからという理由らしい。

 

最後に、置いてあったこのスマホは、私へのプレゼントらしかった。

 

父さん曰く、早めの誕生日プレゼントらしい。

 

『まあ、そういうわけだ。 それじゃあそろそろ切るよ。』

 

最後に弱々しく笑うと、父さんは電話を切った。

 

 

……未だに驚いているけど、私はとりあえずご飯をどうにかしないといけないかな。

 

電話で話していたのもあって、もうお腹がペコペコだ。

 

時計を見ると、午前8時を指している。

 

新しく貰ったスマホをパジャマのポケットに入れて自室に戻る。

 

自室に戻ったのは、朝食を食べるにあたって着替えてからにしようと思ったからだった。

 

ふと、勉強机の上を見ると、今までなかったスマホ用の充電器一式が置いてあった。

コンセントに接続して、そこに私のスマホを置いて充電しておく。

スマホをいろいろ見ておきたかったけど、今はお腹が減ってそれどころでは無い。

 

部屋の端の方にあるタンスに向かうと、今まで着ていた長袖長ズボンのスエットのパジャマを脱いで、青と白のボーダーのTシャツ・カットソーに袖を通して、動きやすそうな薄茶色のジーパンを履く。

 

そこから髪を結ばないまま、朝食の支度に取り掛かろうとリビングに行くと、テーブルの上に朝食の準備がしてあり、料理にラップがかけてあった。

 

「おお、母さんも気がきく……いや、多分これは父さんのお陰かな?」

 

感謝しつつ、レンジを使ったり火を通したりして、朝食を済ます。

 

「ごちそうさまでした。」

 

陽毬さんの影響だろうか?

 

最近はよく「いたただきます」と「ごちそうさまでした」は、1人でご飯を食べるときにですら言うようになってしまった。

 

食器を片付けて、食洗機の中に食洗機用洗剤と一緒に入れてスイッチを押す。

 

そこから歯を磨いて、さっぱりした後に髪を整える。

 

アクセサリーの付いたヘアゴムで、ツインテールに纏める。

 

けれど、なんだか今日は髪型を変えることにした。

 

両親も今はいないわけだし、誰にも見られる心配は無さそうだから、ポニーテールにしてみようかな。

 

私は鏡を見ながらヘアゴムを二つとも外し、髪をすかしながら、後ろで束ねてポニーテールにする。

 

「よし……と。」

 

気合いを入れて今日やることを決める。

 

昨日のナノちゃんについて色々調べたい。

けれど、情報が何もないし、何より知ってそうな先生達が今は休日だから会うこともできない。

 

いきなり、煮詰まってしまったな……。

 

いや、そういえば、小学生の頃までナノちゃんが住んでいた家に行けば会えるのかもしれない?

 

自室からキャップ帽を被ってから、小さなポシェットを下げて靴下を履く。

ポシェットの中に、さっきのスマホを入れて準備を整える。

 

私は慌てて、家中の戸締りをして玄関に立つと、普段から学校用で履いているローファーから、白のスニーカーに履き替えた。

 

玄関のドアから出て、外から鍵を締める。

 

「よし、行ってきます。」

 

私は、誰もいない家にそう語りかけて出発した。

 

少し急いで、元あったナノちゃんの家に向かう。

私の家からは多少離れていて、途中に遊具が多く置いてあった公園を通り抜けて行く。

 

多くあった、というのも、ナノちゃんと遊んでいた小学生くらいの頃はまだ多くの遊具が置いてあったけど、今では安全上の問題だとかで遊具の数が減っていた。

 

「懐かしいな……。」

 

小走りになりながら、そう呟く。

 

そうして、公園を抜けた先に、少しお洒落な雰囲気の住宅街が広がっている。

 

その中に入り、いくつか道を曲がったり、細い路地を通ったりしたところで、ようやくその場所についた。

 

しかし、その場所にはかつてナノちゃんが住んでいた面影は残っておらず、別の家が建っていて表札も[園池]では無かった。

 

「違ってたか……。」

 

疲労感と、軽い焦燥感が私を襲う。

 

これで、もうナノちゃんにたどり着けるものが無くなってしまっていた。

 

その事実に、私は軽い目眩すら感じてしまうほど、ショックを受けた。

 

この家の前にいつまでも居るわけにはいかないと思い、重い足を引きずりながら来た道を戻っていく。

 

 

そもそも、ナノちゃんにはあと何日かすれば学園で会える。

なのに、何で私はこんな風になってまで、ナノちゃんを探しているんだろう?

 

ナノちゃんに会ったらどう良い繕えば良いのか分からない。

 

だって、今までの様子だとナノちゃんは自分が二重人格だということに、気づいていない様子だった。

 

ぐるぐると、私の頭の中をいろんな考えが回っていく。

 

私はいつのまにか、ナノちゃんとよく遊んだ公園の中のブランコに乗っていた。

 

キコキコ鳴らしながら、考えていく。

 

……ただ、ただ、時間だけが流れているのを、私は肌で感じていた。

 

ナノちゃんとの関係性、それは、友達だ。

 

幼馴染でもあり、私にとっては親友だと思っている。

 

けれど、私の中である疑いが持ち上がる。

 

今、私はナノちゃんと会ってちゃんとそういう関係で振る舞えれるのか。

 

知らない一面を知ってしまった私にとって、ナノちゃんはどこか遠い存在になってしまったように感じているし、会ったらそういう様な態度をとってしまうかも知れない。

 

そう思うと、私の心はどんどん沈んでいくようだった。

 

ポタッ、と雫がジーパンの膝の上に落ちた。

 

私の頭の中に、雨というキーワードが浮かび上がる。

「雨が降ってきたのかな?」

 

しかし、空を見上げても雨水なんて降ってこない。

ただ、視界が、いや世界全体がにじんで輪郭を失っている。

その時になって私はようやく気がついた。

 

私が泣いているということに。

 

 

気づいてみると止まんなくて、私は声を上げて泣きじゃくっていた。

もう、なんだかナノちゃんと一生会えなくなるような気がして。

 

 

 

「あれ……もしかして、彩歌さんですか〜?」

 

背後から、そう声をかけられた。

 

その声は心配そうにしていて、それでとても慈愛があるようにも私は感じた。

 

振り返ると、心配そうな顔でこちらを見つめているひまりさんが佇んでいた。




はい、ということで、陽毬ちゃん登場で次に続きます!

〜次回予告〜

陽毬と偶然会った彩歌は、事情を話すことに。
話を聞き終えた陽毬は、菜野花の居場所を知っていると言い始めて……?

次回、Lucky.27 ひっしになって

次回もお楽しみに〜!


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Lucky.27 ひっしになって

私は、ナノちゃんを探し当てることが出来ずに、近くの公園で泣きじゃくっていた。

 

しかし、その場にひまりさんが現れて、心配そうな顔でこちらを見て声をかけてくれた。

 

見上げると、ひまりさんはハンカチを差し出して涙を拭くように言ってくれた。

 

「あの〜、彩歌さん、何かあったならお話くらい聴きますよ〜?」

 

ベンチの隣にストンと座ると、私の顔を見て少し笑いながらひまりさんは言った。

 

ひまりさんから貰ったハンカチで涙を拭きながら、私は事情を話す。

 

「じ、実は……」

 

昨日、学園に行ってから何があったのか。

ナノちゃんがどのようになっていたのか。

私を見たナノちゃんはなんて言ったのか。

 

そして、今日ナノちゃんを探そうとしたこと。

見つからずに諦めて、泣きじゃくっていたこと。

 

涙と嗚咽でつっかえながらも、ひまりさんは優しく聴いてくれた。

 

頷いて、背中をさすってくれたりして。

 

……と、いうわけなんだ。」

 

「なるほど、つまりは彩歌さんは今、菜野花さんに会いたくて困っていると。」

 

ひまりさんは、もらい泣きした涙をそっと拭きながらそう言った。

 

私は、肯定の意味で頷くと、ひまりさんはにっこりと微笑んだ。

 

「わかりました。 わたしが菜野花さんの元に連れて行きましょう〜!」

 

「え? 本当に? なんでひまりさんはナノちゃんの家を知って……」

 

私が混乱していると、ひまりさんは私の手を引いてベンチから立ち上がった。

 

「何故かは、移動しながら説明しますね〜。」

 

ここからだとちょっと遠いんです〜、と言いながら、ひまりさんはずんずんと進んでいく。

私は、驚きと嬉しさのあまり、再び溢れそうになる涙を抑えるのに精一杯だった。

 

しばらく歩くと、ひまりさんが話し始めた。

 

「実はですね〜、彩歌さん」

 

「タネを明かせばどうってことないことです〜。」

 

何だろうと思いながら、私はひまりさんの言葉を待つ。

 

「私が菜野花さんのお弁当を作っているのは知っていると思います〜、でも、その過程で何回か菜野花さんが遅刻しそうになったことがあるんですよ〜。」

 

「その時に、菜野花さんに直接聞いて、住んでいるアパートを知りました〜。」

 

「今では、私が菜野花さんを起こしに行っているくらいですよ〜。」

 

「……そうだったんだ。 ひまりさんは、ナノちゃんが二重人格だって知っても驚かないの?」

 

ひまりさんは、くるりと回ってこちらをみると、もちろんと答えた。

 

「わたしも最初に聞いたときは驚きましたけど〜、わたしはどっちの菜野花さんも大好きです〜。」

 

「なので、わたしは気にしません。 また学園が始まれば、これまで通りにお弁当を作って持ってきます〜。」

 

その言葉を受けて、私はひまりさんが羨ましいと思ってしまった。

 

私だってどちらのナノちゃんでも受け入れていきたい。

でも、未だに決心がつかないし、小学生の時まで一緒にいた分だけ割り切ることもできない。

それでも、それでもやっぱり、ナノちゃんと会って話してみたい。

例え、ナノちゃんが自分のことを分かっていなかったとしても、話し合っていきたい。

 

「ひまりさん、私はナノちゃんと話したいと思う。 それで、お願いがあるんだけど、ナノちゃんと話し終わるまでひまりさんはナノちゃんの家の前で待っていて欲しい。」

 

私は立ち止まってひまりさんに呼びかける。

 

ひまりさんは歩みを止めずに、はい、とだけ言った。

 

 

「さて〜、彩歌さん、そろそろ菜野花さんの家に着きますよ〜。」

 

その言葉に反応して、目の前を見ると大きなマンションが建っていた。

 

「もしかして……ナノちゃんってマンションに住んでるの?」

 

ひまりさんは、はいと答えて頷き、私の背中を押した。

 

「それじゃ、あとは彩歌さん次第ですよ〜。」

 

菜野花さんの部屋は707号室です〜、と私を送り出した。

 

私は、マンションのエントランスに入ると中を見渡した。

 

マンション内の見取り図を発見して見てみると、上の方に『ファミリー向けオートロックマンション』と書かれている。

10階建てでナノちゃんが住んでいるという部屋は7階にあるみたいだった。

 

エレベーターを探すと、壁側に二つ付いている。

 

その片方のエレベーターの中に入ると、7と書かれたボタンを押す。

 

すると、私を閉じ込めた箱は上昇し、ナノちゃんのいる部屋へと導いてくれる。

 

小気味いい音と共にドアが開いて、7階に到着する。

 

エレベーターから出て見渡すと、東側と西側それぞれに廊下が続いているようだった。

 

壁には、『東:701〜705』『西:706〜710』と書かれている。

 

「西側かな、っとこっちに行こう。」

 

私は進行方向を東側から西側へと変更すると、少し急ぎ足で707号室を目指した。

 

二つ目の部屋が707号室で、表札には「園池」と書かれていた。

 

「……ここが本当にナノちゃんの家なんだ。」

 

ゴクリと喉を鳴らしながら、インターフォンに手をかける。

 

ピンポーンッ……

 

鳴らした音が響いて、いくつかの間があった後、玄関のドアが開いた。

 

「えっと・・・どちら・・・さま?」

 

恐る恐ると行った様子で、ドアの隙間からこちらを伺ったのは、昨日会った私の知らないナノちゃんでは無く、私がよく知るあのナノちゃんだった。

 

「な、ナノちゃん久しぶり。 実はちょっとだけ話があってね。」

 

私は、ナノちゃんに軽く片手を上げる仕草をして、微笑んだ。

 

すると、ナノちゃんは取り敢えず中に入って、というようにスリッパをどこからか出して私を家に招き入れた。

 

部屋の中は、小綺麗に纏められてて、普段から掃除とかをしているんだという事が一目でわかった。

 

シンクやガス台が付いているリビングに通されると、ナノちゃんは突然下を向いて俯いてしまった。

 

そのまま動かないので、心配になって肩を叩くとすぅっと顔を上げてこちらを見つめてきた。

 

いつものナノちゃんではなく、口角が上がって少し楽しそうな雰囲気を醸し出している。

 

そうして、私は察した。

 

これはあの時、()()()()()()()()()()()()、という事に。

 

「やあ、彩歌。よくこの場所がわかったね。 (なのか)はすっかり待ちくたびれちゃったよ。」

 

と、少し芝居掛かった口調でもう1人のナノちゃんが話しはじめた。

 

「ナノちゃん……いや、違うのかな?」

 

二重人格なんだよね、と、私はもう1人のナノちゃんに言う。

 

やれやれをかぶりを振るような仕草をすると、似て非なる者なんだ、と説明を始めた。

 

やはり、芝居掛かった口調でもう1人のナノちゃんは語り始める。

 

ナノちゃんが私と離れ離れになっていた間に何があったかを。

 

「ひとまずは、彩歌に言っておくことがある。

(なのか)はもうそろそろ消滅することになるよ。

「どうしてなのかは、最後に説明することにするよ。

「さて、それでは(なのか)が生まれた経緯について説明しようか。

「昨日、(なのか)は彩歌つまり君に会っているけど、(なのか)と昨日の(なのか)は厳密にいうと違う存在だ。

「概ねは、本来の園池 菜野花の裏の人格の様なもので合ってるんだけど、一旦本来の菜野花の戻ると、(なのか)という存在はリセットされるのさ。

「だから、昨日の(なのか)と多少の差がある事は許して欲しい。

「どう違うのかって?

「うーん、そうだなぁ……。

「君の事を知っている、という事が挙げられるんじゃないかな?

「おっと、無駄話が過ぎたみたいだ。

「時間も少ないことだし、ちゃっちゃと進めようか。

「まず、(なのか)が生まれた経緯について語っておこう。

「君とは、小学生……厳密に言うと小学6年生の卒業式をもってして完全に縁が切れてしまった。

「これは、何も(なのか)達が引っ越した時に連絡をし損ねたとか言う訳じゃ無いんだ。

「園池財閥という組織を聴いたことがあるかい?

「ソノイケ・ゲーム・プロダクションズという会社を経営している財閥なんだけど、そこに菜野花は目を付けられたらしくてね。

「ほぼ無理やり、中高一貫校の有名芸術校に入学させられたんだ。

「絵を描くのがとても上手かった、それだけの理由でイラストレーターとかに育て上げるつもりで財閥は動いたんだろう。

「なんせ、小学生の身にしてそこら辺の賞を総舐めし、全国でプロ顔負けの結果を出しちゃったんだからさ。

「え? 知らなかったって?

「そりゃそうだろう。

「君は菜野花を唯一、絵の才能のみで評価しなかった人間なんだから、菜野花は絵の事を詳しくは君に話さなかったはずだ。

「多分、君に絵の賞を見せたらそっちの事を褒める、絵のことしか評価してくれない、と思っていたんだろう。

「子供ゴゴロにね。

「さて、いやいや君と離されて絵の才能を磨くことになった菜野花は、その中高一貫校で何をしたと思う?

「サボったり脱走したりした?

「いやー、実はその真反対の行動に出たんだ。

()6()()()()()()()()()()()3()()()()()()()()

「一刻も早く終わらせて、君に会いたかったんだろうね。

「そうして3年間で終わらそうと必死にもがき続けた結果、(なのか)が生まれた。

「正しくいうと、入った頃からたまに意識が朦朧とする時があったらしい。

「原因は寝不足とストレスからなんだけど。

「無意識に課題をこなした時から、(なのか)のタネは出来上がっていた。

「必死になってやればやるほど、精神は磨耗し、消えて無くなっていく。

「そんな中で取得したのが、(なのか)という第2の人格だったわけだ。

「はっきりと表に出れたのは、今から一年前。

「最後の課題にとある遊園地を立て直す、というものがあってね。

「この課題は、あまりの菜野花の成長ぶりに財閥が一つの仕事を任せてみようという取り組みで案の定、最低でも4年はかかると思われていたとある遊園地の復興も、たった1年でやり遂げてしまった。

「その時、主に(なのか)が遊園地の立て直しを行なっていたのさ。

「そう、それが君と(なのか)が初めて会った、あの遊園地なのさ。

「とまあ、(なのか)が生まれた経緯については語ったと思うけど、細かいところは勝手に判断してくれて構わない。

「あと、今後について。

「最初に、(なのか)が消滅するということを言ったと思うけど、それは君に菜野花が再会したからだ。

(なのか)はね、菜野花にとって安定剤みたいな物なんだよ。

「菜野花の心的傷と不安の権化、ストレスの行き場は、(なのか)となって現れる。

「でも、今は君がいるからそんな存在は無くなるんだ。

「きっとこれから(なのか)は君になんでも話すようになるだろう。

「だからさ、これからも仲良くやってほしい。

 

(なのか)は……いつでも……君たちのこと……見守ってるからさ。」

 

そう言って最後に笑って、ナノちゃんは目を閉じてその場に倒れた。

 

「大丈夫!?」

 

私は慌ててナノちゃんに駆け寄る。

頭の中では、さっきのもう1人のナノちゃんの話をまとめるのに大変だったけど、当のナノちゃんが倒れてしまっては元も子もない。

 

しばらくすると、ナノちゃんは目を覚ました。

 

「えっと・・・アヤカ? さっきは、ごめんね。」

 

こちらを見るなり、ナノちゃんは謝罪した。

目に涙を浮かべて、震えながら、話した。

 

「ワタシ・・・今までの・・事、もう1人の・・・(なのか)の・・・・こと。 ぼん・・やりとだけど・・・・解ってきた・・・。」

 

いままで、迷惑かけたね。と、言いながらナノちゃんは自分の胸に手を当ててニッコリと笑った。

 

 

 

そんな事があった次の日。

 

私とナノちゃん、それからひまりさんに恋ヶ窪さん、流さんも一緒に遊園地に遊びに来ていた。

 

表向きは遊園地に遊びに来たということなんだけど、本当の所はあの後、ナノちゃんが行ってみたいと言ったからだった。

 

みんなで連絡を取り合って、駅に待ち合わせて電車に乗って遊園地に近い駅に5人で降り立つ。

 

それぞれが発言をする。

 

「おおー! ホントに近いじゃんこの遊園地!」

流さんがハイテンションで言いながら歩き出す。

 

「ちょっとは落ち着いて……って、ココはボクが行きたかった、アーケードゲームの聖地!!」

恋ヶ窪さんは、目をキラキラと輝かせて流さんに付いていく。

 

「わたしを置いていかないでくださ〜い。」

ひまりさんがゆっくりと2人を追いかける。

 

私もナノちゃんと一緒に遊園地に入る。

 

すると、ナノちゃんは走り出し、私たち4人を見渡すとこう言った。

 

「ようこそ! (なのか)の創った遊園地、Continue Gamesへ!」

 

その顔は、本当に嬉しそうで、無邪気な笑顔に満たされていた。




はい、まるで最終回のような雰囲気を見せていますけど、これで終わりじゃないですよ〜!

〜次回予告〜
みんなで遊園地で遊んだ次の日に学園での授業があり、受けようとするも登校中に彩歌は、川に流されている少女に出会い……!?

次回、Lucky.28 びんかん

取り敢えず、ナノちゃん編は終わりましたね〜。
本当はゴールデンウィーク一杯使ってやるつもりだったのですけどね。

次の話はどうやらあんハピ♪の方の子たちが出て来るようですよ?

ではでは〜!


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Lucky.28 びんかん

5月2日、ゴールデンウィーク真っ只中だけど、あいにく学園は平日で祝日でもないと言うことで、通常通りに登校することになった。

 

「今日だけ登校ってのも、なんだか癪だな……。」

 

そんな風に呟いて、通学路を歩いていく。

 

私は、普段とは違う道を歩いていた。

 

昨日、一昨日とあったナノちゃんのことで、私はひまりさんの家に直接向かってから、ナノちゃんが来ていなければマンションに行き、起こしてから学園へと向かうことになっていた。

 

なので、普段使っているルートの1つの住宅街ではなく、川沿いの道を歩いていた。

 

余裕を持つために割と早めに家を出た。

両親は相変わらず旅行中で、自分で起きて着替えてからこうして歩いているんだけど、お弁当の用意はひまりさんが私の分まで作ってくれると言うことで、その事にありがたく思いながら頼んでいた。

 

川の方を見ると、何か大きなものがプカプカと浮きながら流れている。

 

浮かんでいるものは、天之御船学園の制服を着ている生徒のようにも見える……というか、人が川に流れている。

 

「え⁉︎ 大丈夫?」

 

オレンジのような金髪のような髪色をした少女が流れている。

なんとかして助けないと、でもどうやって助ければ良いんだろう……?

 

「はぁ、はぁ、あっ、ちょっと手伝って貰っても良いかしら?」

 

背後から走って来たと思われる、私と同じ制服を着た子が話しかけて来た。

その子は、瑠璃色のストレートの髪を真っ直ぐに伸ばして緑色の瞳をしていて……ってどこかで見たことあると思ったら、初日に小平先生に質問をしていた雲雀丘 瑠璃さんだ。

 

手伝うって、何を手伝えば良いんだろう?

 

すると、雲雀丘さんは荷物を私に預けた。

 

「はなこ、今行くからね。」

 

そう言うと、川に飛び込んだ。

 

「えー!? 雲雀丘さーん!」

 

思わず、私は叫んで雲雀丘さんを心配する。

いきなり川に飛び込むなんて思いもしなかった。

 

雲雀丘さんは、川に入るとなんとか泳いで溺れかけている生徒を助けた。

 

全身ぐっしょりと濡れた格好で、川から這い上がる。

 

雲雀丘さんに助けられた生徒は、ありがとーと言いながら、スカートや制服についた水気を取ろうと絞っている。

 

こちらに気づくと、笑顔を浮かべて私にもお礼を言う。

 

「あ、あなたもありがとね〜、わたし、花小泉 杏って言うんだ、はなこって呼んでね。」

 

オレンジの様な金髪の様な髪を濡らしながら、暖かい様な雰囲気をまとった子だった。

 

「それにしても、どうして花小泉さん……いや、はなこさんは川に流されてたの?」

 

何故あんな状況になっていたのか、皆目見当が付かず聞いてみることにする。

 

「実は、はなこってかなり不幸でよくあんなことになるのよ。」

 

気まずそうにして、雲雀丘さんが説明してくれた。

 

「……なるほど、つまりはなこさんは、普段から不幸で特に水難が酷い、ということかな?」

 

そう話すと、はなこさんは、頷いて肯定してくれた。

 

「あ、それと荷物持ってくれてありがとね。」

 

そう言って雲雀丘さんは私に渡した荷物を持つと、ぺこりとお辞儀した。

 

それじゃ、また学校でね。そう言ってはなこさんと一緒に行ってしまった。

 

もしかしたら、ほかに待ち合わせしている相手でもいるかもしれない。

 

「っと、私もそろそろ行かないと。」

 

ひまりさんの家まで急ごう。

 

少し小走りになると、ひまりさんの家まで向かった。

 

しばらく行くと、ひまりさんの家の前に着いた。

 

すると、反対の道からナノちゃんが歩いてきた。

 

こちらに気づくと、嬉しそうに駆け寄ってきた。

 

「彩歌、おはよう。 ・・・・陽毬を待ってるの?」

 

私は頷いて答えると、丁度よくひまりさんが出てきた。

 

「おぉ〜、お二人ともおはようございます〜。 それでは、ちょうど揃ったことですし、行きましょうか〜。」

 

私とナノちゃんにそれぞれお弁当を渡すと、ウキウキとした足取りでひまりさんは歩き出した。

 

3人でお喋りしながら歩くと、あっという間に学園に着いてしまった。

 

1年7組のドアを開けると、流さんが、飛び込んできた。

 

「おっはよー! なんだよもー、アタシも一緒に行きたかったなー!」

 

ひまりさんを捕まえると、流さんはイタズラしだす。

 

「くそー、ひまりんめー! おっぱい揉んでやるー。それそれ!」

 

背後に回り込むと、モミモミとひまりさんの胸を揉みだす。

 

「ひゃあっ、やめてください! ながるさん、恥ずかしいですよぉ〜!」

 

ひまりさんがもがいて、なんとか流さんの拘束を解く。

 

顔を真っ赤にして、涙目になりながらも流さんにひまりさんは苦言を呈す。

 

「もうっ! わたしの敏感なところを触らないでください〜!」

 

俯いて、小さな声でわたしもうお嫁にいけないです〜、と嘆いているのが聞こえた。

 

ひまりさん可哀想に……。

 

流さんがひまりさんに近づいて、慰める。

 

「いや、ごめんごめんって。 アタシもひまりんが楽しそうに入ってきたから羨ましかったんだよー。」

 

「むぅ〜、許してあげないです〜!」

 

プイっとそっぽを向いてひまりさんはいじけてしまった。

 

「はあー、2人とも朝から何夫婦漫才(めおとまんざい)やっているんですか……?」

 

恋ヶ窪さんがため息をつきながら、ひまりさん達をたしなめる。

 

いつのまにか登校してきたらしい。

 

それを聞いた流さんはニヤリと笑いながら、言う。

 

「なにー? しーちゃん、羨ましいの?」

 

「そんな事ないです!」

 

恋ヶ窪さんはそれに反応して言い返す。

 

 

ガラガラッ

 

「はいはい、皆さん席について下さいね。」

 

小平先生が教室に入ってきて、一旦私たちはそれぞれの席に戻った。

 

 

授業を受けて、お昼休み。

 

「それでは、手を合わせて下さい!」

 

「「「「「いただきます。」」」」」

 

いつも通り、ひまりさんの号令のもと、昼食が始まった。

 

それぞれのお弁当を広げて、会話を始める。

 

その中で、ゴールデンウィーク中にこれから何をしようかという話になった。

 

「わたし、みんなでまたどこかに行きたいです〜。」

 

ほのぼのと、微笑みながらひまりさんはそう言った。

 

うーん、でも私、今両親いないし。

「うーん、でも私、今両親いないし。」

 

つい、考えていたことが口に出てしまった。

 

「え? 彩歌ちゃんって今両親家に居ないんですか?」

 

恋ヶ窪さんが興味津々という様に聞いてくる。

 

私は苦笑いを浮かべながら答える。

 

「うん、実は2人で海外旅行に行っちゃってね。」

 

「なるほど、という事は、今アヤカん家には、誰もいないっていうこと?」

 

流さんがお弁当のおかずを食べながらそう訊く。

 

「うん、そうなるのかな。」

 

ガタッ、と音を立てて恋ヶ窪さんが立ち上がると、みんなを見渡してこう言った。

 

「それじゃあ、みんなでお泊まり会しませんか?」

 

みんな驚きの表情を浮かべたあと、頷いたりしながら賛成する。

 

「いいんじゃない・・・かな」

「楽しそうですね〜。」

「アタシ、色々持ってこうかなー。」

 

「えっと、恋ヶ窪さんもしかしてお泊まり会するところって……。」

 

私をみると、恋ヶ窪さんは大きく頷いてこう言った。

 

「うん、彩歌ちゃんの家でやろう、お泊まり会!」

 

……どうやら、これからのゴールデンウィークは騒がしくなりそうだった。




〜次回予告〜

響のことを知らない者などいないと思うが、一様言っておこう。

1年7組の幸福クラスというよくわからない所にいる、萩生 響という者だ。

雲雀丘に頼まれて仕方なく、次回予告という物をやってやる。

響はよく道に迷うと言われているが、そんな事はない……ハズだ。

全く、響の出番が少ない気がしてならないのだ。

これから増やす様に何かしなければ、響の出番は増えないのでは?

と言うか、レンと一緒に出たいのだが……。

なっ、聞こえていたのか⁉︎

次回、Lucky.28 きにするな

響には何か良いことでは無く、良いことしか起こらんのだ!

お相手は、萩生 響がお相手したぞ。


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Lucky.29 きにするな

最近は、割と長めの話が続いていたので、今回は短めです。


学園に通った後の、次の日の5月3日。

 

建国記念日で、今日は祝日となっていて学園はお休みの日だ。

 

昨日の話し合いで、両親が私の家にいないということも相まって、私の家でお泊まり会を開くことになった。

 

恋ヶ窪さん、ひまりさん、流さん、ナノちゃんの4人と一緒にお泊まり会を始める。

 

私は、昨日のうちに家中を片付けたり、掃除しているうちに夜になっていたので、みんなの分のご飯を用意するのを忘れて寝てしまった。

 

そうしているうちに、今日を迎えてしまった。

 

カーテンを開けると、外は見事に青空が晴れ渡っている…………訳ではなく、どんよりとした曇り空が広がっている。

 

「はあ……。 出来れば晴れていて欲しかったな。」

 

せっかく来てもらうんだから、晴れていた方が来やすいに違いない。

 

まあでも、みんなが来るのは昼過ぎ辺りって言ってたし、スリッパとか用意して、もう一回ぐらい部屋に掃除機をかけて、それから……。

私は、キッチンに向かうと無言で冷蔵庫を開けて中身を確認する。

 

「ちょっと難しい……かも。」

 

ある程度の量の食材は入っていたものの、みんなが来て泊まり込むとなると、少し物足りないような気がする……。

ため息をひとつついて、時計を見て時間を確認する。

現在の時刻は、7時をちょっと過ぎたあたり。

 

どこに買いに行くにしたって、まだお店は開いてないだろうし、しばらくは家で支度を……

 

ピンポーンッ…

 

インターホンの音が鳴った。

もしかして、誰か来たのかな?

 

……はっ! もしかして母さんと父さんが帰ってきたとか?

 

インターホンから外を覗き込むと、そこにはスーパーの袋を携えて、こちらを見つめるひまりさんの姿があった。

 

服は、さっぱりとしたボーダー柄で薄手な長袖Tシャツに、チノパン、更には長袖のワイシャツを腰に巻いている、

という格好だった。

 

私は慌てて、玄関のドアの鍵を開けてひまりさんを家に招き入れる。

 

「本当に申し訳ないです〜、わたしだけ早く来ちゃっいました〜。 よいしょっと。」

 

ひまりさんはスーパーの袋を玄関に置き、また玄関先に出ると、旅行用のキャリーバックを引きずりながら持ってきた。

音を立てながら玄関に移動させると、私をまじまじと見つめて、目を細めて微笑んだ後にこう言った。

 

「彩歌さんって、可愛らしいパジャマを着ているんですね〜。」

 

「……っ!」

 

私は慌てて自分の身体を見下ろすと、パジャマを着込んだままだった。

というよりも、さっき起きたばかりだったから身支度も何も整えていなかった。

私の着ているパジャマはピンクの地に、白色の水玉模様があしらわれたスウェットの物だった……。

たちまち、私は自分のほおが熱を帯びていくのを感じる。

 

「えっと、ひまりさんこれは……!」

慌てて取り繕おうとすると、ひまりさんは人差し指を唇にそっと当てるとこう言った。

 

「わたしだけの秘密にしておきますね、大丈夫、誰にも言いませんよ〜。」

 

……気を使われてしまった。

 

「と、とにかく! ひまりさんは来るのが早かったけど、どうして早く私の内に来たの?」

 

なんとかして、無理やり話を逸らす。

すると、ひまりさんはスーパーの袋を少し持ち上げて、食材を買ってきたのでお世話になる彩歌さんに朝食を作ろうと思ったんです〜!と、自信満々に理由を話した。

 

「あっ、もしかして、もう朝ごはん食べちゃいましたか〜?」

 

私が首を振って答えると、ひまりさんは嬉しそうに朝食を作るので案内して下さいとお願いした。

 

「分かった、それじゃひまりさんはそこにあるスリッパを履いて付いてきてね。」

 

私が歩き出すと、スリッパを履いてパタパタと音をたてながら、ひまりさんは付いてくる。

 

「腕を振るちゃいますよ〜!」

 

キッチンに着くと、ひまりさんは早速シャツの袖をまくって料理を開始するようにしたところで、突然動きを止めた。

 

「そういえば、わたしエプロンしてませんでした〜!」

 

そう言い残して風のようにキッチンから風のように去っていった。

きっと、玄関に置いといたキャリーバックの中に入っているんだろう。

 

またもやパタパタと足音が聞こえ、狭い廊下からひまりさんがエプロンを着けて登場した。

全体的に真っ白なエプロンだが、所々にフリフリがあしらわれていたり、背中には大きなリボンを作るように腰紐を結んでいた。

ぱっと見る限り、メイドさんに見えなくもないデザインのエプロンだった。

 

「これは、外出用のエプロンなんですよ〜。 エプロン以外にも、割烹着とか、コックさんの服なんてのもあります〜。」

そう言いながらも、キッチンに立って調理を開始する。

 

目にも留まらぬ速さで料理をしていく姿に、若干の気まずさを覚えて、私はキッチン越しのリビングに移動した。

 

「これは、凄いのが来そうな予感がする……。」

そう、1人つぶやいた。

 

作ってもらった朝食をひまりさんと一緒に食べてから、しばらくした後。

 

今までの中で、最も美味しい朝食を堪能した私は、ひまりさんと今後の予定を立てることにした。

 

ひまりさんが、早速と言うように口を開く。

「さっき料理を作っている最中に拝見させて貰いましたが〜、少し食材ちゃんたちが少ないので買いに行きませんか〜?」

 

それは、私も思っていた事だったし、母さんたちが旅行に行っている間に使う分としてのお小遣いが私の部屋の机の上にあったので、お金はそれを使うことにしよう。

貰ったお小遣いは、なんと10万円……まあ、ゴールデンウィークに有給を取ってフルで休むなら、私だけとはいえ食事だとか様々な費用がかかるからだと思う。

それに、なんといってもひとり娘を家に1人にさせるんだから、それくらい何かしてくれなきゃ割りに合わないし。

 

ひまりさんの言葉に私は返答する。

「うん、私も丁度買いに行こうと思っていた所だし。」

 

すると、その言葉を聞いたひまりさんは息を巻いてあるチラシを出してきた。

そこには、私家から少し歩いた先にある商店街でセールが大規模的にやる、という内容だった。

 

「わたし、これにいきたいんです〜、ここで買い物しませんか?」

 

……ここの商店街はいった事なかったし、これを機に行ってみるのもアリかも。

 

「いいね、それじゃあ商店街が開くのが9時からだから、しばらくはのんびりしていって欲しいな。」

 

そういうと、ひまりさんはいそいそと携帯電話を取り出した。

しかし、ひまりさんが取り出した携帯電話は、今時には珍しく降りた畳まれたもので、俗に言うガラケーというものだった。

 

「すみません、わたしガラケーなんですけどRINEの交換しませんか〜?」

 

「……! うん、良いよ。」

 

RINEというのは、一種のコミュニケーションアプリで、その中でアカウントを作りQRコードだったりでアカウント同士を連結させて、簡単なメッセージのやりとりや、写真や動画までもが送り合えるというもので、複数人でグループを作って会話できたりもできるスグレモノだったりもする。

 

アカウント同士は、お互いの‘友達’として登録されることになる。

 

私も、先日貰ったスマホを取り出し、早速交換しあってみる。

 

ひまりさんの携帯を見ると、緑色で、全体的に少し丸っぽい外見をしていて、端の方には2つの出っ張りが出ていて、そこには目の様なものが描かれていて……って、これカエルの見た目をしている携帯なんだ。

 

RINEを開くと、早くも新規の友達の欄に「ひまり」という名前が現れる。

 

私は、それを友達登録して、やりとりが出来るようにする。

 

プレゼントされたスマホを色々いじっておいてよかった……。

と、心の中で呟きながら。

 




こうして文章に書いてみると、L●NEって便利なんですね〜。

というわけで、当初の構想予定を大幅に引き伸ばし、今回の話はおしまいです。

〜次回(嘘)予告〜

彩歌と陽毬の2人は、お泊まり会に必要な食材を求めて商店街へ。

しかし、そこには思いがけない人物が居て……?

次回、Lucky.30 こんどから

ん? どうやらさっきの予告は本当じゃないみたいですよ?


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Lucky.30 えらべずに (☆)

目を覚ますと、わたしはベットから落ちていた。

だらしなく四肢を広げて床に仰向けに寝そべってる状態。

布団が足元の床に散乱していて、ベットの上のシーツは剥がれかけていた。

 

「むむぅ、昨日はりんご、夢見が悪かったのかも知れないなぁ。」

 

ベットのさらに上を首だけ動かして見ると、二段ベットの上段があってそこには、人が居る気配は無い。

おねーちゃんはもう起きてしまったらしい。

ちなみに、わたしのベットは下でおねーちゃんは上のベットを使っている。

おねーちゃんは一階に降りちゃったぽいし、わたしもそろそろ行かないとかなー。

 

動け〜!動け〜!

 

……そう心の中で念じてみる。

それでも、わたしの足は動かない。

うーん、どうしたものか。

一応起き上がる気はあるんだけど、身体が動かない。

 

その時、ガチャリと音が鳴り部屋の扉が開く。

 

「もぅ、起きてよりんごっ! りんごの中学も今日授業あるでしょ?」

 

そう言って部屋に入って来たおねーちゃんはわたしの状態を見ると、ため息をついた。

 

「はぁ……全く何やってるのりんご。 ボクが部屋から出た時はちゃんと下のベットで寝てたじゃん。」

 

わたしは、そんな風に呆れてるおねーちゃんに返答する。

 

「おね〜ちゃん、足が動かないよぉ〜。 りんごを起こして〜!」

 

あまりの眠気に視界が霞む。

 

「もぅ、仕方のない妹ですねぇ!」

 

そう言うと、おねーちゃんはわたしの身体を持ち上げようとするけど……一向に動かない。

 

「うー、動かない……。 りんご、もしかしてまた身長伸びました? それに体重の方も……

 

わたしは、顔が真っ赤になってるのを感じながらすぐさま起き上がる。

 

「べべべ、別に増えてないし、た、体重なんてあってない様なものだよ、おねーちゃん!」

 

自分でもはっきりとわかるくらい声が震えていたと思う。

 

……恥ずかしい、恥ずかしすぎる。

 

「ちょっとー、椎名も、林檎もご飯できてるから早く来なさーい」

 

一階からおかーさんのわたし達を呼ぶ声が聞こえる。

 

「ささっ、おねーちゃん早く行こう?」

 

「りんご、起きれるなら早く起きてきてほしかったな……。」

 

あははは…、と曖昧にごまかしながら、わたしは階段を降り始めた。

 

 

 

「だから、りんごが思うに身長と同時に増えたわけだからあまり問題ないとね!」

 

登校中、わたしは少し誇らしげに友達に語る。

 

「いや、それは言い訳にしかならないと思う……。」

 

「さゆちゃん、そういう無粋なことは言わないに限るよっ!」

 

ワーワーと会話を弾ませながら、わたし達は中学校に向かう。

 

 

 

 

わたし達の中学校の正式名称は公立阿古架西(あこかにし)中学校と言ってかなり歴史の古い中学校だったりする。

どうしてこんな事を言い始めたかというと、公立校であるこの高校は、出席確認があるということだ。

ひっそりと教室に入ると、早速出席の確認が担任によって行われていた。

 

樫上 唱花(かしあげ しょうか)ー、いるかー?」

 

「はい、居ます。」

 

このクラスの委員長の唱花ちゃんは、真面目な子でみんなをまとめるのがすごい上手い。

去年も同じクラスで、類稀なる指揮力により、文化祭と体育祭共にクラスを1位に導いていた。

そんな子を横目で見やりながら、わたし達3人はひっそりと教室に入る。

 

「じゃ次、菊農池 亜未(きくのうち あみ)元気かー?」

 

「元気っすよ、ちょっとお腹が空いたくらいっす〜。」

 

「わかったー、給食まで待とうな、菊農池ー。」

 

くきゅるるというお腹の音が教室内に響き、唱花ちゃんのツボに入ったのかお腹を抱えて笑っている。

そろりそろりとわたし達はそれぞれの席に座る。

 

「はいはい、岸部(キシベ)・チャーティシア・絆凪(ハンナ)、いたら返事を……」

 

「ハイハーイ! いますよぉ、センセー!」

 

銀色っぽい綺麗な白髪に金眼の帰国子女のティアちゃんは、いつも元気で、クラスの人気者だ。

 

「あー、わかったわかった、ちょっと静かにな、岸部。」

 

「ええと、次は久米川 小百合(くめがわ さゆり)だが……」

 

「はい先生、私は席についてますよ。」

 

「あ、えっと、さっきまでいなかったのにいつの間に……?」

 

久米川 小百合、通称さゆちゃんは、わたしが中学に上がってから知り合った子で、忍者みたいに素早く動けたりする。

綺麗な桃色のかかった白い髪をサイドポニーテールにしていて、結構高身長な子だ。

わたしと同じく高校一年生の姉さんがいるらしい。

ただ、あんまり自分の事とかを話してくれない気がするから、その辺はあまり触れない様にしてるけど。

 

「まあいいか、煙山 井荻(けむりやま いおぎ)いるか?」

 

「はーい、オレはいつでも居ますよっ!」

 

煙山 井荻、通称いおっちは、俗に言うオレっ娘?というものらしい。 最初はおねーちゃんと同じ感じかと余っていたけど、本人に聞けば敢えてそう自分で言っているらしい。

青色の混じった黒髪をボブカットにしていて、いつも首からペンダントを下げている。

さゆちゃんと昔からの知り合いで、多少の護身術を教えていたらしい、という噂もあるくらい仲良しさん。

 

「元気があって良いな、次、恋ヶ窪 林檎(こいがくぼ りんご)。」

 

「はいっ!」

 

そう言うわたしは、少しカールした黒髪を肩まで垂らして、紅い目を持った普通の子だ。

お姉ちゃんと同じ色の髪と目を持っていて、私自身この2つが気に入っている。

ただ、髪質はちょっとだけわたしの方がカール気味だったりする。

それでも、気に入っているのは、オネーちゃんと同じだから単純に気に入ってるんだと思うし、そう言っている。

少々シスコンだとか周りに言われるけど、おねーちゃんが好きなものは仕方ない…………本人の前では絶対に言わないけど。

 

と、なにかと紹介している間に先生がクラスの出席確認を終えたらしい。

 

授業の支度をしてそろそろ真面目にやらないと。

だって、今年はもう受験生だ。

わたしはあんまり運動が得意じゃないから勉強を頑張るしかない。

おねーちゃんと同じところに行きたいし、後輩としても少しは見てほしい。

周囲からは目標が高すぎるなんて言われるけど、あの高校に入らなければならない。

 

かの名門校……天之御船学園に。

 

 

授業を終えた休憩時間

そんな風に息巻いたものの、わたしは机に突っ伏して気力を無くしていた。

 

「あー、りんごは疲れました……。」

 

そう言うと誰かの声が聞こえる。

 

「鏡音 リンちゃん、大丈夫?」

 

机の上の腕の中に顔を埋めている為、誰が言っているのかわからないけどツッコミはしておく。

 

「……人をVOCALOID(ボーカロイド)みたいな呼び方しないでよ……。」

 

りんちゃんと呼ばれることはあるが、名字を勝手につけられる覚えはない。

 

「はいはい、オレもそれくらいは理解できるよっと。」

 

この声はいおっちか。

何かとチョッカイをかけるのはいいけど、今わたしは疲れて眠いんだからそっとしておいて欲しい。

 

「今りんごは疲れているのです。 話しかけて欲しくないです。」

何となくおねーちゃんみたいな口ぶりで返答する。

 

「そっかー、疲れてるならオレんとこ来れないかぁ、せっかくさゆりーも誘ったんだけど。」

 

さゆりーというのは、いおっちが呼んでいる小百合ちゃんの呼び方だ。

わたしはさゆちゃんと呼んでいるけど、わたし達はお互いをあだ名みたいなもので呼び合っている。

席番号が近いということもあって、わたし達3人はよく一緒に遊んでいるからというりゆうもあったりする。

わたしは本来、いおっちからはりんりん、さゆちゃんからはこりんちゃんと呼ばれている。

さゆちゃんは、恋ヶ窪の「こ」と、林檎の「りん」を取ったあだ名を付けてくれたけど正直誰かわからなくて反応できない。

 

ガバリと顔を起こすと、わたしはいおっちに訪ねた。

 

「どこに行くの? 行くなら、りんごも行きたい!」

 

いおっちはそう言うわたしの顔を見るとニヤリと笑って言った。

 

「実は明日、温泉を無料で入りに行くんだけど、りんりんも一緒に行かない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ると、おねーちゃんがすでに帰ってきてて、おかーさんと話しながら玄関付近に荷物をまとめていた。

 

「あれ、おねーちゃんどこか行くの?」

 

わたしが靴を脱ぎながらそう尋ねると、おねーちゃんは説明しだした。

 

「実は、ボクの友達の家にお泊まり会を行く事になってるんですよ!」

 

羨ましいでしょうと胸を張って自慢げにしているおねーちゃんに、わたしはつい、冷たく反応してしまう。

 

「そーなんだ、楽しんできてね。 おねーちゃんが居なくてもりんごは平気だし。」

 

本当はこんな事言いたくないんだけど、気づいたら言ってしまう……。

おねーちゃんはわたしの言葉にむっとなると、少し怒った様な表情になる。

 

「そっか、りんごがそう言うなら寂しくないよね。 淋しくて泣いても知らないですよ!」

 

そういうと、荷物をそっちのけにして、部屋に戻ってしまった。

わたし達は一日中、口をきかなかった。

 

次の日、おねーちゃんが本当にわたしを起こしてくれなくて、11時に起きてしまった。

部屋を見渡すと、おねーちゃんが居ない。

一階に降りても、おねーちゃんがおらず、眠い目をこすりながらおかーさんにおねーちゃんがどこにいるか訊くと、どうやらおねーちゃんはもうお泊まり会に行ってしまったらしい。

 

わたしはおねーちゃんと仲直りするかも選べずにおねーちゃんは私の前から居なくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騙されたーーー!」

 

それから学校が終わった次の日。

わたしは正真正銘、無料で温泉に入れることになった。

……ただし、浴場内を掃除をしてからという条件付きで。

 

「いやさ、騙されたも何もオレも最初にりんりんに言おうとしたよ?」

 

「私も理由を説明しようと思ったら……こりんちゃんすぐ寝ちゃったんだもん。」

 

2人ともため息をついてブラシを床にこする。

 

ちなみに、わたし達の今の格好は半袖半ズボンの学校指定の体操服を着ている。

掃除しやすい様にと着替えたのだけれど、湿気で服が重くなって動きにくくなってる気がする……。

体操服を持ってきてと言われて何か変だとは思ったけど、まさか掃除をさせられる羽目になるとは……。

 

 

 

 

ここで掃除するちょっと前。

 

「はいっ着いた。 ここの温泉が無料で入れるところだよ。」

 

いおっちとさゆちゃんに連れられて来たのは、豪勢な温泉宿だった。

それじゃあ入ろうーと言って裏手側にある関係者用のドアに手をかける。

 

「いやいやいや、なんで関係者でもないのに入ろうとしてるの!?」

普通に表から入ればいいのではという前に、2人ともこちらを振り返ると、こう言った。

 

「いや、関係者だよ?」

 

事情を聞くと、いおっちはこの温泉宿の一人娘で、さゆちゃんをここで助けたことがあるらしい。

話を聞く限り、さゆちゃんが変な男に絡まれていたのをみかねて、その男を蹴り飛ばしたらしい。

 

それがきっかけで、この温泉宿をよく利用しているという、お得意様の久米川病院の院長の娘であるさゆちゃんと仲良くなったらしい。

さゆちゃんと、もう1人の姉(確か名前は牡丹と言っていた様な気がする)は、昔からお金や家族の繋がりを狙う輩が多く、その男もそのうちの1人だったらしい。

 

そんなこともあり、何かと忙しい時期の掃除に体力のあるさゆちゃんの手伝いをしてもらって、その日はお礼として温泉に入って貰うというギブアンドテイク的な約束が出来たらしい。

 

今回は、そんな約束事にわたしも巻き込まれたという事だった。

 

「そんなことないよ、こりんちゃん。 私以外の他の人にこのことをいおちゃんが行ったことないもん。」

 

そう言って、さゆちゃんは微笑んだ。

さゆちゃんって何かと表情を変えないイメージだったから、なんだか新鮮に映った。

 

 

 

「はい、お疲れ様〜ってね!」

 

いおっちが終了の言葉を発すると、わたしは思わずその場にへたり込んでしまった。

うーん、掃除するだけだと舐めてかかっていたけれど、以外に重労働だった。

昼過ぎくらいに集まって、1時くらいからやり始めて3時間ほど、みっちり掃除をすることになるとは……。

 

さゆちゃんは、温泉に入らずに帰って行ってしまった。

なにやら、お姉ちゃんが心配だということですぐさま家に向かったらしい。

 

「あと1時間くらいで入浴オッケーになるはずだから、それまでは休憩所にでも行って休んでいても良いよっ。」

 

オレはまだこれから準備があるからと言って、いおっちと一旦別れた。

 

 

 

体操服から着てきた服に着替えて休憩所に行って、いおっちに奢ってもらった牛乳の瓶の蓋を外す。

喉に冷たい液体を流し込みながら、なんだか満足した気分になる。

しばらくぼーっとしていると、そろそろ温泉に入れる時間になる。

 

「りんごも疲れましたし、温泉入ってゆっくりしよう……。」

 

1人そう呟き、脱衣所入ってから服を脱いでいく。

ブラのホックを外そうとする時に少しだけ手間取ってしまった。

 

……うーん、わたしの胸はまたもや成長を果たそうとしているらしい。

新しいブラを買いに行かなくてはと思いつつ、おねーちゃんを思い出す。

 

自分の身長や体型が成長をストップしてしまっているかもしれないと、おねーちゃんが日夜、戦々恐々としていると思うと、なんだかおねーちゃんに勝ってる気がしてちょっとだけ嬉しかった。

 

そろそろ入ろうかと思ったところで、脱衣所の入り口から声が聞こえてくる。

 

「流ちゃん! ボクこんなところに来たの初めてです!」

 

「そーでしょ、しーちゃんとか誘ってみんなで行きたかったんだよねー。」

 

「あぅ〜、2人とも待ってくださいよ〜。」

 

「ひまりさん、あんまり走んないで……。」

 

気になって、入口の方を見るとおねーちゃんが何人かの友達と一緒に入ってきたところだった。

わたしは思わず叫ぶ。

 

「ええーー! おねーちゃん!?」

「あれーー! なんでりんごが?」

 

それに続く様におねーちゃんも叫んだ。

 

「・・・・・2人とも・・・うるさいよ。」

 

おねーちゃんの友達のうちの1人がそう呟いた。




というわけで、まさかまさかの恋ヶ窪 椎名ちゃんの妹の林檎ちゃん回でした〜!

ひっそりと久米川 牡丹ちゃんの妹のさゆちゃんこと、小百合ちゃんも登場です!

他の中学のクラスメイト達も個性が強そうですね。

〜次回予告〜

彩歌と陽毬の2人は、お泊まり会に必要な食材を求めて商店街へ。

しかし、そこには思いがけない人物が居て……?

次回、Lucky.31 こんどから

更に、少年少女好き?というキャラメーカーを使って恋ヶ窪 林檎ちゃんを僕が作ってみました〜!


【挿絵表示】


中学校の名前ですが、あんハピ♪やおんハピ♪のキャラの名前の由来にもなっている西武鉄道線のメッセージロゴマークを縦読みしたものを参考にしました。
気になる人は是非お調べください。

ではでは、次回はもっと長くなるかも…?


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Lucky.31 こんどから

「それでは、そろそろ行きましょうか〜」

 

そう言いながら、ひまりさんはキャリーバッグから取り出した布製の手提げ袋を手に持ってドアを開けた。

今の時刻は9時を少しばかり過ぎたくらい。

もうすでに商店街に立ち並ぶお店が開き始めた頃なのかもしれない。

私もひまりさんの後に続いて外に出る、もちろん、お金や財布も持っていく。

その時の空は、曇り空の隙間から少し陽の光が差し込んでいて、綺麗だった。

 

 

商店街に着くと、そこそこの人が道々に居る。

商店街は、店が連なって立っている所を道を挟むようにガラス製でアーチのように天井があしらわれていて、商店街と言う割にはかなりおしゃれな外観をしていた。

 

「彩歌さん、どこのお店から入りましょうか〜?」

 

ひまりさんが嬉しそうに辺りを見渡して訊いてくる。

私自身もこの商店街に来たことは初めてだったし、なによりもどこに何があるかすらもわからない。

その辺のお店を適当に見繕って入るのも何だか気が引ける。

悩んでも仕方ないし、見て回った方が早いかな。

 

「ひまりさん、この辺に何かあるか私は知らないから、見て回らない?」

 

そう尋ねると、ひまりさんはにっこり笑って頷いた。

 

お洒落な服屋さんに、雑貨がたくさん置いてあるお店、それからこじんまりとした書店があるなど、初めてみる商店街の姿に私たちは足を止めてはお店を見て回っていた。

 

「色んなものが売られているんだ……」

 

そう私が呟くと、ひまりさんがお店にあった小物を手に取りながらこう言った。

 

「そうですね〜、割とお店の種類が豊富だと聞きましたし、どこかに大型のスーパーのようなお店もあるそうですよ〜」

 

大型のスーパーか……。

この辺にできたって聞いてたけど、まさかこの商店街の中にあるとは思わなかったな。

 

「ひまりさん、それじゃその大型スーパーを探してみない?」

 

ひまりさんは私の言葉を聞いて、持っていた小物をそっと棚にしまいこう言った。

 

「どこにあるか判りませんが、探しましょ〜!」

 

その表情は、宝物を探す少年のように輝きに満ちていた。

 

 

 

「ええと、メモ用紙は〜っと、あれ? 見当たらないですね〜」

 

なんとか探し回って大型スーパーを探してから、入店した直後のこと、ひまりさんが持ってきていた荷物を確認しようとしていると、何やら手間取っているみたいだった。

 

「ひまりさん、どうしたんですか?」

 

声をかけるとピクリッと震えたあと、恐る恐るというような動作でこちらを振り返る。

 

「あの〜、実は持ってきていた買い物リストを忘れてちゃいました〜」

 

少ししょんぼりしながら、私にそう話した。

買い物リスト……そう言えば、ひまりさんが私の家を出る前に何かメモ帳に記していたな。

忘れちゃったものはしょうがないし、せっかく楽しくお買い物してるから、あんまり責めないほうが良いよね?

 

「それは残念だけど、また思い出しながら買い物しようよ、ひまりさん」

 

「そ、そうですね〜、わたし今から何とかして買うもの思い出します!」

 

そう言ってひまりさんは頭を抱えてウンウンと考えている。

なんだか見ていて微笑ましくなって私は優しい気持ちでひまりさんを見つめていた。

 

 

「っと、こんなものですかね〜」

 

ある程度の食材を買い込んだ私たちは、大型スーパーから商店街の道へと戻ってきた。

それぞれの手には、スーパーの名前であるきららやスーパーと書かれたビニール袋を持っている。

 

「いや、結構買い込んだね。 私あんまり1人で食材とか買いに行かないからなんか新鮮かも」

 

ご飯は両親が材料をいつのまにか買ってきてしまっていたので、自分で買いに行くという経験は、私にとっては初めてだったりする。

ひまりさんの方はとても満足そうで、自分で持ってきた袋に食材を入れて持っている。

 

「そうなんですか〜、わたしはよく一人で色々買いに行きますよ〜」

 

一人で、か。

少し話が変わっちゃうかもしれないけど、こうして友達と買い物に出かけるなんて今までなかったかも。

今までじゃ考えられなかったけど……

 

「それにしても、さっきにお店は色々なものが売ってましたね〜」

そう、ひまりさんは嬉しそうに語る。

ついつい考え事をしてて、危うく聴きそびれるところだった。

 

「そ、そうだね、食材メインの何でも屋さんみたいな所だったし」

実際に、大型スーパーと言っておきながら、店内にスポーツ用品(テニスのラケットとか)、衣料品(可愛らしい服とか)なんかも置いてあって食材を買いに行く以外にも何かと楽しめた。

 

「彩歌さん、荷物も荷物ですしそろそろ帰りましょうか〜」

 

私もひまりさんの言葉に同意して歩き出そうとした時、遠くの方から声が聞こえた。

 

 

「ねえねえ〜! もしかして会った事ある?」

 

商店街の反対側の方の入り口から、金髪のようなオレンジ髪を頭の上でお団子にした子が、こちらに呼びかけながら走ってくる。

途中息を切らして私たちのところにたどり着くと、目を輝かせて話し出した。

 

「もしかして、身体測定の日に私たちって会ったことある?」

 

私とひまりさんは顔を見合わせて首を傾げた。

うーん、どこかで観たことあるような気もするんだけど…………あっ、あの時階段から落ちてきた子か。

 

「確か名前は……花子さん?」

 

おぼろげな記憶を頼りに言葉を紡ぐ。

私の言葉を聞いた花子さん?がまたもや目を輝かせて必死に頷いている。

 

「そうだよっ、私、実は花小泉 杏って名前があるんだけど、友達のヒバリちゃんがはなこって呼んでくれるんだっ!」

 

私のことは、はなこって呼んでくれるとうれしいな〜、と嬉しそうに話す。

そうか、てっきり花子という名前かと思ったけど、花小泉から文字をとってはなこなんだ。

そう、なんとなく理解して、実際に呼んでみる。

 

「私は西沢 彩歌っていうの、これからよろしくね、はなこ…さん」

 

うーん、私の性格上、どうしてもさん付けで呼んでしまう……。

 

「よろしくねっ、アヤカちゃん!」

 

「う、うん、よろしくね」

 

なんだかいつも楽しそうな子だな、そう感じた。

 

私たちの自己紹介を聞いて、ひまりさんも慌てて名乗る。

 

「わたしは、玉上 陽毬といいます〜、はなこちゃんもお買い物ですか〜?」

 

そう言ってひまりさんは買い物袋を持っている方の手を挙げた。

はなこさんは首を振ってこう言った。

 

「違うよ、今家を出てここに来たら見たことある気がするなーって思ったから思わず声をかけちゃっただけだよっ♪」

 

……凄い何となくで行動してるのか、記憶力が良いのか私には分からないな……。

 

「あの〜、はなこちゃんってどこに住んでるんですか〜? 話を聞く限り割とこの辺のようですが〜」

 

ああ、それならアッチだよ、と言ってさっきまでいた商店街の反対側にある入り口を指差した。

 

ソコは、私が不幸を発揮していないのにも関わらず暗雲が立ち込め、カラスが飛び回っていて如何にも不吉な印象を受ける。

さらに良く観てみると、道路を挟んだ先に住宅地が広がっていて、その中でも一際目立つ一軒家が立っている。

なぜ目立つかというと、明らかに雰囲気が他の家よりもドロドロしていたからだ。

 

……私の目の前にはとんでもなく不幸な子がいるのかも知れない。

 

そう考えてしまうほど、その光景は異様だった。

 

 

「それじゃあ、またね〜!」

そう言って、船長か何かのように片手をピシリと額につけて敬礼のポーズをとっている、はなこさんに手を振って別れた。

 

あれからしばらくおしゃべりをしてから荷物も重いし、また学園でということになった。

重い荷物を運びつつ、何とか私の家まで帰ってこれた。

 

「おつかれさまです〜、わたし食材たちを冷蔵庫に入れてきますね〜」

そう言って、ひまりさんは黙々と手を動かした。

 

私も手伝おうと試みたけど、ここはわたしが〜!と息巻いていたので、無理に止めるのも少し気が引けて、荷物だけ運んでリビングで1人待っている。

チラリと冷蔵庫のあるキッチンを見てみれば、ひまりさんが用意を終えたのか、満足そうにしてこちらにお皿を運んでくる……って、お皿!?

 

「彩歌さ〜ん、お昼ご飯できましたよ〜」

 

良く見てみると、ひまりさんの格好も割烹着を着たものになっている。

冷蔵庫に食材を入れながら料理もしてたって事……?

なんて凄い人なんだ、ひまりさんは……。

 

「あ、ありがとうひまりさん。 朝どころか昼もご飯作って貰えるなんて……」

 

「気にしなくて良いんですよ〜、因みに、今回はお蕎麦にしてみました〜」

 

麺つゆや、薬味まで用意された美味しそうなお蕎麦が私の眼の前に並んだ。

これネギを切ったり、海苔を用意したり、お蕎麦も茹でるのを考えると同時進行でやってのけたのは、私にとっては驚きでしかないんだけど、うん、食べようかな。

 

「いただきます」

 

「わたしもいただきます〜」

 

2人して蕎麦をすする。

 

蕎麦をすする音だけが響く部屋で、何となく話しづらくていると、インターホンが鳴った。

 

「だ、誰か来たみたいですね〜」

 

蕎麦を口にすすりながら、ひまりさんが顔を上げてそう言った。

 

「もしかして、恋ヶ窪さんたちかもしれないから、私行くね」

 

私は急いで蕎麦を片付けると、玄関のドアを開けた。

するとそこには、恋ヶ窪さんに流さん、そしてナノちゃんまでもが揃っていた。

 

蕎麦を食べていた時の時間は1時ちょっと前くらいだったけど、流さんたちが来てから、あっという間に時間が過ぎた。

私の家の中で、流さんが持ってきたゲーム機を遊んだり、ちょっとうたた寝をみんなでしてしまったり、ナノちゃんが持ってきたお菓子をみんなでおやつとして食べたりしているうちに、3時30分くらいになっていた。

 

「いやー、また負けちゃったー、しーちゃんもう1回!」

 

嬉しそうに流さんがそう言いながら、またもや恋ヶ窪さんに持ってきたゲームで勝負を挑もうとしていた。

 

「ふたりとも・・・その辺に・・・・・しな・・い・・・?」

 

ナノちゃんが2人の様子を見かねたのか注意を促していた。

 

「あの〜、わたしもやってみたいです〜」

 

そろそろとひまりさんも参戦しようかという時だった。

唐突に流さんが立ち上がって叫んだ。

 

「忘れてたーーー!」

 

その声に、みんなが視線を流さんに向ける。

 

「ふぇ……何を忘れていたんですか〜?」

 

ひまりさんが流さんに恐る恐る尋ねる。

流さんは、みんなの顔を見渡した後にこう言った。

 

「ね、みんなで温泉に行かない?」




というわけで、次回からは温泉回!

あの子とも合流しますよ……?

〜次回予告〜

温泉宿へと向かった彩歌たち。

しかし、そこには椎名の知り合いが居て……?

次回、Lucky.32 だきついて

これからどうなる!?


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Lucky.32 だきついて

温泉に行かない?と流さんに誘われ、5人で夕飯前に行くことになった。

話によると、流さんの知り合いがその温泉宿で働いていて、何かと安くその温泉に入れるらしい。

流さんは自分のスマホを取り出して、その知り合いに連絡を入れているようだった。

 

「あーそれで、今から行きたいんだけど大丈夫かな?

「そーそー、この前みたいに……って間に合ってるんだ。

「え?

「客は多いほうがいいって?

「オッケー、わかった。

 

スマホを耳元から離してこちらを向くと、流さんは苦笑いを浮かべて言った。

 

「もしかしたら無料で入れちゃうかも」

 

そんなことを思い出しながらバスに揺られ、その温泉宿に向かう。

 

 

バスが停留所に到着し、私たちはバスから降りようとしたんだけど……。

私以外の4人がバスの座席でもたれ合いながら、眠りこけていた。

どうも静かな訳だと思ったら、全員眠っているとは……。

 

どうにか起こそうと一番近くの席に座っていた恋ヶ窪さんの肩を揺する。

 

「うーん、アレ、ボクってば寝てたんです?」

 

すると、目をこすりながらも恋ヶ窪さんは起きてくれた。

私がほっと胸をなでおろすと、恋ヶ窪さんと二人掛かりで残りの3人を起こすことにした。

恋ヶ窪さんは流さんとひまりさんが座っている席に、私はナノちゃんの座っている席に行くことになった。

 

私は、ナノちゃんの肩を揺さぶりながら呼びかける。

 

「ナノちゃん、温泉宿に着いたよ、そろそろ起きないと」

 

薄っすらと目を開け、欠伸をしながらナノちゃんは席から立つ。

 

「・・・・ごめん彩歌、ワタシ・・・・・寝て・・・た・・」

 

恋ヶ窪さんの方を見ると、他の2人を起こしていた。

 

「彩歌ちゃん、流ちゃんと陽毬ちゃんも起きたみたいです」

 

私たちは5人でバスから降りる。

 

すると、目の前に立派な建物が現れた。

ひまりさんの鳳玉亭に負けず劣らずな豪勢さで、屋根には瓦が敷かれ入り口には立派な引き戸があって、繁盛してるであろう事がわかる。

あまりのきらびやかさに私たちが動けないでいると、流さんが入り口の前に立ち引き戸を開ける。

 

「おっ、もう開店してるみたいだねー、みんなも入って入って」

 

まるで我が家のように振舞っている流さんに連れられて入ると、外観に見合う内装も中々綺麗だった。

 

「おおー! 凄いところですねー!」

「わたし、和のテイストとか好きなんです〜」

 

「でしょでしょー、しーちゃん、ひまりん!」

 

はしゃぐ恋ヶ窪さんにひまりさん、それを受けて流さんも嬉しそうだ。

 

温泉宿に入ってすぐの所に受付があり、私はそこが気になっていた。

受付の場所には大人が立っておらず、中学生か高校生くらいの少女が立っていた。

その子は、青色の混じった黒髪を短くボブカットにしていて、青い瞳で暇そうにボーッとしていた。

 

「流さん、あの子って……」

 

私の言葉と視線で気づいたのか、流さんが笑顔でその子がいる受付に歩いていく。

受付の前まで着くと、流さんが受付にいる子に声をかけた。

 

「いよっ、ひっさしぶりー、後輩ちゃん!」

 

その声に、暇そうにしていた子が流さんに気づき、表情が段々と明るくなっていく。

更に大きく頷くと、嬉しそうに返した。

 

「はい! 久しぶりですっ! オレ寂しかったですよ〜!」

 

……どうやら、流さんと受付にいる子は、旧知の仲らしかった。

 

 

「それじゃっ、紹介するねー、この子は煙山 井荻(けむりやま いおぎ)って言ってアタシが中学生の頃によく水泳のクラブで一緒だった子なんだ」

 

そう言って流さんは受付の子、もとい井荻ちゃんの肩に手を置いてそう紹介した。

井荻ちゃんはペコリとお辞儀をすると、話した。

 

「初めまして、オレはこの宿を経営している煙山 井荻っていいますっ、よろしくですっ!」

 

それから、井荻ちゃんは説明し始めた。

井荻ちゃんが言うには、無料で温泉に入れる代わりにここの手伝いをして欲しいということだった。

それでも、そのお手伝いは温泉に入ってからでも良いということで、私たちには早速温泉に入って欲しいと言った。

ということで、私たちは女湯と書かれた暖簾(のれん)をくぐる。

 

「流ちゃん! ボクこんなところに来たの初めてです!」

 

「そーでしょ、しーちゃんとか誘ってみんなで行きたかったんだよねー。」

 

恋ヶ窪さんと流さんがそう話しながら先頭を行く。

 

「あぅ〜、2人とも待ってくださいよ〜。」

 

そこに、ひまりさんが走ってついていくので、思わず私は注意をした。

 

「ひまりさん、あんまり走んないで……。」

 

すると、脱衣所の方から声が聞こえる。

 

「ええーー! おねーちゃん!?」

「あれーー! なんでりんごが?」

 

私とナノちゃんも慌てて脱衣所に入ると、以前見た恋ヶ窪さんの妹の林檎ちゃんと恋ヶ窪さんが向かい合って叫んでいた。

その光景を見ていたナノちゃんがボソリと呟いた。

 

「・・・・・2人とも・・・うるさいよ。」

 

 

 

「ふぅ……」

 

私は肩まで温泉に浸かって、ゆっくりと息を吐く。

やっぱり、温泉は入ってみると気持ちよくて肌がつるつるになったりと、良いこと尽くめだ。

 

「ひゃっほう! ひまりんの体洗ってあげるよー!」

「遠慮しておきます〜! ひゃっ、変なところ触らないでくださいよ〜!」

 

「りんご、あのさ、どうしてそんなにスタイルが良くなるの?」

「うーん、マッサージをするとか…?」

 

……周囲が騒がしい事を除けばだけれど。

ほぼ開店同時に入れたためか、私たち以外に温泉に入っている人は居ないんだけど、とにかく騒がしい。

 

流さんはひまりさんに抱きついてるし、恋ヶ窪さん達は温泉に入っているものの姉妹間のスタイルの違いに思い悩んでるしで、ゆっくり入れない。

 

「・・・彩歌、隣・・・良い・・かな・・?」

 

ナノちゃんがやってきて、私の隣に座って良いかを尋ねてきた。

私は、頷くことでそれに応える。

 

静かに私の隣に温泉へと使ったナノちゃんは、少し濡れた髪を手で弄りながら口を開いた。

 

「・・・・ありがとう・・彩歌・・・」

 

突然のお礼の言葉に、私は混乱して、ナノちゃんの方を見てしまう。

すると、そこには微笑を浮かべたナノちゃんが優しげな目つきで私を見つめていた。

 

「多分・・・もう1人の・・・ワタシの・・・・ことで・・・お礼・・・・・言いたくて」

 

もう1人のワタシ……か。

あの事はほんの数日前の事なのに、遠い過去のように感じる。

今私が見えているナノちゃんは、ゴールデンウィーク前のナノちゃんと何ら変わりないけど、話を聞く限り、あの時のナノちゃんと今のナノちゃんは1つに成ったらしかった。

どちらかが否定をするのでは無く、どちらかを優遇すことは無く、お互いがお互いを認め合った、ということなのかな。

 

「気にしなくて良いよ、私は何も出来なかったし」

 

今思えば、私はあの場において何も出来なかった。

勝手にナノちゃんが自分の力で解決したことだ。

 

あの時、私は……

 

「ちょっと流ちゃん、ボクの胸を揉まないで欲しいですっ!」

「しーちゃん、大きくするにはマッサージが重要らしいよー!」

 

またもや、流さんが騒がしくしているらしい、全くあの人は……。

 

それからは、林檎ちゃんも加わった6人でいろんなところを見て回った。

夕日が見える露天風呂だったり、炭酸水みたいになっているところだったり、サウナで我慢対決したり。

終始騒がしかったけれど、みんなが楽しそうな表情をしているのを見て、騒がしくても良いかなと思った。

 

 

 

温泉から上がると、脱衣所で井荻ちゃんが待っていた。

腰に手を当てて胸を張り、私たちに自信満々に語った。

 

「みなさんにはこれから、この服を着て売り子をしてもらいますっ!」

 

そうして取り出したのは……メイド服だった。

 

その服を見て、誰も、何も言わない。




ということで、割と短めでしたが温泉回でしたっ!

おんハピ♪を楽しんで頂けるあなたに感謝を。

〜次回予告〜

まさかのメイド服で売り子をする事になった彩歌達。

そこで彩歌達を待ち受けていたものとは……?

次回、Lucky.33 れいせいに

それでは、また来週〜!


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Lucky.33 れいせいに (☆)

井荻ちゃんの提案により、みんなでメイド服を着ることになった。

なにやら、その格好をしてこの温泉宿の売り子をして欲しいのだそうだ。

本人が言うには、売り上げアップと話題作りという事らしいけど、本当なのかな?

 

着替えている最中、衣装であるメイド服について私たちは喋っていた。

 

「ボク、こういう様なフリフリした服は好きです」

 

いそいそと、恋ヶ窪さんは着替えながらそう言ったが、そのすぐ隣で着替えている妹である林檎ちゃんはそうでも無いようだった。

 

「りんごは、こんな恥ずかしい格好するの初めてだよ」

 

「へー、やっぱり姉妹でも別れるモノなんだねー」

 

と、流さんはニヤニヤしながら言った。

すると突然、ひまりさんがこう言った。

 

「わたし、こんな格好をしてる子が知り合いにいますよ〜」

 

「え⁉︎ ひまりんそれ本当なの?」

 

すかさず流さんがその話題に食いつく。

確かに、私も気になるし、恋ヶ窪さんみたいな例だったら趣味の一環だけど、メイド服ということは何かの仕事だからかな?

 

「そうですよ〜、その子は洋食屋さんで働いてますが、その子だけメイド服を着ているんです〜」

 

「え、1人だけ着てるんだ……」

 

と、私は驚いて思わず口に出てしまった。

 

「・・・・・不思議・・・かも・・?」

 

ナノちゃんがそっと呟いたところで、みんなの着替えが終わり更衣室をみんなで出る。

みんながメイド服を着込んでいるので、なんだか気恥ずかしい。

 

出てみると、受付の方に井荻ちゃんが頬杖をついて私たちを待っていた。

 

【挿絵表示】

 

「オっー、みんな似合ってますねっ!」

 

私達を見つけ、勢いよく立ち上がりながら流さんと同じような笑みを浮かべて、井荻ちゃんは林檎ちゃんに話し掛ける。

 

「いやー、りんりんも似合ってんじゃんっ」

 

その言葉に、林檎ちゃんは恥ずかしがって俯いてしまった。

 

「まーまー、この辺にしてさ、後輩、アタシ達はどこで売り子れば良いのかな?」

 

「あー、それはですね……

 

井荻ちゃんは流さんの質問に答えた。

 

 

「うぅ、わたし恥ずかしです〜」

 

「それは僕もだよ、陽毬ちゃん」

 

「おーいそこ、無駄話しないでしっかり売ってねー、アタシ達で空ビン運んでおくから!」

 

そう言って、流さんは手に持った牛乳瓶の箱を手に持った。

私たちは、牛乳販売を手伝うことになった。

といっても、ある程度の飲み物は自販機で買えるので、スムージーやアイスクリームなどはカウンターで販売しているのでそこでのお手伝いをすると言ったものだ。

今は、私と流さんの2人で牛乳瓶を運び、恋ヶ窪さんとひまりさん、それとナノちゃんがカウンターに立っている。

 

2人で牛乳瓶の入った箱を運びながら、別段することもなくて私は口を開いた。

 

「そういえば、流さんは水泳って上手いんですか?」

 

その言葉に、流さんは一瞬動きを止めてからこちらを向き、頷いた。

 

「まあ、そうだよ。 アヤカは泳げる人?」

 

私は……どうなのだろう、中学生の頃は泳げたけど中学二年生から水泳の授業が選択になって選ばなかったから、ここ2年くらい泳いで無い……かな。

 

「うーん、最近泳いで無いから分からない……」

 

と、曖昧な返事をしてしまった。

 

そっか、と流さんひと言いうと、早足で歩いて行ってしまった。

……なんだか流さんを怒らせてしまった気がするけど、なんだか理解できない。

 

 

「皆さん!オレの温泉宿の料理食べて行って下さいっ」

 

という井荻ちゃんの言葉に甘えて、私たちは温泉宿の中にある食事処で腹ごしらえをした後に、みんなで入り口に戻っていた。

 

 

「はいっ、皆さんお疲れ様でしたっ!」

 

その井荻ちゃんの言葉を最後に、私たち5人と林檎ちゃんと井荻ちゃんたちと別れた。

恋ヶ窪さんと林檎ちゃんは喧嘩していたらしかったけど、もう仲良くなっていて、数日後には家に帰るから、と恋ヶ窪さんは林檎ちゃんに伝言を頼んでいた。

どうやら、林檎ちゃんはこのままここに泊まっていくらしい。

 

帰り道のバスに揺られながら、私の家の付近のバス停に着くと、みんなでバスから降りた。

 

「みんなでお泊まり会、楽しんで欲しいな」

 

そう呟くと、みんなは私の方を向いて笑いながらこう言った。

 

「「「「もちろん!」」」」

 

 

私の家に帰ると、まだ寝るには時間が早いということで、遊びをすることになった。

 

「何かいいゲームないかなー」

 

流さんは対戦ゲームだと恋ヶ窪さんやナノちゃんに勝てないため、他のゲームをしたいようだった。

トランプとかならあるけど、他のものがいいよね、うーん私も分からずに頭を悩ませていると、ナノちゃんが自分のカバンからボードゲームを取り出した。

 

「あの・・・、みんなで・・これ・・・やらな・・い・・・?」

 

恋ヶ窪さんがそのボードゲームを受け取り、書かれていたタイトルを読み上げる。

 

「ええと、人生急落ゲーム〜Life is Dead〜って、すごそうなゲームです〜」

 

ひまりさんが、人生急落ゲームの取扱説明書を取り出して読み上げる。

 

「え〜、このゲームの盤面にはたくさんのイベントマスがあって、サイコロを順番に振ってゲームを進めると書いてあります〜」

 

ひまりさんの言葉に、流さんがウキウキしながら言う。

 

「おおー、よくあるボードゲームならちょっと自信あるよー!」

 

しかし、ひまりさんが続けて言った言葉でみんなは頭を悩ませることなった。

 

「これ、ゴールに着いた時に一番所持金が少ない人が勝利みたいですね〜」

 

……これは、なかなかひねくれたボードゲームのようだった。

 

 

「次はボクですね、えいっと!」

 

サイコロが転がり、2の面を上にして止まる。

 

恋ヶ窪さんは自分のコマを2つ分マスを進めて、止まった場所を読み上げる。

 

「おお! 自分で開発した商品が大ヒット!二千万円入手だって!」

 

喜んでいる恋ヶ窪さんに、私は呼びかける。

 

「いや、だから増えたらむしろダメなんじゃ無い?」

 

と、その言葉を聞いて思い出したのか、恋ヶ窪さんは少しだけしょんぼりしていた。

 

「次はわたしですね〜、ほいっ!」

 

サイコロが回りながら転がって4の面を上に向けた状態で止まる。

 

「ふむふむ、自分への高級ご褒美スウィーツを購入! 五百万円使った……ぜひ食べて見たいですね〜」

 

「あっ、次は彩歌さんですよ〜」

 

そう言って、ひまりさんは私にサイコロを渡してくれた。

 

 

 

ゲーム開始から2時間経過して、とても困ったことになっている。

ゲームももう終盤でそろそろゴールにつく人がいてもおかしく無いんだけど、今の私の所持金は、なんとマイナス3億六千万円。

ゲーム的には勝っているんだけど、なんだか気分的には勝ってる気がしない。

 

「次はいい目が出ますように……えい」

 

サイコロは盤面の上を転がり、5を上にして止まる。

 

「説明には……運命の出会い!結婚相手が見つかる!…

 

「おおー、いいじゃんアヤカ!」

 

と、流さんが茶々を入れる。

 

「…が、詐欺だった。五千万円だまし取られる……だって」

 

はあ、私はため息をついてサイコロを流さんに渡す。

 

「アヤカ、そのごめんというか、うん、アタシ振るね」

 

サイコロは6の面を上にして止まり……

 

 

 

「ということで、優勝はマイナス4億2500万円で、彩歌さんの勝利です〜!」

 

パチパチとひまりさんが拍手を送ってくれた。

私としては、あんまり嬉しく無い結果だった。

 

「何だろう、この勝ったのになんとも言えない虚無感は……」

 

所持金がマイナスになった所で、まずいなと思っていたけど、まさかそのままプラスに戻ることなく、マイナス負担を背負い続けることになるとは……。

 

「ボクが最下位でプラス二億3000万円です」

 

そう言った恋ヶ窪さんの表情は、少しだけ嬉しそうだった。

 

「・・・・彩歌、優勝・・・・おめで・・・とう・・」

 

そう言いながら、ナノちゃんが私にうんまい棒を手渡した。

味付けは、こんぽた味と書いてある。

 

「ありがとう、ナノちゃん」

 

気にしないで、と言い残しナノちゃんはお手洗いに行った。

 

 

「さて、もうこんな時間だし、そろそろ寝ますかー!」

 

時計を見ると、23時を過ぎた所だった。

今日は疲れたし、もう寝ようかな。

 

「あの〜、彩歌さんわたし達の分の寝床はどうすれば良いですかね〜?」

 

寝床か……5人分ともなるとバラバラで寝るとかって、そういえばアレがあったんだっけ。

私は、あることを思い出して、二階に向かった。

 

十数分後、私たちはリビングにあった机を退けて、そこに5人分の布団を敷いていた。

 

忘れてたけど、5枚かそこらの余った布団が押入れに入っていたので、それを利用した形だ。

何年か前に母さんが間違えて(なぜ間違えたかはいまだに謎)買ってきていたものだった。

 

みんなで寝巻きに着替えてから、布団に潜り込む。

ちなみに、私の(ひまりさんの言う所の可愛い)パジャマは、散々流さんにからかわれた。

 

電気を消して私は呟いた。

 

「今日は楽しかった、おやすみ」

 

みんなそれぞれに、就寝の言葉を口にしていく中、流さんだけが押し黙っていた。

すると突然むくりと起き上がり、私たちにこう言った。

 

「ねっ、みんなこれから枕投げしない?」

 

その提案に、良いですねと恋ヶ窪さんが加わり、ナノちゃんもやりたいと起きた所で、私は部屋の電気を付けた。

 

「私もやりたい…な」

 

おお、乗り気だねと流さんが言いながら、何かに気づいて会話を止める。

人差し指を口元に立ててしーと声を掛けながら、反対の手で指差すと、そこにはスヤスヤと寝間着の浴衣を着て寝るひまりさんの姿があった。

 

「ここは、ボク達もおとなしく寝ましょうか」

 

コクリと頷いて私は部屋の電気を消す。

 

「それじゃ、今度こそおやすみなさい」

 

楽しかった1日も、これからみんなと過ごすことで今日よりも明日が楽しくなると思いながら、私の意識は眠りへと向かっていった。




私は江古田 蓮って言うんだけど、なんだか次回予告をしないといけないんだよね。

ふぁ〜あ、まだ眠いから手短に話そうかな。

え、どうしていつも寝てるのかって?

それはね……何でだろう、好きだからかな?

ヒビキには寝ないようにってよく言われるんだけど、うーん、眠くて……。

どうにも……意識が………zzzZZ

次回、Lucky.34 んんっ、もしかしてねてた?

それと、イラストをくれたはるきゃべつ。ありがとね。

それじゃあ、私はもちょっと寝るね。

おやすみ………。


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Lucky.34 んんっ、もしかしてねてた?

お泊まり会とはいっても、実質的には友達の家に集まって遊び、そこに家で泊まるというイベントが加わっただけだ。

そう心の中で思っていた。

内容がどうであれ、きっと友達と仲良くなり、もしかしたらかけがえのない思い出になるのかもしれない。

あんまり今までは友達と関わりがなかった私だけど、今回1つ気づいたことがある。

 

……どうやら、私の友達は普通じゃないようだった。

 

〜〜〜

 

まぶたの裏に浮かんだまどろみは、鼻をつく良い匂いによってすっかりと消え去ってしまった。

目を開けると、天井は私の部屋にある電球……ではなく、リビングに置いてある電灯が見えた。

私はいつのまにこんな所で寝ていたかと身を起こそうとすると、何時もの毛布がなく、代わりに来客用の布団で寝ていた。

起き上がって周囲を見渡すと、私の使っている布団以外に5つもの布団が敷かれていた。

そのどれもすでに人はおらず、綺麗に畳まれていたり、ぐちゃぐちゃのまま放置されていたりと、寝ていた人たちの性格が現れているようだった。

私は頭がぼーっとした中で、昨日何があったかを思い出そうとする。

 

「むにゃ、昨日は何が、えっと……そう、確かみんなが遊びに来てて……」

 

そう、そうだった確か昨日からお泊まり会があってこのゴールデンウィークを利用して五人で集まってて……。

 

そんな風に思考を進ませていると、キッチンの方から足音が近づいて来た。

私は誰が来ていたのかがわからなかったので、振り返って確認してみる。

そこには、ひまりさんがお玉を持って私の様子を見に来ていたようだった。

しかし、その格好がいささか衝撃的すぎると言うか、朝っぱらから扇情的だった。

料理のためかフリフリのついた真っ白なエプロンを着けているのはまだ良いとしても、問題はそのエプロン以外のところにあった。

なんと、ひまりさんはエプロン一枚だけ着ていて、他の衣類は一切身に纏っていなかった。

一切とは言っても、白色の長めの靴下にスリッパだけはきちんと履いている。

しかし、私の目の前に居るひまりさんは、普段は家の中にいて料理をしているからか日焼けはしておらず、白いながらも淡く桜色に肌が潤っていて、滑らかな陶器というよりも透き通ったガラスのようだった。

更には、エプロンの端から覗く綺麗な太ももは白く輝き、腰からお腹にかけての健康的なくびれは滑らかで、エプロンの紐しか掛かっていない肩から伸びる両手は華奢ながらも料理の腕を振るっていたからか、弱々しい感じはなくたおやかだ。

そして、何よりも目を引くのがその(同い年とは思えない)胸だった。

エプロンを押し出して2つの山を作り、谷間を表すかのごとく山々の間の布地に凹みがある、また、エプロンに収まりきらなかったのか胸の両端は少しだけエプロンから顔を覗かせていた。

 

「……彩歌さん、あの〜、寝ぼけているのかもしれませんが、わたしの前で呆けないで下さいよ〜」

 

…はっ、あまりの光景に私はしばらく呆けていたらしい。

 

「朝ごはんができたので、そろそろおふとんを片付けたくて〜」

 

「ああ、わかったよ、ひまりさん隣部屋に押入れがあるからそこまで運ぼう」

 

そう言うと、わかりました〜と言って自分が寝ていたであろう(綺麗に畳まれていた)布団から片付け始めた。

ひまりさんが布団を片付けている姿をちらりと見たのだけれど、すぐに私は目を逸らした。

なにせ、今のひまりさんの格好は尋常じゃない。

あんな格好で布団を片付けようとなんてすれば、後ろから見たときにいろんな見えちゃいけないものが見えてしまっていた。

……下着は着けていたけど下だけだったし、明らかにここは異常なんだと思った。

 

「いやいや、もしかしたらソッチ方面に趣味を持っているとか……」

 

「彩歌さん、おふとんを運ぶのを手伝ってください〜」

 

「あっ、わかった」

 

ひまりさんが必死に布団を運ぶのを私も手伝いながら、なんとかして6つの布団を全て押入れの中に詰め終わった。

私は、ひまりさんに服を着て来るようにそれとなく促して、ひまりさんは着替えを別の部屋で行なっている。

そういえば他のみんなはどうしたんだろう?

昨日の夜に、ひまりさんが早く寝てしまって枕投げ大会が中止して、みんな早々に寝たのに私だけが遅く起きてたし、いったい今は何時なのかなと思って時計を見ようとしたら、後ろから肩を叩かれた。

 

「アヤカー、帰ってきたよー!」

 

振り返ると、流さんの他にナノちゃんと恋ヶ窪さん、そして若葉さんが立っていた。

それぞれにバケツが握られていて、覗き込むと魚が数匹泳いでいた。

恋ヶ窪さんが、私に嬉しそうに話しかける。

 

「近くに流れていた川に行ったんだけど、そこで釣りしてみたらいっぱいお魚さんが釣れたんです!」

 

「ましろも行ったけど、ながるーが川に近づかなくて不思議に思ったよぉ〜」

 

(なのか)は、陽毬くんに釣った魚が食べれるかどうか見て欲しいんだ。」

 

みんないっぺんに喋られても、私は混乱してしまうだけだった。

それでも、もっと混乱したことがあった。

流さんは身長が私より高かったのに恋ヶ窪さんより少し高い程度で、恋ヶ窪さんはいつもと変わらない筈なのにどこか暗いオーラを纏っていて、ナノちゃんはあの時のもうひとりのナノちゃんになっていた。

これはどう言うことなのかな?

混乱しながらも状況を把握すると、4人で近くの川で魚釣りをしてきたってことかな?

取り敢えずは、ひまりさんが今どこにいるのかは伝えよう。

 

「魚が釣れたのは良かったけど、ひまりさんなら今着替えに行ってるよ」

 

着替える前の格好について、聞いてみようかな。

私以外なら、起きる前に見てる筈だろうし、どうしてひまりさんの寝巻きである浴衣から、あんなハレンチな格好になったのかという謎がわかるかもしれない。

 

「ねえ、みんなってひまりさんを見て何か変だなって感じなかった?」

 

私の質問に、みんなはキョトンとして目を丸くする。

口々に、知らないだったり何か変なところでもあったのかというようになっている。

うーん、私が何か勘違いしていたのかな?

確かに私のイメージとしてはひまりさんってどこかポワポワしているけど、あんな風になるとは想像しにくい。

 

「そんなことよりさー、ひまりんが戻って来るまで何かして遊ぼうよー」

 

そう言って流さんは、テレビの前に陣取ると私の家にある最新式のゲーム機を取り出してテレビに接続し、恋ヶ窪さんとナノちゃんとともに遊びだした。

 

なんだかその光景に違和感を感じたけど……なんだったかな、昨日はゲームに飽きたからみんなで人生急落ゲームって言う悪魔みたいなボードゲームをしてたな。

 

「皆さん帰ってきていたんですか〜、お魚さんは釣れましたか〜?」

 

そう言いながら、誰かが部屋に入ってくる。

その人は、濃い茶髪を背中あたりまで伸ばしていて、綺麗に手入れがされているのがわかるくらいに艶やかで、明るい黄色の目をしていて、頭には宝石が散りばめられたティアラが載っている。

あの時の裸エプロンからずいぶん時間が経っていたように感じるけど、今のひまりさんの格好を見れば時間が経ったのにも、頷けた。

その人は、頭に乗せたティアラにとても似合っている、立派なドレスを着ていたからだ。

 

「えっと……?」

 

またもや思考が停止している間に、ゲームをしていた流さんが一旦手を止めてその人に話しかける。

 

「ひまりん、サカナ釣ってきたんだけど食べれるヤツなのかどうか見てよー」

 

「あ〜、わかりました、見てくるので待っていてくださいね〜」

 

ひまりん、と流さんはこの人をそう呼んだ。

ひまりさんを流さんはそう呼んでいて、さっき流さんに向かってこの人は、ひまりさんと同じ声で呼びかけに応じた。

 

と言うことは、この人はひまりさんだと言うことなんだと思う。

本当によく分からない、何がどうなっているのかも。

 

そうこう考えている間に、お姫様のようなひまりさんは魚を確認しに行き、流さん達はゲームをやめて雑談を始めている。

 

「昨日のボードゲームも面白かったです」

 

と言う恋ヶ窪さんの言葉にもうひとりのナノちゃんが反応して、話しだす。

 

(なのか)もとても楽しかったよ」

 

その二人にくっつくようにして、流さんも雑談加わる。

 

「いやー、面白いと思ったのは君達二人がお金持ちになったからでしょー」

 

私は、ひまりさんのことを一旦置いて昨日のボードゲームを思い出す。

あの時は私が一位(気分的には最下位)だったけど、ランキングすると、一位から、私、流さん、ひまりさん、ナノちゃん、恋ヶ窪さんという順位だった。

やり始めようと言い始めた流さんが私の次に借金が残って終わると言うのも中々面白かったけどね。

 

……あれ?

若葉さん、若葉 白(わかば ましろ)がメンバーに居ない。

私は、雑談に混じっている若葉さんを凝視する。

あの、背が恋ヶ窪さんより小さくて、真っ白な髪を伸ばしていて、クリクリとしたピンク色の可愛らしい目をした子を、改めて見つめる。

今日の朝には、一緒にリビングで寝ていた筈なのに、確実に私とひまりさんは6つの布団を片付けていたのに。

なんだかおかしい、ひまりさんの事よりも、何かが違う、そんな気がする。

 

そんな風に頭の中でぐるぐる考えているうちに、頭の中を稲妻が駆け抜けた様な衝撃が走った。

 

私は今まで何を勘違いしていたんだろう……()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

今、私の目の前にいる小さな少女は誰なのだろう、私達5人に見事に溶け込んでいるこの子は何者なの……?

 

「あの、あなたは…」

 

「あぁ〜、もうおしまいかぁ」

 

目の前にいる、誰だかわからない少女はそう言ってため息をついた。

私は言った言葉に意味が分からずに聞き返す。

 

「その、今の言葉は何? それに、ここはなんなの?」

 

混乱している私をよそに、その子はにっこりと無邪気に微笑んでこう言った。

 

『さあ起きて、真っ白な日常に戻ってね』

 

彩歌が居なくなり、それに気づいた他の子達を現実に戻す(めざめさせる)と、若葉 白は、一人呟く。

 

「ましろ、またやっちゃたなぁ。 ましろが起きてから学園に行かなくちゃだけど、あっちは何も覚えてないよねぇ」

 

この世界で孤独な少女は、起きるために両目をぎゅっと瞑る。

こんな不幸なんて要らないと、心の中で想いながら。

 

〜〜〜

 

私は、夢、いや、悪夢を見ていたんだと思う。

みんなどこかしら変だったし、私の友達は変わっているのかな?

 

 

 

……薄っすらと目を開けると、そこはリビングの天井では無く、私の部屋の天井だった。

頭がぼんやりしていて考えがまとまらないけど、何だかさっきまでかなりリアルな夢を見ていたように感じる。

それでも、頭の中がはっきりしてきてベットから降りる頃にはどんな夢を見ていたかを、私は忘れてしまっていた。

私は欠伸をしながら、顔を洗うために洗面所に向かう。

「ふぁあ、夢って…えっと、何だったかな?」

 

今日の日時はゴールデンウィーク真っ只中ではなく、それがあけた5月9日の月曜日だった。

ゴールデンウィークの中でも所々学園に行く日はあったけど、今日から本格的に学園自体が稼働したって感じだと思う。

 

私は洗面所にある蛇口をひねって冷たい水を出すと、それを両手いっぱいに溜めて私の顔に浴びせる。

 

よし、冷たい……けれど、これで目がはっきりと覚めた。

今日も一日頑張ってみようと、私にしては珍しくそんなことを思ったのだった。




えー、この度は陽毬ちゃんの格好について、夢とはいえ少々やりすぎたと思っています、大変申し訳ありませんでした。

……完全に僕の趣味ですので、裸エプロンにパンツ有り無し問題につきましては一切の責任を持てません。(僕個人としては無し派ですが)

さて、茶番を終えたことで、不思議なテイストの34話でした!

〜次回予告〜

いつもの日常(平日)に戻った彩歌たちは、それぞれ朝に会った奇妙な同じクラスの人の話をする。

果たして、その人物達とは?

次回、Lucky.34 さっさと


若葉 白ちゃんについては、もう少し後になってからおんハピ♪メンバーと関わっていく予定なので、今後をお楽しみに!

と言うことで、ちょっとしたプロフィール。

不幸タイプ…不明
番号…未定
わかば ましろ
若葉 白
元ネタ…白糸台駅と、あんハピ♪アニメの黒板に書かれていた日直の生徒の苗字(若葉)から
性格:???

まあ、空白だらけのプロフィールですね……。

今回もですが、毎度毎度読んでくださるあなたに感謝を!

ではでは〜!


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Lucky.35 さっさと

陽気がほんのりと暖かい、ゴールデンウィーク明け最初の月曜日である、5月9日。

私とナノちゃんとひまりさんとの3人での登校風景がゴールデンウィークあたりからの日課になっていた。

ひまりさんがナノちゃんのお弁当を作ってマンションまで迎えに行き、そこから新しく決めた待ち合わせの場所で落ち合って3人並んで歩き出す。

 

入学式あたりのあの時からは、私も人と接するようになったな、なんて思いながら2人の様子を見る。

私の隣にいるナノちゃんは相変わらず無表情だけど、昨日は夜更かしでもしたのか欠伸を噛み殺しながらトコトコ歩いてくる。

また、ナノちゃんを挟んで歩いているひまりさんは、いつもそうなんだけど今日は特ににこにこしていて、時折立ち止まっては草木を眺めて、よりいっそう楽しそうに笑っている。

誰も喋らないけれど、きっと誰にとっても心地のいい静寂が流れる中、私は2人に尋ねる。

 

「今日から平常通りの授業だけど、2人とも忘れ物とかして無い?」

 

何でだろう普段は物静かな2人だけど、どこか抜けていると言うか、うっかりしてそうな印象を受ける。

 

「ええと、わたしはあらかた持ってきましたけど、何か忘れてても他の方に借りますから大丈夫です〜」

 

そう言うと、ひまりさんは鞄の中身をちらりと覗いた。

ひまりさんは母性があるというか、なんだか同級生なのにおっとりしたお姉さんみたいな立ち位置だけど、料理以外の事となると忘れぽかったり、ぼんやりとしていて用事を聞きそびれていた事もあった。

 

「ワタシ・・・昨日・・確・・・認・・した・・・・から・・・・オッケー・・・だよ」

 

腕組みをしながら、どこか誇らしげにナノちゃんは言った。

昔から無口ながらも思いやりのあるナノちゃんだったけど、普段から大人しすぎて何を考えているのかよく分からないって、色んな人に言われていたけど、私は意思疎通の面ではそこまで苦労しなかった。

それでも、天才肌というか、何でもそつなくこなしちゃって、逆に必要な物以上のものを持っていたりしていたっけ。

 

校門が少しずつ見えてきたところで、私は2人に話題を振ることにした。

「もうそろそろ学園に到着するし……」

 

「おっはよーー! 今日から平日とかダルすぎだよねー!」

 

風のように流さんが現れ、開口一番にやる気があるのか無いのか分からないような挨拶をしてきた。

 

「・・・おはよう」

 

「おはようございます、砂川さん」

 

ナノちゃんとひまりさんの挨拶に続いて、私も挨拶をする。

 

「うん、おはよう流さん」

 

やっぱり挨拶は大事だし、ダルすぎと言いながらも明るい口調だったので挨拶しておいて損はないはず。

 

「うんっ、アヤカ達もおはようって、実はさー、今日の朝に面白い人たち見つけたんだ」

 

と言っても同じ学校、更には同じクラスだったんだけどね。

 

流さんはそう言って、今朝あったことを私たちに話し始めた。

 

 

「まあ、時間は遡る事今朝6時半ごろ。

「アタシは毎朝6時から起きてランニングに出かけているんだけど、今日は珍しく早起きしたんだ。

「それもなんと、5時15分!

「どう?

「なかなか起きるの早く無い?

「……って、ひまりんは毎日5時に起きて弁当作りとかしてるのか。

「なんだよもー、見栄はって15分くらい早い時間に起きたって言ったのに、それよりも早く起きちゃってたなら意味なかったなー

「まあ、いいか。

「と、話が逸れちゃったから戻すね。

「早めに起きたもんだから、普段行かないところに行こうと思ってスマホも持たずにテキトーにランニングしたんだ。

「普段慣れた道ばっかり走っているからか、どこもおんなじような道に見えちゃうんだけど、違うところもいっぱいあった。

「建ってる家とか、ふと見た先の公園とかは全然見覚えがないんだよ。

「例えば……ひまりんの家みたいなでっかい日本家屋とか、チューリップが綺麗な公園とかあったけど。

「アタシが一番驚いたのは、ある場所の工事現場での事だったんだ。

「そこには、青色の髪を長く伸ばしている……あー、そうそうその人だよアヤカ、その雲雀丘 瑠璃っいう子が、萩生っていう赤色っぽい髪の子をオジギビトの看板の前で通せんぼしていたんだ。

「右に行けば、それに付いて右に動き、左に動けば、またもや合わせて左に動く。

「そんな感じのやり取りを続けるうちに、会話をし出してしばらくした後に、言い合いっぽいのをした後、萩生っていう子が走り出したんだけど、天之御船学園とは全く別の方向に向かっていたんだよね。

「そのとき思わずアタシは笑っちゃたんだけど、あることを思い出したんだ。

「それは、幸福授業のリアルすごろく。

「あたしたちは最初に行ってて知らなかったんだけど、その萩生って子が1人だけスタートの時に真逆のエレベーターの方に走って行ったって噂を聞いてて、その子はよほどの方向音痴なんだねってさ。

「でも、そんな方向音痴でも幸福クラスではあんまり浮かないし、誰もいじめない。

「きっとこのクラスの誰もが不幸を持ってるなのかもしれないからってことかもね。

「まー、何が言いたいかて言うと、普通の授業をサボって幸福授業だけ真面目にやろうかなって。

 

だって、授業はタイクツだけど、幸福授業は楽しいからね!

 

そう言って流さんは話し終えた……と同時に、流さんの背後で途中から話を聴いていた恋ヶ窪さんが背伸びしながらチョップとツッコミを入れていた。

 

「いや、流ちゃんには真面目に授業を受けて欲しいです!」

 

確かに、流さんはよく授業中に寝ていて怒られたりするからね。

 

それでも、私は流さんが恋ヶ窪さんにじゃれ合いながら嬉しそうに笑っているところを見ると、思わず許してしまいそうになるくらい、今の流さんは嬉しそうだった。

 

同じクラス……それもたまたま席が近かっただけなんだけれど、あの時話しかけられて、こうして友達になれて良かったな。

 

そんな事を思いながら、私は頬を緩めた。

そう私は……笑えることが、出来た。

 




はい、という事で、割と短めに書いてみました!

今回は、箸休め的にしつつもざっくりと朝に日常をお送りしました〜!

〜次回予告〜

晴れた日のこと。
彩歌、菜野花、陽毬の三人は学園へと向かっていたが、陽毬が忘れ物を連発して……?

次回、Lucky.36 やっぱり

波乱に満ちた展開になります!ひまりん編!
それでは、次回もお楽しみに〜!


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Lucky.36 やっぱり

皆さんお久しぶりです。

おんハピ♪に帰ってきました〜!

というのも、元々考えていたお話に矛盾や修正などがあり、陽毬ちゃん単体でのお話が良いかなーと思い陽毬プラスいつもの五人でお話が進みます!

では!
今回から陽毬編のスタートです!
何かと忙しくしておりますので、更新頻度はゆっくりめです(>_<)



流さんから不思議な話を聞いてから2日後の5月11日。

私は、ナノちゃんと共にひまりさんを待っていた。

 

と言うのも、いつも通り3人で学園へと歩いていたらひまりさんが忘れ物をしたらしく慌てて戻ったからだ。

 

「お、お待たせしました〜!」

 

玄関から飛び出すようにしてひまりさんが出てくる。

何はともあれ、忘れ物が見つかったのなら良かった。

 

「ナノちゃん、行こう?」

 

「・・・うん」

 

そう言ってナノちゃんは眠そうにしながらも頷き、私とひまりさんを合わせた三人で学園に少しだけ急いで行く。

遅刻……では無いにしても、いつもよりは大幅に遅れているに違いない。

 

「そういえば、ひまりさんは何を忘れたの?」

 

あんなに慌てて取りに帰ったくらいだし、何か大事なものだったのかもしれない。

そう考えて聞いてみると、答えは意外なものだった。

 

「それはですね〜、わたしのお弁当に入れるはずだったお箸を忘れてしまったんです……」

 

ナノちゃんのお弁当まで作ってくれているひまりさんなのに、肝心の自分の分を忘れてしまうなんて……。

もしかして、忙しかったのかな。

 

「ワタシ・・・・割箸・・持ってる・・・」

 

「ええっ、それなら素直に言えばよかったですぅ〜」

 

さっき家に取りに帰った努力が無駄になった……と言わんばかりのしょんぼりとした顔をひまりさんが浮かべる。

そんなひまりさんをナノちゃんが珍しく慰めていた。

 

それからしばらくして学園に到着した。

 

何人かの生徒と一緒に校内に入っていく。

私たち幸福クラスと、それ以外の組の人たち。

 

今考えてみると、私は成績も運動も得意ではないのにこの学園に入学出来ているのが不思議だった。

私の持つ不幸……それもただ雨に振られやすいってだけなのに。

 

「・・・・アヤカ?」

 

ナノちゃんの声にハッとする。

考え事に耽ってしまって下駄箱の前で私の動き自体が止まっていたらしい。

 

「ちょっと考え事して……ごめん」

 

「・・・いいの。はやく・・・・いこ?」

「そうです〜、急がないと!」

 

2人と共に教室へと向かう。

 

隣に居るナノちゃんは無表情、そしてひまりさんはニコニコしている。

いつもの変わらないのだけれど、こうして私のことを気にかけてくれる事が……なんだか嬉しかった。

 

教室に入ってから流さんと椎名さんと合流しても、私の胸の中には温かい物が残っていた。

 

 

そんなことがあった日の翌日。

 

いつもの3人で登校、しばらくして授業が始まった時だった。

一つ机を挟んだ右斜め……その席に座っているひまりさんが辺りをキョロキョロと見回していた。

 

何かあったのかな……気になるけれど、授業中だから声を掛ける事もできない。

 

ひまりさんの事が気になってしまい、黒板を見ながらチラチラと様子を窺う。

 

暫くすると、ナノちゃんがひまりさんのことに気がついたのか何かを投げる。

……白くて小さい、きっと消ゴムに違いない。

 

ひまりさんは消しゴムをわすれてたみたいだ。

 

ナノちゃんに助けて貰っていたし、きっと大丈夫。

そう信じて視線をしっかりと黒板に向けた。

 

私はその時、ひまりさんは忘れっぽいのかも……なんて考えていた。

 

 

……でも、この日を境にひまりさんのもの忘れの激しさは増していくように見えた。

 

さらに翌日は筆箱とお弁当を忘れてた。

ナノちゃんは自分のお弁当を作っている事で時間が取れていないと感じたのか、お弁当は作らなくていいと約束する程だった。

 

週明けの16日。

ひまりさんは裸足で家から出てきて、私とナノちゃんに指摘されるまで何も気がついていなかった。

教科書を忘れていたりもした。

 

これには流さんも笑うこともぜずに、ひまりさんを心配していた。

 

ひまりさんに何が起こっているのか。

 

私は考えはじめていた。

 

それでも何もわからないままその日は終った。

 

ひまりさん自身は何も変わった様子はない。

笑顔で明るくて、忘れ物をよくするようになった以外は一緒だ。

 

 

「ひまりさん……何が起こっているの?」

 

一人、帰り道にそうつぶやく。

 

私の頭の中はやっぱり混乱でいっぱいだった。




という訳で短めですが復活です!

次回、Luck.27 またあした

物忘れが激しくなっていくひまりん!!

これから巻き起こる波乱の展開に彩歌達は耐えられるのか!?


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Lucky.37 またあした

お久しぶりです、レッド!です。

実はPCを購入したのでいろいろと作業が捗ってハッピーなのです!
それでは、本編をどうぞ!!


火曜日となった17日。

 

私とナノちゃんはひまりさんからの連絡で、二人だけで学園へと向かうことになった。

風邪をひいたと言っていたけれど、それにしては調子よさげだったのが気になる……でも、ひまりさんでも休みたい日くらいあるのかも、そう思っておくことにした。

 

一応、また明日ってひまりさんは言っていたけれど……。

 

五月の半ばになったことで過ごしやすいとはいえこれから暑くなると思うと気が滅入る。

私は暑いのが好きではない……のと、夏場は雨が強くなりがちなので憂鬱だった。

 

「アヤカ・・・コンビニ、寄っていい?」

 

ナノちゃんの声でふと我に返る。

私は道に真ん中で立ち止まっていたらしく、ナノちゃんが制服の裾を引っ張りながらコンビニを指さしていた。

その顔は心配そうにしているように見える。

 

「ごめん、ナノちゃん……コンビニだっけ?行こう、ね」

 

「アヤカ・・・元気出して」

 

その言葉に頷いて答える。

ナノちゃんも心配してるし、私がしっかりしないと。

 

コンビニに入ると物珍しそうに商品を眺めている。

やっぱりナノちゃんは普段コンビニとか行かないのかな?

 

割と悩みながらもおにぎりやサンドイッチを購入するとホクホク顔で嬉しそうだった。

 

若干の小雨になり、二人で一つの傘を差しながら歩きだす。

 

ナノちゃんが持ってきた折りたたみ傘が壊れていて、私の傘に入れてあげることになったからだ。

 

ひまりさん……すぐに良くなるよね?

体調がものすごく悪いってわけではなさそうだったけれど。

 

ひまりさんの体調を案じながら、私とナノちゃんの二人で学園に向かった。

 

 

 

それから数日たってもひまりさんが学園に来ることはなかった。

 

週末の20日。

流さんからの提案もあって、ひまりさんのお見舞いに行くことにした。

 

「あのひまりんがねー、一体どうしたんだろ」

 

「流ちゃん!もしかしたらズル休みかもしれませんね」

 

「えーー!?あの真面目なひまりんがそんなことする?」

 

そんな風に会話している流さんと恋ヶ窪さんを見ていると、ひまりさんも大丈夫なんて根拠のない安心感を得てしまう。

 

一度みんなで行ったこともあるし、ついこの前まではナノちゃんと家の前で待ち合わせをしていたのもあって、すんなりと玉上家……鳳玉亭たどり着くことができた。

 

「・・・・静か・・」

 

そう言って店先を見つめているナノちゃん。

確かにその通りで、いつもは混みあっているはずのお店に人っ子一人いない。

 

扉に張り紙が1枚……目を凝らしてみてみると、現在休業中との文字が書かれている。

 

「休業してるみたい」

 

「本当だ。ボク、ご飯食べるの楽しみにしてたのになぁ」

 

「まあまあ、しーちゃん」

 

一応、家っぽい玄関の呼び鈴を押してみる。

ナノちゃんが勝手に押しかけていいの?みたいな目線を投げかけてくるけど、今は仕方ない。

 

ひまりさんと一緒に登校しようとしてから3日以上……連絡も取れずにここまで来たのだ。

私がやらないと気が済まない。

 

しばらく待っていると、玄関の扉が開いてひまりさんのお父さん出てくる。

 

「おや、これは陽毬のお友達かな」

 

「そう!ひまりんが風邪って聞いたけど大丈夫なの?」

 

流さんが食い気味で尋ねると、歯切りを悪くしたように目を背けている。

……何か事情でもあるのかな。

 

「おとうさん?誰かお客さんでも来たんですか~?」

 

二階からとたとたと足音を立ててひまりさんが降りてくる。

服装はパジャマだったが、顔色は悪くないし風邪ってわけではなさそうだ。

 

「あ!見てください!陽毬ちゃんが降りてきたです!」

 

恋ヶ窪さんの声で、私たちはいっせいにひまりさんのほうに顔を向ける。

 

それに気が付いたのかひまりさんは玄関までやってきて、一言つぶやいた。

 

「ええと……皆さん、どちら様ですか~?」

 

その言葉に、私たちは凍り付く。

純粋無垢なひまりさんは何の疑問も持たないとでもいうかのように……私たちのことを綺麗さっぱり忘れているようだった。




そんなわけで、どうもレッド!です。

ひまりん編が前の話から始まりましたが、そう、今回は記憶喪失の不幸タイプとなっております。
出来るだけシリアスにならないようにはしますけど……まあ、ね?

いろいろお話を展開する予定ですので、どうぞお楽しみに!!

次回、Lucky.38 つうじあうこころ

ひまりんは一体どうなってしまうのか!!!


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閑話休題

とあるお昼時。

 

「まー、そんなわけでさ、部活も結構キツいんだよねー」

 

水泳部の練習……と言っても夏前なので筋トレ……を頑張っている流さんは少し自嘲気味にそう言った。

その傍らには、購買で買ってきたパンが広げられている。

 

「なるほど〜!水泳部でも一年中プールに入らないんですね〜」

 

「・・・・屋外・・・だし・・・・」

 

2人は同じ弁当を食べながら反応を示す。

 

「その、流さんってやっぱり将来は水泳選手になりたいとか?」

 

流さんの泳ぎは運動先行の4〜6組の水泳部と引けを取らないモノだと聞く。

 

やっぱり将来的には、そういうのを活かすのだろうか?

 

「そうだねー、どうしよっかなあーーー」

 

短い髪を揺らしながら、天井を仰いで悩ましげに言う。

 

「将来の夢……ボクはあるんですよ!」

 

ガタリ、と椅子から立ち上がって恋ヶ窪さんがここぞとばかりに言う。

 

「そう………ボクがなりたいのは………名・探・偵、です!」

 

紅い瞳を輝かせてドヤ顔を浮かべている恋ヶ窪さんを、流さんが立ち上がって背後から抱きつく。

 

「それじゃー、しーちゃんは身体はコドモ、頭脳はオトナってことかなーー!」

 

「それは違う名探偵ですよ!」

 

抱き付くのを何とかやめさせようと、もがく恋ヶ窪さん……が、手足をパタパタさせているだけで体格差的にも流さんに勝てない。

 

「ふふっ、おふたりはいつも通り仲良しさん

ですね〜」

 

そう、ひまりさんがにこやかに言いながら、話題を続ける。

 

「それで、彩歌さんは何になりたいんですか〜?」

 

私の将来………か。

 

何になりたいんだろう?

 

考えたことはあんまりなかったかな。

 

「わたしはですね〜、海外進出とかですかね〜」

 

私が何も言わないことに気を遣ってくれたのか、ひまりさんは自分の話を続ける。

 

「鳳玉亭の和食の味を、日本の文化を世界に届けれたらなぁ〜なんて思います」

 

その為には英語頑張らないと〜、なんて、嬉しそうに夢を語ってくれた。

 

「アヤカ・・・ワタシは・・・・・んっ、何でも……………絵描きか、遊園地か・・・どうなん・・・だろ・・」

 

ナノちゃんは何か言いたそうにしていたけど、少し俯いて黙ってしまった。

 

彼女は彼女で思う事もあるのかも知れない。

 

「んー?どしたのひまりん達?」

 

恋ヶ窪さんを解放して、元の席に戻った流さんが私たちの話に再び加わる。

 

「将来の夢とか、決まるまで時間かかると思うです。ボクだって散々悩みましたし」

 

澄ました顔で言うけれど、恋ヶ窪さんの夢は名探偵という、ある意味子供じみたものなんだけどね……。

 

「いや、私は何になりたいのかなって思って」

 

なりたいものとか、考える暇なんてなかったのかも、自分の不幸を呪うような真似をしてて、前が見えなくて。

 

入学式の雨の日みたいに、ナニカに躓いていたのかも知れない。

 

「んー、いや、またじっくり考える事にする」

 

私の周囲を見渡す。

 

そこには、小さいながらも妹想いの恋ヶ窪さん、世話好きなんだけど決して甘やかさないひまりさん、自分と向き合って私と接してくれたナノちゃん、笑いながら話しかけてくれた流さん、そんな優しい人たちが居る。

 

将来の事は分からないけど、今は、今だけのこの時間を大切にしよう。

 

きっと今を過ごして積み重ねた先に、未来が、将来が拓けるのだろうから。

 

恋ヶ窪さんが再び立ち上がり、とうとうと語り出す。

 

「頭脳は大人、見た目は子供、小さくなっても頭脳は同じ、迷宮無しの名探偵、真実はいつもひと……」

 

「ちょっと待って恋ヶ窪さん、ソレは言っちゃダメなやつだから」

 

そんな風に精一杯にツッコミをしていたら、ランチタイムが終わろうとしていた。

 




こんばんは、レッド!です。

失踪してたわけじゃないですよ〜、色々忙しかっただけです。

まあ、CUE!というゲームにハマってpixivの方でss書いていたのですが……。

もちろんそれだけのはずはなく、勉強やらテストやらに追われていたのですが。

おんハピ♪を短めに書いただけでしたが、やっぱり書いてて楽しい。

これからもかなり期間が空くと思いますがお待ちくださいませ。

ではでは〜!


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