異世界から蒼海女王がやってくるそうですよ (ノムリ)
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やってきました箱庭

 カンピオーネになってからも無事に高校を卒業。

 正史編纂委員会の特別顧問という形で高校生ながら将来は公務員の一員となることになった、(かえで)はまつろわぬ神がなかなか出てこないことで長期休みを引きこもり同然の生活を送っていた。

 勿論、特別顧問として媛巫女の相談に乗ったり、問題が起こった時は即座に向かい解決するが。大抵は楓で出張る必要もないような小さな問題ばかりだ。ちなみに宿題なんてものは休みの一週間ですべてを片付けたに決まっている。

 

「まつろわぬ神は出てこないし神獣すら出てこないなんて、アタシに暇すぎて死ねって言っているのかな~」

 プチプチ、とボタンを押してチャンネルを変えるが目ぼしい番組はやっておらず、はぁ~、と深いため息を漏らす。

 カンピオーネは戦いの中でこそ生きていられる。逆に言えば、戦いがなければそれは完全に暇人もしくは廃人と呼ぶべきものへと成り下がる。

 

「ふえ?」

 ふと、部屋の隅を見ると、見慣れぬ手紙があった。

 楓の元に来る手紙は大きく分けて二つ。

 一つは問題を解決してほしいという、依頼の手紙。もう一つは、普通に世界中にいる魔女や媛巫女の友人から来る時代錯誤な普通の手紙の二種類。

 だが、この手紙はどちらにも当てはまらない。

 

「手紙を出すまつろわぬ神が居るとは思えないしな」

 手紙を太陽に透かしてみたり、ペラペラ、振ってみるが特に何も起こらない。

「手紙の中から神獣が出るか、神が出るか」

 手紙の封を開けて、中身を取り出し文に目を落とす。

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を世界の全てを捨て、我らの“箱庭”に来られたし』

 

「箱庭なんて神話に出てないよね?」

誰もいないのに誰かに質問する珍妙な行動をしながらも文の問いかけを本気で考えた。

 

才能が権能だとして、試すも既にまつろわぬ神を相手に使ってるし。家族関係は良好。友達は~微妙かな~。財は貯金がそれなりだね。

 

・・・・・・別に捨てられるかな。なにより面白そうだ。

 

そう思った次の瞬間、視界は白一色となり。おさまったころには空中をパラシュート無しのダイビイングの真っ最中だった。

 

「ヘルプミー!」

 

ドッボォーーン!

 

緩衝材の湖にダイブすることとなった。

 

 

 

 

 

 

「信じられないわ!問答無用で引きずり込んでおいて、空から放りだすなんて!」

「右に同じだ、クソッタレ。石の中にでも呼び出されて方がまだマシだ」

 

 お嬢様風の女子とヘッドフォンの首に引っかけている学ランの男子は文句を言いながら、一方で白いコートのようなものを羽織った少女は三毛猫とともに無言で水浸しになった服を絞っていた。

 

「空に放りだされた事には文句は言いたいけど、石に中に呼び出されたら出られなくない?」

「俺は問題ない。てか、なんでお前だけ濡れてないんだ、一緒に湖に落ちたよな」

「ああ、アタシは水の加護?みたいなものがあるから、水にも濡れないようにも、水上を歩いたり、水中で呼吸したり、水の抵抗を受けずに移動したりできるんだよ」

 

「へぇ~、便利なもんだな。一つ確認したいんだが、お前達にも変な手紙が来たのか?」

 

「そうだけど、そのお前っていうの止めてくれるかしら。私は久遠飛鳥(くどうあすか)よ。そっちの猫を抱いている貴方は?」

「……春日部(かすかべ)耀(よう)。以下同文」

「よろしく、春日部さん。そっちの唯一濡れてない貴方は?」

「棘のある言い方だね、水嵩(みずかさ)(かえで)。それじゃ次は学ラン君だね」

「そうね、最後は野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

「挑発的な自己紹介をどうも!見たまんま野蛮で凶暴そうな逆廻(さかまき)十六夜(いざよい)だです。粗野に凶悪で快楽主義ちお三拍子そろった駄目人間なので、用法と要領を守った上で適切な態度で接してくれよお嬢様」

 久遠さんは若干、後ずさりしながら

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ」

 と言っていた。

 

 久遠さんの対応にケラケラ、と笑いながら応じる十六夜くん。

 我関せずに三毛猫とじゃれている春日部さん。

 カンピオーネまでじゃないにしろ、なんと自己中な性格をしているのだろうかこの三人は、と思いながらも自分も会話を傍観するのみで中には入らずに地べたに座っている楓も近くの草むらに隠れている呼び出した張本人からすれば三人の同じ括りの問題児の一人でしかないかった。

 

 

 

 

「で、呼び出されてのはいいけどなんで誰もいねぇんだよ。この場合、招待状に書かれていた箱庭の事を説明する人間が現れるもんじゃねえのか?」

「そうとも限らないんじゃないの、全てを捨てて来られたし、なら覚悟があるから此処に来たってことで自分で何とかしろってことかもしれないじゃん」

 それも一理あるな、と首をかしげる十六夜くん。

「まあ、考えても答えは出ないからその辺は、そこに隠れている奴に事情を聞くとするか」

 そう言って四人が視線を一点の草むらに向ける。

「なんだ、貴方も気づいていたの?」

「当然、かくれんぼじゃ負けなしだぜ、お前らも気づいていたんだろ」

「……風上に立たれれば嫌でもわかる」

「気配を消さずに見えないところに隠れても、それは隠れたとは言えないでしょ」

 

 四人による無言の威圧。

 ゆっくりと草むらから姿を現したのは、鮮やかな青色の髪にそれなりにある胸とくびれを強調するようなピッチリとした服にガーターベルトというどこぞのカジノの女店員が来てそうなイメージの服を着ながらにして、一点んのみ本来の人間には無い箇所があった―――ウサギ耳。ウサギの耳が頭から生えていたのだ。しかもちゃんとした感覚器官なのかピクピク動いている。

 

「や、やだな御四人様。そんなに睨まれたら黒ウサギは怖くて死んじゃいますよ?ええウサギはストレスに弱い生き物なんですから…ここは一つ穏便に御話を」

「断る」

「却下」

「お断りします」

「アタシはNOと言える人間だからさ」

「あっは、取りつくシマもございませんね!」

 

 降参、と両手を上に上げている黒ウサギの目はどこかアタシたちを品定めする目をしているが一方で自分に迫る魔の手があることは気づいていないようだ。

「えい」

「フギャ!?ちょ、ちょっとお待ちに!承諾なしにいきなり黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるなんて、どういう了見ですか!?」

「好奇心のなせる業」

「自由にもほどがあります!?」

「へぇ、このウサ耳って本物なのか?」

「……じゃあ、私も」

 十六夜くんと久遠さんが左右のウサギ耳に引っ張る。

 

 黒ウサギは声にならない悲鳴を上げる一方でアタシは耳が空くのを順番待ちの最中。

「なかなかの触り心地だったぜ、水嵩も触ってみろよ」

「ではでは、失礼して…」

「まだ、御一人問題児が居たのでした!?…ありゃ」

 襲ってくると覚悟した痛みは襲ってこず、変わりにプニプニやムニムニ、と言った効果音が似合いそうな柔しい触り方をしている楓。

 

「これはなかなかの触り心地。いいな~アタシもこんなの欲しい。アタシなんて下半身が魚になるだけなのに」

「下半身が魚って、まるっきり人魚じゃねえか、お前、人魚になれるのか?」

 後ろから質問してくる十六夜くんの質問に答えを返す。

 

「正確には悪魔を殺して手に入れた権能だよ。水中の中に限り自分を人魚へと変える、ほかに目立った効果はないけど色々と便利なんだけどね。如何せん、アタシが人魚になれるからって生肉狙ってくるアホが多いんだよ。そこまでして不老不死が欲しいものなのかな。ふむ、満足!」

 一方で、痛みではなく心地よさとくすぐったさに身悶える黒ウサギを気にも留めずに、無心に耳を弄りまくっているアタシの後ろで、久遠さんと春日部さん黒ウサギの表情に釣られて顔を赤くしていたことは気づかないフリをしておこう。

 

「まさかのテクニシャンな触り方をされるとは気を取り直して……ようこそ〝箱庭の世界〟へ!我々は御四人様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかなと召喚いたしました!」

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、御四人様は皆、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大力を持つギフト所持者がオモシロオカシク生活出来る為に造られたステージなのでございますよ!」

 

両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギ。

それに久遠さんが質問する為に手を上げる。

 

「まず、初歩的な質問からしていい?貴方の言う我々とは貴方を含めただれかなの?」

 

「YES!異世界から呼び出されたギフト所持者は箱庭で生活するにあたって、数多とあるコミュニティに必ず属していただきます」

 

「嫌だね」

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの主権者《ホスト》が提示した賞品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

「………主権者《ホスト》ってなに?」

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば

コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。

特徴として、前者は自由参加が多いですが主権者《ホスト》が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。

主権者次第ですが、新たな恩恵を手にすることも夢ではありません。

後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればすべて主権者のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「後者は結構俗物ね……チップには何を?」

 

「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間……そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑む事も可能でしょう。

ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然――ご自身の才能も失われるのであしからず」

 

 ……権能を普通に人間が所持したら自己崩壊しないかな。

 権能はカンピオーネの体があってやっと使えるものだ、神の力の一端を移したもの。それを普通の人間が使おうものなら死ぬより悲惨なことになりかねない。

 

「―――さて、皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭における質問に答える義務がございますが、それはすべてを語るには少々お時間がかかることでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくわけにもいきません。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが……よろしいですか?」

 

「待てよ、まだ俺が質問してないだろ」

 

「……どういった質問ですか?ルールですか?それともゲームそのものでしょうか?」

 

「そんなものはどうでもいい(・・・・・・)。黒ウサギ、俺が聞きたいのはたった一つのことだ。……この世界は、面白いか?」

 

 流れる無言。

 ここにいる四人は全てを。

 文字通り。家族も、友人も、財産も、全てを捨ててこの箱庭にやってきた。

 

「―――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭は外の世界よりも格段に面白いことを、黒ウサギが保証いたします!」

 

 その返答を聞いた十六夜くんは、嬉しそうに笑っていた。



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