女神様とガンダムバーサスやる (きんたろう)
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1話

連載初めて何で初投稿です。

果たして需要はあるのか。


 今日と言う日を思い返した時、この日は人生の転機だった、とそう思う事だろう。

 出会いは人を変えると言うけれど、やっぱりそれは極一部の幸運で、普通無い。そんな中で、極一部の幸運を掴んでいながら、変わる事が出来ない人がいる。

 これは、そんな人が変わろうともがくお話。

 

 

「あ……」

 

 ディスプレイにLOSEの文字が現れ、機体が爆発する。

 本日10枚目の百円玉が溶けて消えた瞬間だった。

 

「あ~、あー……はぁ」

 

 ここ“キャットテール”はプラネテューヌに数あるゲームセンターの一つ。その対戦格闘ゲームのコーナーにその青年は居た。

 彼は憂鬱そうにため息を吐く。

 ディスプレイには今、「助かりました」「助かりました」と表示されていた。

 

「はいはい、俺が悪うございました」

 

 青年はお返しとばかり、「次もよろしく」を連打した。

 彼のプレイしているゲームは、正式名称を“機動戦士ガンダム エクストリームバーサス マキシブーストON”と言った。2001年から稼働するガンダムVS(バーサス)シリーズの最新作だ。歴代ガンダム作品から、主人公機は勿論、ライバル機、稀にマイナー機を使い、2対2で戦う3Dアクションゲームである。

 

(5連敗……引き時かな)

 

 彼の今日の勝率は振るわなかった。初戦こそ白星を得たものの、連勝数は0、そこからずるずると連敗を重ねてしまっている。

 今日は調子が優れない。それを彼は理性でとっくに分かっていたが、今日と言う日はどういう訳か台から離れる事が出来ないでいたのだった。

 時刻は平日の昼間。ゲームセンターの中に人影はまばらだ。この時間帯にオンラインに居る人間なんて、暇人か廃人かのどちらかだ。それを考えれば、彼の戦績も当然と言えば当然だった。ちなみに、彼は暇人に分類される。

 

(牛丼でも買ってから帰るか)

 

 軽くなった財布の中を確かめて――と。

 

「ねー君!このゲーム面白そうだね!」

 

 そんな声がゲームセンターに響いた。

 女の子の声だ。そう気付いた青年は、興味をそそられて周囲を見渡した。

 なにせ、ゲームセンターで普段聞こえる声と言えば、大の男が喚き散らす声ぐらいなのだ。

 

(――?)

 

 すぐに、その声の主らしき人物は見つかった。と言うより、一番早くに目に入った。彼のすぐ横にいたからだ。

 その人物――紫の髪に、紫を基調にしたパーカーワンピと、全体紫な少女――は、彼の隣に立って、きらきらとした目で彼を見つめていた。

 

(もしかして、俺に言ってた?)

 

 状況だけ見れば間違いなくそうだろう。しかし、長い事人とのコミュニケーションをせずにいた彼からすれば、今の状況は、道路を歩いていたら鳥の死体を見つけた、くらいには特異で、判断に困る事この上ない。

 

「あ、えっと、もしかして……僕?」

「そうだよ!」

 

 探る様に喋る彼とは対照に、少女は明朗だった。

 

「あ、そう……ええと?」

「うん!君に、このゲームについて教えて欲しいなって」

 

(正気か?)

 

 真っ先に浮かんだのは、そんな失礼な言葉。しかし情状酌量の余地はある。それぐらいには少女の行動は突飛だった。

 

「えっと、どうして?」

「そんなの、面白そうだからに決まってるじゃん!」

 

(そりゃそうか、ゲームやりたくなる理由なんだから)

 

 その言葉を、彼は素直に嬉しく感じた。自分の好きな事に、誰かが興味を持ってくれたのだ。しかも、女の子。

 しかし、いくつか心配事があって「いいですよじゃあやりましょう」と言う事が出来ない。具体的には、民度とか、民度とか、民度だ。後金も掛かる。

 彼は視線を上げ、一瞬少女を観察した。

 体格は、座っている彼と目線が殆ど変わらないくらいだから、小さい。胸も。けれど、思春期を迎えないと現れない女性特有の気色が感じられる。

 

(中高生ってとこ?そんな年の子にこんなゲームを教えて、親御に訴えられたら敗訴確実だぞ)

 

「へぇ……あ、でも、このゲーム結構難しいよ?」

「ばっちこいだよー!ネプランカーをも突破したわたしに掛かれば、どんなゲームもちょちょいだよ」

「う、そ、そう……?」

 

 遠回しの忠告は届かない。

 

「だってさ」

「え?」

「君、さっきからずっと負けてるのに、ニコニコ笑ってるんだもん。やりたくなっちゃうよ。ゲーマーとしてね!」

 

 少女は破顔した。彼は、自分の顔が熱くなるのを自覚した。

 これ以上彼には自身の心配を少女に伝える術を持たなかった。コミュ力的にも。

 

(ま、いっか)

 

 彼の思考は急速に楽観方向に傾いて行く。

 

「うん、分かった、分かった。いいよ」

「ほんと!わたしネプテューヌ!よろしくね!!」

 

 彼は少女――ネプテューヌ――の自己紹介に、本名を伝えるか、ハンドルネームを伝えるかをたっぷり5秒悩んで、

 

「僕はサヒ……えっと、ハンドルネームはあぶらへびです」

 

 結局両方を伝えた。

 

「ん~……じゃあへび君だね!あはは」

「それじゃ、ネプさんって呼びますね」

 

 彼――サヒ――は“ネプテューヌ”が本名かどうかで迷い、どう呼ぶべきかでまた迷い、言葉遣いでさらに迷い、結局敬語でさん付けと言う、最も当たり障りの無いものを選んだ。

 

「もう、敬語なんて硬いよー。ヘビ君お兄さんなんだし。ヘビ君もわたしの事、あだ名で呼んじゃって良いんだからね!」

 

 そう言われて、サヒは自分が緊張している事をやっと自覚した。

 

(相手は女の子だ。落ち着け……偉過ぎず、へりくだり過ぎず、かつキモく無く、不快にさせない喋り方を意識する――無理じゃね?)

 

 確かに、今年で21になるサヒと、見た目15歳ほどのネプテューヌでは、サヒが敬語を使うのは、はたから見れば妙に映るだろう。

 しかしそんな道理は、コミュ障という恐ろしい病気の前には障害とさえならないのだ。

 そもそもサヒにとって、初対面の女子と今まで一応ぼろを出さずに会話できているというだけで奇跡に等しい。

 

「ま、まあ、それはおいおい……それで、今日のご予算の方は?」

「それについては心配ご無用!じゃじゃーん!」

 

 そう言ってどこからか取り出したのは、かなり肥満体ながま口財布だった。

 

「はあ、これはなかなかご立派な」

「でしょでしょー!ここだけの話、へそくりまで持って来たんだ。今日は破産するまで遊んでやるんだから!」

 

(成程、この百円玉がどれだけ持つかは、俺に掛かってる訳だ。責任重大……か?)

 

「それで、アーケードのコントローラは触った事あります?」

「ないよー」

「じゃ……あ、とりあえずお金入れる前に触ってみようか。レバーとか、自分のやりやすい握り方探してみて」

 

(さて、これからどうしたもんか。誰かにこのゲーム教えた事も無いし、教わった事も無い)

 

 探り探りしかないか、と結論付けるサヒ。

 頭を悩ますサヒの前で、ネプテューヌはニコニコとレバーやボタンを弄り回している。

 

「おすすめの持ち方は、小指と薬指、それか薬指と中指で軸を挟み持つやり方かな」

「おおー、これはしっくりくるね!」

「ホント?よかったよ……じゃあ、そろそろやってみようか。好きなガンダム作品とか、あります?」

「うーん、全部好きだけどー、やっぱり主人公的には主人公機に乗りたいかな!」

「……?まぁ、じゃあ、初代でいっかな?」

 

 サヒがそう言うと、何故かネプテューヌはショックを受けた顔をした。

 

「しまった!わたしの持ちネタが通じてないよ!?」

 

(今のボケだったの)

 

 

「えっと、基本の操作はレバーと5ボタンで行います。その内1ボタンは機体の動きには関係ないから、実質4ボタンかな」

 

 百円を入れるよう指示するサヒ。

 

「えっと、台によって違うんだけど、オンラインで対戦するか、CPUとやり合うかをまず選びます。今回はCPU戦で」

「ほーい」

 

 ネプテューヌがボタンを押すと、画面に様々な機体が表示される。

 

「いっぱいあるね~。あ!乙女座の人だ!」

「ここの機体選択画面は数の割に時間が短いから、あらかじめ決めといた方がいいだろうね」

 

 ネプテューヌが初代ガンダムを選ぶと、画面が覚醒の選択画面へと移った。F覚醒、E覚醒、S覚醒とある。

 

(しまった。覚醒について何にも教えてないぞ)

 

「とりあえず、Sで」

「ラジャー!」

「それで、ブランチモードと、トレーニングモードがあって、うん、最初だしトレーニングモードかな」

「おお!始まったよ!」

 

 アムロのカットインセリフが入り、ガンダムが降りてくる。

 

「じゃあ、お待ちかねだよ。とりあえず動かしてみて。適当に。ああ、敵は棒立ちだから」

「こいつ、動くぞ!」

「はいはい」

 

 サヒはネプテューヌの横顔を盗み見る。如何にも楽しいです、と言う風に笑う彼女の顔は、サヒには魅力に溢れて見えた。

 

(確か、俺が笑ってたから、なんて言ってたっけ)

 

 この笑顔に勝てる奴はそうはいないだろう、と、サヒは僅かに嫉妬を覚えていた。

 

「で、射撃、格闘、ブーストとボタンがあるけど、これは意識しなくとも押せるよう馴染ませて。それで、射撃ボタンでメイン射撃だ。ガンダムはビームライフルだな。射撃と格闘ボタン同時に押すとサブ射撃。バズーカだな。射撃とブーストボタンで特殊射撃」

 

 ジャベリンをぶん投げる、とサヒ。

 

「後は、格闘とブーストボタンで特殊格闘。ガンダムはアシスト呼び出しが割り当てられてたかな」

 

 それで、とサヒ。

 

「ブーストボタンを押すとジャンプ、二回押しで自機が向いてる方か、レバー方向にダッシュする。これをブーストダッシュって言うんだけど、射撃とか、格闘とかを大体キャンセル出来る。メインをキャンセルして3回敵に当ててダウンを奪う事をズンダって言うんだ」

 

 画面の中でコアファイターが突撃し、自分もろとも爆発した。マゼラトップへの突撃の再現技だ。このゲームに於いて、リュウさんの命は軽い。

 このゲームのボタン操作は慣れない内は兎に角落ち着いて押すことが推奨される。ブーストボタンを2回押すと行動がキャンセルされるため、ガチャプレイだと何もできない事が多い。

 

「ダウンって言うのは、機体が吹っ飛ばされたり、寝かされたりして操作不能の状態の事で。ロックオンカーソルが黄色になってる間は、起き上がるまでもうそれ以上攻撃が入らない」

 

 えっと、とサヒ。

 

「ロックオンってのは、今自分が見てる相手の事。ターゲット切り替えボタンで対象を変えられます。カーソルの色に赤と緑と黄色があって、黄色はさっき言った通り。赤と緑は距離によって変わるし、機体によって全然違うんだけど、赤ロックは攻撃が誘導する距離。緑はしない距離を表してる」

 

 誘導は後で説明するから、とサヒ。

 

「画面の説明だけど、画面右下の数字が体力、その上が味方の体力。画面中央下の、左のゲージが覚醒ゲージ、右のゲージがブーストゲージだ。その右の表示が」

「武器の弾数ってわけだね!!分かってきたー!」

 

 リュウさんが三度現れ、そして散っていく。

 

「弾切れになるとゲージが赤くなって撃てなくなる。ちなみに、このゲームのリロードには、撃ちきりと、常時と、手動と、リロード無しがある」

「ほうほう。ガンダムの場合はメインが常時、サブが撃ちきりだね!」

「そう、ジャベリンは武装欄無し。つまり投げ放題。で、メインの欄の下にチャージって書かれてるでしょ?これは射撃ボタン長押しで出る武装で、殆どの行動からキャンセルして出せます」

 

 で、とサヒ。

 

「武装欄の上がレーダー。戦場の機体の位置が表示される。その横が制限時間。最後に、左上の2つのゲージが戦力ゲージ。青が自軍で、赤が敵軍。このゲージが先に0になった方が負けってルールです」

 

 はぁ、とサヒはため息を吐いて、

 

「ここら辺の説明は公式サイトが一番分かりやすいかな。画像付きで詳しいよ」

「ここに載せられたらいいんだけど、SSだからねぇ……」

 

 さて、と続けるサヒ。

 

「次は格闘についてだけど……その前に言っておく事があるんだ」

「ヘビ君?」

「横格を……信じろ。俺が信じる、横格を信じるんだ!」

「……!わかった、兄貴!!」

 

 二人は拳を合わせる。

 サヒは内心で、ネタが通じて良かったと胸を撫で下ろす。

 

「格闘は、基本5種類。レバーをニュートラル、つまり動かさない状態の、N格。レバーを前に倒した状態の前格、後ろの後格、そしてゲーム中一番多く振るだろう横格。最後にブーストダッシュ中にレバー前で出るBD格」

「結構あるねー。どう使い分ければいいの?横格?ブンブン丸?」

「慣れない内はそれでいいよ。えっと、ちょっと突っ込んだ話なんだけど、格闘性能の評価は大体3つの要素、判定、発生、伸びってのがあるんだ」

 

 サヒは、長くなるぞ、と前置いた。

 

「判定は、格闘を振り合った時、どっちが勝つかの強さ。発生はどれだけ判定が早く出るか。つまり近距離で強いのは判定が強い方。さらに近い距離で強いのが発生が強い方って事。伸びは、そのまま格闘が敵を追いかける距離の事。伸びる距離と伸びる速さは大体比例しているから、参考に」

 

 三つ指を立て、一つずつ折っていくサヒ。

 

「後、勿論ダメージの高さと、ダウンの仕方って言う指標もあるんだけど、ここらへんはもうWiki見て覚えるしかないから、今は気にしなくていいです」

 

 ガンダムの場合は、とサヒはスマホを取り出した。

 

「えーと、横格は判定が広いし回り込んで行くけど、発生がN格より遅い。N格は判定、発生が優秀。一番伸びるのはBD格。あと、ああそうだ。後格はカウンター持ってるんだ」

「カウンター?」

「相手の格闘に合わせて振ると、反撃します」

 

 おおー、とネプテューヌ。

 画面の中でガンダムがスタイリッシュに盾を構えた。

 

「まあ色々言いましたけど、最初は、色々あるんだねってぐらいでいいから。やってく内に覚えると思うし」

 

 ガンダムが最後の敵を倒し、“WIN”の表示が出、次のステージへ進む。

 

「じゃあさっき齧った誘導について何だけど。このゲームの武装は殆ど誘導って物を持ってるんだ。現実で銃から弾が発射されたら、そこから弾は直進しかしないけど、このゲームじゃ弾がロックしている敵に向かって曲がって行く訳」

 

 ロックの話に戻るけど、とサヒ。

 

「格闘を振ると分かりやすい。赤ロックだと敵に向かっていくけど、緑だと殆ど素振りだろ?そういう事なのだぜ」

「なのだぜ?」

「……オホン。それで、攻撃を回避するために、ネプさんは誘導を切りたい訳だ。そういう時、レバーを同じ方向に2回入力すると出る、ステップってのを使います。ステップは格闘をキャンセルする事もできます。格闘を出し切る前にステップして、もう一度格闘振れば、簡単にダメージアップできます」

 

 ネプテューヌが操作を入力すると、ガンダムが滑る様に移動する。

 

「ねーねー、なのだぜって何なのだぜー?」

「ぐっ……!次は、勝利条件について!戦力ゲージは6000あります、ガンダムはコスト2000、3回やられたら負け!はい!」

「ふっふっふっ、分かったのだぜー?」

 

 妙な語尾を捕まえてからかうネプテューヌ。サヒもさっきから自分の言葉遣いが安定していないのを自覚しているので強く出られない。

 

「最後、覚醒について!左下のゲージが半分以上溜まってると使えます。ゲージが溜まるのは、ダメージを喰らった時、与えた時、味方、または自分が撃墜された時!使い方は簡単。射撃、格闘、ブーストボタン同時押しね」

 

 アムロがニュータイプ特有の効果音を出し、覚醒カットインが入る。

 

「それで、今S覚醒だから、射撃を連射できるよ。ほら、メイン連打して見て」

「おお!すごーい!」

 

 ガンダムのビームライフルから弾が滝の様に流れ出す。

 

「そう、すごい!覚醒は超強い!このゲームはこの覚醒の使い方で勝敗が決まると言って過言では無いんだ」

「わたしにも時が見えるー!」

「覚醒には細かい仕様がいっぱいあるけど、まずは重要な事だけ。1つ、武装弾数が全回復。1つ、ブーストゲージが回復、この2つ!」

 

 なぜなら、と強調するサヒ。

 

「このゲームで動くには、大なり小なりブーストを使う(例外あるけど)ブーストが無くなると、動けなくなる(例外あるけど)ブーストが回復すると、相手より長く行動出来て、何をするにも有利って事!」

「よし、だいたいわかった!ありがとう!」

 

 はあはあ、と肩で息をするサヒ。

 

(つい説明に熱が……引かれてる様子は――無いみたいだけど)

 

「ねっぷねぷにしてやんよー!!」

 

 叫びながら、敵を蹂躙していくネプテューヌ。

 

(ちゃんと伝わったかなー。ま、百円じゃこんなもんか)

 

 サヒの視線の先で、ネプテューヌが最後のステージをクリアしていた。

 

「あれ?終わり?」

「終わり。さ、次はいよいよ実戦にいきましょうか」

 

 2枚目の百円が筐体へと消えていく。

 

「さっきトレーニングを選んだところで、ブランチを選んで、そう。ステージは1-Aで」

 

 サヒはここでやっと落ち着きを取り戻していた。基本の説明を終えて一息つけた事と、ネプテューヌが画面に集中してサヒを見なくなった事が大きい。

 

「それで、このゲームの大前提なんだけど、このゲームは“着地を取るゲーム”なんだ。さっきも言ったけど、無限に空を飛んでられる機体っていなくて。ブーストゲージは着地すれば回復するけど、その時に絶対“硬直”が発生するんだ」

「その隙を狙う訳だね!」

「そう。その着地硬直の長さってのは、着地した時に残ってるブースト量に反比例する。つまり、ブーストたっぷりで着地すれば短いし、空で着地すれば長い」

 

 ガンダムがビームライフルで順調に敵を減らしていき、ターゲットが現れる。ガンダムSEEDに登場するプロヴィデンスガンダムとラゴゥのペアだ。

 ネプテューヌ操るガンダムは、相方のビームライフルが命中したよろけに見事格闘を差し込んだ。

 

「上手いじゃん」

「でしょでしょー?わたしに掛かればこんな敵――ねぷー!?」

 

 敵CPUのプロヴィデンスは、ガンダムの格闘コンボを覚醒カットインと共に抜け出し、お返しとばかりガンダムに前格を叩きこんだ。

 

「あー、言って無かったけど、覚醒ゲージが満タンの時は敵の攻撃中に覚醒で受け身取れるんだ」

「き、聞いてないよー!!ねぷ~っ!!」

 

 そのままドラグーンの追撃を貰い、ガンダムは爆散した。

 

「ペナルティで覚醒時間が短くなるから、出来るだけ使わないようにね。E覚醒は別だけど」

 

 サヒはそう言ってから、自分の喉に違和感を抱き、喉仏を叩いた。

 

(もう1年分は喋った気がする)

 

「じゃあ最後に、コストオーバーの話だけ。このゲーム、戦力ゲージは6000ある訳だけど、今みたく残り3000の時にガンダムが落ちたらどうなると思う?」

 

 丁度ゲーム内の状況がそうだ。

 

「どうって、まだ負けじゃないし……って、あれー!?」

 

 ガンダムの復帰と同時に画面に“コストオーバー”と表示され、体力が300まで減ってしまった。ガンダムの平の耐久は600なので、半分になった計算だ。

 

「3000でガンダムが落ちると、残りコスト1000。ガンダムのコストは2000だから、半分しか耐久が貰えないってわけ。例えば、残り4000でコスト3000の機体が落ちると、復帰した3000は残った1000コスト分、つまり3分の1しか耐久が貰えないんだ」

 

 耐久半分なガンダムだったが、覚醒で無事プロヴィを倒し、次のステージへ。

 

「後は、このゲームには3000、2500、2000、1500コストがいるって覚えておいて。大体こんな所かな、後は横にいるから、何かあったら聞いて」

「ありがとね!ヘビ君!」

 

 

 今更になって、サヒは今ここにネプテューヌが居る事に違和感を覚えていた。

 

(学校、サボったのかな)

 

 サヒはそんな妥当な予想を立てたが、事実は違った。

 しかし、ネプテューヌがこの国の女神で、仕事が嫌で抜け出してここにいる、何て事が、ニュータイプでもないサヒに分かるはずも無かった。彼はパープルハートとしての彼女しか見た事が無いのもそれを手伝っている。

 サヒはネプテューヌの横顔を眺める。教える立場としては画面を見てやるべきなのだろうが、女性を眺めていても怒られない状況と言うのは彼にとって珍しく、その状況に甘えていた。

 

(紫の髪なんてあんまり見ない。けど、染めてるようには見えない。えっと……)

 

 サヒはその表現に瞬刻迷い、

 

(そう、あれだ、透明感があるんだ。うん)

 

 サヒはまた視線を動かし……と、そこでネプテューヌと目が合った。

 

「どうしたの?髪になにか付いてた?」

「えっ、ああ、いや……」

 

 この瞬間のサヒは百面相だった。視線を悟られて赤面し、髪を凝視なぞ如何にも変態的だと青くなり、愛想笑いはへたくそと来る。

 サヒは思いつくままに口を滑らせる。

 

「めっ、珍しい飾りだと思って……」

「ああ、これ?」

 

 ネプテューヌは自分のゲーム機の方向キーを模した髪飾りをつついて見せた。

 

「わたしの脳波コントローラに目を付けるとは、お目が高いよ!」

「の、脳波?いや、随分大きいから、重くないのかな、とか」

「あ、分かるー?いやー、もっと軽い素材で作って貰えばよかったよー」

「え、特注?」

「そうなのだぜ!!」

「え?あっ、あはは……」

 

 びしり、と親指を立てるネプテューヌに、空笑いしか返せないサヒ。

 

(会話、止まっちまった。無理にやろうとするから……)

 

 サヒの自意識は、今の会話全てを失敗に思わせて、羞恥が這い登り、居心地を悪くした。

 

(ゲームの事だけなら普通に話せるのに、これじゃますますキモオタだ。ああ、もう。帰りたい……)

 

 サヒは手元が落ち着かなくなって、スマホを取り出した。だが特に確認したい事があるでも無い。時間だけちらりと見ると、再びポケットへとしまう。

 

「ごめん、ネプさん。用事を思い出したんで今日は……」

「ええー、もう?」

 

 サヒは今、一刻も早く自分の枕に顔を埋めて寝てしまいたいと思っている。どうせならゲームを好きになって欲しいとか、可愛い子と仲良くなれるかもとか、さっきまで考えていた事全てが恥ずかしい。そう感じていた。

 

「それじゃ、ネプさん。困ったら、Wiki見たら大体書いてるよ。じゃ……」

「あ、待って!」

 

 背を向けその場を離れようとするサヒだったが、後ろ袖を引っ張られてつんのめった。

 

「あした!ねぇ、明日いるかな?ここにさ!」

 

 サヒの背中を悪寒が這い登った。彼は今、引き留められて嬉しいと感じた。その感じ方があまりにも女々しいと言う、自己嫌悪だ。

 

「え、居る……かも」

 

 それでも、居ないとは言えなかった。言える訳が無かった。

 

「やった!じゃあこの時間、また明日ね!」

 

 サヒはネプテューヌのその笑顔から逃げる様に帰った。

 

 

 その夜。プラネテューヌ教会。

 

「ごちそうさまー!」

「お粗末さま、ネプ子」

 

 プラネタワーの最上部、その居住区での晩餐を囲むのは、ネプテューヌ、ネプギア、コンパ、アイエフ、イストワールの5人だ。

 

「あ、そだ。ねー、みんな聞いてよ!わたしさん、今日新しい友達が出来たのです!」

「へぇ、良かったじゃないの」

「どんな人なんですー?」

「あ、お姉ちゃん、わたしも気になる!」

 

 腰に手を当てて胸を張るネプテューヌに、皆は概ね興味を示した。

 

「そう、彼との出会いはある寂れたゲームセンター……」

「なるほど、今日はそんな所でサボっていたんですね」

 

 芝居掛けて言うネプテューヌにイストワールはどことなく辛辣だ。

 イストワールが、彼女専用のミニ食器でスープを嚥下すると同時、流し目をネプテューヌに送る。ネプテューヌは始めこそ「ううっ」とたじろぐが、直ぐに調子を取り戻して、

 

「もう、いーすん!話の腰を折らないの!」

「ていうか、お姉ちゃん?“彼”って、男の人なの?」

「そう!ちょっとしか話せなかったけど、良い人なのは間違いないよ」

 

 あ、でも、と付け加えるネプテューヌ。

 

「わたしが女神だってとうとう気付かれなかったよー」

「ネプテューヌさん。そんな事ですからシェアがですね――」

「ねぷっ!?墓穴だった!」

 

 概ね和やかな晩餐は、笑いにつつまれ、夜は更けていく。

 

 

 所変わって、サヒの自宅。

 数畳の居間にユニットバス、玄関直ぐのキッチンが全ての、安アパートと言う形容が恐らく最も相応しい部屋だ。だが、アルバイトと仕送りを頼りに暮らす者の部屋としては、上等だろう。

 

(何だったんだ、今日は)

 

 サヒは電気も点けず、布団に寝っ転がって天井を眺めていた。考えるのは勿論、昼間のゲームセンターでの事である。

 

(夢か、幻か。いや案外、美人局ってのが現実的かもな)

 

 あのままあそこに居れば、その内如何にもな男が出て来て、金を取られる。

 何の確信も無い、ただの妄想なのだが、今のサヒにはそれすらも正しい事の様に思える。

 

(いやいや、こんな考えは失礼ってもんだ。うん。兎に角、明日だ。明日全部わかる)

 

 そこまで考えが至って、サヒはようやく体を起こした。

 

(腹減った――あ、牛丼買い忘れた。はぁ)

 

 台所へ向かい、湯沸かし器のスイッチを入れた後、買い置きのカップ麺を取り出す。

 湯が沸くまでの間、サヒはふと思い立って、ペンとメモ帳を用意した。

 

(明日、何を教えるかまとめとこう)

 

 変な所で生真面目に思えるが、彼からすれば、ネプテューヌが彼と会う唯一の理由で失敗する訳にいかないので、当然の事だった。

 

(しかし、俺はあの紫の女の子に何を期待してんだ?友達?恋人?家族?まさかライバル?いや、そんな具体的なもんじゃない。何でもいいんだ。何かが変われば)

 

 彼の強烈な自意識は、大抵彼の邪魔をするが、事自己分析だけは得手であった。

 そんな彼の目下の悩みは、明日どもらずに喋られるか、である。

 

(人とまともに話したのも、明日が楽しみなんて思うのも、いつぶりだっけ)

 

 そんな自嘲も、ちゃぶ台でカップ麺を啜るうち、忘れてしまった。

 




一回書いて見たかった奴。
続きは反響次第で。

その内ヤンデレも書くかも。


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