救いのヒーローになりたい俺の約束 (魔女っ子アルト姫)
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原初の灯り火

――もし、この世界に『ヒーロー』が存在するとすれば、『彼ら』の事を言うんだろう。

 

どんな逆境でも、決して諦めずに立ち向かい……悪を挫き、正義を成す。

 

そんな『ヒーロー』たちに、僕たちは守られている。

 

それが、今の世界の常識であり、真実だ。

 

 

 

「―――ならば、正義とはなんなのか問うぜ。ヒーロー諸君、正義とは何を持って正義となんだよ?」

 

「正義っつうのは、大衆が許容し独善的に善と認定され、都合が良いものじゃねぇのかよ?」

 

「大衆にとって自らを守る盾であり、自らの害となる物を穿つ矛である。それが、世界の共通の正義だろ」

 

「どうなんだよ、答えてみろや。「正義の味方(ヒーロー)」諸君?」

 

 

それに答えられた「ヒーロー」がどれだけいるのだろうか。

 

それを大声でNOと強く否定出来た「ヒーロー」がどれだけいるのだろうか。

 

 

世界総人口の八割が"個性"と呼ばれる不思議な特殊能力である力を持つ超人社会。この社会には明確な光と闇がある。個性を悪用し犯罪を起こし人々を苦しめる闇、即ち「ヴィラン」。その「ヴィラン」の脅威から守る為に"個性"を用いてその闇を払い人々の笑顔と平和を守り続ける者、即ち「ヒーロー」の存在である。この二つが絶えずぶつかり続ける世界において明確な正義とは「ヒーロー」であり、悪とは「ヴィラン」とされている。それは行いから見ても当然だろう、人の役に立つ、人に迷惑を掛けている。この二つを同じ舞台に置いてアンケートをとったとしてもどちらが正義で悪かなんて問うまでもない―――。

 

 

―――本当に、そうだろうか?世界に「ヒーロー」が誕生して往く歳月が経過しただろうか。「ヒーロー」は「ヴィラン」を追い詰め続ける、警察と見事な連携を深めながら敵を追い詰め、倒す。それが当たり前になっているのになんで「悪の芽」を摘み取れないのだろうか。手温いから?それもあるだろう、「ヒーロー」とは人々にとって希望であり光だ、そんな光が徹底的に相手を叩きのめす姿など見せたら、全ての敵を潰した時、追い詰められるのは「ヒーロー」だ。そんな裏方(ダークサイド)は見せなくて良いんだ、民衆が望むのは勧善懲悪の輝かしい光の物語だけだ。

 

 

―――ならばなんで悪は消え去らないんだ。では聞こう、倒すべき「(ヴィラン)」がいなくなって一番困るのは誰だ?少し考えれば分かる事だ、それが答えだ、あらゆるモノにも癒着や汚職は存在するんだ。それを理解するんだ、だったら―――

 

「―――俺は絶対的、完全な、強大な最強の悪となろう。名前を聞けば誰もが恐怖して泣き叫ぶそんな悪になってやろう!!それならば「正義の味方(ヒーロー)」達は俺を全力で叩き潰しに来るだろうよ!!!ははははっこりゃ最高だ!!!俺はこれから史上最悪最低最高の「(ヴィラン)」になる、いやそれだけじゃすまねぇ、俺がなるのは人類の天敵。そう人類に牙を向け続ける最悪の悪―――「人類悪(ビースト)」だ!!!」

 

 

 

「―――正義、それを人に投げ掛けるなんてナンセンスだろ」

 

「人には善性と悪性、等しくそれを持ってる。そんな人類に正義が何かなんて聞く事自体が可笑しい」

 

「俺の中に正義なんてモノはないんだよ」

 

「俺は―――ただ、自分がそうしたいって欲望を満たす為だけに人を救い続ける流離いの、救いのヒーローだ!!」

 

 

何処にでもいる男が、答えた。正義とは何かという問いに、男は言った―――くだらない問いだな。と

 

人間自体が善も悪も持ち合わせていて、結局「ヒーロー」も「ヴィラン」も同じ穴の狢。そんな奴らの争いに正義も悪も無い、同じ生き物が争っているだけに過ぎないのだから。曰く、正義なんて物は大衆が求める偶像であり自己満足の為に存在している。曰く、悪というモノはこの世に存在しない。悪と言われているモノは正義が変質したモノ、あるいは全く別の形の正義なのだと語った。それは「ヒーロー」の否定にも繋がる言葉なのに然も当たり前のように語った。

 

だが男は気にしない、理由は簡単。彼は「ヒーロー」が心底嫌いなのだから。「ヒーロー」の全てがそうとは言わないが大多数は「ヒーロー」に与えられる名誉や金に地位を求めている、それを真の「ヒーロー」と言っていいのだろうか、子供の頃からずっと疑問だった。目の前に敵がいるのに全力で向かわない、自分の力では倒せないからと言って応援が来るまで何もせずに自分の力で出来る範囲の事もしない。助けを求めている人に、手を伸ばそうともしなかった。ただ、言葉を送るだけ……。そんな姿に、心から失望した。

 

歳を取って成長した今なら分かる、あれは合理的な判断で確実性をとるならばあの判断は正しいのだと。分かっている、だが、幼い自分には希望であり光である「ヒーロー」が諦めているように見えたのだ。自分の手では負えないから誰か他の誰かに任せようと、役目を放棄しているかのように見えてしまった。そんな「ヒーロー」が大嫌いだった。

 

周りが「ヒーロー」に夢中になる中で自分は冷えた視線を向け続けていた、同調しなければ虐められると思い表面上は同じように繕いながら。そんな日々に嫌気が差して自殺を考えてながら屋上から空を見上げている時、ある人に出会った。その人からみれば自分は屋上から飛び降りようとしているように見えたから止めたらしい。自分を見てそう感じたから身体が動いた、本能に近い行動だったらしい。この事からこの人は本当に良い人だと思い、自分の思いを告げた。糾弾されても良かった。

 

「そうか……確かにそう見えてしまってもしょうがないだろうな。君の言う通り、今の「ヒーロー」は人を救う職業となり、その職業が得られる利益を目的にしている人達も多いだろう」

 

「だから、私が君の希望となろう。君に誓おう、私はどんな時でも人を救い続ける「ヒーロー」になろう。どんな時でも全力で人を助ける、それが君と私の約束だ!」

 

出会って間もない自分に、その人はそう言ってくれた。心から嬉しかった、自分の意見を尊重してくれただけではなくそれに対する誓いを立ててくれた事が酷く嬉しかった。だけどそれだけでは駄目だといった、自分だって何か誓わないと駄目だと必死に立ち去ろうとしているその人に言った。するとその人は浮かべ続けている笑顔を更に大きくしながら頭を撫でてくれた。

 

「ならばこうしよう、君も「ヒーロー」になるんだ。正義の味方という意味ではなく、人を救う、救いのヒーローだ!!」

 

それが、あの人が俺にくれた希望()だった。

 

 

「俺はあの日、新しい()を貰った。正義なんて俺の性には合わない、誰かを救う存在になる。それが、あの日俺を救ってくれた人と誓った約束だからな!!俺は絶対になる―――救いのヒーローに!!!行くぜ―――変身!!!」




なんか書いて見て欲しいという要望があって、初めだけ書きました。

個性とかは……というよりも私、ヒーローアカデミア初心者なのでこの先全然書けないんですけどね。

でも、なんだか海外の方の反応動画を少し見て、大塚さんが良い演技してるなぁ位には思い読んでみよう&見てみようとなりましたのでこれから勉強して行きます。

結構この原作のSS多いですもんね。


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正体不明の剣士

個性が蔓延し充満する社会、悪である「ヴィラン」が犯罪を起こしそれを挫き善を成す「ヒーロー」がいる世界。善と悪の戦いが行われている超人社会の中で、今そんな社会を吹き抜ける風のように流布し持ちきりになっている噂があった。

 

 

『正体不明の剣士』

 

 

という都市伝説とされている謎の剣士の噂である。眉唾物が殆どとされる都市伝説だが、この噂の剣士は実在しており何度もその姿を多くの人々の前に現している。「ヴィラン」による犯罪が発生すると何処からともなく現れてはその場で救いを求めてる人々に手を差し伸べては助け起こすという行為をし続けている。その剣士も「ヒーロー」なのではないかと言われているが彼は登録されている「ヒーロー」ではない事から無登録で「ヒーロー」活動を行っている違反者という事になっている。

 

しかし、そんな剣士は世間では謎多き救いの英雄(ヒーロー)と称えられておりその正体を誰もが知りたがっている。が、しかしそんな英雄は全く正体を明らかにしない。救助中に邪魔をしてくる「ヴィラン」を一蹴し一通り救助活動を終えると搭乗してきたバイクに跨るとそのまま去って行ってしまうという。その場に居合わせた「ヒーロー」が剣士をスカウトを行おうとしても興味がないように去っていく。重大な違反者として確保しようとして、「違法自警者(ヴィジランテ)」と呼ばれても、それらを全て掻い潜り姿を眩ます謎の剣士。この事から彼は地位や名誉には全く興味を示さないのではないかという憶測が立てられ非公式ながらも大衆からは「ヒーロー」としての絶対的な信頼が寄せられるようになっていた。

 

そんな謎の剣士、何処からともなくバイクで颯爽とやってくる悪を挫き誰とも構わずに手を差し伸べる高潔な騎士。顔を常に仮面で隠し続ける彼の事を敬意を込めて『仮面ライダー』と呼んだ。

 

 

 

暗黒の帳は開け放たれ夜は終わりを告げて、太陽が空に上り、暖かな日差しと共に朝となったそんな朝早くに川沿いの道を走る一人の男がいた。青いランニングスーツを着て、首にタオルをかけて腰に小さいペットボトルを引っ掛けてるようにしながら走り続けている。ある地点を過ぎると一気に加速してトップスピードに持っていく、その速度は余りにも早くトップアスリートのそれと同レベル。そしてその勢いを全て脚に蓄積させるようにしながら地面を強く蹴ると、そのまま力強く跳躍した。

 

「ウェェェェエエイッッッ!!!!!」

 

周囲に木霊する独特な裂帛のシャウト、付けた勢いの影響か暫しの間宙を浮いたままだったが地面が近づいていくと見事に着地しながらジャンプした河川敷へと降りていく階段の地点から今着地した場所の距離を目測で計算していく。

 

「……最高記録タイか。中々伸びない、か……」

 

結果として出たのは自分の最高記録と同じものだった、それを破る事を目標としていたのに如何にも簡単にはいかなさそうだ。今日こそは行けるという思いがあっただけにこの結果は正直残念と言わざるを得ない。起きた時から身体の調子は良好で気分も上々、それなのにいけなかった。矢張り、肉体面の強化がまだまだ足りていないのかもしれない。そう結論付けると普段のメニューを更に増やす事を決めながら、懐に入れていた手帳に記入をすると再びランニングをしながら帰路へと付いていく。

 

「なぁまた現れたらしいな「仮面ライダー」。本当にカッコ良いよな!」

「本当だよなぁ。何処からともなく現れては人々を救って去る、なんかすげぇクールだよな!!」

 

帰路を走っている途中立ち止まった赤信号。近くでは出勤途中の会社員が今現在社会全体で持ちきりの謎の英雄「仮面ライダー」について熱く語り合っていた。ファンなのか何処か鼻息を荒くしながら「仮面ライダー」について語り合っている。

 

「すげぇ危険な個性を使う「ヴィラン」を持ってる剣で倒すと直ぐに瓦礫で閉じ込められた人を助けたり、怪我で動けなくなっていた子供を助けたって本当に高潔だよなぁ」

「そうそう、駆けつけたシンリンカムイと一緒に救助活動したらしいな。本当は確保しなきゃ行けないけど、シンリンカムイは救助活動の協力のお礼に頭まで下げて、その後立ち去る「仮面ライダー」を見送ったらしいよな。俺、ちょっとカムイのファンになっちまったもん」

 

近頃のヒーロー談義には必ず名前が上がりつつある「仮面ライダー」と人気急上昇中の若手ヒーロー、通称樹木マンとも呼ばれる「シンリンカムイ」のやり取りはSNSで取り上げられ「シンリンカムイ」の真摯な行動は更に人気を火をつけつつ「仮面ライダー」の人気も更に上昇し続けていた。

 

「でもそんなライダーもさ、違反者扱いで捕まえなきゃいけないのもなんか理不尽な感じするよ俺」

「それはまあしょうがないさ。そう言うルールなんだから、それでも「仮面ライダー」は破ってても助けられる人を助けたいってて心から思ってるすげぇ人なんだよきっと」

「だよな、俺もそう思うよ」

 

そんな話が続けられているうちに信号が青になったので渡っていくは男は何処か頬を赤くしながら自宅へと急いでいく。自宅に到着すると赤くなった顔を覚ます為に、冷水のシャワーに身体を突っ込んで頭ごと身体を冷やす。火照った身体に心地よく水が流れていく感覚が堪らなく気持ち良い。シャワーから出てバスタオルで身体を拭うと、早速朝食に勤しんだ。一日の元気は美味しい朝食から、それは世界共通である。

 

「いただきます」

 

美味しく朝食を頬張って身体と精神に活力を吹き込まれていく、矢張りこの感触は人生を行き続けて行く中で永久に変わらないものだろうと思う。そして全てを美味しく平らげて洗い物を済ませて食後のコーヒーを飲んでいる最中、全身を電流が突き抜けるかのような感覚が襲ってくる。

 

「……行くか」

 

一気にコーヒーを喉の奥へと流しこむとそれを水の中に漬け込むと外へと飛び出しながら、男、剣崎 初は自分が動く時に出す言葉を口にする。

 

「変身!!!」



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早朝トレーニングとライバル

「仮面ライダー」には多くの謎がある。その正体も当然それに含まれているがそれ以外にも多くの謎が揺らめいている。それは―――「仮面ライダー」の個性である。

 

個性とは平たく言えば人それぞれが持つ特殊能力の事であり今では世界人口の約8割が個性を持っているという。 固有の能力というわけではなく、ある程度被る事もある。任意で特殊能力を発動する「発動型」。体の一部を変形させる「変形型」。全身変化しっぱなしの「異形型」。肉体を一時的に超強化する「増強型」と大きく分けるとこの4つに分類出来る。が「仮面ライダー」の力はこの分類分けに属さない新たな種類の個性なのではないかと激しい議論が繰り広げられている。

 

「ヴィラン」に捕まってしまった子供を目にも止まらぬスピードで救出したかと思いきや、鉄骨の下敷きになってしまった作業員を助ける為に鉄骨に全く触れずに全ての鉄骨を浮かび上がらせて別の場所に崩れる心配がないように丁寧に置きなおす、身体を硬質化する事で子供に飛んできた攻撃を庇う、ダイヤモンド並かそれ以上の硬度になる事が出来る個性を持つ「ヴィラン」を切り裂く、落雷にも匹敵するほどの電撃を生成しそれを相手に叩きこむ。様々な個性を発揮する「仮面ライダー」の個性は一体何なのか、これも世の中を騒がす話の種の一つである。一番多いのは複合型の個性なのではと言う意見が多いが、それでも発揮する力が多種多様すぎるという事でそう簡単には収まらない。

 

超人社会の中で「仮面ライダー」は矢張り特異的な存在として見られている。個性としても、「ヒーロー」としても。正式なヒーローではないが大衆は彼を「ヒーロー」認定するほどに絶大な人気を集めている。それは高潔さだけではなく、彼の行為に垣間見える優しさにも原因があるとされている。

 

 

「ハッハッハッハ……」

 

規則正しい呼吸をしながら走りこみを続けている男、剣崎 初。彼は助走を付けてからのキックの飛距離の最高記録の更新を目指す為に普段の行っているメニューに追加を行って身体に10キロの錘を付けて、20キロのランニングを行っていた。しかも時々全速力を3分間出し、その後は常に一定のペースを絶対に守り、暫くしたらまだ全力で走るという縛りを行いながら。これが中々に身体に堪えるのである。

 

「ラストスパートォォォ!!!!」

 

最後の1キロとなった時点で全力で走る、周囲の景色が凄い勢いで通り抜けていくのを横目で見ながら脚に力を込める。全身の血流が一気に早くなる、肺が圧迫されるように苦しくなっていく、脚に痛みが走り出す。流石に色んなメニューをやった後にこのランニングは身体に来る、だがそれでもやると決めたのだから全力でやる。そして残り僅かになった時、跳躍しながら叫んだ。

 

「ウェェエエエエイッッッ!!!!!」

 

叫び声と共に着地すると腕に巻き付けていた計測計が20キロ終了というメッセージを映し出している。どうやら確り達成は出来たようなので安心したように適当な場所に腰を下ろす。そして付けていたペットボトルに入っているスポーツドリンクをゴクゴクと飲んでいく、身体が水分と程よい塩分を望んでいる。そしてそれが与えられる瞬間が堪らない。まあ、水分は兎も角塩分の瞬間は良く分からないが……。

 

「そう言えば……此処何処だ?」

 

最後辺りは本当に適当に走っていたので今此処が何処なのか全然分からない、単的に言うと……

 

「迷った……やばい」

 

携帯を忘れてきて別にいいだろう感覚で放置したツケがまさかこんな形で訪れるなんて思いもしなかった……。携帯さえあれば現在地を調べて帰り道を探す事も簡単なのだが……何とも厄介な事になってきた。思わずとあるカードを思い浮かべそうになるが、直ぐに頭を振り払ってそれを忘れる。

 

「よし、帰りも適当に帰ってみようかな」

 

半分自暴自棄にでもなっているのかそんな事を言い出していると、何やら此方を見ている視線を感じた。其方を見てみると何やら癖っ毛がある緑髪の少年と……骸骨を思わず連想になりそうな程に酷く痩せて金髪の恐らく男が此方を見ていた。

 

「あの、なんか凄い声が聞こえたと思ってちょっと見に来たんですけど……落ち込んでるみたいですけど大丈夫ですか?」

「えっ?ああまあ……叫び声についてはまあ気合を入れるためのものだよ、トレーニングの最後に飛び蹴りしたから。落ち込んでるのはまあ……携帯忘れた挙句迷子になった……」

「成程それで落ち込んでいたのかね」

「ええまあ……もう直ぐ高校受験する男が迷子とか恥ずかしいにも程がありますよ……」

 

明らかに落ち込む剣崎に二人も何処か納得するような表情を向けた。確かに、子供なら兎も角高校受験を控えている歳で迷子になるのは恥ずかしさがあるのは理解できる。が、金髪の男は笑ってそんな事はないと否定する。

 

「何々気にする事などない!私だって駅の地下が迷路みたいで地図を見ながらでも迷った事なんて何回もあるからね!迷子なるのは恥ずかしくない、寧ろ新しい発見をするチャンスだと捉えた方が良い!」

「新しい発見、をですか」

「そうさ。予定になかった寄り道、もしかしたらそこにこそ本当に大切な物があるのかもしれないからね!」

 

そんな言葉を聞いていると、不意に思い出す。昔出会ったあの人の事を、自分の希望であり夢であり続けていてくれているあの人の事を……。何故そう思ったのか分からないが、この人はあの人と同じように感じた。

 

「不思議だな……貴方は俺に希望をくれた人と同じ感じがしますよ。雰囲気というか、オーラというか……言葉の中にある優しさが同じ感じがします」

「それは嬉しい事を言ってくれるね、その人に私も誇らしく出来る。さて緑谷少年、君はこの近くまでの駅の道順って分かるかい?」

「あっ分かりますよ、今メモに書きますね」

「すいませんお世話を掛けちゃって」

「いえこの位なんでも無いですよ」

 

そう言って親切に駅までの行き方のメモをくれる緑谷という少年、そんな彼の親切にお礼を言いながらそろそろ帰るために走り出そうとした時の事だった。

 

「そう言えば高校受験と言っていたが、君は何処を受験するのかな?」

「俺ですか?俺は―――雄英高校ですよ。君も、だろ?」

 

そう言うと緑谷は驚いたように顔を上げた、一瞬困ったようにするが直ぐに決意を固めたような顔を向けて頷いた。

 

「そっか、ならライバルだな俺達は。出来る事なら一緒に入学して学友として仲良くなりたいけどな!それじゃあ!!」

 

剣崎は再び走り出して去っていく、何処か清々しい気持ちになりながらメモを見ながら駅へと目指していく。

 

「……しまった、俺財布無いから乗れないじゃん……」

 

しょうがないので線路沿いに家から最寄の駅まで走って行った。余計に疲れた。



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雄英高校、入学試験開始

「仮面ライダー」は「ヒーロー」である。

 

正式な資格を持っている「ヒーロー」や警察などからしたらただの無免許で重大な違反を行っている危険人物だが、世間的に見れば誰とも構わずに救いを齎す「ヒーロー」と見られている。人気はライダーが登場してから少しずつ大きくなっていき今ではトップヒーローらと肩を並べる程の絶大な人気を博している。シャープな鎧姿と鋭くありながらも何処か優しげな赤い瞳、相手を一蹴する剣捌きなどその人気の要因は様々だ。しかし、一番なのは要救助者を最優先する点だろう。

 

事件現場に参上した「仮面ライダー」が優先するのは逃げ遅れたり、怪我をして動けなくなっている人々の救助であって「ヴィラン」の撃破ではない。その場から逃げ去った直後でも「ヴィラン」を追わずに救助を優先する。普通の「ヒーロー」であればどちらともを行うがどちらかと言えば「ヴィラン」撃破を優先する中で、救助を優先するのは「ヒーロー」は多く存在するが「ヴィラン」をガン無視して救助を必要とする人々の事を見つめるものはそうは居ない。

 

「ヴィラン」を倒そうとするのは救助者がいないか、救助の邪魔をするか、救助をするのに障害となり得る場合に限っている。凄まじい実力を有しているのに何故こんな事をするのかと疑問視する人々が多いが、それは「仮面ライダー」が目を向けているのは倒すべき敵の数ではなく、救うべき人の数ではないのかという予測が立てられている。そんな人々の安全を優先する姿が「仮面ライダー」が高潔な英雄と呼ばれている所以でもある。

 

 

 

「此処が雄英高校か……やっぱ普通の高校じゃ考えられない規模だな」

 

日々のトレーニングメニューを増やし、飛距離の自己ベスト記録を更新し続けるようになった剣崎。そんな彼にも鍛錬の集大成を発揮すべき日がやってきた。そう、高校受験の日がやって来た。彼が受験をするのは「国立雄英高等学校」通称雄英と呼ばれている数多くの名だたる数々のヒーロー達を輩出してきた超名門校。トップヒーローになるにはこの雄英を卒業しなければ行けないとさえ言われている偉大なヒーローになるための登竜門としての地位に聳え立っている。そんな高校を受験する剣崎、僅かに緊張があるが寧ろその緊張が気持ちへの鼓舞へと繋がっている。

 

「さてと、行くかっ……!!」

 

着ている制服に通されているネクタイを強く締めて気を引き締めて、雄英の門を潜る。受験会場を進んで行く中で感じる会場に蔓延しているピリピリとしている研ぎ澄まされている空気、そして溢れ帰るかのような人の波が凄まじい。流石は雄英校のヒーロー課への受験者だ、倍率が300というあっという的な数値なのも頷ける。だが剣崎は柔らかな笑みを崩さずにそのまま歩いていく。これからどちらにしろ心身を削る入試が始まるのだ、それなら今から刃を磨耗させる事なんて無い。始まってから気疲れして全力を出せないなんて後悔しかない、出来るだけリラックスして入試に備える。

 

「おいあいつ見ろよ、笑ってるよ……この雄英の入試で……!?」

「マジかよ……そんだけ自信あるって事か!?」

「誰、あのイケメン?誰あのイケメン?」

「「「おいなんか今変なのいたぞ!?」」」

「(賑やかな入試前だなぁ……)」

 

一部妙なのが混ざっていたような気もするが、気にしないで置こう。剣崎は案内に従って入試前の説明があるという談義室へと入って待つ事にした。ここも談義室にしては妙に広大なのが気になるが、そこも雄英だからと納得しておくと気持ちが楽になっていく。凄い事が起きたらある程度の所で考えをやめて、現実として認めるというのが精神安定のコツだと近所にある診療所の女医さんが言っていたが、どうやら正しいようだ。

 

『今日は俺のライブへようこそぉぉぉお!!!!』

 

マイクから爆弾じみた声が放たれた、試験説明が始まると言った流れあったのにも拘らずその第一声がライブ開始の合図。と思うかもしれないがその声の主はボイスヒーローと名が知れ渡っている「プレゼント・マイク」。そんな彼への返事(レスポンス)は皆無、が全く気にする事もなく説明を始めた。これがプロの「ヒーロー」、いや教師だからこそ出来るスルー力、いや進行能力……なのだろうか。

 

『俺からは以上だ!最後にリスナーへ我が校の『校訓』をプレゼントしよう。かの英雄……「ナポレオン・ボナパルト」は言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と! Plus Ultra!! それでは皆、良い受難を!』

 

 

そんな「プレゼント・マイク」からの説明を受けた一同はそのまま各自が割り当てられた試験会場へと進んで行く。何千にも及ぶ受験者を全て同じ場所でテストするのは不可能、その為に複数個所の試験会場に別れて試験が行われる。人工的に作られたビルが複数並び立つフィールドが広がっている、このフィールド内に放たれる仮想敵を撃破しそのポイントを競うのが実技試験。間もなく開始される試験に脅える者、備える者、格上の他の受験生に圧倒される者と別れている中、剣崎も当然準備を完了させていた。

 

「さてと……始めますか(・・・・・)

 

と呟いて脚を引いた。周囲の受験生達は何を言っているんだと思う中、剣崎は自らを弓に見立てて脚を引き続ける。ギチギチと撓る弦のように引かれる脚、それと同時に溜められていく力。低くなっていく体勢、そして遂にその時がやってくる。

 

「―――ハイ、スタートォォ!!!」

 

MACH(マッハ)〉 〈TIME(タイム)

「―――『固有時制御(TIME ALTER) 超加速(MACH ACCEL)』ッ!!!!」

 

何の前触れもなく放たれた開始の合図、それとほぼ同時に蓄積した力を開放して強く地面を蹴って走り出す剣崎。それと同時に自らの力を発動して通常では信じられない動きの素早さを発揮して受験生達から一抜けしていく。超加速していく剣崎は視界に人工的な音声で粗暴且つ気品の欠片も無い言葉を吐き出し続けている仮想敵がいる。一先ずそれに狙いを定めると超加速を解除しつつも、その勢いのままで跳躍する。

 

BEAT(ビート)〉 〈TACKLE(タックル)

「ウェエエラァアア!!!」

 

突如勢いが増し、2と印された仮想敵をタックルで貫通してそのまま先にいた仮想敵を殴りつけた。貫通、殴られた仮想敵はどちらとも完全に半壊して動かなくなって崩れ落ちていく。それを見つめた剣崎は久しぶりに今の状態で伸び伸びと使える個性に嬉しさを覚えていた。ギチギチに嵌められた束縛から開放された気分で大声で叫びたい位だ。

 

「さて……うん大丈夫使えるな、よしもういっちょ!」

『〈MACH(マッハ)〉』

 

先程よりは遅いがそれでも十二分に速い速度で動き始め、仮想敵へと向かっていく剣崎。そんな彼に続くかのように受験者も走り出していく。



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入学試験、ラストスパート

KICK(キック) DROP(ドロップ)

「ウェェェエエエエエイッッッ!!!!」

 

特徴的な叫び声を上げながらも仮想敵を蹴り砕いた剣崎、これで彼の合計ポイントは60を超えていた。試験開始から約8分が経過している、この試験の制限時間は10分。その間にどれだけ多くの仮想敵を倒してポイントを得られるかという事を求められている試験、誰よりも早く標的を倒してポイントを稼ぐ必要があるのだが彼は最初こそそれを真面目に行っていた。だが途中から完全に全く違う事を行っていた。

 

「大丈夫か君」

「ぁ、ぁぁっ……!!」

「無理に声を出さなくて良いよ、怖かったんだろ。大丈夫怖がるのは恥ずかしい事じゃないよ」

 

同じ試験を受けているほかの受験生、そんな中でも恐怖や身の丈にあっておらず仮想敵に返り討ちにあってしまっている受験生達を助けるために行動を起こしていた。腰が抜けて動けなくなってしまった子を抱き抱えて避難、防御すら出来ないほどに恐怖している子の為を救うために襲い掛かろうとしている仮想敵を倒したりと救助を試験の為に作られた市街地のフィールドを駆け回っていた。入学を目的とする受験生からすると態々ライバルを助ける事に対する理解が出来ないと言いたげだが、彼にとってはそれが一番やりたい事なので気にしない。助けを必要とする人を無視するなど、自分には決して出来ない事だ。

 

「さてと……次だ」

 

また一人助け終ると再び駆け出していく。フィールドを進んで行くと標的を倒している受験生が多く確認出来る、一方で助けを求める者はいないようにも思える。自分と同じようにこの雄英に入学する為に訓練を重ねてきた者が大多数なのだろう、その一方で矢張り本番のプレッシャーに押し潰されて実力を発揮出来ないものもいる。それでももしかしたらまだいるかもしれないと、巨大な仮想敵が発見した。自分が今まで倒してきた仮想敵の数倍も巨大な敵、試験に置いて障害と説明されたポイント0とされている仮想敵だ。それにしても本当に巨大だ、ビルよりも巨大な巨躯をしている。

 

「で、でかい……!?あれが0ってほぼ詐欺だろ……ってあんな奴が暴れるんだったら絶対危ない子が出る!?」

 

全神経を使って周囲を見て回る、矢張り0ポイントというだけあって誰もがあれを避けている。だがあの巨大さ故に恐怖心が増幅され逃げ纏っている受験生も多くいる、あの巨躯が暴れると大勢が間違いなく被害を蒙る。ならばやる事は一つしかない。あれを倒す、0ポイント?試験時間ももう直ぐ終わる?やる意味が無い?そんな事知るか、倒す事で人を助ける事に繋がるのだ、自分がやりたいからやる、それだけの事だ。

 

「(制限時間まで、後30秒……!なら、一撃で仕留める―――!!)」

MACH(マッハ)〉 〈TIME(タイム)

「―――『固有時制御(TIME ALTER) 超加速(MACH ACCEL)』ッ!!!」

 

剣崎は再び力を行使する、世界の動きその物が遅くなって行き自分の感覚だけが倍速されていく。そこに加わる高速移動が組み合わさる事でより高い速度を発揮して巨大な敵へと向かって行く。さてどうやって倒すか、正直剣崎は具体的にどうやって倒すなんて事は考えていなかった。ビルサイズの敵なんて戦った事ないし打倒法なんて、作戦の一つもしなかった。だがそれでも足は止まらない、自分がやりたい事をやると決めたのだから全力でやる!!

 

「(属性は駄目だ、それ以外で……それなら、きついかもしれないけど……これならどうだっ!!!)」

KICK(キック)

 

時間がゆっくり過ぎ去って行く中で高められた跳躍力、それで高く跳びあがった剣崎。それをビルの壁を何度も蹴り返す事で巨大な仮想敵の頭上を取る事に成功した。そして此処からが一番大事な事だ―――。

 

RUSH(ラッシュ) DROP(ドロップ) DRIL(ドリル) METAL(メタル)

「ォォォ……ウェェェェェエエエエエエエエエエエエイイイイ!!!!」

 

鋼鉄のように堅くなった剣崎はそのままドリルのような高速回転をしたまま、凄まじい勢いで仮想敵へと落下するかのように突撃して行く。それに気付いたのか握りつぶそうとするかのように巨大な腕を動かして剣崎へと向けて行くが、凄まじい激突音と共に腕を砕いてそのまま身体を掘り進むかのように蹴り砕いていく。内部を蹴り砕いて仮想敵から飛び出た剣崎、着地しながらゆっくり立ち上がると同時に仮想敵は自らの自重を支えきれなくなったかのように、爆破解体されるかのように内部に向って崩れ落ちた――それとほぼ同時に「プレゼント・マイク」の

 

『終了ぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

試験終了の声が響き渡った。それを聞いた受験生達から安堵の声や絶望めいた声が溢れ出して行く。そんな中、巨大な仮想敵を撃破した剣崎は―――

 

「……流石に少し無理し過ぎたかも……一度にラウズをやり過ぎた……」

 

発動した個性の影響か、身体に来ている負担の大きさに少し顔を歪めつつも満足げに笑うのであった。そして意識は直ぐに筆記試験へと向けられるのであった。

 

 

「YEAH!全くもって今年は豊作だな!!」

「ポイント0が2体も完全に破壊されるとは思わなかったね、豊作豊作」

 

実技試験の映像を見ながら雄英の教師陣は会議を行う。モニターにデカデカと映し出されている各試験会場での映像とポイントの獲得数をランキング式にして表示がされている。上位陣の顔ぶれやポイントかくとくの仕方に教師陣からはそれぞれの声が漏れている。トップは敵を倒した事で加算される「敵ポイント」のみで2位を獲得している、それ以外にも8位には「救助ポイント」のみで上位に入る受験生もいる。酷く両極端な現れ方に一部の教師からは笑いも漏れている。

 

「だけど一番の目玉はこいつじゃねぇのか?」

「そうだね。今回の実技主席は敵ポイント自体は2位の"爆豪 勝己"君の方が上だけど、総合的に見た場合は彼の圧勝とも言えるからね」

 

実技試験の主席、1位通過を決めたのは―――"剣崎 初"。敵ポイント68点、救助ポイント56点。どちらのポイントも最も高かった者と比べてしまうと劣ってはいるが、総合的な観点に見た場合には彼に軍配が上がり問答無用の1位通過と言える。

 

「個性は"身体能力強化"ってなってるな。確かにどれもすげぇ強化だぜ、それにこいつは俺のスタートの合図にも唯一反応してたしな!」

 

と、何処か剣崎贔屓な目線になっている「プレゼント・マイク」。あそこまで見事なスタートを切って貰えると何処か嬉しくなるようだ。しかし、だがと付け加える。

 

「こいつ、妙に早すぎる気がするんだよなぁ……」

「それは私も思ったよ。唐突なスタートには備えていたから、と言えば簡単だけどその後が余りにも早すぎる。まるで彼だけ時間が早くなっているかのような感じだ。

 

そんな言葉にまさか……と声が漏れるが、兎も角剣崎の実技合格は確実。他にも決めなければいけない事があるんだからと校長は話題を切ると次の生徒へと入った。そんな中で一人、剣崎の合格を喜んでいる教師がいた。

 

「(私との約束、君がその一歩を踏み出してくれた事を嬉しく思うよ剣崎少年。私も君との誓いを守り続けてみせる……!!)」



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合格発表

「仮面ライダー」は謎めいている。多くの謎を秘めたまま、自らの正体を隠し続けながら資格も無いまま自発的に違法だと分かっている筈の個性を使用してでの「ヴィラン」討伐や救助を只管に繰り返している。そんな「仮面ライダー」の捕縛を目的として幾人ものの「ヒーロー」がチームを組んで捕縛に乗り出している。法律から考えると妥当な事なのだが、世間的に見ると「仮面ライダー」を捕まえようとする事に対して強すぎる反発が生まれているのも事実。それでも社会の規律を守る為に「ヒーロー」は「仮面ライダー」の捕縛を目指す―――が、過去30回以上も捕縛チームが駆けつけるが全て失敗に終っているのも事実。

 

『動くな、違法自警者「仮面ライダー」!!貴様は過去幾度も違反だと理解していながら個性を使用しての「ヴィラン」撃破を行っている。それは逮捕に値する!!』

『動かないで頂きたい。私達も貴方を傷つけたくありません、出来る事ならば我々と一緒に来て頂きたい』

『逃げようとは思うなよ、周囲は完全に包囲している』

 

救助活動中のライダーを捕縛する為にチームが幾度もの無く姿を現し捕縛を試みる。しかし「ヒーロー」の言葉には一切耳を貸さずに救助活動を続ける。次に動けば攻撃すると警告を発したとしても彼は完全に無視して自分がしたい事を続ける。しかし救助中の彼を攻撃すれば、市民に攻撃が当たるという事も考えられるため、致し方なくそのまま包囲を続けるしかなかった。そして全ての救助が終ったのを見計らって、彼の周囲に陣取って何処にも行かないようにする。

 

『お願いです。我々と来てください』

『動くな、動くなと言っている!!!』

 

度重なる警告、だが「仮面ライダー」はそれを意図も容易く通り抜けると何時の間にかバイクに乗り込んでそのまま去って行っていく。どれだけ厳重な包囲状況を作り出そうが必ずすり抜けて、姿を眩ましてしまうライダー。そんな彼に対する捕縛は効果が薄いと判断されたのか、最近では今までの違反行為を帳消しにする代わりに正式に「ヒーロー」として活動して欲しいというスカウト案に切り替えようという物が出始めている。

 

 

「あ~あ……暇だなぁ……」

 

雄英の入試が終わってから数日、剣崎は受験のストレスから開放されたからか伸び伸びとしてながら自宅のリビングで根っ転がりながらヒーロー雑誌を読み漁っていた。一応滑り止めとして別の高校のヒーロー科も受験し、そちらは合格しているので特に心配事は無かった。雄英に入れなかったらそれは自分の力が足りていなかったという良い証拠にもなる、ならば再び鍛え直すだけ。ただそれだけ、と思ってのは良いのだがやる事が無いと本当に暇でしょうがない。家の掃除に洗濯、ゴミ出しはもう終わっているし買いだしも昨日終わらせてしまっている。此処まで暇なのも久しぶりな気がする。

 

「事件も起きてないみたいだし……平和なのは良い事だけどなぁ」

 

剣崎は事件が起きた場合、それを直感的に感じ取る事が出来る。その範囲は良く分かっていないが、取り敢えずそれがないという事は現状では平和な日常が送られているという事だ。その反面、世界の何処かで事件は起きている、だがそれに対処する事なんて自分には出来ない。物理的に不可能、だからこそ剣崎は自分の手が届く範囲で救いの手を伸ばすと決めている。際限が無い活動の果てに待っているのは破滅しかないと分かっているからだ。その代わり、手が届くならば必ず向かって行動を起こすと決めている。

 

「……寝ようかな」

 

本当にやる事が無いので久しぶりに昼寝でもして見ようかと思って、近くにあったクッションを頭に敷いてみるが全く眠くない。まあたっぷり7時間睡眠をすれば眠る気も無いという物だ。本格的に如何したものかと悩み始めた剣崎だったが自宅内に響いたインターホンに身体が反応するように飛び起きる。もしかしたら注文していた世界の料理全集と新しい調理器具が届いたのかもしれない。急いで判子を持って玄関へと向かっていくと、そこには如何やら郵便屋さんであった。少々ガッカリしながらも、礼を言いながらそれを受け取って室内へと戻って行く。

 

「んでこれは……ッ!!」

 

やって来た封筒を確認して見るとそれには雄英からの物だった、緊張した面持ちのまま封筒を開いて中身を引っ張り出して見ると……まず出てきたのは円状の機械が出てきた。一体何なのかと見ていると……。

 

『私が投影されたァ!!!』

「ギャアッ!!?」

 

思わずそれを落としてしまったが、機械からは確かに声と何かが映し出された。落ち着いてそれを見てみるとそれは今生きる人々全員が知っているほどの超有名人であった。雄々しくも逞しい筋骨隆々な大きな身体、跳ね上がった二つの前髪、そして映像であるはずなのにこちらを威圧するかのような圧倒的な存在感。映し出されたのは全ての「ヒーロー」の頂点であるNo.1ヒーローにして平和の象徴と謳われる誰もが認める「ヒーロー」―――「オールマイト」がそこに映りだされていた。

 

「オール、マイト……!!?」

『HAHAHA!!如何やら驚いてくれたようだね剣崎少年、私には君が思わず投影装置を落としてしまう姿が見えているよ!因みにこれは中継とかではなくて録画された映像だぞ!!そして私は今年から雄英にて教鞭を取る事になったのだ!!その告知も含めて私が合格発表を行っているのだよ!!』

「……すげぇっ流石オールマイト……!!!」

 

まるで自分の行動、いや感情すらお見通しのように笑っているオールマイトに剣崎はただただ感動を覚えていた。更に笑っていたオールマイトだが、影から他の教師から時間の事を突っ込まれて早速本題へと入った。

 

『さて剣崎 初、君の結果だが……筆記試験は問答無用で合格!!そして実技、君が獲得した敵ポイントは68点、そして救助ポイントは56点!!素晴らしい、君は入試1位で雄英へ合格だ!!君はどんな状況でどんな相手だろうと誰かを助ける為に必死になる素晴らしい人だ!』

「おっしゃぁぁああ!!!!」

 

先程まで気にしていない、と思っていたのにあのオールマイトにそう言われると嬉しくなってしょうがない。心の奥底から嬉しさが溢れ出して身体が暴れだしそうだ。

 

『君を、雄英は歓迎するよ!!では剣崎少年、雄英で会おう!!!!』

 

そう言い終わったオールマイトは消えていったが、剣崎は嬉しすぎて身体の全細胞が爆発しそうだった。あの人に、希望をくれた人にまた会える、希望で居続けてくれている憧れの人が自分が通う学校にいる……こんな嬉しい事は無い……。

 

「ぁぁぁっ……オールマイト、俺は、貴方に誓った通り絶対に……救いのヒーローになります……!!!」



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雄英入学、そして初めての友達……?

その日、剣崎は何時もより早く目を覚ましていた。早めにトレーニングを終えてシャワーを浴びて、朝食を取る。何時も行って生活サイクルが少し変わっていてトレーニングがやや軽めに変わっていた。自分好みにブレンドしたコーヒーを喉奥へと流しこむと、着替えへと移った。剣崎が纏っていたのは、何時も着用している普段着ではなく、合格した雄英の制服だった。

 

「よし―――んじゃ行って来るか」

 

荷物を詰め込んだリュックを背負うとそのまま家に鍵を掛けて出掛けて行った。今日から自分も高校生、えの雄英の生徒なのだ。バスに乗って最寄の駅から電車に乗る事15分、剣崎は雄英の正門前に到着した。以前入試に来た時も思ったが相変わらず馬鹿でかい建物だと思う、日本屈指の敷地を誇る超巨大校。校舎は何処から見ても『H』の形になるようになっているのが何処か面白い。

 

「確か、俺は1-Aだったな……」

「あらっ貴方も1-Aなのねっ?アァン、男前じゃなーいでイケメンじゃなーい!!」

 

と、自分の言葉に反応するように声を掛けられた。隣には自分と同じように制服を纏いながら携帯のアプリで位置情報を確認していたと思われる男子生徒が此方を見ていた―――が、妙に女性らしいというか言葉遣いが完全に女性な上に何処か此方に向けられる視線に奇妙な圧迫感を覚える……。しかし剣崎は余り気にしないで彼に話しかける。

 

「ああ君もかい?」

「ええそうよ、あら失礼まずは自己紹介からよね。ワタシは泉 京水宜しくね♡」

「剣崎 初、宜しくな泉さん」

「あらご丁寧に、でも京水で良いわよ。皆からはそう呼ばれてるから、でも貴方には京ちゃんとか水ちゃんって呼ばれるのも捨てがたいわアァン!!」

「はははっ……面白いね君」

 

剣崎は余り気にせず自然体で彼と接しているが……京水は非常に鍛えられているのか制服の上からでも分かるほどに強靭な肉体を持っている。そんな男が身体をくねらせつつ、女性的な仕草をながら熱い視線を向け、丁寧な口調で女言葉を使う……そう、京水は所謂そっち系(オカマ)なのである。だが陽気な性格な為か剣崎としては接し易い、これから仲良くして行こうとも思った。

 

「それじゃあ一緒に教室に行くかい、京水ちゃん」

「あらやだっ良いわねその呼び名!!ビビィィィっときちゃうわアァン!!ええ是非、是非ご一緒させていただくわアァン!!」

「良かった、君とはなんだろう。仲良く出来る気がするなぁ」

「あらやだっそれってば口説いてるのかしら!?イケメンで優しくて積極的、嫌いじゃないわっ!!寧ろ、大好物だわ!!!」

 

なんだから分からない間に京水をメロメロ、というか一方的に惚れられたのか剣崎の周りではしゃぎ回っている京水に元気だなぁと呟く剣崎。

 

「京水ちゃんってさ、なんか憧れの「ヒーロー」って居るの?」

「そうねぇ……やっぱりオールマイトは王道中の王道よねぇ。でもワタシはワイルド・ワイルド・プッシーキャッツの「虎」が一番ね!」

「へぇそうなんだ」

「そうなのよ、あの鍛えられた肉体美と人を助ける時のあの凛々しい表情……好きなのよねぇワタシってば。後ワタシの個性的も目指す物がそれって感じなのよねぇ」

 

肉体美云々は剣崎としても鍛えられた筋肉に憧れたりするので分かりはする、それに虎と言えば山岳救助などを得意とするベテランヒーローチームに所属している事でも有名。「ヴィラン」を倒すのではなく救助を優先する事でも有名なチームで自分が目指す救いのヒーローの一側面を兼ね備えているヒーローチーム。そしてそんな言葉の中で気になったのが京水の個性が、虎を目指していると言っている事だった。

 

「京水ちゃんの個性って、身体を柔らかく出来たりするのかい?」

「んっ~良い線行ってるけどちょこっと違うわね。ワタシの個性って結構特殊な部類で判別が面倒なのよ、まあその分汎用性って面白いわよ。それで剣崎ちゃんは―――入試で見たけど、身体能力系よね?」

「ああそうだよ」

 

どうやら既に入試の時から目を付けていたらしく、自分の入試の様子を見ながら実技試験を突破したらしい。よくもまあそんな事をしながら入試を突破出来たものだと、別の意味で感心する。

 

「ああそうだよ、キック力増したり早く走ったり強く殴ったりする個性だよ」

「あらっやだ凄いシンプルね!!でもその分、やれる事多そうね!!シンプル・イズ・ザ・ベェスト!!なんて言うしそういう個性が最強だったりするかもしれないわね」

「ははっ有難う。まあ結構地味って言われたりするけど、俺としては変に特殊すぎるものより使い易いから助かってるよ」

「そうよねぇ……個性って強いと妙にクセが強かったり制御が大変だったりするから、面倒なのよねぇ。ワタシの個性も結構アレだから、使う気なかったのにポロリしちゃって大変だったからその辺りは羨ましいわぁ」

 

明るい京水は一瞬だけ僅かな落ち込みを見せた。どうやら過去に個性絡みで何かが起きたようだ、強力な個性を求める家庭が居る中で余りにも強力な個性を宿してしまって人生が狂ってしまったなんて話も聞く。それを考えると制御し易い個性が望ましいような気もする。

 

「でもまあ、此処は天下の雄英。此処で最高に、スペシャルになってみせるのが目標かしら」

「確かにそれが「ヒーロー」云々よりも自分を律せれるように成るのが一番かもね」

「んもう気が合うわねぇワタシ達!!これは運命の出会いかしらっ♪」

「俺のお婆ちゃんが言っていた。人の出会いは一期一会、全てが運命の出会いだからこそその中で出会える真の友を見出せるように確りと交遊しろってさ」

「おっしゃる通りだわぁぁぁぁっ!!!」



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教室へ

「1-A……この先だな」

「さてとどんなクラスメイトさん達がワタシ達を待ちかねているのかしら、やっぱりイケメンな子が多いのかしらぁ」

「それは如何だろうね、意外に「ヴィラン」みたいにめっちゃ柄が悪い人がいたりしてね」

「アァンそれはそれで面白そうねぇ……だけど一応此処ってヒーロー養成学校だしそれってあるのかしら?」

 

などと中々に仲良しになった剣崎と京水、彼がそっち系なのは剣崎は普通に理解しているがその程度で差別はしないし気持ち悪がったり態度の変化などはしない。人が何に興味を持つかなんて千差万別、世の中には日本刀やエッフェル塔と結婚するような人だっているのだから同性を好きになる人ぐらい別段可笑しくはないだろう。漸く辿り着いた教室への入り口の扉、しかし扉は異様なほどに大きい。

 

「でっけぇ……個性を配慮した上での設計かな」

「でしょうねぇ。ワタシの知り合いにもいるわよ、全身が金属の塊で身長4m強ある子」

「それすげぇな」

 

一体どんな人なのかそれはそれで気になってきたが、その辺りにして扉へと恐る恐る手を掛けて扉を開ける。一体どんな生徒達が中にいるのだろうか、何処かわくわくしながら扉を開けてみると―――

 

「そこ机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないか!?」

「思わねーよ、てめー!?どこ中だよ脇役が!!」

「……初ちゃん」

「何も言うな」

 

まさか、自分の台詞がフラグになっているとは思いもしなかった。教室内は何処か静かな雰囲気な筈なのにその端からは如何にも凄まじい存在感を放っている者がいた。それは如何にも不良ですと主張するかのような顔つきの悪さと着崩された制服、机の上に投げ出された足……如何見ても不良だと一目瞭然で分かる役満である。席的に近くにいるのが少々複雑だ、差別するつもりはないが……此処まで不良的な感じだと近づきづらいのも事実だ。そんな不良が注意している気真面目そうな眼鏡を掛けている者の背後にあるのが剣崎の席なようだ。

 

「ちょっと失礼、そこの席俺のみたいなんだ」

「ムッこれは失礼したね、すまない。ぼ...俺は聡明中学校出身、飯田天哉だ、宜しく頼む」

「ああ、こりゃどうも。剣崎 初だ、こっちは友達の泉 京水」

「宜しくねぇ~ってあら、入試の時にあったわね」

「もしや、君は「プレゼント・マイク」のスタートダッシュに唯一反応していた……!?そして、そっちは俺の隣でスタートしていた……」

 

如何やら一方的ではあるが向こうは自分の事を知っていたようだ。まあスタートダッシュに唯一反応して先行して仮想敵を潰していたのでその姿を見ていた、というのであれば大勢の人間がそれに該当するだろうが……。因みに京水曰くこの真面目そうな彼、飯田は

 

「イケメンで真面目……嫌いじゃないわっ!!」

 

との事らしい。この後は飯田と京水と一緒に話をしながら時間を潰していた、飯田は剣崎と京水はあの試験の本質である事を見抜いていたと言われて思わず目を丸くしてしまった。如何やら教師による評価形式になっていた救出点が「ヒーロー」とは何たるかを評価する、と言う事を理解して誰かを助けていると思われたらしい。剣崎は自分がやりたいからやったまで、京水も少なからず受験生を助けていたが……その動機は自分好みな受験生が大怪我するのを見たくない為だったらしい。

 

「いやそれでも立派さ、あの状況なら誰もが点数を稼ぐ為に仮想敵に向かっていくのだからね。下手をすれば自分の点数が足りなくなって不合格になるかもしれない、それを恐れずに行動していたんだから十分だと思う」

「あらん褒め上手ね♪そんなに褒めて、昨日作って持って来たクッキー位しかあげないわ♪はいどうぞ、初ちゃんもどうぞ」

「おっとこれは有難う……適度な甘さで美味いな」

「おおっホントだ。京水ちゃん器用なんだな」

「アァンもっと、もっと頂戴!!イケメン二人からの褒め言葉、キタ、キタキタキタキタァ!!!」

 

などと遊んでいるような会話を続けていると間もなく8時半になる。普通の学校ならば朝のHRなどに入っていても可笑しくは無い時間などだが……肝心の担任が姿を現さない。そう言えば担任は一体どんな人に成るのだろうか、どんな「ヒーロー」が自分達のクラスをまとめ上げるのか少々気になってきた反面である事が不安になった。客観的にみれば京水だけでも十分すぎる程に濃いはずだ、が恐らく他のクラスメイトも凄い濃い事もありえる。そんなクラスを纏め上げれる人が担任なのだろうかという事だった。そんな時、教室に妙な物が入ってきた、それは―――キャンプなどの野営で使う寝袋であった。

 

「……何だあれ」

「自立稼動移動式の新型寝袋かしら?」

「いや、泉君そんなもの誰が欲しがるんだ」

 

飯田が突っ込みをする最中も寝袋は移動を続け、遂に教壇の上へと辿り着いた。尺取虫のような動きで教団へと辿り着いた寝袋、なんだろうこのシュールすぎる状況は……と剣崎が半ば呆れるように教室の他のメンバーのようにフリーズしていると、寝袋から余りにもぼさぼさな髪と酷い無精髭を蓄えている疲れきった目をしているホームレスと間違われそうな男が寝そべったまま顔を覗かせながら言った。

 

「お友達ごっこがしたいなら余所の学校へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ」

 

一同が不思議な威圧感と存在感に飲まれ言葉を失った。間もなく始まりを告げようとしている雄英での学園生活、剣崎は妙な不安を抱えずに入られなかった……。

 

「如何でも良いけどその寝袋って寝心地良いの?」

 

尚、京水は一切そんな事を感じずに平然と質問をしていた。



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個性把握テスト

教室へと入ってきた京水曰く「自立稼動移動式新型寝袋」の正体はヒーロー科1-Aの担任を務める事になっている「相澤 消太」だった。そして相澤はクラスの全員を合理性に欠くと言いながら、体操着に着替えてグラウンドへと出ろと指示を行った。質問をしたいと言った飯田の言葉はあっさりと却下された、通常の教員とは違う独特すぎる教師……一同は何処か不安を感じつつもその指示に従ってグラウンドへと出た。そこで待っていたのは―――

 

『個性把握テスト』

 

であった。

 

「入学式やガイダンスはないんですか!?」

 

いきなりの宣告に思い描いていた高校ライフとはかけ離れている為に思わず聞かれる、がそれにも相澤はいとも簡単にんな物はないと答える。

 

「ヒーローに成るんならそんな悠長な物をやってる時間()はないよ。この学校(雄英)最大の売り文句は「自由」である事。そしてそれは指導をする教師陣にも適応される」

 

そんな事を言いながら手に持ったソフトボールを不良そうな生徒、爆豪へと投げ渡すとそれを円から投げるように指示をする。

 

「中学の頃からやってるだろ、体力テスト。ああいうのは基本的に「個性」は禁止だ、だが此処では個性を使って存分にやって良い。但し円からは出るなよ、あくまでそれがソフトボール投げの測定ルールだから」

 

個性の使用禁止、それは当たり前のもの。個性を使えばそれは体力ではないものになるとされているがそれは文部科学省のタイマンだと、だが此処ではその禁止を破っても良い。というよりも個性使用を前提にした体力テストを行われる。

 

「んじゃまあ―――死ねぇッ!!!!!」

 

―――お前は本当に「ヒーロー」目指す気あるのか、と言いたくなるような掛け声と共に投げられるボール。それには同時に彼の手から起きた爆発の爆風が乗せられて通常の投擲ではありえない勢いが加算されて吹き飛んで行く、爆豪の個性が名前が示すかのような「爆破」。その爆破の爆風を利用してソフトボールが投げられる、一瞬にしてボールは見えなくなっていくが落ちた瞬間に相澤は持っていた端末を見せる。そこには705.2mと表示されている。

 

「あれがあいつの個性か……なんつぅか……見た目と言葉遣いが相まって……」

「荒々しいわねぇ、まるでヴィラァアンだわ」

「ア"ア"ンてめぇ今何つったぁ!!?」

 

思わず言ってしまった言葉が気に入らないのか、此方に近づきながら威圧してくるような視線を向けてくる爆豪。だが剣崎も京水も全く恐怖も何も感じない、目の前にいるのは唯の騒いでいる不良生徒にしか映っていない。

 

「声が大きいわねぇえん、貴方もうちょっとちゃんとしないと世間から酷いバッシング受けて人気なくすわよ?「ヒーロー」も結局は支持や人気があってこそなんだから」

「俺もそう思うな。君はただのヴィラン崩れにしか見えないな、後威嚇すれば誰も彼も従うかと思ったら大間違いだ」

「んだとぉっっっ……!!!」

「はいそこ、静かにしろ。まあ剣崎と泉の意見は解る、ぶっちゃけ俺もうるさいと思ってた」

「チッ……!!」

 

舌打ちをしながらそっぽを向く爆豪を見ながらこうはなりたくはないな、と心の何処かで思う。そんな中、相澤はこのテストでトータル最下位だった者は除籍処分にすると言い放つ。それによってクラス内の緊張感が一気に加速する。一瞬でもあった自分が使いたくて堪らなかった個性を100%使っていいと喜びが吹き飛ぶ程のインパクトがそこにある。誰もがそれに異議申し立てをする、だがそれを一刀両断にされる。

 

「理不尽無茶振り、そういうピンチを打ち破り覆す者が「ヒーロー」。これから三年間、苦難が与え続けられるのが君達のこれからだ。"Plus Ultra(更に 向こうへ)"さ。全力で乗り越えてみろ」

 

「ヒーロー」を目指す者達に投げかけられる最初の試練、個性把握テストが、始まった。

 

 

第一種目:50メートル走

 

「次」

 

淡々と記録を言いながら記録をとっていく相澤の宣告に一喜一憂が起こる中で、間もなく剣崎の番が来ようとしていた。既に飯田と京水の順番は終了しており、飯田は自らの個性を生かしたスピードを見せ付けて3秒04というクラス最高記録を叩き出す。対する京水は―――

 

「い、泉君君の個性は一体―――!?」

「ァアアン、やっぱりこの姿だと気分が良いわぁ……今までの自分から変身して、本当の自分を出せている気がしてぇ……」

 

飯田が驚愕するほどの変化―――京水の姿は大きく変わっていた。全身が黄金にも似ている黄色に変質しながらも弛んでいるかのような肌に両腕は鞭のように伸び、肩からは角のような物が突き抜けている。彼が変化した時、クラス中が思わず言葉を失うほどの超変化だった。そしてそんな彼がスタート同時に脚を伸ばした時には驚きの声が溢れた。伸ばされた脚を一気に縮める事で距離を一気に移動する京水が叩き出したのは4秒02という記録だった。

 

「京水ちゃんの個性って……凄い面白いな」

「アァン初ちゃんってば嬉しいぃわぁん♪ワタシの個性は「幻想」なのよ♪自分の身体を幻想的、狂気的に変えつつもその身体で色んな事が出来るの♪」

「……その個性ってマジで凄くね?」

「いやんっ照れちゃうわ、もっと言って!!」

 

そんなこんなをやっていると剣崎の手番が回ってきた、飯田と京水からのエールを受けてレーンに入ると妙に視線を感じる。どうやら先程のやり取りで爆豪から狙いを定められてしまったようで、凄い視線を感じる。だがそんなものは無視する、気にしなくていい。今は自分の力を示す場なのだから―――。

 

「スタート」

KICK(キック)〉 〈MACH(マッハ)〉 〈TIME(タイム)

「―――『固有時制御(TIME ALTER) 超加速(MACH ACCEL)』ッ!!!」

 

スタートと同時に能力をラウズ、一気に時間が凝縮されていく。外の世界と自分の体内での時間の感覚が一気に矛盾する感覚、そのまま爆発的な脚力で地面を吹き飛ばさん勢いを蹴りつけて一気に加速しながら全力疾走を行う。灰色のように染まった世界を一気に駆け抜けていく、まるでアフターバーナーを点火したかのような勢いのスタートダッシュを決めた剣崎。そしてゴールを超えた所で力を解除するが余りに勢いを付けすぎたせいか、止まるのに4mほど使ってしまった。

 

「剣崎 初……2秒64」

「な、なんて速さ……!!!」

「いやぁああああん流石ワタシの初ちゃん~!!アァァアアンしゅごいいいいぃぃ!!!」

 

最高記録を更新するほどの力を見せ付ける剣崎にクラス中から注目が入る、その注目には様々な感情が込められている。羨望、興奮、嫉妬……だが、それらを気にも留めない剣崎はスタート地点に戻るとある少年が目に入る、それは以前一度だけあった事がある緑色の髪をした……少年。

 

「えっと確か……緑谷少年って呼ばれた……駅の場所を教えてくれた」

「う、うん。ま、また会えたね」

「ああ。君も合格したんだな、改めて剣崎 初だ」

「ぼ、僕は緑谷、緑谷 出久だよ」

 

握手をしながら剣崎は何処か不安げにしている彼の肩を優しく叩きながら言う。

 

「大丈夫だよ。君だって合格したんだ、ならその時と同じように今やれる事をやれる範囲でやれば良いんだ。そうすれば―――君の100%が出るさ」

「―――ッ!!剣崎くん……うん、僕頑張る!!」

「おう!」

 

そんなエールを送りそれを受け取るやり取り―――これが、とある事変を起こす始まりの二人とは、今は誰も知らなかった。



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出久の全力、合理的

個性把握の為のテストは次々と続けられていくが剣崎は特に問題もなくどのテストも満遍なくいい記録を連発しながら順調にテストを進めていた。握力では基本的に個性を使っても意味がないので普通にやったりはしたが、それ以外のテストでは個性を存分に使用して記録を叩き出した。立ち幅跳びでは『KICK(キック)』を使用する事で身体能力強化である筈なのに上位に食い込むという力を見せ付けているからか、周囲からは若干畏怖の視線で見られている。

 

「いやぁぁぁあああん初ちゃんってば本当に凄いのねぇ♪」

「ありがと京水ちゃん、そっちだって凄いじゃん。17メートルって」

「ワタシのは身体の伸縮とその反動だからよ、でも初ちゃんは身体能力なんだから自信持つのよ」

「それはぼ……俺もそう思う。剣崎君、君はアレだけの力を発揮出来るんだから思いっきり誇っていいと思う」

「そう言って貰えると有難いよ」

 

そんな中で京水と飯田は特に気にする事もなく、剣崎に話しかけて労いの言葉や自分だって負けないという意志を伝えている。そんな何気ない言葉が何処か有難いと素直に思ってしまい、嬉しくなっていた。そんな二人の友人と共に第四種目の反復横跳びや第五種目でボール投げ中々に良い記録を叩き出していく剣崎に何処か警戒するかのような視線が送られていくがもう、彼は気にする事なかった。共に言われたように常に堂々としていれば良いのだと、ある種の開き直りを覚えた。

 

 

ソフトボール投げを終えて京水らと話している最中、出久の二度目の手番となった時だった。彼はこれまで個性を発揮しているのような記録を出せていない。そんな彼に剣崎は何処か不安を抱えていた、折角だから友達になりたいとも思っていた。そんな彼の第一投、どうやら本気で個性を使う気で居たらしいが、それを担任であった相澤が個性を使って打ち消していた。元々がプロのヒーローである彼は視ただけで相手の個性を消す事が出来るという個性を持っている。それで個性を無力化されてしまった出久、だがそれでも迎えた第二投―――

 

『―――今やれる事をやれる範囲でやれば良いんだ。そうすれば―――君の100%が出るさ』

「今の僕に、やれる事を、100%を……やれる範囲で……そうすれば全力が出る……!!!」

 

それは剣崎が彼に送った言葉だった。気負っていてはやれる事も出来ない、だから出来る範囲で全力をやれば自然と自分の全てが出し切れるという言葉だった、そんな言葉がお前の力では「ヒーロー」には成れない、という相澤の言葉を打ち消した。勇気と全力を持って一歩を踏み出す。それが今出来る事……その答えこそ―――

 

「SMASH!!!!」

 

その一投に込められていた。投げられたボールはぐんぐんと伸びていって500地点、600を超えていく。そして遂に700を超えて、地面へと落ちた。最初こそ46mという記録しか出せなかった彼からしたらとんでもない大記録、しかしその代償と言わんばかりに彼の右人差し指は酷く変色し血が滴っている。激痛が走っている筈のそれを強く握りこみながら、痛みと涙を堪えながら、出久は相澤を見た。

 

「先生、まだ、僕は……行けますっ……!!!」

「こいつ……!」

 

思わず目を大きくした相澤は少し笑ってから出久の記録、705.3を告げた。

 

「指があんなに腫れ上がって……身体にそこまでの反動が掛かる個性なのか?」

 

飯田は冷静に出久のそれを分析しながらも違和感を覚えていたが、それでも立派な記録だったと賞賛を送った。すると隣にいた剣崎と京水がいない事に気付いた、視線を彷徨わせると出久の所までいって彼の肩を叩いている姿を見た。二人は傍まで行って彼を労っている、確かに賞賛するならその位しないと行けないなと改めて二人を見習おうと決めた。

 

「緑谷君やれば出来るじゃないか。あれが君の全力、凄いじゃないか!俺の600を軽く超えてるぞ」

「アァン、最初こそちょっと頼りないと思ってたけど良いガッツしてるじゃないのよ!!良いわ、良いわ良いわァアアン♪ちょっと頼りないけどいざという時はやる男の子、嫌いじゃないわっ!!」

「あ、有難う二人とも……いててっ……」

 

京水は如何やら簡単な包帯や救急セットを持っていたらしく、それを使って応急処置だが出久の指を治療する。完全に痛みが引いたわけではないがそれでも先程よりも大分マシになっている。

 

「す、すいません泉さん態々……」

「いいのよ気にしなくても、そんな事よりも次も頑張りましょうね♪」

「う、うん!!」

 

京水に笑顔に力を貰ったのか、先程よりも痛みが気にならなくなった影響か笑えるようになった出久はいい表情で笑い返した。どうやらそんな笑顔は京水的に来るのか、その笑顔超グッド!!と返すのであった。が

 

「どぉぉぉおおいう事だ、こら訳を言いやがれデクテメェエエエ!!!」

「うわぁあああああッッ!!!??」

 

突如として怒り狂った爆豪が出久へと向かって爆発の勢いを使って一気に接近して来た、相澤はそれに反応しようとするが、それよりも早く京水が身体を変化させて伸縮自在な両腕を爆豪へと巻き付けて行く。特に両腕と両手を念入りに拘束し完全に行動が出来なくなるようにして地面へと押さえつける。

 

「あらあらっ元気な事ッ!!ワタシってばそういう子、嫌いじゃないわよ……でもちょっとオイタが過ぎるわよ?」

「てめぇ、カマ野郎……!!!放し、やがれっ……!!!」

「ノンノン、駄目よん♪放したら貴方出久ちゃんに襲い掛かるでしょ、それは認めないわよ。先生、拘束ってこんな感じで良いのかしらぁ?」

「上出来だ泉、俺も無駄に個性を使わずに済んだ。俺はドライアイだからな」

 

爆豪と同じ中学の出身且つ、幼馴染である出久は爆豪の強さも個性の凄さも把握している。そんな彼を子供の遊び相手をするかのように容易く拘束してしまった京水に思わず驚愕してしまった。確か個性は「幻想」と言っていたが、まだまだ力が秘められているという事なのだろうか……。

 

「あらっまだ抵抗出来るのね、ならもっと強く、ワタシが抱き締めてあげるっ……♪うふ、その手の温かさも良いわねぇ……」

「気持ち、わりぃんだよカマ、野郎……!!!」

「駄目駄目、個性で爆破なんてしても無駄よ。「幻想」は壊しきれないから幻想なのよ♪」

「あの、泉さんそれってどういう……?」

「今度、教えてあげるわよ♪」

 

そんな京水の爆豪の捕縛劇も相澤がもういいぞと言われるまで続くのであった。そして再開されたテストも剣崎は力の限り尽くした間違いなく良い結果だと確信出来る出来だった。出久も彼なりに痛みに絶えながら本当に良くやったと言えるものだった。そして遂に結果が発表される時―――トータル最下位だった者は除籍処分と断言していた相澤、一体誰が……。

 

「それと除名処分は嘘。君らの最大限を引き出す為の合理的虚偽」

『はぁぁあああああああっっっっ!!!!??』

 

なんとまさかの嘘だった。この時、出久は自分が除名されるのではないかと一番ビクビクしていたので嘘だと分かった時にはホラーに出てきそうな正体不明の化け物のような画風になって驚愕していた。

 

「ま、まあ良かったじゃないかこれで雄英に居られるんだからさ」

「そうだけど、なんだから凄い身体から力が抜ける気が……」

「まあそれは分かるわね」

「ヒーロー科って……ホント自由だな」

 

この時の剣崎の言葉に、クラスメイトほぼ全員が同意していた。



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戦闘服

「初ちゃんにデクちゃん、午前中の授業はどんな感想かしら?」

 

雄英入学から二日目、ヒーロー科の授業がどんな印象や感想だったかを京水は友人である剣崎と出久に尋ねていた。

 

「普通の授業だったから違った意味で、着いていけたかな」

「英語の授業が「プレゼント・マイク」だったのはビックリしたな……」

「それは同感」

 

ヒーロー科と言えば普通の授業も確りと存在している。授業は毎日7限目まで、土曜日は6限目まで行われ休みは基本的に日曜日となっている。他の学校と比較しても何処かハードスケジュールな印象を強く受ける。現代文や数学、英語などと言った通常の学校などで行う授業も行うがそれらを受け持つのがプロヒーローというのが何処か普通ではないのが雄英の自由さなのかもしれない。この他にもヒーロー基礎学というのも学ぶ事になっており、「ヒーロー」になる為の授業がある。それが最も単位数が多い。

 

「午後からはヒーロー基礎学か……どんな事するんだろうな」

「確か戦闘訓練や看護訓練、ヒーロー教養って感じだったわよね」

「まずはその中から何をするかって感じだね」

「俺としては―――看護と救護訓練とかを重視したいな」

 

自分が目指している目標は普通の「ヒーロー」ではなく救いのヒーローという点になる剣崎にとって、誰かを救うための技術というのは最も重視すべき物だと考えている。その為に剣崎は救助訓練などを強く推して行きたい所だが、その辺りは授業が始まるまでの楽しみにしておく事にしよう。

 

「看護、救護訓練を志望。貴方って結構レスキューヒーロー志望なの?」

「んっ……君は?」

「蛙吹 梅雨、梅雨ちゃんって呼んで」

 

背後から話し掛けられたのでそちら側を向いて見ると小柄で猫背気味、どこか表情もカエルのような印象を深く、強く受ける少女がそこにいた。蛙吹 梅雨、同じクラスメイトの一人のようだ。

 

「ああ、どうも。剣崎 初です、宜しく梅雨さん」

「梅雨ちゃんでいいよ、私も剣崎ちゃんって呼ぶわね」

「分かった梅雨ちゃん」

「アァン可愛らしいわね、泉 京水よ♪」

「宜しく、泉ちゃん」

「はぁい♪」

 

そのまま京水と出久とも挨拶を済ませた梅雨ちゃんは話に参加してどんな授業になるのかという話し合いを始める。彼女なりの見解では入学前に個性届と要望を送っているのでまずは自分のヒーロースーツになる戦闘服(コスチューム)が渡されるのではないかと考えている。「ヒーロー」といえば各個人が個性を発揮、活用する為に纏う物であり、自らの存在を知らしめるアピールポイントにもなるからという理由から。

 

「成程……それは確かにあるな」

「確かにそうかもね」

「皆のヒーロースーツ、気になってきちゃうわねぇ♪」

 

気付けば話は皆がどんなヒーロースーツが好みで、デザイン面だとどんな「ヒーロー」の物が最も優れているのかと言う話にシフトしていた。それぞれが推している「ヒーロー」がいる為かこういう話題が終わりが見えなくなるのが当たり前だが、京水は「虎」で出久は「オールマイト」はそれぞれの良さを語りながら相手の推しヒーローはこんな所が素晴らしいんじゃないかと言う話題を展開している。まだ二日目だが本当に仲良さそうにしている二人を微笑ましく見つめている剣崎を梅雨ちゃんはじっと見ている。

 

「楽しそうね、剣崎ちゃん」

「んっそう、見える?」

「泉ちゃんと緑谷ちゃんが話している所から、まるで花が咲いたみたいに綺麗に笑ってる。これじゃあ花が咲き乱れるの咲きで、剣咲ちゃんね」

「はははっそれもそれでいいなぁ」

 

本当に微笑ましそうに見ている。まるで本当のお兄さんのような温かみと嬉しさ、いやまるで慈愛に溢れているかのような笑みにつられるように梅雨ちゃんも笑う。

 

「梅雨ちゃんは好きな「ヒーロー」とか居ないの?」

「そうね……やっぱり色々いるけど鉄板の「オールマイト」かしら」

「やっぱりか、俺もだよ」

「でも、一番気になってる「ヒーロー」は別にいるの」

「別の?」

「ええ。それはね―――」

 

言葉が出ようとした途端に本鈴が鳴り響いた。そしてそれと全く同時に―――扉が力強く開け放たれた。そこから入ってきたのは……

 

「わぁあたぁあしぃぃがっ!!!普通にドアから来た!!!」

 

筋骨隆々の強靭で完璧と言っていい程に鍛え上げられた肉体をした平和の象徴である京水と出久の話にあがり続けていた「ヒーロー」のオールマイトだった。少々タイミングの悪さも感じるが、授業が始まるならしょうがないと話を打ち切って元の席へと戻っていく梅雨ちゃん。結局誰が気になっているのか聞きそびれたので後で聞こうと思う剣崎。

 

「本当にオールマイトだ!!マジで教師やってるんだぁ!!」

「銀時代のコスチュームね」

 

伝説的且つ、全ての人々が認める英雄で平和の象徴の登場に皆のテンションが振りきれるようにあがっていく。それも致し方ないという物だろう、つまり午後からのヒーロー基礎学はあのオールマイトからの授業となるのだからこれを興奮せずしてどうしろと言うのだろうか。

 

「さてでは早速行こうか!!午後の授業は私が受け持つ、そしてそれはヒーロー基礎学!!「ヒーロー」として土台、素地を作る為に様々な訓練を行う科目だ!!正に「ヒーロー」になる為には必須とも言える!!単位数も多いから気を付けたまえ!!そぉして、早速今日はこれ、戦闘訓練!!!」

 

その手に持ったプレートには「BATTLE」と書かれている。いきなり始まるそれに、好戦的且つ野心家な生徒達はメラメラと炎を燃やす。それと同時にオールマイトが指を鳴らすと教室の壁が稼動をし始めていく。そこに納められているは各自の戦闘服(コスチューム)。梅雨ちゃんの推測も正解だった瞬間だった。それぞれがそれを纏って行く中、ある意味剣崎のそれは酷く注目を集めていた。

 

「アァァアン初ちゃんのそれってば凄いカッコいいじゃないッ~!!!イケメンさがより引き立てられてるわぁあん♡」

「有難う京水ちゃん―――気合が入るな、やっぱり」

 

「ヒーロー」とは見た目やイメージ、それらで皆を勇気付ける精神的な支柱となる事も要求される。そんな彼らには見た目も必要とされるので「ヒーロー」は明るい色などを採用する事が多い。だが―――剣崎のそれは全くの別。

 

全身を覆う特殊のスーツのようになっているそれは夜の闇よりも更に深い黒、それを縁取るかのように黄金のラインがボディに走っている。特に目立った装飾もなく特殊な機構も内容に見える筈だが、それを纏った剣崎の存在感はより一層増していた。そんな戦闘服を纏った剣崎は気を引き締めながらグラウンドへと向かう。




多分分かる人には直ぐに分かっちゃう剣崎の戦闘服。
というかある意味隠す気0。


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戦闘服の機能とチーム分け

「出久のそれも中々良いじゃないか、オールマイトリスペクトで」

「有難う剣崎くん。剣崎くんのそれ……凄いクールだね!凄い、カッコいい!!」

「ふふんそうだろう?中々気に入ってるんだぜこれ」

「ワタシのもどうかしら、どうかしらッ?」

「京水ちゃんらしさが出てて言いと思うよ俺は」

「うん、か~な~りイケてる」

「いや嬉しくて興奮しちゃうからそれ以上は駄目よん♪もっと言って!!」

「「結局どうしたらいいんだ」」

 

オールマイトに指定されたグラウンドへと向かっていく最中、出久と京水と共に一緒に歩いていく中で友人らの戦闘服を見てみるとやはり自分の違ってカラフルだったり特殊な機械なども付けられている物も多い。それに比べて剣崎の物は貧相とまでは言わないが、シンプルな物でしかない。それもその筈、剣崎の「個性」は身体能力の強化となっているのだからその増長、言うなれば基礎となる身体能力を伸ばす事で強化幅を更に伸ばそうという観点から作られた戦闘服。

 

「でもでも、身体のラインが出て実にセクシーよ♪」

「有難う。これでも鍛えてたから自信あるんだよね」

 

戦闘服自体が身体に掛かる荷重を軽減するパワーアシストを内蔵している、謂わば「マッスルスーツ」のような役割を持っている。鍛え上げられた剣崎の肉体と戦闘服の機能による強化、それに個性による強化が乗った時に発揮される力は恐らくとんでもない物になる事だろう。単純だが、それ故にやれる事も非常に幅広い。更に超高温や低温から身体を守る構造にもなっているので救助活動を行うには最適な戦闘服に仕上がっているので剣崎は酷く気に入っている。

 

「でも泉さんのそれって、どっちかと言ったら軍人の制服って感じだよね」

「ええ、敢てこんな感じにしてみたの」

 

京水の物も「ヒーロー」の戦闘服としてはかなり異端な物に入るだろう。剣崎と同じく特徴的な物は一切なし、所か軍服のような服装。全身を黒に統一しつつ、胸には月で描かれた『L』のエンブレムがある位で他には特に何もない。剣崎の方は特殊な物とまだ分かるが、京水のそれは私服を持って来たと言っても通じそうなほど。

 

「ワタシの個性だとどんな物を着ても個性を使うと一緒になっちゃうのよ。個性把握テストの時も、体操服なかったでしょ?」

「あっ確かに」

「だから機能性を重視したのよ。これってば着心地いいのよ~♪」

 

バレリーナのように見事なスピンを決めながら戦闘服を見せ付けて行く、動き易いほかにも防刃や防弾や爆破耐性などなど……様々な機能性が内蔵されているらしい。そして個性を発動させた時、それが身体と融合するので着ている服の機能がそのまま発揮されるとの事。ある意味、京水の個性は良い意味でかなりやばいと剣崎は思うのであった。

 

「始めようか有精卵共!!戦闘訓練の時間だ!!!」

 

オールマイトの言葉を皮切りに授業が本格的に開始される事になった。まず行われるのは屋内における戦闘訓練、今の世の中、凶悪敵との出現率は屋内が高いので屋内での戦闘訓練が重視されている。室内では思い掛けない物が勝負の成否を分ける事がある上に、空間も壁や天井で覆われている個性によって得手不得手が出て来てしまう。そこを今の内にハッキリさせて、訓練を積んでおく必要がある。今回の訓練では屋内というだけではなく条件を決め、そこに「ヒーロー」チームと「ヴィラン」チームに分ける事となった。

 

 

雄英ヒーロー科 1-A戦闘訓練:室内対人訓練。『核兵器』奪取及び防衛。尚、『核兵器』は本物として扱う事。

 

ヒーローチーム:制限時間内にヴィランチームが守り抜いている『核兵器』の確保、又はヴィランチームの確保。

 

ヴィランチーム:制限時間までに『核兵器』を守りぬく、又はヒーローチームを全員確保。

 

 

これらがそれぞれのチームの勝利条件。「ヒーロー」は敵を倒すか捕まえるか『核』の確保。「ヴィラン」は『核』を守りぬくか「ヒーロー」を倒すか捕まれば良い、この場合の確保は相手の戦闘不能も含まれるので意識を喪失させた場合でも確保の判定が降りる。それ以外の場合は確保テープで相手を巻き付ければ確保判定となる、そして『核』の確保は触った場合に判定が成される。

 

「それではくじ引きだっ!!一人一枚ずつ引いて、そのくじに書いているアルファベットと同じ物を持っている人とチームだ!!」

 

それぞれが紙を引いて行く中、剣崎も引く。ヒーローチームなのかヴィランチームなのか、正直どちらでもいい。自分の個性なら奪取であろうと迎撃であろうとどちらも出来るからである。個性によってはチームの勝利条件的にやりづらいというものは少なからずあるだろうが、剣崎にはそれがないのが大きな利点だ。紙を開いて見ると―――隣にいた京水が輝いている瞳を向けてくる、京水の引いたものと自分のはどうやら同じだったようだ。

 

「まあという訳で宜しく頼むよ京水ちゃん。初めての事だけど俺も頑張るから」

「任せて頂戴初ちゃん!!アァンこれが、初の共同作業ね!!初ちゃんの言い方も、なんだか興奮するわぁぁああん!!!」

 

なんだか勝手にテンションゲージが振り切れている京水、しかしまあ気心が知れている相手がパートナーだというのは有難い。そんな挨拶と互いの個性の改めての確認をしていると訓練の第一と第二の組み合わせが発表された。第一回戦はヒーローチームが緑谷と麗日。ヴィランチームは爆豪と飯田となった、剣崎は出久にエールを送ったが、直ぐに第二回戦の相手が発表された時、京水と共に鋭い表情を作った。

 

第二回戦:ヒーローチーム・上鳴 電気 & 耳郎 響香 VS ヴィランチーム・剣崎 初 & 泉 京水。



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戦闘訓練の剣崎

初のヒーロー基礎学は戦闘訓練となった1-A、そんな彼らを待っていたのは室内での戦闘訓練。その訓練のトップバッターを任された出久はパートナーとなる麗日と共に舞台となるビルへと入って行った。そんな二人を迎え撃つかのように、ヴィランチームの爆豪は先手必勝と言わんばかりに攻撃を仕掛けたがそれを出久が迎え撃つ。出久が爆豪を抑えている間に麗日が核の奪取を試みるが、防衛を行う飯田と戦闘を開始する。

 

結果からすると、勝利したのはヒーローチーム。出久と麗日であった、タイマン状態であった出久は爆豪の癖や行動を上手く予測しそれを攻撃に生かしながらも麗日の援護を行った。それによって飯田との戦いが膠着しかかっていた麗日を上手くフォローする事に成功し、見事に『核』の奪取判定をもぎ取る事に成功した。

 

「やったな、緑谷君」

「やっぱりいいわねぇんああいうの♪」

 

出久は終了後に医務室へと送られてしまったが、あれは名誉の負傷とも言えるだろう。タイマン相手の爆豪の個性は爆破、一対一の戦いに多対一でも力を発揮出来る戦闘向きな個性。あれと渡り合えたのは十分な戦果と剣崎と京水は彼を大いに評価した。そしてもう一人―――。

 

「飯田、中々お前もやるじゃないか」

「あの演技も中々イケてたわよ♪」

「い、いやその……有難う」

 

真面目さ故か、本物のヴィランのように振舞おうとしつつも確りと状況の把握と相手への警戒と『核』の防衛を行っていた飯田も十分に評価されるべき。派手さで言えば出久と爆豪が飛び抜けているが、安定さや安全性を考えたら場合は飯田の行動が最も良いだろう。

 

「さてとっ……次は場所を変えての訓練だ!第二回戦での戦いチームは指定するビルに移動するように!!」

 

いよいよ剣崎と京水の番となった。対戦相手は上鳴 電気と耳郎 響香のヒーローチーム、自分達はヴィランチーム。出久に負けないように自分も気合を入れなければと気持ちを強く入れる。

 

 

「さてとっ……ワタシ達が守る『核』があるのは7階建ての5階の此処ね」

「ちょっと向こうはどんな風に来るだろうな……確か、二人の個性は……」

「耳郎ちゃんは確か、自分の音を増幅したり耳のイヤホンを壁とかにも刺せる個性で鳴上ちゃんは帯電って個性よ」

 

『核』を前にしながら作戦会議を行う剣崎と京水。自分達は基本的に防衛策を取るべき、立場的にはこちら側が有利だが……向こう側には索敵能力という意味で厄介な個性持ちがいる。守っていてばかりでは後手に回り続けて不利になるのを待つだけという物。ならば取る手段は―――

 

「オフェンスとディフェンスに分かれよう。京水ちゃんがディフェンスを頼めるかい?」

「任せて了解よん♪初ちゃんからのお願いなんだから喜んで引き受けるわん♪」

 

そう言いながらも早速身体を変化させていく京水、瞬時に身体は黄色い怪人のような姿になっていく。本人はこの姿を「ルナ・ドーパント」と命名しているらしい。ドーパントは何処から来ているのかと聞いたら、神経伝達物質であるドーパミンから考えたとの事。

 

「さてと、この『核』をようにちょっと頑張っちゃおうかしら?それで初ちゃんはどうするの?」

「そうだな……まずは、相手の気配でも探るさ」

SCORPE(スコープ)

 

静かに目を閉じる、ラウズされた力が意識をより深く鋭くしながらビル全体へと掛け巡って行く。感覚が研ぎ澄まされていく感覚の中で聴覚と肌が感じ取った。歩く音とそれによって生じる震動、酷く微細な物だが強化された五感には確りと伝わってくる。掌の上で動物が動いているかのように汲み取れる、スーツがそれを助けるようにもしてくれている……静かに目を開けると京水に笑顔を向ける。

 

「んじゃ行ってくるから此処は頼んだよ!」

「ぁっ……oui,monsieur!!」

DROP(ドロップ)MACH(マッハ)〉 〈TIME(タイム)

 

勢い良く飛び出していく剣崎はビルの内部を走り抜けて行く、意図的に大きな音を立てて響かせるようにしていく。更にラウズした力、足先の重量を増して一歩一歩の音が更に大きくなるようにしながらも超スピードで向かって来ていると強く意識させる。聴覚が優れているのならば、此方が接近していると分かると一旦引くか戦闘体勢を取ろうとする。そして隠れながら音を聞いて、此方の様子を伺う。先程までいた場所に到達すると思っていた通りにそこには誰もいない、だが―――

 

「そこぉぉおおおっっ!!!」

 

凄まじい勢いで身体を回しながら廊下の一部ごと、壁へとでかでかと穴を開ける。ガラガラと崩れていく壁の奥には部屋の奥で静かに身体を沈ませながら様子を伺っていたであろう二人が驚愕した表情で此方を見つめていた。

 

「見つかったぁっ!!?ってかはっやっ!!?」

「あ、あああ余りにも早すぎるでしょ!?」

 

流石に思っても見なかった速度での発見に二人も困惑しているが、この場合は剣崎が化け物じみている能力を発揮しているので二人は悪くはないだろう。隠れるポイントも超スピードで迫っている剣崎の事を差し引いて考えると見事な着眼点の隠密行動と言える。

 

「生憎、俺は人の気配には敏感な性質でね」

「―――やるしか、ないわねこれ」

「確かに、あのスピードなら逃げても無意味!ならやってやる!!」

 

二人揃って戦闘体勢に入る、今度もあの速度で追いかけられたら確実に逃げられない。だとしたら倒すしか道は残されていないと考えたのだろう、それも正解。それなら―――

 

「それなら、勝ってみな俺に……!!」

 

 

「初ちゃんどうなったのかしら~……こっちの準備は整ったし何時来ても大丈夫。例え天井突き破ろうか床を壊そうがOKだけど」

 

一方、京水は迎撃準備を完了させながらも何処からヒーローチームの二人が来ても言いようにしていた。全方位に警戒心を向けながら腕を伸ばして充満させて防御と攻撃を同時に行えるようにしている。「幻想」という未だ不明瞭な個性、それを京水は彼なりに完璧に使いこなしている。それで気になるのが勢い良く飛び出して行った剣崎の事だった。通信機で連絡を取れば一発だが、それで耳郎に通信音を聞かれたら拙いと思い行えない。剣崎の事だから大丈夫と信じているが……。

 

「待っているだけって結構辛い物ね……恋ってやっぱり病気ねぇ……」

 

少々溜息が漏れてしまったその時だった。

 

 

―――ウェエエエエエエエイッッッッ!!!!

 

 

独特なシャウトと共にビル全体が揺れる、そこまで大きな揺れという訳でもないがその直後に

 

『ヒーローチーム確保っ!!勝者、ヴィランチーム!!!』

「アァアン初ちゃんってば、ワタシの見えない所で活躍したのね!!痺れるぅ!!」

 

 

剣崎が戦闘を行った場所では倒れこんでいる上鳴と耳郎の姿があった。その身体には確保のテープが巻かれており、剣崎によって確保されているのが明白なっている。その剣崎は最後にはなった攻撃の後を見ながらある事を考えていた。

 

「……良し決めた。今のキックは「マイティキック」にしよう」



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反省会と梅雨ちゃんの勘

全ての戦闘訓練が終わった後、気が付けば日も傾いている頃。下校時刻となったが1-Aの皆の多くは教室に留まったまま戦闘訓練の反省会を行っていた。その中には当然剣崎と京水の姿も含まれている。出久は未だ保健室から戻っていない、爆豪との戦いによって相当深く傷付いてしまったのだろうか。少しの心配を残しながら反省会が進められていく中で、剣崎と京水、そして耳郎と上鳴の訓練について触れられた。その場で総評自体は述べられた物の、矢張り直接本人に語りたいという部分もある。

 

「剣崎、お前の足ってとんでもなく速いよな。飯田よりも速いんだもん」

「ホント……凄い速くて焦っちゃったから、ウチ凄いビビッた」

「その後に壁を蹴り砕いて見つけて来るもんな」

 

そんな話題は第二回戦に行った物へと入っていた、内容の中身は矢張り京水ではなく耳郎と上鳴を確保した剣崎についてだった。それについては京水も同意らしくどのように確保したのか見ていないので、どんな風だったのかを直接聞きたかったとの事。

 

「俺よりも速く動ける上にあの力の強さ……正直、俺も眼を丸くして見ていたよ」

「ワタシも是非とも見たかったわアァン……」

「あれは正直戦闘服のお陰でもあるんだよ。俺の奴は動きを増長するマッスルスーツみたいな役割も出来るから」

「あーそっか、剣崎の個性って確か身体能力の強化だっけ?元の奴が戦闘服で高められたのが個性で強くなるからあんなに凄かったのな」

 

そう言う事と言うと周囲は納得したように頷いた。

 

「あっでもさ、ウチらの場所とかはどうやって見つけたのさ」

「あれは純粋に人の気配を探ったんだよ、後は感覚と意識を研ぎ澄ませてそれを辿った訳」

「それで発見出来るって……お前化け物かよ」

 

上鳴の言葉に思わず周囲の生徒達も多少なりとも頷いていた。幾らなんでも隠れ潜んでいた相手を、気配も極力押さえていたであろう二人を即座に発見したのが個性でもなんでもないと言われると別次元の何かのような印象を受けてしまう。

 

「剣崎ちゃん、一つ良いかしら。私思った事を何でも言っちゃうの」

「へぇ……でも良いよ。何かな梅雨ちゃん」

 

そんな中で一歩歩み出て来たのは梅雨ちゃんだった、少々首を傾げながらも剣崎に視線を向ける。そんな彼女の言葉に答えようとする剣崎だったが、そんな彼女から漏れた言葉に剣崎は身体を硬直させる事になってしまった。

 

「貴方って―――なんだか「仮面ライダー」に凄い似ている感じがするんだけど気のせいかしら」

「―――っ……か、仮面ライダーにって……そう、かな?」

 

ポーカーフェイスこそ作れているが、剣崎は酷く驚いてしまった。僅かに言葉が震えており動揺が見え隠れしてしまっている、が辛うじてそれを隠し続けられている。そんな梅雨ちゃんの言葉に教室に「仮面ライダー」の名前が響いていく。

 

「それってあの「仮面ライダー」かい、あの違法自警者にも関わらず既にファンクラブまで出来てるっていうあの「仮面ライダー」で良いんだよね蛙吹さん」

「梅雨ちゃんって呼んで、飯田ちゃん。ええ、あの「仮面ライダー」に剣崎ちゃんは凄い似ている感じがするのよ」

 

じっと見つめてくるそんな視線、先程から全く変わらない表情だが何処か重い視線が自分に突き刺さってくる。何か追究じみた物を感じる剣崎は言葉に詰まってしまう、そんな中で如何してそんな風に思うのかと言葉が飛んでくる。

 

「でも如何してそう思うの梅雨ちゃん?」

「私半年前に「仮面ライダー」に助けられた事があったの、帰り道でいきなり向かってきた「ヴィラン」に反応出来なかったの」

「えええっっ!!!?何それ凄いやべぇじゃん!!」

「それでいきなりの事だったし、凄いスピードだったから目を閉じちゃったの。でも何時まで経っても痛くなかったの、それでね目を開けたら―――」

 

―――そこには「ヴィラン」の攻撃を受け止めている剣士の背中があった。その「ヴィラン」は突然現れた剣士に驚きつつも剣の構えを取りながら声高に叫んだ。

 

『俺の個性はあらゆる物を切り裂く事が出来る、てめぇも今すぐ切り刻んでやるぜ……「仮面ライダー」さんよぉ!!!』

『……』

 

無言のまま、両腕を剣にしながら向かってくる「ヴィラン」に自らも剣を抜き放ちその切先を向けた。梅雨ちゃんは世間を騒がせているあの「仮面ライダー」が目の前にいると言う現実とその彼に守られている状況に付いて行けずに尻もちを付いてしまい、やや放心状態だった。そんな彼女を置いていくかのように「ヴィラン」は両腕で「仮面ライダー」へと斬りかかっていく。あらゆる物を切り裂くと豪語するその個性、それを発動させながら相手の剣を両断しようとする―――が

 

『な、何ぃ切れねぇ……!?な、何でだ俺の、個性はどんな物でも切り刻める筈だぁぁっっ!!!』

『……』

 

信じられない物を見たかのように絶叫を上げながら斬りかかってくるそれをあっさりと受け止めつつ、剣で大きく弾き飛ばすと鋭い一閃を浴びせかけて逆に「ヴィラン」の身体に大きな傷を作った。それで血を吐きながらも「ヴィラン」は苦しみもがきながらも這いずる回るようにそのまま、壁などに身体をぶつけながらも逃げていく……そんな相手を圧倒した「仮面ライダー」は剣を納めると振り返って彼女の方へと向いた。

 

『っ……!!』

 

思わず緊張してしまった、ゆっくりと近づいてくる「仮面ライダー」に緊張からか心臓が早鐘を打ち鳴らしていく。そして距離が後僅かという所で彼は膝を付き、視線を合わせるようにしながらそっと手を差し出した。まるで自分に怪我は無いか、と問い掛けてきているかのような優しく気遣うような動作に目を白黒させてしまう。

 

『だ、大丈夫……っ』

 

彼の手を取って立ち上がった梅雨ちゃんは少しの間、助けてくれた剣士を見つめていたが彼は軽く彼女の頭を撫でるとそのまま高々と跳躍してそのまま何処かへと去って行ってしまった。

 

「そんな事があったんだ……」

「すっげぇだなやっぱり「仮面ライダー」って!!!俺も一回会ってみてぇ!!」

 

梅雨ちゃんが語った「仮面ライダー」についての話に気付けば全員が聞き入っていた。実際に目の前で語られる「仮面ライダー」の存在感とその強さに皆が驚きを隠す事が出来なかった。

 

「やっぱり凄いわねぇ……一度で良いからお会いして、ワタシもお近づきになりたいわアァン!!」

「剣崎ちゃんは雰囲気って言うか、個性も「仮面ライダー」がジャンプしたって行ったじゃない?剣崎ちゃんのジャンプってなんだか凄い似ている気がするのよね」

「そ、そうなんだ……「仮面ライダー」と同じ、か……」

 

何処か複雑そうな視線を彷徨わせる剣崎、彼の心中は穏やかではなく激しく打っていた。それを必死に出さないようにポーカーフェイスを続けているが、それを見つめる梅雨ちゃんは何かを理解したような視線をただただ剣崎に向け続けた。



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仮面ライダーと自分らしさ

剣崎は自宅へと帰るとシャワーを浴び、ベットの上へと寝転んだ。

 

……貴方って―――なんだか「仮面ライダー」に凄い似ている感じがするんだけど気のせいかしら。

 

「仮面ライダー……か」

 

梅雨ちゃんにそう言われた時、思わず心臓がとんでもない大きい音を鳴らした。それは「仮面ライダー」が世間一般で「ヒーロー」の扱いを受けている事に対してと自分がそれと同じと言われた事に対する物だった。別にそれを侮辱とは思っていないし、彼女が言っていた通り、梅雨ちゃんが思っていた事を言っただけなのだろう。彼女からしたら自分はそう見えるのだ。

 

「俺は―――救いのヒーローになりたいんだ」

 

子供の頃からずっと思っていた、今の「ヒーロー」達の殆どは真の「ヒーロー」ではなく職業としての「ヒーロー」でしかない。だから自分は周囲との違いに苦しんだ、真の「ヒーロー」ではなく上っ面を取り繕う「ヒーロー」達に憧れる周囲の人間が嫌でならなかった。だからこそ―――オールマイトに憧れる。あの人こそ真の「ヒーロー」だ、あの日―――自分が自殺すら考えていた所を咄嗟に身体が動いたと言って助けてくれたあの人、自分の希望であり続けると言ってくれた人に。

 

「俺は―――仮面ライダー、それが今の俺」

 

剣崎 初、その正体は世間を騒がせる違反自警者であり救いの英雄と呼ばれる「仮面ライダー」その人である。始めは我慢がならなかっただけだった、救いのヒーローとなると約束して将来の為に身体を鍛える日々、だがそんな日常の中でも「ヒーロー」達の行為がいやでも目に入った。それが―――嫌でしょうがなかった。だからこそ―――自分は法律で禁じられている事をした。

 

―――いや、例え間違いだとしても。それが世間的に悪い事だとしても……救いを求める声を無視する事が出来ない。非難されても良い、糾弾されても良い、その程度の事で人の命が救えるなら……救えた人の命はもっと綺麗に輝く筈だ。

 

「そうだよな……そう決めたもんな。俺はこの力を―――誰かを救うために使う」

 

そう決めると顔を引き締めるために思いっきり叩く、余りにも力が強すぎた為に悶絶するが……すっきりとした表情になりながら下に下りて夕食を作る事にした。下に下りた時、玄関の靴棚に置かれている写真が目に入る。綺麗な女性と男性が小さな男の子を抱き抱えながらカメラに向かって笑っている写真だ。

 

「―――そうだよな、俺は笑顔の時が一番俺らしくてカッコいいんだよな。ねっ母さん」

 

 

「ケロ、剣崎ちゃんおはよう」

「ああっおはよう梅雨ちゃん」

 

翌日、登校の途中で梅雨ちゃんと一緒になった剣崎。彼女から声を掛けられると自然と笑顔でそれに答えた。明るくて満面の笑みに思わず足を止めてしまった梅雨ちゃんはやや頬を赤くしながら隣を歩き始めた。

 

「剣崎ちゃん、何かあったの?なんだか気分良さそうだけど」

「特に何もないよ。ただ思い出したんだよ」

「何を?」

「俺は―――笑ってる時が一番俺らしくてカッコ良いんだって事!」

 

笑みが浮かんでくる、剣崎は誰かを助けてその人の安全が確認出来た時には思いっきり笑っている。例えその顔は仮面で見えなくなっていようと、助けられて良かったという安心と安堵、そして達成の笑みを浮かべる。彼にとって地位や名誉なんて必要ない、例え偽善者と言われようとしても止まらない。自分がそうしたいのだから、そこに善も悪もない。それに―――偽善だとしてもそれでも善だと言ってやる。

 

「け、剣崎ちゃん……今の貴方、凄い輝いてる感じするわよ」

「そう?有難う。そういう梅雨ちゃんも、今日も可愛いよっ♪」

「ケ、ケロッ!?」

 

真正面から可愛いと言われてしまったためか、思わずフリーズしてしまった。そのまま歩いていく剣崎の背中を見つめながら、呆然としてしまった。あそこまで真っ直ぐで満面の笑みで可愛いなんて言われた経験がないから、混乱してしまったがそんな彼女を後ろから肩を叩かれてハッと我に返る。そこには京水が笑顔を作りながらウィンクを飛ばしていた。

 

「おっは~梅雨ちゃん♪如何したのこんな所で」

「お、おはよう泉ちゃん」

「あらやだっ顔が凄い赤いわよ?もしかして熱?」

「だ、大丈夫よ大丈夫。ちょ、ちょっとあれなだけだから……」

「?変な梅雨ちゃんね、あっ初ちゃんいるじゃなぁ~い!!一緒に行きましょうよ、初ちゃあぁんおっは~♪」

 

先程まで一緒に居た剣崎と再び隣あって歩く梅雨ちゃんは何処か、剣崎の顔を見るのを恥ずかしそうにしながら雄英まで登校するのであった。が、その雄英の校門の前では多くの報道陣が詰めていた。登校するのに著しく邪魔なほどに。

 

「あらやだマスコミがあんなに!!お化粧は崩れてないわよね初ちゃんに梅雨ちゃん!?」

「化粧してるんだ京水ちゃん、全然気付かなかったよ。俺からすると何時も見てる君通りだけど」

「大丈夫よ泉ちゃん、ほら手鏡貸すから確認して見て」

「まっ―――マスコミが集まる理由なんて検討が付きすぎるレベルであるけどな」

 

マスコミの目的なんて一目瞭然、オールマイトが教師に就任しているからだろう。平和の象徴が雄英高校の教師となった事は日本全国に波紋と衝撃を与え大きな話題となっている。そんな彼がどんな授業をするのか誰もが気になるし彼のコメントを取ろうと必死になっている。そんなマスコミは雄英の制服を着ている生徒達にもインタビューを敢行し少しでも情報を得ようとしている。

 

「プロヒーローになれば沢山のインタビューにTVの出演とかもいっぱいする、今のうちにメディアに慣れておくのも悪くない手だと思うわ。この前もオールマイトが出演してたのを再放送してたし」

「でも、これだとプロヒーローになるために通ってる雄英に入れないわよ?」

「マスコミなんてそんなもんさ、報道の自由とか言いながら好き勝手に取材しては少しでも食い扶持にならない文句言って来る連中だ」

「きっついわね剣崎ちゃん」

 

剣崎がマスコミ嫌いなのも理由がある。「仮面ライダー」として活動している時、取材と言って救助活動中の自分に近づいてくる。そして、危険な場所に足を踏み入れて自分さえも要救助者になって自分を先に助けろという。勿論助けはするが……少しでも遅いと文句を言って来るしニュースや雑誌、新聞に「救助者を選り好みする偽善者」と書かれた事もある。自分から危険地帯に足を踏み入れて、助けたのにこれかと思った事が何度もある。

 

「はぁぁっ……あれに慣れるのか……。オールマイト、あんなの受けながら活動してたんだからすげぇよなぁ……」

 

と呟いた言葉に梅雨ちゃんと京水は同意を示した。



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救助訓練

マスコミの張り込み、それだけならよかった。入学式から数日、それは突然起こった。いきなり鳴り響いたセキュリティ3の突破を告げるけたたましい警報。それはマスコミがセキュリティを突破したという放送が、流れる。生徒一同はそれに安堵しつつも、教師陣は警戒を強めた。雄英のセキュリティは並のヴィランでは歯が立たない驚異のセキュリティ、別名雄英バリア。

 

それは勤務しているプロヒーローの先生達を含めての話。幾らプロの「ヒーロー」と言ってもこのセキュリティを突破するのは難しい。それを突破して内部へと侵入したマスコミ―――しかし、そんな事をマスコミがするのだろうか。今の社会は個性の無断での使用は厳しく制限されている、それなのに幾ら取材の為にえの雄英のセキュリティを壊して、内部に侵入するなんて行為をするのだろうか……。

 

「キヒヒヒッ……これで少しは警戒心を持ってもらえたかな……?さあってと、面白い物を見せてくれよ―――雄英のヒーロー志望諸君」

 

 

そんな騒ぎから数日、その最中に委員長が緑谷、副委員長が八百万に決まったが緑谷が飯田にそれを譲ったなどの事が起きたが取り合えず雄英は平常通りの運営が続けていた。それは運営に支障が出たと明らかになれば「ヒーロー」の育成機関が弱腰になったと「ヴィラン」に示す可能性がある為。雄英としてはそれを許す訳には行かずに通常通りとなった。

 

 

「今日のヒーロー基礎学は俺とオールマイト、そしても1人の3人体制で見る事になった」

「今回は一体何をやるんでしょうか?」

 

そんな新委員長の飯田が問いかけて見ると相澤は黙って、過去のオールマイトと同じようにプレートを取り出して見せ付けた。そこにあったのは文字はレスキューと刻まれていた。

 

「災害水難なんでもござれの人命救助(レスキュー)訓練だ。今回の戦闘服の着用は各々の自由だ、物によっては活動を制限する物もあるだろう。それと訓練場所はここから少しばかり離れているので移動はバスで行う、準備は急ぐように……」

 

そう言って合理主義者の相澤らしく教室から出て行ってしまうが、それを聞いた各自は準備行って行く。剣崎は迷う事なく戦闘服を纏い集合場所のバスへと向かって行く。今回の救助訓練は剣崎が最も行いたかった物であるからだ、救いのヒーローを目指す彼としては「ヴィラン」を倒す事ではなく救う、救助を重視したい。勿論救助をするのに邪魔であるならば「ヴィラン」は倒すが……それ以上に誰かを救う事を剣崎は重視していた。そのために戦闘服も耐熱耐冷などといった救助に必要な物を充実させている。

 

「剣崎ちゃん凄い気合入ってるわね」

「んっ……そう見える?」

「さっきからずっと握り拳作ってそれを見つめてれば誰でもそう思うと思うわよ?」

 

バスへと乗り込み、目的地へと向かっている最中に近くの席に座っている梅雨ちゃんにそう指摘されて初めて右手を見てみると拳を作っていた。本当にそれに気付いていなかったので、やや恥ずかしくなった。そんな中で以前対戦した上鳴に話を振られた。

 

「にしてもさ、そんな救助やりたかったのかよ剣崎」

「ああ。俺は戦闘訓練よりもこっちがずっとやりたかったんだよ」

「へぇ~やっぱり「ヒーロー」の本分が誰かを助ける事だからか?」

「ああっでも俺は普通の「ヒーロー」にはなりたくないんだ」

 

そんな一言にバス内全員の意識を引いた、「ヒーロー」にはなりたくないと言う言葉に多少なりとも興味や疑問を浮かべているものが殆ど。そんな周囲の変化など気にも留めずに剣崎は言った。

 

「俺には約束があるんだ、その人と約束したんだ。俺は―――救いのヒーローになるって」

「救いの、ヒーロー?」

「所謂レスキューヒーローって事かな」

 

誰かを助ける事に特化している「ヒーロー」は多く存在している。そんな存在になりたいと願っていると解釈されたようで皆の印象としては中々に良かった、特に飯田には悪を挫くのではなく誰を助けたいと願って「ヒーロー」になりたいと思っている事に感激されたのか偉く褒められた。そんなこんなで救助訓練の会場となる場に到着してバスから降りていき、相澤引率の元、中へと入って行くとそこにあったのは驚きの光景だった。そして思わず口を揃えて言ってしまった。

 

『USJかよ!!?』

「水難事故、土砂災害、火事、etc……此処はあらゆる災害の演習を可能にした僕が作ったこの場所――嘘の災害や事故ルーム――略して“USJ”!!」

『本当にUSJだった……!?』

 

と、そんな概要を説明してくれたのは宇宙服のような戦闘服を纏っている一人の教師であった。そんな先生に剣崎は覚えがあったが直後に出久が興奮したように大声で叫ぶようにしながらその「ヒーロー」の詳細を語った。スペースヒーロー「13号」。宇宙服に似ているコスチュームを着用している為に素顔は見えないが、災害救助の場で大きな活躍をしている誰かを助ける事に対して重きを大きく置いている「ヒーロー」の一人だった。そんな13号は言いたい事があるらしく、言葉を綴った。

 

「では始めようと思います……皆さんご存知だと思いますが、僕の個性は「ブラックホール」です。あらゆる物を吸い込み、それら全てを塵にする事が出来ます。災害現場ではそれで瓦礫などをチリにして人命救助を行っております。……ですが同時にこれは―――簡単に「人」を殺せる個性でもあります」

 

誰かを殺せると言う言葉にその場の全員が身体を硬直させた。

 

「今の世の中は個性の使用を資格制にして規制を行う事で成り立っている様に見えます。しかし、個性は一歩間違えれば安易に命を奪える事を忘れてはいけません。この中にもそんな個性を持っている人もいる事でしょう」

 

この場にいる自分達の個性、それらは誰かを殺す事が出来る危険性を秘めていると13号は言った。今までの授業、相澤のテストでは己の限界を見据える事で可能性を、オールマイトの戦闘訓練ではそれらの個性を他人に向けた場合の危険性を体験してきた。

 

「しかし、今回の救助訓練では皆さんそれぞれの個性をどうやって人を救うために生かすのかを考え、それを行う事を体験して欲しいと思っています。個性は誰かを傷つけるのではなく、誰かを救い上げる為の物であるという事を学んで帰って行って下さいね。長々とした説明でしたが、私からは以上です」

 

そんな13号の言葉に各々から歓声が溢れていく、それは剣崎も同様だった。そんな13号からの言葉でやる気などが沸きたっている1-Aの生徒達、しかしそんな生徒達を妨害するかのように―――

 

悪意の手は伸びてきた。



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未知との遭遇と対応

忍びよってくる悪意、それらに最初に気付いたのは剣崎だった。この中では最も新しい上に数多く「ヴィラン」との戦闘経験によって培われた感覚と危機察知能力が遺憾なき敵の襲来を告げた。咄嗟に前に出て構えを取りながら階段を下りた先にある噴水を鋭く睨み付けた。

 

「おい剣崎、いきなりどうした」

 

その言葉の直後、噴水前の空間が奇妙なほどに捻じ曲がるかのようにどす黒い霧のような広がっていく。やや遅れながらも相澤もそれに気が付く、そして生徒らに纏まったままで動くな指示を飛ばしながら13号に防御を固めるように伝える。

 

「京水ちゃん、君も防御を固めろ!!大勢来るぞ……!!!」

「初ちゃん?分かったわ、ディフェンスなら任せて!!!」

 

そう言いながら「ルナ・ドーパント」への変身を素早く終わらせると両腕を伸縮させて周囲へと伸ばし、サークルのようにクラスメイト達を覆って防御を固める。

 

「なんだあれ? もう始まってるパターンだったりする訳?だったら剣崎――」

「動くな!!!あれは―――「ヴィラン」だ!!」

 

ゴーグルを装着しながら相澤は毒づく、まさか雄英の敷地内に「ヴィラン」が現れるなんて事態は今までなかった、そもそも相手側からしても此処はプロヒーローの巣窟とも言える場。そんな場への殴りこみなんて普通はしない筈、する意味が薄く返り討ちになる可能性が非常に高い。それなのにそれを敢行する―――つまり、強力な何かがあると相澤は直観すると同時に自分よりも素早く構えた剣崎に目を向ける。

 

「剣崎、お前何故分かった」

「何となくです……俺、昔からなんか「ヴィラン」が近くにいたりとかするとなんか、本能的に分かるんです……!!」

「そうか」

 

手早く会話を打ち切る相澤、この状況からして相手集団は周到な準備を行って居る筈。このUSJの侵入者用の警戒センサーにカメラ、アラームらが反応していない事からそれらを無効化する個性が存在している事を裏付けている、そして突然現れた敵の数……。

 

「相澤先生、もしかしてあいつら空間移動系の個性が……」

「可能性としては大であるだろうな。それで瞬時に此処へか……」

 

剣崎の言葉が苦々しく肯定されると同時に相澤は剣崎の把握能力と冷静さを内心で褒めた、このような状況で最もやばいのがパニックになる事。冷静でいてくれるのは楽だし助かる。

 

「やはりあのマスコミ共はクソ共の仕業だったか……!!13号、お前は生徒達を連れて避難させろッ!!上鳴は個性を使って通信を試みろ、俺はあいつらを食い止める」

「でも先生!!幾ら個性を消せても「イレイザー・ヘッド」の戦闘スタイルじゃ正面戦闘は危険すぎます!!」

「俺がサポートしますか、俺なら真正面からの殴り合いには強いです」

「アホ抜かすな、生徒を態々危険に晒す教師が何処にいる。それにな、一芸だけではヒーローは務まらんッ!!」

 

そう言いながら相澤は抹消ヒーロー「イレイザー・ヘッド」として能力を使う戦闘へと飛び込んで行く。常に身に纏っている特別製の捕縛布と個性を消す個性、それらを上手く掛け合わせ相手が個性での攻撃を仕掛けようとした瞬間に個性を消して攻撃のタイミングを狂わせながら捕縛布で絡めとり、地面などに叩き付けていく。その隙に13号が生徒らを先導して脱出を試みる、しかし―――

 

『逃しませんよ、生徒の皆様方』

 

瞬時に移動し、出口への道を封鎖するかのように立ち塞がる霧のような姿をしている「ヴィラン」は何処か紳士的な口調をしながらも明確な敵意と悪意を向けてくる。

 

『はじめまして我々は「敵連合」。この度、雄英高校へとお邪魔致しましたのは目的があるからです。我々の目的、それは平和の象徴と謳われております「オールマイト」に息絶えて頂く為でございます』

「オール、マイトをっ……!?」

「笑えない冗談ねぇ……霧さん」

『生憎我々は本気でして―――しかし、この場にオールマイトにいないのは計算外。何か授業に変更でも―――まあ良いでしょう、それならば―――』

 

―――オオリャアアアア!!!!

『ガァッ―――!!?』

 

オールマイトの殺害が目的、そんな言葉に反応したかのように剣崎は飛び出すとそのまま見事な飛び蹴りを「ヴィラン」へと直撃させ数メートル後退させる事に成功する。その際に確かな感触によりこれは実体があると確信が過ぎった。

 

「先生っ!!」

「ナイスです剣崎くん、よしこれならっ!!」

 

蹴った瞬間にその反動で後方へと跳んだ剣崎、それに合わせるかのように13号が指を向けて個性を発動させようとする。吹き飛んでいる最中とその直後なら回避は難しいだろうと思っての事だが、それ以外にも思ってもみない事が起きてしまった。剣崎の攻撃を受け、吹き飛んだ「ヴィラン」に後隙を作らせないように爆豪と切島が殴りかかった。それによって更に吹き飛ばされる「ヴィラン」だが―――13号は二人を巻き込んでしまうとして攻撃をやめてしまい、二人に急いで退いてどいてと促すが……

 

『危ない危ない―――幾ら生徒と言えど金の卵、という訳ですね。だが所詮は――卵、私の役目は貴方達を散らして、嬲り殺す事ですので』

 

というと「ヴィラン」は全身から霧を放出するかのようにしながら生徒らを包みこんで行く。それは剣崎も同様だった、回避の隙すら与えない攻撃に防御の姿勢を取るのが精一杯だった。そして霧が晴れるとそこは周囲には岸壁で身動きが取りづらく、崩れ易い地面の立地と遮られた曇天のようなドームの天井、そして―――大勢の「ヴィラン」が自分を待ち受けていた。

 

「おおっ来たぞ来たぞぉ!!!」

「なんだ一人かよ、つまんねぇなぁ!!」

「まあ全力で潰そうぜ、何せあの雄英の生徒さんだもんなぁ……!!」

 

と自分を完全に舐めているかのような態度を取っている相手に剣崎は大きな笑いを上げた。「ヴィラン」達は何を笑っているのかと困惑したが剣崎は直ぐに笑顔になった。

 

「そうか、俺一人か……なら良かった。この状況なら俺は……好きに暴れられる」

 

そう言いながら剣崎はなにやらバックルのような物を取り出すとそこへ一枚のカードを入れる、するとバックルは無数のカードを帯のようにしながら宙を舞い、剣崎の腰へと巻き付いた。まるでベルトのように、そして低い待機音を響かせながらそのまま剣崎を待っていた。

 

「俺はお前らに遠慮する気は0だ、本気で―――行くぞ」

 

剣崎はゆっくりと腕を上げながらポーズを取る、がそれを完全に無視しながら「ヴィラン」らは襲いかかろうと飛びかかる。そして―――

 

変身!!!

TURN UP

 

バックルから光の壁が飛び出すとそれらは「ヴィラン」らを容易く吹き飛ばしながら剣崎の前へと展開された。そこには巨大なカブトムシのような物が浮き出ていた、そこへと走り出して行きそれを通り抜ける。すると瞬時にして剣崎の姿は鎧を纏った青い剣士の姿へと変貌し目の前にいた「ヴィラン」を殴り飛ばした。

 

「こ、こいつ姿が……!?」

「でもこいつ見た事がある……こ、こいつ……!!!」

『か、仮面ライダーだぁぁぁあああっっ!!!!???』

「普段なら、救助を優先するけど……他へ行くにはお前達が邪魔だからな。倒させてもらうぜ!」



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剣崎の戦い

「おおっだぁぁっりゃああ!!!」

 

切り立った崖と不安定すぎる足元、そんな場所から次々と崖下へと落ちていくかのように転がって行く人影が見える。それに混じるかのように勇ましい声と鋭く振るわれる金属音がそれらを破るかのように響く。

 

「こ、こいつなんて強さだっ……!!」

「ひ、怯むんじゃねえよ人数は俺達の方が勝ってんだ!!囲んで数で圧し潰せっ!!」

「やれるもん、ならなっ!!!」

 

想像以上の強さに驚きながらも数ではこちらの方が有利なんだと自分らを鼓舞しながら向かっていく「ヴィラン」を鋭い剣戟で敵を切り裂きながらもそれを跳び越えながら所持していた剣を投げつけて翼を持っていた「ヴィラン」の翼へと突き刺して動きを封じるとそこへ強烈な回し蹴りを炸裂させる。そんな事を行っている「仮面ライダー」こと剣崎は周囲にはまだまだ敵がいる事に軽く舌打ちをする。

 

「どんだけいるんだこいつらっ……!!」

 

ハッキリ言って敵の強さは有象無象に近く、中には個性によって比較的に強い力を持っている者もいるがそれでもこの程度ならば全滅させるなんて事は容易い。しかしそれでも時間が掛かりすぎる、手早く済ませる必要が出てくる。

 

「仮面ンライダァァア……てめぇの首は俺が頂くぜぇ!!!お前の剣良いよなぁ……俺に、くれよぉっ!!!!」

 

背後から隙を突くかのように襲い掛かってきた相手の攻撃をしゃがんで回避しながら、薙ぐ様な一撃を防御して防ぐ。相手が振るったのは巨大な大剣、重さもとんでもない。それを両手、いや全身から生やすかのようにしている。相手の一撃の重さを利用してそれで後方へとジャンプしながら距離を取る、なんとも異形な姿だ。

 

「俺の剣が、欲しいか」

「ああそうだ。俺の個性は身体から剣を生み出して、自在に扱う事が出来る!!そして俺はッ!!!」

 

凄まじい跳躍力から腕を槍のようにするように突き出してくる攻撃、それを回避するがその刹那にその腕を見ると腕その物が剣のように変化していた。それが崖へと突き刺さると大きな亀裂が走って行き崖の一部が崩壊して行く。

 

「全身を刃物に変える事が出来るのさっ!!!攻防一体のこの個性……俺は、強いっ!!!!」

「全身が刃物、その硬度と切れ味そして破壊力を存分に発揮出来る……確かに厄介だな―――だけど、一瞬で相手を切れば意味がないだろ」

 

早急に確実にこの「ヴィラン」を仕留める事を決めた剣崎、「醒剣ブレイラウザー」からトレイを展開した。そしてそこから2枚のカードを引き抜いた、それはスペードの紋章が刻まれながら何やら怪物のような絵柄が刻印されている。それをブレイライザーのスラッシュリーダーへとラウズさせていき、それらを放り投げるとカードは剣崎の身体に重なるように一体化していく。

 

SLASH(スラッシュ)〉 〈THUNDER(サンダー)

 

蒸気のように身体から沸き上がってくるエネルギー、それらを全て制御しながら構えを取った。意識を集中させていくと周囲の音がまるで聞こえなくなるようになっていく、それでありながら周囲の状況を感覚的に把握出来ている。目の前にいる「ヴィラン」は走ってきながら大剣を振り下ろしてくる。大剣が体に触れようとした時、剣崎は一気に駆け出しながらその大剣を両断しながら「ヴィラン」へと必殺の斬撃を叩きこむ。

 

LIGHTNING SLASH(ライトニングスラッシュ)

「ウェエエヤァァッ!!」

 

鋭く、重く、雷撃を纏った必殺の斬撃。それは易々と刃物の身体を持つ「ヴィラン」の皮膚を切り裂いた。刃物であるという事は電撃を良く伝導していくためか、ブレイラウザーが纏っていた雷は全身へと広がっていくと「ヴィラン」を崩れさせた。

 

「がぁっ……あっ……まさか、鋼鉄以上の硬度がある俺の、身体が……俺の切れ味を、上回って……!?」

「一撃で終わらせたかったから使ったけど、本来なら使うまでもなかった」

 

ブレイライザーによって崩れ落ちるかのように倒れこんだ「ヴィラン」はこの中でもトップクラスの実力者だったらしくそれが破れた事は異常な事態らしく全体に動揺が広がっていく。敵集団は統制が取れていないただの有象無象、下手に連携されて襲われるという心配をしなくて済む。

 

「さてとっ―――続きをしようか「ヴィラン」。言っておくが……時間は掛けたくないんでな、加減は無しだ」

「ひ、怯むなぁ!!!」

「押し潰せぇぇええええ!!!」

「射撃班、早くやれよッ!!!」

 

振り絞るかのような絶叫を上げながら両腕や頭を向けてくる「ヴィラン」、その名の通り射撃攻撃系の個性を持っているのだろう。素早くカードを一枚取り出してそれをラウズする。

 

GEL(ゲル)

 

ラウズされたカードを取りこんだ剣崎、それらに向けて銃弾もしくはバズーカのような砲弾が発射されていく。剣崎の身体に命中するかと思いきや……弾丸は身体をすり抜けてその周囲にした他の「ヴィラン」へと直撃して行く。まるで、彼の身体が液状になったかのように次々とすり抜けていく弾丸。幾ら撃とうが決定打には至らない、意を決して一人が斬りかかるが……武器は沈むように剣崎の中へと入って止まってしまい、カウンターで重い一撃を受けてしまう。

 

「な、なんだこいつ……複数の個性を持ってやがるのかぁ!?」

「電撃出すからと思ったら今度は、水みたいに……!!!」

 

困惑が広がっていく中、液状化から元に戻った剣崎はこれ以上時間は掛けたくないと思いつつも複数枚のカードをラウズしていく。

 

「お前達の相手はもうこれ以上はごめんだ、さっさと沈んでもらう……!!」

BEAT(ビート) TORNADO(トルネード) MACH(マッハ)

「速攻で、沈める」

 

次の瞬間、剣崎の姿はブレるように消えていくと次々と気を失って行く「ヴィラン」が続出した。超高速で動きながらも風の抵抗を受けていないかのような攻撃に敵集団は理解も出来ないまま、意識を全て刈り取られて行った。




ラウズカード紹介

クローバーのカテゴリー7:『GEL(ゲル)
劇中未使用。
体質変化系のカテゴリー7の中でも特に強力な力を秘める物。
身体を液状化させるので、やろうと思えば某怒りの王子のような戦闘も出来るかもしれない。


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自分に出来る恩返し

途中から大幅に書きなおしたというか、凄い追加しました。


襲撃して来た敵を一掃した剣崎、このままの姿でいるかそうでないべきか悩んだが一旦解除して、行動をする事を決めた。最悪の場合、自分が「仮面ライダー」だとバレたら死ぬほど怒られるかもしれないが……それはそれで覚悟しつつも一応保険を掛けておくとしよう。全力で走りながら相澤を援護するべきだと考えて、中央の噴水の広場へと向かう事にする。そこで見たのは―――

 

「オールマイトッ……!?」

 

そこではオールマイトがこの場へと乗り込んできた「ヴィラン」らのリーダー格の奴らと敵対している様子が見て取れた。平和の象徴である彼がこの場に居るならばもう、解決したも同然……だと思いたかったが連中は此処に攻め込んできている事実とある言葉が引っ掛かる。

 

 

―――平和の象徴と謳われております「オールマイト」に息絶えて頂く為でございます。

 

 

「ヒーロー」の巣窟とも言い換えても良い雄英に乗り込んでいる、それはつまり準備が整えられているという事。今現在オールマイトとやりあってる巨大な「ヴィラン」、あれが対オールマイトの最終兵器なのだろうか……そうなのかは分からないが、とにかく今自分が出来る事を精一杯やりたいそう剣崎はそう思った。

 

「今度は俺が、オールマイトを助ける……あの時の恩、お返しします!!変身!!!

TURN UP

 

 

「三人とも相澤を頼む。意識がない。早く!!」

 

USJへと駆けつけたオールマイト、その圧倒的な力と速度で危機に迫れていた生徒と既に重傷を負い戦闘不能となってしまっている相澤を助ける事に易々と成功した。ヴィラン連合を名乗る敵のリーダー格、それらを前にしながら緑谷、梅雨ちゃん、峰田を庇いながら直ぐにこの場から離れるように促す。

 

「だ、駄目ですオールマイト!!あの脳みそヴィラン、力を抑えた僕のスマッシュでもびくともしないぐらいに硬い……!!普通のヴィランじゃないです!!」

「(スマッシュでも大したダメージが見受けられない、か……)大丈夫だ緑谷少年!それに相澤君が言わなかったかい、ヒーローは一芸では務まらないのさっ!!」

 

何か策があるような言い回しをして避難を促すオールマイト、こんな状況だから心強くて安心するような笑顔が力を注ぎ込んでくるかのような感じがする。そんな簡単にやらせてあげられるかなと言いたげに、脳無と呼ばれる脳みそヴィランが緑谷達の方向を向き直り凄まじい速度で向かって行こうとする、が―――そんな行動を無効化するかのような圧倒的な初動の差で脳無の首に強烈な蹴りが加えられた。

 

「あ、あれはっ……!?」

「えええっなんだよまた敵!!?」

「違うあれは―――仮面、ライダー……!!」

 

脳無へと一撃を加えた者の正体を梅雨ちゃんだけが理解していた、鎧を着込んだ青い剣士。嘗て自分を救ってくれた剣士である仮面ライダー、その人だった。それは首へと深く深く蹴りを打ち込むとそのまま反動でジャンプするとオールマイトの隣に着地する。

 

「すまない助かったよ仮面ライダー、すまないが力を貸しては貰えないか。君の力があればこの場を切り抜ける事が出来る……!!!」

「(コクッ)」

RECOVER(リカバー)

 

オールマイトの言葉に無言で首を縦に振ると一枚のカードをブレイライザーへとラウズして、その力を体へと取りこむ。そしてオールマイトと相澤へと手を差し向けると掌から光のような物を放出していく。その光に一瞬警戒する緑谷達だったが、光が吸い込まれて行く毎に相澤の負傷が消えるように治癒して行く。同時にオールマイトの身体にも異常なほどに体力と活力が漲っていく。

 

「おおおっ!?おおおおおっっ……私の身体に活力が……来たぁぁぁぁっっ!!!!!」

「オ、オールマイト!?な、なんか超元気になってる!!?」

「か、仮面ライダーってこんな事まで出来るのかよ!?相澤先生の傷まで治ってるぜ!?」

「凄い……」

 

普段よりも1.5倍ほどに筋肉が増量しているかのように見えるオールマイト、事実として彼の身体には既になくなっていたはずの力が漲っていた。全盛期程までではないが、それにかなり近い時点まで力が溢れてきている。一体何故こんな事になっているのかは理解出来ないが、兎に角オールマイトとしては万々歳な事態だった。仮面ライダーとしては、万全を期して欲しいので回復させたのだがこれは予想外に回復している。それほどまでにオールマイトが元から持っている体力が異常とも言える。

 

「なんだよあいつ……?何であんな奴が此処に居るんだよぉ……?」

『そう言えば―――死柄木弔、乗り込む前に妙な視線を感じましたが、まさかあれなのでは―――』

「……あり得るな、注意しろっていうのはあれの事なのかな……?」

 

リーダー格の二人は仮面ライダーの事を知らなかったのか、深く警戒するような姿勢を見せながら不愉快そうに此方を見つめ続けている。

 

「仮面ライダー、君のお陰で力が漲ってくる……!!!有難う、何時か君とはゆっくりとお茶でもしながらお話がしたいな!!少年少女、今の内だいけっ!!」

「「「はっはい!!」」

 

相澤を担ぎながら入り口へと向かっていく生徒らの盾となるかのように立ち塞がるようにしながらも目の前にいる敵へと向かい続ける。一瞬、オールマイトとライダーはアイコンタクトをすると同時に駆け出して行く。全身に手を付けている気味悪い男、死柄木は小さく脳無に指示を出し、自分を庇ばわせる。そしてその拳が炸裂する、圧倒的な破壊力を持つ両者の拳が炸裂するが脳無はそれらを受けても小揺るぎともしなかった。それどころか平気そうな顔をして殴りかかってくるのでライダーはそれを逆手に地面へと叩き付けるように投げを決める、倒れこんだ所にオールマイトの一撃が顔面を捉えるがそれでも脳無は止まる事なく迫り続けてくる。

 

「マジで全然利いてないなっ!顔面に当てても小揺るぎもせんとはっ!!」

「(ならっ……!!!)」

 

再び迫り来る脳無、それに合わせるかのように腰へとブレイラウザーを当てながら意識を集中しながら体から力を抜いていく……オールマイトも自分が何をしようとしているのかを察しているのかサポートの体勢に入っている。迫り来る脳無、それが射程距離に入った瞬間に力を爆発させる。電光石火の一閃は脳無の左腕左足を切り飛ばし、地面へと叩き落とす事に成功する。それを見た死柄木はへぇっ……と小さく感心するかのような声を漏らした。

 

「片方の腕と足が欠損すれば動けないから戦闘不能……とでも思ってるのか?」

「なっ……!?ライダー油断するな!!」

「ッ……!?」

 

目の前では信じられない光景が広がっている、切り裂いた筈の身体から次々と筋肉が伸びて行き元の身体の形を作っていく。瞬く間に切り落とした筈の腕と脚が元通りに治ってしまっていた。

 

「再生能力の個性、か……!!」

「それだけじゃないさ……お前らの攻撃も全然利かないだろぉ?それはショック吸収、そして超回復……脳無はなぁオールマイト……お前の100%にも耐えられるように改造された超高性能サンドバック人間さっ……!!」

 

物理的なダメージに耐性、斬撃で相手を切断したとしても復元を思わせるかのような回復能力で元通りに回復してしまう……とんでもないレベルに厄介な相手に流石のオールマイトも苦々しい顔を作る。それは恐らく仮面ライダー、剣崎も同じだろう。だがしかし、剣崎はある事を思い付いた、相手の個性がショックの吸収だけならば突破口はある……。

 

「ただのショックの吸収なら、ダメージ自体は蓄積する筈」

 

声を低く、出来るだけ分からないようにしつつ剣崎は思った事を伝える。それを聞いたオールマイトは確かにそうだと思い至る。脳無は言うなれば痛覚がない人間、幾ら痛覚がないとしても痛みは身体の中にダメージとして蓄積されていき何れ、身体機能に重大な障害を齎す事に繋がる。つまり脳無攻略に必要なのは―――ショックの吸収さえ追いつかないほどの超連続での全力攻撃という事になる。

 

「成程……確かにそれならばいけるな、君のお陰で私の身体は随分動く。君の力も是非借りたい」

「了解……!!」

BEAT(ビート) SCREW(スクリュー) RAPID(ラピッド)

 

その言葉を聞くと即座に剣崎は動いた、三枚のカードをラウズしていく。そしてラウザーを腰に納めるとそれら全てを身体に吸収して行く……そして全ての準備が整うと一気に脳無へと向かっていく。脳無も同時に向かって行くと凄まじい拳打の嵐を放とうとするが、それよりも速く踏み込んだ剣崎が脳無の懐へと入り込んだ。

 

「ウオオオオオオォッッ!!!!」

 

気迫と酷く体重が乗ったコークスクリューパンチがプロボクサーなど比較にならない速度で次々と脳無の全身に打ち込まれていく。乗りに乗ったパンチのラッシュは各部の関節なども狙っており、相手の初動を殺しながら次々と拳を炸裂させていく。重い一発一発が叩き込まれる毎に空気が重く震動しながら周囲に鈍い音が響いて行く。次第に脳無もそれらに慣れ始めているのか、自らも攻撃を行って反撃を開始し始めるが明らかに先程によりも動きが鈍くなっている、思った通りダメージの蓄積が利いている。

 

「ウェェエエエエラァァアアア!!!」

「おおおおっ私も行くぞぉぉッ!!!」

 

渾身の一撃が、遂に脳無の腹部を深く貫かんと炸裂しその身体が浮いた。その隙を突いて、遂にオールマイトもそのラッシュに参加した。正に怒涛、USJの内部はパンチの拳圧とのその衝撃で暴風雨の中にいるのかと錯覚させるほどの凄まじい空気の流れが出来ており、死柄木ともう一人のリーダー格、黒霧も全く近づく事が出来ないほどの状況が出来上がっていた。

 

「オオオオオッッッッ!!!」

「ァァアアアアアア!!!!!」

 

全身に蓄積して行くダメージ、一撃一撃が㌧を軽く超えているであろう重いパンチの嵐のようなラッシュ。幾らショックの吸収という個性と超回復という個性があったとしても此処までのダメージを受けてしまっては動けなくなるどころの話ではない、回復すら意味がなくなるほどの勢いでダメージが溜まっていく。ある意味究極のゴリ押し。

 

「「らああああぁぁぁっっ!!!!!」」

 

互いのストレートが腹部に炸裂、遂に膝を付いた脳無。だが回復の個性がある以上、此処でやめるわけは行かない。ここでそれすら意味が無くなるほどの大ダメージを与える必要がある。

 

「行くぞ仮面ライダー!!これが、こいつに食らわせる最後の一撃だ!!!」

「ああっ!!」

KICK(キック)〉 〈THUNDER(サンダー)

「はぁぁぁっっ……!!!」

 

カードをラウズした剣崎は剣を地面に突き刺しながらも身体に沸き上がってくる力を感じる、同時に隣のオールマイトの腕からも凄まじい音が響く。力を込めているのか腕の筋肉が膨張しているかのように巨大化している。それを見つつ、剣崎は技を繰り出す準備が整った。そしてオールマイトと息を合わせて同時に脳無へと飛び込んだ。

 

LIGHTNING BLAST(ライトニングブラスト)

「ウェェェェェエエエエエエエイッッッッ!!!!!」

「DETROIT SMASH!!!!」

 

仮面ライダーとオールマイトが放つ必殺技、空気の壁さえ蹴破るかのような凄まじい一撃が脳無の身体を貫通するかのような勢いで突き刺さった。刹那、それらを受けた脳無の姿が掻き消える。そして、一呼吸置いて、爆音と共にUSJの天井の一部が爆発を起こしながら大きな穴が空いた。脳無が吹き飛ばされた事で、天井に激突した事で出来た穴。視認すら出来ないほどのスピードで吹き飛んだ脳無に死柄木と黒霧は一瞬呆然としてしまった。何処が、衰えている……?全然、そんな事ないじゃないか……。

 

『死柄木弔、時間切れです。間もなく他のヒーロー達が―――!!』

「ぐぅぅぅっっ……!!!撤退、だっ……!!」

 

手のマスクで表情が隠れているが、そこから溢れ出しているのはこちらへの圧倒的な殺意と敵意。それを向けながらも霧の中に紛れながらも姿を消して行った。そして残された二人は……

 

「有難う仮面ライダー、君のお陰で助かったよ」

「……俺も貴方の手助けが出来て嬉しかった」

 

硬い握手を結んだ。が、その時オールマイトは少しだけ浮かべ続けていた笑みを崩し、もしやといいたげな表情を象った。

 

「もしや君は……剣崎、少年か……!?」

「(ッ!!!?な、何でバレたっ!!!?や、やばい早く逃げないと……ああでもこの後呼び出されたら結局終わりじゃねぇかどうしたら良いんだぁあああっ!!!??)」

「……。剣崎少年、この事は私の胸の中にしまっておこう。君が私を信じてくれるなら、後で話をしよう」

「……分かり、ました」

 

剣崎は周囲が土煙で覆われている間に変身を解除して自分の姿を改めてオールマイトへと見せる。驚いたように表情を変えられたが、直ぐにオールマイトは笑顔を作って肩に手を置きながらこういった。

 

「助かったよ剣崎少年!今度は、君に助けられちゃったな!!」

 

その言葉を聞いた時、剣崎は心の奥底から嬉しくなって涙が出てきてしまった。




ラウズカード紹介

ハートのカテゴリー9:『RECOVER(リカバー)
劇中未使用。
ライダーの戦闘補助系のカテゴリー9。体力の回復を行う事が出来る。
不死身であるアンデット、劇中でも未使用なのでどれほど回復するのかは不明瞭。

今回の使用では相澤とオールマイトの二人に使用している。相澤の方が重症なので其方の方に多く力を割り振っているが、それでもオールマイトに十分すぎる程のパワーを回復させている。


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剣崎初とオールマイト

「私がきたぁぁぁっ!!!さてと……すまないね剣崎少年待たせてしまったね。君もいろいろ疲れただろうから早く休ませてあげたいんだが……」

「気にしないでください。それよりその、身体は大丈夫ですかオールマイト……?本当ならもっと回復する筈だったんですが相沢先生を優先させたので」

「何の何の!!寧ろ、数年来忘れていた活力がいまだに漲って致し方ない程で身体が動かしたりないほどさ!!!」

 

USJでの襲撃後、剣崎は負傷を理由にして仮眠室での待機をさせて貰っていた。そこで待ち続けているとオールマイトが何時も通りの超ハイテンションで入室してきた。

 

「まず、君があの「仮面ライダー」の正体だと分かった時は驚いた。元の姿を戻った所を見た身としても未だに信じられない。君の個性は身体能力の強化ではなかったのかね?」

「正確には違うんです、俺の身体能力強化は本来ある力のうちの一部なんです」

「成程。では君本来の個性というのは仮面ライダーの姿になる、という事なのかね」

「……はい」

 

剣崎は少々答えにくそうに答える。それを聞いたオールマイトは少し考えるような姿勢をとったがそれでも剣崎の肩を優しく叩いてにこやかに笑った。

 

「何素直に言ってくれただけでも私は嬉しいさ!!しかし、ということは君は違法自警者だという事もしっかり理解して活動をしていた、という事なのだろう?」

「……はい」

 

オールマイトの言葉通り、剣崎は自分が行ってきた行為が本来は法律に違反していることも承知している。資格もなしに個性を使ってヴィランが暴れる現場に出向き救助活動を行い、時にはヴィランを蹴散らしていた。そんな行為は厳しく禁止されているということも分かっていたのにそれを続けていた。オールマイトはそれはなぜかと、優しい声色で聞いてきた。

 

「例え、駄目だと言われていても……禁止されていても……助けを求める人を助けられる人間がそれを無視するなんて駄目だって思ったんです……!!救える力があるのに、それを無視して今助けられる人を見捨てて、誰かに託すなんて……俺は駄目だと思ったんです……」

「剣崎少年……」

 

今自分が個性を使って助ければ救える人を、使ってはいけないという規制で怯えて手を伸ばさない。それで救えたはずの人が救えずに死なせてしまう、それが剣崎は心から嫌だった。今、動けば救えるのに、それなのに動かないなんて……自分が嫌ったヒーローと全く同じ。

 

「だから、俺は例え駄目だと言われても、俺は誰かを救う!!それが世間的に悪い事だとしても……救いを求める声を無視する事が出来ない。非難されても良い、糾弾されても良い、その程度の事で人の命が救えるなら……俺は、救える人すべてを救いたい!!!」

「……素晴らしいよ、剣崎少年。君はもう、立派なヒーローじゃないか」

 

そういってオールマイトは剣崎の頭を撫でた、雄々しくも優しくて暖かいその手の感触が伝わってくる。不意にそんな優しい手つきに両親のことが頭をよぎっていく。

 

「確かにそうだ。君の言っている事は正しい。今の社会は個性を制限することで成り立っているが、しかしそれ故に助けられる人が助けられないということも多くある。だからこそ君は救える力を持っているからこそ、君は多くの人々を救ってきた。本来褒められる行為ではないかもしれない、だが胸を張りたまえ!!君は人の命を救うという尊い行為をしてきたのだ!!君は、紛れもなく立派なヒーローになる資格がある!!」

「有難うございます……!!」

 

この言葉が果てしなく嬉しかった、今まで誰かの感謝や名誉が欲しくてやってきた訳では無かったはずなのにオールマイトにそう言われた瞬間に嬉しさで可笑しくなりそうなった。憧れの人にそう言われたからだろうか、兎に角―――震えるほどに嬉しい……!!!

 

しばらくの間、剣崎は泣きじゃくってしまった。こんな事で涙腺が緩むことなんて初めてだった、オールマイトも動揺してしまっていたが兎に角沢山泣いた。そして漸く落ち着いたとき、オールマイトは自分に特別な話があると言ってきた。

 

「剣崎少年、君に折り入って頼みたい話があるんだ。君が使った癒しの力、あれはまだ使えるのかい?」

「はい一応使えます」

「そうか……君から受けたあの力、あれを受けてから私の身体は先程言った通り活力と力が漲っている。若返った、というのはこんな気分なのかと考えるぐらいの気分」

 

そんな言葉を言い切った後、オールマイトの姿が徐々に変化していった。筋骨隆々だったはずの身体がガリガリの骸骨のような骨と皮だけがあるような身体へと変貌していく様が剣崎の目の前で起こった。思わず目を疑ってしまった、だが今起こっていることは現実で真実だという事は分かった。そしてガリガリの姿となったオールマイトは事情を話し始めた。

 

「―――これが、今の私の状態なんだ」

「そ、んな……まさか……」

 

オールマイトの話を聞いた剣崎は憧れのヒーローがとても活動出来るような身体では無い筈なのに戦い続けている事に驚愕した。とある大物敵(ヴィラン)との戦いで重症を負い、その後度重なる手術と後遺症で見る影もない痩身となって吐血を繰り返すことも多い程の虚弱体質になってしまったとのこと、事実話している途中もわずかに吐血していた。普段の姿は個性での強化による偽装であり、一日の活動時間は2時間にも満たない程だったらしい。

 

「だが、君の個性による回復を受けてから私の身体は凄い勢いで力を取り戻した。恐らく、今の状態なら活動時間は5時間は行けるだろう」

「よ、良かった……!!」

「頼みというのはほかでもない、その回復能力で私の身体の回復そして―――私の後継者、緑谷少年を育て上げることに協力してほしい。仮面ライダーとして!!」

 

それは―――剣崎の運命を変える、途轍もない大きな運命の分かれ道だった。



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体育祭前、その一

オールマイトの衝撃の事実、自分の力を貸して欲しいという要請を受けた翌日。剣崎は建前上、USJで大多数のヴィランとの戦闘によって負傷と疲労を蓄積させてしまった為に早退したと言う事になっている。本当は仮眠室でオールマイトと話をしていたのだが……。結果として剣崎はオールマイトの相談を承諾して協力を約束した。オールマイトも承諾してくれた事に対してかなり安心したらしく、ホッとしていた。回復は後日、今現在の状態を詳しく把握した後に回復を実行する事になった。今の状態でも回復前よりも遥かに回復しているらしいので、オールマイトとしては今の状態でも満足しているらしい。

 

「にしても……どうしよう……」

 

登校途中で剣崎は困っていた。オールマイトから自分は凄まじい数のヴィランをたった一人で倒したが、強力な個性を宿していたヴィランと戦闘。それによって危ない所だったがそこを先生に助けられたという体で病院で検査をする為に早退させられた……という事になっているらしい。まあ確かにヴィランは数が多かったし、身体を刃物にする個性を持ったヴィランもかなり強かったと思うが……如何にも嘘を言っているようでクラスに行きづらい物を感じる。

 

「実際は怪我してないからなぁ……気が引けるなぁ……」

 

クラスメイトの皆だって大変な状況だった筈、大怪我をしたかもしれないほどの状態だった。そんな中一人だけ自分が離脱してきたかのような感じで如何にも良い気分がしない。加えて剣崎は余り嘘に慣れない正直な性格なので、皆を騙しているようで精神的に滅入っている。電車に揺られながら雄英に向かうが……如何にも気が進まないのか足の進みも遅く、校舎に入ったのもHRが始まる10分前だった。しかしクラスへと向かう足取りは妙に重かった。

 

「やべぇなぁ……此処まで来ておいてなんだけど、キッツい……」

「何がきついのかしら?」

「いやそれは―――ってうおおおぉぉぉっっ!!?」

 

思わず呟いた言葉に返ってきた言葉に返答しそうになったが、何でそうなったと内心で一人突っ込みをしながら飛び退くとそこには梅雨ちゃんが此方を見つめていた。

 

「つ、梅雨ちゃんか……おはよう」

「おはよう剣崎ちゃん。もう大丈夫なの?随分凄い怪我をしたって話を聞いたんだけど……」

 

何時も表情を変えないような梅雨ちゃん、マイペースと言っても差し支えない程に安定している精神状態の彼女。そんな梅雨ちゃんは心配そうな顔を作って此方を見つめていた。そんな自分の身体を気遣うような視線と言葉に思わず心が痛んだ、やっぱり自分に対する心配を掛けてしまっている事実がそこにある事が心苦しく思える。オールマイトとの約束に後悔はない、だからこそ自分がすべきなのは自分は全然大丈夫という事を示して安心させる事、剣崎は笑顔を作りながら言う。

 

「ああ全然大丈夫さ。リカバリーガール先生にも手当てしてもらったし、病院だって念の為の検査の為に行ってくれって事だったから。ゆっくり休んだからもう全然大丈夫だよ」

「そう、なの……?それなら、良いの本当に良かった……」

 

ホッと息を吐いて安心に胸を撫で下ろした梅雨ちゃんを見て本当に心配を掛けてしまったのだと思った、これは教室内でも自分の事を心配してくれている人はいるのだろうなと思う。主に京水と飯田辺りが凄い自分の事を凄い心配してそうな気がした。そんな二人を落ち着かせられるのかと少し心配になってきた。

 

「ごめんね梅雨ちゃん、心配掛けちゃって。お詫びに昼食に何か奢るよ」

「別にいいのよ?でもまあ、そうした方が多分剣崎ちゃんの気が晴れるわよね、それだったら喜んでご馳走になるわね」

「おう、それじゃあ教室入ろうか」

 

と二人で教室に入ったが……剣崎の懸念通りに自分の怪我などを心配してくれていた皆ばかりで思わず心が痛んだ。が、梅雨ちゃんと同様に昼食を奢る事で相殺される事になった。雄英の学食が安くて良かったと内心でそんな事を思ったりする剣崎であった。皆に奢ると言った時、少々梅雨ちゃんからの視線が気になったのは恐らく気のせいだろう。そして皆が席に付いた次の瞬間、教室の扉が開いて担任の相澤先生が入ってきた。

 

「おはよう」

『相澤先生復帰早ッッ!!?』

「あ、あの先生大丈夫なんですか!?」

「問題ない。リカバリーガールの個性で回復しているし、そもそも重症だった部分はあいつの力で回復している」

 

相澤が言うあいつとは即ち、剣崎こと仮面ライダーの事である。一応仮面ライダーの正体云々はオールマイトにお願いして隠して貰っておいて貰い、脳無を共に撃退したら仮面ライダーは直ぐに姿を消して何処かに行ってしまったという事になっている。

 

「仮面ライダー……何故彼は雄英に来たのでしょうか……?」

「俺達を助ける為、っていう事じゃないのかな……」

「御喋りはその辺りにしておけ、あいつの件は教師陣でする事だ。それよりも……新たな戦いが始まろうとしている」

 

話を打ち切って新たな方向へと話を進めようとする相澤、その内容、新たな戦いという部分に全員が思わず緊張感を持った。先日ヴィランからの襲撃を受けたばかりなので致し方ないとも言える。一体新しい戦いとは―――。

 

「―――雄英体育祭が迫ってる」

『クソ学校っぽいの来たあああッッッ!!!!』

 

クラス中のテンションが一気に超加熱していく、それもその筈だ。雄英高校の体育祭は唯の体育祭の枠では収まらない程の規模と内容を秘めているのだから。日本最難関のヒーロー科を抱える国立雄英高校、そんな雄英が行う体育祭は個性ありの体育祭。TVでも放送され、高視聴率をキープ中な日本の超ビッグイベント。スポーツの祭典と呼ばれた「かつてのオリンピック」に代わって全国を熱狂させている。 剣崎も昔から良く見ていた。

 

一部からヴィランから侵入されたのに、という声もあるがそれに屈する姿勢は見せないという雄英の強気な姿勢が現れる。通常の5倍の警備を敷き万全に万全を喫するから心配はするなという事らしい。そして、体育祭は生徒達にとっても重要な意味を示している。

 

「毎年……沢山のプロヒーロー達が見に来る一大イベント……唯の体育祭じゃないのも特徴だな」

「剣崎の言うとおりだ。見に来るプロの目的は暇潰しではなく有望な新人のスカウトだ。どちらにしろ、結果次第では将来が決まる、気合入れろ」

 

そう、この体育祭で自分の将来が決まる事も十分にありえる。自分の力を世間に見せ付けて、存在感と力をアピールするには持って来いの場でもある。この場は―――剣崎に取っても重要な場でもある、

 

 

『仮面ライダーである事は隠して欲しい?それは構わないが……君は、もしかしてそれを告白する気があるのかい?』

『遠からず俺は告白するつもりです、だからオールマイト。俺は―――雄英体育祭で仮面ライダーになる。そこで俺は言うんです。仮面ライダー……剣崎 初が来たっ!!!って』



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体育祭前、その二

「剣崎少年、率直に言わせて貰うと君が仮面ライダーである事は極力隠蔽すべきだと私は思うのだ」

「―――理由を、聞いてもいいですか?」

 

応接室に場所を移したオールマイトと剣崎は改めて話を行う事にしている。命題は―――剣崎の個性である「仮面ライダー」を公表すべきなのか否か、という事である。剣崎としてはこれを公表して自分の全てを、見て貰いたい。そうすれば色々と便利な部分が出て来るしより多くの人達を助ける事にも繋がると考えていた、しかし、それにオールマイトは難色を示した。

 

「まあ待ちたまえ、話をするのはある人を待ってからだ」

「ある人……?」

 

思わず疑問を頭に浮かべていると応接室の扉が開け放たれてそこから誰かが入ってきた。それは―――白い肌を持った小人、というよりも白いネズミの個性を発現させている人にしか見えなかった。

 

「……あの、どなたですか……?」

「YES.その質問に答えよう!ネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は……校長さっ!!」

「という訳でこの方は雄英高校の校長先生、根津校長だ」

「こっ校長先生!!?そ、それはすいませんでした!!!」

「いいさいいさ、気にしてないから大丈夫だよ」

 

思っても見なかった校長の登場に何処か汗を掻きつつも、校長も参加しての話し合いがスタートした。オールマイトが自分以外にも自分の正体は知っておいた方が良いと言う事で校長先生をこの場に呼んだという事らしい。

 

「では、改めて君の個性についての話だ剣崎君。君の個性は『仮面ライダー』に変身し、力が封印されているカードを使用する事で様々な力を発揮する事が出来るという事だったね。実に異常といっていいほど特殊な個性だね、君がヒーローを志してくれている事に正直安心を感じているよ」

「恐縮です」

「だからこそ君の力を公表するのは危険だ」

 

校長もオールマイトと同じく公表には反対の意見を持っていた。理由としては幾つも上げる事が出来る、まず今まで剣崎が正体を隠しながら行っていた活動によって良くも悪くも存在が世間的に大きく認知されてしまっている事。世間を騒がす『仮面ライダー』の正体が一学生だと分かると、非常に面倒な事になる上に違反者である剣崎も罪に問われる可能性も出てきてしまう。

 

次に剣崎が持っているカード、それらを使う事で力を発動させる仮面ライダー。逆に言えばそれさえ無力化すれば力を奪えるのではと考える輩が必ず出て来るだろう。剣崎が容易く渡すとも思えないが、それが凶悪なヴィラン、特にヴィラン連合に渡ってしまった場合は特に危険な事になる。

 

「ベストなのは君が今のまま正体を隠したまま活動を行い続ける事、君にはこれからも影ながらの抑止力としていて欲しいと思う」

「……俺が、抑止力……?」

「そう。君は一部からはオールマイトに並び立つような大きな存在として見られているんだよ、颯爽と現れては人々を救って去って行く救いのヒーロー仮面ライダー。それは人々に大きな安心を与えるだけではなく、ヴィランにとっても非常に恐ろしい存在になっているんだ」

 

そう言いながら根津校長は笑いながらある物を見せた、そこには仮面ライダーへの感謝を述べるサイトに寄せられている言葉の数と人数が書かれていたが、それが余りにも膨大な数になっている。それは剣崎が誰にか言われたからと言う訳でもなく自分が誰かを救いたいという思いによって動いてきた事によって救った来た人達の思いがそこにある。

 

「剣崎君が仮面ライダーとして活動をし続けてきた結果なんだよ。多くの人達を助け、命を救い、その人の心に希望という光を齎し心の闇を払うヒーロー、それが仮面ライダーなんだ。それに公表すると君も今までのような活動が出来なくなってしまう、それはそれで嫌だろう?」

「……」

「校長としては止めるべきだろうけど、仮面ライダーとして動くならば止めはしないよ。寧ろそうするべきだと思ってる、この世の中は良くも悪くも抑圧されている時代。だからそれを良い意味で打ち破って人々の心に柱になれる人材が必要なのさ」

 

今まで時代はそれをオールマイトに求めてきた、平和の象徴という巨大な存在は柱となって時代を支えるだけではなく人々の心に安心を齎す存在でもあった。だがそんなオールマイトにも限界はある、だからこそ彼と同じように時代を支えられる人材が居べき。剣崎はそれになり得ると根津は確信を持っている。

 

「剣崎少年……私の跡を継いでくれとは言わない。だが君にその意志があるのならば君の力を私に貸して欲しい。私は力を緑谷少年に譲渡している、そんな私が活動出来るのもそう長くはない。それでも私は人々が安心して暮らせるように戦うつもりだ、君との約束でもある光でもあり続ける。一緒に、戦って欲しい!」

「……」

 

力強い言葉を受けて、剣崎は言葉を失っていた。暫しの沈黙が応接室を包む中で剣崎は小さく、口を開いた。

 

「俺は、何も知らなかったんだなって思いました……。俺は唯、誰かを救える存在で居られればどんな事になっても良いと思ってました。でも、俺がそんなに大きくなってたなんて思いもしませんでした……俺がそんな大きな物を背負ってたなんて……でも、それでも良い……!それで救われる人がいるなら……俺が、それを背負います。オールマイトのように、俺も戦います!!!」

「そう言ってくれると思ってたよ剣崎くん、これからも頼むよ「仮面ライダーブレイド」!!」

「ブレイド……?」

 

根津が仮面ライダーの後に付けて言った「ブレイド」というそれに思わず首を傾げてしまった。すると根津は笑いながら言う。

 

「君の名前さ、仮面ライダーだけだと物足りなかったからね。君は剣を良く使うからブレイドってしたのさ」

「ブレイド、ブレイド……なんだか懐かしい響きするなぁ、俺気に入れました。これから俺は仮面ライダーブレイドですっ!!!」

「おおっそうか、ではこれから頼むよブレイド!!」

「はいっ!!」




結果的に仮面ライダーは秘匿する事に決定。これからも剣崎は正体を隠しながら活動をする事に。


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体育祭前、その三

「やあ待ってたよ緑谷少年、今日は此処でワンフォーオールの特訓をするぞ!」

「はっはいっていうかちょっと待ってくださいよ!!?オ、オールマイトなんで剣崎くんが!!?剣崎くんがいるのに何をっ……!?」

「ハッハッハッ大丈夫だよ緑谷少年、剣崎少年には私の事や君の事は話した」

「ええええっっっっ!!?」

 

体育祭まで後2週間という時間しかない中、オールマイトから個性を継承した出久はそんな個性の制御を会得する為に少しでも身体を鍛えようと努力をしている中オールマイトから呼び出しを受けて雄英の施設の一つの室内訓練場へとやって来た、すると自分を待っていたかのように笑っているオールマイトと準備体操をしている剣崎が待ち構えていたのである。しかもオールマイトは活動中などの姿、所謂マッスルフォームではなく真の姿とも言える状態のトゥルーフォームでいた事に驚いた出久だったが剣崎が知っている事に更なる驚きを覚えた。

 

「訳あって剣崎少年にも事情を説明してね、今日から彼も君の特訓に参加してくれる事になったから」

「そういう訳だ、宜しく緑谷」

「あっうん、こっちこそ宜しくお願いします……ってそうじゃなくて!!?如何して剣崎くんが参加する事になったかを聞きたいんですぅ!!」

「ならば見せた方が早いだろうね、剣崎少年お願いしても良いかね」

「大丈夫です、カメラとか大丈夫ですよね?」

「NO PROBLEM!!」

 

オールマイトの言葉に安心しつつも剣崎は距離を取りながら懐からブレイバックルを取り出し、そこへ一枚のカードを入れる。入れると同時にバックルからカードのような物が伸びてそれがベルトのようになって剣崎に巻き付いた。そして待機音を確認しつつ剣崎は変身を行った。

 

変身!!!

TURN UP

「えええええええっっっ!!!??か、かかかかかか仮面ライダーが剣崎君ンンンンンン!!!!????」

 

目の前で友人が自分達、担任そして恩人であるオールマイトの危機を救ってくれた謎の剣士、仮面ライダーの正体という事に思わず驚愕して後ろに倒れこんでしまう出久。無理もないだろうが……。

 

「剣崎少年の本当の個性は仮面ライダーに変身、更に所持しているカードを使う事で力を発動させる事なんだ。彼にはこれからも仮面ライダーとして動いてもらう為に色々と話をしてね、そして私と君の事も話したのさ」

「な、成程……で、でも剣崎くんが仮面ライダーだったなんて……」

「すまない今まで隠したままで……」

 

申し分けなさそうに謝ると出久はそんな事気にしなくて良い、寧ろあの時は自分達を助けて有難うとお礼まで言った。結局の所自分は剣崎に助けられたという事実だけがある、ならその事実に感謝すればいいだけの話なのだから。思わず剣崎は笑いながら有難うと返した、が直後に何処からサインの色紙とサインペンを突き出された。

 

「ごめん剣崎くん!!仮面ライダーとしてサインくれないかな!!?僕、君のファンでもあるんだ!!!」

「えっええっ~……俺サイン書いた事ないんだけどなぁ……ま、まあ分かったよ……」

 

今までサインは書いた事がない剣崎だが取り合えず、緑谷 出久君へと書きながら『MASKED RIDER BLADE♠』とこれを自分のサインにする事に決めた。受け取った出久は嬉しそうにしてくれているのでまあいいか、と軽く脱力してしまった。

 

「という訳で剣崎少年が参加する意味も分かった所で、彼が参加するのは回復能力の事もあるからだ」

「回復……あっ相澤先生とオールマイトにやってたあれですか!?確か、あれのお陰で相澤先生は凄いピンピンしてたしオールマイトなんて活動限界時間が凄い伸びたんですよね!?」

「うむ。計測してみたが限界時間が5時間33分46秒だったよ」

「細かっ……」

 

出勤途中にも色々と解決しても授業にも問題なく出れるレベルには活動時間が増えたのでオールマイトは本当にニッコリしている。

 

「剣崎少年にお願いしたいのは緑谷少年の回復なんだ。緑谷少年はまだ身体と言う器が出来上がっていない為か個性を発揮すると身体が壊れてしまうんだ」

「それを回復させろって事ですね、分かりました。にしても……個性の把握テストで指があんなになってたのもそういう事だったんだな」

「うん……。まだまだ僕は強くならないとコントロール出来ないんだ」

「まあ兎も角剣崎少年、緑谷少年を頼むよ!!すまんが私はこれから校長に呼ばれているので行かねばならないそれではッ!!」

 

そう言って去って行ってしまったオールマイトを見送った二人は取り合えず訓練を始まる事にした。まず出久が何時もやっている風に身体を鍛える訓練を初めていき、次に実際に個性を使ってどの程度のダメージが体に来るのかの確認をする事になった。

 

「行くよッ……(卵が爆発しないイメージ……)」

 

デコピンの要領で親指で指を押さえてその反動で指を弾く、その際に個性でパワーを溜めてそれを放つ。意識を集中して出久は目の前にセットされたターゲット用の的に向けて腕を向ける。

 

「SMASH!!」

 

放たれた指から凄まじいパワーによって弾かれた空気の爆弾のような衝撃が放たれ、一瞬で的を粉々に粉砕してしまった。それどころか後方にまで抉ったかのような跡を残していた。それを見た剣崎は思わず言葉を失ってしまったが、同時に出久の指を見た。酷く腫れ上がっており、凄い状態になっていた。取り合えず『RECOVER(リカバー)』をラウズしてその指を完全に回復させる。

 

「あ、ありがとう剣崎くん……!」

「気にするな。にしてもすげぇなこれ……だけどその代償が今の怪我か……。器が出来上がってない事でそうなってるってオールマイトから聞いたけど、明らかにパワーの出し過ぎなんじゃねぇのか?」

「うんそうなんだけど……オールマイトは制御には感覚とイメージが大切って言ってて、でもそれが難しくて……」

「感覚とイメージ、ねぇ……こりゃ思った以上に大変な特訓だぜ……」

 

兎に角それからも緑谷の見ているだけでもいたくなるような個性の特訓、身体作り、そして仮面ライダーの力を使っての模擬戦で個性の力をどう使えばいいのかを把握する事を繰り返して行った。そして―――あっという間に時間は過ぎていく……。



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雄英体育祭、開催

あっという間に過ぎた時間、2週間という時間を剣崎は仮面ライダーとしての活動をしつつも出久の特訓に付き合うなどして時間を過ごした。リカバリーガールの治癒とも違う回復、それを活用して出久が個性の反動で負う怪我を治療。再び使用してそれを回復するを繰り返して個性に身体を慣れさせる事と力の加減を感覚的に理解する事を念頭においてそれをし続けた。その甲斐もあってか出久もある程度制御に成功し始め、個性も徐々に慣れ始めているのか、5%が身体を壊さないで出せるものだったのが8~9%程が身体の許容上限となった。着々と成長している出久に剣崎も協力のし甲斐があると嬉しそうにしている。

 

そして―――遂に体育祭当日となった。

 

 

『刮目しろオーディエンス!群がれマスメディア!今年もおまえらが大好きな高校生たちの青春暴れ馬…雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!?』

 

解説席から聞こえてくるプレゼント・マイクの声、それが知らしめるのは開始の合図。それによって出場生徒の間に一気に緊張が走って行く。入場を控えている1年達の間にもそれは広がっている、当然剣崎も僅かながらに緊張していた。

 

「アァン初ちゃんも緊張してるのね?ワタシがマッサージしてあげようかしらっ!?」

「有難う京水ちゃん、でも大丈夫。気持ちだけ受けて取っておくよ」

「なんて眩しい笑顔……これだけでワタシ、どんぶりご飯5杯イケるわ!!!」

 

そんなテンションが一人だけ一気に上昇して行く京水を横目に隣では自分と同じように深呼吸を繰り返している出久がいる、そんな彼の背中を軽く叩いた。

 

「け、剣崎くん?」

「緊張しなくていいんだよ。別に気張らなくていい、平常心で自分が出せる範囲の力を全力で出せばいい。それでいいんだよ出久」

「剣崎くん……うん、そうだよね。有難う凄い落ち着いたよ!」

「おう」

 

2週間の間に何処か師弟関係のような物が出来上がっている二人、そんなこんなをしていると入場の時間がやって来た。息を飲みつつ、全員が一気に入場を開始していく。通路を抜けていくと凄まじい大観衆が声援を上げて出迎えてくる。それをプレゼント・マイクの気合の篭った実況が更に加速させていく。それらの勢いに飲まれそうになる生徒、物ともしない生徒に別れる中で全1年が集結した時、一人の教師が鞭の音と共に声を張り上げた。

 

「選手宣誓!!」

 

全身を肌色のタイツにガーターベルト、ヒールにボンテージ、色んな意味でエロ過ぎて18未満は完全に禁止指定のヒーロー、18禁ヒーロー「ミッドナイト」が主審として台の上へと上がった。18禁なのに高校にいていいのか、と思わず剣崎の近くにいた常闇が呟くが直ぐに峰田が良い!!と肯定した。が、剣崎は如何にも目を向けづらかった。正直言って刺激が強すぎる……そして隣の梅雨ちゃんが如何にも視線を向けてくるのが気になった。

 

「剣崎ちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫だ……。俺、ああ言う人苦手だ……」

「そうなの」

「な、なんか梅雨ちゃん怒ってる?」

「いいえ全然、気にしないで」

「アッハイ」

 

「静かにしなさい!!では、選手宣誓―――選手代表、1ーA、剣崎 初!!!」

「はいっ!!!」

「えっ剣崎くんなの!?」

「そういえば、剣崎って入試で1位なんだっけ……」

 

前もって一応聞かされていた剣崎は既に内容を考えてある。気持ちを落ち着けながら宣誓台へと上がる、すると直ぐにミッドナイトから爽やか且つエロティックなウィンクを受けてやや赤面するが、咳払いしながら気持ちを切り替えて腕を上げながら宣誓する。

 

「宣誓―――ッ!!此処に集った我々は誇りある雄英の生徒、それに恥じぬように日々積み重ねた努力を全力で発揮し、ヒーローシップに則って正々堂々と、真正面からぶつかり、それらを全て超えて戦う事を、此処に誓います!!!選手代表1ーA……剣崎 初」

 

「きゃああ初ちゃんってばカッコいい~!!!」

「うむ素晴らしく立派だ剣崎くん!!」

 

感動する飯田に興奮する京水らに周りの生徒は引きつつも剣崎の言葉には会場からは拍手が溢れている。一部生徒はつまらなそうにしているが……しかし、剣崎はそのまま言葉を続けた。

 

「では更に言わせて貰います」

 

本来ならば既に終わる筈の選手宣誓、しかし剣崎はそれを続けた。

 

「この場に立った時点でヒーロー科、サポート科、普通科、経営科の区別などない。此処に居るのは全員が雄英の生徒。だからこそ、俺は誰が相手だろうが全力でぶつかっていく。ヴィラン相手に生き残ったなんて事実は意味を成さない。ここでは結果が全てを決める、生徒諸君……俺は皆に負けない」

 

そう言い切った剣崎、一瞬会場から喧騒が消えて静けさが周囲を支配したがすぐさま1年全員から様々な咆哮が上がった。それはA組ばかりを持ち上げて他のクラスを引き立て役としている節があった、だが剣崎はそんな事は意味を成さない、だから全力で掛かった来いと発破を掛けた。それらに全員が乗り気になった。全員にやる気が満ち溢れていき1年のボルテージが加速度的に上昇していく。

 

『カアアアァァァッッッ!!!!良い事言うじゃねえか剣崎ぃぃぃっッ!!!めっちゃボルテージ上がるじゃねぇか!!!この前は噛んでケンジャキって呼んで悪かった!!』

「良いわ、良いわ良いわ凄いいいわ剣崎くん!!ワタシこう言うの超好み!!!さあこの熱さを残したまま第一競技行くわよぉ!!!」

 

―――体育祭、開幕(スタート)!!



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体育祭、障害物走:前編

「第一種目はいわゆる予選、毎年ここで多くの者がティアドリンク!!さて運命の第一種目、今年は障害物競走!!一学年の全クラスによる総当たりレース、コースはこのスタジアムの外周で距離は約4㎞よ!!コースを守れば何でもあり!!」

 

選手宣誓後いきなり開始される第一競技、障害物競走。会場の周りをぐるりと一周すると言えば聞こえはいいがどんな障害物が待っているかは分からない。そしてスタートのゲート前には凄まじい人数がすし詰めのようになっておりスタートしたとしても本当に走れるのかと思うほどである。そんな剣崎がゲートの周囲、会場から外に出るための道は壁がある事に気付き、そこを注視していた。そして―――

 

「スタァァアアアトォォオオッッッ!!!!」

 

遂にスタートが切られた。一気に全員がゲートから走りだそうとしている中、剣崎はやや後ろの方に陣取って一気に跳躍した。そのまま壁を蹴りながら混雑している集団から抜け出して一気に先頭へと躍り出たと思ったら隣には梅雨ちゃんと京水がピッタリと付いてきていた。

 

「剣崎ちゃんが壁を見てたからもしかして、と思ってね」

「アァン流石ワタシの初ちゃんだわ!!冴えてるぅ!!」

「二人も、ね!!」

 

如何やら視線が余りにも露骨だったしい、兎も角着地して駆け出していくと後方から凄まじい冷気を感じる。振り向いて見るとそこはゲートの入り口付近の床が完全に凍りついており多くの生徒が脚を取られているではないか、そんな生徒らから一気に抜けて自分達に追いついたのは右で凍らし、左で燃やす個性「半冷半燃」を持っている文句無しでクラスナンバーワンの轟だった。

 

「ちょマジかよッ!!?一抜けして正解だったぜっ……!!」

「全くね、あんなに寒かったら冬眠しちゃうわ」

「アァン流石轟ちゃん、あのクールな眼差しで壁ドンされたいワァアン!!」

「ホントブレないわね泉ちゃん」

「ホントにね」

 

そんな京水の言葉に代わらない安心感を感じていると一気に轟きが追いついて追い抜いていく、それに負いつく為に三人もペースを上げて行くが後方から迫ってくる妨害もあり、上手く速度を出せない。

 

「待ちやがれぇぇっっ!!!クソオカマァァァァァァ!!!!」

「逃がしませんわよ蛙吹さん、泉さん、剣崎さん!!!」

「うおおおおっっっっ!!!!」

「やべぇやっぱうちのクラスは流石に轟の個性知ってるだけあって抜けるの早いなっ!!!」

「あっ梅雨ちゃんあぶねぇっ!!?」

「ケロッ!!?」

 

再び轟が足元を一気に凍結させてくる、梅雨ちゃんは蛙のようにジャンプしようとするが反応が遅れてしまい回避が間に合わなくなりそうになるが咄嗟に手を伸ばした剣崎が彼女を抱き上げてジャンプした事で体の凍結を防いだ。剣崎は『DROP(ドロップ)』を使う事で一歩足を進む毎に氷を砕きながら進む事で転ぶ事を防いでいるので非常に安定して歩けている。

 

「あっぶねぇ……梅雨ちゃん大丈夫!?」

「だ、大丈夫有難う……。お、降ろしてくれても大丈夫よ……」

「でも今降ろすと転ぶだろうから、良いタイミング降ろすよ!!」

「アァン梅雨ちゃんったらなんて羨ましいのかしらぁアアン!!!初ちゃん今度はワタシもお願い!!」

「京水ちゃんがコケそうになったらねッ!梅雨ちゃん確り捕まってて!!」

「アァン約束よぉん!!」

「ケ、ケロォ……」

 

降ろすタイミングが見付かるまで梅雨ちゃんを抱かかえたままどんどん進んで行く事にした剣崎、そんな腕に抱かれている梅雨ちゃんは顔を赤くして硬直してしまっていた。そんな彼女を見て京水は何やら騒いでいると目の前で轟が止まった、その先へと視線を向けて見るとその理由が明らかとなった。

 

「おいおいあれってなんか見覚えあんぞ」

「奇遇ねワタシもよ」

「入学時の仮想敵ね……0ポイントの奴も混じってるわ」

 

『さあさあ遂に来た来たやっと来たぜ!!!手始めの第一関門、名付けて『ロボインフェルノ』!!!此処を超えないと次にはいけねぇぜぇえエエエイエエイ!!!』

 

避けるべき障害、それが倒すべき障害でもある。何とも素敵な障害物競走の第一関門だ、剣崎は思わずにやりと笑いながら軽く片足でステップを踏みながら更に強く梅雨ちゃんを抱き締める、それで更に胸元へと押し付けられる梅雨ちゃんは更に赤くなり、ケ、ケロォ……と何処か勘弁して欲しそうな声が漏れていた。

 

「京水ちゃん、俺に付いてこれるか?」

「アァン当然よん♪なんだったら腕を巻きつけてでも行くわよ♪」

「上等……一気に突破する!!!」

 

一気に駆け出して良く剣崎の後ろをピッタリ付いて走り出していく京水、その目の前では轟が地面ごと一気にロボを凍結させて行動を封じながら掛け抜けていく。それを横目で見ながら剣崎と京水も凄い勢いで走って良く。

 

『ツブセ!!』

『ブッコロシ!!』

『ミナゴロセ!!!』

 

SCORPE(スコープ)

 

まるで爆豪のような言葉を機械的な音声で叫びながら向かってくる仮想敵、真正面から約4体。それらがキャタピラをけたたましく鳴らしながら迫ってくる、だが剣崎はスピードを一切落とす事なく突き進んで行く。京水もそんな剣崎を信じるように全くスピードを落とさない。どんどん距離が縮まってくる仮想敵との距離、しかしそんな仮想敵の動きは剣崎には確りと視認出来ていた。ラウズした力で強化されている視力や索敵能力は次の仮想敵の動きすら先読みするかのように感じ取る事が出来ている。

 

「右、左次も左、最後の右、行くぞ!!」

「了解よん!!」

 

更に速度を上げていく剣崎と京水、それらへと仮想敵は次々と腕が振るわれていくがそれらをいとも容易く回避して行く。相手の動きが見えているかのような滑らかで鮮やかな回避と細やか且つ繊細なターン、それらで一気に仮想敵の群れを突破して第一関門を突破する事に成功する。

 

『おおおおおっとここで地上から一気に抜けたのが3人!!剣崎、泉、そして蛙吹だぁぁぁ!!!敢て他が出来るだけ避けて行く敵の真正面を突破ぁっ!!!』

『正面突破は危険こそあるが、最も距離が短い上に敵の追撃も簡単に振り切れる。出来さえすれば最も合理的な突破方法だ』

 

そんな実況解説のお二人からのお褒めの言葉を受け取った剣崎達はそのまま一気に次の関門へと走って行く。

 

「梅雨ちゃん、そろそろ降ろすけど大丈夫かい?」

「ケ、ケケケケロォ……だ、だだ大丈夫よ剣崎ちゃん……大丈夫、大丈夫だから……」

「いや本当に大丈夫……?」

「アァン梅雨ちゃんってば羨ましいんだからぁアアン!!」



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体育祭、障害物走:後編

『さあぁ先頭がいよいよ第二の関門へと差し掛かったぞぉ!!!落ちれば即アウト、それが嫌なら這いずりなっ!!!ザ・フォォォオオオオオル!!!!』

 

第二の関門として姿を現したのは巨大な峡谷のように大口を開けている地の底へと向かっているような真っ黒い闇、切り立った崖のような足場とそれらへと架けられているロープの橋だった。つまり、ロープを綱渡りの要領ので渡っていく事で奥へと進んで行けという事になる。その証拠に既に轟がロープを凍らせてその上を滑るようにしてどんどん奥へと進んで行っていく。

 

「剣崎ちゃん、さっきは本当に有難うね。でも此処からは正真正銘のライバルよ」

「ああ分かってるよ、お互いに頑張ろうね」

「うふっ自信有り気な梅雨ちゃんも可愛いわねぇ」

「ケロケロ有難うね、それじゃあお先にっ!!」

 

梅雨ちゃんは蛙のジャンプ力で高々と跳躍するとそのままロープの上へと着地するとそのまますいすいと渡って行く。梅雨ちゃんにとってのこの程度の物は障害にすらならないようだ。

 

「それじゃあ初ちゃん、ワタシも行くわねん。後で会いましょうね♪」

「ああ。そっちも頑張ってね」

「それじゃあ、イクわよイクわよイクわよイクわよイクわよイクわよぉぉおおおおん!!!!!」

 

ルナ・ドーパントへと変身した京水は伸縮自在は腕を大きく伸ばしてそのままロープを掴むとそのママ一気に腕を縮ませてその反動で一気に足場から足場への跳躍を繰り返して行く。二人とも個性を生かした突破方法をしている、さてと自分もどうするかと一瞬頭に浮かんだがどうすればいいかなんて簡単だった。一旦後ろへと猛ダッシュする。

 

『おーと此処で剣崎が逆走!!?おいおいそっちは逆だぞって止まった、一体何をする気だぁぁあああ!!?』

「よし、この位の距離があればいけるな……」

 

もう直ぐ後続組が追いついて来る頃、だけど慌てる事なんてない。自分のやれる事を全力でやれば後悔なんて起こらない、そして自分の全力を出せば確実にここは突破できる……!!数回片足だけでジャンプしながら足を伸ばすと一気に体勢を取る。

 

KICK(キック)〉〈MACH(マッハ)〉〈TIME(タイム)

「―――『固有時制御(TIME ALTER) 瞬間超加速(MACH KICK ACCEL)』ッ!!!」

 

体内時間の操作、爆発的な脚力による瞬間的な超加速。一気に加速して行く身体が更なる加速をしていく、空気さえも切り裂いて付き進むような様は正にミサイルのような様子。その爆発的過ぎる加速力は会場で見ていたプロさえも驚愕させる物だった。

 

『は、速ぇぇええええええ!!!!???おうイレイザーヘッド、お前のクラスどうなってんだ!!?飛んでもねぇ人材ばっかじゃねぇか!!!?なんだあの速度、飯田の奴よりもクソ速いじゃねぇか!?』

『んなことはクラスの人材配分をした奴に言え。剣崎は個性は身体能力の強化。足のキック力を瞬間的に高めるのを何度も何度も繰り返してあんな加速をしてんだろうな』

 

相澤の解説も間違っていない、『MACH(マッハ)』に合わせて『KICK(キック)』を発動して跳躍能力を高める事で一歩一歩進む距離を伸ばす事でより速度を高めている。そしてその速度はこれからの事に役立つ。一気に加速した勢いのまま、更に強く地面を蹴った剣崎はそのまま大ジャンプを行った、間にあった全てを飛び越えて第二関門のゴールへと到達した。

 

「ウェェェエエエエエイ!!!!」

『マジかぁぁぁあっっ!!!??剣崎、あの足場の間を一気にジャンプして、飛び超えたぁぁぁぁぁ!!!??』

「轟ぃぃぃぃ!!!待てぇぇぇぇっっ!!!!」

「くそもう追いついてきやがったのか!!」

「待ちやがれぇぇぇ半分野郎、ウェイ野郎がぁぁああ!!!!」

「おいその呼び方は納得いかねぇぞ!!!!」

 

『さぁあラストの障害だぁああ!!そこらは一面地雷原!!名付けて『怒りのアフガン』!!!もし踏んでも安心しな、競技用だから威力は控えめ、だが音と爆発は派手だから失禁しねぇように気を付けな!!!』

 

トップ集団は轟、剣崎、爆豪。この三人が入り乱れたまま地雷原へと進んでいく。爆発の勢いで空中を進んで行く爆豪に独走させないように轟も片足分だけ地面を凍らせて地雷が爆発しないようにしながら進んで行く。剣崎は全力ダッシュしながらも目を必死に動かして地雷のない場所を選びながら走り、二人との妨害を続ける。

 

「退けクソ共がぁ!!!」

「くそ、面倒な奴だな!!」

「ぁぁあああんだと半分やろうがぁぁ!!!!」

「前々から思ってたけど、お前本当にヒーロー目指す気あんのかよ!?」

「あるわくそがぁ!!!」

「だったら言葉遣い直せ!!!」

 

そんな言いあいが続いていると、後方から凄まじい爆風が巻き起こった。思わず降り返るとそこには凄まじい爆炎が巻きあがっている、がなによりもそんな巻き起こった巨大な爆風に乗ってこちらへと急接近している緑谷がいた。第一関門で手に入れたと思われるロボの装甲板を盾にしながらそれで爆風を受けて飛んできていた。

 

『偶然か故意か!?A組緑谷、爆風で猛追!!!つーか、抜いたぁぁぁってマジかぁぁぁぁ!!!!?大、大、大、どんでん返しだぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!!』

「させるかぁっ!!!」

「デクぅぅぅ!!!俺の前に行くんじゃねぇええ!!!!」

「やるなぁ出久!!!だけど、負けてたまるかぁ!!!」

「僕だって、負けるつもりはないっ!!!!!」

 

爆風に乗った出久はそのまま装甲板を地面へと叩き付けた、するとあった地雷を更に爆破してその勢いで更に加速して関門を突破して更なる奥、ゴールへと突き進んで行く。その最中、身体が輝いているようにも見えて剣崎は思わず笑うがそれを追いかけて全力で走り出して行く。

 

『この結果を誰が予想できたぁぁぁ!!!??第一種目を1位で通過したのは、なんと大方の予想を裏切ったスーパーダークホース!!!緑谷 出久だぁぁぁあああああ!!!!そして2位はぁ剣崎 初だぁぁぁぁ!!!!』

 

「たっはぁっ負けたぜ出久!!お前、スゲェよ!!!」

「それほどでもないよ、それに君が訓練を付けてくれたお陰でもあるから!!」



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第二種目:騎馬戦

第一種目:障害物走も終了し、次なる競技が発表される。それは―――騎馬戦であった。3~4人でチームを組む、それぞれには障害物走の順位によってポイントが振り分けられ騎手はそれらの合計分のポイントが印されたハチマキを装着し、それらを15分の間に奪いあうという形式になる。重要となるのはあくまでハチマキ、ポイントの奪い合いである為騎馬が崩れたとしてもまた組み直して奪い合いに参加しなおすのもあり。そして個性の使用も自由、禁止なのはあくまで悪質な崩し目的の攻撃のみ。そして、剣崎の保有ポイントは2位である為に205、だが1位の出久は更なる受難を、下克上上等のこの騎馬戦の醍醐味とも言えるとして1000万が与えられていた。思わずそんなポイントを与えられた事に同情する剣崎であった。あれでは確実全員から狙われる事になるのだから……。

 

「さてと……誰と組むかな」

 

15分間のチーム決めの時間、周囲で様々な特色を持ったチームが出来上がっていく中で誰を誘うべきかと考えていた。個性の使用も可能という事もあってチームメンバーを選ぶ材料として個性も重要となる、剣崎の個性は身体能力の強化になっているので、それを活かすのは騎手ではなく下で誰かを支えるのがベストとなっている。そんな剣崎も中々の人気で様々な人から声を掛けられるが如何にも悩んでいる……すると京水がやってきた。

 

「初ちゃぁあ~ん、一緒に組みましょうよ~」

「京水ちゃん、そっちもまだなの?」

「そうなのよぉ~ワタシの個性って色々と面倒だからって理由で中々決まらないのよ」

「まあ幻想って個性だから難しい所もだろうからなぁ……いいよ、組もうか」

「やったわぁあん♪」

 

これで2人。後一人は欲しいと言った所で3人に影がさした。

 

―――それでは、私も仲間に加えてくれないか。

 

そこには自分達が肩車したとしても敵わないほどの長身且つ屈強だが、まるで鉄のような質感をしている男が此方を見下ろしていた。余りにも威圧的な光景だった為に、思わず剣崎はポカンとしてしまうがたった一人だけ平常運転なものがいた、京水である。

 

「アァン鉄っちゃんじゃない!!貴方、雄英に来れてたのねぇ!!」

「お陰様でな、普通科での入学だけどちゃんと入学できたよ」

「きょ、京水ちゃんお知り合いなの……?」

「ええ。初ちゃんには前に話さなかったかしら?全身が金属の塊で身長4m強ある子が知り合いにいるって」

「あっそういえば!!」

 

初めて京水と会って一緒に教室に行った時にそんな知り合いがいるような話をしたような気がする。どうやら京水も知らない間に雄英に入学していたようである。

 

「初めまして剣崎さん、私の名前は(くろがね) 巨躯(きょく)。個性は鉄巨人だ」

「色んな意味で分かりやすいなそれ……。兎に角一緒になってくれるか?」

「勿論。京水の友人ならば喜んで力を貸そう、それに私も勝ちたいからな」

 

剣崎が205、京水は185、鉄が30。これで3人の合計は420、高ポイントチームの一角となった。鉄は自分だけが低いポイントなのを気にしているようだが、それは重要ではなくチームワークが重要なのだと慰める。

 

「それでどのように騎馬を組むかだ、私が一番下で皆さんが私の上なのが一番安全だと思うが……因みに私の身長は4.65メートル、尚も成長中だ」

「あらまあまた大きくなっちゃって、羨ましいわぁっ!!それじゃあ鉄ちゃんの上なら取られる心配もしなくて良いわね」

「……なぁ鉄君、君の体重って何キロぐらい?」

「私のか?1週間前に計った時には380キロだったが」

「なら行けるな、よしちょっと耳を拝借」

 

この後、ミッドナイト主審に確認などをしながら許可などを貰い、作戦を発表した。その時には驚かれたが非常に有効な作戦だと二人も納得した。そして15分が経過した後遂に始まろうとした騎馬戦で剣崎のチームは様々な意味で度肝を抜いた。

 

『さぁ15分が経過した……ってなんだありゃああ!!!??』

 

思わず大声を張り上げたプレゼント・マイク、それもその筈。2位通過の剣崎のチーム、そんな彼が行っているのは騎手ではなく騎馬の部分。しかも彼が背負っているのは4m強且つ体重が約400キロの鉄とその上に肩車されている京水なのだから。そう、鉄が騎馬をするのではなく鉄が京水を担いだ上で二人を剣崎が担いで高速で移動するという作戦を取ったのである。しかし、剣崎に掛かる負担は相当な事になりそうだが剣崎は平気そうな顔をして鉄を担ぎ上げている。能力を一部ラウズする事で、それらを支えている。

 

「け、剣崎さん本当に大丈夫なのか!?無理してないか!?」

「楽勝楽勝……!!!やわな鍛え方はしてないんでね!!!!」

「アァン逞しい初ちゃんもス・テ・キ♪これは初ちゃんの為にも張り切っていくわよ鉄っちゃん!!」

「当然、全力で行く!!!」

 

「選り取り見取り……ジュルリ……嫌いじゃないわぁああああああん!!!!」

「ぎゃあああああ皆逃げろぉぉおおおお!!!主に男は全力で逃げろぉぉおおお!!!」

「あ~あ……なんか、複雑な気分だな……」

「同感だよ剣崎さん……」

 

騎馬戦が開始されたが……鉄の上でルナ・ドーパントに変身した京水は高速移動する鉄という高台から伸縮自在な腕を伸ばしてハチマキを奪いながらも自分好みな男子を手当たり次第に目を付けて、襲う一歩手前までやるという事を連続するのであった。京水のあれな趣味は色んな意味で1年の間では有名なのか、皆が避けていくのであった。ある意味そんな京水と付き合いを持っている剣崎は勇者的な存在として見られているのかもしれない。

 

「初ちゃん次はあっちよ!!あっちの男子も……グフフフ……」

「あ~はいはい……なぁ鉄君、京水ちゃんって昔からこうなの?」

「……まあな」

「君も、大変だっただね」

「それなりに、な……」

 

色んな意味で台風の目と化した剣崎チームは場を荒しまくった、まあ正確には荒らしたのは京水なのだが……。結果として騎馬戦が終了する時には京水は酷く艶々しており、他の男子生徒ら、主に1-A以外はげっそりとしつつも命があった事をただただ喜んでいた。

 

1位、轟チーム:轟、八百万、飯田、上鳴。 

 

2位、爆豪チーム:爆豪、切島、芦戸、瀬呂

 

3位、剣崎チーム:剣崎、京水、鉄

 

4位、緑谷チーム:緑谷、麗日、常闇、発目

 

本来は16名が勝ちあがるが、1名不足しているので5位の鉄哲チームから、チームからの推薦を受けて鉄哲が選出。以上16名が最終種目:トーナメントガチバトルへの出場権を獲得した。そしてその初戦―――

 

緑谷 VS 剣崎

 

という対戦カードが組まれ、互いに驚きを隠せなくなった。




鉄 巨躯

個性:鉄巨人。
全身が鋼鉄以上の硬度を持った巨人!!全身が武器であり防具!!対人戦においてはその体格も強大な武器となるぞ!!だけど個性被ってるなぁ!!!


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決勝トーナメント:初戦 出久 VS 剣崎 Aパート

昼休み後、雄英体育祭の最終種目:決勝トーナメントが行われようとしていた。トーナメントが行われるステージは教員でもあるプロヒーロー「セメントス」が自らの個性を使用して製作し、それも完成し間もなくそれが行われようとしていた。その第一試合は出久 VS 剣崎というカードにA組はざわめいていた。

 

出久の個性の不安定さと使用後に怪我を負う事は最早周知の事実、そんな出久と戦うのはクラスの中でも非常に高い力を有しており、シンプルな個性を完璧なまでに使いこなす剣崎。どちらが勝つかと言われたら剣崎と答えるだろうが出久の個性の破壊力による一発逆転も十分ありえるので皆どちらが勝つのか予想しきれていない。

 

『ヘイガイズ、アアアァァユゥレディィィ!!?色々やってきましたが結局これだぜガチンコ勝負!!!頼れるのは己のみ!!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりなのはわかるよな!!?心・技・体に知恵知識!!!総動員して駆け上がれ!!!!』

 

プレゼント・マイクの実況にも今まで以上に熱が入っている。これから最大級の盛り上がりが始まるトーナメントの初戦が始まるのだ、彼もテンションが上がってしょうがないのだろう。そんな実況を受けながら遂に互いに拳を交える生徒がステージ上へと上がった。同時に観客席から沸き上がる声が血流を加速させていく。

 

「いっけ~剣崎~!!緑谷も頑張れ~!!!」

「おいら剣崎に夕飯賭けてるんだから絶対に勝てよぉ!!!」

「峰田君クラスメイト同士の試合で賭けを行うとは何と不謹慎な!!!兎に角二人とも頑張れ!!!」

「初ちゃん頑張って~!!!」

「剣崎ちゃん応援してるわよ~!緑谷ちゃんもね~!!」

 

観客席から響いてくるクラスメイト達からの歓声、それらが更に身体に力を漲らせていく。

 

『さあ始めるぜ第一回戦!!!成績の割に何だその顔!?ヒーロー科、緑谷 出久!! VS 此処まで優秀な成績を収め続けたヒーロー科、剣崎 初!!!』

 

この戦いに置けるルールはひどくシンプル、相手をステージの場外へと出すか参ったと言わせるかのガチンコ勝負。怪我をしてたとしてもリカバリーガールがスタンバっているので思いっきり戦って問題なし。但し命に関わるような攻撃は禁止、その場合は主審のミッドナイトとセメントスが止めに入って中止にさせられる。

 

「出久、正直俺はお前といきなり当たるとは思わなかったぞ」

「僕もだよ、剣崎君には色々お世話になってるけど本気でいくからね!!」

「当たり前だ。手なんか抜いたらぶっ飛ばすぞ」

『おっとおっと、互いにもう気合十分みてぇだな!!!それじゃあ―――レディィィィスタァアアアアアトッッッ!!!!』

 

スタートの合図が響いた。同時に出久は一気に地面を蹴って駆け出していく、先手を取った。全身に漲っていく力、それを一気に発動させて爆発的な跳躍力で一気に剣崎へと迫るとそのまま腕を振るうが直線的過ぎる為に簡単な体捌きで回避されるが地面を殴って方向転換をするとラッシュを開始。それらを見切っているかのように捌きつつも脚を振り上げ顔を狙う剣崎、それを避ける出久だが体勢が崩れてしまう。が、後方に飛んで体勢を建て直すと再び攻勢を掛ける。

 

「たぁぁぁあああっっ!!!!」

「はあっっ!!」

「グッ!!」

 

大振りの一発、それをすり抜けるかのように出久の腹部に掌底打ちが炸裂する。しかし怯まない、そのままラッシュを続けるが今度は肘打ちが顔面に来るが左手でそれを受け止めるが再び脚が上がってくる。素早く反応し右腕でそれに巻きつくかのように受け止めながら左肘でそこへ一撃を加えようとするが、剣崎の左のパンチが顔面を捉えた。軽く吹き飛ばされた出久は一旦距離を取って息を吐き捨てると全身のバネを使って一気に接近する。

 

「芸がないぜ出久!!」

「そう、かな!!!」

 

カウンターを決めようと腕を繰り出した剣崎だが、出久はそのパンチを受けながら一気に下へと潜り込むと剣崎の顎へとアッパーを決める。その一撃を受けた剣崎も軽く後ろへと吹き飛んだ。しかし、それを受けた剣崎は何処か嬉しそうな表情をしながら出久の身体に走っている光のような物を見つめた。

 

『こ、こりゃすげぇぇええ!!!!緑谷、あいつ中々強いじゃねぇえか!!!短い時間の切れ目にあった攻防に実況をする暇もなかったぜぇ!!!』

『相手の攻撃を全て読んで捌いていた剣崎、そのカウンターを予測した緑谷のフェイント……どちらもいい動きだ』

 

想像以上の攻防戦に観客席からも大歓声が溢れていく。正当派な戦いにプロヒーロー達も食い入るように見つめている、その中にはオールマイトの姿もあり出久の身体に走っている光を見て嬉しそうに笑う。

 

「(緑谷少年、ワンフォーオールを掴んできている……!!今までは指や腕の一部のみだったが今は全身……!素晴らしい成長振りだ、緑谷少年!!これも剣崎少年の協力のお陰だな!)」

 

「緑谷君~!!!!君凄いぞ~!!!!剣崎くんも凄いぞ~!!!!」

「初ちゃんカッコ良いわよ~!!」

「デク君頑張れ~!!!」

 

 

「(流石剣崎くんだ……アッパーの時、ジャンプして威力を殺された……!!やっぱり僕よりも遥かに格上の人だ……!!)」

「(今まで特訓に付き合った甲斐があったみたいだな出久……全身にワンフォーオールを掛けての活動、今まで成功してなかったのにこの本番で成功させてやがる……!!)」

 

互いに相手の事を賞賛しながら警戒するかのように摺り足で距離を保ち続ける、相手の能力は警戒に値すると認めている。出久は剣崎の今まで仮面ライダーとして活動して来た経験とその力を、剣崎は出久の爆発力と分析力、そしてワンフォーオールを。どちらに取っても相手の力は酷く厄介な物。だが負ける気もない。だからこそ―――

 

「行くぞぉぉぉおおおおお!!!!」

「うおおおおおおお!!!!」

 

同時に走り出した剣崎と出久、振りかぶった腕。勢い良く振るわれていくそれは―――真正面からぶつかりあった。互いの一撃がぶつかり合った瞬間、二人を中心に凄まじい衝撃波が会場中に響くように広がっていく。二人の一撃の重さと威力が分かる瞬間でもある。

 

「僕は、君に勝つよ……剣崎君!!!」

「勝てるもんならやってみろ、出久!!!!」



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決勝トーナメント:初戦 出久 VS 剣崎 Bパート

決勝トーナメント第一試合、緑谷 出久 VS 剣崎 初。注目を集める1年のA組同士のクラスメイト同士の戦いとなった初戦、今までそこまで目立つ事が余りなく誰かを活かす、作戦勝ちをしてきたという印象を強く持たれがちの出久。そんな彼と剣崎のガチバトルは誰もが想像しないほどに激しいぶつかりあいだった。

 

「こんのぉおおおおお!!!」

「はぁぁぁぁっっ!!!!」

 

助走を付けた剣崎は飛び蹴りを繰り出すがそれを防御する為に出久は思いっきり地面を踏みつける、するとその衝撃でステージの地面が畳返しのように捲れ上がって剣崎の攻撃を防御する盾となった。それがどうしたと言わんばかりに地面の壁を蹴り砕く、しかし、視線の先から出久が消えている。

 

「いっけええええっっ!!」

「ぐがぁっ……!!!」

 

砕かれた地面の壁、それらが砕けた破片に紛れながら姿を隠した出久が隙だらけの脇腹へと拳を叩き込んだ。確かな手応えを感じた出久はそのまま腕を振り切ってフィニッシュまで決めて剣崎を吹き飛ばした。転がりながらも立ち上がった剣崎は脇腹を押さえながらも不敵そうな笑みを浮かべると、一気に接近して出久の顔面に一撃を加える、がそれに合わせるように出久もカウンターでパンチを決める事に成功する。

 

「やろぉっ……!!」

「まだまだぁっ……!!!」

 

『熱ッちぃぃいぃいいいいいい!!!!超イカしてて燃えるバトルじゃねぇか!!!おいイレイザー・ヘッド、お前のクラスマジでスゲェな!!!』

『……俺も予想外だけどな』

 

実況のプレゼント・マイクにも今まで以上に熱が入っていく、互いの力を真正面からのぶつかり合い。ド突き合いながらもカウンターやラッシュの応酬は見ているほうも異様に身体を熱くさせていく。まともに攻撃が決まっても互いに一歩も引かずに寧ろ更に前へ、相手を超えて行こうとする姿勢は正に雄英が推す言葉である「Plus Ultra」を体現しているかのような光景だ。

 

「いっけぇぇぇっ剣崎ぃぃ!!!顎だ顎!!!ブロックブロォオオオオク!!!!」

「緑谷負けんなぁ!!!!そこだそこぉっ!!!!」

「ああ、危ない剣崎くん真横!!よし避けたっ!!!」

「どっちも負けんなぁ!!もうどっちも勝っちまえぇぇ!!!」

 

二人と同じクラスの男子勢もおおいに盛り上がっており、大声を張り上げて声援を送り続けていた。互いに炸裂していく拳や蹴り、それでも苦痛の表情ではなく相手への賞賛と負けないという意志で溢れ返っている表情は更にそれらを燃え上がらせる。特に男義に熱い切島、熱さに当てられて自分も熱くなっている瀬呂、自分の戦いに組み込めるのではと真剣に見ていたが気付けば全力で応援している尾白、気付けば賭けの事なんて忘れている峰田。あの飯田も酷く熱くなって応援している、そんな男子らに驚きつつも女性陣も真剣な眼差しで見つめている。特にあの出久があんなに強かったと言う事に驚きを隠せていない。

 

「あの緑谷さんはこんなにも強いなんて……驚きです」

「ホント……剣崎が強いのはまあ分かってたけど、ほぼ互角……」

「デクくん、凄い……頑張れ~!!!」

 

普段どちらかと言えば暗くオタク気質がある出久の思いもしなかった一面と強さ、今まであった彼女らの思いを打ち砕くには十分すぎる物。

 

「剣崎ちゃん、あんなに熱くなってる……ケロケロォ……カ、カッコいい……」

「初ちゃんカッコいい~!!!そこよそこそこぉ!!!」

 

一方、緑谷の強さを理解している梅雨ちゃんと剣崎から話などで出久の強さなどを把握している京水は純粋に試合を楽しみながらも一方では思わず顔を赤くしながら、一方は全力で応援をしている。

 

「「だぁぁぁぁっ!!!!」」

 

三度、クロスカウンターが決まり互いの顔面を拳が襲う。それらで身体がよろめいたのか、互いに距離を取りながら警戒を強める。

 

「(つ、強い……!!仮面ライダーにならなくても純粋な戦いでこんなにも……!!次第に、剣崎くんの一発一発も強くなってきてる……!!)」

「(出久め……戦ってる間に反応速度がどんどん上がって喰らい付いて来る……こりゃ結構きついぜ)」

 

出久は元々ヒーローの事を調べそれらをメモする事が習慣且つ趣味のような物、その影響かメジャーなヒーローの戦い方や体捌きや体術などの事も頭の中に入っている。剣崎との特訓、そしてこの戦いで出久は肉体面でも急成長をしており、それらに蓄積された知識を反映出来るようになってきている。それでいながらも剣崎の動きに合わせられるようにもなっている、剣崎としては非常に厄介な相手。

 

『試合開始から30分!だがお互いに全く引かずに猛攻をし続けている!!こうなったらこっちは幾らでも付き合うぜ!!!行ける所まで行っちまえよヤッハァァアアア!!!!』

「「(いい加減、キツくなって来てんだよこっちは……!!)」」

 

プレゼント・マイクとしては何時までもこんな戦いが続いて行きそうな気がしてならない、観客達もそうだろうが当人達としてはかなりきつい。剣崎も戦いの中で能力をラウズしつつやっているので出久には深いダメージが蓄積している、出久はコントロール出来る約10%の範囲でワンフォーオールを発動しながら戦っており、それらの一撃は非常に重く剣崎としてもかなりきつい。これ以上続けたとしても共倒れが精々だろう。それはお互いが一番良く理解している。

 

「「……」」

 

一歩、一歩後ずさっていく。次の一撃で全てを決めると互いに決めあったかのような行動、それらは会場中に伝わっているのか全員が固唾を飲んでそれを見守った。腕を矢にし、全身を弓にして思いっきり引き絞る出久。限界まで後ずさりつつも片足を引き、力を込め続ける剣崎。

 

KICK(キック) DROP(ドロップ)MACH(マッハ)

 

今最適だと思われる物をラウズしてそれらを身体に宿し、目の前で自分を待ち構えている出久を見つめる。込められる力を込めて、剣崎を見つめる。

 

「行くぞ、出久ぅぅぅうううう!!!!」

「来ぉおおおい、剣崎君っっっ!!!!」

 

溜めた力を一気に開放する、蹴った地面は爆破でもされたかのように炸裂した。その勢いのまま出久へと向かう剣崎、それを迎え撃つかのように腕を引き絞った出久はただ真っ直ぐ剣崎を見つめてた。跳躍、そして剣崎は叫ぶ、初めて会った時と同じように―――。

 

「ウェェェェェエエエエエエエイ!!!!」

「おおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

ぶつかりあった一撃、それらが衝突した時、会場中を包みこむカのような空気の渦が巻き起こる。ステージが罅割れて行く、崩壊していく。それがどうしたと言わんばかりに中央の二人は叫び続ける、目の前のライバルを倒したいという思いが自分を支配していた。そして―――爆煙にも似た土埃が舞い上がり視界を遮った。一体、どっちが勝ったのか、誰もが気になった。徐々に晴れていくそれに、緊張が高鳴った。完全に崩壊したステージの上に立っていたのは―――

 

「はははっ……やっぱり、凄いや剣崎、君は……もう、身体が動かないや……」

「お前も十分すぎるぐらいに凄いよ出久」

 

―――剣崎だった。勝者は剣崎、同時にミッドナイトが出久の戦闘不能宣言をして剣崎の勝利を確定させた。

 

「僕の分まで、頑張ってねトーナメント……!」

「当然……!!」

「それと今度は、僕が勝つから……!!」

「やってみろってんだ……ライバル!!」

「勝つさ、ライバル……!!」



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二人の評価と成長

「緑谷……是非とも彼、サイドキックに欲しいなぁ」

「我武者羅に攻めているように見えて、彼の攻撃は鋭さと正確性があった。元々分析やらが得意なのかもしれないな」

「それでいてあんな近接戦闘能力……うーん、今すぐにうちの事務所に来てくれないかなぁ……マジでああ言うサイドキック欲しいんだよ……」

「ああ。お前の個性は近接がいてこそ光るようなもんだもんな」

 

「剣崎 初……いいなぁ」

「あんなに熱いのはいいよなぁ士気も鰻登りだよ」

「特に最後の一撃なんてとんでもなかったもんね、緑谷のもとんでもなかったのにをそれを破っちゃうんだもん」

「サイドキックの争奪戦、早くも白熱しそうね」

 

試合が終了した会場はまだまだ初戦の剣崎と出久の戦いの興奮が冷めていなかった、始まりからあれほどに途轍もない戦いを見せ付けられると如何にも身体がうずくのかプロヒーロー勢は早くも二人にスカウトをしたいような動きを見せ始めている、冷静に二人の力を分析しながらもそれらを正当に評価してどういったポジションが一番なのかを検討している。中には今すぐにもスカウトしたいと口にするプロもいる程。そんな二人は肩を貸しあって共にリカバリーガールの診療所へと向かって行く、そんな戦いの後の友情を見たミッドナイトは嬉しそうに笑いながら激励を送っていた。

 

「剣崎少年、そして緑谷少年本当に良い試合だったぞ!!全くもって、私も熱くなってしまったよ!!」

「はははっ……でも僕負けちゃいましたけどね、でも凄い満足してます。出せる全力で負けたから、ですかね」

「その気持ちがあるならもっと君は強くなれるぞ緑谷少年!」

 

二人の戦いで完全崩壊してしまったステージの修復まで時間が掛かる、それまでは休憩時間という事で出来た休み時間。剣崎はリカバリーガールの治癒で治った身体に念の為と出久の身体と一緒に回復させながら控え室で雑談をしているとオールマイトが飛び込んできた。内容は勿論二人の戦いの賞賛だった。

 

「緑谷少年は以前よりも格段に「ワン・フォー・オール」を物にしてきているな。全身発動であそこまで動けるのは実にいい事だ」

「でも、まだまだ動きにもぎこちない感じがしてまだまだ練習が必要です。あれだって、実は途中何度も解けちゃってその度に掛けなおしてましたから」

「それで食い下がれたんだから十分だろ……。寧ろ、それって俺が押し切れてなかった事になるんだぞ」

 

ややげんなりしながら剣崎が言った、全身に「ワン・フォー・オール」を掛けた状態、出久曰く"ワン・フォー・オール・フルカウル"は剣崎との特訓中に思いついた物であるが、今まで以上に難易度が高くて成功しなかった。しかし、それを剣崎との戦いで成功させ何度も行使する事にも可能だった、それは何故か。

 

「なんて言うか……必死だったんですけど、自然に出来ちゃったんだ。「ワン・フォー・オール」が自分の身体みたいに……感覚的に……」

「無意識下による制御……本気での試合中で精神が一気に研ぎ澄まされたからか?」

「かもしれんな、なんにせよこれは大きな一歩だ。それを自分の身体と同じように動かせるという事は、私から与えられた個性だったものが自分の個性として使えるようになってきている事と同義だ」

「はいっ……!!」

 

そんなオールマイトの言葉に答えがあったと出久は確信した、今まで自分は与えられた物だと強く思い認識して来た。剣崎を含めた他の皆は個性を当たり前のように自分の身体のように使う、個性も身体機能の一つなのでそれは当然。当たり前のように脚を進めるように、指を動かすように。だが出久は剣などを使う感覚に近かった。超必殺技のように考えすぎていた、だから普通に扱うように考えるようになった結果、制御が一気に出来るようになった。

 

「それにしても剣崎少年、初戦は無事に突破出来ているが次は大丈夫か?」

「確かもう直ぐでしたよね、2回戦は」

「ああ。確か轟と瀬呂の筈―――」

 

と言った時、会場全体を揺るがすような凄まじい衝撃が巻き起こった。

 

 

修復終わったステージでは轟と瀬呂の試合が始まっていた。轟の強さを良く知っている瀬呂は場外狙いの速攻を敢行。個性「テープ」で両腕からテープを発射して轟を拘束、そのまま勢いを付けて投げ飛ばそうとしながら一気に伸縮させて蹴りを加えようとするが……轟の個性が発動して会場の半分を覆うほどの巨大な氷塊が瀬呂を凍結させんとする勢いで多い尽くした。

 

「あっ……がっ……やり、すぎだろ……いってぇっ……!!!」

「……悪い、やりすぎた」

「く、くっそぉ……だ、駄目だ身体が、うごかねぇ……!!」

『せ、瀬呂君戦闘不能!は、早く溶かして……』

「すいません先生」

 

瀬呂も何とかしようともがくのだが……ほぼ全身を氷が覆い尽くしてしまっている状況ではテープを出す事も出来ずに動きを封じられて詰み。それでも必死に身体を動かそうとするがミッドナイトによって敗北の判定が下された。

 

「悪いな、イラついてたんだ」

「し、死ぬかと思った……でもまあいいさ。轟、なら代わりに絶対に勝ち進めよ」

「……当たり前だ」

 

最後に握手をして去って行く瀬呂、そんな彼へとドンマイの声と賞賛の声が送られた。あそこまで一方的にやられたとしても自分を倒した相手に払った敬意は素晴らしいと評価された。そんな言葉を受けた轟はただただ当然と返してステージから降りていく。そして、剣崎は顔を鋭くしながら気持ちを落ち着ける。

 

「次は―――轟……!!」



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第二試合まで、好きになれないヒーロー

「うぉぉおおおらぁぁぁっっ!!!!」

「おおおおっっ!!!?」

 

トーナメント三回戦、上鳴対鉄の試合が行われている。修復されているステージの上では文字通りの鉄の巨人が猛攻を繰り広げていた。「帯電」という個性を持つ上鳴と「鉄巨人」の鉄、が、一撃一撃が文字通り必殺級の威力と巨人ゆえのリーチ。それらを最大限に利用している鉄、上鳴も何とかそれらを回避しながら攻撃後の隙に電撃を浴びせかけるが全くひるむ事もなく動き続ける鉄に一種の恐怖を覚えていた。

 

「これでぇ、終わりだぁっ!!!」

 

跳躍した鉄、あらん限りの力でステージを殴りつけるとその衝撃波で上鳴の動きを封じるとそのまま上鳴を場外へと投げ飛ばす事で勝利を掴んだ。

 

その後も次々と試合は進んでいく。飯田は出久と同じ騎馬のメンバーだったサポート科の発目とぶつかったが……彼女の誠意という名前の嘘により彼女自身が開発したサポートアイテムの有用性を証明するだけの試合をさせられ、勝利はしたものの全く納得行かずに思わず発目に、君嫌いだぁぁっ!!と言ったのであった。まあ分からなくもないが。

 

京水も同じクラスメイトの芦戸とぶつかったが個性でそれらを全て回避しつつ腕を伸ばして彼女を拘束すると、そのまま優しく場外へと出す事で勝利する。芦戸からはさわやかな笑顔で負けた、次も頑張れとエールを送られそれを素直に受け取った。

 

次の試合は常闇と八百万。クラス一の優等生と出久と同じチームメンバーで高い対応防御能力を見せた常闇、どちらが勝つか分からなかったが常闇は自らの個性「黒影(ダークシャドウ)」を即座に発動。影のようなモンスターを操る個性、それによる速攻は八百万に反撃の隙を作らせなかった。正確に言えば優秀すぎるが故に思考が纏まりきらずに手段を絞れなかった事が八百万の敗因となってしまった。

 

続くは切島対鉄哲、二人の個性は酷く似通っており、一方は"硬化"、一方は身体を鋼のようにする"スティール"。本当に個性が丸被りなレベルで似通っている。そして戦いは真正面からのインファイトによるぶつかり合い、対人戦においては強力な個性同士のぶつかり合いは激しい物だったが、結果としては引き分け。最終的に腕相撲にて結果を決めた結果、切島が何とか勝利をもぎ取った。その後は何やら二人の間に友情が生まれており、青春的な青臭さにミッドナイトは嬉しそうにしていた。

 

そして―――A組全員が不安にしていたのが爆豪対麗日という対戦カードだった。あの凶暴な爆豪と麗日、非常に不安になってくる。しかしそんな不安を吹き飛ばすような気迫と勢いで麗日は爆豪に向かって行く。"爆破"という強すぎるとも言える個性が相手だろうが向かい続けて行く麗日、それを真正面から迎えて行く爆豪。上着を使った囮や"爆破"を逆に利用した煙幕などで肉薄するが……

 

「マジかよ……見てから反応してる」

「かっちゃん、やっぱりなんて戦闘センス……」

 

麗日の猛攻は決して弱くない、相手の死角などを上手く突いてる部分もあるのにそれらを凌駕する彼の戦闘センスが凄いの一言に尽きてしまう。それでも向かい続ける麗日、それをあしらう爆豪。最早勝負は見えているかのように見えた……しかし、そこで麗日の最後の切り札が発動する。

 

「有難う、油断してくれなくて……!!」

「あ?」

「勝ぁぁああつッッ!!!」

 

勝利を目指す物の叫びと共に天から無数の瓦礫が降り注いでくる、それらは爆豪が爆破した事で出来た瓦礫や破片。それらを個性"無重力"で浮かせ続けながら自らは低姿勢での突撃を繰り返して悟らせない様にし続けた。そして蓄え続けたそれらを武器にして、自らも倒れかねない規模の落下攻撃、流星群を降らせた。無数に降り注いでくる瓦礫、それらだけで倒せるとは思っていない。あくまでそれも囮、触れる事で発動する"無重力"、それらで爆豪を浮かせられれば勝機は見えてくる―――筈だった。

 

「デクの野郎とツるんでたから、何かしてくるとは思ってたが…危ねぇ事しやがる」

 

―――最早何も言えなくなる、言葉が出て来なかった事だろう。爆豪は降り注いでくる流星群を大規模な爆破を起こす事で全てを迎撃して正面突破してしまった。しかし、それによって彼の表情は不敵な笑みを浮かべていた、麗日も諦めない。最後まで戦おうとするが―――個性発動による反動、限界を迎えてしまい倒れこんでしまいミッドナイトが戦闘不能の判定を下して、勝敗が決する。

 

 

試合の結果を見て、麗日の元へと向かって行く出久を見送った剣崎は自販機でジュースを買って飲みながら次の試合の事を考えていた。自分の相手はあの轟、ハッキリ言って強すぎる敵とも言える。絶大な力を発揮する凍結とそれらを溶かしきる事が出来る炎、どちらも厄介な事この上ない。ラウズカードを完全開放でいけばまあ色々とやりようもあるのだが……それらをした場合確実に「仮面ライダー」だとバレるので出来ない。そもそも個性が違うという事でめんどうなことになる。

 

「あらっ剣崎ちゃん、こんな所で休憩中?」

「梅雨ちゃん、まあそんな所かな」

 

壁により掛かっていると観客席から降りてきた梅雨ちゃんがやってきた、彼女も飲み物を買いに来たのか自販機に手を伸ばす。

 

「次、轟ちゃんとだけど大丈夫?ハッキリ言って彼は凄い強い。身体能力強化の剣崎ちゃんは相当きついと思う」

「それは思ってたよ、どう攻略するか考えてた所」

「速攻、じゃないかしら。凍らされる前に倒すか場外にするぐらいしか思い付かないわね……ごめんなさい」

「おいおい何で梅雨ちゃんが謝るんだい?でもまあそれもありだろうと思ってるよ、少なくとも瀬呂以上にやらないときついけど」

 

梅雨ちゃんの案も一つとして考えている、寧ろそれが最善の手にも思える。真正面からの勝負では殴った瞬間に身体が凍るとかもありえるから相手が反応できない速度で攻撃というのも手。

 

「ねぇ梅雨ちゃん、俺が負けたら慰めてくれるかい?」

「なんだからしくないわね、剣崎ちゃん。貴方がそんな事言うなんてちょっと意外ね」

「はははっそうかい?でもまあ全力でやるだけ~さっ!そうすれば後悔なんて残らないさ」

「やっと笑ったわね剣崎ちゃん」

 

浮かべられた笑顔、それを見た梅雨ちゃんは安心したように笑う。先程までの剣崎は酷く堅苦しく緊張している感じだった、何時も彼らしくないような感じがしてならなかった。やっぱり笑っている方が彼らしくて好きだ。そう思うと少し頬が赤くなるが彼女は手を差し伸べた。

 

「お、応援するから頑張ってねっ……!!」

「……おうっ勝って来るよッ!!!」

 

梅雨ちゃんからの激励を受け取った剣崎はジュースの缶を握りつぶすとそのままゴミ箱へと捨てて、控え室へと向かう為に彼女と別れる。自分らしく居ればいい、そんな答えを貰えた様な気がする。そんな途中―――

 

「おっ」

「あっ」

 

曲がり角に差し掛かった時、身体の至る所から炎が出ている大柄の男と出くわした。全身から溢れ出るかのような威圧感と熱による独特のオーラ、オールマイトとはまた別に意味での圧倒的な強さを纏ったヒーロー、NO.2ヒーロー「エンデヴァー」これから自分が戦う轟の父親がそこにいた。

 

「おォいたいた、君の活躍を見させて貰った。素晴らしい個性だ」

「態々どうも」

 

此方を褒めるような言い方をするエンデヴァーだが、明らかに違う。自分ではなく個性を褒めているような節を感じる、それか個性を使いこなしている自分の力を褒めているような印象を強く受ける。そんな言い方のためか剣崎はいい表情をしない、それ以上に剣崎はエンデヴァーに対して良い感情を抱いていない。正直に言えば嫌いなヒーローの筆頭とも言える。

 

「シンプルな個性だが、それゆえの強力さを秘めている。何れはオールマイトにさえ匹敵するだろうな」

「……何が言いたいんですかね」

「簡単なことだ、家の焦凍との戦いはがっかりさせるような物にしないでくれ。奴にはオールマイトを越える義務がある。言いたい事はそれだけだ」

 

そう言って去ろうとするエンデヴァーに剣崎は強い嫌悪感と違和感を感じた、何かを諦めている男と諦めているそれに執着している何かを押し付けている。それに酷い苛立ちを覚えてしまう。そのまま去ろうとしているエンデヴァーへと声を発する。

 

「義務、か。押し付けの間違いだろ」

「―――何っ?」

 

振り向いたエンデヴァーの表情は一部が燃えているのもあって威圧的で恐怖をあおる、だが剣崎は怯む事なく続ける。

 

「アンタと轟の間に何があるのか知らない、だけどあいつはあいつだろ。アンタの都合を押し付けんな、何から逃げてるのかは知らないけど―――自分で乗り越える物は努力して自分の力で乗り越える、それが男だろ」

「―――ッ……!!」

 

そう言って剣崎は足早に去っていく。自分は何を押し付けようとしているのかなんて知らないが、兎に角言いたい事を形にしてやった、それだけ。兎に角今のやり取りだけでエンデヴァーに何かがあった事とやっぱり好きになれない事を強く感じた。そんなエンデヴァーは身体から出る炎を強くさせながら去っていく剣崎をヴィラン顔負けの表情で睨みつけた。

 

「黙れっ……何も知らん青二才の小僧が……!!!」




エンデヴァー、個人的には少し好きな方。
でもこの辺りは正直、あんまりって感じ……。


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剣崎 VS 轟

「いよいよね……」

「ああ……凄い緊張してしまっている……見る側だというのに……」

「無理もないわよ飯田ちゃん、ワタシだって凄いドキドキのバクバクだもん」

 

観客席から思わずそんな言葉がクラスメイト達から零れて行く、無理もない。これから行われるのは一番の盛り上がりを見せるであろう物、鋭い視線を投げあいながらも立ち会っている二人の男。これから二人が戦う、強者の激突に何が起こるのか予測は不能。

 

「ま、間に合った!?」

「緑谷君来たかっ!!大丈夫まだ始まっていない!!」

「よ、良かった!!麗日さんギリギリセーフっぽい!!」

「間に合ったってよかったっ……!!」

 

そんな観客席に麗日を連れた出久が駆け込んできた、全力で走ってきたのか二人とも肩で息をしている。そんな荒い息のまま梅雨ちゃんと京水の間の席に座り込んでステージへと視線を向ける、そこには轟と剣崎が向かいあっている。轟は静かに待っているが、剣崎は片足ずつでジャンプして脚を伸ばしている。

 

「ねぇ緑谷ちゃん、貴方はどっちが勝つと思うかしら?」

「……轟君の個性はとんでもない位に強い、純粋なパワー勝負に搦め手とか色んな手段が出来るけど剣崎君は個性の関係上、正面からのぶつかり合いを仕掛けるしかない……。でもそれでも凄いパワーを発揮出来るから何も言えないかな……」

 

出久の言葉に誰もが納得するような様子を示す、それらは絶大なパワーを発揮して戦いを繰り広げた当事者である出久だからこそ説得力がある言葉。しかしこの場だけで出久だけが知っている、剣崎の本当の力を。それらを使えばきっと轟とは互角以上、いや圧倒する事も可能だがそれらは出来ないから剣崎は如何するのか分からない。

 

「でも僕は剣崎君を応援するよ、僕の分まで頑張ってってエール送ってるしね」

 

そんな言葉を受けて一同は一瞬笑ってから応援のエールを二人に向かって送り始めた。勝敗なんて問題じゃない、兎に角満足出来る戦いをして欲しいという想いを込めて。それらを受けた剣崎は笑顔を作りながらクラスメイト達に手を振って応えながらサムズアップを加えて感謝を伝える。

 

「イヤァアンやっぱり初ちゃんの笑顔ってば良いわぁあん!!」

「ホント泉アンタブレないよね……まあ分からなくもないけどさ」

「あの笑顔気持ちいいもんね~♪」

「試合前なのにそこまでリラックス出来ているなんて……見習わないといけませんわね」

「ホントだね……」

 

興奮する京水に同意するような言葉を続ける耳郎と芦戸、それに緊張している様子が見えない剣崎に尊敬の意を向ける八百万と麗日。そんな中一人だけ剣崎の笑顔を受けて頬を赤くしている少女がいた。彼女はサムズアップが自分に向けられていると気付いてしまう、それにサムズアップで返すが恥ずかしくなってきてしまった。

 

「蛙吹さんなんか顔赤いけど大丈夫?」

「むっ体調不良か!?それはいけないな直にリカバリーガールの所に……!!」

「ケ、ケロロ大丈夫だから!!大丈夫から気にしないでっ!?」

 

 

「アッハハハ賑やかだなぁ我がクラスメイト達は。お陰で元気貰っちゃったよ」

「暢気なやつだな……この状況で良く笑ってられるな」

「笑ってるのが俺らしいからな、それに笑ってる奴が一番強いのさ」

 

対峙し続ける二人は試合開始の合図をただただ待ち続けている、その間にも準備をするかのように軽い運動をしつつリラックスし続けている剣崎を轟は何やら呆れるような視線を送っている。

 

「さてと、あの炎男に色々言われたけど俺は俺なりに戦うか」

「炎……まさかエンデヴァーか?」

「ああ。なんか色々言ってきたよ、お前にはオールマイトを越える義務があるとかふざけた事言ってた」

「……」

 

思わず零した言葉に轟は反応し話の内容を聞いて改めて顔を顰め、会場の何処かで自分を見ている父に酷く腹が立った。そんな険しい顔をする轟に剣崎は続けた。

 

「だから俺は言ってやったよ、何から逃げてるのかは知らないけど―――自分で乗り越える物は努力して自分の力で乗り越える、それが男だろってさ」

「―――お前、それマジで言ったのか……?一応、あれNO.2ヒーローだぞ」

「だから何だってって話、NO.2だろうがNO.1だろうが関係ねえよ」

 

此処までハッキリ言う剣崎に思わずポカンと轟もしてしまったが直後に少しだけ笑った。

 

「ああっそうか、逃げてるか……傑作だな。感謝しとく剣崎、あいつのしかめっ面が目に浮かぶぜ」

「実際にキレたよ。まあもっと怖い人知ってるから全然大丈夫だったさ、まあいいさ。これから俺達の事にエンデヴァーなんて関係ない、唯戦うだけさ」

「だな」

 

少し気分がスッキリしたのか轟は柔らかくなった表情を作りながら構えを取り、剣崎も合わせるように構えを取った。それに合わせるようにミッドナイトが試合開始の合図を始める。

 

「それではこれより、剣崎 VS 轟の試合を始めます!!では―――始めッ!!!!」

 

遂に、開始の旗が振り下ろされる。それと同時にステージが凍結して行く、そこら一体が瞬時に氷河期に閉ざされてしまったかのような錯覚に陥るような勢いで氷に閉ざされる。速攻を警戒していた轟は瞬時に能力を発動させて瀬呂の時のように、いやそれ以上に入念に一気に凍らせて行く。

 

「剣崎くんっっ!!!!」

 

出久の声が響く。だがそれが届く前に、ジャンプする前に剣崎の身体を氷が伝って行くと同時に彼を巨大な氷の牢獄が剣崎を完全に閉じ込めてしまった。

 

『あぁぁっと剣崎、氷の牢獄に閉じ込められたぁぁ!!!?しかも、俺の目が確かならあいつ自身も全身を凍らされてたぞぉ!!?』

『剣崎に接近される事を警戒しての一撃だな、規模としては瀬呂の時には及ばない。だが、それ以上に相手に効果的に作用するようにした……』

 

プレゼント・マイクと相澤の実況と解説が剣崎の敗北を匂わせて行く、身体を凍らされたのに周りを分厚い氷の壁で覆われている。身体能力の強化をする剣崎では流石に対応しきれないだろう、これは相性が悪すぎるとプロヒーローも終わりか、と思っていた……時だった。

 

「っ―――ケロ、ねえ何か聞こえないかしら」

「えっ?」

 

梅雨ちゃんが気付いた何かが炸裂するような小さな音、それらは次第に大きくなって行き会場に響くようになっていた。それは会場の中央、ステージから聞こえているようにも思える。どんどん大きくなって行く音、それと同時に氷の牢獄に亀裂が入り始めた。

 

『こ、氷に亀裂が入ったぁぁっ!!おいおい、マジか、マジなのかぁぁぁ!!?』

 

更に広く深く大きくなって行く亀裂、次第に音も凄まじい物へとなりはじめて行く。そして―――

 

「ウェェェエエエエエエイ!!!!」

 

氷の牢獄を粉々に砕くかのように脱獄した剣崎が飛び出した、それに会場から凄まじい声が溢れて行く。あの巨大な氷の牢獄、加えて身体を凍結させられていたと言うのに突破したという所業の凄まじさが興奮を呼んだ。

 

「お前、よく脱出出来たな」

「ああまあな、シバリングって奴だよ」

「シバリング……って身体を震わせるあれの事か」

「そう言う事」

 

『シ、シバリン……ってなんだ?お前分かる?』

『シバリングだ。身震いによって体温調整を行う生体機能の一つだ、安静時に比べて最大で6倍の熱を起こせると言われているが……それでも氷を一気に溶かす程じゃない。生体機能すら強化する事が出来るのか剣崎は、相当個性を鍛えてるな』

 

短い言葉で説明した剣崎の言葉に轟は驚きと呆れを感じてしまった……シバリングで体温を上げて氷を溶かしたというのだろうか、そうだとしたらこいつの個性も十分可笑しい部類だと轟は思った。

 

「(剣崎君の個性、確か仮面ライダーとは別にお母さんから引き継いだって言ってた……。それが身体能力の強化……あんな事まで出来るんだ……でも、それじゃあ仮面ライダーの個性ってどうやって……?お父さんとお母さんのが混ざったとかなのかな……?)」

 

「にしてもすげぇ個性だな……応用が利いて羨ましい」

「お前のも十分にあれだろ」

「そうかなぁ?」

「そうだろ」

 

これが本気なのかそれともとぼけているのか、剣崎もそうだがそこは大した問題じゃないだろとツッコミを入れたくなるような事を言う轟。なんだかんだでこの二人は似た物同士なのかもしれない。そんな話をしていたが、それを中断して剣崎は地面を蹴って一気に接近して行く。それらを防ぐように地面を凍結させていく。それらを寸前に回避しながら凍った地面を砕くようにして無理矢理走って行く剣崎、同時に腕を後ろへと引くのを見た轟は氷壁を作り出して防御を固めるが―――分厚い壁を容易に殴り砕いた剣崎はそのまま轟の左腕を掴むと想いっきり地面へと叩き付ける。

 

「グッ!!このっ!!!」

「おっとっ!!!」

 

叩き付けられたと同時に鋭い氷柱が飛び出して剣崎へと向かうが、素早く反応して地面を蹴って回避する。それでも空中まで追いかけてくる氷柱、自分を貫くまで追いかけてくる猟犬のような、しかしそれへと蹴りを入れて砕き折るとそれを全力で轟へと投擲した。

 

「―――ッ!!!」

 

咄嗟に、左腕(・・)を前に出した。向かってくる氷柱、それは手に刺さるように触れた瞬間に蒸発して行く。周囲の氷さえ容易に溶かす轟の炎に剣崎は笑いながら口笛を吹いた。

 

「やっぱり凄いなお前の個性、暖かくていいな」

「……暖かいって何言ってんだお前」

「お前の炎ってエンデヴァーのそれとは違うって事さ」

 

その言葉を聞いた時、轟は嘗てないほどの衝撃を受けた気がした。自分の炎はエンデヴァーから受け継いだ個性、それが嫌で堪らなかった。母に酷い事をし、自分をオールマイトを超える最高傑作と物扱いする父が憎たらしかった。それは自分の炎も同様だった、だから母から受け継いだ氷だけでNo.1ヒーローになり、父を完全に否定すると決めていたのに、剣崎はあっさりとエンデヴァーの炎とは全く違う自分の炎と言った。暖かくて良い炎と言った。

 

「―――暖っけぇ炎なんてある訳ないだろ」

「あるよ、今そこに。だって―――お前はそこにいる」

 

その言葉は、母のそれに似ていた。そして自分の憧れたヒーローの言葉を思い出す。そんな言葉が心に染み込んでいくかのように広まって行く。なりたい自分になる、なっていいんだ。何時の間にか忘れていたそんな言葉と気持ちが蘇ってくる。それと同時に身体から凄まじい炎が―――地面を凍て付かせる氷が―――巻き起こって行く。

 

「剣崎、お前やっぱ変な奴だ。敵の個性が暖かいとか意味わかんねぇ、でもありがと」

「んっ?」

「悪い、今から―――本気で行くッ……!!」

「やっぱり凄いな……なら、俺も面白い物見せてやるよッ……!!」

 

軽く笑った剣崎は右足を強く地面に突き刺すようにするとそのまま一気に、超回転を始めた。地面に突き刺した脚を軸にしながらの高速回転は周囲の空気を巻き込んで激しい音を立てている。

 

『け、剣崎いきなり回り始めたぞ!?何かする気かぁ!?回って何とかなるのはお前じゃなくて光の巨人だぞ!?』

『何言ってんだお前』

 

そんな声が聞こえても続ける、そして―――回転が終わった時……。

 

FIRE(ファイア)

 

その右脚が激しい発光と共に炎を巻き上げながら燃え上がっていた。

 

『な、なんだァァァッッ!!!!??剣崎の右脚が、すげぇ激しく燃えてやがるぅぅぅう!!!?どうなってんだぁぁぁぁっ!?』

『あいつ、まさか摩擦熱で自分の脚に火を……無茶な事を……』 

 

「摩擦熱で身体に火を点ける……正直痛いけど、それは自分で治癒力(リカバー)してカバーする。ブレイズキック、って所かな」

「……お前やっぱり凄いな」

 

メラメラと音を立てながら燃え上がっている右脚、それでも剣崎は鋭い視線を作ったまま轟を睨みつける。轟もそれに対抗するように鋭い視線を投げかけている。

 

「「行くぞぉぉっ!!!」」

 

そして互いは同時に走り出すと渾身の一撃をぶつけあった。炎と炎がぶつかり合うと同時に右側の氷が剣崎の身体に襲い掛かるが同時にシバリングが発動して一気に体温を上げて殴りつけてそれを粉砕する。

 

「ウェェェエエエエエイッッッ!!!!」

「うおおおおおぉぉぉっっ!!!!」

 

激しい一撃が互いの身体へと炸裂する、相手の身体を凍結させんとする轟の一撃。燃えている身体を更に焼こうとする剣崎の重い蹴りが決まる。

 

「グッ……がぁっ……!!!」

「お陰で身体が冷えて良い気分だっあんがと、よッ!!!」

 

シバリングと脚の発火によって体温が上がりすぎていた剣崎、それらを『RECOVER(リカバー)』で強引に回復させていた。が、結果として体温は下がらずにいた為にそのままだと自滅も時間の問題だった。轟もそれは分かっていた、だが使い慣れていた氷の右側でつい殴ってしまった。それによって剣崎の身体は冷却されて、回復が一気に行われた。回復しきった剣崎は未だに燃え盛る脚に力を込めて轟を吹き飛ばす。一気に場外にまで飛ばされそうになるのを防ごうと氷で壁を作って留まるが―――

 

DROP(ドロップ)

「オオオオオッッ!!!!」

 

此方へと走ってきている剣崎を見た、反応するよりも早く跳躍した剣崎は宙返りをした。氷を発生させて更なる壁を作るが、それを破壊した。その勢いが衰えぬまま、向かってきた。

 

BURNING SMASH(バーニングスマッシュ)

「ウェェェエエエエエエイイッッッ!!!!」

 

燃え盛る右脚の一撃を自分の身体に叩き込んだ、酷く重いそれは氷の壁ごと轟を吹き飛ばしていく。負けじと氷の壁を作って身体を受け止めようとするが勢いに負けて氷で受け止め切れない。それでも全力で氷壁を展開し漸く身体を止めた。まだまだ行けると思っていた時だった。

 

『轟君場外!!よってこの勝負、剣崎くんの勝ち!!!』

 

圧倒的な歓声が会場を包み込んだ。凄まじい攻防にプロアマ問わず誰もが熱くなった。そして戦った二人は―――ステージの中央で握手をした。

 

「負けた、だが次は勝つぞ」

「次も俺が勝つさ」




すげぇ量になったな……。普段の2.5倍ぐらいかな……。

剣崎 初

個性:身体能力強化
足を速くしたり殴る力を強くしたり、兎に角身体の力を伸ばす事が出来る!生体機能なんかも強化して、発揮する事も出来るぞ!!

母から受け継いだ個性


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焦凍の変化、剣崎の約束

「邪魔だ、とは言わんのか」

「……言って退くならな」

 

試合終了後、握手を交わした後それぞれが入り口へと戻り廊下を歩いていた。剣崎は右足を燃やしてしまった事があるので直ぐにリカバリーガールの所へと連行されて行ったが、轟はゆっくりと廊下を歩きながら何処か晴れやかな表情をしていたが直ぐにそれを曇らせた。目の前に憎くく嫌っているエンデヴァー(父親)が立っているからだ。

 

「2回戦で敗北するとは情けない、と言いたい所だが焦凍これでお前は俺の完全な上位互換となった!炎熱の操作は未だ危なっかしいがそれはこれからコントロールすればいいだけの事だっ!」

 

何処か歪みつつも我が事のように悦びの声を上げるエンデヴァー、それは息子の成長を悦ぶ物なのか、それとも自分の野望を叶える一歩が漸く形を成し始めた事に対する悦びなのか……。それを轟は冷えた眼差しで見つめ続けている。手を差し伸べながら野心溢れる表情でエンデヴァーは続ける。

 

「卒業後は俺の元へ来い、俺が覇道を歩ませお前を完璧なNO.1へとしてやろう!!」

「……どーでもいい」

「何っ……?」

 

ポツリと出た轟の言葉に思わず聞き返してしまった、怪訝そうな表情で疑問を浮かべるエンデヴァーを他所に左手を見つめる。

 

「お前の歩ませる道とか、俺がお前の最高傑作とか上位互換とかもう如何でもいい。ただ―――」

 

 

『―――あるよ、今そこに。だって―――お前はそこにいる』

 

 

「剣崎とのあれは、本気で楽しかった。もっと前にあいつに会いたかったって思う位に」

 

自分の個性、エンデヴァーと母の個性を受け継ぎそれら複合して自分に発現した。母の右側、エンデヴァーの左側という"半冷半燃"ずっとこれらは自分の物でありながらエンデヴァーの炎という個性を心の底から嫌っていた、だがあの時は、剣崎と本気で戦った時にはそれらを考えなかった。寧ろ率先して炎を身に纏っていた、これは自分の()だと実感し認識していた。

 

「あの時は、完全にお前の事なんて忘れてた」

「っ―――」

 

ぼんやりと、しかし確りと見据えている左腕。そこにあるのは自分の腕で自分の力、それが彼の中で決定されている瞬間。もう自分の中にはエンデヴァーの炎という認識は強くは無い、あくまでエンデヴァーから遺伝したが、自分の中で生まれたの炎という物に変わっている。

 

「俺はこの炎も使う、だけどそこにお前の思惑なんて関係ない。俺は俺の意志で自分で決めた道をいく、そう考える事にした」

 

そう言い切ると轟はエンデヴァーの隣を通り過ぎてそのまま歩き去って行く、それを見送るエンデヴァーの表情は何処か苦しげでありながら怒りを感じているかのような物だった。何故そのような表情をしているのかは彼にしか分からない。

 

「全く、自分で脚を燃やすなんて無茶をするねぇ……凄まじい痛みだったんだろうに」

「本気で痛かったです、でもまあ後悔はしてませんよ」

「後悔はしてないか……今回はそれで良いかもしれないけど時と場合は選ぶんだよ。でないと自分すら滅ぼす事になり得るよ」

 

右足を自ら燃やすという前代未聞の行動を行った剣崎、自ら回復しながらそれを行っていたとはいえそれは完全ではなく右足の一部は大きな火傷が残ったままになっている。それをリカバリーガールに治癒して貰いながらも自身の身すら顧みずに力を行使する剣崎に説教を送っていた。それを真剣に聞く剣崎。

 

「分かりました……すいませんでした」

「分かったならこれからは少しは身体を労わるんだね。確かにヒーローは自分の身すら犠牲にしなければ行けない時だってある、だけど本当に自分の身体を犠牲にし尽くして、その後自分なら救える命を助けられないヒーローだっているんだ。人を救うヒーローになりたいのなら、まず自分を助けて生き続ける事だよ」

「……以後、気を付けます」

「分かれば良いんだよ。さあ治癒は終わりだよ」

 

話が終わると足の火傷も完全に治っている、少々身体がダルくなっているがそれが治癒させる為に身体が超活性した証拠でもあり自分が負った傷の重さでもある。故に確りと受け止めて、その重さを実感しなければならない。そう思っていた時、出張保健所の扉が開いてそこから一人の少女が顔を覗かせた。

 

「剣崎ちゃん、大丈夫?」

「梅雨ちゃんっ!ああもう大丈夫、火傷も確り治癒してもらったし」

 

そう言いながら治癒して火傷が無くなった足を見せながら叩いて見せる、火傷も無い足に思わずホッと胸を撫で下ろす梅雨ちゃんだが軽く剣崎の頭を叩く。

 

「あたっ……!?何で俺叩かれたの……?」

「心配を掛けた罰よ、幾らなんでも無茶しすぎよ剣崎ちゃん」

「でもああしないと勝てないと思ったし……」

 

そう言うとムッとした顔になるとそのまま舌を伸ばして剣崎の頬を引っ叩いた。普通にビンタされるよりも痛い為か座っていた椅子からずり落ちて床に落ちる。

 

「いってぇっ!!?」

「確かに応援するって言ったわ、確かに言ったわ。でも剣崎ちゃん、あんな戦い方されたら―――心配しちゃうわよ……」

「つ、梅雨ちゃん……?」

 

屈みながら見つめてくる彼女の表情は普段のような物ではなく、悲しげで不安そうな物だった。確かに轟に勝つような無茶をしなければいけないだろう、それは間違い無い。しかしそれを見つめる側からしたら心から不安になってしまう。特に梅雨ちゃんは試合直前に応援するから頑張って、とエールを送っている。だからこそ自分の身が危険になったとしても向かい続けているのではないかと少なからず不安に思っていた。そして最終的には自らの身すら危険に陥れるような事をした剣崎、自分がそうさせているのではと怖くなった。

 

「ごめん……」

「本当に分かってるの?」

「うん、梅雨ちゃんにそこまで心配掛けちゃった俺が悪いし……約束する、もう不安にはさせない」

「約束よ」

「うん約束」

 

そっと彼女に手を伸ばして彼女の頭を撫でる、そして軽く笑いながら約束をする。もう絶対に不安にはさせないと誓いを立てる、すると梅雨ちゃんは普段通りの明るく可愛い表情に戻ってくれた。

 

「ああっやっぱりいつもの梅雨ちゃんが一番だよ、だって凄い可愛いもんね」

「か、顔を見ながら言わないでよ……て、照れちゃう」

「だって本当に可愛いんだからしょうがないじゃん」

「ケ、ケロロォ……分かったから、そんなに可愛いって連呼しないで……」

「(いい青春だねぇ……それにしても天然の人誑しだねこりゃ……)」




宜しければ感想お願いします。


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ベスト4決定、準決勝開幕

剣崎が梅雨ちゃんとイチャイチャしている間に他の試合もバッチリと行われていた。鉄と飯田の試合、"鉄巨人"という異形型の個性を持ち体重も400キロ近い鉄が有利かと思われていたが……飯田は持ち前のスピードを活かし鉄の近接攻撃を回避しながら圧倒、関節などに狙いを絞って動きを鈍らせていきとどめの一撃で相手を吹き飛ばす作戦に打って出た。その目論見は見事に成功、関節などに攻撃を受けて身体をぐら付かせた鉄に出来た大きな隙、そこを胸と首の間を狙って全力の蹴りを命中させた。

 

「何っ……!?」

「グッ……強いなぁ、俺に無いスピード……でも俺だってお前には無い防御力とパワーがある……!!」

 

見事に命中した攻撃を防ぐ事に成功した鉄はそのまま飯田の足を鷲掴みにするとそのまま振り回して場外へと投げ飛ばして何とか勝利をもぎ取る事に成功した。

 

『飯田も狙いは悪くなかったが時間を掛けすぎたな、鉄も飯田のスピードに慣れて対応する事が出来たんだろう。速度を威力に乗せつつ関節を狙うのは悪くないが、狙うべきは顎や頭部だったな』

 

と相澤が解説する中で飯田は悔しそうにしつつも眼鏡を直しながら、鉄へと手を差し伸べて勝利を祝い次も自分の分まで頑張って欲しいとエールを送る。鉄もそれを受け取り次なる勝負も全力で望む事を誓う。

 

「鉄君、次も頑張ってくれたまえ!!いやしかし、次は剣崎君とか……。どちらを応援するべきなんだ!?」

「両方、応援したらいいと思うよ。兎に角頑張るから」

 

次なる試合は京水 VS 常闇という注目のカード。変幻自在の身体を持つ京水と中距離対応能力がずば抜けている常闇、この二人の対決はどうなるのかと注目が集まっていた。が、結果としては京水は常闇に圧倒されるように彼の個性"黒影(ダークシャドウ)"の猛攻を受けていく。

 

「いやぁん想像以上に、キッツいわねこれっ……!!」

「そのままだ黒影、攻撃の手を緩めるな!!」

『アイヨッ!!』

「ぐっ激しいわねっ……!!」

 

常闇からの攻撃を防御に徹する京水、京水の個性である"幻想"は相手に干渉する幻を生み出したり身体を幻想の力で歪める事で様々な超常的能力を発揮する事が出来る。が、それにも弱点が存在し同じような幻想的な存在に酷く弱いという物。言うなれば"黒影"のようなモンスター、自分の個性が近い相手だと、京水の"幻想"は効果を発揮できなくなるという己自身が弱点のような物を抱えている。その理由は京水自身も把握しきれていないが、超常的な個性は自分の幻想の守りを貫通して自分の本体へと攻撃が可能だからと推理した。

 

「決めろっ黒影!!」

『アイヨッ!!オオォォオオラァァアッ!!!!』

「グッ……ガハァッ!!」

 

黒影の一撃が何重にも伸ばされた京水の腕を貫通しその身体に突き刺さった、両者と共に無敵に近い個性と言われていたが京水の弱点が判明した瞬間でもあった。それを受けた京水は吹き飛ばされながらも必死に耐えて場外へとならなかったが、膝を付いて苦しげに息をする。

 

「参った、わね……相性、最悪みたい……!!」

「如何する泉、俺はお前が立つのであれば変わらず立ち向かう。それはお前に対する礼儀であり、俺の敬意だからだ。強敵だからこそ油断はしない」

「そう言って貰えると、嬉しいわねぇ……嫌いじゃないわ、そういうの……いいわ幾らでも、付き合ってあげっ―――」

 

戦う意志をまだ見せようとした京水だが、その身体はゆっくりと前のめりに倒れこんでいく。咄嗟に黒影で京水を受け止める常闇だが既に意識は無く気を失ってしまっていた。ミッドナイトも京水の戦闘不能を宣言し、常闇の勝利が確定した。

 

「既に限界であった筈なのに尚も前進を続け、闘争を続けようとする姿。正に感服に値する、俺はお前を尊敬する。黒影、このままリカバリーガールの所へと運ぶぞ」

『アイヨ、俺モコイツハ好キダゼ』

 

紳士的な対応で戦った相手を医務室まで連れて行く常闇の行動は会場から拍手が巻き起こった、戦った相手に対する敬意を忘れずに賞賛を贈る姿に多くのプロヒーローが常闇に良い視線を送った。

 

 

次なる戦いは爆豪、そして切島。"硬化"という個性で爆豪の爆破に耐える防御能力を見せた切島、そのまま全身硬化を続けたうえで速攻をかけるが―――爆豪も黙ってはいなかった。怒涛とも言える爆破を連打した。それらを受け続けている間に"硬化"は綻び始め、そこを突かれ、絨毯爆撃を行われた事で切島は敢無く敗北を喫してしまった。これによってベスト4が出揃った事になった。

 

 

 

 

『さぁっさくさくっと準決勝も入っちまうぜぇえええ!!!』

 

ベスト4が出揃った遂にトーナメントも終盤、いよいよ準決勝が始まろうとしている。その最初の準決勝が始まろうとしている。

 

「それじゃあ梅雨ちゃん、行って来るね。勝ってくる」

「剣崎ちゃん、応援するけど無茶しちゃ駄目よ?」

「分かってるって、梅雨ちゃんの笑顔の為に勝ってくるよ♪」

「っ~~~!!」

 

顔を赤くしている梅雨ちゃんの頭を軽く撫でるとそのまま駆け出してステージへと駆け登って行く剣崎、その視線の先には自分の対戦相手が控えていた。それは自分が騎馬戦でチームを組んだ鉄、防御力は正に折り紙付きの彼が自分の対戦相手となる。

 

『準決勝第一試合、その対戦カードはぁぁぁっ!!!!轟との対決は最早激熱、此処まで凄まじい実力で己の身一つで勝ちあがってきた剣崎 初ぇぇぇぇっっ!!!対するは普通科でベスト4入りの快挙!!正に普通科の星の鉄巨人!!鉄ぇええぇぇっ……巨躯ぅぅぅぅう!!!!さて、さっさと始めてもらうぜ!!レディィィ、スタートォォオ!!!』

 

「行くぞ、鉄君!!」

「来い、剣崎さん!!」

 

目の前に立ちはだかる巨大な壁にすら見間違えそうなほどに巨大な鉄、4.65メートルを誇る男が目の前にいるのだから剣崎が感じている威圧感は相当な物。しかし、それでも負けじに真っ直ぐと向かって行く。爆発的な跳躍力で懐に飛び込んだ剣崎は腕を振るってその腹部へと拳を突き立てた。

 

「グッ……中々の威力をお持ちでっ……!!」

 

それを真正面から受け止めた鉄は多少響いてはいるように見えるが応えているようには全く見えない。巨体な上に身体の硬さは凄まじい、そんな動く鉄巨人に拳を突き立てた剣崎は思わず顔を青くしながらバックジャンプして距離を取った。

 

「っ~~~イ、イッテェェェッ!!?手が壊れるかと思ったぁぁっ!!?」

「自慢ではありませんが私の身体の硬度は鋼以上、正に鉄壁!!そしてっ!!」

 

痛みに悶絶している剣崎へと走っていく鉄は両手を組んでハンマーのように一気に振り下ろす、それを当たる寸前の所で回避するが地面には大きな穴と周囲には亀裂が走っていた。

 

「この硬さは攻撃力にもなるのです、さあどうやって私を倒すつもりですかねっ!!」

「ぐっ、そぉぉぉっ……」

 

身体能力強化を行う剣崎にとって戦いにくい相手なのは搦め手を使えるような相手ではなく、同じく身体能力を強化するか元々優れた身体を使って真正面から挑んでくる相手。それが常時硬化しているような相手は特に辛い。殴ろうが蹴ろうが自分にダメージが跳ね返ってくるのだから。殴った手の痛みが漸く引いてきたので改めて構えを取り直した剣崎、しかし剣崎にはある考えがあった。圧倒的な防御力も実証出来て改めてこの手しかないと確信する。

 

「よしっ……オオオオオオオッッッ!!」

 

雄たけびを上げると再び鉄へと突撃して行く。万策尽きての特攻にもみえるような行動に周囲からも驚きの声が漏れて行く、それを当然迎え撃とうとする鉄。突撃に合わせて自分も走り、剣崎へと掴みかかろうとする。そしてその圧倒的なリーチが剣崎を捕まえようとした時―――剣崎は更に一歩深く踏み込んで鉄の懐に入り込んで腕と脇辺りに手を当てると一気に鉄を持ち上げた。

 

「でぇぇえいいやああ!!!!」

「おおおおおおっっ!!!??」

 

体重約400キロという巨躯は剣崎の怪腕が唸りを上げると共に持ち上げられるとそのまま、地面へと叩き付けられた。凄まじい音を立てながら叩き付けられた鉄、巨体故に投げ飛ばされるというのは初めての経験であったが、剣崎は立ち上がろうとする鉄を軽く蹴り上げると強引に立たせる。そしてそのまま前屈みにさせるとジャンプし鉄の身体を一気に地面へと叩き付けた。

 

『何と剣崎、あの鉄を軽々と投げて飛ばして叩き付けているぞぉ!!騎馬戦でも見せた怪腕がここでも唸りを上げるぅ!!』

『鉄の身体の硬さなら打撃攻撃は余り硬化は無い、だが投げなら話は別だ。最低でも自分の体重分の衝撃が身体に入る、いうなれば防御貫通攻撃だ』

 

「ウェェエエエラァァア!!!!」

「ぐあああっっ!!!」

 

今度は自分も倒れ込みながら腕の力と合わせて、鉄に巴投げを仕掛ける。激しく唸りを上げるように音を立てるステージ、鉄の体重も相まってステージには再び凄まじい亀裂が入っていく。そんな中から立ち上がろうとする鉄は投げられるという経験が全くない為に既にフラフラになっていた、自分の体重の事もあってまさか投げられる人間なんていないだろうと思っていた為に投げ技に対する耐性がないのが酷く災いしている。

 

「おおおおっっ!!」

「うぐぉっ……おおおおっっ!!!」

「ウェェエエエエエエイイイイイッッ!!!」

 

此方へと飛び掛かってくる剣崎、フラフラながらも必死に立ち上がった鉄は全力で拳を振るった。それは剣崎の首を掠めるが当りはしなかった、そしてお返しと言わんばかりに腕をつかんだ剣崎は全力で鉄を持ち上げるとそのまま振り回してぐるぐると何回も回転して、ジャイアントスィングで鉄を場外へと投げ飛ばした。

 

『鉄君場外!!よって勝者、剣崎君!!』

「う、腕が……疲れた……」

「こっちは目が、回りそうだ……」




思い切って投げてみました。これも確りとした元ネタあります、まあライダーネタじゃないけど。


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決勝戦、剣崎 VS 爆豪

「よっお疲れさま常闇、リンゴジュースしかなかったんだけど良かったか?」

「有難く頂こう。リンゴは好物だ」

 

控え室へと続いて行く廊下の途中、常闇に出くわした剣崎が両手に持ったジュースの方を渡しながら壁により掛かりながら常闇の苦労を労った。

 

「"爆破"の爆豪と"黒影(ダークシャドウ)"の常闇、中々に白熱してたけど相澤先生の言ってた通り相性が悪かったのか?」

「ああ、あの修羅の力に俺の闇が尽きてしまった……。加えて力押しの猛攻に見えて奴は戦いながら黒影の弱点を探していた」

 

剣崎と鉄の後、準決勝の第二回戦。常闇 VS 爆豪、両者共に強力な個性を携えた好カードとも言える試合だった。爆破の猛攻を仕掛け、常闇に攻勢を仕掛ける暇も与えない爆豪。しかし、それだけではなく爆豪の"爆破"は常闇にとっては相性が最悪の相手だった事も関係してしまっている。

 

彼の個性"黒影"は闇が深ければ凶暴かつ強力になっていくが制御が困難になり、逆に昼間などの日光下では攻撃力が中の下となるほど弱体化するが制御が容易くなるという癖が強い。故に弱点は光、爆破の際の閃光で完全に黒影が弱まってしまって攻撃できなくなっていた。それを悟られないように必死になっていたが、爆豪もそれらに気付いたのか、上手く背後を取り激しい閃光を伴った爆発を起こして黒影をほぼ無力化した後に常闇を抑えこみ勝利を収めた。

 

「なんにしてもお疲れさんだ、それでもベスト4だしすげぇ事には変わり無いさ」

「……フッお前にそう言われると俺も嬉しく思う。俺はお前こそ真の強者だと思っている」

「俺が?なんで」

「お前は自らの身一つで戦い続けているからだ」

 

常闇や轟そして爆豪。彼らのように何かを巻き起こしたり操るのではなく、自らの身体を強化しつつそれでのみ戦い続ける、そんな風に戦う剣崎は常闇からは何処か眩しくも強者のように思える。

 

「オールマイト、あの人を連想させるような強さが剣崎、お前にはあると俺は思っている」

「嬉しい事言ってくれるなぁ、それじゃあそんな思いに応えて、優勝してくるか」

「ああっ。剣崎、お前の勝利と栄光を願っている。幸運を祈る」

 

ハイタッチをしながらそんな思いを受け取りながら剣崎は廊下を進んでいく、そして闇を抜けた先のステージを登って行く。周囲からは溢れんばかりの大歓声、それを受けながらステージへとあがるとそこには凶暴な顔付きで此方を見ている爆豪がいた。

 

『さぁいよいよ始まるぞぉ!!雄英1年の頂点がっ!!!此処で決まるっ決勝戦、剣崎 VS 爆豪!!!さあ方や圧倒的な身体能力で相手との正面勝負、そして時には技で相手をねじ伏せてきた剣崎!!方や戦う度に磨かれる戦闘センスと強力な個性を使いこなしてきた爆豪!!!この対決は見物だぁぁぁっ!!!俺個人的には剣崎に勝って欲しいぜぇぇえ!!!』

『実況なら私情挟むな』

 

超ハイテンションなプレゼント・マイクの実況と冷静な相澤の解説が聞こえて来る中、剣崎は足を伸ばしたりのストレッチをしながら此方を睨み付けてくる爆豪を見る。やっぱりヒーローを目指す人間がするような顔には見えない。どう足掻いてもヴィランだろうあれは。

 

「てめぇはさっさと俺の踏み台になれや、ウェイ野郎ぉぉぉっ……!!!」

「だからなんだよその呼び名……不満しかねぇぞ爆破ヴィラン」

「んだとぉぉおお!!!!誰がヴィランだごらぁぁあああ!!!」

「あっやべつい本音が。ごめん心でずっと思ってた事が出ちゃった、ごめんね♪」

「てんめぇぇえええええええっっっ!!!!!!」

 

怒髪天のように怒り狂っている爆豪に笑顔を向けながら謝罪する剣崎、奇妙な温度差に会場からは笑いが起こっている。笑顔で本音を口にする天然をさらけ出す剣崎、そしてそんな発言に激怒する爆豪。特に1-Aの間では特に笑いが大きい。

 

「アハハハハハハッッ!!!いいぞ剣崎~もっと言ってやれ~!!」

「俺も思ってたわだってあの爆発さん太郎どう見たってヴィラン面なんだもんな!!!」

「しかもそれを笑顔で言うとか剣崎も結構ひでぇな!!」

「まあ爆豪ちゃんは災難救助とかに行っても、『自分で歩けやクソが!』って言いそうだもんね」

「絶対言いそうなのがあれだが確かに爆豪君なら言うだろうな」

「かっちゃんが凄い笑われてる……やっぱり雄英って凄いや……」

「剣崎、やっぱりあいつ天然か」

「いや轟さんもですよ?」

 

『さてと、そろそろ始めようじゃねぇか!!さあ決勝戦―――いざ、開始ぃぃぃぃいいいいいっっっ!!!!』

「死ねやぁぁぁあああウェイ野郎がぁぁぁああああああああああ!!!!!」

 

やはり先程の事で激昂している爆豪は開始と同時に爆破でスタートダッシュを掛けて一気に接近する。それに合わせるかのように剣崎も一気に飛び出して行く、互いに一気に距離が縮まって行く中爆豪は両手を出して一気に大爆発を引き起こす。

 

『ああああいきなり大爆発ぅ!?最初から全力全開かよ!!?』

 

大爆発を確実にヒットさせたと確信があった爆豪だがその爆発から抜けてくる物があった、それはスライディングで地面を滑るようにしながら突破してくる剣崎の姿だった。多少纏っているジャージが焦げているがその程度の被害で大爆発をやり過ごしたと見える。

 

「くそがぁっ!!」

 

再度爆発を引き起こして地面ごと剣崎を吹き飛ばそうとする、だがそれよりも僅かに早く剣崎は地面を蹴った。後出しにすら反応する爆豪の優れた反射神経、に対抗する為にワザと遅く、少しだけ早く蹴った事で微妙に爆発を浴びながらも突破した剣崎はその爆豪の肘へと鋭い蹴りを入れた。それによって片腕が持って行かれそうになるほどに大きく吹き飛び身体も僅かに持って行かれそうになり体勢が崩れる、そこを剣崎は突いた。

 

「オォォオオオリャアアアア!!!」

 

彼の背後を取るとそのまま彼を一気に持ち上げてバックドロップを仕掛ける、鉄を容易く持ち上げる怪腕にとって爆豪など軽すぎる物。いとも容易く持ち上げられた爆豪はそのまま地面にめり込みそうな勢いで叩き付けられる。一瞬意識が飛びそうになるが、無類のスタミナを持つ爆豪は何とか持ち応えるがまだまだ剣崎の攻撃は続いて行く。

 

「でぇえええいやっ!!」

「ごあっ……!!て、てんめぇぇぇっ……!!」

「手は、使わせねぇぞっ!!」

 

二の腕を掴み無理矢理立たせた爆豪を今度はジャーマン・スープレックスが如く投げ飛ばすと、そのまま連続的に技を決めて爆豪の身体へと全体へとダメージを与えて行く。腕、肘、首、腰と各部にダメージを与えて行く。最後に腹部にスライディングでキックを決めて吹き飛ばした。

 

『決ぃまったぁぁぁっっ!!!流れるような組技の連続で爆豪を拘束しながら各部にダメージを与えたぞぉ!!!因みにお前あれ分かるか技、俺最初のバックドロップしか分からなかった!!』

『ジャーマン・スープレックスから寝技に移行、爆豪がまだ意識が定まらない間に腕を上手く決めながらの腕ひしぎ十字固め。そこから更に腕を使えなくする為の腕ひしぎ三角固め、そして大分意識を取り戻してきた所に更に追い討ちをかけるスピニングチョークにフロントチョーク。ありゃもう片腕は上がらないだろうな、あれだけでもう爆豪は攻撃能力が半減だ』

 

「くそがぁぁっっ……ぁぁっっ……!!!!」

 

立ち上がりながら憤怒を滲ませながら片腕を抑える爆豪、剣崎に対して油断などしていなかった。例え個性が自分よりも弱かろうがそれでも剣崎は強く、個性を十二分に生かしていた。警戒は万全だった、しかしそれでも相手は自分の遥か上を悠々と飛んで行く。ふざけるな、自分は勝つ。トップに立つ、その執念が再び爆豪を立ち上がらせる。右腕は痛みで全く動かない、元々肘に入っていた蹴りだけでもかなり辛い物があったが今はもう動かせないほどにダメージが入ってしまっている。

 

"爆破"の爆豪が間違いなく有利、そう予想していた大半のプロヒーローの予想を大きく裏切った剣崎。彼なりに取れる手段を取って爆豪の片腕を封じてしまった。見事な手捌きにまた大歓声があがる、だがまだ片腕残っている。それだけでも十分な火力は出せる。警戒しなければならない、再び剣崎が動いた。真正面からの攻めは既に半減しているからという油断からか、それに爆豪は苛立ちを感じながら持てる限りの最大の爆発で迎え撃つ。

 

「ウェェエエエエエイッッ!!!」

 

そんな爆発を突き抜けるかのように蹴り破った剣崎、彼は上着を脱ぎながら爆豪に組み付くとそのまま残っている片腕を掌を肩に密着させるようにしながら上着で硬く縛って動かないように固定してしまう。

 

「んだとぉっ……!!!!てめぇぇぇっっ!!!!」

「これで、両腕は封じたも同然だ」

 

「上手い!!あれならかっちゃんは脱出するのに爆破しなきゃいけないけど、今度はその爆発で肩に酷いダメージを受ける事になって残ってた腕も自分で使えなくなる!!片腕はダメージで動かせないから、完全にかっちゃんの個性を封じた!!」

「しかも上着が爆破で燃えにくいように結んでるから取りづらい、なんて戦法を……!!」

 

「さぁてと、これで終わりだ爆豪っ!!!」

 

一気に接近して行く剣崎、それを迎撃しようと動かない腕を使うために全身を動かしてなんとか掌を剣崎へと向けて爆破を行う。しかし一瞬でそれらは回避されてしまい、懐に潜り込まれる。そして―――

 

「ウェエエエエエエエエエエエエイッッッ!!!!」

 

叫びと共に重々しい一撃が爆豪の腹部へと炸裂する、衝撃が身体を突き抜けて行く。それを受けた爆豪はゆっくりと倒れこんでいく。それでもまだ立ち上がり戦おうとするがそんな爆豪を抱え上げると剣崎はそのまま場外へと出した。

 

『爆豪君場外!!!剣崎君の勝利!!!よってトーナメント優勝者は、剣崎 初君っ!!!』

 

ミッドナイトの宣言は会場をその日一番の大歓声で揺るがし、剣崎はその大歓声に応えるに笑顔を浮かべながら片腕を高らかに上げたスタンディングを見せ付けた。



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メダル授与、閉会式

『それではこれより、表彰式に移ります!!』

 

色取り取りの花火が空を煌びやかに染め上げながら爆ぜて行く、先程までステージで戦いの為に使われていた爆破とはまた違った側面の爆発は美しさを刹那を持って消えて行く。そんな二側面を持った花火がトーナメントの入賞者を祝福している。表彰台のうえには激しいトーナメントを勝ち抜いた故に手に入れた順位の高さに立っているそれぞれが立っている。ミッドナイトも嬉しげに彼らを見つめながらも高らかにマイクを上げながら声を張り上げる。

 

『さぁいよいよメダルの授与よ!!今年のメダル授与を行うのはこの人!!平和の象徴、我らがNO.1ヒーロー!!「私がぁ……メダルを持ってきたぁ!!」オォォオルマイ、ト……』

 

授与するメダルを抱えながら会場へと颯爽と参上するオールマイト、しかしミッドナイトの挨拶とのタイミングが合っておらずミッドナイトの宣言の途中で参上してしまい如何にもしまらない事になっている。それでも会場は大歓声に包まれている辺り、オールマイトの人気が窺えるがオールマイトとミッドナイトは微妙な表情を浮かべている。緑谷達は寧ろオールマイトらしいとさえ思えているのは彼の授業を受けているからだろうか。

 

「さて気を改めて……私がメダルの授与をする!!ではまず3位の常闇少年と鉄少年!!二人ともおめでとう、実に素晴らしい戦いぶりだったぞ!」

「もったいなきお言葉、感服いたします」

「有難うございますオールマイト」

 

3位入賞した二人はメダルを掛けられる。最初こそ不甲斐無い戦いだったので余り実感が沸かなかった常闇だったが、剣崎の言葉やメダルを掛けられた事で自分は堂々としていいんだという意識が芽生え始めて顔を上げて真正面を向いた。鉄は照れくさそうにしながらオールマイトを見つめる。そんな二人に微笑ましさを感じながら頷いたオールマイトは二人の肩を叩く。

 

「二人とも実によく頑張った!!常闇少年、君は個性を既に十分に生かせている。今度は地力を鍛えて見るといい、そうすると取れる選択が増して君はもっともっと強くなれる!」

「御意……この後も努力に励む事とします」

「うむ!では鉄少年、君は実に個性を理解していたが少々対処が甘かったな。まあ君の身体を投げ飛ばせるというのは想像し難いのは致し方ない」

「はい、ですが今回はいい経験となりました。この経験を糧にすれば私はもっと高みへと登れると自負しています」

「その意気だ鉄少年!!それと君は近々ヒーロー科編入の話が来るだろう、それも踏まえて良く考えておいてくれたまえ!」

「っ!!はい有難うございます!!」

 

最後は常闇と鉄が一緒に頭を下げた。そしてオールマイトは2位の爆豪の前へと向かうのだが……酷く苛立っているのか悔しがっているのか本当にヴィランのような顔になってしまっている。

 

「2位なんて、意味がねぇんだよ……例え他が認めても俺が認めなきゃゴミ同然なんだよぉオ……オールマイトォォオ……!!!」

「(顔すげぇ……)君の上昇思考は正に素晴らしいに尽きる、それさえあれば君は必ず更なる高みへと昇る事が出来る。今の社会、不動不変の絶対的な評価を保持し続ける事は難しい。ならば君はこれを踏み越えるんだ、そして今度は君が隣に立つんだ」

「っ……ったりめぇだっ!!!!」

「うむではそい」

「ってだからいらねぇっつってんだろぉがぁああ!!!おい外せねぇじゃねぇか如何すんだこれ!!!」

 

いらないと豪語する彼に素早くメダルを掛けたオールマイト、しかも何時の間にか動かなくなっている片腕を通して残った片腕だけでは中々取れないように掛けるという。これは爆豪からしたら屈辱的な事だろうが、オールマイトは騒いでいるのを完全にスルーして、1位に輝いた剣崎へと歩み寄った。オールマイトがメダルを掛けた時、溢れんばかりのフラッシュが二人を包み込んだ。

 

「有難うございますオールマイト……」

「如何したんだ剣崎少年、緊張しているのか?」

「いやその……凄い所に来ちゃったと思いまして……」

「ムッ……ああ成程ね」

 

剣崎は照れながらも少し困ったようにマスコミの方を見ているのを感じて納得の笑みを浮かべる。確かに慣れないうちからすると彼らは煩わしく思う事もあるだろうし、慣れないとキツい部分もあるだろうが剣崎が此処に立っているのは彼が自分の力で勝ち取った物、ならばここでするべきなのはこう言う事だと伝える。

 

「何気にする事など無いさ!!そして堂々と君は胸を張りたまえ、君は自分の力で此処に立っているのだからね!!そして、それを堂々と気持ちにしてしまおう、ほらさっきの私みたいに」

「さっき、ああ成程ね」

 

するとオールマイトは剣崎の隣に立ち直し、剣崎と一緒にマスコミの方へと向き直る。剣崎が咳払いをすると二人は一緒に腕を掲げた。

 

「「私/俺が……来たぁぁあ!!!」」

 

同時に再び巻き起こるフラッシュの嵐、これほどに絵になる物もそうは無いだろう。眩しいフラッシュの中でオールマイトは剣崎に問う。

 

「さてどうだい、剣崎少年」

「……やっぱり眩しいです。でもなんだか、いい気分です」

「ハッハハハハそれは何よりだ!!さて皆さん!!」

 

剣崎の肩を強く叩きながらオールマイトは大声を張り上げた。

 

「今回は此処にたつ彼等だった。しかしこの場の皆、誰にもここに立つ可能性はあった!!ご覧頂いた通り、競い、高め合った!!更に先へと昇っていき続けるその姿!!!次代のヒーロー達は確実にその芽を伸ばし成長している!!てな感じで最後に一言。皆さん、ご唱和下さい、せーの!!」

 

「プルスウルt」」」」」

『お疲れ様でした!!』

 

オールマイトの言葉と共に放たれようとした言葉、それが一斉に出ようとした時にそれら全てをぶち壊すように言った本人が全く違う事を言った事で一瞬静寂になった後に思わずブーイングが出てしまった。最後の最後で台無しである。思わず剣崎もツッコんでしまう。

 

「いやそこはプルスウルトラでしょうよ!!?」

「あっそうかいやでも、あの、疲れただろうなって思って……」

「し、しまらねぇ……」

 

そんな剣崎の言葉に多くの人達が同意しながら雄英の体育祭が終わりを告げたのであった。




ヒーロー名とか職場体験とか、如何しよう……。
ずっと考えてるのにまだ纏まらない……。


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ヒーローネーム

体育祭も終わり、休日の二日間も過ぎ去って再び訪れた登校日。剣崎は休みの日は出来るだけ身体を休ませるつもりだったが自らの感覚が捉えたヴィランが齎す被害を減らす為、人々を救うために仮面ライダーとしての行動を惜しまずに活動し続けた。そんな休日を終えて教室へと顔を出した剣崎は皆から挨拶を受けながらその話の中に混ざる。

 

「俺超話かけられたぜ!!いやぁやっぱり有名になっちまってた!!」

「俺なんか小学生にまでドンマイコールされたぜ……」

「ド、ドンマイ瀬呂」

「あんがと……」

 

矢張り話の内容は体育祭によって知られた自分達の知名度だった、本線に勝ち進んだ皆は特に注目されており此処に来るまで多くの人達に話しかけられたり、苦労を労われたりと様々だった。

 

「ワタシも大変だったわぁあん。家にまで押しかけてくる人がいたから、まあ普通に警察に通報したけどね」

「泉さんも大変だったんだね……。僕も電車に乗ってる時にサイン求められたりして、凄い恥ずかしかったよ……僕なんかのサイン欲しいんだって驚いちゃったよ」

「デク君何言ってるの、デク君と剣崎君の初戦なんて凄かったんだから当たり前だよ!」

 

麗日の言葉にクラス中から同意の言葉が漏れて行く、最初に相応しい熱い戦いをしていたのだからファンが出来ていても当然と言える。激しい肉弾戦に燃えない者なんていない事だろう。

 

「俺もだ、特に幼子に騒がれたな。黒影を是非見せて欲しいと言われた」

「ははっ常闇の個性もすげぇカッコいいもんな、それで強いとか羨ましい過ぎる」

「剣崎は如何だった?お前なんて一番やばかったんじゃねぇの?」

「そうそう、休みの間TV付けたら雄英体育祭優勝者、剣崎 初氏に突撃インタビュー!って番組がめっちゃやっててビビッたぞ俺」

 

そして向けられた剣崎へ、しかし珍しく剣崎は何処か疲れているかのような表情を作っていた。如何したのかと尋ねると休みの間は余り休めなかったと返ってくる。体育祭で優勝してしまった為に自宅の周辺に多くの報道陣が詰め掛けていた。オリンピックに取って代わる人気を誇ると言われる雄英体育祭で優勝してしまったのだから、致し方ないといえばそうなのだが……休日の自分の時間ぐらい静かに過ごさせて欲しいというのが本音だった。

 

「二日間ずっと取材が付き纏ってきてて……買い物に出ようと思ったらもう大変だった……思わずどうしたらいいのかって雄英に電話して対処法を問い合わせた位だよ……」

「そりゃ災難だったな……それで剣崎もそんなに疲れてるのか」

「気疲れって奴だよ。結局雄英からプレゼント・マイク先生とミッドナイト先生が来てくれてさ、休みの時はお二人の世話になってたよ……」

「うわぁっ……態々プレゼント・マイクとミッドナイトが出張るとかマジで凄かったんだな。ああそうか、それでTVに二人が映ってたのか」

 

結局二人に対処をお願いして、後日雄英と本人の許可を得た上でのインタビューを許可するからという事でその場は収められたが二人は休みの間は非番だからという理由で一緒に過ごしてくれ、対処法やこっそりルール違反を起こそうとするマスコミの対処までしてくれた。全くもってお二人には頭が上がらないので、せめてものお礼として二日間は出来る限りの持て成しをしたという。

 

「剣崎お前ぁぁああああ!!!ミッドナイトと同じ屋根の下に居ただとぉぉぉお!!?」

「いやプレゼント・マイク先生も一緒だったんですけどぉ!!?」

「んなこと如何でも良いんだよ!!!」

「良くはねぇだろ!!?」

 

峰田が剣崎へと掴みかかった、その理由はまああの超美女ヒーローミッドナイトと一緒に居れたというのが大きな要因だろうが……これは男ならば羨ましいと思ってしまう事だろう。事実、瀬呂や上鳴、切島は強く頷いている。

 

「峰田ちゃん、剣崎ちゃんに限って貴方が想像しているような事はしてないと思うわよ」

「健全な男があんな美女と一緒に居て何も思わないわけねぇだろ!!!」

「京水ちゃん」

「泉は除外だろ色んな意味で!!」

「否定しないけど、なんだか複雑だわぁん」

「―――どうなの剣崎ちゃん」

 

と梅雨ちゃんからの言葉を皮切りに一斉に視線を受けてしまう剣崎。正直な所何も無かった、色んなと話をしたりアドバイスを貰ったり、ご飯を作って一緒に食べたりした程度で本当に何も無かったのが本音である。しかしまあ……幾らプレゼント・マイクが居たとは言え自分の家にあんな美女がいるのだから何も思わない訳が無い、実際プレゼント・マイクにからかわれたりはした。

 

「……正直、目線に困った。あの人のコスチュームマジで目の毒だ……」

「だよなぁやっぱりお前も男だもんなぁ!!!」

「……」

「つ、梅雨ちゃんなんか顔怖いよ」

「ごめんなさいね、ちょっとイラッとして」

 

一応フォローしておくと剣崎はミッドナイトに対して別段へんな事を思ったりはしていない、純粋に困っていた。彼女の個性の関係上、致し方ないとも思っている。だが……それでもスタイル抜群の美女があんな格好をしているのを近くで見るのは男として色んな意味で辛い事があるのである。

 

「ま、まあまあ落ち着いてよ。それに剣崎君のご両親だっているんだから変な事は無いでしょ?」

 

と此処で出久が出来る限りのフォローをする、それに一同はまあ確かにと納得していく中で肝心の剣崎は顔色を深く曇らせていた。それに気付いた梅雨ちゃんは彼を見た、何やら全く違う物を抱えているかのような表情が酷く気になる。

 

「如何したの剣崎ちゃん?」

「いや何も……それに俺の親は家に居なかったからなぁ……」

「えっそうなの!?」

「ああ。ちょっとした仕事の都合って奴でさ」

「んじゃマジでミッドナイトと一つ屋根の下かよこの野郎ぉぉぉおおお!!!」

「痛い痛い痛いっやめろっていででででででっっ!!!??」

 

峰田とのじゃれ合いに発展し周囲からは笑い声が漏れて行くが梅雨ちゃんだけは疑問的な視線を投げ掛け続けた。両親の事を出された時の剣崎の顔、何かあったのだろうか。それに両親がいるのに態々ヒーロー二人が来るというのも少し気に掛かる、彼にはまだ秘密があるのではと思っているとチャイムが鳴り響く。すると皆は席へと一斉に着く、その直後相澤が教室へと入ってくる。

 

「おはよう、今日の一限目のヒーロー情報学はちょっと特別だぞ」

『特別?』

 

ヒーロー情報学、ヒーローに関連する法律や事務を学ぶ授業で個性使用やサイドキックとしての活動に関する詳細事項などなど様々とを学んで行く。しかし今回は何か異なる模様。

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

『胸膨らむヤツきたあああああ!!』

 

ヒーローネーム、即ちヒーローとしての自分を示す名前の決めるという事。自分の事に関する故にヒーロー足る者として絶対的な必要な物にクラス中からテンションが爆発して行った。テンションがMAXゲージになって行くが相澤が睨みを利かすと一瞬で静かになる辺り本当に慣れてきているというか、相澤の怖さが良く分かる。

 

「ヒーローネームの考案、それをするのも先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積んで即戦力と判断される2年や3年から……。つまり今回来た指名は将来性を評価した興味に近い。卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある。勝手だと思うがこれをハードルと思え」

 

幾ら体育祭で素晴らしい力を見せたと言ってもまだまだ経験も足りない物を採用などはしない、これから力を付けていかなければ今の評価など簡単に引っくり返る。そして相澤は手に持ったリモコンを押してある結果を黒板に表示した。

 

「その指名結果がこれだ、例年はもっとバラけるんだが今年は偏ってるな」

 

それはクラスの各生徒に来ている指名の件数、本来はバラ付きを見せるらしいが今回が豊作という事もあって偏っている。矢張り多いのは優秀な成績を見せ付けた剣崎がダントツでトップに輝いている。4632件というとんでもない事になっている。ついで2位の爆豪、という訳ではなく矢張りエンデヴァーの息子という点が強いのか轟の3928件、そして爆豪の3243となっている。特に多いのはこの三人で次は常闇の359件と一気に落ち込んで疎らになっている。そんな中でも出久も98件というのを見て思わずホッとした、京水も235件入っている。

 

そしてこれらの結果を踏まえて職場体験、実際にヒーローが活躍する現場に出向いてヒーローの活動を体験するという。プロの活動を実を持って体験し、より実りある訓練をするため。そしてその為にヒーローネームの考案をするという。

 

「仮ではあるが適当なもんは―――」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!この時の名が世に認知されてそのままプロ名になってる人は多いからね!!!」

『ミッドナイトォ!!!』

 

ここで登場したのは剣崎もお世話になった体育祭の主審ミッドナイト、ヒーローネームのチェックなどは彼女が受け持つとの事。相澤はその辺りは出来ないらしいので適材適所という奴だろう、寝袋を取り出して既に中に入っている。各自にボードが配られ、そこにヒーローネームをかき込んで行く事になるらしい。一生を決める事になる決断、時間を掛けてたっぷりと考えていいとミッドナイトが言う。

 

「(如何しようかな……流石に仮面ライダーは駄目だし……うーん……)」

 

剣崎もこれにはかなり真剣に考えている、仮面ライダーは正確には自分で付けた訳ではなく何時の間にか呼ばれている名前なので今度は自分で考える必要が出てくる。改めて考えるとヒーローネームの事は特に考えて無かったので、これはかなりの難問だ。唸りながら頭を悩ませていると発表形式でヒーローネームを見せるという事に皆動揺する。そんな中、真っ先に手を上げたのは京水だった。

 

「ワタシってば自信があるのよん♪ムーンライトヒーロー・プリティームーン!!」

 

と自信満々に上げられた京水の考えたヒーロー名、思わず皆は黙り込んでしまいえぇっ……と思ってしまう。

 

「う~ん中々良いわね、でも貴方の場合は此処はムーンじゃなくてルナの方が良いと思うわ」

「いやん先生ってば超センスいいっ!!」

「京水ちゃんもセンス良い!!」

『いいのかよっ……』

 

「んじゃ次あたし!!ヒーロー名、エイリアンクイーン!!」

「2っ!?血が強酸性のあれを目指してるの!!?やめときなっ!!?」

「ちぇ~……」

『バカやろう……!!』

 

と京水に続いて上げられた芦戸の物が余りのあれだったため、連続して色物的な物があがったので何処か大喜利のような雰囲気に包まれていく。そんな中、勇者のように手を上げた者がいた、梅雨ちゃんである。

 

「実は小学生のころからずっと考えてたの、梅雨入りヒーローフロッピー」

「可愛い~!!親しみ易いうえにとってもキュート!正にお手本のような素晴らしいヒーロー名ね!!」

『フロッピー!フロッピー!フロッピー!』

 

梅雨ちゃんのこのヒーロー名で一気に空気が変わっていき、皆も安心して出せる環境になり皆は思わずフロッピーの名前で大合唱するのであった。そんな流れに乗るかのように剣崎も手を上げた。

 

「俺も良いですか」

「はい剣崎君!さて君はどんな物にしたのかな?」

「悩んでたんですけど、俺はこんな感じにしようと思います。ヒーローネーム―――スペードヒーロー、エース・ブレイド」

 

剣崎が悩んだ末に出した答えがそれだった。以前校長から頂いたブレイドという名前、そこに自分(初め)を加えたエース。二つを組み合わせた名前がエース・ブレイドという名前。今までの物とは打って変わって非常にカッコいい名前に皆震える。

 

「エース・ブレイド、成程自分の名前からも取ってるのね。スペードも、確か剣とか騎士の意味があったわね」

「はい、ちょっと気恥ずかしいですけど……これから自分の始まりを意味するんですから此処から歩いていくっていう意味も込めてエース、1っていうのと自分をブレイド、にして名前にしました。そしてスペードは色んなことがあるでしょうけど自分の名前にもある剣で自分の道を切り開いて行けるようにって願いを込めて」

「うんとってもいいわっ!!剣崎君はこれからエース・ブレイドね!!よし決定!!」

『ブレイド!ブレイド!ブレイド!!』

『エース!エース!エース!!』

 

梅雨ちゃんに続いてとても良い流れを作ってくれた剣崎、いやエース・ブレイドにも喝采があがった。それからはゾクゾクとヒーロー名の考案が行われていき次々と名前が決まっていくのであった。そんな中、唯一決定しなかったのは―――

 

「爆殺卿!!!」

「違うそうじゃないわ」

 

―――爆豪だった。

 

「やっぱりヴィランじゃねぇか!!」

「んだとウェイ野郎ぉ!!!!」

「どう考えてもそれはヴィランだろ!!せめてそこは個性活かしてブラスターとかにしろよ!!」

「うるせぇてめぇに言われる筋合いはねぇ!!!」

「かっちゃんが、オチになるなんて……!!」




名前決めるのに約10日掛かりました。マジで。こういうのを直ぐに決められる人って本当に凄いと思う。

……後剣崎の職場体験先マジで如何しよう……。


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職場体験指名

ヒーローネームの考案が終了すると各自に職場体験先が示された紙が配られる。指名が来ている者は指名先の一覧が、指名が来ていない者には受け入れを表明しているヒーロー事務所が書かれた物が配れている。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なるから良く考えてから一つ決めて提出するようにと相澤は言って教室から出て行く。しかも提出期限は今週末、後二日しか期限が無い。急いで決めなければいけないが……

 

「うわっ凄げぇ分厚さだな剣崎!?」

「ひいふうみい……うわぁ何枚あるんだよそれ……」

 

瀬呂や切島はあっさりと自分へと来ていたリストを見終わってしまったので他を見ようとした時、真っ先に目に止まったのが剣崎へと来ている指名の数だった。彼へと来てるのは4632件とクラス中でダントツのトップ、故にリストは100枚を越えておりチェックするだけでも大変な労力を使う事は明白になっている。

 

「アァン流石初ちゃんね!!ねぇワタシも見ても良いかしら?」

「見るって、泉アンタ自分の見なくての?」

 

と剣崎に来ている指名を見たがっている京水に耳朗が声を掛ける、京水も剣崎には大きく劣るが200を超える指名は来ているのだから自分は其方に集中するべきなのではないかというが、京水は良いんだと断言しながら胸を張って言う。

 

「ワタシは行きたいって思ってた事務所から指名来てたからもうそこに行くって決めたの!!」

「へぇっそうなんだ」

「泉ちゃんが行きたい所って何処なの?」

「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツから来てたの?」

「違う違う、確かにプッシーキャッツはワタシの憧れで好きなヒーローがいるけどあくまでそれだけなの」

 

それじゃあ一体どんなヒーローの事務所から指名を受けたのかと疑問が浮かんでくる、そんな視線を受けながら自慢げに自分のリストを取り出しながら一つの事務所を示す。

 

「私が行くのは……NEVERヒーロー事務所よ!!」

「NEVERって確か……あっ思い出した、無限ヒーロー・エターナルが経営してる事務所だ!!」

「そう、あのヒーローこそワタシが目指す最高の存在よ!!」

 

無限ヒーロー・エターナル。6年前から活動を開始したヒーローだがその圧倒的な戦闘センスと先の先の先まで読むかのような洞察力、空飛ぶヘリに片手で捕まるなど並外れた身体能力をフルに活かし僅か数年でトップヒーローの仲間入りを果たした超新星。多くのヒーローがサイドキックを多く雇う事が多い中、スナイプヒーロー・トリガーとブレイズヒーロー・ヒートの二人のみをサイドキックとし、少数のみでの活動を行っているやや特殊なヒーロー。

 

「えぇワタシ指名がきて本当に嬉しいわっ!!」

「凄いなぁ……確かエターナルって新しく人を雇わない事でも有名なのに、そんなヒーローから指名が来るなんて凄いよ!!」

「うふっ有難うね出久ちゃん♪ワタシ頑張ってくるわっ!!」

「もう決まってるのか、それはそれでいいなぁ。俺は俺でこの中から決めないといけないからなぁ……」

 

剣崎はそう思いながらリストの山を軽く叩いた、贅沢な悩みだろうが此処まで数があっては本当に困るレベル。相澤の言う通りに各ヒーロー事務所の活動地域やジャンルなどを調べるだけで期限が過ぎてしまいそうになる程の数。

 

「うわぁすげぇ!!トップヒーローの名前がめっちゃあるぞ!!」

「ホークスにエッジショット!!すげぇいきなりトップヒーローの名前があるぞ!!」

「ケロッ……リューキュウにミルコ、女性ヒーローからも結構来てるのね……」

「凄い凄いトップクラスヒーローからの指名が6件もある!!凄いよ剣崎君!」

「でもその割にエンデヴァーの指名ないんだな」

 

そんな切島の言葉に僅かに自分の席でリストを見ていた轟が反応する、トップヒーローからの指名が多くある中でNO.2のエンデヴァーの指名が無い事が彼に反応を示させた。まあ理由は簡単に思い浮かぶ、体育祭で剣崎はエンデヴァーに対して怒りを買うような事を言っている。それが原因して指名をしてこないのだろう、それに自分を指名するぐらいならあれだけ自慢げに言う轟を指名する筈。

 

「あっギャングオルカのもあるぞ!俺このヒーロー好き何だよなぁ見た目怖いけど」

「あらっワイルド・ワイルド・プッシーキャッツからも来てるわよ初ちゃん!羨ましいわアァンワタシには来なかったもの」

「でもこんなに指名が来てても一つの所にしか行けねぇんだもんな」

「ああっだから慎重に決めないと行けないんだよなぁ」

 

興奮している皆を見ながらも剣崎は慎重だった、正直自分としてはこの中の大半のヒーローの所には行きたいとは思ってはいない。ヒーローの活動の基本は犯罪の取り締まりと抑制、逮捕協力などが主でありそれらを主軸にしているヒーローが主。でも剣崎が目指しているのは救いのヒーローになることでヴィランの逮捕などは余り重視されない、よって有名なヒーローの殆どは除外されて行く事になる。

 

「(というか、俺は仮面ライダーの時は常時職場体験みたいな感じだからなぁ……まあ語弊あるだろうけど)」

 

となると矢張り自分の戦い方の幅を増やす事で救助活動の為にヴィランを迅速に倒す、その為に武闘派事務所に行くのも悪くないとも思う。そんなリストを見て行く中で気になる名前を見つけた。

 

「人類基盤史研究所内ヒーローチーム、BOARD事務所……?」

 

不思議な胸騒ぎと感覚を覚えた剣崎、その名前を見た途端に目を放せなくなった。




やっぱりまあ、うん、出さないとねNEVERは。

出来れば感想お願いします。


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研究所所属、ヒーローチーム

「人類基盤史研究所内ヒーローチーム、BOARD事務所……ねぇ」

 

翌日の昼休み、漸く絞る事が出来た剣崎だがそれでも職場体験先の候補はまだまだ凄まじい数がある。4632件というとんでもない指名の中からかなり絞った方なのだが……それでも候補は400件以上も残っているというのが凄い状況である。机の上に広げられている資料、それらを確認しながら候補を絞っている剣崎だが、そんな彼の姿を見かねて出久と梅雨ちゃんが溜息を吐いている彼へと近づいていく。

 

「剣崎君大丈夫?提出期限明日までだけど」

「全然……何とか絞ってこのだからな、ざっと数えても400超えてるから今日と明日最大限使って絞りきるしかないと思う」

「剣崎ちゃんは優勝してる物ね、注目集めちゃってるのも無理も無いわ。でも4000件越えてるのによくそこまで絞り込めたわね」

「ああ。取り敢えず嫌いなヒーローは全部除外して、そこから色々と分けて行ったからね」

 

まず利益追求、名誉を追及しているヒーローは真っ先に除外した。自分には来ていないがエンデヴァーの物もあったら真っ先に除外する事間違いなしである。好き嫌いで分けた後は基本的なヒーローと救助を主軸にするヒーロー、調査専門、それぞれが主軸としている活動別に分けてそれらから興味が惹かれた物に分けたのが約400という数である。更に此処から絞っていく必要がある。

 

「出久はもう決まってるのか?」

「うん、僕はグラントリノってヒーローから指名を受けたからそこに行くつもりなんだ」

「グラントリノ……え~と確か結構古いヒーローだったような気がするけど思い出せないなぁ」

「そうね私も良く分からないわ、でも緑谷ちゃんってもっと有名なところからも受けてなかったかしら?確かシューティングヒーローのクリアリングからとかも来てたわよね?」

「そうなんだけど、僕としては此処がいいかなぁって思った」

「ふぅ~ん……良く分からないけどお前がそこで良いと思ってるんならそれでいいんじゃないか?」

 

先日出久から話を聞いた話では、新たに指名して来たヒーロー事、グラントリノはオールマイトが学生時代の担任だった人らしく"ワン・フォー・オール"の事も把握しているヒーローとの事。そんなヒーローからの指名、という事で出久は興奮していたがオールマイトはマッスルフォームである屈強な身体を震わせながら顔を青ざめさせていた。出久曰く、オールマイトがガチ震えしていて愕然としたらしい。思わず剣崎もどんだけ恐ろしいヒーローなんだろう……と思ってしまった。まあこの場は梅雨ちゃんもいるので話を合わせるだけにしておくが。

 

「んでさ出久、BOARD事務所の事って知ってるか?妙に名前が気になって一応候補に残してるんだけど」

「えっ嘘、剣崎君あの人類基盤史研究所にある特殊個性ヒーローチームBOARD事務所から指名来てるの!!?どれだけ凄いの!!?」

「えっそんなに凄いの……?梅雨ちゃん分かる?」

「全然……」

 

凄まじく興奮している出久のテンションの上がりっぷりが全く理解出来ずに付いていけない二人を他所に最早芸染みている早口による剣崎の力と注目度とその分析を行う出久、そんな彼に説明を求めるのであった。

 

「あ、ああごめんね。えっとまず人類基盤史研究所っていうのは人類歴史や進化の根本に付いて解き明かそうとしている世界でも指折りの研究機関なんだよ。今では個性に関する研究を行っていて、多くのプロヒーローもそこに訪れて自分の個性に対する理解度や自分さえ知らなかった個性の真実を解析したって事でヒーロー界隈じゃ本当に有名な所なんだよ」

「へぇ……そんなに凄い所だったのか」

「そういう所があるって事すら知らなかったわ、一般的に公開されてるって訳でもなさそうね」

「基本的にそこで扱われる情報は極秘扱いされているから、一般的に公開されている情報は少ないんだ。でもヒーロー界隈だと知らない人なんていない位に有名な所さ」

 

知る人ぞ知る、という奴だろうか。ヒーローも多く立ち寄るのであれば彼らの個性に関する情報もある、それらを秘匿する為に基本的に見学や情報公開などは極一部しか行われていないとの事。ヒーローマニアでもある出久ですら研究所の詳細は把握出来ていない。

 

「それで緑谷ちゃん、そのBOARD事務所っていうのは如何いう所なの?」

「その研究所に所属している事務所なんだけど、そこのヒーローは研究の一環で色んな実験に参加した影響で特殊な個性を持ってたりするんだ。詳しい事は研究所が秘匿しちゃってるから、現代ヒーローとしては珍しく情報が少ないヒーローだよ」

「へぇ~……なんか面倒くさそうな所だな」

「まあね……。でもそこは凄い人気で色んな人が入りたいっていうんだけど、研究所の所属だから全部研究所が審査するから殆どの人が弾かれるって話だよ」

「それって剣崎ちゃん相当凄いんじゃないかしら?」

「うん僕としてはそこを凄い推したい!!」

 

と鼻息を荒くしながら言う出久、そう言われるとかなり興味を惹かれるし何で自分を指名したのかも気になってくると言うもの。それに個性の研究をしていると言うのもなんだか面白いような気もする。

 

「んじゃそこにして見るかな……後で相澤先生にちょっと相談してみるわ」

「そうね、私も受け入れ可能って言われてる水難救助の所で相談したいから付き合うわ」

「剣崎君行くならさ、そこに所属しているグレートブレイブヒーロー、グレイブとランサーヒーロー、ランス、後ボウガンヒーロー、ラルクのサインお願い出来ないかな!!?」

「貰えるなら貰って来てやるからそう興奮するなっての!!?」



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強化、そして所長

「BOARD?これは随分と驚く名前だ、君がそこに行くと言うのはかなり驚きを覚えるよ」

「えっ何か拙かったですかね」

「いやいやいや、あそこは秘密厳守で秘匿事項が余りにも多い位で別段特殊な事務所という訳ではないさ」

「……あの、それ十分特殊ですよね」

「HAHAHAHA!確かにな!!」

 

様々な事を考慮しじっくりと考えをめぐらせた結果として剣崎は出久が推した『人類基盤史研究所内ヒーローチーム BOARD事務所』へと出向く事にした。それらを相澤へと提出した後にオールマイトと遭遇し、治療なども兼ねて彼と共に剣崎は帰宅し、今現在は共に夕食を取っている所である。ラウズカードの力の影響で活力と今までの健康が戻って来たかのようなオールマイト、今までは控えるようにしていた物も食べられるようになったと嬉しそうにしている。そんな出久の師である彼に自分の職場体験先を話すと何処か物珍しげに笑うのであった。

 

「あそこは世界でも有数の個性研究機関でね、そこでは日夜個性の探求が行われ続けている。例えるならばそうだな―――んっこのハンバーグ美味しすぎないか!!?口に入れた瞬間に芳醇な味と濃厚なソースがマッチして更にAmazingなtasteへと進化したぞ!!?」

「それはソースを作る時に焼いたときの肉汁を混ぜて作ったんですよ」

「なんとっ!!?成程これは家でもやってみる必要があるな……後で作り方を教えてくれたまえ……ってあっすまん私の方から話の腰を凄い勢いで折ってしまった」

「いえ大丈夫ですよ」

 

再開された話によると、個性によって生み出された物を個性の力を借りずに作り出す。本来ありえない物を個性などを応用して生み出せるように研究するなどなど、酷く先進的な研究までしているらしい。

 

「分かりやすくいうのであれば、八百万少女の個性である「創造」は創り出すためには対象の分子構造まで把握する必要などがある。それらを自分のイメージのみで何かを作り出せるようにする、といった感じだろうか」

「それは、実際にそうなったらとんでもないでしょうね……」

「うむ。対応力でいえばヒーロートップクラスの物になるだろうな」

 

そんな研究を行っている研究所、益々驚きに満ちてくるような気分だ。そんな研究を行っているところに所属している事務所からの指名、それに何か特別な何かを感じずにはいられない。

 

「あっオールマイトお代わりいりますか?朝間違えて大量に米を研いじゃって……食べるのを手伝ってもらえると嬉しいんですが」

「それなら喜んで手伝おう、怪我が原因で小食になっていたのだが君のお陰でいっぱい食べれるようになったからな!!いやぁいっぱい食べられるって素晴らしい喜びだな!!」

「それには同感ですね」

 

とオールマイトの茶碗に新しくお米を盛って渡しながら逆に気になる事も増しているような気がしている。自分がその事務所に指名される原因になったのは体育祭が原因、しかしその体育祭で自分が使ったのはあくまで「身体能力強化」の個性、一部はラウズカードを使ってもバレないように工夫していたがそれでも今回の殆どは強化個性で全て出来た事だ。正直自分の個性は有触れていると言っても可笑しくない個性で特殊性も何もない。

 

「如何して俺はそこから指名を受けたんでしょうか、俺の個性は今の社会だと割と良く見かけるような物ですよね」

「(モグモグモグ……ゴクン)身体能力の強化、言うなれば増強系だろうか。それらの個性を持つ人達は多いと言える」

「正直その個性は特殊とは言えません、ありふれているのにそれを研究所が指名した。出久からあそこは滅多に人を取らないって聞きましたし、秘密厳守で秘匿事項が有望だとしても態々指名なんかしますか?」

「うむ……そこは私も気になっていた所だ」

 

既に半分以上のお米がなくなっている茶碗を置いてお茶で軽く喉を潤したオールマイトもそれに同意した、仮に剣崎は体育祭で「仮面ライダー」として戦ってその個性に興味を示しているというならば話は簡単で興味の矛先が分かりやすい。

 

「それで試しに君がご飯の準備をしてくれている間にお手洗いを借りただろう、その時にちょっと電話してみたんだ。実はあそこの所長とは顔見知りでね、私の個性の事も知っていて色々と便宜を図ってくれていたんだ」

「そ、そうなんですか!?じゃ、じゃあ俺の事も!?」

「いや緑谷少年の事は話したが君の事は一切他言無用という事にしているからね、全く話していない」

 

それにホッとした、まあそれならそれでオールマイトが自分が怪我を治してくれた云々ということを言ってくれるだろう。オールマイトは結構嘘を付くのが下手なタイプの人間なのだから。

 

「君は轟少年との戦いでシバリングや足に火をつけたりしただろう、それが指名の理由らしい」

「それが、ですか?いやまあ確かに火をつけるのは、ラウズカード使わなくても出来ますけど……」

「本来身体能力の強化というのはあくまで本当に身体の運動機能を強化するだけなんだ。個性を鍛えたとしてもシバリングで氷を溶かしたり、燃えている足の治癒力を高めて燃える足に対応するなんて事は出来ない。それが主な指名理由との事だ」

「そうなんだ……」

 

それを聞いて驚いた。剣崎はこれらの事を昔から自然と出来るようになっていた、身体機能を強くするならその身体の機能である生体機能も強められるのではないだろうかと。そうすれば色々と便利になるだろうと思って色々やった結果、出来るようになっていた。故に自分と同じ個性を持つ人達もやろうと思えば出来るんじゃないか、やろうとしていないのは苦手な人なのかなっ程度の認識を持っていた。

 

「因みにどんな感じでやっているんだ?」

「えっと、イメージですかね。頭の中でイメージを作ってそれをやりたいって思いながら集中して……なんか説明へたくそですいません……」

「いや感覚的にやっている事を説明してくれ、という方が逆に難しいからね!構わないさ、私だって緑谷少年に個性の使い方を感覚的にしか教えられてないんだから」

 

研究所が如何して自分を指名したのかの謎が解けたからか剣崎はスッキリとした表情になりながら今度はオールマイトの相談事である出久のこれからの指導計画に付いてだった。誰かを教える事に付いては正直初心者なので誰かの意見を欲しかったらしい。その点、互いの秘密を共有し合う剣崎という存在は非常に有難いとの事。

 

「俺もずっと一緒にいながら組み手とかをしてましたね、出久には兎に角個性を使いこなさないといけませんからね」

「うむ、それは私も思っている。個性の完全なコントロールは必要になってくるからな。しかし、あのフルカウルはどうやって練習させたんだい?」

「あれは練習と言うかあいつの思いつきで、こうしたら如何かって言って来たんですよ。それでそのための練習をしたんですよ」

「ほうほうどんな?」

「言うなれば、流の特訓です」

「流?」

 

剣崎が行ったのは組み手のような形式の訓練、出久が発案した"ワン・フォー・オール・フルカウル"の習得を目標とした訓練。全身に掛けるのならばその前段階として身体の様々な部位で個性を発動させられるようにしなければ行けない、故に剣崎は組み手のような物をすると宣言した。剣崎は何処を攻撃するかを宣言した上で酷くゆっくりとそこへと向かうように攻撃をする、それに対処する出久は剣崎が指定する部位で防御するがその際には「ワン・フォー・オール」を発動させて防御するという訓練。それを何度も何度も繰り返し、徐々に速度を上げていく事で身体を個性の発動に慣れさせると同時に防御の経験値も蓄積させるという狙いがあった。

 

「成程……しかし「ワン・フォー・オール」の発動を防御にか。それはいい発想だ」

「あれだけの超パワーですからね、攻撃だけになんて勿体無いですよ。それにあいつが成長すれば防御の瞬間に発動させて、そのまま超パワーでダメージ反射とかもやれると思いますよ」

「おおっそれは凄いな!!」

 

と気づけば出久の育成計画へと話がシフトしていた、そのまま美味しい食事を堪能しながら剣崎とオールマイトは語り明かして行った。そして気づけば夜も更けていたので洗い物を手伝ったらオールマイトはご馳走のお礼を述べてから帰って行くのであった。その帰り道、オールマイトは空を見上げた。空に輝く星々が見えている、酷く美しい光景だ。

 

「人類基盤史研究所……BOARDか。君は何を思って剣崎少年を指名したんだ」

 

思い浮かんでくるお手洗いの中でした電話、電話に出た研究所の所長は剣崎が生体機能を強化したからと答えていた。だが自分にはそれ以外の思惑があるように思えて致し方なかった、それを素直に伝えてみると分かってしまうかと笑っていた。矢張り何かあるのかと思ったが、帰ってきたのは心配しないで欲しいという言葉だった。

 

「別に心配などはしていないさ、私は唯―――君が求めている物を剣崎少年に見出しているような気がしただけだよ、橘君」

 

同時に見上げた空に流れ星が落ちて行く、それはまるで―――ダイヤのように美しく強く輝いていた。

 

 

 

―――見出したんじゃないんだよオールマイト……見つけたんだよ。



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職場体験、だが無意味だ。

―――職場体験の当日、雄英に通う剣崎たちの姿は雄英から最も近い駅にあった。相澤から簡単な挨拶と体験先に迷惑を掛けすぎない事や本来公共の場などで着用が許されないコスチュームなどは絶対に落とすなと厳命される。まあこのコスチュームは自分というヒーローの象徴のような物なのだから落としたら本当に笑えないので誰も手放す気は無いのだが、それでも気を付けるに越した事はない。

 

「轟って確かエンデヴァーの所に行くんだったっけ」

「ああ。奴の技術を精々吸収して俺の力に変えてやる」

「おうその意気その意気!!吸収した事を実践して力に変えるのも立派な成長だからな」

 

体育祭でのトーナメントの試合以来、相応に仲良くなった轟。剣崎は普通に話をしたり食事を取ったりする仲になっている。轟にとって剣崎は色んな意味で自分の殻を壊してくれた人物であり、自分から仲良くしたいと思えた人物なのかかなり良好な関係を築けていると剣崎は自負している。そんな轟は父親であり嫌っているヒーローであるエンデヴァーの所に行くとの事、今までの自分なら絶対に嫌がっただろうが、今は逆に奴の全てを自分の糧に変えてやるという勢いに満ちている。

 

「アァン、私ってば目的地が千葉だから此処で初ちゃんとお別れだワァアン。だけど待ってて初ちゃん、この泉 京水、この職場体験を乗り越えてより一層大きくなって帰ってくるわっ!!」

「期待してるよ京水ちゃん」

「アァアン初ちゃんの言葉が染みるワァン!!」

「ホントぶれないわね、泉ちゃん」

 

そんなやり取りを繰り返していると剣崎はある方向に視線を向けた、その先に居るのは出久と麗日に言葉を送られるが何処か険しい顔をしている飯田が自分の目的地としている方向の電車へと向かおうとしている姿だった。剣崎はそれに何か強い闇のような物を感じたような気がして、妙にそれが気になった。

 

「どうかしたの剣崎ちゃん、飯田ちゃんがそんなに気になるの?」

「ああっ……心配だ」

「あっそっか、飯田ちゃんお兄さんが……」

「……確かあいつの職場体験先って保須市の……大丈夫、なのか?」

「心配ね、何か言っておいた方がいいかしら……?」

 

思わず気になったクラスの頼れる真面目な委員長事飯田、体育際の後に駆け巡ったニュース。それは当然剣崎も目を通していた、飯田の兄であり尊敬するターボヒーロー『インゲニウム』がヒーロー殺しと称される犯罪者によって襲われて重態に陥った。そして、インゲニウムが襲われたのは保須市、飯田の職場体験先と一致する……。これは不幸な偶然と言ってしまっていいのだろうか。

 

「分からない、流石に相澤先生も体験先のヒーローにその事を話してるかもしれない。兎に角、何もない事を祈るしかないな……」

「そうね……空き時間には出来るだけメッセージなんかを送ってあげましょうか」

「あらっそれいいわね、きっと心の支えになるわ!!」

「なら決まりだな、まあお互いの体験の事もあるから余り無理しないように」

「ああ、じゃあ俺もそろそろ行く。じゃあな」

 

と言ってそれぞれが体験先に向かう為に分かれて行った。剣崎が向かう先の住所は此処から電車に乗って数時間の場所、そこから歩いていく事になっている。飯田の事が胸でざわめきながらも、電車に揺られながら景色を眺める剣崎は言いようも無い奇妙な不安を次第に大きくさせながら研究所へと向かうのであった。

 

「飯田、お前の目にあったあれは―――紛れも無い憎悪……ヒーローが一番優先させちゃいけない。分かっててくれてるといいんだけどな……」

 

聡明な彼ならばきっと分かっている筈だ、真面目で実直な彼ならば……だが憧れであり尊敬し大好きな兄に重傷を負わせたヒーロー殺し、それが潜伏しているかもしれない保須市。如何にも言い表せない物が湧き上がり続けてくる。

 

「あっもしかして雄英の体育祭で優勝した剣崎君じゃ無い!!?」

「えっマジで!!?」

「わぁ~本当だ!!!」

「サインくださいサイン!!!」

「えっちちょ、ちょっと待って!!?」

 

と、気づけば考える暇も無いほどに自分のファンと思われる人達が自分の席に周りに屯していた、それらの対処に追われている内に正体不明なそれは薄れていき兎に角迫っているサイン攻めと握手を処理して行くのであった。

 

「せ、精神削るなぁ……本当にオールマイトは毎回毎回対応してたんだから尊敬するわぁ……」

 

電車に乗っている間、ほぼずっとサイン攻めや質問攻めにあっていた剣崎。一応昼食を食べる時間ぐらいは気を遣って貰えたがそれ以外は殆ど人に集られていた。一応ミッドナイトやプレゼント・マイク、そして先日のオールマイトなどにマスコミやファンに迫られたときの対処法や心構えをレクチャーされているので、ある程度気分的には楽ではあったがそれでも辛い物があった。TV出演などを頻繁にしていたオールマイトは本当に凄いと内心で思いながら、無駄だと思いつつもサングラスを掛けて気持ち変装をして研究所へと向かって行く。

 

「えっと、此処をこう行って……それでっと……」

 

スマホの案内や事前に貰っている案内が書かれている紙などを見ながら道を進んでいく剣崎。途中、困っている人達などを助けながらとはいえ、電車を降りて既に1時間が経過しようとしていた。それなのに幾ら行っても研究所が見えてこない、見えるのは遠くに見える大きな建物のみで周辺には何も無くもしかして道を間違えたのかと不安に襲われ始める。

 

「あれでも、もう研究所の中に入ってても可笑しく……」

 

ともう一度周囲を見回した時、自分に影が落ちてきた。それと同時に敵意を感じた、咄嗟に地面を蹴って後方へ飛びながら構えを取ると先程まで自分が居た所に深々と剣が突き刺された。そこには黒を基調としながら各部に黄色の塗装されたAを模ったようなものを装着している男が口角を上げながら笑い声を上げた。

 

「流石だね、敵意を差し向けてから剣が君に命中するまで僅か3秒もなかった筈。それなのに後方へと飛びながら戦闘体勢への移行……うん、君はまぐれで優勝したわけじゃなさそうだ」

「……いきなり攻撃してきて評価、か……」

「アハハハッごめんごめん、謝るよ。悪かったね剣崎君、将来有望な君の力を見ておきたかったんだ」

 

そういうと男は腰からボトルのような物を手に取ると蓋を開けた、すると鎧と剣は光の粒子へと変換されてそのボトルへと吸い込まれていく。全ての鎧と剣が吸い込まれるとそこにあったのは青い制服を纏いながら此方に笑顔を向けて来る好青年がそこにいた。

 

「悪く思わないでくれると有難いな、君の実力を試したくて」

「……いきなり振ってきて剣を向けてくる奴を如何信用しろと?」

「うん、正体が不明な相手に向けるその警戒の姿勢は見事だ。いい台詞だ。感動的だな……だが無意味だ。この場に置いてはね」

「如何いう……」

「何故かって?それは当然、此処は既に人類基盤史研究所の敷地内だからさ!!改めて、ようこそ人類基盤史研究所内へっ剣崎 初君!!!」




やっちゃったぜ。だってこの人出したらこの台詞が脳内ループするんだもん!!
それとも何、強制的に京水ちゃん連れてきて

「いい台詞だ。感動的だな……だが」
「嫌いじゃないわっ!!」

って流れにすれば良かったのかな。


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剣崎の理想のヒーロー

「此処が人類基盤史研究所の中央部、此処で日夜個性の研究が行われているんだよ」

「お、大きい……というか、どんだけ広いんだこの研究所……」

「う~ん、取り敢えずプロ野球のドームが数十個入るじゃすまない規模かな?」

「……すんげぇ」

 

剣崎は頭上から襲いかかってきた男、グレートブレイブヒーロー・グレイブに連れられて研究所の中央部である施設へと連れて来られた。既に自分が足を踏み入れた場所も研究所の敷地内で、自分は研究所には入っていたという。目の前に立てられている余りにも巨大な建物、そこへと入っていくグレイブの後に続いていく剣崎、彼は入り口で指紋、網膜、音声、そして人工知能だと思われる質問に答えて中へと入っていく。

 

「面倒で悪いね、でも此処の研究は本当に重要だからこういったセキュリティが必要になってくるんだ。何度も無断で侵入を図ろうとする人達が多かったから」

「やっぱり凄い研究所なんですね、オールマイトも言ってましたよ」

「へぇっあのオールマイトさんが……それはここに勤めている者としては光栄だね」

 

中を歩きながら進み続けていく二人、そしてまたセキュリティをパスして奥ヘと進んでいくと「ヒーローチーム・BOARD」というプレートが掲げられている扉を潜ると地下へと向かっていくエレベーターに乗って地下へと向かう。

 

「地下に事務所が?」

「正確に言えばあのプレートを越えた時点でもう事務所の中だよ、これから向かうのは―――まず君の実力を確認しておきたい、流石にさっきので全ての実力を把握したという訳じゃないから」

 

そう言っていると開かれる扉の先には白い壁が一面を覆っている凄まじい広さの空間が広がっている。ここが地下だという事を完全に忘却されるかのようにとんでもなく広く、そして明るい空間に思わず驚いてしまう剣崎に自分もそうだったな、と懐かしむかのような視線を送るグレイブ。そして前へと歩き出すと先程、光を吸い込んだボトルを開けるとそこから再び光が溢れだし、鎧をその身に纏った。

 

「エース・ブレイド、君の力と何故ヒーローを目指したのかを見せて貰う。この個性が飽和している社会だと個性はもっている人間によって左右させる、ヒーローもその動機で全てが決まる。君は、どんな人間なのかな?」

「……随分荒っぽいですね」

「僕は不器用でね。話をするよりもこうした方が分かりやすくて良い、それに僕は君の担当に任命されてるから実力の把握は職場体験だと必要不可欠だから」

「分かりました、コスチュームは何処で着れば」

「そこで着替えれば良いよ」

 

と指された先の扉に向かっていく更衣室になっていた。そこで荷物やらを置き、漆黒のコスチュームをその身に纏う。しかし、コスチュームはオールマイトが懇意している会社に変更されている関係か何処か以前よりもがっしりとした物に変わっている。それを纏った剣崎の姿はよりマッシブに屈強な姿に映っている。

 

「へぇそれが君のコスチュームか、真っ黒なんて珍しいね。まるでヴィランだよ」

「黒いのは俺が望んだ機能を注ぎ込んだ結果です、でも色なんて如何でも良い。大切なのは見た目じゃなくてそれを纏った俺が何をするか、ですから」

「……分かってるみたいだね」

 

剣崎は剣を構えるグレイブに対するかのように構えを取る、出来ることならば自分も剣をとって対抗したいとさえ思えるがこれは致し方ない。今、仮面ライダーになる訳には行かないのだから。

 

「それじゃあ行くよ……ブレイドォ!!!!」

 

咆哮を上げながら一気に駆け出したグレイブ、その剣を振りかぶって一気に叩き斬ろうとするがスライディングでそれを回避しながら背後を取りながら裏拳を叩きこもうするが、素早く反応したグレイブは片手でそれを受け止めながら素早く拳を逆手持ちすると一気に突き刺そうとして来る。それを防御する為に膝でそれを受け止める。

 

「中々良いコスチュームだ、見た目よりも機能性重視しているのは良い事だ……!!」

「そりゃどうもっ!!!」

 

裏拳を相手に掴ませたまま、身体を持ち上げるかのように軽く跳躍するとそのまま蹴りをグレイブの頭部へと放つ。それを屈んで躱しつつも握った裏拳で此方の体勢を崩そうと狙っているようだが、それを予想していたのか片手で身体を支えながらそのまま回転するかのように身体を大きく動かし、掴んでいる手を振り解きながら連続的に蹴りを放って回避を優先させながら、自分も共に立ち上がる。

 

「……良いね、とってもいいよエース・ブレイド。素早い反応に行動の組み立て方もグレイトだ、まるで常に実戦に身を置いているヒーローのような動きで実に素晴らしい」

「それはどうも」

「では聞こう、君はどんなヒーローになりたいのかな?」

 

剣を構えたまま、問いを投げ掛けてくるグレイブ。下手な動きや動揺を見せた場合、その隙を付いて一気に襲ってくる算段なのだろう。これも試験のような物、なのだろうと思いながら想いを口にする。

 

「俺は、救いのヒーローになりたい。ヴィランを倒すんじゃない、人々の心に光を灯す存在に、そんなヒーローになりたい。いや、なるって決めてる」

「成程……でもそれがどんなに辛くて大変な事を理解しているのかな?」

「分かってるさ、この今の世界でそれがどんなに大変なのかも……。それでもなるんだ、俺は誰かの涙をぬぐってあげて笑顔にしてあげたい。暖かい世界に導きたい、言うなれば人々にラブ&ピースを齎すヒーローになりたい……!!!」

 

それを聞き終わったグレイブは沸き立っていく湯のように、小さい笑いから徐々に大きな笑いを上げていく。何処か嬉しそう、何処か嫌そうな笑いを上げて行く。

 

「そっか、君ってば本当に良い人間なようだね!ラブ&ピースを齎すヒーローか、いい台詞だ。感動的だな……だが無意味だ」

「……何っ?」

 

途端にグレイブの声が酷く冷徹な物へと変貌して行く。

 

「世界はそんな単純じゃない、悪意なんて色んな所に転がっている。たった一人の人間が変えられるほどに世界は安っぽく無いし複雑な物だ、そんな理想を挿めるほど世界は優しくは無い。君の理想はただの幻想で欺瞞に過ぎない、偽善でしかないんだよブレイド。お前の理想なんて」

 

何か、自分に言い聞かせているかのような言い方をするグレイブに剣崎は何も答えないまま耳を傾け続ける。剣崎も自分のなりたいヒーロー、それに至るにはとんでもない苦悩が待っているのは分かっているそれでも自分はなりたいと思っている、そんな想いを込めて口を開いた。

 

「知ってるよ、グレイブ。俺の理想が幻想で偽善のような物なのは」

「いや分かってない、分かってるなら言わないしそんな理想を掲げない」

「いや分かってる、分かっているからこそ―――俺はそれを謳う」

「―――っ!!」

 

構えを取り直していく剣崎、身体中に満ちていく力、それらの矛先を目の前の男へと定めながら―――今日まで生きてきた自分の思いをぶちまける。

 

「俺はそこに至れるまでの人間じゃない、そんな俺が言うのは確かに幻想で偽善だ。だけどそれでも俺の想いと行動は善だ、誰かを救う為に目指していく努力をし続ける。今は"ワン・フォー・ワン"でしかないかもしれないけれども、いつかそれを"ワン・フォー・オール"にする」

「青臭い事を……」

「まだ未来は決まっていない。まだその未来に進めないなら俺は進めるように努力し続ける!理想を掲げて何が悪い、夢を見て何が悪い!!父さんの友達が言ってた、子供の夢は未来の現実だってな。俺はまだ子供だけど、何時か大人になったときのその夢を体現する!!!!」

 

そう言いながら一気に地面を蹴って飛びかかるかのように剣崎が襲いかかるが、グレイブは渾身の力を込めた一閃でそれを迎え撃とうとするが―――剣崎の拳が激突すると刀身は粉々に砕け散ってしまいグレイブはそのパンチをまともに食らって転げまわった。

 

「ぐっ―――!!!」

「俺は俺の道を曲げない―――俺は俺が信じるヒーローを目指す!!!」

「……ははっ面白い、ならそれが確りと出来るのかと確かめてやろうじゃないかっ!!!!」



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理由と見つめる男

「いやぁ本当に参ったなぁ……グレートブレイブヒーロー・グレイブが情けないなぁ、本当に強いな―――エース・ブレイド」

「はぁはぁはぁっ……!!!」

 

研究所の地下、自動車教習所程に広い空間に作られた戦闘スペース。そこでヒーローチーム・BOARDの中でも突出した能力と実力を誇っているグレイブ、思わず本気にならなければならない程の強さを発揮しながらもまだ立ち上がった向かってくるエース・ブレイドこと剣崎に軽い恐怖を覚えてしまった、自分が持っていた予備の剣も全て叩き折られ上に自分の鎧の損壊率も37%を越えている。これが本当にヒーローとしての仮免許すら取得していない生徒の力なのかと疑いたくなってくるが、それが真実なのはグレイブが一番理解出来ている。

 

「俺は、俺の目指す道を絶対に曲げない……!!!」

 

コスチュームの所々が酷く汚れ、一部は吐血によって赤黒く染まっている。それでも尚立ち上がり向おうとして来るブレイドの無類のスタミナと決して折れないメンタル、身体能力も凄まじい脅威だが前述の二つが彼にとっての最大の武器なのだろうとグレイブは見抜く。フラフラになっている筈なのに力を振り絞って姿勢を低くしてバランスを保ち、そして拳を構えている。まだまだ戦えるという意思を見せ付けてくる、正直グレイブはもう勘弁して欲しいと言いたくなる。

 

『両者そこまで、これ以上は互いに余計なダメージしか与えない』

 

と突如響いてきた声が二人の耳を劈いた、ブレイドは誰の声だと思いつつも意識をグレイブから全く反らさなかった。その肝心の彼は漸くかっ……溜息を吐きながら鎧を解除しながらその場に座りこんでしまった。そして両手を上げながら戦闘の意思が無い事をブレイドへと教える。それを見ると、ブレイドは身体から力が抜けてしまったのか座りこんでしまう。

 

「もう戦う気は無い。悪かったねブレイド、君の心情を試すような事をしちゃって」

「試す……?」

「そう、これは君がヒーローを目指す心構えのテストとどんなヒーローになりたいのか。そしてその為にどれ程の覚悟があるのかを確かめる為の物だったんだ。だけどまさか君が此処までやるなんて思いもしなかったよ……」

 

とグレイブは心底草臥れたと言いたそうな表情を作った、グレイブはブレイドの担当として任命されていた。そんな自分が担当する相手の事を知りたくてやったのだが……此処までの実力者なんて、正直本当にまだ生徒なのかと疑いたくなる。度胸もある、コスチュームの特性も把握した上で接近戦を仕掛け防御する必要も無い物は身体で受けてカウンターを仕掛ける。そして攻撃の威力は申し分無い……。

 

「ヒーローは色んなヒーローがいる。ただ営利目的でヒーローをする者、犯罪者を取り締まるヒーロー、なんとなくヒーローをしている者、自分の個性で誰かを助けたいと思うヒーロー、そしてオールマイトのようなヒーローを目指す者……僕は君がどんなヒーローを目指すのか知って、それにあった指導をしなきゃいけない。その結果、君は誰かを救いつつもオールマイトのような光になりたいと思っている立派な心構えを持っていると分かった、うんとっても嬉しいよ僕としては」

 

立ち上がりながら、傍によってから手を差し伸べてきた。

 

「さあっこれから最高に楽しい職場体験をさせてあげるよ、君はそれを糧にしてオールマイトのようなヒーローを目指せ!!」

「グレイブ、さん……はいっ!!!」

 

グレイブの手を強く握り返しながら立ち上がったブレイド、一応ブレイドはグレイブを追い詰める事は出来ていたがそれはグレイブもある程度手を抜いてくれていたから。最初から本気だったなら確実に防戦一方で攻勢に出る事なんて出来なかった筈、それを実感したブレイドはそんなグレイブが体験させてくれるこれからに凄く楽しみになって来てしまった。

 

「それじゃあまず最初だ」

「はいっ」

「お腹すいたよね、まずはご飯にしよう。此処の食堂はかなり美味しいんだよ」

「いや俺は別に……(ぐっ~)……すいません、何か食べたいです……」

「うん素直でよろしい!それじゃあ案内してあげるよ、折角だから何か奢って上げるさ」

 

とグレイブは何処か嬉しそうにしながらブレイドを連れて再びエレベーターに乗っていく。グレイブは以前から後輩が欲しくて堪らなかったのだが、研究所に所属している関係で中々新人を雇えないチーム事情があるので半ば諦めていたが将来有望な生徒である剣崎が形だけとは言え後輩として来てくれた事に酷く喜んでいるのである。その戦闘スペースを一望できる場から一人の男が二人を見送ると笑みを浮かべていた。

 

「剣崎、初……やっぱり俺の目に狂いはなかったな」

 

そう呟きながら男は口元に浮かべている笑みを湛えながら思いを馳せた。剣崎によく似ている男を、自分は良く知っている。彼そっくりに笑って、彼そっくりに前に向い続けて、運命を手繰り寄せ切り札をその手に掴んだ男を知っている。

 

「剣崎……初、酷く懐かしい響きだな……彼になら託してもいいだろうな―――なぁ……剣崎?」

 

男は振り向きながら扉に向かっていく、何を思っているのか誰にも語らぬままに男は消えていく。

 

 

「さあこれが研究所自慢の大人気メニュー、マーボーラーメンだ!!」

「麺が、麻婆豆腐の中を泳いでる……!?」

「さあ遠慮しないで食べなよ、これが美味いんだよ。ここの言峰シェフの自慢のメニューだ」

「な、なんだろう……凄いカロリーを摂取しようとしているような気が……」



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研究所での日々、研究所所長

「かぁっ~やっぱり言峰シェフのマーボーラーメンは最高だな!!ボリュームも満点なのに安くて美味しくて力が漲る!!さあこれを食べて今日も頑張ろう~!!」

「で、でもこれ凄い辛くないですかっ……!?辛いのは平気なつもりだったんですけど……!?」

「そりゃそうさ、ここの辛口は外で言う所の超々激辛だからね。中辛弱で漸く普通の辛口レベルかな」

「そ、そりゃ辛い筈だ……!!?」

 

人類基盤史研究所のヒーローチーム・BOARDへと職場体験へとやってきたエース・ブレイドこと剣崎。初日は研究所内の案内に研究所内での規則説明、守秘義務などの説明などを受けたその後職場体験中についての方針などがグレイブから発表された。研究所に所属するヒーロー事務所という事もあり、通常のヒーロー事務所とは業務などもハッキリ言って異なっていた。

 

ヒーローとは基本的な扱いとしては公務員で言うなれば国から給料を貰っている存在である。仕事の内容としては犯罪の取り締まり、犯罪が発生した際には警察からの応援要請が届きそれに応じる形で出動するのが主。そして事件などでの逮捕貢献や人命救助、それらの貢献度を申告してそれらを専門機関が調査を経て振り込まれるので基本歩合制となっている。しかし、ヒーローには副業が許可されており、CMなどの出演なども行う事もあるが、個性によってはそれらを利用して認知度を上げる目的などもある。しかし、BOARDの場合はそれらとは完全に異なっている。

 

「さてと、今日は昨日の続きで君の個性のMAXなんかの計測から始めるよ。コスチュームなしと有りの二つで分けるから、今回は着てOKだよ。さあ張り切って行こう」

「分かりましたっ!!」

 

そう言いながら漆黒のコスチュームを纏ったブレイドは早速ランニングマシンのような物に乗るとすぐさま計測がスタートされた。最初こそ普通のダッシュと変わらない速度だが徐々にスピードが増していき、車が高速道路で走るのと変わらない速度まで加速して行く。

 

「ぬおおおおおおっっっ!!!!」

 

研究機関に所属しているヒーロー事務所であるBOARDの基本的な業務は一般的なヒーローとは異なり、個性の研究に殆どが割かれる。剣崎の場合は身体能力の強化なので、通常時と比べてどの位まで強化出来るのかを計測するのが主になっていく。今行っているのも速度の調査だけではなく、それに伴って心肺機能などの強化具合までもが解析されている。

 

「ウェェエエエエエイッッ!!!!」

 

続けてキック力、パンチ力の計測や足の力だけでどれだけの踏ん張りが利くのか、腕力だけでどれ程までの重さを持ち上げられるのか、そして身体の回復能力はどれ程なのか、シバリングはどの程度まで熱を発生させられるのかというこの研究所に指名された理由とされている物に対しても行われた。

 

研究所に所属している彼らは個性の研究、それらのデータを元にサポートアイテムの開発への技術提供や医療関係との提携、個性制御の為のメニュー作りなどなどで研究所は社会に多大な貢献をしている。それらで得られている特許や技術使用料、研究所独自に開発したアイテムなどの売れ行きなどからヒーロー達に支払われる物が決められる。それらは基本歩合制な一般ヒーローとは違って基本給が確りと設定されていて、安定した収入が約束されているのも特徴的。

 

「うおおおおおおっっ!!!??なんの検査なんだこれぇぇぇぇっっ!!!??」

『緊急時における身体能力の計測、だって。まあ言うなれば火事場のクソ力はどの位なのかなって検査、取り敢えず限界まで力を発揮して脅威から回避して見てよ』

「だからってなんで刺の付いた馬鹿でかい鉄球に追いかけられないといけないんだぁぁぁぁっっ!!!!???」

 

と、様々な意味で変わっているがそれはそれで大変なことばかりで様々な事を調べるので本当に意味があるのかと疑いたくなるような検査を受ける必要まであるのである。先程受けたのは身体中をくすぐられてどの程度まで耐えられるのか、身体に電流を流して何処まで耐えられるのか、身体の柔軟さを調べる為に強制的に身体を曲げるベットに括り付けられたり……という検査だったり剣崎からしたら本当になんなんだと言いたくなるような物ばかりだった。

 

『うんうん、僕も受けたなぁ……僕はボールに押し潰されて生死の境を彷徨ったよ』

「はぁっ!!?」

『あの時はマジで死に掛けたなぁ……ははっ、ブレイドもそうならないように頑張ってね』

「ふざけんなぁぁぁぁっっ!!!!」

『うん正しくそれだよね、僕も思う。いい台詞だ。感動的だな……だが無意味だ、ノルマが終わるまで終わらないんだよ本当にこれ……』

「来る場所を、間違えたぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

この後剣崎は文字通り火事場のクソ力を発揮し、迫り来る超巨大刺鉄球に向っていき刺ごと鉄球を蹴り砕くという限界の超越した超パワーを発揮してなんとかその場を生き延びる事に成功した。この後、剣崎に向かって興奮気味に話しかけてくる研究主任がどれほどまでに自分の力が凄いかを語ってくるのだが、肝心の剣崎は死に掛けたというのに労いの言葉が一つも無いので青筋を立てて拳の骨を鳴らしながら研究員に迫った。

 

「待てやめるんだブレイド!!」

「ああっグレイブさん彼を止めてください!!?」

「止めないでくださいグレイブ先輩!!俺は、俺はもう我慢出来ないっ……!!!!」

「違う、殴るなら僕がそいつを抑えるから思いっきりやっちゃえ!!」

「えええええっっっ!!!!??」

 

どうやらグレイブの時も同じようなことだったらしいが、彼の場合はギリギリ刺が身体を貫く事はなかったがそれでも誇張表現一切抜きで死に掛けた、それなのに顔を顰めてもっと真剣にやってくれと言われてもう本気で苛立ったという。その時は死ぬ思いをした影響で身体中から力が抜けていて殴りたくても殴れなかったという。なので今回は全力で剣崎に協力した、結局その研究主任は剣崎に一撃を貰ったという。

 

「ったくなんであんなのが主任やってるんですか!!?」

「一応優秀な上に政府から強引に捻じ込まれたんだ。だから所長もクビする為に抗議中なのさ、多分今回の事でクビする材料も出来ただろうし、近いうちにクビになるんじゃないかな」

 

その言葉の通り、その研究主任は数日後にリストラされた。その時の所長の表情はグレイブ曰く酷く清々しい物だったという。

 

 

そして職場体験の三日目、今日は職場体験らしいパトロールを行うらしい。漸くヒーローらしい事が出来ると思っていた剣崎だがその前に所長が話をしたいらしいから所長室に向かうように言われた。なんだかんだで顔すら合わせていないこの研究所の所長、一体どのような人物なのかと思いつつも案内されて所長室へと通される。

 

「良く来てくれた、エース・ブレイド。そんな名前になったのも運命がそうさせたのかな」

「運命……?」

 

所長室、そこは映画などに出て来そうなほどにきっちりとしていて威厳なども感じられる空間。その奥に佇んでいる男はゆっくりと振り向きながらこちらを見つめてきた、酷く久しく会う友人に向けるような柔らかい笑みを浮かべながら。

 

「初めましてエース・ブレイド、いや剣崎 初君。俺が此処、人類基盤史研究所の所長兼ヒーローチーム・BOARDの最高責任者である橘 朔也だ―――君には心から会いたい、そう思っていたんだ、そして色々と話したい事もあるんだ」

「俺に、ですか……?」



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橘、贈り物

橘 朔也、この研究所の所長。グレイブの上司にも当たる存在でもある、そんな所長が自分に話があるというが一体どのような話があるのだろうか、緊張と少しの不信感が過る中である事を思った。これほどに大規模な研究所の所長を務めているには若々しく酷く元気そうにしている。見た目の年齢は良い所30代前半でスーツと先程まで掛けていたサングラスが良く似合っている。前任の所長が父親だからそれを引き継いだとかなのだろうか……。

 

「俺と話したいって事ですけど、もしかして俺を指名したのってそれが理由なんですか……?」

「いいや違う、君の個性に興味があったのは事実さ。幾ら話をしたいからと言っても指名するなんて事はしないさ、この研究所の特性の関係上出来ない事だからね」

 

思わず口にしてしまった事を否定する橘、何処か自分を警戒するようにしている剣崎に仕方ないかと笑いつつもサングラスを机に置きながら窓から見えている景色を眺めながら言う。

 

「先日の実験は研究員がすまない事をしたね、研究所が大きくなっていく中で政府に此処を自由にコントロールしたいと考える連中もいてね。それから押し付けられた奴で扱いに困っていたんだ」

「グレイブさんからそれはお伺いしましたよ、研究者としては優秀かも知れないけどあれは人としてのモラルがなさ過ぎますよ」

「それには同感だ、近いうちにクビするから安心してくれ。政府の許可も取った、取り敢えずあれはもう主任からは外している」

 

その事について胸を撫で下ろす、ここに職場体験している以上はここの指示に従う必要が出てくる。だがあれは研究主任なので指示を聞かなければいけない、もう変わっていると思うと安心感しか出てこない。

 

「それと君のグレイブとの戦闘も観させてもらったよ。手荒なやり方を許してくれ、人間の本性と言うのはそれなりに追いこまれないと出てこない物なんだ、ヒーローという危険と隣り合わせで人の生死にも関わるからそこを見たかったんだ」

「い、いえそれについては納得してます。それにまあ……雄英の授業も割といきなり苦難をぶつけてくるので慣れているというかなんというか……」

「はははっそれは大変だな、ヒーローになるのも大変だろう?でも大変な思いをしてでもなりたい、そうだろう?」

「はい、俺はなりたいです!!」

 

と真っ直ぐな目で見つめ返してくる剣崎に橘は何処か眩しく思えた。綺麗な笑顔、偽りの無い想い、それらを体現する為に努力を惜しまない姿勢……ヒーローになるべき人材と実感させるような少年。まだまだ実力もグレイブが本気でなかったとはいえ相応に渡り合うなど申し分無い、今すぐにでもプロの相棒(サイドキック)として採用され活躍する事が出来るだろう。

 

「そうか、君のような真っ直ぐな子がヒーローを目指す事が嬉しいよ。これからも頑張ってくれる事を望むよ」

「はい勿論ですよ!!」

 

そう言いながらガッツポーズをする剣崎を横目で見ながら橘は席に着きながら、飛び出している引き出しの中にあるそれを一瞥しながら、何かを決意するように言葉を形にしようとした時、剣崎から言葉が飛び出してきた。

 

「あの、一つ聞いてもいいですか」

「―――なんだい?」

「正直に言いますけど、如何してその所長さんは」

「橘、そう呼んで貰って構わないさ。その方が呼ばれ慣れている」

「そ、そうですか?じゃあ―――橘さんは……」

 

 

―――橘さん、如何しました?

 

 

そう呼ばれた瞬間、噎せ返りそうなほどに脳内に飛んでもない量の光景が飛び込んでくる。そこにあるのは全て過去、自分が体験してきた時間の果てにあった現実たち。それらが一瞬、悪夢のように頭の中を食い潰そうとするがそれらを抑え込みながら目の前に彼の言葉に耳を澄ませた。

 

「橘さんは、何か俺の事を知ってるんですか?さっきの運命が如何とかいってましたし……それに俺と貴方は接点がまるで無い筈です、それなのに俺と話したがったりするのは可笑しいです」

「フム……中々鋭いな。流石は―――ブレイドの名前を受け継いだだけはある」

「ブレイド……受け継ぐ?」

 

橘のいっている事がまるで理解出来ない剣崎、ブレイドとは根津校長が付けてくれた仮面ライダーとしての名前であってこの事を知っているのは根津校長、オールマイト、出久の三人しかいない。あの三人が話すとも思えないし、話してしまったなら事前に言ってくれる筈。では別の事なのだろうか、でもブレイドと言ったらそれしか思い当たる事しかない……意味がまるで分からない。

 

「どういう事なんですか……ブレイドを受け継いだって」

「ブレイド、それはかつて世界を破滅から救った戦士の名前なのさ」

「世界の破滅……?」

「いや、正確には親友を救う事で世界を救った英雄というべきなのだろうな……」

 

過去を懐かしむような視線を浮かべる橘に比べて剣崎は全く理解が追い付いていない。詰る所世界の危機を救ったブレイドという戦士が過去にも居たという事なんだろうか。そして橘から見たら自分はそれを受け継いでいるように見えるという事になる、という事だろうか……。

 

「ご両親は、君が此処に来る事は知っているかい」

「えっ……如何して俺の親が……い、いえ知りませんよ。そ、その俺の父さんと母さんは……えっと……」

 

剣崎はそう言いながら顔に影を作った、それを聞いた橘はそうか……言葉を吐きながら引き出しにしまってあった何かを取り出すとそれを持って剣崎へと近づいてそれを差し出した。顔を上げた剣崎はそれを見る、それは何かの装置にも防具にも見える奇妙な物だった。何処か―――ブレイラウザーに似ているとさえ思えた。

 

「これって一体……?」

「時が来たら君にこれを渡して欲しい……そう頼まれていた物だ」

「渡して欲しいって……」

 

受け取ると不思議と力を感じた、自分の仮面ライダーとしての力と酷く似ているような凄まじいエネルギーを。もう一度詳しく話を聞きたいと思って顔を上げると橘は何処か暖かみのある笑顔を作って肩に手を置いてきた。

 

「これだけは覚えて置いてくれ。大いなる力には大いなる責任が付き纏ってくる、そしてその力は使い方によっては人を幸せにも不幸にもしてしまう大きな物だ。だから―――頑張ってくれ」

「橘さん……わ、分かりました……」

 

迫力ある橘の言い回しに何も言えなくなってしまった剣崎はそのままそれを受け取ると、時間も無いのでそのまま所長室を出てグレイブの元へと走っていく。それを見送った橘は沈めるように椅子に座りこむとファイルに挟み込んである資料を改めて見た、そこには―――剣崎 初の家族に付いて書かれていた。

 

「本当に、これでいいんだな……それがお前の意思なんだな―――剣崎」

 

その資料には彼の父と母の事も確りと書かれていた。そこに書かれている名前、それを橘は何処か懐かしそうに呼んだ―――剣崎 一真、そう書かれているその名前を。



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グレイブ、ヒーローとは

「おっ待ってたよブレイド、所長からはなんだって?期待してるとかこれからも頑張れとかそう言う感じかな、僕も新人時代にそう言われたよ」

「ええっそんな感じなんですけど……」

「如何したの?」

 

研究所から出ると車を待機させながら本を読んでいたグレイブが手巻きしながら笑顔で呼びかけてくる、そんな彼は出てきた後輩が何処か元気がないと言うか腑に落ちないような表情をしている事が気になっている。そんなブレイドの肩を叩きながら自分に相談するように促す。

 

「何か困ったらなんでも相談してくれ、君よりも遥かにここに勤めている時間は長いんだから力になるよ!」

 

と頼りになる先輩感を何とか出そう出そうと頑張っているのが見え見えなグレイブ、今まで後輩を欲しがっていたのもあったからか頼りにされたいというのが強いのか、そういった物が目立つ。先程読んで今しまった本も「後輩に頼りにされる良い先輩のなり方」という本だったりする。因みに剣崎が来ると分かってから即日配達で注文した本、定価980円である。

 

「色々と話はしたんですけど……なんというか、話の内容を汲み取れなかったと言うのか……良く分からなかったっていうのか……」

「よく分からない……?橘さんは割と単純明快に話をしてくれる人な筈なんだけどなぁ……」

「後こんな物を渡されたんです」

 

そう言いながら橘から渡された物をグレイブにも見せてみる、グレイブは何処か物珍しげに見るが見たことも無いし何の為の物なのかも全く検討がつかないらしい。

 

「兎に角持ってた方がいいんじゃないかな、橘さんが渡したんなら君に何かしらの意味がある物なんだと思うよ。ほら此処からなんか固定する為のベルト出るっぽいし」

「それなら左腕の此処に固定するかな、どうやれば……」

 

取り付け方に四苦八苦しているとそれを腕に密着させた途端、まるでそれは身体の一部だったかのように伸びたベルトのような物が腕へと装着された。グレイブはおおっかっこいいなそれ!と言っているが剣崎はその巻き付き方を酷く見た事があるような印象を受ける。それはベルトを装着する時の物と酷く、いや全く同じだったからだ。感じる力も仮面ライダーとしての物に似通っている、本当にこれはなんなのだろうか……。

 

「まあ兎に角、パトロールに出発しよう。これから僕達は最近ヒーロー殺しで騒がしくなってる保須市に向かうよ」

「保須市、ですか」

「ああ」

 

保須市、ヒーロー殺しと呼称されているヴィランであるステインが潜伏している一帯。既に現地のヒーローや警察などが操作を手広く行っているのにも拘らずステインの行方を掴む事は出来ていない。17人のヒーローが殺害、23名が重傷や再起不能、活動休止を受け入れなければならない深刻な事態に陥っている。その為に保須には多くのヒーロー達が集ってステインの確保を画策している。グレイブは市から抑止力としての依頼を研究所経由で請け負ったとの事。

 

「これから僕達も保須に向かい、ヒーロー殺しに対する抑止力としてパトロールや現地警察やヒーローと連携して捜索を開始する。当然現地でヒーロー殺しとの戦闘も想定される、これは相当危険な部類の仕事にはいる。君は断る事も出来るけど如何する、僕は君の意思を尊重するしいざと言うときは僕が君を守る」

「……いえ行かせてください、ヒーロー殺しも許せませんけどあそこは友達が職場体験に行ってるんです。それにあいつ、今かなり不安定になっている。会えないかも知れないけど出来るだけ近くにいてやりたいです」

「……よし分かった」

 

グレイブは姿勢を正すと大声を出しながらブレイドを見つめる。

 

「それじゃあこれよりグレートブレイブヒーロー・グレイブ及びスペードヒーロー・エース・ブレイドは保須市に出発する。目的は現地ヒーロー及び警察と連携しヒーロー殺し、ヴィラン名「ステイン」を確保の為の活動。個性使用はヴィランに対する正当防衛、ヴィラン戦闘中のヒーローの援護、民間人への保護の場合は例外的に認める事にする。これらを留意する事!!」

「了解しました、これよりスペードヒーロー・エース・ブレイドは活動を開始します!!」

「では―――搭乗!!」

 

と同時に車に乗り込むとグレイブが一気にアクセルを踏み込んで出発して行く、研究所の敷地を出た辺りでグレイブは硬くなっていた空気を緩くするように軽く笑う。

 

「いやぁ乗ってくれて有難うね、一回でいいからああいうのやってみたくて♪」

「あははっ楽しいですもんね」

「(よし中々好感触……!!先輩としての威厳も大切、だが接しやすい先輩ほど尊敬されやすい……だからね!!)」

 

本で学んだ事を早速取り入れながら剣崎との仲が好くなっている事にホッと胸を撫で下ろしながら、保須市に向かって車を走らせて行く。今現在12時辺り、現地に着く頃には午後3時辺りにはなっているだろうか……様々な事を思いながら走っていく車の中で剣崎は飯田の事を思うのであった。

 

「(無事だといいんだけど……あいつ、先走らないといいけどな……)」

「ねぇブレイド、さっき友達が保須にいるって言ってたけどさ……もしかしてそれってインゲニウムの弟さんの事かい?」

「えっグレイブ先輩知ってるんですか、飯田の事!?」

「ああっ彼のお兄さん、インゲニウムとは中学の頃からの友人でね。一緒にヒーロー科を卒業したもんさ」

 

車を運転しながら質問に答えるグレイブ、まさか彼は飯田の兄でもあり大人気ヒーローのインゲニウムと友人の関係にあるとは驚きである。しかもかなり親しい間柄らしく頻繁に連絡を取り合っていたらしく、インゲニウムから一緒にヒーローをしないかという移籍話まで持ち掛けられていたらしい。

 

「あいつがやられたって聞いた時は……凄いショックだったさ。自惚れとかじゃなくて俺と互角なあいつがやられるなんて信じられなかった……」

「……インゲニウムの弟、天哉は多分お兄さんを仇を取ろうとしてると思うんです」

「やっぱり、か……。真面目で実直な彼は酷くお兄さんに憧れてた、そうするなじゃないかって不安だったんだけどそっか……分からなくも無いけど、私情での復讐なんてヒーローが一番しちゃ行けない行為だ」

 

ヒーローはヒーローである、それに踏み止まらなければならない。ヒーローとヴィランは表裏一体、ヴィランは個性を自らの欲を満たす為に、その為なら誰かを傷つけたりする事も厭わない者の事を指す。ヒーローが復讐を行ってしまえばそれはヴィランと何も変わらなくなる。個性の規制が進んでいく中で許可されているヒーロー活動、そう捉えれば重い罪になる。故にヒーローには逮捕や刑罰を行使する権限は無い。

 

「俺だって本当はあいつの仇をとってやりたい、そう思ったけどしない。例えばだけどさ、君だったら同じ夢を追いかけてた仲間が夢を諦めるしかないって誰かにされたとしたら―――復讐、するかい?」

「……分かりません、俺は一緒に夢を追いかけてくれる友達なんていなかったし……」

「そっか、自分なら―――復讐はするね確実に」

 

そう道を曲がりながら即答するグレイブに言っている事が違うじゃないかと思ったが直ぐにそれらの答えが返ってくる。

 

「でもインゲニウムは復讐なんて望んでなかった、だからしない」

「そんな簡単に割り切れるんですか……?」

「う~ん無理かな。でも本人が復讐望んでないのにやっちゃったら、自分がそうさせたって今度はインゲニウムが苦しむじゃない。だからしないのさ」

 

そう言いながらハンドルとギアを操作して保須へと向かう高速道路に乗って行く最中のグレイブの表情は酷く穏やかな物だった。とても親しい友人が重傷を負わされた人間がするとは思えないような清々しさがそこにあった。これがヒーローなのかとも思いながら、剣崎はそれを素晴らしいと思いながら車のシートに身体を預けながらスマホのグループチャットに目を通しながら、これから保須へと向かう事を言って見るが飯田だけ既読になったまま返信が無い事に不安を覚える。普段なら既読から3分以内に返信が返ってくると言うのに……。

 

「大丈夫、だといいんだけどな……」

「何心配しなくても大丈夫さ。保須には僕達以外にも多くのヒーローがいるし、あのエンデヴァーまで入ったって話もあるし」

 

様々な想いが交錯して行く保須市、蠢く悪意と血の連鎖。それは最後に何を齎すのだろうか……。

 

―――さぁっショーの始まりだ……戦いの始まり、ヒーローとヴィランの戦い、名づけてバトルファイトの序章の始まりだぁぁぁっっ!!!!



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保須市、ヒーロー殺し

「という訳で保須市に到着!!」

「やっぱり、地味に遠いですね」

「まあねぇ……途中ご飯休憩とかにも時間使ったけどそれでも結構掛かったから」

 

目的地であった保須へと到着したグレイブとブレイド。依頼を受けた市役所で到着の報告とこれからパトロールをする事、現地のヒーロー事務所の連絡先や警察へ自分達が使用している小型端末の事などを報告した後に早速パトロールが開始される。

 

「さてと基本的なパトロールルートは大通りを中心としながら横道とか裏通りにも目を光らせる感じで行こう。ヴィランは基本的に闇に紛れるからね」

「了解です」

「それじゃあ、行こうか」

 

そう言うとグレイブが鎧に合わせられているかのようなヘルメットを装着する、途端にヘルメットは鎧と融合するかのように接続されて目の部分が一瞬光を放つ。この状態がグレイブがヒーローとして活躍する本来の形態らしく、メット部分には特別製のバイザーが仕込まれており防具というだけではなく相手の分析や追跡、連絡装置などなど様々な装置が仕込まれているらしい。そのまま外へと出向くパトロールを開始する。

 

「やっぱり視線引きますね」

「ははっそりゃこんなに堂々とパトロールしてるからね、目を引くのは当然さ。それに一般的なヒーローコスチュームと違って僕達の奴も目立つ原因かな」

「……確かに」

 

パトロール中、大通りを通りながら各所に目を光らせている中で凄い数の一般人からの視線を感じる。それも当然、ヒーローがいるというだけで生まれる安心感や憧れのヒーローがいる、様々な感情がヒーローがいるだけで生み出されている。加えてグレイブのそれはそのまま鎧、ブレイドのは一般的なヒーローの物に近いが、それでもヒーローの物は華やかで煌びやかな物が多いが彼の物は黒を主体している。あるにしても金のラインが走っている程度である。

 

「あっおい、あれってグレイブじゃね!?」

「嘘マジで!!?なんで、メッチャクチャラッキーじゃん!!」

 

詳しい情報こそ秘匿されているが、それでも確かな実力と温和な性格で人気を博しているグレイブ。そこら中から声を掛けられ、それに応じるように優しく手を振っている。メットを脱ぐ事も吝かでは無いのだが生憎、今現在はパトロール中なのでメットからか入ってくる情報にも目を通して起きたいので外せない。

 

「「「あ、あのグレイブさんその……よ、よよよよ、宜しければサインお願いします!!!」」」

「勿論。ファンサービスは僕のモットーですから♪」

 

そう言いながら色紙を受け取ると腰のホルダーから飛び出してきたペンを持って流れるような動作でサインを書いていく。そして猛々しくも流麗に書き綴ったサインを甘い声色で差し出していき、次のサインに受け答えていく。剣崎が思った以上に人気が高いらしく周囲には何時の間にか、多くの人だかりが出来ていた。そんな中、幼い兄弟が自分に抱きつくかのようにしながら見上げてきた。

 

「けんざき、はじめさん、ぼくたち、ファンなんです、サインください!!」

「ください!!」

「サ、サイン……!?俺のを、かい……?」

「「はいくださいっ!!」」

 

とキラキラとした瞳で見つめてくる幼い兄弟、そんな視線に負けてしまったのか覚束無い手つきで持っていた色紙を受け取る。そして過去に出久に書いたサインを思い出しながらそれを若干アレンジする形で書いて行く。

 

「はい、これでいいかな」

「ありがとうございます!!」

「ありがとう!!……これって何て読んだら良いの~?」

 

と首を傾げる男の子にしまったと思ってしまう、出久に書いた時は英語だったの流れでそうしてしまった。二人のそれにルビを振るようにして再度手渡しながら、そこに書かれている名前を呼んだ。

 

「そこにあるのは俺のヒーローネーム。俺はエース、ACE BLADE(エース ブレイド)だ、まだまだちゃんとしたヒーローじゃないけど応援宜しくっ!」

「「うんっありがとうブレイド!!」」

 

と笑顔のまま近くにいた母親と父親の元へと返って行く兄弟は自分が貰ったサインの存在を高らかに自慢するのであった。その時、エース・ブレイドという世間に全く浸透していない名前に周囲の人達は疑問を抱きながら剣崎へと視線が集まって行く。

 

「ホント、あの子雄英の体育祭で優勝した剣崎 初じゃないか!!」

「本当だ!!あの馬鹿でかい氷とか砕いて飛び出したり、初戦で凄い熱いバトルやった子じゃないか!!」

「それじゃあ凄い将来有望な子じゃないか!!もうサイドキックになってるのか!!?」

 

とあっという間に自分の周りにも多くの人が集まってきてしまった、まさか自分に此処までファンが出来ているなんて考えてもいなかった剣崎は困惑していると耳に付けている通信機からグレイブの言葉が聞こえてくる。

 

『そりゃ優勝しているんだから当然さ、さあさあ早く処理して行かないと。苦手なら今のうちに慣れておく絶好の機会だよ』

『りょ、了解です……』

 

「体育祭見てたぜ!!あんな激熱なバトルが出来る新人なんて滅多にいないぜ!!サインくれサイン!!」

「ええ勿論」

「体育祭で一気にファンになりました!!写真お願いします!!」

「有難うございます」

「もうサイドキックになったのか!!?凄いなぁ!!」

「いえっ職場体験でグレイブの所へ」

「すいません、先程サインを貰った子達の母ですけど……す、すいませんけど私にもサインを頂けませんか?」

「……ええ勿論です」

 

と余りの多さに若干口角が痙攣しているような気もするが、手早くサインやら写真などをこなしていく。元々マスコミ相手に苦手意識を持っていた剣崎だが、それらを解消する機会だと思いながら笑顔を保ったままそれらに応じていく。子供を肩に乗せて家族全員で写真撮影、サインに書いて欲しい事を書く、握手などなど……ファンサービスがモットーというグレイブも満点を上げたい対応を次々と中々の速度で行っていく。気づけば周囲にいた凄まじい人集りが無くなっていたが、剣崎は内心で酷く疲れていた。

 

「ハッハッハッどうだい初めてのファンの対応は」

「た、大変ですね……よくもこれをモットーって言えますね……」

「要するに慣れさ。それに何れは近くに彼らが来てくれる事に安心感を覚えるさ、同時に彼らを守るだって強く思うようになる」

 

そう言われるとハッとする、確かにそうだ。彼らはファンだが同時に自分達ヒーローが守るべき人々でもある、彼らが安心して自分達にサインなどを求められるのも自分達が齎した物の結果とも言える。そう思うと自然とファンサービスをもっとしてもいいかな、とも思えてきてしまった。

 

「それにファンの人達から色々聞いたけど、あっちの方で怪しい人影を見たってさ」

「えっ何時の間に」

「ふふん、ファンサービスも思考の方向性さ」

 

グレイブは聞いた方向に向かいながら自分が思っている事を話す、確かにファン達はある意味煩わしいかもしれない。だが時には自分達が情報を欲しくて聞き込みをするかもしれない、そんな時にファンは率先して情報を提供してくれる。それらによって目的や不意の事故を防いで人々を助けられる、そう考えれば良いのだと。

 

「成程……ファンへの対応一つでも色んな事が出来るって事ですね、俺なんかこなして行く事しか出来ませんでしたよ……」

「初めてなんだからしょうがないさ、何でもかんでも最初から出来たら練習なんて必要ない。初めての事は少なからず戸惑ったり分からなかったりするんだからそこは積み重ねて出来るようになればいい、それが当たり前なんだからさ」

「おおっ凄い、優勝者じゃん。サイン貰えないかな」

「ほらッ早速きたよ」

 

とグレイブが背後のファンを指差した、振り向いて見ると―――そこには赤いジャケットを羽織っている金髪の軽そうな青年がいた。

 

「ええっ勿論」

「んじゃこれにお願い」

 

そう言って差し出された色紙を受け取りながらサインを書きこんでいく、書き終わるとついでに写真も良いかと言われるので勿論と答える。

 

「そうだ、この辺りで変な事とか起きてないですかね」

「変な事ねぇ~……そう言えば何処かって言われたら覚えて無いけどなんか血っぽい匂いがしたなぁ」

「血、ですか……」

「まあ気のせいかも知れないし、血のにおいって言うなれば鉄だし。んな事より写真」

「あっはい」

 

そう言いながら写真を受け入れると、青年はブレイドの方に手を回しながら持った写真で自撮りをするかのような角度で携帯を上げていく。少々乱暴なやり方だがブレイドは何も思わずに写真が取られるの待とうとした時、不意に彼がこんな事を言った。

 

「―――君が今のブレイドか……。ふぅん、中々強そうじゃないか」

「えっ何をっ……」

 

自然と世界から音が消えたかのような錯覚に囚われた、灰色になった世界の中で自分とその青年だけが色が付いているかのように時間が進んで行く。

 

「僕と戦う時まで、もっと強くなりなよ―――それじゃあ写真有難うね」

「えっあっ……はい、如何、致しまして……?」

 

青年が離れると世界は元の通りになっていた、そして去って行く彼を見送るが何処かからだがふわふわしているかのような不思議な感覚に陥っている。一体何がどうなっていたのだろうか、よく分からない時だったがグレイブに声を掛けられて正気に戻った。

 

「大丈夫?」

「え、ええ大丈夫です……」

「そっか、それじゃあ―――」

 

そんな時であった、街の一角から大爆発が起こり炎が上がったのである。天を焦がすかのように上がった火の手、反射的にそちらへと目線が行く。

 

「あれはっ―――!!」

「まさかヴィランッ!!?」

 

同時に剣崎の身体に電流が駆け巡った、それは彼が本能的に捉えるヴィランの存在の警報。それがヴィランの存在を裏付けていた、二人同時に駆け出しながらそこへと急行しようとした時の事だった。剣崎の携帯に出久からメッセージが入ってきた。自動的に読み上げられたそれは座標を示すかのような物だった、それを聞いたグレイブも思わず足を止めていしまった―――その座標は保須市、しかもこの近くを示していたのだから。

 

「まさかブレイドの同級生の救援信号……!?こんな時にッ……!!!」

 

思わず毒づいたグレイブ、重なり合っているこの状況で最悪の展開だ。同じ保須市、しかもヒーロー殺しがいるかもしれないこの街での座標メッセージ、それはもしかしたらヒーロー殺しの事を示しているのかもしれないからだ。ブレイドは歯軋りをしながら如何すればと思ったが、グレイブは即座に言った。

 

「行けっブレイド、友達を救え!!!」

「ッ!?」

「俺に出来なかった事を―――友達を自分の手で救え、責任は俺が取ってやるっ!!!!」

「―――ッ!はいっ!!」

 

同時に反対方向に飛び出して行く二人、剣崎は座標の場所へと全力で走っていく。ビルとビルの間を蹴って進んでいく。そして剣崎は途中バックルを取り出して装着する、この先もしも自分がヴィランに遭遇して戦闘した場合グレイブにも迷惑が掛かるかもしれない。だったら別人として、仮面ライダーとして戦えば良いと思い至った。同時に自分の戦闘力を跳ね上げる事が出来るのだから一石二鳥だ。

 

「今行くぞ出久!!変身!!!

TURN UP

 

仮面ライダーブレイドへと変身しながらビルの屋上を蹴って現場へと急行して行く、そして遂に見えた座標の場。そこには巨大な刃物を持った男とそれに相対するかのように低い姿勢を取っている出久、それに近くに倒れているヒーロー、そして―――飯田がそこにいた。男はゆっくりと低い姿勢を取ったままの出久を素通り、いや動けない出久を無視するかのように刃物を構えながら飯田へと向かって行く。そして―――刃が飯田の首へと添えられた時、身体が爆発的に動いた。

 

「おおおおぉぉぉぉっっ!!!」

「むっ……!!」

 

爆発的に壁を蹴ったブレイド、抜刀したブレイラウザーが振るわれたがそれは男が手にする刃に防がれる。凄まじい反応速度だ、腕を上に振るって相手を吹き飛ばすかのようにすると同時に背後から炎が巻き起こり男のみを牽制するかのように襲いかかった。男はそれを回避するかのように後ろへと飛ぶ。

 

「次から次へと……」

「緑谷、遅くなってすまなかった」

 

そこに現れたのは轟だった。彼は氷を展開して器用に倒れているヒーローや出久、飯田を自分の方へと引き寄せる。ブレイドもそれに合わせるように彼の隣に着地する。

 

「仮面、ライダー……お前もあいつ、ヒーロー殺しが目的か」

「……似たような物だ」

 

出来るだけ声を低くして自分だとバレないようにして答える、轟はそうかと言いながら前を向きなおすで上手く誤魔化せたのかと安心しながら目の前の相手、ヒーロー殺し、ステインへと剣を構えた。

 

「轟君、それにっ……!(剣崎、君来てくれたんだっ!!!)」

 

救いのヒーローと称され英雄とされる仮面ライダー、ヒーローを立て続けに襲撃し殺害して行くヴィラン、ステイン。それが相対した瞬間であった―――。



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ステインと仮面ライダー、真の英雄

出久を助ける為に変身し仮面ライダーブレイドの姿へとなった剣崎、彼は前に出て自らを盾として扱うようにしながら剣をヒーロー殺し、ステインへと向ける。じりじりとすり足で接近して行くブレイド、それに合わせるかのように長めの武器を手に取ってそれに備える。轟はそれに合わせるかのようにしながら氷の壁で何時でも防御と撤退、炎で攻撃と牽制が出来るようにしていた。

 

「「……―――ッ!!」」

 

刹那、両者が同時に飛び出すと凄まじい金属音が周囲に木霊しながら爆風にも似た剣圧によって巻き起こされた衝撃が広まっていく。剣がぶつかりあって互いの一撃一撃が相殺されていくかのように、消えていく。一合、二合とあっという間に互いに振るわれていく剣戟の数が膨大な数へと膨れ上がって行く。剣崎は剣戟で自分についてくるレベルまでに高められた技術、そしてステインの研ぎ澄まされた身体能力に驚かされた。

 

「「―――ッ!!!」」

 

逆手持ちで自分の身体に剣を隠しながら、剣の切っ先を持ちながら一気に振り下ろしてくる。それらを受け流しながら奥の身体へと狙いを定めようとするが同時に上げられた蹴りが腹部を狙ってきていた。回避も考えたが剣崎は敢てそれを身体で受け止める。刺が付けられているブーツの一撃にも殺傷力は十分にある、だが仮面ライダーの装甲を貫通するほどではなく逆に刺が粉砕される。

 

「はぁっ……良い、良いぞ……」

「こいつっ……!!」

 

腹部へと以前突き刺さるかのように入っている足を掴むと身体全体を回転させて、ステインを投げ飛ばす。壁へと激突するはずだった、が寸前で腕で衝撃を全て受け止めるとそのままバネのようにしながら剣崎へと蹴りかかった。鋭い蹴り上げるかのような物だが、それを拳で受け止める。するとステインは更に不気味な笑みを浮かべたまま背後へと飛んだ。

 

「す、凄い……っ!!」

「これが、仮面ライダーの力って奴か……」

 

個性社会では珍しい剣戟戦と激しい格闘戦、撤退の機会を窺っていた出久たち。下手に動けばステインが此方に標的を変えてくるのを警戒して大きな隙が出来るのを待っていたのだが、遥かに違う戦闘技術の差に驚きを隠せていなかった。出久は剣崎と何度も手合わせをして特訓をしているが、それでも彼は手加減をしてくれていたという事を思い知らされる、そして……飯田は未だに動かない身体に力を込めながら自分ではステインを倒せないことを痛感しながら出久や轟を巻き込んだ事を酷く後悔していた。

 

「僕は、僕は……ごめん二人とも……!!!僕なんかのせいで……僕は、ヒーロー失格だ……!!」

「飯田君……気にしないでよ、誰だってお兄さんが傷つけられたら居ても立ってもいられなくなる。これからそれを制御出来るようになればいいんだよ」

「緑谷に同感だ。感情はそう簡単に制御できねぇ、それは俺がよく分かってる」

 

そう言いながら飯田を励ましている最中、仮面ライダーが一気に後退して彼らへと飛んで行った刃を腕を振るって粉砕して守る。それらを見て、ステインは更に喜びに満ちた狂気的な笑みを浮かべる。

 

「あの化けもん、常に数択を迫って来てやがんな。仮面ライダーが防御とか敢て受けるとかしなきゃ俺達に攻撃が飛んでくる……くそ、早い所撤退しないとマジで足手纏いだ」

「でも下手に動こうとしたら逆効果だ、タイミングを待たないと……!!!よし、身体が動くようになったっ!!」

 

立ち上がった出久、彼は相手に血を舐められてから動きが取れなくなっていた。しかし先に血を舐められていた飯田や標的になってしまっているヒーローはまだ身体が動かせない。どうやら相手を動けなくするにも条件があるらしい、そして出久は気づいた。

 

「仮面ライダー!!アイツに絶対血を舐めさせちゃ駄目だ!!あいつは多分、相手の血を舐める事で動きを封じる、そしてその血液型によって時間が異なるんだ!!」

「はぁっ……お前も良いなぁ矢張り……正解だ」

 

ステインの個性、それは「凝血」。相手の血液を経口摂取し、相手の身体の自由を最大で8分間まで奪う個性。血液型によって効果時間は異なり、O<A<AB<Bの順で奪える時間は増える。 個性だけ見れば強い個性とは言えないが、ステインの戦闘スタイルや身体能力がそれを強個性へと変貌させている。

 

「仮面、ライダー……お前は実にいい。正に真のヒーローと呼ぶべき存在だ。お前は俺がそいつらに攻撃する事を読みきった上で奴らを守る為に自らを盾にしている。自らを顧みず他を救い出す、それこそ真のヒーロー、本物の英雄というものだ」

「……」

「一つ聞く、お前は何故奴らを助ける」

 

何かを確認するかのようなステインの言葉、それを尋ねられた時に剣崎は剣を構え直しながら差も当たり前のように答えた。

 

「誰かを救う為に理由なんて要らない、俺がそこにいる人を救いたいと思ったそれだけの事だ。誰かを救える力があるならば、それを行使する、それだけの事だ」

 

紛れも無い剣崎の本音。嘗てオールマイトに語ったものと同じ彼の本質、目の前で苦しんでいる人を救いたい。ただそれだけの想い、自分という1を用いて助けを求める1を救いそれを繰り返していく。それは"ワン・フォー・ワン"ではなく"ワン・フォー・オール"へとなっていく。自分の力を誰かの為に使いたい、それが剣崎の本音である。それを受けたステインは恍惚とした表情で天を見上げ、仮面ライダーへと剣を向ける。

 

「お前は、正しく真のヒーローだ。オールマイトにも匹敵する真の英雄、そう認められるべき存在だ。貴様こそ今の世界に居るべきヒーローだ……!!」

 

と剣崎をまるで憧れのヒーローを目の当たりにしたかのような表情で見つめてくる、ヒーロー殺しの根底にあるのはヒーローへの憎しみなどでは無い。本来ヒーローになるべきような信念、営利目的、ヒーローという輝かしいものを汚す存在を憎んでいるのだと剣崎は直観する。まるで―――ヒーローに失望していた自分のようだ。

 

「ステイン、お前は―――」

 

新たに声を発そうとした時、二人の間に突如何かが来襲して来た。

 

「な、なにっ!?」

 

出久の声が周囲に木霊する中でそれはゆっくりと身体を持ちあげた。それはまるで二足歩行をしている動物だった、だがその外見は何処かグロテスクでおぞましい。髑髏とヤギを融合させたかのような不気味な顔、気色悪く発達している筋肉、見ているだけで鳥肌が立ちそうなほど。ヤギの角のような得物をその手に持っているそれはまるでゾンビのような不規則な動きをしながらも周囲を見渡すと、凄まじい勢いで接近してきて斬りかかって来た。

 

「なっ!!?ぐっ!!!」

 

突然の強襲に驚きつつもブレイライザーで防御するが、それは素早い動きでブレイラウザーの防御をすり抜けて凄まじい殴打のラッシュを加えてくる。そして肩にある角で剣崎を壁にまで吹き飛ばすとその心臓に向かって勢いよく得物を突き刺さんと突撃した―――がっ突如その怪物は後ろへ飛び去って距離をとった。

 

「……はぁっ逃したか」

 

向けられた刃が懐の寸前まで迫り、それを回避する為に飛び去ったのである。それはステインの刃だった。まるで―――ステインがブレイドを守ったかのような光景に出久たちは驚きを隠せなかった。

 

「社会に蔓延る偽者、悪戯に力を振りまく犯罪者、それも粛清対象だ。貴様のようなモノに真の英雄(仮面ライダー)をやらせはしない」

 

そう言うとステインは一気にヤギの怪物のようなモノに接近して切りかかった、凄まじい怒涛の猛攻。それらは命中せずとも相手の動きを確かに制限して行く洗練された物だった。それらを受け続けた怪物は壁を蹴って何処かへと去って行く。

 

「逃すかっ……!!!仮面ライダー、お前というヒーローに会えた事を誇りに思う」

 

そう言うとステインも壁キックを繰り返してその怪物を追っていく、途中仮面ライダーへと視線を向けるとそのままステインは去って行ってしまった。取り逃したというよりも見逃してもらえたような状況に出久達は言葉を失っていた。すると目の前までやってきたブレイドはカードをラウズすると、飯田達の怪我を治療する。

 

「け、怪我が……治ったっ……!?」

「あ、相澤先生にもやった奴だよ。これで先生の怪我も凄い治ったんだ……」

「すげぇ力だな……」

 

怪我の治療が完了すると彼らを一瞥し、仮面ライダーは消えて行くのであった。その直後、凄い勢いでやってきた剣崎が到着するのであったが轟から遅すぎると言われるのであった。その後、ステインがエンデヴァーによって確保されたという情報が広まっていった。しかし、ステインが負っていた奇妙な怪物は確認出来ず、寧ろステインはそれによって凄まじい重傷を負っていたとの事。

 

こうして、ヒーロー殺し・ステインによる一連の事件は幕を下ろす―――だがステインが巻き起こした嵐のような流れは収まる事を知らずに悪意の炎を更に大きくする結果となる。

 

 

「あの怪物、何なんだった……?なんか、妙に身体がざわめいたというか……不思議な感覚があったような……」



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終わった職場体験

『贋物……!!正さねば……誰かが……血に染まらねば……!!英雄(ヒーロー)を取り戻さねば!!!ヒーローを、奴のようなものにしなければ……来い、来てみろ贋物……!!!俺を殺していいのは、本物の英雄(オールマイト)真の英雄(仮面ライダー)だけだ!!!』

 

「ステイン……貴方だって俺と同じような道を歩めた筈だったんだ……進む道が違っただけで貴方は―――俺と全く同じなんだ」

 

動画サイトにて掲載されているステインが確保される寸前の映像、それは全身から血を噴出し腕も足も折れている筈なのに全く折れない強靭な意思で身体を支えながらエンデヴァーと相対する物だった。映像越しでも読み取れるほどに発散されている殺気と尋常では無い怒りと気迫、それらを受けてエンデヴァーは動けなくなるほどの物だった。しかし既に重傷を負っていたステインは立ったまま気を失ってしまい、そのまま確保されたという。

 

「ブレイド、さあ個性研究の続きするよ」

「あっはい、今行きます」

 

ヒーロー殺し・ステイン。本名、赤黒 血染。彼もまた剣崎と同じようにヒーローに憧れながらもヒーローに深い失望を覚えていた。言うなれば―――ヒーロー殺しは有り得たかもしれない仮面ライダーの姿として剣崎に深く深く刻み込まれていた。たった一度の出会いが大きく運命を変えた。憧れのヒーローとの邂逅、そして結んだ約束、それらが齎した道。僅かな違いがあっただけで自分とステインは酷く似ていると思えて致し方なかった。

 

「今日まで有難うございましたグレイブ、なんか色々と迷惑掛けちゃって……」

「何の何の、無事に職場体験が終わって何よりだよ。それに僕は君を守るべき立場なのに色々と丸投げしちゃった。それについても悪かったね。兎に角、この経験を糧により一層の努力を望むよ」

 

こうして激動の職場体験が終わりを告げた、去っていく研究所と駅まで見送りに来てくれたグレイブに頭を下げて剣崎は電車に乗って帰路に付くのであった。しかし、その間もステインの事が如何にも離れなかった。そしてもう一つ―――最後、自分に襲いかかってきたあのヤギのような怪物……USJにてオールマイトへの切り札とされていたあれともまた違う物を感じるあれ、あれはまるで―――仮面ライダーに近い何かを剣崎は感じていた。

 

「ケロッ?剣崎ちゃん」

「あっ梅雨ちゃん……?」

 

帰路の途中、出会ったのは同じように職場体験先から戻ってきていた梅雨ちゃんだった。今日はそのまま家に帰って明日登校する事になっている。必要な報告やらは体験先がやってくれているのでそのまま帰っても良いという事らしい。

 

「職場体験お疲れ様、そっちは如何だった?」

「基本的にパトロールに掃除、トレーニングばっかりだったわね。でも一度隣国からの密航者確保に同行させて貰って、そこで活躍出来たと思うわ」

「そりゃ凄いな。こっちは基本的に毎日毎日個性の研究と実験が主だったよ」

「でも剣崎ちゃん、保須市で人命救助に貢献したって話じゃない」

 

そう、ステインとの戦闘後に出久達と合流した後でグレイブもその場に現れて人命救助の手伝いをして欲しいと言われて剣崎は共にその場に向かった。USJにてヴィラン連合が切り札として連れてきた脳無と呼ばれるものの同類が暴れまわった影響で周囲にかなりの被害が出た上に、火事やら建物の崩壊などが相次いだらしい。そして建物などに取り残された人達を救うのに剣崎はコスチュームの能力をフル活用して多くの人の命を救っていた。エンデヴァーによるステイン確保に隠れてしまってはいるが、剣崎はエース・ブレイドとして立派な働きをしたとニュースでも流されている。

 

「俺のコスチュームはそういうのに優れてるからね、ああいった場だと独壇場さ」

「でもそれを活用出来たのは剣崎ちゃんの力があったからよ、もっと胸を張って良いと思うわ」

「……有難う、梅雨ちゃん」

 

素直に梅雨ちゃんの言葉は嬉しかった、グレイブからも人の命を救った素晴らしい功績でヴィランを倒すよりももっと素晴らしいと評価された。でもステインの事が頭から離れなくなっていた剣崎にとって、今の梅雨ちゃんの言葉は改めて自分がなりたかった救いのヒーローとしての道を歩み始めている一歩であると実感出来た。

 

「梅雨ちゃんはこれからもう帰り?」

「そうね、でも今うちには誰も居ないみたいなの。お父さん達はちょっと出かけちゃってて帰って来るのは夜遅くか明日みたいなの。だから取り敢えずこのまま夕ご飯の材料でも買って帰ろうと思ってるの」

「ふ~ん……それなら家にこない?俺も家に帰っても誰も居なくて暇なんだ」

「ケ、ケロッ良いのかしら……?」

「寧ろ来てくれると有難いかな、今は君と一緒にいたいんだ」

 

真顔でそんな事をいってくる剣崎に思わず顔を赤くしながらも、断る理由も無いので剣崎の家に行く事になった梅雨ちゃんは小さく、そんな事を面と向かって言わなくてもいいのに……と言いながら彼の後に続くのであった。

 

「さあっ上がってよ梅雨ちゃん、遠慮とかしなくていいからさ」

「おっお邪魔します……」

 

そう言いながら到着した剣崎の家だが、梅雨ちゃんは緊張してずっと硬くなりっぱなしだった。しかし次第に慣れていった後に互いに職場体験でどんな事をしたのかを、話し合いながら感想などを述べていくのだった。そして、話の内容はステインへの事へとなっていった。

 

「ヒーロー殺し……やっぱりとんでもない相手だったのね。でも私はちょっと安心したわ、剣崎ちゃんだったら絶対に会ったら戦ってたと思うから」

「否定できないのが辛いなぁ……」

「ええっきっと緑谷ちゃんに轟ちゃん、飯田ちゃんを助けようとして自分の身体を盾にしたり回避出来る筈の攻撃をしなかったりしてたと思うわ」

「(す、鋭い……)」

 

と仮面ライダーになっていた時の自分の行動の殆どを看破されているのに冷や汗が出てくる。流石の直観と推理力、自分の事をよく分かっている……。

 

「私との約束はきっと守ってくれる、でもその為に目の前で友達が傷つくなんて許せない。そう言って自分を犠牲にして、その後で私に頭を下げて謝ったりしそうよね剣崎ちゃん」

「……実際そうするだろうから何も言えないよ」

 

本当に自分の性格や行動原理をよく分かっていると梅雨ちゃんにある意味尊敬を向けてしまう。そんな彼女は隣に座りこみながら自分の手をとって握り締める。

 

「剣崎ちゃん、だから無理に私との約束を守ろうとしなくてもいいわ。その代わり―――私が安心出来るように毎日笑顔を見せてね」

「っ……ああ分かった、じゃあ梅雨ちゃんも何時も笑顔で居てね」

「勿論よ」

 

そう言いながら互いに笑みを浮かべながら強い握手を握る、そんな事をしていると次第に梅雨ちゃんは自分のやっていることが徐々に恥ずかしくなって来たのか顔を背けてしまったが剣崎はそんな顔も可愛いなぁと言うと更に顔を赤くしながらポカポカと剣崎を叩くのであった。

 

「いやぁごめんごめん、つい思った事を言っちゃったよ」

「っ~~!!!!剣崎ちゃんの馬鹿馬鹿馬鹿……!!」

「だって本当に可愛いんだもんしょうがないじゃんっていってぇっ!!?ちょ、ちょっと待って梅雨ちゃん!?舌で殴るの反則!!?」

「もう剣崎ちゃんなんて知らないっ……!!」

「わぁぁぁっ梅雨ちゃん待って待って!!?ぎゃあああああああっっ!!!??」



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賞賛と正義

「よぉエース・ブレイド!!お前、人命救助に凄い貢献したらしいじゃねぇか!!ニュースで凄い話題になってたぜ!!」

「流石だな剣崎、同じクラスメイトとして誇りに思うぞ」

 

職場体験後初の授業、教室にて今日の献立でも考えている剣崎だったがそこに切島と常闇が職場体験中に起こったヒーロー殺しと平行して起こった脳無の破壊活動によって起きた被害から人々を救った事をネタにしながら話しかけてきた。

 

「やめてくれよ、俺は別段特別な事をしたつもりはない

「いやいや何言ってんだよ、あんだけの人の命を救ってるんだぜ!?誇っていいに決まってるじゃねぇか!!」

「切島の言う通りだ。窮地に陥る生命の危険を味わった人々をその手で救った、それは人として誇っていい物だ」

 

そう言って二人はエース・ブレイドの活躍を賞賛して行く、それらに周囲のクラスメイトも加わって剣崎を持ち上げて行く。だがそれでも剣崎は賞賛を一切受け取らなかった、如何してそこまで名誉な事なのに受け取らないのかと尋ねられるとこう答える。

 

「ヒーローとして至極当然な事をした、それだけさ」

 

ヒーローとして人を救う、それは当たり前の事。彼にとっては誰かを救うと言うことは当たり前の事で喜ぶべき事は自分が行動した事でその人達を救えたと言うことが重要であり、自分への評価など如何でも良いにも程がある。

 

「カッコいいなぁお前!!男らしいぜ!!」

「でも良いのか剣崎、得られる栄誉を捨てるという事にもなりえるが……」

「もう、貰ってるから良いんだよ」

「貰っている……?」

「ああっ助かった人達の笑顔さ」

 

―――助けてありがとうっ!!

 

それが何よりの報酬であり自分が得るべき名誉であり証明、救う事が出来たと言う事実とその人が取り戻した笑顔。それだけで剣崎は満たされている、そんな報酬を受けている剣崎にとって大きく満たされている。そんな彼の表情を見ると皆は言うのをやめてそっかと納得していった。あそこまで清々しい笑みを浮かべられては何も言えなくなるというもの。その日、剣崎の調子は絶好調なのかヒーロー基礎学で行われた救助訓練レースでも好成績を残すのであった。

 

そして放課後の事、出久から今日はオールマイトから呼び出しを受けているので特訓はやめておくという話を受けてそのまま帰宅している時の事だった。剣崎は夕食の献立にと決めた野菜炒めを作る為にチラシで野菜が安かったスーパーに向かうために少し遠出をしている時の事だった……。

 

「ちょっと買いすぎたかもな……こりゃ明日からご飯は多めしないと使いきれないかもなぁ……」

 

少々買いすぎてしまった荷物持ちながら、その帰りに出久がオールマイトから個性を継承する為の最低限の身体作りの為に綺麗にしたという海浜公園に寄ってみた。ゴミ一つ無い綺麗な砂浜、沈み掛けている夕日の光が水面に反射して実に美しい光景を作り出している。そんな光景に見ほれていると浅黒い肌をした赤いバンダナをした少年が自分に話してきた。

 

「よぉ、アンタ剣崎 初だろ?TVで見たぜ、将来有望なヒーロー校生徒だって」

「そりゃどうも。俺的には世間の評判って言うのは如何でもいいけどね」

「へぇっそうなのか、ヒーローになりたい奴ってのは全員名誉を求めるもんだと思ってたぜ」

「そりゃ言いすぎだな」

「悪かったな」

 

何処か軽い少年は笑いながら謝罪をしてくる、それを受け取るとついでに一つ聞きたい事があると言ってきた。構わないと答えると彼はこう聞いてきた―――ヒーローにとっての善とはなんなのかと。

 

「正義、ねぇ……また難しい事を聞いてくるな」

「一度聞いてみたかったんだよ。俺はさ、個性の関係上で相手の悪意を受けやすくて、それでヒーローも懐疑的な目で見ちまう。ヒーローにとっての正義っていうのは結局どんなものなんだろうなって」

「正義か……また哲学チックな事だな」

「だろ?でも気になっちまうんだよ、ヒーローにはヴィランっていう明確な敵がいる。でもどちらも信念みたいな物があるだろ、結局正義の定義って何だよって」

 

少年の言葉を受けて剣崎は思わず考え込んだ、正義とは何か。非常に難しく深い言葉だ。しかし、既にある考えを持っていた剣崎は直ぐに返答した。

 

「そうだな、俺に言わせれば―――正義、それを人に投げ掛けるなんてナンセンスだろ」

「そうなのか?」

「ああ俺はそう思う。考えてみ、人には善性と悪性、等しくそれを持ってる。そんな人類に正義が何かなんて聞く事事態が可笑しい」

「あ~成程そういう考えなのね」

 

少年は剣崎の言いたい事にある程度の理解を示しながらその話を聞く、それを確かめながら剣崎は続ける。

 

「実際俺の中に正義なんてモノはないんだよ、俺は―――ただ、自分がそうしたいって欲望を満たす為だけに人を救い続ける」

「……つまりアンタの言う正義っていうのは自分がそうしたいってだけの自己満足って事か?」

「そうだな、結局そんなもんだと思うぞ。誰かを幸せにしたい、悪を挫きたいっていうのも立派な欲望だし」

「……成程ね」

 

そう言いながら少年は立ち上がりながら海を見つめた、そして先程とは違って清々しい表情を浮かべながら剣崎の手を握って礼を述べた。

 

「いやぁお陰で結構すっきりしたぜ、参考になったよ剣崎さんよ。俺アンタのファンになったぜ、これから応援させてもらうぜ!!」

「はははっそりゃ有難うってやばい、そろそろ帰らないと……んじゃ、それじゃあね!!」

「おうあんがとよ~♪」

 

そう言いながら少年が大きく手を振りながら剣崎を見送った、剣崎もそれを受けて駆け足気味になりながら駅へと向かっていくのであった。そして―――残された少年は誰もいなくなった公園で小さく不気味な笑いを浮かべながら暗くなっていく空を見上げる。

 

「そうか欲望か……そりゃ良い、面白いじゃねぇか……!!あのクソヒーロー共も結局は愚かな欲望に踊らされてるだけの道化ってか!!こりゃ最高だな!!なぁ、そう思うだろ―――キング」

 

そう言いながら振り向く彼の顔には無数の模様のようなものが浮き立ち、それは意思を持っているかのよう蠢いていた。そしてそんな彼に呼びかけられたキングという者は不気味に笑いながら同じように天を見上げる。そして次の瞬間には―――彼らの姿は夜の闇に溶けていった。



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勉強会と両親の事

職場体験からそれなりの時間が経ち、まもなく夏本番を迎えようとしている6月。間も無く期末テストを控えている頃の事であった。

 

「ねぇ剣崎ちゃん、貴方期末は自信ある?」

「まあまあかな。一応授業のノートは全部取ってあるし範囲の目安も付けてある、後はそこらを順当に勉強して行けば問題ないかな」

「真面目に授業に取り組んでいれば大丈夫な物ね」

 

期末テスト、学生にとって関門の一つとされているそれは当然雄英にも存在している。しかもそれで赤点を取ってしまうと夏休みに行われる林間合宿に行けずに補習地獄を味わう事になると相澤から脅しを掛けられている。そうならないように勉強しておけと言う事なのだろうが……体育祭や職場体験というイベント尽くしの雄英での勉強はかなり大変なのか多くのクラスメイトは頭を抱えている。しかし梅雨ちゃんも剣崎は特に心配はしていないのか余裕を見せている。

 

「でもちょっと心配な所もあるから見直しとかはしておきたいわね」

「それは俺もだな……ノートとか参考書とか見直して置かないと……」

「アァン二人とも余裕たっぷりねぇ、アタシはちょっと不安だわ。数学がちょっと苦手でね」

 

若干ブルーになっている京水、どうやら数学の一部が苦手らしくそこがかなり不安らしい。それでも以前中間では同率で9位だった事を考えると普通に優秀なはずなのだが……。因みに剣崎は八百万と同じく1位だったりする、入学主席は伊達ではないと言う所だろう。

 

「なんなら皆で勉強会でもするかい?皆で教えあったりすれば進むだろうし」

「あらいいわねそれ!!一人で黙々とやるよりもきっと進むわ!!是非参加させて頂戴、そして数学教えてください初ちゃん」

「教えてあげるから大丈夫だよ、梅雨ちゃんも如何?」

「そうね、それじゃあ随伴しちゃおうかしら?」

 

そんな風に勉強会を開くことが決定するのであった。早速勉強会を開くことを決めて次に場所を決めようとしていると麗日と出久、そして常闇も是非参加したいと言う申し出があったので一緒に勉強する事になった。

 

「それじゃあ場所如何する?何処かのファミレスとかでやる?」

「それだと余計な金とか掛かるし、煩い客とか来たら集中し難いんじゃないかしら?」

「うん、私もあんまり余計なお金が掛けたく無いかな……」

「では開催場は如何する?」

「ならいっその事、俺の家でやるか?それなりに広いし歓迎するけど」

「それはいい考えね、それじゃあ剣崎ちゃんの家で勉強会をする事決定ね」

 

という事で剣崎の家で勉強会を開くことが決定するのであった。出久は友達の家に行ける事にやや嬉しさを感じつつも何かお土産などを持って行った方が良いかと思いつつも、その日はそのまま解散となった。そして翌日―――。

 

 

「おっは~出久君!!今日の勉強会、ちょっと楽しみで早起きしちゃった!!」

「麗日さんも?実は僕もなんだよ」

 

集合場所として設定した剣崎の家に一番近い駅、そこに一番乗りしていた出久。彼の次にやってきた麗日は元気いっぱいに挨拶をしながら今日が楽しみだった事を口にする。男の友達の家に行く事は初めての経験だし友達と一緒に勉強会をすると言うのも久しぶりで楽しみにしていたとの事。そして次にやってきたのは常闇と京水、そして梅雨ちゃんだった。

 

「すまん待たせたか?」

「ううん全然、それにしても皆早いね。予定よりもまだ30分もあるよ」

「アァンそれは当然よ、だって初ちゃんのお家に行けるのよ?マナーとして30分前行動なんて基本よん♪」

「そうね。折角招待して貰ったんだから早め早めの行動は基本よね」

 

全員が時間よりも早く集合してしまったので、出久が剣崎に連絡を入れてみてもう行っても構わないかと尋ねてみると全然構わない。という返事が返ってきた、事前に貰っていた案内ルートを使って駅から雑談をしながら住宅街を進んで行く一行、そして彼らは住宅街の一角にある一軒家に到着した。表札には剣崎と刻まれており、此処が目的地の剣崎の家になるのだろう。

 

「此処が剣崎君の家かぁっ……普通に立派な家だ」

 

そう思いながらインターホンを押そうとした時、玄関の扉が開いてそこからラフな私服を纏っている剣崎が顔を出していらっしゃいと家の中へと招いた。

 

『おじゃましま~す』

「失礼する。剣崎、一人では色々と大変なのではないか?」

「まあな、でもまあ慣れたよ。掃除洗濯買い物……もう家の事は全部出来るようになってるよ、適当に掛けててくれ」

 

リビングへと案内された皆は剣崎の家の中にある物を見つつも、腰掛けてテーブルに着く。すると剣崎が氷入りの麦茶を差し出して出迎えてくれる。良く冷えている麦茶が少々暑かったので火照っている身体を気持ちよく冷やしてくれる。麦茶を飲んでいると麗日が何処かからか香ってくる良い匂いに気づいた。

 

「あれっなんかいい臭いがする……」

「本当ね」

「ああっ。昼食にと思って昨日の夜にカレーを作っておいたんだよ。皆食べて行くだろ?」

「えっ良いのっ!!?」

 

と思わず麗日がおっかなびっくりな声を上げながら聞き返すが剣崎は笑顔で勿論と返す。

 

「やったぁっ!!実はウチ、お昼抜こうと思ってたんだぁ!!」

「アアァァアン初ちゃんのお家にこられただけじゃなくてお料理まで堪能出来るなんて……なんて最高な日なのかしら!!」

 

と京水一緒になって喜び始め、麗日とハイタッチなどをして喜びを分かち合っている。そんな喜んでいる一方で出久達は本当にいいのだろうかと思っていたが常闇がそれを尋ねた。

 

「しかし構わないのか、勉学の面倒を見てもらうだけでは飽き足らず食事まで……」

「いいんだよ別に。実は俺もさ、友達が来てくれるっていうから嬉しくてさ……それで精一杯持て成したいと思ってさ」

「それなら逆に受け取らないと剣崎ちゃん迷惑掛けちゃうわね、それじゃあ喜んで戴きましょうよ」

「そうだね、剣崎君ご馳走になります!!」

「おう。それじゃあ取り敢えず……昼まで頑張って勉強しようか」

 

全員がおおっ~!と意気込みながら期末テストへと向けた勉強が始められた。剣崎は自分の勉強をしながら全員の相談に乗りながら主に京水や常闇の物を見て教えて行きながら、梅雨ちゃんは出久と共に麗日の物を見ていく。そんな風に進められていく勉強は順調に進んで行きそれぞれが苦手としている部分の勉強が上手く進んで行った頃、ちょうどお昼の時間となった。

 

「んじゃ一旦休憩にして、昼食タイムにしようか」

「賛成よ、ちょっと頭を休めたいと思った頃だしね」

「しかし剣崎、お前教師に向いていたりするのではないか?」

「アァン同感よっ♪本当に分かりやすかったものっ♪」

「ははっ有難う、でもヒーロー志望だからそれは無いかなー」

 

そう答えながらキッチンに向かってカレーを温め直していく剣崎、そんな中出久がお茶のお代わりを貰っている時に写真立てがある事に気づいた。

 

「これって写真……?」

「あっ本当やね、男の人と女の人と赤ちゃん映ってる……これってもしかして剣崎君のお父さんお母さんの写真?」

「んっ……ああ、そうだよ」

 

そこに映っているのは母親が幼い赤ちゃんを抱きつつも父親に抱きしめられ、そんな父は向けられているカメラに向けてピースサインを送りながら笑顔だった。そんな温かみがある写真に思わず視線が集まっていた。

 

「剣崎、お前のご両親は何をされているんだ?」

「俺の両親は……海外で、戦災孤児とかを助けたり救助活動とかに参加してるんだよ。ヒーロー活動にも負けない気高い事をしてるって俺は思ってるよ……ほらっカレー上がったぞッ!!大盛りがいい人~!」

「アァンアタシ手伝うワァアン!!そして大盛りお願いぃ~!!」

 

と話を区切りながらカレーに話を移した剣崎、そんな彼の表情を見つめていた梅雨ちゃんは見逃さなかった。両親の話題になったとき、暗い影が顔を覆っていた事。声に悲しみが滲み出ていた事、

 

「剣崎ちゃん……?」



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生まれた影と陰りの真実

「何これ凄い美味しい!!?野菜の甘みとお肉の芳醇な旨みがルーの中にあふれ出てて凄い美味しさになってる!!?」

「す、凄い……一回母さんと専門店に行って食べた事あるけど、それに匹敵する味だよ剣崎君!!」

「そりゃ良かった、頑張って仕込んだ甲斐があるってもんだ」

「ッ……!!!剣崎、済まんが大盛りのお代わりをしても、構わないだろうか……!?」

「大丈夫大丈夫、ご飯もたくさん炊いてあるからどんどんお代わりしてくれよ」

「アァンなんて美味しいのかしら……幾らでも入っちゃうワアァン!!」

 

期末テストのために開かれた勉強会のお昼、剣崎が作った特製ビーフカレーに舌鼓をする一行。一人暮らしという事もあってか料理スキルも高い剣崎の腕前がフル活用されている為か、カレーの味に思わず感激の言葉を漏らしていく面々。特に麗日と京水は凄い食いついている、常闇は何処か遠慮しつつも美味しさに引かれてお代わりをして、出久もそれにつられる形でお代わりをしに行っている。

 

「でも如何してこんなに美味しいの!?ウチもよく数日分のカレーを纏めて作るけどこんなに美味しくないよ!?」

「大事なのは下拵えさ。カレーは下拵えのやり方一つでも美味しさが変わるんだ、俺の場合はカレー粉から作ってるけど市販のルーでも素材を先に炒めたり、調味料で味を調えて置いたりしておくと変わるんだよ」

「カレー粉から!!?そりゃ美味しいはずッ……!!」

「ランチラッシュのカレー並に美味しいはずよねっ!!」

 

次々と平らげられて行くカレーに笑顔を作っている剣崎、矢張り彼は誰かに尽くしたりする事が喜びになるのかかなりいい笑顔をしている―――しかし、梅雨ちゃんだけはゆっくりとカレーを咀嚼しながら先程の剣崎の表情と声が気になって仕方がなかった。声に現れていた悲しみ、顔に出来ていた影……僅かに時間しか現れていなかったがそれを見逃さなかった梅雨ちゃんとしては酷く不安になる物だった。普段から笑みを絶やさずにいる剣崎から出る物とは思えなかったものだったからだ。

 

「如何したの蛙吹さっ、じゃなくて梅雨ちゃん?」

「口に合わなかったかな?」

「い、いえとっても美味しいわっ。このカレーのコクの秘密はなんなのかしらと思って……」

 

咄嗟に言葉を作りながらゆっくりと食べている事を誤魔化す、それに納得を示す出久達に少々胸を撫で下ろしつつも剣崎を見つめる。

 

「隠し味に摩り下ろした林檎を入れてるんだよ」

「リンゴ、だとっ……!?あのリンゴでここまでのコクが出るのか!!?」

「ああ。リンゴを入れるとさ、フルーティーさが加わって食べやすくなるし味が深くなるんだよ」

「へぇっ知らなかったわぁん……今度試して見ようかしら」

「甘みが強いリンゴだとより良くなるよ、やるときは少しずつ加えながら味見をして調整する良くなるんだよ」

 

と剣崎のカレー作りの豆知識などが披露されながらも、昼食は楽しく美味しく進められていった。結果、仕込んであったカレーは全て食べて貰えて剣崎は笑顔を浮かべて鍋を洗うのであった。

 

「アァン心地良い満腹感だわぁん……いっぱい食べたのに苦しくないって凄いわねぇ」

「ホントだね、凄い食べたのに……」

 

食後のお茶を頂きながら思わず溜息を吐いてしまう出久は京水の言葉に同意しながら、幸福な満足感に満たされていた。大盛りのカレーを3皿も食べたら普通は苦しくなる筈なのに全然そんな事が無い、それほどまでに美味だったからだろうか。

 

「はふぅ……凄い美味しかった……。もうはいらへん……」

「実に美味だった……ああっ舌の上に残ってる旨みにまだ酔いしれているかのようだ……」

 

と麗日と常闇も大満足なようで幸せそうな表情を浮かべている。全員を幸せに出来たと安心と嬉しさを浮かべている剣崎の隣では梅雨ちゃんが洗い物を手伝っている、流石に一人でやるのは大変だろうし美味しいご飯の御礼と言う事らしい。

 

「悪いね梅雨ちゃん、手伝ってもらっちゃって」

「気にしないで剣崎ちゃん、この位お安い御用よ」

 

二人揃って洗い物をしている姿が何処か兄妹のよう……いや何処か夫婦のように見えたのか京水はその姿に若干嫉妬していたが梅雨ちゃんならいいかっというのに落ち着いたのか素直に幸福感に身を落ち着けていた。

 

「ねえっ剣崎ちゃん、後で聞きたい事があるんだけどいいかしら?」

「聞きたい事……?今じゃ駄目なのかい?」

「ええっ多分聞かれない方が良いと思うから」

「……梅雨ちゃんがそういうならそうしようか、勉強会の後ちょっと時間でも取るかい?」

「ええそうしましょう」

 

その後、少々の食休みのあとに再開された勉強会。最後には剣崎が前もってプリントアウトしておいたテスト問題を皆で解いて見て成果の確認などを行ってみた。すると―――

 

「アァァァアアアアンやったわっ!!!苦手な数学が87点ですって!!!苦手なところなんて全部出来てる!!でもボンミスが目立っちゃってるわねぇ……此処を詰めておきたいわね」

「……剣崎、お前の指導のお陰で確かな手応えを得られたッ……!!」

「やったっ苦手な科目が全部80点オーバー!!出久君ありがと~!!」

「いいいいいい、良いんだよ麗日さんっ……!?」

「緑谷ちゃん、顔が凄い事になってるわよ」

「まあ勉強会がいい感じに利いてて安心したよ」

 

どうやら全員勉強した甲斐が確認出来るほどには良い影響が出来たらしい、その後剣崎が家でも出来るようにと復習用の物を持ってくると出久に流石剣崎君準備良すぎ!?という言葉が飛んでくるが、それにはサムズアップで答えたりした。

 

「今日は有難うね剣崎君、本当にためになったし楽しかったよ」

「うんうん苦手なところも出来るようになったしカレーも美味しかったし言うことなし!!」

「初ちゃんってば本当に先生向きかも知れないわよね!!」

「うむ、もらった復習プリントも有効に活用させてもらう」

「よしそれじゃあ今日は解散だ、お疲れ様でした!!」

『お疲れ様でした!!』

「なんか体育祭のオールマイト思い出しちゃった今」

 

と最後は笑顔と笑い声で締めくくられた勉強会、皆が帰っていく中剣崎は家を出ていき海浜公園へと向かって行く。辿り着くと梅雨ちゃんが待っていた。

 

「待たせたかな」

「いいえ、私もさっき来たところだから大丈夫よ」

 

という何処か彼氏彼女のようなやり取りをしながら、二人は夜の帳に包まれている砂浜に立ちながら海を眺めた。夜だが満天の星空の光を海は反射して満天の星空が、上と下にあるという神秘的な光景の中に立ちつくす二人。

 

「それで話って、何かな梅雨ちゃん」

「聞き難い事だけど……剣崎ちゃん、貴方が凄い無理してるように見えたの―――ご両親の話をした時に」

「―――ッ」

 

言葉に詰まる剣崎、梅雨ちゃんは返答に困っている彼を見つめながらも言葉を続ける。

 

「ずっと前にもそう思ったの。ヒーローネームを決める前にプレゼント・マイク先生とミッドナイト先生が家に来てくれた時にご両親の事も出たでしょ?その時にも貴方の青空みたいな笑顔が曇って見えたの、でも今日は特に曇って見えたわ。青空が一瞬で厚い雲に閉ざされた暗い空になったみたいに……」

 

梅雨ちゃんの言葉を聞きながら剣崎は思わず、彼女の洞察力は凄いなと素直に尊敬の意を示しながら何処か嬉しそう(寂しそう)にしながら、空を見上げ、言葉を放つ。

 

「―――やっぱり凄いね梅雨ちゃん……」

「良かったらその……話してくれないかしら……私は剣崎ちゃんの笑顔が好きだから、貴方には笑顔でいて欲しいの」

「……俺の、俺の父さんと母さんは……誰かを救う為に活動する立派な二人だよ。戦災孤児とかを救う活動をしてる……でもある時から帰って来なくなった」

「それって―――」

「―――父さんと母さんにはもう……会えないんだ、絶対に……」



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陰りの理由、傍に立つ。

静かに波打つ音、静寂の中にある重苦しさの中で梅雨ちゃんは俯きながら悲しそうな表情を浮かべたまま満天の星空を見つめ続けている剣崎を見つめた。父と母にはもう絶対に会えない、それはつまり―――剣崎の両親は亡くなっているという事になるのだろう……そのまま言葉を続けるように話す剣崎は力無く笑っていた。

 

「俺の父さんは本当に優しくてさ、俺が小さい頃は良く遊んでもらったし俺がヒーローになるって言ったら凄い嬉しそうにしてくれて好きなようにしたらいいって言ってくれた……。母さんは綺麗で温かくて、笑顔が素敵な人だった。そんな二人は良く海外出張とかで日本を離れちゃってて、一緒にいられた時間は少なかった。でもそれでも俺は幸せだった、父さんと母さんの仕事を尊敬してたし二人はその分とっても大きな愛をくれた」

 

そう言いながら語られていく剣崎の過去、両親は海外で活動を行って恵まれない子供達や戦災孤児などを救い続けていた。元々は二人で行っていた活動も自分が生まれてからは父一人で行っていた、家に中々帰ってこれない父に自分は寂しさを覚えながらも子供ながら仕事なんだからしょうがないと思っていた。そして帰って来た時は父は触れ合えなかった分を取り戻すかのように、いっぱい遊んだりしてくれた。

 

「俺がそれなりにでかくなった時にさ、母さんも父さんの仕事を手伝う事になったんだ」

「それで、剣崎ちゃんは一人暮らしを……?」

「いやその時は母さんの親戚の人が面倒とか見てくれてさ、寂しくはなかったな。暫く会えなくなってたけどちゃんと帰って来てくれてたし」

 

元々父と母が出会ったのもお互いに海外で活動が被ったため、そして共に活動して行くうちに惹かれあっていき結婚したとの事。そんな話を親戚から聞いたので一緒に行きたいと思う母の気持ちも理解出来た。寧ろ応援したいとさえ思った、時々恋しくもなったがそれでも我慢すれば父と母に会えた。だから気にもならなかった―――だがある時にそれが狂った。

 

「俺が小4の時だったかな……家に帰ると親戚が泣き崩れてたんだ、如何したんだって聞くと俺を力いっぱいに抱きしめながら、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら言ったんだ―――父さんと母さんが死んだって」

「ッ……!!」

 

あの時ほど、世界から色が失われて行った事もなかった。その頃はちょうど、ヒーローに絶望しオールマイトとの誓いを立てて間も無い頃だった。

 

『お父さんとお母さんが……もう、帰って来れない……?そんな、訳無いよ。だってこの前出かける時、一緒に遊園地に行くって約束したもん……』

『初……ごめん、ごめん、でもお前のお父さんとお母さんは……!!!』

『お父さんと、お母さんは絶対に約束を、破ったり……っあ、ああっ……!!!!!』

 

―――事実を否定し、現実から目を反らしながら叫んだ。両親は嘘をつかない、約束を破った事なんてなかった。だから何かの間違い何だ、そうなんだと……しかし幾ら叫んでも親戚の涙がやむ事がなかった。そして次第に自分も理解して行った……父と母はもう、帰って来ないんだと。

 

「剣崎ちゃん……その、なんて言ったらいいのか……」

「難民キャンプに、現地政府と敵対する武装テロ集団が無差別テロを行ったんだってさ……そこで父さんと母さんは人を逃がす為に必死で動いた、でも―――二人は逃げられなかった。なんとか逃げようとしたらしいけど、テロリストがそれを許さない為に最後は爆弾の爆発に消えたって……」

「ッ……」

 

梅雨ちゃんがショックを受けたのはどのように両親を失ってしまったのか、という内容ではなく、どんどん冷たくなっていく言葉の温度、それに比例するかのように剣崎の目から色と輝きが失われていく光景だった。無表情の上に冷えた言葉に濁っていく瞳、どれ程の苦しみを味わったのかを目の前に彼を見ればよく分かる。

 

「遺体すら帰って来なかった……帰って来たのは父さんと母さんが持ってた家族の写真だけだった……他には何も……」

「もう、いいわよ剣崎ちゃん……」

「父さんと母さんは素晴らしい人だ、命を掛けて誰かを救おうと奔走した立派な人だ、あの人達こそ本当のヒーローだ、誇りに思って二人の分まで生きるんだ、それが二人の子供である君の役目だ」

「もういいのよ……剣崎ちゃん……!」

 

次第に目から流星かと見間違う程に綺麗に流れる涙が溢れだしていく、剣崎にとってどれだけ両親が大きな存在だったのか、大好きな存在だったのかよく分かる瞬間。そして梅雨ちゃんはこんな事を聞いてしまった自分が恨めしく感じられると同時に剣崎の顔を見ていられなくなっていった。それでも彼の口から言葉が止む事は無い。

 

「誇りに思え、立派な人……確かにそうかもな、正しくヒーローだよなぁっ自分を犠牲にして誰かを救ったんだからなぁ……!!!」

「剣崎ちゃんっ……!!!」

「俺の誇りなのは確かだよ、でも俺は、俺は……もっと父さんと母さんと一緒にいたかったんだ……それだけなんだよ……」

 

次第に混ざっていく嗚咽、そして遂に決壊してしまったかのように剣崎は号泣しながら片手で顔を抑えるようにしながら必死に食い縛るかのように耐える。それでも耐え切れない、もっと一緒にいたかった父と母はもういない、そんな現実が強く強く圧し掛かってくる。

 

「もっと一緒にいたかった……俺が、雄英に入った時も一緒に喜んで欲しかった……友達を紹介したかった……」

「もう、もういいのよ、剣崎ちゃん……!!」

 

零れていく言葉、それらを救い上げるかのように梅雨ちゃんはそっと彼を抱き寄せた。彼女の目からも涙が流れており、剣崎の話に心を傷めていた。自分が聞かなければ彼が抱えている傷を抉らなくて済んだかもしれないのに……という思いもあったが兎に角彼を支えたいと思って抱きしめる。

 

「俺は、俺はぁぁぁっっ……」

「剣崎ちゃん気持ちは分かるわ、だって誰だって家族と一緒に居たいもの……幾ら立派な人だって言われたって満たされるはずが無いもの……」

「梅雨、ちゃぁんっ……」

「だから、せめて私が、そばにいるから……剣崎ちゃんを支えるから、だから……もうそんなに苦しまないで……」

 

その言葉に剣崎は驚きながら彼女の顔を見た。そこにあったのは涙があるものの暖かくて優しい笑顔だった、まるで母のような物だった。そんな笑顔と彼女の優しさが自分の心を満たしていくかのように、暖かさを感じていく……。誰かに言って欲しかった言葉、両親の事を褒め称えるのではなく自分自身に言って欲しかった言葉―――傍に居る。そんな言葉を受けると剣崎は唯ひたすらに彼女に感謝の言葉を伝えながら、涙を流し続けた……悲しさの涙が枯れるまで。

 

 

 

「梅雨ちゃん、ごめん待たせちゃったかな」

「ううん全然待ってないわよ、それじゃあ行きましょうか」

「そうだね」

 

二人一緒に雄英へと登校していく姿が見られるようになったと言う。その時、剣崎と梅雨ちゃんはとてもいい笑顔をするという。



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試験開幕、困惑の始まり。

あの日以来、剣崎と梅雨ちゃんは何処か親密になっていた。剣崎が抱えてしまっていた物、両親がいない故の寂しさと悲しみ、それを目の当たりにしたからか彼女は剣崎の傍にいるようになった。力になってあげたいという気持ちもあっただろうがそれ以上に、傍に居なければ何時か剣崎が崩れ去ってしまうのでは無いか、という強い強い不安があった。

 

「剣崎ちゃん、此処は如何するのかしら?」

「ああっここはこうするんだよ」

 

剣崎はクラス中からある意味完璧超人に近い印象を受けている、それこそある意味ではオールマイトに近い何かを思われている。それは彼女も同様だった、体育祭で見せつけた圧倒的な実力は確実に不利だと思わせる状況を引っくり返して勝利をもぎ取って来ている。上の万能感のような印象を持たれている。だからこそ彼女は思ったのかもしれない、彼は頼られる事には慣れているがいざという時に誰かを頼れないと。

 

「おぉ~い剣崎ぃぃ~……俺達にも教えてくれよぉ~……」

「はいはい分かった分かった、机持って来い」

「わぁ~い!!有難うケンジャキ~!!」

「ちょっと待って、それなのか俺のニックネーム!?」

 

本人の気質という事もあるだろうが、両親が居なくなってから一人暮らしをしている事もあってか自分で出来る事は自分でやらなければならないという事を強く意識しすぎていると感じた。だから、傍に立って支えて上げなければならない、と梅雨ちゃんは思った。

 

「アァン梅雨ちゃん如何したの?初ちゃんの方ばっかり見て」

「いえね、やっぱり剣崎ちゃんってモテるわねって思ったのよ。男女問わず惹きつける何かがあるみたい」

「アァンそれに付いては同感よ!!」

「ええ。泉ちゃんを見てるとよく分かるもの」

 

そしてそんな風な日々も遂に期末試験へと突入していった。剣崎たちは今日に至るまで勉強会を数回開いて集中的に勉強を行っていることもあってか筆記自体は恙無く突破する事が出来た。勉強会メンバーは試験が終わると思わず笑顔でサムズアップして、確かな手応えを感じた。その後、コスチュームを着用してでの集合が掛けられ、遂に演習試験が始まるのだと緊張した面持ちで集合場所へと集まる。

 

「あれっ鉄?」

「おおっ剣崎さん、お久しぶりです」

 

集合場所には普通科に居る筈の鉄の姿があった、彼は普通のジャージのままだが如何して此処にいるのだろうか。と質問をしようと思ったところで先生方がやって来たので一旦そこまでにしておくが、妙に先生の数が多いと呟きが起こる。

 

「では演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はあるからな。林間合宿行きたきゃみっともねぇヘマはするな」

「あの相澤先生、それより前になんで鉄が此処に?」

「そうよねえぇん、鉄っちゃんは普通科な筈なのに」

「その件か。鉄 巨躯は体育祭での優秀な成績を踏まえてヒーロー科への編入が許可された。今回はそいつの個性把握テストも兼ねられている」

「へぇっ~良かったわね鉄っちゃん!」

 

と嬉しそうにする京水と笑みを浮かべる鉄、彼も彼で体育祭では3位という優秀な成績を収めている。それらを中心に調査された結果、ヒーロー科への編入が許可されたとの事。既に筆記は合格しているらしく、今回のテストで個性の把握と演習の両方を兼ねるとの事。

 

「それで諸君なら事前に情報を仕入れて何をするかを把握しているかもしれんが、その情報は無駄になった」

「えっ……ロボ無双じゃねぇの!?」

「残念ッ!諸事情があって今回から内容を変更しちゃうのさっ!!」

 

と相澤がマフラーのように巻いている特殊素材製の捕縛武器の中から勢いよく根津校長が飛び出した。試験内容の変更の理由はヴィラン活性化の傾向があるため、より実戦的な内容で対人戦闘・活動を見据えた物へと変更されたという。そしてその内容は……二人一組で教師らとガチバトルをして貰うとの事。

 

「先生達とガチバトル……!?」

「うん、大体あってるね。試験の詳しい概要は対戦相手の先生が試験場で説明するからね、それじゃあチーム分けを発表するよ~」

 

という訳で次々とチームが発表されていく。鉄は京水とペアになって剣崎は自分は一体誰になるのだろうかと思っていたのだが……結局最後まで自分の名前が呼ばれる事がなかった。

 

「……ってあの先生……俺、ボッチなんですけど……」

「ああっごめんごめん忘れてた♪」

「忘れられたっ!?」

「冗談さ冗談、剣崎君は体育祭で優秀な成績を残しているからね。特別な相手とタイマン勝負をしてもらうよ」

「タ、タイマン……!!?」

 

と剣崎のみに発表された別メニューでの試験、思わず不安に思っていると梅雨ちゃんと常闇のぺアが肩を叩いてくる。

 

「大丈夫よ剣崎ちゃん、貴方なら大丈夫。それに私達も応援しているから」

「そうだ剣崎。お前ならば大丈夫だ、真に強き者だ。寧ろプロヒーローの先生とタイマン出来るという機会が与えられたことを誇るべきだ」

「そう、かな……なんか不安だわ」

 

と励ましを受けて取り敢えず、このまま待機するように言われたので皆が次々と試験場へと向かっていく中たった一人だけ残された剣崎は少し寂しい思いをしながら待っていると一台の雄英バスが停車した。開けられた扉からは運転手が試験場まで送るから乗ってくれと言ってくる、それに乗り込むとそのまま試験場へと向かう事になった。

 

「そんじゃ頑張れよエース・ブレイド!!あとサイン有難うな、息子も喜ぶよ!!」

「いえいえ、それじゃあ有難うございました~」

 

と話相手にもなってくれた運転手に礼を言いながら降りる。そこはスタジアムのような試験場、ここで自分の試験が行われるのかと思っていると試験場の入り口から一人の男がゆっくりと歩み寄ってきた。その人物とは……

 

「また会えたな、エース・ブレイド」

「えっあっ橘さん!!?」

 

そこに居たのは人類基盤史研究所の所長でもありそこのヒーローチームの最高責任者でもある橘 朔也であった。一体如何して此処にいるのだろうか。

 

「俺は一応此処の予備の教員でもあるんだ、暇な時で良いから手を貸すという事で君の試験官をする事になった」

「えええっマジですか!?橘さんが俺の相手か……って事ですか」

「そういう事だ、では試験を説明する」

 

試験のルールは制限時間制で時間は1時間。本来は30分なのらしいが、一人な事に影響して変更されているらしい。剣崎の目的は相手に「ハンドカフス」を掛けての拘束、そして試験場からの脱出。実力差がありすぎると判断した場合には応援を呼ぶ為に逃走する事もあり。その場合には設置されているゲートを潜ると逃げ切ったという判断が下される。試験官はハンデとして体重の半分の重りを付けて行う、そして試験官をヴィランそのものだと思って対処する事。

 

「但し、君の場合は私と一対一で向き合った状態で行って貰う。その理由は……始まれば直ぐに分かる」

「……分かりました」

 

剣崎はハンドカフスを受け取ると腰に装着しながら橘と共に試験場へと入っていく。試験場はスポーツなどが行われる大人数収容可能な巨大スタジアム、ここで行われるとしたら剣崎は存分に機動力を生かすことが出来ると一先ず安心する。そしてスタジアムの中央まで来ると橘は振り向きながら言葉を放つ。

 

「―――忘れるところだった、私は君を本気で叩き潰すつもりで挑む。君も本気で挑んでくると良い」

「……了解です」

「本気だ、つまり―――ブレイドとしての力も使えという事だ」

「ブレイド、としての力……ってどういう―――」

 

聞き返そうとしたとき、橘は懐から取り出した物を見て驚愕した。そして橘はそれを腰へと装着する、それは見覚えのあるものだった。カードを入れて自動的に装着されるそれを見間違える筈が無い―――。

 

「そう、本気でだ。君の全てをぶつけて来い」

「たっ橘さんそれって……!!?」

「さあ、行こうか―――変身ッ!!

TURN UP

 

瞬時にして橘の姿が変化する、青い光の壁を通り抜けるとその姿は紅い身体へと変貌しその上から白銀の鎧を纏っている。深碧の瞳がこちらを見つめてくる、言葉を失いそうになっていた。その姿は―――仮面ライダーとしての自分に酷く似通っているのだから。

 

「さあ試験を始めよう。君も変身して掛かって来い」

「ッ―――!!!変身!!!

TURN UP

 

剣崎も思わずその言葉の重圧から身を守るかのように変身を行って、ブレイラウザーを構える。それに合わせるように橘も腰に下げている拳銃のような武器「醒銃ギャレンラウザー」を構える。

 

「ライダーバトル、開始だっ……!!」



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スペード&ダイヤ&ハート

雄英の試験場の一つ、そこで今一対一の戦いが行われていた。一方は剣、一方は銃をその手に持ちながらの戦いが。幾つものの疑問が頭を過ぎって行くそれらを振り払いながら、一気に接近して殴りかかる青の剣士と手にした銃を上へと放り投げながら構えを取って迎え撃つ赤の銃撃手。

 

「はぁぁっ!!!」

「フッ……!!」

 

素早く的確な打撃を打ち込んでいく剣士、ブレイド。それらを肘や膝といった部分で的確に防御を行いながら相手にダメージを与えていく攻勢防御を行う銃撃手、ギャレン。豪腕を誇る剣崎から放たれてくる攻撃はどれも強力だが、それらを橘は上手く受け流しつつも防御を行っていく。そして上へと放り投げたギャレンラウザーが落ち始めたのを感じ取ると、一気に攻勢に出る。

 

「らぁぁっ!!」

「ぐっ、おおおっっ!!!」

 

激しいキックのラッシュと絶妙に折り混ぜられていくフェイントと膝蹴り、それらの判別は難しい。故か剣崎も一歩も引こうとせずに全力で攻撃を行っていく。それでもギャレンは攻撃をやめない、そして数歩前に進める事が出来た程度だったのにギャレンは焦らなかった。手を背中へと回すとそこへとドンピシャでギャレンラウザーが落下し、それを握り締めた。

 

「っ!!?」

「零距離だ、取ったぞ!!」

「ぐあああっっ!!!」

 

押し付けられたラウザーから放たれた弾丸はブレイドの胸部へと吸い込まれていく、ブレイドはそれを食らいながらも後方へと飛び退きながら吹き飛ばされていく。そして吹き飛ばされながらも地面を蹴って、ギャレンの射線上から逃れるようにしながら自らの剣を構えて飛来してくる弾丸を切り伏せる。

 

「あ、危なかった……!!後ろに飛んで無かったら確実にやばかったっ……!!!」

「(状況判断能力も悪くない、一発受けた時点で威力を把握してダメージの軽減と仕切り直しを図る為に後方へ……)」

 

広いスタジアムゆえにそう簡単にはギャレンの射撃からは逃げられない、それでも至近距離からの銃撃を受け続けるよりも遥かにマシという物だ。しかし距離を放してしまった事で接近戦闘を主体にするブレイドにはそれなりに辛い状況になってしまったのも事実、故に如何にかして近づかなければいけない事になる訳だが……。

 

「くっ!!」

 

咄嗟に転がって攻撃を回避する、そのまま走ってギャレンの銃撃から逃れようとするが精密で容赦の無い射撃は何処まで自分をホーミングしてくるかのような偏差射撃で自分に襲い掛かってくる。ブレイラウザーで飛んでくる弾丸を切る事で防御して、観客席に移動して椅子などを遮蔽物にして身を隠しながら移動する。

 

「勘弁して欲しいぜ……射撃が正確すぎる……」

 

思わず毒づいてしまう程に橘の射撃技術は洗練されている、ハッキリ言ってダメージを少なくする為に後ろに飛んだがそれさえ正しかったのかと思いたくなるほどに近づく事が難しい。かと言ってもあの様子から橘は決して近接戦闘が苦手というわけでもない。インファイトも高いレベルでこなす事が出来るオールラウンダーのガンナー……こうして文字にすると改めてとんでもない。

 

「くそっ……なんとか俺の間合いに引き入れないと駄目だっ……!!!」

「考え事は終わったか」

 

思考が纏まり切らない中で周囲の椅子が爆発して行くかのように吹き飛んでいく。ギャレンが観客席までやってきた辺りを銃撃で破壊して回っている、弾幕を張りながらジリジリと迫ってくる。なんとかこの弾幕の嵐を突破してブレイラウザーの間合いに入れて斬るしかない。

 

「落ち着け……パニックは全てを台無しにする……」

 

深呼吸をしながら気持ちを落ち着けて行く。父、剣崎 一真が言っていた。危険な場に何度も出向いていた父だからこそ言っていた言葉がある。

 

『初、どんな時でも落ち着くんだ。そうすればどんな時でも良い事が起こるから』

『迷子になっても?』

『そうだぞ』

『お父さんがお母さんのプリンを間違えて食べちゃっても?』

『……初、お願いだからお父さんを虐めないでくれる?』

 

「そうだよ、パニックは全てを崩壊させる……。高々周囲が銃撃の雨霰になってるだけだ……」

 

周囲に響いていく弾丸によって吹き飛ばされていくものが落ちていく音、小規模の爆発音が絶え間なく響いていく中で剣崎は落ち着き払っていた。深呼吸をするたびに意識がクリアになっていき、先程まであった焦りが消えていく、そして周囲をハッキリと認識するとその緊張感が逆に意識を研ぎ澄ませて行く。その時、一枚のカードの事が思い浮かんだ。

 

「よしっ行くぞっ!!」

 

そのカードをラウズしながら一気に駆け出していく、それを捉えたギャレンは素早く標的を変更して攻撃を仕掛けてくる。しかしそれを剣崎自身の身体能力強化で加速の度合いを変えながらなんとか銃撃の嵐を掛け抜けていく。それでも橘はそれらのリズムを直ぐに看破するとそれに合わせた物へと変えて行く、対応が早すぎると踏んだ剣崎は一気に攻める為に懐へと飛び込んで行く。

 

「甘いなッ!!」

BULLET(バレット)

 

素早くラウザーからカードを引きそのままラウズする。それはギャレンラウザーの弾丸の威力を強化する『BULLET(バレット)』のカード、まともに受けたならば動けなく成り得てしまうほどの威力を誇る物に変わる。そしてそれを後方に飛びながら放ち、徹底的に剣の間合いに入らないようにしている。放たれた強化弾は迷う事無くブレイドの胸部を捉えた―――が、弾丸は確かに胸部を捉えたが当たった瞬間に弾丸は跳ね返ってギャレンの胸部を捉えた。

 

「なっ―――!?」

「よしっ掛かった!!!」

 

そのまま後ろへと吹き飛ばされていくギャレンを追いかけて行く剣崎、そして体勢を立て直している間に間合いに入る事に成功して剣を振るっていく。それを防御する為にラウザーで剣を受け止めながら、一発殴り返すが、全くダメージが与えられない。その直後にブレイライザーによる斬撃が襲い掛かって来る。

 

「(しまった……この効果、あれかっ……!!!)」

 

剣崎は飛び出る前にカードをラウズしていた、最初こそ1枚のつもりだったがもう1枚をラウズする事で自分の考えている作戦の成功率を上げたのである。『〈METAL(メタル)〉』『REFLECT(リフレクト)』この2枚を使用したのである。ギャレンの攻撃を反射しつつ、防御力を高める事でもしもの時に備える二重の策。

 

「ぐっ……!!」

「もう攻撃なんてさせるかっ!!!」

 

続けて剣崎はカードをその手に持った、此処まで来たのならばもう一気に勝負を掛けるべきだと判断した。そしてそのまま、立て続けにカードをラウズしていく。

 

BIO(バイオ)〉〈CHOP(チョップ)

「はぁっ!!!」

「ぐっしまったっ!!!」

 

ラウズされたカードによって能力が発動する、ブレイラウザーから無数の蔓が触手のように伸びていきギャレンへと絡まっていき腕などを背中へと固定しながらそのまま引きずりこんでいく。その先には空いている腕を構えるブレイド、そしてその射程範囲に収まると一気に腕を振るってそこへ痛烈なチョップを叩きこむ。

 

「ぐああっ!!」

「今っ!!」

 

痛烈な一撃を受けた事で倒れこんだ隙を見て、腰に付けていたハンドカフスを手首へと掛ける。その瞬間に条件達成というアナウンスが流れる。試験は終了、という事になる。するとギャレンは変身を解除しながら思わず座りこんでしまったブレイドへと手を差し伸べる。

 

「見事だったブレイド」

「……どうも」

 

その手を取りながら変身を解除する剣崎だが、その表情は余り晴れやかな物ではなかった。懐疑的、そして疑問を浮上させた表情を作って橘を半ば睨み付けるように見る。

 

「橘さん、何故貴方が俺と同じバックルを……それにあれは……」

「色々あるんだよ、世の中はな」

「そんな言葉で納得出来る訳無いでしょう!!?」

 

剣崎にとって何よりも聞きたい事、だが橘は全く話す気が無いのか適当にはぐらかそうとしている。歯軋りをしながら睨み付けていると橘は懐から何かを取り出した。それは写真のようだが、それを剣崎へと投げる。それを慌てながら受け取って見てみるとそこには何人もがカメラに向かって笑いかけながら映っているのが見える。だがその中に剣崎が見覚えがある人物が映っていた。

 

「えっこれって、父さん……それに橘さんも!?」

 

そこには自分の父の姿と橘が映りこんでいた。他にも何人もの人達が映っている、一体この写真はなんなのか、顔を上げて橘を見る。静かに口角を持ち上げながら微笑を作ってから彼は言う。

 

「いつの日か、話せる日が来るのを楽しみに待っているよブレイド。君の父親、剣崎 一真の事や君のお母さんの事もね……それじゃあ」

 

そう言うと橘はそのまま去っていく。剣崎は声を掛けて止める事も出来ずに思わず呆然としたまま、去っていく橘の背中を見送った。

 

「(まだ話す訳にはいかない……。彼が背負っている運命を……今の彼に言う訳にはいかない……)剣崎……あの子は本当にお前によく似ている、きっと良いヒーローになれるさ」




ラウズカード紹介

ハートのカテゴリー8:『REFLECT(リフレクト)
劇中未使用。
敵の妨害系のカテゴリー8。敵の攻撃を反射する事が出来る。

劇中では『〈METAL(メタル)〉』と併用する事でギャレンの攻撃を防ぐ二段構えの策となっている。


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胸騒ぎ、謎の怪物

「剣崎ちゃん、如何だった試験?」

「……」

「剣崎?おい大丈夫か」

 

試験終了後、教室へと集まった一同。中には実技で合格出来ずに意気消沈しているものがいる中で剣崎は口を閉ざしたまま、ぼぅっとし続けている。そんな彼を心配してか梅雨ちゃんと常闇が声を掛ける、それでも反応しないので軽く叩いてみると反応が返ってきた。

 

「如何した、意識が定まっていないようだが。まさか落ちたのか!?」

「い、いや合格したよ。相手にハンドカフスを掛けてね」

「そうなら良かったじゃない、でも如何して浮かない顔をしてるの?納得が行かない感じだったの?」

「納得が行かないというか……理解出来ないというか……」

 

今回戦った相手である橘、理解が追いつかないしすることも出来ないことばかりだった。彼があそこまで強い事も知らなかったし、超一級のプロヒーローと比較しても遜色ない実力と技術を有している。研究所所長ではなく普通にヒーロー活動を行った方が良いのではないか思うほど。しかしそれ以上に不可解なのは橘が自分と同じバックルを所持していた事だ、自分と同じ仮面ライダーへとなった事そして……自分の父である剣崎 一真と関係を持っている事である。

 

「そっちは如何だった?」

「ああ。エクトプラズマ先生相手だったが、蛙吹のファインプレーのお陰でなんとか合格できた」

「私なんて特に何もしてないわよ。常闇ちゃんと黒影(ダークシャドウ)ちゃんが強かったからよ」

 

確りと試験が突破出来ているようで安心するような息を漏らすが、胸元にしまい込んでいる写真が妙に重く感じられて致し方ない。自分が知らなかった父の姿を橘は知っていた、それどころか母のことも知っているかもしれない。出来る事ならば知りたい、自分が愛した好きだった両親の事を……。

 

 

―――いつの日か、話せる日が来るのを楽しみに待っているよブレイド。君の父親、剣崎 一真の事や君のお母さんの事もね……それじゃあ。

 

 

今の自分では話すに値しないという事なのだろうか、そもそも橘の目的は一体なんなのだろうか……。何もかもが理解出来ない、あの時受け取った謎の装備の事もある。何か力は感じるがその実体が全く分からない。

 

「はぁっ……スッキリ、しねぇな……」

 

そんな風に積もり積もって行く不快な気持ち、何も晴れないままに相澤がやってきてホームルームを開始して行く。結果として剣崎はぼぅっとしていたので聞いていなかったが、そもそも強化合宿的な側面がある林間学校は全員で行く事になった。故に林間学校で補修が行われるとの事、全員で無事行く事が決まった林間学校に皆テンションがあがって行く。そしてそんな事を記念して、明日は皆で買い物に行く事になったのであった。

 

 

「てな感じでやってきました世!!県内最多店舗数を誇るナウでヤングでチョベリバな最先!!木椰区ショッピングモール!!!」

「芦戸、言動が全然最先端じゃないぞ」

 

という訳で日曜日、クラス皆というわけでは無いがほぼ全員揃ってのショッピングモールへ遊びにやってきていた。目的は林間学校への向けての準備、そしてテストを乗り越えての簡単なお祝いと言った所だろうか。

 

「目的ばらけてっし、時間決めて自由行動すっか!!」

『賛成!!』

 

それぞれ欲しい物も違ったりもするのでまずは準備の為の自由行動、後にお祝いをする事にする。剣崎は適当なコーヒーショップで時間でも潰そうと思っていたのだが、梅雨ちゃんが買い物に付き合って欲しいと申し出てきたのでそれを受ける事にした。

 

「剣崎ちゃんこれなんて良いと思うの、如何かしら?」

「う~ん、それならこっちの黄色なんて悪くないと思うけど……いや緑もありだね」

「確かにありね、ケロやっぱりセンスあるわね」

「そんな事ないよ」

 

洋服を共に見ている二人、偶に梅雨ちゃんがこれはどうかと言ってくるのに剣崎は良いレスポンスで返していく。周囲からすれば仲の良いカップルにしか見えない。そんな二人は旅行用鞄を見る為に旅行用品店へと入って行く、スーツケースにするかキャリーバックにするべきか迷っている。

 

「こっちの方が梅雨ちゃん向きじゃない?可愛いし軽いから」

「あらっ本当、でもこっちの方が安いし……ケロォ迷うわね」

「俺も如何するかな……」

「あっごめんなさい剣崎ちゃん。私ちょっと、化粧室に行って来るわね」

「うん、いってらっしゃい」

 

そう言って離れていく梅雨ちゃんを見送った後、剣崎は目星を付けながら待っている間にジュースでも買って待っていてあげようと気を利かせようとしたときの事だった……彼の背後にエキセントリックな服を纏った青年が現れる。そして彼は……口角を持ち上げながら……突如叫びを上げた。

 

「フォォォォオオオオウ!!!!!」

 

それと同時に凄まじい衝撃波がショッピングモール中を駆け巡って行く、それを中心にしながら凄まじい爆風と衝撃が駆け巡って行きそこいら中の壁や天井に皹が入っていく。

 

「なっなんだっ!!?」

 

吹き飛ばされながらも剣崎は後ろを振り返るとそこには―――以前、ステインと戦っている最中に乱入した謎の怪物の姿はそこに合った。周囲の人達は逃げ惑っている中で剣崎は職員通路の陰に隠れながらバックルを取り出して装着する。

 

変身!!!

TURN UP

 

ブレイドへと変身しそのまま跳躍しながらその怪物へと斬りかかる、それはブレイラウザーを受け止めると真っ直ぐ此方を睨み付けながら唸り声を上げるようにしながら襲いかかってくる。同時に剣崎は奇妙な胸騒ぎを感じながら、それに立ち向かって行く。




今回出てきた怪物の正体分かるかな?
まあ丸分かりだろうな。


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カプリコーン、アブゾーブ

「ッ…!!待て、死柄木……!!!"オール・フォー・ワン"は何が目的なんだっ……!!!」

「えっ……!?死柄木って……っ!?」

 

出久は人知れず、危機に瀕していた。突如として現れ自分に近づいてきた一人の青年。彼はまるで友人のように肩を抱くように首に手を回して来た、そしてこう告げる―――また会ったなと。それはUSJにて自分達へと襲いかかってきたヴィラン連合の人間である死柄木 弔であった。死柄木は出久に幾つかの質問をしながら会話を進めて行く中で、オールマイトこそ全ての元凶だと語る。そして―――命の危機を感じたとき、そこに麗日が現れ、死柄木はそのまま去ろうとした。が、出久は問う、オールマイトに深手を負わせた大物ヴィランであるオール・フォー・ワンは何を考えているのかと。

 

「……知らねぇな、それより気を付けとけ。次会う時は殺すと決めたからな、後もう一つ良い事教えてやる」

「良い事……!?」

「さっさとこっから出て行くことだ、あの仮面野郎を狙う不死身の化けもんが暴れ始めたからな」

「仮面って……まさかっ!!?」

 

その直後であった、衝撃波が辺りにも届いてくる。咄嗟に麗日を庇いながらそれに耐える、落ちてくるガラスなどには"ワン・フォー・オール"で身体を強化して防御を行うが、出久は先程の言葉の真偽を確かめようと顔を上げて死柄木を問い詰めようとするが既にそこに姿は無かった。

 

「デ、デク君今のって……!?」

「……まさか、仮面ライダーが戦ってるって事なのか……!!?」

 

 

「うぉぉおおおお!!」

「―――オオオッ!」

 

剣崎はブレイドへとなり突如として暴れ始めた謎の怪物との戦闘を開始していた、周囲の人達も避難を開始しているので当面の目標はこの怪物の狙いを自分に集中させる事で他ヘの被害を抑える事。相手の腕や足などに狙ってブレイラウザーを振り下ろしていき、ダメージの蓄積を狙っていく。

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!気に入らない、気に入らない気に入らない!!!」

「ッ!!?」

 

目の前の怪物は連続的にブレイドの攻撃を受け続けていくと、次第に気分を害した子供のように地団駄を踏みながら声を荒げた。それは初めて出す理性的且つ人間的な言葉、寧ろそんな声が出せたのかと剣崎は驚いてしまう。

 

「その姿を見ると本当に苛々するッ!!あの時、邪魔さえ入らなければ、ブレイドォ……だが今度お前を可愛がる……フォォォオオオオ!!!!」

 

後退りするかのように足に力を溜めるとそれを一気に解き放ち、大跳躍して飛びかかって来る。空中で向きを変えるかのようにしながら変幻自在に跳躍を繰り返していく最中、突如として飛び去って行く怪物。それを剣崎は追い掛けていく。

 

「野郎何処に行きやがった……!!というか何だあいつ、俺の事を知ってるのか!?」

 

あの怪物の言い方が妙に引っかかる。自分の姿の事やそれ以前にこの姿がブレイドという名前である事を知っている。ブレイドは校長に名付けて貰った名前、しかしこの場合は橘が言っていたブレイドの事を指すのだろうか。何もかもが分からない中で捜索を続けていく剣崎だが、その途中で真上からの威圧感を感じて前転すると、先程まで自分が居た位置に怪物が降り立っていた。

 

「ハッハハハ……さあブレイド、攻撃してみろ……出来るものならなっ!!」

「ッ―――!!」

「仮面ライダー……!!」

 

剣を構えたが動きが停止してしまう、怪物の腕の中には人質がいた。しかもそれは自分が見知っている人物であった……自分が怪物と遭遇する前に別れていた梅雨ちゃんが捕らえられていたのである。人質を取られた事で思わず剣崎の動きは止まってしまう、これでは下手な手出しが出来ない上に何かしようとしたら怪物が梅雨ちゃんに手を出すかもしれない……。

 

「無事に解放して欲しかったら、変身を解除してそのバックルを置くんだなっ!!」

「っ……!!!」

 

何か要求するとは思っていたが、その要求に思わず剣崎は身体を強張らせる。こいつは仮面ライダーが変身する事、そしてその中核をバックルが成していること完璧に把握している。一体この怪物の正体は何なんだと思いつつも剣崎がバックルへと手を伸ばしていると―――梅雨ちゃんがアイコンタクトを送っている事に気付いた。真っ直ぐと送ってくる瞳の中には自分の事は良い、そして必ずこいつを倒してという意思が込められている。

 

「(こんな状況に陥っているのに、強いな梅雨ちゃんは……)」

 

彼女の為ならば自分の正体を晒しても、自分が危機に陥っても構わないと思っていたが梅雨ちゃんの意思を見て一気に気持ちが固まっていく。やっぱり彼女は自分の何倍も強い、そしてそんな彼女の意思を受け取ったからには自分もそれに報いるだけの事をしなければならないと、と強く思いながら剣を構え直す。

 

「おい何をしているっ!!?」

「決まってる―――彼女を助けるのさっ!!」

TIME(タイム)

 

素早くラウズするカード、それと同時に怪物は持っていたブーメラン状の得物を梅雨ちゃんへと振り下ろそうとするが……時間の流れが異なった中へと飛び込んだブレイドは周囲の動きよりも遥かに速い速度で怪物へと接近し、梅雨ちゃんを抱きかかえるとそのまま後ろへと飛び去って距離を取った。途端に時間の流れが通常へと戻り、怪物は人質が奪われたことに驚愕するのであった。

 

「大丈夫かい?」

「ええ有難う仮面ライダー……あの時みたいに」

「気にしないでくれ、さあ……これで思う存分戦える」

「クソォ……!!何故だぁッ!!!」

 

怒り心頭になる怪物だが、剣崎はそんな事お構い無しに突撃して行き次々とブレイライザーによる斬撃を繰り出して怪物の身体を抉っていく。折り混ぜていく蹴りなどで相手は大きく体勢を崩していき、頭の角から青い炎を放つも剣崎の一閃によって掻き消されてしまう。

 

「俺はお前を絶対に許さない……!!彼女を危険に晒した事を、絶対に許さない!!!」

 

身を焦がすかのような怒りが沸きあがってくる、剣崎にとって彼女を危険に晒した事は許せない事だった。卑劣な事に巻き込んだ事や彼女を傷つけようとしたこと、全てが許せない。その怒りによってか身体にどんどん力が漲って来ることを感じつつもそれに身体を任せるようにしながらブレイラウザーを振るっていく。それらを立て続けに受け続けていく怪物は徐々に動きが鈍り初めて行く。そして遂に、渾身の力を込めた一撃を受けてその場に倒れ込んだ。

 

「がぁぁっ……!!!」

「今だッ!!」

KICK(キック)〉 〈THUNDER(サンダー)〉 〈MACH(マッハ)

 

倒れ伏した隙に一気に三枚のカードをラウズしていく、それらがブレイドの周囲を回りながら身体に溶け込むかのように融合して力を与えていく。身体中からエネルギーが巻き起こりながら激しいスパークを放ちながらブレイドを包みこんでいく。

 

LIGHTNING SONIC(ライトニングソニック)

「うおおおおおぉぉぉぉっっ!!!!!」

 

エネルギーを纏った剣崎は瞬間的に凄まじい速度に達しながら怪物を吹き飛ばしながらその周りを回りながら、十分な勢いを付けていく。怪物はフラフラになりながらもブーメランを投擲するが超高速で走っている剣崎を捉える事も出来ずにブーメランはあらぬ方向へと飛んでいく。そして、剣崎は一気に怪物へと向かって行きながら―――

 

「ウェェエエエエエエエエエエエイッッッッッ!!!!!」

 

裂帛の叫びと共に必殺の一撃を放つ、ソニックの名の通りの速度で勢いが付けられた雷撃を纏った一撃は怪物の全身に衝撃を拡散させながら防御不能のダメージを深く与える。全身に走る雷撃の電流が激しく煌めく中、怪物はゆっくりと倒れこみながら爆発を起こしてその炎の中で僅かに動いている。その光景を見て剣崎は思わず目を疑った。あの一撃を受けてまだ動けるなんて……まるで不死身のようだ、と思っている時であった。ベルトのバックルの一部が開いたのである、そこにはスペードのマークのような物があった。

 

「あれは……?」

 

そう思っていると橘から貰った装置からカードの一枚が飛び出して手に収まった、それはスペードのQを示すカード。そこを見てみるともう一枚、Jと思われるカードも入っていた。

 

「こいつは……?」

 

何故このカードが橘から貰った物に入っているのか、何故飛び出してきたのか。何も分からなかったがこのカードがあの怪物と関わっているのではないかと考えた剣崎はそのカードを怪物へと投げつけてみた。何故そうしたのかは分からない、だがそうすべきだと心のどこかで思ったからである。カードは怪物の身体へと突き刺さる、その途端にその身体は混濁した緑色に発光しながらカードへと吸い込まれていく。そして、その全ての光を吸い尽くしたカードは剣崎の手へと自動的に戻ってきた。

 

「な、なんだこりゃ……何が起こったんだよ……?」

 

戻ってきたカードには『ABSORB(アブゾーブ)』と刻まれていた。一体何がどうなっているのか分からなくなって来た剣崎。謎の怪物、そしてそれを吸い込んだカード、ブレイド……。何もかも分からないまま、剣崎は兎も角その場から姿を消し、変身を解除して梅雨ちゃんと合流するのであった。



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思いがけない、暖かさ

「剣崎ちゃん、貴方―――仮面ライダーなの?」

「―――ッ!!?」

 

ショッピングモールでの出来事の翌日の夕方、林間学校の合宿先の変更が言い渡されたその帰りの事だった。梅雨ちゃんから話があると言われて話を聞く為に談話室を借りた時の事だった、不意に剣崎は全身を強張らせて硬直してしまった。彼女からの問いに身体が凍り付いていた、何処でバレたのか、何故バレたのか。そんな想いが脳裏を駆け巡って行きながらも、これから如何するかを思案する。

 

「私、思った事を何でも言っちゃうの。いきなりこんな事を言っちゃってごめんなさい、でも剣崎ちゃんにはどうしても聞いておきたいの。貴方は……私を三度も助けてくれた仮面ライダーなの?」

「……如何してそんな事を聞くのかな、俺が仮面ライダーねぇ……」

 

表面上では冷静を装いながら談話室に用意されていた緑茶を失敬しながら、お茶を淹れる剣崎を見つめながら梅雨ちゃんはそのまま続けた。

 

「最初は思い過ごし方とも思ったの、ただ単に剣崎ちゃんの力がどこか似てるから重ねてるだけとも思ったの。でも違う、ショッピングモールで私が怪物に捕まったときに、仮面ライダーと向き合った時に私はアイコンタクトを送ったの。それを仮面ライダーは疑う事無く、受け取ってくれた」

 

ショッピングモールでの戦闘中、確かに梅雨ちゃんは怪物に人質として捕らえられた事があった。その時に確かにアイコンタクトを送られた、しかしそれを剣崎は即座に汲み取ってしまった。同じ学校で勉強し訓練に励んでいるからか、自然に覚えてしまった相手の仕草で気持ちを理解する事。戦闘訓練などでも数回ペアになった時にもよく使っていたアイコンタクト……。

 

「それだけじゃないの、仮面ライダーは多分必殺技を放つ時に剣崎ちゃんと同じ叫び方をしてたの。それで思ったのよ」

「(……やっべっ)」

 

そう、アイコンタクトなどもあっただろうが決定的だったのは『LIGHTNING SONIC(ライトニングソニック)』を放った時につい普段通りに叫びを上げてしまった事だった。梅雨ちゃんを人質に取った事に対する怒りを抱えていた影響で叫んでしまった言葉が、トリガーとなって彼女の中で答えを出させてしまった。なんという間抜けなミスだ、かっこ悪すぎる、せめてバレるならもっと感動的なバレ方がよかった。

 

そう思い込みながら黙り込んでいる中でも、彼女は視線を外さずに此方を見つめ続けている。身体をずらして視線が外れないようにしながら向け続けてくる。次第に剣崎はどこか面持ちが悪くなって来たのか一際大きな溜息をはいた。

 

「別に、好きで黙ってた訳じゃないよ。仮面ライダーなのかって聞かれなかったから……というよりも話さない方が良いって助言を受けててね」

「それじゃあやっぱり……」

「ああっ……俺は、剣崎 初は―――違法自警者 仮面ライダーだよ」

「ッ―――」

 

そう言うとやっぱりと言いたげにしつつも言葉を失った彼女がそこにいた。無理もない、自分は世間を騒がせ続けている仮面ライダー。正体は一体誰なのかという話も大きく取り上げられ、テレビでも『仮面ライダーを徹底解剖』という番組名で必死に仮面ライダーが誰なのかを特定しようとしているほどだ。そんな奴の正体が高校生だというのは十分すぎる驚きだろう。

 

「本当に、仮面ライダーなのね剣崎ちゃん……?」

「ああ、なんならこの場でなって見せようか?」

「……出来ればお願いしても良いかしら」

「勿論」

 

そう言いながら剣崎は目の前でブレイドへと変身して見せた、目の前で剣崎が鎧を纏った剣士である仮面ライダーへと変貌する姿は驚きだった。眼を見開いてその現実を直視しながら、思わず身体に触れて確認をしてしまうほどだった。満足したのか離れると剣崎は変身を解除して、緑茶を湯のみに注ぐ。

 

「……自分から言っておいて何だけど、私貴方が仮面ライダーだって事が信じられないわ。驚きすぎて腰が抜けちゃいそう」

「抜けちゃっても大丈夫、俺が家まで送るから。それに回復させてあげる事も出来るからね」

「相澤先生とオールマイトにやったあの光ね?」

「そういう事」

 

お互いにお茶を啜る、そして同時に訪れる静寂という名の重苦しい空気。互いに何を喋って良いのか分からずにただただ静寂が耳を劈いてくる奇妙な感覚を味わう。これほどまでに静寂が息苦しいと感じる事も少ないだろう。そんな中で梅雨ちゃんが口を開く。

 

「剣崎ちゃん……色々言いたい事あるんだけど、これだけ言わせて欲しいの」

「なんだい?」

「―――助けてくれて本当に有難うね」

 

そこにあったのは綺麗で可愛らしい笑顔を浮かべている彼女の姿だった、華が咲き乱れているかのような笑顔に思わず剣崎は頬を赤らめながら顔を背けてしまう。感謝ならば幾らでも受けてきた、多くの人を救ってきた剣崎はその度に様々な感情を受ける。その中でも多いのが感謝だ、だが―――彼女の物は違う気がする。

 

「やめてくれよ梅雨ちゃん、俺は当たり前の事をしただけさ」

「いいえ違うわよ。貴方はとても立派よ、その当たり前の事の為に自分の全力を傾け続ける事を繰り返すなんて並大抵の事じゃないわ。だからそれに私は貴方に命を救われてるの、だからそのお礼は確りしたいの」

「―――っ……ならもうお礼は十分だよ、梅雨ちゃんの笑顔と言葉が何よりの報酬だよ」

「いいえもっと受け取って欲しいのよ、私の感謝を……」

 

梅雨ちゃんは剣崎の隣に座りなおしながら、身体を預けるように頭を彼の肩においた。それに思わずドキッとする剣崎、梅雨ちゃんは彼の体温を感じて何処か幸福感を感じていた。

 

「……分かった、どんな風に受け取ったら良いのかな」

「そうね……それじゃあ―――」

「えっ梅雨ちゃ―――」

 

気付いた時には彼女の顔が視界いっぱいに広がっていた、そして唇には柔らかな感触と暖かさで満ちていた。首に回せた腕はガッチリと固められているかのようにホールドしている。心地よさが広がっていく、幸福感が心を支配して行く。甘い香りのような物が脳を溶かしていく、柔らかい感触が強く触れて来ている。理解が追いつかない、いや理解は出来るが理由が分からない。そんな風に混乱しているはずなのに、自然と彼女に手を回しながら目蓋が閉じて行く。そして暫くした時に、互いに少し離れる。それでも呼吸が混ざり合いそうなほどに近く、彼女は紅葉した表情のまま笑い掛けてくる。

 

「―――好きよ剣崎ちゃん。私と、ずっと一緒に居て欲しいの。何時までも」

「―――ッ」

 

それは、両親を失った剣崎が久しく受ける物。他人から自分へと向けられる愛情であった。



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自分を救え、重なる思い。

日が傾き始め、夕暮れの光が差し込む談話室。その中にいる二人の生徒、剣崎 初と蛙吹 梅雨。この二人は酷く近しい距離にあった、それは身体の距離だけではなく心の距離も同様であった。吐息と吐息が混ざり合いそうな距離の中で交わされた唇と唇、その温かさに酔いそうになる中で告げられた言葉に剣崎は動揺を隠す事が出来ずにいた。色付いた紅葉のように赤らめた表情のまま、告げられた言葉は―――剣崎から思考力を奪っていた。

 

「好きよ剣崎ちゃん。私と、ずっと一緒に居て欲しいの。何時までも」

 

その言葉と熱い吐息に酔いかけた意識が戻ってくるが、剣崎は意味が分からなかった。彼女の言葉は理解出来るが理解が追いつかなかった。自分を好いている?一緒にいて欲しい?何時までも……何も分からずまま、思わず声が出てしまった。

 

「梅雨、ちゃん……?そ、そのえっと……俺は、俺は……」

「ごめんなさいいきなりこんな事を言って、でもどうしても伝えたかったの」

 

混乱している剣崎をゆっくりと諭すような落ち着いた言葉を続けながら、彼女は剣崎に抱きついた。柔らかな感触と彼女の体温が身体に伝わっていく。思わず硬直する中で、彼女は続けていく。

 

「―――私は貴方の笑顔が好きだった、明るくて見ている私も元気になるみたいな綺麗な笑顔が大好きだった。そしてそんな貴方に私は可愛いって言われた時からかしら……胸が大きく高鳴ったの」

 

梅雨ちゃんはゆっくりと語りだしていく、如何して自分が告白するに至ったのを。それは剣崎と出会ってから剣崎が当たり前にやってきた事の積み重ねによる物だった、剣崎は誰かに元気と明るさを与える不思議な才能があったのかもしれない。そんな剣崎に徐々に惹かれていったという。

 

「でも、決定的だったのは貴方が仮面ライダーなんじゃないかって思った時からだったの。以前、貴方に私は助けてもらった、その時から仮面ライダーが頭から離れなくなって行ったの。仮面の騎士は、私の憧れになっていったの……前に緑谷ちゃん達と好きなヒーローは誰かって話をした時の事を覚えてるかしら?私、あの時貴方の事をあげようとしたの」

「お、れっ……?」

「うん」

 

ヴィランによって危機に陥った時、何処からともなく現れて自分を救い上げ、手を差し伸べてくれた救いのヒーロー。それが仮面ライダー、剣崎であった。

 

「その後、何度も何度も貴方が仮面ライダーと重なったの。知ってる?ネットには貴方の活躍が動画で上がったりしてて、それを見てたら私には剣崎ちゃんにしか見えなくなっていったの。それでもしかしたら……と思ってた」

「……」

「それでショッピングモールで私を助けてくれた時に貴方だって確信できた時、思ったの。私の憧れと私が好きな人が合致したんだって」

 

彼女は仮面ライダーとして剣崎を疑ってはいた、しかしそれと好意は全く別だったと言う。梅雨ちゃんは普段からの剣崎に惹かれていた、そして憧れと一致した時にそれが激しい好意に変貌してしまったとの事。

 

「それで前に傍にいるって約束したわよね?」

「ああっ忘れもしないよ」

「それだけじゃ、嫌なの……それじゃあ何時か剣崎ちゃんが何処か遠くに行っちゃう気がするの……」

 

抱き付いている彼女の身体が小刻みに震える。寒さゆえではない、恐怖心故だ。

 

「ただひたすらに誰かを救い続けてる、それをずっとやり続けている……。それが悪いなんて言わない、でも、感謝の気持ちと笑顔だけが報酬なんて辛すぎる……。いつか、それじゃあ剣崎ちゃんは壊れちゃう……」

「梅雨、ちゃん……」

「そんなの絶対に嫌っ……」

 

彼女が危惧するのはそれであった。確かに何も受け取らない、助けた人々の笑顔と感謝こそが真の報酬だと言えてしまう今の剣崎は正直言って歪んでしまっている。オールマイトですら何かを受け取っている、それなのに……これでは完全な自己犠牲で自己消費し続けているだけではないか。それでは何時か摩り減って無くなってしまう。それが酷く恐ろしく思えた、何時か、剣崎が誰かの為だけに動く機械の様になってしまう事を……。

 

「如何して、なの剣崎ちゃん……?どうして、貴方はそこまで他人を救い続けようとするの……!?」

「……約束だからだ。大切な人と約束した。その人が俺の光であり続けるならば、俺は救いのヒーローになるって……そういう約束なんだ、からっぽになった剣崎 初を満たしているのはその約束だけなんだ……」

 

 

「……剣崎少年……」

「オールマイト……」

 

談話室を使用しようと思っていたオールマイト、その姿はヒーロー活動を行うときの筋骨隆々の姿。彼曰く"マッスルフォーム"ではなく日常的な姿である骸骨のようにガリガリに痩せている"トゥルーフォーム"の物で彼の隣にいるのは友人であり警察官である塚内と談話室前に居た。談話室が使用中だったので、他の部屋へと移ろうとした時の事、聴力が優れている二人には内部の話声が聞こえてしまい、オールマイトは顔に影を作っていた。

 

「私が、歪めてしまっていたのか……彼を」

「いや君のせいじゃない。実際、彼との約束は彼の生きる希望にもなっている。絶対に間違ってないよ」

「……それでも、彼があれほどまでに活動するようにしてしまったのは私だ……」

 

塚内はオールマイトの事情を知っているだけに、剣崎の事も校長とオールマイトから話されている人物でもある。故に剣崎の事は把握しているが……それを聞いて何故、仮面ライダーが正式なヒーローのスカウトを受けないのかも理解出来た。救いのヒーローであろうとして自分を只管に犠牲にし続ける歪んだ生き方。それはオールマイトが希望と共に与えてしまった歪みきった正義感いや、執着だった。

 

「もっと私が……」

 

塚内もどんな言葉を掛けて良いのか分からなくなって来た時であった―――

 

「何で自分も救っちゃ駄目なの!!?」

 

中から聞こえてきた声に思わず、二人は耳を立ててしまった。

 

 

「何で、何でなの!?剣崎ちゃんは何になりたいの、救いのヒーローじゃないの!?それならなんで自分の事を救っちゃ駄目なの!!?」

 

深くまでに突き刺さってくるような言葉に剣崎は言葉を失った。自分を救う、一度も考えた事もなかった。自分を犠牲してでも誰かを救う、それだけを考えるようにして活動してきた剣崎には誰かを救うという事は自分を犠牲にして他人を救う事でしかなかった。

 

「私のお父さんが言ってたの、お父さんの友達はお医者さんだけどその人も危険な所にまで出向いてけが人を治療するの。その人が一番大切にしているのは自分も救うって事って言ってた。まず、自分を救えなきゃ誰かを救えないって」

「自分を、救う……?」

「自分が死んじゃったらその後、どうやって人を救うの?出来ないでしょ、だからまず自分を助けるの!」

 

自分を助ける、そして助けて命で誰かを助けて救って行く。考えた事もなかった事だった。誰かを救う為なら自分がどんなに糾弾されようが、例え傷ついても構わない、そうして助けた命はきっと輝く。と思っていた剣崎には重く圧し掛かってくる言葉だった。

 

「……俺を助けるか……」

「助ける価値が無いなんて言わないで」

「……ッ」

 

彼女は剣崎が言おうとしている言葉が分かっているかのようにそれを止めた。家族も居ない、帰る場所は常に一人。それならばそれで誰かを救った方が良いというとしたのが彼女には分かっていたようだ。

 

「だから、私が一緒にいる……私は貴方にずっと一緒に居て欲しいの……だから―――」

 

―――自分が待っているから。自分の所に帰ってきて欲しい、自分の為にも帰ってきて欲しい。

 

「―――ッ……。梅雨ちゃん……」

「だから、お願い……」

 

言葉を失う、何を持って発せればいいのか分からなくなって来た。故に、暫しの間、沈黙が続いた。

 

「―――。落ち着いて、話をしたい。いいかな梅雨ちゃん」

「ええ勿論」

 

「俺と一緒に居てくれるの?」

「うん」

 

「ずっと?」

「ずっと、結婚を前提に付き合って欲しいの」

 

「傍に居てくれるの?」

「傍にいるんじゃないわ。ずっと一緒にいるの、それで貴方の帰る場所になる」

 

「俺は、違法自警者だよ」

「貴方は貴方よ、それに愛に理由なんて無粋よ」

 

「一緒に居てくれるって、具体的にはどんな風に居てくれるの?」

「貴方が望むがままよ」

 

「……俺、交際経験ないから苦労するよ」

「私だってそうよ?だからお互いに気遣いあって、譲り合っていきましょう」

 

「梅雨ちゃん……一つ、約束して」

「ええいいわよ」

「……普通内容を聞くもんじゃないかい?」

「剣崎ちゃんなら変な内容じゃないって分かるもの」

「たぶん変だよ、それに重い」

「大丈夫、言ってみて」

 

 

剣崎は真っ直ぐと彼女の顔を見ながら問った。

 

「その、毎日好きって言ってくれる?」

「大丈夫、毎日言うわ。大好きよ」

 

そう言うともう一度梅雨ちゃんはキスをした、それに驚く剣崎だが直ぐに目を閉じてそれを受け入れた。お互いに初めてな深いキスだった。




オール「ふふふっ青春してたな、剣崎少年と蛙吹少女」

塚内「いやぁついついニヤニヤしちゃったな。あれなら大丈夫だな剣崎君も」

オール「ああ、蛙吹少女なら安心だ。二人三脚で歩いていくだろうな」

塚内「なあ、これから飲みにいかないか?」

オール「いいなぁ行こう行こう」

あれ、梅雨ちゃん若干、愛が重い?


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林間合宿、開始。

「おはよう剣崎ちゃん、今日からの林間合宿楽しみね」

「ああっそうだね。今日はあんまりよく眠れなかったよ、楽しみでさ」

「あらっ結構可愛い所もあるのね、膝でも貸そうかしら?」

「勘弁してくれ、皆に見られたら恥ずかしいよ。せめて二人っきりの時にしてよ」

 

遂に訪れた林間合宿の当日、剣崎は梅雨ちゃんと約束をして共に雄英ヘと向かっていた。互いに笑顔を向け合いながらの道すがらは空いている手を互いに少しぶつけ合いながらも、次第に絡み合って恋人つなぎへとなってそのまま向かっていく。恋人同士へとなった二人の距離は更に接近していた、言葉の距離だけではなく心の距離が限りなく零に近い物へとなっていた。

 

「私ったらもう剣崎ちゃんの魅力にメロメロよ?」

「ちょ、ちょっと梅雨ちゃん!?」

「そうよね、今日の分―――大好きよ剣崎ちゃん」

「……それを使って誤魔化さないでよ」

 

誰かに聞かれるんじゃないかとひやひやしている剣崎を尻目に耳打ちで約束である言葉を告げられると、剣崎は何も言えなくなってしまい赤くなった顔を隠すようにしながら道を急ぐように歩く速度を早める。そんな彼氏に笑みを浮かべながらその背中を追いかけて隣に立って、幸せな表情を作る梅雨ちゃん。集合場所に到着するとそのまま荷物を預けて、バスへと乗り込んでいく。

 

「アァン剣崎ちゃんおはよう、梅雨ちゃんもおっは~」

「おはよう泉ちゃん。今日も元気そうね」

「アァン勿論、私ってば毎日元気よん♪」

「そりゃ羨ましい事だ。鉄もおはよ」

「ああ、おはよう剣崎さん」

 

京水もその幼馴染である鉄も確りとバスに乗っていた。鉄はその巨体ゆえに一番後ろの席固定らしいが、本人は余り気にしていないらしい。それよりも林間合宿にワクワクを募らせているらしい。

 

「そう言えば、鉄ちゃんのヒーローネームってどうなるの?」

「俺はメタルヒーロー・アイアンジャイアントって名前にしたよ」

「名が体を現す。テイルマンみたいだな」

 

と視線を向けた先には尾白が笑っていた、どうやら悩んでいるときに尾白の名前を聞いた時にそこまで悩む必要なんてなく自分らしく分かりやすい名前がいいんだと思ったらしく純粋に分かりやすさ重視にしたらしい。それもそれでいい名前だと語り合っているうちにバスは出発していき遂に林間合宿へと向かっていく事になった。バスの中は非常ににぎやかで楽しげな雰囲気に包まれている、まるで遠足に行く子供のようだ。

 

「よし全員バスから降りろ」

 

相澤からの指示を受けて、とある崖近くの場所に停車したバス。降りてみるとそこは別段パーキングエリアという訳でもないし、景色としては森が見えるだけの高台。2組のバスも見当たらない、どういう事なのかと思っていると背後から相澤の名前を呼ぶ声がする。そちらへ向いてみると……

 

煌めく眼でロックオン!!

キュートにキャットにスティンガー!!

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!

「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

 

見事なポーズを決めながらもヒーローらしい口上を述べる二人の綺麗な女性がそこに居た、そんなヒーローに剣崎も見覚えがあり名前を言おうとした瞬間、クラス一のヒーローマニアと大ファンが食いついた。

 

「連名事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!!」

「山岳救助を得意とする超優秀なヒーローチームよ!!私大ファンなの!!」

「キャリアはもう12年にもなるベテランチーム―――」

 

とデクが言おうとした瞬間、金髪の方の女性と京水が同時に頭へと手をやった。

 

「心は18ッ!!!」

「緑谷ちゃん、レディに対してそんな事は言っちゃだめよぉ?」

「「心はっ!?」」

「じゅ、18!!」

「「宜しい!!」」

 

と何処か脅迫めいた警告が終わると京水と金髪の女性、ピクシーボブと何処か熱い握手を交わすのであった。京水もそっち系故に女性の悩みやらは普通の男以上に読み取れる、という奴だろうか……。そんな時もう一人、マンダレイが森の奥にある山を指差しながらいった。

 

「あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

『遠っ!?』

 

それでは如何して態々こんな所にバスを停車させたのか、その時剣崎は常に型破りで自由な雄英の事を思い出した。そしてこの場にいるヒーローである『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』の一人、ピクシーボブの個性を思い出し、大きな声を張り上げた。

 

「全員気を付けろ、もう合宿は始まってるんだ!!!ピクシーボブから離れろ!!!」

「流石は保須市で多くの人を助けただけの事はあるわね、でも時既に遅しって奴」

 

瞬間、ピクシーボブが地面へと手を伸ばした時、咄嗟に隣にいた梅雨ちゃんを抱き抱えるとそのまま脚力を強化してそのまま跳躍する。地面は急に波立つとそのまま土砂崩れのように出久達を飲み込んでそのまま彼らを崖下ヘと纏めて落としていく。

 

「―――悪いね諸君、既に、合宿は―――始まってる」



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魔獣の森、動く針

ページをめくり、瞳を向ける。そこに映りこんでいるのは様々な人との出会いと、別れの物語。時に共に眺め、共に歩み、同じ夢を夢見て、共に眠り、そして別れていった。自ら望んだ事なのだから当然だ、そうすることが世界を救い、自分が此処から願った事を叶える事なのだから。

 

―――次第に色が薄くなっていく。記憶が、あやふやになって行く。

 

徐々に色が褪せていく記憶を、記録を見直すことで再び色を塗っていく。それも、何時かは色がなくなって行くのだろうか、それが只管に恐ろしくなってくる。だがこの記憶だけは色褪せない、そう信じている。いや確信している部分があった。

 

「―――なぁ、そうだろ―――□■□(はじめ)?」

 

―――でもどうして急にこんな事を思った?まさか―――

 

そう思ったとき、その場から影が消えて空を通り過ぎていく何かが見えていた。鳥のようなそれは、高々と空を横切りながら、鮮烈に人々の記憶に焼き付いていった。

 

 

 

「皆無事かっ!!?」

「うん、うんなんとか……剣崎君は大丈夫?」

「タッチの差でな。土塗れにならなく済んだって所だ」

 

梅雨ちゃんを抱えていた剣崎はそのままゆっくりと地面へと着地すると、土砂に巻き込まれて落ちていった出久達の元へと駆け寄っていった。皆に怪我はない、どうやら土砂がクッションの役割を果たしてくれたようで怪我自体はなかったらしい。それに一安心して上を見上げるとマンダレイが此方を見下ろしており、剣崎はそれを睨み付けるかのように見つめた。

 

「この辺りは私有地だから個性の使用は自由だよ!!今から3時間、自分の足で施設においでませ!!この、魔獣の森を越えてね!!」

「魔、魔獣の森ィ!!?」

 

と思わず叫び返してしまった剣崎、施設まで自力で来いというのはなんとなく察する事が出来たが森が物騒極まりない名前なのは完全に予想外であった。

 

「なんだよそのドラクエみてぇな名称は!?」

「3時間以内にこの森越えていけって……向こうからしたらこの程度越えられないのは―――おお ゆうしゃよ! しんでしまうとは なにごとじゃ!的な感じなんだろうな」

「おいおい冗談じゃねぇぞ……というか何で魔獣の森何だ?」

「魔獣がいる、とかじゃないかしら?」

 

と切島の言葉にそのままで返す梅雨ちゃん、しかし皆は魔獣なんている訳ないと思って一瞬笑うのだが……森の木々の奥から、それらを薙ぎ倒しながら巨大な怪物、いや魔獣が此方へと闊歩して来ていた。

 

静まりなさい獣よ、下がるのです

「口田!!」

 

即座に反応したのは直接声に出して命令することで人以外の生き物たちを操ることが出来る個性を持つ口田、彼の言葉ならば即座に生き物は制御下に置かれる筈―――だが魔獣は一切動きを止めずに迫り続けてきている。つまり―――生き物というカテゴリには入らない。それに気付き即座に行動したのは剣崎、出久、爆豪、轟、飯田の5人。それらの格闘攻撃によって魔獣は全身を砕かれて沈黙した。

 

「見て皆、やっぱりこれ土で出来てるよ」

「って事は……こいつは個性による魔獣か」

 

出久が破砕した魔獣の破片を手に持って見せながら推理を立てる、となるとこれもピクシーボブの個性による物。言うのであれば土魔獣だろうか、ピクシーボブの個性は"土流"という土を操る事が出来る個性。雄英にもセメントを自在に操作するセメントス先生がいるが、それの土版と考えればいいだろう。この山岳地帯ならば無限に近しい材料がある、つまり―――土魔獣は幾らでも襲いかかってくるという事だ。

 

「これは、相当きついと思うよ。目標は3時間以内での到達、それまでに襲い掛かってくる魔獣を退けていく必要がある」

「だな……飯田、クラス全体の指示を頼んでもいいかな。俺がその指示を細かくする」

「うむっ委員長として引き受けよう!!」

 

剣崎はグレイブの元で職場体験をしている時に大人数のチームで動く際の注意事項なども確りと教わっている事を皆に言い、司令官を飯田に任せ、その中継をして細かい指示を出す役目を引き受けた。それに爆豪は一瞬いやな顔をしたが―――

 

「腑抜けた指示を出しやがったら承知しねぇぞ」

「その時はお前に交代してやるよ」

「ザケンな、最後までてめぇで面倒見ろ」

 

と言い返してきた。そのやり取りに出久は思わず驚いたように目を見開いてしまった。あの爆豪が暗に剣崎の指示に従う事を認める事を言っているのだから、昔から彼の事を知っている出久からすると驚きでしかないのだろう。爆豪としては剣崎は自分に勝っている格上でその実力も理解している、それ故なのか任せてもいいだろうと思い至ったのかもしれない。

 

「では長時間個性が発動できる物が前衛、その後ろを支援に適した個性と支援があれば十二分に力を発揮できるグループに分ける事にしよう」

「了解だ」

 

基本的にスタミナがあって長時間個性を発動し続けていても問題がない者が前に出て、その後ろを支援に適した個性で固めて一気に森を越える作戦を取る。幾らでも魔獣が襲いかかってくる状況を考えると出来るだけ時間を掛けずに駆け抜けていくのが最適解だろう。

 

 

 

「よし、スタミナなら俺は自信ある。俺は最前線でいいな」

「アァン指揮官みたいな初ちゃんもス・テ・キ♪」

 

 

 

―――強い胸騒ぎを覚えた。それがなんなのか正体が分からない、でも動かなければならないと思った―――。

 

 

それは偶然か必然か、運命は再び世界を翻弄する。破滅と導き、今度こそ終わりへと誘うのか、新たな世界の創造を祝福するのか、それとも―――新たな切り札の生誕を祝するのか。




物語は動き出す、それが何を示すのかは分からない。

だが―――切り札は運命を変える。


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視野、魅力。

「おおっ~随分と早かったじゃん、予想よりもずっと早い」

 

そんな風に呟きながら笑っているピクシーボブの視線の先には森の木々の間から、姿を現してくる1組の生徒達の姿があった。現在時間は午後3時50分、約3時間という道のりを6時間掛けて到達した1組生徒は全員が全身から疲労を滲ませて個性の酷使による疲労でフラフラしているものが多い。あの轟と爆豪にも大きな疲れが見えているらしく、疲れきっている。

 

「おおっあの子凄いじゃん!」

 

とピクシーボブが指差す先を見たマンダレイも思わず驚き、相澤は軽く笑いながら当然だなっと呟いた。その視線の先には普通科から転入した鉄があったのだが、ヒーロー科での戦闘訓練や基礎訓練などを受けていない彼にとってはかなりきつい道のりだったらしく酷くぐったりとしているが、目を引くのは其処ではない。

 

「鉄着いたぞ、もう大丈夫じっくり休めるぞ」

「……すまない剣崎さん、不甲斐なくてすいません……」

「気にするな。それよりお前の身体をスペースにしちゃって悪いな」

「こ、この位の役には立たないと……」

 

と酷くぐったりとしている鉄の身体の上には疲労がかなり激しいメンバー、最前線にて戦い続けていた切島や尾白、砂藤に京水などが座りこんでいる。前線を維持しながら後方にいるメンバーを守るための盾としての役割も含まれている彼らの疲労は相当な物だった。故に彼らは巨体である鉄の身体に座らせてもらって休ませて貰っている、そんな鉄を担ぎ上げているのが怪腕の剣崎であった。鉄だけでも体重は400キロオーバーであるのに加えてその上で複数人が乗っている状態、剣崎が担ぎ上げている重さは600キロ越える程であった。それを疲労さえ見えているが他に比べたら涼しい顔をしながら担ぎ上げている剣崎の無類のスタミナにプロからは驚きの声が漏れた。

 

「降ろすぞ、よっこいしょっと」

「わりなぁ剣崎……鉄も」

「いや、皆のお陰で麗日や八百万達が存分に活躍できたんだ。皆のお陰だ」

「そ、その通りだ……私の身体に乗る程度、気にしないでくれ……」

「本当にごめんね鉄ちゃん……流石に個性の数時間連続活動は、きつくて……」

 

流石の京水もクタクタになって思わず倒れこんでしまう、それを剣崎が抱きかかえてゆっくりと降ろすが京水は興奮する事無く純粋な感謝を述べるのであった。

 

「な、何が3時間ですか……もっと、凄い掛かったじゃないですか……」

「あれ、私達ならって意味ね。悪いね」

「実力差を示すための自慢っすか……趣味悪い」

「ねこねこねこ……でも、正直もっと時間が掛かると踏んでたよ」

「そうね、司令塔と指揮官の指示が的確だからかしら」

 

そう言って飯田と剣崎の事を指差すマンダレイ。的確な指示を飛ばす飯田とその指示をより細かく的確にして伝達、その上で最前線で魔獣を蹴散らし続けた剣崎。この二人の功労がなければもっと時間が掛かっていたことだろう。それでも個人の実力も確かで素晴らしい、特に最初に魔獣へと躊躇なく攻撃出来た5人の評価は特に高い。

 

「特に、君の功労がでかいね」

 

そう言いながらピクシーボブが剣崎を指差した。この中でまだまだ余裕が有り余っているのは唯一剣崎のみだった。それは仮面ライダーとして活動してきたからこそ鍛えられた圧倒的な精神力とスタミナが織り成す持久力の賜物、絶え間なく指示を飛ばしながらも激励も止めずに全員のモチベーションを維持させ続けてきた、此処まで早く来れたのも全員の気持ちが高く維持されていたのも大きな要因。

 

「う~ん君実にいいね、本当に良いね」

「いえ皆が元々強いからですよ、じゃなきゃ俺の指示なんて意味を成さない。飯田の指示も的確で俺も安心して任せられましたからね」

「実に謙虚で自己評価も悪くない……じゅるり、実にいい……っ!!」

 

何やら今まで無い位に瞳が輝きを放っているピクシーボブに剣崎は危機を感じる、色んな意味での危機である。後ろから感じる梅雨ちゃんの視線も何処か刀剣並に鋭い。

 

「あ、相澤先生これからの予定は如何すればいいんでしょうか!!まずはバスから荷物下ろしですかね!!?」

「そうだな。まずはバスから荷物を降ろして来い、部屋に運び込んだら食堂にて食事。そのあとは入浴し、自由時間。本格的なスタートは明日だ」

「了解しました!!さあ皆早く動こうさあ動こう!!!」

 

と危機を感じている剣崎はテキパキとした動きで作業に入っていく、何とかしてピクシーボブからの視線からの逃亡と梅雨ちゃんからの痛い視線を回避する為に……。作業をしている間もまるで獲物を定めた狩人かのような瞳は外れることもなく、中央に剣崎を捉え続けるのであった。

 

「むふふふふっ……煌めく眼でロックオン……!!!」

「マンダレイ、あの人あんなでしたっけ」

「彼女焦ってるのよ、適齢期的なアレで。でもまさか、あんなに気にいる子がいるとは……。こりゃあの子危ないわよ色んな意味で」

「……あいつの部屋だけ変えてやるかな」

 

 

「あ~怖かった……本気で怖かった」

「な、なんか剣崎君ピクシーボブさんに凄い目で見られてたもんね……」

「なんかやらかしたか俺……」

 

と荷物を置きながら思わず剣崎は呟くのであった。クラスの皆の為に全力を尽くしたのに何でこんな事になるのだろうか……本気で理解出来ない。剣崎はどちらかと言えば好意に少々鈍い所がある、それも両親からの愛を受けられなくなった事により弊害とも言える。一応剣崎は十分にイケメンなので雄英入学前も十分にモテていたのだが……その殆どを仮面ライダーとしての活動や個性のトレーニングに費やしてきたので、女子と触れ合う機会は余りなかった。荷物を置いて食堂に向かおうとすると、視界の端に梅雨ちゃんが映りこみ少し来てとアイコンタクトを受ける。出久に先に行っててくれと言ってからそちらへと行くと、物陰で梅雨ちゃんが抱き付いて来た。

 

「……剣崎ちゃん、ごめんなさい。少しでいいからこうさせて……」

「つ、梅雨ちゃん……俺、なんか駄目な事しちゃったかな」

「いいえ、貴方は自分に出来る事を精一杯にやっただけよ。それが誰かを惹き付けただけの事よ……」

 

それに少々ホッとしつつも全然ホッと出来ないなと思いなおしていると、梅雨ちゃんが少々潤んだ瞳で見つめてくる。剣崎には人を惹きつける不思議な魅力がある、それは理解出来る、出来るが……それだけで制御できるほど感情は簡単ではない。特に恋人に関する思いは。

 

「ごめんなさい、でも私……貴方の一番で居続けたいの」

「……。俺の中だと梅雨ちゃんがずっと一番だよ」

 

そう言うと一段強く抱きあうと軽く口づけを交わす、確かな思いが頬を伝う。そして笑いあうとそのまま一緒に食堂へと向かっていく。

 

「ああぁぁっ腹減ったな……何あるかな」

「美味しいのがあるといいわね」



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合宿前、とある者の暴走

ハッキリ言って食事は途轍もなく美味しい、昼食を食べていないのと土魔獣が襲い続けてくる状況下による緊張感、疲労によって体力が大きく消耗している彼らにとって普通の食事だったとしても今ならば高級レストラン並だと断言出来るだろう。それなのに魚も肉も野菜も最高の物で、空腹というスパイスが相まってとんでもない相乗効果を生み出していた。全員が夢中になって食事に貪り付くかのように食いついていた。

 

「うっめぇっ……うっめぇっ……!!!」

「ほいお代わり」

「すまない剣崎さんッ!!!」

 

とその中でもかなりがっついていたのが鉄であった。この中でもトップの体格である彼はその身体を維持する為には相応の食事がいる、加えて魔獣の森突破の際には最も身体を張って防御を固めていたので疲労もかなりの物。一番食事にがっついていた。

 

「にしてもすげぇなどんどん入っていくぞ鉄、いっそ面白いぐらいに」

「これだったらもう丼物にした方が良いかもしれないな……あっそうだ、すいませんちょっとキッチン借りていいですか?」

「いいけど如何するの?」

「ちょっと一手間」

 

そう言いと剣崎は近くに掛かっていた予備のエプロンを借りながら食材を失敬しながら、キッチンで調理を開始する。そして数分後……巨大な丼に山盛りにした米とその上に数種類のカツを乗せた特製カツ丼を鉄の前へと持って来ながら最後の仕上げに特製のソースを掛けていく。揚げたてなのかソースを掛けていくとカツが音を立てる光景に思わず視線が集まっていく。

 

「よし完成!!剣崎特製ミックスカツ丼!!」

「お、オオオオッッッ……!!!」

「すっげぇなんだそれ美味そう!!?」

「うわぁあ凄いボリューミィ!!!」

 

と思わず周囲からの視線を集める超大盛りカツ丼、それらに涎を垂らしそうになりながらも必死で自制しながらも手を伸ばしてしまっている鉄へと箸を差し出す剣崎。

 

「ヒーロー科へようこそって奴だ」

「剣崎さんっ……有難う、頂きます!!!!」

 

とその箸を受け取って丼を持ち上げながらその中身へと一気に喰らいついていく。迫力満点な光景に皆思わず声を上げながらも、涙を流しながらそれらを食べていく鉄に思わず笑みと喉が鳴る。するとキッチンから残りのカツを持ってきた剣崎がそれぞれのテーブルへ遠いていく。

 

「勿論皆の分もあるぜ」

「おっしゃあああああ剣崎お前最高!!!」

「俺、お前が同じクラスで本気で良かったと今思ってるぅ!!!」

「では剣崎君!!」

『いただきまぁ~す!!!』

「はいどーぞ!!」

 

更にヒートアップしていく食事の風景、剣崎が作ったのは普通のミックスカツではない。牛、豚、鳥、猪、鹿の5種類からなるカツである。親戚からそれらの肉を貰った事がある剣崎は調理法も熟知していた為に美味しい調理を施す事が出来たのである。

 

「うぅぅまあああいぞぉぉっっ!!!肉と分厚い油の層が噛む度に解けて行きやがる!!ああ待ってもうちょっと残っててくれよ!?」

「揚げたてだから外は刺さりそうなぐらいにサクサクでジューシー……ぁぁっ中々柔らかくて甘い油が……」

「歯応え抜群な鳥のカツ……力出そう!!」

「猪のカツなんて初めてだけど、凄い弾力と歯応えでなんてボリューム……!!!」

「鹿肉、ちょっと癖があるけど噛む度に肉汁があふれ出て来るけど後味がサッパリ!!」

 

と剣崎の作ったミックスカツは大好評であった。作った本人としても食べてくれている皆が笑顔いっぱいで大満足であった。

 

「家庭的、料理は美味い……超高得点……ッ!!!」

「あ~あ……彼、本気で大丈夫かな……」

「ッ!?な、なんか鳥肌が……」

 

 

「ハァァァッッッ……気持ち良いッッッ~……」

「いやぁ染み渡るなぁ……」

「本当……」

 

食事の後の入浴時間、疲れ切った身体を包みこむかのような温かさに思わず溺れそうになりながらも温泉に使って身体を癒すのであった。

 

「あれ、そう言えば京水ちゃんは?」

「なんか入浴時間ずらすようですよ、なんでもマナーだからと」

「ふ~ん……俺は気にしないけどやっぱり其処とか色々気を使ってるんだな」

 

京水がいない事に少々驚いたが、京水からしたら共に風呂にはいるのはかなり勇気がいる事に加えて剣崎がいるから遠慮するとの事。なんだかんだでその辺りはかなり確りしている京水だが、一番なのは剣崎と共に風呂に入って自制できるか分からないからだろう。そんな事を言っている中、峰田が男湯と女湯を隔てている壁を見上げながら何か悟ったのように言い始める。

 

「まァまァまァ……でもさ、飯とかはねぶっちゃけどうでもいいんすよ。求めれてんのってのはそこじゃないんスよ。そのへん分かってるんですよオイラぁ……」

「何言ってんだあいつ」

「峰田君何言ってるの……?」

 

とそんな時であった、壁の向こう側から女子の黄色い声が漏れてきた。

 

気持ち良いよねぇ温泉とか超サイコー!!

本当に気持ち良いわぁ……身体が、癒されていくぅ……

気持ち良いですわねぇ……はぁっ疲れが取れていくようです……

あぁぁっ極楽極楽……

マジで最高……ああっいいっ……

 

と聞こえてくる女性人の黄色い声、それらに思わず耳を立ててしまう一部男子と壁に耳を当てて懸命に聞いている峰田。それを見ているともう何をしようと思っているのか、もう明白である。それを止める為に立ち上がるのは……我らがクラス委員長の飯田であった。

 

「峰田君止めたまえ!!君のしている事は己も女性陣も貶めるはずべき行為だ!!」

 

ここで峰田の事もやんわりとフォローする辺り、彼の優しさに満ちているのだが……峰田はそれをあっさりと跳ね除けながら、色欲という名の覚悟に身を染めてそのまま壁へと自らの頭のボールをくっ付けて、それを掴んで次々と壁を登っていくのであった。

 

「壁とは越える為にある!!!"Plus Ultra"!!!」

「速ッ!!!?というかそんな事の為に校訓を使って汚すのも止めたまえ!!」

 

そのまま壁を駆け上がって行く峰田、その手が間も無く壁の上へと届こうとした瞬間―――

 

 

―――止まれ、止まらなければ……お前の運命は其処で終わるぞ―――

 

 

 

峰田は全身が凍りつくかのような感覚を覚えた。先程まで高まっていた色欲が一気に冷めて行き同時に死への恐怖を感じ始めた。何故そんな物を感じているのか何も分からないが、峰田は通常よりも時間の流れが遅く感じられた。そのまま体感時間的に5分以上も凍り付いていると壁の上にマンダレイやピクシーボブと一緒にいた男の子、マンダレイの従甥の洸太が顔を出した。

 

「ヒーロー以前に人の何から学びなおせ」

 

と言って完全に凍り付いている峰田を突き落とすのであった、いや峰田は自分が落とされている事さえ理解出来ていない。そのまま落下していくが飯田が見事キャッチする。その直後に洸太は女性陣からお礼を言われたので思わず振り向いてしまい……其処に広がっている物を見てしまい、顔を赤くしながら気を失ってそのまま男湯へと落下してきてしまったが、そこは出久が見事に受け止めて事なきを得たのであった。

 

「(オイラなんで動けなくなってんだ……?如何して……如何して……?)」

「おい峰田君大丈夫か?湯当たりか!?すまん緑谷君、峰田君も一緒に連れて行ってくれないか!?」

「うんわかったっ!!」

 

と洸太と共に運ばれていく峰田、だが彼が感じた物は一体なんだったのだろうか。一人に注ぎ込まれた殺意にも似た凍りつくようななにか、それは―――とある男が発した警告なのであった。

 

「良い気持ちだ……やっぱり温泉は最高だな剣崎さん」

「―――そうだな。覗きする奴もいなくなったしな」




うん、そりゃ向けられるよねそんな感情。


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個性強化訓練、開始。

翌日の午前5時半、前日の疲れもたっぷりの睡眠などによって疲れも十分に取れた1組は早朝に全員集合していた。何処か眠そうな所もあるが、これから始まる合宿を楽しみにしていたからか全員士気も高い。しかし女子の皆は何処か眠そうにしている。梅雨ちゃんも例外ではなくかなり眠そうにしている。

 

「大丈夫梅雨ちゃん、眠れなかったの?」

「う、ううんちょっとね……皆と色々話してたら遅くなっちゃって……」

「あらあらでも美容に悪いわよ?はい梅雨ちゃん、眠気覚ましに最適なガムよ」

「泉ちゃん……悪いわね、頂くわ」

 

そう言ってガムを差し出す京水だが何か察しているような表情をしている、如何やら京水は女子連中に混ざって色んな話をしていたからか何で眠そうにしているのかも完全に把握している。まあ女子達が夜遅くまで話をすると言ったら……当然恋バナである。何故その中に京水が混ざれているのかと言われたら、京水の中身が乙女だからという事らしい。なんだったら京水は自分達と温泉に入っても文句はないとの事。それほどまでに京水の趣味やらは広く周知されている。

 

その中でも一番多く話を振られたのは梅雨ちゃんなのである、剣崎と一緒にいることが多い故にもしかして好きなんじゃないかいやもしかしたら……もう既に付き合っているのではないか!?と疑われた。梅雨ちゃんはポーカーフェイスを貫きながら何とか隠し通す事に成功したが……それでも追及は激しかったらしく、それに当てられて自分と剣崎のデート風景なんかを妄想してしまい中々寝付く事が出来なかったらしい。

 

「お早う諸君。いよいよ今から本格的に強化合宿を始めていく。今合宿の目的は全員の強化及びそれによる"仮免"の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かうための準備、心して臨むように」

 

仮免、緊急時における"個性"行使の限定許可証とされているヒーロー活動認可資格の仮免。いつ何時ヴィランが襲いかかって来たとしても対応出来るようにする為、ヴィラン連合と言う明確で巨大な敵の集団が力を増していく中で自分達の強さもより高いクォリティが望まれてくる。その為の合宿、その為の個性強化。そんな中で相澤は個性把握テストの時に使ったボール型の測定器具を爆豪へと投げ渡した。入学から3ヶ月余り、どれ程成長したのか見せてみろと言う物だった。前回の爆豪の記録は705.2m、これがどれほどまでに変化しているのか……爆豪も気合十分にしながら思いっきり振りかぶった。

 

「んじゃよっこらっ……くたばれ!!!!!

 

相変わらずな物騒な掛け声と共に爆破と共に吹き飛んでいく測定器具。爆風に乗ってどんどんと加速して行き、遂には見えなくなって行く。そして相澤が持っていたタブレットに記録が映し出されて発表された―――709.6mだと。

 

「あ、あれ予想より……?」

「確かに君達は成長したことだろう、3ヶ月間様々な事を経験して成長しているのは確かだ。だがそれは主に精神面や技術面、後は体力面と言った所だろう。個性そのものは今通りで成長の幅は狭い。今日から君達の個性を伸ばす、死ぬほどキツいが……くれぐれも死なないように―――……」

 

其処までにきつい事がこれから先に待っている、という事に全員が思わず喉を鳴らした。死なないように気を付けなければいけない訓練がこれから待っている、それが酷く恐ろしい……。だがそれでもやる、ヒーローになる為の道が最初から苦難に満ちている事なんて分かっていた事だ。予想が確実となっただけに過ぎないのだ。

 

「それじゃあ早速始めるぞ」

 

と相澤が言葉を切った途端にその隣に4つの影が降り立ってきた、一糸乱れる動きで降り立った影に思わず全員が身構えた。現れたのは……。

 

煌めく眼でロックオン!!

猫の手、手助けやって来る!!

何処からともなくやってくる……!!!

キュートにキャットにスティンガー!!

ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!!

 

と先日マンダレイとピクシーボブが行ったポーズに二人を加えた本来のフルバージョン、京水憧れのヒーローでもある虎と何処かにぎやかで元気満点なラグドール。これがヒーローチーム『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』の本来の状態とも言える。するとその中の一人、ラグドールが凄い勢いで剣崎へと近づいてきて凝視してきた。いきなりの事に呆気に取られてしまい、目を白黒させながら何事かと尋ねる。

 

「あ、あのなんでしょうか……?」

「貴方が剣崎 初?」

「あっはいそうですけど……」

「……キャハハハハッ!!何この子面白~い!!!」

 

と突然爆笑するかのように笑顔を浮かべながら剣崎の肩を叩きながら、頑張れとエールを送ってくる。するとラグドールは振り向きながらピクシーボブへといった。

 

「うんうんこの子実にいいじゃん!良いと思うよ!!身体能力強化だって凄い密度!!」

「でしょ!?私の目に狂いはなかったのよ!!」

「ホゥ……それは鍛えるのが楽しみだ」

 

とその言葉を受けてチーム内唯一の存在、筋骨隆々の他のメンバーと同じくスカートなどを着用している男……虎は目を輝かせながら剣崎のほうを期待するかのような瞳を向けた。剣崎は如何やらプッシーキャッツの面々にかなり気に入られてしまった様子、喜べば良いのか嘆けば良いのか不明なところである。

 

「緑谷、剣崎。お前達二人は我が担当する、我が徹底的に鍛え抜いてやる」

「は、はい宜しくお願いします!!」

「お願いします」

 

と早速個性強化の為にそれぞれの特訓に入った1組、出久と剣崎は個性が同じ増強型である為に同じ虎に指導される事になった。

 

「我の問いにはイエッサーで応えろ、分かったかっ!!!」

「「イ、イエッサー!!!」」

「よぉし、では始めるぞ……伸ばせ千切れ!!ヘボ個性を!!!!」

「「イエッサー!!!!」」

 

 

「でもなんか違和感~」

「如何したの?違和感なんて」

「あの剣崎君だっけ?個性は身体能力強化何だけど……なんか、凄い違和感があって―――」



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個性強化訓練、地獄の一丁目。

「今だ、撃って来い剣崎ィ!!」

「イエッサー!!ウエェェエエイ!!!」

「まだまだぁ!!!もっと激しく、細かく鋭敏に身体を動かし続けろ!!!緑谷お前もだ!!もっとだ!!!」

「「イエッサァアアア!!!!」」

 

正に阿鼻叫喚な個性強化訓練は早朝から既に4時間以上も続けられている。私有地である彼方此方から各人の気合に満ちた声が響いていくが、徐々にそれらは落ち込んで行き悲痛な物へと変化していく。その中でもかなりきつい訓練を行っている虎に指導をされている剣崎と出久であった。基本的にそれぞれの個性にあった伸ばし方をする為に、それぞれ合ったやり方をする。その中でもこの二人は虎にミッチリと扱かれている、虎の我'S ブートキャンプはとんでもなくきつい上に、時折虎との簡易的な戦いまで仕込まれている。

 

「さあ二人同時に撃って来い!!」

「行くぞ出久!!」

「うん!!」

「「おおおおッッ!!!」」

 

剣崎は跳躍からの蹴り、出久は"フルカウル"からのスマッシュ、それらを全く同時にしかし互いに干渉し過ぎに避けにくいように攻撃を行ってくる。一瞬の間に其処までの意思疎通を行ったのかと虎は感心しつつも、腰を90度曲げたまま胸部をありえない角度に曲げてそれらを躱すとそのまま二人へと救い上げるかのような打撃を叩きこみ。それを咄嗟に防御しながらも、なんとか食い縛る二人に虎は更に目を輝かせた。

 

良いぞ貴様ら、実に良い!!我も本気を出して貴様らを鍛えてやる!!!どうだ、嬉しいか!!?

「「イエッサー!!!」」

今この時をもって、我はお前らを認め本気で鍛え上げる!!貴様らは正しくヒーローの卵である!!それが芽が出るか否かは自らの手で掴み取れ!!

「「イエッサー!!」」

よぉぉおし……付いて来るが良いひよっ子共!!!

「「サーイエッサー!!!!」」

 

まるで何処かの軍曹のような気迫を発揮しながら爛々と目を輝かせながら、虎の名の通り肉食獣の瞳で二人を連れて今度は崖の上、不安定な足場、険しい坂道などなど……とんでもない場所でのブートキャンプがスタートして行く。通常工程の物ですらとんでもなく辛く、倒れこむ事は必須であるのにも拘らず、それでも二人は必死に喰らい付いて良く。

 

「この程度でギブアップなんぞするかぁぁぁっっ!!!」

「僕だって、強くなるんだぁぁぁああ!!!!!」

 

と気迫と共に吐き出す言葉で自らを鼓舞しながら、虎の出すメニューをこなしていく。虎が2組の生徒を見に言っている間は自主的に組み手をして互いの実力向上を図り、虎が戻ってくれば虎に相手をしてもらってあしらわれれば更に努力する。そんな二人に虎も目を更に輝かせながら二人を扱いていく。2組の生徒からしたら、もう二人が行っているメニューは狂気染みた物にしか映っていない。

 

「剣崎貴様は鉄その他を纏めて担ぎ上げたと聞いた、どの程度まで持ち上げられる」

「正直限界を試した事なんてありませんが、あれ以上でもまだまだいける所存でありますサー!!!」

ホウ……ならば貴様にはこれだ!!!

 

と言って虎は剣崎の各部に以前の試験で教師陣が装着していたという重りを装着した、剣崎の四肢にはそれぞれ約20キロが掛けられている状態となっている。全身含めて80キロの負荷が常に掛かるようになっているというとんでもない状況になっている。

 

貴様には更なる高みへ、精神を養う為にそのままでいる事を命じる。これを越えた時お前は更に進化する!!どうだ嬉しいか!!!

「イエッサー……!!!」

緑谷、貴様には5キロだ!!!

「イッイエッサー!!!」

 

と更にレベルが跳ね上がった剣崎と出久の個性強化訓練、そんな地獄を二人はお互いにお前には負けないと言うライバル意識を持って耐えながら、必死に訓練に励むのであった。そして気付けば夕暮れ……一日の訓練が終了したときであった。虎が腕の時計を確認して二人の重りを外した時、二人は全身が飛んで行ってしまうのではないかという感覚を体験しながらもクタクタの身体を必死に整えながら虎へと向かい合った。

 

本日の訓練は此処までとする、だが貴様らは以前ひよっ子に過ぎん!!明日はもっと厳しくしてやってやる!!どうだ嬉しいだろう!!!

「「サーイエッサー!!!」」

よぉし!!!!ラストは宿泊所前まで駆け足!!

「「サーイエッサー!!」」

 

と虎に続くかのように走り出して行く二人、だが流石にクタクタでボロボロなのか走り方が酷くぎこちない。無類のタフネスを誇る剣崎でもふら付いており、出久はもっとフラフラだ。それでも二人は必死に走りながら虎の後に続いていく。虎はそんな二人を見ながらも軽い笑みを作りながら走り続ける。

 

「(二人とも良い目をしている、このまま大きく成長すれば何れ大きな華を咲かせる。大きく美しく力強い……そんな大輪の華を……)」

 

 

「さぁ昨日言ったね『世話焼くのは今日だけ』って!!だからこれから自分達で頑張れ!!」

「己で食う飯くらい己で作るのだ、カレー!!」

 

とピクシーボブとラグドールが言うが返ってくるのは疲れ切っている小さな声だけだった、唯一大きな声を出せているのは虎の訓練を受けた剣崎と出久だけだった。それでも既に全身はボロボロだが。そんな様子を見てラグドールは楽しいのか面白いのか笑っている。

 

「キャハハハハハッ全員全身ブッチブチ!!それでも一番元気なのが一番辛い指導を受けた二人ってのが受けるぅ~!!!でもだからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!!!」

 

という言葉を受けた飯田が

 

「確かに、災害時などの避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環でありヒーローとしての責務……流石だ、無駄がない!!!世界一旨いカレーを作ろう皆!!!」

 

と真面目な一面を爆発させて元気を取り戻してカレーを作ろうと促して行く。それだけで元気を取り戻せるのは素直に感心し、尊敬する剣崎であった。

 

「や、やべぇ腕が上がらねぇ……」

「貸してみな、俺がやる」

「お、おい剣崎大丈夫なのか?」

「この位、よっと……まだいけるさ♪」

「悪い……助かるわ」

 

恐らく一番疲労がやばい剣崎、それでもまだまだ余裕があるのか辛い訓練を終えている皆のフォローにまわっている。酷く疲れている筈なのにそれを見せずに笑顔で居続けている。そんな姿勢はどんなに辛い状況でも希望と言う光を与え続けるヒーローその物で、周囲に元気を与えていた。尚、その姿勢はピクシーボブの好感度を更に爆上げする結果にも繋がっていたのだが……本人は全く知らないのであった。

 

「剣崎ちゃん大丈夫なの本当に?」

「ああ、大丈夫だよ。いやぁ……なんか俺と出久、虎さんに気に入られたみたいでさ……。途中から完全に特別な別メニューだったから……」

「剣崎ちゃん……ちょっとこっち来て」

「んっちょっと待って、上鳴野菜とか此処においとくから」

「ああわりぃな!!」

 

任せてそのまま梅雨ちゃんに連れられて少し離れた木々の間へと移動した剣崎、一体何をするのかと思っていたら彼女が優しく抱き締めてくれた。

 

「私には疲れを癒して上げる事なんて出来ない……だからこんな事しか出来ない。でも剣崎ちゃん、私は何時も貴方の隣よ」

「……有難う、本当に有難いよその言葉……梅雨ちゃん有難うね」

「うん……遅くなったけど今日の分、大好き」

「大好き」

 

そう言うと軽く口付けを交わすと、二人は笑顔を作って調理へと戻っていくのであった。直ぐに剣崎の料理の腕を見込んでのヘルプなどが飛んでくるのでそれに取りかかるのであった。




尚、個性「サーチ」を持つラグドールには全てを見られている模様。
流石に秘密にはしてくれる。


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相澤、教師として。

三日目となる林間合宿、その日も剣崎と出久は虎による地獄なんて生温いとさえ思えるような虎による厳しい我'S ブートキャンプで個性を伸ばそうと必死になっていた。身体に掛けられている重りは昨日よりも増量しており、剣崎の身体には既に100キロの負担が掛けられ、出久には30キロという負担が掛けられている。出久は常時"フルカウル"を掛けなければ動けないような重さを食い縛るように努力し続けている。

 

よぉし次のそのままの状態で組み手をしろ!!倒れるまで止めるなぁ!!!

「「サーイエッサー!!!」」

 

そんな訓練をこなして行く中で担任の相澤は補習組みに活をいれながら、剣崎へと視線を向けながら昨夜の事を思い出していた。

 

昨夜―――

 

「剣崎に付いて、ですか」

「そう、彼に付いて。イレイザーヘッド、貴方は私の個性は十分知ってるでしょ?」

「勿論」

 

1組担任である相澤は夕食後に2組担任のブラドキングとの打ち合わせが終わった後にプッシーキャッツから進捗を聞きながらメニューの考案を手伝っていた時の事だった。ラグドールから突然の質問があった、それは剣崎に付いての物だった。一瞬ピクシーボブのように気に入られたのかとも思ったがどうやら違う模様。

 

「個性:サーチ。その目で見た人間の情報を100人分まで知る事ができ、居場所や弱点にいたるまで、つぶさに把握する広範囲知覚個性」

「その通り。この目で見た子達の事は何でも分かる、でもね―――彼の事は全然分からない」

「……どういう事ですか」

 

そもそもこの林間合宿でプッシーキャッツに協力して貰っているのは彼女らの個性が少数でありながら多くの人間の相手を出来るという点にある。広域カバーをしつつ全体を短期で集中的に伸ばす事に置いて非常に有効で合理的である為だ。

 

「彼を見て確かにサーチしている、だけどそれでも強い違和感が残ってる。強すぎて凄い違和感がある、サーチでも見る事が出来ない何かが彼にはある」

「あの子に……虎は如何思ってる?」

 

とお茶をいれていたマンダレイは明日の剣崎と出久のメニューを作って虎へと振ってみた、虎は本当に二人が気に入ったのか中々やらない個人メニューの製作まで行っている。

 

「我は気に入っている、奴は肉体及び精神は非常に強固で頑強だ。体力もそうだが余りにも強い精神面がそれら全てを支えているのは明らかだ」

「それは私も思ったわよ、あの鉄君だっけ?その上に他の生徒も居たのにそれを簡単に担ぎ上げてる上に平然としているんだもん」

「うんうん本当にいい子よね、何時からマジで狙おうかな……フッフッフッ……」

 

とピクシーボブが悪い笑顔を浮かべながらもこうなったら部屋に忍び込んで……とまで呟いた所で虎が一発をいれる、そしてそれに怒りを浮かべているが虎にとっても気に入った弟子の一人を毒牙に掛けるわけにも行かないという事だろう。同時に相澤は剣崎の部屋を自分の教員室の隣にしておいて本当によかったと安堵する、この様子だと冗談抜きで剣崎の所に忍びかねない。

 

「なんて言ったらいいのかな……彼には何か、壁みたいな情報を遮断してる物がある感じ?それが多分、強い違和感の正体だと思うの」

「壁……?」

「そう、何かが彼の真実を隠そうとしている巨大な壁みたいな何か」

「でもサーチで分からないって、今までなかった事よね?」

「うん……初めての経験」

 

居場所だけではなく弱点まで把握する事が出来るかなり強力な個性であるサーチ、それを持ってしても剣崎の全てを閲覧する事が出来ないという異常事態にラグドールは眉を顰めていた。

 

「それだけミステリアスって思っておいた方が良いんじゃない?事実として受け止めて、原因を探るしかないんじゃない?」

「うむ、我としてもそれが一番だと思う。だが個人的な意見としては奴は全くもって心配する必要はない、何れはオールマイトに匹敵する器に成長すると思っている」

 

とかなり高評価な虎だが同様に出久の事も高く評価する、教え子が褒められるのは悪い気分がしないが同時に相澤は以前校長から言われた事を思い出す。―――剣崎の正体に付いて。

 

『あいつが、剣崎が仮面ライダー……?』

『そう、彼は今世間を騒がす救いのヒーローである仮面ライダーなんだよ。但しこの事は内密に頼むよ、これはまだ私とオールマイトにしか知られて居ない事実だ』

『それを何故私に』

『担任であり救われた君には知る権利があると思ったからさ。それに君なら絶対に口外はしないと合理的に判断して守り続けて味方で居てくれると確信しているからだね』

 

仮面ライダー、それが剣崎の正体。恐らくラグドールの言っている事はライダーの力が大きく関係しているのだろう。確かに相澤がUSJで大怪我をした際にライダーに怪我を治療され救われている、だがその力を把握出来ないのは理解が出来ない。校長からも詳しく話されたが、相澤はプッシーキャッツに問われても話す事なんて出来ない。彼の、剣崎のある意味狂気とも取れるライダーとしての活動。

 

『彼にとって誰かを救うというのは日常茶飯事で日常の一部なのさ、だから彼はライダーとして人を救い続ける。雄英入学後もライダーが活動しているのもそれが理由さ』

「(全く合理的じゃない……自らを削り続けた先は自滅しかない、だが―――合理性だけで割り切れないのが人間か……)」

「イレイザーヘッドは何も知らないの?」

「ええ、それに付いては何も。そもそもサーチで分からない事があったと言うことが驚きです」

「本当よね」

 

故に相澤は剣崎に出来る限り干渉しない選択を取る事にする、それが自分にとっても剣崎にとっても合理的な物でありメリットが大きな事になる。校長やオールマイトのように味方はしない、だが敵にもならない。そういった者も必要だろう、相澤はライダーとしての活動を否定する気はない。それが剣崎のオリジンならば否定する意味すらない。だから―――見守る事を選択する。

 

 

「ウェエエエエイ!!!!」

「SMASH!!!!」

 

と一角から響いてくる剣崎と出久の一撃のぶつかり合い。それは互いを真芯で捉えたクロスカウンターとなって互いを吹き飛ばしていた。そしてそれを見た虎は暫くの休憩を言い渡すと、そのまま2組の方へと駆け出していくのであった。

 

「……さ、流石プロヒーローの扱き……」

「しょ、正直辛すぎる……」

 

倒れ込んでいる二人だがささやかながら、心の中で声援を送る相澤先生なのであった。



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襲来するヴィラン、強襲する怪人。

その日の地獄も漸く終わり、日も落ちた頃……飴とも言うべきイベントが開催される事となった。それはA組とB組の対抗肝試しであった。辛い訓練の後は楽しい事で気持ちをすっきりさせようと言う心遣いに周囲からは嬉しさの声が上がっている、特に補習組はこれをかなり楽しみにしていたのか酷く嬉しそうにしている。

 

「よぉ~し存分に肝を試すぞぉ~!!」

『おおっ~!!!』

 

と張り切りにも似ている歓喜の声を上げている芦戸、上鳴、瀬呂、砂藤、切島。確かに補習でかなり疲れている彼らにとっても心の安息や充足を計る為に飴は必要不可欠……存分に楽しもうとしていた彼らの背後に相澤がぬっと出現した。

 

「と言いたい所だが―――大変心苦しいのだが、補習組は俺と授業の時間になる」

『嘘だろ相澤先生!!?』

「生憎本当だ。昼間が疎かになっていて十分なノルマをこなせていないので此方を削る、さあ行くぞ」

 

何時の間にか全身に絡み付いている相澤の捕縛武器、既に逃げられない体勢が完成してしまっている。阿鼻叫喚な叫び声を上げ、断末魔が森の中から響いてくる。これはこれでもう十分怖いような気がしてくる。取り敢えず彼らには冥福を祈るとしよう……間違っている気もするがこの場合はあっている気がする。

 

「さてと、肝試しかぁ~なんか懐かしいな」

「アァンそうね、わたしもやったのなんて子供の時、以来よぉん♪」

「フフフッワクワクしますね」

 

意外な事に京水と鉄もかなり乗り気なのか、かなりやる気満々な様子。まずは1組が驚かされる側として参加し、2組は1組を驚かす。その手順から行く為にまずは1組がくじ引きでどんな順番で、どんなコンビで出発するかを決める。結果として剣崎は出久と共に回る事となった。

 

「宜しくね剣崎君、肝試しって剣崎君大丈夫なの?」

「多分平気だと思うけどな……もっとやばい物を見てきたし」

「ああっあの、ゾンビ&ゴーストヴィランとか……?」

「まあな……」

 

思わず小声で尋ねる出久の言葉を肯定する、ゾンビ&ゴーストヴィランというのは二人組で活動し通り魔的な犯行を行っていたコンビヴィラン。その見た目はまるでゾンビのようなおぞましくグロテスク、ゴーストのように寒気をさそう恐ろしい姿をしていた為にこのような名前が付けられた。が、その二人は仮面ライダーによって倒され、無事に逮捕された。それと比べると幾ら個性によって驚かすのがありだと言っても、あれ程の衝撃はないだろうと思っているのである。

 

「あれより怖い物とかそうそうねぇぞ……ぶっちゃけ、あれ凄い怖かった」

「やっぱり……?」

「うん……仮面で隠れてたけど、裏側だとめっちゃ怖がってました……」

 

と意外な剣崎の一面を見た出久だった、次々とコンビが出発していく中で自分達の番が迫ってくる中剣崎はじっとしてられないのか、妙にそわそわしていた。そんな彼を見かねたピクシーボブは内心でチャンスだと思いながら、歩み寄っていった。

 

「なぁに如何したのよ剣崎君?怖くてうずうずしちゃってるの?」

「……いや、なんか違うんですよ。身体がピリピリしてっ―――おいおい嘘だろ……!!?」

「け、剣崎君それってまさか!!!?」

 

そう、この感覚。自らの本能が鳴らしている警鐘、それは絶対的な安心と疲労によって鈍っていた物。自ら日頃から頼りにしそれを元にして活動を行う物―――即ち、ヴィランへの警報!!!同時に香ってくる焦げるような臭いに剣崎と出久は全身に力が入っていく。

 

「なんだあれ、山火事か!?」

 

同時に視界に映り込んでくる黒煙、畳み掛けるかのように事態は徐々に悪化の一途を辿っていく。山火事が起こる、雷などではない場合真っ先に考えられるのは人災。つまり人為的な放火……!!!

 

「飼い猫ちゃんは―――邪魔ねっ」

「なっなにっ―――!?」

 

突如として、悪意は姿を現し、牙をむき出しにして襲い掛かってくる。ピクシーボブの身体が宙に浮くといきなり引き寄せられるかのように木の影へと引っ張られていく、突然過ぎる事にプロヒーローの彼女も反応が出来ない。そしてそれへと狙いを定めるかのように、悪意は身の丈ほどある武器を構えて彼女の頭部めがけてそれを振るった。

 

「ピクシーボブッッ!!!」

 

出久の声が周囲に木霊する、助けようと振り向いた先には―――振るわれた巨大な鉄の塊を足で受け止めながらその腕でピクシーボブを抱きながら庇っている男の姿があった、それは静かに顔を上げながら眼前の悪意へと敵意を向ける。

 

「やらせるかよっ……!何の為に、ヒーロー科に入ってると思ってんだっ……!!!」

「剣崎君!!!」

 

片足で確りと地面を捉えながら、向かってくる巨大な鉄塊へと蹴りをいれている。

 

「あらっ貴方いいパワーしてるじゃない……!!」

 

更に押し込もうと力を込めるオカマ口調なヴィランは腕に更なる力を込めて、武器を押し込もうとしてくる。それを必死に耐える剣崎、だが腕の中のピクシーボブがヴィランへと引き寄せられているかのようになっている。恐らくそれが敵の個性、ならば余計に力なんて緩められないと更に強く抱き締めながら足に力を込める。

 

「―――操作っ!!!」

 

剣崎に抱きかかえられているピクシーボブも我に返り、必死に足を伸ばして地面へと触れると土を操作して自分らと敵の間に巨大な土の塊を出現させる。それを壁にして距離を作ると剣崎はそれを蹴って一気に後退する。

 

「良くやったぞ剣崎!!」

「虎さんの、訓練のお陰ですよ……!!大丈夫でしたかピクシーボブ……!?」

「え、ええっ有難う……ごめんなさい、逆に守られちゃったわっ……!!」

 

と剣崎の腕から下ろされながらもピクシーボブは赤くなった頬を隠しながら自分もファイティングポーズを取る。後れを取ったがそれは取り戻す、プロの誇りに賭けて……!!

 

「マンダレイ、虎、私達で皆を守るよ!!」

「当然よ!!」

「了解!!」

 

その時、森の中から一つの影が飛翔した。それは奇妙な翼をもった鋭い爪を保持した怪人のような者だった。それは真っ先に剣崎へと向かっていき、鋭い爪を剣崎へと―――突き刺した。

 

「会いたかったぞ……ブレイドォォ!!!」

「グッ……何だ一体!!?」

 

―――イーグル、襲来。バトル、開始。



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イーグル、ヴィランの目的。

突如として飛来して来たそれ、何処か鷲を連想させるかのような怪人は翼とも思えぬそれを翻しながら鋭い爪を突き立て、剣崎へと襲いかかった。突然且ついきなり過ぎる攻撃に反応が遅れた剣崎は、それを諸に腹部を―――

 

「剣崎!!!」

「ごっ―――心配なく、大丈夫です!!!」

 

貫いてはいなかった。ギリギリの所で脇腹を掠る所で受け止める事に成功していた。本当にギリギリだった、だが不思議な翼を持ったそれはそのままの勢いで剣崎を押し込みに掛かる。だが剣崎はその勢いを利用するように自ら後ろへと倒れこみながら、後方へとそれを投げ飛ばす。飛行しているそれにはたいした効果はなく、飛行を乱す事しか出来なかったがそれを地面へと着地させることに成功する。

 

「やるなっ……だが私は負けんぞ。今度こそ、封印を解かせて貰う―――ブレイドッ!!!」

「な、なんだこいつ……ヴィラン、いや違うあの時の奴と同族……!?」

 

地面へ通り立ったそれは見れば見るほどに奇怪な姿をしている。両肩から皮膚を貫くかのように骨状の翼が生えており、金色に輝いているバックルを身に付けている。鋭い爪や髑髏をのような物を装備しているからか鷲というよりも何処かカラスのような印象を受ける。その腕には鷲と思われるもののマークがある腕輪を装備している怪人は剣崎の事を仕切りにブレイドと呼びながら好戦的な視線を見せ続けている。それは以前ショッピングモールにて戦ったあの怪物にも似ている気がしてならない、アレはヤギでこれはワシ、全く違うものの筈なのに同じような物にしか映らない。

 

「今度こそ、彼を解放し約束を果たすのだっ!!」

「解放、約束……何を言ってるんだ?」

「君に破れた時の屈辱、今でも忘れないさ……だが意外だったな。まさか君がカリスを持っているとはな!!!」

「カリ、ス……?」

 

怪人はゆっくりと此方を品定めするかのように歩きながら、鋭く睨み付けて来るかのごとく腕を向けながら何かを必死に叫ぶように言う。カリス、全く知らない言葉に動揺を隠せない剣崎。これも精神的な揺さぶりをかける為の作戦なのだろうか、ならばそれに乗るわけにいかない。確りと意識を持って立ち向かわなければならない。

 

「おおっ……待っていてくれカリス、間も無く君を解放しあの誓いを果たす時だ!!!」

「剣崎っ!!!何をしている、早く後退しろ!!」

 

そう虎が叱咤する、目の前の怪人の言葉の意味なんて考える意味なんてない。必要なのは今この場で如何行動するかを冷静に判断して実行するのみ。

 

「はい、ですけどこいつっ……!!」

「君は絶対に逃さない、いや、カリスを渡してくれるのならば見逃しても構わないが?」

「さっきから聞いてればカリスカリスカリス……何だお前は依存症か!!?俺はそんな事なんて知らないし、意味も分からない!!」

「まだ白を切るか……!!それならばっ―――!!!」

 

瞬間、怪人の身体から飛び出していく羽、それは真っ直ぐと剣崎へと向かっていく。それを回避するがそれらは木へと深々と突き刺さって行った、ただの羽ではないという事を理解するが回避しかとれない。そんな中で飛び込んでくる回避不可能の角度での羽。

 

「まずいっ……!!!」

 

咄嗟に防御を固めるが、それから自分を守るかのように地面が隆起して手裏剣のような羽を受け止めた。

 

「今度は私が守るよ剣崎君!!」

「ピクシーボブ!!」

「邪魔を!!」

「我の弟子に、手を出すなぁぁっ!!!」

 

再び羽を放とうとした怪人に虎の怪腕の一撃が突き刺さる、腕にある爪ごと粉砕する重々しい一撃は相手を木々の奥へと一気に吹き飛ばしてしまった。あれで個性が増強型ではないというのだから本当に驚きだ。

 

「無事か剣崎!!」

「は、はい有難うございますっ!!ってさっきの二人は!?」

「「「既に倒した!!」」」

「うわっすげ」

 

と胸を張る三人が指差す先には襲い掛かって来ていたはずのヴィラン二人が転がっていた。流石はプロヒーロー、抜群の連携などが取れるから奇襲さえ受けなければ負ける事なんてまずない。思わず剣崎も見事に土の牢獄に閉じ込められているタコ殴りの二人のヴィランを見て素で賞賛の声を上げてしまった。

 

「限界まで土は圧縮してあるから、硬度は保障できる。あいつらはこのまま放置してても大丈夫」

「正直ピクシーボブいなかったら相当苦戦してた、有難う剣崎君!」

「我が弟子として申し分なかったぞ!!」

「有難うございます……でもあの……虎さん、ぶっ飛ばしたのはまずかったんじゃないんですか……?」

「……実は反省中だ」

 

と虎も自分の判断ミスを悔いている。あの怪人は飛行能力を有している、それらが森の中に入っていき視界から外れている。また奇襲の機会を与えてしまったという事になってしまう。助けられた剣崎は強く言えないのだが実際はかなりやばい状況に変わりない。だがそんなときであった。

 

「マンダレイッ!!!剣崎君!!」

「出久、お前―――!!?」

 

木々の間から飛び出してきた出久、彼は洸太を救う為に飛び出して行った筈。保護出来たという事なのかとそちらを見た瞬間、思わず血の気が引いてしまった。片腕は折れているのか垂れ下がっている、いやそれよりももう片方の腕が完全にやばい。赤黒く変色している上にぐにゃぐにゃに折れ曲がるかのようになっている、剣崎は今まで個性の特訓に付き合ってきたがその時に負っていた怪我とは比例にならないほどの大怪我だ。直ぐに治療、いや、ラウズカードで回復させなければならないレベルの物だ。剣崎は歯軋りをしながら出久へと歩み寄って行った。

 

「出久お前そんな身体になってまで……!!!!」

「その事は後で!!マンダレイ、洸太君は無事です!!相澤先生に預けました!!」

「本当なの!?で、でも貴方その怪我!!?」

「それより大急ぎでテレパスをお願いします!!相澤先生からの伝言です!!、1組及び2組に通達!!プロヒーロー、イレイザーヘッドの名において戦闘を許可すると!!!!」

 

そしてもう一つ伝えるべき事があると言おうとした時、木々の陰から怪人が飛び出して剣崎を拘束したまま天高くヘと連行していく。

 

「しまっ……!!?」

「剣崎君!!!」

 

ピクシーボブは凄まじい勢いで土を隆起させて、剣崎を捕まえようとするがそれよりも早く怪人が天へと昇っていく。

 

「ヴィランの目的が分かりました!!ヴィランの目的はかっちゃん、いや爆豪君とそして―――剣崎君を捕らえる事なんです!!!」

「な、なんですって!!!!??」




「さあ、カリスを渡せ!!」

「剣崎君を狙って、何をする気何だ……!?」

「剣崎ちゃん!!」

「彼女に、手を出すなぁぁぁっっ!!!!」


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イーグル、フュージョン。

「さあ、カリスを渡せ!!」

「だぁからカリスって何の事だっての!?」

 

凄まじい勢いで飛翔していく怪人、それは最初から目的が剣崎であったように行動している為に出久の言葉が益々信用性を帯びていった。しかし救出しようにも天高く羽ばたかれては追いかける手段が極端に限られてきてしまう。既にピクシーボブの"土流"では届かない距離にまで上昇してしまっている。

 

「剣崎君を狙って、何をする気なんだ……!?マンダレイ、僕はかっちゃんの方に行きます!!!じっとなんてしていられません!!!」

「ま、待って貴方そんな怪我じゃ!?」

 

マンダレイの静止の言葉すら聞こえないほどに脳内ではエンドルフィンやアドレナリンが大量に分泌されている。気を失っていても可笑しくはない大怪我を負っていても行動できているのは、ハイになっている影響で痛みを感じなくなっているから、だがちょっとした拍子で冷静になってしまったら即座に倒れこんで動けなくなってしまうだろう。それでも出久は動かずにはいられなかった。森の中へと走りこんで行き、爆豪の元へと急いでいく。

 

「それに、剣崎君なら一人に慣れた方が力を出せる……剣崎君は、仮面ライダー何だから!!!」

 

剣崎の強さを十二分に把握している出久は深くは心配していなかった、剣崎は尋常ではないほどの実力者という事もあるが彼が仮面ライダーという事もある。その強さはオールマイトすら認める程で、自らを回復させる事も出来る。彼に勝つ事は非常に難しいと思っている中、頭を振り払いながら剣崎の無事を祈りながら全力で走り続ける。

 

 

「離しやがれっ……このカラス野郎!!」

「カラスではない、私はイーグルだ!!」

「つまりワシ……!?」

 

肩へと食い込んでくる爪、徐々に肉を引き裂いて骨にまで達しようとしているのが痛みが凄まじくなって来る。

 

「さあいい加減にするがいい、ブレイド。大人しく私にカリスを渡せ、そうすれば命だけは助けてやる!!」

「だから分からないって言ってるじゃねぇか!!ああもう、良いこうなったら……」

 

このままでは何れやられると思った剣崎はバックルに素早くカードを入れて装着する。

 

「離してくれないなら……こっちから落ちるまでだ!!」

「何を……!!」

変身!!!

TURN UP

 

バックルからオリハルコンエレメント(光のゲート)が生成される、それにイーグルと名乗る怪人は衝突する剣崎はそのままゲートを潜り抜ける事で脱出に成功しながら変身に成功する。しかしイーグルによって剣崎は既に地上から遥か高い上空に連れさらわれている、幾ら仮面ライダーのアーマーが頑強だといってもこれほどの高さから落ちれば自分の身体がどうなるかなんて分からない。

 

「それならこいつだっ!!!」

「〈MAGNET(マグネット)〉」

 

ラウズした事で身体に力が漲ってくる、どんどん迫ってくる地上。そこへと強烈な磁力を発生させつつも、自分の身体からは同じ磁力を発生させる。その磁力の反発を磁力の強弱を調節する事で、ゆっくりと地面へと着地する事に成功する。

 

「あぶねぇっ……!!」

 

兎も角、これで変身を行えて自分も最大限に戦う準備は整っている。だが、これでラグドールのサーチに仮面ライダーが引っかかってしまう。自分を見ようとしたら仮面ライダーが其処にいる、即ち仮面ライダー=剣崎 初という方程式が成り立ってしまう……だがそんな事を言ってられない。兎に角周囲を警戒しながらなんとかあのイーグルを倒す手立てを考えなくては……と思っていたときの事、アーマーに何かが張り付いてきた。はがして見るとそれは血が付いたナイフであった。

 

「ナイ、フッ?」

「梅雨ちゃんあれ!!」

「けっ―――仮面ライダー!!」

「(梅雨ちゃんに麗日さん!?それに―――)」

「あれあれ、誰ですかな貴方?」

 

そこにいたのは肩から血を流している麗日と庇うように前に出ている梅雨ちゃん、そして―――目の中に狂気を携えながらこちらを赤く染めた頬のまま、向き直る不気味な少女であった。不意に剣を構えると少女は一気に飛びのきながら木々の陰に後退する。

 

「貴方相当強いです、私は殺されたくないので逃げます。バイバイ……」

 

そう言って木々の奥へと消えていく少女、思わず見送ってしまった剣崎だがそのままナイフを圧し折ってから彼女達二人へと駆け寄っていく。出来るだけ声を低くして自分だとバレないようにして声を出す。

 

「無事か」

「はっはい大丈夫です……」

「そうか、ヴィランの気配がしたから来たのだが……まさか山火事とはな」

「い、いえこれはきっとヴィランがやったんです!!さっきマンダレイさんのテレパスでヴィランが来たからって交戦の許可が下りたりして……!?」

「落ち着け一つずつゆっくりでいい」

 

と剣崎は仮面ライダーとして振舞っている事に気付いた梅雨ちゃんもそれに合わせるようにしながら、剣崎がばれないようにする事を決意しながら麗日と話を合わせていく。そんな中―――

 

「おい蛙吹、麗日!!」

「轟君に障子君、それにデク君!!」

「ケロッ緑谷ちゃんその怪我!!?」

「僕、は大丈夫……!!」

「おいてめぇは何なんだよォ!!てめぇもクソ共の仲間かぁあ!!?」

「ち、違うわ爆豪ちゃん!!私達仮面ライダーに危ない所を助けてもらったの!!」

「まさか、こんなところで仮面の騎士と出会う事になるとはな……」

 

背後から轟、障子、出久、爆豪、常闇がやってくる。突然の出会いに双方共に驚きを隠せないが、兎も角互いの情報を交換して最善を尽くす事に専念する事にした。手短に互いの事を理解したお互いらは仮面ライダーが敵ではなく味方である事、爆豪を護衛しながら宿泊所へと向かっている事を理解した。

 

「兎も角、治療を行う」

「てめぇにんな事が出来るんのかよ!!」

「出来るわ。USJで相澤先生の傷を仮面ライダーは治してくれてる……!!」

「そっか、そう言えばそんな事もあったな……」

「わ、私は大丈夫だからデク君を優先して……!!」

「兎に角静かにする事だ」

RECOVER(リカバー)

 

ラウズした力で二人へと回復の光を差し向けていく、兎に角出久の傷は想像以上にやばい。かなり集中させなければ治す事は難しい、そして9割以上も出久へと費やした結果として出久の両腕は復活し麗日の身体も治癒させる事に成功した。

 

「……あんなにボロボロだった腕が治ってるなんて……」

「有難う仮面ライダー!」

「有難うございます!!」

「礼は、危機を脱してからにしよう。まだ空に敵がいる」

 

その言葉に全員が意識を集中し警戒を高めた、空に敵がいる。機動力が圧倒的なほどに上な相手がいると言うことだ。対策を立てようとした時、再び森の影の中からイーグルが飛来してきただが今度は梅雨ちゃんを狙っての行動だった。

 

「邪魔を……するなっ!!!」

「それはお前だぁっ!!!」

 

咄嗟に身を乗り出して、自らを盾にするようにしてイーグルの爪の斬撃を防御する。流石に片腕の物は虎の一撃で粉砕されているが、もう片方が残っていた。それによる攻撃が剣崎の身体へと突き刺さった。

 

「(剣崎ちゃん……!!)」

 

思わず叫んでそうになるのを必死に抑える梅雨ちゃん、深く突き刺さったそれはライダーのアーマーと言えど耐えられるか分からない物であった。それほどまでの一撃、しかし剣崎は耐えていた。腹部へと突き刺さったそれを鷲掴みにしながら剣崎は爛々と目を光らせながらイーグルを睨み付ける、思わず怯んでしまったそれを―――

 

「彼女に、手を出すなぁぁぁっっ!!!!」

 

思いっきり殴りつけた。頭部を殴りつけられたイーグルは倒れこむが剣崎は攻撃を止めない、翼へと手を伸ばしそれを力一杯に引っ張ってそれを引きちぎる。激痛にもだえるイーグルの声が森の中に響き渡るがそんな事気にしない。今剣崎の中にあるのは梅雨ちゃんへと攻撃を向けたこの怪人への怒りだけだった、圧倒的な機動力の源である翼をもぎ取るとそのまま木へと投げつける。そして一気にカードをラウズする。

 

KICK(キック)〉 〈THUNDER(サンダー)〉 〈MACH(マッハ)LIGHTNING SONIC(ライトニングソニック)

「ウェェエエエエエエエエエエエイッッッッッ!!!!!」

 

爆発的な速度を長短距離で発揮しながらその勢いまま、雷撃を纏った凄まじい蹴りをイーグルへと炸裂させる。怒りも相まってか以前繰り出したとき以上に破壊力が乗っているそれは、イーグルの身体を崩壊一歩手前まで追い込みながら命中する。それを受けたイーグルは身体を震わせながら爆発を撒き散らしながら倒れこんだ。そしてショッピングモールで戦った怪物と同じくバックルが開いた。

 

「……もしかしてこいつもか」

 

もしやと思いながらイーグルにもカードを投げつける、すると矢張りその身体は混濁した緑色に発光しながらカードへと吸い込まれていく。完全にカードに吸い込み終わるとカードは手元へと戻ってくる。カードには『FUSION(フュージョン)』と刻まれていた。

 

「これは一体……!?」



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理由と変化、終わらぬ戦い。

「……仮面ライダー、今のって……?」

「カードに、なんかヴィランが吸い込まれて行ったぞ……?」

「確保した、って事なのかな梅雨ちゃん……?」

「多分、そうなんじゃないかしら……」

 

イーグルがカードへと吸い込まれていく場面を見た出久達は正直言って動揺していた、倒したヴィランへカードを投げつけてその中へ封印でもするかのような行動。ヒーローの中には束縛に適した個性などを持ち、それらを最大限に活用するヒーローも実在する。シンリンカムイも樹木という個性を生かした必殺技を持っているがそれとも違う。ヴィランを完全にカードに封じ込めてしまう力、他のどれとも違う物に出久達は驚きを隠せなかった。

 

「(剣崎君、君の、仮面ライダーの個性って一体……!?)」

 

出久は思わず剣崎の得体の知れない底知れなさに少し恐怖を感じていた、今の個性社会の中でも此処まで異常な個性なんて存在しないだろう。同時に彼が本当にヒーローでいて良かったと思える、仮に彼がヴィランになっていたら、オールマイト以外に止める事の出来る人物なんていない……いや、オールマイトでも止める事が出来るのかも怪しい。

 

「取り敢えず……危機は脱した、って事で良いのか……?」

「恐らくそれでいいのだと思う……しかし、件の仮面の騎士が此処までの強豪とは思いもしなかった」

「ああっ……俺や緑谷は前に目の前で見てるが、あの時は力を抑えてたって事何だな……」

「うん……最後の一撃なんて凄かったもんね……」

 

そんな風にステインと仮面ライダーの戦闘を間近で見ている轟と出久は目を丸くしていた。同時にこの仮面ライダーの個性とは一体なんなのかと言う事を激しく疑問に思うのであった。そんな風な疑問を浮かべているとライダーは振り返りながらカードを仕舞い込む。

 

「兎も角、宿泊施設へと向かおう。早急にプロヒーローと合流すべきだ」

「そ、そうよね。早く行きましょう」

「だが剣崎を探さなくて良いのか?奴とて狙われているのだろう」

「だけどこのまま僕達が勝手に行動してもまずいと思うよ、まずはかっちゃんの安全を先生に連絡してから捜索はプッシーキャッツに任せた方がいいよ」

「それは賛成だ。プッシーキャッツは山岳救助エクスパート、それにラグドールの個性なら直ぐに剣崎を探し出せる」

 

と障子の言葉に皆が納得する中で出久と梅雨ちゃんだけが渋い顔をしていた、そう剣崎のお陰で自分達は助かっているがその代償として剣崎は自らが仮面ライダーだとバレるのがほぼ確実となってしまっているのである。今まで隠し続けてきた秘密がバレてしまう……そんな事になるのだと思って剣崎へと顔を向けるが彼は真っ直ぐに施設への道を見据えていた。彼にはそんな事を一切考えていない、考えているのは皆を無事に送り届けるという事のみ。

 

SCORPE(スコープ)

 

皆を先導しながら剣崎は一枚カードをラウズする。それによって高められた警戒心や意識、感覚が数倍に研ぎ澄まされていく。今や彼自身がレーダーと全く同じ役割をなせるようにもなっている、それによってヴィランが近くにいないかを完全に把握しながら不意撃ちに対処出来る。距離こそ其処までないが、対処の為には十分過ぎる距離だ。

 

「……おい仮面野郎」

「……何だ」

 

不意に爆豪が剣崎へと呼び掛けた。普段よりも何処か荒々しさが抜けているような印象を受けるのは仮面ライダーとの力量の差が大きい事を自覚し、自分は守られるべき存在という事を把握しているからだろうか。冷静に判断した結果、自分は派手に動かず守られるべきだと。少々苛立つ事だが彼にとってはヴィランの思い通りになる方が更に苛立たしい。自分がもっと強かったらっと強く思う。

 

「なんでてめぇはそんなにつえぇんだよ」

「ッ!?(か、かっちゃんが……相手を認めた!?)」

「……」

 

出久が爆豪の言葉に驚いた、あのとてつもなく自尊心が強く攻撃的な性格で、他者から見下される事はもちろん、何であろうが負けた気分になる事も非常に嫌っているあの爆豪(かっちゃん)が相手が自分よりも強いという事を認めてその理由を尋ねた。それだけで、出久を驚かせるには十分過ぎるものだった。剣崎もそれに驚きつつも一旦足を止めた、そして答える。

 

「……さあなんでだろうな」

「あぁっ?」

「自分が強い、なんて考えた事は無い。自分が何が出来るかで判断するようにしている。強いと思う事は大切だ、精神的な成長にも密接に関係する。だが時にそれが慢心を生み、自らを貶める」

「……ッ!」

 

それを聞いた爆豪には思い当たる事が幾つもあった、事実としては出久の事を見下し続けている彼には何処か耳が痛くなるような言葉だった。

 

「大切なのは自分が何が出来て何が出来ないことを見極め、肯定し、模索する。それだけだ」

「……そうかよ」

 

そう言うと爆豪は黙り込んで後に続いていく、確実に爆豪の中で何かが変わり始めている。出久は何か不思議な予感を感じながら先導する剣崎のあとを続いていく。そして暫く歩いていくと施設へと到着する事出来た、その入り口には相澤が待機しながら警戒をしており此方を見つけると一瞬身構えるが、即座に警戒を解いて駆け寄ってくる。

 

「お前ら無事か?」

「はい、仮面ライダーが助けてくれたんです……!!」

「違法自警者、仮面ライダー……」

 

思わず睨み付ける相澤に出久達は必死に自分達の危機を救ってくれた事、此処まで安全に連れてきてくれた事を主張する。確かに彼は正式なヒーローではない、だがそれでも自分達を必死に守ってくれたヒーローなんだと言う。それでも相澤の鋭い視線は収まらないがその鋭さの意味は、彼が違法自警者だからという訳はない。―――この仮面ライダーの正体が剣崎だから、という事にだ。

 

「……仮面ライダー、俺個人としてはお前をここで捕まえるべきだと思っている。だが、それは合理的ではない。今現在ヴィランの襲撃を受けて生徒らが怪我を負っているし、ラグドールも怪我を負って意識を失っている状態だ」

「ラ、ラグドールが!!?」

「ああ。鉄と泉が必死に助けたお陰でなんとか難を逃れたらしいが、それでも意識を失ったままだ」

 

肝試しの順番で早い順番だった鉄と京水のペア、そんな二人がヴィランの襲撃を受けた時はちょうど中間地点にてラグドールから中間地点突破の証であるお札を受け取っているときの事だった。其処に襲来して来たヴィランは真っ先にラグドールを襲った後に二人にも襲いかかった。そして必死の交戦の結果、二人も多少の傷を負った物の此処まで戻ってくることに成功している。

 

「……お前には怪我を治療する能力がある、それで以前俺も救われた。出来れば生徒達やラグドールの治療を頼めるか」

「……承知した」

 

と剣崎はOKしながら相澤に連れられて施設の中へと入っていき、怪我人達の元へと移動した。そこでは仮面ライダーとと騒がれたが、相澤が静めながら剣崎は治療を施して行った。そして最後のラグドールの治療が終了したところで入り口から凄まじい音が聞こえてきた。

 

「この音は何だ!?」

「……まさかッ!!」

 

その場を飛び出しながら外へと出て見るとそこには……全身を黒い闇でコーティングしたかのような鉄並に巨大な魔物のような怪物が其処に鎮座していた。そしてそれはまるで甲高い咆哮を上げながら敵意を剥き出しにしながらブレイドを睨み付けた。

 

「まだ、終わらないのか……!!」

 




―――さぁいよいよクライマックスだぜブレイド、その力を存分に見せてくれよ……黄金の剣をよ。


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誰の為に戦うか、何の為に守るのか。

「皆無事か!?」

「ああっこっちは大丈夫だ、誰かいない奴いるか?点呼を取れ飯田」

「分かった!一組、一人ずつ僕に名前を言って行ってくれ!!」

 

施設の一室に集められた1組、森の中でのヴィランでの襲撃などを何とか回避、交戦しながら何とか戻ってくる事が出来たメンバーがそこに集まっていた。怪我によって床に伏せているものもいたがそれらも仮面ライダーである剣崎の力によって治癒されて、今では全快状態となっている。葉隠と響香はヴィランが操っていたガスの影響を受けてまだ意識が少しグラついてはいるが、それでも確りと安全が確認されている。そしてその場には全員いる、訳ではない。

 

「剣崎君がいないぞ!?誰か、剣崎を知らないか!?」

「い、いや知らねぇぞ!?あいつもしかして、ヴィランに捕まっちまってるのか!?」

「いやあいつほどの奴がそう簡単に捕まるとは思えねぇ。きっとなんとかこっちに向かってるだろ」

 

と動揺が広がりそうになるのを剣崎と戦った轟が彼の力を保障するようにして落ち着かせる、あれだけの力を誇る奴がそう簡単にヴィランに捕まる訳もない。ラグドールも目覚めているがまだ意識がハッキリとしていない、彼女の個性さえ使えれば即座に救援に駆けつける事が出来る。そうすれば絶対に助ける事が出来ると皆は信じている。しかし、そんな不安を吹き飛ばすかのように外から凄まじい衝撃波が伝わってくる。今外では仮面ライダーと謎の黒い怪物が戦闘を繰り広げているのである、極力施設から距離を取って戦っているのだがそれでも十分過ぎる衝撃波が迫ってきている。

 

「なんて衝撃だよ……」

「一体どのような戦いが繰り広げられているのでしょうか……」

 

思わず不安に駆られそうにもなるが、それらを掻き消すかのように飯田が声を出して安心させるように努力している。しかしその中でも顔を曇らせている二人がいた、出久と梅雨ちゃんであった。二人とも同じく仮面ライダーの正体が剣崎だと知る者。そんな二人は外から聞こえてくる音を聞くたびに不安に駆られて飛び出しそうになっている自分を抑えていた。

 

「(剣崎ちゃん……お願い、無事でいて……!!!)」

「(剣崎君、大丈夫だよね……君は、強いもんねっ……!?)」

 

確かな信頼も信用もある、それでも不安になっていく気持ちが高まっていく。特に梅雨ちゃんは周りから剣崎の心配をしすぎて不安になっていると励まされるがそんな声なんて耳に入らなくなるほどに願いを送っていた。絶対に帰って来る、剣崎は帰って来るんだと願い続けていた―――そして、一際大きな衝撃波が響き渡った時、梅雨ちゃんの身体は景色に溶けるかのようにして消えていた。

 

 

「オオオッッ!!!」

「ギュアアアアア!!!」

 

一合一合を交えるたびに周囲に巻き起こっていく爆風のような衝撃波、それらによって周囲の木は薙ぎ倒されていく。巨大な大槌のような物を振り下ろしながら攻撃を行う闇を纏う怪物は、仮面ライダーへとその両腕を振り下ろしていく。それらをライダーになる事で強化された怪腕で強引に反らしながら、怪物の身体へとブレイラウザーを振り切る。しかし、それでも大した傷を与える事が出来ない。それでも攻撃を続ける剣崎、諦める事無く攻撃をし続ける。

 

「こいつっ……!!!」

「ガアアアッッ!!!」

 

今までの物と同質の物のようにも感じるが、一切の言葉も喋らない上に如何にも何か違う何かを感じる。黒い泥のような闇、それらが形成している一種の傀儡人形とも言うべきなのだろうか。それに酷く酷似した何かで何処からか操られている何かのような印象を受ける。それでも正体を突き詰めるなんて事はこの現状では何の役にも立たない、兎も角倒す為の努力をするだけだ。

 

「らぁぁぁっっ!!!!」

 

渾身の一閃、それらは確かに怪物の身体を抉るかのように炸裂し膝を付かせる。しかし、それを受けてまるで何かしたのかと言いたげなように立ち上がる怪物に剣崎は寒気を覚えた。そう今ハッキリした、以前USJでオールマイトと戦った脳無に近い。あれに闇を纏わせたような怪物だと思う、だとしても何の解決にもならないまま、身体中から伸びていく鎖、それらは自由意志を持ったかのように一つ一つが此方へ攻撃を仕掛けてくる。

 

「なっ!?クソッ!!!」

 

必死にブレイラウザーを振るいながらそれを弾き、切り裂きながら防御を行っていくがそれすら無意味だとあざ笑うかのように鎖は雑草のように伸びて再び襲いかかってくる。しかも一本一本パワーもかなりあるので打ち合うだけでかなり面倒な相手。そしてそれらの対処に追われているときの事だった、振り抜かれた大槌の一撃が剣崎の腹部へと炸裂してしまった。

 

「―――がはっ……!!」

 

凄まじい速度で弾き飛ばされそのまま木へと激突する、意識がぶっ飛びそうなほどの一撃を如何にか堪えた剣崎だがそれでも身体に走る激痛が視界を歪ませている。虚ろになりかける意識に力を込めながら必死に立ち上がろうとするが、先程の一撃が響いているのか中々立つ事が出来ない……。崩れ落ちる身体に活を入れて必死に立とうとするがそれでも立てない……。

 

「ぐっ……!!!」

 

一歩、一歩と近づいてくる怪物。同時に振り上げられていく大槌、この威力では『METAL(メタル)』で防御を固めたとしても容易く突破されてしまう。あの一撃を今度まともに受けたら身体が砕け散ってしまうかもしれない、何とかして逃げなければと身体を動かすが全く動かない。そして遂に到達した怪物は目の前にいる自分へとその巨大な大槌を勢いよく振り下ろした。その剣崎すら圧倒するような怪力によって振り下ろされた一撃は地面に深い地割れを生み出しながら、振り下ろしたそこにクレーターのようなものを作り出してしまった。怪物は潰れた剣崎を見ようとしたのか、大槌を持ち上げると―――そこにはアーマーの欠片も血の一滴も残されていなかった。周囲を見回して見ると、自分の後ろにその姿があった。しかも、肩を貸されているようにも見えるが何がいるのか分からない。

 

「うううっっ……」

 

何が起きたのか分からない、自分が潰されていない事だけは確かなようだが……だが肩を貸してくれているようなこの感覚は何なのだろうか……。

 

「剣崎ちゃん確りして……!!」

 

揺らぎ掛けていた意識を呼び覚ましたのは大切な人である彼女の声だった、瞳を開けて見ると隣には梅雨ちゃんが自分に肩を貸していた。

 

「梅雨、ちゃん……?何で、どうして来たんだ……!?」

「だ、だって放っておけなかったんだもん……心配で心配で……!!!」

 

大粒の涙を目元に蓄えながらボロボロになりながらも必死に戦っていた剣崎に問いかける、剣崎の強さは把握しているがまるで誰かが教えてくれているかのように、本能が叫んでいた。このままでは剣崎が危ないと。そう思ったとき、身体が動いていた。剣崎の元へといち早く向かわなければならないと、そんな彼女の言葉に心配を掛けてしまったかと思いつつも、不意に彼女の身体が目に映った。身体の一部が風景と同化するかのように変化している。

 

「梅雨ちゃん、それって……!?」

「えっ……?あ、あら何これっ!?わ、私こんな事出来ない筈なのに……あっもしかして入り口で見張りをしてた相澤先生達をすり抜けられたのってこれのお陰……!?」

 

どうやら彼女も気付いていなかったようだが、梅雨ちゃんの身体はまるで保護色のように周囲の景色に溶け込むかのように変化していた。これによって梅雨ちゃんは相澤達の見張りを突破して剣崎の元までやってくる事が出来たという事なのだろう。

 

「でも、梅雨ちゃん此処は危ない……早く、逃げて……!!」

「それなら剣崎ちゃんも一緒よ、言ったじゃない何時も一緒だって!!」

「でも、このままじゃ……!!」

 

じりじりと近寄ってくる怪物、未だに自分のダメージが深い事を見て此方を舐めるかのようにしつつ大槌を構え直している。非常にまずい……!!なんとかしないと、梅雨ちゃんを守りたい……仮面ライダーとしてではない。剣崎 初として、一人の男として……自分の事を好きだといってくれた彼女を、ずっと一緒に居てくれると言ってくれた彼女を守り抜きたい……!!!

 

―――その時、剣崎は今までにない感覚を体験する。世界の時間が止まるかのような、灰色に満ちたような世界に一人取り残されたかのような……奇妙な感覚を。全てが灰色に染まりきった中で剣崎はある物を見たそれは―――黄金の翼と剣を持った騎士が敵をなぎ払う姿だった。

 

「―――剣崎ちゃん、ずっと一緒にいるから!!」

「……そうか、そういうことか……」

 

理解、把握、熟知。今の一瞬が教えてくれた、今の自分には大切な人を守る力がある。橘から貰ったこの謎の装置、その意味を。何故これに強い力を感じたのか、何故それに『ABSORB(アブゾーブ)』と『FUSION(フュージョン)』を封印する為のカードが入っていたのかを……。

 

「梅雨ちゃん、君は俺が守る。君と一緒にいる為に、君と笑う為に……!!」

「剣崎ちゃん……!!」

 

痛む身体に力が漲る。そうだ、今までだってそうだった、自分は誰かの為に力を尽くしてきた。それは助けた人が見せる笑顔が本当に美しくて好きだったからだ、人を愛しているからだ。そして今は―――大切な人の為にその力を振るって守る、その為に全力で戦う!!!剣崎はブレイラウザーから『ABSORB(アブゾーブ)』と『FUSION(フュージョン)』の二枚を取り出した。そしてそのうちの一枚を腕の装置、いや―――"ラウズアブゾーバー"へとセットした。

 

ABSORB QUEEN(アブゾーブクイーン)

 

差し込むと同時に巻き起こるかのような鼓動のようなエネルギーが身体を取り巻いていく、同時に高い高揚感と確かな実感が現れてくる。これは自分に新たな力となる、そしてそれは彼女を守る絶対的な力になってくれると。その確信と自信と共にもう一枚のカードを、ラウズする。

 

FUSION JACK(フュージョンジャック)

 

刹那、ブレイドを金色の光が包みこんでいく。翼を広げたワシにも見えるような光がブレイドへと溶け込んでいく。それらはアーマーと溶けあうように融合し、ブレイドはその光を余す事無く自分の物へとしていく。そしてブレイドは進化を遂げていく、アーマーの一部は輝く金色になり胸部に鷲を思わせる紋章が刻み込まれていた。そして優雅且つ神々しささえ与えるマントのような翼を背中に携えながら、剣崎はその力を完全に我が物とした。その進化に応じるかのように刃の先端には金色の刃が出現する。新たなステージへと立った剣崎、ブレイド・ジャックフォームの誕生である。

 

「剣崎ちゃん……凄い、綺麗……」

 

その美麗さと洗練された勇ましさに思わず梅雨ちゃんも息を飲んだ、一歩前に出た新たな姿へとなったブレイド。そこへと向かってくる怪物は大槌を振り下ろす、背後には彼女もいる事から避けないと踏んだのだろう、確かに避ける事が出来ない―――ならば

 

「だぁぁっ!!!!」

 

避けなければ良いだけの事。剣崎が振るった一閃は大槌をまるで果物でも切ったかのような綺麗な切り口を残しながら、怪物の腕ごとそれを完全に両断してしまった。全身漲ってくる凄まじい力、それに驚きを感じつつも的確にそれを分析しながらそのままの勢いで斬撃を怪物の身体へと叩きこむ。

 

「グギャアアオアオア!!!」

 

今度の一撃を受けた怪物は苦しみ悶えるように後退りをしていく、だが剣戟を全く緩めないままその身体へと更なる斬撃を刻んでいく。黄金の刃は怪物の身体の奥までダメージを与えて行く、そして回転斬りを決めると大きく倒れこんで激痛に歪んだ叫びを上げる。

 

「これで、終わりだ……!!」

THUNDER(サンダー)〉 〈SLASH(スラッシュ)

 

カードの力を取り込んでいくと全身からエネルギーを溢れだしながら背中の翼を大きく広げていく、そして剣崎の身体は重力に逆らうかのように浮き始めていく。そして剣を構えながら一気に飛翔し、怪物を翻弄しながらその上空から一気に剣を振り下ろす。

 

LIGHTNING SLASH(ライトニングスラッシュ)

「ウェェェエエエエエエエエイッッッ!!!!!!」

 

気迫の裂帛と共に振り下ろされた一撃、それは怪物を頭部から切り裂きながらも全身に雷撃を流し込んで相手を完全な戦闘不能へと導いていく。剣を引き抜き梅雨ちゃんへと振り向いた時、背後では怪物が爆発を起こしながら炎上をしていた。炎を背に受けながら剣崎は変身を解除しながら笑いかけた。

 

「有難う梅雨ちゃん、君のお陰で勝てたよ」

「剣崎ちゃん、剣崎ちゃん……!!」

 

感極まった梅雨ちゃんは思わず駆け寄って抱きついた、そして彼の体温を身体全体で感じながら確かに此処に剣崎が居るという事を実感しながら涙を流して喜びを表した。




―――あ~あ、負けちまったよ……これじゃああいつに顔向け出来ねぇな……まあこの場合はしょうがないか。


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慟哭。

「悪い梅雨ちゃん、肩貸してもらっても良いかな……悪いけど、慣れてないのか身体に力が入らないんだ……」

「大丈夫確り支えるわ、ほらっ」

 

闇の怪物を倒すことに成功した剣崎、抱きついてきている梅雨ちゃんを一段と強く抱き締めるとなんとか立ち上がろうとする。だが、先程の形態、ジャックフォームの影響か妙に身体に力が入らない。始めての姿という事もあって身体がついて行かない様な感じで、全身が筋肉痛のように痛む。肩を借りて漸く立ち上がれた程であった。立ち上がりながら自分が倒した怪物が炎に塗れながら、徐々に燃えていく姿を見つめるが直ぐに視線を施設の方へと向けて協力を得ながら歩いていく。

 

「にしても、梅雨ちゃんも無茶、するよね……」

「貴方の彼女だもの、似た物同士って奴よ」

「ははっそりゃ嬉しいもんだ……」

 

そんな軽口の掛け合いが疲れきった身体を癒していくかのように染み渡っていく、彼女の言葉が此処まで有難くて温かい物になってくれるなんて思わなかった。やっぱり、自分に取って彼女がどれほどまでに大きな存在なのかを実感出来る。彼女が隣に居てくれるだけで、元気が出てくる。彼女は自分の愛は重いと言っていたが如何やら自分もそれなりに重い愛情を向けてしまうタイプの人間のようだ。

 

「梅雨ちゃん、今度是非御礼をしたいな……今回は君が来てくれなかったら俺は本当に危なかった」

「いいのよそんなの。あの時言ったでしょ?お互いに気遣いあって、譲り合って行きましょうって」

「そっか……それじゃあさ、デートしようよ。折角その……つ、付き合ってるんだからさ……」

「それじゃあ日程を合わせて行きましょう。ケロケロその時は剣崎ちゃんのエスコートを期待しちゃおうかしら?」

「だから俺だって初めて付き合ったのが梅雨ちゃんだからそっち方面は初めてなんだって……」

 

とそんな初々しさを醸し出しながら木々の間を抜けていく、そして施設の明かりが見え始めた所で彼女から何かあっても私が話を合わせるからと言葉を貰って感謝を返す。

 

「剣崎……それに蛙吹!?お前どうして外に……!?」

「剣崎君無事!!?」

 

外で見張りをしていた相澤とピクシーボブがそれに真っ先に気付いた、二人は声を発しながら周囲を警戒しながら二人へと意識を向ける。二人は大丈夫だと言う事を伝えながらなんとか戻ってこれた。二人の元へとたどり着き、なんとか報告をする。

 

「ご心配、お掛けしました……なんとか拘束を振り解いたんですけど、そのまま森に落とされて……それでなんとか木々の闇に隠れてなんとか、逃げて来れてました……」

「そうか、兎も角無事で何よりだ」

「うんうん、ごめんね剣崎君……今度は私達が守るってあんなに自信満々に言ったのに……」

 

ピクシーボブは責任を感じながらボロボロになっている剣崎の身体を見ながら、梅雨ちゃんに肩を貸されて歩いている現状を見て顔に影を作った。あれほどまでに自信たっぷりに、助けられたのだから助けるんだと息巻いていたのにあっさりと空へと剣崎を連れ去られ、その後に多大な苦労を掛けさせてしまった。守るべき側にいる剣崎を守れなかったと言う事実が重く圧し掛かってくる。

 

「気にしないでくださいよピクシーボブ、誰だっていきなりあんな事されたら対処難しいに決まってますから。まあ確かに高高度から紐無しバンジーする羽目になりましたけど……まあいい経験になりましたよ」

「剣崎、お前それ良く生きてたな」

「俺もそう思いますよ……ああっほっとしたら、足に力が……」

 

と思わず後ろに倒れながら座りこんでしまう剣崎、そんな剣崎を見ながら相澤は思わずそれほどまでに先程まで続いていた戦いが激しかったのかと想う。兎に角これで生徒全員の安全が確認出来た、怪我も剣崎の手によって治療されているので実質的な被害と言えばライダーとして戦った剣崎の疲労困憊具合だろう。

 

「ほら剣崎ちゃん」

「ああ悪っ―――梅雨ちゃん危ない!!!!」

 

突如、闇の中から一段と深い物を凝縮されたかのようなものが此方へと接近して来た。それはまるで彼女を狙っているかのような動きで迫ってきた、それに素早く気付いた剣崎は身体の痛みなど忘れて彼女を突き飛ばしていた。

 

「キャアッ!!剣崎ちゃ―――っ……」

 

突き飛ばされた梅雨ちゃんは視界に広がっているそれを見て目を疑った。そこにあったのは暗い暗い海の底、その闇をそのまま掬い揚げてきたかのような闇が剣崎の身体に取り巻いている光景だった。それらは次第に深く絡みついて行き離す気がないような勢いで剣崎を拘束していく。

 

「何だこれはっ―――!!!」

「剣崎君!!」

「触れちゃ、駄目ですっ……!!!こいつは、きっと……触った奴を取り込むような、物です!!!」

 

その言葉を聴いたピクシーボブは手を引っ込めるが透かさず"土流"を発動、地面を操ってそのまままだ闇が纏わり付いていない部位に土を伸ばして思いっきり引っ張ろうとするが闇は侵食するウィルスのように土流すら飲み込んでいく。このままでは自分も飲み込まれると、土を崩すがこれでは本当に剣崎を助けられない!!相澤は近くに個性を使用しているヴィランがいるのではないかと視線を巡らせるが、全く姿が見えない。

 

「意識が……あい、ざわ先生……」

「剣崎!クソ!!」

 

相澤も焦る、この闇は捕らえた者を衰弱させて捕獲する類の物の可能性が一気に高くなった。だが、同時にとんでもなく狡猾なトラップでもある、助けるにはこの個性を使っている者の個性を消すしかないが、全く見当たらない。一体何処にいる……と焦りが生まれていく中で剣崎の声が聞こえてくる。

 

「つゆ、ちゃんを……皆を、守って……ください……!!俺は、大丈夫です、俺は、強い、ですか、ら……」

「剣崎ちゃん!!!!!」

 

悲鳴染みた声、飛び出して抱き付こうとする彼女をピクシーボブが必死に止める。

 

「駄目よ貴方も取り込まれてしまう!!!」

「いや、いやいやいやぁ!!!!」

 

徐々に飲み込まれていく剣崎の身体、それを目の当たりにする度に胸が張り裂けそうになる。駄目、自分は彼の隣にいるって約束した、初めてのデートの約束だってした。それなのに、それなのに……!!!そして闇は消えていくかのように薄れていく。

 

「駄目、待ってその人を連れて行かないでお願いだからぁぁぁっっ!!!!!」

「梅雨ちゃっ―――」

「剣崎ちゃんっ!!!!!」

 

伸ばされた手、それを必死に掴もうとする。だがそれは―――闇に飲み込まれ虚空へと消え去って行ってしまった。そこには剣崎の姿なんて無く、何もない地面だけが残っていた。相澤の歯軋りとピクシーボブの声にすらならない言葉が耳を劈く。先程まで彼が居た地面、それに座りこんだ梅雨ちゃんは、仕切りに辺りを見回す。確かにここに居た、居たんだ。居たのに何で、何で居ない……?

 

いや、いやいや……いやああああああああああああああああ!!!!!!!!!

 

辺りに木霊する彼女の悲鳴は、悲しみに染まりきった絶望への道しるべ。大粒の涙を流しながら慟哭の声を上げる彼女をピクシーボブは必死に抱き締めた、虚空へと消えてしまった一人の生徒。目の前に居た筈の彼を救えなかった、そんな後悔が押し寄せる。

 

雄英高校の林間合宿襲撃事件、雄英生徒:剣崎 初の拉致という最悪の事態が最後に訪れ、それが事件の終幕を導いてしまった。



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混濁の光、闇への誘い。

まどろみの中で揺れ続けている、どっちが上で下なのかも分からない。重い泥のような眠気が身体にへばり付いている、抗おうとするほどに眠気は毒となって身体を蝕んで意識を混濁させていく。何の光も差さない闇の中を漂い続ける意識を何かが引きあげようとしている、いや―――まるで引き寄せられているかのような……。

 

―――お前は、本当に世界を……人類を滅ぼしたいのか。

 

―――俺にはもうどうにもならない。俺はそうするように作られた。

 

 

何かが見える、光の中で二つの影が、何かを話し合っている。内容は聞き取れない、だが理解出来る。何故だ、それすらも分からない。それらは次第に姿を変えていき対峙するかのように、距離を取り始めていく。そして―――黄金の鎧、無数に刻まれた紋章と王足らしめる剣を持った者。黒き身体に刻まれた緑色の拘束具、禁断の存在。それらがぶつかり合う―――。

 

「ハァッ……!?」

 

荒々しい息を吐きながら、目を覚ます。最低最悪の目覚めとも言える、これ程までに気分の悪い目覚めなんて今までになかった。本当に最悪な気分だ、そして更にそれらを身体を縛っている鎖が加速させ、記憶が蘇ってくる。それは―――梅雨ちゃんを庇って襲いかかってきた闇へと飲まれ、最後には彼女の泣き出しそうな顔を見たものだった。

 

「よぉ起きたかよ……剣崎 初君」

「……お前は、USJに来てた……」

「死柄木弔、そう呼べ。おっと、そんな風に睨んでくれるなよ。安心しろ危害を加える気はない」

「信頼性あると思ってるのかその言葉……」

「ははっそりゃそうだよな」

 

目の前にいながら気さくに話し掛けて来る男、身体の彼方此方を手のような物で覆いながら顔を手で隠し続けている奇妙な存在。USJにて襲撃したヴィラン達のリーダー、ヴィラン連合のトップと思われる死柄木弔。そしてその周りには黒霧や梅雨ちゃんや麗日を襲っていた少女ヴィランに継ぎ接ぎだらけの男に全身タイツの男などが此方を見つめ続けている。

 

―――如何やら自分は完全にヴィランに捕まってしまったらしい。

 

「まあ兎も角、お前は俺達の手の中って事は分かるよな?」

 

不適そうだが何処か自信ありげ、優越感に浸っているかのような言葉が掛けられてくる。思わず激情に駆られそうになる自分を落ち着かせる、明らかにこの場は分が悪い。黒霧というワープを使う個性持ちまでいる、まともにやったら恐らく勝てない。此処はチャンスを窺うしかない……そう自分に言い聞かせながら何処か呆れているように、諦めているように振舞いながら答える。

 

「はぁっ……そーだな……俺は囚われの身って訳か。せめて、捕まえるなら女にして見たら如何だ。囚われの王子様なんて格好が付かない」

何言ってんだ十分ありだと思うぞ!捕まえるなら女の子の方が絵になるもんな!」

「お、おう……なんか、アンタ面白いな……」

なんだお前なめてるのか!?サンキュ、俺もお前結構面白いと思うぜ!!」

 

まるで人格がコロコロ入れ替わっているかのような言動の不確かさに呆気に取られそうになる、そういう個性なのだろうか……だとしたら生活するのが大変そうだ。

 

「おい荼毘、拘束外せ」

「あっ?良いのかよ、暴れるんじゃないのか」

「いいんだよ、これから行う事の為に立場は対等である必要があるのさ」

「……トゥワイス外してやれ」

はっ俺?嫌だし。分かったぜ今やる!!」

「……何この愉快な集団」

 

思わずそんな事を言いながら身体の拘束を解かれた剣崎は思わず身体を伸ばしてしまう、如何にも妙な気分だ。自分は捕まっているのにそうとは全く思えない、寧ろ歓迎されているといった方が正しいと言えてしまうような雰囲気だ。死柄木が言っているやる事と言うのも気になる、がそんな時に黒霧から麦茶が差し出される。

 

「どうぞ、長らく眠っていたので喉が渇いているでしょう」

「あっどうも……いやいやいや……可笑しい可笑しい……」

「いいんだよ安心して飲め、毒なんて入れてないからよ。言っただろ対等に扱うって」

「いや、一応これでもヒーロー志望だぞ俺。それがあっさりヴィランから茶手渡されて普通に受け取って飲むってアウトだろ……」

「面白いなお前」

 

ビジュアルだけならお前らの方が絶対面白い、と内心で思っている中で真横から凄まじくじっと見つめてくる少女ヴィランが激しく気になった。ひたすらに此方を見つめ続けている彼女が異様なほどに気になる、いや此方を見つめてくるのだから気になるのは当たり前なのだが。

 

「貴方の血、欲しいなぁ。ねえ頂戴、コップ一杯分ぐらい!」

「それって大体200CC寄越せって事かよ……」

「おいその辺にしとけ、今から大切な話をするんだ」

「えっ~弔君いけず~」

「いいから黙ってろ」

 

とトガと呼ばれた少女はバーテーブルに顔を押し付けながら拗ねるように黙り込み、死柄木は顔を下に向けながら溜息を吐き黒霧から出されたお茶を口にする。実は案外彼も苦労人なのかもしれない。

 

「なんか、大変そう何だな……」

「意外とな……さてと本題に入ろう、剣崎 初君、君の事は調べさせてもらったよ。全ての経歴を見た、そしてそれらを踏まえて言おう、俺達ヴィラン連合の仲間になれ」

「―――ッ!!」

「お前は心の奥底で両親を殺した奴らへの復讐を考えている、だが犯人も誰も分からない。だからその憤りをヴィランにぶつけようとしてヒーローを目指している、違うか?」

「そ、れは―――」

 

理解している、両親を失った自分の事を。悲しんだ、涙が枯れるほど悲しんだと同時に憎んだ。大好きな両親を奪った奴らの事を……。

 

「だが違う、お前が本当に憎んでいるのはこの世界のルールそのものだ。個性の有無が格差を生むこの世界だ。だから世界を変える為にお前はヒーローをやっている、その為の力をもっと有意義に使おう。だから剣崎 初―――ヴィラン連合に、入れ」



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誘う闇、姿を現す巨悪。

「だから剣崎 初―――ヴィラン連合に、入れ」

「……普通ヒーロー志望の人間を勧誘するか」

「するさ、お前は本来此方側に居べき存在なのさ」

 

死柄木は笑いながらそう語っている、無論断るつもりでいる。当然だ、自分がヒーローを目指そうとしたのはオールマイトとの約束を果たす為であり救いのヒーローになる為なのだから。ヴィランになるなんてありえない。

 

「お前の心にもあるだろう。両親の命を奪った奴への怒り、怨み、憎しみが。だがお前はそれが晴らせないと思ってるが故にそれらの全てをヒーローになる為のエネルギーへと向けている、違うか?」

「……」

 

違う、そう言いたかったのに口が動かなかった。復讐、死柄木が言っているのは自分が復讐の為に生きてきたと言っているのだ。否定、出来なかった。考えた事なんて幾らでもあった、両親を奪った奴らが憎かった、殺してやりたいすら思った事も少なくなかった。でもそれらを踏み留まらせてくれたのはオールマイトとの約束、両親の仇を討った所で何になるんだ、絶対に両親はそれを望んでいないんだと言い聞かせて自分を抑え付けて来た。

 

「復讐なんて無意味だ、なんて実際に大切な物を奪われていない奴らがのたまう戯言だ。身が焦がれるほどの怒りや憎しみを抱いた事がないから言える」

「……ッ」

「憎しみに満たされたものにとって、自分を諌める手段はそれを完遂する以外にない。だがお前は良く自分をコントロールしてるさ、ヴィランへと何れぶつける為にな」

 

剣崎は思わずその言葉に真剣に耳を傾けてしまった、この死柄木は相手の内面をよく見抜いている。確かに自分の中には誰かを救いたい、救いのヒーローになりたいという強すぎる思いの影の中で鳴りを顰めている憎しみの感情が渦巻き続けている。仮面ライダーとして活動しているとき、それらの感情をぶつけていなかった、といえば嘘になるかも知れない……。ぶつけて発散していたのかもしれないというのは否定しきれない。

 

「だが違う。お前が真に復讐すべきは両親を殺した連中ではなく不自由に、不条理になっているこの世界だ、俺達の戦いは問いそして修正だ。この世界に問い続ける、この社会が本当に正しいのか。国民一人一人にそれらを問い続けていくのさ、俺達は勝つつもりさ」

 

死柄木は立ち上がりながら手を差し伸べてくる、その眼には狂気を孕んでいるがそこにあるのは純粋さ。この社会に対する根本的な疑問、人である以上完璧であることなど不可能であるのにそれをヒーローに求め続ける国民。少し何かをミスしただけで大いに責め立てられるヒーロー達、責められるべきはヴィランでありヒーロー達は逆であるべき筈。そんな言葉に思わず心のどこかで納得を浮かべてしまった。

 

「君は、如何思ってる。今のこの社会を」

「……さぁな、俺は社会とかは如何でも良い。俺は俺がやりたい事をやるだけだ」

「はっはぁ聞いたか黒霧、こいつやっぱり大当たりだ」

「ええっ実に良い人材ですね」

 

自らのやりたい事をする、それはヴィランと全く同じ。個性を自らのしたい事に我慢せずに使用していく。それはヴィランの筆頭的な行動、そして剣崎が今まで仮面ライダーとして活動して来た事と全く同じとも言える。本質的には自分はヴィランと同義、そういう事になる……分かっていたことなのに、いざそう言われると心に来る物がある。

 

「兎も角、よく考えて見てくれ剣崎君。そうすれば君は……良い俺の右腕になれる」

「……いきなり幹部待遇なんて随分気前がいいな」

「それだけの能力があるからな、なぁ―――先生(・・)?」

「先生……?」

 

不意に口に出す先生と言う言葉に疑問を思う剣崎、死柄木は背後にあったモニターへと視線を移しながらそう問いかける。するとそのモニターは何時の間にか『SONUD ONLY』へと切り替わっていた。

 

『あぁっそうだね、彼は実にいい……流石は体育祭で優勝出来るだけの実力を持っている』

 

その言葉を聴いた時、全身に鳥肌が走った。恐ろしいまでの寒気とおぞましさ、邪悪な存在を感じ取った。声だけしか聞こえないと言うのにとんでもない存在感、目の前にイメージで立体化させられるのは世界をそのまま手に収めて握り潰してしまうかのような闇の大魔王。

 

『初めましてだね、剣崎 初君。君とは是非じっくりと話をしたいね』

「……俺は、話したいとは思わないな……」

『はははっ実に硬派だね、だけど僕は君に興味があってね。まあその前にある人物が君と話したがっている、まずはそっちが先だろうね』

「ある、人物……?」

『僕との話しはその後にしよう、それじゃあまた後で』

 

話が終わった途端に全身から噴出してくる汗の雨、圧倒的なプレッシャーの中でなんとか保っていた意識。吹雪が吹き荒れている中で、どうして寒いのかを理解できていないような感覚。おぞましさが身体を突き抜けてきた、そしてそんな自分を笑うかのように一人の人物が目の前に立ってきた。

 

「流石に大先生の声はとんでもなくおっかねぇよな、威圧感とプレッシャー半端ねぇからラスボス臭が半端ない」

「お前、は……」

「俺か?そうだな、お前を此処まで連れてきた張本人って所か」

「お前が、梅雨ちゃんに攻撃を……!!!」

 

と思わず怒りを覚えたがその男はお茶らけたように自分を諌めようとする。

 

「本気であの子にやろうとしたわけじゃねえよ。お前のことだからきっと庇うと思ってな、まあ庇われなくても直前でお前に当てる気だったけどよ」

 

顔を上げてその人物の顔を見たとき、驚いた。自分は彼を知っている、知っている顔だ。浅黒い肌の上には幾重にも刻まれている刺青、それらは時々発光するようにしながらも蠢いている。頭には赤いバンダナをした何処か軽い印象を受ける少年が、何時か自分に正義とは何かを問うってきた少年がそこにいた。

 

「お前はっあの時の……!!!!」

「ああ久しぶりだな。俺は人類の天敵……人類悪(ビースト)この世全ての悪を背負う者(アンリ・マユ)だ」



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滅びを呼ぶ悪、皆は一人の為に。

「人類悪、アンリ・マユ……!?」

「おう。人類の天敵、人類を滅ぼすものさ」

 

そう言いながらにこやかに笑う少年、まるで悪戯が成功した事に対して楽しそうな笑っている子供のような純粋な笑みを浮かべている。そんな彼が人類の天敵と言うのを語られても全く理解出来ないし、実感も出来ない。

 

「まあ仲良くしようぜ兄弟、俺たちはきっと仲良くなれると思うぜ?」

「……俺はしたいとは思わないな。お前は彼女に危害を加えようとした」

「カッ~キッツいねぇ、だから言ってるじゃねえか。直前でちゃんと軌道を変えるつもりだったって、あの泥は俺の思うがままに動く。それに俺だって女の子を傷つけるのは気が引けるからする気はない」

「信用ねえよ」

「ですよね~」

 

けらけらと酷く愉快そうに笑いながら少年、酷く軽い性格でもしているのか全く読めない。肩を組んできて硬い事を言わずに仲良くしようといってくるがそんな気など起きる訳がない。

 

「だけど俺はお前さんと仲良くしたいぜ、お前は俺たちの側に来る素質があるんだからよ。なぁ死柄木先輩よ」

「ああっこいつは間違いなく俺たちの側にいべき存在だ、間違いない」

「(勝手に決めてくれるぜ……)」

 

此方を見つめてくるヴィラン達、その視線は既に同一の物へと向けられるものへと変わりつつあった。つまり自分は既に雄英に通っているヒーロー志望ではなく、ヴィラン連合に加わる新たな仲間という目で見られている。大声で否定しておきたい所だが、した所で待っているのは間違いない一斉攻撃。それで自分は敗れる、それで仮面ライダーとしての力を奪われるのが最も最悪な事。冷静に考えて行動しなければ全てを失う所か、世界を滅ぼす一端を担ってしまう。

 

「人類の天敵……じゃあなんでお前はヴィラン連合と共にいる……」

「そりゃまあ……幾らなんでもいきなり滅ぼすなんて可哀想ですしぃ~?手始めに、頑張った人間に対して正しい行動すら出来ない社会をぶっ壊しそうと思ってな。俺ってば人間博愛主義なもんでネ」

「……天敵なのに博愛ってなんか可笑しくないか」

「別段可笑しくないさね。天敵だからこそ、逆に愛おしく思ってくる事だってある訳よ」

 

にこやかに、晴れやかに笑っている少年に剣崎は何も同意出来なかった。言っている言葉が理解の範疇を超えている事もあるがそれ以上に自分と彼は明らかに相容れない関係にあるのだと察する。そして再びモニターに『SONUD ONLY』という表示が映し出される。

 

『アンリ君、話は終わったかい?』

「おう大先生。もう自己紹介とか終わったからいいぜ、悪かったな時間取らしちまって」

『何気にしてはいないさ。さて黒霧、彼を僕の所まで案内してくれたまえ』

「はい承知しました。剣崎君準備はいいですか、行きますよ」

「……拒否権ないんでしょうに」

「おっ分かってるなぁ~!!!」

 

と肩をバシバシ叩いてくる少年ことアンリ・マユ。そんな彼からの激励のようで激励ではないものを受けながら剣崎はそのまま黒霧のワープにて何処かに転移させられていく、次の瞬間に剣崎は薄暗くモニターの光だけか微かに暗闇の室内を照らしている場所へと姿を現した。背後には未だ黒霧のワープゲートが残っている辺り、用が終わったらそこから帰れということなのだろうか……そう思っていると目の前から声が聞こえてきた。

 

「やぁ……剣崎 初君。こうして会う日を楽しみにしていたよ」

 

その瞬間再び全身が硬直するかのように強張りながら鳥肌が立っていく。声を掛けられただけなのに圧倒的なプレッシャーと威圧感が身体を貫いていく。モニターの微かな光の中に座りながら自分を待っていた人物は身体のあちこちからチューブを伸ばしている為か病人に身間違えそう、だがこの全身に伝わってくる感覚を味わえばそれを病人とはとても思えないだろう。オールマイトにも匹敵しそうなほどの屈強さすら感じそうなそれを纏った男は、穏やかだが此方を威圧するように声を上げる。

 

「アンタが、大先生って奴か……?」

「彼からはそう呼ばれているね、死柄木には先生と呼ばれているから間違ってはいないだろう。初めまして僕はオール・フォー・ワン」

皆は一人の為に(オール・フォー・ワン)……。どうも、剣崎 初だ」

「宜しく、確り礼儀は弁えているようだ。そういう子は好きだよ、ヴィランは荒々しいのが多く、礼儀を弁えているのは少数派だからね」

 

何処か世間話のようにしながらも此方を観察されているような感じがする、恐らく見られているのは間違いない。それにどんな意図があるのか分からないが寒気が止まらない。

 

「さてと君のヴィラン連合加入を祝してささやかな贈り物をしたいと思っているんだ」

「……入るとは言った覚えないんですけど」

「フフフッ……何、道楽の一種や気が早いと笑ってくれても構わないさ。君には強くなって貰った方が後々僕としても嬉しいからね」

「嬉しいって……どういう事ですか」

「何れ分かる日が来るさ、さあ受け取ってくれたまえ。潰れないことを祈るよ」

 

オール・フォー・ワンが手を向ける、それに思わず身構えるがそれよりも早くその指が赤い筋が走る赤い棘のようになって一気に伸びて剣崎の身体へと突き刺さった。

 

「がぁぁっっ……!!!??」

「さあ、これからこの個性は君の物だ。もっともっと高みへ昇るといい……Plus Ultraって奴だよ」

 

どくん、どくん……次第に大きくなっていく鼓動の音。その音がまるで爆音のように身体中へと響いていき身体が爆発してしまいそうな感覚が突き抜けていく。そして身体へと入ってくる異物を徹底的に壊そうとする拒絶反応、声すら上がらないほどの激痛に剣崎は声にならない物を上げながらオール・フォー・ワンの前で苦しみ続ける。

 

「フフフフフッ……さあ新たな次元へと昇るといいさ、その時君は―――もっと強くなる」

「―――ッッッッ……がああああああああっっっ!!!!」

 

 

「剣崎、ちゃんっ……?」



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梅雨、反撃への狼煙。

「―――剣崎、ちゃんっ……?」

 

目を覚ますと其処は見知らぬ天井だった、思わず周囲を見回して見るとどうやら此処は病室であるという事が分かった。如何して自分が此処にいるのかすら何も分からないまま、未だにぼんやりとしている感覚に身を委ねているとドアがノックされてゆっくりと開けられた。

 

「梅雨ちゃん……はいっても大丈夫かしら」

「泉、ちゃん……大丈夫よ」

 

そこへ京水を筆頭に1組のメンバー達が入室して行く、皆は口々に彼女の身体を心配するような気遣うような言葉を掛けながら容態を窺うかのような視線を向けてくる。自分が入院しているのは理解出来るのだが如何して入院してしまっているのかは理解出来ない。どうにも前後の記憶が定かになっていないのか、梅雨ちゃんはぼんやりと天井を見上げる事しか出来なかった。来ていないのは同じく入院している八百万と葉隠、そして響香。

 

「皆、態々来て貰ってごめんなさいね……爆豪ちゃんまで来てるなんて驚きよ」

「……来てわりぃかよ」

 

そうお見舞いに爆豪の姿まであるのが一番の驚きであった。見舞い自体には誘いはしたが爆豪は特にこれと言って悪態もつかずに何時いくのかを聞くだけ聞いて、その時間に合わせて病院へとやってきたのである。相変わらず口は悪いが、矢張り彼の中で確実に何かが変わり始めているのは確実。嬉しいと伝えると、慣れない事をしているからかむず痒さを感じて舌打ちをしてそっぽを向いてしまう。

 

「蛙吹、身体は大丈夫か?」

「ええ大丈夫よ、常闇ちゃん有難うね」

「ほらっお見舞いの御花も持ってきたわよ、綺麗なお花があると気分も明るくなるものね」

「私も色々持ってきたんだが……気分転換になればと思って本やら色々を……」

「泉ちゃんに鉄ちゃんも気を遣って貰って有難う。それと緑谷ちゃん一つ聞いていいかしら」

「う、うん何?」

「―――私如何して入院してるのかしら……」

 

それを聞いて皆の表情が曇ってしまった、飯田も言いづらそうに唇を噛んでしまう。麗日や芦戸も思わず口を噤んでしまう、記憶がまだハッキリせずにいる彼女になんていったら分からずに困ってしまっている。すると爆豪が口を開いた。

 

「てめぇが入院したのは簡単だ」

「カッちゃん待ってよ!」

「病院だぞ静かにしやがれクソデク。こういうのはさっさと明らかにしといた方が良いに決まってるだろ」

 

爆豪の物言いにも一理ある、確かにハッキリさせておいた方が良い。だけど今の彼女にそれを伝えてしまって良いのか分からない。それでも伝えなければ前に進まないし何れ自分で気付く事、なら今の内にさっさと伝えてしまった方が良い。出久は僕が言うよっと言い直してから真っ直ぐと梅雨ちゃんを見つめた。

 

「梅雨ちゃん、君が入院してるのは……入院、してるのは……目の前で、剣崎君が攫われたからだよ……」

 

一瞬、部屋の中の時間が止まったかのような静寂が広まった、彼女の慟哭はあの辺り一体まで聞こえていた。当然施設の中にいた皆は何事かと思って、外へと出た。そこには大粒の涙を流しながら泣き続ける梅雨ちゃんとそんな彼女を抱き締めるピクシーボブと悔しさで顔を歪ませている相澤の姿があった。何が会ったのか把握は出来ないが、何かとんでもない事が起きてしまったのは分かった。

 

相澤の口から漸く戻ってきた剣崎を梅雨ちゃんが肩を貸しながら戻ってきて、後少しで施設へと入ろうとした時に突如、闇のような個性攻撃から剣崎は彼女を庇った。救出を試みるがその闇から剣崎の救出は出来なかった、相澤の抹消の個性で個性発動者を捕らえて個性を消そうとするもそれが失敗し、剣崎が連れ浚われた事もその場の皆が知っていることだった……。

 

「―――そう、なの……やっぱり、夢なんかじゃ、なかったの、ね……」

「梅雨ちゃん……」

 

眼から大粒の涙を流しながら虚空を見つめる彼女は酷く痛々しく思えた、目の前で剣崎が消えていく様を見ていた彼女が受けている傷は皆が思っている以上に途轍もない物……いやそれだけではない。

 

「私……何も、出来なかった……。剣崎ちゃんは、私を庇って……私が支えるって言ったのに……結局私は何が出来たの……?」

「梅雨ちゃん……」

「もう、二度と剣崎ちゃんと会えなくなったら、どうしよう……私、如何したらいいの……?」

 

震えきった声のままで不安を口にする、届かなかった伸ばした手。何も掴まずに消えた闇、それらが余計に不安を掻き立ててくる。ヴィランの元へと連れて行かれてしまった剣崎、このまま本当に会えなかったら如何しようと言う強い強い不安に掻き立てられていく。が、出久は力強い声で大丈夫と口にする。

 

「ラグドールさんがサーチの個性で敵の場所を突き止めたんだって!!そしてそこにオールマイトを始めとしたトップヒーロー達が乗り込んで剣崎君の奪還作戦を開始するんだって!!!オールマイトが言ってたよ

 

―――大丈夫さ。何故って?私達が行くからさっ!!!って」

 

力強い言葉と共にやってくる希望の光、京水と鉄が必死に守りきったラグドールがサーチによって既に剣崎の場所を特定しそこへと乗り込む為の作戦や人員召集が既に開始されている。まもなく、ヒーロー達によるヴィラン連合への大反撃が行われようとしている。

 

 

―――待っていてくれ剣崎少年、今私達が行くぞっ!!!



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オール・フォー・ワン、アンリ・マユ。

「ぐっぁぁぁっ……!!!ぁぁぁぁああああああ!!!!!」

「ほうっ……これは興味深い反応だね」

 

オール・フォー・ワンによって新たな個性を注入された剣崎は内部から身体が壊れていきそうなほどの感覚を味わいながらも、その苦しみを必死に食い縛って耐えていた。身体が打ち込まれた個性を拒絶する事で起こる反応、激痛が全身の隅々を掛け巡っていく中で何度も意識が遠退きそうになるのを堪えていく。そんな様子を大先生こと、オール・フォー・ワンは本当に興味深そうな視線をやりながらそれを見つめ続けていた。身体の内部では拒絶反応による破壊、それらの修復による再生が凄まじい勢いで行われて行く。剣崎へと打ち込んだ個性は今まで手にいれてきた個性の中でも扱いが難しい物、だが敢てそれを剣崎へ与えてみた。

 

「ガァァァァッッッッ………ぁぁあああああああああ!!!!!!!」

 

強く踏み締められた床に走って行く亀裂、怒張して行く筋肉。それらは明らかに個性の影響によるもの、だがそれらは徐々に収まりを見せて行きながら奥へと封印されて行く。剣崎の内部にある大きな力がそれらを遂に抑え込んでいき……剣崎は苦しみから漸く開放された。

 

「はぁはぁはぁ……暴走でも狙ってたのかよ、生憎俺はそう簡単にくたばりはしないぜ……!!」

「いや、君なら確実に個性を物にすると踏んでいたさ。その個性は如何にもあれな物でね、適合者が見つからなかったのさ」

 

耐えてやったぞと言わんばかりの表情を浮かべている剣崎だが、オール・フォー・ワンは全くそれを疑っていなかった。寧ろ耐える事を予測、いや信じていたかのような言い方をしている。全く持って気味が悪いとしか言い様がない、一体何を望んでいるのか。

 

「さてと、僕の用が終わった。だが君は何か用はあるかい、聞きたい事があるのなら答えよう」

「一つ聞かせろ、あのアンリ・アユっていうのは何者だ」

「ではまずアンリ・マユというものに聞き覚えはあるかい?」

「……ゾロアスター教における悪神だろ」

 

アンリ・マユ。即ちゾロアスター教における悪を司る神であり、この世の全ての悪を生み出した存在。善神アフラ・マズダと世界の終わりまで戦い続けるとされている神の事。両者は人間の善悪の彼岸が決する終末の日まで、決して相入れることはないとされている。

 

「そう、正にこの世全ての悪の根源とはよく言ったものさ。正に彼をよく表している言葉だ」

「どういう事だ」

「彼の身体の中には無数の悪で溢れている、必要悪でありながら彼がいるからこそ善は善として認められている。フフフフフッよく分からないかい?」

「ぶっちゃけ全く……」

「素直な子だね君は」

 

まるで祖父が孫に対して微笑ましい笑みを向けるかのように笑うオール・フォーワン。それが酷く不気味でしょうがない、恐ろしくてしょうがない。

 

「彼の個性は言うなれば人々の悪意、敵意などのマイナス面を強く受け変異、進化し続ける異様な物だ。故に君にもそうなって貰うのさ、君には何れ―――彼を倒す役目を背負ってもらう」

「何を言って……!?」

 

直後に凄まじい衝撃が襲いかかってきた、それは建物が倒壊するかのようなとんでもない衝撃音だった。一体何が起きているのかと思っているとオール・フォー・ワンは特に驚く事もなく、身体からチューブなどを抜くと工業地帯のようなマスクを装着する。

 

「実にいいタイミングだ、どうやらお客さん達が来たようだね」

「客っ―――っ!!?」

 

瞬間、先程まで座っていたオール・フォー・ワンは自分の隣に立ちながら肩に触る。その途端に伝わってくる凄まじい感情の渦のような物、思わず気分が悪くなりそうになりながらも彼はまるで父親が子供に優しく囁くように言う。

 

「さて剣崎君、共に折角来てくれたヒーロー達を出迎えようじゃないか……。あわよくば君を保護してもらわないと困るからね」

「俺、帰すってのか!?」

「その通りさ、君はヴィランではなくヒーローであるべきだと思うからね。その方が弔の為にもなる」

 

そう言いながら歩き出して行くオール・フォー・ワンへと続く、本当に意図が読めない。自らをヴィランへとスカウトしようとしてくる死柄木、しかしその死柄木から先生と呼ばれているオール・フォー・ワンは自分はヒーローであるべきだと言う。これでは言っている事が真逆ではないか、本当にどういう意図があるのだろうか……。

 

「オール・フォー・ワン、お前の狙いはなんだ……!?」

「弔を育てる事、かな。彼を僕の後継者とする、その為にはもっともっと彼には成長して貰わなければ困るのさ。成長するには競う相手を育てるのも重要なのさ」

「……俺は相手の糧、そういう訳か……」

「その通り。弔は何れ君すら超えて行くだろう、その為には君はもっと大きく成長して貰う―――弔の為にもね」

 

不敵に笑うオール・フォー・ワン、だが剣崎は違和感を感じている。それならば如何して自分にアンリ・マユを倒させる役目などを負わせるのか、つまりアンリ・マユもオール・フォー・ワンにとっては余り好ましくない存在で死柄木が成長する為に自分があいつを倒す必要がある……余計に混乱してきてしまう。歩き続けて行く中で、月の光の夜明かりが見えてきた。

 

「これはこれは、随分とバラエティ豊かな面々が揃っているものだね」

「何者だっ……!!

 

と此方を威嚇するような声が響く中で剣崎にもオール・フォー・ワンが言っていたお客が一体誰なのかを察する事が出来た。そこにいたのはプロヒーローの中でも指折りの実力者として数えられているベストジーニスト、ギャングオルカ、Mt.レディ、そして虎がそこで脳無と思われる怪人の制圧を行っていると思われるが、脳無も相当手ごわかったのか捕縛を行っているベストジーニストやMt.レディの顔色は芳しくない。

 

「剣崎、無事かっ!!」

「虎、さんっ……!」

「おっと静かにしておくれ剣崎君」

「貴様、我の弟子を離せっ!!!」

 

と構えを取る虎、それを無視するかのように制圧されてしまっている脳無を見てふむっ……と顎を撫でるように言葉を作る。

 

「成程、アンリ君の力を借りて改良を加えたタイプだったのだけどまさか制圧されるとは。流石№4のヒーローだね、ベストジーニスト」

「貴様……ヴィランだな、そして隣にいるのは件の剣崎 初君で間違いないな虎」

「ああっ我が間違うわけなどない!!」

「おっと、少しでも動けば彼を殺すよ」

 

と首元を捕まれる剣崎は息を飲む、オール・フォー・ワンは静かに言う。それに虎も動きを止めるが、同時にベストジーニストの動きも止まった。彼は自分の個性で剣崎を助け出そうとしたのだが、それすら見抜かれていたのかのように動くオール・フォー・ワンの動きに動きを止める。

 

「さてと、僕にも予定が詰まっていてね。彼はこのまま帰してあげよう」

「……何が狙いだ」

「何も考えていないさ、人質を取ったままなのは少しあれな気分でね」

「……いいだろう」

 

とベストジーニストは腕を下げる、何もしないから大人しく剣崎を帰せと言う事なのだろう。それを確認するとオール・フォー・ワンは剣崎の背中を叩いてさあ行きなさいと言う、剣崎はゆっくりと一歩一歩確かめるようにしながら虎の元へと歩いて行く。そして虎が彼を確保した時、オール・フォー・ワンは一気に上昇して行った。

 

「逃がすかっ!!」

 

とそれをさせないように素早く動くベストジーニストだが、それよりもずっと早くに空中へと逃れて行くとオール・フォー・ワンは一度剣崎を見ると、そのまま一瞬にして姿を消した。その直後に凄まじい衝撃波が周囲を破壊していき、その場は一瞬で瓦礫の山と化した。

 

「剣崎無事か!?」

「は、はいなんとか……」

「そうか、兎に角お前が無事で良かった……直ぐに連絡だ!!人質は確保したと!!」

 

開放された剣崎、だがそれらはまだ始まりでしかなかったのである。その後、オール・フォー・ワンは自ら死柄木の元へと出向き、彼らを脱出された後にその場にいたオールマイトを始めとしたプロヒーロー集団と激闘を繰り広げ、神奈川県の神野区の一角は凄まじい戦場へと変貌して行く。だが―――剣崎によって治療を施され、活動時間が大幅に伸びた事や他のヒーローの援護があった事でオールマイトはオール・フォー・ワンを討ち取り逮捕する事に成功した。悪の象徴、オール・フォー・ワン、その最後は同時にヴィラン連合の最後―――にはならなかった。

 

「平和の象徴、流石に凄ぇなぁ……だけどまだまだこれからだぜ。なぁ―――キング?」

「そうだな、これからだ。これからが本当の―――」

「「戦争だ」」

 

一時は静まりを見せる大きなうねり、だが水面下では更に巨大な渦が生まれようとしていた。それは何れ、世界さえ飲み込む災禍となって現れることだろう……。



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安心と実感。

オール・フォー・ワンとオールマイトを始めとしたプロヒーロー達の大激突、それらは後に「神野の決戦」と呼ばれるまでに激しい物で神野区の一部が完全に瓦礫の山と化すほどの大激戦であった。無数の個性をストックしそれらを組み合わせて戦いを仕掛けてくるオール・フォー・ワン、それに対するは互いの個性などを計算に入れた上で抜群のチームワークで対抗するヒーロー達。正にオール・フォー・ワンの名とは全く逆の光景が出来上がっていた。

 

普段は決してオールマイトにいい顔などをしないエンデヴァーも積極的にチームワークを展開し、遂に究極の一撃とも言えるオールマイトの拳が突き刺さり、オール・フォー・ワンは屈し倒れこんだ。ヒーロー達の勝利となったという。

 

そして剣崎はヴィラン連合に囚われた事や様々な事を聞く必要があるのだが、彼の身体の事を考えて病院へと検査入院する事となった。

 

「私が来たっ!!(小声)剣崎少年お見舞いに来たよ、身体は大丈夫かね?あっこれお見舞いのフルーツ盛り合わせね」

「オールマイト、はい大丈夫です。すいません態々来て貰っちゃって……」

「何の何の、今回君は一番大変だった立場だったはずだ。寧ろ君は私達大人が守るべきだった……本当に自分の不甲斐なさに腹が立つよ」

 

入院している剣崎の元へとやって来たオールマイトはその手にフルーツを持ちながら彼の身を案じるように扉を開けた。そこにはベットに横たわっているが、元気そうな剣崎の姿があったので思わずホッと胸を撫で下ろす。そして中へと入ると同時にもう二人一緒に入ってくる。一人はオールマイトの友人の警察官の塚内、もう一人は怪我をしているのか頭に包帯をまいている小柄の老人がそこにいた。

 

「よぉお前が剣崎 初か。俊典から話は聞いてるぞ、まさかお前みたいな小僧があの仮面ライダーだったとは驚いたぜ」

「あ、あのオールマイト……」

「ああっ大丈夫だ剣崎少年、此方の方はグラントリノ。今の私があるのはこの方のお陰とも言ってもいい程の先生なんだ。こちらは私の友人の塚内君、私の身体の事も知っている事などから話した」

「そ、そうなんですか……えっと、剣崎 初と申します。態々来て貰って申し訳ありません」

 

と深々と頭を下げる剣崎に塚内は大丈夫だから身体を安静にしていなさいと言う、グラントリノは礼儀がなっているようで何よりだっと言いながら個室にあった椅子を引っ張り出して其処に腰掛ける。

 

「剣崎 初君、今回は本当に大変だったね。疲れているだろうから辛いかもしれないが、取り敢えず君がヴィラン連合に連れて行かれたときの事を聞いても大丈夫かな。頂点であったオール・フォー・ワンは倒されたとはいえ連合は健在だ、兎に角情報が欲しいんだ」

「はい、俺が知っている事で良ければ」

 

と塚内から矢継ぎ早に質問が飛び出していって当時の事や構成、どんな話をされたなどを詳しく聞かれて行く。死柄木にヴィランになるべき存在だといわれた事や、自分の中には復讐心があるなどの事の指摘等も包み隠さずに話して行く。そして内容はアンリ・マユへと移って行く。

 

「アンリ・マユ……?オールマイト、何か知っているか?」

「いや全くの初耳だ」

「俺も分からねぇな、どっかの神話に出てくる神だったぐらいしか知らないな」

「オール・フォー・ワンはそいつに付いてこう言ってました。―――個性は言うなれば人々の悪意、敵意などのマイナス面を強く受け変異、進化し続ける異様な物だって」

 

それらを聞いて三人は思わず言葉の意味を考え込んだ、その話が本当ならばとんでもない個性である事は間違いない。今の世の中、個性によって歪んでしまった人達も多く、それらの人々の悪意などを受けてそのアンリ・マユというのはどんどん進化して行く事になる。厄介極まりない事になる。そして自分がオール・フォー・ワンから自分は彼を倒す役目を背負う、という事を言われた事も。

 

「つまりなんだ、そのアンリ・マユってのは剣崎が倒すって事か。一体何が目的なんだ奴は」

「死柄木を育てること、って言ってました。その為に俺は成長しないと困るって……そして奴は何時か俺を倒して更に巨大になるって」

「むぅ……これはなんとも言えん事態だな。剣崎少年に入れられた個性の件もあるというのに……」

「おい、お前に入れられたって言う個性は今なんともないのか。身体に対する異常は」

「今の所は全く……。最初は死ぬほど苦しかったですけど、あいつは確実に個性を物にすると踏んでいたって」

「こいつを死柄木の糧にする気満々ってことか」

 

だが剣崎は負ける気など一切無いし、糧になる気など一切無い。その時は逆に飲み込んでやると声を上げるとグラントリノからその意気だと笑われるのであった。すると剣崎は塚内を見てある事を思った。

 

「あ、あの塚内さん……俺は違反自警者です、処罰とかしなくて良いんですか?」

「何を言ってるのかな?それは仮面ライダーであって君ではないだろう、まあ直接現場を押さえた時は捕まえるけどね」

 

とウィンクをする塚内に思わずホッと胸を撫で下ろす剣崎。塚内とていまの世の中で仮面ライダーがどれほどまでに大きな影響を与えている事は知っている、その行動理念なども全て。だから捕まえたりはしない、いべき存在だとも思っているからだ。

 

「さてと、剣崎少年。実は君に会わせたい人がいてね、実は部屋の前で待っていて貰っているんだ」

「俺に、ですか……?」

「ああっ私達はこれで失礼するから、その人とゆっくりするといいさ」

「そうだな、それじゃあお大事にね剣崎君」

「またな小僧。今度会った時は一緒に茶でも飲もうじゃねぇか」

 

何処かニヤニヤしながら出て行く三人、訳が分からずにそのまま待っていると扉がゆっくりと開いて待っていた人が姿を現した。それは―――

 

「剣崎、ちゃん……」

「梅雨ちゃん……?」

「剣崎ちゃんっっっ!!!!!」

 

大粒の涙を流しながら抱きついてきた。そして自分の身体に深々と腕を回しながら必死に自分の存在を確かめるように、体温を感じるたびに歓喜するように、それを言葉にしてひたすらに自分の名を呼びながら愛しい人を抱き締める梅雨ちゃんの姿だった。

 

「剣崎ちゃん、ああっ……いるのね、此処にぁぁっ……!!」

「梅雨ちゃん……梅雨ちゃん、梅雨ちゃんごめん不安にさせちゃって……!!」

「いいの、もう良いの何もかも……貴方さえ無事でいてくれるなら……!!!」

 

二人は只管に互いを確かめ合い続けた。互いの体温を、存在を、愛を確かめるように。



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退院と家庭訪問

「梅雨ちゃん、あの別にそこまで付き添いしてくれなくでも俺は……いや、なんでもない、ありがとうね」

「ううん私がしたいからからやってることだから、気にしないで」

 

検査と聴取の為の入院、それらを行っている間梅雨ちゃんは毎日自分の元を訪れて世話を焼いてくれていた。果物を剥いたり、食事を手伝ったり出来る範囲で世話を焼き続けていた。それは剣崎への心配もあるだろうが、何よりも彼女の中にある不安を取り除きたかったからだろう。目の前で自分を庇って浚われたという記憶は彼女の中では大きな傷となってしまっている。出来るだけ隣にいてそれを拭いたいのだろう、それを思ってか剣崎も強く言わず、出来るだけ隣にいる事を心がけている。

 

「漸く退院かぁっ……なんかずっと閉じ篭ってたから身体が鈍っちまったな……」

「剣崎ちゃんはよく動く方だもんね」

「ああっ毎朝は走りこみとかが日課だったから……」

「そう言えば剣崎ちゃんは家庭訪問とかどうするの?」

 

雄英はヴィラン襲撃などの事態を重く受け止めており、それらから生徒を守る為に全寮制を取り入れる事を決定した。その為に今回の家庭訪問は各家庭から寮制の許可を得る為の訪問と今後の指導方針などを話し合う場として設けられている。梅雨ちゃんの家にも既に相澤とオールマイトが訪れており、許可は得られたとの事。だが剣崎は両親がいない一人暮らし、彼の場合はどうするのだろうか。

 

「親戚とはもうあんまり連絡とってないけど近くに住んでないからな……四国だし、今日一応午後から家に来るって話を聞いたよ」

「そう、それじゃあ急ぎましょ。先生達を待たせちゃったら悪いものね」

「ああっそうだね」

 

共に病院を出た二人は共に電車に乗って剣崎の家ヘと向かって行く、その際にも二人は手をつないで共に歩いて行く。こうしてみると仲の良いカップルという絵に見えるのだが実際は抱えてしまった不安を取り除き、安心感を得たいというものが大きく何処かズレている。それでもいまは構わないと剣崎は思っている、自分がそうさせてしまったのだからしたい事はして上げたいと思う。帰宅して間も無くするとインターホンがなった、玄関を開けて見ると……

 

「剣崎、退院おめでとう。一応フルーツは持ってきた、オールマイトが」

「やぁ剣崎少年、私が来たぞっ!」

 

とオールマイトが持ってきたフルーツ持ち合わせを渡してくる相澤先生と茶目っ気たっぷりにウィンクするトゥルーフォームのオールマイト、八木 俊典先生がやってきた。

 

「すいません、それじゃあどうぞ」

「それじゃあお邪魔します……あれ、お客様がいるのかい?それともご親戚?」

「その梅雨ちゃんがいるんです、彼女はえっと俺の世話とかを焼いてくれてて……」

「話には聞いていたが随分と過保護だな、目の前で浚われているから気持ちは分からなくも無いが」

 

と相澤も剣崎を助けられなかった身なので強く言えずにそのままリビングへと通されて行く。そこではお茶を準備して梅雨ちゃんが挨拶をして、3人は席に付くと彼女からお茶が出される。オールマイトは二人が交際関係にある事を知っているので思わず、将来二人が結婚したらこんな家庭を築くんだろうなぁと考えてほっこりするのであった。

 

「それで剣崎、ご親戚からの許可は一応電話で取っているが確認だ。お前としては全寮制に異論はないのか」

「はい、ありません。これからヒーローを目指して行くなら合理的な判断だと思ってます」

「そうか……ならそれに付いてはもういいだろう。次は……済まんが蛙吹、外して貰ってもいいか」

「ケロッ?もしかして剣崎ちゃんに関わることなの相澤先生」

「ああっ特に重要だ」

「相澤君、蛙吹少女なら大丈夫だよ」

 

これから話す事は剣崎の正体である仮面ライダー絡み、正体を知っている者以外は聞かない方がいいだろうという気遣いもあったのだがオールマイトがそれを宥める。梅雨ちゃんなら大丈夫だと。

 

「なあ剣崎少年、蛙吹少女は君が仮面ライダーという事を知っているのだろ?」

「っ!!?ちょっオールマイト相澤先生の前で!!?」

「大丈夫、相澤君も根津校長から聞いたそうだよ」

「……何時の間に」

「というか、剣崎お前バラしたのか」

「バラしたというかその……梅雨ちゃんが気付いてそれで隠せなくなったというか……」

 

まあバレた原因としては叫び声というなんとも情けないものなのだが……。

 

「まあいい。剣崎、お前はこれからも仮面ライダーとして活動していくつもりか」

「はい、今まで変わりなく」

「……ハッキリ言っておくが校長やオールマイトから如何言われようがお前の本質はヴィランと変わらん。あくまでも方向性が異なっているだけだ、それでも続けていくつもりか」

「はい」

「理由は」

 

即答で答えて行く剣崎にどれ程に迷いがないのかと思わず思ってしまう、そして剣崎は真っ直ぐ相澤を見つめながら言う。

 

「俺は救いのヒーローです、既に俺を支えとして見てくれている人が大勢います。そんな人達にとって俺は光であり支えなんです、そんな人達のためにも、そして何よりも俺がそうしたいんですよ。誰かを救い続けたいって」

「……例え俺が何を言った所で何も意味をなさんだろうな。好きにすればいい」

「有難うございます、先生」

 

もう話したい事が終わったからか、家庭訪問はこれぐらいにしようと相澤が立ち上がるが最後にこう言い残した。

 

「剣崎、USJでは世話になったな。有難う……そして、これからも気張っていけよ」

 

そう言い残して玄関へと向かって行く相澤に向けてオールマイトはニヤニヤと笑いながら、剣崎と梅雨ちゃんにサムズアップをしてそのまま帰って行くのであった。

 

「剣崎ちゃん、良かったわね」

「ああっ本当に……」

「それじゃあ、このまま家デートでもしましょうか♪」

「お、おう……な、なんか緊張するな……」



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寮入り生活、スタート。

その日、剣崎は梅雨ちゃんと共に登校していた。この日から全寮制がスタートしようとしているからだ、寮は雄英の敷地内に作られて徒歩5分で校舎に着くという立地に恵まれている。そんな場所に立てられたヒーロー科1年1組専用の寮を前にしていると次々と皆が集まってくる。皆、剣崎の姿を見ると声を上げて駆け寄って剣崎の無事を喜びながら、再びこうして再会出来た事に喜んでいる。そんなみなの姿に思わず涙ぐんでしまう剣崎だが、これからもよろしくと返すと皆も勿論と返してくれた事に嬉しさを滲ませる。

 

「アァァン初ちゃん、私も凄い心配してたのぉん」

「あっそうそう、聞いてよ剣崎。泉の奴なんてアンタの心配を祈願してあんたの人形作ってそれを神棚みたいなところに飾って拝んでたんだよ?」

「イヤン響香ちゃんやめて頂戴恥ずかしい!!?」

「はいはい私は毎朝毎朝朝日に向かって正拳突きしながら祈ってるの見ました!!」

「葉隠ちゃんまで本当に止めて頂戴!!!?」

「というか朝日に向かって祈りの正拳突きって……」

 

と女子連中から京水の一風変わった安全祈願が暴露されていると、流石の京水も頭に来たのか彼女らを追い回して止めるように言うが、彼女らは笑いながらそれから逃げるのであった。そんな寸劇があったりしたのが相澤がやってきて静かにするように言われたので、追いかけるのを止める京水であった。

 

「さて、これから寮について軽く説明を行うんだがその前に一つ。当面は合宿で取る予定だった仮免取得に向けて動いていくのでそのつもりで、色々会って忘れている奴も多いと思うがそもそもの目的はその仮免だからな」

「ああっそういやあったなそんな話……やべぇ完全に忘れてたわ」

「色々起きすぎて頭から抜けてたもんね……」

 

そんな声が漏れたので相澤はやっぱりなと溜息をつく、まあ林間合宿先での襲撃に加えて剣崎の誘拐はとんでもないインパクトを齎した。それによって思わず記憶から飛んでしまうのも致し方ないだろう。

 

「今回のヴィラン連合の襲撃などを雄英もかなり重く受け止めている、今回の寮制の導入も安全性の確保や君達が集中的に強くなる為の環境作りでもある。俺達の期待に正規の手続きを踏み正規の活躍をしてくれる事を祈る、さてと中へと入るか、元気出して行こう」

『はいっ!!』

 

と締められたからか皆の表情にはやる気やらが漲っている、これも自分達がヒーローになる為に敷かれた道の一つ。それらを考えて剣崎は深呼吸をしてから声を張り上げた。

 

「皆っ!!今回、俺は皆に凄い心配を掛けてしまった。京水ちゃんにも本当に心配させちゃって、ごめん……だけど俺はこの通り大丈夫だし、さっき皆にそんな心配されてるって分かって凄い嬉しかった……。だからさこれからも宜しくお願いします!!」

「勿論っつうか今更何いってんだよ!!ダチ心配するのは当たり前だっつぅの!!」

「うむ!!友として当然だ!!」

「うん。此方こそよろしくね剣崎君!」

「ああっ俺の方こそ頼む」

 

と次々と掛けられてくる言葉の数々に思わず嬉しくなって来てしまってきた剣崎、此処まで自分の事を思ってくれている人がいるなんて思ってもいなかったからか、涙ぐんでしまった。梅雨ちゃんからハンカチを受け取って拭いながら大きな声で高らかに宣言する。

 

「よしっ今日の晩飯は全部俺が作る!!豪勢にご馳走作るぞ!!!」

「おおおっ!!!剣崎君の家で食べたカレー凄い美味しかったから凄い期待出来る!!」

「ええっ何々剣崎の家でカレー食べたの?」

「私も手伝うわよ剣崎ちゃん、さすがに一人じゃ大変そうだしね」

 

などといったやり取りがあるのを相澤は茶番だなと思いつつも、こんな物もたまには重要になるのだなと思いながらも寮の扉を開ける。中へと入って行くとそこは学生寮というよりはまるでホテルのように豪勢で本当に寮なのかと疑いたくなるような作りになっている。

 

地上5階地下1階建、2階から左右に分かれており向かって右が女子用、左が男子用となっている。1階は共同エリアになっていて食堂も完備されていて此処で調理して食事を用意する事も出来る。朝と夜はランチラッシュが食事を届けてくれる事になっているので、使うとしたら昼食時だろう。今回は初日という事で届けられないが剣崎が作るので問題なし。

 

「風呂、洗濯は男女別だからな峰田」

「先に釘を差すとは流石相澤先生……!!」

「いやお前は分かりやすすぎるんだよ」

「豪邸やないかいっ……!」

「わああぁぁぁっ麗日さん大丈夫!!?」

 

2階からが居住スペースとなっており、一人に付き一部屋が与えられる。しかも部屋の中はエアコン、トイレ、冷蔵庫、クローゼットにベランダまで付いている贅沢空間となっている。これを見た麗日がまた卒倒して出久が騒いだりもした。因みに剣崎は5階の部屋となった、その日は一旦解散して部屋作りとなったのであった。そして部屋作りに熱中しているとあっという間に夜になってしまっていた。

 

「あぁっ~疲れたなぁ~……」

「お疲れ切島君、部屋の片付け出来たの?」

「ああばっちりだぜ!」

 

皆、部屋が出来上がったのか一階の談話スペースへと集まっていた。これから始まるであろう共同生活に皆心を弾ませていると女子らもやってきた。

 

「おうそっちも終わったのか?」

「うんなんとかね~それにしてもお腹すいちゃったよ~」

「そだな、もう7時回ってるしな……そう言えば今日剣崎が飯作ってくれるとかいってたよな?」

「あっそう言えば……肝心の剣崎は?」

 

そう言われると彼の姿は見えない、まだ部屋で荷解きをしているのだろうか。となると早く呼びに行かないと行けなくなるが八百万が実は梅雨ちゃんもいないことを伝える。梅雨ちゃんも準備を手伝うと言っていたのでもう食堂にいるのだろうかと皆で食堂へと向かって見ると、そこには……

 

「おう、来たな皆。今呼びに行こうと思ってたんだ」

「いらっしゃい皆、準備出来てるわよ」

 

とエプロンを付けている二人が手招きする先には豪勢な盛られた料理がこれでもかと並べられている。様々な料理が用意されており、これだけの量を調理するなんて本当に大変なことだっただろうに……。

 

「うおおおおすっげええええええ!!!!!!」

「超豪華な料理の山~!!!」

「こ、これ本当に剣崎が作ったのか!!?」

「ああ。本当はもっと仕込みに時間を掛けたかったんだけど、部屋作ってたら時間が足りなくてさ。少し手抜きで悪いけど勘弁な」

「いやいやいやこれで手抜きって本気の剣崎君どんだけ凄いの!!?」

「前のカレーでも凄かったのに……!!」

「アァンまた初ちゃんの手料理が食べられるなんて、幸せね!!」

「まあ兎に角皆、存分に食べてくれ。お代わりもあるからさ」

『いただききます!!!』




次回、部屋紹介と、梅雨ちゃんとのイチャイチャ予定。


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部屋披露と、一夜。

「いやぁ剣崎君の料理、最高でしたぁ……♪」

「最後のデザートまで完備とか完璧すぎるよ……」

「はふぅ凄い満腹……♪」

「アァン、なんて心地いい満腹感なのかしら……♪」

 

夕食を終わった頃、談話スペースでは腹を満たした皆は満足げに笑いを浮かべていた。剣崎の振舞った料理は本人曰く仕込む時間がなかったので手抜きのようなもの、らしいがそれでも十分過ぎるほどの美味しさを誇っていた。お嬢様育ちな八百万ですらリップサービス抜きで絶賛する程の腕前であった。爆豪も料理に喰らい付いており、おいウェイ野郎足んねぇぞもっと持って来い!!と催促したほど。

 

「満足しただけようで何より、今度は中庭で流しそうめんっていうのも楽しそうだな」

「おおっそれ良いな!!折角の夏休みだし、楽しく行かないとな!!」

「うんうん、流しそうめん賛成~!!」

 

と次の食事イベントに皆がワクワクするのを見ながら微笑む剣崎、やっぱり誰かが笑顔になってくれる様子が好きなんだなと隣に座っている梅雨ちゃんは思いながら笑っている剣崎を眺めていると、芦戸が思い出したかのように大声を出した。

 

「あっそうだご飯ですっかり頭から抜けてた!実はさ、お部屋披露大会しません!?」

「おおっ披露大会!!皆の部屋を見て回るって事か!?そりゃ面白そうだな!!」

「それじゃあ2階の人からだから……まずは緑谷君の部屋から!!」

「え"っ」

 

いきなり標的にされてしまった出久は大慌てしながらどんどん部屋へと向かって行く皆を止めようとするが、皆は止まらずにずんずんと進んで行って出久の部屋を開けてみた。其処に広がっているのは物の見事にオールマイトのグッズやらで埋め尽くされている部屋であった。確かに出久にとってオールマイトは誰よりも特殊な憧れでオリジンでもある、そんな相手に憧れるなというのも無理があるだろう。そんな調子で次々と紹介されている部屋、まあ例外的に峰田の部屋のみは明らかにやばいというオーラを本人が出しているので除外されて行くのだが……。因みに爆豪は拒否して部屋へと戻って行った、寝るらしい。

 

「あれ、そう言えば泉の部屋って何処なんだ?」

「アァン私の部屋はこっちよ」

 

と案内して行く京水だが、向かう先は女子たちの部屋がある側。先生達から見ても京水はそっちに分類出来るという事なのだろうか……それとも京水なら女子の方にしても全く問題ないだろうという信頼故なのか……真偽は分からないが、兎に角京水の部屋を見て見る事にした。

 

「さあさあ入って!!」

 

と促されて入った京水の部屋は―――酷く整頓されており隅々まで清掃が行き届いているのか床の端まで輝いているように見える。小物はシンプルに纏められて収納されながらも御洒落に飾り付けられ、赤い椅子にオレンジのカーテン、小さな鉢には白い花が活けられ、各所から出来る女の部屋という雰囲気が溢れ出ている。

 

『すごッ!!』

「わああぁぁっなんか出来る人の部屋って感じで素敵!!」

「あの椅子に座りながら優雅に紅茶を飲んでる姿とか凄い様になってそう!!」

「へえぇっ中々素敵な部屋じゃないか、俺の母さんもこんな感じに部屋は綺麗にしてたよ」

「いやんもっと言って!!」

 

正に一人暮らしをする者のお手本のような部屋作りをしていた京水に皆から賛美の声が上がるのであった。所々にある乙女心をくすぐるような小物もポイントが高いと梅雨ちゃんが言っていた。しかし次の部屋のハードルが上がってしまったのか次の者は少しガックリ来ていた。そんなこんなで続いて行く部屋披露大会、続いては鉄の部屋となった。クラス一番の巨漢の男の部屋はどのようになっているのかと皆興味深々だった。

 

「皆さんのご期待に添えるかどうか……」

 

と照れながら開けられた鉄の部屋は彼の個性の関係上か、頑丈な物で作られている物が多くタンスなども特殊合金で出来ているらしい。が、それでも各所にはワイヤーラックなどで小物収納をしつつ自分らしさを演出しながらとどめに彼の愛犬であるチータンがお出迎えした。

 

「おっ~凄いこっちもなんかカッコいい!!そしてワンちゃんだぁ~!!」

「もふもふだぁ~!!」

「おい鉄、お前も口田と同じことしてんぞ。あいつは兎だけど」

「え、ええっ~……」

 

大型犬でもふもふの毛が自慢らしいチータンはおいておくにしても、部屋は整頓されているし男の部屋としても参考になる部分があったりもする。そんなホクホク顔の皆だったが、ラストとして遂に剣崎の部屋となった。梅雨ちゃんの部屋は、剣崎の料理の手伝いをする為に途中で切り上げたのでまだ終わっていないので、後日するとの事。

 

「それじゃあラストは剣崎の部屋!!」

「実は俺、剣崎の部屋って気になってたんだよな」

「俺も俺も」

「おいおいそんなにハードル上げてくれるなよ」

 

そう言いつつも皆は轟の部屋並の物が来るのではないかと身構えていた。轟の部屋はフローリングが落ち着かないという理由で純和風の和室へと完全にリフォームされていた、本人曰く頑張って一日でリフォームしたらしいが一体何をどうしたのだろうか……。そして遂に開けられる剣崎の部屋……其処にあったのは

 

「おおっ!」

「これすご~い!!!」

「ほ、本当に凄い……!」

 

と剣崎の部屋は和モダンテイスト、現代的なデザインの中に和のテイストを取り入れた和モダン。どこか懐かしい雰囲気で、居心地のいい和モダンスタイルは、実はなかなかテクニカル。それでいて必要以上に着飾らない内装とカーテンは障子に交換されているからか、和のような印象を強く受けるが置かれている椅子などは和の雰囲気と調和するように選ばれたものな為にモダンな雰囲気を上手き引き出し、壁に掛けられている富士山の写真や部屋の奥に置かれているカメラなどが眼を引く作りになっている。

 

「こりゃすっげぇっ~……マジでイケメンのする事って違うな」

「俺、一回で良いからこんな部屋に住んでみたいわ」

「ねぇねぇ剣崎君、このカメラって剣崎君の?」

「ああっ。父さんから貰ったカメラだ、壁にある富士山の写真も俺が取ったものだ」

『すごっプロ並じゃん!!』

 

意外な一面を見せつつも抜群の部屋センスを見せ付けた剣崎の部屋であった。そんな部屋も含めた結果―――女子達から圧倒的な評価を集めた砂藤が優勝となった、理由としては砂藤が時間が余ったので焼いたケーキが美味しかったという物だった。因みに票数で言えば準優勝は剣崎だったりする。そんなこんなで部屋の披露大会も終わって皆自分の部屋に戻って行って寝る準備を始めた頃の事だった、剣崎は二人分のお茶を淹れて、椅子に腰掛けている彼女へと差し出した。

 

「はい梅雨ちゃん」

「有難う剣崎ちゃん」

 

皆が部屋に戻り、入浴などが済んだ暫く後の事。こっそりと抜け出した梅雨ちゃんは剣崎の部屋を訪れていた。そんな彼女を招き入れた剣崎は笑顔であった。

 

「やれやれ、漸くちょっとした騒ぎが収まったね」

「そうね。でも皆の部屋を見れてちょっと楽しかったわ」

「だな。俺は出久の部屋が予想的中ど真ん中で笑っちゃったわ」

「オールマイト一色だものね、でも緑谷ちゃんらしかったわ。剣崎ちゃんは誰に入れたの?」

「梅雨ちゃんがいたら梅雨ちゃんだったね」

「あらっ嬉しい、私は剣崎ちゃんのこの部屋に入れたわ」

「ありゃ嬉しい」

 

そう言って微笑み合う。何気ないやり取りが本当に楽しくて致し方なく、何時までもしたくなってしまう。梅雨ちゃんはお茶を飲み終わるとベットに腰掛けている剣崎の隣に腰を下ろして、身体を密着させながら身体を預ける。そんな彼女を抱き寄せると剣崎は聞いて見る。

 

「如何したんだい、梅雨ちゃん」

「ううん、こうしたくて」

「じゃあ満足するまでそうしてていいよ」

「有難う、ケロっそれじゃあ有難くそうさせて貰うわ」

 

思う存分に剣崎の体温とその感触を独り占めする梅雨ちゃん、そんな剣崎も彼女の柔らかな身体の感触を味わいながらもこうしていられることに幸せを感じていた。そんなときにある事を思いついた。

 

「あっそうだ梅雨ちゃん、折角だから写真撮っていいかな。携帯の待ち受けにしたいんだ」

「あらっいいわね、後で私にも送ってね」

「勿論、それじゃあほらほら笑って」

 

そう言いながら抱き合いながら上手く携帯を掲げて映るようにして、ウィンクをする梅雨ちゃんとピースサインをする剣崎という非常に絵になる二人が撮れた。それを彼女の携帯へと送ると早速二人は一緒に携帯の待ち受けにするのであった、それをみて御揃いねっと笑いあうとここで時計を見て、そろそろ寝ないと拙い事に気付いた。が、とある事に気付く。

 

「あっそうだ、梅雨ちゃんの部屋ってまだ片付け終わってないんじゃ……」

「実はそうなの、ベットの上の布団もまだまだ準備出来てないの」

「そりゃ参ったな……今から一緒に行って作業するのは流石に拙いだろうし……」

 

流石に剣崎が一緒にいって手伝いをするのは色々と拙い、しかしこのままでは梅雨ちゃんの寝場所にも困る……。すると梅雨ちゃんは上目遣いで少し涙目になりながらも剣崎を見上げる、そんな彼女に見つめられた剣崎は身動きが出来なくなり釘付けになってしまう。

 

「だから,ねその……今日は、此処で一緒に寝てもいい……?」

「つ、梅雨ちゃんさえ良ければ……じゃ、じゃあ梅雨ちゃんはベットを使ってよ。俺は椅子で寝るからさ……」

「そ、それじゃあ風邪を引いちゃうわ……だから、その……い、一緒に寝ましょ……?」

 

剣崎は、ハートを撃ち抜かれるという感覚を初体験した瞬間であった。そして、二人は共に一緒のベットに入り、手を繋ぎながら共に眠った。ドキドキしっぱなしだった為か、中々寝付けなかったのは言うまでもあるまい。そして翌日は、皆に疑われないように寝不足を隠しながら必死に平静を装うのであった。



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必殺技を編み出せ、シンプルさの罠。

入寮してからの翌日、剣崎と梅雨ちゃんは誰よりも早起きして同じ部屋で一夜を過ごしたという事実をバレないようにしながら朝を迎えた。その日は相澤によって教室に集合するように言われていたので、皆ランチラッシュによって作られた朝食を取った後に教室へと集まった。普段のHR開始時間に相澤がやってきて簡単な挨拶を終えると、今日から取り組む事に付いて説明をする。

 

「先日言った様に諸君には仮免の取得を目標として貰う。しかし、ヒーロー免許は人命に直接関わる責任重大な資格、その取得の為の試験は厳しく仮の免許だとしても取得率は例年5割を切っている」

 

其処までに厳しいのかと全員が改めて喉を鳴らした。この超人社会で新しくヒーローとなるのは非常に大変という事であるという事と、狭き門を潜り抜けた者は優秀なものという事になるのである。そして相澤は目つきを鋭くしながらこう告げると同時にミッドナイト、エクトプラズム、セメントスという雄英教師の中でも指折りの実力者と称される教師陣が教室へと入ってくる。

 

「其処で君達には今日から、最低でも二つ……必殺技を作って貰う!!」

「必殺、コレ即チ必勝ノ技デアリ型!!」

「その身体へと染みつかせた技・型は他の追随を許さず、己のオンリーワンとなる。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるかとなる!」

「技は己を象徴し、己の象徴は技となる。今時、必殺技を持たないプロヒーローなんて絶滅危惧種よ!!」

『凄い学校っぽくてヒーローらしいの来たぁぁぁぁっ!!!!』

「詳しい話は実演を交えながら合理的に行う。全員コスチュームに着替えて体育館γに集合へと集合、早くしろよ」

『はいっ!!』

 

その言葉を引き金となったように皆がコスチュームを手にとって素早くそれを纏いながら、体育館γへと向かっていく。

 

「ここは複数ある体育館の中の一つであるγ、トレーニングの台所ランド。通称TDL」

『その通称は絶対に拙い気がする……!!』

 

脳裏に世界一有名なあのキャラクターの顔が映りこんでくるが、それを退かしつつ先生方の説明へと耳を傾ける。ヒーローとは事件・事故・天災・人災といった様々なトラブルから人を救い出していくのが使命。件の仮免試験ではそれらの適正を試されて行く事となって行く。情報力、判断力、機動力、戦闘力、他にもコミュニケーション能力、魅力、統率力など、多くの適正を毎年様々な試験内容で確かめられて行く。

 

その中でも戦闘力はこれからのヒーローにとって極めて重視される項目となっていく。ヴィラン連合というヒーロー社会を崩そうという大きな組織の力があるからである。それらに対した時の為に必殺技と言ったこれさえあれば勝てる、それらを主軸とした立ち回りが出来るというのは非常に大きな要素となって行くのである。合宿での個性伸ばしもこの必殺技作りのための下拵えだったという。

 

そして各自がエクトプラズムの個性である"分身"がそれぞれ一人ずつ付きながらの個人授業に近いスタンスになるという。それぞれの場所はTDLの考案者であるセメントスが個性によって、床のセメントを変化させてそれぞれ場所を作りそこで行って行く事となる。そして、必殺技の考案が始まって行く事となった。

 

 

「宜しくお願いします、エクトプラズム先生!」

「ウム。デハ剣崎君、君ニ問ウガ必殺技ノ明確ナヴィジョン、又ハ既ニ出来テイルノカ」

「ええっと、個性で走る速度と跳躍力を強化してから飛び蹴りをする"マイティキック"ていうのを考えてます」

「成程、君ノ個性ハ身体能力強化トイウノハ安定性トイウ意味デハ恐ラクトップクラス。故ニ無理ニ必殺技ヲ作ル必要皆無トモ言エル」

 

純粋な増強型の個性というのはシンプルさ故の強力さを秘めているので、個性を発動しながら何かしらの行動をするだけでも十分な必殺技として通用する場合が多い。剣崎の場合だと純粋に腕力を強化してそのまま殴るだけでも大きな威力を発揮出来る。言うなれば個性そのものが必殺技とも言える。

 

「シカシ、シンプルデアルカラコソ技ヲ構築シテオイタ場合ガ良イ事モ存在シテイル」

「例えばどんな感じなんですか?」

「選択肢ガ多スギル、ソレハ逆ニ言エバ適切ナ選択肢ヲ選択出来ナイトイウ事ヲ招キカネナイ。使イ手ニ高イ能力ヲ強イル事ニ成リ、パニックトナル恐レガアル。ヒーロー活動中ニ恐レル事ハ冷静サノ喪失」

「成程……」

 

不意の事態。それはヒーローである以上幾度も遭遇する必然でもある。それらに冷静に対処していき、責務を果たす者こそヒーローと言える。応用の幅があるというのは素晴らしい事だが、それゆえに危機を招くという事は非常に多い事でもあるらしい。エクトプラズムに言われて剣崎は改めて仮面ライダーとして活動していた時、何かあったらラウズカードを使う事で危機を脱して来た事を思い出す。それはラウズカードが必殺技として機能し、それらで危機を脱せられると分かっていたからだ。つまり、必殺技とは自らの気持ちを安定させながら活動に軸を持たせる重要な存在。

 

「君ノ場合、先程ノ"マイティキック"。コノヨウニ決マッタ動作ガアル事デ、コレガ決マラナケレバ別ノ技、撤退スルトイウ選択ガ出現スル」

「成程。つまり、俺に必要なのは必殺技という名の選択肢」

「ソウダ。我ノ場合、分身ハ多数ノヴィランナドニハ有効。ダガ巨大ナ相手ニハ効果ガ薄クナリガチダ、故ニ分身ヲ収束サセ巨大ナ分身ヲ創造スル技ヲ作リ上ゲタ。選択肢トハ、ソウイウ事ダ」

「えっとじゃあこんなのって如何なんですかね?」

「言ッテミルガヨイ」

 

剣崎は試しに脚力を限界まで高めてジャンプしたり、腕力を高めて殴るときの衝撃波を利用したり、投げ技を必殺技にするのもありかと尋ねた所、エクトプラズムは大いに結構と太鼓判を押すのであった。そしてそれらの本格的な特訓が始まるのであった。



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コスチューム、改良。

「でぇえいやっ!!」

「ムゥッ!!」

 

不安定な足場をセメントス先生に頼みながらそこで個性を発動させながらの高速戦闘を行っている剣崎とエクトプラズム先生、安定性と言う意味ではずば抜けている身体能力強化。故に伸ばすべきなのは個性を使用した戦闘法と選択肢、故に剣崎の場合は戦闘スタイルの向上などをメインに据えた方向性で訓練などを行っていく。

 

「(一撃一撃ガ相当重イナ、矢張リシンプルナ個性故ノ強靭サガ滲ミ出テイルナ)」

 

エクトプラズムは冷静に剣崎の強さを分析しながら上手く一撃一撃を受け流しながら、組み手を行っている。個性の身体能力強化故か、身体の軸も全くブレない重い一撃などが目立っておりかなり質のいい近接戦闘術を持っている事が把握出来る。このまま成長を順調に積んでいくのであれば、ヒーローの中でも指折りのインファイターになる事は間違いないだろう。

 

「ダガ、マダ粗サガアルナ!!」

 

剣崎は攻撃の繋ぎ方が何処かぎこちなさが残っており、エクトプラズムはその隙を突いて背後からの攻撃を仕掛けようとする。しかし、剣崎はそれを読んでいたのかのように素早く回転しながら上段回し蹴りを繰り出してエクトプラズムの腹部へと捉えて、壁へと叩きつけた。

 

「ホウ……成程、敢テ隙ヲ晒ス事デ相手ノ行動ヲ制限シカウンターヲ仕掛ケタカ」

「はい。俺の個性ってやっぱり機動性とか攻撃力とかはあるんですけど、それでも捉えきれない相手もいると思うのでそれに対する攻撃も用意して置くべきかと思って」

「正解ダ、ソレコソ選択肢ヲ持ツトイウ事ノ解デアル。加エテアノ威力ハ必殺技トシテモ良イダロウ、カウンター系ノ必殺技トイウノモ多ク存在スル」

 

エクトプラズム曰く、衝撃を発する個性を持つヒーローは攻撃を仕掛けてきた際に同時に衝撃を発してダメージを殺しながらも相手へと衝撃を送り込むという事を行う。相手の力を逆に自分の力に変換する事で威力を倍増させる事を図るヒーローは大勢いるらしい。

 

「……カウンターマイティキックって事にします。俺ネーミングセンスないですし、マイティキックって響きも気に入ってますので」

「分カリ易サ、ソレハ思考時間ノ短縮ヘト直結シテイク。故ニ正シイ付ケ方ダ」

 

必殺技の名前すらも戦いにおいて思考の時間に直結して行く、思っていた以上に奥深い物だと思わず感心してしまう。その日はそのままカウンターマイティキックの訓練に時間を当てて、精度を上げて行く事とした。徹底的にカウンターの練習と機動戦重視の戦いに織り交ぜる為の訓練などを繰り返していった結果、コスチュームの変更を検討する必要が上がってきた。

 

「剣崎ちゃん、如何だった?」

「ああ梅雨ちゃん。いい感じの必殺技が出来たんだけど、ちょっとコスチュームがあれかなって思ったよ」

「それじゃあ一緒に開発工房に行きましょう。私もちょっと相談したい事があるの」

 

その日の訓練が終わった時、梅雨ちゃんと共にコスチュームの変更などの相談をする為に開発工房へと向かっていく。その途中で飯田と麗日と合流して共に工房へと向かう事となった、飯田は脚部のラジエーターの改良、麗日は機動面を強化する為の相談をするらしい。

 

「梅雨ちゃんはどんな相談するん?」

「私はコスチュームの脚の部分の相談ね、私には個性で跳躍力があるからそれを増強して攻撃と機動力を上げたいの」

「成程。梅雨ちゃん君の個性が更に増強されれば、それは機動面と攻撃面で素晴らしい事になるな!!所で剣崎君は一体どんな相談を?」

「俺はコスチュームの取り回しやすさの相談。俺のは基本マッスルスーツみたいな役割何だけどさ、そのせいかちょっと運動性に難があるんだ。直線的な動きには相当強いんだけど、曲線的な動きが取り難いって言うの?」

「成程!!スピードが出すぎてカーブが曲がれないのだな!!」

「そういう感じ」

 

様々な環境に適応出来るようになっているマッスルスーツでもあるコスチューム、身体能力強化を更に伸ばすように作られているがその強化が逆に細やかな動きを阻害してしまっている結果となっているのでその相談をするつもりとの事。そして間も無く工房へと着こうとした時、出久が工房の扉の前に立っていたので麗日が声を掛けると出久は此方を向くがその直後―――大きな爆発が扉の内側から起きて、扉ごと出久を吹き飛ばしてしまった。

 

『――ーええええええっっっ!!!??』

 

驚愕する中、爆煙の中からパワーショベルのショベル部分を模したような物を頭に被っているパワーローダー先生が現れながら煙の中にいると思われる誰かに向けて何か言っている。慌てて其処へと駆けつけるとまるで出久を押し倒すかのように女子が出久の上に乗っていた。

 

「フフフフッ……失敗は成功の母ですよパワーローダー先生!」

「否定はしないけど、やるならまず一言言ってから返答するまで待てよお前」

「おや如何やら誰かを下敷きにしてしまったようですね、これはすいません」

 

爆発を引き起こしたのはサポート科に所属している生徒である発目 明という女子でどうやらこの工房に入り浸っている生徒らしい。そんな彼女をするかのようにパワーローダー先生にコスチューム改良の件だろうと導かれて中へと入って行くと、そこで説明を改良に付いての説明を聞くのであった。

 

「っつう訳、まあ簡単な改良ならここで出来るから直ぐに仕上げられる。大きな改良だと他に依頼する形になるから少し待って貰うって事は了解しといてくれな。分かったかい?」

「はい、説明有難うございます!!」

「くけけっやっぱり礼儀が良くて理解がいい生徒は良いね、そこの奴も見習って欲しいもんだよ」

 

と視線をずらすとそこでは提出したコスチュームの説明書を凄い勢いで速読している発目がいた。

 

「そう言えば出久は何をお願いしに来たんだ?」

「僕はパンチとかが多いからさ、その負担を軽減するサポーターとかお願い出来ないかなって思って」

「成程ね、緑谷君はパンチャーな訳ね。そう言う事なら結構簡単だからすぐにでも出来るさ、それとパンチメインなら腕に付加装備を付ける事も考えた方がいいかもな」

「付加、装備ですか?」

 

付加装備といわれてもピンと来ないのか首を傾げる出久にパワーローダーは初々しいものを見るような目でよしよしと言いながら説明する。

 

「付加装備っていうのはまあその名通りさ、何かを付加する事を目的とした装備だ。例えば高熱を発するグローブ、これはパンチに高熱を付加するというのが目的だな」

「成程……ただ腕の動きの負荷を抑えるだけが装備じゃないって事か……」

「そういう事だ。何かを腕から飛ばす個性なら、その飛距離とか回転を加える為の装備とかもだな」

「そういう事でしたらとっておきのベイビーちゃんがありますよ!!」

「うわっ!!?」

 

と何時の間にか出久の腕に発目は何やらメタリックな籠手を勝手に装着していた、全く気が付かなかった。

 

「パンチを繰り出す際に腕部のブースターが起動してパンチのスピードを飛躍的に上昇させるベイビー!!スピードが上がれば破壊力も倍増しますはい!!」

「い、いやあの取り敢えず僕はサポーターが……」

「それならとっておきのベイビーがありますよはい!!」

 

そう言って次なる発明を装着させられる出久、そんな彼を哀れに思いつつも剣崎は勝手にパワーローダー先生に相談を持ち掛ける。

 

「マッスルスーツ故の悩みって奴か、そういう奴は多いな」

「はい。だから動きやすく、小回りが利きやすくなればいいんですけど」

「ふぅん……君のコスチュームは一旦BOARDの預かりになってるのか、それなら一旦そっちに連絡する事になるから少し時間掛かるけど構わないか?」

「はい大丈夫ですって飯田ぁぁぁぁッッ!!!?」

 

と剣崎が了承を返すと凄まじい噴射音がしているのでそちらを見ると、そこには腕に付けられたブースターで天井に身体を押し付けられていると言うとんでもない状況になっている飯田の姿があった。どうやらラジエーターの改良をしたいと答えた事で発目にブースターを付けられて起動させられてあんな事に……。

 

「お、俺の個性は足なのだが……」

「でも私思うんですよ。足を冷却したいなら別の場所で加速、即ち腕で走れば良いと!!」

「いや何を言っているんだ君は!!?」

「でもそれ、普通に良い考えじゃないか?」

 

と思わず言ってしまった剣崎に注目が集まった。

 

「飯田の相談っていうのはレシプロバーストで起こるエンストを軽減する事だろ?それだったら別の場所でスピードを出せるようにするって発想自体は悪くないと思うけど」

「おおっ話が分かりますね黒いコスチュームのヒーロー科の人!!」

「剣崎 初だよ」

「それじゃあ剣さんで良いですね!!貴方は実に話が分かる人と見ました!!」

「初めてだぞその略し方……梅雨ちゃん、お願い、睨まないで」

「分かってるわよ剣崎ちゃん」

 

と発目は純粋に発想は悪くないと言う部分に対して喜んでいるのだと思う……だから大丈夫だと梅雨ちゃんに伝えるが、どうにも視線が痛い気がする……。

 

「だが、具体的にはどうやって加速するんだ?」

「いや腕にブースターはあれだけどさ、アニメのロボみたいに翼みたいにしてブースター付けるのは悪くないんじゃないかなって」

「おおっ成程!!確かに背中ならば空中での機動力の確保にも繋がる!!!」

 

と飯田のコスチューム改良に新しく案を提示したところで出久から飯田と共に足の使い方を教えて欲しいと言う願いが飛んできた。どうやら先程の発目の足が駄目なら腕で走ればいい、と言う言葉が何かのヒントになったらしい。

 

この後、パワーローダー先生に様々な相談や発目のとんでも発明が飛び出したりと様々な事が起きたりしたが無事に改良案を提示する事は無事に終了した。そして数日後に剣崎のコスチュームはBOARDから返ってきて小回りがかなり利くようになっている上に、職場体験で取られた自分のデータを参考にして作られた新コスチュームは今まで以上にパワーが出るようにもなっていた。その姿も―――全身に走り金のラインがより明確に、全身に細かく走るようになっていた。

 

「これが俺の新しいコスチューム……良しっ……!!!」

 

それを纏った剣崎は今まで以上に訓練に励みながら、更なる必殺技開発に勤しむのであった。



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凄まじき戦士、シュートスタイル。

新たに改良された剣崎のコスチューム、それはBOARDが剣崎の個性をより詳しく解析しそれに準じた物へと進化させた物。今まで以上により大きくなっており体格が更に増しているかのように見えるだけではなく、マッスルスーツとしての機能も上昇しており、更なる力が発揮出来るようになっている。

 

「オリャアアアアアアッッッ!!!!」

 

それでいながらも全身へと張り巡らせられるようになっている黄金のライン、それらはエネルギーを伝達する役目を担っており、そこから新開発させられた個性をより細かく伝達する新技術が導入されてコスチュームその物が身体と一体化するような作りとなって、細やかな動きをする事が可能となっている。その威力を試す為に拳を思いっきり振り切った剣崎は、セメントスが作り上げた巨大な山のような壁へと風穴を開けるほどのパンチを繰り出していた。思わずその破壊力を見て、剣崎はコスチュームの性能が著しく上昇しているのだと自覚する。

 

「これが俺の新しいコスチュームの力……」

「素晴ラシイ破壊力、正ニ一撃必殺ノ型ノ新タナ誕生デアル」

 

エクトプラズムも認めるほどの破壊力を見せ付ける剣崎、更に威圧的な外見へとなったコスチュームは何処か棘棘しくなっているのにも関わらず剣崎本人の影響なのか、威圧的と言うよりも頼もしく安心感を与える物へと変じさせている。そんな彼は引き続き訓練を積んでいる時の事、出久がこちらへと走ってきた。彼も今日に至るまで様々な変化があり、腕には保護サポーター、足にはスパイク兼アーマーのアイアンソールを装着したキッカーへとスタイルを変えていた。

 

「剣崎君、もし良ければキックの事に付いて色々と聞きたいんだけど……」

「俺にか?蹴りなら飯田の方が良いんじゃないか?」

「飯田君にも色々聞いたんだけど、飯田君は機動力メインな所を参考にさせてもらったんだ。それで今度は所謂火力メインなキックをする剣崎に聞きたいんだ」

「な~る、先生良いですか?」

「良イ、剣崎君ハ彼ニ対シテ基本ヲ教エナガラモウ一度自分ヲ見直シテミルトイイ」

「分かりました」

 

剣崎は既に個性を活かした技を複数開発を終了している、そもそもが個性を発動している状態こそが必殺技と言えるし十二分に選択肢を作り上げているとエクトプラズムに判断されている。これから伸ばすべきなのはそれらを活かした戦い方と選択肢をどうやって活かして行くかという物。その為にも一度自分を見直してみる事も重要となってくる。

 

「んじゃ始めて行くか、と言ってもまずどんな事を聞きたいんだ?」

「剣崎君は今まで僕の"フルカウル"の訓練とかにも良く付き合ってくれるから分かると思うけど、やっぱり小回りの利いた機動力でそれを活かすとしたら機動戦が主になるんだ。だからダッシュの延長で使えるキックとかが良いと思ってるんだ」

「ああ。フルカウルは全体的な戦闘力の向上と機動力の大幅強化がメインだもんな」

 

故に出久が主軸に置きたいのは蹴り、それもオールマイトがメインに据えているパンチによるスマッシュに変わる自分なりのシュートによるスマッシュ。その為にも仮面ライダーとしてもキックを必殺技にしている剣崎の技を参考にしたいとの事。

 

「成程な……それなら出久はカウンター系じゃなくて自分から向かって行くタイプのキックをやって行った方が良いかもな。それと蹴る時は足の力だけを少しだけ上げてやるのも重要になってくる」

「うんそれは僕も考えてる、蹴る瞬間にだけ出力を上げるって言うのをね」

「それなら幾つか実演してみるか」

「お願いします!!」

「セメントス先生、新しい的をお願いします!!」

「OK。任せておいてくれ」

 

とセメントスに新しい壁で的を作ってもらって剣崎は幾つかのキック技を披露する、その場で跳躍しながら落下しながら加速して蹴りこむ。助走を付けた勢いのまま蹴りを叩きこむ、体重を乗せた浴びせ蹴り、踵落としなどなど様々な蹴り方を実演して行くと出久は目を大きく開いて食い入るようにそれを目に焼き付けていく。そして中でも最も出久が喰い付いた物があった。

 

「ウェエエエエエイッッ!!!!」

「こ、これだっ!!!」

 

それは助走で勢いを付けたまま蹴る前に自ら回転しながら跳躍して、回転の力をキックにプラスして放つ飛び廻し蹴りであった。フルカウルの機動力を存分に活かせる上に回転する事で瞬間的に出力を高めるという要素をやりやすくなるというのが大きな理由であった。

 

「僕にあったスマッシュ……うん、これならフルカウルを活かしながら必殺技に出来る!!」

「よしそれなら試しに蹴ってみると良いさ。何でも試してみないとな」

「うん!!!」

 

この後剣崎の見直しと共に出久のキック練習が始まり、出久は徐々に蹴りをマスターしていきながらも"ワン・フォー・オール"の出力を制御しながら瞬間的に高めて相手を倒すシュート・スタイルへ更なる磨きを掛けていく。

 

「ねえ剣崎君、さっきのカウンターの奴も見せてくれないかなっ!?あれも回し蹴りでしょ、参考にしたいんだ!!」

「と言っても出久の回し蹴りと違って、あれはその場で動かないで近づいてくる相手に放つカウンター系の奴だぞ?」

「それでもっお願い!!」

「ったく分かった分かった……」

 

 

「エクトプラズム、如何かな緑谷少年と剣崎少年は」

「オールマイト」

「私が来たっ!」

 

と体育館へとやって来たオールマイトは二人の事をエクトプラズムへと尋ねてみる、一緒に訓練をしている様子は個性の訓練をしていた頃の様子に酷く似ているからかオールマイトは笑みをこぼしている。

 

「良イ関係ヲ築イテイル。互イガ互イヲ刺激スルライバル同士、ソシテ師弟トモ似タ関係デモアル。面白イ」

「そうか、それは非常に良いな!!」

 

とオールマイトが笑った時、体育館内で凄まじい爆音と爆風が巻き起こった。周囲の隆起したセメントの足場は衝撃波によって揺るがさせ、脆い箇所は次々と綻びていく。それを巻き起こしたのは出久に頼まれて、カウンターマイティキックを試しにと全力で放ってみた剣崎であった。どうやら新コスチュームの影響でパワー上限が増している為か、セメントスが用意した巨大な山のような壁を完全に粉砕して吹き飛ばしてしまうほどの超威力を発揮してしまった。

 

「けっ剣崎君、凄い……!!!」

「……あれ、この威力流石にやばくね」

 

と目を輝かせる出久をさておきながら、剣崎は口角を痙攣させるかのように困ってしまうのであった。そしてBOARDに直ぐに連絡して、自分の力を数値として見えるように出来ないかと相談した所、パワーメーターやその他機能を内蔵した直ぐにメットを送ってくれるという事になった。




剣崎コスチュームを簡単に言うと最初がアメイジングマイティ、今現在がアルティメットフォームって感じ。


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完全体コスチューム、煽り耐性?

剣崎が新たなコスチュームでカウンターマイティキックでとんでもない威力を発揮した翌日、その日も仮免試験へと向けられた訓練が続けられている中で剣崎は遅れて体育館γへと姿を現した。一応相澤の許可を取っているので遅刻としてのカウントは取られないので問題はないのだが、脇には今までなかったメットのような物を抱えていた。

 

「やぁ剣崎少年!!おっそれが件の新コスチュームメットかな!?」

「はいそうです。なんでも元々は一緒に送る手筈だったらしいんですけど、なんか不具合があって一緒に送れなかったらしいです。今日からこのメットも装備してエース・ブレイドです」

「そうか、では早速装備してみたまえ!!」

 

オールマイトがやって来た剣崎に対してメットを被ってみたまえと促すので、剣崎は脇に抱えていたそれを被った。被った途端に内部に仕込まれていた様々な情報が一気に頭に飛び込んでくる、それと同時に内部が光に満ち始めて行きモニター式の視界が広がって行ったが、それらを目で捉えるのではなく視界に直接投影されるように変化して行く。網膜に直接様々な情報が映し出されているかのような物に、驚くが次第にそれにすらなれて行く自分がそこにあった。まるで身体の一部だったかのようにメットが馴染んでいくのを感じる。

 

「あれが剣崎のコスチュームの完成系、って奴ですかね」

「だろうね。しかしこうしてみると本当に猛々しいな!」

「見方を変えたらヴィランっぽい感じもしますけどね」

 

剣崎が装着したコスチュームの全体像とはかなりヴィランのような風貌となっている。漆黒の全身に浮き上がっている黄金のラインは血管のように広がっており、肩や腕から伸びている棘へと力を送っているように見える。故か酷く強靭な印象を受ける、そして頭部を覆うメット。それは何処か仮面ライダーを意識しているのか、かなり酷似しているデザインとなっている。鋭角に伸びる四本角、鋭い牙を持つ口部……そして何より徐々に赤い輝きを増していく大きな複眼のような瞳が仮面ライダーに酷似する。

 

「―――よし、完全起動完了です。エース・ブレイド完全体、此処に参上です!」

「うむっ中々カッコ良いぞ剣崎少年!!」

「見た目は置いておくとして……剣崎、お前は力加減も習得しておけよ。昨日のアレは相当だぞ、オールマイトには及ばないだろうが」

「ハハハハハッそう簡単には追いつかれないぞぉ~!!」

「はい、分かりました」

 

と返事をしながら剣崎はいち早く蹴り技の訓練を積んでいる出久の元へと走り出していく、網膜に映り込んでいる様々な情報にも目を通しながらも向かって行くと出久は"フルカウル"を発動させながら縦横無尽に跳び回りながら不安定な姿勢からの蹴りを試しては、何か違うと唸ったりこれだと閃きを繰り返したりしていた。

 

「よぉ出久、調子良さそうじゃないか」

「あっ剣崎君―――ってうわっ凄い変わったね!!?顔が隠れるだけで凄い変わったように見えるよ!!?」

「あっやっぱり?」

「うん。僕の中だと剣崎君って何時も笑顔ってイメージだから」

 

それには恐らくクラスの皆が同意見だろう、オールマイトと同じように普段から笑みを浮かべ続けて周囲を明るくする剣崎。そんな彼は戦闘時でも顔を見せて、笑顔を浮かべて周囲を安心させるという印象が強く、顔が隠れるだけでかなり印象が変わってくる。

 

「でもこのメット相当凄いぞ、俺のパワーメーターだけじゃなくてレーダー機能まで内蔵されてるからかなり便利。しかも網膜投影式」

「それ相当凄くない!?」

「多分相当凄い、俺そっち疎いから分からないけど」

 

という事で剣崎は早速このメットの性能を試す為に個性を発動させて見る、すると投影されているメーターが満ち始めて行き、今現在が最大上限の何%なのかというのが表示されている。身体能力強化を行う個性、それは身体にどの程度力を込めているというのに近いので%にするのが非常に難しい筈。それをやってしまうのだからやっぱり橘所長の研究所は凄まじいという事を改めて実感するのであった。

 

「ハァッ!!」

 

試しという事で自分の頭の中では大体20%のつもりでパンチを放ってみるとメーターには24%となっていた。どうやらかなり正確に測る事が可能らしい、そして4%ほど自分が思っているより強かったらしい。4%程度なら誤差と思うべきなのか、と考えているとエクトプラズムが分身を介して話しかけてくる。

 

「フム、中々良キ姿ヘトナッタデハナイカ。凄マジキ戦士、トイウオーラガ出テイルゾ。ソレデ今ハ何ヲシテイル?」

「有難う御座います。今はメットを使ってパワーを計ってたんですけど、自分が思ってたより誤差が出ちゃって。4%ぐらいなんですけど、それでも直すように努力すべきなのかそれともこの位なら大丈夫と思うべきなのかって」

「成程。ソウデアレバ最初カラアル程度ノ出力設定ヲ行イ、ソレニ準ジタ調整ヲスレバイイ。ソウダナ、25、50、75、100ト分ケ、最初ハソレニ慣レ安定シテソレラヲ出ス事ヲ目標トスレバヨイ」

「そっか最初から基準を作っちゃえば良かったのか……」

「基準、ソレハ威力調整ノ簡単ナマスター方法ノ一ツ。ダガイキナリ設定ニ準ジタ出力ハ難シイ、最初ハ誤差10%以内ヲ目標トセヨ」

「はい!」

 

やはり経験は圧倒的に上な先生の助言に助けられていく剣崎、それを頭に置きながら出力調整の特訓を行っていく。同時に出久のシュートスタイルの成熟の為に組み手などを行いながら出力調整のコツに付いて出久に聞いたりしながら過ごしていると、B組を引き連れたブラドキングがやってきて交代するように相澤に言うのであった。

 

「それと一つ頼みを聞いて貰っていいか、うちのクラスの一人とお前のクラスの誰かと模擬戦をして貰いたい」

「その程度なら構わない、なら剣崎を出そう。剣崎、少しこっちに来い」

 

勝手に決められてしまったが、剣崎はB組の生徒相手に模擬戦を行う事となったので会った。そんな剣崎が相手をする事になったのは物間 寧人という生徒であった。剣崎は取り敢えずメットを外しながら挨拶をする事にした。

 

「剣崎 初だ、宜しくな」

「あれあれっそんなメットを付けてるから変な顔してるのを隠してると思ってたよ。ああごめんごめん、そもそもそんなヴィランっぽいメットしているのってヒーローとして如何なのかって思っちゃってたよ!!」

 

手を差し伸べる剣崎へ開口一番に嫌味をぶつけてくる物間、此方を明らかに馬鹿にしつつ煽り目的でやっているように見える。思わず梅雨ちゃんが苛立ちを浮かべるが肝心のそれをぶつけられている剣崎は全く気にしていないようであった。

 

「そんなにヴィランっぽいかこれ?俺は気に入ってるんだけどな……まあいいや、人の感性によって受け取り方なんて変わってきちゃうもんな。世の中にはヴィランっぽいヒーローランキングってのもあるし、俺は別にいいかな。見た目で怖がられても活動でそれを覆してるギャングオルカって素晴らしいヒーローだっているもんな。そういうヒーローを目指すのも大事って事を言いたいんだろ?」

 

そんな風に自分の嫌味に対して全く怒りもせず前向きに意見として取り入れている剣崎に、思わず物間は凍りついた。どんな相手だろうが少しでも態度に不愉快そうにするはずなのに、目の前の男はそんなそぶりすら見せないのに驚いている。

 

「まあいいや、兎に角お互い頑張ろうぜ」

 

そんな事を言いながら笑顔を浮かべた剣崎はメットを被り直しながらセメントスが作ったステージへと上がって行く。物間もそれに遅れながらもステージの上ヘと上がっていくのであった。

 

「剣崎君、全然動じてない……流石!!」

「剣崎ちゃんだもの、当たり前よね」

「アァン流石初ちゃん、煽り耐性極高ね!!」



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A VS B 足し算

B組の担任であるブラドキングからの申し出を受けた相澤が了承した事で成立したA組対B組の模擬戦、それも仮免での試験を意識しているからだろうか。仮免では雄英の入試のようにロボではなく同じく個性を持った人間が相手となる。それを強く意識して仮免への意識を強めようというのが狙い、それもあるがブラドキングにとっては自分のクラスで唯一の補習を受けた物間に経験を積ませる狙いもあった。

 

「物間張り切って行けよ~!!」

「相手は体育祭1位だ、下克上しちまえ!!」

「ああっ当然だよ。1位に胡坐を搔いている奴なんかには負けないさっ!!」

 

などと応援の言葉を掛けられてそれに対して力強い言葉で返す物間、しかし一方である担任のブラドキングは正直言ってこの勝負で剣崎が出て来た時点で良い経験になれば良いとしか思っておらず物間が勝てる可能性なんて考えていなかった。物間の個性の関係上、剣崎は相性が悪い相手とも言える。だからこそ良い経験になるとも思っている。

 

「剣崎油断せずに行けよ~!!」

「初ちゃんファイト~!!なんだったら、初ちゃんのためなら今此処でチアガールになっても良いわ!!」

『すいませんそれは止めてください』

「アァン上鳴ちゃんと峰田ちゃんそれどういう事かしら!!?」

「はははっ応援有難うね」

 

そんなコント染みた光景を見て気持ちがほぐれている剣崎はメットで隠れてしまっているので手を振って反応を返す。ストレッチをしながら向かい合っている物間に視線を向けて、意識を集中する。物間が纏っているコスチュームは自分の元とは違い、タキシードのような物で特殊な機構があるとは思い難い物。強いていうのであれば、腰の時計が気になる程度だろうか。

 

「それではこれよりA組対B組の模擬戦を行います、ルールは私が作ったステージから出てしまうか相手が気絶するか戦闘不能と判断された場合となります。両者とも用意は宜しいですね?」

「俺は何時でも良いですよ」

「こっちもです」

 

審判を勤めるセメントスが両者に確認を取りながら片腕を大きく上げる、アレが下ろされた瞬間が試合開始を告げる合図となる。身体を沈ませていく剣崎は同時に網膜投影されているデータを見ながら、行動を幾つか選択する。物間も同じように身体を沈ませていく―――そして、

 

「開始っ!!!」

 

セメントスの合図と同時に物間は一気に地面を蹴って接近して行く、だがそれよりもずっと早く地面を蹴って即座に接近した剣崎。身体能力の差が如実に現れている、メットで隠れているので表情は隠れているだろうが彼の表情は鋭い物になっている。

 

「はっ力に物を言わせた力押しとは滑稽だねそれしか出来ないのかな!!?」

「優れてる物を使うのは割と常套手段だと思うけどなぁ」

 

と煽られるがそれにマジレスで答えながらも鋭い連続の蹴りを繰り出して行く。物間はそれを寸前で回避しようとする―――が、蹴りと同時に巻き起こる爆風じみている蹴りが巻き起こす風に圧されてしまい後ろへと退いてしまう。それでもなんとか前へと進み直して、今度は逆にフェイントを混ぜながら攻撃を開始するがそれは軽く受け流された上で腹部へと鋭い一撃が突き刺さった。

 

「がぁっ……!!?」

 

それを受けた物間は吹き飛ばされる、空気を切り裂いて一気に場外へと飛んで行こうとしたが必死に地面に足を突き刺すようにして身体を繋ぎ止めて踏ん張った。重い一撃が入ったはずだが物間の表情は寧ろ明るく、不敵な物へと変化していった。

 

「アハハハッまだまだ、君は君の力で負ける、正に滑稽な最後を上げるよ!!」

 

そう言いながら先程と同じように地面を蹴って一気に接近するが、先程とは段違いの速度を発揮して急接近してくる。まるで剣崎のような速度を出して迫ってくる物間、そして思いっきり腕を振り切ってお返しと言わんばかりに剣崎の腹部へとパンチを炸裂させる。その際の衝撃は身体をつき抜けるかのように、大きな音を立てた。

 

「はっどうだい君の個性を受けた気分は!!良い気持ちだろう、君はそうやってこれを押し付けていたんだからね!!良い経験になっただろうね!!」

 

物間 寧人の個性は"コピー"、触れた相手の個性を5分間の間自由に使用する事が出来るという物。相対する個性が強ければ自分もそれだけ強くなる事が出来る強力な個性を宿している、そして今は剣崎の"身体能力強化"の個性をコピーしており、鍛え上げられた剣崎と同じレベルの個性を所持している事になる。その一撃は非常に重い筈、1組の皆が心配する中、剣崎は物間の腹部へとお返しと言わんばかりの一撃を放って彼を後退させた。

 

「これが俺の個性か……成程な、本当に良い経験になるなこれ。自分の個性を客観的に見れるなんて機会中々無いもんな」

「ど、如何して、平気なん、だっ……!?君の、君の個性を最大限使った一撃だぞ……!?」

 

確かに重い一撃を叩き込んだ筈なのにケロッとしている剣崎に物間は動揺してしまっていた。体育祭の時から剣崎の強さを見て、それを認めた上で最適な使い方をしたと分かっている筈。それなのに全く堪えている様子が皆無という事態に驚愕していた。

 

「俺の個性は身体が大きく関係してるし、流石に俺と君とじゃ身体のレベルが違うから同じ威力は出ないぞ。今のは良い所30%位だ」

「ッッッ……!!!」

 

同じ個性を所有者と全く同じレベルまでコピーして使用出来る個性、それは非常に強力で同時に二つとかは使うことが出来ないという弱点が存在するがタイミングよく使い分ければ様々な攻撃に対応可能。そんな一面を持つ中で、物間のコピーは相手の身体レベルまではコピーできない。あくまで個性のみ。剣崎のような身体能力を強化する類の物の場合は、本人の身体の鍛え方や戦いが結果に影響するので相性は悪い。

 

剣崎は仮面ライダーとしても活動してきただけではなく、ずっと身体を鍛え続けていた。それこそ超重量の鉄を持ち上げて森の中を進んでいけるほどに身体が出来上がっている。そんな剣崎と物間では身体の出来上がるのレベルが違い過ぎる。

 

「確かに痛い、だけど出久の一発の方がよっぽど強いから耐える事は出来る」

「グッ……ハ、ハハハハッ可笑しいね、君は他人の方が強いと簡単に決めるんだね……!!」

「いやそりゃそうでしょ、俺はどっちかと言ったら足し算で出久は掛け算みたいなもんだ。流石にその差はでかい、だから俺は戦い方でそれを埋める……そう決めたんだよ」

 

軽く、地面を蹴って物間の前へと到達した剣崎。思わず目を見開いた物間の視線の先には限界まで引かれた矢のように、引き絞られた腕がそこにあった。自分が放った全力の一撃よりも遥か上を行くそれは迫っている、だが動けなかった。そして―――瞬時に振るわれた一撃が物間へと顔面へと迫って行った。これを受ければ間違いなく顔面が潰れる、そう思っても避けられない。思わず目を閉じてしまった、恐怖に負けてしまった。威圧的な姿も相まって自分に拳を向けるいまの剣崎は酷く恐ろしい物だった。

 

「そこまでだ剣崎、この模擬戦は終了とする。それで良いなブラド」

「ああっ良い経験になったと思う。感謝するぞ」

「礼なら奴に言え」

 

そんな声が聞こえてきて物間は目を開けると、そこには自分に背を向けて1組の仲間の元へと歩いていく剣崎の姿があって様々な思いが溢れ出て来たが安心感が真っ先に出てきて座り込んでしまった。そんな彼の元へとブラドキングが歩み寄り、優しく肩を叩いた。

 

「良くやった、さあお前も必殺技に励むんだ」

「……はい、先生」

 

 

「剣崎、お前最後全力で殴るつもりだったか」

「いえ50%でやるつもりでした、メーターだと53%でしたけど」

「そうか、誤差は常に5%以内を目指すように」

「分かりました!」



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日常の一部、認識。

「……ふぃぃっ~……」

 

間も無く仮免試験の当日になろうとしている頃、剣崎は夜遅くになって寮への帰路へと着いていた。仮免に向けての必殺技作り、そしてそれらが終わってからは仮面ライダーとしての活動を行っている。既に日常の一部となってしまっている為か、剣崎は溜息程度に済ませているがこの日の剣崎はビルの大崩落現場という場に赴いて多くの人達を救って来たばかりであった。鉄骨などが地面から生えるという異様な状況の中で命の危機などに瀕していた人々を救ってきた彼は流石に疲れているのか、時々肩を回している。

 

「風呂にでも入って疲れ取りたいな……」

 

神経を遣った救出作業に心肺停止状態などの人に対する治療、それらにすら手を出してしまった故に想像以上の疲労が身体に積み重なってしまっている。出力調整をした電撃で心臓の動きを正常化させた後に回復させたりもした。酷く神経を使った事に剣崎は心身共にお疲れモードであった。

 

「お帰りなさい剣崎ちゃん」

「梅雨、ちゃん。ああっただいま」

 

間も無く寮に着こうとしている時に目の前にやってきた梅雨ちゃんが自分を笑顔で出迎えてくれる、それに一抹の嬉しさを感じながら疲れが一瞬吹き飛ぶのを感じて笑顔でそれを返す。両親が生きていた頃に父を笑顔で出迎えると元気が出て来たと言っていたが、確かにこれは元気が出てくる。

 

「今日も大変だったみたいね、今も凄いニュースになってるわよ仮面ライダーの事」

「ああっやっぱり……?」

「ええっ今皆で談話室のTVを見てる所よ」

 

愛しの彼の苦労を労いながら共に寮へと入っていく、談話室へと入って行くと皆がお帰りと声を掛けてくる。建前上はコスチュームに関する調整という事になっている剣崎は特に怪しまれずに談話へと参加する。

 

「よぉ剣崎、お疲れだな。今シフォンケーキ食べてるんだけどお前も食うだろ?」

「ああ、出来れば貰いたいな」

「んじゃ今持ってくるから座って待っててくれ」

 

砂藤の言葉を素直に受け取りながらソファに梅雨ちゃんともに座り込んだ剣崎、皆がみているTVへと視線を向けてみるとそこには自分が救出作業を行っていた現場での事が大々的に放送されていた。

 

『超高層ビルが突然の崩落、多くの怪我人が出る中に現れた救いのヒーロー仮面ライダー!!』

 

というテロップが凄い自己主張をしながら表示されている、超望遠カメラによる撮影は自分が行っていた救助活動が鮮明に記録されている。磁力の力で鉄材などを退けながら取り残された人達の救出に瓦礫の撤去、重傷者に対する処置など……次々と上げられていく自分の行動に少し恥ずかしさを抱いている時に切島が大声でカッコいい!!と叫ぶ。

 

「すっげぇな仮面ライダー!!あんな場所に躊躇なく向かって行って多くの人達を救うとかマジもんの英雄じゃねえか!!」

「いやでもマジで凄いよな……瓦礫の中に居て助けられない人を簡単に救い出して、治療までする。ホント何者なんだよこの人……」

「あそこまでの実力者ならば、正式にプロとしての資格をとって活動をすれば宜しいのに……如何して違法自警者として活動を続けるのでしょうか……」

 

そんな仮面ライダーに対して思わず八百万はそんな言葉を向けてしまう、実際今現在は仮面ライダーを違法自警者として捕縛しようとする動きは目立っていない。というよりも捕まえるのがヴィランよりも遥かに難しい上に、下手に捕まえたら彼に助けられた人達から凄まじいバッシングを受ける事を恐れていると言っても過言ではない。スカウトへと切り替えて、ヒーローは一旦仮面ライダーを連行した上で正式なスカウトをしようとしているのだが、それすら無視する仮面ライダーに対しては謎が深まり続けている。

 

「ほい剣崎、シフォンケーキ」

「あっ悪いな」

「良いって。そう言えばさ、麗日と梅雨ちゃんって仮面ライダーに助けられたんだよな?二人は何か知らないのか、仮面ライダーがプロにならないのかって」

「いやそんな事言われても……うちは分からないよ」

 

そんな風に聞かれたとしても麗日も困ってしまう。本当に偶然的な感じで助けられただけで、詳しい話もしていなかったのでよく分からないと言うのが素直な本音であった。そんな梅雨ちゃんが応える。

 

「ケロッ……多分だけど、彼はただ人を救いたいだけなんだと思うわ」

「救いたいだけ、ですか?」

「多分だけどね」

「フム……確かにそのような印象を受けるな。件の仮面の騎士は自らを贄とし人々に光を齎す存在、だと俺も思う」

 

梅雨ちゃんに同意したのは常闇もだった、彼も林間学校にて仮面ライダーに助けられ無事に宿泊所まで送り届けてもらった恩がある。

 

「つまり、仮面ライダーは人を救いたいだけ。プロヒーローという役職や報酬などには興味がないという事ですか?」

「そうだとしたらすげぇけど、なんか凄すぎてアレな感じだな」

「今のヒーローとはなんか対極的な感じだね……」

「うむ、ヒーロー殺しが求めた自己犠牲の果てのヒーローと言うべきなのかもな」

「言い方はアレな感じだけどな、まあそう思いたくなっちまう凄みが有るよな」

 

そんな言葉が次々と投げ掛けられていく。高潔、カッコいいなどと上げられていく言葉に剣崎は少々気恥ずかしさを覚えてしまっていたが、それを隠すようにシフォンケーキに喰らい付く。事情を知っている出久と梅雨ちゃんはそれを見て微笑ましい物を見るような目で見つめる。そんな中、爆豪が言った。

 

「自分が強ぇ、なんて考えた事は無い。何が出来るかで判断する、強ぇと粋がるのは良い、精神的な成長にも密接に関係する。だが時にそれが慢心を生み、自らを貶める……」

「かっちゃんそれって、あの時仮面ライダーが言ってた……」

「―――あいつはもっと先にいる、俺は其処に行く」

 

そんな風に言う爆豪の瞳はギラギラと輝きながらも、今までとは違うように光を放っている。そんな彼の言葉と共に、仮免試験の当日がやってくる。



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仮免前日、夜の一時。

「そういえば梅雨ちゃん、なんか最近はずっと剣崎君と一緒にいるよね」

「そうかしら、そんな感じする?」

「するする、出来る限り隣に居るって感じじゃん」

 

いよいよ仮免の前日の夜となった日、それぞれが明日に向けた準備を終えて後は明日を迎えるのみとなった時に女子達は女子会のような物を開いて明日は頑張ろうという事を話していた。が、そんな時に芦戸が梅雨ちゃんにそう言った。

 

「今日だって、遅くに帰ってきた剣崎を出迎えに行ってたじゃん」

「剣崎さんは新しいコスチュームでの力の調整が大変らしいので、居残りで特訓をしているらしいですものね」

「そうそう、でも梅雨ちゃんはそんな剣崎君を毎回笑顔で出迎えるんだよねっ♪」

 

葉隠も何処か乗ってきているのか口調が明るくなり始めている。本当は仮面ライダーとしての活動によって雄英を抜け出し、帰ってきた剣崎を出迎えているのだが周りからしたらそれはそれで一体なんでだろうと思い当たってしまう。そして徐々に何かを悟ったかのようにニヤついていく響香と芦戸、そして明らかに嬉しそうにしている葉隠と麗日、そして微笑ましそうにしている八百万。

 

「もしかして……二人って付き合ってたりするの!?」

「ゲロっちまいな梅雨ちゃん、早く自白した方がいいよ♪」

「それ、蛙の私に対してのギャグかしら?」

「いやそういう意図はないから」

「それよりも教えてよ梅雨ちゃん!!」

 

と周囲から期待の眼差しが飛んでくる、意外なのは八百万も興味津々と行った具合の様子である事である。お嬢様育ちの彼女にとっては同級生の恋愛事情というのは珍しかったり、興味が沸く物なのだろうか。梅雨ちゃんはこれは逃れるのは難しいのと否定したら今度は恐らく剣崎に聞きに行くんだろうな、と察してイチゴ牛乳を置きながら言うのであった。

 

「ええそうよっ。私と剣崎ちゃんは付き合ってるわよ」

『きゃあああっやっぱり!!』

「ほほうっ?」

「まあっそれはめでたい事ですわね♪」

 

テンションMAXと言った具合に喜びの声を上げる芦戸、葉隠、麗日、興味津々で根掘り葉掘り聞く気MAXな響香、純粋にめでたい事でお祝いすべきと思っている八百万と酷くバラバラな反応を示している。

 

「どっちっ!?どっちから告白したの!!?」

「梅雨ちゃんから!?それとも剣崎君から!!?」

「キスとかもうしたの!!?」

「これは全部聞かないといけませんなぁ!!」

「わ、私も宜しければお聞きしたいですわ……!!」

 

なんだかんだで興味全開な八百万に梅雨ちゃんは苦笑しながら、どこから話すべきかしらっと顎に指を当てながら考え込むのであった。

 

「告白、は私からね。それでその後にお互いにもう一回告白し合って付き合い始めたわ」

「何時から付き合ってたの!!?」

「林間合宿の前ぐらい、かしら」

「全然気付かなかったよっ!!?」

「デートとか、いやキスとかした訳!?」

「耳郎ちゃん其処まで聞いちゃうの?お家デートはしたわよ」

「彼氏としての剣崎君ってどんな感じなの!!?」

「とっても優しいわよ」

「そ、その結婚とかも考えてらっしゃいますの!?」

『ヤオモモ流石にそれは聞き過ぎ!?』

「え、えええっいけませんでしたの!?お付き合いというのは結婚を前提する物だとばかり……」

 

ここでも炸裂する八百万のお嬢様であるが故の認識の差の天然ボケ。しかしそれに対して梅雨ちゃんは少し笑うとそのまま残っていたイチゴ牛乳を飲み切ると、ソファから立ち上がるのであった。

 

「さあそろそろ寝ましょう、明日はいよいよ仮免試験なんだから」

「あっちょっと待ってよ梅雨ちゃん今の笑いって何どういう事!!?」

「もしかして、結婚とかも視野に入れちゃってるって事!?」

「待て待て待て一番気になる所なんだから逃がさないよ!!」

「蛙吹さんお待ちくださいっ是非お聞かせください!!」

「フフフッ秘密っよ♪」

 

 

「へっ…ヘっ……ヘッキショオイ!!!」

「剣崎君風邪か?体調管理は気を付けないと、明日は仮免試験なんだから」

「いやなんか急に鼻がむずむずして……」

 

一方の剣崎の部屋では出久の姿があった。新たなシュートスタイルの確立をした出久は頻繁に蹴りを主軸、又は切り札にしている飯田と剣崎の元を訪れてはコツなどを聞いて自分のスタイルの成熟に勤めている。今は剣崎の部屋で腰を上手く使う為にテニスラケットを使って、腰を上手く回す練習中である。

 

「それにしても、テニスラケットで蹴り技の練習が出来るなんて思わなかったよ」

「テニスは腕じゃなくて腰を回して打つからな、腰を回す練習にはもって来いって訳だ」

「剣崎君ってテニスやってたの?」

「昔、ソフトテニス部の助っ人やっててな」

 

明日に備えて蹴りの最終確認、出久は飯田の必殺技であるレシプロバーストをイメージしているらしいがどうにも納得出来ず、その差を腰の使い方だと断定している。そこで剣崎に色々な事を習っている最中なのである。

 

「そういえばさ剣崎君、最近随分蛙吹さんと親しいって感じするけど何かあったの?」

「あったと言うかなんと言うか……仮面ライダーである事が林間合宿前にバレてな」

「えええええっっっ!!!??バレちゃったの!!?えっでも如何して!!?」

「……さっ叫び声」

 

顔を伏せながら恥ずかしそうに答える剣崎に出久は思わずポカンっとしてしまった、一体どんな理由でバレたのかと思っていたら叫び声でバレたと剣崎は言うのである。そう言えばと林間合宿で襲いかかってきた相手を仮面ライダーである剣崎が倒したとき、確かに叫び声が剣崎の物だったと思い出した。

 

「そ、それってウェェエエイって奴……?」

「……うんそれ」

「うわぁっ……」

「止めろ俺だって恥ずかしいと思ってんだから!!!」

「まあうんえっと……今度、ご飯奢ろうか?」

「止めろ!!そんな残念な者を哀れむような目で俺を見るなぁぁぁぁ!!!!!」

 

本当に仮免前の夜がこんなのでいいのだろうか。



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西のイナサ、超激励。

遂にこの日がやって来た、この日の為に行われてきた林間合宿での地獄にも引けを取らない個性上昇特訓の数々に雄英にて開発してきた必殺技、それらを総動員してこの日行われる仮免試験に合格する。雄英高校1年A組は試験会場となる国立多古場競技場へとたどり着いた。

 

「うぅぅっ……緊張してきたよウチ……」

「大丈夫よ耳郎ちゃん、この日の為にやって来た努力でやれるだけの事をすればいいんだからね」

「試験って何やるんだぁ……仮免取れっかなぁ……」

「峰田、取れるかじゃない。取って来る、気持ちで負けるな」

「う、うっす!!やってくるぜ相澤先生!!」

 

と緊張している者もいるが深呼吸などをして冷静さを取り戻していく、そしてそれらに対して相澤が激励をかねた厳しい言葉を掛ける。

 

「この仮免は厳しい、だがこれに合格すればお前ら卵は晴れてひよっ子、つまりセミプロへと至る。お前ら、ヒーローになりたくて雄英に来てんだ。その為の第一歩だ、気を引き締めて踏み出せ」

『はいっ!!』

「おし皆、それじゃあいっちょ景気付けに何時もの奴やろうぜ!!」

「おおいいなっ!!」

『Plus...Ultra!!』「ULTRA!!!」

 

全員が雄英の校訓でもある言葉で景気を付けようとした時、どこから聞いた事のないような声が混ざってくる。思わず全員が振り向いてみると其処には学生帽を被っている大柄で何処か顔が濃い男が、大きく笑いながら円陣へと混ざっていた。そんな彼を諌めるかのように同じ帽子を被った男が声を掛ける。

 

「勝手に他所様の円陣に加わるのは余り良くないよ、イナサ」

「ああっしまったっ!!失礼、どうも大変、失礼、致しましたぁぁぁぁ!!!」

 

大柄な男は力強く姿勢を正すと凄まじい勢いのまま、体を大きく曲げながら地面へと頭をぶつけながら謝罪する。かなりいい音が鳴っている辺り、相当痛いであろう筈なのに顔は全く変わらずに笑っているように見えている。

 

「一度言ってみたかったンッス!!プルスウルトラ!!!自分雄英高校大好きっス!!!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス、よろしくお願いします!!!」

「こちらこそ、宜しくお願いします。剣崎 初です、本日は宜しくお願いします」

「おおおっこれはご丁寧にどうもっす!!!体育祭優勝者とお会い出来て本当に光栄の極みっす!!!自分は夜嵐 イナサっていうっす!!!どうぞお見知りおきを!!!!」

 

皆が思わず空気に飲まれてしまっている中で唯一剣崎はマイペースを保ったまま挨拶と握手を交わす、何やら飯田のような真面目さを感じるが、それ以上に何やら漢のような凄まじい雰囲気を感じる。飯田と切島を混ぜて2倍したような男だ。挨拶を終えるとこれで失礼するといって、再び地面に頭をぶつけてそのまま一緒にきたと思われる生徒と一緒に離れていくのであった。

 

「剣崎ちゃん、さっきのイナサって人の制服……」

「ああっ士傑高校の奴だ」

 

日本においてヒーロー科の最高峰とも言われる学校が存在する。それが東の雄英、西の士傑と呼ばれる二つの高校。雄英に匹敵する程の超難関校の士傑高校、今回その生徒が仮免試験に受験するという事実に今年の試験はきっと難問だと理解する。そしてあの夜嵐 イナサという男、元々は雄英を推薦入試しトップの成績で合格したのにも関わらずそれを蹴っていると相澤が語る。もしかしたら自分達と共に勉強していたかもしれない超エリートで轟よりも優秀である男……。それに思わず全員が喉を鳴らしてしまう。そんな時である。

 

「その場で整列ぅぅぅッッ!!!!」

 

と周囲に木霊するほどの凄まじい馬鹿でかい声が周囲に広がっていく、それに仮免を受ける面々が驚いている中でそれに思わず反応してしまった者が二人ほど居た。それは―――

 

「「サーイエッサー!!!!」」

「デ、デク君!!?」

「け、剣崎ちゃん?」

 

その場にて見事なまでにきっちりと揃って並んで立っている出久と剣崎の姿であった。思わず身体が反応してしまったのだが、この声とこの言い方……ジリジリと近寄ってくる独特の威圧感。雄英メンバーの前へと現れたのは以前林間合宿にて面倒を見てくれたプロヒーローチーム『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』の一人で、剣崎と出久の指導をした虎であった。

 

「と、虎さん!?」

「お久しぶりですっでも如何してここに!?」

「我は丁度休みと試験日が重なっていたので見に来たのだ。我の元で訓練に励み、そして成長したお前達を今日は見せて貰うつもりだ。情けない姿は認めんぞ」

「分かりました、見ててください!!」

「はい頑張ります!!」

 

と力強く返事をする二人に一瞬虎はにやりと笑いながら再び声を張り上げた。が虎は二人に痛烈なビンタを炸裂させた。

 

「なんだその軟弱な返事は!!我の問いにはイエッサーで応えろと教え込んだ筈だ、分かっておるのかっ!!!」

「「申し訳ありません、サー!!」」

 

それを受けた二人はハッとしながらも直ぐに立ち上がって謝罪して、真っ直ぐと虎を見つめなおす。

 

「良いかよく聞くがいい!!!今日この時を持って貴様らはプロヒーローへの道を正に歩み始める!!」

「「サーイエッサー!!!」」

「新たな扉を開き夢へ近づくか、己の未熟を知り更なる地獄を見るかは貴様らに掛かっている、どうだ楽しいか!!!」

「「サーイエッサー!!!」」

 

目の前でいきなり始まった海兵隊がやるかのような空間にフリーズする面々、しかし虎はそんな事お構いなしに続ける。

 

「では最後の言葉だ、我の弟子として―――見事仮免を取得して見せろ!!!」

「「サーイエッサー!!!」」

 

それが終わると虎は騒がせてすまなかったなと謝罪してから、そのまま試験会場へと歩き出して行った。剣崎と出久は虎によって気合を注入して貰ったからかかなり気合に溢れているが、周囲は合宿中何があったんだ……と思ってしまうのであった。



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仮免、一次試験。

「剣崎ちゃん、相当辛かったのね林間合宿。声を聞いただけであの反応って……緑谷ちゃんもだけど何があったの?」

「色々、あったんだよマジで……」

「うん……本当に、ね……」

「お前ら、一体どんな訓練内容だったんだ?」

 

と虎が去った後に皆が試験会場へと進んでいく中で思わず皆が先程の剣崎と出久の豹変振りに思わず林間合宿でどのような訓練をしていたのかと本当に気になってしまった。自分達ですら辛く厳しい物であったのも関わらずこの二人の場合はもっとというのが先程のやり取りでよく分かった。それですら、切島などが腕が上がらなくなっていたのにこの二人の内容はどんな物だったのだろうか。

 

『……本当に聞きたい?』

 

と死んだ瞳で振り返りながら笑みを作りながら聞き返す二人、それに思わず引き気味になりながら遠慮しておくと口を揃えて言うのであった。あの剣崎すらそんな表情を作ってしまっている、それは逆に訓練内容の厳しさを同時に皆に教えているというのと同義であった。

 

「剣崎、なにか相談したい事があったら言えよ。お前には借りがある」

「サンキュ轟……って俺なんかしたっけ?」

「お前は俺の中にあった個性の壁を壊してくれた、だから炎と氷を使う今の俺が居る、そういうことだ」

「ああっ別に気にしなくていいのによ」

「お前には当たり前の事をしたかも知れないけど、俺にとっては重要って事だ」

 

肩を叩いて力になると言ってくる轟に対して感謝を述べる剣崎、なんだかんだでこの二人は仲が良く偶に昼食を一緒に食べたり共に訓練を行っている姿が目撃されたりしている。轟も個性が強力なゆえに力押しになってしまっている部分を改善する為に色々と試したりしているようである。

 

「にしても試験って何すんだろうな」

「う~ん……相澤先生は年によってやる内容が違うって言ってたから断定は出来ないね」

「ヒーローにとって何が必要か、って事を試すのは確定だろうな」

「んじゃ今のヒーローに必要な物って何だ?」

 

剣崎がそう問いかけてみると皆に問いかけてみると各々がそれぞれの意見を出していく。

 

「カッコよさだろ!!」

「いや勇猛さ!!」

「人々の模範となり正義を成す真面目さ!!」

「優しさ、とか?」

「強さじゃねぇか」

「やっぱり色々必要な物ってあるわね」

「だね……となるとそれらを試す試験……対人とか救助とかかな」

 

様々な話を行って試験内容を仮定しながら説明の会場へと乗り込んでいくが、其処に広がっているのはとんでもない人数でごった返されている会場であった。100人や200人では説明し切れないほどの人数が会場の中に詰めている。まるで雄英の入試を思い出すかのような光景に圧倒される皆、そんな中で壇上に一人が立つと皆の視線が其処へ集中していく。

 

「えっ~……それでは仮免のアレをね、説明始めて行きたいと、思います……私は、ヒーロー公安委員会の目良です、好きな睡眠はノンレム睡眠、どうぞ宜しく……」

 

如何にも疲れ切っていますという目良は人手不足による激務で睡眠不足である事を告白しながら、今すぐにでも寝たいという事を言いながら説明を開始する。本当に良いのかこの人で、と思う受験者も多かった。事実、出久もそう思ったりしている。

 

「え~最初に言わせていただきますとずばり、この場にいる1540名一斉に勝ち抜けの演習を行って貰います。現代はヒーロー飽和社会と言われ、ヒーロー殺し「ステイン」逮捕以降ヒーローのあり方に疑問を呈する向きも少なくありません」

 

「ヒーローとは見返りを求めてはならない、自己犠牲の果てに得うる称号でなくてはならない」というステインの主張。そんな主張に納得を示しそうで有るべきと叫ぶ者、否定する者が多く生まれている。剣崎もそれに対して言えない、彼の仮面ライダーとしての生き方は正にそれだからである。誰かの笑顔こそが最大の報酬であると考える剣崎にはそれを否定する権利は持ち合わせていないし、同意すら浮かべてしまう。

 

「まあ個人的には見解としましては、否定こそしませんが現代社会的に動機がどうであれ命懸けで人助けしている人に何も求めるな、というのはアレだと思います。レスキュー隊なんかだってお給料を貰っている訳ですからね、何かを成した人達には何かしらの対価を与えるべきだ、とも思います。まあ何にせよ、ヴィランの退治や救出、それらを行うヒーロー達の活動は常に切磋琢磨されている現状では発生から解決までのタイムは引くぐらいに短縮されています。故にヒーロー社会はスピード社会、それに着いてこれないのは厳しい。よって試されるはスピードという事をご理解した上で、条件達成者は先着100名を一次試験合格者としますので宜しく」

 

目良の言葉は分かる、だがそれでも受験者は合計で1540人も居る。その中で僅か100名しか試験を突破する事が出来ない。その言葉に受験者から戸惑いの声が溢れだす、相澤の話では合格者は5割とされていた。それを遥かに下回る人数でしかも先着、僅か100という門を全員が争って潜り抜けなければならない。流石の条件に意見する者もいるが、世間で色々あったからこういう事になった。だから運が悪いと思ってくれという言葉に意見は封殺される。

 

「それじゃあ試験の内容について詳しく説明しますね」

 

まず受験者にはターゲット3つとボール6つが配布される。このターゲットにボールを当てると光が灯る。このターゲットの三つ目を光らせた者が倒した者となり、二人倒せば合格となり、3つのターゲットにボールを当てられた者は脱落となる。但し幾つかの注意事項もある。

 

1.ターゲットは体の好きな場所に付ける事が出来る、しかし脇や足裏などの見えない場所はNG。常に見える場所に付ける事、コスチュームのマントの裏などもアウト。

2.あくまで3つ目のターゲットを光らせる(奪う)、これが重要。故に他人が2つ光らせた人物の最後のターゲットを光らせる事が出来れば、自分がその人物を脱落させ、自分の合格条件を満たす事にも繋がる。

 

「入試に似てる……でも内容は全然違う、寧ろ奪い合いを推奨してる……」

「常闇が蟲毒と言ってたが、言い得て妙って奴だな」

 

そしてターゲットとボールが配布されるのだが、その前に説明会場の壁と天井が展開して直接試験会場へと出られるようになった。会場はまるで雄英のUSJと似ていて、各所に環境の違うフィールドが準備されていて各々戦い易い場でやってくれという物らしい。そして全員がターゲットとボールを受け取ると受験生全員がそれぞれ動きやすい場へと移動していく。

 

「飯田、林間合宿のときみたいに纏って行こう。ここは個人よりも集団で取りに行った方が確実だ!!」

「了解した!!皆移動を開始しよう、異論は!?」

 

全員に確認すると出久は真っ先に爆豪を見るが、爆豪は個人で動こうとせずに共に居続けた。

 

「……ねぇよ。おいウェイ野郎」

「だからその呼び名如何にかしろ……んで何」

「……てめぇ今度もまともな指示出しやがれ」

「あいよ。轟もいいな」

「ああ。構わない」

 

と全員が纏って行動する事が決定して一斉に移動を開始する、雄英生達は全員が体育祭にて個性をばらしている。この中では圧倒的なアドバンテージを受験相手全員に与えている、故に不利と言わざるを得ない。

 

「多分、相澤先生ワザと言ってないよねっ体育祭で個性とか色々バレてるって事!!」

「だろうなっ!!まあプロになったら個性公開とか当たり前だからな、相手がヴィランだと思えば当然の事って事だろ。合理主義者の先生らしい!!」

 

つまり―――試験開始と同時に行われるのは……雄英生徒への一斉攻撃。

 

「さあ来るぞ、言うなれば雄英潰しって奴か!!」

 

彼方此方から一斉に飛び出してくる他校の生徒達、視界を埋め尽くす勢いで此方への敵意を向けながらボール投げつけてくる。

 

仮免試験一次予選、開幕。



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成長と認める。

「それじゃあまずは―――あれ全部撃ち返そうか」

「剣崎君出来るの!?」

「お前の目の前でやった事をやるだけだよ」

 

そう言いながら剣崎は前へと自信ありげに出る、他の受験生達が行う手の内や個性が把握出来る超難関である雄英を真っ先に潰しに掛かってくるそれに意識を向けながら全身から力を抜いていく。緊張によって込められる力が全身の筋肉から抜けて行く、余分な力など不要。瞬間的に発揮すればそれで十分、そして力を抜き、そして一気に全身に力を込める。同時に跳ね上がって行くパワーメーター、元々の身体能力+個性+コスチュームによる能力増強=威力の超強化が発生する。

 

迎撃型(カウンター)……マイティキィィィイイクッッッ!!!!」

 

身体を軽く浮かせながら回転すると同時に一気に振るわれる凄まじい回し蹴り、刹那訪れる静寂に一同が驚くが直後に巻き起こるのは―――爆発すら超える蹴りの爆風。超大型の台風にも匹敵するほどの猛烈な風は迫り来るボールを撃ち返しながらも自らの攻撃へと昇華させながら襲い掛からせる。

 

「な、なんだよこの風!!?」

「お、おい剣崎 初の個性って風を操作する系だっけ!?」

「ちげぇよ身体能力強化系だ!!でもこれってっ……!!!」

 

彼方此方から溢れる戸惑いの声、それもその筈。剣崎の力は体育祭よりも遥かに上昇している、そもそもの身体能力が高い上に林間合宿で鍛えられた個性に加えて強化改修されたコスチュームが合わさって他校からしたら個性が違うのではないかと思わせるほどの威力増強を可能にしている。会場全体を包み込むかのような爆風にボールだけではなく、受験生すらまき込まれている。

 

「す、すごっ!!?」

「凄いな剣崎君!!正しく必殺技だっ!!!」

「おいおい剣崎お前オールマイトかよ!!?」

 

と思わず友人達からもそんな言葉が掛けられるほどの威力に剣崎も驚きを隠せていなかった。体育館での試した時の全力よりも威力が上がっている、過剰すぎるとも言えてしまう物に剣崎は言葉を失ったがいい示威行為となったと捉えておく。そして同時にメットのズーム機能を使って此方に襲いかかってきた人達を確認してみると、彼らの多くのターゲットにボールが上手い事命中している。流石に3つ点灯しているのは無いが。

 

「今ので大分、ターゲットを点灯させられたな。大分楽になったな」

「マジかよ剣崎!?お前やっぱり化けもんか!?」

「心外だぞ流石に……」

「まあいい、とにかくさっさとやろう」

 

剣崎のキックは予想外の高揚を生みながら、雄英生徒全員の士気を上昇させていく。そのまま一気にクリアを目指そうとする中、此方へと凄まじく迫ってくる大地震のような揺るがしが迫ってくる。

 

「最大出力、震伝動地!!」

 

凄まじい地割れと揺れが此方へと迫ってくる、アレに飲まれた場合一気に此方が分断されて各個撃破の的にされていく事だろう。それらから皆を守るように前に出たのは爆豪であった。

 

「おいウェイ野郎、てめぇだけに良い格好させられるかよ……今の俺に出来る事を見てやがれっ!!!」

 

そう言うと爆豪は両手を輝かせながら地面へと腕を突き刺す、すると徐々に突き刺さった部分の地面が一気に赤く発光して行く。そして爆豪が一気に息を吸い込みながら叫ぶかのようにすると大爆発が連続的に発生しながら地面を大きく抉りながら、巨大な衝撃波を巻き起こしながら此方へと向かって来ていた揺れと地割れを相殺していく。それを見て爆豪は不敵に微笑んだ。

 

爆破解体(ブラストインパルス)……この程度楽勝なんだよっ!!!」

「何だよ爆豪もすげぇじゃねぇかよ!!!」

「たりめぇだてめぇ俺を舐めんじゃねぇクソがッ!!」

 

切島の言葉にも荒々しく応えながらもその表情には自らの技への圧倒的な信頼と自信が滲み出ていた。林間合宿で強化された爆破の個性で大規模の爆発を連続させ、それで巻き起こして衝撃波で相手への牽制と相殺を同時に行う。それでいながら相手の攻撃へと合わせた爆破を天性のセンスで感じとって最適な爆破回数で行って相殺する、宛らビルの爆破解体。流石に今の爆破は他の受験生達にも大きく作用しているのか、かなり激しくも大きく精神を揺さぶりを掛けている。

 

「おいウェイ野郎、さっさと決めんぞ。指示出せや」

「えっ~……んじゃまあ……飯田!!」

「ああっ皆行こうっ!!」

 

剣崎と爆豪、この二人の圧倒的な力によって雄英にもう何も恐れる物などなくなっていた。圧倒的な安心感と自分達も彼らと共に努力して来たという確かな事件の積み重ねが大きな力を与えて行きながら雄英生徒は激震を進めて行く。

 

「剣崎君直伝、SHOT SMASH!!!!」

 

出久は剣崎に教わったキックと飯田から伝授された機動を駆使しながら、連携を絡めていく。小回りの利くフルカウル、そして破壊力抜群の蹴りのスマッシュ。この二つを上手く運用しながら、チームワークを絡めて会場を駆け回って行く。

 

「轟くん、行くよっ!!」

「ああっ頼む!!」

 

轟も鍛錬をつんだ結果を発揮すると言わんばかりに力を振るっていく、出久に投げて貰いながら自らの身体を氷で包み氷の砲弾となって突撃しながら内部から一気に氷を溶かすように炸裂させながら内部から飛び出して炎を相手へと浴びせながらターゲットを確実に奪って行く。その他の雄英生が凄まじい活躍を見せていき、彼らはあっという間に全員一次試験を突破する事に成功するのであった。




かっちゃんが一緒に行動してくれることによってまさかの展開に。


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試験突破と高出力の謎。

「よっしゃあっ!!全員試験突破だぜ!!」

「爆豪お前の必殺技すごすぎんだろ、何時の間に作ったんだよ!!」

「あの位当たり前だボケ!」

 

雄英A組全員揃っての1次試験の突破に成功、それらに皆ホッと胸を撫で下ろしながら喜びの声を上げるのであった。安定した勢いと流れを掴む事に成功して、そのままで進行して先着100名という狭き門を見事に潜る事が出来た。緊張していた皆の顔も明るくなって来ている、いい傾向だと思いながら剣崎はメットを外す。

 

「ふうっ……」

「なあ剣崎さっきのキックスゲェ威力だったじゃねえか!!アレがお前の必殺技か!?」

「ああそうだ、だけどその後のあの凄い地震のような振動攻撃。アレは俺じゃあ如何しようもない、流石は爆豪って所だ」

「てめぇに褒められても嬉しくねぇよ」

 

そっぽを向くような爆豪だが、切島がやっぱりすげぇよお前も!と改めて褒める、それを煩わしいと一蹴するがその表情は悪くない物を浮かべている。実際爆豪の技は様々な応用の仕方が出来るのでかなり優秀な技にもなりえる。彼としてもかなりの自信作らしいのか、胸を張っている。そしてモニターで行われ続けている試験へと目が映っていく。

 

「うわっ凄い、大乱戦だ……」

「早めに抜けられて良かったって感じだな……」

 

今試験会場では受験生らが互いに互いを倒せそうと必死になっている。本来真っ先に潰されに掛かる雄英が早く合格してしまったのも彼らの焦りを誘発している。かなりの泥沼と化して行こうとしているが、その中でも士傑高校の生徒らはずば抜けて安定しながら圧倒的な力を見せ付けている。

 

「おい見ろ、あの俺達にすげぇ熱く挨拶してきた奴!!風操ってんぞ!!!」

「もう一人はうええええええ!!?人間がミートボールみたいになってんぞ!?」

「毛むくじゃらな奴は……うわっすげぇ毛がマジですげぇことに……!!」

「あの人も凄い、何あれ……!?」

 

雄英に匹敵する超難関校と名高い士傑高校、其処から来ている4人の実力も凄まじい。イナサ以外は2年らしいがそれでもイナサはそれに匹敵するだけのとんでもない実力と個性錬度を発揮しながら次々と合格をもぎ取っていってあっという間に1次試験合格をもぎ取って自分達と同じ場へとやってきた。そんなイナサが剣崎を見つけると走って近づいてきた。

 

「どもっス!!流石雄英お早いっスね!!!」

「いやそっちだって十分過ぎるぐらいやばいからな?それと、声でかいぜ」

「おっととこれは失礼しましたっス!!改めて夜嵐 イナサっス!!」

「どうも、剣崎 初だ」

 

かなり暑苦しいというか直球的というか……かなり変わっている。飯田と切島を合わせて2倍した感じというのが冗談抜きで適切な表現なのかもしれない。

 

「しかし剣崎のコスチュームいけてるっス!!超カッコいいっス!!俺もそんな感じにすれば良かったって思っちゃうっス!!」

「そりゃ有難う。イナサのも超いいじゃねぇか、でも違うクラスの奴にはヴィランみたいだって言われたんだけど、良いよなこれ」

「超良いと思うっス!!ヴィランなんてとんでもない、正にヒーローっスよ。超熱いっス!!」

「おい夜嵐、話があるんだから早くこっちに来い」

「あっ直ぐ行くっす!!んじゃ剣崎またねっす!!」

「おう」

 

そう言って去って行くイナサを見送った剣崎、やっぱりイナサ自身は全く悪い奴でもないし寧ろかなり良い奴という印象を深く受ける。そんな彼を見送った剣崎は試験が終わるまで、適当に座り込みながら身体を休ませる事にした。

 

「剣崎ちゃん、となり良いかしら?」

「ああっ好きにして良いよ」

 

隣に座り込んでくる梅雨ちゃんを喜んで迎え入れながら、二人一緒に身体を休める。

 

「剣崎ちゃん、あんなに凄いキックをやっちゃって身体は大丈夫なの?」

「全然大丈夫さ。身体に疲れは全然溜まってないし」

「でもあんな威力出せるなんて凄すぎよ?」

「正直俺も驚いてるよ……」

 

ハッキリ言って剣崎はあんな威力を出せるなんて知らなかった、以前体育館でやったときは個性による強化は抑えていたが、今回はあの時ほど抑えずにやっていたので今回のような威力が出ている。正直言って個性で力を強化しなくても戦いで通用するほどの強化が可能になっている事に驚きしか出てこない。もしも、身体能力強化をMAXレベルで行ったらどれ程のパワーが出るのだろうか……想像したいようでしたくないような事が脳裏を駆け巡っていく。

 

「威力は制御出来る、このメットには俺の個性と筋肉に込められてる力すら数値化してくれるんだ」

「凄いわね……そんな事まで可能なんて」

「職場体験中に俺も実験に協力とかしてたし、そういう研究自体は風に盛んなんだってさ。感覚的な物を数値化するっていうのは」

 

筋肉の伸縮率や流れる生体電流や神経などの働きを察知し、それらを瞬時に解析して数値化する事に成功しているらしい。個性ごとに細かい調整などがいるらしいがこれによって本来制御が難しい個性のコントロールの簡易化に繋がっているらしい。

 

―――だとしても剣崎には気になる事が多くあった、如何して此処までの力を持たせるのか。パワーだけで言ったら仮面ライダーに変身している時に匹敵する物を引き出せる、そんな力をコスチュームに仕掛ける意味が何処にある……?

 

「……剣崎ちゃん?」

「あの人には、何か俺にこのコスチュームを与えた目的があるのか……?」

 

―――いつの日か、話せる日が来るのを楽しみに待っているよブレイド。君の父親、剣崎 一真の事や君のお母さんの事もね。

 

「橘さん、貴方は一体……」

 

 

―――俺にとっての君は、君が思って以上に重い存在なのさ初君……。初……絶対に俺が守るよ剣崎。



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二次試験と役割。

終了した一次試験、先着100名という狭き門を潜り抜けた剣崎達は次なる試験へと気持ちを既に切り替えていた。目良が一次試験を突破した全員へと呼びかけてモニターへと視線を集めさせる、其処には先ほど自分達が凌ぎを削りあったフィールドが映り込んでいる。一体今度はどんな事をするのかと思っていると、フィールドの各所がいっせいに爆破されていき、火を噴きながら瓦礫と化していく。

 

『えっなんで!!?』

「まさか、これって……!!」

 

いち早く気付いたのは今まで仮面ライダーとして数多くの人達を救い上げてきた剣崎であった、今モニター内のフィールドの状況は自分が出向いていった現場と酷く一致する部分が多い。これは即ち、二次予選の内容というのは間違いなく……

 

「救助演習かっ!!」

『次の試験でラストになります、皆さんにはこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行って貰います。一時選考を突破した皆さんは仮免許を取得した物と仮定して、どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』

「救助、演習……!!」

 

ヒーローの本懐、誰かを救う事。それに準じた試験内容に皆緊張の面持ちを浮かべる中でルールの説明が行われていく。ヴィランによる起こしたテロが発生、被災現場各所に要救助者としてHELP US COMPANY、通称HUCの皆さんがスタンバイする。受験者はそれらを如何に適切に救助する事が出来るのかという試験になる。それを聞いた剣崎は即座に考え込んだ、彼には膨大なほどに蓄積されている仮面ライダーとして人を救ってきた経験がある。例えライダーとしての力がないとしても、経験は大きな力として振う事が出来る。10分後にはスタートするという目良の言葉を聴くと剣崎はA組を即座に召集した。

 

「悪いけど休憩なんてしてる暇はない、作戦を考えさせて貰う。八百万、包帯、ギプスとかそういう系の物って創造出来るか?」

「はいっ勿論行けますわ。今から準備ですわね、それと皆さんこれを。通信機です、これで連絡を取りながら行いましょう」

「ああっ。有難い事に向こうの準備時間がこっちの準備としても使う事が出来る」

「はいでは直ぐに。砂籐さん、すいませんが甘い物を少し分けていただけますか?私も出る事を考えると私も甘い物で補給しておく必要がありますわ」

「おうよっ!!特製の飴ちゃんとかいっぱいあるぜ!」

 

八百万が救助や治療に必要な道具の創造に取り掛かる、その際にも全員の個性などを再確認しながら出来る事を考えながら分担を考えていく。

 

「麗日に瀬呂、峰田は今回相当忙しい。瓦礫の固定や除去で大いに活躍出来る。麗日は瓦礫を軽くして除去に出来る事がとにかく多い。瀬呂と峰田は崩落の危険のある瓦礫を補強や固定して、安全性の確保を」

「うん、うち頑張るよ!!」

「おうよっ!!瀬呂くんの力見せてやるぜ!!」

「お、おいらだってやってやるぜ!!此処まで来たんだ、仮免とって相澤先生にドヤ顔で見せ付けてやる!!」

 

レスキューにおいて重要なのは様々な物があるが、瓦礫などの除去や固定して安全性の確保は非常に重要となってくる。そこでこの3人の個性は大いに活用出来るし、相当活躍出来る。三人はかなり走り回って貰う事になるがそれは勘弁してもらおう。

 

「切島、上鳴、常闇、芦戸、青山、鉄は麗日達の補佐をしながら主に救助を担当。個性で自分の身体をガードしながら、救助者をレスキューする事を前提にした方がいい。いざって時は瓦礫を壊す必要もあるからな」

「おっしゃ男らしく決めるぜ!!」

「任せてとけよ!!」

「承知した。深淵の闇にて希望の光へと導こう」

「まっかせてよ!!瓦礫程度溶かすの簡単だから!!」

「OK、煌びやかにやるよ♪」

「承知しました。鉄巨人として存分に動きましょう」

 

三人を補佐するのがこの六人、瓦礫の除去にはどうしても人数が必要となってくる。最初からそれらを決めておけば出来る事も大きく広がってくる。

 

「剣崎、俺は如何するべきだ」

「そうだな、障子は耳郎と口田は周囲の状況確認と負傷者を探しながら詳しい情報を得る索敵役を頼む。このフィールドだ、情報はあればあるだけ有難い。尾白と葉隠も手伝ってあげてくれ」

『了解!!』

 

改めて考えてみると皆の個性は本当に活用の幅が広い、救う幅が凄まじく広くて多くの人達に手を伸ばす事が出来る。素晴らしい事だと思っていると爆豪が此方を睨み付けていることに気付いた、そうだまだ彼が居た……。

 

「爆豪、ある意味重要な役目頼んでいいか?」

「んだよそれは」

「設定でヴィランがテロでこんな風にフィールドになったって言ってたろ?それだったら―――ヴィラン役が出て来たとしても可笑しくは無いだろ」

「……つまり、俺はそいつをぶっ飛ばせばいいって事か」

「そう、基本は排除した瓦礫を爆破で無くして麗日の負担を減らす。そして時が来たら、ヴィラン相手に存分に暴れてくれ。お前の機動力ならその位楽勝だろ?」

「たりめぇだ舐めんなっ!!」

 

そう言いながらも爆豪は対ヴィランに自分が抜擢された事に何処か喜んでいる節があった。爆豪は性格的にも誰かを救うというのには向いていない、被災者に対しては自分で何とかしろと叫び散らしそうだし、彼には救助ではなく其処から一歩引いてもらってヴィランに備えて貰う方が適切という物だろう。

 

「け、剣崎君……なんかかっちゃんの扱いが上手いね……」

「ああ言うのは下手に何かをやらせるよりは自分の得意な分野に近い所で専念してもらって、時が来たら存分に動いて貰うのが一番なのさ」

「成程ね。それで初ちゃん、アタシ達は如何するのぉん?」

「俺達は総合的に判断しつつ、各所のフォローアップや救助に治療に怪我人を運ぶ役目を受け持つ。俺達は特に機動力や汎用性に長けてる、それが一番だ」

 

それに納得の言葉が向けられそうになった時、けたたましいベルの音が鳴り響いた。それは試験の開始を告げる物。

 

『ヴィランによる大規模破壊のテロが発生!!規模は〇〇市全域、建物倒壊により傷病者多数。道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ。到着するまでの救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮を執り行う、一人でも多くの命を救い出す事!!START!!!』

 

二次試験、救助演習、開始。



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二次試験、ヴィラン役にピッタリ。

一次試験のように展開されていく待機場、其処から飛び出していく受験生達は改めて先程まで自分達が駆け回っていたフィールドが瓦礫の山となっているこの状況に息を飲みながら全員が駆け出していく。そこで助けを待っている人達を救う為に。

 

「これがさっきまで私達が居たフィールドとはとても思えないわね……。凄い有様」

「瓦礫に注意しよう、落ちてくるのは僕達にとっても危険だ!」

 

集団で纏って動いている中で真っ直ぐと走りながら全方向に神経を集中させる剣崎、メット内の機能も最大限に使いながら周囲に潜んでいる人達を見落とさないようにする。そんな時に剣崎の聴覚に泣き叫ぶ子供の声が聞こえてくる。そちらへと向かってみると頭部からの出血をしている子供が祖父が潰されたとパニックを起こしていた。

 

「お爺ちゃんが、お爺ちゃんがぁぁっ……!!」

「もう大丈夫、安心してくれ。頭部の怪我の出血は止まってるがある程度深いな、落ち着いてな。よし、立てるか?」

 

すぐさま其処へと急行した剣崎は柔らかい声色で落ち着くように促しながら、怪我をして居る少年の細かい状態や呼吸数、出血の量やその怪我の今の状態などを確認。手早く素早い確認に加えて周囲の状況確認に祖父の事も手早く確認しながら同時に、障子達に確認を頼んだりするのを一瞬の内に判断して、子供が歩く事は可能だが足に打撲などを負っている事を確認して優しく抱き上げる。

 

「よし、京水ちゃんこの子を八百万が待機している救護所へと連れていってあげてくれ。もう大丈夫だ、俺達が来たからな!!」

「ええっ任せて頂戴!!送り届けたら通信機で連絡するわね!」

「う、うんっありがとうぅ……!!(……状況把握も一流、私の怪我の状態の確認も僅かな時間……仲間への指示も的確で無駄がない。超一流の粋に達している、雄英高校1-Aの剣崎 初……ポイント贈呈決定)」

 

京水が子供抱えて走っていくのを見送った皆は剣崎の無駄の無い指示や気迫に驚きながらも同時に大きな安心を感じられた。彼の指示ならば問題なく従って自分の行動を預ける事が出来る。

 

「皆、最後にこれを徹底してくれ。被災者は不安を抱えてる、一番なのはそれを取り除いてあげられる力強い言葉だ。オールマイトの「私が来たっ!!」みたいにな、だからそれを頭にいれて―――行くぞ!!」

『了解!』

 

 

「あ、足を瓦礫に潰されちゃってるんだ……早く、助けてくれっ……!!」

「大丈夫です、今私達が助けますからっ安心してください!!瀬呂君、峰田君この近くの瓦礫を固定して!!この辺りの瓦礫、下手に浮かせたら大変な事になるかもしれん!!」

「分かって今やるぜ!!峰田、細かい部分にもぎもぎ頼むぜ!!」

「おうよっ!!お茶の子さいさいだぜ!!」

「常闇、瀬呂と峰田が瓦礫を固定するまで黒影で補佐をしてやってくれ。黒影なら繊細の力加減で瓦礫を支えられる!!」

「承知、黒影―――命を救うぞ!!」

「アイヨ!!」

 

瓦礫が折り重なるような状況が多いこの場、確かに多くの人達を救うというのは大切だろうがもっと大切なのは自分に何が出来て、その場において何が必要なのかを客観的に判断して即座にそれを周りに伝達して適切な個性を持つ者を連れてこられるか。個人の能力ではなく判断力とコミュニケーション能力が問われているといっても過言ではない。

 

「剣崎、救助者を2名発見だ!!瓦礫が邪魔して助けられねぇらしい、ビル跡だ!!

「上鳴を直ぐに呼んで電気が流れてないかの確認、その後に鉄と芦戸、京水ちゃんで行ってくれ」

「了解だぜ!!おい上鳴聞こえるかっ直ぐに来てくれ!!」

「剣崎ちゃん、大変よ直ぐにこっちに!!」

「ああっ今行く!!」

 

受験生達はそれらを冷静に考えながら様々な事を考慮した上で動かなければならない、レスキューはハッキリ行って個性を使った戦闘などと同じく訓練の数などの経験が物を言う。他が2年ばかりの中で1年で受けている雄英は戦闘能力に関しては経験豊富だが、しかしレスキューに至っては経験不足と言うしかない。だがそれをフォローしていたのが仮面ライダーと言うライフワークの中で多くの人達を救っている剣崎であった。

 

「轟、こっちの人の為に氷を炎で溶かして水を用意してくれ!!」

「解った。直ぐに用意する」

「葉隠と尾白は轟と応急処置、その後は救護所へ運んであげてくれ」

「了解した!!」

「任せといて!!」

 

仮面ライダーとして、日常的に人を救い続けてきている剣崎は2年や3年とは比較にならない程にレスキューの経験が蓄積されている。しかもそれは訓練ではなく実際に起きている災害や事故現場が大半で、命の危険に遭っている人々を相手に行っているので錬度も非常に高くなっている。

 

「飯田に出久、鉄達がもう直ぐ二人を連れてビルから出てくる。その二人を連れて救護所へっ!!」

「解った!!行こう緑谷君!!」

「うん!!」

『おいウェイ野郎!!6時に腕と足を折った奴が居るぞ!!』

「ああっ解った!!なんだよ爆豪、お前結構協力的じゃねぇか!!」

『るっせぇ!!仮免に受かる為だクソがぁ!!』

「梅雨ちゃん、一緒に来てくれ!」

「了解よ」

 

上空では瓦礫などを爆破で一掃しながら道などを作っている爆豪が高い視点を活かして、怪我人を見つけて剣崎に伝えるという事を率先してやっている。本人曰く、瓦礫を片付けるだけじゃあ退屈でヴィランが来るまでの間位はこの位やってやる、俺に出来る事だからやっているだけ。それを聞いて仮面ライダーとしての言葉が相当響いていることに笑いがこみ上げてくる剣崎であった。

 

「ご無事ですか、もう大丈夫です!!」

「あ、足を……」

「いけないわ、こっちの人は出血が酷すぎて意識が薄くなってるわ!」

「解った。八百万、これから怪我人を新たに二人連れて行く。一人は意識が薄くなってる、医薬品はまだ余裕あるか!?」

『大丈夫ですわ、他校の皆さんも協力してくださってるのでまだまだ余裕があります!何時でも来て下さい!』

「よし、梅雨ちゃん俺がそっちを運ぶよ。君はこっちの人を」

「解ったわ」

 

的確な判断と優先すべき事や通信機による報連相、それらを徹底しながら剣崎と梅雨ちゃんは怪我人を救護所へと連れて行った時―――凄まじい爆発音と共に黒い影のような存在が現れた。

 

『ヴィランが現れ追撃を開始、現場のヒーロー候補生達はヴィランを制圧しつつ救助を続行してください』

「さあ如何する、全てを平行して出来るか……戦うか守るか、助けるか逃げるか、どうするヒーロー……!!」

 

試験場の壁を爆破するようにして現れたのは巨大な鯱のような姿をしながら凶暴そうな見た目をしている男、それはプロヒーローでありヒーローランキング10位にランクインするほどの実力を誇る超一流のヒーローであるギャングオルカ。見た目こそヴィランのような恐ろしい見た目をしているが、それを覆すほどの活躍と実力、そして気質を持ち合わせており、剣崎が尊敬するヒーローの一人。まあ確かにヴィランとしてはピッタリすぎる配役だ……。

 

「ならっ―――全部を平行してやればいい。おい聞こえるか、相手はヒーローランキング10位のギャングオルカ、相当強いけどお前なら十分立ち回れるはずだ。後から他にも行かせるけどなんならお前が倒しちまえ―――爆豪!!!」

「―――っしゃああああああ!!!!行くぞ、シャチ野郎ォォォオオオオオオ!!!!!」

 

解き放たれた爆豪は、喜々として空中を爆発で舞いながら手下と思われる黒タイツの部下ヴィランを率いるギャングオルカへと向かっていく。そして手下ヴィランを救助を行っているヒーロー達から遠ざけるかの如く、落下と共に一気に回転しながら大爆発を引き起こしてヴィランらを牽制すると共に爆風で吹き飛ばしていく。

 

「ほぅ……攻撃と救助ヒーロー達への防御を兼ねた一手か……悪くない、悪くないぞヒーロー」

「思う存分、暴れてやるぜぇぇぇぇぇっっ!!!!!」




かっちゃん大喜び。


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試験、ギャングオルカ。

「皆さん慌てずに!!僕達が皆さんを守る盾となり矛となります!!」

「動けない方は気軽に申し出てください!!僕達が運びましょう!!」

 

救護所となっていたスタート位置、そこではヴィラン来襲に合わせて其処に居た人達を避難させる為の作業が急ピッチで行われていた。元々被害が少なく多くの人達が避難しても問題がない水場ゾーンへと人々を誘導していく、その中でも出久や飯田といった機動力に優れる者が中心となって多くの人達を誘導と搬送していく。

 

「轟、そっちはどうだ!?」

『ああっ水場の一部を凍らせてスペースも作ってそこに他の受験生が個性で床を作った。これでかなり多くの対応が出来る筈だ』

「それじゃあ爆豪の援護に向かえるか、幾ら爆豪でもギャングオルカをずっと塞き止められる訳じゃない。ギャングオルカは陸上だと問題なのは機動力ぐらいで相当強い!!」

『分かった、遠距離からの援護中心で行く』

「ああっ頼む!!よし、他のメンバーは引き続き救助を続けてくれ!!但し常に集団で動きつつ連絡を取り合ってだ!!爆豪が牽制してるとはいえ、抜ける奴がいないとは限らない!!」

 

通信機で指示を飛ばし続けながらもレーダーに表示されている爆豪近辺にある反応に目を光らせながら、救助作業をし続ける剣崎。今現在は爆豪が真っ先に大爆発による牽制を行ったお陰でヴィランの目がそちらに向いている且つ、大爆発を連発しているからか対処に追われているからか抜けているヴィランの様子はない。だとしても相手はあのギャングオルカ、何時爆豪を突破してきても可笑しくは無い。

 

「剣崎、こっちにはもう人居ないよ!!ウチと障子、後口田が念入りに3回ぐらい確認したから間違いない!!」

「分かった、それなら人を探しながら新しい救護所に向かって手当ての手伝いと周囲警戒を頼む!!」

「了解!!障子、口田行くよ!」

 

耳郎からの報告を受けながら他のメンバーにも連絡を飛ばして確認を行いながら、剣崎は走っていく。五感を最大限に尖らせながら人が残って居ないかを確認しながらヴィランとの戦闘場所へと急ぐ。索敵班の仕事は非常に正確だったお陰か誰も居ないことを確認しながら、爆豪が戦闘を行っている場に辿り着くとそこでは接近戦を行いながら爆破の熱と風圧で牽制を行う爆豪と氷と炎で遠距離攻撃に徹している轟、そしてイナサが上空から旋風を巻き起こして攻撃を行っている光景が見えてきた。

 

「爆豪、轟聞こえるか。避難は終わったぞっ!!後はヴィランを如何に避難場へと近づけないように倒すかだ!!」

『てめぇはそこで雑魚が抜けねぇか見てやがれ!!こいつは俺がぶっ潰す!!』

『分かった、俺もこのまま中遠距離で徹する』

「だけどギャングオルカを甘く見るなよ!!相手はヒーローランキング10位だ!!」

 

剣崎がギャングオルカを警戒するのは彼の個性に関係していた。海のギャングとも恐れられるシャチ、人食いザメとしても有名なホオジロザメよりも遥かに巨大である上に遊泳速度も上回り、一撃でホオジロザメ仕留めたという話が鯨すら狩の対象にする。加えて超音波を放ち獲物を麻痺させて捕食する事まで出来るハイスペックを誇る海の生態系の頂点とも言うべき存在、そんな力を存分に振るうギャングオルカ。

 

「ムゥウウンッッ!!!!」

「クソがッ!!!」

 

大きく踏み込みながらの振るわれる腕の一閃、それを咄嗟に回避する爆豪だが視界の端で映り込んだ光景に息を飲んだ。腕を振るった際の衝撃波が瓦礫の山を粉砕する光景、幾ら脆くなっている瓦礫とはいえ風圧だけであんな事になるパワー、まともに喰らったノックアウトされるのは確実。悪態をつきながらも更に注意を払いながら爆破による動きの封殺を狙っていく。

 

「爆破解体ッッッ!!!」

「はぁぁっ!!!」

 

巨大な地響きすら相殺するような爆破と衝撃の山のような攻撃、それを真正面から受けてたったギャングオルカは頭部から凄まじい超音波を放ってそれらを完全に相殺してみせる。爆豪は思わず後ろに飛び退く、その直後に轟の氷の波状攻撃が襲来するが氷の塊すら超音波で粉々に粉砕するギャングオルカの超音波に思わず身震いしてしまう。

 

「クソが如何いう超音波だっ……!!」

「くそっやっぱり足止めが精一杯かっ!!いや、足止め出来るならそれはそれでいい!!」

 

ギャングオルカが放つ超音波には並の攻撃では足止めにしかならない、だが足止めにはなるという情報を得られた轟は兎に角氷を放ち続けていく。動きを止められる事自体が大きなメリットになる、頭から放つ超音波、身体の向きを一定方向に固定出来るのは大きなメリットとなりうる。轟はそのままギャングオルカを細くし続けていると真上にいるイナサへと叫んだ。

 

「おい、今だ、思いっきりやってやれっ!!!」

「―――っ……了解っス!!!それならこれならどうッスか!!!」

 

その言葉の直後に爆発的な風が巻き起こるとギャングオルカを包み込むかのような巨大な竜巻が出現していく。凄まじい竜巻で拘束しながらもそこへ轟が炎を放っていく、竜巻に巻き込まれていく炎は忽ち巨大な火柱のような竜巻となってギャングオルカへを襲う。

 

「これでも食らいやがれぇぇぇッッ!!」

 

そこへ爆豪が瓦礫を爆破してその破片を投入していく。灼熱の竜巻に鋭利な破片が混ざり、ギャングオルカの身体を熱しながら傷つけていく。シャチという海の生き物の個性であるが故に炎熱攻撃による強い乾燥状態に弱く思わず膝を突くが、ギャングオルカは若いヒーロー候補生達の協力プレーに笑みを浮かべる。

 

「だが、まだ甘いッッッッ!!!!」

 

爛々と瞳を輝かせながら天を仰ぎ見たギャングオルカは最大出力で超音波を放つ、それが巻き起こす衝撃波内部から炎の竜巻を完全に打ち消してしまうという離れ業を成し遂げてしまう。酷い熱が身体に篭っているがそれでもギャングオルカは全く折れない、寧ろ更に強い闘気を纏いながら周囲へと威圧をしながら立ち上がる。

 

「さあっ如何するヒーロー……!!!」

「―――ウェイ野郎、さっさと叩き込みやがれぇっ!!!」

 

竜巻が消えてしまった後、爆豪はニヤリと笑いながら叫んだ。それに呼応するかのように土煙を巻き上げながらもう突進していく一つの影があった。それは全力で疾走する剣崎、例え竜巻が消されたとしてもあれだけの竜巻を消すのだからかなりの力を要する、それならば相応の隙を晒すに違いないと爆豪はそれを剣崎に伝えていた。その意思を汲み取った剣崎は猛スピードでギャングオルカへと向かっていく。そして―――

 

「ウェェエエエエエエエエエエエイイイイッッッッ!!!!」

 

その勢いままで鋭い飛び蹴り、マイティキックをギャングオルカへと叩き込んだ。それを受けたギャングオルカは竜巻の影響もあってか防御するのが精一杯なのか、マイティキックを受けて大きく吹き飛ばされながら瓦礫の山へと突っ込んでいく。

 

「どうだ少しは利いたかっ!!!」

 

着地した剣崎は思わずそんな事を叫びながらギャングオルカが突っ込んだ瓦礫へと意識を集中する。すると剣崎の思った通り、瓦礫の中から未だ健在の姿のまま再度姿を現すギャングオルカ。身体に持っていたペットボトルから水を掛けながらも此方への敵意を一切緩めていない。

 

「ウェイ野郎もっと強くやれや!!」

「あれでもかなり強く打ち込んだだぞ!?あれはあれで普通にしてられるギャングオルカがやべぇんだよ!!」

「兎に角、まだまだやれるみたいだな」

「上等っスよとことんやってやるっス!!」

 

再度全員が構えを取ろうとした時の事、目良からのアナウンスがフィールド全体へと通達されていく。

 

『只今をもちまして、配置された全てのHUCが救出されました。それにより、これにて仮免試験全工程終了となります』

 

他の場所にて残っていた要救助者が救助された、それが告げるのは試験終了の知らせ。それを聞くとギャングオルカも戦闘態勢を解いて改めて水を飲みながら笑う。

 

「今年は中々粒揃いだな、楽しみにさせて貰うぞひよっ子」




個人的にギャングオルカは大好き。なんか、ああいう系のキャラって凄い好き。


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仮免試験、点数。

ヒーロー仮免許取得試験、その全工程が終了しいよいよ合格発表が成されようとしていた。やれる事だけはやった、後は天に運を任せるのみと思っているが皆緊張した面持ちで発表のときを待っていた。そして巨大モニター前に目良が立っていよいよ合格発表者が公表されようとしていた。

 

『え~それではこれより、合格発表者を発表したいと思います。モニターに50音順にて名前が表示されますのでどうぞご確認ください』

 

遂に表示されたモニターに映り込む合格者の名前、それらに皆が食い入るように自らの名前を探していく。剣崎もそれらに目を向けて50音順で探そうとするが真っ先に梅雨ちゃんの名前を見つけて思わずホッとするのであった。表示それさえ確認できたのであればもういいような気もするのだが、自分の名前を探し始める。一つずつ確認して行き、遂にカ行へと差し掛かった。

 

「剣崎―――っあった……!!」

 

カ行の辺りを探していく、そして見つけた「剣崎 初」の名前。剣崎は見事仮免取得試験に合格した事がしめされていた。それを見て矢張り心のどこかで不安だったのかホッとしつつも嬉しさが出て来たのか、息を吐いてしまった。まあ仮免に落ちたとしても仮面ライダーとして活動はするつもりなので、余り気にしないつもりでは居たのだが……合格したと分かると嬉しくなってくる。

 

「剣崎君やったよ僕受かってた!!」

「おうやったなっ!俺もだ」

「俺も受かってたぜぇ!!」

 

次々と上がってくるA組から上がっていく喜びの声が合格者の多さを如実に現している、これも林間合宿と必殺技の特訓でアレだけ苦労したお陰だろう。そして剣崎は少々心配な爆豪へと顔を向けてみると如何やらまだ探しているようである、そして―――爆豪は口角を持ちあげながら大きく笑いを上げた。

 

「シャアアアッッ!!!」

「爆豪、受かってた!?」

「ああ、合ったぜ!!当然だけどな!!」

「轟お前は!?」

「待てまだだ、常闇の近く……あった」

 

爆豪と轟も如何やら確りとあったようで剣崎は思わず胸を撫で下ろした、という事は―――A組は全員仮免取得成功という事になる。全員が大声を上げて大喜びする中で目良がプリントを配布すると知らせを出す、其処には今回の試験の採点の方式と個人個人の点数が書かれているので確りと目を通して欲しいと言われる。合格のボーダーラインは50点、減点方式となっているらしい。

 

「出久、お前どうだった?」

「僕は78点だったよ。行動自体は問題ないけど、その前に足とか止めちゃったりとかで減点されてるみたい」

「俺は87点だったぞ剣崎君!!どうやらもう少し応用と動きの柔らかさを付けた方が良いらしい」

「其処は慣れだからな……これから積んでいけばいいさ。俺のも早くこないかな……」

 

とうずうずしている剣崎に出久と飯田は直ぐに来ると言って諭す。

 

「剣崎ちゃん、まだなの?」

「みたい、梅雨ちゃんは?」

「私は85点だったわ。如何やらちょっと慎重になりすぎて時間掛け過ぎちゃったのがまずかったみたいね」

「ふ~ん……やっぱり経験とかが大きく出てるな」

 

梅雨ちゃんもかなりの高得点、こうなると自分はどうなるのだろうか。今回の事で自分がこれからの活動における注意点なども確認出来るので出来れば早く知りたい、次々と配られていく皆のプリント。その中でも八百万が97点という超高得点を叩きだしているという事が耳郎の驚きの声で知らされて、早く自分のもこないかなと思っていると、爆豪の声が響く。

 

「あ"あ"ッ!!?56点だぁぁっっ!!?」

「えっと何々……荒々しい声と物言いで要救助者に対する威圧は大幅減点対象、そしてヴィランとの交戦中に一切周囲を考慮せずに大爆発を起こしすぎ、納得だわ」

「って勝手に見てんじゃねぇぞクソが!!!」

 

どうやらかなり低かったらしく爆豪は合格したのも関わらずご機嫌斜め、しかし減点される理由となったのは切島は盗み見て言った内容に凄まじく納得がいく。剣崎の指示とかが無かったら普通に不合格もありえた点数なのである。

 

「轟、お前は?」

「俺は89点。やっぱり個性を使っての救助の仕方が課題らしい、雑な部分で減点されてる。やっぱまだ炎の方が調整し切れてないな」

「お前でも89点なのに八百万が97点って……」

「あっ剣崎ちゃん来たわよ」

「剣崎君、どうぞ」

「あっ有難うございます」

 

剣崎が受け取るとA組の皆が次々と集まってくる、どうやら皆剣崎の点数が気になるらしい。

 

「おいおい、なんで皆こっち来るの!?」

「だって気になるもん!剣崎君の指示がなかったらあんなにスムーズに行かなかったもんね!!」

「だなっ最初の役割分担だってお前が言ってくれたんだぜ?」

「そうそう、最初に決めてくれたから心に余裕が出来たんだし」

「早く教えてよ剣崎の点数!!」

「まだ見てないってば……ええっと」

 

そして漸く見始めた剣崎、自分の点数は―――

 

「……100点満点ッ!?」

『すごっ!!?』

 

なんと八百万を完全に越えた満点であった、剣崎は素早い状況確認や要救助者の状態確認や適切な行動などが完璧に近いレベルで素早い上に周囲の指示や連絡が徹底されているなどで満点が与えられていた。その他の部分、点数以外での部分では役割分担などリーダーシップ的な部分も評価に値するなどというコメントが書かれている。

 

「やっぱり剣崎君凄いよ!!流石だね!!」

「アァン流石初ちゃんだワァアン!!私ってば84点だってのに!!」

「私は67点……うむぅぅっ精進しなくては……」

「いや、普通科からの途中編入でいきなり受かるって相当凄いからな鉄!!?」

 

「イナサ、そっちは?」

「オッス!!78点で見事合格っス!!!」

「良かったな」

「おうっス!それと轟、なんか、勝手に嫌な顔したりしてすいませんでしたっス!!轟の目、全然エンデヴァーと違ったっス!!!」

「いや、もう気にしてねぇよ。これから宜しく」

「おうっス!!!!」

 

こうして剣崎 初はヒーロー資格仮免許の取得に成功。また一歩、救いのヒーローとしての道を歩む事に成功するのであった。そしてそれは、また一歩、大きな戦いに近づく事を意味する。




剣崎が入る影響で大きく異なった世界になっております。


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取得と動き出していく。

「ほい、これが俺の連絡先だ。気軽にメールでも連絡でもしてくれて構わないから」

「おおっありがとうッス!!それじゃあ俺すぐにいかなきゃいけないんで!!それと轟、改めて色々すいませんでした!!」

「いやもういい。俺も悪かったしな」

「それでは失礼します!!」

 

試験場を出てすぐにイナサに連絡先を受け渡した剣崎、そしてその手にあるのは自らの顔写真が印刷されている仮免許。自らが、いや剣崎 初という一人の人間が救いのヒーローとしての道を歩み始めている証明になっていることに嬉しさを感じていた。自分自身の力で勝ち取った立場、それらが嬉しくてしょうがない。

 

「おい剣崎、お前マジですげぇよ満点とか!!」

「本当ですわっ!!やっぱり剣崎さんはすごいですわ!!」

「爆豪と比べたら雲泥の差だよな」

「んだとぉてめぇ!!!」

 

そう言って自分を称賛してくれる声に心地よさを感じながらも笑顔を浮かべる、100点という今回の救助演習の基準において完璧を指し示す数値をたたき出した剣崎は紛れもなくトップ中のトップだった。顔写真を撮る時に言われたのだが100点を取得したのは今回自分だけだったという話だった。

 

「いや、俺はまだ先を目指すよ」

「おいおい満点なのにか?」

「ああ。完璧というある種の限界よりももっと先へ―――Plus Ultraってやつさ」

 

自分が見えているのは遥か先、自分にとっての救いのヒーロー。それは人々の心に光をともし、その光を柱として、何かあった時に頼れるモノにする。言うなれば心の安寧の象徴、自分という存在がいることで誰かに安心感を与えたい。それこそ剣崎が目指すヒーロー、平和の象徴であるオールマイトとどこか似ている目標だが剣崎にとってオールマイトは救いの神も同然、憧れるのは必然ともいえる。

 

「救いのヒーローを目指してるんだよね剣崎君、まるでオールマイトみたいだ」

「ははっオールマイトか、いいなそれ。あの人は憧れだったけど、確かに目標にするのはピッタリなでかい壁だな。よ~し目指すはオールマイトだ!!」

「その意気その意気!!あっそうだ剣崎君、虎さんに仮免許取れたって見せに行こうよ!!」

「ああっそうだな」

「その場で整列ぅぅぅッッ!!!!」

「「サーイエッサー!!!」」

『最早芸レベルだ……』

 

やって来た虎による声に即座に反応する二人に対して、皆はたぶんこの先何があってもこんな反応するんだろうなと思うのであった。まあ林間合宿で身体の奥の奥にまで叩き込まれた虎の指導は生半可なことでは抜けないだろうから、恐らく虎がやってくる度にこんなやり取りが続いていくことなのは間違いない。

 

「まあ堅苦しい話はこのぐらいにしておくか……では改めて緑谷、剣崎、おめでとう。我は師として非常に嬉しい限りである、これから貴様らが歩んでいくヒーローへの道はこれからが本格化していく事だろう。言うなれば登山道の入り口に立ったに過ぎないということだ。だが、本格的な登山のためには様々な準備や体作りなどが必要不可欠だ、その為の努力を忘れるな」

「「はい!!」」

「うむ、それではこれをくれてやろう」

 

そういうと虎は二人の胸元にバッチのようなものをつけてやった。それは「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ」のエンブレムのようなものが彫り込まれている物だった。それを見た出久は興奮したかのように声を上げる。

 

「ここここここっこれって「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ」のエンブレムバッチじゃないですか!!?」

「うむっそうだ。それは我々プッシーキャッツの仲間らの共有している仲間の証という意味もある。つまり、貴様らもプッシーキャッツの一員でもある、という意味合いがある」

「そ、そんなの貰って、いいんですか……!?」

 

剣崎が問うと虎は笑いながらこう言った。

 

「貴様らには受け取る資格がある、これは同時に我々からの指名とも置き換える事が出来る」

「えっそれって!!?」

「卒業後の進路に組み込んで貰っても構わんからな」

 

つまり、剣崎と出久の二人はプッシーキャッツからの指名を確約されたといっても過言ではない贈り物。1年の時点でヒーロー事務所からの指名を受ける、かなり異常なことともいえるだろう。

 

「と言っても強制はせん、これから正に様々な体験をするだろう。貴様らが歩みたいように歩むがいい」

「「はいっ!!!」」

 

虎からの言葉を重く受け止めた二人、その顔に宿っているのは決意と覚悟。これから自分たちが歩んでいく世界に踏み出す勇気とそのために心構え、それらを改めて確認すると前に進んでいくことに決めるのであった。

 

「っとそうであった。剣崎、お前の連絡先貰えるか」

「構いませんけど……」

「ピクシーボブから聞いてこいと煩く言われてな……この後も飲み会なのだが、どうせなら一緒に来るか?」

「い、いえ俺は遠慮させていただきます……これどうぞ、ピクシーボブにもよろしくお伝えください」

「うむ、ではな。これからも精進を忘れるな」

 

この日の夜、ピクシーボブから早速メールなどが飛んできて、梅雨ちゃんの視線に痛さを感じながら対応に困る剣崎であった。

 

 

 

「―――そうか、彼は仮免許を取得したか。ありがとう」

 

受話器を置きながら夜景を視界に映しながら笑みを浮かべて喜ばしい事だと笑うが、同時に上げられてきた報告書を見て顔つきを鋭くする。報告書には巨大な剣と盾を持った黄金の怪物が映り込んでいる。それを見て橘は思わず歯ぎしりをする。

 

「動き出すのか……カテゴリー、キング……」



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新学期、来訪。

「最近来れなくてごめんね。色々と忙しくてさ、中々時間を作れなかったんだ」

 

朝方、まだ靄が掛かっている時間に剣崎はある場所を訪れていた。早朝の走り込みの途中で仮面ライダーとしての活動を終えてきたその帰り、間も無く登下校が激しくなってくるであろう時間帯に入ろうとしている時に花を抱えながら其処を訪れていた。元々はよく訪れていた場所であったが雄英に入学するに当たって、学業と仮面ライダーとの両立の為に時間が取れなかった。しかし、こうして少し無理をして時間を作ったお陰で漸くやっと来れた事に嬉しさを感じている。

 

「俺さ、ヒーローの仮免許取ったよ。オールマイトに貰った夢、それに近づいてるよ。でもそれって色んな人を救ってきた二人に近づいてる事でもあるって思うと凄い嬉しいんだよな」

 

先日取得した仮免許の事を報告しながら、笑みを絶やさないようにして花を活けながら周囲の掃除をしていく。久々に来るだけあって相応に荒れてしまっている、やっぱり定期的にこないといけないなという事を際実感しながら丁寧に処理をしていく。余り時間も掛けられないのでテキパキと済ませていく。

 

「それとさ、俺雄英に入って本当に良かったって思ってる。友達もいっぱい出来たし、皆本当にいい人ばっかりだよ。中にはすげぇ荒々しい奴もいるけど」

 

綺麗にタオルで光が反射するほどに磨き終わると剣崎は一番重要な報告を始めた。

 

「それとさ、俺―――好きな人が出来てさ、その人と交際してるんだ。蛙吹 梅雨ちゃんって言うんだけどさ本当に優しくて可愛くて……俺にはもったいないような人だよ。彼女はずっと一緒に居てくれるって言ってくれたんだ、俺の帰る場所になってくれるって……心から嬉しかったよ……。だから俺は、頑張るよ。梅雨ちゃんが笑顔で居られるように俺も笑顔で居続ける。だからさ―――父さんと母さんも俺を見守っててくれるかな」

 

見つめる視線の先にあったのは朝日に照らされて輝く黒い墓石、其処に刻まれている名前は剣崎。ここは両親の墓、剣崎が複雑な思いを抱き続けてきた場所だが今の剣崎は何か違うのか何処か強い意思を秘めた表情を構え続けている。

 

「(此処には父さんと母さんは居ない……何もない)それじゃあそろそろ俺は行くよ……また来るよ。今度は梅雨ちゃんを紹介しに来るよ―――父さんに母さん」

 

そう言って立ち去ろうとする剣崎は片付けの準備を済ませて、雄英を目指して墓地を出ようとした時に背中を叩く押すような感覚を感じて思わず前に出てしまった。振り向くと其処には誰も居ない、気のせいなのか分からないが剣崎は笑顔を作りながら言った。

 

「いってきます」

 

―――いってらっしゃい。

 

雄英ヘと帰って来た剣崎は何時も以上に笑顔が眩しく、皆眩しそうにしていたそうな。

 

 

 

「私が来たぁっ!!久しぶり剣崎少年、元気か!!」

「はい元気ですよ、オールマイトの方も身体は大丈夫なんですか?オール・フォー・ワンとの戦いは相当激しかったって聞きました」

 

始業式後、剣崎は何やら重要な話があるという事なので応接室へと呼び出しを喰らっていた。一先ず、授業などは遅れるか出られないらしいので梅雨ちゃんにノートを頼んで応接室で待機していると久々にオールマイトがマッスルフォームでの挨拶をしてくるのであった。

 

「ああ大丈夫だ、正直君の治療を受けて身体はかなり万全な状態でなければ危うかったというのが本音さ。治療のお陰で私の身体はほぼ全快しているお陰で活動時間も大幅に伸びていた、それでなんとか勝ったと言うのが素直な所だよ。本当に感謝するよ剣崎少年」

「い、いえ俺こそオールマイトの役に立てて嬉しいですよ」

 

剣崎の持つラウズカード、それによって治療を施されているオールマイトの身体は殆ど全快に近い状態で肉体自体は8割程度は完全に治癒している。それもラウズカードの影響なのか内臓まで元に戻っていると言うのが驚きである、これも仮面ライダーとしての力の異常性なのか……と偶に思うが剣崎としてはオールマイトが元気で居てくれるのは嬉しい限りである。

 

「と言っても私の今の活動時間は3時間程度にまた縮まってしまったけど。まあ安い物と思っていた方がいいだろう、それに戦わなければ常時マッスルフォームでいる事も可能だからね!!」

「あっそうなんですか!?」

「うむっ!!実のところそれに気付いたのはつい最近でね、言うのすっかり忘れてた!正直すまなかった!!」

 

これも治療のお陰なのか、戦いさえしなければ活動時間を気にせずにマッスルフォームを維持する事が可能になった。これで心置きなく教師オールマイトとして授業を行えるとオールマイトも喜んでいる。

 

「それでその、俺を呼んだ理由って一体……?」

「うむ。実は橘君が君を呼び出して欲しいと訪ねて来てね、如何やら話があるらしいんだ」

「橘さんが……俺に、ですか」

「ああっ具体的な内容は把握していないが、重要な話がある様子だった。待っていてくれ今呼んで来よう」

 

そう言って席を立ってオールマイトは校長室で根津校長と話していた橘を応接室へと連れてくる。

 

「剣崎君、仮免の取得おめでとう。これでヒーローに一歩近づいたね」

「有難うございます、それと―――俺に何の話が」

「橘君、私は席を外したほうがいいかな?」

「いや出来れば貴方も聞いておいて下さいオールマイト、これから話す事は―――剣崎君のこれからの運命に大きく関わってくる」

 

その言葉に思わず二人は息を飲んだ。橘は懐からある写真を机の上へと置いた、複数枚あるその写真には何やら剣と盾を持った黄金の身体の怪物が映り込んでいる。それを観て剣崎が思わず言葉を失ってしまった、知っている。自分はこれと似たような物を知っている……嘗てショッピングモールと林間合宿で襲ってきたあの怪物らと似たいや、同じ存在。

 

「これは……なんだ、何処か虫の姿をしているようにも見えるが……ヴィランなのか?」

「そうでもあると言えますし、違うとも言える。剣崎君、こいつらと似た存在と君は戦い、そして封印しているはずだ。そして、その力を既に使っている」

「―――……あの姿……」

 

不意に思い出される林間合宿で使用した2枚のカードによって進化したブレイドの姿と圧倒的な力。しかしそれは橘から齎された物がなければなれなかった、即ち橘はあれらを把握している事になる。

 

「今の君には知る資格がある。今こそ言おう、あいつらの正体は―――アンデット。不死の生命体であり、地球上に存在している様々な命の祖と言える存在。そして―――私と君の父親が戦った相手だ」

「父さん、がっ―――!!?」



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語られていく真実と、父の事。

「アンデッド……?それはゾンビなどの類ではないのか?」

「不死の生命体であるから死なない、いや死なないから永遠の死を得ていると言う意味では同じになるでしょうが厳密には違う。ニュアンス的にはイモータル、そう言った方が正しいかもしれない」

「地球に存在している生命の祖って言ってましたけど……」

「そうだ、アンデッドとは今地球上で繁栄している生物達の祖とも言える存在だ」

 

橘の語る剣崎がこれまで二度戦ってきた怪物の正体、アンデッドについての事。あんな怪物が生物の祖、到底信じられない。オールマイトも驚きを隠せずに言葉を失っているが、次なる話を聞こうと橘に続きを促す。

 

「橘君、ではこのアンデッド達の目的とは何なのだ?何故そんな物が活動をする?」

「バトルファイト、それに勝利することがアンデッド達の目的」

「バトル、ファイト……?」

 

バトルファイト、それは1万年に一度行われる戦いで53種のアンデッドが覇権をかけて戦う。勝者は続く1万年間、地球の支配者となるという生命の繁栄を争う戦い。嘗てのバトルファイトでは人間の祖と言われているヒューマンアンデッドが勝者となった事で人類は地球の覇者、万物の霊長となった。 今人類がこの地球上にいるのもバトルファイトで人間の祖が勝利したからこそ。

 

「そのような事が……で、ではそのアンデッドが活動を開始したと言う事は再びバトルファイトが行われようとしているという事なのか!!?」

「その可能性は否定できない、いや―――既にバトルファイトは始まっていて続き続けている」

「つ、続いてる!!?」

 

そういうと橘は懐から写真を一枚出してそれをオールマイトと剣崎へと見せる。そこは嘗て剣崎が見せられたのと同じ物で自分の父親である剣崎 一真と橘が映っている写真。他にも少しだけ笑っている青年と元気な笑みを見せている男もいた。他にも多くの人が映っているが、剣崎には父の姿に釘付けになってしまう。

 

「この写真は……橘君?」

「其処に映っているのは過去の私、嘗て私はBOARDの職員として所属しながら封印されていたアンデットと戦う戦士として活動していた。君のお父さんもその一人だ」

「なんとっ!!?」

「と、父さんが!!?」

 

橘は一度険しい顔を作ってから覚悟を決めたかのようにして、口を開いた。

 

「元々バトルファイトに参加していたアンデッド達は過去の戦いで封印されていた。それが解かれてしまいアンデッド達を再び封印する為に戦う戦士―――それがBOARDによって開発されたライダーシステム、そして仮面ライダーの正体」

「で、では君も……仮面ライダーなのか……!?」

「ええっオールマイト。剣崎君には以前見せたよな、私は仮面ライダーギャレンとしてアンデットと戦っていた」

 

ギャレン。それが橘の仮面ライダーとしての名前、それだけではなく仮面ライダーはアンデットと戦う為の戦士であった事やBOARDによって開発された物であった事など一気に情報が出てきて剣崎は混乱していた。オールマイトも動揺を隠しきれずに、汗を流している。そして剣崎は自分のこの力、ブレイドとしての力も―――アンデットと戦う為の物。

 

「それじゃあブレイドも……」

「無論、アンデットと戦うための物だ」

「驚いたな……では仮面ライダーと言うのは人間の科学で生み出された存在という事なのか?」

「ええ。ライダーシステムにはカテゴリーAと言われているアンデットの力を利用していますが、科学で生み出されたという意味にもなるでしょうね」

 

仮面ライダーは全員4人いた。ブレイド、ギャレン、カリス、レンゲル、この4人の仮面ライダーは人々をアンデットの脅威から守る為にアンデットと日夜戦い続けていた。そして今BOARDにいるグレイブなどはライダーシステムを発展させて開発したアーマーと彼らが持っている個性を掛け合わせて完成したものだと言うらしい。

 

「あ、あの橘さん。仮面ライダーがアンデッドと戦う存在だってのも分かりました、それなら俺がアンデットと戦ってカードを投げたらそれに吸い込まれて言ってのも封印だってのも連鎖的に理解しました。でも、バトルファイトが続いてるってどういう事なんですか!?」

「そうだ、恐らく一番重要な部分だ。仮面ライダーと言うのもそのバトルファイトを終わらせる為に戦っていたのではないか?」

 

橘は思わず剣崎の頭の回転の速さなどに少し驚いたが直ぐに言葉を続けた、先程言ったまだ続いていると言うその意味を伝える為に。

 

「バトルファイトには特殊なアンデッドが一体参加している、それはジョーカーと言われている。こいつが勝利すると地球上の全ての生命がリセットされてしまう。だけど―――それを必死に食い止めて世界の平和を守った男が居る、それが先代ブレイド―――剣崎 一真だ」

「父さんがっ……!?」

「剣崎少年のお父さんが、世界を……!?」

 

知りもしなかった事実、父が世界の為に戦った事。そしてそのお陰で今の世界がある、そんな当然過ぎる事実に混乱するが橘は更に続ける。

 

「剣崎はジョーカーをも救おうとした」

「ジョーカーを……ってどういう事なんですか!?」

「ジョーカーは剣崎の親友であった男だったからだ、相川 始、彼をも救おうと剣崎は戦い続けている。そして今も世界があるという事は、剣崎は今も運命と戦い続けているんだ」

「それって、つまり―――」

「剣崎 一真は生きている」

 

その時、再び剣崎の中で止まっていた筈の時間が動き始めようとしていた。

 

「父さんが、生きてる……?」

「そう―――そして初君、君は同時に世界の運命を背負う者でもあるんだ」



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世界を救う、運命の切り札。

呆然の状態で応接室に座り続けていた。彼の精神状態はとても授業など受けられるようなものではなかったからだ。父親が生きているという衝撃の事実、世界は一度崩壊寸前まで突き進んでいた事、それを食い止め親友をも救った父の事、そして―――父が世界と親友、その二つを救うために下した決断の事も全てを聞いた。それを聞いた剣崎は、言葉を完全に失っていた。唐突に突き付けられた世界の真実とその裏側、父親の過去。それは今まであった剣崎の何かを壊すほどに途轍もない物だった。

 

―――父さん……生きてる、のなら、如何して……。

 

ジョーカーアンデッドである相川 始、それが最後のアンデッドとなってしまった。世界を救うにはジョーカーを封印するしか手立ては無い筈だった―――しかし剣崎 一真は自らジョーカーとなる事で最後のアンデッドというバトルファイトの優勝の条件をなかった事にした。それによって親友と世界を救った。だが、それによってお互いはもう二度と会うことがない運命を受け入れる事となった。

 

「なんと言う事を……剣崎少年のお父さんは其処までの事を……いや、しかし待ちたまえ。先程の話で剣崎少年のお父さんが今も世界の運命と戦い続けているからこそ今の世界が維持されている事は理解出来た、だがそれなら何故剣崎少年が世界の運命を背負うのだ!?」

 

オールマイトには理解出来なかった。彼にとって剣崎は可愛い教え子の一人であり自分の後継者を育てる事を手伝ってくれるよき理解者、そして同じように人々の笑顔を守る為に戦い続けるヒーローである。それでも剣崎はまだ幼い少年であるのにそんな彼がどうして大きすぎる物を背負わなければならないのかと、それならば自分が代わる事だって出来る筈だと、叫ぶが橘は静かに首を横に振った。

 

「それは無理です、世界の運命は剣崎くんが背負うしか道が無い」

「何故だっ!!!??」

「私もある程度ならばその重荷を軽くして上げる事は出来る、だが完全に重荷を無くす事は出来ない。彼が仮面ライダーである限り、いや……剣崎 一真の子供である以上」

「どういう事なんだ……」

 

再び橘は静かに語りだす。

 

「剣崎 一真は相川 始と同じくジョーカーアンデッドとなってしまっている、そんな彼の血を継いでいる彼はもう一人のジョーカーとして覚醒する可能性が非常に高い」

「なん、だって……!?」

「それだけじゃない、今活動を行っているアンデッドは彼でないと封印出来ないからです」

 

橘は血が出るほどに強く拳を握り込み、苦虫を噛み潰しながら再びギャレンとなってアンデッドと激突した事を語る。遭遇したアンデッドを負い込み、封印可能な状態にまでダメージを与える事に成功し封印を試みたのだが……最初こそ封印に成功したように思えたが封印を受け付けないようにカードから脱出してそのまま逃走を許してしまった。その後も封印を試みたのだが封印は尽く失敗に終わっていた。

 

「過去の戦いではこんな事は無かった。恐らく封印を解いた何者かが封印を阻害する力を与えている可能性が高い、だが彼はそんなアンデッドの封印に二度成功している」

「……ショッピングモール、そして林間合宿」

「そう、どちらも上級アンデッドにカテゴライズされる非常に強力なアンデッドをだ。今活動を行っているカテゴリーキングのアンデッドも彼でないと……封印は出来ないだろう」

 

アンデッドを無力化出来るのは剣崎しかない。不死の怪物達を如何にか出来るのは仮面ライダーブレイドである剣崎 初しかない、それを強調する橘にオールマイトは言葉を濁らせる。話を聞く限りでは確かに剣崎でないと対処が出来そうに無い。剣崎のバトルファイトへの参加に拒否権なんて与えられていないに等しい。

 

「今現在開放されているアンデッドは全て上級アンデッド、それらは全て封印するしかない」

「だ、だが橘君その上級アンデッドしか解放されていないと何故分かるんだ?」

「……そいつらのカード以外のカードが厳重に保管されているからです」

 

それを聞いた剣崎はふわふわとしていた意識が戻ってきたのか瞳に光が戻り顔を上げる。

 

「俺は、今までどおりに人を救い続けます。そこに怪物退治が加わっただけです……俺は気にしてませんよ、父さんも何かきっと訳があって顔を見せないだけですきっと……」

「剣崎少年っ……」

 

己にそう言い聞かせるかのようにしている剣崎の姿は酷く痛々しかった、果てしない悲しみと寂しさ、そして痛みに歯を食い縛って我慢して立ち向かおうとしている。今の現実を必死に飲み込んで、呆然としている暇なんてないと自分で理解しているのだろう、とても大人になれていない子供がするような覚悟の仕方にオールマイトは何も言えなくなっていた。そして、剣崎はある事を尋ねた。予測が付いていて、恐らくそうなんだろうと答えが自分の中で出来ているがそれでも聞く。

 

「橘さん、さっき貴方は上級アンデッド以外のカードが全てあるって言ってましたよね」

「ああっ確かにそういった、それに間違いは無い」

「……俺は様々な種類のラウズカードの力を使ってます。全てのカードが保管されているなら、如何して俺はその力を使えるんでしょうか……」

「……ジョーカーは、あらゆる力に成り得る存在。恐らく、それが関係しているんだろう……。それと個性の力が混ざり合い、ジョーカーの力が変質して全てのラウズカードの力を使えるようになっているのだろう……」

 

それはつまり―――剣崎 初という男は既に、ジョーカーとしての片鱗を芽生えさせているという事の裏づけでもあった。それを聞いた剣崎は顔を上げながら乾いた笑いを浮かべた。

 

「俺はもう世界を滅ぼす怪物(ジョーカーに近い存在)って事か……全てのアンデッドを封印する、それが今の俺がすべき事か……」

「剣崎少年……」

「剣崎君……」

「―――俺は、世界を救う切り札ってわけか……」

 

思わず窓の外をぼんやりと見つめる剣崎を、オールマイトと橘は何も言わずに見守る事しか出来なかった。明らかに穏やかでない彼を、今はそっとしておく事しか出来なかった……。



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直面する問題、選ぶ選択。

「―――……」

 

雄英の敷地内にある寮、そこの剣崎の部屋。橘からの話は終わったが到底授業など受けれる精神状態にならなかった剣崎はオールマイトに運ばれるように部屋へと戻って父から貰ったカメラを手入れしながらぼうっとしていた。橘から語られた世界の真実と父親の事、そして自分自身が背負っている余りにも巨大で過酷な運命を剣崎は受け止め切れずにいた―――怪物の力を持った世界を救う切り札、それが自分であると突きつけられて剣崎はそれを必死に受け入れようと許容しようとしても出来ずに混乱し続けていた。

 

「俺は救いのヒーローなんかじゃなくて、ただの怪物だったって事なのか……」

 

今までこれは仮面ライダーとしての力、誰かを助ける為の力で父の個性が自分の遺伝した結果程度にしか思っていなかったラウズカードによる力の強化や付与。それらは世界を崩壊させるジョーカーという怪物の力が変異した事で使用出来る力だった。

 

 

「(―――違う、大事なのはその力の使い方であって力その物じゃない。それならヒーローもヴィランも同じになってしまう……)」

 

 

そう自分へと言い聞かせていく。今の剣崎は自分が思っている以上に自分に呑まれそうになっている、必死にそう思わなければ忽ち自分がただの怪物に成り果ててしまうような気がしてならなかった。ヒーローもヴィランも元は同じ、其処からどうやって力を使うのかという分岐を経ているのだ。なら自分だってその怪物の力を人を救う為に使えばいいんだ、そうだそうすれば……。

 

―――この力を使い続けて行ったら、自分もそのジョーカーアンデッドという怪物へと完全に果ててしまうかもしまう。

 

「ッ……!!」

 

唐突に脳裏をよぎった最悪すぎる未来の光景に思わず剣崎は顔を蒼白にさせた。人々を救いたいと願う自分が人々を恐怖に陥れる世界を崩壊させる悪魔へとなる。誰かへと手を伸ばしたとしてもそれは拒絶され、己を平和を乱す怪物として処理しにやってくるヒーロー達の光景まで見えてしまった。

 

「俺は、俺は―――父さん、俺は如何したらいいんだ……教えてよ、父さん……」

 

許しを請うかのような縋るような声を出す、何処にいるかも分からない父に向けてそんな声を出してしまった。懐にあるバックルとエースのラウズカードを見つめながら剣崎はそれを投げ捨てたくなるような衝動に駆られてしまった、しかしそれではアンデッドを何とか出来る物がいなくなり世界が崩壊へと直走って行ってしまうかもしれないという事実がそれを食い止める。自分の事よりも世界の事を優先すべき、アンデッドで傷つく人を救う為ならば自分が戦う事なんて当たり前―――それなのに思わずそれを躊躇してしまいそうになる。

 

「世界を取るか、自分を取るかなんてどっちを取るかなんて考えるまでもない。世界に決まってる、そうに決まってる、それが、それが正しい筈―――なのに、どうしてこんなに今怖いんだよ……!!」

 

今まで、自分を犠牲にする事になって全くと言って良い程に違和感や恐怖などを覚えたりはしなかった。何かを救う為には何かを犠牲にするしかない、この世界は等価交換なのだから。ならばその為に自分を犠牲にする、それが仮面ライダーとして、救いのヒーローを目指してひた走る剣崎が選んだ道だった。

 

「―――梅雨ちゃん」

 

理由は分かり切っていた、自分の隣にいて帰る場所になってくれるといってくれた彼女の存在があったからだ。ずっと隣にいてくれるといってくれた彼女を危険に巻き込む事になる、アンデッドの戦いは恐らくもっと激しく壮絶な物になって行く。そこに梅雨ちゃんを危険に晒す事になるのではと剣崎は危惧する。そして何れ完全なジョーカーとなったとき、隣にいてくれる彼女を傷つけてしまうのではないかと……。

 

「……アンデッド、不死、だけど俺はまだ不死じゃない……だから―――」

 

―――自分が待っているから。自分の所に帰ってきて欲しい、自分の為にも帰ってきて欲しい。

 

「駄目だ、それだけは……」

 

不意に浮かんだ事さえも彼女の事を思うならば実行出来ない、彼女の笑顔を奪いたくない。彼女には何時までも笑顔のままでいて欲しい……。だがそれを自分の手で摘み取ってしまう恐れと彼女を傷つけてしまうかもしれないというおぞましい事実が襲い掛かってくる。思考が何度も何度も一周してしまった剣崎は、カメラを持ってそのまま寮から出た。そのまま雄英を出て何も考えないまま、歩き続けた。

 

「……」

 

如何したらいいのかも分からない、何も纏まらない思考をそのままにしながらカメラを首から下げたまま歩みを進めていく。その歩みが自分を何処に連れて行くのかも分からないが剣崎としてはそれでも構わないという考えが何処かにあったのかもしれない。

 

「此処、はっ……?」

 

気付くと剣崎は海浜公園の一角に佇んでいた。何も考えずに歩いていたが、そこは以前自分が梅雨ちゃんに両親の事を話した場所でもあった。そんな場所に来てしまった事に溜息を吐きだしていると、近くで何やら風景の撮影をしているサングラスを掛けた男が目に付いた。かなり手早くカメラのシャッターを切ったり、他のカメラを使ったりしている。

 

「よし、次は……」

 

そんな風に海浜公園の写真を取っている男は自分に気付いたのか、笑顔を向けてきた。そして首から掛けているカメラに気付いたのか歩み寄ってきた。

 

「それ君のカメラ?」

「えっあ、はい……父さんから貰った物です」

「ちょっと年代物だけど、本当にいいカメラだね。大切にしたら良いと思うよ」

「有難う、ございます……」

 

そんな風にいわれて、心のどこかで嬉しさを感じているのだが何も晴れない表情でいると男は自分の事を心配するように首を傾げながら此方を見つめてきた。

 

「何か悩み事でもあるのか、相談ぐらいなら乗るぞ」

「いえ、大した事じゃ……」

「大した事ならそんな暗い顔はしないだろ、良いから話してみろって」

 

やや強引に事情を聞こうとしてくる男に剣崎は如何しようかと困惑していると男は自分の事を言っていなかった事を謝りながらサングラスを外しながら名前を告げてきた。

 

「悩み事があるなら確りと話す事が大切なんだぞ―――初、そう教えただろ?」

「えっ―――?」

「本当に大きくなって、見違えちゃったよ」

「えっ、えっ……!!!??」

 

其処にいたのは、サングラスを外した男は―――

 

「父、さん……!!?」

「ただいま、初」

 

剣崎 初の父親、剣崎 一真。今まで行方知らずだった父親が目の前にいた。



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父と息子。

「本当に、大きくなったな初。昔はこんなに小さかったのに」

 

笑顔を浮かべたままで頭を撫でる父、剣崎 一真に初は呆気にとられていた。今まで会いたいと思っていても会えずに橘から話を聞くまで死んでいたと思っていた父が今目の前で自分に触れているという事実に驚きを感じずにはいられない。寧ろ今この瞬間が本当に現実なのかどうかさえ疑いたくなってくるほどに、今の状況を把握する事が出来ずに目を白黒させていた。

 

「そのカメラもずっと大切にしててくれたんだな……ありがとうな」

「父さん、なの……本当に……?」

「ああ。そうだよ、ごめんな遅くなっちゃって」

 

そう言いながら申し訳なさそうな顔をしながら優しく頭を撫でてくる父親に様々な感情が湧き上がってくる、今までの悲しみや寂しさや怖さなどが溢れ返って来る。それらを言葉にしようと必死になるがなんて言葉を作ったらいいのか全く分からない。

 

今まで自分を放っておいてどこに行っていたんだ、どうして生きている事を教えてもくれなかったんだ、どうして自分のそばにいてくれなかったんだ、今更になって自分の目の前に現れてどういうつもりなんだ、今更父親面が出来るなんて思っているのか。様々な言葉が喉元まで出掛かってるがそれ以上に溢れていたのは大粒の涙だった。

 

「おかえり、なさいっ父さん……」

 

―――必死に紡ぎだした言葉は今まで自分の事を一人していた父への恨みや怒りではなく、帰ってきた父に対してのお帰りという言葉だった。それを受けた一真は素直に嬉しくなりながら、自分も涙を流しながら深く深く見違えるほどに大きく成長した息子を強く強く抱きしめた。

 

「ごめん、ごめんな初……」

 

数年ぶりに再会した父と息子はただただ、お互いの存在を確かめるように、そこにある事に感謝するかのように涙を流しながら再会を喜び合った。

 

「―――そっかそれじゃあ初は今は雄英に通ってるのか。昔からヒーローになりたいって言ってたもんな」

「……ああそうだよ」

「そっかそっか」

 

再開した父と共にいったん家に帰り、ソファに座り込みながら近況を話す初、それを聞きながら嬉しそうな表情を作っている一真。漸く会う事が出来た息子は大きく成長しており、小さくて自分の後を付いてきた頃とは見違えるほどになっていた。そんな息子が辿って来た道のりを聞くのだが初の表情は何処かそっぽを向くかのように暗く、父と息子の対面とは思えなかった。

 

「それで仮免許も取っちゃうんだから流石俺の息子だな」

「……」

「あ、あの初……お願いだからこっち向いてくれない……?」

「……」

 

どうしてもこちらを向いてくれない息子に対して一真はオロオロしてながら言葉をかけるが、初は一向に表情を向けようとしなかった。一真からしたら愛する息子との久しぶりの対面だろうがその彼からしたら父との対面は素直に喜べる物ではなかった。彼からしたら生きているのにも関わらず連絡の一つも寄こさないで完全に死んでいたと思った父親が、知人によって生きていることを知らされた直後に帰ってきたのだから。様々な感情が渦巻いてしまって一真とは正直言って口も利きたくないのである。

 

「あの、今まで連絡の一つもしなかったのさその……色々訳があってさ」

「……ああっ橘さんから色々聞いたよ、アンデッドの事とかジョーカーの事とかな」

「橘、さんが……そっか、それじゃあ全部聞いたのか」

「ああっそうだよ、アンタが世界を救った事もな」

 

言葉を口にするたびに冷ややかになっている初に一真は大きな責任を感じてしまった、致し方ない理由があったとはいえ幼い息子を一人きりにしてしまった上に数年も放置してしまっていたのだから……ハッキリ言って父親としての責務を放棄しているに等しかった剣崎 一真に初の父親と名乗る資格は血縁程度位にしか無いのかもしれない。

 

「俺は―――橘さんから聞いた通りにもう普通の人間じゃない。ジョーカーだ、あの時……俺と母さんは海外にいる時にヴィランに襲撃されたんだ。狙いは恐らく俺の身体の事だろう、そしてお前の事が分かれば確実にお前にも危険が及ぶと思ったんだ、だから帰りたくても帰れなかったんだ」

 

あの時、初が父と母を失った時、一真は妻と共にヴィランの襲撃を受けた。それは今は投獄されている"オール・フォー・ワン″による物、その襲撃によって妻を失い、このまま帰国すれば息子を危険に晒すと考えてそのまま身を隠した。そしてそのまま"オール・フォー・ワン"が投獄された事を知って漸く日本に帰って来る事が出来た。それが顛末だった、それでも"オール・フォー・ワン"は初に狙いを定めていたので何とも言えない事になっていたが……。

 

「……父さんって死なないんだろ」

「えっああまあ……一応アンデッドになっちゃってるからな」

「それじゃあ……変身!!!

TURN UP

 

初は迷うことなくブレイドへと変身する、息子が嘗ての自分の姿に変身する光景に一瞬感動を覚えるのだが……非常に嫌な予感がする一真であった。主に不死であると聞かれた直後に変身したので。

 

「んじゃ―――今まで俺に心配かけた分含めて殴らせろ。死なないんだから大丈夫だろ?」

「えっちょっと待って初!!?れ、冷静になれ!!俺はお前をそんな暴力的に育てた覚えないよ!!?」

「奇遇だな、俺もアンタに育てられた覚えなんて途中からねぇよ」

「待って感動の再開の場面だよ!?ドゥーシテワガッテクレイナインダ(どうして分かってくれないんだ)!?」

「うん感動の場面だよ、でももう終わった事だ。次は―――アンタが俺に対して詫びをする場面だ、成長した息子の拳を味わって、俺の今までの苦しみを味わえクソ親父」

ウソダドンドコドーン(嘘だそんなこと)!!!」

 

BEAT(ビート) SCREW(スクリュー) RAPID(ラピッド)

 

「さあ、親父の罪を……数えろっ!!!」

「お願い待って初!!悪かった、お父さん本当に悪かった今まで本当にごめんなさい!!ダガダアヤッデルダドユルジデ(だから謝ってるんだよ許して)!!」

「うん許さない」

ウソダドンドコドーン(嘘だそんなこと)!!!」

 

その後、剣崎家の家にリビングには全身タコ殴りにされて湯気を上げている嘗て世界と親友を救った剣崎 一真の姿とそんな父を見てややスッキリしている剣崎 初の姿があるのだった。



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バトルファイト、統制者。

「……これで今まで俺を一人にしたことはチャラにしてやるよ」

「あ、ありがとう初……ぜ、全身ボロボロだけど」

 

父への制裁が一応終息した初はコーヒーを淹れてそれを楽しんでいる、一真は全身に受けた痛みを感じながらも息子に辛い目に合わせてしまったという事を深く受け止めてその痛みを甘んじて受け入れている。事実として今まで息子をずっと一人にしてきた事に変わりはないのだから。やはりまだ視線をそらし続ける初はコーヒーを飲みながらある事を聞いた。

 

「父さん、橘さんが言ってた。カテゴリーキングのアンデッドが復活してるって」

「……ああっ気配で分かる。何処にいるかまでは分からないけど確かにキングがいるってのは分かる」

 

顔を引き締めながらそういう父に初は真面目な顔を作る、やはり経験的に言えば先代ブレイドでもある一真の方が様々な事を知っているのだから当たり前だろうが。

 

「それでな初、実は俺と母さんが仕事で海外で行ってたのは理由があるんだ」

「理由……?」

「ああっ誰かを助けたかったのは本当だ。だけど俺は同時にあるものを探してたんだ」

「あるものって……なんだよ」

「―――統制者」

 

統制者、それは有史以前にアンデッドたちを生み出し、彼らが行う自身の種の繁栄を掛けたバトルファイトを管理するゲームマスターにして創造主。ジョーカーアンデッドたる相川 始を生み出した存在でもある。神に近い何かである統制者は最後に残ったアンデッドである二体のジョーカーアンデッドに戦いを常に促してきた、それでも二人は必死に運命に抗い続けた。バトルファイトの継続、そして訪れるであろう破滅と戦うという運命と戦っていた二人のジョーカー。しかしある時からその統制者が全く戦いを促さなくなったのであった。

 

「でもどうして探したりなんかしたんだ……だって、父さんとその相川さんを戦わせようとするようなやつなんでしょ?」

「確かにな。だけど統制者の正体は言うなれば地球上の生物の“他の種より優れた存在に進化したい”という強い欲望の思念が結合して誕生したバトルファイトというシステムを進行させ、発動させるためだけに存在する思念体なんだよ。それがバトルファイトを促さないなんて可笑しいにもほどがある」

 

不審に思った一真は世界各地を捜索していた、その途中で妻と出会って結婚、そして初が生まれたらしい。初が生まれた後も何も起こらないことに平和を感じてはいたが同時に不安と不信感が募っていった。そして海外での仕事ついでに統制者についての調査をし続けていたらしい、そして遂にある国でとうとう統制者を見つける事に成功した。

 

「俺が見つけた統制者と思われるモノリスだけだった、それが俺と始に戦いを促してきた統制者だっていうのは分かったけど……既に統制者は完全に崩壊していた。バトルファイトは、終わっていたんだ」

「終わってた……!?」

 

永遠に続くと思っていた運命はある時を境に姿を見せなくなった、そして一真が調査の末に見つけたそれは統制者のかけら。何者かによって統制者が倒された、そうとしか考えられないような状況がそこには広がっていた。現地の人間たちはそこを地獄と呼んで誰も近づかない事などを聞いて足を踏み入れた結果、統制者のかけらを見つける事に成功した。

 

「それじゃあバトルファイトってやつはどうなるのさ……」

「正直どうなるかは分からないけど、バトルファイトの進行をする統制者がいなくなった今は多分無くなるとは思う……どっちにしろアンデッドは封印する必要はあるだろうけどね」

 

そう言って自分でコーヒーを淹れる父を見て初は何処か肩の荷が下りたような気がしてならなかった、世界の命運が掛かっている使命が無くなったに等しいからかもしれない。口角を上げていると一真はまだ油断はできないと述べる。

 

「どうして統制者が崩壊したのか、誰がどうやったのかを俺はそれを調べようと思ってる。もしかしたら、統制者の力を全て奪った何者かがいるのかもしれないからな」

「……それじゃあ父さんはこれからどうするのさ。またどこかに行っちまうのか」

「いや暫くは橘さんの所に通いながら色々と調査するつもりだよ。それに―――」

 

一真はソファに腰かけている初の隣に座ると頭を抱くようにしながら初を抱き寄せる。

 

「今まで寂しい思いをさせてしまった息子の傍に居たいからさ……」

「……馬鹿」

 

初は顔を背けながら父を軽く罵倒する、今更何を言っているんだと言いたくなるのを抑えながら初は父の温もりに安らぎを覚えていた。

 

「そうだ、父さん俺言ってなかった事あった」

「んっ何々?」

「俺さ、その……」

「なんだよ言ってみてくれよ、驚いたりしないからさ」

「そ、その、俺……け、け、けっ―――結婚を前提に付き合ってる人がいるんだ!!!」

「―――……ええええええええっっっっ!!!!!!?????」

 

いきなりの息子の告白に一真は腰を抜かして床に倒れこんでしまった。顔赤くしながら必死に口にした初は驚かないといった父に何処か恥ずかしそうな視線を送りながらも返事を待っていた。

 

「おっおおおおお前何時の間に……!!?い、いや結婚を前提!!?ウソダドンドコドーン!!!」

「う、嘘じゃねぇよ!!本当にいるんだよ!!!」

「だっ駄目だ駄目だ早すぎる!!結婚を前提になんて駄目だ!お父さん許しません!!」

「今更父親面するなよ全然帰って来なかったくせに!!」

「それとこれとは話が別だ!!結婚っていうのはお互いがお互いの事を分かりあって真に理解をしたうえでだな……」

「うっさい!!!俺は梅雨ちゃんとずっと一緒にいるって決めてるんだ!!」

 

この後、凄まじい言い合いの親子喧嘩に発展するのだがどこか嬉しそうに喧嘩する親子の姿がそこにはあった。



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戦友、再会。

「やはり、言うべきではなかったかもしれなかった……」

「君がそこまで気に病むことはない。剣崎少年もきっとわかってくれるさ、それに今私達がすべき事は他にあるだろう」

 

橘とオールマイトは共に車で移動しながら先程の話の事で後悔を感じていた。致し方ないとはいえまだ幼く大人に守られる筈の存在である子供に世界の命運がかかっているという事を伝えてしまい、それによって大きなダメージを心に負わせてしまった。オールマイトが剣崎を部屋まで送り届けた後、橘も部屋に向かったのだが既に姿がなく雄英から出ている事を知った二人は剣崎を探しに彼の自宅まで移動していた。

 

「俺はきっと、彼に恨まれるだろうな……父親が生きている事を知っていたのにそれをずっと隠匿していたんだから」

「彼ならきっと分かってくれるさ。剣崎少年は聡明な子だ」

「そう言って貰えると有難いですよ、でも私は彼に殴られる事も覚悟してますよ」

 

子供にとっての父親は非常に重い存在、初の場合は特に父親を慕っていたし憧れとしてみていた面もある。そんな父は既に死んでいると割り切り、今まで様々な悲しみを押し殺してきたのにそれが無駄になったと分かったならばどれ程のものが湧き上がるだろうか……場合によってはボコボコにされるかもしれないが、そうなったとしても文句は言えない。そんな覚悟を携えながら剣崎の家近くの駐車場に車を止めると、その家の前へと立った。緊張が増していく中、インターフォンを押して中にいるかどうかを確認しようかと思った時であった。

 

『駄目だ駄目だ駄目駄目だ!!お父さんは絶対に許さない!!大体初はまだ子供だろうが、結婚を視野に入れるなんて早すぎる!!』

『うっせぇクソ親父!!俺が今までどんな思いで生きて来たのか知らねぇ癖に知った顔すんじゃねぇ!!!』

『ク、クソ!?初、お前なんて口を利くんだ!?』

『アンタにはそれで十分だ育児放棄クソ親父!!』

『ま、また言ったなぁ!!?』

 

と玄関前まで来たところで中から壮絶な怒声による喧嘩の声が飛び込んできた。ハッキリと聞こえて来る訳ではないが、取り敢えず初が中に居る事と誰かと喧嘩しているのは理解できた。しかし普段の初を知っているだけに思わずオールマイトと橘は顔を見合わせてしまった。

 

「け、剣崎少年……?」

「誰かと喧嘩、でもしているのか……?」

「「どうしよう……」」

 

思わず口を揃えながらどうするべきかと思ったが、ご近所へのご迷惑を配慮して喧嘩を止める事を決めた二人は迷った挙句インターフォンを押す事にした。これでこちらに反応してくれるといいのだが……と思っていると慌しい足音をさせながら玄関へと駆けてくる音と共に扉があけられ、そこからやや険しい顔つきの初が姿を現した。

 

「はいっすいませんけど今取り込み中で……ってた、橘さんにオー、じゃなくて八木さん!?」

「や、やあ剣崎少年。私と橘君が来たんだけど……な、なんか思ったより元気そうだね……?」

「君に話した事で落ち込んでいると思ってきたのだが……立ち直ったっと思っていいのかな?」

「あ~……いや立ち直ったというか……それ以上の出来事が起きて吹っ切れたというか……もうそれで起きた怒りでもうどうでもよくなったというか……」

「「それ、以上の事……?」」

 

自分が世界の命運を決める切り札であるという事実以上の出来事なんていったいどういう事なのだろうかと、思わず思っていた時の事である。初の背後からハンコやらを持ったもう一人の影が見えてきた。

 

「初、結局何だったの?宅配便なら今ハンコ持って、来た、けど……あっ」

「……剣崎、お前……」

「た、橘さん……えっと、その……あはははは……」

「えっ剣崎、えっ?剣崎少年のご親族?」

 

初の背後から姿を見せた一真の姿を見て橘は思わずポカンと口を開けて呆然としてしまった。一真は一瞬同じ様子だったがなんとか笑ってごまかそうとしている。そして唯一全く現状を理解出来ないオールマイトは一真の顔と初の顔を見比べて、確かによく似ているから親族の人なのかなと思っていた。

 

「あ~……えっと、八木さん。それ以上の出来事っていうのがその、お話を聞いたその後にこれと再会しまして……紹介しますね。長年俺を育児放棄してた親父の剣崎 一真です」

「は、初お前そんな紹介の仕方は!?」

「……はいぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!?」

 

 

「おい剣崎、俺は初君に殴られる覚悟できたのに何故、俺に連絡の一つもなしに日本に居るんだ。もう一度言うぞ、なんで居る」

「いやその……俺もいい加減、初に会いたかったというか……」

「初君、殴っていいぞ。俺が許可する」

「ちょっと待ってくださいよ橘さん!?俺もう十分すぎるぐらいに初に殴られてるんですけどぉ!?」

「自業自得だ」

「という訳なんです」

「な、成程……しかし凄まじいタイミングで再会したもんだね……」

「全くっすよ……」

 

取り敢えず橘とオールマイトに上がって貰って一真と会った際の経緯や一真がこれまでやってきたことについて説明した初。それを聞くと橘は大きなため息とともに自分の覚悟と申し訳なさが吹き飛んでしまった。オールマイトもオールマイトでそりゃ吹き飛ぶわ、と納得しつつも若干呆れてしまっていた。

 

「しかし、何故それで喧嘩を……普通こういう時って長年会えなかった親子の再会で感動的になると思うけど」

「それは思いますね」

「そうなんですよ聞いてくださいよ橘さん、初の奴まだ子供なのに結婚を前提に付き合ってる子が居るっていうんですよ!!?まだ早すぎですよね!!?」

「……まさかそれで喧嘩していたのか?」

 

若干引き気味に尋ねると力強く頷く一真にガックリと項垂れる。本当に自分が抱いていたのは何だったのだろうか。

 

「ああっ蛙吹少女の事か。しかし剣崎さん、私から見ても少年と彼女は本当に良い関係を築けていますよ」

「だとしても結婚を前提なんて許容出来ません!!だってまだ高校生ですよ!?」

「ま、まあ言いたい事はご理解出来ますが」

 

オールマイトとしては父親としての意見を言う一真の言葉も理解できるが、交際すると決めた場に居合わせた身としては二人を応援したいという気持ちも強いので何とも言えない。

 

「剣崎、初君はもう十分大人だろ。恋愛位好きにさせてやれ、というかお前に口を出す権利あるのか?」

「そうですよね橘さん!これに口を出す権利なんてないですよね!!」

「初、お前何時からそんな口が悪くなったんだよ!!」

「アンタが帰って来なかった間にだよ馬鹿親父!!」

「だぁあああだから口が悪すぎる!!これじゃあお母さんに顔向け出来ないじゃないか!!あと、お父さん認めないからな!!」

「喧しい!!顔向けできないのはあんたの自業自得だろうがぁ!!」

 

 

 

「う、う~ん落ち込むよりはいいだろうけどこれはこれで問題な気が……って橘君なんでそんな嬉しそうな顔を?」

「いえね……これも家族のあるべき形の一つかなっと思いまして」

ダディーヤザァンナズェミテルンディス(橘さん何故見てるんです)!!?」

「親父、何言ってんのか全然分からねぇ」

ウソダドンドコドーン(嘘だそんなこと)!!!」



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翌日から

「はぁっ……」

 

結局一日中、帰ってきた父と喧嘩をしていた初。些細なことで言い合いそこから盛大な口喧嘩、今思えばなんであんなことであそこまで喧嘩出来たなと思うレベルで喧嘩をした。今までしなかった分を一気に取り戻したといっても過言じゃないレベルで喧嘩をした。父が帰ってきてくれたのは確かに嬉しい、うれしい事はうれしいのだが素直に喜ぶことなんてできない。

 

帰って来れなかった理由などもしっかりと理解して致し方ないとも思う、だがそれだけで割り切れるほど初の中にあった感情は簡単ではなかった。両親がいなくなってからの年月、剣崎なりに必死に過ごしてきたそれが無駄になったような思いが苛立ちと怒りを生んで、それを父にぶつけてしまっている。余りにも子供っぽい行動に自分に辟易してしまいながら自宅を早々に出て雄英へとやって来ていた。

 

「剣崎君、昨日はその大丈夫だったの?」

「出久か……いや、いろいろ大丈夫じゃない」

 

教室へと辿り着いて席で頭を抱えるようにしていると早くやってきた皆が自分を囲むように話を聞いてくる、その中で出久が心配するように声をかけるが思わず大丈夫じゃないと言葉を返してしまった。その言葉に周囲は顔を見合わせて不安そうな顔を作る。

 

「剣崎さん何か問題でもありましたの?宜しければお話ししていただければお力になりますが……」

「そうだぜ俺たちが力になるぜ!!」

「あ~……有難いんだけどこれは何と言ったらいいのか……う~ん……言葉に困るな」

 

本当に言葉に困る。自分が世界を救う切り札であると知らされた後に今まで死んだと思っていた父親が生きているとわかり、その直後にその父と再会した。なんて事を一体どのようにすればオブラートにして伝えられるだろうか。

 

「なんだよクラス一のイケメンがそこまで困るとか超気になるぜ、メシウマさせてくれよ!」

「ゲスかよ峰田」

「お前それだからモテないんだよ」

「うるせぇぇええええ!!!オイラ何てどうあがいても剣崎にモテで勝てるわけねぇんだからこの位良いだろうがよぉ!!!」

 

不純な気持ちで理由を聞き出そうとする峰田だがそれにどこか触発されたのか、それともそんな愉快な姿に元気でも貰えたのか剣崎はどうにか言葉を作って話をする事にした。

 

「そうだな……強いて言うなら……」

「言うなら!!?」

「海外に仕事行ってて一切連絡寄こさなかった親父がいきなり帰ってきてから思いっきり喧嘩したって所かな」

「―――えっ……?」

 

剣崎の言葉に誰かの困惑に染まった声がした。それは剣崎の父親に対するものなのか、それとも剣崎らしくない荒々しい言葉遣いに対するものなのか、喧嘩などするようには見えないのに父親と喧嘩したということだからだろうか。いや違う……それは彼の両親の真実を知っているからだからである。聞いている話と今彼が話している話は明らかに食い違っている、だが彼がうそを言っているとも思えない……どういうことなのだろうか。

 

「そうか、テストの時の剣崎の家に上がった時に言っていたな。ご両親は海外にて命を救う素晴らしい活動をしていると」

「んでそのお父さんが帰ってきたのに喧嘩したのか?なんでまた」

「そりゃするさ。今まで連絡一つ寄こさなかった癖に今になって帰ってきていきなり俺が決めた進路にケチをつけるんだ、腹も立つってもんさ」

「だからってお前が喧嘩か……正直想像出来ねぇな」

 

轟の言葉に周囲の皆も素直に同意していた。剣崎のイメージといえば優しい笑顔の頼りになるクラスの優等生というものが強い。誰かの上に立っても冷静且つ迅速な指示と丁寧な状況確認能力が印象深い為、荒い言葉遣いやら喧嘩という言葉は全く似合わないというのが素直な印象。

 

「俺だって喧嘩ぐらいするさ。親父とは相当派手な殴り合いしたからなぁ……」

「おいおいそれ親父さん大丈夫なのかよ……お前、体育祭1位な上にあの虎さんの地獄の特訓を乗り越えてるんだろ?」

「大丈夫だよ、親父瀕死になってたけど30分もしてたらピンピンしてたから」

『瀕死にまで追い込んだのかよ!!?』

 

実際全身から煙を出しながら床に転がっていたが、暫くしたら復活していたのでまあ問題はないだろう。

 

「剣崎、俺が言えたことじゃないだろうけど言うぞ。お前、どういう親子関係してんだ」

「いやぁ……だって何年も連絡来なかったら怒るでしょ普通」

「だから瀕死になるまでやるのか……いや、俺も親父とそうなった時はその位やるべきなのか……?」

「やってもいいと思うよ。全部抱えてるもん吐き出せたし」

 

轟は剣崎に謎の感化を受けているのか、エンデヴァーとの殴り合いを想像しながらどうやって攻めていくべきなのかを考えだしてしまった。それに周囲がやめておけと止めるのであった。

 

「剣崎、放課後俺の個性で近接戦するときの訓練付き合って貰っていいか?」

「もちろんいいぞ。んじゃ先生に訓練場の使用許可取らねぇとな」

 

そんなやり取りをしていると梅雨ちゃんからの視線を受け、それに気づいた剣崎はちょっとトイレに行ってくると言って席を外していく。そして適当な場所で待っていると梅雨ちゃんがやってきた。彼女とともに仮眠室へと入ると彼女は何処か説明を欲しているかのような不安そうな瞳を作っていた。

 

「剣崎ちゃんあの……どういうことなの?だってあなたのお父さんは……」

「ああ。死んでる、俺もずっとそうだって思ってさ……思ってたのにマジでひょっこり帰ってきやがったんだよあの糞親父……」

 

困った表情を作る剣崎に梅雨ちゃんはそれが嘘ではなく真実であると悟る。

 

「でもどうして喧嘩なんてしちゃったの?何年も連絡がなかったのは本当だけど本当の理由じゃないんでしょ?」

「ああまあ……そのさ、親父に俺は梅雨ちゃんと結婚を前提に付き合ってるって言ったらそんなの認めないって言われちゃって……カッと来て……」

 

それを聞いて梅雨ちゃんは一瞬あっけにとられたが直ぐに笑みを作っていった。

 

「剣崎ちゃんってやっぱりどこか子供っぽいわねケロケロ♪」

「いやぁ……まいったなぁ」




次回、遂にBIG3登場……!?

初「え"っ何でここに……!!?」

そして、何かが起きる!?


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