強化人間物語 -Boosted Man Story- (雑草弁士)
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いきなり強化人間

この作品は、わたしのHPでかつて連載していた作品の焼き直しです。いえ、焼き直しといいますか、連載停止状態だったのですが、若干書き直して皆さんに恥を晒してみようかと思った次第でして。
そんなわけで、ガンダムと言うよりは『ギレンの野望』物です。続きを書くために、今必死で『アクシズの脅威V』を連邦軍モードでプレイしてます。いや、連邦軍いいですねー。
それでは私の黒歴史の練り直し、ご覧ください。


 その日、私はひどい悪夢を見た。『空』が落ちてくる夢だ。いや、正確には空から何か巨大な物が落ちてくる夢なのだが、その印象はまさに『空』そのものが落ちてくると言った物だった。

 

「……酷い夢だ。」

 

 寝ている間に掻いた汗を拭いつつ、そう呟く。何か声の調子がおかしい。私の声はこんな感じだっただろうか?頭痛がする。いや、単なる頭痛と言うよりは、蛇が頭の中を這いずり回っている様な感覚だ。……気持ちが悪い。

 ふと周囲を見回す。……何処だ、ここは?私の家の、私の部屋では無い。見た事の無い部屋……いや違う、『記憶』にある。ここは『俺』の部屋、『研究所』の『俺』に割り当てられた私室だ。……『俺』?『記憶』にある、だと?

 私は寝台から飛び起きると、部屋の片隅に設置されている洗面台に駆け寄った。そこの壁には鏡が取り付けられている。私は鏡を見た。

 

「な……!?」

 

 鏡の中には、『俺』の顔が写っていた。逆三角形の精悍な輪郭。キツい、と言うよりは悪いとでも言うべき目つき。緑がかった、やや前髪が長いぼさぼさの頭。

 私は思わず小さな声で歌い出す。

 

「緑ぃー、ポワポワポワーン♪川ぁー、サラサラサラー♪光ぅー、キラキラキラーン♪

 ……ま、間違い無い。このグリーンリバーライト声は……。ヒイロ・ユイ!?って違うだろ!」

 

 ゼロ・ムラサメだった。

 

 

 

 私はしばし呆然としていた。一寸寝て起きたら、ゼロ・ムラサメになっていたのだ。たしかに前の晩まで、プ○イス○ーション2をひさしぶりに引っ張り出して、『ギレンの野望・アクシズの脅威V』を2~3日ぶっ続けで、連邦軍モード「VERY EASY」でやっていたのだが、それにしても突然ゼロ・ムラサメは無いだろう。これは悪夢の続きだと思って、自分の頬をつねってみたのだが、やはり痛かった。どうやら夢では無いらしい。しかも蛇が頭の中を這い回る様な頭痛は続き、これが夢でも幻でも無いと私に言い聞かせるかの様だった。

 しばらく考え込んでいた私だったが、ようやくの事で現実を受け入れる気になった。どうやら私は、と言うより私の精神は時空を飛び越えて、ゼロに憑依したらしかった。そんな非科学的な、と思わないでもない。だが現実は現実、認めざるを得なかった。

 しかしよりにもよって、ゼロ・ムラサメか……。地球連邦軍初の強化人間。ジオンのコロニー落としによって全てを失った少年。ニュータイプ研究所に、その『コロニーを落とされた』と言う記憶以外の全てを奪われて、人工的にニュータイプ能力を強引に引き出されると共に、ジオン公国に対する強烈な憎悪を植えつけられた……。たしかに今こうやってジオンのコロニー落としなどの事を考えているだけで、ジオンに対する憎悪の感情が心の奥底から浮き上がってくる様だ。それと同時に、空が覆いかぶさってくる様な、空が落ちてくる様な恐怖感が常に感じられる。更に先程から延々と続く、蛇が頭の中でのたうち回るかの様な頭痛。それはとても辛い感覚だった。

 いくらなんでも、これは無いだろう。たしかに『以前』の人生で、私は働きもせずに親に迷惑をかけているだけだった。その罰だとでも言うのだろうか?だがそれは鬱病に罹患したためであり、ある意味不可抗力だ。このままゼロとしての人生を続けていけば、そのうちに私は戦場に出なくてはならなくなる。確かに私はロボット物のアニメとかゲームとかが好きだ。大好きだ。だが実際の殺し合いなんてとてもじゃないができるとは思えない。だからと言って、戦闘拒否もできない。ゼロの記憶――どうやら私はゼロ・ムラサメの記憶を自分の物の様に扱えるようだ――によれば、既に調整は昨日就寝前までに完了しており、あとは実戦に出るのを待つばかりとなっている様だ。だが戦闘拒否すれば、良くて再調整されて記憶をいじられてしまう。そうなっては私の精神自体がどうなってしまうかもわからない。そして悪ければ、『不良品』として『処分』されてしまうだろう。……どうしたら良いんだろう。

 ……とりあえず、朝食を摂ろう。

 

 

 

 意外なことに、食事は研究所の食堂で摂る事になっていた。てっきり自分の個室で、特別に調理された物を摂取するのではないかと疑っていたのだが。と言うか、ゼロの記憶――昔の物は消去されていて、研究所時代と『コロニー落とし』の事、あとは学校で教わるような基礎的な知識程度――によれば、当初はそうだったらしい。だが実際に戦場に出す『機材』であるプロト・ゼロに対し、良い意味でも悪い意味でも特別扱いはしてられない、と言う事なのだろう。前線では他の兵士達と同様に戦闘糧食になるのだろうし。あえて言えば、食後に飲むいくつかの錠剤を処方されているぐらいだ。それも追々減らしていく方針らしい。

 ともあれ、私は食堂にやってきた。あの独特の頭痛のおかげで気分的には食欲はあまり無いのだが、肉体的には腹が減っている。食堂では研究員達が朝食を摂っていた。私が食堂に入っていくと、そのうちの幾人かが顔を向けてくるが、それはまるで物を見る様な視線だ。実際彼等にとって、私……ゼロは物でしか無いのだろう。『実験動物』と言う名の。私は黙って列に並び、朝食を載せたトレーを受け取って空いた席に向かった。

 パンをかじりながら、私は壁に掛けられたTVに目を向ける。私は思わずパンを喉に引っかけて噎せた。

 

「れ……レビル将軍……?」

 

 そこにはレビル将軍が映っていた。ただし将官用の軍服では無い。パイロット用のノーマルスーツを着用し、カメラに向かって敬礼している。その背景に映っているのは、まぎれもない地球連邦軍が開発したMS、RX-78-1・プロトガンダムである。

 

『……レビル将軍はかの『ジオンに兵なし』と呼ばれたあの歴史に残る名演説の後、連邦軍のモビルスーツ開発計画を引っ張ってこられました!そして今、将軍の後ろにある愛機ガンダムと共に、陣頭に立って各地を回られ、ジオン軍を駆逐しているのです!我々も将軍に続き……』

 

 これまでのゼロは、ジオンへの憎悪とか訓練とか調整とかばかりに気を取られており、このような戦意高揚のニュース番組とかには興味を示さなかったようだ。そのため、私が得たゼロの記憶には、レビル将軍の『活躍』の事は特に無い。

 だがこれでこの世界が、『ギレンの野望』に準ずる世界である事がはっきりした。元々のサタ○ン版無印『ギレンの野望』なのか、ドリー○キャスト版『ジオンの系譜』なのか、はたまたプレ○ステ○ション2版『アクシズの脅威V』バージョンなのかはわからないが。いや、他の機種の版である可能性もある。ちなみに『ジオン独立戦争記』や『新ギレンの野望』はやっていないので、それ系の世界だったらアウトだ。それはともかく、元々のアニメ版機動戦士ガンダムでは、レビル将軍がモビルスーツに乗ったりするわけが無いのである。

 だがギレンの野望系世界観だとして、今どのぐらい地球連邦軍が盛り返しているのだろうか。だが調べている時間的余裕は無いな。食事が終わったら、あまり時間を置かずに訓練が始まるはずだ。訓練が終わったら、後で誰かに聞いてみようか。……ところで訓練って、たしか実戦形式だよな。私に出来るのか?

 

 

 

 訓練は、わざわざMS――連邦軍では非常に貴重――をもって行われた。機体はなんとRX-78-3・G-3ガンダムだ。実際に戦場に出る際にも、私はこれに乗って戦う事になるらしい。ゼロの記憶によれば、これまではシミュレータや、実機に乗る場合も初期型GMだった様だが。

 

「これが今日から貴様の機体だ。貴様ならこれを十二分に乗りこなす事ができるだろう。期待している。」

「……。」

 

 訓練教官を兼ねているゼロ開発担当の『博士』の言葉に、怪しまれないように無言で敬礼を行う。実はゼロはこの博士の名前を知らない。ちなみにムラサメ博士では無いらしい。もっとも、ムラサメ博士の部下ではあるようだが。……名札を見ればいいのか。ふむ、メレディス・マコーマック博士、か。やはりゼロの身体は視力が良い。『以前』の私は近眼だったからなあ……。

 しかし本当に私にこのG-3を期待通りに乗りこなす事ができるんだろうか。ゼロの身体能力や知識を持っていても、中身の精神は私……只の鬱病中年である。鬱病の症状は、ゼロになってからは出て来ていないけれども。……そんな私にこの機体を乗りこなせるか?もしも乗りこなせなかったら、再調整か処分が待っているのでは無いか?

 私は内心戦々恐々としながら、MSのコックピットへ向かった。

 

 

 

 結論から言えば、私の心配は取り越し苦労だった。私は――ゼロ自身としても――初めて乗るはずのG-3を、手足の如く操る事ができたのだ。鹵獲ザクや61式戦車他の旧式兵器を用いた標的機をペイント弾で黄色く塗り潰しながら、私はG-3で訓練場を駆け回った。心なしか、ゼロの記憶に残る過去のゼロ自身よりも上手く動けた様な気すらする。まあ過去のゼロが使っていたMSは初期型GMだったから、ゼロの能力に足枷がついていた様な物だろうけれど……。

 それだけではない。なんと言えばいいのか、『敵の気配』が『視える』のだ。文字通り。何か表現の仕様が無い感覚だが、G-3の装甲を通して標的機のパイロットの気配が感じられる、と言えばいいのだろうか。いや、無人の機体の気配すらも感じ取れるが、やはり人の乗った機体の方がはっきりと分かる気もする。そして気配がわかるだけじゃなく、はっきりとそれに反応する事ができるのだ。単純な条件反射ではなく、はっきりと自分の意志で対処ができる。これが強化人間ゼロ・ムラサメのニュータイプ能力……。こんな能力があれば無敵だ、とも思う。

 だが、私はいい気にはなれなかった。四六時中、常に何かに急きたてられているかの様な感覚がしていたのだ。敵を潰せ!ジオンを潰せ!さもなくば空が落ちる!と。そして同時に気分が非常に高揚する。おそらくはこれがゼロに施された洗脳の結果なのだろう。訓練でMSに搭乗し、精神を集中させている間は特にこの感覚が強くなる気がする。この状況は正直な話、辛い物がある。それとあの独特の頭痛。何時もはそれほど強いわけでは無いが、時折我慢できなくなるほど強くなる。そんな時は正直、元の世界に戻してくれ、と言いたくなる。いや、せめて元の身体に戻して欲しい。

 MSを降りると、称賛の言葉が待っていた。

 

「よくやったプロト・ゼロ、いやゼロ・ムラサメ。貴様の能力は目を見張る物がある。だがこれで満足していてはいけない。もっと上を目指さねばならん。

 午前の訓練はこれで終了だ。午後からは肉体鍛錬を主とした通常訓練となる。」

「はい……。」

「もうじきお前は実戦任務に就く。ニュータイプ研の名を辱めない様に努めるのだぞ。では自室へ戻れ。」

「は……。あ、マコーマック博士?」

 

 私は踵を返した博士を呼び止めた。彼は怪訝そうな顔で振り向く。

 

「なんだ?」

「今の戦況はどの様になっているのでしょうか?」

 

 博士は眉を顰めて見せる。

 

「何故そんな事を気にかける?」

「はっ。僕が送り込まれる戦線は、何処になるのかと思いまして。ジオンは徹底的に叩かねばなりません。徹底的に……。」

 

 博士は、私がやった『ゼロに施された洗脳』の演技に納得した様だった。だが実際私が『ジオンを叩かねば』と口にした時、自分の奥底からジオンに対する憎悪の様な物が、めらめらと燃え上がるのが感じられた。何か危ない……。『自分』をしっかりと保たねば。

 博士は私の疑問に答えてくれた。

 

「今現在、各地で戦線は盛り返している。北京や北米は言うに及ばず、先日オデッサも一大反攻作戦によって奪還された。これにより地球上のパワーバランスは一気に連邦側へと傾いた。

 お前が投入されるのは、キリマンジャロ奪還作戦の前哨戦からだな。アフリカ大陸が、お前のデビューとなる。これでいいか?」

「ありがとうございます。」

 

 博士は頷いて、今度こそ立ち去って行った。今日の訓練で取ったデータを、これから解析するのだろう。私は訓練場を立ち去り、自室へと戻った。

 

 

 

 自室で私は、一人考え込んでいた。幸いな事に今の所、例の頭痛は軽くなっている。考え事をするのに支障は無いレベルだ。

 さて、私自身について、戦闘能力的な物は問題ない事がわかった。私はゼロの能力を十二分に使える。肉体能力は勿論、ニュータイプとしての能力までも。だが私はニュータイプじゃあない。ニュータイプは『宇宙時代に相応しい、新しい考え方のできる存在』だと思っている。そしてニュータイプ能力とか言うのは、その考え方を補助するための力であり、その力を持っているからと言ってイコールニュータイプでは無いと思う。そう、所詮強化人間は強化人間、オールドタイプでしかないのだ。

 考えがそれた。問題は、どうやって私がこの世界で生き延びていくか、だ。強化人間である以上、兵器でしか、実験動物でしか無い。そんなのは御免だ、と思う。史実の……『ジオンの系譜』や『アクシズの脅威V』のゲーム上で、ゼロ・ムラサメも反乱を起こしている。

 ……そう、だな。反乱を起こして、自由の身になるしか無いのだろうか。だがそれまでは兵士として実直にやっていくしか無い……のだろう。人殺しになる覚悟は無い。けれど私が放りこまれた世界は戦場だ。そして私自身が『戦闘兵器』だ。殺さねばやっていけない。くそっ……。

 いや、一寸待て。反乱を起こすにしても、この世界のレビル将軍の選択次第では……そのタイミングもかなりしっかりと見計らわないといけない。たぶんこのまま連邦軍がジオン軍を倒して一年戦争は終わるのだろうが、その後のデラーズ紛争やティターンズの台頭とか色々と事件はある。私は無理矢理にティターンズに連れていかれるのだろうが、レビル将軍の選択次第では地球連邦軍対ティターンズとなる。その時に反乱を起こせば、連邦軍で受け入れてもらえるだろうが……。

 待った!レビル将軍の選択次第ではティターンズと連邦軍が歩調を合わせる事も有り得る!そうした場合、反乱起こして脱走する先がジオン系の場所しか無くなるだろうか?エゥーゴという手もあるが、エゥーゴは弱体だ……。ジオン系に逃亡すると……たぶん間違いなく強化人間・NT-001のレイラ・レイモンドが創られる事になる。……ゼロの『恋人』、だ。だが……。強化人間になってしまったら、それは彼女にとって不幸だと言えるだろう……。彼女は可愛い、可愛いんだが……。だからこそ彼女を不幸にしたくないと思う……。たとえ『恋人』にできなくなってしまったとしても、だ。そうなるとエゥーゴだろうか?結局はレビル将軍の選択頼み、か……。

 さらに待てっ!レビル将軍が主人公としての展開しか考えてなかったけど、ことによったらジオン側が……ギレン・ザビが主人公かもしれない!オデッサ作戦まで成功しているからには、おそらくレビル将軍主人公の展開で間違いない。だが、万が一ギレン・ザビ主人公だったなら……。ここからの巻き返しも有り得る。

 こうなったら、なんとか頑張って連邦軍を勝利させるしか無い。一兵士としての働きでどうなる物でもないとも思うけれども……。だが出来る事と言ったらそれしか無いだろうな。全ては連邦軍が勝利してから、だ。

 私は自分が生き延びるため、覚悟を決めた。まずはなんとしても連邦軍を勝利させるしかない。ギレン・ザビの下では強化人間がまともに生きる事など不可能だ。断言する。ニュータイプ研に植えつけられた憎悪はあるが、それ以上に私は元の世界に居た頃からジオンの事は気に入らなかったのだ。一部の人間には魅力的な人物もあるが、宇宙市民の解放を謳っておきながらサイド1、2、4、5の宇宙市民を虐殺したりなど、やる事がめちゃくちゃだ。そんな政体など到底信じる事はできない。

 私は意を決した。こうなったら、まずはなんとしても連邦を勝利させる。そしてその後の展望を拓いてみせる。……でもどうやって?くっ、頭痛がする……。




マコーマック博士は、色々な都合上創作したオリキャラです。本編にも1stガンダムにも出て来ません。
それと最初の方に出て来た「グリーンリバーライト」とは、声優「緑川光」さんの自称する、素晴らしいアダ名の事です。


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初陣

 ゼロ・ムラサメに憑依して数日。その間、みっちりと訓練や実験を行い、自分がゼロの能力を完全に扱える事を再確認した。

 ゼロの能力は凄まじく、MSに搭乗した場合はおろか、生身においても並の連邦軍兵士達など相手にならない。更に人工的に引き出されたニュータイプ能力は非常に効率的に働き、相手の動きを先読みできる。先読みできるだけでなく、ちゃんとそれに反応して正確に理性的に対処できるのだ。

 だが慢心はできない。この世界にはジオン軍にもシャア・アズナブルやらシャリア・ブルやらララァ・スンやらクスコ・アルやらマリオン・ウェルチやらの強力なニュータイプ能力者達が居るのだ。それ以外にも、もしかしたらクルスト博士が作り上げた対ニュータイプ用OS・EXAMが実用化でもされていたら目も当てられない。私が強化人間という兵器である以上、そう言った相手に真正面からぶつかる事を求められるだろう。

 更にそれ以外の問題もある。ニュータイプ研究所によって人為的に植えつけられたジオンへの憎悪や、空が落とされる事への恐怖。そして何よりも、まるで蛇が頭の中を這い回っているかの様な頭痛に似た感覚。これらがほぼ常時、ゼロを……私を苛んでいるのだ。何処か強化人間の副作用の治療法を研究してくれる場所は無い物か。ニュータイプ研が母体となって設立されるムラサメ研究所や、オーガスタ研究所は駄目だ。こいつら……研究者どもは私達実験体の事なんか、文字通り実験動物程度にしか考えていない。

 やはり時期を見計らって反乱を起こし、脱走するべきだろう。こいつらの下に居ては、何時まで経っても私は実験動物のままだ。だがまずは、一年戦争だ。まず地球連邦をなんとかして勝利に導かなければならない。だがどうやって?ううむ……。

 

 

 

 そんなある日、ついに私に出撃命令が下った。ジャミトフ・ハイマン大佐からの直接命令だ。大佐本人は宇宙に出ているため、レーザー通信によってその命令は下された。通信端末の前に、私と開発担当のマコーマック博士が並ぶ。画面の中のジャミトフは博士としばらく話をしていたが、やがて私に声をかけた。

 

『貴様がプロト・ゼロか。』

「はっ。」

『貴様には大いに働いてもらう。期待している。』

「はっ。」

 

 私はジャミトフに形ばかりの敬礼を送る。正直ジャミトフの事は、私は好きになれない。後にティターンズを設立するとなれば、なおさらだ。ティターンズは、はっきり言って大嫌いである。奴らがエリート面をしている事もまず気に食わない。だがそれ以上に、奴らが将来起こすであろう30バンチ事件の顛末は許容しがたい。

 たかだか反地球連邦政府デモを鎮圧するためだけに、サイド1の30バンチコロニーに使用を禁止されていたはずのG3ガスを注入、1,500万人もの全住人を虐殺するなど、まったく冗談では無い。一年戦争当時のジオンを彷彿とさせる行為であり、常軌を逸している。……『ジオンの系譜』や『アクシズの脅威V』では30バンチ事件はサイド6の30バンチコロニーだったかな?まあ、どちらにしても、コロニー住民を虐殺するのは間違いの無い事だ。

 その他にもジャブローの核自爆やグラナダへのコロニー落とし未遂、サイド2の25バンチコロニーへのG3ガス攻撃未遂、サイド2の18バンチコロニーへのコロニーレーザー攻撃等々、ティターンズの行った――違う、これから行う予定だった――その暴挙には、枚挙に暇が無い。……まあ、Ζガンダムのアニメでの悪役だったわけだから、好きになれと言う方が無理なわけだが。

 もっともジャミトフ自身は、それらの行いに対し内心激怒していたらしいのだが……。あれらの行いはバスク・オムの暴走であり、ジャミトフの関与するところでは無かったとかも聞いた事がある。そう言えば、『ギレンの野望・アクシズの脅威V』でティターンズ勢力で遊んだ時には、そんな感じの展開だったっけなあ。だけどガンダムの正史ではバスクを処断せずに承知の上で使い続けたんだし……。やっぱり駄目だ、嫌いだこの爺さん。

 ジャミトフは、マコーマック博士と私の初任務について話をしている。どうやら、レビル将軍の前で私の……強化人間の価値を見せつけるつもりの様だ。レビル将軍はキリマンジャロ攻略の前に、その周辺地域の敵戦力掃討を行うらしい。そこに連邦側の増援として、私のG-3ガンダムを送り込もうと言うのだ。既にミデア輸送機に、私のG-3は積み込まれているらしい。マコーマック博士がジャミトフとの通信を終えて、私に向き直る。

 

「ゼロ・ムラサメ。出発だ。」

「了解。」

「現地に着いたなら、私はミデアからデータを取らせてもらう。おおまかな指示は出すが、戦闘の詳細についてはお前にまかせる。期待させてもらう。」

「はっ。」

 

 私はマコーマック博士と共に、ミデア輸送機へと向かった。いよいよ初陣だ。……そう、いよいよ私は人殺しになる。それに耐えられるだろうか。……いや、私はなんとしても生きていかねばならない。たとえ他人を殺しても、だ。死ぬのは嫌だ。死ぬのは御免だ。何としても、生き抜いて見せる。

 

 

 

 実際のところ、すぐに戦闘と言うわけでは無く、それからしばらくは空の上だった。当然の事だろう。ニュータイプ研はムラサメ研の母体となった研究所であり、ニホンにあるのだ。アフリカまでは遠い。連邦の勢力圏上空を、ユーラシア大陸を横断する形で移動し、アフリカ入りする頃には、マコーマック博士共々かなり疲労が溜っていた。例の頭痛もしている。流石に休憩を殆ど取らずに空中給油で飛び続けると言う強行軍は、かなり来るものがあった。博士は、次の連邦軍基地で一日休憩を取ると言っている。正直、ほっとした。

 ミデア輸送機が、アフリカ北部にある連邦軍の基地――かつてはジオンが占拠していたが、ごく最近奪還された――に着陸する。私は、これでようやく休憩が取れる、と思った。砂漠の中にあるその基地に降り立つと、乾いた空気が感じられる。私は伸びをした。そこへ、先程までミデアの無線端末で基地の司令と話をしていたはずの博士が走り寄って来る。私はそちらへ振り向いた。博士の顔には焦りの色が窺える。

 

「ゼロ!出撃だ!」

「!?」

「レビル将軍がピンチらしい!急行できるのは我々だけだ!」

「……了解!」

 

 私は先程降りたばかりのミデアへと飛び乗った。その後をわたわたと言った感じで、マコーマック博士が追いかけて来た。私は博士に事情を尋ねる。

 

「状況は!?」

「レビル将軍はジオンの罠にはまったらしい。敵の手に落ちた基地を奪還するために手勢のMS部隊を率いて出撃したんだが……。敵に伏兵が居たらしい。現在包囲されているそうだ。」

「レビル将軍を罠にかけるとは……。了解。敵中に突入し、レビル将軍を救出します。」

 

 博士は頷いた。私は内心焦る。強力なプロトガンダムに乗っているとは言え、包囲下に置かれてしまえばいつか力尽きる。レビル将軍が倒されてしまえば、『ギレンの野望』的に言えばゲームオーバーだ。『アクシズの脅威V』なら「フショウチュウ」でゲームは続くが……。だがそれに賭けるわけにもいかない。もし死なれたら、この戦争は勝てなくなってしまうだろう。いや、死なれなくてもプロトガンダムのカリスマであるレビル将軍が敗北したなどと流れたら……。

 なんとしてもレビル将軍には戦後まで生き延びてもらわねばならない。できれば被撃墜なしで。1stガンダム正史の様に、連邦軍の勝利がほぼ決まった状態で死なれるのも、やはり困る。“史実”における戦後のごちゃごちゃした状況を鑑みるに、カリスマであるレビル将軍が居なくては、連邦軍上層部も連邦政府も腐ったままだろう。

 私はミデアのカーゴルームに降りて、G-3ガンダムのコックピットに搭乗する。ミデアのコックピットから通信が入った。画像がややノイズで乱れている。この至近距離でこれとは、相当ミノフスキー粒子が濃い模様だ。これでよくレビル将軍と連絡が取れたものだ。

 

『ゼロ……。もうすぐ目的地上空だ。降下したらすぐに戦闘開始しろ。詳細はまかせる。なんとしても包囲を破って、レビル将軍を救出するんだ。』

「了解。」

『レビル将軍の部隊を目視にて発見。降下用意しろ。』

 

 ミデア輸送機のカーゴルームのハッチが開く。通信機から博士の声が響いた。

 

『3……2……1……いけ!』

「ゼロ・ムラサメ、出る!」

 

 私はG-3を大空へと飛び出させた。G-3のメインカメラが、はるか下の地上の様子を読み取る。ドムを主体としたジオン軍MS部隊に、主に陸戦ジムで構成された部隊が包囲攻撃を受けている。戦力比はおおよそ3対1。無論少ない方が連邦軍だ。

 その陸戦ジムの中に、黒で塗装されたガンダムタイプが存在するのを私の感覚は捉えていた。ビームライフルのエネルギーや、マシンガンの弾薬が尽きかけているのか、連邦軍側からの火線は数少ない。黒いガンダムタイプ……プロトガンダムが、ビームサーベルを抜く。どうやら突貫しようと言う気らしい。周囲の陸戦ジム達もそれに倣った。

 

「ちぃっ!」

 

 私はG-3にビームライフルを撃たせた。その火線は、過たず1機のドム――レビル将軍のプロトガンダムを撃つべく、ジャイアントバズを構えていた――を捉える。そのドムは一瞬後、爆散した。私の人工的ニュータイプ感覚には、その瞬間人の命が消えたのがはっきりと捉えられた。思わず怯むが、頭を振りその怯懦の感情を振り払う。

 ランドセルのスラスターを吹かして落下速度を殺し、私のG-3は敵包囲網のやや外側に着地した。レビル将軍の部隊が突撃を敢行せんとしているちょうどその場所だ。ビームライフルは既に右腰のマウントラッチに固定してある。私はG-3の空いた右手に、ビームサーベルを抜かせた。そして敵機……デザートザクが動き出す前に斬りかかる。デザートザクは肩口から斬りおろされて二つになり、これもまた爆散した。瞬間、右斜め後ろから圧縮された様な殺意が『視え』た。私は機体を右に横滑りさせる。今までG-3の機体があった場所を、ドムが撃ったジャイアントバズの砲弾が行き過ぎていった。私は機体を振り向かせざま、頭部バルカン砲を一連射させた。その弾丸は、ドムのモノアイを撃ち抜く。動きの鈍ったドムを、私は両断した。

 一連の攻防で、私には敵機のパイロットが断末魔に放つ絶叫が、心の耳に『聞こえて』いた。ニュータイプ能力と言うのは良い事ばかりではない。どこかで聞いた話だが、戦闘機パイロットや戦車兵などは、敵を倒すのにほとんど抵抗を感じないと言う。実際に人を殺していると言う感覚が小さく、敵機をほとんどゲーム感覚で倒せるのが理由らしい。だが私の場合、人工的に引き出されたニュータイプ能力がどうしても敵兵の最期を捉えてしまう。故にその心理的抑圧は耐え難い物がある。

 私は自分に言い聞かせた。こいつらはジオンだ!敵だ!殺さなければならない!……皮肉な事だが、ニュータイプ研がゼロに植えつけたジオンへの憎悪が私を助けてくれた。おかげで罪悪感が多少ならず薄れるのがわかる。

 私の奇襲で、敵部隊は統率が乱れた。そこにプロトガンダムを先頭にして陸戦ジムが斬り込んで来た。プロトガンダムのビームサーベルが、1機のドムを葬る。そのプロトガンダムを狙った別のドムの砲撃を、陸戦ジムの1機がシールドで防御する。シールドは大破、崩壊したが機体そのものに損傷は無い。私はG-3にビームライフルを抜かせると、今レビル将軍の機体を狙ったドムを狙撃して沈めた。

 私はレビル将軍のプロトガンダムに通信回線を繋ぐ。

 

「レビル将軍!ご無事で!?」

 

 返答はすぐに来る。ミノフスキー粒子の影響で、ノイズが混じってはいるが、内容はほぼ聞き取れた。

 

『うむ、ザッ……助かった。君は?』

「ニュータイプ研のゼロ・ムラサメ少尉です!ここは僕にまかせて、脱出を!」

『うむ!ザザッ……』

 

 レビル将軍のプロトガンダムとその取り巻きの陸戦ジム達は、ランドセルのスラスターを吹かしてジャンプの体勢に入る。逃がしてたまるかと、ドムの1機がホバー走行で走り寄った。だがそれは私のG-3が、ブーストダッシュで割り込んで止める。

 

「させるかっ!」

 

 G-3の振るったビームサーベルに両断され、ドムは爆散する。爆発に巻き込まれない様に後退すると、背後から殺気が走るのが『視え』た。機体を回頭させつつ、殺気の走る線に沿ってシールドをかざす。シールドに衝撃が走る。グフだ。ヒートサーベルで斬りかかってきたらしい。更にグフはヒートロッドを叩きつけて来ようと、右腕を振り上げる。だがそうはいかない。頭部バルカン砲で牽制しつつ、ビームサーベルでヒートロッドを斬り払う。グフは怯んだ様に後退した。そこへ私のG-3はビームサーベルで突きかかる。狙い過たず、ビームサーベルはグフのコックピットを貫いた。『聞こえて』来る断末魔の叫び。だが私は早くも随分と慣れてしまったようで、多少顔をしかめた程度で済んだ。

 私はちらりとレビル将軍の方を見やる。彼と彼の直属部隊は長距離ジャンプを繰り返して、既にかなりの距離を稼いでいる。これならばもう、離脱成功と見て良いだろう。私は素早くG-3の機体をチェックする。ビームライフルのエネルギーゲージはまだたっぷりある。あまり使わなかったので、若干回復しているぐらいだ。ビームサーベルのコンデンサもまだまだ大丈夫だ。頭部バルカン砲の残弾は多少心もとないが、もともと弾薬の搭載量は少ない上に、所詮これは補助火器だ。

 大物を逃がして苛立っているであろう残敵にG-3を向き直らせると、私は小さく呟いた。

 

「……さて、あまり気は進まないが。……続きを始めるとしようか。」

 

 一斉に駆け寄って来るジオン軍MS部隊に、私はG-3を突入させて行った。

 

 

 

 戦闘終了後、迎えに来たマコーマック博士のミデアと合流し、私は基地へと帰還した。我ながら、強化人間の力とG-3ガンダムの能力は凄まじかった。シールドを多少損傷したもののMS本体にはほぼ傷ひとつ無い。そして敵であるジオンのMS部隊は若干逃がしてしまったものの、ほぼ壊滅させる事ができたのだ。

 だが私の気は晴れなかった。戦闘が終了し、気分の高揚が治まって来ると、抑え込んだはずの『人殺しをした罪悪感』が再び襲ってきたのだ。更に言えば、症状が軽いとは言え、いつもの頭痛も治まらず続いている。痛みに似た、蛇が頭の中でのたうち回る様な感覚は、とても気持ちが悪い。罪悪感とこの頭痛のダブルパンチが、私を打ちのめす。だが、マコーマック博士の前で、下手な様子は見せられない。私は平静を装う。幸いな事に、博士は今回の実戦におけるデータの解析に忙しく、こちらを気にしている様子は無かった。

 そこへ、レビル将軍からの呼び出しが来る。突然ではあったが、唐突なわけではない。私は首を振ると、襲いかかって来る罪悪感と頭痛を噛み殺し、椅子から立ち上がった。マコーマック博士もまた、データ解析を中断してこちらへ来る。私達は連れ立って、レビル将軍の元へと出頭した。

 マコーマック博士の後に付いて、基地の廊下を歩いて行く。すると、あるドアの前に歩哨が2人立っていた。博士は歩哨の1人に話し掛ける。するとその歩哨は部屋の中に入って行き、すぐに出てくると私達を部屋へと導き入れた。

 部屋は会議室の様だった。その中には、位の高い将官や佐官級の士官が数人居て、何やら重要そうな議題を話し合っていた。その中にただ1人、パイロットスーツ姿の老人が居る。間違いない。レビル将軍だ。彼は部屋に入って来た私達に気づくと、こちらに向き直った。私達はレビル将軍に向かい敬礼する。彼は答礼すると、私に話し掛けて来た。

 

「やあ、君がゼロ・ムラサメ少尉か。そちらは?」

「は、私はゼロの開発責任者のメレディス・マコーマック技術少佐であります、レビル将軍!」

「開発……。うむ、御苦労。……ゼロ少尉、先程の救援、御苦労だった。実に助かったよ。私だけでなく、部下も助かった。」

「いえ……。任務を果たしただけです。」

 

 私はできるだけ表情を消して答える。だが、その時私は突然めまいの様な感触を覚えた。私は眉を顰める。ふと気付くと、レビル将軍もまた眉を顰め、眉間に指をやっていた。私は思う。これは……もしかすると……ニュータイプ能力による感応か?そう言えば、『ギレンの野望』系ゲームでは、レビル将軍はニュータイプ能力に覚醒するはずだ。確かアニメにおいても将軍は、かすかではあってもニュータイプ能力の片鱗を顕していた。もっともゲームのキャラクターとしてのレビル将軍は、何度も何度も繰り返し戦わせて経験を積ませ、限界まで成長させなければ覚醒しなかったが……。

 私は精神を集中させ、心でレビル将軍に話しかけてみた。正直、この様な経験など無かったため、上手く行くかどうかは分からなかったが、やってみる価値はあるのではないか、そう私は考えた。もっとも深い考えがあったわけではなく、ただの勘であったが……。

 

(レビル将軍……。)

「ゼロ少尉、君は……?今のは君が……?」

「はい。」

 

 私の思念に反応を返したレビル将軍に、小さく頷いてみせる。私は更に思念で語り掛けた。

 

(レビル将軍。僕はニュータイプ研究所の強化人間です……。人工的なニュータイプ能力者です。)

 

 私のその思念に対し、レビル将軍は困惑した様な反応を示す。

 

「……強化人間?確かにそう聞こえた……。だが……よく聞き取れない。」

「そうですか……。閣下にもニュータイプ能力の才能が、僅かながらあるようですね……。」

 

 私はレビル将軍に向かい、小声で言った。聞き取れるかどうかはわからなかったが、どうやら将軍は聞き取る事ができた様だ。彼は小声で呟く。

 

「私が……ニュータイプ?」

 

 だが私はその将軍の言葉に、首を左右に振る。そしてできるだけはっきりと思念を将軍に送ろうと、強く、強く、言葉を思い浮かべる。

 

(いえ、違います……。ニュータイプと言うのは、宇宙時代に適応した『新しい考え方』の基に友愛を結びあう事ができる人間だと、僕は思っています。言わせていただくなら、閣下も、僕も、決して『新しい考え方』ができているとは言い難いです。

 少なくとも僕は、そんな者ではありません。人工的に非道な手段でニュータイプの力だけを引き出された実験動物に過ぎないんです。)

 

 レビル将軍は、私の『非道な手段』『実験動物』と言う思念に混ぜた、苦痛と憎しみのイメージに、目を見張った。同時に、私はいつも感じている例の頭痛のイメージや、『空が落ちる』恐怖、植えつけられたジオンへの憎しみ等のイメージも混ぜてやった。それが伝わったのか、レビル将軍が一瞬狼狽するのが感じられる。私は続ける。

 

(僕はニュータイプの力だけを持ったオールドタイプ、強化人間に過ぎません。おそらくは閣下も同じでしょう。ニュータイプの力を持っただけの、オールドタイプ、だと思います。

 ……このニュータイプ能力と言うのは、ニュータイプとしての在り方を『補助する力』に過ぎず、ニュータイプそのものを現す物では無い、と思います。そしてそんな力が無くとも、『新しい考え方』ができる人ならばニュータイプだと思います。

 ……『新しい考え方』なんて、どんなものか想像もつきませんが。だからこそ僕は自分がオールドタイプ、なんだと思います。)

 

 私の思念のどれだけがレビル将軍に伝わったかは分からない。だが少なくとも、幾許かなりは伝わったと思う。将軍の様子が、それを如実に表していた。将軍は沈痛な表情で、私に向かって言葉を紡ぐ。

 

「……強化人間、か。済まんな、ゼロ少尉。だが、我々はそれでも君の力を必要としている。……済まんな。」

「いえ……。」

「……済まんな、ゼロ少尉。」

 

 レビル将軍は、私に謝罪した。そうだ。強化人間の開発計画を推し進めたのはジャミトフでも、それにGOサインを出したのは、このレビル将軍なのだ。マコーマック博士はセリフの前後の事情がわからず、将軍と私の顔をきょろきょろと眺める。いや、博士だけでなく周囲の将官、佐官達も同様だ。私はレビル将軍の言葉に、ただ顔を伏せる。そうだ、今はまだ仕方無い。ジオンを叩く事が何より優先されるのだ。

 レビル将軍は頭を振ると、懊悩を振り払った様で、真っ直ぐこちらを見つめた。彼はマコーマック博士に向かって言う。

 

「マコーマック技術少佐。ゼロ少尉を私の直属部隊に配属したい。かまわないかね?」

「は!はい、い、いえしかし将軍……。ゼロはまだまだデータ収集の段階にあり……。」

「そこを押して頼みたい。無論、戦闘データはニュータイプ研究所へ提供する。」

「は、はあ……。了解しました。ただ、できますれば私も何らかの形で付いていかせていただきたいのですが。」

「わかった。後方のビッグ・トレーに君の席を用意しよう。それでかまわんな?」

 

 私は事の成り行きに驚き、目を丸くした。私がレビル将軍の直属部隊に?レビル将軍はこちらを見つめると、深く頷く。それで私も肝が据わった。考えてみれば、都合が良いかもしれない。自分は、言い方は悪いがただの実験動物だ。そんな自分がどう頑張った所で、この戦争の行く末を左右できるわけがない。だがレビル将軍はどうだ?彼は間違いなく地球連邦軍を引っ張っていっている一代の英雄だ。そんな彼を護る事ができれば、ジオンに対する勝利に貢献できるのではないだろうか。

 私は自らの視線に強い意志を込めて、将軍を見つめ、頷いた。この意志は、ニュータイプ能力など使わなくとも相手に伝わったらしい。将軍は再び頷く。

 

「よろしい、それでは下がって休みたまえ。御苦労だった。」

「はっ!」

「それでは失礼します!」

 

 私と博士は将軍に敬礼をする。将軍も答礼をした。私達は会議室を後にする。博士は歩いている途中、私に話しかけて来た。

 

「将軍と話している時、何があったのだ?将軍の台詞、前後関係がよくわからなかったのだが。お前にはわかっている様だったが?」

「いえ、単に話を合わせていただけです。」

「そ、そうか……。」

 

 私はすっとぼけた。だが心の中では堅く誓っていた。この先自分のためにも、ジオンに勝利するためにも、レビル将軍を護り抜く事を。いつの間にか、人殺しをした罪悪感は随分と小さくなっていた。




レビル将軍登場。ゲーム版なので、MSに乗ってブイブイ言わせてます。


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再編成と勝負

 第3話・再編成と勝負

 

 

 

 レビル将軍の直属部隊に配属された私は、これから同僚となる先達に引き合わされた。以下にその面々を列挙する。

 

◆ヨハン・イブラヒム・レビル大将

 言わずと知れたレビル将軍だ。本来であればMSに乗って最前線で戦うなど、許される立場では無いのだが。しかし彼が示した異様なまでのMS操縦適性および実際の操縦の腕前、そして彼が最前線で奮闘する事による宣伝効果の大きさが、将軍と言う立場を凌駕して、プロトガンダムのコクピットを彼の執務机にしている。

 レビル将軍は現在、直属部隊として2個小隊のMS部隊を率いている。無論彼が第1小隊の小隊長を務めているのだが、信じ難い事に将軍は個人戦闘と部隊指揮、そして連邦地上軍アフリカ方面軍全体指揮を、事もなげにこなしている。MSパイロットとして天才かどうかは意見が分かれるところだが、軍人として天才ではあるだろう。

 

◆フェデリコ・ツァリアーノ中佐

 レビル小隊の副隊長にして、レビル将軍の副官役も務めている極めて有能な士官。正史では鹵獲ザクⅡ6機を用い、北米のジオン軍物資集積所にだまし討ち作戦を行って、ヒルドルブと相打ちになった……んだったかな?確かそうだ。この時期に生きているって事は、だまし討ち作戦はやらなかったんだろう。

 この人は、ジオンを深く憎んでいる。その感情に足をすくわれなければ良いけれどな……。ジオンに対する憎悪を植え付けられてる、強化人間の私が言えた事じゃないか。

 

◆ラバン・カークス少尉

 レビル小隊の3番機を預かっているのが、彼だ。元々は0083のデラーズ紛争で、ガンダム試作2号機強奪時に鹵獲ザクで出撃して撃破されて死ぬんだよな……。ゲームだと生き残るんだけど。今現在、アニメに比して、ちょっと陰がある様に見えるのは、アレだな。1年戦争で肉親ほとんど全部亡くしたって話だし。その心の傷が、ほとんど癒えていないんだろう。

 

◆ディック・アレン中尉

 第2小隊の小隊長を務めているのが、彼だ。彼もデラーズ紛争で、パワード・ジムで出撃して撃墜されて死ぬんだよなあ……。ラバン・カークス少尉共々『アクシズの脅威V』で生き残るってのは、あれかな。バタフライ効果で、別な所に配属されて、アナベル・ガトーたちとは戦わなかったって事なんだろうな。プライドは高くて若干高慢だけど、気のいい男だ。死なれたくは無いなあ。

 

◆デリス・ハノーバー少尉

 第2小隊の副長を務めている。後述のロン・コウ少尉と階級は同じなんだが、若干だけ先任将校であるらしい。彼については、アニメやゲーム媒体での前情報はあんまり知らない。たしか連邦軍エースパイロットの1人だったと思うが……。

 

◆ロン・コウ少尉

 彼についても、前述のデリス・ハノーバー少尉と同じく、だ。エースパイロットの1人だった事はかろうじて覚えてるんだが、そこまでだ。

 

 以上の面々が、レビル将軍麾下の直卒部隊だ。RX-78-1・プロトガンダムに乗っているレビル将軍以外は、RGM-79(G)・ジム陸戦用先行量産型、通称陸戦型ジムに搭乗していた。

 ここに私、ゼロ・ムラサメ少尉が加わるわけなのだが、どういう編制になるのだろうか。第1小隊を増強小隊にして、そこに加える?それとも第2小隊を増強小隊に?まさか特別扱いでレビル将軍直下に置かれたりするわけは、無いと思うんだが。それじゃあ半ば、員数外だし。

 

 

 

 正直、おやおや、あらあら、と言う気分だ。レビル将軍は私を迎え入れるため、直卒部隊に第3小隊を新設、そこに私を押し込んだのだ。ちなみに第3小隊の隊長は私。小隊員は現状私1人。一応階級は少尉なのだが、第2小隊小隊長アレン中尉と形式上はほぼ同等の権利を認められている。つまり私は上にはレビル将軍しかおらず、彼の指示した範囲であればある程度の独自行動を認められるのだ。

 ……お願いですから、第3小隊に部下を配したりしないでくださいね、将軍閣下。自分1人の面倒を見るので、いっぱいいっぱいです。いや私を平隊員に格下げして、有能な隊長を配してくれるなら大歓迎ですが。

 そして私が加わったのを機に、部隊のMS編制にも手が加わった。いや、前回に部隊が敵の罠に引っ掛かった事で、各機ともけっこう痛めつけられたので、何機かが機体交換と相成ったのである。今までも全機陸戦型ジムという豪勢な隊だったのだが、やはりレビル将軍の直卒なのでプロパガンダ的側面が大きいのだろう、装備的にも万全である所を見せねばならない。

 まずレビル将軍のプロトガンダムだが、1週間の改装工事が行われた。カラーリングは今まで通りの黒と銀であるが、中身は私の機体と同じG-3ガンダム仕様だ。ただしプロトガンダムの名前が売れているので、機体呼称はコードネームとして、プロトガンダムのままになる。……G-3ガンダム仕様って、マグネット・コーティングされてるんだが。反応速度が並のパイロットには速過ぎるあの機体を自在に扱ってるあの爺さん、何者だ。

 第1小隊副隊長兼レビル将軍の副官であるツァリアーノ中佐と、第2小隊小隊長アレン中尉には、陸戦型ジムに代わりRX-79(G)・ガンダム陸戦用量産型、通称陸戦型ガンダムが配備された。ちなみにツァリアーノ中佐機は副官でもあるため、頭部が改修されて通信機能が強化されている。

 ……陸戦型ガンダムって少数生産機で、交換用の頭部部品が無くてジム頭になったり、大破機を修復しようとしたら現地改修機になっちゃってEz-8になっちゃうぐらい、数が少なかったんじゃ?そう思ってマコーマック博士に訊いた。そしたら、大元のRX-78ガンダム自体がレビル将軍の活躍で、各地から配備要求が相次いだんだそうだ。

 で、その声を無視できなくてプロトガンダム、ガンダム、G-3ガンダムの1stロット3機、ガンダム4号機~8号機の2ndロット5機の他、9号機以降の3rdロットを追加生産中。それにより、RX-78ガンダムの規格落ち部品も更に数多く作られてしまい、それを流用した陸戦型ガンダムもまた、数が多くなったらしい。ガンダム量産……。『ギレンの野望』、だなあ。

 残りの面々についても、機体そのものは従来の陸戦型ジムだが、電子機器や各部の制御コンピューター等を更新して反応性が強化された様である。これが陸戦型ジムではなく、本来の量産型……RGM-79・ジムであったなら、アムロのデータを移殖する事で劇的なパワーアップが見込めるんだが……。いや、最終的な性能は陸戦型ジムの方が上だけれど、整備性や量産性、稼働率や運用の安定性などは通常型ジムの方が圧倒的なんだよなあ。陸戦型ガンダムや陸戦型ジムを維持してる金や資源を他に回したら、どれだけ戦力が浮くか……。

 後で上申書を書こう。『この部隊は、連邦軍の広告塔としての働きも期待されていると存じます。それ故、いかに性能が高い機材とは言えど、初期に生産された陸戦型ガンダムや陸戦型ジムではなく、可能な限りの最新型を配備すべきです。同時にそれら最新型機材の実戦テストも兼ねれば、無駄にはならないかと。』表向き、上申の骨子はこれでいいだろな。陸戦型ガンダム、陸戦型ジムよりかは、最新型でも本物のジム系列の方が、補給や整備の面からはずっと安定して楽になるはず。

 

「何書いてるんだ?ゼロ少尉。」

「ああ、カークス少尉ですか。」

「ラバンでいいぜ。そっちは1人小隊とは言え、形式上小隊長だ。丁寧語もいらねーよ。」

「そうか。こっちも、ゼロでかまわない。」

「ほう?話せるな。」

 

 いつもの頭痛を堪えつつ、基地の共同スペースで上申書の内容を考えていた私に話しかけて来たのは、先ほど引き合わされたラバン・カークス少尉だった。私はまだ粗書き段階の上申書……と言うか、メモ書きを見せる。

 

「部隊の装備について、上申書を考えてた。僕……いや、俺は少し部隊の機材について、思うところがあってな。」

「ほう?」

「陸戦型ジムに陸戦型ガンダムは、強力なMSだ。だが実のところ、先行生産機が7月時点で既に配備開始されていた、古い機体でもある。実際、そろそろ新型機が続々と登場してるはずだ。

 古い機体も最新の機体も、どちらも整備で手間取るんなら、最新の機体の方がいいはずだろ?新型機は環境が整うにつれてどんどん補給や整備が楽になるが、古い機体は逆に……。」

「確かに……。確かにそうだな。」

「レビル将軍の機体は、ガンダムで構わないんだ。今のところ、連邦軍で一番高性能機つまりは一番護りが堅牢な機体だから。俺も自慢じゃ無いが、G-3ガンダムじゃないと能力が発揮し切れなくて困る。ただ、他の面々の機体は、何かあり次第最新型の機体に切り替えるべきじゃないか、とな。」

 

 ラバン少尉は眉を顰める。

 

「おお、言うねえ。その他は同感だが、お前さんG-3じゃないと能力が発揮し切れない?」

「……何か、癇に障ったか?」

「おう。俺とお前、そんなに技量に違いがあるのかね?俺がG-3に乗ってさえいれば、お前と同じぐらい働いてみせるぜ?まあ、窮地に助けに来てくれた事は、感謝するがな。けど、これとそれとは話が別だ。」

「それは俺も思ったな。」

「アレン中尉!?」

 

 ラバン少尉が驚く。そこに現れたのは、第2小隊小隊長のディック・アレン中尉だ。まあ、誰かがこちらの様子を窺っているのは、ニュータイプ感覚でわかっていたので私は驚かなかったが。人工的な物だとは言え、便利だ。これでこの頭痛が無ければなあ……。

 

「どうだ、これから演習場でG-3と陸戦型ガンダム、俺とお前の機体交換して交互に二勝負やってみるってのは。無論ペイント弾でな。で、俺とお前どっちがG-3を使いこなせるか……。

 勝った方がG-3貰うってので、どうだ。」

「それでは自分に利益がありませんね。」

「言うじゃねえか。お前が勝ったら第2小隊、お前の指示で動いてやるよ。無論、将軍の指揮権が優先だがな。……どうだ?」

 

 これは逃げられない……。ある意味では新人イビリだが、ある意味では歓迎会の様な物だろう。私はため息を吐いて、首肯した。ああ、頭の中で蛇がのたくっている、頭痛が痛い……。

 

 

 

 基地の演習場で、陸戦型ガンダムとG-3ガンダムが向かい合っている。最初はお互い慣れた機体で対戦する。と言っても、アレン中尉の方は陸戦型ガンダムへの機種転換訓練が終了したばかりだが。

 成り行きで審判を務める事になった、ラバン少尉の陸戦型ジムが、中央に立ち右手を高々と挙げる。

 

『お互い卑怯な行いはしないよーに。』

『卑怯な行いってのは、審判機を盾にするとかか?はははぁ!』

『ちょ、中尉!本気でやめてくれませんかね!?』

 

 アレン中尉の冗談に、ラバン少尉の引き攣った声が響く。

 

『で、では……。始めっ!』

 

 ラバン少尉機が、右手を振り下ろした。私もアレン中尉も、自機を最大出力で跳躍させる。これは定石だ。落下目標は、照準を合わせにくいと相場が決まっている。アレン中尉は、だが熟練の腕前でマシンガンからペイント弾を発射。それは正確にG-3の機体中央を狙っている。

 しかしそれは読めている。と言うより、演習だから殺意と言うまでの物は無いのだが、攻撃の気配と言う物が感じ取れる。ゼロ・ムラサメの人工的ニュータイプ感覚は、いつも通りに働いている。私は機体各部のスラスターを細かく噴射して、攻撃を全て避けた。そして……。

 

『やるじゃねえか!だがまだっ!』

「いえ、終わりです。」

 

 私は着地寸前、ランドセルのスラスターを噴かして地上すれすれを水平に飛び、高速で相手の向かって右側へと回り込む。慌てて左に機体を捻り、マシンガンを連射するアレン中尉機。だがそれは一発の命中弾も無く、G-3が撃った3発のペイント弾が陸戦型ガンダムのコックピット、頭部、マシンガンを撃ち抜いた。

 

 

 

 陸戦型ガンダムを簡易洗浄へと送り出して、アレン中尉は悔しそうに言葉を吐く。

 

「やるじゃねえか……。」

「流石にあそこまでの精密照準は、G-3じゃないと不可能ですけどね。」

「ほう?んじゃあ、機体交換してやる2ラウンド目にゃ、俺にも勝ち目あるって事かな?」

「どうでしょうね?」

 

 私はとりあえず事態を曖昧にするために、あえて不敵に微笑んだ。アレン中尉もにやりと笑顔を浮かべる。そこへラバン少尉が口を挟む。

 

「続き、やるんでしょ?機体が洗浄から帰ってきましたよ?」

「おう。んじゃ、とりあえず操縦の勘を掴むために演習場1周ランニングしてから始めるか!」

(……どうなっても、知らないぞ、っと。あ、畜生。いつもの頭痛が少し強くなってきた。)

 

 酷くなってきた頭痛に、私は顔を顰める。それを見て勘違いしたのか、アレン中尉とラバン少尉が口々に言った。

 

「む?ははあ、G-3に慣れてもらっちゃ困るってかあ?」

「だがそっちも陸戦型ガンダムに慣れる時間貰えるんだ。いいじゃないか。」

「いや、そう言うわけじゃ無いんですよ、中尉。ちょっと頭痛持ちでしてね。」

「ははあん。ま、そう言う事にしとこう。んじゃ、始めるぞ。」

(本当なのにな。)

 

 そして対戦の2ラウンド目が始まる。まずは前哨戦の、演習場1週のランニングだ。

 

『のわっ!?ふぬっ!?くそっ!?』

『あ、アレン中尉!?大丈夫ですか!?おい、ゼロ!お前もしかしてMSの操縦系、設定いじったりしたか!?』

「そんな卑怯な真似、するわけないでしょう。俺が操縦してたときのままですよ。」

『だったら何でアレン中尉が……。』

「マグネット・コーティング。」

『『なんだそりゃ?』って、はっと!?おっとと!?』

 

 マグネット・コーティング処置とは、主としてMSの間接の駆動系に磁気を擦り込み、間接の摩擦を0にする事で機体の反応速度を劇的に上げる技術である。だがパイロットの技量が極めて高いレベルに無いと、扱い切れる物では無い。その事を私は2人に説明してやった。

 

『なんだとぉ!?』

『くっ……。ムラサメ少尉、お前この機体を本気で扱ってたってのか……。』

「扱ってたところ、見ていたでしょうに。と言いますか、その反応性が無いと最初の対戦の様な真似は、無理ですよ。」

 

 アレン中尉もラバン少尉も、押し黙る。私は言葉を続けた。

 

「だけど、凄いですよアレン中尉。はじめてマグネット・コーティング機に乗ったのに、しかもわざと転倒して回避する事とか考慮して、オートバランサーほぼ無効になってる機体に乗って、1度も転んでないんですからね。」

『何っ!?ど、道理でスッ転びそうになるわけだ!……た、対戦中オートバランサー、有効にしていいか?』

「いいですけど……。でも、乗り心地はあんまり変わりませんよ?転ばなくなるだけで。いえ、転べなくなる分動きが制限されますから……。」

『……このまんまだと、勝負にならん。いや、最初から勝負になってなかったかもしれんが……。だがせめて一撃、乾坤一擲、相打ちになってでも男の意地を見せてやる。』

 

 そして機体を取り換えての対戦が始まった。

 

 

 

 そして対戦が終わった。私のG-3ガンダムは、私が操縦する陸戦型ガンダムのマシンガンが撃ったペイント弾にまみれて、真っピンクに染まっていた。……ごめんよ、G-3。やり過ぎた。

 

『ちょ、ゼロ!いくらなんでもやり過ぎだろ……。アレン中尉の面目が立たんだろうに。』

『ふ、ふふふ、くくくくく……。はあーっはっはっは。いや、ここまでやられればもう何も文句を言う気力もねえよ。負けだ、負け。はっはっはっは。』

「ふう……。ほっとしましたよ、アレン中尉。」

 

 本当にほっとした。と、アレン中尉が笑いながら言った。

 

『ははは。おう、そうだ、伝える事があったんだ。まだお前の歓迎パーティーやってなかったからな。PXで今晩やるぞ。

 まあ、さすがにレビル将軍とツァリアーノ中佐は不参加だがな。』

「え?」

『よーし、騒ぐぞー!第1小隊は将軍と中佐は雲の上の人だからなー。フツーの奴は俺だけなんだよな。』

「歓迎パーティー……。そっか……。あ、ありがとう。」

 

 なんと言うか、正直意外だった。これまでの彼らの態度から言って、敵対心みたいな物を抱かれている気がしていた。だが彼らの感情が、私の人工的ニュータイプ感覚を通じて把握できる。彼らの歓迎の気持ちは本物だ。先ほどまでの私に対する敵愾心と言うか、私にちょっとむかっ腹を立てていたのも本当なのだが、今はそれは綺麗に押し流されている。

 と、ここでちょっとしたアクシデントが起きた。

 

「歓迎会はいいんですがね、中尉に少尉たち……。」

「どうしてくれるんスか、こんなにペイントまみれにしちまって。」

「簡易洗浄だと完全に綺麗にはならないんです。誰がきちんと洗うと思ってるんですか。」

 

 整備の皆さんだった。私たち3人は彼らに平謝りし、後日自分達の俸給で彼らに一杯奢るという事で赦してもらえたのである。

 

 

 

 ちなみに歓迎会の席上で。

 

「けどよ。レビル将軍はプロトガンダムだよな?」

「G-3は3号機なんだよな?プロトは1号機って話だが……。」

「プロトは流石にマグネット・コーティング処置はされていないでしょう?」

「されているわけ無いでしょう。将軍は、普通に機体を扱ってますよ?」

「ああ、いや。それが……。部品の共有化とか整備の都合上とかで、今この部隊にあるRX-78はどちらもG-3仕様……。つまりマグネット・コーティング処置されてるんだよ。

 俺のG-3と違って、オートバランサーまでは無効化してるかどうかはわからないが……。演習場で見た限りでは、普通に乗り回してる。」

「「「「え゛。」」」」

「す、するってえと何か?オートバランサー入れたマグネット・コーティング機でまともに戦えなかった俺は……。レビル将軍よりも弱……い……?ま、守るべき対象よりも弱いってのか?」

「わー!アレン中尉!」

「あんたは充分強いです!向こうが規格外なだけ!」

「気をしっかり!」

 

 そう言えば、レビル将軍のニュータイプ覚醒はSランクまでレベル上げしてからだったな……。つまりあの将軍は、Sランクってわけで……。あーあ。




ほんとは全員『アクシズの脅威V』の登場キャラクターにしたかったんですが、流石にキャラ数が足りなかったので、一年戦争におけるエースパイロットから適当に少尉以下の階級の者を2人引っ張ってきました(苦笑)。


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キリマンジャロ攻略

 レビル将軍のプロトガンダムを狙っていたドムを、私が先んじてビームライフルでの狙撃で沈める。これでレビル将軍を狙った機体を墜とすのは6機目だ。……レビル将軍、私のG-3が護衛機に入った事と、自機の中身がG-3仕様にアップデートされた事で、安心して敵中に突入する様になっちゃったんだよな。

 自機がTV放送で有名なプロトガンダムで、レビル将軍の機体だと敵にも知れ渡ってるから、狙われる事、狙われる事……。お願いだから、もう少し自重して欲しい。あ、味方のフライマンタが墜ちた。

 

『くそ!奴らめ、どれだけ殺せば気が済むんだ!』

『いえ、この戦場に限ってはお互い様でしょう。頭に血を上らせると、良い事は無いですよ。』

 

 ロン少尉が激昂するラバン少尉を宥めつつ、うかつに低空に降りて来たドップを自機のマシンガンで撃墜する。一方ツァリアーノ中佐は、TINコッド隊にレビル将軍の指示を伝達していた。

 

『デルタ12-0、タンゴ11隊を敵のドップから守れ。』

『おおっと、やらせんぜ。』

『墜ちろ!』

 

 ツァリアーノ中佐機に向けて、ザクⅡ陸戦型がフットミサイルを撃つが、アレン中尉機がシールドでそのミサイルを受け止める。ザクⅡ陸戦型はデリス少尉機のマシンガンが蜂の巣にした。レビル将軍のプロトガンダムはその間も果敢に前進し、グフ改良型……俗にグフ・カスタムと呼ばれているタイプをビームライフルで爆散させている。

 と、いつの間にか私の周囲を、4機のドム・トローペンが囲んでいる。いや、いつの間にか、ではないな。こいつらがこちらを囲もうとしているのは、いつも通りニュータイプ感覚で理解していた。しかし巧みな相手の機動で、この位置に誘い込まれてしまったのだ。こいつら、ただ者じゃない。

 ……いや、希少機体のドム・トローペンに乗っている以上はただ者じゃないのは分かり切っている。おそらくはジオンのエース級だろう。連邦軍でも『アクシズの脅威V』には登場していなくとも、ロン少尉やデリス少尉の様にエース中のエースと呼ばれる者はいる。ジオンにも居ておかしくはない。だが本当に怖いのは、見たところ単純な技量では一番劣る――それでもエース級ではあるのだが――隊長機と思しき機体に乗ってる奴だ。

 竜を模した部隊マークの隣に、虎の個人マークを描いた指揮官機。こいつの指揮能力、戦術能力ははっきり言ってヤバい。こっちは頭痛を我慢してニュータイプ感覚全開で戦っているのに、それでも戦術的な読みと詰将棋の様な機動でこの状況に追い込まれてしまった。私がいる限り、レビル将軍機には手を出し難いと思い切ったのだろう。

 しかもこいつら、ジオンには珍しく集団行動に慣れている。ほんのわずかなタイムラグで、微妙に照準をずらしてバズーカを撃ちやがった。これは躱しづらい……。

 いや、躱しづらいだけで躱せないってことは無いんだけどね。

 

『ゼロ!?』

「大丈夫だ、ラバン!この程度、あまい……んだよ!」

 

 私は機体の左手に持たせたシールドを大きく振って、反動で機体の姿勢を変える。1G環境下での強引なAMBAC機動に、敵弾はその狙いをわずかに外し、G-3の頭部をかすめる様に2発、右肩口をかすめる様に2発が通り過ぎる。必殺の連携を躱した、この曲芸じみた機動に驚いたのか、敵指揮官機が一瞬だけ動きを止めた。

 

「操縦技量を、あと少しだけ磨くんだったな……!!」

 

 ビームライフルを2連射し、指揮官機のドム・トローペンと、この隙にレビル将軍機を狙っていたノーマルのドム1機を撃ち抜く。その2機は、爆炎を上げて跡形もなく吹き飛んだ。残された3機のドム・トローペンは、激昂して襲い来る。

 

「けど、あの指揮官が消えたお前らなんか、敵じゃない!」

 

 うん。敵じゃ無かった。2機は私が撃墜したし、最後の1機はアレン中尉機が背後からマシンガンで叩き、爆散させた。腕は良かったんだが、あの指揮官に戦術面を完全に頼っていたらしく、連携も見る影もなくばらばらで、単純作業の繰り返しで楽に勝てた。

 

『大丈夫か?ゼロ。』

「アレン中尉、ありがとうございます。」

『いや、お前なら手出ししなくとも大丈夫かと思ったがよ。』

 

 フライマンタ戦闘爆撃機とデプロッグ重爆撃機が、爆弾の雨を降らせている。残敵はこの戦場から撤退を開始していた。この戦場……第6前線基地の奪還は成功したも同然だ。海洋に浮かぶ第7前線基地も、今頃はマダガスカル島方面から攻め込んだ、M型潜水艦とU型潜水艦の群れに詰め込まれた別動隊が落としている頃合いだろう。

 とりあえず追い打ちとして、敵のしんがりとして味方を逃がそうと頑張っているドム1個小隊3機を、ビームライフルで狙撃して3機とも撃墜しておいた。敵兵を殺傷するのにも、ずいぶん慣れてしまったなあ……。慣れないと、私が死ぬけど。

 

 

 

 第6前線基地を再奪取して数日。私たちレビル将軍直卒部隊は、各々ミデア輸送機に詰め込まれて東の湖沼を渡っていた。ここから東にある山岳地域を越えた山間の地域に、キリマンジャロ基地の本部が存在する。

 周辺の敵戦力は、味方のガンタンクや量産型ガンタンクの群れが砲撃で黙らせたり、フライマンタ戦闘爆撃機やデプロッグ重爆撃機による、度重なる爆撃で叩き潰している。無論、こちらの損害も甚大な物だ。高高度からの爆撃はミノフスキー粒子によるセンサー障害で精度が悪く、やむなく低高度での爆撃に頼らざるを得ないのだ。そうなれば、ザクⅡのマシンガンでも航空機を撃墜できる。

 しかしその損害は、正史の一年戦争よりもずっと小さな物である事を、私は知っていた。この世界では、それこそ『ギレンの野望』の連邦軍よろしく、MSを前線に数多く配備していたのだ。それによる力押しで、ジオン地上軍は自由な迎撃態勢を取れなかったのである。

 

(この調子なら……。本来の『機動戦士ガンダム』のアニメでの一年戦争よりも、ずいぶんと損害は抑えられそうだな。

 だからと言って、開戦当初の55億人の死者が蘇るわけでもなし。正史より被害者が少ない事を知る事ができない以上、レビル将軍や戦友たちの心が軽くなるわけもなし……。む……!!)

 

 その瞬間、私は頭の中で蛇がうねるのを感じ取る。同時に、眼底で閃光が走るのも。これにもずいぶんと慣れてしまった。この頭痛は、おそらくニュータイプの感覚に私の脳組織自体が適応していないから起きる現象なのではないだろうか。

 それはともかく、私はミデアのコクピットに繋がるインターホンに飛びついた。有線接続なので、ミノフスキー粒子による障害は無い。私は叫ぶ。

 

「コクピットか!?こちらゼロ少尉!!ランダム回避機動を取ってくれ!!」

『へ!?な、なんだなんだいきなり!!』

『こちら機長、了解!』

『へ?き、機長!?』

 

 次の瞬間、ミデアが急旋回する。私は機長が一介のMSパイロットでしか無い私の要請をまともに受け取ってくれた事に感謝しつつ、急旋回のGに耐えた。

 

『うわぁっ!?』

 

 副操縦士の叫び声は、急旋回のGによる物では無い。湖沼の中から撃たれた、サブロックガンのミサイルを恐れての声だ。私は窓に飛びついて他の機体の様子を見る。

 第1小隊のミデア1番機は幸いにも被弾は無い。第2小隊を載せたミデア2番機は、コンテナの一部に被弾したが飛行には影響が無い模様だ。私のG-3が搭載されているミデア3番機は、機長のナイス判断で攻撃を回避している。

 私はコンテナ内に固定されているG-3へと走った。G-3のコクピットに着座するやいなや、私は1番機へと通信を入れる。

 

「こちらミデア3番機、第3小隊ゼロ少尉!レビル将軍にお伝えしてくれ!敵はジオンの水陸両用MS、ザク・マリンタイプと思われる!

 水中戦に若干でも対応しているのは、RX-78タイプしか無い!自分がG-3で出る!許可を願い出てくれ!」

 

 そして同時に、私は自分の人工的ニュータイプ能力を全開にし、レビル将軍に呼びかけた。

 

(レビル将軍……。レビル将軍……。僕です、ゼロです、聞こえますか。

 敵は湖沼の中に水陸両用MSで潜んでいました。かろうじてでも対抗できるのは、プロトガンダムとG-3ガンダムしかありません。そして将軍はキリマンジャロ基地攻略に向かわなくてはいけません。僕がG-3で出ます。)

(ゼロ少尉!?君か!?……すまんが、よく聞こえなかった。だが、何が言いたいかは、だいたいわかった。たぶん、な。

私はキリマンジャロ基地本部へ向かわねばならん。そうだな?心苦しいが、頼んだ。ゼロ少尉……!!)

(まかせて下さい。)

 

 レビル将軍は、思念を受け取る事についてはさほど得手としていないのだろう。だが、それでも類まれなる理解力で、受け取れなかった言葉の端々を補完して、私の言いたかった事を理解してくれた。直後、ミデア1番機から通信が入る。

 

『こちらミデア1番機ザッザザザ……。……ビル将軍ザッゼロ少尉に出撃命令を下した!頼んだ少尉、こっちが墜とされる前ザザッザザザ奴を叩いてくれ!』

「了解した!ミデア3番機コクピット、コンテナのハッチを開いてくれ!!

 ……ゼロ・ムラサメ、G-3ガンダム、出るぞ!」

 

 私はコンテナのハッチから、G-3を大空へ飛翔させた。

 

 

 

 G-3が水しぶきを上げて湖沼に着水する。私は口に出して数を数えた。

 

「3……2……1……ええいっ!」

 

 フットペダルを踏むと共に、ランドセルのスラスターが青白い炎を噴き、湖底へ沈みかけたG-3を浮上させる。G-3の背後では水蒸気爆発が発生し、文字通りの爆圧がG-3ガンダムを進ませる。

 その時、脳裏に閃光が走る。私は気配を感じ取った方向へ、ビームライフルを角度をわずかに変えて2連射した。1射目は、見事にザク・マリンタイプを爆散させる。しかし2射目は水中でビームの威力が急速に減衰し、命中はしたものの損傷を負わせる程度にしかならなかった。

 

(ええい、水中戦はやりたくなかった!)

 

 私は損傷を負ったザク・マリンタイプは放置し、新たに感じ取った他の気配へと機体を向き直らせる。そこには4機のザク・マリンタイプが……。敵は2個小隊の水陸両用MSをこの湖沼に潜ませていたのだ。

 

(移動力は段違い、か。だがいかに水中戦とは言え、細かい機動性だけなら負けん!……移動力も欲しかったなあ、やっぱり……。)

 

 G-3はランドセルと両脚のスラスターを使い、全速力で敵機の方向へ進んだ。目算を狂わされたのか、ザク・マリンタイプは慌ててサブロックガンを連射してくる。水中で鈍った機動性では、その全てを躱す事は叶わなかったが、少なくともシールドで受けきる事はできた。

 そしてG-3と敵機は、至近距離ですれ違う。至近距離ならば、ビームライフルよりもビームサーベルの方が良い。私は機体の右腰にビームライフル、背中にシールドをマウントし、その両手にビームサーベルを抜かせた。

 そして4閃。小規模な水蒸気爆発の爆圧が機体を叩く。非常に水中戦は面倒くさい。だがその甲斐あって、ザク・マリンタイプ4機はコクピットに大穴を開けて、湖底へと沈んでいく。私はビームサーベルの刃を急ぎ消し、ランドセルのラッチへその柄を戻す。そして腰から抜いたビームライフルを、後方へ向けて2射。そこには先ほど損傷を負わせた最後の1機が、サブロックガンをこちらに向けて乱射しようとしていたところだった。

 

 

 

 全部の敵を片付けて、スラスターを微調整して水上に浮上。そしてランドセルのメインスラスターで跳躍し、連続ジャンプでもっとも近い岸辺へ急ぐ。

 

『G-3ザッザザ3、ゼロ少尉!聞こえザザザ……。』

「こちらゼロ少尉!繰り返す、こちらゼロ少尉!敵水陸両用MS6機2個小隊は殲滅した!こちらの損傷は軽微なれど、コンデンサーのエネルギーを相当量使ってしまった!シールドも中破!」

『こちザザはミデア3番機!こっちのお客さんは少尉のザッ3ガンダムだけだからな。旋回対空して待ってたザザザ。』

 

 ミデア3番機は、律儀にもこっちを待っててくれたのだ。敵の近くは危険だと言うのに。

 

「湖沼の南岸でランデブーしよう。そこで拾ってくれるか?」

『まかせザッ、完璧だ。』

 

 ところどころにミノフスキー粒子によるノイズが走るが、それでも伝わって来る返答の力強さに、心が少し暖かくなったのは否定しない。

 

 

 

 シールドを新品に交換、短時間だが機体の核融合炉からビームライフルやサーベル用のコンデンサーに、エネルギーを若干でもチャージした。そしてミデア3番機のキャビンに戻り、インターホンを手に取る。

 

「こちらゼロ少尉。とりあえず、できるだけ戦闘準備は整えた。あまり長時間は無理だが、いつでも戦闘参加できる。」

『こちら副操縦士。そうか、ゼロ少尉。こっちに入って来てる情報では、レビル将軍たちは順調に戦闘を進め、キリマンジャロ基地の本部を落とした様だ。

 敵は副司令部に後退して、必死で抗戦している様だが、あとは時間の問題だな。』

「そうか……。痛うっ……。」

 

 私は急な頭痛を覚えた。いや、いつもの頭痛と言うよりは、より一層痛みがはっきりしている。なんだ?何が起こっている?

 

「……副操縦士、機長に伝えてくれないか?悪い予感がするんだ。できるだけ急いでほしい。」

『え?いったい……。いや、わかった。機長に伝える。』

 

 そしてミデアが一気に加速するのが感じられる。私はキャビンから、G-3のコクピットへと取って返した。そして暫時経過する。

 

『ゼロ少尉!レビル将軍が!カミカゼだ!』

「ハッチを開放してくれ!……G-3、出るぞ!!」

 

 ほんの一言二言で、何が起きているかわかった。私はミデアのハッチから、大空へG-3を飛翔させる。そしてG-3のメインカメラは……私の両眼は、レビル将軍に迫る2機のドム、3機のグフ飛行試験型を発見した。そしてその後方で、何かが大爆発を起こした形跡も。

 レビル将軍直卒部隊、第1、第2小隊の面々は、必死にそれらを止めるべく射撃しているが、ドムもグフ飛行試験型も異様なまでの技量で躱しまくる。レビル将軍機プロトガンダムのビームライフルが、それでもグフ飛行試験型の1機を撃ち抜いた。

 瞬間、閃光が走る。火柱が上がり、大爆発が起こった。隣のグフ飛行試験型が巻き込まれ、同じく大爆発を起こす。もう1機のグフ飛行試験型と2機のドムは、気にした様子も無く疾走を続けた。あのMS共は、爆弾を大量に抱えているのだ。

 ドムのパイロットが、オープン回線で絶叫する。

 

『ザザザ……ジオン公国の理想、実現のためにいいいぃぃぃザザザザッ!!』

「く、何がジオンの理想だ!」

 

 私はビームライフルで、ドム2機とグフ飛行試験型の脚部……つま先部分を撃ち抜いた。マグネット・コーティング処置を施されており、尋常ではない反応速度を持つG-3ガンダムだからできる芸当だ。

 ドム2機は、片脚のホバーが停止してそちらの足を地面に着いてしまい、派手に転倒する。一方、グフ飛行試験型の最後の1機は、空中でつんのめる様にひっくり返り、地面に突っ込んでそこで大爆発を起こした。爆炎が治まった後には、塵一つ残っていない。

 レビル将軍から、通信が入る。

 

『ザザッまた助けられたな、ゼロ少尉。ザザザッ……。』

「はっ。もったいないお言葉です。」

 

 残りのレビル将軍直卒部隊の面々は、倒れたドム2機の周囲を遠巻きにしつつ、それらを見張っている。どうやらドムのパイロットたちは、酷い転倒により気絶したか、場合によっては死んでいるのかも知れなかった。

 

 

 

 キリマンジャロ基地を完全に陥落させた後、キリマンジャロ方面の残敵相当任務は一般の部隊に任せられた。我々レビル将軍直卒部隊の面々は、歩兵部隊により安全が確認されたキリマンジャロ本部基地司令部で休憩を取る事ができた。

 

「……で、あのドムのパイロット、生きてたって?ラバン……。」

「ああ、ゼロ。ただなあ……。『我々は、ジオンの理想のためにー!薄汚い腐った連邦政府に与する貴様らにはけっしてー!』とか騒ぐばかりだそうで……。」

「話にならないな。やつらサイド3の連中は……。やつらはアースノイドだけじゃなく、スペースノイドにとっても最低最悪の裏切り者だって言うのに。」

「「「へ?」」」

 

 ラバン少尉、デリス少尉、ロン少尉の3人は、「あれ?」と言う顔をする。少し離れた場所で聞いていたアレン中尉、ツァリアーノ中佐も怪訝な顔をする。唯一、執務机に座して書類を見ていた……しかし、耳では我々の話を聞いていたレビル将軍には、私の意図するところが理解できた様だ。

 

「コロニー落としの衝撃が大きすぎて、すっかり忘れてるのか?やつらはコロニー落としの前に、サイド1、2、4の全住民を虐殺してるんだぜ。やつらの謳い文句、ジオン公国の理想、宇宙市民の解放ってのが嘘っぱちだって、あからさまに解る出来事だよな。これで28億人のスペースノイドが命を落としているんだ。」

「「「「「あ!」」」」」

「更にルウム戦役ではサイド5も虐殺されている。これで更に10億人弱。やつらが殺したのは、アースノイドよりもスペースノイドの方が多いんじゃないのか?それとも、やつらにとって都合のいい『必要な犠牲』だったとでも言うつもりなのかも知れないな。」

 

 皆、言葉も無い。レビル将軍直卒部隊の面々には、ジオン公国民とスペースノイドを一緒くたにして怨んでいた者もいたのだろう。しかし、私はそれは間違いだと思う。スペースノイドを怨むのではなく、ギレン・ザビに傾倒し熱狂し、奴に忠誠を誓う屑どもを憎むべきなのだ。

 たとえばアナベル・ガトーとか。いかに一見立派に見えても、アレはアニメの中で、理想の美名の元にGP-02ガンダム試作2号機の核兵器を実際に使いやがった。コロニー落としの実行犯の1人でもある。いかに立派で魅力的に見えても、あんなでたらめな野郎はそうはいない、と私は思うのだ。

 苛立たし気に毒を吐く私を、書類仕事の手を休めつつ、レビル将軍が痛ましげな目で見ていた。




ええと、アンチ・ヘイトのタグが役に立つ時が来ました。アナベル・ガトー、人気はある様ですし、悪口を書くのはちょっと怖かったんですが……。でも勇気を出して、書きました。


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宇宙への助走

 ジャブロー基地で、私たちレビル将軍直卒部隊の面々は、ホールの最前列に並んで将軍の演説を拝聴していた。後ろには、ずらーっと連邦軍将兵が列をなしている。

 

『この戦いが、スペースノイドと地球との戦いだと思っている者も、多い事だろう。だがそうでは無い。ジオン公国は……ザビ家に主導されるサイド3の者達は、サイド1、2、4、5の住民を、彼らにとって同胞であったはずのスペースノイドを虐殺しているのだ!

 わたしも先日部下から指摘を受け、記録を読み返してみたが、ザビ家が殺したスペースノイドの数は、コロニー落としと地球降下作戦、その後の戦闘で死んだアースノイドよりもはるかに多く……。』

「おいゼロ、将軍が言ってるの、お前が言ってた事だよな。」

「ああ……。」

 

 私の隣に並んでいたデリス少尉が、小声で話しかけて来た。私も小声で返事をし、頷く。デリス少尉は続ける。

 

「勘違い、していたよな。うっかりスペースノイドが俺たちの敵だって、思い込むところだったよ。」

『ザビ家の騙る、宇宙市民の独立と解放などと言うのは、大いなる欺瞞に過ぎない!虐殺をかろうじて生き延びた、「本当のスペースノイド」たちのためにも、我々地球連邦軍はザビ家とそれに傾倒する者たちを打倒し……。』

「そうだ。そこを間違えると、大変な事になるんだ……。」

 

 そう、スペースノイド弾圧に走ったティターンズの様な者達が出て来る事になる。ジャミトフが本当はアースノイドを宇宙に追い立てて完全移民させる事を望んでいたとしても……。ジャミトフは、バスクみたいなのを承知の上で飼ってるからなあ。

 ふと視界の端に、青やピンクの特別な連邦軍制服が留まる。ありゃりゃ、まだ宇宙に上がってなかったのか、ホワイトベース隊。いや、第13独立戦隊か。いや、第13になるのはまだ先か?まさかジャブローに着いたばっかりか?……って事は、もしかして、今後ジオンのジャブロー襲撃、あり得るのか?

 

 

 

 あの後にざっと調べてみたところ、ジオン地上軍のジャブロー空襲は、キャリフォルニアベース陥落後はガタっとその回数を減らしてはいるものの、いまだに続いていた。北アメリカ大陸の何処かに、まだ多少まとまった戦力が残っているっぽい。

 それはともかくとして、私はいまのうちにアムロ・レイと接触を取っておこうと考える。第13独立戦隊として宇宙に上がってからでは、ほとんどその機会が無いからだ。それに、個人で世界を変えようと言うからには、何でも試しておく必要がある。

 私はホワイトベースが入渠しているドックへと足を向ける。だがその途中で、いつもの頭の中で蛇がうねる様な頭痛が起きた。いつもなら我慢して耐えるところだが、別に今は戦闘中と言うわけでもなんでもない。私は壁にもたれかかって頭を押さえた。……苦しい、頭が痛い。

 そこへ声がかかった。この古谷徹声は……。古川登志夫声も聞こえる。鈴木清信声も。

 

「あ、あの……。大丈夫ですか?」

「おいおい、放っとけよ。」

「返って迷惑かもしれないだろ……。」

 

 とりあえず私は、その声の方に向き直る。

 

「いや……。少々頭痛持ちでさ。気を使ってくれてありがとう、曹長。軍曹、伍長も。」

「げっ!少尉さん!?」

「あ、いえ……。つっ!?」

 

 やはりアムロ・レイだった。カイ・シデンとハヤト・コバヤシもいる。

 

「済まないが、肩を貸してくれないか?あっちの休憩所で、少し休めば良くなるとは思うんだが……。」

「あ、はい。……なんだ?今の感覚は。」

「あ、はいはい。」

「ああ、じゃあ僕はコーヒーでも取って来るよ。人数分でいいよね。」

 

 アムロとカイに肩を貸してもらい、休憩所へと向かう。いや本当は、慣れてるから耐える事は容易なんだけどね。アムロは怪訝な顔をしている。……たぶんニュータイプ能力による感応現象を起こしたんだろう。私の方も、彼に一瞬「宇宙」のビジョンが見えた。

 

 

 

 さて、互いに自己紹介をしてコーヒーを飲みながら休む。こちらは実はまだ頭が痛いのだが、多少良くなった風情を装った。ちなみに「放っとけ」と言った相手が尉官だったせいで焦った様子だったカイは、既にもう砕けた様子で堂々としている。この時期のカイは、胆が据わってるな。

 

「あ、あの……。」

「ん?なんだいアムロ曹長。」

「あ、いえ、すみません。さっき一瞬、あなたの背後に、なんていうか……。」

「くくく、宇宙でも見えたのかい?」

「ええっ!?」

 

 目を丸くして、驚いた顔をするアムロ。カイとハヤトの2人は、何を馬鹿な、と言った顔をしている。おいおい、『ギレンの野望』ではお前らはニュータイプに覚醒しなかったが、小説版『機動戦士ガンダム』ではお前らもニュータイプ覚醒するんだぜ?

 

「なんでわかったんですか!?」

「いや、俺の方も君に、宇宙のビジョンが見えたからな。一瞬だったが……。」

「おいアムロ、お前らエスパーか何かかよ。」

「カイさん、少尉さんにお前扱いは……。」

 

 ハヤトが焦ってカイに注意をした。私は真面目な顔で、彼らに言葉を発する。

 

「いや、おそらく君はニュータイプ能力を持っているんだろう。エスパーじゃない。エスパーじゃないんだが……。気配を察知したり危機を感知したりが得意だ。」

「ニュータイプ、ですか?」

「……ニュータイプって言うのは、あのジオン・ズム・ダイクンが提唱した、宇宙に適応した文字通り新しいタイプの人間さ。もっともザビ家はその思想を、自分達の都合の良い様に捻じ曲げてしまってるがね。

 ただ俺は、ニュータイプじゃない。ニュータイプの能力を持っているだけの、オールドタイプさ。ニュータイプってのは本来、新しい考え方ができる人間だ。だが俺には新しい考え方ができるどころか、それがどんな物かもわからない。」

 

 カイが仏頂面で口を挟む。

 

「新しい考え方、か。それがわからない上に、そんな能力も無い俺たちゃ、オールドタイプ中のオールドタイプなんだろうな。」

「カイさん、そんな言い方は……。」

「カイ軍曹、諦めるな。ニュータイプ能力なんてのは、本来のニュータイプにとってオマケでしかない。新しい考え方ができさえすれば、それこそが本物のニュータイプだ。俺も諦めてない。諦めてないんだが、やっぱり中々難しくてな……。ははは。」

「へへへ、やっぱり難しいんでしょ?」

 

 どうやら本気でむくれてたわけでは無さそうだ。カイはにやりと笑う。アムロ、ハヤトもほっとした顔だ。私は立ち上がりつつ、言葉を続けた。

 

「それにニュータイプ能力なんて、いつ何時突発的に覚醒、発現するかわからない。ただ、覚醒したからと言って触れ回らない方がいいぞ。連邦でもジオンでも、今の段階だと兵器扱いやモルモット扱いは避けられない。」

「モルモット……。もしかして、貴方も……。」

「ふ、話し過ぎたかもな。聞かなかった事にしといてくれ。それじゃあな。」

 

 とりあえず、こいつらに危機感は仕込めただろうか。アニメ本編よりも、少しは慎重に動いてくれるといいんだが……。だが第13独立戦隊として囮任務に就いて、襲い来る敵を叩き潰さないわけにもいかないだろうしなあ……。戦後にうまく立ち回る方向で、何とか……。

 

 

 

 翌日、レビル将軍から呼び出され、直々に謝られた。やっぱり、ザビ家一党とそれに追随する者たちは、一般のスペースノイド達と分けて考えるべきだと言うのはできるかぎり周知しておきたかったのだそうだ。ただ演説で、その部分の内容が私が言った事そのままに近かった事は、きちんと謝罪された。

 

「いえ、お気になさらないで下さい。ザビ家に追随するジオン公国の国民と、一般のスペースノイドが立場が違う事は、公の場で誰かが言わねばなりませんでした。」

「そう言ってくれるとありがたい。」

「かえって演説でその事に触れてもらった事を、お礼申し上げたいぐらいですよ。」

「此度の演説に対する反応も、かなり良かったらしい。幾ばくかなりと目を覚ましてくれた者も多いと良いのだがな。」

 

 私が小さく頷き、同意の言葉を出そうとしたその時、敵襲を知らせるサイレンが響き渡る。私とレビル将軍は互いに頷き合い、将軍は卓上の電話機に取り付いて状況確認と指示出しに動き、私は一足先に格納庫へと走った。

 

 

 

 地上に我々レビル将軍直卒部隊が出た時、既にガウ攻撃空母から幾多のジオン軍MSが降下を行っていたところだった。ガウ攻撃空母の数は10機。降下しつつある敵MSは合計30機。ガウ攻撃空母護衛のドップも30機であった。

 正史におけるガウ32機にはやや少ないが、ホワイトベース隊追跡によってジャブロー入り口が発見された事による、ジオン乾坤一擲の攻撃作戦である事は間違いないだろう。だが逆にこれを叩き潰せば、ジオンの地上における戦力はほぼ無くなる。

 ……いや、もしかしてアプサラスとか開発してる奴らが、まだいるかな?

 

『この、墜ちろ、墜ちろ!!』

『しつこいんですよ!ザザッ』

 

 ラバン少尉機とロン少尉機が、MSを降下させた後に旋回して戻って来たガウ攻撃空母へ、マシンガンの火線を打ち上げている。ガウ攻撃空母は、律儀にも降下させたMSを支援するため、爆撃に戻って来たのだ。

 私のG-3と、レビル将軍のプロトガンダムが、息を合わせ同一目標を狙ってビームライフルを撃つ。狙いはガウ攻撃空母のコックピットだ。狙撃は見事に成功し、ガウはゆっくりと姿勢を崩すと我々の上を通り過ぎて墜落していった。

 

『うわ、流石……ザザザ。』

「いや、これは一撃の火力に勝るビームライフルだからできる芸当だよ。それより降下成功した敵MSを、寄せ付けないように頼むぞ。」

『了解、了解っと。お前さんにゃザザザッに賭けで負けてるからな。』

 

 アレン中尉が冗談を交えて言いつつ、マシンガンで近寄って来たザクⅡを穴だらけにして爆散させた。ツァリアーノ中佐機も、グフB型をビームサーベルで撃破していた。デリス少尉も、さかんに自機にマシンガンを撃たせている。

 我々が4機目のガウ攻撃空母を撃墜した頃である。ツァリアーノ中佐が、珍しく私語を口にした。

 

『あれは……。ホワイトベース隊のガンダムか?流石やるじゃねえか……ザザッ。』

『うっわ、最後のガウの上に飛び乗っザッザザ、ビームサーベルで……。なあ、ゼロ、お前にもあれ出来るか?ザザッ。』

「できるぞ?」

『できるのかよ。』

 

 ラバン少尉の呆れた声が、珍しくノイズなしに聞こえた。いや、シミュレーターでは何度かやって、同じようにガウ攻撃空母を撃墜してたけどさ。実戦では、よほど切羽詰まらないとやるつもり、無いよ?と、そこへレビル将軍の指示が入る。

 

『ザザッ、ガウ撃沈によりMS降下が止んだ!あとザザッ地上に降りたMSを排除せよ!繰り返す!ガウ撃沈によりザザザ……。』

『『『『『「了解!」』』』』』

 

 第1小隊と第2小隊は、各々東西に展開する。私のG-3は戦力配分から言えば第2小隊に付く方がバランスが良いのだが、事実上私はレビル将軍のボディーガードだ。当然の様に第1小隊に付いて行く。

 相変わらず、レビル将軍のプロトガンダムは狙われる。だがこの黒と銀のガンダムが、前線で戦っている連邦軍兵士の士気を高く保っているのも確かだ。でも、前に前に出るのはどうにかして欲し……!!

 

『投降しろ!!ザッお前たちは負けたんだ。無駄な戦ザザはこちらも望んでいない。』

 

 オープン回線で通話!?この声は……マット・ヒーリィか!?

 

『ま、待て!!』

 

 !?……こ、ここかあっ!!『アクシズの脅威V』版マット・ヒーリィは、小説版の「まっくん」じゃなくて夏元雅人の漫画版だろうって言われてるのは知ってたけど!知ってたけど!!『撃つなラリー』の現場は御免だぞ!!

 何処だ……。何処だ!?

 

「そこかあああぁぁぁ!!」

 

 私はG-3のシールドを投擲した。シールドはジムスナイパーⅡと半壊したザクⅡとの間に割り込み、ザクマシンガンの弾丸を受け止める。あのジム・スナイパーⅡが、ラリー・ラドリー少尉だろう。そして超遠射程になるが、私は半壊したザクをビームライフルで狙撃、とどめを刺した。

 

「ふう……。間に合った、か?確認するのは後だな、っと。」

 

 スラスターを全開、G-3ガンダムを全力で跳躍させ、私はレビル将軍を狙ったドムを狙撃して爆散させた。シールドが無くなったのは痛いが、なんとかするしか無いだろう。しかし将軍は相変わらずマイペースで、好きに吶喊して大戦果を上げているなあ。

 

 

 

 戦闘終了後、私が与えられた士官用個室で休んでいると、インターホンが来客を告げた。

 

「はい?」

『……自分は、いや俺はデルタ・チーム……MS特殊部隊第三小隊隊長、マット・ヒーリィ中尉だ。うちのラリー少尉を助けてくれたのが、投げてくれたシールドのナンバーから君だとわかったんでな。ゼロ・ムラサメ少尉。……礼を言いに来たんだ。』

「ああ、中尉。今開けます。」

 

 あー、来たか。来なきゃ、こっちから探して接触取るつもりだったんだがな。私は扉の鍵を開けて、マット中尉を迎え入れた。

 私の人工的ニュータイプ感覚は、マット中尉が苦悩している事を伝えて来る。だが彼は、それでも私に頭を下げて来た。

 

「済まん!君のおかげで俺は、部下を喪わずに済んだ!」

「え?」

 

 私はちょっとだけ惚けてみせる。

 

「たしかにあのジムスナイパーⅡ、狙撃用装備で動けないみたいでしたから、危ないと思ってシールド投げましたが……。投げなかったからと言って、連邦軍のMSはそこまで脆弱じゃあないでしょう。数発ザクマシンガンの弾丸があたったとしても……。」

「いや、シールドに残ったマシンガンの弾着痕を見たんだが……。シールドが無ければ、マシンガンの弾丸はコクピット付近に……。」

「コクピット付近に集中していた?」

 

 私は紙コップにコーヒーを2人分注ぎ、マット中尉に1つ手渡してやる。マット中尉は、悲痛な表情で頷いた。

 

「ヒーリィ中尉。」

「……マット、でいいよ。」

「マット中尉。何をそこまで悩んでいるんだ?俺でよかったら、話してみないか?」

「俺は……。」

 

 私は意図して口調をフランクに変える。マット中尉は、しばらく押し黙ったままだった。私もしばらく黙ったままコーヒーのお替りを注いで、がぶがぶと飲んで待っていた。マット中尉は、ようやく話し始める。

 流石に会ったばかりの私に、深い所までは話さない。しかし彼は相当まいっている模様で、深くは無くともざっとした事は、ついついと言った様子で話してくれた。

 

「俺は……。敵味方なく、多くの人間が生きて終戦を迎えられる、そんな戦いをしてきた。そのつもりだった。だからあのザクのパイロットにも投降を呼びかけた。部下にも奴を撃つな、と言った。

 だがその事が、部下を……仲間を……殺しかけた。」

「……。」

「君は……。君も……。俺が間違っていると思うか?」

 

 私はコーヒーを飲み干す。そして真正面から彼の顔を見据えた。

 

「間違っちゃいないさ。だが、仲間を生き延びさせるため、引き金を引いてとどめ刺した俺も……。『人間としては』間違っちゃいない。どちらも正しいのさ。」

「どちらも、正しい?」

「ああ、マット中尉。あんたは軍人としては間違ってるとは思うよ。だが、人間としては間違っちゃいない。人の感情としては、正常だ。たとえその事で、余計に損害が出たとしても、な。」

「!!」

 

 私はマット中尉に、もう一杯コーヒーを押し付ける。

 

「と言うか、軍人としてとか人間としてとか、分けるのもどうかとも思う。軍人だって人間なんだから。そして軍人としての規範ってのは、できるかぎり戦争を起こさない、起きた戦争を人類社会に対する損害を可能な限り少なく終わらせる、そのためのもんだと思う。

 仮に眼前では、一時的に損害が大きくなろうと、な。……社会学は、専門外なんだよ。あまり真面目に取らないでくれるか?あくまで俺の意見でしかないからな?」

「軍人だとか人間だとか、分けられない、か……。」

「知ってるかい?これは知り合いからの受け売りなんだが……旧世紀の米国で、最大の反戦勢力は、軍人だったそうだよ。そりゃそうだ、戦争起きたら死ぬのは軍人だ。」

「……。」

 

 私はそして、「俺」としての意見を付け加える。

 

「だが、ジオンは叩かなきゃならない。あいつらは、軍隊とか国家とか言う前に、虐殺者だ。ザビ家……ギレン・ザビに傾倒しているやつらは、その危険思想に酔っているやつらは、特に駄目だ。

 先のレビル将軍の演説は、聞いたかい?やつらは政体として信用が置けないよ。連邦政府はたしかに腐敗しているかも知れないが、やつらよりかは若干マシだ。」

「ゼロ少尉、君は……。」

「俺は、レビル将軍を護って戦うよ。そして殺して殺して殺しまくる。それが最終的な被害を……敵味方関係なしに、最終的な損害を少なくする方法だと信じて。レビル将軍なら、連邦の体質も宇宙市民との確執も、解決に導いてくれる。たぶん、な。」

 

 その後しばらく、私たちは無言でコーヒーを啜り続けた。マット中尉が帰った後、私はため息を吐く。少しでもなんとかなっただろうか。はぁ……。正直めんどくせえ……。ゼロと言うガワを被っていても、能力を持っていても、私は常人でしか無いのだよ。マット中尉、小説版の「まっくん」であって欲しかったなあ……。

 

 

 

 レビル将軍直卒部隊は、かつてペガサス級1番艦として建造され、改装されて改ペガサス級3番艦となった、ペガサスに乗り組む事になった。……元からペガサス級や改ペガサス級は登録番号とか艦番号とか混乱の極みだったけど、こうやってペガサスをグレイファントム型に改装したりすると、もう滅茶滅茶になるな。

 ツァリアーノ中佐が、感慨深げに言う。

 

「我々もついに宇宙に上がる事になりますか、将軍。」

「うむ。隊のMSの更新が間に合ったな。」

 

 レビル将軍の言う通り、直卒部隊のMSは大至急の扱いで更新されていた。今までその大半が地上用MSであったため、将軍のプロトガンダムや私のG-3ガンダム以外のMSを、大急ぎで宇宙でも使える機体に交換したのだ。ぶっちゃけ最新鋭の機体だ。

 

「なあゼロ、俺たちの機体はジムスナイパーⅡに統一されたけどさ。」

「なんだ?ラバン。」

「俺たちにガンダムタイプが宛がわれる、って事ぁ無いのかね。」

 

 ラバン少尉、ジムスナイパーⅡでは不足か?

 

「まずはシミュレーターで、マグネット・コーティング機を乗りこなしてからだな。俺がマコーマック博士に聞いたところ、今生産されてる新しいガンダムタイプは、全機G-3仕様か「その次」の仕様だそうだ。みんなマグネット・コーティング機だぞ。」

「うえぇ……。」

「げんなりしてる暇、無いぞ。今ここにいないだけで、マグネット・コーティング機を乗りこなせるパイロットは存在してるんだ。ちょっと小耳に挟んだだけでも、第11独立機械化混成部隊小隊長のユウ・カジマ少尉とか。

 ぼーっとしてると、栄誉あるレビル将軍直卒部隊パイロットの座を降ろされちまうぞ?」

 

 それを聞いて蒼い顔になったラバン少尉は、慌てて私に頭を下げて来る。

 

「そ、そいつは困る。なあゼロ、俺の訓練を見てくれないか?」

「かまわないが……。」

「頼んだぜ!よし、俺もマグネット・コーティング機を乗りこなしてやるぜ!そしていつかはガンダム!」

「その意気やよし、だな。」

 

 ちなみにマコーマック博士も、ペガサスに乗り組んでついてくる事になっている。宇宙空間が私のニュータイプ能力に及ぼす影響を確認するつもりなのだ。いつもの頭痛とは別個に、少々頭が痛かった。




今回は、主人公が未来を少しでも変えるために個人でできる範囲で、無駄を承知で色々やってみる話です。まあ、ラリー少尉が死ななかったのは無駄では無いと思いますが。
『アクシズの脅威V』に登場するマット中尉、小説版の「まっくん」の方が良かったなあ……。でも、小説版だとノエル伍長が黒いんだよなあ……性格が。


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宇宙の海で

 レビル将軍直卒部隊は、ペガサス級1番艦にして改ペガサス級3番艦であるペガサスに搭乗し、ホワイトベース隊……第13独立戦隊に遅れる事2時間、連邦軍主力艦隊と共に地球連邦軍宇宙基地ルナ2へと向けてジャブローを発進した。マゼラン級ジークフリート艦長に異動した先代ペガサス艦長バスク・オム少佐に代わり、ウッディ・マルデン大尉が抜擢されている。

 え?ウッディ大尉って、シャア・アズナブル大佐とアッガイ4機の潜入工作部隊による攻撃で死んだんじゃないかって?レビル将軍のプロトガンダム、アムロ曹長のガンダム、私のG-3の3機のG-3仕様ガンダムでシャア専用ズゴック叩き潰しましたが、何か?

 ……パイロットは逃がしましたが。よくあんな目立つ制服で、潜み隠れて逃げられるもんだ。いや、何度考えてもここでシャアを消しておけなかったのは痛い。

 キシリア暗殺とか、クワトロ大尉としてティターンズと戦ってくれるとか、色々プラスになる部分はあるんだが……。どう考えても、連邦にとってマイナスになる方が大きい。

 

「何考えてるんだ?ゼロ。」

「ちょっと我々の訓練、見て頂けませんか?」

「今度こそ、ランキングを上げてやるぜ。」

「ああ、今行く。」

 

 私はラバン少尉、ロン少尉、デリス少尉に誘われ、シミュレーター室へと向かう。0Gであるため、艦内移動用のグリップを掴んでそれに引っ張られてツイーっと移動するのは、結構面白い。

 そう、0Gである。既にペガサスは宇宙へと出ているのだ。途中、舷側にある船窓の傍らを通りがかる。戦闘配備中でも無く、大気圏突入中でもないから、船窓のシャッターは開いており、宇宙空間が見える。

 隣を航行しているはずの改ペガサス級のペガサスⅡ、そして幾多の後期生産型マゼラン級、後期生産型サラミス級、コロンブス改級、アンティータム級補助空母は、私の……ゼロの視力をもってしても、良く見えない。かろうじて舷灯などで艦の場所や輪郭などがわかるかどうか、だ。

 

「右から2番目の星に向かって、朝までまっすぐ……か。」

「お?スタートレックか?古典だな、ゼロ。」

「いえ、ピーターパンでしょう?古典には違いありませんが。」

 

 デリス少尉とロン少尉の言葉に、私は笑った。

 

「どちらも正しいけど、厳密にはロン少尉の方が正しいな。スタートレックの方は、元々ピーターパンからの引用なんだ。」

「ゼロって、妙な事は良く知ってるよな。日常では、妙に物知らずだったりする事もあるのによ。かと思えば、変に情勢に詳しかったり。」

「ははは。」

 

 すいません、それはゼロの中の人である私の知識なんです。あと、日常的な事で物知らずなのは、私の知識に無い上にゼロが記憶を奪われてるからですね。あはは。

 

 

 

 シミュレーター訓練では、少尉連中3名の技量は随分向上しているのが肌で感じられた。この分なら、もうそろそろマグネット・コーティング機も扱えるだろう。私はふと、シミュレーターの訓練記録を呼び出して見る。

 1位は私、ゼロ・ムラサメ少尉。2位はヨハン・イブラヒム・レビル大将。レビル将軍も、暇を見ては腕が鈍らない様に訓練に励んでいるらしい。3位は……おや?

 

「3位タイ記録……。フェデリコ・ツァリアーノ中佐とディック・アレン中尉……。」

「「「な、何いいいぃぃぃっ!?」」」

 

 少尉3人は愕然とする。彼らは知らないが、アレン中尉は実は努力家だ。だがそれを殆ど表に見せない事に、ほぼ成功している。まあ、ニュータイプ能力を持つ私は、「あ、今アレン中尉シミュレーター室にいるな」とわかってしまうのだが。

 一方ツァリアーノ中佐は、彼も努力家ではあるのだが、レビル将軍の副官任務も受け持っているため、時間があまりにも足りない。足りないはずの時間を、だが彼はなんとかかんとかひねり出して、効率よく訓練している。

 ……総帥時代のシャアって、どうやって訓練時間をひねり出してたんだろう。忙しいはずなのに、しっかり訓練できてるはずのアムロとほぼ同等の操縦能力を維持してたよな。……同じ事は、今現在のレビル将軍にも言えるのか。

 

「こうしちゃいられん!俺たちも負けちゃいられないぞ!」

「ああ、もう1戦だ!」

「ええ!やりましょう!」

 

 張り切る少尉3名に、私はこっそり笑みを漏らす。

 

「じゃ、試しに設定をマグネット・コーティング機にしてやってみないか?」

「「「ぐ……。」」」

「いや、詰まってるんじゃない。何事もチャレンジだろ?じゃ、設定変更するぞ。」

「「「はい……。」」」

 

 結果は、一応機体を扱えたものの、シミュレーターのスコア自体は伸びなかった。つまりまだマグネット・コーティング機は必要無いと言う事だ。だが彼らの技量の伸びは著しい。あと少し頑張れば、G-3やその次……ガンダムNT1アレックスを扱えるだろう。

 

 

 

 少尉3名の訓練を見た後で、自分もシミュレーターで訓練をする。宇宙に出てから、感覚が鋭くなったのか、反応速度がより一層速くなり、スコアが向上した。うん、なんか宇宙に出てから、人工的とは言えニュータイプ能力の持ち主だけあるのか、なんか四方に感覚がフワァっと広がってる感じがするんだよな。

 で、そのフワァって広がった感覚に、マコーマック博士の気配が割り込んで来る。やれやれ。

 

「ゼロ、訓練中だがちょっと良いか?」

「はい、博士。」

 

 私はシミュレーターを一時停止させて、筐体を降りる。マコーマック博士の用件は、宇宙空間が私の身体的条件や、人工的ニュータイプ能力に与えた様々な影響について、細かく問診をする事だった。

 私は身体的な条件に関してはさほど変化が無い事、ただしニュータイプ能力に関しては若干の成長が見られる事を答えた。ただしそれが、宇宙に出た事によるためか、度重なる戦闘と訓練によって能力が向上したのかは、分からないと答えておいた。

 

「むむ、これが宇宙空間に精神が適応した結果ならば……。だが……。むむむ……。」

「博士、訓練に戻ってもよろしいでしょうか。」

「む?うむ、かまわん。これをどう解釈したものか……。やはり検体が1体では……。」

 

 最後に聞き捨てならない事を言って、マコーマック博士はシミュレーター室を立ち去る。冗談じゃない。強化人間をこれ以上作られては、たまったもんじゃない。だが、止める方法が無いのも確かだ。レビル将軍の良識頼みだなあ……。

 

 

 

 宇宙に出てから、いつもの頭痛は無くなりはしないが、軽くなった気がする。いや、慣れで楽になっただけか?微妙なところで、よくわからない。ただ確実に、ニュータイプ感覚は研ぎ澄まされていってる。

 私は自室で宙に浮かびながら、ニュータイプ感覚を意図的に可能な限り薄く、遠く、広く、広く、広く、伸ばしてみた。……いつもの頭痛が痛い。あるところまで広げたら、その感覚に多数の人間の意識が引っ掛かったのだ。

 おそらくこの人間たちの意識は、ルナ2の人員である。この頭痛は、ルナ2の人間たちの意識を拾った事で、頭脳がオーバーフローしたのかも知れない。

 

「……く、これも訓練だと思って耐えてみるか。」

 

 耐えた。頑張って耐えた。根性入れて耐えた。渾身の力を込めて耐えた。必死こいて耐えた。思いっきり疲れた。

 

「やめやめ。無理はするべきじゃない。」

 

 それでも何と言うか、何かしらのコツは掴めた様に思う。地球上では、周囲の気配とでも言うべきものが多すぎて、こういう訓練はやる気になれなかった。私は天井に手を伸ばし、とん、と突いて反動で床に降りる。

 磁力靴で床に降り立つと、私は部屋の外へと出た。今の感覚ではルナ2は近い。時計を見ても、予定時刻が近いのがわかる。入港に際してはレビル将軍の座乗艦と言う事もあり、式典が行われる。馬鹿らしいと思うかもしれないが、大事な事なのだ。

 この世界にも存在する、何処かの誰かさんは、「男子の面子、軍の権威、それが傷つけられてもジオンが勝利すればよろしい。その上であなたの面子も立ててあげましょう。」と言った。だが軍人たちと言えど普通の人間だ。

 日常を生きていた普通の人間を、戦闘と言う非日常に追いやって戦わせている以上、彼らに戦いを肯定させるための心理的な支えが必要なのだ。それが軍の権威であり、男子の面子である。それが傷つけられてしまっては士気が下がり、軍が敗北する一因ともなりかねない。

 さて、入港式典に備えて、MSで配置に就かなくてはならない。私はG-3を格納してある、右前方のデッキへと向かった。

 

 

 

 私のノーマルスーツは、主にオーガスタ研で使われている仕様の物に近い。具体的に言うと、0083の時代に使われている物とほぼ同等品だ。だがあちこち微妙に違うのは、やはりムラサメ研の前身であるニュータイプ研究所謹製の品だからだろう。

 

『……何度見ても、お前のノーマルスーツ、高機能っぽいよなあ。』

「ラバン、試作品ってのは色々問題も抱えてるんだぜ?備品とかの補給も大変だし。G-3はともかく、このノーマルスーツに関しては、あんまり羨ましがられたくないな。」

 

 めずらしく、まったくノイズの無いクリアな通信環境で、ラバン少尉機のジムスナイパーⅡから雑談の通話が入る。流石にジオン連中も、そうそうルナ2周辺にミノフスキー粒子を撒かないか。

 

「まあ、不具合とか直れば、すぐ量産されて一般的になるさ。」

『だと良いんだけどな。』

 

 我々は今、MSデッキの上、甲板上に出てMSを整列させている。一応フル装備をしてはいるが、ビームライフルは腰にマウントし、シールドは背中にマウントしていた。機体の右手を空けておく事が、重要なのである。何故って、敬礼するから。

 レビル将軍のプロトガンダムが、MSの列の先頭に立って敬礼している。その次に並んでいるのが、見栄えがするという理由だけで選ばれた私のG-3ガンダムである。本当はツァリアーノ中佐機が並ぶのが筋だと思うのだが、まあ仕方ないね。

 入港式典の間中、我々の機体は敬礼の姿勢のまま固定状態であった。強化人間であるわたしは、さほど肉体的には疲労しない。だが精神的にはやはり疲れた。

 レビル将軍が、短い演説を機体から直接行う。あ、係員がプロトガンダムに直通回線のケーブルを慌てて繋いでるや。あんまり慌てて失敗するなよー?

 

 

 

 式典が終わって入港したものの、我々レビル将軍直卒部隊の面々は、まだ解放されない。ルナ2司令、ヴォルフガング・ワッケイン少佐と、レビル将軍の面会に付き合わされたのだ。

 いや、レビル将軍としては自分とツァリアーノ中佐だけでいいと最初言っていたんだよ?だけど広報部のTVカメラが来るからと、ツァリアーノ中佐が苦言を呈し、将軍もしぶしぶ前言を撤回したのだ。思い直してからは、積極的に我々を引き回したけど。

 かくして私たちは、色々なショー的要素の多分にある、様々な会合や会議の間、解放されなかったのだ。ああ、会議と言ってもあくまで偉いさんの顔合わせ的な物で、作戦内容とかはTVカメラの前ではやらなかったよ?勿論の事だけど。

 

 

 

 いや疲れた。先ほども言った通り、肉体的には大したこと無いんだが、気疲れした。

 レビル将軍が宇宙に上がって来るまで、連邦宇宙軍を率いて頑張っていたマクファティ・ティアンム中将とダグラス・ベーダー中将、心中一物有りそうだが、彼等を政治的に支えたグリーン・ワイアット中将。ここまでが宇宙にいた一同。

 レビル将軍とは別便の、改ペガサス級ペガサスⅡに乗って宇宙に上がって来たジョン・コーウェン少将。おそらくはレビル将軍にのみ手柄を立てさせることを危惧したジーン・コリニー中将。この2人が、レビル将軍同様にジャブローから打ち上げられてきた者達。

 こういった面々が集まる中、我々レビル将軍直卒部隊は、将軍を護り支えて来た勇士たちとして紹介され、付き合わされていた。いや、我々1人を除いて尉官ですよ。一番上でも中佐ですよ。6人中4人は尉官でも最下位の少尉ですよ。それが将官に取り囲まれて、半ば見世物になってるんだよ。

 いや、ほんと気疲れした。解放されて解散が言い渡されたときには、本当にほっとしたものだ。ラバン少尉達はそのままPXに繰り出すらしい。私も誘われたが、その前にツァリアーノ中佐の一声がかかった。

 

「ゼロ少尉、お前さんは将軍から呼び出しがかかってる。急いで行け。ラバンやロン、デリスとは代わりに俺が飲んでてやるからな。ああ、ディックの奴も誘うか。」

「「「でぇーい!?」」」

「なんだ?不満か?」

「「「いえいえいえ!歓迎しますです!」」」

 

 ラバン少尉たちに同情しながら、私はレビル将軍の元に急いだ。将軍は未だ会議室に居る。だが中にはまだ何人かの将官が残っている様だ。わたしのニュータイプ感覚は、それがティアンム中将、ベーダ―中将、ワイアット中将、コーウェン少将の4名である事を感じ取っている。

 つまりは、レビル将軍の政敵コリニー中将以外、先ほどの将官たち全員が集っているのだ。いったいこれは何なんだろう。私は会議室の前に立っている歩哨に、入室許可を求める。すぐに入室許可が下りて、私は会議室へと入って行った。

 

「ゼロ少尉、出頭いたしました。」

「うむ、楽にしていてくれ。」

 

 レビル将軍は、沈鬱な表情で言う。私には、その表情の影に、何かしら決意の様な物を感じ取れた。何だ?将軍は何を決意している?

 

「諸君……。彼が、ゼロ・ムラサメ少尉だ。私直卒部隊のトップエースにして、戦場での私のボディーガード役を務めてもらっている……。そして、私の罪の象徴、いや被害者だ。」

「「「「「!?」」」」」

 

 私を含め、その場にいる者達は驚いた。だがその驚きは、私と将官たちとでは若干質が異なる。私の驚きは、「そう来たか……。」とでも言うべき物だったから。

 

「諸君も噂では知っているだろう。この戦争が始まってしばらくした頃、MSの配備遅れのために劣勢を強いられていたあの頃に、私がある提案をある将校から受けた事。戦力欲しさにGOサインを出してしまった事を……。

 強化人間開発計画、だ。」

「「「「!!」」」」

「……。」

「……ニュータイプの能力を持っている兵員を、人工的に作り出す計画。当然ながら人体実験なども含まれる。……彼がその犠牲者、強化人間第1号、コードネーム、プロト・ゼロだ。」

 

 将官たちは言葉も無い。だが1人の中将が、沈黙を破った。ワイアット中将だ。

 

「それでレビル将軍。我々に、何を望んでおられるのですかな?紳士として可能な限り、お力になりましょう。」

「ありがとう、ワイアット中将。」

 

 ワイアット中将には、打算もあっただろう。だが、その一言がこの嫌な空気を打破したのも間違いは無い。レビル将軍は続けた。

 

「わたしはいまさらながら、彼を救いたい。モルモットとしての扱いから、救い出したい。貴官らに頼みたいのは、私と貴官らとで、彼の後ろ盾になって欲しいのだ。

 ……伏して、頼む。張本人である私が言える事ではない。だが……。」

「そこまでです、将軍。あの当時、将軍にかかっていた重圧は信じ難いほどでした。そこに悪魔の誘いがあれば、それが悪事だとわかっていても、わたしとて応じてしまうでしょう。」

「ティアンム提督の仰る通りだ。恥じるべきは我々だ。あの時は将軍に全ての責任を負わせて、自分達はただ戦うだけで自分たちの責任を果たしている気になっていた。何のための将官の階級なのか。」

 

 ベーダ―中将の言葉に被せる様に、ワイアット中将が言葉を紡ぐ。

 

「ふむ……。ですが、ゼロ少尉を救い出しただけでは片手落ちですな。いえ、わたしの情報網に、コリニー中将配下のジャミトフ・ハイマン大佐が何やら動いているのが引っ掛かりましてな。

 戦災孤児を集めた孤児院などに接触を取っているのですよ。」

「それは!!……間違いなく、研究の被験者を集めるための行いでしょうな。」

 

 コーウェン少将が、厳しい瞳になる。ワイアット中将は、微笑みを浮かべて言った。

 

「……先ほど、紳士として可能な限りお力になる、と言ったのは嘘ではありませんよ?レビル将軍。ここにいる同志たちの中で、そう言った方面で動く事を得手にしている者は、わたしと……。コーウェン少将、紳士らしく君も手伝ってくれないかね?」

「む、よろしいでしょう。」

「我々2人で政治的に、あるいは「その他の手」を使っても、彼等を妨害しましょう。他の同志諸君は、ゼロ少尉はじめ救出した者達を保護し、護る事に専念していただきたい。」

「……ありがとう、諸君。」

 

 レビル将軍が、頭を下げる。ワイアット中将、流石としか言い様がない。いつの間にか、この場にいる者達を共犯者的な同志に仕立て上げ、会合のイニシアティブを取ってしまった。レビル将軍は、ワイアット中将に大きな借りを作ってしまった事になる。

 正直、レビル将軍にこんな事をさせてしまった事で、申し訳ない気持ちで一杯になった。それと同時に、有難くも嬉しくも思う。……しかし、ふと思った。もしかして、これは良かったのでは?

 ワイアット中将は、あのゴップ大将との繋がりも深いらしいし、政治的に大きな能力と影響力を持つ。軍人として天才的なレビル将軍が、若干なりと苦手とする分野だ。ワイアット中将が離反しない様に適度な利益を与え、Win-Winの付き合いを続けていければ。レビル将軍は、優秀な政治参謀を手に入れた事に……!

 

(ゼロ少尉、こんなものでどうだろうか?)

(レビル将軍!?)

(我々には、協力者が必要だ。そして弱みを晒してみせねば、信頼は築けない。他の者はともかく、ワイアット中将は賭けだったが……。なんとか勝ったのではないかね?)

(将軍……。閣下、あなたと言う方は……。)

 

 私は思念に、苦笑いの意思表示を込めて送り出す。やれやれ、みんな狸だ。まあ、狸は狸でも、根が善良だからいいけどさ。さて、ワイアット中将に裏切られない様に、きちんと利益を与える事が今後重要になってくるね。うん。




シャアを残念ながら逃がしてしまいました。まあ、しばらくはフショウチュウなのですが(笑)。
そしてグリーン・ワイアット中将が味方に付きました。彼は『アクシズの脅威V』では戦場の能力は評価されてませんが、アニメでの行動を見る限り無能とは言えないと思うんですよね。ゲーム持って無いので直接は知らないのですが、『ジオン独立戦争記』でもなんか政治方面で評価されてるって話なので。味方にしておいて、損は無いかと。


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ソロモン攻略戦

 ルナ2の周辺宙域で、我々レビル将軍直卒部隊はゼロG環境下での戦闘訓練を行っていた。レビル将軍自身は色々と忙しいため、実機訓練は3回に1回程度しか参加できていない。できていないのだが……。

 

『ツァリアーノ中佐、これで撃墜だ。』

『ぐっ……。りょ、了解……。』

 

 他の者の1/3しか実機訓練できてないのに、シミュレーター訓練でのランキング3位タイのツァリアーノ中佐を、あっさり下してるよ。ツァリアーノ中佐は、機動の様子からして手加減とかしてないのにさ。何者だ、あの爺さん。

 私は私で、あぶれたラバン少尉と組んでディック・アレン中尉の第2小隊全員と模擬戦をしている。私もけっこう派手にやっているのだが、私は強化人間だし、自慢にはならない。

 

『ゼロ……。一瞬で3機全員叩き潰すの、訓練にならんからやめてくれんか?』

「何言ってるんですアレン中尉。いくら俺だって、そちらの小隊の連携とか、あるいは個々人の機体の機動に欠点……隙が無くちゃ、一瞬で叩き潰すのはできませんよ。

 逆に言えば、まだまだ隙があるからです。やっぱり地上にいた頃より、隙が多いし大きいですよ。俺が見つけた隙を説明しますから、それを潰す様に訓練してください。」

『むむ、返す言葉もねえな……。』

 

 ラバン少尉が、情け無さそうに言う。

 

『いや、そう言う意味じゃ、ゼロと組んだ俺の方が訓練になってないんだけど……。』

「ラバン、そんなら後でタイマンでやろう。と言うか、今の模擬戦でも機動の隙をゴロゴロと見つけた。直しておかないと、一瞬で墜とすぞ?」

『ぜ、ゼロと1対1かよ!……いや、ここは踏ん張りどころだ!少しでも機動を盗んでやる!』

「その意気だ。」

 

 その後、散々にラバンやら第2小隊やらを叩き潰して、だが少しずつ私の攻撃に耐えられる時間が長くなってきたあたりで、今回の訓練時間は終了した。ちなみにレビル将軍は、もうちょっとMSに乗っていたい様子だったが、副官を兼任しているツァリアーノ中佐に諫められ、改ペガサス級ペガサスへと帰艦していった。

 

 

 

 訓練終了後、私はペガサス内に与えられている自分の士官用個室で、訓練の報告書を書いていた。報告書を書くのは、非常に難しい物がある。ニュータイプ的感覚について書いたところで、それについて理解できるのはほとんど居ないためだ。

 よって、あくまで私の報告書は、MS戦闘技術論的な面からの報告書になってしまう。だが私の戦闘での成果は、人工的に付加されたニュータイプ能力による物が多大な領分を占める。それを排除して報告書を書くのは、難しい……難しいのだ。

 私は少し休憩を取るべく、艦を降りてルナ2基地のPXに向かった。ペガサスの食堂よりも、基地のPXの方が品揃えも多い。

 

「コーヒーと……カップケーキにするか。頼むよ。」

「了解、パイロットさん。」

 

 流石ルナ2基地だ。小さいとは言え、贅沢品の甘味がPXに並んでいる。甘党の私としては、嬉しくなってしまうな。私はPX内の飲食スペースに移動し、上機嫌でカップケーキを食べはじめた。

 ……やはり品質はあまり良くない。良く無いが、できるだけ労力と手間をかけずに、できるだけ味を良くし、少ない材料の中可能な限り嵩増しして満腹感を与えようとの、努力の跡が見て取れる味と食感である。

 

「この味を出してくれてる後方の人も、自分たちに出来る範囲で必死に戦ってるんだよな。彼らのためにも、フロント要員の俺たちは勝ちたい、勝たなきゃならない。

 そうは思わないか?マット中尉。」

「うわ!びっくりしたな。君も来てたのか、ゼロ少尉。」

「それはこっちの台詞でもあるな。宇宙に上がってたのか。」

 

 気配を感じ、半ばびっくりさせるつもりで振り向かずに声を掛けてみた相手は、何と言うかマット・ヒーリィ中尉だった。デルタ・チームは地上に留まるんじゃなかったっけ?ガンダム戦記のゲームじゃ、宇宙ステージ無かったよな?

 

「隊長、その人誰ですか?」

「へーえ、中々可愛いじゃないの。ま、隊長には負けるけどさ。」

「か、可愛い?俺が?……あれ?あんた、凄腕メカニックって噂のアニー・ブレビッグ?」

「え?へえー、あたしの腕前も捨てたもんじゃないね。他の部隊にまで名前や評判が広がってるなんてさ。」

 

 漫画原作準拠だとばかり思ってたが……。改ペガサス級サラブレッド隊に、転属命令を受けて行くはずじゃなかったっけ。いや、デルタ・チームそれ自体が宇宙に上がったから、引き抜きはされなかったわけかな?

 ……サラブレッド隊の事が心配になるな。アニー上等兵の気質が無けりゃ、フォルドが改心して少しは大人になるかどうか……。アニー上等兵の代わりに向こうに入ったメカニックに期待できるかなあ。

 あ、ノエル・アンダーソン伍長とレーチェル・ミルスティーン中尉まで居るじゃん。

 

「隊長、こっち席空いてますよー?」

「すまないノエル。俺はちょっと彼と話があるんだ。」

「えー?」

「ははは、隊長はもてるな。」

「お嬢さん方?あんな唐変木より、俺の方がお買い得だぜ?」

 

 ちょ。少し違うが、ギャルゲパートのラストシーン!?

 

「「「やっぱりセール品より、ブランド物がいいわよねー♪」」」

「そんな事言っちゃうんだ……。」

 

 やりやがった……。この女どもは……。アニッシュ・ロフマン曹長ェ……。私はマット中尉にだけ聞こえる声で、小さく問いかける。

 

「おーい、ブランド物。ご意見は?」

「あ、いや俺は……。はは……。」

 

 まあ、マット・ヒーリィじゃそんな所だろな。

 

「まあ、トレー持ったまま立ってないで、座ったらどうだい?」

「ああ。……っと、そうだラリー。……彼がレビル将軍直卒部隊の、ゼロ・ムラサメ少尉だ。」

「君が!!……なんだ、その。君のおかげで命拾いした。ありがとう。デルタ・チームのラリー・ラドリー少尉だ。」

 

 ラリー少尉が慌てて席を立って、こちらに歩み寄って来る。歩き方が多少変なのは、磁力靴にまだ慣れてないからだろうか。そして私に向かって小さく会釈し、右手を差し出して来た。私はそれに応え、右手を伸ばして彼の手を取る。

 

「よろしく。ご紹介に預かった、ゼロ・ムラサメ少尉だ。ああ、俺を呼ぶときはゼロでかまわんよ。」

「こちらこそ、よろしくな。こっちもファーストネームでかまわない。」

 

 私は握った右手を軽く上下に揺らすと、手を放す。ラリー少尉は隊長であるマット中尉に目礼して、元の席に帰って行った。おもむろに私は、マット中尉に目を移す。彼はゆっくりと、私の目の前の席に着く。

 

「……人間関係は、大丈夫そうだな。」

「む?そんな事までわかるのかい?まあ、一時期はちょっと危なかった事もあったけどね。でも信頼できる仲間達のおかげで、ね。」

「そうか……。正直、気になっていたんだ。安心した。」

「ふふ、人がいいな。」

「ほっといてくれ。」

 

 カップケーキの残りをちょびちょび口に運びつつ、私は仏頂面で言った。まあ、本気ではない。正直、人が良いと自分でも思うからだ。自分自身が、それどころでは無いと言うのにな。

 

「……ジョン・コーウェン少将と一緒に来たのか?」

「ああ。少将の座乗艦ペガサスⅡのMS隊は、俺たちMS特殊部隊第3小隊と第5小隊で構成されてる。事実上、コーウェン少将の護衛さ。」

「なるほど……。突っ込んだことを訊く様だが、地上でやり残した事とか無かったのか?」

「あるよ。」

「あるのか……。」

 

 私が呆れたように言うと、だがマット中尉は笑って言った。

 

「戦いを早く終わらせるための戦い……。俺はそれを信じて来たんだ。だけど、俺は部下を殺しかけてしまった。それじゃあ駄目だ。そのまま進んでも、その先に俺の目指す理想は無い。

 それで悩んでたとき、2つの道が用意された。1つはアジア方面への転戦で、以前取り逃がした敵新型MSを追う道。もう1つはコーウェン少将と宇宙へ飛ぶ道。……結論が出ないまま、あの敵とぶつかりたくは無かった。逃げ、なのかも知れないけどな。それで宇宙へ。」

「逃げ、か。逃げてもいいんじゃないか?」

「え?」

 

 マット中尉に、私はにやりと笑って言った。

 

「逃げてもいいって、そう言ったんだ。ただし、逃げるのは余裕を取り戻して、もう一度立ち向かうためだ。無目的に逃げるのは駄目だ。無目的に逃げるのは、最悪の逃げ方だぞ。

 まあ、無理に突っ込んで行っても、悪い結果になりそうな気がするからな。この場合。逃げて正解じゃないかな。」

「……。」

 

 ラリーの死を乗り越えてもいないし。それによって強固な決心を固めてもいないし。まあでも、漫画版マット中尉のその後は、現実を無視してる感じがする理想家すぎて、ちょっと嫌なんだけどな。

 

「ただ、宇宙はマジで激戦だ。殺さないではいられない。……殺す必要の無いのを無理に殺せ、とまでは言わないけどさ。『戦争として必要な殺し』だけは覚悟しておいてくれ。生かして帰した敵が、次回にアンタやアンタの部下を殺すかもしれない。」

「……わかって、いる。」

「いや、まだ……わかっている「つもり」だな。アンタさっき、「部下を殺しかけた」って言ってたろ。……アンタ自身も、死んじゃダメだ。なんかな、透けて見えるんだ。アンタ、自分自身の生死を計算に入れてないところがある。いつからなのかは、知らないけどな。」

 

 いや、たぶんガンダム戦記の漫画の、1巻から2巻に移るあたりじゃないかなとは思うんだが。あの辺りから、漫画版のマット・ヒーリィは徐々に人間臭さが失せていった。んー。それじゃ駄目だと思うんだよな。

 私の台詞に、マット中尉は愕然とした。

 

「!?」

「……美味いな。この品質の悪いケーキ、ひたすら美味い。なんて言うか、前線の将兵の口に入れるために、必死で作ってる味がする。なあ、マット中尉。マット中尉は何のために戦ってる?

 俺は最初、生きるためだったよ。今は、この品質の悪いケーキを必死で美味く仕上げてくれてる人たちを護りたいなあって、そうも思う。一緒に戦ってる仲間達を、1分1秒でも長く生かしたいなあって、そうも思う。」

 

 カップケーキの最後のひと欠片を口に放り込み、咀嚼して飲み込む。

 

「マット中尉の戦う理由、立派だと思う。でも何て言うか……。口が上手く無いのは、勘弁してくれ。……泥臭く無いんだ。宇宙で言うのも何だけどさ。地に足がついてない気がする。

 アンタにも、もっと泥臭くて地に足が付いた、「原点」ってもんがあったんじゃないか?」

「あ……。」

「あと、さ。悩むのはいいと思うけど、戦いの中で悩むなよ?……じゃ。」

 

 ふと見ると、ノエル伍長がこっちを睨みつけている。おお、怖い怖い。アニー上等兵は、ほおーっと感心した目で。そしてミルスティーン中尉は、こちらを見定める様な目で見ていた。……怖。いやマジで。

 私はそそくさと足早に、そこを立ち去った。

 

 

 

 レビル将軍の言葉が、改ペガサス級ペガサスのレーザー通信回線を使って、周囲の全域に響き渡る。レーザー回線だから、ミノフスキー粒子の影響も無く、音声や画像は綺麗だ。

 

『これよりわが軍は、チェンバロ作戦を開始する!目標はジオン宇宙要塞ソロモン!諸君らの奮戦に期待する!』

 

 ルナ2基地より、ベーダー中将が率いる、後期生産型マゼランと後期生産型サラミス、アンティータム級補助空母で構成された連邦軍第1艦隊が出陣して行く。我々の乗艦する改ペガサス級ペガサスは、ペガサスⅡ、ブランリヴァルの他2隻の改ペガサス級強襲揚陸艦と共に、連邦軍第3艦隊に所属している。第3艦隊は、あと20時間後に出立だ。

 更にその25時間後には、コリニー中将の第2艦隊が出撃する。噂では本来、第2艦隊の指揮官はティアンム中将だったはずなのだが、コリニー中将が無理を言ってその座を奪ったらしい。まあ、あくまで噂なのだが。何にせよ、ティアンム中将はブランリヴァルに座乗し、第3艦隊の次席指揮官に収まっている。

 そして時間が来て、我々第3艦隊、そして第2艦隊も出陣した。

 

「……そして、何事も無く我々は、宇宙空間を航宙していた、と。」

「気を抜き過ぎじゃないか?ラバン。」

「だってよ、予測じゃ少しは敵の小艦隊とかち合う可能性があるとか言ってたのに、全然敵襲ないんだぜ?」

「今もミノフスキー粒子による通信障害が起きてるだろうに。」

「いや、味方がバラ撒いたミノフスキー粒子って可能性が高いらしいって話じゃないかよ。」

「それは、まあ。なあ……。」

 

 ルナ2出港後、5日目の事である。右舷デッキの詰め所で待機していた私とラバンは、半ば駄弁りながら交代時間を待っていた。だがその瞬間、私の脳裏に閃光が走る。

 私はG-3のコクピットへと走り、飛び乗った。ラバンが唖然としているのが感じられる。

 

「ブリッジ!ゼロ少尉、発進する!」

『ちょザザッゼロ少尉!発進許可は……。』

「緊急事態だ!説明してるヒマは無い!急いでハッチ開けてカタパルトを!」

『こちらマルデン艦長。私ザザッ権限でゼロ少ザザザの発進を許可する!』

「ありがたい!ゼロ・ムラサメ、G-3ガンダム、出るぞ!」

 

 発進時のGは、もう慣れた物だ。だが少し地球の重力を思い出し、ほんの少しだけ苛立つ。ズキン、ズキンといつもの頭痛がするが、充分耐えられる範囲だ。

 

(何処だ……。見つけた……。だが角度が悪い。)

 

 G-3は私の操縦に従って、大きく弧を描く軌道で移動する。私は口に出してタイミングを計る。

 

「3……2……1……今っ!!」

 

 私のG-3が撃ったビームライフルの閃光は過たず、接近しつつあった衛星ミサイルのエンジンを撃ち抜いた。衛星ミサイルとは、宇宙要塞を建設する際に出た岩塊に、ロケットエンジンを取り付けて、それを敵艦……つまり我々からすれば味方艦に向けて飛ばす悪夢の兵器だ。

 いや、だって小説版の機動戦士ガンダムにも書いてあったし。正確な文章は覚えてないけど。石ころを投げつけられて艦船が沈むのはあまりにナニだって。私もそう思う。悪夢の兵器だよな。

 爆圧で、衛星ミサイルは軌道を変え、狙っていたペガサスを大きくずれて宇宙の闇に消えて行った。そこへ慌ててペガサスから発進してきた、第1と第2小隊が文字通り飛んでくる。まあ、レビル将軍はいないのだが。将軍はスクランブル配置には基本入ってない。

 

『ゼロ!ザッザザザ敵は!?』

「3時、下方30度!衛星ミサイルを撃つだけ撃って、逃げた!ソドン級巡航艇!

 ……ガンキャノンかその量産型、せめてジムキャノンがあれば間に合ったんだが。」

 

 そちらの方角を見遣れば、ソドン級巡航艇が熱核ロケットの炎を噴いて、ひたすら逃げていくのが目に映った。……はて、あの方角は?

 

 

 

 ウッディ艦長とレビル将軍に今回の衛星ミサイル迎撃について報告した後、私は艦橋のオペレーターにソドン巡航艇が逃げた方向について聞いて見た。

 

「ああ、あれは月方面へ逃げたわ。いえ、あっちにはサイド3やア・バオア・クーがあるから、そっちに逃げたのかも知れないけれど。」

(……まさか。まさかだろ?まさか、な。)

 

 実はこのとき、私の脳裏には悪い予想が浮かんでいた。何故、一番近い拠点であるソロモンへ逃げない?まさか、まさかとは思うが……。

 

「この攻撃が、時間稼ぎだとしたら……。やばい、か?短期的には良い事だろうが……。やる気になっていた兵員の士気が低下しないか?あるいは低下しなくても、気が抜けて敵を侮ったりしないか?」

「ゼロ少尉?」

「あ、ああ済まん。考えが口から出てたか。」

 

 オペレーターに謝罪すると、私はG-3を格納している右舷デッキへと向かった。

 そして第3艦隊がルナ2を出て6日目の事である。先行して小艦隊に分かれ、ミノフスキー粒子を散布しつつソロモン宙域までの道を作っていた第1艦隊からレーザー通信が入った。

 

『ジオン軍は宇宙要塞ソロモンを放棄。宇宙要塞ア・バオア・クーもしくはグラナダに戦力を集中している模様。』

 

 やっぱりだった。『アクシズの脅威V』では、ある程度敵特別エリアを攻略すると、敵AIは方針を変えて戦力をサイド3方面にため込む様になる。そのタイミングで偶然ソロモン攻略作戦を発動したりすると、さくっと戦闘無しでソロモンを攻略できたりするのだ。

 だがそれはゲームの話。現実に戦闘無しでソロモンが攻略されたとなると、しかもそれが敵の戦略方針によるものだとすると、どうなるか。悪い事ばかりでは無い。戦力の保全ができる。しかし良い事ばかりでは決して無いだろう。

 今、味方は一部を除いてお祭り騒ぎだ。敵が逃げ出した事で、この戦争は勝ったも同然とか思い込んでいる能天気な連中が多い様だ。そんなわけはあるか。ここで楽をした分、ア・バオア・クーとグラナダで非常に苦労をする羽目になるのは目に見えているぞ。

 定期報告のためブリッジに上がった際に、提督席のレビル将軍の様子を窺う。やっぱり難しい顔をしていた。艦長のウッディ・マルデン大尉も、わかっている様だ。だが全軍の浮ついた雰囲気は、どうした物か。

 丸1日後、ペガサスを先頭に連邦軍第3艦隊は、ゆっくりと宇宙要塞ソロモンへと入港していったのだった。

 

 

 

 ちなみにソロモンのドックで、持ち出せなかったため機密保持で爆破された、組み立て中の巨大MAビグザムが見つかった。無事に鹵獲できてれば、Iフィールドとか色々技術が手に入ったのに……。




ゲーム『アクシズの脅威V』でよくあるパターン、ソロモン無血開城!でもこれが、ゲームのAIの思考パターンによる物じゃなく、深謀遠慮による決定だったら、怖いですよねー。更に、それで油断するなんてもっての外。でも連邦軍の将兵が油断しちゃうのは避けられないでしょうねえ……。油断してなくても、張り切ってたとこでいきなりハシゴ外された感は……。
あとマット・ヒーリィとデルタ・チーム、宇宙に来ました。なんとか意識改革に成功できるといいんですが。


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ジオンのニュータイプ

 ソロモンはかなり急いで放棄されたらしく、施設や設備こそ、さほどは破壊されていなかった。しかし物資の類は持ち去られるか、あるいは破棄、破壊された物が多かったみたいだ。ラバンの奴が聞き込んで来た話では、だけどな。……いつの間にか、ラバンたちの事、敬称や階級つけないで呼び捨てにする様になったなあ、私。

 だけどその話は、正しかったみたいだ。このためレビル将軍は、星一号作戦――目標がア・バオア・クー、月面グラナダ、そして敵の本丸サイド3ムンゾのどれかは未だ発表されてはいない――の実施を延期し、ルナ2から物資を運ばせざるを得なかったんだ。

 しかしその補給物資の輸送は、遅々として進まない。何故なら……。

 

(ラ……ラ……。)

(くっ……。またか!やめろ!やめてくれ!……くそ、『私』『俺』の能力じゃ、届かないのか!?)

 

 ゴルゴムの……いや、ララァ・スンの仕業だ。彼女がエルメス使ってビットで攻撃して、補給艦コロンブスがソロモンに入港しようとするのを攻撃して、沈めてやがるんだ。なんであの女、ジオンに協力してやがるんだ!

 ……そんな事は分かってる。シャアがジオンにいるからだ。ララァはシャア・アズナブルを愛してるからな。アムロ曹長には悪いが。実際、アムロ曹長はフラれてるに等しいんだよな、気付いてないみたいだけど。『シャアをいじめる悪い人』『シャアを傷つけるいけない人』『あなたの来るのが遅すぎたのよ』だもんなあ……。

 ジャブローでシャアを殺しておけなかったのを悔やんでたけど、あそこでシャアを殺してたら……。ますますひどい事になってたかもなあ。復讐鬼ララァ・スンなんて、嫌すぎるぞ。上手く行けば、アムロ曹長がその心の隙間にはまり込むかも知れんが……。いや、正史より酷い殺し合いになる方が確率高いか。

 あ。連邦軍将兵が大勢死んだのが感じ取れる……。

 

「……終わったな。くそ、頭が痛い……。」

 

 比喩的表現じゃなく、本気で頭が痛い。いつものヘビがうねる様な痛みだ。いや、痛みの強さだけは普段以上だが。

 

「レビル将軍は、どう判断してるのかな。ちゃんと報告はしておいたが……。」

 

 そう、私はこれがジオンのニュータイプ能力者……。ララァですら、私は真正のニュータイプと認めていない。彼女の感性は、あまりにもオールドタイプ的だからだ。それはともかく、これがジオンのニュータイプ能力者の仕業であること、『ラ……ラ……。』と聞こえるのは、おそらく敵の名前の一部ではないかとのことを、私はレビル将軍に既に報告済みである。

 私はペガサスの自室を出て、食堂に向かおうとした。そろそろ昼食時なのだ。今しがた、人が大勢死んだのを感じたばかりで、食欲は無いに等しい。だが食わねば……。と、その時端末が呼び出し音を鳴らす。

 

「こちらゼロ少尉。」

『こちらブリッジです。お食事はお済みですか?』

「いや、これからだ。」

『そうですか……。申し訳ないのですが、即時ブリッジへ出頭してください。レビル将軍がお呼びです。』

「!!……了解。すぐに向かうとお伝えしてくれ、伍長。」

 

 部屋を飛び出した私は、即座に廊下の艦内移動用グリップに捕まり、ブリッジへと急いだ。

 

 

 

 ブリッジでは、レビル将軍がノーマルスーツを着用していた。パイロット用のやつだ。

 

「よく来てくれた、ゼロ少尉。」

「将軍……。そのお姿は?将軍はスクランブル配置には入られていらっしゃらない、いえ机仕事が忙しすぎて、入る余裕が無いはずでは……。」

「私は囮だ。

 ……度重なる補給艦の事故を、連邦軍司令部はなんらかの手段による攻撃と判断した。そのため、已む無く最精鋭の戦力である私の直卒部隊をもって、周辺空域の哨戒にあたる事になった。

 そう言う筋書きで、私が本当に哨戒に出る。それをダブルスパイを通じて敵へ流す。いや、既に流してある。……私が囮である事は、敵から見てもバレバレであろうな。だが同時に、私を亡き者にする最大のチャンスでもある。敵がその「何らかの手段」に自信があるならば、ここで投入してくるはずだ……!!」

 

 私は思わず叫ぶ。

 

「む、無茶です将軍!あ、いえ、失礼しました。」

「いや、構わんよ。だが、このまま補給線を寸断されていてはソロモンを後方基地として使う事ができん。それは星一号作戦の実施に影を落とす事になる。

 それに私は、貴官らを信じているからな。ことにゼロ少尉、君ならば私を護り抜いた上で、敵を倒してくれるだろうと。」

「……そう言われては、どうしようもありません。了解しました。ですが、僕からの嘆願を聞いてもらえないでしょうか。確実に将軍を護り、同時に敵を倒すために必要な事です。」

 

 レビル将軍は怪訝な顔をして、それでも頷く。

 

「む?言ってみたまえ。」

「ホワイトベース隊……今はたしか第13独立戦隊でしたか。それを至急、呼び寄せてください。彼らのうち少なくともアムロ・レイ曹長は、一度会いましたが間違いなく僕に匹敵するか、僕を凌駕する戦力です。「本物」になれるかどうかは、彼次第ですが……。」

 

 難しいだろうなー。私はそう結論付ける。御大が、アムロはパイロット最強だがニュータイプとしてはオールドタイプ的感性を持っていて、学習できないためにオールドタイプとして死んでいくしかない、って言ってるもんな。

 だからアムロ曹長は「本物のニュータイプ」にはなれないだろう。あ、いやコレじゃ「私の」結論じゃなく「御大の」結論だな。

 

「アムロ君が!?あ、申し訳ありません将軍。」

 

 ウッディ・マルデン艦長が驚いて自制を忘れる。将軍は目でそれを赦し、言った。

 

「艦長。私の名前で、艦隊司令部に命令を通達してくれ。第13独立戦隊、改ペガサス級強襲揚陸艦ホワイトベースは、最大戦速にてソロモン宙域、X+256、Y+128、Z+512ポイントへ向かえ。そこで改ペガサス級強襲揚陸艦ペガサスとランデブーし、その後は私の直接命令に従う様に。」

「将軍、ありがとうございます。」

「いや、構わんよ。それでは我々は、一足先に合流ポイントへと向かうとしよう。艦長、頼む。」

「はっ!」

 

 マルデン艦長が操舵手に命令を下し、ペガサスは出港する。あれ?私の昼食はどうしよう?

 

 

 

 昼食は何とかなった。目標ポイントまではまだ時間あるんだから、即座に艦の食堂行けばいいんだよ。私は急ぎ、出されたハンバーガーを齧って、パックに入ったドリンクで胃に流し込んだ。

 

「そんなに急いで食べると、胃に悪いよ少尉さん?」

「いや、急ぎなんだ。ごちそうさま!」

 

 俺はトレーを返却口に押し込むと、急ぎ壁際の移動用グリップへ取り付いて右舷のデッキへと向かう。そして私は妙な事に気付いた。

 

(あれ?……『私』、自分の事を今さっき『俺』って考え無かったか?)

 

 そのまま私は、右舷デッキへと流れて行った。今はそんな事に気を取られている暇は無い。……だがその事は私の脳裏に、まるで鍋の黒ずみの様にこびりついて離れなかった。

 

 

 

 第13独立戦隊との合流ポイントで、ペガサスはソロモンとの相対速度をゼロにして、ホワイトベースを待っていた。私は今、右舷デッキの格納庫でG-3ガンダムのコクピットに居る。いつララァ・スンが来ても良い様にだ。だが私は別の気配を感じる。

 

(……なんだ?ララァ・スンじゃない……。しまった、もう1人いた!ブラウ・ブロだ!シャリア・ブル!!)

『MS隊は、全員出撃せよ!ゼロ少尉がまず発艦し、それが終了次第に第1、第2小隊が出撃する!』

「将軍!?将軍も……『感じた』のですか?」

『うむ。だが気のせいか、あの『ラ……ラ……。』と言う声の主とは違う気がするのだが?』

 

 俺は通信用サブモニターの中の将軍に頷く。

 

「はい……。はっきりと違いますが……。強敵です。お先に行きます。

 ゼロ・ムラサメ、G-3ガンダム、出るぞ!」

 

 私のG-3は、カタパルトで射出され、ペガサスの右デッキから宇宙へと飛び出す。そしてシャリア・ブルの気配の方へ全力で飛翔した。

 

「……そこか。居た!……あまい!!」

 

 そこには3つの胴体を無理矢理に束ねた様な、MAがいた。そして私のG-3は『前方』ではなく『上方』からの殺気の線を回避する。回避したとたん、そこにはメガ粒子のビーム束が走り抜けた。

 徐に俺は、G-3のビームライフルで『左方』と、次に『上方』を狙撃。ビームライフルの放った粒子ビームは、今射撃したばかりの有線サイコミュの2連装メガ粒子砲と、そして今まさに射撃しようとしていた単装メガ粒子砲をほぼ同時に撃ち抜いた。爆光が閃く。

 

(ほう!これは凄いな……。恐るべきニュータイプの様だ。)

(!?……貴様、何故ジオンに手を貸す!)

(!?)

 

 私のG-3はビームライフルで『下方』に『視え』る殺気の源である有線2連装メガ粒子砲を狙う。

 

(連邦政府は確かに腐っているさ!腐臭ぷんぷんだ!俺の様な兵器であるニュータイプもどきの強化人間を作るのが、それを証明してる!)

(きょ、強化人間だと!?君は……!?)

(だがな、それを変えようと努力している人もいる!俺を作り出した命令を出してしまった事を恥じ、悔やみ、償おうとしている人がいる!

 だがジオン公国はどうだ!貴様が手を貸しているザビ家はどうだ!?サイド1、2、4、5のスペースノイド数十億を殺害しておきながら!スペースノイドの代表みたいな顔をして、お笑いにもスペースノイドの解放をお題目に捧げるジオン公国は!?)

 

 有線2連装メガ粒子砲を撃ち抜く。爆光が広がる。これでブラウ・ブロに残された兵装は、向かって右側に展開している、左舷の有線単装メガ粒子砲のみだ。

 ララァ・スンではないが、シャリア・ブルも戦いをするべき人間ではないのだろうと思う。能力は凄まじい。戦闘能力も恐るべきものがある。だが、射撃前の殺気のラインが……殺意の気配が、完全に見え見えなのだ。

 訓練を積んだニュータイプ能力者であれば、対処は容易い。……いや、有線サイコミュは無線の遠隔サイコミュに比べ、気配がものすごく読みづらいのは確かだ。遠隔サイコミュは、かなりの遠距離であっても気配が読める。

 実際、コロンブス補給艦を破壊したビットの行動は完全に読めた。読めていても、対処のしようが無かったが……。でも、遠隔サイコミュが読みやすいのは、本当に本当だ。ほら、この通りに。俺はG-3の頭部バルカンを乱射した。その弾丸は、エルメスから遠隔操作され、私のG-3ガンダムを撃とうとしていたビットを撃破した。

 

(来たか!エルメスのララァ!)

(!?……わたしの名を読みとった!?あなたが……あなたが生き残れば、シャアが死ぬ!)

(だからニュータイプではないと言うんだ!ハハ、いやこれがニュータイプなのか!?ニュータイプとは、せいぜいがこの程度の物なのか!?

 なら俺は……。オールドタイプで……。強化人間で充分だ!)

 

 他のビットからビームが走るが、俺のG-3にはあたらない。全て読めている。そして後方からの射撃で、ビットが1基墜ちた。

 

(絶望してはいかん、ゼロ少尉!)

(将軍!?)

(レビル!?今あなたをここで墜とせば!)

(させない!)

 

 また1基、ビットが撃墜された。白、青、赤のトリコロールに塗装されたガンダム、その中身はG-3仕様なのだが、それがビームライフルを撃ったのだ。黒と銀で塗装されたプロトガンダムが、その後ろに付く。来てくれたか、アムロ曹長。

 更にその後ろに赤い中距離支援型MS……ガンキャノンが2機。そしてそれを追い抜くように2機のコア・ブースターが飛び込んで来る。

 ……そっか。ビグザムがあのザマだもんな。スレッガー中尉、生き残ったのか。

 

(く、ニュータイプでは無いはずだが!!)

(あまいんだよ、シャリア・ブル!彼らは俺との特訓で何度も打ちのめされても、それでも諦めずに食い下がって来た猛者揃いだ!)

(私の名も読み取った!?強化人間の力とは、これほどの物か……!?)

 

 有線単装メガ粒子砲が1門となったブラウ・ブロを、5機のジムスナイパーⅡが追い詰めて行く。しかし有線でのオールレンジ攻撃に戸惑い、なかなか仕留められないでいる。だが逆に、ブラウ・ブロも1機たりとて撃墜できないでいた。シャリア・ブルの焦りが感じられる。ついでにシムス中尉の慌てっぷりも。

 そこに長距離狙撃が来る。……読めたが、読みにくい。これが戦いを専らにする者の射撃だ。ほとんど殺気を表に漏らさずに撃って来る。

 

(!?……しゃ、シャア!!)

(アムロ曹長!レビル将軍と3機連携を取る!ジャブロー地下でやった、あの呼吸だ!)

(りょ、了解!)

(うむ。)

(やめて!シャアを殺させはしない!あなたがたがいると、シャアが、シャアが死ぬ!)

 

 残されたビット9基が、一斉にこちらを狙って来る。同時にようやく判別できる距離に近づいたエルメス本体のメガ粒子砲からも、ビームが迸った。

 

(悪いな!9基なんて限界を超えた数のビットを操らせて悪いんだが、俺たちレベルにはビットはほとんど意味を為さないよ!)

 

 これがハマーンの操るキュベレイのファンネルなら、ファンネルを操る糸もほとんど見えず、射線も判別できないんだろうなー、と思う。ララァ・スンもシャリア・ブルも、そのうちそのレベルに達する事はできるだろうが……。こいつらはニュータイプ能力者ではあっても、兵士や戦士には程遠い。

 ……ほんとなら、『私』『俺』も程遠かったはず、なんだけどなあ。あれ?さっきからいつもの頭痛がしているんだけど、その頭痛がなんら行動や思考の障害になってないぞ。なんか、頭痛を含めた身体の苦痛と、『俺』『私』の意識が切り離されたみたいな……。

 と言うわけで、わたしがビームライフルで1基、頭部バルカンで1基、そしてビームサーベルで1基の合計3基ビットを墜とし、レビル将軍、アムロ曹長もそれに倣って3基ずつビットを墜とした。……あれ?レビル将軍のニュータイプ能力、増してないか?

 

(墜ちて!)

 

 あ。ハヤト伍長のC-109ガンキャノンが、エルメス本体の2連装メガ粒子砲を受けて……。あ、分離してコア・ファイターになった。ハヤト伍長ェ……。運が無いよな、ハヤト・コバヤシ。

 

(ハヤト!くそおおおぉぉぉ!)

(あなたが来るのが、遅すぎたのよ!)

(何を!?)

(なぜ今になって、あらわれたの!?)

(ララァ、ララァ・スン!!)

(まずい!アムロ曹長とララァ・スンが共振を始めた!?)

 

 くっそ、今になって!シャアのゲルググも来た!

 

(わたしはシャアを愛してしまった!あなたたちを殺さねば、シャアが死ぬ!)

 

 アムロ曹長のガンダムが私たちとの連携を外れ、エルメスと1対1でドッグファイトを始める。シャアの赤いゲルググが突っ込んで来る。それを右半分を切り離した半壊状態のブラウ・ブロが支援する。く、第1小隊と第2小隊は!?ああ、いや。ブラウ・ブロの高出力に振り切られただけか。撃墜されてなくて、良かった。

 

(では、この僕たちの出会いは何なんだ!?)

(ああっ!これは!?これも運命だと言うの!?)

 

 ……凄いドッグファイトだ。機動戦には向かないエルメスで、ガンダムの攻撃を全て躱している。一方ガンダムは、だが徐々に詰将棋をする様にエルメスを追い込んでいる。

 

『奴との戯言をやめろ!ララァ!』

 

 シャアが来た。『私』『俺』はそれを撃つ。シャアはゲルググの左腕を犠牲に、その射撃を受け流す。そこへメガ粒子ビームが。

 

(邪魔なんだよ!シャリア・ブル!)

(うおっ!)

 

 ブラウ・ブロに残された最後のメガ粒子砲を撃ち抜き、そして左半分も破壊する。攻撃手段を全て失い、ブラウ・ブロの操縦担当をしているシムス中尉はブラウ・ブロ中央部だけで逃走を図る。だが逃がさん。私はブラウ・ブロ中央部に追いすがると、ビームサーベルで制御系の集中している場所を貫き、ブラウ・ブロを沈黙させた。

 何故だろう。殺してはまずい、そう言う気がした。

 

「赤い敵MSを、赤い彗星のシャアを止めろ!ガンダムと敵MAの戦いに割り込ませるな!」

『了解!……ザザザくっそ、速い!照準ザザッ合わねえ!』

『泣き言を言うザザザ、ラバン少尉!こうやって撃つんザザッ!!』

 

 ツァリアーノ中佐機を中心として、アレン中尉機、ラバン機、デリス機、ロン機、それにカイ軍曹のC-108ガンキャノンとスレッガー中尉のコア・ブースターが、狙撃用ビームライフルで、240ミリキャノンで、メガ粒子砲で、シャアのゲルググを狙う。どれがあたったのかは、わからない。だが爆光が広がった。

 

『ザザった?赤い彗星を墜としたのか?』

『やったな、ははザザザはは。』

『違うぜ!やったのザザッ片脚だけだ!』

 

 カイ軍曹の言う通りだ。シャアは攻撃を躱せないと知ると、射線上にあった右脚を切り離し、『私』『俺』とレビル将軍の迎撃もすり抜けて、エルメスとガンダムの間に飛び込んだのだ。そしてガンダムに向けてビームライフルを撃つ。ガンダムはその射撃をあっさり躱したが、それは突入を試みていたセイラ軍曹のコア・ブースターに命中した。

 

(大佐!いけません!)

『しまった、アルザザッイシア、か!?』

(セイラさん!くっそおおおぉぉぉ!!)

(落ち着け、アムロ曹長!……駄目だ、「外」からの声は届かないのか!?なら何故シャアは、あの低レベルなニュータイプ能力で「入れ」たんだ!?)

 

 コア・ブースターは半壊しながらも、まだ行動可能だった。右側の主翼と尾翼を失い、装甲板がめくれ上がり、帰艦できても全損扱いは免れないだろう。

 

 アムロ曹長のガンダムが、ビームサーベルを抜き放ち、シャアのゲルググを貫かんとする。ララァ・スンのエルメスがシャアのゲルググを突き飛ばし、身代わりになる。まずい!まずいまずいまずい!

 アムロがララァを殺したら、シャアによる悲劇の引き金になりかねん!どうすれば!この場でシャアを殺すか!?あの強運の塊を確実に殺せるか!?ここからビームライフルで狙撃して、『俺』『私』が先にララァを殺すか!?だが間に合うか!?どうすれば、どうすればいい!?

 

 

 

 ぷちっ。

 

 

 

 そして『俺』の中で、何かが切れた音がした。




さて、ニュータイプ能力が異常発達しはじめたのは、アムロ曹長だけではありません。主人公たるゼロもまた、今回の戦いで急激に能力が肥大化しつつあります。おまけにレビル将軍も。
そして1人称の変化……。これがいったい何をあらわすのか。主人公の身に、何が起こるのか!おまけでララァとシャアとアムロの三角関係は。


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ゼロの呼びかけ

 そして『私』は薄暗い、薄明の空間の中にいた。そこは無重力で、『私』の身体……いや意識体は宙に浮いている。更にそこには『私』だけではなく、『俺』の意識体も浮かんでいた。

 

『……ゼロ・ムラサメ、か?』

『そう■、■■ゼ■・■■サメ■……。俺■■■■を呼んだんだ。突発■■病で死んだお前■魂■■……。』

『よく聞こえないが……。君が私をこの世界に呼び込んだんだな?私は、突発的な病の発症で死んだ。その魂を、君が自分の身体に呼び込んだ。』

 

 その問いに、『俺』は、頷く。

 

『■■■な。俺は■■■欠損していて、こうして■■できるだけでも奇跡的■■■。』

『……私の推測を言うぞ?君はニュータイプ研の強化実験で精神だか魂だかを、大きく欠損した。それを補うために私の魂を呼び込み、融合した……。』

 

 だが『俺』は、首を縦に、次に横に振る。

 

『■■だけじゃない。俺■『視た』んだ。俺■壊れ■瞬間に、『未来』を■■んだ。複数■。』

『未来を……見たんだな?しかも複数。』

『あ■。だけどどの『■来』で■、人類■ろくな■にはなって■かった。』

『……君は私に、その未来をなんとかして欲しいと?私にできるのか?』

 

 苦笑しつつ『俺』は、『私』に頭を下げる。

 

『……頼む。あ■たにやれるか■■■は、わからな■。けど、他の■は呼び込めなか■た。あんたしか、■■いんだ。

 本音■■■■、人類がどうなろ■■、■った事じゃない。だけど……。だ■ど……。あんなに多くの、意味の無い死を見せられたら、たまったもんじゃない!!』

『!!』

 

 眼前の『俺』は、血の涙を流していた。「人類がどうなろうと、知った事じゃない」と、『俺』は言った。たぶん。だがそれでも、多くの意味の無い死をなんとかしたいと叫んだこの少年は、本当は優しい、どこにでもいる様な少年だったんだろう。

 ジオンのコロニー落としさえなければ……。強化処置の実験台にさえ選ばれなければ……。

 

 そして『私』は『俺』に向けて頷く。

 

『所詮個人レベルの活動しかできないし、だから保証はできない。だけど努力はするよ。それで勘弁してくれないか?私だって絶望の未来は見たくないし。』

『それ■充分だ。さて、『外』じゃあ今■に山場■■。もうこう■■■会う事は無■だろ■■。じゃあ■、『俺』。』

『ああ、さよならだな、『私』。』

 

 目の前のゼロ・ムラサメは、光の粒子になって崩れていく。その光の粒子は、『私』の身体に吸い込まれる様にして消えて行った。

 そして『私』は『俺』になった。

 

 

 

 ガンダムのビームサーベルが、今まさにエルメスのコクピットを貫こうとしている。アムロ曹長にはもう止められない。だが、ガンダムを止める事はできなくとも、そのビームサーベルの刃を止める事ならば出来るかもしれない!

 かつて視たΖΖガンダムのアニメで、ハマーン・カーンのキュベレイはΖΖガンダムのハイメガキャノンの直撃を、サイコ・フィールドでぎりぎり防いでいた。あれの真似事ができれば……!!

 エルメスには、初期型とは言え遠隔操縦タイプのサイコミュが搭載されている。そしてその辺を漂流しているブラウ・ブロにも、有線操縦タイプとは言えど、サイコミュの初期型が搭載されている。俺は全身全霊の力を振り絞り、両機へ思念を飛ばした。

 

「うおおおあああぁぁぁ!!あ、あ、あ゛あ゛あ゛ー!!」

(な、なんだ!?この力は!?)

(きゃあああぁぁぁ!!)

 

 俺はエルメスのサイコミュを起点に、エルメスのコクピット付近を中心にして、サイコ・フィールドを発生させる。自機と自分を中心に発生させるわけではなし、更に使うのが初期型のサイコミュ2基と言う悲惨さで、俺にかかる負担は並大抵の物ではない。だが、ここで負けるわけにはいかない。

 

(聞こえるか、シャリア・ブル!聞こえるか、キャスバル・レム・ダイクン!お前の同僚を、お前の女を助けるために、力を貸せ!俺に力を貸せ!

 聞こえるか、アルテイシア・ソム・ダイクン!あんたの兄貴に、過ちを犯させないために、力を貸せ!俺に力を貸せ!

 聞こえますか、レビル将軍!この世界の痛みを少しでも少なくするために、力を貸してください!俺に力を貸してください!

 聞こえるか、ララァ・スン!お前が死ぬ事で、将来的にお前の愛する男は地獄へ落ちる!それをさせたくなければ、力を貸せ!俺に力を貸せ!

 聞こえるか、アムロ・レイ!お前が今、殺しかけてる女を殺さないために、力を貸せ!俺に力を貸せ!)

 

 俺はこの戦場にいるニュータイプ能力を持つ者、そしてニュータイプの素質を持つ者に、呼び掛けた。

 

(聞こえるか、ミライ・ヤシマ!あんたの友人の兄貴は、このままだと過ちを犯す!そうなればあんたの友人は悲しみ苦しむ!そうさせないために、力を貸せ!俺に力を貸せ!

 聞こえるか、カツ、レツ、キッカ!お前らには難しくてわからんかも知れんが、俺の抱いてる危機感はわかるだろ!?力を貸せ、俺に力を貸せ!)

 

 次に俺は、この辺の宙域にいるニュータイプ能力とその萌芽を持つ者すべてに呼び掛けた。力を貸せ、と。

 

(聞こえるか、この近場のニュータイプども!地球が悲鳴を上げてる!聞こえるか、この近場のニュータイプども!人類が悲鳴を上げてる!その悲鳴を、少しでも減らせるチャンスなんだ!その悲鳴が、下手すると上積みされるピンチなんだ!

 力を貸せ!俺に力を貸せえええぇぇぇ!!)

 

 そして俺はこのソロモン宙域にいる、全てのニュータイプ能力者に呼びかけた。覚醒していない者は、無理矢理に叩き起こした。そして力を貸せ、と呼び掛けたのだ。

 思ったより多くのニュータイプ能力者が、ソロモン宙域には居たみたいだ。それはそうだろう。ソロモンでララァ・スンの攻撃の際に『ラ……ラ……。』と言う声を聞いた者は、少なくとも覚醒しているか覚醒間際の者だし。

 それがけっこう居たって事は、連邦軍にもかなりのニュータイプ能力の素養を持つ者が居たって事だ。そして彼らは全員が、俺の抱く危機感を感じ取ってくれた様だ。素直に力を貸してくれたのだ。

 

 

 

 俺は宇宙空間に生身で浮かんでいた。いや、違う。幽体離脱っぽい感じで、宇宙空間に精神が投影されてるんだ。近くには、アムロ曹長、シャア……いや、ここではキャスバル・レム・ダイクンと呼ぼうか、それとララァ・スンが同じく浮いている。

 やや後方には、シャリア・ブルとレビル将軍と、セイラ・マス……アルテイシア・ソム・ダイクンが浮いている。そこからかなり離れて、あれは多分ミライ・ヤシマとカツ、レツ、キッカだな。更にその周囲を遠く取り囲む様に、そこまで多くも無いが、少なくも無い人数が浮いていた。

 眼下の宇宙空間では、今まさにガンダムのビームサーベルがエルメスのコクピットを貫こうとしている。だが、そのビームサーベルの切っ先は、キャノピーの直前に展開されたサイコ・フィールドで弾かれ、拡散していた。

 

(あれは……。貴方が?)

(たしかゼロ少尉、とか呼ばれていたね?)

 

 ララァ・スンとシャリア・ブルが驚愕を声音に滲ませて言う。

 

(俺だけの力じゃない。って言うか、俺は言ったぞ?力を貸せってな。あの力には、お前らの力も入ってるんだ。)

(だがそれをまとめ、束ねているのは君だろう。)

(あー、いいから、シャリア・ブル。アムロ曹長!さっさとビームサーベルの刃を消せよ。)

(はい!)

 

 ガンダムのビームサーベルから光が消える。そして『シャア』のゲルググがビームライフルをガンダムに向けた。

 

(やめんか。)

(……できん。今ガンダムを倒さねば……。)

(ジオン軍での立場が失われかねない、か?ジオン公国上層部、ザビ家への復讐を果たすために?『ガルマ様のときに虚しくなった』んじゃなかったか?……やっぱり捨てきれていないんだろ?)

 

 キャスバルが呻く。そして世界が変わる。

 

(これは!ソーラ・レイ!?コロニーレーザーだと!それで私と、交渉目前だったデギン公王が死ぬ!?

 これは……。エギーユ・デラーズ!アナベル・ガトー!奴らが連邦軍宇宙艦隊を核攻撃し、再度のコロニー落としを!)

(僕が……軟禁されて?こんな腐った大人に?シャア、シャアと共闘して、復活するのか……。)

(私が、クワトロ・バジーナを名乗る、だと?エゥーゴとしてティターンズと戦う?カミーユ・ビダン?)

(バスク少佐……いや、ティターンズ大佐だから事実上階級は2階級上で少将に匹敵するのか。馬鹿な……。それがコロニー・レーザーや毒ガスで、宇宙市民を虐殺……。馬鹿な、これではジオンと何ら変わりないではないか!)

(アクシズのハマーン・カーン……。可哀想なひと……。ジュドー・アーシタによって、少しは救われてくれると良いのだけれど……。)

(わたしが隕石墜としを……。そしてアクシズ落としを……。だが、父の理想は……。)

(シャアと再び戦う……。そしてνガンダム、サイコフレームでアクシズ落としを防ぐ……。)

 

 俺はキャスバルに向かって言う。

 

(これが今、ララァ・スンを救えなかった場合の未来の一例だ。お前もアムロ・レイも不幸になり、不幸の連鎖をばらまく。自分達は各々未来のために戦っていると信じながらな。

 そしてその度合いは、キャスバル・レム・ダイクン……お前の方が大きいな。はっきり言って。)

(しかし全ての人類をニュータイプへと導くには、他に方法が無かったのではないか!?)

(……ニュータイプと今現在呼ばれている物は、ニュータイプじゃない。ジオン・ズム・ダイクンが提唱したのは、宇宙に則した『新しい考え方ができる人類』の事だ。それをザビ家が歪めた。

 決してニュータイプ能力は、ニュータイプそのものを示すもんじゃない。あんな超能力じみた代物が無くても、新しい考え方ができていれば、それはニュータイプだ。)

(……。)

 

 そして俺は、キャスバルに致命的な一言を言ってのける。

 

(そもそも、ニュータイプってそんな良い物か?オールドタイプには生きる意味はないのか?)

(!?)

(ニュータイプを神格化してんじゃねーよ。ニュータイプだって人だ。全人類がニュータイプになれば全部解決するとでも勘違いしてるんじゃないのか?オールドタイプだって、そう悪くは無いんだぜ?

 なあ、ジンバ・ラル。)

 

 その瞬間、キャスバルの背後から、暗い闇の塊の様な物がブワァっと広がる。キャスバルは驚いて後ろを向くが、その闇の塊に絡め取られた。

 

(ぬ……。ううっ!)

(大佐!誰、あなたは!?大佐からはなれて!)

(シャア大佐!?これは……いったい!?)

(ララァ・スン、シャリア・ブル。それはジンバ・ラル、ジオン・ダイクンの側近でキャスバルとアルテイシアをかくまった人物だ。本体じゃなく、その遺した怨念だけどな。)

(((!!)))

 

 俺は腰から連邦軍製式拳銃……のイメージ具象化されたモノを抜くと、ララァ・スンに放ってやる。

 

(そいつが、キャスバル・レム・ダイクンを歪めた。疑いこそは濃いが、けっして確かでは無かった『ザビ家によるジオン・ダイクン暗殺』を、さも本当の様にキャスバルに吹き込んだり。ジオン・ズム・ダイクンの思想を、この上なく素晴らしいものの様にキャスバルに吹き込んだり。

 ジオン・ダイクンの思想が素晴らしいのは否定しねえよ。けどな、それだけが唯一の答えじゃないと俺は思う。オールドタイプだって、ほんとにそんな悪い物じゃ無いんだぜ。)

(大佐……。大佐から離れて!!)

 

 ララァ・スンが、俺の渡した拳銃を連射し、ジンバ・ラルの怨念を撃ち抜く。ジンバ・ラルの怨念は苦悶の声を上げる。

 

(ぐお……。おおおぉぉぉ……。)

(ジンバ・ラル……。あなたにはお世話になりました。けれど、兄さんを捕らえ、歪め続けるのは看過できません……!!)

(アルテイシア!)

 

 アルテイシアが銃を抜き、撃つ。アルテイシアに撃たれた事で、ジンバ・ラルの怨念は急速にその力を失った。ララァ・スンはキャスバルに……シャア・アズナブルに拳銃を渡す。

 

(大佐……。撃ってください。)

(私が?)

(そうです。これは大佐の心に棲み憑いているのです。とどめを大佐がやらないと、意味がありません。)

 

 そのとき、シャアの右腕に触手の様に、闇が巻き付く。シャアの腕はララァ・スンに狙いを合わせた。

 

(何!?)

(……。)

(ララァ!)

 

 割って入ろうとしたアムロ曹長を、俺は止める。

 

(何をす……。)

(大丈夫だ。キャスバル・レム・ダイクンやエドワウ・マスならともかく、シャア・アズナブルがララァ・スンを撃つわけがない。)

(え……。)

 

 次の瞬間、シャアの左手に抜かれていたジオン士官用制式拳銃が、ジンバ・ラルの怨念を撃ち抜く。シャアの右腕から闇の触手が抜け落ちた。シャアは2丁拳銃を使って、ジンバ・ラルの怨念をひたすら撃ち続けた。

 

(……さらばだ、ジンバ・ラル。ありがとう、ララァ。礼を言わねばならんな、ゼロ少尉……だったか。)

(何、いらんよ。これからお前ら、苦労するだろうからな。)

(む?)

 

 俺はそれ以上、シャアには応えなかった。周囲を見回すと、数多くのニュータイプ能力者たちは、今自分が見せられた未来のヴィジョンに呆然としている。俺は彼らに向かって言った。

 

(今回は、力を貸してくれてありがとう。だが、これから人類世界には、大きな危機が……。大きな痛みがたくさん、たくさん襲い来るんだ。それを、少しでも世界の痛みを減らす方にもっていきたい。

 だから頼む。俺に、レビル将軍に、世界の痛みを阻止しようとする者達に、これからも力を貸してくれ!少しでも、少しでも痛みを少なく!頼む!力を貸してくれ!)

 

 と、俺の横にレビル将軍が立つ。だが何も言わずに、将軍は俺の肩に手を置いて、周囲のニュータイプ能力者達をぐるりと見まわした。

 

((((((うおおおぉぉぉー!!うおおおぉぉぉー!!))))))

((((((うおおおぉぉぉー!!うおおおぉぉぉー!!))))))

((((((うおおおぉぉぉー!!うおおおぉぉぉー!!))))))

 

 凄まじい叫びが、周囲から押し寄せる。賛同の声だ。俺は安堵して、その場にへたり込む。……そして俺の意識は、すとんとシャットダウンした。あ、頑張り過ぎた。

 

 

 

 目が覚めると、宇宙要塞ソロモンの病室だった。遠心重力区画のベッドに縛り付けられて、身動きが取れない。ナースコールのスイッチが手元にあったので、看護師を呼ぶ。

 

「あら、ようやくお目覚めですか?」

「なあ兵長……。俺が意識を失ってから、どれだけ経ったんだ?」

「2日ですわね。倒れた方々の中では、一番長かったですね。」

 

 聞くと、レビル将軍は倒れていないらしい。いや政治的にマズいから、本当は倒れたのだが、その事はペガサスの部外秘になっている様だ。後でオフレコで、ウッディ艦長が教えてくれた。それでも意識を失っていた時間は、1時間程度だったらしい。まあ、将軍は力を貸してくれただけで、あまり深くは関わってないからな。

 なお他の、ソロモンにいる連邦軍士官で一緒に倒れた連中……。間違いなくニュータイプ能力に覚醒してるであろう奴らも、同じ時間に一斉に倒れたのは不審がられているが、1時間未満で目を覚ました様だ。

 長かったのは、アムロ・レイ曹長とアルテイシ……いや、セイラ・マス軍曹だ。それと敵側ではシャア・アズナブル大佐とララァ・スン少尉。次いでシャリア・ブル大尉。彼らは1日近く寝ていたそうだ。いやシャリア・ブルは2時間程度だったが。

 聞けばミライ・ヤシマ曹長とカツ、レツ、キッカの子供らも倒れたそうだ。悪いことしたかな?子供らには特に。

 その後も、精密検査が済むまでは、俺はベッドから解放されなかった。ちなみに、その間に第1、第2小隊の面々とかが見舞いに来てくれたのは有難かった。更に、びっくりする奴らが見舞いに来た。

 シャア・アズナブルとララァ・スン、シャリア・ブルである。なんでもレビル将軍の特別のはからいによって、面会が実現したそうだ。

 

「元気そうだな。」

「うむ。だが……君が「苦労するだろう」と言っていたのは、コレのことか。」

 

 そう言ってシャアは、厳重に手錠で繋がれた両手を、顔の前に上げて見せて来る。俺は笑った。

 

「ああ、その通りだ。精神世界?でお前らと話してた最中に、肉体はコクピットのキーを打って、蚊帳の外になってたラバン少尉たちに……。ああ、ラバン少尉ってのはニュータイプ能力者じゃないが、シャリア・ブル、あんたを追い詰めたパイロットたちの1人だ。

 彼らに、意識を失った俺たち全員を、ペガサスとホワイトベースに運ぶ様に頼んでたんだ。意識を失うぐらい派手にやった自覚はあったからなあ。」

「してやられたな。くくく。こうなっては、大人しく捕虜としての扱いを受けるしかあるまい。南極条約通りの扱いを期待する。」

「レビル将軍の御前で、下手な真似はできんさ。将軍が自ら捕まえて来た、ジオンのトップエース、赤い彗星のシャアとその直属の部下だ。」

 

 俺はジオン軍3人組を安心させる。シャアが笑って言った。

 

「では、自分と部下の待遇を少しでも良くするために、苦渋の決断をせねばならんな。ジオン軍が……ギレン総帥が計画している秘密兵器ソーラ・レイや、キシリア閣下が進めている計画、ニュータイプ研フラナガン機関についても、知る限りの事を話さねばなるまい。」

「ふむ。それを実行すれば、ザビ家にとって大きな痛手になりますな。」

「大佐、その情報を話す事で、ザビ家に対する復讐を?」

「ああ。父を暗殺したかが不確かだとは言え、疑念は濃い上に、結局色々酷い目に遭わされたのは確かだ。少しぐらい意趣返しをしても、かまわんだろう?」

 

 なるほど、ジンバ・ラルの怨念は自ら討ったが、それによって長年の間染み付いた心の傷や歪みは取り払えてはいない、か。それをこの意趣返しで、なんとか振り払おうと言う事か……。

 その後、2~3の雑談をしてから、シャア達は兵士に連れられて行った。ちなみにその兵士は、あの時精神世界?に居たニュータイプ能力者達のうちの数名であり、事情は詳しくはないものの知っていたので、問題にはならなかったりする。

 ああ、アムロ曹長も面会に来たんだったな。

 

「アムロ曹長、調子はどうだ?」

「はは、最悪ですよ。ララァには真正面から振られましたし。「ごめんなさい、わたしはシャアを愛しているの。彼を裏切れない。」だそうです。」

「……他にもいい女は沢山いるぞ。セイラ軍曹なんて、どうだ?」

「いいかも知れませんね。」

 

 冗談だと思っているな?だけどな、小説版だとお前ら、そう言う関係があったんだぞ?だが、最悪の気分だと言っている割には、すっきりした笑顔だ。色々馬鹿話をして、アムロ曹長は帰っていった。

 今のところ、色々良い方向へ転がっている。だが好事魔多しとも言うしな。気を付けないとな。

 

 

 

 レビル将軍の声が、ソロモンに響く。

 

『我々は、これより星一号作戦を開始する!目標はジオン軍宇宙要塞ア・バオア・クーだ。ここを突破すれば、敵本丸、サイド3は目前だ!諸君らの奮戦に、期待する。』

 

 連邦軍宇宙艦隊は、いよいよ星一号作戦、ア・バオア・クー攻略作戦を開始した。俺たちのペガサスは、全艦隊の旗艦として周囲を味方艦に取り囲まれて発進する。だがそれとは別に、こっそりと先んじてソロモンを出港した艦隊があった。

 改ペガサス級強襲揚陸艦ホワイトベースを旗艦に、それに後期生産型サラミス2隻を追加配備した第13独立戦隊。そして改ペガサス級強襲揚陸艦スタリオンを旗艦に後期生産型サラミス2隻の第18独立戦隊である。

 彼らの目標は、サイド3の3バンチコロニーであるマハル。シャアよりもたらされた情報を元に、コロニーレーザーとして改装されたマハル・コロニーを破壊し、ソーラ・レイを使用不可能にするのが目的なのだ。

 頼むぞー、アムロ曹長。コロニー・レーザーの一撃さえなければ、ア・バオア・クーも苦労はするけど確実に陥落させられる。本当に、頼んだぞー。……そういや、ドズルも死んでないんだから出て来るかな?今更だが。




なんとかかんとか、ララァは助かりました。オマケでシャアも。アムロは綺麗にフラれました。これで拘りとか無くなるといいんですけれど。
そして、連邦軍に多数のNT覚醒者が!!まあ、全員がパイロットや操舵手じゃないし、パイロットでも操縦技量が低いのもいますけどね。


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ただいま進軍中

 今、全ての艦隊はア・バオア・クー目指して進撃中だ。約3日の行程中、既に2日が経過している。ベーダー中将の第1艦隊、コリニー中将の第2艦隊、我々の第3艦隊とも、複数の小艦隊に分散して航行していた。これはコロニー・レーザー「ソーラ・レイ」破壊に送り出した部隊が失敗した場合に備えての事である。

 改ペガサス級強襲揚陸艦ペガサスの右デッキで、俺は自分に与えられた、グレーに塗られた新たなMSを眺めていた。RX-78NT-1ガンダムNT1アレックス。え?アムロ曹長用の新型機じゃなかったかって?大丈夫、アムロ曹長にはコレの2号機が送られてるから。ちなみに俺のは3号機で通称アレックス3。レビル将軍には黒と銀で塗られた1号機アレックス1。

 星一号作戦に先立って、「ソーラ・レイ」を破壊もしくは作動不能にすべく、隠密裏に出撃した第13独立戦隊と第18独立戦隊。……ところで、第13独立戦隊は、前回の戦いで多大な被害を受けた。

 そのため、彼等は新たな機体を受領し、更に後期生産型サラミス2隻及びそれに搭載されているRGM-79GSジムコマンド6機2個小隊を追加配備されたのだ。ちなみに新たに受領した機体は、次の通り。

 まずアムロ曹長のRX-78NT-1ガンダムNT1アレックス2号機、通称アレックス2。次にカイ軍曹とハヤト伍長が受領した、RX-77-4ガンキャノンⅡ、通称C-108AとC-109A。……ハヤト伍長、ガンキャノンⅡにはコア・ファイター無いぞ。注意しろよ?

 そしてセイラ軍曹とスレッガー中尉が受領したのが、ロールアウトしたばかりの、RGM-79SRジムスナイパーⅢ。コードネームはスナイパー3-1とスナイパー3-2。そのまんま。なんてこったい。

 そして更にRGM-79Cジム改が3機、新規パイロットと共に追加配備されている。新人の名前はヘイデン・マクフェイル伍長、リタ・ダフ伍長、ヴィンセント・ヴォーン伍長。先の事件でニュータイプに覚醒した下っ端新入りパイロットを、レビル将軍の命令で異動、配属させたんだそうだ。他のホワイトベース乗組員と軋轢が生じない様、低い階級のを。

 ……ごめんな。初陣でキッツい任務に充てられる事になったのは、俺のせいです。ほんとゴメン。

 

「いいなあゼロ。かっこいいじゃねえか……。」

「ラバン、こいつはG-3よりもキツいぞ?」

「ぶるぶるぶる!そりゃ酷い。」

「まずG-3を限界まで扱えなきゃあ、無理だ。」

 

 ちなみにレビル将軍が乗っていたプロトガンダムもといG-3仕様ガンダム1号機は、第2小隊のディック・アレン中尉が。アムロ曹長が使っていた2号機……これもG-3仕様だが、それはデリスが。俺のだったG-3すなわち本来の3号機はロンが使う。つまり第2小隊は全機G-3仕様のRX-78で構成されることになったのだ。

 そしてフェデリコ・ツァリアーノ中佐と、このラバンだが、RGM-79SPジムスナイパーⅡに代わり、RGM-79SRジムスナイパーⅢがもらえた。なお操縦や戦闘の技量は高いツァリアーノ中佐だが、レビル将軍の副官と言う役割から通信機能の充実を優先し、コアブロックシステムが無くコクピット周りの改良が容易な、この機体を選んだ。

 ラバン?……申し訳ないが、彼はG-3を受領するには技量が、その、だな。ちょっとだけ劣ったんだ。いや、使えないほど腕前悪くは無いぞ?だが、アレン中尉、デリス、ロン、ラバンの4人で見比べるとだな、その……。一番下だったと言うわけで。

 いーじゃないかよ!最新鋭機のジムスナイパーⅢもらえたんだし!!

 

「あ、ゼロ少尉!こちらにいらしたんですか。」

 

 あうち。

 

「なんです?」

「あ、いや、何でも無い。」

 

 今俺に話しかけて来たのが、新たにペガサスに配属になったバージル・タイ伍長。……俺の第3小隊の小隊員である。もっとも第3小隊は編成上あと1人余裕があるし、ペガサスも一応格納庫は無理に詰め込むことを計算に入れれば、まだ若干載せられる。

 だが無理に詰め込まないならば、第1小隊3機プラス第2小隊3機で、これで6機。あと左右のデッキに1機ずつで合計8機。これで精一杯だろう。なので第3小隊は2人なのだ。……俺の、部下。

 しょうぐうううん!!部下いらないって言いませんでしたっけ!?あ、言ってない。そこはかとなく、「僕は1人でいいですよ。」とか言ってはいたけれど、はっきり言ってはいない。はぁ~~~。

 ちなみにバージルの奴の機体も、ジムスナイパーⅢだ。整備の関係上、機体はできるだけ統一したかったんだそうだ。だから支給された機体なのだが、それも知らず、バージルの奴は「さすが総旗艦のペガサス所属MS隊ですね!自分みたいな初心者マークにこんな高級機を!」と大喜び。

 ところでこいつ、ニュータイプ能力にかろうじて覚醒してやがる。だがしかし、基礎的な操縦技量、戦闘能力が低すぎるので今のところ使い物になるかどうか……!!

 

(フラナガン機関のモルモットだった私が研究所から出ることができたのは、あなたのおかげ……。だから、気にするのはお良しなさい。)

 

 くっ……。レイラ・レイモンド……。ニュータイプ能力が低くて、実戦には適さないと考えられ、フラナガン機関に閉じ込められていた少女……。思い出しちゃったなあ……。少なくとも、バージルよりかは操縦能力とか高いはずだけど、ニュータイプ能力に覚醒してるかしてないかギリギリってところは同じくらいか?

 

「……な、なんですか少尉?じっと見つめて来て……。僕はそっちの趣味は無いですよ?」

「安心しろ、俺も無い。」

「はぁ~、よかった。……んじゃ、なんで?」

「お前とは全然似ても似つかないんだが、ある人物を思い起こさせてな。」

「はあ……。」

 

 俺は少し不憫になる。こいつ、今の技量で生き残れるんだろうか?

 

「バージル、来い。シミュレーター室だ。少し絞ってやる。」

「あ、は、はい!」

 

 少しどころじゃ無く絞ってやった。

 

 

 

 バージルはへばっている。

 

「へっ、はっ、へっ……。」

「まだまだだな。って言うか、もう星一号作戦は発動してるんだぞ。そんなんじゃ、味方の弾避けにもなれずに墜ちるぞ。」

「すっ、すいません……。」

 

 俺は下唇を噛み締める。

 

「戦闘が始まったら、俺はレビル将軍の直衛任務に就かねばならない。わかるな?」

「はい……。」

「本音を言えば、俺は味方が墜ちるのなんか見たくない。お前の事も、可能な限り護ってやりたい。だがな、俺はレビル将軍を護る事に全力を傾けないといけないんだ。

 俺は戦場で、お前を護ってやることは、たぶんできない。」

「……はい。」

「……少し休憩だ。体力が回復したら言え。お前が少しでも生き延びる可能性を増やすため、何度でもシミュレーターやるぞ。」

 

 その時、俺の脳裏に閃光が走った。同時にヘビのうねる様なあの痛みも。だがその痛みの方は、前回ララァ・スンの命を救った時の無茶をしてから、随分と軽くなっている。

 

「ゼロ少尉!?」

「お前はそこで寝っ転がってろ!!」

 

 俺は右舷デッキへと全力で異動する。パイロット用のノーマルスーツは着ていたから、ヘルメットだけ引っ掛けてアレックス3のコクピットに飛び込むと、リニアシートに身体を押し込み、全天モニターを立ち上げた。同時にブリッジへ通信回線を繋ぐ。

 

「ブリッジ!こちらゼロ少尉!出撃許可を!」

『ゼロ少尉、レビル将軍から命令があった。ゼロ少尉から出撃許可を求めて来たら、即座に出撃させろとな。』

「ありがたい!ゼロ・ムラサメ、アレックス3、出るぞ!」

 

 俺のアレックス3が乗ったカタパルトが起動する。すさまじいGが感じられ、俺のアレックス3は右舷デッキから宇宙へと飛翔した。ふと気配を感じ、左後方を見遣る。全天モニターには、味方機の反応が映し出されていた。

 機体はジムスナイパーⅢ、機体コードはチャーリー3-1だ。俺の機体がチャーリー3-0だから、こいつはアレだ。俺の部下だ。バージルの馬鹿野郎。

 

「バージル!お前なんで来た!疲労困憊してるのに、戦えるとでも思ったのか!?」

『大丈ザッザザですよ!もう充ザザ休みました!』

「く、後ろに引っ込んでて援護射撃だけしてろ!」

『了解ザザザッ!!』

 

 ミノフスキー粒子が濃い……。だが、見える!なんだ!?今更ザクⅡ初期型!?……まさか!ザクⅡ初期型がバズーカを撃つ。

 

「く……させる……かあっ!!」

 

 俺はアレックス3に狙いを付けさせ、バズーカの弾頭を狙撃する。……なんかかなり人間離れしてきたな、俺。そしてとっさにシールドを前に出した。

 凄まじい爆圧が、アレックス3を後方へ押しやる。やっぱりだ!核バズーカ搭載機!もう奴ら、南極条約守る気さらさら無いな。俺は爆圧の中でも見失っていなかった、ザクⅡ初期型を狙撃する。その核バズーカ搭載機は、爆散した。

 

「ペガサス!聞こえるか!敵はザクⅡ初期型に核バズーカを持たせている!麾下の全艦に通達してくれ!ザクⅡ初期型は優先して墜とし、何があっても通すな、と!」

『ザザちらペガサス、了解しザザザた。第1、第2小隊ザザ発進させ、ザザザ展開させます。』

 

 緑のゲルググ頭飾付きが、ビームライフルを撃ちながら俺の機体目がけて突入してくる。その後方にはリック・ドムが2機。ザクⅡ初期型、核バズーカ搭載機の護衛か……。だが甘い。

 

「バージル、お前が来てくれて助かったかも知れん。ザクⅡ初期型を見つけて、スナパⅢお得意の長距離狙撃で撃破しろ。他は無視してかまわない。俺は敵エースパイロットの相手をしなくちゃならん。」

『了かザザザッ!!』

 

 ミノフスキー粒子が濃いが、俺の脳裏にはバージルの了解の声が、ちゃんと届いていた。低ランクとは言え、やはりニュータイプ能力に覚醒しているからな。

 

「そして……。甘いんだよ!」

 

 ゲルググの弱点は、既に解析が済んでいる。ビームライフルの構造が甘くて、連射に難があるのだ。最初の射撃を躱せば、もうたいした事は無い。アレックス3のビームライフルから撃たれたビームが、頭飾付きのゲルググを貫き、撃墜する。

 リック・ドム2機は、隊長機が墜とされたのにも表向き動揺を見せず、左右に展開してこちらを挟撃しようとしていた。いや、感情は伝わってくるのだが。怒りと、驚愕と、若干の怯え。無造作に右側のリック・ドムを撃墜する。そして脚を前に振り出し、左腕をぐるりと回して強制的にAMBAC。

 上下が逆になる。まあ宇宙空間だから、どっちが上でも下でも無い。180度方向転換した俺のアレックス3は、ビームライフルを撃った。爆散する最後のリック・ドム。だがまだ敵はいる。

 

『このザザザッ!このおっ!!』

 

 バージル機の長距離狙撃で、ザクⅡ初期型が墜ちた。俺には『視え』ていたが、これで3機目だ。……足を止めての長距離狙撃なら、なんとかなるみたいだな。だが……。

 

「バージル、避けろ!」

『うわ、はいザザザッ!!』

「戦場で足を止めるな!」

 

 バージル機を狙った高機動型ザク後期型に向けてビームライフルを撃つ。こいつは手練れだ。高機動型の後期型とは言え、リック・ドムやゲルググに乗り換えずにこの機体に固執する奴だ。いや、もしかすると?俺は自分の感覚を信じ、攻撃と同時に、プレッシャーをかけてやる。

 

(貴様!スペースノイドを虐殺したザビ家に、何故協力する!)

(あれは必要な犠牲だったのだ!そうだとも、我々スペースノイドが真の解放と独立を……。)

(同胞殺しのくせに、自分たちがスペースノイドの代表の様な顔をするな!)

(ぐっ……。ぎゃああぁぁ!!)

 

 俺のプレッシャーに負け、機動が鈍った高機動型ザク後期型は、ビームの直撃を受けて爆散する。胸糞悪い。こいつもあまり強力ではないが、ニュータイプ能力者だったか。しょせんニュータイプ能力を持っていても、人の革新とは程遠いな。

 肉体がいつもの頭痛を訴えるが、戦闘中はその頭痛を意識から切り離せるようになってきた。ほんとに人間離れしてるなー俺。あ、バージルがまた1機、ザクⅡ初期型を墜とした。この短い時間で、エースまであと1機。

 そしてペガサスから、第1、第2小隊が発艦してきた。レビル将軍のアレックス1もいる。僚艦の後期生産型サラミス、後期生産型マゼラン、アンティータム級補助空母からも数多くのMSが発進し、周辺空域に展開する。

 周辺空域で、次々にザクⅡ初期型が撃墜される。はっきり言ってあの機体は対核装備が可能と言うだけであり、もはや時代遅れの機体なのだ。核バズーカを装備するには、確かにザクⅡ初期型しか選択肢が無いんだが……。

 やがて敵は、攻撃を諦めて撤退して行った。それまでに更に俺は、5機のMSとムサイ級軽巡洋艦2隻、チベ級重巡洋艦1隻を撃沈する。バージルの奴は5機目のザクⅡ初期型を撃墜して、エースの仲間入りをしていやがった。天狗にならなければ良いんだが……。

 

 

 

 あの後、朗報と悲報が相次いで届いた。ちょうどブリッジで戦闘報告をしていたので、通信を聞くことができたのだ。正式発表までは他言無用と言われてしまったが。

 朗報は、第13独立戦隊と第18独立戦隊が、「ソーラ・レイ」の一部破壊に成功したと言う事だ。一部とは言っても、マハル・コロニーの底面、レーザー発振を行う基幹部分であり、そう簡単に修復は効かないはずである。

 残念ながら第13独立戦隊と第18独立戦隊の旗艦である、改ペガサス級強襲揚陸艦ホワイトベース、同級スタリオンを除いた、後期生産型サラミス4隻は、全て失われたらしい。ただし乗員の救出には成功しており、搭載機のRGM-79GSジムコマンドも回収して、ホワイトベースとスタリオンのデッキ上に露天係止してあるそうだ。

 悲報は、我々第3艦隊だけでなく第2艦隊にもジオンの核攻撃隊が襲撃をかけて来ていた事だ。そして第2艦隊旗艦である後期生産型のマゼラン級フェーベが核バズーカを被弾。第2艦隊指揮官のコリニー中将は脱出に成功したがフェーベは轟沈し、コリニー中将も負傷して後送された。

 不幸中の幸いは、艦隊戦力本体にはそこまで被害が無く、第3艦隊次席指揮官になっていたティアンム中将を、急遽第2艦隊の指揮官代理として送り込めた事だろうか。

 コロニー・レーザーの脅威がとりあえず去ったため、複数の小艦隊に分散して進撃していた第1、第2、第3艦隊は各々集結した。第3艦隊総旗艦、改ペガサス級強襲揚陸艦ペガサスのブリッジで、パイロット用ノーマルスーツ姿のレビル将軍が演説を行っている。俺はそれをアレックス3のコクピットで聞いていた。

 

『連邦軍将兵の諸君。我々はこれより、ジオン軍宇宙要塞ア・バオア・クーに総攻撃をかける。だがその前に、私は諸君らに残念な報告をしなければならない。第2艦隊指揮官、ジーン・コリニー中将が、ジオンのMSによる核攻撃により乗艦フェーベを撃沈され、負傷した。

 そう、核攻撃だ。かつて地上のオデッサ作戦の際にも、オデッサ基地司令官マ・クベは味方を巻き込んでも核攻撃を敢行した。そして彼らはまたも南極条約を無視し、核攻撃と言う暴挙に出たのだ。』

「ゼロ、まただな……。またジオンの奴らは……。」

 

 開け放されたコクピットのハッチから、ラバンが顔を覗かせている。そうだった、こいつは一年戦争で家族をほとんど亡くしてるんだった。

 

「ああ、そうだ。厳密に言えば、奴らの中にも話の分かる奴はいくらか居るんだろう。だがそいつらの声は小さい。そして声の大きい奴らは、皆ああ言った行いを躊躇しない奴らばかりだ。」

「そう言う奴らを、なんとしても倒さなきゃ、な。」

「ああ。」

 

 レビル将軍の演説は続いている。なんとしてもザビ家を打倒し、この地球圏に平穏を呼び戻さねばならない、と。そしてその内容は、ジオン公国の抱える矛盾を鋭く突く。宇宙市民の解放、スペースノイドの自治独立をお題目に掲げるジオン公国が、一年戦争開戦初頭において、同胞たるスペースノイドを虐殺した事だ。

 あまつさえ捕虜にしたジオン軍人などの証言では、それはジオンの理想実現のため、やむを得ない必要な犠牲だったのだと言う。冗談ではない。自国民の数倍以上の宇宙市民を虐殺しておきながら、なんたる言い草か。しかもそれでいて、自分たちがスペースノイドの代表の様な顔をしていやがる。

 

「……この演説って、オープン回線でも流れてるんだろ?」

「ああ、そのはずだな。」

「ジオン側で、和平交渉をしようとか考えてるやつが居たりしたら、この演説聞いてがっくり来るだろうな。」

「仕方ないだろなー。核攻撃された直後に和平だなんて、誰も信用しねーよ、ゼロ。」

 

 もしかしたら、さっきの核攻撃……。コロニー・レーザー破壊されたからやったんじゃないだろうな。デギン公王が和平交渉しようとして、「ソーラ・レイ」使えないと詰むから、核攻撃して和平の芽を潰した……?考え過ぎかな?そこまで考え浅いか?……いや、暴走してるギレン・ザビならば、あるいは。

 ギレン・ザビをア・バオア・クーで捕捉できるだろうか。できなければ、ジャブローに再度のコロニー落としが行われる事になるな。『アクシズの脅威V』では、どこのコロニーが使われたのかはっきり明言してなかったが……。

 まさかサイド3では無いだろう。サイド5のコロニーにはテキサス・コロニーがある。あれは比較的損傷が少ない。狙いどころはあれかも知れないな……。注意しなければ。




主人公たちのMSが、一気に更新されました。主人公ゼロ・ムラサメとレビル将軍は、ガンダムNT1アレックス。第1小隊の残りのメンバーはジムスナイパーⅢ。第2小隊にはこれまで使われていた3機のG-3仕様ガンダム。
あと、そこはかとなく主人公に部下が付きました。ちょっと弱いけれどニュータイプに覚醒したばかりのオリキャラ、バージル・タイ伍長。乗機はこれまたジムスナイパーⅢ。いや、適当に良い連邦軍人いないかと名前をぐぐったんですが、いなかったのでオリキャラ。
あと裏で、そこはかとなくアムロ達第13独立戦隊も、アップデートされてます。特にアムロにはアレックスが渡ってます。オマケに、こっちにもジム改乗りのオリキャラが名前だけ3人。あはは。
その甲斐あってか、「ソーラ・レイ」は中破して決戦には間に合わないでしょう。その代わりと言ってはなんですが、今更ながら核攻撃です。ザクⅡ初期型、核バズーカ装備です。色々影響出るでしょうねえ。


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ア・バオア・クー燃ゆる

 とうとう連邦軍第2、第3艦隊は、ア・バオア・クーへと挑みかかった。第2艦隊がSフィールド、俺たちの第3艦隊がNフィールドから突入する。ドロス級の超大型宇宙空母から、敵MSが、敵MAが発進、周辺空域に展開するのが見えた。あれはドロス?ドロワ?……Nフィールドだから、ドロスだったかな?

 いつも通り、まず俺が発艦して周辺空域の安全を確保する。その後第1、第2小隊が出撃し、最後にバージルが出て来る予定だ。ペガサスの左右デッキの発艦ハッチが開く。

 

「ゼロ・ムラサメ、アレックス3、出るぞ!」

『進路クリア、どうぞ。』

 

 カタパルトが起動し、凄まじいGが身体にかかる。俺のアレックス3は、宇宙空間へと飛び出した。

 

「……凄いな。」

 

 周辺宙域には、それこそ無数と言っていいほどのジム系MSが展開していた。いや、少数だがガンダムタイプやキャノンタイプの姿も確認できる。おい、ボールは前衛に出るな。あそこの指揮官は何考えてやがる。

 ペガサスからは、既に第1、第2小隊、そしてバージルが発艦している。レビル将軍のアレックス1の、黒と銀でのプロトガンダム塗装は、周囲の味方の士気を弥が上にも盛り上げていた。

 ……来たか!レビル将軍機を墜とせば勝機はあると見たか、ビグロの3機編隊が突っ込んで来る。圧倒的多数の敵中に飛び込んで来る勇気は買うが、させない。

 俺のアレックス3は、まず先頭のビグロに挑みかかる。ビームライフルで狙い撃ち、90mmガトリングを撃ちまくりつつ接近、ビームサーベルで突き、離脱。爆散するビグロ。その爆光を背に、俺は2機目のビグロに襲いかかっていた。

 と、3機目のビグロが爆発する。ツァリアーノ中佐機、ラバン機、そしてバージル機の3機のジムスナイパーⅢによる狙撃だ。……あの馬鹿バージル、また機体の足を止めてやがる。

 

「バージル!機体の足止めてるんじゃない!ツァリアーノ中佐とラバン少尉の機動を真似しろ!」

『りょ、ザザッ解ですっ!』

 

 その間にも、俺のアレックス3は残ったビグロを撃破している。……バージルの奴の気持ちも、分からなくも無い。あいつはニュータイプ能力に覚醒したのがつい先ごろだったはずだ。あのシャアとララァ・スン他を捕虜にした戦いの時、俺の呼びかけで、だ。

 ニュータイプ能力に覚醒すると言うのは、良い事ばかりじゃない。MSの装甲ごしに、敵の断末魔が感じ取れてしまうのだ。けっしてゲーム感覚で敵機を撃墜する事なんか、できやしない。「自分が人殺しである事」を、否が応でも自覚させられてしまうのだ。

 ついつい機体の機動を止めて、それこそ必死で必殺の念を込めて狙ってるんだろうな。だが俺の様に、少なくとも表面的にはまったく動ぜずに、さくさく人殺しできる様にならなければ、生き残れないぞ、バージル。……俺も、ずいぶんと人殺しに慣れちゃったなあ。

 

「空を落とす奴は……。僕が抹殺する!……だったかな。」

 

 既にうろ覚えになってきている、本家ゼロ・ムラサメの台詞を呟いてみる。っと、敵のお替りが来た。今度は数が多い。今回はレビル将軍の手も、煩わせないといけないだろうな。

 

 

 

 敵も必死だ。それに単純な技量では、ジオンのパイロットたちの方が平均値では上回っているのだ。先ほど味方の中に見た、ボールを前線に出して盾に使おうとしてた部隊なんかは、もう既に大損害を出して敗退している。

 くっそ、戦いはこの一戦で終わるとは思えない。それなのに、この調子で戦力をすり減らしてちゃ……。やはりソロモン戦で、敵がソロモンを放棄したのは悪い方向に転がった様だ。敵を侮って軽率な行動の結果、撃破される味方が多い。

 

『ゼロ少ザザッ、次はあちらだ!』

「了解、将軍!」

 

 レビル将軍直卒部隊は、戦場の火消し役的に飛び回っている。敵のエース級を叩き潰し、味方を生き延びさせ、それにより士気を保っているのだ。

 ちなみに紅い高機動型ゲルググとか、白い高機動型ゲルググを撃破した覚えがある。あれ、もしかしたらジョニー・ライデンとシン・マツナガか?ただ断末魔の声は聞こえなかったから、おそらくは脱出には成功してるんだろう。少なくともしばらくフショウチュウで退場しててくれれば、ありがたいが。

 

『ザッそろそろの、はずだが……。』

「……もしかして。」

『うむ、気付いザザザかね?』

 

 レビル将軍の言葉がこちらに届いたか否か、と言うタイミングだった。強烈な光が、ア・バオア・クー周辺を薙ぎ払う。ドロス級が一瞬にして沈んだ。後で知った事だが、俺たちの反対側、Sフィールドを護っていたドロス級ドロワも、この時に光に焼かれて沈んだらしい。となると、こっち側にあったのはネームシップのドロスか。

 

「凄いな……。ア・バオア・クーが焼かれて行く……。ソーラー・システムか……。ソロモンで使わなかったからな。」

『ゼロ少尉、しばらくザザッ護っていてくれんか!ペガサス経由ザッ、私の声を全軍に届ける!』

「了解!」

 

 将軍のアレックス1がレーザー通信でペガサスに向けて言葉を発信する。その隙を見て襲いかかって来る敵を、俺のアレックス3が次々に爆散させる。ペガサス経由で、レビル将軍の声が味方に届いた。

 

『全軍に告ぐ!ザザッ密兵器、ソーラー・システムにより敵戦力は減退、今ザッ好機だ!全軍突入せよ!』

((((((ウオオオァァァ!!!))))))

 

 俺の人工的ニュータイプ能力で幻聴の様に、連邦軍全軍の戦意の高まりが感じられる。正史のア・バオア・クー戦ではソーラー・システム搭載艦が「ソーラ・レイ」で焼かれたんだったかな。そのためソーラー・システムは使えずに、しかも半減した戦力での消耗戦になった。

 だが今は違う!ソーラー・システムでア・バオア・クーの上半分が焼かれた今、敵の士気は落ち、連邦軍の士気はこれ以上なく高まっている!

 

『レビル将ザザッに続けえぇ!!ザザザ!!』

『おおお!ザザッ行けええぇぇ!!』

(見える、俺にも見える!)

(くっ……。この「殺す」感覚はキツいけど……。でも!!)

(死なせない!仲間を、味方を!)

 

 ノイズ混じりの声が聞こえる。連邦軍将兵の声だ。そしてクリアな「声」も聞こえる。以前の俺の呼びかけで覚醒した、そして今この戦場でのプレッシャーで覚醒した、ニュータイプ能力者たちの声だ。

 通常型のジムの群れが、ア・バオア・クー内部へと突入していくのが見える。それを阻止しようと迫る高機動型ザクの集団を、俺とレビル将軍が叩き落とす。……ザクⅡ初期型!?やばい!

 

(将軍!防御を!バージル、奴を撃て!!)

(わかった!)

(りょ、了解!!)

 

 俺はザクⅡ初期型が撃ったバズーカの弾頭を狙撃する。それは凄まじい爆圧を、周囲に発生させる。……核弾頭って、爆発させるの難しいんじゃなかったか?いや、衝撃で爆発しないとバズーカ弾頭には使いづらいか。仕組みはわからんが。ザクⅡ初期型の核バズーカ装備機は、バージル機の狙撃で爆散する。

 何にせよ、ジオンの奴らはまた核バズーカを使用してきた。俺はペガサスに急ぎ連絡を入れる。

 

「ペガサス!また核バズーカ装備機が出た!ザクⅡ初期型は、優先して墜とせ!繰り返す!ペガサス!また核バズーカ……。」

『こちザザッペガサス、了解ザザザ!!全部隊に通達する!』

 

 俺はところどころに目につくザクⅡ初期型と思しき機体、バズーカ装備のそれを、レビル将軍と協力して急ぎ叩き潰す。だが流石にア・バオア・クー全域をカバーできるわけも無い。そう多くも無いが、数か所で阻止に失敗して、核攻撃を受けたマゼラン後期生産型やサラミス後期生産型が沈む。

 

(うわあーっ!来るな、来るなー!)

(バージル!)

 

 バージル機がリック・ドム3機の1個小隊に追われている。射程距離ぎりぎりだったが、俺とレビル将軍が狙撃して、リック・ドム2機を撃墜する。

 

(バージル!落ち着け!機体性能はお前の方が上だ!落ち着いてやればそんな奴、敵じゃない!)

(は、はい!)

 

 バージル機のビームライフルが、リック・ドムを撃ち抜く。爆散するリック・ドム。

 

(うわあああぁぁぁ!痛い、熱い!母さあああぁぁぁん!!)

(!!が、学徒兵……。)

(ひるむなバージル!……殺さねば、お前が死ぬ。殺さねば、俺が、将軍が、皆が死ぬ。今は、今は殺すしか無いんだ!

 ……くっそ、俺だって好き好んで殺してるわけじゃない。だけど、今は殺すしかないんだよ!)

(……了解ッ!!)

 

 なんか、念話するのに思いっきり慣れてしまった気がするな。だがその時、「視え」た……。

 

(!?……なんだ?焦点が3つ、3つある?……そうか、1つがギレン、1つがキシリア、1つがドズルか!!

 ア・バオア・クー領域から離脱しようとしてる。どれだ、どれがギレンだ?)

(ゼロ少尉!)

(将軍にも「視え」ましたか……。)

(ああ、だがエネルギー、残弾とも厳しい。我々はどれか1つを追撃するのが精一杯だ。予備戦力も要塞に投入してしまっており、乏しい。残りの動かせる戦力では、もう1つを追撃させるのが、ぎりぎりだ。)

 

 ……1つは気配が薄い。たしかにアニメでアムロ曹長がドズルの後ろに「視た」様な異様な雰囲気は纏っているのだが……。だがそれは強弱はあれど、3つの焦点のどれもが纏っている。この戦いの中心である、と言う事だな。

 この気配の薄いのは、ドズルじゃないかと俺は思う。脱出を拒んで、部下に気絶させられでもして運ばれているのではないだろうか。となると、残るのがギレンとキシリアだ。俺はその推測を、レビル将軍に語る。

 

(……うむ。ではドズルと思しき気配は無視する。そして我々は……。)

 

 レビル将軍は、徐に通信回線を開いてレビル将軍直卒部隊に、そして予備戦力となっていたアントニオ・カラス中佐の小艦隊に、次々に命を下す。

 

『レビル隊に告ぐ!我々はザザッれよりEフィールド方面に逃走しつつある小艦隊を追撃する!これザザッ、グワジン級が含まれており、ザビ家もしくはそれに準ずる将がいる可能性が高ザザザ!!

 アントニオ・カラス中ザザッ!貴官は麾下の戦力を率い、Wフィールド方面に逃走しつつある小艦隊を追ザッせよ!含まれているグワジン級を逃がしてはならザザザ!!』

『こちらツァリアーノ中佐、了解ザザザ。お前ら、ザザ行くぞ!!』

『こちらカラス中佐、ザザ了解しました。』

 

 俺たちレビル将軍直卒部隊は、最大戦速でEフィールドへと向かった。逃げるグワジン級から、MSが発艦してくる。それらの内には、すでにかなり損傷している機体も含まれている。

 そしてリック・ドムやゲルググの数は少ない。正史では、新型のリック・ドムやゲルググは学徒兵が操縦してる場合が多く、戦力になってなかったらしいな。だからさっさと墜とされて、残っているのは歴戦の強者が乗っているザク系列が多いって事……か?

 げ。MS-06Zサイコミュ試験用ザクに、MSN-01サイコミュ高機動試験用ザク、それに……MAN-08エルメスにジオング!?エルメスにMSN-02ジオングだ!!シャアとララァは捕虜だから乗ってるわけないが……。

 あ、エルメスがビット射出した。1基だけだ。ガタガタと、制御もおぼつかない様子だ。他のニュータイプ専用機群は、オールレンジ攻撃はやらない。ニュータイプ能力を持っていないか、そのレベルが低すぎてサイコミュを扱えない……?

 

(お前らぁ!何故ジオンに力を貸す!ジオンはスペースノイドを虐殺した、スペースノイドにとって裏切り者だぞ!?)

(ひ!?だ、だけど!戦って勝てば……。自由に、自由にしてくれるって!)

(なんだ!?ガキども、だと!?)

 

 こいつら、フラナガン機関のモルモットどもだ!俺はビットを撃墜し、エルメスに接近してキャノピーに90mmガトリングの砲口を突きつけてやる。

 

(降伏しろ!俺がレビル将軍に掛け合ってやる!お前らを保護してもらえる様に!

 だが、徹底抗戦するって言うなら、引き金を引かざるを得ない!これが最後通牒だ!)

(……!!)

 

 あ。マット中尉みたいな事しちまった。……!!ゲルググがビームライフルで、エルメスを狙ってやがる!督戦隊か、下衆が!!

 俺はシールドを背中に回し、左手の90mmガトリングでゲルググを穴だらけにして撃墜する。それに追随するリック・ドムも、レビル将軍たちが撃破してくれた。

 と、エルメスが降伏信号を発信すると共に、降伏を意味する信号弾を打ち上げる。他のニュータイプ用の機体たちも、それに続き降伏信号を発信した。

 

「バージル!降伏したこいつらを、ペガサスまで連れてけ!」

『了かザザッ!』

 

 エルメスから思念が響く。

 

(あなたを信じるわ。たぶんフラナガン機関が約束した、自由にしてくれるって言うのは嘘だと思うもの。わたし、それぐらいならわかるのよ。)

(……そうか。そこのバージルのジムスナイパーⅢについてけ。降伏信号を発信し続けるのを忘れるなよ。間違って撃たれるからな。)

 

 それだけ伝えて、俺はエルメスを離れる。そして即座に高機動型ザク後期型を3機まとめて撃ち抜き、叩き潰し、なで斬りにして撃破。そのままグワジン級に向かう。だが俺はこの時、少し落胆していた。

 

(レビル将軍、この艦はおそらく……。キシリアのグワジン級グワジンです。フラナガン機関のモルモットにされてたガキどもが、強制的に戦わされてました。)

(うむ……。ギレンのグワデンであって欲しかったが。情報ではグワデンは通常のグワジン級よりも大きい440mのはずだからな。これは明らかに違う……。

 モルモット扱いのニュータイプたちについては、保護を約束する。さきほどの声、聞こえていた。)

(ありがとうございます……。)

 

 グワジン級グワジンは、第2小隊のG-3仕様ガンダム3機に取り付かれてエンジン部分を中破させられていた。そこへ後方からペガサスが艦砲射撃を行う。次々に被弾するグワジン。だが砲塔を回して、ペガサスを撃とうとする。

 俺はビームライフルで狙撃して、砲塔を1つ破壊する。次にビームサーベルで別の砲塔の砲身を斬り落とし、役立たずにした。ツァリアーノ中佐機とラバン機の2機のジムスナイパーⅢが援護する中、ブリッジにレビル将軍のアレックス1が取り付く。オープン回線で、グワジンの指揮官と思しき相手が叫んだ。

 

『レビル、きさザザッ!』

『やはりキシリア・ザビか!もはザッ終わりだ。降伏を勧告するザザザッ。』

『く……ザザザ。』

 

 一瞬、グワジン級から巨大な影……アニメで、ソロモン戦においてドズルの後ろから立ちのぼったアレと同質の物が、ぶわぁっと広がった。だがそれは急速に大きさを縮め、消滅して行った。……キシリアが、諦めたか。

 

『……降伏する。ザザッ…部下達には、寛大な処置を望ザザッ。』

『それは戦後の裁判ザザッ結果次第だ。だがそれまでは、南極条約に則ったザザ当な扱いを約束すザッ。』

『……。』

 

 まだ散発的な戦闘は、ア・バオア・クー内で行われている様だが、実質的にこれでア・バオア・クー攻略戦は終了した。……ギレンを追った部隊?……失敗しましたよ。グワジン級が2隻いて、片方がエギーユ・デラーズ大佐だったらしい。狂信的な部下たちが死を賭して戦って、2隻のグワジン級を逃がしたんだ。

 あげくにアントニオ・カラス中佐のマゼラン後期生産型ルザルが、ザクⅡ初期型核バズーカ装備機の核攻撃で大破、カラス中佐は脱出に成功するも負傷し後送となった。なんてこったい。

 

 

 

 ペガサスは、ア・バオア・クーの宇宙港に入港した。陸戦隊により占拠された司令部で、レビル将軍は指揮を執っている。副官役のツァリアーノ中佐は付いて行ったが、俺たちレビル将軍直卒部隊の面々は、とりあえずの短期間の休みが与えられた。

 ちなみに俺は、ガンガンと痛む頭を抱えて、ペガサスの自室で寝っ転がっていた。戦闘中は頭痛を精神から切り離す技術を身に着けた物の、戦闘が終わって緊張が解れると、切り離していたはずの頭痛が襲い来るのだ。ああ、頭の中でヘビがうねる……。

 と、端末が呼び出し音を鳴らす。俺は頭痛を堪えて端末のスイッチを入れた。

 

『ゼロ少尉?お休みでしたか?』

『ああ、伍長。急な用事でなければ、もう少し休んでいたいんだが……。何だ?』

『いえ、降伏した捕虜が、あなたに面会を求めているのですが……。なら断っ……。』

『待て!会う。あの鹵獲した試作機群に乗っていた奴らだろう?』

『あ、はい。ではブリッジに来て下さい。』

 

 あのガキどもの中で、エルメスに乗っていた女パイロットは、幾ばくか年長の様だった。もしかしたら、ほぼ俺たちと同年代かも知れない。俺は必死に頭痛を堪え、ブリッジへと急いだ。そこで待っていたのは、手錠をされた、1人の少女。その娘の名前は……。

 

「……!?君は……。レイラ・レイモンド!?」

「!?……凄いわね。そこまで読み取れるの?連邦のニュータイプさん。」

「……いや、俺はニュータイプじゃない。ニュータイプじゃないんだ……。」

「?」

 

 衝撃の出会いだった。やばい。何を言っていいのか、わからない。そうか……。実戦に適さない、能力の低いニュータイプ能力者を、無理矢理に実戦投入してまで……。俺たちがキシリアを追ったのは、結果として良い方向に動いたのだろうか。

 そうでなかったら、この娘を含むモルモット扱いのニュータイプたちは、皆殺しになっていた可能性も高い。いや、全体の戦局からすれば、ギレンを逃がしてしまったのは……。やはり……。それはともかく。

 俺は、目の前にいるレイラ・レイモンドのきょとんとした表情から、目を離せなかった。




ア・バオア・クー攻略戦は終了しました。あと一年戦争編で残るは、グラナダとサイド3ですね。ああ、あとギレンの最後の悪あがき、再度のコロニー落としがありましたね。……どうしよう。やっぱりテキサス・コロニーあたり落とすのが楽かなあ。今のジオンで、落とせるコロニーと言ったら……。サイド3のコロニーは、いくらなんでも落とせないし……。
ところで、ついに登場しましたレイラ・レイモンド。でも強化されてないので、「跪いて泣き叫びなさい!」とか「わたしがやったの?いやあああぁぁぁ!」とか、叫びません。はてさて、どうなることやら。


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亡命希望者たち

 レビル将軍に呼ばれ、将軍の執務室……将軍の私室とは別個にペガサス内に設けられた、かなり広いその場所で、俺は将軍と話し合っていた。

 

「あの精神世界に居たとき、ア・バオア・クーでギレンが生き残った場合に、再度のコロニー落としを行うヴィジョンも、かすかに「視え」たが……。起きると思うかね?」

「はい。ギレンは暴走しています。間違いなく……。」

「そうか……。一応念のための保険はかけてあるが……。」

 

 レビル将軍は、眉を顰める。と、話題が変わった。

 

「ところで、キシリア・ザビを捕虜にした際に、同時に捕虜にしたフラナガン機関所属の少年少女たちだが……。全員が亡命の申請をしているのだな?」

「はい。元々彼らの中には、サイド3以外の住人だった者も含まれていますね。何にせよ、強引に連れてこられて無理矢理に実験に使われ、強制されて戦わされていた被害者である事は間違いありません。

 それと、サイド6に作られているフラナガン機関には、まだ数多くのモルモット扱いの子供たちがいる模様です。もし可能ならばと、その子供達の救出を懇願されましたが……。」

「……亡命の申請と、その後の保護については任されよう。しかし、フラナガン機関……サイド6か……。

 この件に関しては、今頃ルナ2からソロモンに到着しているであろう、ワイアット中将および、ジャブローのゴップ大将と相談せねばならんな。いや、悪い様にするつもりは無いとも。……なんとかしよう。」

 

 徐に将軍は、机上にマグネットで留められていた書類を手に取る。宇宙世紀になっても、ペーパーレス化は進んでいない。やはりプリントアウトしないと、人は安心できない模様だ。

 

「ふむ、ジャブローにジオン地上軍の残党が、乾坤一擲の攻撃を仕掛けてきたらしい。ほぼ地上は制圧したと言うのに、何処に隠れ潜んでいるのだろうな。

 いや、これも地球連邦政府の惰弱と腐敗が故か……。地球上の連邦市民たちの中にさえ、連邦政府の行いに不満を持っておる者も多いからな。隠れ潜むのは、容易だろう。」

「それでどうなったのでしょ……。いえ、僕が聞いてもいい事なのでしょうか。」

「かまわんよ。と言うか、あの精神世界でのヴィジョンは、君が見せたのだろう?一番未来の可能性に詳しいのは君だろう。

 無論すべてがあの通り進むとは言わんし、そればかりに囚われると足元をすくわれる危険もあるがな。しかし、可能ならば意見を聞かせて欲しいものだ。」

 

 そう言ってレビル将軍は、数通の書面をこちらに放ってよこす。無重力が故に、その書類は直線の軌道を描いて、俺の手元に届いた。

 

「……ジャブロー襲撃に用いられたMAは、アプサラスⅡおよびアプサラスⅢと呼称される。……任務解除され、ジャブローに召還されていたコジマ大隊第08MS小隊により、両機とも撃破、ですか。

 アプサラスⅢパイロット、ギニアス・サハリン大佐は重傷、昏睡。アプサラスⅡパイロット、妹のアイナ・サハリン女史も負傷したものの生存。敵MS隊を率いていたノリス・パッカード中佐、重傷だが意識はある……。」

「第08MS小隊に、それまでの乗機に代わり、新型機RX-78XXガンダム・ピクシー3機を配備し、機種転換訓練をさせておったのだが……。助かった、と言うべきかな。」

「コロニー落としに備え、ジャブローの戦力はどこかに一時退避しておくか、あるいはジャブローの奥深くに退去させておくべきでは。」

「うむ、何時でもそうできる準備は整っておるよ。」

 

 次の書類をめくった俺は、目を瞠る。

 

「アスタロス計画……。阻止に成功したのですか。荒野の迅雷と名高いエースパイロット、ヴィッシュ・ドナヒュー中尉をホワイト・ディンゴ隊隊長マスター・P・レイヤー中尉が討ち取った……。」

「やはり知っておったかね。アスタロス計画。」

「は……。ですが、その情報ソースが超能力じみたものでは……。」

「うむ、話す事ができんのもわかる。軍としても、それを元に動く事はできん。しかし、そう言った情報でも使い様はある。

 それに頼り切りになるのは先ほど言った通りまずいがな。ゼロ少尉、これからも力を貸してくれ。無論、意見や知恵も、な。」

 

 俺は敬礼で、その言葉に応えた。

 

 

 

 俺は少々暗い気持ちで、ア・バオア・クー内の通路を歩いていた。理由は、第16独立戦隊が、サイド5ルウムの宙域でテキサス・コロニーを落とす準備を行っていた敵部隊を発見したものの、戦力差から阻止を断念したためである。レビル将軍も、自分の読み違えだと悔やんでいた。

 レビル将軍は、戦力をア・バオア・クーに集めていた以上、コロニー落としの準備作業に回していた部隊はさほど大規模ではないと見積もっていた。そのため、当時動かせた余剰の戦力であった改ペガサス級サラブレッド隊、第16独立戦隊を、奴らが地球に落としそうなコロニーのあるルウムの宙域に向かわせていたのだ。

 無論、戦力をもっと用意できなかったのかと言われれば、できなくも無かったと答えよう。だが敵が地球に落としそうな損傷度合いの低いコロニーの候補は複数あり、それら全部に部隊を送り込まねばならなかったのだ。当然、1つ1つに送り込める部隊の規模は小さくなる。

 第16独立戦隊の報告を受け、至急ソロモンの留守番艦隊、ルナ2の留守番艦隊、そしてサイド1ザーン、サイド2ハッテ、サイド4ムーアに向かわせていた各独立戦隊が集結し、艦砲射撃によるコロニーの破壊を試みてはいる。だがどの程度ダメージを与えられるか……。

 どのコロニーが使われるかが判明するのが遅かった……。やはり、いちばん可能性が高かったテキサス・コロニーが使われたのだし、山を張ってそこだけに対規模な部隊を送り込むべきだったかも……。いや、俺には権限ないけど。

 

(フォルド中尉あたりは、怒り狂って悔しがってるんじゃないかな。)

「思念が漏れてるわよ。フォールド……?中尉?って?」

「ああ、いや。フォールドじゃない、フォルドだ。しかもこっちが一方的に知ってるだけの相手だ。」

「どうしたのかしら?ひどい表情よ?」

 

 そう言ったのは、レイラ・レイモンド少尉……一応ジオン軍で階級は与えられていたそうなので、その階級で呼ぶが、その彼女だった。俺は苦笑いを浮かべる。

 

「ああ、いや……。すまん。機密に属する事なので、言えないんだ。」

「そっか……。ごめんなさい。」

「何を謝る?」

 

 レイラ少尉は、少し寂し気な笑顔を浮かべると、謝った理由を話す。

 

「貴方はわたしたちのために、色々してくれたわ。こうやって、見張り付きとは言え亡命希望者として手錠無しで歩けるのも、貴方のおかげ。

 でも、わたしは貴方に何も返してあげられていないもの。」

「ま、待て。それは気にする事じゃない。」

「そうね。でも……。」

「でも、は無しだ。気にするな。それに、感謝はレビル将軍にしてくれ。俺は君が、君らが少しでも良い未来を掴むことができれば……。」

 

 そして俺は、小さく呟く。

 

「……『俺』から頼まれたんだ。世界の痛みを、少しでも……。意味のない死を、少しでも……。」

「またひどい顔になってる。」

「そ、そうか?すまん。」

「あなたこそ、謝る必要はないわよ?」

 

 彼女はそう言って、小さく笑った。俺は思わず、その微笑みに見惚れてしまう。そして赤面。泡を食った俺は、すたすたと先に立って歩きだす。

 

「さ、い、行くぞ。PXでお仲間たちのために買い物だったよな。」

「あ、待ってよゼロ少尉。わたしは1人じゃ歩いちゃいけないんでしょ?置いて行かないで!」

 

 何やら照れ臭くなった俺は、必死の気分で足を止め、レイラ少尉が追い付いて来るのを待ったのだった。

 

 

 

 俺たちの第3艦隊と、ソーラー・システム展開の作業をしていたためにほぼ無傷だった第1艦隊は、これからジオン本土へと向かう。ギレン・ザビを追い詰め、可能ならば捕らえて裁判にかける。さなくば、戦場で倒すのでも良い。だができれば裁判にかけたい。

 まあ、裁判にかけたら、たぶん極刑が決まるだろう。処刑したら、各地に隠れ潜んだ狂信的ザビ家シンパの将兵たちの結束を促して、連邦への抵抗運動が激化する……んだったよな。でも処刑しないわけには行くまい。

 残る第2艦隊は、月面グラナダ基地攻略に向かう。主力が後背から攻撃を受ける事を防ぐためだ。ティアンム中将が、グラナダ攻略艦隊の総指揮を執る事になっている。

 戦力をほぼ消耗していない第1艦隊はともかく、第2と第3艦隊はソロモンから到着したばかりの補充により、表面上は戦力を回復している。しかし補充の中身は新兵がほとんどであり、どこまで頼りになるか分からない。と言うより頼りにならない。

 ただ少し心強いのは、第13独立戦隊と第18独立戦隊が帰還した事だ。第13独立戦隊は第3艦隊に、第18独立戦隊は第2艦隊に振り分けて合流させている。各々は旗艦である改ペガサス級強襲揚陸艦ホワイトベースとスタリオンを除いて、僚艦を全て失っていた。だが合流に際し、新たに後期生産型サラミス2隻ずつを補充されている。

 そう、アムロ・レイ曹長たちが俺たちの第3艦隊に合流しているのだ。これは心強い。レビル将軍も、彼等の帰還に際して直接面会の場を設け、「ソーラ・レイ」破壊任務の成功と無事の帰還を祝した。俺もその場に同席したが、アムロ曹長他の第13独立戦隊の面々は、より一層成長した様に見えていた。

 あ、いや。第18独立戦隊の面々もその場にいたよ?彼らも歴戦の強者って感じだったよ?そっちのMS隊は、リド・ウォルフ少佐が率いてたりしてるよ?シャルル・キッシンガム中尉とかハインツ・ベア中尉とかエースパイロットとして有名なの集まってるよ?

 ……でも彼等、口を揃えて「アムロ曹長に助けられた」って言ってるんだよね。凄いね、原作主人公。

 

『……改ペガサス級がこれだけ並んでるの見ると、壮観だな。』

『改ペガサス級は、かっこいいからなあ。』

 

 俺とラバンは、自身も改ペガサス級ペガサスの甲板に立ちながら、その左右に入港している改ペガサス級の群れを眺めていた。ホワイトベース、スタリオン、ブランリヴァル、ペガサスⅡ、グレイファントム、トロイ・ホース、イカロス……。

 元々は普通のペガサス級だった艦も、既に全部が改ペガサス級に改装されている。ア・バオア・クーに複数ある宇宙港のうち、ここに改ペガサス級が集められているのは、改ペガサス級が艦隊旗艦に使われる事が多いため将官の会合に便利なことと、整備の都合上だ。

 

『お、ブランリヴァルが出港する。』

『ティアンム中将の座乗艦だな。第2艦隊は、一足先に出陣するはずだからな。』

『詳しいな、ゼロ。』

 

 と、そこへデリスとロンがやって来る。なんか俺の人工的ニュータイプ感覚に、奴らがニヤニヤしてるのが感じられた。

 

『おーい、ゼロ。お客さんだぜ?』

『急いで行ってあげた方が良いですよ?』

 

 なんだなんだ。いったい誰だお客……!!その時、俺の精神に何かが触れて来るのが感じられる。もうお客が誰かは分かった。俺は急ぎ、ペガサスを係留してある桟橋へと降りて行った。

 

『ゼロ少尉!』

『少尉さん!』

『少尉さんだ!!』

『……来ちゃった。元気そうね。』

 

 そこには、連邦軍の一般用ノーマルスーツを着用した階級章無しの4人と、中尉の階級章を着けた同じく一般用ノーマルスーツの人物が立っていた。階級章無しの4人のうち、3人は小柄で、まだ年少である事を思わせる。

 俺はまず、中尉に対し敬礼を送る。

 

『任務ご苦労様です。レビル将軍直卒部隊、第3小隊小隊長、ゼロ・ムラサメ少尉です。』

『うむ、ご苦労。自分は軍警察のカール・ダンバー中尉だ。今回は、彼女ら亡命希望者の引率を命じられている。では自分は、少し外そう。話が終わったら呼んでもらえればいい。』

 

 そう言ってダンバー中尉は、少し離れた位置まで移動し、そっぽを向いてくれた。まあ、ノーマルスーツの無線で話しているのだから、声は丸聞こえなのだが。しかし俺たちの話を聞きとっておくのも、MPとしての務めだろ。仕方ないのは、仕方ない。

 

『あー……。ハリー・アバークロンビー伍長、ケイコ・ササキ伍長、ジェシー・ダイソン伍長だったな。元気だったか?

 それと……レイラ少尉。』

『あら?わたしはオマケ?』

『ははは、代表者だろう?拗ねないでくれないか?』

『うふふ、冗談よ。』

 

 俺たちは、互いに笑みを漏らす。そう、来たのはレイラ少尉たちだった。デリスとロンのニヤケた雰囲気の理由がわかった。あとで訓練地獄に落としてやる。

 

『ところで、今日はどうしたんだ?』

『ようやく一通りの事情聴取も終わったし、時間ができたから……。それに貴方はいつ出撃になるか分からないから。この子たちも、会っておきたいって言ってたし。だからお見送りを兼ねて、ね。』

『そうか……。』

 

 しみじみした雰囲気が流れる。と、ケイコ・ササキ伍長が口を開いた。

 

『少尉さん……。ジオンと戦いに行くんでしょ?』

『あ、うん。まあな。いつ何処に戦いに行くかは、機密事項で教えられんけどな。』

『それはいいの。……少尉さん。あいつら、やっつけて。思いっきり。』

 

 黒い想念が、ササキ伍長の内から滲み出すのが感じられた。いや、ササキ伍長だけじゃない。残りの2人、アバークロンビー伍長とダイソン伍長からも黒い想念は、湧きだしている。俺は思わず、レイラ少尉に顔を向けた。彼女は少しの間、言葉に詰まる。が、やがて口を開いた。

 

『……この子は、能力が低いって言われたわたしたちの中でも、更に能力が低くて。訓練や実験と称して、虐待じみた真似をされてたの。サイコミュの制御に失敗したら、張り付けられた電極から電気を流されたり、とか。』

『!!』

『いえ、他の子も頻度は違えど、同じ目には遭わされてるわ。』

『……そうか。』

 

 彼女は言わなかったが、俺には彼女自身も酷い実験を行われていた事が「解」った。……俺は思念の手を伸ばし、レイラ少尉を含めたこの子らを包み込むように抱きしめる。

 

『『『『!!』』』』

『なあ、お前ら。俺が、お前らがされた分、たっぷり仕返ししてきてやるよ。だから、お前らはもう……。もうそんなに苦しまなくていいんだ。』

『う、うぇ……。』

『しょう、い、さん……。』

『あり、が、と……。』

『……。』

 

 そしてレイラ少尉は、何かを言おうとして詰まり、息を飲みこんで自分を落ち着けると、再度言葉を発した。

 

『……ありがとう、ゼロ少尉。』

『あー、なんだ。ゼロ、で構わないぞ。』

『そう?じゃあ、わたしも少尉はいらない。名前でいいわ、ゼロ。』

『わかった、レイラ。』

 

 俺たちは、その後しばらく他愛ない話を重ねた。そして30分ばかり経った頃、そろそろ彼女らが戻らねばならないとの事だったので、解散する。俺は軍警察のダンバー中尉に、彼女らの事をくれぐれもよろしくと頼んで、ペガサスの甲板に戻った。

 ペガサスの甲板では、ラバン、デリス、ロンの3人が、ニヤニヤした雰囲気を纏って待っていた。そして3人で一斉に俺を小突いて来る。ちなみに一撃ももらわずに、全て躱してやった。

 

『ちょ、お前ここは大人しく素直に小突かれてしかるべき場面だろ!?』

『そうですよ、まったく羨ましいですね。』

『知らんな。何の話だよ!』

『こんの、くそトボけやがってぇ……。はぁ。』

 

 何を言ってるんだか、こいつらは。こいつら3人とも、その辺の女性兵士から「お守り」と称する品を貰ってるの、俺が知らないとでも思ってんのか。ペガサスの食堂で、自慢してたの忘れてんのか。俺は小説版アムロみたく、誰からも「お守り」貰ってないんだぞ?……俺、最終局面で死ぬんじゃなかろうな(汗)。

 と、ラバンが呟くように言う。

 

『わるい、ゼロ。無線で話が聞こえて来たんで、つい無線切らずに聞いちまった。あいつら亡命希望なんだろ?……ジオンにも、いろんな奴いるんだな。亡命成功すりゃ、ジオンじゃなくなるけどよ。』

『……ラバンが言いたいのは、「実験」とかの事か?』

『ああ。ジオンにも無理矢理戦わされてたやつがいたんだな。前線に出て来るやつは大半、皆ジオン万歳の狂信的な奴らかと思ってた。』

 

 俺はため息を吐く。

 

『あいつらは運が良かった方さ。こうして、助ける事ができた。だが助けられずに殺してしまったやつも沢山いるんだろう。

 だがとりあえずラバン、気にしない方がいい。ただ、さ。頭の片隅には置いといて、忘れるな。』

『ああ。忘れないけど、とりあえず気にしねえよ。ここでうっかり手を緩めて、自分が死んだりしたらシャレにもならねえ。』

『そうそう、あと一歩でジオンを追い詰められるんだ!』

『ア・バオア・クーでギレンを逃がしたのは痛かったですけど。でも、もうすぐザビ家も終わりですからね。そうすれば、全部上手く行きます。』

 

 デリスとロンも話に加わって来る。ただなあ……。ザビ家倒してジオン公国をどうにかしても、終わらないんだよなあ……。地球連邦政府の惰弱と腐敗と無駄なエリート意識……。それをどうにかしないと……。

 俺は内心を隠しつつ、3人と笑いあった。

 

 

 

 ところで不本意に戦わされてるって言えば……。シーマ・ガラハウ中佐は、今どうなってるんだろう?レビル将軍にその境遇を話したら、とりあえず諜報部で確認して、それが事実だったら引き抜き工作かけてみるって言ってたけれど、どうなってるんだろうな?まあ「俺の証言」だけじゃ軍は動けない。諜報部ガンバレ。

 シーマ様は、騙されて毒ガス使わされて悪夢に見るぐらいトラウマ負わされた上に、故郷のスペースコロニーであるマハルは強制疎開の上で「ソーラ・レイ」に改造されちまったし。その上にアサクラ大佐を介してジオン上層部から、汚れ仕事ばっかり押し付けられてるはず。

 たぶん今頃は既に、ジオンに対する忠誠心なんてすり減ってると思うんだけどな。

 

 

 

 そして俺たち第3艦隊と、第1艦隊は共に、サイド3ムンゾ目指して出撃した。これで一年戦争は終わる。だがそれは次なる戦いの序章に過ぎない事を、俺は知っている。知ってはいるが、まず1つ1つ、終わらせていかなきゃな。

 俺は船窓から、遠ざかる宇宙要塞ア・バオア・クーを見遣る。あそこにレイラたち亡命希望者がいる。なんとしても勝って帰り、もう1度会いたいと思う。そして、思いっきり仕返しして来てやったぞ、と報告するのだ。

 ……あれ?サイド3制圧後、第3艦隊はア・バオア・クー寄るのか?ゲームだとア・バオア・クー経由の道しか無いも同然だけど。フォン・ブラウン通れないから。でも現実だと、ア・バオア・クー寄らないで月で重力ターンしてルナ2目指してもいいし、この艦は改ペガサス級だからそのままジャブローに降りても……。

 あれ?あれ?あれれ?そうだとしたら、会えないじゃん!……混乱する俺を乗せて、第3艦隊旗艦、改ペガサス級強襲揚陸艦ペガサスは、艦隊を率いてサイド3を目指し、航行していた。




今回の焦点は、レイラ・レイモンドです。彼女に焦点を無理してあてたのは、今後しばらく出番が無さそうだからです(泣)。
何故って、亡命希望者だから前線に出すわけにも。
はやく大手を振って、登場させられる様にしたいですね。


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いざサイド3ムンゾ

 テキサス・コロニーがジャブロー近辺に落下した。不幸中の幸い、ジャブローに直撃はしなかった。けれどジャブローの地上施設は、破片と衝撃波とで大被害を受けている。直撃しなかったのは、コロニーが大気圏上層部で崩壊を始めて、それにより軌道が狂ったからだ。

 

『ジオン公国は、いやギレン・ザビはまたもコロニー落としを断行した!これを防げなかったのは、慚愧に耐えない……。不幸中の幸い、地上に落ちたコロニーは微妙に軌道を外れ、最初のコロニー落としほどは被害が出にくい場所に落下した。

 しかし全く被害が出ないと言うわけでは無かった事も確かだ。此度のコロニー落としによって不幸に遭われた人々に、この事態を防げなかった事を重ねて謝罪する。それと共に、この極悪非道な行為の代償を、かならずやギレン・ザビとその一党に支払わせる事を約束……。』

 

 作戦決行直前の、レビル将軍の演説が続く。これから俺たちは、サイド3ムンゾを攻略するのだ。

 

『……故に、決して赦してはならない!全軍に告ぐ!これより我が軍はジオン本土、サイド3ムンゾの攻略作戦を開始する!同胞たるスペースノイドを虐殺しておきながら宇宙市民の解放と独立を訴える厚顔さ!アースノイド、スペースノイド関わらず数十億人を殺すその狂気!この戦いをもって独裁者ギレン・ザビを打倒し、地球圏に平和を取り戻すのだ!』

 

 俺はこの演説を、自機アレックス3のコクピットで聞いていた。と言うかレビル将軍も、この演説はアレックス1のコクピットから行っていたはずだ。俺たちの出撃順は比較的早いのだ。けれどまさか、突撃の急先鋒にレビル将軍を置くわけにはいかない。

 だがレビル将軍は最前線で自らMSで戦う事で士気を鼓舞してきた経緯がある。そのイメージを裏切らないためにも、最後方で発進するわけにはいかない。よって、前衛でこそないにせよ、第1陣の中盤程度に俺たちレビル将軍直卒部隊は出撃する事になるのだ。

 その時、他の機体から通信が入る。

 

『いよいよだな、中尉殿。』

「やめてくれ、ラバン。頼むから。普通に呼んでくれればいい、普通に。」

『そう言うわけにもいかんだろ、ゼロ中尉殿?まあ、第3小隊長なんだし。それにキリマンジャロ以来、戦果も一番上げてるし。しかも強敵は、みんなお前さんが倒してくれてるしな。』

 

 そう、俺はこの会戦に先立って、中尉昇進していた。なんでまた、と思わざるを得ないが、『ギレンの野望』系世界であれだけ墜としまくれば、1つぐらい昇進するのも、むべなるかな。

 同僚達からのやっかみは、驚くほど無い。最初にG-3使ってた事で、嫉妬されたのが嘘の様だ。代わりにからかい半分で、中尉殿中尉殿と連呼されるが。

 だが俺は知っている。ラバンの奴はこの部隊の中では技量こそ低目だが、堅実なアシストで着実にポイントを稼いでいる事を。そして奴もまた、昇進が近い事を。レビル将軍とツァリアーノ中佐が相談してるの聞いたからな。

 ぶっちゃけ化け物揃いのこの部隊だから目立たないだけで、他の隊に行ったら超エース級だぞ、こいつ。化け物筆頭が何を言うか、と言われそうだが。

 

『何にせよ、いよいよだな。』

「ああ。これでとりあえず一段落する。」

『……とりあえず?』

「……ああ。とりあえず、だ。言っちゃ悪いとはかけらも思わんが、連邦政府の腐敗、スペースノイド差別、その他諸々。そう言った事柄が解決しない限り、火種はくすぶり続ける。間違いなく、な。

 平和は……まだ遥か遠い。」

『……。』

 

 大きく息を吐き、俺はラバンに謝罪する。

 

「悪かった。空気が悪くなってしまったな。」

『いや……。お前の言う通りだ。俺たちは、戦後どう動くべきなのかな。二度とこんな悲劇を起こさないために。』

「そうだな。軍人には、できることは少ないな。だが、軍人にしかできない事もあるさ。この戦いが終わってから、ゆっくり考えよう。」

 

 ラバンと会話しているうちに、レビル将軍直卒部隊の出撃順が巡って来た。ペガサスのブリッジから、通信士が指示を伝えて来る。

 

『ゼロ中尉、進路クリア!直近の敵影は薄いですが、前衛を突破してきた敵機が少数!出撃後、中尉のアレックス3はそれを排除し、味方の発艦を援護してください!』

「了解。ゼロ・ムラサメ、アレックス3!出るぞ!」

 

 カタパルトが起動。強烈なGを感じる。アレックス3は俺を乗せて、漆黒の宇宙空間へと飛翔した。

 

 

 

 前衛を突破してきた敵機の小隊は、さすがに強敵だった。MS-17ガルバルディα、新型も新型だ。しかも乗っているのは並のパイロットじゃない。無論学徒兵でもない。間違いなくエース級だ。

 ……だが、そこまでだ。向こうがエースなら、こっちは強化人間だ。しかも機体性能が違う。

 

「……そこまでだっ!」

 

 3機のガルバルディαを、火球に変える。俺はペガサスに通信を入れた。

 

「ペガサス!今のうちに皆を出撃させてくれ!」

『了かザザッ!!レビル将軍直卒部隊、順次出げザザッてください!』

 

 ペガサスの右舷デッキから、第1小隊が。左舷デッキからは第2小隊とバージルが。部隊の全機が発艦完了し、フォーメーションを整える。目指すはサイド3、1バンチコロニー……ズム・シティだ。

 まあ、簡単にはいかないんだけどな。俺たちの前には、次々と前衛の守りを突破して、レビル将軍機アレックス1を墜とそうと、強敵ばかりがやって来る。パーソナルカラーが許されている機体も、ちらほらと見受けられるからには、エースパイロットなのだろう。

 げ。紅いMS-06R-2高機動型ザクに、白いMS-06R-1A高機動型ザク……。ア・バオア・クーで紅い高機動型ゲルググと白い高機動型ゲルググを撃墜したからなあ。以前乗っていた機体で出撃してきたのか、「紅い稲妻」ジョニー・ライデンと「白狼」シン・マツナガ。

 06R型のザクは、耐久性や火力では高機動型ゲルググに及ばない。だが単純に機動性だけを比べるならば、比肩し得るか勝ってさえいるのだ。しかも以前は別々に襲いかかってきたが、今回は違う。息を合わせて一緒に攻め込んできている。

 

『ザザッ……ザザザ、手前ぇ、ア・バオア・クーの恨みザザザッ!!』

『ザザザッやれやれ……。済まないが、付き合ってもらザザッようか。』

 

 あ、こいつら軍法違反だぞ。基本、敵機に通信入れちゃいけないんだぞ。降伏勧告とか以外は。まったく、オープン回線使いやがって。なので俺は通信の返事を返さない。

 だから返事代わりに、ビームライフルでの狙撃と、90mmガトリングの乱射をお見舞いする。ビームは紅い機体の片脚を捉え、ガトリングは白い機体の右腕を吹き飛ばす。いや、俺は胴体中央を狙ったんだが、こいつら流石に凄いわ。とっさに腕や脚を犠牲に、核融合炉とコクピットのある胴体を守った。

 ちなみにこちらも相手の射撃を受けるが、殺気のラインが見え見えなのだ。こちとら強化人間だぞ。いや、向こうは知らないが。そんなわけで、あっさり攻撃を避ける。アレックス3の機動性は、相手の比では無い。

 紅い機体は、爆発する脚部の切り離しに失敗する。胴体部まで誘爆する直前に、ラウンドムーバー……ノーマルスーツの後腰に着けて、宇宙空間を飛ぶためのアレを装備した、紅いノーマルスーツのパイロットが脱出する。武器を持つ右手を失った白い高機動型ザクが、それを拾って逃走した。

 追い打ちをかけようかと思ったが、まだまだ敵は多い。と言うか既にレビル将軍の周囲まで、乱戦に巻き込まれている状況だ。前衛部隊ェ……。何やってんだ……。

 

 

 

 結局のところ、前衛部隊がポカをやったので、俺たちレビル将軍直卒部隊が最前衛とならざるを得なかった。俺たちを矢じりの先端にして、敵陣を切り裂いて行く。……バージルの奴が疲弊してきた。帰艦命令を出そう。

 

「バージル!いったん帰艦しろ!なんか飲んで一休みして来い!」

『だ、大丈ザザッ、まだやれます!』

「馬鹿野郎!!命令だこれは!!

 お前程度でも、ここで墜ちられたらみんな困るんだ!……それぐらいにはアテにしてるんだ。」

『……了解ザザザッ!!』

 

 バージルのジムスナイパーⅢが、ペガサスへ帰艦する。その後ろを狙ってたMS-14JGゲルググJを撃墜。世話が焼ける……。

 

『さすが中尉さんザザザッ。面倒見がいいな。』

「からかうな、デリス。……来たぞ!」

『おおっと!?』

 

 マシンガンの銃弾が、宇宙空間を飛ぶ。デリス機はぎりぎりで躱し、ロン機、アレン中尉機はシールドで受けた。流石ガンダムシールド、硬い。……あれは!?

 そのマシンガンを撃ったのは、ガンダム面の青い機体。そして両肩の塗装が赤い。

 

『な、なんでジオンにザザッガンダムがあるんだよ!』

『む、あれは……ザザザッ。諸君!あれは戦争末期に入ったばかりの頃、ザザザ奪われたEXAMと言う新機構の試作実験機だ!若干の改修はなされているザザッだが……。』

『将軍!それは……ザッ。』

 

 あれはRX-79BD-2……ブルーディスティニー2号機か!ニムバス・シュターゼンか!?……バージルを帰艦させておいて、良かった。対ニュータイプOS、EXAMなんかにあたらせたら、あっさり餌食にされてしまう。

 俺はビームライフルを撃つ。そして90mmガトリングと頭部のバルカンで乱打し、ビームサーベルを抜いてブルー2号機に迫った。ブルー2号機は、ビームライフルのビームを肩口にかすらせる程度でぎりぎりで避け、ガトリングとバルカンの弾はシールドで防ぎ、同じくビームサーベルを抜く。

 アレックス3は、ビームサーベルの出力差でブルー2号機のビームサーベルを散らし、その胴体に光刃を斬り込ませようとする。だがブルー2号機は絶妙な機体制御でシールドを持ち上げ、シールドの1/4を犠牲にしてこちらの攻撃を避けた。

 

(があああぁぁぁ!!!)

(わたしを……。壊す……。殺すの?)

(!?)

 

 こいつ……暴走してる!今ここには俺とレビル将軍、最低でも2人のニュータイプ能力者がいる!それを感知したのか!

 

「レビル将軍、退避を!こいつ、EXAMは対ニュータイプ用OS!俺と将軍を感知して、殺そうと暴走しているんです!」

『ザッんだと!?』

 

 ブルー2号機がアレックス3を躱してレビル将軍のアレックス1に迫ろうとする。俺はアレックス3の左足でブルー2号機を蹴飛ばし、方向を強引に変えさせた。ブルー2号機は、再度こちらに迫りくる。

 それを支援せんとしてか、MS-09R-2リック・ドムⅡが3機、ジャイアント・バズを撃ちつつこちらに突っ込んで来る。第2小隊機のG-3仕様ガンダム3機がそれを防がんとそちら方面へ展開……。

 だがその3機のリック・ドムⅡは、ブルー2号機によりあっさり撃墜される。

 

『なっ!み、味方を撃っザザッ!?』

「奴は暴走してるって言ったろ!?」

『……!!……避けろ。』

「!?」

 

 殺気の無い射線が見えた。いや、殺気は無くは無い。だが極めて薄い。何かに抑えられている様だ。……機械仕掛けの殺気を抑えているのは、パイロットか。

 上方向からマシンガンの弾が降り注ぐ。それを俺とレビル将軍は、楽々と避けた。ブルー2号機は半壊したシールドで受けるが、受けきれるはずも無い。3、4割は弾をくらった模様だ。……来たか、ユウ・カジマ少尉!

 

『……ザザザッ……。』

 

 なんか喋れよ。いや、『ギレンの野望』系のユウ・カジマは喋らないんだったな。さっき「避けろ」と言ったのが奇跡的か。そして上方から高速で突っ込んで来る、ガンダムタイプの白いMS。RX-79BD-3……ブルーディスティニー3号機だ。

 

「いいか!ブルー3号機は味方だけど、パイロットが必死で暴走を抑え込んでるだけだ!近寄るな!

 レビル将軍!将軍は特に駄目です!アレックス1と将軍なら勝てるとは思いますが……。」

『わ、わかっザザッ!』

『了解です。』

『うむ……ザッ。』

 

 俺たちは、他の寄って来る敵を叩く事に専念する。バージル、今は戻ってくるなよ?

 

 

 

 ブルー2号機とブルー3号機の戦いは、ブルー3号機に軍配が上がった。俺がブルー2号機のシールドを破壊していた事が、勝敗を分けたらしい。ブルー2号機は、頭部を完全破壊されて機能停止状態に陥っている。……これが普通のMSだったら、「メインカメラをやられたくらいで!」なんだがな。

 だがEXAM機は頭部にEXAMを組んだコンピューターを搭載しているからな。頭部を失えば……!!

 

『……撃ってくれ。』

「おい!今度はお前を撃てって言うのか!?」

『……。』

 

 くそ、とうとうユウ・カジマ少尉が暴走を抑えきれなくなったか。ブルー3号機は、マシンガンとCミサイル、ヘッドバルカンを乱射しつつ、俺を殺そうと突っ込んで来る。だがな、機械の殺気は分かりやすいんだよ!

 アレックス3はぬるりとした機動で、ブルー3号機の攻撃を躱す。そして抜き放ったビームサーベルでその機体を切り払う。だが、あたりが浅い。至近距離でヘッドバルカンを撃って来るブルー3号機。俺はアレックス3に、シールドを突き出させる。次々にシールドに着弾が来る。

 そして次の瞬間、ブルー3号機の頭部は粉砕されていた。アレックスには腕部に90mmガトリングが仕込まれているのだ。それを至近距離でぶっぱなした。いかにマリオン・ウェルチの意識を移殖されている対ニュータイプ用OSのEXAMとは言え、至近距離からの隠し武器は避けられまい。

 ……ユウ・カジマ少尉、生きてるかな。あ、コクピットが開いた。よろよろと、しかし、しっかりと生きているユウ・カジマ少尉が出て来た。俺はアレックス3の左手を差し出す。

 

「つかまれ。改ペガサス級強襲揚陸艦、ペガサスまで送る。」

『……。』

 

 ユウ・カジマ少尉は大人しくつかまった。俺はレビル将軍に報告する。

 

「レビル将軍、弾切れ、エネルギー切れです。補給のため、ペガサスまで戻ります。」

『うむ。第1小隊もそろそザザッ補給したいと思っていた。ザザザッ第1、第3小隊は補給のためペガサスへ一時帰還する!』

『『「了解!」』』

 

 第1小隊と第3小隊、と言っても第3は今俺だけで、バージルは先に一時帰艦してるが。それがペガサスに帰艦してる間、第2小隊はペガサス周辺まで後退し、第1と第3が再出撃してくるまで護りを固める。そして第1と第3が出て来たら、入れ替わりで補給に戻るのだ。

 ペガサスはペガサスで、今まで敵のティベ級重巡洋艦とやりあっていたらしい。見事に沈めたが、ペガサスにも少々の被弾があった。こりゃ、この戦い終わったらドック入りしないとな。

 ペガサスに帰艦次第、ユウ・カジマ少尉は医療班に運ばれて行った。アレがこの辺にいたって事は、フィリップ・ヒューズ少尉とサマナ・フュリス曹長もこの辺の宙域でがんばってるのかもな。

 俺はアレックス3の補給を行っている間、何か腹に入れるべく、控え室へと向かう。レビル将軍たち第1小隊も、わらわらと控え室へと宙を飛んでいく。無重力だからできるんだが、あまりやらん方がいいんだがな。戦闘中だから、突然急な機動を艦が行ったら、事故が起きるかも知れん。

 いや、マジな話、こんな所で事故起きて将軍倒れられたら困るんで、きちんと通路歩いて欲しいです、レビル将軍。

 

 

 

 とりあえず、敵のエースパイロットと思しき連中を倒し、あるいは撃退したため、こちら連邦軍の士気はかなり高い模様だ。だが実はこちらもエース中のエース、ユウ・カジマ少尉が脱落している。EXAMに関わる機密事項のため、記録が抹消されてるけど、公表されてたら連邦軍でも5本の指に入る撃墜数なのだ。

 まだサイド3ムンゾの戦いは続く。ここでユウ・カジマがドロップアウトしたのは、凄く痛い。EXAMは、戦術的には有効なのかも知れんが、マイナス面の方が大きいよな。うん。普通のジム系MSに乗せておけばよかったんだ。それこそジムスナイパーⅢとか。

 俺は乗機たるアレックス3を見遣りつつ、ハンバーガーを齧りドリンクを飲む。まだまだ戦いは続くのだ。気合いを入れねばならない。……そう言えば、第2艦隊も今頃グラナダを攻めている頃だが、どうなっているだろう。向こうにはもうキシリアも居ない。あっさり片が付くか?それとも頑強に抵抗するか?抵抗しそうだよなあ……。

 勝つことは間違い無いだろう。だが出る被害の大きさに、俺は頭痛を覚えた。いや、比喩的にじゃなく、本気で痛かった。いつもの頭痛、ほんとに治らないものかね。




今回は、ジオン本土サイド3攻略作戦の前半と言うか前哨戦と言うか、そんなもんです。さくっと終わらせようかと思ったのですが、やっぱりそうも行きません。
と言うわけで、「紅い稲妻」と「白狼」に賑やかしで登場してもらった上で、ブルー2号機と3号機に登場してもらいました。


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ズム・シティにて

 ユウ・カジマ少尉の第11独立機械化混成部隊が所属している艦、改ペガサス級強襲揚陸艦イカロスに、カジマ少尉をこちらで保護した事を連絡した。いや、連絡したのはレビル将軍の名前で、ペガサスの通信士がやったんだけれど。向こうはカジマ少尉が無事だった事に、喜んでいたそうだ。

 ちなみに医療班からの報告だが、カジマ少尉は自身が軽傷と診断された事を知ると、再出撃するから機体を貸せと交渉してきたらしい。あの無口男が交渉……どうやったんだ。まあ、こっちの艦には余っているMSは無い。それに診断が軽傷とは言え、精密検査したわけでは無いんだ。少しじっとしておけ。

 と言うわけで、補給も済んだのでレビル将軍直卒部隊の第1、第3小隊は再出撃だ。まず俺のアレックス3から出るのはいつも通りだ。と言うか、敵の大型MAに斬り込まれて第2小隊がヤバいらしい。急いで出なければ。

 

『ゼロ中尉、進路クリア!出撃願います!出撃後は、第2小隊を支援して敵大型MAを排除してください!』

「ゼロ・ムラサメ、アレックス3!出撃する!」

 

 既に慣れてしまった、カタパルトのGを感じて、俺とアレックス3は宇宙空間に躍り出る。そして全天モニターに大写しになった敵の大型MA……。ビグロの下に、パラソルの様な巨大スカートを取り付けた、真っ赤なMA……。MA-05Adビグ・ラング……。

 周囲にはモビルポッド、MP-02Aオッゴが多数飛んでいる。それに2機のEMS-10ヅダ……。正確には片方はヅダ指揮官用だが。まさかビグ・ラングに乗ってるの、オリヴァー・マイか!?第603技術試験隊まで投入してるのか、ジオンは!?

 あ。グレーに塗られた高機動型ゲルググまで来た。あれはヘルベルト・フォン・カスペン大佐か。間違いなく第603技術試験隊だわな。それはともかく……。

 ビグ・ラングはあちらこちらに思いっきりビーム撹乱幕をまき散らしてやがる。第2小隊は、G-3仕様の基本装備のガンダムだ。3機とも。当然主武装はビームライフル。ビーム撹乱幕のただ中で使える武装は、頭部に装備されたバルカンしか無い。でも白兵戦用の補助火器だから威力も残弾数も少ないんだコレが。

 そうして第2小隊の攻撃を封じ、実弾兵器のヅダやオッゴが攻撃をする。よく考えられたコンビネーションだ。第2小隊は機体にこそダメージは無いが、シールドは既にボコボコになっている。それでもビームサーベルなどで応戦し、数機のオッゴを沈めている様だ。……オッゴは、学徒兵だったか。だが……敵だ!

 俺のアレックス3は、シールドを背中に、ビームライフルを腰にマウントすると、両腕の90mmガトリングを展開した。

 

「アレン中尉!」

『はあっはあははは、ゼロ中尉殿か!ザザザッ!』

「あんたまで「殿」はやめてください!うおおおぉぉぉ!!」

 

 俺は2門の90mmガトリングで、ヅダ2機を連続して墜とすと、オッゴ数機を穴だらけにする。オリヴァー・マイ技術中尉がオープン回線で喚いた。

 

『や、やめろおザザッぉぉぉ!やめてくれっ!』

「……。」

 

 それには応えない。甘いんだ。そっちが攻撃して来たんだろうに。ビグ・ラングのガトリング砲とミサイルを見切って躱し、両手で二刀流にしてビームサーベルを抜く。抜いただけ。そのまま再度、両腕の90mmガトリングを展開、ビームナギナタで斬りかかって来たカスペン大佐の高機動型ゲルググに、至近距離から叩き込む。

 穴だらけになったが、高機動型ゲルググは力を失って漂流を始めた。致命的な場所にはあたらなかったのか、爆散はしない。断末魔の声も聞こえなかった。実はヅダ2機の時も、断末魔の声は響いて来なかったから、もしかしたら脱出には成功してるのかも知れなかった。オッゴは全機、パイロットが死んだことを確認済みだが。

 そして改めて、俺のアレックス3はビグ・ラングに斬りかかる。所詮は動きの鈍い大型MAであり、試作品と言うよりは実験機でしか無いため、死角も多い。何よりパイロットは慣れない技術士官だ。……ゲーム『アクシズの脅威V』だと、成長するとかなりのパイロットに変貌するのだが。

 ビグ・ラングの胴体スカート部分は、やがて爆散する。その際、頭部になっているビグロが吹き飛ぶ。だが外れたからと言って、それがビグロとして別個に使えるわけでは無い様だ。ビグロ部分もまた、漂流を始めた。と、ここで俺は近場の宇宙空間に浮いている、2人のパイロット用ノーマルスーツを発見する。ノーマルスーツはジオン軍の物だ。

 一方は意識が無い様で、動かない。もう一方はそれを背負っているため片方の手は使えないが、残るもう片方の手を高々と挙げ、敵意が無い事を示す。俺はそちらに機体の手を差し伸べた。やつらは右掌の上に乗ると、接触回線で通話してきた。

 

『降伏する。こちら、ジオン公国軍、第603技術試験隊所属、ヒデト・ワシヤ中尉。こちらは気絶しているが、モニク・キャデラック特務大尉。

 ……頼むよ、降伏するから、あの漂ってるMAの中にいるオリヴァー・マイ技術中尉を助けてやってくれ。お願いだ。あいつにも、ちゃんと降伏させるからさぁ……。頼む、頼むよ。お願いだ……。』

「……少し待て。」

 

 俺のアレックス3は、第2小隊の隊長機であるアレン中尉機の肩に左掌をのせて、接触回線で会話する。

 

「アレン中尉、降伏した敵パイロットから、敵兵の救助要請を受けました。あの巨大MAのビグロ部分に、コクピットがあるらしいです。それと、あのゲルググ乗りも、おそらくまだ生きてます。……補給に戻る前に、お願いできますか?」

『……いいぜ。最初の頃に、第2はお前さんの指示に従う約束してたからな。まだレビル将軍がここに居ない以上、指揮権の最上位はお前って事になるからな、ははは。

 まかせろ。だけどその時間をロスする分、お前さんが余計に働けよ?』

「……了解。ははは。

 ワシヤ中尉、だったな。そっちのガンダムの手に乗り移れ。そっちのアレン中尉が、助けてくれるからな。」

『……ありがとう。ありがとう……。』

 

 俺はワシヤ中尉たちをアレン中尉に任せると、ペガサスの前方の宙域に向かい、自機を飛翔させた。そして余計に働いた。

 

 

 

 俺がアレン中尉たちの分まで余計に働いて大量に殺しまくり、それにバージルと第1小隊が合流してきた頃合いに、それは起こった。周囲に広域レーザー通信で、大音量で、女の声が響き渡ったのである。レーザー通信なので、ノイズは無いに等しかった。

 

『あたしはジオン公国軍海兵隊司令官代理、シーマ・ガラハウ少佐。海兵隊は、地球連邦軍に降伏し、これよりレビル将軍の指揮下に入る!我々は現在、サイド3ムンゾの1バンチコロニー、ズム・シティの全宇宙港を制圧し、掌握している!地球連邦軍は、速やかに入港されたし!』

 

 全ジオン軍は浮足立った。そしてシーマ少佐は、自分が催眠ガスだと騙されてGGガスを使い、サイド2コロニー、アイランド・フィッシュの全住民を皆殺しにしてしまった事を証言する。そしてそれ以来、アサクラ大佐の命の元、様々な汚れ仕事を押し付けられて来た事を証拠映像付きで放送した。

 

『ジオン公国軍に告ぐ!あんたらが信じているジオンの大義なんてのは、こんなもんだ!上は自分の権力や栄達のためなら、同胞を使い捨てにする事すら厭わない!綺麗ごとで上っ面を塗り固めてねえ!結局、地球連邦と同じ、いや実際に殺してる分だけジオンの方が悪どいよ!

 あたしの故郷のスペースコロニー、ここの3バンチコロニー、マハルなんて……。強制疎開の上でコロニー・レーザーなんて役に立たなかったトンデモ兵器に改造されちまった!住人は財産を持ち出す事すらできず、ちょっとした手荷物程度だけで、着の身着のまま他のコロニーに分散させられたんだ!地球連邦がやった、宇宙市民の棄民政策と、何が違う!?』

 

 シーマ少佐の声は、最後の方は涙声だった。当初浮足立ったジオン軍は今は悄然とし、ある者は逃亡を選び、ある者はその場で降伏信号を打ち上げる。ジオン軍の士気は、完全に崩壊していた。

 

 

 

 俺たちは、非常に簡単に、とても楽にズム・シティの宇宙港に入港した。そこでは海兵隊のMS-14Fゲルググ・マリーネ、MS-14Fsゲルググ・マリーネ指揮官用の群れが、親衛隊のリック・ドムⅡと決死の戦いを繰り広げている。親衛隊はあの放送後も、未だに士気を保っており、意気軒高だ。

 

『シーマ少佐、ザザッくやってくれた。本当に……。辛かっただろうにザザッ。』

『レビル将軍、あたしらの処遇、よろしくお頼みしまザッよ。連邦市民としてザッ新しい戸籍と、新しい顔。そして連邦軍人としての立場ザザッ。』

『うむ、任せてザザッ。ワイアット中将、ゴップ大将の全面的協力ザザザッ取り付けてある。絶対に悪い様にはせん。何だったら今の言葉を記録しておいてザザッ良いとも。』

『無論、しておりますわ、将軍。ザザザッ。』

 

 後で聞いたところによると、この一連の流れの脚本は、シーマ少佐本人の手による物だそうだ。それを彼女は、連邦軍の諜報部を介してレビル将軍と接触した際に、将軍に提案したんだそうだ。

 女は怖い、かもしれない。でも、今もシーマ少佐の眼は赤い。少なくとも、本気で泣いてたのは確かだ。俺はアレックス3を操り、親衛隊のリック・ドムⅡを連続して撃墜する。海兵隊のゲルググ・マリーネの1機が、コロニー内部へ続く大扉に取り付いて、開放した。

 実は俺は、コロニーの中を見るのは初めてだ。天にも地にも、街並みがある。円筒状の人工の大地。だが、感動している暇は無い。扉を開放したゲルググ・マリーネが砲撃の直撃を受けて大破する。

 ……コロニー内で、あんな化け物使うのかよ!阿呆か!?遠目で確認できたのは、地上用MSのYMS-16Mザメルだった。今ゲルググ・マリーネを大破させたのは、その68センチ・カノン砲だ。俺はコロニーの中へとアレックス3を飛び込ませる。建物の陰に隠れている親衛隊のMSから、火線が次々に伸びて来る。無論ザメルからも、デカブツの大砲の弾が飛んでくる。

 俺はAMBAC機動で、サクサクとその攻撃を躱す。ザメルの砲弾が天井の街に被弾し、被害を与えているのは心が痛まなくも無いので、直系6km強の円筒形の空間を縦横に飛翔しつつザメルを狙撃し、3発のビームを叩き込んだ。ザメルは爆散する。

 よく勘違いされているのだが、スペースコロニーの内部は無重力だ。コロニーの人工重力は、コロニー外壁を回転させることによる遠心力で重力に見せかけているだけなので、外壁の動きに追随せずに内部を飛んでいれば、無重力のまま飛べるのである。もちろん回転している地面に着陸し、遠心力の影響を受ける様になれば、遠心重力が働く事になるが。

 アレックス3の真後ろに、レビル将軍のアレックス1が飛んでいる。そしてシーマ少佐の専用機であるゲルググマリーネ指揮官用が更にその後に続いていた。俺はレビル将軍に念話を送る。精神から例の頭痛は切り離しているのだが、身体の方は非常に頭痛が痛い。

 

(将軍、「視え」ますか!?ズム・シティ公王庁舎の前の広場です!)

(うむ。……ギレンだ。……済まぬが、奴は私に任せてくれるかね?)

(了解。周囲の露払いをしてます。)

 

 そして俺は、シーマ少佐に声をかける。

 

「シーマ少佐!将軍がギレンと戦っている間、周囲の奴らを近づけないでいただきたい!やれますか!?」

『誰に物をお言いだい!そっちこそ、足手まといになるんじゃないよ!』

 

 シーマ少佐機は、アレックス3の脚に触れて接触回線で声を届けて来る。そして俺たちは、互いに申し合わせたかの様に左右に分かれた。俺の方には第1小隊のツァリアーノ中佐、ラバン、そして第3小隊のバージルが、シーマ少佐の方には海兵隊のゲルググ・マリーネ数機が綺麗なフォーメーションを組んで追従する。

 俺は公王庁舎前広場に屹立している1機のMS……MS-18Eケンプファーの右側に隠れ潜んでいる、10機のMSを次々に狙撃した。気配がモロバレなんだよ!そのうち7機が爆散し、3機が小破から中破で隠れ場所から燻り出されて来る。それをツァリアーノ中佐、ラバン、バージルの3機のジムスナイパーⅢがそれぞれ1機ずつ破壊した。

 1テンポ遅れて、ケンプファーの左側に潜んでいた親衛隊機がわらわらと出現したところを、海兵隊のゲルググ・マリーネたちが次々に餌食にした。そして俺たちとシーマ少佐の海兵隊たちは、ケンプファーの周囲を十重二十重に取り囲む様に着陸する。

 レビル将軍は、オープン回線及び外部スピーカーでそのケンプファーに声をかけた。

 

『……ギレン、これが最後通牒だ。降伏しろ。』

『くくく、断る。既に返答は行っていたはずだが?』

『そうか。なら是非も無い。』

 

 そう、このケンプファーには、ギレン・ザビ当人が乗っていたのだ。俺は湧き出る悪意の焦点を探り、それを感知したのである。……やっぱり『ギレンの野望』系の世界だ。レビル将軍だけでなく、ギレンもMS乗れるのか。

 

『まて、レビル。何故この機体に乗っているのがわたしだと分かった。……貴様がニュータイプに覚醒したと言う噂、事実だった様だな。』

『……ふう。私はニュータイプでは無い。いや、本物のニュータイプが存在するのかすら、怪しいと思う。力だけでは、ニュータイプとは言えぬよ。

 だが私は諦めておらぬ。いつか本物のニュータイプが現れる事を。その礎とならん事を。そのためにも……。ギレン、貴様を倒す。』

『よかろう。相手をしてやろう。』

 

 そしてレビル将軍のアレックス1と、ギレン・ザビのケンプファーは激突する。だが、この戦いの結末は見えていた。MSに乗り、最前線で戦い抜いて来たレビル将軍と、公王庁舎の奥に隠れ潜み、陰謀にかまけていたギレン・ザビ。実力には天と地の開きがあった。

 わずか数合。それが限界だった。ギレンのケンプファーは、コクピットをビームサーベルで貫かれ、地に落ちる。その姿は、『機動戦士ガンダム』第1話の、アムロ・レイのガンダムと、デニム曹長のザクが戦った姿の、焼き直しであった。

 

(まさか……な。あれだけ失望、いや絶望していた父上と……。相手にしてすらいなかったドズル……。やつらに私の理想の実現を託す事になろうとは……。セシリア……。)

 

 !?……なんだ今の思念は!!ギレンの死に際の声だ!!父上……って、デギン公王と、そしてドズル・ザビ……。ドズルは……この戦いに一切合切出て来ていない!?あ!!デラーズも気配すら見えない!!まずいまずいまずい、かも知れない!?

 

(レビル将軍!デギン公王、ドズル・ザビとその一子ミネバ・ザビ、そしてギレンの腹心のセシリア・アイリーンと、エギーユ・デラーズ大佐!早急に見つけて捕らえてください!

 今気配を探ってみましたが、デギンやミネバ、セシリアが気配が薄くて感知できないのは仕方がないとして、ドズルやデラーズが、見つからないんです!まずい、です!)

(!!……うむ、早急に探させる!)

 

 レビル将軍はペガサスに連絡を取り、ペガサスを中継して全軍にドズル、デラーズ、デギン公王などの捜索を命じた。だがデラーズが指揮するギレン座乗艦のグワデン、ドズル座乗艦グワラン、そしてデギン公王のグレートデギンの、3隻のグワジン級戦艦は、既にその姿を消していた。

 いや、もしかしたらこの会戦にすら参加していなかったのかも知れない……。

 

 

 

 宇宙世紀0080、1月1日。一年戦争と呼ばれる凄惨な殺戮劇は、地球連邦軍の圧倒的な勝利で幕を閉じた。しかし、俺たちは知っている。俺たちが致命的なミスを犯した事を。この世界に、地球圏に後顧の憂いを残してしまった事を。




一年戦争編が、ようやく終わりました。あー、疲れた(笑)。
ですが、デギン公王とドズル一家、セシリア・アイリーン、デラーズ一党が何処かへ逃走いたしました。さて、今後どうなることやら。


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ルナ2よ、俺は帰って来た

 ようやくの事で一年戦争が終わり、新年を迎えたわけだが、俺たちは……と言うか、俺とレビル将軍、それに事情を知っている数名は、気分が重かった。デギン公王、ドズル一家、更にそれに加えてデラーズとセシリア・アイリーンと言ったギレンのシンパを逃がしてしまったのだ。

 不幸中の幸い、月面グラナダ基地は一部ジオン将校がブチ切れて暴走し、戦闘行為を仕掛けて来た他は、無事に戦闘なしで無条件降伏したそうだ。ちなみに攻撃してきたのは、マレット・サンギーヌ大尉率いるグラナダ特戦隊のみだ。彼らは3rdロットのガンダム13号機、14号機、15号機に搭乗した、ブラン・ブルターク大尉、ライラ・ミラ・ライラ中尉、ヤザン・ゲーブル少尉が倒した。

 具体的には、ヤザン少尉がマレット大尉のMS-11アクト・ザクを撃墜し、マレット大尉は戦死。その後グラナダ特戦隊の面々は投降したと言う事である。ちなみにブラン大尉、ライラ中尉、ヤザン少尉のガンダムは、2ndロットシリーズのガンダム4号機、5号機から得られたデータを反映させた、宇宙用ガンダムだったり。

 ……あ。銀の槍作戦をやるのかな、あいつら。「GUNDAM LEGACY」3巻に載ってた外伝。気化爆弾の管理を徹底する様に進言しよう。あとデラーズに備えて核の管理も。その当たり前の事、出来て無かったからなあ正史の連邦軍は。

 

「ゼロ中尉、戦闘報告書が出来たんで、持って来ました。」

「その辺に置いとけバージル。チェックして、俺のと一緒に上に提出するからな。」

 

 掛けられた声に物思いから返ると、俺はバージルが持って来た書類のチェックをはじめる。こいつは几帳面なので、この手の書類でほとんど訂正すべき箇所は無い。今回も問題点は無かった。俺は書類にチェック済みのサインを入れた。

 

「……結局、ア・バオア・クーには寄らずにルナ2行きか。少し残念だな。」

「何が残念な……。あ、例の彼女さんですね?」

「まだ彼女違う。」

「……まだ?」

「お前な、上官で隊長をからかうな。」

 

 俺はため息を吐いて、自分の戦闘報告書とバージルのそれをまとめ、ツァリアーノ中佐のところに持って行くために自室を出た。

 

 

 

 サイド3ムンゾを発って、1週間が過ぎた。現在サイド3には第1艦隊が進駐し、治安の維持とジオン軍の武装解除の任に就いている。また第1艦隊から分遣された複数の小艦隊が、逃亡したジオン軍残党を追跡していた。

 また月面グラナダ基地には、第2艦隊の一部が駐留している。第2艦隊の残りは、宇宙要塞ア・バオア・クーと宇宙要塞ソロモンに、そして一部はルナ2へ帰還すると聞いていた。

 そして俺たちの第3艦隊であるが、レビル将軍が地球連邦軍の総大将である事、地球連邦軍宇宙基地ルナ2を何時までも戦力過少の状態にしておけない事から、ルナ2へと帰還の途に就いていたのだ。1週間の航宙の末、そろそろルナ2に到着する、との頃合いなのである。

 俺は自機、アレックス3のコクピットで待機していた。別に緊急事態ではない。ルナ2への入港式典を、またやるのである。しかも今度は、勝って帰って来た……表向き、ジオンをこれ以上無いってぐらいに叩き潰し、ギレン・ザビの首を取って帰って来たのだ。表向きは。

 まあ、デギン公王、ドズル一家、セシリアとデラーズ逃がしたけどな。画竜点睛を欠く、とはこの事だ。しっぱいしっぱい。……おどけていても、事態は変わらない。この後の地球圏に、禍根を残したのは間違い無い事だ。

 とにかく、勝って帰って来た以上、戦中にやった入港式典よりも派手な式典になるのは間違いない。相応に疲れる事を覚悟しておかないとな。

 

 

 

 疲れた。覚悟してたソレよりも、数段、数倍疲れた。入港前から入港中には艦載デッキの上の甲板上にMSを立たせて敬礼させてるだけで良かったんだが。その後で、レビル将軍の演説も、MSの中で聞いてるだけで良かったんだが!だが!

 その後で、俺たちレビル将軍直卒部隊の面々は、1人1人がレビル将軍と共に戦場で戦い、戦場で将軍を護った勇士として紹介され、満場の連邦軍将兵たちから一斉の拍手を送られたりしたのだった。後で聞いたら、なんか勲章の授与式も企画されてたそうだが、一度にやっちまうのは勿体ないと、後に回される事になったとか。

 ……また将兵の前で、見世物になるのか。いや、必要な事だとは思うから我慢するけどさ。溜息を吐きつつ、俺はルナ2基地のPXへ向かった。

 

「ふう、プリンを頼む。あとコーヒーを。」

「了解、パイロットさん。……さっき基地内放送のTVに映ってたよね。ひさしぶり。中尉に昇進したんだねえ。おめでとさん。」

「む?そんなに回数来た事ないけど、覚えてるのか?兵長。」

「ああ。来るたびに甘い物頼んで行くからね、記憶に残ってたよ。前に来たのは、ソロモン戦の前だったっけ?甘い物好きなんだね。」

「……ああ。俺は甘党でね。」

 

 俺は少し嬉しくなる。他人に覚えてもらえていた。ただそれだけの事なのに、嬉しくなる。訂正だ、少しじゃない。もの凄く嬉しかった。

 飲食スペースに移動して、俺はプリンを食べ始める。やはり品質は良く無いが、それでも美味い。甘い。美味い。やっぱり必死で作ってる味がする。と、そこに声が聞こえて来た。

 

「今日はケーキがいい!」

「えー、プリンだよー。」

「シュークリームがいいよー。」

「はいはい、喧嘩しないの。昨日ケーキだったし、一昨日プリンだったから、今日はシュークリームにしましょう。」

「「「「「「はーい。」」」」」」

 

 俺は人工のニュータイプ感覚で、誰がやって来たのか理解していた。何故彼女らがここにいるのかは、わからない。だが、現にここにいるのは間違いないのだ。向こうにも、ここに俺がいる事は多少遅れたが感じ取れた様で、こちらに向かい歩いて来た。俺は彼女らに挨拶をする。

 

「……よう。皆、元気だったか?ハリー伍長にケイコ伍長、ジェシー伍長、はじめて会う子らも大勢いるな。そしてレイラ。」

「あら。わたしはオマケ?ふふふ。TVで見たわよゼロ。かっこよかったわ。昇進したのね、中尉さん?」

「あ、少尉さんが中尉さんになってるー!?」

「しょ、中尉さん!あいつら、やっつけてきてくれた!?」

「……ああ。思いっきり、けちょんけちょんにして、ぎゃふんと言わせてやったぞ。それとな、奴らの親玉を叩き潰したのは、俺たちのリーダーのレビル将軍だ。俺はその人を、すぐ隣で守ってたんだ。」

 

 子供たちの、うわー、うわー、と言う感嘆の視線にくすぐったい物を覚える。俺はレイラに目を向けた。

 

「で、何故ルナ2基地にいるんだ?てっきりまだ、ア・バオア・クーにいるものとばかり……。」

「うーん、そのね。レビル将軍とワイアット中将、それにゴップ大将が口利きをしてくれたらしいのよね。それで亡命が例が無いほどあっさりと、至急の扱いで認められたのよ。

 それでわたしね……。連邦軍に志願したの。そうしたら、階級は前のままで良いって事になってね。今とりあえずの任務は、この子たち……。フラナガン機関から救出された子たちの面倒を見る事。本当の職分は、MSパイロットなんだけど、ふふふ。」

「連邦軍に志願?……レイラ、お前が戦うことなんて、無いんだぞ?」

 

 悲しそうな顔になった俺を気遣ってか、レイラは慌てて言葉を重ねる。

 

「あ、いえ!そうじゃないのよ。わたし……実際他に出来る事なんて無いし。それに、なんていうか……。他人だけを戦わせて、自分はその成果を受け取るだけっていうのも……。気が引けるのよ。」

「今までつらい目に遭って来たんだ。その分幸せになったってバチはあたらないだろうに。」

「あなたが言う?」

 

 苦笑しつつ言ったその台詞に込められた、俺を哀れむ様な慈しむ様な思念。上から目線で憐れんでいるわけではなく、同病相哀れむ、と言う感じがする。彼女は、俺が強化人間である事を知っているのだ。その事を、俺は理解した。

 

「何故……。いや、言うまでも無いな。」

 

 たぶんレビル将軍だろう。どう言う意図があるのかは分からないけれど。

 

「ええ、たぶん考えてる通りよ。できるなら、貴方の友人になってくれ、力になってくれって言われた。貴方がわたしを色々気遣ってくれたのを、見たからでしょうね。

 たぶん……わたしたちがここで再会したのも、偶然じゃあないかも。」

「あの人は……。もしかして、俺のためも、あるの、か?すまない……。」

「え?わたしが連邦軍に志願した事?うふふ、謝らないで。わたしはそう悪い気はしてないから。」

 

 俺はふと、気になる事を思い付き、まさかとは思ったが訊ねてみた。

 

「まさかハリー、ケイコ、ジェシーらも……。」

「それはまさかよ。この子らは志願してないわ。ただ、救出されてきた子たちも含めて、保護するための方便として、全員軍属に準ずる扱いだけど。だから今はもう伍長じゃないわ。」

「そっか……。まさかとは思ったが、安心した。他の子たちは何て名前なんだ?なあ、お前ら。俺に教えてくれるか?」

 

 俺は子供らの目に視線を合わせ、名前を聞く。子供らは、嬉しそうに答えた。

 

「僕はアルジャノン!」

「僕はカール!」

「ぼ、僕はブレットだ!」

「僕、ハワード。」

「僕は、僕はアーヴィン!」

「……リサ、です。」

「ルーシーよ。」

「メイジー、あたしメイジー!」

「ニコラです。よろしく。」

「わたしルビー。」

 

 10人……総勢で13人か。これだけ多くの子供たちが……。いや、助けられなくて実験で死んだ子も、多いんだろうな。そう思うと、なんか切ない気持ちになるな。あれ?だけど、誰一人として苗字を言わない?

 俺はレイラに目を遣ろうとして、その前に言うべきことを言わねばならんのに、危うく気が付いた。

 

「そうかー。お前ら、いい名前だな!」

「「「「「「うん!!」」」」」」

 

 俺は小声でレイラに訊ねる。

 

「……何故だ?」

「それはね……。」

 

 レイラも小声で答えてくれる。さすが、勘が良い。俺が言いたかったことを、理解している。

 

「実験の、せいなのよ。この子たち、親の事も、自分の名前も、憶えて無くて……。いつも「貴様ら」って呼ばれてたらしいわ。

 ……この名前も、わたしが付けたの。姓はこの子らが何処かの養子に入る時に、その姓を付けるって事に。」

「……!!」

 

 それって、初期のって言うか、初歩の強化人間の実験じゃないのか!?思わず歯ぎしりが漏れそうになる。だが子供達の前だ。俺は必死で精神を落ち着かせた。くそ、頭が頭痛で痛い。頭の中でヘビがうねっている。

 

「……よし、お前ら。今日は俺がおごってやる。レイラ、支払いは俺のカードで給与引き落としにするから、美味い物食わせてやってくれ。」

「よかったわね、皆。さ、シュークリーム買ってらっしゃい。」

「「「「「「はーい!」」」」」」

 

 子供らは、厨房スタッフのところへ急ぎ向かった。そしてレイラが失笑しつつ言う。

 

「……正直助かったわ。この子たちのオヤツは、わたしが出してたのよ今まで。」

「む?経費で落ちないのか?」

「食費は落ちるけど、贅沢品と見做される物は一部除いて駄目なのよ。今はまだジオン軍の戦闘能力を奪っただけで、正式に終戦したわけじゃないでしょう?調印しないと。

 だから、まだ戦争中で非常時ってわけ。戦争がちゃんと終わったら、オヤツ代ぐらいは出る様になるらしいけれど。」

「少尉の給料じゃ、キツいな。パイロット職とは言え、今はまだパイロットの各種手当も無いんだろ?」

「ええ。」

 

 世知辛かった。マジで世知辛い。

 

「ゼロ……。この上お願いするのは凄く心苦しいんだけれど……。」

「ん?……気にするな。俺もいつか、お前に頼る時が来るかも知れん。」

「うん……。人に会って欲しいの。フラナガン機関に以前いた人で、別の実験のために引っ張っていかれた人なのよ。それでその実験の失敗か……考えたくないけれど実験の成功によって、意識不明の重篤状態になったらしいの。

 サイド6の、とある病院に入院していたんだけれど、フラナガン機関が再度それを見つけてマークしてたみたい。ごく最近……1週間前に目覚めて、フラナガン機関が拉致しようとしたところを、連邦軍の諜報部員が身柄を奪ってきたんだって。」

 

 俺は目を丸くする。その条件に合致する人物を、俺は知っていたからだ。

 

「その娘、亡命を勧めてるんだけれど何か拘りがあるみたいで、首を縦に振らないの。ジオンに忠誠を誓ってるのかと言うと、それも何か違うみたいなのよ。」

「名前、は?」

「マリオン・ウェルチ。」

 

 やっぱりか。頭が痛かった。

 

 

 

 俺がレイラに伴われて病室へ入ると、かなり痩せこけた銀髪の少女が寝台の上で上体を起こし、本を読んでいた。その傍らには、俺たちより少し年上ぐらいの女性、ピンク色の髪をした娘さんが、少々疲れた様子で椅子に腰かけていた。

 

「どうです?アルさん。」

「駄目ね。この娘、頑固者よ。……あら?レイラのボーイフレンド?」

「ちょ、ま、まだそんな!」

「まだ!」

 

 レイラをいじって楽しんでいるこの女性……。どう見ても、クスコ・アルだ。彼女も救出されたのか?

 

「あんたは……。」

「あ、ごめんなさい中尉さん。わたしはクスコ・アル。その子みたいに亡命の後に志願はしなかったけど、一応軍属の扱いになってるわ。オペレーター業務を手伝ってる。

 でも、志願した方が良かったかも、と今は思ってるわ。今からでも遅くないかしらね。軍人じゃなく軍属だから、色々制限かかるのよ。」

「よろしく、俺はゼロ・ムラサメ中尉。MSパイロットだ。俺が言うのも何だが、軍人は軍人でキツいぞ。……あんたも救出されたクチか?」

「ええ。その前はサイド6船籍の輸送艦のオペレーターやってたんだけれどね。半ば拉致、半ば脅迫同然でフラナガン機関に。」

「そうか。助かって良かった……。」

 

 実際、これから厳しいんだがな。連邦軍でも、ニュータイプの軍事利用を研究したがる奴らは多いはずだ。そいつらから身を守らないと。せめて非道な実験だけは阻止しないと。

 俺は、ベッドの少女に向き直る。

 

「君がマリオン・ウェルチか。レイラから教えてもらった。俺はゼロ・ムラサメ中尉。……地球連邦軍の強化人間、つまり人工的な兵器としてのニュータイプだ。色々不完全でな。ニュータイプ能力を使うと激烈な頭痛に襲われたりする。」

「「!!」」

「あなたは……。」

 

 俺の言葉に、レイラとクスコ・アルが驚愕する。レイラは俺が強化人間であるのをバラした事、クスコ・アルは俺が語った内容について、と言う違いはあるが。マリオンの視線が強まる。

 

「あなたには、会った事があります。」

「ああ、会った事あるぞ。4つに分割された君の、最後の1つを破壊したのは俺の乗ったMS、ガンダムNT1アレックスの3号機、アレックス3だ。」

「……亡命を、申請します。けれどその前に……。」

「ええっ!?」

「そんなあっさり!?」

 

 レイラとクスコ・アルはまたも驚く。だが俺は、マリオンがどんな条件を出して来るのか、と警戒した。

 

「その前に、クルスト・モーゼス博士、ニムバス・シュターゼン中尉、ユウ・カジマ少尉……。生きていますか?」

「クルスト・モーゼス博士は俺は知らない。」

「そうですか……。わたしの意識の1つが、クルスト博士を殺した様に思うのは……たぶん間違いでは無いのですね。」

 

 俺は言葉を続ける。

 

「ニムバス・シュターゼンは、ユウ・カジマ少尉機が撃破した。だがEXAMの搭載されていた頭部のみを破壊したので、ニムバス機の胴体は無傷とはいわないが、残っていた。あの後、敵か味方かに救出されていれば、生きている可能性もある。」

「……。」

「ユウ・カジマ少尉だが。改ペガサス級強襲揚陸艦イカロス所属のMS隊にいるから、俺たちと一緒にルナ2に戻って来てるはずだぞ。連絡取れば、たぶん来てくれるだろう。」

「!!……あ、会わせてください!!お願いします!!」

 

 ひとつ頷くと、俺は傍の机にある端末の受話器を取り上げ、宇宙港に電話を入れた。宇宙港の通信士は親切で、すぐにイカロスのブリッジへと電話を繋いでくれる。そこでしばらく待たされて、ユウ・カジマ少尉が電話に出た。

 

 

 

 無口男との電話は、ひたすら苦行だった事を追加しておこう。

 

 

 

 ……ニュータイプと言えば、ニュータイプ研。しかし最近そう言えば、マコーマック博士の事を見ていない。私室も空っぽだった。いったい何が……?




今回、タイトルに偽り有り、かもしれません。主人公が帰って来たのは、ルナ2ではなくそこのPX、飲食スペースだからです。主人公は、甘党なのですよ。
ですが、流石に改ペガサス級強襲揚陸艦ペガサスでも、戦争中に食堂にケーキとかの専門の甘味は置けません。レーションに入って来るチョコレートやキャンディー、食事のセットに付属のクッキーやゼリーが頼みの綱。ルナ2に帰ってこれて、主人公は心から喜んだのです。
勿論、厨房スタッフが顔を覚えてくれていたのも、なんとなく感動しましたけどね。

そして、無口男との電話は泣くほど苦痛だったのです。泣きませんでしたが。


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ルナ2の日々

 マリオン・ウェルチの要請に従い、俺は改ペガサス級強襲揚陸艦イカロスに連絡を取り、イカロス所属のMS隊、第11独立機械化混成部隊隊長ユウ・カジマ少尉をマリオンの病室へと呼び出した。やって来たカジマ少尉は、敬礼だけして相変わらず無言であったが、流石に驚愕の感情が伝わってくる。

 

「……。」

「カジマ少尉。生身で会うのは初めてだと思うが、彼女がマリオン・ウェルチだ。」

「……。」

「驚くのはわからなくもない。連邦軍の諜報部員が、彼女が入院先のサイド6の病院から拉致されるのを阻止し、保護して来たんだ。」

「……。……。」

 

 カジマ少尉は再度驚き、続けて安堵した様子がうかがえる。やっぱり電話じゃなしに直接会えば、俺の人工的ニュータイプ感覚が役に立ってくれるな。……だがやはり、なんか喋れよ。

 

「ゼロ……。」

「ん……そうだな。」

 

 レイラが袖を引く。俺はそれに頷きを返し、クスコ・アル女史の方を見る。彼女もまた、頷く。

 

「カジマ少尉、俺たちは席を外す。2人でゆっくり話して……。うむ、話し合ってくれ。アルさん、隣室は空いてるか?……そうか。

 俺たちは隣室にいるから、話が終わったり、何か用があったら呼んでくれ。」

「……。」

 

 頷くカジマ少尉。俺たちは隣の空き室に移動した。空き室に入るなり、クスコ・アル女史が口を開く。

 

「ねえ、強化人間って、どういう事?兵器としての人工的ニュータイプ?」

「まあ待て。座って話そう。」

 

 俺はレイラとクスコ・アル女史に椅子を勧める。彼女らは素直に座った。俺も適当な椅子に腰かける。

 そして俺は、強化人間の概要について、ざっくりと分かりやすく、適当にあちこち省略して話した。レイラの心配そうな瞳が、俺を見つめる。

 

「……連邦軍にも、強化人間計画をはじめとして、ニュータイプ能力者の軍事利用を推し進める一派が存在する。ジオンよりはマシだと思いたいが……。どうだかな。俺たち、貴女たちは、そう言った連中から自身を守らねばならないんだ。

 そしてあのフラナガン機関から救出された子供たち……。あいつらの誰一人として、奴らに渡してなるものか。」

「何処も、同じ……か。」

 

 悄然とするクスコ・アル女史に、俺は慰めになるかわからないが、少しは明るい材料を提示する。

 

「そうでもない。レビル将軍をはじめとして、良識的な将官は存在する。強化人間計画などに端から反対のもの、一時は要請を受けて戦力欲しさに加担したが反省した人物、色々なのがいる。今のところは、彼等の庇護下に入っていれば問題無いだろう。」

「あんたは?あんたの立場は今どうなってるの?」

「先日までは俺を強化した連中から、レビル将軍たちが借り受けてる形に、表向きはなっていた。だがレビル将軍たちは、俺を返す気はなくてな。先の作戦前に、俺の所属は完全に移ったはずだ。……それでか!?」

 

 マコーマック博士!彼は俺のデータ収集役であったと同時に、俺の見張りでもあったはず!レビル将軍に放逐されたか、自分から出て行ったか、あるいはジャミトフやムラサメ博士に呼び戻されたか……。

 

「ど、どうしたのゼロ?」

「急に立ち上がって……。」

「あ、いや済まん。俺の見張り役を兼ねていた、強化人間の実戦データ収集をしていた博士が、最近姿を見なかったんだ。だが、将軍派閥と強化人間を作った派閥が完全に決裂したか、あるいはそこまで行かずとも険悪になったならば……。」

「……あまり迷ってる場合じゃないか。」

 

 クスコ・アル女史は呟くように言った。

 

「レイラ、いえレイラ少尉。それにゼロ中尉。わたしがレビル将軍派閥の保護下にきちんと入るには、軍属なんて中途半端な立場よりも、連邦軍に志願した方がいいと思う?」

「え、そ、それは……。わたしはそう思うけれども、ゼロ?その辺はどうなの?」

「……軍籍を持てば、何かしら強引な理屈を付けて向こうに引っ張られる事が、無いとは言えん。だが……それは今の状態でも同じ、か。そして将来軍属を離れる時が、その後々が危ない……。後で上に確認を取ってみる。レイラ経由で連絡取ればいいか?」

 

 2人は頷いた。その後、少々の沈黙を挟んで雑談が始まる。レイラや子供達の近況を聞いたり、クスコ・アル女史がフラナガン機関に入れられる前の、貨物船カセッタ3での逸話なり……。

 恥ずかしい事に、俺の武勇伝も色々話させられた。いや、レビル将軍のカッコイイ活躍や、将軍直卒部隊の活躍で誤魔化そうとしたんだが……。駄目でした。

 その時、卓上の端末が鳴った。たすかった!いや、自分の活躍を事細かに訊かれるのって、これほどまでに恥ずかしいとは!いや相手が子供らだったら別に構わない。ちょっとした脚色までまじえて話す余裕もある。でもレイラ相手だと!

 

「はい、こちら4301号室。」

『……。』

「……喋れよ、カジマ少尉。こちらゼロ中尉だ。話は終わったのか?」

『……。』

「頷いてもわからねえよ!ああ、今から行く。……レイラ、アルさん、マリオンの病室に戻ろう。」

 

 2人は頷くが、何か唖然としていた。……なんか変なところ、あったか?

 

「あれってTV画面無い電話よね?」

「無いわよ。」

 

 ……ほんとに何か変なところ、あっただろうか。とにかく俺たちは、マリオンの病室に戻る。一瞬驚いた。先ほどは憂いを湛えていたマリオン・ウェルチの表情がやわらぎ、満面の笑みを浮かべていたのだ。

 

「あ、ゼロ中尉。アルさんも、レイラさんも。くすくす。ユウ少尉って、面白い方ね。」

「「「面白い!?」」」

「……。」

「ユウ少尉ったら、また冗談ばっかり。くすくすくす。」

「「「冗談!?」」」

 

 だ、誰が冗談を言ったって!?ユウ・カジマ少尉が!?いや、今何も言わなかったよね!?俺のニュータイプ的感覚にも、何も感じられなかったんだけど!!いや、ほがらかな感情ぐらいは伝わって来たけどさ!!

 

「……。」

「そう、お仕事が……。ちょっと残念です。また来ていただけます?」

「……。」

「ありがとう。楽しみにしてます。」

(((会話が成立してるーーー!?)))

 

 カジマ少尉は、俺たちとマリオンに各々敬礼をすると、その場を立ち去る。

 

「あ、お、俺もそろそろ艦に戻らないと。」

「あ、と、途中までいっしょに行きましょ?わたしも子供たちのところに戻らないと。」

「そ、そう。それじゃ2人とも。また会いましょう?……がんばってね、レイラ。」

「それじゃ、お2人ともまた。ときどきは来てくださいね。」

 

 俺とレイラは、マリオンに挨拶すると部屋を出た。

 

「ふう、カジマ少尉を呼んで、よかったな。」

「ええ。……ありがとうゼロ。わたしたちだけじゃ、こうは行かなかったわ。」

「俺がやったのは、カジマ少尉呼んだ事だけだぞ?」

 

 レイラは首を横に振る。

 

「いいえ、貴方が会ってくれなかったら、マリオンは亡命申請を今も拒否してたと思う。貴方が、きっかけになってくれたのよ。」

「そんなもんか……。」

「そんなものよ。うふふ。」

 

 その後、俺たちは雑談しながら歩いた。磁力靴で一歩一歩廊下を踏みしめる。他愛ない言葉のやり取りが、なんと言うか心地よい。エレベーターに乗り、やがてエレベーターがレイラの降りる階で止まる。

 

「ゼロ、わたしはここだから。」

「ああ、じゃあまた会おう。」

「ええ。またね。」

 

 エレベーターの扉が閉じる。1人きりのエレベーターが、何か凄く寂しく感じた。

 

 

 

 俺は部屋のベッドに倒れ込む。

 

「疲れた……。頭、痛え……。」

 

 すごく気疲れした。今日は勲章の授与式だったのだ。ちなみに俺たちレビル将軍直卒部隊だけじゃない。第13と第18の独立戦隊も、敵秘密兵器である大量破壊兵器……それが「ソーラ・レイ」と言う名のコロニー・レーザーであった事は伏せられたが、それを破壊した事と多大なる戦果により、賞せられた。

 レビル将軍が、1人1人に勲章を着けてやり、握手をする。……この式典の準備は、レビル将軍の副官たちが大車輪で用意したものだ。いつもは戦場に共に出ているツァリアーノ中佐だけが目立っているが、今回は他の文官寄りの副官たちの本領発揮だ。

 いや、ツァリアーノ中佐も駆り出されたよ?副官は副官だし。何故か俺も駆り出された。なんかいつの間にか、俺にも第3小隊小隊長の他に、副官の1人としての肩書が付いていたのだ。

 

「俺をレビル将軍の相談役的な位置に置くためだってのは理解できるんだが……。俺、士官学校出てないから文官的業務はキッツい……。」

 

 それでも、猫の手よりかは役に立ったとは思う。そんな裏方と、表彰される側の両方で大忙しだったため、今の俺は疲労の局地なのだ。この気持ちは、同じく裏方業務をこなした上で表彰式にも臨んだツァリアーノ中佐ぐらいしか理解できまい。

 甘い物が食いたい……。

 

「マコーマック博士かぁ……。流石に呼び戻されたか。」

 

 マコーマック博士は、俺に関する大量のデータと共に、ニュータイプ研へと急遽呼び戻された。それでその姿を見なかったのだ。レビル将軍は、そのデータの流出を危惧した。だがしかし、最初俺を将軍の直卒部隊に配属する際に、データは提供すると言質を取られているので、どうしようもない。

 だが将軍が、俺の身柄返還を断固として拒んでくれたのは、感謝しなければ。……既に大きく変わってるけど、また1つ正史から大きく変わったな。だが……。ニュータイプ研は、たぶん既に何名もの被験者を確保してるだろうな。

 ちくしょう。

 

(フォウ・ムラサメかあ。ロザミア・バダムかあ。出て来る、だろうなあ。……カミーユ・ビダンをなんとかスカウトできないかなあ。フォウ・ムラサメを任せてしまいたい。)

 

 カミーユは、ティターンズが成立しないかぎり、ティターンズとイザコザを起こさない限り、一般人だ。一般人が逸般人にクラスチェンジするには……。いやいや、カミーユが一般人から離脱することは、彼にとって不幸じゃないか。

 

(駄目だこりゃ……。彼の不幸を願ってるみたいなもんじゃないか。ああ、でもなあ。0087までに、ニュータイプ保護法みたいなもん、できないかなあ。そうしないと、カミーユとかジュドーとか、実験体扱いに……は、なっておらなんだな正史では。

 あの時点においては、珍しくも無かった……わけでも無いよな、ニュータイプ。軍事利用が下火になったわけでもないし。ニュータイプそのものより、強化人間の方が主流だったからか?軍事利用。)

 

 俺は鈍った頭で、つらつらと考える。

 

(なんてこった。強化人間の製作を阻止しようとしたら、下手したらニュータイプが軍事利用される流れに?いや、強化人間なんて非道なんだから、それの誕生を阻止することは間違ってない。

 ニュータイプの軍事利用……。ニュータイプが徴兵されたり、強制的に志願させられたりするのは避けないといけないが……。当人が望んで志願するのまでは、止めるべきじゃない。なんか、ニュータイプを守る法律を作らないといけないのかなあ。なんてこった、俺のもっとも不得意とするところじゃないか。)

 

 頭痛がする。ヘビが頭の中で、のたうってる。ちくしょう、甘い物食いたい。俺の意識は、ゆっくりと眠りの中へ落ちて行った。ちなみに夢見も悪かった。夢の中でもガンガン頭が痛み、大空が落ちて来たりするのだ。大空と言うか、コロニー。サイド2の8バンチコロニー、アイランド・イフィッシュが落ちて来るのだ。

 苦悶しつつ目覚めると、既に朝……いや、ルナ2は宇宙だから朝も何もないのだが、朝時間だった。

 

 

 

 夢見が悪かった後は、朝からルナ2宙域で実機演習だ。第11独立機械化混成部隊を含む、イカロス隊と合同訓練と言う名の対抗戦だったりする。まあ結局、模擬戦なんだけどね。ちなみに今日はレビル将軍も参加だ。将軍、凄く張り切ってたりする。いや、表面的には凄く落ち着いているんだが。

 

『ふっ。ゼロ、今日は頼むぜぇ。』

「アレン中尉こそ、頼みます。」

『同じ中尉になって、もうけっこう経つのに、言葉遣い硬いぜ?』

「先任でしょうが、アンタ。』

『はっははぁ。そのぐらいでいいぜ。』

 

 ミノフスキー粒子は散布されてないので、無線通信はクリアだ。俺たちは、レビル将軍のアレックス1を中心にしてペガサスの前面に布陣する。そして演習相手がやって来た。改ペガサス級強襲揚陸艦イカロスと、その前面に布陣する5機のMS。

 

「敵機確認。将軍、どう迎え撃ちますか?」

『うむ。おそらくはイカロス側は第1波を囮に、別動隊の第2波でペガサスを狙って来る。第2小隊で敵の第一波を受け止める。第1、第3はペガサス周囲に展開する。』

『了解です、将軍!』

 

 ここでバージルから個人回線で通信が入った。

 

『あ、あのゼロ中尉。第2小隊3機で、相手の第1波5機を受けきれるんでしょうか。』

「おまえな……。」

『で、でも数が。』

「第2はアレン中尉率いるデリスとロンの小隊だぞ?G-3仕様ガンダム3機だぞ?信頼しろ。それに、敵本命の3機の方が怖い。だからそっちに5機残したんだ。」

 

 そう、プレッシャーのかかり具合が違う。あの第1波にユウ・カジマ少尉はいない。……全機がRGM-79CRジム改高機動型、か。

 そして第2小隊が、ジム改高機動型とドッグファイトを始める。敵も見事だが、やはりアレン中尉たちの方が一枚も二枚も上だ。撃墜された敵機こそ無いが、アレン中尉たちは1機たりともこちらへ通さない。

 そして敵の本命がやって来た。凄まじい速度で、本丸であるペガサスを狙ってくる。

 

「……さすがだな、ユウ・カジマ少尉ッ!!」

 

 無線は入れずに、ひとり言を呟く。遠距離の射撃で、ツァリアーノ中佐機が被撃墜判定をくらい、ラバン少尉機が左腕の小破判定でシールド使用不能となったのだ。代わりに、相手の1機のジム改高機動型が中破判定で、ほぼ戦力外になったが。あれは恐らく、サマナ・フュリス曹長の機体だろう。

 何故って、かすかに「サマナちゃーん、何やってんだ!」って声が聞こえたから。いや、声って言うか思念を受け取っただけだが。そしてこちらの2機に大損害を与えたのは、先頭の1機!G-3仕様ガンダム!ユウ・カジマ少尉のプレッシャーだ、間違いない!

 

「レビル将軍、あのガンダム、僕が……。」

『……頼む!』

「バージル!周囲に目を配れ!」

『りょ、了解!』

 

 残ったフィリップ・ヒューズ少尉機に、レビル将軍とラバン、バージルが向かう。だがラバンが真っ先に撃墜判定をくらった。相打ちでラバンは相手のシールドに大破判定を与え、使えなくしたが。バージルの射撃はあたらない。基本、レビル将軍とヒューズ少尉のドッグファイトだった。

 おいバージル、お前に期待した役割はそうじゃない。教えちゃ勉強にならんから、教えなかったが。……!!

 

 カジマ少尉機のガンダムは、ビームライフルをこちらに向ける。その砲身の下に装着されたレーザー発振器から、不可視のレーザー光が放たれた。俺はその、本番さながらの殺意の射線をかるがると……よけられない!?よけるとギリギリでペガサスが射程距離内!?

 俺はシールドを犠牲にして、その一撃を防ぐ。シールドは大破判定をもらい、もうこの模擬戦中には使えない。だが俺は代わりに、カジマ少尉機のシールドを左腕ごと貰っていた。そして、シールドを放棄……したと言う設定で、背中のラッチに回し、空いた左手の90mmガトリングを展開する。

 

「やるな、カジマ少尉!」

 

 さすがユウ・カジマだ。展開したガトリングに、ビームライフルを命中させて、左腕ごと暴発させて吹き飛ばしてくれた。いや、模擬戦だから、吹き飛んだってのも、そう判定されたってだけだよ?俺もお返しに、ビームライフルで狙撃して頭部を持って行ったが。

 奴の攻撃は、避け辛い。今の射撃も、避けたらバージル機にあたる様に動いていた。ここまで芸術的な射撃能力は、さすがに俺にも無い。いや、単純な射撃技量はニュータイプ能力無しでほぼ互角だ。俺に足りないのは、その戦術眼、戦術的能力だ。敵を追い詰め、追い込むその技量。

 俺が避けるだけの技量を持っている事を知っていて、避けられない、避けたらまずい攻撃をやってくる。これは……強い。そして俺とカジマ少尉機は、互いの射撃で互いにビームライフルを失う。メインカメラをやられていて、これかっ!

 射撃戦闘が不可能になったカジマ少尉機は、ビームサーベルを抜き放つ。だがな、アレックス3にはまだ射撃武器があるんだよ!右腕の90mmガトリング……。

 

『演習終了。イカロス側、勝利です。』

 

 ……バージル。やってくれたな。

 

『な、何があったんですか!?』

「バージル……。最初に半身不随にしたはずの、サマナ・フュリス曹長機だ。それがペガサスの機関部に、ビームサーベルを刺し逃げ攻撃したんだよ。」

『ええっ!?』

「教えちゃ勉強にならんから、教えなかったんだが……。俺の指示は、周囲を警戒しろ、だったろう?あれを警戒、もっと言うなら墜としておけって意味だったんだ。」

『……す、すみません。』

 

 俺は笑って言った。

 

「まあ訓練だし、勉強になったろ?」

『そうそう。バージル伍長、この失敗を糧にして成長してくれや。せっかく第2小隊が2機の被撃墜と引き換えに、全機墜とした事なんて気にせんでいいぞー?』

『ぜ、ゼロ中尉、アレン中尉……。え、笑顔が怖いです。』

『「そうか?」』

 

 おかしいなあ、俺もアレン中尉もできるだけプレッシャーかけない様に、にこやか~~~な笑顔で言ってるんだがなあ。はあっはっはっは。

 訓練後に、バージルがレビル将軍直卒部隊のパイロットたちにおごる羽目になったのは、言うまでも無かったりする。合掌。




落ちはバージル。ごめんよ、君以外に、いなかったんだ。


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戦後もけっこう忙しい

 ようやく正式に戦争が終わった。いや事実上サイド3攻略とギレンの戦死によって、戦争は終結していたんだが。だがダルシア・バハロ首相が降伏文書……厳密には停戦協定だが、内容は降伏の確認書であり、それに首相が調印した事で、完全に戦争は終わったのである。軍の武装解除もようやく終わったし。

 そんでもって、戦後の論功行賞的に隊の皆が昇進した。もっともラバンはサイド3戦直後に一足先に中尉昇進してたので、今回は昇進しなかった。だけど奴は、なんとか言う勲章を1個余計にもらっていた。やったな。これで将来退役後の年金が随分違うぞ。

 で、ツァリアーノ中佐は大佐に、アレン中尉は大尉に、デリスとロンはそれぞれ中尉に昇進した。バージルも軍曹に。俺はサイド3戦直前に中尉昇進していたので、今回は無しかと思っていた。そしたら……なんかサプライズ的に大尉昇進した。なんで?俺、副官の末席として仕事手伝ってたけど、俺の昇進の話なんて聞かなかったよ?

 

「そいつぁな、サプライズって奴よ。お前に隠し通すのは、苦労したぜ。」

「ツァリアーノ大佐……。」

 

 いや、なんか変な思念や感情は感知してはいたんだ。だけどさ。悪い物じゃなかったから、放置してたんだよな。レビル将軍はレビル将軍で、思念を隠すの上手くなったよなあ……。俺に大尉なんて、務まるんだろうか。

 まあ、俺は士官学校行ってないから、出世もここで打ち止めだよな。

 

 

 

 ルナ2からジャブローに降りる事になった。レイラたちは、出港の際にまた見送りに来てくれた。レイラの他に来てくれたのは……。

 まずはクスコ・アル軍曹。以前は中尉だったのに、とぶーたれていた。まあ、連邦軍に正式に志願したのが遅れた事とかで、色々手続き上のどたばたがあったらしい。本当は兵卒からの再スタートになるはずだったが、軍属として働いていたのでそれが加味された様だ。

 ユウ・カジマ中尉……こっそり昇進していたが、彼と彼に車椅子を押されて会いに来てくれた、マリオン・ウェルチ伍長。彼女も連邦軍に志願した。彼女も志願が遅れたので、以前ジオン公国軍少尉だったのだが、階級が低くなっている。ただし彼女はMSパイロットコースを選択したので、兵卒からではなく、パイロットとして最も下の階級の伍長となった。

 ここで連邦軍のパイロットの階級だが、本来は少尉が最も下の階級のはずだった。しかし緒戦の敗戦でパイロットの数が圧倒的に足りなくなり、伍長からに制限が緩められていたのだ。そしていまだに元に戻っていないと言う経緯がある。

 他に来てくれたのは……。

 

「よう、ハリー、ケイコ、ジェシー、アルジャノン、カール、ブレット、ハワード、アーヴィン、リサ、ルーシー、メイジー、ニコラ、ルビー。見送りに来てくれたのか?」

「「「「「「うん!!」」」」」」

「ははは、ありがとな。」

 

 このフラナガン機関から救出された子供たちには、ルナ2滞在中なんどか会って、そのたびに一緒に甘味を食べた。子供らの分の勘定を俺が持ったのは、言うまでもないが……。すっかり懐かれてしまったな。

 13人も子供がいると、わやわやと騒がしくなる物だと思っていたんだが……。こいつらは、あまり騒がない。フラナガン機関での「教育」のせいだろう。少し、いや少しどころでなく、不憫になる。

 それでもレイラにオヤツをねだっていた時は、けっこうはしゃいでいたな。……つまり、レイラの努力の結果、か。うん。

 

「大尉さん、元気でね。」

「また会えるよね。」

「ああ。生きていりゃ、またいつか会える。必ず、だ。」

 

 それに俺たちは、レビル将軍派閥の保護下にあるからな。他よりも、縁は強いだろ。と、ここでハリー、ケイコ、ジェシーの比較的年長3人が、思いつめた様な顔をしているのに気づく。俺はしゃがんでそいつらと視線を合わせ、訊ねた。

 

「……どうした?おまえら。」

「……大尉さん。僕ら……。おおきくなったら、またっていうか、あらためて、でいいのかな?軍人になりたいと、そうおもうんです。」

「レイラさんは、こまったような顔をするんです。でも……かんがえたんです。軍人になって、えらくなって、そして政治家になろうって。」

「3人いれば、だれかがそうなれるかもしれないよね?」

「……政治家になって、目的があるんだな?」

 

 ハリーは決然とした顔で言う。

 

「人体実験やめさせる法律、つくるんだ、です。」

「……!!」

 

 レイラは目を見開く。そして少し悲しそうに、寂しげに言った。

 

「そうなの……。わたしには、そこまで話してくれなかったわよね?軍人になりたいってだけで。」

「あれ?」

「あれ?」

「あれ?」

「え?うっかり話してくれてなかっただけなの?」

 

 別な意味で、レイラは目を見開く。と言うか、驚いて目が真ん丸になっている。……可愛い。いやマテ、今大事なのはそこじゃない。

 

「……道は険しいぞ。」

「「「うん!」」」

「覚悟はあるんだな?」

「「「うん!!」」」

「……よし。じゃあ思いっきり勉強しろ。身体も鍛えろ。士官学校を目指せ。軍隊で偉くなるなら、士官学校行かないと駄目だ。わかったか?」

「「「……うん!!」」」

 

 俺は3人に、頷いてみせる。

 

「よし……。待ってろ、俺が……。俺だけじゃないが……。お前らの道を切り開いてやる。」

「大尉さん……。」

「大尉さん。ありがとう……。」

「……あたし、がんばる。大尉さんも、がんばって。」

 

 こいつらは、スペースノイドだ。現状スペースノイドには、参政権は無い。一部特殊例は無くも無いが、無きに等しい。それを、何とかしてこいつらの世代になる前に、打破しないといけない。いや、道が険しいのは、こいつらだけじゃないな。ははは。

 俺は大尉止まりだ。結局は、将軍頼みか?いや、尉官より低い階級でも、政治家になった奴はいる。某ちょび髭の伍長とか。あれは政治家として、この上なく悪い例として語られる人物だが。

 軍人として結果を出して、退役後に政治運動でもしよう。他に方法を見つけたら、その方法も試そう。正攻法でやれる事はなんでもやって、こいつらの道を切り開いてやらないとな。

 登録上はアースノイドである、俺ならば可能性はあるんだ。……零に近くても。ああ、俺、ゼロ・ムラサメだっけ。いいさ、零に近かろうがなんだろうが、可能性掴んでやる。

 決意した俺に、カジマ中尉が歩み寄る。

 

「……。」

「手伝ってくれるのか?カジマ中尉。」

「……。」

 

 カジマ中尉は頷いた。ついでに、ユウでいい、と言われた気がした。

 

「わかった、ユウ。お前も頼むぞ。」

「……。」

「わたしも、できる事は少ないけれど。力にならせて。」

「わたしで良ければ、お手伝いするよ。」

「わたしも……。微力を尽くします。」

 

 レイラ、クスコ・アル軍曹、マリオン・ウェルチ伍長が次々に口を揃える。俺はなんとなく泣きそうな気持になりながら、満面の笑みで礼を言う。

 

「ありがとう……。」

「いえ、お礼を言うのはこっちよ。この子たちの事だもの。」

「そうか……。さて、そろそろ俺は乗艦しないと。じゃ、またな皆。」

「「「「「「またねー!!」」」」」」

 

 子供らが、声を揃えて送ってくれる。ユウが無言で敬礼をする。マリオン伍長、クスコ軍曹がそれに倣う。レイラが何か言いたそうな表情を浮かべるが、思い直して口を閉じ、敬礼して来る。だが俺の人工のニュータイプ感覚には、彼女が寂しいと思ってくれている事が感じられる。俺も寂しいが、彼女がそう思ってくれている事が少し嬉しい。

 俺も彼女たちに答礼を送ると、ペガサスに乗り込んだのだった。

 

 

 

 ラバン、デリス、ロンに加えてアレン大尉に小突かれるが、全て躱してやった。

 

 

 

 ペガサスはジャブローに降りた。ペガサスだけじゃなく、ペガサスⅡやホワイトベース、他数隻の改ペガサス級強襲揚陸艦も一緒だ。ついでと言ってはなんだが、複数の大気圏突入カプセルやシャトルも一緒だった。ルナ2からジャブロー行きの艦船は、今回けっこう多かった。

 ここで、一年戦争中実際の戦闘に、プロパガンダに、と大車輪で活躍したレビル将軍直卒部隊……結局最後まで隊の愛称は付かなかったが、それはともかく、この隊は解隊となる。俺とツァリアーノ大佐は、レビル将軍の副官任務があるから残るが、他の皆はと言うと……。

 まずアレン大尉。

 

「俺は陸軍の、ヨーロッパ方面軍に配属だ。あそこはオデッサ作戦の後、キリマンジャロ攻略作戦とかでアフリカ方面軍に戦力を引っこ抜かれて、少し手薄になってるからなあ。そのテコ入れの一環だそうだ。……俺が、中隊長か。ガラじゃねえなあ。」

 

 次にラバン。

 

「あー、俺は地球連邦海軍だ。コロニー落としで壊滅状態に近いからな。再建の第一歩として、鹵獲した水陸両用MSで編制された隊の、隊長になってくれとさ。隊長機として水中型ガンダムを用意してくれてるそうだ。

 いよいよ俺も、ガンダム乗りだぜ!」

 

 RAG-79-G1水中型ガンダムは、RAG-79アクアジムと基礎設計があまり変わらない、改良されただけのMSだと教えるべきかどうか、俺は悩んだ。まあ確かに、顔はガンダムなんだが……。

 デリスとロン。

 

「俺たちはもう1回、宇宙に上がる。俺は宇宙軍でソロモン行きになって、そこで教導隊の小隊長だそうだ。」

「自分はア・バオア・クーですね。そこで自分も教導隊に配属、小隊長だそうです。ゼロに鍛えられた技量を、できるかぎり伝えますよ。」

 

 バージルの奴は、俺が事務手続きしてやったから、俺がよく知ってる。下手すると奴以上に。

 

「ぼ、僕は北米ウェストポイント士官学校に入学予定です。」

「「「「「「おおおぉぉぉ!!」」」」」」

 

 こいつは一応、レビル将軍の推薦状を貰っている。他の不品行とかも一切無い。まじめだし、履歴書の賞罰欄にも罰点の1つも無い。身体能力テストも、こいつなら通る事間違いなしだ。面接官も、こいつの生真面目な姿勢には好感を抱くはず。だからまず、入学が許可されないなんて事は無いはずだ。

 もしかしてこいつは、途中で死ななきゃいつか俺を使う立場になったりしてな。

 

 ツァリアーノ大佐が口を開く。

 

「貴様ら、隊は無くなっても、俺たちがレビル将軍の下で戦った日々は、けっして無くなりゃあしない。わかるな?

 その、なんだな。そのだな。俺たちは、同じ釜の飯を食った、仲間だ。忘れるんじゃねえぞ。」

「わかってますよ。ところで大佐は、ジャブローに残って何の仕事をするんです?いや副官を兼ねてる事は知ってますが。だけど、大佐が副官なのはあくまで兼務みたいなもんで、主任務は戦闘でしょう?」

 

 アレン大尉の質問に、ツァリアーノ大佐は徐に答えた。意外でも何でもない答えだったが。

 

「ん?レビル将軍の直下で、直属で直接の命令で動く連隊を組織する。その連隊長が、俺だ。連隊の組織が完了した時点で、副官任務も解除される事になるなあ。」

「俺にはまだ何も通達が来てないんですが、その連隊に配属される事になるんでしょうね。」

 

 俺が言うと、ツァリアーノ大佐はニヤリと笑った。つまり違うと言う事だ。いや、まさか専任の副官にされる?大佐からは、面白がる様な雰囲気が、ひしひしと伝わって来ていた。これは……。アレだ。俺が大尉昇進した時と同じだ。

 

「お前さんは本日をもって副官任務を一時解除、士官学校行きだそうだ。」

「え゛。まさか教官任務?」

「違う。そこで勉強する方だ。まあ、士官学校行きは命令じゃなくて、選択肢の1つって言う話だがなあ。

 受けなかったら、俺の連隊入りだが……。受けといた方いいぞ。レビル将軍はじめ、ゴップ大将、ワイアット中将、ティアンム中将の肝いりだからな。」

 

 え゛。んじゃあ大尉になったけど、卒業したら少尉からやりなおしかね。

 

「話受けるのはやぶさかじゃないですが、卒業できるかどうか……。いや入学できるかどうか。

 それと、なんとか卒業できたとして、そしたら少尉に逆戻りですよね。いや、仕方ないんですけど。」

「それなんだがな。お前は、特別な短期1年の圧縮授業コースだから安心しろ。」

「安心できませんって!!」

 

 士官学校の様々なカリキュラムを、1年に圧縮だと!?

 

「大丈夫だ。軍法と部隊運用に集中した特別カリキュラムだからな。お前だけじゃない。全軍から中尉、大尉、まれに少尉クラスの、部隊指揮経験のある士官学校出てない士官を集めて、このコースにブチ込むんだ。そしてこのコース卒業後は、元の階級か、もう少し上の階級として再スタートする。

 これは連邦軍全体で、一年戦争緒戦の敗退により、多数の高級士官を失った事が響いてるんだ。ルナ2なんか、ワッケイン司令は昇進したけど未だに中佐だぞ?なんとしても高級士官を多数、補充する必要があるんだ。」

「だから部隊指揮経験のある尉官を、1年間徹底的にしごいて、促成栽培の高級士官を……。連邦軍だと、士官学校出てない者は佐官にはなれないから……。部隊指揮って言っても、俺の場合バージルだけですが……。」

「おう。入学審査も、形だけだ。相当に悪くねえ限り、通してもらえる。ただし、将官級3名以上の推薦が必要だが。お前はレビル将軍、ゴップ大将、ワイアット中将、ティアンム中将の4人が推薦状書いてくださるから、だいじょうぶだな。」

 

 だいじょうぶじゃないです。期待が重……。い、いや。これはチャンスだ。俺の脳裏には、その時ルナ2にいるはずの、あの子供たちの事が浮かんでいた。特にハリー、ケイコ、ジェシーの3人。俺が上に行って、あいつらの道を切り開く。約束したんだ、守らなくちゃな。

 

「了解しました。そのお話、お受けします。」

「お?な、なんか急に胆が据わりやがったな?」

「おおー、凄いなゼロ。なんか、あっと言う間に追い越されちまったぜ、ははは。」

「ほんとほんと。うちの隊出身の、出世頭になるわけだな。」

「いえ、きちんと卒業するまでは、まだ分かりませんよ?自分も、上に行く事を諦めてるわけじゃありませんからね。」

「階級は今は抜かれたが、見てやがれ。今度は追い抜いてやる。」

「ぜ、ゼロ大尉!頑張ってください!」

 

 隊の皆が、笑顔で言ってくれる。……いい部隊だ。いい隊だった。俺は昔の歌謡曲の様に、上を向く。ほんとに涙がこぼれそうだったからだ。

 

 

 

 そしてツァリアーノ大佐が言う。

 

「お、そうだ。アレン。お前も転属したら、すぐに少佐だぞ。」

「う゛え゛っ!?ちょ、待ってくださいよ!」

「待たん。これも高級士官補充のための一環だ。普通に士官学校出てる尉官も、一時的に昇進の規定をゆるめる事になったんだ。まあ、これも将官級の推薦が必須だし、既に佐官以上の奴の昇進規定はゆるまんのだがな。」

「お、おれは佐官なんて無理ですよ!」

「駄目だ。貴様、レビル将軍の顔を潰す気か?」

 

 アレン大尉ェ……。

 

 

 

 そして俺の士官学校の日々が始まった。……ナイメーヘン士官学校ッ!?しかも俺の従卒に、下級生扱い……厳密には下級生じゃないんだが、そのコウ・ウラキが!!若ぇー。0080時代、16歳のコウ・ウラキかよ。はじめて紹介されたとき、内心で俺はそう叫んだものだ。

 

「ゼロ候補生、自分が、な、何か?」

「あ、いや。そうじゃない。気にするな。」

 

 あくまで下級生「扱い」であって下級生じゃないので、こいつは俺を「先輩」とは呼ばない。呼んではいけない。

 

「あー、ウラキ。俺は本日は外出許可を貰って、人に会う約束をしている。着替える間、済まんが靴を磨いておいてくれるか?」

「はっ!了解であります!」

 

 俺はスリッパ履きで、てきぱきと着替える。ちなみに従卒に身の回りの世話をさせるのは、そうしろときっちり「命令」されている。これも従卒役の士官候補生に対する教育、なのだそうだ。本当は、「済まんが」とか言ってもいけないのだが、ついつい……。

 

「ありg……じゃねえ。よくやったウラキ。」

「はっ!ありがとうございます!」

 

 うっかり「ありがとう」を言ってしまうところだった。礼を言うのはNG、褒めるのはOKらしい。よくわからん。俺はウラキに部屋の掃除を命じて、寮の部屋を出た。……自分でやらんと物ぐさになるんじゃないかな、と思わなくもない。

 

 

 

 俺は街中の喫茶店で、人と会っていた。相手は連邦宇宙軍の、イギリスはベルファスト基地にある宇宙港の警備隊に所属しているMSパイロットの少尉さんだ。向こうも貴重な休暇を使って、オランダのナイメーヘンにいる俺に会いに来てくれている。ぶっちゃけた話、レイラだった。ベルファスト基地は、現状レビル派で埋め尽くされているから、安心だ。

 

「……それでね、あの子たちからの手紙によるとね。ハリーとケイコとジェシーは、競い合うようにして必死に勉強してるらしいわ。通信制の学校に入学して、少しでも将来の士官学校入学に有利になる様にって、頑張ってる。」

「そうか……。俺も負けてられないな。……ツッ!」

「だ、大丈夫?」

「ああ、いつもの頭痛だ。大事ないさ。……士官学校内では、うかつに頭痛持ちだなんて知られたくないからな。表に出せなくてさ。身体が健全だって触れ込みだからな、入学の際に。

 こうして頭痛を表に出せるのは、久しぶりだな、ははは。」

 

 俺は笑った。頭痛の事を、笑い話にできるとは思わなかった。

 

「クスコが、今はあの子達を見ていてくれるけど……。ときどき会いたくなっちゃうのよね。」

「ははは。少し妬けるな。」

「ふふふ。あの子らに?」

 

 俺はチョコレートパフェをスプーンでひとさじ口に運ぶ。……美味い。なんと言うか、復興の味だ。街を建て直し、人を集めて経済も建て直した、その証の味。甘い。美味い。

 レイラも同じチョコパフェを頼んでおり、ちょびちょびそれを食べている。と、彼女の眼が笑う。彼女はパフェのソフトクリームをすくった自分のスプーンを、すっと無拍子で差し出して来た。

 いや、俺なら避ける事もできたよ?でも避けちゃいかんだろ、この場合。そのスプーンは、俺の口の中に突っ込まれた。……レイラは、いたずらそうな瞳でこちらを見ていたが、自分が何をやったのか、よく考えてみた様だ。

 いきなりレイラは、真っ赤になった。たぶん俺の顔も赤い。……その味は、すごく甘くて、すごく美味かった。




あ、まーーーい!!甘い甘い甘い!!
書いてて背中が痒くなったッ!!
孫の手、孫の手!!

でも描きたかったんです。

でもって、主人公が受けた特別コース(卒業後元の階級もしくは少し上の階級になる)は、大ウソです。現実にはそんなコース無いです。ロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』でも、野戦任官の中尉が士官学校行って、卒業後は少尉になるハズでしたからね。だけどその元中尉の士官候補生は……。いえ、『宇宙の戦士』をお読みください。
だけど、とりあえず理屈コネてこんな制度が存在する事にしました。
なんて言ったって、『アクシズの脅威V』だと、一般人パイロットが士官学校も行かずに昇進を重ね、大将になる事も理論上不可能では無いのですから。『アクシズの脅威V』世界ゆえの制度だとお考えいただければ……。


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早くも1年経過

 俺は久しぶりに乗るMSの実機感覚に、多少のとまどいを覚えていた。いや、非マグネット・コーティング機だし。うっかりすると、正史ソロモンあたりのアムロみたく、操縦系をオーバーヒートさせて壊しかける事になるし。と言うか、ジム改だしコレ。

 士官学校の備品を壊すわけにもいかないし、できる限りソフトな操縦を心がける。何時もの様に、俺の全力は出せない。

「クラーク、ラルフ、たぶんこの先に隠れて機会射撃を狙ってるぞ。」

『了解。俺もそう思う。』

『うん、俺でもそうする。』

 

 クラーク・アーロン元中尉、ラルフ・スレイド元大尉、この2人は俺同様に士官学校に短期集中コースで放り込まれたMSパイロットだ。元中尉とか元大尉とか言うのは、今は士官候補生と言う扱いだからだ。

 実を言うと、「たぶん」ではなく、確実に演習相手はこの先に隠れている。俺はニュータイプ感覚でその事を察知したが、こいつらはきちんとした戦術的能力でそれを判断している。……俺もそうならにゃいかんのだけどなあ。もっと図上演習、がんばろう。

 まあ、そんなわけで今は実機演習中だ。ほんとに久々の。

 

「俺が飛び込んで敵を誘引するから、お前ら撃ち落としてくれ。避ける自信はある。」

『馬鹿言うな。お前今回の指揮官役だろう。』

『そうそう。いくらあの伝説のレビル将軍直卒部隊トップエースだったって言ってもだな。』

「……わかった。」

 

 そりゃそうだ。いやほんとにこのジム改でも避ける自信はあるが。しかし指揮官が墜とされたらその時点でこちらの敗北だ。もっと切羽詰まった状況ならともかく、こんな状況でやる事じゃないな。

 

「じゃ、クラーク。静音モードでゆっくり回り込んでくれ。俺たちは普通に前進するからな。ほんとはグレネードがあれば……。」

『放り込んでたんだけどな。基本装備同士での対戦だ、仕方ない。』

『じゃ、俺は行くわ。』

 

 ミノフスキー粒子が濃いと言う設定で、レーダーは切られている。俺たちの会話も、いわゆる「お肌の触れ合い会話」と呼ばれる、接触回線による通信だ。それ以外の通信方法は禁止されていた。

 そのまま無言で前進する。と、前方で銃撃音が聞こえて来た。

 

「やったな、クラーク!」

 

 俺はハンドサインでラルフ機に全速前進を指示すると、自機をブーストダッシュさせた。

 

 

 

 PXの飲食スペースで、相手チームの指揮官役だったジーニー・ダンフォード元中尉が愚痴る。ジーニーは名前からわかるかも知れないが、連邦では比較的少ない女性パイロットだ。

 

「勝ったと思ったのに……。」

「ラルフの機体を墜として、3対2に持ち込んだところまでは良かったんだが……。」

「3機の至近距離での集中砲火を避けるかよ、ゼロ。」

 

 ドン・ガースン元中尉もユーイン・タカハシ元中尉も、俺の「曲芸」で戦術的優位をひっくり返された事が釈然としないらしい。さもありなん。俺が向こう側だったら、俺もそう思う。

 ぶっちゃけた話、戦術では完全に負けていた。相手はクラークが回り込んでくるだろう事も読んでいた。だが俺のニュータイプ能力と、強化された反射神経が、ぜんぶひっくり返したのだ。

 いや、3機の至近距離での集中砲火は、避けるためにあやうく操縦系をオーバーヒートさせるところだったが。

 

「避ける自信あるっての、本当だったんだな。」

「だけどなあ……。ちょっと釈然としない勝ち方だよな。」

「勝っておいて、何言ってんのよ!」

 

 クラークとラルフに、ジーニーが怒鳴る。首をひっこめる、クラークとラルフだった。俺はため息吐いて、申し出る。

 

「あー、PXの勘定俺が持つから、機嫌なおしてくれよ。」

「「「「「了解!」」」」」

「うっわ、クラークとラルフまで……。」

 

 自分を含めて、6人分の勘定を払った。実戦パイロット時代の貯蓄があるからまだいいが、候補生の給与なんて大したこと無いんだぞ?少し手加減して食ってくれ。

 

 

 

 訓練それ自体より疲労して寮に帰る。そこでは従卒のウラキ少尉が、目をキラキラさせて待っていた。

 

「あー、掃除他、ご苦労だったな。では……。」

 

 退出してよろしい、と続けようとした俺だったが、相手のキラキラした視線に根負けする。

 

「あー、なんだ?」

「はっ!今日の実機演習、見学させていただきました!」

「あー……。あまりいい見本じゃなかったな。」

「いえ!ゼロ・ムラサメ候補生のあの精妙な機体制御に回避技術!その直後の正確無比な射撃技術は、素晴らしい物が!」

 

 俺は思う。なるほど、こいつは指揮官にはあまり向かんタイプだろうな、と。いや、『アクシズの脅威V』だとプロト・ゼロも最高のランクSまで上げても、指揮能力は5と最低ランクなんだけどな。魅力は13とそこそこ高くなるから、指揮下の部下の士気はある程度高まるけど。

 コウ・ウラキはランクSまで上げて、指揮能力6の魅力9だ。射撃能力、格闘能力、耐久力、反応力はぜんぶ2桁行くのにな。つまり誰かの部下として働くのが最も有効だって事なんだが……。指揮官向きじゃない。戦術家でもない。言わば戦闘家だ。

 だが、俺はあえて言ってやる。俺、コウ・ウラキ好きだしな。

 

「なあウラキ……。俺の操縦技術、感動してくれるのは嬉しいが。だがアレはな?いろんな物……そう、いろんな物を犠牲にした強さなんだ。」

「!?」

 

 まあ強化人間だしな。と言うか、今も頭が痛い。必死こいて、表には出さないが。

 

「それにアレはな、あんな無茶な機動を強要されるまでに追い詰められたって事でもある。本当は、あんな真似しないで勝てるようになりたいもんだ。普通は、あそこまでされたら負ける。と言うか、ほんとなら俺の負けだ。

 単に操縦技術として、俺を目標にしてくれるのは嬉しい。だが、士官として俺を目標にはしないで欲しいな。士官として目標にするのなら、ジーニー・ダンフォード候補生を目指せ。彼女は操縦技術も、戦術判断も、指揮能力も、超の付く一流だ。」

 

 コウ・ウラキには、もっともっと成長して欲しいと思う。ひいき?その通り、ひいきだ。ソレは置いといて。

 俺ももっともっと、戦術判断を磨かないとな。指揮能力も。無論、操縦技術もだ。頑張らないとな。

 

「りょ、了解であります。」

「ああ。……頑張れよ。お前なら一流の、いや超一流のMSパイロットになれる。努力を怠らなきゃな。」

「は、はいっ!」

「では退出してよろしい。」

「はっ!失礼します!」

 

 窓から外を見ると、眼下の道路で待っていたウラキの同期生と思しき連中が、ウラキに遅いと文句を言っているのが見えた。外出許可でも貰って、遊びに行くのだろう。門限に遅れるなよー、と心の中でエールを送ってやる。

 と、そのうちの1人と目が合う。そいつは俺に向けて手を小さく振ると、ウラキ達と共に駆けだして行く。……アムロ・レイだ。アムロ元曹長は、ハヤト・コバヤシ元伍長、カイ・シデン元軍曹、セイラ・マス元軍曹と共にレビル将軍の推薦状をもらって、ナイメーヘン士官学校に放り込まれていたのだ。

 同期扱いとは言え、普通に入学したウラキやチャック・キースと、既に実戦を潜り抜けて来たあいつらとでは、カリキュラムが違う。特にMS関係の実技で。何処で仲良くなったんだろうな。

 

 

 

 そんなこんなで1年が過ぎる。短縮カリキュラムの、短期圧縮コースの俺たちは、幸いにも推薦状を書いてくれた将官たちの顔を潰す事無く、1人も欠けずに無事に卒業する事ができた。……もし万一放校処分とかになってたらと思うと、ぞっとする。

 大空に制帽の群れが舞う中、俺はナイメーヘン士官学校卒業資格を手にした。

 

「1年間、ご苦労さま。ゼロ……。」

「ジーニーか。」

「1年間、1回も勝てなかったわね。実機演習では。」

「図上演習では負けっぱなしだったじゃないか。それに、実際の部隊でどちらが隊長に欲しいかと言われたら、お前の方だよ。」

 

 俺は彼女に笑う。彼女も笑ったが、少し寂し気だった。

 

「……まったく、貴方この1年、どれだけ女性の候補生とかからモテてたか、わかってる?」

「ん?」

「こーの朴念仁が。」

「んー、あ、いや分かってはいたんだ。だがな……実は俺、外の部隊に好いた娘がいる。その娘に義理立てしてるんだ。」

 

 そうなんだよな。俺はもう、はっきりと自覚してる。うん、俺が必要としているのは、あいつ。他の女はいらない。

 ただしチキンだから、告白されそうなのを手練手管で必死に躱してきたんだよな。ただ、何時もそれで逃げられたわけじゃない。ミーハー的ファン心理の奴じゃなく、本気の相手は理由を告げて、きちんと振った。

 心が痛かったが。

 

「……貴方はどこ行くの?」

「原隊は解隊したが、その隊にいた大佐が1年前、新たにレビル将軍の直下で動くための連隊を組織しただろ?そこに行く。」

 

 プロパガンダの意味もあるから、その連隊の存在は秘密にはなってない。と言うか、おおっぴらに宣伝されてる。……第1大隊は。第2大隊以降は、あまりその活躍がニュースなどでは流れて来ない。

 

「そう……。あたしは宇宙に上がるわ。コンペイトウ。」

「……済まん。」

「ふふふ、謝られてもね。きっぱり諦めるわ。歳もずいぶん上だしね。」

「……。」

 

 女性を振るのは、心が痛い。うん、ジーニーの好意には気付いていたんだ。ツンデレっぽかったが。だが、やはり俺は……。

 

「じゃあね。」

「ああ、じゃあな。……貴官のご武運を、お祈りしている。」

「バーカ。」

 

 こちらは、きっちりとした敬礼で。向こうは多少砕けた敬礼で。俺は、同期生であったジーニー・ダンフォード「中尉」と、別れの挨拶を交わした。

 彼女が立ち去った後で、俺の傍らに立つ者がいた。……これは避けちゃだめだろう。甘んじて受け入れよう。

 俺の尻は、思いっきりつねられた。痛い。我慢していると、更に強くつねられる。

 

「い、痛いんだが……。」

「デレデレしてるから……。」

「いや、見たろ?きちんと振ったの。」

「向こうが「振られて」くれたんでしょう?」

 

 うん、返す言葉も無いね。その娘は当然ながら、わざわざ休暇を取ってまで来てくれた、レイラ・レイモンド少尉殿である。うん……。しばらくは頭が上がらないね。

 

「……不安になるのよね。貴方、モテるし……。」

「俺だってこの1年、不安だった。お前は可愛いから。お前が俺の卒業と同時にツァリアーノ連隊に異動するって聞いて、どれだけ安堵したか。」

 

 互いに笑みを交わす。俺はチキンでヘタレである事を自覚しているが、ここは踏ん張りどころだろう。

 いや、向こうも同じ行動をしている。このままだと互いに頭突きをする羽目になる。俺はやむなく動きを止めて待つ事にした。あー、先手を打たれっぱなしだ。はっはっは。ま、いいさ。

 俺たちは、衆人環視の中でキスをした。思いっきり。

 

 

 

 軍隊の編制では、中隊の長は少佐から大尉、と言う事になっている。で、俺はつい先ほど少佐に昇進してしまった。レビル将軍、ゴップ大将、ワイアット中将、ティアンム中将、更にベーダー中将にコーウェン少将も含めた、レビル派……ゴップ大将は別派閥だが、その肝いりで昇進したらしい。……期待が重い。

 そして俺は自分の中隊を持つ事になったのだ。流石に大隊はまだ早い、と判断されたらしい。……正直、助かった。と言うか、中隊でも荷が重いんじゃないかと思う。まあ、ナイメーヘン士官学校でしごかれて来たので、多少は指揮能力、戦術能力も高くなっていると思いたい。

 俺の少佐としての初仕事は、俺の中隊を組織する事だった。部隊の形態は、独立中隊。連隊長の下に直接ぶら下がる形で、他の大隊には所属しない。今決まってるのは、俺直卒の第1小隊にて、副隊長と俺の副官を兼任するレイラ・レイモンド少尉ただ1人。早急に、残りの人員を決めねばならない。

 1個中隊は4個小隊、1個小隊はMS3機編制で、場合によってはそれに指揮車輌が付く。指揮車輌は付かない場合もあるが。俺の小隊とか。あと艦に搭載される場合は、母艦になる艦船の搭載力で隊の規模が決まる事もある。

 

「うーん、ラバンの奴、ガンダム系MSをエサにしたら、小隊長として来てくれないかな。……無理か。こないだの手紙でも、水中用ガンダムがしっくり来てるってはしゃいでたもんなあ。

 ユウ・カジマ中尉は来てくれるって言ってたな。マリオン・ウェルチ伍ちょ……今は軍曹か、彼女も。フィリップ・ヒューズ中尉もユウが説得してくれるって言ってたな。」

「今メールで返事が届きました、少佐。ヒューズ中尉は、カジマ中尉の説得に応じてくれたそうです。カジマ中尉、フィリップ中尉共に小隊ごとの移籍となります。」

 

 今はお仕事中なので、レイラの口調もお仕事モードだ。

 

「なら、ユウの小隊が第2小隊、ヒューズ中尉の隊が第3小隊だな。第4小隊は……困ったな。心当たりが無い。デニスやロンも、宇宙で欠かせない戦力になってて動かせない。

 それに俺の小隊に、あと1人パイロットが要る……。」

「補充兵を要請しては?」

「それしか無いな。」

 

 俺はツァリアーノ大佐に、パイロット4名、うち1名は少尉か中尉で、と言う条件で補充兵を要請した。返って来た言葉は、少々時間がかかると言う物だった。特に少尉か中尉。肝心かなめの隊長職。

 理由は、もう1つ独立中隊が編制中であり、期せずしてそちらと人材の取り合いになってしまっていたからである。いや、向こうもこっちも、取り合いなんてするそんな気持ち、毛頭ないんだけどね。

 

「まさか……。マット・ヒーリィ大尉が同じくツァリアーノ大佐の下で、独立中隊を組織してる途中だったとはね。」

「改ペガサス級強襲揚陸艦ペガサスⅡを母艦としているため、中隊規模は3個小隊となってますね。」

 

 ちなみにペガサスもペガサスⅡもホワイトベースもイカロスもその他諸々も、この1年で再度の改装を受けて、アルビオンと同型艦になっていたりする。

 

「かつてのデルタ・チームの隊員、ラリー・ラドリー中尉とアニッシュ・ロフマン少尉が、第2、第3小隊の小隊長か……。向こうは士官は埋まったわけだな。」

「ロフマン少尉は部隊指揮経験が全くないと言う問題はありますが……。士官が他に捉まらなかった模様です。」

「こっちも士官さえいればなあ。他の兵員は、なんとか都合つけてもらえそうなのに。」

 

 ここで卓上の端末が鳴った。レイラが受話器を取り上げる。

 

「はい、こちらツァリアーノ連隊第01独立中隊、ムラサメ少佐執務室です。……はっ!了解です!

 少佐、ツァリアーノ大佐から、お電話です。」

「了解。今代わる。」

 

 俺は自分の卓上端末を操作し、通話の保留を解除して電話を受ける。

 

『おう、1人士官が捉まったぞ。士官学校出だ。ただなあ……。実戦経験がまったく無いわけじゃ無いんだが……。部隊指揮の経験はねえんだ。実戦経験も、浅い。そんでも、いいか?』

「お願いします。なんでしたら、こっちでしごいて鍛えますよ。」

『そうか。んじゃあ、今俺のオフィスに来てるから、さっそくそっちに向かわせるわ。名前とかは本人から聞けや。』

「了解。よろしくお願いします。」

 

 俺は受話器を置くと、ほっとした顔をレイラに向ける。

 

「士官が捉まったよ。ちょっと経験が浅くて部隊指揮経験も無いらしいが、きちんと士官学校出てるそうだ。今から来る。」

「それは何よりですね。名前はなんと?」

「いや、本人から聞けと。」

 

 大佐らしいと言えば大佐らしい。仕事しながら待つ事しばし。扉がノックされた。

 

「誰か?」

『自分は補充パイロットのマッケンジー少尉です。フェデリコ・ツァリアーノ大佐のところに出向いたところ、こちらへ向かう様にと言われました。』

「うむ、入室を許可する。」

 

 マッケンジー少尉?……まさか。いや、女の声だったし……。そしてマッケンジー少尉は入室してきて、きれいな敬礼をした。俺とレイラも答礼をする。

 赤毛の長髪、赤を基調とした特別な連邦軍制服。大抵の男なら、おもわず目を惹かれるだろう美人顔。ま、俺には通じないがな!通じないよ!レイラさんいるからね、俺には!うん!

 しかし……。やっぱり彼女だったか。

 

「クリスチーナ・マッケンジー少尉、着任許可願います。」

「うむ、着任を許可する、……マッケンジー少尉。君にはツァリアーノ連隊第01独立中隊の第4小隊小隊長を命じる。辞令は後で用意するが……。その心づもりでいてくれ。」

「え゛っ!しょ、小隊長、ですか!?」

「そうだ。小隊員は、ツァリアーノ大佐に補充パイロットを要請しているが、誰か引っ張りたい人員がいるなら早目に言ってくれ。」

 

 マッケンジー少尉は、泡を食って姿勢を崩す。俺は笑った。

 

「あんまり気に病むな。なんでも最初はあるさ。俺も昔、突然部下持たされて泡食ったもんだ。」

「は、はい!小隊長、拝命いたしました!」

「うん、それでいい。」

 

 レイラが彼女から、書類を受け取っている。おそらくは軍歴を書いた履歴書の類だろう。

 

「よろしくね。わたしは第1小隊の副隊長兼、少佐の副官のレイラ・レイモンド少尉。」

「よろしく、レイモンド少尉。……ところで。」

 

 マッケンジー少尉が怪訝そうな顔になる。俺もレイラも、眉を顰めた。

 

「どうした?」

「どうしたの?」

「いえ、この中隊の隊名は無いんですか?」

「……あー、今のところ決まってないんだ。近いうちに考えとく。だがなあ……。良さそうな名前はみんな先に使われててなあ。」

 

 俺はため息を吐く。レイラも溜息を吐きたそうな顔になったが、部下なので相手が俺とはいえ、上官の前ではこらえる。

 

「よかったら、君も……。いや、部下なんだから何時までも「君」でもないか。お前も何か考えてくれないか?まあ採用するとは限らないんだが。」

「わかりました。色々調べて考えてみます!」

 

 笑みを浮かべて、俺は彼女に頷いた。

 

「頼んだ。ではひとまず、退出してよろしい。辞令ができたら、また呼ぶ。……レイラ、連絡先は書類にあるな?」

「はい、私室のナンバーが。」

「そうか。ではな。」

「はっ!」

 

 彼女の敬礼に答礼を返す。マッケンジー少尉は、俺の執務室を出て行った。

 

「あとは補充パイロットが3名と、ユウの小隊、ヒューズ中尉の小隊が来るのを待つだけだな。」

「はい!」

「じゃ、マッケンジー少尉他の辞令作らないとな。」

 

 俺とレイラは、事務仕事に精を出す。一刻も早く、俺の中隊を組織しないと。

 ……にしても、部隊名どうしようかね?




と言うわけで、あっさりと主人公とレイラ、くっついてしまいました。
展開が甘い?
はい、甘いです。
だだ甘です。

あと、いつの間にかレビル将軍、「テストパイロット採用計画」を発動していた様です。クリスが部隊に加入しました。あとユウとマリオンとフィリップが確定。
え?サマナちゃん?
彼は士官学校入学してますね。学校は違いますが、アムロやコウの同期です。


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「オニマル・クニツナ」隊+1個小隊、出撃

 宇宙世紀0081、6月。俺が率いるツァリアーノ連隊第01独立中隊「オニマル・クニツナ」隊は、C-88中型輸送機ミデア改4機に分乗して、インドシナ半島へと向かっていた。現地で行われる、ジオン残党軍の掃討作戦に参加するためだ。

 この部隊、「オニマル・クニツナ」隊は、編成上はツァリアーノ大佐の直下にあり、そしてレビル将軍の手足となって動くための部隊でもある。……俺の、中隊だ。

 その第1小隊……。今、俺の乗っているミデア改には中隊の第1小隊、中隊長である俺の直卒小隊が、MSを含む機材と共に載せられている。

 

◆ゼロ・ムラサメ少佐

 俺だ。乗機は一年戦争末期の愛機、RX-78NT-1ガンダムNT1アレックスの3号機、アレックス3。俺が士官学校で短期圧縮コースで学んでいた1年の間、他のパイロットに回される事も無く、研究用機材として残されていた。

 いや、他のパイロットじゃ扱い切れんだろう、この機体は。研究機関のテストパイロットが音を上げたとの噂も聞いた。

 

◆レイラ・レイモンド少尉

 第1小隊の副隊長であると同時に、少佐であり部隊長である俺の副官も兼任している。ジオン公国からの亡命者であると言う点が、連邦軍人として生きる上で負担になっている事は否めない。だが彼女はそれに負けずに頑張ってくれている。そ、その……俺の……恋人だ。いーだろー、別にーーー!!……あー、能力そのものは非常に弱いが、ニュータイプ能力者だ。

 乗機はRGM-79Nジム・カスタム。性能的にはジム改高機動型の方が高いのだが、アレは整備性や稼働率に問題が。既にその面でアレックス3と言う問題児を抱えている俺の部隊では、ジム改高機動型やジムスナイパーⅢを抱え込むのは難しかったのだ。だがジム・カスタムも、けっして悪い機体じゃない。

 

◆ファング・ィユハン曹長

 中国系の男性で、少々軽めの性格。黒髪黒目。まだ付き合いが浅いため、そのぐらいしか分かっていない。少しでもその為人を知ろうと、飯などを一緒に食いに行っているのだが……。書類では家族は既に亡い模様。一年戦争とは関係なしに、それ以前に事故で喪ったらしい。そのためか、軽さの中にも虚無感がやや感じられるのが気にかかる。いや、人工の物とは言え、俺のニュータイプ感覚って便利だね。

 乗機はRGC-83ジム・キャノンⅡ。ジム・カスタムと部品の共有化が大きい機種なので、整備には受けが良い。え、俺のアレックス3の受けが悪いだけだって?

 

◆マリー・アップルヤード曹長

 ツァリアーノ大佐から半ば押し付けられた、戦闘オペレーター。栗色のショートボブ、茶色の目をした若い娘さん。最初はどうしたもんかと思ったが、戦術能力に欠ける、とまではいかないと思うんだが、あまり自信のない俺には必要な人材だった。

 生真面目だが優しく、亡命者であるレイラにも全く悪感情を抱いていないため、助かる。いや、そう言う人材を選んでくれたんだとは思うんだがね。

 彼女はM353A4ブラッドハウンドホバートラックを戦闘指揮車として使用している。

 

◆ウィリアム・ウィルコックス軍曹

 年季が入った白っぽい金髪で碧眼のおっさん。うちの中隊の整備長だ。アレックス3の整備性の悪さに愚痴をいいつつ、完璧に仕上げてくれる。ありがたいおっさんだ。おっさんだけど。

 

 そして俺は、ミデア改の窓から他のミデア改を見遣る。あれには中隊の第2~第4小隊が載せられているのだ。

 第2小隊は、おそらく総合力では第1小隊を超えるだろう戦闘力を持っている。何せ、並のニュータイプ能力者……能力にばかり頼っている奴では、太刀打ちできないのが小隊長をやっている上、強力なニュータイプ能力者が加わっているからだ。

 

◆ユウ・カジマ中尉

 第2小隊の小隊長。言わずと知れた、一年戦争のエース中のエースだ。もっとも、彼の戦果は極秘計画であったEXAMの研究に関わっており、秘匿されている。そのためもあって、おそらくはトップクラスであろう撃墜数であるのにそれは公表されず、彼の名は知る人ぞ知る、と言う物になっている。

 ちなみに彼の隊には、戦闘オペレーターは付いてこなかった。モーリン・キタムラ伍長は?と訊くのは、なんとなーくためらわれたので、訊いてない。

 乗機はジム・カスタム。彼はかつてG-3仕様の2ndロット、ガンダム8号機に搭乗していた時期がある。サイド3戦が終わってからおおよそ1ヶ月間だ。しかしその機体は、やはり整備性などの問題から交換を余儀なくされたと言う事だ。

だがおそらく、ジム・カスタムでは彼の能力を活かし切れない。なんとかアレックス級の機体を配備できないか、今交渉中だ。

 

◆マリオン・ウェルチ軍曹

 ジオン公国からの亡命者その2。彼女もまた、ジオン出身者だと言う重圧に負けずに頑張ってくれている。基礎的な戦闘能力はともかく、能力だけを言えば強化人間である俺に匹敵するニュータイプ能力者だ。……もしかしたら、ララァ・スンなんかよりも本当の意味でのニュータイプに近いのでは?

 乗機はジム・カスタム。今のところは彼女にはこの機体で良いと思うが、ユウからの報告書では彼女の操縦能力はこの1年でかなりのレベルに達しており、早晩この機体では追いつけなくなると思われるそうだ。困った。

 

◆コーリー・ディズリー軍曹

 黒髪黒目の長身女性パイロット。オーストラリアのシドニー出身のため酷くジオンを恨んでおり、当初は亡命者であるマリオンと、それをかばうユウに何度も突っかかったらしい。だが今はマリオンとも和解、信頼しており、関係は改善されている。だがジオン自体はまだ恨んでいるそうだ。

 乗機はジム・キャノンⅡ。精密正確な支援射撃は、第2小隊に無くてはならない物だ。

 

 第3小隊は、第2小隊と縁深い。なんと言っても、隊長は第2の小隊長ユウとかつて同じ隊にいたのだ。当然EXAMにも関わっているので、かなり撃墜数稼いだはずなのに秘密になっている。けれど秘密にはなっているが、無かったことにはなっていないので、ユウと同じく評価はきちんとされている。

 

◆フィリップ・ヒューズ中尉

 第3小隊の小隊長。射撃が比較的得意と言う他は突出した能力は無いのだが、逆に不得手な部分も無く、隙が無い。パイロットとしても指揮官としても、優秀だ。以前やった模擬戦では、防御に集中して、なんとサマナ元曹長……今は候補生が、俺たちの母艦であるペガサスの急所に一撃加えるまで耐えてみせた。……レビル将軍の攻撃を耐えきったんだよ!?凄いよ!?

 乗機はジム・カスタム。彼はこの機体でいいらしい。一安心。

 

◆アンドルー・カッター軍曹

 茶髪で茶色の瞳をした青年。彼についても、まだあまり知らない。なんとか部隊内での親睦を図らなくては……。ただ彼は、将来士官になりたい気持ちがあるらしく、士官学校入学を志願しようか悩んでいるらしい。

 なお、彼の乗機もジム・カスタムだ。射撃よりかは格闘戦が得意であるらしい。

 

◆ブリジット・サトウ伍長

 日英ハーフの、茶髪っで緑の眼のまだ若い娘だ。彼女についてもまた、あまり知らない。部隊で宴会でも開くかな、近いうちに。

 彼女はジム・キャノンⅡに搭乗している。彼女もまた、精密射撃が持ち味だ。

 

 第4小隊は、おそらく一番戦闘力が低い。いや、小隊長からして元テストパイロットで、実戦経験は無いわけでは無いが浅く、部隊指揮は初めてだし。隊員に1人、歴戦の強者がいるのが救いだ。

 

◆クリスチーナ・マッケンジー少尉

 これも言わずと知れた、アレックスの元テストパイロットだ。MS戦の能力はそこそこで、操縦技能も優秀なのだが、今のところ優秀止まり。実戦で彼女が指揮官としてもMSパイロットとしても、どこまでやれるかは、これから試される。

 余談だが、彼女がテストしていたアレックスは、アレックス1として今もレビル将軍の乗機となっている。ちなみにアムロ・レイが乗っていたアレックス2は、今現在レビル将軍の予備機だ。レビル将軍は、今も時折ツァリアーノ連隊を伴って、アフリカ大陸に出没するとかなんとか。

 なお、彼女の乗機もジム・カスタムだ。

 

◆ダミアン・アルテンブルク曹長

 白髪にも見える色の薄い金髪に、緑眼の大男。おっさん。一年戦争を生き抜いた強者で、もと61式戦車に乗っており、その後RGC-80ジムキャノン、RX-77Dガンキャノン量産型と乗り継いで支援一本槍で一年戦争を戦って来た。

 その戦歴からすれば、尉官になっていてもおかしくは無い。だがアシストは多数……いや無数にあれど、単独撃墜数はあまり無いため、当時の上官には評価されなかった模様。それでも5機以上は撃墜しているため、エースではある。

 乗機はジム・キャノンⅡ。

 

◆ウェンディ・デッカー伍長

 正真正銘の新人パイロット。ショートカットの金髪で、ヘイゼルの瞳。背が低く華奢で、体力的に不安がある。生真面目。MS戦の能力は未知数。技能は優秀、との訓練教官の但し書きが付いて来ているが、実戦でどこまでやれるか……。

 乗機は少数生産のジム・カスタムを与えられ、はしゃいでいる。……なんとなく、バージルを思わせるな。

 

 これが俺の部隊だ。ちょっと不安要素はあるが、なかなか優秀な人材が揃った。特に第2と第3小隊。彼らは安定して頼りになる。俺の第1小隊は……。自分で言うのもなんだが、ちょっとピーキーかな。戦闘能力自体は高いと思うが、安定してない。第4小隊は、基本未知数で、最初のうちは頼りにならないだろうな。

 そして俺は、編隊の最後尾を飛ぶ、5機目のミデア改に目をやった。今回の行き先が東南アジア、インドシナ半島だと言う事から、レビル将軍とツァリアーノ大佐が補佐に付けてくれたのだ。

 ……元コジマ大隊第08MS小隊、現ツァリアーノ連隊第01独立小隊。小隊長シロー・アマダ中尉率いる精鋭たち。隊員は、カレン・ジョシュワ少尉、テリー・サンダース・Jr.少尉、退役しそこねたエレドア・マシス軍曹、ミケル・ニノリッチ軍曹。

 ほんとはアマダ中尉は一年戦争において、大尉になっていてもおかしくは無い戦果を上げていた。しかし彼は敵であるアイナ・サハリン女史と恋愛関係に陥った事から軍法会議にかけられたりした経緯もあり、この高級士官不足の状況にも関わらず昇進は見送られている。

 ……アマダ中尉、アイナ女史との間に既に子供も儲けているらしいのだが。アマダ中尉は結婚したいのだが、彼女は民間人の身分でありながらMAアプサラスⅡのパイロットとしてジャブローを急襲した事実がある。それが南極条約でゲリラ行為にあたるのではとか、彼女はサハリン家の一族であったがため戦闘行為をやむなくされていた被害者では、と軍事裁判で検察側と弁護側が今も争っている。

 アマダ中尉は、アイナ女史を護るために高名な弁護士に相談し、そして彼女が収監中に出産した娘を引き取り認知し、優秀かつ良心的なベビーシッターを雇い、自身は世界中を飛び回って必死で戦っている。

 俺も他人事じゃない。レイラが亡命に成功した事、戦闘に参加はしたもののジオンの軍籍をちゃんと持っていた事、そして連邦軍人の命を1人たりとも奪っていない事。このおかげで、彼女は今も堂々と俺の隣に居られる。

 だけど、もしどこかでボタンを1つかけちがえていたならば……。そう思うと、ぞっとする。

 

「ゼロ少佐。中継地点であるトリントン基地まであと1時間です。」

「了解、レイラ。」

 

 今はお仕事中だ。レイラの台詞も硬い。でも雰囲気は、柔らかい。彼女がコーヒーを淹れてくれる。……美味い。軍用のレギュラーコーヒーとは思えない味だ。普通これをコーヒーメーカーで淹れると、泥水コーヒーになるのだが。

 彼女は俺のために、色々と努力してくれる。俺も彼女に少しでも、気持ちだけでも、返す事ができればと思う。

 

「……美味いな。ありがとう。」

「どういたしまして、少佐。」

 

 彼女が柔らかく微笑む。俺は笑い返し、隊員の人事書類をまとめてファイルにしまい込み、作戦に関する書類を引っ張り出した。

 

 

 

 トリントン基地で、一休みする。やはりミデア改は旧型のミデアよりは各段に乗り心地が良いが、それでも軍用機だ。長時間乗る代物じゃない。今は例の頭痛は、軽くて済んでいるため、比較的楽だが。

 少し物思いにふける。考えたのは、ジオン公国とその残党の事だ。ジオン公国は、戦後に俺が士官学校に入ってる間に、解体された。うん。解体されちゃったんだ。レビル将軍たちは抵抗したんだが、当初反対してくれていたゴップ大将が諦めてしまい、消極的賛成に回ったのだ。結果、ジオン公国は解体、サイド3は連邦の直接統治下に置かれた。連邦政府は、図に乗っていた。

 ただ、レビル将軍たちは無力なわけでは無かった。本来紙切れになるはずのジオンの通貨を、連邦通貨と等価交換する事を連邦政府に約束させたり、戦前に比べて少しではあるがスペースノイドに対する穏健政策を認めさせたのだ。

 

「その約束、政府が守ればいいんだが……。む?……ツウッ!!」

 

 頭の中でヘビがうねった。そして強烈な敵意が感じられる。俺は周囲の部隊員に怒鳴った。

 

「全員MSに搭乗!!敵が来るぞ!!」

 

 第2小隊のマリオン軍曹とユウは、既に走り出している。マリオン軍曹もおそらく何かを感じたのだろう。おれはズキン、ズキン、と脈打つ様な頭痛を、意識を集中して精神から切り離す。そしてミデア改1番機に搭載されているアレックス3に走った。レイラが、俺のすぐ後について走っている。

 ノーマルスーツを着用する暇も無く、アレックス3に飛び乗った俺は、即座にシステムを立ち上げる。改良された全天モニターに、ミデア改のコンテナ内部が綺麗に映った。アレックス3を立ち上がらせ、シールドとビームライフルを装備。ビームライフルのエネルギー残量、腕部90mmガトリングの残弾、頭部バルカン砲の残弾を確認。俺は叫ぶ様に言う。

 

「ゼロ、ムラサメ!アレックス3、出るぞ!」

『レイラ・レイモンド、ジムカスタム、発進します!』

『ファング・ィユハン、ジムキャノンⅡ、いっきまーす!』

『マリー・アップルヤードです!指揮車輌を出します!』

 

 俺はミデア改の機長に通信を繋ぐ。

 

「機長!俺たちが出撃したら緊急離陸して、西方に退避してくれ!敵は東から、海から来る!」

『了かザザッ!!』

 

 通信に雑音が混じり始めたか……。ミノフスキー粒子をばら撒ける機体があるって事だな。……いた!!ルッグンだ!

 

 ルッグンは存分にミノフスキー粒子をばら撒くと、帰還しようと機首を東に向ける。そうはさせない。

 

「墜ちろ……!!」

 

 俺はビームライフルで、ルッグンを狙撃する。ルッグンは煙を吐いて墜ちていった。

 

「マリー!基地のレーダーとリンクして情報取れ!ミノフスキー粒子撒かれたが、無いよりマシだ!」

『りょ、了解!……ザザザ東より敵影!機数ザッ6!』

「……ユウ、どう思う?」

 

 俺は次席指揮官に意見を求める。

 

『ザッ……。』

「ユウもそう思うか。だがその6機も、放っておくわけにはいかんさ。」

『……ザザッ。』

「ああ、頼む。第2、第3小隊は東から来る6機を迎え撃て!」

 

 え?どうやって意思疎通してるんだって?いや、モニターに顔、映るんだよね。パイロット同士の通信って。微妙な表情の変化が見られれば、顔の出ない電話よりずっと楽だよ?

 

『ど、どうやったの?じゃない、少佐!我々はザザッかなくてもいいんですか!?』

「敵の陽動の可能性がある!俺たちは予備兵力として、待機だ!」

『少佐、指揮下に入ります。俺ザザッはどうすれば?』

 

 アマダ中尉が指示を仰いでくる。彼らの機体は3機ともガンダム・ピクシーだ。地上戦は得意中の得意だ。

 

「アマダ中尉、あんたたち、いや君たちはとりあえず俺たちと共に待機しておいてくれ……。」

『こら、貴様らザザッ!ザザザ撃命令など出しておらんぞ!』

 

 そこへトリントン基地の基地司令が、口を挟んで来る。ああ、苛立たしい。現在のトリントン基地は100%ではないものの、コリニー中将の……ジャミトフらの影響力が強い基地だ。まだ切り崩しは成功していない。

 

「自分たちは独立部隊です。独立部隊の権限を持って、出撃しております。」

『ぐ、むむ……。それザザッだな……。』

「それに、そちらは初動が致命的に遅れているじゃないですか。基地の防衛部隊は、何故出撃しないのです?」

『うるさい!今発進さザザザッ!!』

 

 言葉の通り、いかにも慌ててますと言う風情で、ジム改とジム・コマンドG型が出撃して来る。まだジム・コマンドを更新してないで使ってたのか。

 

『貴様ら、これ以上手を出ザザザッ!!いいな!?』

「よくありません。敵は予想以上の戦力です。……南から来る敵を任されますから、北の敵をお願いします。」

『な、何!?』

 

 南と北から、敵のプレッシャーを感じた。俺は機体を南に向かせる。がなる基地司令の声を無視……しかし、しっかりと録音する。マリー曹長が叫ぶ。

 

『と、トリントン基ザザザッからレーダー情報をカットされました!ザザッですが直前までの情報で、少なくとも10機の敵が南から、8機が北から!ザッ』

「……ふん。マリー、レーダー情報をカットされた前後のログ、きっちり記録を残しておくんだ。後々の証拠になるからな。」

『りょ、了解!』

 

 俺は命令を下す。

 

「南からの敵を迎え撃つぞ!「オニマル・クニツナ」隊、第1、第4小隊!ツァリアーノ連隊第01独立小隊!前進!!」

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 俺たちは、南へと前進を開始した。




いよいよ主人公の部隊が編制されました。その初陣です。
ついでと言ってはなんですが、歴戦の1個MS小隊が一緒についてきてます。


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トリントン基地で

 戦闘指揮車のマリーから通信が入る。

 

『第4小隊が突破されそうでザザッ。支援願います。』

「こちら1-0、了解。レイラ、頼めるか?」

『こちら1-1、了解しまザッた!すぐ戻ります!ザザッ。』

 

 俺と共にハイゴッグを狩っていたレイラ機が、ランドセルのスラスターを噴かして高く跳躍し、3時方向へと飛ぶ。それを狙ってビームを打ち上げようとしたハイゴッグ2機を、1機は俺がビームライフルで、1機はィユハン曹長がビームキャノンで撃墜する。これで俺たちの潰したハイゴッグは合計4機だ。

 9時方向をちらりと確認する。あちらでは、テリー・サンダース・Jr.少尉とカレン・ジョシュワ少尉のガンダム・ピクシーが、ビームダガーの連撃でゾックを一方的に切り刻んでいた。シロー・アマダ中尉は、サンダース・Jr.少尉機とジョシュワ少尉機を狙っていたハイゴッグを、マシンガンで牽制している。部下を死なせたくない彼らしい働きだ。

 肝心の3時方向は、一番の強敵が悪い事に第4小隊の方に行ったみたいで、ズゴックEが……。機体そのものはどうにもなっていないが、ウェンディ伍長機のシールドはボコボコになって半分に切り裂かれている。そこへレイラが割って入り、ズゴックEを押しとどめているが……。分が悪い。

 

「1-2!ィユハン!ここは俺が支える!お前は第4を支援に行け!」

『たいちょ、いえいえ1-0、大丈夫でザザッか?』

「任せろ。完璧だ。」

『こちら1-2、了解ッ!』

 

 ぶっちゃけた話、本当は俺自身が行きたかった。けど、支援機であるジム・キャノンⅡに単独でここ支えろなんて言えないし……。いくらジム・キャノンⅡが支援MSにしては接近戦や白兵戦もできる方だとは言え、だ。くっそ、レイラ、無事でいろよ!

 俺は八つ当たり気味にハイゴッグ5機目をビームライフルで潰し、6機目をビームサーベルでなで斬りに、7機目を右腕の90mmバルカンで穴だらけにする。よし!中央の敵はこれで全部潰したぞ!

 

「0-0!戦闘指揮車!マリー!指揮車のレーダーで、中央に敵影は見えるか!?」

『敵影、なしです!』

「了解だ!第4小隊に通達!位置を第1と入れ替えだ!俺がズゴックEを叩くから、マッケンジー少尉、4-0には中央に移動して警戒にあたる様に伝えるんだ!」

『0-0、了解!』

 

 俺はスラスターを噴かし、長距離ジャンプを行う。そしてジャンプの頂点で、ビームライフルを撃った。ビームは過たずズゴックEの右腕を吹き飛ばす。その右腕のクローは、今まさにレイラ機を狙って突き出されたところだった。

 

『ゼ……少佐!?』

「大丈夫だとは思ったが、つい手が出てしまった。……で、大丈夫か?」

『くすっ、おかげ様で無事です、1-0。』

「お、通信がクリアになった。ミノフスキー粒子の影響消えたな。」

 

 俺は無駄口を叩きながら、ズゴックEにビームサーベルを叩きつける。ズゴックEは姿勢を低くして逃れようとするが、そんなので避けられるほど俺のMS白兵技量は低くないんだ。アレックス3の左手は、もう1本ビームサーベルを抜き放っていた。

 そして後退する俺の機体。ズゴックEは爆散する。

 

「……やられた!」

『え?1-0?』

「0-0!指揮車!第01独立小隊に通達してくれ!陽動に引っ掛かった!北に一番の強敵がいる!ここの敵はもはや数少ない!残敵掃討を任せる!第1小隊、第4小隊は全速力で北へ向かう!」

 

 今一瞬だけ、北からゾワってくる程のプレッシャーが感じられた。やられた、北にニュータイプ能力者がいる!!しかも自分の気配を隠せるほど力の使い方に熟達した奴だ!……能力の強さってだけなら、俺やマリオンの方が強い。だが使い方が上手い!

 俺、単純に機数が多い方をウチで受け持ったんだが……。騙された。基地の防衛部隊、下手すると全滅してるんじゃないか?

 

 

 

 全滅していた。

 幸いなのは、いわゆる軍事用語の全滅であって、30%以上の損耗と言う事だ。一般的なイメージで言う、全機撃墜されたとかの全滅じゃない。……それでも、残っているのは50%、半数の機体だけだ。

 

『た、助けてくれっ!』

『コラ!防衛部隊!ベルナール大尉!何をやっとる!貴様らもだ、ムラサメ少佐!救援要請など、しておらんぞ!』

『し、司令!ベルナール大尉は戦死、自分は次席指揮官のクレマン中尉ですっ!ぶ、部隊はもはや部隊の体をなしておりません!防戦不可能です!』

 

 俺は指揮車のマリーに通信をする。

 

「0-0、録音したな?」

『はい、1-0。これで基地司令が部隊壊滅するほどの事態に際し、意地を張ってこちらに救援要請しなかった証拠に。』

 

 その時、オープン回線と外部スピーカーで声が聞こえた。たった1機、残骸の上に立つ、MS-08TXイフリート……。

 

『ふん、この隊長以外は腰抜けか。』

「!?」

『貴様らの隊長は、勝てないとわかっても最後まで、最期まで戦ったぞ。俺の部下の機体を、全て破壊してみせたぞ。だがこいつは腕は立っても、部下と上司に恵まれなかったようだな。

 それと増援のガンダムタイプか?今更出て来て……。』

 

 俺は、押し殺していた、抑えていた気配を一気に解き放ち、相手にプレッシャーをかけてやった。相手は一瞬押し黙り、そして口を開く。

 

『は、ははは、はははははは!!面白いぞ!貴様の首、キシリア様に捧げてくれよう!』

『なっ!?なぜその事を!!ここにキシリア……。』

『だ、だめです司令!その事は!』

 

 ……この司令、馬鹿だ。

 

「0-0、録音したな?」

『は、はい、1-0……。で、でも……。』

「落ち着け。」

『落ち着きました。』

 

 そしてイフリートと俺のアレックス3の死闘が始まった。だが俺は、ある疑いを捨てきれなかった。俺はビームライフルを撃ちつつ、レイラ機に通信を入れる。

 

「レイラ、1-1!指揮の代行を!そろそろユウが戻って来る頃合いだから、そしたらユウに指揮権移乗!

 第1小隊と第4小隊連れて、基地本部棟へ急げ!こっちも陽動の可能性がある!」

『なっ!?お、おい防衛部隊!クレマン中尉!戻って来て、わしを、じゃない、その、なんだ、本部棟を護れ!』

『こちら1-1、了解!』

『き、貴様らは来なくていい!』

 

 俺は指揮車に通信を入れる。なんか……、ワンパターンになってきたな。

 

「0-0、録音したな?」

『はい、1-0。この基地司令官……。』

「言わなくてもいい。わかっている。」

 

 言わなくていいのだ。まだこいつは上官だから、上官侮辱罪になる。

 

『何を気もそぞろに!』

「……。」

『そうだ、もっと俺を熱くさせろ!そして最後には俺に討たれてしまえ!』

 

 いやです。

 俺はビームサーベルを抜いて突進する。イフリートも弾切れの専用ショットガンを放り捨て、ヒートサーベルを抜きつつブーストダッシュ。まずこちらをタックルで怯ませて、一刀両断にするつもりだ。

 俺はやつが至近距離まで迫ったのを見計らい、攻撃の意思を乗せた斬撃を放つと同時に、攻撃の意思を隠した射撃を見舞った。そう、左腕の90mmガトリングだ。これはなかなか便利なので、重宝している。

 

『があああぁぁぁ!?』

 

 ビームサーベルの斬撃は予想通りに躱されたが、90mm弾の連射は見事に真正面からイフリートをとらえてズタズタにし、吹き飛ばす。俺はアレックス3をブーストダッシュさせ、ビームサーベルで2撃目を放った。それはイフリートを上下に2つにする。

 その時、脳裏にイフリートのパイロットの声が響いた。

 

(痛い、痛いよ!頭が、頭の中にドリルが!ドリルが穴を!ママ、まま、ままあああぁぁぁ!!)

 

 思わず俺は、アレックス3を立ち竦ませてしまう。だがすぐに我に返ると、出力全開でジャンプ。次の瞬間、イフリートは爆発した。爆圧で、アレックスの上昇に加速がつく。ついでに機動が困難になる。俺はだが、即座に機体を安定させると着陸し、本部棟へとアレックス3を走らせた。

 

「奴は……。強化……人間……!!」

 

 ジオン残党に、そんな技術力が?いや、元々フラナガン機関で研究でもしていたのか?連邦のニュータイプ研のデータが漏れた?俺の歯が、ガチガチと鳴る。

 いくら考えても、結論は出ない。俺はただひたすら、本部棟へアレックス3を走らせた。

 

 

 

 本部棟の脇で、地下から出現したEMS-05アッグを、レイラたちが降伏させて鹵獲していたりした。コレが本命か。地下から、終身刑になったキシリアを奪取しに来たんだな。

 ま、俺たちがミデア改の補給と休憩に立ち寄っていたのは、運が悪かったってコトで。

 

 

 

 俺たちを載せるために戻って来たミデア改の通信機を使い、衛星の極秘回線でジャブローに緊急事態を伝える。最初ツァリアーノ大佐に連絡するつもりだったのだが、なんか直接レビル将軍が通信に出た。将軍は一瞬驚くが、やがて口を開く。

 

『驚いたが……。予測した範囲内でもある。よし。インドシナ半島へは急遽別部隊を送る。マット・ヒーリィ大尉の第02独立中隊が良いか。

 君たちはトリントン基地に留まり、新たな命令が出るまで警備と防衛任務にあたってくれたまえ。……口頭での命令ではあるが、わたしの直接命令だ。妨害する者は、基地司令と言えど君たちの判断で逮捕拘留する事を許可する。』

「了解いたしました。アマダ中尉たち、第01独立小隊は、いかがいたしますか。」

『そのまま君たちの指揮下に入れておいてくれたまえ。自由に使っていい。……君の目から見て、彼はどうかね?わたしはもう良いのでは、と思っておるのだが……。』

 

 俺は頷く。

 

「大丈夫かと。彼は恋人と生まれた娘、そして部下のためならば、血を吐きながら続ける悲しいマラソンでも、走り切る覚悟があるかと。」

『さすがにそこまでさせるのは酷と言う物だな。……彼には伝えんで良いが、アイナ・サハリン嬢の事は何とかしよう。ただ、ギニアス・サハリン大佐は無理だ。彼には色々と嫌疑がかかっている。』

「はい。」

 

 そして将軍は、眉を顰める。

 

『……強化人間が出現した、か。しかもジオン残党の……。』

「キシリア・ザビ配下である模様ですので、けっして存在しないとは言い難いです。ですが……。」

『予測されたものよりも、強力すぎる、と?』

 

 頷く俺。レビル将軍は、ため息を吐いた。

 

『諜報部に、ニュータイプ研の内偵を行わせる。』

「!!……強化人間製作の正当性を訴えるため、敵にも強化人間の製作技術を流し、敵の強化人間に対抗する必要があると喧伝するつもりだとでも!?」

『そこまで短絡的でない、と考えたいが……。』

 

 研究バカのマコーマック博士あたりなら、やりかねない。俺はそう思う。冷や汗が流れた。

 

『ルナ2にいる、フラナガン機関から救出した子供たちの警備を強化する様に通達しよう。クスコ・アル軍曹の警備もだ。それと、元第13独立戦隊の面々、特にカツ、レツ、キッカだったかな?あの子供たちの警備も強化せねばな。』

 

 うん、実は元ホワイトベースの面子には、人知れず警備が付けられていたんだよ。うん。……カツが強化されてカミーユと決戦……血戦なんて、そんなのは見たくないぞ。

 レビル将軍との通信を終えて、俺は部下たちとアマダ中尉たちを連れて、基地司令の元へと向かった。

 

 

 

 トリントン基地司令ウジェーヌ・デュクロク大佐は、やはり抵抗した。が、副官とかに諫められ、捨て台詞を吐いて俺たちの基地滞在を認める。残念、もう少しやってくれれば逮捕拘留できたのに。しかしトリントン基地の司令官が大佐か……。重要度に比して、あまりに階級低くないか?

 言っちゃ悪いとはかけらも思わないが、無能だし。

 

 

 

 さて、俺たちはさすがに腹が減ったので、小隊ごとに交代で、基地の食堂で飯を食っていた。なんか基地の兵員たちが遠巻きにして、俺たちを見て見ぬふりしてたりする。あ、この魚のから揚げ、美味ぇ。

 

「うん、美味いな。」

「ほんと、予想してたよりも……。」

 

 俺もレイラも、もぐもぐと舌鼓を打つ。だがそこまで胆が太くない者も、いたりする。ィユハン曹長とマリー曹長だ。

 

「た、たいちょ……。副たいちょも、よくこんな空気のなか食えますね。」

「あの警備兵、今にも殺しそうな目で……こっち、見てますよぉー?」

 

 俺は命じる。

 

「お前ら、落ち着け。」

「落ち着きました。」

「落ち着けませんよ!マリーもよく落ち着けるな、今ので!」

 

 笑いながら、俺は言った。

 

「ィユハン曹長、ウィリアム整備長を見習え。堂々と食ってるぞ。」

「ィユハン曹長、これ旨いぞ。」

「せいびちょー……。」

 

 飯は美味くとも、こればかりは変わらない泥水コーヒーを飲み干す。あとでレイラに美味いコーヒーを淹れてもらおうっと。俺は声をまったく潜めずに、堂々と言った。

 

「大丈夫だ。もし俺たちが「事故死」でもしたら、その状況の如何に関わらず「殺人」と断定し、この基地に徹底した捜査と査察が入る、って基地司令に言って置いたからな。安心しろ。」

「うっわ。」

 

 そして俺は周囲を見渡す。こっちを殺しそうな目で見ていた警備兵は、気まずげにソッポを向いた。と、ツカツカとこちらに歩いて来る一団の人影があった。俺はいつもの人工ニュータイプ感覚で、それが誰か理解していたが、仲間たちはそれが誰か判らない様だ。ちなみに先頭の人物は、中尉の階級章を着けている。

 その中尉は、俺の目の前で止まった。ィユハン曹長が、うわー、うわーと小さく呟く。

 

「ゼロ・ムラサメ少佐殿ですか?」

「ああ、俺……自分がゼロ・ムラサメ少佐だ。貴官は?」

「申し遅れました。自分は当トリントン基地防衛MS部隊の暫定指揮官、クレマン・ファロ中尉であります!」

 

 クレマン・ファロ中尉は、見事な敬礼をする。彼の後ろに付いて来た者たちも、同様に敬礼をした。興味深げに見ていた基地の人員たちは、ぎょっとした顔をする。ィユハン曹長とマリー曹長は、あっけにとられた顔だ。ウィリアム整備長は、にやにやと笑う。俺とレイラは答礼を返した。

 

「あらためて、自分がゼロ・ムラサメ少佐。そしてこちらが自分の副官、レイラ・レイモンド少尉。そちらで阿保面晒しているのが、ファング・ィユハン曹長とマリー・アップルヤード曹長。不敵な笑みを浮かべてるのが、整備長のウィリアム・ウィルコックス軍曹だ。」

「レイラ・レイモンド少尉です。よろしくお願いします、中尉殿。」

 

 徐に敬礼を解くと、クレマン中尉は頭を下げる。その後ろの面々も、中尉に倣った。

 

「この度は、少佐のおかげで命拾いをしました。ありがとうございます。」

「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」

「そればかりか、前防衛MS部隊指揮官、ベルナール大尉の仇も討ってくださって……。いえ、そんなつもりでない事は百も承知です!ですが少佐があの恐ろしく強い奴を一蹴して倒してくださった事は、本当の事です……!!」

 

 クレマン中尉は、続ける。

 

「自分たちは大尉が討たれ、仲間が次々に倒されて、泣きわめくばかりで何もできませんでした。自分たちは……私は……恥ずかしい!」

「……あまり気に病むな。相手が悪すぎた。それと、自分たちにこんな事言ったのが広まると、立場が悪くなるぞ?」

「かまいません!ベルナール大尉は常日頃言っておられました!恩を受けたら、最低限礼はかならず返せと!それができないのは人間の屑だと!

 ……この基地の者たちは、少佐の部隊がいなければ下手をすると皆殺しになっていたと言うのに。あの敵に何もできなかった自分が言えた事ではないかもしれませんが……。そんな者たちに何を言われようと、かまいません!」

 

 クレマン中尉の後の者たち……おそらくMS隊のパイロットだろう。覚えのある気配の持ち主ばかりだ。彼等もまた、口々に同意する。

 

「重ねて御礼申し上げます。本当に、ありがとうございました!」

「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」

「……そうか。その礼、しっかりと受け取った。」

 

 彼ら以外のこの基地の面々は、ばつが悪そうな顔をしていた。クレマン中尉は、頭を上げると、再度敬礼をする。俺たちも答礼を返すと、彼らMSパイロットたちは回れ右をして立ち去って行った。

 

「……頑張ったなあ。あいつら。」

「そうね……。いえ、そうですね少佐。」

「「?」」

 

 ィユハン曹長とマリー曹長は、怪訝そうな顔をしている。お前ら、頭使わないと脳みそ錆びるぞ。ウィリアム整備長が、解説してくれた。

 

「俺たちに友好的な立場を表すって事はよ。この基地の基地司令に反抗的だって思われるって事だ。色々、今後大変だろうさ。その危険を冒しても、ただ礼を言うためにあいつらやって来たんだ。戦場では恐慌状態に陥ったかも知れんがな、充分勇気あると思うぜ?」

「ああ!」

「おお、なるほど!」

 

 ほんとにお前ら、頭使えよ。錆びるぞ。

 

 

 

 そして数日後、基地司令は急遽大至急と言った感じで、転属していった。何が起きたのかは、後でツァリアーノ大佐から知らされた。コリニー中将が動いたんだそうだ。レビル将軍派閥の不興を買い過ぎる前に、急ぎ更迭したらしい。新しい司令は、当分の間は決まらないため、副司令がとりあえず総指揮を執る模様。

 そしてその更に数日後、裏で何かしら取り引きがあった模様で、この基地の防衛MS部隊パイロット陣もまた、一斉に転属して行った。転属先は、レビル将軍派閥が圧倒的な、キリマンジャロ基地である。

 新たにやって来たのは中立派閥であるゴップ派の数少ない実戦派MSパイロットたち……。いたのか、そんなの……。それが、補充のMS、ジム改を中心とし、一部にジム・カスタムやジム・キャノンⅡまで少数含んだ豪華な陣容のピカピカの機体と共に到着したのだ。

 ……俺たちにも、命令書が届いた。わー、これは、大変だ。どうしようー。って、やるしか無いんだけど。

 キシリア・ザビ護送任務だった。




ついに出ました。そして即退場。敵方の強化人間。しかもジオン残党。
主人公ゼロも、内心大荒れでした。
そして下される、過酷な、とっても過酷な命令!
はっはっは、さてどうなる!


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乱戦、そして混戦

 見た目がゴツイ女性兵士4名に囲まれる様にして、俺たちのミデア改に「お客さん」が乗り込んで来る。頬がこけて、目が細くきつい印象を与える細身の女性だ。……キシリア・ザビだ。ふっと苛立ちの様な物が、俺の中に湧き上がる。

 俺の中に焼き付けられた、ジオン公国への憎悪だ。今はそれはかなり薄まっている。薄める事に成功している。しかし消せる事は無いだろうとも思う。それはそうだろう。後から焼き付けられ、増幅された憎悪だけじゃなく、ゼロ・ムラサメの中にはコロニー落としで全てを失った少年の、嘆きと怒りの叫びが残っているのだ。

 その憎しみを噛み殺し、彼女らと一緒に乗り込んで来た男性士官に敬礼を送る。その男性士官、少佐は答礼を返して来ると、自己紹介をしてきた。

 

「自分は、諜報部のアーロン・アボット少佐です。今回の護送任務について、一切を任されております。ですが、基本戦闘に関しては門外漢なので、口出しはいたしません。一年戦争の英雄、超エースのゼロ・ムラサメ少佐とご一緒できるとは光栄ですね。」

「自分は、ツァリアーノ連隊第01独立中隊「オニマル・クニツナ」隊部隊長、ゼロ・ムラサメ少佐です。こちらは副官のレイラ・レイモンド少尉。戦闘オペレーターのマリー・アップルヤード曹長。以後、お見知りおきを。

 ……諜報部である事を、明かしてかまわないのですか?」

「かまいませんよ。諜報部員ではあっても、諜報員ではありませんからね。と言いますか、役柄上諜報部員であっても、表に出ざるを得ない場合が多々あります。自分はそう言った場合の駒ですよ。それと、今回みたいな場合の、ね。

 しかし、「オニマル・クニツナ」ですか。天下五剣の一振りでしたね。」

 

 ……さすが諜報部員。諜報員じゃなくとも、たいした知識量だわな。いや、かつては諜報員だったのかも知れないな。きっと顔が売れちゃって、スパイとしての活動が不可能になったんで引退したんだ。

 

「ご存知でしたか。刀……ジャパニーズ・ブレードの名前だと知る者は、今のご時世数少ないのですがね。」

「ははは、偶然ですよ。……さて、今回の護送計画について説明いたします。機長には、お手数をおかけして申し訳ないのですが、後ほどそちらから……。」

「了解です。さてアップルヤード曹長、そちらのご婦人方を、用意したお部屋へご案内してくれ。」

「はっ!了解です!」

 

 ヤバいお客を別室に閉じ込めておき、ミデア改のキャビンに置かれている粗末な応接セットに、俺たち3人は座った。アボット少佐が世界地図を広げる。

 

「今、我々はここ、オーストラリア大陸のトリントン基地にいます。「お客様」の移送先はここ、南米はジャブロー基地です。」

「防備を薄くしてカムフラージュした、ここトリントンから、一気に最大の防御を誇る本拠地へ移送ですか。」

「そうです。で、トリントン基地から南太平洋を空中給油で渡り、一気に南米ジャブローへ……。」

 

 海の上を飛んでいくんだから、俺たちMS部隊はあまり役に立たないじゃないか。そう思ったのだが。

 

「と、当初は計画していたのですが……。あー、漏れたみたいでして。今、内部のスパイを追っています。」

 

 おいいいぃぃぃ!?

 

「で、レビル将軍から、いざと言う時は現場の判断を認める、との言質も取っておりますので。ですから現場の判断で、こちらのルートを取ろうかと。いや、地球が丸くてよかったですね。」

「……壮大に遠回りな気がしますが。逆に危険が大きくなりませんか?」

「南太平洋に、水陸両用MSを積んだユーコンやマッドアングラーが集結しているとの情報がありましてね。そちらよりはマシかと。」

 

 ……地球上のジオン残党で、一番勢力がでかいのが、潜水艦隊だ。連邦海軍は最初のコロニー落としによる津波などの被害により、ほとんど壊滅状態なのだ。その後も残った水上戦力は、ジオンの水陸両用MSに好き放題にやられた。ジオン公国が滅びた今も、逃亡した潜水艦隊を滅する事はなかなか叶わないでいる。

 俺たち元レビル将軍直卒部隊から、海軍に転属していったラバンに期待したいところだが……。個人レベルではなかなか戦局に影響を及ぼす事は、できないだろうなあ……。でも頑張れ、水中用ガンダム乗り。

 それは置いといて、このおっさん何考えてるんだ。トリントンから進路を北西に取り、インドネシア、インドシナ、インド、アラビアを経由してオデッサ基地へ。そしてそこからヨーロッパを経由してベルファスト基地へ。ベルファスト基地から大西洋を渡りニューヤーク基地、そしてアメリカからメキシコを経由して南米へ渡り、ようやっとジャブローへ。

 可能な限り地面の上を飛ぶのはわかる。これなら途中でミデア改墜ちても助かるかもしれん。だが……。

 

「旅程が長すぎます。途中で何があるか……。」

「ですが、南太平洋を突っ切るルートでは撃墜必至です。またハワイ経由で北アメリカを回る事も考えましたが、海上を飛行しているうちに残党の潜水艦隊に捕捉される可能性を考えると。

 幸い、インドシナ半島のジオン残党掃討作戦は、成功裏に終わっております。残党に偶然に遭遇する危険は、このルートの方が少ないのです。また、もし遭遇したとしても地面の上ですから、あなた方のMS戦力を有効に活用できます。」

「途中の補給は……。」

「諜報部の極秘ルートで、途中の基地に補給の要請をしています。何も無計画にこちらのルートを押しているのでは無いのですよ。」

 

 つまりは決定事項を伝達しているだけ、と言う事か。俺のニュータイプ感覚でも、この男が嘘を言っているとは思えなかった。もし万一、こいつ自身が情報漏れの大元だったりして、こちらを引っ掛けて罠に落とし込む、なんて事も疑ってみたのだが……。考え過ぎだった様だ。

 ただ、敵ではないにせよ、な~んか隠してる気はするんだよな。諜報部員なんてのは、隠し事があって当然とも思うが。

 

 

 

 俺はシロー中尉の第01独立小隊を含めた全小隊の小隊長をミデア改1番機に集め、アボット少佐の言った事を皆に伝達した。皆は唖然とする。

 

「……と言うわけで、アーロン・アボット少佐は何か隠してるとは思う。だが、彼は確かに上の指示の範囲内で動いてるのは間違いないんだ。拡大解釈はあれど、な。

 おまけに、任務達成のためには確かにこのルートしか無い。いや、別ルートも考えられるは考えられるが、海の上を渡るのが最低限のルートは、これだって言うのは間違いない。」

「……。」

「そうだな。」

「……。」

「ああ。」

 

 ユウの言った通り、悩んでも仕方がないのだ。彼の指示に従う様に、とのレビル将軍の命令書もある。少なくとも、何か問題はあったとしても、俺たちの戦力でどうにかなる範囲の障害だと、上は考えているのだろう。

 フィリップ中尉が皆に発破をかける。

 

「かー、そんならさっさと行っちまおうぜ?ユウの言った通りだろ?」

「ちょ、ま、待ってください。ユウ中尉、何か仰ったんですか?ときどき自分だけ中尉の言葉がわかってないんじゃないかと思う場面はありましたけど……。」

「お、俺もわからない……。」

「ああ、クリス少尉もシロー中尉も、慣れてないからな。慣れればわかるぞ。」

 

 唖然とする2人に、フィリップ中尉がユウの言った事を説明してやっていた。ああ、ちなみにここしばらくで、全員ファーストネームで呼び合う様になってたよな。なんか部隊の雰囲気が良くなったみたいで、いい事だ。

 そんなわけで、俺たちは各々のミデア改に戻ると出立の準備を始めた。

 

 

 

 俺たちのミデア改は、ひたすら飛んだ。オーストラリア北部、インドネシア諸島、インドシナ半島、インド北部……。ところどころにある連邦軍基地で燃料と食料その他の物資を補給し、ひたすら、そう……ひたすらに飛んだのだ。そして俺の機嫌は、かなり悪くなっていた。

 

「……飽きた。」

「しょうがないわよゼロ。」

「わかってるんだ……。だが……。」

 

 俺の目の前には、チョコレート菓子の包み紙が散らばっている。俺はそれを片付けつつ、哀し気な口調で呟く。

 

「手の込んだ菓子が食いたい……。」

「もう……。アラビア半島を越えて、しばらく飛べばオデッサ基地でしょ?あそこの中央基地ほどの大規模基地のPXなら、きっとカップケーキとかプリンとか、ルナ2基地で出してくれてた程度の物はあるわよ。」

「ああ、だといいんだが。」

 

 俺はしばらく、手の込んだ甘味を食べていなかったのである。レイラが笑いながら、キャビンに備え付けのキッチンから何か持って来た。

 

「はい、大きな坊やはこれでしばらく我慢してちょうだいね。」

「パンケーキ!生クリーム乗ってるじゃないか!」

「ミデア改のキッチンだと、これぐらいしか、ね。材料も無いし。」

「いやいや、美味そうだ!……レイラの分は?」

「あるわよ?ふふふ。」

 

 俺たちは、キャビンの応接セットのテーブルに向かい合って、パンケーキを食べ始めた。この隣の部屋に、キシリアがいる事なんて、忘れるぐらい美味かった。え?互いに「あーん」とか?したに決まってるじゃないか。

 

 

 

 で、食い終わって片付けていた時の事だ。俺は頭の中でヘビがうねる様な痛みが走るのと同時に、閃光の様な輝きが脳裏に走るのを感じる。俺は端末に飛びつくと、ミデア改全体に放送を行った。無論コクピットにもだ。

 

「敵襲!コクピット、機体をランダム回避させるんだ!他の機体にも伝えてくれ!MSパイロットは機体に搭乗、出撃準備!マリー曹長は、ミデアのコクピットに入れてもらえ!そこから戦闘管制を!」

『こちら機長、了解!』

 

 ぐぐぐっ、と機体が傾ぎ、ランダム回避のGがかかる。それに負けずに、俺とレイラはコンテナ内へと走った。窓から、曳光弾が飛ぶのが見える。第2小隊を載せた2番機は、マリオンが乗っているから敵襲に反応できているだろう。できていて欲しい。だが3番機から5番機は無事だろうか。

 俺はアレックス3のコクピットに飛び込んだ。その寸前、ジム・カスタムにレイラが飛び込むところが見えた。少し遅れて、ィユハン曹長がジム・キャノンⅡへと走り寄るのが気配でわかる。

 

「マリー曹長!1-0、アレックス3出撃準備完了!他のミデア改は無事か!」

『4番機被弾!ですが被害は軽微!「オニマル・クニツナ」隊全機、第01独立小隊全機、出撃準備完了してます!』

『ゼロ少佐、こちらアボット少佐!……できれば数人、せめて1人でも生かして捕まえて欲しいんですが、可能ですか?』

 

 突然割り込んできたアボット少佐に、俺は笑って答える。

 

「運しだいです。俺は、いえ自分は敵の命より部下の……仲間の命が大事なので。」

『でしょうな。ですが、心の片隅にでも留め置いてくだされば。』

「了解。……カーゴ開け!全MS、発進せよ!」

 

 俺たちは、一気に空中にMSを躍らせた。マリー曹長の声が響く。

 

『敵は目視によればザクⅡが9機、3個小隊です。形状からタイプの判断はつきませ……いえ、1機だけはMS-06FZザク改です!頭飾がついているので、中隊長機かと!』

「こちらも目視で確認した!」

 

 そして俺はビームライフルでそのザク改を撃つ。あたり所が悪く、爆散した。中隊長機をいきなり失った敵は、算を乱して逃走をはじめる。まあ、あたりまえだろう。こちらは5個小隊総勢15機の、最新鋭機プラス一年戦争中の機体ではあるがガンダムタイプだ。だがな、悪いが逃がさん。

 ユウ、マリオン、レイラのジムカスタムのジム・ライフルによる射撃が、1機ずつのザクⅡを穴だらけにする。そのザクⅡは、1機が爆散、2機は大地に倒れ伏した。俺のニュータイプ感覚には、そいつらがまだ生きているのが感じられる。

 俺たちはスラスターを噴かし、敵が逃げるその周囲を取り囲む様に着地する。相手のザクⅡ5機は、怯んだ様にあとずさり、包囲の中央に集まって行った。……こいつらが攻撃してきたのに、なんか俺たちがいじめてるみたいな気になってきたな。俺は降伏勧告をする事にした。

 オープン回線と、外部スピーカーを開く。

 

「……抵抗は無駄だ。武器を捨て、降伏しろ。正当な裁判を約束する。だが、拒むとあれば……。」

 

 俺はアレックス3に、ビームライフルを前に突き出させる。部隊の全機が、それに倣ってジム・ライフルで狙いをつけた。そして第01独立小隊の3機のガンダム・ピクシーもまた同じく、マシンガンを構える。

 と、1機のザクⅡがマシンガンを捨てた。

 

『こ、降伏する……。』

『お、俺もだ!隊長が死んだのに、やってられねえ!』

『降伏する!降伏する!撃つな!』

 

 次々とザクⅡが武器を捨てて膝立ちになり、コクピットのハッチを開く。そしてパイロットたちが飛び出して来ては、手を上げて膝をついた。戦闘はあっけなく終わった。

 

 

 

 捕虜たちを縛り上げて集めておいた場所から、アボット少佐が肩を落として戻って来る。アボット少佐は捕虜の尋問を行っていたのだ。ちなみにミデア改各機は、今俺たちのMSの傍らに着陸していた。俺はアレックス3のコクピットを開き、アボット少佐に訊ねる。

 

「何かわかったんですか?」

「はぁ……。こいつらは、補給物資欲しさに偶然見つけたミデア改の5機編隊を、大物の獲物だと思って攻撃しただけなんだそうで。こいつらは根拠地、MSの整備に使っている廃基地の場所も吐きましたよ。連邦軍の廃棄した基地に整備機材を持ち込んで、根拠地にしてたんだそうで。

 そこには整備兵とかがいるらしいですよ。……連邦軍補給部隊の捕虜とか、あと「女」も複数名、ね。……近隣の街から、「そう言う用途」に使うために攫ってきたそうで。」

 

 アボット少佐は、苛立たし気に唾を吐く。女性隊員たちは、一瞬何のことか考えた後、殺気立った。俺も、むかっ腹を立てていた。

 

「降伏勧告なんか、しなきゃよかったかな。」

「連邦軍も、末端の兵士は規律が緩んで、似た様な事やってたって話も聞きますがね。どの軍も、同じですな。」

「救出に行きたいが……。我々の任務の都合上、そうもいかん、な。近隣の連邦軍基地に連絡して、派遣する部隊を編制してもらおう。それと、こいつらも引き取ってもらわないとな。マリー曹長、頼む!」

 

 ミデア改1番機のコクピットにいるマリー曹長が、一番近隣の連邦軍基地に出動要請を行う。俺たちはそれを待とうとMSを膝立ちにして、機体を降りて休もうとする。

 だが……。

 

「!?……くうっ!!痛ゥ!!

 全員!機体から降りるな!全機戦闘態勢!!」

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 全員が俺の指示に、即座に従ってくれる。頭は痛いが、気分は少し良い。だがそれじゃあ済まない。

 ミデア1番機の隣に、MS用バズーカと思しき砲弾が着弾して爆炎を上げた。

 

『1-0!こちら0-0!敵はMS-09ドム1機、MS-09Fドム・フュンフ1機に、MS-09F/TROPドム・トローペン1機!

 いえ、その後に複数機確認!機種は今、確認します!』

「やらせてたまるかあっ!!」

 

 俺はアレックス3を全力噴射でジャンプさせる。MS-07B-3グフ改良型が2機、MS-07Bグフが1機、MS-05BザクⅠが1機、MS-06JザクⅡ陸戦型が1機、MS-06F-2ザクⅡ後期生産型が1機……。これにタイプがそれぞれ異なるドム系が3機か、随分バラエティに富んだ奴らだな。む、戦闘指揮車まである。

 アレックス3はビームライフルを撃つ。そのビームは、ドム・トローペンの右腕を貫き、爆発させた。……ヤバイ!

 

「こいつら腕利きだぞ!気を付けろ」

 

 レイラ機がジム・ライフルでノーマルのドムを狙う。そのドムも、左腕が爆発する。いや、違うんだ。こいつら、さっきのドム・トローペンも、射撃躱せないと知ると腕を犠牲にして防ぎ、その腕が爆発する前に切り離して誘爆を防ぎやがったんだ。すげえ腕利きだ。「白狼」「紅い稲妻」に下手すると匹敵する。

 ドム・フュンフがヒートサーベルを抜き放ち、アレックス3に突進して来る。ィユハン曹長機がビームキャノンを連射するが、すいすいと躱して俺のアレックス3に接敵した。が、悪いな。俺は格闘戦の方が得意なんだ!

 一瞬でビームサーベルを抜き放ち、居合切りの要領でドム・フュンフの右腕を斬り落とす。いや、胴体を狙ったんだが躱されたんだ。流石に凄い腕だ。だが……。

 俺はアレックス3の左腕に仕込まれた90mmガトリングを開放、ドム・フュンフの胴体目がけて至近距離から撃ちまくった。……こいつ、左腕でコクピットだけはかばいやがった。だが駆動系をやられたドム・フュンフはゆっくりと倒れる。

 見ると、レイラのジム・カスタムはドム・トローペンを蜂の巣にしていた。だがそいつも致命的な場所への着弾は、残った左腕で防いでいる。

 

『き、さ、ま、らあああぁぁぁ!!劣等人種が、優良種である俺たちに歯向かいやがって!!』

 

 オープン回線で叫んで、通常型グフが飛び込んで来た。こいつ……。レンチェフ、か。俺は機体にペイントされた、狼の紋章をはっきりと確認していた。こいつら、「闇夜のフェンリル」隊だ。ち、バタフライ効果で、降伏もしなけりゃ1人も欠けてもいなかったのか。

 

「1-1!レイラ、下がれ!お前格闘戦は苦手だろ!近接支援をたのむ!」

『こちら1-1!1-0、了解です!』

『逃がさん!』

「しつこい!」

 

 俺はレイラ機とレンチェフ機の間に強引に割り込み、ビームサーベルで斬りかかる。

 ふと横眼で見ると、ユウたちは2機のグフ改良型に釘付けにされている。と言うか、2機がかりでユウを釘付けにしており、他の機体には牽制しかしていない。マリオンですら、ユウとあの2機の戦闘に入り込めないでいる。

 他のザクの群れで、第3、第4小隊と第01独立小隊を押しとどめている。……!?

 

「第01独立小隊!シロー中尉!ミデア改1番機の警戒をしろ!今やりあってる敵は無視しろ!やつらキシリアを奪う気なら、歩兵戦力を伏せている可能性が高い!」

『……!!こちらシロー中尉、了解!!カレン!サンダース!』

『あいよ、了解。』

『了解です、隊長!』

 

 次の瞬間、俺は激しい殺気を感じ、機体をブーストダッシュで後退させる。レンチェフ機は嵩にかかって追って来ようとした。そこへ爆炎がいくつも上がる。

 

『そのグフに手を出すな!やつは俺の獲物だ!俺の……サカキの、みんなの仇だ!

 そいつを殺すのは、この俺だあっ!』

 

 うっわ、こっちもバタフライ効果かよ。妄執から抜け出せて無いじゃんか。エイガー、RX-78-6ガンダム・マドロック……。

 まだかなり遠いが、ホバー走行でこちらへ突進してくるガンダム・マドロックの姿が見える。胃が痛くなるほどの殺気、殺意をひしひしと感じた。




サカキ、生きててほしかった……。(´;ω;`)ブワッ
エイガーがんばれ、レンチェフなんてブッ潰しちまえー!


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エイガー、ラスト・シューティング

 ィユハン曹長機、ジム・キャノンⅡが、ようやく主力火器であるビームキャノンを、左腕を失ったノーマルのドムに命中させる。そのドムは上半身の上半分をえぐり取られ、地面に仰向けに倒れた。

 さすがに部隊の最大火力、ビームキャノンの威力だ。ドムは残った右腕を盾にしてなんとかしようとしたが、その右腕ごと吹き飛ばされた。コクピットからパイロット……おそらくリィ・スワガーだな。それが這い出して来る。

 だがそのィユハン曹長のジム・キャノンⅡも、シールドを失って左腕が黒く焦げている。ドムのジャイアント・バズにやられたのだ。いや、ジャイアント・バズの直撃を、敵弾命中したシールドをとっさに廃棄する事であの程度の損傷で抑えたのは、ィユハン曹長の技量が高い事を意味している。

 

「ちっ……。どうしたもんかな。」

 

 突然割り込んで来たエイガーのガンダム・マドロックは、レンチェフのグフに向けてその大火力を行使している。レンチェフのグフもまた、ガンダム・マドロックに目標を変えて全力で接近戦を挑もうとそちらに前進していた。

 

「あちらは任せるか……。危険にならん限り。1-1、1-2、俺たちは他の小隊を支援に回るぞ!」

『『了解、1-0!』』

 

 その時、俺は指示のミスに気付いた。馬鹿か俺はっ!!

 

「いかん!ミデア改各機は、離陸してこの空域を一時離脱してくれ!」

『こちらミデア改1番機、了解!なれど……少しだけ待ってくれないか。今までろくな整備なしで長距離飛んだから、この子のエンジンがゴネてやがるんだ。』

『こちら2番機、了解!だが……1番機と同じく!』

『4番機!まだ被弾箇所の応急修理中です!飛べません!』

 

 3番機と5番機だけは、離陸して現場を離脱していく。だが、キシリアを乗せた1番機が動けないのはまずい。シロー中尉たちに期待するしか無いか。離脱するミデア改3番機に銃撃を開始したザクⅠを狙い、ビームライフルで撃つ。そのザクⅠは、胸から上を吹き飛ばされてひっくり返った。

 そして未だ飛べない1番機に、数台の装甲兵員輸送車が突進するのが見える。なんか地球連邦軍の装甲兵員輸送車に見えるが、ジオンの紋章がペンキで描かれてるな。鹵獲品だろうか。だが、勇敢だが愚かだ……って、誰の台詞だっけな。でもそんな感じだ。だって、1番機は3機のガンダム・ピクシーが護ってるんだぞ。

 MS用マシンガンと頭部バルカン砲合計9門が火を吹き、装甲兵員輸送車は、ある車両は横転し、ある車両は火に包まれ、瞬時に全滅した。炎上した車輌から、火だるまの歩兵が這い出して来る。地獄絵図だ。

 

「熱い、熱い!たすけて……。」

「あああぁぁぁ……。」

 

 シロー中尉は、だが動じていない。通信モニターに映る彼の顔は、厳しく顰められてはいるものの、平常心を保っている。彼は、恋人と娘、そして部下たちのためなら地獄へ落ちる覚悟ができているのだろう。悪い意味での甘さが払拭されている。……良い意味での甘さまで失われてないと良いんだけどな。

 レンチェフが叫ぶ。さっきからこいつは、オープン回線にしっぱなしなのだが、忘れているのだろう。最初は俺たちを威嚇するためだったのだろうが。

 

『失敗、撤退だとぉ!?ゲラート少佐、だが……くっ、了解!!』

 

 レンチェフ機のグフが急ぎ後退し、倒れたドム・フュンフの隣に来るとそれをひっくり返す。コクピットハッチが開き、パイロット……たぶんソフィ・フランだろうが、銀髪の女が飛び出した。それを傍らに乗りつけた戦闘指揮車が拾い上げる。

 レンチェフは、グフ左手のマシンガンを連射しつつ、次にドム・トローペンの傍らまで行ってそれをひっくり返した。だがそれは、大きな隙になる。レンチェフのグフは、狙いすましたガンダム・マドロックのビームキャノンで撃ち抜かれ、胸部と頭部を消し飛ばされた。

 え?俺たちは見てただけかって?んなわけ無い。俺とレイラは第2小隊の支援に入ったし、ィユハン曹長は特異な機動で第3、第4小隊を釘付けにしていたザクⅡ2機のうち、陸戦型の方を遠距離の射撃で撃破していたんだ。

 

『……!』

「今だ、ユウ!」

『……。』

 

 ユウのジム・カスタムは、俺の射撃をシールドを犠牲にして防いだグフ改良型の片方を、ジム・ライフルで穴だらけにして倒す。……ユウの実力なら、こいつらが2機がかりでも楽に始末できていたはずだ。やはりユウにはアレックス級の機体を配備できるよう、再度上に掛け合おう。

 もう1機のグフ改良型は、レイラがマリオンと協力して沈めた。これで残るは、ザクⅡ後期生産型ただ1機。……!?

 

『あの時とは、立場が逆になったな……。』

「き、貴様……。あの時、だと?」

『なるほど、貴様は覚えていない、か。だろうな。貴様にとっては、よくある事……しょっちゅうやっていた事の1つでしかなかったんだろう。

 だが俺には……。サカキ、みんな、俺は……。』

 

 うわ、マドロックがビームライフルを、グフの残骸から這い出して来たレンチェフに付きつけてる。いつの間にか、周囲では戦闘が一時中断していた。マシンガンの残弾が切れたザクⅡ後期生産型は、ヒートホークを抜いたまま、凍り付いている。味方のMSも、頭部がマドロックを向いている。

これは、やばいか?だが……。俺はオープン回線と外部スピーカーで声をかけた。

 

「そこのガンダムタイプ、マドロック、だな?」

『なんだ?止めるつもりか?』

「……マドロックって事は、エイガー少尉……いや、今の階級は知らんが。エイガー……。」

『止めても、無駄だぞ……。』

 

 エイガーの声は、平板だった。だが俺のニュータイプ感覚には、奴の感情が手に取る様に感じられる。奴は揺れ動いていた。

 

「……止めはしないさ。撃てよ。そいつに恨みがあるんだろ?この場の責任者は俺だ。見逃してやるよ。」

『感謝する。』

 

 だがエイガーはなかなか撃たない。俺はニュータイプ感覚で、エイガーの殺意の感覚を注意深く計っていた。くそ、頭が頭痛で痛い。

 そして奴の指がトリガーを押し込もうとした瞬間、俺はぽつりと言ってやった。

 

「そいつと同じ様な人間になりたいならな。撃て。」

 

 エイガーは凍り付く。俺は追い打ちをかける。

 

「殺したいんだろ?いいぞ、見て見ぬふりをしてやるから。撃て。」

『……!!』

「撃て、エイガー。撃て……。

 撃て、エイガー!!」

『うあ、あああ、あ゛あ゛あ゛ーーー!!』

 

 エイガーは撃った。……大空に向けて。

 ガンダム・マドロックのラスト・シューティング場面が見られるとは思わなかった。曇り空に、ビームが吸い込まれて行く。そのまま、ガンダム・マドロックは凍り付いた様に動かなかった。

 ……レンチェフが、嘲笑っているのが感じられる。いいさ、好きなだけ嘲笑えよ。だがな、俺たちが勝者で、お前は敗者だ。

 

『……こちら、ゲラート・シュマイザー少佐。「闇夜のフェンリル隊」隊長だ。降伏を申し入れる。部下たちには、どうか寛大な処置を願う。』

「それは今後の裁判次第だな。既に南極条約は失効しているが、捕虜の扱いはそれに準ずる扱いがなされる様に連邦法と軍法で決まっている。故に、その通りの扱いをしよう。」

『感謝する……。』

 

 だがこいつらの国は、既に無い。戦争も、もう終わっている。つまりこいつらは、ゲリラとして扱われる事になる。裁判の判決は、きつい物になるだろう。

 お、マリー曹長から連絡だ。

 

『こちら0-0、1-0……ゼロ少佐。連邦軍オデッサ基地、第378採掘基地所属の防衛部隊、第2歩兵隊から通信です。要請にあった捕虜を受け取りに来た模様です。

 ですが、敵のMSやその残骸に関しては輸送手段を持っていないので、我々のミデア改の協力が欲しいそうです。』

「……やむを得ん、とは思うが。アーロン・アボット少佐を出してくれるか?相談する。」

『少々お待ちください。』

 

 お、離脱したミデア改3番機と5番機が返って来た。では……お?

 

『隊長!エイガー中尉!ようやく追いつきましたよ!』

『前衛役の部下を置いて、全速力でホバー移動なんて!何考えてんですか!』

 

 見ると、2機のジム改がのしのしと歩いて来るのが見える。その後ろには、戦闘指揮車1台とMSトレーラーが3台。

 あ、ジム改は機動力を犠牲にして、増加装甲を施してある現地改修機だな。なるほど、前衛装備だ。本来、あのジム改が前に立って、ガンダム・マドロックの火力を存分に活かすための盾役になるんだろうな。

 でも、今更来てどうすんだこいつら。

 

 

 

 今、俺たちはオデッサの中央基地PX飲食スペースで、ちょっとした宴会をしている。まだ任務完了したわけじゃないが、強敵に1機も墜とされずに勝利したのだ。これぐらい良いだろう。

 

「少佐、さきほどは失礼いたしました。……それと、ありがとうございました!」

「ん?エイガー中尉か。気にするな。それよりお前も食え。これ、美味いぞ。」

「はっ!いただきます!」

 

 エイガーは、ちょっと硬さはあるものの、最初に感じた憎悪や、それによる心の歪みは感じられない。なんとかなったみたいだな。

 ところでエイガー隊は、ここら辺でジオン残党が危機的状況に陥っているときに颯爽と現れてその危機を救って回る、「闇夜のフェンリル隊」を追跡していたんだそうだ。だがその時、レンチェフのオープン回線での通信の叫びを聞いて、エイガーが怒りのあまり暴走して単独で特攻。部下たちはそれを必死で追ったと言うわけだ。

 エイガーが暴走して、ある意味良かったな。ターゲットの「闇夜のフェンリル隊」殲滅にまったく関与できなかったとしたら、面子が丸つぶれになるだけじゃなく、上から叱責くらってたぞ。

 ちなみに、最初に倒した野盗同然の奴らの根拠地と、「闇夜のフェンリル隊」が臨時基地として使っていた廃墟の2ヶ所には、既に手入れが入っており、整備兵などが捕まったそうだ。その上で、野盗同然のやつらの根拠地からは、MIA扱いされていた連邦の補給部隊の面々とか、周辺の街から攫われた女性とかが保護されている。

 ここでウィリアム整備長が溜息を吐く。

 

「だけどなあ……。ィユハンの奴のジム・キャノンⅡの左腕、特にマニピュレーター部分。あとウェンディ嬢ちゃんのジム・カスタムの右脚部。全とっかえだ。けど、パーツの手持ちが無ぇ。この基地には、ジム・カスタムとジム・キャノンⅡは配備されてねえ。全部ジム改だ。

 いやいやいや、責めてるわけじゃねえよ。戦闘記録は俺も見せてもらった。整備の参考にな。あの化け物だらけの敵を相手に、よくあんだけの損傷で済ませたよ。ただな、左手やられたィユハン機はともかく、ウェンディ嬢ちゃんは脚が手に入るまで、出撃不能だ。ィユハンも、できれば出撃見合わせてくれや。」

「そっか……。聞いての通りだ、ィユハン曹長にウェンディ伍長。」

「はぁ……。了解です、たいちょ。」

「すいません、MSの操縦が下手で……。」

 

 いやウェンディ伍長はよくやってると思う。ただ周囲が、ことに第1、第2小隊の隊長が化け物なだけだ。それと比べてもらっちゃ困る。第3も非常に安定して高いレベルにあるしな。ウィリアム整備長の話は続く。

 

「それよか、今はなんとかなるけどよ、ユウ中尉が機体にかけてる負担の方が問題だ。全体的に、少しずつ疲労が溜まってやがる。あと数戦したら、完全オーバーホールが必要だ。……ユウ中尉には、アレックス級の機体が必要だぜ。個人的には整備としては、アレックスは気に入らんがな。

 たいちょ、何とかならんか?」

「上に掛け合ってはいるんだ。だがちょっとばかり、芳しくない。」

「……。」

「ユウ、俺はいい、じゃない。整備長が本気で言ってるんだ。これは中隊全体としての問題だ。」

 

 ため息を吐いて、整備長は肩を落とす。俺は再度、上へ掛け合う事を決心しつつ、プリン・ア・ラ・モードを口に運んだ。……美味い。

 

 

 

 ドラゴン・フライ連絡機が滑走路に着陸する。それから、少々背の高い痩せ型の人影が、パイロットに先んじて急ぎ降りて来た。その人物は、滑走路脇に露天駐機しているミデア改1番機に向かって歩いて来る。

 

「ようやくお帰りですか、アボット少佐。」

「おや、ゼロ少佐にレイモンド少尉。」

 

 敬礼して来たアボット少佐に、俺とレイラは答礼を返す。俺は徐に、彼に問いかけた。

 

「……どうでした?「闇夜のフェンリル隊」の尋問結果は。いえ、話せなければ聞きませんが。」

「……成果は、ありましたよ。」

「そうですか。まあ、1番機に押し寄せた歩兵部隊がいましたからね。前のやつらが物資狙いだったのに比して、奴らの狙いがキシリアだったのは間違いありません。

 奴らは俺たちがアラビア半島近辺に入ったあたりで網を張っていたんじゃないんですか?で、取り逃がしかけたのを、あの前の野盗どものおかげで俺たちが足止めされたんで、間に合った……。」

「……ノーコメントで。」

 

 ふむ。となると、俺たちの飛行ルートがキシリアを奪回したい連中に、漏れている事になるなー。こわいなー。くっくっく。

 

「で、お願いがあるんですが。」

「なんですか?」

「諜報部のルートで、次の大規模基地であるベルファスト基地で、ジム・キャノンⅡの左腕パーツと、ジム・カスタムの右脚パーツ、取り寄せる様に要請していただけませんか?あと、ジム・カスタムのC級D級消耗パーツ一式。

 本来であれば俺たちは、インドシナ半島での掃討作戦に参加する予定だったので。そう言ったパーツ類は向こうに全部揃ってるはずだったので、手持ちが少ないんですよ。弾薬類は、この基地で都合していただけましたけどね。」

「その程度でしたら……。了解です。あとでこの基地の通信室を使わせてもらって、要請しておきます。いえ、今から行ってきますよ。」

 

 アボット少佐はレイラから必要部品群の明細書を受け取ると、本部棟の方へ行くバスのバス停へと歩いて行った。うん、オデッサ基地広いから、路線バスのバス停あるんだよ。

 

「……やれやれ。」

「あの人、狸ねえ……。貴方が言った通りだとすれば……。」

「まず間違いない。わずかに……。」

「わずかに感情が動いたものね。そのぐらいは、わたしでも分かるわ。」

 

 2人揃ってため息を吐いた後、俺たちは連れ立ってミデア改1番機へと帰って行った。

 

 

 

 俺たちが乗るミデア改の5機編隊は、その後特に攻撃を受ける事無く飛行を続けていた。今はちょうど、グレートブリテン島とアイルランド島を隔てるアイリッシュ海の北側、ノース海峡を渡っている。って言うか、海の上がいちばん怖い。

 俺たちのMSは全機、海上では役立たずなのだ。RX-78と比べてRX-78NT-1が唯一劣る点が、水中戦能力がまったく無い事だったりする。最大の泣き所だ。ようやく陸地の上に到達し、ほっと息を吐く。ベルファストまでは、あと一息だ。

 

「そう言えば、レイラはベルファスト基地の宇宙港警備隊のMS隊に所属してたんだよな?」

「ええ。わたしの他に女の子は2人だけだったから、仲は良かったわね。わたしが亡命者でも、気にしないでくれたわ。もっとも、そういう人ばかりじゃなかったけどね。でもせいぜい毛嫌いされる程度で、嫌がらせとかはされなかったけど。」

「そうか……。」

 

 俺は、隣に座るレイラの手を、強く握りしめた。レイラも握り返して来る。その体温が、暖かく感じられた。

 ……俺たちは、第1小隊では士官だってことで、区切られた部屋使ってるんだよ!?もしィユハン曹長やマリー曹長、ウィリアム整備長とかに見られたら、さすがに恥ずかしいよ!?うん。

 いや、士官学校の卒業式で、衆人環視の中でキスした奴が何言ってるのか、と思うだろうがな。ははは。




今回のメインは、たぶんエイガー中尉。彼はぎりぎりで思いとどまりました。撃ったら撃ったで、それはそれで……。後味悪い終わりになったでしょうねー。
はっはっは(乾笑)。
で、アボット少佐。何考えてるかは、わかる人には簡単にわかるかと。まあ、そう言う事です。


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あとちょっとでジャブロー

 ベルファスト基地の空港で、俺とレイラは搬入される補給物資の検品をしていた。いや、俺たちだけじゃないんだが。各小隊の小隊長は、全員同じ仕事をやってる。副官がついている俺だけズルい気もしなくもない。

 

「そんな事ないですよ、少佐。少佐は自分の小隊の補給物資をチェックしたあと、全小隊のソレを書類上だけとは言え、チェックしないといけないんですから。」

「そんなもんか。」

「はい。」

 

 レイラはお仕事モードだから、部下の口調だ。

 

「……。」

「ユウか。」

「……。」

「そうか、問題無い様で何よりだ。では後は出発まで自由にしててくれ。ではな。」

「……。」

 

 この無口男との「会話」も、すっかり慣れたもんだ。もっとも、俺やレイラがニュータイプ能力を持ってなければ、もっとずっと手間取ったんだろうな。例えばィユハン曹長とか、クリス少尉とか、ウェンディ伍長とかみたいに。

 おっと、そのクリス少尉が来た。

 

「チェック、終了か?」

「はい、要求部品は全て揃っています。特にウェンディ伍長機の右脚がちゃんと来ていて、ほっとしました。」

「ああ、まあそれは分かる。俺もィユハン曹長機の左腕と手が来てなかったら、困り果てるところだったからな。他に用は無いか?」

「はい、大丈夫です。」

「では出発まで自由にしてていいぞ。ではな。」

「はい!」

 

 うーん……。

 

「なあ、クリス少尉はいまいち硬いんだが、まだ慣れないのかね?」

「あまり柔らかくなられても、困るんですけれど……。」

「あ、そう言う事か。」

「はい。」

 

 レイラは普通の口調だが、少しむくれている。まだ本気で怒ってはいないが。危ない危ない。そうだな、クリス少尉にあまり柔らかくなられても、困る。うん。

 だが、やきもちを焼かれるのも、少しだけ嬉しかったり。でも、やきもちを焼くところ見たさに意地悪をするのは、何か違うからな、うん。

 あ、その気持ちを読まれたっぽい。いや、なんか最近レイラのニュータイプ能力が、ほんの時々だけ、一瞬跳ね上がる気配があるんだよな。それはともかく、レイラの精神が俺の心に触れる感触がして、彼女の耳が赤くなった。

 

「……。」

「……。」

「……あのー、中隊長。ゼロ少佐。あと副官さんやい。いい雰囲気のとこ申し訳ないんだけど、書類持って来たぜ。」

「「うひゃあ!!」」

 

 互いの精神が、100%完全に互いの方を向いてたから、周囲の事がわからなかった……。すごく驚いた。こんなに驚いたのは、本気でひさしぶりだ。これから、いちゃいちゃするのは……精神的にだけでも、いちゃいちゃするのは、周囲の安全を確かめてからにするべきか……。

 俺たちは、フィリップ中尉から書類を受け取ると、逃げる様にミデア改1番機へ搭乗した。そしてすぐに戻って来る。シロー中尉の事、忘れる所だった。

 

「済まんな、シロー中尉。」

「?……なんの事です?はい、補給物資、異常や欠品、ありませんでした。」

「うん、ご苦労。あとは出立まで自由にしてて大丈夫だ。」

「そうですか。了解です。」

「うん、ではな。」

 

 俺はため息を吐く。レイラもため息を吐きたかった様だが、部下であり副官なので、上官で上司の俺がいる前では我慢する。そこへ声がかかった。

 

「え?レイラ、レイラでしょ!」

「どうしたの!?ベルファスト基地に再配属!?そんなわけないわよね。任務で来たの?」

「ちょっと、任務だったら聞いたらまずいでしょ!」

「あ、ごめんごめん。ところでそっちの人は彼氏?かっこいい子じゃない!」

 

 いきなり姦しくなった。レイラは泡を食って、俺の顔と、話しかけて来た娘2人の顔を交互に見回す。どうしようかと困っている顔は可愛らしかったが、いつまでも困らせておくのも本意じゃない。俺は苦笑しつつ、レイラに頷いてやった。

 レイラはひきつった笑みで、彼女らに返事を返す。

 

「ひ、久しぶり……ってほどじゃないかしらね。2人とも……。ホリー、リディア。」

「ちょっと、こっちの彼氏紹介してよ!」

「そうそう!」

「え゛。」

 

 レイラの笑みが、更に引き攣る。俺は再度苦笑して、自己紹介する。

 

「俺はゼロ・ムラサメと言う。レイラとは、結婚を前提にお付き合いさせてもらってる。だがこんなご時世だからな……。お互いに、少し待とうと言う事にしてる。」

「「きゃー!!結婚を前提!!」……って、ぜろ、む、ら、さ、め?」

「……。」

 

 2人は黄色い歓声を上げる。だが少々年長のリディアと呼ばれた娘が、俺の正体に気付いた様だ。レイラが顔を押さえて、とうとうため息を吐いた。

 

「ねえ、2人とも。この人の階級章、よく見てね……。」

「「少佐!?」って言うと、あのレビル将軍の直卒部隊にいた、超エースで切り込み隊長の!?」

 

 ホリーの方も気づいた。俺が頷くと、2人は硬直し、ビシッと見事な敬礼をする。

 

「申し訳ありません少佐殿!自分は連邦宇宙軍ベルファスト基地宇宙港警備隊MS部隊所属、リディア・ターラント少尉であります!」

「も、申し訳ありません少佐殿!じっぶんは連邦宇宙軍ベルファスト基地宇宙港警備MS部隊所属、ホリー・ヴィンセント少尉でありましゅっ!」

 

 ホリーと呼ばれた娘の方は、噛み噛みだった。俺も答礼を返し、再度の自己紹介をする。

 

「うむ。自分はジャブロー基地所属ツァリアーノ連隊第01独立中隊中隊長、ゼロ・ムラサメ少佐だ。副官のレイラ・レイモンド少尉と共に、以後よろしく頼む。」

「「はっ!」」

「さて、俺は少し外そうと思うが……。レイラ少尉、貴官は残って、旧交を温めるといい。」

「え゛。」

 

 ひきつった彼女と、アイコンタクトと後ろ手のハンドサインで会話。

 

(……気を使ったつもりだったけどさ、嫌だったならすぐ戻って来るぞ?)

(い、嫌なわけじゃないけれど……。かなり、いじられそうで……。)

(む、んじゃあ早目に戻って来よう。変に気を使って、失敗したなあ。)

(いえ、そんな事ないから、気にしないで。)

 

 俺はそそくさとその場を去り、ミデア改1番機に搭乗する。そして数分ヒマをつぶし、ちょっと慌てた風を装って彼女たちのところへ戻った。

 

「あー、さっき言ったばかりの事を翻す様でわる……?なんだ?なんか雰囲気暗いが。」

「あ、少佐。いえ、ちょっと……。」

 

 雰囲気が重苦しく、思い切り暗くなっていた。俺はレイラに訊ねる。

 

「なあ、何があったんだ?」

「……実は。」

「ちょ、レイラ!少佐には直接関係のない……。」

「いえ、これは将来的に少佐にも関わって来る可能性がある話だから、話させてちょうだい?」

 

 レイラが2人を説得し、事情を説明してくれた。それによるとこのベルファスト基地に、コリニー中将派の将官が新司令官として着任したのが始まりであった。レイラが転属した直後あたりの事だ。そしてその新司令官は、がちがちのアースノイド至上主義者で、スペースノイド差別主義者だったのである。

 その後ベルファスト基地では、アースノイド至上主義たちが幅をきかせる様になりつつある様だ。スペースノイド出身者の将兵は、徐々に肩身が狭くなりつつある様だし、ターラント少尉、ヴィンセント少尉たちの様に、対スペースノイド穏健派である者たちも同様であると言う。

 事実、スペースノイド出身将兵は上官から辺地へ飛ばされるとか、あるいは自分から転属願を出すとかで、当基地を出て行く者も多いらしい。対スペースノイド穏健派の将兵もまた、同様にこの基地から姿を消しつつある。

 雰囲気が暗かったのは、そう言った今現在の事情を、彼女たちがレイラに教えていたからだった。

 

「まいったな……。俺にとっても、この基地は潜在的な敵地か……。」

「は、はい……。」

「言われてみれば……。その認識で、間違い無いかと。」

 

 ヴィンセント少尉、ターラント少尉が俺の言葉に同意する。レイラの様子を確かめると、彼女が2人の事を心配しているのが強く感じられた。

 

「貴官らは大丈夫なのか?ターラント少尉、ヴィンセント少尉。」

「自分たちはこの基地に配属されてはおりますが、所属は宇宙軍ですので……。」

「正直、様々な手続きとか面倒くさく思う事もありましたが、今はそのおかげで基地内のいざこざとは距離を置けているんです。今のところは、ですが……。」

 

 レイラは少しまだ不安そうだったが、多少気持ちは落ち着いた様だ。

 そういやアレン少佐……ディック・アレン少佐は地球連邦陸軍ヨーロッパ方面軍に配属されてるはずだったが……。あの人の部隊は便利屋的にあちこち飛び回ってるはずだし、ベルファスト基地にはあまり寄り付かないだろうが……。今度手紙出して、聞いてみるか。

 

「……さて、そろそろ仕事に戻らないとな。レイラ、いやレイラ少尉。」

「はい、了解しました。……気を付けてね、ホリー、リディア。」

「うん、大丈夫。いざとなったら、転属願出すから。」

「わたしもそうするわ。ジャブロー勤務とか、無理かしらね。うふふ。」

 

 この娘らの力量次第では、無理とは言えないなあ。いや、ツァリアーノ連隊の第4大隊とか、未だ欠員だらけだし。そこにMSパイロットとして引っ張って来る手が使える。ただし広告塔である第1大隊には、まっとうな任務が回って来るけれど、第2、第3、第4大隊は色々便利に使われるんだよなあ……。まあ、便利屋そのものの独立中隊を率いてる、俺の言う事じゃないが。

 俺とレイラは、敬礼と答礼を交わして2人の少尉と別れた。

 

 

 

 大西洋のただ中で、ベルファスト基地所属のTINコッド戦闘機5機と、フライマンタ戦闘爆撃機9機が帰還して行く。そして護衛を引き継いだニューヤーク基地所属のコアブースターⅡ5機とドン・エスカルゴ対潜哨戒機5機が、俺たちのミデア改5機編隊の周囲に、綺麗に編隊を組む。

 ……これで一安心だ。特にドン・エスカルゴ対潜哨戒機は心強い。ジオン残党の潜水艦隊が来ても、なんとかなる。いや、フライマンタでも一応は海中の敵に爆撃はできるよ?できるけど、一応程度でしかないし……。それに、出立前のターラント、ヴィンセントの両少尉の話を考えると……。

 一応お義理で出したと言わんばかりの旧式機部隊。通信で話した指揮官は真面目で堅物っぽかったし、士気も低くは無かったが……。旧式機を宛がわれている部隊って事は、今の司令官から冷遇されている部隊って事だよな、つまりは。はぁ……。ため息の回数が増えたなあ。

 

 

 

 そして何事も無く、俺たちはニューヤーク基地に到着した。海の上では基本、俺たちMS部隊には何もなす術が無いので、ヒマではあったのだが心が疲れる。まあ、そんな様子は指揮官として、部隊の者に見せるわけにはいかない。俺は頑張って虚勢を張る。

 ウィリアム整備長が、整備の報告にやってきた。おそらくィユハン曹長のジム・キャノンⅡの修理が終わったんだろう。

 

「たいちょ、ィユハンのジム・キャノンⅡの左手は、もう完璧ですな。ィユハンに言って、操縦感覚を確かめさせてくださいや。

 それと、ウェンディ嬢ちゃんのジム・カスタムの脚も、こちらはあっちのミデア改に乗っていた部下がやったんですが、修理完了だそうです。今からチェックに行ってきますがな。

 何か失敗してやがったら、ぶんなぐってやる。」

「大丈夫だったら、たまには褒めてやれよ?」

「そこらへんの呼吸は、わきまえてますわな。」

 

 本当に大丈夫だろうか。ジム・カスタムの右脚じゃなく、修理した整備兵が。満足な出来でも、何かしら文句つけて殴りそうな気がするのは、はたして気のせいだけだろうかね。

 とりあえず俺は、レイラと共に基地のPXへと向かった。無論、甘味を食いに行ったのだ。

 

 

 

 その後、俺たちのミデア改5機編隊は護衛機を付けずに、陸の上を飛んでいた。アメリカからメキシコへ、途中の連邦軍基地で燃料補給と必要物資の補充を行い、たまに空中給油もして、ひたすら飛び続けた。以前一度オデッサの中央基地で入念な整備を行ったものの、そろそろまたエンジンか何かが機嫌を損ねかねない。まあ、ジャブローはもうすぐだ。

 しかし、護衛機を付けない、か。もしジオン残党がいたら、襲えと言わんばかりだな。まあ南北アメリカ大陸からは、ほぼ完全にジオン勢力は排除されているんだが。アボット少佐は、平然としている。襲われる心配をしていないのか、襲われても俺たちが何とかすると信じているのか、それとも……。自分の死すら計算に入れているか、だな。

 と、俺の部屋に当のアボット少佐のおでましだ。俺はノックに応えて彼を迎え入れた。

 

「ゼロ少佐、どうも。さて、そろそろパナマ運河ですが……。いえ、やはり分かっておいでの様だ。」

「ええ、襲われるとしたら、この辺でしょう。まあ、パナマ運河そのものでは、襲って来ないでしょうが。」

「それはそうでしょう。あそこは重要施設ですし、連邦軍のMS部隊が警備してますからね。」

 

 俺はパイロット用のノーマルスーツに着替えながら、アボット少佐に受け答えする。とりあえず、用意しておくに越した事はあるまい。と、そこへレイラが戻って来る。やはりパイロット用ノーマルスーツ姿だ。

 

「少佐、「オニマル・クニツナ」隊と第01独立小隊すべてに、戦闘準備態勢を整えさせました。……あら?これは失礼しました、アボット少佐。」

「ああ、かまいません。いると思っていなかったのでしょう?」

 

 そんな事は無い。レイラも気配を読む事ぐらいは容易にできる。だが普通人にゃ不可能だしな。だから演技したまでだ。

 

「と言うわけで、俺とレイラ少尉はMSで待機します。申し訳無いのですが、これで……。」

「あ、少し待ってください。本題を忘れるところでした。いえ、危険な場所を抜けてからで良いのですがね。

 キシリア・ザビが、ゼロ少佐に会ってみたいと言っているのですよ。どうしますか?」

「いいですよ。」

 

 即答した俺に、アボット少佐は一瞬右眉を上げる。いや、それだけで済ませた自制心はたいしたもんだ、でもね。俺とレイラはあんたの感情が動いたの、はっきり感じたんだわ。ごめんなさい。

 

「理由を聞いても?」

「即答のですか?まあ、予測してましたからね。キシリアの心が折れてなかったら、そのぐらいのパフォーマンスはするでしょう。折れてたら、何も無いでしょうけれどね。」

「ふむ……。いや、失礼しました。ではご武運を。」

 

 ふふふ、縁起でもない事を言う。このおっさんは。ま、襲われる可能性が高いんだろうな。

 

「いえ、まだ戦闘待機ですから。何かあるとは……。」

「おや、そうでしたね。縁起でも無かったですな。では改めて、何事も無い事を……。」

「ありがとうございます。」

 

 俺とレイラは、アボット少佐に敬礼をする。向こうも答礼を返して来る。そして俺たちは、コンテナ内のMSへと歩き出す。

 

「なあ、アボット少佐だが……。警告じみた事、言ってたけどな。」

「警告なんじゃないかしら。」

「だがなあ。いくら俺たちに気付かれてると思ってても、確証も無しに言うか?あ……いや、確証を掴むためにカマかけてみたりとかかもな。」

「かもしれないわ。」

 

 ニュータイプ能力は、都合よく相手と同調や共振できるもんじゃない。それに俺の場合、ひどい頭痛と言うオマケまでついてくる。最近は短時間なら我慢と言うか、意識、精神から苦痛を切り離せる様になったけど。……都合よく、相手の心を読めたらいいのに。

 

 

 

 そして予想通り、パナマの旧パナマ県が終わる辺りで、俺の人工的ニュータイプ能力は敵の攻撃の意思を読んだ。

 

「「オニマル・クニツナ」隊!第01独立小隊!全MSは出撃、降下せよ!地上に降下後、各小隊は小隊長の指示に従い、フォーメーションを整える!ミデア改各機はMS降下後、旋回し現空域を離脱せよ!

 今回は、降下装備の無い戦闘指揮車0-0が戦闘に参加しない!ミデア改も空域を離脱する!戦術情報が限られる!その事を念頭に置いておけ!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 俺のアレックス3は、ミデア改1番機から大空へと飛び出す。部下のMSも次々に空中へ飛び出して降下した。はるか下の地上から、ビームや実弾が撃ち上げられて来る。だが、滅多にあたるものでは無い。……そのはずだった。瞬間、殺意が走る。

 

「なにっ!?躱せ、カレン少尉、ダミアン曹長!!」

『うわぁっ!』

『くうっ!』

「損害報告!!」

 

 俺の叫びに応えて、第01独立小隊のカレン少尉と、第4小隊のダミアン曹長が損害を報告する。

 

『こちらカレン少尉、ちくしょう!頭を撃ち抜かれた!メインカメラが!』

『こ、こちらダミアン曹長!左腕とビームキャノンを1門もってかれました!』

「くそ……。予想しておくべきだった……。」

 

 それ以上の損害は無く、俺の中隊と第01独立小隊のMSは地上に降り立った。そして俺のアレックス3の前には、1機のズゴックEがいる。奴も俺の事を感じ取って、俺の降下地点に急行してきたのだ。こいつがカレン少尉機とダミアン曹長機を撃ちやがったんだ。

 

「強化人間、か……。」

 

 つや消しの黒で塗装された、いかにもカスタマイズしてますと言う雰囲気のズゴックEは、無言で両手のクローを構えた。




あとちょっとでジャブローだと言う、パナマ上空あたりで、海から上陸してきたと思しきMS部隊に捕捉されてしまいました。しかも相手には強化人間が!おまけに戦闘開始前に、味方にダメージ!あげくに今回、戦闘オペレーターなし!
さあ、どうなる!


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狸と狐と強化人間と

 撃つ、撃つ、躱す、躱す、躱す、斬る、斬る……。何度繰り返しただろうか。だが、この敵強化人間パイロットの能力は恐ろしく高く、なんとか敵機の左腕を斬り落としたものの、こちらもシールドを敵のクローで失い、そして未だ決着はついていなかった。

 この敵は、技量自体はそこまで高いわけではない。なんとか高く見て、一流の中ほどだ。だが反射神経が動物的に高く、その上で人工的ニュータイプ能力でそれが増幅されていやがる。……肉体的な強化の度合いは、もしかして俺よりも上かもしれない。なんてこった。

 しかし、それでも分はこちらに有利だった。ニュータイプ能力では、こちらが高く、強化人間としての総合力ではほぼ互角。そしてこちらには一年戦争を潜り抜けて来た戦闘経験がある。

 この敵とやり合うために、全体指揮を次席指揮官であるユウに委譲せざるを得なかった。……大丈夫だろな?いや、ユウは指揮能力では俺をはるかに上回る。きっと大丈夫……。

 

『……!!』

『なんだぁ!?ちっ、了解っ!!こちら第3小隊フィリップ中尉!3-0だ!ユウの奴が強敵相手で身動きが取れなくなった!これより俺が全体の指揮を執るぜぇっ!』

 

 ……!?感じる!!あっちにも強化人間が!!こっちよりかは若干人工的ニュータイプ能力は弱いが、隠すのが上手い……。くそ!ユウとマリオンに頼むしか無いか……。

 2人も強化人間を投入してきてるだなんて、敵も本気だ。だが、焦るな、焦るな!こいつは強い!俺の方が強いが、それでも下手すればひっくり返りかねない差でしか無い!

 レイラ機がジム・ライフルで、乱入しようとしたハイゴッグを破壊する。ィユハン曹長機が、通常型ゴッグと撃ち合い、ビームキャノンで敵機を撃破するものの、シールドを1撃目のメガ粒子砲で破壊され、2撃目のメガ粒子砲で左腕を撃ち抜かれる。ああ、せっかく直したのに。

 俺は凄まじく動きの速い、黒塗りのズゴックEを撃つ。それを奴は躱す。そのハンドビームカノンが、コクピットの俺を正確に狙う。俺のアレックス3は、それを躱す。らちが明かない。ビームライフルのエネルギーも、そろそろ底をつく。

 と、ズゴックEから戸惑った様な気配が。そして突進してクローを突き出して来る。俺はアレックス3にビームライフルを捨てさせてビームサーベルを抜かせた。

 そして、ズゴックEは胸部のコクピット付近を穴だらけにされ、右腕を斬り落とされて大地に頽れる。勝負の決め手になったのは、いつものゼロ距離からの左腕90mmガトリングだ。俺のアレックス3は、頭部V字アンテナの片方を折られる程度で済んだ。

 敵パイロット、強化人間は絶命したのを確認している。だが俺は、強化人間の最後の……最期の絶叫をニュータイプ感覚で聞き、嫌な想像に囚われていた。

 

(やめて!おねがい、もう堪忍して!博士、マコー……。)

 

 この強化人間、女だったのか……。一年戦争ではジオン軍の女パイロットも大勢殺したから、その事については若干しか思う事は無い。まあ、若干は嫌な気分になるが。だが、この女……。最後になんて言いかけた?マコー……とか言いかけていた。まさか、「マコーマック博士」じゃないだろうな。

 くそ、今はそんな事気にしてる場合じゃない!

 

「敵機撃破!これより1-0が再度指揮を執る!」

『こちら3-0、了解!指揮権お返ししますぜ!報告!あと残ってるのは、ユウたちの所だけだぜっ!』

「了解だ!敵は異常に強力だ、1-0と1-1がこれより支援に向かう!それ以外は近づかずに残敵がいないか確認と警戒にあたれ!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 俺はレイラ機を伴って、ユウたちがいる戦場に向かう。勿論その前に、捨てたビームライフルを拾って行くのは忘れない。林を回り込むと、ユウたちが戦っているのが見えて来た。

 なんてこった、マリオン機は頭部を失って、しかしそれでもニュータイプの感覚で正確に支援射撃している。ユウの機体は左腕とジム・ライフルを失い、ビームサーベルで白兵戦をしていた。敵機は同じく黒塗りのズゴックEのカスタム機だ。右腕を失っている。

 ユウ機のビームサーベルが一閃!ズゴックEはそれをぎりぎりで跳んで躱した。だが、それがミスだ!俺のアレックス3は、ビームライフルでそのズゴックEを狙撃した。……!?

 今、ズゴックEは残された左腕を大きく振って、強引に1G環境下でAMBACを使用、ぎりぎりでビームを避けやがった。あれは、俺がG-3に乗っていた頃に、陸戦でよく使っていた回避方法……!!しかも動きまで精密にコピーされていた。まさかあのズゴックE、俺の戦闘データをコピーされてる?

 しかしレイラ機が、俺に呼吸を合わせてジム・ライフルを撃つ。さすがにズゴックEも、2度は躱せなかった。いや、俺だったらもう1度強引にAMBAC機動使って避けるが、俺はG-3時代そこまで追い詰められた記憶は無い。つまり俺の戦闘データには、2度連続して地上でAMBAC機動使ったデータは残っていない。

 腹部から胸部を撃ち抜かれ、俺に取って幸いな事に爆散はせずに、ズゴックEは駆動系だけをやられて動きを止めた。俺は個人回線で、レイラ、ユウ、マリオンだけに命令を下す。

 

「そいつは強化人間だ。たぶんマインドコントロールされてるから、降伏はしたくてもできんだろう。降りて行って捕らえるしか……!?離れろみんな!!」

『……!!』

『了解!』

『はいっ!!』

 

 皆の機体が後方にブーストダッシュで下がった瞬間、黒塗りのズゴックEは爆散した。しかも通常のMSの爆発よりも、規模が大きい。……証拠隠滅のための、自爆装置だろう。俺が先ほど倒したズゴックEは、自爆しなかった。と言う事は、あちらには証拠になる様な機材は搭載されていないんだろう。……「横流しされた俺の戦闘データ入り、制御コンピューター」とかな。

 俺は気分が重くなった。むざむざ証拠物件を失ってしまったのもそうだが、もう1つ気に入らない事があったのだ。

 

(あ……。ママだ……。きてくれた!ママ、きてくれたんだね!マ……。)

 

 こっちの強化人間の、最期の思念。……子供の物だった。

 

「くそったれ……。」

『……ゼロ。気を落とさないでって言っても難しいかも知れないけれど……。』

 

 個人回線で、レイラが俺に慰めの言葉をかけてくれる。そして彼女の思念が、一生懸命に俺を包み込もうと努力しているのが感じられた。レイラのニュータイプ能力は弱い。だが、それでも感じ取れるほどに、あの子供の強化人間の思念は強かった。だから彼女はすべて分かってくれているのだ。そしてその弱いニュータイプ能力を限界まで振り絞って、俺を支えようとしている。

 

「……もう大丈夫だ。ありがとう、レイラ。それより、お前は大丈夫か?奴を撃墜したのは、お前だろう。無理はするな……。」

『うん……。わたしは大丈夫。』

「そうか……。」

 

 一瞬、全天モニターに映るレイラ機に、通信モニターに映るレイラの姿に、俺は宇宙を見た。……宇宙に上がりたい。ふとそう思った。

 部隊の各員に報告をさせたところ、周囲に敵影は無く、安全が確認された。味方機で最大の損傷を被ったのはダミアン曹長のジム・キャノンⅡで、左腕を肩口から吹き飛ばされ、左肩のビームキャノンをえぐり取られた。

 またカレン少尉機とマリオン軍曹機は頭部を飛ばされて、ユウ機とィユハン曹長機が左腕を失っている。その他にも、シールドや武器を喪失した機体は多い。敵が乾坤一擲の気合いを込めて強力なパイロットを多数投入したとは言え、損害が多い。だが1人たりとて人員の喪失が無かったのは幸いだ。

 レイラが戦闘終了の通信連絡を入れて、やがてミデア改5機編隊が戻って来た。

 

 

 

 もっとも近隣の連邦軍基地である、パナマ運河警備隊駐屯地から兵を出してもらい、アボット少佐による尋問が終了した捕虜を引き取ってもらう。また、パナマ運河警備隊が持つ旧式ミデアを借り、強化人間が乗っていた黒塗りのズゴックEを回収してジャブローに運ぶ事になった。

 返す返すも、あのもう1機のズゴックEの自爆を許したのが惜しいと思う。証拠物件として、確実な物になり得ただけに。ちくしょう……。

 そんなこんなで、ぶーたれている内に、丸1日が過ぎた。旧式ミデアの速度に合わせても、あと2日後にはジャブローに到着する。今は南米にある小規模な連邦軍基地で、燃料補給を行っているところだ。と、アボット少佐がやって来た。そろそろ来ると思ってたんだ。

 

「ゼロ少佐、よろしいですか?」

「かまいませんよ。……例の事ですか?」

「例の事です。キシリアが、話したいそうです。お時間は?」

「大丈夫です。ただ、レイラ少尉が一緒でかまいませんね?」

「む……。」

 

 アボット少佐は一瞬詰まるが、頷く。俺とレイラは、アボット少佐に先導されてキシリアを監禁している部屋へと向かった。そして俺たちは、キシリア・ザビと向かい合っている。ちなみに、キシリアの監守兼護衛である、4人のゴツい女性兵士は、無表情のままキシリアを取り囲んでいたりした。

 

「……自分がこの部隊の指揮官、ゼロ・ムラサメ少佐です。キシリア・ザビ殿。こちらは自分の副官……。」

「……レイラ・レイモンド少尉、か。」

「!!」

「そうでしたね。貴女はフラナガン機関の後援者で設立の立役者、彼女の事は知っていてもおかしくないんでしたね。

 そうです。彼女は自分に「救出」され、連邦へ亡命して連邦軍に志願しました。紆余曲折あり、今は自分の副官です。」

 

 キシリアは、不敵に笑う。ただ、なんとはなしに儚げな物も感じさせる笑みだった。

 

「そうか……。わたしがキシリア・ザビ少将……いや、ジオン公国はもう無いのであったな。ドズル兄であれば、父デギンと自身がいる以上、まだ滅びてはいないと叫び続けるやも知れぬが……。

 言い直そうか。わたしがキシリア・ザビ元少将だ。」

「……それで、貴女は自分に何を仰いたいのですか?そちらが自分に会見を望んだ、と聞きましたが。」

「連邦の誇るニュータイプの1人に、会ってみたかったのが1つ。そして伝言を願いたかったのが、1つだ。まさか、自分の罪の象徴の1人と出会えるとは、思ってもみなかったが。」

 

 俺は苦笑を浮かべる。

 

「今、真の意味でのニュータイプなど、1人もいませんよ。自分とて、「ニュータイプ」ではありません。いるのはニュータイプ能力を持った、オールドタイプだけです。でなければ……。まあ、オールドタイプもあながち悪くはない物ですが、ね。

 いえ、それで伝言、とは?」

「……レビルに伝えて欲しい。そちらの情報将校でも伝わるとは思ったのだがな。細かいニュアンスまで間違えずに伝えるには、貴殿の方がいいと、そう思ったのだ。」

「……聞きましょう。」

 

 キシリアは、笑みを消して、はっきりとした口調で言う。

 

「レビルに伝えてくれ。「間違えるな」と。「踏み外すな」とな。……わたしたちは、誤った。兄ギレンの方針に賛同してしまった時点でな。……否。それだけではない。わたし自身も、誤った道を邁進してしまった。踏み外してしまった。

 手段を選ばない、とはある意味で泥をかぶる事を厭わぬ、勇気ある決断にも聞こえよう。手段を選ぶ余裕が無かったと、言い訳もできよう。だが違う。この1年、獄中で考え抜き、今更ながらに、それがわかった。」

「……。」

「妙な言い方になるが、「手段を選ばない」とは、その後に「手段を選ぶ」道を選べなくなる事なのだ。そうだな……。

 正道と、汚い手段と、2つの道があるとする。正道を進むものは、いざと言う時に汚い手段を選ぶ事もできる。だがいったん汚い手段を選んでしまった者が、正道を進むと言って、誰が信じる?手段を選ばない事は、単純な方法論としても、選択肢を狭める最後の手段なのだよ。」

 

 キシリアは、苦笑いを浮かべる。

 

「馬鹿だった……。自分が賢いと、信じ切っていた馬鹿ほど、始末におえん物はないと言うのにな。

 レビルに伝えてくれ。常に自らが正道を行っているか、自らに問いかけ、決して誤るなと。過ちを犯したならば、間に合ううちに軌道修正せよと。踏み外すな、邪道に頼るな、と。」

「……了解した。」

「おっと、ついでに付け加えるが……。わたしはまだ、「死んで」はおらぬ。レビルが過つ様であれば、たとえ獄中からでも、それこそ地獄の底からでも復活し、今度こそその首を取り……。今度こそ……。今度こそ、真にスペースノイドのために戦うとな。

 以上だ。」

 

 最後の言葉は、笑いを含んでいた。……一言一句間違えずに、レビル将軍に伝えよう。俺たちは、キシリアの部屋を後にした。

 

 

 

 連邦軍ジャブロー基地に、俺たちはようやく到着した。キシリアは、4人のゴツい女性兵士に連れられて、ミデア改1番機を降りる。一瞬目が合ったが、それっきりこちらを見もせずに、何処かへ連行されていった。

 そこへアボット少佐が近づいて来る。俺とレイラは、彼に敬礼をした。彼も俺たちに答礼を送って来る。

 

「やれやれ、想像していたよりも大変な旅でしたな。」

「……。」

「ジオン残党の強化人間が2人も出現した事になります。今後、我々がとてつもなく忙しくなりそうです。」

「間違いなく。自分の報告書は読んでいただけましたか?」

 

 アボット少佐は、眉を顰めつつ口を開く。

 

「貴方の戦闘モーション……。そのデータが盗まれて流用されている疑いが濃い、との事でしたね。しかも証拠隠滅のため、機体は制御コンピューターごと自爆、消滅。

 貴方とは機動がまったく違うもう1機が、自爆装置を組まれていなかったのも、その疑いを濃くする一因だと……。」

「きっちり調べてください。下手をすると、大変な事です。」

「一度レビル将軍にまで上げる必要はありますが、間違いなく調査命令が出るでしょう。その件についてはご安心を。

 それでは私はこれで。もし次回があるなら、貴方がたの様な精強な部隊とご一緒したいですな。できれば、貴方がたその物で。」

 

 俺は笑いながら、アボット少佐に向けて言葉を発する。ちなみに笑ってはいるが、目は笑ってない自信があった。

 

「自分の方は、正直ご免被りますね。自分を含めて、味方をトラップのエサに使う人物とは。」

「……ほう?」

「貴方は、いえ諜報部の上は、どこから情報漏れが発生しているか、早急に確かめる必要に追われた。そして各々違う人物に、今回の護送ルートの情報を流した。それぞれ、切れ切れに一部のルートの情報だけを。

 あとは簡単です。旅程の、どの部分で敵ジオン残党が待ち伏せているかで、誰が情報を漏らしているかわかる。まあ、情報を受け取っても動かない敵や、今回は情報を流さなかった者もいるかもしれませんが、少なくとも情報漏れルートの幾つかは、確実に特定できる。」

「……。」

 

 アボット少佐は笑顔のままだ。その下の感情は、だがけっこう激しく動いていた。

 

「それだけじゃない。あんた……。いざ奪われそうになったら、キシリアを自分の独断で消す用意もしてただろ。」

 

 口調をはすっぱにして、言ってやった。今度こそ、アボット少佐は驚いた。図星を刺されたのだ。顔は笑顔のまま動かなかったが。

 

「……ま、そんなわけですよ。ご自身の命さえ駒にしてしまう貴方といっしょでは、自分の命だけじゃない。部下の命も危うい。たまったもんじゃ、ありません。

 命令とあらば、仕方ありませんけどね。」

「たぶん次があるならば、命令になるとは思いますよ。

 しかし、全部見抜かれるとは思いませんでしたよ。」

「ほう?お認めになるので?」

「無論、冗談ですとも。わたしの同僚には、こう言った場合鉄面皮で黙秘する者とかもいますがね。わたしはこうやって認めてしまう事にしてるんです。無論、全部冗談ですけどね。」

「ははは、なるほど。」

 

 疲れる男だった。俺は彼に敬礼を送る。レイラもそれに倣った。彼も答礼を返して来る。

 

「そろそろ失礼いたしますよ。自分個人としては、次にこの様な危険極まりない任務の時には、ぜひ貴方がたの部隊にお願いしたいです。と言うか、権限が許す限りで指名いたします。

 それでは。」

「それでは。」

 

 アボット少佐は、近場の軍用エレカ置き場まで歩いて行く。あそこでエレカを借りて、諜報部の入っている建物まで行くつもりなのだろう。

 

「やれやれ、ありがた迷惑だ。」

「ほんとね……。」

 

 5機のミデア改と、借りものの旧型ミデアから、「オニマル・クニツナ」隊のMSや備品、第01独立小隊のMSや備品、そして鹵獲した敵強化人間のズゴックEのカスタム機などが運び出されて行く。その確認作業と書類仕事が終わったら、ツァリアーノ大佐とレビル将軍に報告に行かねばならない。

 だがなんとか今回も、1人の犠牲も出さずに終わる事ができた。俺はごりごりに凝った肩を、ぼきぼきと音を鳴らして回す。流石に疲れたが、平の部隊員たちとは違い、俺と副官と小隊長たちはまだ休めない。やれやれだ。

 

「今日はお茶うけに、何か凝った物を作るから期待しててね。少佐どの?」

「お。そりゃ楽しみだな。うん。」

 

 その言葉を聞いたとたん、俺の思考は既にお茶うけの菓子の事でいっぱいになっていたりする。そうと決まれば、さっさと仕事終わらさないとな!




ジャブローに到着です。でもレビル将軍への報告は、次話に回しますね。
ところで、タイトルが「狸と狐と強化人間と」ですが、順番は逆ですね。強化人間→狐→狸の順でした。
しかし、ユウが全力を発揮できないのはキツいですねー。あとマリオンもそろそろ機体能力の限界まで使い切ってる感じ……。この2人に、何か新型機を……。アレックス級のを……。そう考えてるんですが、なかなか候補が。いえ、ユウの方はもう決定しましたが、マリオンの新型機がなかなか。
それでは次回をお楽しみに。


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再びの宇宙へ

 執務室で、レビル将軍は難しい顔をしていた。俺の報告を受けて、考え込んでしまったのだ。

 

「ゼロ少佐の戦闘データを移殖されたらしきスゴックE……。しかし、自爆装置で証拠は隠滅された、か……。」

「一年戦争中に、アムロ曹長……現候補生の、RX-78-2ガンダムのデータをRGM-79ジムのコンピューターに移殖してOSを強化した事があったはずですが、それと同様の技術かと。」

「ゼロ少佐のデータを持って行ったのはマコーマック博士……。こちらにも原本のデータはある事はあるが、そのままでは使えない未処理の生データだ。ますますニュータイプ研への疑いは、濃くなったな……。」

 

 ニュータイプ研の内偵調査は、順調に進んでいる。あと少しで、確証が得られると言う所まで来ているのだ。確証が得られれば、一気に内部査察を行い、証拠を押収する。そして違法研究の咎で研究員や所長を逮捕できるのだ。

 更にレビル将軍の命に反し、強化人間を追加で「制作」あるいは「生産」していた場合はもっと重い罪に問える。またはデータを横流ししていたり、あるいは最悪な事に強化人間そのものを外部提供してデータを取ったりなどしていた場合は……その相手如何に関わらず、国家反逆罪で逮捕できる。ましてや相手がジオンの残党だったりすれば……。

 

「だが強化人間の件、まだ完全にニュータイプ研のしわざと決まった事ではないのが歯がゆいな。」

「たしか、諜報部の者たちがフラナガン機関に突入し、被験者を救出した際に……。研究データを奪取もしくは破棄、被験者は全員救出できたものの……。」

「うむ。彼らは目的を最低限達すると、撤退せざるを得なかった。警備の兵士や妨害する研究員程度は彼等でも倒せたが、専門の戦闘部隊が来れば彼らでは太刀打ちできん。それが来る前に撤退したので、生き残りの研究員が多数おるはずなのだ。

 終戦後、あらためてフラナガン機関は接収したが……。研究員の数は……。」

 

 将軍と俺は、少しの間黙り込む。

 

「最悪の予想をしてしまった顔をしておるぞ。」

「はい。生き残りの研究員と、ニュータイプ研が接触していたなら……。」

「うむ……。」

 

 俺たちは暗い顔になった。ニュータイプの能力で感じ取れる将軍の感情……今は隠していないが、それも重苦しい物を感じさせる。だが将軍は、頭を振って気持ちを切り替えた様だ。

 

「ところで、諜報部の報告書によれば少佐、君はキシリア・ザビより伝言を預かったそうだが?内容は報告書にも別紙で添付されておったが、まずは君から聞こうと思ってな。そちらは読んでおらんのだ。」

「はい。では……。」

 

 俺はキシリアが話した内容を、一言一句違えずにレビル将軍に話した。……あれ?俺ってこんなに記憶力良かったっけ……?そういや、この疑問は士官学校在学中にも何度か……。俺ってこんな頭良かったかって……。それでも他の候補生になんとか並ぶ程度だったが。

 ま、まあいいや。間違えずに話せた事が、まずは重要だ。

 

「うむ……。そうか、キシリアがな……。」

「はい……。」

「ふう……。戦前に……。開戦前に、気付いていてくれれば、な。いや、色々と不満は持っておっても、今まで何もできなかった……。しなかった……。わたしの言える事では無いが……。

 それでも、開戦前に気付いてくれていたなら……。」

 

 俺は、何に対する不満が将軍にあったのか、などとは訊かなかった。当然ながら、地球連邦政府の方針に対する不満である事は百も承知、だからだ。その不満は、『私』と『俺』が完全融合を果たしてからの1年と少しで、むくむくと俺の中にも育っている。

 自分でも、自分のキャラがブレブレだとは思うが、けっしてブレない人間なんていないと思う。色々派手な経験もしたし、『俺』『私』の融合もしたし、仕方ないだろー!

 でも、レイラを好きで、愛してるのは本当だ。そこはもうブレないと思う。それに元フラナガン機関の子供たちを不憫に思い、応援してやりたい、あいつらの道を切り開いてやりたいと願っているのも本当だ。俺だけでは手に余る仕事だが、皆で協力すれば、なんとか……。

 あと世界の痛みを少しでも少なくしたいとも思っているが、それはそれこそ、俺だけでは手に余る。レビル将軍を少しでも助けて、その力になれれば、あるいは。あとは以前共振現象を起こして共感したニュータイプ能力者たちの協力があれば……。

 そう言えば、そのうちの1人であるバージル、今どうしてるかな。北米の士官学校入ってるはずだが……。

 

「……さて、話は変わるが。君から幾度も申請のあった、ガンダムNT1アレックスに比肩するMSの、ユウ・カジマ中尉への支給なのだが……。頭の固い連中の説得に、ようやく成功したのでな。承認しよう。」

「それは!助かります。カジマ中尉も喜ぶでしょう。機体は何を?」

「いや、わたしの予備機として死蔵されていた、アレックス2だ。アムロ君の乗機であった、あの機体だよ。」

「ありがとうございます、将軍!」

 

 正直、すごく助かる。ウィリアム整備長には文句を言われるかも知れないが、アレックスを2機揃えておけると言う事は、整備上でも色々融通が利く。あとは、そろそろ限界に達しつつあるマリオンの機体なんだが……。

 

「それとだな。最近新型機として採用された、RGM-79RジムⅡとRMS-106ハイザック……。だがコストはともかく、性能的に僅差でジム・カスタムに劣る。そのため君の部隊への配備は躊躇しておったのだが……。

 RMS-106CSハイザック・カスタムの先行量産機1ロットがロールアウトした。これを君の部隊のジム・カスタムおよびジム・キャノンⅡと差し替えようと思う。」

「はっ。了解です。」

「それと君から以前提案のあった、ムーバブル・フレーム機の開発だが……。これについての研究は、既に一部で進んでいたよ。もっとも機体の全てではなく、腕部など一部に使用する程度だが……。

 全身に使用するには、更なる研究が必要な様だ。フランクリン・ビダン技術中尉の論文だ。」

「そうでしたか……。」

 

 ため息を吐いて、レビル将軍は頭を振る。

 

「フランクリン・ビダン技術中尉は、今の所アナハイム・エレクトロニクスに出向しておる……。アナハイムの戦後の膨張を抑えるべく、色々行ってはきているのだが、かんばしくない。おまけにビダン技術中尉はコリニー派閥に近い人物だ……。なんとかこちらに取り込みたいのだがな……。」

「は……。」

「コリニー派閥と言えば、もう1つ。ツァリアーノ大佐から、話は聞いたよ。ベルファスト基地で、スペースノイド出身士官やらスペースノイドに対して穏健な将兵らが、肩身が狭くなっていると言う事だな。司令官はカメロン・コネリー少将だったな……。

 ベルファスト基地に関しては、現状こちらの派閥に取り込むことは困難だな。対ジオン残党に関しては協力できるが……。迫害されている将兵に関しては、ツァリアーノ大佐と相談して手を打つ事にしよう。」

 

 と、ここでレビル将軍の顔が引き締まる。俺も、顔を引き締めて直立不動の姿勢を取った。

 

「ツァリアーノ連隊第01独立中隊「オニマル・クニツナ」隊に命じる。明後日の7月1日、貴官らはシャトルにて地球連邦軍宇宙基地ルナ2へ赴け。

 その後貴官らは、改ペガサス級強襲揚陸艦ブランリヴァルを旗艦とする第42独立戦隊へ合流し、機種転換と空間戦闘の訓練に入れ。」

「了解いたしました。訓練期間はいかほど……?」

「42に合流後1週間以内ならば、あえて期限は設けん。ただし可能ならば、部下を早目に仕上げてもらいたい。重要な任務を与える予定なのでな。だがだからと言って、部下が新型機や宇宙空間に不慣れなままでは困る。見極めは任せる。」

「はっ。了解です。ところで、その重要任務とは?」

 

 将軍は頷き、そして言った。

 

「一年戦争のソロモン宙域でのとき、あの精神世界で君に見せられた未来……。デラーズ・フリート本拠地、『茨の園』になる予定のサイド5暗礁空域……。いや、今頃は既に完成しておるやも知れんな、『茨の園』は……。

 訓練が完了次第、君の部隊と第42独立戦隊には、『茨の園』推定宙域を含むサイド5暗礁空域の偵察任務を与える。宇宙でのジオン残党の動きから言って、まずあそこに拠点があるのは間違いないが、君たちにはその確証を掴んで欲しい。」

「了解しました。至急、宇宙へ上がる準備を命じます。」

「うむ。この偵察の結果で、連邦軍の将来の動きを決める事になる、重要な任務だ。頼むぞ。

 これが命令書だ。内容は今語った事と変わりないが、一応目は通しておいてくれたまえ。では下がってよろしい。」

 

 俺は命令書を受け取ると、レビル将軍に敬礼をする。レビル将軍も、答礼を返して来た。俺は将軍の執務室を退室すると、急ぎ自分の執務室へ向かう。宇宙へ上がるための書類を整えねばならないのだ。

 

 

 

 ツァリアーノ連隊第01独立中隊、「オニマル・クニツナ」隊は、宇宙へ上がった。今、俺たちのシャトルはルナ2へ入港しつつある。シャトルは1隻じゃない。中隊全員のMSを含む機材も積まれているのだ、1隻じゃあ足りない。4隻だ。1隻につき、1個小隊の人員と機材が詰め込まれている。

 

「ルナ2も、1年以上来てないのか……。」

「わたしはだいたい、1年ぶりね。」

「手紙は時々来るが、それじゃわからない事もあるからなあ……。元気だといいんだが。」

「そうね……。」

 

 俺とレイラが話しているのは、当然の事ながらフラナガン機関から救出された子供らの事だ。やつら手紙は定期的によこすが、なにせ子供の書く手紙だ。楽しそうにやっているのは分かるんだが、細かい近況と言う点ではわかりづらい。クスコ軍曹の手紙もあるのだが、さすがに13人もいると1人1人の事は細かく書けないし。

 やがて俺直卒の第1小隊が乗ったシャトルが、定位置に固定された。俺たちはそろぞろと、シャトルを降りる。今は標準時でイチロクマルサン……16時03分だ。第42独立戦隊が入港して来るのは、明日正午の予定なので、到着の報告と書類仕事を終えたら、それまでヒマができる。あの子供らに、会いに行く時間がとれれば良いんだが。

 

 

 

 ルナ2司令、ワッケイン中佐に面会して到着の報告を済ませた後、レイラと一緒に一生懸命になって、書類仕事を終わらせる。その結果なんとか夕飯前には時間が取れ、俺とレイラは焼き菓子を土産に子供らのところへ向かった。あらかじめ、クスコ・アル軍曹には電話連絡を入れてある。向こうは急な事で驚いていたが、嬉しそうだった。

 

「おう、来たぞ。ハリー、ケイコ、ジェシー、アルジャノン、カール、ブレット、ハワード、アーヴィン、リサ、ルーシー、メイジー、ニコラ、ルビー。お前らしばらく見ないうちに、でかくなったなあ、ははは。」

「ほんと。子供は成長が早いって言うけれど……。みんな、いい子にしてた?」

「あ!レイラさんと中尉さ……少佐さんになったんだよね、ごめんなさい!」

「あははは。少佐さんに、それは失礼だろー?」

 

 あっと言う間に、俺たちは子供らに取り囲まれる。クスコ軍曹が、笑いながら敬礼をしてきた。ユウ中尉とマリオン軍曹が先に来ており、彼らも敬礼をしてくる。俺たちも答礼をした後、クスコ軍曹に話しかけた。

 

「久しぶりだな、クスコ軍曹。元気だったか?これ、土産の焼き菓子。」

「ありがとう。ええ、一応ね。この子らも、大人しいし。ただ、オヤツ時は騒がしくなるけどね。

 ところで、半年前だかにもらった手紙では、付き合ってるのよね、あなたたち。式には呼んでよね?」

「うふふ。式だなんて、気が早いわよ。」

「そうでもないわ。わたしの周りでも、寿退社……。軍だから、退社とは言わないか。戦争も終わった事だし、結婚ラッシュだったわよ。おかげで忙しいったら。手が回らないときに子供ら見ててくれた、ウィッキンズ育児官には、頭が上がらないわ。」

 

 ああ、そう言えばジャブローでもコーリン育児官とかいたなあ。ジャブローはあれだけでかい基地だから、将兵の子供らも大勢いるしな。育児センターとか、あるんだよな。ルナ2も同様か。

 式……結婚式かあ。

 

「俺たちも、結婚したいはしたいんだけどな……。」

「わたしたちの様な部署にいるとね……。わたしたちの戦争は、終わって無いのよね。」

「そ……っか。そうだよね。わたしの方でも、ごく稀だけど、出戻って来る娘がいるもの。旦那が撃墜だか撃沈だかで……。表面的には平気な顔取り繕ってるけど、内面じゃ泣いてるのが感じられてさ……。

 自分がパイロットの技能を最低限とはいえ持ってるのに、後方でのん気にオペレーターやってるのが、ちょっと気が重くなったりね。あはは、はぁ……。」

 

 雰囲気が暗くなった。クスコ軍曹の重くなった気持ちを、俺とレイラ、マリオン軍曹は否応なしに感じ取れてしまう。ユウの様にニュータイプ能力を持たない者とて、そうやって暗くなってしまった雰囲気を感じる事ぐらいは可能だ。

 そんな時、子供らの1人、メイジーがクスコ軍曹の手をぎゅっと握り締める。それを皮切りに、子供らがわらわらとクスコ軍曹の周りに集まった。クスコ軍曹の心が、たちどころにほぐれて行くのが分かる。

 俺はメイジーに訊いてみた。

 

「なあメイジー、いつもやってんのか?ソレ。」

「うん!クスコさん疲れてるときとか、気持ちが重くなってるとき、こうすると元気になってくれるんだよ!」

「そっか……。えらいぞ。皆もな。」

 

 元気を取り戻したクスコ軍曹が、皆に号令をかける。

 

「さて、夕ご飯だよ!今日はたまにしか来られないお客もいる事だし、少しはりこんで、いいもの食べようか!」

「あ。今日は俺のカードで奢るよ。ユウやマリオン、レイラの分もな。この中で、一番高給取りなんだし。」

「そう?ありがとうね!」

 

 いや、実はわかっているのだ。子供たちの生活費はきちんと出ているのだが、最近物価が上がったり、子供たちの食べる量が成長に伴って増えたりで、初期に算定された給付額では足りなくなってきているのである。足が出て彼女の持ち出しになった分は、領収書を提出すれば戻って来るが、戻って来るまでの間クスコ軍曹の財布は寂しい事になるのだ。

 と言うわけで、俺たちは食堂へと向かう。

 

「そう言えば、サイド1ザーンでは比較的損傷軽微だったコロニーをニコイチで再生したりして、復旧が始められてるらしいね。あそこのロンデニオン・コロニーには、大掛かりな連邦軍基地も置かれるらしいし。」

 

 その台詞にかぶせて、クスコ軍曹が念話を送って来た。一瞬驚いたが、子供たちのニュータイプ能力は、現状そこまで高くない。思念での会話を、傍受は難しいだろう。……つまり、子供たちにあまり聞かれたくない話なのか?

 

(ワッケイン司令から、ロンデニオン・コロニーが修復完了したらそこの軍事基地に移らないかって、打診されてるのよね。子供たちとわたしを確実に守るためらしいんだけど……。

 そんなにきな臭いの?今の状況は。)

(……ちょっとな。きな臭い。レビル将軍と諜報部が色々調べてるんだが、尻尾はなかなか掴めなくてな。)

(……わかったわ。その話受けることにしましょ。まったく……。いっその事、パイロットに転向しようかしらね。そしたら、あんたらの部隊とかに引っ張ってもらえないかしらね。そうすれば、政治的には安心でしょ?

 ああ、でも子供たちと離れちゃうのか、そうなると。)

(殺し合いは、できるなら慣れない方がいいぞ。ただし前線に出ると、どうしても慣れなきゃ潰れちまうがな。貴女には、子供たちの事をお願いしたいし。)

(……そうね。)

 

 そして俺たち大人5人、子供ら13人の総勢18人は、ルナ2PXの飲食スペースへと乗り込んで行った。

 

 

 

 ルナ2宇宙港に、第42独立戦隊が入港してきた。第42独立戦隊は、旗艦として改ペガサス級強襲揚陸艦ブランリヴァル、僚艦としてサラミス改級宇宙巡洋艦キプロスⅡ、グレーデンⅡ、そしてネルソン級MS軽空母ネルソンから成る。

 ちなみにサラミス改は、正史におけるこの時期のサラミス改とは違い、MS1個小隊を搭載して運用が可能だ。正史では、この時期のサラミス改はΖガンダム時代のサラミス改と異なり、MS運用能力は無かったはずだ。俺は思う。『ギレンの野望』系世界の艦だなあ。

 だが俺が知る限りでは、『ギレンの野望』には登場していない艦種もある。ネルソン級MS軽空母だ。これもまた、サラミス艦の改装型である。たしかMSVだかMSV-Rじゃなかったか、これの登場は。

 サラミス改級が最大3機1個小隊のMS搭載数なのに対し、こちらは火力面では劣るが最大6機MSを搭載できる。更にMSを搭載できる艦体両舷側のカーゴベイは、前方にスライドして容積を拡大できるシステムを備えており、これによりこの艦は輸送・補給艦としても働けるのだ。

 これほどまでに野心的な構造を持った艦なのだが、汎用性が思った程度では無かった様だ。実際に使う上では、汎用性はペガサス級や改ペガサス級の方がはるかに上であり、汎用に使うのでなければサラミス改級の方が使いやすかった、というわけだ。

 この第42独立戦隊において、ネルソン級ネルソンはMS軽空母としてではなく、艦隊に随伴できる航行速度を持った輸送・補給艦として使われている。同時に、艦隊に搭載されているMS隊の整備や修理も受け持っている。旗艦のブランリヴァルでは間に合わない分を、補っているのだ。

 

「さて、行くか。」

「了解です、少佐。」

 

 俺とレイラは「オニマル・クニツナ」隊隊長とその副官として、ブランリヴァル艦長兼、第42独立戦隊提督に挨拶するため、宇宙港にやって来ていた。と、ブランリヴァルやキプロスⅡ、グレーデンⅡから運び出されて行くMSが目に付く。

 

「……やられてるな。」

「……ひどい状態ですね。」

 

 手足を失ったジム改が、何機も運び出されて行く。小隊長機や中隊長機と思しきジムスナイパーⅢやジム改高機動型も……!?

 

「コクピット部分を貫かれてるな……。溶融具合からして、ヒート剣やヒートホークじゃなく、ビームサーベルか。」

「あれでは……。パイロットは……。」

「……行こう。」

 

 俺たちはブランリヴァルの乗降口へ向かった。

 

 

 

 ブランリヴァルの廊下でも俺たちは、重傷を負って艦を降りる、ストレッチャーに乗せられた状態のパイロットや、同様にストレッチャーに載せられて運び出される死体袋も見た。その後俺たちは、案内してくれるためにわざわざ出向いてくれたブリッジオペレーターの軍曹に連れられて、ブランリヴァルのブリッジへ上がる。

 

「自分はレビル将軍直属部隊であるツァリアーノ連隊所属、第01独立中隊、通称「オニマル・クニツナ」隊隊長のゼロ・ムラサメ少佐であります。こちらは自分の副官の、レイラ・レイモンド少尉です。」

「レイラ・レイモンド少尉であります。」

 

 俺たちの敬礼に応え、初老の中佐が答礼を返して来る。

 

「うむ……。私がブランリヴァル艦長兼、第42独立戦隊提督のバスティアーン・デ・フリーヘル中佐だ。もっとも……。今、この瞬間までの話だがな。」

「「は……?」」

「実はな、今回の戦闘中に狭心症の発作が起きてな……。艦を降りて治療に専念せねばならなくなったのだ。治っても、再び艦に……いや、普通の宇宙船にすら乗れるかどうか。ふっ……。

 貴官らも、健康診断は受けておいた方が良いぞ。」

 

 中佐の言葉はおどけていたが、その裏にある身を切られる様な寂しさを直接感じられる俺たちには、たまらない物があった。だが中佐は気を取り直し、凛とした声で言う。

 

「副長、ここに来たまえ。彼が艦の指揮権を掌握した際、全ての艦の艦長で階級的に最上位であったため、私が倒れた直後から艦隊の指揮権をも代行した。我々のMS隊は、彼の指揮のおかげで、かろうじて全滅を免れたと言っていい。彼が今後、新しい艦長兼、提督だ。紹介しよう、ブライト・ノア少佐だ。」

「はっ!先ほど少佐に昇進したばかりですが、よろしくお願いします。ゼロ少佐。」

「……!!……ああ、自分の方が先任将校ではあるが、職分としてはそちらが重い。我々としては、そちらの指示に従うし、付き合いでは君、俺ではどうかと思うが、どうか?」

「……そうしてくれれば、ありがたいな。ゼロ少佐。」

 

 不敵に笑うブライト新艦長。そうか、士官候補生のまま急遽任官したんで、単位が足りない分を学校に舞い戻って勉強してたと聞いたけど、その間ホワイトベースを空き家にしておくわけにもいかないもんな。ブランリヴァルの副長になってたのか。

 なんにせよ、驚いた。唖然とした。はっはっは。……しかし、これは心強いな、と俺は内心で強く思った。




突然ブライトさんが艦長です。今まで大尉として、副長やってました。他の僚艦の艦長は、中尉だったりしたので、ブライトさんが第42独立戦隊の指揮権を掌握したのですねー。
しかしブライトさん、どうしてこう縁起の悪いナンバーの戦隊の指揮官になるんでしょうね。前は13番。キリスト教的には最悪の番号です。そして今度は42(タヒに)番です。


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訓練完了

 宇宙空間を、単眼のMSが飛翔する。俺のアレックス3の左右を護るような位置に付いて飛ぶのは、新型機RMS-106CSハイザック・カスタムだ。右の機体はレイラが、左の機体はィユハン曹長が操縦している。

 

「2人とも、随分と機体に慣れた様だな。」

『はい。良い機体です。』

『ええ……。外観以外は。』

「ボヤくな。ジオン系技術と連邦系技術のハイブリッド、ハイザックの上位機だからな。今の連邦では俺たちにあてがうMSとして、それしか選択の余地が無かったんだ。」

 

 もっとも、ゲリラ掃討が主任務の「ファントムスイープ」隊には、今頃RX-78AV-R量産型ガンダム改が配備されているはずだったり。RX-78系のガンダムが3rdロットまで生産され多大な戦果を上げた事で、簡易量産型ジムの他に正式量産型にも弾みがついたのだ。だが逆に、RX-81系のジーラインタイプはこの世界では姿を消している。

 ちなみに量産型ガンダム「改」と言うのは、リニアシートと全天モニター、センサー各種を追加され、近代化改修を施されているからだ。……MSが戦場に登場したのが0079、今は0081半ば過ぎ。たった2年半しか経過してないのに、「近代化」改修とは、凄い技術開発のスピードだな。

 ちなみに俺のアレックス3とユウのアレックス2も、近代化改修とやらは為されており、全天モニターとリニアシート、アビオニクスは最新型に改められ、センサーも追加されていたり。ここまで来れば機体番号に「R」の文字が付いてもよさそうなものだが、変更はされていない。

 ……「ファントムスイープ」隊、か。「水天の涙」作戦、ジオン残党はやるのかなあ。マスドライバー基地の警備は厳重にするって話だったが……。トリントン基地からルナ2への核弾頭および核爆弾の移送も、もうすぐ実現するからな。それの護衛も……。くっそ、戦力足りねえ……。

 

「上に来るに従って、悩むべき事が増えるなあ……。上方45度、1時方向!!」

『『了解!』』

 

 俺が指示した方向から、こちらを攻撃する意志の「線」が走る。殺意、というほどでは無い。俺はそれを躱す。レイラもその意志の「線」を見る事ができた様で、回避する。ィユハン曹長は、ランダム回避だがしかし命中弾は無い。

 

「狙いが甘いぞ、クリス少尉!」

『不意をつけたと思ったんですが……。』

 

 まあ、それこそ甘い。いや、ニュータイプ能力による勘頼りなので、大きな事は言えないんだが。しかし例えば俺が士官学校行ってた当時の同期、ジーニー中尉だったら、戦術的判断で不意打ちは食らわないだろう。そう、今は第4小隊相手に、模擬戦の真っ最中だったのだ。

 そして、レイラとィユハン曹長のハイザック・カスタムが、ビームランチャーの砲身下に取り付けられているレーザー発振器から、訓練用のレーザーをガンガン打ち上げる。クリス少尉たちの機体は必死で躱しているが、2人の狙撃は正確だ。クリス少尉機の左脚が破壊扱いとなる。俺のビームライフルは、まだ射程距離外なので、撃てないんだコレが。

 あれ?今までなら一番に脱落しているウェンディ伍長機が、一撃もくらってない?

 

『あう!きゃー!ひー!』

 

 叫びながら、しかしレイラ機とィユハン曹長機の射撃が見えているかの様に躱してる。ランダム回避じゃない。操縦技術がいまいちなので、多少かすっている様だが。まさか……。これは後で「試し」てみるか……。

 それはともかく、ビームライフルの射程ぎりぎりに入ったので、撃つ。

 

「そこだ!」

『ぐ……。自分は撃墜されました。離脱します。』

 

 第4で一番の腕利き、ダミアン曹長機が俺の射撃でドロップアウトする。一年戦争を潜り抜けて来た凄腕なんだが、すまん、残り2人はなんか無意識にお前さんに頼りすぎてるんでな。あいつは機種転換訓練も充分だし、空間戦闘も経験者だし。今以上に腕を上げるには、この訓練はヌルいからな。あとで希望するなら、タイマンでつきあってやろう。

 俺たち第1小隊は、一斉に残り2機になった第4小隊に襲いかかって行った。

 

 

 

 あの後、ダミアン曹長を本人が望む通りに徹底的にタイマンで猛訓練した。そしたらクリス少尉もウェンディ伍長も、自分たちにも訓練つけてくれと頼んで来たので、遠慮なしに絞ってやった。その後、ィユハン曹長とレイラも。……いくら俺でも、さすがに疲れた。

 ちなみに俺たちの猛訓練を見てたユウたち第2小隊、フィリップ中尉の第3小隊も発奮し、猛訓練した様だ。ブランリヴァルに戻った後で、ユウたちが機体をもっと労われとウィリアム整備長に怒られてるの見たから、間違いないだろう。俺たちも怒られたけどな。

 ちなみに第3、第4小隊が乗っているのはブランリヴァルではなく、キプロスⅡとグレーデンⅡだ。ブランリヴァルには第1と第2が乗艦し、第1と第2用のMSの他に予備機のハイザック・カスタムが2機搭載されている。キプロスⅡには第3、グレーデンⅡには第4だ。

 で、だ……。

 

「少佐もそうお考えに?」

「ああ。ウェンディ伍長はたぶん間違いなく。あともしかしたら、だが第3のブリジット伍長も、「見えて」「躱して」る様に思ったな。本人たちが意識してるかは不明だが。ユウからの報告だと、マリオンも同意見だそうだ。」

 

 もっともブリジット伍長の方は、遠目でちろっと見ただけだったが。互いの邪魔にならん様に、かなりはなれた場所で訓練してたからなあ。……たぶん、あいつら2人はニュータイプ能力者へと覚醒を始めている。今のところその力は、フラナガン機関で能力が低いとされていたレイラにも及んでいないが……。

 

「で、覚醒を始めた「例の能力」を計算に入れて、クリス少尉とほぼ同等にまで総合力は上がって来たな、ウェンディ伍長。クリス少尉はクリス少尉で、射撃能力と反射神経はかなりな物だ。MSの格闘戦は、まだまだなんだが。

 フィリップ中尉からの報告だと、第3小隊は今までは、万能型のフィリップ中尉、接近戦型のアンドルー軍曹、それを支援する狙撃型のブリジット伍長と言うバランスのいい組み合わせだったんだが……。今は全員が万能型に近いらしい。特にブリジット伍長の伸びが、MS格闘戦の分野で著しいってな。」

「……わたしも頑張らなくちゃ、いけませんね。「例の能力」が低い分、操縦技術を高めないと……。」

「だからと言って、無理はするなよ?

 ……第2小隊について報告書じゃちょっと分かりづらい点あるなあ。ユウに直接話を聞きにいくか。」

 

 俺たちは、第1小隊のMSが格納されている右舷デッキから、第2小隊のいる左舷デッキへと移動する。……なんだ、ありゃ?1人の軍曹……コーリー軍曹だが、自分の乗機のハイザック・カスタムを親の仇でも見るかの様な目つきで睨んでいる。

 あ、そうか。この娘はジオン恨んでたっけな。それでザクの面影を色濃く残した、って言うかザクそのものに見えるこの機体を……。あー、だがなあ。配備決めたのは上の方だし、文句言われたりしても、困るぞ。

 

「……あー、コーリー軍曹。」

「あ、中隊長!レイラ少尉!」

 

 俺とレイラに気付き、彼女は敬礼して来る。俺たちは答礼を返した。

 

「コーリー軍曹、気持ちはわからんでも無いが、自分の乗機なんだし大事にしてやれよ?機械とは言え、大事にしてやれば、何かしら返ってくる物だってある。逆に粗末な扱いをしていると、それはそれで返ってくる物がある。」

「あ、いえ!このMSが自分の乗機だと言うのはもう納得しているんです!同じ事を小隊長、ユウ中尉にも言われ……言われ?ましたから。」

「あら……。じゃあ何故?」

 

 レイラの問いに、コーリー軍曹は笑う。なんと言うか、底冷えのする笑いだった。

 

「いえ……。このザクそっくりの機体がジオン残党を蹂躙していくところを思い浮かべて……。奴らからすれば、皮肉そのものですよね。ジオン系技術を注ぎ込まれた、ジオンの象徴とも言えるザクそのものであるこの機体が、敵に回るんですから……。

 うふふふふふふふふふふふふふふ。」

 

 怖いわい。やめてくれ、その笑い。頼むから。まあ、何にせよ彼女はそうやって、自分の気持ちに折り合いをつけたわけか。

 お、ユウが来た。マリオンも一緒か。2人は俺たちに敬礼をし、俺たちも答礼をすると言う何時もの挨拶。で、俺が話を聞こうとする前に、ユウの方から話しかけて?きた。

 

「……。」

「あー、そうか……。ハイザック・カスタムになって少しは余裕が出たと思ったんだがな。」

「……。」

「しかし、アレックスはあとは将軍のアレックス1しか無いんだ。あの人はちょいちょい自分で出撃するから、その時に使ってるんだよな。」

「……。」

 

 そうかー。マリオン、宇宙に出た事で本領発揮しちまったか……。ハイザック・カスタムでも間に合わんかあ……。マグネット・コーティングされてるから、壊れる事は無いが、パイロットの能力を全て活かす事は無理、か。

 しかし、アレックス級を配備したいと言われても、無い物は無い。せめてG-3ガンダムは無いかと言われてもなあ。

 今G-3ガンダムが実動してるのは、連邦陸軍ヨーロッパ方面軍のディック・アレン少佐機、連邦宇宙軍コンペイトウ方面軍教導隊のデリス・ハノーバー中尉機、同宇宙軍ア・バオア・クー方面軍教導隊のロン・コウ中尉機の3機しかない。ちなみに近代化改修はきちんとされており、全天モニターとリニアシートを設置した代わりにコア・ファイターが排除されてたり。

 あとG-3仕様機は、ユウが戦後少しのあいだ乗ってた2ndロットのガンダム8号機なんだが……。あれ、もう原型ないんだよな、実験機として改修に改修重ねられて。無論実用にゃ、なりはしない。3rdロットの9号機から18号機までの10機も、今じゃ研究用として色々いじくりまわされてて、実戦用にはならん。

 実戦用になりそうなのは、6号機マドロックと7号機なんだが。マドロックはエイガー中尉が使用してるし、アレはホバー移動するから移動力には優れてるが、細かい機動性は劣る。マリオンには向かん。7号機は、アレはアレでフルアーマー実験機だ。

 ……そう言えば、ニュータイプ研内偵の中間報告で、なんかMSを建造してるらしいんだよな。オーガスタ基地からアレックスの設計基を譲り受けて、かつて俺たちレビル将軍直卒部隊が鹵獲したMA、ブラウ・ブロやエルメスの解析データもなんかこっそり手に入れて。

 

「……その機体、手に入らないかなあ。」

 

 ぽつりと呟いたが、ユウ、マリオン、そしてレイラには聞かれてしまった。唐突に言ったので、変な顔をされた。しかしニュータイプ研と言えば。

 ジャミトフからは再三再四、ニュータイプ研を拡張してムラサメ研作れとか、オーガスタ基地に併設してオーガスタ研作れとか、キリマンジャロ研作れとか、オークランド研作れとか、上申があるらしい。

 コリニー中将がゴリ押しを試みているが、レビル将軍、ワイアット中将、ティアンム中将、ベーダー中将、コーウェン中将……最近少将から昇進したのだが、彼らががっちりスクラム組んでその要求を通さない。おまけにゴップ大将も、こちら側に味方をしてくれている。ティターンズが成立して、それが蜂起しない限り大丈夫だろう、と思いたい。

 

「ああ、済まない。ちょっと考え無きゃならん事が多すぎてな。とりあえず、マグネット・コーティングのリミッターを調整する事で誤魔化しておいてくれないか?上に相談するだけはしてみるから。」

「……。」

「済まないな。」

 

 ユウはとりあえず引き下がってくれる。だが可能な限り、早目にこの件は解決したいなあ。

 

 

 

 俺たちがルナ2に着いて6日目、第42独立戦隊と合流して機種転換と空間戦闘の訓練を始めてから5日目の事。俺とレイラ、ユウ、マリオンは、クスコ軍曹や子供たちと夕食を取っていた。

 

「そっかー。少佐さんたち、もう訓練終わったんだー。」

「じゃ、お仕事ー?」

「それは軍機だからヒミツだ。ただ、明日にはちょっと行かにゃならん。」

「はーい。」

「また戻って来たら、いっしょにご飯食べましょう?」

 

 俺とレイラ、ユウ、マリオンは、子供たちとしばしの別れを惜しんでいた。その時、俺はなじみ深い気配たちがドヤドヤと近寄ってくるのを感じる。いや、物音でも充分わかるぐらいに騒がしかったが。

 

「あれ?たいちょに副たいちょ?カジマ中尉とウェルチ軍曹も。」

「ルナ2に来てから、俺たちと飯食わねえと思ったら……。」

「わあ、可愛い!どこのお子さんたち?」

「う゛っ……。か、かわいい……。」

「よう!ユウから聞いてた子たちだな?」

「す、すみません。ぼ、僕はアンドルー・カッター軍曹です。そちらの軍曹さん、お名前を教えていただけないでしょうか?」

「まさか、中隊長やカジマ中尉のお子さんじゃないですよね?」

「そんなわけないでしょうに。」

「いや、わからんぞ。大きい子は年齢的に無理があるが、小さい子は年齢的に無理がある。」

「無理があるんじゃないですか、結局。」

 

 わぁ、うじゃうじゃ来た。うん、いつか中隊の連中とはちあわせするとは思ってたんだ。それとコーリー軍曹。いちばん小さいアーヴィンがいくら可愛いからって、鼻血はマズい。さっさと拭きなさい。

 

「あー、お前ら。この連中は俺の中隊の隊員たちだ。……コーリー軍曹。アーヴィンが怖がってるから、鼻血垂らしたままにじり寄るな。」

「しっ、失礼しました!」

「アンドルー軍曹も、クスコ軍曹をナンパしてるんじゃない。」

「はっ!い、いえ、自分はそんなつもりは!」

 

 俺は、子供たちに中隊の面々を、中隊のやつらに子供達を紹介した。ただ、名前だけ紹介したので隊の連中は、俺たちと子供らの関係を掴めずに、頭に疑問符を浮かべている。と、ここで最年長のハリーが爆弾発言。

 

「でも僕ら、少佐さんをお父さん、レイラさんをお母さん、ユウさんをお兄さん、マリオンさんとクスコさんをお姉さんだと思ってますよ。」

「あのー、わたしよりレイラ……少尉の方が年少なんだけどね。」

「そこは気にしないでくださいクスコさん。」

「はいはい。」

 

 レイラは、何を想像したのか赤くなる。だが、口を開いて出た言葉は。

 

「うふふ、それもいいわね。」

「ははは。そうだな。」

 

 俺も耳が赤くなってる自信がある。そっか、俺が父親で、レイラが母親、つまり夫婦かー。いいかも。まあ、レイラも一見平常を装って、多少は動揺したみたいだな。皆の前なのに、口調が副官口調じゃなく、タメ口になっとる。

 ちなみにこれで中隊の面々は、ユウとマリオン含めて砂糖を口いっぱいに頬張ったような顔つきになっていた。クスコ軍曹も、もちろん同様である。いつの間にか、こいつらの疑問はうやむやになっていた。

 

 

 

 俺は、中隊の連中をブランリヴァルのサブブリッジに集めた。会議をするのにちょうどいい場所であり、とりあえず人払いをしてある。開口一番、俺は言った。

 

「……これから話すのは、オフレコだ。さっきの子供らの件だがな。基本的に、口外を禁じる。」

「「「「「「は?」」」」」」

 

 ユウ、マリオン、そして俺の隣に立っているレイラを除いた皆が変顔になる。だが、これは真面目な話なのだ。

 

「あの子供らは、ジオンの人体実験の被験者だったんだ。それを俺やレビル将軍が、偶然も手伝ったが救出した。」

「「「「「「!!」」」」」」

「今現在は、ルナ2で保護してるんだが、場合によっては何者かに……某国の残党とか、それの敵対国の暗部とかに狙われんとも限らん。だから、そう言う奴らに余計な情報を与えないために、口外を禁じる。

 まあもっとも、既にあちこちに知られているとは思うがな。だからと言って、吹聴するべき事でもないって事だ。」

「……連邦も、信頼できないって事ですか?」

 

 コーリー軍曹が、唾を飲み込んで言う。

 

「コレはひとり言だから、聞かないフリをする様に。連邦はでかい。良い部分もあれば、悪い部分も多い。そう言う事だ。」

「……これもひとり言ですが、了解しました。」

「それと、あの子たちを必要以上に憐れまんでくれ。難しいだろうが。」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 俺はレイラと顔を見合わせて、息を吐く。なんか、安心した。いや、いい奴らだ。ではお仕事の話をするか。

 

「さて、オフレコの話は終わりだ。俺たちは明日、マルゴーマルマル、標準時で午前5時00分に、第42独立戦隊の各艦に分乗して出撃する。目的地は、旧サイド5暗礁宙域。

 作戦目標は、暗礁宙域に潜んでいるジオン残党ゲリラ拠点の発見だ。ミノフスキー粒子をばら撒き、警戒網をすり抜け、隠密裏に敵陣に乗り込んで隠密裏に調査を行い隠密裏に帰還する。

 可能な限り、見つからずに行動したい。発見され、敵に知られたらその時点で任務失敗だ。だから、発見された場合は通信を妨害し、可能な限り素早く発見者を殲滅する。無論、発見されない方が何倍もいいがな。

 質問は?」

「予想敵戦力は?」

「残念だが、敵の戦力は不明だ、クリス少尉。だがこの第42独立戦隊が前回会敵したのは、チベ級重巡洋艦を旗艦とする同規模の小艦隊であったとの事だ。少なくとも敵は、その規模の小艦隊を哨戒に使えると思っていい。

 他の質問は?」

 

 質問はとりあえず無かった。

 訓練は完了した。いよいよ明日、出陣だ。この偵察任務如何によって、今後が決まるのだ。さて、どうなる事やら……。いや、どうにか成功に持って行かねばならん。俺は右拳を左掌に打ち付けて、気合いを入れた。




いよいよ次回から、『茨の園』を発見するための偵察任務です。でも、2人もニュータイプ能力に目覚めかけてます。これがどう転ぶか。隠密行動中に、相手にニュータイプがいて感応して共振しちゃったりしたら……。大変ですねー。
ま、無いとは思いますが。あとは子供ら。アーヴィンに夢中のコーリー軍曹、クスコ・アルに夢中のアンドルー軍曹。おい、お前ら(笑)。


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証拠写真

 この中隊、「オニマル・クニツナ」隊を乗せた第42独立戦隊は、サイド5暗礁宙域を航行していた。ミノフスキー粒子をばら撒きながら、そのミノフスキー粒子の領域をうっかり飛び出さない様に、ほどほどのスピードで、だ。舷側灯も消し、徹底的な隠密行動である。

 当然ながら、発見されたときいつでも出撃できる様に、中隊のパイロットたちは小隊ごとのローテーションで、スクランブルに備えた戦闘待機についている。今はちょうど俺たち第1小隊の順番が終わったところで、第2小隊と交代したところだ。俺たちは右舷デッキにいるので、左舷デッキにいるユウに直接回線で引き継ぎの連絡を行う。

 

「それじゃあ後は頼む。万一発見されたなら、俺たちもすぐ出るが、仕留めてしまっても一向にかまわないからな。」

『……。』

「ははは、そんな事まで心配していられんし、お前ら第2小隊なら大丈夫だろ。」

『……。』

「ああ、それじゃ頼んだ。では頼んだぞ。」

 

 次いで俺は、ブリッジに報告を入れる。

 

「ブリッジ、こちらMS隊1-0、ゼロ少佐。」

『こちらブリッジ、0-0です少佐。』

 

 返答を返したのは、地上では戦闘指揮車に乗って俺たちに戦術情報を提供していた、マリー曹長だ。こちらでは改ペガサス級強襲揚陸艦ブランリヴァルのブリッジに詰めて、俺たち専属のオペレーターになっている。

 

「今、ユウたちと戦闘待機を交代した。これから休憩に入る。」

『了解です。あ、少佐。ブライト艦長が、お話があるそうです。休憩前に、ブリッジに上がっていただきたいのですが。』

「む?了解だ。ではレイラとブリッジに上がると伝えてくれ。以上だ。」

 

 いったい何の用事だろうか。俺はアレックス3の機体を降りると、レイラ機の方へと移動していった。

 

 

 

 ブリッジに上がると大型のメインモニターに、周辺宙域の宙図が映し出されているのに気づく。ブライト艦長は艦長席から立ちあがり、そのモニターを前に何か考え込んでいた。

 

「ブライト提督。呼び出しに応じ、出頭した。」

「ああ、ご苦労だった。だが、提督は慣れんな。艦長で頼む、ゼロ少佐。あるいは階級か。」

「わかった、艦長。ははは。」

 

 軽い冗談を交わし、だが直後ブライト艦長は顔を引き締める。

 

「意見を聞きたい、ゼロ少佐。MSパイロットとしては、どう思う?これが今まで調査した宙域。ここは敵が根拠地を作る可能性としては、2番目だった場所だった。」

「俺としては、本来ここを押したかったんだがな。いざ場所がばれて戦闘になったときに、防衛戦を行うのにもっとも良い場所だ。

 MS乗りとしては正直嫌な選択なんだが、少数の味方……MSを主体とした部隊を足止めに置いて、時間稼ぎさせるのに最も適している。残存兵力を脱出させるためにな。」

「ふむ……。と言う事は、奴らはその選択肢を選ばなかった、と言う事だな。ミーラ、次を頼む。」

 

 ブライト艦長は、オペレーターに命じて次の宙図を表示させる。それは未だ未調査の領域であった。

 

「今まで調査した領域をAとする。で、次に俺はこちらのB領域の調査を押したいと思うんだ。」

「む……。それは……。あ、いや、確率としてはC領域よりも高いのは認める。B領域は、まず地球や月、ソロモン……じゃなかったコンペイトウだ、それとア・バオア・クーから発見されない事を主眼とした場合、最も適した場所だ。代わりに出撃や逃亡が難しくなるが。

 しかしそこを先に調査した場合、もしもC領域に敵本拠地があって、俺たちが発見されてしまった場合、まずい事になる。」

「なるほど……。そうなった場合、調査結果を味方に通信する事もできずに、多勢に無勢で袋小路に追い詰められてしまうか。

 先にC領域を調査、その次にB領域を調査すれば危険は減るな……。敵の根拠地を発見した後であれば、見つかっても全力で逃げてしまえば良いわけだ。しかし時間がかかるか……。」

「俺もC領域は無いとは思うんだが……。こちらは、連邦軍に見つかった時の事など考えずに戦力を放出するには良い環境なんだが……。」

 

 簡単に言えばB領域は、デブリがごちゃごちゃ浮いていてヤバい宙域。掃除しないとあぶなくて航宙できたもんじゃない。やつらが『茨の園』作ってるなら、通り道は掃除してるだろうけどな。

 で、C領域は可能性としては3番目だった場所、デブリが薄い宙域だ。ここは無い、と思う。だが裏をかいて、とかあるかも……。無いとは思うんだが。

 

「……時間がかかっても、堅実な方針を取るか、当たる確率は高いが、危険も見込まれる方を選択するか。いや、だが……。」

「……。」

「いや、時間がかかればそれだけ、こちらも敵に発見される可能性が高くなる。B宙域の調査を行いたい。どうか?」

 

 俺はにやりと笑みを浮かべ、首肯する。

 

「最初に言ったろう?そちらの指示には従うと。そう言う時は、きちんと命令してくれ。示しがつかん。」

「くくく、済まんなゼロ少佐。では……。我々は、これよりB宙域の調査を行う!」

「了解!」

 

 徐にブライト艦長は、艦長席に着く。そしてマイクを握ると声を張り上げた。

 

「観測班!デブリに注意せよ!全艦、艦がデブリ回避のため、急激な機動を行う可能性が高い!各員突発的なGに注意せよ!

 更に敵に遭遇する可能性が、これまで以上に強くなる!各砲座要員は自分の持ち場でスタンバっておけ!」

 

 おお、名言。なんか感動だな、「スタンバっておけ!」を目の前で聞けるとは。

 

「わざわざ来てもらって済まなかった。参考になったよ。ではゆっくり休んでくれ。」

「ああ。パイロットは休む事も仕事のうち、だからな。行こうレイラ。」

「はい、ゼロ少佐。では失礼します。」

 

 しかし「スタンバっておけ!」はいいんだが、「なにやってんの!」はあまり聞きたくないな。聞く機会が無いといいんだが……。

 私室へ戻る途中、レイラが唸る。

 

「うーん、やっぱり駄目ね、わたしだと。敵集団、敵本拠地の気配を感じようとやってみたんだけれど……。」

「ちょ。」

 

 俺は慌てる。

 

「まてまてまて!それはやめてくれ!」

「え、どうして?」

「あ、いかん。マリオンにも言うの忘れてた!いや、ニュータイプ能力者同士だと、「見られてる」事を感知したりする場合があるんだ。事実、アムロ・レイ士官候補生は、曹長時代にララァ・スンの意識を感知してたりする。

 万が一、やつらの中にニュータイプ能力者やその素質を持った者がいた場合……。気付かれる恐れがある。」

「ご、ごめんなさい!」

「いや、言わなかった俺が悪い。済まない……。」

 

 実は俺は、できるだけ無意識に感知しようとしない様に、出来る限り意識して「精神の手」を四方に伸ばさない様に努力していたりする。少なくとも、感知範囲を意図して狭める事には成功しているんだが……。

 しかし、他のニュータイプ能力者に、それを警告するのをスカッと忘れていた。俺は、うっかり八兵衛か。まったく……。

 で、マリオンに連絡を取ったところ、彼女の方はソレを理解していて出来るだけ感覚を絞っていたらしい。一安心。だけどレイラがまたしょんぼりしてしまった。なんとか慰めないと……。

 それと、まず心配はいらないと思うが……。ニュータイプ能力に目覚め始めたと思しきウェンディ伍長とブリジット伍長……。あいつらにこんな注意すると、余計に能力に集中させてしまって、うっかりをやらかすかも知れんしなあ。今は奴らのニュータイプ能力については、触れんでおこうと思う。

 

 

 

 で、とりあえず私室で休憩。身体をベッドに括り付けて、0Gで宙に浮かばない様にして、休む。ときどき、と言うか、しょっちゅう艦がグラリと揺れて、とんでもない方向にGがかかる。細かくデブリを回避してるんだな。

 そんでもって、今なんだが……。頭が割れる様に痛い。いや、短時間なら痛みを精神から切り離す技術は身に着けたんだよ?だけどさ、短時間だからね。いざ戦闘と言う時に、ハイ時間切れ、じゃあ困る。痛みのせいで、隙ができて撃墜されました、じゃあ物凄く困るんです。だから普通の時には、黙って痛みに耐えてますよ。

 レイラには黙ってたんだけど、怒られた。つらい時は頼ってくれと。で、今なんだが、俺の額にのっけた保冷剤が温くなったんで、取り換えてくれてる。んー、頭は割れる様に痛いが、なんかいいなあ、こういうの……。

 

「!!」

「!?」

 

 誰だ!?見ている!

 

「ゼロ、今の感覚って!」

「誰かが見ていた!くっ……。」

 

 俺は痛みを精神から無理矢理切り離し、端末に飛びついた。そしてブリッジに連絡を入れる。

 

「ブリッジ!こちらゼロ少佐だ!ブライト艦長に伝えるんだ!待機中の第2小隊に出撃命令を出す様にって!それと第1、第3、第4も順次出撃する!」

『こちらブリッジ、0-0です!了解しましたが、第2に関しては既に発艦中です!ユウ中尉が出撃許可を求めてきました!マリオン軍曹が、なんか見られたって……。ブライト艦長は今……。』

『こちらブライトだ。ゼロ少佐、敵だな?最速で発艦してくれ。ただし、ノーマルスーツは着るんだぞ?どこかの誰かみたいに、制服のまま乗らんでくれ。』

「ゼロ少佐、了解!」

 

 急ぎ頭の保冷材を剥がし、磁力靴になっているブーツを履く。俺は叫んだ。

 

「レイラ、行こう!」

「ええ!!」

 

 俺たちは、大急ぎで右舷のデッキへと向かった。

 

 

 

 アレックス3は、右舷デッキのカタパルトで宇宙空間へ射出された。凄まじいGで、身体がシートに押し付けられる。ユウの第2小隊は、既に敵を発見し、戦闘中だ。ブランリヴァルは全力でミノフスキー粒子をばら撒き、全力で通信妨害を行い、敵が本部に報告するのを妨げている。

 ちろっと後方を見遣ると、レイラ機、ィユハン曹長機が俺に続き出撃して来る。更にキプロスⅡ、グレーデンⅡの2隻のサラミス改からは、第3、第4小隊のMSが次々に発進した。

 

「ユウ!報告しろ!」

『ザッザッ……!!……ザザザッ!』

「了解!なら俺たちは、敵艦を沈める!第3は第2の支援、第4はついてこい!」

 

 ミノフスキー粒子の影響で、ひどく通信にノイズが混ざる。俺はスラスター全開で、アレックス3を飛翔させた。いた……。チベ、いやティベだ。ティベ級重巡1隻に、ムサイ後期型3隻。MSは全て発艦させている模様だ。

 

「俺とレイラでティベを!残り任せた!」

『了かザザザッ!!』

『了解!!ザッ……。』

『ザザッう解ですっ!!』

 

 レイラをティベの船底部に回らせ、俺は上側から攻撃を開始した。ビームライフルの着弾が、一撃、二撃、三撃……。そのとき、俺の心に声が響いて来た。

 

(うわああぁぁっ!!や、やめろおおぉぉ!!)

(貴様かっ!俺たちを見ていたのは!何故、なぜデラーズに力を貸している!)

(だ、誰だ!?俺の頭が変になったのか!?確かになんか、女が男を看病してたり、パイロット用ノーマルスーツの男女が笑いあってるのが見えたり……。で、デラーズ閣下?)

 

 ち、まさか目覚めたばかりで、無意識にこっちを見ていたのか?しかしそれなら、上に報告していない可能性が高いな。

 

(デラーズ閣下はえらい人だ!あのひとに、あの方に、従っていれば間違いは無い!きっとギレン閣下の理想を、スペースノイドの自治独立を成し遂げてくれるさ!)

(きさま、切れたぞ俺は。自国民の数倍はいたスペースノイドを虐殺しておいて、スペースノイドの代表の様な顔をするな!スペースノイドの裏切り者のくせに!)

(お、お前、まさかこの声は!?連邦軍の!?うわ、ぎゃ、ぎゃあああぁぁぁ!!)

 

 俺は思念の来る方向に向け、ビームライフルを撃った。断末魔の絶叫が聞こえ、敵艦のブリッジは吹き飛ぶ。そしてレイラが動力を破壊した様だ。俺とレイラが離脱した直後、ティベ級重巡は爆発を起こし、火球になった。

 

『ゼロ少ザザッ今のは……。』

「ギレン信者で、デラーズの部下だったよ。まず間違いない、ここサイド5暗礁宙域にいるのはデラーズだ。デラーズ・フリートだ。」

 

 見ると、ムサイ艦も次々と爆炎を上げて沈んでいく。ィユハン曹長も、第4小隊の連中も、ちゃんと万が一の脱出艇になりそうなコムサイ破壊してるな。……あとは残されたMS隊だ。万が一にも逃がしてはならない。

 アレックス3は、第2、第3小隊が相手をしている、残った敵MSに向けて飛んだ。レイラ機が後を追って来る。既に残っているのはMS-21Cドラッツェが2個小隊6機だ。アレックス3のビームライフルが、レイラ機のビームランチャーが、それぞれ1機ずつのドラッツェを爆散させる。パイロットたちの断末魔が聞こえた……。

 

 

 

 ブライト艦長に、聞こえた物を報告した。無論、ニュータイプ能力による感覚、ニュータイプ能力による会話内容など、そんな超能力じみたものは何の証拠にもなりはしない。なりはしないが、ブライト艦長なら参考ぐらいにはするだろう。

 

「うむ……。アムロと同等の力を持っているのか……。凄いな。」

「いや、アムロ候補生の方が、素質的には高いと思うぞ。」

「で、だ。デラーズの名前が出たんだな?」

「ああ。」

 

 黙考するブライト艦長を見遣りつつ、俺も考え込む。なんとかデラーズの名前を、音声データか何かで手に入れる方法は無いものか。と、徐にブライト艦長は大モニターに映し出された宙域図を見上げ、艦長席へ戻ると手元の入力装置で何か描き始めた。

 やがて彼は顔を上げる。そして徐に頷いた。

 

「MSの記録装置が故障していた事でいいさ。なんなら今から壊す。敵が死に際にデラーズの名を叫んだとでも報告するさ。」

「うわ。本気か艦長?」

「本気だ。俺はアムロを間近で見て来たんだ。信じるさ。それと、その情報はかならず持って帰りたい。調査を早く終わらせるため、いちかばちかやってみたい事ができた。

 ……MS隊の、「オニマル・クニツナ」隊の力を貸してくれ。いや、こういう時は命令するんだったな。力を貸せ。ゼロ少佐にはキツいかも知れんが、な。」

 

 その口調に、俺は飲まれた。一瞬だけ戸惑い、そして力強く頷く。

 

「ああ、自由に使ってくれ。」

 

 俺はその言葉を、後からちょっとだけ後悔する事になる。

 

 

 

 と言うわけで、ちょっとだけ後悔した。

 

「この任務、ゼロ少佐は駄目だ。もし万一の際、少佐にはMS隊の指揮を執ってもらいたい。同じ理由で、副官のレイラ少尉も駄目だ。彼女がいなければ、ゼロ少佐の手足がもがれたも同然だと言うのは、ここしばらくで理解できている。」

「……ぐうの音も出ないな、艦長。」

「できれば、各小隊長も避けてもらいたい。その他の一般部隊員から1人、適格者を選んでほしい。」

「……推進剤の増槽を付けたMSで、単独偵察か。俺が行きたかったな。いや、駄目なのは理解している。」

 

 この任務、ニュータイプ能力を持つパイロットも避けたいな。敵にニュータイプ能力者がいるとは限らんが、いた場合に感知されるかも知れん。マリオン、ウェンディ伍長、ブリジット伍長が外れる。残るはィユハン曹長、コーリー軍曹、アンドルー軍曹、ダミアン曹長だ。

 ……ダミアン曹長は駄目だ。殺気を隠すのが、まだ上手くない。ニュータイプ能力者に感知される確率は、ニュータイプ能力者に次いで高い。残るは3人……。誰がいい?操縦能力にも、戦闘能力にも、状況判断にも優れる者……。

 

「マリー曹長。……コーリー軍曹を呼んでくれ。」

「了解です、少佐。」

 

 しばし待って、コーリー軍曹がブリッジに現れる。彼女は敬礼をしてきたので、俺たちも答礼を行う。

 

「コーリー軍曹、この宙域図を見てくれ。」

「はっ!」

「ブライト艦長、作戦の説明をお願いします。」

「ああ。この宙域図でちょうどこの赤丸で囲まれたあたり、このあたりに敵が……。エギーユ・デラーズ率いるジオン残党の大規模拠点があると考えられる。お前には増槽をつけたMSで、単独でここに潜入し、独力で証拠写真を撮影し、自力で気付かれずに脱出してきてもらう。」

 

 吹いた。吹き出したよこの娘。いや気持ちはわかる。俺はブライト艦長の言葉を捕捉した。

 

「見つかる可能性は、ごく低いと見ている。敵拠点がここにあると言う根拠は、周辺のミノフスキー粒子濃度だ。周辺を哨戒している艦隊がばら撒いたにしては、濃すぎる。

 逆に言えば、MS程度ならばこっそり近寄って、ひっそり写真を取って、ちょろちょろと逃げ出すぐらいはできると見た。あまりにミノフスキー粒子が濃いからな。」

「は、は、はあ……。で、ですがわたし程度の技量では!」

「お前の技量は確かだ。まわりの隊員が、俺を含め化け物だらけなだけでな。……お前をこの作戦に推したのは、俺だ。俺が保証してやる。お前ならできる。

 と言うか、お前以外適任がいない。命令する、やれ。」

 

 俺の言葉に、コーリー軍曹は唾を飲み込んだ。ああ、恨むなら恨んでくれていい。だが、志願の強制みたいなマネはしたくない。アレは駄目だ。なんか良い気持ちがしない。責任の所在は、上官に無きゃいけない。

 

「……了解です!」

「……。」

 

 済まん、と言いかけて思いとどまった。

 

「そのかわり、戻って来たらアーヴィン君とお友達になれる様に、協力してください!」

「……。」

 

 馬鹿野郎、と言いかけて思いとどまった。思いとどまらなくても、良かったかも知れない。

 

 

 

 今の時代、電磁妨害に強いフィルム式のカメラは貴重なのだが、それを持たせてやった。そして、帰ってくるのをひたすら待ち続けた。……つらい。自分で行く方が、何倍もマシだ。やれやれ、この世界に来て最初は、あれだけ死んだり傷付いたりがイヤだったのにな。いや、今でも死にたくはないが。死んだらレイラが泣くし。

 執務室で書類仕事をしていたが、一向に進まない。悶々として、その気持ちが鬱々になりかけたところで、右手が柔らかい物に包まれた。レイラの手だった。……少しだけ、心が軽くなった気がした。

 

「……こんな事なら、アイザックの補給をなんとしても成功させるんだったなあ。」

「アイザック?」

「ルナ2に、試作機があったはずなんだ。ハイザックをベースにした、早期警戒機だよ。ジオンのザク強行偵察型や、ザク・フリッパーにも採用された、カメラガンの最新改良型を装備してる。その上、レドームを背負っててセンサー性能は抜群だ。おまけにミノフスキー粒子を独力で広域散布可能なんだよ。

 アレをこの隊に、一時的にでもいいから配備できてれば……。いや、ザク・フリッパーの鹵獲機、いやザク強行偵察型の鹵獲機でもいい。一時的でいいから配備できてればな。コーリー軍曹を、それに乗せてやったのに。そうすれば、安全率は桁外れに高まった。」

 

 レイラはそっと、俺の頭を抱きしめる。後頭部に、小ぶりな2つの山が、その、当たってるんですが。

 

「大丈夫、ちゃんと戻って来てくれるわ。今は彼女を信じて、待ちましょう。」

「あ、はぃ……。じゃない、ああ、了解だ。」

 

 俺の顔はたぶん今、真っ赤だろうな。そう思ったその時、端末から呼び出し音が響いた。

 

 

 

 結論から言って、コーリー軍曹は無事に戻って来た。とんでもない情報を手に入れて。

 やはり『茨の園』……もう、『茨の園』と言ってしまうが、それは想定した宙域にあった。しかし、核パルスエンジン付き。構造がもろいから、全部は無理だと思うが……。中枢部は、場所を移動できるのか、アレ!?

 いや、大事なのはそこじゃなかった。一番大事な情報、それは……。『茨の園』の宇宙港から、小艦隊が出港する写真だった。……マゼラン改1隻、サラミス改2隻、コロンブス改2隻の計5隻。

 鹵獲艦じゃない。新品の新造艦だった。




『茨の園』を探してたら、とんでもない物を見つけてしまったー、どうしようー。

はたして、なんであんな物が敵拠点から出て来たんでしょうねー。
いやはや、はてさて。この情報、どうなることやら。


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帰還と、そして……

 第42独立戦隊は、既に旧サイド5暗礁空域を脱していた。しかしまだ、帰還の途にはついていなかったのだが。改ペガサス級強襲揚陸艦1隻、サラミス改級巡洋艦2隻、ネルソン級MS軽空母1隻からなるこの小艦隊が何をしていたかと言うと、ある別の小艦隊を追跡していたのだ。

 その小艦隊は、マゼラン改級戦艦1隻、サラミス改級巡洋艦2隻、コロンブス改級輸送/補給艦2隻の計5隻と言う構成。どう見ても連邦軍の艦艇なのだが、これがジオン残党の拠点、暫定名称『茨の園』の宇宙港から堂々と出て来たのだ。

 その事を含めた、『茨の園』関連の情報は既に全て、レーザー通信でルナ2司令、ヴォルフガング・ワッケイン中佐に送ってある。ワッケイン司令はすぐに、これらをレビル将軍に転送してくれると言っていた。これもコーリー軍曹が、頑張って撮影してきてくれたおかげだな。

 

「しかし、良くやってくれた、コーリー軍曹。」

「はっ!ありがとうございます部隊長。」

「だけどアーヴィンと友達になるのを協力するのは、アーヴィンにお前と仲良くしてやってくれって頼む程度ならいいけど、デートのセッティングとかはしないからな。」

「えぇー……。」

 

 この娘は……。アーヴィンが絡むと、何故ぽんこつになるのだろうか。いや、ジオンへの復讐心で歪んだ心根を持たれるよりかは、ずっと良いけれど。

 今俺、レイラ、コーリー軍曹の3人は、第42独立戦隊旗艦ブランリヴァルのブリッジにいる。いちおう今すぐにでも出撃できる様に、パイロット用ノーマルスーツは着ている。だがおそらく、MS隊である「オニマル・クニツナ」隊出撃の必要は無いと予想されるため、俺たち3人はアドバイザーとしてブリッジに詰めているのだ。

 俺はMS隊部隊長として。レイラは俺の副官として。そしてコーリー軍曹は、『茨の園』近傍に単独潜入し、その位置情報や構造に関する情報、そして何よりあの怪しさ大爆発している小艦隊の第1発見者として。

 

「歯痒いな。これ以上速度を上げると、ミノフスキー粒子散布域から飛び出してしまう。」

「何、向こうもミノフスキー粒子をばら撒きながら航宙している。離される事はまず無いさ。」

「だが、超望遠での肉眼やカメラでの監視域、ぎりぎりだ。幸い、改ペガサス級の望遠レンズはマゼラン改、サラミス改、コロンブス改のそれらを大きく性能面で突き放しているから、見つからずに見張っていられるが……。」

 

 苛立つブライト艦長を宥めつつも、実は俺も内心では不安と言うか無念さがつのっているのだが。おそらくレビル将軍は、『茨の園』の位置情報がつかめ次第、可能な限り早く『茨の園』攻略作戦を発動するつもりだったはずだ。だが、あれが内通者の艦であった場合……その可能性は極めて高いのだが、作戦は延期か、場合によっては中止せざるを得ない。

 いっその事、あれが何処からか横流しされたか鹵獲されたか、あるいは設計図を盗まれて建造された艦艇であればいいと思う。いや、その場合でも内通者のいる疑いは残るんだが。だけど、あの艦がそう言った類であって、連邦軍を装ってなんらかの悪事を働こう、と言う策であるならば、奴らがそれを行う直前に撃破してしまえばいいのだ。

 俺は内心の落胆を押し殺しつつ、ブライト艦長に聞いてみる。

 

「……艦長、なんでそこまで焦っている?」

「いや、な。もし俺の予想が当たっていれば……。」

「ブライト艦長!観測班より、この宙域に集結しつつある他の小艦隊を複数発見したと!」

「やはりか!」

 

 なるほど、そう言う事か!俺は舌打ちを、ぎりぎりで堪える。コーリー軍曹が、慌てた。

 

「部隊長!MSデッキに急……がないんですか?ふ、副官?レイラ少尉?」

「敵艦だったらね。だけど違うのよ。あれらは味方艦よ。」

 

 レイラの言う通りだ。あれらは味方の哨戒艦隊だ、くそったれ!

 

「観測班より報告!集結しつつある小艦隊は、連邦宇宙軍の哨戒艦隊です!……目標の小艦隊も、それらに合流しました!……望遠レンズおよびパッシヴセンサーでは、これ以上個々の艦を識別不能です。艦長、アクティブセンサーの使用許可は……。」

「アクティブセンサー、レーダー、どれも許可できるものか!」

「くそ、この宙域って事は、ア・バオア・クーか?それとも月面グラナダ基地の哨戒艦隊か?」

「おそらくア・バオア・クーです、少佐。こっちのミノフスキー粒子散布が濃すぎて、向こうが発信してるであろう識別信号は受信できませんが、艦隊の進行方向から見て……。」

 

 オペレーターが、説明してくれる。ア・バオア・クーか……。あちこちの派閥がぐちゃぐちゃに入り乱れてるところだな。ウチのレビル将軍派閥からも入ってる。教導隊で小隊長やってるロン・コウ中尉なんかは、かつてレビル将軍直卒部隊での、俺の同僚だ。

 コーリー軍曹は、まだよく理解できていない様子だ。レイラがそのコーリー軍曹に、説明している。

 

「あの小艦隊のほとんどは、今回の件にまったく関係ないのよ。あちらこちらの方面に送り込まれてパトロールしてるだけの、ただの哨戒艦隊。そのうちの1個艦隊が、本来の任務を外れて敵と通じていた……。」

「付け加えて言えば、ア・バオア・クーはあちこちの派閥、大から小まで色々なところがしのぎ削ってる場所だ。さっきの小艦隊が、どこの派閥に属している、どこの誰かを特定するのは、今手に入ってるデータからじゃ判別が難しいな……。」

「そんな!なんでそんな、味方の足を引っ張る様な事を!」

 

 コーリー軍曹が、悲痛な声を上げる。彼女にとって、連邦軍は正義の味方であって欲しいのだろう。いや、そうあって欲しかったのだろう、と言い直そう。それからしても、彼女が目の当たりにしたマゼラン改以下の艦艇の姿は、彼女にショックを与えていたはずだ。それでもきちんと写真を撮ってきて帰って来てくれた。

 俺は、吐き捨てる様な口調で言う。

 

「文字通り、足を引っ張りたいのさ。残党相手に、連邦の勝利は動かないと甘く見てるんだろう。だったら自分の派閥のために、相手の足を引っ張るために、敵にすら協力する。

 ……何考えてやがる。敵の勝利条件と、こっちの勝利条件は違うかもしれんのに。相手が先に勝利条件を満たしたら……。それに、仮にこっちが最終的に勝利するとして、それまでに出る被害を、死者を、増やしてどうするんだ!」

「……ルナ2に帰還する。」

 

 ブライト艦長が、怒りを押し殺した平板な声で、命令を下す。第42独立戦隊は、「オニマル・クニツナ」隊は、任務を100%以上、120……いや、150%ぐらいは達成して帰還する。だがこの場にいる誰も、達成感を感じる事はできなかった。

 おそらく『茨の園』攻略作戦は、延期か中止になる。俺たちの小さな勝利によって、より大きな戦略的敗北を喫している事が判明してしまったのだ。……判明せずに無理攻めして、大失敗するよりかは何倍もいい、と思うしかないな。

 俺たちは、ブリッジを退出して右舷デッキへ戻る。コーリー軍曹は、第2小隊だから左舷デッキだ。別れ道に来る途中で、彼女は今にも死ぬんじゃないかと言うような顔で、悄然としていた。俺のニュータイプ感覚でも、彼女が落ち込んでいるのははっきりと分かった。くっそ、頭痛ぇ。いや、物理的に。レイラが慰めようと声をかける。

 

「コー……。」

「アーヴィン君……。ぐすっ。」

 

 おい、コーリー軍曹。今眺めてるロケットの中に入ってるアーヴィンの写真、いつ撮った。

 

 

 

 ジャブローとつながったレーザー通信で、俺とブライト艦長はレビル将軍と話をしていた。通信室は薄暗い。その薄暗さが、俺たち3人の気持ちを表している様で、なんとなく嫌だった。

 映像の中のレビル将軍は、呟くように言う。

 

『先に送られてきた報告は読んだ。やはり、「旧サイド5暗礁空域におけるジオン残党ゲリラ殲滅作戦」は……。秘匿コード、「『茨の園』攻略作戦」は延期、いや……。いったん中止するしかあるまい。

 もし万一、作戦内容がデラーズ側に漏れていた場合……。作戦が失敗すれば、他の派閥……我々以外の最大派閥である、コリニー中将たちは、そこを突いて来る事間違いない。いや、それ以前に将兵の命を、作戦が漏れているのに強行し、すり減らす事などあってはならないのだ。そして調査に時間が経てば、周囲の戦略環境も変わってしまう。延期では無く、中止するしか無いな。』

「将軍……。諜報部は何と?」

『今、必死で調べておるそうだ。敵だけでなく、味方まで調べねばならんとはな。憲兵隊本部も協力してくれるそうだ。だが……。

 そちらから送られてきたデータの条件に一致する哨戒艦隊は5つ。それぞれが別個の、大小の派閥に属しておる。……わたしの派閥に属する哨戒艦隊もあったな。それが今回の、敵と通じていた小艦隊でない事を、切に願うが……。』

 

 レビル将軍の派閥は大きい。末端が、勝手な動きをする事が無いとは言い切れない。しかし派閥の基本方針に逆らう動きをする者はいるのだろうか。特に今回、まだ内々ではあったがほぼ決定していた作戦の邪魔をするなど……。いないとは言い切れない、今の連邦軍の状況に、腹が立つ。

 ブライト艦長が、質問をした。

 

「ところで、今後我々は如何に行動すればよろしいのでしょうか?先ほど聞かされた当初の予定では、我々が攻略作戦の先鋒に立つ事になっていた様ですが。」

『うむ……。作戦が中止になる以上、別の任務にあたってもらう事になるのは当然なのだがな。それについては検討中だ。いや、任務が無いのではない。逆なのだよ。ありすぎて、どれに貴官らを充てれば良いか難しくてな。』

「「は、はあ……。」」

 

 俺とブライト艦長の、唖然とした声が被った。

 

『あちらこちらから、優秀なMS部隊を派遣してくれ、優秀なMS部隊を含む戦隊を回してくれと言われておってな。困っておるのだよ。手元にも戦力を残しておきたいしな。

 とりあえず、君たちは厳しい任務を完了したばかりだ。手元に残す戦力に入れておくので、1週間は休暇と訓練に充ててくれたまえ。

 それと、第42独立戦隊だが、本来のMS隊は復帰の目途が立っておらん。隊長陣も失われておるのでな、最低でも再編成と再訓練が完了するまで、「オニマル・クニツナ」隊を貸しておく。こちらも任務や作戦を考える上で、セットとして考える事にする。』

「「了解しました!」」

『うむ。ではまた連絡する。それではな。』

 

 モニター画面のレビル将軍と、敬礼と答礼を交わし、通信は終わった。

 

 

 

 俺とレイラは、フラナガン機関救出組の子供たちに会いに来ていた。いつ彼らとクスコ・アル軍曹が、ロンデニオン・コロニーに移るかもわからん。そうしたら、会う機会が減るかも知れん。会える内は、できるだけ会っておこう。

 ちなみにコーリー軍曹とアンドルー軍曹は、今日も来ている。この2人は、部隊の他の面々に比べ、来る率が異様に高い。やれやれ。

 アーヴィンは最初コーリー軍曹を怖がっていたが、害は無いと理解すると普通に接する様になった。でも俺とレイラは、コーリー軍曹とアーヴィンを2人きりにするな、と他の子供たちに頼んであるんだが。その事を、コーリー軍曹は知らない。

 アンドルー軍曹は、彼は彼でクスコ軍曹に夢中な様だ。ただクスコ軍曹の方は、迷惑とまでは思っていないが同時に、眼中に無いと言うか、何と言うか、「お友達でいましょう」的な……。鈍いわけではない。強力なニュータイプ能力者だし。だが、嫌いでは無いがあまり好みでは無い模様。アンドルー軍曹……。

 

「どうしたの?」

「いや、アンドルー軍曹が哀れで。」

「ああ……。でも、だからと言ってクスコに好きになってやれと言うわけにも行かないし……。」

「わかってるさ。ほれ。」

 

 俺は自分の皿から、自分のスプーンでアイスクリームをひとさじ取って、レイラの方に突き出してやる。レイラは最初目を丸くしていたが、ぱくりとそれを食べた。俺は直前でスプーンを引き戻す様な意地悪はせんのだ。うん。……レイラの顔が赤い。彼女は笑いながら言う。

 

「この子たちの前で、何をするのよ。」

「不味かったか?」

「美味しかったけど……。お返しよ。」

 

 レイラも、自分のアイスクリームをひとさじ差し出して来る。同じ品で何をやってるんだと言われるかも知れんが、それはまあ、そう言う物だと。いただきます。……うん、美味い。

 

「……赤くならないわね。」

「大丈夫だ、耳を見ろ。」

「あ、真っ赤になってる。」

「ふっ、俺に死角はない。」

「何言ってるのよ、ふふふ。」

「ふふふは良いんだけれど、この子たち真似してるんだけど。」

 

 クスコ軍曹の声に周囲を見回せば、子供たちがアイスクリームを食べさせ合いっこしている。大半は、ただ真似をしているだけだったが、年齢が比較的高く、子供たちのリーダー格をやっているハリー、ケイコ、ジェシーの3人は、真面目に本当の意味で真似をしているみたいである。

 ……ハリー、両手に花。うん、頑張れ。お話では両手に花とかハーレムとか羨ましがられるが、現実にはキビシいぞ。俺?俺は器が小さい人間なんでな。1人でせいいっぱい。だからこの1人を、自分の限界まで、めいっぱい愛するぞ。うん。照れるなあ。

 ……。

 …………。

 ………………。

 ……コーリー軍曹、アーヴィンと食べさせ合いっこして、顔がぐにゃぐにゃに蕩けてる。普通にしてれば、凛々しいお姉さんキャラなのに。

 

 

 

 今日も俺たち「オニマル・クニツナ」隊は、ルナ2近傍宙域にて、実機演習を繰り返していた。だが今日の訓練は、いつもと少し趣が違う。俺とレイラ、マリオンがチームとなって、ブリジット伍長とウェンディ伍長のペアを相手取っていたのだ。

 ちなみに残りの面々の訓練は、ユウに頼んである。ユウは俺が何をやりたいのかを無言で察し、快く残りの部隊員の訓練を引き受けてくれた。……ちょっと見てみたが、俺より厳しくないかアレは。

 

『くうっ!や、やっぱり無茶で…!す、よっ!』

『あきゃー!うわきゃー!あうー!』

「無茶なのはわかってる。だが、お前たちに素質があると思ったから、可能な限りそれを高めるためにやってるんだ。」

 

 ちくしょう、頭が頭痛で痛い。やっぱりサイコミュ無いと、共感して共振現象を起こすのは無理かな?あれが起きれば、一発でニュータイプ能力の才能を目覚めさせられるんだが。ぶっちゃけ、今のままだと能力のコントロールが効かない。先日の様な任務の時、能力のコントロールが効かないで、敵に探知されるのは避けたいのだ。

 実際いたしなあ。覚醒したばっかりで能力コントロールできず、うっかり「視て」しまったのを俺たちに気付かれた、敵のニュータイプ能力者が。

 

「だが、2人ともこちらの攻撃を、ぎりぎりで避けはするんだよな。」

『確かに。ですが、試しに殺気を消して撃つと、面白い様に2人ともあたってくれるんですよ。特にウェンディ伍長。』

『手加減してるとは言っても……。これほど避けられるとは。明らかに、わたしたちの殺気を感じて避けてます。』

「……エルメスが、欲しいな。最低2機鹵獲機があったはずだが、しかしどちらも解析に回されて、バラされてるからなあ。」

 

 レイラが自信なさげに言う。

 

『ダメ元で、申請してみたらどうでしょうか。連邦軍の開発部は、ニュータイプ研の協力なしでサイコミュ機の解析を行っています。少しでもデータが欲しいはず。わたしたちが協力する事で……。駄目、でしょうか。』

「レビル将軍を通じて、申請、してみるか……。だが通る可能性は……。」

 

 

 

 通った。

 

 

 

 翌々日のこと。装甲があちこち外され、そこに大掛かりな追加装置が括り付けられているエルメスのコクピットで、俺はサイコミュの制御に集中していた。脳が痛い。激しく負担がかかっている。このエルメスは、ルナ2基地で分解、解析されていたレイラ機を、急遽組み立てて、今までの解析結果の成果である補助機器を無理矢理取り付けたものだ。

 ちなみに、一番最初に鹵獲したララァ機は……。行方不明だ。いや、あの手この手を使ってコリニー派閥が持って行って、事故で損失した事にしやがったのだ。責任?トカゲの尻尾切りで、適当な奴が処分されて終わり。ちくしょう。

 だがそれが嘘である「らしい」事、ニュータイプ研に運び込まれた「らしい」事が諜報部の調べでわかっている。決定打は無いが。まあ、それがあったからレイラ機はジャブローに送らず、ルナ2で調べていたんだがな。

 ブリジット伍長、ウェンディ伍長のハイザック・カスタムが、こちらを狙っている。悪いな、狙いが甘い上に殺気を消し切れていない。簡単に「わかる」ぞ。

 エルメスを上昇させ、模擬戦用のレーザーを躱す。そしてビット12基を制御し、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ……。

 

『すごいわ……ですね。わたしは1基しか制御できない上、それもろくに動かせなかったんですが。』

『わたしも6基のビットが精一杯だったわ。その場合、本体までは制御できなかったし。』

 

 すまん、応答してる余裕が無いんだレイラ、マリオン軍曹。ウェンディ、ブリジット、両伍長の機体を撃破判定。さて、頼まれた「実験」の半分は終了、と。ビットを収納する。ふう、疲れた。頭痛がする。頭が割れる。いでででで、いだだだだ。

 

(んじゃ、残り半分の実験、開始するぞー。)

((了解。))

 

 まあ、ビットの制御はすさまじくつらかったけど、念話を送るのはサイコミュの助けがあった方が楽だな。次はサイコミュの助けがあれば、意図的にニュータイプ能力者間で、共振現象が起こせるか、だ。おそらくかなり負担がかかる事が予想されるため、今日の訓練と実験はこれで終わりだ。

 俺はおそらく俺が一番共感しやすいであろう人物……。レイラ・レイモンド少尉さんに精神を集中する。そして……。あっさりと共振現象は起きた。

 

 

 

 俺たちは、俺たちの機体を俯瞰する状態で、宇宙空間に浮かんで眺めていた。

 

(レイラ……。)

(ゼロ!?これが……貴方の言っていた事なの?)

(ああ。……っと、ほら。あいつらも来た。)

 

 マリオン軍曹と、ブリジット伍長、ウェンディ伍長の精神体が、この宇宙空間に投影されてくる。

 

(成功したんですね、少佐。)

(え、え、えええっ!?何が起きてるんですか!?)

(あ、わたし1周して何か冷静になっちゃいましたー。)

(ソレは現実逃避だ。)

 

 とりあえず俺は、手短に何が起きているかをブリジット伍長とウェンディ伍長に話した。

 

(わたしたちが……。ニュータイプ、なんですか!?)

(ブリジット、話をよく聞こう?ニュータイプは、宇宙時代に即した新しい考え方ができる人間。わたしたちは、単にニュータイプ能力を持ってるだけかも知れないよ。新しい考え方、できてる?)

(う゛……。)

(……1周どころか2、3周まわってホントに冷静になりやがったな。)

 

 どうやら、補助機器に搭載されたリミッターが、ちゃんと働いてるみたいだな。共振の焦点になってるのは、前回と同じく俺だ。だがここはルナ2近傍、下手にルナ2全体の潜在的能力者を叩き起こしでもしたら、俺、また倒れるだろ。だから、この訓練宙域だけを対象にできる様に、リミッターが付いているのだ。

 俺は、こいつらを含めた全員、レイラとマリオンにも、前回ソロモン宙域で全ニュータイプ能力者に見せた映像を見せてやった。

 

(……ひどい。)

(こんな未来が?)

(嘘、でしょう?)

(嘘だと言ってよ少佐!)

 

 ガンダム世界でその台詞は、シャレにならんからやめなさい。って言うか、その台詞がフラグだったら俺、死ぬじゃん。ミンチよりひどい状態で。

 

(今は、嘘になった。色々頑張ったからな。未来は随分変わったはずだぞ。)

(そ、そうなんですね……。よかった……。)

(うん。もっとひどい事になる可能性だって、まだあるんだ。)

((((え゛。))))

 

 俺は、遠くに見える地球を見遣る。

 

(今、人類は疲弊している。それなのに、まだ戦いをやめられないでいる。なんとかしようと焦ってるんだけれど、俺個人では、その道筋すら見つけられない。だから、大勢仲間が必要なんだ。ニュータイプ能力者も、そうでない者も。)

(手伝うわ。いえ、最初からそう言っていたでしょ?)

 

 最初に言ってくれたのは、やはりレイラだった。次にマリオン軍曹が。

 

(わたしも……ユウも手伝ってくれると言っています。)

 

 ユウはニュータイプ能力者じゃないし、今「ここ」に来てもいないんだけど、何かしら通じ合ってるのね。……いい事だと思うよ。うん。

 

(わたしも頑張って、手伝います!)

(わたしも!いえ、今までも頑張ってたつもりですが、もっともっと頑張ります!お手伝いします!)

 

 ブリジット、ウェンディ両伍長も叫ぶ。俺は徐に言った。

 

(……ありがとう。さて、そろそろ時間切れ、かな?)

((((えっ……。))))

 

 俺の意識は、またもやストンと暗闇の中に落ちて行った。

 

 

 

 俺はベッドの上で呻く。

 

「う~……。頭が割れる……。」

「半日、意識不明だったのよ?ほんとに心配したんだから……。」

 

 レイラが泣き晴らした真っ赤な目で、文句を言う。ごめん。ほんと、ごめん。と言うかそこの技術屋。リミッターは?

 

「すいません、調べたらリミッターが焼き切れてまして。ゼロ少佐の能力に、耐えきれなかったのではないかと。おそらく少佐と同等以上の能力を持つと言われるアムロ・レイやララァ・スンでも、同じ現象が起こるかと。

 おそらく、ビット12基とエルメス本体を同時制御した時点の事だと思われます。」

「……んじゃ、ルナ2の人間を巻き込まなかったのは、俺が自分で能力を制御しただけかよ。」

「まず、おそらく……。し、しかし今回おかげ様で貴重なデータが取れました!このデータで、連邦版サイコミュがきっと!!強化人間である少佐にも、ほとんど負担をかけないシステムを!!」

 

 この研究員、流石に俺が強化人間である事、知ってんのか。ここで、レイラが怒った。レイラの剣幕に、俺も研究員も謝るしかない。

 

「でも、こんな実験はもう駄目!禁止ですからね!絶対駄目!!」

「「はい、ごめんなさい……。」」

 

 ……レイラは気付いてるかわからんが、彼女のニュータイプ能力はやはり共振現象によって、拡張された気配がある。今怒られた時、同時に思念が俺の頭の中に響き渡ったんだ。その強さは、今までの比じゃ無かった。俺の能力も、彼女ほどの伸び幅は無かっただけで、けっこう伸びたんじゃないかと思う。アムロと互角ぐらい、行ったかな?

 けど、それ故に……。いや、それ以前に連邦版サイコミュ、強化人間にも優しいシステム……。そのデータは、絶対にニュータイプ研には渡せないな。ニュータイプ研がもしも後ろ暗い事をやっていなくとも、ジャミトフたちには渡せない。後でユウにでも、レビル将軍への連絡を頼もう。

 

 

 

 ……ブライト艦長の方がいいか。ユウじゃ、まだレビル将軍とは話が通じないからな。




さて、前回の最後に出て来た小艦隊の正体は、だいたいわかりました。ただし根っ子を捕まえる事はできませんでしたが。もっとがんばれ、諜報部。もっとがんばれ、憲兵隊本部。
そして、主人公は部下2人を完全に覚醒させるため、ちょっとした挑戦をば。……で、また倒れました。余禄として、レイラや自分、たぶんマリオンもでしょうが、能力的に拡張された予感がひしひしと。


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ひとときの休息と

注意!今回は、出だしから著者の趣味丸出しで、ベタベタの甘々です。


 レイラの元気がない。先日、俺が改造エルメスの実験で倒れてからだ。いや、倒れた事それ自体はなんら心身に影響なく、診断に問題無かったから、それは解決してるんだ。基本的に。まずは。いや、彼女はそれもやっぱり気にしてはいるっぽいけど。

 問題は、彼女が「もうこんな実験は駄目だ」と怒った事らしい。元々は、たしかにサイコミュの支援欲しさにエルメスを欲したのは俺だった。だけど、開発部が研究データを欲しがってるだろうから、そこを突いてはどうかと進言してきたのは彼女だった。レイラが気にしてるのは、それを置いといて、ついつい俺と研究員に怒ってしまった事だったりする。特に俺に。

 気にしてはいない、と言ってやったところで、これは彼女自身の心の問題であるから解決はせんだろうし……。実際に、あの件を進言しちまった事自体も気になってるのかな。あー、倒れたりする方法、採らなければよかったのにな。後悔先に立たず。

 とりあえず、俺は人工重力区画へ出向く。そしてそこで食パン2枚を適当な大きさにカット。でもって宇宙では貴重な生鮮食品である卵2個を割りほぐし、砂糖を加えて泡立て器でもって混ぜて、これまた宇宙では貴重な生乳100%の牛乳を加え、よ~く混ぜる。あと、茶こしで漉す。

 んでもって次に、耐熱容器2つに、カットした食パンならべて、そこにさっき作った卵液を流し込む。んで、食パンが卵液を吸い込むのを、じ~~~っと待つ。で、アルミホイルかぶせてオーブントースターへ放り込む。220度で20分程度。ちょっと焼き色を見て、うん、完成だ。

 ちなみに、ここまで半ば無意識。……俺は何をやっておるのだろう。まあいいや。せっかく作ったんだ。できあがった品を持って、俺はレイラの私室へと向かう。で、インターホンを鳴らした。

 

『……ゼロ?』

「ああ、開けてくれるか?」

『あ、ちょ、ちょっと待ってね。』

 

 さすがに、気配で俺だと読んだらしい。慌ててドアを開ける気配がした。……なんか、よく眠れてなかったのかも知れない。目の下に、隈ができている。

 

「……なあ、朝飯まだだろ?いっしょに食おう。」

「う、うん……。」

「これ、作って来た。」

「……えっ!?ゼロが!?」

「ああ。」

 

 自慢げに、俺は作って来た代物を披露する。

 

「わあ、パンプディング……。」

「熱いから、気を付けてな?」

「あ、うん。」

 

 俺たちは、できたてのパンプディングを食べ始める。

 

「熱っ!」

「おいおい。」

 

 熱いと言ったのに。だけどレイラは、再びスプーンを口に運んだ。

 

「美味しい……。」

「手前味噌だが、なかなかいい出来だったな。」

 

 2人であっという間に、パンプディングを食べ尽す。熱さも、ほとんど気にならなかった。まあ、ちょっと口の中を火傷はしたが。ふと見ると、レイラが口の中を痛そうにしていたので、キザな考えが浮かぶ。

 

「痛そうだな。」

「ええ、ちょっとね。うふふ。……!」

 

 その可憐な唇を、俺の唇で塞いでやった。いや、レイラも気づいてはいたんだ。ニュータイプ能力者だし。レイラが気付いていて、受け入れてくれた事を、俺も感じていた。

 

「……ふう。」

「……ふう。」

「なあ、少し眠ったらどうだ?ブランリヴァルに乗艦1時間前には、起こしてやるからさ。」

 

 レイラは、少し逡巡したが、頷く。

 

「うん。」

「んじゃ、ホレ。」

「うにゃ!?」

 

 レイラのベッドの上に座り、あぐらをかく。ああ、無重力だから身体をベッドに縛る固定帯も使った。

 

「ひ、ひざまくら?」

「ああ。」

「ちょ、ちょ……。」

「任せろ、完璧だ。」

 

 赤くなったレイラは、それでも頑張って気力を振り絞り、ベッドに固定帯で身体を固定し、俺の膝を枕に横になる。いや、俺が言い出したら聞かないって、わかってるからなんだけどな。俺はレイラの頭を、そっと撫でてやる。柔らかい金髪が、手に心地よい。

 やがて、いつの間にか彼女は寝入っていた。さすがに寝不足だったんだろう。このままだったら今日の実機演習、MS搭乗前の体調チェックで撥ねてやらんといけなかったところだな。俺は撫でる手を止めた。……なんかうなされてる。もう一度、撫でてみる。あ、うなされなくなった。

 結局俺は、レイラを起こすブランリヴァル乗艦1時間前まで、彼女を撫で続けた。ちなみに彼女はその後のルナ2近傍宙域での実機演習で、物凄く調子が良く、危うく俺が撃墜判定もらうところだった。いや、結局は勝ったけど。レイラは悔しそうにしていたが、それでも笑顔だった。元気が出た様で、一安心だった。

 

 

 

 まだ新しい任務はこない。なんか訓練漬けだった気もするので、今日はお休みだ。そう通達したら、部隊の面々は歓声を上げて喜んでいた。やはりストレス、溜まってたんだなあ。人工的ニュータイプ感覚で感じてはいたんだが、ちょっと機動に不安な点がある部隊員がいたんで、いつ出撃かかるかわからんからと思って……。

 満足いく出来になるまで特訓したんだが、やりすぎだったかもな。少し反省。けど、言い訳させてもらえれば、いざ出撃して、機動のアラが原因で死なれたら、後悔でたまったもんじゃないからなー。

 でも絞り過ぎた。反省。

 んで、子供たちと過ごそうかと思ってレイラを誘ったら、予想外の返事。

 

「え?ゼロ聞いてなかった?あの子たち、今日は育児センターでできた友達と、ルナ2基地の見学コース回るって……。コーリー軍曹が、アーヴィンと過ごせないってボヤいてたじゃない。」

 

 見学コース……この基地にあったのか、ンなもん。あ、俺の部屋の端末にメールがきてた。今日は出かけてて居ないって……。チェック漏れだったか……。

 気分的にしょんぼりしながら、どう休日を過ごそうかと悩む。……まずい。完全オフの休日って、何すればいいんだ?俺、もしかして社畜?いや、連邦軍は会社じゃない。……ワーカホリック?こ、これは当たっているんじゃ?

 そうだ!!

 

「あー、レイラ。よかったら今日、俺とちょっとした訓練に付き合ってくれないか?」

「訓練?いいけれど、今日は完全オフにするんじゃなかった?」

「ああ。だけど、普通の日じゃあちょっとやりづらいんでな……。」

「了解です、少佐殿。うふふ。」

 

 と言うわけで俺は、レイラを伴ってルナ2の地表に出た。ちゃんと届けを出してある。パイロット用ではなく一般用の重装のノーマルスーツと、ラウンドムーバーと言う宇宙遊泳用の機材を借りだし、宇宙遊泳の訓練と言う名目だ。いや宇宙遊泳はするがソレが目的じゃない。

 ラウンドムーバーのスラスターを噴射させ、ルナ2の地表から離れる。ある程度離れたら、そこで浮いたまま、のんびりと宇宙を眺めた。レイラがノーマルスーツ同士の接触通話で、話しかけて来る。

 

『もしかして、宇宙空間でのんびりしたかったの?』

「それもある。でも訓練てのも嘘じゃないんだ。……レイラ、意識を「宇宙」にゆだねるつもりで、そっと「広げて」行ってみてくれないか?」

『……あ。』

 

 以前も言った気がするが、宇宙だと四方に感覚が、フワァって広がる気がするんだよな。それが、こうやって直接宇宙に出てると、余計にはっきりと感じられる。俺は接触通話ではなく、念話でレイラと交信した。

 

(どうだ?)

(うん、感じるわ。ルナ2の人たちの存在。そして宇宙の……。なんと言ったらいいのかしら?宇宙の……。)

(わかる。言葉にはしづらいが、フワァっと感覚が広がる気がするだろ?)

(ええ……。)

(その感じに「乗せ」て、感覚をどこまでも、は無理だが……。可能な限り広げてみてくれるか?)

 

 レイラと俺は、いつしかサイコミュの支援なしで共振現象を起こしていた。負担もほとんどない。これならば、倒れる事はあるまい。なんだ、こうすれば良かったのかよ……。いや、俺とレイラみたく相性良くないと駄目かも知れんし、意識から切り離された頭痛はうるさいが。

 宇宙空間に投影された意識体の胸元に、レイラの意識体が頭を預けて来る。肉体も同様に、俺の胸元にレイラが頭を預けている状態だ。暖かい……。

 ルナ2基地の中で、見学コースを歩いているフラナガン機関救出組の子供たちが、こちらの気配に気づき笑いかけて来る。おいおい、お前らの隣の子たち、お前らが虚空に笑いかけるんでびっくりしてるぞ。あ、いや、何人か素質がある子もいるな。薄々だが、俺とレイラの気配を感じ取ってる。

 ユウとマリオン軍曹が、お茶してる。あ、マリオン軍曹がこちらに気付いた。さすがに気付くわな。子供らの能力レベルでも気付くんだし。ユウもマリオン軍曹から教えられて、こっちに敬礼してやがる。

 ブリジット伍長とウェンディ伍長、なんでいっしょに座禅なんか組んでるんだ?もしかして、ニュータイプ能力鍛えようとか、してないか?鍛えるなら、宇宙遊泳がいいぞって、あ、教えて無かった。2人とも、こちらに気付いて敬礼したけれど、そのまま座禅続けるみたいだな。

 他にもルナ2にいる、ニュータイプ能力に目覚めつつある者たちや、その素養のある者……。なんとなく、漠然と俺たちの気配に気づいたみたいで、でも気配に気づいただけで見つけられないみたいだ。

 

(そうなんだよな。ニュータイプ能力で相手の事探ってたりすると、それを相手側からも知られたりするけれど、あたりまえなんだよな。「分かり合う」ための、ニュータイプを補助するための、そんな能力なんだから。そんな能力であるはずなんだから。)

(一方的な、そんな能力じゃないって事ね。……でも、そんな能力を戦いのためにしか使ってない。悲しいし、哀しいわね。)

(そこまで悲観することも無いさ。少しずつでも、俺たちは前に進んでる。今、唐突にそう思った。そう感じた。安心や楽観はできないけれど……。繰り返して言うが、そこまで悲観する事じゃなさそうだ。)

 

 念話とかじゃなく、レイラの心が俺の心に触れる。その際俺が、「実験」により壊されてしまったこの世界本来の『ゼロ』と、それに呼び込まれた何処かの世界の魂の融合したモノである事を知られてしまったが、心配はしていなかった。いや、「もう」心配はしていなかった、と言おうか。

 レイラは驚いた様だが、動じはしなかった。彼女の意識が、そっと俺の意識を抱きしめる。彼女は、言わなくても伝わる事を、あえて言葉にして言ってくれた。

 

(好き……。)

(ああ、俺もお前が好きだ。愛してる。)

(わたしも、貴方を愛してる。)

 

 ここが宇宙空間で、肉体がノーマルスーツ着てるんでキスできないのが、たまらなくもどかしかった。意識体ですればいいとか言う奴がいるかも知れないが、俺たちはしょせんオールドタイプだ。肉体という枷、器、そういう物があってこそ、なのだよ。うん。

 

 

 

 あー、頭が痛い。がんがんする。ヘビが頭の中でうねってる。頭が割れるー。でも、レイラが看病してくれるんで、幸せかも。でも痛い。俺はベッドの上で、呻いていた。

 

「もう、無理するから……。」

「面目ない。」

 

 うん、俺は強化人間だし。でもさ、それでもニュータイプ能力による交感は意味があると思うんだ。たとえ人工的で、たとえ事後に強烈な頭痛が襲うとしても。だけど……。

 

「だけど、やっぱり治るんなら治ってほしいよな……。」

「……決めたわ。わたしが治る方法を見つけてあげる。必ずわたしが、貴方を治してみせる!約束する!!」

 

 俺は微笑んで頷く。レイラはその俺の笑みを見て、ちょっと赤面しながら自分も微笑んだ。

 

 

 

 レビル将軍から、第42独立戦隊および「オニマル・クニツナ」隊に、新たな任務が言い渡された。旧サイド5暗礁空域の外縁部に存在する、破壊されたコロニーに敷設され、その後放棄された小規模な連邦軍宇宙基地の調査と破壊である。

 これは前回、第42独立戦隊に本来所属していたMS隊が、致命的打撃を受けて再編成を余儀なくされた任務だ。ぶっちゃけた話この宇宙基地は、ジオン残党に占拠されてその拠点の1つとなっているのだ。そしてそのジオン残党は、仮称デラーズ・フリート……今はまだ仮称でしかないのだが、それと協力関係にあり、早晩合流すると見られている。

 まあ、仮称デラーズ・フリートと協力関係にあるのは一目瞭然だよな。だって全開第42独立戦隊を急襲したのは、その仮称デラーズ・フリートの哨戒艦隊だし。

 俺たちはブランリヴァルのブリッジで、会議を行う。

 

「ブライト艦長、前回はどうだったんだ?」

「MS隊を発艦させて、基地を包囲し攻撃しようとしたところで、待ち構えていたかの様にチベ級重巡1隻、ムサイ級軽巡2隻、ムサイ後期型軽巡1隻が出現した。既に艦載MSを発艦済みで、こちらを包囲下に置くオマケ付きだ。」

「それでも互角に戦ってはいたんです。MS隊の性能では、こちらが上でしたからね。ですが徐々に押されて行って……。前艦長がそのとき倒れて。」

 

 オペレーターの情け無さそうな声に、俺は眉を顰めた。

 

「それでボロ負けを、ブライト艦長の大活躍でなんとかしたわけか。……クサいな。敵艦が待ち構えていたかの様に……いや、待ち構えていたのが。」

「俺もそう思う、ゼロ少佐。」

「またも情報漏れ、じゃないのか?いや、レビル将軍派閥に潜り込ませる必要は無い。ルナ2基地にスパイがいればいい事だ。」

 

 情けないのは、そのスパイが敵のじゃなくて、味方の他派閥の者である可能性が高い事だな。困ったもんだ。その事は、ブライト艦長も言わずとも分かっている様である。

 

「つまり俺たちは、出撃と到着日時がバレている物として、行動しなければならんのだな。やれやれ。」

「だが、今回は俺たちにも秘密兵器がある。オペレーターの、ええと……パウラ伍長、頼む。」

「はい。」

 

 大型モニターに、1機のMSの姿が映し出される。

 

「RMS-119アイザック……。ハイザックがベースになって開発された、早期警戒機仕様機だ。ジオンが一年戦争で使用していたMS-06Eザク強行偵察型や、MS-06E-3ザクフリッパーの、事実上の上位機だと思って良い。俺の乗っているガンダムNT1アレックスに比肩する運動性とパイロットへの追随性、MSとしては化け物じみた航続距離、そして信じ難い高速性を持つ豪華版のMSだ。」

「いわゆる、『我に追いつくガンダムなし!』と言う奴か。」

「更にこれに装備されているカメラガンは、解像度も倍率も何もかも、艦載の望遠レンズを超越している。レドームも背負っているし、センサー系は化け物じみたどころじゃない、化け物そのものだ。

 しかもMSとしては珍しく、ミノフスキー粒子広域散布機能もあるから、発見されづらい。……これで武装がビームサーベルだけでなかったら、マリオン軍曹乗せてるところなんだがな。」

「上手くいかんものだな。」

 

 俺は頷いて言う。

 

「今度はこれが、2機この艦に配備されてる。部隊の予備機として配備されてた2機のハイザック・カスタムは、今回以降はネルソン級MS軽空母ネルソンに積んでもらう事になるな。

 アイザックの搬入は、極秘裏に行われた。これがばれているなら、レビル派そのものにスパイがいる可能性が高くなる。このアイザック小隊を先行させて敵の陣容を掴めれば……。」

「そうなれば、敵主力を逆に不意打ちで撃ち崩し、返す刃で元連邦軍宇宙基地であった現ジオン残党拠点を粉砕できるわけ、か。」

 

 その言葉に首肯し、俺は徐に目線を後ろにやる。そこには副官であるレイラの他に、2名の女性士官が立っていた。

 

「その通りだ。で、アイザック小隊のパイロットなんだが……。」

「その2人か。新たに乗艦してきた、6人のうち2人だな?」

「ああ。ツァリアーノ連隊第01独立中隊、通称「オニマル・クニツナ」隊第5小隊。小隊長のリディア・ターラント少尉と隊員のホリー・ヴィンセント少尉だ。ああ、ちなみに残りの4人は、アイザックの専門整備兵だ。特殊装備が多いもんでな。」

 

 2人は一斉にブライト艦長に敬礼をする。

 

「はっ!自分は、連邦宇宙軍よりレビル将軍直下に転属してまいりました、リディア・ターラント少尉であります!以後、お見知りおきを!」

「お、同じくホリー・ヴィンセント少尉であります!」

 

 必死に表情を引き締めようとして、失敗してニヤけているレイラが可愛い。この2人は、ベルファスト基地時代からのレイラの友人なのだ。今回なんとか引き抜くことができて、宇宙に上がって来てくれたのである。

 アイザックと言う、新たな……使いようにもよるが、強力な戦力を得た俺たちは、目的の宙域へとひたすら航行を続けていった。




と言うわけで、今回はベタベタの甘々がメインでした。オマケに次回の任務のサワリを少しだけ。
あと、以前出て来たレイラの友人2人を引き抜きました。まあ、彼女らの所属が地上軍(陸軍、空軍)じゃなかったのが、事を簡単にしたんですけれどね。


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裏切った男

 ブランリヴァルの乗員全員が、ノーマルスーツを着用して戦闘待機の状態だ。俺は副官であるレイラと共に、艦のブリッジに上がっている。無論、2人ともパイロット用ノーマルスーツを着用していた。

 

「進路クリア!ターラント少尉、ヴィンセント少尉、発進よろし!」

『リディア、アイザック、行きます!』

『ホーリー・ヴィンセント、アイザック、出ます!』

 

 艦の両舷側前方にある2つのMSデッキから、カタパルトで2機のアイザックが射出される。それをブリッジから見ながら、俺は祈る様な気持ちで言う。

 

「目標の宇宙基地……敵拠点は、場所も規模もわかっている。武装も多少、艦砲……副砲クラスを流用した物が追加されているだけである事も判明している。

 となれば、後は仮称デラーズ・フリートから貸し出されている、哨戒艦隊規模の小艦隊とそれに搭載されているMSか……。彼女らがそれの居所を見つけてくれれば……。」

「ああ。そうすれば、俺たちは有利な条件で敵を攻撃できる。殲滅する事も不可能じゃない、いや確実にやらねばならん。MSや艦艇の性能差から算定するに、数が互角ならば勝利は動かん。そしてその後に、艦砲で敵基地を破壊すれば完了だ。」

「仮に見つからなかった時の策は?」

 

 ブライト艦長はオペレーターに命じ、モニター画面に現場宙域の略図を表示させる。

 

「これが目標の元連邦基地だ。はっきり言って、小規模で艦砲でもぶち込めば、数発で終わる。しかし前回はMS、ドラッツェがスクランブルして来て、こちらが射程距離に入る直前に足止めされた。」

 

 宙図に、赤い点が表示された。そして続いて、何本かの色の違う矢印が映し出される。

 

「これが、足止めされた地点だ。赤くて細い矢印が敵MS。そして前艦長は、艦砲による目標の破壊を断念、MSでの攻撃に切り替えた。青い矢印が味方MSだ。半数を艦の直衛、MS隊Aとしてドラッツェの対処にあたらせ、もう半数のMS隊Bを目標へと向けた。

 そして目標をMS隊Bが包囲した直後に……。この太い赤の矢印の様にチベ艦、中ぐらいの3本の赤の矢印の様にムサイ艦3隻が現れた。」

「もろに待ち伏せくらってるな。」

「言うなよ。分かっている。後は乱戦だ。前艦長がブリッジで倒れ、俺が指揮権を掌握して、なんとか脱出した。出来る限りMS隊も救助したんだが……。」

 

 ブライト艦長は、唇を噛む。俺はだが、感嘆のため息を吐いた。

 

「凄いな。俺が指揮を執っていたら、MS隊も艦隊も、あの損害では救う事はできなかっただろうな。」

「……済まんな。さて、敵が2匹目の泥鰌を狙って来た場合は簡単だ。今回はこの航路を取る。そうすれば、いざと言う時にまともに撤退戦ができる。敵の戦力次第では、艦隊戦、MS戦で勝利して、改めて敵拠点を破壊する事も可能だ。ただ、敵の戦力次第では普通に撤退するしかないな。

 そうでなかった場合、となると可能性は少ないんだが……。敵が既に基地を放棄し、仮称デラーズ・フリートとやらに合流した場合だな。この場合は、任務を果たすのは簡単だが……。表向き任務は果たせても、実際には敗北に等しいな。敵戦力を丸のまま、本陣に合流させてしまうのだから。」

「俺だったら、逃げて仮称デラーズ・フリート合流だな。」

 

 そう言ったら、レイラ以外に驚かれた。ブライト艦長、あんたまで驚かんでくれないか。

 

「驚いたな。「オニマル・クニツナ」隊ゼロ・ムラサメ部隊長は、猛将だと聞いていたんだが……。」

「俺は臆病者だよ?」

「前回の戦闘を見る限りでは、そうとも思えんが……。」

「ははは。」

 

 俺は自分が臆病だと思ってるんだがなあ。自分が死ぬの嫌だし。部下が死んだらとか、考えるのも嫌だ。あと、レビル将軍直卒部隊時代の仲間たち、ツァリアーノ大佐、アレン少佐、ラバン、デリス、ロン、はじめての部下であるバージル。彼らが死んだら、平静でいられないだろうな。

 そしてレイラ……。この娘が死んだら、俺は復讐に走って完遂後に自殺する自信がある。たとえそれが戦争と言う、誰に責任がある事で無くとも、彼女を殺した相手を殺し、殺した陣営を滅びに導くまで暴走を続けると思う。……あれ?猛将だとか臆病だとか以前に、ただのヤバい奴じゃないか。

 

 

 

 幸いなことに、2機のアイザックは任務を無事果たして帰還した。問題は、敵の数が推定の2倍に増えていた事だ。何それ。敵は2個小艦隊を、各々別の場所に潜ませていたのだ。2機のアイザックは、各々別の小艦隊を発見してきた。2機出してよかったよ……。

 

「まさか戦力不足のはずのジオン残党に、これだけの戦力補充能力があるとはな……。」

「甘く見ていた事は否めない。ただし、付け入る隙はあるな。」

「ほう?」

 

 ブライト艦長の言葉に、俺は内心驚く。

 

「敵は2個小艦隊を用意して、ここαポイントと、βポイントに伏せさせている。確実に俺たちの戦隊を挟撃し、逃さず宇宙の塵に変えるつもりだろう。あるいは鹵獲して物資にするか。

 だが……αポイントの近傍には、小規模な暗礁宙域が複数存在する。だから……。」

 

 唖然とした。だが、成功の目はある。

 

「無茶な作戦を立てるもんだな。ま、だがなんか上手く行きそうな気もするし、最初にそちらに従うって言ったからなあ。」

「ははは、頼んだ。そちら「オニマル・クニツナ」隊のMSにかなり依存したプランだからな。済まんとは、思っている。」

「なに、信頼されたと思って、やってみせるさ。」

 

 俺は笑って、安請け合いをした。

 

 

 

 俺たち「オニマル・クニツナ」隊は全機発艦し、αポイントの小艦隊に襲いかかった。

 

「このプランは俺たちがどれだけ早く、敵を殲滅できるかにかかってる!容赦するな、叩き潰せ!」

『ザザッ……!!ザッ』

『第3小隊、りょザザッ解!』

『ザッ第4小隊も了解ザザザザッ!!』

 

 ミノフスキー粒子によるノイズが鬱陶しい。こちらの奇襲に、チベ級重巡から4機、ムサイ後期型軽巡1隻から3機、パプア級補給艦改装の仮装巡洋艦から3機、民間輸送艦改装の仮装巡洋艦から3機の、計13機のMSが出撃してきた。だが遅い!俺たちの隊の、各々のハイザック・カスタムが持つビームランチャーからビームが迸った。

 と同時に、俺たちは上方、下方、3時、9時の方角に小隊ごとに分散する。そしてそこに開いた隙間から、後方に位置する改ペガサス級強襲揚陸艦ブランリヴァル、サラミス改級キプロスⅡ、グレーデンⅡ、そしてネルソン級MS軽空母ネルソンからの、濃密な艦砲射撃が敵艦隊と敵MS隊に襲いかかった。

 爆光が目を焼く。いや、全天モニターの光量調節が効いてるから、本気では焼けはしないんだけどな。数機の敵MS……シルエットから、ドラッツェだと思うんだが、それが吹き飛んだみたいだ。あと、敵チベ級もかなりの損害を受け、退避しようとしている。させん。

 

「ユウ!第1小隊とお前たち第2で、敵MSを殲滅する!第3で生きのいいムサイ後期型と仮装巡洋艦を潰すんだ!第4小隊!チベ級を逃がすな!」

『……!!ザザッ!』

『はいよ、お仕事、お仕事。まかせてザザザザッ!』

『こちら第4、了かザザッました!!任せてください!』

 

 レイラ機とィユハン曹長機が、各々1機ずつのザク改を爆散させる。性能差がありすぎて、一方的だ。時間稼ぎにもならない。で、俺の前にはガルバルディα……。いや、いいんだよ?強い相手を俺が受け持つのは、理想的だから。技量もなかなか凄い。エース級だ。だが、俺は幾多のエースを墜として来たんだ!

 ビームライフルを、細かく2連射。1撃目は左腕を犠牲にし、切り離して誘爆を避けたのは凄いが、2撃目が胴体を撃ち抜いた。死に際に相手が撃ったビームライフルは、悪いけどかすりもしない。

 俺たちは次の標的であるドラッツェ3機の小隊を見つけ、再び襲いかかる。そしてチベ級とムサイ後期型、仮装巡洋艦2隻が全て火球に変じた事で、ここの戦闘は終わった。こちらの損害は軽微。ムサイ後期型のメガ粒子砲が、ブランリヴァルの舷側をわずかにかすめ、少しだけ焼けこげをつけた程度だ。

 

俺はブランリヴァルのブリッジにアレックス3の手で触れて、接触回線で通話を行う。

 

「……どうだ?」

『間違いありませんゼロ少佐。撃沈前にムサイが、レーザー通信をβポイントに送っています。内容はわかりませんが……。』

「了解だ。ではこれより、作戦の第2段階に移る。」

 

 そして「オニマル・クニツナ」隊は、もう一度秘密兵器であるアイザックを持ち出した。

 

 

 

 ブランリヴァル、キプロスⅡ、グレーデンⅡ、ネルソンは生存者を探すかの様に、戦闘後の宙域を右往左往していた。そこへ、βポイントの方角から、メガ粒子ビームが投射される。そちらを見遣れば、チベ級重巡1隻、ムサイ級軽巡洋艦1隻、仮装巡洋艦2隻の小艦隊がビームを撃ち放ちながら突入して来る。

 第42独立戦隊は、急ぎ陣形を整えつつ、整然と後退して行く。まだこの距離ではミノフスキー粒子の影響もあり、命中が見込めないため、こちら側は1発も撃たない。逆にジオン側は滅茶苦茶に発砲して宙域を荒らしつつ、突進して来る。

 なるほど、これはMSの発艦を妨害するための保険的な戦術か。色々考える物だな。だが連邦のMSは、かなり堅牢に出来ている。この程度空間が荒れたところで、発進できないほどヤワなのは、それこそレドームが繊細なアイザックくらいだ。……それにな。

 おっと、ムサイ艦が180度後ろを向き、艦尾を第42独立戦隊に向けた。そして尾部にあるMSデッキのハッチを開く。仮装巡洋艦も側面を開き、MSの発艦準備を始めた。

 チベ級も、艦首の下部ハッチを大きく開けた。チベはあそこがMSハッチなんだよな。元々はチベ級は、MS搭載艦じゃなかったんだが、設計変更したんだっけな。だからあんな……。

 

 

 

 あんな脆弱な構造になる。

 

 

 

 俺はアレックス3の左手を上げて、ハンドサインを部下に送った。第3小隊の3機のハイザック・カスタムが、ビームランチャーでチベ級のMS発進口を狙撃。今まさに出撃しようとしていたリックドムⅡが爆散、次々に内部で誘爆が起き、チベ級は一瞬にして火球と化した。

 同様にレイラ機とィユハン機のビームランチャーが、ムサイ艦から発艦しようとしていたザク改を狙撃、爆発させた。ムサイ艦のMS発進口はずたずたに破壊され、使い物にならなくなる。第2のマリオン軍曹機、コーリー軍曹機もまた同じく仮装巡洋艦を狙い、第4のクリス少尉機、ダミアン曹長機、ウェンディ伍長機も最後の仮装巡洋艦を狙う。

 一瞬にして、βポイントからやって来た新たな小艦隊は、MSの運用能力を喪失した。もっとも、あれだけ格納庫が破壊されていては、生き残っているMSがいるかも怪しいが。そして俺とユウは、俺のアレックス3がムサイ艦、ユウのアレックス2が仮装巡洋艦の1隻を狙う。ビームライフルで、ムサイ艦のエンジンナセルを撃ち抜き、それが誘爆。あっと言う間に爆沈する。

 見遣ると、ユウのアレックス2も仮装巡洋艦をあっさり沈めていた。残り1隻の仮装巡洋艦?逃げようとしたところを、ブライト艦長たち第42独立戦隊の艦砲の餌食になりましたが?

 そう、俺たちはαポイント近傍の、小規模な暗礁宙域に隠れ潜んでいたのだ。その上でアイザック2機のミノフスキー粒子広域散布機能を使い、センサーから身を隠していたのである。そして敵艦が暗礁宙域の傍らを通った時に奇襲攻撃をかけただけの話だった。

 まあ、敵が俺たちの目の前でMSを発艦させようとしたのは、ありがたい偶然だったが。いやほんとに。

 

 

 

 第42独立戦隊は、今まさに目標の元連邦軍宇宙基地、現ジオン残党拠点に、艦砲の照準を合わせていた。ブライト艦長の命で、通信士が降伏勧告を送る。仮称デラーズ・フリートから派遣されてきた艦が8隻も……そのうち4隻は、残党にとって極めて貴重な純正の戦闘艦艇だが、それが失われたとなると士気が下がる事この上ないだろう。だがこれで降伏しないなら、艦砲で粉砕するまでだ。

 と、ここでブリッジから連絡が入る。

 

『こちら0-0!1-0、2-0はただちに発進し、逃亡したソドン巡航艇を拿捕してください!進路クリア!』

「こちら1-0、了解!あとの指揮は3-0に委譲!」

『……!!』

『3-0、りょザザッ解したぜっ!!』

 

 俺とユウの2機のアレックスは、いざと言う時に即座に発艦できる様にカタパルトに乗っていた。ハッチが開くや否や、俺は右デッキから、ユウは左デッキから発進する。凄まじい加速Gがかかり、俺たちのMSは、宇宙に飛び出していた。

 と同時に、基地からは降伏を意味する信号弾が上がる。なるほど、前を逃げて行く船は、アレは降伏をよしとしない奴らって事かね。ただ、指示は……ブライト艦長の指示は敵船の拿捕だ。彼の勘が働いたんだろう。ニュータイプ感覚の勘と違い、彼の勘は今まで学んだ知識や経験の集積物だ。どっちも重要だけど、この場合無視したら絶対に痛い目に遭う。

 ……いや、ニュータイプ感覚の勘も、捨てたもんじゃないな。頭痛は痛いが。俺はユウのアレックス2にハンドサインを送った。ユウ機もハンドサインを返して来る。そして俺は追跡を断念し、コロニーの残骸のほんの一部、ミラーの欠片と思しきデブリに機体を近づけていった。

 いたいた。あわてて隠れようとしたけど、見えてるってば。ジオンのパイロット用ノーマルスーツを着用し、スペースボート……超小型の、数人乗りの宇宙艇にしがみついている、男と思しき輩が居た。スペースボートの座席には、何やら複数のアタッシュケースっぽい気密ケースや、幾つもの小包みたいな箱が縛り付けられてやがる。

 

「これは……。あたり、か?」

 

 アレックス3右腕の、90mmバルカン砲を突きつけてやると、あっさりと相手は両手を上げた。俺はビームライフルを機体の腰にマウントし、MSの右掌を差し出してやる。相手は大人しくそれに腹ばいになった。俺はシールドもアレックス3の背中に回し、左手でスペースボートを抱えると、ブランリヴァルに戻って行った。

 

 

 

 ブランリヴァルの独房から溢れそうな、と言うか溢れてしまい、キプロスⅡやグレーデンⅡ、ネルソンまで使って収容した捕虜を連れて、俺たちはルナ2への帰途についていた。でもって、俺が捕まえて来た男は、尋問されても何も喋らなかったそうだ。仕方なしに、独房に閉じ込めたままにしてある。

 なお、奴が運ぼうとしていた荷物は、開けてみたところ箱からは金塊が、気密ケースからは何が書かれているか不明な、暗号化されていると思しき書類が出て来た。この書類と金塊、特に書類は、ひとまずルナ2に帰ったら地球のジャブローから上がって来た、諜報部員に引き渡すそうである。……アボット少佐じゃあるまいな。

 そして俺とレイラはブリッジへと上がっていた。

 

「ふうむ。では何もわかってないって事か。」

「ああ。なかなか頑張るが、本職の尋問官に渡せば……。」

「艦長、そいつの顔、見てみたいんだが駄目か?」

「む?かまわんが……。」

 

 ブライト艦長は、オペレーターに独房の映像を出す様に命令する。俺たちは吹き出した。

 

「こ、こいつ……。カメラがあるの知らないのか?」

「身体検査はしたんですけど……。」

「何処にこんな工具持っていやがったんだ!保安員に連絡して、急いでこいつの独房へ急行させろ!」

 

 オペレーターたちとブライト艦長が大騒ぎになる。そして俺も魂消た。レイラがお仕事モードで聞いて来る。

 

「どうしたんですか?ゼロ少佐?」

「こ、こいつジュダックだ……。」

「何!?知っているのかゼロ少佐!」

「知ってる……。いや、書類で見た覚えがあるんだ。」

 

 俺はブライト艦長の問いかけを、とりあえず誤魔化した。ガンダムのアニメで見た、なんて言えない。そう言えば、オデッサで水爆の阻止は不可能だったんだよな。つまりアイツもジオンに亡命してるわけで……。

 

「こいつがジュダックって事は、まさか……。まさか、まさか……。

 俺たちが相対してるのは、デラーズ・フリートじゃなく、エルランズ、フリートなのかッ!?」

 

 

 

 他の捕虜を尋問した結果、ちゃんとデラーズ・フリートだそうであった。エルランも居るが。ぶっちゃけ、ほっとした。




と言うわけで、デラーズ・フリートにはエルランがいました。あいつ、キシリア派閥だったよね?とか言わない。あいつは実際、どの派閥でもいいの。
でも、落ち目ったなあエルラン。水爆を止められなかったときには、我が世の春だったろうに。


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マスドライバー施設の攻防

 ルナ2の通信室で、俺とブライト艦長はジャブローのレビル将軍と、レーザー通信で話していた。本題は、前回の任務を完了した報告と、次回任務の命令を受ける事だが。

 

「……将軍。またパイロットスーツで……。」

『いや、な。さっきまで実機で若い者を少し絞ってやっていたんだが……。わたしの腕が落ちた、かな?相手を撃墜するまでのタイムが……。』

「素直に褒めてやったらどうです?若いのの技量が伸びたって。」

『いやいや。少し増長が見られたのでな。天狗の鼻を折ってやるつもりだったのだよ。で、折れたのは良いが、タイム的にはわたしとしては満足行くものでは無かったな。アレックス1を使わなかったせいかもな?』

 

 この老人は……。あ、ブライト艦長が痺れ切らした。

 

「ごほん!あー、閣下。元連邦軍小規模宇宙基地の破壊は完了し、残党の兵員多数を捕虜といたしました。既に報告書の写しはそちらへ届いているかと思いますが……。」

『うむ、来ているよ。ルナ2尋問官の追加報告書もな。……エルランが、な。デラーズ・フリートに合流しておったか。ジュダックはどうしても口を割らんようだな。だが他のソドン巡航艇で逃げ出した人員は、デラーズ・フリートから派遣された者たちであった様だ。そやつらが、口を割ったよ。』

「では……。」

 

 だが映像の中のレビル将軍は、首を横に振る。

 

『しかしそ奴らは、こちらが今もっとも知りたい情報……。デラーズ・フリートが……いや、エルランが連邦軍の誰と通じておるのか、知らされてはいなかった様だ。

 エルランめ……。連邦軍との交渉や連絡は、自身やその手駒だけで行い、デラーズには情報や物資を渡すのみであったらしい。そしてデラーズも、それを良しとした様だ。万一の際、知らない事は漏れようが無いからな。今回の様に。』

「ジュダックはどうなのですか?」

『完全黙秘で、扱いに難儀しておるようだ。いざとなれば、諜報部では最後の手段も検討しておるとの事だな。だが、それで確実に情報が手に入ると言い切れんのが……。』

 

 最後の手段と言うのは、おそらくジュダックへの自白剤投与だろう。だがそれはこの場合、ジュダックの立場などから法的には許される範囲をクリアしてはいるが、証拠能力としては自白よりも落ちる事になっている。悔しいが。

 だが決定的証拠としては使えないかも知らんが、更なる捜査を進める根拠には充分なはずだ。いざとなれば……。

 将軍は俺たちの次の任務に、話を切り替えた。

 

『ところで君たちの次の任務なのだが……。本当であれば、いましばらく休みを与えたかったが、そうもいかん様だ。』

 

 俺とブライト艦長は、気を引き締めて次の言葉を聞いた。

 

 

 

 第42独立戦隊は、第41独立戦隊とのランデブー・ポイントに急行していた。第41独立戦隊とは、改ペガサス級強襲揚陸艦セントールを旗艦とし、サラミス改級巡洋艦マダガスカルⅡ、フィラデルフィアⅢ、フジ級輸送艦スルガⅡを僚艦とする小艦隊と、それに搭載されたMS1個中隊で構成される独立部隊だ。

 ブランリヴァルのブリッジで、俺はため息を吐く。

 

「ふう……。まさかこの状況で、各地のジオン残党が動くとはな。」

 

 そして思う。だが、その規模は正史のそれよりも、格段に小さい、と。……あたりまえだ。そうでなければ、俺が……俺たちがやった事の意味が無い。ったく、何が「インビジブル・ナイツ」だ。何が見えない騎士団だ。……何が『水天の涙』だ。……怒り方、俺っぽくないかもな?

 だが最初とは、俺の戦う意味もかなり変わって来た様に思う。最初は、死なないためだけだった気がするが、仲間たちのために戦う事の方が、大事になって行った。だけどそれだけじゃなく、いつの間にか……。

 たぶん、『俺』と『私』が融合してからだろう。うん。それらの動機と共に、ジオンに対する憎悪が思いっきり強くなってきてて……。ニュータイプ研に擦り込まれたソレじゃなく、いや、ソレはまだ残滓があるが、そうじゃなく『ゼロの元になった少年』の憎悪だと思う。

 コロニー落としにより全てを失った。そしてニュータイプ研に収容され、強化人間にされた。実験で、「壊され」た。そりゃ、俺だって怒るわ。いや、『俺』の事なんだけど。ジオンを憎んであたりまえだ。ただ『私』が混ざる事で、ある程度マイルドになってるとは思うんだが。

 話が逸れた。『水天の涙』作戦。月のマスドライバー施設を奪い、大質量弾により地上の目標を攻撃する計画。ニュータイプ能力の「超能力じみた」現象による予知と言う事でレビル将軍には伝えてあり、その段階で可能な限りの防衛体制を月のマスドライバー施設には敷いている。そのはずだった。

 思わず愚痴が出る。

 

「馬鹿かまったく……。」

 

 連邦軍の某将官は、せっかくレビル将軍が手を回し、マスドライバー施設の防衛に回した戦力を、勝手に引き抜いてこっそり別任務に充ててしまったのだ。アナハイム・エレクトロニクスと繋がりの深い将官だったらしく、アナハイムからの依頼で輸送艦の護衛任務に使い、更にその後も戻さず使いまわしている様だが……。

 それに気付いたレビル将軍が、急ぎ俺たちと追加でもう1個中隊を派遣したわけだが。そのもう1個中隊……第41独立戦隊のMS隊を借りるのに、他の将官に借りを作ってしまったらしい。レビル派子飼いの戦力で手が空いていて、その上で今宇宙にいるのは俺たちぐらいだ。他は皆、地上のジオン残党に対処するために地球に降りてしまった。

 ……よく考えなくても、アナハイムは臭いな。将軍もわかってるとは思うけど、あとできちんと進言しておこう。だが、諜報部……。級数的に仕事増えてるが、大丈夫だろうか。アボット少佐宛に、桃缶の詰め合わせでも贈ろうか。ドリンク剤の方がいいかな。

 

「あまり苛立つな、ゼロ少佐。気持ちは痛いほどわかるが。」

「艦長……。そうだな、済まない。」

 

 ブライト艦長が、心配して?声をかけてくれた。隣にいるレイラも、そっと意識の手を伸ばして俺の心に触れて来る。うん、あまり怒ると健康に悪いだけじゃなく、皆に心配かける。落ち着こう。よし、落ち着いたぞ。

 

「そろそろランデブー地点か?」

「ああ。と言うか、もう着いた。あとは向こう待ちだ。」

 

 おお、いつの間にか。

 

「そうか……。たしか通称、「F.O.T.A.」隊だったか。「Flame of the Avenge」の略……。復讐の炎、か。」

「少しやり切れん物があるが……。理解はできる。」

「ああ……。」

 

 この部隊、レビル将軍が設立の進言を他所から受けて、躊躇して設立実行してなかった部隊そのものなんだよな。ジオン公国による一年戦争開戦当初の奇襲攻撃によって壊滅したサイド1、2、4、5の奇跡的な生き残りや、連邦宇宙軍とかの士官学校行ってた同サイド出身者とかを集めて編制された、「スペースノイドによるジオン残党狩り部隊」……。

 俺の発言とか受けて、レビル将軍が演説で叫んだ言葉、「ジオン公国はスペースノイドの裏切り者である」を合言葉にした部隊だ。それに彼らは、実際ジオンに家族を殺されているわけだからな。怒りのほどは、痛いほどわかる。いや、俺も魂の「半分」はコロニー落としで酷い目に遭ってるし。だから気持ちは痛いほどわかる。

 

「レーダーに感あり。識別信号、改ペガサス級セントール、および僚艦のサラミス改マダガスカルⅡ、フィラデルフィアⅢ、フジ級スルガⅡです!」

「言ってる間に来たな。向こうとレーザー通信回線を開けるか?」

「了解、今やります。」

 

 艦長の指示に従い、オペレーターがセントールとの回線を開いた。正面の大型モニターに、向こうのブリッジが映る。俺たちは敬礼をした。

 

「こちらは改ペガサス級強襲揚陸艦、第42独立戦隊旗艦、ブランリヴァル艦長のブライト少佐です。そちらは第41独立戦隊旗艦、セントールでしょうか?」

『こちら第41独立戦隊旗艦、改ペガサス級強襲揚陸艦、セントール艦長のリード大尉。ははは、お久しぶりですな少佐。ついに階級を抜かれてしまいましたな。』

「り、リード大尉!一年戦争以来ですね、ああ、いや、以来だな。」

『そうです。下の階級の者に、敬語は基本的に使ってはいけませんぞ。ははは。』

 

 うわ、リード中……大尉。昇進してるよ。しかも改ペガサス級艦長。

 

『こちらは当戦隊所属のMS隊、「F.O.T.A.」隊部隊長、フェリクス・グスキ大尉。大尉、挨拶を。』

『了解、艦長。こちら「F.O.T.A.」隊部隊長、フェリクス・グスキ大尉であります。』

「……自分は現在、第42独立戦隊に出向中の、レビル将軍直属部隊ツァリアーノ連隊所属、第01独立MS中隊「オニマル・クニツナ」隊部隊長、ゼロ・ムラサメ少佐だ。よろしく頼む。」

 

 俺が名乗ると、グスキ大尉は目を見開く。彼は満面の笑みを浮かべ、大声で言った。

 

『おお!あの一年戦争でのトップエースがご一緒とあれば、心強いですな!協力して、共にジオン残党を叩き潰しましょう!』

「ああ。頑張ろう。」

 

 いや、実はここで「俺たちの任務はマスドライバー施設の防衛で、ジオン残党の殲滅じゃないぞ」とか言おうかと悩んだんだ。だけど戦意に水を差したり、互いの関係にヒビを入れる事も無いし。実際の戦場で、俺たちが気を付けていればいいさ。たぶん。おそらく。きっと。だといいなー。

 

 

 

 で、今俺たちは艦のメインエンジンをブン回し、マスドライバー施設に向かっている。

 

「間に合えばいいが……。」

「……残念だが、難しいな。」

「多勢に無勢、ですからね……。」

 

 ブライト艦長も、俺も、レイラも、その顔色は暗い。マスドライバー施設から、悲鳴混じりの救援要請が来たのが、つい先ほどだ。ジオン残党がMS26機と言う大兵力を持ち出して、施設を襲撃したのだ。そして守備隊はわずか2個小隊計6機。本当であれば、レビル将軍が手配した1個中隊12機がこれに加わり、施設の砲台の援護や、個々の性能差から負けは無いはずであったのに。

 ここで、意を決した顔で、ブライト艦長が言う。

 

「俺にいい考えがある。」

 

 マテ、それは失敗フラグだ。

 

「乗ってくれるか?」

「……指示には従う、そう言っていたはずだが?」

「そうか、感謝する。」

 

 いや、ちょっと怖いけどな。何を考えた?ブライト艦長。

 

 

 

 今、俺たち「オニマル・クニツナ」隊の中から選抜されたメンバーのMSは、漆黒の宇宙空間をMSとは思えない速度で飛翔していた。選抜メンバーは、俺、レイラ、ユウ、マリオン軍曹、コーリー軍曹、ブリジット伍長、ウェンディ伍長の7名。

 何をやったかと言うとだな。本来宇宙空間の航行では、どんなに急いでいたって目的地との中間地点で逆噴射を行い、制動をかけなくてはならない。だけどブライト艦長は、その速度の頂点で、俺たち選抜メンバーを月面へ向けてカタパルトで撃ちだしやがったのだ。当然俺たちは、物凄い速度で月に向けて飛び出す事になる。更に、俺たち自身、ぎりぎりまで制動を遅らせる予定だ。

 計算では、俺たちはかなり物凄く凄い速度で、問題のマスドライバー施設上空をフライパスする事になる。そのフライパスする間に、可能な限り多くの敵MSを撃破しろって……。無茶だろ。いや、やるけどさ。残りの戦力は、彼らは彼らで急いで現場に急行する。彼らが間に合うかどうかは、俺たちがどれだけの敵機を墜とせるか次第なんだ。

 

「こちら1-0!全員、月に向けて全スラスターを噴射用意だ!制動のタイミング合わせろ!失敗すると、どっか他所の宇宙に飛んでって、良くて酸素欠乏症だぞ!?」

『お、おどかさないでくださいよー、1-0!』

『了解、1-0!』

『カウントダウン、お願いします!』

『……。』

『死んでたまるもんですか……。ジオン残党を倒して……。そしてアーヴィン君にもう1度会うんだから!』

『煩悩垂れ流しですね、2-2。』

「カウントダウン開始!10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、噴射!!」

 

 全開噴射のGが、俺たちを襲う。月がぐぐぐっと近づいて来る。しばらく噴射を続ける。ううむ、推進剤の残量がこころもとない……。ああ、スラスターの過熱が限度ギリギリだ。けど一応計算通り。

 よし、1機残らず予定軌道に乗った。凄まじい速度で、地表が流れる。約1.7km弱を、1秒で通り過ぎている計算になる。あー、無茶苦茶な事考えるな、ブライト艦長。普通、こんな速度で狙撃なんてできんぞ。やるけど。

 

「目的の施設を視認!射撃タイミングは各自に任せる!オール・ウェポンズ・フリー!!」

『『『『『了解!』』』』』

『……!』

 

 ユウ、こんな時ぐらいなんか喋れ。俺は精神を集中する。

 

「見える!」

 

 脳がきしむ様な痛みを訴えるが、それを精神から切り離して、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ……。連射し過ぎて、ビームライフルがオーバーヒートして、撃てなくなった。あらかじめ展開していた両腕の90mmバルカンを用意する。しかしこれは精密射撃には向かな……!?

 くそ!守備隊のジム改が、ザク改に斬られた!とどめを刺す気だ!くそ、くらえ90mm!!あたってくれ!間に合え!

 

「……最後のは、確認できなかったか。こちら1-0。戦果は撃墜3、大破2、中破1、未確認1。」

『こちら1-1。撃墜2、未確認1です。』

『……。……。』

『こちら2-1です。撃墜1、中破1、小破1です。』

『こちら2-2。撃墜1です。』

『こちら3-2です。大破1。』

『こ、こちら4-2!た、大破1の中破1!』

 

 ユウは何者だ。ニュータイプ能力持って無いのに、撃墜3の中破2だぞ。しかしこれで、MS10機を撃破、9機に何がしかの損傷を与え、戦果未確認が2機。戦果が被っていたとしても、半数以上は損害を与えられた。上出来の部類だろう。

 しかし、味方の本隊がたどり着くまで、守備隊が持ちこたえられるかは、未だに不明だ。おそらく敵には、占領するための後詰の歩兵部隊もいる。……だが、もう俺たちには何もできん。あとは回収されるのを待ちつつ、月を回る周回軌道に乗っているしか無い。

 

 

 

 月を回る軌道で退屈していたら、ようやく迎えのネルソン級MS軽空母ネルソンと、フジ級輸送艦スルガⅡがやって来てくれた。ありがとう艦長のクレイグ・ウォルシュ中尉とダレル・サトウ中尉。

 

 

 

 ネルソンのブリッジに上がり、現場の状況を聞く。ああ、ちゃんと機体の冷却と推進剤の補充は頼んでおいた。ネルソンは輸送艦代わりに使われてるが、MS軽空母だからそれぐらいは軽く可能なんだ。

 なお、どうやら戦果の被りは無かったらしく、更に超高速での奇襲に敵は泡を食った模様。その間守備隊は態勢を立て直し、徹底的な時間稼ぎに方針を変更する。そしてなんとか、味方の本隊が到着するまで時間を稼ぐ事に成功したとの事。

 しかし被害が無いわけも無い。守備隊MSは6機中5機が被撃墜。残り1機も、全損の判定。更にパイロット6名中、3名が戦死し、1名がおそらくパイロットとしては復帰できないほどの重傷を負った。「F.O.T.A.」隊の部隊長、グスキ大尉がモニター画面の中で、悔し気に言う。

 

『俺たちがあと僅かでも、早く到着できていれば……。いや、うちの面々のうち、2~3人でもそちらの作戦に参加できる技量の者がいれば、こんな事には!ジオン残党め!』

「グスキ大尉。俺たちはできる事をやった。貴官もやれる限りの事はやったんだ。少なくとも、3人は俺たちと貴官らの働きで、命を拾った。マスドライバー施設も、陥落を免れた。

 失われた者を嘆くなとは言わない。けれど、救えた者も見ろ。……もう少し上手くやれれば、と思わない事は無理だ。俺も思ってしまう。だが……。」

『いえ、少佐。了解です。……お若いのに、流石ですな。超エースだけの事はある。』

「……何、受け売りさ。本音はヒミツだが、実はぐちゃぐちゃに思い悩んでたりするんだ。ヒミツだから、貴官にもナイショだけどな。」

 

 グスキ大尉は、ぶっと吹き出す。

 

『なんですか、そりゃあ。了解ですよ。こちらへの、お早いお着きをお待ちしております。』

「あと1時間でそちらに到着できるそうだ。ではな。通信終わり。」

 

 ……実は、グスキ大尉に言ったのは嘘ではない。あのとき救えたか不明だったジム改だが、実は救えていたらしい。しかし結局は戦死者リストに入ったとの事だった。ちょっと、いや、かなり悔しかった。ウォルシュ艦長に挨拶をして、MSデッキに降りる。

 デッキは輸送艦代わりに使われていただけあって、山ほどの貨物でいっぱいだった。片方のデッキに入るのはMS1機だけで計2機、残りは甲板上に露天係止またはスルガⅡに貨物扱いで載せてある。デッキに入ってるのは、俺とユウのアレックス3と2だ。ちなみにユウのアレックス2は、左デッキに入ってるので、ここには無い。

 俺は、アレックス3のコクピットに入ると、ハッチを閉めた。やっぱりここが落ち着く。やっぱり強化人間なんだなあ、と妙な感慨を抱いた。




ちょっとデラーズ・フリート関係をいったんお休みにして、水天の涙作戦のお話。なんかアナハイムが臭いと言うお話でもあります。アトラスの排気口のにおいと、どっちが臭いですかね。


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「敵」の馬鹿は、ある意味「味方」

 月面マスドライバー施設は、月から採掘した資源を地球の衛星軌道付近まで射出し、マスキャッチャーによってそれを受け止め回収するための磁力カタパルト施設だ。今俺たちは、そのマスドライバー施設にいる。

 ここには大型宇宙港施設は無いため、ミノフスキークラフト搭載艦で同時に着陸機能も持つ改ペガサス級ブランリヴァル、セントールの2隻のみ降下した。残りのサラミス改級4隻、ネルソン級1隻、フジ級1隻は上空待機している。

 第41独立戦隊のMS隊、「F.O.T.A.」隊部隊長グスキ大尉が、何処か残念そうな感じもする口調で、言葉を発する。

 

「これだけ重厚な護りがあるんです。さすがにもう、襲っては来んでしょうなあ。」

「そうだと良いんだがね……。人の事はあんまり言えないが、奴らは自分のカッコよさに酔ってるからなあ……。」

 

 徐に俺は、自分の事を棚上げし、鬱々とした気分で言う。グスキ大尉は、妙な顔になる。

 

「カッコよさに酔ってる?」

「スペースノイドの自治独立と言う夢のため、巨大組織地球連邦の弾圧と戦う正義の志士、悲劇の英雄たち……。そんなカッコいい自分と言う、都合のいい夢想に酔っているんだよ。」

「なるほど……。腹立たしいですな。」

 

 憎悪を表面に滲ませて、グスキ大尉は吐き捨てる。

 

「自国の数倍はいた、サイド1、2、4、5のスペースノイドたちを皆殺しにしておいて……。何がスペースノイドの自治独立だ。ジオン公国民以外は、スペースノイドでは無かったとでも言うのか……。」

「そのスペースノイド皆殺しさえ、下手をすると地球連邦政府のプロパガンダであり、ほんとの損害はそこまででは無かったとか、実は連邦政府がやってジオンに罪を擦り付けたなんて信じている阿呆もいる模様だ。」

「な!……あれは嘘偽りなんかじゃない。俺は見たんだ!俺はサイド1駐留艦隊のトリアーエズ隊にいたんだ!やつらが、やつらが俺の故郷を、サイド1を!」

 

 取り乱す、グスキ大尉。俺は彼が落ち着くまで待っていた。そして言葉を続ける。

 

「ああ。証人も証拠も山ほどある。嘘なんかじゃない。

 だが、そんな阿呆どもよりも始末に悪いのは、「あれが必要な犠牲だった」などと臆面もなく考えている、それこそ面の皮が厚い連中だ。」

「……。たしかに、その通りですな。そして俺たちは、そう言う連中を赦してはならない。そうですな?」

「ああ。だけど1つ忠告して置くぞ?だからと言って、自分たちの幸せを犠牲にしたら、それはそれで貴官らの負けだ。やつらを叩き潰し、かつ自分たちの幸せを掴む。そうでなくちゃいけない。

 ……難しいのは、わかってるんだけどな。」

 

 ため息混じりに言った俺の言葉に、だがグスキ大尉は大まじめに頷いた。

 

「そうですな。俺たちは、負けるわけにはいかない。生き延びて、ジオン公国の理想が薄っぺらい嘘っぱちであった事の生き証人として、叫び続ける。その上で俺たちが幸せを掴む。それでこそ、やつらを嘲笑えると言うものですな。」

「そうさ。あいつらのおかげで不幸を背負わされた俺たちが、幸せを掴んでみせるんだ。奴らにとっては、これ以上ない皮肉だろうさ。」

「ゼロ少佐……?もしや少佐も?」

「ちょっとな。コロニー落としのせいでさ。」

 

 俺は自分については、そこまでしか語らなかった。グスキ大尉も、突っ込んでは来なかった。そして俺は別の話題を振る。

 

「大尉……。いっしょに仕事する上で、話しておかにゃならん事がある。隠しておこうかと思ったが……。隠して置いてバレたら、信頼関係を損ないかねん。だったら話しておいた方がいい。」

「少佐?」

「……俺の、俺の「オニマル・クニツナ」隊には、複数名のジオン公国からの亡命者が存在している。だがその者たちは、決して……。」

 

 早口に俺が言いつのろうとした時、グスキ大尉が片手を上げてそれを制止する。そして大尉は言った。

 

「大丈夫、その事はこの任務を受けた時に、そちらの上官のツァリアーノ大佐からお知らせいただきました。大佐の、少佐に対する親心ですな。誰がその亡命者なのか、詳しくは教えていただけませんでしたが、なんでもジオンで迫害を受けており、少佐たちの尽力で救出されたとか。」

「!!……大佐、何言ってくれちゃってるんですか。あ、いや。迫害……を受けていた事は確かだ。」

「大丈夫です。俺たち「F.O.T.A.」隊の面々は、既にその事については納得済みです。俺たちの敵は、「ジオン公国の旗を仰ぐ者ども」だけです。

 ……俺はサイド3攻略戦にも参加しました。当時はまだ現役だった、ジムコマンド宇宙戦仕様に乗って。そして、あのシーマ・ガラハウ少佐の放送を聞きましたよ……。」

 

 遠い目をして、大尉は語る。俺は、黙って聞いていた。

 

「最初は憎悪に塗れましたよ。同胞であるはずのサイド2を虐殺したクソ女が、何をいまさらと。だけど、あの涙声……。彼女は犯した罪の報いを受けていますし、おそらく今も受け続けているでしょう。悪夢としてね。

 それに……。彼女は騙されて虐殺に加担させられた。そして前非を悔い、償った。ジオン公国を叩き潰す一手となった事で。」

「……。」

「俺たちは、彼女ですら赦しているんです。虐殺の実行犯ですらね。ですから、大丈夫ですよ。何度も言いますが俺たちの敵は、「ジオン公国の旗を仰ぐ者ども」だけです。」

「……感謝する、大尉。「F.O.T.A.」隊員たちにも……。」

 

 シーマ少佐かあ……。今、何やってんだろうなあ。新しい顔と名前と戸籍、連邦軍の軍籍と前歴を手に入れて、頑張ってるはずだけどな。俺とグスキ大尉は、連れ立って廊下を歩いて行った。

 ちなみに俺の人工ニュータイプ感覚で、他に誰もいない事は確認してあるよ?そうでなきゃ、こんなアブナい話、できないよね。

 

 

 

 このマスドライバー施設を襲撃したジオン残党の歩兵部隊は、マスドライバーの軌道計算プログラムを所持していた。この軌道計算プログラムは、地球上の主要連邦軍基地を目標にした物だ。

 艦に残った「オニマル・クニツナ」隊のメンバーと「F.O.T.A.」隊は、俺たちの攻撃で半壊した敵MS部隊を倒し、歩兵部隊の半数を降伏させた。残り半数?いや、降伏しなかったし、仕方ないだろう。あの世に逝ってもらうしか無かったそうだ。

 そして捕虜から押収した、マスドライバー攻撃による質量弾の軌道計算プログラムは、すべて破棄された。めでたしめでたし……と、ならないだろう事は、俺がよく知っていた。

 

「地上で陽動を行っていたジオン残党が、宇宙へ上がった、か……。来るんだろうな。」

「月へ、ですか……。なんで、わからないんでしょうね、彼らは。自分たちに、大義など欠片も無い事を。大義を語る資格が無い、と言った方がいいんでしょうか。」

 

 レイラの声が、何処となく悔し気に響いた。俺は、グスキ大尉には「奴らはカッコいい自分に酔ってる」と言ったが……。背景には、地球連邦の宇宙市民を踏みつけにする体質があるのは理解している。グスキ大尉はそれも分かっていたはずだから、あえて彼との会話では触れなかったが。

 しかし、それを理由にしたところで、同じ境遇の宇宙市民を虐殺したのは、言い訳できる事ではない。正史ではこのマスドライバー施設職員の中にも、ジオン残党に協力的な者は数多かった。だがレビル将軍が存命で、彼の演説で何度となくジオン公国の蛮行が叩かれたこの世界では、地球連邦政府に不満や反感を持つ職員でさえ、ジオン残党に協力するのはご免だと公言している。

 

「……自分を正義だと思っている、いや、そう思いたいんだろう。正義の味方は、カッコいいからな。そして、カッコいい自分に酔えば、現実から目を背けられる。酒に逃げるのと、なんら変わらんだろう。

 それだけじゃないのかも知れない。だけど、それも少なからずあるんだろう。そして、奴らは酔っ払い運転で人をひき殺したも同然だ。俺は奴らを叩き潰すよ、レイラ。奴らに同情はしない、できない、しちゃいけない。」

「手伝うわ、ゼロ。いえ、手伝うだけじゃダメね。わたしも戦うわ。」

「頼むよ。」

 

 自分の声が、なんか頼りなさげに響いた。

 あれ?正義に酔ってるのは、俺も同じか?せめて酔い過ぎない様にしないと。俺の戦う理由は、普遍的な正義と言うよりは非常に個人的なもんだと言うのを、忘れちゃ駄目だ。うん。

 

 

 

 レーザー通信で地球から届いた情報によると、『水天の涙』作戦決行において中心的働きをしていた敵部隊「インビジブル・ナイツ」を含むジオン残党が、月へと向かった模様だそうだ。更にソレを追って、その敵と何度となく交戦していたゲリラ狩り部隊、「ファントムスイープ」隊は改ペガサス級強襲揚陸艦ペガサスを使い、彼らも月へ向かう途上にあると言う。

 特筆すべきは、フルアーマー実験機であったRX-78-7ガンダム7号機を、「ファントムスイープ」隊が受領している事だ。正史においては、敵スパイであったシェリー・アリスン中尉がテストパイロットをしていたため、彼女の関わった機動補正プログラムが抜かれていたと記憶している。それでうまく戦えないと言う事態に陥っていたハズだ。

 気になったので、通信に出たツァリアーノ大佐にそれとなく聞いて見た。そうしたら、大至急新しい機動補正プログラムを組んで、搭載したそうだ。でもって、実はソレはプログラム媒体のメモリユニットが別物になっただけで、元々の奴の、ただのコピー品らしい。俺から話を聞いていたレビル将軍が、諜報部通じてコッソリ手を回した結果のようだ。

 

「改ペガサス級ペガサス、か。ウッディ大尉……今は少佐だったと思うが、あの人が艦長だったはずだな。本当はサラブレッドが使われていたはずだったが。」

「あのとき精神世界で、貴方に見せられた未来の1つにあった話ね?」

「ああ。だが、未来は変わっている様だ。少しでも、わずかでも、良い方に……。」

「今頃ペガサスは、月面近傍に到着してこちらに向かっているはずね。」

 

 俺とレイラは、マスドライバー施設に隣接して地下に建設されている、MS格納庫へと急いでいた。まだ俺たちのニュータイプ感覚には、敵襲のプレッシャーは感じられない。だが正史において、「ファントムスイープ」隊が月面へ到着したかしないかの頃合いで、「インビジブル・ナイツ」はマスドライバー施設に攻撃をかけてきたはずだ。

 既に敵を乗せたジオン残党の艦が、月面に到着したらしいとの話も受けている。いつここが襲われても、おかしくは無……!!

 

「来たな!」

「来たわね!」

 

 俺たちのニュータイプ感覚に、敵のプレッシャーが感じられる。とうとうやって来たか。俺は近場の壁にある端末に飛びつき、「オニマル・クニツナ」隊と「F.O.T.A.」隊の半数に召集をかけた。今、マスドライバー施設周辺には「F.O.T.A.」隊の残り半数が展開して警備にあたっている。だが、このままでは……。

 

「まずい、このプレッシャーは……。」

「ニュータイプ、いえ……。まさかとは思うけど……。」

「たぶん、間違いない。」

 

 来たのは、「インビジブル・ナイツ」だけじゃない。このプレッシャー、間違いない。……と、思う。

 

 

 

 ……強化人間だ。

 

 

 

 悪いタイミングだった。外に展開しているのは、「F.O.T.A.」隊でも練度の低い小隊2つだ。これが「オニマル・クニツナ」隊の練度と装備であったなら、と思わずにはいられない。俺たちが格納庫より出撃したときに感じた気配は、既に施設外縁部に到着している。

 そして「オニマル・クニツナ」隊、「F.O.T.A.」隊の第1、第2小隊は、地下の格納庫から出撃する。グスキ大尉が叫んだ。

 

『マイルズ!コンラッド!』

 

 俺たちの眼前で、2機のジム改が吹き飛ぶ。そして両機とも爆散した。……断末魔の悲鳴が、俺の人工的ニュータイプ感覚に聞こえる。

 

『く、くそ!スタンリー中尉、報告を!』

『はっ!だ、第3小隊はロジャー伍長機がやられましたが、パイロットは脱出!他は健在です!第4小隊は……マクシミリアン中尉が真っ先に撃墜されて、脱出は確認できておりません。その後、今しがたマイルズとコンラッドが。残るはトラヴィスのみです。』

『そうか……くそ。トラヴィス、お前はスタンリー中尉の指揮下に入れ!そして……。』

「避けろ、グスキ大尉!」

 

 俺の警告が間に合って、グスキ大尉機はかろうじて敵機の攻撃を躱した。しかしシールドを半分切り裂かれる。突入して来た敵機は、MS-11アクト・ザク……。それが3機1個小隊。だが変だ、こいつら、たぶん強化人間だが……3人分の気配こそ感じられるんだが、意識が1つしか無い様な……?

 

「グスキ大尉、こいつらは俺たちに任せて、他の敵を!こいつらは別格だ!ヤバイ相手だ!」

『く、了解!悔しいが……。部下の仇を、頼む。』

 

 グスキ大尉が退いて行く。それと敵機の間に入る様にアレックス3を移動させ、アクト・ザク3機にプレッシャーをかけてやる。敵機はこちらを容易ではない相手と見たか、グスキ大尉機を無理に追わず、こちらに向かって各々武器を構えた。

 

「……どう思う?レイラ少尉。」

『妙です。3機の動きが、綺麗に同時に行動を起こしてます。あまりに綺麗すぎます。』

「ィユハン曹長?」

『なんか……シミュレーターの敵機を思わせますね。人間じゃ、あそこまで同時に動くのは。タイムラグまったく無いってのは、無茶です。』

 

 ィユハン曹長の言葉に、俺は唐突に理解した。なんてことしやがる!

 

「奴らのうち、後ろの2機はビットだ!ビットと同じだ!強化人間を強化する際に自由意志を奪って、リーダーの強化人間によって操作される様にしてやがるんだ!

 ちくしょう、遠隔タイプのサイコミュの代わりに、そんな手を……。」

 

 待て、俺は何を言った?サイコミュの代わりに、ニュータイプ能力者同士の共感を利用したのか?いくらなんでも、そんな手間をかけるなら、ジオン系のやつらなら普通にビット使うだろ。こいつら作ったのは、やっぱり……!!

 

「1-2、ィユハン曹長!お前は後方支援に専念しろ!けっしてこいつら相手の近接戦闘は避けるんだ!1-1、レイラ少尉!近接支援を!

 0-0、マリー曹長!全機に通達!小隊単位で散開して、敵機の来襲を防げ!ただしユウたち第2小隊は、遊撃として火消し役に飛びまわれ!こいつら以外に強敵がいるかもしれん!それは、ユウたちに任せる!」

『『『了解!!』』』

 

 俺は3機のアクト・ザクとのダンスを開始する。と、その時殺意を感じた俺は、急ぎ機体を後退させた。今までの位置に、3条のビームが突き刺さる。見遣ると、新たなアクト・ザク3機がこちらに向かっていた。

 

「なんてこった……。もう1組かよ。0-0!ユウたちをこっちに寄越せないか!?」

『こちら0-0!無理です!今第2小隊は、ジム・キャノンⅡ3機の砲火に釘付けにされています!ろ、鹵獲された機体と推測されますが……。』

『シット!連邦の機体じゃないかよ!』

「くそ、ほんとに鹵獲機だったらいいんだがな。」

 

 横流しされた機体で無い事を、切に願う。……その望みは、叶いそうに無いが。そして向こうも3機、か。あちらの方角から感じるプレッシャーも、重い。ただ、こちらの2組ほどじゃないのが救いか。

 しかし、まずい。俺とユウの2個小隊が、強化人間に捕まっている。フィリップ中尉の第3小隊、クリス少尉の第4小隊、「F.O.T.A.」隊に残された3個小隊で、強化人間以外の戦力を捌いてもらわないと……。しかし正直、不安だ。敵は、明らかに異常な戦力供給を受けている。

 いったい何処から?決まっているだろう、そんな事。

 

 

 

 地球連邦軍だ。くそったれ。

 

 

 

 だがここを切り抜ければ、諜報部による内々の調査じゃなく、おおっぴらな捜査も可能だ。ジムキャノンⅡなんてのを流した考え無しの馬鹿のおかげだ。ありがたい事だ!なんとしても、切り抜けてやる!




今回、突拍子もない敵が出て来ました。主人公たちの相手じゃあありません。ユウ・カジマ中尉を釘付けにしている、なんと「ジム・キャノンⅡ」の3機小隊です。鹵獲機にしては、あきらかに状態が良すぎる機体です。それが3機も。
もろに横流し品ですねー。「敵」は、考え無しのおかげで馬脚をあらわしましたね。「敵」はどうやって切り抜けるんでしょう。やっぱりトカゲの尻尾切りかなあ。


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敵に至る鍵

 右から1機のアクト・ザクが襲い来る。その手にはヒートホークが。左から1機のアクト・ザク。その手にもヒートホーク。そして正面からも1機のアクト・ザク。その手にもヒートホークが鈍く輝く。

 こいつら……と言うか、こいつと言うか。3人1組のこいつらは、格闘戦に特化した強化人間と見た。さっきグスキ大尉の機体のシールドを、半分に切り裂いたのもこいつらだ。俺はアレックス3にシールドを捨てさせる。わずかでもいい、機動性を稼ぐのだ。こいつら相手にシールドを使うと、1回は防げそうだが代わりに攻撃ができなくなりそうだ。

 そしてもう3機のアクト・ザク。こちらは射撃中心の調整を施されていると見た。格闘戦特化の3人が俺を押さえている間に、この射撃戦中心の3人がレイラ機とィユハン曹長機を墜とすつもりらしい。

 だが……。

 

『見えるわ!』

『なんで見えるんです、副たいちょ!!』

 

 レイラのニュータイプ能力は、以前とは異なり大幅な拡張を見せている。おそらくセイラ・マス元軍曹、現士官候補生に等しいか、若干上ぐらいの力を手に入れているはずだ。まあ、セイラ候補生が、今も同じくらいの力だったら、だが。

 レイラ機が、敵機の射撃を躱しまくる。レイラには射線に乗った、敵の「殺意」がその目に見えているのだ。いや、俺にも見える。射撃タイプのやつらのリーダー機……こいつ、殺意を隠すのが下手だ。

 そしてィユハン曹長機が、相打ちになりながらシールド強度や機体耐久度、ビームランチャーの敵ビームライフルとの出力差で、ビット役の1機を撃墜した。だが、ィユハン曹長機は、シールドを大破喪失した上、脚部にも軽度の損傷を被った模様。

 

「ィユハン!下がれ!後ろから支援射撃を!」

『りょ、了解たいちょ!!』

 

 俺は3機連携で斬りかかってくるアクト・ザクを、二刀流のビームサーベルでいなしながら、ィユハン曹長に命令を下す。こいつらがレイラの方にいかなくて良かった。こいつら、と言うかリーダー役のこいつ、「殺意」を隠すのが上手い。俺レベルじゃないと、ニュータイプ能力で「感じ」て躱すのができない。

 そうなると、素の技量で躱すしか無くなるんだが……。レイラの素の技量は、現状グスキ大尉と同じぐらいか?となると、盾を失う事を代償に、1回なんとか躱すのが、多分せいいっぱいだろう。

 だが俺なら……なんとか「見える」んだよ!!

 

「そこだ!」

『『『!!』』』

 

 俺は左のビームサーベルで敵の1機の腕を狙い、ヒートホークごと斬り落とした。そして即座にアレックス3の左腕に仕込まれている、90mmバルカン砲を起動。そのアクト・ザクを穴だらけにする。そして倒れ伏したアクト・ザクは、幸い爆散はしなかった。後で調べてもらおう。

 だがそう思った時、リーダー機がビームライフルを抜く。そして倒れた機体を撃ちやがった。爆発するアクト・ザクのビット機……。

 

(……。)

「……死ぬときまで、何の反応も無し、か。徹底的に壊されてやがる。」

 

 そして俺は、もう1機のビット機コクピットを狙って右腕のビームサーベルを突き出した。アレックス3の肩部装甲に大穴を開けて右腕の自由を奪う事と引き換えに、そのビット機を操縦していた操り人形の強化人間は、絶命する。

 

(……。)

「楽に……なったか?」

 

 俺の技量はとうの昔に、「殺意」とか「殺気」とかを乗せないで攻撃できるレベルに達している。それだけじゃない。本来の攻撃とは別個に、「殺気」をぶつけてやる事で、攻撃を誤認させる事だってできる。ニュータイプや強化人間には、この幻の攻撃に反応せずに実体の攻撃を躱したり防いだりする事は、逆に困難だろう。

 敵リーダー機は、今度は倒れたビット機を破壊しなかった。つまり機体にはなんの機密も無く、強化人間そのものを調べられるのが嫌だと言うわけだな。よし、そうならば貴様そのものを調べてやろうじゃないか。俺は、ビット機のパイロットとは言え、機密保持のためとは言え、部下をなんのためらいも無く使い潰すこいつが気に食わなかった。

 濃密な俺の殺気を感じ取ったのだろう、リーダー機のアクト・ザクはビームライフルを腰にマウントすると、ヒートホークを再度装備しなおして構えつつも、じりじりと後ずさりする。

 と、そこに思念が走った。

 

(……状況029-000。成功作TYPE-0、仕様―ムラサメ博士型と遭遇。最高傑作であるTYPE-0と遭遇した際にはそれまでの任務を放棄、データを可能な限り収拾し、戦場を離脱、帰還せよ。条件一致、データ収集は完了なりや?)

(で、データ収集は、これ以上のデータ収集は困難!全、全マリオネットを喪失しましたっ!り、り、離脱命令を!離脱命令を!)

(……了解。A班、B班、C班、全機現状の任務を放棄し、離脱せよ。)

(び、B班リーダー、りょ、りょ、了解!!)

(C班リーダー、了解しました。しかし現状驚異的な技量の敵と交戦中。離脱は不可能です……。)

 

 こ、こいつら……。まだ子供だ!この思念、まだ子供の物だ!そう言えば、この間墜とした強化人間も、子供だった!

 ……成功作TYPE-0?まさか俺か?最高傑作、だと?……笑わせるな、俺は失敗作だ。そうでなきゃ、今は意識から無理に切り離してるこの頭痛が、あるもんかよ!いや、まずは俺のデータを持っていかせるわけには行かない!

 

(うおおおぉぉぉ!!!)

(ひ!コマンダー!コマンダー、たすけ……。)

 

 精神で怒号を放ち、相手をびびらせる。歴戦の勇士には無意味だが、こいつら……少なくとも目の前にいるB班とやらのリーダーには有効だろう。目に見えて、動きが鈍くなった。

 アレックス3の左腕に抜かせたビームサーベルで、俺は目の前のアクト・ザクの両腕両脚と頭を、次々に斬り落としてダルマにし、身動きを取れなくした。手加減したわけじゃない。敵の強化人間を捕虜にするのだ。部下である操り人形の強化人間……マリオネットとやらを殺してまで隠そうとした機密事項、調べさせてもらおうじゃないか。

 

(残念だ、B班リーダー。機密保持のため、抹消する。)

(や、やめて!助けて!コマンダー!)

(させん!)

 

 俺はアレックス3の右脚で、ダルマになったアクト・ザク胴体を蹴飛ばす。それは、ごろごろと転がって、岩にぶつかって止まった。今までそれがあった所に、2条のビームが突き刺さる。撃ったのは、射撃タイプの操るアクト・ザクだ。

 その隙をついて、レイラが必殺の念を込めてビームランチャーを発射。あとで「殺気」とか「殺意」を込めないで撃つ方法をレクチャーして訓練してやろう。そうしないと、ニュータイプ能力者や強化人間には不利だ。

 やはり、アクト・ザクのリーダー機はそのビームを防いだ。残り1機になったビット機……マリオネットとやらの乗る機体を盾にして、だ。爆散するマリオネット機。その爆圧をも利用して、コマンダー機は加速して飛翔した。

 

「しまった!逃げられ……。」

『そうはいかないぜっ!』

 

 ィユハン曹長機が、爆圧に乗った事で逆に動きが取れなくなったアクト・ザクを、狙い撃つ。遠距離狙撃は、ハイザック・カスタムの得意とするところだ。片脚を失ったアクト・ザクが無様に月面の大地に、ゆっくりと転がり落ちて来た。

 

「よくやった、ィユハン曹長!!」

『へへっ。見直したかい、たいちょ?』

「ああ、見直した!」

『え?マジ?』

 

 俺はアレックス3の左手にビームライフルを抜かせて、その機体のもう片方の脚部、そして両腕部、頭部を連続して撃ち抜いた。アレックス3をコマンダー機に歩み寄らせ、俺はオープン回線で言葉を発する。

 

「……降伏しろ。公正な扱いは保証してやる。コマンダーとやら。……やった事がやった事だからな。子供と言えど……。」

(……状況029-999。TYPE-0に鹵獲されそうになった場合に該当。ただちに……。)

「!?」

 

 俺は嫌な予感を感じ、アレックス3を全力で後退、大ジャンプさせた。さらにスラスターを全開で噴射する。次の瞬間、そのアクト・ザクの胴体は大爆発を起こした。

 

「……なんて奴だ。いや、そこまで擦り込みをされていた、って事か……。」

(コマンダー?A班リーダー、コマンダー指示を。こちらC班リーダー。マリオネットは両機とも大破、行動不能。当機も小破し、主武装ビームキャノンを2門とも使用不能。機密保持のための僚機破壊も不可能、離脱も不可能です。指示を……。)

(コマンダーとやらは死んだ。)

 

 俺は、やりきれない想いを抑え込み、思念でC班リーダーとやらに語り掛ける。

 

(B班リーダーとやらは、まだ生きているが意識は無い様だな。お前はどうす……。)

(コマンダーが、死んだ?)

(ああ、死んだ。)

 

 次の瞬間、俺は耳を疑った。いや、思念による会話だから耳とは言わんが。

 

(あはは、あはははははは!!やった!やったわ!これであたしは!!あはは、あはははははははははは!!)

(!?)

(ぜ、ゼロ?いったい何が?)

(れ、レイラ……。わ、わからん。)

 

 そして改ペガサス級ブランリヴァルのブリッジで、戦術情報を提供している0-0のマリー曹長から通信が入る。

 

『こちら0-0。ゼロ少佐、1-0……。第2小隊と交戦していたジム・キャノンⅡの小隊ですが、小隊長と思しき機体から、降伏するとオープン回線で……。2-0のユウ中尉が降伏を認めたんですが、第2小隊も各機小破から中破と、被害甚大でして……。』

「ならば第2小隊には、そのジム・キャノンⅡを見張らせておいてくれ。俺たちも、無事なのはレイラ少尉機のみで、俺の機体も、1-2のィユハン曹長機も、中破してる。」

『ええっ!?少佐が中破させられたんですかっ!?』

 

 驚くマリー曹長。いや、俺も強化人間とは言え、人間だからね?限界はあるよ?

 

「さすがにな。相打ち狙い、肉を切らせて骨を断つ覚悟でやらんと、あぶない相手だったからな。戦況はどうだ?場合によっては、予備機で出撃する。」

『申し訳ありませんが、予備機のハイザック・カスタムに乗り換えて出撃してもらう事になりそうです。ネルソン級MS軽空母ネルソンをそちらに回します。積んである予備機で出撃してください。』

「了解だ。」

 

 しばらくして、上空からネルソンが降下してくるのが見える。だがネルソンは着陸機能が無いので、俺とィユハン曹長は、損傷した機体に鞭打ってその高度まで跳んだ。

 

 

 

 戦闘終了後、アイザック2機がセンサー全開で索敵を行った結果、損傷を負って隠れている敵機を何組も発見したので、俺たち第1小隊が現場に急行して降伏、あるいは全滅させると言う行動を、何度も繰り返した。……相手が降伏せずに、全滅させざるを得なかった方が多かったのは、言うまでも無い。

 俺たちが疲れてマスドライバー施設に帰ってきた時、敵の総大将とグスキ大尉が怒鳴り合っている現場に遭遇した。いや、怒鳴っているのは敵の総大将……あれがエリク・ブランケか。そいつだけだった。グスキ大尉は、静かに喋っているだけだ。

 

「貴様ら連邦にはわかるまい!スペースノイドの悲願、自治独立の夢!そのために我々は……!!」

「……面白いことを教えてやろうか。俺たち「F.O.T.A.」隊……貴様らのおかげで、半数近くの命が失われたがな。それは、全員がスペースノイドで構成されている。」

「な、なに!?馬鹿な!貴様ら、連邦に魂を売った、裏切り者……。」

 

 グスキ大尉は、静かな口調で言う。

 

「裏切り者はどちらだ。全スペースノイドの裏切り者、ジオン公国のエリク・ブランケ・少・佐・ど・の?

 俺は目の前で、故郷であるサイド1を失ったんだ。他の連中も、皆故郷を、友を、家族を、全てをジオン公国に奪われた者たちだ。」

「な……。だ、だが、それは……。」

「必要な犠牲だった、とでも言うのか?だったら貴様。全スペースノイドのためだと言う理由で、サイド3の全員が、お前の故郷が、お前の家族が、友が、大事な者が、みんな踏みにじられてみろ。

 ……サイド3のやつらのために、その数倍のスペースノイドを殺しやがって。俺はお前らスペースノイドの裏切り者のくせに、スペースノイドの代表顔してるクズどもを、この宇宙から一掃してやる。そのためなら……。」

 

 俺はいつの間にか泣いていたグスキ大尉に近寄って、声をかける。

 

「グスキ大尉、泣いてるぞ。これ使えよ。」

「ゼロ少佐……。もうしわけありません。

 ……!?」

 

 俺が手渡したハンカチで涙をぬぐったグスキ大尉は、驚く。ハンカチが赤く染まっていたからだ。口調こそ静かだったが、あまりの怒りに瞼の毛細血管が切れて、血の涙を流していたのだ。

 

「こんな奴、相手にするな。貴官には、まだまだ倒さねばならない「敵」が、たくさん、たくさん居るだろう。」

「……は、了解です。少佐……ありがとうございます。」

「はやくそいつを連れていけ。」

「「はっ!!」」

 

 エリク・ブランケは、毒を抜かれたかの様におとなしくなり、肩を落として去って行った。そこへ、1人の大尉がやってくる。ユーグ・クーロ大尉、地球からエリク・ブランケら「インビジブル・ナイツ」を追って来た「ファントムスイープ」隊の隊長だ。彼は、エリク・ブランケと深い因縁があるはずだ。

 彼は、俺たちに向かい敬礼をする。俺とグスキ大尉も、答礼を返す。

 

「自分は地球連邦軍遊撃特務部隊、「ファントムスイープ」隊部隊長、ユーグ・クーロ大尉であります。」

「自分は地球連邦軍レビル将軍直属部隊ツァリアーノ連隊第01独立中隊、「オニマル・クニツナ」隊部隊長、ゼロ・ムラサメ少佐だ。こちらは地球連邦軍第41独立戦隊MS隊、「F.O.T.A.」隊部隊長、フェリクス・グスキ大尉だ。」

「ただいまご紹介に預かった、フェリクス・グスキ大尉です。」

 

 クーロ大尉は、ちらりとエリク・ブランケが連れていかれる後ろ姿を見遣る。

 

「たしか、奴を撃破したのは貴官だったな。貴官も奴に何か話が?」

「は、い、いえ……。」

「クーロ大尉、俺の権限で許可を事後承諾でもぎ取るから、話したい事があるなら話して来ていいぞ。と言うか、話しておいた方がいい。結果がどうあれな。後悔を後々まで引きずるより、ましだ。」

「……はっ!では失礼します!」

 

 クーロ大尉は、エリク・ブランケの後を追って早足で去って行く。俺はその後姿を見て、呟いた。

 

「ふう……。世話のやける。」

「彼は何を?」

「いや、俺が一方的に知ってるだけだからな。あまり話すべきじゃないだろう。」

「……そうですな。了解です。」

 

 グスキ大尉は、素直に引き下がってくれた。

 

 

 

 俺はレイラと共に、捕らえた強化人間の尋問に立ち会っていた。尋問官は、わざわざルナ2から大急ぎでやって来た、レビル将軍の息がかかった人物たちである。彼らがルナ2より到着するまで、強化人間たちは他者との接触を最低限に抑えられていた。何故って、変な事言われて機密が漏れても。

 最初に尋問されたのは、C班リーダーと称されていた10~11歳程度の少女である。ちなみに捕らえられた他の強化人間は、C班マリオネットの少年2名は、いずれも人形のごとくで、C班リーダーが思念で命じなければ、食事どころか睡眠や排泄もしない事が判明した。B班リーダーの10~11歳ぐらいの少年は、何かに怯えてガクブル状態であり、尋問は後に回される事になった。

 

「何を聞きたいの?何でも話すわ。」

「……名前から話してもらえるかね?」

「MM-008よ。」

「それが名前かね?」

「そう。前の名前は、記憶消されちゃったから。」

 

 審問官は、続けて質問を行う。

 

「名前の番号に、意味は?」

「008は強化人間としての開発番号。ただ、あたしが8番目ってわけじゃないわ。他の系列の強化人間にも、008の番号は居るから。」

「MMは?」

「開発者の名前の頭文字。マコーマック博士、メレディス・マコーマック博士のMMよ。」

 

 俺は思わず立ち上がった。やったぞ……!これでニュータイプ研に捜査のメスを入れる事ができる!!

 

「?……どうしたの?TYPE-0。いえ、この呼び方は貴方は知らなかったんだったわね。どうしたの?プロト・ゼロ。」

「あ、え、あ……。ゼロ、ちょっと……。」

 

 強化人間の少女、MM-008は、きょとんとした表情で尋ねる。隣にいたレイラは、どうしようか困って俺と少女の顔を交互にきょろきょろ見遣り、俺を諫めた。しかし俺は、喜びのあまり、それらの声が耳に入らなかった。




とうとうニュータイプ研に、メスを入れるに足る根拠、証拠を手に入れました。しかし相手も、むざむざ黙って捕まる様なやつらでしょうか。ちょっとそのあたりが不安ですね。
そして機体を流していた馬鹿ども。それがニュータイプ研と協力関係にあったであろうことは確実でしょうが、そちら方面も、うまくいくでしょうか。
いざ、ご期待。


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ティターンズ

 ここは改ペガサス級強襲揚陸艦ブランリヴァルの医療室。俺はレイラを連れて、ここで前回の戦いで重傷を負った部下を見舞っていた。

 

「元気か?ダミアン曹長、アンドルー軍曹。」

「少佐!ええまあなんとか。早く治して、また働きたいですよ!」

「少佐すみません、こんな無様な……。」

「気にするな、アンドルー軍曹。窮地に陥った「F.O.T.A.」隊第2小隊を救出するためだったんだろう?グスキ大尉も感謝していた。」

 

 俺はアンドルー軍曹を慰める。軍曹の傷は、重傷ではあるがいずれも致命的な物は無く、ある程度の入院とリハビリは必要だが、必ず現場に戻ってこられるだろう。落ち込んではいるものの、それほど深刻でも無い。

 俺は口ではアンドルー軍曹を慰める物の、本当に俺が心配していたのはダミアン曹長の方だ。彼は元気な口調をしていた物の、また「働きたい」と言った。……また「戦いたい」では無いのだ。彼の左眼は失明しており、もはや光が戻る事は無い。そして左脚も膝から下が無くなっている。……もう彼が、MSに搭乗する事は無いだろう。

 口調は元気を装ってはいるものの、彼の落胆や失望、心の傷は、ニュータイプ能力を持つ俺たちには筒抜けだ。しかし俺たちは、あえて無理に気遣う事はしない。下手に気遣えば、より彼を傷つける。

 

「ダミアン曹長。ルナ2にはいい義肢装具士がいるそうだ。今は技術が進んで、訓練次第だがすぐに歩ける様になる。」

「ほう、それはありがたいですな!」

「それとダミアン曹長が今回死に物狂いで敵を阻止してくれたおかげで、マスドライバー施設の民間人が人質に取られないで済んだ。これは第4小隊全員の手柄でもあるんだけどな。クリス少尉からは、特に曹長の手柄が大きいと上申を受けている。間違いなく昇進の沙汰が下りるだろうよ。」

 

 これはレーザー通信で、ツァリアーノ大佐からの言質も取ってある。大佐によれば、一年戦争時からの彼の記録を掘り返し、前の上官が評価していなかった共同撃墜やアシストについても再評価を行った。結果、今更ながらではあるがそれを評価し、二度に分けて1階級ずつ2階級、昇進させる事にしたと言う話だ。つまりは中尉だな。

 そして怪我が癒えた後は、おそらくだがどこか後方部隊の兵站部隊長として再配属されるだろうとの事。……俺たちの部隊とは、お別れになる。彼がいなければ、今の「オニマル・クニツナ」隊第4小隊は無かっただろう。と言うか、生き残っていたかも怪しい。

 ……彼の代わりになる様な人材は、手に入るだろうか。彼無しで第4小隊は無事に生き延びられるか。クリス少尉も、ウェンディ伍長も、自分がもっと上手くやれていればと悔やんでいた。彼の重厚かつ包容力のある人格が隊から消える事、彼の精密な支援射撃が後衛から失われる事が、第4小隊に致命的な傷を与えねば良いが。

 っと、そうだった。

 

「アンドルー軍曹。そう言えば、前々からお前が言っていた事なんだが。リハビリ終わったら、士官学校行くか?」

「えっ……。」

「ちょうどリハビリ終わったあたりで、来期の願書提出期限が来る。推薦書は、さすがに将官級とはいかんが、ツァリアーノ大佐が書いて下さる。お前の直接の上官、フィリップ中尉もこれには賛成している。どうだ?」

「……行きます。」

 

 俺は包帯でぐるぐる巻き、左手右脚をギプスで固められ、点滴の管だらけのアンドルー軍曹に笑いかける。アンドルー軍曹の表情に、決意の色を見たからだ。

 

「行きます。そして僕、いえ自分は必ずこの隊に戻って来ます。ま、まあその時に隊に空きがあれば、ですが……。」

「そうか……。じゃあ書類を、レイラ少尉。」

「はい。」

「え゛。」

 

 俺はアンドルー軍曹に命じる。事実上、これが「アンドルー軍曹」に対する最後の命令だろう。次にはこいつなら必ず、「アンドルー少尉」になっているはずだ。

 

「アンドルー・カッター軍曹。宣誓して、書類にサインをしろ。略式でいいからな。」

「りょ、了解。」

「右手を上げて、俺が言う言葉を繰り返せ。わたくし、アンドルー・カッター軍曹は、地球連邦憲章を支持、遵守し……。」

「わたくし、アンドルー・カッター軍曹は、地球連邦憲章を支持、遵守し……。」

 

 さて、もう1人我が部隊から欠けた、か。補充兵を2人……。可能ならば腕利きが欲しいな。見つかるだろうか。俺はアンドルー軍曹のサインが入った宣誓書類を受け取り、レイラと共に、アンドルー軍曹の士官候補生志願関係の書類仕事をするため、怪我人2人に別れを告げて自分の執務室へ向かった。

 

 

 

 書類仕事が一段落したとき俺は、少々へばっていた。レイラがお茶の用意をしてくれる。お茶うけのお菓子は、冷蔵庫に仕舞っておいたカスタードプリンに、同じく冷蔵庫で保存していたバニラアイスクリームと、生クリームにカラメルソースを添えた物だ。

 アイスクリームとカスタードプリンは、ルナ2で買ってきた物で、後方の皆さんが兵士の口に入れるため、がんばって作った味がするアレだ。生クリームは、あらかじめ地球から個人で持って来ていたストックを使ってホイップしたばかり。カラメルソースも、今作ったばかりだ。

 

「なあ……。これ、MM-008とMM-010にも持って行ってやろうか。」

「そのつもりで、2つ余計に用意しておいたわ。冷蔵庫に入れてあるから、残りの仕事が終わったら差し入れとして持って行きましょう。」

「ああ。」

 

 俺はお茶の紙パックにストローを突きさして飲む。さすがに無重力空間で普通のカップでお茶を淹れてもらうのは無理だ。ちょっと残念。そしてプリンとアイスクリームを口に運びながら、俺はあのMM-008の尋問を思い出していた。

 

 

 

 MM-008は、非常にこちらに協力的だった。訊かれた事は、ほとんど隠さずに話し、答えられない事については理由を述べた。その理由が、「心理ブロックをかけられているから話せない」だったのは、マコーマック博士らに怒りが湧いたが。

 

「……何故君は、こちらに対しそこまで協力的なのかね?一応我々は、敵だったはずなのだがね?」

「わたしが、ある意味失敗作だからでしょうね。わたし、あいつら……わたしを調整した奴らに、忠誠心なんてカケラもないのよ。忠誠心があるフリをしていたけどね。だいたい、腹がたつのよね、あいつら。強化するなら、もうすこしまともに強化してほしいわ。

 頭が……いたいのよ。われる様に。吐き気もするし。何度、訓練中にたおれたか。今はある程度、ガマンできるようになったけど。」

「よくそれなのに、従っていたな?君の能力をもってすれば、たとえば先の戦闘中とかに反乱するとか。あるいはさっさと降伏して、こちらの保護を求めるとか。」

 

 尋問官のその台詞に、MM-008は表情を憎々し気に歪める。

 

「わたし、その点に関しても精神操作されているのよ。MM-009……コマンダーだけどね。そいつと、マコーマック博士当人には、絶対にさからえないの。さからおうと思ったこともあるけれど、それを思った瞬間に、数倍の吐き気とめまい、頭痛がおそってくるのよ。たえられないの。ガマンできないのよ!

 あいつら……。頭痛とか消す事はできないどころか、研究すらしないくせに、その頭痛を利用したり増幅することは考えつくなんて……。MM-010も、同じ調整をされてるわ。」

「MM-010?」

「MM-008からMM-010の3人の中で、いちばん後に作られた強化人間。MS格闘戦が得意な奴よ。あれは意識のコントロールについては成功してるから、きっちりマコーマック博士に忠誠を誓ってるわ。わたしと同い年くらいの男の子。

 そんな奴にも、あいつらは念のためって、命令に逆らえないように精神操作したの。今頃は、きっと怯え切ってるわね。」

「……。」

 

 MM-008は、尋問官から俺の方に顔を向けた。

 

「尋問中だからかしら?プロト・ゼロが喋ってくれないのは。あなたには感謝してるわ。コマンダー……MM-009、あのデンジメカ野郎を殺してくれたんでしょう?」

「……。」

「デンジメカ野郎、とは?」

「その通りよ。頭になんか理屈はわからないメカが埋め込まれてたのよ。で、ニュータイプ能力をもった人工知能みたいな感じになってたわ。」

 

 物理的に、脳を改造されてたのか。あの無機質さ、そんな裏があったとはな。俺は苛立ちを噛み殺すのに苦労した。

 その後も、尋問は続いた。彼女たちが使っていた、パペットじゃない、マペットでもない、ああ、マリオネットだ。そう呼ばれていたリモコン役の操り人形強化人間たちは、MM-002~MM-007までの失敗作の廃物利用だとの事。MM-001はなんか既に、俺に倒されているらしい。

 しかし、どこから強化人間の候補となる被験者を手に入れているんだ。表のルートはワイアット中将たちが潰し、裏のルートも同じくワイアット中将のおかげでか細くなっているはずだ。その件については、MM-008は何も知らなかった。知っていたところで、消されてしまった過去の記憶に含まれるんだろうな。自分がどこから「調達」されたか、なんてのは。

 

 

 

 俺は我に返る。そしてアイスクリームがとけてしまわない内に、口に運んだ。

 

「MM-008……。どうしたもんだろうな。俺たちを裏切れない様に、マリオネットたちと共に手錠かけて、各々独房に閉じ込めてくれ、か。映像でも手紙でもニュータイプ能力による感応でも、マコーマック博士からの直接命令だと確信すればその時点で、自分はその命令に従わざるを得ない……。」

「ゼロ……。そのマコーマック博士って人……。」

「研究バカだが、そこまで悪漢じゃなかった。そこまでキチガイじゃなかったよ。何かあの男を変えてしまう事が、あったんだろう……。

 けど、たとえ何があったとしても、奴を赦すわけにはいかないな。」

「そうね。いくらなんでも、赦される事じゃないわ。」

 

 レイラも頷きながら、紙パックのお茶を飲む。今日のお茶の時間は、甘い菓子を食べているはずなのに、妙に苦かった。

 

 

 

 やられた。先手を打たれた。

 何の話かと言うと、ジャミトフ・ハイマン少将の話だ。奴は俺たち「オニマル・クニツナ」隊が勝つ事すらも計算に入れていたのだろうか?ジャミトフは、俺たちがルナ2へ帰還する直前あたりのタイミングで、蜥蜴の尻尾切りをやったのだ。いや、尻尾ではない。何と言えばいいのか。奴は「頭」を切りやがった。

 何をやったかと言うと、内部告発だ。コリニー派の重鎮であった奴は、ひそかにコリニー派の悪事の証拠や醜聞を、丁寧に収集していた。そして自分はその証拠を集めるために、コリニー派に属していたのだ、と言う顔をして一気に公開しやがったのである。

 コリニー派がやっていた悪事は、大きく分けて以下の2つ。

 

1:ジオン残党への、ジオン公国鹵獲兵器の横流しの指示

 これは読んで字のごとし。コリニー中将は、コリニー派の子だか孫だかにあたる小派閥、ルーパート少将派に鹵獲兵器を処分する権限を委譲し、鹵獲兵器を処分した事にして完全整備した上で、ジオン残党へ流させていた模様。

 目的は2つ。1つは弱体化し過ぎたジオン残党を強化し、これ以上の連邦軍軍縮を阻む事。2つ目はジオン残党軍をレビル将軍派閥の部隊にぶつけ、消耗させ、あるいは壊滅させて、レビル将軍派閥の力を削ぐ事。ただし、2つ目は成功すれば御の字のオマケだ。

 だがルーパート少将派は、何を勘違いしたのか、2つ目の目的達成を至上命題としてしまった。そしてそれは、ジム・キャノンⅡなどと言う機体をジオン残党へ流す事や、ニュータイプ研究所と秘密協定を結ぶ事につながって行く。

 

2:ニュータイプ研究所への、強化人間研究開発の指示

 これも読んで字のごとし。ニュータイプ研究所はいつの間にかジャミトフ少将からコリニー中将の直下に移っており、しかもその事は秘密にされていた。そしてニュータイプ研はコリニー中将派閥の庇護の元、総大将であるはずのレビル将軍の命に反し、秘密裏に強化人間の開発を続けていたのである。

 しかし強化人間の研究を続けるためには、素体となる被験者が必須である。しかしその「供給元」となる孤児院などからのルートは、ほぼ全てワイアット中将、コーウェン中将らに潰されてしまった。わずかに手に入る、素養の低い素体だけでは研究は進まない。

 そこでニュータイプ研の暴走が始まる。研究素体を入手するために、ルーパート少将派に強化人間を提供する代わりに、素体となる被験者の「調達」を依頼したのだ。また稀に、強化人間用カスタマイズをジオンの鹵獲機体に施したり、特別に依頼されて特注の強化人間を作る事も行ったが。ルーパート少将派は、その強化人間をジオン残党に流し、ジオン残党は対価として強化人間の被験者を提供したのである。

 ジオン残党の、一部の騎士道精神溢れすぎてる奴らは、その時点でルーパート少将派と手を切った。しかし残りはあちこちから……地球上のアースノイドはおろか、同胞であるはずのスペースノイドまで、色々と手練手管を使い、ニュータイプ能力の素養がある者を攫って来たのである。そしてルーパート少将派にその被験者を提供する見返りに、強力な戦力を受け取ったわけだ。

 

 ちなみに、依頼されて作られた特注の強化人間と言うのが、俺がトリントン基地で倒したイフリートに乗っていた強化人間らしい。アレは元々キシリア派のジオン士官であった様だ。更にはフラナガン機関残党とも、ニュータイプ研はルーパート少将派を仲介に、繋がりを持っていた模様だが……。

 ルナ2の通信室で、レビル将軍の苦り切った顔が大型モニターに映る。

 

『不幸中の幸い……。奴がコリニー派の内部事情をぶちまける数分前に、憲兵本部と諜報部がニュータイプ研の強制査察に入っておった。そのおかげで、我々がコリニー派の悪事に対し無力であったなどと糾弾される事は避けられそうだが……。

 それとニュータイプ研自体も、我々の側で全て接収できそうだ。……全て、と言うには逃げられてしまった者も多いが。マコーマック博士とか、な。』

「残念です……。」

『だが、ムラサメ博士は逮捕できたし、研究資料、研究設備は全て押収できた。これで、マコーマック博士たち逃げおおせた者が、資料をマイクロフィルム化したり磁気媒体にコピーしたりしていたと言う話が無ければな……。』

 

 マコーマック博士と、主力の研究員たち数名が、まるでこちらの手入れを知っていたかの様に逃げおおせていたのである。憲兵隊本部が表から、諜報部が裏から追っているのだが……。諜報合戦では、敗北してしまったと見て良いのだろうか。その相手は、ジャミトフじゃないかと思うのだが。しかし確信はあっても確証はない。

 

『ジャミトフ少将……。彼はコリニー中将派閥で、下の者の大半は、事情も理由も知らされずに盲目的に上の命令に従ったまでで罪は無いと、かばいおった。そして罪があるとされた者はおそらく……派閥内での彼の政敵であろうな。

 そしてジャミトフ少将は、ほぼ完全に元コリニー中将派閥を掌握しおった。派閥その物の影響力は落ちたが、彼自身の影響力は数倍になったな。そして何も知らぬ将兵は、内部告発した彼を英雄視しておる。近日中に、彼は中将に昇進するだろうな……。』

「他にも何かありそうですね、将軍。」

『うむ……。彼は『この様な腐敗と汚濁が連邦軍内部を汚染している状況を鑑み、綱紀粛正のため清廉な将校を選りすぐった、独立部隊を結成すべし!』と進言してきたのだ。そしてその部隊に、他の部隊への査察や逮捕の権限を与えると言ってきおったのだ。

 ゴップ大将の、『まずは通常の独立部隊を編制し、試してみてはどうか?』とのとりなしや、我々の必死の抵抗で、何とか『一般軍人の二階級上として扱われる』などの無茶な条件は排除できたのだが……。』

 

 俺はごくりと唾を飲み込む。

 

「その部隊の名は、やはり……。」

『うむ。『ティターンズ』だ。』

 

 ここで、1人の青年将校が口を挟む。

 

「ところで……。その話は、自分が聞いていても良い物でしょうか?と言いますか、その様な話をする場に、自分がいてもよろしかったのでしょうか?将軍……。」

『うむ、当然では無いかね。第42独立戦隊の長であろう、君は。ブライト・ノア少佐。』

「将軍の仰る通りだ。今更気にする事じゃない。と言うか、手遅れだろう?」

 

 ブライト艦長の背中が煤けて見えた。良かったな、艦長。出世は間違いなしだ。




オチはブライトさん。よっ、苦労人!!

でも、マコーマック博士には逃げられた挙句、ジャミトフは英雄扱い。ニュータイプ研は人員以外は全部接収できましたけれども。
そして正史よりも早く、ティターンズ結成。表向きの大義名分は随分違いますが。
さあどうなることやら。


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人事と核兵器

 今日はアンドルー軍曹の壮行会兼、ダミアン中尉の送別会をやった。アンドルー軍曹は怪我が完治した後、北米ウェストポイント士官学校に入学予定だ。……バージルの後輩になるのか。こいつ、バージルより1歳年上じゃなかったっけ。一方のダミアン中尉は、つい朝方に少尉に、そしてつい3時間前に中尉に昇進したので、その昇進祝いも兼ねている。……突然上官になった、ちょっと前までの部下に、クリス少尉がいろいろ遠慮してるのが笑えた。

 彼らはまだ先の戦いで負った、大怪我が癒えていない。特にダミアン中尉は、左目の眼帯と、今は人工物になってしまった左脚膝から先が痛々しかった。しかし車椅子に乗った彼は、周囲を気遣わせない様にいつも通り豪快に笑っていたのだ。……たとえ彼が、本当はつらく、悲しく思っていたとしても。

 しかし怪我人を宴会に誘うのは何だなあと俺も思うのだが、彼らは明日シャトルで地球に降りるから仕方なかった。皆、おおいに飲み食いして騒いだ。怪我人がいるし、未成年もいるので、アルコールは無し。ビールかけの類は避けたので、かわりにアンドルー軍曹のギプスにみんな落書きする。最後は写真撮って、みんなで分けた。

 主役の2人が病室へ引き上げた後、俺たちは会場の跡片付けをする。祭りの終わりは、いつも寂しい、とは誰の台詞だったか。

 

「やれやれ……。俺の隊から、1人欠けるたぁなあ……。」

「……。」

「いやユウ、奴は戻ってくるけどよ。そんときゃ少尉様だし、俺の小隊にそんとき空きが無きゃ、配属されねえだろ。……俺に取っちゃ、初めての部下だ。流石に感じ入る物があるわな。」

「……。」

「はぁ……。士官学校と言や、サマナの奴、今頃何してるかね。必死に勉強してるんだろな、奴の事だし。」

 

 ユウとフィリップ中尉が喋っているのを聞きながら、俺は整備兵たちと一緒に、折り畳みテーブルを定位置にもどして無重力用のベルトで固定する。レイラたちは、空中にただよっている食べカスやゴミを掃除機で取り除いていた。いや、遠心重力ブロックの部屋は、小部屋はともかく大部屋は予約いっぱいで取れなかったんだよね。

 

「部隊長……。ゼロ少佐。」

「お、なんだ?クリス少尉。」

「ダミアン曹……中尉の送別会が終わったばかりで、この様な話をするのは、その……。不謹慎かと思うのですが……。」

 

 俺はピンときた。

 

「補充兵の話か?」

「は、はい。」

「気にする事はない。大事な話だしな……。ただ、ダミアン中尉の代わりになる人材と言ってもなあ……。すぐには見つからん。新兵ならすぐ見つかるかも知れんが……。

 レビル将軍やツァリアーノ大佐とは、レーザー通信でしばらく実戦は無理だって同意してもらったけどな。MSもボロボロだし。ハイザック・カスタムはそれでもすぐ直るけど、俺とユウのアレックスはなあ……。」

「アンドルーの代わりは、新兵でもいいぜ、ぶたいちょ。」

 

 ユウとの話を切り上げてきたのか、フィリップ中尉も話に加わって来た。

 

「勿論、徹底的にしごいてケツについた卵の殻を、削ぎ落す必要はあるだろうけどよ。」

「わかった。ツァリアーノ大佐とも話しておく。」

「了解です、ありがとうございます。ゼロ少佐。」

「こっちも、ありがとうございます。ぶたいちょ。」

 

 クリス少尉は生真面目に、フィリップ中尉はくだけた様子で、礼を言ってくる。まあ、補充兵は早期に着任してもらわんと、命に関わるからなあ。世知辛いとは思うけどな。俺は再度、ダミアン中尉とアンドルー軍曹の事に、思いを馳せた。

 

 

 

 とは言っても、ダミアン中尉やアンドルー軍曹の事ばかり考えてもいられないのが、上官としての責務。宴会が終わったら即座に俺は、補充兵の選抜に入る。だが手元にあるのは新兵の書類ばかりだ。今日はもう遅いので、明日一番にレーザー通信でツァリアーノ大佐に、熟練兵を探してもらえる様に頼まねば。

 

「……妙に女性兵の志願者が多いな。なんでだ?」

「1つにはゼロ少佐の人気がありますね。一年戦争のトップエースの1人であり、若い上に独身。」

「……悪いが、うちの部隊には既に女性兵が多い。今でさえ、他から色々噂されてるらしいし。俺が好色だとか。俺が職権乱用してるとか。英雄色を好むとか。

 独身……。結婚かあ……。家庭を持つのは、事が一段落してからと思ってたが……。入籍だけでもしておくか?」

「あ、え、きゅ、急に言われても!いえ、言われましても!御冗談を!」

 

 本気だったんだが。そう思ったら、思念が漏れていたらしい。既にちょっと赤かったレイラの顔は、今度こそ真っ赤になる。

 

「あ、後は……。後は、それこそ我々の部隊には女性が多い事があげられますね。女性兵を積極的に欲しがる実戦部隊は、そう多くありません。秘書役の副官やオペレーター、後方でなら多いのですが。ですので一縷の望みを抱いて、と言う事もあるかと。」

「うーん、だがこちらとしては、向こうの望みにばかり沿うわけにもいかんな。第一、フィリップ中尉がやりづらいだろう。自分以外が女性になってしまえば。

 実際、自分以外の2人が女性兵な第2小隊は、ユウの奴がけっこう苦労したみたいだし。と言うか、今も苦労しているらしいし。女の子だけの第4小隊には、新兵を配属するわけにはいかないからな。」

 

 そして俺は、2通の書類を抜き出す。

 

「こいつと、こいつ……。どっちがいいかな。両方採るわけにはいかないし。

 こっちは成績優秀だが、ちょっと典型的なエリート様だな。まあ叩き直せば済む事だが。こっちは先のやつよりも技量は低いが性格は大丈夫、最初から馴染めるし、何よりデータ見た感じでは伸びしろはこっちの方がずっと上だ。

 意見、聞かせてくれるか?」

「はい。個人的には、後者の方がよろしいかと。多少腕が立つとは言っても、結局は新兵です。叩き直さねば、使える物ではありません。どうせ叩き直すのであれば、伸びしろが大きい方がお得です。」

「性格は基本、かまわんのか?」

「どうせ叩き直すんです。よっぽど変で無ければ、悪癖は矯正されます。無理ならば差し戻して、新たに選び直すだけです。結局は新兵なのですし。」

 

 俺はそれに頷き、最初の書類をファイルに戻して後の方の書類を机にマグネットで留める。

 

「イェルド・ショールバリ伍長、18歳……。自分の事は棚に上げるけど、若いな。」

「自分の事は棚に上げますけど、本当に。」

 

 最近のMSパイロットは他兵科からの転科よりも、新規採用してるって話だからなあ。その新規採用の兵なんだろな。他兵科は、どんどん削減してるとも聞くが。軍縮か……。今の時点で軍縮して、大丈夫なのかね。いや、せざるを得ないのも理解できなくもないんだったりするんだが。

 

 

 

 MM-008のところに顔を出した。今日のオヤツはルナ2のPXで出してるカップケーキだ。実はもう1つ、彼女にお土産がある。

 

「よう、MM-008。」

「こんにちは。」

「あら、プロト・ゼロに彼女さん。いらっしゃい。」

 

 はっはっは、このマセガキ。とりあえず俺は、持って来たカップケーキと、紅茶の紙パックを、独房の扉に開いた食事トレイ受けわたし口からわたす。

 

「ほれ、今日のオヤツだ。まあ、地球上で売ってるやつには届かないけどな。でも前線で戦う将兵のために、後方の人たちが必死でがんばって味を調整して、なおかつ安く上げる工夫をした、苦労の味がするぞ。」

「それ、この間のシュークリームのときも言ってたわ。プロト・ゼロはしつこいのね。彼女さん、大丈夫?」

「え、あは、うふふふふ……。」

 

 はっはっは、このマセガキ。とりあえずもう1つのオミヤゲを……。

 

「思念が洩れてるわ。もう1つのオミヤゲ?」

「……とりあえず、お前の暫定的な戸籍だ。記憶喪失者のために、とりあえずの戸籍を申請する法律を適用した。ほら、書類の写しだ。」

「……!名前が……!」

 

 俺はにんまり笑う。レイラも、ほがらかに微笑んだ。

 

「今日からおまえはミチル、苗字はお前がどっかの養子とかに入る時につけるから、今のところないけどな。」

「……番号じゃ……ない……名前。」

「おう。」

「ええ。」

「……うっ。うぐ……。えっ……えぐ……。あ、あり、が、と……。うぇ……。」

 

 MM-008、いやミチルの両目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。俺たちには、それが嬉し涙だと言うのがはっきりとわかった。ニュータイプ能力ってのは、便利だ。頭はときどき、しょっちゅう、かなり、ものすごく痛いが。

 

「……喜んでもらえて、よかったよ。MM-010相手の時みたいになったら、どうしようかと思った。」

「……ひっく。……あの子にも?」

「ええ。そうしたら、「マコーマック博士に貰った、大事な僕の番号を、そんな名前で塗りつぶす気だな!?」って、凄い剣幕で怒って。」

 

 ミチルは、鼻紙で鼻をかんでから、答えてくれた。

 

「あの子は駄目、よ。マコーマック博士に忠誠を誓ってるもの。狂信的なまでにね。コマンダーに殺されかけたときは恐怖で嫌がったらしいけれど、博士に命令されたら喜んで死ぬわ。」

「マリオネットたちとは別な意味で壊されてる、ってわけか。」

「そう言えば、マリオネットたちはどうしたの?なんか、反応が返って来ないんだけど。」

「ああ……。あいつらは……。」

 

 俺は、この子に開示していい情報だったかどうかを思い返す。ええと、この子なら下手するとニュータイプ能力による感応現象で、あの2名のマリオネットの状況を知ってしまうかも知れないから、別に教えてもいい、って情報だったな。

 

「あいつらは、ジャブローに移設されたニュータイプ研……人員は全部一新されたけど、そこに移されて、そこで治療を受けてる。最初は何の反応も無かったが、昨日はじめて少し反応があったそうだ。なんでも2人のうち1人が、果物の香りに鼻をむずむずと動かし、瞼をぴくりとさせたって話だ。」

「嘘!反応があったの!?」

「片方だけだがな。」

「そう……。治ると、いい、わね。」

 

 頷いて、俺は付け加える。

 

「お前だって、治るさ。きっとな。」

「……うん。」

「ふふふ。ゼロの副作用の治療法、わたしも探すって約束してるの。きっとゼロを治してみせるって。ついでみたいで悪いけど、ミチルの治療法もいっしょに探してあげるわ。」

「……ありがとう。」

 

 ミチルは再び涙ぐむ。悲しみの涙じゃない。ミチルは綺麗な笑顔を浮かべている。まあ、マセガキで口の減らないガキではあるが。でも、あいつらと……フラナガン機関救出組の子供らと会わせてみたら、きっと仲良くなるだろうな。うん。

 それを実現可能にするためには、こいつにかけられてる心理ブロックや精神操作を何とか外さないと駄目だ。あるいはマコーマック博士を倒すか。俺に出来るのは、そっちの方だな。マコーマック博士か……。ほんとに何があったんだろうな。そこまで下衆でも外道でもなかったはずなのに。

 

 

 

 俺、レイラ、ユウ、マリオン軍曹、コーリー軍曹の5人は、今日もフラナガン機関救出組の子供たちに会いに来ている。

 

「そうか……。もうすぐロンデニオン・コロニーに行くか。」

「さすがに寂しいわね……。」

「そうねー。でも、この子たち守らないといけないし。あと、コロニーの方がこの子達には環境いいし、ね。ここは軍事基地しか無いもの。」

 

 悲し気な、寂しげな俺たちの言葉に、クスコ軍曹が応える。向こうでは、女の子たちにユウがたかられており、マリオン軍曹がそれを引きはがそうとしていた。

 マリオン軍曹は、自分の気持ちに気付いているのだろうか。……あれは、無理だな。ユウが苦しそうにしてるから、引きはがそうとしているだけだと思い込んでる。自分の顔に、ちょっとだけ嫉妬が浮かんでる事に気付いてないわな。

 男の子たちは、最年長者ハリーがこの間手に入れた、中古の故障品のハロをバラして修理を試みているのを見るのに、夢中になっている。男の子は、ああいう物が好きだな。コーリー軍曹が、それにときどき口出して、アドバイスしている。なかなか優しいところもある。アーヴィンを膝の上にしっかりと抱き抱えていなければ、もっと良かったが。

 

「で、いつ出立なの?」

「再来週の金曜。」

「あまり時間、無いんだな。……ちょっといいか?」

「何よ?」

 

 投げかけた言葉に、怪訝そうな顔を浮かべるクスコ軍曹。俺は若干の懸念を伝えた。

 

「俺がニュータイプ能力の共振現象で、未来を見た事があるってのは話したよな?」

「ええ。」

「……0083の10月、デラーズ・フリートと呼ばれるかなり大規模なジオン残党の、一斉蜂起がある。そのとき、サイド1も占領下に置かれる可能性があるんだ。注意してくれ。」

「ええっ!?」

 

 驚くクスコ軍曹。俺は続ける。

 

「かなり前提条件を変えたし、それが現実になる可能性は低い。だが、前倒しで早まる可能性もあるんだ。このままルナ2にとどまっていてくれれば、とも思ったんだが……。ルナ2はルナ2で、別の組織の一斉蜂起で敵側の手に落ちる可能性が。何処にいても、結局同じなんだよな。」

「……了解。この身にかえても、子供たちは守るわ。」

「あなたも死んじゃだめよ?クスコ。」

「ふふ、可能な限り死なないわ。レイラ。」

 

 ほんとに……。なんとか戦闘に巻き込まれない地域は……。地球に降ろしたくはない。何故だか。子供の内に地球に降ろしたら、重力に魂を引かれたまま大人になってしまう気が、ひしひしとするのだ。

 向こうでは、ハリーがとうとうギブアップし、コーリー軍曹がアーヴィンに頼まれたのだろう、代理としてハロを修理している。だが、彼女でもわからないところはあるらしい。

 おい、それは内蔵ディスプレイのためのグラフィックボードだ。駆動系の制御ボードじゃない。シリアルバスの拡張カードでもない。おいそれは普通のメモリだ。OS用SSDのスロットに無理に突っ込むな。壊れる。駆動系とか動力とかには思いっきり詳しいのにな、彼女。

 

「仕方ない。レイラ、手伝ってくれ。」

「わたしもよくわからないところ、あるわよ?」

「2人いれば、なんとかなるだろ。」

 

 結論。なんとかなりました。ハロはハリーを主人と認めて、その周囲をゴロゴロ転がってたりする。そしてあまり引っ付き過ぎて、ケイコとジェシーの嫉妬を買うのだった。ハリー、両手に花って、けっこう厳しいぞ。つらいぞ。がんばれ。

 

 

 

 ブライト艦長の背中は、未だに煤けている。ここはルナ2の通信室。俺とブライト艦長は、レビル将軍とツァリアーノ大佐からのレーザー通信を受けていた。

 

『お前ら、覇気が無いぞ。』

「覇気が無いのはブライト艦長だけですが。」

「無くなりもする……。あ、いや。」

『で、だ。お前から要請のあった補充兵だが。なんでも熟練兵もしくは古参兵が欲しいとのこったな。できれば少尉未満で。』

 

 ツァリアーノ大佐が、手元の書類を見ながら話す。レビル将軍は、どっしりと構えて大佐の話が終わるのを待っているらしい。

 

「はい。2人必要なのですが、もう1人は我が隊を志願している新兵から選んで、人事課に直接書類を送りました。」

『そうか、一応変な奴の人事書類は送っていないはずだが、書類内容は確かめたか?』

「はい。」

 

 それはもう、しっかりと確かめた。「オニマル・クニツナ」隊はレビル将軍直下の部隊で、特に高い戦果を誇る部隊だ。2番目が、マット大尉の中隊だな、確か。その正体はあまり広まっていないが、俺、ゼロ・ムラサメ少佐が部隊長である事はいつの間にか広まっていたり。更に、ニュータイプ部隊だと言う噂まで。いや、ニュータイプや強化人間多いよ!?多いけど、それを目的として集めた部隊じゃないからね!?

 

『そんならいいんだ。だがこっちの方はちと時間がかかる。ダミアンの奴の代わりが欲しいんだろ?さすがになあ……。少しだけ待っててくれるか?』

「了解です。ただ可能な限り、急いでいただけると。」

「自分からも、どうか急いでくださる様、願います。「オニマル・クニツナ」隊が動けない現状、第42独立戦隊は遊んでいるも同然なのです。」

『任せろ。』

 

 大佐の話が終わったと見たか、レビル将軍が徐に前に出て来る。ツァリアーノ大佐は、場所を譲った。

 

『さて、諸君。この度、我々は予定を前倒しにして、「ガンダム開発計画」を実施することにした。』

「……!!」

『この計画の骨子は、5種類の再設計されたガンダム試作機を開発し、それによる新技術の研究と習得にある。

 試作1号機は、以下の様な……。』

 

 将軍の言葉によれば、次の様な開発計画によって5種類のガンダム試作機を開発する計画である様だ。5機というところからわかる様に、元々のガンダム開発計画をベースにしながらも、大幅に変わっている部分がある。

 

 

 

試作1号機:ムーバブル・フレームと従来のタイプのハイブリッドによる、現時点でも少数生産であれば可能な高性能機を開発する事に主眼を置く。具体的には腕部にのみムーバブル・フレームを使用し、他の部分は従来型となる。ただし、研究の進み具合如何によっては、胴体部以外はムーバブル・フレーム型に変更される可能性もある。またこの機体には、新型装甲材であるガンダリウムβを試験的に使用。

 

試作2号機:核兵器を運用するための、純然たる実験機。Mk-82核弾頭(レーザー水爆)を使用。バズーカで水爆級の核弾頭を発射するため、この機体は爆発の威力にある程度曝される。それに耐えるため、機体の特殊な構造と、対核冷却シールドを併用する。

 

試作3号機:拠点防衛用MAを、試作1号機タイプに近いMSをコアとして、それに追加兵装を加える形で開発する。RX-78-7ガンダム7号のオプション装備、重装フルアーマーが参考にされており、これに近い形でMAを構築する。更にIフィールドジェネレーターを始め、様々な新機軸の実験をこの機体で行うため、コアMSの換装、コンテナによる武装の換装を盛り込む。

 

試作4号機:完全ムーバブル・フレームの試作実験機。新型フレーム機の多角的方面からの検証のため、複数機を製作し、前線パイロットによる実戦テストを行う。フレーム材の一部と装甲材に、ガンダリウムβを使用。

 

試作5号機(ガンダムMk-Ⅱ開発計画):試作1号機から試作4号機までに得られた新技術を可能なかぎり用い、量産を前提にしてコストを抑え、かつ整備性や稼働率も含めた性能的にも満足のいく、連邦軍の新たなシンボルとなるMSを開発する。

 

 

 

 うん。試作4号機までは理解できる。でもガンダリウムβのあたりは予想だにしなかったが。アクシズに流れたはずの、ガンダリウムの開発技術者でも捕まえたか?あと完全ムーバブル・フレーム?フランクリン・ビダン技術大尉を囲い込めたとは聞かなかったが、成功したの?それとも彼の部下でも引き抜けた?

 それに試作5号機として、ガンダムMk-Ⅱ開発計画!?うわぁ。大幅に変わってやがる。ティターンズで開発される前に、自分たちで作っちまおうってか。まさかエゥーゴが盗みに来ないだろうな。

 

『この秘匿計画だが、ある程度いったところで……。そう、試作機体が一通り完成したあたりが良いか。そうしたら、重要機密から外す。無論新開発、研究された技術そのものは機密だがな。そして……一気に公表する。』

「公表!?2号機もですか!?」

『2号機も、だ。この試作2号機は、いかに理屈をこねたところで、核攻撃のための機体だ。であれば、配備機数や場所などは隠さねばならん。が、存在そのものは公表せねば、核抑止力にはならんであろうよ。

 ジオン軍は、南極条約があるにも関わらず、核兵器を使用することをためらわなかった。故に、我々が致命的な威力を持つ核と、その投射手段を共に持つ事を知らしめねばならん。……同時に、周囲に広まっている南極条約に関する誤解を払拭する。

 第1に、南極条約は核の所持や研究を制限するものではなく、実際の使用のみを禁じていた事だ。ガンダム試作2号機の開発は、南極条約違反にはならん。もしも2号機を奪取し、それによるテロ行為を働いたりすれば、明らかに違反であるが。

 第2に、南極条約はジオン滅亡と共に、既に失効した戦時条約である事だ。ジオンは滅びておらんと叫ぶ愚か者もおることだろうがな。もっとも、南極条約の精神は尊重され、様々な法律で現在も核兵器の使用は制限されておる。』

 

 驚いた。凄く驚いた。

 

『そして試作1号機から5号機ガンダムMk-Ⅱまでを発表することで、連邦軍の士気を上げたいと思ってもいる。ここのところのコリニー派閥の不祥事などで、一部を除き、少し士気が下がり気味なのが気にかかるのでな。』

『将軍……。おまけの様に……。』

「了解いたしました。それで我々は、何を。」

『完成の暁には、諸君らにはガンダム開発計画で製作された各機体を試験して欲しい。そして試験終了後に、諸君ら「オニマル・クニツナ」隊には試作4号機を複数機、配備する予定だ。……無論、試作2号機もな。ただし核バズーカの試験は、デラーズ・フリート殲滅後に回すが。

 そして核兵器は、試作2号機に使うMk-82核弾頭も含め、近日中にルナ2に全て移送し、封印する。Mk-82核弾頭のみは、後に一時的に封印を解き、試作2号機の核バズーカの試験を行うものとする。』

 

 なんと……。「オニマル・クニツナ」隊が、ガンダム開発計画全機体のテストを行うって?これは……。正史を知ってればわかるんだが、これは危険だ。だが、これだけ重要な役割を任されたとなると、気が引き締まらざるを得ない。

 

「はっ!了解しました!」

『ああ、それとな……。』

「はっ。」

 

 レビル将軍は、付け加える様に言った。

 

『核兵器のルナ2への移送計画だが、諸君ら第42独立戦隊と、「オニマル・クニツナ」隊に、宇宙空間での航路中の護衛を任せるからな、頼むぞ。』

『「「将軍……。おまけの様に……。」」』

 

 ほんとにおまけの様に言っちゃったよ、このヒト。今回いちばん大事な事だと思うんだけどね。

 

「大佐……。さっきの補充兵の件、急いでくださいね……。」

『了解した……。』

 

 核兵器のルナ2への移送計画、はたしていつ何時に発動するんだろうね?




うわぁ。レビル将軍てば、試作2号機の件を秘密にし過ぎたのが問題の1つだと、思い切り過ぎた様です。たぶん、デラーズ・フリートの脅威が去ったら、Mk-82核弾頭と試作2号機による核実験まで公開するつもりだよ、このヒト。
とりあえず、近場の山場はルナ2への核兵器移送計画。はたしてどうなる事か。


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来る新人、去るミチル

 宇宙世紀0081、12月。いろいろドタバタしているうちに、年末だ。補充兵は、まだ来ない。人事課で、人事課長が収賄容疑で逮捕されたのだ。捕まえたのは憲兵隊本部、レビル派の身内だし、正当な理由があるだけに怒ることもできん。ただ、早急に新たな人事課長が配されて問題は全てクリアになったので、そろそろ新兵の方はやって来るはずだ。

 問題は、ツァリアーノ大佐に頼んでいる熟練兵の方だ。どうも、なかなか適した人材がつかまらないらしい。年が明けてすぐ、例の核兵器移送作戦が発動するらしいので、それまでに幾らか余裕をもって、補充兵が到着して欲しいと思う。

 

「やれやれ、アレックス2機が先に直ってしまうとは思わなかったな。」

「そうですね、少佐……。」

 

 先の強化人間相手の戦いで中破した、俺のアレックス3、ユウのアレックス2だが、ルナ2内の工廠で修理が行われて、綺麗に直って艦に戻って来た。今、両機とも搬入が行われているところだ。俺たちはそれを監督している。ウィリアム整備長が大声で怒鳴っているのが見えた。

 ちなみにアレックス以外のハイザック・カスタムは全機、既に修理が終わっている。今まで実機演習は、俺とユウはハイザック・カスタムの予備機を使ってやっていた。それでも他の部隊員に負けないのは、自画自賛すべきか、部隊員が不甲斐ないと怒るべきか。

 ここだけの話、レイラ相手に苦戦したのは秘密。だってさー、レイラは俺の癖とかぜんぶ身近で見て知ってるし。ニュータイプ能力も強くなってるし。俺は全力が出せない機体だし。レイラ自身、そろそろハイザック・カスタムで間に合わなくなってきてるほどだし。

 ん?誰かがこっちを窺ってる気配がする。あ、こっち来た。

 

「あ、あの……。申し訳ありません、少佐殿、少尉殿。」

「何か?伍長」

「は!じ、自分はこの度レビル将軍直下のツァリアーノ連隊第01独立中隊「オニマル・クニツナ」隊に配属になりました、イェルド・ショールバリ伍長であります!「オニマル・クニツナ」隊部隊長、ゼロ・ムラサメ少佐殿とお見受けしましたが、間違いありませんでしょうか!」

 

 あーあー、こいつガチガチに緊張してるよ。しかしこいつが、イェルド伍長か。ようやく来てくれたか、助かったな。この大荷物って事は、今ルナ2に到着したばかりか?俺とレイラは、敬礼してくるイェルド伍長に答礼を返す。

 

「ああ、間違いない。俺がゼロ少佐、こちらが副官のレイラ・レイモンド少尉だ。

 ……そう緊張するな、伍長。来てくれて感謝する。」

「はっ!た、ただいまシャトル、ツレタカ・マルにてルナ2へ到着いたしました!着任を申請いたします!」

「うむ、着任を許可する。歓迎する、伍長。ホレ、向こうに見えるサラミス改級巡洋艦キプロスⅡに、お前が所属する第3小隊が乗っている。あれが、これからお前の母艦だ。あの艦に行って、出入り口で立哨している兵に、第3小隊小隊長のフィリップ・ヒューズ中尉に連絡を取ってもらえ。」

「はっ!ありがとうございます!で、では失礼します!」

 

 イェルド伍長は、どたばたと言う感じでキプロスⅡの方へ走り去って行った。結局最後まで緊張の抜けなかったイェルド伍長に、俺もレイラも思わず微笑が零れる。ただなあ……。もう少し気を抜く方法を覚えないと、これから先、つらいぞー。

 

 

 

 手錠と足かせで繋がれた、10~11歳程度の東洋系、黒髪黒眼の少女が、俺の目の前に立っている。正直やりきれないんだが、この措置は彼女自身が望んだ事だ。

 

「ミチル、元気でな。」

「へんな物、食べちゃだめよ?それから、ご飯の前にはきちんと手を洗うのよ?それから……。」

「彼女さん、そこまで言われなくても大丈夫。安心して。プロト・ゼロ、お世話になったわね。あと、わたしを捕虜にした優男さんたちにも、よろしくね。」

「ユウたちの第2小隊だな?わかった。」

「それじゃ。」

 

 ミチルは、女性兵2名に付き添われて部屋を出て行く。彼女はこれから心理ブロック、精神操作などの影響排除を始め、強化人間の副作用の治療の可能性を探るために、ジャブロー基地内の新生ニュータイプ研へと赴くのだ。

 その後に付き従う様に、男性の兵士2名が担架をかついで部屋を出る。担架には同じく手錠に足かせを付けられた10~11歳に見える赤髪の少年が載せられていた。今彼の目は閉じられていて見えないが、瞳は青いはずだった。MM-010……仮の戸籍名、エドムントだ。

 MM-010は、常に反抗的であり、かつ暴れたり、かと思えば何かに非常に怯え、何をするかわからない状況であった。彼も治療の可能性を探るためにニュータイプ研へ赴くのだが、その様な状態であったため、やむなく鎮静剤、睡眠薬を投与して意識を奪って搬送する事となっている。敵対した相手とは言え、哀れだった。

 

 

 

 第4小隊はまだ定員割れしているが、とにかくイェルド伍長を使えるようにしなくてはならない。さっそく実機演習を組んだ。とにかく絞れるだけ絞ってやる。あと俺とユウは、直ったばかりのアレックスのならし運転もある。

 フィリップ中尉の怒声が響く。イェルド伍長がフォーメーションを崩したのだ。

 

『イェルド伍長!動きが鈍いぞ!フォーメーションを崩すんじゃねぇよ!』

『りょ、了解です!』

『口で言う前に、実際にやってみせろい!俺の指示を、聞き逃すなよ!』

 

 そして、イェルド伍長は徹底的に絞られた。いや、最初は俺が小隊VS小隊の模擬戦で絞ってやろうかと考えてたんだ。だけど今日はフィリップ中尉の指導する、第3小隊単体での機動訓練で終わってしまった。いや、他の小隊はきっちり模擬戦やったよ?

 そしてルナ2に帰って来たとき、フィリップ中尉がイェルド伍長にちょっとした説教?をしているのを見かけた。その内容は、こうだ。

 

「よう!イェルド!今日はすまんかったなあ!ちょっと言い過ぎた!」

「え……。ちゅ、中尉、そんな事は……。」

「だがなあ。言い過ぎたけど、言い過ぎじゃない。矛盾してる様だがな。」

「え……?え、え……と?」

 

 フィリップ中尉の言葉に、イェルド伍長は目を白黒させる。フィリップ中尉は笑顔で、しかし目はかけらも笑っていない顔で続ける。

 

「なあ……。宇宙では……。戦場では……。何が起こっても不思議じゃない。俺は以前、第11独立機械化混成部隊、通称モルモット隊に居たんだ。一年戦争のときだな。毎日毎日、戦友の誰かが死んだり、もう2度とMSに乗れない重傷になって後送されたり、大変だった……。」

「……。」

「訓練は、自分を裏切らないって言うけどな。結局それも程度問題なんだよな。どんなに訓練しても、死ぬときゃ死ぬ。怪我するときゃ怪我する。実際、お前来る前に第4小隊にいたパイロット、凄腕だったんだが……。訓練も欠かさなかったんだが……。二度とMSに乗れない身体になって、後送された。

 だけどな、死なないために俺たちMSパイロットが出来る事って言ったら、訓練しかねえ。万全の訓練、万全の整備、万全の戦術、そしてひとかけらの幸運。それだけだ。お前だけじゃねえ。お前がヘマすりゃ、仲間も死ぬ。仲間が死にゃ、小隊がやられ、小隊がやられりゃ中隊が潰れる。」

 

 フィリップ中尉は、懇々と言い聞かせる。イェルド伍長は必死な顔つきで聞き入っていた。

 

「俺が見るに、お前はいつも少しだけ余裕を残し過ぎてる。いや、実戦ならかまわねえ。いざと言う時のための余裕残しとかなきゃ、何か起きた時に対処できんしな。だけど、お前訓練で上手くやろうとし過ぎて、力を絞り尽してねえだろ。訓練なんだから、地力を養う場なんだから、限界まで出し切っていいんだ。失敗してもいいからよ。

 なあ、もう1歩、踏み込んでみねえか?まずはもう1歩でいいんだ。どうだ?全力振り絞るの、怖えか?」

「は、はい!あ、いいえ!全力、振り絞ります!!」

「よおっし!んじゃ、今日は俺のおごりだ!飲みにいくぜえ!」

「え゛、じ、自分未成年……。」

「かまわん、かまわん!行くぞ!」

 

 ……さすがフィリップ中尉だな。ああ言うところは、俺にもユウにもクリス少尉にも真似が出来ない。と言うか、ユウはともかく俺は中隊長で少佐だ。できる様にならんといかんなあ。俺も、がんばろ。俺はその場をこそこそと離れるのだった。

 

 

 

 次の日も、猛訓練。今日もフィリップ中尉の怒声が飛んだが、イェルド伍長も、その怒声に凹む様な事はなく、必死に全力を振り絞っていた。前日の訓練であった、上手く無難にこなそうと言うところは多少影を潜め、代わりに限界に挑もうと言う気概が見て取れたのだ。

 おかげで訓練時間の後半からは、模擬戦の訓練に入れた。今の俺に出来る事は、徹底的に叩きのめし、その都度悪いところを指摘してやるぐらいしか無い。そしてイェルド伍長は、最初は何の特色も無い新兵でしか無かったが、今は良い意味で特色のない、万能型のMSパイロットに成長しつつある。って言うか、フィリップ中尉の動きとか参考にして機動してるよな、こいつ。

 そして俺たちは、訓練を終えてルナ2へ戻って来た。さすがに2日連続で猛訓練したから、明日は1日オフの予定だ。俺はレイラを連れて、PXへと向かう。途中で、思い切り伸びをして、首を回して凝りをほぐす。

 

 

 

 事件が起きたのは、その時だった。

 

 

 

 突然、俺たちの頭の中に悲痛な声が響いた。

 

(たすけて!プロト・ゼロ!彼女さん!死にたくない、しにたくないよ!!)

 

 俺は凍り付いた。次の瞬間、慌てて念話の元をたどり、返答を必死で送る。必死にならなければ届かないほど、遠くだったからだ。ここルナ2から通常航行で3日近い、地球近傍の宙域。レイラも必死で念を送っている。

 

(何があった!?ミチル、何があった!?)

(ミチル!!どうしたの!?わたしたち、何をすれば助けられる!?)

 

 念話を送って来たのは、ミチルだった。

 

(痛い、頭、割れちゃうよ!吐き気がする、全部吐いちゃって、胃液も出ないのに、吐き気がするよ!めまいが!世界が回る!立ってられないのに、倒れたのに、まだ回るの!死ねって、マコーマック博士が死ねって!)

(マコーマック博士!?そこにいるのか!?)

(いない、いないけど!あたまがわれる!船員が!この船の船員、アルマン・バウス少尉!レコーダーを!食事の受け渡し口から!いたい、いたい、せかいがまわる!マコーマック博士の声が!MM-008、機密保持のため、死ね、って!!)

 

 何が起こったかは分かった。船員であるアルマン・バウス少尉が裏切り者だったんだろう。そいつが、マコーマック博士の声を録音したレコーダーを、ミチルの部屋に放り込んだんだ。MM-008、機密保持のため、死ね、と録音されたそれを。

 

(しにたくないよ!命令に、したがわないから、頭が割れそうに痛い!しんじゃうよ!しにたいくらい、いたいよ!でも死にたくないよ!死なないと、痛いんだよ!いたい、はきそう、吐くもの無いのに!)

(ミチル!ゼロ、どうにかする事は……。)

(……ミチル、少しだけ耐えろ!今、助けてやる!)

(死んじゃう、死んじゃうよ!たすけて!た、すけて!!)

 

 俺は、とある可能性を思い付いた。ルナ2の廊下を、移動用のバーを掴み、高速で異動する。あとからレイラも付いてくるのがわかる。俺は、ジャブローから来ていたレビル将軍配下のニュータイプ研究室、今は新生ニュータイプ研究所の研究員である、スティーヴ・ランプリング研究員の部屋に飛び込んだ。

 

「わ!?ぜ、ゼロ少佐!?」

「緊急だ!今動かせるサイコミュはあるか!?」

「え、あ。ありますけど……。」

「何処だ!?」

「え、ニュータイプ研で借り受けてる、第3倉庫……。」

 

 俺はスティーヴ研究員の襟首を掴むと、その部屋を飛び出した。慌ててレイラも付いて来る。

 

「ちょ、苦しいです少佐!」

「すまん、急ぎなんだ!」

「あー、もうどうにでもしてください!」

「ごめんなさい!ゼロ、何をする気!?」

 

 俺は第3倉庫に飛び込むと、スティーヴ研究員を放す。げほげほと苦しい息の研究員に、俺は叫んだ。

 

「どれだ!」

「あれです。」

「よりによって、あれか!ええい、かまわん!」

 

 スティーヴ研究員が指差した改造エルメスのコクピットに、俺は飛び込む。レイラが悲鳴をあげた。

 

「ゼロ!また倒れちゃうわ!?」

「だが、これしか可能性は無い!せいぜい倒れて2~3日意識不明になるだけだ!だけどやらないと、ミチルは死ぬんだ!」

「!!……わかった。わたしも手伝うわ。何をすればいいかしら。」

 

 今も脳裏に、ミチルの悲鳴は響いている。俺は少し考え、レイラに頼んだ。

 

「じゃあ、いっしょにコクピットに入って、俺の手を握っててくれ。俺が「巻き込む」から、そのまま手伝ってくれ。」

「わかったわ。」

 

 レイラがコクピットに飛び込んで来る。改造エルメスの核融合炉は停止していたので、外部に繋がれた電源装置から電力を取って、サイコミュに火を入れた。そして俺は一気に念を飛ばす。はるか彼方へと。

 

 

 

 俺とレイラは、生身で宇宙空間を疾走……飛翔していた。無論、投影された意識体での話だ。彼方にミチルのシャトルが見える。俺たちはシャトルに意識を飛び込ませた。

 ひどい。それが第一印象だ。ミチルは汚物にまみれ、七転八倒している。大気圏突入間際で忙しく、誰もミチルの苦境に気付いていない。そしてミチルの周囲に絡みついた、どす黒い思念の触手が、ミチルを絞め殺そうとしているのが感じられる。

 

(マコーマック博士、か。奴の殖え込んだ、精神操作や心理ブロック、それに強化人間の副作用を増幅させる処置の具象化だ。)

(これをどうにかすれば……。)

(前もあったんだ。あるニュータイプ能力者の男に絡みついていた、老害の怨念を、叩き壊した事がある。)

 

 俺は軍用の制式コンバットナイフ……攻撃する意志の具象化を抜き放ち、触手に斬り付ける。刃が欠けた。

 

(駄目だ!俺の、俺だけの力じゃこれを壊せない!)

(わたしも手伝う!)

(いや、2人でも駄目だ……。そうだ、俺たちの肉体は、今ルナ2の中にある。もう一度、あの離れ業を……。やれるか?)

(何をするの?わたしにも手伝わせて!)

(嫌だと言っても、手伝ってもらうさ。サイコミュが1基じゃ、俺だけじゃ手に余る。)

 

 そして俺とレイラは共振し、意志力をまとめて周囲に呼び掛けた。

 

(この声が聞こえるやつ!誰でもいい!俺たちに力を貸してくれ!)

(これを見て!こんな小さな女の子が、操り人形にされたあげく殺されそうになってるの!こんなひどい事、ゆるしちゃいけないわ!)

(頼む!俺たちに力を貸してくれ!おねがいだ!)

 

 ルナ2周辺にいた、ニュータイプ能力者の素質があった者たち全てが、その声を聞き、無惨なミチルの状況を見せられた。

 

(な、なんだこれは!)

(ひどい……。だめよ、こんなの!)

(力を貸せ、だと?どうすれば良いのかね?)

 

 様々な思念が語り掛けて来る。俺たちの声が届いた全員が、応えてくれた。奇跡だろうか。いや、もしかしてヒトは、分かりあえるのかも知れない。真の意味で。そんなに簡単な事じゃないだろうさ。でも、希望はいつもあるんだ。そう思いたい。

 

(あれを、あの女の子を縛り付けてる、黒い触手を、ブッチ切りたいと全力で念じてくれ!俺たちがその思念を束ねる!)

((((((((((((応!))))))))))))

 

 無数の念が、俺たちに流れ込んで来る。俺とレイラは、それを束ねて黒い触手にぶつけた。

 

(!!……ゼロ、こんな苦痛をあなた、耐えていたの!?)

(しまった……。今の状態じゃ、レイラにも流れちまうのか……。大丈夫、俺は随分慣れた。それに、短時間だったら精神から切り離せるし……。)

(……ゼロ、わたし改めて誓う。あなたを治してみせる。)

(ありがとう……。)

 

 レイラが、俺から流れる苦痛を堪えているのがわかる。すまん。だけど今は、ミチルをなんとかしなきゃな。

 

(すごい……。あの黒い触手が簡単に壊れていく……。)

(いや、まだまだ。綺麗に取り除かないとな。……よ、し。こ、これで終わり、だ。)

(ゼロ!?ゼロ!!)

(あ、だめだ。)

 

 また俺の意識は、ブツンと切れて暗闇に落ちた。

 

 

 

 俺はまた、2日ばかり意識不明だったらしい。レイラは今度は泣かなかったが、それでも一生懸命看病してくれたようだ。彼女も半日意識が無かったと言うのにな。で、スティーヴ研究員は、あまりの貴重なデータに大喜びで、どっか逝っちゃってた。

 驚くべきことに、スティーヴ研究員も弱いがニュータイプ能力に覚醒していたりする。そういや、あのとき応えてくれた声に、スティーヴ研究員の声もあったな。彼も3時間ばかり昏倒していたそうである。

 俺が意識不明の間に、レイラがユウやマリオン軍曹、ブライト艦長らと協力して、書類とかレビル将軍に報告とか、やってくれた模様。まず大気圏突入してジャブローに到着したシャトルから、半死半生のミチルが救出されて病院施設に運ばれた。またシャトルの機関員アルマン・バウス少尉が憲兵隊に逮捕される。バウス少尉は、薬物により洗脳されていた疑いが濃いらしい。

 残念ながらMM-010、戸籍名エドムントは死亡が確認された。彼は命令に抵抗などせずに、マコーマック博士の声を聞いた瞬間、舌を噛んだ模様だった。あまりに哀れな、強化人間の少年の死だった。

 レビル将軍は、即座にあの瞬間に倒れたルナ2およびルナ2近傍の宇宙空間にいた艦船の乗員を緊急で呼び集め、保護下に置く。実は以前、ソロモン宙域で覚醒したニュータイプ能力者も、今現在レビル将軍の配下になっているか、保護下にあったりするのだ。レビル将軍は保護下に置いた彼らに、レーザー通信回線で直接話をし、懇々と協力を要請したそうだ。彼らはレビル将軍のレビル派への協力を、確約してくれたらしい。

 

 

 

 そして、俺がひっくり返っている間に、実は驚くべきことがあった。まずクリス少尉の昇進だ。以前からそろそろ良いのでは、と言う話が出ていたので、上のOKが出て昇進が決まったそうだ。と言うわけで、クリス少尉はいつの間にか中尉になっていた。いや、これは驚くべき事じゃない。驚くべきことは、この次だ。

 

「少佐がお休みの間に配属されてきた、第4小隊のヤザン・ゲーブル少尉であります!はっはあ、聞いていたよりも、ヤワなんですかな少佐ぁ!?」

「……なんなら、ひとつ格闘訓練の申請でもしてみるか?」

「……やめときましょう。俺の勘は、あんたにゃ逆立ちしても勝てないと言ってる。」

「いい線まで行くと思うんだがな?」

「クックック……。」

 

 ニヤリと笑う、ヤザン少尉。しかしなあ……。

 

「お前さん、なんで少尉だ?たしか以前、俺がこの隊を結成する際に、可能ならお前を引っ張れないかと調べたら、中尉だったぞ?それにお前の功績なら、そろそろ大尉になってても全然おかしくない。」

「気に入らん上官を殴り飛ばしましてな。格闘訓練の申請をしてからやるんでしたなあ。失敗しましたよ。ククク。」

「そうか……。」

 

 そんな経歴なら、今回の連邦軍をクリーン化する事を旗印にしたティターンズには、引っ張られまい。うん。戦力的には申し分ないんだが……。

 ……クリス中尉、がんばれ。




と言うわけで、ミチルはなんとか無事です。無事じゃないのはクリスチーナ・マッケンジー女史。ヤザンを部下に置いて、いったいどうなることやら!


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ボタンの掛け違えは、早目に直そう

今回、ヤザンやクリスの性格がこんなんじゃない、とか思う人がいるかも知れません。そのときは、解釈の違いということで、ご勘弁願います。

お気に召さない方、本当にごめんなさい……orz。←土下座


 怒声が響く。

 

『ゲーブル少尉!!4-1!!ちゃんと指示に従いなさい!!フォーメーションを崩さないで!!1人で突出するなんて、何考えてるの!?』

 

 罵声が響く。

 

『女は黙ってろ!!中尉・さ・ま!?俺は好きにやる!!お前らは俺のケツを持ってろ!!それが一番効率的なんだよ!!』

 

 涙声が響く。

 

『ふええぇぇん!4-0、4-1、喧嘩しないでくださ~い。』

 

 ……とりあえず、3機まとめて撃墜判定をくれてやった。それでも俺の猛攻に最後まで耐えて残ったヤザンは、流石だったが。

 

 

 

 とりあえず実機演習終了後、俺は第4小隊全員に説教をくれてやった。説教と言うか、ボヤキに近いものだったが。

 

「おまえらな……。模擬戦中に口喧嘩とは、ずいぶん余裕だな?何か?俺たち第1小隊相手なら、喧嘩しながらでも勝てるってか?随分見くびられたもんだな……。」

「は、そ、そんなことは……。」

「口ごたえすんな中尉!!」

「失礼しました!!」

 

 俺はため息を吐く。

 

「……お前らの問題点は、旧来の小隊員と、新たに入って来たヤザン少尉との信頼関係の無さだ。お前らに命令する。なんとしても次の作戦までに、最低限の信頼関係を醸成しろ。そうしないと、作戦失敗はおろか部隊員の命に関わる。」

「……。」

 

 ヤザン少尉の頬が緩む。俺が作戦の成否よりも、部隊員の命を重視した発言をしたのに、気付いた様だ。俺はそれを気付かないフリをした。

 

「問題解決のためだったら、多少の事は目を瞑ってやる。以上、解散!」

「「「了解!」」」

 

 敬礼と答礼の後、俺はその場を立ち去る。ふと首だけ振り向いてみると、クリス中尉がヤザン少尉からプイと顔を背けているのが見えた。ヤザン少尉の方は面白そうな表情をしているが、目が笑っていない。オロオロとしているウェンディ伍長が、小動物の様だった。

 

 

 

 まあ、だけど俺が何もしないと言うわけにも行くまい。俺はヤザン少尉をPXに誘った。はちあわせしない様に、今頃はレイラがクリス中尉を私室で茶会に誘っているはずだ。

 

「……で、これですかな、少佐?」

「甘いもんは嫌いか?ヤザン少尉。」

「呼び捨てでいいですぜ、少佐。」

 

 俺たちの前には、最近PXのメニューに並ぶ様になったばかりの、チョコレートパフェが鎮座していた。俺、大歓喜。

 

「少佐、普通こう言う時は、酒じゃねえかと思うんですがね。」

「俺が甘いもの好きで、本来はまだ酒が飲めん年齢だし、その上に強くないんでな。」

「とほほ、なんてこったい。」

「んー、どうしても酒が良かったら、勝手に飲んでもいいぞ?無論俺のおごりで。

 それとこの場は無礼講だ。無理に敬語……丁寧語入れようとして、不自然になってる口調をなんとかしろ。」

「そうか?それじゃ遠慮なく。あ、いや酒の話じゃねえ。口調の方だ。」

 

 ヤザンはスプーンでちょっぴりクリームをすくって、口に運ぶ。

 

「……甘え。」

「そりゃ甘いだろうさ。なあ、ヤザン。クリス中尉と、上手くやれんか?」

「ああ、ちょっとな。女が戦場に出て来るのも正直腹立たしいが……。現実問題として、部隊員に大勢いるからな。仕方ねえ。パイロットの後輩として、面倒見てやるのもやぶさかじゃあ無え。

 だがなあ……。上から目線で、理屈にあわねえ命令をされるのは、納得いかん。」

 

 頭を掻いて、俺は息を吐く。

 

「理屈にあってないって事は無いんだがな。方法論の問題なんだよ。第4小隊は、今まであのやり方で生き残ってきたからな。入って来た小隊員が、隊のやり方に合わせるのが普通だと思ってる。あと、今まで上手く行ってた方法を無理に変えて、隊に犠牲が出るの怖がってる面もあるな。」

「個々人の個性ってもんがあるだろが。まあ、わかるぜ?奴のやりかたは、周囲に対し隙を作らんで、どんな状況下にも対応できるって点で優れてる。面白くねえし、楽しくねえがな。

 けどな、それは俺のやり方とは違う。俺の特性を殺してまで、選ぶもんじゃねえと、思うぜ。俺の個性を活かして、それをあいつらが支援した方が、多少とんがりはするが、隊の戦闘力は各段に上がる。」

「それで話は最初に戻っちまうんだよな。そのやり方は、お前さんとクリス中尉、ウェンディ伍長の間に、きっちり最低限でいいから信頼関係ができてる事が条件だ。まあ、ウェンディ伍長はなんとか……。だがクリス中尉との間がな。」

 

 俺もチョコレートパフェのソフトクリームをスプーンですくって食べる。美味い、甘い。

 

「ぐうの音も出ねえなあ……。」

「男同士、女同士だったら、こう言う時真正面からガンガンぶつけるんだがな。それでだめだったら、諦めるんだが。だがウチの隊で、お前さんを諦める事も、クリス中尉を諦める事も、したくはないんだが。どちらも惜しい人材なんだよ。」

「あれがかぁ?」

「まだ成長途中、発展途上だ。パイロットとしても、指揮官としても、人間としてもな。上手く成長してくれれば、かなりのもんになる。いや、今も片鱗は現れているんだぜ?」

 

 俺たちは、男2人、横に並んでチョコレートパフェをつつき続ける。

 

「美味いな、これ。俺も甘味が、好きになりそうだぜ。」

「お、そりゃ嬉しいな。」

「ま、酒の方がありがたいがな。はっはっは。」

「んじゃ、今度サバランでも食うか?って、ここのPXには入って無かったか……。」

「なんだ、そりゃ?」

「酒をた~っぷり使った菓子だ。かなりキツい。だが美味いぞ?」

 

 その後、馬鹿話を続けながら、俺たちはチョコレートパフェを食い続けた。ちなみに俺はお替りした。

 

 

 

 レイラが帰って来た。執務室で待っていた俺は、彼女の報告を受ける。彼女は流石に疲労の色が濃かったので、可能であればお茶と菓子で迎えたかったのだが、彼女はクリス中尉とお茶してきたばかりである。残念ながら、断念した。

 

「おかえり。」

「ただいま……。疲れたわ……。」

「クリス中尉か?」

 

 レイラは頷く。

 

「中尉は、最初から薄々気付いてたのよ。このタイミングで急にお茶会っていうのは怪しかったわね。だから堂々と「少佐がゲーブル少尉をPXに誘って話を聞いてるから、鉢合わせしない様にって頼まれたんで、お部屋でお茶会しましょ?」って言ったら、苦笑して同意してくれたわ。」

「む、やはり鋭いな。」

「ええ。で、最初は理性的だったのだけれど、そのうちゲーブル少尉に対する愚痴が少しずつ……。しまいには……。」

 

 そして肩を落として大きな溜息を吐く。なるほど、疲れただろう。

 

「そうか……。済まなかった。」

「いいのよ。中尉も最後は謝ってくれたし。ふふ。」

「むう……。しかし、どうしたものかな……。ヤザンの方は、歩み寄りを求めるにはちょっと我が強すぎる。だがクリス中尉は、あちらはあちらで責任感が強く、小隊の事を真摯に考えての結果だし。

 どっちも間違ってないだけになあ……。と言うか、どっちが正しくてどっちが間違ってるって問題じゃなし。普通なら上官であるクリス中尉の意見を押し通すんだが、ヤザンは一年戦争を潜り抜けて来たベテランて意地がある。どっちを押し通しても、小隊にしこりが残る。」

「難しいわね……。」

 

 俺とレイラ、2人そろって頭を抱える。

 

「だが……。いざとなったら、ヤザンに頼み込んで泣いてもらうしか無いかな。そうでなければ、軍隊の規律が保てんし。その場合、どこかで埋め合わせを……。」

 

 ため息が出た。ため息の数だけ幸せが逃げると言うが、そんな事いったら高級士官は皆、不幸なんだろうなー。

 

 

 

 俺はブライト艦長と共に、ツァリアーノ大佐とレーザー通信で話していた。無論、次の作戦についてである。

 

「では、核弾頭の移送作戦、開始は予定通りだと?」

『おう。だがどうも情報漏れがまだ、どっかからあるみたいでな。エルランの奴、ルーパート少将の他にも連邦軍のどっかに情報ルートを持ってるみたいだな。物資が流れるほどじゃねえが。

 しかし、それが掴めねえ。憲兵隊本部も、諜報部も、苛立ってやがる。だからと言って、決めた作戦、ことに実動段階まで至った作戦は、そう何度も中止に出来ん。ただでさえ、「『茨の園』攻略作戦」を中止にしたばかりだ。』

「これだから……。」

「たしかに……。」

 

 俺とブライト艦長の渋面での言葉に、ツァリアーノ大佐は笑う。

 

『そう言うな。レビル将軍は、作戦を実行せざるを得ないなら、徹底して万全の用意を整えた上で、諜報部に命じて情報の漏洩ルートを確かめるおつもりらしい。

 地上ではマット大尉の第02独立中隊「デルタ・スコードロン」が、宇宙に上がったらお前らの第01独立中隊「オニマル・クニツナ」隊が直衛に就く。なんだったら必要ならば、もう少し部隊を増やす。』

「増やせるんなら、増やしてほしいです。」

「自分も、そう願いますね。」

 

 ツァリアーノ大佐は、にやりと笑って言う。

 

『んじゃあ、俺のとこの第2大隊から第1中隊と第2中隊を、核といっしょに宇宙に上げる。第3、第4中隊はマット大尉といっしょに地上での護衛だ。これなら文句あるまい?』

「第2、ですか?第1では無いのですね?」

「ああ、ブライト艦長。第1はプロパガンダ用の側面も持っててな?ちょっとこう言う極秘の作戦には使いづらいんだ。」

「な、なるほど。」

 

 それに第1大隊よりかは、第2大隊の方が腕がいいって、以前レビル将軍からちょっと聞いた覚えがあるんだよな。第3は知らんし、第4は今もまだ欠員多数だそうだが。

 でも、相手の第1中隊が上がって来るって事は、指揮官は少佐か、場合によっては中佐。指揮権を譲らにゃならんかもな。

 

『ま、そう言うことだ。と言うわけで、0082の1月3日、05:00に核を改ペガサス級強襲揚陸艦スタリオンとアルビオンに詰め込んで、打ち上げる。豪勢だろう、改ペガサス級を輸送艦がわりだ。

 それともう2隻、改ペガサス級が上がるからな。追加で打ち上げる第2大隊の第1中隊と第2中隊の分だ。ま、新年早々で悪ぃが、休日返上で頑張ってくれや。あとから特別休暇は約束するんでな。』

「「了解!」」

『んじゃあな。』

 

 通信は切れた。俺たちは顔を見合わせる。俺はにやりと笑った。

 

「改ペガサス級が合計5隻に、サラミス改が2隻、ネルソン級が1隻、ちょっとした艦隊じゃないか。」

「うち2隻は核を満載なんだぞ。戦闘に巻き込むわけにはいかん。」

「わかってるさ。」

 

 俺とブライト艦長は、ルナ2の通信室を立ち去った。

 

 

 

 ……あー、またやってるよ。なんかクリス中尉がヤザンに食ってかかってる。そこまで相性が悪いとは思わんのだけど、ちょっとボタンを掛け違えるとなあ……。しかたない、仲裁を……って、ヤザンが嘲笑う表情になって、クリス中尉の胸を、その、わしづかみに。おい、服務規程違反だぞ。

 いや、そうじゃない。ヤバい。クリス中尉の顔が、能面みたいになった。あ、ヤザンの顎を殴り上げて……さすがにヤザンは躱したが、手が胸から離れたな。その隙をついて、クリス中尉は足元にあった金属パイプッ!?まて、それはまずい!

 ……遅かった。ヤザン、金属パイプで殴られたよ。達人の動きだ、流石に宇宙軍士官学校主席卒業だけあるな、くりすちーな・まっけんじー中尉サン。崩れ落ちるヤザン。あ、クリス中尉、我に返った。泡食ってヤザンの様子を確かめてる。

 

「おーい、クリス中尉。」

「しょ、少佐!?も、申し訳ありません……。」

「いや、まだ生きてるから。救護室に運ぶぞ。」

「は、はい!」

 

 とりあえず俺がヤザンを背負って、救護室に運んだ。

 

 

 

 俺はクリス中尉とヤザンを前に立たせて、そのまま頭を抱えている。一言も喋らない俺に、クリス中尉は悄然としていた。一方のヤザンは、傲岸不遜な態度を崩さない。頭に包帯巻いてはいるが。俺は呟く様に言う。

 

「……お前ら減俸30%3ヶ月。」

「なっ!お、俺もか!?」

「そ、それだけでいいんですか!?」

 

 ため息とともに、言葉を吐き出す。

 

「まずはヤザンの方からな。そりゃそうだろ。元はと言えば、お前が中尉の乳をわしづかみにしたのが原因だ。それにセクハラは服務規程違反だ。見ろ、俺の副官を。お前を汚物の様な目で見てる。」

「見てます。」

「ぐ……。」

 

 続けて、俺はクリス中尉に言う。

 

「それだけって言うがな。お前さん今までせっかく人事書類キレイだったのに、きっちり賞罰欄に残るんだぞ?あと、ヤザンに非があったから、情状酌量したんだ。しかしだな……。

 ああ言う事やりたかったら、お前らな。ちゃんと格闘訓練の書類、俺に出してから好きなだけ殴り合え。それなら言い訳立つんだからよ。いざ出撃ってときに、お前らが営倉入りしてたら、こっちもたまったもんじゃないんだ。」

「そいつは申し訳ありませんでした、少佐殿!!うっかりしておりました!!それでは今か……。」

「申し訳ありませんでした、少佐!」

 

 何か言いかけたヤザンの台詞を、クリス中尉が遮る。

 

「おい、俺がしゃべ……。」

「更にお手数かけまして申し訳ないのですが、格闘訓練の申請を行いたいのですが、よろしいでしょうか!」

「「!?」」

 

 ヤザンは一瞬あっけにとられる。俺も同じく。ヤザンが言い出すかと思ってたんだが。と言うか、今言い出しかけてたろ、ヤザン。

 

「……ああ、かまわんぞ。レイラ、書類の準備を頼む。」

「あ……。はい、少佐。」

 

 そして格闘訓練と言う名の殴り合いが、決定した。

 

 

 

 と言うわけで、俺が審判。レイラが副審。場所は訓練場が一杯だったから、との言い訳を使って、小さな倉庫の1室。無重力だから踏ん張りがあんまり効かないんだよな。無重力格闘って、けっこう難しいぞ。

 

「勝敗の如何に関わらず、双方とも遺恨無し。いいな?」

「応。」

「少佐、少しだけ待ってください。」

「ん?いいぞ?」

 

 クリス中尉が、ヤザンを親の仇の様な目で見遣る。その唇が開かれた。どんな台詞が飛び出すか……。

 

「わたしが勝ったら、わたしの指揮に従ってもらうわよ。」

「ほう、なら俺が勝つとは思うが、そしたら俺の好きにやらせてもらうぜ?」

 

 なんだ、結構普通だった。

 

「では、双方ともいいか?……始め!」

 

 最初は地味に始まった。磁力靴で床に縫い留められた足を、ズリズリと動かして相手との間合いを計る。と、ヤザンが動いた。それはそうだろう。リーチはヤザンの方が長い。だがクリス中尉はそれを受け流す!

 

「ほおう!俺の拳を……!?」

「……。」

 

 クリス中尉は無駄口を一切叩かず、相手の上体がかすかに泳いだ隙を見て、全力の拳を放った。ヤザンは頬を軽くかすっただけで、それをぎりぎり躱すが、上体が今度こそ大きく揺らぐ。

 馬鹿な、あれは!?

 

「滝○、国○パンチ!?」

「え、何それ?」

 

 ああ、レイラは知らんか。クリス中尉はパンチを躱されたのではなく、躱させたのだ。そして相手の背後の壁を足場にして、態勢のくずれたヤザンの顔めがけてパンチ……じゃない、キック!?え!?○電キックなんて技、無いよね!?

 あ。ヤザン吹っ飛んだ。いや違うか。吹っ飛ぶ事で、衝撃を殺したのか。やるなあ。ヤザンの身体は、反対側の壁近くまで飛んだ。まあ、衝撃殺したと言っても、ダメージ無いわけじゃないだろ。完全に殺せたわけじゃなし、半分ぐらいの衝撃は受けたと思う。

 

「……!」

「く……!」

 

 あ。ヤザン何かやる気だ。右手でうかつに突っ込んだクリス中尉の腕を跳ね上げて、左拳を彼女の腹に押し当てて……あ、あ、あ。身体を180度ひねって、背後の壁に叩きつけた!?ヤザンの拳と壁のサンドイッチになって、クリス中尉の胴体は大ダメージ!あ、反吐吐いてる。美人さんがやる事じゃないよな。

 って言うか、胴体じゃ無しに頭だったら、これ城○内ゴールデ○・ビクトリ○・フ○ニッシュこと、殺虫パ○チじゃないかよ。まあ、随分ちがうから、いいか……。

 

 

 

 しばらく時間が経って、勝敗は明らかにヤザンの方に傾いていた。そらそうだろう。いくらクリス中尉が士官学校を首席卒業してて、双方技量的には拮抗してても、身体能力ではヤザンが思い切り有利だ。しかも戦闘経験も、ヤザンが圧倒している。それがわからないクリス中尉じゃないはずなんだがなあ。

 2人は、もう派手な大技は使わずに、足を止めて至近距離でひたすら殴り合いをしていた。それしかもう、できる体力が残っていないのだ。ここまでヤザンを削ったクリス中尉を褒めるべきだろうか。

 

「……たいした女だぜ。だがよ、地力が違うんだよ!」

「……!!」

「おうっ!?」

 

 ぎりぎりでクリス中尉が、躱してカウンターを叩き込んだ。だが、威力が……。低い……。

 

「ふう……。ここまでか?」

「……くっ。」

「少佐、もうとめた方が……。」

 

 レイラの声に、だが俺は首を横に振る。完全に決着をつけさせないと、遺恨が残る。クリス中尉が息を整えると、最後の一撃に全てをかけて殴りかかった。

 

「あ、ああああああああああああ!!」

「面白い!!だが……!!……ム!?」

「決まったか?」

「……!!」

 

 どぐしゃっ、と嫌な音が響き、2人は壮絶なクロスカウンターを決めた。そして……。クリス中尉の身体から力が抜けた。無重力なので、床には倒れない。足元だけ磁力靴で固定され、ぐらぐらと身体が揺らめいている。俺たちのニュータイプ能力に頼らずとも、気絶しているのがわかった。

 ヤザンは、ため息を吐くとクリス中尉の後へ歩いて行く。

 

「やれやれ……。最後の一撃、っつーか、最後のあの眼、効いたぜ。

 これ、昔読んだ小説にあったんだよなあ。俺がやる事になるたあな。思ってもみなかったな。」

「……なんとなく、何やるか読めるぞ、ヤザン。」

「そうでしょ?少佐どの?ククク。」

 

 レイラがこっそり念話を送って来る。

 

(……ねえ、ゼロ?彼、何をする気なの?読める雰囲気や感情から言って、悪い事じゃないと思うんだけれど。)

(ああ、悪い事じゃない。予想が当たってればな。)

 

 

 ヤザンが、クリス中尉を座った姿勢にさせる。そして背中に膝をあてて活を入れた。しっぱい。クリス中尉は起きない。決まらない男だ。

 

「俺がやるか?」

「いや、これは俺がやってこそなんでね。」

 

 2度目は成功。クリス中尉は息を吹き返す。

 

「ぐっ……。あ。え?

 ……そ……っか。わたし、負け……。」

「おい中尉。俺を殴れ。」

「え?」

 

 ヤザンの言葉に、クリス中尉は唖然とする。

 

「殴れ。はやくしろ!全力で、だ!!」

「あ、はい!」

 

 クリス中尉はそのまま、立ち上がるその動作に全身のバネを乗せて、全力でヤザンの顎を殴った。ヤザンは吹き飛んで、そのまま慣性で天井に叩きつけられる。無重力だからこういう光景も見られるもんだよな。ヤザンはしばらく空中を漂いつつ、苦痛に呻いていたが、やがて言った。

 

「あんたの勝ちです、中尉どの。今後俺は、あんたを「良い意味で」女とは見ませんよ。あんたは俺に、二度と舐めた口は利かせない、いいですな?痛てて……。あ、本気で身体動かねえんでやんの。くっそ、昔読んだ小説の真似なんてしなきゃ良かった。」

「ふう……。了解よ、ゲーブル少……ヤザン少尉。ああ、それとね。フォーメーションの件だけど。」

「ん?」

 

 クリス中尉はボロボロの顔を歪めて……たぶん笑ったんだと思う。美人さん台無し。

 

「あなたを頂点にしたアロー・フォーメーションで、わたしとウェンディ伍長がそれをフォローするって事でいいわね?」

「な、おい!今更ソレか!そりゃ俺が最初から言ってたフォーメーションじゃ……。」

「口調に気を付けなさい、しょ・う・い?このフォーメーションは確かに効果的だけど、あなたを信頼できないうちは使えないもの。でも、ね?」

「……今なら、信頼できる、と?」

「少しはね。……少佐、申し訳ないのですが。医療室まで運んでくれる人を、呼んでいただけませんか?」

 

 うん、この展開は読めてた。ニュータイプ能力で、心がそう簡単に読めはしないが、感情の動きは比較的楽に読めるからな。俺はレイラに頷くと、ヤザンを空中から降ろして背中に背負う。レイラもまた、クリス中尉を背負った。

 

「しょ、少佐!?いえ、人を呼んでいただければ!少佐たちの手を煩わす事じゃ!」

「黙って運ばれろ、中尉。……ほんとにまあ、殴り合って親睦を深めるとはな。何処の少年漫画だまったく。」

「しかも片方は女性ですからね。ああ、お顔がはれ上がってますよ?中尉。」

「ふふ、ふはははは、はーっはっはっはっは。」

「何がおかしいのよ。ヤザン少尉。」

「おっと、こりゃ失礼、中尉殿。」

 

 何にせよ、作戦前に丸く収まってよかった。……だけどこいつら、作戦までに復帰、できるよな?俺は内心で、冷や汗を流した。




と言うわけで、今回の主題はヤザンVSクリスと言う。一見クリスに勝ち目はない勝負でしたが、やはり負けました。でもクリスの勝ちです。ヤザンはいい男ですから。
さて、いよいよ次は(たぶん)核弾頭の移送作戦です。はたして!


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やあ、戦友

 宇宙歴0081、12月30日。ルナ2の格納庫で、ヤザンの歓声が響く。

 

「こいつぁいい!少佐ぁ!俺にこの機体、任せてくれんか!?」

「射程距離はハイザック・カスタムよりも短いですけれど……。」

「機体の運動性は、より高いわね。そして格闘能力は、こっちが圧倒してる。」

 

 ウェンディ伍長とクリス中尉が、レイラが手渡した機体の資料を見ながら呟く。俺はぼやいた。

 

「無茶振りが過ぎる……。作戦前日に、こいつ送って来るかね。」

「大丈夫だ!一年戦争のときなんざ、朝に受領したジムスナイパーカスタムを大戦果と引き換えにブチ壊しちまってな!替えの機体として夕方にはジムライトアーマーでブイブイ言わせてたときもあったんだぜ!!」

「いや、俺もG-3ガンダムを急遽配備されたアレックス3に1日で乗り換えた事はあったけどよ。

 だがこれを実戦で評価しろってんなら、もう少し日が欲しかったな。」

 

 俺たちの前には、頭部が尖がったスレンダーな、赤紫色の装甲でモノアイのMSが3機、鎮座していた。RMS-117ガルバルディβだ。当初この機体は、連邦軍では開発される事は無いと俺は思っていたのだが。

 だがしかし、覚えてる奴はいるだろうか。俺が敵のスパイだった事もあるジュダックを捕まえた時、奴がなんか書類の山を持っていた事を。あれを解読したところ、その中にジオン公国のMSであるMS-17ガルバルディαの設計書が含まれていたのだ。

 うん、その設計データが連邦の手に入って無かった上に、実機も大破したのしか無かったから、ガルバルディβは連邦じゃ作られないと思ってたんだよな。でもこれが手に入ったため、急遽プロジェクトチームが組まれてガルバルディαのコピー機が作られた。そして中々の物だと言う事で、連邦の技術を惜しみなく投入された改良機、ガルバルディβが作られたのだ。

 問題は、その実戦テストを俺たちの部隊に押し付けたどっかの馬鹿……レビル将軍じゃないんだが、その近くにいる開発関係に深く関わってる某技術士官のせいで、こんな作戦間近の機種転換訓練もできない状態で、3機のコレがおくりつけられて来た事にある。なあ、セキ技術大佐?

 

「大丈夫だって!俺を信頼しろよ!第一、こいつの武装はビームライフル、シールドに仕込まれたミサイル発射器、それにビームサーベルと、シールドミサイル以外は基本に忠実だ!使いこなすのに、そこまで無理はねえよ!」

 

 ヤザン……。こいつ、最初は俺に敬語らしきもの使ってたのに。プライベートでタメ口許したら、いつの間にか公の場でも乱暴な口調で喋る様になりやがった。まあ、こいつは仕方ないか。

 

「クリス中尉……。すまんがこの機体3機、第4小隊で実戦で使って評価してもらえるか?今度の任務から、機体をハイザック・カスタムからコイツに差し替えって事で……。」

「は!了解しました。では早速シミュレーター訓練を、そして多少慣れたら本日中に実機訓練に入りたいと思います。いくわよ!ヤザン少尉!ウェンディ伍長!」

「は、はい了解ですー!」

「は、了解です中尉どの!じゃあな少佐!」

 

 こいつ、クリスには敬語使うクセに……。敬礼して立ち去るこいつらを、俺とレイラは答礼で見送った。

 ちなみにウィリアム整備長には、機体の種類が増える事でさんざん文句を言われた。いや俺に文句言われても。まあ、部品の共有率が下がるとか、整備の煩雑さが増すとか、整備兵の教育が大変だとか……。解るは解るんだ。解るから、俺に文句を言うな。

 

 

 

 年が明けた。年越しを俺たち「オニマル・クニツナ」隊の面々は、艦の中で過ごす羽目になっていたりする。地球とルナ2間の航路は、通常航行で3日かかるのだ。というわけで、俺たちが乗った第42独立戦隊各艦は、0082の1月3日に間に合わせるため、0081の12月31日00:00時にはルナ2を出港していたのである。

 と言うわけで、今は1月1日。元旦である。ハッピーニューイヤー。そして新年早々、慣性航宙の合間を縫って、第4小隊の機体完熟のために、宇宙空間で実機演習だ。しかし何と言うのかヤザンの奴、水を得た魚と言うか、赤兎馬を得た呂布と言うか、ハイザック・カスタムとは動きが違う。違い過ぎる。

 ぶっちゃけ、第3小隊だと相手にならない。1機が新米で実戦未経験のイェルド伍長だって事もあるんだが、それでも小隊長のフィリップ中尉は以前実機演習で、格の劣るジム改高機動型で、アレックス1に乗ったレビル将軍の攻撃を耐えきった技量の持ち主だ。しかしヤザンは、格闘戦に持ち込んでとうとうソレに撃墜判定を与えてみせた。

 彼らは第5小隊ともやってみた。第5小隊のリディア少尉とホーリー少尉は、アイザック乗りだ。なので予備機のハイザック・カスタムを貸してやった。で、レイラが一時的に入って3対3だ。そしたら、驚くべき事に中盤までは、第5小隊が緻密な連携を披露して、第4小隊を圧しまくると言う光景が。ヤザンが切れて、自機の右脚と引き換えにリディア少尉を格闘戦で撃破するまでだったが。その後は驚くべき事に、クリス中尉をトップに変更し、ヤザンとウェンディ伍長の支援のもと、彼女がホーリー少尉を撃墜。その後時間切れで残り機数差で、第4小隊の勝利。

 そして第2小隊との対戦。……第2小隊の辛勝。って言うか、マリオン軍曹とコーリー軍曹が、クリス少尉とウェンディ伍長を苦労して下して勝ったのだ。あの2人も、マリオン軍曹やコーリー軍曹を苦労させるぐらいになったか。だが、ユウが俺以外に撃墜判定くらうのを、はじめて見たぞ俺。まあ、相打ちでヤザンも墜ちたが。

 で、ついに俺たち第1小隊との対戦だ。

 

『少佐ぁ!!あんたとヤってみたかったんだよぉ!!』

『ヤザン少尉!少佐は任せたわ!わたしはィユハン曹長を!』

『わ、わたしはレイラ少尉を抑えます!は、はやく助けに来てくださいね!』

 

 だが甘い。MSでの射撃はヤザンの方が技量がわずかに上で、MS格闘戦はほぼ拮抗している。ニュータイプ能力無しの状況でだ。しかしコレにニュータイプ能力を加味すれば、話は変わる。まあ最初は人工的に付加されただけの力だったが、俺はそれを必死になって努力で伸ばして来たんだ。遠慮なしに使わせてもらおう。

 

『うぉっ!?』

「さすがだな、ヤザンっ!!」

『うおははははは、さすがゼロ少佐!』

 

 く、殺気を消して撃ってるのに、それを読みやがる。別の殺気をぶつけても、それには騙されない。なんてやりづらい奴。しかしそれは相手も同じだと見えて、悉く俺はヤザンの射撃を躱す。ヤザンは苛立って、ビームサーベルを抜いて格闘戦に入って来た。……それを待ってた。

 

『ぬわぁっ!?』

「ち、はずした!」

『はずしたって言ったって、左腕を盾ごともってかれたぞ!?』

 

 いつもの馬鹿の一つ覚え、ゼロ距離からビームサーベルを抜くとみせかけての、腕の90mmバルカン斉射。だがこいつ、ニュータイプ能力者でもないのに左腕を犠牲にしただけで躱し切りやがった。なんてやつだ。

 あ。

 

『な、なんだぁ!?どこから!』

『す、すみません少尉~!レイラ少尉を抑えきれませんでした……。』

 

 うん、レイラが殺気の消し撃ちをしたんだ。遠距離から狙撃で。俺との戦いに夢中になってるヤザンを。あー、なるほど。ヤザンこいつ、MSの機動や腕部の動きとか見て、躱してやがったのか、至近距離で。銃口の向きを見てりゃ躱せるって、どこの人斬りだ、お前。

 でもって、視界外からのレイラ機の殺気が無い狙撃は、躱せなかった、と。ヤザン機、撃墜判定。

 

「さんきゅ、レイラ!」

『どういたしまして!』

『うおおおぉぉぉ!!不完全燃焼だ!!』

 

 叫ぶヤザンに、俺は反省点の指摘をしてやる。

 

「と言うわけで、お前らの弱点は、やはり連携だ。まず最初に3人で俺たちの1機……ィユハン曹長機あたりを墜として、そうなってから俺に一騎打ちを挑むべきだったな!」

『何故俺です、たいちょ!?』

「お前、ウチの小隊で一番回避苦手だろ。狙撃は超一流だが。」

 

 と言ってるところで、ィユハン曹長機がクリス少尉に墜とされる。言った通りになった。ただィユハン曹長も、クリス機を相打ちで撃墜したが。

 

『ごめん、ウェンディ伍長。なんとか1人でゼロ少佐とレイラ副官を墜としてちょうだい!』

『む、無理ですよー!』

『連携に不安がある今の状況じゃ、1対1の3組に分けるしかなかったんだけど……。悔しいわね。と言うわけで、悔しいからなんとか勝って。』

『だから無理ですって!ホラ!』

 

 ウェンディ伍長機、ワガハイにより撃墜判定。だがここしばらくの訓練で、1機も欠けないで勝ってる……大破判定もらったりはあるが、撃墜判定された機体は無かった俺の小隊だが、ついに記録が途切れたな。ひさしぶりに撃墜機が出た。

 

『すいません、たいちょ。』

「現実で撃墜されなきゃ、かまわんよ。だから回避技量、もっと磨け。そうだ、これから1on1で絞ってや……。」

『ゼロ少佐、残念ですが時間切れです。速度微調整のため、艦隊が加速する時間です。艦に帰還しないと、このまま慣性航行したあげくに大気圏突入しますよ?』

 

 俺はレイラの声に、苦笑を漏らした。

 

「残念。バリュートも無しにソレはご免だな。全機帰艦せよ!各小隊長は、訓練報告書の提出を忘れるな!」

『『『『『『了解!』』』』』』

『……!』

 

 俺の部下達は、全員一糸乱れぬ?唱和をして、各艦へと帰投していった。助かったと思ってるィユハン君?キミは忘れている。艦にはシミュレーターと言う物もあるのだよ。

 

 

 

 さて、地球の軌道上だ。もうちょっと詳しく言うと、地球を普通に周回する高度1000km程度のLEO、低軌道なのだが。1月3日、05:00時に、ジャブロー上空に差し掛かる様に調整された軌道だ。はっきり言って、もうすぐである。

 俺とレイラは、今ブリッジに詰めている。パイロット用ノーマルスーツ姿で、ヘルメットは後襟に留めてある。ブライト艦長たちは、こちらは重装の一般用ノーマルスーツだ。

 ブリッジにある大型モニターに、俺たちから見て真下、地球表面の様子が映されている。と、そこに小さな影が4つ映った。その影は、徐々に大きくなる。こちらに上昇してくるのだ。ブリッジオペレーターが、ブライト艦長に報告する。

 

「改ペガサス級強襲揚陸艦スタリオン、アルビオン、グレイ・ファントム、トロイ・ホースの4隻を目視で確認しました。艦コードも受信、間違いありません。」

「了解だ。あちらが軌道に乗るのを待って、旗艦であるトロイ・ホースに交信を求めろ。」

「了解です。」

 

 そして4隻の改ペガサス級は、俺たちのいる高度までさくっと何事もなく上がって来た。ちなみに敵影はまったく無い。俺やレイラのニュータイプ能力にも、何の反応も無かった。

 

「通信、繋がりました。メインモニターに出します。」

『……あー、俺いや自分がトロイ・ホース艦長の、デトロイド・コッヘル少佐、だ。で、こちらが今回の核移送任務の総責任者、作戦司令を兼任する、MS隊大隊長の……。』

『お初にお目にかかる。あたしがレビル将軍直属部隊ツァリアーノ連隊第2大隊大隊長、シーラ・ガラハー中佐さね。』

「し、シーま……」

『『わーーー!わーーー!!』』

 

 ……シーマ・ガラハウ元ジオン公国海兵隊指揮官代理だったヒトと、デトローフ・コッセル元ジオン公国海兵隊所属ザンジバル改リリー・マルレーンかんちょだったヒト。お顔もちょっとしか変わって無いし、名前なんて元の名前とよく似てるじゃんか。

 

「あ、あー、自分は第42独立戦隊提督兼、この改ペガサス級ブランリヴァル艦長、ブライト・ノア少佐であります。こちらは、レビル将軍直属部隊ツァリアーノ連隊第01独立中隊中隊長の、ゼロ・ムラサメ少佐です。」

「お、お久しぶりです、シー……ら?中佐。」

『な、何のことだい!?あたしはアンタと会った事はないよ!?』

「いえ、サイド3攻略戦にて、レビル将軍機を共に護って戦ったでしょう……。俺は、戦友の気配は忘れませんよ。」

 

 シーラ中佐は、がっくりと肩を落とす。

 

『さすがは連邦のニュータイプの中でも、1、2を争うトップエースだねえ……。こんな整形、意味ないじゃないか。』

「……あの、なんでそんなすぐわかりそうな名前とか、前と似たお顔をしてらっしゃるんで?」

『名前は、うっかり呼ばれて返事した時に、前と似た名前だったら誤魔化しが効くって言われてさね。顔は、あまりガラっと変えると、心理的にストレスが溜まってひどい事になるってね。実際、大きく変えた奴もいるけど、ちょっと心を病んじまって編制から外して、病院通いさ。』

 

 あー……。それはツライ。なるほど、納得だ。

 

「それは……。大変でしたね。部下の方には……。」

『いや、いいんだよ。あんたほどの奴から戦友と呼ばれるとはね。あたしらも捨てたもんじゃないね。隣の娘は、彼女かい?』

「ですよ。副官でもありますが。それに戦場でも俺の背中を護ってくれる、頼もしい相棒です。」

『ほう?大事にしなよ?』

 

 俺は力強く頷く。レイラの顔は真っ赤だったり。と、ブライト艦長が話に割り込んで来る。

 

「すまんが、あの方は何なんだ?何か新聞か何かで、何処かで見た記憶があるんだが。整形とか前の名前とか……。」

『ちょ、お待ちよ。ちょおっとソレは……。』

「どうせオープン回線じゃないんだから、いいじゃないですか。互いのブリッジの面々しか見てません。そしてこっちの艦長は、それで動じる程ヤワじゃないですし。

 それこそ新聞で、見てるはずですよ。ブライト艦長?1~2年ぐらい前ですね。」

「何?……マテ。シー……ガラ……シーマ・ガラハウ少佐か!あの悲劇のヒロインか!」

 

 シーラ中佐は、酢を飲んだような顔つきになった。

 

『やめておくれよ。連邦軍のプロパガンダ作戦で、悲劇のヒロイン扱いされてさ。あたしはもう33、あとちょっとで34歳だよ?お姫様扱いされて喜ぶガキじゃないのさ。』

「あ、いや申し訳ありません中佐。全員!ここでの話は口外無用だ!いいな!」

「「「「「「了解!」」」」」」

『ほう?しつけが行き届いてるねえ?』

「いや、前艦長の薫陶の賜物ですよ。」

 

 ブライト艦長は、にこやかに笑い、そして言った。

 

「今回の作戦指揮は、お任せします。」

『……いいのかい?あたしはシーマ・ガラハウだった女だよ?敵国の海兵隊として、悪行の限りを尽くして来た女だって判明したのに、そいつに指揮を任せるのかい?』

「?……あたりまえでしょう。そちらは中佐、こちらは少佐2人です。そちらが指揮を執るのが、普通でしょう。」

 

 そしてシーラ中佐は、頷く。

 

『いいだろう。この作戦中、あんたらの命、預かったよ。』

「「はっ!」」

 

 俺とブライト艦長は、敬礼を送った。シーラ中佐も答礼を返して来る。そして彼女は叫んだ。

 

『野郎ども!ルナ2へ向けて発進せよ!ただし、大事なブツに傷をつけないように、ふんわりと優しくだよ!?』

『『『『『『了解!』』』』』』

「第42、独立戦隊も了解です。全ての艦に通達!ルナ2へ進路を取れ!」

 

 そして俺たちは、地球連邦軍宇宙基地ルナ2への帰途に就いた。これから3日間の航宙、何事もなければ良いんだけどな。




シーマの姐さん……。すっかりお茶目になっちまって……。まあ、幸せそうでよかった。こんな大事な作戦まで任されちゃって。
でもこれだけの厚い陣容なら、そう簡単に襲う事はできませんねー。もし情報漏れしてても、だからこそ断念しそうな防御網。
はっはっは。


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MSVコンビ三度あらわる

 改ペガサス級強襲揚陸艦ブランリヴァルのブリッジでは、緊張が渦を巻いていた。メインの大モニターには、シーラ中佐のこれも緊張した顔が、ミノフスキー粒子によるノイズ入りで映し出されている。

 

『ザッずかに……。静かに進むんだよ?アイツらを刺激しなザザザッにね。あたしらの任務は戦う事ザザッない。』

「わかって、おります。万一スタリオンとアルビオンに積まれた核兵器に損失が出たなら……。」

『その通ザザザッだよ。こっちの兵力を見ザッ、撤退してくれるんならば、ありがたザザザッ事さね。ただ……。』

 

 ブライト艦長の返答に満足してみせたシーラ中佐は、しかし顔を険しくして、言い放つ。

 

『もしトチ狂ってかかって来るザザザッ、そんなバカが出たら……。手加減は無用だ。一気に叩き潰すよ。1機たりと、1隻たりと逃ザザッない覚悟でねぇ……。』

「「了解。」」

 

 俺とブライト艦長は、異口同音に応えた。事は、3時間前まで遡る。

 

 

 

 今から3時間前、宇宙世紀0082、1月4日の09:00時、第42独立戦隊旗艦ブランリヴァルでは、核兵器移送部隊旗艦トロイ・ホースへと定時連絡を行っていた。

 

「ヒルッカ伍長、トロイ・ホースとの定時連絡を。」

「はい、艦長。……こちら第42独立戦隊旗艦ブランリヴァル。トロイ・ホース、応答願います。……はい。こちらは……。いえ……。変ですね?再度チェックしてみます。ノイズが……。」

「「ノイズだと!?」」

 

 ブリッジに詰めていた俺と、そしてブライト艦長が、一斉に声を上げた。

 

「あ、はい艦長。通信にノイズ……もしかして!?」

「全センサー!い、いや訂正する!全パッシヴセンサーを全開にして、周辺宙域をチェックしろ!周辺宙域の電波傍受から逆算したミノフスキー粒子濃度を至急報告せよ!第42独立戦隊各艦に通達、第3種戦闘配置!」

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 俺はオペレーター席に着いているマリー曹長に命令を発する。

 

「マリー曹長!第5小隊アイザック隊に緊急の出撃命令だ!ただしカタパルトは使わず、格納庫の上部ハッチを使って甲板上に上げさせろ!ブランリヴァルの甲板上から、パッシヴセンサーで周囲を観測させて、怪しい物があったらカメラガンで確認させるんだ!」

「了解です、たいちょ!」

 

 通信オペレーターのヒルッカ伍長が、再度の報告を行って来る。

 

「艦長、トロイ・ホースの方でも気付いたと見えて、パッシヴセンサーでの周辺宙域のチェックをこちらに命じてきました。自分たちでもやっているそうですが。こちらが既に取り掛かっていると返答したところ、流石だ、と。」

「向こうも歴戦の軍艦乗りだけあるな。」

「まったくだ。で、第3種戦闘配置だから俺とレイラはMSデッキに向かった方がいいな?」

「いや、第1種に移行するまではここに居てくれ。直接意見を聞きたい。」

「了解。」

 

 やがてアイザック隊のリディア、ホーリー両少尉から報告が入ってくる。その内容は、俺たちが内心予想した通りだった。アイザック2機のカメラガンが、チベ級ティベ級の重巡洋艦に率いられた、隠密航行中の艦隊を発見したのだ。その数は次の通り。旗艦であるティベが1隻、それに随伴するチベ1隻、ムサイ通常型1隻、ムサイ後期型1隻、ムサイ最終型1隻、商用輸送艦を改装した仮装巡洋艦2隻の計7隻。

 デラーズ・フリートとしては今現在で即座に動かせる全力を投入してきたのだろうな。全部で7隻の豪華布陣……。しかも最新型のティベ級やムサイ最終型まで混じっている。7隻中2隻は戦力価値の低い仮装巡洋艦とは言え、5隻は正規の軍艦なのだ。しかも仮装巡洋艦が混じっているために正確な数は判然としないが、MSがおそらく……最大で40機近く。つまり1個MS大隊に2~3個小隊足りない程度だ。

 対してこちらの戦力は……。改ペガサス級5隻、サラミス改2隻、ネルソン級1隻。まあ改ペガサス級のうち2隻は戦闘参加させられない上に保護対象だが……。搭載してるMSの機数は次の通り。トロイ・ホースに第1中隊が3個小隊9機、グレイファントムに第2中隊が3個小隊9機。第42独立戦隊の各艦に「オニマル・クニツナ」隊が、4個小隊とアイザック2機の14機。つまりMSの合計は32機だ。

 MS数では若干敵が勝り、艦の数や質ではこちらが勝る。そして俺の人工ニュータイプ感覚によると、感じるプレッシャーは……。

 

「……平均して、強くも無く、弱くも無い。だが振れ幅が大きいな?まずい……か?」

「どうした?ゼロ少佐。」

「ああ艦長……奴らの放つプレッシャーから受けた「感じ」なんだが。平均してそれこそ平均的な部隊だ。けれど頂点と下とで、差がありすぎる。まあそれこそが、ジオン残党の「残党」たるところなんだろうが……。」

「ふむ……。」

 

 ブライト艦長の表情が厳しくなる。俺の危惧したところを、きちんと受け取ってもらえた様だ。

 

「ゼロ少佐が危惧してるのは、敵兵のうちでも下っ端レベルの暴発だな?」

「ああ。最も多い、普通のベテランクラスは特に心配ないだろう。暴発してこちらを襲ってくる程、「若く」は無い。命令されれば襲ってくるだろうけどな。

 ちょっと危ういのが、トップレベルのエースクラス……。自分の力量に酔ってるタイプの奴は、それこそ「暴発」して好き勝手やるかもしれない。まあ頭の中もエースクラスに相応しい本物なら、デラーズ・フリートが今は一兵でも一機でも惜しい時期だと理解してるだろうけどな。逆に上の方に意見をして、数で互角のこちらを襲うのを止めようとするだろう。」

「ふむ……。」

「一番「暴発」しかねないのが、力量も無いのに理想に燃えてる奴とか、あるいは上昇志向の強い奴だな。」

「それは……わかるな。昔実際に、そういう手合いの敵とかち合って、痛い目に……遭ったからな。だが、それが無ければ……。いや、すまん。忘れてくれ。

 オペレーター!ヒルッカ伍長!トロイ・ホースに回線を開け!シーラ中佐に報告して、今後の方策を……。」

 

 ああ、0079のサイド7遭遇戦か。あのときシャアの部下だったジーンの暴走を、その上役だったデニムが制止できなかったのが、「機動戦士ガンダム」の全ての始まりだったものな。……そうなんだよなあ。ああ言う手合いが、敵艦隊に含まれていなければ良いんだが。

 ……ところで「忘れてくれ」って言われたって事は、サイド7遭遇戦の一件はまだ機密指定されてるのかな?

 

 

 

 それから3時間。俺たち第42独立戦隊とシー……ラ艦隊は、アルビオンとスタリオンを艦隊の中核に置いて、静々と航宙していた。敵には動きは無い。灯火を消し、ミノフスキー粒子に隠れて、あちらも粛々とこちらを追尾しているだけだ。こちらに存在を気付かれた事に、気付いていない模様。

 やはり敵は、戦力的に互角のこちらを襲撃するのを躊躇している。それはそうだろう。デラーズ・フリートにとって、7隻の……ことにその内5隻含まれてる正規の戦闘艦は、万が一撃沈されでもしたら泣くに泣けないはずだ。敵に取って、核を奪取するだけではなく艦隊の保全を成し得て、はじめて勝利と言える。だが戦力的に互角のこちらと戦えば、損害は免れない。

 翻って我が方だが、実も蓋もない言い方をすればアルビオン、スタリオン両艦以外が壊滅しても、この2隻が無事にルナ2基地までたどり着けば戦略的勝利だ。まあ、俺個人にとっては大敗に等しいんだがな。俺にとって今現在の大目標は、大事な人たちを護り、自分も生き残らなきゃならん。そして大事な人たちのかなり多くが、「オニマル・クニツナ」隊に集中してるし。

 こちらを襲って来ないと言う事は、敵艦隊の司令部がその事を理解してるって事だろう。もしかしたらデラーズの奴に、無理はするなと言い含められてるのかも。いや、言い含める程度じゃなしに厳命されているかもな。

 

「とりあえず、敵のプレッシャーを感じるぐらいで抑えておかないとな。万が一相手にニュータイプ能力者がいたりすれば……。はっきりと思念を感じようとすると、確実にとは言えないが、こちらが敵に気付いていると言う事実を知られてしまう。」

「了解です、少佐。」

 

 レイラが頷く。彼女は俺の副官なので、いつも俺に付き従っているのだ。その彼女が口を開く。

 

「けれど……。敵が動くとすれば、そろそろかと。」

「そうだな……。これ以上襲撃を先送りするわけにはいかんだろう、あちらさんも。そうなれば、最大戦速出せばルナ2へ逃げ込めてしまうものな。

 となると、だ。ここで襲撃が無ければ敵は作戦を放棄して、逃げかえってくれるって事……。」

「少佐!アイザック隊から報告!敵艦隊は回頭して離脱しつつあります!」

「あきらめてくれたか……。オペレーター、シーラ中佐に報告してくれ……。」

 

 マリー曹長の報告に、ブライト艦長がほっとした様に言った、その時だった。俺の脳裏に閃光が走り、頭の中で蛇が蠢く様な頭痛が感じられる。レイラを見ると、彼女も焦った様な表情をこちらに向けて来た。たぶんマリオン軍曹も、気付いているだろう。ブリジットとウェンディの両伍長は、まだニュータイプ能力が低いので難しいか?

 俺はブライト艦長に叫ぶ。

 

「艦長!お……。」

「了解だ、ゼロ少佐!総員第1種戦闘配置!ゼロ少佐たちは急ぎMSデッキへ!敵に動きが確認でき次第、「オニマル・クニツナ」隊側の判断で出撃してくれ!」

「「了解!」」

 

 ブライト・ノア少佐……。さすが一年戦争をくぐり抜けた、歴戦の艦長だけある。ニュータイプ能力なんてかけらも無いのに、俺の言いたかったことを即座に理解して、最適な命令を下した。俺とレイラはヘルメットのバイザーを下ろしつつ了解を叫ぶと、急ぎMSデッキへと向かった。

 

「くそ、やはり末端のMSパイロットが暴走、暴発しやがったみたいだな。」

「みたいですね。なんというか、未熟さ?みたいな……。それを感じた気が。」

「間違いじゃないぞ。感じ取れた感覚は、まだ若造だ。だが若造だからと言って、手加減なんてしてやれないけどな。」

 

 ああ、いや。俺も若造だけどな。なにはともあれ、俺たちは自機のコクピットへとたどり着く。

 

「第5小隊!アイザック隊!リディア少尉、ホーリー少尉!報告を……。」

『こちらホーリーです!通常型のムサイ艦に動きが!宙域を離脱しようとしていたんですが……それは間違いないんですが!艦尾の発進口から不意打ち気味に、ザク改を射出しました!』

『こちらリディア少尉!ザク改射出後、各敵艦から次々にMSが発艦!ですが……フォーメーションもばらばら、統制が取れていない様に思えます。』

「了解だ。「オニマル・クニツナ」隊全機、発進せよ。第2、第4小隊は本艦隊に迫るMSを叩き墜とせ!第1、第3小隊は……。」

 

 戦闘になってしまったなら、仕方がない。敵に……デラーズ・フリートにとって、一番嫌な事をやってやる。

 

「俺たち第1小隊と第3小隊は、敵艦を沈める!第1目標は艦隊旗艦と思しきティベ!第2目標チベ!それを撃沈し終わったら、ムサイ艦から順に叩き潰すんだ!仮装巡洋艦は後回しでいい!正規の戦闘艦は1隻も逃がさないつもりでかかれ!」

 

 正規の戦闘艦から順に、全艦艇を破壊してやる。デラーズの奴には、大きな痛手だろう。それに、相手からすれば自分たちが襲う側だと言う意識がある。母艦が窮地に陥れば、泡を食うだろう。こちらの艦隊を襲うべきか、母艦を護るべきか迷うだろうしな。ま、それだけじゃなし、ティベ級チベ級の砲戦火力は放っておくとヤバいってのもあるが。

 

『ゼロ少佐、進路クリア!いつでもどうぞ!』

「ゼロ少佐、アレックス3、出るぞ!」

 

 俺のアレックス3は、宇宙空間へと飛翔した。

 

 

 

 アレックス3のビームライフルによる狙撃をエンジン区画に受け、ティベ級が爆沈する。多数の人間の、断末魔の叫びが精神に響き、同時に頭の中で蛇がうねった。俺は苦痛を振り払い、メインカメラ……アレックス3の頭をチベ級の方へ向ける。コクピットの全天モニターに、火球となって沈みゆくチベ級が映った。

 

『ひゃっほーい!ザザザッこちら3-0、フィリップ中尉ザザッ!イェルド伍長、よくやった!』

『え、あ!?ぼ、僕の戦果……?ザザッ……。』

『そーだ、よくやった!ザッ間違いなく、お前のスコアだザザザッ!』

「こちらでも確認した。よくやったな、イェルド伍長。レイラ!ムサイ艦は!?」

『ザッ今やるところ!。ィユハン曹長、合わせて!3、2、1……。』

『ザザッ了解っ!!』

 

 レイラとィユハン曹長のハイザック・カスタムが、ビームランチャーから閃光を放つ。その閃光はムサイ後期型の左右エンジンナセルに吸い込まれる様に消え、そして次の瞬間ムサイ後期型はエンジン部の大爆発に巻き込まれて消滅していった。

 そしてムサイ最終型と、通常型ムサイ艦、それに仮装巡洋艦のうち1隻が瞬時に、ほぼ同時に火球に変ずる。やったのはハイザック・カスタムに率いられた、ジムⅡやハイザックの混成部隊だ。

 

「お見事です、シーラ中佐。」

『ザッありがとよ。仮装巡洋艦は1隻逃しちまったけザザッねえ。ま、そろそろ出撃した敵MSがザザザッて来てる。そっちの相手をしないといけないよ。』

「了解です。艦隊の直掩に残した隊とで挟み撃ちにしてやりましょう。」

 

 数が半分以下になった敵MS隊が、逃げて行く仮装巡洋艦を必死で追っていく。無理もない。あれに逃走されては、MSの航続距離では『茨の園』まで戻れるわけが無い。奇跡的に戻れたとしても、酸素欠乏症まったなしだ。

 だが妙だな?さほど統制を喪失していない。力量のある指揮官でもいるのか?

 

『ザザッ少佐ぁ!』

「ヤザン少尉か!クリス中尉は!?」

『ちょい手ごわい相手がいザザッな、機体を損傷したんで小隊の指揮権を委譲ザザッて母艦に……グレーデンⅡに帰った。けど中尉は流石ザザッ相打ちで敵機撃墜したぜ。』

「そうか。無事なんだな?」

『おう。俺はそんとき別の強敵と闘りあってザザッな。こっちは無傷だが、相手も無傷だ。それを追ってザザザッ。』

 

 嘘だろ!?ヤザンとやりあって無傷!?しかもデラーズ・フリートの旧式機で!?

 

『あのゲルググキャノンだザザッ。』

『ザッ……。……。』

「ユウも来たか。」

 

 ユウは、もう1機の強敵が乗った、リック・ドムⅡを追って来たとの事だ。だけどなあ……。なんか奴らの気配、覚えがあるんだよなあ。

 ありゃ?ゲルググキャノン、紅いぞ?リック・ドムⅡの方は基本色が白だし。……まさか紅い稲妻と白狼か?だけど……奴らから感じるプレッシャーが、以前とは違う。以前は俺ならばサクッと墜とせたけど、今は難しいかもしれん。

 ならば……。俺はシーラ中佐機の肩にアレックス3の手を乗せた。いわゆる「お肌の触れ合い会話」だ。

 

「シーラ中佐。ちょっと手を貸していただけますか。あの紅いのを叩きます。」

『あれは……。赤い?赤い彗星?』

「いえ、シャアは一年戦争末期にレビル将軍が直々に捕らえてます。直属の部下と一緒くたにね。あれはジョニー・ライデンですよ。たぶん。」

『ほぉう?紅い稲妻かい……。了解したよ。』

 

 そして同じくヤザン機の足首、ユウのアレックス2の肩口に触れ、接触回線を開く。

 

「ヤザン少尉、ユウを手伝って白狼を墜とすか捕まえてくれ。できるな?」

『白狼?ほほう、一年戦争中には出会う事が無かったからな。やってやるさ。こいつは楽しめそうだぜ。』

「あんま羽目を外すなよ?くくく。」

『……。』

「ああ、頼んだ。」

 

 俺たちは2組の即興のコンビを組み、機体を飛翔させる。狙いは紅い稲妻と白狼だ。更に俺はレイラとマリオン軍曹に思念を送る。

 

(レイラ、ィユハン曹長といっしょに俺とシーラ中佐機の後に付いて、サポートをしてくれ。マリオン軍曹は第2、第4の他のメンバーを率いて、ユウとヤザン少尉の方だ。紅いのと白いのは、強敵だからな。注意力散漫になるかもしれん。他のMSからのちょっかいを防いでくれ。)

((了解!))

 

 そして俺のアレックス3が、真っ赤なゲルググキャノンに追い縋る。相手機はAMBAC機動で姿勢を変え、ビームキャノン、ビームライフル、ミサイルを撃ち放って来た。各々微妙に、絶妙に射線を変えて撃って来ている。

 俺は敵機の射撃直前に攻撃意図を読み取り、アレックス3をビームキャノンとビームライフルの射線の間に強引に割り込ませた。そしての間隙を縫う様にして飛来するミサイルは、ビームサーベルを抜いて切り払った。

 

『うそーん……ザザッ。』

 

 だから敵への交信は、降伏勧告とかじゃないと軍法違反だっつーに。いや相手はジオン残党軍で、軍法もクソも無いか。……一瞬敵が呆けた隙をついて、シーラ中佐機のビームランチャーが放たれる。いや、普通よけられるタイミングじゃなかった。だが忘我の状態に陥っていた紅いヤツは、たぶん無意識で間一髪そのビームを躱していた。

 

『ザッ……チィッ!お替りだ!これでもくらいな!』

 

 シーラ中佐の機の2射目は、だが躱された。しかし通信モニターの中の中佐は、俺にニィッと笑っていた。ハイハイ、わかってますよ。俺のアレックス3は、紅いゲルググキャノンの「上」を取っていた。

 いや宇宙に「上」も「下」も無いけどさ。気分的な問題だよね。AMBAC機動で強引にこちらを向いた紅い稲妻だったが、既にそこにはアレックス3はいない。俺の機体は相手機の背後に回り込み、ビームサーベルを振るっている。だが敵もさるもの、ビームキャノンを斬り落とされる直前に左手でビームナギナタを抜いた。双方のビーム刃が干渉し合い、共に吹き散らされる。

 ……ビームサーベルの出力が足りない。もし、は無いがビームサーベルの出力が強ければ、今この瞬間に決着はついていたはずなのだ。

 

「く……!!」

 

 俺は両腕の90mmガトリングと、頭部のバルカンを乱射。そのまま敵機の背後を取り続ける。敵は背後に回した左腕のビームナギナタをプロペラの様に回転させ、それを盾にして実体弾の乱射を打ち払った。無論、それで全ての弾丸を叩き落とせるわけがない。しかし背中のランドセルなど致命的区画を狙った弾は、はじき落とされてしまった。

 

「こいつ、ほんとにジョニー・ライデンか?技量が高すぎる。」

『ははは、いつまでザザザッ前のままの俺だと思うなよ!?お前には、ア・バオア・クーとジオン本国で借りがあったな!!ザザッ……。』

「ニュータイプ能力者でもないのに……。まるでこっちの喋った事、理解してるみたいだな。偶然なんだろうけどよ。」

『って、ありゃ?ひ、左手がザザッ……。』

 

 うん、ビームナギナタを盾にする発想は凄いと思うが……。回転の中心になってる左手の拳、それに握られてるビームナギナタ本体は、ビーム刃部分と違って、90mmガトリングはおろか頭部バルカンでも直撃くらえば吹き飛ぶだろ。ついでにランドセルとかにはあたらなかったけど、尻のスカート部分、脚部、右肩部など致命的じゃない区画には大量に命中弾が。

 それとな?俺ばかりに気を取られているのはマズいんじゃないかな。

 

『もらったあああぁぁぁ!!ザザッ……。』

 

 レビル将軍直属連隊第2大隊大隊長機のマークを描いたハイザックカスタム、シーラ中佐の機体がビームランチャーを撃ちながら突入してくる。後ろにばかり気を取られ過ぎたな。

 シーラ中佐機が、ビームサーベルで真正面からゲルググキャノンのビームキャノン、頭部、左右肩部を斬り飛ばした。俺は俺で、ビームサーベルで敵機の両脚を斬り飛ばす。紅いゲルググキャノンは、ダルマ状態になった。

 俺はダルマにアレックス3の右手を乗せて、「お肌の触れ合い会話」で降伏勧告を試みる。

 

「紅い稲妻、ジョニー・ライデンだな?降伏しろ。正当な裁判を約束する。」

『正当な裁判って言ったって、結局ゲリラ扱いなんだろ?まあ、ここまでやられりゃ仕方ないがね。本音では、タイマンで勝負決めたかったが……。

 まあ、わかった。降伏するぜ。だけどよ?司法取引で減刑ってアリかい?』

「む?アリだと思うが……。何か重要情報でも持ってるのか?」

『そりゃあなあ。俺が今回の襲撃作戦のMS隊指揮官、シン・マツナガが次席指揮官だからな。およ?シンちゃんもやられたか……。』

 

 見ると、ガルバルディβが両腕両脚が失われた白いリック・ドムⅡを牽引して、こちらへやって来る。その左右に、ユウのアレックス2とマリオン軍曹のハイザック・カスタムが。更にその後方に、第2、第4の面々の機体が見える。

 

『少佐ぁ!楽しかったぜ!ザッ……。』

『ザザッ……。……!……???』

 

 ヤザン少尉が満足げに叫ぶ。ユウはちょっと白狼の戦い方に疑問がある様だ。ジョニー・ライデンが苦笑混じりに通信を飛ばした。

 

『やっほー、シンちゃん。負けちまった。』

『ザザッ……その呼び方はよせと言ったろう。ザッそちらが指揮官か?』

「いや、俺じゃない。こちらのハイザック・カスタムの中佐が指揮官だ。」

『あたしが総指揮官のシーラ・ガラハー中佐ザザザッ。何の用だい?』

『そうザッ。自分はデラーズ・フリート第3MS隊次席指揮官、シン・マツナガ大尉。通信の中継をお願ザッザザッできますかな?部下たちに降伏の命令を出したい。ザザザッ……。』

『……いいだろ。ちょっと待ってな。接触ザッザザッを開くからさ。』

 

 シーラ中佐のハイザック・カスタムが、右手を白いリック・ドムⅡの頭に乗せる。接触回線を開くんだろう。そして機体を静止させ、トロイ・ホースへとレーザー通信回線を開いた模様。トロイ・ホースを起点として、全宙域にシン・マツナガ大尉の声が響き渡った。

 

『デラーズ・フリート第3MS隊各機!わたしザッ、シン・マツナガ大尉だ!我々は敗北した!第3MS隊隊長のジョニー・ライデン少佐ザザッ、わたし同様捕虜になっている!これがわたしの最後の命令ザッ思え!貴官らは速やかに降伏、命をドブに捨てる様な真似は慎め!

 安心しろ。貴官ザザッ命と自由とを買い取る算段はつけてある。少なくとも命ザッ助けられるはずだ。けっして馬鹿な真似はするなザザザッ。』

「……なんか、マツナガ大尉の方が隊長っぽくないか?」

『人望はシンちゃんの方が上でさ。俺はシンちゃんの上にちょこんと座ってただけだからなあ。階級が上ってだけで。』

 

 周囲では、次々に敵MSが降伏信号を発する。あとちょっと遅ければ、あっちのザク改と向こうのケンプファー、あそこのガルバルディαなんか、危ないところだったろうな。それはともかく、俺はシーラ中佐に許可を取った上で、自分の隊に負傷者他の救出を命じる。シーラ中佐も自分の部下たちに救出作業を命じた。

 あとで聞いたところによると、シーラ中佐の部下にKIAは出なかったものの、やはり被撃墜で脱出を已む無くされた者は数名出たらしい。それでも全員命は無事だったんだから、たいした技量、たいした生命力である。元シーマ海兵隊員、おそるべし。

 

 

 

 そして宇宙世紀0082の1月6日、07:00時に俺たちはルナ2へ帰還した。各艦の甲板には、鹵獲した敵MSが山の様に露天係留してある。文字通り、山の様だ。まず最初に、一刻も早く始末をつけておきたい核弾頭を満載したアルビオン、スタリオンの2隻が真っ先に、次に俺たち第42独立戦隊と「オニマル・クニツナ」隊が、最後に今回の総責任者であるシーラ中佐麾下の艦隊が入港した。

 宇宙港へ最後に入港してくるシーラ中佐たちのトロイ・ホースを、レイラと共に自艦のブリッジから眺めながら、俺は呟く。

 

「なんとかなった、な。しかし、白狼……シン・マツナガ大尉、狼と言うよりも狐じゃないのか?まあ、司法取引で部下たちの命を買うために、差し出したモノがモノだからなあ……。」

「万が一のときのために準備してたって言ったわね。」

「ああ。」

 

 ジョニー・ライデン少佐が司法取引のため差し出した物……。デラーズ・フリートの内情に関する情報とかが、思いっきり霞んでしまうんだが。まあライデン少佐も、必死に部下の助命をこちらに願っていたけどな。

 マツナガ大尉はライデン少佐と共に成り行きで已む無くデラーズ・フリートに合流したものの、その主義主張……デラーズの禿頭が宣うソレにはどうにも同意できなかったとの事。それ故に、可能ならば他のジオン残党陣営に移るか、それが叶わなければ連邦に白旗を振るつもりで、様々な情報やその証拠を集めて、自機のコクピットに隠し持っていたのだ。

 

「白狼、おそるべし。」

「そうね……。」

 

 俺たちは、揃って溜息を吐いた。




やれやれ、ようやっと最新話投稿できました。少しずつリハビリ的に投稿していきたいと思います。
さて今回ですが、紅白の彼らが出て来ましたね。さて白狼シン・マツナガが提出した物は、紅い稲妻ジョニー・ライデンや、部下達の命や自由を買うに足りるのでしょうか。いったいその中身は何なのでしょう。その辺は、次話をお待ちください。


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強制査察

 今、俺とレイラの目の前には細身の男性士官が突っ立っている。相手が敬礼してきたので、こちらも答礼を返したが、正直こいつと仕事をするのは気が進まない。命令だし、仕方ないけどさ。

 

「ちょっとばかり久しぶりですね、ゼロ少佐。ああ、贈られてきたドリンク剤の詰め合わせは、部員たちにも大変好評でしたよ。みんな目が死んでましたからね。ははは。」

「そうですか、それはよかった。次はいつになるか分かりませんが、また何か贈らせていただきますよ。諜報部には何時も世話になってますからね、アボット少佐。レイラ、次は果物の缶詰でも手配してくれるか?」

「了解です。早速手配します。」

 

 そう、目の前にいるのは諜報部のアーロン・アボット少佐。諜報員でこそないが、諜報部の中でも力量は非常に高い男だ。ただなあ……。

 コイツ、ヤバい奴なんだよな。作戦目標の達成、戦略的勝利のためならば、自分の命をも平然と投げだす覚悟を持ってやがる。いや、投げ出すのが自分だけならいいよ?周囲の協力部隊とか、そういった物までいっしょに擲つ覚悟まで、勝手にしてやがるんだコレが。

 実際コイツが作戦立案したのかは今一つ不明だが、俺たち「オニマル・クニツナ」隊はコイツ含め諜報部のせいで、『キシリア・ザビ護送任務』で酷い目に遭った。内通者とか裏の敵の動きとか調べるために、わざとこっちの飛行ルート漏らして敵の反応で誰が内通者だとか調べたんだ、コイツは。

 俺たちの力量が高かったから無事ジャブローに到着できた上、敵の事を色々調べる事ができたけど……。コイツ、いざとなったらキシリアを自分の独断で消す覚悟までしてたんだよなあ。

 ああ、できればコイツとの共同作戦は、避けたかった。レビル将軍とツァリアーノ大佐の命令じゃなきゃ、拒否してやるんだがなあ。仕方ないか。それに諜報部が作戦に絡んで来たせいで酷い目に遭ったとは言え、それ以外の面で諜報部が無きゃ地球連邦軍レビル派は手足もがれたも同じなんだよな。「オニマル・クニツナ」隊や第42独立戦隊含めて。

 

「しかし宇宙は慣れませんなあ。ルナ2基地の中では磁石靴で立っていられますが、立っていると言うよりは……。昆布か何かにでもなった気分ですよ。

 いや、ある程度は慣れましたが、いまだに胃の調子が変ですよ。この自由落下状態がいつまでも続く無重力と言うのは。」

「ははは。それはご愁傷様ですね。仕方ないですよ、いつか慣れます。」

「だと良いのですが……。」

「ところでアボット少佐、今回の用向きは……いえ、今回の作戦はいったいどういった物なのでしょうか。」

 

 アボット少佐は頷く。レイラはメモを取る準備をし、レコーダーも起動した。

 

「ええ、貴方がたが捕らえた「紅い稲妻ジョニー・ライデン」と、「白狼シン・マツナガ」なんですがね。その彼ら……いえ、特にマツナガの方が持って来て、ソレと引き換えに部隊全員の助命、減刑を嘆願してきた、その交換物件なんですが。」

「マツナガ大尉が?」

「はい。彼が持って来た色々な情報や証拠書類……。彼らはかなり軽い刑になりそうですよ。」

「それほどの……。」

「何せ、やつらデラーズ・フリートの決起に関する情報まで入ってましたからね。」

「!!」

 

 色々既に戦っているとは言え、デラーズ・フリートは正式に決起したわけではない。やつらは深く静かに……当人たちはそのつもりだろうが、静かに隠れ潜んで、一斉に決起するその時を待ち構えているのだ。……どこが静かなんだろうな、とは思うが。

 と言うか、上は奴らに決起させない方法を考えている。奴らが決起に成功すると、再建しつつあるサイドや宇宙基地の幾つかが占拠され、場合によっては地上の拠点までも奪われる可能性があるのだ。そうなったら、ぶっちゃけた話、迷惑極まりない。

 しかしやつらが決起に成功するためには、やつらだけでは駄目だ。

 

「つまりは……。やつらの決起に呼応して立ち上がるやつらなり、やつらがこっそり忍び込ませた戦力なりの情報が、証拠付きで?」

「その通りです。今、わたしたち諜報部や憲兵隊は大忙しです。民間警察や検察にまで協力を依頼して、そう言った者達をテロリストあるいはその予備軍として検挙する準備をしていますよ。

 あなた方には、その一端として協力を願いたいのです。わたしたちは、諜報部、憲兵隊、民間警察の機動隊などでは対抗できない戦力にあたる事になるので。そのため、それに対抗する戦力として期待させていただきたいのですよ。」

「はっきり言ってください。MSを含んだ勢力、たとえば鼻薬を効かされて篭絡され、敵部隊の一部を呼び込んだ宇宙基地とかを攻略するのでしょう?」

「まあ、まだ攻略になるとは限りませんけどね。まずは査察です。強制査察なんですけどね。ですが、そこにMS他の機材が搬入された形跡もありますし、もしかしたらその基地に正式に配備されているMS部隊までもが敵に回る可能性あり、ですからね。

 あと宇宙基地ではなく、サイド5のコロニー内基地ですね。連邦軍の。」

 

 アボット少佐は、微笑みながら言った。

 

「そしてマツナガ大尉がもたらした書類には、かつてサイド6に存在したフラナガン機関の人員が、そこに堂々と出入りする様子を撮影した写真もありましたよ?」

「む……。」

「フラナガン機関!?あ、し、失礼を……。」

「……まあ、気にしなくていい、レイラ。了解です。出立はいつ何時になりますか?」

「明日1月12日、マルハチマルマル(08:00)時です。」

「わかりました。」

 

 ……フラナガン機関の人間がそこに。つまりはニュータイプ研究が行われている可能性が……。

 

「……いるのか?マコーマック博士が。」

「可能性はありますね。」

 

 俺のひとり言に、アボット少佐は律儀に返して来た。

 

 

 

 そして1月18日、マルサンマルマル(03:00)時。俺たち「オニマル・クニツナ」隊を載せた第42独立戦隊は、サイド5ルウムの1バンチコロニーであるミランダを臨む宙域に浮かんでいた。

 

「じゃ、ブライト艦長。行って来る。」

『気を付けてな。』

 

 俺は既にアレックス3に乗り込んで、カタパルトの上に機体を載せていた。

 

『ゼロ少佐、進路クリア、発艦願います。』

「ゼロ・ムラサメ、アレックス3、出るぞ!」

 

 凄まじいGがかかり、アレックス3は漆黒の宇宙空間へ射出される。俺が発艦した右舷MSデッキとは反対側の左舷MSデッキからは、ユウのアレックス2以下第2小隊の面々が次々に発艦してきた。無論右舷デッキからも、第1小隊の面々が出撃してくる。そして最後に、アイザック2機の第5小隊が、左右のデッキから1機ずつ射出された。

 僚艦のキプロスⅡ、グレーデンⅡからも第3、第4小隊機が上がって来る。そして最後の1隻であるネルソンから、今回のみ載せられている強襲揚陸艇が2つ、発進してきた。あの揚陸艇に、諜報部の諜報員数名、宇宙軍の陸戦隊員、憲兵隊が乗っているのだ。アボット少佐も捜査令状を持って、2隻のうちどちらかに乗っているハズ。

 片方の強襲揚陸艇が、ミランダコロニーの外壁に近づいて行く。そして強力な電磁石で回転するコロニー外壁に強引に貼り付いた。あの近くに、コロニー内部への侵入口……厳密に言うならば万一のときのため、コロニーからの脱出口が作られているのだ。そしてそこを逆行していった先には……目的の基地がある。

 

「第3小隊、フィリップ中尉。頼んだ。」

『ザザッ了解ッ……。』

 

 ミノフスキー粒子のノイズが混じる。これは今回、我々が散布したものだ。フィリップ中尉は、コロニー外壁に貼り付いた強襲揚陸艇の付近で、コロニー外壁にセメント……コロニー補修材がそう言われているだけで、セメントそのものでは無いのだが、それで取っ手を張り付けるとそれに各機体を固定した。コロニー内壁でほぼ1Gの遠心重力がかかっているのだから、コロニー外壁に貼り付いた彼らは1G強の重力を感じているはずだ。

 フィリップ中尉と第3小隊は、万が一ここから相手が脱出してきた際に、取り押さえるのが目的だ。第1から第4のどの小隊でも一応は可能な任務だが、こういった事に最も適しているのはフィリップ中尉たち第3だ。と言うより、他の小隊が向いてなさすぎると言うか……。特に第4小隊。なあ、ヤザン少尉?

 

『ザッゼロ少佐?お願いしますよ?ザザザッ……。』

「任せてくださいアボット少佐、では行きましょう。」

 

 俺たちはコロニーの宇宙港から侵入する。何と言うか、「機動戦士ガンダム」第1話でサイド7に侵入したファルメル隊MSの様だ。しかも隊のMSは大半がザク系のハイザック・カスタム。やれやれ。

 そして俺たちは、宇宙港の大型重機やMSのためのエアロックを通過、コロニー内部へと侵入する。足元に、諜報部員とか陸戦隊員とか憲兵隊とかが乗った軍用エレカの群れが見える。その中の、先頭の車輌にいるアボット少佐がこちらに手を振った。こちらもアレックス3の右手を振って応える。ここから先は、無線封鎖だ。アボット少佐たちは目的の施設に向かうべく、軍用エレカを発進させた。

 一方俺は、第5小隊の2機のアイザックと、第1小隊の残り2機のハイザック・カスタムに通信用のケーブルを投げた。相手はそれを受け取って、機体の適当な場所に貼り付ける。これで接触回線による「お肌の触れ合い会話」が可能になるのだ。

 

「リディア少尉、ホーリー少尉。アイザックでしっかり目的の基地を監視しててくれ。」

『了解です。』

『こちらも了解ですっ!』

「頼んだぞ。いざと言う時は、すぐに飛び込む。ィユハン曹長!」

『うぃっす、たいちょ。』

「万が一のときには、構わず撃て。目的の基地まではちょっと遠いが、お前の狙撃の腕ならば……。コロニーの壁に穴開けなきゃ、文句は言わん。」

『了解です。』

 

 そして全天モニターの一部にウィンドウが2つ開く。そこにはアイザックから転送されてきた、目的の連邦軍基地の望遠映像と、そこへ向かっているアボット少佐たちの軍用エレカ群の映像がそれぞれ映し出され