もう一度会いたいです by新田美波 (練習大)
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1話


文章の練習小説。プロットはありません。けっこう変な描写や言葉が使われるが、お気になさらず。


 

居酒屋の一角では、楽しげな宴会が開かれていた。

男女が四人ずつで向かい合って座っている。片手には氷がいっぱいに入った水を持っていた。

 

場は酒のおかげで大分暖まっている。何が面白いのか理解できないような話でも笑いがとれた。

その中で唯一の未成年である新田美波は、場の空気に乗れずに肩身の狭い思いをしていた。

 

ーーやっぱり断っておけばよかった……。

 

心の中でため息をついた。

この会は、いわゆる合コンである。他の女子メンバーはラクロスサークルの先輩。相手は同じ大学のサークル仲間らしい。

 

美波は、元々この集まりに参加する気はなかった。彼女はお酒が飲める歳ではないし、このようなノリが苦手だ。正直、メリットがない。

しかし、人数が足りないからと先輩に強引に連れてこられてしまった。

今は強く断れなかった自分を忌ましめるしかなかった。

 

「美波ちゃん。どう、楽しんでる?」

 

隣の席の先輩に話しかけられた。きつい香水の匂いから、顔をしかめるのを我慢するのが大変だった。

 

「は、はい。とても楽しいです」

「はは、言わせてんじゃん。パワハラの現場発見だわ。怖い先輩にいじめられて美波ちゃんかわいそう」

「違うわよ! 美波ちゃんわね、ちょっと人見知りなだけなの! 普段はすごい仲良しなんだから! ね?」

「はい、仲良しです」

「わーい、美波ちゃん私も大好きだよ!」

 

場から笑い声が上がった。美波には何がおもしろいのか理解できなかった。

 

そもそも抱きついてきた先輩と、まともに言葉を交わした記憶がなかった。酔いが大分回っているらしい。

酔っぱらいのあしらいかたを知らない美波は、ただ周りに合わせることしかできない。

それでも判断力が鈍った彼らなら、素直にしていれば悪いことにならないのでそこまで大変ではなかった。

 

しかし、いいことばかりではなかった。発端は斜め向かいの男だった。自己紹介のときにタクヤと名乗っていたのを思い出した。

 

「そういや美波ちゃん、それ水でしょ?」

「いえ烏龍茶ですけど……」

 

そういう意図で言ったわけではないことは分かったが、とっさだったため当たり前の返答になってしまった。

その姿が、タクヤには可愛く見えたのか目を細めていた。

 

「違う違う。そういう意味じゃなくてアルコール入ってないってこと。お酒飲めばもっと楽しくなるよ」

「え……。で、でも私未成年ですし」

「バレなきゃ大丈夫だよ。それに今は、中学生くらいからタバコも酒もやってるって」

 

そんなの極一部である。経験はあろうと、多くは若気の至りの1回程度だ。少なくとも美波の周りには、そんなことをしている友達はいなかった。

軽い口調でそんなことが口にできる神経が、美波には理解できなかった。

 

当たり前だ、本来住む世界が違うと言っていいくらい価値観が違う集まりである。理解できるのは同じ世界の住人くらいである。

地球人の美波に理解できるはずがない。

 

「そーそー。それに早めに慣らしといた方が、お酒強くなるし、会社の飲み会で役に立つよ」

「それあるよね!」

「後輩に将来のこと語るとか、先輩ぽーい」

「あ……えぇ……」

 

美波を取り残して、周りのメンバーは賛成ムードだ。味方が誰もいない、そんな孤独感を美波は感じていた。

拒否しようにも、性格的に先輩に強いことが言いにくい美波には難しい。

 

「すいませーん! 注文お願いします!」

「はい、ただいま!」

 

美波の言葉は取り合ってもらえず、ついに店員を呼ばれてしまった。

 

「すいません、この子にレモンサワー1つお願いします」

 

先輩は美波を指さして言った。

ああ、ついに注文されてしまった。美波の心の中には暗雲がうごめいていた。

 

「はい、レモンサワーですね……」

 

店員は、さらさらとペンを走らせる。

美波は何となくその姿を見ていた。注文されないでくれという気持ちが表れたのかもしれない。

ふと店員が顔を上げた。美波は一瞬、目が合った気がした。

店員はペンを止めた。

 

「申し訳ございませんお客様。身分証明書をご提示してもらえますか?」

「え、あ、いや」

 

学生証は持っているが、歳は19と書いてある。出せば店側から注文を断られるのは、美波も知っていた。

美波が戸惑っている間に、タクヤが口を挟んだ。

 

「ごめんなさい。この子、今日お財布忘れちゃったみたいで! でも、俺が保証しますよ。ここにいるみんな20歳越えてます!」

「すいません。御本人様の確認がとれなければ、お酒類は出せないと店で決まっていまして」

「えー、融通聞かない!」

「それって、私たちのこと疑ってるってことじゃん! 感じ悪う」

 

文句が飛び交うが、店員は気にした様子はなかった。

 

「決まりですので。身分証の提示がないのでしたら、この注文は取り消させてもらいますね」

「あ、待った! なら、その注文俺がもらうわ。ちょうど酒のおかわりほしかったし」

「構いませんが、そちらのお客様が酒類を飲んでいるのを確認した場合、公的機関に連絡することもあります。それでもよろしいですか?」

「んなぁ!? 何だよそれ!」

「もしも未成年の飲酒が確認されれば店の名誉に関わりますから。厳格に対処するのは当たり前です」

 

店員の声は、心底呆れていて冷えきっていた。すでに彼らが未成年飲酒をさせようとしているのを確信しているようだった。

 

結局、酒の注文はすることができなかった。

先輩たちは理論武装にぐうの音も出なかったのがプライドに触ったのか、テーブルでは店員への悪口が酒のつまみになっていた。

意図せずに店員に助けられた形になった美波は、恩義があるので先程よりも居心地の悪さを感じていた。

 

「すいません、お手洗いに行ってきます」

 

大して催してもいなかったが、美波はお手洗いに立った。

 

 

お手洗いから出てくると予想外の人物が立っていた。

 

「よう」

「えぇ!? さっきの店員さん!?」

 

先程美波を助けてくれた店員が壁に背中を預けていた。

このトイレは店の奥にあり、男子と女子の部屋が壁一枚で仕切られているような造りのため、そこに立っている状況はなくはない。

しかし、店の制服姿のためかシュールな絵面だった。

美波の動揺をよそに、店員は話始めた。

 

「悪いが仕事中なんでな。時間がないから手短に用件だけ話させてもらう」

 

店員の細い切れ目が少し近づいた。その真剣な表情に美波は息を飲んだ。

 

 

「トイレから帰ったら絶対に飲み物を飲むな。何らかの薬が入れられているはずだ」

「く、薬ですか?」

「ああ。おそらくセックスドラッグだろうな」

「せ、せせせせせせ……!?」

「あん? 何だ、大人びて見えるが、意外に初なんだな」

顔をタコのように真っ赤に茹で上げた美波に、店員はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「い、いきなり何を言い出すんですか! セクハラですよ!」

「セクハラより酷いことされる前に忠告してるんだろうが。このままだとお前、一生消えない傷を負うことになるぞ。酒の席で薬飲まされた女性が性的暴行される事件が横行してるのは、お前も知ってるだろ?」

「それは……そうですけど」

 

実際、美波も警戒はしていた。

そんな事件がたくさんあることも知っていたし、彼らならやりかねないと心の中で疑っていたからだ。しかも、強引に酒を飲ませようとしたことで、その疑いはさらに強くなった。

しかし、先輩の連れてきた相手のため疑りきれない心があるこも事実だった。お人好しで心優しい美波の弊害だ。

 

言いたいことはすべて伝えたのか、店員は背中を正した。

 

「まあ、警戒しておけ。特に缶類の飲み物やビールを勧められたら絶対に断るんだ。薬を隠すための典型的な手口だからな」

「……先輩たちにも伝えておかないと」

「やめた方がいい。あいつらは2年の間じゃやばいで有名だ。それこそサークルの新入生を手当たり次第ってな。その噂を知らないはずがない。要するにお前の先輩たちは、やつらと行為に及ぶ前提で今日は来ている。協力者だと考えた方が無難だろ」

「っ……」

 

正直否定したかった。一応は同じサークルの先輩、仲間である。そんな人たちが、自分を売るなんて考えたくなかった。

しかし、酒を飲まされかけたことが尾を引いていた。それに先輩たちが遊んでいるのは話に聞いていたし、服の慣れた着こなしや化粧の完成度を見ればその話も補足される。

今考えれば、彼女たちはなぜ話したこともない自分を無理矢理連れてきたのかのかも合点がいく。

説得量は十分だった。

泣きそうだった。色々な感情が交錯して、心の中はぐちゃぐちゃになっていた。

店員は見かねたのか。

 

 

「まあ、あいつらとはできるだけ早く別れな。今日は悪い夢を見たんだと思っておくんだな」

 

そう優しく投げ掛けるような口調で言ってから、仕事へと戻っていった。

今すぐ逃げろと言わないのは、美波の人間関係への配慮なのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

あの後は店員の助言通りだった。

男たちはしきりに飲み物を飲むように催促したり、自分達のビールを勧めてきたりした。

先輩たちは店で別れた後、ホテル街の方に男たちと消えていった。

当たりすぎて、実は彼は予言者何じゃないかと思ってしまったほどだ。

もし、店員の言葉がなければ、今頃自分はどうなっていたか。

彼の言った通り一生消えない傷を負っていたかもしれない。

そう考えると、今でも身が震える。

 

あれから何度か先輩に誘われたが、すべて断っている。多少ぎくしゃくしたが、サークル内に味方が多かったので問題ない。

唯一の心残りは、あのとき助けてくれた店員にお礼を言えていないことだ。

1度でいいから、直接お礼を言いたい。そう強く願った。

 

 

 

……数日後。

 

美波はいつも通り講義がある教室に入って、自由席の前の窓際の席に座った。美波の席は、3人座りの椅子の右側だ。

この科目は、人気があるので席はいつも取り合いだ。そのため、美波は開講15分前には教室に来るようにしている。自分が学習しやすい席を確保するためだ。

5分前になった。後ろを流し見ると、大方席は埋まっていた。

こうなると自然と空いた真ん中の席に割り込むしか、座ることができない。

おそらく自分の席にも誰か来るのだろう。そんな予想をしていると、人の気配を感じた。

 

「すいません、そこの席いいですか?」

「はい、どうぞ……」

 

想定通りと立ち上がって、通そうとしたが、その顔には見覚えがあった。

 

「ああっ! あのときの店員さん!?」

「ん? ああ、よう」

 

運命の再会は、ロマンチックもへったくれもなく、ぬるりとしていた。

 

 



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2話

おもってたよりお気に入りあって驚いた。新田さん人気すごい。


 

計画もたてずに行動を起こすのは人間のすることではない。

 

祖父が戒めのように言っていた言葉だ。

当時、幼稚園に通う歳だった美波にはまったく意味が分からなかった。

しかし今、十数年の時を経て、ようやくその言葉の大切さが理解できた。

 

レトロな雰囲気を感じさせる喫茶店。店内には昭和の名曲が慎ましく流れている。

向かいに座っている恩人は、表情をピクリともせずに無言でコーヒーを啜っていた。飲む音が二人の間に空しく響いた。

 

ーー気まずい……。

 

心の中で嘆いた。

偶然にも講義の席が隣り合った時は、これを逃すまいと誘ってしまった。

しかし、衝動的な行動がうまくいくはずもなく。お店も、案内も相手任せにしてしまった。

そして今は、何を話していいか分からず、無言の間が続いていた。

踏んだり蹴ったりである。

 

そもそも会いたかった相手が、同じ大学で、しかも同じ講義で、席が隣り合うなんて漫画みたいな偶然を誰が予想しようか。

普通しない。しても妄想だ。

しかし現実だ。

 

会いたいと思ったけど、こんな叶えかたはないじゃない。美波は贅沢にも神に愚痴った。

 

「なぁ」

「はい、にんてんどうっ!」

「任天堂? ゲーム好きなのか?」

「あ、今のは違くて! 噛んだだけです……」

「違う、わざとだ」

「わ、わざとじゃないですよ!」

「わざとじゃない!?」

「そうですけど!?」

「知ってる」

「え……」

 

一瞬反応に困った。

だが、覚えがあるにやにやと嗜虐的な笑みを見て、すべてを察した。

 

「からかったんですか!?」

「あっはっは。だって取調室みたいなおっもい空気だったからさ。俺こういう空気苦手何だよ」

「うっ……」

 

自分の浅い考えが原因なので、耳が痛い。逃げるように紅茶を含んだ。

 

「そんで、今日はどうしたんだ? お前みたいな美人が、俺みたいな冴えないやつと一緒にいると面白おかしく言い触らされるぜ」

「また、からかってるんですか? 私別にそんなんじゃありません」

「そんなつもりじゃないんだかな」

 

信じられなかった。また、乗せられるのは悔しいのでごめんだ。

 

ところで、この人とあの人は本当に同一人物なんだろうか。

性別も同じだし、特徴的な切れ目も同じだし、声も一致する。間違いはないだろう。

しかし、印象はかなり違った。

あのときは助けてくれた正義感の強い人、今は何だかへらへらしてる人。

思い出は美化するものというが、少し残念な気持ちになった。

 

紅茶をもう一度口元に持ってきた。茶葉の香りが、心地よかった。

「まぁ、さっきよりいい顔になったな」

 

聞こえた言葉に美波は驚いて顔を上げた。

目に写ったのは男の笑った顔だった。しかし、先ほどのような不快感は感じず、慈悲に満たされた笑みだった。

そこで美波は気がついた。自分は彼に気を回されたらしいと。

恥ずかしさを通り越して、自分が情けなくなった。

1度大きく息を吐いた。

 

これ以上情けなくなることはない。

失敗してもいい、次成功すれば。

負けた数だけ強くなる。

 

美波は体育会系特有の開き直りで、心を持ち直した。

 

「あの時はありがとうございました」

「お、じゃあ無事貞操は守れたんだな。おめでとさん」

「セクハラですよ!?」

 

いい話では終わらせてくれよ。そんな気持ちが乗ったつっこみだった。

 




話によって短かったり、長かったりします。書く内容によるけど、基本落ちがついたら切ります。


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