「彼」去りしハイラルの物語 完 (路地裏B助)
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灰の哀しみ (鮫も陽光で日焼けする)

「彼」が姿を見せなくなってからどれほどの時がたったのだろう。

 

長生なゾーラの民ですら、ながく感じるほどの時がたったのは確か

 

 

最後にどんな表情をしてたのかさえもう定かではない。くっきりと残るのは、まとった青衣と鮮やかな剣閃、燐に彩られた強い青い瞳

 

 

彼は最後に何をいっていたのだろう。

 

思い出せない。

 

 

影のように王家の姫君の背後に付き従い、投げかけられる困難な「おねだり」を諾諾と

 

叶えることに奔走していたのが印象的だ。

 

 

王家の狗

 

青き衣纏う天に選ばれた勇者は、人々の願いを叶え世界を救った。

 

 

 

ハイラルは平和になり、虜囚の憂き目にあっていた姫君は開放され

 

少しずつ王家の復興は進み

 

今や立派な集落の長となっている。

 

 

「彼」だけがここにいない。

 

蒼天を見上げるたびにまとう青衣を思い出し 、

 

水面の煌めきに金色の鬣を連想しこらえるように天空を睨んだ。

 

 

ゆっくりと抜き手を切って沢を泳ぎ清流を渡る。

 

 

はじめて会ったあの場所。

 

交わしたことば軽妙なやり取りは何処かズレていて、曇天からしたたる嘆きの雫にうたれながら希望もって笑っていたことを思い出す。

 

 

あの頃の彼はすべてのしがらみから解放され、

 

愉快であればはじけるように笑い

 

貪欲にむさぼり喰らい、血肉を蓄え強さをひたむきに求めていた。

 

 

今はひりつくような陽光が真っ直ぐに肌を灼き、ジリジリと身が焦げる感触がする。

 

 

乾く表皮

 

じっとあの場所で、天を睨んで歯を食いしばった。

 

「彼」はここにはいない。

 

 

ゆかりの場所に気まぐれに姿を現すのをじつと待っている。

 

気まぐれに見えても誠実で 約定たがえたことは一度もない「彼」

 

 

 

しなやかな筋肉が弾ける。跳ねるように大きな水飛沫をあげ我武者羅に泳ぐ。

 

 

シドの体色は鮮やかな真紅だった。

 

今や日焼けして、なめらかな表皮は灰に変色していた。

 

 

あのころは嘆きの雨で陽光は遮られ生来の色濃く

 

 

「鮮やかだな」

 

と、褒められ「姉」とお揃いだと懐かしむ瞳と口調でつぶやいていた。

 

うつくしいと素直に称賛され照れた。

 

 

 

嘆き、嘆き

 

美丈夫な容貌はそのままに、体色が変化したことにより凄味がました。

 

灰に灼け抜け落ちながらも、休憩時間に巡回をする習慣がついてしまった。

 

 

嗚呼、なぜ今ここに彼がいない。

 

 

戯れに転移して来る祠の前から始まり

 

出会った川辺、

 

最後は貯水池、

 

 

めぐり巡って「彼」探し求める。

 

 

ルッタの佇む貯水池は今日も凪いで水面はきらめき

 

あずまやはいつでも旅人をもてなせるように、ハイリア人サイズの寝具がしつらえられていた。

 

 

眺めやればなんとちいさい

 

ハイリア人のなかでもとりわけ小柄だった「彼」

 

久しぶりに見るあずまやのベッドはあまりにも小さく、この寝具に埋もれていた「彼」はさらにちいさかったのを思い出す。

 

 

「シドがでかすぎるんだ」

 

 

ふいによみがえる声

 

「シドはデカくていいいなぁ」

 

 

伸び悩む身長にギリギリと歯を噛みしめ ぐぬぬと嫉妬の視線を隠さなかった「彼」

 

 

今は昔の出来事

 

 

焦げる、喉が渇く、涙が止まらない。

 

 

白く磨きぬかれた石材は光を反射し、より一層容赦のない光を投げかけてくる。

 

睨むのは空

 

女神がおわすという天空のいらか

 

 

ゾーラには致命的な乾燥と、日焼けをもたらす灼熱の聖別のひかり

 

光にじりじりと照らされ

 

皮膚が乾く

 

 

無情なまでの晴天、うつくしい青空は「彼」が

 

もたらした。

 

 

青いそら何処までも澄み渡り輝く空を睨んで、おおきな灰色の影は動かない。

 

 

遥かな地にかの剣が還ったという報告を今日耳にした。

 

破魔の剣は再び次の主の為に花散る森で、永眠(ねむ)るのだろう。

 

 

灰の影は動かない。

 

動けない

 

次代の長、日嗣の皇子は身勝手な行動を許されない。

 

 

遠くで風が鳴った。

 

黄金の瞳がフと揺れる。

 

自由な時間は終わり、分単位で縛られる高貴なる責務が待っている。

 

ジリジリ

 

じりじりと

 

 

影が移動する、長く長く伸びて地を這いながら

 

灰の影が乾きながら澄んだ夏の天空を睨み上げながら

 

よりいっそう灰を濃くして、煌めく光の中を

 

水清らかな里へと戻るのだった。



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錆の悲哀

親友の消息をもとめてハイラル各地を訪ねるシド王子


ちいさな村には時折変わった客人が訪れる。

 

林檎と段々畑がおおいそのむらハテノ村

 

文字どうり最果ての田舎村で、ひとより家畜の数がおおい

 

村人は皆顔見知りで数代さかのぼれば、親戚だ。

 

 

その田舎村を昨今、珍しい客人達が訪ねてくる。

 

噂をたよりに、わずかでもその消息を知らんとすがるように訪ねてくる。

 

 

吊り橋のむこう百年前の古民家に棲みついた剣士の消息。

 

ある時は空からリトの弓氏が、囀り人(吟遊詩人)が

 

地響きを立てながらゴロンの鍛冶師が、

 

彫り深い燃えるような赤毛のゲルド乙女たちが

 

 

 

眉根をよせ、思いつめたようすでその消息を訪ねてくる。

 

 

「彼の行方を知らないか?」と

 

 

麦穂色の髪のめっぽう強い剣士が、古民家を買い上げ棲みついたのはほんの前

 

優秀な狩人で肉に欠かないと喜び、新しい血統が村に混じると

 

風を感じて強張った血脈がほぐれると喜び合った。

 

 

忙しく出入りし

 

モノモノしく武装して大事に挑んで大怪我を負ったり

 

珍し気な衣装をまとっていたりとなにかと話題にならない日は無かった。

 

 

やっとおちついて呑気な田舎に戻ったと噂し合ったころ。

 

 

ふつりとその姿が見えなくなり、消息が途絶えた。

 

雲がふぃと日差しを隠したように、消えた。

 

 

 

 

気の長い田舎暮らし、村人たちは噂しながらのんびりと待つ

 

血気にはやった若者だから。落ち付けばまた還ってくるだろうと…………

 

 

のんびりと待っていた。

 

 

とある、

 

とある、晴れた日

 

綺羅綺羅しい陽光が瞳を射る晴れた日

 

 

雨季の訪れなく眩いひかりが眩きながら風景を白めかせた日

 

 

ぞろりぞろりと

 

致命の陽光を日陰を伝って避けながら、

 

異形のマレビトがその家を訪れた。

 

優美なヒレ持つ水麗の民ゾーラが、這うように縋るようにこの地を訪れた。

 

乾燥防ぎと日光を遮断する軟膏を全身に塗りこめて、一歩ずつ乾いた大地を進んできた。

 

 

朗々たる響きの良い声で背筋を伸ばし、村人たちに問う。

 

 

「彼の行方をしるまいか?」

 

 

誰も知るモノは無く。顔を見合わせるばかり。

 

ゾーラの美丈夫はがっくりと膝を突き、槍に縋る。

 

煌めく銀の槍はつめたく静かにその身をしっかりと支えた。

 

 

丈高いその身を折りたたんで、美々しい宝冠を頂いた美漢はこらえるように奥歯を噛みしめる。

 

 

「やはり、そうなのか……

 

    逝ってしまったのか?」

 

 

 

悲嘆の様子を憐れんだ村大工が手招きし、吊り橋を渡り閉ざされた扉を託されていた鍵で

 

開く。

 

ため池と林檎の樹のそばの小さな古民家

 

きしむ蝶番、

 

埃舞う室内が強い夏のまっすぐな日差しをあびて、しらじらと照らされる。

 

 

そこにはひとの姿は無かった。

 

 

武器棚に掛けられた目を見張るような立派な武具

 

名のある匠が手掛けたであろう凝った武具が、錆びを吹いて赤茶けて斜めにかしいでいる。

 

 

「ああ……」

 

 

武具が錆びている

 

主なき家の中、湿った涙にふれ錆びをふいてホロホロと崩れている。

 

武人であろう家主が存在していればあり得ない光景

 

 

鋭利であったろう刃が欠け、堅牢であったろう盾がこぼれ

 

錆びにまみれて静かにそこに在った。

 

 

さびれたのは何処?

錆びている、主なきその場所は涙をはらんで静かに崩れていくのだった。

 

 

 

 



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斬り落とされた後ろ髪

「彼 」が去ったハイラル
噂をたよりに行方を探し、期限を切って探索するシド王子
この精神状態、マッドで怨嗟まじりでちょいハイな精神状態に突き落としてくれた方々に感謝

某所で連載していた腐向けから腐要素を除去したもの


水麗の王子は期限を区切られ、「彼」を探す旅に出た。

 

本拠地であるハテノ村…………居ない

 

勇者の証の退魔の剣が安置された花散る森……居ない

 

 

かすかな痕跡をたどりゆく道行き

 

 

鮮やかな真紅の巨躯厳しい陽光に焼かれ変色しさまがわりした。

 

凛々しき容貌は肉が削げ落ち

 

抜き身の刃物めいた気配を漂わせはじめる。

 

水鏡に己を写すたびに苦笑した。

 

 

旅の終わりの「彼」のまなざしにそっくり

 

種族はちがえども苦難はひとを修行僧めいた容貌に磨くのかと嗤った。

 

彼の旅はもっと厳しく、魔物も野獣もあふれ

 

気候は荒れ、食料も少なく、情報もなかった。

 

 

己の旅は軌跡をたどる旅

 

魔物は減り、怨敵の災厄はもう既に倒されている。

 

 

ひとりぼっちで夜の闇におびえ、乾き飢え

 

熱に浮かされながら何を考え、何をみたのか

 

無邪気だった出会い

 

手にした強さの分だけ言葉が減った。

 

 

乾燥防ぎの軟膏をぬりこめてから。火よけの薬品をあおる。

 

本来塗布する薬品を飲用する裏技

 

煮えたぎる溶岩の中で活動する為の苦肉の策なのだと言っていた。

 

つかの間の休息、ささやかな酒宴でぽつりぽつりと語った言葉が

 

見聞が、土産話が真実今のシドの行程を支えている。

 

陸をゾーラが旅するのは、ハイリア人が溶岩の中を歩くのと同じ

 

 

灼熱の旅

 

日差しはじりじりと肌を焼き、熱せられた大気は呼吸ごとに気道をひりつかせる。

 

むせる汚れた水、荷物は肩に食い込み疲労が身体にまとわりつく

 

焦げひりつき、鈍重な足を引きずりそれでもなお前に進む。

 

 

同じ道をたどるよろこび

 

 

同じ風景を瞳に映す愉しみ

 

 

同じ場所に立てた!

張り出した岩陰に火を焚き岩陰を探る。これも話のまま

 

岩影を探れば平たい岩があり、それをずらすと手掘りの穴がある。

 

栗鼠(りす)のようにちまちまと子鬼から分捕った資材を隠してあった。

 

 

少年が宝を隠すように、ちゃちな弓、盾

 

光る石や木椀などがごちゃごちゃとため込まれた場所

 

ガラクタにまぎれて油紙に包んだ薬品、塩、装飾品

 

さらに深く探ればルピーもあるだろう。

 

 

そっと搔き分けると歪んだ土鍋があった。

 

これで煮た粥が最高に美味くて、しみたのだと語っていた鍋

 

 

引き出して眺めようとした、

 

 

バギリと割れて砕け散った、バラバラと陶片が散り撒かれる。

 

 

「………………」

 

 

拳を握り、細かい破片を払いのけてくれなずむ空を見上げる。

 

元々奪い取り粗雑に使われいたのだ。

 

彼の使っていた道具たちは全力を出し切ると、微塵に砕け散っていた。

 

 

全力で責務を果たし、割れて砕けて裂けて散る存在

 

 

此処にも彼は無く、痕跡は砕けて散ってしまった。

 

何故、涙がとまらないのだろう?

動作を真似て乱暴に涙を腕で拭った。

 

力がが入らないのは腹が減っているから――

声が出ないのは乾いているからだ――――

干し魚を噛み千切りぬるい水筒の水で流し込み腹に押し込む。

 

噛む

 

噛む

 

 

飲む

 

飲み干して笑った。無理矢理に涙にあらがう

 

真似をして奥歯を噛みしめ、息を吸い込んだ。

 

 

蘇るのは最後の約束

 

 

「またな!」

 

 

と言ったのだ、またなと 次の約定残して消えた。

 

何時といわぬ、区切らぬ時間を示して再会を

 

 

約束をたがえたことは無い

 

きっときっと今、ままならぬ事情で身動きできないのであろう。

 

忘れいたのはシドの方だった。きっと還って来てくれる。

 

 

肉の器を変えても、魂だけとなってもきっと

 

またいつか

 

いつか綺麗な満月を眺め酒を酌み交わし冗句を語らうのだ。

 

 

「今、逢いたいゾ……」

 

 

過酷な旅路に擦り切れたマントが、ざらざらと陶片を掃いた。

 

 

「何処にいるんだキミは………………」

 

 

割れた土鍋がからりと崩れて乾いた音をたて、さらに細かく崩れ落ちたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灼熱の砂漠の果てに大妖精の住まう神秘の泉があるという

 

ゲルド乙女の商人の言葉に、すがる思いで足を向けた。

 

熱砂の砂礫

 

乾く、ヒビ割れる、引き攣れる大気

 

重い身体を踏みしめ、ねばつく口の中を必死に宥めながら

 

喘ぐように、もがくように一歩一歩踏みしめる。

 

引き摺る足跡

 

ゾーラらしからぬ長靴と防砂マントのよれた姿は、道すれ違う人々をギョッとさせた。

 

裂け割れた表皮、焼け付き変色した躰色

 

滲む体液を軟膏で塗りこめ乾燥を食い止め。ゲードルで押さえジリジリとよろめきながら

 

追い求める。

 

 

君、今何処――

叶わぬ再会、せめて影なりとも

 

夢であっても会いたい

 

 

「今、君に――――逢いたいゾ」

 

 

行き先告げず、なんの兆候もなくふつりと消えた「彼」

 

ひたむきに我武者羅に戦い、する話は楽しい土産話だけ

 

明かさない苦しい体験は水臭い、何故頼ってくれないのかと不満におもっていたけれども

 

 

「今なら……君の気持 理解る気がする……」

 

 

楽しい時間に一片たりとも苦難の色を差しはさみたくなかったのだろう。

 

愉快な時間、夢の邂逅楽しいばかりにしておく。

 

砂利を噛み、入り込む味わう汚泥の中での思考は縋る美しい光景が支えになる。

 

 

世の中は、きよらかなばかりでは無いから――――

 

次の新月で約束の期限が来る。

 

里に戻り玉座に昇り民に尽くす生活になる。

 

これは、最後の我儘

 

 

引き摺る想いを擦り下ろし飲み下すための、逃避行。

 

 

砂、搔き分けて、陽光に焼かれ照らされ焦げながら、蜃気楼の彼を追いかける。

 

友であった。

 

戦友であった。

 

酒を酌み交わし、語り合い背中を預け戦った中だった。

 

めぐりあわせによっては義兄となったはずの存在。

 

ハイラルいちの剣士であり、救世の勇者

 

 

憧れであり親愛、友情であり亡き姉を語れるひとでもあった。

 

 

砂礫が舞う、

 

風になぶられ、白んだ視界が目を射る光線

 

痛みすらなく、息をしているのかもわからず喘いでもがいて踏み出して

 

 

ドウと

 

――――――――――――――――倒れた。

 

 

ゆらめく逃げ水が

 

食い込む石くれが、既に感覚なく斜めに傾いだ視界とねじれた手足が追従する。

 

 

…………乾く

 

水がほしい。

 

 

煌めく日光のライムライトが、

 

あさましいまでの澄んで高い蒼天から無邪気に振り下ろされる。

 

 

すべてが清浄なる無慈悲な太陽の光によって、清め焼き尽くされんとしたその時

 

 

灼けつく砂を揺るがし、地を揺るがし

 

大地を割って、醜悪なる魔怪が躍り出る。

 

 

魔砂獣モルドラジーク!!

バラバラと岩が踊り、斃れ伏す場所が割れ裂けても

 

水棲の王子は衰弱しきって身動きすらかなわない。

 

 

その時、

 

そのとき、一陣の閃きが空を裂いて!

轟ウオォォぉォぉん

 

 

流れ降り立った。逆巻く愚風

 

ピルエットのごとく渦巻いて刃閃かせる。

 

 

踏み込んだ衝撃が、熱砂を舞い上げ目隠しとし

 

酷熱に弱り、腫れただれた目では確認することが難しくて

 

 

息をのみ地に伏しながら、期待と不安に身を震わせた。

 

 

 

そらした喉の白さ、なめかしくくねる手指のしなりが血肉を裂いて艶やかに舞う。

 

指頭甲=のばした指に嵌めかぶせる爪を模した武器

 

きらめかしくも恐ろしい刃を振りかざす。

 

臭う血煙漂わせ、シャンサンしゃらりん鈴が鳴る。

 

か細い肢体に薄絹たなびかせた淑女衣装まとって、タタンと地を蹴った。

 

予備動作の無い静止から急旋回、虚実混ぜての攻防

 

シャラシャラと軽やかに黄金細工の足環が鳴れば、

 

急角度で踵が落ちて装甲こど踏み割り

 

蹴り抜く!!

 

 

揺らめく蜃気楼、熱せられた砂の幻?

シドですらのけぞり見上げんばかりの砂の鯨怪=モルドラジーグ

 

食事に使用する魚をおろすがごとく 慣れた手順で暴れぬよう動きを封じ

 

心臓を貫き剣閃まぶしく斬り伏せる。

 

 

くつくつと喉を鳴らして楽し気に死の舞踏を舞う。

 

 

「似合うな」

 

 

遠くかすむ姿は久しぶりにも、血化粧が似合い過ぎていた。

 

か細い肢体には不似合いの膂力で持ち上げ、ブン回し貫き刺殺した。

 

 

「キミ――は戦い……」

 

 

朦朧とした意識と狭窄する視界の中、

 

サクサクと砂を踏みしめて、小柄な人影がこちらへ歩み寄る。

 

 

間隙をおいて巨魁が地響きを立てたおれるのが見て取れる。

 

あいも変わらずすさまじき鬼神の強さ

 

 

「此処に…………」

 

 

君はやっぱり死地(ここ)に居た。

 

ギリギリの狭間、黄泉平坂の縁に腰かけて。

 

 

目があかない、声が出ない

 

折角会えたのに

 

 

「……――……」

 

 

名を

 

名を呼びたかった。触れたかった。

 

腕が動かない

 

君は死地で遊ぶのに、シドにはこの境地は辛くて動けない。

 

 

乾きと痛みと、千の傷跡、しぶく血潮

 

血膿と汚泥にまみれた此処こそが君の本拠地

 

やっと

 

やっとたどりついたにのに、触れることが出来ない

 

 

……きみの……なまえをよびたいゾ ――――

会いたかった

 

あえて、敢えておもむき逢えてうれしい……

 

 

無慈悲な光の奔流と灼土のなかで、魚は干からびながら満足げに笑った。

 

 

あてがわれた水筒の水を飲み干す力もなく

 

ほのかな笑みを浮かべ、はかなく意識を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みずのにおいがする

 

 

粘度の高い液体はやさしく干からびた身体を包み

 

薄い唇をから口移しで、流し込まれた甘い飲み物をむさぼれば

 

一口ごとに喉の奥が潤う。

 

 

君の匂いがする。

 

 

焼かれた目も、動かない手足も撫でられて少しずつ楽になる。

 

這い回る手指はまさしく知る感触で

 

うすらとつたわる活きた人体の気配が、息ずかいが其処に「彼」がいることを知らしめた。

 

 

名前を呼んで確かめて話がしたい。

 

 

躰が動かないもどかしい想い。

 

触れたくて、声を聴きたくて

 

 

君に会えたのに

 

確かめることの出来ないもどかしさ

 

 

みず の なか に 魚 は いる。

 

 

癒さる快感に広がった指先に絡む感触がある

 

=これは …………=

 

 

黄金の爪はひび割れ、割れ目に細かな髪が絡んだらしい。

 

指先で獲物を幸運にも釣り上げ掌に知った感触が伝わる

 

ころりと硬い冷たい輪、髪留めだ。

 

 

=捕まえた!=

 

 

どうにか動いた指先を握り込む。

 

 

びちびちと獲物はもがくが、ますます絡まり動きが鈍くなる

 

絡まった後ろ髪を引かれ、逡巡する気配がする。

 

 

「君の……

 

声……

 

が聴き……

 

たいゾ」

 

 

 

驚愕する気配!

とまどう呼吸、息をのんだ次の瞬間

 

 

ぶつりと

 

掴んだ後ろ髪は斬り落とされ、繋がりは絶たれた。

 

 

古式ゆかしい青い髪留めに絡んだ毛髪がほろろと崩れる。

 

あえかな水流に舞い、塵となって砕け散った。

 

 

振り下ろされる手刀に、首を打たれ魚は意識を闇に沈ませる。

 

 

 

後ろ髪は絶たれた。

 

 

間を置かずして、流浪の旅に出かけたゾーラの日嗣の皇子が

 

里の入り口で昏倒しているのが発見される。

 

 

 

王子は帰還を果たした。

 

 

新月の夜のことであった。

 

 

 

 



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斬り落とされた後ろ髪の幕裏

閑話
某所で連載していたものから腐要素を除去したもの


焚火が揺れ、かけられた鍋がぐるりとかき回される

 

煎じられた薬湯が煮詰められふつふつと揺れる。

 

 

橙のやさしい揺れる光に全身を染める淑女の装束を纏った小柄な影

 

かがみ込んで刻んだ薬草を擦り、

 

匙で粉を加えたり、清潔な布に練り上げた軟膏を広げて湿布にして張り合わせてみたりと忙しい。

 

 

ぱちぱちと焚火がはぜる。

 

ちいさな手が動いて、くるくると包帯を巻きあげ、あるいは塗布し

 

軽度の火傷である日焼けを手当していく。

 

 

穴を掘り防水布を敷いて簡易の池にした場所に巨躯を押し込み

 

時々薬水を柄杓でかけまわしては、様子をうかがう。

 

 

すっかり日に炙られ変色してしまった体表。

 

痛々しくも剥けたり剥げたりした状態の悪さに眉根をよせる。

 

 

かざした指先でエラの気泡を確かめ

 

酸素を混ぜ込む小型装置の勢いをゆるめたり

 

ときどき、首筋に指を這わせ脈をとり、

 

調薬を完成させていく

 

 

「…………――ンク」

 

 

うわ言めいた呟き。

 

深く覆われた面衣(ベール)の奥の頬が跳ねた。

 

 

「ここに居る。」

 

 

かすかな呟きが焚火の弾ける音に重なって消えた。

 

 

指を絡め、ひび割れた爪先に視線を落としては

 

吐息を吐いて天を見上げる。

 

 

変わりすぎてしまった気持ち

 

これが一番流れる血が少ない道だから、離れて去って消えるつもりだった。

 

 

怨嗟の瘴気を受けて、

 

忘れてしまった過去の惨劇を思い出して

 

 

もう恨みを知ってしまったから

 

世界は綺麗ではないと、光は清廉であるけど残酷だと感じてしまったから

 

 

心は闇に染まり破邪の剣はもう抜けない

 

 

「俺は世界を愛せない」

 

 

破壊の衝動と流血の愉しさに目覚めて狂ってしまったから

 

太陽みたいなまなざしの前には恥ずかしくて出れない。

 

 

腹に渦巻く、どろどろとどす黒いモノ

 

獲物をいたぶる様に嬲ってころしたい気持ちが抑えられない。

 

 

「おお、勇者(あい)よ死んでしまうとはなさけない」

 

 

すました顔のした、喉笛を噛み裂いて亡骸を踏みにじったらどんな感触がするだろう。

 

守るために散った万を超すハイラル軍の屍のてっぺんに飾って…………

 

 

あの日、血肉が花火のように舞い散り

 

濁った瞳が俺に縋った、

 

こぼれた臓腑が臭気をはなち、よどんだ血潮がどろりと凝固するさま

 

 

全てを思い出してしまった。

 

 

 

もう、愛せない

 

光を直視できない………………

 

思い出してしまったから、

 

赤い月の哄笑がここちよくて、戻れない 引き返せない

 

 

 

せめて、せめて

 

早く速く、完全に狂うまえに離れなれば

 

 

「…………ころして……」

 

 

最後の糸が切れる前に――

 

「この手で……」

 

 

節くれだった指を取り、いとおし気に頬をすりよせた。

 

その時!

ひくりと指先が閃いてもがくように跳ねる。

 

摺り寄せた頬を滑って掻き傷をつくりながら、面衣を跳ね飛ばしもがく

 

全身を使って傷が開かぬよう抑え込めば。

 

ひび割れた黄金の爪先に癖毛が絡んで引っ掛かり水の中に引き込まれる。

 

 

みず の なか に 魚 は いる。

 

 

髪留めごと後頭部を握り込まれ、盛大な飛沫があがる。

 

茫洋とした黄金の眼差しが、泣きそうに歪んで絞り出す。

 

 

ひかれた後ろ髪が痛。い

 

 

「君の……

 

声……

 

が聴き……

 

たいゾ」

 

 

灼けた大気の余韻残して、かすれた声が懇願する。

 

 

跳んだ飛沫がかつて勇者だった青年の瞳を洗い、大量の雫を滴らせた。

 

滂沱の水がしたたり、狂気に傾く天秤をわずかに押し戻す。

 

 

絡んだ後ろ髪が痛い。

 

刃の閃きが拮抗する均衡を、狙う首筋を

 

喘ぎながら引き戻し、肉から髪へとギリギリでそらして断った。

 

 

ぶつりと、

 

 

髪というのは存外丈夫で並の技量や刃物では、一太刀で斬り落とせぬ

 

首級もしかり

 

 

そらした刃が暴れている。

 

猛り狂い殺戮本能に手足が暴れ、横たわる王子の意識を刈り取る。

 

 

「破壊…………

 

     セヨ――」

 

 

身の内に巻き起こる破壊衝動に魂ぎる悲鳴をあげ、炒られた虫のように転がる。

 

 

身勝手に血肉を求める利き腕を押しとどめ、

 

 

「血ニ…………」

 

 

はッはぁと息をつき距離を取って――

「破壊……………………コロっ!!さないっ」

 

 

荒い息をつきながら、内なる衝動に荒れ狂い絶叫し

 

血涙ながし、頭骨を岩にうちつけかろうじて正気を保つ。

 

 

息をひとつ、深呼吸をひとつ

 

 

垂れて来た血糊を手早く止血して、薬湯の火を埋めておとした。

 

「少し焦げたか――」

 

 

鎮静鎮痛の薬湯が今必要なのは、

 

「俺だな」

 

 

木椀にすくってちびちびとなめて苦さに顔をしかめた。

 

抑え込んでもなお沸き起こる狂気の衝動

 

 

戦いたくて、暴れたくて、壊したくてしょうがない!!

今もなお燃え盛り渦巻く狂気の衝動

 

戦の狂熱は情愛にも似て、安らかに眠るそのすがたすら熾火をかきたてる。

 

 

「ンンっ!」

 

椀をとり落とし、狂気の破壊衝動をこらえる。

 

 

 

思い出すのは楽しいこと、

 

綺麗だった月の形、響きの良い声

 

旨かった酒と食事

 

肩で息しながらも抑え込む。

 

薬水に浸かり眠る美漢を横目で見やれば安らか

 

 

「友よ」

 

健やかであれと願い歯を食いしばって耐える。

 

いつわりの夢 本能破壊衝動

幻の安らぎにに呻きすすり泣きながら狂う。

 

 

呻きながら狂乱し、殺意が果てるまで一人狂い涙したのだった。

 

 

 

 

 



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飛落ちろよ地獄の釜に

「彼 」が去ったハイラル 某所で連載していた腐向けから腐要素を除去したもの
シド王子は探し人とつかの間の邂逅をはたした。
切られた期限 自由な王子の時間は過ぎ去り
ゾーラの王としての戴冠式の日はもすぎに迫っていた。
そこに亡国ハイラルの姫君がやって来た。
新王の戴冠祝うだけでは無さそうな奇妙な緊張をもって…………


(ゼルダ姫)女神ハイリアを神聖視する方はお読みにならない事をお勧めします。ここに姫君との恋愛要素は存在いたしません。
読了してのご不快において本文の修正は致しかねます。


くりかします
(ゼルダ姫)女神ハイリアを神聖視する方はお読みにならない事をお勧めします。

この精神状態、マッドで怨嗟まじりでちょいハイな精神状態に突き落としてくれた方々に感謝




清純を誇り瑕疵なき美しさを誇る花冠の乙女は、

よく手入れされた爪先をもって、ロイヤルブルーのドレスをつまみ カーテシーを行う

 

左足を斜め後方にひき、右膝を軽く曲げて背筋を伸ばしたまま目礼。

ゾーラの王へ亡国ハイラルの王女が行える最大限の敬意をもっての挨拶

長々と述べる口上と典礼に彩られて、虚飾の対応は今始まった。

 

ほっそりとした首が水鳥のような優美なラインを描き、絹にくるまれて育った肌はシミひとつ、傷一つなく絞りたてのミルクのようになめらか

未婚の乙女である証の花冠を頭上に頂き、しとやかに柔らかく、蕩けるような微笑をうかべた。

踏み荒らされる事を知らぬ処女雪の白さ、たわわに実ったふたつの果物

蠱惑的に蜜を滴らせ芳香をふりきながら、接触を拒む白百合の潔癖な美貌

 

礼儀を知らぬ亡国の王女は恥知らずにも清らかに歌うようにいう。

「私の近衛騎士を知りませんか?」

 

思わず額ずきたく美貌と神力に縁どられ

金色の髪の亡国姫君は拒まれるとすら考えていない。

望めば与えられ、腹がすく前に食事が、

眠くなれはやわらかな寝台が用意されることを微塵も疑わぬ。

綺麗な姫君、滅んだ国の花冠のお姫様

 

「こちらにお邪魔しているかと思ったのですけれども」

 

愛されることを当然とし、

かしずかれ、つくされることに慣れきったやわらかな手のお姫様

 

国は滅びれども、意識は変わらず

畑を耕さず、狩りもせず、

糸をつむぐこともせずに興味の赴くママ、過去の遺物を調べて暮らす研究者

おっとりとやわらかにしとやかに

 

「彼がいないと困るのです。御存じありませんか?」

 

傾げる首、さらさらとこぼれる黄金の髪

枝毛ひとなく整えられ花の香りが強く漂う。

 

「王子が行方を掴んだと伺ったのですが」

 

花冠の色香にさそわれたか迷い込んだ胡蝶がひいらふぅらり

頭に咲いた花に戯れ、蜜を舐めて羽を休めた。

 

「私の近衛騎士を、ご存知ありませんか?」

 

再び問うた。

花と胡蝶があるかなしかの風に揺れ、むせるような甘い香りが広がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイラル王家の血はすっかり細くなってしまって、私ひとり

責務のためには沢山の子孫が人用なのです。」

 

             沢山の人が死んだ。無かった事には出来ない

告白されたその時、

                   死んだ同僚騎士や部下の顔が

                   嵐のように再生される

 

災厄が襲来した日に、血反吐を吐いて王家を守護し血肉の花火をあげた朋輩

万を超すハイラル軍のうず高く積まれた死骸の山を思い出したのだ。

 

=コロセ、殺せ、血ヲ――=

災厄の亡霊が囁く

 

何故故……世界の命運を託す「力」の行使者が

ひとりっきりだったのであろうか

 

命運なれば、血脈をひろげ受け皿を殖やすのが賢い

重責であればあるほど、候補者、補欠を用意するのが賢い

ただ一人きりの背に乗せるなど奇妙すぎるハイラル王家

備えもせずに、口ばかり動かす宮中雀

 

まるで自ら滅びたがっているよう。

 

 

「ハイラル王家の為に、いろんな血脈の子供を沢山産まなけばなならなのですけれども」

 

もじもじと両足を擦り合わせ頬そめ上目使いで言う

 

「初めて……はリンクにって」

 

「リンク大好き……」

 

「私を救ってくれた私の勇者に、褒美を摂らせたいのです」

それを告げたとたんかの元近衛騎士は姿を消したのだという。

御伽噺の英雄は悪を退治し、お姫様と結ばれ幸福に暮らすのがお約束

 

 

                囚われのお姫様を助ける騎士が義務からだったら?

                恋に落ちて無かったら?

              恋人(ミファー)を見殺しにしたことを後悔していたら?

 

 

ここは現実、うつしよ甘いばかりのお話ではない。

御伽噺は?終わらない

御伽噺ははじまってすらいない。  

 

 

姫巫女の花冠はますます鮮やかに咲き誇り、甘ったるい香りをまき散らした。

花の香りと密に誘われ

頭の周りをひらひらと色とりどりの蝶が乱舞する。

 

「リンク………………大好きです」

 

                 

 

シドは、不快を示すように鼻の頭に皺を寄せた。

言葉は通じるが話が通じない。

 

響いた甘い声を遮り軋むような哄笑が響く。

 

 

轟音!!地響き

 

世界を憎んで闇に染まりし凶戦士が、壁を蹴破り乱入する。

 

古代の禍々しき面をかぶり、針鼠よろしく武装して――

新王の誕生を呪うがごとく乱入した。

 

 

最前線で災厄の怨嗟をうけ、記憶の奔流と怨嗟

強いられた隷属

忠誠と従順を捧げつくし枯れ裂けた心が悲鳴をあげる。

真っ直ぐな魂が、亡き友が守った世界を壊して………………

 

キリキリと舞い狂い悶えのたうちまわり辛抱し

とうとう切れてしまった最後の理性の糸

 

四肢は舞うために、踊り狂い死をまき散らすために

踏みつぶされ噛み裂かれた骨が鳴る。

血花を咲かせた。

くつくつと喉の奥で嗤い、剣閃をひらめかせ歩を進める。

瞬動めいた踏み込み

「コロス……血――捧ゲヨ――」

 

安寧の和解もありえない

咲かせた命の婀娜花、狂気と衝動の原罪

 

木霊する断末魔に呪われ狂った勇者全てを破壊せんと驀進した。

 

「破壊………………セヨ」

 

 

バラバラと砂礫がちる、狂気に支配された元勇者は、哄笑をあげながら手足を振り回した。

なぎ倒される柱、

木っ端のように兵たちが空に舞い、

へし折れた穂先がキリキリまわって地面に突き刺さった。

 

 

 

 

 

「リンク!お願い目を覚まして!」

 

狂気に染まった闇の戦士は、地面を炸裂する踏み込みで爆走しながらへたり込む花冠の乙女を放置して駆け抜ける。

 

無視だった。

求めるのは、武力と刃のひらめき

武人ですらない乙女は一瞥すらむけらず、路傍の石のよう。

 

     その言葉は届かない。

            心はもうここに無い

 

 

届くのは刃だけ。

届くのは――――――戦士の揮う刃だけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

antinomy ジレンマ 二律背反の悲喜劇

与えられた命題は破壊、剣もて戦え産み出された。

破壊せよよ命じられながらも、愛せと造物者は甘い声でいう

 

「コロセ…………」

 

歪んだ魂は戻らない膨らむ狂気

愛は創造、命産み出すために交わされる生産的行動

義務で恋情は芽生えない

 

このこころはたった一人に手向けられる。

今も、昔も

 

狂えども、幼き日誓った誓願はくっきりと刻まれて――

 

災厄の怨嗟を浴び静かに狂い、破壊衝動に苦しむ剣士

 

世界を救えと女神は言う。

破壊せよと血が渦巻く

 

ドロドロと溶岩めいた熱をはらむ狂気の沙汰

二律背反

 

「壊レ…………るヨ……」

 

命題とその否定命題とが共に、正しい論理的推論で得られる場合の、両者の関係。

「壊セ…………」

 

破壊が始まる。

 

 

「コロ、殺セ……コワす、前に」

 

 

邪念と破壊衝動に染まった勇者

 

「オ前の手――デ………………コロしてー」

 

狂気に彩られた色彩

度重なる攻撃 に耐えかねた兜が鎧が砕け散りあらわになったその姿は

悲しみの灰色の肌、色素の抜け落ちた白髪、怒りの血の色に染まった赤い瞳

 

ダークリンク(闇に染まりし英雄)ともいうべき変わり果てた姿だった。

 

 

 

 

 

 

「ミファー様の像の所だっ!」

 

 

防戦一方の狂える勇者をおいつめ、取り囲み押し込んでいく

 

里の中央、かつて彼とともに戦った戦乙女をかたどった水晶像のもとに

 

 

透き通った乙女の像はあの時と変わらぬやわらかな微笑をたたえ

 

今日も静かに槍を抱え佇んでいた。

 

 

振り乱した蓬髪(ザンバラ髪)は朱に染まり、

 

ケモノめいた四肢駆動、ねじれたかぎ爪が剣戟受けて流し白く浮かび上がる。

 

もはや、往時の面影はない。

 

 

「グガぇう!!」

 

勇者の末路であった。

 

 

乙女の像を背に庇うように、襤褸(ぼろきれ)と化した鎧の残骸を纏いつかせて。

 

足掻くようにもがくように

 

シドに襲いかかかる。

 

 

剣戟の火花、入り混じる攻防

 

銀の槍が林となり足を傷つけ、投げかけられる投網が引きちぎっても跳ねのけても絡みつき動きを妨げる。

 

 

目潰しの灰玉を吸い込んでむせて転がり

 

狂える勇者の体力は既に底をつき、だんだん押されいく。

 

 

天下無双のこの青年の弱点は燃費の悪さ

 

補給を断ち体力をすり減らせることが出来たのなら、無敵では決してない。

 

勇者を知り尽くしたシドの指揮でどんどんと追い詰められていく。

 

 

 

果敢に攻め立て押し切れば、攻勢はにぶりシドの槍を腹にうけ 闇の勇者は

 

像を背によろめく。

 

 

今、

 

「今だっ!」

 

 

腰に履いた剣を曳きぬけば、まるでそれを待っていたかのように

 

暴れ狂う動きを止めた。

 

 

敗者は勝者を祝福し、両腕を開いて踏み込み刃を受け入れ!!

勝者が絶望に彩られながら、深く刺した剣を眺め涙を流した。

 

「お前の勝ちだよ…………シド」

 

 

敗者はこぼれんばかりの笑みをうかべ

 

開いた胸襟に突き立てられた剣ごと抱きしめ、鮮血に彩られたくちびるを閉じた。

 

勝利の祝福を贈る。

 

溢れた血が気道を詰まらせ、最後の吐息を奪う。

 

 

 

「あ、」

 

 

抱擁は深く。戦士の死に場所は友の腕の中

 

――――――――鼓動が止んだ。

 

 

 

 

 

 

 



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睥睨するには身丈が足りぬ

ご静読ありがとうございました
怨恨と怒りで暴走する様子はそのまま心理状態だったり
宥めて下さる方々のおかげで一つ墓をたて
新しい物語が生まれた。
読了して下さった方々に感謝を捧げる。
されたことはずっと忘れないけどね、今は感謝をありがとうと


災厄と化し容姿すらも変容し狂った英傑は、心許した友の手にかかり果てた。

 

嘆きもがき苦しみ世界を呪って、たどり着いた腕の中。

 

 

 

シドはぺたりと腰をおとし、ズルズルと崩れ落ちる小柄な体を慌てて支えた。

 

枯れ木のように骨と皮ばかりにやせ衰えた身体に驚く。

 

もともと小柄な体が折れんばかりに衰弱している。

 

「あああああ、!」

 

 

拒食は消極的な自殺。

 

わずかなりとも災厄と化すであろう己の力を削ごうと、食を断った。

 

 

満面の笑顔のままこと切れた肉体は、くたくたと力なく

 

流れる血も勢いなく、命が燃え尽きていた。

 

 

 

「リンク!」

 

 

死ぬなとゆさぶり脈をさぐり傷を抑えるが、反応はなく

 

ゆっくりとゆっくりと、冷えて固まっていく。

 

 

叫んでも!答えなく微笑む躯

 

救世のはてに全てを呪って、狂って

 

 

「リンクぅぅぅぅ!」

 

 

 

勝利の美酒はあまりにも苦く、世界は高慢で美しい。

 

 

勝者と敗者。見下ろしていた冷たく硬い戦乙女の水晶像が

 

軋みをあげ傾き

 

真珠色の淡い光を放ちながら、全身にヒビを走らせ

 

リぃぃぃぃんと澄んだ音をたて涙をこぼす。

 

 

砕け散り、降り降り注ぐミファーの祈りが

 

怒りと悲しみを代わりに引き受け、身代わりとして舞い散る。

 

 

……………=「わたしがまもるから」=

 

 

せせらぎのような声が響くと

 

 

真珠色の光の玉となって、傷ついたリンクの体を柔らかく包みこむ

 

きよらなる水流は、渦巻いてさらさらり。

 

膿んだ傷口を荒う。

 

 

 

柔らかい真珠の繭。

 

愛が、

 

救いが、

 

ミファーの祈りが今、地上に届く。

 

 

透き通った姿で、撫で上げかき抱く。

 

あおじろい炎をともない、

 

澄んだまなざしが慈愛をたたえ視線を投げかけた。

 

 

「ねえさん――――――」

 

 

王子は涙し、感謝を捧げる。それは愛であると告げた。

 

流れが低きところに去っていけば。

 

洗われ清められ、禊がれひかりが乱舞する。

 

目を射ないまろみをおびた、清流の乙女の切なる願い。

 

 

「ありがとう――ねえさん……」

 

 

真珠の笑みが涙が、清めて宥め包んで受け入れる。

 

傷を癒され、かぼそいながらも呼吸の安定した

 

「彼」が腕の中にあたたかな肉体で残されたのだった。

 

 

「有難う」

 

光でもない闇でも無い優しい黄昏が、慈悲をもって両腕を広げた。

 

激しい正義に摩耗した魂は、あわいの境界に静かに漂う。

 

明星が、満示星があいまいの道行きを黙認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?なんで俺はココにいるわけ?」

 

 

執務室で書類を捌く若きゾーラの傍らのソファの上

 

 

やや回復したハイリア人の青年はぶつぶつと文句を垂れる。

 

 

「過保護」

 

何処に行く時も同行させ、手の届く範囲に休ませて容体を伺う。

 

 

「目を離すと何処かにいってしまうだろう君は」

 

顔も上げず流麗な筆致でサインを入れると、ベルに手を伸ばして女官を呼び出す。

 

 

「いかねーよ、しばらくは」

 

「君の大丈夫程信用できないものはないゾ」

 

 

「シドだって病み上がりなのに働いているじゃねぇか」

 

 

「ちゃんと養生して、医者から許可をもらっているゾ」

 

 

ポンポンとぶんむくれる青年の白銀の髪を撫で叩いてやる。

 

日焼けと脱水症状のシドと餓死寸前まで衰弱した上にあちこち骨折し、

 

胸を貫かれた青年とは怪我の程度が、天と地ほどに違う。

 

 

いまだ頬はこけ血の気は薄く、声には力が無い。

 

 

「君は自分をないがしろにし過ぎてる 心配する方の身にもなってくれ」

 

 

懇願するようにシドが言い募れば、青年は頬を膨らませてソッポを向いた。

 

「わぁってるって 悪かったっていってるじゃんか」

 

 

災厄の怨恨はミファーの祈りによって浄化され、狂乱は脱したがいまだどこか危うい。

 

目を離すとふっとどこかにいってしまいそうな気配がする。

 

今だ癒えない傷を抱えたまま、軽口を叩きつかの間の休息を味わう。

 

 

運ばれてきた薬湯と砂糖菓子を見て、勇者だった青年は紅の瞳を半目にする。

 

苦い薬湯を服用しなければ甘い菓子はもらえない。

 

 

戦ごとに鬼神ではあるが日常では悪童の青年

 

100才をすぎてからが一人前のゾーラから見れば赤子に等しい幼さ

 

その人生を救世に捧げ、傷ついて今自分の時間、自分の好みを主張できるようになった。

 

 

やっと、笑うようになった。

 

 

「元気になればいくらでも何でも出来るゾ」

 

 

「君は自由だ」

 

 

「ソレ俺どうしていいかわかんねーよ」

 

 

「良ければ付き合うさ、何でも」

 

 

「手合わせでも何でも」

 

 

「なっ、ちょ。おま王様は軽々しく動いちゃアカンやつだろ」

 

「友の為さ 骨身は惜しまぬよ」

 

 

ロイヤルなスマイルをシュピンと返し太陽のように笑う。

 

「お前恥ずかしすぎ」

 

 

勢いよく薬湯を流し込むと、砂糖菓子をボリボリ噛み砕きショールにくるまりふて寝した。

 

(友と殺しうのはもう沢山)

 

 

「身丈にあったシヤワセでいいさ」

 

 

そう、世界を睥睨するにはちょっと身長が足りない。

 

 

 



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