仮面ライダービルド ~Stars and flowers~ (アルクトス)
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物語のビギニング

皆さんどうも、初めましてアルクトス(ギリシャ語で熊の意)とか名乗ってるものです。

ゆゆのオリ主もの書いてたのに、こっちのアイデアばかり湯水のように湧いてくる……ということで、別シリーズ立てさせてもらいました。


「天才物理学者『桐生戦兎』のいる東都の街で、《スマッシュ》と呼ばれる謎の怪人が市民を脅かしていた。そこ現れたのが、我らがヒーロー《仮面ライダー……」 

 

「自分で天才とかヒーローとか痛いんだよ、ただの記憶喪失のおっさんだろ?」

 

「うるさいよ! ……そう言うコイツは刑務所を脱走した殺人犯の『万丈龍我』」

 

「俺は殺しも脱走もしてねェ!」

 

「そう言ってワンワン泣いて縋るもんだから、心優し~い俺はなんと! 東都政府を敵に回して、コイツと逃げてしまったのでありました! どうなる第二話!?」

 

「泣いてねェし!」

 

「ツッコミ遅いんだよ……」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「……結局、台本書いてたのに全然その通りに行かなかったじゃないのよ……」

 

 録音機片手に、黒髪の男――桐生戦兎はため息を吐く。

 

「うるせェ! 俺は殺しも脱走もしてねェからな!!」

 

 対し、隣の茶髪の男――万丈龍我は怒る。

 

「まだ引っ張ってんのかよ、流石バカ」

 

「あァん? せめて筋肉付けろよ!」

 

 傍から聞けば、戦兎が万丈を罵ってるだけにしか見えないが、彼らにとっては日常を噛み締めることの出来る大事な会話だ。

 実際、二人の口許には笑みが浮かんでいる。そのことを突っ込むつもりは互いに無いようだが、

 

「相変わらずツッコむとこがおかしいんだよ……さて、次は三話を」

 

 再び物語を紡いでいこうと戦兎が録音機のスイッチを入れる。

 

 ――ぐぅ~

 

「…………」

 

 録れた音は万丈の腹鳴りのみで、戦兎は無言で録音機のスイッチを切ると呆れたように隣の万丈を見る。

 

「おい、戦兎……腹減った」

 

 万丈は流石というか、戦兎の視線に億尾も気付かずに自らの現状をそのまま伝えた。

 思えば、エボルトとの最終決戦からなにも腹に入れていなかったので、それは必然か。

 

「はぁ……」

 

 一度大きくため息を吐いた戦兎だが、ふとそこで重要な問題に気がついた。

 

「万丈、お前手持ち幾らある?」 

 

「ん? えっと、二万と……七千ドルクだな」

 

 いきなりそんなことを聞いてくることに不信を抱きつつも、万丈は素直に答える。

 が、沈痛の面持ちでそれを聞いた戦兎は頭を抱えた。

 

「最っ悪だ……」

 

 戦兎の言葉に、万丈は先のエボルト戦でのことを思い出すが、その時とはずいぶんと違ったニュアンスに疑問を抱く。

 

「おい……どうしたんだよ?」

 

「金が無いんだよ……」

 

「あ? んなもん、降ろせばいいだけじゃねーか」

 

 至極当然と万丈は答えるが、戦兎はすぐにそれを否定する、

 

「だから、そのための口座とか戸籍とか……兎に角、諸々が新世界に移行すると同時に吹き飛んでんだよ」

 

「――は?」

 

 聞かされた衝撃の事実に、万丈はそれを受け入れ難しと思考を停止するが、なんならエボルトと戦っている時よりも絶望に染まった顔をしている戦兎を見て、ゆっくりと思考を稼働させ状況を理解する。

 

「おい、戦兎……それってまさか」

 

「あぁ、俺たちはホームレスってことになるわけだ」

 

「マジかよ!? どーすんだよ、オイ!」

 

 改めて言葉として出された事実に万丈は慌てふためく。

 当然だ、今までも犯罪者として追われたりとまともな生活ではなかったが、最低限の衣食住は確保されていたのに、今度はそれすらない。

 

「とりあえず、俺たちが持ってる手持ちの合計が八万七千ドルクだ」

 

 慌てる万丈に対し、戦兎はどうにか平静を保って冷静に状況の確認をしていく。

 

「……おう」

 

「カプセルホテル……いや、甘えたことは言ってられない。野宿で過ごすとしても、どう考えても一ヵ月は持たない」

 

 が、冷静に状況を確認したところで導き出されるのはどうにも抗えない最悪の事実のみで、やはり戦兎は頭を抱えてしまう。

 

「どうすんだよ!? 世界救って、最期は野垂れ死ぬのかよ!!」

 

「二人して記憶喪失ってのもおかしい話だしな……手続きするにしたってだし」

 

 言いながら、戦兎は約二年ほど前になる、自分がマスター……エボルトに拾われて以後のことを思い返す。

 記憶喪失と判定を受けるには幾重にも検査が求められることなのだが、戦兎自身は誤魔化しが効いても、どう考えても万丈がボロを出さないようにすることなど不可能と、結局頭を抱える。

 

「どうすりャいいんだよォォォ!」

 

 最悪の終わりを前に、万丈の叫びが周囲に木霊した。

 

 

 

 

 

 ――仮面ライダービルド Stars and flowers ~完~

 

 

「って、勝手に終わらすんじゃないよ!」

 

「誰に言ってるんだよ……」

 

 唐突に叫んだ戦兎に、万丈は訝し気に視線を送る。

 

「メタいこと突っ込んでくるんじゃありません」

 

 が、戦兎は訳の分から無いことを言うので、万丈の頭には目に見えて疑問符が浮かぶ。

 

「……あん?」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「さて、俺たちの最重要課題はこれからどうするかについてだ」

 

 訳の分からぬ発言から少しして、今度こそ平静を取り戻した戦兎が改めてこれからの課題を設定した。

 

「つっても、マジでどうすんだよ」

 

「だから、それを今から二人で考えんでしょーが」

 

 突っ込んで、早速と二人して思考の海に沈む。

 

「…………」

 

「…………」

 

 互いに無言の時間が続くが、先に口を開いたのは万丈。

 

「ぜんぜん浮かんでこねェ……」

 

 万丈の発言に、何か案でもと期待していた戦兎は肩を落とした。

 

「……お前に訊いた俺がバカだったよ」

 

「…………」

 

 いつもなら、ここで言い返すところだったが流石の万丈でもこの状況で戦兎に言い返すことはできなかった・

 

「少し考える。静かにしててくれ」

 

「……おう」

 

 戦兎は目を閉じ、より深く思考の海に沈む。

 

「…………」

 

 ――これからどうするのか、平和になった世界でどう生きていくのか。

 

「……おい、戦兎!」

 

 万丈の呼びかけが聞こえたが、考えが纏まるまでの間とこれを無視する。

 

「…………」

 

 ――第一の問題は衣食住。戸籍を持たない二人では働くことは可能だろうが、社会保障は得ることはできない。

 

「おい戦兎! 聞いてんのかよ!!」

 

 再びの万丈の呼びかけ。今度は更に声の大きなものとなるが、これも無視。

 

「…………」

 

 ――無戸籍の人間として行政の力を借りて、新たに戸籍を得る……これが最善か。

 

「おい戦兎! やべェよ! 周り見てみろ!!」

 

 再再度に渡る万丈の呼びかけ。流石の戦兎もこれは無視できずに、目を開き万丈の方を向いて抗議を入れようとするのだが、

 

「うるさいよ! 周りが何だって……」

 

 万丈の方を見る一瞬に飛び込んできた景色。

 先ほどまで見ていた、人々が穏やかに暮らす景色――などではなく、まるで太陽であるかのように灼熱の炎が視界の四方八方を埋め尽くす、正に地獄絵図。

 

「なんじゃこりゃあァァァ!!」

 

 その驚きままに、戦兎の叫びが辺りに木霊した。




実際のところ、二人は新世界でどういう扱いになるのやら……?

FOREVERが楽しみですね(思考放棄)


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抗うスプラウト

スプラウト(=芽吹き)


時系列は、くめゆの初期。

最初の方は原作をなぞって……てか、そのまん(ry


 四国を覆う結界の内周に聳え立つ巨大な植物の壁の上に、総勢三十二名に及ぶ少女らは立つ。

 

「総員、戦闘態勢!」

 

 先頭に立つ少女――楠芽吹(くすのきめぶき)の号令で、全員がスマートフォンを取り出し、あるアプリを起動させる。

 直後、少女たちが光を纏わる。一瞬にして光が弾けると、制服だった姿が特殊な装束に変わる。

 

(これが、神樹様の――)

 

 周りの者が力の獲得に、少なからず歓喜する中。むしろ芽吹の心は冷えていた。

 与えられた力は不完全で、弱くて、求めていたものではなかった。

 

(やはり違う。私が求めていたのは、『これ』じゃない……私が、手に入れるはずだったのは――)

 

「戦衣で、星屑以上の相手をしてはいけません」

 

 沈んでいく芽吹の思考を狩り取るかのように、背後の女性神官が言った。

 言われずとも――芽吹は無言で頷く。それを見た神官は、更に付け加える。

 

「あなたたちは『防人』です。敵を倒すのではなく、あくまで壁外調査が目的です。決して無理はしないように」

 

 防人――そう、芽吹らは『勇者』ではない。

 三十二人の少女たちは、あくまでも勇者候補。その末に落選し、こうして防人となった者。

 

「皆さん、絶対に無事で帰って来てください。絶対に」

 

 祈る声は巫女の国土亜耶のものだ。

 防人の御役目は調査という名目だが、壁の外に出る以上、死の危険とは常に隣り合わせの物。故に巫女である彼女は参加することはできないが、だからと言ってそれを他人事で済ませられるほど、国土亜耶という少女は淡泊ではない。

 しかし、それすらも芽吹にとっては苛立たしいものでしかなかった。

 言われずとも、死ぬ気はない――生き残り、勇者の選ばれることが彼女の望みなのだから。

 

「それじゃあ、行くわよ!」

 

 芽吹の号令で、防人たちは武器を呼び出す。

 ある者たちの手には銃剣が、それ以外の者たちには身の丈ほどもある巨大な盾が現れた。

 ガチャリガチャリと装備を鳴らし、進み出た防人達は壁外へと進んでいく。 

 

「……これが、結界の外……!」

 

 壁外に出てすぐ、芽吹は余りにも異常な光景に言葉を呑んだ。

 結界の内側から壁の外を見ても、見えるのは綺麗な青空と穏やかな内海だったはずだ。それが、一歩でも結界の外に足を踏み入れた瞬間に、神樹が……世界が隠し通す、真実が明らかとなる。

 

「……想像していたよりも、熱いわね」

 

 壁の外は、地面を見れば一帯は焼け爛れた灼熱の溶岩地獄。空を仰げば漆黒に塗り潰された闇の世界。

 しかし、芽吹は怯むことなく、後ろに続く防人たちに指示を飛ばす。

 

「皆、壁から降りるわよ! 一箇所に纏まって、護盾隊は周囲警戒を怠らないように!」

 

 防人の装備は結界外の灼熱の台地にも耐えられるように設計されており、その点だけは防人の方が勇者より優れている。

 故に、降り立った防人たちは焼け死ぬことなく自由に活動できる。

 

「わぁあああああ!? メブ! 赤いよ怖いよ!! 座学で聞いてたのよりずっとヤバそうだよぉ!!」

 

 喚き散らし、芽吹に縋りついてくるのは加賀城雀(かがじょうすずめ)だ。

 

「離れて、雀。前に進めない」

 

「メブ! 空見て!! 白いのいっぱい飛んでるよぉ!?」

 

 黒い空には、まるで夜空に散らばる星のように異形の存在が無数に漂っている。喰らうことのみに特化した口だけの化け物。

 

「……あれは『星屑』。習ったでしょ?」

 

「想像してたのよりも気持ち悪いよ! 空全部埋め尽くしてるのが全部的なんて無理無理無理!!」

 

「私たちの任務は敵の討伐じゃない。あくまで採取が目的よ」

 

「でもあいつらって、人を見るとすぐ襲ってくるって……ほら来たぁぁ!!」

 

 雀の叫びに従い、芽吹も構える。

 見ると、空の一部――星屑たちが猛然と芽吹たちの方に突撃してきていた。

 

「ぎゃー死ねる!! 絶対パクっといかれて殺される! 助けてメブ~~!!」

 

 芽吹は頭が痛くなるのを感じる。

 が、一先ずとそれを無視し、纏われては指示も動きもできないと、芽吹は雀を振り払おうとするが、案外と力が強く中々振り払えない。

 

「恐れる必要はありませんわ! 星屑如き、わたくしだけで充分ですわ!」

 

 その隙に突出するのは弥勒夕海子(みろくゆみこ)

 彼女は手にした銃剣を構えると、突撃の体勢を取る。

 

「ここで功をあげて、弥勒家を……!」

 

 芽吹の頭痛が痛みを増す。

 勿論、その種は今も腰にしがみつく雀と突出する夕海子だ。

 

「雀は怯えない! 弥勒さんは突出しない!」

 

「「っ!」」

 

 芽吹の声に、雀は驚いて泣き叫ぶのをやめ、夕海子は不服気ながらも踏みとどまった。

 

「銃剣隊、射撃用意……撃って!!」

 

 芽吹の指示で、銃剣を構える防人たちが一斉に迫る星屑たちを狙い撃ちにする。

 当たる一発一発は、星屑にダメージを与えていき、防人たちの過半数以上を占める数の銃弾が炸裂すれば、星屑はその醜悪な体を砕かせ、消滅していく。

 

「た、倒した……倒したよ、メブ!」

 

 雀が目を輝かせる。

 

「でしょ。意外とこんなものよ……対策さえ立てていれば、だけど」

 

 三百年を前にする旧世紀の時代。

 バーテックスが初めて地上に降り立ち、全世界……四国以外の土地を壊滅させた、らしい。

 ふざけている。あの程度の存在に人間が――人間様があんなものに滅ぼされるなど、あってはならない。

 

「遠くにいる奴らも倒しておきましょうか?」

 

 一部倒したところで、無限の数を思うほど存在する星屑は消えない。

 夕海子は遠くに見える星屑たちに銃口を向け、引き金に指を掛ける。

 

「弥勒さん、私たちの目的はあくまで調査です。無闇に戦火を広げれば、部隊が危険に晒される」

 

「……わかりましたわ」

 

 一応素直に退く夕海子。

 頭痛の種が消えたことを少し喜ぶ芽吹だったが、直後に、くいくい、と服が引っ張られる。

 

「どうしたの? しずく」

 

 芽吹が振り返れば、いたのは山伏(やまぶし)しずく。彼女は芽吹の視線に気づくと、無言でその方を指差した。

 芽吹がしずくの指差した方に目を向ければ、三人の少女が腰を抜かしていた。

 

「あらあら。腰を抜かすくらいなら結界内に戻ればよろしいのに」

 

 困ったように漏らす夕海子に対し、芽吹は声を張る。

 

「私たちに撤退はありません。みんな、一箇所に集まって!」

 

 芽吹の指示に、防人たちが腰を抜かした三人を守るように終結する。

 そして、密度を増した人の気配を察したのか、先ほどの数倍の量の星屑たちが迫って来ていた。

 

「くっ! 銃剣隊、射撃用意! 護盾隊は盾を構えて!」

 

「護盾隊って私のことだよね、メブ!?」

 

「そうよ! あなたが今手にしてるのは盾でしょ! 銃剣隊……撃って!!」

 

 芽吹の指示による銃撃で、迫る星屑の半数が砕け散る。

 が、それでも半数。相当数が防人たちを喰らおうと突進してくる。

 

「護盾隊、構えて!」

 

「ぎゃー!! 死ぬ死ぬ! 助けて――――!!」

 

 泣きわめく雀だが、それでも的確に盾を構える。

 その他護盾隊の少女たちも、雀と同じく盾を構える。そして、迫りくる星屑たちが衝突する瞬間にそれらの盾は巨大化し、部隊全体を覆う壁として役割を果たす。

 星屑たちが弾かれたその時、芽吹は叫んだ。

 

「今よ! 突いて!!」

 

 指示に、護盾隊の少女たちは隊列を変化させ、壁に意図的に隙間を作る。

 作られた隙間に身体をねじ込ませようとする星屑だが、そこに銃剣隊が剣を突き出した。切っ先をねじ込ませ、引き金を絞り、星屑を撃破する。

 

「よし……!」

 

 これが彼女たちに戦い方だった。

 勇者であるなら、星屑など卑下にもしないだろう。不完全な防人である彼女たちは、星屑相手ですら、力を合わせなければならない。

 芽吹の苛立ちが――力への欲求が意図せずところで、高まった。

 

「ああぁぁやばいよやばいよ! 助けて、メブ~!!」

 

 恥も外聞もなく、汗と涙にまみれながらも雀は芽吹に訴える。

 

「自分のことは、自分で守りなさい。自分を信じて」

 

「自分なんか信じられないよぉおお!!」

 

 雀はうるさいが、生存本能に関しては人一倍で、星屑の攻撃を見事に防ぎきっていた。

 しかし、敵の数は多い。必然と対処に時間がかかり、時間をかければ疲弊してくる。

 

「きゃっ……!?」

 

 護盾隊の一人が、星屑の突進の圧力に弾かれる。

 

「カバーに入って!」

 

 芽吹の指示は早かった。指示を聞いた護盾隊のカバーも早かった。

 ――しかし、星屑が突き出された銃剣に噛みつく方が、尚早かった。

 

「た、助け――」

 

 悲鳴を上げる間もなかった。

 防人の踏ん張りなど意味すらなく、星屑は盾の壁の外まで彼女を引きずり込む。

 

「ひいいいいぃぃっ!?」

 

 無数の星屑が彼女に群がる。

 醜悪なその巨体は、まるで死体に群がる蛆のようだった。

 

「今助け――くっ!?」

 

 芽吹が飛び出そうとした一瞬。

 星屑数体がその進路を阻むように立ちはだかった。

 

「退きなさい!」

 

 叫ぶ。斬る。

 ――その間にも、悲鳴は小さくなっていく。

 

(間に合わない……っ!?)

 

 瞬間の思考。

 芽吹が諦めかけたその時、空から蒼炎が舞い落ちた。

 

『グレートドラゴニックフィニッシュ!!』

 

 蒼炎は龍を象り、壁の外の彼女に群がる星屑たちを焼いた。

 爆炎が発生し、衝撃に皆が防御姿勢を取る。

 

「な、何……!?」

 

 芽吹含め、防人たちが驚愕する。

 その中、芽吹は爆炎の中心に仮面の異姿を視認した。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 異姿は、彼女に駆け寄ると抱き起こし、防人たちに声掛けした。

 

「おーい、無事だぞ~」

 

 手を振る異姿だが、その背後には更なる数の星屑が迫る。

 

「後ろ!」

 

 咄嗟に叫ぶ芽吹。異姿もそれに反応して振り向くが、少し遅い。

 噛みつかれる。あわや、そんな時だった空から数多の銃弾が降り注ぐ。

 

『フルバレット!』

 

 またも発生する爆炎。 

 流石に衝撃にも慣れ、芽吹が彼女の元にまで駆け寄ると、今度は左右色違いの異姿が舞い降りた。

 

「大丈夫か、君たち?」

 

 双方、若い男の声。

 と、正体不明の異姿を警戒しつつも、芽吹は素直に礼を言う。

 

「お陰で助かったわ……あなたたちは?」

 

 問うと、最初に現れた――龍の模した装飾の異姿がまず名乗る。

 

「俺はクローズ、仮面ライダークローズだ」

 

 続いて、左右色違いの異姿が何やらポーズを決めて名乗り始める。

 

「俺は仮面ライダービルド。創る、形成するって意味のビルドだ」




本編終了後だからグレートクローズです


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コンビは語らう

戦闘シーンは苦手だから飛ばします(迫真)


なんか、お外は台風で大変なことになってるけど、引きこもりだから関係ないよね(停電なんて知らない)


「さあ、授業を始めようか」

 

 男――桐生戦兎が、そう言って教壇に立つと、教室の中を探るように視線を送る。

 

「起立」

 

 視線に促された、今日の日直担当である少女の号令に従い、教室内少し減って二十九名の少女全員が立ち上がる。

 

「気をつけ、礼」

 

「「お願いしまーす」」

 

 揃う声が上ずっているのは、新任であり教壇に立つ彼への興味所以か。 

 そんな防人の仲間たちの軽率な思考に呆れつつも、芽吹も興味が無いわけではないのではないので、耳だけは傾けておく。

 

「……ねえ、誰から行く?」

 

 そんな小声でのやり取りが教室のあちらこちらで行われる。

 だが、機会をうかがう少女たちの声を掻き消すように、今まで誰も触れなかった存在。教室の背後から低く叫ぶ声が戦兎を糾弾した。

 

「おい! なんで俺がこっち側なんだよ!!」

 

 男――万丈龍我は、同輩の仲間であるはずの戦兎にガラ悪く突っかかるが、彼自体は慣れたものなのか淡々と返す。

 

「今更かよ、突っ込むならもっと早くしないよ」

 

「タイミングの話じゃねェだろ! なんで俺も生徒側なんだよ!!」

 

 確かに、それは皆が気にしていたこと。

 防人の全員が言い合う二人の会話に耳を澄ませる。

 

「だってお前バカじゃん……」

 

「せめて筋肉付けろ!」

 

 と、万丈が反論するが、まるで意味が解らない。

 

「今は関係ないでしょうが! ……文句があるなら、この問題解いてみなさいよ」

 

 戦兎がさらさらと黒板にチョークで記すのは、物理の問題か。

 教科書等を見ずに記すあたり、彼は物理が得意なようだ。

 

「はッ! よゆーだぜ……ェェ……」

 

 対して最初こそ威勢よく声を張った万丈だが、次第に声の勢いが無くなっていく。

 その様子に戦兎は呆れたように一つ息を吐くと、くるりとこちらに向き直り、言った。

 

バカ(万丈)がこんな感じなので、分かる人いますか」

 

 挙手を募る戦兎。

 渋る周りを余所に芽吹が手をあげようとしたその時、それよりも早く通る声が教室内に響く。

 

「はい」

 

「それじゃあ……弥勒さん、答えをどうぞ」

 

 手を挙げたのは、三年生の弥勒夕海子だ。

 

「――ですわ」

 

 スラスラと計算式を述べていき、答えを導き出す夕海子。

 周囲から「すごい」と声が上がるが、今出された問題は中学三年相当の基礎問題だ。それ相応に勉学に励んでいれば、一年生は無理かもしれないが、二年生ならば解ける程度の。

 

「正解、流石三年生」

 

 とは言え、夕海子のようにスラスラと解けるわけではないが。

 戦兎に褒められた夕海子は、着席する際に芽吹の方を見て得意げな顔をする。

 

「万丈、これ……中学生レベルの問題な」

 

「…………」

 

「何か言うことは?」

 

「……席戻ります」

 

「素直でよろしい」

 

 二人の方は漫才のようなやり取りを済ませると、万丈の方は若干不満げに席に戻り、戦兎はパンと手を叩き、皆の空気を入れ替えると、今一度宣言した。

 

「さあ、改めて……授業を始めようか」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 戦兎は『大赦』という組織に与えられた自室にて、一人ごちていた。

 

「あぁ……人に教えるって、結構疲れるもんだな」

 

「こっちはお前に宿題出されて、それ解くのに苦労してんだけどな」

 

 言って、机にだれる万丈。「解ける気がしねェ……」と弱気な声が漏れる。

 

「ったく、教えてやるから……」

 

 ――そこ中学二年生レベルなんだけどな……。

 言わないでやるのが優しさだろうと、内心に留めておく戦兎だった。

 

 

 

 

 

 数十分後。

 

「あァ~解けた……」

 

 普段使わぬ頭を酷使した万丈はオーバーヒート気味に倒れ込む。

 

「…………」

 

 そんな万丈を余所に、考え込む戦兎。

 

「ん、どした戦兎?」

 

 それに気づいた万丈が気遣わし気に問うのだが、変わらず戦兎の方は苦い顔だ。

 

「……今の俺たちの装備の確認をしてた」

 

「装備?」

 

「エボルトとの闘いでエネルギーを消耗したり、故障したりしたアイテムが多いからな」

 

 と、戦兎が掲げるのはクローズマグマナックルだ。

 

「ああ、マグマナックル……」

 

「エボルトとの二度の決戦で無茶したせいで、内部の構造自体がオーバーヒートしたからな。ついでにスパークリングやハザードトリガ―、フルフルボトルもエネルギーのリチャージが必要で、当分は使用不可」

 

 つまりは強化フォームが全て、ということになる。

 それを聞いた万丈も、戦兎同じく苦い顔だ。

 

「ジーニアスは?」

 

「あれはクローズビルドに変身した時に内部のエネルギーを使い切って、完全に使えなくなった」

 

 望みの綱も完全に断ち切られ、二人して軽く頭を抱える。

 

「マジかよ……」

 

「しかもここには設備が無いから、当分は初期装備でいくしかない」

 

 だが、初期装備と言っても戦兎は六十のフルボトルを操るビルド三十のベストマッチフォームを、万丈はグレートクローズの力が残されているだけ、幾分かましか。

 

「まあ、今は装備云々よりも、俺たちの現状把握――つまりはこの世界についての知識が必要だ」

 

 沈んだ雰囲気を変えるべく、戦兎は話題を変えた。

 世界にやって来て以来、改めての現状把握は必要なプロセスだ。

 

「ああ、でも外がヤベェことになってる以外はあんまり変わんなさそうだけどな」

 

 万丈の答えはバカっぽい単純明快だが、それ故に的を得た発言だ。

 戦兎はそれに頷くように、言葉を返す。

 

「……今、この世界の暦は神世紀三百年だ」

 

「三百……?」

 

 流石に言葉が少ないか、戦兎の発言の意図が分からずに万丈は首を傾げる。

 ので、戦兎は自分の頭の整理も兼ねて、万丈に改めて言葉を連ねる。

 

「暦が切り替わったのが、二〇一九年らしい。……つまり、西暦に直せば今は二三一九年ってことになる」

 

「メッチャ未来じゃねーか」

 

「そう、未来なんだ。だが、文明レベルは俺たちの世界と大差がない」

 

 この世界に来て数日だが、触れた文明機器――スマートフォン、TV、その他の家電等含めて、戦兎たちの住む時代の二〇一八年と差は無かった。

 

「それが、悪いことなのかよ?」

 

 聞いてくる万丈に、戦兎は人間のある真理を説く。

 

「文明ってのは、常に発展するものだ。人々の間に競争という意識があるからな」

 

「良く解んねェ……」

 

 更に首を傾げる万丈に、戦兎はため息交じりに言葉を砕いた。

 

「お前にも解り易く言うと、俺たちの世界での三百年前は?」

 

「一七一八年か?」

 

「そう、十八世紀だ。十八世紀というと、ヨーロッパでは産業革命が起きた。電気技術が大きく発展した。日本で言うなら徳川吉宗が活躍したころだ」

 

「徳川……吉宗?」

 

 マジかよ、徳川家将軍で家康、綱吉、吉宗、慶喜は必須じゃないのか……。

 流石の戦兎もあまりの万丈の学のなさに辟易としつつも、解りやすい例を探る。

 

「もっとわかりやすく言えば、『暴れん坊将軍』だ」

 

「あ、時代劇だ」

 

「つまり、そんな時代から競争を繰り返して、俺たちの時代まできたんだ」

 

「おお……、なんとなくわかった」

 

 ここまで噛み砕いてようやく何となくか。万丈との普段の会話は何も考えずに気兼ねなくできるのに、解説ごととなると途端に頭を回さねばならなくなる。

 疲労感を覚えながらも、戦兎は纏めるための言葉を考える。

 

「三百年も経てば、技術は確実に進歩するはずだ。だがこの世界にはそれがない。……つまり競争が無いんだ」

 

「ほーん……」

 

 理解してるのかしていないのか、万丈は間抜けな声を上げるが、気にせず戦兎は続けた。

 

「人間の生存本能は競争によるものも大きい。だが安定して生を与えられるのなら、競争なんか生まれない」

 

「お、おう……」

 

「そしてこの世界に生を与えているのが、この世界で信仰の対象となっている『神樹』」

 

「あぁ、真珠な真珠……綺麗だよな」

 

 ――絶対漢字違うだろ。

 

「神樹な、神の樹って書いて神樹な。日本に根付く土地神たちの集合体らしい」

 

「バカか、神様なんているわけねェだろ」

 

 当然のことのように万丈が返す。

 お前が言うな、と戦兎は呆れ顔でまた返す。

 

「それ言ったら万丈、お前……自分が地球外生命体の遺伝子持ってるの忘れてないか」

 

「あ」

 

 どうやら当人である万丈はすっかり忘れていたらしい。

 脳内で組み立てられている台本の、三十二話相当のところで悩んでたのはいったいなんだったのだと、戦兎。

 

「少し前まで、いないとされていた地球外生命体が存在して、俺たちと戦ったんだ。神という存在が実在してもおかしくない。……というか、俺たちは実際それを見てる」

 

「マジかよ」

 

「一つ、神樹に力を与えられた防人と呼ばれる少女たち……並びに勇者という存在。二つ、あの地獄のような外とこの平和な内とを隔絶する不可思議な結界。三つ、神樹を信仰しその恩恵を受ける大赦という組織」

 

「はァ……三つね」

 

 生返事の万丈。

 もういいや、と戦兎は構わずにどんどん続ける。

 

「ここまで揃えば、神樹が実際に存在しているという証左になる」

 

「なるほど。んで、それで?」

 

 ここから話を膨らませようと思う戦兎だが、見事に話を理解していない万丈には話しても無駄と悟る。

 

「……単に俺たちの現状把握が済んだってだけだ」

 

 諦めて、遂に話をたたむ戦兎。

 

「おう」

 

「俺たちの世界に帰る方法もわからなければ、誰がどうして俺たちをこの世界に呼んだのかもわからない」

 

「まぁ、帰ったって住む場所ねェけどな」

 

 真顔のマジレスだった。

 

「それを言うんじゃないよ……」

 

「でも、実際そうじゃねェか」

 

 ――家なしの救世主。

 そんな肩書の二人。この世界では手厚く歓迎されているが、そうでなかった時を考えると……。

 

「兎に角! ……また、この世界で俺たちが戦う理由ができちまった」

 

 ふと表情を引き締める戦兎。

 思い浮かべるのは、先ほど名前の挙がった防人の少女たち。

 

「……だな」

 

 万丈も、暗い表情で頷く。

 

「あんな年端もいかない女の子たちが戦っているのを黙って見過ごすことはできない。……俺たちが守るんだ」

 

 教室で触れ合った、まだあどけない少女たち。

 戦兎は思う。そんな子たちが戦いを強要される世界なんて間違っている。それでも、彼女たちが居なければ世界が終わってしまうというなら、俺たちができる限りのサポートをしよう。

 大赦とは、そういう契約になっている。

 

「その為に、一緒に戦ってくれ……万丈!」

 

「おう!」




く、九月中の投稿……ギリギリ間に合ったぜ(ほぼ十月)


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ラブ&ピースの意味

最近、知り合いの作品の監修やってます。

パラドファンさんの《仮面ライダーエグゼイド Fatal Death Game SAO》という作品です。



「あァ……腹減った……」

 

 戦闘訓練終わり、万丈は自身の腹をさすりながら呻いた。 

 

「お前はそれしかないないわけ?」

 

 他にも感想はあるだろうと、戦兎は思う。

 前回の戦闘を解析したデータを基に二人の訓練メニューは組まれたものだが、元格闘家の観点からの効率化などがないかと戦兎は微かに期待していたが、結果はこれである。

 

「でもよォ、腹が減ったらなんとやらっていうだろ?」

 

「はあ……戦は出来ぬ、な」

 

 諺すら満足に覚えていない万丈に、改善案など求めたところでと諦める戦兎だった。

 

 

 

 

 

 昼食は戦兎らの暮らす施設、ゴールドタワー内に設置された食堂にて摂る。メニューは様々で、その中から個人で選択する――要は学生食堂のようなものだ。

 注文したのは二人ともにうどんで、選択理由はここが香川だからという単純明快なもの。

 注文のうどんを受け取り、さて席に着こうというところで問題が生じる。

 

「おい、戦兎……席埋まってね?」

 

「だな」

 

 テーブルはすべて埋まり、そこには防人の少女たちのグループが座っていた。一応、席こそ空いてはいるが、そこにずけずけと入り込むほど無神経ではない。

 きょろきょろと右往左往する二人に、背後から声がかかる。

 

「あの~」

 

「はい?」

 

 声に反応した戦兎が振り向くと、そこにいたのは防人……ではなく巫女の国土亜耶だった。 

 彼女はうどんの置かれたお盆を少し重そうに持ちながらも、にこりと二人に微笑みかけた。

 

「もしよろしければ、私たちと一緒に食べませんか?」

 

「いいのかい?」

 

 亜耶の提案は、二人にとっては嬉しいものだ。

 だが、中学生と片や二十を超えた――戦兎に至っては二十の半ばを過ぎたアラサーの大人である。思春期に近い少女たちは受け入れてくれるのだろうか。

 

「はい! 皆さんとてもいい人なので、大丈夫です!」

 

 ならばと、戦兎は亜耶の提案を受け入れることにする。

 

「じゃあ、お願いするよ」

 

「では、こっちです」

 

 気持ち、足取り軽く行く亜耶を先頭に向かうのは一つのテーブル。

 座るのは、二年生で防人たちのリーダーである楠芽吹。同じく二年で怯えたような表情を見せる加賀城雀。また同じく二年の無表情である山伏しずく。そして、三年の先日問題に答えてくれた弥勒夕海子だ。

 どうやら芽吹と夕海子が言い合いをしているようで、亜耶が苦笑しながら盆をテーブルに置く。

 

「仲良しなのはいいですが、ケンカはだめですよ、芽吹先輩、弥勒先輩」

 

 軽く諫められ、口を窄めた夕海子は亜耶に堂々宣言する。

 

「わたくしと芽吹さんは好敵手、仲良しなどとは違いますわ!」

 

「ふふっ。そういうところが、仲良しに見えますよ?」

 

 そんなことを言われてしまえば、夕海子の方は毒気が抜けてしまうといったもので、仕方なく食事に戻る。

 そんな調子で、見事席に着くタイミングを見失った二人は立ち尽くす。

 

「おい、麺伸びちまうぞ」

 

 空気を読まずか、万丈がそんなことを言う。

 当然、皆の視線は二人に向くが、万丈はまるで気にした様子もなく、問いかける。

 

「ここ、いいか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 特に気にしたげもなく、芽吹がさらりと答える。

 言葉に甘えるように万丈が席に着き、次いで戦兎も席に着く。

 

「ごめんな、急に俺たちが入り込んで」

 

 了承は得られたとはいえ、一応謝っておく。

 

「いえ、大丈夫です。機会を窺って、先生とは話したいと思っていたので」

 

 先生? 戦兎の聞き慣れない単語が、芽吹から飛び出す。

 

「えっと……先生って呼ばれるのは慣れないから、できれば別な呼び方がいいんだけど……」

 

 ぞわぞわする感じは、呼ばれていて心地よいものではない。

 いきなり訂正を求めるのは変だが、こればかりは戦兎も看過できない。

 

「じゃあ、桐生さん?」

 

「……それはそれで別な人な気がするから、下の名前で気軽に読んで欲しいかな?」

 

「……戦兎さん?」

 

「あ、うん。それで頼むよ」

 

 前々から、皆には下の名前で呼ばれ続けたので、やはり自分にはそっちが合っていると確信する戦兎。

 と、目の前でうどんを啜っていた万丈が唐突に言った。

 

「あ、俺はどっちでもいいからな」

 

 言い終えて、またうどんを啜り始める万丈、

 お陰で微妙な空気の出来上がりである。

 

「……いただきます」

 

 仕方がないので、戦兎もうどんを啜り始めることにした。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「ところで、お二人はお昼にうどんを選ばれたのですね」

 

 二人がうどんを半分ほど啜った頃、隣に座る亜耶がふとそんなことを言った。

 

「ああ、ここ香川だし……とりあえずうどんだろって、なあ万丈?」

 

「おう、なんかスッゲェもちもちしてんのな。食うの大変だわ」

 

 うどん県とも名高い香川のうどん。

 感想としては微妙だが、自らの生まれ故郷の味を褒められたことに、気を良くする芽吹。

 

「いいですよね、うどん。美味しいし、栄養もちゃんとあって……私は毎日食べてます」

 

 意図せず饒舌に語るが、戦兎からの反応は微妙だった。

 

「うーん。毎日でも食べてると……結局小麦粉が元で炭水化物の塊だからな。糖尿病になるかもだから、控えた方がいいと思うんだけどな」

 

 戦兎の発言に悪気はなく、単に体調を心配しての言葉なのは伝わるが、それを聞いた夕海子が張り合うように声を上げる。

 

「そうですわ! その点、カツオは高たんぱくで低肥質! おまけに高ビタミン! 更に青魚特有のEPAやDHAのお陰で健康にうってつけなんですのよ!」

 

 だが、戦兎は夕海子の発言に対しても微妙な反応を見せる。

 

「いや、カツオって意外と尿酸の元になるプリン体が多く含まれてるから……気をつけないと尿管結石とか痛風に――」

 

「戦兎さんはどちらの味方ですの!」

 

 戦兎が言い切るよりも、夕海子が声を荒げる方が早かった。

 

「いや、味方っていうか……科学者として健康科学についての知識も一応入れてるだけって言うか……」

 

「……そうですか」

 

 どうにか夕海子を宥める戦兎。

 すると、やり取りから雀が戦兎に質問する。

 

「へえ、戦兎さんは科学者なんですか~……?」

 

「一応な、だから装備も自分で作ったりしてる」

 

 戦兎は簡潔に答えるが、更に雀は質問を重ねる。

 

「……装備って、あの仮面ライダー?」

 

「そう、仮面ライダー。俺がビルドで、万丈が――」

 

「クローズだ」

 

 言いながら、箸でうどんを持ち上げる万丈。

 すぐさま「行儀悪いぞ」と戦兎からの突っ込みが入り、持ち上げたうどんを啜る万丈。

 

「その、仮面ライダーって何なんですか? 私たち……聞いたこともない」

 

「確かに、新戦力と聞かされましたが、事前に何の通知もなかったのは気になりますわね……」

 

 芽吹と夕海子が揃って疑問の声を上げる。

 

「……言って、いいのかな? 俺たちは、俗にいう異世界から来たんだ」

 

「「え!?」」

 

「異世界……?」

 

 異世界――聞き慣れない単語だ。皆に衝撃が走る。 

 

「そう、異世界。俺たちの世界は炎に包まれちゃいない、平和な世界だ……」

 

「…………」

 

 戦兎が話す中、万丈は一瞬微妙な顔をするが、すぐに飲み下したのかまたちゅるちゅるとうどんを啜り始める。

 対し、芽吹は数上がる疑問のうちから最も気になる一つを戦兎にぶつける。

 

「平和なら……なんで、仮面ライダーなんて力が……?」

 

「……色々あったんだよ、世界すら創り変えなきゃならないほどのことが」

 

「「……?」」

 

 戦兎の答えに、万丈を除く全員が首を傾げる。

 どういう意味かと問うても、それ以上の答えはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、お二人はご出身はどちらなのですか?」

 

 皆が食事を終える頃、そんなことを聞くのはまたしても亜耶だった。

 

「ん、俺は横浜だな」

 

「……俺は、東京だな」

 

 当たり前だが、世界が違えば出身も芽吹らには馴染みない場所となる。

 しかも、場所が四国にしか馴染みのない芽吹達でも知っているような大都会となれば、興味の話題は全てそちらに行く。

 

「東京……横浜、凄い大都会じゃないですか!?」

 

「東京といえば原宿、横浜といえばハマトラ……どれも若者たちのファッションの聖地ではありませんか!」

 

 夕海子が叫ぶ。

 その迫力に皆からも思わず「おお……!」と感嘆の声が漏れる。が、二人の方の反応は芳しくない。

 

「なあ、戦兎……ハマトラってなんだ?」

 

 耳打ちするように、万丈が戦兎に問いかけるのだが、声が大きく漏れ聞こえる。

 

「確か、横浜トラディショナルの和製英語で1970年代後半から80年代の前半の、ごくわずかな期間流行したファッションのスタイルだ。詳しくは知らない」

 

「ずいぶん前だな……」

 

 この時点で、流行遅れを知った夕海子の耳は赤い。

 

「ああ、でもこの子たちからしたら、300年前も330年前もそう変わらないんだろ」

 

「そういうもんか?」

 

「俺たちだって、1600年と1700年で何が違うかって言われたら答え辛いだろ……多分、そんな感じだ」

 

「そういうもんか」

 

 万丈が納得した頃、誤った知識を堂々宣言した夕海子はというと……穴があったら入りたいという諺をご存じだろうか?

 

「そ、そう言えば、皆さんはご出身はどちらでしょうか?」

 

 取り繕うように、問いかけてくる夕海子。

 流石に可哀想なので、芽吹は夕海子の問いかけに答えてやることにする

 

「えっと……私と亜耶ちゃんが香川出身で、弥勒さんは高知、雀は愛媛だったわね?」

 

 確認するように芽吹が問えば、雀はデザートのミカンを摘まみながら答える。

 

「そうそう、私の地元のオレンジジュース、おいしいから皆に飲ませてあげたいよ」

 

「あら、わたくしの地元のカツオも負けませんわよ」

 

「香川だって負けませんよ、うどんはもちろん、高級砂糖『和三盆』や骨付鶏が有名ですね」

 

 そうして、各々が自身のご当地自慢をする中、戦兎はふと首を傾げた。

 

「えっと……東京のご当地って、何だ?」

 

「なんか色々なんでもあるよな」

 

「だよなぁ……横浜は?」

 

「中華街だろ」

 

「あ、そっか」

 

 二人のやり取りを聞き、亜耶が憧憬のように言う。

 

「いいですね、中華……お役目が落ち着いたら、皆で食べてみたいです」

 

「それは名案ですわね、国土さん。高知に弥勒家行きつけの店がありますから、いつか皆さんで行きましょう」

 

 賛成するように夕海子が言う。

 だが、亜耶は巫女だ。巫女は大赦の厳しい管理下に置かれるという。一般人との接触は固く禁じられ、家族と会うことすらも制限される。神樹の信託を受けるという世界の存続に関わる役目を持つが故に、必然的に世界の真実を知ってしまうためだ。

 

「……いいですね、楽しそうです」

 

 微笑む亜耶の表情が硬いのは、気のせいではないだろう。

 誰しもがそれに気づき、言葉を詰まらせる。

 そんな空気を払拭すべく、夕海子は今までだんまりだったしずくに声を掛けた。

 

「――ところで、山伏しずくさん! あなたのご出身は?」

 

 訊かれたしずくは首を傾げる。どうやら自分に話しかけられたと理解するのに時間を使っているようだ。

 やがて、処理が終わったようで、ぽつりと囁くように答えた。

 

「……徳島」

 

 答えに、夕海子はさらに質問をする。

 

「ずっと徳島に?」

 

 質問にしずくはふるふると首を横に振る。

 

「小学校は神樹館」

 

 それを聞い亜耶が目を丸くする。

 

「神樹館ですか! ……確か、二年前には神樹館の生徒の中に先代の勇者様がいたはずです。しずく先輩は勇者様と年も一緒ですし……もしかして知り合いだったんじゃないですか」

 

 今度は、しずくは首を縦に振る。

 

「隣のクラス。だったから」

 

 へえ……と皆が溢す中、万丈が声を上げる。

 

「……なあ、勇者って何なんだ? 防人とは違うのか」

 

 その問いに、固まる空気。

 主にその発生源は芽吹だが、本人は自覚なく、だが確実に硬い声で答えを返す。

 

「違います」

 

 答える中で芽吹は自身の中の怒りの感情を自覚する。

 

「勇者は、私たち防人とは格が違う。勇者は強くて、防人は弱い。力の質が違うんです」

 

 なぜ選ばれなかった。なぜ自分ではないのか。

 努力も鍛錬も、人一倍にしてきた。いや、今もしている。周囲を斬り捨て、甘さを捨て、己を磨き続けているというのに。

 だから、認めさせる大人たちに――大赦に。自分という存在の価値を。

 

「…………」

 

 そんな芽吹を、万丈は痛ましげに見る。

 

「力、か……」

 

 そして戦兎は、芽吹の中の怒りを見透かすかのようにそう漏らした。

 

「……なにか?」

 

 芽吹は問う。

 ――彼ら、仮面ライダーの力は凄まじい。そんな力を持つ二人の答えが聞きたかったのだ。

 

「力は人に認めてもらうために求めるものじゃない」

 

 芽吹を優しく見つめ、語る戦兎の声音は優しかった。

 かつ、絶対的な揺らがぬ意思をもつ声でもあった。

 

「力ってのは、ラブ&ピースの為にあるべきなんだ」

 

 ――その言葉の意味は、芽吹にはわからなかった。




わかりずらい感じに剣ネタを交える作者であった……



あ、次回は真面目に戦闘シーン書きます(予定)


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絶望のフロントライン

戦闘描写は苦手……あ、どうも皆さんお久しぶりです。

二ヵ月ぶりでしょうか? 早いもんです時の流れとは……そんな私は受験生なので受験勉強してました。
が、少しずつ書いてたら投稿できるだけ溜まったので投下します。



あ、最近、知り合いの作品の監修やってます。
パラドファンさんの《仮面ライダーエグゼイド Fatal Death Game SAO》という作品です。
最新話では後書きに僕のSSも載せて貰っているので、良ければ読んでみてください。


 結界の外、太陽コロナを思わせる炎が噴き出す焼け爛れた台地を防人の少女らと、既に変身済みの戦兎と万丈の二人が進む。

 本日の任務は、元『中国地方』に赴き土壌の採取と状態観測となっている。

 

「ここが日本な……焼けちまって、何もわかんねェ」

 

「神の力は偉大だな」

 

 呆然とする万丈に適当に返しつつ、戦兎は自らの知識を持って外の大地の状態を分析する。

 焼け爛れた大地は単純に焼けているわけではなさそうだ。元瀬戸内海であろう今歩く大地は多少の高低差あれど平坦な道と化しているのだから、元の大地に新たに焼けた大地が上書きされているのだろう。

 

「……本当に、神の力は偉大だ」

 

 通常では決してあり得ぬ現象、それを三百年間も絶やさず行っているというのだから。

 皮肉交じりに、戦兎はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 道中半分を進んだところで、星屑たちが戦兎たちを感知し襲い掛かってきた。

 防人の少女らは芽吹の指示で防御を固め、遊撃の戦兎と万丈が前に出る。

 

『ニンジャ!』

 

『ガトリング!』

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ」

 

 掛け声とともに、忍者ガトリングフォームに変身した戦兎。

 右手に逆手で短刀『四コマ忍法刀』を装備し、左手に小型機関銃『ホークガトリンガー』を構え、防人の少女らに迫る星屑に向けて突撃する。

 

「ハアッ!」

 

 遠い敵はホークガトリンガーで撃ち抜き、近く寄る敵は四コマ忍法刀で斬り刻む。

 と、弾が炸裂し生まれた爆炎の中から、他よりも若干大型の星屑が戦兎に向かい突撃してきた。

 

『20!』

 

 急ぎリボルバーを回転させ、それを撃ち込む。

 しかし、それだけでは醜悪なその体を打ち砕くことは出来ず、戦兎は四コマ忍法刀のトリガーを引く。

 

『風遁の術!』

 

 星屑が喰らいつく間近まで近づいた時、戦兎は再度トリガーを引く。

 

『竜巻斬り!』

 

 発生した竜巻は星屑を、大地の炎も巻き込んで巨大化。

 大型個体とともに複数体の星屑も砕いた。

 

「俺も負けてらんねェ!」

 

 戦兎が声の方を向くと、同じく大型個体と相対する万丈の姿が見えた。

 援護に向かおうとするが、既に万丈はビートクローザーの下部トリガーに手をかけていた。

 

『ヒッパレ―!』

 

『スマッシュヒット!』

 

 一刀両断。見事大型個体を切り裂いた万丈は、更に星屑を切り裂いていく。

 

「……俺も負けてらんないな」

 

 そんな万丈を見て、奮起した戦兎はボトルを振るう。

 

『ハチ!』

 

『潜水艦!』

 

『ベストマッチ!』

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ」

 

『深海の仕事人! ハチマリン! イェーイ!』

 

 音声とともに、ハチマリンフォームに変身した戦兎。

 迫る星屑に、次々と右手人差し指の針を突き刺していく。更に迫る星屑には、左手から放たれる魚雷を模したミサイルをお見舞いする。

 

『ヒッパレー! ヒッパレー!』

 

『ミリオンヒット!』

 

「いっくぜェ!」

 

 万丈も、戦兎と共に防人の少女らに群がろうとする星屑の一群を切り裂いていく。

 と、防人の少女たちから悲鳴が上がる。振り向けば、迫る巨大個体への応戦に苦労しているようだった。

 

「まずっ!?」

 

『タートル!』

 

『ダイヤモンド!』

 

『Are You Ready?』

 

 

 取り急ぎ、タートルダイヤモンドフォームに変身した戦兎。

 護盾隊の少女らを庇い立つように前に躍り出て、攻撃を一身に受ける。

 

「まじッ!?」

 

 遅れて気付いた万丈が焦りの声とともに飛び込んでくる。

 

『スペシャルチューン!』

 

『ヒッパレー! ヒッパレー! ヒッパレー!』

 

『メガスラッシュ!』

 

「オラァ!!」

 

 蒼炎を纏わせた剣で、戦兎を襲う巨大個体複数を焼き払う万丈。

 衝撃から解放された戦兎が防御姿勢を解くと、今度は空高くから星屑たちが急降下して接近してきた。

 

『フェニックス!』

 

『ロボット!』

 

『ベストマッチ!』

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

『不死身の兵器! フェニックスロボ! イェーイ!』

 

 空から襲う星屑の始末のため、フェニックスロボフォームに変身した戦兎。

 すぐさまレバーを回し、その身体を炎の不死鳥へと変える。

 

『Ready Go!』

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

 戦兎が姿を変えた不死鳥は縦横無尽に空を駆け、空漂う星屑を一掃する。

 やがて空中で姿を戻した戦兎は、重力に身を任せながら炭酸飲料の缶を模した機械を振る。

 

「これでフィニッシュだ!」

 

 掛け声とともに、機械をドライバーに挿入し、レバーを回す。

 

『ラビットタンクスパークリング!』

 

『Are You Ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

 通常とは異なる形状のライドビルダーが戦兎を包む。

 

『シュワッと弾ける! ラビットタンクスパークリング! イェイ! イェーイ!』

 

 ラビットタンクの強化形態、ラビットタンクスパークリングフォームへと強化変身を果たした戦兎。

 

「勝利の法則は、決まった!」

 

 ポーズの後、左足に力を貯める。

 それを一気に開放し、空中を蹴り上がって、レバーを回す。

 

「負ける気がしねェ!!」

 

 下の方から、そんな叫びが聞こえた。

 と、スペック差で隣に並ぶはずのない万丈のグレートクローズが空を飛ぶ戦兎の隣に並んだ。流石は筋肉バカ、といったところか。

 

『『Ready Go!』』

 

『スパークリングフィニッシュ!』

 

「いっけー!!」

 

 戦兎が叫ぶ。

 

『グレートドラゴニックフィニッシュ!』

 

「オラァ!!」

 

 万丈が吼える。

 そして、発砲と蒼炎が星屑たちにぶつかり、その大群を一気に殲滅してのける。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「……すごいわね、あの二人」

 

 芽吹が星屑を怒涛の勢いで倒していく戦兎と万丈の二人を見て、呆然と漏らした。

 あれなら、バーテックスが出てきても問題ないかもしれない。そう思わせるほどには、二人の勢いは凄まじかった。

 そんな二人の活躍により、維持が容易となった防人側。動きのない戦場に、夕海子は叫んだ。

 

「わたくしたちも負けてられませんわ! 弥勒家の再興のためにも、一体でも多く星屑を……!!」

 

「弥勒さん! 無闇に戦火を広げない!」

 

 今にも敵に突撃しそうな夕海子に、芽吹は釘を刺す。

 

「……わかってますわ!」

 

 渋々と、夕海子が銃を収める。

 

「いっぱい来るよぉぉぉ――!! 助けてメブ~~~!!」

 

 と、今度は雀が涙交じりの悲鳴を上げた。

 またか、と芽吹は思うが、実際に迫る星屑の数は多く、すぐさま指示を隊に飛ばす。

 

「銃剣隊! 三十秒間、偶数番号も加わって一斉射!」

 

 芽吹自身も加わった、防人の全火力。

 流石に伊達ではなく、十体を超える星屑も一瞬で砕けた。

 

「偶数番号は引き続き射撃を継続! 奇数番号は一旦引いて次に備えて!」

 

 前回の経験を生かした、力のない量産型の防人らしい戦法。

 

(あの二人がいたのが幸いだったわね……)

 

 今回、芽吹らを襲ったのは前回の調査時を遥かに越す物量の星屑たち。

 バーテックスと呼ばれる星屑の進化体が現れなかっただけマシと言えるが、それでも戦兎と万丈の二人がいなければ全滅していただろう。

 

 

 

 

 

 結界外での行動を開始して早一時間。

 星屑たちの妨害を躱し、どうにか目標地点である元中国地方にたどり着いた防人一行は土壌の採取作業に入っていた。

 その最中にも星屑たちは次々と襲い掛かってくるのだが、対応にも慣れたのか戦兎と万丈の二人は戦いながらやり取りをするまでになっていた。

 

「……ここが岡山か、お好み焼き食えなくなっちまったじゃねーか……」

 

 言いながら、蒼炎を纏わせた拳で星屑を屠る万丈。

 

「それ広島な」

 

 答えるのは、発砲で威力を増した拳で星屑を屠る戦兎。

 

「え?」

 

「岡山は、焼きそばとかが美味いんだよ」

 

「ほーん」

 

 相変わらず調子の崩れる、二人のやり取り。

 それを余所に、土壌の採取作業は続いていく。

 

 

 

 

 

「撤退開始!」

 

 土壌の採取が十分に終わり、芽吹の号令で後退を始める防人一行。

 が、星屑らは依然として襲い掛かってくる。

 

「大分倒したから、帰りは無事で……とはいかないのか」

 

 戦兎のため息交じりの声が聞こえてくる。

 その声には行きでの戦闘での疲労がにじみ出ていた。

 

「あのくらいの数なら、私たちでも十分対応できるので、お二人は一度下がって休んでてください」

 

 芽吹がそう言うと、戦兎からは息を呑む気配が見えたが暫くして――

 

「……わかった、任せるよ」

 

 と、今度は万丈が抗議の声を上げた。

 

「んだよ、俺はまだやれるぞ」

 

「万丈、お前足ガクガクだぞ」

 

 冷静に万丈に返す戦兎。

 確かに、見てみれば目に見えるほどに足を震わせていた。

 

「マジかよ!?」

 

 だが、当人は戦闘での高揚からか気付いていなかったようで、相当に間抜けな声を上げている。

 

「……ホントだ」

 

「しっかりしてくれよな……」

 

 その通りである――芽吹は思った。

 以後、戦兎と万丈という戦力を欠いたまま後退を続ける防人たち。

 

「ぜぇー、はぁー、ぜぇー……ふふふ、今回の御役目も。実に簡単でしたわ! 余りにも歯ごたえが無さすぎて、ふぅ、ふぅ、居眠りするところでした……」

 

 余裕、と宣う夕海子。だが、言葉の調子からもわかる通りフラフラだし、防人の防護服の所々は星屑の攻撃で切り裂かれたのか、薄く裂けた皮膚までを炎の台地に晒している。

 

「一応突っ込ませてもらうんだけど……すごい息切れしてるし、傷だら――」

 

 流石に何か言わざるを得なかったのだろう。雀が呆れたように苦言を呈すが、夕海子はニコリと笑む。

 

「雀さん? これ以上言うならあなたの眉毛を千本ほど抜いて、面白い顔にして差し上げますわよ!」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

 と、そんなやり取りの裏。万丈は戦兎に問うた。

 

「ん? なァ戦兎、眉毛って千本もあんのか?」

 

「物の例えだろが……」

 

 吐き捨てつつ、そろそろ戦線に加わるかと戦兎。

 前線では、防人の少女たちが後退を続けながらも迫る星屑たちにあくせくしていた。

 

「じゃ、次はこのボトルで――」

 

 と、雀が唐突に叫び出した。

 

「ああああ!!」

 

「雀、今度は何!?」

 

「あれ! なんか……なんかいっぱい集まってるよぉぉぉ!」

 

 雀の絶叫に、皆彼女が指さす方を見る。

 すると、少し離れた地点の空で星屑たちが融合していく姿が確認できた。

 

「あれは……」

 

「あれは『成りかけ』、バーテックス完全体ではないですが形状から見て、そうかと」

 

「あれがか……」

 

 それは神官から聞かされていた現象の一つだ。

 星屑が集合し、生み出される異形《バーテックス》の文字通り『成りかけ』。それでも星屑の巨大個体と比べれば圧倒的であり、その差は歴然だ。

 

「殺されるううう!! 助けてメブぅぅぅ!! ああ、お父さんお母さん先立つ不孝をお許しくださいぃぃぃ!!」

 

 そんな『成りかけ』が、防人の少女らに襲い掛かる。

 

「くそっ!!」

 

 舌打ち混じりに戦兎はラビットタンクスパークリングを装填する。

 

『ラビットタンクスパークリング! イェイイェーイ!』

 

 強化変身を果たした戦兎は、すぐさまカイゾクハッシャーを構える。

 

『各駅電車 急行電車 快速電車……』

 

 エネルギーが溜まるまでの時間が惜しい。

 その間にも、成りかけは少女たちに襲い掛かる。

 

『海賊電車』

 

 チャージが完了し、戦兎はトリガーを離す。

 

『発車!』

 

 列車上のエネルギーが解き放たれ、成りかけに向かい超快速で迫る。だが――

 

「――っ!?」

 

 成りかけの巨体は怯んだ様子すらなく、エネルギーはぐにゃりと歪む醜悪な外郭に飲み込まれる。

 

「嘘だろ……」

 

 その様子には、思わず駆けていた戦兎も足を止める。

 が、成りかけは戦兎らに与えた衝撃に構うこともなく、少女らに向けて突貫する。

 

「きゃああっ!」

 

 上がる叫び声。

 戦意などとうに失せ、腰を抜かす者、失禁する者、泣き出す者……戦線はガタガタだ。

 星屑は我先にと少女たちに群がり、成りかけは僅かでも立ち向かう少女たちの戦意を削いでいく。それでも――

 

「死なせない!!」

 

 戦兎は叫ぶ。死なせないと誓ったから。

 だが、無慈悲にも成りかけは攻め手を緩めない。そして、目という器官があるかは不明なれどその巨体は、偶然防人たちの最後尾にいたしずくを捉えた。

 

「…………死ぬ?」

 

 ごく自然に、しずくの口からそんな言葉が漏れた。

 死ぬのは嫌だ。

 あの日、祭壇に横たわる冷たい骸となった少女を見たから。献花した際に見た少女の身体は、清められてはいたが所々擦り傷だらけで右腕は欠損していた。御役目で死んだと聞かされた。それが名誉なことだということも。では、名誉とはなんだ。死んでから与えられる名誉に何の価値があるのか。もう彼女は帰ってこない。空席となった机。そこに彼女がいた証として置かれた花束。それでも、もう彼女の名は呼ばれることはない。底抜けに明るかった少女。みんなの中心にいた、憧れだった少女。

 嫌だ。

 死ぬなんて嫌だ。そもそも、死ぬって何だ?

 迫りくる死に、しずくは――

 

 

 

 




本編でやったらスーツの用意どうなるのというレベルの変身劇だった……


一応、流用すればどうにかなるんでしょうけどね。
ビルドはスーツの改造・流用が結構多かったので、例えばクローズビルドはトラユーフォーの素体流用だったり、ブラッドのマスクはハザードの流用でとか、
特に、トライアルは一個か二個かの頭部を都度塗り直してたとか


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パーソナリティの狭間で

はいどうも、またまたひと月弱開きましたね……アルクトスです。

ここのところは受験勉強等々、毎日死に物狂いですが息抜きに買いてた分が溜まりましたので、ここで一気に投下させていただきます。
多分、この先は向こう三か月は音信不通となりますが……まぁ、失踪はしません(多分)


 喰われた。

 少女はいとも容易く、喰われ、そして呑み込まれた。

 

「しずく――――っ!!」

 

 芽吹の絶叫が響き渡る。

 戦兎と万丈が救出の為に急ぐ。

 

「くっそぉぉぉ!!」

 

「間に合えっ!!」

 

 吼える――と、突如と銃声が鳴り響いた。

 

「なっ!?」

 

 銃声は成りかけの内部から発せられている。戦兎の驚きはそのためだ。

 鳴り響く銃声とともに、成りかけの身体が内から弾ける。

 

「んだよ!? アレ……」

 

 さらに、成りかけの身体が内部より裂かれる。

 そしてその裂け目から、銃剣を携えた少女が肉を掻き分けるようにして飛び出す。

 

「だあああああ!」

 

 しずくだった。

 安堵の息を吐く、戦兎らだがどうにもしずくの様子がおかしい。

 

「うらああああああ!! このデカブツが、なますにしてやるぁぁぁっ!!」

 

 普段の様子と打って変わり、吼えるしずく。

 成りかけに飛びかかると、銃剣を容赦なく化け物の巨体に突き刺し、引き金を引く。そしてそのまま、剣を横に薙ぐ。

 それを、幾度と繰り返す――突き刺し、撃ち、引き裂く。

 化け物は、あっという間にしずくによって打ち倒され、その姿を天に還した。

 

「ダ……誰デスカ、アレ?」

 

 文字通りの蹂躙を見せたしずくに、雀は恐怖を隠さずガタガタと震えた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 壁外調査が終わった。

 犠牲者はなく、重傷を負う者もなく、結果だけを見れば十分なものだった。

 とはいえ、少女たちの精神ダメージを考慮した上でみると、如何ともしがたいのが事実で、戦兎と万丈はみんなの様子を見るために少女たちの多くが集まる食堂に顔を出した。

 その中の一つのテーブル。雀としずく、二人の座するテーブルを見ると、どうやら怯えながらも雀がしずくに話しかけようとしている様子だった。

 

「なんだよ、ガン飛ばしてきやがって!」

 

 しばらく見ていると、戦兎の視線に気がついたか、しずくが眼光鋭く睨み返してくる。

 

「……ああ、悪い」

 

 そう返すと、戦兎は万丈を引っ張り食堂を出る。

 

「なんだよ、アレ……メッチャ怖ェ」

 

 万丈がそう漏らす。

 無理もない。あの静かな少女が、あんなドスの利いた声を出すとは誰も思わない。

 

「――桐生さん、万丈さん」

 

 平坦な声が二人を呼ぶ。

 振り返れば、そこにいたのは防人の少女らの世話係であるらしい仮面を付けた感情の読めない女性の神官。

 

「報告は、また後日のはずでは?」

 

 戦兎らには防人たちとは別で任務毎に報告が義務付けられたりしているが、それは書類上のことで期限も二日後だ。

 

「……いえ、お二方に伝えておきたいことがありまして」

 

 声の調子から同年代、のはずなのだが畏まった口調なのは戦兎らが防人の支援者だからだろうか。

 女性神官は一拍置くと、語り始めた。

 

「あれは山伏しずくのもう一つの人格です」

 

「……二重人格」

 

「おん?」

 

 頷く戦兎と、首を傾げる万丈。

 女性神官は早々に万丈に対しての説明を放棄し、戦兎に向けての説明を始める。

 

「はい。本来の山伏さんは自我さえ希薄に思えるような静かな性格ですが、その内側に別の人格を宿しています。粗暴で、荒々しく、そして強い。普段の彼女とは正反対です。追い詰められたりした拍子に、それが出てくるようですね」

 

「彼女が『九』の番号を与えられているのはそういう訳か……」

 

 防人は強さ順で番号の若さが決まるらしい。

 一から八が指揮官で、それ以下の三十二までがそれぞれ銃剣隊と護盾隊となる。

 九というのは、指揮官を除いた最上位の強さということだ。

 

「あの状態の山伏さんは、個人としての戦闘能力は突出していますから。恐らく、筋力等の条件が同じならば楠さんすらも凌駕するほどに」

 

「でも、防人に必要な連携が全くできない……と?」

 

 今回全員が無事に生き延びれたのは、間違いなくもう一人のしずくによる功績が大きい。彼女がいなければ、最低でも何人もの負傷者を出していただろう。

 しかし、彼女は成りかけ個体を倒した後は好き勝手に、隊長である芽吹の指示も効かずに好き勝手に星屑たちと戦っていた。

 その様子は、まるで――

 

「……少し、彼女と話してみますよ」

 

「よろしくお願いします」

 

 最後にそう告げると、女性神官はその場を立ち去った。

 残ったのは、どう話しかけたものかと悩む戦兎と、変わらず首を傾げる万丈の姿。

 

 

 

 

 

「なんだよ、お前、怯えたツラしやがって!」

 

「ひぃ! し、シズク様、お許しを~!」

 

 戦兎が食堂に戻ると、二人はまだやり取りを続けていた。

 雀なりにシズクとコミュニケーションを取ろうとしているのだろうか。

 

「……今、いいかな?」

 

 そこに割り入る形で、戦兎は声を掛けた。

 

「あ、俺か?」

 

 睨むしずく。億すことなく、戦兎は真っすぐその目を見据える。

 

「ああ、君だ」

 

 しずくは暫し考える様子を見せるが、すぐに考えを決したのか答えた。

 

「……いいぜ、ここじゃ話せないことか?」

 

「そうだな……屋上にでも行こうか」

 

「わかった」

 

 そうして、立ち上がったしずくを伴い、戦兎はゴールドタワー屋上へと向かう。

 

 

 

 

 

 潮風靡くゴールドタワーの屋上。

 秋深まる中、空は赤く染まり、少し肌寒くあるので手短に済ませようと戦兎があれこれと考える中、しずくの方が先に問うてきた。

 

「で、俺に話って、一体何の用だ?」

 

「そうだな……」

 

「決めてなかったのかよ!」

 

 そういうわけではなかったのだが、戦兎はぼやきつつも会話を切り出した。

 

「……そうだな。君は勇者の同輩だったんだろ? 彼女たちのことを聞いてもいいかな?」

 

「勇者……? どういうことだ?」

 

「それは――」

 

 問われ、戦兎はどう説明しているかと言い淀んでいると、しずくがやがて納得したように手を上げた。

 

「いや、言わなくていい。あの野郎……楠のことだろ?」

 

 存外、彼女は鋭い方のようだ。

 

「…………」

 

 戦兎は無言でもって肯定を示すと、しずくはぽつぽつと語りだした。

 

「アイツは、ただのガキだ。他人の芝生を眺めてヨダレ垂らしてるガキだよ」

 

 吐き捨てるように言い切るしずくに、戦兎は問う。

 

「その心は?」

 

 すると、しずくはどこか遠く……憧憬のような表情を見せる。

 

「俺は二年前、隣のクラスだったけどよ。勇者ってやつを間近で見てた。その一人が死んだ姿だって見てきた」

 

「っ!?」

 

 死――その言葉に、戦兎は思わず反応するが、そこは自重する。

 

「っても、俺はあいつらが勇者として戦ってるところは見ちゃいねぇ。何やってるかも知らなかったしな。俺が知ってるのは、普段の学校での姿だけだ」

 

 しずくは笑う。

 

「あいつら変な奴だったからな。隣のクラスの俺でも知ってるくらいだ」

 

 昔を懐かしむような、小さな笑いだ。

 

「鷲尾須美って奴がいた。クソ真面目で、色々不器用な奴だったが、ダチ思いなのは見てて分かった」

 

 しずくは笑う。遠くを見つめて―― 

 

「乃木園子って奴がいた。マイペースでずっと寝てるくせに、本気を出せば何でもできちまう奴だった。本気になんのは、ダチに関してのことだったがな」

 

 しずくは微笑む。その眼に影を落としながら――

 

「……三ノ輪銀って奴がいた。コイツは落ち着きがねえトラブルメーカーって感じだったが、他人やダチのことをよく気遣ってる奴だった」

 

 しずくは息を呑む。まるで感情を収めるように――

 

「コイツが、逝っちまった勇者だよ。今ならわかる。多分……他の二人を守って、死んじまったんだ」

 

 語るしずくの、その眼は悲しみに満ちていた。

 

「気さくで明るくて誰とでも仲良くなれて、ダチ思いで家族思いで……昔しずくが声掛けに行った時も、ダチみたいに話してくれた」

 

 語るしずくの、その声は嬉しさに溢れていた。

 

「全員……ただ、ほんのちょっと気高い精神を持ってるだけの普通の子どもだった」

 

 空を見上げ、しずくは誇るように言った。

 

「カッコよかった」

 

 しずくは今一度笑う。

 

「尊かった……」

 

 ふと、しずくの手元を見るとその手は強く握り込まれていた。

 

「俺の……いや、俺たちの憧れだった」

 

 憧れを語る、そんなしずくに戦兎も思わず笑む。

 

「……そうか」

 

 その笑みから顔を逸らすように、しずくは戦兎に言う。

 

「アンタも、多分同じタイプだな」

 

「……それは、嬉しい評価だな」

 

 思わぬ高評価に眉を上げる戦兎。

 と、しずくはにやりと悪い笑みを浮かべる。

 

「で、俺に勇者のことを話させて、アンタは楠に何する気だ?」

 

 本当に彼女は聡い。こちらは胸の内などほとんど明かしていないのに。

 だがそれ以上に――戦兎は微笑みかけながら、しずくにふと語り掛けた。

 

「……君は善い人だな。悪ぶりつつも、そうやって人の心配をする」

 

 しずくの語りには、どこか棘はあるものの全てに何かを想う裏がある。

 

「俺が? 善い人とか、気持ち悪いこと言うなよ」

 

 当たりの強い、拒絶を求めるしずくの声。

 

「じゃあ、君は何を基準に善悪を決める?」

 

 対して戦兎の切り返し、しずくには意味が解らない。

 

「あ?」

 

 何故、今そんなことを聞く――言葉にせずとも、それをしずくは態度に込めた。

 

「問いが難しかったか……。じゃあこうだ、君は悪は誰にとっての敵になる思う?」

 

 そんな戦兎の問い直しにも、やはりしずくには意味が解らない。

 

「んだよ、いきなり……そりゃ正義じゃねーの?」

 

 口にするのも恥ずかしいような、俗にいう子供向けの作品で語られる様な陳腐な答え。とは言え、唯一解はこれであろう――そう、吐き捨てるようにしずくは答えた。対して、やはり戦兎は微笑む。

 

「違うな。正義は善の概念じゃない。正しくは悪は善にとっての敵だ」

 

 達観したような表情だ。だが……その意味は解らない。

 しずくは、即座に反じた。

 

「同じだろ、正義も善も」

 

 ただ言い方の違いだ。だが、戦兎も即座に反じてくる。

 

「いや違う。正義は善でもあり悪だ」

 

「……は?」

 

 根本から否定をされ、しずくは顔を歪める。

 対し戦兎は、ふと夕日の方に顔を向けると語りだす。

 

「正義は、それを成そうとする者によって善悪が決まる。だから、たとえ正しい行いをしても、それが犠牲を求めるっていうなら論外だし、悪行でも誰か一人でも救っていれば……救われた人にとっては正義だ」

 

 そう、悪なる行為で救われる者もいる。例えば、記憶を無くし路頭に迷うしかなかった戦兎へエボルトはその名前を付け、一時を家族のように過ごしたこと。

 奴の真意は自らの力の回復で、その為に散々と利用されたが、その点だけ戦兎はエボルトに感謝していた。

 

「…………」

 

 しずくは何も言葉を返せなくなった。

 なるほど、戦兎の考えはわかった――だが、それを今問う理由はやはり解らない。

 そこでしずくは早々に思案を捨てると、改めて戦兎へ向き直る。すると、戦兎の方もそれに気づいたかしずくへと向き直る。そして――

 

「君は、結果的に防人の皆を助けた。誰も近寄らせず、自分の手で」

 

 決定的な言葉を告げた。無自覚に思っていた、しずく当人にすら自覚のない思考を言い当てた。

 

「……アイツらがいたところで、足手纏いの邪魔にしかならないからな」

 

 動揺に、思わずと早口となり言い返すしずくだが、笑む戦兎によってそれは流される。

 

「それは嘘だ。君は暴れまわることで結果的に皆を遠ざけた。邪険にするってなら突き飛ばすなりしてもおかしくないだろうに」

 

 断言だ。思考を許されず、しずくは言葉を紡げなくなる。

 

「っ……それは」

 

 言い淀んだところで、戦兎はさらに微笑んだ。

 

「ほら、善い人だ」

 

 最早反論も返すこともできず、しずくはただ舌打つ。

 

「チッ……俺を褒め殺して、なにさせたいんだよ」

 

 嫌味交じりに放った言葉だったが、どうやら戦兎には実際に何やらしずくに頼みごとがある様子。

 

「強情になってる隊長様に一発かましてもらえないかな~……と」

 

「ふーん」

 

 先ほどまでは見事に言葉で自分を翻弄していたというのに、途端に歯切れの悪くなる戦兎に、思わずしずくはニヤリと笑みを零す。

 

「ダメか?」

 

 その笑みをどう解釈したか、窺うようにしずくに尋ねる戦兎。

 だが、既にしずくの中では答えは決まっている。

 

「いいぜ、一度あいつの鼻を明かしてやりたかったんだ」

 

「……利害の一致だな」

 

 呆れたように返してくる戦兎。

 対してしずくは、先ほどよりも深くニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

「ま、何も言わなくても楠なら俺に絡んできただろ? あいつ、集団行動大好きなお利口さんだからな」

 

「違いない」

 

 互いに苦笑して、その後は二人して靡く潮風に寒い寒いとタワー内に戻っていくのであった。




ゆゆゆい28話はホント衝撃的でしたね……正しく「それ以上言うな!」状態でしたが、これから勇者部はどうなるのか!?

まあ、まじめに言うと多分勇者部内で争いが起こって……千景と雪花は戻りたくない派閥になりそう。杏とか須美とかも、もしかしたら……。
それと、当の本人である銀とかタマっちとかは帰還側だと思う。


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