壊れ狂った不死の英雄 (鬼怒藍落)
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灰の英雄
英雄(化物)の誕生


 

 

 古代の霊廟に一人の化物が生まれた。

 

 いや、生まれたというのは違うな……蘇生したというべきだろう。

 その化物は、朽ち果てた霊廟の捨てられた無残な男の死体の筈だった。

 この時代では人間の命は塵と変わらない。神、幻想種、病魔、天災その全ては等しく人間の命を簡単に奪う事が出来るからだ。この死体も、それに巻き込まれて命を散らせた哀れな者だった。その死体に偶然に宿ったのだ……この時代の物ではない数多の知識と技が。この男の物とは違う、人格と記憶の数々が。

 

 化物はその身に宿った知識で、この時代がいつかを悟って動き出した。何かを求め、探すように……霊廟の中をきょろきょろと化物は見たかと思うと、自分の姿を確認する。

 化物の姿はぼろい布のような衣服を着ていて、燃え尽きた灰色の髪をしている。その体は異常なまでにやせ細っていた。

 

 霊廟を歩いてる化物の中で、ある現象が起こっていた。

 老若男女、すべて違う人格がこの体の主導権を握るために争い始めていたのだ―――そして、その争いに勝利して―――残ったのは、何の変哲のない凡人の人格だった。

 争っていた者達の中には、ありとあらゆる天才がいた。常識的に考えて、凡人が残る訳がないが偶然が重なり、残ってしまったのだ。特に力もなく普通の知識しか持っていなかった男が。

 

 その男を説明するとするならこうだろう。

 会社に勤め、その給料をゲームや漫画ライトノベルに使うといった、特に秀でた所は無くて替えが効く、そんな人間だった。

 

 だが、その争いに勝利した瞬間に、凡人は化け物になった。争いに負けた者達の記憶を吸し、知識を身に着け、技を覚えた。そして、化物の体は、技を使うための強靭な物へと変化する……。

 その変化に戸惑う仕草を見せずに化物―――いや、男と呼ぼう。男はこのウルク霊廟で初めて言葉を発する。

 

「えっと……どういうこと?」

 

 その一言はとても気が抜ける物だった。 

 

 

 ◇◇◇

 

 気が付いたら見知らぬ霊廟に居たんだが……これなんのファンタジー? それが今の俺の心境だった。

 そんなことを考えた直後に、俺は違和感を覚える。今まで俺が持っていなかったはずの知識があったのだ。この場所のどこかという事や、戦い方とか様々な知識が、水のように沸いて来る。

 

 普通に考えたら、こんな量の情報に人間の脳が耐えられるわけでもないはずなのに……不思議と、この知識全てをまとめる事が出来た。この場所は俺のいた時代の遥か過去の紀元前2600年前ほどらしい。それだけじゃ元々いた世界からタイムスリップしたかと思ったが、俺の中に元々なかったはずのある知識が、この世界がどういう世界かを教えてくれた。その知識とは、魔術の知識だ。

 

 魔術とはそもそも型月作品に存在する概念のはずだ。

 魔術は一般的に、魔力を用いて人為的に神秘・奇跡を再現する術の総称。使用するためには自信に宿る魔力を消費する必要がある。

 簡単に言うと等価交換というやつだ。

 自身の魔力である有から有を持ってくるのであって、無から有は作れず、出来る事を起こすのであって、出来ない事は起こせない

 これを聞くと魔法じゃね? とか思われるかもしれないが魔術と魔法は違う。

 この二つの違いを説明するとしたら、こうだろう。その時代の文明の力で再現できる奇跡かどうかである。

 例えるとするなら、俺の元居た筈の時代なら火をおこすなんてことは、ライターなどを使えば簡単に起こせるのだが。魔術でこれを起こすとなると。魔術回路を起動し、魔力を消費する→火が起こる。みたいに少々めんどくさい。魔術とは方法は違えど現代の文明の力で十分に、再現できるものとされている。

 魔術は俺の世界には多分だが存在しなかった物の筈だし、そんなものが有るという事はこの世界は、型月世界という事だろう……合ってるよな? こんなにドヤ顔で解説してあってなかったなどと考えると、恥ずかしくて死にたくなる。

 

 そもそも、何で俺はここに居るんだ? 俺は今更そんなことを考えた。だって、そうだろう? 目が覚めた瞬間に霊廟に居るという事も謎だが、まず霊廟って理解できた理由も分からないし……よく考えたら自分の名前すら思い出せない。何だこの致命的な状況……笑うしかないよなーコレ。

 名前分からない、霊廟とだけ理解できるが場所不明、体は別人、知識いっぱい、技を沢山覚えている、多分型月世界。改めて、自分の状況を確認してみたけど……なんだこれ? 絶望的だし、分からないこといっぱいだし……。

 本当に何だこれ。

 

 そんなことを考え続ける俺は……考える事がめんどくさくなって、一先ずこの霊廟から出る事にしたんだが……今ってさ紀元前三千年前ごろって事は……神秘いっぱい夢いっぱいの神代って事だよな?

 ……やばくね? こんな人間の貧弱ボデーじゃ、簡単に殺される未来が見えるし。何故か覚えている技とかって基本、人間用だ。

 この時代に居るモンスターとかに太刀打ちできる未来が見えない。せめて武器があればいいが……ここにあるのは石とか蔓とか白骨死体だけだ……これでどうしろと?

 ここからでればモンスターパラダイス。ここにいれば餓死まっしぐら。まさに、これこそ絶望的な状況というやつだ。

 ははは……笑えるな、これ……。

 うん、こういう時はポジティブに行こうか。もしかしたら食料とか武器が探索すればあるかもしれないし、希望を捨ててはいけない。

 

 そうして俺はこの場所を体感一時間ぐらい探索した。

 探索して分かった事は……ここまじで何もねぇ――――それだけだった……。

 唯一見つけたのは、漆黒の大鎌だった。これを見つけたのはいい……大鎌ってロマンがあるし、とてもかっこいいから。そして、俺の中にある知識ではこれはかなりの業物のようだ。これなら戦えると確信して俺はこれを持とうとしたんだが……重すぎて無理だった。

 ふざけんなよ! 俺の夢を返せよ! とか俺は何もない霊廟で叫び散らした後、十分程俺は、この大鎌を持つために奮闘してみたが……その場から動かすことさえ出来ずに無駄な時間となった。

 

 そして俺は決めた。

 この場所から出る前に、体を鍛えてこの大鎌を使えるようになると。

 よし、まずはこの中を走り回ろう! そう意気込んだ途端に俺の近くに霊廟の天井の一部が目の前に落ちてきた。少しでも前に居たら俺は潰れていただろう。

 怖かったな。うん――明日から本気出す。そういって俺は寝る事にした。

 その時大鎌が怪しく光った気がした。まるで、俺の事を笑っているように……。




明日は7時と12時ごろに投稿します


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化物は鍛える

今回は少なめですが次回は多くなると思います。


 

 俺は霊廟の中であることを考えていた。それは、今の俺の体のスペックがどれほどのものかという事だ。この体は怪物たちから見たら簡単に壊せるもだが、人間から見たらかなり上位の物だし、既に十分に筋肉がついていて一切の無駄がない。

 

記憶にある数々の人間が作った技を使うために、この体は調整されているという事を俺は気付いていた。

 

だけど、気付いていても実際に試さないと、いったいどこまで出来るのかという事が分からない。もしかしたらこの体はとても脆いかもしれない、筋肉がある反面スタミナが無いのかもしれない。

 そういう不安があるので、体を鍛える前に、自分の限界を知らなければならないのだ……。

 

それを俺は試すべく、限界まで体力を使う事にした。今の俺には武術、弓術、槍術、剣術、杖術、魔術等とった物の知識と技が無数に存在する。その種類が多すぎて、俺は何から試したのがいいか分からない……冷静に考えたら、武器は大鎌しかないしそれは重くて使えないから……必然的に武器を使う必要がない武術、魔術の二つを試すことになるな。

 

 魔術を使うとなると、まずは自分の属性や起源を調べるとことから。調べる方法は頭にある魔術の一つである、解析を使えばいいだろう……使えるかは分からないが。

 

解析開始(トレース・オン)

 

 俺の名誉のために言うが、これは断じてエミヤの真似ではない……嘘です。かっこいいから真似しました。

 その魔術を使うと自分の中から無理やり何かが起動する感覚がして、頭に情報が入ってくる。起源:不滅、想像…………あれ? 他の情報は? 

 

解析開始(トレース・オン)

 

 起源;不滅、想像

 

 かれこれ三十分ほど解析の魔術を使用してみたが、他の情報が俺の中に出てくることはなかった。でも、三十分も魔術を使い続けて、あまり疲れてないという事は……俺の魔力量はかなり多いのかもしれない。

 

 それはいいとして、起源の不滅と想像とはなんだ?

 

 起源とは根源の渦から生じた混沌衝動を魔術では起源と呼ぶ。この世の全ての形あるものは生まれた時から何かしらの起源があり、その起源にそって行動するとされている。例えを上げるとするならこうだろう。

 起源の『剣』を俺がもし持っていたら、無意識に剣に対して強い執着心を持つようになり、刃物を集めて見惚れるようになったりする。

 もしも、『探求』という起源をもつとなると、俺は物事を探求しないと落ち着かなくなり、探求することに興奮を覚えるようになるかもしれなかった。

 

 この説明の通り起源とはその持ち主の”本能“であり、その者に仕組まれている絶対命令である。魔術師の属性は一般的に五大元素のどれかになるのだが、俺はいくら解析しても属性が出てかなかった……まさかとは思うが、俺には本来ならある筈の、属性がないという事だろう。いや起源その物が属性という事だろう。

 

 ということは、俺は通常の魔術が習得することが難しく、この不滅の起源に合った魔術を使えるという事だ。この起源が俺が使う魔術にどう影響するか分からない。

 

 しかし、試したいという欲が俺の中で渦巻いている……よし、試そう。 

 頭の中にある魔術の知識から、俺は強化の魔術を使う。強化するのは俺の身体能力と硬度、そして持久力。

 

「強化開始」

 

 そう唱えると俺の体が軽くなり、硬くなった気がした。その強化した体で俺は八極拳の技の一つである冲捶(ちゅうすい)を試す事にした。俺の中で八極拳といえばこの技だ。俺の中にある知識にはこの技の使い方もある使えないことはないだろう。

 

 

 息を吐き、深呼吸、腰を落として拳を握る。

 頭の中で仮想の敵を作りそいつを想像してから、そいつに向けて体を横に向けながら一気に放つ。それに合わせて震脚を使い威力をさらに増す。

 震脚とは八極拳独特の、攻撃の命中する瞬間に地面を強く踏みつける発勁の用法。踏みつけた威力分、攻撃の威力を増やせるという物だ。

 その時俺はある修行法を思いつく。その修行法とは一日一万回感謝の冲捶だ。これは有名な修行法の筈だ……元々は正拳突きなのだが、いまやったのは冲捶だしこっちでいいだろう。

 しかし、ただ冲捶を放つだけだと簡単に終わってしまう。だから俺は強化の魔術をずっとかけ続ける事にした。そうすれば強化を持続させる修行にもなるし、常に魔術を使うという感覚を覚える事が出来るかもしれない。

 

 そうと決まれば早速やろう。感謝の冲捶を……霊廟の中心に俺は移動して拳を構える。そしてさっきの動作を繰り返す。何度も何度も時間を忘れる程に……。

 

 

 

 

「九千……………一万!」

 

 どれほど時間がたったか分からないが、俺は一万回の冲捶を達成する事が出来たんだが……終わった瞬間に俺はぶっ倒れた。ずっと魔術を使い続けていたせいで、普通にやるより体力を消費したからだ。もう俺の体はくたくたで指一本すら動かす事が出来ない。意識も朦朧としているし、動こうとするたびに体が痛む。まずはこの修行を一週間続けてみよう。そのぐらいなら食べなくても平気だろう。

 

 こんなに俺は動いても腹が減らないし……この体はあまり食べる必要がないのだろうか?

 それを最後に考えて俺は今日の疲れを癒すために寝る事にした。

 

 その時の俺は知らなかったが……この霊廟の元に”何か“が近づいていたのだ。 

 

 

 



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最初の試練

遅れてすいません。


 

 今日の分の冲捶(ちゅうすい)を終えた俺は、考察を開始する。

 自分の魔術についてだ。二日目の段階で気付いた事なんだが、俺の魔術の効果は消えない――――正確には自分が解くまで効果が続くという事だが……。

 

 簡単に言うと、俺が炎の魔術を使った場合は解除するまで燃え続け、空を飛ぶ魔術を使ったら永遠に空を飛べる。普通に考えたら魔術を持続させるのには魔力を消費し続けなければいけないが……俺の魔術はその必要がなく、一回魔術を発動させればいいだけになる。

 

 これは良い発見だ。一回使えばいいだけなら戦闘中に強化を使う時、効果が切れる度にかけ直す必要が無くなる。それどころか、二重三重に強化をかけ事が出来るといことだ。そのかわりに反動が凄いんだが……これは割り切ろう。何事にもデメリットは存在するから。

 

 しかし、今やっている修業は正しいのだろうか? 強化を鍛えるというのはいいとして、肝心の筋力が増えていない気がする……気がするというか増えていないだろう。冲捶と強化しかしてないから。

 

 という事で、今日は大鎌を持つ修行をしよう。体を強化して持ち上げるという事を繰り返せば、少しくらいは筋力が付くだろう。

 

 俺は大鎌の元まで歩き強化を二重にかけて持ち上げようとする。しかし、いくら頑張っても初日と同じように全く動かなかった。

 

 引いても押してもびくともしない。最終的に五重に強化をかけたが。数センチ動いただけだった……だが俺は諦めない。毎日続ければ持つことが出来るかもしれない。努力は裏切らないって誰かも言っていたし……これからの修行メニューにこれを追加しよう。

 

 

 そしてその日はまだ時間があったので、もう一つルーン魔術を試すことにした。

 俺は周りに放置されていた人間の骨を使い壁にルーンのᚫとᛁの文字を掘る。読み方はアンサズとイス。火のルーンと氷のルーンである。ルーン魔術を使うには正しい文字を掘り、その文字を血か紅い染料で染めなければいけないというルールがあったはずだ……キャス兄は空中に書いていた気がするけど……俺にはまだそこまでの技術がないから。

 

 それは置いておいて、今は紅い染料がないので染めるには、自分の血しかない。俺は指を大鎌の刃で傷つけて文字に血を流す。文字は紅く染まり発光する。

 

 俺はその文字に魔力を込めるとᚫの文字からは火が起こり、ᛁの文字の周りが凍る……そして俺は気付いた。俺の魔術は解かない限り効果が続く。この炎と氷は俺が解かない限り残り続ける事になる。

 

 今この空間は寒さと暑さが両立している、よく分からない空間になっていた。風邪ひきそうなので俺はその二つを解除する。

 これをやって気付いたことは、結構魔力を使う問う事だ。強化しか使ってなかった俺はその二つの魔術を使った事によりかなりの脱力感を覚えた。

 

「今日はここまでだな。寝るか」

 

 それにしても今日は冷える……ᚫの文字を刻み血を注ぐ。魔力をそれに流して火をおこす。火力を調整し温かいと感じる程にする。よしこれなら風邪ひかないな。

 

「ていうかそろそろ風呂に入りたい……日本人だもん」

 

 この生活にはまだ慣れていないけど楽しい。魔術を使う事や、技を使う事、知識を試す事その全てが充実しているここ数日。前の世界には無かった魔術という物を使うたびに、知識が満たされる感覚がして心が躍る。

 

 前の世界では平凡だった俺がこんなことを出来るなんてなんという幸運なのだろうか? もっと、もっと技を試そう。魔術を使おう。この神代を俺は知り尽くしたい。

 俺には少なかったはずの知識欲が溢れている気がするんだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その日から二日程経って、俺はまたルーン魔術の練習していた。沖垂を半日で終わらせられるようになり、他の修行に回す時間を増やす事が出来るようになった。ルーン魔術の範囲も広がって今ではアンサズは人間を一人包むほどになっていた。

 

 それにしても最近寒い。今は冬なのだろうか? アンサズを使い続けないと凍死してしまうほどに、この霊廟が寒いんだ。一日経つごとに寒くなるという異常なことが起こっていた。これの原因を知りたいという欲求が俺の中にあるが、俺の本能がそれはやめておけと忠告しているからだ。こんな寒いんだ本当にお風呂に入りたい。寒い日には風呂、熱い日は水風呂に入る。それが日本人だ。

 

 そんな事を考えた時だった。急激に周りの空間が冷え、さっきまで俺を温めていたルーンの炎までもが氷だす。何かがこの霊廟に侵入してきた。それも巨大な何かが……。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

 侵入したなにかは叫び声を上げた。獣の声だ。その咆哮に合わせるかのように、地面から無数の氷の杭が生えて俺の方へと飛翔する。咄嗟なことだったが、俺は何とか反応して自分に強化をかけてその場から離れる。 俺が先程までいた場所には氷の杭が刺さっており、あの場所にもう少し留まっていたら俺は串刺しにされていただろう。

 

 何が現れた? どうして俺の位置が分かったんだ? まず何故ここに来た? 等という疑問が俺の中で溢れ出し続ける。思考を続ける俺の元にそれが現れた。

 

 巨大であり、ありえないほどの存在感を纏っている氷の龍が……。

 

 龍は俺を見るなりニタァと笑った。心底楽しそうに愉快そうに……龍の目は捕食者の目だった。獲物を見つけて笑う捕食者の目。それににらまれた俺は体が硬直して動けなくなる。

 

 駄目だ。このままだと殺される。

 神代に居るような化物だ。目の前に居る餌を逃がすわけないだろう。逃げようにも俺の体は動かない。そして龍は一歩だけ足を踏み出した。

 

「――――――――ガァッ!」

 

 俺の体が壁に叩きつけられて吐血する。

 何が起こったか分からなかった。認識できたのは龍が動いたという事。気付いた時には体が浮いていて、壁にぶつかっていた。今の一撃だけで何本か背中の骨が折れただろう。それに龍の爪らしきものが体に刺さり、腹に穴が開いてる。傷口からは絶え間なく血が流れ続け。意識を繋ぐだけで精一杯だ。

 

 ここで俺は死ぬ? まだ、型月の魔術で試していないものが残っているのに? あの大鎌すら使えてないのに?まだ知りたいことがある。今俺の中にある知識だけじゃ物足りない。生き残る術を探せ。

 

 死にたくない。 

 

 



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死ねない理由

その男は狂っている。


 死にたくない。

 そう願った途端に頭の中に数多の記憶が渦巻く。これらは誰のものだ? 分からない。そもそも、俺は何故ここに居る? この魔術が溢れる世界に? 思い出せ。何を願った? 俺という平凡な存在は何を願いここに来た? 最後の記憶は……黒い海に飲まれて浸食され続ける俺の体。そして海の中に佇んでいた。角の生えた水色の髪の少女――――俺の前の世界の最後の思いは―――――知りたい……それだった。

 

 ――――この海の正体を。

 

 ――――俺を浸食した物が何だったのか。

 

 ――――そして、何よりもあの少女の事を。

 

 俺はあの少女に惚れた。一目ぼれという奴だ。大地を象徴したかのような大角と星のような鮮やかな瞳。翠の少し混ざった水色の髪。そして、その身に纏う異常性。それらすべてに俺は惚れた。

 

 会いたいと願った。

 

 知りたいと願った。

 

 そのためには何んでもすると誓った。その後、気づいたらこの世界に居た。死ぬ瞬間までの記憶は消えていたが……今はもう――――思い出した。何をを求めてここに来たか、何を知りたいか、そのためには――――生き残らなければいけない。こんなものに殺されてしまったら、俺はあの少女に出会えなくなる。そんなのは……許さない。

 

 ならばどうするか? そんなの決まっているだろう? 記憶にある技を使い、魔術を使いこいつを――――殺す。

 

(エイワズ)

 

 再生のルーンを痛む体を無視して空中に描き、それに何とか魔力を流し傷を癒す。俺の起源のおかげで完治するまで魔術は続く。三十秒程で傷は癒えて体が動くようになる。ここから離れる時間などないし、逃げる事は不可能だ。逃げるつもりなどないが……。

 龍は俺を探して視線を動かしている。隙は今しかないだろう。ばれない様に、一瞬で近づいて炎のルーンを刻めば勝ち筋があるかもしれない。

 

三重強化開始(トレースオン)

 

 オリジナルの一回の強化の魔術に、三回分の魔術を込めるという技。それを速度と筋力に回す。今の俺はかなりの速度を持っているだろう。あの龍に気付かれないはずだ……行くぞ。

 

 龍の後ろまで俺は回り込んで、一気に近づく。龍の元に辿り着くまで気配を殺す。

 残り三メートルの所で跳躍する。空中に(アンサズ)の文字を四つ刻む。そして自分の腕に(カノ)を刻む。

 ᚲとはよくバゼットが使っていた技でこれを刻んだ拳は銃器程の威力があると言われている。それに合わせての三重強化。今の俺が出せる最大火力。残り一メートル四つ刻んだルーンに全て魔力を注ぎ魔術を発動させる。

 空中に刻んだ四つのルーンから、炎が一斉に放射されて龍の体を燃やす。

 

「gaaaaaa!?」

 

 龍は驚きと悲痛な声を上げる。しかしこれでは終われない。腕に力を込めて拳を握る。完全に相手の背中が見える、目の前だ。ルーンを起動する。

 

「喰らえ!」

 

 必死必殺。

 俺の全てを乗せた一撃。

 

「冲捶!」

 

 背中に向けて全てを乗せた一撃を喰らわせる。背中を砕く感覚を俺感じた後で地面に落ちる。

 やったか? 勝てたか? どうなった?

 ――――すべての魔力を使い切って俺はも動けない。もしも龍が、生きていたら俺は食われるだろうな。

 

「はは……寒いな。凍死しそうだ。でも生きてる……あの龍の事も知りたいな。起きたら色々試してみよう」

 

 その時だった。

 何かが割れるような音が響く。殻を割るような、脱皮するかのようなそんな音だ……いや? 氷が割れる音だろうか? そんな感じの音だ。

 俺は限界の体を少し動かして龍がいた場所を見る。

 そこには一切傷のない龍が居た。さっき砕いたのは龍の外殻だったらしい。

 

「ははは、ふざけろよ」

 

 



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大鎌

 魔力は空。体力なんて残っていない、動く気力もないし、もう拳も握れない。そんな状況下で龍は無傷。なんて――――絶望的な状況だろう。

 龍は嗤っている。

 心底不気味に、楽しそうに、この龍は俺を殺せることが……余程楽しいのだろうな……。

 

 流石神代、龍には知能があるんだろう。だからさっき叫び声を上げたのは演技で、俺の反応を楽しんでいたのかもしれない。そして、あの外殻は一度倒したと錯覚させるためと……もしもそうだったら、俺は道化だな……。

 あー完敗だ。もう無理だ。普通に考えたら、こいつには勝てない。

 

 というかさ、よくある転生系の主人公とかは、何で簡単に命を奪えるんだろうな。俺はこんな状況で、そんなことを考えていた。

 

 だってさ、おかしいだろう? 俺も少し当てはまるけど、いきなり別の世界に来たばかりなのに冷静に修行とか……。

 それに、俗にいう転生特典だっけ? それでいきなり無双。こんな相手も苦労せずに難なく撃破。周りの努力とかお構いなし。それで英雄扱い。

 俺が前の世界でよく読んだラノベとかでは、そういう展開が多かったのを覚えている――――もしも俺にもそんな力があればとか、願っても急に手に入る訳ないし……これは現実逃避だろう。

 

 もう一つ疑問なんだが。俺の知識は何処から来たのだろうか?

 俺には元々この知識はなかった。この世界で目覚めた時に、いきなりあった未知の知識。それは元々俺の物では無い筈だ。俺は前の世界の最後の記憶を思い出す――――黒の海の飲まれたのは……俺だけではなかったはずだ。

 ならこれ等は、その者達の知識か? 

 それなら試せることがある

 

「強化開始」

 

 もしかしたら、俺に宿る魔力はまだあるかもしれないという希望に縋り、俺はその強化の魔術を行使する。すると俺の中から、別の魔力が使われた感覚がした。

 使える! 俺はまだ魔術が使える。予想は当たってくれた。俺の中には別の人間の魂があるかもしれないという予想が。

 強化したことにより俺は腕を動かすことが可能になった。

 ずっと嗤って俺を見ていた龍は、まだあきらめていない様子の俺を見て、不思議そうにしている。

 空中に俺はルーン刻む。

 

(エイワズ)

 

 再生のルーンだ。前使った時よりゆっくりだが俺の傷は癒え始める。少し癒えたことにより動けるようになった俺は、立ち上がる。

 

「おい……糞龍……まだ……俺は終わってないぞ?」

 

 掠れる声のまま俺は、龍に向けて挑発する。なんて馬鹿なことしているんだこいつは? とか思われるかもしれないが、これは俺の強がりだ。

 無様に負けるなんてかっこ悪いし、ダサい。そんなの自分が許せない。

 

 俺の魔術起源は不滅。少ない魔力で効果を永続させるという物。なら自分に再生のルーンをかけ続ければ即死しない限り、再生し続ける事が出来るだろう。

 

 自分の爪で、体にᛇを三つ刻む。これを発動させ続けて、限界まで戦おう。さらに強化も追加する。今は自分にかかかる負荷などは、気にしている場合ではない。そんなのを気にすること自体が無駄な思考だ。

 強化をかけた回数は十回、これならあの大鎌も持てるかもしれない。

 

 龍は何かを感じたのか、俺に向かって爪を振り下ろしてくる。

 強化したことにより、俺は先程まで見る事すらがきなかった龍の攻撃を、確認できるようになっていた。

 それにより俺は回避を行う事が出来る。

 

 回避は成功したが……完全に避ける事が出来ずに、腕が捥がれてしまった。

 だが、三重にかけている再生のルーンが一気に俺の傷を治す。

 そのまま龍の横を駆け抜けて俺は大鎌の元にへと走る。

 

 大鎌はこんな氷の空間でもなお、黒く怪しく光っている。俺が大鎌を掴むと声が頭の中に響いた。

 

“血を捧げろ”

 

 そんな言葉だった。

 その言葉に俺は無意識に頷いた。それを大鎌はそれを答えと認識したのか、大鎌から鉄の杭が生えて俺の腕を串刺しにした。

 不思議と痛みは無かった。杭が血を吸い始め、大鎌に紅い動脈のような線が現れ始める。俺の血を吸うたびに生きているように鼓動を鳴らす。

 

 

血を吸い終わったのか杭は消え、その次に大鎌は形を変えだした。刃はさらに伸び、先端部分が槍のように鋭くなる。

 そして、俺の腕に大鎌の柄から黒鉄が流れてきて、腕を覆った後に硬化し俺の腕が大鎌と一体化した。

 そのおかげか俺は大鎌を持てるようになる。

 異常なまでに大鎌が手に馴染む。まるで、何も持っていないかのように大鎌が軽い。

 

 この大鎌の使い方が、頭の中に入って来る。知識が増える。分かる、この大鎌の使い方が……だけど、今は余韻に浸ってる場合ではない、あの龍を倒さなければいけないからだ。

 俺は確信していた。魔術とこの大鎌があれば……あいつを倒せると。

  

 離れていた龍が俺に近づき、腕を横に薙ぎ払った。それにより暴風が舞い上がる。周りを砕く程の風が巻き起こり霊廟の柱を破壊した。

 

 巻き起こる風に乗り、俺は跳躍をする。空中にでは普通バランスをとる事が出来ない。しかし、この大鎌の能力を使えば、それは可能となる。

 この大鎌の能力は鉄の生成と変形。大鎌の周り十メートルまでなら好きに鉄を生成する出来て、その形を自由自在に変える事が出来るという能力だ。

 

 空中に鉄の足場を作り出して俺はそれを蹴り、龍から距離を取る。この狭い場所では大鎌を使うとこが出来ないからだ。

 自由に動き回る事が出来る場所は、この霊廟の中には一つしかない……中心部だ。あそこなら広さは十分だし、何より大鎌の長所を生かす事が出来る。

 

「はっ――遅いぞ糞龍」

 

 俺は10秒足らずで中心部に辿り着いた。

 龍は怒っていると確信できる程に周りに魔力が渦巻いていた。冷気が強まり吐く息が白くなったかと思うと、凍りその場に結晶として落ちる。早く決着を付けなければ、この空間に耐え切れずは凍死すると俺は悟る。

 

「強化開始」

 

 ――――ならば、この戦いを早く終わらせるのに限る。強化をさらにその身にかけ最後の準備を終わらせる。

 龍とは強者だ。爪も、牙も、尾も、既存の生物とは比べ物にならないほどの力を持っている。爪の一振りで人は死に、牙は全てを砕き、尾で払うだけで大抵のものは破壊させる。そんなものに挑むのだ。命がいくらあっても足りはしない。だが、御膳立てはもう十分だ。再生のルーンは三つかけたし強化は十分――――あとは勝つだけ。

 

「行くぞ、その命……狩らせてもらう!」

 

 

 

 



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龍と化物

 火花が散る。龍の爪を受け止めた大鎌の刃から火花が生まれる。これはもう何度目だ? 相手に隙は無く、絶え間ない攻撃が俺を襲う。

 次の攻撃を予想しろ。先を見なければ反応はできない。何重にも強化したから体が追い付けないほどに相手の手数は増えていた。

 連続で襲う爪や近づくと出現する氷の種子。

 

 種子に当たれば氷華が裂き俺は氷像になるだろう。しかし、俺も受けているだけではない。隙が出来た瞬間に刃に魔力を流して鉄の杭による遠距離攻撃を行っていた。

 龍の体にはそれが幾万と刺さっていて出血も酷い――――だが龍も倒れない。幻想種の頂点と呼ばれる龍は倒れる気配を感じさせない。

 それに比べて俺はもうボロボロだ。再生も追いつかなくなり体も大部分は凍っている。強化はまだ解けていないが無理矢理強化しすぎて少し動くだけで悲鳴を上げる。

 龍は薙ぎ払いを行った……尾による薙ぎ払いだ。

 これは防ぐ事が出来る――――だが、問題はその後だ。防いだ後に生じる隙に硬直それをつかれないように気を付けなければいけない。 

 尾は威力があり……なにより、重い。

 

 ダンプカーに突っ込まれたと錯覚するほどに、その攻撃は重く、刃で受け止めると反動が凄まじいことになる。

 あと一秒もしない間に、尾は俺に届くだろう。限界まで引きつけろ、無理をしてでも

チャンスをつくれ。

 

 直撃。その瞬間に俺は軽く跳び身を捩った。

 一瞬の出来事。尾の真上から大鎌を振り下ろす。何十発の鉄の杭を尾に刺し固定して一刀両断。

 

「――――gaaaaa!!!」

 

 悲痛な叫びだ。演技などではない本物の悲鳴。両断した尾はその場で暴れまわった後に一切動かなくなった。

 

 これではだめだ。命を奪うには首を刎ねなければいけない。隙を見つけろ――――否、違う。隙を無理やりにでも作ればいい大鎌に限界まで魔力を注ぎ。砕打球の鉄の槍を作り出す。イメージは龍撃槍だ。それには時間が居る二十秒程だが集中しなければいけな――――。

 

「ッ――――危なっ」

 

 思考する俺の元に極大のブレスが放射された。回避はできない。ならば――――。

 イメージしろ。作るのは盾だ。巨大な壁でもいい。俺を一人包むほどの鉄の壁を作り出し俺はブレスを防ぎ切った。

 その時、龍は隙を見せる。今までとは比べ物にならない大きな隙を……体が硬直しているのだ。そして、その龍の顔は明らかに疲れている。

 

 再度大鎌を構える。

 今だ! 俺は体を沈め……龍の首まで一気に跳躍する。殺意の塊を大鎌に纏わせて……時間が止まると錯覚するほどに長く感じる。当たるか? いや、当てろ! この隙を逃せばもう……隙は存在しない。

 

 一閃。

 

 確実に跳ねた感覚を俺は覚え周りを鮮血が染めていく。赤色の噴水がその場に生まれて周りを彩っていく。呼吸を忘れる程にいまの状況が頭に入ってこない。

 倒したのか? 感覚はある。ならばあとは確かめるだけ……龍の方を見やる。首を動かすまでの時間が長く感じる、やったか? やったか? 殺せたか? 

 その龍には首がなかった。 

 

「――――――――勝った!」

 

 龍は絶命していた。その場に堂々と立ち死んだはずなのに圧倒的な魔力を放ちながら。それはまさに王者の風格。死してなお幻想種の王は――――威厳を放っていた。

 

 周りに充満していた冷気が消える。急激に周りの温度は上がって行き元の霊廟に戻った。そういえば龍の頭は何処にある? 

 

 周りを見渡すと龍の頭はあった――――食い破られた龍の頭が。

 何が起こった? 

 手に持つ大鎌から血が流れている。見てみると大鎌のが刃が開いていて、龍の頭を捕食した後があった。

 不思議とは思わなかった。あれ程の力が使える大鎌だ。生きているのも不思議ではないだろう。

 

「あぁ、お腹すいたな」

 

 ここに来て初めて感じた空腹だった。酷く腹がすく。でもそれは当たり前か……だってここ何日か何も口にしていないのだから。龍は食べれるのだろか?

 もう何でもいいから口にしたい。その思いで俺は龍の死体を見やる。

 焼けば食えるかな? 

 

 体はもう完全に限界で少し歩くくらいしかできない。それも強化を説いた瞬間に倒れるだろうが、今俺の体は強化によって動かされている。

 最後に龍の肉を食べよう。

 勝者は俺だ龍よ。そのぐらいは戦利品として受け取ららせてもらおう。

 

 大鎌で肉を切り魔術で焼く。

 そして口に肉を入れた後、俺は味わう暇もなく気絶した。 



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精神世界

「おい起きろ――――」

 

 何か声が聞こえる。

 鈴のような女の声だ。俺の体は何者かに突かれる。痛くはないが鬱陶しい。あれ? この霊廟に他に人はいたんだっけ? おかしいぞ?

 

「だから起きろ! 私を無視するな!」

 

 そもそも俺は何処にいるんだ? 風が吹いている。霊廟の中では決して吹かないはずの風が……それに潮の香りもする。どこなんだ……ここは? 

 

「泣くぞ? 私は泣くぞ? だから早く起きろ!」

 

 どういう理屈なのだろうか? 泣くから起きろ? 俺には理解が出来ない。冷気が放たれえる。この冷気はさっきの龍の物だ。忘れるはずはない。

 

 ――――まさか、龍はまだ生きているのか?

 

 それはないはずだ。確実に首を刎ねた筈だ。それに頭も大鎌が喰った体の肉も俺が喰ったはずだし生きている筈がない。

 

「何で無視するんだよ! 流石にひどいぞ!」

 

 いい加減目を開けよう、鬱陶しくなってきた。それになんか寒いし……。

 目を開けるとそこには異常な光景が広がっていた。

 砂浜に黒い海。空からは雪が降りそそぎ幻想的というか本来ならありえないような景色。

 本当に何処なんだここは?

 一際強く、冷風が吹いた。この場所を隠すように雲が空を覆う。明かりが消える中で黒い海が怪しく光る。この海は俺を殺したものだ……何故、ここにある? 

 そう思考を続ける俺の元に、回し蹴りが飛んできた。俺はそれを寸前で回避してからそれを放った者を見た。

 

 まさに白一色、文字通り雪白の髪と微かに煌めく真鍮色の目。その髪を揺らす姿は凛々しいが、さっきまでの言動が全てを無駄にしている。

 

「何故私を無視するんだ!」

 

「無視するかしないか以前に、お前は誰なんだよ」

 

 その少女は苛立っていた。不機嫌そうに俺を睨みながら腕を組んでいる。この少女は何者なのだろうか? 俺はさっきから疑問ばかりだな。

 

「私か? 私の事を聞くのか? だが、答えないぞ私は」

 

 こいつはめんどくさい。俺はそう直感した。

 

「あ、うん。ならいいや。早く俺を帰らせてくれ」

 

 お腹すいてるし、まだ俺は龍の事を食べてない。腐る前に食わないといけないから、早く俺は元の場所に帰らないと。

 

「なっ、気にならないのか私の事が!?」

 

「だって答えないんだろう? 腹減ってるし早く帰らせろ」

 

「そっ、そんなことか。なら安心しろここでは腹が減ることはない。残っていいぞ」

 

「どうして上から目線なのか分からないが……それならいいか」

 

 俺は疲れすぎていて、頭がしっかりと働いていない。それのせいか自分で何を言っているか判らなかった。

 

「それで、お前は誰なんだ? 教えてくれ」

 

「ふっ、そこまで聞くなら答えてやろうではないか。私はグラスだ。呼び捨てで構わないぞ?」

 

 グラス。全く聞き覚えのない名前だ。

 グラスは自分の名前を言った後にドヤ顔をしている。こいつはアホだと俺は悟った。でも、グラスならこの場所を知っているかもしれないし、話を聞いた方が良いだろう。

 

「グラスはどうしてここにいるんだ? そして、ここは何処なんだ?」

 

「いきなりその二つを聞くのか?…………まぁいいだろう。ここはお前の精神世界だ。正確には、お前の精神世界と大鎌の中が合わさった物だがな」

 

「………………?」

 

 何言ってるんだこいつ? 精神世界? この世界が……意味が分からないな。もしも、本当に俺の精神世界なら、何でグラスがここにいるんだ。ヒントは大鎌の中という言葉か? 予想してみよう。Fateには魂を捕らえる魔術があったはずだ。大鎌には魂を捕らえる魔術が込められていたとすると……この大鎌で殺したのは龍だけだし。グラスの正体はあの龍か? この世界に来てから察しと勘? がよくなったよな。よく考えられるようになったし……。

 

「その様子では辿り着いたようだな……予想道り、私はお前に殺された龍だ」

 

「それなら何で恨む様子がないんだ? 普通に考えて殺されたら恨むだろう?」

 

「私を馬鹿にするな、この世は弱肉強食だ。負けたから恨むなんて弱者のやる事だ。私がそんな事するわけないだろう……それに私は魂だけだが生きてるしな」

 

 これが龍の常識なのか? 凄い考えだな……何で俺は俺を殺そうとした相手と、普通に話せているんだよ……暢気すぎるだろ。まぁいいか俺は生きてたし……。

 

「私はお前の大鎌に食われた後、ここにいたんだ。そしたらこの大鎌の主人格にされるしお前の記憶が入ってくるし……かなり混乱したぞ」

 

 この情報量で一番混乱するのは俺なんだが……主人格? 俺の記憶? 情報が整理できない。

 

「それで何だが、私はお前に負けた身だ……これからお前の武器として生きる事にした。この中にいても、それしかやることないしな」

 

「おいちょっと待て俺を置いていくな……一から説明しろ。本当に話が見えてこない」

 

「しかたないな……分かりやすく説明してやろう。私負ける→気付いたらここ→暇でやることない→武器の中だしもう武器やるか。オーケー?」

 

 ―――――ポジティブすぎるだろ……コイツ。

 普通に考えてそうはならないって……ましてや自分を殺した相手だぞ? いいやつなのか……アホなのか……いや、待てよ。こいつは龍の状態でかなり性格が悪かった……これも演技か?

 

「演技ではないぞ? 戦うときは相手の反応を楽しむ私だが……こういう事では嘘は吐かん」

 

 心外だっていう顔でグラスはそう言った。今のは失言だったらしい……あれ? 俺は声に出していないはずだぞ? 何故わかる?

 

「この空間はお前の中だ。心の声を拾う事など出来るに決まってるだろう?」

 

「それはプライバシーとか大丈夫なのか?」

 

「知らん、そんなことなど捨てておけ……そろそろ起きろ私の体が溶け始める。私を喰えばお前の魔力量は増えるだろう。心臓を喰うのを忘れるなよ? 少ししたら私も外に出るから……それまでさよならだ」

 

 グラスがそ言った後に俺の頭を軽く叩いた。すると、意識が無くなりその場に俺は倒れる。

 

 ◇◇◇

 

 この人間といると面白くなりそうだ。最近、退屈していたからな……死んでよかったなどと思えるとは……あまりない経験だろう。

 だから私を失望させるなよ。唯一、私を倒した者よ。




誤字報告してくれた皆様方、本当にありがとうございました。


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龍の肉

 目が覚めた、霊廟の中だ。

 俺の腕には少し水色に変わった大鎌があり、変わらず俺の腕に黒金が纏わりついている……これ、どうやったら取れるんだろう。重くないし、別にいいんだけど。少し邪魔だ。

 まあいいか、まずは夢で言われたことに従おう……グラスの体を食べなければ。

 そして今更なのだが……グラスって雌なのか。女の体を食べるという、謎の状況に俺はいるという……でも許可は取ったし、いいのか……これ? グラスの事を知らなければ、俺は躊躇なく龍の体を食う事が出来たのだが、女って知ると罪悪感とかが色々ヤバイ。

 

(別にいいと言ってるだろう。私も今からそこに出るから、大鎌を離してくれ)

 

「離せと言われても分からないんだが……」

 

(離せと念じれば、自然と離れるぞ)

 

 言われた通りに、俺はそう念じる。

 すると大鎌が腕から離れた。その後で大鎌はグラスの姿に変化する。

 夢の中で見た雪白の髪と、真鍮色の瞳。そして夢の中と違うのは、雪結晶のような角と尾が生えている事。そして氷のドレスを纏っていることだ。俺はその姿に一瞬、見惚れてしまったが……直ぐに意識を切り替える。

 

「そうだ、私が、お前に名前を考えてやったぞ。いつまでもお前じゃ、違う気がするし……感謝するがいい!」

 

 えっへんとあまりない胸を張り、グラスはそう言った。その姿は微笑ましく、なぜか、少し悲しくなった。

 グラスは一呼吸おいて、俺の新しい名前を言う。

 

「アッシュだ。お前の名はアッシュ、お前の記憶で見た灰という意味だ。その髪色と同じだから、という理由でつけたんだが……不満はあるか?」

 

 アッシュ。

 その名はこの世界で初めて貰った物。安直だがグラスから貰ったこの名が……俺はとても嬉しかった。

 俺は自然に笑っていたのだろうな、俺の顔を見てグラスは満足そうな顔をしている。それどころか、自分の尾を横に揺らしていて犬みたいだった。

 

「気に入ったみたいだな、アッシュ。そうだ、説明し忘れていたことがある」

 

 忘れていた事? 何だろうか? グラスは何かを考え始めて一分ほど経った後に話し始めた。 

 

 

「アッシュ、よく聞け、大事な事だ。龍の肉を別の種族の物が食べると何かが起こる。体が変化するかもしれないし、能力を得るかもしれない。その効果は決まっておらず、この体の持ち主である私ですら……何が起こるか分からないんだ。だが一つ保障できる事がある。それは、強くなれるという事だ」

 

 グラスはどうしてこんなことを言うのだろうか? 不安をあおるような言い方をしながらも俺に食べて欲しそうにしている……俺を強くしたいのか? まだ出会ってまもない俺にどうしてここまでしてくれる? 夢の中で言っていた、記憶が入って来るという言葉が何か関係あるのだろうか?

 

「それでだ、アッシュ。ここまで聞いて私を食べるか? 力を欲するか?」

 

 その声は麻薬のように頭に入り、脳に残り続ける。グラスは魅惑的な深い笑みを浮かべて、自分の元の体に触れる……すると、龍の体が球体に変化して、グラスの白い手の中に納まった。 

 その球体は魔力を帯びていて、周りに冷気を放っている。

 

「さぁ……どうする?」

 

 そう聞かれなくても、もう答えは決まっている。力はいくらあっても足りない。力が少しでも手に入るなら何でもするし……なにより知識が増えるかもしれない。力を得たおかげで、あの少女に出会えるかもしれない――――もしもこれで死んだとしても構わない。

 俺はグラスの近くまで行き話しかける。

 

「グラス食べるぞ。力をくれ」

 

「それでこそ、お前だ。食うがいい」

 

 グラスの手からそれを受け取り、口に入れる。

 その瞬間に体が跳ねる。体中の血管が一瞬にして凍結した。魔力が体の中をめぐり始め……体が別の物に置き換わっていく。

 臓器が全部凍りだし、息が出来なくなる。感覚が消えていき……自分の体が氷像になる。完全に機能が停止した体。しかし考え続ける事は何故か出来た。止まる心臓、凍る体。

 もう死んでもおかしくないだろう。

 ――――しかし、俺は生きている。こんな状況でまだ生きている。

 意識を保てなくなってきた。

 どんどん消えていく意識の中で、聞こえた音は―――――何かが割れる音だった。

 

 パキン。

 

 そんな音が体の中から響く。

 俺は、直感的に何が割れたか悟った。心臓だ。氷となった心臓が割れ、新しく何かが生成される。

 それは新しい心臓だった。他の臓器をも全てが置き換わる。呼吸ができるようになった。一呼吸するだけで魔力が溢れる。体が跳ねのように軽い。吐く息は全てが白く冷気その物だ。体に流れる血はとても熱く、燃えているみたいだ。

 生まれ変わったき気分だ。自分の体ではない気がする……。

 そんな俺のにグラスが話しかけてくる。

 

 

「アッシュ、生きていたようだな……人間を止めた感覚はどうだ?」

 

「よく……分からない」

 

「見違えたぞ? その魔力は、私そのものだ。それに元の魔力も強化されている。臓器も龍の物に変わった筈だ。今のお前の状態は半分龍だ」

 

 例えるならデミ・ドラゴンか? この体ならこの世界で生きていけるだろうか? この力があれば神代の中で、あの少女を見つける事が出来るだろうか? そんな不安が沸いて来る。

 

「アッシュ……その力なら外でもやっていけるはずだ。外へ出よう。精一杯この世界を楽しもう!」

 

 そう言ってグラスは俺に向けて、手を出してきた。

 とても綺麗な、花が咲いたような笑顔で……その笑顔は今まで生きてきた中で、一番美しく可憐な物だった。それに答えるように、俺はグラスの手を取る。

 

「行こうグラス」

 

「行くぞアッシュ」

 

 そしてグラスは大鎌に戻り俺の腕と一体化した。

 世話になった霊廟を見る。グラスとの戦闘で酷く、破壊された霊廟を。

 俺が目覚めた霊廟を……霊廟を歩きながら思い出を振り返る。壁などを見ると、俺が練習に使ったルーン文字が刻まれている。一週間ぐらいしか、ここで過ごしていないはずなのに……俺はここに愛着がわいていた。また……いつか来よう。そう思いながら俺は霊廟を後にした。

 

 




そろそろ姫ギルが出てきます。お楽しみに
次回からペースを落とします。そのかわり文字数を増やします。


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神代

 

 霊廟から出て一年が過ぎた。神代での生活は充実しているとはあまり言えないが、グラスのおかげで何とかなっている。グラスがいなければ、一人でこの世界を過ごさなければいなかったのかもしれない、という不安がたまに沸く程に、グラスと過ごすのが俺の当たり前になっていた。

 それにグラスがいるおかげで、何度も助かった命がある……本当に最高の相棒だ。

 そんなグラスを使いこなすために、俺は手の皮がはがれるまで振り続け、鉄の生成と変形の能力を、魔力が枯渇しても使い続けた。グラスを強くするために数えるのも憂鬱になるほどの幻想種を大鎌に捧げ続けた。

 

(……おいアッシュ……そんなこと考える暇があるなら、今すぐにここから逃げ出せる方法を見つけろ……このままだと死ぬぞ私達は)

 

 今まで語った事は全て現実逃避だ。俺達は今……魔猪の群れに追いかけられていた。

 きっかけは何だったのだろうかと、俺は逃げながらそんなことを考える。俺達は今日の朝人間の町を探すために高い山に登っていた。そして頂上に辿り着いた瞬間に、見たのは巨大魔猪。反射的にその首を刎ねたのがまずかったと思うんだが……まさか近くにいた全ての魔猪に追いかけられるとは思わないだろう……。

 

(普通に考えて予想はできるだろう、アッシュ。でどうする囲まれたぞ?)

 

 その言葉を俺は聞いて周りを見渡した……俺の周りには一面を埋める程の魔猪が居て魔力を放ちながら、俺を睨んでいる。この魔猪の群れに突撃されたら俺は見るのもためらる様な無残な姿に変わるだろう……それはいやだ。

 誰だってそんな痛い思いはしたくないに決まっている。

 

「どうするグラス? 倒すか?」

 

(そう言うと思っていたぞアッシュ。しかし、この数では大鎌では不利だ……剣を造れ、使えるだろ?)

 

「使えるが……まだ慣れていないぞ?」

 

(安心しろ私が援護する。剣を造ったら私を離せ)

 

 なにをやるのかはだいたい理解できた。共闘か、久しぶりだな。

 俺は剣を造った後、大鎌を離す。大鎌は俺の手から離れたことによりグラスの姿に変わり、グラスが俺の横に現れた。

 

「ではやるぞ、アッシュ」

 

 グラスはその身から魔力を放ち、俺は剣を構える。臨戦態勢になった俺達の元に魔猪は突撃してくる。最初の突撃を俺は飛んで回避する。グラスは氷の壁を造りだして突撃を防御した。

 俺は宙にいる間に虚空にルーンを描く、ᚫだ。

 ここ一年で俺のルーン魔術の性能は上がり、描く速度も上がった。今では一文字でかなりの範囲を燃やせるようになった。それに俺は魔力を流してその名を叫ぶ。

 

「アンサズ!」

 

 火炎が空中から放出されて魔猪を焼き払う。下の大地が全て焼け焦げたが、魔猪はこれでは死ななかった。多少数が張ったが大半は少し焦げた程度だ。俺は剣にᚲを刻む。この剣は今なら突くだけで銃弾と同じ威力になっているだろう。それに食わて強化も付与する。そして剣に魔力を注ぎ巨大化させて……。

 

「大切断!」

 

 大地ごと魔猪の群れを切断する。大地をは割れてその中に魔猪が消えていく。

 半数はこれで消えただろう……グラスの方はどうなのだろうか?

 グラスの方を見てみると氷漬けになった魔猪の群れが放置されていて、その肉を優雅に食べるグラスの姿が……。

 

「グラス、終わるの早くないか?」

 

「あぁ戦ってみたら案外弱くてな、余裕があったから冷凍保存しておいたぞ。感謝するがいい!」

 

「こいつらはうまいのか?」

 

「けっこういけるぞ? 少し硬いが美味い肉だ……食うか?」

 

「じゃあ貰おう……美味いな」

 

「ふふ、そうだろう? 私がとった肉だからな!」

 

「ありがとな、グラス」 

 

 グラスと過ごして知ったが、グラスは感情が出やすい。嬉しいときは尻尾が揺れるし、悲しい時は尻尾が垂れ、怒ってるときは魔力が放たれる。だから一緒に居て感情が分かりやすくて、こっちも裏表なく接する事が出来る。 グラスは眠いのか大鎌に戻った。 

 久しぶりに具現化したから疲れたのだろう。

 魔猪の肉を大鎌の中に収納してから俺はまた歩き出した。何とこの大鎌は物をしまう事も出来るのだ。そのおかげで荷物も着くに必要にないし旅が楽だ。

 そして俺達の当面の目標は、人間の都市に行く事だ。そこに行けば果物とか調味料とかもあるかもしれないし、何より知識が手に入るかもしれない。それらを手に入れるためには少しでも早く人間の都市に辿り着かなければいけないのだ。

 あと、どのくらいかかるのだろうか? 半年以内に辿り着ければいいが……。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 そこには地獄が広がっていた。死体が辺りに散らばり、臓物がまき散らされている。どこまでも緑が広がっていた筈の草原は、今や赤一色に……。

 この場にいる人間は、それを起こした化物の前にいて、あまりの恐怖に体が動けなくなっていた。

 その化物は獣だった。体中から角のような物を生やし雷を纏っている。爪は殺した者達の血で紅く染まり、口には食い破った者達の臓器が絡まっている。

 

 死体となった人間達はウルクの都市の人間で、最近生まれたギルガメッシュという姫に捧げるための貢ぎ物を運ぶ係だった。その役は重要な物で当然護衛も居た。あと少しで辿り着くというところで、現れたのだ……この化物が。

 

 兵士は当然戦ったが、ことごとく化物の前に死体を晒すだけだった。

 鎧は一撃で砕かれて、体は噛み千切られる。遠くから攻撃しようとしても。雷が放たれて意味がない。その力は圧倒的で無慈悲だった。兵士の数は残り少なく全滅するの時間の問題だろう。

 

 そんな時だった。

 この場所に声が響く。

 二人の人間の声だった。

 

「グラス、かなりやばい現場に遭遇したんだが……助けた方が良いよな?」

 

「当たり前だろう? 恩は売っておけ」

 

 それは灰色の髪をした男だった。雪白の髪を持つ美少女と会話しながら化物の前に現れる。

 次の瞬間、少女の姿が大鎌に変化して男はそれを装備した。

 

 そこから先は圧倒的だった。

 放たれる爪の攻撃は全て防がれ切り裂かれる。神速すら超える雷を受けても平然と動き回る男は、巨大な尾を受けても尚も、笑顔を絶やさずに化物の体を解体し続ける。

 

 

 この場にいる人間はその時、英雄という名の化物を初めて目にすることになった。

 

 

 



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ウルクの都市

さぁお待ちかねの姫ギルの登場だ!……少しだけだけど……


 ――――――獣は生まれた時から、己が強者だと信じて疑わなかった。

 

 すべての生き物は己のための餌であるという考えを親から教えられてずっと生きて来た。最初はその言葉を疑ったが……すぐに真実だと知ることになった。己以外の生物は爪で引き裂くだけで死んでいく。牙で噛めば絶命する。尾で潰せば塵のように消えてなくなる。空を飛ぶものも己の雷撃をもってすれば関係がなかった。

 

 そして己は、いつものように人という下等な生物を殺して、餌にする筈だった――――――いつものように殺して悦に浸り空腹を満たす筈だった――――――弱者を殺すだけの筈だった――――――。

 

 あの化物が現れるまでは。

 

 己が人を殺していた場所にそれは現れた。

 龍の気配を纏う人のような物が、己の前に現れたのだ……魔力の塊のような少女を連れて。

 

 己の自慢の爪は防がれるどころか切り裂かれ、最強の武器である雷撃は防ぐことすらされずに受けられる。腕潰そうとしても笑みを浮かべながら、突撃してくるそれの姿をみて、己にはもう恐怖しか存在していなかった。

 

 命が消えていく。己の体が壊されていく。いやだ、いやだ、死にたくない。

 

 死にたくな―――――

 

「狼の肉って食ったことないけど……美味いのか?」

 

 そんな言葉を最後に、己は存在ごと何かに食われた。

 

 

 ◇◇◇

 

 今の奴、ジンオウガみたいだったな。爪とか牙とか。それに雷もそうだし……グラスはちゃんと食べただろうか? 雷の力を使えるようになっていればいいが……そうだ。周りの人は大丈夫なのだろうか? 巻き込まれていなければいいけど……自分から助けに来たのに、みんな死んでいたんなんてことになったら、来た意味が無くなる。

 グラスも一度戻ってくれ。

 

(アッシュ了解した)

 

 グラスが戻ったタイミングで、助けた人たちの一人が近づいてきた。こちらの恐る恐る様子を見ながら、俺の事を観察しているのが分かる……なにか俺がしたのだろうか?

 俺が少し考えていると、その男が話しかけてきた。

 

「助けてくれて、ありがとうございます」

 

 何故だろうか……その声には恐怖が混じっている。俺は本当に何かしてしまったのだろうか? ただあの狼を倒しただけなのだが……。

 

 でも、それもそうか、命が助かったばかりなのだから安心より先に寸前にあった死の恐怖がまだ怖いのだろう。 それに、俺がもっと早く来れば、死んだ人達も助かったのかもしれない。

 周りを見てみると先程の狼に殺された奴らの破片が落ちている……血の匂いがした瞬間から急げばよかった、いつものように幻想種たちの縄張り争いだと思って、ゆっくり来たのが間違えだった。この人達になんて言おうか。

 

「すまんな。俺達がもっと速く来ていれば、全員生きていたかもしれないのにな……本当にすまない」

 

 俺はその事に対する罪悪感から男に向かった頭を下げて謝った。

 

「そんな、気にしないでください。俺達は貴方のおかげで助かったのですから。そんなこと言われたら罪悪感が……だから頭を上げてください」

 

 男は申し訳なさそうにそう言ってきて、さらに申し訳なくなってしまう。でもこれ以上は更に気を遣わせてしまいそうなので俺は、頭を上げた。 

 

「すまないな気を遣わせてしまって」

 

「いえ、本当に助けてくれてありがとうございます。これでウルクに貢ぎ物を運ぶ事が出来ます。もしも、これが届けられなかったら全員死刑にされていたので」 

 

 ウルクって人間の都市か? 思わぬところで人間の都市に行けるかもしれないチャンスが……でも喜んではいけない屍の上に出来たチャンスで喜ぶなんて最低だ。

 

「それじゃあ俺の気が収まらない。その都市まで護衛させてくれないか?」

 

 男は何やら考え始めた。

 まぁそうか、見ず知らずの人間に護衛されるなんて危険なことは普通しないだろう。それに力を持つ人間だ。そのウルクの都市でもしも俺が暴れたら責任はこの人たちの物になる。やっぱやめておこうか。

 

「…………こちらこそお願いします。護衛も少ないですし、また襲われたら運ぶ事が出来ません。それに今度こそ全滅するでしょう。お願いできますか?」

 

「了解した。都市まで護衛させてもらおう。他の奴にも伝えてくれよ」

 

「分かりました。すぐ伝えてきます」

 

 その、後男は仲間たちに俺の事を伝えてから、荷物を持って、俺の元まで全員で集まってきた。どうやらみんな異論がないようで俺の事を護衛にしてもらえるらしい。

 

「もう一つ頼みがあります。死んだ皆なの遺体を集めるの手伝ってくださりませんか? あいつらにも家族がいました。遺体は持って行ってあげたいんです」

 

「わかった。そのぐらいはやろう」

 

「何から何までありがとうございます。俺は遠くに散らばった物を集めますので、貴方は近くの物をお願いします」

 

 そして俺達は、皆で死体を集めて別々の木の箱にしまっていった。

 俺達はそのままウルクの都市向かっていった。ウルクの都市まで行く間には、特に何もなく二日程で辿り着く事が出来た。ウルクの都市は入った瞬間から、凄い賑わいだった。至る所から人を呼ぶ声や宣伝する声。武器を造っているのか鍛冶の音が周りに響き渡っている。

 神代ってこんなに発展していたのかと驚くほどに、ここの町は発展している。地図を見ると役職ごとに区画が分けられているし、文字を見る限り学校も存在していたりもした。

 

「ようこそ、アッシュさん、グラスさん、ウルクの町へここまでの護衛、心より感謝します。後でお礼を渡すので少し待っていてください。今はギルガメッシュ様にこの荷物を届けなければなりません」

 

「あぁ了解だ。この都市の中を見ているよ、また後でな」

 

「お金も渡しておきますので好きに見て回ってくださいではまた後で。よし皆、最後の仕事だ! しっかり運ぶぞ!」

 

『おおおおおぉぉぉぉ!』

 

 俺達はやることが無くなったので、ウルクの都市を見て回るとこにした。

 都市は凄い賑わっていて、住民たちは見ず知らずの俺にも快く接してくれた。

 果物とかを買ってグラスと一緒に食べ歩いていると……ふと誰かに服を引っ張られる。誰だろうか? この都市に俺の知り合いはいないはずだし……間違えたのか?俺は服を引った者の方を見てみると、そこにはこの世のものではないと思えるほどに、美しい少女が居た。

 腰まで届く金の髪。この世の全てを見通すような紅い瞳。その肌には一切の淀みがなく真っ白で、幼いながらも色気を放っていた。

 年齢は十三歳ぐらいだろうか?

 

「ねぇ、お兄さん? 貴方は人ではないですね……何者ですか?」

 

 この少女は自分が、半分龍という事を見ただけで察したようだ。

 この小女は何者だ? 高位の幻想種でなければ気付かないほどに擬態の魔術をかけたいはずだ。今の俺は気配は完全に人間の筈……ただの人間が気付く筈はない。

 

「そのお姉さんは完全に龍ですね……訪ねますが、貴方達はどうしてウルクに来たのですか? 敵意がないようなので声を掛けたのですが……目的は何ですか?」

 

 少女には全てが見えていると、俺は直感的に悟った。

 何か言い訳をしても無駄だろう。

 

「俺は運搬係達の護衛をしてここに来た。この都市に害を与える気はないぞ」

 

「……嘘はないみたいですね。まぁ、いいです。それにしても貴方は……ふふっ、面白いですね。また近いうちに会いましょう」

 

 そうだけを言って少女は人混み中に消えていった。何だったのだろうか? 待てよ……あの少女はグラスの正体にも気付いていた。本当に何者だ? 

 俺達に疑問を残して少女が消えた場所を見た後、俺とグラスは顔を見合わせていた。

 

 

 

 




姫ギル(ロリ)本格的な出番は次回から


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黄金の姫

 あの不思議な少女が消えた後で、都市の中を探索していたら運搬係の人が慌てて俺の所に走ってきた。それ初めて見るような慌てようで、絶対に忘れなくて記憶に残り続けるレベルの慌てようだった。

 息を切らしていて言葉をちゃんと話す事が出来ていない。どうしたんだこの慌てようは……荷物が破損していたのだろうか? それだったら俺の責任だ。何か手助けをしないと。

 

「すいません……アッシュさん……王が貴方達を呼べと……急いでください」

 

 マジで大変なことだった。は? え? わっと? え? 俺、何かした? ちょっとまじで何かした? やばい混乱しすぎて語彙力が消えた。そんな中グラスは冷静でいつもと変わらない表情をしている。

 

「何で俺が呼ばれるんだ?」

 

「分かりません……ともかく速く来てください。ルガルバンダ様が速く来いと」

 

 俺はその言葉を聞き、これ以上待たせたら殺される未来が見えたので……すぐにジッグラトに向かう事にした。運搬係の人を背中に乗せて全速力で走って行く、十分程でジッグラトに着く事が出来たが……いきなり現れた俺に兵士の人たちが警戒をしていた。

 だけど後ろの運搬係を見て警戒を解いてくれた。その後、特に強い力を感じる事が出来る一人の兵士が俺に話しかけてきた。

 

「アッシュ殿ですね、王がお待ちです。無礼の無い様にお願いします」

 

「あぁ、分かった」

 

 王に会うという未知の体験をすることになるのか……首が刎ねられそうですごく怖いが……知識の通りにやればいけるだろう……多分。グラスは堂々としていて恐怖はない様子だ。ジッグラトの中に入ると一番先に目に入ったのは玉座に座っている、尋常じゃない覇気を持つ人間だった。

 見た瞬間、跪きたいと思ってしまうほど、にその人間は王だった。深紅の瞳に金の髪。芸術品と間違える程にその容姿は完成されていて。全てを従えるようなカリスマ性を持っていた。

 俺はのその人に睨まれた―――――そして、俺の時が止まる。

 全てを見通されるような……見透かされるような……そんな感じだ。

 体が強張り、汗が垂れる。体の血が急激に冷めていく―――グラスと対峙した時と同じ感じだ。この人間は化け物だ―――――。

 

「早く我の所に来い。あまり待たせるな」

 

「あ、あぁ、すまない」

 

 何とか感覚が戻ってきた。俺はルガルバンダの元に歩いて行く。そして近くまで来たところで壁のような物にぶつかった。

 

「止まれ、そこから先は入れないようになっておる」

 

 本当だここから先には、何故かいけないようになっている。グラスは気付いていたようで、俺の間抜けな様子を見て笑っている。後で飯になんか細工しておこう……だけど、グラスのおかげで落ち着く事が出来た。 

 今回は何で呼ばれたのだろうか? 俺が何かしたわけでもないし……人間じゃないいという事がばれたか? それは違うか? ばれたらすぐに殺されている筈だ。

 

「ほぉ。お前は今、考えているな……自分の事か? 我の事か? そんなに考える事はしなくてよい、今回は我の用事ではないからな……おい、ギルお前だろう? この者達に用があるのは」

 

「ありがとうございます、父上」

 

 聞こえた声は先程街で聞いた少女と物と同じだった。

 え? ギル? この時代でギルって言うと……あれしか思いつかないんだが……でもこの声は少女の物だし、さっき会ったのも少女だ。いやな……まさかね? 万に一つもそれがあるとして? あの少女がギルガメッシュ? fgo面影なかったぞ。「(われ)がルールだ!」みたいなことを言うような娘に見えないぞ。

 

「ふふこんにちはお兄さん。また会いましたね」

 

 絶対これがギルガメッシュじゃないって。こんなかわいい笑い方はしないって……。

 ギルガメッシュ? は、にこりと愛想の良い花が咲いたような笑みを浮かべてそう言った。その顔を見た俺は少しどきりとしてしまい顔が熱くなる……その次の瞬間にグラスの拳が背中に刺さる。

 

「おいグラス何をする?」

 

「……なんでもない。アッシュが悪いだけだ」

 

「俺は何も悪くないと思うんだが……」

 

「知らん、お前が悪い」

 

 よくわからないが拗ねてしまったようだ。顔を逸らしていて明らかに不機嫌そうにしている。俺は何も悪くないよな? しかし、グラスの様子を見る限り俺が悪いみたいだ……分からないな。

 

「アハハ、二人とも面白いですね。ふふ……呼んだかいがありましたよ」

 

 ギルガメッシュ? は上品に笑いながらそういった。

 どうして、俺達を呼んだのだろうか? 何か用があるのは分る。だって用が無ければ呼ばないと思うし……。

 

「何の用で呼んだんだ?」

 

「早いですね……まぁいいです。簡単に言いますと、貴方達を、私の物にしたいんです」

 

「は? どういうことだ?」

 

「貴方は半人半龍の珍しい種族ですし、もう一人は武器に宿り龍の使い魔。こんな珍しい二人組を見て欲しがらないと思うのは変ですよね? ですから今日は私の物になってもらうために、ここに呼びました……あ、一つ言いますが拒否権はありませんよ? 断った瞬間から貴方達はこの都市の敵になりますので、ここにいる戦力だけで貴方達を殺す事が出来ますし……別に集めるなら死体でもいいですからね。でもやっぱり生きている方が、私も持っていて楽しいから、こう聞いているんです。それで……断りますか?」

 

 完全に脅しであった。うん、こいつはギルガメッシュ……さらに性格が悪くなっているけど。この娘はギルガメッシュだ。もはや疑う要素が存在しない。こんなこと言われたら従うしかないだろう……グラスを殺されるのは嫌だから。あぁ、姫ギル怖い。

 そんなことを考えていると、グラスが小声で話しかけてきた。

 

「アッシュどうする? 暴れるか?」

 

「やめておく、従うしかないだろう」

 

 正直あのルガルバンダにだけは、どうあがいても勝てるイメージがわかない。試しに頭の中で戦うイメージをしてみたけど、その瞬間に体と頭が切り離される事を錯覚した。あれには勝てないと、一瞬で覚ったのだ。

 それにギルガメッシュの力も分からない。ここは従う事が何よりもいい策だろう。

 

「了解だ。お前の物になろう……だが、条件がある」

 

「ふふ、良い判断ですね。条件は何ですか? 聞いてあげますよ……私は今、機嫌が良いですからね」

 

「衣食住を保証しろ、それと魔術を教えてくれ、それが条件だ」

 

「ふふふふふ、アハハハハハ! そんなんでいいんですか、私に求める条件が? その程度? 本当に面白いですね、お兄さん。今まで私に求めてきた雑種共なんて金に土地、地位とかばかりだったんですよ。それなのに貴方は自分達の生活だけあればいいと……ふふあは……いいですよ。保証しましょう。そして私の中にある魔術の知識も授けましょう、その代わり私を失望させないでくださいよ? 少しでも飽きさせたらその時は殺しますので。これからよろしくお願いしますねお兄さん」

 

 何がツボだったのかわからないが。俺は気に入られたのだろうか? それはないな、最後に不穏な言葉聞こえたし……アッシュ、22歳。この世界に来てから一年くらい。今日俺は、ロリ姫ギルの物になりました。

 人生何が起こるか分かりませんね……凄く混乱しています。

 

 

 

 




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白銀の姫

オリキャラのギルの妹が出てきます。


「お兄さん速く来てください! 私が呼んでますよ!」

 

 ギルの声だ。

 俺はその声を聞き、はぁ、と息をこぼす。今は冬なので、その吐息は白く空中に残留している。今は夜なのでとても眠い。そして雲で月が隠れているのか、白い光は一切ない。ジッグラトには冷たい風が吹いていて、ここから空を見上げると風に雲が流されている。

 あのお姫様はいったいこんな夜中に、何の用なのだろうか?

 少しだけ時間が経ってギルが俺の所に歩いてきた。その顔は不満そうにしていて、何やら怒っているようだ。

 

「お兄さん今日は、魔猪の群れを狩りに行く約束をしていましたよね? なんで指定した時間に来なかったんですか!?」

 

 そういえば、少し前にそんなことギルが言ってたな……今日はマトゥルとの用事があって行く事が出来なくなったんだよな……どうしよう。この後がめんどくさい。

 そして、マトゥルというのはギルの妹だ。容姿は全てがギルを幼くくしたような感じで、唯一違うのは……髪が銀色というところだろうか? 無口だけどよく俺の後ろをついて来る。

 

「お兄さん無視しないでください、聞いてますか! こっちを見てください」

 

 ギルの事を無視してしまっていた。どんどんこれからめんどくさくなると、俺は確信する。とにかく今はギルの機嫌を取ることを優先しなければ……グラスが居てくれれば楽なんだが、今グラスは寝てるから起こすの悪いし頼る事が出来ない。

 

「悪い悪い、前から約束していたマトゥルとの用事があってな」

 

「またマトゥルですか? お兄さんは私の物なんですよ、自覚を持ってください。妹より私を優先するのが決まりです!」

 

「そんな決まりは俺の記憶では、なかったはずだが……」

 

「今作りました。私が主なんですからそのぐらいはいいんですよ!」

 

 横暴だ。やっぱりギルはギルである。自分がルールだと信じてやまない。もう6ヶ月くらいギルと一緒に過ごしてみて……そこはもう慣れたけど。

 

「という事で明日、埋め合わせしてもらいますよ? 絶対に忘れないでください!」

 

「何をされるんだよ俺は……まぁいいけどさ」

 

 その言葉を放った直後、ギルの顔が少し緩んだ気がした。そう、気がしただけだ。すぐに顔は不機嫌そうなものに戻りそそくさとこの場を去って行った。

 今ので、もともとあまりなかった眠気が覚めてしまった。少し散歩に行くか。 

 俺はそう知れずジッグラトの中にある庭まで歩ていく……とても暗い闇の中を俺は歩いてく。目的地は決まっておらず適当に歩いているだけだが……割と楽しい。

 現代のようなガス臭さは無く、虫の鳴く音や、草木の匂いが心地よい。

 

 ふと、明かりが見える。すこし遠くで淡く光っているものが見えた。俺はその光の原因が知りたくて無意識のうちのその場所に歩きだす。光は大きくなったり小さくなったりするのを繰り返しているが、その場から動く様子はない。

 微かだが魔力を感じることが出来るので、これは魔術の光だと俺は悟った。という事はあの場所で何者かが魔術を使っているのだろう……もう。予想はだいたいついているが。

 

 俺はその場所に辿り着くと、そこにはマトゥルがいた。手の中に魔力の光を集めながらそれを無表情で見つめていた。そんなマトゥルに俺は近づいて声をかける。

 

「マトゥル、こんな夜に何してるんだ? 昨日もやっていたけど楽しいのか?」

 

「あ……アッシュ……いい夜だね?……楽しいよ?」

 

「楽しいなら。疑問を持つなよ……本当に楽しと思っているか分からない」

 

「じゃあ……たのし~……これで大丈夫?」

 

「楽しいってことは伝わったから、もう大丈夫だ」

 

「そう……よかった」

 

 それだけを言って、マトゥルはまた無表情のまま魔力の光を集め始めた。放たれる光は空に消えていきその光景は幻想的だった。マトゥルは魔力を扱うのがうまいよな……。

 

「そろそろ……飽きた……アッシュ?……戻ろう?」

 

「了解したお姫様部屋まで送るぞ」

 

「うん……ありがとう」

 

 マトゥルは自然に俺の手を取ってきて、とてとてと歩き出した。俺はそれに引っ張られる形になり、少しずつだけど前に進んで行く。十分ほどジッグラトの中を歩き続けてマトゥルの部屋に着いた。マトゥルは部屋に着くなりそうそうと寝床に入り一分もしないうちに寝てしまった。

 今日の用事で疲れたのだろうか? いや、疲れていたんだろうな。魔力を扱うのが得意なマトゥルだが、長時間使う事は苦手で今日の魔術の訓練は長時間結界を維持する物だった。苦手な物をやったなら疲れるは当然だろう。

 

 こんなことをしている内に俺も眠くなってきたな……そろそろ寝るか。

 俺は少し眠くなってきたので貸してもらっている自分の部屋に戻り今日の疲れを癒すために寝始めた。

 

 

 

 朝だそれもとても穏やかな……朝日が窓から差し込んでくる。今はどのくらいの時間なのだろうか? 今日はギルとの約束もあるし早くいかなければならない。

 体感では、朝の6時くらいか? 耳をすませば外から、鳥のさえずる声が聞く事が出来る。

 

「そういえば……今日朝食を作るのは俺か……早くいかないとな」

 

 俺は今日の朝やることを思い出して、服を着替えてから自分の部屋を出る事にした。グラスはすでに起きているようでこの部屋にはいなかった。

 さぁ今日は何を作ろうか?

 

 

 

 

 




今回は少し硬めというかfateの原作を意識してみました。この方が良いかな?


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日常

 

 俺はキッチンで朝食の準備をする。料理を始めるようになったのはギルが俺の料理を気に入ったらしくたまに作れと言ってきたからだ。普段は料理人が作っているんだが何週間かに一度だけ俺が作る事になっている。土鍋で一緒にスープを作り野菜を切る。少し前に釣った魚を焼いて買ってきたパンも焼く。次は現代の知恵から持ってきた卵焼きだ。あとは全てを盛り付けて準備完了。

 

「完璧! 流石俺だな。これならみんなも喜んでくれるだろう」

 

 ここでの生活を初めて六ヶ月、俺も慣れて来たよなこの生活に……しかし、ちょっと準備が速かったかもしれない。まだみんなが起きる気配が全くない。グラスは多分この時間だし、庭にいるだろうな少し訓練手伝って貰うか。

 

 最近は魔術の訓練ばかりで、あまりグラスを使ってなかった。これでは体が鈍ってしまうので、そろそろ俺はグラスを使って、訓練しないといけない。

 昨日と同じ道を通って庭に出る。冬空の庭はかなり冷え肌寒い。それにグラスが居るだろうし、通常の気温より今の気温は下がっているだろう。遠くを見ると氷の結晶の中に座るグラスが居た。

 氷を削りこの時代の甘味料を氷にかけて作られた、簡易的かき氷を食べているのが見る事が出来る。美味しそうだな。俺も貰えるだろうか? 

 俺はゆっくりとグラスの元に近づいて行く。幸せそうにかき氷を食べるグラスの邪魔をするは気が引けるから。ゆっくりと言っても距離自体はあまりないのですぐにグラスの元に辿り着く。

 

「おはようグラス。いい朝だな」

 

「ぬ? アッシュか確かにいい朝だな、よく冷えている心地よい朝だ。氷の龍である私には丁度いい。こんな時に食べるこの食べ物は格別だ……それでなんの用だ?」

 

「用という程の物ではないが……大鎌の姿になってくれないか?」

 

「……了解した。鍛錬するんだろう? ギルとマトゥルが起きるのはあと三十分ほどだそれまで存分に使うがいいアッシュ」

 

 その言葉を最後にグラスの姿が大鎌に変り俺の手に現れる。黒金が俺腕を一本まるまる覆い尽くし、籠手を着けているみたいな状態になる。久しぶりに強化の魔術を体にかける。二重、三重と魔術をかけて俺は、大鎌を振り始める。

 

 

 ――――――――ニ十分が経った。

 仮想の敵の幻想種をイメージして、俺はその間休むことのなく大鎌を振り続けた。幻想種はどれも化物だ、一歩間違えれば一瞬で俺の命を奪って来る。そんな相手達をイメージして行う鍛錬は俺の中で何よりも効果的でやりやすい……体力がほぼ無くなるっていう欠点があるが……そこは仕方ないと割り切ろう。 

 大鎌を腕から離すと大鎌はグラスの姿に物になる。

 

「よし終わったな。今日は何回死んだんだアッシュ? かなり息が荒いが」

 

「十八回ほどか? 今日はかなり疲れた……でもギルとの用事があるからな。体力を戻しておかないとな」

 

「アッシュは馬鹿かギルとの用事があるなら、この鍛錬は普通しないだろう。お前これの後すぐ休むし」

 

「最近グラスを使ってなかったから張り切っちゃってな……まぁ、何とかなるだろ」

 

「……その自信は何処から出ているんだ? はぁ、まあいいか朝食作ってあるそうだな、そろそろ(みな)もおきると思うから戻るぞ」

 

 グラスは俺をジト目で睨んだ後に、ため息をついてからそう言った。その姿にわずかに俺はムッとしたがやめておく。グラスが俺の前を進み、俺はその数歩後ろを歩いて行く。大広間に俺達は辿り着くと、そこには俺が作った食事が用意されていて、ギルとマトゥル、ルガルバンダの三人がすでに机に座っていた。

 

「遅いぞアッシュ? 我は腹が減った。早く座れ食べるぞ」

 

「お兄さん。おはようございます。今日の朝食はお兄さんが作ったんですよね。主として嬉しいです」

 

 変わらない態度の二人。ギルは自分の事のように胸を張り嬉しそうにしている。その姿は見栄を張る少女にしか見えなくて……どこか微笑ましい。こんなこと言ったら殺されるかもしれない……だからこそ俺は口には出さないのだ。命が欲しいからな。

 

「む? お兄さん? 今、失礼なこと考えませんでした? 絶対に考えましたよね? ふふふ私は寛大です。怒らないので言ってください。ほら、早く」

 

「言わないぞ俺は絶対に言わないぞ……いったらどうなるかわかっているからな、あ」

 

 今のは失言だった。今の言葉で俺がどんなことを考えていたかを、だいたいギルは察しただろう。額に青筋が浮かび上がっている。ゆっくりとギルは俺の方に視線を向けた。俺はその視線に自然と後ずさる。

 嫌な予感しかしない。

 

「お兄さんはどうなる分かっている事を考えたんですよね? しかし今日は怒りません。用事がありますからね……支障が出たら困ります」

 

 そう言えば今日の用事とはなんだろか? 聞かされていないからどういう準備をすればいいのかわからない。戦いかもしれないし魔術の訓練かもしれない。ギルの訓練はいつもスパルタできついからな。今日、朝訓練したばかりの体で出来るのだろうか?

  

 そんなことを考えながらも朝食を食べ終わり俺はギルに呼ばれて部屋に来た。ギルの部屋はとても広く一つの民家くらいの広さがある。ギルはその部屋で、裸同然の格好をしており横になっていた。ギルは少女だがその容姿と完璧な体形故か妖艶さを持っていて目のやり場に困ってしまう。俺は少し目を逸らしながらもギルに話しかける。

 

「ギルそれで今日の用事ってなんだ? 戦闘か? 魔術の訓練か?」

 

「違いますよお兄さん。今日は二人ウルクの町を見に行きましょう。デートというやつですね……いや、ですか?」

 

 ギルはそう言って俺を上目づかいで見てきた。いつもは綺麗なギルだがこの時はギルはとても可愛くて俺は自然と頬が赤くなる。ギルはそれを肯定と受け取ったのか、さっきとは別の種類の笑顔を浮かべて、とても嬉しそうに続きを言った。

 

「はい、それでは行きましょうお兄さん。今日はいろんな店を見て回りますよ。着替えるので部屋を出ててください。少し恥ずかしいです」

 

「あぁ、わかった」

 

 

 一分ほど経ってギルは部屋から出てきた。

 そしてギルは俺の手を掴んで数歩だけ引っ張り―――――。

 

「お兄さん、今日はよろしくお願いします」

 




次回はロリ姫ギル回だ! メインヒロインの力を見せてやる。
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朱の誓い

メインヒロイン回だ。


「それでは行きましょう、お兄さん」

 

 俺はギルにそう言われて、こくりと頷く。言葉が出なかったからだ。ギルの格好は、見た目に凄く合っていてとても可憐だ。俺はその姿に何度目か分からないが、見惚れてしまっていた。

 ギルの横を歩き、ジッグラトを出る。護衛の兵士は俺達を見て何かを察したようで微笑ましい物を見るような視線を向けて来た。

 どういう意味が込められていたのだろうか? まぁ気にしなくてもいいだろう。何か、ある訳でもないし。

 

「お兄さん、最初はどこに向かいますか? 私は喉が渇きました」

 

「それ聞く意味ないだろ……了解だお姫様。ジュースでも飲みに行きましょうか」

 

「よろしい。流石、私の所有物。よくわかってますね。では、行きましょうか」

 

「エスコートしますよ。ザクロのジュースでよろしいですよね」

 

 俺はどこぞの執事みたいな丁寧な口調でそう言った。

 

「私の好みもよく把握していますね……偉いですお兄さん。迷ったら困りますので、手でもつなぎましょう」

 

 そう言われてから俺はギルと手を繋ぐ、ウルクの都市は相変わらず賑やかでとても活気にあふれている。俺も六ヶ月でかなりこの都市に馴染んでいて、今ではかなり知り合いもいる。魚屋も肉屋の主人とは親友と言ってもいい程に仲がいいかもしれない。挨拶に行きたいが、今はギルとのデート中だ。先にジュースを売っている店に行くのが当たり前だろう……行かなかったらただの屑だし。

 人混みの中を一緒に歩く、他の人にはしっかり見ないとギルだとばれないように、俺は軽く認識阻害の魔術をかけておく。本当は完全にばれないように、もっと高位の魔術をかけたいが……俺はこの系統の魔術が苦手だから仕方ない。 

 ギルは、突然発動した魔術に少し警戒したが……それが認識阻害の魔術だと瞬時に悟りすぐに警戒を解いた。

 

「こんな事、別にしなくてもいいんですが。せっかく、かけて貰ったんですしありがたく受け取っておきますよ。心配してくれてありがとうございます」

 

 ギルは無邪気に笑ってそう言った。

 その笑顔を見るのが少し恥ずかしくて、俺は顔を逸らす。

 

「こんなことで照れるなんて……お兄さんは初心ですね。面白いです」

 

「…………そんなことはない」

 

 俺は見栄を張る。いつまでもギルに、からかわれるのはなんか……負けた気がする。

 

「ふふ、そう言いながらも顔は紅いですよ? まぁ、無理もないです。私は綺麗ですからね」

 

 その言葉は実際正しいので反論はできないが少しムカついた。これは完全にギルのペースに飲まれている。なにかないか……大人としての意地なのか、俺は自分のペースに持っていく方法を探しはじめた――――その途端にギルに服を引っ張られた。

 

「お兄さん着きましたよ、はやくならびましょう?」

 

 くっ、探している間にもう店についてしまっていたようだ。これだとギルに負けたままになってしまう……なにかないか……なにかないか? 

 そう考えながらも俺は列に並ぶ。今は冬なのにこのジュースは大人気だ。二分は並ぶ必要があるだろう。その間に何か策を見つけなければ……。

 

「お兄さん順番が来ましたよ。早く買っちゃいましょう」

 

「あぁ、了解した」

 

 俺は金を取り出して店の人に挨拶しようとして顔を見た。

 そこには最近知り合ったばかりの人物がいた。

 リアムという青年だ。確か兵士をやって居た筈だが……何故ここにいるんだ? コイツの性格だ……サボりだな。

 

「リアム、サボりか? 仕事はどうした?」

 

「ちげぇよ。俺は実家の手伝いに来ただけだ……さぼりじゃねぇ休暇も取ってある。ていうかお前は何でここにいるんだよ今日も仕事とか色々あっただろ……その少女……は?ギル様じゃねぇ―――」

 

「大声出すなリアム、周りにばれる」

 

 俺はすぐにそう言った。

 ここにギルが居る事が居るのがばれるとまずいし混乱が生まれてしまう。

 

「察しろ、そして落ち着け」 

 

「落ち着けって言われてもお前な……無理だろ……だってギル様だぞ? 本当に何でこんな店に来たんだよ。あんまいいものねぇぞ?」

 

「ギルの好物が、ザクロのジュースだからな。近かったからここにしたんだが……来ちゃ悪かったか?」

 

「別にいいけどよ、こっちも心の準備があるだろうが」

 

 俺とリアムが話しいると、ギルが不機嫌そうに俺の服と肌を引っ張ってきた。痛い地味にだが痛い。さらにだが、爪が肉に食い込んでいて、かなり不機嫌という事が分かる。

 

「…………お兄さん。今は私の用事を優先してください何を楽しそうに話しているんですか? 怒りますよ?」

 

 もう怒っている気がする。他の人に分からないようだが、少しだけギルは魔力を放出している事が分かる。刺々しい魔力だ。魔力が体中に刺さる感覚を感じる。俺はバツが悪くなり、無理矢理にだが話題を変える事を試みるが――――一向に会話が思いつかない。

 

「お兄さん速く買ってください。別の所に行きますよ」

 

「すまんなリアム、ギルが不機嫌になったからもう次に行く。また今度酒でも奢る」

 

「ちょっと待てギル様が不機嫌に? 俺……首刎ねられるんじゃないか?」

 

「大丈夫だいつもの事だか「早く行きますよお兄さん!」悪い、こんどな」

 

 俺はそれだけ言って店から離れる。ジャックは顔を青くして何やら口走っていたが無視していいだろう。俺は何とかギルの機嫌を直すために焼き菓子の店に行くことにした。その日は人が少なくすぐに店の中に入る事が出来た。そう言えばここはアンナの店だよな。

 アンナはルガルバンダ直属の部下の魔術師で、影を操る魔術を事が出来る。三か月ほど前に知り合いそれからよく一緒に酒を呑む友達だ。アンナの作る焼き菓子は美味しくてよく分けて貰っている。ギルもこの店の焼き菓子を食べれば機嫌が直るだろう。

 

「いらっしゃいませ――――ってアッシュじゃない。なんか用? 食べに来たなら、金おいて行きなさい今日人があんま来なくてねー稼げてないのよ」

 

「大丈夫だ金は結構持ってきた。それにギルもいるから、かなり食べると思うぞ安心しろ」

 

「は? ギル様? 何でこんな町に来てんのよ?」

 

「いては悪いですかアンナさん? それと私の所有物に、馴れ馴れしく話しかけないでください。不愉快です」

 

「なんか今日ギルは機嫌悪いんだよ。機嫌を直すためにここに連れて来たんだが悪かったか?」

 

「いえいえ、大丈夫ですよアッシュさん。たくさん作りますので、少々お待ちを……アッシュ、今度でいいから埋め合わせはしてもらうわよ」

 

「分かった。なんか……すまんな」

 

 その後ギルは三十分間焼き菓子を食べ続けアンナの店の材料が無くなった。しかしギルの機嫌は直らない。

 その後も店を回ったがギルの機嫌は良くなることがなかった。夕方になり俺達はウルクの門の上にのぼって、その上を歩いている。この上から見る事が出来る夕陽は俺がウルクで見る、なにより綺麗で大好きだった。

 俺はいつかこの場にギルを連れてこようとしていた。理由としては、この場で頼みたいことがあったからだ。今日ぐらいしか二人で来ることはできないだろう。だから今日、伝えるんだ。

 

「ギル、機嫌は治ったか?」

 

「だから言ってるでしょう。私は怒っていません。それで、何でここに連れて来たんですか?」

 

「ここでお前に頼みたいことがあってな……前から考えた事なんだ」

 

「何ですか?……一応聞いてあげます」

 

「じゃあ言うぞ。なぁギル俺の正式な主になってくれ」

 

「どういうことですか、私はもう貴方の主ですよ?」

 

 ギルは頭に?を浮かべているようだ。確かに、今の言い方じゃ伝わらないだろう。あー恥ずかしい……これはかなり恥ずかしい。でもこれは前に、グラスと決めたことだ。今はグラスがいないのがちょっとつらいが。後で伝えればいいだろう。

 

 夕焼けが俺達を照らす。

 俺はその下で、ギルの方を真っ直ぐと見つめる。今は冬なのに、不思議と、この場の気温は低く感じなかった。夕陽のせいなのか、自分の顔が赤いからなのか……それはわからない。 

 俺は、時間が止まっていると錯覚する。

 それほどまでに、口を開くのを躊躇ってしまう。鼓動が速くなる。告白というわけではないが……いや、それに近いかもしれない―――――覚悟はできた。伝えよう。

 

「ギル、この関係はお前が強引に始めたものだ……だから今度は俺から始めさせてもらう。ギルガメッシュ、これより我が身の全ては永久に汝の物だ。返答を聞かせてくれないか姫よ」

 

「あはは、そういう事ですか。ふふっ、いいですよアッシュ、約束しましょう。私は永遠に貴方達の主です。絶対貴方達を捨てないと誓いましょう。その代わり、永遠に私から離れないでくださいよ」

 

「ああ―――――了解したよギル」

 

 辺りを朱の光が染めている。

 そんな中で俺は未来の英雄に誓ったのだ―――――永遠に君の物であると。

 

 




次回からロリギルから姫ギルになるぞ。
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時は進む

久しぶりに緩い話。


 俺がギルの物になって四年が経った。あれから正式にギルは女王になってこのウルクの国を率いている。俺はそれからギルの部下にもなり、今日もその仕事をこなしているんだが……。

 

「あぁ、何処にあるんだ俺の休みは……」

 

「アッシュ様、そんなことを言っていないで早く仕事を進めてください。あと何件かの仕事が残っておりますよ? 早く手を動かしてください」

 

 俺の横で淡々とそう言う女性の名はシドゥリという者だ。ギルが行った酒場の娘で、千里眼で見たその有能さを見込んで部下にした者で、今の俺の秘書でもある。ギルが見込んだ通りの有能さはあるんだが……厳しすぎる。

 休みくれないし……無駄口叩くと怒るし……酒くれないし……は? これが普通? ふざけんなそれが普通ならこんな仕事辞めて――――はっ、殺気!?

 

「アッシュ様……手が止まっておりますよ? 手を止めないでください。この書類が終わったら製鉄所の定期検査に大量発生したワイバーンと討伐、それと女王との食事がございますので後三十分ほどでこの仕事を終わらせてください。じゃなきゃ時間が押してしまいます」

 

「なぁ、シドゥリ。お前の分の書類は終わったのか?」

 

「はい、当然です。あの程度ならに十分あれば終わりますので」

 

 シドゥリは胸を張りそう言った。それが当たり前のように。シドゥリの座っていた机を見てみると綺麗にまとめられた紙の束が……その数は百枚程とても十分で終わる量ではない。視力に強化の魔術をかけて書類話見てみるとしっかりまとめられていて無駄がなかった……それに比べて、俺の机を見てみるとあと五十枚の書類が残っている。さらに俺はシドゥリよりも早く始めた筈なのに、もう一時間以上かかってしまっている。

 

「手伝ってくれないかシドゥリ?」

 

「無理ですね。与えられた仕事は自分でこなしてください」

 

「せめて十枚でいいから……」

 

 もう文字なんて見たくない……昨日はこれ以上に書類をかたずけていた。昨日と今日を合わせてみて使った紙の数は四百枚は超えるんじゃないだろうか? ずっと文字を書き続けて腕が筋肉痛だ。

 

「あ、そうだアッシュ様。とても、いい知らせがありますよ」

 

 唐突に、シドゥリがそんなことを言い出した。

 いい知らせ、何だろうか? まさかこの仕事を止めていいのだろうか? もしもしそれなら本当にいい知らせだ。俺は期待と希望を込めて聞き耳を立てる……しかし届いた言葉は……俺は絶望に叩きつける物だった。

 

「喜んでくださいアッシュ様。追加です」

 

 にっこりと、とてもいい笑顔で微笑んでシドゥリは俺の目の前に書類を置いた。

 あはは……もう何でもやってやるよ! 行くぞ書類、文字の準備は十分か?

 

「俺を倒したければ、この三倍は持ってこいシドゥリ!」

 

「あ、了解しました。明日の分を今日かたづけるんですか。少し待ってください、今持ってきますので」

 

 もう……やだ。

 俺の休みは……どこ?

 

 ◇◇◇

 

 何とか俺は仕事を終わらせてから外にいた。

 次の仕事のワイバーン狩りだ。大鎌に魔力を注いでいく。周りに鉄の槍を造りだして俺の近くに待機させる。空を飛ぶワイバーンを見つけたら、追撃するようにイメージしておく。イメージとしてはダークソウルの追尾するソウルの結晶塊と言ったところか? それの鉄槍版だ。俺が視覚しなくても、気配を感じたらそいつの方に飛ぶようになっている。今回は五十匹ほど狩ればいいはずだ……しかし俺は数える事が苦手なので、そこらへんはグラスに任すとしよう。

 

「任せられるかグラス?」

 

(私を誰だと思っている、お前の武器だぞ? そのぐらい出来なくてどうする?)

 

「あぁ、そうだよな。お前はそういう奴だ。じゃあやるぞ!」

 

(了解だアッシュ。狩るぞ)

 

 自分に強化の魔術をかける。視力、筋力、脚力、聴覚それらすべてに二重強化。

 視力を強化して羽音を探し場所を特定する。見つけた瞬間に強化した視力を使い、その場所に何体いるかを視認する。強化した脚力で地を駆ける。空中に居るワイバーンの元まで跳躍して、一気に鎌を振るいながら、周りにある鉄槍を放つ。

 

 咄嗟なことでワイバーンは驚いて反応が遅れてしまっているようだ……そして、その隙を逃す俺ではない。大鎌を一瞬離し空中にルーンを描く。アンサズとイスだ。アンサズは炎、イスは氷。アンサズの文字からは炎は溢れ、イスは周囲の空間を凍結させる。氷龍であるグラスを食った俺は氷の魔術の効果上がっており、腕を振るだけで氷を作る事が出来るが……ルーンを使った方がその効果も上がる。

 

「グラス! 何匹殺した!?」

 

(ニ十匹ほどだな……来るぞ!)

 

 殺し損ねたワイバーンの群れが俺に殺到する。爪を向ける者、牙で噛みついて来る者、羽で風の刃を起こす者、全方位からの攻撃。空中では回避は不可能だろう―――――以前の俺ならな。

 

「龍化」

 

 この技は一年前に習得したもので……効果は半龍である俺の体を、一時的に龍にする物。この技は三段階存在し、一段階目が部分的に龍になる物。

 二段階目が全身を龍にするが人型を保つ事が出来る物。

 そして、三段階目が……完全龍化。グラスの龍形態と同じ姿になる事が出来るが、理性を失うという欠点がある。二段階目までは完全に扱えるのだが、三段階目になると話は変わり意識を保つ事が出来るのは二分ほどだ。

 今使うのは、一段階目の部分龍化。背中を龍の物にして羽を生やす。それにより空中での回避を可能にしたのだ。 

 空中を俺は飛んですべての攻撃を回避しながら大鎌でワイバーンを切り裂いていく。

 

 ――――――残りは十匹ほど。色が赤い物が9匹。色が黒い物が一匹。そいつらは今まで殺した緑色のワイバーンより強い魔力を持っていて、少しは苦戦するだろう。

 

「グラス少しわかれるぞ。黒はやるから、赤を頼む」

 

(任された。久しぶりに体を動かしたいからな)

 

 大鎌を離した瞬間にグラスは姿が戻り空中にグラスが浮遊する。その周りには冷気が放出されて辺りの空間が一気に極寒の物になる。ワイバーンたちはそれのせいで動きが鈍る。俺はその隙をついて黒いワイバーンをに向けて魔力弾を放ったが……直撃した途端に炎が霧散した。

 

 コイツは対魔力を持っているな……今のを無効化するのだと、ランクはBくらいか。

 ―――――なら近接だな。

 

「グラス、剣をくれ」

 

 それだけでグラスは察してくれて剣を造り渡してくれた。俺は一気に黒いワイバーンに突撃して、空中から地面に押さえつける。剣をその間に刺せばいいのだがそこまで俺は器用ではない。地面に押さえつけた途端に、俺は振り払われてしまい。地上でにらみ合う形になった。

 

「さぁワイバーン。一騎打ちと行こうか!」

 

「gaaaaa!」

 

 俺とワイバーンンは同時に動き出した。

 

 

 ◇◇◇

 

 俺の目の前には、四年間で完全に成長しきったギルが座っている。身長は167㎝ほどまで伸びていて、他の身体的特徴も大人の女性の物になっており、絶景の美女と言えるだろう。ほぼ衣服を纏っていない姿は色気があり俺も直視することはできない。顔も芸術品のように整っていて見ているだけで照れてしまう。

 そんなギルは、優雅に食材を口に運びながら俺の方を見つめている。その動作は洗礼されていて美しい。

 

「む? アッシュよ、食べんのか? せっかくの食事が冷めてしまうだろう、早く食わぬか」

 

「あぁ、ギル悪い、少しぼけっとしていた」

 

「かまわぬ。謝る事でもない……だが暖かい内に食さなければ、作った者たちに悪いであろう? もしも謝るとしたらそのもの達に言え。だがまだ冷めておらぬからな早く食えば別にいいだろう」

 

「そうだな、ギルの言う通りだ」

 

 俺はギルの言葉に従い。食事を始める。ギルが選びに選んだ料理人たちが作った料理はとても美味で、自然と頬が緩んでしまう。やっぱり美味しいな。そうだ今日はギルに聞くことがあったんだ。それは、今日なぜ二人奇異の場を用意したかだ……。

 

「ギル、今日は何の用だ? お前は忙しいはずなのに今日なぜこの場を用意した?」

 

「アッシュと食事を共にしたかったでは駄目か?」

 

「それは違うだろう? そんならこんなに予定を立てる必要がない。休憩時間にやればいいはずだ」

 

「察しが良いな。流石は我の物だ」

 

 ギルはそうして深い笑みを浮かべて、満足そうにこう続けた。

 

「少し前に神共が我の行動を縛るために、何やら兵器を作ったそうだ……もうシェムハトをそいつの所に向かせてみたのだが……そいつは何を勘違いしたのか、我を殺しに来るみたいだ」

 

「はぁ、それを俺に伝えてどうするんだ?」

 

 自分が殺されるかもしれないのに、ギルは余裕だな……俺もギルが死ぬなんて少しも思っていなが。

 

「そこは察しが悪いみたいだなアッシュよ……頼みがある。そいつと戦う舞台を整えてくれ」

 

 久しぶりだ、ギルに頼み事されるのは……ギルの頼みだ。最高の舞台を整えようじゃないか。

 

「あぁ任せてくれギル」

 




次回は緑髪のあのキャラが?


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狂った神造兵器

どうしてこうなった。
今回短いです、


 私は神に造られた兵器だ。

 出来ることは己の体を武器にすること。

 この力が齎す事が出来るのは、最悪の結果のみ……。

 

 殺して。

 

 奪って。

 

 破壊する。

 

 それしか私にはできる事がない。

 

 生まれたばかりの頃の私にはそれが当たり前だった。

 僕は無知だった。世界という物を知らなかった。そんなある時、一人の人間に出会った。そして私は、その人間に教えられたのだ。

 

 世界という物を、人という物を、知識を、言葉を、愛情を。

 そしてその人間の姿を私は真似た。少しでも人間に近づきたくて、化物の自分が何よりも嫌いで、人の姿になった私は、この世界が美しいと感じた。空は青く、世界は緑に溢れている……この世界が。

 その人間からある者の話を聞かされた。アッシュという名の人間の話だった。その彼の事を聞くのが、私は一番好きだった。その彼が幻想種の王である龍を倒した話、一年の間この世界を見て回った冒険や、人を守るために自分が傷ついても戦い続けた話、その全てに私は聞き惚れていた。

 

 彼が、この美しい世界を好きに生きている事を想像して、勝手に喜んだこともあった。

 

 彼と一緒に過ごしたら、どれほど楽しいかも想像した。

 

 彼の気持ちを知りたかった。

 

 彼に会いたかった。

 

 会って話がしたいと思った。

 

 兵器である自分を変えてくれるかもしれないと無垢な少女のような期待もした。

 

 粘土で作られた、汚れた私に触れてほしい。

 

 無垢な頃の私が犯した罪を、彼に許してほしい。

 

 彼に想われたい――――――だからこそ私は、ギルガメッシュという女が許せなかった。

 

 彼を縛った事が。

 

 彼に慕われる事が。

 

 彼に想われることが。

 

 彼と過ごしたことが。

 

 全てが許せなかった。

 私がもっと早く生まれていれば、彼と先に出会えていたかもしれないのに……彼と過ごせたかもしれないのに……何もなかったはずの僕にドス黒い感情が溢れ続けた。私はギルガメッシュを縛り、天上に連れ戻す『天の鎖』としての役割を持っていた……だけど今の私にはそれはどうでもいい。あの女を殺したい。

 こんな事すれば私は神に壊されるだろう……それでもいい。

 ギルガメッシュを殺した時に私は――――――。

 

 彼――――アッシュに恨まれるかもしれない。

  

 壊されるかもしれない。

 

 そんなことを考えると……異常なまでに幸福を感じる。彼が私に何かすると考えるだけで気分が高まっていく。私に知識をくれた人間シェムハトはこの私の話を聞いて笑っていた。そしてこの事をそのままギルがメッシュに伝えたようだ。私はその時に聞いたある事で、死んでもいいかと思ってしまった。

 

 彼が……アッシュが。

 私のために場を整えてくれるらしい。

 

とても嬉しかった。知らない私のために、そんな場所を用意してくれるなんて……私は気持ちが抑えきれずに姿を鳥に変えてアッシュの元に飛んで行った。まだ会わないけど少しでいいから、アッシュの姿を見てみたくなったからだ。

 アッシュの元に辿り着き、見たのはずっと魔術を使い続けていた、アッシュの姿だった。

 アッシュは人間が作れないほどの規模の結界を構築していた。他ならぬ私のために――――――。

 

 すぐに姿を見せたかった、声をかけたかった……だけど私は我慢した。せっかく作ってもらっているんだ。約束した日に会うのが礼儀だから。だから私はこっそりとその場を離れてあと三日間待ち続ける事にしたのだ。

 

 そして約束の日に、私はギルガメッシュと出会った。




ヤンデレエルキドゥだぞ


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黄金の女王と神造兵器

 もうやだ……過労死しそう。

 たぶんね、これは俺が悪いんだ。ギルに向かって「あぁ任せてくれギル」とか、かっこつけたのはいけなかったと思うんだ。

 もう何で俺は……働いているんだろうか? 自分が分からなくなってきた。

 サボっていいんじゃないか? と何度も逃げようとした。変な門も四回ほど見た……一回、くぐった気がしなくもないが……何とか戻ってきた。そこで金髪の女神っぽい人も見たけど多分気のせいだ。

 魔力はもう空で、一滴も残っていない。知ってるかい? 人間っ75時間ぐらい働き続ければ、最高の舞台を用意できるんだぜ?

 

 俺の目の前には三日で魔術をフル稼働させて建てた闘技場がある。神代ってすごいよな人間が三日で闘技場を建てらるんだぜ? もう5年は働きたくないけど……これもギルの為だと思って頑張れた。まぁこの建物……戦闘の余波でぶっ壊れると思うんだけどな。

 

 青い月が俺を祝福するかのように照らしている。月が雲に隠れては、現れるのを繰り返している。その月を俺は地面に寝転がりながら見上げる。

 朧月だ。俺しかいないこの空間で、俺は一人で月を見上げている。とても綺麗だと思った。月光は爛々としていて宝石のようだった。

 唐突に月が(かげ)りだす。巨大な雲塊が夜空を覆ったからだ。

 もうちょっと月を見ていたかったけど……しかたないな、ギルに報告しに行くか。三日間で何度使ったか分からない、強化の魔術を自分にかける。

 

 俺は飛び起きてその反動を使い、闇を駆け抜ける。

 ここからウルクまで半日かかるが今の速度なら二時間ほどで、辿り着く事が出来るだろう。俺は少しでも早くギルにこの事を伝えたい。今の俺はこの先で生まれるであろうク―フーリンより早いかもしれない。それは傲りか……。

 

 駆ける度に、景色が後ろに消えていく。ほどなくして俺は近道である、森の中に入っていた。この森の中には幻想種が暮らしているが……今の俺の速さなら、捕らえられることはない。

 

 そして二時間ほどで俺はウルクのジッグラトに辿り着いた。俺よく使う裏口から入り込みギルの部屋にノックをしてから入る。

 

「ギル完成したぞ」

 

 俺は部屋に入るなりそう言った。そんな俺を見る昼の視線は優しい物で慈愛に満ちていた。

 

「知っておるぞ、アッシュ。よくやったな」

 

 この一言が聞きたかった。ギルに褒められるのは嬉しいから……心が満たされていくから。本当に頑張ってよかった。そうやって気が落ちたからだろう、一気に睡魔が襲ってきた。少し動くだけで……倒れそうだ。

 

「アッシュ今日は休め。どうだ? 我と一緒に寝てみるか? 膝を貸してやろうではないか」

 

 俺は完全に頭が働いていなかった。ギルが何を言っているか分からないが、自然とギルの元に足が進み、ギルの方に倒れ込んでしまった。

 

「ふふふ、アッシュ良い夢を見るのだ」

 

 ◇◇◇

 

 そして二日後アッシュが作った闘技場に二つの人影が並んでいた。

 一人は未来の英雄たちの女王である黄金の姫ギルガメッシュ。もう少女ではないその体は世の全ての人間が見惚れる程に完成されていて、その身に纏う鎧は露出させている部分が多く、神によって造られた体を見せつけていると、言ってもいい。腰まで伸びた黄金の絹のような髪は、風に揺れ、全てを見通す紅き瞳は輝いている。

 

 対するは神造兵器であるエルキドゥ。その容姿は中性的で男か女かの区別はつきにくい。だがその容姿はギルガメッシュと同じ、神に造られた物でとても美しい物だった。若葉のような緑の髪は腰まで伸びていて。中性的な顔を気にしなければ女に見えるだろう。その容姿はギルガメッシュの部下でもあるシェムハトに近いものだった。

 

「ほう貴様がエルキドゥか……道化だな。その程度の力で我を殺そうとしたのか? もはや笑いすら起きんが……まぁ、良いだろう。この余興に付き合ってやろうではないか」

 

 ギルガメッシュはそうエルキドゥを挑発した。興味はお前に待たないと自分が勝つことを疑わずにただただ告げる。それに対してエルキドゥは好意的にこう返した。

 

「あはは、私は楽しみだったんだけどね君を殺すことが……ねぇ、早く始めようよ。彼も見てるからね」

 

 そう言ってエルキドゥはアッシュの方を見た。その視線を受けたアッシュは、何故か胃の痛みを感じそこを押さえていた。その姿に何か思うところがあったのか、エルキドゥは頬を紅くして笑っている。

 

「ほぉ……貴様は我の物に惚れておるのか? やめておけ……あれは未来永劫、我の物だ。貴様如きが、触れてよい物ではない」

 

「それは冗談だよね? そんなこと、ある訳ないじゃないか。君が決める事じゃないしね?」

 

 二人の会話は遠くて聞こえないはずの、アッシュであったが何故だか胃が痛んでいた。エルキドゥから魔力が溢れ出す。戦闘態勢に入ったようだ。それはギルガメッシュも同じで自分の周りに金の穴を展開させた。

 

「では……始めるぞ、人形」

 

「君だけは殺すよ、私は彼の物になる」

 

「ふっ、冗談は存在だけにしておけよ人形!!」

 

 こうして神代最高の殺し合いが始まった。

 

 

 

 切っ先が交差する。

 幾千、幾万と振るわれる武器の数々、何重もの太刀筋。両者が振るう武器は弾け合い、火花を散らし続けていた。戦斧が宙を飛び、剣や槍の群れがギルガメッシュから放たれる。それをエルキドゥは自分の体を武器に変化させて防ぎ、弾き返していく。

 

 ――――――数十万を越える攻防を交わしたが、どちらからが優勢になる事はなかった。無限に等しい武器を用意しているギルガメッシュ。自身から無限に武器を造りだせるエルキドゥ。

 

「ふ――――」

 

 何回目か分からない踏み込みをギルが行った。

 手に持つ武具は再生を封じる効果を持つ物だ。これで傷をつける事が出来たなら、ギルガメッシュが優位に立つだろう。

 しかし、エルキドゥは兵器ゆえか、その武具がどういう物なのかを一瞬で悟る。その武具により放たれるのは無数の連撃、その全てをエルキドゥは防ぎ切った。

 

 ――――――いや、違う。それは防ぎ切った、という優しい言い方では表せない。ギルガメッシュが放ったすべてを悉く受け流す。受け流す間にもエルキドゥは無数の武器を造りだしギルガメッシュに向かって放射を続ける。

 

「ちぃッ――――――」

 

 その攻撃をギルガメッシュは虚空から盾を出現させて防ぎきる。しかしのその物量からギルガメッシュの足が僅かだが止まる。次の攻撃が間に合わないと、ギルガメッシュは悟った。エルキドゥが放つ攻撃の速度は、視認するのが困難な物だった。予備動作もなく放たれる武器の数々に、ギルガメッシュはアッシュ以外で、初めて苦戦していたのだ。

 

「っ――――ガッ」

 

 ギルガメッシュは自分の後ろから急に現れたものに、反応が遅れてしまい傷を負う。決して深くない傷が、ギルの背中に生み出される。

 ギルガメッシュは小さく舌打ちをして、すぐに蔵から霊薬を取り出し飲み干した。傷はみるみる治っていき、元の美しい白い肌に戻った。

 

「隙があるよ!」

 

 そう言ってエルキドゥは、ギルに向かって急接近した。

 

「もうよい我も本気を出そう」

 

 ギルガメッシュがそう言った途端に――――――この空間全てを囲う程の武器が現れエルキドゥを包囲した。

 

「死ね……人形」

 

その言葉と共に、無限に等しい武器が掃射された。




誤字報告してくださった皆様、ありがとうございました。


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その戦いは神話の如く

 回避は完全に不可能だろう。エルキドゥはそれを勿論理解している。どこに行こうがこの攻撃は避けられない。ならば……どうするか?

 

「避けなければいい」

 

 エルキドゥは踏み込んだ周りの武器をすべて無視して……何をしようが間に合わない。避ける為にはそれこそ転移の魔術を使えなければ不可能だろう。避けれない。この数は受け流すこともできない。だからこそ全てを止めるんだ。

 

「うおおおおお!」

 

 エルキドゥは周りから無数の鎖を造りだして、武具に絡ませる。全ての武具は鎖に止められて微動だにしにしない。ギルガメッシュは、いくら放とうとしても放たれない武具にイラつきそれをしまった。次にギルは方法を変えた。掃射するのは無意味だと知ったからだ。

 

 ギルは一本の剣を取り出した、それは氷の結晶のようだった。薄い水色の透き通っている氷の剣。それは周りの空気を凍らせていき、ギルの吐く息が自然と白くなっていく。エルキドゥはその剣から放たれる魔力を感じて激怒した。

 その魔力は――――――――アッシュの物だった。

 

「その魔力!?」

 

「察しが良いな人形これはアッシュが作った物だ。我の宝物の中で最高の物だぞ? どうだ?」

 

「彼から貰ったもの…………君は絶対に殺すよそれは私がもらう」

 

「人形程度に渡すほど、我は寛大ではないぞ? 身の程をわきまえよ!」

 

 ギルは一気に地面を蹴りだして、エルキドゥの懐に潜り込んだ。エルキドゥは何とかそれに反応して武器を新たに造り、防いだのだが……その武器が一瞬で凍結した。

 

 この場所は平地である。地形に優劣はなく状況としては先程まで互角だった。だが今はそれがギルガメッシュに傾いている。 

 ギルガメッシュは続いて連撃を喰らわせる。綺麗に踊るように剣を巧みに使い、エルキドゥに攻撃を放つ。

 

 エルキドゥは次々武器を造り出し、それを受けるが……だが、その全ての武器が凍って行く。無駄だとは分かっているが……受ければ自分の体は一瞬で氷って、使い物にならないことを嫌にでも理解させる程に……この剣の氷の力は強力だった。

 

「フハハハハ! 防戦一方ではないか! 先程までの威勢はどうした? 犬にでも食わせたか?」

 

「く―――――」

 

 エルキドゥはギルガメッシュの言葉に返事を返す余裕がない。この剣を振るのに力などは必要ない。当たれば凍る。そういうものだ。

 激突する、氷の剣と光の剣。

 

 ギャン、と音が周りに響きその光の剣は氷の結晶になる。

 

 もう使い物にならないその剣で、エルキドゥは何とか氷の剣を受け流す。ギルガメッシュは一閃をエルキドゥの首に向けて放つ。触れれば凍死する剣の攻撃を紙一重で回避する。しかしまだ攻撃は終わらない。そのまま、エルキドゥの頭を砕くために剣を縦に振るう。

 

 

 ――――――その一撃をエルキドゥは……捨て身覚悟で、左手を使い受け止めた。すぐに腕は凍りだしたが、エルキドゥは完全に凍り切るまでに腕を切り落とし事なきを得る。

 

「こんなに圧倒的だと……些か興がそがれるぞ? 我にこれを出させたのだ……もっと面白い物を見せてみよ」

 

「まだだ、私は終わらない!」

 

「ほぉ何を見せてくれるんだ?」

 

 エルキドゥは周りの魔力を一気に自分の元へと集める。そして何千もの鎖を一本に束ねてギルに向かってすさまじい速度で放った。ギルはそれを直感に任せて身を引いたこれを受けるのはまずいと悟ったからだ。これは半分神である自分に対する毒だ。当たったらひとたまりもない。視線の先には、紅い魔力を纏うエルキドゥの姿が……。

 

「絶対に私は負けないよ、彼の為に」

 

 異常なまでに周りの魔力が消えていく、全てエルキドゥに吸われてしまい。ここ等一帯の魔力は消え去った。

 エルキドゥは過剰に魔力を吸収して無理矢理に性能を底上げしている状態だ。これが終わればエルキドゥは魔力の異常消費で倒れるだろう……もしかしたら、壊れるかもしれない。そんな覚悟を持ちながら。エルキドゥは今、この戦闘に全てをかけているのだ。

 

 それを見たギルガメッシュは笑った。愉快そうに、童女のように、それはそれは楽しそうで……心からの笑いだった。

 

「限界を超えるか……面白いぞ人形!」

 

「そんな面白い物でもないけどね、早く終わらせるよ……長く持たないから」

 

「ゆくぞ人形!」

 

「来なよギルガメッシュ」

 

 黄金の姫は氷龍の剣を構えて神造兵器を睨む。

 対する兵器は黄金の姫と同じように構えてそこに鎖集め始めた。両者が構え周りが凍る。

 

「我の必殺の一撃受けてみよ!」

 

 氷の能力を全てを乗せたビームをギルガメッシュは放った。

 ビームは大気を切り裂き、エルキドゥの元に一直線に向かっていく。

 それに合わせるようにエルキドゥは全ての鎖を集めた一撃をギルガメッシュに放っていた。

 

 



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勝負の行方

 我は自室で目を覚ました。

 どうなった? あの勝負は……そんな考えが我の中に生まれる。最後に放った一撃は、我の全魔力を込めたものだ。あれを放ったら我は動けなかった。そんなリスクがあっても我はあの人形の思いに答えたかったからだ。

 我はアッシュ以外に初めて我は全力を出した。負けたくないと思ったのだ。あの人形には。同じ男に惚れているという事もあるだろうが……単純にあの人形には負けたくなかった。こんな思いは初めてだ。全ての力を使って、我は戦った……あの人形もそうだろう。

 

「楽しかったな」

 

 そうだ、結果はどうなったのだ? 我が気絶しているってことは、負けたのか? しかし、あの人形は我を殺すつもりでいた……死んでいないという事はだ、我は魔力を使い切あの人形を倒したのか? ここは自室だ。我を運んだのはあの場にいたアッシュしかおらぬだろうな……アッシュなら何があったか、知っておるだろう。聞いてみるか……その時だった。我の耳に変な声が届く。

 

「アッシュ助けろ! 何だこいつは!? いきなり攻撃してきたぞ!?」

 

 グラスの声であった。慌てたような声でアッシュに助けを求めながら、何かを防いでいるようだ。

 我は何が起こっているか気になり……その場所に向かう事にした。

 

 ◇◇◇

 

 アッシュだ。ギルとエルキドゥの戦いから三日がもう過ぎている。あの後は大変だった。二人共、互いの一撃をもろに喰らって同時に倒れてのだ。そして二人は当たり前のように重傷を負い、気絶した。そして俺は二人をジッグラトまで運んだところまでは良かった。

 

 その後、傷だらけのギルを見た神官やシドゥリは大混乱……俺は攻められて、ギルがいない間の仕事が全部俺に渡ってきた。ギルっていつも、俺の五倍以上の仕事があったんだな……それで仕事をこなしてみて、一番驚いたことがある。

 

 ギルが自分が倒れて来た時に何をやればいいか、という本を十年分作っていたのだ。誰かと会う時用の物、民の要望をまとめた物等々、しっかりとした物が十年分。俺は認識を変える魔術でギルに化けて、それに従って行動した。だけど……その量が多すぎて、凄く疲れたが……まあ、それはいいだろう。

 

 とにかく今、俺は二人の看病をしている。また殺し合いを始めては困るので別室に移してだが。さっきギルの包帯は変え終わったから、次はエルキドゥの分だ。まだ、二人共目覚めない……ちゃんと目覚めてくれればいいんだが、と俺はそう思いながらエルキドゥが寝ている部屋に入って行った。

 

 そこには全裸のエルキドゥが居た。

 

「……………………」

 

 よし、部屋を出るか。

 

「ふぅ」

 

 何故に全裸? 服を着せておいたはずだぞ? シドゥリに頼んで昨日も服を着替えさせたはずだ。ギルのは慣れれているから俺がやっているが……エルキドゥの体はシェムハトと瓜二つで何がとは言わないが、でかい。ギルより大きいそれは、正直に言うが見るのが恥ずかしい。いかんな、心を落ち着かせなければ…………よし、落ち着いた。

 

「やあ、アッシュ。おはよういい朝だね」

 

 エルキドゥは全裸のまま部屋から出て俺に話しかけてきた。落ち着け、混乱しても意味がない。まずは落ち着け……落ち着くんだ。アッシュは動じない。

 

「ふむ……君のその反応は、私に欲情しているね。嬉しいな私なんかに興奮してくれて……どうだい? この体は女の物だよ? その欲を私に吐き出してみないかい?」

 

 頭が考える事を放棄した。俺は今一番言いたいことを言わせてもらおう……それは――――――。

 

 何を言ってんだこいつ、という事であった。

 

「?」

 

 分からない。こいつが何を言っているか、理解できない。だってせめて何か言うなら、ここが何処か聞くだろ、俺ならそうする。

 それか俺は誰かぐらい聞くだろう……そういえば、何で名前知ってるんだ? 初対面じゃないけど、名前を教えてないぞ。

 

「それはまずないから、安心しろ。それより大丈夫か? エルキドゥでいいんだっけか?」

 

 俺の知識にはエルキドゥの事も、もちろんある。だけど相手は初対面の筈だし、初対面ということ演じなければいけない。何で知っているのか? ということになると、めんどくさいからだ。でも誰か助けてくれ。何故か分からないが、俺この先こいつに、胃を痛めつけられる未来が見えるんだ。

 

「嬉しい! 私の名前を知っていてくれたんだね! それより大丈夫かい? さっきから胃が痛そうだよ? 私でよければ、その痛みを忘れさせてあげるけど……どうだい?」

 

 助けてグラス……アッシュさん疲れた。

 その言葉が届いたのかはわからない。だけど俺は切に願うのだ。“胃が限界だからまじで助けて”と―――――。

 

 ―――――そしてこの場に足音が響く感じられる魔力はグラスの物だ。

 

「アッシュ、お前が助けを呼んでいる気がしたのだが……どうしたんだ? おぉ、そいつは起きたのか。よかったな看病をアッシュは頑張っていたからな。お前の武器として鼻が高いぞ」

 

 そう、グラスが話した時だった。

 空間に亀裂が入った気がした。そして、エルキドゥが急に笑い出したのだ不気味な笑みを浮かべて愉快そうに。

 

「ふふふ……面白いこと言うね君は……アッシュの武器が君? そんなことある訳ないじゃないか」

 

「しかし、誰が何と言おうと、私がアッシュの武器であることは変わらないぞ? アッシュ自身もそう認めているしな」

 

「あはは本当に面白いね……」

 

 エルキドゥは最後に、そう言った瞬間……武器を造り出してグラスに斬りかかった。

 

「アッシュ助けろ! 何だこいつは!? いきなり攻撃してきたぞ!?」

 

 




次回は3000文字超えます(宣言)
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友達

 ……頭の中が真っ白になっている。

 俺の目の前ではいったい何が起こっているんだ? 簡単に状況を整理しよう、エルキドゥが目を覚ましたかと思ったらグラスに斬りかかった。よし、分からない。頭が混乱している。

 現実逃避を止めて目を向けるしかないか……止めなければいけない気がするから。

 改めて目の前を見てみると、何回も振るわれる光の剣を、グラスが片手で押さえている。なんかグラス強くなっていないか? まえより魔力が上がっている気がする……そんなことより今は止めないと。

 

 俺はキリキリと痛む胃を押さえながら止めに入ることにした。

 長らく説明をしてなかったが……俺は不死である。体が完全に破壊されても、魂が勝手に周囲の魔力を使い新たな肉体()を造り出すのだ。内臓が破壊されてもそれは魔力で作り出せる……なぜこんなことを説明したかって? 俺の胃はもう限界で……胃が壊れてそろそろ死ぬからだ。

 ―――――何でこの時代には胃薬がないんだろう? 

 また脱線してしまった。ともかく今はエルキドゥを止めないと。

 俺はエルキドゥの背中に周り羽交い絞めにする……この時の俺はそうすることしか頭になかったのだ。

 

「ひゃぁ……アッシュ後ろから急に触らないでよぉ……」

 

 何で変な声をこいつは出しているんだ? なんか声もわずかだが甘い……待ってくれどうなっている? 俺は羽交い絞めしただけだぞ? どうしてそんな声が出る? ちょっとわからない。

 

「はぁ……はぁ……アッシュに触られると、なにか……はぁ、体が熱くなってくるんだ」

 

「アッシュそいつから離れろ! そいつヤバイ!」

 

 グラスの言葉を聞く前に俺はもうエルキドゥを離していた。何かこいつがやばいと悟ったからだ。

 

「はぁ……もう離すのかい? もうちょっと触れていてくれてもいいのに」

 

 エルキドゥってこんな奴だっけ? 俺の知識では、もっとまともだった気がするんだけどな……どうしよう元凶が誰か、予想できてしまうから怖い。俺の頭の中ではシェムハトが笑っている気がする。あの人は、俺が苦しむ姿が好きだからな……「ふふ、愉悦を感じます」とか前に言っていた時は体が冷えた。あの人がなにかしたんだろうな――――そんな思考をしてから、改めてエルキドゥを見る。怪我は完治している、話すこともできているし他の部分も大丈夫だろう。

 エルキドゥも目覚めたし、そろそろギルも目を覚ますだろう。早く会いに行かなければ……決してエルキドゥから逃げたいわけではない。そんな慌ただしい状況にある廊下に足音が二つ響いた。

 

「……アッシュ……おはよう? ……その人? じゃないね人形は何?…………私と同じ気配がする……そうだ姉様は起きたよ……もうすぐ来る」

 

「マトゥルか……ってギルは起きたのか!?」

 

「……声……大きいよ……アッシュ……もうすぐ来るから……安心して」

 

 本当か……あぁ良かったギルが起きてくれて。ここ三日間ギルは本当に辛そうだったから……生きててよかった。安心したら、落ち着いてきた。よしこれなら、今の状況も冷静に対処できるはずだ。

 

「それでエルキドゥ、さっきからグラス以外に敵意を感じないんだが……どうしてだ? お前はギルを殺しに来たんだろ?」

 

 俺はそう殺気を出しながら問う。

 看病したけど……これは別だ。ギルを殺した相手がギルが来るって聞いて身構えないわけがない。それか少しでも警戒するはずだ……なにも感じないのはおかしい。周りにいる俺達に敵意を向けないのは異常だ。こいつは何を考えている? 返答次第では……拷問するか。

 

「あぁ、いい殺気だねアッシュ! 興奮するよ……それと、もう私はギルガメッシュに敵意はないよ? ギルガメッシュが君に不利益を与えないってわかったし……魔力を浴びて、どんな人物かだいたい理解したしね……私はギルガメッシュを殺さない。それならいいだろう?」

 

 この言葉は信じていいのか?

 でも嘘は言っている様には見えない。目は本気だしこれは信じた方が良いのか? 

 俺がその場で悩んでいると声が聞こえた。

 

「アッシュ殺気を解け。そいつの言葉に嘘はないぞ……だからその魔力を解除しろ、ここ等一帯を、凍らせるつもりか?」

 

 どうやら俺は無意識のうちに魔術を使うつもりであったらしい。それもかなり危険な物を……これを一度発動すればこのジッグラトが百年は凍り続けていただろう……危なかった―――――待て今はそれよりギルだ。

 

「ギル大丈夫だよな!? 怪我は残ってないか!? 頭は痛むか!? 魔力は回復したか!?」

 

 俺はギルを見た途端に駆け寄った。ギルに近づいて体を確かめる。傷はない、魔力も回復しているだろう。 

 

「ええいアッシュ! 一気にそんなに聞くな! 大丈夫だから安心しろ……だから近づくな……ちっ近すぎるぞ」

 

「あぁ、すまん。すぐに離れる」

 

「そうだ早く離れろ……そういうのは人が少ないときにやれ、恥ずかしいであろう……」

  

 どうしようか最後の方の声が小さくて聞こえなかった。何時から俺は難聴に……一回死ぬかそうすれば体の機能全部戻るし……やめとこう。後で何を言われるか分からない。

 

「ともかくギル。本当にお前が直ってよかったよ」

 

「ふっ当然だ。我がこの程度で死ぬわけないであろう?」

 

 そうだよな……ギルがこの程度で死ぬ訳がない。そんなのギルじゃない。俺が仕えると決めたギルはあの程度で死ぬ人間じゃないんだ。ギルは強気であり続ける姿が何よりも似合っている。やること全てが鮮やかで、見惚れてしまうような人間だ」

 

「なっアッシュ!? 口に出てるぞ!? 待て、このような場所でそんなことを言うな! おい貴様ら我を見るな! 待ってくれ……本当に恥ずかしいからその視線を止めてくれ」

 

 口に出ていたようだ――――口に出ていた? 今のが……全部? 

 俺は今……赤面しているだろう。 恥ずかしすぎる。俺がギルをどう思っているかを知られてしまった。お互いが顔を赤くしてしまい……顔を合わせられない。

 

「ちょ……ごめんギル」

 

「あ……あぁ……きっ、気を付けろよ。アッシュ」

 

 俺もギルも、うまく会話を交わす事が出来ない。

 何を話せばいい? 誰か助けれくれ……今日あった色々なことのせいで頭が働かない。どうすればいいんだ? ギルと話す事ってこんなに難しかったのか? 

 

「おい二人とも特にアッシュ……落ち着け、こっちまでが恥ずかしい」

 

「ねぇギルガメッシュ? 凄くムカつくからやめてくれない? アッシュは私にやってくれない……そうすれば私は嬉しいから」

 

「……二人が……赤面している……やっぱり……見守るの楽しい……だけど……いつか私がそこに入る……ふふふ待っててね……アッシュ」

 

 上二人はいい。だけどな……最後――――なんて言った? だけど……これのおかげで頭は、クリアになった。ありがとうマトゥル。何を言ったかは無視するけど……だって、それに突っ込むとBADENDに行く気がするんだ。

 

「ギル、ごめん。取り乱していた」

 

「我こそ悪かった。謝ろう」

 

「いや謝るのは俺だ」

 

「ま、まぁこの話はこれで終わりだ。人形……いや、エルキドゥ」

 

 ギルガメッシュはそう改めて、エルキドゥの名を呼んだ。

 その言葉を話した時の気配は女王をやっている時のギルその物だった。

 

「何だい、ギルガメッシュ?」

 

「我の友になってくれないか?」

 

「あぁいいよ」

 

 エルキドゥはギルの頼みを簡単に了承した。

 何がどうしてこうなったんだ? 俺には全く分からない。

 

「どういうことだギル?」

 

「なに、我がこいつと友になりたいと思っただけだ」

 

 ギルは誇らしげにそう言った。その言う顔には今までのギルでは見たことないような顔だった…………なんか、ムカつくけど、ギルにこんな顔をさせるなんて……エルキドゥはギルに認められたんだろう。それなら俺が何も言う必要がない。

 でもそれは置いておくとして、エルキドゥは簡単に受けすぎじゃないだろうか?

 

「アッシュ、その顔はどうしてそんな早く決めたのか考えているね……簡単だよ私はギルガメッシュと戦って楽しかったそれだけでよくないかな?」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうものだよアッシュ。そうだアッシュ、私はまだ生まれたばかりで何も知らないんだ……君が教えてくれないかい? “色々ね”」

 

「その色々が気になるんだが……やめておこう」

 

「ふふ、今度教えてね」 

 

 あ、やばい。地雷を踏んだ。

 そうださっきから、グラスがさっきから黙っているんだが……大丈夫だろうか?

 

「なぁグラス大丈夫か?」

 

「…………大丈夫だ。そしてアッシュ、私はたまに人間が分からなくなる……助けてくれ」

 

「ごめんな……俺も分からなくなるから安心しろ」

 

 友達って、どうやって作る物だっけ? 今度、本でも漁ってみるか。 

 




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平穏?

メスキドゥというタグを付けた。


 久しぶりに穏やかな朝だ。鳥が鳴いていて朝日が部屋に射している。

 昨日までの慌ただしい雰囲気はないし……何より俺の仕事が減った。これはなんてすばらしい事か……ギルの仕事が多すぎたからなここ最近……久しぶりに休みを取ろう。ギルなら許してくれるだろう。あぁ平和な朝だが……まだ目が開けられないな、起きたばっかりの時って目を開けるのがつらいよなと、改めて俺は実感する。

 それはとにかく、まずは朝食をとろう……昨日は何も食っていなかった。一日飯を食べないと、流石に腹は減る。その後は何をしようか?

 

「……ん」

 

 何故だろうか? なんかこの部屋から聞こえるはずのない声が聞こえた。女性の声だ。それに、なんか……なんて言えばいいのだろうか? 妙に? いや……かなり柔らかくてあったかい物が、体に当たっているんだが…………あぁ、気のせいか。俺の部屋に誰かがいる訳はない。だって俺が寝た時は一人だったし部屋には魔術で結界をはった。誰も入る事が出来るはずがないんだ。

 

「………ん、アッシュ」

 

 しかし、その横にある緑色の髪をした人物は実際に俺の体に触れているし……気持ちよさそうに、すーすー、と寝息を立てている。

 そっか……俺は、疲れているんだ。昨日ギルが目覚めて安心したから、一気に疲れが俺に襲ってきたのだ……それがまだ続いているんだな。うん、納得した……これは俺の幻覚だ。今は神代で不思議がいっぱいだから、こんなリアルな幻覚を見るのだろう。

 そうじゃなきゃおかしいから、だって俺の真横に、全裸のエルキドゥが寝ているわけないんだって……よし、もう一度寝よう。眠れば幻覚も消えるはずだし……だから、寝よう。

 

 今日一日にさよならだ。俺は今日、寝て過ごすよ……………そうして目を閉じたんだが、なんかそのね、この幻覚のエルキドゥは俺に抱き着きながら体をこすりつけているんだけど。そして、一つ言わせてくれ。

 

「何でお前は……裸なんですかねぇ」

 

 そう言った途端に真横にいる人物は目を覚ました。緑色の長い髪と豊満な胸が起き上がった拍子に僅かに揺れる、綺麗な翡翠色の目が俺を見つめだして……その口が開かれる。

 

 

「……ん、んん、アッシュ? おはよう? いい朝だね」

 

 あぁ認めよう。これは幻覚じゃない。エルキドゥだ。これは幻覚ではなくて現実で、実際俺の横にはエルキドゥが居る。あぁどうしよう全く状況が理解できない。これを理解しろって言われても、俺は無理って即答できる自信がある。それほどまでに理解できない。扉にかけた結界はかなり強固なもので簡単には壊せないはずだ。マジで、どうやってはいったのだろうか。

 

「結界かい? あれなら壊したよ? 邪魔だったからね」

 

「なんでだよ……」

 

 俺は呆れて、そんな疲れたような声しか出なかった。

 それに対してエルキドゥは少し目を見開いて、驚いたような声でこう返してきた。

 

「え? おかしいよね? だって私とアッシュの邪魔した結界だよ? 壊すよね?」

 

「それはおかしくない」

 

「ね?」

 

「いやだか「ね?」だ「ね?」ちょま」

 

 なんだ……このごり押し。何も言う事が出来ない。何を喋れば話が進むんだ? よし……今すぐここから逃げよう。この状況を誰かに見られたら……俺は死ぬ気がする。特にギルには見られたくない。何故かは分らないが……見られたくないんだ。

 

「よし、エルキドゥ。今すぐ離れて服を着てくれ、この状況は見られるのはまずいから」

 

「なんでだい? 服を着る必要が何であるんだい? そして何がまずいんだい?」

 

「いや説明が難しいんだが……ギルとかに見られるのがまずいんだ」

 

「むーしかたないなーいいよ。アッシュの頼みだからね。でも……一つ問題があるんだ」

 

 問題とはなんだ? どの程度の問題か分からないが……この状況が改善されるなら何でもしよう……猛烈に嫌な予感がするのは気のせいだと信じよう。

 

「その問題はね……私の服がない事なんだ」

 

 うーん、すっごい大問題。

 ――――ということは? ……ここまで来るときエルキドゥは全裸だったって事か?

 

「エルキドゥはここまで来るとき全裸だったのか?」

 

「うん? そうだよ? 当たり前じゃないか」

 

 何が、当たり前なのか分からないんだが……これは俺の頭が、この状況に耐え切れなくなったから、というわけではないという事を言いたい。こんなこと誰だってわからないと思うんだ。

 この時の俺は早くベッドから出ればよかっただろう。そうすればあんなことにはならなかった。

 

「アッシュ! 飯だ飯を出せ! 我は腹が減ったぞ! お前の飯が食べた――――ふぁえ?」

 

 どうやら女王様が起きてしまったらしい。お腹が減っているみたいだ……。

 そしてギルの目に入っているであろう光景は……俺と全裸のエルキドゥがベッドに入っているというもの。

 こんな様子をみたら俺が連れ込んだと思う筈だ。弁解は不可能、何を言っても無意味だろう。ならば、この先起こる事は、ただ一つだ……。

 

「アッシュ貴様は何をやっている!!」

 

 女王の怒声が響くそれだけだった。

 それから一時間ほどだが経ったギルの機嫌が一向に直らない。俺は一時間の間ずっとギルに無言で睨まれていた。なにも言葉を発する事が出来ない。ギルが放つ重圧感のせいで俺は何もする事が出来ないのだ。それと後ろに仕掛けれらている剣のせいで下手に動くと首が刎ねられる……何を言えば俺は助かるんだ?

考えろ俺に無駄にある未来の知識を使え。俺に貯蔵されている……無数の記憶達を使え! こういう時にあるんだろ! 首刎ねられて死ぬは嫌だから……だから――――働け俺の脳細胞!

 その時、俺に閃光が走った。

 

「ギル何でも言うこと聞くから許してくれ!」

 

 その言葉を待っていたかのように……ギルの顔が笑顔に染まる。

 

「ほういったな“何でも”と聞いたぞ? 絶対に忘れないからな」

 

「え、あ、やば。なしでいいか?」

 

 そしてギルはとても美しい女神のような笑顔を俺に向けてから、落ち着かせるような優しい声で―――――。

 

「駄目だぞアッシュ」

 

 そう言った。その笑顔はとても綺麗な物だった……だけど、今の俺には……たまらなく恐ろしい。

 

 

 

 



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黄金の姫の無茶振り

「なんでもか……ふむ、何しようか迷うな」

 

「迷うなら、何もしないでほしいのだが……無理だよな」

 

「当然無理だ、アッシュ。よかったな」

 

 あぁ分かっていた。だけど少し期待してしまうのは、仕方ないだろう。 

 ……俺は何をされるんだ? 嫌な予感しかしない……ギルの事だ、物凄い無茶振りをされるだろう。

 

「ということでだアッシュ、冥界に行け」

 

 この人生で最大級の無茶振りをされてしまった。

 まず行き方が分からないし、何をすればいいのかも説明されていない……何で冥界なんでだ? 俺に死ねというのか……それはないな、ギルは敵と認めたやつ以外を殺そうとしないし、そして軽々しく死ねとだけは言わない奴だ。

 何か考えがあるだろう。だけど……いきなり冥界に行けは無くないか?

 

「…………ギル、何がどういうわけか訳かが分からないが……何故冥界なんだ?」

 

「前々から気になっておってな……下見をしてほしいのだ。駄目か?」

 

 ギルはそうして俺に少し近づいて……上目遣いでそう言った。

  深紅の大きい瞳が俺を真っ直ぐと見つめて来たその瞳は潤んでいて直視するのが恥ずかしい……この場合いきなり冥界に行けという、命令を断った方が良いのかもしれないが、ギルの上目遣いの普段とのギャップ差が激しすぎて……断る事が出来ない。

 なんだよこの生き物……可愛すぎるだろ。これを断る事は人間には、できないと思うのだが……仕方ない、行くか。

 

「了解したギル……だからその目で見るのはやめてくれ、直視できない」

 

「ほほぉ……ふむふむ、アッシュはこれに弱いと……覚えたぞ。アッシュ、行ってくれるのか? 我も少し無茶振り感はあったが……行ってくれるならよい。頼むぞ我のアッシュ」

 

 何故ギルは、こういう時に笑うのだろうか? 

 俺はその笑顔にとことん弱い。男が惚れた女の笑顔に弱いのは当たり前だろう? 俺はギルに惚れている。性格、容姿、声、その全てに――――でも、俺はギルの物だから……そういう感情を、主であるギルに向けてはいけない。そんな感情(もの)をギルに向けるのが、まず間違いだから……この気持ちだけは伝える事はないのだ。

 

「おい、アッシュ答えないのか? やっぱり行かないのか?」

 

「ごめん、少し考え事をしていた。大丈夫だちゃんと行くから安心しろ」

 

「よしよし、それでよい。アッシュの事だ……グラスを連れて二人で行くのだろう? 食料や水は、我が用意する。だから安心して行くがいい」

 

「あぁ、ギルが用意するなら安心だ。間違いはないだろう……そして、出発はいつだ? せめて一日は休みが欲しいからな」

 

「アッシュ……そんなに短い休みなわけないであろう。一週間は休養を取れ、冥界には謎が多いからな、万全の状態で向かってくれ」

 

「優しいなギルは」

 

 やっぱりギルは優しい……だからこそ、惚れてしまったんだが……。

 それを聞いたギルは、腰に手を当てて胸を張り誇らしげに言った。

 

「ふん、当然だ! 我を何だと思っている? それに、今回の役目をアッシュに任せたのは理由があるからな」

 

 ちゃんと理由があったのか……。

 そんなふうな目を俺が向けたのを悟ったのか、ギルは少し苛立ったような顔をしている。いけない、少しギルを甘く見ていた。ギルが凄い事なんて分かり切っていた筈なのに。

 

「まさかアッシュ……我が何の理由もなしに、お前を冥界に行かせると思ったのか」

 

「思ってな――――思ったよ、悪かった。だからその目で見るのは、やめてくれ罪悪感が……」

 

「…………今は許そう……お前が言ったなんでもには指定されなかったからな。冥界から帰ってきたら、また何かを頼もう……それで我がアッシュを冥界に送る理由だが、貴様は不死だからな、死者の国である冥界でも不自由なく過ごせるだろう? それが理由だ」

 

 そういう理由か……納得した。

 確かに不死者である俺なら冥界でも過ごす事が出来るだろう……逆に、俺以外に行ける者はいないだろう。

 

「そういう理由かギル、納得した」

 

「我が考え無しで、何かをやる訳ないであろう。よもやアッシュは……ぼけたのか?」

 

「それはない。俺の体は龍になった時点で成長が止まっている。これ以上老いる事はないし脳も劣化しないぞ? 知識は増えるがな」

 

 失礼な、俺は五年間で全く変わってないんだぞ、めちゃ体は若いぞ。

 それを聞いたギルは何かを考え込んだ。

 

「…………ということは、我が老いてもアッシュはこの見た目なのか……よいな」

 

「何か言ったか?」

 

「何でもない」

 

 それから会話が途切れた、話題が思いつかなかったからだ。何を話そう……沈黙がつらい。

 

「そうだアッシュ死ぬなよ。不死であるお前だが……冥界では何が起こるか分からん――――」

 

 いったんそこで、ギルは言葉を斬った。

 そしてギルは、少し間を空けてからこう言った。

 

「絶対に帰って来てくれないか?」

 

 ギルは掠れる声でそう言った。

 そんなことか……馬鹿だなギルは――――――。

 

「死なねーよ、俺はお前の物だぞ? それに俺はあの日誓った。永遠にお前の元から離れる事はないとな」

 

「そうだったな……我は少し弱気になっていた。すまない、今のは忘れてくれ」

 

「了解しましたよお姫様」

 

「なっ、我は女王だ!」

 

「知ってる」

 

 そして一週間後、俺とグラスは冥界に繋がる穴がある街クタに居た。 俺の目の前には異質な魔力を持つ大穴がある。これに入れば冥界だ……覚悟はできた。

 

「グラス……行くぞ!」

 

「了解だアッシュ楽しみだな! 私も行くのは初めてだ!」




活動報告で二章に関してのアンケートを行っているので、できれば目を通してください。かなり重要です。


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獣の狂愛

今回は短めです。


 

 俺はグラスと共に冥界に続く穴へと跳びこんだ。暗闇な中を俺は落ちていき周りの魔力がどんどん異質な物にへと変わって行く……ここの大源(マナ)はどこかおかしい。

 呼吸するだけで体を焼くような痛みが襲ってくる。龍の体である俺は自然にある大源を呼吸するだけで集める事が出来る……だからこそ理解できるのだ、ここの大源は異常だとこれ以上吸うと、おかしくなりそうだ。

 この魔力を吸うたびに、穴を落ちていくたびに……意識がどんどん遠のいていく――――否、意識が落ちていく

 

 暗く――――暗く――――。

 

 深く――――深く――――。

 

 海の中に溶けていくように……俺の意識が消えていく。この感覚は何だ? 

 懐かしい――――これは俺が死んだときの物だ。これは、黒い海に飲まれた時の物だ。俺の始まりの感覚だ。

 ――――――声が、響く……俺の頭の中に声が響く。

 

「――――――はなさない―――――はなさない―――――かえってきて―――――かえってきて―――――」

 

 綺麗な声だ。とても綺麗な少女の声だ……。

 頭が痛い。しかし、この声を俺は聞き逃したくない……聞かなければいけない。不思議と俺はそう思った。

 何でそう思ったかは分からない……だけどこの声を聞いている異常なまでに安心するのだ。

 

「――――わたしの――――灰――――わたしの――――灰――――わたしのもの――――わたしだけのもの――――はやくきて――――かえってきて――――ぜったいに――――」

 

 これは――――なんだ? この声は――――なんなんだ? この声は安心できる物だが、聞くたびに声の主の悲しみが伝わってくる。何か縋るような……求めるような……泣いているような……そんな悲しみが困った声だ。

 

 泣かないでくれ、頼むから泣かないでくれ……そんな悲しそうな声を俺に聞かせないでくれ……俺まで悲しくなってしまう。思考が溶ける――――俺が、消えていく――――。

 

 そして、俺はいつの間にか……海の中に居た。

 暗い海の中だ。

 懐かしい……ここは懐かしい。落ち着くんだ、俺のこの体が……ここにいる事を求めている……いや違う。帰ってきたのだ……俺はこの海に。そんなことを俺は考えてしまう。

 

 何かが居る……俺の近くに何かが存在している。俺という存在を全てのみ込むような何かが……俺はその存在の元に歩きだしていた。その存在に会えばここが何処か分かる気がしたから……俺がどうしてこの世界に来たか分かる気がしたから。  

 

 辿り着いて見えたそれは、人間とは離れた見た目をしていた。

 大地を象徴したかのような大角と、星のような鮮やかな瞳。翠の少し混ざった水色の髪。そして、美しい容姿。この少女は何者だ? この少女はあの時海の中に居た少女だ。いったい君は何者なんだ?

 

 

 俺はそう思考を続ける。

 そんな俺を少女は見つけたのか、ゆっくりと近づいてきた……その姿を見ると体が硬直する……動けないこの少女から目を離すことが出来ない。一歩一歩確実に、少女が俺に近づいて来る。

 

「――――aaaaaa―――――灰――――わたしの灰――――かえってきてくれた――――はなさない――――はなれないで――――わたしを――――あいして」

 

 少女はそう言ってから、俺に抱き着いてきた……押し倒されて俺は口づけをされる。

 少女はいったん口を離してから。笑顔でこう言った。

 

「――――もうにどと――――はなさない」

 

 その言葉を最後に、俺という存在は少女に捕らわれ――――――――――。

 

 

 




次回から冥界探索です。今日出すかもしれません。
この小説で病んでいないキャラってグラスぐらいじゃね? と思った今日であった。

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それと、まだ活動報告のアンケートは行っているので目を通していただければ幸いです。


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病魔

「アッシュ! 起きろ! 大丈夫か!?」

 

 グラスの声が聞こえる。俺は何をしていた? 分からない――――――ここは……何処だ? あの少女と海は何だったんだ?

 俺は落ち着くために息を吸う、すると異常なまでに濃い大源(マナ)が俺の中に入って来る……何かがおかしいぞ、この大源には別の魔力が混じっている様な?

 

 だけど、この魔力により俺の意識は起こされて……周りの事を見れるようになった。

 苦しいが……今はその痛みのおかげで意識を保つ事が出来る。

 この場には死が満ちている。幾千幾万の死者の霊魂が漂い続けている……ここに生者はいてはいけない。この空間そのものが生者にとって毒である、体を蝕み死へと導く……そんな毒だ。

 

 ――――だが、今俺はそれに助けられている。この毒が無ければ俺の意識はもう消えていただろう。

 思考を戻そう。俺は確か冥界に入ったはずだ……着いたのか? いや、着いたんだろう。こんな異常な大源が溢れる場所なんて、地上にあるはずないのだから……だってこんな物が満ちていたら普通の人間じゃ耐えられる訳がないし、体調不良が起こるまくるってことになるわけで……。

 

 俺の感覚が全て麻痺している。自分の四肢が正常に動いてくれるのか、分からない。

 俺は一刻も速くここの大源に慣れるために呼吸を繰り返す。この龍の体ならば、すぐにここの大源(マナ)に慣れる事が出来るだろう。

 

 

 暫くすると俺の体はこの空間に満ちる大源を使えるように変化していく。

 先程まで毒同然だったここの大源が、今では地上と変わらない程に集める事が出来る。これなら冥界でも無事に過ごす事が出来るだろう。

 

「よし、何とか落ち着いた」

 

 四肢の感覚が戻ってきた……五感も機能するようになった。ふぅ、よかった。せっかく来たのに、何も見れなかったかったらギルの用事を果たせなくなる。

 目を開けると、目の前には闇が広がっていた。近くにグラスがいると理解できるが、正確な位置が分からない。だけどグラスが近くにいるというう事だけは理解が出来る……それなら安心だ。こんな場所に一人で居るなんて耐えられないから。

 俺の耳にグラスの声が届く。

 

「アッシュ、無事なようだな……灯りをつける魔術を使ってくれないか? お前が何処にいるか分からない」

 

「了解だグラス」

 

 ふと、俺は気付く。遠くから、微量の魔力が流れてくるのだ……注意しなければ。気付かないほどの微量な魔力。この魔力は大源ではない。人間が体内で生成される小源(オド)だ……この空間では普通に考えてそれはありえない。だって……小源は自然から生まれないから。もしも生まれたとしても、すぐに消えるはずなのだ。なのに、この小源は消えるどころか……周り大源と同化しようとしている。

 

 俺は魔力光を出し、それを灯りの代わりにする。その小源が生まれている理由を知りたくて……。

 ―――――それが、間違いだった。灯りが止まった瞬間にこの場所に何があるか理解した。

 それは枯れ木のようなナニカだった。

 これは死体だ……無数の枯れ木のように朽ち果てた人間だった物だ……その死体からは絶え間なく小源が放出されている。この空間に満ちる大源が異常な理由が分かった。ここの大源には本来、混ざらないはずの……小源が混ざっているのだと。微だが、何かが動いた。人が立ち上がる音だ。俺はその方向に魔力光を向けて、その場所を照らした。そこにいたのは今にも死にそうな人間だったナニカだった。

 

 ――――ひゅーひゅーと、人だったナニカから、息が漏れ出す。

 

 そのナニカは掠れるような今にも消えそうな声で――――――。

 

 イタイ

 

 そう漏らしたのだ。そう漏らした後もそのナニカから小源が漏れる。

 

「――――――グラス、あれを殺すぞ」

 

「―――――ッ了解した」

 

 グラスはすぐに察してくれた。鎌の姿に体を変化させて俺の手に納まる。

 あれを殺してでも救おう。あのままでは死ぬが……そこには果てしない程の苦しみをあの者は体験するだろう。俺に出来るのはせいぜいこのものを殺して救う事だけ……謝ることはできない。俺が殺すのだから。恨んでくれ。呪ってくれ……この魂は死んだら冥界に留まるだろうだけど……その体で生き続けるよりはいいはずだ。

 

 そして俺は一気にそれに近づいて鎌で大きく切り裂いた。

 

ありが……とう

 

 ッそんな言葉を俺に送らないでくれ……お前を殺した俺に感謝を送るな。

 グラスに切り裂かれたそれは一瞬で絶命してその場に横たわった。その顔はとても殺されたと思われない程に穏やかな物だった。

 

「グラス……少し休ませてくれ。つらい」

 

(あぁ休め、アッシュ。色々まとめる事もあるだろう私も少し寝る……まとまったら起こせ)

 

 グラスに言われて、俺はこの状況について考える事にした。

 今この冥界で何が起こっている? 俺が今この人を殺した時に……グラスで人間ではない何かを斬った。体の中に巣くう別の生き物のような物を。

 

 確か藤丸立香が七章で冥界に来たときはこんなことは起こっていなかった。……どう考えてもこの冥界で今何かが起こっている。ふと、鎌の刃を見てみた……そこには黒い液体が付着していていた。ドス黒い漆黒の液体だ。

 俺はそれに向かって解析の魔術をかける。頭の中に情報が入ってきた……かなりの情報量だ。気持ち悪くなるほどの情報量に酔い、俺は頭を押さえる。

 

 そして、解析の魔術のおかげで俺は……これがどんなものか理解する事が出来た。

 これは病魔だ。病気を伝染させる魔の生き物。これは生きている……これは存在してはいけないものだ。この病魔に感染した者の小源を全て絞り出して周りに放出させ、殺すという特性を持っている。さらに厄介なのが、これに殺された者は苗床にして増え続けるという力も持っている。

 

 この空間で感じた。大源に混ざっていたものは、この病魔だったのか……俺が感染しない理由はわからないが……感染しないならなんでもいい。もしも、感染した場合ギルの任務を達成できなくなる。ともかく、この状況を何とかしなければ……ろくに探索もできそうにない……原因を探るか。

 

 よし、考えはある程度まとまった。

 まず俺がやることは……この病魔の原因を探る事だ。

 

「グラス起きてくれ……やることがきまった」

 

(了解だアッシュ……姿を戻した方が良いか?)

 

「いや、そのままでいてくれ。何が起こるか分からないからな」

 

(確かにな……それでアッシュ、何処に行くんだ?)

 

「そうだな……」

 

 まずい、何処に行くか考えてなかった。

 

 周りを見渡すと道が見えその先に門があった。そこに行くか。

 

「あの門まで行こう」

 

(了解だ)

 

 




誤字報告してくれた皆様方本当にいつもありがとうございます。
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冥界 第一の門

という事で冥界編本格スタート!


 まずは門の元に向かう……それが目標だ。念のためにグラスは鎌のままで身構えておく……道を進んでいくと、細長い鳥籠のような物が見えた。

 あの中に青白い光が見え、その中からは何十人かの魔力を感じられる。  

 趣味が悪いな……あれは人間の魂だ。俺の記憶を辿って見ればあれはエレシュキガルの槍籠(そうかん)だろう。あの中に捕らわれた魂はこの冥界から逃れる事が出来なくなる。……確か気に入った魂を閉じ込める為だったっけ? ここら辺の記憶が曖昧だな……もしそうなら、捕らわれない様にしなければ……もしも、捕らわれたら皆に会えなくなってしまうから……。

 

 はぁ……鬱だ。俺はこれからあの槍籠を見続けないといけないのか……早く終わらせよう。

 でも、今更だけど……下見って何をすればいいんだ? 特にギルに指定されなかったぞ? 一先ず、立てた目標であるさっきの病魔の原因を探らなければ……そのために何をするかだが…………。

  

 何か良い案はないだろうか? この病魔の事を知ってそうなのは……エレシュキガルか? 仮にも冥界(ここ)の女主人だ……この病魔の事を知らないはずはないだろう。

 冥界には七つの門があると聞くその一つが、向かっている物だろう。所々に霊が舞っている。周りに病魔が満ちているから呼吸は最低限に……今はかからなくても、かかる可能性が少しでもあるなら、気を付けるしかない……それで防げるか分からないけど。 あれ? 防げるのか? だんだん……心配になってきた。

 

(アッシュ、そこは心配いらないぞ? 龍の体は丈夫だ……この程度の病魔ぐらいは弾く……まぁ、流石に吸い過ぎたらどうなるか分からんが……試してみるか?)

 

 嫌だ……試さない。

 グラス冗談でもそんなことを言うな……少し試しそうになった。

 

(馬鹿だろ……アッシュ)

 

 馬鹿じゃな――――馬鹿だな俺。

 誰がどう見ても、今の俺は馬鹿にしか見えない。ギルがみた腹を抱えて爆笑するだろう。見られなくてよかったな……もしも、見られたら恥ずか死する自信が俺にはある。

 そんなことを考えながら、俺は道を歩き続ける……なんか、何も起こらないな。

 霊達に攻撃されるかと思ったが……霊は空中で踊っているだけだし……拍子抜けだ。

 何もない事にこしたことはないけど……身構えて何も無かったら、やる気が少し下がってしまう時ってあるよな? 今まさにそう言う状態だ……え? なんない? ……俺だけなのか……なんか少し残念だ。

 

(大丈夫だアッシュ、私もたまにそうなるからな……ふふふ、意外な共通点だな……嬉しく思うぞ)

 

 …………そうなのか、なんか嬉しいな。

 ――――さて、そろそろふざけるのを止めにしよう……門の前に着いた。おかしいな……門の先を見てみるが……ある筈の道が一切見る事が出来ない。認識阻害の魔術でもかかっているような……確か冥界の門を潜るには試練に答えなければいけなかったはずだ……それのせいか? 構えておこう。

 

 突然、声が頭の中に響きだした。

 

「答えよ――――答えよ――――冥界に訪れた不死の龍達よ――――その魂の在り方を答えよ――――幻想を殺す灰の龍よ――――その罪深き魂に問う――――我らに捧げるなら……どちらを選ぶ? その氷龍の魂か? それとも貴様の魂か?」

 

 何だこの問いは? ふざけているのか? そんな物……答えを迷う必要が無いだろう!

 

「俺の魂だ。冗談でもグラスの名を出すな……破壊するぞ」

 

 その答えを聞いた門はの魔術? は解かれ道が見えるようになった。

 

「通るがいい灰の龍よ――――いや違うな■が主■の■■よ……忘れろ今は関係ない事だ」

 

 何だこの門は? 所々の言葉にノイズが掛かり正確に聞こえない……だけど今は気にしてられるか……グラスの事で俺は苛ついている……一刻も早くここから離れたい。

 俺は苛つきがらも言われた通りに門を潜った。

 

 その時だった……左腕の感覚が消失したのだ。

 

「は?」

 

 痛みはない。

 しかし、俺の左腕が一本消えたのだ。何かされた気配はない。予備動作も無かった……だが俺の腕は消えている。そこに初めからなかったように消えたのだ。

 

(アッシュ!?)

 

「ッ何をした!?」

 

 この体は龍の物だ……対魔力を持っているそれを貫通するなんてことは……通常不可能だ。こいつは……何をしたんだ?

 

 

「なに、簡単だ……ここは冥界だ……本来は生者である貴様には冥界(ここ)の掟に従わせることはできないが……その身には十分に冥界の魔力が満ちている……ここの死者と変わらん……それにより、冥界の掟に従わせる事が出来ただけだ……なんだ? 不満そうな顔をしているが? どうかしたのか?」

 

 ……怒っていても、仕方ない……今は先に進むしか道はない。

 それに消えたのが俺の腕でよかった……ありえないが……もしもグラスを選んでいたら……そんなこと考えるだけでも怒りが沸く……。

 

「では進むが良い……灰の龍よ――――」

 

 その声を最後に声は聞こえなくなった。

 これが後六つ……何が起こるか分からない。

 俺の体は三肢の状態だ……幸い、利き腕である右手が消える事が無かったことだけは……良しとしよう。

 そして、これは消失だから……再生のルーンも使えそうにない。厄介だな……そんな考えを持ちながら、俺は門の先の道を進み始めた。

 

 

 

 




門の声は中田譲治さんを想像していただければ……。

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冥界探索二日目 第二の門

久しぶりです


 

(避けろアッシュ!)

 

 左からガルラ霊の腕が俺に迫る。

 ッ避けられない…………早く魔術で防がないと――――――――俺はいつものように、左腕で魔術を使おうとする。

 

 ――――だが、それは不可能だ。

 俺は冥界に左腕を奪われていて、使う事が出来ないからだ。

 

 防げない。俺の本能はそう叫んだ。

 ガルラ霊の攻撃は、魂に直接ダメージが入るので、それだけは防がなければいけない。

  

「グラス一回離すぞ……龍の力を使う!」

 

(了解だ……その体はつらいだろうアッシュ、私も戦うぞ!)

 

「助かる!」

 

 グラスを離してから、右腕に力を籠める。その間にグラスは姿を変えて人型に戻り俺の近くで拳を構えた。

 そのまま俺は、左から迫るガルラ霊に向けて右腕を振るった。

 それにより、氷が生まれて相手を包み込む。ガルラ霊が凍結して氷像になる。人型のグラスがそれを砕き、完全にガルラ霊は破壊された。

 

 俺がここまでガルラ霊を警戒するのには、理由がある――――それは、魂にダメージが入るからだ。

 肉体的ダメージだったらいくらでも無視していいが、魂にダメージが入るとしたら話は別だ。

 

 何故かというと、俺の不死性の理由は魂にあるからだ。

 俺の体が死なないのは、俺の魂が周囲の魔力である大源(マナ)か、体内で作られる魔力である小源(オド)を消費して、新しい体を造りだしたり、修復したりするから。これだけ聞くと、投影の魔術で肉体を作っていると思われるかもしれないが全くの別物だ。

 

 この肉体の創造、修復は……龍種特有の魔法である。この魔法は龍になった瞬間に魂の直接刻まれた。それが刻まれている魂が傷つけられると、魔法の効果が低下する。肉体の創造は不可能になり、修復は遅れる。もしも、完全に魂が破壊されれば、俺は当然……死に至る。

 

 魂の修復は魔力があれば出来るが、それには莫大な魔力と時間が必要になる。

 そんな暇は戦闘の間に絶対に存在せず――――無理にでも修復しようとしたら、その隙に魂は完全に破壊されるだろう。

 

「グラス……こんな場所で天敵を見つけるなんてラッキーだな!」

 

「馬鹿アッシュ! そんな冗談を言っている場合ではないだろう!」

 

「そうだな!」

 

 こんな冗談の一つでも言わないとシリアスになってしまうから……適度なおふざけは大事。

 

 普段の戦闘方が使えないなら、別の戦闘方に変えるまで……まぁ、この戦闘方はあまり使ってなくて、うまく使えるか分からないが……なんとかなるだろう…………多分。うん、ちょっと心配だな……グラスの力を借りるか。

 

「グラス供給頼む!」

 

「急だな……だが、いいぞ」 

 

 その直後、グラスの中にある幻想種の力が流れてくる。

 ちょっと数が多いけど、この程度の情報なら全然苦痛は感じない。この技の名前は“幻想供給”。グラスが喰らった幻想種の力を一時的に俺の中に流す物である。

 使える時間は短いが、効果は絶大だ。さて、使うのは、どれにしようか?

 ――――――よし、イピリアを使おう。イピリアとはヤモリの姿をした精霊である。かなり前に沼に立ち寄った時に襲われてその力をグラスに喰わせた。能力は雨を降らすという物と、雨天時の姿を消す能力。この能力によるステルスは、勘が良い奴ならすぐ気づくが……こいつらになら気付かれないだろう。卑怯に見えるかもしれないが、そんなことを言われても言い返せない。今回の作戦はグラスが正面から戦って、俺がその隙に数を減らすという物で行こう。

 それらを全て念話でグラスに伝えてから、俺達は行動に移す。

 

「グラス、これで大丈夫か?」

 

「異論はない……それよりアッシュ、魔力は足りるのか?」

 

「十分だ……ありあまっているぞ」

 

 手の中に魔力の塊を造り出してから、それを空に放つすると、冥界に雨が降り出して俺の姿が霧のように消えた。

 急に目標を失ったガルラ霊は、周りをきょろきょろと見渡して俺の姿を探している。

 よし、ガルラ霊は俺の姿を見失ったみたいだ。うん、よかった。うまくいったようだ。俺に集中していたガルラ霊は、俺を見失ったことで隙が出来る。

 そして――――その隙をグラスは逃さない。グラスは右足で大地を踏みしめ跳躍し、一気にガルラ霊に接近した。何匹のガルラ霊はグラスの魔力に気付いて回避に移ったが……それは遅い。

 

 グラスの拳は氷を纏い巨大になる。その拳を一気にグラスは、ガルラ霊に振り下ろした。十匹近くがそれにより消滅する。地面に大穴が開き、その中から魂のような物が霧散する。それでも、回避に成功した何匹かのガルラ霊が……グラスに攻撃をするために爪を構えた瞬間に……俺は氷で剣を造り出し、そいつらを切りつける。完全ステルスからの不意打ちは回避は不可能に近い。

 急に真後ろから切り付けられた霊は、何もできずに霧のように虚空に溶ける。

 

「グラス、交代!」

 

「任された!」

 

 今度はグラスの姿が消えて、俺の姿が現れる。

 急に表れた俺にガルラ霊はすぐに対処しようと遠距離から魔力弾を放ってこようとしたが――――――――放つ瞬間にグラスに氷像にされた。

 

「ナイスだ、グラス!」

 

「当然だ!」

 

 これで残りは十匹程度……だが、慢心はいけない。そして次の攻撃に俺が移ろうとした瞬間に――――、一体のガルラ霊が俺の背中に爪を突き刺した。

 

「グッ」

 

 その爪による攻撃は、俺の魂を削り始める、

 魂を直接いじられるような気持ち悪さを俺は覚え、霊を振り払おうとするが、深々と刺さった爪のせいで、抜くことが出来ない。

 慢心しないようにとか言った瞬間に、これとか間抜けすぎるだろう俺……。

 

 魔力を周囲から根こそぎ集めて……俺は一気にそれを開放する。周りに俺の魔力が溢れて首位が凍結し始める。それにガルラ霊は巻き込まれて氷だしガルラ霊の形の氷像が造られる。これでこの戦闘は終わり……辺りは静寂に包まれるそんな場所で、俺の傍にグラスが駆け寄ってきた。

 

「アッシュ大丈夫か!?」

 

「あぁ、何とか無事だが……早く門まで急ぐぞグラス、次の奴らが沸いてきた」

 

 何とか強がるが……かなり魂が傷ついてしまった。修復には一日かかると思うな……そんな俺の状態をグラスは悟ったのか、俺の前にしゃがんで、こう言ってきた。

 

「肩を貸す」

 

 本当に、グラスには頭が上がらないな……。

 

「助かる……グラス」

 

「気にするな」

 

 俺はグラスに肩を借りて、何とか門の元まで走っていく。

 

 ――――俺たちは十分ほどで、門の元まで辿り着く事が出来た。

 門の前に着くとそれ以上、ガルラ霊は追って来ることはなかった。

 そして門の前で休憩しようとした時―――――。

 

 

「答えよ――――答えよ――――冥界に訪れた不死の龍達よ――――その魂の在り方を答えよ――――幻想を殺す灰の龍よ――――その罪深き魂に問う――――汝が望むのは――――魔力か?――――体力か?――――汝にどちらかを授けよう――――」

 

 一個目の時と同じようにそんな声が頭に響いた。

 これの答えは考えなくていい……魔力一択だ。しかし、こいつがこんな事をする理由が分からない……裏があるのか?

 その考えを見透かしたのか、声はこう言ってきた。

 

「なに、怪しむ必要はない。冥界の慈悲だと思え……主人に会う前に死んだら意味が無いからな……」

 

「どの口が言う!」

 

「この口だが……どうしたんだ邪氷龍? そんなに殺気立って」

 

「貴様がアッシュの腕を奪ったんだぞ!」

 

「私は、掟に従っただけだが? ……何も悪くないだろう」

 

「ッ貴様!」

 

 グラスは今にでも門を破壊しようとしているが、俺はそれを止める為に答えを叫ぶ。

 

「魔力だ……早く寄越せ」

 

「了解だ持っていけ……灰の龍」

 

 体に冥界の魔力があふれ出して俺の魔力は全回復した。

 

「感謝はしないぞ」

 

「別に、そんなものはいらぬよ……ほら、早く行け」

 

「言われなくてもそうする」

 

「では――――次の門で会おう」

 

 できれば会いたくないんだが……それは無理だろうな。




すごく眠い


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冥界探索 幻想世界

待たせたな!


 門を潜った俺たちは近くの岩場で休んでいた……俺の魔力は門のおかげで回復したが、体力は完全に戻っていないからだ。それに俺の魂はまだ傷ついたままだから、ここら辺で一度修復しないとガルラ霊に殺される。

 という事で今から俺は魂を修復するんだが……そのためには精神世界の中に一度入らなければならない。俺の魂は精神世界の中のさらに奥に存在している。今思うと、よくガルラ霊は攻撃出来たよな……かなり厳重に守っているはずなんだが……まぁ、そこはさすが神代という事だろう。

 

「そういえば、グラス……ガルラ霊は喰えたのか?」

 

「あぁ、あいつらか……無理だったぞ? だってあいつら殺したのはお前の氷と私の拳だし……私は鎌で殺した奴らしか喰う事が出来ないんだ」 

 

「あぁ、そうだったな。すまん変なことを聞いた」

 

「変なアッシュだな。大丈夫か?」

 

「全然大丈夫だ……それでグラス頼みがあるんだがいいか?」

 

「アッシュ……何度も言ってるだろ私はお前の武器だ、一々頼まなくていい」

 

「そんなことを言われてもな、俺はやめるつもりはないぞ?」

 

「はぁ、もういい。それで頼みとは何だ?」

 

「俺は今から魂を主修復するから、その間守ってくれないか?」

 

「別に構わないぞ……ちょっと待っていろ、小さな氷の小屋を作る」

 

「了解だグラス」

 

 グラスはそう言い、魔力を集め始めた。周りの魔力が急激になくなっていき、冷気が放たれる。

 待て待て、グラス。お前はいったい何をするつもりなんだ? 小さな小屋だよな? そんなに魔力を使う必要はないはずだ……お前は何を作るんだ?

 

「……なんだアッシュ……その不満そうな顔は、安心しろ……小さな小屋は作る……おまけもついて来るがな」

 

「グラス……そのおまけというものが果てしなく不安なんだが、それは気のせいか?」

 

「大丈夫、気のせいだ。ちょっと幻想種呼ぶだけだから安心しろ」

 

 それは安心できる要素が一つもないんだが……おい、ちょっと待て……幻想種を呼ぶって言ったか? 

 

「……ちなみに聞くが、どいつだ?」

 

「守らせるといったら、ケルベロスしかないだろアッシュ? それにお前の知識では冥界の守護獣だろ? これほどの適任はいないと思うんだが」

 

「……馬鹿だろグラス」

 

 俺はそんな言葉しか出なかった。少し呆れてしまったからだ、まずこんな狭い場所でケルベロスを呼んだら狭いだろ……ケルベロス落ちるぞ?

 

「む? 馬鹿とは何だアッシュ? 私はお前の事を考えてケルベロスを呼ぼうしているんだぞ?……そうか、お前はケルベロスが大きいから心配してるんだな? なら、大丈夫だ。少し前にあいつらは増えた呼ぶのは子供だ」

 

 それなら安心だ……子供ならこの狭い場所でもいられるだろう。そいつは強いのか? 冥界から出たら少し戦わせてもらおう。こんなことを今考える俺は多分、馬鹿なんだろうが……幻想種と戦うのは楽しいから仕方ない。

 グラスが指を鳴らすと氷で小さな小屋が造られる。それはかなりの出来で小屋というより、家だった。やっぱりグラスの魔力操作凄いな……かなり想像力が無いとこんなもの作れないぞ。

 

 そして、その中からか出て来たのは黒い髪に犬耳を持った幼女だった…………なんだろうこの幼女、凄い魔力を感じる。だけど、こいつはケルベロスじゃないだろう。だって頭が三つじゃないし幼女だし……あと、なんか目つきが悪いし俺の事睨んでくるし、なんて話せばいいんだ? 

 俺はこの幼女とどう接すればいいのか分からなかった。

 どうすればいい? ……そうか挨拶か!

 ケルベロスが来るといわれたのに、なぜか出てきた幼女に俺は混乱することしかできず……そんな変な考えに至った。

  

「初めまして、でいいのか?」

 

「はじめましてじゃねーぞ、です」

 

 幼女は俺の事を睨みつけてきつい口調でそう言った。幼女の尻尾は揺れまくり、少し触りたい衝動に駆られるが……何とか抑えて俺は幼女に何とか言葉を返す。

 

「えっと、会った事あるのか?」

 

「おめーばかじゃないか、です。私はずっとおまえのなかにいたんだぞ、です」

 

「それはそうか……ごめんな」

 

「分かればいいぞ、です」

 

「それでお前は誰だ? ケルベロスは何処なんだ?」

 

 この少女は何度も言うが、頭が三つじゃないし前に倒したケルベロスの姿とは一致しない。別の幻想種だろうか?

 俺のその言葉を聞いて幼女は不思議そうな顔をして首を傾げた。俺の言っていることが分からないみたいな感じで、本気で困惑しているようだ。

 何故だ? 何でこの幼女は不思議そうにしているんだ?

 

「おめーの目は節穴なのか、です。どう見ても私じゃねーか、です」

 

「お前の何処にケルベロスの要素があるんだよ……」

 

「よくみてみろ、です」

 

 幼女はそう言って自分の手を見せて来た。幼女の手は完全に人間の物で、何処から見てもそれは変わらない。そんな俺の様子は知らずに幼女はドヤ顔を俺に見せていた。

 

「どうだ! です」

 

「……どうだと言われてもな、お前の手は人間の物だぞ」

 

「なん……だと! です。あ、ほんとだ、です。ちょっと待っていろ、です」

 

 幼女はそう言ってから、息を大きく吸い込んだ、その瞬間に幼女の髪が紅く染まり長くなる。そして、体中に赤い紋章が現れ脈動する。幼女は少し成長して身長が伸び初めて、腕に魔力を収縮させていた。その魔力は咢のように形は変わった。 

 威圧感が変わった……この幼女かなり強いぞ。

 

「これで完璧だ、です。信じろ、です」

 

「あぁ、信じる」

 

「じゃあ戦うぞ、です」

 

「…………ちょっと待て、どうしてそうなった?」

 

「何を言っているんだ、です。この姿になったら、戦うのは決まっているだろ、です」

 

「えっと、今の俺にその体力は無いから今度な」

 

 幼女の耳が垂れた。尻尾も下がり目に見えて、元気がなくなっているのが分かる……どうしようか、悪いことをしてしまった……どうするべきか。

 その時、幼女の後ろから何かの気配を感じた。その気配の持ち主は幼女の首筋に手を置いて――――。

 

「ッひゃん――――おいグラス、なにしやがる、です」

 

「馬鹿ヴォルフ落ち着け、そこらへんにガルラ霊がいっぱいるから殺して来い、アッシュは今疲れてる……理解しろ」

 

「それならしかたねー、です。行って来る、です」

 

 この幼女の名前はヴォルフって言うのか、ケルベロスなのに狼って不思議だな……早くない? 何あのスピード一瞬で先まで移動してガルラ霊と戦い始めたぞ……うわぁ、ガルラ霊がどんどん腕についている咢に喰われていく。ヴォルフと戦うときに注意するのはあのスピードか……完全に相性悪いな。

 これなら任せられるだろう。俺は安心して精神世界の中に潜って行った。 

 

「相変わらず、この空間は賑やかだな」

 

 精神世界の中に入った瞬間に、俺はそんな言葉を漏らした。俺の精神世界には今まで殺した、数多の幻想種たちは暮らしている。空を見ればワイバーンが飛んでいて、大地にはラミア達が這っており、魔猪が駆けている。ウェアウルフが殺し合いを演じて、イピリアは黒い海の中に隠れて、デーモンが魔術で遊んでいる。

 あぁ、やっぱりこの空間は和むな。

 

 あ、なんかケンタウロスが俺に向かって走ってきた。

 やばい……これ、避けられない。

 そして、ケンタウロスはとても笑顔で俺の元に向けて、一直線に向かって来る。

 

「おいケンタウロス! 俺は今、怪我人!」

 

「ご主人! お久しぶりです!」

 

「走るのやめろ! おい、止まって……マジで止まって!」

 

「すいません主! 私は止まれません! 頑張って生きてください!」

 

「おい、お前はふざけるな! お前の突進を今の俺が耐えられるわけないだろう――――あ」

 

 俺はケンタウロスの突撃受けて十メートルほど吹っ飛ばされた。

 精神世界の中で意識が落ちるという、謎の現象を俺は体験する事になるとは……世の中不思議な事もあるんだな、そんなことを俺は切に思う。

 あと、おかしいのだが……なんで俺は倒れているはずなのに動いているのだろうか?

 下の地面を触ってみると、それはふさふさしていた。少し硬いようなカーペットみたいな感触だ。幻想種の背中に乗ってしまったのか? それならすぐに退かなければ、怒らせてしまったら後が面倒だ。

 あ、でもこの毛並み気持ちいい、ちょっと眠くなってきた。こんな毛並みを持つ幻想種を俺は狩ったけ? 狩った数が多すぎて俺も精神世界の中をすべて把握していない。さて、この幻想種はどんな奴だろうな。

 改めて俺はこいつがどんな生物か確認する。

 それは、巨大な魔猪だった。体中から魔力を迸らせながら目は充血している。よほど俺は乗ったことに対して怒っているのだろう……早く降りなければ俺はまた飛ばされるだろうな……という事で早く降りよう。これ以上機嫌を損ねるとまずいからな。

 

「ごめんな魔猪……すぐに降りるから、魔力出すのやめてくれ」

 

「ga?」

 

「ちょっと動くなよ、落ちたら危ないから」

 

「ga!」

 

 あれ? なんか意外と素直だぞ? こんな奴だっけ? この空間で会うのは三度目くらいだからどんなやつか分かってないんだよな。意外と良い奴なのかもしれない。

 そんなことを考えながら、俺は魔猪の上から降りた。魔猪は俺の方を見つめてきてから再度、鳴き声を放つ。

 

「gaaaa」

 

「え? 今度競争しよう? 別にいいけど」

 

「gaaaaaa!!」

 

「なんかお前面白いな……うん約束だ冥界から帰ったらすぐにやろう」

 

 そして俺は、魔猪と別れて……先程の奴に説教する事にした。俺はケンタウロスの元に歩いていき足を凍らせて動きを止める。ふふふ、これなら逃げられまい。さぁ何をしてやろうか?

 俺は少し笑いながら……ケンタウロスに近づいていく。

 

「ご主人! なぜ私に近づいて来るんですか? ッまさか!? ご褒美ですかご主人!? あと氷の温度を少し上げてください、結構寒いです」

 

「…………なぜその答えに辿り着いたのかは分からないが……それだけはないから安心しろ」

 

「なんですと!? それなら、あれですか? あれ的なあれですか? 私の分の食事が増えるとかそんな感じの~?」

 

 ――――――――こいつってこんな奴だっけ? あれ? 絶対おかしい……前までのこいつはもっとクールな感じの、女騎士みたいなやつで、初めて会った時なんて、こいつは俺の事を切り刻もうとしてきたんだぞ? なんでこんな俗物に溢れた感じの奴になっているんだ? あぁ、俺の知識か……だからって変わりすぎな気がするが……なんかもう疲れて来た。早く魂を修復しなければグラスが心配する。俺がすることは一刻も早く、こいつを説教して魂を修復しに行くことだ……。

 

「ご主人! 聞いてますか? 私とお話しましょう!」

 

 なんか不安になってきた。

 

 

 

 

 

 



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閑話 英雄姫の朝

アッシュ君のいないときのギルの朝。


 朝の陽射しが部屋に入っている。

 その部屋は広く数々の装飾が成されており、その部屋の中で腰まで伸びる黄金の絹のような髪を持った少女がベッドから起き上がった。

 その身には一切の衣服を纏っておらず、きめ細やかな白い肌を晒している。その白い肌には彼女が持つ王律鍵バヴ=イルが刻まれている。

 彼女は両手を組み合わせてから天井に向けて軽く伸びをした。

 そうしたことにより、彼女……ギルガメッシュは目を覚ました。ギルガメッシュはふらふらとしたおぼつかない足取りで、自分の衣服を取りに行く衣服を収納している箱の前までギルガメッシュは歩いていき、適当に今日の服を選び始めた。

 その行動は五分ほど続いて最終的にローブのような物に決めたようだ。その服を着たギルガメッシュは自分の部屋に備えられている鏡の前まで歩き自分の姿を確認し始めた。

 鏡に映ったのは赤い瞳を持つ、不機嫌な顔をした自分自身……ギルガメッシュはなぜ自分が今こんな顔をしているかを不思議に思いながら髪を整え始める。

 

 

 ◇◇◇

 

「あぁ……我か」

 

 我は鏡に映る自分の姿を見てそんなことを呟いた。

 鏡の中の自分は不機嫌な顔をしている以外は、いつもの自分で……特に問題はないように見える。だけど、どうしようもない喪失感を覚えるのはなぜだろうか? 大事なものがなくなったような……足りなような……そんな感覚――――。

 

「…………アッシュの部屋に行くか」

 

 こういう時には、あいつに会うのが一番だ。反応は面白いし何より我はあいつと過ごす時間が一番楽しいから。

 この変な感覚は、アッシュに会えば消えるかもしれない……そんな事を考えて我は自分の部屋から出ていった。

 外で歌う鳥達の声を聴きながら我はアッシュの部屋に向かっていく。どんな言葉で驚かせよう? そんな事を考えていると、自然と我の足は軽くなり少しずつ速度も上がっていた。

 

 暫く歩いて辿り着いたのは……アッシュが過ごしているいつもの部屋。少しだけ深呼吸をしてから――――。

 

「ふはははは! 起きよアッシュ! 我が来てやったぞ!」

 

 勢いよく石の扉を開けて大声でそう言いながらアッシュの部屋に突撃した。我は反応がない事を少しだけ不思議に思い――――。

 まさか? 無視か? ふふ、ふははは、アッシュが無視するとは珍しいな……まだ寝ているのか? …………こうなったら、無理やり起こしてやろうではないか。アッシュは感謝するだろうな、なんせ我が起こすのだからな。ふふふ、我を無視する無礼な行為……その償いはしてもらうからな。

 この後アッシュに何をやらせるかを我は想像してから、アッシュの寝床に我は飛び乗った。

 

「起きろアッシュ無視するとは酷いではないか!」

 

 そのまま、我は布団を剥ぎ取った。下を見れば灰色の髪を持ったあいつが居るはずだ……どうな顔をしているだろうな? 楽しみだ……しかし、我の下には誰も居なくて――――。

 

 我はそうして、自分が覚えていた喪失感の正体を知る事が出来た……。

 

「…………アッシュは、いないのだな」

 

 我の寂寥を含んだ一言が、我しかいない一人きりの部屋の中で虚空に消えた。自分がアッシュを冥界に行かせたことは分かっている。だけど、朝アッシュに会えないというだけでこんなにも喪失感を覚えるなんてことは考えてもいなかった。寂しい……そんな感情が我の中に生まれて来た。

 そんな時にこの部屋の中に微かだが物音が鳴った。

 …………もしや、まだアッシュはこの部屋にいるのではないか? 

 そんな事を我は考えた。物音はまだ鳴っている。隠れているのか……それなら甘いぞアッシュ、この程度で我の目を欺けると思ったのか? 逆に驚かせてやろうではないか。

 物音がする方まで我は向かい。隠れているであろうアッシュの姿を確認する事にした。

 

「ん? 何だいギル? 私は今、重要なことをしているから……邪魔しないでくれるかい?」

 

「…………………………おい」

 

「どうしたんだい、ギル?」

 

「エルキドゥ?……貴様は、何をしている?」

 

 我の目の前には全裸のエルキドゥ……その手にはアッシュの衣服が握られていて、その衣服は少し湿っているようだ。何かをしていたのだろう。我はそれをあまり追求したくなかったが、聞かないといけない気がしたので仕方がない。

 

「何って……見てわからないのかい?」

 

「大体予想がつくが、一応聞いてやるという我の慈悲だ……早く答えよ」

 

 我の声は、初めてエルキドゥと会った時と同じくらいに冷たいものになっていた。エルキドゥはそんな我の様子に気付いていないようで、話し続ける。

 

「ギルならわかってくれると思うんだけどね? アッシュの布団に潜り込もうとして全裸でこの部屋に来たんだけど……潜り込んだ後に冥界に行ったことに気付いてね……それから、気が付いたらこうしてて……まぁ仕方ないよね」

 

 その言葉を聞いて我はツッコムのを呆らめて疲れた声でこう言った。

 

「エルキドゥ……そろそろ朝食だぞ、早く服を着替えよ。作った者たちに申し訳ないだろう」

 

「私は元々泥だから食事はいらないんだけどね……でもここの料理は美味しいから食べるけど、でもギル? なんでそんなに疲れた声をしているんだい?」

 

「…………いいから行くぞ」

 

「分かったよ」

 

 

 




ぶれないメスキドゥ……。

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冥界探索 生存者?

 

 俺は今、ケンタウロスの前に正座させれて説教されていた。どうしてこうなったのかはわからないが、俺は何も悪いことはしてないと思う。しいて言うならこいつの話に適当に相槌を打っていたことだが……。

 待て、それが原因じゃないか? 最初の方は真面目に聞いていたが、途中から全く関係のない内容になりめんどくさくなってそうしていた。そして、気づいたら強制的に正座させられて――――。

 

「という事でご主人、私の待遇の改善を要求します」

 

「ケンタウロス、何がどいう事なのかをまずは一から説明してくれないか?」

 

 ケンタウロスは何の脈絡もなくそう言い始めた。今までこいつが話していた内容と今の言葉が一切かみ合っていないせいで、俺はどう反応していいのか分からずにそんな言葉を吐きだした。ケンタウロスはそんなことを言う俺を不思議そうに数秒間見つめてから。

 

「え? 私は変なことを言ったでしょうか?」

 

「あぁ、いきなりすぎて意味が分からなかった」

 

「仕方ないですねご主人は、私が一から説明してあげますよ」

 

 胸を張りながらケンタウロスはそう言った。その顔はなぜか嬉しそうで、とても生き生きとしていた……なんでこいつがそんな表情を見せるのかはわからないが、俺はもう少しだけだがこいつの話を聞いてみようという気分になっていた。

 そしてケンタウロスは表情を真剣なものに変えてからこう切り出した。

 

「私はですね、今の生活に不満はありません……ですが、最近は少し思うところがあるのです」

 

「それで?」

 

「私はご主人が殺した幻想種の中でも古参な方です。それもほんとに初期の方の……そんな私なのですが、最近入ってきた方たちに馬鹿にされている気がするのです。まぁ、そんな新参者たちに目くじらを立てるような私なのではないのですが、物事にはけじめっていう物があると思うんです」

 

 …………そうだな、確かにけじめとかは大事なものだ。だけどさ、馬鹿にされているのはもうちょっと別の問題があると思ってしまうのは、気のせいなのだろうか? などと考えたが突っ込んではいけない気がするので、俺は特に反応せずに次の言葉を待つ。

 

「でですね、そういう方達は菓子折りでも持ってきて、古参組の私達に挨拶に行かなければならないと思うのです」

 

 とても真剣に、ケンタウロスはそう言い切った。内容には全く真面目の真の字も存在していないのに……だけど、それでこいつは結局何をして欲しいんだ? 今ケンタウロスが語った内容に、どういう風に待遇を改善して欲しいのかは入っていなかった。

 

「それでお前はどう改善にして欲しいんだ?」

 

「ふふふ、その質問を待っていました。言いましょう! その内容とは……」

 

「内容は?」

 

「古参組に一日二回のおやつタイムを要求します!」

 

「そんなことか? 別にいいが……というかむしろそれだけか?」

 

「……え、マジですか? ご主人なんか優しくありません?」

 

 自分が言ったことが通るとは思っていなかったらしく、ケンタウロスは狼狽えていた。この程度の事ならば言われればすぐに答えていたんだが……初期の奴らには世話になっているし、むしろなんでみんな文句なかったんだよ。

 もっと欲を見せてくれよ……いつも思うんだが、神代の生物は割り切るのが、早すぎると思うんだよ。敗者は勝者に従うという考えが強いのか、殆どの奴らは文句も言わずに力を貸してくれるし……これを期に他の奴らにも色々聞いてみようか。そう考えると、こいつとの時間は無駄じゃなかったな。

 

「ケンタウロス、ありがとうな……お前の意見が聞けて良かった」

 

「マジですか、ふざけて言ったのにまさか通ってしまうとは……世の中、何が起こるか分かりませんね。ともかく私が言いたいのはそれだけです……そろそろ、ラミアさん達が魂の修復を終わらせらと思うので戻った方がいいと思いますよ?」

 

「待て、どういう事だ?」

 

 今の言葉はどういう事だ?

 …………俺は今の言葉の真意を確かめる為に、意識を魂へと集中させる。すると傷ついていたはずの魂は完全に修復されていて、元の状態より良くなっていた。いつの間に直したんだよ? そんな気配は少しも感じなかったぞ? …………それに、あいつらがそんなことできるなんて知らなかったし、というか知っていればこの世界に来る必要なかったんじゃないか? この世界の奴らの能力は、グラスが全部把握しているはずだ。なら、グラスは何でこのことを伝えなかったんだ……はぁ、グラスはそんな気遣いしなくていいのにな。本当に、優しすぎるんだよ……疲れるのは自分なのにな。

 多分だが、グラスは俺が冥界であまり休んでいないのを気にして、この世界で少しでも休ませようとしたんだろうな……。

 

「気づきませんでしたか? 私と話している間にラミアさん達が傷をパパッと治していたのですよ……ラミアさん達はご主人の事大好きですからね、傷ついたと知った瞬間から血相を変えて治し始めていたんですよ……そんな事を伝えたら、ご主人は自分でやるとか言い出すと思ったので、私が止めさせていただきました。まぁ、ちょっと私欲に走りましたが……」

 

「お前なぁ、最後の一言で台無しだぞ?」

 

 ちょっと真面目なことを言ったと思ったら、こいつは最後に台無しにした。こいつらしいが、ちょっと気が抜けてしまう。だけど、こいつのおかげで落ち着く事が出来たのは変わることのない事実で……。

 

「だって、真面目にやるのは疲れますからね。ともかくご主人はラミアさん達にお礼を忘れないでくださいよ? ラミアさん達は気にしないと思いますが、けじめは大事です」

 

「分かっている……本当にありがとなケンタウロス」

 

「ふふ、私じゃなくてラミアさんに言ってくださいよ、そうだご主人、乗りますか?」

 

「お前にか? いいよ自分で会いに行くから」

 

 そこまで迷惑をかける訳にはいかないし……何より俺が恥ずかしい。

 それを悟ってくれたのか、ケンタウロスは最後に「また私にも会いに来てくださいね」と言って去って行った。俺はいつもラミア達が過ごしている場所に急いで向かい、今回の事の感謝を伝えるとしよう。

 三分もかからずにそのに俺は辿り着いた。そこは洞窟で中から酒の匂いが漂っていた。偶にここに来るんだが、いつ来てもこの甘い香りには慣れそうにない。甘い酒は苦手ではないんだが、ラミア達が作る酒は独特で……駄目だな、今はそういう事を気にしてる時間はないんだった。外では二人が戦っているはずだ……急いで加勢に行かないといけない、外がどうなっているのかもわからないままだから。

 

「ラミア達? いるか?」

 

 洞窟に入り俺はそう声をかけた。すると這うような音が天井から聞こえ、気が付いた時には俺の体が何かに巻き付かれて拘束されてしまっていた。俺を拘束した何者かは俺の近くに顔を寄せ耳元で話しかけてくる。

 

「……アッシュ? 用ですか」

 

 後ろを見ると青い肌をしていて下半身が蛇の女性がいた。灰色の俺と同じ髪をしていて、花を模した髪飾りを付けている。体に纏う衣服は大事な部分以外を隠していないという大胆な姿だった。このラミアの名前はアリス……この世界の中でも上位に入る強さを持っている。

 

「アリスか、いきなり拘束する必要はないんじゃないか?」

 

「敵の可能性がありましたので、私は悪くありません」

 

 悪いなんて一言も言っていないはずだが……そもそも、この世界に敵が来るなんて事はある筈ないんだが。こいつは抜けている所があったから仕方ないのか? 

 …………それはそうとして、俺だってわかったのなら、そろそろ拘束を解除してくれてもいい気がするんだが……それどころか少し前よりも拘束が強くなっている気がする。

 

「分かった、お前は悪くない。だから拘束を解てくれ、さっきから痛い」

 

「ふっ、分かればいいのです。それで、何か私達に用ですか? 忙しいのですが」

 

 なぜか誇らしそうに言うアリスは結局解いてくれなくて、俺は諦めて続きを話す。

 

「ただ礼を言いに来ただけだ。お前達が治してくれたんだろ?」

 

 俺の言葉を聞いたアリスは拘束を緩めてから俺から距離を取り、少しの間顔を伏せて……何故か尻尾で俺の体をビンタしてきた……いきなりやられたせいで俺は放心し、何も言葉が出てこなかった。

 

「…………治しましたが、それがどうしましたか? でもそれは、私達の為です。だって、アッシュが死んだら私達も消えますからね。貴方の為ではありません。そこは理解してください」

 

「あ、うん。分かった。それでもいいんだが、今何で叩いた?」

 

「事故です。気にしないでください」

 

「絶対わざとだろ……」

 

「だから事故です。早く外に戻ってください……今アッシュは、ヴォルフに噛み付かれています。早くしないと右腕無くなりますよ?」

 

 それは駄目だ。というか何でそんな事をあいつはしているんだ? ガルラ霊はどうしたんだよ……今の話の真意を確かめるために、俺は今すぐ外に戻る事にした。戻り方は簡単だけど、集中しないといけないからここから離れないといけないが。

 

「じゃあな、アリス。また来るぞ」

 

「要がない時は来ないでください。私も暇じゃありませんから、まぁ、私に会いに来るなら、いつでもいいのですがね

 

「分かったよ、とにかくまたな」

 

「では気を付けてくださいね」

 

 それを最後に俺は洞窟の外に出て意識を集中させてこの世界から意識を消した。少しの間だが暗闇が続き、次に目を開けると目の前にはヴォルフの顔があった……ヴォルフの片腕は俺の右腕を噛んでいてアリスの情報が嘘ではない事を知る。そして、ヴォルフの左腕を見てみると、その腕は見知らぬ男を銜えていた。

 

「…………なぁ」

 

「なんだ、です?」

 

「お前は何を銜えている?」

 

「? おめーの腕だぞ、です」

 

 違う、そうじゃない。

 

「こっちか、です? これは拾ったぞ、です」

 

 そうしてヴォルフはその男を俺の前に雑に投げ、渾身のドヤ顔を浮かべていた。俺はその顔にムカつく事より、この男が生きているかという心配が先に出てきてヴォルフに突っ込むことを忘れていた。

 

「生きてるか?」

 

「………………我は、なんだ?」

 

 声をかけた後に返ってきたのはそんな言葉、俺はなんと声をかけていいのかわからずに……氷を瞬時に拳に纏い、重い一撃をこの男の頭に叩きつけた。



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冥界探索 記憶なき神

久しぶりに感じる連続投稿……なんか懐かしい。


 俺は目の前に力なく倒れた男を見下ろしていた。男は最後に何かを言おうとしたようだが、俺の一撃に阻まれてなにも喋る事が出来なかった。俺は少量の血が滴る拳を見て、どんどん自分の顔が青くなっていくのを知った。俺の今の顔は完全に蒼白しているだろう。そして、俺の頭の中にはある事しかなかった、それは。

 この後の事を何も考えていないという事だ…………うん、俺何してるの? なんで咄嗟に見知らぬ人間? を殴ったの? あの人? 絶対に何も悪くないと思うんだが……いや、まずさ俺は何故殴った? 

 俺が自分がどうしてこんな行動に出てか分からず悩んでいると、氷の家の扉が開き外からグラスが入ってきた。グラスは俺の方を見て安心したかのように笑ったが、すぐに俺の表情がすぐれないのに気付いたのか……急いで俺に近づいて声をかけて来た。

 

「おいアッシュ! どうした顔色悪いぞ!? 誰に……やら……れ、た?」

 

 グラスは俺に話しかけているうちに足元の転がる男の存在に気付いたようだ。そしてグラスは俺の拳を確認する……そこに付着しているのは真新しい血液で、再度視線を動かし、男が頭から血を流している事にも気づいてから……グラスは優しく声をかけて来た。

 

「…………アッシュ……自首するぞ、大丈夫だ。私も頑張ってやるから、罰が軽くなるように頑張るからな、だから……」

 

 俺の肩に手を置いて、グラスは微笑みながらそう言った。その表情は母親のようで、じゃなくて……俺、捕まるの? 罰を受ける事は確定なのか? まず誰が、罰するんだよ。それより有罪判定なのか…………。

 その時、俺背中を何者かが叩く。俺はそちらに振り向くと、後ろにはヴォルフが居て、そのままヴォルフは男の方を指差して。

 

「おめーら、ばかじゃないか、です。こいつまだ生きていやがるぞ、です」

 

 神は俺を見捨ててなかった。俺はすぐにグラスの方に向き直り、精神世界にある霊薬を出すように頼む、精霊が作った霊薬があの中にはある筈で、それを使えば男はすぐ回復できるだろう。そして、男が起きたら謝ろう。

 男にそれを飲ませると、瞬く間に傷は治り男はそのまま頭を押せえて立ち上がった。周りを見渡し、二度ほど瞬きを繰り返した後に男は俺達に声をかけて来た。

 

「すまない。ここは何処だ? それに貴様らは何者だ? 教えてくれ……我にはここに来る前の記憶が無いんだ」

 

 俺はその言葉を聞いた途端に、体が勝手に土下座をした。だって、その言葉を聞いて罪悪感が襲いかかってきたからだ。いきなりの奇行に驚いた男は、言葉を濁らせながら俺を見ていた。

 

「何故、貴様はそんな行動に出るんだ? 頭を上げてくれ、何か思うところがあったのか?」

 

 優しい言葉が俺に突き刺さる。罪悪感に苛まれながら俺は顔を上げて、男の方を見てる。男は心配そうな顔をしており……その顔を見ると自分がさらに恥ずかしくなった。

 

「……お前の記憶が無いのは俺のせいかもしれない……頭を強く殴ってしまった」

 

「この瘤は貴様がやったのか……だが、貴様も何か考えがあったのだろう? 意味もなく殴るなんて者は普通居ないからな。だが、これは関係ないと思うぞ? 我はそこの二人に助けられたことは覚えている。あの幽霊達に襲われていた所をな、正確には我は幽霊達に襲われる直前からの記憶が無いんだ……だから、気にするな。お前は悪くないと思うぞ? それより、分かる事だけでいいんだが、教えてくれないか?」

 

 なんだよ、この聖人。何で殴られたのに平然としているんだ? おかしいだろ…………本当にすいませんでした。殴ったのに理由はないんです。体が勝手に、と言えば、言い訳臭くなるのだが、それは本当で……。

 俺はともかくこの男の質問に答える事にした。それが、今の俺に出来る罪滅ぼしだ。

 

「ここは、冥界だ。冥界の女神エレシュキガルの死者の国……普通に来る事が出来ない場所。お前を襲ったのはガルラ霊、エレシュキガルの為に働き生きている人間を捉える精霊だ。最後は俺達の正体だよな」

 

「あぁ、そうだ感謝する……そうだ、先に我の名前を教えておこう。我はネルガル、クターという都市で都市神をやっていた記憶はあるんだが、自分がどんな神だったのか、どういう性格をしていたのか、何の権能を持っていたかは分からない。よろしく頼む」

 

 そうやって男、ネルガルは自分の事を紹介した。

 俺はネルガルという名前には心当たりがある。ネルガルとは夏の太陽を司る天空神と同時に疫病の神……軍神とも呼ばれており、この神を崇める都市クターは戦争で負けが無いようだ。

 ギルの都市であるウルクと交流が盛んであるが、ネルガルには会った事が無かった。俺はネルガルが言っていることには嘘が無いように思えたが、念のために魔力を見る。

 そして理解した。この男の持つ魔力は規格外で、人間が持てる物じゃないと……そして、感じらるのは……俺とグラスの天敵とも言っていい炎の気配……それも、太陽の気配だ。俺はそれを確認したことで嘘はないと知ったが、同時にこの男と敵対するのだけは何が遭ってもあってはいけないと理解した。

 

「ネルガルか、覚えたぞ。俺はアッシュ。この雪白の髪をしたのはグラスで、この幼女がヴォルフだ。ここには、俺の主であるギルガメッシュに冥界を探索しろと言われて来た。俺が今、左腕が無いのは冥界に奪われただけだから特に気にしないでくれ」

 

 ネルガルは俺の言った内容を整理しているようで、少しの考える事に没頭していた。その間に俺はネルガルの事をグラスに念話で説明した。グラスも名前を聞いた時点で同じことをことを考えていたようで……ついていけないヴォルフだけはつまらなそうに、氷の地面に絵を描いていた。ネルガルは考えがまとまったのか、提案だと言ってから、その内容を話し始めた。

 

「なぁ、アッシュ……我もお前達に付いていっては構わないか? お前は冥界に腕を奪われたと言ったな? そレが確かなら、我の記憶も奪われたかもしれない。それに神である我の記憶を奪える存在といったら、同じ神であるエレシュキガルでなければ不可能だと思からな。我も一応は戦えるはずだ……戦力にはなるだろう、ついていってもいいだろうか?」

 

 それを聞いた俺グラスたちに確認を取る。俺は戦力にもなるし、記憶がないというのは不便だと思うから取り戻してやりたし、ネルガルを連れていくのには文句が無いんだが、グラスたちがどう思っているのかはわからない。だから聞いてみたが、返ってきた答えはグラスらしいものだった。

 

「アッシュがいいなら私は構わないぞ? それにこいつが嘘を言っているように思えないのは、私も同じだしな……それにヴォルフがこいつは悪い匂いがしないと言っている。こいつの嗅覚は頼れるからな、信じていいだろう」

 

 そうグラスが言った後、ヴォルフは俺の目を真っすぐと見つめてきたかと思うと、俺の肩に乗って耳元で話しかけて来る。

 

「嘘じゃねーぞ、です。こいつは良い奴の匂いがするからな、です」

 

 俺はどうしてヴォルフがそんな行動に出るか分からずにいたが、気にしても仕方が無かったのでこの魔進める事にする。

 

「……なら決まりだな……これからよろしく頼むぞ? ネルガル」

 

「了解だアッシュ、期待していろ? 記憶はなくとも我は神、足手まといにならないと、誓わせてもらおう」

 

 そうして俺と、ネルガル拍手を交わし、冥界の第三の門を目指す事にした。

 それはそうと、一つだけ気になることがるんだが…………。

 

「なぁ、ヴォルフ? いつまで乗ってるんだ?」

 

「? おかしなこというアッシュだな、です。飽きるまでだぞ、です」

 

「降りる気は?」

 

「あるわけねーぞ、です」

 

「だよなー」




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聖杯使えば行けるかな?


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