ブレイヴ×スクランブル (しばりんぐ)
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モテたい男はモテれない?
やる気が出るまで時間がかかります。




 性懲りもなくまたモンハンでお話書きました。




 ギョロギョロ。

 なんて音を立てながら、忙しなく動く眼球。

 

「ギョアッ!」

 

 短い叫びと共に飛び上がったのは、この新大陸に生息する鳥竜種──通称、プケプケさんだ。

 

「飛んだぞ! 撃て撃て!」

「おうよ! オラオラオラァ!」

 

 緑色の羽毛に、毒々しい紫色が差している。その体にはあまりにも不釣り合いな大きさの舌は、とても鮮やかなピンク色。それが、俺たちに向けて振りかざされた。

 

「うわぁ!?」

 

 ライトボウガンに火を吹かせていたハンターが、悲鳴を上げる。太く分厚いそれが薙ぎ払われれば、瞬く間に彼は吹き飛ばされていった。

 

「ちくしょうがっ……!」

 

 その隙を掻い潜って、片手剣を抜刀したもう一人のハンター。

 武器防具ともに骨まみれのもの──確か、ラドバルキンだったかな──で統一している彼は、勢いよく飛び掛かってはプケプケの脚に斬り込みを入れた。この古代樹の森に、赤い軌跡が走る。

 

「ギョアッ!?」

 

 思わぬ攻撃に驚いたのか、それともその剣に塗りたくられた『毒』が効いたのか。

 プケプケは、勢いよく墜落。さらに、そのまま横転。

 とても痛そうなその仕草だけど、それとは対照的に彼の表情はとても安らかなものだった。同時に響く、なんとも間の抜けた声。

 ──いびき?

 

「……寝た?」

「……寝たな」

 

 回復薬をがぶ飲みしていたライトガンナーがそう溢し、片手剣使いもそれに便乗。

 そうして、そのまま俺をじっと見る。

 

「……え、なに?」

 

 意図が分からずそう返すと、空気が一瞬沈黙し────

 その直後、切れた。

 

「なに? じゃ、ねぇよ!!」

「猟区内だぞ! なにボサッとしてんだよ!」

「お前のそれ、なんのための武器なんだよ!?」

「背中のそれはなんですか? 飾りですか?? おら名前言ってみろよ!」

「え、えーっと……大、剣……です」

「そうだよね? ……分かってんなら使えよォ!」

「お前さっきから逃げ回ってるだけじゃねぇか! 戦って! せめてチャンスくらい把握して!」

「ほらプケプケさん見てみろよ、寝てらっしゃるぞ!? プケプケさんゆっくり寝てらっしゃるぞ!?!?」

「答えはひとつ! 大剣といえば!?」

「た、溜め斬り?」

「分かってんならやってぇ! てかやってくださいっ!」

 

 悲痛な色のこもった叫びに追いたてられて、俺は仕方なく前に出る。

 確かに、俺は狩りの最中は逃げ回ってるだけだった。大剣を握ることなく、ただプケプケの様子を見ながら回避していただけ。

 でもそれは、臆病だとか、そんなんじゃないんだ。本当に、とても大事な理由からきているんだ。サボりとか、そんなんじゃないんだよ。即興で組んだパーティーだから、彼らには分かってもらえなさそうだけど。

 

「大剣といえば一撃重視!」

「眠った相手に、渾身の一撃を叩き込む!」

「さぁ、やれ! 今ならプケプケ動かないから!」

「頼む、やってくれ!!」

 

 妙に説明口調な二人に圧迫されて、俺は仕方なく柄に手を添えた。

 ──別に、動かれると当たらないからとか、そんなんじゃなくてね。

 本当は、本当はね────

 

「……はぁ~……おっも」

 

 ブレブレの切っ先が、振り下ろされる。

 溜めもなにもなく落ちたそれが、プケプケの鼻ちょうちんを割った。

 

「…………」

「…………」

「……た」

「……た?」

「──溜めろよォォォォッ!!」

 

 もはや半泣きの様子で片手剣使いがそう叫び、それを塗り潰すようにプケプケが吠える。目が覚めた奴は怒り心頭な様子で、血走った目を俺らに向けてきた。

 

「ギュアアァァァァッッ!!」

 

 怒っている。プケプケさん、怒ってる。

 そりゃそうだ。突然ハンターに襲われて、しかも唐突に眠らされて。さらにさらに、その眠りを妨げられる。そりゃあ怒って当然だろう。

 

「ダメだ! 全然食らってねぇ!」

「効いてねぇみたいだ! ちくしょう!」

「誰だチャンス無駄にした奴!」

「お前のせいだぞ! 『レイヴン』!」

 

 わざわざ名指ししてまで、俺を責め立てるライトガンナー。憎々しげに、イライラした様子で、俺を強く睨んでいた。

 いやさ、だって。

 

「……なんか、やる気出ないんだよね」

 

 ぽろっと、本音が漏れちゃった。

 

「……は?」

「いやぁ、男の前で頑張ってもこう……滾らないんだよね」

「……はぁ?」

「なんか全然ブレイヴが湧いてこないっていうか。あー、やる気出ねぇー」

 

 一瞬の沈黙。からの──

 

「……ふ」

「ふ?」

「ふっざけんなァァァッッ!!」

 

 怒号だ。呆れと怒りを含んだ、男の野太い咆哮だった。

 

「なんだそれ!? お前のその理由、なんだそれ!?」

「やる気出ない!? 男の前だと!? なっなっ、何それ何それ!」

「そんな下らない理由初めて聞いたわ! えっ何? 俺らの前じゃあテンション上がらないから、溜め斬りすら出来ないの??」

「うん」

「……ふっ、ふっ──」

「ふ?」

「──ふっざけんなァァァッッ!!」

 

 二度めの悲痛な叫び。それが古代樹の中で反響する。プケプケの咆哮にも負けないそれが、小鳥たちの尻を強く叩いた。

 同時に響く、足音。モンスターのような重いものではなく、ハンター特有の軽やかな足音だった。

 

「──大丈夫ですか!? 悲鳴が聞こえたので、救援に来ました! 四期団のハンターです!」

 

 颯爽と現れた、レイアシリーズで身を包んだハンター。四期団と名乗ったその女性は、俺ら五期団の先輩に当たる、ベテランのハンターだった。

 靡く金の髪。白い肌を泥で汚しながらも、健気にヘビィボウガンを握るその姿。

 

 ──あっ、めちゃくちゃ可愛いこの子。

 

 えっ何?

 俺らの悲鳴が聞こえたから、わざわざここまで救援に来てくれたの?

 クエスト終わりか探索中かは分からないけど、危険も顧みないで俺らを助けにきてくれたの?

 

 超いい子じゃん、この子。

 ────なんか、すっげぇテンション上がってきた。

 

「──大丈夫です! 俺ら、全然大丈夫ですから!」

 

 そのテンションに身を任せて、大剣を地面に滑らせる。同時に駆け出して、プケプケさんに肉薄。突然目の前に迫ってきたハンターに、彼は驚きの声を上げた。

 

「ギャゥッ──」

「せいっ!」

 

 直後、斬り上げ。地面を削って火花を上げるその大剣を、奴の首裏に向けて斬り上げた。

 ざっくりと皮が破られて、さらに石つぶてを巻き上げられて、プケプケさんは悲鳴を上げる。

 

「もういっちょ!」

 

 なんだか随分と軽くなった大剣を振り回す。そのまま背後で構え、大きく弧を描いた。溜め斬りのもう一段階上の技──強溜め斬りだ。

 それを、奴の目元へと叩き込む。

 

「ギョッ……ギュアァッ!」

 

 だが、今度の奴は悲鳴を上げるだけでは済まさなかった。口元に、紫色の唾液を貯め始める。

 

「やべぇ! 毒液だ!」

「レイヴン! 下がれ!」

 

 それが、まるで嘔吐するかのように。大量の吐瀉物の如く吐き出された。

 俺を狙った毒液が、大気を染めて。俺の体を、毒に染めて──

 

「──なんのっ!」

 

 大剣の背を左肩で支えて、身を屈める。そのまま、地面を滑るようにステップした。ちょうど、頬を掠めていく毒液。

 

「……は?」

「避けてるやん……」

 

 半ば呆れの声が後ろから届くけれど、俺は構わず腕を振る。喉から唾液を吐き切った彼のその首筋に、重い刃を押しつけた。

 

「とどめっ!」

 

 強溜め斬りの構え、からの踏み込んで振り下ろし。それがプケプケさんの首筋に絶った。

 

「ギャッ……ァゥ……」

 

 か細い断末魔が漏れて、そのまま彼は倒れ伏す。

 全身をびくびくと震わせながらも、立つことはままならないようだ。動かなくなるのも、時間の問題っぽい。

 

「……ねっ、お姉さん! 大丈夫でしょ!」

 

 振り返って、最大限の笑顔を振り撒いて。

 仕留めた獲物をバックに、俺は精一杯の決めポーズ。最高に決まった──と思ったけど、なぜかみんな呆れたような顔をしていた。

 

「……マジで、女の子来たらテンション上がってるじゃん」

「さっきまでのクソっぷりはなんだったんだ」

「……あのー、私来る必要ありました?」

「……ある意味ではあったけど、ある意味ではなかったかなぁ」

 

 片手剣使いの呆れを含んだその言葉。

 なんだか、寒々しい風が、足元を通り抜けたような。そんな感じがした。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 ──狩りをする時、士気はとても重要な要素となる。

 そんなブレイヴな(やる気に溢れる)状態になるための条件って、なんだろう。

 

 俺? 俺はね、可愛い女の子と一緒に戦う時だと思うんだ。可愛い女の子の前でなら、俺はブレイヴ状態(本気)になれるのさ。

 






 モテたいお年頃。


 ソロor男しかいない時→常時非ブレイヴ状態
 可愛い女の子がいる時→常時ブレイヴな状態
 っていう極端な主人公くん。こう、女の子の前だと格好つけたい的な。そんな感じ。
 今回はプロローグってことで、詳しいお話は次回から。基本ギャグコメディでいきたいと思います(`・ω・´)
 閲覧有り難うございました。


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ストライクゾーンは狭めです。



 マカ錬金おばあちゃんハァハァ。




「ねぇおばあちゃん。クエストこなしてたらこんなに(たま)支給されたんだけど、これ何に使えるの?」

「あいあい。どれどれ」

 

 調査拠点、アステラ。

 この新大陸を調査するために派遣された『新大陸調査団』。その調査団が調査を円滑に進めるために建設されたのが、このアステラだ。

 およそ五十年前に第一期団が派遣され、それから着々と作られたここは、現在では調査の重要な拠点となっている。俺たち第五期団を含め全てのハンターが全力で活動できるのも、このアステラと、そしてそれを作り上げた先人たちのおかげなのだ。

 そんなアステラの玄関口。通称『流通エリア』にて、大きな壺を掻き回すおばあちゃんが一人。老齢の竜人である彼女は、マカ錬金の技術を有した技術者の一人。全ハンターがお世話になってやまない人だ。

 

「ほうほう……いろんなものがあるけど、大体は雷光珠だねぇ」

「雷光珠?」

「雷属性のエネルギーを秘めた部品みたいなものよ。武器に装飾すれば、その属性をさらに伸ばせるのよぉ」

「うーん……俺、大剣使いだからなぁ。属性はあんまり関係ないや、はは……」

 

 おばあちゃんの鑑定によると、他にも防水機能を高める耐水珠であったり、防具の分厚さを増させる防御珠などがあるらしい。

 とはいっても、どれもこれもあんまり使わない。そんなものより、もっと有用な装飾品が欲しいなぁ。

 

「無撃珠っていうのはないの、おばあちゃん」

「あれま、あんたそういうのが欲しいのかい」

「いやほら、大剣は威力重視だし。この武器属性とか特にないし。それよりも、無撃珠っていうのは属性のない武器の威力を大きく高めるって聞いたことあるんだけど」

「なるほどねぇ。それじゃ、イチかバチかで錬金してみるかい?」

「え? 錬金?」

「いらない装飾品は、このマカ壺に溶かして混ぜ合わせる。すると化学反応を起こして変質するのさぁ。何ができるかはアタシも分からないけど」

「へぇ……十四代目のマカ不思議~ってやつ? うん、どうせこの装飾品使わないし、試してみようかな」

「お兄ちゃん、初回みたいだしねぇ。今回はアタシのサービスよぉ」

「流石お姉さん、すてき!!」

 

 手持ちの装飾品を、ありったけ手渡す。それらをおばあちゃんは快く受け取って、壺の中に注ぎ始めた。

 現大陸では、素材はいくらでもある。そのため装飾品の生産は非常に簡単で、工房にいけば手軽に用意することが出来た。しかし、新大陸だとそうはいかなかった。

 素材こそ充分にあるものの、その用途は不明なものが多く、現大陸ほど開拓出来ているとも言い難い。つまり、装飾品を大量に生産することは、現状とても困難なのだ。

 だから、総司令をはじめとしたこの調査団のトップたちが、クエストの働きに応じて報酬として配布する。クエストの報酬で、価値のある調査結果を残した者へと贈られる。そういう形がとられているのだ。

 

「さぁ、出来たわよぉ」

「おぉ……っ!」

 

 物質の解析が充分でないために、思いがけない物質になることも少なくない。

 防具の傷が少ないほど、性能を充分に発揮する無傷珠だと思いきや、ただ滑りやすくする滑走珠である、なんて。そんなことが日常茶飯事だ。

 なんといっても、鑑定するまでその効果は分からない。おばあちゃんが生み出したこのいわば原石も、磨き上げるまでどのようなものなのかは分からないのだ。

 

「無撃珠……無撃珠、来い!」

 

 とにもかくにも、鑑定だ。

 おばあちゃんから手渡せれた三つの珠。手持ちのものをありったけ使ったその珠を、俺は必死に磨いた。

 付着した錬金液のその奥から、まぶゆい光が溢れ出す。まるで後光のように、その珠は輝き始めた。

 

「おお……!」

「おやまぁ……」

 

 正体を現したそれは、黄金の輝きを放っている。

 まさか、これはまさか────

 

「おばあちゃん、これ!」

「うんうん、こりゃ雷光珠だねぇ」

 

 は?

 

「変質しなかったのかねぇ。まぁ、こんなこともよくあるわぁ。ほいじゃ、またきてねぇ」

「いやちょ、えっあの」

「またきてね」

「えっあっ、でもこれ」

「ま・た・き・て・ね」

「……あっはい」

 

 ニタァ、なんて擬音語が最も似合う笑顔。そんなババアを前に、俺は思わずたじろいだ。

 あっ、このババア悪い奴だ──

 なんて口から漏れそうだったけど、我慢し切った俺を誰か褒めて欲しい。なんだか、とても泣きたい気分だよ。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「──ってことがあってさぁ」

「はぁ……アンタってほんとアホよね……」

 

 アステラの第四階層に位置する食事場。大柄のアイルーが切り盛りするその店の前で、俺は涙ながらに愚痴を溢した。無念の狩人ビールが、弱々しい泡の音を立てている。

 そんな俺の前で、呆れたように頭を抱える女の子が一人。ハンターである俺と組んでいる編纂者ちゃんだ。

 

「ねぇーフレイ、ひどいと思わない? すっごく酷くない?」

「ええい寄るな酒臭い! あとしつこい! その話もう三周目よ!」

 

 薄い色の茶髪を軽く編んで、それを左肩へと流したその少女──『フレイ』は、か細い腕で僕を振り払う。振り払って、その青い瞳を憂うように伏せた。

 

「アンタの話はいっつも女ばっか。もっと他の、まともな話出来ないの」

「あんなババアは守備範囲じゃないよぉ……大体他の話ってなに」

「うーん……例えば、狩りの話とか?」

「えー……。てかさ、フレイだって一緒に猟区に出てるんだからさ、キャンプにこもってないで見に来てくれればいいのに。そしたら話す必要ないし、むしろ俺、もっと頑張っちゃうよ」

「私は狩りの算術で忙しいの! 環境把握とか物理計算とか、色々考えてんの!」

 

 フレイは、とても優秀な編纂者だ。俺はバカだから詳しいことは分からないけど、なんか凄く頭が良いらしい。

 なんでも、ツタによる罠の利用法や、落石の速度と落下位置とか。そういうのを素早く計算して、有効利用する方法をよく提出しているんだって。

 ただ、インテリ気質なのかキャンプにこもりがち。フィールドワークは得意じゃないらしい。

 

「でもこの前は狩りの話したじゃん、プケプケの」

「あの話、酔った勢いの作り話なんじゃないの?」

「いやいや、本当だって! 俺がプケプケを討伐したんだって!」

「ハッ。熔山龍捕獲作戦、及び誘導作戦でのアンタの動き、私はっきり見てたんだからね。見え透いた嘘はつかないの」

「えっ……?」

 

 熔山龍。ゾラ・マグダラオスと名付けられたその古龍は、あの老山龍三頭分は余裕であるほどの巨体を誇る、なんかもう物凄いモンスターだ。

 この新大陸に古龍が呼び寄せられる、俗称『古龍渡り』の代名詞的な存在とも言える。なにせ、俺ら五期団もかの龍の動向に応じて召集されたのだから。

 

「アンタのやってたことなんて大砲ぶっこわすか、誤って海に転落したかくらいでしょ」

「嘘っ、見てたの!?」

「翼竜に殴られて落ちてたよね。他のハンターに助けられてたのも見てたんだから」

「……あちゃー。そうなの……恥ずかしい」

「アンタがそんなに強くないってのは分かってるの。だから、そんな見栄を張ろうとしないで。それで怪我なんてしたら、本当に……」

「いや違うんだって。あの時は周りがおっさんばっかだったし、なんかやる気出なかったんだって」

「……何よその理由」

 

 呆れたように、フレイは手に持っていた本をパタンと閉じて。それで軽く俺の額をチョップしつつ、彼女は立ち上がった。

 

「とにかく! アンタは無理しないこと。背伸びせず、やれることからコツコツと────」

「あっ、救難信号だ!!」

 

 そんなフレイの、その背後から。古代樹の森の奥より顔を出した救難信号の狼煙に、俺は思わず声を上げる。

 あの色の信号弾を持っているのは、よく流通エリアで買い物をしているあの女の子じゃなかろうか。これは、これは助けに行くしかない!

 

「ちょっ、待ってレイヴン! 話はまだ……っ」

「ごめんフレイ! 行ってくる!」

 

 スリンガーからワイヤーを伸ばし、止まり木で首を掻いている翼竜の足に絡ませた。

 その拍子に浮き上がり、僕は空へと走り出す。駆け寄るフレイに謝りつつ、とにかく出発だ。

 うん、なんかテンション上がってきたぞ!

 






 あの錬金ババアはマジでオドガロンの巣に放り投げたい。


 主人公のレイヴンさんはとにかくモテたい男の子。お酒が飲めるくらいには大人ですが中身は子どもです。濃い茶髪に焦げ茶の眼。背はそんな高くない。以下、描いてみたイラスト↓↓↓ イメージ崩したくない人はノータッチでお願いしますm(_ _)m

【挿絵表示】

 フレイちゃん(ヒロイン)。薄い茶髪を緩く三つ編みにして、左肩へと流してる子。レイヴンの二つ上のお姉さん。可愛い。以下、描いてみたイラスト↓↓↓

【挿絵表示】

 以上だ!

 ……デジタル難しすぎる(´・ω・`)


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可愛い子の前ならしっかりやります。



 МHWの弓すき。




 古代樹の太い枝を駆け下りる。

 もはや滑らかな坂と化したそれを下り、信号が撃ち出されたポイントへと駆け付けた。

 

 小さな木々に覆われた、古代樹の森の底。シンリンシソチョウが多く生息する、エリア5の奥。

 そこには、白い体毛を湛えたモンスターがいた。四足歩行する鋭い鉤爪に、蛇のような形をした頭部。そして何より、身体の半分ほどもある大きくてふわふわな尻尾。

 この新大陸に生息する固有の牙竜種──トビカガチだ。

 

「救援ですっ、助けに来ましたよ!」

 

 滑り降りた勢いをそのままに、俺は背中の大剣を振り抜いた。弧を描いたそれに左手を添えて、切っ先をまっすぐ大地に向ける。まさに垂直なその斬撃は、真上からトビカガチの鱗を斬り裂いた。

 

「あっ……有り難うございます……」

 

 ボロボロな様子で、それでも安堵したように。

 目の前の少女は、そんなか細い声を上げた。

 

 束ねられた紫の髪は、まさにアメジスト。あどけなさを残す顔立ちで、俺をじっと見上げている。

 流通エリアで買い物したり、食事エリアで談笑したり。そんな気ままな様子から、アステラ内では『マイペースなハンター』と呼ばれている少女。それが、救難信号を撃った主だった。

 

「俺が来たからには、もう大丈──おわっ!?」

 

 空中からの下突きで、鱗を抉ったというのにトビカガチは軽く怯むだけ。それどころか、俺に向けてその牙を振るってくる。

 おっとっと──こうなったら、しがみつく!

 

「ギャゥッ!?」

 

 素早く大剣を背後に回して、空いた両手を大きく広げて。

 トビカガチのふわふわとした体に全身を擦り付けながら、とにかく振り落とされないように踏ん張った。

 一方のトビカガチ、とても機敏。ぴょんぴょんと跳ね回っては、俺を振り落とそうと奮戦する。上下運動が激しくて、なんかもう、なんかもう────

 

「おぇ……吐きそ……」

 

 先程食べたご飯が、胃袋の中で暴れ回っている。俺を出せ、外に出せと言わんばかりに暴れ回っていらっしゃる。

 あっ、ダメだ。やばいこれあかんこれ。吐く? ねぇ俺、このままじゃ吐く?

 

「踏ん張ってください、援護しますっ!」

 

 そんな掛け声が響いたかと思いきや、カガチの頭を鋭く射抜く、数本の矢。あのマイペースなハンターちゃんが、弦を引き絞ってさらなる弾幕を張ろうとしている。

 

「あぁっ!! めっちゃ助かる……!」

 

 思わぬ方向からの射撃に、トビカガチはか細い悲鳴を上げた。

 痛みに怯み、ふらつくように足元をもつれさして。ようやく収まった上下運動に安堵しながら、俺は奴の頭の上で剣を抜く。俺の体と同じくらい大きなその剣を、天へと掲げるように振り上げて。

 一撃。叩き込んだそれを頭蓋の奥まで擦り付ける。そうしてそのまま振り抜いた。この小さな頭を弾き飛ばすかのように、渾身の力を込めて振り抜いた。

 その衝撃にカガチは悲鳴を上げて、ついには倒れ伏す。俺はあえなく撥ね飛ばされるけど、隙間を埋めるようにマイペースなハンターちゃんは前へ出た。

 

「たぁっ!」

 

 滑り込むようなステップ。からの数本の矢を弾き飛ばし、さらにそこから全力の追加射撃。剛射と呼ばれるその技で、彼の頭を激しく穿つ。

 さぁ、隙を作るだけじゃダメだ。この子の助けになるように、俺も頑張らないと。

 

「──よっと」

 

 抜刀した大剣を、そのまま腰に携えるように持って。大地に刃が擦れ、激しく火花を散らすそれを加速させる。未だ地面の上でもがく奴の元まで駆け寄って、その大きな尻尾に向けて振り上げた。

 おっ、柔らかい。なんだこいつ、尻尾が凄く柔らかいぞ。

 

「うらっ!」

 

 斬り上げた大剣を宙で返し、刃を下へと反転させる。そうして、そのまま溜め斬りへ移行。全身の力を込めて、その大剣の重みを重ねていく。

 

「せいっ!」

 

 柔軟にくねくねと曲がるその尻尾は、どうやらとても柔らかいみたいだ。この大剣が瞬時に吸い込まれ、大きな血飛沫が上がる。肉を奥まで断つことが出来たと、そう実感させる感触が手に伝わってきた。

 よっしゃよっしゃ。このまま、強溜め斬りだ。この柔らかいとこに渾身の一撃を叩き込んでやる────

 

「キュゥアアァァッ!」

 

 その瞬間、トビカガチは吠えた。転がるように身を起こしては、怒りを灯した咆哮を放つ。それに思わず、俺は体勢を崩してしまった。

 

「ひゃっ!」

「うわぁうるさ……っ!」

 

 目を血走らせて、俺らを忌々しそうにぎょろりと睨んで。

 そのまま、間髪入れずに小さな唸り声を上げる。それに伴って背中の体毛はパチパチと揺れ、白い光を瞬かせた。

 

「あ……?」

 

 一瞬の光。かと思ったら、トビカガチの姿が消えた。忽然と、消えてしまった。

 

「どこに────」

「上ですっ!」

「えっ──はぁっ!?」

 

 俺の頭上で、球のように回転する白い影。あの一瞬で宙に跳ね上がったらしいトビカガチは、その大きな尻尾を勢いよく俺に叩き付けてきたのだった。

 

「っとぉ!」

 

 回避は間に合わないけど、せめて、せめてガードだけでも!

 

「──はっ? えっちょっ……あばばばばば!!」

 

 盾にした大剣から、柄にからまってきた体毛から、突然激しい痛みが伝わってくる。

 なにこれ、なにこれ。痛いっていうか痺れるっていうか麻痺するっていうか。

 ──え? これ、電気?

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 思わず吹っ飛んでしまった俺のところへ、マイペースなハンターちゃんは駆け寄ってきた。それも、クイックショットでトビカガチを牽制しながら。

 

「いてて、アイツ電気なんか使うんか! 電気の牙竜種、ねぇ。金ぴかのあの子思い出すなぁ」

「立てますか!? 次が来ます!」

「うん、大丈夫! ありがと!」

 

 彼女が散布してくれた粉塵が、呼吸を通して俺の中に入ってくる。そこに含まれた麻酔のおかげか、少し体が軽くなったような気がした。何より、可愛い女の子が振り撒いてくれてるんだ。それだけでなんだか元気が出るような気がする。

 一通り矢を射った彼女は、弓を仕舞いつつも使える矢の回収作業へと移行。一方のトビカガチは、今度は背後の木へと大きくジャンプした。

 

「……? 木に、掴まった?」

「あれ、空中から回転してきます! 気をつけて!」

「あっ、なんかあんな動きする生き物見たことある……」

 

 両手を広げたトビカガチ。その姿は、まさに木から木へ飛び移るあの環境生物みたいだ。シンリンシソチョウじゃなくて、ミチビキウサギの耳がないみたいな奴。あれより、何十倍も大きいけれど。

 

「君は決め手を放つ準備をして! あいつの攻撃は、俺がなんとかするから!」

「えっ、でも、あれ防いだらまた感電しますよ……!」

「大丈夫。今度は斬るよ」

 

 毛と毛が擦れ合って、静電気を生み出して。

 そんなこんなで溢れ出た白い光を、大きく薙ぎ払いながら奴は急襲する。

 だから俺は、その柔らかい尻尾に向けて。上半身を引きながら、剣を弦でも引くように背後に構えて。

 タイミングを合わせるように、強溜め斬りの構えをとった。

 

 舞う体毛。

 弾ける大気。

 眼前を薙ぐ、巨大な尾。

 

「──そこっ!」

 

 吸い上げた息を一瞬止めて、ただひたすらに背後の剣を振り下ろす。

 瞬間、巨体が体勢を崩して落下する。大きく抉れた尻尾から、赤い軌跡を描くように。トビカガチは、悲鳴を上げて横転した。

 

「今だ!」

「はいっ!」

 

 掛け声と共に響く、何かが擦れるような音。矢じりについた仕掛けが、摩擦によって高熱を帯びる音。

 竜の一矢と呼ばれるその技を、少女は勇ましく撃ち放つ。地面に擦らせてから、全力で弦を引き絞るその姿。なんだかとてもかっこいい。

 

「とどめっ!」

 

 古代樹の森を赤く染めるその一閃。

 トビカガチの弱々しい声が、最後に木霊した。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「いやぁ、有り難うございました。助かりましたぁ……」

 

 ぱたんと腰を落として、彼女は気の抜けた声を漏らす。そのマイペースな様子を見ていると、俺もなんだか腰を下ろしたくなってきちゃった。

 

「助けになれたのなら、なによりだよ。……えーっと」

「あっ、私『マイ』っていいます。みんなからはよく、マイペースなハンターって呼ばれてますけど」

「マイ……マイちゃんね。うん、よろしく。おれは──」

「レイヴンさん、ですよね?」

「そうそうレイ……って、え? なんで俺の名前知ってるの?」

 

 意気揚々と自己紹介をしようとしたら、なぜか先に名前を言われてしまった。

 え、なんで? なんでこの子は俺の名前を知ってるんだろ。

 ──もしかして、俺のファンとか? うわぁそんなの照れちゃうなぁ参ったなぁ。

 

「レイヴンさん、有名ですよ。先日の熔山龍戦で海にダイブしたハンターってことで」

「…………」

 

 屈託のない笑顔が、トビカガチの光より眩しいなって思った。

 でもそれはそれとして、俺の名前を知ってる理由って──

 よりにもよって、それかよぉ!!

 






 最近熔山龍戦で海へダイブできるの知りました。


 トビカガチ可愛いですよね。もふもふで蛇顔で体柔らかくてきゃーきゃー泣いてるのめっちゃ可愛いですよね。何よりあの歩き方! 如何にも獣って感じでいい。ムササビみたいに滑空するのも可愛い。可愛いオブザ可愛い!
 閲覧有り難うございました~。

 あ、あとマイペースな五期団ちゃん描きました( ・`ω・´)

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途中離脱は萎えまくります。



 通信エラーならしょうがない。




「きゅーなん、しんっごう!」

 

 砂が顔にめっちゃつくけどこんにちは。

 今日の俺は、大蟻塚の荒地にきています。

 なんでここに来たかって言われれば、そりゃあもちろん救難信号が撃ち出されてたから。

 

「さぁーて、なんかアンジャナフが出現したって聞いたんだけど……どこだろ?」

 

 アンジャナフ。それは、この新大陸に生息する大型の獣竜種モンスターだ。

 新大陸の、と言ったように現大陸には生息していない。ボルボロスとは違い、現状この大陸の固有種と認識されている。といっても、森にゴロゴロ生息しているけど。

 コイツの特徴は、とにかく暴れん坊。草食竜であろうと他の肉食竜であろうと、そんなに関係ねぇと言わんばかりに牙を剥く。見た目は桃っぽい可愛い色しているくせに、性格はとんだお転婆ちゃんなのだ。

 

「沼の方かな、それとも荒地の方かなぁ。砂漠だったら勘弁してほしいなぁ」

 

 何故なら砂漠には、この荒地の主(ディアブロス)が生息しているのだから。出来ることなら、会いたくない。

 アンジャナフは確かに強いモンスターだけど、ここの主(やつ)古代樹の主(リオレウス)に比べれば多少見劣りしてしまう。時には縄張りを奪われ、森の外に追いやられてしまうことだって珍しくない。森と荒地は隣接しているから、こういう事例は日常茶飯事なのだ。

 もちろん、追い出された訳でもなく、新天地を求めて荒地に来る奴もいる。そういうのは大概強いから、今回現れた奴はそうじゃないと願いたいけれど──

 

「……とりあえず森の方へ行こうっと」

 

 とにもかくにも、痕跡を見つけなければ。痕跡を見つけて、獲物を居場所を察知する。いやぁ、導蟲様様だなぁ!

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「あっれ……森、いないなぁ。外出ちゃったんだろうか」

 

 痕跡を辿って、荒地西にある森に辿り着く。

 しかしそこには戦闘の痕こそあれど、肝心なアンジャナフは、そして救難信号を送ったハンターの姿はなかった。

 信号を送るくらいなんだから、苦戦してるんだと思うけれど。もっと視界が良好な、荒地の方に向かったんだろうか。

 

「……あのヘビィ使いさん、元気かな」

 

 そう、今回の救難信号の送り主は、あのプケプケ討伐の時に来てくれたヘビィボウガン使いのハンターさんだ。

 先日の恩返しその他もろもろのために、俺は今日彼女のために駆け付けたのである。あの時はあんまりお話出来なかったし、今日は出来ることならいろいろお話がしたいなぁ、なんて。そんな淡い期待をしながら、東に向けて歩き出して。

 ──もしかしたら、マイの時みたいに俺の黒歴史に触れられるかもしれないけど。あれは唐突に背後からぶつかってきたバルノスが悪いんだ。あいつらが全部悪い。はいこの話終わり!

 

「────あ、いた」

 

 下らない自己嫌悪に浸りながら森を抜けた、その先に。

 起伏の激しい岩山の上で、鼻息を荒立てる竜の姿が目に入る。

 如何にも竜らしい頭部と、そこから飛び出た突起のような鼻。

 濃い紫色の体毛と、桃色の鱗を並べたごつい体。

 その体から伸びた、一対の薄い小さな翼。

 あれだ、間違いない。アンジャナフだ。

 

「すーっ……あの時のお姉さぁーん!! 助けに来ましたよーーっ!!」

 

 とにかく大声を出して、蛮顎竜に向けて駆け出した。当然その声に、奴は何ごとかと振り向いてくるけど。

 奴が吠える前に、俺は跳ぶ。跳んで、その遠心力に身を任せた。大剣を添えたその縦回転は、勢いよく奴の鼻先を砕く。さながら満月のような軌跡が、アンジャナフを大きく怯ませた。

 

「しゃあ! 俺が来たからにはもう安心ですよ! 俺が貴女の盾となります!」

 

 荒地をさらに荒らしたこの光景は、確かにここが戦場となっていたことを物語っている。

 あのお姉さんの姿は見えないけれど、きっとどこかに隠れているんだろう。一人で探索していたみたいだったから、急に襲われてとてもきつかったに違いない。今は隠れて回復しているか、それとも狙撃の準備をしているか。

 なんにせよ、俺が来たからにはもう安心だ。

 おら蛮顎竜、こっち向け。

 

「ガアァッ!」

 

 唐突に鼻先を抉られて、奴の堪忍袋の緒は一瞬で切れたみたいだ。

 鼻から炎を噴かせながら、そのどでかい顎を俺に向けて振り下ろしてくる。そのまま、大量の砂ごと地面を穿った。

 

「おぉ……お前それ不味くないんか……凄いなぁ」

 

 ステップで躱した俺を、彼は即座に察知して。今度はその喉を光らせて──

 橙色の光が、砂にまみれた口の奥からこんにちは。

 

「ちょっ……ブレス!?」

 

 慌てて納刀。即座にダイブ。

 一拍置いて、背後が一瞬で焼却された。砂をも燃やす高熱が、砂漠の熱射にも負けまいと唸り始める。

 危なっ──こいつちょっと、頭おかしいな。

 

「物には順序ってもんがあるでしょうが……お前はいきなり女の子にキスするんか!? しないだろ!? もっと段階踏んでからだろ!?」

「ガアアアアァァッ!!」

「なん……だと……お前まさか、そういうのすぐ出来ちゃうタイプ……?」

 

 続けざまに炎を灯し、今度は辺り一面を薙ぎ払うように奴は首を振った。なんだかクーラードリンクが欲しくなってくるくらい、一気に温度が上昇する。

 なんだこいつ、相当のやり手じゃないか!

 

「あっ……導蟲青くなってる……こいつ、猛者だ……! 経験豊富な猛者だ……っ!」

 

 様様、なんて褒め称えていた導蟲が、無慈悲な青色をその身に灯した。こんな色、ゾラ・マグダラオスの時にしか見たことがないぞ!

 とにかく回避。あのブレスを回避しつつ、振り回される尻尾をいなすことでなんとか難を逃れる。

 

「俺より圧倒的に経験豊富……強い、強すぎるっ! けど、ここで逃げたら男が廃る……!」

 

 歴戦の猛者だろうがなんだろうが関係ない。今は、あのヘビィ使いのお姉さんのために俺は剣を振る。それだけだ。

 

「っしゃあっ!」

 

 跳びかかりを繰り出して、大きく隙を晒すアンジャナフ。その厳つい頭部に向けて、強溜め斬りを叩き込む。

 それでも奴は怯まないで、その身をバネのように屈ませた。獣竜種による見られる行動──側面を利用したタックルだ。

 

「なんの!」

 

 刃の裏を右肩に乗せてステップ。そうして脚の間をすり抜けて、砂を鳴らしながら踵を返す。もう一度、強溜め斬りだ。

 

「倒れろ!」

 

 その太い脚に向けて、振り下ろし。渾身の力を込めたそれは、確かに脚の皮膚を打ち砕いた。角質のように固い皮膚が弾け飛んで、アンジャナフは横転する。甲高い悲鳴を上げて、あの巨体が転がった。

 強溜め斬りでは、終わらない。大地を抉るそれをもう一度、大きく薙ぎ払いながら背後に構える。

 

「ひっひっふー……」

 

 瞑目。

 体中の筋肉のリズムを、乱れた呼吸の流れを確かめるように、精神を研ぎ澄ませる。

 ────今だ。

 

「……そぉらあっ!」

 

 解き放った大剣は、奴の牙を折り砕く。

 けれどそれは、ただの振り。いわば助走だ。これから繰り出す本命の、ただの予備動作。

 本命は、その振り下ろしを利用した縦回転。柄を、まるで棒を跳ぶように全身で越えて、その勢いで再び大剣を振り上げる。これが正真正銘の奥義、真溜め斬りだ。

 

「ガアァァッ!?」

 

 見事頭部へと着撃し、アンジャナフは悲鳴を上げる。なんとも野太い、おっそろしい声だ。

 ────そんな声と一緒に、大気に飛び出る橙色の粉。

 

「……火花?」

 

 直後、それが弾け飛んだ。まるで釜戸の熱のような光が、そのどでかい口から解き放たれる。

 あっ、嘘──溜め斬りの反動で避けれない。

 

「──あっちいいぃ!?」

 

 じゅっ。なんて音が響いたと思ったら、俺は炎で吹き飛ばされていた。

 あぁ、肉焼き器で焼かれる肉って、こんな気分なのかなーなんて。吹っ飛びながら、ちょっと親近感を抱いちゃった。なんかちょっといい匂い──は、流石にしないけど。

 

「あっちゃちゃちゃ……た、退散……っ!」

 

 とりあえず転がって、全身の火をとにかく砂に擦り付けて。

 そのまま岩陰へと身を寄せ、回復薬で一服。あぁ、この一杯のために苦労しているような気がする。薬草の苦味が凄くて、この一杯もかなり苦労するけど。

 

「まっず! ぺっぺっ!」

 

 舌が不味さで死んだ。苦虫かっての。

 それにしても、やっぱりあのアンジャナフ強い。あいつ、相当の猛者だなぁ。俺じゃちょっと、勝てないかも。

 

「……待てよ……あのヘビィお姉さん、いくらなんでも音沙汰なさすぎないか……?」

 

 気付けば、ずっとソロで戦ってるじゃん。狙撃を狙っているのかなとも思ったけど、どうにも撃たれる気配はない。回復に撤退しているとしても、戦線復帰が遅すぎる。

 あっ、これ、もしかして────

 

「──ニャア」

「うわっ、アイルー!?」

 

 突然、地面が盛り上がって。かと思いきや、そこから白いふわふわが飛び出して。

 アステラで、ハンターの支援に奮闘しているアイルー。主にネコタクの運用などを行なっている彼らが、ぴょこんと飛び出してきた。

 

「ハンターさん、有り難うニャ。無事、信号弾の主は撤退できたニャ」

「えっ……ここから離脱しちゃったの……?」

「ニャ。だからハンターさんも、無理はしないでニャ。ボクら、なるべくネコタク使いたくないのニャー」

 

 そう言って、彼は再び地面の中に潜っていく。ふりふりと、その尻尾が少しずつ見えなくなっていく。

 ──うそん、途中離脱って。ヘビィのお姉さん、帰っちゃったの?

 

「……あー、すっげぇやる気なくなってきた」

 

 なんかもう、動く気もあんまり起きないや。大剣、なんかめちゃくちゃ重いんだけど。

 あっ、アンジャナフ来る。気付かれた。やっべ、回避、回避しなきゃ────

 

 

 

 

 

「──ってな訳で久々にネコタク乗ったけど、あれ案外乗り心地いいもんだよね」

「撤退の理由がしょうもなさすぎる……!!」

 

 帰還先のアステラ。その流通エリアに転がされる俺と、それを見下ろすフレイ。ニャーニャーと、どこかへ走っていくネコタクさん。

 半ば憐みを込めた視線で彼女に呆れられてしまったのが、とても心に刺さります。

 やっぱり俺ね、途中離脱ってよくないと思うの。

 






 通信エラーならしょうがない(大事なことなので二回言いました)。


 クエストなんてクリアしてなんぼ、乙ったって気にせずクリアすればええんです。なんていうメッセージ性を込めました(大嘘)
 それはそうと、以前逃げようとするナナを閃光で引き留めた挙げ句その後のヘルフレアで三乙目を飾るなんてクソ地雷をかましたんですが、あれは流石に禿げそうになりました。その時の野良のハンターさん、本当にごめんなさい。
 閲覧有り難うございました……。


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まぎらわしい名前は苦手です。


 アイルーフェイクすき。




「──レナさぁーん! 助けに来ましたよー!」

 

 滑空の装衣を脱ぎ捨てて、俺は陸珊瑚の大地へ降り立った。青いクラゲとピンクの珊瑚が、俺を快く迎え入れてくれる。

 陸珊瑚の大地。それは、新大陸を覆う大峡谷を越えた先にある、摩可不可思議な猟区だった。その特徴は、なんといっても珊瑚。海ではなく、この陸の上を、びっしりと珊瑚が覆っているのだ。

 そんな幻想的な光景の中で、撃ち出された信号弾。誰かが、この美しい世界の中で助けを呼んでいる。

 

 

 

 ──今回の、信号弾の主。それは、俺の知らない人物だった。

 

「ねぇお姉さん、救難信号なんか出てる?」

「……アンタ、研究基地まで来て……」

 

 フレイと共に辿り着いたのは、アステラから離れ、この新大陸を見渡す船。

 三期団の拠点にして、陸珊瑚の大地を漂う奇抜な拠点だった。俗称、研究基地。

 そのトップである三期団の期団長。とても妖艶で、なんだか蠱惑的な感じがするそのお姉さんに、俺はそう話しかけた。背後からは、フレイの呆れた声が聞こえてくる。

 

「今のところ……ないわネ。何? 貴方、わざわざ信号を待ってるの?」

「はい。俺、人助けが生き甲斐ですから」

「よく言うわ全く……不純な動機でしょうが」

「全然不純じゃありませーんもちのろんでー。俺は正義の心に燃え滾ってありますからゆえー」

「そんな心があるなら、もっと調査に貢献してよね……アンタの調査実績、期団長に見せてあげようかしら」

「アッ待って! 俺真面目に働きます許して!」

 

 最近の記録なんてジュラトドスと泥浴びしたことや、ボルボロスと一緒に泥風呂に浸かったくらいしかない。あっ、リオレイアに巻き上げられた泥定食一気食いもあったっけ。なんか、常に泥だらけだった気がする。

 

「アンタのドロブランゴっぷり、むしろ一周回って芸術よね」

「誰がドロブランゴじゃ」

「ふふ、貴方たち、仲がいいわね。夫婦漫才みたいよ」

「やめてください、こんな奴と夫婦なんて。怖気が走ります」

「口が悪すぎる」

 

 愉快そうな様子で、期団長は笑った。

 美人の微笑み、これまた綺麗。ぎゃーぎゃーうるさいフレイとは大違いだ。

 

「……黄金魚と、ドス大食いマグロ」

「なんか言った?」

「いえなんでもありません」

 

 怖い。やっぱりフレイさん、怖い。

 

「とにかく、今は特に信号は……あっ、外見て」

「え?」

「はっ、救難信号!」

 

 この空飛ぶ船のバルコニー。外を一望できるその景色の向こうで、空に瞬く橙色の光。

 間違いない、誰かが放った救難信号だ。

 

「……あの光は、レナね。何かあったみたいだワ」

「あっ、レナさん? もしかしてネコ好きの?」

「レナ? 誰?」

「よくここに来てくれるハンターよ。彼女が言う通り、とってもネコ好きなの」

 

 レナさん。可愛らしい名前だ。

 ネコ好き。アイルーと女の子。可愛いものの相乗効果。

 ──俺の勘が言っている。レナさん、絶対美少女だ!

 

「フレイ、俺今から行ってくるよ!」

「はっ、ちょっと待ってよ! そんな何も聞かないで──」

「俺人助けが生き甲斐だから、うん! 行ってきます!」

 

 慌てて身に纏った滑空の装衣で風を鳴らし、俺はそのまま空へと飛び出した。

 瞬間、顔を風が吹きつける。頬がぶるぶると震えて、耳がキンキンと鳴った。けれど、そんなの関係ない。俺は今、猛烈にテンションが上がっている!

 

「──レナさんは、アンタの思ってるような人じゃないからぁーっ!」

 

 そんなフレイの叫びが、痛む耳の奥で反響し続けた。

 

 

 

「……確かに、思ってたのと違う」

 

 目の前で武器を振っているハンターは、確かにネコ好きだ。いや、俺はこの人と今会ったばかりだから、そう判断するのも変な話だけど。でも、この人は絶対にネコ好きだろう。そうに決まっている。

 ──だって、わざわざアイルーフェイクまでつけて猟区に出るなんて。相当なネコ好きか、ただの変態かのどっちかだから。

 

「むぁっ! 信号を見て人が来てくれたにゃあ! 嬉しいにゃあ!」

 

 その変態的なマスクの向こうから、やけに野太い声が響く。媚びたようににゃあにゃあと語尾につける──男?

 

「わし、とっても嬉しいですにゃあ! よろしくですにゃあ!」

「うっ……うわああっ! うわあああぁぁ!! もっもっ……モンスターだ……っ!!」

 

 怖気が走る。今の感覚に名前をつけるなら、まさにそれだ。

 だって、俺よりデカいおっさんが、アイルーフェイクをつけてネコっぽい話し方をしているんだよ。どう見ても化け物じゃないか。

 けれど、そんな俺の悲痛な叫びも、モンスターの咆哮に掻き消された。

 この陸珊瑚の大地の主。風漂竜──レイギエナに。

 

「むっ、怒ってるにゃ。でも君が来てくれたなら、なんとか切り抜けられ──」

「帰る」

「むにゃっ!? なんでですにゃ!?」

「だって『むにゃっ!?』とかおっさんが言ってるんだもん! 思ってたのと違う!」

「おっさんとはなんですにゃ! わしには、レナードという立派な名前があるんですにゃ!」

「じゃあレナなんてまぎらわしい愛称認めてんじゃねぇよぉ!!」

 

 もはや半狂乱になって叫んだ。

 うん、今までの人生でこんなに悲痛な声出たの、今が初めてだわ。たぶん。

 レナでしょ? 絶対女の子の名前だと思うじゃん!?

 レナード? 男だろその名前! 

 

「むっ、くるですにゃ! 四の五の言ってられないですにゃよ!」

「こんなの、詐欺だ……!」

「ふにゃー! あの錐揉み回転はかなり強烈ですにゃー!」

 

 ぐるぐると回転するレイギエナに、レナードは慌てて退避する。

 同時に振り撒かれる、紺碧の風。あの飛竜が身に纏っていた(ひょう)が、風に乗って辺り一面を覆い尽くした。

 

「閃光弾……閃光弾はありますかにゃ!?」

「えっあー……ちょっ、光蟲! 待って!!」

 

 ハンマーを握って氷を滑る、このレナードとかいうモンスター。そいつがそう吠えるから、俺は仕方なくポーチからスリンガー閃光弾を取り出すものの──

 かぱっと、弾が割れちゃった。同時に、その隙間から逃げ出す光蟲。閃光弾、あえなくパーだ。

 

「やべぇ。過去最高にやる気出ない」

「なに言ってるんですかにゃ! ふしゃーっ! 来ますにゃあ!」

 

 空中で翻って、その長い尾を叩き付けるレイギエナ。それに彼は果敢に飛び込むものの、あっけなく吹っ飛ばされた。

 もうこれ、撤退でよくない? 無理に危険を冒してまでこいつと戦う必要、ある?

 もっと実力あるハンターに任しつつ、俺たちは安全考慮で撤退。それでいいでしょ。

 

「撤退しましょ、撤退」

「にゃっなんでですにゃ!?」

「俺もアンタもそんなに強くないじゃん。でもあの飛竜、ここの主だよ。流石にキツいって」

「むっ……むうぅ……」

「そもそも、なんでそんな頑なに狩ろうとしてるんすか。もっと強い人に任せればいいじゃん。推薦組とか、さ」

「……故郷でわしを待つ娘に、是非とも奴の翼膜で作ったお衣装をプレゼントしたくてにゃあ」

「は?」

「奴を捕獲して、その翼膜を丁寧になめして。きっと喜んでくれるから、是非ともわしの手で──」

「よし、帰ろう」

「ちょっ、ちょっと待ってほしいにゃ!!」

 

 なんだその理由。くそっ、こいつこんな変態みたいな恰好してる癖に、ちゃんと奥さんいて子どもまでいるのかよ。

 あーはいはいお幸せに。でも生憎、そこに俺がわざわざ手助けする理由はございませんので──

 

「──救援、遅れました! だ、大丈夫ですか!?」

 

 そこへ、唐突に響く高い声。

 ここよりさらに上に設置されたキャンプから、白い人影が滑り込んできた。

 

「増援です、援護は任せてっ!」

 

 そう言いながら、巨大な笛を背に担ぐ人物。

 白い髪に、蒼い角があしらわれたカチューシャ。露出多めな白黒の模様に、白銀の霊毛を湛えた鎧。

 俗に言うキリンシリーズに身を固めた少女が、そこに立っている。

 俺よりもきっと年下なのに、毅然と笛を構える可愛らしい女の子が、そこに立っている。

 ──超可愛い。

 

「……おっさん。娘さんのために服作るんだろ? こんなとこで諦めてどうする」

「にゃ?」

「レイギエナ、狩るぞ! よっしゃあやってやらぁ!」

「おぉ……なんだかよく分からないけど、やる気になってくれましたかにゃ……! 恐悦至極感謝の極みですにゃあ!」

 

 アイルーフェイクのせいで分からないが、なんか中で凄い涙流してるんだと思う。怖い。おっさんの嗚咽響いてる。

 上擦ったような声ながらも、レナードは鎚を強く構え直した。その一連の動作は、なんだかとても軽やかだ。

 

「支援、回復はボクに任せてください。お二人は、攻撃に集中をっ!」

 

 そう言いながら、キリン装備の少女は笛を振り回す。その度に笛は不思議な音を鳴らし、一つ一つ音色を重ねていった。

 ボク──ボクっ娘かぁ。めっちゃ可愛いんだけど。是非ともギルカ交換したいなぁ。

 

「……テンション、上がってきたきたァ!」

 

 笛の音色に乗せられるままに、俺のテンションは急上昇。傾斜に身を任せて剣を擦らせ、斬り上げからの振り下ろし。同時に奴の頭を踏んで、空中からの縦回転だ。

 さながら満月のような軌跡が、レイギエナの頭を荒々しく砕く。いつもより鋭さを増したそれは、彼の角を粉々に粉砕した。というか、その下の頭蓋まで、粉砕してしまった────かも?

 

「あっ……やりすぎた」

 

 撃墜され、呻き声を上げて。そのまま、ゆっくりと動かなくなっていくレイギエナ。なんともか細い断末魔が、この陸珊瑚の大地に木霊した。

 

「……てへ」

 

 いっけなーい、捕獲捕獲。レナードのおっさん、捕獲したいって言ってたなぁそういえば。

 でも、翼膜は傷つけてないし──大丈夫だよね! たぶん!

 






 部位破壊(頭蓋骨)。


 ワールドのリアル調アイルーフェイクも、あれはあれでよさがあります。頭アイルーあとドラケンで重ね着してる人がいたら、もしかすると私かもしれません。
 レナードさんの声のイメージはにゃんちゅう。う"に"ゃ"あ"あ"あ"あ"ん"ん"ん"!!
 ぶっちゃけ彼は(今のところ)一発屋キャラですが、キリンちゃんはメインの一人。詳しくは、次回にて~。
 あとちなみにですが、構想段階ではレイヴンの名前がレナードとなってました。クソどうでもいい情報。
 閲覧有り難うございました~。


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まぎらわしい見た目も苦手です。



 オドガロンって腐臭染み付いてそう。




「……あー、怖かったぁ」

「お、おつかれさま……?」

 

 レイギエナの捕獲改め討伐クエストから数日後。

 クエストリーダーだったレナードの意思に反して、俺はついうっかり奴を討伐してしまった。けれど幸いなことに、翼膜の状態が良かったために彼はえらく喜んでくれた。

 とにもかくにも、クエストは成功し、俺たちは無事に帰還でき、さらにはあのキリン装備の少女ともギルドカードを交換できた。本当に、最高の時間だったよ。

 ──『だった』、であるが。

 

「レナードのおっさん怖い。あんなにゃあにゃあ言いながら追いかけてくるんだもん。『一緒にクエストいきませんかにゃ!? レイヴン殿、いきませんかにゃ!?』……ってさ」

「あ、あはは……レイヴンくん、物真似上手だね」

 

 俺の物真似を前に、その少女──『カナリア』は困ったようにはにかんだ。

 なんとかレナードを振り切って、アステラから逃げるように飛び立って。フレイにも何も言えずに、再びこの陸珊瑚の大地に逃げてきてしまったのだ。

 一方で、ここのキャンプで休憩していたカナリア。偶然にも、再びこの珊瑚の中で再会出来たみたい。

 

「逃げ切れたからいいや、忘れよう。ところで、カナはこんなところでどうしたの?」

「え? ボク? ボクはここの雰囲気が好きだから、よくここで過ごしてるんだよ」

「えっ、アステラには帰らないのか?」

「帰る時は帰るよー。でも、暇があったらここを探索してるの。だって、こことっても綺麗だもん」

 

 そう言いながら、嬉しそうに両手を広げるカナ。その背後には、ピンク色の珊瑚と淡い色をした空が広がっている。空を泳ぐクラゲの群れもあって、なんだかとても幻想的だ。彼女の言いたいことも、分かる気もする。

 まぁ何が言いたいかといえば、可愛いからいいやってやつだ。

 

「レイヴンくんこそ、どうしたの? ここで何か用事?」

「いやー、あのおっさんから逃げるので必死だったからさぁ。あんまり考えずに、ここ行きの翼竜引っ掛けちゃった……。でも折角だし、ここでぶらぶら素材集めようかな」

「お、素材集めね。いいとこ紹介するよー」

「あー嬉しいなぁ。俺ここあんまり詳しくないからさ、すっごく助かるよ」

 

 波乱万丈な始まりだったけど、たまたまとはいえこうしてカナと素材集めが出来るだなんて。

 こればっかしは、あの変態ネコおじさんに感謝しよっと。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「やっぱり、カナって俺より年下なんだ。でも凄いよな。キリン、倒したの?」

「ボクだけじゃないよ。推薦組の人たちがいてくれたから」

 

 彼女の身を包んでいる防具は、キリンシリーズと呼ばれる特注の中の特注品だ。

 なにせ、キリンは古龍と呼ばれるカテゴリーのモンスター。別名幻獣にして、非常に珍しいモンスターなのだ。その特徴は、なんといっても雷を操ること。討伐することだって、ままならないはずなのに。それを、彼女はやってのけてしまった訳である。

 

「いやそれでも凄いって。なんか、ごめんなぁ。俺未だにジャグラス装備だし」

「ううん、防具が全てじゃないよ。それにこの前、凄かったもん。レイヴンくん、凄く強いんだね」

「えっ、い、いや~それほどでも……」

 

 にこっと笑いかけられると、なんか凄くどきっとする。笑顔が眩し過ぎる。閃光弾とか全然霞んで見えるわ。

 なんていうかもう、単純に顔がいい。顔が良すぎるんだよなぁ──

 

「かわい……」

「え?」

「いやっ、あのかわ……かわ……皮が──なんだ、あの……皮?」

 

 翡翠色の大きな瞳に覗き込まれて、しどろもどろな言葉が漏れる。それをなんとか取り繕うとするものの、不意に視界に入る、赤黒い色をした何か。

 モンスターの皮のような、むしろ剥き出しの筋肉みたいな────

 

「──危ない!」

「わっ……!?」

 

 突然、カナが飛びついてきた。その勢いに押し倒され、俺は彼女に覆い被される。

 えっ、ちょっと待って! 急に、こんなとこで!? あっ、待って、心の準備が!

 

「嫌だなぁ、オドガロンかぁ……」

「……え? おどがろん?」

「この大地の下に生息してるモンスターだよ。……それも、凄く臭いの」

「……うっ!? なんだこの臭い……!?」

 

 例えるなら、氷結晶ボックスから出したお肉。

 ちょっと前のだけど、でも食えるかなって解凍してみたお肉。

 もうダメになってしまったお肉。

 

「うぇ……くっさぁ……」

 

 腐臭。腐臭だ。鼻をつんと貫いてくる、ひたすらに嫌な臭い。

 

「……あっ、もしかして、庇ってくれたの……?」

「危なかったね。あのモンスター、すっごく素早いんだ。ほら、早く立って!」

 

 カロロロ、なんて嫌な唸り声を上げながら、オドガロンと呼ばれたそのモンスターはゆったりと歩み寄ってくる。

 全身を真っ赤に染めた四足歩行の獣──かと思いきや、顔つきなどは竜に近い。牙獣種か、それとも牙竜種だろうか?

 

「ガアァッ!」

 

 前脚についた、多重の爪。折り重なるようなそれが、俺たちに向けて振りかざされる。

 

「うぉっ……」

 

 その下をくぐり抜けながら、とにかく回避に徹した。

 凄い、あいつほんと速い。ナルガクルガとか、あぁいうモンスターに負けないくらい速いぞ。なんだか、あの白い奴を思い出すなぁ。

 

「クソ、やるしかないか……っ!」

 

 出来るなら、大剣使いとしては相手したくないモンスターだけれど。でも、ここを切り抜けるには、戦うしかない。そう考えながら、柄に手を添える。

 その瞬間だった。

 

「はーいどっかいってねー」

 

 今度は、モンスターのフンの香りが充満する。

 放ったのは、カナだった。可憐な少女が撃ち放った、スリンガーこやし弾だった。

 

「ギャァ!?」

「はいはいしつこいしつこい」

 

 何度も執拗に鼻に当てられて、オドガロンとかいうモンスターは悲鳴を上げる。

 もう辛抱堪らない。そう言いたげな様子で転げ回る様を見ていると、なんだか強靭なモンスターのようには見えなかった。どこか、愛玩動物のような感じがする。鼻、凄くいいんだろうか。

 

「キュウゥゥ……クゥーン……」

 

 やたら甲高い、弱々しい声。ちょっと可哀想にもなってくる声を上げては、オドガロンはいそいそと立ち去って行った。

 なんだか、なんだかなぁ。

 

「……手慣れてるね」

「あの子、いろんなとこ徘徊してるからね。戦うと厄介だから、これが一番いいんだよー」

 

 スリンガーからこやし弾を外しながら、カナは困ったようにそう笑う。確かに、あの動きは狩猟笛でも相手にしにくそうだ。出来るなら、俺も相手したくない。

 

「それよりも、ごめんね。こやし弾撃っちゃって。臭い、きついよね」

「え、あぁ、まぁ……しょうがないんじゃない?」

「うーん……腐臭と混ざって、凄く嫌な感じ。……ねぇレイヴンくん、時間……ある?」

「え?」

「ボク、水浴びしたい」

「……え?」

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 どうしてこうなった。

 陸珊瑚の大地の下層。やや空気のよどみを感じる場所に湧き出た、淡い色をした麗水。そこが、カナがよく利用する水浴び場となっているらしい。

 どうにもこうにも臭いが気になってしょうがないらしいカナは、突然水浴びをしたいと主張した。当然、俺はそれについてとやかく言う立場である訳でもないために────

 

「……鼻歌が聴こえる」

 

 水浴び場前で待機。もし何かが入り込んで来たら、それを追い返すための用心棒役。そんな歯痒い立場に収められてしまった。

 今、俺の背後では、可憐な少女が一糸まとわぬ姿で水と戯れている。しかし俺は、彼女にここで守ってねと言われたがために、どうしようもなく立っているだけとなっていた。

 なんだ!? なんだこれ!?

 

「あー……」

 

 ──レイヴンくんが守ってくれるなら、ボク安心して水浴びが出来るよ。

 なんて笑顔で言われたら、断れる訳ないじゃん。ずるい、ずるいぞ。

 

「覗いちゃダメだ、覗いちゃダメだ……」

 

 なんだか恋人が湯浴みを終えるのを待ってるみたいな、そんな気分だ。もどかしくて、くすぐったい。でも決してそういう関係じゃないし、今はそんな期待もする立場じゃないし。

 覗いてみたい、とは思う。でもそれはきっと、男として最低な行為だ。うん、最低最悪だ。カナとの信頼関係を守るためにも、そんなことは、そんなことは決して────

 

「あっ、タオル置いてきちゃった。レイヴンくん、ボクのポーチからタオル出してくれない?」

「えっ、はっ? えっ?」

「傍の岩に置いてあると思うんだけど……」

「あ、あぁ……これね。はいはい……」

 

 彼女の言うものを見つけて、それを手に取って。

 カナが必要だと言ってるんだから、早いとこ渡してあげなくちゃ。なんて考えて踵を返したところで、思考が止まる。

 ちょっと待てよ。これ、どうやって渡す?

 

 今俺が手渡しにいきます、はい。彼女と正面から会います、はい。死亡。

 俺がどうしようかと手をこまねいています、はい。渡すのが遅いと彼女に思われます、はい。死亡。

 

 待って! え、これどうするの? 俺どうしたらいいの? どう足掻いても死ぬんだけど。どうやったってカナに嫌われるだろこんなの。

 

「あったー?」

「えっ、あ、あったよ!」

 

 そうだ、一旦ここに置いて、それから俺が背を向ければ。そうすれば、彼女を直に見なくても済むじゃないか。そうだ、そうしよう。それが一番無難────

 

「ごめんごめん、ありがとう~」

 

 そんな浅はかな俺の思索も、軽々とぶち壊すカナ。彼女は、生まれたままの姿で、俺の前に歩み寄ってきた。

 

「────っ……!?」

 

 えっ、何してるの。何してるのこの子。こんな、どう見ても嫁入り前の娘が、男の前にさも当たり前のように全裸で現れるなんて。

 えっ待って。俺、ここで死亡? 社会的死? 人生お疲れ様でした?

 

「……どしたの?」

 

 こてん、とカナは首を傾げる。水に濡れた白い髪が眩しくて、顔を直視出来ない。

 かといって肌はとっても白いし、清々しいくらい絶壁だけど腰回りとか細くてほんと綺麗だし。いやいや待て待て何見てるんだそんな見ちゃダメだろ。

 見ちゃダメ、見ちゃダメなんだけど────視線は自然に、そのまま下へと滑り降りた。

 

 まるで雪のように白い肌。そんな美しい景色の中で静かに佇む、小さな小さな一つの影。小さいながらも立派な鼻をもった、ガムートの幼体。

 ────ガムートの幼体が、生息している。

 

 ガムートの幼体が────

 

 ガムート。

 

 ガムート?

 

 ガムート────

 

 は?

 

 えっ、つまりこれって。

 

 これって────

 

 

 

「……お……おっ、おっおっ……男おおぉぉぉっ!!??」

 

 






 カナは実は男の娘でしたの巻。


 ぶっちゃけ可愛さでいえばカナはダントツです。マジで顔がいい。私の画力では描き表せられないほど綺麗。もう誰かお願い描いて上手い人ー(血の涙)
 でも男である。ん? 逆にそれがいいって? 分かる!
 ハンターランクはレイヴンより高いです。ついでにギルカには性別もきっちり書いてるんで、実はレイヴンが見落としてただけっていうオチ。
 閲覧有り難うございました~。


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追い打ちかけられるのは堪えます。



 追撃は、やめようね!




「あはは……ごめんね、そういえば言ってなかったね」

「…………」

「一応、ギルドカードには性別も記入されてるんだけどね」

「…………」

「……まぎらわしかったよね。ごめんね」

「…………」

 

 申し訳なさそうに眉をへの字に曲げるカナ。その仕草は、どう見ても可愛い女の子だ。ぺたんと、膝を曲げながら腰を下ろすその姿は、どう見ても可憐な少女だった。

 けれど、けれど彼女には──いや、彼には。彼の雪山の深奥には、なんと立派なガムートが生息していた。先程の水浴びの際に、俺はその生態を目撃してしまったのだ。

 幻とか、見間違いだとか、そう考えたいけれど────

 

「……少し質問、いいかな」

「うん? いいよ」

「なぁカナ、男性のキリン装備ってどういう見た目だっけ」

「えーっと、キリンの頭の被り物だね」

「じゃあ女性用は?」

「……ボクのみたいな感じだね」

 

 一拍置いて、呼吸を整えて。

 

「もひとつ質問いいかな」

 

 カナの翡翠色の瞳をまっすぐ見つめながら、俺は言葉を吐き出した。

 

「つまりそれを着てるカナはおん────」

「男です」

「……お────」

「とこです」

「…………」

 

 一刀両断。

 バッサリ切り捨てられてしまった。

 

「……おかしいなぁ。こう、『勘が良い!』みたいな感じで大団円だと俺思ったのに」

「むしろ、勘悪いんじゃないかなぁ」

 

 はぁ、と溜息を吐いて、カナは困ったように目を伏せる。そのまま、ひとつひとつ言葉を並べ始めた。

 

「……この防具はさ、工房のおじさんが『お前さんはこっちの方が似合うな!』って言って作ってくれたんだよ」

「えっなにそれ」

「なんか、男用の変態みたいな恰好をさせるのは忍びないって」

「あの意匠が変態チックっていう自覚はあったのか……」

「実際ボクってよく女に間違われるし、この防具はより一層それを加速させちゃったんだけど。でも折角の貴重な素材だし、こういう風に作られちゃったらもう後戻り出来ないし」

「……それで仕方なくって感じ?」

 

 そう確認してみると、カナはおずおずとその小さな顎を縦に振った。

 彼には申し訳ないけれど、その仕草は本当に女の子みたいだ。たぶん、アステラのハンターの九割はカナを女の子と勘違いしてると思う。

 

「そうだったのかぁ……。いやほんと、ずっと女の子だと思ってたよ」

「……ごめんね、男で……」

「いや、そういうんじゃなくて……」

 

 まぁぶっちゃけ、カナみたいに可愛らしい子と歩いていたら、鼻が高いなぁなんて考えなかったこともない訳じゃあないけれど。

 それ以上に、どうも俺のことを馬鹿にしてる節があるフレイのことを見返してやりたいなって気持ちがあった。俺はこんな可愛い子にもモテるんだぞって、言ってやりたかったけど──儚く散ってしまったなぁ。

 まぁ、カナが悪い訳じゃないけども。

 

「やっぱり、男はいや?」

「……ううん」

 

 こてんと首を傾げる仕草、やっぱりずるいと思う。

 こんなに可愛いのに男って。あっダメだ。深入りし過ぎると、守備範囲が拡大してしまいそうだ。俺のストライクゾーン、自分としては結構狭い方だと思っているんだけど。

 

「俺はこれからも仲良くやっていきたいと思ってるよ」

「ほっ……ほんと?」

「うん、ほんと」

「ほんとにほんと?」

「ほんとにほんとー」

「はぁぁ……良かったぁ……」

 

 ぱぁ、と顔を輝かせられると、とても眩しくて直視が出来なかった。

 やっぱり、これはずるいや。

 

 ──性癖歪んだら、どうしよう。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「突然ですが、貴方の行動にはもうついていけません」

「……へっ?」

 

 アステラに帰還して、流通エリアへと翼竜から飛び降りた矢先。

 妙に改まった様子で待っていたフレイは、唐突にそう言い出した。一緒に降りたカナを一瞥しながら、俺にそう切り出した。

 

「……えっえっ? なに?」

「言葉の通りですー、もう疲れましたー」

 

 ぷくっと頬を膨らませながら、フレイはぷいっと横を向く。腕を組みつつ、俺と目を合わせようとしないとなると──

 もしかして、結構怒ってる?

 

「えーっと……フレイさん? 俺、なにかやらかしました?」

「やらかしました」

「……な、なにをやらかしましたか……?」

 

 身に覚えがない。本当に、身に覚えがない。

 俺がなにをしたんだろう。彼女がこうも不機嫌になる理由って、一体なんなんだろう。

 

「…………自覚ないの?」

 

 ようやく合った目線も、ジト目で激しく破壊される。

 あっ、これ本当に怒ってる。

 

「……いつも」

「……いつも?」

「──いつもいつも女の子女の子って、ろくに狩りもしないでブラブラして。編纂者の私の身にもなってよ! ほんっとうに好き勝手ばっかりして!」

「へ?」

「それになによ、今度はそんな可愛い子はべらせて。随分といい御身分じゃない!」

 

 唐突に話題に振られ、えっと小さな声を上げるカナ。

 

「あっ、そのカナは────」

「言い訳は聞きたくないっ! もうほんとに、私をそういうのに振り回さないで……っ!」

 

 カナは男の子。そう説明しようとしたけれど、半ば涙混じりの叫びに掻き消されてしまった。

 やっぱり、フレイもカナを女の子と思ってるかぁ。こればっかしは仕方ないとは思うけれど。

 って違う違う。訂正しなきゃ。

 

「言い訳じゃなくて、その、弁明だ!」

「なによ! 大して意味変わんないから!」

「違うって! 今回ばかりはそういうのじゃないんだよ!」

「これまでもずっとそうだったでしょ! 私の気持ちも知らないで……っ!」

 

 顔を真っ赤にして、瞳を若干潤わせて。

 なんだか、フレイがやたら感情的だ。なんだろう、どうしたんだろう。

 

「……フレイ? どうしたの……」

 

 なんだかよく分かんなかったから、とりあえずハンカチを押し付けてみたけれど。

 それを荒く奪い取った彼女は、ただ黙って目元を拭う。

 

「……はっはーん、もしかしてやきもち妬いてる的な?」

 

 ちょっと場を和ませようと、そうからかってみたら。

 いつものように、キレのあるツッコミを期待してそう言ってみたら。

 

「……っ!」

 

 フレイはやたら目を丸くして、より一層顔を赤くした。

 わぁ、完熟シナトマトみたいに真っ赤だぁ。

 

「んなっ、訳……っ! ない、ないから!」

「……え?」

 

 なんか、凄く動揺してる。あの冷静沈着で頼りになるフレイが、なんか凄く動揺してる。

 あっれー? もしかしてこれ、図星だったり?

 

「……フレイ、どうしたの? 今日、ほんと様子変だよ。もしかして、熱でもあるんじゃない?」

「……っ!」

 

 腕の防具を外した掌で彼女の額にそっと手を置いて、空いたもう片方の手で自分の額を触る。

 うん、なんか熱い。凄く熱い。

 

「やっ、やめてよ! ほんとあんたって、あんたって……」

 

 手を払いのけて、そのまま二、三歩後ろへと下がって。

 フレイは少し息を整えて、じっと俺を見た。頬は赤いままだったけれど、なんとか取り繕うような様子で、じっと俺を見た。

 

「こほん……とにかく、私は貴方に疲れました。とーっても、疲れました」

「あ、はい」

「もうなんというか、貴方の言動があまりにもあれなので、しばらく距離を置きたいと思います」

「へ?」

「編纂者の仕事の方はご心配なく。私の穴は、この人が埋めますので」

 

 そんな彼女の言葉に、待ってましたと言わんばかりに現れる影。俺の背後で空気になりきっているカナ二人分はあるんじゃないかって、そう思うくらいに大柄な影。

 

「メェリオさん、お願いします」

「はぁ~い」

 

 その恰好は、流通エリアで働いている人たちの作業着そのもの。やや後退しかけている黒い髪に、厚化粧が何よりも特徴的だ。紫色のアイシャドウが、とてもどぎつい。

 カナどころか俺より断然背が高く、しかもガタイまでいいその男性は──なんとも甲高い、作った声でやってきた。元々低いはずの声を、無理に裏返しているかのような声。

 そんな彼が、じろりと俺を見る。

 

「……いっ!?」

「貴方がレイヴンちゃんねぇ。アタシ、メェリオ。はじめまして~」

「は……? え……?」

「フレイから話は聞いてるわ。これからしばらく、アタシがこの子の代わりをするように頼まれたの。だから……よ・ろ・し・く・ね」

「はぁっ……はああぁぁぁぁっ!?」

 

 ずんずんと距離を詰めてくる巨体に、俺は思わず後ずさりするけれど。

 逃げ切る前に、その大きな腕が迫ってきた。軽々と持ち上げられて、広い肩に担がれる。あっ、地面高い──

 

「えっえっ、なにこれ!? どういう状況!?」

「とりあえず、親睦を深めようかしら。酒場へゴー!」

「うわあっ! た、食べられるっ!!」

「失礼ね、取って喰いやしないわよ。親睦を深めるだけ」

「あっあああああ!! 助けて! フレイ助けてぇ!!」

 

 心の底からの叫びも虚しく、冷やかな目で俺を見るフレイには届かなかった。カナの憐れみを込めた視線も、すっごく痛かった。

 やばい、俺、死ぬかもしれんわ。

 






 レイヴンの運命や如何に。


 メェリオは昔から考えていたキャラクター。当初は凄い髭を湛えてたんですが、今では薄い顎鬚程度に、そして厚化粧になりました。身長二メートルはあります。でかい。頼れるおねぇ様。ちなみにフレイの親友です。
 ↓↓↓ビジュアル↓↓↓ 閲覧注意かも。

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地獄の日々のはじまりです。



 相棒の受付嬢ちゃんの名前知りたい。




「うへへ……パン……」

 

 目の前に、パンがある。

 市街地に出向いて、盛況している出店街に転がり込んで。そうして人ごみに紛れながら、人目を盗みながら、そっと持ち出してきた一本のパン。長くて太い、立派なパンだ。

 

「三日ぶりの飯、三日ぶりの飯!!」

 

 お腹が空いた。お腹が空いてたまらない。ずっと腹がぎゅるぎゅる言っている。俺の中に何かを入れろと、ずっと唸っていらっしゃる。

 食べよう。バターとかチーズとか、味になるものは全くないけれど。もう四の五の言ってられない。お腹が空いてたまらない!

 

「あーん──」

「おいおい、レイヴンよォ……なに一人占めしようとしてんだァ?」

「……うげ、兄貴……」

 

 そこに水を差してきた声。俺たち浮浪児のグループの、兄貴分の声だった。

 

「お前随分と盗み上手くなったなァ。是非とも、こいつに教えてやってくれ」

「えー……ガキのお守りなんて、やりたくないんですけど」

 

 そいつが指差した先には、がきんちょが一人。

 俺より二つか三つは年下だろう。ぼさぼさの黒い髪を後ろでまとめた、覇気のない顔のがきんちょだ。

 

「そいつなに? 新入りですか?」

「このスラムに捨てられてたガキさァ。お前ちょうどいい教育係じゃん、やれよ」

「いーやーだ、ぜーったいいや」

 

 断固として拒否。伸ばしてきた手も叩き落として、手にもったパンを死守する。

 それに、彼はやれやれとため息を吐いて。

 

「じゃあ、こいつの相手でもするかァ?」

「こいつ……?」

 

 兄貴分が差した親指の先から、ぬっと現れる影。

 とても大柄で、とてもフローラルな感じがした。この世のものとは思えないくらいメイクの濃いおっさんが、立っている。

 

「はぁ~い、メェリオよぉ~ん!」

 

 そこには、この街を囲う壁の外にしかいないはずの、『モンスター』がいた。

 

「うっ……うわああああああ────

 

 

 

 ────あああああああぁぁぁっ!!」

 

 飛び起きる俺。一等マイハウスの壁が揺れる。安いベッドが、ギシギシと音を立てた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 ──夢?

 今の、夢だった?

 

「……あぁー……なんだあの夢。昔の夢……?」

 

 随分と懐かしい顔を見たような気がする。

 まだ俺もがきんちょで、好き勝手に生きてた頃だ。もう十年は軽く越えるくらい前のこと。うん、それくらい昔の夢だ。

 

「……なのに、なぜメェリオ……」

 

 唐突に現れたメェリオに、俺は思わず絶叫したみたいだった。いやまぁ、しょうがないと思う。どう見たってあれはモンスターだ。

 頭が痛い。昨日酒場に連れ込まれて、何時間も共に過ごさせられたのが相当堪えているのかもしれない。何が哀しくて、あんなどぎついおっさんと酒を飲まねばならんのだ。

 

「はぁ……朝から憂鬱だ」

 

 ベッドから起きて、とにかく朝日を浴びよう。

 相変わらずの滝の音に辟易としながらも、とにかく俺はベッドの縁へと腰かけた。

 そうして目に映る、壁をくり抜いたような窓。朝日をバックにこちらを見守る、メェリオの姿。

 

「…………」

「ムフ」

 

 あー、夢か。

 

「……寝ぼけてるのかな、俺」

「おはよう、レイヴンちゃん」

「まだ寝てるんだな俺、起きなきゃ」

「随分大きな寝言だったわねぇ。アタシ、夢に出たのぉ?」

「…………」

 

 夢じゃ、ない。

 くり抜いた壁と、そこに並べたプランター。そこに、まるで自分も花だと言いたげに立っているメェリオ。よくここに止まってくれるトウゲンチョウを押し退けて、自分こそが鳥だと言いたげに俺を見つめているメェリオ。

 夢であってほしいと、どれだけ心から願ったか。

 

「……あんた、なんでいるんすか」

「一時的とはいえ、アタシがアナタのペアなのよ。だったら、朝起こしにいくのが礼儀じゃない」

「そんな礼儀聞いたことない!! 第一そうだったとしても、フレイはそんなことしてくれたことない!!」

「あら、そうだったの……でも大丈夫。これから毎朝、アタシが起こしにきてあげるから」

「いらねえええぇぇぇ!!」

 

 鍵付きのマイハウスに引っ越そう。

 そう、心に誓った朝でした。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「レイヴンちゃん、魚とお肉どっちがいい?」

「どっちもいらん」

「じゃあ……ご飯かお風呂どっちにする?」

「いらないって」

「あら、じゃあもしかして、アタシ?」

「は?」

「まぁ、アタシだなんて! もうまだお昼よ大胆ねぇ!」

「……マジで誰か助けてくれ」

 

 マイハウスが出て、食事場へと赴く俺。そこに付きまとってくる、むさ苦しいこの男。

 彼──メェリオは、アステラの流通エリアで働いている男性だ。元『王立古生物書士隊』の職員でもあり、さらに彼自身ハンターでもあったために、以前からフレイと交流があったらしい。そのよしみで、一時期的に俺専属の編纂者として俺のまわりで奇声を上げている。マジで勘弁してくれ。

 

「飯はここで食うからいい。あんたはなんかクエストの整理とかしてて。あとアプトノス一匹分くらい離れてくれない?」

「あら、クエストいくの?」

「まぁ……働かないと。金ないし、それに……」

 

 フレイに呆れられてメェリオをあてがわれたのなら、とにかく今は真面目に働かないと。早くフレイに戻ってきてほしいし。

 

「寂しいわねぇ。なるべく怪我しないようにしてね」

「うっせ、いいだろそんなの」

「お姉さん心配しちゃうわ」

「だああぁぁ! いいよそういうノリはもう!」

 

 食事場で適当なテーブルに腰かけて。そして適当な食事を注文しつつ、隣に座ったメェリオからクエストリストを見せてもらう。

 急を要するクエストは特になく、調査のために貢献してほしいというフリーなクエストだった。緊急性も重要性も薄い、逆に言えばリターンもそこまで大きくないクエストだ。

 

「……うげ、陸珊瑚の大地ばっかじゃん」

「熔山龍の誘導作戦も終わったからねぇ……ようやく大渓谷の向こうの調査を大々的に行えるようになったんだもの。しょうがないわ」

「俺あそこ苦手なんだよなぁ、戦いにくいし」

 

 カナには悪いけれど、俺は少し陸珊瑚が苦手だ。綺麗は綺麗なんだけど、地面が安定しないしシャムオスは多いし。何より起伏が激しくて、登るのも億劫になる。まぁ、慣れてないっていうのもあるんだろうけど。

 なんて考えながら頬杖をついていると、横からリンゴが転がってきた。真っ赤な色に染まった、とても美味しそうなリンゴが。

 

「……? リンゴ?」

「ふあっ、ふいまふぇん!」

 

 それを拾うと、横から慌てた声が響く。たくさんものが口に詰まった、もごもごとした声が。

 

「ふっはりひんごをころがいてひまいまひたっ、ほめんははい!」

「えっ、ちょっ、なんて?」

 

 その言葉の主は、もぐもぐと必死に口を動かして。それからごくんと、清々しい音と共にそれらを呑み込んだ。

 

「……ごほん、申し遅れました。私、推薦組の編纂者です!」

「……あらアナタ、もしかして空から来たハンターの?」

「はいっ、相棒と共に、飛んでここまでやってきた者ですっ!」

 

 可愛らしい笑顔でそう言う彼女は、俺ら五期団の代表格の編纂者。あの空から来たハンターの相棒さんだった。面と向かって喋るのは初めてかもしれない。

 

「リンゴ、ごめんなさい。うっかり転がしてしまいました」

「あぁ、いいっていいって。はい」

「これもなにかの縁ですし、よかったらどうぞ! はい、そちらの大きいお兄さんにも」

「お姉さんよ、失礼しちゃうわ。でも、ありがと」

 

 なんだかよく分からないままにリンゴを手渡される。貰ってしまっていいのかなって思うけれど、まぁ貰ってしまったからには食べてしまおうか。

 しゃりっと、張りの良い音がした。

 

「聞いてるわよ、アナタの相棒の名声は。大活躍みたいね」

「あはは。相棒、凄いですもんね」

「凄いなんてものじゃないわよ。この新大陸の調査の貢献度、あの人がぶっちぎりのナンバーワンなんだから。もちろん、アナタもね」

「え?」

「ゾラ・マグダラオスの誘導作戦、見事だったわ。アナタたちのペア、ほんっとに最高」

「こ、光栄です……」

 

 照れ照れと頭を掻く彼女の様子をぼーっと見ながら、俺は黙々とリンゴをかじる。

 へー、あの誘導作戦、この子が提案したんだ。全然知らなかった。結局あの時の俺は、海にダイブしただけだしなぁ。ここは黙っとこう。うん、リンゴ噛み応えあって美味しい。

 

「その相棒さんは今どうしてるの?」

「何やら大団長とお話中です。アステラの高台の方に行ってます」

「あら、大団長にも注目されてる訳? ほんと、すっごいわぁ。ほらレイヴン、アンタも負けてられないわね」

「うっせ」

 

 唐突に話題を振られて、うっかり唇を噛んでしまった。あっ、果汁が染みる。心なしかリンゴも酸味っぽくなってきたような気がする。

 

「レイヴン……さん?」

「はい?」

 

 すると突然、編纂者さんが俺に話題を振ってきた。なんだろう。

 

「陸珊瑚の大地、苦手なんですか?」

「……あ、話聞かれちゃいました? 恥ずかしながら、慣れなくて……」

「……だったら、どうでしょう。あそこ、探索する上でとても有効な手段があるんですよ」

「え?」

「今私すっごく欲しいものあるんですけど、それを取ってきてくれたのなら……その手段を、伝授しますよ!」

 

 思いがけない、彼女からのお話。

 美味しいような、美味しくないような。なんとも言えないにおいがした。

 






 マイハンターさんマジで有能。


 ぶっちゃけこの人さえいれば良くない?まである。本当にこの人は英雄クラスですよねぇ。マイハンターは、もちろん読者さんそれぞれのハンターを思い浮かべていただければと思います。逆に言うと、ほのめかして作中に直接出てくることはないですが(´・ω・`)
 ここの世界観では、熔山龍の誘導が終わり、マイハンターさんが龍結晶の地に辿り着く前あたりをイメージして書いてます。錬金クソバ……おばあちゃんがアステラに来るタイミングって、いつだったかあんまり覚えてないですけれど。でもそれくらいをイメージしてやってます~。
 長々とあとがきして失礼。閲覧有り難うございました!

 それとかにかまさんからフレイのイラストいただきました! 強気な表情が最高。Σb( `・ω・´)グッ

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食い物の恨みは恐ろしいです。



 クルルヤックゥ!!




「おっ……このっ!」

「クヤアアァッ!」

 

 跳躍。からの、跳びかかり。

 とてもファンキーな頭をしたその鳥竜種は、柔軟な足腰を利用した大ジャンプをもって俺を叩き伏せようとした。それを慌てて回避しながら、背中の大剣を振り被る。

 けれど、その剣閃が当たることはなく。奴は軽々と後ろへ跳ね、俺をからかうように尾を振った。

 

「……ムッカァ……こいついちいち腹立つな」

「レイヴンさん、どうどう」

 

 なんだか、ドスランポスから鋭さを抜いて、うざさマシマシにしたような。そんな感じがするモンスターだ。クルルヤック、恐るべし。

 

「とにかく、レイヴンさんは回避に徹してください。あいつの攻撃は、私がします」

「うーん、むしゃくしゃするけれど……しょうがないや。お願いするよ、マイ」

 

 大剣を背中のマグネットに収納して、一度地面に置いた卵を拾い上げる。そうして立ち上がる俺の前に、あのマイペースな少女──マイが立った。背中の弓を展開して、鋭い矢じりをクルルヤックに向ける。

 一方の彼は、ぎょっと目を丸くしては首を何度も傾げた。どうしたの、とでも言ってるみたいだ。

 

「はっ、お前に卵はやらねぇよ! こいつは俺がいただくぜ!」

「クアッ、クヤアァッ!」

「お前は指でも咥えながら見てるんだな! って、爪しか咥えられないか。はっははは!」

「キョエアアァッ!」

 

 言葉が通じてる──訳ではないみたいだけど。それでも挑発に乗ったかのように、奴は勢いよく駆け寄ってきた。そのまま、指先の鋭い爪を振るってくる。

 

「たぁっ!」

 

 そんな彼の冠に走る、一筋の風。マイが引き絞った矢が、冠羽を数枚えぐった。

 

「ギュエッ!?」

「通しませんよ! さぁレイヴンさん、キャンプへゴーです!」

「よっしゃ、任された!」

 

 それから猛ダッシュ。キャンプに向けて、荒い大地をとにかく走る。

 

「ギャアッギャアァッ!」

 

 後ろから矢が飛び交う音がするというのに、クルルヤックの声は収まらない。どころか、俺と並走するかのようにぐんぐんその距離を詰めてくる。

 

「うわっ、はっや……!」

 

 こいつ、そんなに卵が好きか。俺が抱えてる卵、そんなに美味しそうか!

 でもやらん、やらんぞ! この卵はアステラに持ち帰らなきゃいかんのだ!

 

 

 

 ──いいですか? 私、今アプケロスの卵を凄く食べたいんです。

 

 ──あれでシンプルにゆでたまご、いや目玉焼き! それとも甘く、アステラカステラなんて? うーん、悩みます。とにもかくにも、貴方にはその卵を持ってきてもらいたいのです!

 

 ──持ってきた暁には、ここで卵パーティーしましょう。あと、とっておきの手段も伝授してあげますよ。

 

 

 

 あの編纂者の言葉が頭に響く。大食いの推薦組の声が、咆哮のようにハウリングした。

 早く、早く成果を上げてあのメェリオ熱烈アプローチ地獄から逃げ出したい。そのためにも、この卵は絶対に手放せないのだ!

 

「あっ……ごめんなさい、ミスっちゃいました」

「は? ────あっ!?」

 

 やたらと弧を描いて、思わぬ方向へ飛んでいく数本の矢。それがツタに絡まるようにして生えたはじけクルミを撃ち落とす。

 俺の目の前に落ちる、大量の実。衝撃に弾けて、発砲音のような音が響いた。

 

「おわっ……しまっ!」

 

 驚きのあまり、うっかり放り投げてしまった卵。緩やかな弧を描いたそれは、すっぽりと、クルルヤックの腕の中に落ちる。

 

「クルルル……」

 

 満足そうにそれを撫でては、どや顔で俺を見てくるクルルヤック。いや、奴からすれば普通の表情なのかもしれないけれど──俺から見れば、それはどう見てもどや顔だった。

 

「──くぉらぁっ! 返せ鳥野郎!」

「キョエアアーーッ!!」

 

 けたたましい声を上げて逃げるクルルヤック。

 卵を巡ったあいつとのレースは、日が沈むまで続く────

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「はい、出来ましたよ! 早速食べましょう!」

 

 アステラの食事エリア。アイルーキッチンのアツアツ石板を利用して作られたスクランブルエッグ。きらめく黄金のかたまりを前に、俺の口の中は大洪水状態だ。なんか、思ったより美味しそう。

 

「おぉ……あの卵がこんな風になるなんて」

「苦労して奪取した甲斐がありましたね」

「……うん、苦労してダッシュした甲斐があったわ」

 

 依頼人兼料理人は、五期団代表の相棒さん。そんな彼女が求めていた卵は今、スクランブルエッグとなっていた。

 彼女主催の卵パーティー。参加者は功労者の俺と、マイだ。

 

「いやー、とってもいい卵ですねこれ。テンション上がってしまいました。シモフリトマトのケチャップにモスベーコン、キレアジの燻製もありますよ。お好みでどうぞー!」

「俺あんまりご飯はこだわらないんだけど……これは美味しそう。いっただきまーす」

「いやーなんか、私までもらっちゃっていいんですか?」

「もちろんです! お二人のおかげですから! さぁ、食べて食べて!」

 

 相棒さんに言われるままに、マイはおずおずとスプーンを握る。それを横目に、俺はスクランブルエッグを自分の皿によそった。そうして、一口。まずは何もつけずに────

 

「おっ……おおぉっ!」

 

 口に入って、すぐに分かるふわとろ感。そして広がる、卵の柔らかい香り。

 何といっても、その食感だ。舌に乗ればすぐさま溶けて、唾液に絡んでいってしまう。口の中の温度だけで溶けてしまうんじゃないかって、そんな気さえしてしまう。ちょっと噛んでみれば、柔らかさとほどけやすさが同居した食感が広がってきて、なんかもう凄い幸福感だ。

 卵の味も、なんだかとても温かい。しょっぱさよりは、甘いに近いのではないか。バターの旨みとか、ポポミルクのしっとりとした味わいとか、そういったものを全て卵黄の甘さで包み込んでしまったような味。

 甘い。甘くて、旨い。

 

「……うま」

「んっ、おいひい! これ、すっごく美味しいです!」

「えへへ。良かったぁ。じゃ、私も早速。ケチャップつけよっと」

「あっ、いいな。俺も」

「わ、私も!」

 

 ケチャップが入れば、また味が変わる。あの甘みと旨みの黄金比率とは一転、爽やかな酸味とトマトの味で口の中が一杯になった。

 シモフリトマトといえば、まるで霜降り肉のようにとろける果肉が有名なトマトだ。それをケチャップ状に加工すれば、とにかく柔らかい舌触りへと変貌する。卵のふわとろ感とよくマッチするその噛み心地。酸味もほどよい刺激となって、旨さをさらに促進させた。

 これ、オムライスなんかにしたらさぞかし美味しくなるんだろうなぁ。鳥竜ライスにシモフリケチャップ仕立て──なんて、心が躍る響きだ。

 新大陸ではまだ大規模な稲作なんて出来ないから、お米はどうしても輸入品頼りになってしまう。それが歯痒いと思ってしまうほど、この卵は美味しいや。

 

「あっ、ベーコンで包んでみても美味しいですよ。お肉の脂が絡んで、味が二重三重にもなります」

「北国の人はキレアジの燻製と絡めたがるんですよねぇ。この何とも言えないしょっぱさが、またよく合う……っ!」

「……やばい。卵の深みにハマっちゃいそう」

 

 とにかく、手が止まらない。

 ただひたすらに卵を食べて、ただひたすらに味を組み合わせる。可能性は無限大だ。いくらでも、食べれてしまいそうだ!

 

 ────このクエストの報酬でもある、陸珊瑚の大地必勝法。それを伝授してもらうのも、翌日に延期になってしまうほど。それくらい、卵には魔力があるんだなぁって、ひしひしと感じたよ。

 

 

 

 

 

~本日のレシピ~

 

『アプケロス卵のスクランブルエッグ』

 

・アプケロスの卵    ……1個

・ポポミルク(輸入品) ……3瓶

・塩          ……50gほど

・幻獣バター(輸入品) ……75g

 

☆お好みでシモフリケチャップ、モスベーコンなどと合わせてどうぞ!

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「──で、どうするの?」

「……むむむ」

 

 レイヴンたちが卵に舌鼓を打っているのと同時刻。

 アステラの居住エリアにある酒場では、彼の編纂者である少女、フレイと、現在その代役を務めるメェリオの姿があった。

 

「結構勢いで言っちゃったんでしょ? アタシ、とりあえず追い込んで頑張らせてみてるけど……フレイもそろそろ許してあげたらどう?」

「許すっていうか……少しは態度を改めてほしいなぁって」

「……ほんとはそんなんじゃない癖に。アンタも素直じゃないわよねぇ」

「……ほっといて」

 

 グラスに入った酒を一度に全て飲み込んで、気の抜けた呻き声を漏らすフレイ。顔は赤いながらも、困ったように目を伏せていた。

 

「アンタがはっきりしないと、ほんとにアタシが食っちゃうわよ」

「よく言うわ。アンタのタイプは自分よりマッチョな男でしょ」

「あら……そういえば言ってたかしら」

「前聞いたわよ……レイヴンはひ弱だから、その点は安心してるわ」

「そうだったかしらねぇ。ま、確かにあの子はタイプじゃないわ。可愛いけどね」

 

 その一言に、フレイはむっと眉を歪ませるけれど。それ以上言及せずに、新たなドリンクを注文する。

 

「……ま、意地を張るのもいいけどさ。もう少しあの子の話を聞いてあげてもいいんじゃない」

「……聞いたって、そんなところで……」

「あの子、頑張ってるから。今凄く頑張ってるわ。陸珊瑚の大地、苦手なんですって」

「え……そうなの?」

「よく分からないから苦手、とかなんとか。だから、克服するために色々頑張ってるみたいよ」

「へぇ……」

「早く、アンタに戻ってきてほしいのよ、きっと」

「はっ、まっさかぁ……」

 

 自嘲するようにフレイはそう笑い、メェリオはどうしたものかと口元を引き締める。仲を取り持つのも簡単じゃないと噛み締めながら、彼もまた新たなドリンクを注文した。

 一方のフレイは。彼女といえば、表情にも声にも出さずに、ただ静かにある言葉を頭の中で反響させていた。

 

 レイヴンは、陸珊瑚の大地が苦手。

 

 ────レイヴンは、陸珊瑚の大地が苦手らしい、と。

 

 






 なんか違う小説入ってきました。


 クルルヤックさん可愛い。別で連載しているモンハン小説で、クルルヤックとの卵の奪い合いを見てみたいという声をいただいたのですが、それを形にするのはその小説では難しくてですね。気付けば、こちらで書いてしまいました。ラグビーみたいに卵をパスする描写も面白そうでしたけど、中身がスクランブルエッグになりそうなので泣く泣く没。哀しいなぁ。
 たまGO! たまGO! イェエエエエーーッ!!(閲覧有り難うございました)


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あるものは全て使うべきです。



 ツィツィヤックゥ!!




「うおっ……風つよっ……」

「レイヴンくん! 上からくるよ!」

「ちょっ……おわっ!?」

 

 真上から降ってくる、丸い影。大きなボールのような、肉団子のような。けれどふわふわもふもふに膨らんでいて、なんだか毛玉やぬいぐるみのようにも見える。

 俺より何倍も大きなそれは、一直線に俺をめがけて落ちてきた。大剣も放りだして、慌てて横に転がっちゃうくらいの迫力で。

 

 ドスン。

 なんて音が背後から響く。このもっふもふな飛竜──パオウルムーの落下攻撃。もふもふした首回りを、まるで風船のように膨らませた必殺技だ。もふもふふわふわでとても可愛いけれど、その愛苦しい見た目に騙されてはいけない。あの攻撃は、見た目以上に痛いのだ。

 

「あんなの喰らうなんて、冗談じゃないや……」

「大丈夫? 漂うように動くから、予測し辛いよね……気をつけて」

 

 大きな狩猟笛を振り回しながら、キリンシリーズに身を包んだ少女──に見える男の子、カナリアは俺を庇うように立つ。

 

「さぁ、演奏するよ! ウルムーちゃんに注意するのも大事だけど、もう一人いることを忘れないでね」

「あぁ、分かってる。頼りにしてますよ、先輩!」

 

 そう声をかけた先には、悠然と佇む一つの影。

 紫色の体色に、大きく発達した頭の触覚。ガタイの良い、鳥竜種骨格。

 この陸珊瑚の大地に住まう鳥竜。通称、ツィツィヤック。

 

「キュアッ!」

 

 俺は彼のことを、敬愛を込めて「ツィツィヤック先輩」と呼んでいる。その理由は、彼の素晴らしい特技にある────

 

「レイヴンくん、来るよ! 目を塞いで!」

「おう! さぁ先輩、やっちまってください!」

 

 浮遊するパオウルムーを見定めて、先輩は小さく唸った。そのまま、頭部の触覚を大きく展開。青い光を、雷光虫のように瞬かせる。

 それが直後、弾け飛んだ。

 

「フィイッ!?」

 

 そんな奇妙な声を上がって、それに続くように何かが大地に転がり落ちて。

 目をそっと開けてみれば、大地で唸る薄桃色。パオウルムーが、地面に落ちてはもがいていた。

 

「よしっ、落ちたね!」

「よっしゃチャンス! 流石先輩!」

「さぁ、いくよーっ!」

「俺も──ってあれ!? 大剣!」

 

 背中に手を伸ばすけれど、大剣がない。そうだ、さっき避けた時に手放しちゃったんだった。

 カナが連音攻撃を仕掛ける傍ら、俺は慌てて後方へダッシュ。先程落とした大剣をなんとか拾い上げる。

 そこから振り向けば、パオウルムーはその身を起こしていた。そうして、再び飛び上がろうと息を吸い始める────

 

「やべっ……もう飛ぶの!?」

「レイヴンくん、危ない! 目閉じて!」

「へっ────あっ!?」

 

 素早く離脱して、その目を腕で覆うカナ。

 失敗した、なんて思ったのも束の間。まるで眼球をランスで貫かれるような痛みが走る。目の奥が、真っ白に染まった。

 

「あああぁぁ!! 目がァ、目があああぁぁぁァァ!!」

 

 パオウルムーの悲鳴と、俺の絶叫。

 それが陸珊瑚の谷の奥まで響いていたと、後ほど会ったテトルーから聞かされたよ。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「レイヴンくん……大丈夫?」

「あー……ようやく目が治ってきた……」

 

 パオウルムーを叩き伏せたカナに肩を貸され、俺はなんとか起き上がる。ようやく目が治ってきたようで、ぼんやりとしながらもカナの姿を見ることが出来た。

 

「おつかれさま。パオウルムー、無事討伐だよ」

「……ほとんどカナにやってもらったような気がするけど……」

 

 工房のおっさんに、突然パオウルムーを倒してみせろという理不尽な依頼を叩き付けられ、俺はカナのいる陸珊瑚の大地へと旅立った。

 折角だから、この大地で上手く狩りをする秘訣を、必殺の手段を試してみようと。先日推薦組の大食い編纂者から教えてもらったその方法を、試してみようと。

 そんな思いでやってきたけれど、結局この体たらくだ。ほんとに、カナには頭が上がらない。

 

「……必殺の手段、どうだった?」

「……自爆した」

 

 彼女の言う必殺の手段。それは、ツィツィヤック先輩と行動を共にすること。

 ツィツィヤックは、頭部に発光器官を有する好戦的なモンスターである。食事のためのラフィノスを、そして気に入らない飛竜をも容赦なく叩き落とすその閃光。それが、彼の武器だった。

 そんな彼の力を借りて、パオウルムーを叩き落とす。頑張ってやってはみたけれど──結果はこれだ。むしろ、俺まで閃光に当てられる。

 

「最高にかっこ悪い瞬間だったわ」

「あはは……まぁ、こういう時もあるって」

「陸珊瑚、これで俺も安泰だと思ったんだけどなぁ……そもそも地形理解が出来てなさすぎてダメだぁ」

「そればっかしは慣れだからね……逐一探索手帳にメモとか取ったら?」

「俺がそういうタイプに見える?」

「ごめん見えない」

 

 古代樹の森と大蟻塚の荒地は、アステラと隣接する身近な猟区だ。だから、ある程度の開拓が進んでいるために、俺もそこまで情報に苦労しなかった。

 けれど、この陸珊瑚の大地は最近発見された猟区である。俺も知らないことばっかりだ。道に迷うことも多々あるし。

 

「……ま、まぁこれで依頼達成でしょ? おめでとう」

「ほとんどカナのおかげだから、報酬金はカナが多く持ってっていいよ……」

「いいよぉ、平等で。ボクはレイヴンくんの助けになれれば、それで満足だから」

 

 そう言って、にこっと微笑むカナ。ほんと可愛い。ほんとずるい。

 

「それに、工房のおじさん、なにか話があるみたいだったんでしょ?」

「え、あぁ、うん。なんか、討伐出来たら来いって。よく分かんないんだけど、面白い話があるんだって」

「へぇ……なんだろ? 新製品でも開発したのかなぁ?」

「なるべく旨い話だといいよね」

 

 地面に転がった大剣を背に戻して、ぐっと背を伸ばす。とりあえず背伸びしつつ、周囲を見渡した。

 ──警戒するようにこっちを見ているツィツィヤック先輩。彼の金色の瞳と、目が合った。

 

「……先輩、おつかれさまでーす!」

 

 こんなに狩りに協力してくれたのだから。一時的とはいえタッグを組んだ俺たちなのだから。

 嬉しさを分かち合おうと腕を掲げて、先輩にハイタッチを求める。イエーイと、右手を彼に向けて──

 

「ギャゥアッ!」

「へぶっ!」

「レイヴンくん!?」

 

 いらんわ。そう言わんばかりに、先輩に後足で蹴り飛ばされてしまった。

 やだ、先輩気難しい。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「…………」

 

 一方で、そんな狩りの様子を遠くから眺めていた影が一つあった。

 薄茶色の髪を緩く編んで、左肩へと流した少女。レイヴンのペアであるはずの編纂者──フレイだ。

 

「……なによあのへっぴり腰……」

 

 レイヴンといえばろくに剣を振ることもなく、閃光に翻弄されていた。その不甲斐無さを前に、彼女は呆れたように額に手を当てる。

 そうして、両手で頬を軽くはたいて。気を引き締めるように、両目をぎゅっと瞑った。

 

「やっぱり、私がしっかりやらなくちゃ……!」

 

 そのまま、懐から探索手帳を取り出して。もう片方の手に収まった羽ペンをしっかりと握り締めて。

 そのまま彼女は、陸珊瑚の奥地へと踏み出す。慣れない足取りで躓きながらも、彼女は陸珊瑚の中に溶けていった。

 

 






 フレイさん謎の行動の巻。


 ツィツィヤック先輩ほんと頼りになる好き。ほんとお世話になります。とはいっても、最近全然フィールドに入ってきてくれないんですけどね。大体、あのウンコヤローがうろついてます。はいはいこやしこやし。
 閲覧有り難うございました!


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新しい武器はテンション上がります。



 デザコン大剣強すぎィ!




「おっ……おおおぉぉぉぉっ!!」

 

 俺の手の先で、轟々と燃える一本の剣。

 もはや規格外なほどの大きさの刀身に、武骨ながらも研ぎ澄まされた刃。そしてその背には獄炎石を利用した発熱機関を搭載したという、最先端技術を盛り込んだ一品。

 工房のおっさんが試作品として作ってくれたそれは、まるで鋼の翼のような、とてもかっこいい大剣だった。

 

「すっ……すっげぇぇ……!」

「ふむふむ、出力及び継続放出機能も問題なし……」

「おおぉ……すげぇ圧だわこれ!」

「刀身の強度、耐熱コーティングも問題なし。メンテナンスさえしっかりすれば、長持ちしそうだなぁ」

「おおお……あっ、あちっあちちちちッ!」

「……使用者への火傷の注意喚起の必要性あり、と」

 

 トレーニングエリアで剣を握る俺の横で、おっさんが挙動のひとつひとつをメモしている。メモに火が移らないか心配だ。

 

 ──先日のパオウルムー討伐。それをこなした俺は、彼からとあるクエストを紹介された。

 クエスト内容、モンスター二頭討伐。対象、パオウルムーとリオレウス。狩猟場所、闘技場。

 なんでもハンターとしての腕を見たいとのことで、そのような場を設けたらしい。彼曰く、パオウルムー討伐はその参加チケットだとか。

 そんなこんなで、人に見られながらクエスト開始。加工屋のおっさんはともかく、あの大食い編纂者さんやマイも応援に来てくれた。あんな風に女の子に応援されながら戦うのも悪くないなぁって思いながら、俺は自分の腕を証明出来たのだった。

 

 それで、これだ。信用出来る腕だとかなんとかで、俺にこの試作大剣を試してほしいのだと。

 

「どうだレイヴン、この握り心地は」

「良い感じだよ。飾り気なくて、ひたすらまっすぐで……すげぇ渋いじゃんこれ」

「へへっ……武器に詳しいハンターからもらった設計図を基に造ったから、どんなもんかは俺も分からなくてよ。こうやって試してくれて、感謝するぜ」

「へぇ、おっさんが設計した訳じゃないんだ」

「恥ずかしながらな。まさか、刀身に出力機関を搭載するなんてなぁ……機能面で不安なところが多過ぎる。こうやって実験データを集めないと、どうしようもないんだよ」

「それで、俺にお呼びがかかったと」

「お前さんくらいの腕前なら、こいつも本望だと思うぜ」

 

 轟々と、剣はより大きく叫ぶ。なんだかおっさんの言葉を肯定してるみたいだなぁ、なんて考えながら、より一層肩に力を入れた。

 

「普通の大剣はその重みを生かした一撃重視の武器だが、こいつはまるっきり違う。その背についた放出口から火を吹かせ、斬撃を加速させるんだ。同時に、凄まじい負荷がかかる。刀身はもちろん、使用者にもな」

「……やっぱ? 腕、すっげぇミシミシ言ってる。火を吹かせながら体勢維持するの、結構キツイよ」

「そこなんだよ。この大剣のミソは、構えながら火を吹かせ、最高速度の一撃を叩き込むんだ。ということは当然、今にも吹っ飛びそうな剣を何とか留めなきゃならん。誰でも使えるような武器じゃねぇ」

「……だから、被験者を選別してたんだね」

「そういうこった」

 

 少しでも気を抜いたら、剣が飛んでいってしまいそうだ。構えを維持することはもちろん、振り被った時も剣を手放さないようにしなきゃいけない。これ、なかなかきっついぞぉ。

 

「よし、そこの丸太を斬ってみてくれ」

「……あーい」

 

 柄のグリップを回し、火の通りを弱める。グリップを通して栓が閉められ、背から溢れる火は勢いを弱めていった。そうして力を失った剣を構えながら、二、三歩進む。

 目の前には、このトレーニングエリア中央に聳え立つ丸太が一本。多くのハンターが、武器の使用感を確かめるために殴打しまくった、ボロボロの丸太だ。

 とはいえ元々は古代樹の一部を利用して育てられだけあって、この丸太はとても頑丈である。傷だらけだが、それはほとんど表面だけで済んでいるのがいい証拠。機関竜弾らしき痕が今最も目立っているけれど、それも皮数枚分くらいのへこみしかない。

 

「……前まで使ってたジャグラスの大剣じゃあ、切り込み入れるだけで精一杯だったけど……こいつはどうだろ」

 

 とりあえず剣を構え、グリップを捻る。

 すると背後から、凄まじい音がした。大剣が火を吹いて、早く俺を解放しろと言わんばかりに暴れ回る。

 

「うっ……すげぇ力……」

 

 とはいえ、まだフルパワーではない。

 もう少し、もう少しこの体勢を維持しながら、最大出力になるまで溜めなければならないんだ。

 

「ぐっ……」

 

 背中が熱い。両腕が悲鳴を上げた。俺の体ごと、吹っ飛んでしまいそうだ。踏ん張る両脚にも、想像以上の負担が掛かる。

 ボッと、破裂音のような音が響いた。獄炎石が燃えに燃えて、最大の力を発揮した瞬間。最高火力に達したことを知らせる、重々しい音だった。

 ──今だ。

 

「うらぁッ!!」

 

 全力で解放。背中に積もった粗大な資材を振り払うように、俺は背中の剣を振り下ろした。

 直後、凄まじい勢いで剣が走る。柄が俺から逃げ出そうして、それを必死に抑えつけて。かと思えば、切っ先は大きくぶれながらも地面に向けて走り出す。

 

「……あっ」

 

 縦斬りのつもりが、袈裟になっちゃった。丸太に縦一文字を入れるくらいのつもりだったのに──上半分が、なくなっちゃった。

 斜めの傷痕を露わにしながら、上半分の丸太が行き場をなくして転がっていく。

 あれ? この古代樹丸太──斬れちゃった?

 

「……おぉ……」

「……おっさん。これ、やばくね?」

 

 なんだか、とんでもない武器が生まれてしまったような気がしないでもない。

 ──試作型『竜熱機関式【鋼翼】』、かぁ。こいつはいいもんもらっちまったぜ。

 

 早速、フレイに自慢してみよう。多分、アステラのどっかにいるでしょ。俺実力認められて、こんな凄い大剣ゲットしたんだよって。

 絶対フレイ驚くぞ。そしたら、そしたら──メェリオに変わって、戻ってきてくれるかな?

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「いたっ!」

 

 伸びた珊瑚の凸凹に体が擦れて、少女は悲鳴を上げる。

 陸珊瑚の大地を、不慣れな様子で歩く影が一人。周囲を警戒しながらも、どこか頼りない足取りは、彼女がハンターではないことを如実に表していた。

 

「はぁ……なによこれ」

 

 思いがけない痛みに顔を顰めながら、服についた汚れを少女は落とす。

 レイヴンの相棒役の編纂者──フレイは、小さな溜息をつきながらも右手をペンに添えた。それを、そのまま探索手帳へと走らせる。

 

 

 

 ──あの子、頑張ってるから。今凄く頑張ってるわ。陸珊瑚の大地、苦手なんですって。

 

 ──よく分からないから苦手、とかなんとか。だから、克服するために色々頑張ってるみたいよ。

 

 ──早く、アンタに戻ってきてほしいのよ、きっと。

 

 

 

 いつか聞いたメェリオの言葉が、彼女の脳内を駆け巡った。

 今一時的に距離を置いているレイヴンは、陸珊瑚の大地が苦手。慣れておらず、地理も把握していないために、ここを苦手としているらしい。

 けれど、自分に早く戻ってきてほしいから頑張ってくれている──とフレイは考えて、少し顔が熱くなるのを感じた。

 

「……ちっ、違う違う! そんなんじゃ、ないし! 私はあいつに態度を改めてもらいたいだけでそんな……って、なに一人で言い訳してるんだろ」

 

 騒ぎながらも彼女は歩き続ける。頭を抱えながら歩き続けた結果、陸珊瑚の中心に広がる大きな崖へと出た。

 

「わっ……なんだこりゃ?」

 

 そっと覗き込むと、淀んだような空気が珊瑚の色に溶けている。美しい珊瑚の世界とは一転、まるでゴミ捨て場のような世界が広がっていた。

 

「……もしかして、あのゾラ・マグダラオスが向かってたっていう瘴気の谷? これが……」

 

 その非現実な光景を前に、彼女は思わず見惚れてしまう。休憩しようとぼやきつつ、細い腰をそっと下ろした。

 少し落ち着くと、思い返されるレイヴンの顔。

 距離を置くと伝えたらその目を丸くさせた、レイヴンの顔。

 

「……はぁ、なんであんなこと言っちゃったんだろ」

 

 別に好きで距離をとったんじゃない。レイヴンのことが嫌いだからとか、そんな訳じゃない。

 彼女はそんな風に考えるけれど、じゃあどうすればよかったんだろうと考えると余計に頭をもやもやとさせた。

 

「……女の子なら、身近なところにいるのに」

 

 そう言って、折り畳んだ膝に顎を埋めるけれど。

 ──背後から響く、砂利をなぞる音。

 

「──誰っ!?」

 

 はっと振り返った先に、赤黒い肌。

 四本足で、剣のように鋭い歯を並べる一匹の獣──いや、竜の姿が、そこにあった。

 

「……あ……っ」

 

 慌てて彼女は立ち上がり、スリンガーを構えながら後ろに下がる。下がって──半分浮き上がる、踵。

 背後は崖。彼女の後ろに、逃げ場はない。

 

 カロロロ、なんて悍ましい唸り声を上げる。フレイの前に立ち塞がったそのモンスター──オドガロンは、旨そうな獲物だと言わんばかりに喉を鳴らした。

 

「……そん、な」

 

 ──少しでもレイヴンが狩りをしやすいように、この陸珊瑚の大地のマッピングを、予め綿密に済ませてあげよう。

 そう考えていたフレイに、非情な現実が襲い掛かる。

 八方塞がりな上に強大な捕食者を前にして、彼女は死を感じ取った。

 






 マム武器、大剣ばっか出るんですけど。賊ヘビィくれ。


 デザコン大剣マジ強いっすよね。ほんとこれさえあれば充分っていう一本で、もう……。こやつ、アングイッシュ作った矢先に追加されてとても悲しかった。費やした素材返して(切実)
 ただ、軒並み他の大剣が喰われてるっていうのも問題なんですけどね。XXは大剣ごとに適した運用法があって色々使えたのがよかったなぁ、と時々思ったりします。お気に入りは島津刀でした。あとアカム。
 それではでは。


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本音を話すのはちょっと億劫です。



 唐突なシリアスはこじらせ作者(紳士)の嗜み。




 生臭いにおいがした。

 まるで腐臭のような、発酵したかのような。

 そんなことを考えながら、私はそっと目を開ける。なんでこんな臭いがするのかな、なんて能天気に考えながら、重い瞼を持ち上げた。

 

「……あ……?」

 

 暗い暗い洞窟。

 黄色に染まった奇妙な空気。

 辺り一面に散らばった腐肉と、数え切れないほどの骨。

 

「……ここ、は……」

 

 ここは、どこ?

 なんて、なんて凄惨な景色なんだろう────

 

「──つっ……うぁっ……!」

 

 起き上がろうとして、鋭い痛みが走った。

 見れば、腕や肩に鋭い傷が走っている。まるで鋭利な爪に切り裂かれたかのような傷が、服ごと破って私の体を覆っていた。

 そしてなにより、変に腫れ上がった右の脛。痛くて痛くて、とても立ち上がれない。

 ──もしかして、折れちゃってる?

 

「なっ……なんで、こんな……」

 

 はだけた服なんてどうでもよくて。それよりも、丸腰で猟区(モンスターの世界)に放り出されてしまったことに凄く焦ってしまって。

 

「あっ……あぁ……やだっ、やだよぉ……」

 

 あの時、赤い獣のようなモンスターに襲われた。

 そのまま私は、瘴気の谷にまで落ちてしまったんだ。足を踏み外したのかな。殴り飛ばされちゃったのかな。それとも、あの竜に引きずられてきたのかな。

 あのまま食べられていてもおかしくなかったけれど。でも、どの道このままじゃ私はいずれ死んでしまう。

 どうしよう。

 足が折れては、立って逃げることもままならない。

 

 このまま、このまま────

 私は、モンスターに食べられてしまうの?

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 アステラの居住区間にある酒場で、俺はメェリオと酒を交わしていた。

 不本意ながら、ではあるけれど。でも本意といえば本意でもあるのだけれど。

 

「……ほんとに、フレイがどこにいるか知らないの?」

「ごめんなさいね……アタシも分かんないのよ」

 

 あの発熱機関を搭載した試作型の大剣──竜熱機関式【鋼翼】。誰でも扱える訳ではない貴重な一振りを手にして、早速自慢しようとアステラを歩き回ったけれど。

 それでも、彼女に──フレイに会うことが出来なかった。アステラのどこを探しても、彼女の姿はどこにもない。

 まるで、まるでアステラにいないかのように。彼女は、どこにもいなかった。

 

「あの子も色々思うところがあるみたいでねぇ。何か考えがあるみたいだったけど、どの道アタシはあの子が今どこにいるか知らないわ」

「実は居場所知ってて内緒にしてるとか」

「ないわよ」

「フレイから、俺には教えるなって口止めされてるとか」

「そう願いたくなる気持ちは分かるけど、ないわ。本当に、分からないのよ」

 

 歯痒そうにそう言う彼の瞳は、少しばかり潤んでいる。そこには心配の色がたくさん詰まっていた。どうやら、メェリオも嘘は言ってないみたいだ。

 

「……そか。ごめん、問い詰めたりして」

「いいのよ、そんなの。……ほんとに、どうしたのかしら、フレイ」

 

 もやもやする気持ちを、ブレスワインで無理矢理喉へ流す。酸味と甘味が混ぜ合わさった、変な味がした。

 

「あー。この大剣見せたら、俺のこと見直してくれると思ったのになぁ」

「それ凄いわよね、最新モデルよ。しかもそれの試運転させてもらえるんだから。すっごいじゃない。アンタ、やれば出来るのね」

「でしょ? フレイにもそう言われたいんだ。どうせ言われるなら女の子がいいし」

「はいはい、出ました女の子」

 

 からかうような口振りで、メェリオは俺の頭を荒く撫でる。

 なんだこいつ。もう酔っぱらってやがるのか。

 

「……少し、質問なんだけどさ」

「うん? なに?」

「アンタってさ……どうしてそんなに女の子にこだわるの?」

 

 何気ない口調だった。頬杖をつきながら、なんとなくと言わんばかりにそう尋ねてくる。

 なんで女の子にこだわるのか、かぁ。

 ──そういえば、なんでだろ?

 

「……なんでだろう」

「なによアンタ、自分で分かってない訳?」

「うーん、かっこつけたいみたいな感じ……なんだけど」

 

 俺がこうなったのは、なにがきっかけだったのかな。

 そう考えると、ふと昔の情景が目の奥に浮かんでくる。好き勝手に生きてた、俺がまだ浮浪児だった頃の情景が。

 

「……俺さ、こう見えても王都出身なんだ」

「え? 王都って……ヴェルド!? うっそ、おぼっちゃんだったの?」

「いやいやいや。俺が貴族に見える?」

「見えない……けど。じゃあ……」

「そうそう。スラム街の浮浪児だよ。親に捨てられたんだと思う。顔も知らないし」

「…………」

 

 俺の言葉を聞いて、メェリオは口に貯めた言葉を呑み込んだ。

 

「当時は浮浪児でグループ作ってさ、それで物盗んだり喧嘩したりと悪さばっかしてたんだ。もう、そこのリーダーがほんと手段選ばないやつでさぁ」

「へぇ……そんなに?」

「うん。『よォ……レイヴンじゃねェかァ……』って感じにクセの強い話し方するんだよ」

「うん、物真似されても全然分かんないわ。アタシその人知らないし」

「あ、そか。まぁいいや。とにかく、どいつもこいつも札付きの悪なんだよ。んで、みんな女の子を酷い扱いするんだ」

「……あぁ、大体察してきたかも」

「スラムで暮らす女の子の末路なんて、分かるでしょ? あまりにあれだから、これ以上は言わないけど。とにかく、俺はそんなのに嫌気が差した」

「それで、グループから離れたわけね」

 

 俺が言おうとしていたことを切り返してくれたメェリオに頷きながら、ワインを再び喉に流す。

 それからハンターへの道を志して幾数年──って感じだけれど。まぁそこはいいや。

 

「なんでかなぁ……女の子の前で必死に戦って、俺はあいつらとは違うんだって。そう言いたいのかもしれないなぁ」

「…………」

「あんな悲しい叫び声、出来るならもう聞きたくないし。俺が頑張って女の子守れるなら、テンション上がるじゃん?」

「……ぶっちゃけアタシはアンタのこと、軽薄な奴だと思ってたけれど。そうじゃなかったのねぇ。人は見かけによらないってほんとだわぁ」

「うわ、ひっど」

 

 メェリオはケラケラと笑いながら、またもや俺の頭を荒く撫でた。

 やめて! ヘアースタイルが乱れるじゃん!

 

「……でも」

「うん?」

 

 そのでかい手から逃れてはワインに一口つけて、ふと考える。

 最近あまり笑顔を見せてくれないフレイのこと。いつも怒ったように眉毛を曲げている彼女のことを。

 

「フレイには、どう見られたかったんだろ……俺」

「……さっきみたいな理由とは、また違うの?」

「うん。なんか、違和感があるっていうか。うーん……」

 

 いつもそっぽ向いて、つーんとしちゃうフレイ。

 俺と目を合わせようとしないで、むすっとしてるフレイ。

 

「……上手く言えないんだけどさ、フレイにはあんまり見てもらってない気がするんだよね」

「見てもらってない?」

「見てもらってないっていうか、認めてもらってないっていうか。だから、女の子にモテたら認めてもらえるかなぁとかは思ってた訳よ」

「はぁ?」

「俺はこんなモテるんだぞー、こんな魅力的なんだぞーってさ」

「……はぁ、アンタってほんとガキね」

「えっ」

 

 呆れたように、メェリオは額を抑えた。しかもそこに、ありえないわと付け加える。とても辛辣だ。

 

 これってそんなガキっぽいの? マジで?

 

 なんて言おうとしたけれど。それを言う前に、メェリオは俺の瞳をじっと見る。これから大事なこと言うわよ、とでも言わんばかりに、そのどぎついメイクをした瞳をまっすぐ向けてきた。

 だから俺は空気を読んで、彼の言葉をじっと待つ。

 

「あのね、フレイはちゃんとアンタのこと見てるわよ」

「へ?」

「そんな変な見栄張らなくていいの。ありのままでいた方が、かっこいいわよ。アンタはね」

「……は?」

「フレイはありのままのアンタをしっかり見てるのに……ほんとアンタって、ガキよね」

「……はい?」

 

 えっ、どういうこと?

 メェリオ、何を言ってるの?

 

 見栄張らなくていい?

 ありのままでいた方がいい?

 ──ってことは、俺が今までやってたことって、結構無駄だったってこと?

 

「……えぇー、どゆこと……」

「はいはい、おバカおバカ」

「うるせーお姐さま」

 

 慰めるように回してきたタルジョッキを受け取って、中に詰まった達人ビールを流し込んだ。

 あー、なんだか全てがアホらしい。徒労というか無駄な努力というか、もしかしたらそんなもんだったかもしれないってこと? うっそーん、俺バカみたいじゃん。

 なんだか虚し過ぎて涙が出そうだ。ほんと、とても哀しい。哀しいけれど、いつ飲んでもビールは美味しい。

 ほんっと、美味しい────

 

「────レイヴンくん!!」

 

 突然、バタンと扉が開け放たれる。

 騒がしかった酒場に走る、一瞬の静寂。全員の視線が、扉の先の可憐な少女に注がれた。

 いや、少女じゃない。めちゃくちゃ可愛い男の子。キリンシリーズに身を包んだハンター、カナだ。カナが、肩で息をしながらそこに立っていた。

 

「……カナ? どうしたの? 君が酒場に来るなんて珍しい──」

「これっ! これを……っ!」

 

 俺の言葉を遮ってまで押し付けてきたそれは、一冊の探索手帳。

 やけに見覚えがある、探索手帳────

 

「……これ……って」

「ボクが来た時には遅かったの……ごめん、ごめん……っ!」

「ちょ、ちょっと落ち着きなさい。ほら、お冷や」

 

 思わず崩れ落ちそうなカナを何とか掬い上げて。メェリオは、そんな彼にお冷やを渡しては息を整えさせて。

 そうして何度か深呼吸したカナは、ポツポツと言葉を並べ始めた。

 

「……陸珊瑚の奥地の、崖の方にね。鋭い爪痕がたくさんあったの」

「陸珊瑚に?」

「うん。あれは、間違いなくオドガロンのものだよ。それで、爪痕と崖が崩れた痕と……この手帳が落ちてたんだ」

「…………」

「ボクが来た時には、もう遅かったみたいで……ごめん、ごめんねっ……」

 

 ポロポロと涙を溢すカナ。そんな彼の頭を、どうしようもなくそっと撫でるけど。

 なんだか、頭の奥がやけに冷たくなっていくように感じた。

 この手帳──じゃあ、陸珊瑚にいたっていうのは。オドガロンの爪先にいたのは────

 

「……カナ。その崖の下には、何がある?」

「えっ……?」

「……瘴気の谷よ。陸珊瑚の下は、瘴気の谷。瘴気に淀んだより過酷な世界が広がってるわ」

 

 補足してくれたのは、メェリオの方。眉間に皺を寄せて、やけに地声っぽい声でそう話す。

 瘴気の谷、か。まだ俺が足を踏み入れたことのない場所だ。

 ────だけど。

 

「……助けにいかなくちゃ」

 

 そっと、大剣の柄を握る。

 無謀だって反対されるかも。早まるなって叱責されるかも。

 そう考えたけれど、それは杞憂だった。メェリオは静かに頷いて、カナはぐっと涙を拭って。それぞれの獲物へと手を伸ばす。

 

 

 酒場の静寂もほっといて、俺たちは翼竜の発着場へと急いだ。

 

 ────フレイ、待ってて。

 今度こそ。

 

 ──今度こそ。

 






 はーいシリアスモード入りました。


 創作のお話してると、いっつも言われるんですよね。「お前シリアス入れて展開を一転させるの、某黒ウルクの小説の影響受け過ぎだろ」って。はい、私もそう思います。反論の余地ゼロです。
 でもやっぱり、こういう展開は燃える……燃えない? そっかぁ(´・ω・`)
 閲覧有り難うございました~。

 ちなみに浮浪児時代のレイヴンさんが面倒見ていた黒髪のがきんちょ、イズモって名前だそうですよ……っていうどうでもいい設定を囁いてみる。
 以上!


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俺が来たからにはもう大丈夫です。



 ヒーローは遅れてやってくる。遅れるな(辛辣)




「うっ……くぅ……っ!」

 

 とにかく、身体を引きずった。

 地面はどろどろとしてて、骨が肌を裂くこともあるけれど。そんなことに構ってはいられなかった。

 

「グオッグオォッ!」

 

 後ろから叫び声を上げる、数頭のモンスター。鋭い牙と黒い体色のそのモンスターは、ギルオスと呼ばれるこの谷の捕食者だ。

 そして、その奥でじっとこちらを見る、一際大きいその個体。多分、あれがドスギルオス。

 

「あぅ……逃げ、なきゃ……っ!」

 

 必死に体を引きずって、なんとか彼らから逃げようとする。

 右脚は、折れちゃった。もう立って歩けない。引きずって逃げるのも限界がある。

 どうしよう。このままじゃ。やっと、やっとなんとか身を隠せたと思ったのに。彼らの群れに見つかってしまった。

 

「ううぅ……食べられたく、ない……っ!」

 

 腕が痛い。体が前に進まない。

 全身が震えてしまう。腰が、諤々として言うことを聞かない。

 全身から水が零れ出ているような気さえする。血が足りないのかな。もう、頭も上手く働いていないのかな────

 

「あっ……!」

 

 不意に跳んできた、一匹のギルオス。

 その鋭い牙が、私の足に突き立てられる。音を立てながら、もう片方の足に深々と突き刺さった。

 

「やっやめっ……あっ嫌っ、嫌ぁ……」

 

 鋭い痛みが走ったと思ったら、左脚が物凄く熱くなった。それと同時に、体に力が入らなくなる。腰の震えももう分からなくなって、腕に込めていた力も入らなくなっちゃって。

 体勢を崩し、私は勢いよく倒れ込む。体が小刻みに震えて、もう思うように動かない。震えてる感覚だけが、私を支配した。

 確か、確かギルオスは麻痺性の毒液を牙から注入するらしい。じゃあ、今私が動けなくなってるのも────

 

「……ひっ……」

 

 気付けば、彼らに取り囲まれていた。前も後ろも右も左も、どこもギルオスが覆い尽くしては私の様子を窺っている。どう食べようかと考えているみたいだった。

 いや、いやだ。いやだよ、私、食べられたくないよ。

 そんな思いを口にしようとしても、上手く言葉を発せない。顎が諤々と震えて、喉が締め付けられてしまって、もう声が出なかった。

 

 こんな、こんな形で終わるなんて。

 必死に抵抗することも、声を出すことすら許されないなんて。

 ひどい、ひどいよ。こんなの、あんまりだよ──

 

 泣きだしそうになる私。それを引き止める、大きな影。

 悠然と、ドスギルオスが私の前に出た。涎を垂らして、荒い鼻息で、がばっと大口を開けていた。もう、ダメだ。私、もうダメなんだ。

 ──こんなことなら、もっとレイヴンに優しくしてればよかったなぁ。

 

「……ごぇ……んね────」

 

 形にならない声と共に、私は目を閉じる。怖くてたまらなくて、ぎゅっと目を閉じた。

 

 瞼の裏の、真っ暗な世界。浮かんでくる、レイヴンの姿。

 にぱっと、少年のように笑う彼の顔が瞬くように浮かんでは────

 

「──うらぁッ!!」

 

 消え────なかった。

 

「……っとと、やっぱこれ斬れすぎだって……!」

 

 なにか重い音が響いたような。私に降ってくる牙の音じゃなくて、もっと重いものが地面に落ちる音が聞こえた。

 おそるおそる、目を開ける。聞こえるはずのない声がした気がして、私はそっと薄目を開けた。

 

「……ひっ」

 

 目の前を転がる、大きな玉。いや、玉じゃない。目があって、牙もある。あのドスギルオスの頭だった。

 それに思わず驚いていると、もっともっと重い音が響く。

 そちらを見れば、頭を失ったドスギルオスの体が倒れていた。まるで、糸が切れた人形みたいに。

 ────そして、私を庇うように立つ大きな背中が、一つ。

 

「……ごめん、待たせちゃったよね。でも、もう大丈夫」

 

 その背中は、見たこともない大剣を振り回して、ギルオスたちを威嚇する。

 いきなりボスの首を断たれ、さらに巨大な獲物を向けられた彼らが選んだのは、闘争ではなく逃走みたい。掌を返すように、私から離れては腐肉の奥へと逃げ込んでいった。

 

「……ね、大丈夫だったでしょ」

 

 そう言って、優しく微笑んでくれるのは────私があんなに冷たくした相棒、レイヴンだった。

 レイヴンが、ここにいる。私を、助けにきてくれた。

 

「……あっああぁ……ああぁぁぁ……っ」

 

 麻痺が解けてきたはずなのに、それでも上手く言葉が出てこなくて。涙だけはたくさん溢れ出てしまって。

 想いのままに彼にしがみついてしまうけれど、彼は押し退けることもなくただ優しく受け止めてくれた。

 だめ、だめだよぉ。もう、何もかも訳分かんなくなっちゃう。

 ──この時の、彼が優しく背中を撫でてくれた感覚。私は一生、忘れないんじゃないかなぁって思った。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「……落ち着いた?」

「……う、うん」

 

 近くに種火石をばら撒いて、瘴気とモンスターを払いながら。

 彼は、歩けない私を洞窟の隅に抱き寄せてくれた。相変わらず酷い場所だけれど、彼がいてくれるだけでなんだかとても安心してしまう。

 火種のおかげか息苦しい空気は少しばかり澄んで、幾分か楽になったのかな。なんて考えながら深呼吸する私の様子に合わせ、彼は一つの巾着袋を懐から取り出した。

 

「とりあえず、これ食べて」

「これ……って……」

「いにしえの秘薬。とにかく、回復力をつけなきゃね」

「い、いいの? これ、結構大事なやつじゃ……」

「いいっていいって、はい」

 

 赤い巾着袋に入った、これまた赤い丸薬。それを彼は摘まみ上げて、私の手に渡してくれる。

 本当にいいのかな、なんて思ってしまうけれど。でも、彼が頷いてくれるから、私は素直にそれを呑み込んだ。

 

「……むぅぅ」

 

 苦い。やっぱりこれ、とっても苦い。

 

「あと、回復薬グレート。これで流し込んじゃって」

 

 差し出された瓶を受け取って、慌てて口を付けた。するとこれまた苦い液体が流れ込んでくる。少しハチミツの甘い香りがするけれど、それでもやっぱり苦かった。

 

「うえぇ……にっがぁ……」

「こればっかりはね……。でも、痛み止めの成分もあるし、きっとかなり楽になるよ」

 

 レイヴンは困ったようにそう笑って、笑って────

 相変わらず、私の方を見ずに話していた。

 

「……レイヴン?」

「…………」

 

 彼は、私と目を合わせてくれない。

 とにかく私を視線から外して、見ないようにしてる。あんなに女の子にこだわってた彼が、私だけは頑なに見ようとはしない。

 

 ──そう、だよね。

 私、彼に酷いこと言っちゃったもんね。自分勝手なこと、押し付けちゃったもんね。

 嫌われて、当然だよね。

 

「……ごめんね」

「…………」

「……あの、私……本当に──」

「あ、あのさ」

 

 謝ろう。そう思って、何とか言葉をまとめようとしたら。

 唐突に、彼が口を開いた。私の言葉と被さってでも、彼は口を開いた。

 

「……あのさ、一生恨んでくれても、蔑んでもらっても構わないからさ」

「え?」

「……そ、その、触っちゃうことになるんだけど……応急処置だけでもさせてくれない……か?」

「……え? ……あっ」

 

 耳を赤くしながら顔を背けるレイヴン。そんな彼のたどたどしい言葉の先には、私があって。傷だらけで、服がはだけてしまった私があって。

 頭が一杯ですっかり忘れてたけど、私──

 

「……あぅ」

 

 今度は恥ずかしさで頭がいっぱいになった。だから、レイヴンは私を見ないようにしてたんだ。

 顔が凄く熱くなっていくのが分かる。どうしよう。私も、彼の顔が見えないよ。

 でも、このまま放置する訳にもいかないし。だから、レイヴンは処置をしようとしてくれていて。

 とにかく彼の顔が見えないから、私は目を閉じて。そうして、少し両手を広げた。

 

「……ごめんな。後で殴って、いいからね」

「……そんなこと、しないわよ……バカ」

 

 見えない向こうで、消毒液の音が聞こえる。それが傷口に触れ、鋭い痛みが走るけれど。でも、レイヴンが頑張ってくれてるのだから、私はなんとか声を押し殺した。

 

「大丈夫? 痛くない?」

「んっ……だ、大丈夫……」

「痛かったら言ってね。よいしょ……」

「……ふぁ、ぁ……」

 

 痛い。痛いのもあるんだけど、なんだかくすぐったい。

 あぁ、ダメだ。なんだか凄く微妙な空気になりそう。なにか、なにか話題を振らなきゃ!

 

「あっ……あ、あの……」

「ん? あ、ごめん、痛かった?」

「う、ううん……あの、レイヴンは一人で、助けにきてくれたの?」

「え?」

 

 話題が唐突だったかな。薄目を開けると、驚いたように目を丸くする彼の顔が見えた。

 

「……いや、俺だけじゃないよ。マイとカナ、あとメェリオが君を探しに来てくれてるんだ」

「えっ……?」

 

 知らない名前がいくつかあったけど、でもメェリオまで来ているの?

 

「メェリオってランサーだったんだねぇ。今上層部で、ラドバルキンの足止めをしてくれてるよ。他の二人も別々で捜索してくれてるけど……フレイのところに辿り着けたのは俺みたいだね。へへへ」

 

 そう言っては、相変わらず子どもみたいに屈託のない笑顔を彼は浮かべる。

 みんな、いつの間にかできた彼の知り合いみたい。あの時の、キリン装備の子とかなのかな。

 

「……なんにせよ、フレイが生きててくれてよかった。俺ほんと心配したんだからね!」

「ご、ごめん……なさい」

「生きてればよし。はい、処置終わり!」

 

 そう言いながら、彼は包帯の先をきゅっと結ぶ。

 肩とか、腕とか、その他もろもろ。消毒と包帯を当てられて、奇妙な感覚が支配する。足には添え骨を取り付けられて、牙の傷痕も丁寧に止血してくれて。

 なんだか、なんだかよく分からないけど、彼の治療は快かった。決して上手じゃなくて、むしろたどたどしい手付きだったけど。でも彼がこうして治療してくれるっていうのが、とても嬉しかったんだと思う。

 ──よかった。私、嫌われてはないみたい。

 

「……嫌な鼻息が聞こえる」

「え?」

 

 心の奥で安堵する私の傍ら、彼が不意にそんな言葉を漏らした。

 

「鼻息……って」

「フレイ、これ着てて」

 

 彼が荷物入れから取り出したのは、ハンターがよく利用する道具、装衣だった。それも、大量の葉がつけられて、青っぽい匂いのする装衣。

 ──俗称、隠れ身の装衣。

 

「女の子にそんな恰好させる訳にはいかないのと、モンスターから遠ざけるため、ね」

「あ、ありがと……」

 

 それを私に羽織わせて、彼は立ち上がる。それに合わせて動こうとする私を、彼は静かに静止して。

 そっと装衣を握りながら、剣の柄を握る彼を見守った。なんだか、人が変わったみたいに険しい顔をしてた。あのおちゃらけたレイヴンが──

 

「……来た。血の臭いに惹かれたのかな」

 

 はっと顔を上げれば、赤い影が目に映る。骨の奥からそっと顔を出す、赤い影が。

 

「……あっ……」

 

 自分でも無意識に、小さな声が漏れた。膝が震える。体が強張ってしまう。

 

「……オドガロン」

 

 あの時、私に襲い掛かったモンスターだ。獣のように歩く赤い竜。鋭い爪で私を薙いだ、惨爪竜。

 

「……あぅ……いや……」

 

 頭を抱えて、必死に体を小さくして。

 怖い。あの竜が、怖い。怖くてたまらない。

 

「──フレイ」

 

 そんな私の肩に触れる、温かい手。

 

「大丈夫。俺に任せて」

 

 彼は、すっとその剣を構えた。

 私を守るかのように、オドガロンの前に立ち塞がる。

 

「見ててくれ。俺、ブレイヴ状態になる(勇気を出す)から、さ」

 

 モンスターの前なのに、そう言っては優しく笑うレイヴン。

 そんなことを思ってる場合じゃないっていうのは、分かっているつもりなんだけど。

 ──でも、凄く格好いいって。本当に、心から思った。

 






 決戦、オドガロンー。


 今作における大きな壁ですね。なにかと因縁のある相手。カナが男だと判明するきっかけ作りマンでもあるし。
 オドガロンは戦ってて楽しい。スピーディーでワクワクする。防具も攻略中にお世話になりましたわ。シンのデザインは神だと思う。趣味武器筆頭ゾ。
 ちなみにスクランブルという言葉には、緊急発進のような意味もあるらしいですね。レイヴンくん、緊急発進するの巻。
 閲覧有り難うございました~。

 皇我リキさんからフレイのイラストをいただきました( ・`ω・´)

【挿絵表示】

 可愛らしい。縦セは神。有り難うございます!!


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お前を仕留めるのはこの俺です。



 前書きのネタなくなってきた。




 大きく剣を振り上げる。

 それを跳び避ける、赤い影。ゴツゴツとした尾を薙ぎ払いながら奴は宙返りし、そのまま壁に爪を這わす。

 

「うぉっ、トビカガチかっての!」

 

 腐肉で爛れた岩壁から、奴──オドガロンは爪を振り被る。犬歯を剥き出しにしながら、俺を抉り取ろうとその不気味な爪を大きく展開させた。

 どこか、トビカガチを彷彿とさせるその動き。あの時は奴の動きに合わせて尾を斬ったけれど──今回は、爪が前に出ている。カウンターは合わせにくい。

 

「ちくしょっ……!」

 

 だから、大剣の腹を利用してその衝撃を受け、そのまま流した。流して、その勢いで背中へ納刀。機動力を優先だ。

 いつかのカナみたいに、スリンガーこやし弾で追い払えればいいんだけど。しかしあいつ、相当気が立ってるみたいだ。まるで鬼気迫る表情で俺を睨んでいる。口から、涎が溢れ返ってしまっている。

 

「……うぁ……」

 

 背後からは、小さな悲鳴。オドガロンに怯えているのか、フレイがか細い声を漏らす。

 そりゃそうだ。彼女がこんなことになった原因は、あのモンスターなのだから。トラウマになっても仕方ないと、俺は思う。

 

「……さて、と」

 

 あいつの動きは素早い。フレイを抱えて逃げても、とても振り払えない。大振りな大剣と相性がいいとも言いにくい。逃げても戦っても、どっちに転んでもしんどそうだ。

 相性は悪い。

 でも、勝てない訳じゃない。

 むしろここで勝って、俺はフレイを安心させてあげたい。

 あと欲を言えば、「レイヴンかっこいい!」って言われたい。

 ──よし。

 

「おら来いよ犬っころ! 相手してやるよ!」

「ガアァッ!」

 

 剣を振って、声を張り上げて。

 俺の挑発に乗ったオドガロンは、けたたましく吠える。そうして、凄まじい速度で駆け出した。

 

「うぉ……っ!」

 

 トビカガチでも、あんなに走るところは見たことがない。同じ牙竜種といっても、あの金ぴかワンコの走り方とは大違いだ。本当に、早い。さながら狼だ。

 瞬く間に背後に回った奴は、その鋭い牙を振りかざす。俺の腕を噛み千切ろうと、全速力のまま駆け寄ってきた。

 

「あぶねっ!」

 

 慌てて前転し、それを逃れる。空間を破るような牙の軌跡は、当たっていたらどうなっていたか。ジャグラスシリーズだよ? 軽く破れそう。

 しかし、安心は出来なかった。空ぶった牙もそのままに、奴は勢いよく踵を返す。そうして、回避したばかりの俺に向けて牙を震わせた。

 

「ぐっ!」

 

 慌てて抜き放った大剣。その腹で、鋭い爪を受け止める。鋼鉄の塗装に傷が走り、黒板を引っ掻くような嫌な音が響いた。

 

「あああ! やめろお前その音嫌い!」

 

 聴力が鈍いのか、それとも相当気が立っているのか。奴は不快な音などお構いなしに、その太い腕に力を込める。剣を支える俺を踏み潰そうとするかのように、上半身を持ち上げては全体重を乗せてきた。

 

「うわっ……お前、もっと痩せた方がいいんじゃね!?」

 

 ギリギリと、防具が嫌な音を立てる。次第に腰が下がってきて、いつの間にか膝が地面に擦れていた。

 竜一匹分の重みが乗せられて、悲鳴を上げる俺の節々。吹き出し始める、嫌な汗。

 

「カロロロ……」

 

 ご満悦といった感じに喉を鳴らし、奴はさらに重みを加えてくる。

 やっべ、すっごく重い。潰れそう。

 

「レイヴン……っ!」

「……フレイ……この大剣、すっごいんだよ……見て、て……ッ!」

 

 潰れそうだけど。このまま叩き伏せられそうだけど。

 それでも俺は、柄を握る手に力を込めた。

 ────グリップを握る手に、力を込めた。

 

「キャゥッ!?」

 

 剣の背から、火柱が顔を出す。それが凄まじい音を立てて、一瞬にして腐肉を焼いた。余計に酷い臭いが充満する。

 

「うぉらあぁっ!!」

 

 加速する斬撃。振り上がる刀身。

 竜熱機関の出力にものを言わせ、無理矢理オドガロンを押し上げた。あまりに予想外だったのか、オドガロンは甲高い悲鳴を上げて飛び跳ねる。

 それが、悪手って奴だ。

 

「隙あり!」

 

 迂闊に跳べば、それは大きな隙になる。なにせ、宙に浮いちゃ動けないからね。

 跳んだオドガロンも、その例外じゃない。後を追うように跳んだ俺の、満月のような縦回転。それを奴は避けられず、自慢の牙と共に叩き落とされた。

 数本、黄ばんだ牙が宙を舞う。

 

「よっしゃ、このまま──いっ!?」

 

 大地に叩き付けられ、牙を折られて。流石の奴もひるんだかなと思いながら、再び剣に力を込めるけれど。

 しかしオドガロンは、そのまま前へ出た。痛みにのたうち回ったと思ったら、なんとそのまま飛び出してきた。

 

「うがっ……!」

「レイヴーンっ!!」

 

 振るわれる腕と、そこから伸びた爪。それに切り裂かれ、俺の体は大きな血飛沫を上げる。ジャグラスシリーズを軽々と貫いて、焼けるような痛みが伝わってきた。

 

「うっ……ちくしょッ……!」

 

 胸から右肩にかけて、大きな爪痕が残ってる。そこからドクドクと血が溢れてきて、満足に動けない。

 

「レイヴン……っ!」

「フレイ、来ちゃダメだって……!」

 

 駆け寄ろうとして、でも歩けないために体勢を崩して。

 前のめりに倒れるフレイを前に、オドガロンははっとその存在に気付いた。これではもはや装衣も意味をなさず、今やフレイは恰好の餌──

 

「カロロ……」

「クソっ、おい犬野郎! こっち向けよ!」

 

 適当な骨を拾い上げて、スリンガーに装填。それをオドガロンに放つけれど、奴はまるで意に介さずフレイへと歩み寄った。

 一歩、また一歩と舞うように歩く。トビカガチを思わせる、牙竜種らしいあの動きで。

 

「くっ……!」

 

 フレイもスリンガーを構えるけれど、やはりオドガロンは動じない。奴はまるで気に止めず、その大口をがばっと開けた。

 

 まずい。

 

 このままじゃ、このままじゃ。

 

「フレイっ、フレイーッ!」

「レイ……っ!」

 

 涙ぐんだ彼女の声が、か細く溶けてしまう。

 フレイの澄んだ声が、オドガロンの生々しい声に呑み込まれてしまう──

 

「やめろォーーッ!!」

 

 全身から溢れる血飛沫もまるで気にしないで、俺は駆け出した。

 フレイを庇うために、俺は飛び出した。

 

 ──それより早く、頭上から飛び出してくる大きな影。

 野太い声と共に現れる、でかいむさ苦しい影。

 

「ん"ん"んどおりゃああああぁぁぁぁァァァァッッッ!!!」

 

 飛び出してきたランスは深々とオドガロンの背を穿ち、右手の大盾はその牙をへし折る。それにも飽き足らず、その怪力をもって奴を吹き飛ばした。シールドバッシュで、そのまま宙を舞わせる。

 再び宙に投げ出され、身動きが出来なくなった奴。そこに放たれる、数本の矢。赤い皮膚にいくつも穴を空けるそれは、甲高い悲鳴を掻き鳴らした。

 

「……みんな」

 

 フレイを庇うように、ランスを構えるメェリオ。

 オドガロンを撃ち抜いて、さらに数本矢を構えるマイ。

 大きな笛を振り回し、お祭りのような音頭を鳴らすカナ。

 

 バラバラに行動していたメンバーが、いつの間にかここに集まっていた。

 

「あぁやだやだ、槍を構えるとついスイッチ入っちゃうわぁ~」

「なんですかコイツ……真っ赤なわんちゃん? ちょ、ちょっと可愛いかも……」

「レイヴンくん、血! 血が出てる! 裂傷してるよ!」

 

 突然揃った顔ぶれに、フレイはきょとんと目を丸くさせる。

 

「……あ……」

「……フレイ、この人たちはみんな俺の友達……とモンスター一匹だよ」

「あらぁ~また照れちゃってぇ。アタシのこと、モンスター級に綺麗だなんてもう」

「ちょっ、こっち来んな。ラオシャンロン一頭分くらい距離置いてくんない?」

 

 駆け寄ってきたメェリオをすり抜けて、そのままフレイの横に転がり込んで。

 しかし意外にも、彼はそれ以上俺を追わず、むしろ庇うように前に立った。

 

「……さ、アイツの足止めは任せて。レイヴンちゃんは、とりあえず止血なさいな」

「あ、う、うん……」

 

 突然増えた敵に、オドガロンは唸る。次いで、咆哮。敵意を剥き出しにして、彼らに向けて牙を見せた。

 そんな奴に向けてマイは弦を引き絞って。カナは旋律を繋げていって。そしてメェリオは、再び野太い声を上げて槍を構える。

 

「う"ん"どりゃあああァァァァッッ!!」

 

 マイは矢を放ってはオドガロンの動きを阻害し、カナはその頭部を狙いながら笛を奏でて。そして必殺の刺突を、メェリオはここぞとばかりに放つ。

 流石のオドガロンも、あのハンター三人を突破することは難しそうだ。

 

「……うわぁ、あのおっさんマジ怖いんだけど。骨を巻き上げながら突進してる……やばすぎだろ」

「レイヴン、こっち来て」

「えっ──」

 

 身を起こしたフレイに引き寄せられて、そうかと思えば口に何かをつっこまれた。

 

「──もがっ!?」

「アステラジャーキーだよ。よく噛んでね、それ切り傷によく効くらしいから」

 

 そう言いながらも彼女は布を取り出して、俺の傷口へと押し付ける。未だに染み出す血を拭いて、その傷口をぐっと押した。

 

「いひゃい、いたた……!」

「血を止めるから! ごめんね、我慢して……」

 

 噛めば噛むほど味が染み出すジャーキー。

 動けば動くほど血が染み出す俺の体。

 変なシンクロニティ。なんだかなぁ。

 

「……レイヴン」

「ん? どした?」

「ごめん、ごめんね……私、私のせいで……」

 

 もしゃもしゃとジャーキーの甘辛い味で、虚しさを紛らわしてたいたところに。

 ──フレイが、ぽろぽろと大粒の涙を溢し始める。

 

「えっ……なんで泣いてるの」

「だってっ、私が勝手なことしたせいで、レイヴンに怪我させちゃって……」

 

 鎧の下の傷に包帯で巻きながら、しかし彼女はその手を震わせた。

 目を真っ赤にさせながら、彼女は申し訳なさそうに泣いた。

 

「……なんだそんなの。ハンターは怪我をするのが仕事じゃん。こんなのへっちゃらさぁ」

「……でも、でもっ」

「むしろ謝るのは俺の方だよ。……俺の方なんだけど、この話は後でな。今は──」

 

 打撃と刺突、そして射撃の雨。それをも乗り越えて、猛然と駆け出す影が一つ。

 

「──あいつを仕留めるのが先決だから」

 

 柔らかくなって、味も絶え絶えになってきたジャーキーを呑み込んで。

 俺はそっと、鋼翼を手にとった。

 

「レイヴンさん! すみませんそっち行きました、気をつけて!」

「ぐっ、このぉ、待ちなさいよォ!」

 

 マイの声と、メェリオの悪態が響く。

 オドガロンは止まらない。随分と傷が増えて、弱っているようにも見えた。それでも奴は、止まらない。

 

 ──動けないフレイを連れ去って、食べてしまおうという魂胆か。それとも、こちらに駆け出してそのまま逃げ去ろうとしてるのか。

 

 どっちにしろ、お前はここで終わりだよ。

 お前を仕留めるのは、この俺だ。

 

「フレイ、少し下がれる?」

「……うん、分かったわ」

 

 体を引きずって、俺から距離をとるフレイ。その様子を確認してから、俺は大剣を両手で握る。刀身を肩で支えるように、オドガロンに向けて剣を構えた。

 いつもの溜め斬りとは、少しだけ趣向を変えて。

 担いだ剣を大きく後ろに引きながら、全身もまたバネのように引く。迫り来る爪もとにかく無視して、この重い剣に火を吹かせた。

 

「ぐっ……!」

 

 いつも以上に竜熱機関を燃やせば、刀身はいよいよ暴れ始める。早く離せ、俺を解放しろと言わんばかりに暴れ狂った。

 でも、まだ。まだだ。

 あいつが迫るまで。あの爪が俺に振るわれるまで、この柄を離す訳にはいかない。

 

「ガァアオオォォッ!」

 

 そんな雄叫びを上げて、オドガロンは右手を振り上げる。

 まるでお手をするかのように──いや、お手なんて可愛らしいものに収まらない右手をもって、俺を叩き潰そうと吠えた。

 その爪を、溜める刀身で受け止めて。

 

「レイヴンくん、これも!」

 

 唐突に鳴り響く、勇ましいメロディー。カナが、まるで俺を鼓舞するかのように音色を奏でる。

 力が湧き上がるような、そんな気がした。

 

 仲間に見守られて、笛をもって応援されて。そして背後には、守りたい人がいる。

 ──これ以上にブレイヴ状態になれ(テンションが上が)る状況なんて、他にないよな!

 

「うォらあァッ!」

 

 溜めに溜めた切っ先を解放。刀身はようやく枷を失って、勢いよく吹き飛んだ。

 オドガロンのお手の分まで倍返ししてやると、そう言わんばかりに炎を噴射させる。かつてない勢いで、奴の頭部に向けて剣閃が走った。

 

 舞い上がる、血飛沫。

 その一瞬で、竜の頭部は赤く弾け飛ぶ。その身よりもさらに鮮やかな赤が、この瘴気の谷を彩った。

 

 ──『震怒竜怨斬』、だっけ。

 

 この技を教えてくれた教官に、感謝しなくちゃなぁ。

 

 






 因縁の敵撃破ー。


 オドガロンと大剣って結構相性悪い……のかなぁ。タックル駆使すると、なかなか楽しいですけどね。
 やっぱりXX要素ってことで、狩技も入れたいお年頃。実は明記してないだけで、地衝斬とムーンブレイクは描写している(つもりになっている)んですよねぇ。もしお暇があれば探してみてくださいな。
 次回でエピローグです。とりあえず、完結。
 閲覧有り難うございました。


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やる気が出るには条件があります。



 ここまで読んでくださって有り難うございました。




「ちょ、ちょっと……こんな抱え方……」

「これが一番、足に負担がかからないと思うんだけどなぁ。嫌だと思うけど、少し我慢してくれる?」

「……べ、別に嫌じゃ、ないけど……」

 

 ぷいっと顔を背けるフレイ。

 俺の抱え方に不満があるのか、気に入らないのか。とにかく顔を背けて、俺から目を逸らしてしまった。

 一方で、彼女の薄い茶髪から垣間見える耳。形の良いその耳が、とても真っ赤に染まっている。

 

「初々しいわねぇ」

「ですねぇ」

「うっさい!」

 

 微笑ましそうにメェリオが笑うと、マイがそれに便乗する。

 フレイはそれを掻き消すように声を張るけれど、その拍子で俺と再び目が合って。

 

「う、うぅ~……」

 

 そんな変な呻き声を上げながら、今度はその顔を腕で覆ってしまった。

 

「……フレイ、どうしたんだろ?」

「そりゃあ、お姫様抱っこなんてされたら照れちゃうよ……たぶん」

 

 カナに助けを求めると、彼は半笑いでそう漏らす。

 

 お姫様抱っこ。

 それが、今のフレイの抱え方である。肩で担いだり、おんぶしたりするよりも、一番足に負担がかからないんじゃないかって。俺はそう思いながらそれを決行したのだが──

 結果は、これだ。

 

「……うぅ、レイヴンのばかぁ……」

「えぇ……」

 

 なんで俺罵倒されてるの。

 

「まぁそれはともかく、悪いわね。盾持ってもらっちゃって」

「いえいえ。ボク、結構力あるんで大丈夫ですよ」

 

 えっへんと腕に力を込めるカナ。細く綺麗なその筋肉は、されどメェリオの大盾を軽々と持ち上げていた。

 一方のメェリオは、俺の担いでいた大剣をその背に携えている。大剣と槍の両担ぎ。フレイを抱える俺の代わりに、俺の愛剣を持ち運んでくれているのだ。

 

「それなら俺も助かってるよ。有り難うメェリオ」

「あらもぉ~、いいのよぉ~レイヴンちゃん」

 

 少し労えば、すぐさまにへらと顔を歪まして。嬉しそうに頭を撫でようと手を伸ばすメェリオから、とりあえずリモセトス一匹分くらい離れる。

 「あぁんもう」と奇声を上げる彼は放っておく一方で、俺もカナの方へと歩み寄った。

 

「カナも、大丈夫か? 盾重くない?」

「大丈夫だって。ボク、これでも男だし。楽勝楽勝」

「えっ……?」

「えっ、嘘!?」

 

 自慢げに拳を見せるカナの横で、驚きの声を上げる女性二人。フレイはその大きな目をさらに大きく広げ、マイはあんぐりと口を大きく開けた。

 

「えっカナリアさんって、男なんですか……?」

「あはは、よく勘違いされるけど男……です」

「えっ、えっ……」

 

 マイの言葉に苦笑しながらカナはそれを肯定し、フレイはただひたすらにその目を大きく丸くする。

 そんな彼女に、軽く耳打ち。

 

「……あの時、俺弁明するって言ったでしょ? こういうことだったんだよ」

「……ちょっと頭が追い付かないわ……」

「はぁ~、もうこれじゃあ誰が男で誰が女か分からないわねぇ」

「アンタが言うのそれ」

 

 耳打ちが聞こえていたのか、そうでないかは分からないが、メェリオは困ったようにそう言って。それに呆れるようにフレイがそう繋げて。

 

「……言っておきますけど、私は普通に女ですからね」

 

 じろりとメェリオに見られた瞬間に、マイは早めに手を打った。この人、ほんと強かだなぁ。

 

「マイさんは女性……なのね」

「あっ、レイヴンさんとは時々狩りにいったりしてますけど、誤解しないでくださいね、フレイさん」

「えっ、な、何を……?」

「私、ちゃんと彼氏いますから。その気はないですから」

「な、何の話……っ!?」

 

 やたらと優しいマイの笑顔に、フレイはしどろもどろ。まるで何かを誤魔化すように、再びその顔を背けさせた。

 それを見てはカナはクスクスと笑い、メェリオは艶っぽい溜息を吐く。

 

「はぁ、妬けるわぁ……」

「メェリオさんは、良い人いないんですか?」

「アタシ? アタシはねぇ、そうねぇ……。大団長にでもアプローチかけてみようかしら」

「えっ……あのラージャンみたいな人に?」

 

 彼の思わぬ言葉に、女の子と男の娘は食い付いて。

 後ろできゃいきゃいと騒がしくなる傍ら、俺とフレイは二人だけで投げ出される。

 うーん、沈黙が痛い。

 

「あー……あの、フレイさん?」

「……な、何よ」

「俺たちも、少しお話……してもいい?」

「べ、別にいいけど……」

 

 そう尋ねてみると、彼女はようやく俺の目を見てくれた。空のように澄んだその瞳に、なんだか呑み込まれてしまいそうだ。

 とにもかくにも、一息ついて。そうして、胸の内の言葉を丁寧に並べ始める。

 

「俺さ。フレイがいなくなって、色々考えたんだ。どうしてこうもやる気にムラがあるのかなって」

「えっ……?」

 

 突然振った話題だったけど、彼女はその目を丸くさせた。そうして、俺の言葉をじっと待ってくれる。

 そわそわとしながら、不安げに。それでいて、どこか期待するかのように。

 

「……まぁ、やっぱり俺も男だからさ。女の子の前でカッコつけたいお年頃って奴なんだよ」

「……はい?」

「良い恰好したいっていうか、なんていうか。それは大体、フレイも分かってると思うんだけど」

「……えっ……ま、まぁ……」

「それでもさ、やっぱりこう、それだけじゃなかったんだよね」

「……だけじゃ、なかった?」

「うん」

 

 彼女の青い瞳に、俺の顔が映り込む。瞳越しに、俺も少し緊張しているような、そんな顔をしているのが分かった。

 

「……俺さ、フレイにもっと見てもらいたかったんだと思う。認めてほしかったんだ。俺だってやれば出来るんだって」

「……うん」

「軽い奴と思われてるのは分かってたけど、もっとこう魅力的な人間なんだって思ってほしくて……うーん、気を引きたかった……のかな」

「……うん……っ」

「でも今日は、いつもと違った。本当に君の目の前で、フレイのために体張れて。俺、なんか凄い回りくどいことしてたんだなぁって思った」

「うん……凄く、凄く遠回りだよ」

「あはは……。でも俺、強かったでしょ?」

「もう……ばか……っ」

 

 そう言いながら、彼女は俺の鎧の裾を掴む。ジャグラスの毛髪で出来た布部分を小さく掴み、そっとその額を寄せてきた。

 

「……とっても、かっこよかったよ」

「……へへ。やったぁ」

 

 触れそうな距離にある彼女の髪から、血の臭いに混じる甘い香りが届く。すっと、なんだか胸が安らぐ感じがした。

 

「私、今まで本当に……数字しか見てなかったなぁ……」

「キャンプで常に引きこもり、だったもんねぇ」

「……これからは、レイヴンのことも、しっかり見て……いきたい」

「……うん」

 

 身を寄せるフレイ。

 彼女を抱える俺の両手。

 その腕に力を込めて、そっと。少しだけ、彼女を抱き寄せて。

 ようやくフレイと再会出来て、こうやって受け入れてもらえて。

 本当に、本当に良かった。遠回りはしたけれど、その甲斐はあったんじゃないかと思うよ。

 

 ──背後からはにやにやとした視線を感じたけれど、今はそれをとにかく無視。無視ったら無視だ!

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「うおおおぉぉぉッ!?」

 

 背後で弾ける、燃え盛る火球。

 この古代樹の主は、忌々しそうに俺を見た。巣に入り込み、卵を盗もうとする不届き者として、俺を見た。

 

「クルルヤックぅ!!」

 

 もはや半泣きで大ジャンプ。ピンチ過ぎて、変な声が出ちゃった。

 

「ゴォアアアァァァァァッ!!」

 

 一方の主──リオレウスは、重々しい雄叫びを上げる。いつかの闘技場で闘った奴より、幾分か怖い。このリオレウス、歴戦の猛者だろうか。

 そんな彼が、翼をはためかした。地べたを這う俺を圧し潰そうと、その巨体を急降下させて迫り来る。

 

「うぉっ……!」

 

 それをなんとか転がり避けて、再び対峙。唸る火竜を前に、思わず身が竦む。

 

「うっへぇ……こっわぁ……」

 

 卵を運搬するだけなら、一人でも大丈夫かなぁなんて。そんな甘い考えで出発したのが運の尽き。

 こんなおっそろしい飛竜を一人で相手するなんて、絶対に無理だわ。バウンティとして出来るならこいつも狩猟してほしいとか言われたけど、断固拒否だわ。

 

「も、モドリ玉モドリ玉……」

 

 口から火を漏らしながら、噛み付きを繰り出すリオレウス。その猛攻を掻い潜りながら、俺はポーチを必死に漁るけれど──

 

「げっ、これ小タル爆弾じゃん」

 

 手についたそれを取り出してみれば、掌に収まるかどうかというサイズのタル。少量の火薬が詰まった、小タル爆弾だ。

 まずい、モドリ玉忘れた? 俺、このままお陀仏?

 やっば、どうしよう────

 

「──レイヴン!」

 

 唐突に、俺の名を呼ぶ声が響く。

 

「レイヴン! その爆弾を、古代樹の幹の方に当てて! あの黒い岩の塊のところに!」

 

 その透き通るような声の持ち主。

 古代樹キャンプへと伸びる道から、そっと姿を現した可憐な少女。

 俺の相棒の編纂者────フレイ。

 

「フレイ!?」

「いいから! 火竜の巣のすぐ横は、水が溜まってダム状になってるの。それを爆破して! きっと反撃のチャンスになるわ!」

「……お、おう! 分かった!」

 

 まさか。まさかまさかの、フレイが俺のところに応援に来てくれている。キャンプから出て、俺のサポートをしに来てくれている。

 こんなブレイヴ状態になれ(やる気が出)ることなんて、他にあるんかな。いや、ないでしょ!

 

 上昇して、俺に向けて爪を振るうリオレウス。一度バックステップしてはそれを躱し、その隙だらけの足先に向けて、俺はタックルした。

 

「うらぁ!」

「グオォッ!?」

 

 足先というピンポイントな部分を狙われ、さらにはジャグラスシリーズの肩当を利用して殴られたんだ。そりゃあ、飛竜でも怯むわな。

 そんなこんなで生まれた隙に、俺は手持ちの爆弾をありったけ手に持って。フレイが言う、ダム状になっているところへと投げ込んだ。

 黒い岩が重なって、隙間から水が染み出ている。間違いない、これだ。

 

「──ドカン!」

 

 フレイと頷き合って、それぞれでそれぞれの耳を塞いで。

 俺の掛け声と共に、小タル爆弾は炸裂する。中に詰まった火薬は衝撃の塊へと変貌して、この自然のダムを吹き飛ばした。

 

 直後、溢れる水流。この古代樹の、どこからどうやって溜まったんだって言いたくなるくらいの量の水が溢れ出てくる。

 それが、リオレウスを──そして俺をも呑み込んだ。

 

「グァアァッ!?」

「へぶっ!?」

 

 転倒して流される古代樹の主に、それに巻き込まれる、俺。

 

「レ、レイヴーンっ!」

 

 呆れと心配を足して二で割ったような、フレイの叫びが耳に届いた。

 

 

 一人でもスマートに狩りが出来るようになるには、もう少し時間がかかりそうだけど。

 でも、なんだかこれまでとは違う、もっともっと素敵なハンターライフが待ってるような。そんな気がするよ。

 フレイと一緒なら、ね!

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 ────狩りをする時、士気はとても重要な要素となる。

 そんなブレイヴな(やる気に溢れる)状態になるための条件って、なんだろう。

 

 俺? 俺はね、可愛い女の子(フレイ)と一緒に戦う時だと思うんだ。可愛い女の子(彼女)の前でなら、俺はブレイヴ状態(本気)になれるのさ。

 






 ブレイヴ×スクランブル、完!


 こんなしょうもないお話にお付き合いいただき、有り難うございました。
 毎日投稿という結構早めの更新ペースで新作始めたらどうなるかなぁって試みでしたが、まぁ結果はこの通り……と。お手軽を目指したんですが、やっぱり難しいですね。続きも考えたりしたんですが、まぁいいや(諦観)
 便宜上は完結としてますが、実質のところ打ち切りですね! はっはっは!
 最後に感想や評価をいただければ、とてもうれしゅうございます。また、あとがたりのようなものも、活動報告に載せるかもしれません。よかったら、見に来てね。
 それではみなさん、ごきげんよう! 重ね重ね、ここまで読んでくださって有り難うございました。


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